魔弾の姫の護衛によるヒーローじゃないアカデミア (癒しを求めるもの)
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プロローグ&設定
ある街に廃校したものの解体されずにそのまま放置されていた元学校があった。
近所の住民も早く撤去して欲しいと市に訴えているが何故か手を出さない。
───曰く、殺された人の霊がさ迷っている。
───曰く、強力な
───曰く、人体実験が行われている。
様々な仮説が飛び交うが、その真相を知るものはあまりいない。そう、ほんのひと握りの人物しかその概要は公開されていない。
雲ひとつない真っ黒な夜空。都会ゆえに星は確認出来ないがその下で、まさに今だろう。
「…………此処で、最後、か」
地面にまで届きそうな黒いローブを着た、まだ幼いがために高い声がその廃校となった脆い学校を、その真相を確かめたのは。
生き物の気配すらローブを着た人物のみしか見受けられない。しかし、その人物は一階にある教室に入るとずっと下を向いて、何処か疲れたような声を出した。
その人物が言った「此処で最後」とはどういう意味を込めたのか。それは────
「…………『顕現せよ』」
『『『ぎゃああああ、ああああッ!!』』』
瞬く間に出現した数百にも及ぶ鉄の剣が降り注いだ教室の地下から響き渡った絶叫が、噂の答えを出していた。
瓦礫が落ちてゆく光景を見終えた人物は自らも落ちてその地下の空間を見た。
剣が刺さった床には瓦礫が散らばっているが、周りと比べて一色だけ違う、赤い液体が流れてるのを確認すると扉の奥の部屋へと足を向けた。
ガチャりと音を鳴らしたドアの奥には、ピチピチの服にマントをかけた、まさに『ヒーロー』のような見た目をした男が立っていた。
「おい貴様ァ!私の部下を、仲間をどうしたッ!」
怒りの声が部屋中に響く。
一見すれば仲間を敵により失ってしまった『ヒーロー』だ。
しかし────
「…………仲間?あんたにとっちゃ都合のいい駒でしょ?ヒーロー名『ジャスティース』さん?正義とはよく言ったものだよ」
「黙れッ!お前ら
同等にするなッ!、と言いたかったのであろう『ヒーロー』は怒号を発せなかった。
その理由は、
何故なら、
「…………生憎、もう僕は
「ぎぃやあああああッ!う、う腕があぁぁぁあ!!」
無くなった右腕から感じる痛みを紛らわそうと必死だったから。
見た目三十代の自身をヒーローと名乗った男は、次々と流れる涙と涎で顔を汚しながらコンクリートの上でもがき続け、そして大人しくなった。
死んだのかもしれないジャステースを横切って、その人物は少し早い足取りで部屋の隅で顔を俯かせ、翡翠色の髪の毛しか見せないように体操座りでいる少女がいた。
「…………遅くなった、レキ」
「……………………」
レキと呼ばれた少女はゆっくりと感情のない表情で、ローブの人物を見た。
レキに手を差し出したローブの人物だったが、その手を握る前にレキは口を動かした。
「……また、何も出来ずに捕まりました」
「…………だから助けに来た。警察が来る前に帰るよ」
まだ小さいその手を握って、お姫様抱っこの要領で彼女を持ち上げたローブの人物。
「…………『顕現せ───の前に、これ置いてっと」
「それは?」
「…………ヒーロー名ジャスティースが裏で行った犯行をまとめた書類。流石に、今はもうレキ達に迷惑はかけられないから僕の潔白を表すためにね。遅れたのは場所の特定もあったけど大半はそのせいだし、ごめん」
「大丈夫です。
分厚い紙の束を置いて、ローブの人物、諸羽はフードを外した。
真っ白なボサボサとした髪と、大きな隈ができている上には赤い瞳が映っている。
身長から、二人はまだ中学生くらいだろう。
───そんな大人でもない子供が、少女は揖斐汚い欲に追われ、そしてそれから守るために少年は死体を積んできた。
「…………帰ろっか、もう眠い」
「……本当に、ありがとう、ござい………ま、す」
優しい笑みを浮かべた諸羽の顔を見て、安心した表情で眠りについたレキには遠くから聞こえるサイレンの音は聞こえない。
「…………僕も本当に眠い。早く帰ろう」
そう言って諸羽の背中には、数人の血を吸い上げた剣と全く同じものが次々と顕現され、やがて大きな翼となった。
残ったのは崩壊寸前の建物と、僅かに聞こえるいくつかの呼吸音だった。
『───速報です。先程、〇〇市の廃墟にて事件が発生しました。建物は意図的に破壊されており、そして元学校にはなかったはずの地下からは数名の
登場人物設定
○芳村 諸羽(よしむら もろは)
個性:剣の理(どんな剣でも作り、自在に操る。)
家族構成:父(死去)、母(死去)
好きなもの:コーヒー
嫌いなもの:煩い奴、レキに手を出す連中、ヒーロー(一部を除いた)
、海
備考:本作のオリジナル主人公。彼が小学生の頃、ヒーローに騙されて両親が悪者のレッテルを貼られ、ヒーローに殺された。生き延びた自分は敵となったため偽物のヒーローを次々に葬っていたがある時、ヒーローが攫った同年代の少女を助け、彼女のために自分の剣を使うことを決めた。中学生になった時には両親の誤解が解けたことで敵扱いは取り消された。
個性は剣の理。全ての剣を思うがままにできる。剣に宿る能力も操れるため………。
○璃々 レキ(りり れき)
個性:銃弾(どんなものでも弾丸として扱える)
家族構成:両親(いない)、親戚
好きなもの:諸羽、風
嫌いなもの:煩い人、ヒーロー(一部を除いて)
備考:とある理由で捕えられることが多い。普段無表情なのは過去のトラウマによるもので、強力な個性があるが同じくトラウマがあり人を撃てない。常にヘッドホンを装着していて、好きな風の声を聞いている。諸羽には絶大な信頼を置いているが、迷惑をかける自分に申し訳なく思っている。
個性は銃弾で、自分が指定したものを銃弾として扱える。本人の能力もあってその実力はとある雄英の講師の出番を減らさせるほど。
とりあえずの設定です。
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君は強いよ緑谷くん
中学生の時の話です。
オリ主と本作主人公は同じ中学という設定で。
では!
「…………ねむ」
学生服に身を包み、がたつく机に腕を伏せて顔を上げた諸羽は呟いた。
昨晩、重大ニュースとして取り扱われたヒーロー汚職事件の現場を警察より早く鎮圧させた時とは打って代わり、その姿は周りと溶け込んでいた。
「寝不足ですか?」
「…………ああ、そうだよ。誰かのせいでねレキさんよ」
隣から聞こえた質問に溜息を吐きながら窓の外から目を離し、声の方向を見る諸刃には、椅子にちょこんと座って真っ直ぐ諸羽を見る少女、レキが首を傾げていた。
「…………布団に入れたと思ったら壁に寄りかかって寝て、それを何度も繰り返して結局はしがみつかれて一緒の布団に寝るということを起こす犯人のせいで寝不足だよ」
「誰が犯人ですか?」
「…………同居している君以外いるか?」
芳村 諸羽、中学3年生。
諸事情によりレキが住むマンションに同居している。
しかし、その同居生活もかれこれ五年は続いている。そしてその五年間、毎朝起きたら隣に誰かが寝ているという現象は続いた。
「……私と一緒はいや───ですか?」
「…………好き嫌いの問題じゃない。もうすぐ高校なのだから僕の前でも気を抜くのはやめてくれ。雄英のヒーロー科に行くんだろ?警戒心はレキの場合、重要だ」
雄英高校は毎年、受験倍率300倍を越える超人気校だ。
学科の名前の通りにヒーローになるための場所。だからこそ、そこを受けると決めたレキは申し訳ないと思ったのだろう。
「……すみません、諸羽さん」
「…………なんで謝る」
「そこに行く以上、私はヒーローになります。だから───」
他人には分からないだろう。無表情故に言葉だけのものかと思われるが、声が少し小さくなったことから心から思っていると僕は受け取った。
申し訳ない気持ちと、そして不安も。
「……………はぁ」
「───諸羽さん?」
その不安をなくすべく、諸羽は優しく、レキの頭を撫でた。
「…………安心して。僕はヒーローは嫌いだけど一部尊敬する人もいるから。聞いた話だとその人は雄英の教師らしいし。そして何より
──────僕はレキを嫌いにな(ガンッ!)」
「君たち、授業中にイチャつかない」
終わりのチャイムがなるまであと数十分。
クラスメイトのドロドロとした目線とキラキラとした目線が突き刺さる中、教師はチョーク投げ(個性)により諸羽の額に白い跡を残した。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャイムが鳴った。
様々な思惑が乗った視線を無視しながら、毎度のように日々日力弱くなっていく教師(三十代独身)の説教から愚痴に変わったお叱り時間を終えて、二人は教室を出た。
「先生、また合コン失敗したんですね」
「…………それを教室で暴露してよかったのかな?」
「毎度のことなので皆さん軽く流してました」
「…………まさに教師!な先生なのに、残念」
個性も教員でしか使い場のないためかわからないが教え方もそこそこ上手い担任に同情しながら自販機に向かっている二人。
今は昼休みなため何人か昼飯を早く終わらせてグラウンドにて遊びをしている声がするが、人が少ない校舎裏からは何やら平和的でない声が聞こえた。
「喧嘩、でしょうか」
「…………いや、虐めに近いね」
すると声の主であろう三人の男子生徒が出てきた。
リーダー格の───諸羽は名前が思い出せなかったが有名な生徒が一瞬目が合ったが無視して横を通り過ぎていった。
傲慢なその様子は諸羽の嫌いなタイプであったが、その少年の感想よりもレキをジロジロと舐めまわすように見ていた残り二人に殺気を膨らませたが抑えて三人がやって来た方向に進と
「…………緑谷か」
「あれ?芳村くん、どうしたの?」
濡れたノートを持って、今にも泣きそうな顔をした元クラスメイトがいた。
『将来の為のヒーロー分析NO.13』と書かれたノートを。
「…………相変わらず、ヒーローを目指しているのか」
「あ、あはは………やっぱり諦められなくて。でももうすぐ受験で───あ、そう言えば璃々さんは雄英のヒーロー科受けるんだよね。先生達がかっちゃんと一緒に合格するだろうって言ってたよ」
「……緑谷さん。そのかっちゃんと言う人とセットにしないでください」
「え?」
ツッコむ場所に理解できなかった緑谷がフリーズする。もちろん諸羽も意味がわからなかったが機嫌が悪くなったことだけはわかった。
「え、えっとー、ごめん」
「別に緑谷が謝らなければいけないとは思わないんだけど………。まあ、いいか。それより、緑谷はどうするんだ?受験」
諸羽は何故かレキにジト目(無表情)をされながら、話の話題を戻す。
「あ、うん………僕も雄英、受けたいなぁって。でも無理かな?僕、無個性だし」
乾いた笑いを浮かべる緑谷。
雄英を受けたい理由はヒーローに、プロヒーローになりたいから。
つまり、
諸羽が最も嫌悪する職業につきたいということ。
「…………ねぇ、緑谷
どうして
ヒーローなんか
その言葉に緑谷は異議を唱えたいように見えたが、諸羽の顔を見てそれを取り消した。
凍てつくような目。自分がちっぽけな存在であるかと思わせる覇気に一歩下がったが、彼の手には湿ったノートが見えた。
───故に、これ以上下がるわけにはいかなかった
「───オールマイトみたいに、かっこいいヒーローになりたいからっ………!」
怯えながらも告げた本心。
先程、自分を馬鹿にした幼馴染のようにまた馬鹿にされるかもしれない。
しかし、嘘はつけなかった。
「…………ふーん。─────まあ、
そう静かに発した少年の隣にいるレキのごとく表情の変化はなかった。
しかし、ここまで勇気づけられる『頑張れ』は、家族以外から緑谷は貰えなかった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
その後、諸羽とレキは自販機で予定の飲み物を購入し、男子からの殺気を流しながら一日の学習を終えて職員室にとあるプリントを提出してレキと共に帰路を歩いていた。
「諸羽さんも雄英行くんですね」
「…………サポート科だけどね。ヒーロー科はアレだけど護衛するには雄英に行かないといけない。だからサポート科」
とあるプリントとは進路決定のものだ。
レキを害から守るためにも、諸羽の実力ならば可能なヒーロー科はいくらレキがいようとお断りなため、サポート科を選択して提出したのだった。
ヒーロー科の文字を聞いて、ふと、レキは昼休みに見せた諸羽の
「そう言えば諸羽さん。どうしてヒーローを目指す緑谷さんを楽しげに見たんですか?」
「…………?
諸羽の口から出た言葉に、レキは足を止めて諸羽の顔を見た。
『今、目の前の、自分が最も信頼を置く男はなんと言った?』と思いながら。
レキは諸羽を一番近くで見て、そして一番知っている。
他人に興味を、ましてやヒーローを嫌う彼が無個性のいじめられっ子を本物のヒーローと言ったのだ。
「…………そんなに僕が言うとおかしいか?」
「はい」
「…………即答……。でも、普通はそうだろうね」
再度歩み始めた諸羽同様にレキもその横を着いていく。
遠くから聞こえる騒ぎ声よりも諸羽の言葉の趣旨が聞きたかった。
「…………僕は剣。簡単に折れる剣は必要ない」
「それがなんですか?」
どんな無銘な剣でも、中身が良ければそれは立派な剣に違いない。
外見や名声で剣の善し悪しは決まらないように────
『足が勝手に!!何でって……わかんないけど!!!君が助けを求める顔してた!』
「────
諸羽が足を止めたのは沢山の人集りが出来た場所だ。
多くの住民の他、警察もちらほら見え、更にヒーローもいるが誰も動いていなかった。
唯一動いた
「…………外見が質素に見えても、サビだらけでも、折れない剣を僕は本物の剣だと思ってる」
────『顕現せよ』
前にいるヒーローは動かない。無謀な少年が必死に助けようとしているのに。
前者の光景になんの感情も生み出さなくなった諸羽だが、後者の光景には心動かされたような気がした。
故に呼び寄せた。青く透き通る、【青薔薇の剣】を。
その神々しさと下がっていく気温に気づいた人々がその剣に目を離さないまま次々と道を開けて行く。
すると、見えなかった無謀な少年の顔が見え、そして視線を交差させた。
「…………君は強い。君の道を手助けしよう緑谷」
────『リリース・リコレクション』
解放された剣の記憶が顕現される。
即時に放たれた薔薇が道を造り、諸羽の視線の先へと向かっていった。
「なアッ!?なんだこ───…………」
危機を感じたのであろうスライム男は逃げ出そうとした。
────これに触れたら命がない……!
本能が叫んだ。
人質などどうで良い。助かるために逃げようと、そうした。
結果は、凍り尽くされた本人にはわからないが。
***
「はあ………諸羽君。やり過ぎだ」
「…………すみません、塚内刑事」
現在、諸羽は一人の刑事に頭を下げていた。
諸羽の経歴を知る塚内刑事は溜息を何度も吐く。
「しかし珍しいね。諸羽君がレキちゃん以外の人のために動くなんて」
「…………彼はヒーローになりたいらしいですからね。あれで将来を失われては困ります」
「………へぇ、あのヒーロー嫌いの君が認めるのか。彼は」
現在、別の場所で説教されている緑谷に塚内刑事は興味あり気に見た後、諸羽に視線を戻す。
「…………まぁ、今回は自分が動かなかったとしても助けがあったはずですが、つい」
諸羽が思い浮かべるのは青薔薇の剣を顕現させた時に視界に写った一人のヒーローの姿。
何故、彼が此処にいるのか疑問に思っているとふと、袖を誰かが引いた。
「…………どうした?レキ」
「……なんでもありません」
「…………いや、でも裾引っ張ってるし」
「……………………」
「はははっ。青春だねぇ」
不機嫌な様子(無表情)で偶に緑谷を睨みつける(無表情)に疑問に浮かべながらも話を続ける。
「…………それじゃあ、僕らは帰っていいですか?」
「本当はもっと言いたいことがあるけどそれは普通ならだ。君はもう帰っていいよ。死人は出ていないし
「…………よろしくお願いします。………レキ、拗ねてないでいくよ」
「拗ねてないです」
不機嫌なレキの頭を撫でながら、諸羽は丁度解放された緑谷の元に向かった。
「…………緑谷」
「あ!芳村く─────」
「おお、君!一体どんな個性なんだ!!」
「君の力は凄まじい!私たちの事務所にいずれ来ないか!!」
「未来の宝だよ!!是非、俺の所に!」
「いやいやウチの事務所に!!」
声をかけ、少し話をしようと思ったが、人の群集に捕まった。
次々と話しかけてくるがその内容は勧誘ばかり。
──────────────
──────────
──────
──ああ、そう言えば、
「…………黙れよ」
──コイツら、ヒーローだったな
短い言葉だが、それに含まれている殺気を感じたヒーローは一歩、二歩と後ずさった。
「…………僕はヒーローごっこをするつもりは無い。邪魔」
「な!?キミはなんてことを………!」
一人のヒーローがそう言った。身体は動けずにいる。
「…………確かに個性の相性はある。だがそれを理由に何もせずに他の誰かを待つような奴は邪魔。そう言ったんだが?」
「そ、それは………」
「…………はぁ、もういい。緑谷、
ヒーローだったよ。じゃあね」
唖然とする緑谷と何か言いたげなヒーロー達を背にして諸羽とレキは家に帰った。
そして何故か更に不機嫌となったレキを宥めるのに疲れ果てた諸羽だった。
ソードアート・オンラインからユージオの使用する【青薔薇の剣】を登場させました。
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入学試験~レキのターン~
では!
朝日がカーテンにより遮られ、丁度いい明るさが室内を満たす。
芳村 諸羽はそんな室内でとある理由で目を覚ました。
一つは目覚まし時計。寝不足が絶えない故にこれがければ起きることが不可能。
そして二つ目なのだが、、、
「────すー、すー………」
隣で寝ている少女、璃々 レキが彼の手を自身の太股で挟んだことによりその感触で目覚めた。
「…………レキ、起きてるよね?」
「────すー、すー………
レキという少女は生活リズムが安定してる。
何時もの時間に寝て、何時もの時間に起きる。故に諸羽が起きた時間にレキが寝ていることはないのだ。しかし、
「…………珍しいね。寝起きにくっついて来るなんて」
「今日は許してください。入試なんで」
「…………それを言うと僕もなんだが」
布団の中で諸羽の腕をレキは抱き枕のようにして抱きついてきた。
まだ肌寒い時期故に温かい人肌は心地いいものだった。
諸羽自身も嫌な気はしない。しかし、先程も言ったように今日は受験なのだ。雄英の。
諸羽とレキの学力、そしてレキの個性ならば受かることは確実とも言われている。しかし、レキの場合は運も必要だ。
と言ってもレキに焦りが見られないことからただのこじつけなのは確かだった。
「…………遅刻しないように早く準備するよ」
溜息をつき、布団から出ようとしたがレキはそれを許さない。
「……いや、でした?」
更にぎゅっと腕に掴む力が強くなる。
何事かと思った諸羽だったが、視線の先には上目遣いの自身が守るべき少女が無表情だが何かを必死に訴えていた。
「…………はぁ。夜、何処かに食べに行こう」
「ご飯大盛りより諸羽さんの方が欲しいです」
「…………大盛り確定なのね。いや、知ってたけど。後、妙な言い方しない」
そっと翡翠色の綺麗な髪に手を乗せる。
サラサラと流れる髪を優しく撫でると、頬には赤らませ、しかし目を細めながら見ていた。
「…………どうした?」
「いえ。諸羽さんはいつも通りですね。頭撫でて下さりありがとうございます。お腹すきました」
やっと解放された諸羽だったが、目を細めたレキに疑問を思うのであった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「…………人、多すぎ」
「殆どがヒーロー科志望ですね」
現在、雄英高校の目の前にやって来た諸羽とレキであったが、類も見ない人の多さに唖然としていた。いや、二人とも嫌そうにしていた。
「…………ホント、色々と含めてヒーロー科にしなくてよかった」
「私はあの中に入らないといけないのですか。正直、学力テストは問題ありませんが実技は運次第ですんで不安です」
人混みを苦手とする二人はさくさくと受付を終わらせる。
「…………それじゃ、頑張れよ」
「はい。諸羽さんも」
学科が違えば会場も違う。
他者から見れば余裕のある二人組に見られていたが、その結果は本当に余裕だった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
諸羽と別れたレキは学力テストを終えた。
結論は問題なかった。
諸羽もレキも互いに成績優秀者であるため、このまま行けば諸羽は確実に合格する。
しかし、レキはどうだろうか。ヒーロー科のみ行われる実技を不安要素としていたがレキ自身、その個性と彼女の能力さえあれば受かるだろう。
それが不可能となる条件以外では。
「今日は俺のライブにようこそー!!!エディバディセイヘイ!!!」
「(シーーーーン………)」
多少の心配があったレキだが、それ以前に周りの静けさと反比例した司会の声に考えることをやめていた。
「こいつあシヴィーー!!!受験生のリスナー!!実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ!! アーユーレディ!? YEAHH!!!」
「(シーーーーーーーーーン)」
更に静けさが広まる。
司会をする人物はプレゼント・マイク。
その名の通り現役のプロヒーローであり、ラジオなどもやっているとにかくテンションが高いヒーローである。
受験生との温度差に中学とは違うと改めて思ったレキ。
他の受験生と同じく、特に返す必要もなく、そして本人も気にせず話を進めていく。
試験のルールは機械で出来た三種類の仮想敵を相手にすること。
三種類の仮想敵にはそれぞれポイントが設けられ、それを行動不能にしポイントを稼ぐのが目的、そう説明されたレキだったが、ある違和感を覚えていた。
「(四種類、ですか)」
話を聞けば、もう一体の仮想敵は0ポイントのお邪魔ギミック。
明らかに理由があると思ったが矢先にレキはすぐにその意図にたどり着いた。
「(ここはヒーロー科なので人助けも必要なのでしょう。力以外で、諸羽さんが言う緑谷さんが本物のヒーローだという根拠、ですね)」
考察をしていると、レキには一つの感情、嫉妬というものを覚えた。
自分と出会った時より早く、諸羽は緑谷を認めた。
勿論、以前から面識はあったらしいがそれは関係ない。誰であろうと、諸羽と自分以外の誰かがいると不愉快に思える。
「(重い女、でしょうか……?)」
元々、諸羽は積極的に他人と関わろうとしない。
故に彼と関わる人間は極小数だから余計に嫉妬の心を増幅させる。
ヤンデレ、と諸羽がレキに説明したものとは違う、純粋な愛情を諸羽に向けているが故に不機嫌なレキは、
「はいスタート!!」
「────私は弾丸」
諸羽に構ってもらえない分、
殆どの受験生が動かないなか、日頃から周りを注意しているレキはいきなりのスタートに遅れずに個性を発動させる。
”銃弾”
どんなものでも銃弾として扱えるこの個性。ただ銃弾にすることができるだけの個性なため、射撃の能力が必要不可欠だが、
「他の方には申し訳ないですが、私が先を行かせてもらいます」
瞬間、受験生が集まっていた場所を中心として至る所で爆発音が聞こえた。
その音により更に状況判断が遅れて動かない受験生達。
「40、いえ、50点は倒せましたね」
目を閉じて、自分の攻撃により倒れた機械の数を分析したレキは場所を移すために移動する。
「どうしたァ?試験はとっくに始まってるぜ?」
やっと動いた受験生達を背中に、数十メートル先の仮想敵を見つけたレキは余裕を持って右手を銃の形にしてその方向に向ける。
「───私は一発の弾丸」
その呟きをトリガーに、風を纏った見えない弾丸が仮想敵の鉄板に風穴を空ける。
空気を銃弾として、的確に敵を撃ち抜くレキに敵はいなかった。
***
雄英の実技入試の様子がモニターに映る部屋では、その学校の教師陣たちが一人の少女に目を向けていた。
「コレで70。開始僅かで平均の合格点を越えましたね」
「強力な個性を生かしきる彼女の能力は評価すべきだ」
「百発百中の攻撃の連続………俺の立場が」
若干一名、沈んでいるカウボーイ風のコスチュームを着た教師がいたが、それ以外は全員が少女、レキを高く評価していた。
「これは確実に合格ね」
「…………はぁ」
「「「「ん?」」」」
レキの合格についての意見を誰かが述べたその瞬間、一人の男性教師が大きく溜息をついたがために、全員からの視線がやって来た。
「どうしたんですかね?相澤先生」
男性教師、相澤の溜息の原因を聞くべく、この学園の校長であるネズミなのかクマなのかわからない根津校長が尋ねた。
「いや、あいつを入れるなら警戒を厳重にしないといけないんで溜息が出たんですよ」
「それはどうしてだい?」
根津校長の二度目の質問に、相澤は即答する。
「あいつは
「!………”憑代事件”。そうだろ?相澤くん」
今年度から雄英の教師となるNo.1ヒーロー、オールマイトが正解を告げると同時に戦慄が走る。
その事件の名を聞いただけで慌てる程の事件。
そして、目の前の無表情な少女がその被害者だというのだ。
「俺は現場に呼ばれたんで詳細は詳しい方です。保護者を任されている奴から聞いたんですが、璃々レキは現在、
相澤の説明をもっと簡単にすると、『人に銃を向けられない』となる。
今回、レキが教師陣の目に止まるほどの活躍をしているのは相手が人でないから。
敵を相手するヒーローにとって、それは致命傷だった。
相澤という男を知っている教師たちは誰もが彼女を落とすのだろうか。そう考えている時だった。
「トラウマの克服法なんか知らないんだけどなぁ……」
「───ん?ちょっと待ってくれ。さっきの話の流れ的に彼女を合格させるのかい!?」
「当たり前じゃないですか。警戒しとかないとって言いましたよ」
そう言えば、と少し前の相澤の言葉を思い出す面々。
「まぁ、大概なことはアイツが何とかすると思いますが」
そう言った相澤の手には一人の受験生の書類があった。
一体、それが誰なのか聞こうとした時だった。
─────ドガーーーーーーーーンっ!!!
「うおぉ!!あの少年、デカブツをぶっ飛ばしやがったぜ!!」
一人の少年がゼロギミックを一撃で沈めたことに驚く面々。
その後も次々と結果を残す受験生に意識を向けた教師たちは一人を除いて、質問があったことを忘れた。
「(あの少年は…………)」
相澤の横にいたオールマイトは、相澤の持つサポート科の受験票を見て、それが以前に自身の個性を受け継いだ緑谷出久を助け、そして相澤がアイツという受験生の素性を思い出していた。
「(あの少年は────
ヒーローにより敵にされた元
「(っくしゅん!)…………誰か噂でもしたのかな?」
数ヶ月後、その門を潜ることになる諸羽は一人で壁に背を預け、レキの受験が終わるのを待っていた。
一週間後、璃々レキの名で届いた合格通知には首席合格との伝えがやって来た。
そして芳村諸羽にはサポート科の合格通知と同じ封筒に最大限に警戒をするとの手紙が届いた。
主人公は元敵。
そして敵名は『梟』。
これは東京喰種のSSSレートの『梟』を、苗字と一緒に使わせてもらってます。
理由?見た目が赫者状態の『梟』そっくりになるからです。
そして高評価をつけて下さった
ギャラクシーさん、the fatさん、FBマークIIさん、Alan=Smitee さん
ありがとうございます!
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クラスでの交流と体力測定~レキのターン~
USJ編から活躍します!
いつも通りの朝を迎える。
ここ数ヶ月はレキとは常に一緒にいるが故に攫われたということは起きていない。
そもそもレキが襲われるのは諸羽が不在の時なのだ。
意図的に合流をさせない連中もいたが、すぐに救出に迎える程の力を持つ諸羽故に大事には至らなかった。
中学が自由登校となってからは常に一緒に行動していたため、相手も思うように動けなかったのだろう。
しかし、今日からは違う。
「…………一応同じ高校だけどクラスが確実に違う。レキ、何かあったらすぐに知らせてよ」
「わかっています。それに雄英はもともと警備が出来ている場所なので大丈夫だとは思いますが………」
「…………おそらくレキの担任になる相澤さんから連絡があった。今年は特に警備に費やしているって。学校内では安全かもしれないけど登下校は一緒に行くよ」
「勿論、そのつもりです」
今日から通うこととなる場所には現在、雄英の教師をしているという相澤消太は諸羽が信用するヒーローだ。
その人が最大限の警戒をすると申し出ていたが、諸羽には不安があった。
「(…………最近、敵の様子がおかしい)」
諸羽自身はヒーローの仕事のようで不愉快だがレキのため、偽物のヒーローの捜索と同時に敵の同行も把握している。
嫌な仕事だが、レキを追う
「どうしましたか?殺気が漏れていますよ」
「…………ああ、ごめん」
酷いクマのある目を擦って表情を戻す。
どうやら心配したらしいレキの頭を軽く撫でた後に、新しい制服のネクタイを締めた諸羽は
「…………行こっか」
高校生活へと足を踏み入れる。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
早めに雄英へとやって来た諸羽とレキはゆっくり歩きながら高校とは思えない警備の厳重さをチェックしていた。
レキは諸羽と出会って初めてクラスが違うことに違和感をかんじながら、ヒーロー科の教室まで向かった。
今朝、頭を撫でられたことにより機嫌が良かったレキ。
しかし、緑髪の平凡な少年を見てほんの少し機嫌を悪くした。
「何してるんですか?緑谷さん」
「ひゃあっ!?あ、あぁ、璃々さん、おお久しぶりです」
ガチガチに緊張し、そして何故か落胆していた緑谷が大きなドアを少し開けて中の様子を伺っていた。
緊張はわかるが落胆していた理由に見当がつかないレキはちらりと中を見た。
「机に足をかけるな! 雄英の先輩方や机の製作者方に申し訳ないと思わないか!?」
「思わねーよ! てめーどこ中だよ!? 端役が!」
如何にも真面目君な少年と、レキが二度ほど見たことがある金髪ツンツンヘアーの少年が言い争っていた。
緑谷が落胆していた理由が結びついたことで少し同情しながら、レキは口を開く。
「そう言えば緑谷さん。合格おめでとうございます」
「え?あ、うん、ありがとう。それをいうなら璃々さんはやっぱり受かってたんだね。芳村くんは何処?」
「諸羽さんはサポート科です」
「え゛っ?」
驚愕してフリーズした緑谷だっがレキはそのまま続けた。
「緑谷さん、貴方を諸羽さんは認めていたので教えますが彼はヒーローが嫌いです。以前の発言から検討はつきますよね?」
「それはー………、うん。でも芳村くんの個性ならヒーロー科に入れると思ったけど………。ごめん、余計なこと聞いちゃって」
「大丈夫です。それより早く入ってください」
「あ、ご、ごめん……」
あっさりとした口調で告げるレキ。
教室の中に入るか迷っていた緑谷は、きっかけをつくってくれたレキに感謝しながら入ると────
「なんでデクがいるんだよォ!!」
案の定、ツンツンヘアーの少年、爆豪に絡まれてしまった。
既にやって来ていた面々が緑谷に目を向ける。
余計に怯えた緑谷だったが、
「合格したからじゃないですか?」
「「「「(フツーに答えた…………!!)」」」」
その横にいたレキの答えに教室にいた皆から心の中でツッコミが入る。
しかし、この雰囲気をつくった元凶は違った。
「おいくっつき女。アイツは何処だ」
「………くっつき女とは私のことでしょうか?」
「あ゛?あの白髪赤目にくっついてるだろーが。それでアイツは何処だ」
「諸羽さんのことなら此処には来ません。彼はサポート科ですので」
「はぁ!?」
驚愕と怒号の声を出す。
彼の言うアイツがわからない人が多数を占めるが、唯一知っている緑谷は苦笑いをしている。
「なんでアイツが此処じゃないんだよ!!」
「ツンツン頭さんに教える必要はありません」
「え?」
諸羽のことについて先程教えて貰った緑谷としては教えない意味がわからなかった。
「緑谷さん。貴方は諸羽さんに認められたと言いました。彼は諸羽さんに認められ───いえ、
「………チッ。──巫山戯んなよ」
急に大人しくなる爆豪も仕方がなかった。
まだ入試前のいつもの日常だった。爆豪は運悪く敵に捕まった。
振りほどこうにも自分では不可能だとわかり、耐えていた矢先に
周りのヒーローが動けない中、緑谷も危険な状態に陥る直前、白髪赤目の男子生徒、諸羽がその力の一端を見せた。
『巫山戯るなよ』
──俺の個性は強い
──俺は最強になれる
──俺は……………………………
同じ中学では自分が一番だと思い込んでいたと示された爆豪。
更に
『────緑谷、ヒーローだったよ。じゃあね』
何故、
今まで、自分が眼中になかった相手に自身との差を見せつけられたのだ。
沸騰しすぎた頭を落ち着かせる舌打ちをして大人しく席に戻った。
対して爆豪にトドメを刺したレキは、
「緑谷さん。彼は誰ですか?」
「「「「「(今聞くのォーーーっ!!)」」」」」
「えーっとかっちゃ………じゃなくて、爆豪勝己って言うんだけど」
「……緑谷さん達が私とセットにした奴ですか。それに諸羽さんの白髪赤目を馬鹿にするのは許せませんね」
「「「「「(の、惚気ぇーーーっ!!)」」」」」
少々騒がしいクラスだなと思いながらレキは決められた席に腰を下ろした。
いつも隣にいた諸羽はもういない。
別の教室で別の女が諸羽の隣で楽しそうに話して、、、
「……ふふ」
「「「「「(怖っ!!!)」」」」」
まだレキを見ていたクラスメイトは無表情の笑いに震えた。
「…………(っくしゅ!)ん?また誰か噂した?」
「───でさでさ!鉄板を厚くすると動きに制限がかかるから構造を変化させることにしたんだけどやっぱり別の軽い金属を混合させた方がいいかな?丸型の柱を使ったけどなかなか強度がなくて。それに、熱に強くないからレーザーを使うと一発だけでお釈迦するから使えないんだけどスピードなくして攻撃に特攻させたとしたら可能なんだけど一部しか使えない程の重量になるんから……ん?それならパワードスーツで筋力を味わう?それだ!よし、早速───」
「…………発目さん。入学式まだだから」
「えーーーっ。早くアイデアを実装させたーい!!」
「…………レキが恋しい」
諸羽の隣は女子ではあったが、自分が苦手とするタイプだったために早くもレキを求めていた。
「いらっとしましたが嬉しくなりました」
「だ、大丈夫ですの?」
表情の変化は見られないが先程までとは反転して朗らかな雰囲気を見せるレキの様子に女子生徒が心配の声を出す。
「迷惑をおかけしてすみません。その………」
「八百万百ですわ。璃々レキさんですよね?別に迷惑ではありませんわ」
「ありがとうございます」
前の席に座る八百万に話しかけられたレキだったが、それからも通常の会話を続けていた。
続々とやって来るクラスメイトを遠目で見ていると、気配を隠してやって来た人物に気がついた。
「あれは………八百万さん。静かにしておきましょう。先生が来ました」
「先生?」
疑問を持った八百万だったが大人しく前を向くと同時に始業開始時間になった。その瞬間、
「お友達ごっこしたいなら他所へ行け、ここはヒーロー科だぞ」
寝袋に入っていた男性が黒板の前にやって来て
「担任の相澤 消太だ、よろしくね」
簡潔に自己紹介をした。
何名かが本当に担任かどうか疑わしいと思っているようだった。
対してレキは彼のことは知っているため目があった時に軽くお辞儀した。
その時、相澤消太、イレイザーヘッドを見たレキは流石だと思った。
ヒーローとしての実力は
「早速だが、
そして、教師として厳しい人間であるとわかった。
次回は体力測定です!
今回、高評価をして下さった
HANEKAWA-sanさん、タウメル継ぎ手さん、ワカガシラさん、
sleiさん、libra0629さん、⑨とぅさん、M.Y snowさん、
ケイクさん、Mr.パイナップルさん
ありがとうございます!!
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入学式お預けの体力測定~レキのターン~
またしてもレキ目線ですがちょくちょくオリ主も出していきます。
では!
「「「個性把握テスト!!?」」」
体操服に着替え、グラウンドまで連れてこられたクラス一同。
入学式ですらない突然のことに全員が戸惑っているが、担任である相澤は相手する様子もなくことを進めようとしている。
説明を聞くと、中学でもあった体力測定を個性ありで行うらしい。
「入試一位は璃々だったが女子だしな。代わりに爆豪、個性を使って投げてみろ。・・・思いっ切りな」
「────チッ」
相澤に隠れて舌打ちをした爆豪はそのまま白い円の中に歩いていく。入試での順位を未だに気にしているらしい。
不機嫌な様子の爆豪が言うは、本人が持つ中学の時の記録は67メートル。
それだけでも中々の距離だが、
「死ねえ!!」
乱暴な掛け声と共にボールがみるみると彼方へと飛んでいき、その記録は………
『705.2m』
相澤が見せてきたタブレットには、そう結果が出されていた。
「自分の最大限を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段………」
最大限、つまり個性を含めた自分の力。
「なんだこれ!! すげー面白そう!」
「個性思いっきり使えるんだ!流石はヒーロー科!!」
周りが体力測定を面白そうと感じている中、レキは呆れていた。
個性を、人間には普通有り得なかった強力な力を扱うのにこの反応。
──もしもこのまま彼らがヒーローとなれば活躍など出来ないだろう
今はまだ学びの最中。しかし、レキの評価は相澤の考えと似たもの。
浮かれている生徒達を見て口を挟む。
「ヒーローになる為の3年間、そんな腹づもりで過ごしているのかい?」
「「「!?」」」
勿論違うだろう。
しかし、まだ学生と思われているうちはいいが、そんな思いでもたもたしていれば痛い目をおうのは自分なのだ。
「よし、トータル成績最下位の者は見込みなしと判断し除籍処分としよう」
「「「!?」」」
これにはレキも驚いた。
──早々に見極めるつもりだ
相澤を知るレキは彼の性格を知っている。
故に成績最下位の者を見込みなしと判断すると、彼が言うわけない。だって相澤とよく似た思考を持つ諸羽はそんな粗いふるちをしないから。
「"
要するに全力を見せればいいのだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「おい璃々。どういうつもりだ」
50メートル走、握力、反復横跳びが終わったちょっどその時、タブレットを持った相澤がレキの元にやって来て最初にそう言った。
タブレットには現在までの測定の順位が載ってある。
レキは──────最下位の一つ上
「お前なら結果出せるだろ。何故手を抜く」
「なんのことでしょうか?」
恍けるレキだったが無言で早く理由を言えと訴えている相澤に負けて呟く。
「手打ちを見せたくありません。特にここはカメラに残るので」
「……一応、データは厳重に保管している」
「それでもです」
一般の人なら突破できないシステム、しかし、何かの個性で突破される可能性がある以上、入試のようにレキの個性”銃弾”
しかし、レキの個性は応用が難しい。
故に手打ちを晒したくなかったのだ。
「それに、今の私が敵に対抗するには身体能力のみですから。それでもいつも捕まってしまいますが」
「……理解した。だが一つだけ何か高得点をつくっておけ」
「そのつもりです」
そう言ったレキは茶髪のボブカットの女子のソフトボール投げを見た。
「えいっ!」
可愛らしい文字とともにでた記録は”無限”
誰もがその記録に驚いている中、レキが移動する。
「次は璃々さんですの?」
「はい」
「大丈夫?今までの記録よくなかったけど………」
「大丈夫です耳郎さん」
八百万の次に声をかけてきた耳郎響香の心配する声がかかったが、レキに焦りはなかった。
サークルの中に入ったレキは無言でボールを肩の位置まで上げる。
その様子を見ていたクラスメイトの反応は様々だった。
入試一位で通過したレキ、しかし、体力測定では全て個性を使っておらず舐めているのかと思う始末。
流石に手を抜きすぎたと思ったレキは、自身の能力を見せることにした。
「───私は一発の弾丸」
ふわりと上にボールを投げた瞬間、空気の見えない弾丸がボールを遠くへと吹き飛ばす。
しかし、まだ終わらない。
「───私は弾丸」
ほぼ見えなくなっていたボールに向けてすぐさま第二の銃弾を向ける。
第一射は放物線を描くよう計算して撃ったもの。
第二射は落ちてきたボールを狙い、更に飛距離を伸ばした。
『4621.9メートル』
無限には劣る記録だが、上位に入るその結果に感嘆するクラスメイト達。それは教師も、相澤も同様。
結果よりもレキの能力に対する感嘆を見せ相澤に、これで最下位になっても除籍はないと一安心するレキ。
「おぉー。すごい結果」
「二回個性を使われたように見えましたが、どうやったんですの?」
「内緒」
質問攻めになりかけたレキ。
なりかけた要因をつくった人物にレキは目を向けた。
「個性を消した」
「あ、相澤先生………」
ただの身体能力により出された結果と、詰め寄ってきた相澤に声を震わせるのはレキと同じ学校にいた、一番
初め緑谷が雄英の中にいた時、レキは心底驚いた。
いくら諸羽が認めても、彼には個性がない。無個性なのだ。
そんな無個性が入れる程、雄英の門は甘くない。
それなのには合格した緑谷は、やっと個性に目覚めたのかとレキは想像していたがそれが正しいらしい。
爆豪が緑谷を無個性だと罵っているが相澤が個性を消したというのが、彼が個性を発現させたという証拠だった。
しかし、昨日の今日で発現した個性を上手く使えるとは考えられない。故にレキとは違って力を出せないでいたのであろう緑谷だったが、何かを覚悟して、サークルの中に入った。
「『SMASH!!!』」
凄まじいスピードで距離を伸ばすボールよりも、レキは緑谷を見ていた。
指が力に耐えられず負傷している。
彼の様態も考えなければならないポイントだが、その個性に違和感を覚えたレキはやむを得ず、
「───そういうこと、ですか」
ヘッドホンに手を当てて目をつぶったレキだったが、数秒後には元に戻り、そして彼のことを
風が自身の髪を通り過ぎて行く中、レキは警戒心を若干解いた。
それと同時に、諸羽に伝えるべき報告ができた。
「(何故かわかりませんが、緑谷さんの個性はオールマイトと同じです)」
自分を中心とした厄介事以外の厄災に足を踏み入れてしまったのではないかと、密かに小さな溜息をした。
***
その後も競技は続き、結果はレキがワースト二位、緑谷が最下位となったがレキの予想通り、緑谷の除籍はなかった。
クラスメイトから遊びに行こうと誘われたレキだったが、何を優先すべきかはとっくに決まっていたためその誘いを断った。
「…………そのことは確かなの?」
「はい。
帰路の途中、今日の出来事を誰にも聞こえないよう細心の注意を行いながらレキは隣にいる優先すべき存在の諸羽に報告していた。
「…………元々オールマイトの個性は公開されていない。もしオールマイトの個性が緑谷に個性を発現させたものだとしても、
「はい」
「…………緑谷の個性より、敵の動きを知った方が良さそうだね。また今度調査に行くけど───今日はやけにくっつくね」
現在、諸羽とレキは互いに手を差し出して繋いだ状態だ。それも指と指を絡めさせて。俗に言う恋人繋ぎで。
「爆豪さんからくっつき女と呼ばれていらっとしましたが、やっぱり諸羽さんといられるならくっつき女でもいいと思いますね」
「…………爆豪?」
「金髪のツンツンヘアーの人です」
「…………あぁ。いたね、中学のとき。今やっと名前わかった」
「私も知らなかったので人のこと言えませんが名前は覚えておいた方がいいですね。無駄に目立ってしまいます」
「…………目立っちゃったか」
何気ない普通の会話。
周りの人達はその様子を微笑ましく見守っている中、問題の起こらない日常を噛み締めていた。
高評価をして下さった
りょうや04さん、Eagle3718さん、もちなんさん、
レイジングソールさん、吉井明久さん、カラクトさん、セロリ畑さん、マイコラスんちゃんさん、
ありがとうございます!
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戦闘訓練①~レキのターン~
皆さんのおかげです。ありがとうございます!
では!
入学式から体力測定に変わった日の翌日。
レキ以外の誰もがそわそわと落ち着かない様子だった。
その訳は、
「わーたーしーがー!! 普通にドアから来た!!」
ガラッと大きな音を立てて開いたドアから、日本人なら誰でも知っているであろう有名人、オールマイトがやって来た。
「オールマイトだ!! すげぇや、本当に先生やってるんだな!!」
「画風が違いすぎて鳥肌が……」
「あれ……
知っていても尚、オールマイトの登場に興奮するクラス一同。
今日の予定として、午前中は必修科目の普通の授業を行い、午後からはヒーロー科のみの特有な授業、"ヒーロー基礎学"が行われる。個性を持て余していた生徒達には楽しみなものでもあり、尚且つ担当の教師があのオールマイトなのだ。
ヒーロー基礎学と言っても、内容は様々である。
そして第一回目のヒーロー基礎学の内容は………
「今日はこれ!! 戦闘訓練!!!」
ヒーローにとって重要であり必須の戦闘力、そして戦闘知識を学び高める内容。
必修科目の時のようなガイダンスをするのではなく、初めからの戦闘訓練にレキは驚いた。
「そしてみんなにはこちらを………」
オールマイトが何処からか取り出した謎のリモコンを取り出しボタンを押す。
一体なんなのか、それはクラスメイトの叫び声によりわかった。
「「「コスチューム!!」」」
オールマイトがリモコンを向けた先にはクラス全員分のコスチュームが出てきていた。
ヒーロー科は"被服控除"によって雄英専属のサポート会社から要望に応じて用意された最新のコスチュームを渡される。
「これに着替えたら順次、グランドβに集まるんだ!!」
オールマイトはそう言い残し、一足先にグラウンドに向かって行った。
自身専用のコスチュームに、誰もが期待を寄せている。
そしてレキもまた、諸羽が此処にいないことを残念に思いながらも利用して、ちょっとした欲望をだしたコスチュームを持って着替えに向かった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
グラウンドβにそれぞのコスチュームに着替えてやって来た生徒一同。
「恰好から入るってのも大切なことだぜ少年少女!! 自覚するんだ!! 今日から自分はヒーローなんだと!!」
更に生徒達の心を熱く高めるオールマイト。
「さあ!! 始めようか、有精卵共!! 戦闘訓練の時間だ!!」
その声に続いて歓声が起こる。
実技入試の会場のように大量の資金がつぎ込まれたグラウンド?に到着した面々はそれぞれのコスチュームを見ていた。
その中でレキに集まった視線には困惑があった。
「……璃々さん、ホントにそんなんでよかったの?」
「はい。黒いローブだけで十分です」
レキのコスチュームは、ヒーローのコスチュームとは思えないものだった。
制服のような服を着た上に黒いローブで身を包んでいるのみ。そこに黒いトランクケースを後ろに抱えている状態だ。
話しかけた耳郎のコスチュームも私服っぽい要素があるがレキのコスチュームはそれ以上にコスチュームとは呼べなかった。
「このローブは本当は諸羽さんのお手製だったものを再現して貰いました」
「諸羽さん?それは誰ですの?」
レキが口にした人の名前に反応した八百万が尋ねる。
自然に声の方を向いたレキと耳郎だったが、、、
「……八百万、あんたよくそんな格好できるね」
「そうでしょうか?欲を言えばもう少し肌を出したかったのですが」
八百万は個性の関係上、露出多めのコスチュームだった。それを平気とする八百万に呆れているが、声を出さないレキが気になって隣を見ると………
「………………………」
「(こ、怖っ!?)」
ハイライトのない目で八百万の胸を見ていた。いや、睨んでいた。
「そ、そうだっ!その諸羽さんって結局誰なの?」
「……諸羽さんですか?」
「う、うん。昨日爆豪が言ってたアイツってのもその人だよね?」
何とか話題を変えようとする耳郎。
まだ昨日の今日の付き合いだがここまで感情が激しく揺らいでいるレキを初めて見た。
しかしレキが言う諸羽という人物にも興味があった耳郎と八百万だったが、
「……私と二人で同居している従者です」
反応に困った。
従者だけならまだ理解できる。
八百万の家には執事がいる。そういうものかと納得できるが二人で同居ときた。
それは高校生となった少女達にはまだ刺激が強いらしい。
「え、えぇ!?ど、同棲!?」
「い、いけませんわよ璃々さん!!はしたないですよ!?」
「そうでしょうか?」
耳郎の話題を変える策は上手くいったようだ。
二人の動揺を見たレキがいつもの無表情に顔を戻す。
言葉をつまらせては訂正を繰り返す二人に疑問を持つレキ。
未だに顔を赤らめて何か想像する二人を置いて、諸羽とお揃いのローブを着たレキはヘッドホンに手をかけ、大きく深呼吸した。
「……牽制のため、少し本気でいけばいいんですよね、諸羽さん」
牽制をするには必ず相手がいる。
昨日の個性把握テストでも実力を見せたレキだったが、
『…………僕の推測通りにことが進むなら下手に実力を隠しては逆効果だ。レキ、今度個性を使う時は適度な対応をしてくれ』
晩御飯を食べて出て行った諸羽の言葉。
実力を隠すのは逆効果なら実力の一部を見せるだけでいい。
───レキには一部のみで済ませられる力がある。
適度な対応をすればいい。
───入試の首席として。
「いえ、今回は問題なさそうですね」
クジで決まったペアの相手、芦戸の名前を見てレキはそう思った。
プロフィール(new)
○璃々レキ
個性:銃弾、???
実はレキの個性は二つ………!?詳しい概要はいつ明かされるのか!?
そして、高評価をして下さった
いとつばさん、ヒサヤさん、なまちゃさん、僅かな希望さん、枳殻稲荷さん、凛凛凛さん、
ゆ〜とんさん、めざしさん
ヴェルギナさん
ありがとうございます!
そして今回は文書短くてすみません!
次が長くなるのでここで区切らせてもらいます。
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戦闘訓練②~レキのターン~
未成年で社畜の気持ちをわかってしまった自分がいることに苦笑いしか出来ない………文はちゃんと書きます。
では、、、(疲)
「おぉー!璃々さんと一緒になってよかったよー!」
「そうですか?」
「うんうん!だってほら、その、ビュンっ!てなってて凄かったよね!」
「?ありがとうございます」
天真爛漫な様子の少女、芦戸三奈の雰囲気に素っ気ない様子のレキ。
いや、そのテンションについていけないのだろう。常に疑問符が浮かんでいた。
とても学校が私有しているとは思えないリアルな廃墟と化したビルを見上げながらレキは「はい」「そうですね」と芦戸の問いかけに答えながら、先程までの試合を思い返していた。
──正確には、最初の一試合目を
緑谷出久と爆豪勝己
レキと同じ中学にして、片は信頼する諸羽が認め、片は自身に継いで学年次席だ。
開始僅かにして会い交わった二人の戦闘を見て、レキはわかった。
「(……成長が早い、ですね)」
元からのポテンシャル、いや、努力していたのであろう。
才能の塊であると踏んだ爆豪相手に、緑谷はいつの日だっただろうか、濡れたノートを腕に抱えていたが、その観察眼は見事だとしか言いようがない。
────格上相手と戦うならまずは弱くあるよう全て避けるべき。そして少しの隙も油断しない───
かつて諸羽が言っていた言葉だった。
その言葉通り、爆豪の攻撃を回避し続けた結果、訪れたチャンスも逃さずに、そして勝利を求めていった緑谷は素晴らしいと言えた───レキの隣にいた布地が少ないコスチュームの人物は今回の戦闘を良しとしなかったが
緑谷の今後に興味を持ちつつ、ヘッドホンで音楽を聞いていたその他の試合は、レキの関心には至らなかったが。
───いや、その試合以上の実演を目の前で何度も見せられればそういう他あるまい。
「もーおー!絶っ対話聞いてないでしょ!」
「もうすぐ初めでしょうか」
「まさかの無視!?」
驚く芦戸だが、むしろ時間前まで話し込んでいた彼女にレキは驚いていた。
しかし、表情に表すことなく、ただ、作戦を提示した。
「最初に言いましたが、もう一度作戦の説明は必要でしょうか?」
「うんうん。ちゃんと覚えているから大丈夫!って言うか、それなら璃々さんの役割の方こそ大丈夫なの?耳郎さんと上鳴くん相手に」
芦戸の問いにレキはほんの少し考え事をした。
今回の内容は対人戦。
「大丈夫です。だから───」
「いいよ、じゃあ───」
準備が完了したヒーローチームである二人は、試合の合図と共に別々に動き始めた。
***
「……おかしい」
「……なぁ、ホントに試合って始まってんのか?」
「ブザーなったじゃん。もう忘れたの?」
「それくらいは覚えてるよ!!」
緊張感……、とボヤくのは個性”イヤホンジャック”を使って索敵を行っていたヴィランチームの一人の耳郎。
同じチームの上鳴の行動のせいか、先程から個性を使えば
「(璃々さん、彼女は最初に見つけないとヤバい)」
余り実力を見せていなかったレキだったが、耳郎はその実力を入試の時に見ていた。同じ会場で。
皆がスタートに遅れている状況で聞こえた爆発音。
それが誰が起こしたのか、当時はわからなかったが、入試一位ということでわかった。それと同時に実力の差も。
────今のように
「ッ!上鳴!う────」
「遅いよ!」
上から感じた気配と、先程まで考えていなかった人物とは違った声に耳郎はいち早く声をかけたが、、
「うおぉっ!?あ、足がァー!」
気を抜いていた上鳴、更に
ハリボテのような核兵器を置いた部屋には耳郎と上鳴がいた。
耳郎は索敵のため、核兵器のある中心部から離れて壁に付近にいた。よって一番近くの上鳴が守るしかないのだが、、、残念な状況だった。
耳郎の個性も、まだ冷静じゃない上鳴も、天井から降りてきた芦戸の妨害は不可能だった。
よって、
「つーかまーえたーーーっ!!」
………一応、核兵器の設定なのだが
誰しもが核兵器(偽)に抱きついた芦戸に微妙な表情をしていた。
***
「「「…………………」」」
モニター越しで戦闘の、いや、作業を見ていた生徒達は唖然としていた。
「いや〜、上から落ちるって意外と怖かったよー。レキレキも絶対怖がるね」
「五階からなら平気です」
「うっそだーっ!そんな高いところから………え、ほんと?」
「はい」
「レキ、それは無表情で言う内容じゃない………」
しかし、帰ってきたメンバーは悠々と話しながら仲睦まじく、芦戸は渾名で耳郎は名前で呼び合いながら帰ってきた。一名を除いて
「………………………」
「だ、大丈夫かい?上鳴少年?」
魂が抜け落ちたかのように真っ白な上鳴を心配するオールマイト。しかし、彼には有名人相手でも返事をする余裕がなかった。
「先生、こいつは放っておいていいのでこの空気どうにかしてくれませんか?」
「教師として生徒を放っておくのはダメなんだが……取り敢えず上鳴少年は座っておいてくれ」
オールマイトの言葉に近くの椅子ではなく隅に体操座りで座る上鳴。余程ショックなのだろう。
何も出来ずに負けたのが。
「さて、唖然としている生徒達!今回も講評に入ろうか!と、いきたいが。済まないが作戦の内容を教えてくれないか?私自身もよくわからなかった」
「と、特に璃々さんが
緑谷の言葉に頷く面々しかし、その観察結果は間違っている。
「レキレキは個性使ってたよ?」
「俺たちから見たらボーっとしているようにしか見えなかったのだが」
飯田の言葉にまたしても賛同する。
するとクラスメイト全員の顔を見て、目を閉じたレキ。屋内なのに
「私の個性は”銃弾”です。どんなものでも弾として扱えるので、索敵を行うであろう響香さんの個性を封じるため、あの部屋の周りのコンクリートを弾として微かにですが微動させ続け、外部の音を探れないようにさせました」
「少しノイズがかかったみたいに聞こえて疑問だったけど上鳴の相手で頭痛かったから偶然だと思ってた」
「「「「………上鳴」」」」
「……い、いえぁ………」
個性を使用していないのにテンションがおかしくなった上鳴はガクっと頭を下げる。
「索敵が出来ないとなると下手に動けません。その隙に三奈さんに上の階に登ってもらってーーー」
「私の個性”酸”で地面を溶かして奇襲しました!」
「そして奇襲を完璧に成功させるために上鳴さんの足元を空気を弾にして抉りとり、簡易的な落とし穴を作りました」
「「「「………上鳴」」」」
「………………ぇ」
仲間と敵から上鳴は徹底的に攻撃をくらい、真っ白に燃え尽きた。
そんな彼を心配している生徒とオールマイトだったが、
「───お前、何を隠している」
半分赤、半分白の髪を持つ特待生で入学してきた少年、轟焦凍の言葉で全員が二人を見た。
「隠してる、とは?」
「璃々、お前の個性は本当にそれだけなのか?銃弾を操るのはわかった。だが、それだけじゃ今の結果にはならない。他に何を隠している」
「……もし隠していてもこの場で答えるつもりはありません。そして、轟さんは私の索敵の方法を隠していると考えているのですか」
「ああ」
「轟少年。それ以上の追求はーーー」
「構いません。轟さんの質問
問い詰めるような轟に待ったをかけたオールマイトだったが、問い詰めを受けていたレキにより遮られる。
意味あり気な言葉に気づいたのは数人だけだった。
「私の索敵は個性ではありません
以前、レキは諸羽に問うた。
『私は何をすべきか』
あの事件以降、人に銃を模した手を向けられないレキはそれを克服するべく、
『…………狙撃手になれば?』
人は型に収まればそれを受け入れる。
社会人が学生時代と比べ増え続ける仕事をするように、兄弟ができれば年上としての行動を取るように、戦争で一人殺した弱気な兵士が死体の数を増やしていくように。
所謂、慣れ。
だからこそレキは、己が思う最強の狙撃手を理想像として模倣し、それを慣らした結果がその索敵能力だ。
『諸羽さんは何を理想像にしたんですか?』
『…………僕かい?興味ないと思うけど僕は
”化け物”を理想像にしたよ』
あの時の諸羽の瞳には光も、未来も見えていなかったと、オールマイトが改めて評価をして盛り上がるクラスメイトたちを見ながらレキはほんの少し苦い顔を見せた。
屋内に吹いた風は、鉄のように冷たく、肌に突き刺さった。
本編の内容はあまり書いてないです。すみません。
そしてオリ主ですが、活躍はあと少し先です。それまではレキの素晴らしさを想像して待っていてください。
そして、今回高評価をして下さった
コトノハさん、いおりんさん、マトリカリアさん、水木、⊂((・x・))⊃さん、チュロリスさん、アゆスさん、daisannさん、一人十色さん、ライア♩さん、くらーくさん、かつどぅーんさん、粉みかんさん、ジム009さん
ありがとうございます!
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動き出す”梟”の剣
投稿数が少ないですが、まだまだ頑張りますよ!
と、言いたいですが、現在進行中で社畜な高校生の目のクマが激しくなっているので誤字などはあたたかい目で見てくださるとありがたい。
では!
ふと、レキが目を覚ますと肌寒いことに気がついた。
所々に花が咲いている外の景色を見てわかるように、まだ夏を迎えていない時期であるが肌寒いことはなかなかない。
しかし、レキはその原因をすぐに理解した。
「諸羽さん……?」
いつもは自分が起きてから目覚めるはずの彼がいない。
昨日、諸羽の布団に潜り込んでいたレキだが、今は丁寧に掛け布団は全てレキが占領していた。
一瞬にして覚醒した意識で急いでリビングに向かう。
すると、、
『…………怪しい動きを見つけた。今日は学校休む。レキは演習頑張って』
「……そういうことですか」
テーブルに置いてあった置き手紙を何度も読んでレキは彼がいない理由をやっと理解した。
───
実は数日前、諸羽とレキが通う雄英高校にマスコミが侵入したという事件があった。
殆どの生徒は侵入した犯人がマスコミ達だということに安堵の息をしていたが、諸羽は違った。
現在の雄英は危険だ、と。
しかし、レキにとってはそれはどうでも良かった。
「……諸羽さんがいないと寂しいですね」
その声に反応するものはない。
その様子は捕えられた時のようで、誰かが、いや、諸羽が助けに来るのをじっと待っていた。
この時はまだ、最後の表現が現実になるとは思っていなかった。
***
「大丈夫ですの?レキさん。今日はなんだが元気がないように感じるのですが……」
「大丈夫です。問題ありません、百さん」
現在、レキは学校が用意したバスに乗っていた。
隣に座るのは自分も名前呼びでいいといった八百万が心配そうに窓から外を覗いているレキに声をかけた。
「も〜。せっかくの課外学習なのにそんなんじゃ楽しめないよ!」
「いや、楽しむもんじゃないと思うんだけど……」
芦戸の言葉に耳郎は慌てて否定する。
相澤が睨んできたのが原因であるが………。
しかし、それも当然だ。
───…………今日、警戒を怠らないようにお願いします、相澤さん
知り合いから電話で聞いた警告。
相澤は普段から周りを警戒しているつもりだったが、彼は、諸羽は今日は更に警告をしてきた。
「(規模によっては俺一人ではどうしようもない被害がでる。こいつらもヒーローの端くれとして、いや、学生としての行動をしてもらう必要があるな)」
目を瞑りながら少しでも目を休ませる相澤。
ちょうどその時、バスの外で強風が吹いたことに、心ここに在らずのレキは珍しく、
「すっげーーー!! USJかよ!!?」
「あらゆる事故や災害を想定し、僕がつくった演習場です。その名も、
「「「(USJだった!!)」」」
相澤の心配を他所に、テンションが上がっている生徒達を相手にしているのはスペースヒーロー”13号”である。
個性“ブラックホール”と言う他に類を見ない強力な個性を持っていて、災害救助でめざましい活躍をしている紳士的なヒーローである。
「えー、始める前にお小言を一つ二つ……三つ……四つ……───」
「「「(増える……)」」」
簡潔にまとめると、13号は授業を始める前に個性の在り方、扱い方に対して語ったのだ。
超人社会では人類の大半が行き過ぎた力を持っているため、それを人に向ける危うさを知らない者がほとんどであり、13号は個性は人を助ける為にあるのだと心得て欲しいとのこと。
ましてや、個性の悪用はもってのほかという事だ。
最近のヒーローによる不正などのニュースを受けて、生徒達は真剣にその事を考え始める。
が、それは途中で中断をせずにいられない状況となった。
「そんじゃあ始めるぞ。まずは────」
「来ます」
「「「?」」」
相澤の言葉を遮って言葉を発したレキ。
何が?と誰もが聞きたかったが、相澤と13号がレキの視線の方を見て戦闘態勢に入ったことで質問は出来なかった。
「アイツの予感が的中したな」
落ち着いた様子で生徒達を噴水がある場所から守るように移動する相澤。
その間にも、黒いモヤはものすごいスピードで広がって行き、中から怪しげな連中が現れだした。
「何だアリャ!? また入試ん時みたいなもう始まったパタ───」
「違います」
切島の言葉をレキが否定する。
教師二人が前にでて、そして
「あれは本物のヴィランです」
「「「ッ!?」」」
多数の息を呑む音が聞こえた。
「バカだろ!? ヒーローの学校に入り込んでくるなんてアホ過ぎるぞ!」
「校舎と離れた隔離空間、そこに少人数が入る時間割、これは何らかの目的があって用意周到に画策された奇襲だ」
轟が冷静に状況を分析している。
周りを見ると何人か、冷静にヴィランをじっと見ていたが、危険な状況だと言うのに変わりない。
「13号!避難開始! 任せたぞ!」
いち早く相澤が指示をだす。
しかし、
「1人で戦うんですか!? あの数じゃあいくら”個性を消す”っていっても!!」
「一芸だけじゃヒーローは務まらん」
緑谷にそう言い残し飛び出した相澤。
緑谷は何も言わなくなり、ヴィラン達に突っ込んで行く様子を見ていた。
「生徒の皆! 早く避難を!」
緑谷を初めとする惚けていた生徒達は13号の言葉で全員我に返り、避難を始める。
しかし、そんな行動を、、
「させませんよ」
「「「ッ!?」」」
「初めまして、我々は敵連合。僭越ながら、この度ヒーローの巣窟……雄英高校に入らせて頂いたのは────」
レキ達の前に黒いモヤを纏ったヴィランが現れた。
全身がモヤで覆われていることから察するに、目の前のヴィランが侵入を成功させたヴィランだろう。
先程いた場所から一瞬で移動したことも踏まえて、個性は”ワー───
「平和の象徴オールマイトに息絶えて頂きたいと思ってのこと。そして
ノコノコと学校生活を送っている
「───私は弾丸」
次の瞬間、風の弾丸が空へと放たれ、天井を破壊して更に上へ上がる。
破壊された天井。それが意味する瓦礫の落下に真下にいるヴィランは、、
「無駄です」
ワープさせて噴水の上に瓦礫を落とした。
音を立てて水が溢れる元噴水を見て、ヴィランが口を開けた。
「直接私を狙えば賞賛はあるものの……そんな時間をかけての攻撃では私には効きませんよ、憑───」
「ごちゃごちゃうるせぇ!」
「うおおお!!」
「いけません、君たち!!」
ヴィランが油断していると思ったのか、飛び出した爆豪と切島に注意しつつ個性をキャンセルさせた13号。
「貴方達は退場です」
しかし、結果は二人がモヤに捕まり、どこかへ転移させられることとなった。
「くっ!私が───」
「ダメだ13号!アイツの個性じゃあ」
「もう遅いですよ」
緑谷の声がかかるも、個性”ブラックホール”を発動させた13号。しかし、ヴィランはその個性をワープさせて彼の背中に転移させた。
背中に自身の個性で重症を負った13号。
まだ未熟なヒーローの卵。
状況は絶望だ。
「さて、憑代以外も退場してもらいましょう」
「──わた───」
緑谷達は風の弾丸をヴィランに向けた瞬間だけを見て、そして黒い何かに包まれてしまった。
───────
─────
───
「無駄です。貴方は私を倒せませんよ?」
「………………」
放った風の弾丸はヴィランを貫通させることなく、全てが綺麗にヴィランから逸れていた。
「皮肉なものですね。
「黙ってください」
怒りを孕んだ声をレキは向けるが、ヴィランの様子は変わりない。
相澤を相手していたヴィランたちも数名がやって来てレキを取り囲むように集まって来る。
「……はぁ、”黒霧”、憑代を早く捕まえろよ」
「”死柄木”ですか。貴方には言っていませんでしたが作戦変更がありましたので憑代は捕まえません」
「はぁ?……ふざけんなよ……俺は何も聞いてないぞ」
「
「………へぇ」
現れた多数の手を付けたヴィラン、死柄木が黒霧の答えに面白そうにレキを見た。
「あの
「ええそうです。あの科学者も憑代を今、手に入れようとしていますが何分、イレギュラーが邪魔していましたが………今はどうやらいないようですね」
偶然だと言うように黒霧は言うが、これは罠だったとレキは思った。
置き手紙の内容から怪しい動きはイレギュラー、諸羽をレキから離すため。
───やられた
「しかし、どうしましょか死柄木。捕らえたとしてもいずれイレギュラーがやって来て憑代は取り返されます。かと言って、争いを好まない神を宿す彼女に、戦う力はありません」
そう、レキの個性”銃弾”とレキの能力なら普通のヒーローやヴィランに捕まることなどありえない。
しかし、彼女の身体に宿ろうとする神が制限をかけるのだ。
───戦うな、と
「実は先程、一人の生徒が逃げたようでしてね」
「あ?今なんて?」
「だから逃げられた、と」
「………はぁ、お前がワープの個性を持ってなかったら殺してたよ」
レキは取り敢えず安心した。
風が、いや、
しかし、すぐ近くにいる相澤はそろそろ危険のようだ。
「先生ッ!璃々さん!」
皆がバラバラとなってから時間はかなりたったのだろう。遠くからレキを呼ぶ声が聞こえ、そしてまずいと思った。
しかし、
「はぁ、これじゃあ援軍が来ちゃうじゃん……帰るか」
怠そうに、死柄木が言った言葉に驚く面々。だが、相手はヴィラン。
「帰る……?今カエルって────」
「ヒーローの卵達を殺して、そして、
次の瞬間、二つの叫びが聞こえた。
脳が剥き出しになっている怪物が二体。
片や巨大な肉体に隆起した筋肉が目立つ怪物。片や鱗に覆われた頑丈な怪物。
見ただけで分かる。
────勝てない、と
生徒達とレキは思った。しかし、レキは違った。
「本来ならヒーローの象徴とイレギュラーの
「今、何と言った」
────勝てない?否、コイツらには、諸羽を、彼が望んでいた化け物と言う奴らは
「!……これはこれは。無理やり神を宿させる手間が省け───」
「死柄木!」
『───消えろ』
グチャり、と乾いた空気がレキが発した彼女でない声と共にその音を伝えた。
「「「ッ!?」」」
生徒全員が息を飲んだ。
────目の前にいるのは誰だ?
風を纏い、先程、ヴィラン達を肉片に変えた少女は誰かと。
「……危なかった。しかし……厄介なことになりましたね」
「脳無は……両方無事か」
ヴィラン側に残ったのは黒霧の個性で避難した黒霧と死柄木。そして肉片になりながらも復元していく脳無達であった。
「な、なんだよ、あれ……。こ、個性なのか……?」
誰かが言った声に誰もがわからないと考える。
しかし、一人、知っていた。
「──あれは神が宿ってる」
「あ、相澤先生!」
よろよろと、先程、四人のヴィランを除いて消滅したことにより敵がいなくなった相澤が生徒達の元にやってくる。
緑谷が彼に肩を貸して相澤の言葉を待った。
「──詳しい話は後だ。とにかく、今の璃々は本来なら争いを嫌う神が宿っているが……憑代の璃々が力を求めていやがる」
「えーっと、つまり?」
「このままじゃ俺らも全滅させる程暴走する」
その結果は相手からすると望んだ結果だ。
元々、レキを捕らえるのが目的なのではない。
──あくまで平和の象徴、オールマイトの殺害のため
そのために、神の力を使おうとした。オールマイトを呼び寄せた。だから、、、
「もう大丈夫────」
やって来たヒーローは、、、
「私 が き────」
脳無二体と自身の生徒に殺され────
「殺させる、とでも?」
瞬間、風が吹いた。
レキが、神が扱う風すら捩じ伏せる風が。
平和の象徴の後ろから影の如く現れた翼がもたらした風で吹き飛ぶ脳無。しかし、その翼は一人の神、いや、少女に向かって飛び、、
「…………遅くなった」
『……諸羽、さん」
全てを切り裂いてやって来た
「…………オールマイト、少しだけ外道の相手を頼む」
「当たり前だよ芳村少年。………彼らは私の生徒に手を出したんだ」
「平和の象徴、オールマイト……イレギュラー、元敵の梟……」
「手加減は出来ない、よッ!!」
「……はぁ、やれ、脳無。平和の象徴を殺せ」
吹き飛んだ脳無の一体がオールマイトに向かって拳を振ってた。
そんな中、生徒達は唖然とする他なかった。
同じクラスメイトが危険な状態になった。
いきなり敵が増えたと思えばオールマイトが来た。
オールマイトが攻撃を受けようとした時、もう一人、フードを被り、剣で出来た翼を持つ誰かがやって来てクラスメイトを元に戻した。
「…………相澤さん、怪我は?」
「情けない姿見せちまったな。安心しろ、骨が何本も折れただけだ」
「…………それ、重症です」
「……俺のことより、璃々は大丈夫なのか?」
「…………ええ。完全に璃璃神に憑依されていませんでしたから。今は安心して寝ています」
皆が穏やかに眠るレキに安堵の息を吐くと、次に目の前の人物が何者なのか気になったが、
「芳村、くん?」
「…………どうした?緑谷」
フードを取った少年、諸羽は声をかけた緑谷を見る。
緑谷はここにいないはずの知り合いに驚き、他は脳無を吹き飛ばしたのが自分たちと近い歳の少年であったことに驚きを隠せないでいた。
「な、何で芳村くんがここに────」
「…………緑谷、話は後だ」
緑谷の言葉を中断させ、諸羽は手に一本の剣を出現させた。
諸羽の腕の中で眠っているレキを庇うようにして、
────キィーン
「…………ゴミ掃除を終えてから、話してやるよ」
殴ってきた脳無を剣で受け止めながら、鬼のような形相で敵を見ていた。
レキの説明は次に行います。
高評価をして下さった
とんかつデコボコさん、デュラントさん、遥FGさん、
memeさん、マーボー神父さん、祐ラスさん、よくるさん、かづさん、
ガンダーーームさん、吉太朗さん
ありがとうございます!
そして、新しい作品を投稿しています。
魔法科高校の劣等生の二次創作で『眠りし魂よ、現に顕現せよ』です。暇があれば見てください。
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約束された勝利の───
また新しい二次創作出しました。
暇があるなら読んで感想ください(切実)
ではぁ………(疲労)
流れるように剣で相手の拳をいなす。
本来ならそんなことは起こらない。何故なら相手は素手。普通に斬ればいいのだから。
しかし、諸羽にはそれが出来なかった、いや、しなかった。
「…………硬いなぁ」
無言でずかずかと殴ってくる脳無。刃にその拳をぶつけても切れることなく、下手したら吹き飛ばされるような筋力で攻撃を跳ね返される。
まさに攻防一体の相手だった。
「…………でも、脳無、だったか。あんたじゃ僕には勝てないよ」
剣の翼を出現させて左右から押しつぶすように脳無を挟む。
普通の人間ならある国の昔の処刑マシーンの如く身体に穴が空く。はずだが、強靭な肉体の敵には蚊が止まったかのような感覚のようだ。
「…………一旦、離れろ」
しかし、僅かに攻撃の時間を防御に回したことで隙ができた。それを逃す諸羽ではない。
振りほどかされた羽を後ろに羽ばたかせ、前に前身。相当な威力のケリに脳無は後ろに下がった。
「す、すげぇ………!」
そんな諸羽の様子を見ていた生徒達は、その光景に感嘆を漏らした。
諸羽が戦っている最中に聞いた、彼が自身らと同年代であるということ。
その彼が自分達が敵わない相手を凌駕しているのだ。
凄いと言う以外にある感情は
悔しさだけだ。
「「「…………」」」
三人、握りこぶしを作る生徒がいた。
「は、ははっ………凄いな、芳村くんは………」
───彼は凄い。自分が臆した相手に戦えるのだから
「…………チッ!!」
───そんなに強いならなンでこっちにこない……!!
「……………………」
───俺はあの怪物に戦えるのか……?
緑谷、爆豪、轟は戦闘から目を逸らさず、現実という壁を見ていた。
あの怪物に対等、いや、それ以上に渡り合える
「おい、緑谷、爆豪、轟。お前ら今、アイツの個性に嫉妬しなかったか?」
「「「…………」」」
その冷たい声に、三人は何も言えなくなった。
他の面々は戦闘を見るのに集中して気づいた様子はない。
「言っとくがアイツが強いのは個性だけじゃない。現に緑谷。お前なら分かるよな?アイツの本当の強さは」
「………!」
心当たり、ある。
彼の個性を使い、ヴィランを倒したのを緑谷は目の前で見ていた。
しかし、その時に見た剣は、素人目線でも”危険だ”という空気を持つ青の剣。しかし、今の剣はどうだろうか?
サビひとつないが、ただの剣であることに変わりない。
背中に生やした剣の翼も、本来の用途ではないだろうと三人は考察していた。
「あれは努力家だ。最初の方はその方向を間違えてたが、今はたった一人のためのヒーロー………いや、この呼び方じゃ嫌がるな。まぁ、騎士、とでも言おうか。そんな奴なんだよ」
────…………緑谷、ヒーローだったよ─────
以前、緑谷が諸羽に言われた言葉。
だけど、今の緑谷からは皮肉にしか聞こえない。
「───だからと言って、別にお前らを叱ってるわけじゃない。アイツは独学で学んだが、お前らは雄英にいるんだ。自分の個性磨いて、何れ奴に勝ってみろよ」
「それは有り得ません」
相澤の言葉に、一人の少女が反応した。
その声は戦闘に集中していた全員が視線を彼女に向けるほど心配されていた人物だ。
「だ、大丈夫ですの?レキさん」
「はい。ありがとうございました百さん」
起き上がった彼女、レキはふらつきながらも、耳郎と芦戸の肩を借りて立ち上がった。
「……璃々、お前は休んでろ。神を少しだが憑依させたんだ。体力がほぼねぇだろ」
「相澤先生には言われたくありません」
「「「どっちもどっちだよ!!」」」
クラスメイトにツッコまれたレキだったが、相澤と生徒全員に向けて伝える。
「それより、諸羽さんが負けるわけありません。その事を覚えていてください」
それは彼女が愛する彼を持ち上げたのではない。
正真正銘、彼に勝てる者はいないとレキは思っている。
───苦しみを
───努力を
全てを共有してきた数年があって、理解した彼の本当の強さを知るレキだからこその断言。
入試一位通過、璃々レキ
実質学年最強の彼女が最強だと言う相手だ。そんな相手───
「「「(超えてやる………!!)」」」
三人の瞳に映る光のある目に、レキは満足そうにして、次は眠ることなく、最後まで彼の戦いを見ようと視点を移した。
「………俺より先生じゃないの」
相澤の言葉を聞き取ったのは一人だけだった。
***
『………俺より先生じゃないの』
「…………セリフ全部レキに取られてる。ドンマイ、相澤さん」
ずば抜けた聴覚で聞き取ってしまった悲しい内容に内心苦笑いをする諸羽。
でも、今は戦闘の真っ最中。
「…………少しは大人しくして、よ!」
迫り来る拳をしゃがんで避け、その流れのまま足を崩させる。空中に浮いた巨体を翼で叩きつけ、脳無は壁に激突した。
これで時間は稼いだ。
「…………危ないっすよ」
「……!すまない、助かったよ芳村少年」
「…………気にしないでください」
手に持った剣を投げつけ、今まさにオールマイトの腹を殴ろうとしたもう一体の脳無の腕にそれが刺さる。
その脳無は一旦後ろに下がり、剣を抜いてコチラの出方を見計らっている。
その隙に生徒達を守るようにオールマイトと肩を並べながら、口を開く。
「……芳村少年は」
「…………はい?」
「……私が憎くないのかい?君を、”梟”を捕まえようとした私が」
オールマイトの言葉に意味がわからなかったが、しばらくしてその意味を理解する諸羽。
梟
それは諸羽が勝手にヴィランとされてからついた名であり、そして、梟とオールマイトは戦ったことがある。結果は───
「…………別に、捕まってもいませんからね。寧ろあの後から力、弱くなってませんか?」
「……君にはいつか私の秘密を教えた方が良さそうだね」
「…………じゃあ、遠足の後に出たゴミ拾いでもしましょうか」
「それはヒーローとして言っちゃいけないと思うな」
「…………ヒーローなんかじゃないですからね」
そう言いながら諸羽は個性を発動させる。
「…………『顕現せよ』───レキがキラキラした目で見てますんで、今回ばかりは英雄みたいにさせてもらいますよ」
「ヒーローも英雄も意味は一緒じゃないかい?」
「…………イメージが違いますよそれに────」
オールマイトが相手した脳無とは違って攻撃しか頭にない脳無はまたしても超人的なスピードで諸羽を殴りに来た。が、
────トマレ、ソノジカン
諸羽が出現させたのは四本の短剣だ。
それを空中に一列で縦に並べ、腕に四本の先端を当てて一気に投げる。四本は見事に脳無を囲うように投げられ、空中で止まった。
それは脳無も同じだ。
剣の理
諸羽の理想の剣を創ることが可能な個性。”四本の剣で囲った対象の動きを止める”という、オーダーメイドの剣まで可能だ。
故に、
「…………この剣は英雄の武器なんで」
────顕現せよ
現れたのは風であり、剣の刀身は見えていない。
しかし、強大なエネルギーを溜め込んだものだと、攻撃しかしてこなかった筋肉頭の脳無ですら、その危険度を認知した。
「ハッハッハ!では、私も全力、いや、それ以上で勝とう!」
二人して構えの体勢に入ると、動ける脳無がすぐに反応した。
───何もしなければ殺られる
しかし、
「Plus───
「
全力を出した二人の
────Ultraaaaaaaー!!!」
────
無意味だった。
膨大な光と強烈な風を生み出した現況二名は立っている中、敵対していた怪物の影は何処にもなかった。
「…………で、どうする?残党さん?」
「降参して欲しいところだね」
勿論、ヴィランの二人がそんなことをするはずない。
「………何だよ、全然情報違うじゃん。平和の象徴は弱ってなかったし、生徒は強い。梟に至っては無傷で────」
────ビュン!
「…………おい、僕はもう梟ではない。その名で呼ぶな」
諸羽が振るった一刀の刀。
その能力である斬撃の飛翔により、死柄木の頬に切込みが入った。
「……あー、もう。死ねばいいのに。いや、それじゃあだめだ。そうだ、俺が殺そう。殺してやるよ、梟、いや、イレギュラー」
「行きますよ死柄木。もう時期、学校の教師がやってきます。作戦は失敗です」
黒霧が個性を使って逃走するまで、彼は諸羽を見ていた。
殺意が籠った瞳で。
「…………どうすればあの目になるんだか」
『みんな!無事か!』
そこに来てやっと教師が到着したようだ。
オールマイトは何故か姿を消し、相澤は疲れが一気に来て倒れてしまった。
一年Aクラスの生徒達もそれぞれの想いを募らせながら、今回の騒動は終わりを迎えた。
完全な余談
尚、諸羽は欠席の理由の虚偽の申告がばれて叱られました。
一応、次は体育祭ですが、一話、話を付け加える予定です。
読んでくださり、ありがとうございます!
そして、新しく『眠りし魂、現に顕現せよ』という魔法科高校の劣等生の二次創作を書いたので是非読んでください。
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決断の日
忙しかったんです……。また書きますので冷めないで読んでください。
では!
後日談を語ろう。
結果的に諸羽の参戦は最小限に被害を抑え込むことになったが、本来なら全くもって関係のないクラスの生徒だ。
校長や数名の教師から感謝の言葉と注意を受けり、残りの案件───ヒーロー科への転科は保留となっている。
何も知らない教師陣からしてみれば、諸羽は才能の塊だ。
下手をしたら
しかし、その案を反対したのは誰でもない校長だった。
度々、職権を使って諸羽の様子を視察していた校長は学園生活に順応しているように見えて奥底で警戒心を高めている彼を目撃している。
だからこそ、今回の襲撃事件の対策として彼が出した提案を全てのんだ。
『……正気かい?これは一個人でどうにか出来る問題を既に超えている。国家の、警察やそれこそ君が信頼しているオールマイト達に───』
最初、彼が持ち出した書類を持ち出してきた時は目を疑った。
校長として、彼の処遇を知っており、そして強さも十分に理解している。
それでも、学生が行うような提案じゃない。
『…………校長先生。今回のヴィランとの一戦でハッキリしました。僕の相手はおそらく一年以内に本格的に動き出します。奴を止められるのはこの学校では僕と万全なレキしかいません』
だが、諸羽は知っていた。
弱体化しているオールマイトでは荷が重い、と。本来なら彼の強力を仰ごうとしたが、脳無相手の一撃、それは数年前に見た全力より遥かに劣っていた。
また、レキから収集した情報によると、十中八九、オールマイトと同じ個性を緑谷出久が発現していたそうだ。
だが、圧倒的力不足。
いや、この際は実力よりも数が欲しい。奴と戦うには一人では荷が重い。
大量に犠牲者が出るとレキは”風”から聞いたのだ。
それを除いても実力は最低限度欲しい。
尚、信頼できる人物でないと任せられないため人数が極僅かに絞られる。
待ったを許さない相手の動きを見る限り、早くに芽を摘まなければレキの身が危険だ。
そして何より、
『………自分はレキにこの身を差し出しました。たとえ所属している学校の命令だろうと、僕は
真っ暗な双眸に、その目を覗き込んだ校長の姿は映っていなかった。
教育者として駄目だと分かりながらも、根津校長は少しでもの協力と諸羽の願望の実行を約束して、静寂に包まれた夜の景色を黙って見ながら思考に耽るのだった。
***
雄英高校演習場襲撃事件から一日経った。
調査のために学校は臨時休校となり、レキは八百万を含めたヒーロー科女子に出かけないか誘われたが断りを言っていた。
そして今は、
「………終わった」
「ありがとうございます。諸羽さん」
「………問題ない。いつもの事だ。だが無意識とはいえ感情を高まらせないことだ」
「璃璃神は感情を好みませんからね」
この剣は諸羽の個性により作り出した人畜無害の強力な封印だ。勿論、レキの身に憑依する神に対しての、だ。
レキの謝罪を軽い注意ですませた諸羽は、二人で生活している居住空間でゆったりと身体を楽な姿勢にする。
休息の必要性は十分に理解している。厄介事は溜まる一方だが、思いの外身体にかかる負荷を少しでも和らげようと寝そべることにしたようだ。
特に家具も置いていない、物寂しさを感じる部屋は静寂に包まれる。
少しばかり目を閉じようとした時、諸羽の横にレキが体操座りで近づいてきた。
「………どうした」
「改めてお礼を言いたいので。いつもありがとうございます」
「………気にするな。大したことない」
目を閉じながら呟く諸羽。
彼の顔を見つめながら話すレキの表情は無表情ながらも、僅かに口元が動いていた。
数分とわたる心地よい沈黙が流れた後、諸羽は思い出したかのように口を開いた。
「………そう言えば。レキ、”風”の声が最近聞き取りにくい、なんてことは無いか?」
「?……いえ、とくに変わりませんが」
用途のわからない質問にレキは首を傾げる。
「何かあるんですか?」
「………昨日、僕は学校を休んで調査しに行っていた」
いつもより間のある声に、何処か重々しさが感じられる。
続く内容をレキは黙って聞いた。
「………僕の個性は【剣の理】。世界に記録された剣を自由自在に取り出せ、また僕のイメージを世界が記録して創造する。これは前に言ったな?」
「はい」
「………奴の研究所の廃墟に向かったんだが、資料として残されていた紙切れを見つけた」
一区切り。言葉を止めた諸羽は目を開けて天井を数秒眺めた後にレキと目を合わせた。
そして、事実を紛れもなく話した。
「………明らかに”個性”の範疇を凌駕している能力が存在するらしい。僕の【剣の理】はその瀬戸際。だけど、レキの【銃弾】はまだしも、神の憑依は正しくそれだ」
「……ですが、私の場合は人為的なものですよね。ヴィランが寄越した脳無なとがそれでは?」
「………いや、脳無はあくまで個性を複数詰め込まれただけだ。だが、人為的に、っていう部分だけなら当てはまるかもしれない」
神妙に語る諸羽は言葉を詰まらせることなく、断言させた。
「………奴の狙いは個性を超えた力の持ち主──”
簡単にまとめると、普通の人間では到底かなわない個性持ちすら凌駕する集団を集める。
世界征服を企んでいると言われれば納得してしまうほどの厄介事だったのだ。
「………確実にレキは重要人物だ。だから、今回は少し危険が及ぶ策を実行したい。許してく───」
「諸羽さん」
謝罪の言葉を述べる前に、レキが止めに入った。
真っ直ぐ見つめる宝石のような双眸が、諸羽には暖かく感じられた。
「諸羽さん。あなたが私を主人としたと同時に、私は諸羽さんのものです。今更何も言うことはありません。それに──」
───あなたが助けてくれることを信じています
諸羽とレキの関係は形式では主従関係。
主たるレキの手足となって守り抜いてきた諸羽だが、逆に全てを委ねられてもいる。
ミスは許さない。いや、しない。
だから、次で終止を打とう。
「………レキ、頼みがある」
「なんでしょうか」
彼女の運命を背負う決断を発する。
「………体育祭。目立つぞ」
聞く人によっては拍子抜けに思われる内容を、レキは意図を汲み取って頷いた。
全国放送される雄英の体育祭が間もなく、開始される。
設定が少しばかりごちゃごちゃになりましたが許してください、、、
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