やはり俺がダイビングサークルに入るのはまちがっている。 (筆ノ介)
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01.ここから俺の大学生活が始まる。

なんか、すごい書いてみたくて書きました。
面白くないかもしれません、八幡が八幡じゃ無くなるかもしれません、でもそれは全てお酒のせいっていうことで!
それではどうぞ!!


  総武高を卒業して早二ヶ月。

 俺は伊豆にある伊豆大に進学することになった。学科は機械工学科。

 なぜ文系だったお前が工学科とか言ってんだよとか思う人もいるかもしれないが、一つ言い訳させてほしい。

 俺も最初は思いっきり私立文系を目指していた。ほんと、そこだけは変わらないって思ってた。

 だけど、うちの親父がどうしても機械工の方に進んでほしいと、土下座してまで頼んできた。もう靴舐めでもするんじゃないかって勢いで。もうその勢いで押し切られてしまった。

 受験を決めた後に聞いたのだが、どうやら親父は自分の会社に自分よりも地位の低いものを引き込みたかったらしい。うん、ただのクズでした。

 てか何で何年も働いてんのにずっと下っ端のままなんだよ親父...さすが俺の親。

 

 まあこういうことがあり、親父が卒業した大学と同じ伊豆大に受験をした。ちなみに伊豆大は俺の理系の学力でも受かるレベルの偏差値だと思ってくれ。

 流石に千葉から伊豆まで通うのはキツイので伊豆の少し良いマンションに住むことにした。

 俺を伊豆に飛ばした親父には、毎月しっかり仕送りを送ってもらえるように話を通した。

 そのおかげで実家にいるのと同等の生活ができる。

 だが、この生活を始めて一ヶ月。この生活においてとてつもなく足りない何かに気がついてしまったのだ。

 

 

「う、うぅ...小町ぃぃ...お兄ちゃん、小町がいないと家にいても楽しくないよぅ...」

 

『...何言ってんのごみいちゃん。小町が今何歳になったか分かってる?』

 

 

 俺の泣きそうなまでにか弱い声を電話口の先で聞いていた小町は心底鬱陶しそうにそう返す。

 そう、俺のこの生活に足りないのは小町である。もうほんと、足りなさすぎて怖い。どんくらい足りないかっていうと、焼きそばパンに焼きそばが入って無いくらい足りてない。もはやパンである。

 

 

「千葉の兄妹に歳なんて関係ありません!!お兄ちゃんは小町が何歳になろうと小町のお兄ちゃんです!!」

 

『はぁ...お兄ちゃんってば妙なところで気合が入るから困るんだよなぁ...全く、もう小町高二だよ?いい加減シスコンも卒業してもらわないと』

 

「うぅっ、小町が辛辣だよぅ...お兄ちゃん立ち直れない...」

 

『な、なんかかなり弱ってるねお兄ちゃん...うぅ、それはそれで反応に困るっていうか、だけどそんなお兄ちゃんを守ってあげたくなるっていうか、今の小町的にポイント高いっていうか』

 

「あ、おっけー、立ち直った。そのいつもみたいな対応を待ってたんだ俺は。よし、これで今日の初日のガイダンスも他の奴らと上手くやれそうだわ」

 

 

 まあ、上手くやるっつってもいつも通りぼっちだけどね!!

 そのあと少しの間小町と電話で話していて、気づいたらガイダンスのために家を出る時間になっていた。

 

 

「お、小町、お兄ちゃんそろそろ大学行ってくるわ」

 

『んー?あ、もうそんな時間か、それじゃあ頑張ってねお兄ちゃん!大学でもずっとぼっちとかやめてね!!』

 

「ばっか、お前、いくら大学のガイダンスに行くからって俺の今までのスタンスは変わらん」

 

『はいはい上手い上手い。そんじゃ、小町も学校だから切るねー』

 

「頑張れよー」

 

 

 そう一言づつ交わしてお互いが電話を切った。

 少しばかり、いやかなりの寂しさを胸にしまいこみ、私服に着替えて家を出た。

 うちのマンションは海の目の前にあり、玄関から出た瞬間に気持ちの良い潮風が身体中に当たる。

 住宅街などでは味わえない新鮮さにふぅっと心が落ち着く。

 家の鍵を閉め、エレベーターで一階まで降り、エントランスを抜け公道を歩き始める。

 

 大学へ行く方角とは逆だが、マンションを出てすぐのところにダイビングショップがある。

 ここ一ヶ月の間、ちょくちょくゴミを出しに近くまで行くのだが、あそこの従業員だと思わしきとても綺麗な女性がいる。

 俺の知り合いの歳上には独神の域に達した女教師とゆるゆるふわふわめぐりん先輩と大魔王くらいだが、この御三方の誰とも違うような雰囲気を醸し出す歳上の女性だ。

 本当に、目の保養になる、癒される、光になる。

 たまにむさ苦しい屈強な男たちが出てくることがあるが見ないことにしている、だってなんか下半身に●が見えるんだもん、あれは見ちゃダメな気がするんだもん。

 

 イヤホンを耳につけながら公道を歩いて数分、今日からお世話になる伊豆大に着いた。

 

 

「確かガイダンスは講堂で行われるんだったか...ん?」

 

 

 講堂の場所を確認してそっちの方に向かうと、なんだか異様なまでの人が集まっていた。

 何事かと思い少し寄って皆が視線を向ける方を見てみると、そこには超謎な光景が広がっていた。

 なんとそこには、大量の酒の瓶やビールの缶と共に横たわる裸の男三人がいた。あ、一人はパンツ履いてる。

 あ、てかこの屈強な二人、いつもダイビングショップにいる人や...やっぱ彼らの下半身には●がある。見てない、俺は何も見てない...

 集まった人たちはそんな彼らをパシャパシャと撮りまくっている。

 え、まさかその写真SNSにアップしたりしないよね?『大学の前に酔っ払いいるんだけどウケるw』とか書き込まないよね?彼らが終わるよ?社会的に。

 そんな哀れみの視線を向けながら俺は講堂へと向かった。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 学科のガイダンスが始まった。

 大学内の説明や学部の説明など、これからの大学生活に必要なことを教員が話す。

 だが、そんな話を聞く学生の中、一人だけ異様な姿の人物が俺の隣にいる。

 先程講堂の前で酔いつぶれていたあいつだ。

 あいつは一人、窓の外を眺めながら黄昏ているようだった。な、なんか哀れだなまじで...しかも教員はこの状況をスルーかよ。え、なに見慣れてんの?この大学じゃ日常茶飯事なの?

 

 色々と疑問に思いながらも、教員の説明が終わった。

 俺は荷物をしまって帰りの身支度をする。どうせサークルとかも入らないしいいだろう。

 他の奴らは近くに座った人と仲良くなりたいのか積極的に話しかけていた。

 まあ、そんな奴らも俺には全く話しかけてこないのだが。やっぱ目?目なの?もう慣れたし良いけどさ...

 そう思いながら立ち上がろうとした時、前にいた女子たちがこちらを向きながらヒソヒソと何かを話している。

 

 

「ねぇねぇあの人...」

 

「うわ、ちよっとカッコ良くない?」

 

「えー?で、でも...」

 

 

 ん?俺のことかな?そんな訳あるか。

 どうやら彼女らは俺の右にいる人物に視線を向けているらしい。

 俺もつい釣られて右をチラッと見た。

 そこにいたのは、あの葉山にも引けを取らないほどの美形の男。サラサラとした長い金髪にキリッとした目つき。まさに女子の理想のような男だ。ちっ、気に食わん。

 睨むような目つきになりながら、ふと視線を彼の下に向けた。

 するとそこには、かの有名な『溶解!魔法少女ららこ』の画像がプリントアウトされていた。いや、その外見でアニオタですか!?まじビビったぞ!?そのギャップは誰も萌えれないよ!?

 うっ...!!アニオタ...アニメ...厨二病...材木座...うぅ、頭痛が痛い。

 けっ、もうあんなやつみたいなのと関わるのは二度とごめんだ。俺はそう強く決心して彼を視界に入れないよう反対側に顔を向けた。

 するとそこにはこちらを向いている半裸の男が。なんでこっち見てんだよ怖ぇよ。

 俺はスッと立ち上がりトートバッグを肩にかけて心に強く誓った。

 

 

『こいつらとだけは関わるまい』と。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 あのあと、スタスタと足早に講堂を出て帰ろうとしたのだが、急な腹痛に襲われてトイレに駆け込んだ。

 あー、まじで危なかった。なんか変なもん食べたかな?いや、最近ろくなもの食ってねぇしそれはないだろ。

 なにはともあれ腹痛が治ったので、帰ろうと講堂から外に出た。

 するとそこには行きには気づかなかったサークル勧誘の看板がズラリと並んでいた。この道は行きよりも人で溢れかえっていた。

 うへぇ...人混み嫌いなんだってば...仕方ない裏から行くか。

 俺は大通りを行かず、裏に回り裏の道から帰ることにした。

 

 トボトボと裏道を歩いていると、なにやら警備員が数人聞き込みをしていた。何かあったのか?まあ俺にゃ関係ないが。

 あそこを通って俺も聞き込みされるのも面倒なので、警備員に接触しないように手前の道を右に曲がった。

 そしてもう一度曲がろうとしたその時、曲がり角に人影があった。

 

 

「うぉっ!?」

 

「うひゃぁぁ!?俺は悪くないです何もしてないです!!!」

 

 

 急な出来事に思わず声を上げて驚いてしまった。

 その声に驚いてか、角に座って隠れていた人影は俺に土下座しながら許しを請うていた。いや土下座って...

 あ、てかこいつ。

 

 

「あ、お前半裸の変態...」

 

 

 ...いやほんと、第一声がこんなのでごめんね?

 土下座していた男は、講堂でパンイチで酔いつぶれていた半裸の変態。

 俺のこの一言を聞いてか、変態は顔を上げ俺の顔を確認した。

 

 

「ん?あ、お前はゾンビ」

 

「第一声からひでぇなおい...」

 

「それお前が言う!?ってやべ、とりあえずお前しゃがめ!」

 

「お?おう、わかった」

 

 

 慌てた変態は俺の手を掴み下に引っ張った。俺はそれに抵抗せずに屈む。

 なにやら警備員を警戒している変態だが、どうしたのだろうか。

 

 

「なに、半裸お前どうしたの?」

 

「半裸じゃねぇ!北原伊織だ!なんか知らないが千紗とアニオタ野郎のせいで警備員に追われてんだよ!!」

 

「千紗ってやつはだれか知らんが、アニオタ野郎ならガイダンスの時見たな。それで、なにやらかしたんだ?」

 

「聞いてくれよゾンビ!あいつらひでぇんだぜ!?」

 

「ゾンビじゃねぇ、比企谷八幡だ」

 

 

 いやほんと失礼だな、お前も俺も。普通初対面のやつに半裸だのゾンビだの言うか?まあ俺は言われ慣れてるけど。あの氷の女王なんて初対面の呼び方ぬぼーっとした人だったからな。

 

 

「そうか、聞いてくれ八幡!千紗とアニオタ、俺が服脱いでくれって言っただけで警備員呼びやがったんだぜ!?アニオタに至っては顔面に右ストレートかましやがったしよ!?」

 

 

 見た目どころか中身もただの変態だったようだ。

 俺はフッと微笑み立ち上がって警備員に手を振った。

 

 

「あ、すいませーん警備員さーん」

 

「ちょぉぉっとまてぇぇい!?もう一度チャンスを下さいぃぃぃ!!」

 

「いやチャンスって...お前それ犯罪だろ、つかそもそもお前が公然わいせつ罪の塊だろ?」

 

「これには訳があんだよ!!くっ、仕方ねぇ!!とりあえず八幡!!服を脱いでくれ!!」

 

「警備員さぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」

 

「やめろばかぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ...!」

 

 

 俺は先ほどの北原の変態発言に対して耐えられなくなり、警備員を呼んだ。

 ここはまだわかる。

 

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ...!」

 

 

 その声に気づいてこちらに警備員が寄ってきた。

 これもまだわかる。

 

 

「「はぁっ、はぁっ、はぁっ...!」」

 

 

 だけどなんで俺まで警備員に追われてんの!?いやほんとまじで訳わかんないんだけど!!

 こちらに寄ってきた警備員は、あろうことか俺の顔を見て一発で不審者扱いしやがった。

 しかも隣に半裸の男がいたから更に怪しまれて追いかけ回される羽目になった。俺の目、すげぇ影響力だな...

 

 

「おい!なんで俺まで追われてんだよ!?意味わかんねぇぞ!?」

 

「ふっ、自業自得だな。人を警備員につき出そうとした罰だ。ま、追われる身同士仲良くやろうぜ八幡!」

 

「ちっ...まじでお前と関わらんければ良かったわ...」

 

 

 大学生活早々濃い体験をした俺はどうしたものかと思考を巡らせた。

 うーん...

 

 

 ...あれ、これ詰んでね?俺顔だけで追われてるんだもんね?どうしようもねぇ...

 

 

 はぁっと深くため息をつき自分の目を呪っていると、隣でうーんと唸っていた北原が渋々といった感じに口を開いた。

 

 

「うーん、服がねぇと俺はどうしようもないし、だからといってあんま知り合いがいるわけでも無いんだよなぁ。はぁ...もう関わりたくなかったが背に腹は代えられないか...よし!八幡、ちょっと付いてきてくれ!!」

 

「...面倒ごとはごめんだぞ?」

 

「あ、うーん...ま、おけ、大丈夫だ!!」

 

「信用ならねぇよその返事...」

 

 

 まあ兎にも角にもなんとかしなくてはならないのだから、渋々北原に付いて行くことにした。




好評だったら続きを書こうかな?って思ってます。


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02.やっぱり北原伊織は追われている。

 訳が分からず追われる身となりどうしようもなくなった俺は、仕方なく北原に付いて行く事にした。

 北原は警備員の目を避けながら先ほど俺が避けていた大通りへと向かう。ひ、人がゴミのようだあぁぁ...ああ、目眩がする、人混み嫌い、マジ無理。

 

 

「な、なぁ北原、ここに用事があるのか?俺、人が多いの嫌いなんだが」

 

 

 心底嫌そうな顔をしながら北原に話しかける。

 屈みながら前を見ていた北原はこちらに顔を向け、何かに気づいたように顔を上下に振った。

 

 

「あー、お前そんな顔だもんな。人との付き合いとかなさそうだし、そもそも喋り掛けられなさそうだもんな!!」

 

「いやまあそうなんだけどさ...もうちょっと柔らかく言えなかったの?」

 

「柔らかく言おうが強く言おうが結局言ってることは一緒なんだから別にいいだろ?」

 

「精神へのダメージ量の問題だからね?」

 

「ははっ、いつも周りから継続ダメージ食らってんだからいいだろ!」

 

「お前今日会ったばっかなのにめっちゃ言うな!?」

 

「いいじゃんか!一緒に警備員に追われた仲だろ?」

 

「それお前の所為...いやでも俺の目の所為も...」

 

 

 なんだか言っているうちに悲しくなってきた俺は出てきそうになった涙をぐっと堪えて前へ進み続けた。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 そうして着いたのはとあるサークルのテーブル裏。

 着いた瞬間、北原はサークルの前で立っていた人にこそっと話しかけた。俺の位置からでは顔が見えない。

 

 

「ちょっといいすか、先輩、奈々華さん」

 

「お、どうした伊織」

 

「伊織くん!?どうしたのそんな格好で!?」

 

「この格好はそこにいる意味わからない服装してる先輩の所為です」

 

「意味わからないとは失礼な。これはウェットスーツの代用品だ。ここはダイビングサークルだぞ?」

 

 

 なるほど、どうやらここはダイビングサークルらしい。

 男の人の声と女の人の声がしたので二人いるのだろう。というかこの男の人の声、 どっかで聞いたことあるような...

 メタメタしいことを考えていると北原がズビシっとそのグレートマックスな彼を指差した。

 

 

「いーや流石にその下についてる白鳥はいらんでしょう!?」

 

「あーこれか?これはファッションだ、可愛いだろう」

 

「そんなのがファッションにみなされるなら変態の皆さんは苦労してませんよ!!」

 

「あ、あの、伊織くん?その格好のことはわかったけどどうしたの?」

 

 

 オロオロした声で女の人が話しかける。

 ていうかこれ、俺の出て行くタイミングなくないすかね?いつも見たくステルス発動してない?北原も忘れてんじゃないこれ。

 

 

「あーそうそう、聞いてくださいお二方!!この格好のせいで俺ら学校の警備員数名に追われてるんです!助けて下さい!!」

 

「「俺ら?」」

 

「はい、俺と一緒に追われてるやつがいるんです。おい、出てこい八幡!」

 

 

 どうやら北原は俺のことを覚えていてくれたようだ。流石にこんな短時間で忘れられるほど影は薄くなっていない。...ないよね?

 俺は立ち上がりテーブルから顔を出した。

 するとそこにいたのは、いつもダイビングショップの前で見かける綺麗な女の人と講堂の前で北原と倒れていた●のお兄さんだった。

 

 

「えっと、ども。比企谷八幡っす」

 

「ほほう?お前が伊織と一緒に追われてるやつか。すごいなその目、半裸の男と対等に扱われるレベルで腐っているぞ」

 

 

 これまで受けた第一声の中でも一二を争うほど辛辣な罵倒が飛んできた。たしかに、半裸の男を追いかけていた警備員が追いかけてくるんだもんね...気付きたくなかった、この事実!!

 気づいてしまった新事実に肩を落としていると、うーんと何か考えるような顔をしていた女の人が声を上げた。

 

 

「あ!君、朝にゴミ出ししてる子だよね?」

 

「え?あ、はい。そうです...」

 

「やっぱり!なんだか良くこっち見てるからダイビングに興味があるのかなって思ってたんだよ!来てくれてありがとう!!」

 

 

 な...に...!?見ているのを気付かれていたのか!?

 まずい、これは非常にまずい。死んでも貴方を見ていたなんて言えないぞ...

 うむ、これはどうするべきなのか...そう考えていると、何かにがしっと肩を組まれた。それはもうもの凄い勢いで。

 

 

「うぉっ!?」

 

「ほーう!?そうかそうか、ダイビングに興味があるのか!!ならうちのサークルに入るんだな!!」

 

「えっ!?いや、ちょっ、違います!俺はどこのサークルにも...」

 

「伊織!新しい仲間を連れてきてくれて感謝する!!」

 

 

 まずい、このままでは俺がサークルに入ることになってしまう!

 それだけは阻止しなければならないと、北原に助けを求める視線を送った。

 その視線に気がついた北原は顔を縦に一度振った。どうやら俺の考えが通じたようだ。

 そう思い安堵したその瞬間、北原は片目を閉じグッドサインをこちらに突きつけた。

 

 

「大丈夫っすよ先輩!!どうぞ仲良くしてやって下さい!」

 

「おう、仲良くしような八幡!!」

 

「裏切ったな北原ぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 

 盛大に北原に裏切られた。北原はその場でこちらに指を指しながら大爆笑。こいつ、ぜってぇいつか殺す...

 どうにか逃げれないかともがいてみるが、ガッチリホールドされた俺の体はピクリとも動かない。

 

 

「はっはっはっ、そんなに嬉しがるな八幡。俺は寿竜次郎!伊豆大機械工学科の二年だ!もうすぐ三年になるがな」

 

「は、はぁ...って違う違う!!俺は別にサークルに入りたい訳じゃなくて!!」

 

 

 この後も熱心に抗議し続けたのだが全然ダメでした、悲しいです。

 とりあえずホールドを解いて貰った俺は北原の胸ぐらを掴む。

 

 

「北原お前...!なに無理やりサークル入れてくれてんの!?俺が人付き合い苦手なの君知ってるよね!?」

 

「ふっ、俺が服を貰う為には少しでも先輩に媚を売っとかねばならなかった、ただそれだけだ」

 

「俺を媚にして勝手に出荷してんじゃねぇ!!脱出不可能になっちまったじゃねぇかよ!?俺は人と関わらないことをモットーにしてんの、なのになんでサークルに入んなきゃいけないの!?」

 

「まあまあ落ち着け八幡。サークルで人との関わりに慣れていけばいいだろ?な!?」

 

「...そのウィンクやめろ、まじでぶん殴りたくなる...!」

 

「ふ、二人とも、喧嘩はダメだよ?」

 

 

 ニヤニヤと癪にさわる笑みを浮かべながらウィンクをしてきた北原に俺のパンチをぶち込んでやろうと拳を構えたところ、俺たちの間に女の人が割って入ってきた。

 その勢いで俺は北原の胸ぐらを離してしまった。ちぃ、独神に鍛え上げられたファーストブリットをかましてやろうと思ったのに...

 

 

「ふぅ、助かりました奈々華さん」

 

「ちぃ、命拾いしたな。覚えてやがれ北原...」

 

「えっと、比企谷くん...だったよね?私、古手川奈々華っていいます、よろしくね!」

 

「あ、はい。よろしくお願いします」

 

 

 あははと笑いながら自己紹介をしてくれた古手川さんに一礼をした。

 俺たちが自己紹介をしている間に、北原と寿先輩がなにやら話をしていた。

 

 

「誰か新人を一人でも引っ張ってきたら服を貸してやる。ついでに比企谷の腐った目をかき消せそうな眼鏡も。どうだ?」

 

「そうですね...」

 

「飲み会も奢りだ」

 

「それは元々でしょ。うーん、先輩がたならグランブルーの場所も教えてくれるし悪くないかな...どうだ?比企谷」

 

 

 今の断片的な話を聞くに、どうやらもう一人新人を連れてきてくれれば俺たちの欠点を解消してくれる術を与えてくれるらしい。俺の腐った目を眼鏡で帳消しできるのは何時ぞやの由比ヶ浜との買い物の時に確認済みだからな。

 

 

「まあ、いいんじゃないか?」

 

「よし、じゃあ決まりだな!その提案乗ります!!」

 

「交渉成立だな、伊織、八幡」

 

 

 交渉はうまくいったらしい。

 だが、一つ気になる点がある。この大学内にろくな知り合いもいない俺たちに誘う相手がいるのかというところだ。

 

 

「それはいいが北原、誰かアテでもいるのか?」

 

 

 そう質問すると、北原はこちらを向き親指を立ててグッドサインを出した。

 

 

「ああ、任せとけ。とりあえず着いてこい、八幡!!」

 

 

 そう言って北原はまた歩き出し、俺もそれに着いていった。




誤字、脱字等ありましたらご報告下さい!!


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03.こうして今村耕平は新世界の住人となる。

 任せろと言われ北原に付いてきた俺は、熱心に他の学生に話しかけるイケメンアニオタを観察していた。

 

 

「いいか八幡。今回のターゲットはあいつだ」

 

「まあそりゃ、さっきからずっと観察してんだからそうだろうな」

 

「作戦はこうだ。上手くあいつを先輩のところに誘導する、拉致してもらう、以上だ」

 

「端的に言うが、どうやって誘導するんだよ?」

 

「そんなのノリだろノリ!俺が適当に付け入るから、八幡もそれに乗っかってこい!!行くぞっ!!」

 

「あ、ちょっ...はぁ、最後まで話聞けっつの」

 

 

 俺の質問を最後まで聞かずに北原は地面に膝をついて項垂れるアニオタの所へ走っていった。それに渋々着いて行く。

 

 

「くそ...っ!どうしてだよ...っ!」

 

 

 何についてかはわからないが、アニオタは心底悔しがるように地面に両拳を振りかざした。ドゴッという音が俺と北原の耳に聴こえてくる。

 こんなアニオタにもやはり悔しいことはあるのだろう。そもそも二次元オタクというのはどうしても世の中に良い印象がないものだ。

 常人には理解し難い良さに没頭してしまった彼らを、理解できない常人は『キモい』だの『関わりたくない』だのと迫害し、拒絶する。

 確かに行きすぎた考えを持った危ない連中もいるが、全員が全員そんな害悪なオタクじゃない。基本はみんな綺麗な心を持ったオタクなのだ。そろそろ世間も二次元というものの素晴らしさを理解し、肯定的にならなければいけないんじゃないだろうか。

 そう思いながら少しこのアニオタに同情していると、アニオタは悲痛な思いを口にした。

 

 

「どうして俺を中心にした女子高生美少女ハーレムサークルがないんだよ......!!」

 

 

 ...どうやら綺麗なオタクの方じゃなく、ただの変態お兄ちゃんの方でした。

 何をどう考えても俺なんかより通報されるべき人間だろこいつ。何堂々と大学のサークルに女子高生求めてんだよ。

 こいつは危険だ、とりあえず通報しておこうと思い警備員を探そうとしたが、俺も追われている身でしたテヘッ☆

 なんで俺、こんな半裸の変態とか危ない変態と同列に扱われたんだろ、まじで謎。謎すぎてコナンくんがくるレベルだよこれ。

『どうして...っ!』と嘆く変態お兄ちゃんに、半裸の変態、もとい北原がポンと肩を叩いた。

 

 

「お前?」

 

「なあ耕平、諦めるなよ。諦めなければ夢は叶う。世の中ってのはそういうもんだろ?」

 

 

 なんか北原がカッコいいこと言ってるが、それは将来犯罪者になるかもしれない変態の助力をしたってことで通報していいのかな?それ多分叶えちゃいけない夢だよ?

 まあこんな俺のツッコミが彼らに聞こえるはずもなく、耕平と呼ばれた変態は苦虫を噛み潰したような表情になる。

 

 

「.....だが、現実は冷たいんだ。どいつもこいつも、やれ『寝ぼけるな』だの『大学に女子高生がいるか』だの『漫研に行け』だのとわけのわからない事ばかり.....!」

 

 

 うん、わけのわからないっていうか完璧にどいつもこいつも正論しか言ってないんだが。あれ、これって俺がおかしいの?いや、どう考えてもこの変態お兄ちゃんがまちがってるよね?

 

 

「大学に来たら新世界が広がって夢のような生活が待っていると思ってたのに...!」

 

 

 高校にいた方が女子高生と関われたんじゃないのかそれって。

 そう思っていると、北原がフッと微笑みながら立ち上がる。

 

 

「あるさ」

 

「え?」

 

「あるに決まってる、新世界も夢の生活も。ただお前はその入り口に気付いていないだけなんだ」

 

「そう...なのか...?」

 

 

 これ完璧に犯罪者に助力したって事だよね?女子高生を集めて法に引っかかるような事しようとしてるのを肯定してるよね?

 

 

「ああ、どうだ?一緒に──夢の入り口に踏み込んでみないか?」

 

 

 いや、助力どころか誘っちゃったよ。危ない世界に引っ張ろうとしてるよこいつ。

 そろそろ通報しなきゃまずい頃かなとスマホをポケットから取り出そうとしたところで話はまとまったようだ。

 まあ今までの心の中のツッコミはほぼ冗談で、実際は北原がダイビングサークルの人員集め、もとい生け贄にするためにダイビングサークルに勧誘した、という事だ。だが実際そのことには耕平くんは気付いていないだろうが。

 

 北原と耕平はお互い手を取り合い立ち上がった。これ俺いる意味あった?

 そう思いつつも二人に近寄る。

 

 

「お、八幡。ほら耕平、紹介するよ、こいつは比企谷八幡。お前がこれから踏み入れる夢の世界(ダイビングサークル)の住人だ」

 

 

 ねぇやめて?それ言葉の真意が伝わってない人からするとただの変態って事になるからね?

 まあだがここでそれを否定してしまってはこれまでの北原の頑張りを無駄にする事になる。

 俺はその設定を渋々受け入れ、自分で自己紹介する。

 

 

「どうも、比企谷八幡だ」

 

「あ、お前は確かガイダンスにいたバイオハザードの」

 

「ゾンビって言いたいならそんな変な前置きせずに直接言えよ...」

 

 

 ここ1時間で第一声の罵倒が止まらないんだが...まあいつものことだが。あ、ごめん嘘ついた。そもそも話しかけられないから第一声なんてなかった。

 

 

「それで比企谷八幡、夢の世界ってのはどんなサークルなんだ?」

 

 

 期待を込めた視線を俺に向けて質問して来た今村に、俺はこう返した。

 

 

「ま、着いてからのお楽しみだな」

 

 

  そう言って俺たち二人は今村を夢の世界へと(いざ)なった。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 場所は戻り、ダイビングサークルのテーブルの前。

 

 

「「うぇぇーるかぁぁーむ!!!」」

 

「謀ったな貴様らぁぁぁぁぁっ!?」

 

「ふぅ...服は人類の叡智の一つだなぁ...」

 

 

 屈強な男二人組に拉致られた今村は、俺たちを般若のような顔で睨んで叫んだ。

 それをみて何も気にせず先輩から貰ったTシャツを着てふぅっと一息つく北原と、先輩に渡された黒縁メガネをつけた俺。

 

 

「よし、これでなんとか警備員の追跡は間逃れたか。さて、帰ろ」

 

 

 途中で気がついた事なのだが、別に北原みたいに家の場所がわからないわけじゃないしサークルに入らずとも眼鏡だけ貰ってしまえばここにいる必要がない。

 俺は足早に北原のところによって別れの挨拶をする。

 

 

「んじゃ北原。俺は帰るから。世話になったな」

 

「...は?」

 

 

 そう言うと、北原は心底意味のわからなそうな顔で俺を見てきた。

 

 

「えっと、誰?」

 

「...ん?」

 

「いや、俺たちどっかで会ったことあったっけ?」

 

 

 ...どうやら俺のことを忘れてしまったらしい。こんなに早く存在を忘れられたのは初めてなんだが...ちょっとショックだぞこれ、いやいつものことなんだけどね?

 悲しい現実に直面しながらも一応もう一度自己紹介しておく。

 

 

「あー、俺比企谷なんだが、忘れ」

「はぁぁぁぁ!?お、お前、あの八幡か!?なに、お前イケメンだったの!?」

 

「なにそれ酷くね?ナチュラルに前の俺ディスってるよね?ってあー眼鏡かけてたから分からんかったのか、すまん」

 

 

 毎度の事だが、俺は自慢の濁った目を眼鏡で隠すとイケメンになるらしい。それも全く別人になったんじゃないかってくらいに。すげぇよな眼鏡、のび太くんもビックリだわ。

 心底驚いたような表情をしている北原はガシッと俺の肩を掴み真剣な眼差しで俺を見た。

 

 

「八幡」

 

「なんだよ?」

 

「頼むからお前は眼鏡をつけないでくれ」

 

「いやなんでだよ、とったら警備員さん来ちゃうだろ」

 

「お前が前の姿に戻ってくれなかったら俺がブスに見えるじゃねぇかよ!?」

 

「お前さっきから素で前の俺ディスるね!?」

 

「嫌だぁぁぁ!!耕平と眼鏡八幡に挟まれたら俺、お前らの引き立て役になるじゃねぇかよ!!」

 

「そんな事気にしてたのかよ...まあ今だけだ、俺もう帰るし」

 

 

 さっき伝えたが聞いてもらえなかった事をもう一度言った。

 だが、また先ほどと同じく心底意味のわからなそうな顔でこっちを見てくる北原。

 

 

「は?何言ってんだ比企谷。もう遅いぞ」

 

「え?何が...」

 

 

 と、その時。

 

 

「ぐほっ!?」

 

 

 急に背後から首をホールドされ、身動きが取れない状態になってしまった。

 何事かと思い振り向くと、そこには先ほど寿先輩と一緒に今村を拉致っていた先輩の姿があった。

 

 

「お前が寿の言ってた新人か、なんだイケメンじゃないか。俺は時田信治だ、よろしくな」

 

「は、はぁ...よろしくお願いします...って違う!!俺帰りたいんですけどダメですか?」

 

「ダメだな、今からサークルのコンパが始まるからサークルに入るやつは必ず参加してもらう」

 

「あ、じゃあ俺はサークル入らないんで...」

「先輩、そいつ暇持て余してるらしいんで構ってやって下さい」

 

「北原てめぇぇぇ!?」

 

「おぉ、ならよかった。よし、それじゃ行くぞ!」

 

「嫌だ!!俺は家に帰る!!大学生活始まって早々こんなのは嫌だぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

 俺はドタバタと抵抗し続けるか、俺の腹に回された腕で肩に担がれ全く動けない状態になってしまった。力強すぎるだろこの人ぉぉ!?

 

 

 こうして俺は、ダイビングサークル『Peek a Boo』に入ってしまった。いますぐにでも逃げ出したい...



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04.なぜか先輩達は飲み物を色でしか見分けれない。

さてさて、今回やっとPaBのノリに入る話です。
ですがまだ八幡は酔いません、すみません、はい。
それと、あらすじの部分に注意書きを増やしました。
それではどうぞ!!


「さて、それでは新入生諸君、ダイビングサークル『Peek a Boo』へようこそ!」

 

「早速だが席を決めるので、皆さっきテープを貼った腕を出して並んでくれ!」

 

「...はぁ」

 

 

 時田先輩に強制連行された俺は現在、右腕に渡されたシールを貼って待機していた。

 これはなんの意味があるんだろうかと一人で悩み続けていたところ、先輩たちが列を作れと促したのでその通りに列に並んだ。

 俺の前に並んでいる連中は先輩たちにシールを見せると、CだのBだのとアルファベットでテーブルを分けられていた。

 なぜBとCばっかりでAは一人もいないんだろうと疑問に思いつつも俺の番になる。

 俺の腕のシールを見るのは寿先輩だ。

 

 

「ほい、んじゃ次の人...って八幡か」

 

「はい、先程はどうも...!!」

 

 

 全く本意ではないサークル入会の恨みを晴らすべく、寿先輩に嫌味タラタラな表情でお礼をいう。もともと嫌味が滲み出たような顔で有名な俺がさらに嫌味を醸し出しているのでそりゃもう酷いことなっているだろう。

 

 

「はっはっは!!そんな嬉しそうな顔をするな、例には及ばんよ!!」

 

 

 いやこれのどこが嬉しそうに見えるんだよ...いや待て、マイナス×マイナスはプラスって言うし俺の今の顔は嫌味×嫌味で嬉し顔になっているんじゃないか!?んなわけあるかボケ。

 まあ何にせよ、入ってしまったから腕のシールを見せようと袖をまくろうとした時、寿先輩が口を開く。

 

 

「ああ、八幡はAテーブルで大丈夫だぞ」

 

「はい?」

 

「お前には色々と慣れて貰わなきゃいかんからな」

 

「え?何のこと...」

「何やってるんです?」

 

 

 何に慣れるのか聞こうとしたところで、先輩の後ろから服を着た北原が現れた。いや大事な質問だから邪魔すんなよ北原ぁぁ!!

 

 

「ああ伊織。お前は分かってるから大丈夫だ。安心してAテーブルに行け。八幡も一緒に」

 

「...?はあ、わかりました、うし、んじゃ行くか八幡」

 

「お、おう」

 

 

 何のことか分かっていない俺たち二人は、寿先輩に言われるがままAテーブルのある場所に向かった。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 他のテーブルとは少し離れたところにあったAテーブルについた俺たちはテーブルの上に置いてあった物をみて唖然としていた。

 

 

「...なあ、八幡」

 

「...なんだ?北原」

 

「俺、幻覚でもみてんのかな...さっきチラッとみたCテーブルにはコーラとかオレンジジュースとかあったのに、ここにはウォッカとかウィスキーしか見えないんだが」

 

「...安心しろ北原、俺にもその幻覚が見えている。ということは俺たち、気づかない間に新手の幽波紋(スタンド)使いの攻撃を受けていたようだ。さっさと離れよう」

 

 

 ここにいては絶対に危険だと判断した俺たちは、周りにいる屈強でむさ苦しい男たちにバレないようにコソッと逃げ出そうとした。

 しかし、後ろを向いた瞬間、そこには見慣れた屈強な男二人の顔が目の前にあった。

 

 

「「うぉっ!?」」

 

「よう、伊織、八幡。ほら、始めるから早く飲み物決めろ」

 

「い、いやちょっと待ってください時田先輩」

 

「なんだ?八幡」

 

 

 そうだ、俺はまだ大学一年なのだ。高校卒業してすぐに大学に進学したのだから、俺はお酒が飲めない。

 なぜならオレの年齢は...!

 

 

「俺はまだ1「言わせるものかぁぁ!!」ぐぼほっ!?」

 

 

 年齢を言おうとした瞬間、寿先輩が持っていた酒の瓶の飲み方を俺へ放り投げてきた。

 息を吸おうとするたびに瓶から大量の酒が流れてきて飲み込んでしまう。やばい、まじで息ができない!!

 俺は慌てて瓶を口から引っこ抜き、むせまくる。

 

 

「ごほっ...!ちょっと何するんですか!?お酒飲んじゃいましたよ!?」

 

「さて、八幡の既成事実もつくったところだしコンパを始めるとするか!!」

 

「なんてこと言うんですかあなたは!?」

 

 

 とんでもないことを言い出した寿先輩に抗議しようと叫びを上げた瞬間、ぽんっとだれかに肩を叩かれた。

 振り向くとそこには、悲しげな顔をする北原の姿があった。

 

 

「八幡、俺も同じことをされた。こうなってはもう無理だ、諦めよう...」

 

「なん...だと...!?」

 

「ほらお前ら、何飲みたいんだ?」

 

 

 突きつけられた辛い現実に絶望していると、時田先輩と寿先輩がテーブルの前で飲み物を聞いてきた。

 どれを選んでも酒が出てくるのでは?と返答に困っていると、北原が澄ました顔で答えた。

 

 

「じゃあウーロン茶でお願いします」

 

 

 なに...?この状況で平然とウーロン茶を要求できるのか!?いや、もしかしてウーロン茶だけは置いてあるのを知っていてその要求をしているのか?なら俺もウーロン茶を頼もう。

 

 

「あ、じゃあ俺もウーロン茶で」

 

「おう、わかったウーロン茶な」

 

 

 するとあっさりその要求を了承した寿先輩。まさか本当にウーロン茶があるとは...よかった、これで俺はこのコンパをウーロン茶だけ飲んでいるだけで切り抜けられる...!

 と、そう思っていたのも一瞬だけであった。

 俺たちの返答を聞いた寿先輩は、テーブルからウォッカとウィスキーを取り出して、9:1の割合で俺たちの目の前に置いたコップに入れた。

 トポトポと注がれて行くその液体を見ながら俺と北原は意識を失いかけた。

 

 

「ほい、ウーロン茶」

 

「「これは俺たちが知ってるウーロン茶じゃない!!」」

 

 

 なんで平然とこの人はこれをウーロン茶って言えるのか理解できないんだけど!?頭いってんのかな!?

 

 

「何言ってるんだ?きちんとウーロン茶の色がついてるだろ?」

 

「そうだぞお前ら。しかも色だけじゃなくて火までつけれるんだぞ?」

 

「火がつく時点でそれはもう大部分がアルコールだ!!」

 

「もうそれはお茶じゃありません!!」

 

「はっはっは!!冗談だ冗談!!」

 

「いや冗談て...」

 

「まじで笑えないですよ...」

 

「ほれ、水だ」

 

 

 さっきからケラケラと笑っている寿先輩の隣から、時田先輩が水の入ったコップを渡してくれた。

 はぁ、時田先輩は真面目で良かったよまじで...いや火つけてたけど...

 俺はほっと安堵しながら渡されたコップを手にしようとした。

 

「あ、ありがとうございます時田先ぱ」

「ちょっと待つんだ八幡」

 

「...どうした北原」

 

 

 受け取ろうとしたその手を、北原が止めた。

 北原は神妙な顔をしてそのコップを眺め、時田先輩の手から奪い机の上に置いた。

 そして、テーブルに置いてある先ほど時田先輩が火をつけていたライターを手に持って火をつけコップに近づけた。

 すると、ヒュボっと。水の見た目をした飲み物に火がついた。...へ?

 

 

「...どうしてこの水、火がつくんですかね?」

 

「可燃性なんだろ」

 

「色はきちんと水なんだ。気にするな」

 

「貴方がたは飲み物を色でしか識別できないんですか!?」

 

「危ねぇ...!?油断も隙もないなこの人たち!!」

 

「はっはっは!!そんなに褒めるな八幡。褒めても酒しか出ねぇぞ?」

 

「これ以上酒を出さないで下さい!!」

 

 

 おそるべし大学生ノリ...はぁ、もうお家帰りたい!!




なんだかこの作品、進んで行くうちに八幡が八幡で無くなってしまう気しかしないのだが...
ま、まあ、タグにキャラ崩壊タグつけてるので大丈夫でしょう!!
というか、なんだか進むのが遅い気がしてならない...


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05.どうやら先輩達からは逃げられないようだ。

 あの後、結局俺は度数の高い酒を手に持たされた。

 

 

「それじゃ新入生諸君、楽しんでくれ。かんぱーい!」

 

『『『『『『かんぱーい!!』』』』』』

 

 

 時田先輩の挨拶によって新入生歓迎コンパが始まった。

 チラと少し遠くにあるCテーブルを見てみると、そこにいるみんながソフトドリンクを持ちながら談笑を始めていた。その様はさながらリア充達の交流会である。爆発しろ。

 そのままBテーブルへと視線を移すと、そのテーブルにいた人は手にビールやサワーなどの度数の低いお酒を手に持ち、少し上機嫌な雰囲気を出しながら笑いあっていた。その様はさながら大学生活を謳歌しようとするリア充達のパーティである。爆発しろ。

 

 そしてそこから今自分の目の前にあるAテーブルへと視線を持ってくる。

 

 

「"(さかずき)を乾す"と書いて!!」

 

『『『『かんぱーい!!』』』』

 

 

 ...さながらリア(じゅう)である。

 むさ苦しい男たちが自身の手に握ったグラスを天へと掲げ大きく吠える様は敵を威嚇する熊のようだ。

 男たちから溢れ出る強烈で凶悪な熱気に押され数歩後退ると、誰かに背中を止められる。

 チラと後ろを振り向くと、そこには今まさに俺と同じような顔をしている北原の姿があった。

 北原は俺の耳元に顔を近づけ、コソコソと話しかけてくる。

 

 

「なぁ八幡、隙をついて抜け出さないか?」

 

「あぁ?お前が裏切らなきゃ俺はそもそもここには居なくて済んだんだぞ?」

 

「はっはっはっ、そんな過去のこと気にしてちゃモテねぇぞ?」

 

「言うほど過去ってほど前の話じゃねぇだろが...まあいい、それでどうすんだ?」

 

「ああ、先輩たちが酒を飲み始めた瞬間にあったのBテーブルの方に紛れ込もうと思う」

 

「了解だ、タイミングはお前に任せる」

 

 

 俺は北原の隣まで後退し、先輩たちの様子を窺っていた。

 ギャハギャハと酒を飲む前の凄まじい盛り上がりが終わったのか、皆がグラスを空に掲げた。

 

 

「よし、いまだ八幡!!」

 

「おう」

 

 

 そのタイミングをうまく使い、俺たちはBテーブルの方へと早歩きで向かった。決して走ってはいけない、走ったらバレる。

 

 

「ふぅ、どうにかバレなかったな」

 

「だな、これであのキツそうな酒とはお別れだ」

 

 

 どうにかバレずにBテーブルへと移動できた俺たちはAテーブルへと視線を配りながらBテーブルの人混みに紛れ込む。

 Bテーブルにいた人たちは、度の弱い酒で程よく酔っ払っているのか少しテンションが上がっていた。

 そんな中を掻き分けながらなるべくAテーブルから見えない位置に移動すると、前を歩いていた北原が急に足を止めた。

 

 

「お?千紗、来てたのか」

 

 

 誰かに話しかけた北原の横から顔を出して相手を見てみると、そこにいたのは酎ハイを飲んでいる茶色い髪をショートカットに切った女の子だった。そこら辺にいる女子と比べると、頭一つ抜けているような美少女である。

 そのキリッとした冷たい目つきは、以前俺が入部していた、かの有名な奉仕部の部長とも引けを取らない冷たさだ。え?なに?有名じゃないって?残念でした、今は小悪魔生徒会長こと一色のお陰でその部の存在は全校生徒に知れ渡っているのだよ。

 

 まあ現在の奉仕部の状況は置いておくにして、伊織と千紗と呼ばれた彼女の話に耳を傾ける。

 

 

「.......お父さんが行けって喚くから仕方なく。で、そっちの人は?」

 

 

 キリッとした目でこちらを見てくる彼女。

 それに反応した北原が俺のことを紹介しようとするが、流石に初対面で自己紹介ができないほど俺のコミュニケーション能力は欠落してはいない。...ないよね?

 

 

「あー、ども。比企谷八幡です」

 

 

 右手で頭の後ろを掻きながら頭を下げる。なんだか初対面の時の雪ノ下にした時の挨拶みたいだなこれ...

 

 

「古手川千紗です、よろしく」

 

 

 俺の自己紹介を聞いた彼女はきちんと体をこちらに向けて挨拶をしてくれた。なんだ、雪ノ下よりもいい子じゃないか、初対面で罵倒してくるほど中身は冷えきっていないらしい。

 やはりどうしても俺は彼女と雪ノ下を重ねてしまう。なぜかと言うと、北原を見る彼女の目が昔の俺を見る雪ノ下の目とそっくりだからだ。もうマジでゴミを見てる感じ。

 少し懐かしさを感じていたその時、俺の長年培って来たスキル、人間センサーが反応した。習得までにかなりのスキルポイントを使ったよ、人間センサーに全振りしすぎて対人スキルが0なまである。

 バッと後ろを振り向くと、人混みの奥から素肌丸出しの大きなお兄さんたちがこちらに迫って来ているのが見えた。どうやら(先輩)たちが獲物(俺たち)を探しに来たらしい。

 いち早くそれに気付いた俺は、北原や古手川さんにバレないように静かに周りの人に溶け込んだ。

 

 

「千紗はこのサークルに入るのか?」

 

「不本意ながら。伊織は?」

 

「俺は御免被る」

 

「...ふーん。逃げ切れるの?」

 

「は?」

 

 

 伊織が何のことを言っているんだという顔をした瞬間、ドス黒い熱気を放ちながら寿先輩が伊織を後ろから捕まえた。

 

 

「こら伊織、きちんと乾杯をしないとダメだぞ?」

 

「ちょっ...待っ...」

 

「伊織、八幡はどこへ行った?」

 

 

 寿先輩に抱えられた伊織に時田先輩が問いかける。

 当の俺は人混みに紛れてその姿を隠している。そして更にメガネを外すことによってメガネを掛けた時別人に見えることの逆を使い、メガネの姿の俺しか見たことがない時田先輩に別人と思わせる作戦だ。

 

 

「八幡はその辺に...あれ居ない!?あいつ逃げやがったな!?その辺にいるはずです、必ず見つけだして捕まえて下さい!!」

 

 

 ...あいつ、盛大に俺を売りやがったな。

 まあいい、これで時田先輩にはバレる事はない。俺は静かにステルスヒッキーを発動させた。

 

 

「おーい八幡?お前も乾杯しなきゃダメだぞー?」

 

 

 バレてないバレてない。

 

 

「うーん、あいつの特徴って言ったらあのイケメン面なんだがなぁ」

 

 

 バレてないバレてない。

 

 

「あとはあのピョンピョン跳ねてたアホ毛か。お、あったあった」

 

 

 ...アホ毛はバレたがまだ俺とは気付かないはず。

 

 

「時田〜、とりあえず伊織を連れて行ってくれないか?なんか伊織がどうしても時田に連れていかれたいらしくてなぁ」

 

「ん?ああ、わかった。どうしたんだ伊織」

 

「いいえ...!!俺だけ連行されるのは気にくわないんでね...!!あいつの両方の顔を知っている寿先輩の方が良いかと思いまして...!!」

 

「おお、そうか。というか両方の顔ってなんだ?」

 

 

 ...あの野郎、こっち見ながらグッドサインして来やがった。終わった、俺の大学生活。

 伊織を時田先輩に渡した寿先輩がこちらへと走ってくる。

 

 

「探したぞ八幡!!なんでお前メガネ外してるんだ?それじゃあ警備員に捕まって大学から追い出されるぞ?」

 

「あなた方に捕まるよりは警備員に捕まった方がマシだと思ったんですよ...!!」

 

 

 ほんと、大学の外に出してくれるなら警備員でも誰でもいいから助けて!!俺、酔って死ぬのはイヤ!!

 抵抗する余地もなく寿先輩に担ぎ上げられた。

 ガッシリと腰回りをホールドされていて、逃げたいと思っても逃げられないので、そのうち俺は、考えるのをやめた...

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「"杯を乾す"と書いて!!」

 

『『『『かんぱーい!!』』』』

 

 

 はい、コンパの冒頭に戻って来ましたよっと。ちなみに眼鏡はしっかり着けなおした。

 俺は握っていた度数の高い酒を一気に喉へと流し込んだ。

 

 

「くはっ...!!うぐっ...濃い...」

 

 

 喉が焼けるかのような感覚に襲われながらもグラスに入ったお酒を飲みきった。

 飲み終わると一気に息が上がってブワッと汗が噴き出してくる。

 うぐっと渋い顔をして唸っていると、隣でも同じような声を上げている男がいた。

 

 

「くああーっ!やっぱりこれ濃いなぁもう!!」

 

「北原てめぇ、お前が寿先輩をこっちに寄こさなきゃ俺だけは逃げれたのによ...!?」

 

「人探ししてる人の手助けをしないような汚れた心は持ってないもんでね...!!」

 

「お前ら、水も飲まないと倒れるぞ」

 

 

 俺たちが二人して睨み合っていたところに、誰かが水を差し出してくれた。

 

 

「ああ、どうも」

 

「ありがとうございます...ん?」

 

 

 二人して水を受け取ったところで一つ疑問に思ったことがあった。

 なぜウーロン茶を頼んで酒を平然た出すようなサークルに水があるのか。いや普通は疑問に思っちゃダメなんだけどね?

 俺が疑り深くそのグラスを眺めている間に、どうやら何も考えていない北原はそれを飲んだらしい。

 その水と言われたものを口にした瞬間、なにやら神妙な顔になりポケットから取り出したライターでそのグラスに火をつけた。

 水なら燃えるはずはないのだが、コップの中の物は猛々しく燃え盛っていた。やっぱアルコールじゃねぇか、危ねぇよマジで...

 

 

「ウォッカぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 飲んだ北原はというと、酒の入ったグラスを床に叩きつけて割っていた。乱暴だなおい。

 俺は水を渡して来た人物を見る。そこには先ほど俺たちが嵌めたイケメンの姿があった。

 

 

「ちっ、比企谷八幡は引っかからなかったか...だが北原伊織、お前はいい飲みっぷりだったぞ!!」

 

「...今村、北原が犠牲になってなかったら俺が危なかったろ。やるんなら北原だけにやれよ」

 

「八幡お前ひでぇな!?ていうか耕平、復讐のつもりか!?あぁん!?」

 

「いや、そんなつもりはない。ただ...」

 

 

 今村はなにやら悩むような表情になり、ギャハハと盛り上がる先輩方を見た。

 

 

「一人くらい潰して入会させないと脱出できないように見えてな」

 

「...まあ」

 

「...確かに」

 

 

 あのサークルから抜け出すには、誰かが犠牲になって他の人を逃がすしかなさそうだ。

 高校時代はだいたいこういう時の犠牲は即決で俺になっていたが、ここで生け贄としてあそこに投げ出されたら最後、自我を忘れて酔いつぶれる未来しか見えない。

 うーん...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ...よしここは北原を生け贄にしよう。

 

 そう思い作戦を練っていたところ北原が話をきりだした。

 

 

「そうだな...たしかに誰かが犠牲になれば他の奴が逃げられる」

 

「わかってくれたか?」

 

「ああ、お前を連れてきたのは俺たちだ、責任を取って俺が()を飲む。お前はウーロン茶(・・・・・)でも飲んでくれ。八幡、取ってきてくれるか?」

 

 

 そういい北原はこちらに振りむき、目で何かを訴えてきた。...いい性格してんなこの野郎。要は北原には水を持ってきて、今村には酒で作ったウーロン茶を持ってこいってことだな。

 俺はそれにうんと頷いてウーロン茶、もとい酒を取りに行く。

 えーっと、なんだっけ。ウォッカが9とウィスキー1だっけ?先ほど目の前で見た作り方を思い出しながらグラスへと酒を注ぐ。

 それと、あとは北原用の()か。何にしよっかな、まあスピリタスでいいか、水の色してるし。瓶の蓋を外し、トポトポとグラスにスピリタスを注ぐ。

 その二つを手に持ち、少し駆け足で薄気味悪い笑みで笑いあっている二人のもとに駆け寄る。

 

 

「ほれ、ウーロン茶と酒だ」

 

 

 そのグラスの中に入っているものをみて二人とも普通の笑顔に戻った。

 

 

「それじゃ、俺は酒で、耕平はウーロン茶で乾杯と行こうか!!」

 

「だな!!素晴らしい自己犠牲だ!!」

 

「「かんぱーい!!!」」

 

 

 グラスで良い音を鳴らし、二人は一気にその飲み物を口に入れた。

 

 そしてこれね、THE() END(エンド)ね。

 

 二人はその中身を一口飲んだあと、再度神妙な顔になりポケットから出したライターで火をつけた。

 煌々と燃え上がる炎をみて、二人は恐ろしい顔をしながらこちらを振り返った。

 

 

「八幡てめぇ!!俺は水っていうのが伝わらなかったのか!?なんで酒が入ってんだよ!?つかさっきのやつより明らかに炎の勢い強いんですけど!?」

 

「あ?どう見ても水の色してんじゃねぇか。ちゃんと要望通り水だ。てか良いの?今村嵌めようとしてたの言っちゃって」

 

「あ...」

 

「貴様らぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「ちぃ...!!誰かを犠牲にするってのはナイスアイデアだったぜ!!だから俺の為に潰れてくれや今村耕平!!」

 

「よし、これで一件落着だな」

 

 

 二人が喧嘩を始めたことで俺は完全に部外者となる、これが俺の作戦。俺は犠牲のその先を行く。何せ自分を犠牲にしたらまたあいつらに怒られちゃうしね!!

 俺がその場を立ち去ろうとした時、時田先輩がこちらに近寄ってきた。

 

 

「八幡、あれはなにをやっているんだ?」

 

「あー、なんか喧嘩してるんで止めてあげて下さい」

 

 

 さも自分は関係ないように振る舞う俺、まじ策士。もはや現代の諸葛孔明を名乗れるレベル。無理かな?無理だな。

 それを聞いた時田先輩はうーんと何かを考えるような格好で二人の方を見る。

 

 

「それはいかんな。おいお前ら、喧嘩はいかんぞ。どうしても揉めるんなら勝負にしろ」

 

「「勝負?」」

 

「ああ、代々伝わる『P a B式』のにらめっこだ」

 

 

 なんだか面白いことになってきました。この先、八幡気になります!...やっぱちょっと酒入ってるな、俺。




なんでこんなドジるかな自分...酔っ払ってんのかな?(震え)

それではまた次回!!


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06.どうも古手川千紗はダイビングが好きらしい。

知人に内容の矛盾点を指摘して頂いたので修正して再投稿しました。
最近、リアルが忙しく全くこの小説の続きを書くことができませんでした、大変申し訳ない。
返信できていない感想を書いて頂いた皆様、作者はちゃんと感想を見ております。返信できないまま更新が止まってしまいすみませんでした。


 あの後、少し場所が変わって現在はAテーブルの前に屈強な男たちが二人の男を囲むようにあつまっている。

 テーブルの前で北原と今村が二人して睨み合い、北原は頰がハムスターみたいにパンパンになるほど酒を口の中に含みながら時田先輩のルール説明を聞いていた。

 

 

「ルールは簡単、口に入った酒を吹いたらイッキ。それだけだ」

 

「わかりました」

 

 

 今村は時田先輩の顔をみてそう言い、北原は口に酒が入っているので首肯した。

 どうやら普通のにらめっこにちょっとしたネタを追加したルールらしい。というかそれ口の中に入れるの酒の必要あんの、水じゃダメなの?

 これに似てるゲームで昔、ピラ○キーノって番組でリコーダーを咥えながら辞書を適当に引いて面白そうな言葉を言って笑わせるって企画があったんだけど、小学生の頃友達と思ってた奴らとやろうとして自分のリコーダー咥えたら、『ひきがやがじょしのリコーダーなめてるー!!』って言われて公開処刑されたのはいい思い出である。ちっ、許すまじ野球部の田中。

 

 忌々しき思い出を振り返っている間にどうやらにらめっこが始まっていたらしい。

 ハムスターみたいな北原に向かって今村がその美形を完璧に崩した変顔で笑わせにかかる。だが北原も、自分の命に関わる事なのでそう簡単に笑いはいないようだ。

 一向に進まない戦況を見兼ねてか、時田先輩が今村になにやら助言をしている。

 とりあえず俺は手に持っていた酒をちびちびと口にしていると、時田先輩の話を聞いた今村が北原に向き直る。

 

 

「ここだけの話なんだけどさ...実は俺...」

 

 

 北原の額から汗が流れる。

 緊迫した空気が今村と北原の間を漂う。

 何かを決心したのか神妙な顔をしながら今村が口を開いた。

 

 

「こう見えて昔はオタクだったんだ...」

 

「「ぶふぉ!?」」

 

 

 しまった...!あまりにも当たり前のことすぎて俺までも口にしていた酒を吹いてしまった...いやお前、よくそんな服着ておいて昔はとか言えたな...

 

 

「ふっ、驚きを隠しきれなかったようだな」

 

「そりゃ驚くさ!!お前がその事実を隠しきれていると思っている事にな!!」

 

 

 その通りだ北原と心の中で同意しつつ、俺は吹いたものを拭くためにハンカチを取り出そうとするが、スッと隣から小さな青色のハンカチを渡された。

 軽く袖で口をぬぐいながらそちらを見ると、そこには先ほどBテーブルの方であった古手川さんの姿があった。

 

 

「これ、使って」

 

「へ?」

 

 

 あまりに理解できないこの状況に間抜けな声が出てしまった。

どうやら彼女は俺にハンカチを貸してくれるらしい。いやほんとどういうこと...?普通さっき会って少し話しただけの奴にハンカチなんて渡す?口から吹いたものを拭くんだよ?

 どうすれば良いか、全くわからなくて動きが止まってしまった俺を古手川さんは冷たい目で見てくる。

 

 

「...伊織が何してるか見にきてみたらいきなり隣の人がお酒吹き出してたから。まあ見知ってる顔だったし助けてあげるのが普通かなと思って」

 

「は、はぁ...い、いやでもですね...」

 

「敬語はやめて。伊織とタメ口で話してるって事は私と同い年でしょ?」

 

「え、あ、お、おう、わかった...」

 

「...それで、はやく受け取ってくれない?腕が疲れた」

 

「そ、そのことなんだが、俺は口から吹いたものを掃除しようとしているんだけど...」

 

「...だからハンカチ渡してるんでしょ」

 

 

 俺を見る目が更に冷たくなる古手川。いやだからこういう事ですよ?『せんぱいの口から出た物ということはせんぱい菌がたっぷりと含まれていてばっちぃじゃないですかぁ?それを女の子の私物を借りて拭くなんてせんぱいどんだけデリカシーないんですか?』ってなるわけ。CVは一色いろは。イメージの中まであいつは罵倒してくんのかよ。いや、でもCVだと佐倉綾音に...いかんいかん、メタくなってきた。

 俺のその思いをなんとなくの雰囲気で察してくれたのか、はぁっと一つため息をついた古手川。

 なんだかせっかく貸してくれようとしたのに申し訳なくなってきたので一応謝っておく。

 

 

「...まあ、そういう事なんで、せっかく貸してくれようとしたのにすまんな」

 

「...いやだから早く受け取って。別にこれ伊織のやつ間違えて持ってきただけだし気にしなくて良いから」

 

 

 俺の思いを察してくれたのではなく、多分疲れてため息をついた古手川はそう言って強引にそのハンカチを押し付けてきた。ハンカチを渡し終えるとフイッと北原たちの方を向いてしまった。

 ...いや、ちょっと待って?色々気になることがあって何から突っ込むか迷ったけどやっぱ1番の問題として、なんで古手川が北原のハンカチを間違えて持ってくるの...?え、まさか...

 俺は恐る恐るそっぽを向いている古手川に話しかける。

 

 

「えっと、古手川?」

 

「...なに?」

 

「貸して頂けたのはすごくありがたかったんだが、北原のを間違えて持ってきたってどういうこと?もしかして、その、同棲とか...」

 

「あ...」

 

 

 俺の質問に対し、何か重大なことに気がついたかのように大きく目を見開いた。その顔はみるみるうちに赤くなっていく。

パタパタと両手を振りながら焦ったようにこちらに体を向ける。

 

 

「あっ、い、いやその違くて!!伊織と私は親戚で、伊織が下宿先でうちにいるってだけで深い意味はないから!本当に!!」

 

「は、はぁ...あいつと親戚なのか...大変なんだな、古手川も」

 

「うっ、だから家のことは人に言いたくないのに...」

 

 

 額を片手で抑え、はぁっとため息をついた古手川。

 あんな変態が身内にいたら、俺なら恥ずかしくて絶対に人に言いたくない。半裸で校内歩き回るようなやつだぞ。いやまあそれと対等に扱われてた人がここにいるんですけどね...ごめんね、親戚の皆さん。

古手川は俺の隣にいるまま俯いて黙り込んでしまったので、俺は貸してもらった北原のハンカチで少し服にかかったお酒を拭いた。帰ってこのハンカチと服はすぐ洗おう。

 濡れていた箇所を全て拭き終わったので、とりあえず隣にいる古手川にお礼を言っておく。

 

 

「古手川、ハンカチサンキュな。今度洗って返すわ」

 

「あ、うん。私には返さなくて良いから、とりあえず伊織にでも渡しといて。そうすれば私もあいつと喋らずに済むし...」

 

「さ、さいですか...」

 

 

 北原の汚物のような扱われっぷりには少し親近感が湧くね、昔の俺を見ているみたいだ。まあ今も対して扱いは変わらないが。

 その後は二人して手に持つ酒を少しづつ飲みながら、特に会話もなく伊織たちを眺めていた。

 

 

『『『ハイ、飲ーんで!飲んで飲んで、の・ん・で☆』』』

 

「「っしゃオラァァァァァァ!!」」

 

 

 男たちの掛け声に唆され、粗相をした北原と今村がグラスに入った酒を一気飲みした。ちなみにこのサークル内で言う『そそう』とは、お酒や料理を零す、先輩に無礼を働くなど粗相ををした際に行われるペナルティの一気飲みのことらしい。そう誰かが言ってたのを聞いた。

 酒を飲み切った北原と今村はグラスを放り投げ、再度睨み合う。

 

 

「やってくれるじゃねぇか...!!」

 

「貴様こそな...!!」

 

「こうなったらトコトンやってやらぁぁぁ!!」

 

「上等!!白黒はっきりさせてやる!!」

 

 

 二人して完璧にスイッチが入ってしまったのか、はたまた酒が回ったのか。おかしなテンションになりにらめっこの続きを始めた。

 

 

『『『『にーらめっこしましょ!Peek a ───』』』』

 

 

 そこから先は思った通り、ただただ酒を爆飲みするだけの男たちというひどい絵面が続いた。

 変顔をしては酒を吹き、酒を吹いては酒を飲む。それを見て他の先輩方はさらに盛り上がり、度数の強い酒を飲みまくる。俺も下手したらあれに引き込まれていたと思うと背中を嫌な汗が伝っていく。

 というか、俺ってばこのサークルに入った事になってるの?これからずっとこのえげつないノリを見なきゃ行けないの?なにそれすっごい嫌なんだけど...もしかしたら俺もこれに混ざらなきゃ行けなくなる日が来るってことなんだよなぁ。八幡、目の前が真っ暗になってポケモンセンター行く事になるかもしれない。

 なんだか自分のこれからの大学生活が心配になってきてしまい一つ大きなため息を吐くと、隣にいた古手川の方からもため息が聞こえた。

 

 

 

「はぁ...昔はあんなやつじゃなかったのに」

 

「...北原のことか?」

 

「うん、昔はもっと真面目なやつだったの。それがなんであんなゴミになったのか...」

 

 

 諦めたような表情で北原たちの方を眺める古手川。ゴミって断言しちゃったよこの子。

 まあ俺にも、変わる変わらないという事に関しては思うところがある。高校時代にその事についての持論を自信満々に話していたものだ。

 

 ...だがまあ、この二年ほどで俺にも心境の変化というか、考え方の変化が起こったらしい。

 

 

「...人はそう簡単に変わったりしない、変わっちゃいけないって、昔は俺もそう思ってたんだがな」

 

「?」

 

「いい風に変わろうが、悪い風に変わろうが、その変化には何かしらの意味があってのことなんだろうな。変化する環境への適応の為とか、周りの奴らとの交流を上手く行う為とか色々」

 

 

 前まで人と全く関わっていなかった俺がこの二年間で学んだのは、人と関わることの大切さなんて大層なものじゃないけれど。それでも俺なりに、人間関係というものを理解したつもりだ。

 自分の考えを貫き続けているだけでは、いつかはその考え方を拒絶される。だが周りへの配慮を考えてその行動を少しでも変えてみれば、完璧に理解はされないにしても、それでも必ず理解してくれようとしてくれる人が現れる。

 俺は、自分のやり方を否定されて、恩師に言われた言葉に背中を押されて、自分のまちがいを正す為に『本物』を欲した。形なんてあるはずのない幻想だけの『本物』を。

 俺が欲したそれは本当に形なんて無くて、下手したら俺にさえ理解し得なかったほどのものだったのかもしれない。

 だけど、それを一緒になって探してくれるような奴らと出会えた。そして、そんな奴らが俺にとっての『本物』だったということにも気がついた。結局本人たちの前じゃ恥ずかしくて言えなかったが。それにこちらの願望を勝手に押し付けるのは嫌いだしな。

 あ、でも卒業式の日に小町には言ったんだ、みんな嫌な奴じゃなかったって。そしたらその10分後くらいに色々な奴から『ありがとう』だの『これからもよろしく』みたいなメッセージが飛んできたんだよ。

 雪ノ下に由比ヶ浜、一色や戸塚、葉山に川...川村?川本さんなど、俺が小町にまあ嫌な奴じゃなかったなと言った奴ら全員から。おかしい、葉山のことは嫌いって言ったし、三浦とかに感謝される理由もないし、戸部や材木座なんて話すら出してないのに。これ小町ちゃん絶対バラしたよね、拡散のスピードが異常すぎてボルトもびっくりだぜおい。

 まあ何にせよ、捻くれ者なりに考え行き着いた答えが変わる事だったのは自分でも不思議としか思えないが、それでも今では変わって良かったと思っている。

 

 長々と余計なことを考えたが、とりあえずこちらを向いて『何言ってんのこいつ...』みたいな冷たい目をしている古手川を納得させなければならん。

 

 

「まあその、なんだ。あれだよ、北原も北原なりにどうすれば良いのか考えて、行き着いた答えがゴミになって社会に適応するって事だったんじゃねぇの?今日会ったばっかりだし知らんけど」

 

「それって適応じゃなくてただアホになっただけじゃ...」

 

 

 古手川は呆れ果てたような表情をしながら北原を見る。

 今見ている北原は、大きい酒の瓶を咥えて一気に飲んでいた。それを飲みきったかと思えばその瓶を机の上に置きまた新しい瓶を咥えている。もはやにらめっこではなく酒のイッキ飲み対決だ。今村に至っては真っ青な顔をしながら俯いている。

 

 

「まあ、それでも楽しくやれてればいいんじゃねぇの?知らんけど」

 

「知らんけどって言葉好きなの?」

 

「いいや、俺はただ自分に責任が来るのを避けてるだけだ。他の人の責任まで取るとかマジでゴメンだからな、俺は俺で好きに生きさせて貰う。だから俺は働かない」

 

「...比企谷くんって結構喋るキャラだったんだね、知らなかった」

 

 

 意外そうな顔をしながら古手川はこちらを見る。

 確かに、普段の俺に比べればかなり饒舌になっていたかもしれない。まあ恐らく酒が回ってきたのだろう。決してこの大学生という空気が心地よいからではないはずだ。

 俺は手に持った酒のグラスに口をつけながら古手川に返事をする。

 

 

「そりゃ今日会ったばっかりだからな、知らなくて当然だ。あとこれくらい大学生なら普通なんじゃないか?」

 

「そうかな?まあ確かにそうかも、私はあんまり喋るタイプじゃないからわからないけど。比企谷くんはこのサークルに入るの?」

 

「うーん、入りたくない気持ちは山々なんだが逃げ出すことが出来なさそうなんだよなぁ...はぁ、お家帰りたい...」

 

 

 溜まりに溜まった不満を口にしたからか、俺の口からは自然にため息が溢れていた。

 そもそもダイビングサークルなのになぜダイビングの話が一切出ないのだろうか、先輩方の口から出るのはダイビングどころかアルコールの匂いだけである。

 

 

「このサークル、何やるところかわかる?」

 

「酒飲むところだろ?」

 

「普通ならそう思うよね...」

 

 

 わざわざ質問してくれた古手川にネタ性の高い皮肉を込めて返したのだが、なんだか思っていた反応とは違い残念そうな顔をさせてしまった。

 

 

「あー悪い、ダイビングサークルだったよな?」

 

 

 悪いなと思って本当のことを話すと、古手川は安堵したような表情をした。どうやら本当に誤解されるのが辛かったらしい。

 というか今更思ったのだが、俺ダイビング未経験なのだが大丈夫なのだろうか。何か機材とかいると思うが何も持っていないし。

 なのでその辺を少し質問してみた。

 

 

「俺、ダイビング未経験だし機材とかなんも無いが大丈夫なのか?つっても古手川も新入生だしわからんか。悪い、忘れてくれ」

 

 

 わからなかったのでとりあえず質問してみたが、古手川も新入生だったという事をすっかり忘れていた。あまりにもこのサークルに慣れていたのでつい聞いてしまった。

 だが古手川は手を横に振って俺の言葉を否定した。

 

 

「大丈夫。このサークルはうちがやってるダイビングショップを拠点に活動してるから何となくだけどわかる。未経験でも全然大丈夫だし、最初はうちのショップの機材を貸し出すからその辺も問題ないと思う」

 

「へぇ、ダイビングショップやったのか、なら聞いて良かった。あ、もしかして古手川って古手川さんの妹さんか?」

 

 

 ダイビングショップと聞いて、古手川さんと同じ苗字だったことを思い出しそう質問すると古手川は首を縦に振った。

 

 

「あ、お姉ちゃんに会ってたんだ。そこにいたし紹介しようと思ってたんだけど」

 

「ああ、その必要はないな。それでなんだが、ダイビングについては色々調べておいたほうがいいよな」

 

「あ、うん。そうだね。なんならうちに来てくれればいつでも教えれるけどっ」

 

「お、おう?」

 

「あ、でもいま時間あるし基本の話くらいならできるけどしようかっ!?」

 

「お、おう、よろしくたのむわ」

 

 

 ダイビングについての話をした途端、ずっと冷たい顔をしていた古手川の顔が一気に破顔し、嬉しそうに話をしてきた。

 この後、古手川にダイビングについての基本的なことを身振り手振りを使ってとても楽しそうに俺に説明してくれた。でもね、専門的な用語を一から説明してくれるのはありがたいんだけど、それ全部やってるからもうコンパ終わりそうなんだけど...

 とりあえず周りを見るからに、寿先輩と時田先輩が締めの挨拶をしているようだ。北原と今村は酔いつぶれてぶっ倒れている。

 

 とりあえず説明がひと段落したようなので、古手川を止めにかかる。

 

 

「あーっと、古手川。もうコンパ終わりそうなんだが」

 

「あ、本当だ。ごめん、気づかなくて。退屈だった?」

 

「いや、すげぇわかりやすかったわ。さんきゅな」

 

「よかった。それで、ダイビングに興味持ってくれた?」

 

 

 そう聞いてくる古手川はどこか不安そうな表情をしているが、そんなに心配しなくたってダイビングをちょっとやってみたいって思ったから大丈夫だ。

 俺はグッドサインを出しながらグラスをテーブルに置きにいった。

 

 

「おう、ダイビングやってみたくなったわ。これから色々よろしくな、古手川」

 

「うん、よろしく」

 

 

 手を振ってきた古手川に軽く手を上げて別れを言い、テーブルにグラスを置きにいったところでコンパは終了したようだ。

 俺は寿先輩たちの解散という言葉を聞いてから、大学を後にし家に帰った。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 そしてあのコンパの翌日。

 

 

「貴様のせいだ...」

 

「いいや、お前が悪い...」

 

「「ていうか...」」

 

 

 俺を挟んだ両サイドで文句を言い合っていた酔い潰れども、もとい北原と今村は机に突っ伏しながら俺を睨んできた。

 

 

「「お前、途中から逃げただろ!?」」

 

「はっ、お前らが勝手に喧嘩してたから俺は見守ってただけだ」

 

「比企谷てめぇ...!!」

 

「貴様があそこで俺たちを売らなければ...!!」

 

「あー、きょーもおれのにちじょーはへーわだなー」

 

「「今度こそは絶対潰すっ...!!!」」

 

 

 今日も俺の周りは平和である。




それでは次回に!!


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07.ふと比企谷八幡はあの時の夢をみる。

えーっと、、、、そのですね、、、、


本当にごめんなさい!!!!!!!!


大変長らくお待たせ致しました!!超絶久しぶりの投稿です!!
言い訳がましいですがリアルが大忙しだったんです...本当に本当にごめんなさい!!

そして更に謝らなきゃいけないことがございまして...
今回の話、全然『ぐらんぶる』関係ないです!!!ただの『俺ガイル』小説みたいになってます!!
久しぶりすぎて超駄文になってしまったし...ただただ長いだけになってしまったし...本当すみません。

それでは久しぶりに、どうぞ!!!


荷ほどき。

それは引っ越しをした際に前の住居から新しい住居へ持ってきた荷物を箱から出して使用可能な状態にすることである。

引っ越す前にあれやこれやといるものといらないものに私物を分別し、いるものだけを持ってきていらないものは捨てるか放置か、はたまた売りに行くか。

いるかいらないか迷ったら全部いらないとよく言うが、俺も分別に迷ったものは全て捨てるかリサイクルショップに持って行く事にしている。放置してきて、変に情が湧いて取りに帰ったりするのは面倒だからだ。

だがそれをして数を減らしても、この前越してきたばかりのうちの家の中には数個の段ボールが残っていた。

 

 

「はぁ...なんか落ち着かねぇな...やっぱ今のうちに全部出しとくか」

 

 

ソファーに寝転がりながらダンボールから引っ張り出してきた本を読んでいたが、どうにも周りにダンボールがありすぎて落ち着かなかったので俺も荷ほどきを始めることにした。

 

取り敢えず近くにあったやけに重いダンボールをどっこらせと持ち上げて比較的ものの少ない場所まで移動して中を確認する。

 

 

「...本」

 

 

中に入っていたのは本。本以外何も入ってない。本でいっぱい。なんか本屋にある本棚の下の引き出しの中みたいに巻数通りに綺麗に並べられぎっしりと詰まっている。

親父が読書好きで俺もそれに習ってか、もしくは独りだったときの暇つぶしのためだったのか、今ではもう忘れたが、俺も読書というものが趣味になり実家の本棚にはぎっしりと本が並べてあった。一般文芸からラノベ、漫画など色々なものが俺の部屋の本棚には並んでいた。

引っ越す際にいるものといらないものに分けて、いらないものは全てブックオフに持って行ったのだがそれでもやっぱり大量にあった本はそう簡単には減らずに残った。

ふぅっと一息吐いてから、俺はダンボールの中に入っている本を新居の本棚に並べていった。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「はぁ...おわったぁ...まじで本多すぎだろ...」

 

 

始めてから1時間ほど経っただろうか、数個のダンボールの中に入っていた本を全て部屋の本棚に並べ終えた。

部屋の一角を全て占領するほどの大きさの本棚には、ぎっしりと本が敷き詰められていた。読むときわかりやすいよう、あいうえお順にジャンルに分けて整頓するのが俺の中でのルールになっている。

 

本の荷ほどきに結構体力を持っていかれたので、スマホを片手にソファに寝転がった。手に持ったスマホで開いたのはとあるネット小説の投稿サイト。

そのサイトで自分のIDにログインしてお気に入り作家のページから一人の作家を探す。

 

「えーっと、『剣豪将軍』っと。おお、ブクマ結構増えてんじゃん」

 

 

探し出した作家、もとい『剣豪将軍』さんの処女作である『やはりぼっちの青春ラブコメはまちがっている』は、1人の自称プロのぼっちくんが高校2年のときにとある部活に放り込まれ、美少女たちと生徒たちの悩み、問題を解決していくというどこかで聞いたような話を物語を第三視点から見た小説である。

まあいちいち『剣豪将軍』なんていうのも面倒だし隠す意味もないのでいうが、この『剣豪将軍』とはもちろんあの材木座義輝だ。

 

卒業式の日、材木座が泣きながら俺に持ってきたのがこの作品のプロットだった。

その日の出来事を思い出しながら、更新された最新話を読みはじめた。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

卒業証書授与式が終わり、卒業生となった3年生は学校内で自由に談笑していた。

この3年間の思い出を振り返り涙するものもいれば、その思い出を笑い話にしてはしゃぐものもいる。

そのどちらにも含まれない俺は一人、いつもお世話になっていたベストプレイスでマッカンを飲んでいた。

吹き抜ける肌寒い風がとても心地よく感じ、感じる寒さには何故だか一抹の寂しさを覚える。校舎から出ていても聞こえてくる校舎内の賑やかな喧騒さえも、今ではわるくなかったと思えてしまう。

 

 

「...恐るべし、卒業テンションってか...ははっ」

 

 

ボソッと口にした一言に誰からの返事が来るわけもなく、一人で笑ってしまう。

今まで特に何も感じてこなかった学校生活も、卒業という行事の時になれば全てが懐かしく感じるようになってしまう。

マッカンを啜り、ほっと息を吐いて空を見上げる。今日はいつになく天気が良い。雲一つない青空とはこのことだ。

 

 

「あら比企谷くん、いつも通り一人でなにしてるのかしら?」

 

「ヒッキー!!探したんだよ!?」

 

「うっわ、先輩、卒業式までぼっちなんですか...」

 

「あはは...まぁうちの兄ですので仕方ないですよ...ってちょっ!皆さん!?」

 

 

一人で座りながら黄昏れていたところに、元奉仕部の面々と、生徒会長として卒業式に出席した一色、そして生徒会として出席した小町が哀れなものを見るような目でこちらを見ていた。

それを横目で見てからもう一度空を見上げて口を開く。

 

 

「はぁ...一人でこの空気を感じるのもなかなか良かったんだけどなぁ...」

 

「とうとう挨拶も、できなく、なったのかしら、非常識谷くん?」

 

「辛辣なんだよなぁ...」

 

「ヒッキー、そんなとこ、でなにしてたの?クラスで喋ろう、よ」

 

「いつものことなんだよなぁ...」

 

「せんぱい、なんかカッコつけて、ますね、キモいです」

 

「...それ言われるとなんだか恥ずかしいんだよなぁ...」

 

「あ、あはは...皆さん...」

 

「全く...なんのために俺がお前らの方向いてないか察しろよ...とりあえず早くその泣きっ面どうにかしろ...」

 

 

俺のことを最初に呼んだときは多分全員普通の顔だったはずなのだが、俺が横目で見た時にはもう全員の目には涙がたまっていた。

流石にレディの泣き顔をまじまじとみるのは気が引ける。というか見たところで何になるという話だ。

ひぐひぐと小さな嗚咽が聞こえてくるが、それが聞こえたのもほんの数秒で。

 

 

「あなたの顔を見ていたら、急に涙が出てきてしまったわ...不覚...恐怖でも感じてしまったのかしら?」

 

「最後の最後まで罵倒は忘れないあたり、ほんと尊敬」

 

「うわぁぁぁぁん!!みんなと離ればなれになるのやだよぉぉ!!」

 

「お前はもうすこし泣き止んでくれ、頼むから」

 

「うぅ...先輩方が居なくなると思うとすごく寂しいです...せんぱい、留年してくれませんか?」

 

「もう卒業式終わったから無理だし、終わってなくても嫌だし...つかなんで俺だけなんだよ」

 

「ほら、お兄ちゃん、学校でこの面々で話せるのもこれが最後だよ!?何か言うことは!!」

 

 

近寄ってきた小町が俺の体を立たせて、3人の方に押す。

 

 

「いや、別に誰か死ぬってわけでもないし会おうと思えばいつでも...」

 

「そう言う縁起も風情もないこと言わない!!ほらほら、はやくー!」

 

「はぁ...なにいえばいいんだよ...」

 

 

別に、特に言いたいことがあるわけじゃなかった。

本当に会おうと思えばいつだって会えるだろうし、こんなところでキザなこと言ったって後々黒歴史として話題にされてしまうのは目に見えていた。

 

 

...ってあれ?

 

 

ふと、自分の考えに違和感を覚えた。

 

 

...ああ、そうか。

 

 

そして一瞬でその違和感の正体がわかった。

俺はいつからこいつらとこれから先も一緒に居れると思っていたのだろうか。

 

 

...なら、ここで言うことは一つか。

 

 

少しだけ目を瞑り、一度深呼吸して目の前の3人を見た。

俺の珍しく真剣であろう表情に3人も真剣な顔をして見つめ返してくれる。

俺は心のうちにある気持ちを言葉にした。

 

 

「今まで他人との馴れ合いなんて嫌ってきた俺が、こんなにも周りのやつらと楽しく話せる日が来るなんて思ってもいなかった。最初の方はこんな関係もすぐ終わるだろうって思ってたんだけどな」

 

 

奉仕部として関わってきたこの2年ほどで、いつまでこいつらと普通に話していられるのだろうと思った時は何度もあった。

 

その度に一人で考えて、間違いを探して。

 

それで答えが見つからずにまたあの空間に行けば、そんな事を考えている事自体が間違いだったんだと自分を戒めて。

 

それを繰り返していくうちにいつの間にか、あの空間は俺にとっての当たり前になってしまっていて。

 

それは俺のかけがえのない場所になってしまっていて。

 

だから。

 

だからこそ、今の俺は。

 

今にも泣き出しそうな顔をしているであろう俺を、泣きそうな顔で見つめるこいつらに言わなきゃいけない。

 

 

大切な言葉を。

 

 

 

「雪ノ下、由比ヶ浜、一色...俺、俺は...!!お前らと会えて本当に良かっ...「ばぁぁぁぁぢまぁぁぁぁんんんんん!!!」...........」

 

「「「「....................」」」」

 

「ぐっっ...ゔぅぅぅぅ!!はちまぁぁぁぁん!!なんで我ってば、大した高校生活送ってないくせしてこんなに涙が止まらないんだぁぁ!?」

 

「............」

 

「「「「.............................」」」」

 

「えっぐっ、ひっぐぅっ....!!だがな八幡!!我はこの卒業式までにどうしても書いておきたかったプロットを書き終わらせてきた!!ので持ってきた!!それを貴様に見て欲しくここに舞い降り...ってあれ、なにこの空気」

 

「...............材木座。お前、まじで○ねよ」

 

「ヒッ...!?怖すぎて何言ってるか聞き取れなかったっ...!?」

 

 

超超超最悪のタイミングで降臨してくれた材木座に、今まで本気で言ったことのなかった『○ね』を言ってしまった。軽々しく言わないって決めてたのに。

俺の負のオーラマックスな睨みを受けて怯えている材木座だが、これよりも怖いものがまだ3つ残っていることを彼は知らない。

 

 

「あなた...最悪のタイミングで登場してくれたわね...大して重要なキャラクターでもないくせに...」

 

「ヒィィ...!?なんかものすごくメタいことを言ってる気がするんだがすごく怖いっ...!!」

 

「中二...中に...ちゅうに...ちゅうにぃぃぃぃいい!!!」

 

「ウヒィィ...!!怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いまじで怖いからやめてくださいっ...!!」

 

「中二せーんぱい!!一回○にましょうか♪...つか○ね」

 

「ブッヒャブラァァァァ...!!ぐはっ、もう、我ダメかもしれぬ...せめて、せめてこれだけは受け取ってくれ、八幡...」

 

 

3人の心なき罵倒でオーバーキルされた材木座は地面に倒れ、大事に握りしめていた『最高傑作!!(プロット)』と書かれた紙束を俺に押し付けて力尽きた。傑作なのにプロットなのかよ...

 

材木座から渡された紙束をみて深くため息を吐きながらも、少し気になったので表紙をめくろうとした。

 

が、その時。

 

 

「んっ、んんっ!!」

「こ、ごほんごほんっ!!」

 

「え、えっと...げ、げほっげほっ!!」

 

「結衣さんそれは咳払いじゃなくてただの咳です...」

 

 

2つの咳払いと1つの咳と1つの苦笑いの混じった言葉が俺の紙束への意識を遮った。

やべぇ、まじで向こう見たくねえ...さっきのこと忘れてくれねぇかなぁ...無理だよなぁ...

 

もう一度深くため息をついてからチラッと4人の方をみる。

そこにいた小町を抜いた3人は明らかにソワソワとしているのがわかってしまった。

 

 

「その、比企谷くん、余計な邪魔が入ってしまったから申し訳ないのだけれど先ほどの続きを聞かせてくれるかしら?」

 

「...えーっと」

 

「ひ、ヒッキー。中二の邪魔が入っちゃったから、も、もう一回さっきの言葉を言って欲しいなぁ...なんて」

 

「...あのだな」

 

「ほらせんぱい!えっと、あの、その、すごい気まずい雰囲気なのはわかりますけど、私たちは気にしませんので!!」

 

「...俺が気にします」

 

「ほらお兄ちゃん!!もうぱぱっと済ませちゃおう!!」

 

「お前なぁ...はぁ、まあどうせ言うつもりだったし腹括るか...」

 

 

さっき言いかけたしもう仕方ないと割り切って先ほど言おうとした言葉をもう一度口にする。

 

 

「えーっと、俺は、お前らに会えて本当に良かったって思ってる。なんていうか、上手く言えなくて悪いんだが...その、これから先も俺に絡んで...じゃなくて、仲良くして...でもなくて...くっ、その...その!!」

 

「「「...その?」」」

 

 

俺の歯切れの悪い言葉に少し赤くなりながらも真剣な顔で相槌をうってくれる3人。

そんな彼女らを見ながら俺は一番しっくりくるようなセリフを口にした。

 

「いっ、一緒に居てくれると...た、助かる。...ってあぁぁぁもう!こんな恥ずいのやめだやめ!!!こんなの俺じゃねぇ、マジ誰だよ!!はい黒歴史一個増えましたよぉっと!!」

 

 

だがどう考えても俺らしくない行動に恥ずかしさがピークに達してしまい、手に持っていた紙束を上に投げながら頭を抱えて悶えまくった。

綺麗に宙に浮いた紙束はヒラヒラとばらけながら地に落ちていく。

パラパラやカサカサと様々な音を立てながら落ちていく紙の音に紛れて大きなため息が4つ聞こえた。

 

 

「全く...あなたっていつもそうよね、大事なところで逃げてしまって。まぁそれも比企谷くんらしいといえば比企谷くんらしいのだけれど」

 

 

雪ノ下は目に溜めた涙を少し零しながらも、口元に手を当ててクスクスと笑っていて。

 

 

「あははっ!!でもあのヘタレなヒッキーからここまで聞けたなら満足かな!!これからもよろしくね、ヒッキー!!」

 

 

由比ヶ浜は流れた涙を自身の指で拭きながら、ケラケラと大きな声で笑っていて。

 

 

「も〜、せんぱいの根性なし、意気地なし、すけこまし!!本当にもう、仕方ないのでこれからも一緒にいてあげますよ!!感謝してくださいね!!」

 

 

一色は目に涙を溜めながらもいつも通りあざとく頬を膨らまして、一通り罵倒してから無邪気な笑顔で笑う。

 

 

「お兄ちゃんってば本当ヘタレなんだからもう...こう言う時くらいみんなをキュンとさせる一言言えないのかなぁ」

 

「...うるせぇ、ほっとけ。俺にしてはよくやった方なんだよ」

 

 

やれやれと言わんばかりの表情で小町が悪態を吐くが、そんな思うようにいかないのがこの世の中ってものであってだなと心の中でボヤく。

俺の言葉を聞いてか、四人はまた素敵な笑顔で笑い合った。それにつられてか俺の口角も少し上がってしまい、それをきもいだのと散々笑いながら罵倒されて俺のメンタルがゴリゴリ削られるのであった。

 

ようやく、このある意味ムチャクチャな場もどうやら収まったらしい。

はぁっと大きな息を吐いてから地面に散らばってしまった材木座のプロットを拾おうとしたその時。

 

 

「は...ちまん...急...げ...」

 

「うぉっ、急に死にかけの声で復活するな、そのまま死んどけ」

 

 

地面に転がっていたただの材木座のしかばねが急に何かを呟き始めた。

どうやらなにかを急かしているらしい。

 

 

「一枚だけある...黄色い、紙...あれだけは女組に見られてはいけない...!!あれを見られたら、お主と我、余裕で終わる...ぞ...グフッ」

 

「ちょっ、おいどう言うことだ。ってこいつ、気絶したふりしてやがる...」

 

 

とりあえずくたばる前にこいつが言った黄色い紙というものを探す。

白い紙が大量に散らばっている中、一つだけあった黄色い紙は嫌でも目立っていた。

 

 

「黄色の紙、ああ、これか、これがどうしたんだ」

 

 

ひょいと拾い上げたその紙に目を通して見ると、そこには登場人物設定と書かれてあった。

主人公、ヒロインと2つの項目に分かれているその文を読んでいく。

 

主人公 H×H(仮)は高校2年。ひねくれ者で自称プロのぼっち。顔立ちは整っているが目が死んでおりそれで全てが台無しになっている。得意科目は文系科目で国語は学年3位だが理系科目に弱い。とある作文を提出したところ、女教師アラサーHに目をつけられて、人の悩みを解決する手助けをする部活に強制入部させられる。

 

ここまで読んだあたりで俺はヒロインの欄に視点を変えた。

いや、これ俺じゃん、こいつ頭おかしいのかな、なんだよH×Hって。俺はハンター×ハンターじゃなくて比企谷八幡です。

てかおいおい、この無茶苦茶な主人公設定でヒロインどうするんだよまじで。俺にヒロインなんて一人もいなかったぞと思いながらとりあえずヒロインの名前を見ていくと、メインと書かれた3人がいた。どうやらメインヒロインは3人らしい。

 

一人目はY×Y(氷)で二人目はY×Y(アホ)、三人目はI×I(小悪魔)と書かれている。なんだか嫌な予感がしてきた。

俺はチラッと横目で談笑している4人を見た。どうやらこちらには興味がないらしい。

視線を紙に戻してその先を読んでいく。

そのヒロインたちの設定はどう見たってあそこにいる3人と同じ。黒髪ロングの美少女だのカースト最上位の巨乳JKだの生徒会長になった小悪魔後輩などのどう考えたってあいつらの事。

それになんで材木座がここまで知ってるんだよという少し細かい設定が色々と書かれていたが、どのヒロインも最後の所に...

 

こんなの見られたら俺が無事じゃ済まないと思いもう一度彼女らの方を見ようとした時、ひょいっと手に持っていた紙を誰かに取られた。

そこには先ほどまで向こうにいた4人の姿が。

 

 

「さっきから深刻そうな顔で眺めてましたけどこれなんですか〜?」

 

「ちょっ!一色、返してくれ!」

 

「なんだか怪しいわね...なになに、登場人物設定?」

 

「ま、まってくれ...それ以上は」

 

「あれ?この主人公、ヒッキーと設定が似てるね」

 

「あ、ほんとですね〜!せんぱいがモデルになってるんですか?」

 

「...あら?このヒロインたちの設定、私たちに似ていないかしら?...ん?」

 

「あー、本当だ!って巨乳JKってなんだし!!ヒッキーまじきも...ん?」

 

「え〜?小悪魔後輩ってなんか酷くないですかー?...ん?」

 

「...あー、俺は悪くないからな。先に帰らせてもらうぞ、じゃあな」

 

 

3人の言葉が急に詰まったのを感じ取ったので俺は足早にその場を去ろうとした。

だが、がしっと。俺の方に3つの重みが一気に加わった。

俺は背中に感じる殺気のような何かに体が縛られて動けなくなってしまう。

 

 

「比企谷くん?」

「ヒッキー?」

「せんぱい?」

 

「ひっ...!!」

 

 

底冷えするかのような冷たい3つの声に俺はギギギっと首を後ろに向ける。

 

...そこには顔を真っ赤にし涙目になりながらこちらを睨む3人が。

 

 

「比企谷くん、これ、見た?」

 

「...いや」

 

「ヒッキー、本当のこと言って?」

 

「...そ、その」

 

「せんぱい?見ましたよね?」

 

「...ち、違うんだ!!助けて小町...」

 

 

そうだ小町ならと小町の方に目を向けたが、小町は黄色い紙に目をやってからニマニマとした顔で俺の方を見ていた。どうやら助けてくれないらしい。材木座はピクピクしながら気絶したふりをしているため助けてくれる人が1人もいない。

 

あぁ、俺の人生もここまでか...大したことなかったな、俺の人生...

 

 

「比企谷くん」

「ヒッキー」

「せんぱい」

 

「...はぁ、我が生涯に一片の悔いなし...!!」

 

 

 

 

 

 

翌日、目が覚めた八幡には卒業式が終わってからの少しの間の記憶が消えていたらしい。

材木座が渡したプロットのキャラ設定のヒロインの欄、3人いたメインヒロインの最後の文はこう書かれていた。

 

Y×Y(氷)は、『最初から中盤までは主人公と反発し合っていたが、クリスマスの一件で、主人公のことを異性としての好意を寄せるようになる』

 

Y×Y(アホ)は、『入学式の日に主人公に飼い犬を助けて貰ってから主人公のことを気になってはいたが、それとは関係なしに主人公の捻くれているが優しい人間性に惹かれて好意を寄せるようになる』

 

I×I(小悪魔)は、『最初は冴えない一男子生徒くらいの印象しかなかったものの、主人公の『本物』という言葉に強い衝撃を受け、その後異性として気になり始める』

 

 

これを一度は読んだ八幡だが、何故だか読んだ記憶が頭から消えていた。恐ろしいこともあるものである。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「...んぁ?あ、やべ、寝ちまってたのか。懐かしい夢を見たな...」

 

 

材木座の書いた俺をモデルにした主人公の小説、『やはりぼっちの青春ラブコメはまちがっている』を読んでいる最中に眠ってしまったらしい。後で聞いた話だが、何故材木座がこの題名で俺を主人公にした話を書こうと思ったかというと、たまたま平塚先生が置いて行った作文用紙の束の先頭に俺の作文があって、それを読んで思いついたらしい。

くぁぁぁっと1つ大きな伸びをして時計を見たがあまり時間は経っていなかったようだ。

 

 

「卒業式、か。なんだか記憶が曖昧だ...まあそんな大したことはなかっただろうしいいか」

 

 

さて、ダンボールをまとめてゴミ捨て場に出してくるか。

本を出して空になったダンボールを紐で縛り上げて玄関の外まで持って行き、少し着替えてから玄関の鍵を閉めていつものゴミ捨て場までダンボールを持って行った。

 

ダンボールをゴミ捨て場に捨てて軽く肩を回していると、すぐ近くにあるダイビングショップ『グランブルー』から声が聞こえた。

 

 

「おーい、八幡!!」

 

「ちょっとこっち来てくれないかー?」

 

 

そこには色々なダイビング用具を倉庫にしまっている時田先輩と寿先輩の姿があった。

 

 

「ああ、そうか。俺はもう大学生なんだよなぁ...いつまでもあの時のままじゃいられないか...はーい、わかりましたー」

 

 

先ほど夢に見たあの高校時代に別れを告げ、俺は大学の先輩たちの方へと走り出した。

 

 




本当に最後しかぐらんぶる関係ないですよねごめんなさい...


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