優しくて残酷な世界で。 (ユリカ)
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1 「戦わなければ勝てない」
処女作なので、変なところなどはあるかもしれません。
指摘があったら直します。
「っはぁ、はあ……」
路地裏にむせ返るような血の匂い。
満身創痍の喰種と、それを追いかける白鳩。ここでは日常茶飯事な光景だ。
切られたであろう左肩を押さえながら走る、女の喰種。
……まあ、私なんだけど。
後ろから来ているのは、喰種の中でも有名な真戸呉緒と、若い男の捜査官が何人か。
苦し紛れに羽赫を飛ばしてみるけど、見事に全て弾かれている。カスリもしてない。
……っああ、イライラする!
たまたま入り込んだこの路地裏、どうやら一本道で先は行き止まりらしく。言うなれば袋のネズミってやつだろうか。後ろから笑い声が聞こえる。
ここで私が戦ったとして、仮に一人を殺せても他の奴らに殺されるだろう。1対多数のこの状況、誰がどう考えても不利だよね。習さんとかトーカちゃんでも難しいと思う。
ふと、さっきから無視していた考えが頭に浮かんだ。
私死ぬのかな。
ぐっと唇を噛む。
思い返してみれば、録な事は無かった。
私がまだ幼い頃に親は死んで。その時は人間の狩り方なんて分からなかったけど、生きる為には無理矢理にでも知るしかなくて、ボロボロになることばっかでさ。
白鳩から逃げ、人間に擬態して。人なんか信用出来る訳無くて、人目からも逃げた。
最近『あんていく』というカフェで色々な喰種と知り合って、楽しく話せるのなんて久しぶりだった。
トーカちゃんや習さん、マスターたちには迷惑をかけていたと思うけど、それでもみんな私に笑いかけてくれたんだ。それがどうしようもなく嬉しかった。
漸く信用出来る喰種達が出来たって言うのにこれかよ。神様は随分喰種に厳しいみたいだ。走りながらへらりと笑う。
ずっと、逃げて逃げて逃げて逃げて。逃げた結果がこれ、きっとどうしようもなく惨めに死ぬんだ。
……そう、逃げてばっかで。
無意識に握っていた拳から血が流れ落ちた。
ねえ、このまま逃げて死ぬのかな。
____そんなの嫌だ。
だって、このまま逃げても逃げなくても死ぬ訳でしょ?
それだったら。それなら、戦った方がいい。戦わずに負けるよりも、戦って負けた方が格好いいじゃんか。
……最期なんだから、ちょっとの抵抗くらい許してくれるよね。
走っていた足を止めた。もともとそんなに空いていなかった奴らと距離の差がもっと縮まる。
「おや、大人しく殺される覚悟が出来たのか?」
にやにやと嫌な笑みを浮かべている真戸。自分が有利だと信じて疑っていないようだ。
腕の震えを抑え込む。
肩の傷は治ってきた。大丈夫、私はただで負ける女じゃない。
それに『戦わなければ勝てない』んだ。そんなの私が一番分かってるでしょう?
ポケットから私のマスクを取り出して着ける。口元には微笑みを浮かべて。
「! 真戸上等、こいつ……」
「……ええ、S+レートの『狐面』______少々骨が折れそうな相手だ」
奴らの顔がこわばった。これだけでも戦うと決意した甲斐があったよ。
ここは路地裏、人が4、5人並べるかどうかの横幅。
でもまあ、なんとかなる。……なんとか、してみせる。
ピキリと音が鳴り、私の体から赫子が出た。羽赫と尾赫、二つとも。
「羽赫と尾赫、両方を持っているだとぉッ!?そんなこと、お前の調査書には……ッ!」
私の赫子を見てペラペラと話し出す真戸。うん、めちゃめちゃイラつく。
羽赫で飛び上がり、尾赫で奴めがけて攻撃をした……が、飛んで軽く躱されてしまった。
私の赫子は短期決戦に向いている。……というか、ただでさえ消耗が激しい羽赫に加え尾赫なんて、長い時間保つわけがない。
決着をつけるなら、早くしないと。
「クク、まあ赫子の話などお前を殺してからでもできる。さっさと殺して、お前のクインケを使わせて貰おうじゃないか!!」
真戸がケースからクインケを取り出した。後ろの捜査官達は射撃型のクインケを。
厄介だなあ。後ろの雑魚どもからやるしかないか。
壁に捕まったままの体制から壁を蹴り、真戸を狙うと見せかけて後ろの奴らに羽赫を飛ばす。
咄嗟に反応できたのは極一部で、大体の奴らは羽赫が刺さり後ろに倒れ込んだ。
「ハハ、馬鹿な喰種かと思っていたが、悪知恵の働く喰種だったか。……まあいい」
タン、と飛び上がりクインケで薙ぎ払う真戸。尾赫で受け流そうとするが、それは私の尾赫に絡まる。
______しまった、動きを止める為だったのか!
それに気付いた時にはもう遅く、私の体は真戸の方に引っ張られる。そして地面に叩きつけられた瞬間、私の体には弾が打ち込まれていた。
体に激痛が走ると同時に、私の血が飛び散る。
……ダメだ、これは死ぬ。周りに粉塵が舞っている間にその状態から起き上がるが、足も腕ももう言うことを聞かない。
「おや、並みの喰種だったら今ので死ぬはずだが……しかしもう息も絶え絶えのようだ!!」
真戸のクインケが私の腹にめり込む。そして壁に当たり、ズルズルと尻餅をついた。
あーあ、結局ダメだったかあ。でもまあ何人か殺せたから妥協点なのかもしれない。
前を見ると、へらへらと笑っている真戸の顔が目に入った。
「なんだ、その顔は。バケモノでも死ぬのは怖いのかァ?安心したまえ。お前の赫子は私がクインケとして使い、他の喰種を……お前の仲間たちを殺す為に使わせてもらうからなァ……ククク」
……トーカちゃんたち、心配してるかな。してないか、たった2ヶ月やそこらだもんね。
それにしても私、こんな奴に使われるのか。嫌だなあ。
そんなことを考えながら目を閉じた。そしてだんだん意識が遠のいて、奴の声も聞こえなくなった。
戦闘シーンって難しい。
変なところがあったら教えてください!
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