妹紅がいっぱい! (PSβ)
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妹紅がいっぱい!

 

妹紅が5人いる。

不機嫌そうな表情の妹紅。

控え目な態度の妹紅。

照れている妹紅。

寂しそうな表情の妹紅。

そして、泣いている妹紅。

 

 

 

 

まずは、不機嫌そうな表情の妹紅の元へ行ってみた。

「誰?私今、すごく機嫌が悪いんだけど」

その妹紅は、私のことを知らなかった。

更に、話し方も違う。

それらの理由と、これが夢であるということから、彼女は昔の妹紅であると分かった。

いつも一緒にいる人物が自分を知らないというのは、妙な感覚だった。

何故機嫌が悪いのかを尋ねてみた。

「なんで初対面のあなたなんかに話す必要があるの?」

「私は先生をやっている。お前の力になれるかもしれないぞ」

それに、私にとっては初対面ではない。

そんなことは言えないのだが。

「...先生さんは、自分のことが嫌いになったことある?私はある。関係ない人を殺して、復讐にも失敗して...こんなに罪に塗れてるのに、死ぬことも出来ない。そんな自分に腹が立ってるの」

聞いたことがある。妹紅が不老不死になった時の話だ。

今でこそ受け入れているかもしれないが、この年の少女には受け入れ難いことだっただろう。

しかしそれは、長い年月をかけて受け入れなければならないことだ。

長い、永い年月が必要だ。私の出る幕ではない。

私に出来ることは...彼女の罪の意識を変える事、か?

「確かにそれは、罪かもしれない。なら、それは償わなければいけない。分かるか?罪と償いはセットなんだ」

「分かってる。だから私は、死のうとしたのに...」

「それは違う。死ぬのは償いなんかじゃない。そんなのはただの逃げだ。お前はただ、逃げ道がなくなっただけに過ぎない。前に進むことは出来るはずだ。幸いにもお前には、時間はたっぷりあるんだろう?」

「...そうか...そうだよね。ありがとう、先生さん」

そう言うと彼女は、少し笑みを浮かべて、消えた。

 

 

 

 

 

あと4人の妹紅がいる。

 

 

 

 

次に、控えめな態度の妹紅の元へ行ってみた。

「や、やあ...慧音、だったっけ?」

この妹紅には見覚えがある。

まだ私達が会って間もない頃だ。

「覚えていてくれて嬉しいよ。元気にしてるか?」

そう、人間から距離を置いて暮らしていた妹紅を、私が見つけたんだ。

今とは比べ物にならないくらい、私に気を使っている。

というよりも、私とも距離を置こうとしているようだった。

「なあ...慧音はどうして、私なんかの所に来るんだ?」

あぁ、確かにこんなことを聞かれたような気がする。

なんて答えたんだっけ...?

「...妹紅が心配だから、って理由じゃダメか?」

思い出せなくてそう答えたが、確か前もこう答えたような気がする。

「でも私は、人間の道から外れてるんだ!だから---」

「私も、人間の道から外れてる」

「...え?」

妹紅が固まる。

まるでそんなこと考えもしていなかったのだろう。

不思議なことに、ここからは考えるよりも先に言葉が出た。

「私は、半分人間で半分妖怪なんだ。人間として良い扱いも悪い扱いも受けたし、妖怪として良い扱いも悪い扱いも受けた。だからって、すべてを知っている訳じゃないが...それでも、分かることはある。妹紅の...寂しさとか。私に出来ることなら、その寂しさを少しでも埋めたいんだ」

...一気に喋りすぎただろうか。

と、考える間もなく妹紅が口を開く。

「寂しい、か...一人でいるときはそんなこと気づかなかった。それが当たり前だと思ってた。それが私の罰なんだと、勝手に思ってた。もし、もしよければ...また、来てくれ。何度でも」

妹紅は少し心を開き、そして消えた。

 

 

 

 

残っているのはあと3人

 

 

 

 

「あっ、慧音!おかえり!」

3人目の妹紅は、私が一番よく知る妹紅だった。

「どうしたんだ?そんな嬉しそうに」

嬉しそうというか、照れているようにも見える。

「ふふふ...えいっ!」

いきなり抱き着いてきた。

「うわっ!?」

妹紅にしては珍しい行動である。

「私は慧音のことが好きだ!どこの誰よりも大好きだ!」

私のお腹に顔を押し付けながら叫んだ。

「妹紅...ありがとう」

「慧音は...私のこと好き?」

「ああ」

「どこの誰よりも?」

「ああ」

「慧音...」

妹紅は、一際強く私を抱きしめてきた。

私も抱き返す。

「...ずっと、一緒にいようね」

その言葉に返事をする前に、妹紅は消えてしまった。

 

 

 

 

残り2人。

 

 

 

 

次の妹紅は、寂しげな表情をしていた。

「なぁ、慧音。ちょっといいか?」

何やら大事な話のようだ。

「もしも...もしもの話だぞ?もしも慧音が...死んでしまったとき。その時、私はどうなるんだろう。...怖いんだ。どうすればいいのか分からなくて」

...

私も、考えたことがある。

もちろん解決策が見つかるわけもないし、私がどうにかできるものでもなかった。

「...大丈夫。きっと、いつか私みたいな奴が見つかるさ。だって、探すための時間はいくらでもあるだろう?」

「...そんなの...」

ああ、何も解決してない。

けれど、私にはそれ以上のことは言えなかった。

「安心してくれ。私が生きている間、私は妹紅を守ると誓うよ」

「...」

妹紅は無言で私を抱きしめ、そして消えた。

 

 

 

 

最後の1人は、泣いていた。

両手を地面に叩きつけて膝を付き、大声で泣いていた。

「うわああああああああああああああああああああ!!!けいねええええええええええええええ!!!」

...なんとなく、予想は付いていた。

この妹紅達は、時系列順に並んでいた。

そして、直前の妹紅との会話内容...

つまり、この妹紅は...いや、この頃の私は...

「私はっ...!私はどうすればっ...!!」

妹紅は両手で顔を覆う。

私は、声を出すことが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢から覚める。

不思議なことに、夢の内容はすべて覚えていた。

覚えていたくないことまで、鮮明に。

起き上がろうとして、ふと気が付く。

...そうか。そういうことだったのか。

あれは、けじめだ。私の、妹紅に対するけじめ。

...ありがとう。

心の中で呟く。

結局私は起き上がれずに、再び目を閉じた。

 

 

 

 

しばらくすると、また妹紅の声が聞こえてきた。

「うわああああああああああああああああああああ!!!けいねええええええええええええええ!!!」

でも...

「私はっ...!私はどうすればっ...!!」

私は、声を出すことも出来なかった。

 

 

 

 

 



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