乃木園子と上里海は恋人同士である (水甲)
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01初めまして婚約者

ということで園子×海の恋愛物です。戦闘等はあまりなく、ひたすら二人がイチャイチャしていたりしなかったり……


彼と初めて会ったときのことを思い出してみた。お互いの家は300年前から親交があったためか、私と彼は婚約者という関係だった。

 

「ほら、海、彼女が君の婚約者だよ」

 

「上里海くんだよね~私は乃木園子。よろしく~」

 

「よろしく……」

 

笑顔で挨拶をするけど、何故か海くんは笑ってくれない。

 

「海くんだからカイくんって呼んで良い?」

 

「……いいけど……」

 

これが私と彼との最初の出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海SIDE

 

神樹館

 

今日の授業が終わり、皆が帰る中僕は椅子に座ったまま眠っているそのっちを見つめていた。

 

「よく寝てるな……」

 

そう呟くと黒髪の少女鷲尾須美が怒った顔をしていた。

 

「よく寝てるなじゃなくって、起こしてもらっていいかな?上里くん」

 

「いや、寝てる子を無理やり起こすのは悪い気がしてな」

 

「いやいやこれから訓練があるんだからさ……」

 

活発そうな少女、三ノ輪銀が苦笑いをしていた。しょうがない、これ以上待っていたら須美が怒りそうだな。

 

「そのっち、そのっち、起きろ」

 

「ん~あともう少しだけ~五分だけ~」

 

本当に五分だけって言う人がいるとは……とは起こすように頼まれた以上は……

 

「仕方ない」

 

僕はそのっちをおんぶし、銀にそのっちの鞄をもたせた。

 

「訓練場まで行くか……」

 

「上里くん……そのっちに甘くない?」

 

「そんな事無いよ」

 

「まぁまぁ須美。園子と海は婚約者同士だから仕方ないだろ」

 

「でも……」

 

「婚約者同士だからって訳じゃないぞ。本当に好きなやつにしかこんな事しないぞ」

 

僕がそう言った瞬間、背負われているそのっちが一瞬体をビクつかせた。僕、須美、銀の三人は顔を見合わせ……

 

「ちなみ上里くん、訓練場について眠ってたらどうするの?」

 

「まぁ眠り姫を起こすにはやっぱり……」

 

「キスしか無いと……」

 

「!?」

 

また体をビクつかせた。こいつ……

 

「そのっち、起きてるだろ」

 

「……………………く~」

 

「「「………………」」」

 

「上里くん、急いでいきましょうか」

 

「そうだな。起きないって言うならキスするしか無いな」

 

「私と須美は少し席外してるからな」

 

「わぁ~!?ごめんなさい~」

 

やっぱり狸寝入りしていたか。僕はそのっちを降ろすと

 

「いつから起きてた?」

 

「えっと~カイくんに起こされた時にかな?」

 

「何でその時に素直に起きなかったのよ」

 

「だって~起きなかったらカイくんにおんぶしてもらえるかなって?」

 

そのっちが笑顔で答え、僕らは溜息をつくのであった。ちゃんと叱るべきなのだけど、これ以上遅れたら安芸先生に怒られそうだから、僕らは先を急ぐのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのっち、須美、銀の三人が訓練に励む中、僕は三人から離れた場所で木刀で素振りをしていた。

 

彼女たちは人類の敵であるバーテックスと戦う勇者に選ばれた。バーテックスとの戦いは厳しいもので、彼女たちが戦いから戻ってくるといつも傷だらけだった。

 

僕はそんな三人を見ていて、ただひたすら何もできない自分が悔しくなり、彼女たちを守り、彼女たちと一緒に戦えるようになりたくって、必死に訓練を続けていた。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、今日のノルマ達成……」

 

僕は日課であるメニューを終わらせ、そのまま倒れ込んだ。少し休憩したらもう少しだけ訓練を続けないと……

 

「カイく~ん~大丈夫?」

 

声が聞こえ、目を開けるとそのっちが僕の顔を覗き込んでいた。

 

「そのっち、休憩中か?」

 

「そんなところ~カイくん、頑張ってるんだね」

 

「当たり前だろ。お前たちだけ戦わせて、僕はただ帰りを待つのは嫌だから……」

 

「男の子だもんね~」

 

「なぁそのっち、戦うの辛くないのか?」

 

「辛いけど……勇者だから……世界を、みんなを、わっしーとミノさんと一緒に守らないとね」

 

「……僕も一緒に戦いたいよ」

 

どうして僕は彼女と一緒に戦うことができないのだろうか?大好きな人が頑張ってるのに……

 

「カイくん」

 

そのっちが正座し、何故か膝を叩いていた。まさかと思うけど……

 

嫌がったら嫌がったらで何を言い出すかわからないし、僕はそのっちに膝枕をしてもらうのだった。

 

「膝枕どうかな?」

 

「………何だか言ったら色々とやばいかもしれないから言わない」

 

「え~」

 

「残念そうにしても言わない」

 

口が裂けてもやわらかいよとか言えないよな。

 

「そのっち」

 

「ん~」

 

「好きだよ」

 

「えへへ~私も好きだよ。大好き」

 

こうしてお互いの気持ちを言い合えるくらいになったのはあの時から考えられなかったな。

 

 

 




第1話でした。こんな感じにただひたすら二人がイチャイチャし、須美と銀の二人がやれやれしたりします。

そして申し訳ありませんが、銀は………生存しません。本当にそこは申し訳ないです。


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02 二人でのんびりと

「海、よく聞くんだ。これから会うのは上里家にとっては300年も前からの付き合いである家の子だよ。お前とその家の子はいうなれば婚約者同士なんだよ」

 

父親にそんなことを言われ、僕は喜びなどの感情がなかった。家柄の問題で自由に結婚することができない。

ただ親に決められた道を歩むだけしかできないなんて……

 

僕は彼女……乃木園子と初めて出会うのだった。彼女は特に僕を警戒したりせず、ただ笑顔で出迎えてくれた。

 

「なぁ……」

 

「何?カイくん?」

 

「お前は嫌じゃないのか?親に決められた相手と結婚するのは……」

 

僕はそんな事を聞くと彼女はしばらく悩み、僕のことを見つめた。

 

「私も最初は嫌だなって思ってたけど……カイくんだったから良かったって思ってるよ」

 

「僕だからって……」

 

「カイくんを始めてみた時のこの気持ちが、本当に好きっていうものかわからないけど……私は貴方をひと目見てから好きになっちゃいました」

 

笑顔でそう告げる園子……何というか自由なやつだな……

 

「僕もお前のことが好きになれるように頑張るよ」

 

これは幼い頃の思い出……僕とそのっちのはじめての出会い……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カイくん~」

 

「幸せそうな寝顔をして……」

 

そのっちから膝枕してもらっていたのだけど、途中で寝落ちしてしまい、僕がそのっちに膝枕をすることになった。

 

「好き……か」

 

あのときは本当にこんな事を考えられなかったな。そのっちといることが多くなってから、次第に僕自身もそのっちのことが好きになってきた。

 

とはいえお互いしっかりと告白したわけじゃないんだよな……ただ『好き』という言葉だけしか言えてない。

ちゃんとしっかりと告白するべきだよな。

 

「そのっち、先生が……あっ……」

 

そのっちを呼びに来た須美だけど、今の僕らの光景を見て顔を真赤にさせていた。

 

「そ、その……ごめんなさい」

 

「別に気にしなくてもいいのに……」

 

ものすごく気まずい空気になったな。するとそのっちが目を覚ました。

 

「んん~あれ~カイくんに膝枕してたのに~何で私がされてるの~」

 

「お前が途中で寝落ちしたからだよ」

 

「そっか~何だか寝心地がいいな~って思ったら……」

 

何というかマイペースだな。そのっちは……

 

「先生が呼んでるらしいから行くぞ」

 

「うん」

 

そのっちが先に行くと須美が僕のことを見つめていた。

 

「何か付いてるか?」

 

「ううん、上里くん、また一人で訓練してたんだね」

 

「あぁ」

 

「やっぱり勇者になって御国のために戦いたいから?」

 

「いや、僕は……」

 

正直言うべきかどうか悩んだ。銀は僕と大赦の幹部が話しているのを聞いて、知ってるし……そのっちには最初から話してる。須美だけ仲間はずれっていうのはおかしいよな

 

「……僕は男の子だ。須美たちみたいに勇者になる資格はない」

 

「………うん」

 

「お前たちが戦いから戻ってくるたびに……お前たちの傷だらけの姿を見るたびに、僕はどうして一緒に戦うことが出来ないんだろうか……一緒に勇者として戦って、お前たちを守れないんだろうかって……ずっと思ってたんだ。だからいつの日か神樹様が僕を勇者になった時のために訓練を続けてるんだ」

 

「そ、そんなこと……」

 

あるわけないって言いたいんだろうけど、須美は口を閉ざした。

 

「……もしかしたら奇跡が起きるかもしれない。僕はそう信じたいんだ」

 

「……そっか」

 

須美もこれ以上は言うまいと思い、これ以上のことは言わなかった。

 

「なぁ、須美」

 

「何?上里くん」

 

「そのっちのこと……守ってくれ。あいつはお前と銀を守るって言ってるけど……」

 

「わかったわ。私と銀でそのっちを守るから……約束ね」

 

「あぁ、約束だ」

 

互いに約束を交わし、僕らは先生のところに行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先生の話では次の戦いまで時間があり、ずっと訓練となるといざという時に動けなくなるため、休息期間になるということになった。

 

その日の夜、何故かそのっちが僕の家に泊まりに来ていた。

 

「なぁ、なんでまた泊まりに来たんだよ」

 

「お父さんもお母さんからもOKもらえたんよ。せっかく婚約者同士だからね~」

 

「理由になってないような……」

 

「それじゃカイくんとちょっと一緒にいたいとおもったからじゃ駄目かな?」

 

笑顔でそう言うけど、何というか何でそういうことを恥ずかしがらずに言えるんだよ……

 

「ほら、カイくん、一緒のお布団で寝よう~」

 

「それは断る!!」

 

一緒に寝ること自体ものすごく恥ずかしいことだろ……

 

「それじゃ~手をつなぎながら寝よう」

 

「まぁそれくらいなら……」

 

僕らは手をつなぎ眠りにつくのであった。

 

 

 



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03 お姫様と海の特技

そのっち、須美、銀の三人は休暇期間をもらい、それぞれ休暇を満喫するはずだったのだが、折角だからということでみんなでそのっちの家に遊びに来ることになったのだったが……

 

「一体何をしてるんだ?」

 

三人よりちょっと遅れてそのっちの家にやってくると須美が洋装姿で膝を抱えていた。

 

「カイくん~見てみて~わっしーとミノさんの格好すごく似合ってるよね~」

 

「まぁ似合ってるけど……大変だったな。銀」

 

「ははは、着せ替え人形にされて大変だったよ。ちなみに須美は……」

 

「洋装姿にちょっと喜んだけど、非国民の格好を喜ぶなんてって落ち込んでるのか?」

 

「見てないのによく分かるな」

 

いや、何となく想像ができるから……ただ気になったのは……

 

「そのっちは着替えないのか?」

 

「えっ!?」

 

「そうだよ!園子だけ着替えないんなんてずるいぞ」

 

「わ、私はいいよ~」

 

「僕としてはそのっちの可愛い格好見たかったんだけど……」

 

僕がそう言うとそのっちは顔を真赤にさせながら、たくさんある服から何かを選び始めるのであった。

 

「園子……なんかお前、ちょろいな」

 

「人の婚約者をちょろいとか言うなよ。とりあえず着替えるなら僕は一旦出るよ」

 

部屋から出てしばらくして、入っていいと言われて入ると紫のドレスに着替え、顔を赤らめるそのっちがいた。

 

「ど、どうかな?」

 

「似合ってるぞ。そのっち」

 

「えへへ~」

 

「何というか園子はこう……ドレスとか着てるとお姫様みたいな感じだな」

 

「もうミノさん~そんな事無いよ~」

 

「確かに銀の言うとおりかもな。それだったら……」

 

僕はそっとそのっちの事をお姫様抱っこし……

 

「どうですか?お姫様」

 

「はう」

 

そのっちは顔を真赤にさせたまま、気絶してしまうのであった。というか僕もお姫様抱っこやらお姫様呼びとかして恥ずかしくなってきた。

 

「何というか海も感情のままにやって後悔するなよ」

 

「す、すまない……」

 

こうしてこの日はそのっちが気絶してしまったため、解散するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後

 

学校の昼休み、みんなで将来の夢について語り合うことになった。須美は歴史学者、そのっちは小説家、銀はお嫁さんだった。

 

「銀がお嫁さんっていうのは意外というか……」

 

「何でだよ!?そういう海はどうなのさ?」

 

「僕は?僕は……」

 

イマイチ将来について考えてなかったな。というより考える暇なんてなかったな

 

「考えてなかったな……」

 

「そうなの?それだったら上里くん、好きなことは?それから将来の夢になったりするかもしれないし……」

 

「好きなこと……」

 

僕はそのっちのことを見ると、そのっちは恥ずかしそうに顔を背けた。

 

「いや、好きなことだからな。好きな人じゃないからな」

 

銀にツッコまれてしまった。まぁ好きな事というよりかは……

 

「衣装関係を作れればいいかな?」

 

「「衣装関係?」」

 

「カイくんは手先が器用でね。この間着せ替えした洋服も殆どはカイくんが作ってくれたんだ~」

 

「「そうなの!?」」

 

「まぁ色々とやっている内に……あとは何となくその人の体型とか分かるし……」

 

「「えっ!?」」

 

僕の言葉を聞いて、何故か須美と銀が引いてしまった。何だ?何か問題もあったか?

 

「な、なぁ、ちなみに須美の胸のサイズは……」

 

「えっと……」

 

僕が何かを言いかけた瞬間、須美に思いっきり頭を叩かれた。うん、これは言わない方がいいな

 

「上里くん、お願いだからそういうのは言わないでね」

 

「わ、わかった……」

 

「まぁ海の将来は服飾関係なのか?」

 

「う~ん、それでもいいけど……」

 

「「「?」」」

 

これは言うべきかどうか……正直言うのは恥ずかしいな。でも、言わないといけない気がするし……

 

「服飾関係の仕事につくか大赦関係になるかはわからないけど、出来れば……その、三人の花嫁衣装を作りたいなって……」

 

僕がそう言うと三人共顔を真っ赤にさせる。

 

「そ、そのときは頼むな。海」

 

「素敵なドレスを作ってね~」

 

「わ、私は白無垢で……」

 

あれ?もしかしてOKもらったのかな?

 

 

とりあえず僕の夢としては、勇者となって三人と一緒に戦うことと三人の花嫁衣装を作ることが増えたのだった。

 

 




いちゃいちゃネタは思いつくのですが、あと何話かをやった後に銀のあの話をやらないと……

ちなみに結城友奈の章までの予定ですが、結城友奈の章は短めだったりします。


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04 二人だけの時間

そのっちたちの休暇期間はまだまだ続いていたのだが、いつもだったら四人で一緒に行動するつもりだったのが、今日は珍しく僕とそのっちの二人っきりだった。特に須美と銀の二人が用事があるというわけではなく……

 

「別に仕来たりだからって須美たちも誘えばよかったのに……」

 

「う~ん、でも二人からしてみれば関係ない人だからね~」

 

そう言われればそうだけど……

 

僕らは大橋の近くにある英霊碑まで来ていた。僕とそのっちは英霊碑の周りにある二つのお墓に花を供えた。

 

「ご先祖様~今年もカイくんと来ました」

 

「何というかこの人達が始まりだよな。乃木と上里の関わりって……」

 

お墓に刻まれた上里ひなたと乃木若葉という名前。この二人は神世紀以前よりバーテックスと戦い続けた勇者と巫女だった。

 

「そのっちはやっぱり血筋なんだろうな……」

 

「勇者になれたのが?多分そうかもしれないね~」

 

「僕は巫女の家系だって言うのに、巫女の力も扱えず勇者の力も扱えない……」

 

大人たちはそのことについては特に責めたりはしてないけど、僕自身考えてしまうことがある

 

「う~ん、えい!」

 

そのっちが急に抱きついてきた。僕は突然のことで驚いてしまった。

 

「ど、どうしたんだよ!?そのっち!?」

 

「カイくん、また悩んでる?」

 

「……うん」

 

「カイくんが悩むと私も何だか暗くなっちゃうんだ~だから笑顔でいてほしいの」

 

「そのっち……」

 

本当にそのっちは僕のことをよく見て、元気づけようとしてるな……

 

「何だか悪いな。そのっちには気を使わせてばっかりだよ」

 

「えへへ~」

 

「なぁ、そのっち」

 

「なに~」

 

「お前が元気なかったら僕が抱きしめるからな」

 

僕がそう告げた瞬間、そのっちが抱きつくのを止めるのであった。どうしたのか気になり、そのっちの方を見るとそのっちは顔を真赤にさせていた。

 

「カイくんに抱きしめられたら……多分だけど私……嬉しい気持ちが一杯で倒れちゃうかもしれないよ~」

 

「そしたら僕が支えてやるよ」

 

「もうカイくんは……」

 

僕らは手をつなぎ、お互い笑顔になるのであった。

 

そんな僕らを見つめる青いカラスと白いカラスが僕らを見て見つめていたことには僕らは知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

墓参りを済ませ、あとは帰るだけだったのだが、そのっちは眠そうにしていた。

 

「おんぶするか?」

 

「ん~カイくんに迷惑かけちゃうよ~」

 

「僕は気にしないから……ほら」

 

僕はそのっちを背負う。何というか抱きつかれたりされるのは未だに恥ずかしかったりするのに、何で僕はおんぶとかは平気なんだろうか?

 

「ん~カイくん~えへへ~」

 

いちいち気にすることじゃないよな。こうして好きな人といれるだけで僕は十分なんだから……

 

一人そう思うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜

 

夕方、そのっちを送り届けたはずなのに、またそのっちが僕の部屋に泊まりに来ていた。

 

「何でまた……」

 

「えっとね~今日は何だかカイくんと一緒にいたくって~」

 

よくとまぁそのっちの両親は許してくれたな。まぁ僕を信頼してくれているということだからか?

 

「というわけでね。一緒にお風呂に入ろう~」

 

「ちょっと待った。何でそんな流れになるんだよ!!」

 

「えっ~だって、この間合宿したときもカイくんは一人で温泉に入ってたでしょ。きっと寂しいかなって」

 

「あのな、そういうのは……お互い恋人同士で……」

 

「私達婚約者同士で恋人同士だよ~」

 

言い訳を間違えた……こういうときは本当にどうすれば良いんだ?というかそのっちは恥ずかしいとか思ってないのか?

 

「とりあえずそのっち。一緒に入るのはもう少ししてからだ」

 

「もう少しって?」

 

「そうだな……中学二年くらいになってからで……」

 

「中学二年……うん、わかったよ~」

 

「それまで一緒に入ろうとしたらそのっちのこと嫌いになるからな」

 

「それはやだな~でもカイくん、約束守ってね」

 

「あぁ」

 

僕らは指切りをするのであった。

 

 

 

 

 

 

 




何というかもうこの二人、子供がいてもおかしくないような……

花結いに海とそのっちの子供でも出すか……


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05 プールで一緒に

「なぁ、そのっち」

 

「何~カイくん?」

 

僕はそのっちにある事を聞きたかった。確か一昨日もプールに来たはずなのにどうして僕とそのっちの二人でまたプールに来てるんだ?

 

「何でプールなんだ?」

 

「駄目だった?」

 

「いや、駄目じゃないけど……」

 

と言うより一昨日着ていた水着と違うし……一体どういうことなんだ?

 

「えいっ!」

 

急にそのっちが僕の腕に抱きついてきた。出来れば止めてほしいのだけど、ほら、何というか胸が当たってるし……

 

「そのっち?」

 

「カイくん、私の水着どうかな?」

 

「すごく可愛いと思うぞ」

 

「えへへ~ありがとう~」

 

水着を褒めるとそのっちは嬉しそうにしていた。それにしても何で急にプールに行こうって話になったんだ?

 

「一昨日ね。わっしーとミノさんに言われたんだ~たまには二人っきりで遊びに行ったらって」

 

「それで今日はプールか……」

 

「いっぱい遊ぼうね~」

 

何というか須美と銀の二人に気を使わされたけど、これはこれで良かったかもしれないな。

僕らはたくさん遊ぶ中、僕はそのっちの背中の痣が目に入った。

 

「………」

 

「どうかしたの?カイくん」

 

「いや、痣痛そうだなって……」

 

「あっ……うん、でももう大丈夫だよ~」

 

そのっちは僕に心配かけたくないのか、笑顔でそう言うけど……僕はそっとそのっちの背中の痣に触れた。

 

「んん!?くすぐったいよ~」

 

「ごめん……そのっち、ごめんな」

 

「どうしてカイくんが謝るの?」

 

「だって、女の子なのに傷だらけで……」

 

「カイくん……」

 

「そのっち……」

 

僕はそっとそのっちにキスをするのであった。キスをし終えるとお互いに顔を真赤にさせていた。

 

「えへへ、キスしちゃったね」

 

「そのっち……お前がどんなになっても僕はお前のことを好きでいるからな」

 

「ありがとう。カイくん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プールの帰り道、そのっちはある事を僕に教えてくれた。

 

「あのね、カイくん」

 

「何だ?」

 

「本当はね戦うのがすごく怖いんだ。でもお役目だからって思いながら戦ってたの……それに傷だらけになった私の体を見てカイくんはどう思うかなって?嫌いになったりしないかなって……」

 

「そのっち……」

 

そのっちは不安だったんだな。僕が嫌いになったりしないか……

 

「でも、戦いが終わっていつもカイくんが出迎えてくれるのすごく嬉しいんだ~傷だらけでも私達が帰ってきて、ホッとした顔をして、笑顔で『おかえり』って言ってくれるのがすごく嬉しい……いつもありがとうね。カイくん」

 

「……そっか」

 

僕はそのっちの頭を撫でるとそのっちは嬉しそうにするのであった。

 

「カイくん、子供が出来たらなんて名前つける?」

 

「何だよ急に?」

 

「キスしてくれたり、好きって言ってくれたり……今日はすごく嬉しいことがいっぱいだったから……何となくそう思ったの~」

 

「……そうだな……『みゆ』ってどうかな?」

 

「みゆ?どんな意味なの?」

 

「意味は特には……ただ何となく頭に思い浮かんだ名前で……」

 

「カイくん……いい名前だね~結婚して子供が生まれたら大切に育てようね」

 

「あぁ」

 

僕らは一緒に手をつなぎながら家に帰るのであった。




短めですみません。

次回、今までの話からシリアスに変わります。そして銀は……


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06 またね……

今回からいちゃいちゃラブはしばらくないです


ある日の夕方、一人で散歩をしていると銀と出くわした。

 

「こんな所で会うなんて珍しいな。銀」

 

「本当だな。海」

 

確か今日は三人で集まれたら集まるとか……この間は気を使ってもらったから、今日は僕が気を使った。

 

「折角会ったんだからちょっと話していかない?」

 

「そうだな」

 

僕らは適当に落ち着ける場所へと向かうのであった。とりあえず時間的に夕方の鍛錬の時間だから近くの公園に来た。

 

「頑張ってるんだな」

 

「まぁな……」

 

木刀で素振りをしながら僕はそう答えた。銀はベンチに座りながら、僕のことを見つめながらある事を言い出した。

 

「あのさ、私、最初の頃、海のことよく思ってなかったというか……」

 

「嫌いだったのか?それは結構ショックなんだけど……」

 

「今は大切な友達だって思ってるよ。ただ私達が帰ってくるたびにお前、辛そうな顔をしてるだろ。私、それを見るたびに何でお前が辛そうにしてるんだよって思ったんだよ」

 

「……よくそのっちと須美に言われたよ」

 

「だけど海がどうして辛そうにしているのかとかそうやって頑張ってるのか知ってからさ……海にもう辛い顔をさせないようにバーテックスを全部倒しちゃおうって思ったんだ……」

 

「……そっか」

 

「お前が安心できるように……園子と幸せな未来を作れるように……須美と園子が幸せな未来のために私、頑張るから」

 

「あぁ、だけど……できればお前も一緒の未来が良いな」

 

「そっか……」

 

銀は立ち上がり、公園の入口まで歩いた。

 

「もう帰るのか?」

 

「うん、何だかこうして話せてよかったよ。海……またね」

 

「またな……」

 

僕は笑顔で銀のことを見送るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日が経ち、遠足の日、僕らはアスレチックやバーベキューを楽しんでいた。

 

「そのっち、ほら、まだ背中に甲虫がついてるぞ」

 

「あっ、取って取って~」

 

「相変わらず仲が良いな……というか変に恥じらいとかなくなったな。海」

 

「「そう?」」

 

特にいつもどおりだと思うんだけど……

 

「この間二人っきりでプールに行った時に何かあったの?」

 

「う~ん、いっぱい甘えたんだ~」

 

「それは良かったね。そのっち」

 

「なぁ須美、そんな離れて大丈夫か?」

 

「う、うん、大丈夫……」

 

須美は僕が持っている甲虫を見て怯えていた。どうにも虫が苦手みたいだな……

 

「ほら、逃したから……もういないと思うぞ」

 

「あ、ありがとう……上里くん」

 

「そういえば~わっしーってまだカイくんのこと名字で呼んでるんだね~」

 

「そういえばそうだな。須美、どうしてなんだ?」

 

「そ、それは……男の子を気軽に名前で呼ぶのは……」

 

相変わらず固いな……僕としては呼び慣れた呼び方で良いんだけどな……

 

「試しに~カイくんを名前で呼んでみたら~」

 

「えっ?あ、うん……えっと……海くん」

 

「何だ?須美」

 

「まだ固いな……でも折角だからこれから海のこと名前で呼んでみろよ」

 

「う、うん、頑張ってみるね。うえ……海くん」

 

そうすぐに呼び慣れないけど、そのうち慣れてくるだろうな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな遠足の帰り道、僕らは一緒に帰っているとそのっちたちの端末からアラームが鳴り響いた。

 

「折角楽しい遠足だったのに……」

 

「仕方ないわよ。銀。これもお役目よ」

 

「それじゃ頑張っていこう~カイくん、行ってくるね~」

 

「あぁ、三人共頑張ってこい」

 

「ちゃんと帰り待っててね~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦いが終わったとの連絡を受け、僕は先生と一緒に三人の帰還場所へと着く、今まで以上の怪我を負った三人がいた。

 

「三人共、無事みた……」

 

僕はそのっちと須美が泣いているのに気が付いた。そして傷だらけになり、片腕をなくした銀を見て、すべてを理解した

 

「………銀?」

 

 




イチャラブがないとはいえ、果たして耐えきれるか……自分が……


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07 雨降る中で……

銀が死んでから数日が経った。神樹館のみんなは銀が死んだことに悲しんでくれていた。

 

銀の葬式が始まっている中、僕は一人雨の中傘をささず、ある二人を待っていた。

 

「……戻ってきたみたいだな」

 

傷だらけになりながら樹海から戻ってきたそのっちと須美の二人……戦いに勝利できたみたいだけど今まで以上疲弊している

 

「カイくん……傘ささないと風邪引くよ……」

 

「今日は濡れていたい気分なんだ」

 

「もしかしてずっと待っていたの?」

 

「あぁ」

 

僕は二人を抱えながら、安芸先生の車に乗るのであった。安芸先生は二人を励ましていく中、僕は葬式の際に大人たちの言葉を思い出していた。

 

(何が誇らしいんだ。何がお役目で死ねたから本望だ……僕もいつかそんな大人になるのかな……)

 

車の窓から僕は景色を眺めながら、そう思うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

次の日もまた雨だった。僕は雨降る中ひたすら鍛錬を続けていた。

 

「ハァッ!!」

 

必死に木刀を振る。今、自分の心の中にある後悔を無くすために必死に振り続けていった。

 

だけど未だに後悔の気持ちが強くなっていった。

 

「どうして……どうして僕は勇者になれないんだよ!勇者だったら……銀が死ぬことも……銀を失ったそのっちたちの気持ちだって分かるのに……どうしてなんだよ!?」

 

叫び続けるが神樹様も答えてくれない。神様っていうのは困った人の声を聞いてくれないのか……

 

「……カイくん」

 

気がつくとそのっちが悲しそうにしながら僕に傘をさしていた。

 

「そのっち……」

 

「風邪引いちゃうよ~」

 

「ごめん……まだ僕は……」

 

僕は素振りをしようとした瞬間、そのっちが思いっきり僕の頬をひっぱたいた。

 

「お願いだから……これ以上自分を責めないで……」

 

「そのっち、だけど僕は……もう力がない僕が嫌なんだ……」

 

「違うよ。カイくん……カイくんは力を持っているよ」

 

そのっちはそう言いながら僕にそっと抱きついてきた。

 

「カイくんがいてくれるだけで私は頑張れる。私が楽しいと思うときはいつもカイくんが、わっしーがいてくれる。私が悲しいときは……」

 

抱きついているそのっちは体を震わせていた。ごめん、気がついてなかった。こういう時そのっちにしてやることは……

僕はそのっちの頭に触れ……

 

「泣いていいよ。僕が受け止めるから……」

 

「カイくん……」

 

そのっちは泣きじゃくる。そうだよな。僕は後悔するんじゃない。大切な人の悲しみを受け止めてあげないとな……

 

 

 

 

 

 

 

そのっちが泣き止むと同時に雨も上がってきた。

 

「そのっち、もう大丈夫か?」

 

「えへへ~大好きな人の胸で思いっきり泣いちゃった~でもびしょ濡れだから涙の跡見えないね」

 

「そうだな……そのっち」

 

「何?」

 

「ありがとうな」

 

「うん、カイくん、ありがとうね」

 

お互いお礼を言い合い、笑顔になるのであった。僕は勇者になれない。だけどそれでも出来ることはある。まずはそれを見つけることを探してみよう……

 




短めですみません

海が探す出来ること……それは何なのかはお楽しみに


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08 お祭りでの贈り物

銀が死んでから何日か経った。そのっちも須美もそれぞれ立ち直りつつある。

僕は僕で出来ることを探しているが、何も見つからないでいた。僕は古い書物の中で何かしら書かれていないか探していると、ある日記を見つけた。

 

「これは……巫女御記?」

 

僕は何となく読み始める。それは僕の遠い先祖、初代勇者と一緒にいた上里ひなたの日記みたいだった。

書かれている内容は巫女として自分がやってきたことやちょっとした日常の出来事が書かれていた。

 

「今の僕らみたいなものか……」

 

ご先祖様の日記は毎日が楽しそうだと分かるように書かれていた。今の僕らと一緒だけど……違うのは僕には勇者としても巫女としての力が無いということだけだな

 

するとあるページに書かれた内容が目に入った。

 

『私は巫女としての役目を果たすしか無いけど、ただただ若葉ちゃんたちが……勇者たちが無事に帰ってくるかどうか心配でしょうがなかった。最初はただみんなが帰ってくるのを待つことしか出来ないことをひどく後悔した。だけど、だからこそ私はみんなが帰ってきたらただ笑顔で出迎えることにした。だってそうすれば守るものがあると気がついてくれるはずだから……私がするべきことは彼女たちが戻ってくる場所を守ること』

 

ご先祖様は勇者たちの帰りを待つことしか出来ないのが悔しかったんだな。だけど帰ってくる場所を守るか……

 

「それもいいかもな……」

 

そのっちたちが帰ってくる場所を守る……僕にも出来ることかもしれないな。

 

すると日記から一枚の紙が落ち、拾うとある日記が書かれていた。

 

『もしも上里の子孫がある考えに至った場合のことを考えた。それは勇者たちを救うためのものかもしれないけど……きっとそれは残されたものにとっては辛いことかもしれない。だからこそ私はある手段を』

 

途中から破かれていて読むことが出来なかった。ある考えって……それに残された者にとって辛いことって……

 

それがなんなのか考えようとするがそろそろ出かける時間だと気が付き、僕は着替えを済ませて家を出るのであった。

 

そんな僕を見つめる白いカラスに僕は気が付かずに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

待ち合わせの場所に行くとそこには浴衣姿のそのっちと須美の二人がいた。

 

「カイくん遅いよ~」

 

「珍しいわね。海くんが遅れるなんて……」

 

「いや、ちょっと色々とあって……それにしても二人とも浴衣似合ってるぞ」

 

「えへへ~褒められちゃった~」

 

「もう海くん、そこはそのっちをしっかり褒めてくれないかしら?ほら」

 

「ん、そのっち、可愛いぞ」

 

「も、もうカイくんは……」

 

そのっちは顔を真赤にさせている。というかわざわざ言わなくてもいいだろう。言う方も恥ずかしいんだから……

 

「それじゃ行きましょう」

 

「あぁ、ほら、そのっち」

 

僕は手を差し伸べるとそのっちはおずおずと手を握るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから三人で色んな出店を回っていった。そのっちと須美の二人が協力して射的で大物を落とし、その大物とみっつのぬいぐるみがセットになったものを交換した。それはそのっち、須美、銀の三人みたいだった。

 

「ん?あれは……」

 

僕はある出店を見つけ、買うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

須美がゴミを捨てに行き、僕とそのっちの二人で待っている中、僕は……

 

「そのっち、左手出してくれないか?」

 

「えっ?どうして~」

 

「いいから、あと目を閉じてくれないか?」

 

「う、うん」

 

目を閉じたのを確認し、僕はさっき出店で買ったおもちゃの指輪をそのっちの左手の薬指にはめ込んだ。

 

「目を開けていいぞ」

 

「ん……これって……」

 

そのっちははめられた指輪を見て、顔を真っ赤にさせていた。

 

「結婚指輪にしてはおもちゃでごめん。ちゃんとお互い結婚できる歳になったらちゃんとしたものを送るから……」

 

「カイくん……ううん、これでいいよ」

 

「それだと小さくって入らなくなるぞ?」

 

「それまではこの指輪を結婚指輪だと思って大切にするね」

 

そのっちは僕にそっとキスをするのであった。お互い顔を赤らめている中、

 

「お邪魔だったかしら?」

 

須美がジト目で僕らのことを見つめるのであった。

 




うん、今回もシリアスで……はなくイチャイチャですね。

次回、もしかすると鷲尾須美の章もクライマックスです


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09 もう二度と……

今回で鷲尾須美の章は終わりになります。


大赦から勇者システムの新たな力に聞かされた僕。

 

「何だよこれ……」

 

「それが大赦が見つけた勇者たちの力です」

 

安芸先生は平静を保っているが、やっぱり辛そうにしている。そうだよな。このシステムならそのっちも須美も死ぬことはない。死ぬことはないけど……

 

「二人には?」

 

「伝えていません」

 

「……」

 

僕はこの事を二人に伝えようとするが、安芸先生が僕の腕を掴んで止めた。

 

「二人に話してどうするつもりですか?」

 

「こんなの……隠していた所でいずれ二人に気づかれる……それだったら……」

 

「二人に話し、二人は戦うことを止めるでしょう。ですがそうすれば四国は……世界は滅びますよ。貴方はたった二人のために他の人を見捨てるのですか?」

 

「誰かを犠牲にしないといけないなんて許されると思ってるんですか?先生……」

 

「許されないでしょう。だからこそ私達大人は責任を取ります。貴方は彼女たちの友達という立場ではなく、上里家の人間としてよく考えてください」

 

「……くそったれ」

 

僕は壁を思いっきり殴るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一人でどうすればいいのか悩んでいたせいか、学校を休んでいた。

 

「二人を犠牲にするか……他の人を犠牲にするか……か」

 

何でその二つの道しかないんだろうか?勇者も人類も救う道があるんじゃないのか?

だけどいくら考えても何も思いつかない。どうしたらいいのか悩んでいると……

 

『カイくん~入るよ~』

 

部屋の扉越しからそのっちの声が聞こえた。時間を見るともう学校も終わっている……

 

「どうぞ」

 

そのっちを部屋に招くと、そのっちはニコニコしていた。

 

「病気かなって思ってたけど、ズル休みだったんだね~」

 

「ズル休みではないよ。ただ色々と考えることがあって……」

 

「考えること?」

 

僕はそっとそのっちを抱き寄せた。前だったらそのっちはどうにか逃げようとしていたのに、ぎゅっと抱きしめ返した。

 

「どうしたの?」

 

「ごめん……僕は……大赦はそのっちと須美の二人にある隠し事をしてるんだ」

 

「隠し事?」

 

「言えないけど……きっとお前ならすぐに気がつくと思う……それに対してお前は怒ったりするから……だからそのときは僕のこと……」

 

僕が何かを言いかけた瞬間、そのっちがキスをしてきた。キスを終え、そのっちは恥ずかしそうにしながら……

 

「嫌いにならないよ。だってカイくんは言えなくって辛いんだよね……きっと大赦の大人の人たちもそうかもしれない……だからって私はカイくんのこと嫌いにならないよ」

 

そのっちは笑顔でそう告げるのであった。全くそのっちは……

 

「そうだ、カイくん。今からわっしーと遊びに行くんだけど、一緒に行く?」

 

「いや、やめておくよ。一応学校休んでるからさ」

 

「そっか~それじゃまた今度ね」

 

そのっちは笑顔でそう言うのであったけど……

 

「また今度……か」

 

何故か嫌な予感がする。きっと何も起きないよな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一週間後

 

僕は大赦のある一室に来ていた。その一室はまるで何かを祀っているような……いや祀っているんだよな。

 

「上里海、只今参りました」

 

「………ごめんね。彼と二人にしてほしいかな?」

 

彼女は周りにいる大赦の神官たちにそう告げ、神官たちが部屋から出ていった。

 

「……呼んだ理由はなんですか?」

 

「……カイくん……やめて、その喋り方……」

 

祀られた少女……そのっちは悲しそうな声でそう告げる。一週間前、そのっちがお見舞いから帰った後の夕方、バーテックスの進行があり、そのっちと須美の二人は勇者の新たな力『満開』を使用して戦った。だけど満開には危険な後遺症……『散華』と呼ばれる体の一部を供物に捧げられてしまい、須美は記憶と両足の機能を失い、そのっちは肉体の多くを失い、現在は神樹様に多くの供物を捧げた存在『半神』と呼ばれ、祀らわれている。

 

「今の貴方に対しては……こうするように言われているんで……」

 

「カイくん……」

 

僕はそのっちの左手の薬指にはめられた指輪を見た。まだはめていたんだな……

 

「要件がなければ僕は行きます……」

 

そう言い残して、僕は部屋から出ていこうとするが、そのっちに僕はあるものを見せた

 

「カイくん……」

 

「きっと元の体に戻してやるからな」

 

部屋から出る瞬間、そのっちは泣いていた。僕は首にかけた指輪を見つめた。

 

「きっともとに戻してみせるからな……そのっち……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから月日が経った。再びバーテックスの進行があると言われ、僕は勇者になるかもしれない数多くの候補地の一つである讃州中学に入学し、ある部室に来ていた。

 

「……あんたは入部希望者?」

 

「話は聞いてるはずだよ」

 

「………そう、あんたがお目付け役?」

 

「あんたの方にも命令が言ってるはずだ。勇者候補である二人を勇者部に確保するようにって……」

 

「そしてあんたはその見張りってわけね」

 

「見張りか………それはちょっと違うかな?僕は見届けるしか出来ない」

 

僕には見届けることしか出来ない。 

 

「見届けるだけ……ね。あんたはそれでいいの?」

 

「………」

 

「まぁいいわ。はい、これ入部届」

 

「……入部しろと?というかここは何の部活なんですか?」

 

「勇者部よ。まぁ言うなれば勇んで人助けをやっていく部活」

 

「ボランティアってことか。まぁ面白そうだし、いいか」

 

僕は入部届に名前を書き、先輩に渡した。先輩は満足そうな顔をしていた。

 

「それじゃよろしくね。えっと」

 

「上里海です。よろしくお願いします。先輩」

 

「私は犬吠崎風。どれくらいの付き合いになるかはわからないけど、よろしく」

 

僕は先輩と握手を交わす中、突然部室の扉が開かれた。そこには……

 

「あれ?えっと……」

 

「同じクラスの……上里くん?」

 

同じクラスの結城友奈……大赦に伝わる習わしの名前を持つ少女と鷲尾須美だった少女東郷美森か

 

「一応自己紹介はしたけど、もう一度しておくよ。僕は上里海。よろしく」

 

「初めまして、私は結城友奈です」

 

「友奈ちゃん、初めましてじゃないよ。東郷美森です。あの出来れば東郷って呼んでほしいな」

 

「分かった。よろしく」

 

こうして新たな物語が進もうとしていた。だけど僕はもう見届けることはしないから……



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10 約束

あれから一年が過ぎた。バーテックスの進行もなくただただ平穏な日々が続いていった。

僕は空いた時間を利用して、そのっちを元の体に戻す方法、もう誰も傷つかないようにする方法を探し続けていたが、見つからないでいた。

 

そんなある日のこと、授業中、友奈の携帯のアラームが鳴った瞬間、いつの間にか友奈と東郷の二人の姿が消えていた。

教室では二人が急にいなくなったことをクラスメイトが驚いている中、僕はこの光景を知っている。

 

「すみません。少し出ます」

 

僕は教師にそう告げた瞬間、教師は僕が何を言いたいのか理解するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は学校の屋上を訪れるとそこには友奈たちがいた。

 

「戻ってきたな……みんな」

 

「海くん……」

 

「……悪かったわね。迎えに来てもらって……」

 

「いいえ、これが僕の役割ですから……」

 

先輩が申し訳なさそうに言う中、僕は笑顔でそう言うのであった。

 

 

次の日になり、僕と先輩はバーテックスについて、勇者についてみんなに話をした。

東郷はそのことを黙っていたということについて怒っていたけど……それでも一緒に戦うことを決めてくれた。

 

そんなある日、友奈が僕にあることを聞いてきた。

 

「ねぇ、海くん」

 

「何だ?友奈」

 

「私の勘違いなら良いんだけど……どうして辛そうな顔をしてるの?」

 

友奈には気づかれていたか。みんなに気付かれないようにしていたのに……

 

「どうしてそう思うんだ?」

 

「海くん、私達が樹海から帰ってくると何だか一瞬だけど辛そうにしてたから……私の勘違いかな?」

 

「いや、合ってるよ。前に言ったけど僕は前にも勇者たちを見届けてきたんだ。その頃の勇者システムは今より防御力が弱くてな。彼女たちは傷だらけに帰ってくるんだ……それを見るたび、どうして僕は勇者になれないんだって……一緒に戦えないんだって、守ってやれないんだって……後悔し続けてきたんだ」

 

「海くん……」

 

友奈は悲しそうな顔をしている。お前は本当に……

 

「だから今は見届けるだけじゃなく、僕にもできることがないか探してるし、それに……」

 

僕はネックレスにつけた指輪を友奈に見せた。

 

「それは?」

 

「大切な……本当に大切な人と約束した証みたいなものだ。僕はその人を救うために今も頑張ってる……」

 

「海くん……」

 

「友奈、本当ならすべてを話しておきたいけど、僕にはそれができない。だからこれだけは約束してくれないか?」

 

「何?」

 

「どんなことがあっても、勇者であり続けてくれ」

 

「うん、わかった。それじゃ」

 

友奈は小指を出してきた。そんな小学生じゃないんだし……でもたまにはこういうのもいいかもしれないな

 

「指切りだ」

 

「うん、約束守るね」

 

「あぁ」

 

僕は友奈と約束をするのであった。お互いどんなことがあっても勇者であり続けると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家に帰り、古い書物を読み続けているとある記述が目に入った。

 

「これは……そっか……これなら……」

 

もしもこの先勇者部の皆が満開をし、散華をしたとしても……これなら救えるはずだ。

 

「でも……こんな事をしたら……それに僕にそんな覚悟は……」

 

どうすれば良いのかわからない。ただやれることをひとつだけ見つけた。

 

それはみんなが散華した際、僕は神樹様に願うんだ。この生命と引き替えにすることを……

 




書いていて思いましたが、結城友奈の章はあと数話ほど最終話ですね。次回はみんなが散華し、東郷との話になりますがちょっとした改変を入れます。


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11 海の提案

みんなが勇者になってから色んなことがあった。

大赦から派遣された三好夏凜。彼女は最初は勇者部に馴染めていなかったけど、友奈たちのおかげというべきかすぐに馴染んでいた。

 

そしてバーテックスの総攻撃、皆が満開をしたこと……話を聞く中、心が締め付けられていく。

 

そんな中友奈と東郷の二人はそのっちと出会い、満開の後遺症について話を聞かされた。

 

友奈と東郷は先輩に相談し、これからどうするかは考えることになった。

 

そんなある日、僕は東郷に家に呼び出された。

 

「海くん、ごめんね。急に呼び出して……」

 

「別に……僕もお前に確認したいことがあってな……」

 

「確認したいこと?」

 

「乃木園子から満開について聞いたんだろ。そしてお前のことだ。気がついたんだろ」

 

「………確証に至ってないけど、私は讃州中学に入学する前よりずっと、海くんと……彼女と出会っていた。そして勇者になっていた」

 

やっぱり気がついていたのか……

 

「そのとおりだ。お前は先代勇者だった。お前の足、記憶がないのも満開の影響だ」

 

「………海くんは知っていたの?満開の後遺症について……」

 

「ずっと言えなかった。お前たちに言おうとしていたけど……」

 

「海くん、気にしないで……海くんもずっと辛かったんだよね。真実を話すべきかどうか……でも大赦から止められていた」

 

「………東郷。お前はこれからどうする?」

 

「私は……」

 

「すべてを知った今ならお前に話すべきだな。壁の外について……」

 

「壁の外?」

 

「僕も大人たちから聞かされただけだけど……」

 

僕は東郷に壁の外の事を話した。大人たち……大赦は壁の外に事について皆には話していないけど、僕は聞いていた。壁の外は全て炎の世界に包まれていることを……そしてそこには無数のバーテックスが存在することを……戦いが終わらないことを……

 

「そんな……そんなのただの地獄でしか無いじゃない。私達は死ぬこともなく、戦わされるだけ……」

 

東郷は立ち上がり、どこかへ行こうとしていたが、僕は東郷の手を掴み止めた。

 

「……止めないで」

 

「お前のことだ。きっとこの世界を壊せばいいって思ってるんだろ……」

 

「!?」

 

「僕とお前はそのっちと同じように昔からの知り合いだからな。お前の考えくらいそれなりに分かってる」

 

「……だとしてもどうすればいいの?」

 

「戦いを終わらせることはできないけど、みんなの……そのっちの散華をどうにかする方法はある」

 

「散華を……」

 

「そのために東郷、お前にやってもらいたいことがあるんだ」

 

僕は東郷にやってもらうことを話した。そして僕がやるべきことを……

 

「そ、それは……待って……それだと海くんは……」

 

「もうこれしか無いと思ってる」

 

「ど、どうして……私達のためにどうしてそこまでできるの?」

 

「……だって僕も勇者だから」

 

笑顔でそう答え、東郷は迷っている。ごめんな。こんな役目を押し付けて……

 

「わかったわ……でも貴方の計画だと樹海に乃木園子を呼び出さないといけない……きっと彼女は何もせず私達の意思に任せると思う」

 

「お前、記憶が戻ってるのか?」

 

「戻ってないわ。ただそう思っただけ……」

 

「そっか……」

 

記憶を失っても心に残ってるのかもしれないな。

 

「それは僕に任せてもらっていいか」

 

「わかったわ」

 

東郷は勇者に変身し、早速計画を始めようとするが……

 

「海くん、ごめんね」

 

「気にするな……できれば僕の代わりにみんなのことを頼んだぞ。東郷」

 

「うん……」

 

東郷を見送り、僕は一枚の紙にある手紙をかくのであった。

 

「さて……始めるとするか」

 

 



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BAD END 悲しい恋物語

園子SIDE

 

大赦の神官たちに勇者部の犬吠埼風とわっしーをどうにかしてほしいと言われたけど、私は断った。ことの成り行きを見守ることにした。きっとカイくんは怒るかもしれないけど……それでも……

 

「園子様」

 

一人の女性神官が私の名前を呼んだ。きっとまだ説得を続ける気なのだろうか?

 

「いくら説得されても私は行かないよ」

 

「私はあなたの意思に従いますが……上里海様から言伝を預かっています」

 

「カイくんから?」

 

きっとカイくんの名前を出せば私が動くと思っているのかな?でも、私は……

 

「そのっち、お前はことの成り行きを見守るつもりだけど、あいつらを……勇者部のみんなを救えるのはお前しかいない。頼む……とのことです」

 

「それは本当にカイくんの言葉?」

 

「はい、そうです。信用するかどうかアナタ次第ですが……彼はきっと怒りますよ」

 

怒るか……そうだよね。きっとカイくんならそう言うかもしれないよね。

 

「わかったよ。私の端末を」

 

私は端末を受け取り、樹海へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東郷SIDE

 

壁の上に立ち、私は壁に傷をつけた。海くんが言うには軽く傷つければ神樹様は異変に気がつくであろうとのことだった。

 

「東郷さん!?」

 

「あんた、こんな所で何をしてるのよ!」

 

友奈ちゃんと夏凛ちゃんが駆けつけてきた。それに風先輩と樹ちゃんも遅れてやってくる。

 

「東郷……何をするつもり?あんた、壁を破壊して……」

 

「壁を破壊するつもりはないです。ただこれは……」

 

「東郷さん?」

 

「ん?誰かがこっちにくる!?」

 

夏凛ちゃんがこっちに向かってくる人影に気がついた。それは前に会った乃木園子だった。

 

「わっしー、駄目だよ。こんなこと……」

 

「止めに来たのね」

 

「うん、カイくんに止められるように言われたからね」

 

やはり彼の思い通りだった。だったら……

私は銃を下ろした。友奈ちゃんたちは何が起きているのか分からないでいる。

 

「乃木園子……私の役目はこれで終わりよ」

 

「役目?」

 

「あんた……何をするつもりだったの?」

 

「彼に頼まれたの。彼のやろうとすることを止められないように……乃木園子、あなたをここに呼び出してほしいって」

 

「彼って……海くんのことだよね」

 

「あいつ、何をするつもりよ?」

 

「………私達の散華を治すために……」

 

「もしかして……」

 

乃木園子は慌ててどこかへ行こうとするが、小さく傷ついた壁から何十体もの白いバーテックスが現れた。

 

「こんなときに!?」

 

「カイくん……お願いだからやめて……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海SIDE

 

僕は大赦のある一室に来ていた。死装束を身にまとい、手には小さなナイフを握っていた。

 

「……神樹、彼女たちから奪ったものを返してくれ」

 

僕は目を閉じ、返事を待ったけど……誰も答えてくれない。

 

「神樹様は見守ってくれるだけなのか……今、苦しむ続けている勇者部の皆を見てどうも思ってないのか?必要なことだからか?」

 

僕は手にしたナイフを首筋に当てた。

 

「それだったら……僕の命で……皆から奪ったものを返してくれ!!」

 

僕はナイフを首に刺そうとした。だけどそんなときに頭の中にいろんな記憶が浮かび上がってきた。

 

『上里海くんだよね~私は乃木園子。よろしく~』

 

『海くんだからカイくんって呼んで良い?』

 

『本当はね戦うのがすごく怖いんだ。でもお役目だからって思いながら戦ってたの……それに傷だらけになった私の体を見てカイくんはどう思うかなって?嫌いになったりしないかなって……』

 

『どんなことがあっても、勇者であり続けてくれ』

 

皆ことを思い出していく……みんなごめんな……

 

「さよなら……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

園子SIDE

 

星屑を倒していき、私は大赦に戻った。カイくんは神樹様が祀らわれている部屋にいるはずだと思い、その部屋を目指していくとそこには多くの大赦の神官が集まっていた。

 

「カイくんは……?」

 

「園子様……」

 

「カイくんはどうしたの?」

 

「上里様は……今……」

 

私は全てを理解した。カイくんは私達のためにその生命を神樹様に捧げて……

 

「どうして……どうしてなの?カイくん……」

 

私は元の姿に戻ると、散華して失った体の機能が戻っていることに気がついた。

 

「カイくん……カイくん……」

 

「園子様……」

 

カイくんの伝言を伝えてくれた神官が一枚の手紙を私に渡してきた。

 

「これは?」

 

「上里様からの手紙です。渡すかどうか迷いましたが……」

 

私は渡された手紙を読み始めた。

 

『そのっちへ、この手紙を読んでいるということは僕はもう死んだってことだよな。

僕はみんなが辛い思いをしている中、ただ見届けるしかできなかった。

だからこそ自分にもできること探し続けた。そして見つけたんだ。神様に捧げたものを取り戻すのは………その捧げたものと同じ価値のものを捧げないといけないということを。僕一人の命で皆が失ったものを取り戻せるかわからないけど……

 

ごめんな。こんな形でしかみんなを、お前を……大好きなお前を助けられなくって。

 

ごめんな。こんな手紙でお別れを言えなくって……

 

さよなら……僕の大好きなそのっち。できれば僕の分まで勇者部のみんなを頼んだぞ』

 

「駄目だよ……カイくん……こんな風に助けられても……私、怒ってるからね……ちゃんと貴方の口から聞きたいよ……ごめんなさいって……カイくん、カイくん……うぅ、うああああああああああああ!!」

 

私はその場で思いっきり泣き叫ぶのであった。もう会えないよ……貴方に




というわけでBADENDはここまでです。海は死に、勇者部の皆を……愛する人を救うという……だけどその結果、残された人は本当に救われたのか?

悲しい結末でした。



























































































次回 Happy End『ハーデンベルギアの花言葉』


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Happy End ハーデンベルギアの花言葉

そのっちSIDE

 

あれから月日が経ち、私達勇者部は色んな事が起きた。神樹様は消えてしまい、世界は元の形に変わった。

私達は色んな場所で勇者部としての活動を行っていたけど……彼だけはいなかった。

 

「……カイくん……」

 

カイくんは私達を助けるためにその生命を犠牲にしたけど、私達の散華が治ったのは神樹様が新しく体を作ってくれたからだった。

カイくんがやったことは……

 

「そのちゃん、どうかしたの?」

 

「あっ、ゆーゆ~ただ……」

 

私はカイくんからもらった指輪を見つめていた。彼が行ったことは無駄だなんて言えないよ。彼は私達のことを思って……

 

「そのちゃんのその指輪。海くんがもっていたのと同じだね。もしかして海くんの大切な人って……」

 

「えへへ~実は言うと婚約指輪だったりするんよ……」

 

私は笑顔でそういうのであった。カイくんがいなくなって悲しい。だけど泣いていたりしたらカイくん、きっとあの世で怒っちゃうかもしれないよね。だから私は笑顔で居続けないと……

 

「海くん、まだ戻ってこないんだね」

 

「う、うん……」

 

ゆーゆ、ふーみん先輩、いっつん、にぼっしーにはカイくんが死んだということは伝えていない。いや、まだ伝えられていない。わっしーは自分から伝えようと言ってきたけど、私が伝えると言った。でも私はまだ彼の死を伝える覚悟ができていなかった。

 

「ちゃんと伝えないとね……」

 

「何を?」

 

「ゆーゆ、お願いがあるんだけど……みんなを勇者部に集めてほしいかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

勇者部にみんなを集め、私とわっしーはカイくんのことを話そうとしていた。

 

「どうしたのよ。二人共……」

 

「もしかしてまた何かあったんですか?」

 

「それだったらいくらでも力になるわよ」

 

「勇者部五箇条!悩んだら相談!話して」

 

「友奈ちゃん……」

 

「あのね、実はね……カイくんのことなんだけど…」

 

「海の?」

 

「海さん、今どうしてるんですか?」

 

はっきり伝えないと……カイくんはもうこの世にいないことを……でも……

 

「あの、あのね……カイくんはもう……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私がカイくんの死を伝えようとした瞬間、突然部室の扉が開かれ、そこには……

 

「ここにいたか……久しぶり。みんな」

 

カイくんが笑顔でそこにいた。突然のことで私はもちろん、わっしーも驚きを隠せないでいた。

 

「海!?あんた、帰ってきたの!?」

 

「帰ってくるならちゃんと連絡くらいしなさい!」

 

「元気そうでよかったです」

 

「おかえり。海くん」

 

「ただいま……みんな。それに……」

 

カイくんは私に近寄り、そっと抱きしめてきた。

 

「ただいま……そのっち」

 

「か、カイくん……どうして……生きてるの?生きてるんだよね」

 

「あぁ、生きてるよ」

 

「ど、どうして……海くんは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海SIDE

 

僕はみんなに今までのことを話した。あの時、みんなを助けるために首にナイフを突き刺し、意識がなくなったときのことだった。

 

「ここは……?」

 

気がつくとそこは暗い空間にいた。ここが死後の世界なのかと思っていると、一羽の白いカラスが僕のところへ降り立った。

 

「カラス?」

 

『初めまして、上里海くん』

 

どこからともなく声が聞こえると同時に、カラスはまばゆい光を放ちながら、一人の少女に変わった。

 

『私は上里ひなた。貴方からしてみれば先祖になりますね』

 

「ご先祖様?それじゃやっぱり僕は死んだんですね」

 

きっとご先祖様が迎えに来てくれたのかと思った。だけどひなたさんは首を横に振った。

 

『いいえ、今の貴方は一時的に死んでいるだけです』

 

「一時的に?どういう事?」

 

『貴方がやろうとしたこと。自分の命と引き換えにみなさんを救うということは間違っていました』

 

「どういうことだ?」

 

『彼女たちの失った体は神樹様が新しく作り直し、与えてくれるはずでした。ですが貴方はその……』

 

もしかして僕は早まったことをしたのか?それはそれでショックなんだけど……

 

「無駄死に?」

 

『無駄死に……になるはずでしたが、私が貴方を助けました』

 

ひなたさんが助けてくれたって……

 

『私は貴方のことをずっと見ていました。勇者になれず悔しく辛い思いをしていたことを……自分にできることがないか探していたことを………』

 

「そうだったんだ……」

 

『勇者たちを……大切な人を守りたいという思いを受け、私は貴方をこの空間に呼び出しました。ですが、一時的に貴方の魂はまだ召されていないだけ……貴方に選択してもらいたいんです』

 

「選択?」

 

『貴方はこのまま天国に行くか……または別の世界で新たな人生を送るか……』

 

「ちょっと待って、別世界とかよくわからないんだけど……」

 

『世界というのは無数にあります。どこの世界でも貴方は彼女たちのためにその生命を捧げています。そしてその無数にある世界では貴方は勇者になり、世界を救いました』

 

別世界では……か。

 

『貴方はこれからどうしますか?別世界の貴方と同じように勇者になって世界を救いますか?それともこのまま天国に?』

 

ずっとなりたいと思っていた勇者になれるなら、そうするべきなのだろうけど……僕は……

 

「僕は勇者に……ならない。天国にも行かない。ただ生き返って……あいつの……大好きなそのっちの所に帰りたい」

 

『勇者になれるチャンスを失いますよ。貴方はずっと……』

 

「僕は勇者だよ。ただみんなの勇者じゃない」

 

みんなの勇者はもうすでにいるからな。勇者部の皆が……友奈がみんなの勇者になってくれるはずだ。それだったら僕は……

 

「僕は大好きなそのっちの……乃木園子の勇者だよ」

 

笑顔でそう答えた瞬間、ひなたさんは笑顔になっていた。

 

『やっぱりあの子の言うとおりね』

 

「あの子?」

 

『私にこの事を知らせてくれた人がいるんです。きっと貴方はそう答えるんじゃないかって……』

 

それって誰なんだ?もしかして神樹様とか?

 

『あの子は貴方に私のことを姉と呼ばせたりしていましたけど……もしも弟がいたら……海くんみたいな感じだったのかな?』

 

ひなたさんがそう告げた瞬間、僕の体が光り始めた。

 

『戻りなさい。大切な人を守ると誓った勇者よ。そして幸せになってね』

 

「……ひなたさん……」

 

『私の役割は終わりです。もう会うことは……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「という事があったんだよ。そして気がついたら病院のベッドで……」

 

「な、何というか色々とありすぎね」

 

「でも、海さんが眠っていることをどうして大赦の人は知らなかったんですか?」

 

「確かに……どうしてかしら」

 

「ん?起きたときに神官が伝えてくれたみたいだけど……そのっち、なにか聞いてないのか?」

 

抱きしめているそのっちに聞くと、そのっちは首を傾げていた。

 

「聞いてないよ~あれ?でも……もしかして……」

 

「まさかと思うけど、聞いてなかったとか?」

 

「えへへ~そのまさかだったりするかも~だってカイくんが死んだと思って……思いっきり泣いちゃって……」

 

まぁそれは仕方ないことだろうけど……

 

「ねぇ海くん。そのさっき出てきたご先祖様って……海くんの後ろにいる人のこと?」

 

東郷が指さしたほうを見ると、ひなたさんが笑顔で立っていた。

 

「ちょ、幽霊とかじゃないわよね」

 

「違いますよ。初めまして勇者の皆さん。上里ひなたです」

 

「えっ?えっ?どういう事?生き返ったの?」

 

「実は言うとですね。海くんが目覚めようとしたときに私の腕を掴んで……『会うことができないと寂しいこと言わないでください。それに見届けるなら最後まで見届けてください』って言ってくれて……気がついたら私も……」

 

まさかひなたさんがこうして存在してるなんて……もしかして神樹様の力なのか?でももう消えてしまったって言うし……

 

『まぁちょっとしたサービスですよ』

 

聞き覚えのある声が聞こえた気がした。今の声って……別世界でもおせっかいな人がいるものだな

 

「というわけでこれからよろしくおねがいしますね。勇者の皆さん。それに園子さん……海くんとお幸せに」

 

「うん、海くん。もう死んだりしないでね」

 

「分かってるよ。お前を最後まで幸せにしてやるからな」

 

僕とそのっちはひと目を気にせずキスをするのであった。もう離れ離れになったりしないからな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十年後

 

僕とそのっちはある場所に来ていた。

 

「えへへ~ひなたさんと会うの久しぶりだね~」

 

「本当だよ。というか一度死んだ人だからって、大赦に僕の姉という関係にしてくれって……」

 

まぁ大赦も初代の巫女に逆らえれないからそうするしかないのだけど……

 

「にしてもそんなに会いたがるとはな」

 

「うん、ひなたさんの事好きみたいだからね。ねぇ、みゆちゃん」

 

「うん、ママ、パパ」

 

僕らは結婚し、一人娘を授かった。名前はみゆ。みゆは巫女の力と勇者の力を扱えるらしいけど、今はもう戦うことはなくなったか必要じゃないけど、あることがきっかけで変なことができるようになったりしている。

 

「みゆちゃん、別世界に行ったって本当かな?」

 

「どうだろう?お姉ちゃんなら知ってるんじゃないのか?」

 

まぁ不思議な事があるということだな。

 

「……ねぇ、あなた」

 

「どうしたんだよ。改まって……」

 

「私、幸せだよ」

 

「僕もだ」

 

「約束……忘れないでね」

 

「分かってる」

 

最後まで幸せにしてやるからな。そのっち




というわけでHappy Endだとひなたのおかげ……というべきかある人のおかげで海は生存。そしてひなたも何故か生き返ったという形でいたりします。

Happy Endはどんな風にするか悩みに悩みまくり、勇者の章が終わった時点での話になっています。

そして最後に出てきた二人の娘、みゆは不思議な力を扱えるようになっているということは……あることがきっかけだったりしますね。

因みにハーデンベルギアの花言葉は壮麗 広き心 思いやり 過去の愛 奇跡的な再会 運命的な出逢い 幸せが舞い込むです。

短い連載でしたが、自分でも満足できる形で終われました。また何かしらの機会があったらゆゆゆで書くか……はたまた10月より始まる同じ原作者のアニメの話を書くか……お楽しみに


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