ウチのグランサイファー (ゆまる)
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おはようルリア
皆さん、こんにちは!私、ルリアっていいます。
私、こう見えてなんと騎空士なんです!
今乗ってるこのグランサイファーで、空の果てイスタルシアに向かうのが目標です。最初はこの騎空団も数人だったんですけど、今ではすごくたくさんの人たちが仲間になってくれたんですよ。
今日は、そんなグランサイファーの朝の風景を皆さんにちょっとお見せしちゃいます。
☆
「おはようカタリナ!」
「ああ、おはようルリア」
この人はカタリナ!私を外の世界に連れ出してくれた、私の一番大切な人の一人です!
「ビィさんもおはようございます!」
「ダ……ずげ……」
カタリナの腕の中にいるのがビィさんです!グランが小さい頃から一緒にいるらしい、不思議なドラゴンさん。今日も体からメギメギ、みたいな変な音を立ててます。不思議です。
「今日の朝ごはんは何かな〜」
「はは、ルリアはいつもご飯のことばかりだな」
「むっ、そんなことないもん」
「や"め、あ"あ"あ"あ"あ"」
全く、失礼しちゃいます!私だって、こう見えても色々考えてるんです。今日は誰とお話しようかなとか、お昼ご飯は何かなとか、ビィさんの体の赤色がいつもより濃い気がするとか、グランはもう起きてるかなとか、晩御飯は何かなとか。
「それじゃあ私はちょっと寄るところがあるから、また後で会おうルリア」
「うん、またねカタリナ!」
「あ"っ…………」
☆
ここは食堂です。
ご飯は基本的にここで皆さんと一緒に食べます。
人が多くてちょっとだけ狭いですけど、この狭さが私は大好きです!
もう食べ始めてる人もいるみたいです。
私も空いてる席に座って、ナプキンを首に回します。
「ルリぴっぴご着席ィ!」
「料理の貯蓄は万全でっすか?」
「フ、余らせてしまっても別にいいのでしょう?」
今日のご飯を作ってくれてるのは、ローアインさん、エルセムさん、トモイさん、エルメラウラさん、レ・フィーエさん。
毎日、料理を作れる人が交代でご飯を作ってくれてるんです!
はわ、今日のご飯もおいしそう〜……!
私の前に、お皿に乗ったお料理がたくさん、テーブルいっぱいに置かれました。全部出来立てみたいで、湯気がもくもく立ってます。お肉の香ばしい匂いがお鼻に届いて、うぅー、もう我慢できません!
「いただきまーす!」
パチンと手を合わせて、口を開けました。
「ヒュゴゥ!……次、いただけますか?」
あ、美味しすぎて速く食べすぎちゃいました……。
美味しいものって美味しいほどに一瞬で消えちゃいますね……。
確か、ショギョームジョーって言うんでしたっけ。
「……今の、見えたか?」
「スープの残像なら、なんとか……」
「恐ろしく早い食事……某でなければ見逃しているな……」
皆さんがこっちを見ています……。やっぱりちょっと、はしたなかったでしょうか。カタリナにも、もう少し慎みを持ちなさいって、よく言われてます。
もう少しゆっくり食べることにします。急がなくても、ご飯は逃げませんもんね。
次は30%ほど速度を落としましょうか。
「ヤベー、ルリぴっぴマジパネーションだわ。こっちも腕鳴らしていく的な?」
「ビキビキビッキ、ビッキビキ」
「突然Doしたよエルっち」
「腕鳴らすSEっしょ」
「あ〜、なるりょ」
ローアインさんたちはいつも仲良しで、羨ましいです。半分くらい何を言ってるかわからないんですけど……。今度、教えてもらいに行きましょう。
あ、考え事をしながら食べてたら、またご飯が消えちゃいました。
☆
それから10回くらいおかわりして、お腹いっぱいになって食堂を出ました。出るときローアインさんたちがぐったりしているのが見えました。ごめんなさいって気分になってしまいます。お昼ご飯はちょっと減らしましょう。お皿一枚分くらい。
そういえば、グランがいません。
いつもこの時間には朝ごはんを食べにきてるはずなんですけど……。
廊下を歩いていると、ゼタさんが前からやってきました。
ゼタさんは『組織』っていうものに所属してて、すごく強くてすごく綺麗な女性です。憧れちゃいます。
少し眠そうなので、今起きたばかりでしょうか。ゼタさん、朝弱いですもんね。
「あ、おはようございますゼタさん!グランはどこか知りませんか?」
「ああ、団長ならさっきとんでもない形相のパーシヴァルに追いかけられてたわよ。何を思ったか知らないけど、突然『ローエングリン!』って叫びながらカンチョーしたから」
「カンチョー……ってあの、指をこうして、お尻に突き刺す、あのカンチョーですか?」
「そのカンチョーよ」
はわわ、そんなことしたらパーシヴァルさんのお尻が大変なことになってしまいます……。
グランは時々……というか暇な時はほとんど、よく意味がわからない行動をします。
昨日はイシュミールさんのお部屋で暑さ我慢大会を開いてました。
そういえば誰が勝ったんでしょう?ウェルダーさんが倒れちゃったのは聞いたんですが……。
「ありがとうございます、ちょっと探してみますね」
「んー。あ、アイツに会ったら、ベアのとこに行けって伝えてくれる?また新作のお菓子作ったみたいでさ」
「お菓子……。わかりました!」
最近ベアトリクスさんはお菓子作りに凝っているそうです。
ベアトリクスさんの作るお菓子は物凄く甘いですけど、すっごく美味しいんです!
私も貰えないか、頼んでみましょう!
☆
「あ、リーシャさん!とスカルさん!おはようございます!何をしてるんですか?」
少し歩くと、リーシャさんに首を掴まれているスカルさんがいました。
あ、リーシャさんは秩序の騎空団の人なんですけど、訳あって今はこの騎空団に所属してます。すごくキッチリしていて、曲がったことは許さない、正義の人です!
スカルさんは元オダヅモッキーの一員で、いつも自由を求めてます。いつかビッグな漢?になるそうです。
「ルリアさん。私の秩序センサーに反応があったので、スカルさんに今ごうも……聞き取りをしているところです」
ごうも?何を言おうとしたんでしょうか?
「お、オレ様は何も言わねェぞ!!アニキとどっちが自由なこと出来るか勝負なんてしてねェし、パーシヴァルへのカンチョー以上にすげぇことを探してなんかいねェ!!」
「え、っと……グランとどっちが悪いこと出来るか勝負していて、パーシヴァルさんへのカンチョーより凄いことを探してるんですか?」
「んなっ!?なんでそれが……!エスパーかよオマエ!」
わ、私エスパーだったんでしょうか?スカルさんの考えていることが全部わかってしまいました。
「全部自分で自白してましたよ。ちなみにどんなことをしようと思っていたんですか?」
リーシャさんに聞かれると、スカルさんはニヤリと笑って少し震え始めました。
「ハ、聞いてションベンちびんなよォ!?男連中のパンツの中に、マ、マツヴァガニを仕込むんだ……へ、へへ……考えただけで冷や汗が止まらねェぜ……」
わぁ、マツヴァガニのハサミに挟まれたらとても痛そうです。あれ?でもなんでパンツの中なんでしょう……?
「んー……
「ノォォォォォ!?」
リーシャさんがスカルさんの首根っこを掴んだまま、どこかへと連れていこうとします。ブルブル震えるスカルさんを見て、ちょっとかわいそうになりました。
「ま、待ってください!スカルさんはまだ何もしてませんし、許してあげてもいいんじゃないでしょうか?」
「ガキ……いや、ルリアのアネキ……!」
「……そうですね、まだ未遂ですし酌量の余地はあります。では、秩序室一時間で手を打ちましょう」
「ノォォォォォォォォォォ!?」
「良かったですねスカルさん!」
秩序室っていうのが何なのかわかりませんけど、とにかくスカルさんへの罰は緩くなったみたいです。
「いやだァ!!あの部屋だけは、いやだァァァァ!!」
「さ、行きましょうスカルさん。短時間ですから、みっちりと
リーシャさんはとてもステキな笑顔でスカルさんを廊下の奥へ連れていきました。楽しいお部屋なんでしょうか?
☆
更に進んでいくと……えっ!?血の跡!?それに誰か倒れてます!大変!
「大丈夫ですか!?」
「ええ……私は……大丈夫……むしろ滾ってる……何かが……」
「なんだルナールさんでしたか。おはようございます」
じゃあこの血もルナールさんのものですね。誰か怪我したのかと思ってびっくりしちゃいました。ルナールさんは、男の人が一緒にいるのをよく見てて、何かあるとすぐに血を出しちゃうんです。多分今回もそんな感じです。
「ふぅ、ふぅ、とんでもないものを見てしまったの……。団長さんが、己の屹立した
ルナールさんは顔を真っ赤にすると、顔の色んな穴からたくさんの血を出して仰向けに倒れてしまいました。さすがにちょっと血を出しすぎなので、誰かに助けてもらったほうがいいかもしれません。
「おや、ルリアお嬢様。本日も麗しいお姿でその青い髪が煌びやかでいてその可愛らしい瞳や慎ましいお胸も本当に最高でふひひひひ」
「あ、クラウディアさん、おはようございます。ルナールさんを医務室まで運んでいただけますか?」
このメイドさんはクラウディアさんです。私に会うたびに私のことを見て笑ってるんですが、私の顔ってそんなに面白いでしょうか……?
「ふひ……ああ、またルナールお嬢様の例の発作でございますか。今回はいつもより大量ですね。承知しました、お運びさせていただきます」
クラウディアさんはお辞儀をすると、ルナールさんを片手で持ち上げて肩に乗せていきました。すごい力持ちです。私も鍛えたら、カタリナやグランを片手で持ち上げたり出来るでしょうか?今度ガンダゴウザさんたちと一緒にしゅぎょーしてみます!
☆
あれ?どこからか剣がぶつかり合う音が聴こえてきます。
もしかして、グランとパーシヴァルさんでしょうか?
「そこをどけ駄犬!奴には一度本気で灸を据えねば気が済まない!!」
「ま、まーまーそこまで怒るこたないじゃんパーさん。カンチョーの一回や二回さ」
あ、あの赤い鎧は、パーシヴァルさんです!パーシヴァルさんは素敵な国を造ることを目標にしてる、凄い人です。
もう一人は……ヴェインさんですね。白竜騎士団の副団長さんです。ランスロットさんやパーシヴァルさんと仲が良くて、あと……料理がすごく上手です!あ、少しお腹が空いてきました。
剣を振るうパーシヴァルさんをヴェインさんが槍で止めているみたいです。喧嘩ではなさそうなので、ヴェインさんがパーシヴァルさんを宥めているって感じでしょうか。
「貴様が奴を庇う義理立てはないだろう!」
「いやぁ、今回はそういうわけにもいかねぇんだパーさん……。だって俺はグランに……晩御飯の唐揚げ貰う約束したからな」
「安いな貴様!!俺のほうの唐揚げもやるからどけ!!」
「え、ホントかパーさん!デザートのイチゴケーキもか!?」
「イチゴケーキはやらん!!」
唐揚げ……私も欲しいです。パーシヴァルさんを手伝ったら私も貰えるでしょうか……。よし、今回の件はグランが悪いみたいだし、グランを捕まえる手伝いをしちゃいます!
「パーシヴァルさん、唐揚げをください!!」
「な、なんだいきなり」
間違えました、唐揚げ欲しさが前に出すぎてしまいました……。
「えっとですね、私もグランを捕まえるお手伝いをするので、唐揚げを貰えませんか?」
「ほう……。いいだろう、ならばヴェインとルリア、お前たちでグランを見つけてこい。結果を残したものには報酬をくれてやる」
「よっしゃあ!ルリア、勝負だぁ!」
「は、はいっ!負けませんよヴェインさん!」
ヴェインさんと一緒に駆け出します。
ほんとは船内であんまり走っちゃいけないんですけど、唐揚げが懸かっているんです!ごめんなさい!
ヴェインさんは目指す場所もなく走り回るみたいですけど、多分本気で隠れたグランはそんなことじゃ見つかりません。
でも、私にはひさくがあるんです!
ちょ、ちょっとズルイかもしれませんけど……。
でも、唐揚げが!!唐揚げのためなんです!!
☆
「というわけでアルルメイヤさん、グランはどこにいるか教えて貰えませんか?」
私がやってきたのはアルルメイヤさんの部屋。
アルルメイヤさんは凄い占い師なので、誰かの居場所もすぐにわかってしまいます。きっとグランの居場所も一発です!
「ふむ……どうやら食堂にいるみたいだね。朝ごはんは食べ損ねたくないようだ。ドラフの団員たちの陰でこっそりご飯を食べているようだよ」
「わぁ、ありがとうございます!助かりました!アルルメイヤさんにも晩ご飯の唐揚げ一個あげますね!」
やっぱりアルルメイヤさんは凄いです!一瞬でグランの場所がわかっちゃいました!
「いやいや、礼には及ばない……。うん、ホント礼には及ばないというか、申し訳ないというか」
いつもハッキリ物を言うアルルメイヤさんがなんだか歯切れが悪いです。でも今は唐揚げ……じゃなくて、グランが優先です!ヴェインさんに先に見つけられちゃったら唐揚げも貰えなくなっちゃいます!アルルメイヤさんにお礼を言って、食堂に急ぎます!
★
「……行ったよ、グラン」
ルリアが私の部屋を慌ただしく出て行ってから十数秒して、ベッドの陰に声をかける。そこから、グランがひょこっと顔を出した。
「……パーシヴァルめ、ルリアを買収したか。卑怯な手を使うじゃないか」
「いや、君が言えたことじゃないと思う。私も言えたことじゃないけれど」
『お菓子あげるから匿ってくれ』なんて買収、するほうもするほうだが、されるほうもされるほうだ。なのにそんな馬鹿らしい取り引きに応じた理由?それはね……。
「さ、お茶を入れたよ。昼頃までは誰も来ないし、お菓子をつまみながら話でもしようじゃないか、グラン」
この状況も、悪くないからさ。
★
「チッ、見つからなかったか……」
「いやー、船の中五周はしたんだけどなー。誰かのとこに匿われてんのかな」
「はうう、ごめんなさいパーシヴァルさん……」
食堂にグランはいませんでした。それからしばらく探したんですけど、結局見つからないまま……。唐揚げは、貰えません……。
「まぁいい。お前たちは十分尽くしてくれた。俺の唐揚げは二人で分けるといい」
「えっ、いいのか?」
「でもパーシヴァルさん、私たち、結局グランを見つけては……」
「俺は『結果を残せ』と言ったんだ。駄犬は犬らしく走り回り、船内の廊下にグランがいないと証明した。ルリアはアルルメイヤの予言を聞き、食堂へと向かったがそこにグランはいなかった。そしてこの二つの情報を合わせると、見えてくるものがある」
☆
「そこで俺は言ってやったんだ。このチョビヒゲ野郎!おでんを口に突っ込むぞ!ってな」
「フフフ、本当に君と話していると退屈しな…………グラン、申し訳ない。
ガチャリ。
パーシヴァルさんが、ノックもせずにアルルメイヤさんの部屋のドアを開けました。そこには、椅子に座ったアルルメイヤさんと、棒状のお菓子を咥えたグラン。
「あーっ!グラン!」
「こんなとこにいたのかー!」
「さて、もう逃がさんぞ。貴様には、人の上に立つものとしての心構えというものを嫌と言うほど教えてやろう」
パーシヴァルさんが剣を構えて、不敵な笑みを浮かべました。
グランは少し目を泳がせた後、私と目が合って。
「あ、ルリア。おはよう」
「うん、おはよう!」
その後グランは窓から飛び出して、逃げ出してしまいました。
結局その日はパーシヴァルさんとグランはずっと鬼ごっこしていたみたいです。
どうでしたか、私の騎空団!毎日賑やかで、とても楽しいところです。
私、この騎空団が、だーいすき、です!えへ。
あ、唐揚げは美味しかったです!
登場キャラ紹介
ルリア
ぐらぶるっ!の被害者の一人。一人称の視点が意外と難しい。はわわ、とかはうう、とか文字に起こすと「何やってんだろ自分……」って虚無感を得られるぞ。
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お料理カタリナ
「ひっ、いやだ……!頼む!助けてくれぇ!!まだ、まだ死にたくないぃ!!」
椅子に縛られ涙を流しながら絶叫する男たちの声を無視して、ゴポゴポと煮え立つ
「いやいや、ただの味見じゃないか。今回のは自信作らしいし、きっと一口でほっぺたが落ちるぞ」
「それ物理的な意味で!!頰が溶け落ちるって意味だろ!!」
「大丈夫大丈夫、ほら、ローアインはまだギリギリなんとか生きてるっぽいし」
「生死の境を彷徨うのはどう考えても大丈夫じゃないっしょ!!」
「無理無理無理!ホントッマジめに無理!」
「んー……じゃあ、俺が先に一口食べてみるか。それで大丈夫だったら、お前らも食ってくれよ?」
「えっ?いやいやいや、だんちょ、やめといたほうがいいって!」
「つーか、誰も食わなきゃいいだけの話っ……」
ぱくっ。
「…………えっ、マジで食った今?ジマで?」
「いや早く吐き出したほうがいいッスよだんちょ、手遅れになる前に!」
「…………うん、大丈夫だ。なんていうか、ヨーグルトみたいな味だ」
「……はい?いや、いやいやありえないっしょこんな見た目のヨーグルト」
「疑うなら食べてみろよ、ほれ」
二人は顔を見合わせ、疑いつつも渋々、同時にその差し出されたスプーンを口に入れた。
「こぷっ」「くかっ」
口に入れた瞬間、二人の目がぐりんと回り泡を吹いてガクリと首を落とした。
「まぁ俺が食べたのは色だけ変えた普通のヨーグルトだからな。そりゃヨーグルトの味がするよ、うん」
ビクンビクンと痙攣する三人を見下ろし、陰に隠したヨーグルトをぱくぱくと食べながら、グランは悪びれもなく言い放った。
☆
「というわけで、カタリナの料理音痴を治したいと思う」
あたしのいる騎空団の団長、グランがいきなり私のところにきて淡々と当時の状況を説明してきたんだけど、意味がわからない。無駄に上手い語りと声真似のせいでありありと情景が浮かんできたけど、その状況の意味がわからない。
「……えっ、どういうわけで?あたしにはグランがローアインたちを毒殺したことしかわからなかったんだけど」
「おいおい、最初から説明したほうがいいか?まったく、ちゃんと聞いてくれよな」
ふぅーやれやれ、と肩をすくめるグランに対して思わず手が出そうになるけど、我慢。これでいちいち殴ってたらキリがないもの。
「あたしの頭が悪いみたいな言い方は死ぬほど納得いかないけど、うん、もう一回説明してみて」
「まず俺はある時思いました。カタリナの本気の料理ってどんな威力なんだろうと」
「はいそこ。まず前提がおかしいわよね。料理と威力って単語は普通結びつかないはずよね」
「そこで俺はカタリナに頼みました。カタリナが本気で作った料理が食べたい(奴らがいる)んだと」
「はいそこ。カッコつけて言うな。最初からローアインたち犠牲にする気満々じゃない」
「すると翌日、カタリナがにこにこ笑顔で冒涜的なナニカを持ってきたから、一人でじっくり食べたいって言って部屋に持ち帰った後、ローアインたちを呼び出した。んで、カタリナの手料理が食いたいってあいつらが言うもんだから、仕方なく分けてやって……」
「死体が三つ生まれたわけね。計画的犯行ね。やっぱりグランって頭どうかしてると思う」
「俺は涙を流しながら決意した。もうこれ以上、悲しい犠牲者を生まないためにも……カタリナの料理を、上手くするべきだと。料理教室を開くべきだと」
「なんで被害者面してるのかわからないんだけど……まぁ、カタリナの料理をどうにかするのは賛成。たまにこっそり厨房に潜り込んで、晩御飯に一品紛れ込ませるんだもん。だいたいは色と匂いと形がおかしいから気づけるけど」
多分味もおかしい。一度気づかずに食べたフェザーが、しばらく「いや、拳とか何の意味もないんで……そんなものじゃ何も分かり合えない」とか言い始めたし。二時間後には元に戻ってたけど。
「それでイオ、お前にはその料理教室でカタリナの監督役を任せたい。カタリナが変なものを入れたりしそうになったら止める係だ」
ビシィッとあたしを指差すグランに対して、露骨に嫌そうな顔をしてしまう。
「え"っ、なんであたしなの……。料理上手い人に見てもらえばいいじゃない」
「……立派なレディってさ、誰かを教えたり導いたりするのも上手いと思わないか?カタリナに料理を教えることで、レディに一歩、いや二歩三歩近づけると思うぞ」
「うっ、たしかにロゼッタとか、教えるのめちゃくちゃ上手い……」
「あんまり上手くてもカタリナの参考にならないしな。ほら、料理に関しては、技量的にカタリナよりもイオのほうがお姉さんだ。色々教えてやったらどうだ?」
「お姉、さん………………しょ、しょうがないわねー!!引き受けてあげるわ!その代わり、カタリナの料理がちゃんと上手くなったらご褒美ちょうだいね!」
「はっはっはっ、もちろんだ。ちょっろ」
「いまなんか言った?」
「いや?」
☆
「はい、それではお料理教室を始めようと思います」
「「「はーい!」」」
そんなわけで、グランの号令ですぐに人が集められた。
先生役はバウタオーダさんとレ・フィーエ。
料理も教えることも上手い、無難なところね。
「えへへ、ヤイアね、チャーハンのほかにもお料理できるようになりたいんだ」
「自分で料理をすれば、美味しいものがたくさん食べられると聞いた」
「ごめんねグラフォス、お料理に砂が入るといけないからちょっと向こうに……」
「みんなとお料理、楽しみなのー!」
「皆さん、頑張りましょうね!」
「ま、まぁ、将来のために少しは料理出来ないといけないかなーって、別に深い意味はないんだけどね」
ヤイア、アーミラ、サラ、リリィ、ルリア、クラリス。こっちも、だいたいはほのぼのしたメンツね。うん、普通だったら、楽しいお料理教室に、なるはずだったのにね……。
「フフ、腕が鳴るな」
何故か自信満々でエプロンをつけているカタリナ。鳴らさないでお願い。
他の子たちに被害がいかないように見張ってないと……。
「じゃあ、ペアになってもらって料理を作っていただきますわね。ペアはこっちで割り振りますわ。ヤイアさんとサラさん、アーミラさんとルリアさん、リリィさんとクラリスさん……イオさんとカタリナさん」
あぁ、団長の根回しが済んでたみたい。一人で相手しろってことね……。他の人へ気を使わずにすんで良かったと考えましょ、うん。
一応助けを求めるようにレ・フィーエを見つめてみたけどサッと目を逸らされた。うん、そうだよね、料理出来る組はみんなカタリナの腕知ってるもんね。でもちょっと無慈悲すぎじゃない?
「ではまず、野菜を切っていきましょうか。このように皮を切っていってください。包丁に慣れていない人は私が横でお教えします」
野菜を切るだけね。良かった、とりあえずこれならカタリナも暴走することはないよね。
「待ってカタリナ、それは何?」
「マンドラゴラだが?いけなかっただろうか」
いけないっていうか!!それ魔物!!せめて!食材を!!プルプル震えてるじゃないその子!!
「今日は用意されてる食材使ってねカタリナ!!ほら、先生の言う通りにね!?」
「ふむ……。仕方ないか。ではこの人参から」
なんでそんな渋々折れてやったみたいな感じなの……?
一瞬私が間違ってるのかなとか錯覚しちゃう。
「ほっ、と」
「待ってカタリナ!包丁使えって言われたでしょ!!剣で切らないで!」
「しかしこのほうが切りやすくてだな……」
「危ないし、まな板まで切れちゃってるから!!大人しくこっち使って!」
なんで魔物倒すみたいに、全力で剣を振り下ろしてるのよ……。ただ野菜を切るだけでこれって、もう先が思いやら『ダンッ!!』れる……?
「え、待ってカタリナ。包丁でもまな板両断したの?」
どれだけ力込めてるの?ゴリラなの?
「む、このまな板、脆いな……」
そしてどこまで自分の非を認めないの?
どうしようグラン、もう私心折れそう。
☆
それからも私は。
「待ってカタリナ!!卵っていうのは鶏の卵のことであってサラマンダーの卵じゃない!!」
カタリナの奇行を止めに止めて。
「待ってカタリナ!!強火で煮込むというのはコンロの火を強めるってだけで、イフリートに頼むほどじゃないの!!」
他のペアがどんどんとまともな料理を作り上げていくなか。
「待ってカタリナ!!鍋を変形させるほどかき混ぜなくてもいいの!!優しく!!もう中身掬うことも出来ない形になってる!!」
私は心も体もボロボロになった。
「待っカタ!!!!」
☆
「よし、あとはこれで3分ほど煮込めば完成だな。あとイオ、あまり料理中に大声を出すものじゃないぞ。唾が入ってしまうだろう」
「…………もうツっこむ気力もないわ」
それでも、やっと終わる。この苦行も、これで終わりだ。
ほら、鍋から良い匂いが……。
……良い、匂いじゃ、ないんだけど。
カポッと鍋の蓋を開けると、そこにはゴポゴポと煮立つ、変色した
「…………カタリナ、もしかして、何か、入れた?」
「ん?ああ、隠し味に昨日の私が作ったシチューを少しだけな。なに、元のシチューの味を殺しはしないさ。引き立てあって、より良い風味になるというのが私の見立てで……」
ドサッ。
「イオさんが倒れましたわー!!」
「許してください、不甲斐ない私を……!!」
……もう無理。
☆
何とか復活したあたしは、グランの部屋へと向かった。
一言言ってやらないと気がすまないんだもん!!
「グラン!!」
「おおイオ……。カタリナの料理はどうなった?」
グランがのっそりとした動きで部屋から出てきた。……って。
「な、なによ。顔真っ青……っていうかげっそりじゃない。大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫大丈夫……。ヨーグルトみたいなもんだから」
「?……と、とにかく、カタリナの料理を治すのは無理だったわ」
「そうか……。いや、よく頑張ってくれた。今度ご褒美に高い高いしてやろう」
「いや、いらない。ていうかあたし高い高いで喜ぶと思われてたの?すごく心外なんだけど……。はぁ、調子悪いなら今日は責めないでおく。お水取ってきてあげるから、寝てなさいよ」
「ああ、助かる……」
グランを部屋に戻し、ちょっと急ぎ足で食堂のほうへ向かう。
朝は全然そんな雰囲気なかったのに、どうしたんだろうグラン……。
すると廊下の向こうから向こうからカタリナがやってきた。
「ああ、イオ!具合は大丈夫か?」
「ウンモウダイジョウブ。キニシナイデ」
カタリナはあくまであたしが突然倒れたのは体調不良のせいだと思ってる。もうカタリナの料理には関わりたくないから、勘違いさせたままでいいや……。
「そうか。あ、グランは部屋にいるか?」
「うん、いたわよ。ちょっと調子悪そうだったけど」
「何、そうなのか……。様子を見てこよう」
カタリナはそう言ってグランの部屋のほうへ歩いて行った。
……なんだろう、少しだけど、カタリナの足取りが軽いように見える。
コッソリ廊下の角から、カタリナの様子を窺ってみる。
カタリナはちょいちょいと髪を弄ってからグランの部屋の扉をノックした。
「やぁグラン。昨日の料理の感想を聞きたくてな……と、本当に随分顔色が悪いな……」
む、ここからだと、グランがいつもより声が小さい上に部屋の外に出てないから、グランの声が聞こえない……。
カタリナの反応でわかるかな?
カタリナは少し微笑んでから、ちょっとだけ顔を俯かせてる。
「…………なぁ、もしかして、原因は私の料理か?」
えっ!?あのカタリナが自分の料理がおかしいことに気付いた!?やっと!!?
「……もしかしたら、傷んだ食材が入っていたのかもしれない。私の確認不足だ。本当にすまない」
違う、謝るべきところはそこじゃない、そこじゃないのカタリナ。
傷んでるとかそういうレベルじゃないの。貴女が傷めてるの。致命傷を与えてるの。
「……本当か?無理はしなくていいんだぞ?……そうか、それはすまないな。……フフ、まったく君というやつは……」
そこから二言三言交わした後、カタリナが何か……容器?みたいなのを受け取ったみたい。
「あ、ああ、どうだった……?む、言ってくれるじゃないか。……フ、ああわかった。それでは。安静にするんだぞ」
カタリナは扉を閉めると、嬉しそうな顔でそこから去っていった。
……グランが体調悪い理由、わかっちゃった。
多分、カタリナの料理、全部、食べたんだ。
「……変なとこキッチリしてるんだから」
「はいお水」
「……さんきゅぅ」
ま、自業自得だけど、今回はちょっとだけ優しくしてあげよっかな、なんて。
登場キャラ紹介
カタリナ
るっ!の被害者の一人。その目はビィくんを見つめるため。その声は「ビィくぅぅぅん!!」を奏でるため。その手はビィくんを愛でるためにある。ビィくんどこにやったって?勘のいいガキは嫌いだよ。
※追記
料理シーンにて、魔物だからダメというような描写がされましたが、
ビストロ・フェードラッヘにて普通に魔物が料理されてました。
上手に調理されれば魔物も美味しくなるらしいです。
上手に調理されればな。
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禁煙ラカム
「……禁煙?」
ある日の昼下がり、騎空団の風紀委員長リーシャから突然そんなことを言われた。
「はい。船内の部屋や雑貨にタバコの匂いが染み付いてしまっていると何人かから苦情が来ています」
「そいつぁ悪かった。必ず外で吸うようにする」
「それに、タバコの煙は若い年代の団員たちの身体にも悪影響を及ぼしてしまいます」
「あー……じゃあ、誰もいない時にだけ吸うことにするよ」
「何よりラカムさん自身の身体に良くありません。なので、禁煙をお勧めしようと思います」
「心配してもらえるのは嬉しいんだが……ほら、このタバコって俺のアイデンティティみたいなものだし……」
「えっ、ラカムさんのアイデンティティは爆発とデュレーションですよね?」
「いやそんな「その二つしかないでしょ?」みたいな顔するなよ!操舵とか銃とかもあるだろ!」
「とにかく、禁煙していただきます。団員たちにも、ラカムさんがタバコを吸ってたら頭から水を浴びせるよう呼びかけていますので」
「普通に注意してくれたらいいんじゃねぇのか!?あといつのまにか禁煙が決定事項になってねぇか!?」
「それでは失礼しますね。頑張ってタバコやめましょうね!」
「クソッ、さすが話聞かない堅物ガールだ……!100%善意なのがまたキツイ……」
そんなわけで、俺の禁煙生活が始まった。
☆
翌日。なんとか昨日は我慢出来たが、そろそろ限界だ。
この操舵室に来ると、どうしても吸いたくなっちまう。
煙草吸いながら舵を取るのがルーティーンになってるからなぁ。
さっきから貧乏揺すりが止まらねぇ。
「……あー、落ち着かねぇなぁ」
周りをチラリと見る。操舵室はいつも誰も来ないというわけじゃないが、今は俺一人だ。誰も見張ってないし、今ならいけるか。
「………………一本だけ」
胸ポケットから煙草を一本取り出す。
カチッ、シュボッ、ビシャア。
煙草に火をつけた瞬間、上から水が降ってきた。
「す、すまない。でもラカムのためなんだ」
後ろでフェリが、耳を申し訳なさそうに垂らしながらバケツを持っていた。どうやら幽霊の力で体を見えなくしていたらしい。
「……あぁいや、謝らなくていい。早々に吸おうとした俺が悪かった」
面白半分で水をぶっかけられたなら多少苛立つかもしれないが、フェリもまた善意で水をぶっかけただけだ。
なんだろう、水ぶっかけられたのは俺の方なのに罪悪感が凄い。
この人選、リーシャ……奴は本気で俺にタバコをやめさせる気だ。
☆
しかしやっぱり我慢できなくなる。
一度煙草を取り出してしまったが最後、もう口が煙草を受け入れる態勢になってしまっているのだ。もう煙草以外口に入れられる気がしねぇ。しねぇが……
「…………グランサイファーの甲板の一番後方。ここなら……」
バシャア。
「ダメですよ、ラカムさん!」
ペトラが。
☆
「普段使われてない物置なら……!」
バシャア。
「やるならとことんですっ!」
ブリジールが。
☆
「この部屋なら知ってる団員もほぼいないっ……!」
「ハァ…ハァ…くっ……ラカム、か……?」
バタン。
鎖に繋がれたランスロットが。
☆
「自室ならさすがに誰も……」
ジリリリリリリリリ。ザッバァ。
『ラカムにぃやんのために、火を察知したら即☆消☆火な装置を作ってあげちゃっぴー!お礼はまた今度でいいやーぅ!ぺぐぺぐー!』
ペンギーが。
皆が一丸になって俺の喫煙を阻止してくる。しかも全員もれなく善意100%だ。もはや安息の地はどこにもなくなっていた。
☆
「くっ……!デュレーション!」
禁煙してから一週間、どうにも調子が出ない。
敵の怒りを散らすデュレーションにもそれが表れ、効果がイマイチになってしまう。
「なんだ?ラカムのデュレ、今日はキレが悪いな」
「あー、なんかリーシャに禁煙させられてから調子が悪いみたいやでー」
「ほーん」
このままじゃ、アイツらにも迷惑かけちまう。
☆
自室のベッドにうつ伏せで寝転がり、ぼーっと考える。
俺は、なんでタバコ吸ってたんだっけか。
☆
「スゥー……げっほ、ごへ、う"ぇっ!」
「だっはっはっ!お前にゃまだタバコは早ぇよラカム!」
「タバコよりもミルク吸えミルク!」
「っるっせぇ!見てろ……スゥげほがっは!!」
「ぎゃははははは!!」
「ぷっくく……おいラカムよぅ、なんでそんなにタバコ吸いてえんだ?吸えて何か得があるわけじゃねぇぞ?」
「けほっ…………カッコいいだろ。なんか、大人の騎空士って感じで。タバコふかしながらさ、こう舵を取って、ギュイーンと……」
「ぶはは!10年早えよラカム坊!雑用もまともに出来ねえくせして!」
「んだとぉ!見てろよ、今にタバコの似合う男になってやるからな!」
「やめとけやめとけ、はっはっはっ……」
☆
いつのまにか寝てたみてぇだ。昔の、夢を見た。
あぁ、そういえば、そんな理由だったか。
はは、くだらねぇな。
なぁ俺。俺はタバコの似合うカッコいい男に、なれてるか?
☆
「ラカムさん」
「ん、リーシャ、どうした?」
「今日をもってラカムさんの禁煙策をとりやめますね。場所を選ぶのであれば、またタバコを吸ってもらっても結構です」
「そいつぁまたどうして急に……」
「ラカムさんの調子が悪くなって戦闘にまで支障が出てしまうのは本意ではありませんし……。それに、何人もの人から、ラカムさんにタバコを吸わせてあげてほしいとお願いされました。ラカムさんはタバコがなかったらただのアラサーオッサンになってしまうと」
「言い過ぎだろ!!誰だそれ言ったの!」
「とにかく、申し訳ありません。頭ごなしに禁煙を決めつけてしまって」
「あ、あぁいや、大丈夫だ」
☆
俺に敷かれた禁煙令は解除された。嬉しいはずだ、嬉しいはずなんだが……。
どうにも、吸う気が起きない。
船の縁にもたれかかり、煙の代わりにため息を吐く。
「よう、一本どうだ?」
ふと隣から声が聞こえた。
いつのまにか、オイゲンが同じように縁にもたれかかって、こちらに煙草を差し出していた。
その口には煙草が咥えられている。
「あー……いいや、今は気分じゃねぇ」
「そうかい。……まったく、煙草ってのはロクなもんじゃねぇよな。金はかかるし身体にも悪い。おまけに周りから迷惑そうな目で見られる。やめられそうならやめるべきだぜ」
「……そうだな」
カラカラと笑うオイゲンを横目で眺める。
おお、なんつーかやっぱり、サマになるなぁ。
そういえばグランサイファーで再会してから、オイゲンが煙草吸ってるとこ見たことなかったな。昔はずっと吸ってたはずだが……。
「カッコいいよなぁ」
「おう……っておう!?びっくりしたぁ、グランかよ!気配消すんじゃねぇよ!」
「お、グラン。よう」
「よっす」
俺を挟む形でオイゲンとグランが縁にもたれている。
なんだ?何かされるのか俺は?
「もう煙草吸わねぇの、ラカム?」
「あ、あー、そうだな。体にも悪ぃらしいしな」
こっちをまっすぐと見つめてくるグランの視線で、なんだか罰が悪くなり頬杖をつき船の外を見やる。
「ふーん、そっか。止めはしないけどさ。でも俺、ラカムが煙草吸いながら舵取ってるとこ見るの、結構好きなんだよなぁ。なんかこう、歴戦の騎空士!って感じで」
「おう、グランもそう思うか。昔はラカムが煙草なんて、つって笑い飛ばしたもんだが、なかなかどうしてサマになりやがらぁ」
しかし、二人の言葉を聞いて反射的に体を起き上がらせる。そして、交互に二人と顔を見合わせた。
グランが俺に抱いてくれた感想は、あの頃俺がオイゲンに抱いた感想だ。
そしてあの頃は煙草は10年早い、なんて言ってたオイゲンが、そんなことを言うなんて。
「で、でもな、今更カッコつけるためだけに吸うのもな……」
とんでもなく嬉しいはずなのに、なんだか照れ臭くなってまた思ってもないことが口から出てしまう。しかし二人は何でもないことのように答える。
「何言ってんだ?男がカッコつけなくてどうする」
「男にとって一番大事なものだろうが。カッコつけてなんぼだ」
「…………は、ははは!そうだよな!」
ここまでお膳立てされて、まだ吸わないとか言えねぇな。
いや、やめれるんならやめるべきなんだが……。
やっぱ、カッコつけたい生き物なんだよな、男ってのは。
煙草の箱をポケットから取り出し、煙草を一本抜き取る。
オイゲンが口角を上げながらライターをこちらに向け、火を灯す。
火のついた煙草を一吸い。煙を吐く。
随分と久しぶりに吸う気がするそれは、体の隅々に行き渡る感覚がして。
「うん、やっぱイイ男が吸うとサマになるな」
グランが屈託ない笑顔でそう言った。
☆
「デュレーション!!」
「今日も良いデュレーションやなぁ!」
「やっぱそうじゃねぇとな!」
登場キャラ紹介
ラカム
るっ!の被害者の一人。完全ギャグ時空ではないので爆発に巻き込むのは難しかった。次はデュレーションだけでなく、なんとかラカムを爆発させられるよう精進していきたいと思う。
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可愛い可愛いカリオストロ
「団長サン☆ちょっといーい?」
「いや、今忙しいんで……」
この野郎、オレ様の今世紀最高に可愛い決めポーズをスルーした挙句このオレ様の誘いを断りやがった!
今グランは、セン、アンチラ、メルゥ、ミムルメモルと一緒に骨がなくなったかのごとくぐんにょりとしている。寝て……るんだよな、多分。
「……だらけてるだけじゃねぇか」
「お昼寝部の活動だ。あと少しで世界の真理が見える気がする」
「見たけりゃ見せてやる、アルス……」
「あ、ストップストップ。起きる、起きるからアルスマグナらないで。悪い皆、続きはまた今度」
杖を構えてウロボロスがぐるぐる回り出すと、グランは渋々といった様子で立ち上がった。
ぷぉーとかにゃーとかいう音がグランを送り出す。
この船の奴らってホント、意味わかんねーのが多いな……。
☆
オレ様の研究室にグランを連れていき、椅子に座るよう促す。
まだ少し眠そうな様子のグランは、椅子の背に肘をつきながら欠伸をした。
「それで、何の用ですかね錬金術師サマ」
「……なぁ、俺様って可愛いよな?」
「突然どうした。カワイイぞ、うん」
「そうだ。可愛いんだ。世界一可愛いはずだ。それなのにだな、この団での扱いが雑じゃないか?」
「そうか?普段からみんなカリオストロを立派なレデ〜として扱っているじゃないか」
「雑な扱いの筆頭はお前だお前!この美少女を前にしたら赤面して胸を高鳴らせて然るべきだろうが!なんで常に真顔だ!」
「こ、こうか……?」
顔を赤らめて目を逸らすグランを見て、何かが胸にこみ上げてくる。
「あ、やっぱりやめろ気持ち悪い」
「ひどい」
「それでだな、俺様は思ったわけだ。私がチヤホヤされないのはどう考えてもお前らが悪い。しょうがないから、ここのアホな団員どもでもわっかりやすーいような可愛さを見せてやろうとな」
「カリオストロ様のご厚意が身に染み入るなぁー」
「というわけで、俺様の可愛さをわかりやすくするにはどうする?」
「え、そこで俺に振るの?」
「お前の可愛さの追求力には一目置いてるんだ。光栄に思え」
「カリオストロ様の一目が光栄だぁー。……要は俺がカリオストロの魅力をプロデュースして団員に広めていけと」
「そういうことだ」
「……よし、そういうことなら奴らを呼ぶか」
「あ?奴ら?」
グランは廊下に出ると、伝声管を使って船内へと通達を始めた。
伝声管は船の主要な部屋、個室の前の廊下などに設置されていて、主にグランが団員を招集するときや、飯の準備が出来たとき、あとはグランのイタズラなどに使われている。
今回は招集のようだ。
「『あー、あー、団長より同志Jと同志Sへ。カリオストロの部屋に集合せよ。繰り返す、同志J Sはカリオストロの部屋に集合せよ』」
「……なんだ同志って」
「可愛いものをこよなく愛する同志だ」
……なんかいやな予感がする。
その予感の直後、男が二人現れた。
「なンかあったか、同志G」
「某らに出来ることなら何でも力になろう」
「おぉい!こいつらに相談するのだけは嫌だぞ!?」
同志Jと同志S、改めジンとソリッズ。この船のなかでもトップクラスの変態だ。というよりは、男の欲望に忠実な奴らというべきか。女風呂の壁の補強、船内見廻りの仕事の追加、女子入浴時のリーシャの見張りなどは主にこいつらのために取り入れられたものだ。以前グランが面白がってこいつらに協力した時には男と女の戦争が始まったこともある。え?オレ様がどっちについたかって?カリオストロは〜、可愛い可愛い、女の子だぞ☆
と、オレ様の言葉を無視してグランがジンとソリッズと握手を交わしている。
「よく来てくれた、同志。これより第146回目の漢浪漫会議を執り行う。今回の議題は『カリオストロの可愛さを広めるためには』だ」
「ほう。カリオストロ殿の可愛さについては第21回の会議で語り合ったな。その内容が応用出来るか」
「へっ、あン時の、体を作り変えられるならボインのネーチャンにすべきって俺の意見に対するお前らの抗論……アレは響いたぜ」
「やっぱり帰ってくれ!!」
☆
「さて。まずは外面から変えていくか。可愛さというものには、慣れがある。変化がなければ、どんなに可愛いものでもすぐに飽きがきてしまうんだ。ここの団員は皆カリオストロの可愛さに慣れ切ってしまっている。だからここはひとつ外面を大きく変えてギャップを狙っていくべきだ」
「うむ、異議はない」
結局三人を部屋に入れ、椅子に座らせてしまったオレ様。
ナメた発言したら即ウロボロスに食わせようと思っていたが……。
「お、おう、思ったよりも真面目な議論だな……。なるほど、理屈は通っている。それで、どう変える?」
「簡単なのは髪型だな。いつもの髪型も可愛いが、元が良いからどんな髪型も似合うはずだ。そうだな、お団子なんてどうだ。見た目の変化がわかりやすいうえに、可愛さもグンと上がるはずだ」
「お団子か、よし、ちょっとやってみ……」
オレ様が髪をまとめようとした瞬間、ジンがガタンと立ち上がった。
「待たれよ!!確かにお団子へあーも良いが……ここはポニーテールにすべきだ!男というのは揺れ動くものを見ずにいられない!これで視線を釘付けだ!」
それに応じてソリッズも机を叩きながら立ち上がり、椅子に足を乗せる。おいそれオレ様の部屋の椅子だから。
「オイオイ、そンならサイドテールでもいいじゃねぇか。ウェーブかかった三つ編みなんかでな!」
「いや待て、そんな一気に言われてもだな……」
しかしグランも立ち上がり、野郎三人は額を突き合わせメンチを切り合ってる。
「テール系はゴムで髪をくくればそれで終わりだろ!お団子という一見面倒そうな髪型にすることで髪型に気を使ってることをアピールすんだよ!」
「そんなアピールはわかりにくい!ポニーテールならば、その髪を結ぶ過程すらも武器になる!チラリと見えるうなじ、ふわりと動く髪、ヘアゴムを咥えていただければ尚良し!!」
「ここはいっちょ大きく変えてみるべきだろうが!横から伸びた三つ編み部分の髪を肩にかけることで人妻っぽさ、いつもと違った大人のエロスを演出だ!!」
「わ、わかった!全部、全部やってやるから一旦落ち着け!!」
スン……。
オレ様が声を張り上げた瞬間、さっきまでの喧騒が嘘だったかのように、三人とも椅子にキッチリと座っていた。
「……え、そんな一瞬で鎮火されんの?」
なんか納得いかねぇけども、とにかく治まった。
まぁ、こいつらも一応真面目にオレ様のために議論しているようだし、少しは見逃してやるか。
「髪型の次は、服だな。これもまた重要なファクターだ。俺はホットパンツがいいと思う。いや俺個人の私情抜きで、普段ヒラヒラスカートばっか履いてる奴が突然ピッタリズボン履いてきたら嫌でも見てしまうという根拠に基づいてだな」
「某はユカタヴィラがいい!!間違えた、第三者の目から見てもやはりここはユカタヴィラがよかろう。大きく開いた背中に劣じょ、ドキドキするのは男の性だ。そこにポニーテールが加わってみろ、もはや男どもの目は釘付け間違いなしだ!!」
「待て待て、肌色多くするのは構わねえが出すのは脚や背中じゃねぇだろ。男が一番女に一番魅力を感じるのはどこだ?そう、胸だ。乳だ。パイオツだ。というわけで胸元を大きく開けろ。大丈夫だ、小さいことはハンデじゃねェ。勿論デカイ方が好きだが、小さくても武器にはなるのさ」
「いや、「しかしな、「だからだな、」
「わかった!!着てやる!!着てやるから!!いや、ソリッズのは却下で」
「何でだァ!?」
☆
会議はその後五時間に渡り続けられた。
オレ様も三人の言い争いに加わり、議論はさらに白熱。
ならば実践してみせよ、おおやってやらぁ、ということで。
オレ様は言われるがままに、こいつらの要望にいくつも応えていったのだった……。
「「「あそっれメイド服!メイド服!」」」
「しょ〜がねぇ〜なぁ〜!!」
くるくるりんと回りながら、錬金術で学生服をメイド服へと作り変える。
そしてビシッとピース!アンド最高の笑顔!!
「かわいー!!」「かわいいぜー!!」
「かわいいぞー!次はバニーで頼む!」
「はっはっはーっ!!そうだろそうだろオレ様をもっと褒めろ崇めろってち・が・う・だろぉ!!主旨変わってるじゃねぇか!!」
頭のカチューシャを地面へと叩きつけ、ダンダンと踏みつける。
オレ様はファッションショーを開いたわけじゃねぇ!!
「チッ、もうダメか……」
「次は水着を着てもらおうと思ったのだが……」
「あそっれバ・ニ・ィ!バ・ニ・ィ!」
「アルス・マグナァ!!!」
「「ぐっはぁぁぁぁ!!」」「とうっ」
チッ、グランだけかわしやがったか!
「待て落ち着けカリオストロ。別に俺たちは間違ったことをしていたわけじゃないぞ?可愛さの追求だ。カリオストロにどんな服が似合うのかというな」
「ぐ、まぁ確かに……って騙されるわけあるか!!完全にお前らの趣味丸出しだったろうが!」
「結果!カリオストロはなんでも似合うということがわかった!全部可愛いぞ!」
「……お、おう」
そう言われると満更でもない。オレ様が可愛いのは当たり前だがな。
「さて、ということでそのメイド服のままでいってみよう。それだけでも十分男どもの目は引けるだろうが……。しかしここで、俺に考えがある」
ピッと人差し指を立てるグラン。こいつがこういうときはだいたいロクでもないことだ。オレ様は無言で続きを促す。
「カタリナの料理の横にローアインの料理を置けば、ローアインの料理がいっそう美味そうに見える!それと同じで、横に引き立て役を置くことにより、その差でさらにカリオストロが可愛く見えるはずだ!」
ふぅん、例えはアレだが確かに納得はできるな。
「その役目は……そうだな、センでいいか」
「セン?あの猫娘かよ。あいつもまぁ、そ・れ・な・り・には可愛いし、引き立て役としては正直微妙じゃねぇか?」
「まぁまぁ、任せておけって」
ちょっと連れてくる、と言ってグランはオレ様の部屋を出て行った。
……不安だ。
☆
「おーい、ライアン、ウェルダー!見せたい子たちがいるんだけど!」
「む、なんだグラン」
「見せたい子?小動物か?」
ちょいちょいとグランが手招きしてくる。
ったく、そんな前振りいらねーってのに……。
服、オッケー!動き、オッケー!笑顔、オッケー!
よーし、カリオストロ、いっきまーす☆
あ、もう1人、向こうの陰に隠れてたセンが先にあいつらの方へ走って……って。
「ワシこそがぁぁぁ!!古今無双の猫娘、セン・ダゴウザであぁぁぁぁぁぁる!!!にゃ」
センの服&猫耳着用のガンダゴウザだった。
「「おぼろろろろろ」」
「おおぉぉぉい!!比較対象のインパクトが強すぎだろぉぉぉ!!こっちの姿見る前にダウンしてんじゃねぇか!帰らせろ!!」
ファンタズマゴリアを咄嗟に発動しなきゃオレ様も危なかった……!
ゲロなんざ美少女が絶対出しちゃいけねぇもんだぞ。
「ええっ!?わざわざこのためだけにコルワに即興で服作ってもらったのに!」
「がっはっはっ!!新しい服というものはなかなかに気分が乗るものであるな!!にゃ。皆に見せて回るとするか!!にゃ」
「待てぇ!!船内でテロ起こすんじゃねぇ!!」
クソ、確かコルワが作る服には着た奴の気分を変える力もあったっけか!この生物兵器のテンションが高いのもそのせいか!!あと律儀に毎回「にゃ」っつってるのがすげぇムカつく!!
「……ん?なんでグランはコレ見て平気なんだよ」
「え?目つむってるから」
この野郎……。
目を閉じたままドヤ顔をするその顔に一発ぶちこんでやりたい……。
ん?
あ。
「アルス・マグナァ!!」
「ぐっはぁぁぁぁ!!」
そうだそうだ、目瞑ってるなら避けられねぇよなぁ?
「あっはっはっはっ!!悪は滅びた!!」
倒れ伏したグランの尻を踏みつけ、天を指差す。
こいつに相談したのが間違いだった。
いや、髪型とか服の話とか、少しは、ほん〜の少しは参考になったか。
さて、一応船の中を回ってみるか。団員どもにこの格好の感想を聞かねぇと……。
……あれ?あの生物兵器どこ行った?
「ぎゃあああああ!!なんすか!ヤバイのが!先輩!先輩ぃぃぃ!!」
「あれは、この船の均衡を乱すものだ……」
「醜悪だわ(醜悪だわ)」
…………………………。
カリオストロ、し〜らないっ☆
さ、お部屋に帰って錬金術の研究の続きでもしよっと。
可愛さ研究?ああ、うん、しばらくはいいわ。
登場キャラ紹介
カリオストロ
世界一可愛い錬金術師。るっ!では弄られることによって更にその可愛さを増している。猫被っても可愛い。素を出しても可愛い。弄られても可愛い。ソリになっても可愛い。すっげーな煮ても焼いても可愛いじゃねーか。
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くるくるヴィーラ
「ファラ、おはよう」
「ユーリ。おはようっす」
朝ご飯の時間。
ユーリが隣に座ってきて、もくもくとご飯を食べ始めたっす。
ユーリは秩序属性だから、ご飯の最中にあんまりペラペラ喋るのは嫌い……というよりは苦手らしいっす。他のテーブルはよく喋る団員が多いから、多分この席を選んだんすね。多分自分の隣に座りたかったわけではないと思うっす。
……何の言い訳してるっすかね、自分。
「おはようございます、グランさん。席、ご一緒してもよろしいですか?」
「ん、おはよヴィーラ。いいぞー」
ふと隣のほうのテーブルで、そんな会話が聞こえてきたっす。
あれ、珍しいっすね。いつもは絶対にカタリナ先輩の隣に座りたがるし、誰か男が隣に座るだけで養豚場の豚を見る目でそいつを見るヴィーラが、自分からグランの隣に座りに行くなんて。
まぁあそこは比較的仲が良いみたいだから、そうありえない話ではないかもっす。
「ふふ、ありがとうございます。
……今日のご飯も美味しいですね。私ももっと料理の腕をあげたいものです」
「ヴィーラも十分上手いだろ。この前作ってくれたアップルパイとか、美味かったぞ」
「そうですか?ありがとうございます。あぁグランさん、ところで手料理といえば、この前カタリナお姉様の手料理を食べ『ダッダァン!』
……ギリギリっすけど、とんでもないスピードで席から立ち上がって駆け出そうとしたグランと、それ以上のスピードでグランの顔の前にナイフを投げつけたヴィーラが見えたっす。
「グランさん?まだお食事とお話の途中でしょう?お行儀が悪いですよ」
「ははは、突然トイレに行きたくなってな。ここで漏らすほうがよっぽどお行儀が悪いだろ?」
二人とも笑顔っすけど、表面だけっすね。どっちも目が全く笑ってないっす。あとナイフを投げるのも十分行儀が悪いと思うっす。
「お姉様がね、自慢してくださったんですよ。グランが自分の手料理が欲しいと言ってくれた、全部食べてくれた、こんなことは初めてだ、と。素敵な笑顔でした。その素敵な笑顔が、あなたに向けられているのがこの上なく妬ましい嫉ましいネタマシイ……!!ねェ、あなたのお腹の中からお姉さマの料理を取り出シて食べれバ私にもあの笑顔ヲ向けてくださイますカ……!?」
あー、あれはダメっすね。あのモードに入ったら誰かが犠牲になるまで止まらないっす。自分も先輩にベタベタしすぎて一回ターゲットになったことあるっす。
あぁ、生きることって素晴らしいっす。ユーリ、走馬灯ってホントにあるんすよ、知ってました?
「ヴィーラ!ローアインもカタリナの料理食べてたぞ!!」
『ガタンッタァン!!』
あ、ローアインが逃げようとした鼻先の壁にフォークが突き刺さってるっす。あと1cm横だったら鼻に刺さってたっすね、アレ。さっきよりスピードが上がってないっすか?
「だーんちょぉ!??ちょ、マジ勘弁して!!なんでオレを巻き込みング!?」
「おネエ様にまとワりつク害虫……!えぇ、ついでに駆除シましょウ」
あー、これはまた気の毒に。まぁ自分には関係ないので、ご飯を続けるっす。ユーリ、ジャム取ってほしいっす。
「あとファラがこの前ドサクサに紛れてカタリナに抱き着いて色んなところをまさぐってたらしいぞ!!」
殺気!!
思い切り体を捻ると、自分の顔があった位置を高速で剣が通過したっす!てかラスト・シンじゃないっすか!マジで殺す気っすかあの女ァ!!
「ちょぉおぉ!??なんでこっちにまで飛び火させてくるんすか!?道連れにするならローアインだけにするっす!!」
「コムスメ……万死に値シマスススス」
やばいっす!怒りが分散されるどころか三人分で三倍になってるっす!禍々しさでヴィーラの周りの空間が歪んで見えるっす!!
「あ、カタリナ、おはよう!」
「ああルリア、おはよう」
「お姉様ぁんっ!」
食堂に来た先輩に気が逸れた!今っす!
私と同時にグランとローアインが食堂の外へと駆け出す。
「お姉様おはようございます今少し用事が出来ましたのでまた後ほどお話しましょうねそれでは」
「あ、ああ。ほどほどにな……」
☆
そんなわけで、廊下を三人で全力で走る最中っす。
後ろから負のオーラを感じるから多分ヴィーラも追っかけてきてるっす。
ああ、グランのせいで自分まで朝から命を懸けた鬼ごっこをする羽目に!
「グラン!ほんとっふざけんなっす!!死ぬなら一人で死ぬっす!」
「いやマジでそれよ!さすがにこれシャレんなってないっしょだんちょ!」
「何言ってんだよ、お前ら、団長の盾になるって約束してくれたろ?」
「してないっす!ていうか団長なら団員のために身を挺して犠牲になれっす!!」
「待チナサイ!!今ナラ腹ヲ掻ッ捌イテ直腸ヲ引キズリ出シタ後ソレデソーセージヲ作ルダケデ許シテアゲマスカラ!!」
それは微塵も許されてないっす!あと狂気段階がレベル2に入ってるっす!人語を話せなくなるレベル3になったら本気でマズイっす!洒落抜きで死人が!!
「アフェクション・オース!!」
ぎゃあぁぁぁぁ!!自分のほっぺたの横を、剣が、剣がぁぁぁぁぁ!!
ま、マジで殺す気っすアレ!!多分誰か殺すまで止まらないっす!
あ、全力で走る自分たちの前にスフラマール先生が!
「あ、こら〜!船内で全力疾走しちゃいけませ〜nかっは……!!」
「「「スフラマール先生ー!!」」」
スフラマール先生がヴィーラに轢かれたっす!ごめんなさい!
でも止まれないんす!どうかご無事で!
あ、今度は目の前にタイアーが!
「はうあっ!?あ、あ、ヴィヴィヴィヴィヴィ……!!」
「タイアー!逃げるっす!」
「ご、ご機げかっは……!!」
くっ、タイアーもヴィーラに轢かれたっす!
「一切無駄のないフォーム、自分とぶつかっても全くぶれない力強さ、そして全ての生物を射殺せそうなその瞳……やはりあなたは美ぶっ!」
落ちてく最中になんかぶつぶつ言ってたっすけど今はどうでもいいっすね!どうせヴィーラに関することっす!
あ、今度は目の前にジンが!
廊下の真ん中に仁王立ちしてるっす!
「ジン!?」
「行くがいい、団長。某が足止めする」
「……任せた!」
「ああ、任された!!
さぁ来いヴィーかっは……!!」
くっ、ジンもやられたっす!ぶつかる瞬間幸せそうな顔してたから多分足止めする気微塵もなかったっすね!!
っていうか……
「◆〓▲§◉•¢∃▼■∂!!!!」
やばいっす!!レベル3っす!!
って、また前に誰かが!!
「鎮まりたまえー!!さぞかし名のある騎士と見受けたが、何故そのように荒ぶるのか!?」
あれはジャンヌ!ジャンヌっす!ジャンヌが廊下の真ん中で仁王立ちしてるっす!この団では比較的まともな人ではあるんすけど今のヴィーラ相手では余りにも無力すぎるっす!!
「にげるっす!アレは人の力が及ぶものじゃないっす!」
「団長が死ぬところをただ見ているわけにもいかない。私が彼女を止めてみせかっは……!!」
ジャンヌも吹き飛んだっすー!!もうお約束っすね!
「……う、あ……アハハハハハっ!!私は無力だ……!何も救えやしない!私に罰を!罰を与えてくれ団長!!」
あ、やばい、
「■▼∞∇仝⊃●!!」
「罰を!プリーズ罰!」
「廊下を走ってはいけません!!!」
「追ってきてるの増えてないスかだんちょ!?」
「なんかリーシャもいつのまにか追ってきてるっすよ!?」
「三人、か……」
グランが走りながら神妙な面持ちで何かを考え込んでるっす。
何か考えがあるっすかね?
「あっちが三人、こっちも三人。一人につき一人ずつ対処しよう」
「え、いやっす。絶対ヴィーラ任されたやつが死ぬじゃないっすか」
「だんちょ、このパティーン知ってるわ俺。絶対俺を犠牲的なやつにしちゃう系っしょ?」
「いや、ヴィーラは俺が受け持つ」
「「な!?」」
正気っすか!?今のヴィーラを相手にしたら一瞬で細切れになるかもしれないのに!!
でも、グランの瞳は、とても強い意志が込められてるっす……!
「本気、なんすね?」
「ああ。ローアインはジャンヌを頼む。確かキッチンのほうにまだクッキーがいくつか残ってたはずだ。ファラはリーシャを。廊下ダッシュくらいならお説教だけで済む」
「……ラジャーッス。だんちょ、俺、見直したわ。やっぱあんた、俺らのだんちょだわ」
「……死んじゃダメっすよ」
「馬鹿言え。俺はイスタルシアに行くまで、死なないって決めてんだ。……散ッ!」
団長の合図で、三人がバラバラの方向に駆けていく!
ローアインはジャンヌの目につくように、そして自分はリーシャを引き寄せるように!
よし、どっちも上手いこと引きつけたっす!
あとはグランが、ヴィーラをどうするか……!
ん?あれ?ここって?
「ヴィーラ!!」
「ひゃいぃっ!」
カタリナ先輩の一声で黒いオーラが霧散して通常状態に戻って直立するヴィーラ。
やっぱりここ、食堂前っすね。船内ぐるっと回って戻ってきてたみたいっす。
「朝から走り回るのは感心しない。それと、グランがまた何かイタズラしたのかと思っていたが……ヴィーラの私怨で追いかけ回していたらしいな?」
「……はい」
さっきまでの気迫はどこへやら、ヴィーラがしゅんと項垂れてすごい小さく見えるっす。
「……ハァ、私の料理を食べたいならそう言ってくれればいいんだ。今、新しいレシピを作っているから、出来たらグランと二人で仲良く食べてくれ。いいな?」
「うんうん、仲良くしような、ヴィーラ」
「…………はい、わかりましたお姉様」
「それにしても、私の料理も人気だな!ふふ……」
お、おお、丸く収まったみたいっす。
さすがのヴィーラもカタリナ先輩に叱られちゃ止まるんすね!
覚えとかないと……。
そこでトントン、と私の肩が叩かれたっす。
「ファラさん。少しお話が」
「あ、リーシャっすか。いいっすよいいっすよ、廊下疾走の説教くらいならいくらでも聞くっす」
生きてることは素晴らしいっす。さっきのヴィーラに捕まった時のことを考えると、リーシャのお説教は天国……いや、そこまではいかないっすね、うん。
「ああいえ、廊下を走ったこともそうなんですが……。あなたがカタリナさんの体をまさぐったとの報告がありまして。この船のセクハラは
な、ん……!!?
バッと振り向くと、そこにはサムズアップしたグランが。
あ、これ、嵌められたっ……!
「秩序室で、お話を聞かせていただきますね……?」
「グラァァァァァァン!!地獄に落ちろっすぅぅぅぅぅ!!」
「馬鹿言え。俺はイスタルシアに行くまで、死なないって決めてんだ」
ああユーリ、秩序室ってどんなところか知ってるっすか?
はは、一生知らないほうがいいこともあるっす。
☆
「どーよコレ、激ウマじゃね?」
「うん、美味しいぞ。ところでさっきまでの記憶がないんだが……」
「いやー俺も?ご存知?ナッシング的な?」
「そうか。しかし美味しいなこれは」
登場キャラ紹介
ヴィーラ
作者の推し。人によって、お姉様絶対一筋ガチレズ、ジータもいけるレズ、お姉様もグランも大切な半レズ、心の中でグランの存在のほうが大きくなってしまったけどそれを認めたくないレズ心、などさまざまな解釈が存在する。バージョンによっても変わってくるので皆も好きな解釈をしてみよう!ちなみに私はお姉様とグランが同価値になってるヴィーラが一番好きだ。このSSを読んでヴィーラ推してくれる人が出来たら嬉しいな!!!!
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闇鍋スカーサハ
「かっ……かふっ……」
「…………」
「のいしゅ、のいしゅー!!のいのいしゅー!」
「あっひゃ、あひゃひゃひゃひゃ」
死屍累々。地獄絵図。そんな言葉が頭の中に浮かんできました。
果たして、何故こんなことになってしまったのでしょう……。
私は目を閉じ、事の発端へと思いを馳せました。端的に言うと現実逃避しました。
★
「闇鍋、ですか」
ある日の昼下がり。私とヘルエス様とセルエル様、そしてスカーサハが紅茶を飲みながら茶菓子を楽しんでいると、団長殿がまた突拍子もないことを企画してきた。
「グラン、それはどういうものなのです?」
「遊びを混ぜた食事だ。灯りをつけずに、真っ暗な部屋で皆で鍋を囲んで食べるんだ。ただし、その鍋の食材は各自で持ち込み、他の人には見せないようにする」
「……なるほど、自分が持ってきたもの以外は何が入ってるいるかわからない。暗いから今から何を食べるかわからない。故に闇鍋ですか」
「面白そうではないか。吾はやるぞ。ノイシュ、お前も参加するといい」
「……嫌な予感しかしないんだが」
団長殿が言い出したこと。そして料理に関わること。この二つが合わさること即ち、この船で死体が出来かねない事態を引き起こすことを表す。団長殿のニコニコ顔も不吉でしかない。
「二名様ごあんな〜い」
「私も参加しましょう。セルエル、貴方も参加なさい」
「あまり食事で遊ぶのは感心が……」
「よいではないですかよいではないですか、そう固いことを言わずに」
こういう遊びはヘルエス様も好む。
スカーサハとヘルエス様が取り込まれれば、私とセルエル様も参加せざるを得ない。おそらくここまで団長殿は計算尽くだろう。
「……わかりました。しかし団長、ひとつ条件、というよりはルールを設けていただきたい。……『カタリナ殿の料理は入れない』と」
明らかに特定人物……というか、団長殿を指したルールだ。
いやまぁ、そんなことをするのは団長殿しかいないのだが……。
「ふぅん……。いいよ。安心しな、元から入れる気はないさ。俺は普通に楽しみたいだけだ」
これで死体の山が出来るのは回避出来たようだ。まだ安心は出来ないが、大量虐殺兵器が入っていないというだけでも御の字だ。
「じゃ、晩飯の時間に全員食材を二つずつ持って集合だ。自分の食材が周りにバレないようにしろよ?」
☆
さて、どうしたものか。
セルエル様はおそらく高級食材、ヘルエス様は面白半分で鍋には合わなさそうな物を持ってくるだろうか。
問題は団長殿とスカーサハだ。
カタリナ殿の料理がナシになったといえ、あの悪戯心の塊であるかのような団長殿の策略がその程度で収まるはずがない。
そしてスカーサハ。全く予想できない。
離れる際に「お主らの目玉が飛び出るようなものを持ってきてやろう!フフフ」などと言っていたから、多分単純な肉や魚ではない。
何だ、何が来る……。予想しなければ、対策を立てなければ……。
せめて、せめて「不味い!」と言って笑えるだけのものであってくれ……。
☆
私が結局持ってきたのは、トーフとリンゴ。
味の強すぎる物を入れれば他の食材と混ざって酷いものになること間違いない。
なので、味が染みにくい硬めのトーフと、あとは焼け石に水だろうが周りを爽やかにしてくれそうなリンゴを選択した。そういえば、ビィ君を最近見ないな。
「全員、持ってきたなー?じゃルールの確認だ。カタリナの料理はナシ。一度手をつけたものは食べ切ること。いいなー?」
「うむ」「はい」「ええ」「承知しました」
皆が頷くのを確認すると、団長殿が煮えた湯が入った鍋からカツウォヌスを取り出す。
「カツウォ出汁もとれたかな。よし、灯を消すぞ……」
フッと灯が消え、視界が暗闇に染まる。
グランの号令で皆が食材を入れ、そして蓋をした。
「……そろそろかな」
「早くせよ。何も見えんのは退屈だ」
「よし、じゃあ始めるぞ」
グランが鍋の蓋を開ける。地獄の釜の蓋にならなければいいが……。
「では私からいきます」
そういえば順番を決めていなかった、と思ったところでヘルエス様が名乗りを上げた。
何が入っているかわからないというのに、すごい勇気だ……。
いや、全力で楽しみにいっているだけか?
ヘルエス様がフォークで軽く鍋を探った後、それを掬い取る気配がした。
「では、これで……。ふむ、ぐにぐにしてますね。そんなに大きくはないようですが……。あむっ」
フォークの先から伝わる感触を実況した後、自分が食べたことが周りにわかりやすいように少し声を出して口に入れられたようだ。このお方は、周りを楽しませることも上手い。
一人目の一口目ということで、皆が固唾を飲む気配を感じる。この評価で次以降の人間の心構えが変わってくる。
「甘っ!?」
「甘い?」
ヘルエス様が珍しく声を張り上げた。それほどまでに予想出来ない甘さだったのか?
暗闇の中で、ヘルエス様がコホンと咳払いをする音が聞こえ、気を取り直して感想を述べ始めた。
「なんというか、外側が出汁でぐちゃぐちゃになってますが……中からクリームが出てきました。おそらくこれは、シュークリーム、でしょうか」
「お、当たりー」
「シュークリーム……」
「シュークリームか、吾も食べたいぞ」
団長殿が持ってきたものか。なんというか、鍋では絶対合わないだろうが、笑って許せるレベルだ。団長殿の持ってきたものとしては、少し意外というか、拍子抜けというか……。もっとこう、全員にダメージを与えてくるものかと思っていた。いや、まだ油断は出来ないが……。
「じゃ次は俺がいこう」
グランが声を弾ませながら、鍋の中身を掬う。そしてヘルエス様と同じように実況を始めた。
「少し、固いかな?この形……ん、もうわかったかも」
感触で察したらしいグランが、ニヤリと笑う(気配がする)。
あーん、と大きく声を出しながらそれを口に入れたグランの第一声。
「甘っ!?」
「また!?」
またスイーツか!?いや、まさかこれは……。
「……多分、出汁がめちゃくちゃ甘くなってる」
やはりか。おそらく誰かが甘い液状のものを入れた結果だろう。団長殿も驚いているから、他の誰かか?これは今から食べるもの全て甘いと思っておいたほうがいいかもしれないな……。
「あ、食材は多分肉だ。多分お高めのやつ。味が台無しだけど」
「ええ、わざわざ最高級のものを持ってきたのですが……」
どうやらセルエル様のもってきた食材のようだ。こういう時でも手は抜かず一番良い物を持ってくるのはセルエル様らしい。
「では次は私がいきましょうか。……ふむ、柔らかいですね。…………これは、トーフ、ですね。仄かに甘いですが」
「ええ、正解ですセルエル様」
よかった、私の食材はセルエル様に当たったようだ。被害も極小だ。
「トーフ?ノイシュ、もう少し面白いものはなかったのか」
「無茶を言わないでくれスカーサハ……」
自分が仕える王族と、島の守り神相手に変なものを食べさせるわけにはいかないだろう。そんなことで怒る方達ではないとはわかっているが、私の気が保たない。
今までの順番の法則から、次は私が食べる番か。
鍋を軽くハシで探ると、先に何かがぶつかる。これにするか。
それを摘み、持ち上げようとすると……。
「……長い……」
いや、なんだこれは?鍋を軽く一周出来る程度には長いぞこれは?それに重いぞ?どこから食べればいいんだ?
嫌な予感がしつつも、とりあえず端であろう部分を掴み、一口。
ボキュギキュ。
そんな音が頭の中に響き、思わずえずいてしまう。
「ノイシュ!?」
「かっ、ふぅ、はぁ、う"っぅん……これは、おそら、く、魚……。形から考えると……ンナギ、でしょうか……」
おそらく下処理なしの生で入れたもの。
多分、頭からいってしまった。
生臭さと甘ったるい香りが口の中いっぱいに広がり、ついでに骨が口の中いっぱいに刺さった。
「おお、正解だノイシュ!フフ、この前食べたンナギは美味だったからな。厨房から分けてもらってきたのだ。どうだノイシュ、美味いか!?」
スカーサハ。あれはカヴァ焼きであったから美味しいのであって、生で鍋に入れるものではない。処理をしないンナギは食べられたものではないんだ。
そう言うのは簡単だ。簡単だが。
暗闇の中、こちらをキラキラした目で見るスカーサハを幻視する。
というか実際、そんな目でこちらを見ているんだろう。
スカーサハは、自分が食べた美味いものを他人にも食べてほしくて選んだ。それはおそらく、とても尊い感情だろうと感じる。
ここで、スカーサハを傷つけるわけには、いかない……!!
「あ"あ、とでも美味しい。ありがとうスガーサハ」
「フフ、そうであろう!?遠慮せずもっと食べるとよいぞ!」
ああ、暗闇でよかった。きっと、今の自分はとてもひどい顔をしているだろうから。
★
ボギポキ、という音が止みました。それと同時に机にノイシュが突っ伏す気配。
「ノイシュ……!」
反応からしておそらくノイシュが食べたのは生ンナギ……。それを、一匹丸ごと完食したようです……!
スカーサハ様のお心を無駄にしないため、ノイシュが犠牲に……。
一歩違えれば、私がそれを口に入れていた。
その時私は、ノイシュと同じように振る舞えるでしょうか……?
いえ、今はノイシュの犠牲を無駄にしないためにも、とにかく前へと進むべき。
「最後は吾だな。……ふむ、丸い、か?ドロドロした丸いものだ。あむ……」
スカーサハ様がもきゅもきゅと咀嚼する気配。
「甘いな。噛んだ瞬間に、何かが溢れて……これは、なんだ?なぁ、ノイシュ、これはなんだ?ノイシュ。ノイシュゥ」
ノイシュはダウンしているようです。スカーサハ様が何度呼んでも反応が……なんだかスカーサハ様もおかしくありませんか?
「ノッイシュ、ノッイシュ、ノイノイシュー!どこへ消えたー?ノイシュー、ノイシュークリームーふははははは!!」
「スカーサハ様!?どうされました!?」
スプーンとフォークで食器をチンチン鳴らしながらノイシュの名前、というよりノイシュから派生した単語を連呼するスカーサハ様。それはどこかラムレッダ殿を思い出す奔放ぶりで……ラムレッダ殿?
「…………まさか……。私が持ってきたもののせいかもしれません」
「ヘルエス、何入れたんだ?」
「チョコレートを……。メーテラから貰ったものなのですが、もしかして中にお酒が入っていたのやもしれません」
闇鍋に何を持っていけば聞いたところ、「これアゲル!盛り上がるわきっと!」と言って渡してきたのです。まさかお酒入りとは……。いやしかし、そう大した量も入っていないはずなのにこの酔っ払いようは、スカーサハ様、もしかすると大変お酒に弱いのかもしれません。
「ほれ二週目だ、ヘルエス!早く食べるがいい!ノイシュもそう思うか!」
「ス、スカーサハ様。キリもいいですし、このあたりで一度お開きにするのは」
「早くせよ。吾の真龍の姿、ここで拝みたくはあるまい?ノイシュもそう言っておる」
ピリッ、とスカーサハ様からプレッシャーが放たれました。
酔っ払っていても真龍の力は扱えるのですね……。
いえ、酔った勢いで真龍の姿に戻ってグランサイファーがめちゃくちゃになっていないだけ、マシと思いましょう。
こうなったら早く全部食べ終わってスカーサハ様とノイシュを介抱するしかないようです。
探る時間も惜しく、鍋から何かを掬い上げ、口に入れました。
「あむっ。……これは、果物ですね。リンゴ?でしょうか」
「この無難なチョイス……。多分ノイシュだな」
なるほど、ノイシュは豆腐とリンゴ……。本当に無難ですね。私たちに遠慮などしなくてもいいというのに。もっとはっちゃけた物を……いえ、やり過ぎはよくありませんねやっぱり。ンナギ一匹とか。
グランもスカーサハ様とノイシュの身を案じているのか、リアクションも程々にサッと食材を口に入れました。
「もぐっ。こーれーはー……。甘いのは置いといて、食感はキノコっぽいな?」
「おそらく私が入れたアマツタケでしょうか。食堂にたくさん並べてあったので、いただいてきました」
「アマツタケか!あっはっはっ!!アマツタケて!アマツタケが余ったっけってか?あっははははは!!」
「……団長?」
……笑いすぎでは?たまに駄洒落を言うことはあれど、自分の駄洒落でこんなに笑うことは稀、というか初めてではないですか?
「うひっ!はははははっ!?あれぇへへへへへー!?とま、止まらなひゃ、笑いが止まらないひひひひーはっはっはっ!!」
いえ、これは異常ですね。明らかに今食べたもののせいでおかしくなっています。
……あっ。
「……セルエル、そういえば食堂に行った時、ルドミリアさんが拾ってきたキノコとアマツタケが混ざってしまったから分別作業をしている、と誰かが話していたような……」
「……マジですか?」
「マジです」
口調がおかしなことになってますね。顔面蒼白になっていそうです。
セルエルは何をするにも人並み以上にこなしてしまうので、失敗することがほとんどないのですが、それ故にたまーにミスをするとかなり動揺してしまうという弱点があるんです。
「あひっ、っふふふははは!マジかよ!?ふへははは!!笑い事じゃねぇなははははひーっげほっぐっくく」
「スカーサハ様、団長ももしかすると危ない状況かもしれませんので、一旦闇鍋をちゅうだ」
「続けよ。撃つぞ?パワー・クエスト撃つぞ?」
ボゥッとスカーサハ様の右手が緑色に光り、その朱に染まった顔がぼんやりと浮かび上がりました。
スカーサハ様の目は完全に座っていて、それが冗談でもなんでもないということを嫌でも理解してしまいます。
セルエルもこの闇鍋を早く終わらせる以外に道がないと悟ったのか、溜めもせずに何かを口に入れました。
「では私が……。………………ごっふ!!!」
今まで聞いたことがないセルエルの声の後、暗闇の中で、ガシャンと食器が落ちる音、続いてドタッと人が倒れるような音が!
「セルエル!?セルエル!どうしたのですか!」
床を手さぐりでなんとかセルエルのもとへと辿り着き、ヒクヒクと痙攣するその体を抱きかかえました。セルエルが掠れた声で私に何かを伝えようとしています……!
「げ……」
「げ!?」
「ゲロマズ……」
がくりと首を落とすセルエル。
「セルエルーーー!!!」
そんな、最期の言葉がゲロマズだなんて、私は許しませんよ!!あと貴方最近キャラ崩しすぎです!
しかし、一口で昏倒させるほどの威力……。
これはまさか……いえ、しかし……。
「グラン、貴方、まさか……!」
「え?なになぶひゃ、はは、かっは、お"え、はほほははははは!!!」
グランが嗤う。……やはり、入れたんですね。
それだけは、してはいけないでしょう……!!貴方はこういう遊戯で、ルールだけは破らないと信じていたのに!
越えてはならない一線を、越えましたね……!?
「ノイシュが反応せぬから吾が食べるぞノイシュー!…ふむ!これは……食べたことがある味だな。卵ノイシュか?」
「あっははは!!!あた、当たりいひひひー!!俺のふふっ作った、卵焼きでーひひゃほほほえ"う"ん!!」
「ほう!そなたも自分で作ったものを入れたのか!吾もな、カタリナに習って肉団子とやらを作って入れてみたノイシュだ!ノイシュに食わせようとしたのだがなぁノイシュー!」
……すみませんグラン、冤罪だったようです。
そういえば貴方、普通に楽しみたいって言っていましたね……。
しかしなぜ、なぜよりにもよってカタリナ殿に師事を……。いえ、なんとなく経緯は予想がつきます。スカーサハ様が誰かに料理を教わろうとしたところにカタリナ殿が自信満々で名乗り出たのでしょう。
よくよく考えればカタリナ殿の料理なら最後に何か一言を残す暇もなく意識が刈り取られるはずですからね。スカーサハ様はまだその域には達していないということでしょう。まだ取り返しはつきそうです。
……それより。これで闇鍋は終わったはず。
立ち上がり、灯りをつけて周りを見渡すと。
「かっ……かふっ……」
「…………」
「のいしゅ、のいしゅー!!のいのいしゅー!」
「あっひゃ、あひゃひゃひゃひゃ」
死屍累々。地獄絵図。そんな言葉が頭の中に浮かんできました。
果たして、何故こんなことになってしまったのでしょう……。
私は目を閉じ、事の発端へと思いを馳せました。端的に言えば現実逃避です。
「こんにちは、団長さんに頼まれてたお薬をお届けにきました……って、どうしたんですかねぇ皆さん」
グランがどうやら闇鍋が始まる前に呼んでいたらしいシャオ殿が来るまで、この惨状は続きました。
皆の症状も治り、闇鍋はもうしないことを皆で誓いました。
皆さんも、くれぐれもお気をつけて。軽い気持ちで闇鍋をするのは、とても危険です。
……え?私が持ってきたのはチョコレートとなんだったか、ですか?
……プリン、です。スカーサハ様が喜ばれるかな、と思ったのですが……溶けて出汁になりましたね。お恥ずかしい……。
※この話は、実際に友人間で行われた闇鍋を元に書かれました。
具体的にはカタリナ料理とンナギ以外はだいたい一緒です。
ンナギの代わりにあんこうでした。
みんな、鍋にプリンは入れちゃダメだぞっ!
登場キャラ紹介
スカーサハ
のじゃロリ枠だと思ってた。実は全然のじゃって言わない。この間のイベントの「かゔぁ焼きうぇい」の破壊力にやられた人も多いのではないだろうか。今話ではかなりテンション高めな上最終的にキャラ崩壊しているが、それはきっとこの仲間たちに心を開いているからである(いい話でまとめる)。
※追記
ノイシュは味オンチという設定があったらしい。
アイドンノーでした。
でも味オンチでも生ンナギはキツイよね?
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……がんばれクラリス
「グラン、一緒に遊–––––
「待て貴様ァ!!今日という今日は許さんぞ!!」
「ふっははは!遅い遅いパーシヴァル!止まって見えるぞあっちょっストップヤバイヤバイ洒落になってな」
「……ま、まだまだこれからだしっ☆」
☆
「グラン!お、お弁当をね、作––––––
「さぁ張った張ったァ!月に一度の大食い勝負大会だァ!鉄板のルリアか、レッドラックか!はたまたアーミラか!?それとも大穴ベアトリクスかァ〜!?期待してるぞ!」
「ふふん、任せときなって!」
「アンタの自信、毎回どっから湧いてくるのかがわからないわ。いやホントに」
「……これが終わったら、チャンスはあるはずっ☆」
☆
「グラン、一緒に錬金術のお勉きょ–––––
「んで、ここからシルヴァが狙撃」
「待ってください団長。それならここのほうがいいのでは?後方を気にする必要がありません。それにこの向きの方が連携もとりやすいでしょう」
「む、たしかに。ランスロット、シルヴァ、それでいいか?」
「ああ、問題ない」「大丈夫だ、続けてくれ」
「よし、それで、アルタイルが敵を撹乱した後の展開だが……」
「……邪魔しちゃいけないよね」
☆
「グラン!!」
「うぉうびっくりぃ!あ、クラリスか。どした?」
あっ、話しかけることだけ考えてて話の内容考えてなかった……。
えっと、えっと、あー、うー、うああ……。
「…………おやすみっ☆」
「ん、おやすみ」
うちのバカァァァァァァ!!
☆
「う"え"え"え"ぇぇぇ、お"うお"ぅ…………」
「ええっと、どうしたの、クラリスさん。ほらもう、顔がぐちゃぐちゃ……。こっち向いて」
「もうちょっと女の子らしく泣いたほうがいいと思うよクラリス……」
部屋に帰るなりベッドに蹲って泣き始めたうちを、同部屋のザルハメリナ、アリーザ、メーテラ、カレンが心配そうに覗き込んできた。
ザルハメリナさんがウチの顔をハンカチで拭いてくれて、ようやく少し落ち着いた。
うう、ザルハメリナさんの膝あったかい……。
「んでー、どうしたのよクラリス。あ、わかった、グランに虐められたんじゃない?」
「えぇっ、本当クラリス!?ちょっとグラン蹴ってくる!」
「ち、違う違う!グラン絡みなのは間違ってないけど……」
あ、ヤバ。勢いでグラン絡みって言っちゃった。こういう話にヘルハウンドの如く食いついてくるのがこの場に二人いるのに……。
「ほっぉ〜ん?グラン絡み?とすると〜?」
「ふっぅ〜ん?これはズバリ……恋の悩みかしら〜?」
やぁぁぁ!やっぱり食いついてきた!
カレンとメーテラがすっごいニヤニヤしてる!
「クラリス、ここは観念して素直に白状したらどう?ほら、ここには皆の相談役ザルハメリナと、恋愛エキスパートメーテラ、絶賛恋愛中のアリーザと、次期団長の私がいるんだから、大丈夫よ!」
「うぇっええ!恋愛中って、別にあたしはそんなんじゃ……!」
「はいはい、あんたの話を
「無理やり話させるのは感心しませんけど、泣いてしまうほど溜め込むのもいけません。話したほうが楽になることもあるわよ?」
う、この空気、喋るまで許してくれなさそう……。
同じ部屋だから、逃げられないし……。
「うう、ぜ、絶対誰にも言わないでね!?」
☆
うちが最近グランと全然話せていないこと、今日も頑張ったけど「おやすみ」しか言えなかったことを話すと、メーテラががっかりした顔でため息を吐いた。
「はぁ〜〜〜……。そんな程度でグダグダ言ってるの?あたしはてっきりグランへ夜這い仕掛けて失敗でもしたのかと思ったわよ」
「よばっ、そんなの出来るわけないじゃん!!グランの部屋に入るだけでも緊張するのに……」
「よばい?ってなに?」
「……アリーザさん、マフィンはいかがですか?」
「あ、食べるー!」
もっもっとマフィンを頬張るアリーザ。
ナイスザルハメリナさん!下手したらメーテラの夜這い講習になるとこだった。
「男なんて皆一皮剥いたら獣よ。肌見せて誘ってやったらガッとやってチュッとしてハァ〜ンよ」
「わ私はそういうのはまだ早いのー!!」
「じゃあどういうのがいいの?」
カレンの質問に、夜寝る前にしている妄想を思い返す。
「そ、それはその……。…………二人でご飯食べに行ったり、服選んでもらったり……手、握ったり……」
「一緒に稽古したり?」
「うん?う、うーん……」
「××××したり?」
「しないっ!!」
すぐそっちの方向に持っていく!そんなこと言ったらまた……。
「××××ってなに?」
ほらー!
「アリーザさん、紅茶のおかわり、入れてあげますね」
「あっ、ありがとー!」
ナイスザルハメリナさん!……アリーザがちょろいんだねこれは。
「じゃあさー、あたしたちがクラリスと団長がデート出来るよう、手伝ってあげたらいいんじゃない?」
カレンが人差し指を立てながら立ち上がる。その発言に、他のみんなもうんうんと頷いた。
「お、いいじゃんかそれー!」
「そうねぇ、もどかしいから一気にくっつけたげるわ」
「こういうのは、あまり周りが口を出すものではないとは思うのだけど……クラリスさんが望むのなら、私も僭越ながら力をお貸しします」
「み、みんな〜……」
こうして、うちの優しいルームメイトたちが手伝ってくれることになった。
しばらくみんなで話し合って、それぞれが考えた作戦をうちが順番に実行していくという話になった。
☆
アリーザ案
『イイとこ見せちゃえ作戦』
最初はアリーザの作戦。曰く、「戦闘で大活躍すればグランと話す機会も増えるよね!」。
ついでに活躍したご褒美ということでデートしてもらっちゃえ!という作戦なのだ!
うん、なかなか良い作戦じゃんアリーザ!
錬金術ぶっ放すことしか出来ないうちにも合ってる!
そうと決まったら〜。
「グランっ!クラリスちゃんのおニューの錬金術を見よっ!それそれ〜☆どっかーん☆」
「お、おう、張り切ってるな……。あっ、待てクラリス!向こうにはデュレーションを発動中のラカムが!」
「最・カワ!!」
「デュッ–––––––」
「ラカムゥゥゥゥゥゥゥ!!!」
あー!!た、大変っ!!うちの爆破にラカムが巻き込まれた!!
グランのほうをチラチラ見てたから気づけなかった!
ラカムは焦げながらもすぐに立ち上がって、うちのほうへと歩いてくる。お、怒られるかな……?
「いつもの爆発よりキレがない。敵に集中出来てねぇんじゃねぇか?いい爆発ってのは心技体揃ってこそだ」
「え、あ、うん」
「浮ついた気持ちの爆発は、怪我にも繋がる。忘れるなかれ、爆発をさせる側には相応の責任がついて回るんだ。だが、その心を誤らなければ爆発は応えてくれる。精進しろよ」
「は……はいっ!!ありがとうございます!」
去っていく黒焦げの背中は、とても大きく見えた。
頑張らなきゃ、ラカムに認めてもらえるように……!
爆発道の道は、まだまだ長いっ☆
☆
メーテラ案
『SEXY GUILTY作戦』
「うう〜、ほんとにやるのこれ……?」
メーテラの作戦は、胸を見せて、ゆ、ゆーわく……。
色んな作戦を提案されたけど、これが一番マシというか、実行できそうというか。
メーテラは「もっとイケるでしょ」って不満そうだったけど……。
とにかく、今はいい感じにグランが一人!よーし!
「グ、グラン〜。うち、なんだか、暑くなってきちゃったぁ〜ん?」
肌蹴させて、ここで胸を強調……!は、ハズい……!!
クリスマス衣装のほうが露出は多いはずなのに、なんかこう、自分で見せるのは抵抗がある!
「む、クラリスもそう思うか。これは多分アイツらが来たな」
「へ?」
グランが向いた方向から、熱風が吹いてきた。
「ソイヤ!!ソイヤ!!ソイヤ!!ソイヤ!!」
ジン・ソリッズ・オイゲンの筋肉三人衆が一歩ごとにポーズをキメながら近づいてくる!!
暑い!!見た目が暑苦しい上に部屋の温度が絶対10度以上上がってるって!どういう原理なの!?
「おーうグラン!おめぇさんもどうだ、ソイヤ見廻り!」
「共に汗を流そうぞ!」
「ぃよぉーし任せろぃ!!」
ガバッと服を脱いでフンドシ姿になるグラン。
え?フンドシは常に着用してるの?
「ソイヤ!!ソイヤ!!ソイヤ!!ソイヤ!!」
行ってしまった……。
グランの素肌にドキドキとかする暇もなかったよ……。
あとこの騎空団、露出度多い女の人たくさんいるから多少肌蹴た程度じゃ動じないじゃん……。
☆
ザルハメリナ案
『ドキッ☆廊下でぶつかったアイツは新人騎空士!?作戦』
……えぇ?
「グランさんが来たら合図するので、角から飛び出してください。ぶつかったら『もーどこ見て歩いてんのよ!遅刻しちゃう!』と言うのを忘れずに」
何に遅刻するんだろう。すごい真面目な顔で言ってるから納得しそうになるけど、おかしいよねこの作戦?うち間違ってないよね?
「いやあのねザルハメリナさん、さすがにこれはどうかと」
「あ、ほら、来ましたよ!さぁパンを咥えて!」
「ほっほょ、ふぉひは、ふぁふはへひは」
「3……2……1……はい!」
何か言う暇も考える暇も与えてくれない。
あーもー!!なるようになれー!!
ヤケクソになって、角に来たグランへとタックル。
でもグランへとぶつかる感触はなかった。
え、そんな、この距離で、かわ、されて––––––––!
(頑張れ、クラリスさん!!)
その瞬間、ザルハメリナさんの声が聞こえた気がした。
まだだ!!
足を踏みしめ横っ飛び!グランへと体を寄せる!
バックステップでまだかわすグラン。逃がさない!
腕を掴もうと手を伸ばして……うっ、片手でいなされた!
こうなったら!錬金術で、えぇーい!!
グランの足元の床が崩れる。
グランの片足が落ちて、もう後ろへは下がれない、今がチャンス!!
最後の一歩を踏みしめて……!!
うちの頭が、グランの胸板へとぶつかって、弾かれた。
「いったーい!!もー、どこ見て歩いてんのー!!遅刻しちゃうー!」
言えた!!あとはこのまま走り去るだけ!!
やった!ザルハメリナさん、うち、やったよー!!
「……新手の当たり屋か?」
☆
正気に戻ったうちは頭を抱えていた。
「やったーじゃないよ!!むしろやっちゃったーだよ!!!全力でぶつかりに行っちゃったから逆に好感度マイナスじゃん!!」
「大丈夫です!このあと食堂で会った時に『あー!!あの時の!』と叫べば、なんやかんやで船を案内することになり同じ部屋に住むことになりなんやかんやでゴールインできます!ルナールさんから貸してもらった文献だとそうなるはずなんです!」
「ツッコミどころしかない!!もっとまともな作戦ないの!?ザルハメリナさんの経験をもとにしたのとか!」
「え…………え、えぇと、ですね。私、その、恥ずかしながら殿方と、そういった関係になった経験がなくて……」
「あ、え、そうなんだ……。なんか、ごめんなさい……」
「いえ、こちらこそ、お力になれず……」
「あーもー!!まだるっこしいったら!!クラリス、あたしに任せなさい!!」
☆
カレン案
『ストレート作戦』
「回りくどい手は使わずに直球で行くのよ!邪魔が入らないように止めるから!」とのこと。
でも、グランの周りには常に人がいるし、たまに一人になっても誰かがすぐにやってくる。そうじゃない時はグランが誰かに絡みにいく。
今まで何回も何回も誰かに遮られてきた。誘える隙なんてあるかなー……。
ううん、カレンたちを信じるしかない!
今は廊下の向こうにグラン一人、私の後ろには皆んなが見守ってくれてる!
すー……はー……よし!!
「グラン––––––」
「おい、団長はどこだ」
うわぁぁぁぁぁんやっぱりぃぃぃぃぃぃ!
「あ、ユーステス。何されたの?」
「通りすがりにいきなり耳をブラッシングしてきた。勝手に触れば撃つと常日頃忠告しているはずなんだがな」
「あ、はは……。あ、グランの場所はわかんないけど、さっき、えーっと……べ、ベアトリクスが『報告書に砂糖水こぼしちゃったけど言わなきゃバレないか……』って言いながらあっちへ歩いてったよ?」
「……そうか。団長より先にそいつを見つけるべきのようだ」
アリーザが、グランと逆方向に指を差してユーステスを離れさせてくれた。これでグランがユーステスと追いかけっこをすることはもうない!今ならいける!
「グラ––––––」
「グランいるかー?お菓子を作ったから、味見してほしいんだけどー」
んんんー!!10秒くらいの隙も与えてくれないよー!?
「あら、ベアトリクス。さっきユーステスがベアトリクスを怖〜い顔で探してたわよ?」
「用事思い出したからまた後でいいやこれやるじゃあな!!」
あ!神速・ベアトリクスエスケープだ!相変わらずのすごい逃げ足、でもあっちはユーステスが歩いてった方だけど……うん、ベアトリクスの尊い犠牲を無駄にしないためにも、このチャンスをものにしないと!!
「グ–––––––」
「グランいる?次の依頼に向かうメンツの相談したいんだけどー」
知ってた!!
「ゼタさん、団長さんは今ユーステスさんに追いかけられているので、私が相談をお受けしますね」
「あーまたブラッシングでもしたの?じゃお願いするわザルハメリナ」
「はい、では作戦室のほうに行きましょうか」
ザルハメリナさんが止めたぁ!ナイスセーブ!
ていうかなんでみんなうちのところに聞きにこようとするの!?
で、でもさすがにもう来ないよね!?
あ、カレンが早くしろって目で言ってる。
そうだよね、もう緊張とかもなくなったし、早––––––––。
「団長はどこだ?」
組織コンプリートッ☆
示し合わせてるの!?これが組織の任務だったりするのかな!?
「おりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ぬお、なんだ、どうした」
カレンがバザラガに突進したーーー!
でも体格差がありすぎて微塵も動かせてない!
少しの間グイグイ押したり引いたりしてたけど、諦めたみたいで息を切らしながら膝をついた。
「…………急ぎの用じゃないなら、なにも聞かずに、引き返してくれない?」
「あ、ああ。取り込んでいるようだな」
何かを察してくれたのか、バザラガも来た道を引き返してくれた。
よし、今がチャンスっ☆
もう組織の人は来ない!次こそいけるハズ!
ていうか次邪魔されたらうちの心が折れる。
「さっきから何やってんだ?」
「うひゃあ!??グ、グラン!なんでこっちに……!」
勢いよく振り向いたうちの目と鼻の先にはいつのまにかグランがいて、思わず飛びのいてしまった。
「いや、あれだけ騒いでたら気づくってばよ。なんか用あるんじゃないのか?」
グランは腕を組んでうちの次の言葉を待ってくれてる。
もう邪魔は入らない。
皆が、うちの友達が、ここまでお膳立てしてくれた。
あとは、うちの、勇気だけ。
「あの………………あの、ね!……うちと一緒に、買い物、いかないっ?」
ぎゅっと目をつむりながら、何回も何回も頭の中でシミュレーションした言葉を言った。言えた。でも、ちょっと裏返った。
あ、ダメかもしれない。なんて考えがうちの脳裏に一瞬浮かんで、
「いいぞ」
グランの言葉で全部吹き飛んだ。
「………………うぇ?ほんとに?」
「うん」
「……買い出しとかじゃないよ?」
「うん」
「……みんなで?」
「あ、二人でって意味じゃなかったのか」
「ううん、違う!ふ、二人で……うん……」
ここでようやく、真っ白だった頭の中がまともに動き始めた。
わー、わー、顔が熱い……!うち今絶対顔赤い!でも、嬉しい……!
「明日の昼でいいか?」
「うん!うん!絶対寝坊しちゃダメだからねっ☆約束だからね!絶☆対だからね!」
「はーいはい」
ニヤける顔を必死に隠しながら走る。
早く、早く、みんなに伝えたい!
早く、お礼を、言いたい!
☆
「う"え"え"え"え"ん、わあ"あ"あ"あ"あ"あ"ん」
「よしよし、泣かないでクラリスさん」
「恐ろしいほどついてないわね」
詳しく説明すると、廊下の床に空いてた穴に足をひっかけて転んだうちは、咄嗟に(ここでケガしたら明日行けなくなっちゃう!)と判断してしまって、錬金術を発動。うちは想像以上に浮かれてたみたいで、一部分だけ崩すつもりが廊下一帯を全部存在崩壊。たまたま居合わせたリーシャに見つかり、お説教+一日かけて廊下の補修を命じられたのだ。まさか「明日は買い物にいくから出来ません」なんて言えるはずもなく、頷くしかなかった。
つまり、グランとの買い物はなしになった。
「ここまでくるともう、呪いね。そういう星晶獣がいるんじゃないかしら」
「……わかった!ここまできたらとことんまで付き合うわ!!廊下をすぐに直せば買い物にも間に合うかもでしょ?手伝ったげる」
「誰かの手を借りてはいけないとは言われてないんですよね?協力してくれそうな人を探してみます」
「み、み"んな"〜〜〜……」
☆
「ティアマトが暴れた時並みの暴風雨」
「話の途中で魔物が襲ってくる」
「暴漢に絡まれること十数回」
「その他トラブル諸々諸々……」
「それでもやり遂げたのは、本当に尊敬します」
「デート一回でこれって、先が思いやられるわね」
「幸せそうに寝ちゃってまぁ」
「すぅ……みんな、ありがとー……☆」
登場キャラ紹介
クラリス
最カワ錬金術師。以前は公式に負けヒロインポジションとして弄られていたが最近はそうでもなくなった気がする。季節の限定ボイスで毎回死者を出しているとかいないとか。私は毎回最後らへんまで置いておいて、心の準備をしてから聞くようにしている。最終上限開放はよ。
追記:クラリスのクリスマスボイスを聞いて
ああ、やっぱりダメだったよ。あいつは恋愛クソ雑魚だからな。
追記:組織コンプリートしてない件
うちにイルザはいないああああああああ欲しいぃぃぃぃいぃぃぃイルザ欲しいぃぃぃぃぃ幸せにしてやりたいぃぃぃぃぃ
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