新・メリオダスになって異世界を渡る (エルナ)
しおりを挟む

プロローグ

「うわぁ、マジでデリエリ死んだのか」

 

 

クーラーの効いた部屋のベッドで寝転がり、スマホを見ていた俺は呟いた。

 

 

今日更新されたマ○ポケの七つの大罪でデリエリの死亡が確定した。前回のラストで殆ど確定していたようなものだがそれでも微かな希望を持って一週間待っていたが死んでしまった。

 

 

「……アイス買いに行こ」

 

 

結構好きなキャラであったデリエリが死んだショックで少し気分が下がった俺はコンビニに行って気分転換をしようと思い、外へ出た。

 

 

「……あっつ」

 

 

そして、すぐに後悔した。暑い。夏故に仕方がないが、夏休みでクーラーの効いた部屋に引きこもっていた自分にはキツイ。

 

 

ぼっちではない。友達はバイトの予定があるだけだ。何?他の友達だと?……1人だけですが何か(圧力)

 

 

暑さにぼー、としていた俺は気がつかなかった……俺の足元に犬のフンがあることを。

 

 

「うおっ」

 

 

踏むギリギリで気がつき、その横に足をやった。しかし、そこには石ころがあり、転んだ。

 

 

俺は頭を強く打ち付け、意識を失った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ここはどこだ?」

 

 

気がつくと俺は白い空間にいた。

 

 

「確か俺はアイスを買いに行って……」

 

 

そして思い出した。犬のフンを避けて転んだことを。

 

 

「え?もしかしてあれで死んだの?」

 

 

「正解正解、大正解♪」

 

 

突然声がしてそちらを見ると美少女がいた。

 

 

160cmくらいの身長に腰程まである黒髪。黒い大きな瞳。決して大きいわけではないが小さいわけでもない丁度いい大きさの胸。スラリとした白い手足。

 

 

今まで見てきたどんな女性より綺麗だった。

 

 

「ふふ〜ん♪そこまで言われると照れるね」

 

 

「心読むな。誰だお前」

 

 

「辛辣!美少女だと思ったんじゃないの⁉︎」

 

 

「お前まさか可愛ければなんでも許されると思ってんのか?バカなの?死ね」

 

 

「ひどッ!君に色々説明してあげようとしたのに!」

 

 

「どうせお前神様で転生するとかそんなんだろ?」

 

 

「わかってるならなんで聞いたの⁉︎それに神様に死ねとか!」

 

 

「はぁ〜、自己紹介もできないとか最近の若いもんは」

 

 

「君より年上だからね!というか君も若いもんはじゃん!子供じゃん!」

 

 

「何当たり前のこと言ってんの?バカみたい」

 

 

「うぎぎぎッ!」

 

 

そう言いながら彼女は頭を抱えてうずくまった。いや〜、愉快愉快。

 

 

「それで、説明しろよ」

 

 

「こ、こいつッ。ま、まあいいよ。説明してあげる。私は絶対神、全ての神々を創造した1番偉い神様だよ」

 

 

「お前が?……世の中クソだな」

 

 

「なんで⁉︎」

 

 

「それで?」

 

 

「くっ、それでね実はね今神様の間で転生させるのが流行ってるの」

 

 

「遊び感覚で転生するなよ」

 

 

「いいじゃん。どうせ死んでるんだし。チート持って無双できて君達ハッピー。君達観て私達ハッピーwin-winじゃん」

 

 

「はいはいそうですねー(棒)」

 

 

「むむむ、それで私もやろうと思ったんだけどね。やっぱり絶対神だからそこらの人間じゃつまんないじゃん?」

 

 

「別にいいだろ」

 

 

「絶対神の威厳があるんだよ」

 

 

威厳(笑)

 

 

「こ、このッ。こほん。だから魂の大きい人間を探してたんだけどね」

 

 

「俺の魂が大きいと」

 

 

「大きいなんてもんじゃない。規格外だよ。世界の理がバグったのかと疑った程だよ」

 

 

「バグったってコンピュータじゃあるまいし」

 

 

「似たようなものなんだけどね。それで、君に決めたって思ってからずっと待ってたんだよ。君が死ぬの」

 

 

「ずっと観察してたのか」

 

 

「うん、そうだよ。2年間短いようで短いひと時だった」

 

 

「短いんかい。ふざけやがって」

 

 

「いや〜でも早くてよかったよかった」

 

 

「転生に拒否権は?」

 

 

「あるわけないじゃん。2年も待ったのに」

 

 

「短いじゃなかったのか」

 

 

「というわけで転生特典を選んでね」

 

 

「話を聞けクソが」

 

 

まあ、面白そうだから転生するけどさ。

 

 

「なんでもいいのか?」

 

 

「魂の大きさに左右されるけど君の場合はなんでも大抵のことはいけるよ。神になるで「メリオダスで」へ?」

 

 

「だからメリオダスだって。記憶以外をメリオダスにしてくれ」

 

 

「……もっとチートじゃなくていいの?催眠とか時止めとか不老不死とか」

 

 

「ほざけ、メリオダス以外に議論の余地無し!」

 

 

「……どんだけ好きなの」

 

 

「それから、メリオダスの呪いを「死んだら魔神王に感情を喰われて蘇る」じゃなくて「死んだら別世界で蘇る」に変えて、マエルに殺される前の状態と殺された後、それから殲滅状態(アサルトモード)を使い分けられるようにしてくれ。後、ロストヴェインもくれ」

 

 

「了解。んじゃ死んだらこの世界に来ることにしようかその後また送るからさ。それから2つ目は殲滅状態(アサルトモード)は最初のうちは原作みたいに暴走するかもだから注意してね」

 

 

「あっそ」

 

 

「後は?」

 

 

「ん?まだいけるのか?」

 

 

「うんうん。規格外だからね」

 

 

「んじゃ、転生特典による精神攻撃を無効にしてくれ」

 

 

「精神攻撃って具体的に」

 

 

「洗脳とか惚れされるとか狂わせるとか」

 

 

「了解」

 

 

「それから、転生者の転生特典を消せるようにしてくれ」

 

 

「いいよ。でも、触れてないとダメだからね」

 

 

「そうか」

 

 

「それから?」

 

 

「ん?まだいいのか」

 

 

「全然余裕あるよ?」

 

 

「え〜、もうねぇよ」

 

 

「それじゃあ、次会った時にあったら言ってね。追加するから」

 

 

「わかった」

 

 

「送る世界に希望はある?」

 

 

「メリオダスが世界観に合ってればいいよ」

 

 

「わかった。それじゃ、バイバイ」

 

 

そう言うと彼女は右手で指を鳴らした。すると、俺の足元の床が消え、落下した。

 

 

「ふざけんなああぁぁぁぁぁぁぁ………」

 

 

彼女の憎たらしいしてやったりという笑顔を最後に俺の意識は消えた。

 

 




前作とプロローグを変えたのは特に意味はありません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第1章 ゲーマー夫嫁と世界に挑むようです
設定


この章の主人公の転生特典、世界観と主人公や絶対神などの設定です。

マエルに殺される前の状態などと言うのは長いので殺される前を通常状態、殺された後を最凶状態と表現します。


◎メリオダス

☆転生特典

・メリオダスの容姿

・メリオダスの能力(魔神族の魔力と身体能力、魔力『全反撃(フルカウンター)』)

通常状態:闘級3万2500

最凶状態:闘級6万

殲滅状態(アサルトモード):闘級14万2000

・神器『魔剣ロストヴェイン』

・メリオダスの呪いを「死ぬたびに魔神王に感情を奪われて蘇る」ではなく、「死ぬたびに別の異世界で蘇る」に変える。

・他の転生者の転生特典がわかる

・他の転生者の転生特典の精神に及ぼす能力(惚れさせる、情緒不安定にする等)の無効化

・触れている転生者の転生特典を消せる

増える可能性大

 

☆設定

日本に住んでいる普通の高校一年生だった。夏休みに外へ出た時に転び、頭を打ち付け死んだ。その後転生の間で絶対神を名乗る美少女に自分の魂が人間では規格外のものだと知る。そして転生特典をもらって転生した世界がノゲノラゼロの世界だと知り、次絶対神に会ったらぶっ飛ばすと誓っている。

メリオダスの能力に慣れておらず、魔力を使っていないガランにも通常状態では魔神化しなければ勝てない程である。この章では戦闘経験をほとんど積めないためしばらくメリオダスの力に振り回される。ノゲノラは六巻は読んでいるが映画は観ていない。七つの大罪は277話まで読んでいる。

性格は人をおちょくるのが好き。少しSっ毛がある。しかし、基本的に優しく、死んでも蘇ることを含めて見ず知らずの人の為に命を張れる。しかし、最凶状態になると通常状態より感情が薄くなり、殲滅状態(アサルトモード)になると完全に別人格のようになってしまう。

動物が好き。特に猫が大好き。

 

◎絶対神

見た目は黒髪ロングの美少女。全知全能であるがそれではつまらないと全知の力を封印している。全ての世界は絶対神か絶対神が創造した神々によって作られた。その存在を知る者は、絶対神に直接作られた神々だけである。そのため信仰などはされていない。ドラ◯ンボールの全王様のように世界や神々を簡単に消せるがそのようなことはしたことがないのでその存在を知る神からは「気まぐれに神や世界を作る暇神」と思われている。主人公には暇ではないと言っていたが、自分が創った世界も同時に神も創り、その神に管理させているためとても暇で、今までは色んな世界を観て暇を潰していたが、今は主人公を観て暇を潰している。

 

◎ノーゲーム・ノーライフゼロでのメリオダス

神霊種《オールドデウス》に近い存在。しかし神霊種(オールドデウス)とは違い生物であるため解析魔法を使うと、神霊種(オールドデウス)?となる。ノゲノラゼロの精霊と七つの大罪の魔力はほぼ同じなので全反撃が使える。殲滅状態(アサルトモード)になると天翼種(フリューゲル)複数相手でも勝つことができる。メリオダスの力を十全に使えれば通常状態でも魔神化無しで獣人種(ワービースト)十数体相手でも勝てる。しかし今は通常状態で獣人種五体ほど相手できる程度である。魔剣ロストヴェインの実像分身は精霊反応があるためしばらくはただの斬れ味のいい剣である。

 




不明な点があればご質問ください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第1話 最初からハードモード

今回は前作の1話とほぼ同じです。リメイクとは一体……。


それでは第1話をどうぞ。


気がついたら洞窟のようなところで倒れていた。どうやら天才ゲーマーや問題児達のように空から落とされるようなことはないらしい。だったら落とすなと俺を転生させた絶対神(笑)に文句を言いつつ起き上がり自分の状態を確認する。

 

 

「おお!」

 

 

思わず声が出た。転生前は高1で身長も170cmぐらいだったが、今はかなり目線が下がっている。おそらく、メリオダスの身長の152cmになっているだろう。目にかかる髪は金色だ。服装は、ヘンドリクセン戦後の服装になっている。コスプレみたいで少し恥ずかしいな。

 

 

「おお!」

 

 

また声が出てしまった。背中には、メリオダスの武器である神器『魔剣 ロストヴェイン』があった。

 

 

「カッコいい!」

 

 

ロストヴェインを抜いて少し振ってみる。ちょうどいい重さだ。いい相棒になりそうだ。

 

 

さて、次はこの世界がどんな世界かを知らないとな。知っている世界だといいんd

 

 

ドゴオオォォォォォォオンッ‼︎

 

 

「なっ!なんだ!外からか?」

 

 

そう言いながら周りを見るとここは洞窟の一番奥らしい。出口へ向かってみる。外からは赤い光が入ってくる。それを不思議に思いながら、出口へ向かってみる。1、2分で出口についた。出口はいま立っているところから2mくらい上にあった。人間なら150cmぐらいの身長の人が上に上がるのは苦労するだろうが、魔神族の身体能力なら問題ない。少しジャンプして手を引っ掛けて慎重に顔だけ出してみる。

 

 

血の色の空、碧い灰、そして、1kmくらい先にいる小山のような大きさの龍、その周りを飛びながら龍に攻撃をする白い翼と光輪を持つ複数の天使のような少女達

 

 

以上のことを約1秒ほどかけて確認すると俺は速やかに頭を引っ込めた。

 

 

「いや〜ないないそんなことあるわけないない。」

 

 

俺は少し前までは人同士の戦争や猛獣同士の戦いくらいなら横槍を入れてメリオダスの力に慣れようとしていた。が、外の状況を確認した後はそんな考えは、宇宙の彼方まで飛んでしまった。

 

 

「ないない、あの神様もそこまで馬鹿じゃないだろう。」

 

 

だって一番偉い神様だぜ。そんなことするわけない。疲れてるんだ。と現実逃避をしていると、天井が消えた。

 

 

「……へ?」

 

 

その直後先程見た龍達と逆方向から閃光と爆音と爆風が届いた。どうやら流れ弾らしい……

 

 

はは、認めよう。この世界は俺が知っている限り最悪の世界おそらくは……

 

 

「この世界って……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ノゲノラゼロじゃね」

 

 

どうやら俺の異世界生活は初めからハードモードらしい。

 




次回もほぼ同じかも。でも前作はダラダラと説明してたからそれを短くするかも。

それでは第2話もお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話 とりあえず状況確認

なんか前作より文字数が増えた。……なんでや。

それでは第2話をどうぞ。


とりあえずあのクソ女神は次会ったらぶっ飛ばす。

 

 

と固い決意を固めて、黒灰から逃れる為に奥の方が下がっている構造のおかげで屋根がある俺が最初に目覚めた辺りへ戻った。まずはこの世界のことを思い出そう。

 

 

『ノーゲーム・ノーライフゼロ』、アニメ『ノーゲーム・ノーライフ』の過去の、具体的には6000年程昔の話。映画になった話である。あらすじとしては神々とその被造物の永遠にも等しい程の永きに渡り繰り広げられてきた大戦。それを、この世界の最弱の種である人間が誰も殺さず誰にも悟られずに大戦を止めようとした話である。結果として大戦は止められたが主人公のリクとヒロインのシュヴィは亡くなってしまうのである。

 

 

さて、それではなぜ俺が最悪の世界という根拠を話していこう。それはメリオダスボディを持ってしても過酷としか言いようのない環境だからである。

 

 

まず、天を灰燼が覆い、太陽の光が届かない為全球凍結である。寒い。更には黒灰という先程見た空から降り注ぐ碧い灰。これは殆どの種にとっての猛毒だ。

 

 

そんな地獄としか言いようのない星になってしまった原因は永遠の大戦を続ける神々と被造物(デタラメども)のせいだ。そのデタラメ共を少しだけ紹介しよう。

 

 

この世界の神である神霊種(オールドデウス)。意思を持った概念そのもので祈りや想いの強さで星から生まれた存在である。戦いの神や森の神、遊戯の神などが存在する。神殺しに成功した種は2種しかいない程強大な存在であり、最強の神である戦神アルトシュの力は星をも砕く程である。

 

 

先程俺が見た小山程の龍は龍精種(ドラゴニア)という種族だ。世界最古の神霊種(オールドデウス)が死んだ後に分裂して生まれた種だ。ともすれば下級の神霊種(オールドデウス)に匹敵する程の力を持ち、龍精種(ドラゴニア)の【王】を冠する三体はそれを更に凌駕する。【王】の一体である『終龍』ハーティレイヴは『戦神』アルトシュと最強の座を争った存在である。

 

 

龍精種(ドラゴニア)の生態は時間に点ではなく面として存在している為、神霊種(オールドデウス)のように未来視をすることも可能で、現在という一点を攻撃してもいかに攻撃しようと、過去・未来の修正でたちまち復元するというデタラメな生態だ。

 

 

先程見たもう一方の種は天翼種(フリューゲル)である。戦いの神霊種(オールドデウス)であるアルトシュによって造られた神殺しの兵器である。その全てが天使のような美少女の姿をしている。理由はわからないがアルトシュの趣味かもしれないw。しかし彼女らは他の種族の首を収集しており美少女たちが首を取り合っている様は不気味である。

 

 

天翼種(フリューゲル)は空間転移自在であり、大抵の種族なら見ただけで死を幻視する存在である。龍精種(ドラゴニア)ですら50体ほどもいれば一体では勝つことはできないほど強い。そして全ての種で一番平和に暮らしている種でもある。ちなみに、龍精種を単独討伐をした天翼種が一体いる。

 

 

ノゲノラゼロのヒロインであるシュヴィの種は機凱種(エクスマキナ)である。彼等は機械の種族で生物ですらなく(天翼種(フリューゲル)龍精種(ドラゴニア)も生物ではなく生命である。)龍精種(ドラゴニア)の王の一体とその従龍(フォロワー)計8体の龍精種(ドラゴニア)を4000機足らずで討伐した。

 

 

その能力は撃破要因を模倣することである。機凱種(エクスマキナ)連結体(クラスタ)というもので繋がっており、その連結体に接続している機凱種(エクスマキナ)が破壊された場合に破壊した技、魔法等を解析し、それを放てる兵器を作ることができる。理論上無限に強くなる種でその武装は永きの大戦で増え続け大戦終了間際では27000以上になっている。しかし、この種は能動的に行動せず攻撃されれば報復するが敵対しない限り攻撃をしてこない。

 

 

ここまで長々と説明するとこの世界の種族のデタラメさを分かっていただけたと思う。勿論、先に説明した種族はこの世界でも上位に位置する種族ではあるが他の種族も現代兵器を鼻で笑う魔法や兵器を持っている。本当に力にも慣れてない状態で送る世界ではない。というか平和な日本で暮らしてた奴を送るような世界ではない。つまり何が言いたいかというと「クソ女神死ねえええぇぇぇ!」だ

 

 

ちなみに声に出さない理由は叫ぶと近くにいる化け物どもに気づかれる可能性があるからだ。この最中にも殺し合いの音が聞こえてくるので流れ弾が来ないか気が気でない。

 

 

さてこの化け物揃いの世界で人間が持っている力は……何もである。地球に住む人間と変わらないのだ。魔法を使うどころか使われたことに気付くことすらできない。その状態でおそらく20000年以上生き残っていたので謎だ。さらには大戦まで止めてしまったのでもはや恐ろしいレベルである。

 

 

さて他にも言いたいことはあるが後々に回すことにする。今最優先で行うべきことは安全確保即ちこの場から離れることである。しかしそれはとても難しい。理由は黒灰だ。これはこの世界の精霊が死んだ死骸だ。精霊とはこの世界の魔力のようなもので魔法を使う原動力となる存在だ。星の精霊回廊を流れ空気中やこの世界の生物の体内にも大小の違いはあれ存在している。先に説明した通り大半の種族にとって致死の毒である。

 

 

この世界にはいない魔神族である俺にとってもおそらくそうだろう。なぜそう思うかというと化け物どもが殺し合っていると思われる方向から強大な力を感じるからだ。おそらくこの世界の精霊と七つの大罪の魔力は同じと思われる。

 

 

つまり精霊を持つ俺にとっても致死の毒ではないかと思ったのだ。しかしこれは所詮は灰なので防護服で防いだり魔法で吹き飛ばしたり拳圧で飛ばすことすら可能である。がいまは防護服どころか着ている服以外にボロ布すらなくメリオダスは魔法は使わないしそもそも力に慣れてないから使えたとしても使えない、拳圧で飛ばすのはできるがそれでは近くで戦闘中の化け物どもに気づかれる危険がある。化け物どもの戦闘が終わるまで待つにしても流れ弾一つで死ぬ可能性がある。全反撃(フルカウンター)や魔神の闇で防ぐ手もあるがぶっつけ本番でできるがわからない。できたとしても気づかれる可能性がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ……詰んでね!

 

 




ノゲノラを知らない人にも見てもらいたくて説明しているんですけど分かるかなぁ。

それでは第3話もお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話 現状打破

今回は殆ど前作と同じですね。じ、次回は多分変わる……はず。

それでは第3話をどうぞ。


ほとんど詰んでいることに気づいた俺は流れ弾が来ないことを祈りながら外の化け物どもの戦闘が終わるまで待つことにした。

 

 

……祈る?誰に?絶対神?……あれに祈るくらいなら死を選ぶな……

 

 

そう思いながらやはり何かしらの行動に移そうかと考えていた時。

 

 

空気が——空間が震えた……

 

 

「!?」

 

 

感覚的に大気中にあったおそらく精霊と思われる碧く光るものが化け物どもが戦闘している方向へ流れた……

 

 

嫌な予感がしてふたたび化け物どもを確認しに向かった。黒灰が降ってきていないことを確認しながら顔を慎重に出してみると……

 

 

化け物どもが互いに距離を取り、自身の最大の攻撃を放とうとしていた。

 

 

片や、天使のような見た目をした天翼種(フリューゲル)それは先程はわからなかったがその数は200程いた。その全てが翼を滾らせ、周囲から……いや星からも精霊を搾取し、圧縮、圧搾、凝縮収縮濃縮し、頭上の光輪をただの光と化すほどの高速回転させている。

 

 

『天撃』

 

 

天翼種(フリューゲル)が体内構造の全てを精霊回廊接続神経に変質させて精霊の流れである精霊回廊の源潮流から力を汲み上げて撃ち込む天翼種(フリューゲル)の最大最強の一撃。一体分の『天撃』で山々を吹き飛ばす威力を持ち200の『天撃』が同時に放たれれば大陸が無くなりかねない威力にもなる。

 

 

片や小山のような巨体を持つ龍精種(ドラゴニア)一体だけで神殺しの兵器200程と対峙し、放とうとしている技は

 

 

崩哮(ファークライ)

 

 

龍精種(ドラゴニア)が自己崩壊を代償に放つ一撃。かつて龍精種(ドラゴニア)の王を冠する一体の『崩哮(ファークライ)』は機凱種(エクスマキナ)を逸らしたにもかかわらず1400機以上を消した。もちろんあの龍精種(ドラゴニア)は王ではないだろう。しかしそれでも天翼種(フリューゲル)の数十体は軽く殺せるであろう。

 

 

その二つが今まさにぶつかろうとしている事実に気づいた俺は己の不幸……ではなく俺を転生させたクソ女神を呪った。

 

 

あの二つがぶつかればおそらく余波だけでこの洞窟は蒸発してしまうだろう。

 

 

しかし悪いことばかりではない。

 

 

『天撃』は使うと精霊の過剰使用により形状維持不能となり、幼い子供の姿になってしばらく(具体的には自然回復で50年、修復術式を使っても5年ほど)力の大半を失い弱体化する。さらに『崩哮(ファークライ)』は説明した通り龍精種(ドラゴニア)が自己崩壊を代償に放つ技である。

 

 

すなわちどちらの種が勝ってもこちらに気付き追うことができるものはいなくなる。

 

 

唯一にして最大の問題がその二つがぶつかる余波だけで俺が死にかねないわけだが……

 

 

しかしどうしようもないので魔神化し、闇の制御を試してみる。今はどちらも周りに気を配る余裕はないので精霊反応があっても気づかれないと思われる(それ以前にあっちの精霊反応が強すぎて気づかない)。

 

 

意外と闇の制御を行うことができているので、メラスキュラの暗澹の繭のように身体を闇で覆って防御態勢を取る。

 

 

その直後俺の身体を凄まじい衝撃を襲った。

 

 

その衝撃がなくなってからさらに少し時間を置いてから闇を解除して地面に足をつける寸前で解除し掛けていた闇を翼に変えて飛んだ。

 

 

うまく飛べずフラフラしながら地面を見ると液体だった。

 

 

あたり一面大地が溶けていた。先程までは凍えるような寒さが今は人間なら死んでいるのではないかと思う程の暑さに変わっていた。

 

 

「……うわ〜……ヤバ」

 

周りには天翼種(フリューゲル)の姿はなかったのでひとまず安心し、歩けるところまで飛ぶことにした。

 

 

これがとても難しかった。何度も落ちそうになりながら1時間ほど飛ぶとやっと歩けそうなところについた。

 

 

ついでに黒灰も吹っ飛んだようでしばらくは黒灰の心配はしなくて良さそうだ。

 

 

そうして俺は辺りを警戒しながら辺りの散策を開始した。

 

 




もしかしたら前作より原作に入るのが遅くなるかもしれません。そのかわり早く投稿できるように頑張ります。

それでは第4話もお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話 サバイバル

ここから前作と変わります。後、今回は短めです。理由は後書きにて。

それでは第4話をどうぞ


ひとまず危険を回避できたので次は人間に接触して行動を共にしたい。リクのいる集落ならなおよし。

 

 

それには色々問題があるがその前にまずどこかで黒灰を防げる防護服や毛皮を見つけないと黒灰の風の一吹きで溶けて死ぬ。

 

 

今は化け物どもの攻撃の余波で吹き飛んでいて大丈夫だが、しばらくすればまた黒灰が降り始めるだろう。あと寒い。太陽が隠れているからとても寒い。が、我慢できないほどではないので無視する。

 

 

せめて降り始める前に黒灰を防げる何かを見つけないといけないが、まあ、最悪穴掘ればいいだろう。

 

 

しばらく荒野を歩いていると森が見えてきた。森ならある程度黒灰を遮ってくれるし、動物もいるかもしれない。

 

 

「へっくしっ!」

 

 

ヤベェ、さっきより寒くなってきた。なんでや……ってそうか奴らの攻撃で気温が上昇していたのか。

 

 

これ以上寒くなるのはキツイ。薪を拾ってどこか洞窟を見つけないとな。

 

 

森の中をしばらく歩いていると、熊に出会った。

 

 

ちょうどいい。肉と毛皮を剥ぎ取ろうと思っていたのだが、熊は俺を見るとすぐに尻尾を巻いて逃げ出した。

 

 

…………。

 

 

うん。わかるよ。この世界だと襲いかかるなんてことをしたら人間でもない限り、殺されるって。でもさ、もうちょっと頑張れよ。

 

 

俺はそう思いながら、熊を追いかけて走ろうと少し足に力を入れたら……凄まじい勢いで前方へ飛んでいき、木々を薙ぎ倒しながら熊に激突して止まった。

 

 

「な、なんてデタラメな身体だ」

 

 

あまり痛みがないことにも呆れてしまう。後ろを見れば俺がさっきまでいたところの地面がえぐれている。走ろうとしただけでこれとはホント凄まじい力だな。

 

 

まあ、ちょうどよく熊に当たったからよしとしよう。……後で、力の調節の練習をしないとな。

 

 

熊を持ち上げると熊は息も絶え絶えで、血を吐いていた。……可哀想だからトドメを刺しておいた。熊よその命は無駄にはしない。

 

 

そんなことより熊が軽い。片手で持てるレベルだ。2m程もあるのにこの軽さは驚きだ。俺、あんまりこの世界の奴らのこと言えないかもしれない。俺も十分デタラメだ。

 

 

更に、熊を担ぎ、枝を拾いながら森を進んでいると、岩山が見えてきて、そこの麓に洞窟があった。

 

 

そろそろ降ってきた黒灰を避けるためその洞窟へ入った。

 

 

中は3m程の細道の先に直径5m程の広間があった。幸い、動物や他種族はいないようだ。俺は、熊を下ろし、現在非常に深刻な問題「寒い」をなんとかするため持ってきた枝で火を起こそうとした。

 

 

10分後……。

 

 

「うがぁぁ!付かねぇぇ!……ぶっえくしょい!」

 

 

サバイバルできる高校生が日本にどのくらいいるのだろうか。少なくとも俺はできない。10分間試行錯誤をしていたが付く気配すらない。そろそろ手がかじかんできた。このままでは凍ってしまう。

 

 

最終手段として、獄炎で暖をとるという手もあるが、あれだと薪を焼き尽くしてしまうかもしれないし、精霊反応を探知される恐れもある。

 

 

……どうしよ。

 

 




今回が短い理由ですが、現在活動報告にてヒロインについてのアンケートを取っています。それの結果によってこの先を変えたいと思っているので今回はアンケートを実施していることをお知らせするために投稿しました。

それから、前作とこのように変えた理由は、前作は原作にメリオダスを添えただけみたいな感じになってしまったので今作は主人公がメリオダスの力に四苦八苦する場面やこの過酷な環境で苦しんでいる様を書いて見ました。
前作では、後付けになってしまった力の調節や魔力を抑える術、主人公の料理下手などを原作の流れに乗せながら書いていきたいと思っています。

それでは第5話をお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話 流れ弾

【悲報】アンケート参加者3名。
……いや、別に強制するものでもないので別にいいんですけどね?欲を言えばもっと来て欲しかったかなあ。

さて、アンケートの結果を参考に考えさせていただいた結果。第1章はヒロインなしということに決めました。それでですね。今回のアンケートでは第1章のヒロインをどうするかという質問とこれからの世界で主人公を一途にするか、それぞれの世界で恋人を作るかという質問も行いました。これについてはまだ悩んでおります。という訳でもう一度アンケートを取ります。ちなみに一途の場合はオリキャラにするつもりです。
さらにもう一つ聞きたいことがある——というか前作の頃から聞いているのですがオリジナル世界に連れて行くのはアリか、という質問とメリオダスをどこの世界に連れて行って欲しいか、という質問を上のヒロインのアンケートと一緒に行います。……ヒロインアンケが増えなかったらコイントスで決めようかな。

話は変わりますが最近前作を読み直すと恥ずかしくなって来ますね(汗)
ノゲノラを知らない人のためにと色々説明していますが結構中途半端なんですよね。キャラの説明とか殆どしてないし。
それで思ったんですけどこの作品を読んでいる人ってノゲノラの原作を読んでいない人っているんですかね?

後、今回グロ注意かもしれません。具体的には前回獲った熊の解体シーンがあるのですがそこまで詳しい描写はしてないので多分大丈夫だと思いますが、一応気をつけてください。

それでは第5話をどうぞ。


それからさらに5分間試行錯誤をしたが煙一つ出なかった。……泣きそう。

 

 

もう、獄炎で暖を取ろうかと思っていると、遠くから精霊の気配を感じた。さっきの龍精種と天翼種(デタラメども)と比べると悲しくなるほど弱い力ではあるが原作から現代兵器涙目の超火力であることは疑うまでもない。

 

 

何処かの種族が交戦でもしてるのかな、などと呑気なことを考えていると、ふと気がついた。あれ?こっちに向かってきてね?と。

 

 

超高速で近づいてくる。ここまで後、数分で到達する。

 

 

お、おおちちちつつつつけけけ。種族か⁉︎流れ弾か⁉︎どっちかで対応が変わるぞ⁉︎

 

 

流れ弾なら悠長にこんな場所に居るべきではない。すぐさまここを離れるか、最低でも全反撃(フルカウンター)の準備はしておくべきだ。しかし、なんらかの種族の場合、それは愚策だ。姿を見られれば、攻撃されかねない。

 

 

もちろん、メリオダスボディのスペックを持ってすればまともな生物であればそうそう負けはしないだろう。しかしだ。俺はまだメリオダスの力に慣れていない。この状態では恐らく負ける。

 

 

と、考えている間にも精霊反応は迫る。

 

 

ぐぬぬ。よし!ここに隠れていよう。理由は、流れ弾よりなんらかの種族の場合の方が最悪だからだ。

 

 

そう思い立ち衝撃に備えようとして気がついた。あれ?この岩山じゃなくて隣の森じゃね?と。

 

 

そう気がついた瞬間、精霊反応が森へ到達した。

 

 

ドゴオオォォォォォォオンッ‼︎

 

 

という、凄まじい爆音とともに洞窟の入り口から、凄まじい熱気の爆風が入ってきた。

 

 

その爆風に俺は飛ばされてしまった。踏ん張りが甘かったか!と思う間も無く壁に叩きつけられた。

 

 

さらにそれだけで終わらず、洞窟の中で爆風が荒れ狂い、俺は熊の死骸と拾ってきた枝と共に洞窟の中を飛ばされまくり、壁や天井に叩きつけられまくった。

 

 

どのくらいそうされていただろうか。やっと爆風が収まった。

 

 

「も、もうやだ。俺が何をしたっちゅうねん……」

 

 

地面に突っ伏しながら、そう呟いた俺を誰が責められようか。

 

 

平和な日本のただの高校生であった俺が、いきなりうまく扱えないメリオダスの力と+αを貰ってノゲノラの世界に来たと思ったら龍精種(ドラゴニア)天翼種(フリューゲル)の交戦に巻き込まれそうになって死にかけたり、やっと比較的安全な洞窟に辿り着いたと思ったら、火がつかなくて凍えそうになるし、どっかの種族の流れ弾で洞窟の中を叩きつけられまくるし、ついでに爆風で今度はめちゃくちゃ熱いし!

 

 

「ふふふ、もうゴールしてもいいよね。このまま眠るようにさ……」

 

 

そう、瞼をゆっくり閉じようとした俺はふと気がつき、目を開けた。

 

 

あの流れ弾は森に着弾した。ならばあの熱だ。木に火の一つでも付いているのではないかと。もちろんあの威力で全てが吹き飛んだ可能性はあるが確認する価値はあると思う。

 

 

俺は突っ伏したまま考える。このまま楽になるか、もうちょっと頑張ってみるか。

 

 

数十秒の熟考の下、結論は出た。

 

 

「も、もうちょっと頑張ろう。リク達に会えれば格段に楽になるからッ!火も手に入れば肉も焼けるッ!」

 

 

ノーゲーム・ノーライフは俺が1番と言っても過言ではないくらい好きな作品だ。だからもう少し頑張ろう!

 

 

そう思い、重い体を気力を振り絞って起こす。もちろん、メリオダスの体はあれくらいで堪えたりしないが精神的な問題で重い体を何とか起こすと、服の土を払いながら洞窟の外へと出る。

 

 

出て目に入った光景は唖然とするものだった。

 

 

……見渡す限り焼け野原。どうりで熱いわけだと逃避的に考えつつ、燃えている木を一本、小さくロストヴェインで斬り、洞窟の中へ運ぶ。……その時力加減を間違えて地面まで斬ってしまったことから目を逸らしつつ。

 

 

洞窟の中へ燃えている木を運ぶと、散らばってしまった枝を集め、焚き火をする。

 

 

その後は熊の解体だ。しかし、グロい。やりたくない。しかし、やらねば餓死する。

 

 

ぐぬぬ、と苦悩しながら、覚悟を決めて、ロストヴェインで熊の解体をする。

 

 

血が飛び出たり、内臓が見えるたび気分が悪くなる。俺はグロ映画やゲーム、アニメに特別苦手意識はなかったが、リアルとは全然違う。苦手になりそうだ。でも、これからファンタジー世界で過ごすなら慣れなきゃだよなぁと目の前の光景から意識を晒すためにそんなことを考えながら作業を続ける。

 

 

毛皮を剥ぐのは、かなり難しかった。何とか時間を掛けて霊骸を防げる程度には剥ぐことが出来た。

 

 

俺スゲー、と自画自賛しつつ、毛皮は一旦置いといて、次は肉や骨などを解体する。内臓類って食えるのだろうか。いや、まあ、モツとかハツとかあるから食えるのだろうけど食ったことないからなぁ。でも一応取っておこう。

 

 

骨は道具を作るのに役立ちそうだ。フッ、自慢じゃないが中学の技術の授業は成績良かったぜ(キリッ。

 

 

まあ、中学の技術の授業ができても、ナイフ(ロストヴェイン)一つと骨で何ができるのでしょうね。ハハハ。

 

 

というわけで、違うことを考えることで何とか鬱にならずに熊の解体を終わらせることができたので、やり切ったぜ、と額の汗を拭うと次は肉を切り、焼く。

 

 

調味料も無いし、熊の肉が美味いかも分からないので味には期待しないでおく。しかし、この世界に来て初めての食事だ。ぶっちゃけ腹減った。

 

 

しっかり焼けたことを確認してから、口に運ぶ。

 

 

「……マズッ!」

 

 

思わず吐き出しそうになった……。

 

 

何だこりゃ。俺が悪いのか⁉︎素材が悪いのか⁉︎し、しかし、どちらにしても食わぬ訳には……。

 

 

俺は涙目になりながら、肉を食った。

 

 




熊の解体で検索したらグロ画像が出てきた……。

野生動物の解体って、直ぐに血抜きしなきゃいけないみたいですね。ま、まあ、主人公にそんな知識あるのは不自然ですしこのままでいいですよね。

ロストヴェインがサバイバルナイフと化している件について。短剣だし仕方ないよね!

今回お待たせしてすみませんでした。次はもっと早く投稿したいと思います。

それでは第6話をお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話 獣人種(ワービースト)

昨日、Twitterで「今日明日に投稿します」って言ったのにかなりギリギリだった。長くなっちゃったから仕方ないね。

しかし、このペースだと旧作より、第1章終わるのが遅くなってしまうかもしれぬ。ペース上げなきゃな。ちなみにアンケートは第1章が終わるまでが期間です。

それでは第6話をどうぞ


クソマジィ肉を食べ終わった後、俺は肉を骨に刺し、干し肉になれと願いながら置いておく。腐るような気もするが太陽が隠れた永久凍土のここなら大丈夫だろうと思っておく。その後、俺は力の制御の練習をする。

 

 

これは急務だ。身体能力の制御はともかく、魔力の制御はかなり急がないといけない。

 

 

理由はもちろんデタラメ共に見つかる可能性がかなり高いからだ。そうなれば単独でもない限り死ぬ。上位種族ならば単独でも死ぬ。そうならないために魔力を抑える練習をしなければならない。

 

 

俺はあぐらをかき、目を閉じて自分の中の魔力を感じ取ることから始める。

 

 

……闇だな。俺の魔力。深い……深い闇だ。夜の闇より深い漆黒だ。魔神族だから仕方がないがこれ、世界によっちゃ誤解されそうだな。まあいいか。さっさと抑えよう。

 

 

これが意外と難しい。気を抜くとすぐに元に戻ってしまう。

 

 

自分でもほとんど感じることができなくなってから、目を開けて立ち上がる。次は身体能力の制御だ。

 

 

まずは軽く跳んでみる。すると……天井に激突した。

 

 

「イデェェ!」

 

 

俺は頭を抱えて悶絶した。ついでに魔力も解放された。

 

 

不意な事があっても魔力を抑え続けられるようにしなければならないな、と新しい課題を確認しつつ、次はさっきより弱めに跳んでみた。

 

 

今度は天井ギリギリまでで、止まり落ちた。その感覚を忘れない内に何度か跳ぶ。そして、8回程跳んで気がついた。足に集中しすぎて魔力が漏れ始めていると。

 

 

「くそ、難しいな」

 

 

また魔力を抑えて、今度は魔力のことにも注意しながら何度か跳ぶ。

 

 

「よし!大丈夫そうだな。次は走る練習だ」

 

 

跳んだ時に掴んだ感覚で洞窟の中を走り始める。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

体感で5時間ほど洞窟の中で動き回った結果魔力を抑えるのはほぼ完璧だ。しかし、洞窟の中では不意な事などほとんど起きないのでそこの練習はほとんどできなかった。

 

 

身体能力に関しては、もう、ほとんど集中していなくてもできるようにはなったがこっちも焦った時などはどうなるかわからない。

 

 

しかし、流石に今日は疲れた。色々ありすぎた。間違いなく俺の16年間の人生の中で1番濃い1日だった。この世界来てから何時間経ったか知らんが。

 

 

というわけで、干しておいた若干凍りかかっている肉を無心で食い、熊から剥いだ毛皮に包まって寝た。……美味い飯が食いたいと思いながら。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

目を覚ますと魔力が漏れていた。……寝ている間も抑えられるように練習しなきゃな。

 

 

干してあるもはや凍っている肉を無心で食べて外を見てみる。流石に火は消えていた。練習中寝る前はまだ燃えていたんだがな。

 

 

そして、ついに外を探索する準備を始める。流石にずっとこもっているわけにはいかない。

 

 

熊から剥いでおいた毛皮を全身を覆う。頭に被り、口元を覆い、ポンチョのように体を覆う。目元以外は全て覆った。これなら霊骸を浴びることはほぼないだろう。目元は少し気をつけなくてはいけないが。

 

 

外へ出るとあいも変わらず血のように赤い空と、その空から降り注ぐ碧い黒灰が出迎える。

 

 

元々はこの空も青かったらしい。だが、永遠の大戦で灰燼が天へ昇り、それがこの星を織り成す精霊の流れ——精霊回廊に当たり光を放ち、空は赤くなったらしい。それによって死んだ精霊が霊骸となり、チリや灰と混ざって黒灰と化しているらしい。この黒灰は本来なら精霊を見ることができない人間にも碧く見えるらしい。それは、灰塵に衝突して精霊が死ぬ直前に放つ最期の光だからだそうだ。

 

 

それを思うと大戦の最大の被害者は人間より、精霊だよなぁ、と他人事のように考える。

 

 

空から視線を地上に下ろす。周りを見回すと、洞窟のある岩山の洞窟の入り口がある方向の森は全滅しているが岩山の反対側はどうやら無事なようだ。

 

 

俺は態勢を低くして、息を潜め、心音すら隠す程に気配を殺して、森へ進んでいく。

 

 

森へ進んだ理由は荒野は空から丸見えなのと食糧が何かないかと思ったからだ。

 

 

進んで行くと水音のようなものが聞こえてくる。川か?ちょうどいい、喉がカラカラなんだ。

 

 

俺は水を求めて音の方へ進んで行く。音のする場所へ着くと俺の予想通り、川だった。

 

 

喉が渇いていた俺は周囲を確認すると口元の毛皮を下ろし、手で水を掬い、口に運んだ。

 

 

うめぇ。肉なんかより全然うめぇぜ。水を運ぶ物を持ってないから毎回ここに来なきゃいけないのが少し心配だがな。

 

 

満足して、探索を続けようとした俺の耳に、ガサッという音が届いた。

 

 

俺は反射的に身を屈め、草むらに隠れる。

 

 

まだ、遠い、が確実にこちらに向かって来ている。

 

 

(水を飲みに来ただけか?なら隠れてやり過ごせば——ッ。)

 

 

そう思っていた俺は唐突に悪寒を感じた。昨日、天翼種(フリューゲル)龍精種(ドラゴニア)の衝突で感じた感覚——死ぬという感覚を。

 

 

俺はほぼ反射で後方へ跳んだ。次の瞬間、音のしていた場所と、さっきまで俺がいた場所で轟音が響いた。

 

 

クレーターができたさっきまで俺がいた場所には防護服に身を包んだ存在がいた。フードから見える獣耳に腰から伸びる尻尾——獣人種(ワービースト)だ。

 

 

獣人種(ワービースト)——この世界では雑魚に分類される種族であり、前述した通り獣耳尻尾を持つ素晴らしい種族である。

 

 

しかし、その性能は恐ろしいと言わざるおえない。獣人種(ワービースト)の身体能力は物理限界に到達するとまで言われ、事実彼らは音速で駆け、その気になれば空中や水の上すら走る。さらに、獣故にか相手の心音や毛細血管の音すら捉えるほど、五感も鋭い。しかし、獣人種(ワービースト)は魔法を扱う事ができない。

 

 

そもそも、この世界の魔法とは、この世界の生命なら、体内に微量でも精霊を持っている。その保有量、精霊回廊接続神経の適正——つまり如何に外部精霊——つまり魔法を使えるかが決まる。

 

 

獣人種(ワービースト)はこの適性が人間ほどでないが極めて低く、魔法を一切使う事ができないが、人間を含めた全ての生命が無意識に行う体内精霊の体内精霊の操作を強く作用する事で驚異的な身体能力を発揮する事ができる。

 

 

その顕著な例が『血壊』だ。『血壊』とは体内精霊を暴走させ、身体能力を引き上げる獣人種(ワービースト)の天性の技能だ。しかし、その代償に寿命を削り、さらに体内精霊が絶えず乱れてしまう。

 

 

(てか、速すぎるだろ!音のしていた場所とここまで100m以上あったぞ!一瞬で駆け抜けたってのか⁉︎)

 

 

俺は着地しながら、そう考える。

 

 

さて、俺は今最悪ではないがかなりピンチだ。前述した通り、これだけの能力を持ってはいるがこの世界では雑魚だ。どれだけ高い身体能力を持っていようと山ごと消されてはどうしようもない。故にこの時代ではかなり苦しい生活を送っているようだ。

 

 

しかし、今の俺には強敵であることに変わりはない。メリオダスの力をフルに発揮できれば勝てると思うが、力を抑える術をなんとか身につけただけの今の俺では勝てるか怪しい。

 

 

さらに、前方の獣人種(ワービースト)だけでなく、周りからも悪寒のようなものを感じる。これが殺気か。姿は見えないがおそらくまだいる。

 

 

(当然か、原作でも3人で狩りをしてたしな。この世界じゃ1匹なんて自殺行為か)

 

 

そう考えながら、この場をどうするか策を考える。

 

 

(とりあえず逃げるか)

 

 

殺気が1番薄いところへ跳び、俺は逃げ出した。

 

 

俺が動き出した瞬間、前方の獣人種(ワービースト)が俺へ突っ込んでくる。速い——が見えないほどではない。俺は振り返りつつ、獣人種(ワービースト)を蹴り上げる。

 

 

「グッ!」

 

 

獣人種(ワービースト)は呻きながら、飛ばされる。

 

 

俺は着地して、逃げ出そうとするが、左右から同時に獣人種(ワービースト)が現れた。先の獣人種(ワービースト)より速い。身体が赤く染まっている。『血壊』だ。どうやら、本格的に俺を狩るつもりらしい。

 

 

俺は避けきれず、2人の攻撃を両腕でガードしつつ受ける。その衝撃で大地がめくれ、木々が吹き飛ぶ。

 

 

俺はあえて、攻撃の衝撃に身を任せ、飛ばされながら、撤退する。しかし、今度は蹴り上げた獣人種(ワービースト)が『血壊』を使い、空中を蹴り、俺へ凄まじいスピードで迫る。

 

 

俺は地面を全力で蹴り、前方へ進む。最早、全速力で走る。

 

 

流石、メリオダスボディというべきか。『血壊』状態の獣人種(ワービースト)を引き離しつつある。しかし、速すぎる。木々を避ける余裕がない。しょうがないので、吹っ飛ばしながら進んでいるが目立ちすぎる。獣人種(ワービースト)以上の上位種族に見つかると万事休すた。

 

 

とここで、獣人種(ワービースト)が『血壊』を解いた。どうやら割に合わない獲物と思ってくれたようだ。寿命を削る『血壊』を使って長期戦になれば不利になるのは相手だからな。

 

 

俺は徐々にスピードを下げつつ、獣人種(ワービースト)の姿が見えなくなってから、警戒しつつ、迂回して、拠点の洞窟へ戻った。

 

 

拠点に着いた俺はマジィ肉を食った後、非常に疲れたので、泥のように寝た。

 

 




地味に獣人種(ワービースト)って現代兵器でも討伐って厳しいよね。拳銃やライフルくらいなら目の前で撃たれても避けられるだろうし(ていうか撃つ前に殺される)、戦車や戦闘機でも厳しそう。核とか使わないと無理くね?

そんな種族が雑魚とかこの世界過酷スギィ!なお、メリオダスはそれ以上の模様。

それでは第7話もお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話 地精種(ドワーフ)の空中戦艦

第2章は「盾勇者の成り上がり」か「異世界はスマートフォンとともに」のどちらかにしようかなと今のところ思ってます。

ちなみに連れて行く世界のアンケートは票数で連れて行く世界を決めたりしないので既に出てる世界は別に書かなくてオッケーです。

それでは第7話をどうぞ。


この世界に来てから太陽が見えないので正確には分からないが、おそらく数週間は経過した。

 

 

あれからも何度か獣人種(ワービースト)と遭遇し、何度か交戦したが、割りに合わないとやっぱり思ったのかしばらくするとこちらに気づいても無視するようになった。

 

 

獣人種(ワービースト)との交戦で、体の調節の練習をしていた俺としては少し残念だが、もしもがあるし、他の種族に見つからないとも限らないのでよしとする。

 

 

さて、俺はこれからこの世界に来た日に俺が拠点にしている岩山の前に落ちた流れ弾が来た方向を調べてみるつもりだ。

 

 

理由としては、おそらくその方向で種族同士の交戦があったのだろう。多分そろそろ終わっていると思うので戦場漁りをして情報を集めたい。いい加減人間と接触したい。できればリクに。

 

 

そんなわけで俺は準備を開始する。

 

 

まずは食料と水。これは森で獲った動物の干し肉と木で作った水筒に入れた川の水だ。余談だが、獣人種(ワービースト)の狩りを覗いた時に思い出したのだが、殺した後に血抜きをしなければ不味いんだった。それに気づいてから殺した後に血抜きをするように来たのだが、クソマジィからマジィに変わった程度の違いだった。……くそがぁ。

 

 

次に、黒灰を防ぐための防護服。これは、動物の毛皮を継ぎ接ぎして作った。手袋とマントとフードが十分だろう。流石にゴーグルは作れなかったので目に入らないように気をつけなければならない。

 

 

準備の終わった俺は、気配を殺しつつ、洞窟を出て、交戦があったと思われる場所へ向かって歩きた始めた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

あれから、森を超え、荒野を超え、数度寝て進んで来たがそれらしき場所にはつかない。

 

 

そろそろ見つからないのか、と考えていると、不自然に抉れた岩山やクレーターが見え始めた。

 

 

俺は、やっとか、と思いつつ、警戒しながら何かないか探していく。

 

 

しばらく探索を続けると、丘の奥に一際巨大なクレーターとその中心にある鋼の山を見つけた。おそらく地精種(ドワーフ)の空中戦艦だ。

 

 

地精種(ドワーフ)とは龍精種(ドラゴニア)天翼種(フリューゲル)程ではないが上位の種族だ。この大戦の中心の種族の1つでもある。男女共に褐色肌であり、背が短く、銀色の髪と青白い瞳を持つ。さらに女性の場合は幼い容姿をしており、二本の角を持つ。つまり、褐色ロリ鬼っ娘の上合法という素晴らしい種族であるが、誠に残念なことに男女共にヒゲモジャという残念な種族である。

 

 

地精種(ドワーフ)を創った鍛治の神オーケインに一言物申してやりたいがその特性は実に鍛治の神の(けんぞく)に相応しいものだ。

 

 

まず、地精種(ドワーフ)はその体毛が『真霊銀(ミスリル)』、瞳が『感応鋼(オリハルコン)』という特殊な霊物質で出来ている。

 

 

真霊銀(ミスリル)』とは精霊を増幅させる性質があり、地精種(ドワーフ)が他の種族と同じように体内で精霊を運用すると、〝過剰増幅(オーバーロード)〟——暴走してしまう。

 

 

そのため、そのままだと精霊の運用——すなわち、魔法を使うことができない。

 

 

なので、剃った真霊銀(ミスリル)で作った触媒に魂同期質の感応鋼(オリハルコン)を使って同期し魔法を使う。

 

 

そして、その触媒をいくつも組み合わした物を霊装という。

 

 

その霊装は大きなハンマーのような物から、目の前の戦艦、果てはロボットと様々な形をしている。

 

 

その霊装に使われる刻印術式の扱いは神霊種(オールドデウス)を含めた全ての種族で地精種(ドワーフ)に並ぶ者は居ない。

 

 

さて、そんな霊装の作り方は、感性——つまりはなんとなくである。

 

 

機械——すなわち論理の塊を論理なくして扱うという見事なデタラメっぷりである。

 

 

文字通り神賦の感性(センス)で適当に思い描き、適当に手を動かせば感性(センス)で〝最適〟を手繰り寄せるため決して間違えず、仮説も検証も地精種(ドワーフ)には必要ない。種族的に本物の天才なのだ。

 

 

作っている地精種(ほんにん)達ですら霊装の説明はできない。

 

 

そんな霊装(デタラメ)の1つが目の前の空中戦艦だ。おそらくこれ1つで地球の人類を根絶できるであろう代物だ。

 

 

しかし、それ故に中に地精種(ドワーフ)が残した情報があるかもしれない。俺が作ったなんちゃって防護服よりじゃないまともな防護服が欲しい。

 

 

そんな思いを胸に俺は装甲の裂け目から中に入った。

 

 

それの中はまさにSF映画であるそうなファンタジーに似合わない機械だらけであった。ほとんどが壊れており、捨てられたものだと思われた。まあ、重要な物は既に運び出した後だろう。

 

 

しばらく探索しているとベッドのようなものがある部屋を見つけた。おそらく乗組員の生活空間だったのであろう。その部屋に防護服と思われる服もあった。

 

 

「よし!これでまともな防護服で身を守れる」

 

 

少し大きいが裁縫は得意なので大丈夫だろう。……針も糸も無いけど。まあ、探せばあるかもだし。

 

 

そして次に生物にとって一番重要な水と食料を探さなければならない。この戦艦の中になければ餓死する可能性がある。

 

 

なぜって?流石に食料尽きたんだよ!

 

 

距離が長すぎるわ!こんな遥か彼方からあそこまで森を焼き尽くす流れ弾が来たのかよ!

 

 

と愚痴っていてもしょうがないので戦艦の中に食料がないか探し始めた。

 

 

水・5リットルくらいのタンク1杯

食料・干し肉7切れ

 

 

……いやまあ、この戦艦は打ち捨てられたものだろうから食料があることに期待できないだろう。事実俺も食料はないかもしれないと思っていたくらいだからあるだけマシだろう。しかし……

 

 

「実際に目にすると絶望するな……」

 

 

さて食料探しの最中にいくつかのブロックが複雑に組み合わさったパズルのようなものがあった。それをねじるように力を込めると箱は虹色に光を放ち、虚空に大きな絵図が投影された。おそらく世界地図であろう。さらに戦略図と現在の勢力図と思われるものもあった。しかし……。

 

 

「読めねー……」

 

 

そう読めないのだ。おそらく地精語と思われる文字がまったく読めないのである。なので、ただの世界地図くらいにしか役に立たないものである。

 

 

「というか俺の言葉人間に通じるのか?」

 

 

と箱を元の場所に戻しながら呟く。ノゲノラの世界の人間の言語と日本語は同じである(文字は違うが言葉は通じる)。しかしそれは6000年後の話だ。言語が変化していないとは限らないのでもしかすると言葉が通じない可能性がある。もしそうだったらどうしようもない。自殺してクソ女神をぶっ飛ばそう。

 

 

とりあえず今日は寝よう。そう思い、寝室と思われる部屋の中で一番綺麗な部屋を探し、そこで干し肉1切れを食べ、水を一口飲み、寝た。干し肉は俺が作ったのより全然美味かった。

 

 




地精種(ドワーフ)って下手すれば天翼種(フリューゲル)機凱種(エクスマキナ)よりもデタラメだよね。

ていうかヒゲモジャ褐色ロリ鬼っ娘って誰得だよ!マジでオーケインのセンス終わってんな。

次回から原作に入ります。

それでは第8話をお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話 人間(リク)との出会い

やっと原作に入れます——って旧作でも言ってたわw

そして、今回は旧作とほぼ同じです。

それでは第8話をどうぞ




「イワン、おい、大収穫だぞッ‼︎」

 

 

そんな叫び声が聞こえて目が覚めた。

 

 

「早く来てくれ、こいつはすごいぞ!」

 

 

どうやらあの箱があった場所から聞こえる。

 

 

「言葉通じそうだな」

 

 

そう言いながら身体を起こした。

 

 

「しかしどっかで聞いたことあるセリフだn……⁉︎」

 

 

そして俺は気づいた。これはノゲノラゼロの冒頭のシーンのセリフだ。そのことに気づいた俺は音を立てないように声の方へ向かった。先程より声を抑えているのかよく聞こえないが何人かいるらしい。そしてしばらく歩くと耳をつんざくような咆哮が聞こえた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

リク視点

妖魔種(デモニア) ——通常の生態系から独立した生命であり、それ自体が一つの別世界である 幻想種(ファンタズマ)の突然変異体『魔王』とやらが作り出した魔物どもだ。

 

 

基本的に知能の低い怪物。半端に知恵をつけた獣と言ってもいい。恐るべき力を待つため、その知性で己が強者であることを理解しているため警戒や潜伏などの獣の本能的行動を行わない。さらにこんな場所をうろついているような妖魔種(デモニア)ならば最も下等な部類——おそらくオーガかトロールの類だろう。

 

 

(俺らには関係無いがな)

 

 

そう、相手がどれだけ下位の妖魔種(デモニア)だろうと人間が入念に準備しても人間に殺せる妖魔種(デモニア)など()()()

 

 

(それに、意味もない。)

 

 

知恵と戦略と罠を駆使して1匹の妖魔種(デモニア)を討伐したとしてもそれを『上位』の妖魔種(デモニア)に気取られ、人間を『脅威』と認識されれば、抵抗の余地無く、根絶される。

 

 

故にここで取れる選択などたった一つしかない。逃げる——それ以外の選択など検討にも値しない。故に俺はゆっくりと振り返り仲間の一人イワンに告げた。

 

 

「イワン、命令だ。——ここで死ね。」

 

 

遺志に誓って(アシェイト)、任せろ。」

 

 

イワンは苦笑交じりに——躊躇わずに了承した。背負っていた荷をもう一人の仲間アレイに押しつけ、当然と進み出る。

 

 

「お、おい……」

 

 

震える手で荷物を受け取ったアレイに、イワンは宥めるように笑いかけた。

 

 

「わかってるだろ、アレイ。ここは、誰か一人死ぬしかない。」

 

 

そう……一人が囮になり、その隙に残った二人が逃げる。それしかない。妖魔種(デモニア)との距離はおよそ三十間——そんな()()()()で、妖魔種(デモニア)と遭遇したのなら……初めから選択肢などない。3人とも逃げ出せば、()()()()見つかって全滅。最悪は、集落まで追跡されること……その程度には、知恵の働く『敵』なのだ。そして誰を犠牲にするかだか……

 

 

「リクは失えねえ、アレイ、おまえもまだ若い。誰を間引くかなんて単純な話だ。」

 

 

「けど……だからって……ッ!」

 

 

イワンは微笑んだ。それから顎の下の留め紐をゆるめて、ゆっくりと防塵マスクを外した。

 

 

「イワン……⁉︎」

 

 

「気にすんな。〝仲間と家族を守る為〟なんて……死ぬ理由にしちゃ上等だろ?」

 

 

そう言ってイワンは、肩を震わせるアレイにマスクを差し出した。

 

 

「……ちくしょう。くそ……クソッ!」

 

 

長い付き合いだった友人の肩を叩いて、イワンは振り返った。そしてこちらを見て、

 

 

「じゃあな、リク。家族を……うちの子、任せたぞ」

 

 

と言った。俺は微動だにせず、視線を逸らさずイワンを見つめ、頷きを返す。

 

 

「ああ、任された」

 

 

「……すまんな」

 

 

ふいにイワンが言った言葉に俺は怪訝に思い聞き返した。

 

 

「……どうしてあんたが謝る」

 

 

「すまんな」

 

 

イワンはただ……そう繰り返す。

 

 

「なあ、イワン、あんた……」

 

 

アレイがその背中に震えた声をかける。だがイワンは背を向け、照れ隠しのように、ひらひらと手を振った。

 

 

「アレイ、俺の分までリクを頼む。……じゃ、一足先に逝かせて貰うぜ」

 

 

そして、隠れていた物陰から飛び出そうとした時、妖魔種(デモニア)とは反対の通路から金髪の子供が現れた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

メリオダス視点

箱を発見した部屋に着くと反対側の通路付近に6m以上の巨躯で黒い獣毛の上からでもわかる肥大した筋肉、顔の半分まで裂けた口に並ぶ乱杭歯を持つ怪物と部屋中心付近の物陰に怪物から見えないように隠れている3人の人間を発見した。3人の人間の中にノゲノラゼロの主人公であるリクを見つけて苦笑する。

 

 

(こんなに早く会えるとはな……)

 

 

そう思いながら怪物……妖魔種(デモニア)と思われるものに目線を向ける。

 

 

こちらに気づいたそれは脇目もふらずにこちらへ向かってくる。

 

 

(意外と速いな……)

 

 

100mほどあった距離を獣人種(ワービースト)程ではないがかなりの速度で迫っており、3人の人間たちに気づかず素通りしてこちらに襲いかかってくる。

 

 

「逃げろ!!」

 

 

リクの仲間の1人がそう叫んだ。直後妖魔種(デモニア)の拳が俺に直撃した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

リク視点

「あ……あ……」

 

 

アレイがそんな声を出した。イワンも息を呑んだ。しかし俺は違和感を感じていた。あの少年は妖魔種(デモニア)の攻撃を受けて吹っ飛んでいた。

 

 

(人間が妖魔種(デモニア)の一撃を受けて()()()()()()()()()()()()()か?)

 

 

そう考えているとさっきのアレイの声で気づいたのだろう。妖魔種(デモニア)がこちらを向いた。

 

 

(終わりか……)

 

 

そう思い覚悟を決めると。

 

 

「いや〜効いた効いた。ここまでとは思わなかったぜ」

 

 

頭を少し切っただけで済んでいる少年が吹っ飛び、めり込んだ穴から出てきた。

 

 

「次はこっちの番だぜ」

 

 

と言うと視界から少年が消えた。そして妖魔種(デモニア)が先の少年とは比べ物にならないほどの勢いで吹っ飛んでいった。

 

 

「おー飛んだ飛んだ」

 

 

妖魔種(デモニア)がいたところには少年が立っていた。

 

 

(何者だ?……)

 

 

獣人種(ワービースト)の特徴の獣の耳もなく、森精種(エルフ)の特徴の長い耳もない。いやそもそもこいつは人間の言葉を話している。

 

 

「大丈夫か?御三方?危なかったな」

 

 

しばらく吹っ飛んでいった妖魔種(デモニア)を見ていたがこちらを見てそう言ってくる。

 

 

(俺らを助けたのか?……)

 

 

ますますわからない。人間如きを助ける種がいるか?

 

 

(何か裏があるのか?)

 

 

そう考えていると、

 

 

「あ、ああ。ありがとう?」

 

 

と、アレイが訳がわからないといった様子で返事をする。

 

 

「どういたしまして」

 

 

苦笑を漏らしながらそう返す少年。

 

 

「あんた……何者だ?」

 

 

訝しげにイワンがそう尋ねる。

 

 

「それは言えないが……おまえたちの敵ではないと言っておこうか」

 

 

そう答える少年に俺は、

 

 

「それで?俺らに何か用か?」

 

 

と、少し強めの口調で問う。

 

 

「お前らの集落に連れてって寝食を用意してくれ、代わりにお前らに俺の知識と力をやろう」

 

 

特に気にした様子もなくそう答える少年に、

 

 

「断る。お前のような危険な奴を集落なんかに連れて行けるか」

 

 

俺は殺される可能性があると思いながらも集落ごと滅ぼされるよりはマシと考え、そう答える。すると、

 

 

「別に俺に人間を殺してメリットはないよ。お前らを傷つけたりしないから大丈夫だって」

 

 

苦笑しながらそう答える少年を見ながら考える。なるほどこいつ言葉が事実なら妖魔種(デモニア)を素手で倒せる奴が味方につく訳だ。素晴らしいな。それが事実ならだか。しかし俺は、

 

 

「いいだろう。その代わり俺の近くにいろ」

 

 

「「なっ‼︎」」

 

 

こいつがどんな種族かわからないがこれほどの力を持つ種族なら探そうと思えば人間の集落など簡単に見つかるだろう。ならば近くで監視していた方がずっといい。

 

 

「監視ってわけか……ま〜いいぜ。俺の名前はメリオダスだ。これからよろしく」

 

 

「リクだ」

 

 

「イワンだ」

 

 

「アレイだ」

 

 

こうして俺らにメリオダスを名乗る少年と帰路に着いた。

 

 




今回もイワンは生存です。そして、今回も多分出番は無しですwノンナが可哀想だからしょうがないね。

それでは第9話をお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話 人間の集落

今回も旧作とあまり変わりません。なのでこんなに投稿頻度が早いんですw

ですが次話からは変わります。旧作はリク視点ばかりでしたが今回はメリオダス視点に変えるので色々変わります。

それでは第9話をどうぞ。


メリオダス視点

俺は、戦艦内で見つけた防護服を身につけ、リクたちの案内で、集落へ向かっていた。

 

 

戦艦から約二日、雪に閉ざされた森の深奥。鋭く切り立った岩山の、その麓にある隠された洞窟があった。外から見れば、そこらにある獣の巣穴と変わりはない。言われなければあの洞窟に人間の集落があるとは思わない。

 

 

(他の種族が知れば「猿に相応しい巣だな」とか言いそうだな)

 

 

と思ったがもちろん口には出さない。

 

 

「ここがそうなのか?」

 

 

代わりにそう言うと、リクは

 

 

「ああ」

 

 

と、ぶっきらぼうに答えながら中に入っていった。

 

 

「待った。俺のことは壊滅した里の生き残りってことにしといてくれ。」

 

 

「分かってるよ。妖魔種(デモニア)をぶっ飛ばした奴なんて紹介しねーよ」

 

 

「ならいいけど」

 

 

そして俺らは洞窟の中に入っていった。奥に進むと朽ちかけた柱があり、古ぼけたランタンがいくつか吊るしてある。リクはその一つを取ると、懐から火口箱を取り出して火を点けた。

 

 

それを見た俺はやっぱ文明の力はスゲェと思った。自分が苦労した火付けをこんな簡単に。

 

 

その薄暗いオレンジ色の光を頼りに、4人は洞窟の奥に掘られたトンネルへ進んだ。そうして、獣避けの罠と思われる物に注意しながらさらに進むと、頑丈そうな丸太を何本も並べて造った外壁が見えた。罠を超えて迷い込んできた狼や熊を阻む為の門だろう。もちろん、侵入者が『他種族』であれば、こんなものは気休めにもならないだろうが。

 

 

リクは門の側に近付き、扉を力強く、一定のリズムで叩き、待つ。やがて門が軋んでゆっくりと内側に開き、毛皮の外套を纏った少年が顔を覗かせた。

 

 

「お帰りなさい。お疲れさまでした」

 

 

リク達は頷きだけで応じて扉をくぐる。

 

 

「その子は?」

 

 

こちらを見てそう言うと少年にリクが

 

 

「壊滅した里の生き残りだ」

 

 

と言うと、少年は憐れむような視線を向けて、

 

 

「大変だったね」

 

 

と言ってくる。俺は騙していることに少し罪悪感を抱きつつリクに着いていく。

 

 

門を抜けた先の洞窟は、広々とした空間が広がっている。

 

 

「思ったより広いな。これお前らが掘ったのか?」

 

 

「いや天然の洞窟を掘り広げて造った」

 

 

「へえー。それでどんな感じに生活してるんだ?」

 

 

「洞窟の奥で湧いた泉から飲み水を確保して、空が開けたところじゃ家畜も飼ってる。それに2つある出入り口の内、もう1つは海岸の入り江と繋がっていて塩と魚を採ってる」

 

 

リクは木で組んだ階段を上がりながら言い、集落の中へ足を踏み入れる。

 

 

(俺がしてた生活より全然快適だな。後、美味い飯にありつけそうだ)

 

 

やっぱ力だけじゃ、ダメだなと再認識する。

 

 

広場作業していた住人達が、こちらに気づいて視線を投げてくる——と。その中から、1人の少女が駆け寄ってきた。小柄で細身で明るい髪と青い瞳を持っている。リクの前まで駆け寄ってきた少女が、第1声、叫んだ。

 

 

「おっそ〜〜〜〜〜いっ!どれだけ心配させれば気が済むのこの弟はッ!」

 

 

「これでも急いだ」

 

 

リクは素っ気なく言って、背負っていた荷物を地面に落とした。

 

 

「コロン、留守の間、何か変わったことは?」

 

 

「お姉ちゃんて言いなさいと、なんど言えばこの……」

 

 

唇をとがらせて注意しながら、コロンと呼ばれた少女は力強く頷いて、

 

 

「うん、大丈夫。少なくとも、報告しなきゃいけないような酷いことはね……と、いうかそのきったないマントと生皮、早く脱いじゃいなよ。洗濯に回しとくから!」

 

 

埃まみれのリクの頭を遠慮なくはたきながら、コロンが言う。

 

 

「アレイとイワンもね。お疲れさま!」

 

 

コロンはリクのマントや諸々を受け取りながら、その後ろに立つアレイとイワンに声をかけた。そこで見知らぬ俺をに気づいて、

 

 

「この子どうしたの?」

 

 

「壊滅した里の生き残りだ」

 

 

それを聞いたコロンは神妙な面持ちになり、

 

 

「そうだったの辛かったね、僕。名前は?」

 

 

「メリオダスだけど、一応16歳だから僕はやめてくれ」

 

 

苦笑しながらそう言うと、

 

 

「「「えっ!」」」

 

 

コロンだけでなくアレイとイワンも驚き、リクまでも声には出さなかったが驚いた表情をしていた。

 

 

「ごめんなさい。よ、よろしくねメリオダス 」

 

 

「ああ。よろしく」

 

 

そう言いながら握手をしていると、

 

 

「パパっ!」

 

 

振り向くと、幼い少女が転がるように駆け寄ってきていた。イワンはその姿を見ると手を広げて、

 

 

「ノンナ!」

 

 

「パパ!」

 

 

飛び込んできた少女を抱きしめた。

 

 

「あなた。お帰りなさい」

 

 

その子の後ろから来た、瘦せぎすの若い女性がイワンに声をかけた。

 

 

「ああ。ただいま。マルタ」

 

 

イワンがそう答えると、コロンが、

 

 

「家族団欒のところ悪いけど、お風呂沸かすから、4人ともお風呂に入って!」

 

 

「風呂ッ!」

 

 

アレイが歓声を上げたが、リクは顔をしかめ、うなるように言った。

 

 

「身体を拭くだけでいい……燃料の無駄だ」

 

 

「お・姉・ちゃ・ん・が!入れっつってんの!ぶっちゃけあんたらクッサいのよ!」

 

 

広場を横切って奥の通路を進んでいくと、年かさの男がリクを見つけて叫んだ。

 

 

「リク!やっと動いてくれたぜ、あのポンコツ!」

 

 

「あーんもぉサイモン‼︎バラさないでよ⁉︎リクを驚かせようと思ってたのに!」

 

 

「動いたって……まさか、あの望遠鏡か?」

 

 

目を丸くするリクに、自慢げに胸を張ってコロンが応える。

 

 

「ふっふーん。わたしの手に掛かればざっとこんなものよ!」

 

 

「ま、原理はコロンが解明したが……相変わらず、どうやって造ったかはさっぱりだ」

 

 

サイモンに先導されて、リクは階段を上った。それに続きながら、リクに質問した。

 

 

「望遠鏡?」

 

 

「1年程前に地精種(ドワーフ)の戦車の残骸らしきものから持ち帰った、長距離望遠鏡だ。回収したときは中程から折れて、ガラクタ同然だったが——」

 

 

「それをわたし達が直したのよ」

 

 

案内された洞窟の横穴の作業部屋と思われる部屋の中央に安置された、円筒を見やる。

 

 

「精霊は使ってないんだろうな?」

 

 

リクが問う。

 

 

「うん、安心して。これはリクが造ってた望遠鏡の超改良版ってとこ。要するに円盤ガラスを複雑に組み合わせてるの。レンズ比の調整に手間がかかったわよぉ?」

 

 

「……そうか。こいつの為に2人も死んだんだ。有効活用しなきゃな」

 

 

「だか、こいつがありゃ、偵察を出す必要性は減る……あいつらもあいつらも浮かばれるさぁな!」

 

 

「……ああ、そうだな」

 

 

すごいものだか気休めだろう。どう慎重に立ち回ろうと、他種族が探す気になればすぐに見つかる。いや、今この瞬間に、単なる流れ弾で岩山ごと消し飛ぶ可能性だって十分ありえる。それがわかっているのだろう。リクの顔は暗い表情だ。

 

 

「攻撃を察知するのも楽になるわ。危険が分かれば、逃げるのも間に合うでしょ♪使い道はおいおい考えなくちゃね!ささ、行きましょ!」

 

 

3人は作業部屋を後にした。歩いている途中、リクが訪ねた。

 

 

「他の調査に出た連中は?」

 

 

「無事よ。無事、なんだけど……」

 

 

「どうした?」

 

 

歯切れの悪いコロンにリクが訝しげに問い、俺も首を傾げる。はて?原作にこんな話あったかな、と。

 

 

「調査に出ていたチームの1つが天翼種(フリューゲル)に遭遇したそうなの。その天翼種(フリューゲル)が少しおかしかったみたいで」

 

 

「何?どんな風に?」

 

 

「まず、女性じゃなくて男性だったみたい。それから、気づかれちゃったみたいなんだけどその時に『イマニティか……』って人間の言葉で呟いた後何処かに飛んで行ったみたいなの」

 

 

「はあ?男?」

 

 

コロンの言葉に思わず間抜けな声を出してしまった。

 

 

天翼種(フリューゲル)は女しかいないはず——ってイマニティって言ったって言ったか⁉︎まさか転生者なのか⁉︎)

 

 

と考え事をしていた俺を2人はしばらく見ていたが、コロンが思い出したように言った。

 

 

「そういえば、今回は何か収穫はあったの?」

 

 

「ああ、墜落した地精種(ドワーフ)の空中戦艦におそらく最新の地図があった」

 

 

「……っ!ほんと⁉︎とんでもない収穫じゃないのっ!」

 

 

激しい声を上げるコロンに向けて、リクは頷いた。

 

 

「それから各陣営の勢力図と、地精語で書かれていた戦略図も。暗号が混ざってるようだがな。俺は解読と精査に入る」

 

 

「……ん。でもあんた、ちゃんと風呂入んなさいよぉ?それでメリオダスの部屋はどうしようか?」

 

 

「俺と一緒でいい」

 

 

「え?まだ空き部屋はあったはずだけど?」

 

 

「他種族の言語を学びたいらしい。俺といた方がいい」

 

 

……え?そんなこと言ったっけ?俺?まあ、学びたいけど……。

 

 

多分俺から離れないための方便かな。

 

 

「そうなの?ならそれでいいわね」

 

 

そう言ってコロンは立ち去った。

 

 




これからメリオダスの生活が楽になりますねw

おかしな天翼種(フリューゲル)は旧作をご覧の方はお分かりの通りガブ君です。

次回はシュヴィが登場します。お楽しみに。

それでは第10話をお楽しみ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話 機凱種(シュヴィ)との出会い

マジでこのままの投稿頻度だと旧作より1章が終わるのが遅くなってしまう。今年中になんとか終わらしたい所。

話は変わりますが七つの大罪の原作でメリオダスの真の魔力なんて話が出てますね。詳細が出たらこの作品にも取り入れる予定ですが多分1章の間は無しでやると思います。

それでは第10話をどうぞ。


コロン視点

コロンは自室に入り、リクのことを考えていた。

 

 

そもそも、たった18歳——本来ならまだ子供と呼ばれてもいい年齢の少年に。集落2000人の命運と選択を委ねている現状は——どう考えても、異常だ。

 

 

だが他にいないのだ。諦めきった2000人の集団の導き手。心を鋼にして遺志を継ぎ、意思を背負ってなお前に進める男は——この世界でリクしかいないのだ。彼を失えば——自分達(にんげん)は、いつか訪れる死を恐れて震えるばかりの『獲物』に成り下がってしまうと、コロンでさえ——確信する。

 

 

——〝永遠〟に続く、大戦

 

 

比喩ではない。大戦がいつ始まったのか、それさえわからないのだから。歴史と呼ぶのも馬鹿馬鹿しい、惨めな口伝。それが、淡々と、事実として、ただ『永遠』とだけ教えている。天は閉じ、地は割れて、血色に染まった昼も夜もない世界。共通の暦も失って、時が流れることの意味さえ、もはやわからない。

 

 

集落から1歩でも外に出れば、それは死神の鎌首をかけることを意味する。野生動物でさえ、下手に相対すれば、死が待っている。神々や、その眷属——『他種族』に至っては、目撃することが、即ち破滅。ただの流れ弾や余波に巻き込まれることが、集落、都市、文明の破滅を意味してきた。

 

 

……終わらない——死と破壊の連続。地獄があるとすればここだ、と思う。——だかそれでも人は、生きる。——『心』が、意味もなく死ぬことを認めてくれないからだ。そんな世界で、正気を保っていられるのは——果たして正気と呼べるのか。

 

 

——五年前。リクを拾い、コロンの故郷だった集落が天翼種(フリューゲル)龍精種(ドラゴニア)の交戦で消えた。その時、リクは集落の長を任された。

 

 

「俺たちは存在しない——同然じゃなく、まさしく〝そうする〟」

 

 

そして少年は、その手段を語った。

 

 

「俺達は存在しない、存在してはならない、故に感知されない——亡霊(ゴースト)になる」

 

 

洞窟の闇よりなお深い、黒い眼差しがそこにはあった。

 

 

「あらゆる手を使い、逃げ隠れて生き延びる——いつか、誰かが見る——終戦まで」

 

 

どうせ何も出来ないなら。せめて倒れていった者の遺志を継いで。

 

 

どうせ何も出来ないなら。せめて後に続く者達の可能性の為に。

 

 

遺志に誓って(アシエイト)、ついて来られる奴だけ——ついて来い」

 

 

——13歳の。故郷を2度、理不尽に滅ぼされた子供の言葉が、本物の亡霊そのもののような眼で、だが、生きる意味さえ失った者達に、生きる理由と——死ぬ意味を与えた。

 

 

リクが僅か13歳で、1000人を超える集落の長を任されて5年。その5年の死者数は——47人。この47人という死者は全て『遠征』で命を落としているのだ。その人達に心に『鍵』をつけながら死ねと命じた責任に押し潰されている。

 

 

2000まで増えた集落なら、普通は食糧難の『間引き』毎年その倍の死者が出る。ましてや他種族に里を発見されれば数百数千もの人間が儚く死んでいく。それをたった47人の犠牲で5年も維持しているのは、紛れもないリクの功績だ。

 

 

——だから、皆はリクを信じる。

 

 

——だから、皆がその肩に命を預ける。

 

 

だが——皆は時々忘れる。そして思い出すたびに責任を感じて、感謝や謝罪をする。——死神の鎌に首をかけているのは、リクも同じなのだと。そしてその首には——自分達2000の重みが掛かっていると。

 

 

こんな世界で、2000人の正気をつなぎ止める篝火であり続けるなんて——不可能なのだ。このままでは、弟は、リクは、壊れてしまう……ッ!

 

 

「早くこんな戦争なんて終わってッ。それが無理ならせめてリクを助けてあげられる人を……」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

メリオダス視点

俺は目の前の光景に思わず苦笑いを浮かべる。

 

 

「……【検討】……状況整理中……」

 

 

完全に混乱している様子のリクとその上に跨がる裸の少女——に見える機械に。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

〜5日前〜

「メリオダス。遠征に行くぞ。準備しろ」

 

 

この集落に来てから数日が経過した。初めは俺を腫れ物のように扱っていた集落の人たちも俺がそこまで心に傷がないとわかったのか普通に接するようになった。俺としては可哀想と思われ続けると罪悪感がヤバイのでよかった。

 

 

そうして、集落の生活にも慣れてきたところでリクがそう言ってきた。

 

 

「ああ。分かった。どこへ行くんだ?」

 

 

「この前の地精種(ドワーフ)の戦艦にあった地図にあった森精種(エルフ)の廃都に行く。」

 

 

森精種(エルフ)。ファンタジー世界ではお馴染みの種族だが、だがしかし決してそれと同じだと考えてはいけない。

 

 

色白金髪長耳で、長命で、森に愛されていて、魔法適正も高いとここまではよく聞くエルフだが、その中身はエルフでは断じてない。

 

 

これは大戦時の話ではないが、自身たち以下の種族の奴隷化を推奨しており、よくあるファンタジー作品で人間が亜人達にやっているようなことを森精種(エルフ)がやっているのだ。

 

 

さらに、民主国家を歌いながら家柄、財力、コネで議員になれるという腐りっぷりだ。

 

 

さらに、これは現実の話ではなく、ジブリールと「」(くうはく)が大戦をモチーフにした戦略ゲームの話なのだが、妖魔種(デモニア)のオークに空が森精種(エルフ)を襲わせエロフ化しようとしたのだ。

 

 

空の望み通り、エロフ化することはできたがそれは空の想像するエロフの直角真上を行くものだった。

 

 

まず、一体の森精種(エルフ)を8体のオークに襲わせたのだが、襲ったオークの7体を数日掛け森精種(エルフ)は絞り尽くし、残った一体を持ち帰った。その結果、森精種(エルフ)全体でオーク狩りを始めたのであった……。

 

 

さて、そんな森精種(エルフ)であるが、前述した通り高い魔法適正を有しており、一部の例外や擬似的なものを除き、全種族で唯一魔法の複数の魔法の同時使用が行える。

 

 

ただ単に魔法を同時に使えるだけでなく、複数の魔法を複合し、相互作用を引き起こすことで威力を増幅させているのだ。つまり、火を2つ起こすのではなく、1つの火に燃料を注げば森精種(エルフ)の精霊量では以上の威力を出せるのだ。

 

 

そうすることで、幼児化(じゃくたいか)していたとはいえ、ジブリールの腹に風穴を開けて、ジブリールに「興味深(こざか)しゅうございますね♪」と言わしめるほどである。

 

 

そんな森精種(エルフ)に関する情報は極めて高度で、そして()()なものだ。戦場漁りで得られる物は皆無で、集めた知識も些細な欠落が多かった。何しろ連中は道具を使わない。触媒を必要としない魔法で、全て片付けるからだ。

 

 

「了解。馬で行くのか?」

 

 

「いや。お前」

 

 

「……は?」

 

 

リクの答えに思わず呆けてしまった。

 

 

「俺を抱えて走るくらいできるだろ。馬も貴重な資源なんだ」

 

 

「はぁ。分かった、やるよ」

 

 

俺はため息を吐いて承諾する。確かにこの時代のこの世界なら馬は相当貴重な資源だろう。

 

 

「なら速く行くぞ」

 

 

リクにそう促され、俺たちは出発した。

 

 

その後俺はリクを抱え、ある程度手加減しつつ、走っていた。

 

 

「これが最高か?」

 

 

「まだ速くできるけど、俺、索敵能力は高くないからな。ゆっくり行かないと」

 

 

リクの問いに俺は答えつつ、まだ最高速度を制御できないのもあるけどなと内心で呟く。

 

 

「お前でも警戒するのか?」

 

 

「当たり前だろ。獣人種(ワービースト)や下位の妖魔種(デモニア)ならともかく、その他の種族に見つかったら大変だぞ。者によっちゃ逃げることすら出来ない奴もいるしな」

 

 

森精種(エルフ)地精種(ドワーフ)なら単体でも未だ力に慣れない俺ならどうなるかわからないし、複数なら逃げの一択だし、天翼種(フリューゲル)なら逃げられるかどうかすら謎だ。

 

 

こうして俺らは目的地に向かってる進んでいた。だがその道中、黒灰が激しくなって、俺達は遭難を避ける為に近くの小さな遺跡の中に逃げ込み——その中で、1体の『他種族』目撃した。

 

 

機械部が露出した、裸身の、幼い少女の姿——〝機凱種(エクスマキナ)〟だ。最悪の種族の1つ。だが普通なら()()()()。しかし、今回は普通ではない。俺は無視してやり過ごそうとしたリクを尻目に、リクから距離を取る。

 

 

「?」

 

 

そして、機凱種(エクスマキナ)は人間では反応さえできない速度で武装を展開、そして、真空の刃を放ち、周囲の黒灰ごとリクの装備を細切れにして、押し倒し、リクに体を重ねて言った。

 

 

『おにぃちゃん、もう我慢できない。私を女にして』

 

 

そう、感情のこもらない棒読みで言って、リクの唇に自身の唇を当てた。

 

 

———。

 

 

うん。ここだけ聞くと意味不明だな。事実リクは完全に冷静さを失っている。というわけで原作知識のある俺が説明しよう。

 

 

まず、この機凱種(エクスマキナ)の少女こそ、この「ノーゲーム・ノーライフ ゼロ」のヒロインのシュヴィである。

 

 

機凱種(エクスマキナ)は前にも話した通り、大戦に関わっているバケモノの中でも極めて特殊な種族。まず機械の種族で、『連結体(クラスタ)』という群れで繋がって行動している。つまり——1機の発見は種族の発見、1機との敵対は種族との敵対を意味する。極めて特殊なのは端末が受けた攻撃を秒未満で解析し、即座に同等の武装を設計することが出来ることだ。森精種(エルフ)の魔法も地精種(ドワーフ)の霊装も、龍精種(ドラゴニア)吐息(ブレス)さえ——全ての()()()()()()()()という。永き大戦でその武装は増え続け、理論上——無限に強くなるとされる最悪の種族。

 

 

だが、もう1つ特殊な性質がある。——〝能動的には行動しない〟ことだ。攻撃をされれば報復するが、敵対しない限りは攻撃してこない、らしい。故に、地精種のドワーフ》の記録にはこう記されていた——『接触不可危種(アンタッチャブル)』と。

 

 

それ故にリクは無視しようとしたわけだが、シュヴィは連結体(クラスタ)から解除されている。

 

 

その理由としては、人間の持つ心を解析しようとしたからだ。機凱種(エクスマキナ)に心があるか否かを解析しようとしてそれにより、多数のエラーが生じて連結体(クラスタ)から破棄された。

 

 

その後も人間を観察し、肌を重ねる——つまりは生殖行為で心を通わせてると結論を出した結果、リクを押し倒して、先のようなことをほざいたわけだ。

 

 

とまあ、そんなことをシュヴィとリクは問答している。その間俺は我関せずを貫き、眺めている。

 

 

理由はシュヴィが俺を無視してリクと話しているし、あの会話の中に入ってもめんどくさいだけだからだ。

 

 

だからリク。そんな助けを求める目で見られても俺は何も致しませぬ。

 

 




これから投稿頻度を頑張って上げたいと思います。来年にちょっとやりたいことがあるので今年中にせめて終盤辺りまで終わらせたいので。

それでは第11話をお楽しみに


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話 シュヴィとのゲーム

前回早く投稿するって言ったのに一週間経っちゃったよ。
やっぱり私は期限を決めないと書けないのかもしれない。

それでは第11話をどうぞ。


メリオダス視点

 

「【提案】——ゲームを申し込む」

 

 

「…………なに?」

 

 

「生殖行為して」「断る」「何故に」という問答をリクとシュヴィが繰り返しているのを見ていると唐突にシュヴィがそう言った。そして、訝しげに眉を寄せるリクを他所に、

 

 

「【典開(レーゼン)】——遊戯001『チェス』——」

 

 

と、シュヴィが翳した手のひら——いや、手のひらの先の地面に。虚空に光で輪郭線を描くようにチェスのシルエットがが浮かび上がり——具現化する。——こいつが、と機凱種(エクスマキナ)の武装展開法に目を剥くリクにおもむろにシュヴィは言う。

 

 

「【勝負】当機が勝てば、当機を集落へ持ち帰り、生殖行為の実践を要求」

 

 

「——で、俺が勝ったら?」

 

 

「【解答】当機を集落に持ち帰り、生殖行為の実践を許可」

 

 

「どっちも変わんねぇよッ⁉︎」

 

 

無機質な表情の中、僅かに浮かんだ名案を誇る色に、リクは思わず声を荒らげた。俺も思わずぷっ、と吹き出す。——リクに睨まれた。

 

 

「でもま、いいや。ゲームに乗ろう、ただし条件は変更だ。俺が勝ったら、俺を見逃し『集落』へ来ないことを要求する」

 

 

そう言うリクだが、このゲームで勝つことは〝不可能〟だ。機凱種(エクスマキナ)は分析と解析——演算を得意とする機械故に、チェスなど独壇場。故に、シュヴィは頷いて答えた。

 

 

「【了承】問題ない。当機が勝利した際の条件は、変化なし」

 

 

——そう、必ず了承する。だがリクの狙いはそこではない。

 

 

「いいや、それも変更だ」

 

 

何故なら——。

 

 

「おまえの解析したい『心』は、生殖行為じゃ解析できないからだ」

 

 

リクの考えはこうだ。彼女が『集落』という単語を出した理由は2つ。淡々と事実を告げているだけか——または別の目的の為の〝牽制〟か、だ。

 

 

シュヴィの目的が他にあるなら〝条件変更を自分で行う〟。さもなければ計画が破綻するからだ。機凱種(エクスマキナ)の——機械の手の内を〝揺さぶりで読む〟ことが出来るか試す。

 

 

だが、シュヴィはそんな考えのリクを他所に、無感情なまま眼を見開き、きょとんと問うてきた。

 

 

「——【驚愕】…………【質問】どうすれば解析可能?」

 

 

シュヴィのその言葉にリクは眉を寄せる。まさか——本当に、()()()()()()()()()()のか、と。

 

 

最も希望的観測、楽観に過ぎる可能性を、逆に疑わしく感じている。だが、もしもこれの言葉が全て事実なら、上手くすれば——これを()()()()()()()()()

 

 

「おまえが勝ったら『心』を理解するまで、俺の側にいることを許可する」

 

 

「……【質問】側にいれば『心』は解析可能?」

 

 

「〝心〟は物質的なものじゃない」

 

 

「…………」

 

 

()()()()()。相互理解から感じ取るものだ。おまえが機凱種(エクスマキナ)と気付かれず、俺の側を離れず——つまり拒絶されずに意思疎通を続ければ、時間はかかるが解析は可能なはずだ」

 

 

「……………………」

 

 

シュヴィが沈黙したまま、リクの目を見つめる。リクの体温、脈拍等の生体反応から言葉に嘘がないかどうか『解析』している。だがしかし、リクは嘘など、一切口にしていない。……シュヴィは熟考し、やがて、納得いった様子で頷いた。

 

 

「【承諾】ではゲームを——」

 

 

——どうやら最悪の事態は回避できた。少なくともその可能性が高いと判断したのだろう、

 

 

「あ、その前に、もう1つだけ条件をつけさせてもらう」

 

 

そう、不敵に笑って——一転。

 

 

「俺そろそろ凍死する。お前の切断した俺の服、代わりを用意してくれませんか」

 

 

鼻水を氷つかせたリクは、歯を打ち鳴らしながらそう懇願した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

——ゲームは一方的だった。一筋の勝ちの目も見ることなく、リクはわずか29手で敗北した。リクの予定通りに。

 

 

「くそ、 俺の負けだ。……仕方ねぇ、約束通り『集落』へ案内しよう」

 

 

高度な演算を駆使する機械相手に——最善手の読み合いで勝てる道理などない。だからこそ——〝敗北した方が有利な条件〟を提示したのだから。

 

 

「…………」

 

 

笑顔で——だが悔しがる演技を忘れずに立ち上がったリクを、シュヴィが見つめる。リクがシュヴィが人間に興味を抱いていると分かった時に危惧した全種族が危険視している機凱種(エクスマキナ)が興味を持った種族として人間が滅ぼされることだが、〝他の機凱種(エクスマキナ)〟も人間に興味を抱いているわけではないので、他の種族に注目されることもないはずなのでリクは一先ず安心しただろう。

 

 

「【質問】何故悔しそうにしているのか」

 

 

「——なに?」

 

 

シュヴィのその言葉に、リクは一瞬息を呑んだ。悔しがる『演技』を看破されたか、と疑う。

 

 

警戒するリクの黒い眼を覗き込んで。機械の少女が、ぽつりと告げた。

 

 

「【断定】対象に『心』の存在、再確認。解析を続けるに値すると判断」

 

 

リクにはその意味はわからないようだが、シュヴィは、僅かに微笑んだ。

 

 

「話がまとまったなら、いい加減自己紹介しようぜ」

 

 

話は一先ず終わったと判断して俺がそう声をかける。

 

 

「なんだてめえいたのか。てっきり死んだと思ったぜ」

 

 

すると、リクが俺を睨みそう皮肉げに言う。

 

 

「ひでぇなぁ。俺が話に入ったら余計ややこしくなるかもと思って空気になってやっていたのに」

 

 

「めんどくさがっただけだろ。たく……それで、自己紹介だっけか。そういや、してなかったな」

 

 

ははは、バレてーら。

 

 

「えー、俺の名前はリク。こっちはメリオダス。そっちは——?」

 

 

「【解答】——Üc207Pr4f57t9」

 

 

……。

 

 

うん。機凱種(エクスマキナ)に名前なんてあるわけないよね。

 

 

「……は?え、なに?それ……名前か?」

 

 

「【肯定】個体識別番号——名前の同義語では?」

 

 

「……いや、人間の集落で意思疎通すんのが目的なら、人間らしい名前をさ——」

 

 

その言葉に少女は少し考え込み、

 

 

「【質問】〝名前〟とは自由設定可の個体呼称?」

 

 

「まあ——そうだな」

 

 

そして、少女はカリカリと音がしそうな様子で考え込んでいたが。ふと、長い自分の黒髪を指先で絡めて、名乗った。

 

 

「【返答】——『シュヴァルツァー』と名乗る」

 

 

ドイツ語で黒を意味する言葉を名乗るシュヴィだが——

 

 

「長い、難解、名前っぽくない。3Nで却下——〝シュヴィ〟と名乗れ」

 

 

ばっさりとリクは切り捨てた。

 

 

「……【不解】自由設定を訂正された……【反論】はじめから自由に呼べばよかった」

 

 

それにシュヴィはふて腐れた様子で抗議した。

 

 

「さて、まとめるぞ。集落へは案内する——だがその前に数点」

 

 

と指を折りながら言い含める。

 

 

機凱種(エクスマキナ)と悟られたら心の解析はできん。皆怯えて意思疎通(コミュニケーション)しようとしないからだ」

 

 

「……【正論】」

 

 

こくりと頷くシュヴィにリクは続けた。

 

 

「だから名前の次は、そのいかにも〝私は機械です〟って口調を改めようか」

 

 

「——【読込(ラーデン)】模倣人格1610——」

 

 

シュヴィは視線を上に向けると、一瞬、何か考え込むようなそぶりを見せて、

 

 

「——えへへ、じゃ〜おにぃちゃん❤︎これでいいかなぁ?」

 

 

「ふざけてんのか却下だ」

 

 

無表情、起伏のない声、無駄にアクセントだけがついたそれをリクは一刀両断する。

 

 

龍精種(ドラゴニア)の【王】を倒し、全種族に危険視されている種族のはずがここだけ聞けばただのポンコツ機械だ。

 

 

「……【反論】極めて真剣に検討した……」

 

 

「俺には実は妹がいました、なんて設定通用するわけねぇだろ」

 

 

「……【要求】最適な状況説明の提供を」

 

 

ふて腐れている様子のシュヴィを捨て置き、リクは真面目に思案する。そして、考えがまとまったのか話し出す。

 

 

「……じゃあ、おまえは戦火に巻き込まれ全てを失った生き残りだ」

 

 

「…………————」

 

 

「臆病で、口数が少なく、ぽつぽつ喋る感じで。過去を探られたら面倒だ、余計なことを言わない。その文頭につけてるいかにも機械っぽいのも禁止——これでどうだ?」

 

 

シュヴィは、俺の言葉を1つ1つ、噛み締めるように聞いて。

 

 

「…………………………………………ん」

 

 

たっぷり10秒以上だろうか。深く考え込んだシュヴィは、1つ頷いた。

 

 

そして——無機質で無感情だった機械的な表情に、僅かな陰を落として。静かに——口を開いた。

 

 

「……わか、った……これで……いい?」

 

 

————。

 

 

表情まで反映させた——あまりに自然な人間の真似に、知っていた俺でさえ、一瞬リクと共に言葉を失う。

 

 

「……なあ……それ、演技——なのか?」

 

 

まるで化けたようだった。さっきまでの大根役者も鼻で嗤うバカみたいな人間の真似ではなく、露出している機械部分さえなければに機凱種(エクスマキナ)と知っている俺でさえ人間と錯覚しそうだ。

 

 

そして、シュヴィはリクの言葉にふるふると首を振って応えた。

 

 

「……演技?違う……提示設定、と、合致する、人物……追跡(トレース)……模倣(エミュレート)……」

 

 

その言葉の意味がわからない様子のリクに俺は推測を話す。

 

 

「多分、リクが言った条件の人物の表情とかを模倣してるってことなんじゃないか?」

 

 

「……ん」

 

 

俺の言葉に理解した様子のリク。これならまず機械とは思われないだろう。あとは、とリクがシュヴィへ話しかける。

 

 

「じゃあまず、服を着ようか。いい加減」

 

 

——そう、いくら表情と言葉を取り繕っても、人間の少女は裸で歩かない。ていうかこの極寒の中、裸で歩いてたら人間なら凍死する。

 

 

「機械の部分を隠して。頭の部品とかはフードで——いいか、他人には肌を見せるなよ?」

 

 

こくり、とシュヴィが頷いて応える。

 

 

「……ん。ぜったい、リクにしか、見せない……」

 

 

…………。

 

 

「微妙にニュアンスが違う気がするが、まあ——いい。あとメリオダスにはいいぞ。それじゃ、頼むぞ」

 

 

大局的なことから、帰宅してから予想される諸々の騒動。それらに多大な不安をも抱えた様子の、リクは廃都行きを諦めて集落に戻ることにした。

 

 

そして、リクについて歩き出そうとする俺だったが、シュヴィがこちらを見ていることに気づいた。

 

 

「どうした?」

 

 

「…………」

 

 

聞いても無言のまま俺を見つめ続けるシュヴィ。メカっ子美少女に見つめられるのは素晴らしい体験だが、気まず過ぎる。

 

 

気まずさに視線を逸らそうとした俺はふと気付き、シュヴィの紅い瞳へ目を向ける。その瞳に確信する。

 

 

ああ、これ『解析』されてる、と。おそらく俺の種族に疑問を持ったのだろう。

 

 

なるほどわかれば単純な話だ。俺の——メリオダスの種族である魔神族はこの世界には存在しない。機凱種(シュヴィ)の持つ情報(データ)と該当する種族がなく、正体を探ろうとしているのだろう。

 

 

はて、どうするべきか、首を傾げた俺の耳にリクの声が届く。

 

 

「おい!なにしてんだ!早く行くぞ!」

 

 

「ああ!……ほら行くぞ」

 

 

「……ん」

 

 

幸い、シュヴィは何も言わず、リクに俺と一緒にリクの下へ行った。

 

 




次回——というかこれからは2日に一回のペースで投稿します。
遅れるかもしれませんがこう言っておかないと多分ダレる。

まあ、今年中に終わらそうとするなら2日に一回のペースでも間に合わなそうなので早くしないとですねぇ。

それでは第12話をお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話 集落にて

   ふぅ。何とか書き上げたぜ。次もこの調子で頑張ります(*•̀ᴗ•́*)و ̑̑
   そして今回から文章の初めに余白を入れてみました。不評なら辞めます。その方が楽(殴
   アンケートは第1章が終わるまで募集しているのでどしどしお寄せくださいm(_ _)m

   それでは第12話をどうぞ。


メリオダス視点

「……リク、着いた、よ……」

 

 

「ああ。ホントにな。信じられないことにな」

 

 

   リク曰く、馬と同等の速さで走っていた俺が5日かけて走った距離を、シュヴィはリクを抱え——数時間で走破。

   集落近くまで辿り着いた時点でリクを下ろした。

   驚愕を通り越し、もはや呆れるしかない理不尽な種族の性能差にリクは呻いた。

 

 

「流石、機凱種(エクスマキナ)だな。こんなに速いとは」

 

 

   もちろん物理限界に到達する身体能力を持つ獣人種(ワービースト)には及ばないが、それでも凄まじい性能だ。

 

 

「てめえ何で着いてこれてんだよ」

 

 

   こちらを見てそう半眼で問うリクに俺は苦笑して答える。

 

 

「だから、ゆっくり走ってたんだって。索敵能力高くないって言ったろ。でも今はシュヴィが索敵してくれるから問題ないってわけだ」

 

 

   まあ、速すぎて速度を制御するの大変だったけどな。

 

 

「それにしてもその機動力……本当に精霊を使ってないんだよな?」

 

 

「使って、ない。シュヴィ『解析体(プリューファ)』……機凱種(エクスマキナ)……平均以下、の、性能……」

 

 

   ——これで平均以下……か。一切兵装を使わずに。

 

 

「兵装、使って、いいなら……数分、で、……着いた……」

 

 

   さすがに兵装を使えば獣人種(ワービースト)を軽々超えるらしい。この世界で物理法則を守ってるやつの方が稀だからな。

 

 

   さて、問題はここからだ、とリクは改めてシュヴィの姿を見やった。それにならい俺もシュヴィを見やる。

   どう見ても機凱種(エクスマキナ)、という機械の耳や頭の金属部は取り外し不可だったので、大きく膨らんだフード付きのローブを作ってかぶせることで、どうにか隠した。だが……。

 

 

「問題はその裾からはみ出ている尻尾、だよなぁ」

 

 

   そうリクが呟く。

 

 

「……尻尾、じゃない……擬似精霊回廊接続神経……」

 

 

「いや何でもいいけど、それ丸めたりなんかして隠さないのか?」

 

 

   自在に動く2本のケーブルは、本人は否定したものの、どう見ても尾っぽである。

 

 

「……無、理……これ……シュヴィの、動力源……言うの、2度、目……」

 

 

   最初にシュヴィを人間に扮装させる際、精霊——偽装魔法装置を使えば簡単と言っていた。

   だが集落内から精霊反応がしては問題なのだ。

   そこで苦肉の策として、こうして無理矢理ごまかしているのだが……。

   この尾本人曰く擬似精霊回廊接続神経——で、周囲から動力を得ているらしい。

   言わば人間でいうところの食事であり、精霊の運用ではなく『搾取』だとか。

   だから精霊反応はないのだが——どうしても露出させなければならないという。

 

 

   俺は頭をかきむしって、ヤケクソ気味に言った。

 

 

「……えーい、もうこうなったら『装飾』と言い張るぞ。もう一度言うが、人間じゃないとバレたら『心』の解析は不可能だからな?そのつもりで全力で人間を演じろ」

 

 

「……ん、了解」

 

 

   そう言ってか覚悟を決めて洞窟に入ろうとしたリクがふと気が付いたように俺を見る。

 

 

「そういや、お前は精霊反応大丈夫なんだろうな」

 

 

   そう言いながら、リクは方位磁石のようなものを取り出す。

   大きな精霊反応に感応する『輝石』と、ただの黒曜石を接合したもので霊針盤という道具だ。

   他種族が体内に宿す多大な精霊を感応してその方向を示す、リクとコロンが作った道具らしい。

   それをリクは一瞥するが無反応だ。

 

 

   俺はフッ、と笑い、

 

 

「精霊を感知されない術など身につけているに決まってるであろう」

 

 

   と返す。

 

 

「…………シュヴィ。問題ないのか?」

 

 

「ねぇ、ツッコミは?」

 

 

「……ん……大丈、夫」

 

 

「そうか、じゃあ今度こそ行くぞ」

 

 

「無視!?ねぇ、ツッコミは!?」

 

 

   歩き出した2人の背中を追いかけ、俺達は洞窟へ入り、狭いトンネルを通っていく。そうして、門のところで門番の少年が——

 

 

「あ、リ——」

 

 

   と声を上げかけたのを慌ててリクが、人差し指を差し出し黙らせる。

 

 

「お、お疲れさまです……みなさん心配をしてます、よ」

 

 

   ひそひそと答えた門番の少年が、その隣にいるシュヴィに気づいて訝しげな顔になる。

   しーっ、とリクはもう一度同じ仕草を繰り返して彼を黙らせ、門をくぐった。

   気配を殺した忍び足で階段を上るリクに、シュヴィが問う。

 

 

「……リク、怯えてる……シュヴィの、せい?」

 

 

「ああ当然それもある。だが今はどっちかというと——ッ」

 

 

   言いかけて、リクは言葉を切った。振り返るや否や、慌てて頭を庇い——

 

 

「リィィィィィィィクゥゥゥゥゥゥゥッッッッ!」

 

 

   大音声と同時。

   リクがガードした頭部——ではなく腹部に。

   猛然と駆け寄ってきたコロンの膝が深々と突き刺さった。

   声も上げられず悶絶して倒れこもうとするリクを、だがそうはさせぬとばかりに。

   胸ぐらを掴みあげ、コロンは怒鳴り散らした。

 

 

「あんたねぇッ!!無断で5日も出てってどんだけ皆を心配させれば気が済——」

 

 

   リクを激しく揺すって叫ぶコロンに、リクは反論する暇もなく泡を吹く。

 

 

   ——と。

 

 

   唐突に、コロンはその動きをピタリと止めたかと思うと、

 

 

「なぁにこの子可愛いぃぃぃいい❤︎」

 

 

   ぽいっとリクを放り出し、コロンはひしっ!とシュヴィに抱きついた。

   そして激しく咽せるリクにニヤニヤと視線を向けて、

 

 

「なぁにリクってばぁ、お嫁さん拾いに行ったんならそういえばいいのにぃ♪」

 

 

「コロン、脳みそ大丈夫か。こんなご時世で5日も遠出して嫁探しするアホが——」

 

 

   そう半眼で返すリクを、だが肘でツンツンと突っついてコロンは続ける。

 

 

「んも〜照れないの♪こんな時代一に子作り二に食料!三四五は子作りよッ!」

 

 

   ちなみにこの時、コロンはシュヴィに抱きついた感触でシュヴィが人間ではないことに気が付いたが、リクとシュヴィの空気を察してこれから1年以上黙っている。

 

 

「なのにリク全然そんな気配ないし心配してたのよ?邪魔しないから、2人ともお風呂入ったら、それは、もうしっぽり——」

 

 

「……その手をやめろ」

 

 

   親指を人差し指と中指の間に挟んで抜き差しするコロンにリクは頭を抱え、俺は面白いなぁと見ている。

 

 

「それともメリオダス方だったの?」

 

 

「いや。リクの方」

 

 

   しかし、当事者になるのはごめんである。

 

 

「やっぱりぃ♪もうリクったらぁ♪照れなくてもいいのにぃ♪」

 

 

「違うわ!メリオダスも乗んな!……なぁ、さ……普通に考えたら壊滅した里の生き残りとか思わないか、まず」

 

 

   ——と、ようやくそこで我に返ったのかのように、コロンはハッと動きを止めた。

   がらりと神妙な面持ちになり、問う。

 

 

「……——そうなの?」

 

 

「地精種《ドワーフ》の地図を解読したところ、馬で〝2日〟ほどの位置で交戦があった事がわかってな。あの辺には小さい集落があったはずで——それを確認しに行ってた」

 

 

   一応これは嘘ではない。

   あの地図によれば、地精種(ドワーフ)と妖魔種《デモニア》の交戦で集落が1つ消えていたらしい。

   ただしそれは——〝2年前〟のこと。

   この集落で地精語を読めるのは、リクだけだ——バレることはまずない。

   だがコロンがそれで納得するはずもなく——

 

 

「だからって、黙って行くことなかったでしょっ。しかも、メリオダスは故郷が滅んだばかりなのに」

 

 

「メリオダスが行きたいって言ったんだよ。でもメリオダスが行くって言ったら——」

 

 

「止めてたわよ当たり前でしょッ!!来たばかりなのに5日も遠征に行かせられるわけないでしょ!!……ねぇ、少しはお姉ちゃんの気持ちも考えてよ、胃に何個穴を開けたいのよぉ?」

 

 

   と、すがるような眼差しをリクに向ける。

   その目尻は赤く腫れていた。

   コロンはどこか諦めた様子でため息をつき、一転、シュヴィに優しく訪ねた。

 

 

「ごめんね……大変な目にあったのね……あなた、お名前は?」

 

 

「…………シュヴィ………」

 

 

   指定された、設定通りに。

   シュヴィは臆病そうな素振りで、リクの後ろに隠れながら応えた。

   うんうん、とその様に笑顔で頷いてコロンは続ける。

 

 

「でも、安心して、ここは安全、リクがいるもの。リク達とはどうやって会ったのかな♪」

 

 

   その質問に悪意はなかったはずだ。

   ほんの興味、話を転がす為の枕にして訪ねたに過ぎないのだろう。

   一瞬言葉に詰まったシュヴィに、リクは『話を合わせろ』と目配せする。

   だが——機凱種(エクスマキナ)である彼女がその意図を汲めるはずもなく。

 

 

「……シュヴィ……キスして……リク……生殖行為して、って……強要した」

 

 

   ——さあ、問題です。この発言から誰が『シュヴィ〝が〟リク〝に〟生殖行為を強要した』と読めるだろうか。

   かくして、コロンの鋭い重たい踏み込みと共に。

 

 

「そういうことはァ——」

 

 

   鳩尾を抉りこむように繰り出された左ブローと、洞窟を揺るがす怒声によって。

 

 

「ちゃんと安全圏に避難してからにしなさいよーーーーーッッ!」

 

 

    笑いを堪えて肩を震わせる俺の前で、リクの意識は容易く刈り取られた。

 

 

   ——壊滅集落の年端もいかぬ生存者に、出会い頭に性行為を強要した。

   その噂は音より速く伝搬し——集落全体で熱く激しい議論が飛び交っていた。

 

 

「いいや、リクさんは正しい。やれるときにやれることはやっとくべきだ」

「いいえ、リクちゃんはちゃんと同意を先に得るべきだったわ」

「いや待てよ、そもそも同意がなかったかどうか確認してないだろ」

「強要したって言質は取れてるのよ?議論の余地は——」

 

 

………。

 

 

「おかしい」

 

 

「何が?」

 

 

「まずもって論点がおかしい。主に誰一人シュヴィの幼さに触れていないところが。何もかもおかしい」

 

 

   敬意軽蔑多種多様な言葉と視線を受けながら、俺達は集落を歩いてリクの自室に向かう。

    そして、小さく聞こえないように、リクは隣を歩くシュヴィに零す。

 

 

「つかおまえさ、ホント勘弁してくれ……」

 

 

「……なに、が?」

 

 

   何が悪かったのか理解していない様子で、シュヴィが小首を傾げる。

 

 

「そもそもさ、俺の『心』を知りたかったんだよな。つまり一種の誘惑だろ?」

 

 

    リクのその言葉に俺は、出会った時の『おにぃちゃん』の流れを思い出す。

 

 

「もう少し成長した姿になれなかったのか」

 

 

  そうすりゃこうはならなかったろうにというリクの不満に、俺は俺は大して変わらないかったんじゃないかなぁと思う。

  そして、リクの言葉にシュヴィはきょとんと、

 

 

「……人間の男性……リクの好みに……あわせた……姿」

 

 

「おまえまで俺をロリコン言うな。俺はもっと、グラマラスな——」

 

 

「嘘」

 

 

   即断即答して、シュヴィが続ける。

 

 

「……なら、あのコロンという人間と、生殖行為しない……理由、ない」

 

 

「いや、好みだったら誰彼構わず生殖行為をするってわけじゃないからな?」

 

 

   シュヴィの言葉に俺は思わず突っ込む。

 

 

「……そも、人間男性は、皆、若い少女を……好む」

 

 

「ふざけんなひとくくりにするな人間それぞれ好みが——」

 

 

「……否定……生物的に、出産可能なら……若年個体有利、議論余地、ない」

 

 

——こいつ…………

 

 

   感情がないはずの機凱種(エクスマキナ)が、気のせいか呆れ気味に見える表情でリクに告げる。

 

 

「……機凱種(シュヴィ)、曖昧主観、ない……人間、繁殖可能な若年女性、好む……ただの、事実」

 

 

「——……おい、メリオダス。お前もなんか言ってやれ」

 

 

   リクの言葉に偏った知識をお持ちの高度な機械に話しかける。

 

 

「シュヴィ。若年女性って若すぎるわ。お前、その見た目10歳程度しかないだろ。せめて十代中盤あたりにしとけよ」

 

 

「?……若いと、なにか……問題?」

 

 

「いや、倫理的に問題があるし、もっと女性的な身体付きの方が興奮するし——いや、もういい」

 

 

   きょとん、と分かっていない様子のシュヴィに俺は諦めた。

 

 

「諦めんなよ」

 

 

「いや、あれ無理だわ。俺、機械納得させられるほど頭良くないし」

 

 

リクは、げっそりした顔で、様々な視線を背に受け、俺達はようやく自室に辿り着いた。

 

 




   そういえばこの世界って地磁気とかまともに機能してるんですかね?天変地異級の小競り合いがそこら中で起こっていたらめちゃくちゃになってそうですけどね。
    まあ、そもそもこの世界の星が地球のようになってるかは謎ですが。

それでは第13話をお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13話 恨み

   今回は1日遅れてしまいました(^^;
   次回は気をつけます。

   それでは第13話をどうぞ。


メリオダス視点

「……ここ、が……リクの、部屋?」

 

 

「と、俺のな」

 

 

   物珍しそうに俺達の自室を見回すシュヴィに、俺は荷物を下ろしながら言う。

 

 

「あまりのしょぼさに驚いたか?」

 

 

「……驚いた。……すご、すぎて」

 

 

   機械にも皮肉やお世辞が言えるのか、と自嘲気味に感心するリクだが、シュヴィはおそらく本心だろう。

   何故なら——と俺はこの部屋にある地図や測量道具などを見て思う。

   こんな地獄もドン引く世界で、ここまでの道具を揃え、生きるという偉業。驚かずにいられるだろうか。

   驚くシュヴィを置いておいてリクは、コロンが用意していたのだろう——シーツを敷いた床に置かれた食事に手をつける。

 

 

「……なに、する……の?」

 

 

機凱種(エクスマキナ)様には縁がないでしょうが、人間は食わなきゃ死ぬんだわ」

 

 

「俺も食わなきゃ死ぬな」

 

 

   フォークを口に運びながら、疲れた様子でぞんざいにリク言った言葉に続けて、俺も食事に手をつけながら言った。

 

 

「つーわけで、軽くつまんだら横になる……お前は適当にしてろ」

 

 

「……ん。わかった……適当に、してる……」

 

 

とシュヴィはこの部屋にある地図、測量道具などを1つ1つ確認していたが、ふと。

 

 

「……リク、ゲーム……しよ?」

 

 

「——なんで」

 

 

   フォークを持ったまま固まったリクに、シュヴィが黙って書棚を指差す。

   その先には、チェス盤。

   それを、これ以上ないほど昏い眼で見やって、リクは吐き捨てるように答えた。

 

 

「断る。あの時は乗ったが仕方なくだ。ゲームなぞ、くだらん子供の遊びだ」

 

 

「……?……なぜ……?」

 

 

「現実はゲームほど単純じゃないからだ。ルールもなければ、勝敗もない。生きるか、死ぬか。それだけだ。そんな世界で——ゲームなんて児戯に無為に費やす時間も余裕もない」

 

 

「……無為、じゃない、なら?」

 

 

いつの間にか。勝手にチェス盤を開いてコマを並べながら、シュヴィが続けた。

 

 

「……シュヴィに、勝てば……リクの望む情報……開示、する」

 

 

「——なに?」

 

 

「……たとえば大戦がはじまった、理由……終結する要因……など……」

 

 

その提案を、だがリクは一蹴する。

 

 

「はっ……くだらねぇ。たかが人間の身で、ンなもん興味ねければ、知る必要もない。俺が欲しいものがあるとすればーー」

 

 

   リクは、フォークをシュヴィに向けて、眼を細めた。

 

 

「生き延びる術、それだけだ」

 

 

   人間を破滅に追いやっている連中の一端。

 

 

機凱種(エクスマキナ)が有する知識、数学、設計技術——俺が勝てば、それを頂くぞ」

 

 

   その力を人間が使わせて貰う。生き残る為に。明日——いや『今』の為に。

 

 

「……ん……わか、った……」

 

 

   頷き、だが——どこか残念そうなシュヴィに、リクは続ける。

 

 

「んで、俺が負けたら?」

 

 

   どうせ何らかの要求があるんだろう、機械的に、打算的に。そう苦笑気味に尋ねるリクに、シュヴィは端的に答える。

 

 

「……『コミュニケーション』……」

 

 

   黒い、リクの眼をまっすぐ覗き込んで続ける。

 

 

「……『心』、知りたい……リクの知る、『心』の定義……その情報……求め、る」

 

 

「言外の言葉を読むことでしか理解できない、そう言ったはずだが?」

 

 

「……ん、だから、言外の言葉……シュヴィとの、意思疎通、努力……要求……」

 

 

「………いいだろう」

 

 

   と言って、リクは食事を横にずらし、チェス盤を前に座って——始める。チェス盤を睨み、リクは本気で熟考する。

 

 

   機凱種(エクスマキナ)の演算能力に、最善手の読み合いで勝つ——?不可能だ。

   だがシュヴィの行動、心に対する不理解、行間読みの失敗。

   それらは〝計算不能な要素〟が確実にあることを示していた。

   チェス盤だけを見据えていたら、勝てない。

   だが心理的要素、駆け引きは——通用する可能性が高い。

 

 

「——チェック」

 

 

   そう確信したリクの安易な罠に、シュヴィはあっさり引っかかりチェック。

 

 

「……チェック」

 

 

   だがシュヴィは、即座にそれを織り込んで対応する。

   同じ手は2度通じない——そう言わんばかりに。いや、その種族的特性を事実として。

   ならばどうする?——単純だ。()()()()2()()()使()()()()()()()()()()()

   心理誘導、駆け引きまで織り込むのであれば戦略の数は——〝無限〟。

 

 

   リクの心理誘導、駆け引き。シュヴィの対応力と演算能力。

   それが小さなチェス盤で、せめぎ合う。だが、ふと——

 

 

「……リク、笑って、る……」

 

 

「————————な、に?」

 

 

   唐突にかけられたその言葉に、リクは眼を見開き、口元に触れて。

   ——確かに——口元がつり上がっている事実に、更に眼を見開く。

   凍り付いたように固まるリクに気付かぬ様子で、シュヴィがコマを指して続ける。

 

 

「……ゲーム中、は、リク……閉ざさない、んだ……ね……」

 

 

   明らかに動揺しているリクは答える。

 

 

「——何の、話だ……」

 

 

「…………『心』……こんな世界で、人間が生き残るの……生物的に……異常……その因子……リクの『心』……が……知り————」

 

 

「————なぁ」

 

 

   その時、リクの中で無数の感情と記憶を閉じ込め、鎖で巻いて鍵をかけたものが——

 

 

「テメェ、ふざけてんの?」

 

 

   ——壊れた

   リクは、シュヴィの首を指さえ砕ける力で掴み上げていた。

   だが機凱種(エクスマキナ)にはその程度何でもない。ただガラスのような瞳でリクの眼を覗き返す。

 

 

「……まさかと思ったが、テメェ、自分の立場わかってねぇの?」

 

 

   リクはいつも心に鍵をかけていた。

   多のために小を殺し。2人のために1人を4人のために2人を殺してきた。

   その罪悪感、自己嫌悪に耐え、冷徹に打算的に行動するために心に鍵をかけていた。

   そして、シュヴィに出会った時は更に、シュヴィが——機凱種(エクスマキナ)が多数の人命を殺してきたことを憎悪憤怒忌諱嫌悪怨念恨み恨み恨み恨み恨み恨み辛み——無限に積み上がった全て。

   あまりにも強引に、無茶にやり過ぎた心の、記憶の、感情への『鍵』かけが。

   ——ー遂に、堪えられずに音を立てて壊れた。

 

 

「俺ら殺しまくって、全て奪って、永遠にそれを繰り返して、何を言うかと思えば……『ねぇねぇ人間どんな気持ち?』って?ははッ、人間の『心』ね、ああ教えてやるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「テメェら全員くたばりやがれだッ‼︎」

 

 

   ——リクの指の骨が悲鳴を上げる。このまま、本当に指が砕けるだろう。

   しかし、指なんか砕けろとなおもリクはシュヴィに吠える。

 

 

「テメェらのせいで何人死んだかわかるかッ⁉︎何人殺されたかはッ⁉︎何人、何人俺に殺させ——」

 

 

「……ごめん、なさい……」

 

 

   声を荒らげ叫ぶ俺に、シュヴィはぽつりと呟く。

   そして、さらに叫ぼうと口を開いたリクの頰に触れて、

 

 

「……リク、泣かせた……なら、シュヴィ、酷いこと、言った、と、推測……」

 

 

   リクの頬に触れて、涙に塗れたシュヴィの手に——他ならぬリクが目を剥き、

 

 

「……リクの……『心』は……シュヴィを殺したい、と、把握……シュヴィ、連結解除……されて、る……」

 

 

   暗に、他の機凱種(エクスマキナ)に知られる心配はないと告げて、淡々と。

   シュヴィは胸部を開き、複雑な機械に包まれる、淡く光るパーツを指し——

 

 

「……そのフォーク、ここに刺す、だけ……シュヴィ……死ぬ」

 

 

   だが自分の言葉に違和感があったのか、きょとんとした顔で、訂正する。

 

 

「……?死ぬ……生物、じゃない……永久停止——修復、不能……全損?」

 

 

   そしてあまりに素直に。

   あまりに自然に、続ける。

 

 

「……シュヴィ……リク、の……『心』みたい……だから……いい、よ……」

 

 

   そう言って、シュヴィはそれが当然であるかのように。自分の姿が映る——〝心がある〟黒い眼の少年——リクに。

   ——要求した。

 

 

「……心の、まま……シュヴィ、殺して……くれ、る?」

 

 

 

 

 

「チャド、アントン、エルマー、コリー、デール、シリス、エド、ダレル、デイヴ、ラークス、ヴィン、エリック、チャーリー、トムスン、シンタ、ヤン、ザザ、ザルゴ、クレイ、ゴロー、ピーター、アーサー、モルグ、キミー、ダット、セロ、ヴィジー、ヴォリー、ケン、サベッジ、リロイ、ポポ、クートン、ルト、シグレ、シャオ、ウルフ、バルト、アッソー、ケンウッド、ペイル、アハド、ハウンド、バルロフ、マサシ、メメガン、カラム。47人。全部俺が死ねと命じてきた奴らだよっ」

 

 

涙を流しながらリクは続ける。

 

 

「確かに大戦のせいで大勢が死んだ。だが、彼らに死ねと告げたのは——ッ」

 

 

   ——ドサッ……と。

   リクが手を離し、シュヴィは床にぺたりと座り込む。きょとんと、ガラス玉のようなシュヴィの目に堪えられなかったように、リクは俺らに背を向け、

 

 

「……寝る」

 

 

   そう、一言だけ告げて藁で編んだだけのベッドに倒れ込んだ。

   ポツリと、シュヴィが不思議そうな声で背を向けて横になるリクへ問いかける。

 

 

「……どうし、て……殺さない、の……?」

 

 

「知るかよ、わかんねぇよクソッ‼︎頼むから黙ってくれよッ‼︎」

 

 

「……ごめん、なさい……」

 

 

   そのリクの言葉に。

   何が悪かったのか——だがまたもリクの意図を読み違えたらしい。

   そう、何処か申し訳なさそうにシュヴィは謝る。

 

 

「……俺の目が届く範囲から出るな。もし集落の誰かに危害を加えたら——」

 

 

「……ん……わか、った……」

 

 

   そう、シュヴィは素直に頷く。

 

 

「メリオダスもいいな?」

 

 

「ああ、わかってる」

 

 

   俺の言葉を聞いた後、

 

 

「人間の『心』だと……?んなもん、こっちが知りてぇよ……くそっ……」

 

 

   そう、呟いて。

 

 

「……?リク……?」

 

 

   リクが、瞼を落とす間際、なにやら困惑するような声をシュヴィが零すが、疲れていたのだろう。リクはそのまま寝息を立て始めた。

 

 

「……シュヴィ、は……リクに、酷いこと、言った、の……?」

 

 

 

「そうだなぁ。ちょっと無神経だったかもな」

 

 

   シュヴィの問いに、フォークを口に運びながら返す。

   ちょっと所ではなく、かなり無神経だったが、悲しげに。申し訳なさそうにしているシュヴィに追い打ちをかける必要はないだろう。

 

 

「……?シュヴィ、人間とは、違う……けど〝神経伝達経路〟……ある……」

 

 

「そういう意味じゃなくて、思いやりが足りないって意味でさ」

 

 

「……?」

 

 

「いずれ分かるさ」

 

 

   首を傾げるシュヴィに苦笑して、そう投げかける。

 

 

   俺はフォークを口に運びながら考える。

   先の会話に入るべきだったのだろうかと。

   俺は部外者(いせかいじん)だ。

   世界を破壊し尽くしていた奴らでなければ、人間達のように地獄のような世界で全てを奪われ続けていた訳でもない。

   俺もこの世界に来てから苦労はしたが、人間達の苦しみに比べれば月とスッポンだろう。

 

 

   故に俺は口を挟まなかった。

   その資格がないと思っていたから。

   ——それでも。

   リクとシュヴィの表情を見て、本当にそれで良かったのかと考える。

   俺が口を出しても、リクをさらに傷つけるだけだったかもしれない。

   それでもただ黙って見てるだけで。

   本当に良かったのだろうか。

 

 

   そう、俺がシリアスに考え事をしていると。

   シュヴィがリクの布団の中に潜り込んだ。

 

 

「……何してんの?」

 

 

「〝目の届く範囲〟……言外の、意図……〝認識出来る範囲〟と、推測」

 

 

   ああ、こんなシーンもあったな、と思い出しながら俺は思う。

   それ、手を繋ぐだけで良くね? と。

   そもそも、そういう意味じゃなくね? と。

   そう、思ったが——

 

 

「……そっか」

 

 

   何も言わずに目を逸らし、寝ることにした……。

 

 




   今回は原作と映画が混じった感じになってます。
   メリオダス視点だからしょうがないね。

   それでは第14話もお楽しみに


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第14話 お風呂

   何とか書き上げたぜ_:( _ ́ω`):_
   しかし、まだ第1章の半分も終わってないんだよなぁ。頑張らねば。
   今回は旧作の2話を合わせました。別に内容殆ど変わらないしね。

   それでは第14話をどうぞ。


メリオダス視点

   俺が目を覚ますと、未だにシュヴィはリクの上に乗ったままだった。

   原作通りなら、コロンが来てリクか起きるまで乗っているのだろう。

 

 

「……おはよう」

 

 

   俺は苦笑しながらシュヴィへ呼びかける。

 

 

「……おは、よう?」

 

 

「朝の挨拶だよ。いや、朝かどうか知らんけど……」

 

 

   小首を傾げるシュヴィと話していると、こんこん、とノック音がする。

 

 

「リク〜♪、疲れてるところ悪いんだけどちょっと——」

 

 

   そう言葉を続けながら、扉が開き、コロンがその隙間から顔を出し——

 

 

「——あら❤︎ごめんね!お姉ちゃん気が利かなくて、ごゆっくり〜♪」

 

 

   リクとシュヴィの姿を見て、扉は閉じられ、バタバタと立ち去る足音が聞こえた。

   その姿だけを見れば行為中にしか見えなかっただろう。

   俺がこの後の出来事に期待しながらニヤニヤしていると、騒がしさに目を覚ましたのだろう。

   リクが瞼を開け——

 

 

「…………」

「…………」

 

 

   毛布の中で未だ折り重なってリクを見つめるシュヴィと目が合った。

 

 

「……何故、俺の上に乗っているか、説明を求めていいか」

 

 

   リクが顔を引き攣らせながら問う。

 

 

「……リク、目の届く範囲、に……いろって……でもリク、目、閉じた……」

 

 

  そこでと。何故か誇らしげに、言う。

 

 

「……〝目の届く範囲〟……言外の、意図……〝認識出来る範囲〟と、推測」

 

 

「——ほう。それで?」

 

 

「……触覚なら、睡眠中も……機能、する……〝認識可能〟と、判断……」

 

 

   俺にも話した、自分の判断に、よほどの自信があるのか。

   心なしか『人間の抽象的意図を汲んだ自分を褒めろ』と主張するような顔に。

   リクは激しく眉をひそめて答える。

 

 

「この部屋から出るな——それだけの意味だ。おわかりかな?」

 

 

「……………………不可解」

 

 

   目を真ん丸く開いて、シュヴィがポツリとこぼす。

 

 

「……目、閉じたら……〝目の届く範囲〟……指定と……互換が、ない……」

 

 

   よほど納得行かないのか、首を傾げるシュヴィを置いておいて、俺は口を開いた。

 

 

「よぉ、おはよう。よく眠れたか」

 

 

「テメェなんで止めなかった」

 

 

「止めても聞かなくてね」

 

 

   面白そうだったから、とは言わない、

   リクが俺を睨んでいるとコロンの声が響いた。

 

 

「あ、そうだっ!あの〜、行為中お邪魔は承知だろうけど〜……」

 

 

「行為中じゃねぇよ……なんの用だよ」

 

 

   ていうか、俺がいるのに行為中と思えるコロンってある意味すげぇな。

 

 

「あ、えとね?3人ともお風呂に入ったほうがいいかなぁって!特にシュヴィちゃんは色々あっただろうし、なんならお姉ちゃんが体洗ってあげよっかなぁ〜とかっ♪」

 

 

   その言葉に、リクはシュヴィに目配せする。

   ——『お前、今度こそ話を合わせろよ』と。

   今度はリクの意図が伝わったのか、力強くこくりと頷いてシュヴィが答える。

 

 

「……リク以外に……シュヴィ、体見せちゃダメ……言われた」

 

 

   ——やはりこいつ、殺しておくべきだったのだろうか。

   そう、気が遠くリクに、だがニヤニヤ〜とした声が答える。

 

 

「あら〜もぉ♪すっかり調教済みってこと〜?我が弟ながら見事な手の早さッ❤︎」

 

 

「コロン……頼む。後生だ。いい加減黙っ——」

 

 

「じゃあシュヴィちゃんのことお願いね〜お風呂、人払いしておくから今がチャンスよ⁉︎」

 

 

「——その手をやめろっ」

 

 

   手だけ覗かせ、左手で作った輪に右手の指を通し、コロンは嵐のように走り去っていく。

 

 

   …………。

 

 

   後に残るのは、猛烈に疲労したリクと、その上のシュヴィと、笑いを堪えるのに必死な俺だけだ。

 

 

「——そろそろ退く気は?」

 

 

「……ん」

 

 

   俺を睨みながらリクが言った言葉にシュヴィは素直に退く。

 

 

「おまえ、食事とか風呂とかは〝平気〟か?」

 

 

   機凱種(エクスマキナ)とバレないよう動く以上、ある程度人間を真似る必要がある。

   そのリクの意図を適切に読み取り、

 

 

「……人間として、振る舞えるか、という……こと?」

 

 

「——おまえ……こういう時は適切に意図を読むのに、なんであーいう……」

 

 

   わざとやっているのかとリクは疑う。

   俺も苦笑する。

 

 

「……食事……不要。人間の、貴重な資源……浪費する必要、ない……」

 

 

「一切食べないのも怪しまれる。小食ってことにしろ。食事自体は問題ないか?」

 

 

「……ん。でも分解するだけ……無意味……」

 

 

「その分俺の食事を減らす。これで相対的に食糧事情は変わらん——で」

 

 

   シュヴィの反論を許さずに、リクが次の確認に進む前に、俺は口を挟む。

 

 

「んじゃ、俺も食事も減らしていいぜ。そうすりゃ、リクの食事の量は大きく減らないだろ。リクが倒れるとこの集落は危ないからな」

 

 

   俺の言葉にリクは訝しげな視線を向ける。

   まだ、俺を疑ってるから真意を探ってるんだろう。ンなもんないが。

 

 

「別にこの集落が潰れると俺も困るってだけだよ」

 

 

   俺は苦笑して、そう言う。

   しばらく俺を見ていたが、俺の答えに一応は納得したのかシュヴィへの確認に戻った。

 

「おまえ水は——」

 

 

「……問題、ない……シュヴィ、防水防塵防凍防火防弾防爆防魔防精霊……」

 

 

「デタラメ種族め。じゃあ風呂は入っている振りで——」

 

 

「……でも……防汚仕様……ない」

 

 

「防爆まで仕様なのに?機械として欠陥じゃねぇのか」

 

 

「……精霊、使っていい、なら、自浄装置、ある……でも、使うな、って……」

 

 

   そうシュヴィが何処かむくれた顔で抗議をする。

 

 

「くそ、毒を食らわば皿まで。コロンの勘違いを利用して人払いして貰ってる間に——」

 

 

「……リク、が……シュヴィを洗う……と」

 

 

   断定口調で、深く頷くシュヴィに、リクは頭を抱える。

 

 

「なんでだよ……子供じゃねぇだろ1人で入れよ」

 

 

   だが極めて論理的に、シュヴィが指を立て指摘する。

 

 

「……1、人払い利用、なら……シュヴィだけ、入ると……リク達入る……機会喪失」

 

 

   ————。

 

 

「……2、シュヴィ、細部、洗えない……自浄装置なし、で……洗ったこと、ない」

 

 

   そして——

 

 

「……3、シュヴィと入浴……拒む理由……推論。やっぱり幼い容姿に、性的——」

 

 

「わかった、もうわかったから……行くぞ」

 

 

   そう言ってリクは立ち上がる。

   流石のリクも機械相手に、正論合戦で勝てなかったようだ。

 

 

「ほらメリオダスも行くぞ」

 

 

「いや〜お邪魔じゃないですか」

 

 

   ニヤニヤしながらそんなことを言う俺をリクは睨み、

 

 

「ふざけたこと言ってねぇで行くぞ」

 

 

「はいはい」

 

 

   そして俺はシュヴィと一緒にリクの付いて部屋を出た。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

   真っ赤に焼いた石を、水を張った大釜に放り込む。

   途端、狭い浴室に熱い蒸気がもうもうと立ち込めた。この蒸気で汗をかいて汚れを落とし、最後に水を浴びてさっぱりするという仕組みなようだ。

 

 

   だが、発汗機能のないシュヴィの為に、リクはボロ布と大釜のぬるま湯を使って、泥と埃にまみれた機械部を洗ってやる。

 

 

   やることの無い俺はシュヴィを観察する。

   ……いや、別にシュヴィに興奮している訳では無い。

   確かにシュヴィの容姿は美少女だし、俺もメカっ娘は好きだ。

   しかし、今はそうではなく、シュヴィの機械部の緻密さ複雑さに息を呑み、驚いた。

 

 

   機械的な精霊運用を行う地精種(ドワーフ)の道具はいくつか目にしたし、前世で色々な機械を見てきたが、露出しているシュヴィの内部——機械部は、その機能を推測することすらできない。

   だが、だからこそ——それが恐ろしく高度な代物であることはわかる。

   そもそも、現代地球の科学技術では、戦闘能力を排除したとしても機凱種(エクスマキナ)を再現することは不可能だろう。

 

 

「……リク……機械、フェチ……?」

 

 

「そんな高度な機械が、なんでこう見当外れの推測や偏った知識ばっかなのか……」

 

 

   俺と同じくシュヴィの機械部を観察していたリクにかけたシュヴィの言葉にリクは呆れる。

   その言葉に、シュヴィはまるで弁解するように答える。

 

 

「……人間の思考は……『心』の、せいで……予測、できない……計算特異点」

 

 

「まあまあリク、照れるな。人には人の趣味があるのはとうぜ——」

 

 

「お前はなんでそう乗るんだよ……」

 

 

   再び呆れた様子のリクに肩を竦めながら返す。

 

 

「長いものには巻かれる主義なもので」

 

 

   もちろんそんなことはなく、ただ面白いからだ。

   リクもそれが分かっているのだろう。

   リクはため息をつき半眼で睨んでくる。

   するとふと、リクは何かに気づいたように俺の左肩が目に目をやった。

 

 

「……それなんだ?」

 

 

   その言葉に自分の左肩を見るとドラゴンの模様があった。

   模様もあったのか今気がついた。

   そして、俺はニヤッと笑いながら、リクに返す。

 

 

「カッコいいだろ?」

 

 

   リクが呆れてため息をついて黙ると俺たちは黙り込み、水の滴る音だけがする。

   その沈黙を破ろうとした——のだろうか、シュヴィが唐突に言った。

 

 

「……リク、ゲーム……しよ?」

 

 

「風呂でか?なんで?」

 

 

「……………………『暇』?……だか、ら?」

 

 

   明らかに知らない概念を疑問系で言うシュヴィに、リクは苦笑して答える。

 

 

「いいけどさ……精霊の使用は禁止だぞ。ゲーム盤は——」

 

 

   こんなこともあろうかと、言わんばかりに。

   ——というより最初からそのつもりだったのだろう。

   シュヴィが脱いだローブの中に隠していたチェス盤を取り出して見せた。

 

 

「……はあ、わかったよ。ただおまえの髪を洗いながらだから時間制限なしな」

 

 

   ため息を1つリクは苦笑して白いポーンを掴んだ——

 

 

   ————…………

 

 

「……むぅぅ……おまえさぁ、こっちは髪洗いながらなんだから手加減しろよ」

 

 

   左手でシュヴィの髪を洗いながらも、これでもかと熟考し唸る俺に。

   おもむろに、シュヴィがぽつりと呟く。

 

 

「ごめん、なさい」

 

 

「……なにが」

 

 

「……あの後、情報精査、した……」

 

 

   そんな『心』の機微などわかるはずもないシュヴィが、反省を語る。

 

 

「……()()()が、()()()に、『心』問う……不合理。正当的情報、得られない……」

 

 

「そうかい・・・それ以前に、無神経っつーんだけどな、それ」

 

 

「……?シュヴィ、人間とは、違う、けど〝神経伝達回路〟……ある……」

 

 

「そういう意味じゃねぇよ……」

 

 

   俺が言った時と全く同じ返しに、俺は苦笑交じりに嘆息したリクと一緒に苦笑する。

   シュヴィは変わらず真剣に続けた。

 

 

「……それ、でも……他意は、なかった……」

 

 

「…………」

 

 

「……シュヴィ、本当、に……リクの心、知りたい……嘘じゃ、ない……」

 

 

   俯いた声のトーンが安定しない落ち込んでいるシュヴィに、リクはため息1つ。

 

 

「気にすんな……俺も感情的になりすぎた」

 

 

   そう答えるリクに、きょとんとシュヴィが問う。

 

 

「……感情的は、いけない……こと?」

 

 

「ああ。感情的に——例えば怒り狂っておまえを殴ったって何も解決しねぇだろ」

 

 

「でも、リクは、シュヴィを……殴りたい……」

 

 

「……言葉のあやだよ。いや、どうだろ——正直自分でもわかんねぇや」

 

 

   再び会話が途切れた。水音、コマを打つ音、熱い蒸気にリクは、ぼうっとし始める。

   しばらく続く沈黙を破ったのは、またもシュヴィだった。

 

 

「……リク、なんで……『心』、閉じる……の?」

 

 

「おまえさぁ、ホントに反省してんの?デリカシーとかそういう——」

 

 

   怒鳴りかけて——シュヴィの赤いガラス玉の瞳に覗き込まれて、リクは声を切った。

   心がない機械——表情一つ一つに感情が伺えるが——ならば()()がないとも言える。

 

 

   ……おそらくシュヴィはリクを傷つけたいわけではなく、本当に、ただ知りたいだけなのだろう。

   合理的で打算的で冷酷な——演じられた『リク』ではなく。

   観察対象として価値がある——『心がある本物のリク』を。

 

 

「……そうしなきゃ、生きていけないからだよ、こんな世界……」

 

 

   初めて見た『心』が伺える表情のリクのその言葉に俺は、リクの言う〝こんな世界〟を思い浮かべた。

   ——赤く灼けた空、碧い黒灰()が積もる大地、それが地平線の彼方まで続く光景。

   マスク無しに外へ出ればそれだけで命がない死の世界——あるいは既に死んだ世界。

 

 

「それは、シュヴィ達の、せい……?」

 

 

「…………わかんねぇよ……」

 

 

   本当に分からなそうな表情で続ける。

 

 

「誰のせいかなんてどうでもいいよ……ただ実際問題、人間が生きていくには『心』を閉ざすか、それこそ——壊れるかしなきゃ生きてけないだろこの世界は——不条理すぎる」

 

 

「……不条理……不条理。何が、不条理……?」

 

 

「強ければ生き、弱ければ死ぬ。意味も理由もなく。世界はただそういう風にできていて……それを〝不条理と感じる〟あたりが『心』なのかなあ……わかんねぇけど」

 

 

   何処か諦めに近い表情を浮かべながらを、リクはシュヴィの髪を洗った。

 

 

「……シュヴィ、リクの……『心』、知りたい……でも」

 

 

   ポツポツと、シュヴィが語る。

 

 

「……リク、を……()()()()()()()……どうすれば、いい……?」

 

 

   その言い回しに違和感を覚えた様子でリクは訪ねた。

 

 

「何で俺を気にする。『心』を知りたいだけなら、昨日みたく無遠慮に——」

 

 

「……ごめ、んなさ……い……」

 

 

「あ〜もう蒸し返す気はないって。でもそうだろ。俺に配慮する理由って——」

 

 

「…………………………………………わから、ない」

 

 

   シュヴィが初めて不明瞭な解答をしたことに、リクは眉をひそめた。

 

 

「……わから、ない。けど、リクへの、危害、は……回避したい……」

 

 

「ほ〜、解析対象は可能な限り自然体でいなければ正確なデータが取れない、とか?」

 

 

   からかい半分、いかにも論理的で事務的な口調でそう言ったリクに——だが。

 

 

「…………違う……気が、する。……それと理由不明……でも……」

 

 

   何故か、シュヴィは顔を伏せ、どこか震えた声で、答えた。

 

 

「……今の……凄く、不快……」

 

 

   やはり、この機凱種(エクスマキナ)の少女——シュヴィ——は()()()()()。明らかに異常だ。

   今の発言が、無自覚にでも〝傷ついた〟と主張しているのは明白だ。

   『心』がわからないと自称しているにも関わらずだ。

 

 

「なあ、そもそもおまえ、クラスタの連結解除……廃棄された、んだよな」

 

 

「……ん」

 

 

   理由も、詳細も聞いている。自己言及の矛盾(パラドクス)、論理破綻で障害を来した。

   自分は本当に自分か。何を以って自分か。それは人間のようにファジーな『心』がなければ回避困難な問題だ。廃棄されるのは——こう言っては何だが、当然だ。

 

 

「その連結体(クラスタ)に帰る為、どうしても『心』を解析したい。でも俺への危害は関係——」

 

 

「……?別に、帰りたく、ない……よ?」

 

 

   その言葉にリクは首を傾げる。

 

 

「え、いや、じゃあおまえ、()()()()()()()()()()()()()()()()()んだよ?」

 

 

「……?興味を、もって……自己判断、で……」

 

 

「興味って——おまえ、それ感情、つまり『心』じゃないのか?」

 

 

   理解に苦しみながら呟いたリクのごもっともな言葉に——ピタッと、シュヴィが固まった。

 

 

「………?……………………?……わからない」

 

 

「はい?なに?」

 

 

「……わから、ない……リク、正論。でも、シュヴィ、重要性、感じ、ない……何故?」

 

 

「お、俺に聞くのか?」

 

 

   真顔で問われて、思わず顔を引き攣らせるリクに、シュヴィは——

 

 

「……解答候補、列挙——」

 

 

   続ける。

 

 

「……どうでもいい、リクがいればいい、興味ない、無意味、関係ない、同期拒否、解析優先、解析ではなく理解優先——【破綻(エラー)】【矛盾(エラー)】【不正(エラー)】【破綻(エラー)】【矛盾(エラー)】————」

 

 

「お、おい。おいおいおいっ!なんか煙出てるぞ、オイッ⁉︎」

 

 

   ぷしゅーと排気を噴き出したシュヴィの様子に、思わずリクは取り乱す。俺も目を見開く。

——だけそれも数秒のこと。ぐるりと振り向いたシュヴィは、リクを見て1つ頷き、

 

 

「結論。帰りたくない……()()()

 

 

「曖昧だな」

 

 

「……根拠……特定不能……でもそう、()()()

 

 

「曖昧だなぁ……」

 

 

   段々とおかしくなってきたのか苦笑し、繰り返すリクに、不意に。

 

 

「……それは、そう、と……チェック・メイト」

 

 

「てめ……話に気がいって集中出来なかっただろーが。もう一回だ」

 

 

「…………ん」

 

 

   自覚があるか分からないが本気で悔しそうにしているリクの言葉にシュヴィはささやかな微笑を浮かべ、頷いた。

 

 

「……ところでさ」

 

 

   リクは疲れながら吐き出した。

 

 

「おまえ……髪長すぎ。洗い終わんねぇよ。暑さで頭茹だってきたし」

 

 

「……短いほう、いいなら……切る……?」

 

 

「いやいいよ別に……おまえホントよくわかんねぇな……メリオダスも手伝えよ」

 

 

「しょうがねぇな」

 

 

   俺は苦笑しながらボロ布を手に取り、シュヴィの髪をリクと一緒に洗い出す。

   そして、リクはしきりに自分の長さを気にしだした少女を見て小さく笑った。

 

 

   ————…………

 

 

   しばらくまた沈黙が流れた。

   俺はふと、疑問に思い、シュヴィに問いかけた。

 

 

「そういえばなんで『心』の解析で人間……というかリクを観察しようと思ったんだ?」

 

 

「……?どういう、こと?」

 

 

「いやリクじゃなくても他の人間でも……いや、それ以前に人間である必要ないよな?だって、獣人種(ワービースト)でも森精種(エルフ)天翼種(フリューゲル)でもあるよな?」

 

 

   原作では何という理由だっただろうか。

 

 

「……?……リク、に……興味を、持った……から?」

 

 

「ふ〜ん……まっいいや」

 

 

   いずれ分かるかと、俺が流すとリクが問いかけてきた。

 

 

「……なんで、そんなに他種族に詳しいんだよ?」

 

 

   俺は誤魔化すようにニヤッと笑い、

 

 

「さぁ〜な」

 

 

   と言った。

   すると、リクはシュヴィに問いかけた。

 

 

「なぁ、おまえあいつの種族分かるか?」

 

 

「……わから、ない」

 

 

「……え?」

 

 

「……心臓が、7つ……ある、種族……該当、ない」

 

 

「え?こいつ心臓7つもあんの?」

 

 

「……ん。……心音が、7つ……重なっ、て……る」

 

 

   流石機凱種(エクスマキナ)

   俺の心音を探るくらいわけないみたいだ。

 

「……へぇ〜」

 

 

   俺は、リクの訝しげな視線を感じながら、一緒にシュヴィの髪を洗った。

   2人が結婚したら本当のことを言ってもいいかもな、と思いながら。

 

 




   次回はオリジナル回になるかもしれません。
   また1章が伸びるよ……。

   それでは第15話をお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第15話 集落の変化

   オリジナル回になると言ったな——あれは嘘だ。
   というのは冗談で前半少しだけ、オリジナルです。
   ……やる意味あったかは謎ですが。
   後半はメリオダスが出ません。


   それでは第15話をどうぞ。


メリオダス視点

「これでよし……っと」

 

 

   俺は細かく斬り分けた木材を縄で縛りながら呟く。

   そして、一息つきながら相変わらず紅い空を1人、見上げた。

 

 

   俺がこの世界に転生してから早いことに約1年が経過した。

   俺はリクの目を盗んで時々1人で外へ出て、木材や食糧を採って来ている。さらに、周辺の調査も一緒にやっている。

   この世界では食糧は言わずもがな、木材さえも貴重な資源だ。建材、道具の材料、燃料etc。

 

 

   少しでも集落に貢献したいと思ってのことだったが、リクは俺が目の届く範囲にいないことに苛立っているようだ。確かそんな約束をした覚えがある。

   しかし、俺の力をフルに活用するならこうしたことをした方がいいし、そうなるとリクを一緒に連れてこなくてはいけなくなってしまう。

   そんなことをすれば集落の住人が心配するに万が一にもリクを死なせる訳にはいかない。

   そういうわけで、リクの目を盗んでこんなことをしているのだ。

   下手をすればメリオダスの力を持ってしても死ぬ可能性はもちろん高いが人間がやるよりは遥かに生存率は高い。

 

 

   余談だが、俺は地精種(ドワーフ)の霊装を改造して、集落に役立てられないかと、リクと初めてあった場所に何度か足を運んだことがあった。

   しかし、案の定無理だった。

   地精種(ドワーフ)の霊装は地精種(ドワーフ)感性(なんとなく)で素材にテキトーに傷を付けて、殴って折って畳んで作ったものだ。

   そんなものを少し機械をいじれるだけの俺が——いやたとえどれだけ機械に精通していようとも、不可能だろう。

   しかし、負けず嫌いと自覚のある俺は何とか改造出来ないものかとあれこれ手を加えたが——1度大爆発を起こしてから諦めた。

   論理の欠片も無いものの改造など出来るわけがなかったのだ。

   あれを改造するくらいなら機凱種(エクスマキナ)の改造をする方がまだ可能性はあるだろう。

 

 

   俺は縛った木材の束を持ち上げて背負う。

   木材の量には細心の注意を払わなければならない。

   メリオダスの身体能力なら大木であろうと片手で持ち上げることなど容易いが、あまり多すぎると隠れるのに不便だ。しかし、少ないと俺が行く意味が無い。

 

 

   そんなことを考えながら、音を立てないように歩き出した。

   ……外へ出たもう1つの目的のために。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

リク視点

   シュヴィとメリオダスが来てどれくらいが経っただろう。

   正確な暦がないから曖昧にしか把握できないが、シュヴィ曰く『約1年』だ。

 

 

   ——早すぎる。数日を生き延びるのが永遠に感じられたのに——……

 

 

「……なぁ、神霊種(オールドデウス)ってどんくらいいるんだ」

 

 

   狭い自室でシュヴィとチェスを打ちながら、不機嫌に頬杖をついた。

 

 

「……理論上〝無限〟……概念数に、比例……でも〝活性条件〟……不成立、多数……」

 

 

   要領の得ない解答と、シュヴィが指した手に、俺は顔をしかめる。

   こちらが考え抜いた定跡を一手で崩す返し手に嘆息1つ、次の策を編んで、続ける。

 

 

神霊種(オールドデウス)って一応〝戦の神〟とか〝森の神〟とかいるよな」

 

 

   やってることは同じ、ただの戦争だが、と脳内補足する俺にシュヴィは頷く。

 

 

「……前者アルトシュ……天翼種(フリューゲル)の創造主……後者カイナース……森精種(エルフ)の、創造主」

 

 

   だが、俺がシュヴィの言葉を遮る。

   会話と指し手の応酬。再度編んだ定跡をすぐさま崩されて、俺はふと思い出す。

   何度も挑み、何度最善と思える手を打っても——()()()()()()()()この感覚。

   ……子供の頃、闇の奥に見た、決して勝てない不敵な笑顔の少年——

 

 

「なあ——()()()()()、って、いないのか?」

 

 

   ——思い出しただけだ。いたところで何という話だが、シュヴィは真面目に答えた。

 

 

「……()()。でも……『神髄』未確認……活性条件、不成立と、推測……」

 

 

   この約一年でシュヴィとの会話も慣れてきたな、と苦笑する。

   詳しくはわからないが、つまりはこういうことだ。

   神霊種(オールドデウス)は『概念』だ。ゲームの神も、ゲームという概念がある以上()()()()()()()()

   だが活性条件——『神髄』のとやらの有無で〝実在〟の是非が決まる、と。

 

 

「よーするに……〝少なくとも今はいない〟ってことか——」

 

 

   チェックメイト。また一つ増えた黒星にため息をついて、俺は席を立った。

 

 

「つか、前から言おうと思ってたが、俺やメリオダス以外の人がいないときまでその口調、必要ないぞ」

 

 

「……ん……なん、か……思考発声中枢、不可逆化した……らしい」

 

 

「ふむ、人間にもわかるように言うと?」

 

 

「……元に、戻らなく、なった、()()()

 

 

   曖昧だな、と決まり文句と苦笑を洩らし、俺はシュヴィと共に部屋を出た。

 

 

   ——歩きながら眺める集落は、雰囲気が変わっていた。

   隣を歩くシュヴィを眺め、俺は認める。こいつらが来て、取れる手段は大幅に増した。

 

 

   頼んでもないのに計算、設計を手伝うシュヴィのおかげで、測量や索敵は精度が向上した。コロンの望遠鏡は性能を高め、非効率だった酪農も僅かに進歩した。

 

 

   さらに、これまた頼んでもないのに目を離した隙に1人で勝手に集落の外へ出て動物を狩って来たり、木を採って来たりするメリオダスのおかげで、調査に出る必要は激減し、食料を〝備蓄〟できる余裕が生まれた。

   助かってるのは事実のなので強くやめろと言えない。

   しかし、その出ている間に仲間と連絡を取ったりして集落を危険に晒す行為をしていないかが心配だ。

   シュヴィを使って、そのようなことをしていないか確認したがしてはいないようだ。

   シュヴィが共犯でもない限り大丈夫だろうが、何か隠しているようでもあった。

   警戒するしかないだろう。

 

 

   しかし、2人が色々した結果。

 

 

「ようリク!今日も嫁さんと部屋でのんびりしっぽりか!」

 

 

「嫁じゃねぇつってんだろハゲ。てめーは望遠鏡を一生覗き込んでろ」

 

 

「シュヴィちゃ〜ん!こないだはありがとね〜子供達と遊んでくれてぇ!」

 

 

   明らかに——集落には、笑顔が増えていた。

   集落(このなか)にいる限り、彼らは死に怯えず生きられるようになったのだ。

 

 

   ——わかっている。これは一時の平和、嵐の前の静けさに過ぎないと。

   この一時の『間』は、頭上におわす自称神の〝無意識〟一つで塵の如く消え去る。

   その事実を忘れ、一時の安穏に身を浸して生きるのも、あるいは幸せかもしれない。

   だがそれは、()()()。明日にでも今日にでも——今にでも。

 

 

   希望を与え過ぎてはいないか——と俺は顔をしかめた。だが、ではどうしろと?

   絶望を見ないふりし、()()()()()()と信じ、いつか来る終戦まで、生きる?

   少なくとも自分には無理——

 

 

「おう大将!嫁の股ぐらばっか弄ってねぇでこっちの水漏れ直すのにも手ぇ貸せよ!」

 

 

「——ふ〜む、殴られたいならそう言え。〝拳〟ならいくらでも貸してやるよ」

 

 

俺は引き攣った笑みで腕をまくり、声の方へ向かった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

   取り残されたシュヴィは、リクが戻るのを根を生やしたように動かず待った。

 

 

「——シュ〜〜ヴィ〜〜ちゃんッ♪」

 

 

   唐突に抱きつかれ、シュヴィは無言で振り返った。笑顔のコロンがそこにいた。

 

 

「一人〜でな〜にしてるのかなぁ〜?リクについてってあげないの?」

 

 

「……ついて来い、って……言われて、ない……」

 

 

「うぁぁはッ!シュヴィちゃんもうあんなダメ夫ほっといて私と結婚しない⁉︎こ〜〜んないじらしい奥さんほっとく馬鹿旦那とか忘れてさぁ〜?すりすりすりーー」

 

 

「……リク、馬鹿じゃ……ない……」

 

 

   と小さく唇をとがらせるシュヴィに——コロンが眼を細めて訊ねる。

 

 

「ねぇシュヴィちゃん。姉の私が言うのもなんだけどさ——」

 

 

「……リクが……『ありゃ自称姉だから無視しろ』……って……」

 

 

「あっはっは〜♪……あとで一発ドついとこ〜ね〜♪それはともかく!」

 

 

   コホン、とごまかすような咳払いを一つ。コロンは端的に言った。

 

 

「シュヴィちゃんは、リクの何処に惹かれたのかな〜?」

 

 

「……ひか、れ……?」

 

 

「んもぉ♪どこ『好き』になったか聞いてるのよぉ〜わかってるくせにぃ〜❤︎」

 

 

   ——唐突に、シュヴィは〝緊張〟している自分を認識した。

   何故かはわからない。人間として振る舞うのはもう慣れたつもりだった。

   だがこの時、コロンの明るい態度と裏腹に——()()()()()()()()()気がして。

   熟考する。そもそも自分は、まだ『心』をほとんど解析できていない。

   故に『好き』という感情も解析未完了、定義できていない——だから——

 

 

「……わから、ない……」

 

 

   と、シュヴィは素直に答えることにした。

 

 

「……リク、の……『心』……感情に……興味、持った……」

 

 

   シュヴィの記憶中枢に、リクと〝初めて会った日〟が過る。

   リクの眼、その奥にあったもの——その時発生した、機凱種(エクスマキナ)にあるまじき思考。

   『連結体(クラスタ)不全危惧級論理破綻(ロジックエラー)』と連結解除された()()は——。

 

 

「……ふぅ〜〜ん、ふんふん♪なぁるほどねッ♪」

 

 

   と——何かに得心いったのか、コロンはさらりとそれを〝定義〟した。

 

 

「よ〜するに——()()()()()()ってことでしょ?」

 

 

   ————え?

 

 

「うんうん♪リクってば特別顔がいいわけじゃないし、()()あんな性格だからぁ——」

 

 

   目を丸くして固まるシュヴィに、コロンは頷き、そして笑顔で告げた。

 

 

「リクの『本心』見抜いて惚れたなら——うんっ、安心して弟を任せられるわ♪」

 

 

「…………」

 

 

   一目惚れ——また解析すべき概念が増えた、シュヴィは疲労感を覚える。

   惚れる。好く。愛す。どれもまだ解析未完了なのに『一目惚れ』——()()()()という新たな情報が加わった。もしかしたら、自分は一生『心』を理解できないのでは——

 

 

「——おいコロン、またこいつにろくでもないこと吹き込んでんのか?」

 

 

   と、用事を済ませて戻ってきたリクが、コロンに向かって言った。

 

 

「失敬だねぇ弟よ。まことに失敬だよぉキミィ!!私がいつろくでもないことを——」

 

 

「俺が巨乳好きだと吹き込んで貴重な食料(パン)二つ胸に仕込ませた……脳異常かコロン」

 

 

「失敬ね私は正常よ!いずれ私の妹になる子よ?性生活で退屈させな——」

 

 

「行くぞ。アホが伝染る。あまりアレに関わるな」

 

 

「……知能指数、って、伝染……する、もの……?」

 

 

   と驚愕の新事実にシュヴィは目を剥き、リクが急かすようにその手を引いた。

 

 

「あれ、リクどこ行くの?」

 

 

「こいつにもそろそろ食料採取の仕方教える頃だろ。索敵道具とかの使い方を教える」

 

 

   ——もちろん嘘だった。機凱種(エクスマキナ)なら、妖魔種(デモニア)だろうと素手で殴り倒せるのだから。

   何よりシュヴィの年齢——製造経過年数は、()()()()()だ。

   機凱種(シュヴィ)の機動でしか行けないところに確認したいものがあり——そう言えないだけだ。

 

 

「もしかしたら帰り遅くなるかもしれんが、まあ遠くへは行かない」

 

 

   ——その言葉に、コロンはぽんと手を叩いてにんまり含み笑った。

 

 

「ああ——青姦ね?❤︎」

 

 

「コロン、おまえもう脳みそ取り替えたほうがいいぞ」

 

 

「あれ、でも今の空じゃ〝赤姦〟になるのかな⁉︎何にしても寒いから風邪ひか——」

 

 

「うるさい黙れ。さっきメリオダスが帰ってきたらしいからメリオダスを連れてさっさと行くぞ——〝シュヴィ〟」

 

 

 

   とリクは不機嫌そうに踵を返した。……おそらく、自覚はなかっただろう。

   シュヴィとコロンだけが、それに気づいた。特にシュヴィは——

   リクに——()()()()()()()()()()ことに。

   未定義のエラーで思考が埋まった。機体温度が上昇するのを感知したが——

   シュヴィはその記憶に『最重要』とタグを付け、理由も分からず——大事に保存した。

 

 




   テスト1週間前なのでテストが終わるまで投稿が遅れるかもしれません。
   勉強の合間に頑張りますがご了承ください
m(_ _)m


それでは第16話もお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第16話 森精種(エルフ)の廃都の探索

   ハッハー!勉強なんざクソ喰らえだぜぇ〜!
   ……(´Д`)ハァ…頑張らなきゃな...( = =) トオイメ

   それでは第16話をどうぞ。


メリオダス視点

「……ここが、壊滅した森精種(エルフ)の廃都、か……」

 

 

   そう呟くリクにだが俺は——

 

 

「ハァッ、ハァッーー。それよりまず俺に言うことないの!?この悪魔!」

 

 

   そう怨嗟の声を上げた。

 

 

   半日前。

   探索から帰った俺が荷物を置く暇も与えずリクが「出かけるぞ」と目的地も告げずに一言だけ言った。

   唖然とする俺から荷物をひったくり、他の集落の人に渡すと直ぐに出発した。

   そして、リクを抱えたシュヴィの後ろを付いて()()走り続けた。

   流石の俺も疲労困憊でリクに文句を言うが……

 

 

「勝手にどっか行ってたお前が悪い」

 

 

   返された。

   いや、探索から帰ってすぐ出たのは確かに俺が悪いかもだけど休み無しで走らされ続けたのは俺悪くなくね?と言う前にリクは歩いて行ってしまった。

   仕方なく文句を飲み込んで後をついて行った。

 

 

   そこは一年前——リクと2人でで向かおうとしていた場所だ。

   木で編んだ独特な建物は軒並み崩れ、醜く焼け焦げた痕が今も残っていたが、その廃墟は色鮮やかな草木に覆い隠され、さながら雅な庭園のようだった。

   天は血色に染まり、大地は黒灰の毒に冒されて——そんな死の世界でありながら、この廃都は今なお神霊種(オールドデウス)の加護に守られているようだ。

 

 

   しばらく3人で連れだって歩きながら周りを見ていると俺は思わず呟く。

 

 

「しっかし、結構残ってるもんだなぁ」

 

 

「……何が?」

 

 

   リクの問いに苦笑しながら答える。

 

 

「いやぁ。あの天翼種(フリューゲル)の一撃を受けて意外と無事だなぁ、って思っただけさ」

 

 

「……これをやった天翼種(フリューゲル)を知ってるのか?」

 

 

「さてね」

 

 

   もちろん知っている。

   これをやった天翼種(フリューゲル)はだいたいこいつのせいでお馴染みのジブリールさんだ。

   さて、何故そのようなことをジブリールがしたかと言うと。

 

 

   この壊滅した首都に地精種(ドワーフ)が攻め込んでいた。

   戦力不足に劣勢を強いられる森精種(エルフ)はだが、1人の天才——シンク・ニルヴァレンが前々から準備していた術式——『不動第二加護(ジアー・ラ・アンセ)』の解放によって覆る。

   それは一時的に影響範囲内の精霊を消費し尽くす魔法。

   それ即ち一時的に魔法が封じられる。

   それにより、そもそも魔法で物理法則を無視しなければ飛ぶどころかあれほどの鉄の塊なら自壊してしまう地精種(ドワーフ)の戦艦は自壊しながら墜落して行った。

   そして、シンクのライバルたる地精種(ドワーフ)の天才——ロー二・ドラウヴニルにトドメを刺そうと瞬間、それは落ちてきた。

   『不動第二加護(ジアー・ラ・アンセ)』により、一時的に飛行能力を失って落ちてきたジブリールは頭にたんこぶをこさえて、ニッコリと微笑むと——キレて『天撃』を放った。

   『天撃(てんさい)』は森精種(エルフ)3000人の防護魔法虚しく首都を()()させた。そして、ご覧の有様である。

   ちなみに、空を呑気に墜落していた地精種(ドワーフ)の艦隊は()()した。

   そして、たんこぶの痛みでつい『天撃』を撃ったジブリールはそれが全く割に合わないと腹を立て、完全回復までの暇つぶしとして、森精種(エルフ)が避難させていた書物を略奪しつつ、幼児化(じゃくたいか)してなお、森精種(エルフ)を虐殺し、森精種(エルフ)の反撃に腹に穴を開けられつつ、意気揚々と飛び去った。

   さらに、森精種(エルフ)地精種(ドワーフ)両種族はこれにより戦力不足に陥り、他種族との同盟を模索させることになった。

 

 

   そんなことを俺が考えながら歩いていると、悉く焼き払われた廃墟の中、ただ一つ原形を留めている建物の前で、リクは足を止めシュヴィに訪ねた。

 

 

「ここが図書館、なのか?」

 

 

「……たぶん……それに、準ずる施設……都市被害に、対し……ここ、被害軽微……」

 

 

   それは——つまりジブリールの攻撃を受けた際、優先的に防衛した建物。

   予想されるのは避難施設、何らかの研究施設、あるいは——保管施設、だ。

 

 

「……なるほど。たしかに〝たぶん〟図書館か何か、だな」

 

 

   扉らしきものは見当たらず、俺らは編まれた木々の隙間を縫って中に潜り込んだ。

   果たして、そこは——。

   奇妙な建物様式は中に入っても変わらず、内装は用途の判別に困る代物だった。

   その中で辛うじて本棚だろう——と思われるものがある。

   だが、物の見事に空っぽだった。既にあらかた運び出されたらしいが……十分である。

 

 

「連中には不要な知識でも、こっちには意味があるんだからな……」

 

 

   そう言ったリクと俺は共にわずかに残った紙片や破損した本を調べて回った。

 

 

「……2人とも、森精語、読める……の?」

 

 

   パラパラとそれらに目を通していく俺らに、シュヴィが訪ねた。

 

 

「地精語、森精語、妖精語、妖魔語、獣人語——どの言葉で返事してほしい?」

 

 

   事も無げに答えるリクに、シュヴィが目を丸くする。

 

 

「……どうして、そんな、に……?」

 

 

「生き残れないからだ。苦労して手にした情報も読まなきゃ価値がない」

 

 

   どこか怒りとも憎しみとも違う、険しいでリクは続けた。

   俺とシュヴィはリクのその顔——眼を知っていた。

   それはリクがシュヴィに、チェスで本気で勝とうとしてる時の眼だ。

 

 

「——人間だって、ただ永遠に滅ぼされ続けたわけじゃねぇってことだ。口伝てや筆記、思いつく限りの方法で、他種族の性質、言語、習慣まで——連綿と今日まで伝えてる」

 

 

   何も映さない黒眼で、人間は弱く脆く逃げ延びるしかないと語る——その()()()

   まさしくそれこそが、シュヴィの知りたいもの、相反するもの。

   ——()()()()()()()——そう語る、『心』なのだから。

 

 

「……メリオダス、は……どうして……?」

 

 

   シュヴィが興味を持つのも分かるなぁ、と思っている俺にもシュヴィは問うてきた。

 

 

「リクに教わったんだよ。まだ森精語と地精語だけだけど……探索に出てばっかりだからなぁ。会話はまだ無理なんだよ」

 

 

「テメェならすぐ覚えられるだろ。バケモノめ」

 

 

「にっしっし。理科と英語は得意だったんだよ」

 

 

   そう返す俺だったが流石に早すぎると自覚はしている。

   理由は分かっている——楽しかったからだ。

   だって俺が好きなアニメの言語だぜ?それをリアルに覚えられるんだぜ?楽しくなるのは仕方がないジャマイカ。

 

 

   そう思いながら、本を調べていると、

 

 

「……あ……リク、リク……」

 

 

   周囲を文字通り『探知』していたらしいシュヴィの声に、俺らは顔を上げ——

 

 

   岩盤のめくれ上がる揺れと轟音。分厚い鉄の塊が強引にねじ切られる金切り音で、リクはその場に倒れ込んだ。呆然とする俺らに、だがシュヴィが淡々と、

 

 

「……地下、複合偽装術式……された、下……地下室、ある……よ?」

 

 

   身長の10倍はある鉄扉を持ち上げて小首を傾げる姿に、リクと俺は顔を引き攣らせた……。

 

 

————……………

 

 

   シュヴィが周囲の生体反応を確認してから、俺達は階段を下った。そして——

 

 

「……なんだ、こりゃ」

 

 

   長い地下階段の先に広がっていた理解しがたい光景に、リクは訝しげな声を上げた。

   広いホール——その中央に、巨大な柱がいくつも並んでいる。

   柱は奇妙に歪んでいて、その表面には赤い紋様が無数に刻まれていた。

 

 

「……186本……紋様は、神霊種(オールドデウス)カイナースの、加護刻印…………?違、う」

 

 

   瞬時に数を把握し、その正体を解析しようとしたシュヴィは、だが首を傾げる。

 

 

「……データ上の、森精種(エルフ)の使う……刻印、術式、一切……一致しな、い……?」

 

 

「シュヴィも知らない、なんぞ〝新しいデタラメ〟を造ってたが、造ったってことだろ。今更あの連中が何しようが、それこそ星を割ろうが驚ろかねぇ——」

 

 

   人間の目線には、大陸が割れるのも星が割れるのも些末な違いだからなぁ。いや、メリオダス(おれ)目線でもそうだけど。

 

 

   それより、とリクは奇妙な柱の立ち並ぶ台座の埃を払い、プレートを読み上げた。

 

 

「——『虚空第零加護(アーカ・シ・アンセ)・理論検証試験炉』……シュヴィ、心当たりは?」

 

 

「…………該当、なし……森精種(エルフ)が、道具……触媒、使う魔法、自体……該当、なし」

 

 

   俺は2人の会話を聞きながらこれが、と赤い模様を撫でる。

   原作を知る俺はこれの正体を知っている。

   幻想種(ファンタズマ)を使った大陸すら破壊しかねない魔法である。

 

 

「何にせよ、長居無用だ。あるかわからんがーー残った書類漁ってさっさと出るぞ」

 

 

   そのリクの言葉にシュヴィと俺は頷き、残された書類を手際よく拾い集めていく。

   その中、リクは手にした一枚の紙片に目を落とし、

 

 

「……『開発スタッフ』の名前まで暗号で書くような代物って、なんだよ……」

 

 

   暗号で埋め尽くされた名簿を前に——リクはぞくりと身が震わせた。

 

 




   ホント、勉強のやる気を出す方法と良いやり方を教えて貰いたい。特に英語。
   この作品の主人公は英語が得意な設定だけど私は英語が1番苦手です。理科はまあ、得意と言えないことも無い。

   とまあ、そんなどうでもいいことはさておき。次回こそは遅れると思います。
   皆さんからすれば遅れない方がいいんでしょうが……。

それでは第17話もお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第17話 認めて欲しくない

  テスト終わったぁぁぁぁぁあッ!
  というわけで投稿頻度戻したいと思います。
  でも話数的に今年中に終わらすなら2日に1回じゃまだ足りないから早めないとなぁ。

   それでは第17話をどうぞ。


メリオダス視点

  長居無用というリクの言葉に従い、さっさと引き上げようとした俺達だったが。

 

 

「参ったな……この中を移動するのは流石に無理だぞ」

 

 

   図書館改め、謎の研究所を出て廃都を後にしたところで——〝死の嵐〟に遭遇した。

   降灰量の増えた黒灰が互いに反応しあい、碧い光の渦となる現象らしい。。

   これに遭遇すれば、どう対処しても灰に含まれた霊骸が防護服を貫通して汚染される。

   俺達は慌てて廃都に引き返した。

 

 

「……リク、こういう、とき……どう、してた……?」

 

 

   廃都の研究所最上階、小さな部屋に身を潜めたリクにシュヴィが問う。

 

 

「どうもこうもない。洞窟、廃墟、それもなきゃ穴掘ってやり過ごすだけだ」

 

 

   ため息をついて、リクは答えた。

 

 

死の嵐(これ)ってどのくらい続くんだ?」

 

 

   俺は、窓から外で荒れ狂う黒灰を見ながら、リクに問う。

 

 

「数時間から長くても1日で止むよ。狭い穴に埋まって1日待った経験は1度や2度じゃない」

 

 

   うへぇ、俺には耐えられないなそれ。

 

 

   そんなことを俺が考えているとリクがシュヴィに問い返す。

 

 

「シュヴィこそ、どうだ?生命反応とか、探知できるか?」

 

 

「……霊骸、が、阻害……長距離観測器、ほぼ……使え、ない……」

 

 

「ふむ……でもま、それならこっちも、ある程度は()()ってことだ」

 

 

   つまるところ——死の嵐の〝おかげで〟こっちも発見されにくいわけだ。

 

 

「メリオダスはどうだ。あれなんとかできるか?」

 

 

「無理だな。精霊反応があって大爆発が起きてもいいならいけるけど……」

 

 

「ダメだからな」

 

 

「わかってる」

 

 

   リクの念押しに俺は苦笑する。

   シュヴィも広域索敵なしに高速移動するのは危険だ。

   ならば、とリクはシュヴィに訊ねた。

 

 

「なあシュヴィ、チェス盤持ってきてるだろ?」

 

 

「…………………………………………」

 

 

   荷物は最低限に——そう言われていたシュヴィは、咎められたと思ったのか。

 

 

「…………ごめん、なさい……」

 

 

   顔を隠すように謝りながら、バックパックから恐る恐るチェス盤を取り出した。

 

 

「別に咎めないって……嵐が止むまで暇だからゲームしようぜ」

 

 

「……?いい、の……?」

 

 

   意外そうに、だがどことなく嬉しそうに言って、シュヴィがコマを並べる。

   その盤面をリクは睨みながら熟考する。

  この一年近くのシュヴィとリクの戦績は182戦0勝。シュヴィに勝ったことはおろか、引き分けたことすらない。

   だがシュヴィを驚かせる打ち筋で、長考に追いやったことは何度かあった。

   つまり——〝絶対に勝てないわけではない〟のだ。

   ちなみに俺とシュヴィの戦績は51戦0勝。長考に追いやることすら出来なかった。

   リクとの戦績は48戦13勝。シュヴィどころかリクとやっても勝率は高くない。

   チェスはかなり得意だという自信があったのだが、その自信を完全に潰された。

 

 

   不敵な笑みを浮かべているリクに、シュヴィは唐突に問うた。

 

 

「リク、どうして……勝てないのに、勝負……続ける、の?」

 

 

「は——?妙な質問するな?俺が勝てば欲しい情報くれるつったのシュヴィだろ」

 

 

「……嘘……リク……気付い、てない……はず、ない……」

 

 

   そう、ありえない。リクほどの者が気付かないはずがない。

 

 

「……シュヴィ……リクが、欲しい、情報……全部……渡して、る……」

 

 

   この1年計算や設計をシュヴィが手伝い、測量は索敵は精度が向上した。

   そして、それはリクがシュヴィから引き出そうとしていた情報だ。

 

 

   …………。

 

 

   重たい沈黙が落ち、吹きすさぶ風の音だけが響く中、シュヴィは言った。

 

 

「……リク、は……すごい、よ……頑張って、る……」

 

 

「——気休めはやめろ」

 

 

   それで、会話を終了しようとしたリクに、だが——

 

 

「……気休め……?違う……ただの、事実……」

 

 

   シュヴィは、きょとんとした顔で()()()()

   そして——リクは珍しいものを見て、目を丸くした。

   明らかに〝言って良いかどうか迷っている〟顔で、シュヴィは言った。

 

 

「……現在の、惑星環境……人間に、致命的……生物的、に、生きてるの……()()

 

 

   それは一年前、リクが我を忘れてシュヴィに掴みかかった時の言葉。

   自分が()()()()()()()言葉と承知しながら、それでも——とシュヴィは怖々と続ける。

 

 

「……その異——訂正、()()……可能に、してるの、は……リクの『心』……意思」

 

 

   そして、とリクの何も映さない黒眼をまっすぐ見据え、シュヴィは断定した。

 

 

「——リク、がどう……思っていて、も……〝客観的事実〟……」

 

 

「ハッ——つまりは何か、俺の無様な連戦連敗が、人間の役に立ってると機械様は保証してくださるわけか」

 

 

「……機械様……は、知らない……でも、シュヴィは、そう判断する。でも——」

 

 

   シュヴィは大真面目に、赤いガラス玉の眼でリクを見つめて続ける。

 

 

「……リクは、それに納得、してない……」

 

 

「当然だろ。こんな世界生き延びて何に——」

 

 

「……違う」

 

 

   即断する。リクの言葉を遮って、シュヴィは続けた。

 

 

「……前、は……わからな、かった……けど……」

 

 

   今なら分かる、とシュヴィはリクの眼を見据えて言い切った。

 

 

「……リク、()()()……死んで、欲しくない、と……願ってる……()()()()()()()()()。人間を……滅ぼす、ものでも——シュヴィ、さえ」

 

 

 

「———————————ッッ‼︎」

 

 

   リクの顔が、険しく歪んだ。

   シュヴィは、やはりわからないのだろう。あの時、リクが自分を殺さなかった理由。

   リク自身わからないと答えたその判断基準が、やはりシュヴィには理解できない。

  〝だからこそ〟断言する——

 

 

「……それが『心』……と……シュヴィ、は、推測……定義する」

 

 

「…………」

 

 

   沈黙を保ち、眼を伏せるリクに、シュヴィはなおも続けた。

 

 

「……シュヴィ、断じる……リク、すごい……でも、リク、()()()()()

 

 

「……()()()()()()()()、から……()()()()()()()()()()()……」

 

 

   ————、

   ————————、

 

 

   風音だけ響く部屋に、苦笑がこぼれた。リクはのろのろと顔を上げ、頬杖をつき。

   ——くっきりと、シュヴィの姿を映した眼で絞り出すように吐き出す。

 

 

「おまえ、ホント腹立つなぁ……正論しか言わない奴がこんなに厄介とは……」

 

 

「……ごめん、なさい」

 

 

「……謝るなよ……間抜けが逆ギレしてるだけだから……」

 

 

    そう、リクは魂まで吐き出すようなため息をつく。

 

 

「ああ、そうだよ——誰にも認めて欲しくないさ、こんなクズ野郎(おれ)なんか……」

 

 

   リクは天井を仰ぎ、背中を壁に預けて、懺悔のように呟いた。

 

 

「……なぁ、だったら俺、どうすればいいんだ、どうすれば、自分を赦せるんだ」

 

 

   恥を棄てて縋るように問うリクに、だがシュヴィはまっすぐに視線を返して問うた。

 

 

()()()()()()()……リクの『心』、は……なんて、答える、の……?」

 

 

「————はは、それがわかんねぇから聞いたのに、そりゃあないだろ………」

 

 

   リクは乾いた笑いをこぼして、驚いたことに俺に話を振ってきた。

 

 

「……なぁ、お前はどう思う?いつも傍観者さながらに黙って俺らの話を聞いて、意味わかんない種族で、変な知識持ってて——時々俺を優しげに見つめるお前はどう思うんだよ……?」

 

 

   力なく、俺を見つめながらそう問うリクに苦笑する。

   全部察されていたらしい。

 

 

「わからねぇよ」

 

 

   俺の言葉に目を伏せるリクに続ける。

 

 

「それは俺やシュヴィに問うものじゃないだろ?お前がどうすればお前を赦せるのか自分に問う問題だろ?だけど、1つアドバイスするなら——」

 

 

   俺の言葉に顔を上げたリクの目を見て言う。

 

 

「お前の言う無様な連戦連敗を帳消しに出来る一勝を取りに行けばいいんじゃないかな」

 

 

   俺の言葉に僅かに目を見開いたリクに、俺の言葉を引き継ぐようにシュヴィが言う。

 

 

「それが、なんであれ……シュヴィ、は……手伝う……」

 

 

「……なんで……?」

 

 

  そう問うリクに、だがシュヴィはきょとんと、自明のように答える。

 

 

「『心』……わかるまで……側に、いる……言った……」

 

 

「……メリオダスは?」

 

 

   そして、俺に再び目を向けて、リクが問う。

   それに苦笑しながら返す。

 

 

「もちろん俺も手伝うさ。俺が言ったことだし、それに初めて会ったときに言ったろ。俺の知識と力をやるって。たとえ、人間みんなで心中したいって言っても、神を殺したいって言っても力を貸すさ。できるかはわからないけどな」

 

 

   まあ、誰も殺したくないって言ってんのに心中も神殺しもないか。

 

 

「——はは……頼もしいな、そりゃぁ……」

 

 

   そう呟いたリクに、

 

 

「それは、それ、として……」

 

 

   コツン、と盤上にコマを置いて、シュヴィが告げた。

 

 

「……チェック・メイト」

 

 

「シュヴィ…………ここはさ、せめて引き分けるシーンじゃねぇかな空気的に」

 

 

「……?……大気状態……が、どうか、した……?」

 

 

   相変わらずの返答にリクと俺は揃って苦笑して、窓の外を見やった。

 

 

   いつの間にか、嵐が止んでる。

   窓から外を見下ろせば〝森神(カイナース)の加護故か花や木々が色彩鮮やかに吹き乱れ、死の嵐による影響さえ、どこにも見られない。

   むしろ——風に巻き上げられた色鮮やかな花びらが舞う光景は——癪だが確かに——

 

 

「…………きれい……」

 

 

   そう呟いたシュヴィをリクは見つめる。

   心がわからないと言う割に人間らしく感じる機械の少女は、ただ興味深そうに、空に舞い散る花弁を追って眼を輝かせている。

   その赤く澄んだ眼差しはただ、全てをありのままに映して——

 

 

「——シュヴィ」

 

 

   ゆっくりと振り向いた少女に——リクはいつだったか、何の意味もないと一蹴した話を乞うた——

 

 

「——この大戦の目的と、終結の条件——教えてくれ」

 

 




   今年中に終わらすの無理かも知れませんが、可能な限り頑張って見ます!

  それでは第18話をお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第18話 さぁ——ゲームをはじめよう

   昨日は寝落ちして書けなくてすみませんでしたm(_ _)m
   榎宮ちゃんせんせーの配信見ながら執筆しております。面白い(*´ω`*)

   それでは第18話をどうぞ。


メリオダス視点

    ——花びらの舞う庭園のような森精種(エルフ)の廃都を、俺達は連れだって歩く。

   黒灰が死の嵐で流されたとはいえ、再び降りはじめるのは時間の問題だ。あまりゆっくりもしてられない。

   だが、リクはシュヴィから聞いた話を振り返っているようだ。

 

 

「唯一()()()——……『星杯(スーニアスター)』……ねぇ」

 

 

   全ての神々と精霊を統べる——『唯一神』という主神制定の戦争。

  ()()()()()()()()()()()()——『星杯(スーニアスター)』。

   それがこの大戦の理由と目的であり、そして方法が…………まったく()()()()()()()ものだ。

 

 

「なぁシュヴィ、もう一つだけ答えてくれないか」

 

 

   まさか、まさかとは思うが、という表情でリクは問う。

 

 

「それさ……〝()()()()()()()〟って、まさか誰も気付いてねぇのか?」

 

 

「……別の……方、法……?」

 

 

   そう目を丸くしたシュヴィの顔にリクは呆れているようだ。

   シュヴィ強者だ。だからこそ()()()()()()()()に気付かない。

 

 

「……なぁシュヴィ——〝独り〟じゃないって、いいもんだな」

 

 

「……?リク、ずっと……〝一人〟じゃなか、った……よ?」

 

 

「いいや……馬鹿みたいに無理して背伸びして独りカッコつけてたよ——けど」

 

 

   とリクは笑いながら防塵マスクを頭に被った。

   それでもうリクの表情はわからない。だがゴーグル越しに、リクの黒い瞳が力強く輝いているのを、俺達にははっきりと見ることができた。

 

 

「お前らとなら、面白いことができそうな気がしてきたよ、この世界」

 

 

「……ああ、そうだな」

 

 

「……おもしろい?シュヴィ……ギャグ、は、わから、ない……」

 

 

   これからのことを考えて笑いながら答える俺と違い、申し訳なさそうに俯くシュヴィの頭を撫でて、リクは苦笑する。

 

 

「そういうとこが面白いんだよ……シュヴィはどうだ。俺と居て退屈しないか」

 

 

「しない」

 

 

   真顔の即答だった。

 

 

「本当に?自慢じゃないが俺酷い奴だぞ?退屈って感情がまだわか——」

 

 

「リクに、興味なきゃ……連結解除、されてまで……ここに、いない」

 

 

   再度、今度は食い気味に真顔で即答する。

   その顔を見つめるリクの目に熱が篭ったのを確かに感じた。

 

 

「……うん、それ……だよ……」

 

 

   そのリクの眼を覗き込み、シュヴィが言う。

 

 

「……()()()、に……シュヴィは……興味、持った……」

 

 

「マジで?今俺が考えてんの、ガキの妄想も甚だしいぞ?」

 

 

「……()()()()()……違う——訂正……」

 

 

   熟考するように数回首を傾げ、そしてようやく結論に達したのか。

   大きく頷いて、シュヴィは——一つの『感情』の定義に成功した。

   ——それがよほど嬉しいのか、機械だということを忘れさせる、明るい笑顔で——

 

 

「……()()()——うん、……『()()』……だと、思う?」

 

 

「曖昧だなぁ、まだっ!」

 

 

   その言葉にリクは見たことがないほど、腹を抱え涙が出るほどに、心から笑った……。

 

 

 

   森精種(エルフ)の廃都から戻りしばらくし、集落の近くで龍精種(ドラゴニア)地精種(ドワーフ)の戦闘が起きた。

   俺達3人とコロンで撤退の指揮、戦闘影響範囲の割り出しを行い、五年かけた調査で目をつけていた二八ヶ所から、適切な避難位置を決定。

   戦闘開始の八時間前には避難準備を完了、その後移動を始め、そして……

 

 

   ————…………

 

 

   集落2000人弱の全員が、自分達の住処が岩山ごと光に呑まれて蒸発するのを高台から見下ろして、咽び泣いていた。

   死者は最後まで避難の指揮を執った、200人未満。

   それが集落とそれを維持する為に積み上げてきた無数の労力と犠牲、そこで生きてきた人々の想い、託された願いと祈り。

   ——それが一瞬で消えたのだ。

   それも恐らくはただの流れ弾で、1片の悪意すら無く、無意味に壊されたのだ。

   泣かない方がどうかしている。心が折れない方が狂っている。

 

 

「リク……リ、リクッ!!」

 

 

   同じことを考えていただろうコロンが俺とシュヴィに並んで座り込み、膝を抱えて震えているその背中に、駆け寄る。

 

 

「リク、ねぇしっかりしてッ!こんなに生き残った——リクは最大限やったわッ!」

 

 

   そう、涙を溜めながら言ったコロンは続ける。

 

 

「リク、もう休も?ね?ここから先は、お姉ちゃんが引き受けるから——」

 

 

   直後。

 

 

「——シュヴィ、メリオダス、言質は取ったな?」

 

 

「……ばっ……ちりぃ……」

 

 

「『ここから先は、お姉ちゃんが引き受けるから』の一言頂きました〜」

 

 

   と、あっさり顔を上げたリクは——とびきりいやらしい笑みを浮かべていた。恐らく俺も似たようなものだろう。

 

 

「——え、あ、あれ?リ、リク……くん?」

 

 

   女の勘か——その豹変に、コロンは反射的に1歩下がろうとして。

   逃がさぬ!とリクにガシリと腕を掴まれ「ひいっ!」と悲鳴を上げた。

 

 

「つ〜わけでコロン、今日から集落の『長』はおまえだ。よろしくな❤︎」

「——は、え、え……?」

 

 

   満面の笑みと共にコロンに地図を押し付け、リクは背筋を伸ばして立ち上がる。

 

 

「コレが()()()()()の位置な。そこの横穴から地下を通っていけば安全だ。多少とっちらかってるが、すぐ住めるようにしてある。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

   と言って、リクは隣に立つ俺らと視線を交わし、ヘラヘラと逆方向に歩き出す。

   その様子にコロンはようやく放心から立ち直った様子のコロンが叫ぶ。

 

 

「ちょ、待ってよリク!あんたなしじゃ私も——集落も——ッ」

 

 

   いくらなんでも、リクがいなければその代わりもできない。

   泣きつくようにそう叫ぶコロンに、だが——

 

 

「いいや、コロンがいれば大丈夫だ。ここからは——()()()()()()んだから」

 

 

「…………え?」

 

 

「まー安心しろ適宜連絡は取るよ。コロンになら、安心して皆を任せられるし」

 

 

    そう言って遠ざかる俺達にコロンはリクの名前を呼ぶ。

 

「——ねぇ、リク……」

 

 

   その声に振り返ったリクの顔を見て、コロンは大きく——優しいため息をついて、訊ねた。

 

 

「ねぇ——、何を始める気なのかなぁ————?」

 

 

「——ゲームだよ。ただの——子供の遊びを始めるのさ!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

リク視点

   コロンに渡した地図が示す新しい集落から、遠く離れた洞穴。

   簡易的に作られた隠れ家には、最後まで指揮を執り、命を落とした——()()()()()()()()()()()()、俺達をふくむ一八〇の『幽霊』と円卓を囲んでいた。その面々を見渡し、俺——『幽霊達の長』は、言い放った。

 

 

「いつか訪れる終戦——そんな〝来ない未来〟を待つのはもう止めだ」

 

 

   唖然とする一同を前に、だが俺はなおも語気を荒げて続ける。

 

 

「こんなクソまみれの世界で逃げて生き延びて、終戦を祈るか——()()?」

 

 

   ずっと言いたくて、だが我慢していたことを吐き出すように。

 

 

「神を名乗る破壊者どもかっ⁉︎連中を止めることも出来ない天の他の何かかッ⁉︎こんなクソみたいな世界で終戦まで生きて生き延びて——()()()⁉︎()()()()⁉︎」

 

 

   大仰に手を振り乱して、感情を叩きつけるように俺は吠える。

 

 

「連中は唯一神の座を巡り争っているそうだが、こんな戦争に参加してるクソども、どこのクソの勝利で終わろうが!その先今よりマシなクソだと期待できるか——あァッ⁉︎」

 

 

   そして一転、声を落として、俺は温度のない声で告げる。

 

 

「いい加減認めよう。こんな世界に……希望なんか——ない」

 

 

   ————。

 

 

   気付いてはいただろう。だが認めれば心が折れる〝事実〟に『幽霊』達は頭を垂れる。

   それぞれが沈痛な表情を浮かべる中「だから」——と。

 

 

「そう——俺達の手で〝創る〟しかない」

 

 

   力強く断じた俺の言葉に、一同の視線が上がる。

 

 

「方法は一つ。まさしく気の触れた、狂気の沙汰の、常識で考えれば妄言だ」

 

 

   そう自分自身でも苦笑するしかない(おもいつき)に。

 

 

「我らは『幽霊』——何者にも気にされず、誰の気にも留られない者」

 

 

   俺は隣に立つ少女を見やる。

 

 

「我らは『幽霊』——だが認めずとも、遺志を継ぎ意志を以って歩む者」

 

 

   それでも()()()と、思わせてくれた赤い瞳に。

 

 

「それは我々が〝まだ〟存在している証。世界が〝まだ〟終わっていない証」

 

 

   俺は改めて覚悟を決め、顔を引き締め。

 

 

「賢ぶるのはもうやめよう。我らは、人間は、愚かだ」

 

 

   ——そして言い切る。

 

 

「故に——〝戦う〟」

 

 

   ——戦う。逃げるのではなく、戦うと。

   確かにそう言った俺を、一七七の視線が注視する。俺は薄く笑った。

 

 

「そう、戦うんだよ。立ちはだかる全ての敵、それが何者であろうと我らの力——すなわち〝愚かさ〟で。全てを欺き、出し抜き、『幽霊』らしく。弱者らしく。あらゆる策を弄し恥じも外聞もなく。卑怯と煽てられ。下衆と褒められ。低劣と讃えられて——ッ‼︎」

 

 

   ——そして、

 

 

()()()()

 

 

   ——そう、手にするのはたった一つの勝利だ。

 

 

「無限に重ね連綿と連ねた敗北を、()()()()()()()()()()()()()()()、そんな一勝」

 

 

   沈黙の中で、誰もが思い描いているであろうモノを、俺も想う。

   俺が戦うと言う相手——幾度となく人を、文明を無に帰したモノ。

   その気一つで山を穴に、海を大陸に変え、星をも砕くモノ。

   部屋を包んだのは失笑。誰もが呆れ、笑いを漏らす中俺も笑った。

 

 

「そう、アレに挑み——勝つんだ。馬鹿らしい、荒唐無稽、いっそ笑えるだろ?」

 

 

   ああそうとも。笑わずにはいられないだろう——それこそが。

 

 

「それが、我らが人間である証。()()()()()。我らが存在する——最期の縁だ」

 

 

   そう言って、一七七人の顔を見回して、俺は告げる。

 

 

「——『大戦の終結』——それが我らが手にする一勝だ」

 

 

   …………。

 

   永遠の神々の大戦を、人の身で終わらせる。そう言い切った俺に一七七人が——いや、傍らのシュヴィさえ眼を丸くした。

   ——唯一メリオダスは面白そうな、嬉しそうな笑顔を浮かべていたが。

 

 

「ま、勝利条件は〜……控えめに言っても、気が遠くなるほどシビアだが……」

 

 

   だが俺はそれらを、悪戯の成功した子供の笑顔で受け止め——思い出す。

   ——子供の頃、世界はもっと単純だと思っていた。

   勝てない勝負はなく、努力は報われるもので、全ては可能だと。

   何も知らない、無知で愚かな子供が思った、それは。

   曇り無き眼で世界を見て思った、それは——

 

 

「この世界は……やはり単純な『ゲーム』だった」

 

 

   ——()()()——()()()()()()()()()

 

 

「神々は好き勝手に『星杯(唯一神の座)』を求め何でもあり(バーリ・トゥード・ルール)のゲームに興じてるだけだ」

 

 

   俺は思う——話は単純だろう?

 

 

「だったら——こっちも、()()()()()()()ルールを創るだけだ」

 

 

   そう、俺はチェスのコマを手で弄び——シュヴィを見る。

   シュヴィは俺の『心』が示す答えを知りたいと言った。

   なら答えよう——そう語る俺は、シュヴィが頷くのを見て。

   不敵に笑って——【ルール(こたえ)】を告げた。

 

 

「【一つ】誰も殺してはならない」

   ——理は、殺せば殺されるから。心は、()()()()()()()()なら。

 

 

「【二つ】誰も死なせてはならない」

    ——理は死なせれば死ぬから。心は、()()()()()()()()()から。

 

 

「【三つ】誰にも悟られてはならない」

   ——理は、悟られれば死ぬから。

 

 

「【四つ】如何なる手も不正ではない」

   ——心は、()()()()()()()()()()()不正(ペテン)()不正(ペテン)()()()()()()から。

 

 

「【五つ】奴らのルールなど知ったことではない」

   ——理は、同舞台では必敗だから。心は、()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「【六つ】上記に違反する一切は、敗北とする」

   ——理は、徹底されないルールは無意味だから

   ——心は、これらに違反した勝利に、価値を感じないから。

 

 

   以上——()()()()()()()()()……

   俺の『心』が出した答え(ルール)に——俺は円卓を囲む一七七人を見渡す。

 

 

「我らは『幽霊』——全種族、神霊種(オールドデウス)まで含め、誰一人殺すことなく。悟られることさえなく。ただ——『()()()()()()()()()』——この戦争を終わらせる」

 

 

   感情的なルール、まさしく〝子供の駄々〟に等しい。

   だが同時に、人の身で大戦を終わらせるなら、それ以外に方法はない。

   人の身で大戦を終わらせる——それ自体が既に〝子供の駄々〟なのだから。

 

 

「言うまでも無く、失敗すれば全滅。保険はま〜一切無駄だろう。戦局を誘導してる喋る猿がいる——その事実が連中の目についたというだけで、確実に全てが終わる」

 

 

    要するに、と——俺はまとめに入る。

 

 

大戦の終結(かち)か、滅亡(負け)か。全てを得るか全てを失うか(オール・オア・ナッシング)の博打、引き分けも棄権もなし」

 

 

   そして俺は、その場の誰にも見せたことのなかった〝本性〟を覗かせて。

 

 

「敵は『神』、天地を焦がす暴力、絶望の具現。勝算は虚空(一垓分の一)の遥か彼方。全てを秘密裏に事を成すのが勝利条件故に、勝利しても、誰の記憶にも、記録にも残らず、語られることもない。我らは『幽霊』であり『幽霊』は語らない。だけどさ、もしも——」

 

 

   正気の沙汰じゃない世界を『ゲーム』と断じ挑む動機を、とびっきりの笑顔で、

 

 

「もし、この『ゲーム』を本当に成し遂げて……勝利できれば——」

 

 

   ——断じるように、言い放つ。

 

 

「俺ら最ッ高〜に()()()()()()()()って、胸張って死ねると思わね?」

 

 

   ……さて。

 

 

「そんな『ゲーム』を——始めたい奴だけ、この場に残ってくれ」

 

 

   全てを告げ、俺は目を閉じ退出者を待った。

   内心苦笑する。こんな『ゲーム』ノる馬鹿——そうそういないさ、と。

   俺が選んだ面々は——その例外なく、優れた知性と技能の持ち主達だ。

   何度となく死に瀕し、何度となく生き延びた——他種族から見れば取るに足らぬ塵芥。

   だが塵芥ながら飛び抜けた能力の持ち主——だからこそ、俺は内心苦笑する。

    ——おそらく誰も残らないだろう。正気じゃない、アホは俺一人で十分だ。

   それならそれで、仕方ない。最悪シュヴィとメリオダスとの三人だけでも——やってのける。

   勝率が虚空の彼方から、涅槃寂静の彼方に遠ざかる程度の違いだ。

   ……ま、正直言えば三人で何とかする策など殆ど思いついちゃいないが。

   それでも——

 

 

   …………。

 

 

   そう考えながら、たっぷり十分を数えて、目を開く。

 

 

「…………あー正直に言うぞ。」

 

 

    ——いつまで目を閉じているのかと問うような一同の呆れ顔に俺は言う。

   一七七人の面々に——つまり、退()()()()()という結果に、

 

 

「お前らもう少し賢いと思ってたんだが」

 

 

   そんな俺に——一七七人の『幽霊』は苦笑し、口々に言う。

 

 

「おいおい大将、初手から読み違いは勘弁しろよ、先が思いやられるぜ?」

「リクさぁ、賢い人間が——今更この世にいるとでも思ってんの?」

「狂気の沙汰?この世界より狂ってるもんが今更どこにあるんです?」

「賢者ならこんな世界、死を選ぶ。更なる賢者は、生まれぬことを選ぶ……」

「ここに居る奴——今日まで生き残って来た奴——リク、テメェが選んだ奴らだぞ」

 

 

   ——そんなもん、と全員が笑いながら頷く。

 

 

「愚か者の代表選抜、ってことじゃねぇか」

 

 

   苦笑して——俺は笑う。ああ、まさしくそうだ。

   ——人は愚かだ。

   愚か故に、その愚かさに殺されまいと知性を、知恵を磨く。

   今日まで生き残った——生きる価値無きこの世界で、それでも生き残った。

   その為に知性と知恵と技術の全てを賭した者達が。

   ——誇り高き愚者、尊敬すべき弱者でなければ何だというのか。

 

 

「意図なくこの世に生まれて」

「意図なく泥すすって生きて」

「だが意義あってカッコよく、くたばる——上等じゃねぇか」

「それ以上の自由なんてあるか、ボス?」

「最後までカッコつけて預けてやるよ。俺らの生き様を——頼むぜ、大将」

 

 

   俺は顔を伏せる。心から呆れて、だが、

 

 

「……おまえら、どいつもこいつもイカれてる。頼もしいこった——なら」

 

 

   心から、喜びながら零し——そして——地図を広げる。

   五年——いや、それ以前から、人間が生き残る為に更新を続けた——()()()()だ。

   無数の屍で編んだゲーム盤を、俺とシュヴィ、メリオダスを含め一八〇の『幽霊』が覗き込む中。

   俺は具体的なプランを語りだす——

 

 

「さぁ——ゲームをはじめよう」

 

 

「——『遺志に誓って(アシェイト)』」

 

 

  そう——いつも通りの返事をする皆に、だが俺は言う。

 

 

「……その言葉はもう禁ずる。我らは遺志じゃなく、同意したルールに誓い動く」

 

 

   だから——そう。

 

 

「『同意に誓って(アッシエント)』——だ」

 

 

   ——かくして存在しないもの達の暗躍が静かに始まった。

   未来に希望を奪われ、絶望にさえ絶望し、ついにはそれすら飽き飽きて。

   待つのではなく、見出す為に——180の幽霊船は征く————

 

 




   旧作で、カットした部分を入れてみました。
   長くなってすみません。

   それでは第19話をお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第19話 結婚してくれ

   一昨日寝落ちして出せなかったので今日も投稿します。
   まあ、今回旧作とほぼ同じなんですけどね。
   次回は同じにできません。何故って?原作の大幅コピーで運営に怒られた回だからだよ。
   省略したり、言葉変えたりして頑張ります。

   それでは第19話をどうぞ。

追記:タイトル忘れてた(・ω<) テヘペロ


シュヴィ視点

「……リク、やっぱり……シュヴィ……『心』……わからない……」

 

 

   会議が終わり、隠れ家の入り口でリクとカードゲームをしながら、シュヴィは零した。

   メリオダスはいない。会議が終わった後、他の『幽霊』達と共に出て行った。

   いつもはメリオダスが何処かに行こうとした時はリクは行き先を尋ね、いい顔をしない。

   しかし今回は苦笑いしただけだった。

   そのことに疑問を持ったがそれ以上に『心』が知りたかった。

   シュヴィは見た——あの場にいた誰もが、リクの『心』に触れて、共鳴した。

   ただ一人——シュヴィを除いて。

   自分だけが、それを理解出来ないことが——酷く哀しい。

 

 

「……リク、達の……策、成功確率……どれも……一%、未満……」

 

 

   まして、その全てが成功する確率など——論理的に考えて0に等——

 

 

「ん〜なぁ、シュヴィさ」

 

 

   その思考を断ち切るように、リクが言う。

 

 

「おまえの言うその確率って奴?こういうことでいいのかな?」

 

 

   リクに機凱種(エクスマキナ)の数学知識はない。シュヴィの言動から独自解釈し——問う。

 

 

「サイコロ振って六が出る確率は六分の一。それが二回連続で出る確率は六分の一が二回で三十六分の一——パーセントはわからんが、こんな感じの計算か?」

 

 

「…………そ、そう……だから——」

 

 

   リクを過小評価したことなど一度もない。だがこうまで容易く機凱種(エクスマキナ)論理(すうがく)を暴かれたことに驚きを隠せず、故にこそ、その成功確率を語ろうとし——

 

 

「ならいいことを教えるぞ。その計算——間違ってる」

 

 

   ——そして、固まった。

 

 

「サイコロ振って六が出る確率は六分の一。だが()()()()()()()その計算は違ってる」

 

 

   何故なら、とリクは札を切りながら苦笑する。

 

 

「六が出りゃ勝ち、それ以外全部負け。つまり——〝二分の一〟だ」

 

 

   ——暴論だ。だが確率はどの視点どの条件で計算するかも、重要な因子(ファクター)だ。

   全か無か(オール・オア・ナッシング)——リクの視点で計算するなら、その暴論も無矛盾に成立する。

 

 

「…………………」

 

 

   人間に機凱種(エクスマキナ)が、しかも『解析体(シュヴィ)』が、論破された——しかも、感性で。

   あまりの衝撃に思考がフリーズする中、リクは続ける。

 

 

「んで第二の間違い。サイコロを振って六が一回目で出ることもあれば——〝一万回連続で出続けることもある〟……だからやっぱりその計算は、間違ってる」

 

 

「……違う……変数、織り込めば……逆に、一万回振れば、分布誤差、収束……」

 

 

   サイコロを振って六が出る確率は、厳密には六分の一ではない。変数が多い。

   だが試行回数をを増やせば、確率は収束し計算はむしろ楽。つまり計算通りの結果に——

   そう反論するが、だがリクはニヤニヤと笑い、

 

 

「全て織り込めるか?知り得ないもの、想定し得ないものを?たとえば——」

 

 

   ——そう、たとえば、とリクが言う。

 

 

「〝存在しないはずの者(おれたち)〟がこっそり、()()()()()()()()()()()()()()()()とかも?」

 

 

   ——出来ない。少なくとも〝一回目は〟。

   だが続ければ異常に気付き、誤差理由を暴き——そこまで考え固まる。

   ようやく——自分の中でリクの言葉、策の意味が通る。

  ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()その()()——『作戦(プラン)』は。

 

 

「……戦況(へんすう)を、()()()()()……気に、留められない——〝誤差〟の、範囲内、で……」

 

 

   常に予測不能な——〝意思のある変数〟に徹する。

   数学的に、これ以上に計算が厄介なものは——その結論にリクが頷く。

 

 

「これをイカサマってんだ。面白いだろ?」

 

 

   ——それでも、まだわからない。確率論でこの『ゲーム』は語れない。

   それは理解出来た。だが、だからといって何故——

 

 

「……何故、一番……低い確率、を……()()()、に出来る、の?」

 

 

   リクをまっすぐ見つめて問うと、リクは考え込み入り口の外——死の星になりゆく世界——を眺めて応えた。

 

 

「シュヴィ、この世界で人間が生き残ってるっつー『結果』……何パーセント?」

 

 

「……………………理解、した」

 

 

   苦笑気味に言ったリクに、認める。確率論など所詮統計。

   結果の前には『奇跡』で一切の計算が棄却される。なら逆説的にそれは——

 

 

「……〝奇跡〟……起こせば……確率論、なんて、こじつけに……なる」

 

 

   こちらの答えに、リクは笑って頷く。

 

 

「おまえ流に言うなら、俺達は〝計算の特異点〟として立ち回る。あらゆる予想、戦略、計算を……僅かな操作だけで、全て台無しにして、望む方向へ収束させる」

 

 

   しかし、全てを予測することは不可能、その言葉は()()()()()()()()

   本当に出来れば、それこそまさに『神業』ではないか、と心配するが、リクはいっそう笑みを深めて、

 

 

「面白いだろ?天上で我が物顔でふんぞり返ってる連中の業を、たかが()()()()()()()()()()()()()もし全て上手くいけば——さいっこーの皮肉になると思わね?」

 

 

   そう無邪気に語るリクの——透き通った黒い眼にようやく……わかった。

    ——『これ』だ。()()()()()()()()()()見たもの——その正体。

    今ならシュヴィは断言できる。これが『心の源』——『魂』だ。機凱種(じぶん)が非論理的に〝興味〟を抱き、ついには〝憧れ〟たもの。

   そうある必要があるからそうある——『対応者』でしかない機凱種(じぶん)にはないもの。

   そうありたいと()()()()()()()()()()——『理想』——

 

 

「まーそれに……根本的に確率論なんて所詮、机上の空論だぞ?」

 

 

   確かに論破された。だが空論とまで言うのは、と困惑する自分に。

 

 

「証明しよう——【問題】ここで俺がシュヴィに求婚する確率は?」

 

 

   問題の意図が汲まないまま、概数で数値を割り出す。

 

 

「………………?問題意図、不明……概数……ほぼゼロ」

 

 

「ほらな、()()()()——結婚してくれ、シュヴィ」

 

 

   固まる自分に、リクは小さな指輪を差し出して、言った。

 

 

「確率論に0(ゼロ)はない——この『ゲーム』で勝利する確率は誰にも否定できない、だろ?」

 

 

   小さな指輪を差し出すリクを、まん丸い瞳で見上げて、答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……理解、不能……拒否、する」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

リク視点

   冷たい地に突っ伏し、俺——リク童貞十九歳は涙に暮れながら——

 

 

「……ふ、ふふ、うふふふふふふ」

 

 

   ——全力のプロポーズを一刀両断され、一足先に世界の終わりを迎えていた。

   なぁリク……もういいだろうぜ、世界なんてどうでもさぁ……。

   初手ミスってるようなボケ、どうせあれこれミスって結局負けるさ。

   もう知ったこっちゃねーわ人間も世界を滅びちまえばいいんだ。

   あぁ……コロン、僕もう疲れたよ……あはは、ふふ、うふふふ。

 

 

「……リク、説明を……求める……」

 

 

「いえ……すんませんしたちょーしこきました童貞の分際で……傷口広げないで——」

 

 

   そう、壊れたように笑って地に伏せる俺に、だが。

 

 

「……拒否……説明、が……欲しい」

 

 

   シュヴィは、不自然なまでの無表情で問う。

 

 

「……『結婚』——人間が繁殖の番いとの間で交わす契約……」

 

 

   そしてまるで辞書から引いたような——それも偏った——情報を基に推測する。

 

 

「…….シュヴィ、の有用性を評価……占領、したい……?」

 

 

「ちがぁぁぁう!単純にシュヴィにずっと側にいて欲しいんだよ!」

 

 

「……何故?いま、側……いる」

 

 

「そういう意味じゃなくてさぁ……だからこう、人生の伴侶してッ」

 

 

「……伴侶——連れ立って行く者。なかま。また——配偶者……?」

 

 

「そう!それだよそれ!配偶者って意味でだッ!」

 

 

   だが必死で頷く俺に、シュヴィはなおも無表情で言う。

 

 

「……配偶者……夫婦。シュヴィ、機凱種(エクスマキナ)、繁殖、出来ない」

 

 

「問題ないねッ‼︎」

 

 

「……繁殖行為……出来ない……リク、一生……童貞……?」

 

 

   ————、

 

 

「問題ないねッ‼︎」

 

 

「……一瞬……間が、あった……」

 

 

「あぁもぉおおどうでもいいんだよぉ細けぇことわぁッ‼︎」

 

 

   誤魔化すために叫ぶ俺にだがなおも——()()()()()()()無表情のシュヴィは続ける。

 

 

「……種族を跨いだ……夫婦、前例……ない」

 

 

「なら俺らが世界初だッ!パイオニアだやったなッ!ひゃっほ〜ちくしょぉ‼︎」

 

 

   ヤケクソ気味に叫びながら俺は謎の確信でなおも食い下がる。

   ここで引いたら負けだ——という根拠のない確信に。

   だが、この勢いに圧されたのか——徐々にシュヴィの表情が崩れる。

 

 

「……無理、だよ……だって——」

 

 

「…………シュヴィ?」

 

 

   ——そう、困惑、混乱、そして何故か——悲しい表情で。

   震える声で言うシュヴィに気づき、心配し、名前を呼ぶ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

   リクは知らない——それが。

——大量のエラーを吐き続けるシュヴィの思考に、トドメを刺したことに。

思考が加速度的に破綻していく——不正と矛盾と破綻が無限増殖していく。論理性破綻と矛盾と無限循環。だがその論理を上回る『思い』が禁則事項を悉く塗りつぶしていく。

 

 

「……だって——リクの——」

 

 

   口を開くシュヴィに——論理が規定が絶叫する。言うなと。

   だが『矛盾(エラー)』——そうとしか認識出来ないものが——絶叫する。言えと。

   機凱種(エクスマキナ)にあるまじき、()()。論理を優先するか、エラーを優先するか。

   だが思考の中——リクと初めて会った時の映像がループし続ける。

   そこに付随する——『恐怖』や『罪悪感』という未定義のエラーが矛盾し続ける中。

   ——シュヴィ自身が最も信じられないことに、思考は——

 

 

「……だって——リクの故郷……滅ぼした、の——シュヴィ、だよ……?」

 

 

   ——震えた声で……エラーを優先した。

 

 




   早く終わらせないと今年が終わってしまう。壁|;`)}}ガクガク

   それでは第20話をお楽しみに


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第20話 ずっと、側にいさせてください

   何とも時の流れとは早いもので私がハーメルン様でもの書きを初めてから1年が経ちました。
   それを記念致しまして、とあるアンケートを活動報告にて行っています。「1周年記念!」というタイトルの活動報告です。お暇でしたらそちらもご覧ください。
   ……いや、ホントに。お暇だったらでいいんで、無理とかしなくていいんで。ホントに。
    〆切は12月25日です。

   さて、ここまで続けることが出来たのも皆様のおかげです。
   本当にありがとうございましたm(_ _)m
   これからもよろしくお願いしますm(_ _)m

   1年前の私は1年経ってまだ第1章を書いているとは夢にも思っていなかったです……。当たり前か。
   とっとと1章終わらして2章に入りたい(切実

   それでは第20話をどうぞ。


   ——12年前、機凱種(エクスマキナ)は、例外的な大規模交戦を行った。

   相手は龍精種(ドラゴニア)の【王】を冠する三体の一——『焉龍』アランレイヴと従龍(フォロワー)7体。

   対する機凱種(エクスマキナ)側の戦力はクヴェレを始めユーバ連結体(クラスタ)8つからなる『複合連結体(ミッテル・クラスタ)』。

   各連結体(クラスタ)、437機——総計で3496機。

  機凱種(エクスマキナ)の保有する全戦力の、実に4分の1をを投入した、超大規模交戦。

   戦闘結果は機凱種(エクスマキナ)の戦略的勝利。

   それは全種族に機凱種(エクスマキナ)の驚異を再認識させた。

   彼我損害は以下。

   彼——『焉龍』アランレイヴ、及び従龍(フォロワー)7体《殲滅》。

   我——投入戦力の42%に相当する1468機損失、事実上の《壊滅》。

   その損失の殆どは、『焉龍』アランレイヴの最期の攻撃——

   この世界に来た直後にメリオダスも目撃し——だがそれを遥かに超える威力の自己崩壊、命を代償にする最期の咆哮——『崩哮(フォークライ)』による被害だった。

 

 

   焉龍の『崩哮(フォークライ)』初動0.007秒、交戦中の機凱種(エクスマキナ)の約2割が()()

   遅れること0.018秒『観測体(ゼーア)』からの情報に『解析体(プリューファ)』は速断。

   焉龍級の『崩哮(フォークライ)』を防ぎ切る兵装、当時の機凱種(エクスマキナ)には該当なし。

   また『指揮体(べフェール)』へ解析情報転送『設計体(ツアイヘン)』に新造させる0.4秒の推定被害・戦力の9割損失。戦略上〝殲滅〟に等しくそれは敗北を意味した。

 

 

   だが、一機の『解析体(プリューファ)』は『崩哮(フォークライ)』を防御ではなく——〝逸らす〟ことを提案した。

   機凱種(エクスマキナ)な有する〝エネルギー指向を歪曲させる〟兵装Org.2807——『通行規制(アイン・ヴィーク)』を複数展開すれば、損害は追加2割で留まるという試算が出た。

   提案は『指揮体(べフェール)』に即採決され、『崩哮(フォークライ)』は指向歪曲し戦場の彼方へ逸れて——

   機凱種(エクスマキナ)の損失は辛くも——《壊滅》に留まった。

 

 

   提案を行った『解析体(プリューファ)』は、逸らされた『崩哮(フォークライ)』を、被害から要再解析と判断。

   爆心地(グラウンドゼロ)遠方にありながら壊滅した人間という獣の巣と推定される廃墟に降りた。

 

 

   そして——

 

 

「…………————」

 

 

   タイル模様の板を握り締め——『解析体(プリューファ)』に視線を向ける人間の仔を感知した。

   人間の仔の視線には敵意があったが、その上で——背を向け、立ち去った。

   ——『解析体《プリューファ》』——事象を解析考察する機体には、その行動が不可解だった。

   その人間の仔は極限状態にあり、だが混乱も脱力もなく『敵』を認識し。

   その上で生存を選択した。それは、獣の生存本能とは明らかに違った。

   何故なら『解析体(プリューファ)』に向けた視線には恐怖も、虚無もなく、ただ果てしない——

   焉龍の『崩哮(フォークライ)』さえも超える程の——〝熱〟だけが感知された。

   『解析体(プリューファ)』はエラーを吐いた——驚愕という名のエラーを。

   その仔は、勝てると確信していた——()()()()()()、というだけで。

   仮定。あれが、機凱種(エクスマキナ)が有さない——心、命ではないか、と。

   根拠を要さず何かを断ずる性質、演算を超えた何かを確信たらしめるもの。

   ——そう判断した『解析体(プリューファ)』は人間——特に、あの仔を要解析と認識した。

 

 

   だが——その後の解析で多大な【破綻(エラー)】が生じ連結解除——破棄された。

   機体個体識別番号——Üc(ユーバクラスタ)207番機Pr型(プリューファ)4f57t9機。

   ——後に、その仔自身に。

   ——〝シュヴィ〟と名付けられた機体だった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「……それ、で、も……リク、同じこと……言え、る……?」

 

 

   全てを語ったシュヴィは、リクの顔が見られず、ただ俯き震える声で呟く。

 

 

   ——【不正(エラー)】【異常(エラー)】【破綻(エラー)】【疑問(エラー)】【循環(エラー)】【不解(エラー)】【不明(エラー)】【損失(エラー)】——

 

 

   シュヴィの思考を埋め尽くすのは、相も変わらず嵐のようなエラーの連鎖。

 

 

   ——【自問】何故話した?論理的にも非論理的にも利益のない行動だ。

   ——【論理解答】利益——なし。損害——観察対象との敵対によるロスト。

   ——【非理解答】利益——なし。損害——リクに嫌わ、れ……る?

   ——損害?嫌われることが?第一に挙がるほどに?エラーエラーエラー……

 

 

「……シュヴィ、あのさ——」

 

 

   リクの声に、シュヴィは自分でも驚く程に肩が跳ね上がるのを感知した。

   エラーの嵐が大音量で叫ぶ——『逃げろ』と。

   ——逃げる?何故?

   エラーの嵐が大音量で答える——『怖いから』と。

   怖い。恐怖。機凱種(エクスマキナ)にそんな概念はない。だが、その思考(エラー)を否定出来ない。

   現にこうして俯いているのは何故だ。リクの顔を——見るのが——

   たまらなく——〝怖い〟から——再度エラーの嵐が吹き荒れる思考の中——

 

 

「……気付いてたよ。なんとな〜くだけど」

 

 

   聞こえた言葉にエラーが一斉に黙り、たった一つの疑問に収束する。

 

 

「……どう、して……」

 

 

「んー……最初に違和感を覚えたのは、恥ずかしい話だが——.」

 

 

   頭を掻いてリクが恥ずかしそうに言う。

 

 

「……初めて会った時、()()()()()()()()()()()()()()()()ねぇ、と」

 

 

「————————」

 

 

   完全に、文字通りフリーズした様子のシュヴィに、苦笑してリクは続ける。

 

 

「まー他にも、俺に『心の()()()』つったり、この世界で人間が生き残ってる因子を〝俺の心〟と決め打ちで言ったり、そもそも何故集落からあんなに離れた場所で〝待ち構えてた〟のかとか、ゲーム番号〝1番〟がなんでチェスなのかとか——まぁ、うん」

 

 

   意外に詰めが甘いよな、と照れ笑いで言うリクに、シュヴィはただただ目を丸くする。

   言葉を失う。思考はエラーに染まり空転しかしない——だが、疑問が漏れた。

 

 

「……な、のに……なん……で……?」

 

 

「ん〜……なんでだろうな?ははっ、わかんないなぁ」

 

 

   本当に自分でもわからない様子で、笑いながらリクは続ける。

 

 

「——それを全部織り込んだ上で、シュヴィに惚れたから、かなぁ」

 

 

   ————。

 

 

「……過去、を、忘れる……?」

 

 

「いや。シュヴィが俺の故郷を結果的に滅ぼした……それは確定している過去だ」

 

 

   その言葉に、シュヴィは無いはずの『痛み』に倒れ込みそうになるが——

 

 

「ん〜……まーやっぱ俺、アホなんだよ。だってさ、同時に、こうも思うんだ」

 

 

   照れ隠しか、それとも本当に自嘲なのか。頭を掻いて、

 

 

「シュヴィが俺の故郷を滅ぼしたって過去否定したら——俺ら出会ってないだろ」

 

 

「————…………っっ」

 

 

   その言葉に息が詰まるのを感じる。呼吸器などないはずの機械が。

 

 

「結果は結果。それをねじ曲げても仕方ない。人間は、そういう生き物じゃない」

 

 

   ゆっくり歩み寄り、しゃがみ込んだリクの手が、

 

 

「結果に歯噛みして悔やんで泣き叫んで——次は、次こそは、と前に進む——だから」

 

 

   ——そっとシュヴィの頬を包んで持ち上げた先で、

 

 

「だから……シュヴィは俺に興味を持ってくれた、だろ?」

 

 

   子供のような笑顔でそう言うリクが待っていた。

   リクの眼に映り込んだ自分の怯えた表情に、シュヴィ自身さえ驚く。

   それを宥めるように、静かな声でリクが続けた。

 

 

「俺は、一切の過去を否定しない」

 

 

   ————、

 

 

「シュヴィの過去、側にいてくれる今、これからもいて欲しい未来の全てを、愛する」

 

 

   ————————、

 

 

「罪の意識も。もーポイしろポイ。あいにく人間は——いや俺が馬鹿なだけかな。ともあれ——今以外を見る余裕ない。明日に期待し、次に希望する。過去を踏まえた上で、な」

 

 

   だから——とリクはシュヴィの左手をとり、

 

 

「シュヴィがいてくれれば、どんな困難にも、心が折れないと思える」

 

 

   指輪の——シュヴィの目のように赤い石を見せて——

 

 

「シュヴィがいてくれれば、二度と笑えなくなることもないと思える」

 

 

   そして何処か困ったように——言う。

 

 

「だから、さ。俺のこと嫌いじゃなきゃ——」

 

 

「嫌いじゃっ……ない——ッ!そんなこと、ない——」

 

 

   リクの言葉を切るように頭を振るシュヴィに——なら、と。

   手を差し伸べて、リクは——願う。

 

 

「理屈なんか全部無視して——同じ道を歩いてくれないか。俺の妻として、さ」

 

 

   ……。

   …………ふと、シュヴィは気付く。

   いつの間にか、思考を埋め尽くすエラーの嵐が止んでいることに。

 

 

「…………そ、か……」

 

 

   ——機凱種(エクスマキナ)は、対応する種族。必要とあらば必要なように自己を作り替える。

   いつ〝そんな機能がついたか〟は不明だが——頬を伝った一筋の涙に、理解する。

   エラーの嵐。論理と矛盾するそれが、まとめて名称をつけられ処理されていた。

 

 

   即ち——『感情』と。

 

 

「……リク」

 

 

「うん」

 

 

「……文字、通り……見た目、通りの……不束モノ——だけど」

 

 

「バカな俺には出来すぎた嫁だと思うけどなあ」

 

 

   そう苦笑するリクに、だが。

   まだ、表現の仕方まではわからない『感情』にシュヴィは。

   うずくまり、濡れた声で——絞り出すように、答えた。

 

 

「……ずっと、ずっとずっと——側にいさせて、くだ、さい……」

 

 




   あんま変えられなかったぜ(・ω<) テヘペロ

   それでは第21話をお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第21話 結婚式

   救いはなかったよ……。

   というわけでアンケート募集中です!
   前回敢えて伏せたアンケートの内容ですが、私の作品5個から1つ選んでいただき、1位になったものを1月中毎日投稿するというものです。
   良ければご参加くださいm(_ _)m

   それでは第21話をどうぞ。


コロン視点

「……結局最後まで覗き見る形になっちゃったじゃないのよ……もーバカ弟め……」

 

 

   隠れ家の入り口の外で、ため息をついて呟く。

   隠れ家の位置を聞き、一足早く向かった私は入り口にいたメリオダスに引き止められ一連を覗き見てしまった。

 

 

「まーしょうがないだろ?邪魔しちゃ悪いからな」

 

 

   近くで一緒に覗き見ていたメリオダスの言葉を聞きながらリクに初めて会った時のことを思い出した。

 

 

   リクは生き残って次は勝つと言っていた。その時の眼——底知れない眼に、咄嗟に思った。一人に出来ないと。姉として側にいようと。あの時決めた。

   リクが暴走しないように——死に急がないように——だけど、本当は——

 

 

   ————…………

 

 

「知ってたよ……あの子に必要なのは止める姉じゃなく。()()()()()()()()だって」

 

 

   彼は、リクは、遠くへ往く。遠く遠く、自分なんてついていけない所まで——

   ……ま、でも、それはさておきまして……っと。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

リク視点

「いつまでシュヴィちゃん泣かしてんのよッ!このダメ夫はぁぁぁあッ!!」

 

 

   唐突に。物陰から飛び出した何者かの拳を腹筋に埋め込まれて唸った。

   ——何が起こった、と思考して顔を上げると、仁王立ちのコロンとその隣で可笑しくてしょうがないという顔をしてるメリオダスが言った。

 

 

「とりあえず姉として——結婚おめでとう、と言わせて貰うわねっ❤︎」

 

 

「おめでとう。ついにリクも結婚か……」

 

 

   ——ふむ、しばし待ってくれ、と俺は腹筋をおさえて立ち上がる。

 

 

「コロン、メリオダス——え、あのさ……なんで知って、つか、なんでいんだ?」

 

 

「え?隠れ家に着いた。いい雰囲気——覗き見っきゃないでしょ?」

 

 

「まさかお前は俺がただ空気を読んで抜けたと?まさか——覗き見るために決まってるじゃないですか♪」

 

 

   悪びれることなく、それ以外の選択肢があるのかという顔で二人は言う。

   ——こいつら……何処まで——と思ったが頭を掻いて、

 

 

「あー、じゃあ、コロンに隠し続けるのもアレだろうから——」

 

 

「あ、()()()()()()()()()()()()()()ってことなら知ってるけど、それ以外の話?」

 

 

   …………————————は?

 

 

「ちょ、待て……は、いつから気付いて……」

 

 

()()()()()()()()()。抱き付いた感触が明らかに人間じゃなかったもん」

 

 

「気付いてなかったのか?あの時完全にバレたと思ったんだが……」

 

 

   何故気付いていないと思っていたのかと言う態度の二人に呆れ、

 

 

「……わかってたなら、なんで、何も言わなかったんだ」

 

 

   人間じゃないと初対面で気付いたなら、ロリコンだと騒いだ意味がわからない。

   集落に他の種族を連れ込んだんだぞ——警戒なり、警告なりするべきでは——

   そう呆れる俺に、だがコロンはさらりと——本物の姉のような笑顔で言う。

 

 

「だって、リクが選んだ子でしょ?」

 

 

「————」

 

 

「最初は事情があったんでしょ?リク、シュヴィちゃんを最初に連れてきた時、今にも切れちゃいそうなくらい、張り詰めて——だから私も、()()()()()()()んだけど……」

 

 

    ——なるほど。

   こちらの事情を読んだ上で、過剰に気付かぬふりをするなら——それしかない。

   しかしそれは——俺を信じたということに他ならず——

 

 

「でもまあすぐ打ち解けたみたいだし⁉︎こ〜〜んな可愛い妹が出来るのよ⁉︎もー別に人間かどうかなんて関係ないでしょ⁉︎あのねシュヴィちゃん人間には結婚したら家族とチューするってしきたりが太古の昔から——」

 

 

「ねぇよッ!シュヴィも真に受けんな離れろッ!」

 

 

「あっそうだ。コロン他にも隠していたことがあってだな——」

 

 

「え?なになに?」

 

 

   ああ、そういえばこいつのこと言ってなかったな、と思いながら続きを聞く。

 

 

「実は俺も人間じゃないんだよ」

 

 

「……え?ホント?」

 

 

「マジマジ。大マジだよ。なぁリク?」

 

 

「ああ。こいつが妖魔種(デモニア)をぶっ飛ばしたのを見た。具体的な種族は知らんけど……」

 

 

「……へー。ホントなんだ。なんの種族なの?」

 

 

   それを聞くと少し答えずらそうな顔をしたが、

 

 

「……実はな、俺はこの世界の存在じゃないんだ。別世界の魔神族って種族でな、神に呪いかけられて異世界に飛ばされたらこの世界にいたんだ」

 

 

「「はぁぁッ⁉︎」」

 

 

   俺とコロンが大声で叫び、シュヴィも目を見開く。

 

 

「嘘だと思うならシュヴィに聞いてみろよ」

 

 

   苦笑しながらそう言うメリオダスに俺はシュヴィに目を向けると、

 

 

「……………………う、そ……じゃ、ない」

 

 

   信じられぬ、という様子でシュヴィは答える。

 

 

「まー色々聞きたいことはあると思うが今は置いといて、結婚式挙げようぜ」

 

 

「……いいわね!あげちゃいましょ⁉︎」

 

 

   気にしないことにしたらしいコロンも同意するが——

 

 

「——コロン、気持ちはありがたいけど、俺らはもう、存在してな——」

 

 

   そう言いかけて——コロンの真剣な表情に気付き、言葉を切る。

   ——俺にも、コロンにも、家族と呼べるものはいない。

   もう……いないのだ。

   まして表向き、俺もシュヴィもメリオダスも、最早死んだ身だ——それは……

 

 

「私が仲人やるから〝正式な夫婦〟として、ね?四人だけの結婚式どう?」

 

 

   だが意外にも、シュヴィが答えた。

 

 

「……したい……」

 

 

   俺を見上げて、零す。

 

 

「……正式な、夫婦……なりたい……」

 

 

   ————…………

 

 

   ——なんてことはない、簡単な儀式だ。

   誓いの言葉を交わして三人の名前を書類に書いて終わり。

   本来なら集落の者を集めるのだが——俺とシュヴィは死んだことになっている。

   だったら、とコロンがその場で行うことになった。

 

 

「夫リク、シュヴィを妻とし、共に歩み、支え、愛し、生き残ることを誓いますか」

 

 

   コロンの言葉に——なんともこの時代、あの集落らしい誓いの言葉だと苦笑する。

   集落内で結婚式が行われる度、目を伏せるしかなかったその文言を、だが今は——

 

 

「ああ、誓う」

 

 

「もぉリクッ!ここは『遺志に誓って(アシェイト)』って——」

 

 

「悪い、ついさっきそれ廃止にした。だから——『同意に誓って(アッシエント)』だ」

 

 

   その言葉に頰を膨らませコロンはぶつぶつと零す。

 

 

「……私の知らないところで、色々やってるの、なーんか気に入らないわ……」

 

 

「おーい仲人。私語が多いぞ〜?」

 

 

「そうだそうだ〜」

 

 

   外野さながらブーイングする俺と正に外野からブーイングするメリオダスを睨み、咳払い一つ。

   今度はシュヴィに向き合って、コロンは誓いの言葉を問う。

 

 

「妻シュヴィ。リクを夫とし、共に歩み、支え、愛し、生き残——」

 

 

「……誓、う……」

 

 

   食い気味の即答。形式無視の連続にコロンが肩を落とすが——シュヴィは続ける。

 

 

「……シュヴィの存在、生まれた、意味……心をくれたリク、に、誓って……絶対、リク、死なせない……生き残って、最後まで……一緒に、いる……『同意に誓って(アッシエント)』……」

 

 

   ……うちの嫁は恥ずかしいことを言ってくれる。

   顔に熱を帯びるのを感じながらニヤニヤするコロンとメリオダスを睨む。

 

 

「じゃ続けてシュヴィ夫リクの——〝素敵なお嫁さん〟になると誓いますか?」

 

 

「……素敵、な……お嫁、さん……?」

 

 

   悪ノリが始まった、と俺はため息、定義不明の言葉にシュヴィは首を傾げるが——

 

 

「リクを悲しませない。笑顔を失ってたこの子から……もう笑顔を奪わない……」

 

 

   真剣な面持ちで問うコロンに、シュヴィは黙考する。

 

 

「……出来る?」

 

 

   しばらく考え、シュヴィは答える。

 

 

「……誓う……〝素敵なお嫁さん〟……に……なる」

 

 

   ……うん、と。安心したように一つ大きく頷き、そして——

 

 

「あ、あと、ちゃんと夜の生活も素敵なお嫁さんの必須条件よ?床上手は——」

 

 

   悪ノリの加速させるコロンは、しかし、

 

 

「あー、コロン。シュヴィは、そういうの出来ないんだ。ほら、種族が——」

 

 

   俺の言葉にコロンは顔を引き攣らせる。

   だがふいにシュヴィが手を上げ、

 

 

「……シュヴィ、構造、わかれば……自己構築——————『穴』作れ、るっ」

 

 

「なん——だとッ⁉︎」

 

 

「あら♪やったじゃないリク!童貞卒業おめ——」

 

 

「……だから、コロン……シュヴィに、コロンの生殖器、見せ——」

 

 

   ————————世界は理不尽である。

   頰にブチ込まれた拳に脳を揺らされ、俺は思った。

 

 

「——って、何で俺が殴られんだよっ」

 

 

「あんたが一生童貞でいれば済む話だからよッ!——さて」

 

 

   そう言って、コロンがいつも腰につけていた石を取り出して言う。

 

 

「それじゃ、ここに四人の名前を彫ったら、正式な夫婦ね」

 

 

   俺が何も説明していないにも拘わらず、コロンは意図を汲んで的確に続ける。

 

 

「……あんた達表向き存在してないなら、書類残せないんでしょ?この宝石は、私の祖父から継いだものなの。三人の名前を刻んだ面に装飾しちゃえば——ね?」

 

 

    ——なるほど、誰も見ることが出来なくなるわけだ、と俺が感心していると、

 

 

「へ?俺も?」

 

 

「うん♪ついでにメリオダスも私の弟になりなさい♪」

 

 

「ついでかよ……まぁいいけどよ……」

 

 

   石には既に——コロンの()()()()()()()()()()()()

   俺も、シュヴィも、メリオダスも、苗字がない。つまりコロンの本当の意図は——

 

 

「……これで、リクとシュヴィちゃんは夫婦。そしてあなた達三人は私の、正式な弟と妹よ」

 

 

   嬉しそうな、同時に寂しそうな顔で、そう告げる。

   苦笑一つ——俺たちは、それぞれ刃物を手に取り。

   コロンの苗字を、自分達の名前の下につける。何とも語呂の悪い気がするが——

   と、刻んでいる途中でメリオダスが、

 

 

「……そういえば、姉姉言ってるけどコロンって何歳なん——」

 

 

   ——メリオダスは腹を抑え、悶絶しながら、心に刻んでいた。即ち、

   ——女性に年齢を聞いてはいけないという世界の掟を……

 

 

「そ、そうだ。俺から結婚祝いのプレゼントだ」

 

 

   腹を抑えながら立ち上がったメリオダスがそう言いながら腰のポーチから取り出したのは——少々歪な1つの腕輪と3つの首飾りだった。

   その全てに4色の石を円形に溶接したものがついていた。

   それを見て俺は思わず苦笑する。

   なぜなら、溶接された石の色が赤、黒、青、緑——俺ら4人の瞳の色だったからだ。

   メリオダスは腕輪をシュヴィに、首飾りをコロンと俺に渡す。

 

 

「あれ?私も?」

 

 

   コロンが差し出された首飾りに首を傾げる。

 

 

「ああ、姉になった記念かな?」

 

 

   俺は首飾りを受け取りながら、メリオダスに問う。

 

 

「お前……こんなのいつ用意してたんだよ」

 

 

「探索中にだよ。材料集めと作成に1年近くかかっちまった。間に合うか少し心配だったぜ。何回か死にかけたが、いいもんが出来てよかったよかった」

 

 

   そう笑うメリオダスを呆れながら見つめる。

 

 

「これ、メリオダスが作ったの?」

 

 

   コロンが受け取った首飾りを見つめながら言う。

 

 

「おう。少し歪だが気にしないでくれ」

 

 

   その言葉に俺は受け取った首飾りを見ながら苦笑する。

   確かに歪ではあるが丁寧に作られたのがわかる代物だ。

   それにまともな道具もなしによくここまで出来たと感心するべきだろう。

 

 

「ありがとうメリオダス」

 

 

   俺の言葉の後にコロンとシュヴィも各々の言葉でメリオダスに感謝を述べる。

 

 

「お、おう。どういたしまして」

 

 

   メリオダスは照れくさそうに頭を掻きながら、返す。

 

 

「そういえば、なんでシュヴィだけ腕輪なんだ?」

 

 

   シュヴィが腕につけた腕輪を見つめながらメリオダスに問う。

   するとメリオダスは何やら言いにくそうに、

 

 

「う〜と。その方が安全だから……かな?」

 

 

「なんだそりゃ……」

 

 

「まあまあ、一緒がいいならお前のも腕輪にしてやるぜ?」

 

 

「器用だなぁ、お前」

 

 

「ふっ、自慢じゃないが俺はよく器用貧乏と呼ばれたぜ。大抵のことはそこそこ出来るが自慢できるような特技はほとんど無いからな」

 

 

「本当に自慢じゃないな……」

 

 

   刻印を終えた石と、メリオダスから受け取った首飾りを誰よりコロンが眩しそうに眺め、大事そうにしまう。

   そして——本物の姉より姉らしい顔で。

 

 

「……ねぇ、リク、シュヴィ、メリオダス」

 

 

   止めたい、でも出来ない。そう理解して、それでも無理に作った——そんな笑顔で。

 

 

「三人が何をするのか私は知らない——三人はこの世にいない、でも」

 

 

   言って、三人の——弟妹を抱きしめて、コロンは言う。

 

 

「私は知ってる——大事な弟達と可愛い妹がいる。だから……お願い」

 

 

「——もう、家族を失いたくないの。無茶は、しないで……」

 

 

   ——顔は見えない。だが震える声で囁くコロンに、三人の弟妹は頷いた。

 

 

「ああ。誰も死なないし死なせない。この『ゲーム』だけは——必ず勝つから」

 

 

「……任せ、て……おねぇ、ちゃん……」

 

 

「絶対に誰も不幸にしないよ、姉ちゃん」

 

 




   というわけで少し前に追加されたオリジナルの話でメリオダスが探索に出たもう1つの目的がある的なことを言ってましたがこれです。
   せっかくの最初の世界なのに思い出の品が1つもないのは寂しいので追加したものです。
   シュヴィが腕輪なのはもちろんジブリールのせいです。
   メリオダスはそれを作るための材料集めや作成中に交戦に巻き込まれそうになったり、フラフラ漂っている天翼種(フリューゲル)を感知して全力で隠れたりなど色々ありました。

   それでは第22話をお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第22話 『幽霊』達の暗躍

 今回は旧作と殆ど変わりありません。
 1周年記念のアンケートもそうですがメリオダスの連れていく世界などのアンケートもまだ募集中ですので出来ればご参加くださいm(_ _)m

 それでは第22話をどうぞ


 ————…………

 

 

 ——『幽霊』達が囲む円卓で、幽霊の長は、『盤上』に手を広げる。

 

 

「俺達は存在しない」

 

 

「誰も殺さず、誰も死なさず。あらゆる手を利用し、情報と、策謀と、ペテンだけで戦局を誘導する——ルールがあり、勝利条件があるならこれは明白に『ゲーム』であり——」

 

 

「全てはこの地図——つまり盤上だけで決する。ならば……『コマ』を決めよう」

 

 

 幽霊達の視線を一身に受けて、幽霊の長は——白いコマを取り出す。

 

 

「これが俺達だ」

 

 

 ——白い、キング。

 

 

「最弱のコマ。何者にも成れぬコマ。だが最重要のコマ。討たれれば終わりのコマ」

 

 

 それを地図——訂正、『盤』の外——テーブルの端に配置して、続ける。

 

 

「我々はキング。だが同時に——『幽霊』でもある」

 

 

 存在しないもの。存在してはいけないもの。故に感知を許さぬもの。

 

 

「我々は何処にもおらず、何処にでもいる。この盤の外から全てを手繰るもの」

 

 

 そして、続けて複数のコマ——全てが白いコマを取り出し、

 

 

「一つもコマを獲らず、ゲームに勝利する。故に全ての種族は——『白』だ」

 

 

 そう言って——『白いポーン』を取り出し——

 

 

「これが——獣人種(ワービースト)だ」

 

 

 白いポーンを——『盤上』に——獣人種(ワービースト)の棲息地帯に置く。

 

 

 …………————

 

 

 メリオダスとリクが出会った時に手に入れた戦略図を〝少し応用〟し、集落を消し飛ばした地精種(ドワーフ)の墜落戦艦に潜入、通信して僅かばかりの情報を〝やりとり〟。

 そして獣人種(ワービースト)に「獣人種(おまえら)の拠点が地精種(ドワーフ)の兵器の実験予定地だ」と伝え、地精種(ドワーフ)の施設の場所を教えれば、獣人種(ワービースト)は其処を襲う。

 その後その施設で情報を集める。

 

 

 ————…………

 

 

 再度、『幽霊』達が円卓で幽霊の長は、『盤上』に手を広げる。そして——『白いルーク』を取り出し——

 

 

「これが——森精種(エルフ)だ」

 

 

 そう言って白いルークを——『盤上』に置く。森精種(エルフ)の——首都の座標に。

 

 

 —————…………

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

メリオダス視点

「……メリオダス——はや、くッ これ……飲んで……ッ」

 

 

 俺はこの世界はおろか前の世界(地球)ですら感じたことのない激痛にのたうち回りながら耐えていた。

 

 

 俺の目的はリクとシュヴィを死なせないことだ。

 出来ることなら機凱種(エクスマキナ)天翼種(フリューゲル)、アルトシュも死なせずに完全勝利したいが、俺の拙い知恵では何の策も浮かばないので無理だ。

 星をぶっ壊すだけなら出来ないこともないがそれだけだとアルトシュの下に星杯(スーニアスター)が顕現する可能性がある。

 そのためまずはリクの死にかける理由の森精種(シンク・ニルヴァレン)とのゲームをリクにやらせない。

 魔神族の力があるため霊骸による後遺症も治せるかもしれないし、自分もチェスはリク程ではないが得意だったため俺がやることにし、リクも了承したのだが、

 

 

「おい、メリオダス!全然治ってないぞ⁉︎」

 

 

 そう、全く治らないのである。——いや少しは治っている。だがやはり魔力と精霊は同じものらしい。魔神族の力が霊骸によって阻害されている。

 

 

「……はやく、霊骸を、排出しない、と……メリオダス、死んじゃう、よッ」

 

 

 俺に、自分(エクスマキナ)の血と呼べる除染液を飲ませながら叫ぶのを聞きながら俺はチェスが得意という自負を捨てようかなぁ、と考えていた。

 なぜなら、

 

 

「……メリオダス……嘘つきッ 二時間……って、いったのに……三時間以上……ッ」

 

 

 俺はこの世界の存在ではないためシュヴィも俺の致死量は計算できなかった。

 なので、人間の致死量寸前の黒灰を飲み、体表に塗った。

 そして、リクが掛けた時間、二時間で戻ってくると言っていた。

 しかし、シンク・ニルヴァレンは予想以上に強く戦績は、奴の六勝三敗三引き分け。

 リクの時の戦績が、五勝四敗三引き分けだったため一回多く負けただけだが、さらに一時間多く時間をかけてしまった。

 

 

「はぁ……やっぱり、リクは強いなぁ」

 

 

「……どういう意味だ?」

 

 

「何でもねぇよ」

 

 

 さてなぜゲームをするためだけにこんなことをしなければならないか、疑問に思う方もいるだろう。

 前にも説明した通り、森精種(エルフ)は全種族で僅かな例外を除き魔法の同時使用が可能だ。

 俺が接触したシンク・ニルヴァレンという森精種(エルフ)は空前絶後の天才であり、八重術者(オクタ・キャスター)である。

 その為、普通に会えば、体精霊を識別され丸裸、一瞬で正体が割れる。

 なのでリクは黒灰を取り込み、わざと『霊骸汚染』させればいいと考えた。壊れた精霊——『霊骸』は体内外、全ての精霊を乱し、侵食、破壊する。

 如何に優れた術師も、霊骸汚染で乱された体は、識別出来ない。

 ましてシンク・ニルヴァレンは森精種(エルフ)でも随一のキレ者である。

 そうであれば想定しない——()()()()など。

 俺の場合は識別魔法に何と出るかわからないので、念のため『霊骸汚染』させた。

 後は原作のリクを真似ながらポーカーフェイスを貫けば完了だ。

 

 

「……メリオダスぅ……ッ もう、ちょっと……だから——ッ がん、ばって……ッ」

 

 

「……わかってる……まだ、やることが……たくさん、あるからな」

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 —————…………

 

 

 再度、『幽霊』達が囲む円卓で幽霊の長は、『盤上』に手を広げる。

 概ね種族のコマを配置し終わった『盤上』には十数種のコマが並んでいた。

 そして——今度は『白いクイーン』を取り出し——

 

 

「——こいつが、天翼種(フリューゲル)だ」

 

 

 そう言って白いクイーンを——『盤上』に置く。

 天翼種(フリューゲル)が拠点を構える幻想種(ファンタズマ)の背——アヴァント・ヘイムの座標に。

 ——クイーン。最強のコマ。幻想種(ファンタズマ)でも神霊種(オールドデウス)でもなく、天翼種(フリューゲル)に割り振ったことに『幽霊』達は疑問符を浮かべる。

 

 

「……強い、から?」

 

 

 だが幽霊の長は苦笑して答える。

 

 

「それもあるが——〝成長しねぇ〟からだ」

 

 

 その真意は誰にもわからないが——ふと、白いコマしかない盤面に『幽霊』が言う。

 

 

「でもよぉ、これじゃ全ての駒が白——味方ってことか?」

 

 

「そうだ。俺達は——ただ一つの駒も獲らずに勝つ、『敵』はいない」

 

 

「いや、でもそれじゃあ、何を以て、勝利とするんだ?」

 

 

 そう言われ、幽霊の長は不敵に——『黒いキング』を取り出す。

 

 

「——こいつを討てば——俺達の勝利だ」

「……一個もコマを獲らないで勝つ——だが誰かを殺す必要はあるのか?」

 

 

 その言葉に一斉に幽霊の長を注視する一同の視線を受け。

 だが、幽霊の長は含み笑いを浮かべて、黒いキングをかざし、

 

 

「いいや?ルールは絶対。誰も死なない。何故なら『黒いキング』は——」

 

 

 そしてそれを勢いよく——『盤上』の上に叩きつけて、言った。

 

 

「——〝こいつ〟なんだから」

 

 

 目を丸くする『幽霊』達に——だがその長だけは。確信を持って笑っていた。

 

 




 シンクとの対話を付けようかと思ったんですが大して変わらない上に長くなりそうだったんで旧作同様カット致しました。
 ちなみに帰る直前にメリオダスがシンクへ「それじゃ、覗き見してるニーナにもよろしく」と言ってました。
 それによって隠れてたニーナがびっくりしたり、シンクの殺気が膨れ上がったのは言うまでもないでしょう。

 それでは第23話もお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第23話 大戦の終結の条件

 今回もあまり変わりません。というかもう旧作と変わらないかも……。
 まあ最後まで付き合ってください。

 それでは第23話をどうぞ。


メリオダス視点

 ——世界各地に散る『幽霊』達の暗躍は既に1年近く続いていた。

 俺は今日もリクとシュヴィのチェスを見ていた。

 

 

 ()()()()()()()()森精種(エルフ)妖精種(フェアリー)を味方につけた。地精種(ドワーフ)の航空艦隊に対抗できる龍精種(ドラゴニア)の契約数も増大し、地精種(ドワーフ)を共通の仮想敵とした『森精種(エルフ)同盟』は盤石となった。

 一方地精種(ドワーフ)は関係良好な巨人種(ギガント)に加え、多数の幻想種(ファンタズマ)を味方につけた。森精種(エルフ)が〝幻想種(ファンタズマ)殺し〟を造ったと幽霊(かぜ)の伝が流れた結果、ガッチリ強固な『地精種(ドワーフ)同盟』がここに爆誕。

 しかーし忘れちゃ困るは最強勢力、それはお隣大陸、天翼種(フリューゲル)を擁するアルトシュ陣営だ。

 互いに必殺兵器を隠し持つ二つの同盟、目下の最大脅威(アルトシュ)に対し後ろ手で拳を固め握手を交わす『連合』には、さしもの最強神(アルトシュ)とて容易には手を出せず、戦況は膠着へと向かった。

 妖魔種(デモニア)は漁夫の利を狙って移動、獣人種(ワービースト)は『髄爆』を警戒し西の群島へ移住した。

 世界は一触即発、最終戦争(ハーマゲドン)を警戒、互いに睨み合うしかなくなったのである——ッ‼︎

 

 

 ——と、以上小利口な強者(アホ)共がせっせと組み上げてくれた盤上の現状であり。

 ルーシア大陸は滑稽にも人間だけの〝はじめてのおるすばん〟となったわけだ。

 

 仕込みは上々、細工は流々、一世一代の大勝負——残すは最後(ツメ)の一手のみだが。

 

 

(ここからが本番だ)

 

 

 そう、ここまでは上手くいくことはわかっていた。

 原作で上手くいっていたのだから俺がアホみたいなことをしなければ上手くいくだろうと思っていた。

 しかし、この後のシュヴィとリクを助けるために気を引き締めなければならない。

 

 

「なぁシュヴィ、以前ゲームの神さまはいないのか、って訊いただろ?」

 

 

 俺が考え事をしているとリクがシュヴィに訊いた。

 

 

「……うん……」

 

 

「概念が〝活性条件〟を満たすと神霊種(オールドデウス)になる……活性条件って?」

 

 

「……『神髄』獲得……想い、祈りの、強さ……厳密定義、不能……()()……?」

 

 

「実は俺さ、()()()()()()()()()()()()——つったら信じるか?」

 

 

「……リクが、信じるなら……シュヴィ、信じる……」

 

 

 真顔でコマを指しながら、シュヴィは続けた。

 

 

「……リク、シュヴィの予測……全部、覆す……リクがいる、って、言うなら、()()……リクが空、紅くない、って、言うなら、紅くない……もう、疑わない……」

 

 

 ————。

 

 

 リクはしばらく黙り、良い笑顔でこちらを見ていった。

 

 

「おいぃ、メリオダスゥ。今の聞いたか?うちの嫁——」

 

 

「あぁぁぁ、はいはい。羨ましい限りだよクソが」

 

 

「……それは……それ、として……」

 

 

 若干顔を赤らめているのは気のせいではない。シュヴィが躊躇いがちに言う。

 

 

「……チェック・メイト」

 

 

「——な〜ゲームの神さまぁ……1回くらい俺に勝たせてくれませんかねぇ……」

 

 

 苦笑して頭を抱えるリクに、シュヴィは小さく笑った。

 

 

「えぇ〜と、聞いてる方が恥ずかしい会話中失礼、お姉ちゃんお邪魔していい?」

 

 

 ——と遠慮がちに現れたコロンに、リクではなく俺が答える。

 

 

「いいよいいよ、俺はずっとお邪魔中だから」

 

 

「そう思うならたまには2人にしてくれませんかねぇ……」

 

 

「い☆や❤︎だ♪」

 

 

「ねぇねぇ、呼びつけたのリクでしょ……報告しても?」

 

 

 コロンが現在の集落——いや〝人間〟の状況を資料を捲って報告していく。

 

 

「信じられないけど——リクの言う通り、他種族の目撃情報はなくなったわ」

 

 

 理由までは知らないコロンは、「だろうな」と笑う俺らに眉を寄せ、続ける。

 

 

「……それでね、狼煙や斥候でルーシア北部を探索したら多数の集落を見つけたの。でも合流しようにも合計すると8000人近い人数になって、今の集落じゃ収容出来な——」

 

 

「安心しろコロン。あとは少しで、死に怯えず何処にでも住めるようになる」

 

 

「…………」

 

 

 シュヴィとのチェスに集中し、そう答えるリクにコロンは拳を震わせる。

 

 

「全て上手く行ってる。俺ら3人で最後の一手打てば——()()()()()だ」

 

 

「……ねぇ、冗談はよしてよリク……あんた、自分の——自分たちの状況わかってるの……?」

 

 

 俺とリクの姿を見て、限界が来たように、

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()‼︎その体で遠出したら、死ぬわよッ⁉︎」

 

 

 涙ながらに叫ぶコロンに、だが俺らは苦笑して答える。

 

 

「死なねぇよ。あと891年生きなきゃならねぇんだ」

 

 

「俺が死なせねぇよ」

 

 

「——ねぇ2人ともお願い、ふざけないで、真面目に自分の体を考えて——っ」

 

 

 懇願するようなコロンの声に、俺はリクと俺の状態を整理した。

 

 

 まず、俺は包帯だらけ。

 全身包帯のミイラは避けられたがそれでも全身イテェ。

 次に内臓類……壊死は魔神族の力とシュヴィのおかげで免れた。麦粥的なのなら食べられる。

 そして多少、霊骸が血に達したのか、骨や呼吸器も多少やられたが、軽傷だ。

 

 

 次にリク——全身包帯のミイラ。

 あの後霊骸を体を塗りたくる羽目になった。体内には入れてない。

 

 

「あとは……腕が一本減っただけ。大したことない」

 

 

「——大したこと大ありよッ!あんた——ッ」

 

 

「他の『幽霊』達も似た状態か、これより酷い」

 

 

 反論しようとしたコロンは、だがリクの氷のような声で断ち切られる。

 

 

「……未だ1人も死んでないのが()()だ、けど、皆もう満身創痍だ」

 

 

 満身創痍。文字通り、そのままの意味で満身創痍だ。

 総勢180名の幽霊船団は、確かに、まだ誰も死んでいない。

 ——まだ。あくまで()()、だ。

 毒の連用、霊骸汚染、四肢喪失——『幽霊』達は他種族を欺く為にあらゆる手を講じた。

 たかが誘導1つの為に左腕を捨て、妖魔種(デモニア)を欺く為に屍肉を喰らった者もいれば、あえて吸血種(ダンピール)に噛まれることで——直射日光を浴びると死ぬ病にかかる——誘導した者まで——利用出来るものは全て利用した。

 

 

 ——〝命以外〟の全てを——だからリクは、懇願するように言う。

 

 

「あと一手なんだコロン。見逃してくれ——それで大戦は終わる。そうすれば俺は——」

 

 

 そう言って言葉を切る。

 

 

「ならせめて、教えてよ……」

 

 

 そう、顔を伏せてコロンが肩を震わせる。

 

 

「他種族を——神霊種(オールドデウス)さえ誘導してルーシア大陸から消したのは、今でも信じられない。本当に凄いと思う。——でも大戦を終わらせる?いくらなんでも信じられないわ‼︎」

 

 

「…………」

 

 

「見逃してって言うなら教えてッ!それとも私——弟妹にそんなにも信頼ないのッ⁉︎」

 

 

 ————…………

 

 

「……コロン、信頼してなきゃ——おまえじゃなきゃ、皆を任せてない」

 

 

「だったら——ッ!」

 

 

「神々が何を求めて争ってるか——知ってるよな」

 

 

 唐突に語り出したリクに一瞬反応が遅れて、コロンが答える。

 

 

「……唯一神の座、でしょ。たしか……」

 

 

「そう。その唯一神の座——具体的には『星杯(スーニアスター)』ってもんらしい」

 

 

 リクは立ち上がり、森精種(エルフ)の廃都でシュヴィに聞いたことを語る。

 

 

 つまりはこういうことだ。

 神霊種(オールドデウス)は星から願われ、祈られて『神髄』を手に入れて生まれる。

 だが神霊種(オールドデウス)は生まれすぎた。

 なので神霊種(オールドデウス)は種の創造を行える存在をたった1人に限定するために『星杯(スーニアスター)』という『概念装置』を設定した。

 しかし、全神霊種(オールドデウス)を掌握する『装置』を神霊種(オールドデウス)が作るのは()()()

 なので、他の神霊種(オールドデウス)の『神髄』を破壊して、その際生じる力を取り込む。

 そうすることで『星杯(スーニアスター)』を顕現させるだけの力を手にする。

 だが、神霊種(オールドデウス)は願われれば、その数だけ生じるのだ。

 主立った奴を皆殺しにしても、また新しく生まれて自分を上回るようになっては困る。

 だから唯一神の座——『星杯(スーニアスター)』で支配してしまえば〝唯一の神〟のいっちょ上がり。

 

 

「これが、このくだらない『大戦』の正体だ」

 

 

 …………。

 

 

「馬……鹿じゃないの——そんな理由でこんな戦争してるっていうのぉ——ッ⁉︎」

 

 

 肩を怒りに震わせて、コロンが吐き捨てるように叫ぶ。

 

 

「コロン……言葉に気をつけろよ。馬鹿に失礼だ。だってなぁ——」

 

 

 気怠そうに言ってリクは、地図——盤面に触れた。そして呆れ顔で告げる。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだから」

 

 

「————え?」

 

 

 きょとんとするコロンを余所に、リクは『黒いキング』を手のひらで弄ぶ。

 

 

神霊種(オールドデウス)は精霊回廊。万物の源流。万象の潮流、つまり星から生まれる。……つまりな?」

 

 

 ため息をつき言う。

 

 

()()()()()()()()より——〝星そのもの(そのみなもと)〟の方が『力』は上だろ、普通に考えて」

 

 

 目を剥くコロンに——だから、と告げて。

 リクは『黒いキング』を手に、地図——ゲーム盤に向かい。

 その()()()()俺達の、『幽霊』の——勝利条件。

 即ち——『最後の一手』を、端的に告げた。

 

 

「——ゲーム盤(ほし)を壊せば、『星杯(スーニアスター)』は顕現する」

 

 

 ——……、

 

 

 呆気にとられるコロンを余所に、俺たちは床を指さして、続ける。

 

 

「この星の核——()()()()()()()()を穿てば、放出される力は全神霊種(オールドデウス)の力を超える」

 

 

「……顕現、は、10のマイナス46乗秒……破壊、力放出、顕現、すぐに……」

 

 

「即座に——『星杯(スーニアスター)』を手にして星を再構築すりゃぁ……」

 

 

 なおも唖然とするコロンに、俺たちは口を揃えて、告げる。

 

 

「「「……チェック・メイト」」」

 

 

「で——でも、そんな——星を貫くほどの力をどこから——」

 

 

 茫然自失から立ち直り、そう言ってから。

 コロンは、壁に掛けられた勢力図を見て、

 

 

「まさか——()()()()()()()()()()⁉︎膠着じゃなく——()()()()()()()()()()()なのッ⁉︎」

 

 

 コロンの絶叫に、だがリクは楽しげに、薄い笑みを浮かべた。

 

 

「アルトシュ陣営と『連合』だがな——連中は膠着なんか()()()

 

 

「——え?」

 

 

 相互確証破壊——一方が手を出せば双方が壊滅する確証による膠着状態は、()()()()()()()()()()()()があって初めて機能する。

 

 

()()()星杯(スーニアスター)——殺し合いであるあいつらは、必ず近いうちに口火を切る」

 

 

 ——それは、永久の大戦において、かつてない規模の戦闘——

 ——『決戦(ハーマゲドン)』を意味する——それを想像して血の気を引かせたコロンに、リクが言った。

 

 

「だがその火力は——()()()()()()()

 

 

 再度、コロンは呆気にとられた。

 

 

()()()()()()()『決戦の舞台』に、俺たちが設置する『通行規制(アイン・ヴィーク)』で全ての力が〝真下〟に向かう——そう、望遠鏡のレンズのように」

 

 

 ——『幽霊』達が命以外の全てを賭けて集めた、あの場で使われる兵器の情報。

 全てを数値化し計算したシュヴィによれば収束に必要な『通行規制(アイン・ヴィーク)』は——32個。

 

 

「奴らは()()()()()()()()()、精霊回廊を破壊し顕現した『星杯(スーニアスター)』は俺らがかすめ取ってこれで——『勝利』。誰も死なないからこそ、終わったらカミサマタチに聞きたいね」

 

 

 そしてとびきり嫌味な笑顔を——凶暴とも見える笑顔でリクは言う。

 

 

「〝ねぇねぇ今どんな気持ち?〟——ってさ」

 

 

 

 

 

「……だからコロン、あと少しの間、見逃してくれ。んで、人間(みんな)を頼むよ」

 

 

 だが、そうして不敵に笑うリクが。

 立つことすら辛くなっていることに——俺とシュヴィだけは気付いていた。

 

 




 それでは第24話もお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第24話 悪魔(ジブリール)に遭遇

 遂にジブリールの登場です。

 それでは第24話をどうぞ。


シュヴィ視点

「……リク……寝て、て……」

 

 

「……ダメ、だ……今すぐにでも、『通行規制(アイン・ヴィーク)』の配置に、向かわないと……」

 

 

 ベッドの上で悶えて寝込んでいるリクを、シュヴィが看病していた。

 メリオダスはコロンを送っているのでいない。

 コロンの前では強がって見せたリクだが、実際は全てコロンの指摘通りだった。

 ——そもそも霊骸を皮膚に塗った汚染火傷だけでも、相当な後遺症を招く。

 人間ではないメリオダスはともかく、人間であるリクは起き上がれなくなって当然なのだ。

 

 

「……大丈、夫……リクの予想、外れ、ない。すぐには、攻撃は、始まらない……」

 

 

「…………けど……」

 

 

「……少し、休めば……大丈夫……リクなら……1日、で」

 

 

 それを聞いたリクは苦笑する。

 

 

「……そう、だな……じゃあ配置に向かうのは明日、今日は快復に専念する」

 

 

「……ん」

 

 

「なぁシュヴィ……足引っ張って、すまんな」

 

 

「……リク、今、寝てる……引っ張れ、ない」

 

 

「じゃもう一つ頼む。今日は、寝て快復に努めるから——手ぇ握っててくれるか」

 

 

 それが痛みに耐えられるように、という意味だとはわかっていた。

 同時に——1人で行くなよという牽制だとも——今のシュヴィにはわかる。

 

 

「……ん。ずっと、握ってる。安心、して……休んで……リク」

 

 

 ————、

 

 

「なぁ、シュヴィ」

 

 

 まだ眠れないのだろう。リクが問う。

 

 

「……ん」

 

 

「……ありがとな。シュヴィがいなきゃ、こんなこと出来てなかった」

 

 

「……まだ、終わって……ない」

 

 

「そうだな……でも、ここまですら、シュヴィがいなきゃ来られなかった」

 

 

 リクは眼を閉じて、言う。

 

 

「だから、俺に会いに来てくれて、ありがとう……それから…………」

 

 

 微睡んできたのか、緩やかな呼吸になりながら、リクがこぼす。

 

 

「ホントに、愛してるよ……これから……も……」

 

 

 ……霊骸汚染によってどれほどの激痛がリクを苛んでいるのだろう。

 それでも自分に手を握られているだけで、リクは安らかに寝息を立て始めた。

 自分は——リクが『好き』だ。

 でも『愛している』という感情の定義はまだ——出来ていない。

 その言葉に応えられないのが、何とももどかしいが。

 それでも、やるべきことは——わかっていた。リクは死なせられない。

 リクはあと891年生きる。『星杯(スーニアスター)』を手に入れれば()()()()()()()()

 ————だから。

 

 

「…………ごめん、ね……リク……すぐ、戻る……から」

 

 

 今は——その手を、離した。

 

 

 

 

 隠れ家を出るとコロンを送っていたはずのメリオダスが居た。

 

 

「……行くのか?」

 

 

「……ん」

 

 

 異世界の住人らしい、不思議な弟は悲しそうな顔をしながら言った。

 

 

「……そうか……翼の生えた悪魔に気をつけろよ」

 

 

「……?……天翼種(フリューゲル)、の……こと?」

 

 

「通じんのかよ……まぁ天翼種(フリューゲル)なんだが天翼種(フリューゲル)とは呼べないんだよなぁ。まぁとにかく気をつけろよ」

 

 

「…………ん」

 

 

 疑問はあったが気にせずシュヴィは飛翔した。

 

 

 

「……ごめんな……シュヴィ」

 

 

 そう呟いたメリオダスの声は誰の耳にも届かなかった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

シュヴィ視点

 ——24個設置完了。残り8個の『通行規制(アイン・ヴィーク)』設置で、終わる。

 リクを連れて来ないでよかった。隠密行動をしているのは、現在世界最大の力を持った勢力が犇めくまさに『決戦の地』。

 既に何度か発見されたら〝詰む〟相手を感知し、その度徹底して隠れてきた。

 それでも万一発見された時、リクが居たらその場で命を落とす確率の方が高い。

 

 

(……大丈、夫……あと8個……配置、すぐ帰る、から……リク、待って、て……)

 

 

 その後なら、いくらでもリクに叱られる覚悟は出来ている。あと8個——次の座標を検索——

 

 

「おやぁ?ふらふら漂っていたら——思わぬ収穫が転がってございますね♪」

 

 

 ——不意に頭上からかけられた声に、シュヴィは振り返った。

 プリズムの髪と琥珀の瞳。光を編んだような翼と、天翼種(フリューゲル)の証——幾何学的な光輪。

 データ照合——最悪と告げる内心を抑えつけシュヴィは平静な顔でそれを見る。

 

 

「——ごきげんようスクラップ。本日は1人で散歩でございますか?」

 

 

 天翼種(フリューゲル)——最終番個体(クローズ・ナンバー)『ジブリール』……

 

 

 機凱種(エクスマキナ)である自分に、こう命じる日が来るとは思わなかった——落ち着け、と。

 機凱種(エクスマキナ)に対する攻撃は一種の禁忌だ。ただの機械、ただの反撃者を振る舞え——

 

 

「【疑問】——天翼種(フリューゲル)機凱種(エクスマキナ)に何か用件が?」

 

 

 ——長らく使っていなかった言語回路を、辛うじて演技としてそう口にする。

 だが気にした様子もなく、ジブリールは続ける。

 

 

「はい♪機凱種(エクスマキナ)の首はなななんと‼︎いまや龍精種(ドラゴニア)と並び【レア5】でしてぇ♪」

 

 

 困ったように、身をくねらせるジブリールが尚も続ける。

 

 

「なにせ『焉龍(アランレイヴ)』撃破以降、機凱種(エクスマキナ)に手を出すことは禁忌と、アヴァント・ヘイム内ですら統一見解でございましてぇ、レア度が高騰に高騰し、今やプラチナ首でございます!」

 

 

「【警告】正当な認識と断定。当機と敵対するなら相応の対応を実行する」

 

 

 だがその言葉に、ジブリールが口元を吊り上げて答える。

 

 

「——『解析体(プリューファ)』1機で——でございますかぁ?♪」

 

 

 ————————焦りを表情に出さないでいられただろうか。

 それだけを心配するシュヴィに、構わずジブリールは続ける。

 

 

「半径100km内に機凱種(エクスマキナ)の反応はないと確認してございます♪するとはて連結体(クラスタ)で行動する機凱種(エクスマキナ)が何故単独でおられるか、興味は尽きのうございます♪それと——」

 

 

 そして——悪魔のような笑みで、ジブリールは続ける。

 

 

「〝単独〟でしたら、お得意の『模倣対処(さるまね)』も出来ず、レア度激高の、プレ〜〜ミアムなネックをテイク出来るチャンスだとジャッジしますが、いかがでございましょう?❤︎」

 

 

 シュヴィは再度声に出さず思った——最悪、と。

 よりによって、全種族中最もデタラメな種族——その中でも更に無軌道で最強の個体に見つかるとは、まったくリクの言う通り確率論はくだらないと認めるしかない。

 ——初めて引いたカードが、よりにもよって『ジョーカー(ババ)』とは。

 

 

「それでは——お首チョンパしますので、どうか動かないよう。抵抗は無駄でございますし、お互い手間もかからず済むかと♪機凱種(エクスマキナ)にはどうせ『死』の概念も無——」

 

 

「…………断、る……」

 

 

「……——はい?聞き間違いでしょうか」

 

 

 ——『死』——その言葉に、咄嗟にシュヴィは口を開いた。

 リクが定めた【ルール2】誰も死なせてはならない——死ぬわけにはいかない。

 まして『死』で連想した——2()()()()()()()()()()恐怖が——その要求を棄却した。

 

 

「……死にたく、ない……死ぬわけ、には——いかない……」

 

 

 ひたすら目を丸くするジブリールに、シュヴィは続ける。

 

 

「……当機、は、連結解除、された……廃棄機……機凱種(エクスマキナ)として、価値、ない」

 

 

 ——だから。

 

 

「……懇願、する……見逃して、欲しい……」

 

 

 ——だがシュヴィは、最悪の選択をしたことに、気付かない。

 眼前の〝デタラメ種族の更に無軌道な者〟を——あまりに理解していなかった。

 

 

「なんと……死を恐れる機械ッ⁉︎しかも機凱種(エクスマキナ)()()⁉︎その上連結解除——欠陥品ということでございますか⁉︎ももももはや【レア5】どころではございませんよッ⁉︎」

 

 

「…………—————」

 

 

「うぇへ、うえへへへへぇ〜〜み、皆が羨ましがって決闘の連続でごさいますね‼︎」

 

 

 涎を零しながら——致死の殺気を放つジブリールに、シュヴィは『失敗』を認めた。

 ()()——リクなら上手くやれただろう、手を離すべきではなかった——だが。

 

 

「……最終、勧告……」

 

 

「はいどうぞご自由に。結果は変わりませんが♪」

 

 

 光で編んだ剣を具現化させ、今にも斬りかかってきそうなジブリールを見据えて。

 

 

「……死にたく、ない……死ねない……それでも、殺す、なら——」

 

 

 シュヴィは、ポツポツと……だが決然とした口調で言い放つ。

 

 

 ——彼我戦力、考察

 彼——天翼種(フリューゲル)ジブリール。戦力未知数——平均的天翼種(フリューゲル)の倍と仮定。

 我——機凱種(エクスマキナ)解析体(プリューファ)』。戦闘特化機体『戦闘体(ケプンファ)』出力の32%未満。

 また、我には機凱種(エクスマキナ)の最大の武器である連結体(クラスタ)——支援機不在。

 使用可能な武装は、連結解除状態の為、全27451のうち、47のみ。

 算出勝率——絶無。だが——リクの言葉が思考を過る。

 ——確率論に『0(ゼロ)』は——ない——。

 

 

「【読込(ラーデン)】コード1673B743E1F255スクリプトE起動——【典開(レーゼン)】——」

 

 

 同時展開出来る全ての武装を典開させ——シュヴィは宣言した。

 

 

「——全武装……戦力、戦術、戦略を賭して……命乞い、開始する」

 

 

「おや?機凱種(エクスマキナ)は撃破要因を解析し模倣する種のはずでございますが——」

 

 

 だがシュヴィの宣戦布告を、ジブリールは——神さえ嘲る顔で、答える。

 

 

「もしやどなたか()()()()()()ので?非常にユニークでございますねぇ❤︎」

 

 




 それでは第25話をお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第25話 機凱種(シュヴィ)VS天翼種(ジブリール)

 最近ノゲノラの大戦に転スラのリムル陣営ならマトモに参加出来るのではとという疑問で頭が一杯で夜しか眠れない( ˘ω˘ ) スヤァ…
 リムルは原作の最後に過去に転移してたからなぁ。時止めるキャラとか普通にいるし。でもノゲノラの世界は時間干渉は不可能らしいしなぁ。それにあの世界で和解とか仲間誰も死なせずとか不可能だしなぁ。
 そこそこ勝ち続けるけど最終的に全種族にタコ殴りにされて滅びそう。
 スキル使ってリクみたいに大戦終結を目指せばワンチャンあるかな?
 どうでもいいね。さすがに大戦を題材に二次創作は無理だし。

 それでは第25話をどうぞ


 即断——〝短期決戦〟——それ以外に勝機なし、とシュヴィは結論づける。

 シュヴィの典開した全ての武装が一斉に、超高濃縮の精霊を粒子として放射し出す。

 まともな生物——たとえ森精種(エルフ)やメリオダスでも触れれば即死に至る高濃度の精霊粒子を——

 

 

「——『制速違反(オーヴァ・ブースト)』——ッ」

 

 

 〝揮発〟させる——瞬間、シュヴィはジブリールの視界から消失した。

 超高濃縮精霊に指向性を与えて揮発させることによる超加速。揮発した精霊は大量の碧い『霊骸』を吐き出し、汚染を撒き散らしながら——だが物理の壁を易々と突破する。

 それが機凱種(エクスマキナ)が使う、本来魔法が使えない種の、機械的で強引な〝魔法〟の使用法。

 瞬間移動に等しい機動で動くシュヴィを——だが。

 

 

「……まさか、この程度で私から逃げられると思ってございませんよね?」

 

 

 空間転移(シフト)により、()()()()()()()跳躍して先回りしたジブリールが嘲笑する。

 嘲笑うように、弄ぶように——山を裂く光の刃を振り下ろすジブリールに、だが。

 シュヴィは内心、その質問に——解答する。

 ——()()()()()()()()()()()()と。

 

 

「——『全方交差(アシュート・アーマ)』——」

 

 

 迫り来る防御不可の光刃を、先程の加速を生んだ超高濃縮精霊の揮発——すなわち。

 物理を超える力を、()()()()()()()()——〝攻勢防壁〟となす。

 超高濃縮精霊を大量に殺して霊骸へ変じさせ——碧い球状の粒子膜を広げる。

 瞬間、衝撃とエネルギーが大地を抉るように広がった。

 ——それだけで小さな都市を消失させる規模の力なのだが——

 

 

「はた迷惑な……霊骸を撒き散らす兵器、環境に優しくない機械にございますね……」

 

 

 ——『全方交差(アシュート・アーマ)』——衝撃と高度霊骸汚染で大抵の生物が死滅するシュヴィの防壁を、だが嫌そうに口を覆いながら、ジブリールは埃を払う程度の仕草で切断した。

 予測通りと内心シュヴィは断定する。いかに天翼種(フリューゲル)といえど、戦神(アルトシュ)に編まれた魔法である天翼種(フリューゲル)には、魔法を阻害する霊骸は実体化維持の阻害要因(どく)になる——ッ!

 

 

「しかしこの程度で私をどうにか出来ると————————はて?」

 

 

 切断した碧い光の衝撃膜の向こう、シュヴィの姿がないことにジブリールが困惑する。

 シュヴィが内心、再度その質問に——解答する。

 ——()()()()()()()()()()()()と。

 『全方交差(アシュート・アーマ)』起動と同時、再度『制速違反(オーヴァ・ブースト)』で距離をとりシュヴィは標準を定める。

 ——元より天翼種(フリューゲル)機凱種(エクスマキナ)単体で撃破することなど、ほぼ不可能だ。

 天文学的低確率——軌跡の果てに成功し得てもリクが設定した【ルール】に違反する。

 短期決戦による勝利。勝利条件は、たった1つ——『逃亡』。

 

 

「——【典開(レーゼン)】——『偽典・焉龍哮(エンダーポクリフェン)』——ッ」

 

 

 かつて機凱種(エクスマキナ)が交戦し——リクの故郷を奪ったシュヴィには、忌わしい兵器。

 焉龍(アランレイヴ)の『崩哮(ファークライ)』を再現する、シュヴィの有する最大火力がジブリールを捉える。

 世界を穢す霊骸を嵐が背後に噴出し——砲口が光を噴く。

 迫り来る光にジブリールは眼を剥き、そして光に灼かれ——

 

 

 ————、

 

 

 シュヴィは内心リクに謝罪する。また地図を修正する必要がある。

 ——『偽典・焉龍哮(エンダーポクリフェン)』はジブリールに直撃と同時——地形を変えた。

 碧い爆光は地殻を抉り取り瞬間的に蒸発、赤く()()した大地は小規模な地殻津波を引き起こし、数千度に達する超高熱の土砂を瞬時に成層圏まで届かせる……。

 たとえ龍精種(ドラゴニア)であろうと、直撃を受けて無事では済まない、星の形を変える程の力。

 だがシュヴィは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「——『一方通行(ウィン・ヴィーク)』——ッ!」

 

 

 着弾確認と同時、シュヴィは最後の武装を起動させる。

 天翼種(フリューゲル)や、森精種(エルフ)の行う空間転移(シフト)の対策として機凱種(エクスマキナ)がデザインした〝空間破砕器〟。

 砕いた空間の穴は文字通り一方通行にシュヴィの体を包み、そして閉じていく。

 ——探知不可能距離まで跳躍すればさしものジブリールも追って来られない。

 だが『一方通行(ウィン・ヴィーク)』で跳躍出来る距離は精々が100km——同じ距離内に機凱種(エクスマキナ)の反応がないと言ったジブリールの探知可能限界距離は予測不能だ。跳躍先で再度迎撃——

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「——おやぁ?どちらへ行かれるので?」

 

 

 ————シュヴィの思考が止まった。

 

 

 砕けた空間が閉じるまでの——0.000046秒間——刹那未満の時間。

 ジブリールは空間に手を差し込み——強引に、力業でこじ開け、顔を覗かせていた。

 地獄から響く声、能面の笑みが張り付いた顔で——

 

 

「私から逃げるのでしたら、長距離跳躍ではなく、光と粉塵に紛れて『視界外』へ移動してからにすべきでございましたねぇ……あ、それとも、もしやと思いますが——」

 

 

 強引にシュヴィが砕いた空間を再度——〝引きちぎった〟事実が。

 シュヴィに未知の感情を定義させ、射撃体勢だった姿勢から尻餅をつかせた。

 

 

「先程の攻撃で私に損傷でも与えられるとでも見込んでございましたか?」

 

 

 ——定義——これは『悪夢』だ。

 

 

 

 

 あり得ない。あり得ないあり得ないそんなはずない——ッ!

 

 

 確かに『偽典・焉龍哮(エンダーポクリフェン)』は、アランレイヴの『崩哮(ファークライ)』の威力を完全再現出来ているわけではない。43.7%の再現——それが『設計体(ツアイヘン)』の報告だった。

 だが、焉龍は、龍精種(ドラゴニア)の中でも上位3体に含まれる【王】の1体だ。

 その個体が、自己崩壊を代償に放つ『崩哮(ファークライ)』——いくら43%とはいえ——

 

 

「……少々、私をナメすぎですね……スクラップ風情が……♪」

 

 

 その〝直撃〟を受けて——〝無傷〟など——

 ——そんなの——あり得るはずが——————ッ

 

 

「ですがこの私に——()()()()を展開させたことは、評価してあげましょう」

 

 

 ——ジブリールの言葉に、シュヴィは己の聴覚装置異常を疑う。

 天翼種(フリューゲル)は、その身そのものがアルトシュに編まれた、一瞬の魔法だ。

 故に防護魔法と呼べる、自己を維持する術式は——()()()()されている。

 故にこそ『偽典・焉龍哮(エンダーポクリフェン)』で貫けると計算した。だがこの天翼種(フリューゲル)——いや。

 再定義——この『例外(イレギュラー)』は、ジブリールは。

 創造主(アルトシュ)に形成された防護を〝疑い〟——更に強力な防護を展開したことになる。

 天翼種(フリューゲル)の行動ではない。あり得ない。

 そこまで思考したとき、シュヴィはメリオダスの言葉を思い出した。

 「天翼種(フリューゲル)だが天翼種(フリューゲル)と呼べない」メリオダスは『例外(ジブリール)』のことを言っていたのか——

 

 

「首を持ち帰る為、〝精一杯〟手加減していましたが——気が変わりました」

 

 

 ————、

 

 

 この『例外(イレギュラー)』は今、なんと言った?()()()()()()()と言った?

 

 

「あなたに脳と呼べるものがあるか、存じ上げませんが……」

 

 

 その『例外(イレギュラー)』は目を丸くするシュヴィに、スカートをつまみ一礼するように。

 優雅に帯をつまみ、鈴のような、天使のような、だが悪魔のような顔で、

 

 

「つけあがり過ぎのようで。少し冷やしてさしあげましょう——()()()

 

 

 ——次に認識出来たのは、右腕が消し飛んだことだった。

 

 




 そういえばメリオダスの全反撃(フルカウンター)じゃ『制速違反(オーヴァ・ブースト)』や『全方交差(アシュート・アーマ)』は返せないでしょうね。
 あれ、精霊じゃなくて霊骸だし。

 それでは第26話をお楽しみに


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第26話 唯一の勝ち筋

 年末までに終わらそうでホッとしている私です。
 2章どうしようかな〜。

 それでは第26話をどうぞ。


 解析体(シュヴィ)——機凱種(エクスマキナ)中最も認識性能に特化した機体が、()()()()()()()()()()に。

 ただ『右腕部消失』という、損害報告を確認するのが限界だった。

 何をされたのか、把握も許されず戦闘能力を奪われた——が。

 

 

「……おや。胴体を狙ったのですが——手元が狂いましたか?」

 

 

 これがリクが——人間がいう『勘』という物か。

 論理(ロジック)を無視した咄嗟の回避行動で辛くも『大破』を免れたと遅れて自覚する。

 

 

「…………何故でしょう、妙な気分ですね……」

 

 

 シュヴィは知るよしもないが、ジブリールは妙な確信を抱いていた。

 ——ただの機凱種(エクスマキナ)、それも『解析体(プリューファ)』一機が、自分の攻撃を凌いでいる。

 何故単機で動いているのか、何を以てして自分の攻撃を凌いでいるのか——

 興味は尽きないが——暇潰しにアヴァント・ヘイムから飛び出す前に自分と同時に造られた最終番個体(クローズ・ナンバー)であり『番外個体』でもある——言わば双子のような()が言った言葉——「機凱種(エクスマキナ)に気をつけろ」——聞いた時は機凱種(エクスマキナ)ごときに?と思ったが今は——

 

 

()()()()がします。そろそろ鉄屑らしく、物言わず地に埋れましょうか」

 

 

 質量さえ帯びる殺意を以て放たれた言葉に——シュヴィもまた理解する。

 確率論に『0(ゼロ)』はない。リクを信じ、涅槃寂静の確率に賭け交戦、逃走を図った。

 だが、ことここに至り、もはや確率論などという話ですらなくなった、と。

 この『例外(バケモノ)』を相手に——もはや逃走も、生存さえも、如何なる論理・暴論を駆使してさえ不可能だと、他ならぬ『勘』と名付けた非論理思考までもが断じていた。

 ——だが——それでも、とシュヴィは思考を振り払う。

 ——それでも——『勝つ』必要がある。

 論理の塊であるはずのシュヴィが、明確に認める。

 

 

(……死にたく、ない……死ぬの……怖い、よ……リクぅ)

 

 

 2度とリクに会えない。

 その事実に、思考回路が凍り付くような錯覚を覚えるが——()()()()()

 リクとメリオダスが——夫と弟が——その仲間が、『幽霊』達が。皮膚を焼き内臓を焦がし、全てを賭けて求めた——たった1つの勝利が。

 

 

(…………()()()()()()()()、……『敗北』……なんて——)

 

 

 認められない。断じて——認めるわけにはいかないッ!

 ——ならば、どうする。

 この状況から——『勝つ』にはどうすれば——時さえ止まる速度で思考して、

 ——はたしてシュヴィは、

 1つの〝手段()〟に思い至った。

 リクを思えば最低の手段だ。

 自己嫌悪に潰れそうな最悪な発想だ。

 それでも——必敗の状況を招いた自分が——描ける唯一の勝ち筋——

 なら——

 

 

【個体識別番号Üc207Pr4f57t9——『Ü連結体第一指揮体(ユーバ・クラスタ・アイン)』へ、()()()()()

 

 

 〝通信〟——かつて自分を廃棄処分した機凱種(エクスマキナ)の『連結体(クラスタ)』へ語りかける。

 ——返事はない。

 ジブリールが——次は外さないと語る目で、再度光を圧縮させていく中、

 

 

【再度申請ッ『(いのち)』の解析完了、時間がない——〝同期〟——再連結をッ】

 

 

 ——永遠とも思える僅かな間をおいて——通信が応じる。

 

 

【Üc207Pr4f57t9、貴機は永久連結解除処分にある。申請を却下する】

 

 

 近く死の音に、シュヴィはなおも吠えるように通信する。

 

 

()()()()()()ッ データ同期『全連結体指揮(アインツィヒ)』へ転送を強く申請ッ 『解析体(プリューファ)』のアインツィヒへ対する如何なる報告も、ユーバ・アイン、貴機に転送拒否権はないはずッ!】

 

 

 連結体(クラスタ)の『指揮体(ベフェール)』に反論——挙げ句、論破するシュヴィに——返事は、ない。

 だがシュヴィは〝苛立ち〟に、叫ぶようになおも通信を続ける。

 

 

【——ユーバ・アイン……ううん、訂正……()()()()()ッ!」

 

 

【————】

 

 

【……本当はッ 誰にも渡したくないッ ……この感情(おもい)……シュヴィの、もの】

 

 

 ——リクが好き、リクと離れたくない、リクに貰った抱えきれない程の『(エラー)』。

 誰にも渡すものかと決めていた。だって——〝恥ずかしい〟もん……。

 〝シュヴィだけのもの〟だもん——ッ!それ、を——ッ!

 

 

【……それを……渡すって、言ってるのッ その意味、わかってよ……バカぁッ‼︎】

 

 

 ——だって、それ以外に、方法がない。

 それ以外に、シュヴィのミスを帳消しにし、リクを『勝たせる』方法が思いつかない。

 通信だということも忘れ。だから——と、声に出しシュヴィは叫んだ。

 

 

「……ゴチャゴチャ、言わないでッ この想いを——()()()よぉぉッ‼︎」

 

 

 …………————、

 

 

【Üc207Pr4f57t9。やはり貴機は壊れている】

 

 

【……()()()()ッ】

 

 

【矛盾している。破綻している。それでも稼働している。異常だ。不正だ】

 

 

【……それも、()()()()ッ】

 

 

【故に】

 

 

 

 

【貴重なサンプルデータと判断する】

 

 

 ——瞬間。解除されていた連結——()()()()()()()()()()()のを感じる。

 数年ぶりの——己を含めて437機と感覚共有される——あの感触が戻る。

 

 

【貴機を『特例該当』と判断。データ同期——開始する】

 

 

 本来の、機凱種(エクスマキナ)としての感覚——連結体。複数で1つの群体。思考。

 今はそれが——頭を無遠慮に覗き見られる感覚が、酷く気持ち悪く感じて。

 それでも、今は、必要——そう決断しただろうと、シュヴィは頭を振る。

 

 

【なお、同期完了まで、貴機の損壊に関わる行動は——】

 

 

 禁ずる——と続けようとした通信は、現状を把握し——言葉を切った。

 再連結された今、シュヴィの属するユーバ・クラスタの全機が現状を把握した。

 ——対峙している敵。天翼種(フリューゲル)最強個体——ジブリール。

 それと単機で相対し、まだ稼働している事実に全機がエラーを吐くのを感じた。

 その反応に、シュヴィは同期完了が待ち遠しい、と笑った。そのエラーこそ——『驚愕』という、1つの感情なのだから。

 そうだろう?()()()()()()()()、相手が『例外(ジブリール)』ということを差し引いても。

 天翼種(フリューゲル)と——『解析体(プリューファ)』単機で戦闘出来ている状況自体が——()()()だろう?

 ——だがこれが現実だ。リクに貰った『心』が示す——

 ()()()()()()()()()()()、その厳然たる事実の一端。

 

 

【——状況把握。Üc207Pr4f57t9——機凱種(エクスマキナ)が所有する全武装の()()()使()()()()

 

 

 機凱種(エクスマキナ)が所有する——27451個の武装の、典開ネットワークが解除される。

 

 

【あらゆる武装、火力を以て戦闘、同期完了まで〝全壊〟を禁ずる】

 

 

 シュヴィは、苦笑して応える。

 ——こういう時、人間なら——魂あるものなら、こう言うだろう。

 

 

【……〝死ぬな〟……って、言えない、の……?】

 

 

 ユーバ・アインはわからない。全壊と死に如何なる概念相違が——だが——

 

 

【共有完了まで〝死ぬな〟これは命令だ拒否は承認しない。以上(アウス)

 

 

 その返答に手応えを感じて、シュヴィは思った——きっとわかってくれる、と。

 顔を上げ、視界に映ったのは迫る死——ジブリールと。

 

 

「…………え?」

 

 

 ——《同期完了まで——4分11秒》の文字だった。

 何かの間違いではないのか。どんなデータも同期に3秒以上かかったこと——

 そう考え、だがシュヴィは頭を振り納得する。当然だ——『(たましい)』の同期なのだから、と。

 リクから貰った、抱えきれない程の想い、気持ち、感情、記憶。どんな武装、兵器、情報よりずっと——ずっとずっと『おもい』だろう。

 リクの顔が脳裏に過り、シュヴィは悲しげに笑う——これは『ゲーム』だ。

 4分11秒、つまり251秒、死の具現たるジブリールから、生き延びる。

 制限時間内を生きれば勝ち、死ねば負け。リクが……1番嫌う『ゲーム』だ。

 

 

「……この想い、心……機械に生まれ、て……命を、貰った、その全て——」

 

 

 ——この251秒に——賭ける——ッ‼︎

 

 

「——全典開(アーレス・レーゼン)——ッ」

 

 

 機凱種(エクスマキナ)が有する全武装、全火力、全装置を限界まで同時典開する。

 殺害や破壊の為だけに造られた道具が織り成す愚かな——巨大な鉄の翼を広げる。

 

 

「——おや、当てつけのつもりで?……上等でございます❤︎」

 

 

 そう言ってジブリールもまた——光を放出するように巨大な翼を広げて——嗤う。

 天翼種(フリューゲル)例外個体(イレギュラー)』ジブリール。その戦闘力は未だ未知数。

 機凱種(エクスマキナ)の全武装を使用して尚、単独撃破は不可能と、()()

 生存可能限界時間——推定不能。

 ——だが、問題ないとシュヴィは頷き。

 

 

「——【構築(フォルメ)】……()()()()()()()()()()()()——起動」

 

 

 そう言って構築し出したモノで、連結体(クラスタ)がエラーに喘ぐのを感じる。

 シュヴィは思う——何を驚く。敵が未知なら、想定しえない全てを想定するまで。

 理解しようとするな。計算しようとするな。感覚で動け——ただそれだけだ。

 

 

 目の前の『死』から251秒生き延びる。

 論理(ロジック)が問う——出来るのか?

 感情(エラー)が返す——愚問だろう?

 人間は、それ以下の条件で——永遠に近い時を生き延びたのだ。今更たかだか4分や5分が、いったいなんだ——ッ‼︎

 

 

「……〝シュヴィ〟……」

 

 

「はい?」

 

 

「名前、言って……なかった……」

 

 

 ——それが〝わたし〟……リクがくれた大事な大事な——名前(わたし)

 一瞬怪訝そうにして、ジブリールが小さく会釈して、応じる。

 

 

「さようですかを私はジブリール、どうぞお見知りおきを——そして」

 

 

 

 

「さようなら、でございます」

 

 




 この後マジで旧作とほぼ変わらないので旧作を読んでくださった方は見なくても大丈夫です。

 それでは第27話をお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第27話 決着

 今回でジブリール戦終了です。

 それでは第27話をどうぞ。


 天変地異が駆け抜けたような大地に立ち、

 

 

「…………人形風情がここまで私をおちょくるとは——いい度胸で」

 

 

 たかが機凱種(エクスマキナ)、『解析体(プリューファ)』1機を破壊出来ずにジブリールは怒り濃く呟く。

 

 

「………死ね、ない——まだ……死ね、ない……のぉ——っ」

 

 

 限界を超えて、シュヴィが動く。節々をプラズマ化、白く発光溶解させて。

 反応も感知も出来ない、ジブリールの攻撃の嵐の中——辛うじて立っていた。

 機凱種(エクスマキナ)の全武装と、人間(リク)に教わった全てを駆使して、死にもの狂いで足掻いていた。

 ——相手の舞台に立つな、主導権を絶対に渡すな。

 ——相手を油断させろ、取るに足らぬ相手だと理解させろ。

 ——相手を警戒させろ、下手を打てぬ相手だと錯覚させろ。

 ——相手を予測するな、ただ誘導すれば結果は見える——

 反応出来ない攻撃は先読みすればいい。予想出来ないなら誘導すればいい——

 そうして紙一重で躱し、捌き、相殺し——ジブリールが驚嘆を超えて怒りに震える。

 連結体(クラスタ)機凱種(エクスマキナ)達はもはや理解を逸し、ただ『エラー』を連呼。

 だが——満身創痍のシュヴィが見ているのは、視界に表示される数字だけだった。

 

 

 ——《72秒》

 

 

(……ねぇ……リク……どうして、かなぁ……)

 

 

 リクと手を繋いでいる時は1時間すら一瞬に感じたのに——

 ジブリールの攻撃を、だが完全には捌ききれず、右腹部が消し飛ぶ。

 

 

 ——《51秒》

 

 

(……リクぅ……今は、1秒が、永遠に感じる……よ……)

 

 

 再度放たれたジブリールの光波が、今度は左手に着弾しそうになり、

 

 

「——ッ⁉︎ 【典開(レーゼン)】——『通行規制(アイン・ヴィーク)』ッ」

 

 

 シュヴィが信じがたい反応速度で典開した『通行規制(アイン・ヴィーク)』に逸れた光波は。

 左腕ではなく——胸を穿った。

 

 

「——ようやくミスらしいミスを……手間をかけさせてくれましたねぇ」

 

 

 ジブリールの声に、だが上の空でシュヴィが問う——

 

 

 ——《24秒》

 

 

「……ミス……?……()()()()()()……」

 

 

 確かにもう動けず、完全に動きを封じられた。でも、と視線を動かしシュヴィは微笑む。

 左手——その薬指と手首にある——最愛の夫と弟(ふたり)からもらった指輪と腕輪は、守れたよ…………

 

 ————、

 

 

「……さようで、ございますか——鉄屑と呼んだことを〝謝罪〟致します」

 

 

 その様子にジブリールが何を感じたのか——シュヴィには知る由もないが。

 ドクンッ——と。それ自体が攻撃であるかのような精霊の胎動が生じる。

 為す術もなく地に転がるシュヴィの頭上、天高く。

 光輪を複雑に——巨大に描き、両腕を広げるジブリールが言う——

 

 

「あなた()()は、ここで、確実に排すべき〝脅威〟——『敵』に値すると認めましょう」

 

 

 機凱種(エクスマキナ)の兵器が使う濃縮精霊の比ではない。

 大気から、星から、強制搾取された精霊が——圧縮濃縮凝縮されていく。

 発光する精霊——ジブリールの両手に、揺らめく不定形な『槍』が出現する。

 

 

 ————『天撃』——

 

 

 天翼種(フリューゲル)の最大最強の一撃。

 機凱種(エクスマキナ)にも『天撃』の模倣兵器はある。シュヴィも目撃するのは初めてではない。

 だがジブリールのそれは——渦巻いている力は。

 データ上の、知識上の『天撃』とは——あまりに桁が違い過ぎて。

 シュヴィは悔しげに、悲しげに表情を崩した。

 ——『例外(イレギュラー)』ジブリール——やはり、どうにもならな——

 

 

【同、期……完、了】

 

 

 頭上に渦巻く膨大な力の影響か、ノイズ交じりに——通信が告げた。

 ——……嗚呼、

 いつも間にか——気付けば。

 

 

【Üc207Pr4f57t9改め——〝『遺志体(プライヤー)』シュヴィ〟……】

 

 

 視界に表示されていた数字は——《同期完了》を示していて、

 

 

【あとは〝我ら〟に任せ()()ことを許可する——良い夢を】

 

 

 ——『天撃』が降り注ぐ中、ジブリールの顔を見やり——シュヴィは嗤った。

 ——この『ゲーム』——シュヴィの勝ち、だよ……。

 

 

「————?」

 

 

 その顔の違和感に顔をしかめるジブリールを他所に、シュヴィは最期の声をあげる。

 

 

「——【典開(レーゼン)】——『進入禁止(カイン・エンターク)』————ッ‼︎」

 

 

 ——あの『天撃』を防ぐことは不可能だ。

 ジブリールの宣言通り、自分は物言わぬ鉄屑(スクラップ)になる……それを覆す術は、ない。

 だが『進入禁止(カイン・エンターク)』の全出力を〝半径12mm〟に収束させれば——守れるはずだ。

 ……リクから貰った、この、指輪だけ……は……

 メリオダスから貰った腕輪が守れないことに悔し気に顔をしかめるシュヴィに。

 リクから貰った『心』が、()()()()()()()()()()、絶対的な力が降り注ぐ。

 その直撃——この身も、思考も、コンマ秒後には、この世から消える——

 …………だが、何故だろう。

 迫り来るジブリールの天撃が、酷く遅く感じた。

 思考の異常加速を感知——これが人間がいう、走馬燈だろうか。

 シュヴィは考える——どうして、こうなっちゃったのだろう、と。

 加速している思考は、即座に答えを提示してくれた。

 なんてことはない、単純な話だった。

 

 

(……リク……シュヴィ、やっぱり……リクがいなきゃ……何も出来ない、よ……)

 

 

 ——なのに1人でも『通行規制(アイン・ヴィーク)』の設置は出来る、リクを危険にさらす必要はない、と。

 その思い上がりが、この結果を招いた——やっぱりリクは正しかった。

 リクならたぶん——絶対。この天翼種(ジブリール)さえ欺いて戦闘を回避出来た——確信出来る、と。

 どうしてリクの手を離したのだろう。

 もう疑わないと決めていたのに。

 ずっと側にいろと言われた。1秒だってリクから離れるべきじゃなかった……

 

 

(……ごめん、なさい……リク……それでも、()()()()()……残した、から……)

 

 

 リクが絶対、納得してくれないと知っている。

 ——でも、リクは断れないことも知っている。

 それがリクにとってどれほど辛いことか知っているのに。

 なのに、拒否出来ないことも、痛いほど知っているのに。

 

 

 ——ごめんなさい、コロン(おねぇちゃん)——シュヴィ——最期まで——

 ——〝素敵なお嫁さん〟に——なれなかった、よ……

 

 

 ——ごめんなさい、メリオダス——せっかく——忠告してくれたのに——こんな結果になって——

 

 

 ——それ、でも——

 

 

「……リク……ねぇ、リクぅ……」

 

 

 届かない、夫の名を呼ぶ。

 音声出力器はとっくに壊れた。音にもならない。

 届くはずもない、それでも、言わなければならない。

 

 

「……シュヴィ…….やっと、わかった、よ……?」

 

 

 一度も言えなかった言葉があったと、思い出したから。

 

 

「……シュヴィ……リクに会えて——本当に……幸せだよ……」

 

 

 今——それが明確に、わかったのだから。

 

 

「……()()()……二度と、離れない……よ」

 

 

 

「……ほんと、に……愛してる……よ——————…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キィィィィィン

 

 

 シュヴィを飲み込むはずだった天撃に圧縮させていた精霊が破壊力を失い、四散していく。

 それにより発生した凄まじい強風を受けながらシュヴィは目を見開く。

 その視線の先には——

 

 

 剣を背負った金髪の少年が手を前に出していた。

 少年は手を下ろしながら、驚愕に顔を染めたジブリールを睨んでいた。

 

 

 

「……メリオ……ダス……?」

 

 

 シュヴィは音にならない声で、ただ1人の弟の名を呼んだ。

 




 というわけで旧作同様シュヴィ生存です。
 次回も旧作同様幼児化(じゃくたいか)したジブリールからの逃走劇です。

 それでは第28話をお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第28話 逃亡劇と会話

 今回は旧作の二話分です。
 1周年のアンケート締め切りまで後僅かです。まだの方はお早めに。

 それでは第28話をどうぞ。


メリオダス視点

 あ、あっぶねええぇぇぇぇッ‼︎

 

 

 俺は努めて平静を装いつつ、内心で絶叫した。

 後少し遅ければシュヴィは確実に死んでいた。

 いやタイミングを間違えれば俺も死んでいたかもしれない。

 

 

(死ねるかぁぁ!ここで死んだら()()()()()()()()()まま終わるだろぉぉ!)

 

 

 俺はそんなことを考えつつ、未だに呆然としているジブリールから視線を外し、後ろのシュヴィに向けた。

 一言で言えば——ボロボロだった。

 右腕は消え、胸に穴が空き、節々が溶けていた。

 さぁこの状況を見て皆様はこの人でなし!と思っておられることだろう。

 もう人ではないというマジレスは置いといて、しかしぐうの音も出ないことは事実だ。

 

 

 しかし、言い訳をさせてくれ。

 まず元々の俺の計画ではここまで放置するつもりはなかった。

 俺はシュヴィが連結体(クラスタ)との同期を開始した時に合流し、同期完了までに一緒に時間稼ぎをし、その後一緒にスタコラするつもりだった。

 俺はメリオダス(おれ)の力なら出来ると思っていた。——2人(デタラメども)の戦闘が始まるまでは……

 俺はシュヴィが隠れ家から飛び出してから時間を置き、シュヴィを付けた。

 俺はシュヴィに気付かれずにジブリール遭遇まで付けることが出来た。

 俺スゲェー、と自画自賛しつつシュヴィとジブリールの会話を見ていたのだが、直後……

 シュヴィが碧い霊骸を出しながら俺の視界から消えた……。その後転移したのかジブリールまで消えた。

 しばらく放心しているとここより遥かに彼方より爆風と光が届いた。

 まぁ、つまり、機凱種と天翼種(デタラメども)を俺は完全に舐めていた。

 最凶状態にならないどころか魔神化すらしていなかった……していても捉えられたかどうか怪しいが……。

 

 

 その後完全に2人を見失った。

 そしてつい先程2年前に目撃した懐かしい天撃の気配を感じて、最凶状態の魔神化までして全力で飛んで来た。

 まぁ、俺が悪いという事実に変わりはない訳だが決してシュヴィがこんな状態になるまで放置していた訳ではないッ。……ホントだよ?

 俺は別にシュヴィがどうでもいいわけではない。

 大切に思っている。欲を言えばシュヴィを傷つけることすらしたくなかったくらいだ。

 

 

「……あなたは……何に、ございますか?」

 

 

 茫然自失から復活したジブリールが俺に問う。

 ……しかし、何呼ばわりとは失礼な。

 

 

「そうだな……『幽霊』とでも答えておこうか」

 

 

 俺はジブリールにそう言いつつ、シュヴィを右手で抱き上げる。……カラカラと部品が落ちたことは気にしないでおく。

 

 

「もしや……逃がすとお思いで?」

 

 

 十字の模様を灯す琥珀色の瞳を鋭く、殺意を込め——問う。

 俺は応えず恐怖を押し殺しながらニヤリと笑い、

 

 

「じゃあな、ジブリール。『 』(くうはく)によろしく」

 

 

 俺は最凶状態のまま魔神化し、翼を展開し、隠れ家へ向かって飛んだ。

 音を置き去りにして飛翔する。ボロボロのシュヴィにはこの風圧に耐えられるか不安だったので闇で覆っている。

 後ろをチラリと見る。

 すると、弱体化してなお此方に追いすがるジブリールの姿があった。

 流石に空間転移(シフト)は使えないようだが、スピードは殆ど同じだ。

 そりゃそうかと内心苦笑する。もう、過少評価はしない。

 相手は幼児化(じゃくたいか)した状態で森精種(エルフ)を大量殺戮したこともあるのだ。

 

 

 軽く十数km程追いかけっこを続けていると、追いつかないと判断したのかジブリールが光波を無数に放ってくる。

 俺は背中のロストヴェインを抜き、命中弾を『全反撃(フルカウンター)』で跳ね返す。流石にジブリールは目を見開くが回避する。

 ジブリールが俺達から僅かに目を離した隙に近くの岩山へロストヴェインを何度か振る。

 すると、岩山は砕け、大量の岩と砂埃が舞う。俺達とジブリールはそれに覆われる。

 その後俺は後ろへ振り向き、『獄炎(ヘルブレイズ)』を飛ばす。

 

 

 後方で立ち昇る巨大な黒い火柱は見ずに真っ直ぐ前を向いて飛ぶ。

 ……死んでない、死んでない、と自分に言い聞かせながら……。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 その後、ジブリールは追ってこなかった。……死んでないよね?

 死んでないと信じて俺は速度を緩めず隠れ家へ向かう。

 谷のような場所を飛んでいると——前方から大量の精霊反応を感知した。

 まずいッ!と方向転換しようとするが——前方から多数の地精種(ドワーフ)の空中艦隊が出現した。

 

 

(バカかッ俺は⁉︎ここはこの世界でも最高戦力が集まっているんだぞ!ジブリールから逃げ切ったくらいで何を安心しているッ‼︎)

 

 

 自分を誹り、直ぐさま方向転換する。

 しかし、相手も此方に気づき——いや。

 もしかしたら最初から気づいていたのかもしれない。

 あっちは地精種(ドワーフ)の戦艦——精霊反応を感知する霊装くらい搭載しているだろう。

 俺は精霊反応の感知範囲が狭い。

 俺が気づかない距離から俺の——もしかしたらジブリールのも——精霊反応を探知して調べに来たのかもしれない。

 

 

 ともかく、此方に気づいている奴らは砲撃を開始した。

 ジブリールのものより濃密な弾幕に俺は逃げる。

 背中のロストヴェインを抜こうとした時、左腕が消し飛んだ。

 

 

「ぐッ、クソがッ!」

 

 

 俺は諦め、ひたすら飛ぶ。

 しかし、避けきれず次は背中に直撃した。

 終わりか、と一瞬思ったが、

 

 

ガキイイィィィインッ!

 

 

 背中のロストヴェインに当たり、辛くも即死を免れた。

 それでも背中に大火傷を負ったが安いものだ。霊骸汚染に比べれば屁でもない。

 しかし、ロストヴェインの鞘が消し飛び、ロストヴェインが宙を舞う。

 それを見て、反射的に左腕を伸ばそうとしたが左腕がないことに直ぐに気がついた。

 だが、その瞬間デリエリを思い出した。

 

 

(闇で作ればいいじゃねぇかあぁぁッ‼︎)

 

 

 駄目駄目な自分にいい加減嫌気がさしながら闇で作った左腕でロストヴェインを握る。

 そして、俺に迫る地精種(ドワーフ)の砲撃を『全反撃(フルカウンター)』で跳ね返しながら逃げる。

 『全反撃(フルカウンター)』の被害を受けてか、何とか逃げ切ることに成功した俺は魔神化を解除して歩きながら、警戒度をMAXまで上げて慎重に隠れ家へ向かった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 流石に海は飛んで横断し、隠れ家に到着した。

 凄まじく疲れた。前の世界でも感じたことのない程の疲労感だ。

 あまりの疲労感に隠れ家の扉をくぐった瞬間に崩れ落ちてしまった程だ。

 シュヴィが床に当たり金属音が響き、それにやべ、と思うがこのまま寝てしまいたい程の疲労感だ。

 しかしと言うべきか、崩れ落ちた時の音を聞いたか、奥からリクが慌てて出てくる。

 

 

「シュヴィッ‼︎メリオダスッ‼︎一体何があったんだ⁉︎」

 

 

「ちゃんと説明するからまずはシュヴィを寝かせよう」

 

 

 あまり変わらんかもしれんが、と内心付け足す。

 シュヴィをベットに寝かせた後、声が出せないシュヴィの代わりに説明する。

 

 

 天翼種(フリューゲル)に遭遇し、トドメを刺されそうになっていたシュヴィを俺が辛くも助けたと。

 

 

 これだけ聞くと恩着せがましく聞こえるなと思いながらもリクの反応を伺う。

 リクは辛そうな顔をしている。そりゃそうだろう。最愛の妻がボロボロになっているのだから。

 

 

「……ありがとう。メリオダス。本当にッ」

 

 

 そして、涙を僅かに溢し、俺にそんなことを言う。

 俺はそれに罪悪感が湧き、顔を逸らしながら、

 

 

「……気にすんな。俺の姉でもあるしな」

 

 

「——『意志者(シュピーラー)』リク」

 

 

 唐突に、懐かしい、だが聞いたことのない——どこか機械的な声に、俺とリクは振り向く。

 何処から入ったのか、いつから居たのか、黒い、影のようなローブ姿が立っていた。

 

 

「…………誰だ」

 

 

 警戒し、リクが問う。

 ——何者だ、とは問わない。

 問うまでもない。ローブの隙間から見えたモノが如実に語っていた。

 機械の体——機凱種(エクスマキナ)だ。

 

 

「……名前はないが、呼ばれている通り——『全連結指揮体(アインツィヒ)』と名乗ろう」

 

 

 俺の中ではホモで定着している機凱種(エクスマキナ)が続ける。

 

 

「——『意志体(プライヤー)』シュヴィの、意志を伝えに来た」

 

 

 そして、アインツィヒはそれを語った……。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 ジブリールは震えていた。

 両拳を握りしめ可愛らしい幼児の姿で——しかし、神々ですら死を幻視する程の殺気を撒き散らしながら。

 

 

 ジブリールはキレていた。

 天撃まで使ったのにあの機凱種(エクスマキナ)を仕留めることが出来なかったことに。

 邪魔をした金髪の少年(クソガキ)が闘おうとすらせず、ただ全力で逃げたことに。

 まだあの少年(こしぬけ)が闘いを挑んでくれば邪魔をされた怒りをぶち殺して発散出来たのに。

 

 

「よりにもよって私をおちょくったことを後悔させて差し上げます♪」

 

 

 次会ったら宇宙の果てまで逃げても殺す❤︎、と遠くでメリオダスがブルリと震えるほどの殺気を放っていた。

 

 

 いつもだったら次などと言わずこれから星を殺してでも見つけ出し息の根を止めてやるところだが天撃後で弱体化しているし、森精種や地精種(虫ケラ)どものこともある。

 殺すのは最後にしてやる、とあれは嘘だと続きそうな言葉を考えつつ、アヴァント・ヘイムへ向け、飛翔する。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「よぉ、ジブリール。収穫はあったか?」

 

 

 アヴァント・ヘイムに降り立ったジブリールを迎えたのは金のように輝く髪と深海よりも深い蒼い瞳の男性型の天翼種(フリューゲル)だった。

 

 

 普通、天翼種(フリューゲル)は女性の姿をしている。

 しかし、この個体はジブリールと共に造られた『最終番個体(クローズ・ナンバー)』であり、『番外個体(イレギュラー・ナンバー)』でもあるこの個体はアルトシュに男として造られた。

 

 

 ジブリールはその個体の髪を見て、邪魔をした少年(クソチビ)と重なり、不愉快そうに返す。

 

 

「収穫など何1つありませんでしたよ、ガブリエル」

 

 

 男性個体——ガブリエルは愉快そうに笑い、

 

 

「はははッ。何があったか聞か——」

 

 

「ジブちゃぁぁぁぁん‼︎こぉぉんなに可愛くなっちゃって何をしてたのにゃぁぁぁ!」

 

 

 翡翠色の髪を揺らし虚空より出現したそれはガブリエルの言葉を切り、ジブリールへ飛びつきそのまま頬ずりをする。

 

 

「今がどんな状況か分かってるのかにゃ!森精種(長耳)地精種(モグラ)どもとの決戦が控えてるのにゃ!それなのに出てっちゃった挙句天撃打つなんてなにかんがえてるにゃぁ!でも可愛いから許すにゃぁぁぁ!」

 

 

 ジブリールとガブリエルは揃って溜め息を吐き、

 

 

「アズリール先輩、今私は非常に機嫌が悪いのです。今すぐ離れて頂けますか?」

 

 

「何を言っても無駄だと思うぞ。アズリール先輩(これ)は置いといて何があったか聞かせてくれないか?」

 

 

「ひどいにゃぁ。ガブくんがうちをこれ呼ばわりしたにゃぁ!」

 

 

 ジブリールは嘆くアズリールを無視しつつ、何があったかを話した。

 

 

 単独行動中の機凱種(エクスマキナ)に遭遇。

 天撃を打ったが邪魔が入り仕留め切れず、その機凱種(エクスマキナ)と邪魔をしたガキに逃げられたと非常に不愉快そうに話した。

 

 

「……邪魔が入っただと?どんな奴だった?」

 

 

 ガブリエルが驚き、問う。

 

 

「剣を背負った金髪のガキでした」

 

 

「ジブちゃんの天撃を防いだのかにゃ?どの種族だったかにゃ?」

 

 

 アズリールも頬ずりを続けながら問う。

 

 

「それが……全く分かりませんでした。解析魔法を使ってみたのですが。神霊種(オールドデウス)が1番近かったのですがあれは生物でした」

 

 

「どのようにして防いだんだ?」

 

 

「あれは防いだというより、天撃が無力化された——と言った方が正確ですね。後はこちらの攻撃を数倍にして跳ね返したりもしてきました」

 

 

「何?」

 

 

 ジブリールの返答を聞いたガブリエルが眉を寄せる。

 

 

「金髪で緑色の瞳だったか?」

 

 

「はい。あ、しかしその後黒く変化してましたね。その時に額に黒い太陽のような模様が浮かんでいました」

 

 

「ふふ、そうか。ふふふ」

 

 

 それを聞いたガブリエルは口を押さえ、笑い出した。

 

 

「アズリール先輩。俺少し出て——」

 

 

「ガブリエル」

 

 

 ガブリエルが言いかけた言葉を切り、

 

 

「あれは私の獲物です。あれに手を出すなら貴方といえど——容赦しませんよ♪」

 

 

 殺気を放ち、光刃を構えて言う。

 それを見たガブリエルは両手を上げ、

 

 

「わかったわかった。そう殺気を放つな」

 

 

「……それでアズリール先輩はいつまで頬ずりを続けるおつもりで?」

 

 

 殺気と光刃を消したジブリールが未だ頬ずりを続けるアズリールに問う。

 

 

「ジブちゃんが回復するまでにゃぁぁ!」

 

 

 アズリールの頬ずりは1週間後ジブリールがキレるまで続いた。

 

 




 旧作でも載せましたが念のためこちらでもガブリエルの戦果を載せておきます。

 巨人種(ギガント)合同討伐20体 単独討伐1体
 龍精種(ドラゴニア)合同討伐2体 単独討伐1体
 幻想種(ファンタズマ)合同討伐3体 単独討伐1体

 さらにジブリールと2人で
 巨人種(ギガント)を2体
 龍精種(ドラゴニア)を2体
 幻想種(ファンタズマ)を1体
 を討伐しています。

 ガブリエルが主人公の「転生天翼種」の方で番外編をやるかもです。

 それでは第29話をお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第29話 最終決戦開始!

 次章の世界どうしようかな〜と悩んでて気が付きましたがあれ?完結してる作品じゃないと連れてけなくない?
 もちろん途中で脱落させてもいいんですけど出来れば最後までいさせたいんですよね。
 ふーむ。2章はオリジナルにするか?でもやろうと思ってたやつ全部後の章でやろうと思ってたんだよな〜。となると盾勇者かな〜。
 ……1章終わるまでまだ時間があるのでいい作品があったら教えてください( ̄▽ ̄;)

 それでは第29話をどうぞ。


「にゃは〜、ジブちゃんってば心配性にゃ〜♪」

 

 

 そう笑って天翼種(フリューゲル)の長姉——第1番個体・アズリールは跳ねるように飛ぶ。

 

 

「ジブちゃんすぐムキになるにゃ〜……んでもッ!そこがまた可愛いのにゃぁぁ〜ッ❤︎ちっちゃいジブちゃんもまた更に可愛いにやぁぁ……はぁ……修復術式が疎ましいにゃ」

 

 

 アズリールは番外個体——現在末妹であるジブリールを殊更贔屓にしていた。

 行動が読めず、無軌道で、自由奔放なジブリールは、単独で出て行っては、龍精種(ドラゴニア)をすら討伐して戻る。その突飛さの目的も理由も、皆目見当がつかない。唯一同じ番外個体であるガブリエルは分かっているようだが。

 だが、それも主に与えられた〝不完全性〟故、なお愛おしく思えた。

 

 

 ——もっとも、当のジブリールには心底煩わしく思われているのだが。

 天翼種(フリューゲル)が持つ膨大な力、その全てをたった一撃に乗せ放つ——『天撃』。

 それを使い、子供の姿で帰ったジブリールを、アズリールは1週間頬ずりし続けた。

 遂にキレたジブリールが修復術式——喪った力の回復を申し出て、現在は機能停止中だ。

 正直、自然回復——50年待ってもいいとアズリールは思ったのだが——

 

 

 ————…………

 

 

 玉座の間に戻ると、アズリールは翼を畳み、光輪を落とし、ゆっくり跪いた。

 

 

「『番外個体(ジブリール)』は如何(どう)した?」

 

 

 至高の座でくつろいでいるのは、巌のように逞しい筋肉を晒す男——

 ——最強の神にして戦神、天翼種(フリューゲル)の創造主——神霊種(オールドデウス)アルトシュ。

 自分達の倍はあろうかという巨躯。鋼のごとく剛い黒髭を垂らし、背に負った18枚の翼をさながら外套のように纏っている。彫りの深い顔立ちの、鋭く濡れた黄金の眼光に見下ろされると、アズリールはそれだけで脳が痺れるのを感じる。

 だが、アズリールは知っている。畏怖と恍惚を抱かずにはいられないその偉容さえ。

 己が創造主の一片、大海の一滴、強大な力の僅かな現し身に過ぎない、と。

 

 

「単独行動中の機凱種(エクスマキナ)と交戦、『天撃』使用の損耗で修復術式中にございます、我が君」

 

 

 祈るように恭しく報告するアズリールだが、正直全く意味不明な話だった。

 たかが這いずり回る鉄屑——群れれば多少目障りな塵芥に過ぎない。

 手を出すのを禁忌としたのはアズリール自身だが、それは脅威と感じたからではない。

 単に主に賜った御力を低劣に模倣(まね)られるのが、甚だしく気に入らないだけだ。

 天翼種(フリューゲル)総員で掛かれば、あの鉄屑共に『対応』1つさせる間も与えず撃滅できる。

 

 

 さらに——

 

 

「尚、その際、正体不明の存在がジブリールの『天撃』を無力化し、交戦中の機凱種(エクスマキナ)を持ちどこかへ飛び去ったようでございます」

 

 

 これまた意味不明な話だ。

 

 

 防いだや相殺したならまだ分かる。

 ジブリールの『天撃』に対し、そんなことが出来る種族は限られるがいないわけではない。

 (アルトシュ)は言わずもがな、アズリールやそこらの龍精種(ドラゴニア)幻想種(ファンタズマ)神霊種(オールドデウス)なら簡単だろう。

 だが、そいつは()()()した——正確には『天撃』に圧縮された精霊が破壊力を失い四散したらしい。

 そんな複雑な魔法の行使、森精種(エルフ)でもなければ難しい。

 しかし、森精種(ムシケラ)がジブリールの『天撃』を無力化する?しかも1人で?

 あり得ない。数万の軍勢ならば出来ないこともないかもしれないが、1人でなど不可能だ。

 

 

 故に、その者の正体も。

 そもそも、スクラップ1つに全力——『天撃』を撃ち込んだジブリールの真意も。

 

 

「——そうか。くく、そうか——」

 

 

 何事か推知したように嗤う主の神意も、アズリールにはわからなかった。

 

 

 主は多くを語らない。故に主の御心を推し量ることはできない。

 ——いや、と彼女は己の傲慢を恥じた。

 そも深淵なる主、神の御心を、己如きが推し量ろうなどと不敬の極みだ。

 主は最強。主は頂点。最強の神、戦神アルトシュ——王の中の王。

 最高——『戦』という概念の権現たる主に敵などない。最強たる故に最強なのだから。

 だがアズリールは主の笑う姿——その獰猛に昂ぶる笑みを久しく見ていなかった。

 何千、何万年、主はただ物憂げに、気怠く玉座に御座(おわ)して頬杖をつくのみ——

 それが今や、傍目にもわかるほど上機嫌な様子である。

 

 

「近しいな——ようやっと、余を弑さんとするものが訪れるらしい」

 

 

 その言葉にアズリールは息を呑み、まさか、と眉を寄せて応える。

 

 

「この地上に、御身に敵うものなどおりますまい」

 

 

 主の憂鬱、その理由だけはアズリールも知っている。——主は戦の神だ。

 ——戦とは即ち、殺し合い。

 競い、争い、殺し殺され、その生と死を賭して、己の魂と存在を研磨する。

 その円環と続く交わりこそ、主を生み出した概念であり、その神髄である。

 故に主は戦場に立ち、殺意を呼びかけるのだ。

 憎悪せよ、憤怒せよ、叛逆せよ、儚い命を賭し、知恵の限り、愚かに挑むがよい、と。

 その全てを——圧倒的な力で蹂躙してこその——『最強』であるが故に、と。

 天下に武を布き、力と法を顕すもの。最強と定義するもの、それこそが主だ。

 ……だが、一方的な鏖殺を——『戦』とは呼べまい。

 故に——主は悠久の倦怠に沈むのだ。

 

 

「挑むものなき最強に……如何なる意味があるのだ?」

 

 

 と一転、主が笑みを消して冷徹な眼差しで下界を見下ろした——その時だった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

【——全『戦闘体(ケプンファ)』、『偽典・天撃(ヒーメアポクリフェン)』——【典開(レーゼン)】——】

 

 

 それは天空を泳ぐ幻想種(ファンタズマ)アヴァント・ヘイムの、すぐ後方。

 

 

【——照準・偏差補正・固定————()()()()?】

 

 

了解(ヤヴォール)

 

 

 直後、1200を超える『天撃』——星の命運を左右する歴史的斉射が。

 アヴァント・ヘイムの〝背後から〟——『連合』に撃ち込まれた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 突如——空を、地を焼いた閃光に、アズリールが悲鳴を上げる。

 

 

「なななんにゃぁぁぁ⁉︎今、誰が『天撃』を撃ったにゃ⁉︎」

 

 

「ふ、不明ですっ!アヴァント・ヘイム内からは何の反応も——」

 

 

 玉座の間に詰めていた天翼種(フリューゲル)達が混乱し、右往左往する。

 ある者は探知魔法を展開し、ある者は空間転移(シフト)し外空へと飛び出していく。

 そんな中、アズリールはふと、ジブリールの言葉を思い出した。単独で行動し、奇妙な動きをし、ジブリールに『天撃』まで撃たせ、その『天撃』を無力化する存在を連れていた——

 

 

「——機凱種(エクスマキナ)……猿真似が特技の廃材……」

 

 

 この行動が何をもたらすか。こちらからの先制攻撃と見なされ——全面衝突だ。

 

 

「にゃは〜、ナメた真似してくれるにゃぁ、鉄屑……ッ‼︎」

 

 

 状況を把握したアズリールは凶相の笑みを浮かべ、矢継ぎに早に指示を飛ばす。

 

 

「ラフィールちゃん、地精種(ドワーフ)の『髄爆』を撃てそうな艦船、9翼隊で一個残らず迎撃にゃ。サラキールちゃんは10から18翼隊まで全部連れて森精種(エルフ)を最速で——」

 

 

「ク——くく——くははははッ!」

 

 

その声、その哄笑が響くと同時、全ての天翼種(フリューゲル)が静まり返った。

 

 

「ハハハッ!そうか〝貴様〟余を弑するのは。存外早かったなあハハハッ!!!」

 

 

 アヴァント・ヘイムを震わせ笑い続ける主に、アズリールは恐る恐る言う。

 

 

「お、恐れながら、機凱種(エクスマキナ)ごときに主を滅ぼせるわけ——」

 

 

 だがやはりいつものように、主は——多くを語らない。

 神の洞察か、あるいは戦神の権能か、まるで——いや事実全てを把握したように。

 

 

機凱種(エクスマキナ)?〝なんのことだ〟?」

 

 

 たった一言でアズリールの思考を断ち切り、主は笑った。

 或いは知っていたように、待ち焦がれたものを歓迎するように——彼方を見やる。

 

 

「なるほど()()たる余に相対するは()()たるは道理——なあ〝猿〟?」

 

 

 そう——言の葉を紡ぎ、主はその右の(かいな)を掲げた。

 それだけ——ただそれだけでアヴァント・ヘイムは震え、空間が、時間が軋んだ。

 その場に居並ぶ天翼種(フリューゲル)達の間から、小さく悲鳴のような声が上がる。

 

 

主が、告げた。

 

 

「総員————()()()

 

 

 アズリールの指示を全て取り消すその一言が意味するのは、ただ1つ。

 

 

 ——戦の神、最強の神、あらゆる王の中の王たる、主の——全ての力。

 その一片たる全天翼種(フリューゲル)の『天撃』まで総て束ね放つ、無類無双万神必倒の一撃。

 

 

 ——『神撃』——。

 

 

「お、恐れながら我が君、あの玩具どもはきっとそれが狙いにゃッ⁉︎」

 

 

 連合との交戦で『神撃』を撃たせ、模倣・再現するのが機凱種(エクスマキナ)の目的。

 そう訴える。アズリールに主は、主にのみ許される傲慢を告げた。

 

 

()()()()()()()

 

 

 獰猛な金色の双眸に見据えられ、アズリールは稲妻に打たれたように立ちつくした。

 主は最強の(かみ)であり、自分達はその下僕(しもべ)

 主は絶対。主は最強。強者とは即ち主であり、弱者とは即ち——()()()()()()

 弱者が小賢しく策を弄すれば。強者が、王が、神が、主が。するべきことは何か——?

 

 

 それを一瞬とて忘れた己を恥じて、アズリールは叫んだ。

 

 

「全天翼種(フリューゲル)——『天撃』用意——その全てをアルトシュ様に託すにゃッ!」

 

 

 数瞬前のアズリールと同じ、機凱種(エクスマキナ)の模倣を危惧する者が躊躇する中——

 主は語らない。だがその獰猛な笑みに装填された神意を、アズリールは代弁する。

 

 

「主は最強——この天地の狭間において無双!ならッ‼︎弱者の弄する小賢しい愚策を前にして何を恐れ、何を迷い、何を惑うにゃッ‼︎」

 

 

 アズリールの言葉に反応して、天翼種(フリューゲル)達が揃って翼を滾らせる。

 

 

「憎悪を喜び、憤怒を貪り、叛逆を許す!その愚かさを愛でるが主であり主に創られた天翼種(フリューゲル)——唯一の王、最強の体現、主の決定にその翼を捧げて、いざ示すのにゃ!」

 

 

 主の何たるかを、知らぬ蒙昧どもに——

 

 

「気の赴くまま————()()()()()()()()()()‼︎」

 

 

 天翼種(フリューゲル)達がその滾らせた力を解放していく様に、主は満足げに笑みを深めた。

 

 

 ——アズリールは気付いていないが天翼種(フリューゲル)達の中でただ一翼。

 隠れ、『神撃』に参加していない者がいた。

 アルトシュはそれに気付いていたが、しかし何も言わずただ笑みをさらに深めるだけだった。

 

 

 そして静かな、だが天地を震わせる声で告げる。

 

 

機械に森精に地精に龍(ざこども)と、余を前にして神を名告る痴れ者ども——子細無し」

 

 

 それが何であろうと、所詮は有象無象の雑魚に過ぎぬ。

 森羅万象、天地一切、全てを遍く滅ぼす力を前に皆悉く灰燼に帰すべし。

 ——それが、最強にして世界の(かみ)たる戦神アルトシュの決定だった。

 

 

 一翼を除く全ての天翼種(フリューゲル)が、その全霊たる『天撃』の力を、掲げられた主の腕に託して往く。

 だがアズリールにはやはり、主の御心を推し量るまではできなかった。

 宇宙の法則が慟哭し、星の秩序がその腕を中心に歪んでいく中——

 

 

「待ちわびたぞ、我が〝天敵〟よ」

 

 

 彼女が聞きとった、主の小さな呟きの意味までは、未だ……。

 

 

「弱者に降されるが強者の定めであれば、果たして最強とは余の『神髄』であるか」

 

 

 力が顕れ、法を示し、最強が定義される。

 主の右の(かいな)にこの世の誰にもどうすることのできない『(ちから)』が集まる。

 玉座から立ち上がりもせず、左腕ではやはり頬杖をついたままに、獰猛に笑み崩れて。

 光り輝く純白の翼を広げ、胸に満ちる歓喜とともに、主は——言った。

 

 

「いずれにせよ——今日を以て、余は永遠の問いを識るだろう」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 シンク・ニルヴァレンは一瞬でも喜んだ数分前の己を呪った。

 

 

 目の前の光景、世界が終わり往く嵐を前に——〝考えてはいけない疑問〟が生じた。

 

 

「……()()()……()()()()()()()()()()()()()……?」

 

 

 ————…………

 

 

 戦神陣営(アルトシュ)を包囲展開し睨み合っていた連合艦隊に——突如『天撃』が撃ち込まれた。

 シンクはそれが()()()()()()()()()()と即座に看破、森精種(エルフ)同盟に対応を命じた。

 明白——精霊反応が違った。更にそれらの『天撃』による〝死者はなかった〟からだ。

 何よりアルトシュ陣営から『天撃』を撃ち込む〝意味がない〟。撃つなら『神撃』——それ以外で『連合』に有効打撃は与えられないと相手も把握しているはずだからだ。

 故に看破出来た——あの日の『幽霊』を知るシンクには、それが戦神陣営(アルトシュ)の先制攻撃を装い〝こちらに〟最大火力で先制する時間を与える、()()()()()()()()()()の偽装攻撃、と。

 

 

 シンクはすぐさま森精種(エルフ)同盟全隊に『虚空第零加護(アーカ・シ・アンセ)』の()()()()()()を命じた。

 

 

 18発のうち半分をアルトシュに——続けて即座に地精種(ドワーフ)同盟に撃ち込む為。

 そうして術式の解放がほぼ完了したとの報せを受けた——その瞬間だった。

 

 

 ——アヴァント・ヘイムから、常軌を逸したなどという表現では収まらない力——

 ——まさしく〝理外の力〟……天地神明をも竦ませる破壊の念が渦巻きだした。

 

 

 八重術者(オクタ・キャスター)であるシンクにも理解も推測も許さぬ、理の外の力——直感が命じた。

 連合全体で——仮想敵の地精種(ドワーフ)同盟も含めた全艦隊と情報を共有する。

 各種各艦隊がそれぞれの観測手段で状況把握に努めるも——報告は一様に同じだった。

 すなわち——『計測不能』と。

 同じく『連合』側の二柱の神霊種(オールドデウス)——森神カイナース、鍛神オーケインまで、沈黙。

 星を揺るがす力の脈動。事ここに至って、ようやく皆が一様に理解した。

 ——『神撃』——その力を、誰もがまったく見誤っていたことに。

 

 

 かくて『連合』統一見解で()()()()アヴァント・ヘイムに撃ち込む旨を即決。

 ()()を前に同盟の諍いは二の次三の次——そう悟らせるに足る問答無用の力だった。

 そして——まるでそれを〝待っていてくれた〟とでも言うように——

 

 

 ————…………

 

 

 戦の()が繰り出す無双の一()——すなわち『神撃』に。

 最も殺戮に優れた種族達の各切り札、ともすれば1つで大陸を焼く力が。

 放たれた『神撃』に一斉に衝突し、それでも相殺出来ず——()()は渦巻いた。

 燦然と輝く、理の外から生ずる力。天地を殺してなお荒れ狂う、破壊。

 

 

 『虚空第零加護(アーカ・シ・アンセ)』——幻想種(ファンタズマ)の核を自壊させ、力を強制解放する術式。その性質上、複数の幻想種(ファンタズマ)を一撃で滅ぼせる力。森精種(エルフ)が運用可能な全弾——18発全てを撃ち込んだ。そこに、それに匹敵する不活性中の神霊種(オールドデウス)の『神髄』を起爆させる『髄爆』。神霊種(オールドデウス)すら滅ぼせる地精種(ドワーフ)の兵器もまた全弾——12発。更に龍精種(ドラゴニア)8体が契約に従い、命を捧げての『崩哮(ファークライ)』を8発も重ね——

 

 

「それでも止められない——()()()()()()()()()()()()()⁉︎」

 

 

 神霊種(オールドデウス)アルトシュ——なるほどその力は、恐るべき神の御業に違いない。

 だがそれを言うならば『虚空第零加護(アーカ・シ・アンセ)』も森精種(エルフ)の創造主——神霊種(オールドデウス)カイナースの加護を以て機能する1()8()6()()()()、同じ神の御業なのに——この天と地の違いはなんだ。

 眼前の星さえ砕かんとする光景が、シンクにはアルトシュの解答に聞こえた。

 

 

 ——己が分際を弁えよ小賢しき塵芥ども 足搔け 藻搔け

 ——地を這う虫けらが如何に群れようとも天に及ばぬと終に識れ

 

 

 ……今にも吹き飛びそうな理性を繋ぎ止め、シンクは歯噛みして思考する。

 この力を相殺することはおろか、理解すらも不可能。認めろ。それが現実だ。

 ならば、渦巻いているこの力は——この後、どうなる?

 ぶつかる次元違いの力の渦。それが生む微風さえ、精霊回廊接続神経を有する者が触れれば揮発する力——理解の及ばぬ力とてわエネルギーの流動法則的に、結果は1つ。

 渦はやがて収束し、拡散、放射される————〝()()()()〟。

 

 

「全艦通達!全術者——『久遠第四加護(クー・リ・アンセ)』展開ッ!急いでェッ‼︎」

 

 

 シンクの号令に飛び交う怒号、だがシンクはわかっていた——()()()と。

 

 

 25年前、3000人で展開した防護術式は天翼種(フリューゲル)一体の『天撃』さえ防げなかった。

 それを受けてシンクが編纂した防護——いや、()()術式『久遠第四加護(クー・リ・アンセ)』。

 同じく神霊種(オールドデウス)カイナースの加護で展開する術式なら、今度は『天撃』を防げる。

 その絶対の自負があった。だが——眼前の渦を眺めて苦笑する。

 

 

(これを相手に、紙クズ一枚分の意味さえあるか、怪しいのですよぉ……)

 

 

 この力の収束、拡散放射の影響範囲は——推定不能。

 だが『虚空第零加護(アーカ・シ・アンセ)』一発の影響圏を考慮すればある程度、()()なら出来る。

 極めて楽観的に見積もって——この大陸の半分以上。その範囲内の全てが、死ぬ。

 ほぼ全種族が集結しているこの地は——恐らくアルトシュを除き、根絶する。

 

 

「——『大戦』……『星杯(スーニアスター)』……『神霊種(オールドデウス)』——『神髄』……」

 

 

 ——〝疑うな〟、〝考えるな〟——そう、何処か無意識にあった思いは、だがこの世の終焉を告げて荒れ狂う光景を前にして消し飛び、疑問だけが、明瞭に浮かび上がる。

 

 

 神霊種(オールドデウス)カイナース……|森精種(エルフ》の創造主にして、森神——〝自然〟の概念。

 神霊種(オールドデウス)——祈り、願い、〝活性条件〟を満たし『神髄』——つまり〝我〟を獲た概念。

 

 

(〝我を手にした概念〟……?()()()()()()()()()()()()ぁ?『神髄』って——)

 

 

 いったいなんなのか——そう続きそうになった思考は、だが——

 

 

(……え?)

 

 

 世界の終わりを報じて荒れ狂う絶滅の嵐が————唐突に、()()()

 宙を舞う布が風に巻かれて流されるように、()西()()()へと流れていく。

 大陸を割り〝薙がれ行く〟理外の力に誰もが放心する中、シンクだけはそれを追った。

 八重術式(オクタ・キャスト)、その全てを同時展開し遥か遥か彼方を遠視したそこにいたのは——

 

 

「……機凱種(エクスマキナ)………………?何故——」

 

 

 そして世界を終わらせる光が、帳のように靡き大陸を割って駆けるその先。

 数千機もの機凱種(エクスマキナ)を包み消すのを——シンク・ニルヴァレンは確かに遠視()た。

 

 

 瞬間——脳裏に過ぎった思考——まさか。

 

 

 まさかまさかまさか——精霊回廊接続神経が焼き切れる多重複雑な術式を駆使して。

 シンクはあるモノを探索し、そして遂に——3つの人影を発見した。

 それが意味すること——すなわち。最後の最後まで〝予定通りに〟——

 この自分を()()()()()()存在に、凶暴な笑みと殺意を浮かべて、彼女は呟いた。

 

 

「——……結局ぅ、あなたはぁ、誰なのですかぁ?……『幽霊』さん?」

 

 

 解析魔法の『神霊種(オールドデウス)?』という結果を見ながらシンクは1人の人間と一機の機凱種(エクスマキナ)と一緒にいる()()がこちらを見た気がした……

 

 




 今回はメリオダス出ませんでしたが次は出ます。

 それでは第30話をお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第30話 メリオダス&機凱種(エクスマキナ)VS戦神(アルトシュ)陣営

 本日2度目の投稿です。
 まあ、朝のは昨日間に合わなかったやつなんですけどね。

 それでは第30話をどうぞ。


メリオダス視点

(俺が、世界を動かした奴だって勘違いされてなきゃいいけどな)

 

 

 天地崩壊の如き光景が彼方に見える、遠く離れた丘の上で俺はシンクがいるであろう方向を向いてそう思う。

 

 

「——『設計体(ツアイヘン)』より報告——出力《72.8%》で再現設計成功——同期します」

 

 

 一機の機凱種(エクスマキナ)の女性体が——そうリクに告げ、腕を翳した。

 

 

「【典開(レーゼン)】——Org.0000–—『真典・星殺し(ステイル・マーター)』——託します」

 

 

 ——虚空に生じたそれは、小さな塔の如く、地に突き刺さった銃だった。

 先程目の当たりにした、世界を終わらせるが如き暴力の渦。

 すなわち——『神撃』『虚空第零加護(アーカ・シ・アンセ)』『髄爆』『崩哮(ファークライ)』が衝突した全エネルギー。俺の知る限り、ドラ○ンボール以外の世界では存在しないだろうエネルギー量。

 その〝7割以上〟を再現したというそれは——人間では何人だろうと持たないだろう、背丈の数倍ある、銃と呼ぶには巨大すぎる——『杭』のようだった。

 砲口を地に刺し、自立する『銃』は、ただ静かに引き金を引かれるのを待っている。

 即ち——『合図』がきたら……リクに引かれるのを。

 何も映さぬ黒い眼で、無言無表情でそれを眺めるリクに、機凱種(エクスマキナ)は言う。

 

 

「【報告】それでは当機も戦線に向かいますのでこれにて——」

 

 

 そういって去ろうとする機凱種(エクスマキナ)を、リクの問いが引き留めた。

 

 

「今ので……こいつを造る為に、()()機凱種(どうぐ)が……()()()?」

 

 

「——【解答】投入した11の『連結体(クラスタ)』中、5機を残し、4802機が()()

 

 

「……5個は残ったのか」

 

 

「【肯定】他に質問はありますか」

 

 

「質問てより確認だが……おまえらがアルトシュの『神髄』を剥離するのを待って、俺はこいつの引き金を引き、星の核を穿つ——それで『星杯(スーニアスター)』は顕現する——以上だな?」

 

 

「————【肯定】アルトシュも、誰も死なない。【ルール】には接触しない」

 

 

 闇の如き眼を閉じたリクを見ながら俺は回想する。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「——『意志者(シュピーラー)』が規定した【ルール】に道具の損失を認めぬ旨は含まれていない——相違無いな?」

 

 

「……?ああ、そうだが一体何を言って——」

 

 

 そう話し出したアインツィヒは語った。

 

 

「率直に報告する——『意志体(プライヤー)』シュヴィの計算には誤差があった」

 

 

 たとえ『通行規制(アイン・ヴィーク)』を32個並べても〝収束〟は——不可能だと。

 

 

「全陣営総攻撃を『通行規制(アイン・ヴィーク)』により下方誘導するのは〝10のマイナス609乗秒〟差で間に合わず、力は衝突して渦巻く。その後に指向性を与えて収束させるのは——不可能」

 

 

 シュヴィの計算で発生した、涅槃寂静も霞む、余りに微細すぎる〝誤差〟。

 それが——機凱種(エクスマキナ)が複数連結体(クラスタ)で並列演算して出した結論だという。

 その言葉に俺は苦笑する。もし、原作でシュヴィがジブリールに会わなければどうなっていたのかなぁ、と考えて。

 未だ、アインツィヒの意図が分からず眉を寄せるリクに、だが——とアインツィヒは続ける。

 

 

「『意志体(プライヤー)』が配置した『通行規制(アイン・ヴィーク)』24個で——〝逸らす〟ことは可能だ」

 

 

「……それが?」

 

 

「衝突して渦巻く力は、本来ならば収束し、後に全方位に拡散する。だが円周状に配置しようとした32の『通行規制(アイン・ヴィーク)』が24に留まったことで——()西()()()()()()()()()

 

 

 ——つまり、と意図を察したらしいリクが先読みし、答える。

 

 

「衝突した全ての力を、下じゃなく——南西方向へ誘導することは可能だ、と?」

 

 

 頷き1つ——アインツィヒは続ける。

 

 

「付随し情報を提供する——」

 

 

 それはあくまで道具として。

 

 

「1つ、機凱種(エクスマキナ)には『偽典・天撃(ヒーメアポクリフェン)』——『天撃』を模倣する武装がある」

 

 

 観測器が捉えた情報にすぎぬと。

 

 

「2つ、これは『意志体(プライヤー)』も把握していたが、星を穿ち解放した力で『星杯(スーニアスター)』を顕現させれば52%の確率で——現れるのは戦神(アルトシュ)の手の中。奴はそれ程の『神髄』を有する」

 

 

 そう語られて俺は改めて思う——アルトシュ凄すぎるだろ、と。

 だがそんな俺を余所に、アインツィヒは続けた。

 

 

「以上を踏まえ『意志者(シュピーラー)』よ。()()()()()()()——()()()

 

 

 それを聞いたリクはベッドの上に横たわっているシュヴィを見た。シュヴィは音が出ない口で——だが確かに言った。

 

 

“ごめん、ね……リク……”

 

 

 それを見たリクは渇いた笑みを浮かべながら、漏らした。

 

 

「はは……ひでぇよ、シュヴィ……酷すぎるだろその仕打ち……」

 

 

 だがリクは、目を閉じ、右手を胸に当てた。

 そして、再び目を開けた時、リクは出会ったばかりのような光を映さない黒い瞳をしていた。

 彼らは機械。ただの道具。命令を——決定を下すのは——使い手(リク)の意志だ。

 

 

「——なら、話は簡単だ。アルトシュ陣営からの先制攻撃を装う」

 

 

 光を返さぬ眼で戦略図を眺め、リクは続ける。

 淡々と、冷静に、冷酷に、打算的に——徹底的に。

 

 

「アヴァント・ヘイム背後から『天撃』を連合へ()()()()()発射。それだけであの森精種(シンク・ニルヴァレン)は動き——あとは勝手に全火力の衝突だ。それを南西に逸らした後、これを——」

 

 

 地図(ゲーム盤)にコマを並べながら続ける。

 

 

()()()()()()()()()()()()——機凱種(エクスマキナ)なら造れるな?」

 

 

「肯定。32『連結体(クラスタ)』の、11を投入すれば、最低でも70%で再現可能」

 

 

 何かを掴むように胸に手をやるリクは続ける。

 

 

「それで、星の核を貫き『星杯(スーニアスター)』を具現化するのに足りるか?」

 

 

「肯定。4807機を損失し、7割の威力を収束させて撃てば核を穿ち、結果精霊回廊の源潮流を破綻させられ——『星杯(スーニアスター)』の顕現必要数値に届く噴出が発生する」

 

 

 ——つまりシュヴィの同胞を、5000人近く見殺しにするのか。

 そう過った思考に折れそうになる心を俺は必死に繋ぎ止める。

 リクは胸をかきむしり、そして自分に言い聞かせるように言う。

 

 

「【ルール】に道具の損壊は含まれない——俺が腕を捨てたのと同じように」

 

 

「然り」

 

 

 ——そして最後の問題をリクは問う。

 

 

「残った21『連結体(クラスタ)』でアルトシュを()()()()()()()するのは可能か」

 

 

「——肯定だ」

 

 

 出来るわけがない。しかし、俺は何も言わない。

 

 

「——『神撃』は全天翼種(フリューゲル)の『天撃』とアルトシュの力を束ね放つ一撃。天翼種(フリューゲル)は無力化しアルトシュも弱体化。その隙を突きアルトシュの『神髄』を——〝剥離〟する」

 

 

「…………」

 

 

「神髄剥離後の神霊種(オールドデウス)は、おそらく100年〝不活性化〟する。その後に精霊回廊の源潮流を穿てば『星杯(スーニアスター)』は——確実に『意志者(シュピーラー)』の手元に顕現することになるだろう」

 

 

 その言葉に俺たちは顔を伏せ苦笑する——こいつ、本当に不器用だな、と。まるであいつ(シュヴィ)のようだと。

 心無い機械を装うなら——()()()()()()()()()って機凱種(きかい)っぽくないと気付け。

 

 

「我らは心無き機械、ただの道具、命令には忠実に従い実行するのみ——故に」

 

 

 そして、根本的な話としてさ——と俺達は眼を伏せる。

 

 

「アルトシュの〝神髄剥離の光〟が見えたら迷わず引き金を引き『星杯(スーニアスター)』を手にせよ」

 

 

 ——嘘を吐く時に、目を逸らすなよ……機械が、さ……

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 リクと回想を終えた俺に、機凱種(エクスマキナ)の女性体は、一礼していう。

 

 

「【報告】それでは、わた——当機も戦線へ向かいます。『意志者(シュピーラー)』リク、『協力者(ミットクンガー)』メリオダス——」

 

 

 ——そうして最後まで、ただの機械を自称し続けた連中は。

 あまり慣れてないことに自覚すらない台詞を残し、

 

 

「——どうか、ご武運を……」

 

 

 跳躍していった。

 

 

 俺はそれを見送った後、歩き出しリクに言った。

 

 

「んじゃ、俺も行くわ」

 

 

「……お前はどうするんだ?」

 

 

 昏い瞳で見つめるリクに歩きながら苦笑し、

 

 

「大丈夫だ。ただ機凱種(どうぐ)の損壊を減らすだけさ。俺は誰も殺さないし、俺も死なない。【ルール】には接触しないだろ?」

 

 

「……そうか。……悪いなメリオダス」

 

 

 リクの下まで来た俺はリクの腹をトンと叩き、

 

 

「気にすんな、兄貴。家族だろ?」

 

 

 そして、俺はまだ慣れない闇を動かし、翼を広げてアヴァント・ヘイムへ飛んだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

【——『全連結指揮体(アインツィヒ)』より——】

 

 

【ユリウス/カーフマ/ルイス/マルタ/ノルト/オート/エコン/パウラ/クヴェレ/リヒャラト/ザムエー/シェーレ/エスツェ/テオドー/ウーリヒ/ユーバ/ヴィル/ヴィエム/イクサティ/イプシロン/ツァハリア——残存『全連結体(グリュステ・クラスタ)』全9177機へ】

 

 

【——命令は唯1つ(ビフェ・イス・ナル・アイン)意志体(シュヴィ)に賜りしこの魂を賭して、意志者(シュピーラー)リクを支援する——即ち。神霊種(オールドデウス)アルトシュの『神髄』の()()。万障殲滅損害無視にて是を完遂せん……なお、付随しおよそ機凱種(エクスマキナ)らしくない発言を以て命令を終了とする——】

 

 

【——命無く往き、命無く征き——命在りて逝こう——以上(アウス)

 

 

【【【了解(ヤヴォール)——ッ‼︎】】】

 

 

 アインツィヒは機凱種(エクスマキナ)らしくもないと自嘲し『嘘』を謝罪する。

 すまない『意志者(シュピーラー)』よ。『神撃』後とて、天翼種(フリューゲル)幻想種(アヴァント・ヘイム)神霊種(アルトシュ)を相手に。

 誰も殺さずアルトシュの『神髄』を剥離するなど不可能——討伐すら困難を極める。

 どうか——こう思って欲しい。心無き道具が勝手に暴走した——と。

 

 

 ……そうして、命無き物を騙る者達は、今度は声にして、叫ぶ。

 

 

「全機体、武装使用権限、限定解除——!」

 

 

『『——【典開(レーゼン)】……『偽典・焉龍哮(エンダーポクリフェン)』——ッ‼︎』』

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

メリオダス視点

 俺は泣きそうになるのを堪えながら機凱種(エクスマキナ)と共にアヴァント・ヘイムを進んでいた。

 

 

 機凱種(エクスマキナ)に合流した時彼らは目を見開き驚愕していたが俺は何も言わずニヤリと笑いかけただけだったが、彼らは察して何も言わず、一緒にアヴァント・ヘイム上空へ飛んだ。

 

 

 俺は神器『魔剣 ロストヴァイン』の特性——実像分身で分身を10体作り、力を残している天翼種(フリューゲル)の攻撃とアヴァント・ヘイムの対空砲火をカウンターバニッシュで無力化していた。

 それでもその10体と俺では9000を超える機凱種(エクスマキナ)達全員を守ることなど出来ない。

 しかし、これ以上分身を増やせば天翼種(フリューゲル)達やアヴァント・ヘイムの攻撃に反応出来ず、カウンターバニッシュで無力化出来ない。

 今でさえ、既に50を超える分身が消えては作っているのだ。これ以上は増やせない。

 

 

 そして、死んでいく。機凱種(エクスマキナ)も、天翼種(フリューゲル)も。

 その度に俺は胸が引き裂かれるような痛みを感じていた。

 全てを守りたいなど傲慢なことは分かっている。

 それでも涙が溢れそうになるのはどうにもならない。

 

 

 俺が己の無力さを噛み締めていると、機凱種(エクスマキナ)の先頭集団へ一際強力な攻撃が撃ち込まれた。

 俺は急いでそれをカウンターバニッシュで無力化した。

 そして、攻撃の方向を見た俺は驚愕に目を見開いた。

 

 

金色の髪に深い蒼い瞳を持ち、天翼種(フリューゲル)の特徴の白い翼と光輪を持つ男がいた。

 さらに全く力を消費した様子がなく、幼児化していない。

 

 

 しかし、俺が驚いたのは、男であること、幼児化(じゃくたいか)していないこと()()()()

 

 

 その天翼種(フリューゲル)の左肩の上にこんな文字が日本語で浮かんでいたからだ。

 

 

天翼種(フリューゲル)へ転生

・男性型

・ジブリールと同時に創造(たんじょう)

・ジブリールと同等の力

 

 

 と。

 

 

 驚く俺に向けてそいつが放った言葉で俺は確信する。

 

 

「初めまして、()()()()()

 

 

 転生者か、と理解した俺は後ろに居るアインツィヒへ言った。

 

 

「こいつは俺に任せてお前らはアルトシュを」

 

 

「……了解した、健闘を祈る」

 

 

 しばらく悩んだ様子だったが、アインツィヒは頷き他の機凱種(エクスマキナ)と共に先へ進んだ。

 

 

「行かせるか、スクラップが——」

 

 

 そう言って右手を機凱種(エクスマキナ)達へ向けたそいつへ闇で作った左手で殴る。

 しかし、奴はそれを右手で軽々受け止めた。

 俺はこれにより2つ確認できた。

 転生特典を消すには闇の腕では駄目なことと、通常状態では魔神化していてもまともに戦えないと。

 それを理解した俺は最凶状態の魔神化へ変わり、右手で奴の顔を殴る。

 奴は1、2m吹っ飛んだがすぐに立て直し、左手で左頰を擦る。

 また新たな発見だ。一瞬では触っていても転生特典を消すのは無理なようだ。

 

 

「……転生者だな?」

 

 

「ああ、名前はガブリエルだ、よろしく。……お前はこの世界の原作を知ってるのか?」

 

 

 質問の意味が分からず俺は眉を寄せて答える。

 

 

「……?ああ、ノーゲーム・ノーライフだな」

 

 

「そうか……ならお互い引けないな。俺は天翼種(フリューゲル)のために。お前は人類種(イマニティ)のために。俺は姉達を殺されて少しキレてるしな」

 

 

 なるほど、こいつは天翼種(フリューゲル)達のことを大切に思っているのか。

 そして、原作を知っているかどうかはこの先の話を知っているなら引くことは出来ないという意味か。

 俺は理解したが、同時に疑問が浮かぶ。

 

 

「……お前なんで人間達を滅ぼさなかったんだ?転生者のお前ならこうなるのは分かっていただろ?」

 

 

 ガブリエルの左上に浮かぶ日本語の通りならジブリールと共に造られたはずだ。ならば数百年前から生きている筈だ。

 人間を滅ぼすチャンスなどいくらでもあっただろう。

 

 

「……アルトシュ様は敵を欲しがっていたからな。と言ってもあの方を殺させるわけにはいかない。さっさとお前を殺してアルトシュ様へ加勢させてもらうぜ」

 

 

「……そう、か」

 

 

 俺は転生特典を消しての決着をつけようとしていた己を恥じた。

 あいつも自分の大切な者の為に命を掛けてるのにそんな方法で決着は卑怯だな。

 愚図の転生者以外にはこの転生特典は封印しよう、とそう心に決める。

 

 

 俺は転生してから——否、前世でも経験したことのない殺し合いに意識を切り替える。

 そして、俺達は申し合わせたように同時に翼を打った。

 

 

 ——黒と白の翼が交差した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「——なめ、るにゃ——廃材(スクラップ)がぁぁアッ‼︎」

 

 

 アルトシュの玉座の間へと続く通路に陣取り、アズリールが叫ぶ。

 残り少ない力を振り絞って放つ無数の光刃が紅い空を白ませ、いくつかの敵影を捉え。

 碧い光を放って爆散する複数の機凱種(エクスマキナ)を、辛うじて視認する。

 

 

 ——最大威力の——『神撃』。

 

 

 その発射直後だ。ほぼ全ての天翼種(フリューゲル)が力を失い、身動きと出来ない者までいた。

 それを狙ったように——いや、事実狙ったのだろうタイミングで。

 空を覆い尽くすような、機械の軍勢が押し寄せた。

 

 

 龍精種(ドラゴニア)の【王】が1つ、『焉龍(アランレイヴ)』を四分の一の力で屠った、その()()が迫る。

 僅かなりとも力を残している末期個体や、アズリールなどの一部の天翼種(フリューゲル)

 そしてアヴァント・ヘイムの攻撃だけで、それらを迎え撃っていたが——限界がある。

 対空砲火は着実に機凱種(エクスマキナ)を撃破していっている。

 しかし、ジブリールが言っていた不可解な存在が全てではないがこちらの攻撃を無力化していた。

 それと驚くことに『神撃』に参加していなかったらしいガブリエルが相対していた。

 アルトシュ様が気付いていなかった筈がない。

 にもかかわらず何も言わなかったのはこの状況を予測していたからなのか?

 

 

 それは分からないが、それによ攻撃が防がれることも無くなりさらに機凱種(エクスマキナ)を倒していく。

 だが、損害など気にしてもいないのか、機械の軍勢はまっすぐ突撃してくる。

 ——恐らくジブリールも言っていた、アランレイヴの『崩哮(ファークライ)』を模倣した武装だろう。

 それらの一斉掃射が——戦える力を残している僅かな天翼種(フリューゲル)も順に消し飛ばしていく。

 動けずにいる者——即ち障害にならないと判断した者には、見向きもせず。

 それどころか、何のつもりか。

 機凱種(エクスマキナ)は、これを好機と攻め込もうとする連合艦隊に対してさえ、攻撃を加えていた。

 明らかに、殺す気はなく。ただ艦隊の戦闘力だけを奪っていく。

 

 

 ——『抵抗するな。可能な限り殺したくない』——

 

 

 そう語るように、機械の群れが膝をつくアズリールの脇を通り抜けようとする。

 

 

「……ふざ——けてる、のかにゃ……にゃぁ塵芥ぁ——ッ⁉︎」

 

 

 その向かう先はわかっている。

 まっすぐ——アルトシュ様のおわす玉座の間だ。

 

 

「素直、に、主を殺されろ——とでも言うのかにゃこのスクラップはぁッ!」

 

 

 そう叫んだアズリールの光輪が、不規則に歪み破綻する。

 迫り来る機凱種(エクスマキナ)の群れ——前方の空間に手を翳して、

 

 

天翼種(うちら)の攻撃が『天撃』だけ——馬鹿の1つ覚えとでも思ってるのかにゃぁッ」

 

 

 瞬間、前方の空間が爆ぜた。

 天翼種(フリューゲル)の『空間転移(シフト)』を応用した——空間への作用。

 強制的に穴を開けられた空間、その揺り戻しが前方へねじれ奔り、全てを砕く。

 空間が捻れ、歪み、その影響圏にある全てを鉄屑の破片に変える。

 ——その攻撃に何十体巻き込めたのか……だがそれが限界だった。

 

 

「——ハァッ……ハァァッ……はぁ……ッ!」

 

 

 玉座へと続く扉に背を預け、アズリールもまた、ジブリールと同じく。

 力を使い果たし、子供のようになった姿で、息を荒らげる。

 

 

 ——それでも。この先には誰も通さぬと前方を睨むアズリールの耳に、だが。

 絶望的な声が飛び込んだ。

 

 

「——『解析体(プリューファ)』から『指揮体(ベフェール)』へ……天翼種(フリューゲル)の『空間転移(シフト)』原理——解析完了」

 

 

「————ッッッ‼︎」

 

 

 血の気が引くとはこのことか。アズリールは己の過ちを遅まきながら気付く。

 機凱種(エクスマキナ)は、受けた——〝攻撃〟を解析し模倣する装置を造り出す。

 自己作用故に、今日まで解析されなかった『空間転移(シフト)』を——()()に使った。

 それが何を意味するか——続いた通信音で肯定された。

 

 

『——『設計体(ツアイヘン)』から残存機へ——『偽典・天移(シュラポクリフェン)』設計完了、同期する』

 

 

 同時にアズリールの背後——アルトシュの玉座へ続く扉を撃ち抜く閃光が奔り、

 

 

『目標地点()()。全機共有——敵無力化を済ませたものから——転移せよ』

 

 

「しま——ッ!」

 

 

『——【典開(レーゼン)】——『偽典・天移(シュラポクリフェン)』ッ!』

 

 

 アズリールが失敗を悔いる間もなく、そう告げた機凱種(エクスマキナ)が、視界から消失した。

 もはや飛ぶことはおろか、歩くことすら覚束ないアズリールは、それでも。

 這うように、撃ち抜かれた扉……主の下へ向かう——

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 果たして、目的地(ぎょくざ)に転移したアインツィヒを迎えたのは、巨躯の男だった。

 

 

 視認は初めて——正確には、視認してデータ共有が間に合った機体が過去にいない。

 故に照合は不能。だが照合せずともわかる。圧倒的な存在感で玉座に座る()()が。

 この状況で——不遜に、傲慢に、当然に、頬杖つく獰猛な金色の双眸のそれが。

 最強、戦神、そして目標——『神霊種(オールドデウス)アルトシュ』だと告げている。

 アインツィヒに続き、一機、また一機と転移し増えていく機凱種(エクスマキナ)の群れを前に——

 

 

「——許す。名告(なの)るがよい」

 

 

 言の葉1つで空間を揺らし、全観測装置を変動させて、アルトシュが問う。

 

 

「【拒否】道具は名告らない」

 

 

 アインツィヒの解答を、アルトシュは「戯け」と、時間を軋ませて笑った。

 

 

(どうぐ)の名を訊いて何とする。余の『敵』の名を問うてあるのだ」

 

 

「————————」

 

 

 アインツィヒは答えない。元より答えるわけにもいかない。

 沈黙し、ただ戦況を把握し、そして戦闘可能な機体の到着を待つ。

 残存戦力——1025機——『偽典・天移(シュラポクリフェン)』を共有出来た機体は953機。

 つまり全機到着でも最大戦力は953機——本来の『連結体(クラスタ)』3つに満たない。

 『協力者(ミットクンガー)』に守られながら疲弊した天翼種(フリューゲル)と、幻想種(ファンタズマ)1匹にここまで削られるとは——アインツィヒは苦笑する。

 『意志者(シュピーラー)』の指摘通り、数学が未完成過ぎる道具、と機械が認める皮肉な話だ。

 外に機体より『協力者(ミットクンガー)』の様子を確認する。

 驚いたことに優勢のようだ。

 これなら大丈夫だろうとアルトシュへ意識を向ける。

 

 

 無言を続けるアインツィヒに、だがアルトシュは、

 

 

「うむ然り——それで善し」

 

 

 むしろ、笑みを深めた。

 

 

「三千世界に轟く最強と相対するは、世界の何もが顧みぬ最弱——然もありなん」

 

 

 そして頬杖を崩し——

 

 

「待ち侘びたぞ——余の『敵』たらんとする(つわもの)よ」

 

 

 アルトシュが玉座から、立ち上がる。たったそれだけで——

 

 

【アインツィヒより残存全機へ……これは当機の異常か?】

 

 

 機凱種(エクスマキナ)としての観測装置、その全てが——アルトシュの〝質量増大〟を示していた。

 否、それも正確ではない。光学的には間違いなく、眼前の男は立っただけだ。

 ——訂正。纏っているエネルギー量が増大——再度訂正。エネルギーではない、明確に存在情報そのものが増大している。存在しないものが生じるように。

 だが遂に玉座の間に揃った953機、その全機が解答する。

 ——【否定(ナイン)】、と。全機が同じものを観測していた。

 あり得ない。あらゆる熱力学法則に反している。魔法とて、精霊を運用する以上はエネルギー交換の範囲内で物理法則をねじ曲げているに過ぎない。説明の付く話ではない。

 だが——全機体のあらゆるセンサーはただ、同じ結論を出している——即ち。

 質量が増大している——天を、地を、世界を包む概念が形を帯び現れようとしている。

 

 

【ありえない——なにが起きている……ッ】

 

 

 アルトシュは『神撃』使用直後——平時の12%未満の力になっているはずだ。

 全『観測体(ゼーア)』『解析体(プリューファ)』は統一見解としてそう試算している——なのに。

 その思考を読むように——あるいは本当に機械の思考を読んでか、アルトシュが言う。

 

 

「——()()()()()()()()()()()()()()など何の意味がある?」

 

 

 ————、

 

 

 なるほど、とアインツィヒは素直に認めた。

 全く非論理的だが、今や感情を手にした機械は、それに対し〝然り〟と答える。

 

 

 ——『最強』という概念。であれば、と『心』を手に入れた機械は考える。

 似通った異質が異質を仮定し、1つの仮説を導き出す。

 それは、永らく不明とされて来たもの。

 

 

【〝我〟を手にした〝概念〟。それは——意思を持った法則ではないのか?】

 

 

 すなわち『神髄』とは————

 

 

「気に病むことはない。強者とは余であり、弱者とは余以外の凡てだ」

 

 

 獰猛な、だが自嘲気味にそう語る『最強(アルトシュ)』に、アインツィヒは苦笑を返す。

 

 

【全機。思考を共有している機体、いずれかでも生き残ればこの仮説を再検討せよ】

 

 

了解(ヤヴォール)

 

 

 もし『神髄』が()()()()()()ならば、眼前の概念(アルトシュ)の討伐は——原理的に()()()

 だが——とアインツィヒは問う。

 

 

【残存全『観測体(ゼーア)』『解析体(プリューファ)』——『神髄』は〝物理的に存在し、確認可能〟か?】

 

 

【【【——肯定(ベヤーエ)】】】

 

 

 ならば——仔細なし。

 

 

「全機、『意志体(プライヤー)』が編纂せし()()()()()()()()()()()()——【典開(レーゼン)】——ッ」

 

 

 なおも質量増大を続ける目の前の巨人——概念——現象、あるいは法則か。

 天地を包むまで増大するだろう正しき神を前に、アインツィヒは声に出して命ずる。

 現時点では仮説に過ぎない。敵戦闘力を試算することは不可能。

 ならばどうするか——我らが賜った『(たましい)』の命ずるままに行動する。

 即ち——敵が未知ならば、想定しえない全てを想定する。

 理解するな計算するな——最後に信じられるのは感覚のみ——そうだろう『意志体(シュヴィ)』。

 

 

 ——アヴァント・ヘイム内、玉座の間。

 〝神〟を前に953機の——機械を騙る、命ある者達が叫ぶ。

 

 

【『目標アルトシュ()()』——毎秒ごとに事象変動、法則転換さえ可能と仮定——】

 

 

 ——ならば。

 

 

【その度、()()()()()()()()()()——各機に問う。機凱種(われら)には不可能か】

 

 

【【【否定(ナイン)ッ!】】】

 

 

 そう——如何なる存在、如何なる概念(モノ)であろうと。

 

 

存在(きがい)するなら破壊(たいおう)する——それが機凱種(われら)だ。各機健闘を祈る、以上(アウス)ッ!】

 

 

【【【了解(ヤヴォール)!】】】

 

 

 なおも肥大して顕現していく『(かみ)』へ、全機が連携を取り一斉に叫ぶ

 

 

「——【典開(レーゼン)】——ッ‼︎

 

 

 そうして、一斉に襲いかかる機凱種(エクスマキナ)の群れを見据えて——アルトシュはただ一言——大陸に響き渡るような声で、告げた。

 

 

「さあ、我が『神髄』——戦の真髄を世に示すがよい、我が愛おしき『最弱(さいてき)』よ——‼︎」

 

 

 ——……

 

 

 ————…………

 

 




 旧作でも言いましたが「存在(きがい)するなら破壊(たいおう)する」って言葉でめっちゃ好きなんですよね。わかる人います?
 映画で言った欲しかった……。

それでは第31話をお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第31話 転生者(メリオダス)VS転生者(ガブリエル)

 ガブリエル戦です。
 旧作と少し変更しましたが殆ど変わりありません。

 それでは第31話をどうぞ。


 超音速で飛行するメリオダスとガブリエルの接触は刹那未満。

 

 

 メリオダスは闇で作った左手を持つロストヴェインを物理限界に到達する獣人種(ワービースト)を超える速度で横薙ぎに振るう。

 しかし、ロストヴェインは空を切る。ガブリエルが空間転移(シフト)でメリオダスの後ろへ転移したためだ。

 

 

 メリオダスの動きで小規模の竜巻が発生する中、ガブリエルは精霊を圧縮し作った大鎌をメリオダスの首目掛けて振り下ろす。

 死角からの攻撃。それも音速に到達する速度の。

 想定していなければ回避も防御も間に合わない攻撃を——だがメリオダスは前を向いたまま左手で受け止める——否、触れた。それだけで圧縮された精霊は四散した。

 メリオダスはこの攻撃を想定——確信していた。空間転移自在な天翼種(フリューゲル)のガブリエルがそれで避けないわけがない。

 そして、移動するなら死角である後ろ。

 

 

 距離をとったガブリエルへ振り返りながらメリオダスはニヤリと笑う。

 

 

(勝てる!)

 

 

 そう、心の中で呟きながら。

 

 

 この世界の者達は基本的に武器を使わない。

 人間のように持った所で意味が無い種族や海棲種(セイレーン)の様にそもそも戦わない種族はもちろんのこと。物理限界に到達する獣人種(ワービースト)は武器の方が耐えられず、森精種(エルフ)の様に魔法を主体に使い、天翼種(フリューゲル)は物質的な武器より圧縮した精霊で作った武器の方が良く、そもそも人型では無い幻想種(ファンタズマ)龍精種(ドラゴニア)など。

 要するにこの世界には武器使うより殴ったり、魔法使った方が早い、というデタラメな種族ばかりなのだ。

 例外は自身の体毛が鉱石の『真霊銀(ミスリル)』で出来た地精種(ドワーフ)の霊装やそもそも機械である機凱種(エクスマキナ)だ。

 例外中の例外はジブリールが龍精種(ドラゴニア)を単独討伐しようとした時に地精種(ドワーフ)の艦隊を撃滅し、その切れ端——それでもジブリールの数十倍の鉄塊だが——を使用したことだ。

 そして、さっきのことから精霊で作った武器も『カウンターバニッシュ』や『全反撃(フルカウンター)』の対象になることがわかった。

 つまり、ガブリエルの全ての攻撃を跳ね返す、もしくは無力化することが可能だということだ。

 

 

 これによりメリオダスは勝てる——少なくとも勝率は高いと判断した——が。

 

 

「ふん」

 

 

 メリオダスのその考えを読んだ様に鼻で笑い、両手を前に出した。そして、精霊を圧縮し作った光弾を無数にメリオダス目掛けて放った。

 グミ撃ちと呼ばれる某野菜の星の王子がよく使う戦法だ。王子戦法とまで言われるほどよく使うのだが敵に効いたことはほとんどなく、フラグとまで言われているのだが……

 

 

「ちぃッ!」

 

 

 リアルにやられるとかなりキツイ。

 数が多く、『カウンターバニッシュ』や『全反撃(フルカウンター)』を使う余裕がない。

 その為、メリオダスはまだ慣れない飛行で避ける。もちろんガブリエルはそれを追う。

 その一発一発が当たりどころによっては致命傷になりかねない威力を持っている。

 

 

「『神千斬り』ッ!!」

 

 

 このままではいずれ当たると判断したメリオダスが黒い炎を纏ったロストヴェインをガブリエル目掛け、振るう。

 剣圧の様にガブリエルへ向かって飛ぶ黒い炎とガブリエルが放つ無数の光弾がぶつかった。

 流石にメリオダスの最大の技の『神千斬り』は一発の光弾では相殺されず数十発の光弾により相殺された。

 

 

 2人の攻撃により辺りを爆煙が覆い、お互いの姿が見えなくなる。

 その隙にメリオダスはガブリエルの後ろへ回り込み、『神千斬り』をガブリエルの背中へ放つ。

 急所は狙わない。殺せばリクが設定した【ルール】に違反するからだ。

 

 

(勝った!)

 

 

 そう確信したメリオダスは——だがすぐに違和感に気付く。

 ロストヴェインが止まっているのだ。

 それにメリオダスが気付くとほぼ同時。

 メリオダスの胸に精霊で作った光の剣が刺さった。

 

 

「ごはっ」

 

 

 血を吐きながらメリオダスは目を見開く。

 爆煙が晴れ、姿を表したガブリエルとロストヴェインの間には壁の様なモノがあった。

 ヒビが入っているがそれはロストヴェインを受け止めている。

 

 

「まさか——防護魔法を張らずに戦いに臨むと?」

 

 

 ガブリエルは余裕の笑みを浮かべ、問う。

 

 

「くっ!」

(普通の天翼種(フリューゲル)なら臨むわ‼︎)

 

 

 内心で叫びながら、メリオダスは後ろへ後退する。ガブリエルは敢えて追わない。

 

 

「『獄炎(ヘルブレイズ)』ッ」

 

 

 メリオダスの右手に黒い炎の玉が出現し、それをガブリエルへ向けて放つ。

 小さな都市くらいなら滅ぼせる程の威力のそれを——しかし、ガブリエルはそれを光波を放ち相殺する。

 そして、ガブリエルは空間転移(シフト)によりメリオダスの後ろへ転移し、今までの攻撃の比ではない光波を放つ。

 

 

 メリオダスは後ろへ振り向きつつ、ロストヴェインを振り『全反撃(フルカウンター)』で跳ね返そうとするが、ロストヴェインは空を切る。

 ガブリエルが空間転移(シフト)で攻撃をメリオダスの後ろへ転移させたのだ。

 そして、ガブリエルの攻撃がメリオダスに直撃する。

 光と爆煙が辺りを包む。

 しかし、ガブリエルは探知魔法で見つけたメリオダスの上空へ転移。そして、大量の光弾をメリオダスへ放った。

 

 

 ——……

 

 ————…………

 

 

 辺りが爆煙が包む中、探知魔法によると地面へ墜落したらしいメリオダスの真上からゆっくりとガブリエルは降りていた。

 地面付近に着くと翼で爆煙を吹き飛ばす。

 地面にできたクレーターの中央に闇でガードしたにも関わらず、身体のところどころから血を流しているメリオダスが倒れていた。

 

 

「ハァッ……ハァッ」

 

 

 両手で体を起こそうとするメリオダスへガブリエルが話しかける。

 

 

「……諦めろ。お前に勝ち目はない」

 

 

「ハァッ……な……に……?」

 

 

「お前……転生してから何度戦闘を経験した?」

 

 

 痛いところを突かれ、メリオダスは眉を寄せる。

 

 

「俺は200年程前ジブリールと共に造られた。それから俺は天翼種(フリューゲル)として、自分以上の強者とも弱者とも幾度となく戦っている。……要するに戦闘経験の差だ。」

 

 

 メリオダスは何も言わない。事実だからだ。

 まったく戦闘を行っていないわけではない。リク達と会った時には妖魔種(デモニア)と交戦しているし、それ以外にも獣人種(ワービースト)とも交戦したことがある。

 しかし、どれも自分より弱かった上に交戦時間も短い。戦闘経験など積めるわけがない。

 

 

「攻撃は大振りで単調。闇の操作は慣れていないのが丸分かりで遅い。飛行も複雑な移動は無理。……平均的な天翼種(フリューゲル)の力以上があるのにそのザマでは森精種(エルフ)にすら遅れを取るんじゃないか?」

 

 

 メリオダスは体を起こしつつ、ガブリエルへロストヴェインを振り上げる。

 ガブリエルは空間転移(シフト)でメリオダスの後方へ転移し、回避する。

 

 

「それに——」

 

 

 ガブリエルは服の隙間から覗く霊骸に汚染された身体を見て続ける。

 

 

「——そんなボロボロな身体でよくもまあ、俺に勝てると思ったものだ。大方リクの身代わりにでもなったんだろうがそんな身体で俺に勝つことなど不可能だ。その上、お前俺を殺す気ないだろ。リクが設定した【ルール】を律儀に守っているのだろうが殺す気で来ないで勝てると思っていたのか?」

 

 

 そう言ってメリオダスへ光波を放つ。

 

 

「『(フル)——」

 

 

 メリオダスはそれを『全反撃(フルカウンター)』で跳ね返そうとするが、光波がメリオダスに当たる前に2つに分かれ、メリオダスの両隣に着弾する。

 着弾位置は1m以上離れていたが余波でメリオダスはダメージを受ける。

 

 

「くっ」

 

 

 メリオダスは闇の翼を広げ空へ飛ぶ。

 しかし、その後ろへ転移したガブリエルが無数の光弾を放つ。

 メリオダスは咄嗟に闇で壁を作るが、押され地面へ墜落する。

 そのメリオダスの後ろへ転移したガブリエルがさらに光波を放つ。

 

 

「ぐぁっ!」

 

 

 まともに直撃したメリオダスは吹き飛ばされる。

 吹き飛ばされているメリオダスに転移で追いついたガブリエルはメリオダスの頭を掴み地面へ叩きつける。

 メリオダスの頭から手を離したガブリエルは倒れて呻くメリオダスへ話しかける。

 

 

「貴様ごときに構っている時間は無い。死ね」

 

 

 そう言い空へ飛びながら、精霊を集めるガブリエルの言葉にメリオダスは覚悟を決める。

 

 

()()を使うしかねぇか)

 

 

 あれとは殲滅状態(アサルトモード)のことだ。

 殲滅状態(アサルトモード)とはメリオダスがかつて最凶の魔神と呼ばれ、十戒の統率者だった時の変化だ。

 仲間の十戒すら畏れ、現在にその状態になったメリオダスは闘級14万2000であり、原作で最強級であるエスカノールへ大ダメージを与え、魔神王の代理である十戒のゼリドリスと同じく十戒のエスタロッサをまとめて地面へ這いつくばらせる程の力だ。

 さて、それだけの力を持つ殲滅状態(アサルトモード)を今まで使っていなかったのは転生特典を寄越した絶対神が不吉なことを言っていたからだ。

 

 

殲滅状態(アサルトモード)は初めのうちは230話のメリオダスみたいに暴走しちゃうかもしれないから気をつけてね”

 

 

 と。

 暴走したメリオダスは残忍な笑みを浮かべ、エスカノールに「下賤な人間がおこがましい」や「人間が魔神に勝てるとでも……?」と人間を見下す様な事を言い、頭を握りつぶそうと頭を掴んだエスカノールに「気安く触んな」と言い、本来の魔神族の様な残忍な一面を見せていたのだ。

 

 

 故にメリオダスは殲滅状態(アサルトモード)を使うのを躊躇していたがそうも言っていられない状況になった。

 

 

 意識を強く持ちながら殲滅状態(アサルトモード)へ変化する。

 メリオダスの身体から今まで以上の闇が溢れる。……そして、あっさり、抵抗の余地もなくメリオダスの意識は闇に呑まれた……。

 

 

 ——……

 

 

 ————…………

 

 

 メリオダスの身体から溢れた闇は下半身を獣の脚を模した形に覆い、さらに上半身に衣服の様に纏っている。

 

 

 空へ飛び、トドメを刺そうと精霊を集めていたガブリエルはメリオダスの変化にそれを中断する。

 

 

「まさか……殲滅状態(アサルトモード)か?まだ力を隠していたとはな。だがどれだけ力を上げようとも戦闘経験の差は——」

 

 

「黙れ」

 

 

 覆らない、と続こうとした言葉はメリオダスに遮られる。

 

 

「アルトシュの操り人形風情が俺を見下すな」

 

 

 空中から見下ろすガブリエルを不愉快そうにメリオダスが言う。

 その目には先程まであった優しさは消えており、嘲りと殺意に満ちていた。

 

 

「死ね」

 

 

 そう言ってガブリエルが先とは一発一発の威力を上げた光弾を大量に放つ。

 しかし、メリオダスは先程までは1、2秒かかっていた翼の展開を一瞬で行い、光弾を意に介さずガブリエルへ突撃する。

 光弾は確実にメリオダスに直撃しているがダメージが少ない。

 殲滅状態(アサルトモード)になったことにより増大した闇が即座に治癒する。

 

 

「なにっ⁉︎」

 

 

 それに驚愕したガブリエルは回避が間に合わず、メリオダスの右拳がガブリエルの腹部に刺さる。

 

 

「ぐふっ!」

 

 

 張っていた防護魔法をガラス細工の様に壊し、元々アルトシュに張られている防護魔法も貫きガブリエルへダメージを与える。

 さらにメリオダスから放たれた回し蹴りでガブリエルは地面へ墜落する。

 身体を起こそうとしたガブリエルの頭部へメリオダスの飛び蹴りが直撃し、ガブリエル頭部が地面へめり込み、クレーターが出来る。

 

 

「操り人形はそうやって這いつくばっているのがお似合いだ」

 

 

 ガブリエルの頭に脚を乗せたまま、残忍な笑みを浮かべメリオダスが言う。

 

 

(くそっ、ピクリとも動かせない!)

 

 

 両腕に力を込め、頭を上げようとするガブリエルだが、メリオダスの強力な力に少し足りとも上がることが出来ない。

 

 

「くっ!」

 

 

 ガブリエルは右手に精霊を集め、それを爆発させ、距離を取る。

 距離を取ったガブリエルは光波を放つ。

 それをメリオダスの剣の間合いに入る前に空間転移(シフト)でメリオダスの後ろへ転移させる。

 

 

(それに対処した瞬間に殺す!)

 

 

 大鎌を構え、空間転移(シフト)の準備をしつつ、そう考えていたガブリエルの考えの斜め上を行く行動をメリオダスは取る。

 後ろに転移した光波を右手で握りつぶす。もちろん爆発が起き、右腕が焦げる。

 しかし、すぐに闇が覆い治す。そして、ガブリエルへ残忍な笑みを向ける。

 メリオダスはあえて『カウンターバニッシュ』を使わなかった。貴様の攻撃など効かんというように。

 

 

「ふ、ふざけやがってッ」

 

 

 ガブリエルはメリオダスへ1つの光弾を放つ。それはメリオダスの剣の間合いに入る前に強烈な光を放った。

 

 

「ちっ」

 

 

 目眩し、そう理解したメリオダスは舌打ちし、右手で目を庇う。

 その隙にガブリエルは空間転移(シフト)でメリオダスの周りを連続転移で移動しながら多数の光弾を放つ。

 それらがメリオダスへ着弾し、爆煙が辺りを覆う中、探知魔法を使い、メリオダスの位置を特定しながら攻撃を繰り返す。

 攻撃を繰り返すガブリエルへメリオダスが爆煙の中からガブリエルの頭へ頭突きをする。

 

 

「ふっ」

 

 

 ガブリエルの策を嘲笑うように鼻で笑い、頭を仰け反らせているガブリエルの頭を掴み、膝打ちを顔面へ食らわせる。

 そして、メリオダスはガブリエルの頭を掴んだまま地面へ近づき、地面へガブリエルの頭を叩きつけ、そのまま引きずる。

 

 

「ハーーーハッハッ!!」

 

 

 ガブリエルの頭を引きずりながら嗤うメリオダスに、

 

 

「は、なせ」

 

 

 右手から光弾を至近距離から当てようとするが、

 

 

「『全反撃(フルカウンター)』」

 

 

 ガブリエルの頭を離したメリオダスが跳ね返す。

 メリオダスにより跳ね返された攻撃によりガブリエルは吹き飛ばされる。

 

 

「クソがッ!」

 

 

「『神千斬り』」

 

 

 悪態を吐くガブリエルの目の前に来たメリオダスが、『神千斬り』を放つ。

 

 

「くっ」

 

 

 危うく空間転移(シフト)で回避したガブリエルはメリオダスの後ろへ転移し、大鎌を作り、振り下ろす。

 メリオダスは後ろも見ずに右手を後ろへ向け、

 

 

「『獄炎(ヘルブレイズ)』」

 

 

 アヴァント・ヘイムの1区画が黒い炎に包まれる。

 ガブリエルは黒い炎から空へ飛び、抜け出す。

 

 

「なにっ!」

 

 

 その後自分の身体を確認して、驚きの声を上げる。身体のところどころから黒い炎が上がっているのだ。

 天翼種(フリューゲル)はアルトシュの編まれた魔法そのものであり、物理的肉体を有さない。

 その為身体が燃えるなどということが起きるわけがないのだが……

 

 

「クソがぁ!」

 

 

 精霊を使い、火を消す。

 そんなガブリエルを見て残忍な笑みを浮かべながらメリオダスはガブリエルに相対するように飛ぶ。

 ガブリエルは理解する。こいつは自分より強いと。動きが今までとは全く違う。自分を超える力を持ち、先程まで拙かった力の使い方も上手くなっている。

 そう理解したガブリエルは意識を切り替える。

 もはや、力を温存し、アルトシュの加勢は不可能だろう。

 そして、暴走しているメリオダスは、自分を殺した後、姉達を皆殺しにするだろう。

 

 

 全力で、死力を尽くし、刺し違えてでも殺す。

 

 

 そう覚悟したガブリエルの、光輝く光輪と翼が暗転する。

 光すら搾取しだすまでに精霊を集める。

 森精種(エルフ)地精種(ドワーフ)などが見れば死を受け入れる破滅の具現。

 

 

「ふっ」

 

 

 しかし、それをメリオダスは鼻で嗤う。

 全身全霊の力で自分の全てを賭けて放とうとしている攻撃は『天撃』ではない。

 当然だ。『天撃』では倒すどころか刺し違えることすら不可能。

 無力化されるか跳ね返されるのがオチだ。

 

 

 故に『天撃』は撃たない。

 それ以上に力を消費し、使うだけで死にかねない手を打つ。

 残忍な笑みを浮かべながらガブリエルに相対していたメリオダスを唐突に——7つの光が穿った。

 

 

「がはぁッ。な、何が!」

 

 

 叫びながら後ろを振り返ると体ほいたる所が欠如し、幼児の姿になり——だが気丈に勝利を確信した笑みを浮かべているガブリエルの姿があった。

 そして、それを確認したメリオダスの後ろで強大な力が消失した。

 それにメリオダスが振り返るとガブリエルは既に影も形もなかった。

 

 

(偽装魔法!?いや、時空間転移かッ!!)

 

 

 時空間転移。

 龍精種(ドラゴニア)がよく使用するそれは本来天翼種(フリューゲル)には過ぎた所業である。

 無理して使えば『天撃』以上に消費し、その存在ごと蒸発しかねない。

 だが()()()()()()()()()()

 

 

 ガブリエルはこれを使わねばメリオダスを倒すことは出来ないと確信し、命を賭けて使い、メリオダス後ろから7つの心臓へ向けて光波を放ったのだ。

 上位魔神の心臓は7つあり、その全てを潰されるとどんな魔神も死ぬ。

 そう、全てを潰されれば。

 

 

 メリオダスは右手で身体を確認にそして、ガブリエルへ残忍な笑みを向けた。そして、それを見たガブリエルは驚愕、そして絶望の表情を浮かべた。

 体が蒸発しかねないほどの消耗により、一発——たった一発だけ外したのだ。

 

 

「く……そ」

 

 

 もはや飛ぶことすら出来ないガブリエルが落下する。

 メリオダスはそれを追いかけ、トドメを刺そうとした時、

 

 

「ぐっ……がぁッ」

 

 

 メリオダスが突然苦しみ出した。

 

 

「ガアアアァァァァッ!!」

 

 

 そして、メリオダスが纏っていた闇が全て消えた。

 ガブリエルの決死の攻撃により、メリオダスの中の本来の意思が戻り、殲滅状態(アサルトモード)から戻ったのだ。

 そして、落下するメリオダスは首を振り、魔神化し、翼を広げ、落下するガブリエルへ向かっていった。

 死を覚悟したガブリエルを——だがメリオダスは優しく受け止め、ゆっくり地面に降りる。

 

 

 メリオダスの表情は先程までとは違い、哀しみを浮かべていた。

 

 

「何故……殺さない」

 

 

 目を開けていることすら苦しいガブリエルはゆっくり瞼を閉じながらメリオダスに問う。

 

 

「【ルール1】誰も殺してはならない。【ルール2】誰も死なせてはならない。……悪かったな」

 

 

 メリオダスはガブリエルを優しく地面へ下ろし、自分の力を分ける。

 ガブリエルは僅かに力が戻り、体の欠如していた部分が治る、だが、まだ大人の姿に戻る程の力は戻っていない。

 

 

 その瞬間——ふと、声が——いや、星を揺らすような〝激震〟が奔る。

 天よ、地よ、遍く全てよ——聞け、と命ずるその〝声〟は語る。

 まさしく神——最強の神霊種(オールドデウス)らしい絶対的な響きで、

 

 

これが敗北——成る程。心沸き立つ楽しい(あそび)であったわ

 

 

 聞こえるだろう、と確信するように告げる。

 

 

名もなき最弱よ——誇るがよい。貴様は正しく、最強(われ)の〝敵〟たり得た

 

 

 ————そして。

 機凱種(エクスマキナ)達が向かった玉座の間があるのであろう所から紅い空を塗りつぶす白光が放たれる。

 

 

「はぁ……結局守れなかったか」

 

 

 力なく横たわりながらガブリエルが小さく零す。

 

 

「早く行けよ。リクが死ぬぞ」

 

 

「……ああ」

 

 

 そして、メリオダスはリクがいる場所へ向かい、飛び立つ。

 

 

「くそ」

 

 

 主と死んだ姉達を思いながら、ガブリエルは一筋の涙を流した……

 

 




 メリオダスの強さは殲滅状態(アサルトモード)になって天翼種(フリューゲル)以上巨人種(ギガント)未満と思っています。
 巨人種(ギガント)の強さがジブリール曰く、「標準的巨人種(ギガント)一体を、単独で仕留めるのは際どいかと。確実を期するなら5人は味方が欲しいところでございますが」らしいので巨人種(ギガント)よりは弱いかなと。
 ちなみにガブリエルやジブリールの闘級は我ノールと同等の11万程と考えています。
 で、ガブリエル達は平均的天翼種(フリューゲル)のおよそ倍らしいので平均的天翼種(フリューゲル)は5万ちょいかなと。
 森精種(エルフ)地精種(ドワーフ)は数千くらいかな?

 それから最凶状態——つまり、闘級6万の状態の魔神化で10万程かなと思っています。
 その上、「力に慣れていない」「戦闘経験皆無」「霊骸汚染でボロボロ」という状態だったのでガブリエルに一切の勝ち目がありませんでした。

 ここまで全て独自解釈なので異論は認めます。認めますが、変更は致しません。
 だってめんどゲフンゲフン私の作品ですので人に流されちゃいけないですしね(`・ω・´)キリッ

 それでは第32話をお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第32話 大戦の終結

 さて、ついに大戦の終結です。
 長かったなぁ。

 それでは第32話をどうぞ。


メリオダス視点

 俺は魂ごと落ちそうになる意識を何とか繋ぎ止めつつ全速力で飛んでいた。リクを死なせない為に。

 

 

 肉体的にも精神的にも、もう限界に近い。

 霊骸に汚染された状態で限界まで身体を酷使した上に心臓を6つも潰されているのだ。

 更に機凱種(エクスマキナ)天翼種(フリューゲル)達を救えなかったことや、ガブリエルを殺してしまうところだったことへの罪悪感に押しつぶされそうになって、心が折れそうだ。

 

 

 だが、ここで倒れる訳にはいかない。

 ここで俺が倒れればリクは死んでしまう。

 そうならないように折れてしまいそうな心を何とか繋ぎ止め、限界だと悲鳴を上げる身体を酷使し、リクの下へ向かう。

 

 

 するとリクの居る場所から先の全陣営総攻撃に匹敵する力を感じ、一条の光が大地を穿つのが見えた。その直後——世界が崩壊する。

 地殻がめくれ、先程まで相対していたガブリエルや最強神アルトシュ、果ては『真典・星殺し(ステイル・マーター)』の力すら星から溢れた一雫に過ぎないと確信出来る程の膨大な力が放出される。

 

 

(やばいッ!)

 

 

 俺はリクの下へ急ぐ。

 星から放出された力が限界を訴える身体を蝕む。だが、

 

 

(見つけた!)

 

 

 崩壊の中心地であるそこに光のような、五芒星が浮かぶ多面体、星型の正十二面体——『星杯(スーニアスター)』と、それへ右手を伸ばすリクの姿があった。

 俺はリクを抱えその場から離れる。

 

 

「離せッ、メリオダス!あれの為に何人が犠牲に——ッ。手にしなきゃ意味ねぇだろうがッ!」

 

 

「お前が死んだら元も子もないだろ!」

 

 

 俺ですら星から放出される力でバラバラになりそうだというのに人間であるリクがあの場に留まり続ければ確実に死ぬ。

 俺が『星杯(スーニアスター)』から背を向け飛ぶ中リクは後方へ手を伸ばし、涙を流しながら叫ぶ。

 

 

「想いから生まれるのが神なら——()()()()()()()ッ!」

 

 

 今はまだいない神へ語りかける。

 

 

(ごみ)みたいなこの命だが、全て捧げて、生まれて初めて〝祈る〟——頼むよ!敗者の分際で、勝利品(せいはい)を盗るのが汚すぎるというのならッ。唯一神の座を手にするには血に塗れすぎているのならッ。——頼むよッ。せめて〝俺達(こころ)に何か意味があったと言ってくれッ!誰でもいいからこの戦争を終わらせられる誰かに——その『星杯(スーニアスター)』を誰かに……ッ」

 

 

 リクの〝祈り〟を聞きながら俺も祈る。

 

 

(テト。お前しかいないんだ。世界を救ってくれ)

 

 

 実を言うと少し不安であった。

 ないとは思うが俺の介入によってテトが現れないかもしれないと。

 故に俺は祈った。元の世界の初詣や神頼みとは違う、心の底から神に祈った。

 

 

 そして、

 

 

「……はっ……はははは——あっははははははッ!」

 

 

 リクが唐突に笑い出した。

 俺は止まり、後ろを振り返る。

 

 

 『星杯(スーニアスター)』へ近づく1人の少年。

 大きな帽子をかぶり、両目にはダイヤとスペード。

 遊戯の神——テトだ。

 

 

「——んだよ、やっぱ、いたんじゃねぇか……てめぇ……なぁ、またゲームしようぜ……今度こそ、勝ってみせるから、さ——シュヴィと2人で……絶対に」

 

 

 そう言うリクへ不敵な笑みを返して、『星杯(スーニアスター)』へ手をかざし、そして————…………

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 その光景を、世界の誰もが目撃した。

 

 

 ——まず、光が世界を包んだ。

 遠い彼方から広がった光は、紅い天も碧い地も白く染め上げ、天地の境を奪った。

 音もなく広がった光が止むと——世界は、色を失っていた。

 天と地を見渡した誰もが困惑し、そして、一拍置いて気付く。

 空を舞う灰は宙に留まり、戦火は揺らめきを忘れ、あらゆう物は停止していた

 ——時間さえも。命を持つ者達以外の、その全てが。

その光景に呆然とする、生きとし生ける者を置き去りに、数瞬の間を置いて。

 ——衝撃が世界を包んだ。

 破壊とは明らかに違う——優しい力が世界を舐めるように奔った。

 

 

 同時、空を見上げた者達は——眼を見開いた。

 

 

 常軌を逸した光景——全ての生物、種族がただ無理解のまま眺めるそれを。

 ——ただ。

 180の『幽霊』と、1人の人間と1体の天翼種(フリューゲル)だけが理解を以て見ていた……

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 ————…………

 

 

 かつては名があった、霊骸に侵食された体を岩に預ける『幽霊』は。

 

 

「……ホントにやったんだな……大将……」

 

 

 辛うじて残る視力で空を見上げ——紅く天に蓋していた粉塵が——

 風で札が捲れていくように、バラバラと冗談のように消えていくのを見た。

 

 

 ————…………

 

 

 同じくかつては名があった、吸血種(ダンピール)に噛まれ病んだ『幽霊』は。

 

 

「……はは……マジでやりやがった——あの野郎……ッ」

 

 

 初めて浴びる光に体を焼き焦がしながら——荒廃し破壊し尽くされた山々が——

 手品のように逆再生して、あるべき形に組み直されていくのを感じた。

 

 

 ————…………

 

 

 180の『幽霊』達が、それぞれの場所、それぞれの体で。

 何が起きたかを理解して、思い思いの感慨を胸に見た。

 抵抗不可能、絶対的な命令に、森羅万象が呼応して——

 ——世界が。作り替えられていく様を。

 

 

 人間には魔法を感知することなど出来ないが、それでも確信があった。

 何故かはわからない——だが。

 戦争が——永き永き大戦が、これで終わったのだと。

 その確信に、思い思いの感慨を胸に——『心』から笑いがこぼれた。

 

 

 ————…………

 

 

 『幽霊』達を除いて理解を以てそれを眺めた数少ない者達は。

 ルーシア大陸、リクとシュヴィを寝室で窓から顔を覗かせていた。

 

 

「……本当に……『星杯(スーニアスター)』を手に入れたのね……みんな」

 

 

 ——いつの間にか、灰は降り止んで。

 天を仰ぎ見たコロンは、空が蒼いというお伽話は真実だったのだと知った。

 そして、初めて——

 

 

 ——太陽を、見た。

 

 

「シュヴィちゃん見える?リク達、やったみたいだよ」

 

 

 コロンは振り返り、ベッドで横たわり、窓の外を見たボロボロのシュヴィへ言った。

 

 

 そして、シュヴィの頰を一雫の涙が伝った。

 

 

 ————…………

 

 

 理解を以て眺めたもう1人は未だ力が戻らず地に横たわりながら。

 200年ぶりの青空と太陽を見ていた。

 

 

「俺が人間や機凱種(エクスマキナ)を滅ぼしてれば何か変わったのかなぁ」

 

 

 変わっていただろう。

 恐らくはアルトシュが大戦の勝者になっていた筈だ。

 一度の敗北を経験することなく。

 

 

 アルトシュや姉達は自分が殺したも同然だが、アルトシュが満足していたならいいだろう、と自分を欺きながら。

 涙を堪えて憎たらしいほど綺麗な青空を見つめた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

メリオダス視点

「ふんふんふ〜ん♪」

 

 

 俺は今懐かしい青空を見上げながら、鼻歌を歌いつつ、森を歩いていた。

 

 

 あの後俺は隠れ家へ帰り、シュヴィとコロンへ詳しい話をした。

 コロンは泣きながら俺達を叱り、シュヴィはそれを見て小さく微笑んだ。

 

 

 俺達が話をしていると生き残った機凱種(エクスマキナ)達がシュヴィに負けず劣らずのボロボロ具合のまま入ってきた。

 機凱種(エクスマキナ)達は嘘を吐いていたことを謝罪していたが、リクは「気にするな。俺も自分に嘘吐いてたしな」と機凱種(エクスマキナ)達を許した。

 

 

 そして、リクがシュヴィに「やっぱりゲームの神はいた。2人で今度こそ勝とうぜ」と言っているのを尻目に誰にも気付かれないように俺は隠れ家を後にした。

 

 

 理由は簡単。

 俺はもう長くはないからだ。

 

 

 霊骸に汚染された体で全力を出し、死闘を行った体はボロボロだ。

 残った1つの心臓の鼓動もゆっくりになっていっている。

 

 

「初死が衰弱死とか笑えるなぁ」

 

 

 苦笑交じりにそう零しながら立つことすら厳しくなり、ドサッ、と倒れこむ。

 

 

(この後のことが少し心配だがあいつらなら大丈夫だろう。遺書も残しといたしな)

 

 

 木漏れ日を感じながら眼を閉じそのまま第2の人生(2年程度だが)に幕を閉じようとしていた時、

 

 

 ザクッ……ザクザクッ

 

 

 こちらへ向かってくる足音に意識を繋ぎ止める。

 

 

(やっぱ、機凱種(エクスマキナ)の観測器は誤魔化せなかったか?)

 

 

 そう思いつつ、眼を開けた俺の視界に映ったのは、

 

 

「やあ♪」

 

 

 そう言って俺を覗き込む遊戯の神にして唯一神のテトだった。

 

 

「……何してんの?」

 

 

 全く予想していなかった相手に思わずそう零す。

 

 

「いや〜、ゲームの功労者が1人寂しく死のうとしているからお見送りしようとね☆」

 

 

 テトの言葉に俺は自嘲気味に苦笑し、

 

 

「功労者ねぇ、結局救えたのは何人なんだろうな」

 

 

 俺の言葉を聞いたテトは首を傾げ、

 

 

「う〜ん、最後にさ、聞いていいかな?」

 

 

「なんだよ」

 

 

「君って一体何者なの?『星杯(スーニアスター)』さえ知らないんだけど」

 

 

 その言葉に俺は苦笑する。

 成る程全知の力を持つ『星杯(スーニアスター)』でも異世界のことはわからないのか。

 それとも唯一神でも絶対神には届かぬのか。

 

 

 そんなことを考えつつ、俺は自分の事を全て話した。

 

 

「へぇ〜、面白いね。転生者か〜」

 

 

 そう呟くテトに俺はニヤリと笑い、

 

 

「ちなみにお前はこれから6000年程暇を持て余すぜ」

 

 

「えぇ⁉︎嘘!」

 

 

「ホントホント。まぁ、俺の知ってる未来にはならないと思うけど、ガブリエルやリクとシュヴィがいるし」

 

 

「そっかぁ」

 

 

 俺の言葉に考え込むテト。

 

 

「……でも……リクと……シュヴィなら……何かしちゃう……んだろうな」

 

 

 どうやらもう限界らしい。

 もう眼を開けるのも喋るのも億劫だ。

 

 

「……そっか。誰も死なないそんな世界で彼等が何かしてくれるのを僕も期待してみよう」

 

 

 眼を閉じる前に見たテトの顔は慈愛に満ちた笑顔だった。

 

 

「おやすみ……いい夢を」

 

 

 テトのその言葉を最後に俺の意識は闇へ落ちた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 テトは眠るように死んだメリオダスの体が光と化して消えていくのを見た。

 唯一神となった自分ですらどうしようも出来ない絶対的な力がメリオダスの魂と体を連れて行く。

 

 

 メリオダスの体が完全に消えた時、テトは振り返り歩き出す。

 その次の瞬間、テトは巨大なチェスの上にいた。

 

 

「誰にも創られず、誰にも望まれず、誰にも願われず。ただ己の意思で、獣から二足で立ち上がり、知性を手にするに至った唯一の種族であるが故に——名も無き種族——()()

 

 

 彼らだけが、不毛で無為でくだらない戦争を終わらせることに成功した。

 その結果が泥仕合だったとしても——転生者の力を借りたとしても——彼らだけが。

 それを、ただの獣と同列に語るか?——断じて否だろう。

 

 

「だから僕が、君達に唯一神として名を与える——『人類種(イマニティ)』……『免疫(immunity)』と」

 

 

「そして——」

 

 

 そう言って最弱の、最後の神霊種(オールドデウス)は『星杯(スーニアスター)』をかざして。

 天上天下遍く全てに届く声で、告げた。

 

 

『知性ありしと自称する【十六種族(イクシード)】よ——ッ!遺志達の公儀(アシェイト)を継いで、十六種族の同意(アッシエント)をなし、唯一神の座に基づき(アッシェンテ)定める『十の盟約』を。いざ仰げ。今日、この日、世界は変わった。さぁ——ゲームを()()()()ッ」

 

 

 ——【盟約に誓って(アッシェンテ)】——ッ‼︎

 

 




 最終回っぽいですが旧作と同様メリオダスが死んだ後のノゲノラ世界がどうなったかを載せます。
 リメイクではありましたがここまで付き合ってくださった方々ありがとうございましたm(_ _)m
 第2章、毎日投稿ですが頑張ります。
 ってあれ?そういえばアンケートの結果この作品を1月の間、毎日投稿するって報告してなかったか。
 まあ、というわけでします。

 それでは最終話をお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最終話 その後

 今回はついに最終話です。
 2章の世界は決まりました。何かはお楽しみに。
 今回はメリオダスの死後の登場人物達の動きです。

 それでは第1章最終話をどうぞ。


1:リク、シュヴィ、コロン

 メリオダスが居なくなったことに気づいた3人は機凱種(エクスマキナ)達に協力してもらいメリオダスを捜索したが、見つけたのは1冊の本だけだった。

 

 

 そこはこう、初められていた

 

 

 “親愛なる姉兄達へ

 お前らは多分俺を探しているだろうがそれは無駄だ。俺はその時には死んでいる。霊骸に汚染され、天翼種(フリューゲル)と戦ったんだ。体が限界じゃないわけないだろ?

 お前達は怒るだろうがそれでも、リクとシュヴィを死なせたくなかったんだ。悪いな。

 そして、俺の正体と俺が知りうる全てをここに記す。お前達なら役立ててくれると思う。

 2人ともボロボロで長くないだろうが誰も死なないそんな世界で余生を楽しんでくれ。”

 

 

 そして、その後には自分が転生者であること、この世界がこちらの世界では空想の物語であること、これから起こるであろう事の全て、そしてガブリエルへのちょっとした伝言が記されていた。

 

 

 その内容に3人はとても驚いたが()()()()()メリオダスが死んだ事を悲しみ、メリオダスをバカアホと罵倒した後——自分達の仕事を始めた。

 

 

 コロンは表の人間——否、人類種(イマニティ)の長として、リクとシュヴィは裏からコロンを支えて人類種(イマニティ)達をまとめ出した。

 さらに、リク達と同じく、『幽霊』として大戦終結に貢献した者達は皆ボロボロで吸血種(ダンピール)に噛まれた者達は太陽の光を浴びて既に死に、その他もそう長くはなかったがリク達と共に裏から人類種(イマニティ)に貢献した。

 それらにより、6000年後。『  』(くうはく)達が来る時には原作では最後の都市を残すのみとなっていたが、複数と都市が残っていた。

 

 

 そして、リクとシュヴィが亡くなる前に大戦時のことを記した本や知りえる全ての情報を記した本を保管した書庫を機凱種(エクスマキナ)に「次を託せる者が現れたら渡してくれ」と言って託した。

 

 

2:機凱種(エクスマキナ)

 彼らはリクへの愛が消えたわけではないがリクに諭され、さらにリクの為ならと繁殖をしっかりと行った。

 人類種(イマニティ)のサポートは機凱種(エクスマキナ)と繋がっているとバレると人類種(イマニティ)が警戒される為、接触には細心の注意を払って行われた。

 

 

 アインツィヒやイミルアインと『 』(くうはく)が出会うことはなくなった。

 

 

 そして、6000年後に『 』(くうはく)が現れた時は『 』(くうはく)を試す為、ゲームを行った。

 原作とは違い、しっかりと『 』(くうはく)を相手にしていた為、最悪の敵となった。

 『 』(くうはく)が勝った後はリクとシュヴィから託されたモノを渡した。

 

 

3:ガブリエル、ジブリール

 大戦終結から5年後、完全回復したジブリールはアルトシュが討たれたことや大戦終結の話を聞いた。

 ジブリールに遅れて数週間後回復したガブリエルにジブリールはメリオダスの話を聞く。

 ガブリエルが負けたという話を聞いても恐れることなく、アヴァント・ヘイムを飛び出し、メリオダスを探し始める。

 姉達がアルトシュが討たれたことに動揺している中能天気だな、とガブリエルは呆れる。

 

 

 ガブリエルは姉達が自殺しないよう説得し続けた。それにより、全てとは言わないがある程度自殺を止めることが出来た。

 

 

 ジブリールは数百年に渡りメリオダスを探し続けたが、既にいない者を見つけるなど出来る訳がなかった。

 

 

 何度かメリオダスが関わっていた様子の人類種(イマニティ)機凱種(エクスマキナ)にゲームを挑み、聞き出そうとしたが、大半の人類種(イマニティ)はメリオダスの存在すら知らず、知っていてもどうなったかを知っているのはごく僅かで無駄骨。

 機凱種(エクスマキナ)には挑んで勝てる訳がなく返り討ち。

 

 

 そして、メリオダスのことを遂に諦め、姉達に遅れて本の収集を始めた。

 

 

 6000年後、ステフの持っていた青い石の裏のメリオダスの文字を見た時、思わず殺気を迸らせた。

 そして、同じく書いてあったシュヴィの名を見て、ある程度のことを察した。

 

 

 ガブリエルはジブリールと違い、所有されることはなくなったが『 』(くうはく)に挑み破れ、行動を共にし、協力した。

 機凱種(エクスマキナ)『 』(くうはく)に挑みに来た時にメリオダスからの伝言を聞き、笑った。

 

 

4:シンク・ニルヴァレン

 シンクもジブリールと同様メリオダスを探した。

 しかし、勿論何か手掛かりが掴めるはずはなかった。

 

 

 探している途中、ジブリールも探しているという話を聞いてますますメリオダスが何なのか気になったシンクだったが、生きている間にそれを知ることはなかった。

 

 




 伝言がなんなのかとか詳しい話とかはガブリエルが主役の『転生天翼種』に出す予定なので良ければそちらもお読みください。

 いや〜、ここまで本当に長かった。リメイクで旧作との変更点も少なく原作とあまり変わらない内容でありながらここまでお読みくださった皆様誠にありがとうございましたm(_ _)m

 それでは第2章もお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2章 盾の勇者と憤怒の魔神
第0話 次の世界へ


 皆様あけましておめでとうございます。今年も「新・メリオダスになって異世界を渡る」をよろしくお願いしますm(_ _)m
 1月毎日投稿初回の今回ですがまだ次の世界には行きません。
 いや〜2章の世界なんだろね?え?章のタイトルでわかる?ハハハ、そんなバカな。……うん、ぶっちゃけタイトル変えるかしばらくハテナにでもしておくか悩んだけどそこまでして隠す必要ないと思ったのでこのままで行きました。

 というわけで第2章の世界は「盾の勇者の成り上がり」でございます。序盤はしばらくオリ展開で尚文は出ませんが数話で出るようにします。原作キャラがメリオダスに惚れたり、オリヒロが出たりしますので嫌な方は読むのをに控えて貰って結構です。
 ちなみにweb版です。web版見る前に漫画の尚文の信用回復まで読んだことがあったのですがそこまでで結構違いがあってそっちの方が面白そうではあったのですがぶっちゃけそっちにすると話長くなりそうだし、web版にしても第2章の倍以上の話数使いそうで第3章に入れるのが何ヶ月後になるかを考えただけで涙出てきそうでweb版だって十分面白いし勘弁してくだせぇ( ;∀;)

 後、少し問題があるのですが。私、本編は全て読み終わっているのですが外伝の「槍の勇者のやり直し」を全て読み終わっていないので矛盾が生じたりする可能性があるんです。
 読めよ、と思われるかも知れませんが、まだ半分も終わってないし、小説書く関係で本編読み直したいし、小説書く時間も欲しいしで時間が足りねぇ!精神と時の部屋がマジで欲しい(切実

 あ、ちなみに「盾の勇者の成り上がり」を知らない方のために後書きでネタバレがない程度に解説したりします。ちゃんとネットで調べるので多分間違いはないんじゃないかな?
 本文じゃない理由は今回、メリオダスは「盾の勇者の成り上がり」を知らない設定にするので一人称で書くので解説が難しいところもあるためです。
 これを機に「盾の勇者の成り上がり」を読む方が増えると嬉しいです。アニメもやるしね。web版ならお金かからないし。

 それでは第2章第0話をどうぞ。


「やあ、久しぶりだね♪結構大変だったみたいじゃ——」

 

 

「死ッ‼︎」

 

 

 俺はその声を聞いた瞬間、正義の鉄拳(恨みを込めた右ストレート)を反射的に繰り出していた。

 俺の右拳が綺麗に絶対神(やつ)の左頬に刺さり、吹っ飛ぶ。ボールのようにポンポン跳ねながら。

 そして左頬を押さえながら立ち上がり、

 

 

「ちょっと!何すんのさ!こんな美少女の、しかも顔を殴るなんてこの鬼畜!」

 

 

「うるせえ!テメェふざけんじゃねぇぞ!何で最初からノゲノラゼロなんだよ!下手すりゃ第2の人生開始十数分で終了だったぞ!最初から難易度高すぎるわああぁぁぁぁあッ!」

 

 

「あれ?言ってなかったっけ?僕新しいゲームもハードモードから始めるタイプなんだ♪」

 

 

「テメェのことなんか知るかああぁぁぁぁぁぁああッ‼︎」

 

 

 俺は頭を掻き毟りながら叫んだ。

 

 

「まあまあ、結果よければ全て良しだよ♪」

 

 

「テメェマジで死ね」

 

 

「無理で〜す。不死なので死にませ〜ん」

 

 

「神撃でも受けてみろよ」

 

 

「ふふふ。あれじゃ、僕を殺すどころかかすり傷付けることも出来ないよ」

 

 

「は?あれで?」

 

 

 俺はバカげた力の神撃を思い浮かべる。

 

 

「そうだよ♪だって言ったでしょ全ての神々は僕が造ったって。あの世界の場合は星や宇宙を僕が造ったんだよ。そして、神霊種(オールドデウス)は星より力が弱いんだよ?僕の力の一欠片の星より弱い力で僕に傷つけられるわけないじゃん」

 

 

「そういえばそんなこと言っていたような?」

 

 

 2年前でもはや記憶が薄れてきているが。

 

 

「まあいいや。そんなことより俺が死んだ後リク達はどうなった?」

 

 

人類種(イマニティ)率いて頑張っていたよ。流石にテトには挑めなかったみたいだけど」

 

 

 そりゃそうだろう。いくらなんでも時間が足りないし、大戦終結直後でどの種族も全権代理者なんて立てている余裕ないだろうしな。

 

 

「それから、君の遺書見て君のこと罵倒してたよ。バカアホってね」

 

 

「まあ、言われてもしょうがないことしたからなぁ」

 

 

「あ〜後、ジブリールとシンクが君のこと探してたよ……殺す為に」

 

 

「へ、へぇ〜」

 

 

 俺の頰を冷や汗が伝う。

 あの2人に目つけられてたのか。

 

 

「いや〜死んでよかったね。2人に見つかっていたらまずまともには死ねなかっただろうね」

 

 

 否定出来ないのが怖い。

 

 

「さて、それで、新しい転生特典は思いついたかな?」

 

 

 あっ、忘れてた。

 

 

「…………特に無いな」

 

 

「えぇ、そうなの?勿体無いな〜」

 

 

「ちなみにだが、アルトシュと同等の力とかも出来るのか?」

 

 

「出来るよ?」

 

 

 は?

 

 

「え?……マジで?」

 

 

「うん。なんだったらアルトシュの倍の力だって——」

 

 

「わかった、この話はやめにしよう」

 

 

 俺はかなり規格外らしい。

 

 

「あ、そうだ。これはサービスであげるよ」

 

 

 そう言って絶対神が手を翳すと光が収束するようにして、俺が作った首飾りが現れた。

 それは宙を滑り、俺の下へやってくる。

 

 

「お、マジか。サンキュー」

 

 

 姉兄(あの3人)との思い出が詰まった大切な品だったので不本意ながら絶対神にお礼を言いつつ受け取る。

 

 

「ふふふ、破壊不能にしておいたからね。崇め称えよ!」

 

 

「それさえなければしてたかもな」

 

 

 胸を張る絶対神に半眼を向けながら、ツッコミを入れる。

 

 

「それじゃ、次の世界へ参りま〜す」

 

 

「落とすなよ」

 

 

 バスガイドのように言う絶対神に前回のように落とされては堪らぬと念を入れて置く。

 

 

「うん」

 

 

 しかし、絶対神は、そう言いながら既視感のあるいい笑顔で、指を鳴らした。

 そして、嫌な予感に体を動かす間も無く、俺の足元の床が消えた。

 そうすればどうなるかは自明で……

 

 

「ふざけんじゃねぇぞおおぉぉぉぉぉぉおッ!クソ女神いいぃぃぃぃぃぃぃ」

 

 

「頑張ってね〜」

 

 

 そう言って手を振る絶対神の姿を最後に俺の意識はなくなった。

 

 




 ちなみに今日はこれだけです。
 短い?勘弁してください( ;∀;)

 次回から本格的に第2章の始まりです。

 それでは第2章第1話をお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

設定

 遅くなりましたが現時点でのメリオダス(絶対神も)の設定です。


◎メリオダス・ドーラ

☆転生特典

・メリオダスの容姿

・メリオダスの能力(魔神族の魔力と身体能力、魔力『全反撃(フルカウンター)』)

通常状態:闘級3万2500

最凶状態:闘級6万

殲滅状態(アサルトモード):闘級14万2000

・神器『魔剣ロストヴェイン』

・メリオダスの呪いを「死ぬたびに魔神王に感情を奪われて蘇る」ではなく、「死ぬたびに別の異世界で蘇る」に変える。

・他の転生者の転生特典がわかる

・他の転生者の転生特典の精神に及ぼす能力(惚れさせる、情緒不安定にする等)の無効化

・触れている転生者の転生特典を消せる(原作に存在する転生者のは不可)

増える可能性大

 

☆設定

 日本に住んでいる普通の高校一年生だった。

 夏休みに外へ出た時に転び、頭を打ち付け死んだ。

 その後転生の間で絶対神を名乗る美少女に自分の魂が人間では規格外のものだと知る。

 未だに最初に転生した世界がノゲノラゼロだったことを根に持っている。

 メリオダスの能力に慣れておらず、魔力を使っていないガランにも通常状態では魔神化しなければ勝てない程である。

 この章では戦闘経験をほとんど積めないためしばらくメリオダスの力に振り回される。

 七つの大罪は277話まで読んでいる。

 盾の勇者の成り上がりは聞いたことがある程度。

 性格は人をおちょくるのが好き。少しSっ毛がある。

 しかし、基本的に優しく、死んでも蘇ることを含めて見ず知らずの人の為に命を張れる。

 しかし、最凶状態になると通常状態より感情が薄くなり、殲滅状態(アサルトモード)になると完全に別人格のようになってしまう。

 動物が好き。特に猫が大好き。獣耳っ娘が好き。

 

◎絶対神

 見た目は黒髪ロングの美少女。

 ダ◯まちのヘスティアのような性格。

 全知全能であるがそれではつまらないと全知の力を封印している。

 全ての世界は絶対神か絶対神が創造した神々によって作られた。

 その存在を知る者は、絶対神に直接作られた神々だけである。

 そのため信仰などはされていない。

 ドラ◯ンボールの全王様のように世界や神々を簡単に消せるがそのようなことはしたことがないのでその存在を知る神からは「気まぐれに神や世界を作る暇神」と思われている。

 主人公には暇ではないと言っていたが、自分が創った世界も同時に神も創り、その神に管理させているためとても暇で、今までは色んな世界を観て暇を潰していたが、今は主人公を観て暇を潰している。

 最近では他の人も転生させているが主人公はお気に入り。

 

◎盾の勇者の成り上がりでのメリオダス

 ほぼ最強。

 ラスボス以外相手には無双出来る。

 勇者ではではないがメリオダスの魔力などはスキル扱い。

 ステータスはバグっていて確認は出来ないがそれ以外の機能は問題ない。




 ちゃんと今日の分は別に投稿するので安心してください。

 ご不明な点は質問してください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第1話 第2の世界到着

 今回から本格的に第2章の始まりです。
 前回の言った通り、しばらくオリ展開が続きますがご了承ください。

それでは第2章第1話をどうぞ。


「あのクソ女神ぃ。次会ったらほっぺ千切れるまで引っ張ってやるッ」

 

 

 俺は草地の上に寝転びながら心に固く決意し、足で反動をつけて立ち上がる。

 まず体の確認をする。霊骸でボロボロだった体は完全に綺麗になっている。地精種(ドワーフ)に消された腕も治っている。

 服装も前回のアニメ第2期の新衣装ではなく、第1期の衣装になっていた。……何故に。

 次に周りを見渡すとどうやら森の中のようだ。木漏れ日が眩しい。

 ノゲノラゼロのように世紀末な世界ではないことにひとまず胸を撫で下ろし、ここが何の世界かを確かめよう。

 と思い歩き出そうとして、ふと気が付いた。

 

 

 あれ?俺が知らない世界ってこともありえるのか?

 

 

 前回の世界ではすぐに何の世界か知ることが出来た——というより思い知らされたので完全に失念していた。

 あのクソ女神には行く世界についてはメリオダスが世界観に合わない世界はやめろと言っていただけで俺の知っている世界にしろとは言っていなかった。

 勿論俺も見ていないアニメは沢山ある。

 その中のどれかだったら転生者としてのアドバンテージが減る。

 いきなり、ノゲノラゼロの世界に送るような腹黒女神ならその可能性は大いにある。

 

 

「けど、ま、いっか」

 

 

 考えてもしょうがないとにかく人に会えば多分わかるだろう。

 というわけで俺は森を抜ける為歩き出そうとした時に視界の端に妙なものがあることに気がついた。

 

 

「なんだこれ?」

 

 

 自己主張するマークに意識を向けると、ピコーンという音と共にパソコンのプラウザのようにアイコンが視界に広がった。

 

 

 メリオダス=ドーラ

 職業 憤怒の魔神 Lv%*

 装備 神器『魔剣ロストヴェイン』

    異世界の服

 スキル 『全反撃(フルカウンター)

     『カウンターバニッシュ』

     『リベンジカウンター』

     『獄炎(ヘルブレイズ)

     『付与(エンチャント)獄炎(ヘルブレイズ)

     『神千斬り』

 魔法 無し

 

 

 とその他にも攻撃力や防御力などゲームのステータスのようなものがあった。

 しかしその数値部分だけLVと同じようにバグっていた。

 バグってるのは異世界人だからなのかメリオダスの力がこの世界の規格外なのか。

 ……十中八九後者か。

 

 

 ま、いいや。気になることは色々あるけど人に会って情報収集することにははじまらん。

 

 

 そう思い歩き出すと、すぐに近くの草むらで音がした。

 それを聴いた俺はほぼ反射的に木の陰に身を隠し、聞き耳を立てた。

 

 

 小さいな。一定間隔で音がなってる。ジャンプしてんのか?

 

 

 俺は気配を殺しつつ、木の陰から音のした方を覗くと——

 

 

「………………」

 

 

 ——可愛らしいうさぎがいた。……緊張を返せ。

 

 脱力しながら、俺ビビりすぎだなぁ、と思う。

 俺が知っている世界ならメリオダスの力があれば大抵の世界で無双できる。前回の世界がおかしかっただけで。

 ノゲノラゼロの世界ならこれで問題ないというかこんな感じでないと死にかねなかったが、こんなビクビクしてると逆に問題がありそうだしな。

 

 そう考えつつ、木の陰から出て食料確保しようとうさぎに近づいた瞬間——

 

 

「グギャァァァアアッ!!」

 

 

「うおぉぉッ!?」

 

 

 ——うさぎの口が裂け、文字通り牙を剥いて襲いかかって来た。

 驚いた俺は咄嗟にロストヴェインを抜き放ち、うさぎを一刀両断した。

 力加減をミスり、剣を振り下ろした延長線上の地面や木々が両断され倒れる音を聞きながら、俺は冷静になる。

 

 

「とりあえず、ほのぼのとした世界じゃないことだけは分かった」

 

 

 そう呟きながら、ロストヴェインを鞘にしまう。

 まずは、森を抜けて人のいる所に行こう、と太陽を見ながら適当に歩き出した。

 

 


 

 

 ——そして3()()()()

 森を適当に歩いて抜けられるはずもなく、極々自然に迷子になった。

 時々この世界の魔物とおぼしき生物に出会うがそれ以外は人っ子一人見当たらない。

 

 

 そろそろ、腹も空いてきたし、獲った魔物でも食おうかなぁ。

 そう、植物のツルで巻いて引きずっていた魔物達に目を向けた時だった。

 

 

 視界の端に木造の建物らしきもの見えた。

 そちらに目を向けると、木々で見にくいが、見間違いではなく確かに木造の建物が見えた。

 ついに見つけた人の手掛かりに俺は思わずテンションが上がり、走り出した。

 

 

 近づくと、それは小さな小屋のようだった。

 森の中に1つだけぽつんとあるそれには。

 切り株の横に転がる薪割り用とおぼしき斧や小屋の近くに纏められた薪、小さな畑で育つ野菜などが。

 人が住んでいることを示していた。

 

 

 村や集落ではなかったことに少し肩を落としながら、小屋の入口へ向かい、戸を数回叩いた。

 そして出てきた老婆の言葉に俺は思わず、天を仰ぎ見た。

 

 

「$¥€<=〒*°#r&ono|%*>q&#?」

 

 

 言葉通じんのかいと内心で呟きながら……。

 

 


 

 

 そんな老婆との出会いからはや1ヶ月が経った。

 

 

 言葉が通じないと理解した俺は何とか身振り手振りでしばらく一緒に住まわして欲しいという意図を伝えた。

 本来は森の出方を聞きたかったところだったが、言葉が通じないのならば森を出て、町へ行ったところでどうしようもない。

 なのでここで住まわして貰いつつ、言語を教えてもらおうと思ったのだ。

 まあ、もちろんそこまで高望みはしていなかった。普通に断られるとは思っていた。

 なのでダメで元々だったのだが二つ返事であっけなく了承された。

 薪割りや畑仕事を手伝ったり、魔物を狩って来たりしつつ、婆さんに言葉を教えて貰った。

 苦戦したが、なんとか習得してこの世界の常識なども教えて貰った。

 

 

 何故いきなり来た俺を住まわしてくれたのか聞くと13年前からここで1人で暮らしていて寂しかったらしい。

 そして、歳のせいで薪割りや畑仕事が厳しくなって来ていたらしい。……厳しくなっていただけでまだ出来ていたことに驚きだ。この世界がなら普通なのかこの婆さんが凄いのか。

 

 

 しかし、そんな婆さんは1週間程前から急速に体調を崩していた。

 今では殆ど寝たきりだ。

 何度か近くの町へ運ぶと言ったのだが、頑なに拒否された。

 

 

 そして、今日。

 ついに婆さんは息を引き取った。

 

 

 婆さんはこの世界のことを色々教えてくれたが自分のことは何一つ話さなかった。

 こんな所に1人で住んでいるくらいだ。何かしら深い事情があったのだろう。

 それを察していたので俺も何も聞かなかった。

 

 

 俺は婆さんの遺言通りに遺体を小屋の庭に埋め、墓を作った。

 しばらくその墓を見つめてから俺は婆さんに教えて貰った最寄りの村へ向かって歩き出した。

 

 




 漫画で見るとステータスの攻撃力とかってグラフになってるんですよね。まあ、それがバグっているとお考えください。
 以下説明。

・ステータス魔法
 本文でメリオダスが視界の端にあるマークに集中してステータスの画面を開いたもの。
 ステータスを確認出来るこの世界の人ならだれでも使える魔法。

・口裂けうさぎ
 適当に作った魔物。原作に細かく魔物の容姿の説明がなかったから仕方ない。
 よくファンタジー物の作品にいるタイブの魔物である。
 今後の出番は恐らくない。

・名もなき老婆
 オリキャラ。
 ぶっちゃけただ主人公に言語を教えるためだけのキャラ。
 元々言葉が通じるように絶対神がしたことにしたり、このポジションをオリヒロにするなどの案もあったが没。
 裏設定はあるが語るほどのことではない。

 こんな感じに説明して行きます。
 足りない点、分からない点がありましたらご指摘ください。

 それでは第2話もお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話 サクサク進もう

 タイトル通りサクサクと話を進めました。
 ていうか予定変更したので次回から原作に入れそうですw

 話は変わりますが現在AbemaTVにて「ノーゲーム・ノーライフゼロ」が無料配信されています!
 観てない方も観た方も是非ご覧ください!
 めちゃくちゃ面白いです!

 それでは第2話をどうぞ。


 婆さんの森の小屋を出発した俺は途中何度か襲ってきた魔物を蹴散らしつつ、森を歩いていた。

 そして、日が暮れ始めたところで村を見つけることが出来た。……意外と遠かったな。

 木造の家々が立ち並ぶ、まさにファンタジーと言える村だった。

 

 

 ついに見つけることが出来た村に俺はホッと胸を撫で下ろし、近くの人に声をかけた。

 

 

「なあ、ちょっと聞きたいことがあるんだが」

 

 

「はい?……なんだ、ボウズ」

 

 

 俺の声に振り返った、村人Aは訝しげに俺を見た。

 

 

「俺は旅の者なんだがこの村に宿屋はあるか?」

 

 

「旅人だぁ?お前みたいなガキがかよ」

 

 

「こんな見た目だが一応18なんだよ」

 

 

「マジか。てかそれでも若いじゃねぇか。それに身なりも旅人っつうよりどっかの店の店員見たいだしよォ」

 

 

 俺はその言葉に苦笑する。

 俺の今の格好は豚の帽子亭の制服の上にフード付きのマントを羽織っただけのものだ。

 

 

「旅人なんだよ。それで質問の答えは?」

 

 

「旅人なんか滅多に来ないからなぁ。宿なんてないな」

 

 

 俺はその言葉に肩を落とす。

 周りを見る限り小さな村っぽいし仕方ないか。

 ちなみに俺は一応お金はある。

 婆さんが持っていたものを譲ってもらった物だ。

 狩った魔物の素材とかもあるから一応金には困らないと思う。……使う宿がないんじゃ意味ないが。

 

 

「マジかよ。困ったな。……ちなみに聞くが金払ったら泊めてくれたり?」

 

 

「……まあ。俺は一人暮らしだし、別にこの村も排他的というわけでもないから問題ないが」

 

 

「ほほう。一人暮らしですか」

 

 

 俺はそう言いながら村人Aの体を眺める。

 農作業のせいだろうか、それなりに筋肉のついた体に若い——恐らく20代後半と思われる顔。

 

 

「その歳で一人暮らしか。いや、これからきっといい出会いがあると思うぞ?」

 

 

「てめえ、ケンカ売ってんのか!?泊めねぇぞオイ!?」

 

 

「にしし、冗談だよ。ささ、お宅に案内してくれ」

 

 

「ったく。こっちだよ」

 

 

 そう言って村人Aは——ってそういえば。

 

 

「そういや、オッサン名前は?」

 

 

「まだオッサンじゃねぇよ。ラルドだよ」

 

 

「そ、俺はメリオダス。よろしく」

 

 

「おう」

 

 

 そんな話をしながらラルドが案内したのは周りと同じような木造の建物だった。

 

 

「ここだ」

 

 

「おう。んで?1泊おいくら?」

 

 

 ちなみに俺の全財産は銀貨21枚と銅貨が少し。

 銀貨1枚で銅貨100枚、銀貨100枚で金貨1枚らしい。

 

 

「そうだな。食事付きで銅貨80枚くらいかな」

 

 

「うーん、まあ宿屋じゃねぇしそんなもんでいっか」

 

 

 相場がどれくらいか知らんけど。

 

 

「そりゃ良かった。揉めたら面倒だったからな」

 

 

「……お前——いや、やっぱいいや」

 

 

 宿屋じゃないのに泊めてくれるんだ文句は言うまい。

 俺は渋々銅貨80枚を渡す。

 

 

「毎度」

 

 

 ラルドは金を受け取ると戸を開けて家の中に入っていった。

 

 

「そういや、お前料理できるか?」

 

 

 ラルドに続いて家に入った俺にラルドが振り返り問いかけてくる。

 

 

「無理。クソまずい料理がご所望なら振舞ってやるぜ?」

 

 

 転生前の俺はちょっとした料理くらいなら作れたのだがメリオダスの体になってから見た目完璧の激マズ料理しか作れなくなってしまった。

 1度リクやコロンに料理を振舞ったことがあったが、それから2度と料理をさせてもらえなくなった。

 

 

「……あっそう。んじゃ俺が作るか。言っとくが俺も上手いわけじゃなからな」

 

 

「料理だけに?上手いと美味いを掛けて——」

 

 

「てめえ閉め出すぞ」

 

 

 ニヤニヤしながら言った俺にラルドは青筋を立てながら言った。

 

 

 ラルドが料理はそこそこには美味かった。

 

 


 

 

「んじゃ、世話になったな」

 

 

 次の日、朝食も頂いた俺はラルドに近くの町の方向を聞いて、出発しようとしていた。

 婆さんにも聞いていたが念の為ラルドにも聞いておいた。

 どうやら、ここからもう数日程歩いたところにこの国——メルロマルクの城と城下町があるらしい。

 国の名前を聞いても全く聞き覚えがないので俺が知らない世界の可能性が高まっている。

 

 

「おう、ボウズも気をつけろよ」

 

 

 俺は手を挙げてそれに応じながら、城下町へ歩き出した。

 

 


 

 

「メルロマルクの城下町か……」

 

 

 話の通り、数日で城下町には着いた。

 

 

 そこは中世のイギリスのような街並みで人の往来も多く、かなり活気がある事が分かる。

 まさにファンタジーだ。

 

 

 俺は一先ず冒険者登録をするためにギルドへ行くために、近くの人へ話しかけた。

 

 




 話を淡々と進めすぎた気がする……。

・ラルド
 オリキャラ。
 前回の婆さんと違い裏設定すらない、ただのモブ。

・メルロマルク
 「盾の勇者の成り上がり」で主に舞台となる国。
 主人公の尚文を含めた盾、槍、剣、弓の勇者4人を召喚した国。
 人間至上主義の国のため亜人の肩身が狭い。
 盾を除いた3つの武器の勇者を信仰する三勇教を国教としている。
 女系王族の国であり、女王の方が立場がある。

 それでは第3話もお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話 4人の勇者

 今回から原作に入れます。冤罪はもう少し待ってください。

 それでは第3話をどうぞ。


 メルロマルクの城下町に着いて3日が経った。

 その3日で俺は1つ失敗を犯してしまった。

 

 

 なに、そこまで大したことではない

 城下町に来た次の日に冒険者の依頼で少し城下町を離れて、とある村に行った時の話だ。

 新米冒険者にそこまで難しい依頼は出さない。

 依頼自体は大したことはなくすぐに終わった。

 その後が問題だった。

 

 

 依頼を終え、村を出ようとした俺だったが、突然村にライオンのような——しかし体躯は地球のライオンの数倍ある魔物が村を襲ったのだ。

 しかもその魔物はかなり強いようで村人達は絶望顔。

 そんな場面に居合わせれば誰だって助けに入る。

 

 

 そんなわけで俺はそのライオンのような魔物に向かって行ったわけだが、俺はこの魔物が強いらしいと思い今までに蹴散らしてきた魔物への攻撃より気持ち強めに殴った。

 そしてその一撃で——ライオンのような魔物は肉片へと変じた。

 俺を含めたその場に居合わせた全員が5秒程固まった。

 

 

 そして俺は、この時に気がついた。

 今までの魔物への攻撃ってオーバーキルだったのか、と。

 

 

 その後は茫然自失から立ち直った村人達に歓声を浴びせられつつ取り囲まれた後に宴会を開かれ、その日のうちに城下町には帰して貰えず、やっとの思いで帰ればその場に居合わせていたらしい冒険者や行商人の話で噂は広がり俺は一躍有名人となったわけであるッ。

 

 

 別に通りを歩いていたら、声をかけまくられる程ではないが、冒険者からパーティの誘いが激増してウンザリしているだけだ。

 

 

 どっかのパーティに入ればマシにはなるかもしれないが、誘ってくる奴らが俺に寄生しようとしているのか真面目に仲間として誘っているのか判断がつかず未だに1人だ。

 

 

 そんな俺に国からギルドを通して依頼が舞い込んで来た。

 内容は「波の対策に勇者を召喚したからその仲間に加わって欲しい」とのこと。

 

 

 この世界には終末の予言とやらがあるらしい。

 なんでも、世界を破滅させる波が幾多にも重なり訪れる。それを何とか退けないと世界が滅ぶというものらしい。

 その予言の年が今年であり、予言の通り、古から存在する龍刻の砂時計という道具の砂が落ちだしたらしいのだ。

 この龍刻の砂時計は波を予測し、一ヶ月前から警告する。伝承では一つの波が終わる毎に一ヶ月の猶予が生まれる。

 当初、この国の住民は予言を蔑ろにしていたそうだ。しかし、予言の通り龍刻の砂時計の砂が一度落ちきったとき、災厄が舞い降りた。

次元の亀裂がこの国、メルロマルクに発生し、凶悪な魔物が大量に亀裂から這い出てきたらしい。

 

 

 ……うん、ぶっちゃけ俺がいた婆さんの森の小屋は波の被害と全く関係ない所で気づかなかった。

 あ、でも婆さんが死ぬ数日前に空がワインレッドに染まった時があったけどその時だったのかな?

 

 

 とまあ、それは冒険者や騎士が何とかしたのだが次のは耐えられないかもしれないから勇者を召喚したようだ。

 

 

 うん、ここまで聞いても全く覚えがない。本格的に俺の知らない世界の可能性が高くなってきやがった。あのクソ女神め。

 

 

 さて、そして俺はその依頼を受けた。

 勇者とやらに会えば世界のことが分かるかもしれないからな。

 

 

 勇者は今日召喚して、明日顔合わせらしい。

 急な話だなまったく。

 

 

 そんなわけで依頼を受けた俺は情報収集のため、今日は他の依頼を受けずにギルドを後にした。

 

 


 

 

 次の日俺は城へ向かった。

 城で勇者達と顔合わせするらしい。

 城は当然一般開放なんぞされているわけがないので来るのは初めてだ。

 城の門番に要件を言った時に俺の姿を見て訝しげにしていた。

 

 

 ちなみに俺の服装はラルドがいた村に行った時とまったく変わっていない。

 魔物にわざと攻撃を受けたこともあったが全く痛くなかった。防御力がかなり高いらしいので鎧などが全く必要ない。

 さらに最近気がついたがこの服一切汚れず、臭くもならず、破けても再生する。

 わざとソースを垂らした時も10分足らずで綺麗になったし、わざと破いてもこれまた10分足らずで再生した。

 無駄に高性能な服にした絶対神に防御力も上げとけやと文句を言いたいところだ。

 耐久性は普通の服と変わらなかったのだ。

 そんなわけで鎧とか他の服を着るよりこの服を着た方が洗濯の必要も買い替える必要もなく便利なのだ。

 

 

 なので門番が俺を疑ったのも仕方ない。

 だが、噂で俺の容姿でも聞いていたのか深く疑われることなく、謁見の間に案内された。

 

 

 案内の最中にさり気なく、「今回の盾の勇者は世界の理に疎いらしい」という話を聞かされた。

 勇者は4人いて、それぞれ剣、槍、弓、盾の武器を持ってるらしい。

 この話を聞いたとき、思わず盾は武器じゃないだろと心の中でツッコミを入れてしまった。

 そして、勇者は世界の理を理解していると伝承にあるらしい。

 だが、俺は別にだから何としか思わず、「へぇー」と軽く流したら、案内していたやつが一瞬顔を歪めたのは気の所為だろうか。

 

 

 その後は特に会話もなく、謁見の間に到着した。

 中に入ると王様と大臣らしい者と冒険者風の服装の男女が数名、騎士風の者もいた。

 

 

 俺が中に入ると「あいつが……」「本当に?」見たいな呟きが聞こえてきた。噂を聞いたらしい。マジでめんどい。

 

 

 俺は王様に一礼した後、しばらく待たされ、謁見の間にもう数名入って来て俺を含め、13名になった所で勇者が呼ばれた。

 

 

「勇者様のご来場」

 

 

 その声で戸が開き、それぞれの武器を持つ4人が入ってきた。

 

 

 まず剣の勇者は165cm程の高校生と思われる美少年だ。女装させたら似合いそう。

 髪はショートヘアで茶色が混ざっている。

 切れ長の瞳に白い肌はクールな印象を受ける。

 

 

 次に槍の勇者。こいつは20歳になっていそうな剣の勇者とは違うベクトルのイケメンだ。

 彼女の1人や2人居そうなリア充の雰囲気を感じる。出来ることならグーで1発殴りたい。

 髪は男のくせにポニーテイル。似合ってるのがムカつく。

 

 

 次に弓の勇者。こいつは剣と同じで高校生くらいだと思われる大人しそうな少年だ。

 髪型は若干パーマが掛かったウェーブヘアー。

 前者2つと比べると少し地味だな。

 

 

 最後に盾の勇者。こいつは槍と同じで成人していると思われる。

 特別特徴らしい特徴はない。顔も普通だし。強いて言うならオタクっぽい。仲良くなれそう。

 

 

 勇者はみんな程度の違いはあれ、異世界にウキウキしているようだ。

 分かる。その気持ち分かるよ。俺もそうだったから。

 開始数分も経たずに龍精種(トカゲ)天翼種(ニワトリ)に踏み躙られたけどな!クソが!

 なんもかんもクソ女神が悪い。

 

 

「前日の件で勇者の同行者として共に進もうという者を募った。どうやら皆の者も、同行したい勇者が居るようじゃ」

 

 

 俺がクソ女神への恨み言を心の中で呟いていると王様が話を始めた。

 

 

「さあ、未来の英雄達よ。仕えたい勇者と共に旅立つのだ」

 

 

 え? こっちが選ぶ側?

 見れば勇者達も驚いている。

 そして、その勇者達は順番に並ばされる。

 

 

 さて、どの勇者にしようか。

 剣の勇者は剣って武器がThe勇者って感じだよな。でも近接なら俺の方が強そうだしなぁ。

 槍は却下。なんかムカつく。

 弓の勇者はいいかもな。俺は遠距離攻撃の手段ないし。魔神化すれば別だけど、あんまあれ使いたくないしな。変な誤解を巻きかねない。

 盾の勇者は微妙。盾だから防御力は高いんだろうけど俺も高いから守ってもらう必要ないしな。

 

 

 と、俺が弓の勇者にしようかと考えていると、ザッザっと俺以外の冒険者や騎士達が勇者達の方へ歩いて行って各々の前に集まっていく。

 

 

 剣の勇者、5人

 槍の勇者、4人

 弓の勇者、3人

 盾の勇者、0人

 

 

 その結果に俺は苦笑いしつつ、チラッと盾の勇者の方を伺った。

 ……なんかめっちゃ助けを求めるような目で見てる。

 

 

「ちょっと王様!」

 

 

 盾の勇者は俺から視線を外し、叫ぶ。

 盾の勇者のクレームに王様は冷や汗を流す。

 

 

「う、うぬ。さすがにワシもこのような事態が起こるとは思いもせんかった」

 

 

「人望がありませんな」

 

 

 事もあろうに呆れ顔で大臣が切り捨てる。

 そこへローブを着た男が王様に内緒話をする。

 

 

「ふむ、そんな噂が広まっておるのか……」

 

 

「何かあったのですか?」

 

 

 槍の勇者が微妙な顔をして尋ねる。

 

 

「ふむ、実はの……勇者殿の中で盾の勇者はこの世界の理に疎いという噂が城内で囁かれているのだそうだ」

 

 

「はぁ!?」

 

 

「伝承で、勇者とはこの世界の理を理解していると記されている。その条件を満たしていないのではないかとな」

 

 

 ああ、そういやそんなこと言ってたかな。

 そう俺が納得していると槍の勇者が憐れな盾の勇者の脇を肘で小突き、コソコソ話し始めた。

 

 

「つーか錬! お前5人も居るなら分けてくれよ」

 

 

 なるほど剣の勇者の名前はレンって言うのか。

 そんな場違いなことを考えている俺をよそに、盾の勇者の声に何か怯える羊みたいな目で錬に同行したい冒険者(男を含む)が錬の後ろに隠れる。

 剣の勇者——レンもなんだかなぁとボリボリと頭を掻きながら見て。

 

 

「俺はつるむのが嫌いなんだ。付いてこれない奴は置いていくぞ」

 

 

 と、突き放す口調で話すわけだが、そいつらは絶対に動く気配が無い。

 ていうか男女比が女性の方が多い。……お前も嫌いだ。

 

 

「元康、どう思うよ! これって酷くないか」

 

 

「まあ……」

 

 

 なるほど、槍の勇者はモトヤスか。

 ってか、仲間全員女じゃねぇかクソが。

 

 

「偏るとは……なんとも」

 

 

 弓の勇者も困った顔をしつつ、慕ってくれる仲間を拒絶できないと態度で表している。

 

 

「均等に3人ずつ分けたほうが良いのでしょうけど……無理矢理では士気に関わりそうですね」

 

 

 弓の勇者の最もな言葉にその場に居る者が頷く。

 

 

 そして、ついに盾の勇者が俺に向かって話しかけてきた。

 

 

「頼む、あんた!俺の仲間になってくれ!」

 

 

「えー、そうだなぁ……」

 

 

 むー、盾か。弓がよかったんだけどな。

 ん?そういや盾の勇者ってなんか聞いたことがあるような気がするな。ま、いっか。

 

 

「いいぜ。この生き仏のように優しい俺が人望のない憐れな盾の勇者様の仲間になってやろう」

 

 

「……もっと他の言い方はないのかよ」

 

 

「にしし、よろしく」

 

 

 恨めしそうに俺を見つめながら、呟く盾の勇者に近づき握手する。

 

 

 ……まただ。今度は王様や大臣達が一瞬、苦々しい表情をした気がする。

 確かこの国の国教は盾の勇者以外の勇者を信仰する三勇教だったか。だから盾の勇者は嫌いってか?詳しいことは調べてないから盾の勇者の立場は知らんが。

 

 

「他にナオフミ殿の下に行っても良い者はおらんのか?」

 

 

「あ、私は盾の勇者様の下へ行っても良いですよ」

 

 

 元康の部下になりたがった仲間の女性が片手を上げて立候補する。

 

 

「お? 良いのか?」

 

 

「はい」

 

 

 セミロングの赤毛の可愛らしい女の子だ。

 顔は結構可愛い方じゃないか? やや幼い顔立ちだけど身長は盾の勇者より少し低いくらいだ。俺よりは高い。

 それより、なんかこいつ嫌な感じがするな。気の所為か?

 

 

「他にナオフミ殿の下に行っても良い者はおらんのか?」

 

 

 王様の2度目の言葉にはシーン、と誰も手を上げる気配が無い。

 というか盾の勇者の名前はナオフミって言うのか。

 王様は嘆くように溜息を吐いた。

 

 

「しょうがあるまい。ナオフミ殿はこれから自身で気に入った仲間をスカウトして人員を補充せよ、月々の援助金を配布するが代価として他の勇者よりも今回の援助金を増やすとしよう」

 

 

「は、はい!」

 

 

 妥当な判断だな。ナオフミと仲間になっていいってやつを他にナオフミ自身が探した方がいいしな。

 

 

「それでは支度金である。勇者達よしっかりと受け取るのだ」

 

 

 勇者達の前に四つの金袋が配られる。

 ジャラジャラと重そうな音が聞こえた。

 その中で少しだけ大き目の金袋がナオフミに渡される。

 

 

「ナオフミ殿には銀貨800枚、他の勇者殿には600枚用意した。これで装備を整え、旅立つが良い」

 

 

「「「「は!」」」」

 

 

 勇者達と仲間はそれぞれ敬礼し、謁見を終えた。

 それから謁見の間を出ると、それぞれの自己紹介を始める。

 

 

「えっと盾の勇者様、私の名前はマイン=スフィアと申します。これからよろしくね」

 

 

「よ、よろしく」

 

 

 女慣れしてないのかナオフミ気遅れしている。

 俺はマインと言うらしい女の嫌な感じを払拭するのに忙しい。

 

 

「よろしく〜。んで俺はメリオダス。よろしく」

 

 

「よろしく」

 

 

 俺相手には普通だ。やっぱ女慣れしてないのか。

 

 

「じゃあ行こうか、マイン、さん。後、メリオダス」

 

 

「はーい」

 

 

「俺はついでか?」

 

 

 元気に頷いたマインと俺はナオフミの後ろに着いて行く。

 

 

「ってそういえば、メリオダスって戦えるのか?子供みたいだけど……」

 

 

 歩き出してすぐにナオフミが振り返り俺に問いかけてくる。

 

 

「今更だな。安心しろよ。こんななりでも18で結構強いぜ」

 

 

「18!?その見た目でか!?」

 

 

「にしし、ちっこくて悪かったな」

 

 

 そんな感じで少々騒がしく、俺達は城の外へ歩き出した。

 




 今更ながら気が付きましたが尚文とかマインとかについて説明すると完全にネタバレになりますね(^^;
 ネタバレしてもいいですか?ご意見ください。

・デカいライオン
 オリジナルの魔物。
 LV30の人が5人がかりでやっと倒せる程。
 人間はLVが40になるとそこでLVアップがストップし、龍刻の砂時計でクラスアップしないといけない。
 クラスアップしても100が限度。
 だからこのライオンをワンパンは結構凄い。

・龍刻の砂時計
 波が来る時期を伝える巨大な砂時計。
 クラスアップやレベルリセットなども行える。
 そのため国が管理している。

・尚文と元康の内緒話の内容
 この前日に4人の勇者達は話し合いをしており、尚文以外の3人はこの世界をタイトルやジャンルは違うが知っている。
 その話を盗み聞きされたのでは?という話をしていた。

 ネタバレしていいなら、次回の後書きで原作キャラの説明をします。

 それでは第4話もお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話 違和感

 毎日投稿五日目!……つらたん
 今回のを見ればナオフミの冤罪がどうなるか分かると思います。
 原作知らない人はこの後原作ではナオフミに冤罪がかけられるんだなぁ程度に思っていればいいです。
 後、やっぱりネタバレはない方がいいという意見があったので本編で後々分かることは後書きに載せないことにします。
 本文を補足する感じで出来たらと思います。
 不明な点は質問してください。

 それでは第4話をどうぞ。


 城と町を繋ぐ跳ね橋を渡り、城下町を見るとナオフミは感動している。分かるよ。The異世界って感じだもんな。

 

 

「これからどうします?」

 

 

「まずは武器とか防具が売ってる店に行きたいな、これだけの金があるのなら良い装備とか買えるだろうし」

 

 

 まあ、ナオフミは武器を持ってないからな。武器を持ってる他の勇者達と既に差がついている。

 

 

「じゃあ私が知ってる良い店に案内しますね」

 

 

「お願いできる?」

 

 

「ええ」

 

 

 マインはスキップするような歩調でナオフミに武器屋を紹介する。

 俺はロストヴェインがあったり、防具の必要がなかったりで武器屋などには詳しくないので何も言わずにナオフミと一緒にマインについて行く。

 城を出て10分くらい歩いた頃だろうか、一際大きな剣の看板を掲げた店の前でマインは足を止めた。

 

 

「ここがオススメの店ですよ」

 

 

「おお……」

 

 

 店の扉から店内をのぞき見ると壁に武器が掛けられていて、まさしく武器屋といった面持ちだ。

 他にも鎧とか冒険に必要そうな装備は一式取り扱っている様子。

 武器屋じゃないくて武具屋じゃね。どうでもいいか。

 

 

「いらっしゃい」

 

 

 店に入ると店主に元気良く話しかけられる。筋骨隆々の、まさしく絵に描いた武器屋の店主って感じの人がカウンターに立っている。

 

 

「へー……これが武器屋かぁ……」

 

 

「お、お客さん初めてだね。当店に入るたぁ目の付け所が違うね」

 

 

「ええ、彼女に紹介されて」

 

 

 そう言ってナオフミがマインを指差すと、マインは手を上げて軽く手を振る。

 

 

「ありがとうよお穣ちゃん」

 

 

「いえいえ~この辺りじゃ親父さんの店って有名だし」

 

 

「嬉しいこと言ってくれるねぇ。所でその変わった服装の彼氏は何者だい?」

 

 

 ナオフミの今の服装は異世界の服なのだ。

 ともすればお上りにしか見えないか、もしくは変な奴だ。

 というかさっきから俺をよそに会話するの辞めてくれないかな。

 

 

「親父さんも分かるでしょ?」

 

 

「となるとアンタは勇者様か! へー!」

 

 

 まじまじと親父さんはナオフミを凝視する。

 ……長くなりそうだな。品物でも見てるか。

 

 

 俺は会話を続けるナオフミ達から少し離れて武器や防具を見る。

 それぞれ手に取って見るとアイコンが開き、名前や効果などが見れた。

 ふむ。どのくらいかよく分からんな。

 参考までにロストヴェインのを見てみるか。

 

 

 ロストヴェイン 攻撃力アップ 実像分身

 

 

 うん、わがんね。

 

 

「おーい、メリオダス」

 

 

 俺が首を傾げていると、ナオフミが俺を呼んだ。

 

 

「ん?話を終わったか?」

 

 

「ああ、これから俺の装備買うんだけどお前防具なくていいのか?」

 

 

「ああ。なくても平気平気」

 

 

「おい、ボウズ。魔物を舐めてると危ねぇぞ」

 

 

 俺の軽い返事に親父さんが真剣な顔で言う。優しい人みたいだな。

 

 

「舐めてるわけじゃなくて、もうそこらの魔物だとダメージ受けないんだよ」

 

 

「何?だいぶレベルが高いのか?……ってお前か噂のめちゃくちゃ強い魔物を倒したっていうガキは」

 

 

「あんたも知ってんのか……後ガキじゃないぜ」

 

 

「めちゃくちゃ強い魔物ってなんだよ」

 

 

 俺らの話を聞いていたナオフミが問いかけてくる。

 

 

「俺が聞いたのはドラゴンだとか大鷲だとかだったな」

 

 

 噂だけ一人歩きし過ぎだろ。

 

 

「猫だよ可愛らしいな」

 

 

「猫ォ?」

 

 

 ナオフミが——いや、3人とも訝しげにこちらを見る。

 その視線にニヤッと返し、

 

 

「ただし——数m以上の巨体でたてがみがあったけどな」

 

 

「それライオンだろ」

 

 

 ナオフミが肩を落として言う。

 

 

「ていうかめちゃくちゃ強いは言い過ぎじゃないか?ちょっと強めに小突いただけのつもりだったんだが……」

 

 

「その魔物が俺の知ってるやつならかなり強いはずなんだがな」

 

 

 首を傾げた俺に親父さんが半眼で見てくる。

 やっぱ俺この世界のこと過大評価してたかもな。大したことなさそう。

 

 

「ま、そんなわけだから俺の装備はこのままで大丈夫だぜ」

 

 

「そういうことなら、じゃあ俺の装備から買うか」

 

 

「ねえ親父さん。何か良い装備無い?」

 

 

 今まで黙っていたマインが色目をしながら親父さんに尋ねる。

 

 

「そうだなぁ……予算はどのくらいだ?」

 

 

「そうねぇ……」

 

 

 マインがナオフミを値踏みするように見る。

 

 

「銀貨250枚の範囲かしら」

 

 

 所持銀貨800枚の中で250枚……宿代とか仲間を雇い入れる代金を算出すると相場なのかな。

 来たばかりで俺も詳しくないから何も言えんが。

 

 

「お? それくらいとなると、この辺りか」

 

 

 親父さんはカウンターから乗り出し、店に飾られている武器を数本、持って来る。

 

 

「あんちゃん。得意な武器はあるかい?」

 

 

「いえ、今のところ無いんですよ」

 

 

「となると初心者でも扱いやすい剣辺りがオススメだね」

 

 

 数本の剣をカウンターに並べた。

 

 

「どれもブラッドクリーンコーティングが掛かってるからこの辺りがオススメかな」

 

 

「ブラッドクリーン?」

 

 

「血糊で切れ味が落ちないコーティングが掛かってるのよ」

 

 

「へぇ……」

 

 

 これには俺も感心する。

 切れ味が落ちない剣とは中々の業物みたいだな。

 

 

「左から鉄、魔法鉄、魔法鋼鉄、銀鉄と高価になっていくが性能はお墨付きだよ」

 

 

 これは使用している鉱石による硬度か?

 鉄のカテゴリー武器って感じか。

 

 

「まだまだ上の武器があるけど総予算銀貨250枚だとこの辺りだ」

 

 

「鉄の剣かぁ……」

 

 

 そう言ってナオフミは徐に剣の柄を握り締める。

 すると——

 

 

 バチン!

 

 

「イッ!」

 

 

 突然強い電撃を受けたかのように持っていた鉄の剣が弾かれて飛ぶ。

 

 

「お?」

 

 

 俺は親父さんとマインと共に不思議そうな顔でナオフミと剣を交互に見る。

 

 

「なんだ?」

 

 

 ナオフミは落としてしまった剣を拾う。

 そして、また——

 バチ!

 

「イッテ!」

 

 

 ナオフミは親父を疑ったのか睨むが、親父は首を横に振る。

 次にマインに顔を向けると、マインがナオフミに言う。

 

 

「突然弾かれたように見えたわよ?」

 

 

 うん。俺にもそう見えた。

 その言葉に訝しげに自身の手を見たナオフミは動きを止める。

 どうやらステータスを見ているらしい。

 

 

「えっと、どうも俺はこの盾の所為で武器が持てないらしい」

 

 

 苦笑いを浮かべつつ、ナオフミは顔を上げる。

 何それ攻撃できなくね?

 

 

「どんな原理なんだ? 少し見せてくれないか?」

 

 

 ナオフミは親父に盾を持つ手を向けて見させる。

 外れないのかな?

 武器屋の親父が小声で何かを呟くと、盾に向かって小さい光の玉が飛んでいって弾けた。

 

 

「ふむ、一見するとスモールシールドだが、何かおかしいな……」

 

 

「あ、分かります?」

 

 

「真ん中に核となる宝石が付いているだろ? ここに何か強力な力を感じる。鑑定の魔法で見てみたが……うまく見ることが出来なかった。呪いの類なら一発で分かるんだがな」

 

 

 見終わった親父は目線をナオフミに向けてトレードマークの髭を撫でる。

 

 

「面白いものを見せてもらったぜ、じゃあ防具でも買うかい?」

 

 

「お願いします」

 

 

「銀貨250枚の範囲で武器防具を揃えさせるつもりだったが、それなら鎧だな」

 

 

 盾は既に持っているわけだし、結果的にそうなるか。

 親父は店に展示されている鎧を何個か指差す。

 

 

「フルプレートは動きが鈍くなるから冒険向きじゃねえな、精々くさりかたびらが入門者向けだろう」

 

 

 といわれて、ナオフミは差し出されたくさりかたびらに手を伸ばす。

 ジャラジャラと鎖でつながれた服だ。

 そのまんまだよな。防御は見たとおりって所か?

 

 

「あれの値段はどれくらいなんですか?」

 

 

 マインが店主に尋ねる。

 

 

「おまけして銀貨120枚だな」

 

 

「買取だと?」

 

 

「ん? そうだなぁ……新古品なら銀貨100枚で買う所だ」

 

 

「どうしたの?」

 

 

「盾の勇者様が成長して不必要になった場合の買取額を聞いていたのですよ」

 

 

 うーん?気が早くね?仲間も集めて装備を強くしなきゃなんだから金稼いでさらに強い防具買えるのそこそこ先になりそうだけどな。

 そんなもんなのかな?

 

 

「じゃあこれをください」

 

 

「まいど! ついでに中着をオマケしておくぜ!」

 

 

 気前のよい店主だな。

 ナオフミは銀貨120枚を渡し、くさりかたびらを受け取った、

 

 

「ここで着ていくかい?」

 

 

「はい」

 

 

「じゃあ、こっちだ」

 

 

 ナオフミは更衣室に案内され、渡されたインナーとくさりかたびらに着替えた。

 元々来ていた服は店主がくれた袋に入れたようだ。

 

 

「お、少しは見えるカッコになったじゃねえか」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

「まさに駆け出し冒険者って感じだな」

 

 

「……それ、褒めてないだろ」

 

 

 俺の言葉に呟いたナオフミに、にししと笑いで返す。

 

 

「それじゃあそろそろ戦いに行きましょうか勇者様」

 

 

「おう!」

 

 

 冒険者っぽい格好になり、テンションの上がったナオフミとマインと一緒に店を出た。

 それから俺達は城門の方に歩いて、城門を潜り抜ける。

 途中、国の騎士っぽい見張りが会釈したのを見てナオフミが元気良く返した。

 ……テンション上がりすぎだろ。

 

 


 

 

 城門を抜けると見渡す限り草原が続いている。

 一応石畳の道があるが一歩街道から外れると何処までも草原が続いていると思うくらいに緑で覆いつくされている。

 その景色にナオフミは当然を装ってはいるがさらにテンションが上がったようだ。

 

 

「では勇者様、このあたりに生息する弱い魔物を相手にウォーミングアップを測りましょうか」

 

 

「そうだね。俺も戦闘は初体験なんだ。どれくらい戦えるか頑張ってみるよ」

 

 

「頑張ってくださいね」

 

 

「え? マイン達は戦ってくれないの?」

 

 

「私が戦う前に勇者様の実力を測りませんと」

 

 

「そ、そうだね」

 

 

 俺は完全にやる気だったんだけどよく考えたらナオフミの実力も知っていた方がいいか。

 俺もここに来たことあるけど弱いやつしかいないし。

 ていうか——

 

 

「ん?パーティは組まないのか?」

 

 

「パーティ?」

 

 

「ああ。パーティを組めば例えば俺が魔物を倒してもナオフミやマインにも経験値が入るんだ」

 

 

 俺がそう説明するとやはり一瞬マインが悔しそうにした気がする。

 

 

「ああ、忘れてました。じゃあ勇者様が勧誘してください」

 

 

「うん」

 

 

 ナオフミが頷くとパーティ勧誘されたことを知らせるアイコンが視界に表示された。

 本当にゲームみたいだなと思いつつ同意する。

 

 

 その後、しばらく草原をとぼとぼと歩いていると、なにやら目立つオレンジ色の風船みたいな何かが見えてくる。

 

 

「勇者様、居ました。あそこに居るのはオレンジバルーン……とても弱い魔物ですが好戦的です」

 

 

 相変わらず酷い名前だな。オレンジ色の風船だからオレンジバルーンか?

 

 

「ガア!」

 

 

 凶暴な声と二つの凶悪そうな目つきが敵意を持っているのを感じさせる。

 畑にある。鳥避けの風船みたいな奴がこちらに気づいて襲い掛かってくる。

 

 

「頑張ってください勇者様!」

 

 

「おう!」

 

 

 カッコいい所を見せようとしてるのがバレバレだなと俺は苦笑する。

 ナオフミは盾を右手に持って鈍器の要領でオレンジバルーンに向けて殴りかかる。

 バシ!

 ボヨン!

 それを見た俺は思わず顔を引き攣らせる。

 

 

 そんな俺をよそにオレンジバルーンは牙をむいてナオフミに噛み付いていく。

 

 

「い!」

 

 

 カン!

 何か硬い音が聞こえる。

 オレンジバルーンはナオフミの腕に噛み付いているがナオフミはまったく痛くないようだ。俺みたいだな。

 ナオフミは無言のままマインの方を見る。

 

「勇者様がんばって!」

 

 

「オラオラオラオラオラ!」

 

 

 それを聞いたナオフミはどこぞの胸に7つの傷を持つ格闘家みたいにオレンジバルーンを殴りつけ続けた。

 それから五分後……。

 パァン!

 軽快な音を立てて、オレンジバルーンは弾けた。

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 

 ピコーンと音がしてEXP1と視界に表示される。

 こいつじゃそんなもんだよなぁ。

 ちなみに俺はこれまで1レベル足りとも上がっていない。たぶん上がんないんだろうなぁ。

 

 

 パチパチパチ。

 

 

「良く頑張りましたね勇者様」

 

 

 マインが拍手しているけど、むなしいな。

 スタスタスタ!

 なにやら足音が聞こえてくる。

 振り返るとレンとその仲間が小走りで走っていくのが見える。

 

 

 そして、レンの前にオレンジバルーンが三匹現れ、それを錬が剣で一線するとオレンジバルーンはパァンと音を立てて割れる。

 

 

 うん。普通はなんなもんだよな。

 

 

「……」

 

 

 放心しているナオフミにマインが何度も手を前にかざす。

 

 

「大丈夫ですよ。勇者様には勇者様の戦い方があるのですから」

 

 

「……ありがとう」

 

 

 ま、でも五分間もオレンジバルーンに食いつかれていたのに無傷なナオフミは相当防御力が高いようだ。

 戦利品のオレンジバルーンの残骸を拾う。ピコーンと盾から音が聞こえる。

 徐に盾に近づけると淡い光となって吸い込まれた。

 

 

「これが伝説武器の力ですか」

 

 

「うん。変化させるには一定の物を吸い込ませると良いみたいだね」

 

 

「なるほど」

 

 

「ちなみにさっきの戦利品ってどれくらいの値段で取引されているの?」

 

 

「銅貨1枚行ったら良いくらいですね」

 

 

「……何枚集まれば銀貨1枚?」

 

 

「銅貨の場合は100枚です」

 

 

 まあ、錬の様子を見ると相当弱い魔物みたいだし、しょうがないか。

 

 

「じゃあ次はマインだね」

 

 

「まあ、そうなりますね」

 

 

 と言いつつ、オレンジバルーンが二匹俺達の方へ近づいてきていた。

 マインは腰から抜いた剣を構えて二振り。

 パァンという音と共にオレンジバルーンは弾けた。

 俺の視界に経験値を取得を告げるアイコンが表示される。

 俺が前戦ったときはデコピンで倒せた。

 たぶんゲームでいうスライムやゴブリン程度の立ち位置なんだろうなこの風船は。

 

 

「……やっぱ俺弱いな」

 

 

「だなぁ」

 

 

「お前はどうなんだよ」

 

 

 ナオフミのその言葉に俺はちょうど寄ってきたオレンジバルーンを軽く小突いて倒す。

 

 

「こんなもんだな」

 

 

 ナオフミはそれを見てガックリと肩を落とす。

 同じ素手なのに攻撃力の差がヤバいもんな。

 

 

「じゃあ、マイン達が攻撃、俺が守るから行ける所まで行こうか」

 

 

「はい」

 

 

「おう」

 

 

 その後、草原を歩き、遭遇するオレンジバルーンとその色違いイエローバルーンを割る作業を続けた。

 そして、太陽が真上を通り過ぎた辺りで騎士風の男が近づいてきた。

 

 

「すみません。メリオダス殿に緊急の依頼があるため至急町に戻ってきて欲しいとの事です」

 

 

「は?勇者の育成より大切なことなのか?」

 

 

「王からの命令です」

 

 

 王からのだと?

 ふーむ。どうするか。

 

 

「行ってきなよ。俺は全然ダメージ受けないから危険はないし」

 

 

「うーん、そうなんだけどな」

 

 

 なんか違和感があるんだよなぁ。

 マインの様子もおかしいし。

 

 

「ま、いっか。あんま危険なとこ行くなよ?」

 

 

「分かってるって。うっかり危険な所に入ろうとしたらマインが教えてくれるって」

 

 

「はい!勇者様をしっかりサポートします!」

 

 

「そっか。んじゃ行くわ」

 

 

 俺が手を振って町へ戻ろうとした時、またマインが今度は不愉快な笑みを浮べた気がした。

 慌てて振り返るとマインは普通の笑顔だった。

 

 

 うーん。マインには注意しておいた方がいい気がするけどこんな見通しのいい場所でなんかしないか。

 マインがナオフミにダメージを与えられるかわかんないし。

 でも、一応注意しておくか。

 

 

「あ、ナオフミ。ちょっと来てくれ」

 

 

「ん?なんだ?」

 

 

 俺は近づいてきたナオフミに騎士やマインに聞こえないように言った。

 

 

「マインには注意しとけ」

 

 

「え?」

 

 

「なんとなくだけど嫌な予感がするから」

 

 

「わ、わかった」

 

 

「バカ正直にマインに聞いたりするなよ?」

 

 

「あ、ああ」

 

 

 頷いたナオフミにこれで大丈夫だろうと判断して騎士を連れて町へと戻った。

 

 

 俺はこの判断を後に後悔することになるのをまだ知らない。

 

 




 今回長くなっちゃった(๑>؂•̀๑)テヘペロ
 次回は再びオリジナル回です。

 今回補足するところあるかな?
 多分ないかな?

 それでは第5話をお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話 ドラゴンと獣人

 原作を知っている人ならタイトルで今回の内容が大体わかると思います。
 それより、最近急激にお気に入り数が増えてきて戦々恐々としています:(´◦ω◦`):

 それでは第5話をどうぞ。


「はぁ……」

 

 

 俺は山を登りながら最近増えたため息を吐く。

 

 

 ナオフミ達と別れた俺は騎士に連れられ、城の謁見の間まで戻ってきた。

 そこで王に人里に降りてきて人々を苦しめるドラゴンを退治して欲しいと言われた。

 勇者達はまだ弱くドラゴンを退治出来るほどまで待っている時間はなく、今すぐ動かせるドラゴンを倒せる程の強者は俺しかいないそうだ。

 

 

 その時点で言いたいことはあったが、一先ず納得し、緊急と言う割に急ぐ様子のない馬車に揺られ1週間以上。

 やっと着いた村の村長は俺でなくても分かる猿芝居で説明をしてきた。

 俺は前の世界で死を恐れ、絶望する人達の顔は何度も見てきた。

 村人達の顔はどう見ても平和に暮らす人々そのもので。

 もはや騙す気があるのかと頭を抱えた程だ。

 

 

 まあ、ドラゴンそのものがいるのは間違いないらしい。

 そのドラゴンがいる山は強力な魔物が多数存在するらしい——が全部俺が小突いただけで死んだ。

 ……メリオダスの力ってホント凄いな。

 

 

 さて、どう考えても嘘ではあるが俺は一応ご希望通り、ドラゴンを狩ってくるつもりだ。

 一体やつらがなんのつもりでこんなことをしているのかは分からない。

 いや、十中八九、ほぼ確実にナオフミに何かしたいんだろう。

 それは分かる。分かるがなんでナオフミに、そして何をしたいのかが分からない。

 波に対抗するための貴重な戦力であるはずだ。

 故に殺されることは無いと判断して奴らの思惑に乗ってやっているのだが……。

 ここに向かっている途中に立ち寄った村で聞いたところによると三勇教では盾の勇者は盾の悪魔と呼ばれているらしい。

 宗教関連は現実でも創作でも面倒くさいと相場が決まっている。

 

 

 だから、さっさと用事を終わらせてナオフミの下に戻ろう。

 そう思って山登りをしているんだが、

 

 

(やっぱ、誰か後つけてるよな)

 

 

 木々が沢山あるし、相手も恐らくプロだろう。姿は見えず、集中しなければ気配を感じることすら出来ない。

 ノゲノラゼロの世界に行ってなければやばかったかもな。あのクソ女神には感謝しないけどな!

 

 

 たぶん、王の手の者だろう。

 手の内探られると面倒だし、撒くか。

 

 

 今までノロノロと歩いていた俺だったが、最高速で走り出す。

 未だに制御しきれず、木々をなぎ倒してしまうが、追いつけまい。

 そして、ある程度離れたら速度を落とし、周囲を警戒しつつ、隠れながらさらに離れる。

 追っていた者の気配は感じられない。撒いたようだ。

 

 

 そう判断すると俺は息を吐く。

 メリオダスの身体能力にものを言わせたゴリ押しだが、あれで撒けなかったら実力行使に出るしかなかった。

 

 

 俺は追っ手に遭遇しないように気をつけながらドラゴンの巣へ向かった。

 

 


 

 

 それから、1時間後。

 俺はドラゴンの巣に着く前にドラゴンと遭遇していた。

 

 

「なんでや」

 

 

 いや、大方俺に気づいて飛んできたか、餌でも探していたんだろうが突然空から叫ばれたせいで驚いてビクッとしてしまった。

 周囲警戒ばかりしていたから空の注意が散漫になっていたらしい。

 

 

 ドラゴン(やつ)の羽ばたきで周囲の木々がなぎ倒される。

 ドラゴンの大きさは10m以上であり、鋭い牙と爪は恐ろしい破壊力を秘めていることが見て取れる。

 漆黒の鱗に包まれた西洋の竜は真っ直ぐ俺を睨みつけている。

 

 

 ふむ。思ってた以上に強そうだな。警戒するべきか。

 

 

 そう思い、あれが背中のロストヴェインの柄を握ったその瞬間、ドラゴンが俺に向かって降下しながら、巨大な爪を振るった。

 俺は即座にロストヴェインを抜き放ち、それを受け止める。

 その質量から重力加速度に乗って放たれた攻撃は俺に受け止められ、辺りに衝撃波を撒き散らす。

 だが、俺はそれを受けて微動だにしない。

 

 

 やっぱり大したこと無かったわ。

 

 

 俺は自身の攻撃を軽々受け止められて驚愕しているドラゴンへ爪を弾き返しつつ、跳び上がりアッパーカットを食らわす。

 

 

「GYA!?」

 

 

 さすがにそこらの魔物とは違うらしく、鱗や骨を砕いた感触はあったが即死させるには至らなかった。

 

 

 俺のアッパーカットにぶっ飛ばされたドラゴンは頭を振るいつつ、体勢を立て直す。

 俺はその隙に跳躍し、ドラゴンの上をとり、回し蹴りでドラゴンの背中を攻撃する。

 

 

「GYA!?」

 

 

 俺の攻撃に砕かれた鱗を散らしながら、ドラゴンは墜落する。

 それによって舞った土煙のの外に俺は着地し、土煙を見る。

 

 

「GYA……」

 

 

 土煙が晴れると弱々しく泣きながら何とか4本の足で立ち上がろうとしているドラゴンの姿があった。

 

 

 うーん。これ、素手で十分勝てそうだな。もうちょっと強く殴れば殺せそう。

 

 

 だか、もしもがあるかもしれないからロストヴェインを抜いたまま、ドラゴンへ近づく。

 ある程度近づき、ロストヴェインで首を刎ねようとした時、突然ドラゴンが立ち上がり、口から灼熱の炎を吐く。

 だが、俺はそれを全反撃(フルカウンター)ではね返す。

 

 

「GYA!?」

 

 

 それに驚くドラゴンだが、ダメージは無さそうだ。炎に耐性があるのだろうか。

 

 

 ブレスが効かないと気づき、一瞬怖気付いたような動作をする。

 当然だろう。自身の攻撃がまったく効かず、相手は素手で自身へ大ダメージを与えるのだから。

 普通なら逃げると思うがそのドラゴンは覚悟を決めたような眼で闘志を燃やし俺を睨む。

 

 

「GYAAAAAAAAAAAAA!!!!!!」

 

 

 そして、一際大きな咆哮を上げる。

 

 

 俺は思わず、1歩後退してしまう。

 その目は、自身の命すらかけて俺を倒さんとする者の目だった。

 俺はロストヴェインを油断なく構える。

 下手すら負ける。ありえないはずなのにそう感じさせられた。

 

 

 俺は殺す気でロストヴェインを振るう。

 ドラゴンはそれを飛び上がり回避する。

 そして、俺の背後から俺の背へ爪を振るう。

 

 

 回避出来ずに食らう俺だが、しかし無傷でただ衝撃で吹き飛ばされる。

 俺は体勢を立て直し、振り返りながら着地する。

 その瞬間ドラゴンの追撃が俺に直撃する。

 下から振り上げるように振るわれた爪で俺は宙に投げ飛ばされる。

 

 

 魔神化しなければ飛べない俺は空中ではどうしようもない。

 そんな俺へドラゴンは連続で爪を振るう。

 両の爪でキャッチボールのようにして俺へ攻撃し続ける。

 効かぬなら効くまで浴びせ続けるとでも言うつもりなのだろうか。

 

 

 俺はドラゴンの爪の間を跳ねながら、ロストヴェインを振るう。

 

 

「GYA!?」

 

 

 ドラゴンの右の腕から血が吹き出る。

 両断には至らなかったようだが、腕の半分程まで斬られた腕で攻撃することが出来ず、俺を逃がす。

 

 

 地面に着地した俺は即座に跳躍し、ドラゴンを真っ二つせんとロストヴェインを振る。

 ドラゴンはそれを横に回避しようとするが避けきれず左の翼が断ち切られる。

 

 

「GYA!?」

 

 

 再び地面に墜落したドラゴンの近くに俺も着地する。

 

 

 ……まったく自分が嫌になる。

 自身より圧倒的に弱い相手にここまで粘られるとは。

 やはり、ガブリエルに指摘された戦闘経験の差だろう。

 大振りで振るわれるが故に先読みして致命傷を避けることが出来るのだろう。

 攻撃への反応も遅いし、マジで何とかしないとこのままだとヤバいかもな。

 

 

 反省は後だ。

 俺は未だに俺を睨むドラゴンに目を向ける。

 このままだとドラゴンを嬲り殺しにしてしまう可能性が高い。

 それは俺の本意ではないので、本気を出すことにする。

 

 

 俺は今出せる最高速度でドラゴンへ走り、ロストヴェインをドラゴンの首めがけて振る。

 確実にオーバーキルだが、こうでもしないとギリギリで避けられるかもしれない。

 

 

 そして、もう少しでドラゴンの首を刎ねるという所で少女の声が響いた。

 

 

「お父さん!!」

 

 

 思わず俺は動きを止めて、声の方を見る。

 そこには犬耳の少女が涙を浮かべて立っていた。

 

 

(女の子!?なんでこんな所に!?というかお父さん!?)

 

 

 完全に混乱してしまった俺へチャンスとばかりにドラゴンの尻尾が鞭のように俺へ振るわれる。

 それをくらい木々をなぎ倒しながら飛ばされる俺へ灼熱の息吹が直撃する。

 

 

「くっ」

 

 

 俺は咄嗟に腕を交差して顔を守るが、周囲の木々を灰にする業火を受けて俺の体は無傷だった。

 熱は感じるが皮膚を焼くほどではなく、服は焼かれるが髪を含め俺の体は火傷ひとつ負わない。

 

 

 数十秒以上経った時だろうか。

 念入りに俺を焼き尽くさんと吐き続けられたブレスが止む。

 俺は服に付いた火を手で叩いて消し、ドラゴンの下へ戻る。

 

 

 ドラゴンはあれだけやって無傷だったのに驚いた様子だが俺はそれより獣人の少女へ目を向ける。

 怯えるようにドラゴンの腕に抱きつき、涙を浮かべている。

 それを見れば先程の少女の言葉が聞き間違いではないと理解出来る。

 

 

「GYA!!」

 

 

 逃げろとでも言ったのだろうか。

 俺には分からないがドラゴンの鳴き声に少女は首を振る。

 ……完全にこっちが悪者だな。いや、あっちからすればまさにそうか。

 平和に暮らしていたら、圧倒的強者が自分を殺しに来たんだからな。

 

 

「……お前はそいつの父親なのか?」

 

 

 俺はドラゴンに歩み寄りながら問う。

 

 

「そうなの!私のお父さんを殺さないで!!」

 

 

 しかし答えたのは、ドラゴンではなく少女だった。

 泣きながら叫ぶ少女に俺は罪悪感に苛まれる。

 

 

「おい、ドラゴン。お前は近くの村を襲ったことがあるか?」

 

 

 だが、俺は一応は確かめなければならないことがあるので問う。

 

 

「…………いや、そんなことはしたことが無い」

 

 

 そう答えたドラゴンに思わず、「お前喋れたのかよ!?」と空気を読まずに叫ぶのを堪えて少女へ問う。

 

 

「お父さんは好きか?」

 

 

「………うん」

 

 

「そっか」

 

 

 少女の言葉に俺は微笑み、ロストヴェインを握ったままの左腕を前に出す。

 それに警戒した2人をよそに、俺は右手で——左腕をへし折った。

 

 

「ぐっ」

 

 

 お、思ったより痛いな。

 だが、霊骸に汚染された時に比べれば屁でもない。

 

 

 絶句する2人をよそにさらに折れた左腕からロストヴェインを取り、体に切り傷を付ける。

 

 

「うわー、なんて強さなんだー。こんな強いドラゴンに勝ち目なんかないー」

 

 

 俺はロストヴェインを鞘に収めた後、わざとらしく左腕を抑えて、言って、固まる2人に笑いかける。

 

 

「というわけで俺は逃げるわ。じゃあな」

 

 

 そう言って、手を振りながら来た道を引き返す。

 大好きな父親を殺されかけたんだ左腕1本じゃ安いくらいだろう。

 

 

「あ、あの!」

 

 

 ようやく理解が追いついたのか少女が叫ぶ。

 振り返る俺に少女が続ける。

 

 

「あ、ありがとう!!」

 

 

 笑顔で感謝を述べてきた。

 そして、ボロボロにされたドラゴンさえも、

 

 

「……感謝する。強き者よ」

 

 

 と、頭を下げる始末だ。

 俺は苦笑する。

 冤罪で殺しかけて、それに気づいて止めただけなのに感謝されても困る。

 

 

「……じゃあな」

 

 

 だから、俺は一言そう言うだけでその場から立ち去った。

 

 




 主人公が腕を折ったのは村人や尾行している者に怪しまれないためです。
 やられたのに無傷なのはおかしいですからね。
 ちなみにメリオダスを尾行してたのは教会側の影です。
 原作知らない人は国の諜報員みたいなやつと思っていれば大丈夫です。後に本編で説明があるので。

・獣人の少女
 原作にいるキャラ。後に登場する。
 魔物に育てられ、魔物と共に育ったために魔物が好き。

・メリオダスにボコられたドラゴン
 原作にいるキャラ。後に登場する。
 この後色々あってドラゴンゾンビにジョブチェンジした後小竜にジョブチェンジする可哀想なやつ。
 親バカ。

 後のことは本編で。ぼかせばネタバレあってもいいでしょ。きっと。
 明日から学校が始まるから明日の分ちゃんと投稿出来るか不安だ……。

 それでは第6話もお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話 後悔と冤罪

 最近自分は一人称より三人称の方が書きやすいことに気が付きました。
 三人称にするか検討中(´-ω-`)

 それよりついに毎日投稿を初めて1週間が経ちました!
 頑張った自分。まだ半分も終わってないぞ自分。

 後今回は短いです。久しぶりの学校で疲れました
ハァ━(-д-;)━ァ

 それでは第6話をどうぞ。


 俺は現在ナオフミを置いてきた城下町へ全速力で向かっていた。

 激しい後悔と罪悪感——そして、怒りを感じながら……。

 

 

 ドラゴン達と別れた俺はごく自然に追っ手に自分を見つけさせると村へと帰還した。

 村に着いた俺は自分で折った左腕を見せ、撤退してきたことを告げた。

 その後俺は気休め程度の治療を受け、1晩休むとメルロマルクの城下町へ引き返した。

 

 

 再び今度は雨などの影響で2週間馬車に揺られ、残り数日で着くという所で宿泊のために立ち寄った村でこんな話を聞いた。

 

 

 曰く、盾の勇者が仲間の女性に強姦をしたと。

 

 

 それを聞いた時俺は一瞬頭が真っ白になった。

 次に、違和感の正体を理解し、怒りに震えた。

 

 

 ナオフミがそんなことをするはずがない——と言いきれる程ナオフミのことを知っている訳では無いが、王や兵士、そしてマイン達から感じた違和感を考えれば十中八九冤罪だろう。

 

 

 何故そんなことをしたかは知らないが、即座に城下町へ戻らなければいけない理由が出来た。

 そもそも、宗教的に盾の勇者への風当たりは強いはずなのだ。

 そこに、女性を強姦したという罪が加わればナオフミの仲間はいなくなる。

 もしかしたら他の勇者達が庇ったかもしれないが、望み薄だろう。そんな話は全く聞かなかった。

 

 

 そういうわけで俺は付けてるやつなど知ったことかと全速力で城下町へ向かった。

 もちろん地形のせいで常に最高速で走り続けた訳では無いが可能な限り急いで城下町へ向かった。

 その途中、追っ手を撒いたのをいいことに魔神化し、腕を治した。

 疑問に思われるかもしれないが今はそれどころではない。

 

 

 そして、俺は馬車で数日かかる距離を10時間程度で走破した。

 

 


 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 

 城下町まで、休まず走り続けた俺は城下町に入ったところで走るのを止め、城へ向かって歩きながら息を整えていた。

 

 

 城に着いた俺は謁見の間に向かう。

 少々強引に扉を開け放ち、中の王へ叫ぶ。

 

 

「ナオフミがマインに強姦したとはどう言う意味だ!!」

 

 

 俺が突然現れたことに王や大臣達は驚く。

 というかこいつら何してるんだ。

 

 

「む、突然なんだ。王である我に無礼であろう」

 

 

「そんなことは今はどうでもいいんだよ!どういうことなんだ!」

 

 

「どうもこうもその通りだ。槍の勇者様のおかげで何とか未遂で終わったが」

 

 

 忌々しそうに吐き捨てる王に怒りが増す。

 こ、こいつ本気でナオフミがやったと思ってやがるのか?

 

 

「証拠はあるのか!」

 

 

「証拠も何も我が娘であるマルティがそう証言したのだ。それ以上に証拠がいるか?」

 

 

「は?」

 

 

 マルティ?まさか、マインのことか!?あいつ王女だったのか!?

 ていうか王女だからって証拠もなしに決めつけたのか!

 怒りに震え押し黙る俺に王が話す。

 

 

「そんなことより、ドラゴンの討伐はどうなったのだ?」

 

 

 そんなこと、だと?

 冤罪をかけておいて?

 

 

「ふざけるな」

 

 

「なに?」

 

 

「黙れ、クズが」

 

 

 俺はそう吐き捨て、王に背を向け歩き出す。

 

 

「そ、そやつを捕らえよ!」

 

 

 王の怒りの声が聞こえるが無視。

 俺を捕らえようとした騎士を身じろぎしただけで振り払い、城を後にする。

 そして、ナオフミを探すために走り出した。

 

 




 クズの口調こんなんでいいかな?

・ナオフミへの冤罪
 マインは一緒の宿に泊まったナオフミの金銭と装備を盗み、同じ宿にいた槍の勇者に強姦されそうになったと嘘を言いつつ、盗んだ装備を渡した。
 次の日装備などを盗まれて焦っているナオフミを騎士が無理やり連行。
 謁見の間でマインを強姦しようとしたと冤罪をかけられ、槍の勇者含め3人の勇者はマインの言い分を信じ、他の人たちも同じくマインの言い分を信じてナオフミの味方は誰もいなかった。
 それによりナオフミの性格が豹変。加えて、町中にナオフミが強姦未遂の話を流すのを罰として波と戦えとほざかれた。
 もっと詳しく知りたい方は原作をお読みください。本編でも少し説明しますが。

 それでは第7話もお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話 再会と天誅

 今回も短めです_(-ω-`_)⌒)_
 学校やぁぁだぁぁぁヽ(≧Д≦)ノ

 それでは第7話をどうぞ。


 城を出た俺はマインに案内された武器屋へ向かった。

 僅かな間しか一緒にいなかった俺はここ以外に手がかりがなかった。

 マインが案内したということでマインとグルの可能性も考えたが、俺が見た限り、店主はいい人そうに見えた。

 店主がグルだったり手がかりがなかった場合は地道に聞き込み調査をするしかないだろう。

 

 

 武器屋に着いた俺が中に入ると中には店主が1人だけだった。

 店主は俺の顔を見ると目を見開いた。

 

 

「よお、店主。久しぶり」

 

 

「お前はナオフミと一緒にいたボウズ!」

 

 

「……ボウズはやめろよ。メリオダスだよ——ってそんなことはどうでもいい、ナオフミがどこにいるか知ってるか」

 

 

「アンちゃんなら、波の日時を調べるために時計台に行ったぜ」

 

 

「マジか!サンキューオッサン!」

 

 

「……オッサンはやめてくれないか」

 

 

 思わぬ大収穫に思わず声を上げる。

 店主の要求は無視する。

 

 

「じゃあなオッサン、情報助かった!」

 

 

「ちょっと待った!」

 

 

 俺が手を振り、踵を返そうとした時に店主が呼び止める。

 俺が店主へ向き直ると、店主は優しい笑みを浮かべて言った。

 

 

「……アンちゃんの味方になってやってくれ」

 

 

 俺はその言葉に親指を立てて、

 

 

「当然」

 

 

 と一言返して、店を後にした。

 

 

 店主が言っていた時計台は城下町の中でも高低の高い位置に存在する。

 なんとなく、教会のような面持ちのドーム上の大きな建物の上に時計台がある。

 入場は自由なのか、門が開かれ、中から人が出入りしている。

 

 

 そこに入り、周囲を見回すと中央に、全長7mはありそうな巨大な砂時計があった。

 砂は赤く、もうすぐで落ちきりそうだ。

 

 

 しかし、そんなことは重要ではない。

 重要なのはその近くにナオフミ含めた4人の勇者達とその仲間たちがいた事だ。

 

 

 それに気がついた俺は直ぐにナオフミの下へ走り寄る——ことはせずに——

 

 

「天っっっっっ誅ッ!!!」

 

 

 助走をつけて、槍の勇者の側にいたマイン——いやマルティなんだっけか?もう、ビッチでいいや。

 ともかく、ビッチへ飛び蹴りを入れた。

 腹に受け、「ぐほぉ」と女性らしからぬ声を上げてポンポンとボールのように地面に数度跳ね、倒れた。

 一応殺してはいない。そしたらお尋ね者だ。

 

 

「ハァハハハー!!ざまァァァアみろ!!」

 

 

 その場の全員が唖然とする中気絶したのか起き上がる様子のないビッチを、両手を腰に当てて嘲笑う。

 いやー、スッキリ!

 

 

 シーンと、静まり返った中で俺の高笑いが響く。

 

 

「な、な、お、お前!なんてことをするんだ!!」

 

 

 やっと正気に戻ったのか俺を指さして槍の勇者が叫ぶ。

 その言葉に俺は高笑いをやめて、槍の勇者へ向き直り、笑顔で言ってやった。

 

 

「うるせー黙れクソナルシスト野郎が♪」

 

 

「な、ナル!?」

 

 

「ていうか心配なら俺に構ってないで駆け寄ってやれよバカなのか?っとコイツァ失敬盛るしか脳のない猿野郎だからバカだったな。ハァッ!だから早くその槍で自分の空っぽの頭でも刺してろ猿でもそれくらい出来るだろてめぇが世界のために出来ることなんてそれぐらいしかねぇんだよバァァァカ!!」

 

 

 あくまで、笑顔でまくし立てると、気圧されたような雰囲気の槍の勇者を鼻で嗤い、ナオフミへ歩み寄る。

 しかし、そんな俺を剣の勇者が肩を掴み止めようとする。

 

 

「おい、女性に暴力を——」

 

 

「うるせーよ、クール気取りのコミュ障野郎が」

 

 

 その手を弾き、吐き捨てる。

 

 

「なっ!?」

 

 

 剣の勇者を無視して、さらに進もうとする前に今度は弓の勇者に止められる。

 

 

「あなたは、自分が何をしたか——」

 

 

「てめぇも黙ってろクソガキが。正義ヅラする前にそのおめでたいおつむを何とかしろ」

 

 

 勇者達と話し、ビッチを蹴飛ばしてスッキリしたのに再びイライラが募る。

 もう、話したくもない俺はナオフミの前まで歩く。

 ナオフミの前に立ち、槍の勇者に向けた作り物の笑顔ではなく本心から微笑む。

 しかし、久しぶりに会ったナオフミの目には不信と怯えがあった。

 それを見た俺は再び怒りが再燃するのを感じる。

 こんな風になるまで追い詰めたのか、と。

 

 

「やあ、久しぶり。ナオフミ」

 

 

「……っ」

 

 

 俺の言葉に苦虫をかみ潰したような顔をする。

 警戒し、疑っている。だが、拒絶はしない。

 

 

 それは僅かな時間とはいえ、一緒に冒険したからか。

 はたまた、事前にビッチのことを警告したり、今しがた蹴飛ばしたからだろうか。

 それとも——ナオフミも自分に味方してくれる相手を探していたのか。

 

 

 しかしなんにしてもここではゆっくり話を出来そうにはない。

 

 

「まっ、積もる話はあるがクソ虫共がうるさいから場所を移そうぜ」

 

 

 俺はナオフミにそう言って、騒ぐ外野を殺気と睨みで黙らせ、ナオフミの腕を掴み、外へ出た。

 

 




 ちなみにメリオダス達が出ていくまでビッチはずっと気絶してます。ざまぁwwww
 後、今のメリオダスにラフタリアは見えてません。

・ラフタリアとは誰ぞ?
 原作のメインヒロイン。
 獣人の奴隷でナオフミに買われた。
 ナオフミにほの字。
 詳しい説明は次回にでも。

 それでは第8話もお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話 信じる

 今日はギリギリだったぜ(疲労困憊)

 今日は久しぶりの七つの大罪でしたね。そろそろメリオダスの本来の魔力が知りたい……。
 いつ明らかになるかによりますが多分2章の間はメリオダスの本来の魔力は出ないですね。

 後、「盾の勇者の成り上がり」のアニメが今日からだったようですね。私のうちでは観れませんでした(´;ω;`)ブワッ

 それでは第8話をどうぞ。


 俺は時計台を出た後もナオフミの腕を掴んだまま歩き続ける。

 ナオフミとゆっくり話したいがここではダメだ。

 大通りであるここでは周りの視線が多すぎる。

 事実俺らに周りから嫌悪や侮蔑などの視線が向けられている。

 詳しい事情を知ろうともせずにナオフミを貶す町の住人に怒りが湧くがなんもかんもクズ王とビッチが悪いと納得して歩く。

 

 

 ある程度時計台から離れたところで路地裏に入る。

 ほとんど人通りがなく、大通りからも見えにくいここなら大丈夫だろうと判断して、ここまで無言無抵抗で俺に連れられたナオフミへ向き直る。

 

 

 改めて見ると目付きが鋭くなって、荒んでしまっているようだ。

 その瞳に怯えと不信が浮かんでいるのを見て安心させるように微笑む。

 

 

「改めて、久しぶりだなナオフミ。そろそろ1ヶ月くらい経つか?」

 

 

「…………なんで、前と態度が一緒なんだよ」

 

 

 絞り出すように呟くナオフミは俺より年上で身長も高いはずなのに……とても小さく見えた。

 

 

「なんで態度を変える必要があるんだ?あんなもん、脳がまともに機能してれば冤罪だって誰でも分かるだろ?俺はお前の味方だよ」

 

 

 安心させるように、子供を宥めるように言う俺にいやいや、と首を振ってナオフミが叫ぶ。

 

 

「嘘だ!そう言って俺を騙すつもりなんだろ!?」

 

 

 癇癪を起こす子供のようなナオフミにそこまで人を信じれなくなってしまった出来事を孤独に耐えたことを労わるように返す。

 

 

「逆に聞くが地位も名誉も富もない盾の勇者を騙して俺になんの得があるんだ?」

 

 

「そ、それは……。けど、俺に味方する理由だってないだろ!」

 

 

「あるさ」

 

 

 即答した俺にナオフミが目を見開く。

 

 

「まず、同情心。クズ王とビッチ共に貶められた哀れな盾の勇者様に手を差し伸べたいんだよ。それからビッチ達に違和感を感じていたにも関わらず特に根拠もないのに大丈夫だろうとナオフミを1人にしてしまった罪悪感。まったく、自分に反吐が出る」

 

 

 吐き捨てるように俺は言う。

 俺なら止められたかもしれないのに。

 

 

「最後にあのくそビッチ共はナオフミを貶めたいらしいからな。俺が側にいて全部潰してやったら、さぞ面白いアホ面を見せてくれるだろうぜ」

 

 

 ウインクして、冗談めかして言う。

 

 

 1つ目の理由を聞いた時は嫌そうな顔をしたナオフミだったが2つ目3つ目と聞くと表情が変わる。

 信じるか信じないか揺れているナオフミにさらに声をかける。

 

 

「それに、ビッチ蹴飛ばして、勇者達にも暴言を吐いたんだ。あっち側にはいれねぇな。でも、少しはスッキリしただろ?」

 

 

 勇者達にも暴言を吐いたのはやりすぎだったかもしれないが、口が勝手に喋っていた。

 だがまあ、反省も後悔もしていないが。

 

 

「……信じて……いいのか?」

 

 

 また裏切られることを怯えるような目で問うナオフミを安心させるように抱きしめて言った。

 

 

「ああ、これまでよく頑張ったな」

 

 

「くっ……うう、うううう」

 

 

 ナオフミは自身より体格の小さい子供ような俺に縋り付き、肩に顔を押し付け、嗚咽を漏らす。

 俺はナオフミが泣き止むまでナオフミの背中をさすり続けた。

 

 


 

 

 それはナオフミの嗚咽が止まり始めた時だった。

 

 

「あの……」

 

 

 おずおずといったような声が近くから上がった。

 

 

「ん?」

 

 

 そちらを見ると、たぬきのものと思われる耳と尻尾を持つ17歳程と思われる美少女がいた。……居心地悪そうに。

 

 

「えーと、いつからそこに?」

 

 

「…………最初から」

 

 

 ふむ?

 

 

「えーと、最初というと路地裏に入ったところ?」

 

 

「いえ、時計台のところからナオフミ様と一緒にいました」

 

 

 え?割とガチで気づかなかったんだけど。

 俺も周りが見えてなかったってことか反省反省。

 っていうか——

 

 

「あー、ナオフミとはどのようなご関係で?」

 

 

 思わず変な口調になってしまったのはやはり動揺していたのだろう。

 俺の言葉に反応したのは目の前の美少女ではなく、いつの間にか泣き止んでいたナオフミだった。

 

 

「……奴隷だよ、俺のな」

 

 

 そう俺に目線を合わせずに、俺から離れたナオフミが言った。

 

 

 話を聞くと、攻撃力に限界を感じていたナオフミに奴隷商が奴隷はいらないかと話を持ちかけてきたそうだ。

 盾の勇者と蔑む、冒険者達では信用出来なかったナオフミだから裏切る心配のない奴隷にナオフミは魅力を感じたようだ。

 そして、金額の安い紹介された奴隷のなかでこの美少女——ラフタリアを買い、一緒にレベルを上げていたそうだ。

 

 

「なるほどな〜」

 

 

 話を聞き終えた、俺は改めてラフタリアを見つめ、そしてナオフミへ親指を立てて言った。

 

 

「獣耳っ娘とは……いいセンスだ」

 

 

「アホか」

 

 

「しかも、こんな美少女!ナオフミ、やはりお前は俺の見込んだ通りの男だったッ」

 

 

「うるせえよ!」

 

 

 苛立ちそうに、だが少し楽しそうにそう叫ぶナオフミに満足して頷き、ラフタリアへ向き直る。

 

 

「ま、いっか。よろしくラフタリア。俺はメリオダスだ」

 

 

「あ、はい。よろしくお願いします。メリオダス……さん?様?」

 

 

 手を差し出す俺の手をとって握手をしながら首を傾げるラフタリアに苦笑する。

 

 

「呼び捨てでいいよ。お前のご主人様はナオフミなんだろ?」

 

 

「はい、分かりました。えっと、メリオダス」

 

 

「おう。……ところでナオフミとはどこまで——」

 

 

「なっ///」

 

 

「おい、メリオダス!何言ってんだお前!」

 

 

 顔を真っ赤にしたラフタリアと怒って俺の頭を殴り殴った手をさするナオフミを見て俺は笑う。

 

 

「ったく。こんな……子供に、欲情……っては?」

 

 

 俺にすがりついて泣いてから初めてラフタリアに目を向けたナオフミが間抜けな声を上げる。

 

 

「え?お前ラフタリアか?」

 

 

「え?そうですよ?」

 

 

「え?だって、ラフタリアは幼い子供だろ?」

 

 

「ナオフミ様、この際だから言いますが、亜人はですね。幼い時にLvをあげると比例して肉体が最も効率の良いように急成長するんです」

 

 

「なに?」

 

 

 それは俺も聞いたことがあった。亜人が魔物と同じだと断罪される理由でもあるらしい。

 

 

「ナオフミ様」

 

 

 そして、ラフタリアは真剣な表情でナオフミ見て言った。

 

 

「ナオフミ様にどのような事情があったか知りませんが、私はあなたを信じています」

 

 

 それを聞いたナオフミは再び泣きそうになって慌てて、顔を背けて、

 

 

「そっか」

 

 

 とだけ言った。

 

 

 その耳が赤くなっているのに俺とラフタリアは気がついて顔を見合わせて笑った。

 

 




 原作知らない人のために説明しますと、ナオフミは心に余裕がなく、ステータス魔法だけでラフタリアを評価していたためにラフタリアの成長に気づくことが出来なかったようです。

 それでは第9話もお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

幕間 悪しき光

 今回割とガチで書くの辛かったので幕間でお茶を濁します。
 続きが読みたかった方には申し訳ありません。
 覚悟してたけどやっぱ毎日投稿辛いわ……

 それではどうぞ。


 メルロマルクでメリオダスとナオフミが再会したほぼ同時刻。

 世界1位の大国フォーブレイの屋敷の1つ。

 その廊下を歩く1人の少女がいた。

 

 

 腰まで伸びた艶やかな黒髪。

 無表情のその美貌はあらゆる美術家を絶望させる程整っており、その背中の4枚2対の大きな2枚の翼と小さな2枚の翼がまさに神の使いを連想させる。

 加えて、その金色の瞳に不思議な模様を宿している。

 腰に差すレイピアと白いドレスの上に付けた胸当ては、彼女に野蛮さは感じさせずに戦乙女(ワルキューレ)のような凛々しさを感じさせる。

 

 

 男女問わず魅力するその姿をメリオダスが目にすれば、だが見惚れることなく驚愕するだろう。

 その姿は紛れもなく、女神族のものなのだから。

 

 

 廊下を歩いていた彼女は扉の前に立ち止まり、ノックをする。

 

 

「タクト様。私です。ミカエルです」

 

 

 その彼女の言葉に中からは返事は来ず、代わりにガタンバタンと騒がしい音が鳴った直後、扉が勢いよく開き、金髪に青色の瞳を持つ美少年が飛び出し、ミカエルと名乗った少女に抱きつく。

 咄嗟に出た嫌悪を露ほども顔に出さず、少年を優しく抱きとめる。

 

 

「ああ、ミカエル会いたかったよ」

 

 

 そう囁く少年の言葉に少女は頬を赤く染め、瞳を潤ませ、微笑む。——誰がどう見ても恋する乙女。完璧な演技だった。

 

 

「タクト様。大変喜ばしく思いますが皆様も見ておりますし、1度離れて頂けますか?」

 

 

 彼女の言う通り、開け放たれた部屋の中には複数の彼女に匹敵する程の美少女がいた。

 その全員が不機嫌さを表している。

 それを見て少女は内心で嗤う。こんな男の何がいいのだと。

 

 

 その少女の言葉で少年は離れる。その時名残惜しそうにする演技も忘れない。

 

 

「ふふ、ごめん。ミカエルに会えたのが嬉しくてね」

 

 

 そう言って、少女の黒髪に指を絡ませる少年に恥ずかしがる演技をするが内心では殺してしまおうかと思うほどの嫌悪感でいっぱいだった。

 さらに、自分の体を見る目にある下心に嫌悪感は1層加速する。

 彼女は美貌のみならずプロモーションも世の男性を魅了するほどだった。

 

 

「ありがとうございます。ですがタクト様。私は——」

 

 

 恥ずかしがる演技から一転、僅かに影を落とした表情を作り、言った少女の言葉をタクトと呼ばれた少年は遮って言う。

 

 

「分かってるよ、ミカエル。君の神の命令で使命が終わるまで恋愛をしてはならないんだろう?だから、使命が終わったら俺と結婚しよう」

 

 

「タクト様……っ」

 

 

 感極まったように口を覆い、涙を貯める彼女は内心で嗤う。

 そんなもの猿のように盛るお前に手を出されないための方便に決まっているだろうと。

 誰がお前のような見てくれだけの男と結婚するかと。

 そもそも、ミカエルという雑に考えた前の世界の天使の名と自分の外見だけで疑いもせずお前を転生させた神の使いだと信じ切っている低脳がと。

 

 

「じゃ、話を始めようか。メルロマルクで召喚された——」

 

 

 それからのタクトの話を少女は半ば聞き流す。

 

 

 こんな低脳でも利用価値がある。

 せいぜい、私を楽しませてから惨めに死ね。

 

 

 そう思い全てが計画通り進んでいる中——だが少女は思う。

 これではただのワンサイドゲームだと。

 誰かに邪魔をして欲しいとは思う。

 だが、少女はそれはほぼありえないと理解していた。

 

 

 少女は転生者である。

 そして、この世界のことも知っていた。

 だからこそ、自分を邪魔できる存在など、ラスボスか終盤の主人公くらいしかいないと。

 

 

 今はまだラスボスは姿を現すことは出来ず、主人公もまだ弱い。

 自身のような転生者なら可能かもしれないが戦闘能力という1点だけならば自分を超える力はそうそうない。

 故に、過程は楽しめず、結果で楽しむしかないだろうと。

 

 

 彼女はその場の誰にも分からないように、つまらなそうにため息を吐き、メルロマルクの方角を見る。

 主人公は今何をしているのだろうと思ってそうした彼女は。

 まさにその場所に自分を妨害できる存在がいることはまだ知らない。

 

 

 闇と光が対面するのはまだまだ先の話である。

 

 




 第1章のガブリエルポジションのキャラの視点でした。
 ガブリエルと違ってクズいです。

・フォーブレイ
 世界で1番の国。
 古来より王族は、勇者を血筋に取り入れる慣わしがあり、王族には勇者の末裔が多い。
 実はメルロマルクの王はフォーブレイの国王の弟。

・タクト
 原作キャラ。
 ビッチやクズ王に匹敵するクソ。
 いずれ改心するクズ王のがマシ。
 個人的に原作キャラで一番嫌い。多分みんなもそうだと思う。だって私の好きだった獣耳っ娘美少女を殺(検閲
 そんなクソでクズで死んだ方が世の中のためになる奴のにハーレムを築いている。マジ死ね。
 ナオフミ達と同じ異世界人で転生者。メリオダスや今回登場した少女と違い「盾の勇者の成り上がり」の世界にある無数にある異世界の1つの出身なので完全に部外者の前者2人とは違う。でも死ね。
中ボスの分際で生意気なんだよクソが。

・ミカエルを名乗る美少女
 オリキャラ。
 メリオダスと同じ世界から来た。
 転生させたのは別の神。
 この世界に来て、なんの世界か気がついた彼女は自身の敵足りうる存在がいないことを知り、戦闘では楽しめないので人を貶めて楽しむことにした。
 いずれメリオダスと戦う。

 全然説明が足りませんが、今はまだ気にしなくて大丈夫ですし、後々に本編で分かります。
 約1名の説明が私念ダダ漏れなのは気の所為です( •̀ω•́ )✧
 原作知ってる人なら分かると思いますが次にこのキャラが出るのは終盤ですけどね。

 それでは明日こそ第9話を投稿致します。お楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話 波の始まり

 1度でも休んだら絶対休みまくるという確信の元全力で執筆しています。どうも私です(白目)
 俺、今月終わったら他作品の執筆するんだ……。

 それでは第9話をどうぞ。


 ナオフミと再会してから薬草採取や回復薬作りの手伝いをして、1晩が経った。

 回復薬をナオフミが作れることに驚いた。

 どうやら勇者の武器——ナオフミのは盾だが——は初日に見せられたように素材を吸収して新しい種類の武器に変化させられるらしい。

 初日に見た盾はスモールシールドといういかにも初期装備といった弱い盾だったようだ。

 そして、あの後色々試したら調合のボーナス効果がある盾が出て、それから作っているらしい。

 薬草を売るより、高値で売れて、回復薬を買う金もないかららしい。

 

 

 それを聞いた時、ビッチやクソ勇者共への怒りが再燃したがこれ以上すると国から追われそうなので自重することにする。

 王女蹴っ飛ばしてるんだから手遅れだって?ハハハ、抜かしおる。

 

 

 さて。

 ナオフミによると後、17分で次元の波が訪れる。

 城下町では既にその事が知れ渡っているのだろう。

 騎士隊と冒険者が準備を整え出撃に備えていて、民間人は家に立てこもっている。

 勇者であるナオフミは時間になったら砂時計が波の発生地点に飛ばしてくれる。

 そして、それはパーティーメンバーにも適応しており、俺やラフタリアも一緒に飛ばされるだろう。

 

 

「あと少しで波だ。ラフタリア、メリオダス」

 

 

「はい!」

 

 

「おう」

 

 

 戦意高揚しているのかラフタリアは若干興奮気味で頷く。

 俺は特に。余裕ぶっこいてやれるのは恥ずかしいから少しは警戒するが多分大したことないだろう。

 

 

「ナオフミ様……ちょっとお話して良いですか?」

 

 

「ん? 別に良いが、どうした?」

 

 

「いえ、これから、波と戦うと思って感慨深くなりまして」

 

 

 そう、なにやら重要そうな話をしようとするラフタリアに俺は待ったをかける。

 

 

「待て、口を閉じろ。話は波が終わってからにしよう。死亡フラグを立てようとするな」

 

 

「え?あっはい」

 

 

「お前なぁ、ここは現実だぞ?死亡フラグなんてあるわけないだろう」

 

 

「そうだとしても縁起が悪いだろ。それに大切な話なら後でゆっくり聞こうぜ?」

 

 

「いえ、そこまで大切な話というわけでも……」

 

 

「いや、お前の身の上話でもしようとしてたんじゃないの?」

 

 

「え?なんで分かったんですか?」

 

 

「いや、そんな雰囲気だったじゃん」

 

 

「お前、そんなこと言う割に緊張感ねぇな」

 

 

 そう、半眼を向けるナオフミに肩をすくめて答える。

 

 

「緊張しすぎるのも良くないだろ?」

 

 

「お前は緊張しなさすぎだ」

 

 

「まあ、そう言わずに。というわけでここで緊張感をさらに奪う質問をしてもいいかな?」

 

 

「それこそ、あとじゃダメなのかよ……」

 

 

「割とどうでもいいことだから」

 

 

「なんだよ」

 

 

「ナオフミ……その鎧はお前の趣味か?」

 

 

「断じて違う!!」

 

 

 ナオフミの今の鎧は粗野で乱暴そうな……それでいて野生的とも言える無骨な鎧で盗賊団の団長が着てそうな鎧だ。

 だが、ナオフミの目つきが鋭くなったせいかよく似合ってる。

 

 

「武器屋の親父に勧められたんだよ。蛮族の鎧って名前らしい」

 

 

「そのまんまだな。でも、よく似合ってるぜ」

 

 

「そうですよね!」

 

 

 俺が親指を立てて、褒めるとラフタリアも同調する。

 そんな俺らをナオフミは半眼で睨む。

 うむうむ。緊張が解れてるようだな。

 

 

「後1分だぞ」

 

 

 ナオフミはそう言うと身構えて、転送に備える。

 俺やラフタリアも身構える。

 

 

 ビキン!

 

 

 世界中に響く大きな音が木霊した。

 次の瞬間、フッと景色が一瞬にして変わる。転送されたのだろう。

 

 

「空が……」

 

 

 まるで空に大きな亀裂が生まれたかのようにヒビが入り、不気味なワインレッドに染まっている。

 やはり見たことがある。俺に言葉を教えてくれた婆さんが死ぬ少し前に見た景色だ。

 

 

「ここは……」

 

 

 そう言ってナオフミは何処に飛ばされたのか辺りを確認する。

 それと一緒に俺も辺りを見回すとダッと飛び出す影が3つ。そしてそれを追う12人。

 勇者(クソムシ)御一行のようだ。

 俺らと同じく転送されたのは分かるが何処へ向っているんだ?

 と、走っていく先を見ると亀裂の中から敵がウジャウジャと湧き出ていた。

 

 

「リユート村近辺です!」

 

 

 ラフタリアが焦るように何処へ飛ばされたか分析する。

 

 

「リユート村?」

「ここは農村部で、人がかなり住んでいますよ」

「もう避難は済んで——」

 

 ナオフミは言葉を途中で切り、何かに気づいたようにハッとする。

 それに一瞬首を傾げるが直ぐに俺も気づく。

 何処で起こるか分からない厄災の波だぞ?避難なんてできるわけが無い。

 

 

「ちょっと待てよ、お前等!」

 

 

 ナオフミの制止を聞き入れず、三人の勇者とその一行は波の根源である場所に駆け出していく。

 その間にもワラワラと溢れ出た化け物たちが蜘蛛の子を散らすように村のある方向へ行くのが見えた。

 で、勇者一行が何をしたかというと照明弾のような光る何かを空に打ち上げただけだった。

 騎士団にこの場所を知らせる為とか、そんな所だろう。

 だが、騎士団が到着するまでどれだけかかるか。

 

 

「クソ!!ガチで勇者共(あいつら)クルクルパーなんじゃねぇのか!?正義面するくらいなら民間人のことくらい考えやがれ!!」

 

 

「チッ!!ラフタリア!メリオダス!村へ行くぞ!」

 

 

「はい!」

 

 

 そうして、俺達は勇者共(脳内お花畑)とは別の方向に駆け出した。

 

 




 なんか、殆ど雑談して終わっちゃった(ノ≧ڡ≦)☆
 次回は本格的に厄災の波での戦闘が始まります。
 まあ、ぶっちゃけ大したことないですがオリ展開がある——予定(ボソッ

 それでは第10話をお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話 厄災の波

 昨日の第9話を投稿した時に気が付きましたが旧作の話数に今回で届きましたね。
 やっとといった感じですね。

 それでは第10話をどうぞ。


 村に着くと、丁度、波から溢れていた化け物たちが、まさに暴れだす瞬間だった。

 駐在していた騎士と冒険者が辛うじて化け物たちと戦っているが、多勢に無勢……防衛線は決壊寸前だ。

 

 

「ラフタリアは村民の避難誘導をしろ」

 

 

「え、ナオフミ様は……?」

 

 

「俺は敵を惹き付ける!」

 

 

「俺も行く!」

 

 

 ナオフミと共に防衛線に駆け出す。

 ナオフミは魔物の注意を引くためにイナゴの群のような魔物に向けて盾を使って殴りかかる。

 

 

「グギ!」

 

 

 イナゴのような小さな魔物が群を成してナオフミに向って襲い掛かる。他にハチ、グールと化け物の種類は決まっているようだ。

 

 

 ガン! ガン! ガン!

 

 

 蛮族の鎧のお陰か、それとも盾の効果か、相変わらずダメージは受けていないようだ。

 そして、俺はナオフミを飛び越し、ナオフミの前方の魔物達に向けてロストヴェインを振る。

 その直線上にいた数十体の魔物が両断される。

 

 

 後ろを振り向くと、俺の攻撃に度肝を抜いたのか固まるナオフミと騎士や冒険者達がいた。

 

 

「なにやってんだ!?」

 

 

 俺のその一言に全員が我に帰る。

 

 

「お前等、俺らが引きつけている間にサッサと体制を立て直せ!」

 

 

 ナオフミが騎士達に叫ぶ。

 

 

「は、はい!」

 

 

 これ幸いにと、深手を負っていない奴まで下がり、防衛線が俺ら二人になった。

 

 

「おい……」

 

 

 ナオフミが呆れたように声を出す。

 その間にも化け物たちは俺らを倒そうと牙やハリ、爪で攻撃してくる。

 ガキンガキンと音を立てているけれど、痛くも痒くもない。ただ、全身を這われる感覚は気持ち悪くてしょうがない。

 ったく、この世界の連中はクズばっかだな。前の世界ではんな事——なかった……とは、言いきれ……ないかも……。いや!人間はそんなことなかったぞ!うんうん!

 

 

 俺はいい加減化け物達がウザったいので腕を振るって魔物を振り払おうとする。

 すると、腕を振っただけで魔物達が肉片に変わる。……弱すぎね?ドラゴンよりは確実に弱いな。ていうかあの時のライオンもどきよりも弱いな。

 

 

 俺は続いてナオフミにまとわりつく、化け物をナオフミを傷つけないように気をつけて斬り捨てる。

 

 

「悪い——」

 

 

「た、助け——!!」

 

 

 世話になっていた一家族が後方で化け物に襲われそうになっている。

 

 

「俺は魔物の数を減らすからお前は村人を守れ!!」

 

 

 俺はナオフミにそう叫ぶと返事を聞かずに小石を拾い、家族を襲おうとしていた魔物へ投げつけ貫くと俺は振り返り、魔物達が来る方向の斜め前に跳躍した。

 魔物達を飛び越え、ナオフミからある程度離れた所に魔物を踏み潰しつつ着地する。

 

 

「ハァッ!!!」

 

 

 そして、さながらバレリーナのように一回転しながらロストヴェインを振り、周囲の魔物を斬り払う。

 それから俺は、戦〇無双や三〇無双のように魔物を斬り、殴り、投げ、千切り、無双した。

 

 

 ナオフミ達から離れたのは理由がある。

 それはもちろんナオフミや村人達を巻き込まない自信が無かったからだ。

 現に、俺の斬撃や殴打で地が抉れている。

 もちろん多少の魔物がナオフミ達へ襲いかかってしまうだろうが魔物の波を前方から全て請け負うのは無理がある。

 

 

 それからしばらく無双していると、魔物の波の先——ナオフミがいると思われる場所で火が上がった。

 それにより、あっという間に引火して燃え盛る魔物たち。

 昆虫が多いからな、まさに飛んで火に入る夏の虫ってか?

 

 

 何かあったのかと俺は襲い来る魔物を蹴り飛ばしつつ、急いで戻る。

 

 

 燃え盛る炎の中を通り、炎を抜けると、そこにはようやく到着した騎士団の1人がラフタリアと鍔迫り合いをしつつ、四方を盾の牢獄に閉じ込られ、さらにラフタリアを騎士達が取り囲んでいた。

 そして、ナオフミは多勢に無勢を働こうとした騎士達を睨む。

 

 

「……敵は波から這いずる化け物だろう。履き違えるな!」

 

 

 ナオフミの叱責に騎士団の連中は分が悪いように顔を逸らす。

 そして、俺は全てを察した。

 恐らく、ナオフミごと騎士達が魔物を魔法で焼き払ったのだろう。

 それに憤慨したラフタリアが騎士に斬りかかり、騎士達はラフタリアを包囲したといったところか。

 

 

「犯罪者の勇者が何をほざく」

 

 

「なら……俺は移動するから、残りはお前達だけで相手をするか?」

 

 

 燃え盛る前線から化け物たちが我が者顔で蠢き、最前線にいる俺やナオフミに襲い掛かる。

 その全てを耐え切っている俺らに、騎士達は青い顔をした。

 というかここでやっとナオフミ達や騎士達は俺に気づいたようだ。

 

 

「おい、お前ら」

 

 

 俺はいい加減我慢の限界だった。

 騎士達はナオフミが死んでも構わないと、いやそもそも奴らがナオフミの防御力を詳しく知っているわけがないからむしろ殺す気で魔物ごとナオフミに魔法を浴びせたのだろう。

 仮にも村人達を守っていたナオフミを。

 遅れてきた分際で。

 故に俺は低い声で。

 

 

「いい加減にしねぇと殺すぞ」

 

 

 俺にまとわりつく魔物達を殴って肉片に変えて殺意を込めて言った。

 それを見た騎士達はさらに青ざめた。

 当然だろう。ただ殴っただけで数十体の魔物が冗談のように肉片に代わったのだから。

 というかもはや怯えた目で見てくる。化け物でも見ているかのような。

 そんな目で見られたの初めてだからちょっと傷つくな。っていうかナオフミ達にこんな目で見られたら戦闘不能になる自信がある。

 

 

「ラフタリア、避難誘導は済んだか?」

 

 

「いえ……まだです。もう少し掛かると思います」

 

 

「そうか、じゃあ早く避難させておけ」

 

 

「は、はい!」

 

 

 こっそりナオフミの様子を伺うが、さっきは驚いていたのにもう慣れたのか、なんでもないようにラフタリアに命令していた。

 ラフタリアも驚いてはいたが怯えてはいない。杞憂だったか。

 

 

 俺はもう大丈夫だろうと判断して、魔物達へ視線を戻そうとした俺の視界の端に人影が見えた。

 反射的にそちらを見ると村の外の森の木の影からこちらを見る人影が確かにあった。

 それはこちらに気づいたのか直ぐに木に隠れた。

 それだけなら少し首を傾げる程度なのだが、そいつの左上——いやこちらから見ると右か。まあ、左肩の上に文字が浮かんでいるように見えた。

 そう、前回の世界で会ったガブリエルのように。

 直ぐに隠れてしまったので読むことが出来なかったのでどんな転生特典か分からない。

 

 

 近づこうとした俺の頭にハチ型の魔物の針が俺の頭に当たる。刺さるのではなく当たった。

 刺さらないのに何とか刺そうとするハチを右手で掴み握りつぶす。

 体液をばら撒きながら絶命した魔物にふと、こいつら毒あるまいなと考える。

 ハチ型だからあるかもしれない。

 そう思い、右手を見るが体液で汚いだけで特に異常はない。

 というかさっきから体液浴びまくってるわ。

 服を見るとまるで蒸発するように少しづつ汚れが消えて行っているが、髪や体に着いた体液は無くならない。

 

 

 そこまで、便利な機能は無かったか。

 帰ったら水浴びしなきゃな。

 というか風呂入りたい。もう2年以上入ってないな。この世界にないかなぁ。

 

 

 俺はため息を吐きつつ、魔物へ向かうナオフミや騎士達を見て波が終わってから調べるかと諦める。

 その時にはもういないだろうが、何か手がかりくらいはあるかもしれない。

 後で村人に変なやつがいなかったか聞くか。

 いや、俺と違って文字通り転生してこの村に生まれてたら意味無いか。

 すぐ隠れられたり、空の色が変わったせいで薄暗かったりで髪の色すら分からなかったからな。

 

 

 そして、俺は魔物の群れへ駆け出した。

 

 


 

 

 その後、足止めが効いたお陰か波から溢れ出た化け物の処理はある程度完了した。

 邪魔な連中(むらびと)の避難を終えたラフタリアが前線に復帰するとナオフミも攻撃に撃って出た。

 この時ナオフミを放置して無双し続けたことに気がついた。

 まあ、その後俺やナオフミ達、騎士団で戦い空の亀裂が収まったのは数時間も後の事だ。

 

 

「ま、こんな所だろ」

 

 

「そうだな、今回のボスは楽勝だったな」

 

 

「ええ、これなら次の波も余裕ですね」

 

 

 波の最前線で戦っていた勇者共が今回の一番のボスらしきキメラの死体を前に雑談交じりに話し合いを続けている。

 民間人の避難を騎士団と冒険者に任せて何を言ってやがる……。

 一ヶ月も経っているというのにまさかゲーム気分なのだろうか。マジで頭お花畑だな。

 全員まとめて頭を蹴っ飛ばせば治るかな?んなわけないか。バカは死んでも治らないって聞くしな。

 波でさすがに疲れたからな。数時間も動き続けるのはキツいわ。

 空を見上げると何時ものような色に戻っている。やがて夕日に染まるだろう。

 

 

「よくやった勇者諸君、今回の波を乗り越えた勇者一行に王様は宴の準備ができているとの事だ。報酬も与えるので来て欲しい」

 

 

 クソ騎士がそんなことをナオフミを無視して勇者共に言う。

 本来は行きたくないがナオフミは金がないので行くらしい。

 ……俺は結構金あるのは黙っておいた方がいいのかな。

 

 

「あ、あの……」

 

 

 リユート村の連中がナオフミを見るなり話しかけてくる。

 

 

「なんだ?」

 

 

「ありがとうございました。あなたが居なかったら、みんな助かっていなかったと思います」

 

 

「なるようになっただろ」

 

 

「いいえ」

 

 

 別の奴がナオフミの返答を拒む。

 

 

「あなたが居たから、私たちはこうして生き残る事が出来たんです」

 

 

「そう思うなら勝手に思っていろ」

 

 

「「「はい!」」」

 

 

 村の連中はナオフミに頭を下げて帰っていった。

 自分達の村の損耗は激しい。これからの復興を考えると大変だろう。

 別にいいけど俺は?確かに魔物の群れの中にはいたから見えなかったかもだけど最初に魔物薙ぎ払ったの見てなかったの?

 

 

「ナオフミ様」

 

 

 長い戦いの末、泥と汗まみれになったラフタリアが笑顔で駆け寄ってくる。

 

 

「やりましたね。みんな感謝してますよ」

 

 

「……そうだな」

 

 

「これで、私の様な方が増えなくてすみます。ナオフミ様のお陰です!」

 

 

「……お前は波で何かあったのか?」

 

 

 戦後の高揚からか、それとも自身の出自と重ねてなのか、涙ぐんでいるラフタリアにナオフミが問う。

 

 

「ええ。波で村と家族を失いました」

 

 

 そうラフタリアは暗い顔をする。

 

 

「……お前は今回良く頑張ったな」

 

 

 そんなラフタリアの頭を撫でて、ナオフミは褒めた。

 

 

「一杯化け物を倒しました」

 

 

 一瞬驚いたような顔をしたラフタリアが言う。

 

 

「ああ、助かったよ」

 

 

「えへへ」

 

 

 嬉しそうに笑うラフタリアを見て2人を「ヒューヒュー、お暑いねぇ」と小学生のように弄りたいが俺はそれを置いといてナオフミに話しかける。

 というか俺が1番頑張ったんだけどなぁ。いや別に野郎に撫でて欲しくはないが。

 

 

「なぁ、ナオフミ」

 

 

「ああ、メリオダスもお疲れ」

 

 

 ラフタリアを撫でながらナオフミが反対の手を上げて言う。獣耳っ娘を撫でられるなんて羨ましいッ!

 ラフタリアは俺に気づくと顔を赤くし、ナオフミから離れる。

 ナオフミはそれを見て首を傾げる。……クソがぁ。

 

 

「ああ、お疲れ。それで俺、ちょっと気になることがあるから行きたいんだが……その、大丈夫か?」

 

 

 クソ王はナオフミに冤罪着せたやつだ。

 そうでなくても町にはナオフミの味方はいないのに敵地に向かわせるようなものだ。さすがに殺されはしないだろうが……。

 

 

 だが、ナオフミは俺の心配を聞いて、顔を背けて言った。

 

 

「お前は俺の保護者かよ。大丈夫だから行け。後で詳しく聞かせろよ。……お前のことも」

 

 

 怯えはしないがさすがに気にはなるか。

 

 

 俺は苦笑して、答える。

 

 

「んー、さすがにそれは約束し兼ねるな」

 

 

 俺の答えに眉を顰めるナオフミだったが、何も言わずに勇者達に続いて町へ向かったのを見て、俺はさっきの人影を見た所へ向かった。

 

 




 クソ勇者に任せずメリオダスに波のボスを倒させた方が早いとか言っちゃいけない(
 クソ勇者達をメリオダスに蹴らせるか結構本気で悩みましたがまあ、今やらずとも……ふふふ。

 ちなみにメリオダスが無双している時にナオフミは空に舞う魔物を見たり、魔物の断末魔や地が抉れる音を聞いていましたw

・リユート村
 ナオフミがラフタリアとメリオダスと再会する前に1週間ほど滞在していた村。
 原作にある村。

 メリオダスと幕間の少女以外のオリキャラはいずれ出会います。

 それでは第11話もお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話 決闘

 今回ギリギリだった……。
 今回少し長めになりました。
 榎宮ちゃんせんせーと椿ちゃんせんせーの配信面白かった(*´ω`*)

 それでは第11話をどうぞ。


 人影を見た場所に着いたがやはり既にそこには誰もいなかった。

 それでも何か手がかりがないか辺りを捜索する。

 周辺を歩いていると足元で何かを踏んだような感覚があった。

 

 

「……?」

 

 

 それに視線を下に向ける前に、耳を劈く爆音と衝撃が俺を襲った。

 

 

「ちっ、地雷見たいな魔法道具か何かか?ったく、物騒な——ッ!?」

 

 

 爆風によって吹き飛ばされ、木に激突して止まった俺はそう愚痴る途中で気づいた。

 火薬の匂いがする、と。

 花火やクラッカーを鳴らした後のような、だがそれよりも濃い匂いが辺りに漂う。

 

 

 マジモンの地雷だってのか!?

 この世界に火薬なんてあんのか!?

 いや、調べた感じこれまでにも勇者召喚は行われているようだったからな。火薬くらいあるのか?

 それにしてはこの世界に来てから見ちゃいないが……。

 

 

 俺は思わず頭を掻きむしる。

 火薬の有無が分かれば先程見た人影が転生者だと分かるのだが……。

 とりあえず、地雷が1個だけとは限らないから、手がかりを探しつつ地雷を探して処分するか。

 村人が踏んだら足が無くなりそうだし。ナオフミなら大丈夫だろうけど。

 

 

「な、何があった!」

 

 

 そんな声が村の方から聞こえて来て、何人かこちらに向かっているようだ。

 

 

「む?君は盾の勇者様と一緒にいた……」

 

 

「あー、気にしなくていい。波の魔物が生き残ってたから始末しただけだ」

 

 

「そ、そうなんですか?しかし、この匂いは……」

 

 

「俺の切り札なんだ黙っててくれないか?」

 

 

 俺が口に人差し指を当ててお願いすると、しばらく村人達は悩んだようだが頷いてくれた。

 そうだ。ついでだから怪しいやつを見なかったか聞くか。もしくは非常に大人びた子供時代を過ごしたやつとか。

 

 

「なあ、最近ここらで怪しいやつを見なかったか?もしくはこの村に天才児とか言われてたやつとかいる?」

 

 

「え?うーん、いえそんなことは特に」

 

 

 「お前らもないよな?」と村人同士で聞き合うがどうやら心当たりはないようだ。

 これでこの村で生まれた転生者って線はほぼないかな。

 転生者であることを隠すためにただの子供を装ってたらかなり手強い相手になりそうだな。

 というか敵かどうかもまだ分からないいんだよな。

 協力はされなかったが邪魔もされなかったし。

 

 

 俺は村人達が村に戻るのを見送りながらどうするか考える。

 とりあえず地雷を排除しつつ、探索して何も見つからなかったら帰るか。

 ナオフミが心配だし、次の波でまた来るかもしれないからな。

 ってナオフミ達にも何か見なかったか聞けば良かったな。

 あいつらもなんか見たかもしれなかったのに。

 

 

 俺は地面に注意しながら辺りの探索を開始した。

 その後4個の地雷を発見できた。

 その4個の地雷は周囲に誰も居ないのを確認してから、魔神化して闇で爆発を抑え込んで破棄した。

 そこ、ゴリ押しかよとか言わない。

 それ以外にどうするか思いつかなかったんだよ。

 

 

 俺はこれぐらいでいいだろうと判断して町に戻ることにした。

 ちなみに地雷以外には何も発見出来なかった。

 

 

 俺は町に向かって走り出した。

 

 


 

 

 城へ着くと何やら騒がしい。

 というか、城内で宴がやっているはずなのに庭の方に人が集まっている。

 嫌な予感がしつつ、庭に入るとナオフミとラフタリアを囲む貴族や冒険者共。

 

 

 こいつらはッ!

 

 

 俺は半ギレしつつナオフミ達に駆け寄る。

 

 

「……おい、何があった」

 

 

 思わず声が低くなってしまったがイライラしていたから許して欲しい。

 

 

「メリオダスか」

 

 

 ナオフミに説明してもらったのは以下のことだ。

 

 

 まず、最初は普通に美味しい料理を堪能していたらしい。…俺まだ何も食ってないのに羨ましい。

 そしたらいきなりモトヤスがラフタリアを奴隷だと聞いて決闘しろとほざいたらしい。

 それにクソ王が便乗して庭で決闘が始まったらしい。

 ラフタリアは騎士達に捕まって意見も聞かれずに決闘へも参加出来なかったらしい。

 そして、モトヤスとの1対1の決闘が始まったが攻撃力がないナオフミは勝つのは諦めて嫌がらせに徹したようだ。

 マントの下に隠した帰りに捕まえたバルーンを顔と股間に噛ませ、股間に噛み付いたバルーンを蹴り続け、割れたり、取られたりしたら再び投げつけたらしい。オメガグッチョブ(`・ω・)bグッ!

 まあ、そんなわけで殆どダメージを与えられなかったが嫌がらせには十分な攻撃をしていたら、あのクソビッチがナオフミへ風魔法で攻撃して、それでよろめいたところにモトヤスが首に槍を突きつけ勝ちを宣言したらしい。

 もちろん、ナオフミはズルを指摘したが、モトヤスは気づいておらず、モトヤスが周りに聞いてもクズ王によって信じるに値しないとモトヤスの勝利を宣言したらしい。

 そして、ラフタリアの奴隷紋は解除されてモトヤスはラフタリアへ駆け寄ったがラフタリアはモトヤスの頬をビンタ。そして続く罵倒。ナイス。

 そして、ラフタリアがナオフミの味方だと宣言して微妙な空気になったところで俺が来たらしい。

 

 

「さっきの決闘……元康、お前の反則負けだ」

 

 

「はぁ!?」

 

 

 2階で高みの見物をしていたらしいレンと弓の勇者——イツキという名前らしい——が人混みの間から現れて告げる。

 

「上からはっきり見えていたぞ、お前の仲間が尚文に向けて風の魔法を撃つ所が」

 

 

「いや、だって……みんなが違うって」

 

 

「王様に黙らされているんですよ。目を見てわかりませんか?」

 

 

「……そうなのか?」

 

 

 元康が観衆に視線を向けるとみんな顔を逸らす。

 

 

「でもコイツは魔物を俺に」

 

 

「攻撃力が無いんだ。それくらいは認めてやれよ」

 

 

 今更、正義面でレンはモトヤスを糾弾する。

 

 

「だけど……コイツ! 俺の顔と股間を集中狙いして――」

 

 

「勝てる見込みの無い戦いを要求したのですから、最大限の嫌がらせだったのでしょう。それくらいは許してあげましょうよ」

 

 

 イツキの提案にモトヤスは不愉快ながらも、諦めたかのように肩の力を解く。

 

 

「今回の戦いはどうやらお前に非があるみたいだからな、諦めろ」

 

 

「チッ……後味が悪いな。ラフタリアちゃんが洗脳されている疑惑があるんだぞ」

 

 

「あれを見て、まだそれを言えるなんて凄いですよ」

 

 

「そうだな」

 

 

 今気がついたがナオフミの手を握っているラフタリアを見てレンとイツキが言う。

 バツが悪そうに、勇者達が立ち去ると、観衆も釣られて城に戻っていく。

 

 

「……ちぇっ! おもしろくなーい」

 

 

「ふむ……非常に遺憾な結果だな」

 

 

 そのクズ親子の言葉で俺はもう我慢の限界を超えた。

 

 

「おい」

 

 

 俺の低い声が城の庭に響き、城に戻ろうとしていた勇者達やクズ親子が足を止める。

 その様子を見て、1度深呼吸して、笑顔を浮かべて言った。

 

 

「なあ、決闘(ゲーム)をしようぜ」

 

 

「「「は?」」」

 

 

 勇者達や観衆達だけでなくナオフミ達も声を上げた。

 

 

「決闘だよ決闘。俺と勇者達3人で」

 

 

「……なんでそんなことしなくちゃいけないんだ?」

 

 

 レンがそんなことをほざく。

 それはそれをハッと鼻で嗤って返す。

 

 

「ナオフミにやらなくてもいい決闘を強要しておいてそれを言うのか?まあ、俺はお前達とは違うからな。ちゃんとお前達にもメリットは用意してやるよ」

 

 

 ナオフミとモトヤスとの決闘ではモトヤスが勝てばラフタリアを解放という条件があったにもかかわらず、ナオフミが勝ってもラフタリアがそのままという条件しかなかったらしい。全っ然対等じゃねぇなぁおい。

 

 

「お前らが勝ったら俺やナオフミ達を好きにしていいぜ」

 

 

「「は!?」」

 

 

 俺の言葉にナオフミとラフタリアが声を上げる。

 俺は振り返り、ナオフミとラフタリアに言う。

 

 

「安心しろ。万に一つも負けはない」

 

 

 俺の言葉にナオフミは呆れたような表情をするが黙る。

 ラフタリアも俺とナオフミを見比べていたが結局黙った。

 まあ、二人とも俺が波の魔物相手に無双してたの見てたからな。問題ないと思ったんだろう。

 その代わり、騎士団の奴らが青い顔をして声を上げようとしたのでそれを遮って叫ぶ。

 

 

「待っ——」

 

 

「まさか!……まさか勇者ともあろうお方が?こんな有利な条件で?まさかお逃げになるなんてことは?ございませんよね?」

 

 

 挑発するように言うと勇者達の顔が引き攣る。

 

 

「私達が負けたらどうなるのですか?」

 

 

 イライラしてはいるようだが自分たちが有利すぎて少し警戒しているようだ。

 

 

「別になんも?俺はただお前らをボコりたいだけだし」

 

 

 さらに顔を引き攣らせる勇者共。

 

 

「さあ、クソ勇者共。かかってこいよ。力の差を教えてやるよ」

 

 

 挑発するように、嘲笑うように言った俺の言葉にもう我慢の限界だったらしい。

 

 

「いいだろう」

 

 

「分かりました」

 

 

 各々の言葉で「そのケンカ買った」と宣言する勇者達に嘲笑を浮かべる。

 こんな安い挑発にマジないわー。

 言っておくが俺はただイキってるわけではない。

 話を聞いたところ、モトヤスはナオフミにスキルを使ってかすり傷を付けただけだったらしい。

 その程度であれば俺にはかすり傷1つつけられない。

 もしもの時は最凶状態になればいいだろう。

 

 

「ルールはさっきと同じでいいな?」

 

 

 俺の確認に勇者達は各々の武器を構えつつ、頷く。

 

 

「で、では、これより勇者様達と冒険者メリオダスの決闘を開始する!勝敗の有無はトドメを刺す寸前まで追い詰めるか、敗北を認めること」

 

 

 ナオフミとの決闘の時の審判が言う言葉に俺は嗤う。

 簡単に負けを認めさせてたまるかと。

 

 

「では、始め!」

 

 

「さぁ、ゲームを始めよう」

 

 

 その言葉にレンとモトヤスは俺に向かって走り、イツキはさらに距離を取りながら弓矢を放つ。

 武器も構えない俺に全員が怪訝な顔をする中、イツキの弓矢が俺に当たる。

 やはり痛くも痒くもなかった。

 

 

「な!?」

 

 

 イツキは驚きの声を上げ、レンとモトヤスは目を見開きつつ、俺へ攻撃する。

 だが、それらの攻撃も無傷で受けきる。

 

 

「「な!?」」

 

 

「どうした勇者様?手加減なんかしないで本気でやっていいんだぜ?」

 

 

 嘲笑う俺に各々のスキルを放つがそれでも俺にはダメージを与えられない。

 困惑している勇者達を愉快に思いながら、こんなものかと失望する。

 もしかしたら、もっと強いかもと思っていたんだがそんなことはなかったな。

 成長途中だからかもしれないが、少なくとも今現在のこいつらは虫けらだな。

 そう思った俺は自身のさらに怒りがさらに燃え上がるのを感じた。

 それに思わず俺は攻撃を受けながら自嘲した。

 

 

 俺は、自分の怒りが奴らのナオフミへの理不尽な言動だと思っていたがそうではなかった。

 それももちろんあったが、俺はこいつらに嫉妬していたのだ。

 俺は前の世界で弱者故の強さを間近で見てきた。

 俺はもう、強者だ。

 まだ力に慣れないが慣れれば大抵の世界で最強だろう。

 リク達のような弱者に下される側だ。

 それがたまらなく悲しい。

 

 

 実はあの世界の後に絶対神に転生特典をどうするかという質問にメリオダスの力を消すことを願おうか悩んだ。

 だが、俺にはリクと同じことをやる自信はなかった。

 だから、そのままにした。

 自分は自分の——強者のやり方でやって行こうと、そう思った。

 だが、弱者でありながら少しばかり力がある程度で他者を蹴落とし、自分が正しいと自惚れるクソ共に俺は激怒したのだ。

 

 

 俺は酷いやつだ。

 ナオフミのために怒っているのではなく、俺の勝手な嫉妬で怒っていただけなんだ。

 

 

 俺は、攻撃を止めて肩で息をするモトヤスとレン、その奥で弓を引くイツキを見据える。

 その表情には恐怖が浮かび始めている。

 

 

「……さて」

 

 

 俺がそう呟いただけで勇者達はビクッとする。

 

 

「勇者様は本気を出す気がないご様子ですので俺の力を少し見せてやろうかな?」

 

 

 その言葉に武器を構えて警戒する勇者達。

 

 

 俺はまず、勇者達に捉えられない速度でレンに近づきその腹部を殴打した。

 

 

「ぐはぁ!?」

 

 

 突然腹を殴られたレンは驚愕の表情を浮かべながら、腹を抱えて地面に蹲る。

 気絶しない程度に手加減したが痛みでしばらく動けないだろう。

 

 

 続いて目を見開いて固まるモトヤスに目を向けると我に帰ったのか慌てて槍を俺に突き出す。

 俺はそれを跳躍して回避し、踵落としをモトヤスの頭に叩き込む。

 呻き声を上げる間もなくモトヤスの頭が地面に陥没する。

 

 

 最後にさっきから何度も矢を放ち続けているイツキに目を向けた。

 

 

「ひぃっ!」

 

 

 情けない声を上げるイツキに愉快に思いながら、あえてモトヤス達と同程度の速度で走り寄る。

 

 

「くっ!」

 

 

 それを見て無意味に弓で迎撃するイツキを嘲笑い、イツキの頭へ上段蹴りを叩き込み、レンやモトヤスが蹲る所まで吹き飛ばす。

 

 

「ぐあッ!」

 

 

 俺は蹲って痛みに悶える三勇者に歩み寄りつつ、声をかける。

 

 

「おいおい、軽く攻撃しただけだろ?まさかこれで終わりなんて言わないよな?さあ、スタンダップ」

 

 

 三勇者の側まで来た俺は足でつんつんとモトヤスを小突きながら立てと言うが三勇者は痛みに動けないようだ。

 

 

 マジで大したことないなこいつら。

 悲しくなるほど弱いじゃねぇか。

 

 

「そ、そこまでだ!」

 

 

 叩き起すかと考えていた俺の耳にクズ王の言葉が届く。

 

 

「おいおい、まだこいつらは負けを認めてないぜ?」

 

 

「もう戦えないのは誰の目に見ても明らかだろう!」

 

 

 その言葉に俺は周りを見回す。

 観衆達の目には怯えが浮かんでいた。

 波を収めた伝説の勇者が手も足も出なかった化け物とでも思われたのだろうか。

 

 

「メリオダス」

 

 

 ナオフミの俺を呼ぶ声に俺はナオフミへ振り返る。

 ナオフミの目にはやはり怯えはなく、それどころか……その、今にでも親指を立てて「グッジョブ!」とでも言いそうな悪い笑顔を浮かべていた。

 それを見て俺は肩を落とす。

 

 

「はぁ、まあいいか。多少はスッキリしたしな。お前らもいい加減にしないと勇者共と同じ目に遭わすからな」

 

 

 最後に観衆をひと睨みしつつ、悶絶を続ける勇者を捨ておいてナオフミへ歩み寄る。

 

 

「待て!……メリオダス殿。金ならいくらでも出そう。モトヤス殿のパーティーに入らぬか?」

 

 

 そんなことをほざくクズ王に中指を立てて言う。

 

 

「寝言は寝てから言え。土下座して懇願したら考えてやってもいいぜ」

 

 

 考えた上で却下するが。

 顔を真っ赤にしたクズ王を見て愉快に思いながら、言う。

 

 

「まあ、安心しろよ。波には参加するし、お前らが理不尽なことをしない限り敵対はしないからな」

 

 

 ナオフミの下まで来たら、ナオフミはとてもいい、悪い笑顔で俺を迎えた。

 

 

「最高だったぜ」

 

 

「ナ、ナオフミ様」

 

 

 そのナオフミの様子にラフタリアが呆れた声を上げるのに苦笑しつつ、ナオフミ達と共に城を後にした。

 

 




 なんかメリオダスの性格が安定してない気がする。
 基本優しいんですよ?
 でもこの世界来てからクズばっかりだからなんか鬼畜みたいになってるだけで。

・奴隷紋
 この世界で奴隷に付けられる呪い。
 ステータス魔法から設定した条件に違反すると奴隷に痛みを与える。(命令に背く、主に攻撃するなど)

・スキル
 勇者にのみ使える魔法では無い力。だけどメリオダスは使える。
 勇者専用のステータス「SP」を消費して使う。メリオダスは普通に魔力。
 魔法とは違い詠唱を必要としない。

 ちなみに原作と違い、ナオフミはラフタリアのことを信頼していたので奴隷紋を解除されても動揺はほぼなかったです。
 でもラースシールドは解放されました。

 それでは第12話をお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話 報奨金と援助金

 今回あまり原作と変わりません。
 メリオダスが勇者達をボコッたことを少しいじるだけです。

 それでは第12話をどうぞ。


 次の日、前回と同じく、10時ごろに俺達は謁見の間に通された。

 たく、配るのが翌日だったのならさっさと言えば良いものを……このクズ王はナオフミへの嫌がらせに命でも掛けているのかよ。

 その無駄に回る悪知恵をもう少しいいことに使えないのか。

 ……使えないからこんなことになってるんだろうな。

 

 

「では今回の波までに対する報奨金と援助金を渡すとしよう」

 

 

 報奨金?

 ツカツカと金袋を持った側近が現れる。

 

 

「ではそれぞれの勇者達に」

 

 

 金袋の方に視線が向う。

 確か、月々の援助金は最低でも銀貨500枚は確定しているはず。

 

 

「やりましたね」

 

 

 ラフタリアがナオフミに向って微笑む。

 

 

「ああ」

 

 

 金袋を受け取ったナオフミを見て俺はホッと息を吐く。

 さすがに報奨金を出さないほどクソじゃなかったか。

 

 

「モトヤス殿には活躍と依頼達成による期待にあわせて銀貨4000枚」

 

 

 ……自分の顔が引き攣るのを感じた。

 呆気に取られた俺が元康の持つ、重そうな袋に目を奪われる。

 ナオフミは拳を握り怒りを抑えている。

 

 

「次にレン殿、やはり波に対する活躍と我が依頼を達成してくれた報酬をプラスして銀貨3800枚」

 

 

 昨日勇者共をボコって多少はスッキリした心に怒りが募るのを感じる。

 レンはクールを装っているが、モトヤスに負けているのが悔しいような顔つきでレンが金袋を持っている。

 しかも小声「王女のお気に入りだからだろ……」と、毒づいている。

 

 

「そしてイツキ殿……貴殿の活躍は国に響いている。よくあの困難な仕事を達成してくれた。銀貨3800枚だ」

 

 

 イツキに至ってはこの辺りが妥当でしょうと呟きつつ、モトヤスの方へ羨ましそうな目を向けているのがわかった。

 依頼?仕事?アイツらに王からの依頼でもあったのか。

 少しでもこのクズ王を見直した俺は本当にバカだった。

 

 

「ふん、盾にはもう少し頑張ってもらわねばならんな。援助金だけだ」

 

 

 もはや、名前ですらない。

 

 

「あの、王様」

 

 

 後先考えずに暴れて仕舞おうかと考え始めていた俺を他所にラフタリアが手を上げる。

 

 

「なんだ? 亜人」

 

 

「……その、依頼とはなんですか?」

 

 

 ラフタリアも察しているのだろう。報酬が少ないのは目を瞑って、別の所から尋ねる。

 というか亜人って!あからさまな差別だな。

 一応はラフタリアを助けようとしたモトヤスの前でそんなことを言っていいのか?

 

 

「我が国で起こった問題を勇者殿に解決してもらっているのだ」

 

 

「……何故、ナオフミ様は依頼を受けていないのですか? 初耳なのですが」

 

 

「フッ! 盾に何ができる」

 

 

 謁見の間が失笑に包まれる。

 ナオフミとラフタリアも怒りを感じているようで拳を握りしめる。

 

 

「ハァッ!少なくとも俺一人に手も足も出なかったクソ雑魚に出来ることなら出来るだろうよ!」

 

 

 俺の言葉に勇者達は苦々しい顔をする。

 

 

「そなたと盾の勇者は全然違うだろう!波で何も出来なかったのに援助金を渡すだけありがたいと思え!」

 

 

「ま、全然活躍しなかったもんな」

 

 

「そうですね。波では見掛けませんでしたが何をしていたのですか?」

 

 

「足手まといになるなんて勇者の風上に置けない奴だ」

 

 

「民間人を見殺しにしてボスだけと戦っていれば、そりゃあ大活躍だろうさ。勇者様」

 

 

「ハッ! そんなのは騎士団に任せておけば良いんだよ」

 

 

「その騎士団がノロマだから問題なんだろ。あのままだったら何人の死人が出たことやら……ボスにしか目が行っていない奴にはそれが分からなかったんだな」

 

 

 クソ勇者達が騎士団の団長の方を向く。

 団長の奴、忌々しそうに頷いていた。

 

 

「だが、勇者に波の根源を対処してもらわねば被害が増大するのも事実、うぬぼれるな!」

 

 

 安全な城でふんぞり返ってただけの愚王がそれを言うのか!?

 

 

「はいはい。じゃあ俺達はいろいろと忙しいんでね。金さえ貰ったらここには用がないんで行かせて貰いますヨー」

 

 

 ここでムキになっても意味は無い。この程度で立ち去るのが妥当だろう。

 

 

「まて、盾」

 

 

「あ? なんだよ。俺は貴様と違って暇じゃないんだ」

 

 

「お前は期待はずれもいい所だ。それが手切れ金だと思え」

 

 

 つまり、これから波の後の報酬として援助金は無い! という事を言いたいのだろう。

 

 

「それは良かったですね、ナオフミ様」

 

 

 満面の笑みでラフタリアが答える。

 ……ちょっと怖い。

 

 

「……え?」

 

 

「もう、こんな無駄な場所へ来る必要がなくなりました。無意味な時間の浪費に情熱を注ぐよりも、もっと必要な事に貴重な時間を割きましょう」

 

 

「あ……ああ」

 

 

「では王様、私達はおいとまさせていただきますね」

 

 

 と軽やかな歩調でナオフミをリードし、俺がそれに続いて俺達は城を後にする。

 

 

「負け犬の遠吠えが」

 

 

「負け犬はお前だろ?雑魚勇者さま?」

 

 

 アホなことをほざくモトヤスに嘲笑と嫌味をプレゼント。

 その時の勇者達は非常に滑稽だった。

 

 

「さて、ではあのテントに行って呪いを掛けてもらいましょう」

 

 

「え?」

 

 

 城を出るとラフタリアがナオフミに言った。

 

 

「でないとナオフミ様は私を心から信じてくれませんからね」

 

 

「いや……別に……」

 

 

「テント?」

 

 

「ラフタリアを買った奴隷商の店だよ。もう……別に奴隷とかじゃなくても良いんだぞ」

 

 

 後半はラフタリアに言ったナオフミの言葉をラフタリアはばっさりと切り捨てた。

 

 

「ダメです」

 

 

「はい?」

 

 

「ナオフミ様は奴隷以外を信じられない方ですので、嘘を吐いたってダメですよ」

 

 

「……お前、ラフタリアをどう育てたんだよ?」

 

 

 俺の言葉にナオフミは微妙な表情でラフタリアに言う。

 

 

「あのさ、ラフタリア」

 

 

「なんですか?」

 

 

「別に呪いを掛けなくても良いんだぞ?」

 

 

「いいえ、掛けてもらいます」

 

 

 ……何故、この子はこんなにもこだわるんだ?

 

 

「私もナオフミ様に信じてもらっている証が欲しいからです」

 

 

「はぁ……」

 

 

 うーん。まあ、ナオフミが好きなんだろうな。うん。それで納得しよう。

 

 

「さ、行きましょう」

 

 

「分かった」

 

 

 そうして、俺達は奴隷を扱っているらしいテントに顔を出すことにしたのだった。

 

 




 あー、クズ王と勇者うぜえ。

 それでは第13話もお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13話 たまごガチャ

 はあ、やっぱり学校ある日は辛いな(o´Д`)=з

 前回を投稿してから気が付きましたが前回で総話数50話になりましたね。特に記念などはないですが。
 100話行ったら何かしようかな?いつになるか分からないけど。
 少なくとも第2章は終わってないだろうな。
 だって大体原作1話でこっちも1話使ってるから原作と同話数程度にはなりそう((((;゚Д゚))))
 ていうか1月終わったらこの作品しばらく休むつもりなんですよね。
 他の作品を既に1ヶ月以上放置してますし。
 いつ終わるんだ?

 今日で半月が終わりましたね。
 あと半分だけと見るかあと半分もあると見るか。

 それでは第13話をどうぞ。


 昼間なのに陽の射さない裏路地をしばらく歩くとサーカスのテントのような小屋があった。

 

 

「これはこれは勇者様。今日はどのような用事で?」

 

 

 テントに顔を出すとシルクハットに似た帽子、燕尾服を着た肥満体のサングラスを着けた変な紳士のどうやら奴隷商らしい奇妙なやつがもったいぶった礼儀の掛かるポーズで俺達を出迎える。

 中世な世界観から逸脱しており、こいつだけ浮いている印象を受けた。

 

 

「おや?」

 

 

 奴隷商はラフタリアをマジマジと見つめて関心したように声を漏らす。

 

 

「驚きの変化ですな。まさかこんなにも上玉に育つとは」

 

 

 とか言いながらナオフミの方を何かガックリ来るように肩を落とす。

 

 

「……なんだよ」

 

 

「もっと私共のような方かと思っていたのですが期待はずれでしたな」

 

 

 どういう意味だよ。

 ていうか俺を無視すんな。

 

 

「生かさず殺さず、それでいて品質を上げるのが真なる奴隷使いだと答えてやる……」

 

 

 ドスの利いた声でナオフミが奴隷商に返答する。

 ……誰だお前(呆れ)

 

 

「お前の知る奴隷とは使い捨てるものなのだろうな」

 

 

「な、ナオフミ様?」

 

 

 ラフタリアが上目使いで心配そうにナオフミを見上げた。

 

 

「……ふふふ。そうでしたか、私ゾクゾクしてきましたよ」

 

 

 奴隷商の奴、ナオフミの答えが気に入ったのかこれでもかと笑みを浮かべる。

 

 

「それでこちらの方は……」

 

 

「ああ、こいつは……」

 

 

「いえいえ、存じていますよ。有名ですからね」

 

 

 やっと俺を見た奴隷商にナオフミが説明しようとするが奴隷商がそれを遮る。

 

 

「よっ、メリオダスだ。よろしく。んで有名って?」

 

 

「強力な魔物を一撃で倒したとか、昨日は勇者達に無傷で圧勝したとか」

 

 

「耳が早いんだな」

 

 

「ふふふ、伝説の勇者が簡単にやられたなんて話、誰だって聞きたがりますよ」

 

 

 くっ、さすがに観衆の中でやるのは間違いだったか?

 面倒ごとは勘弁して欲しいんだが。

 いや、王や勇者にケンカ売ってる時点で今更か。

 

 

「して、この奴隷の査定ですな……ここまで上玉に育ったとなると、非処女だとして金貨7枚……で、どうでしょうか?」

 

 

「なんで売ることが既に決定しているんですか! それに私は処女です!」

 

 

 ラフタリアの言葉に奴隷商は驚きの声を発する。

 

 

「なんと! では金貨15枚に致しましょう。本当に処女かどうか確かめてよろしいですかな?」

 

 

「ナオフミ様!」

 

 

 ラフタリアが金貨15枚だと!?

 

 

「ナオフミ様!? ねえ、なんか言ってくださいよ」

 

 

 金貨15枚、すなわち銀貨1500枚。

 そんな思考をしているとラフタリアが俺と同じような思考をしていたようなナオフミの肩を凄く怖い顔でガシッと握り締める。

 

 

「ナオフミ様……お戯れは程々にしませんと怒りますよ」

 

 

「どうしたんだ? 怖い顔をして」

 

 

「私が査定されているにも関わらず、全然擁護しないからです」

 

 

「余裕を見せないと舐められるからだ」

 

 

 と、誤魔化しとしか思えないことをラフタリアに言う。

 

 

「金貨15枚か……」

 

 

「いたい、いたい!」

 

 

 ナオフミが小さく呟くとラフタリアの力が強くなったのかナオフミが悲鳴を上げる。

 ラフタリアの攻撃力って……ナオフミの防御力を上回っているんだなぁ。

 

 

「……このまま逃げてもよろしいでしょうか?」

 

 

「冗談だよ。ラフタリアがそんなにも綺麗になって高く評価をされているんだなと思っただけだよ」

 

 

「そ、そんな……ナオフミ様ったら……」

 

 

 なんかラフタリアが大人しくなって照れている。

 ……ラフタリアちょれぇな。

 

 

「まあ奴隷商、コイツは売らないと決めているんだ」

 

 

「そうですか……非常に残念です。して、何の御用で?」

 

 

「聞いてるんだろ?城での騒ぎ」

 

 

 ナオフミの問いに奴隷商はまたもニヤリと笑う。

 

 

「存知ておりますぞ。奴隷の呪いが解かれてしまったのですね」

 

 

「知っているなら話は早いな……というか、何しに来たのか分かっているなら査定をするな」

 

 

「あの王の妄言程度でこの国の奴隷制度はなくなりませんよ。ハイ」

 

 

「ん? 貴族は奴隷を買わないんだろ?」

 

 

「いえ、そんな事はありませんよ。むしろ富裕層の方々の方が多い位であります。使用用途は色々ありますからね。ハイ」

 

 

「あのクズ王、元康……槍の勇者の肩入れしてあんな事言ったら貴族が反感を抱いたりしないのか? いや、俺なら抱くぞ」

 

 

 そうなると滑稽なんだがな。

 というかむしろそうなってくれればこの国も良くなるのに。

 なんないだろうけど。

 

 

「まあ、この国も一枚岩ではございませんので。そんな事をすれば手痛い目に遭うのは掲げた貴族です。ハイ」

 

 

「あのヒゲ親父が、そんなに権力を持っているのか?」

 

 

 独裁国家的な国だとナオフミは思ってるのかな?

 でも実際は女王の方が王より権力が高いからなんだよなぁ。

 女系王族の国らしいし。

 

 

「それはですね。この国では王より――」

 

 

「あの……奴隷紋の話はどうなったのですか?」

 

 

「そういえばそうだったな」

 

 

 奴隷商がそれを説明しようとしたが、ラフタリアが遮る。

 まあ、後で俺が教えてやってもいいか。

 

 

「で、呪いを掛けてもらいに来た訳ですね。ハイ」

 

 

「ああ、出来るか?」

 

 

「何時でも出来ますよ」

 

 

 パチンと奴隷商は指を鳴らすとインクの入った壷を奴隷商の部下が持ってくる。

 ラフタリアは恥ずかしそうに胸当てを外して胸を露出させる。

 ギリギリで見えないのがたまらんですなぁ。

 

 

「ど、どうですか?」

 

 

「何が?」

 

 

「……はぁ」

 

 

 ナオフミ答えにラフタリアはため息を吐く。

 こいつ男として終わってないか?

 ナオフミはラフタリアの様子を疑問に思いながら、自分の指を切り、インクに血を染み込ませた。

 血を染み込ませたインクをラフタリアの胸に塗りつける。

 

 

「文様は破壊されていますが、修復も割合可能なのですよ」

 

 

「へー……」

 

 

 消えていた文様が浮かび上がり、ラフタリアの胸で輝き始める。

 

 

「くっ……」

 

 

 痛みがあるのだろうか。ラフタリアは痛みを堪えている。

 ナオフミはステータス魔法のアイコンを構いだした。

 奴隷の命令や違約行為に対する該当項目を設定しているのだろう。

 

 

「さて」

 

 

 それを終えたナオフミが不意に残ったインクのある皿を見る。

 それを手にすると奴隷商に問う。

 

 

「なあ、このインクを分けてもらえないか? その分の金は払うから」

 

 

「ええ、良いですよ」

 

 

 返事を聞いてナオフミはインクを入れた皿から盾に残ったインクを掛ける。

 スー……と盾はインクを吸い込んだ。

 

 

 新しい盾でも出たのかな?

 ナオフミはおもむろににラフタリアの顔を見る。

 

 

「なんですか?」

 

 

 それには答えず、考え事をするナオフミ。

 

 

「ラフタリア、ちょっと血をくれないか?」

 

 

「どうしたのですか?」

 

 

「いやな、少し実験してみたくてな」

 

 

 首を傾げつつ、ラフタリアはナオフミがインクに血を入れた時と同じように指先にナイフを少しだけつけて血を滲ませ、ナオフミが差し出した盾に落とす。

 すると、ナオフミは楽しそうに笑った。

 

 

「ナオフミ様? なんか楽しそうですよ」

 

 

「ああ、面白い盾が出てきたんでな」

 

 

「それはよかったですね」

 

 

「さてと……ん?」

 

 

 ナオフミがここでの用事も大半が済んだし帰ろうとすると、テントの隅に卵の入った木箱を見た。

 なんか木箱の上に立てかけてある看板に木箱に向かって矢印があり、「銀貨100枚で一回挑戦、魔物の卵くじ」と書いてある。

 地味に高いな。

 

 

「あれはなんだ?」

 

 

 ナオフミが奴隷商に尋ねる。

 

 

「ああ、あれは私共の表の商売道具ですな」

 

 

「お前等の表の仕事ってなんだよ」

 

 

「魔物商ですよ」

 

 

 なんかテンション高めに答えられた。

 

 

「魔物? というとこの世界には魔物使いとかもいるのか」

 

 

「物分りが良くて何より、勇者様はご存じないですか?」

 

 

「会った事はない気がするが……」

 

 

 俺も知らないなぁと思っていると。

 

 

「ナオフミ様」

 

 

 ラフタリアが手を上げる。

 

 

「どうした?」

 

 

「フィロリアルは魔物使いが育てた魔物ですよ?」

 

 

 聞いたことも無い魔物の名前だ。

 ていうか俺、あんま魔物の名前なんか覚えないけど。

 一体何を指しているんだだろう。

 

 

「何だ、それは?」

 

 

「町で馬の変わりに馬車を引いている鳥ですよ」

 

 

「ああ、あれか」

 

 

 チョ○ボにしか見えないあの鳥ね。

 ていうかもはや馬車じゃなくて鳥車じゃね?

 

 

「私の住んでいた村にも魔物育成を仕事にしている人がいましたよ。牧場に一杯、食肉用の魔物を育ててました」

 

 

「へー……」

 

 

 この世界にとって牧場経営とかの類は魔物使いというカテゴリーに組み込まれているのかも知れないな。

 

 

「で、あの卵は?」

 

 

「魔物は卵からじゃないと人には懐きませんからねぇ。こうして卵を取引してるのですよ」

 

 

「そうなのか」

 

 

「既に育てられた魔物の方の檻は見ますか?」

 

 

 欲しいのなら売る。奴隷商は商魂逞しいな。

 

 

「いや、今回は別にいい」

 

 

 ナオフミが答えるが俺はちょっと欲しいかも。

 動物って好きだし。魔物だけど。

 

 

「で、あの卵のある木箱の上に立てかけてある看板は何だ?」

 

 

 ああ、ナオフミ読めないのか。

 

 

「銀貨100枚で一回挑戦、魔物の卵くじですよ!」

 

 

「100枚とは高いな」

 

 

 ナオフミの所持金は確か銀貨508枚だったはずだ。

 ちなみに俺は銀貨で1000枚くらいだったかな?

 半分は金貨にしてる。銀貨500枚あれば買い物に困らないからな。

 

 

「高価な魔物ですゆえ」

 

 

「一応参考に聞くが、フィロリアルだっけ? それはお前の所じゃ平均幾らだ?」

 

 

「……成体で200枚からですかね。羽毛や品種などで左右されます。ハイ」

 

 

「成体という事はヒナはもっと安いのか。更に卵の値段だけで、育成費は除外だとすると……得なのか?」

 

 

「いえいえ、あそこにあるのは他の卵も一緒でございます」

 

 

「なるほど……くじと言っていたからな」

 

 

 ハズレもあれば当たりもあると言う奴か。

 ハズレを引けば目も当てられない。当たりを引けば元より高め。

 俺そういうの好きだぜ。買おっかな。

 

 

「で、あの中には当たりが無いって所か」

 

 

「夢を壊すなよナオフミ。そういうのは分かってても楽しむために黙っておくものだぜ?」

 

 

「なんと! 私達がそんな非道な商売をしていると勇者様は御思いで!?」

 

 

 俺らの言葉に心外そうに奴隷商が声を上げる。

 

 

「違うのか?」

 

 

「違うのか!?」

 

 

 夏祭りのくじみたいな感じだと思ってたのに。

 

 

「私、商売にはプライドを持っております。虚言でお客様を騙すのは好きでありますが、売るものを詐称するのは嫌でございます」

 

 

「騙すのは好きだけど、詐称は嫌いって……」

 

 

 ナオフミが呆れたような声を出す。

 なんか空が言ってたイカサマは使うけどチートは使わないってのと似てるな。

 

 

「それで? 当たりは何なんだ?」

 

 

「勇者様が分かりやすいように説明しますと騎竜でございますね」

 

 

 騎竜?乗れるドラゴンかな?カッコイイな。

 

 

「馬みたいなドラゴン?」

 

 

 ああ、騎士がそんなのに乗ってたような。

 

 

「今回は飛行タイプです。人気があります故……貴族のお客様が挑戦していきますよ」

 

 

 飛ぶドラゴンかー……やはり買おうかな。

 

 

「ナオフミ様?」

 

 

「相場ですと当たりを引いたら金貨20枚相当に匹敵します」

 

 

 俺の全財産の倍!?

 ていうか——

 

 

「ラフタリアより高いのか」

 

 

「メリオダス!」

 

 

 思わず言った俺にラフタリアが怒る。てへ。

 

 

「ちなみに確率は? その騎竜の卵の出る奴だけで良い」

 

 

「今回のくじで用意した卵は250個でございます。その中で1個です」

 

 

 250分の1か。

 パーセントにすると0.4%かな?うん、当たる気がしねぇ。

 

 

「見た目や重さで分からないよう強い魔法を掛けております。ハズレを引く可能性を先に了承してもらってからの購入です」

 

 

 なんとまぁ便利な魔法があるもんだ。

 

 

「良い商売をしているな」

 

 

「ええ、当たった方にはちゃんと名前を教えてもらい。宣伝にも参加していただいております」

 

 

「ふむ、確率がな……」

 

 

「十個お買い上げになると、必ず当たりの入っている、こちらの箱から一つ選べます。ハイ」

 

 

 はいはい、よくあるやつ。

 

 

「さすがに騎竜とやらは入っていないのだろう?」

 

 

「ハイ。ですが、銀貨300枚相当の物は必ず当たります」

 

 

 大抵こういうのってあっちが得するようになってんだよなぁ。

 まあ、そうしないと商売にならないけど。

 

 

「うーむ……」

 

 

 悩むナオフミと共に俺も悩む。

 

 

 転生してから動物を愛でてないんだよなぁ。

 猫とかいないかな?うさぎでもいいよなぁ。

 ていうか騎竜も子供の時は可愛いんだろうな。んで成長したらカッコイイと。……ふむ。

 って買う方にどんどん傾いてるな。

 ま、まあ物は試しって言うし?

 ほら、俺魔神化しないと飛べないし?

 万が一騎竜が引ければ素晴らしい移動要員になるし?

 

 

「よし、じゃあ試しに1個買わせて貰うか」

 

 

「ありがとうございます! 今回は奴隷の儀式代込みでご提供させていただきます」

 

 

「太っ腹じゃないか。俺はそういうの好きだぞ」

 

 

「ナオフミ様!?」

 

 

「よし!俺も買う!」

 

 

「メリオダス!?」

 

 

「どうした?」

 

 

 俺らの言葉にラフタリアが声を上げ、ナオフミが問う。

 

 

「魔物の卵を買うのですか?」

 

 

「ああ、ラフタリアだけじゃこの先の戦いが厳しくなるだろうと思ってな。奴隷を買うのは装備代を考えると高くつくし、一発魔物辺りでも育てて見るのも一興かとね。ていうかメリオダスも買うのか」

 

 

「ああ、ちっちゃな魔物を愛でたゲフンゲフン魔物がいれば戦略の幅が広がるだろ?」

 

 

 俺の言葉にナオフミとラフタリアが半眼を向けてくる。

 知らぬ知らぬ。

 

 

「はぁ……でも、魔物も大変ですよ」

 

 

「それくらい分かってる。ラフタリアもペットくらいは欲しいだろ?」

 

 

「……ドラゴンを狙っているのではないのですか?」

 

 

「最悪ウサピルでも問題は無い」

 

 

「むしろウサピルの方が嬉しいまである」

 

 

 可愛いじゃんウサピル。

 一頭身の茶色いうさぎ。

 

 

「育てて売れば奴隷より心が痛まないしな」

 

 

「ああ、なるほど、そういう事ですか」

 

 

「売っちまうのか……」

 

 

「愛着は湧くけど俺達には金がないんだよ。ていうかお前金あるのか?」

 

 

「うむ。問題なしだ」

 

 

「あっそ。んでそういう斡旋もやってるだろ?」

 

 

「勇者様の考えの深さに私、ゾクゾクしますよ! ハイ!」

 

 

 奴隷商のテンションも上昇中だ。

 ナオフミが一杯並んでいる卵を見る。

 サーチとかはできないようにしてあるっポイ事を言ってたから見た目じゃ全然違いが分からないな。

 

 

「じゃあこれだな」

 

 

 ナオフミが右側にある一個を選び、取り出す。

 

 

「んじゃ、俺はこれ」

 

 

 俺は丁度真ん中にあった卵を取る。

 

 

「では、その卵の記されている印に血を落としてくださいませ」

 

 

 言われるまま、卵に塗られている紋様に血を塗りたくる。

 カッと赤く輝き、俺の視界に魔物使役のアイコンが現れる。

 奴隷のように禁止事項を設定出来るようだ。

 ふむ。取り敢えず命令以外で人に攻撃しないようにしておくか。

 後は軽くでいいか。

 今まで戦った中で1番強かった魔物はドラゴンだけどあいつの攻撃でも無傷だったしな。

 多分反抗されて攻撃してきても問題ないだろう。

 

 

 奴隷商はニヤリと笑いながら孵化器らしき道具を開いている。

 俺とナオフミはその卵を孵化器に入れる。

 

 

「もしも孵化しなかったら違約金とかを請求しに来るからな」

 

 

 さすがにそれは警戒してなかったわ。

 

 

「ハズレを掴まされたとしてもタダでは転ばない勇者様に脱帽です!」

 

 

 奴隷商の機嫌も最高潮に達している。

 変人にも程があるだろ。

 

 

「口約束でも、本当に来るからな。白を切ったら乱暴な俺の奴隷が暴れだすぞ」

 

 

「私に何をさせるつもりですか!」

 

 

「心得ておりますとも!」

 

 

 奴隷商の奴、すっげー機嫌が良い。

 

 

「何時頃孵るんだこれ?」

 

 

 俺と一緒に銀貨100枚を奴隷商に渡してからナオフミが尋ねる。

 

 

「孵化器に書いております」

 

 

「ふーん……」

 

 

 なんか数字が書いてある。

 んー、徐々に減って、明日には無くなりそうだな。

 

 

「ラフタリアは読めるか?」

 

 

「えっと、少しだけなら……明日くらいに数字がなくなりそうです」

 

 

「早いな。まあ良いけど」

 

 

 ナオフミも同じか。

 明日には何かの魔物が孵化するのか、楽しみだ。

 

 

「勇者様のご来場、何時でもお待ちしております」

 

 

 うん。俺は?どんだけナオフミのこと気にってんだよ。

 こうして俺達は卵を持って、テントを後にするのだった。

 

 




 原作知っている人はナオフミの卵の中身が分かると思いますがメリオダスのも同じものです。
 ご都合主義(ぐうぜん)って凄いね(小並感

 フィロリアルの説明は後々本編で。
 ウサピルはそのままです。

 それでは第14話もお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第14話 恩返し

 前々回からそうだけどあまり原作と変えられないなぁ。
 次はメリオダスの卵が増えているから変わりそうだけど。

 それでは第14話をどうぞ。


「んで?これからどうするんだ?」

 

 

 裏通りから表通りに戻ったところで俺はナオフミに尋ねる。

 

 

「薬屋に行って、それから武器屋かな」

 

 

「ナオフミ様、もう援助金は手に入らないのですから財布はきつく結んでいてくださいね。今回の様な事はご自身の首を絞めます」

 

 

「分かっている」

 

 

「今のところ、装備に困っておりません。必要になってから購入をお考えください」

 

 

「……」

 

 

 ラフタリアの言葉にナオフミは黙り込む。

 ラフタリアの言葉は理にかなっている。

 だけど他の勇者達と比べるとナオフミの装備は貧弱そうなんだよな。

 

 

「それに武器を新調してからまだ数日ですよ? 親父さんがどんな顔をするか考えてください」

 

 

「うーん……」

 

 

 新調してから数日しか経ってないのかよ。

 それは確かに武器屋の親父が可哀想だな。

 

 

「分かった。今は貯金しておくとしよう」

 

 

 悩んだ結果ナオフミそう結論を出した。

 

 

「はい!」

 

 

 ラフタリアは元気に返事をした。

 

 

「んー、俺の金を使ってもいいぞ?」

 

 

 ナオフミより金を持ってるのをいつまでも黙っているのは気が引けるのでそう提案する。

 俺は宿と飯くらいにしか金を使わないし。

 

 

「お前いくら持ってんだよ」

 

 

「金貨で10枚——ってさっき使ったから9枚か」

 

 

「……俺より金持ってんのかよ。別に金はいいよ。お前のヒモになりそうだし。お前の力ならいくらでも稼げるだろ?」

 

 

 ふむ。まあ、強い魔物を狩ってその素材を売ってもいいし、どっかの国で騎士でもすればいくらでも稼げるだろうな。

 え?この国?HAHAHA、ご冗談を。

 

 

「そっか。まあ、俺はナオフミと一緒にいるつもりだからそんな稼げないけどな」

 

 

 俺の言葉にナオフミが若干俺から距離を取る。

 

 

「……なあ、前から聞こうと思ってたんだがなんでそこまでお前は俺の味方するんだ?まさか男が——」

 

 

「違うわ、ドアホ!!」

 

 

 なんて言いがかりを付けてくれる!!

 

 

「ていうかお前こそそっちの趣味があるんじゃないのか?ラフタリアに無関心だし」

 

 

「そうだったんですか!?」

 

 

 俺の言葉にラフタリアが声を上げる。

 

 

「違うわ!見た目はこれだがラフタリアは子供だぞ?手を出すわけないだろ」

 

 

 その言葉にラフタリアと共にナオフミに半眼を向ける。

 まあ、間違ってないけどさ。なんというか、ねぇ?

 

 

「ほら、薬屋に行くぞ」

 

 

 話は終わりだとナオフミがそう言うので俺はラフタリアと一緒にナオフミを追いかける。

 

 

「そういえば、なんで薬屋?」

 

 

「波対策で回復薬を作ったんだが余ったんだよ。使わないし売ろうと思ってな」

 

 

「ふーん。備えあれば嬉しいなって言うのに」

 

 

「備えあれば憂いなしだろ?ってこの世界にもそのことわざあるのか?」

 

 

「おう」

 

 

 痛いところを付かれた俺は適当に返事をして流しておく。

 

 

 薬屋に着くと店主がナオフミの顔を見るなり、親しげに微笑む。

 なんだ、仲良いのか?

 

 

「なんだ? どうしたんだ?」

 

 

 どうやら違うらしい。

 ナオフミはその笑みを見て不気味そうに言う。

 

 

「いやね。アンタが来たら礼を言っておこうと思ってね」

 

 

「は?」

 

 

 俺らは首を傾げる。

 

 

「リユート村の親戚がアンタに助けて貰ったと言いに来てね。出来れば力になってくれと言われているんだ」

 

 

「ああ……なるほど」

 

 

 波が終わった時、リユート村の連中は揃ってナオフミに礼を述べていた。あの中に薬屋の親戚がいたらしい。

 

 

「だから今回はその礼に」

 

 

 薬屋の店主は戸棚から一冊の本を取り出してナオフミに渡す。

 

 

「なんだ?」

 

 

「お前さんが作ってくる初級の薬より高位のレシピを集めた中級レシピの本だ。そろそろ挑戦するには良い頃合だと思ってね」

 

 

「……」

 

 

 ナオフミは徐にややボロい中級レシピの本を広げてみた。

 うん、確かこいつ文字読めないよな。

 

 

「か、感謝する。頑張ってみよう」

 

 

 顔を引き攣らせつつ、ナオフミがお礼を言う。

 後で文字を教えてやりますか。

 

 

「そう言って貰えて嬉しいよ」

 

 

 薬屋の悪意なしプレッシャーがナオフミを襲う!

 こうかは ばつぐんだ!

 

 

「魔法屋の奴も来いと言っておったぞ」

 

 

「魔法屋?」

 

 

「ナオフミ様、魔法を覚える為の書物を扱っている店ですよ」

 

 

「ああ、なるほど」

 

 

 ナオフミは納得しているが俺は知らない。

 ……なんでファンタジー世界に来たのに魔法に興味を持たなかったんだろ、自分。

 

 

「何処の店だ?」

 

 

「表通りの大きな所だよ」

 

 

 ああ、城下町で一番か二番に大きい本屋か。

 

 

「で、今日は何のようだ?」

 

 

「ああ、今回は——」

 

 

 回復薬を売ってそのお金で機材を新調し、言われた通り魔法屋に顔を出す。

 

 

「ああ、盾の勇者様ね。うちの孫がお世話になりまして」

 

 

「はぁ……」

 

 

 誰の事を言っているか分からないけどリユート村の住民なのだろう。魔法屋のおばさんは俺達を丁重に出迎える。

 おばさんはなんていうか、小太りで、魔女みたいな衣装を着ている。

 

 

「で、俺に何の用だ?」

 

 

 店内を見ると古臭い本が並び、カウンターの奥には水晶がたくさん置いてある。

 他に杖とか、なんていうか確かに魔法を扱っている雰囲気があった。

 雰囲気が結構好きだな。

 そういえばこの世界で魔法ってどうやって覚えるんだ?

 

 

「その前に、盾の勇者様のお仲間は隣のお嬢ちゃんとボウヤだけで良いのかい?」

 

 

「ん?ああ」

 

 

 ナオフミは俺らと顔を合わせてから頷く。

 

 

「じゃあちょっと待ってておくれ」

 

 

 おばさんはそう言うとカウンターから水晶玉を持ち出して、何やら呪文を唱えだした。

 

 

「よし、じゃあ盾の勇者様、水晶玉を覗いてみてくれるかい」

 

 

「あ、ああ」

 

 

 一体なんだというんだ?

 俺は水晶玉を覗き込む。

 ……なんか光ってるけど、特に何か見えるわけじゃないな。

 

 

「そうだね……盾の勇者様は補助と回復の魔法に適正があるようだね」

 

「え?」

 

 

 魔法の適正診断したのか!?

 早く教えてくれれば理解できたというのに……まあ、文句を言うのは間違っているが、説明が飛んでるぞ。

 

 

「次は後ろのお嬢ちゃんね」

 

 

「あ、はい」

 

 

 ナオフミが横に退いて今度はラフタリアが水晶玉を覗き込む。

 

 

「うーん。やっぱりラクーン種のお嬢ちゃんは光と闇の魔法に適正が出ているようね」

 

 

「やっぱりという事は常識なのか?」

 

 

「そうねぇ……光の屈折と闇のあやふや差を利用した幻を使う魔法が得意な種族だから」

 

 

 なるほど、ラクーン種はタヌキやアライグマ辺りに似ている。日本でもタヌキは人を化かす妖怪だ、なんて信じられていた。

 そういう所はこの世界でも似通っているのかもしれない。

 

 

「次はボウヤね」

 

 

 俺は横に退いたラフタリアと代わって水晶玉を覗き込む。

 ふむ、魔法か。夢が広がるな。

 回復もいいし、攻撃魔法で派手なのも——

 

 

「あー、残念だけどボウヤに魔法の適正はないね」

 

 

「え?」

 

 

 は?なんだと?

 魔法適正なし?

 ……泣いていい?

 

 

 思わず膝をつきそうな俺の肩に手が置かれた。

 振り返ると俺の肩に手を置いて憐れむような目を向けるナオフミとその横に立つラフタリアの姿があった。

 そんな目で見んじゃねぇよクソがァ。

 

 

「で、結局なんなんだ?」

 

 

 ナオフミが話題を変えようと本題に入ろうとする。

 ナオフミの癖に気遣ってんじゃねぇよ余計辛いわ。

 

 

「はい。これが魔法屋のおばちゃんが渡したかった物よ」

 

 

 と、おばちゃんが俺達にくれたのは三冊の本だった。

 また本か。ナオフミは読めないのに。

 

 

「本当は水晶玉を上げたいのだけど、そうなるとおばちゃんの生活が大変でね」

 

 

「どういう意味だ?」

 

 

「盾の勇者様は知らないのかい? 水晶玉に封じた魔法を解放すれば対応した魔法を一つ覚えられるんだよ」

 

 

 へぇ、便利なもんだな。

 

 

「ずいぶん前に国が勇者様用に……大量発注して、それなりの数を出荷したのだけど、盾の勇者様は知らないのかい?」

 

 

「知らないな」

 

 

 あのクズ王の事だ。大方、ナオフミ以外の勇者に後で渡しているのだろう。

 まったく、意図的な仲間外れに殺意が湧いてくるな。

 

 

「魔法書はかなり大変だけど、真面目に取り組めば一月で10の魔法が覚えられるだろうね」

 

 

 水晶玉は一つ、魔法書は大体一冊三つと言った所か。いや、一月と言っていたからもっとあるのかもしれない。

 

 

「ごめんねぇ」

 

 

「いえ、タダで魔法書を譲ってくださるだけで十分ですよ」

 

 

 ラフタリアが微笑んで対応し、俺とナオフミも頷く。

 まあ、俺は関係ないけどねHAHAHA。……ちくしょう。

 

 

「大体、どれくらいの魔法までが使えるんだ?」

 

 

「どれも初級の魔法だね。これより高位は……お金を出して買ってくれないかい」

 

 

「あ、ああ」

 

 

 あっちも商売だ。身を切る思いで俺達に譲ってくれているのだから我侭は言えない。

 

 

「感謝する」

 

 

 ナオフミがそう言って、俺達は魔法屋から魔法書を頂いた。

 

 

「はぁ……」

 

 

 ナオフミがため息を吐く。

 そりゃまあ会話が出来るからマシだが1つの言語を覚えるんだ、大変だろう。

 どっかの天才ゲーマーは一瞬で覚えたけど。

 ていうか俺は会話すら出来ない状態から覚えたんだからナオフミと頑張って頂きたい。

 

 

「一緒に魔法を覚えましょう」

 

 

 ラフタリアが元気にナオフミに話しかけてくる。

 

 

「俺はこの世界の文字が読めないんだよ……」

 

 

「ええ、ですから一緒に覚えて行きましょうよ」

 

 

「まあ……そうなるよな」

 

 

「俺が2人の先生になってしんぜよう」

 

 

「お前、文字読めるのか?」

 

 

「おう、もちろんだ。これからは先生と呼ぶがいい」

 

 

 そう言って俺は胸をはる。

 

 

 …………。

 

 

「そういえば次の波は何時来るのでしょう?」

 

 

 少しの間を置いてラフタリアがナオフミにそう聞いた。

 ……ラフタリアちゃ〜ん。無視は傷つくよ?

 

 

「ん? ああ、ちょっと待ってろ」

 

 

 ナオフミはそう言って視界のアイコンをかまう。

 お前もか。

 

 

「45日もあるぞ」

 

 

 一月毎じゃなかったのか!?

 あ、いや前の波もちょうど1ヶ月じゃなかったかもな。

 よく覚えてないから確証はないけど。

 

 

「まあ、時間があるのは良い事だけどさ」

 

 

 ナオフミがそう言って締めくくる。

 

 

「とりあえず、ここでの用事は済んだのか?」

 

 

「そうですねぇ……奴隷紋に再登録と武器防具に薬の処分、そして本も貰いましたし、当面はありませんね」

 

 

 ナオフミがラフタリアに確認を取る。

 俺も特に思い当たる節はないので頷く。

 何か忘れ物をして戻ってくるのはタイムロスだからな。

 

 

「じゃあ、飯でも食ってからLv上げに行くか」

 

 

「はい」

 

 


 

 

 食事を終えた俺達はその足で城下町を後にし、リユート村の方へ行く。

 あの辺りから先の場所に手ごろな魔物が生息しているからだそうだ。

 ナオフミは他の勇者が知っているような穴場の狩場は知らない。だから、この世界の住人から聞くか、自分の足で探すしかない。

 リユート村は武器屋の親父から教えて貰ったらしい。

 俺はそういうのは知らない。

 まだ来てから日が浅いし、俺から見れば魔物強さの違いは分かりずらいからな。

 知らない魔物を倒すとナオフミの新しい盾が増えるので歩き回るのは無駄ではない。

 色々盾が増えていて、ステータスがそこそこ上がっているらしい。

 事実、前回の波では殆ど無傷で済んだ訳だしな。

 その道中…。

 

 

「……そういえば波の敵は盾で吸えるのか?」

 

 

 ナオフミがそんなことを呟いた。

 そのまま帰ってきたから忘れていたようだ。

 で、リユート村が見えてきた辺りで、波の化け物の死骸をかなり見つけた。

 

 

 ナオフミは早速それらを盾に吸わせた。

 色々盾が出たようだ。

 

 

 さらに分解して他の盾が出ないか挑戦していた。

 ○○ミートとか○○ボーンとか細かく種類が別れていることがあるらしい。

 だが、どうもこのシリーズでは満たせるものは殆ど無いようで一つしか解放できなかったようだ。

 

 

 まあ、こんなものだろうと歩いて行くと、キメラの死骸を村人達が撤去中だった。

 

 

「よ」

 

 

「あ、盾の勇者様」

 

 

 昨日今日の影響か、村の連中はナオフミを見ると快く歓迎してくれる。

 

 

「波のボスだったか、コイツは」

 

 

 キメラの死骸を見てナオフミはポツリと零す。

 なんていうか……良く見るとキメラとは言うが、この世界の魔物とは何か違うような感覚がある。

 色合いなのか、なんなのかを具体的に説明するのは難しいけど。

 

 

「恐ろしいものです」

 

 

「……そうだな」

 

 

 村人の声にナオフミが同意する。

 他の勇者や騎士団が素材を剥いで行ったのだろう、原型こそ留めているが皮や肉がごっそりと切り取られている。

 

 

「俺も少しもらって良いか?」

 

 

「どうぞどうぞ、処分に困っていた所ですから、何なら村で加工して装備にしますか?」

 

 

「それも悪くは無いけど……使えそうな所はあんまり無いぞ」

 

 

 皮は剥がされ、鎧などには出来ない。肉と骨……後は尻尾の蛇の部分くらいか。

 頭の部分は切り取られて無かった。見た感じ、三つくらいは生えていたと思われるが……。

 俺はナオフミとラフタリアと一緒にキメラの死骸を分解して、ナオフミが盾に吸わせてみた。

 

 

 今回は色々細かく出たようだ。

 ただ、変化させるには必要Lvがかなり高く、しかも出た盾のシリーズを何個か解放しないと出来ないみたいだ。

 

 

「残りはどうするんだ?」

 

 

 ナオフミが村人に聞く。

 

 

「どうせ埋めるだけですからご自由にお願いします」

 

 

「うーむ……」

 

 

 些かもったいない気もするけど、残った部分は殆ど肉と骨しかない。

 骨はまあ、物持ちが良いけど、肉は干し肉にするとか考えが浮かぶよな。

 キメラの肉とか食いたくないけど。

 

 

「じゃ、出来る限り頂いておこう」

 

 

 ナオフミは貰って売り払うことに決めたようだ。

 

 

「え、ですがかなりの量になりますよ?」

 

「この村で預かってくれるだろ?」

 

 

「え? 盾の勇者様がそう言うのでしたら……」

 

 

「まあ、肉は干し肉にして、少し残してくれれば行商とか買いたい奴に売っておいて良い。復興費くらいにはなるだろう。波の大物の肉とでも言えば研究材料目的で買う奴もいるだろ」

 

 

「確かにそれなら買う方もいらっしゃるかも」

 

 

 村人も復興資金が欲しいらしく、ナオフミの提案を受け入れる。

 内臓とか腐りやすそうな部分は盾に吸わせて処分し、俺達がリユート村にたどり着いた頃には日も落ちかけていた。

 村は半壊していて、生き残った人たちは比較的破損が無かった家で纏まって生活している。

 俺達は割と安全だった宿屋の一室を店主が空けてくれたお陰でその日はゆっくりと休むことが出来た。

 

 

「……復興の手伝いとかはしてやりたいが、人の事を考えている余裕は無いからな……」

 

 

 今日はリユート村の連中に甘えっぱなしだった。

 キメラの死骸を肉や骨として処分したのは感謝されたが、食事と宿を無償で提供されると言うのは些か悪いと思っているようだ。

 

 

「そうですね。私達も得をして村の方々にも得になる事が出来れば良いのですが」

 

 

 さて、日本語で言うあいうえお表みたいな奴、英語で言うとアルファベット表をナオフミ達のために俺が作った。

 これを使いながら俺はナオフミ達に文字を教えるのだった。

 

 




 ナオフミの盾の説明っていります?
 かなり数が多いからめんどゲフンゲフン大変なんですけど。

 メリオダスの魔法適正は悩みましたがなしにしました。
 魔法なしでもかなり強いから1つくらい弱点があってもいいよね、と思ったので。

 それでは第15話もお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第15話 2匹の雛

 AbemaTVで「盾の勇者の成り上がり」の第1話が見れたので見てみました。
 それでですね、ふむ。さて、三勇者とクズとビッチを殺してもちゃんと話が進むように考えな(殴
 うん。非常に残念だけどクズとビッチはともかく三勇者は死なれると波が激化する設定があるので死なれると困ります。ちっ。
 あと、アニメでビッチが画面に映るだけでイライラしてしまったのは私だけだろうか。練もなんかナルシスト度というかクール気取り度が上がっていて下手すりゃビッチの次にムカついたな。
 武器屋の親父の声優がSAOのエギルと同じなのはピッタリだと思いましたね。似てるし。

 それでは第15話をどうぞ。


 翌日の昼前。ラフタリアが昨日の夜更かしの所為で寝坊した。魔法書片手にうんうん唸っていた。

 そんなに魔法を覚えたいか。

 ナオフミは薬草を煎じて薬にしていた。

 俺は普通に寝た。

 

 

 寝坊の分も取り戻す為に出かける準備をしていると。

 

 

「あ、孵るみたいですよ」

 

 

 宿の部屋の窓際に並べておいておいた、昨日買った卵に亀裂が入っていたのをラフタリアが気づいた。

 何か生物の毛の様な、羽の様な、柔らかい物体が隙間から覗いているから本格的に生まれるのが近い様だ。

 ……どっちも。

 

 

「こりゃ、卵の中身同じかな?」

 

 

「かもな」

 

 

 何が生まれるのかな。ワクワク。

 ナオフミも興味があるらしく卵に近づき、ヒビが入った卵を見に行く。

 ピキピキと卵の亀裂は広がり、パリンと音を立てて、中から二匹の魔物の赤ん坊が同時に顔を出した。

 

 

「ピイ!」

 

 

 ふわふわの羽毛、頭に卵の欠片を乗っけたピンク色のヒヨコみたいな魔物と俺の視線が合う。

 

 

「ピイ?」

 

 

 俺と見つめ合いながら小首を傾げる。

 こ、これは——ッ!?

 

 

「ピイ!」

 

 

 

 ナオフミの方は大人しい俺のとは違い元気良く跳躍し、ナオフミの顔にぶつかった。

 

 

 

「これは何の魔物だ? 鳥系という事はピキュピキュか?」

 

 

 ピキュピキュはあまり高く飛べないデフォルメされたコンドルのような魔物だ。

 それの幼生体とかなら納得が行く姿をしている。

 成長すればバルーンなどと比べると、身体は俊敏で攻撃もクチバシがあるので期待はできる。

 

 

「うーん……私も魔物に詳しい訳じゃないですから」

 

 

 ラフタリアも困り顔で答える。

 だがそんな会話は俺の耳には届いていなかった。

 

 

「メリオダスは分かる——メリオダス?」

 

 

 固まっている俺をナオフミとラフタリアが見る。

 

 

「か——」

 

 

「「か?」」

 

 

「カワイイィィィィィィイイイッッ!!!」

 

 

「「ピイ?」」

 

 

 俺はガシッと俺の魔物を掴み頬擦りをする。

 ふわふわだぁぁぁあ!!?!?!?

 

 

 モフモフモフモフ

 

 

「ピイィィィィ♪」

 

 

 カワイイィィ!!!!!!!!

 

 

「落ち着け」

 

 

 無言でテンションを天井知らずに上げ続ける俺の頭にナオフミがチョップした。

 全然痛くはないが落ち着いた。

 

 

「ふぅ。悪いテンション上がりすぎた」

 

 

 モフモフモフモフ

 

 

「お、おうそうか。それでお前この魔物知ってるか?」

 

 

 モフモフモフモフ

 

 

「さあ?魔物に詳しくないから分からん」

 

 

 俺がこの世界来てからまだ2ヶ月くらいしか経ってないしな。

 

 

 モフモフモフモフ

 

 

「しょうがない。村の連中に聞いてみるか……後、メリオダスいつまで撫で回しているつもりだ?」

 

 

「いつまでも」

 

 

「あっそう」

 

 

 呆れたように言ったナオフミが自分の魔物の雛に手を伸ばすと、雛は俺の手に乗っかり、肩まで駆け上って跳躍し、頭に腰を据える。

 

 

「ピイイイ」

 

 

 スリスリと頬ずりをしている。

 

 

「ふふ、ナオフミ様を親だと思っているのですよ」

 

 

「まあ刷り込みだろうな」

 

 

 事前に登録をしてあるし、始めてみる動く相手がナオフミだったから親と思っているのだろう。

 多分俺もそんな感じだろ。

 ずっと撫でている俺の手に自分から頬ずりして気持ちよさそうにしてるし。

 しかし、そんなのことはどうでもいい。素晴らしくかわいいという事実さえあれば。

 

 

 卵の欠片を片付けようとするとナオフミの盾が反応したようだ。

 

 

 「そう言えば、盾に卵の欠片を吸わせれば何の魔物か分かるかもしれないな」

 

 

 そう言ってナオフミは卵の欠片を盾に吸わせてみた。

 

 

「何か分かりました?」

 

 

「いや、別の盾が出て分からなかった」

 

 

 結局、この雛が何の魔物なのだろうか。村人達が知っているとありがたいのだが。

 復興中の村の中を歩いていると村人と顔を合わせる。

 

 

「あ、盾の勇者様」

 

 

「おはよう」

 

 

「おはようございます」

 

 

「おはよう」

 

 

 ナオフミ達は波の前に一週間と少し滞在していたらしく、波で守ったのもあるが顔なじみは結構多いようだ。

 

 

「おはようございます」

 

 

 ナオフミに向かって深々と頭を下げた。

 ナオフミは恥ずかしそうにしている。

 

 

「ピイ!」

 

 

 ナオフミの頭の雛が元気良く鳴く。

 ちなみに俺のは気持ちよすぎて寝てしまったようだ。

 

 

「おや?」

 

 

 村人がナオフミの頭に乗っかっている雛に目を向ける。

 

 

「どうしたんですか?」

 

 

 雛を指差して訪ねる。

 

 

「魔物商から卵を買ってね」

 

 

「ああ、なるほど」

 

 

「ただ、中身が何か分からないって触れ込みのくじ引きだった。この魔物が何か知らないか?」

 

 

 村人は雛をマジマジと見つめる。

 

 

「そうですねぇ……たぶん、フィロリアルの雛だと思いますよ?」

 

 

「え? あの馬車を引く鳥か?」

 

 

 それなら元の金額より高いから若干お徳だった事になるのだが……まあ、村人の話が本当ならの話だけど。

 ていうか、ああなるのか。

 

 

「ええ、なんなら村の外れに牧場がありますから見てもらうと良いですよ」

 

 

「じゃあ行ってみるよ」

 

 

 俺らは村人に言われたその牧場を経営している奴の家に顔を出す。

 牧場は波の被害を結構受けていて、飼育していた魔物が半分くらい死んでしまっていたらしい。

 

 

「と言う訳で、この魔物はフィロリアルであっているのか?」

 

 

 牧場主に聞くと、頷かれる。

 

 

「そうですね。見た感じ、フィロリアルの雌ですねぇ」

 

 

 ナオフミの雛を持ち、マジマジと鑑定しながら牧場主は言った。

 俺のはまだ寝ている。

 1回手が疲れてきたので撫でるのを辞めてナオフミみたいに頭に乗せようとしたら目を覚ましてもっとやれと言わんばかりに手に頬ずりをしてきた。

 全く、ワガママなやつだモフモフモフモフ。

 

 

 ナオフミの雛の後に俺のも見てもらったが俺もフィロリアルの雌らしい。

 

 

「品種はよくある種類、フィロアリア種で、荷車を引かないと落ち着かない生態を持っています」

 

 

「……それは生き物としてどうなんだ?」

 

 

「何かおかしい所でも?」

 

 

 ああ、この世界で生まれたときから当たり前のように居たら不思議とか思わないか。

 まあ、可愛いから小難しいことはどうでもいいです。

 

 

「ま、外れではなく、割と当たりって所か」

 

 

 成体が銀貨200枚の魔物を100枚で買えたと考えれば悪くはない。

 育ちきるのにどれだけ金と時間が掛かるか分からないけど、出来なくはないだろう。

 

 

「ピイ!」

 

 

 ナオフミのフィロリアルの雛はナオフミの頭の上で鳴いた。

 

 

「コイツは何を食うんだ?」

 

 

「最初は豆を煮とかした等、柔らかい物ですね。大きくなったら雑食ですから何でも食べますよ」

 

 

「なるほど、ありがとう」

 

 

 村で出している煮豆辺りで良いらしい。

 

 

「で、名前はどうしますか?」

 

 

 ラフタリアがナオフミの雛を撫でながら聞いてくる。

 

 

「売るかもしれないペットに名前をつけるのか?」

 

 

「売るのか!?」

 

 

「いや、お前のはお前が好きにしろよ」

 

 

「ナオフミ様、ずっと雛ちゃんとかフィロリアルって呼ぶんですか?」

 

 

「む……」

 

 

 それはめんどくさいな。

 

 

「じゃあ……そうだな、フィーロとでも呼ぶか」

 

 

「……安直ですね」

 

 

「ネーミングセンス皆無かよ」

 

 

「うるさい」

 

 

「ピイ!」

 

 

 名前をつけられたのを理解したのか雛は機嫌よく鳴いた。

 

 

「お前はなんて名前にするんだよ?」

 

 

「そうだな〜」

 

 

 俺に撫でられながら寝ているフィロリアルの雛に目を向ける。

 

 

「ニーナにしようかな」

 

 

「なんで?」

 

 

「ドイ——こほん。遠くの国の言葉で小さな女の子って意味だったはずだ。ほら、小さくて雌だろ?」

 

 

「お前だって安直じゃねぇか」

 

 

「名前なんか呼びやすければなんでもいいんだよ」

 

 

 牧場主礼を言った後、俺達はフィーロ用のエサとついでに朝食を取ってから狩りに出かけた。

 

 

「今日は何処へいきますか?」

 

 

「ピイ?」

 

 

「そうだなぁ……どこが良い狩場なのかまだ知らないから自分の足で稼ぐしかないだろ、いつも通りに行くぞ」

 

 

「はい」

 

 

 いつも通りを俺は知らないんだが。

 まあ、適当について行けばいいか。

 フィーロとニーナは俺達の頭の上でピイピイ鳴いていた。

 さすがに戦闘中に手に持ってるわけには行かない。

 騒がしくて、ちょっと心地よい。

 

 


 

 

 夕方に差し掛かった頃、俺らは異変に気が付いた。

 今日は思いのほか魔物との遭遇が多く、しかも効率的に倒して回れた。

 その日の結果はこうだ。

 

 

 ナオフミ Lv25

 ラフタリア Lv29

 フィーロ Lv14

 ニーナ Lv14

 

 

 フィーロ達は碌に戦っていなかったのに経験値が入ってLvが急上昇していた。

 それは良い。幼い亜人はLvが上がると肉体が急成長すると聞いていたし、魔物も同じ理屈で育ちが早くなるらしい。

 ただ……なぁ……。

 フィーロ達の外見が、目に見えて変化していた。

 小さなヒヨコみたいだった2匹が、今では両手で抱えて持っても重い程に大きく成長していた。

 なんていうか、丸くて、饅頭みたいな体形になっている。そしてパラパラと羽根が生え変わり、フィーロは色もピンクから桃色に変化していた。

 ニーナはピンクのままだった。

 

 

「「ピヨ」」

 

 

 鳴き方まで変わっていて、ナオフミは重いからと降ろしたら自分でトコトコと歩き出していた。

 俺は問題ないからモフモフモフモフ。

 ぐううう……。

 先ほどから2匹から常時鳴り続けている音に嫌な予感がヒシヒシとする。

 一応、多めにエサを買っておいたのだけど、とっくに底を付き、雑食らしいので道端の野草とか牧草っぽいのを既に与えている。

 食わせても食わせても尽きぬ食欲……これは急成長の証なのだろうな。

 

 

「あの……ナオフミ様……」

 

 

「分かってる。魔物って凄いな」

 

 

「凄いで片付けていいのか……」

 

 

 一日でこんなに成長するとは……これなら足代わりになるのも時間の問題だ。

 と、期待をするのは良いけど、体だけデカくて精神が未熟な魔物になりそうで怖い。

 だからナオフミはかなり厳しい制限を施しておいたようだ。

 俺は力づくで止める自信があるから。

 宿に戻った俺は店主にフィーロ達を見せ、何処で寝かせれば良いか提案する。すると宿の馬小屋に案内され、藁を巣の代わりにさせて寝かせる事になった。

 

 

「ん? ここにはキメラの肉と骨が置いてあるんだな」

 

 

 まだ腐敗していない所を見るに、持ちは良いのか、それとも異界の化け物だから腐らないのか?

 

 

「とりあえず、加工しやすいように吊るして柔らかくなるのを待っているのですよ」

 

 

「へー……」

 

 

 食用じゃないだろうに、一応、扱いやすいように加工するのか。

 

 

「それから干し肉にしまして、購入者を募ろうと思っております。今でも欲しい方には売っています。魔法に携わる方が数名来てますよ」

 

 

「良いんじゃないか?」

 

 

 結構大きなキメラだったのでまだ在庫は結構あるようだ。牛二頭くらいはあるだろうか。

 食用にするには厳しいし、かといって研究資料に持っていくには多い。

 こんな所だろう。

 

 

「「ピヨ」」

 

 

 ぐうう……

 仲良いな。

 ていうかまだ腹が減っているのか。

 村で追加のエサを貰って与えているのだけど、あっという間に平らげてしまった。

 あの体の何処に入っているのだろうか……。

 ビキ……ビキビキ……

 骨と肉が軋む音? まだ成長しているのか?

 

 

「一日でここまで育てるなんて……かなりのご無理をなさったのでは?」

 

 

 店主が心配そうにナオフミの顔を見る。

 

 

「まだ、14なんだがな」

 

 

「へ? 14?」

 

 

 俺の答えに店主はフィーロを見て驚く。

 

 

「生後数日でここまで育つには20前後必要だったと思うのですが、さすがは勇者様の力ですね」

 

 

 それだとなんでニーナも同じ速度で成長してるんですかねぇ。

 ステータスを確認すると、見るたびに変動する。成長中なのだろう。

 まだ戦闘には出せないな。

 

 

「ピヨ!」

 

 

「ピヨピヨ」

 

 

 元気に鳴いているフィーロとは対象的にニーナは大人しいが撫でろとスリスリしてくる。

 HAHAHAこやつめモフモフモフモフ。

 俺らは二匹の頭を撫で、寝息を立てるのを確認すると、部屋に戻った。その後は、この世界の文字を覚える為の授業だ。

 

 




 メリオダスがいる関係でナオフミ達のレベルが若干原作より高いです。
 若干なのはメリオダスが自重しているからです。

 メリオダスのフィロリアルの名前はニーナです。
 なまえ何にしようかと色々調べていたらドイツ語で「小さな女の子」という意味のニーナがいいなと思ったのでこれにしました。
 ニーナと聞くとBOFの王女様を思い浮かべたのでちょうどいいかなと。

 それでは第16話をお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第16話 急成長

 昨日の第15話を読み返して、デレっとした顔でヒヨコを撫で回すメリオダスの絵が頭に浮かんだw
 ※注:この小説の主人公は原作のメリオダスとは性格が異なりますのでご注意ください(今更

 それでは第16話をどうぞ。


 翌朝。

 目が覚めた俺は夜遅くまで勉強していたラフタリアを起こさないようにナオフミと部屋を抜け出し、雛達の様子を見に行く。

 

 

「グア、グア!」

 

 

「グア!」

 

 

 俺らが馬小屋に来ると野太い声が聞こえる。

 見ると、2匹がじゃれあっていた。なんか姉妹みたいだな。

 姿は饅頭みたいだった体形が変わり、足が長く伸びて首も長くなっていた。なんていうかダチョウっぽい。

 凄い変化だ。俺の知る鳥類とは全く違う成長をする。

 高さは俺の身長を追い越しナオフミの胸くらい。まだ人を乗せるのは無理だな。

 ぐう……。

 腹が減っているらしい。だから朝一で牧場からエサを買って持ってきた。

 一日でここまで育つとか……なんかすさまじい気がしてくる。

 

 

「お前、まだ生まれて一日経ってないぞ」

 

 

「グア!」

 

 

 俺らに気がついた2匹はそれぞれの主の下へ駆け寄りスリスリと頬擦りをする。……かわいいモフモフモフモフ。

 っと、またもフィーロの羽根が生え変わってよく見ると白と桜のまだら色になっている。

 ニーナはまたしても変わっていな——あ、いや若干白が混じってるな。

 

 

 ナオフミが掃除がてらに羽根を盾に吸わせていた。

 また、色々盾が出たようだ。

 

 

 雛達はまだ生まれたばかりだと言うのに、元気に走り、じゃれてくる。

 

 

「「グア!」」

 

 

 犬ではないが、木の枝を遠くに投げ、雛達に拾わせて戻ってくる遊びをする。

 足は速いようで、枝が地面に落ちる前より早くキャッチして、戻ってきた。

 

 

「足速いな」

 

 

「そうだな。知能もあるし中々便利そうだな」

 

 

「なら……これならどうかな?」

 

 

 ちょっと本気を出して木の枝を投げてみた。

 

 

「グア!?」

 

 

 驚きながらニーナは取りに行くが間に合わず、地面に落ちたのを拾ってとぼとぼと持ってきた。……感情豊かな鳥だな。

 

 

「グアァ……」

 

 

「嗚呼俺が悪かった!大人げなかったよな!?お前は悪くないよ!」

 

 

 その姿をよく見れば取れなかったことを悔しがっているのではなく取れなかったことを俺に謝っていることが分かって、俺はニーナを撫でながら全力で謝った。

 

 

「なにやってんだ、お前は」

 

 

 そんな俺にナオフミの呆れたような声が届けられた。

 とまあ、ラフタリアが起き出すまで俺らは雛達——ってこの大きさで雛と呼んでいいのか?

 まあ、それはともかくニーナ達と遊んでいた。

 一種の清涼剤だよな。こういうペットって。

 ナオフミですら爽やかな笑顔を浮かべていた。

 

 

「む……ナオフミ様が今まで見せた事の無いさわやかな笑顔をしています」

 

 

 ラフタリアが起きて俺達を探して来た所、なんか不機嫌そうに呟く。

 まあ、ラフタリアに向けてこんな顔をした事ないからな。

 

 

「どうした?」

 

 

「何でもありません」

 

 

「グア?」

 

 

 それが分かっていないナオフミが首を傾げてラフタリアに尋ねるが諦めたようにラフタリアが返した。

 ちょん、ちょん。とラフタリアをくちばしで軽くつつくフィーロ。

 スキンシップを取っているのだろう。

 

 

「はぁ……しょうがないですね」

 

 

 ラフタリアは笑みを浮かべてフィーロの顔を両手で撫でる。

 

 

「グアァ……」

 

 

 フィーロは気持ち良さそうに目を細めて撫でたラフタリアに擦り寄った。

 なお、ニーナは俺に撫でられている。

 ラフタリアとも仲良くしろよ?

 

 

「さて、今日はどの辺りを探索するかな」

 

 

「そうですねぇ、フィーロ達のエサ代の節約の為に南の草原に行くのはどうでしょうか?」

 

 

「ふむ……そうだな」

 

 

 あの辺りは雑草が生い茂っているし、薬草類も豊富だ。良い場所だとは俺も思う。

 ていうか俺だけ別行動でニーナ達のエサを取ってくるという手もありだよな。

 でも、過去2回のことからあまりナオフミと離れたくないんだよなぁ。

 うん。この案はなし。黙っておこう。

 

 

「よし、じゃあ行くか」

 

 

「はい!」

 

 

「おう!」

 

 

「「グア!」」

 

 

 まあ、こんな感じで気楽に草原へ行って、魔物と戦い。Lvも少し上がった。

 

 

 ナオフミ Lv26

 ラフタリア Lv29

 フィーロ Lv18

 ニーナ Lv18

 

 

 薬草の採取とか、ニーナ達のエサとかを重点的に回っていたので今日の収穫はまちまちだ。

 ナオフミが色々と魔物を倒して盾の条件を解放しているけれど、大したことをないものばかりのようだ。

 

 

 その日の夕方。

 2匹が立派なフィロリアルに成長した。

 

 

「早いなぁ……」

 

 

 宿屋の店主も牧場主も驚いている。幾らなんでも早過ぎるとか。

 ナオフミの成長補正(小)と(中)が掛かっているからだろうか。

 しかし、ならなんでニーナも……。

 パーティ組んでるから?

 

 

「……ラフタリアを買った時にインクに気付けばなぁ……」

 

 

「あはは……」

 

 

「そしたらムキムキになってたかも——ごめん」

 

 

 ラフタリアに睨まれた。

 ビキ……。

 何か骨が軋む様な音が響いている。成長音という奴だろうか。

 

 

「「グア!」」

 

 

 もう、人を乗せられるくらいに成長した2匹は俺達の前で座る。

 

 

「乗せてくれるのか?」

 

 

「そうなのか?」

 

 

「「グア!」」

 

 

 当たり前だというのかように2匹は鳴いて、背中に乗るよう頭を向ける。

 

 

「じゃあ失礼して」

 

 

「へへ、楽しみだな」

 

 

 手綱とか鞍とか付けてないけど大丈夫かな?

 ま、いっか。落馬——いや、落鳥?したくらいじゃ俺もナオフミも平気だ。

 乗り心地は……羽毛のお陰で悪くない。

 バランスさえちゃんと取れば問題なさそうだ。

 

 

「「グア!」」

 

 

 ずいっと2匹は立ち上がる。

 

 

「うわ!」

 

 

「うひょー!」

 

 

 かなり視界が高くなる。そうかー……これがフィロリアルに乗って見える景色なのか。

 最近視線が低かったから前よりさらに高くなると眺めがいいな。

 

 

「「グアアア!」」

 

 

 めっちゃ機嫌よく鳴いて、2匹は見つめ合うと競うように走り出した。

 

 

「お、おい!」

 

 

「な、ナオフミ様——」

 

 

 ドタドタドタ!

 は、早い! 景色があっという間に後ろに通り過ぎていく。ラフタリアの声が一瞬で遠くなった。

 

 

「うひゃー!すげぇ速いな!風が気持ちいい!」

 

 

 俺はニーナに乗りながらそう叫ぶが実は俺が走った方が速いのは内緒。

 何かに乗って走るのは自分が走るのとは違って面白いしな。

 ドタドタドタ!

 2匹は試したかったのだろう。村を軽く一周すると、馬小屋の前で止まった。

 俺とナオフミの体重の関係か僅かにニーナの方が速かった。

 フィーロはナオフミを乗せたまま悔しそうに地団駄を踏んで、ニーナは背中の俺に頭を回し、「褒めて褒めて॑⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝⋆*」とばかりに頬ずりをする。

 ふふふ、可愛い奴め。お望み通りモフモフモフモフ。

 ちなみにナオフミはフィーロが地団駄を踏むせいでガクンガクンして「降ろせぇぇぇぇ!」と叫んでいた。

 2匹は座って、俺達を降ろした。

 

 

「大丈夫でしたか!」

 

 

 ラフタリアが心配そうにナオフミに駆け寄る。

 

 

「あ、ああ。大丈夫だ。しかし早いな」

 

 

 大して疲れてもいない様子のフィーロはニーナを睨み、ニーナは俺に撫でられている。

 思ったよりもスピードが出たな。

 

 

「さてと、今日はこれくらいにして、部屋に戻るか」

 

 

 ナオフミがそう言って部屋に戻ろうとするとガシっと鎧の襟をフィーロがくちばしで掴んだ。

 

 

「どうした?」

 

 

「グアアア!」

 

 

 何か泣いているような鳴き方でナオフミを呼び止める。

 

 

「ん?」

 

 

 まあいいやと、ナオフミが立ち去ろうとすると、またも掴まれた。

 

 

「なんだよ」

 

 

「グアア!」

 

 

 若干地団駄を踏むように不機嫌そうにフィーロは鳴いた。

 

 

「えっと、遊び足りない?」

 

 

 ラフタリアが尋ねるとフィーロは首を振る。

 言葉が通じるのか?

 

 

「寂しい?」

 

 

 コクリとフィーロは頷いた。

 

 

「グアア!」

 

 

 そして、翼を広げてアピールを始める。

 

 

「とは言ってもなぁ……」

 

 

 ナオフミは困ったように声を出す。

 こんな大きな魔物を宿の部屋には連れて行けないので馬小屋で寝るしかない。

 

 

 俺に撫でられているニーナから手を離すと、ニーナはフィーロと違い、寂しいと主張はしないが、目を潤ませて俺を見つめてきた。

 

 

「俺、今日はここで寝る(即答)」

 

 

 考えるより先に口が動いた。

 

 

「ええ……お前まじか?ていうかこいつらお互いがいるじゃないか」

 

 

「親が近くに欲しいんだろ?こいつら姉妹みたいなものだし」

 

 

「そうですよナオフミ様。寝入るまでここで相手をしてあげましょうよ」

 

 

 嬉しそうに丸まったニーナの背中の羽毛に埋もれながら言った俺の言葉にラフタリアが同調する。

 ニーナの体格と俺の体格的にちょうどいいな寝床になりそうだ。

 ニーナの体温で暖かいし。

 

 

「む……まあ、良いか」

 

 

 その日の、授業は馬小屋でした。

 ニーナは既に寝てフィーロは大人しく俺達を見ながら巣でジッとしている。

 ビキ……。

 

 

「あー……ほんと楽に文字が読めるようにならないかな!そういう盾があるのなら早く見つかって欲しい!」

 

 

 頭をかいてナオフミが言う。

 まあ、俺も学校の勉強とかめんどくさかったから気持ちは分かる。

 

 

「見つからないのですからしょうがないですよ。何でも伝説の盾に頼ってはナオフミ様の為にはならないと思います」

 

 

「……ラフタリア。言うようになったじゃないか」

 

 

「ええ、ですから一緒に、文字と魔法を覚えましょう」

 

 

「そうだぞ。俺が教えてやってるんだから文句を言わずラフタリアのように真面目に取り組みたまえ」

 

 

「別にお前は特別教えるの得意ってわけじゃないだろ」

 

 

「黙って勉強しろ」

 

 

 フィーロが寝息を立てるまで、俺達は馬小屋で授業を続けた。

 その後はナオフミ達は部屋に戻り、俺はニーナの羽毛に埋もれながら寝た。

 モフモフモフモフ。

 

 




 ちょっと原作沿い過ぎるかな?
 カットした方がいいかな?

 それでは第17話をお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第17話 荷車

 やっぱり学校がないと楽だなぁ。って先週も言ってた気がする。

 それでは第17話をどうぞ。


 翌朝。

 ニーナをモフる俺がいる馬小屋にナオフミとラフタリアが一緒に顔を出す。

 

 

「おはよう」

 

 

「ああ」

 

 

「グア!」

 

 

 ナオフミ達が来るとフィーロは嬉しそうに声を出して駆け寄ってきた。

 

 

「もう、体は大人なのか?」

 

 

 心なしか……昨日より頭一個分大きくなっている気もする。

 

 

「大体、この辺りが平均ですよね」

 

 

「そういえばそうだな」

 

 

「ふむ、確かに」

 

 

 城下町や街道で見るフィロリアルの外見と殆ど変わらない姿をしている。

 フィーロは色は白……で、少し桜色が混じっている。

 綺麗な色合いだ。

 ニーナは色はピンクで、少し白が混じっている。

 あの奴隷商。中々の仕事をするじゃないか。

 

 

「今日は腹減ってないのか?」

 

 

「グア?」

 

 

 フィーロは首を傾げて鳴く。

 ニーナも平気そうだ。

 もう成長期は抜けたみたいだな。

 ビキ……。

 相変わらず変な音が響いている。

 まあ良いか。

 その後、俺達は朝食を終えて、これからどうするかを考える。その最中。

 

 

「グア……」

 

 

 村の中を通っていく木製の荷車を2匹は羨ましそうに見つめていた。

 

 

「やっぱアレを引きたいのか?」

 

 

「ですかねぇ」

 

 

「だろうなぁ」

 

 

「どうしたのですか、勇者様?」

 

 

 ナオフミが荷車を指差して雑談をしていると村の男が聞いてくる。

 

 

「ああ、俺達のフィロリアルが荷車を見ていたから、引きたいのかって話をしてたんだ」

 

 

「まあ……フィロリアルはそう言う習性がありますからね」

 

 

 納得したように男は頷き、ナオフミのフィロリアルに目を向ける。

 

 

「今、この村の建物は修復中で、人手が足りないのですよ。勇者様、何なら荷車を二つ分けるのを条件に手伝ってくれませんか?」

 

 

「む……」

 

 

 悪い話じゃない。せっかく、そういう魔物が手に入ったのだから利用しない手はない。

 荷車を買うのも金がかかるし、上手く行けば途中で薬草採取とかも出来るかもしれないしな。

 

 

「何をすれば良いんだ?」

 

 

 ナオフミもそう思ったのだろう。

 村人に尋ねる。

 

 

「近くの森で材木を切っていますので、村に持ってきて欲しいのですよ」

 

 

「森か……」

 

 

 そういえば、まだあの森は行ってないな。

 ナオフミ達は前に来た時に行ったのかもしれないが。

 

 

「帰りが遅くなるが良いか?」

 

 

「ええ」

 

 

「分かった。話を受けよう」

 

 

 こうして俺達は村の連中の厚意に乗り、荷車を2個譲ってもらった。

 車輪や物を載せる台の全てが木製で作られた。些か安っぽいものであるがタダなのだからしょうがない。

 新品という訳ではなく、ちょっと古いようだ。

 

 

「グア♪」

 

 

「グアグア♪」

 

 

 自分用の荷車を用意され、2匹は機嫌よく互いに鳴き合いながら、荷車を引き出した。

 ついでに手綱を村人は用意してくれて、見た目だけだけど、馬車っぽい。

 引いてるの鳥だけど。

 ナオフミとラフタリアはフィーロの方に乗り、俺はニーナの方に乗る。

 

 

「よし! 今日は森へ出発だ!」

 

 

「おう!」

 

 

「はーい!」

 

 

「「グアーーー!」」

 

 

 ナオフミが行く方向を指差すと2匹は元気良く、荷車を引き出した。

 ゴトンゴトン!

 と、のん気な……。

 ゴトンゴトンゴトン! ガラガラガラガラガラ!

 徐々に車輪から大きな音を響かせ、昨日のように景色が高速で通り過ぎていく。

 というかまた競い合っているようだ。

 やっぱり、2人を乗せている分フィーロが若干遅い。

 

 

「早い! 早い! スピード落とせ!」

 

 

「グア……」

 

 

 速度を落とし、フィーロはトコトコと不満そうに鳴きながら歩く。

 ニーナもそれを見て、スピードを落とした。

 ニーナも不満そうだったが、俺が撫でてやると「グアァ♪」と鳴いて満足そうにトコトコ歩き出した。ふふふ、可愛い奴め。

 というか2つ荷車が並ぶのはスペースを取るな。

 というわけでニーナの荷車の後ろにフィーロの荷車が着いて縦に並んで進んでいく。

 

 

 

 そんな道中……遭いたくない奴と遭遇してしまった。

 

 

「ぶはっ! なんだアレ! はは、やべ、ツボにはまった。ぶわははははははっはは!」

 

 

 奴は俺達を見るなり腹を抱えて笑い出した。その後ろのクソ女も一緒に笑ってやがる。

 一体何が琴線に触れたのかは知らんが、笑われているだけでムカムカしてくる。

 

 

「いきなりなんだ。元康」

 

 

 ナオフミがそう問いかけるのが聞こえる。

 女を連れたモトヤスが街道で俺達を見つけるなり、笑い出したのだ。

 

 

 

「だ、だってよ! すっげえダサイじゃないか!」

 

 

「何が?」

 

 

「お前、行商でも始めたのか? 金が無い奴は必死だな。鳥もダセェーーーー!」

 

 

 ほぅ?それはひょっとして喧嘩をうっているのか?

 

 

「ダッセェエエエエエエ! 馬じゃなくて鳥だし、なんだよこの色、白にしては薄いピンクが混じっているし、純白だろ普通。それに片方はピンクに白が混じってるし。しかもオッセー!」

 

 

「よろしいならば戦争だ!!」

 

 

 俺は不機嫌になっているニーナを撫でてからそう叫んで荷馬車から飛び降りた。

 そして、モトヤスへ近づく。

 また、ぶっ飛ばしてやる!今度は止めるヤツは居ない!血祭りに上げてやる。

 そう考えているとモトヤスはフィーロを指差しながらナオフミ達に近づいた。

 直後。

 

 

「グアアアア!」

 

 

 フィーロが元康の股間目掛けて強靭な足で蹴り上げた。

 俺には見えた。

 ヘラヘラと笑っていた元康の顔が衝撃で変に歪みながら後方に5メートルくらい錐揉み回転しながら飛んでいくのを。

 

 

「うげ……」

 

 

「あー、あれは……」

 

 

「キ、キャアアアアアアアアアア! モトヤス様!」

 

 

 はは、アレは玉が潰れたな。

 ちょっと哀れに感じたから今回は見逃してやろう。

 そう考えてニーナが引く荷馬車に戻ろうとした時、

 

 

「グアアアアアアアア!」

 

 

 バタバタと羽を羽ばたかせて、フィーロはドタドタと走り出していく。

 お、置いてかれたッ。

 俺は急いで荷馬車に戻り、ニーナに指示を出す。

 

 

「全速前進!フィーロ達に追いつくんだ!!」

 

 

「グアアアアアアアア!」

 

 

 俺の指示にニーナは鳴いて、走り出した。

 

 

 その後、無事合流した俺達はそのまま競うように森に向かって走り続けた。

 その道中で酔っていたらしいラフタリアは道中でリバースし、森へたどり着いた頃には限界を迎えていた。

 ちなみに俺は乗り物酔いには強い方——って今の体はメリオダスだから三半規管の強さもメリオダスのか。

 まあ、全然酔ってないから強いんだろう。

 

 

「う……うう……」

 

 

「なんでラフタリア酔ってたのにフィーロに速度を落とすように言わなかったんだよ」

 

 

「元康が悪いんだ。あいつが俺を爽やかな気持ちにさせるせいで」

 

 

「どんな言い訳だよ」

 

 

「グア……」

 

 

 フィーロは申し訳なさそうに意気消沈しており、ニーナはフィーロを慰めながらラフタリアを心配そうに見つめている。

 

 

「だ、大丈夫です……よ」

 

 

「とてもそうは見えない。どこかで休めると良いんだが」

 

 

「あ、盾の勇者様ですね」

 

 

 森の近くには小屋があり、そこから木こりらしき村人が出てくる。

 

 

「ああ、村の連中に頼まれてな、木材を貰いにきたのだが」

 

 

「あの……お連れの方は大丈夫ですか?」

 

 

「たぶん、大丈夫じゃないと思う。休ませておきたいのだが良い場所はないか?」

 

 

「ではこちらに寝床があるので、寝かせましょう」

 

 

 そう言うと木こりは小屋へ案内し、ナオフミはラフタリアの肩を持って運び、ベッドに寝かせた。

 

 

「フィーロ達が戦える範囲の敵を相手に軽く戦う程度にして、今日は荷物運びに従事するとしよう。それからラフタリアが乗り物に弱いみたいだし、しばらく慣れるまでは荷車で爆走するのはやめよう」

 

 

「そうだな」

 

 

「という訳だ、申し訳ないが荷車に材木を載せておいてくれ、しばらくしたらもう一度来る」

 

 

「あ、はい」

 

 

 ニーナ達は荷車を外して小屋の外からこちらの様子を眺めていた。

 

 

「じゃあ行くぞ」

 

 

「おう」

 

 

「「グア!」」

 

 

 モトヤスをアレだけ蹴り飛ばしたんだ。攻撃力は相当期待できるかもしれない。

 軽く森の中を回ってこよう。

 森の中に入ると意外にも、魔物とは遭遇しなかった。

 静かな森の中を2人と2匹で歩いて回る。

 森林浴とは言うけれど、なんとなく空気が澄んでいるような気がした。

 前の世界じゃ絶対に見られない景色だな。

 

 

「乗り物酔いの薬とかあれば良いのだけど」

 

 

 しばらく歩いていると薬草を採取しながら少し寂しそうにナオフミが呟いた。

 俺はそれにニヤァと笑ってナオフミに言った。

 

 

「おやおや?寂しいのかな?そういえばいつも一緒にいるもんな」

 

 

「うっせ」

 

 

 ナオフミは顔を逸らして返した。

 

 

「しっかし……魔物が出てこないなぁ」

 

 

 話を変えようとそう言ったナオフミに笑いながら答えた。

 

 

「にしし、確かにそうだな」

 

 

 しばらく歩き続けているのだけど、魔物の気配がしない。

 

 

「グア」

 

 

「ん?」

 

 

 不意にフィーロの声が遠くに聞こえる。

 振り向くとフィーロが何かを丁度口に入れる瞬間だった。

 ……気のせいか? ウサピルっぽい生き物だったような。

 やがてゴックンと何かを飲み込んだ。

 

 

「グア!」

 

 

 何事もなかったかのようにフィーロはこっちに駆けて来る。

 

 

 EXP34獲得。

 

 

 ……気にするのはやめておこう。

 ちなみにニーナは俺の隣で雑草をムシャムシャしていた。

 そうして小一時間ほど、探索しつつ採取を繰り返し、木こりの小屋に戻ってくると、荷車には木材が満載されていた。

 小屋に入るとまだラフタリアがぐったりとして寝ている。

 これは困った弊害だ。

 フィーロ達の最高速で走らせるとラフタリアが持たないのか。

 これはしばらく訓練が必要かも知れない。ラフタリアが乗り物に馴れないと移動中の作業ができない。

 

 

「しばらくは荷車に慣れる訓練が必要だな」

 

 

「う……うう」

 

 

 ナオフミの言葉にラフタリアが呻く。やっぱきついか。

 

 

「あの……材木を載せ終えましたのですが」

 

 

「あ、ああ。じゃあ一回村に届けに行くから彼女を頼めるか?」

 

 

「はい! 盾の勇者様のお仲間なら何が何でもお守りします」

 

 

「うーん、俺が残ってナオフミがニーナも連れてい「グア!?」さあ、さっさと出発しようか」

 

 

「じゃあ行って来る」

 

 

 俺とニーナのやり取りに苦笑しながらナオフミは荷車に乗り、準備万端だったフィーロに出発の指示を出す。

 俺もニーナの荷車に乗り指示を出す。

 

 

「「グアアア!」」

 

 

 元気な声を出して2匹は走り出した。

 

 




 元康ざまぁwwww
 メリオダスにビッチを蹴らせるか悩んだけど蹴らせないことにしました。
 アニメのこのシーン楽しみだな( ・∀・) ニヤニヤ

 それでは第18話もお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第18話 二匹の天使

 1週間もお休みしてしまい大変申し訳ありませんでした!!(土下座
 毎日投稿すると言ったのにこの体たらくで本当に申し訳ありません。
 1月の残りはキチンと毎日投稿致しますのでご安心ください。

 それでは第18話をどうぞ。


 帰り道ではモトヤスと遭遇しなかった。

 怒り狂いながらナオフミを探しているかと思ったが、そんなことはなかったぜ!

 それから村で荷物を降ろし、戻ってくるとラフタリアが元気になっていた。

 

 

「大丈夫だったか?」

 

 

「はい」

 

 

「は、はやいですね……」

 

 

 木こりは俺達が戻ってくるのが早くて驚いている。

 

 

「コイツは健脚みたいでな」

 

 

 ナオフミがフィーロを撫でながら木こりに答える。

 

 

「グア!」

 

 

 元気に答えるフィーロ。

 それを見てニーナが羨ましそうにしている。

 おもむろにニーナを撫でてみる。

 

 

「グアァ♪」

 

 

 うんかわいい。

 

 

「じゃあ本格的に森を探索するか」

 

 

「ええ」

 

 

「帰りはゆっくり走れよ」

 

 

「グア!」

 

 

「ニーナもな」

 

 

「グア!」

 

 

 ピキ……。

 なんだ?この音。成長は終わったはずだよな。

 フィーロ達から聞こえて来る。

 変な病気じゃないと良いのだけど。

 医者に診てもらうべきだろうか?

 その日の収穫は中々の物だった。

 ラフタリアの活躍も然ることながらフィーロ達の動きや攻撃力は目を張るものがある。

 正直、速さと一撃の強さはラフタリアに勝るかもしれない。

 まあ、俺よりは弱いが。

 

 

 ナオフミ Lv27

 ラフタリア Lv30

 フィーロ Lv20

 ニーナ Lv20

 

 

 また、ナオフミの盾が色々出たようだがどれも弱いものらしい。

 日が落ちだした頃、ゆっくりと歩かせて俺達はリユート村へ戻ってきた。

 ラフタリアには荷車に慣れる訓練が必要だからだ。

 途中何度か気持ちが悪くなって来たらしいので休み休み、進む。

 結果、日がほとんど落ち切ってからの到着となった。

 

 

「もうしわけございません」

 

 

「気にするなって、徐々に慣れていけば良いさ」

 

 

「そうそう」

 

 

 乗り物酔いというのは慣れれば大丈夫になると聞いたことがあるからな。しばらくすれば慣れるだろう。

 まあ、何かあると爆走するフィーロが悪いのだけど。

 その点ニーナは大人しくていい子だ。

 

 

「グア!」

 

 

 この時、異変は既に始まっていた。

 正確には遥か前からというのだろうが、俺達はまだ気付かなかった。いや、気付いていたのに無視をしていたのだ。

 

 

 

 翌朝。

 俺達3人は異変に気づき、考え込む。

 

 

「「グアア!」」

 

 

 馬小屋に顔を出した時には既に変化は極まっていた。

 フィーロ達が……どう見ても、フィロリアルの平均から逸脱して大きくなっていたのだ。

 フィロリアルの平均身長は2m30cm前後だ。これはダチョウの身長と殆ど同じだ。

 ただ、フィロリアルの方が骨格がガッシリとしていて、顔や首が大きい。

 のだが……フィーロ達の身長は2m80cmに達していた。

 もはや立ち上がると馬小屋の天井に頭が届いている。

 

 

「俺は本当にフィロリアルの卵を貰ったのか? 別の何かを買ったのではないかと疑いたくなって来たぞ」

 

 

「ええ……私もそう思います」

 

 

「にしてはフィロリアルの特徴がありすぎじゃないか?」

 

 

「グア!」

 

 

「グアァァ……」

 

 

 パクっとフィーロが何かを飲み込んでいた。

 それを見てニーナが悲しそうな声を上げる。

 良く見たら、馬小屋に干していたキメラの肉が無い。

 牛二頭分くらいあったはずの肉が、見るも無残に消えていた。

 今食べたのは最後の一切れか?

 

 

「食欲が無くなったのかと思っていたが……」

 

 

「食べてたんですねー!」

 

 

「グアー!」

 

 

「「「ハハハハハハハハ」」」

 

 

「笑い事じゃねえよ!」

 

 

 ナオフミのノリツッコミが炸裂した所でどうしたものかと考える。

 とりあえず、外見に関して特別大きいんですとか今なら誤魔化せる。

 ……しかし。

 ピキ……。

 相変わらず成長音が鳴り響いている。

 

 

「まだ音がしてるぞ!」

 

 

「あの、もしかしてナオフミ様の盾の力でこんな成長をしているのではありませんか?」

 

 

「可能性は十分あるな。魔物使いの盾Ⅲにも成長補正(中)というボーナスがあった。だがならなんでニーナも?」

 

 

「パーティを組んでいるからってことくらいしか思いつかないな」

 

 

「な、ナオフミ様……確か奴隷の盾もありましたよね?」

 

 

「ああ、奴隷使いの盾という似たボーナスの付いている盾がある」

 

 

「……その、力は私に?」

 

 

「ああ、とっくに解放済みだ。ラフタリアも少しは影響を受けている」

 

 

「いやああああああ!」

 

 

 ラフタリアが叫びながら馬小屋から走り出した。

 

 

「ら、ラフタリア!?」

 

 

「最近、体が軽いなぁって思ってたんですよ。ナオフミ様の所為だったんですね!」

 

 

「お、落ち着け!」

 

 

「わ、私もフィーロみたいに大きくなっちゃうんですか!? 怖いです!」

 

 

「お前からは成長音がしないだろうが!」

 

 

「そ、そういえばそうでした。良かった、ほんとに良かった!」

 

 

 ……予断を許さない状況であるのは変わらないけどな。

 前にも言ったムキムキマッチョに育つラフタリアを想像しながらフィーロへ視線を向ける。

 

 

「なんか失礼なこと考えてませんか?」

 

 

「……どうしたものか」

 

 

「……そうだな」

 

 

 ラフタリアの疑惑を無視して話を続行する。

 

 

「一度、あのテントに行って確認を取るのがよろしいかと」

 

 

「そうだな」

 

 

「ま、それ以外ないよな」

 

 

 しょうがない。意味も無く城下町に戻るのは嫌なのだが……行くしかないだろう。

 

 

「「グア!」」

 

 

 元気良く、荷車を引くフィーロ達と乗り物酔いと戦うラフタリアを心配しつつ、俺達はリユート村を後にした。

 途中、フィーロ達が飢えを訴えるので、エサをやり、魔物と戦いながら、城下町に着いたのは昼過ぎだった。

 

 

「おい……」

 

 

 気が付くとフィーロ達の外見がまたも変わっている。

 足と首が徐々に短くなり、気がついた頃には短足胴長のフクロウみたいな体形に変化していた。

 それでも荷車を引くのが好きで、合いも変わらず、荷車を引いている。

 しかし、引き方に大きな変化が生まれていた。

 前は綱で荷車と結んで引いていた。

 今は手のような翼で器用に荷車の取っ手を掴んで引いている。

 

 

「「クエ!」」

 

 

 鳴き方まで変わり、フィーロの色は真っ白になっている。

 ニーナは真っピンクだ。

 

 

「ん?縮んでないか?こいつら」

 

 

「なに?」

 

 

 ナオフミの言葉に荷車から降りながら2匹の身長を目視で測る。

 2m30cmくらいにまで身長が縮んでいる。だけど横幅が広がっていて、前よりも威圧感が出ているかもしれない。悪く言えば遊園地のマスコットみたいで不自然に肥っている。

 

 

「「クエ?」」

 

「いや、なんでもない」

 

 

 こいつらは自身の変化に気付いているのか?

 もはや鳥ですら無くなってないか?

 

 

 

「いやぁ……どうしたのかと思い、来てみれば驚きの言葉しかありません。ハイ」

 

 

 奴隷商の奴、冷や汗を何度も拭いながらフィーロ達をマジマジと観察している。

 

 

「「クエ?」」

 

 

 縦にも横にも太くなったフィーロはフクロウっぽい魔物でしかなくなっている。

 人懐っこいダチョウみたいな姿は何処へやら。

 

 

「で、正直に聞きたい。こいつはお前の所で買った卵が孵った魔物なんだが、俺に何の卵を渡したんだ?」

 

 

 ナオフミがそう言いながら指を鳴らすとフィーロが今にも襲い掛かると威嚇する。

 

 

「クエエエエエエ!」

 

 

 奴隷商の奴、なんか焦って何度も書類らしきものを確認している。

 

 

「お、おかしいですね。私共が提供したくじには勇者様達が購入した卵の内容は確かにフィロリアルだと記載されておりますが」

 

 

「これが?」

 

 

「クエエエ!」

 

 

 ナオフミが結構大きなエサを投げるとフィーロは器用にパクッと口に放り込んで食べる。

 

 

「えーっと……」

 

 

 そういえば、さっきからフィーロ達の方から成長音がしなくなったような気がする。

 やっと身体的に大人になったという事なのか……?

 どんな成長だよ。

 

 

「しかし、まだ数日しか経っていないのにここまで育つとは、さすが勇者様、私、脱帽です」

 

 

「世辞でごまかすな。さっさと何の卵を渡したか教えろ」

 

 

 俺に関しては勇者関係ないけどな。

 

 

「その……最初からこの魔物はこの姿で?」

 

 

「いや」

 

 

 ナオフミは奴隷商にフィーロが生まれてから今までの成長記録を話した。

 

 

「では途中まではちゃんとフィロリアルだったのですね?」

 

 

「ああ、今は何の魔物か分からなくなっているがな」

 

 

「クエ?」

 

 

 首を傾げながら、なんとなく可愛らしいポーズを決めるフィーロにナオフミが若干イライラしているのが分かる。

 

 

「クエエエ」

 

 

 スリスリとナオフミに全身を使って擦り寄る。

 

 

「む……」

 

 

 ラフタリアが眉を寄せてナオフミの手をとって握る。

 

 

「クエ?」

 

 

 ラフタリアとフィーロが見詰め合ってる。

 

 

「どうしたんだ、お前等?」

 

 

「いえ、なにも」

 

 

「クエクエ」

 

 

 何も分かっていない様子のナオフミへ双方、首を振って意思表示をしている。

 

 

 それより、フィーロを見てニーナまで俺に抱きついて来た。

 大きい翼に抱きつかれると若干暑いがモフモフモフモフ。

 

 

「で? どうなんだ?」

 

 

「えっと……その」

 

 

 奴隷商の奴、困ってる困ってる。

 魔物を扱っているのにその魔物がどんな育ち方をするのか知らないのか?

 それとも全く見たことのない新種とか?

 

 

「とりあえず、専門家を急遽呼んで調べますので預からせて貰ってもよろしいですか? ハイ」

 

 

「ああ、間違ってもバラさないと解らないとか言って殺すなよ」

 

 

「「クエ!?」」

 

 

「そんなことをしたらメルロマルクを地図から消すからな」

 

 

 ナオフミの言葉にフィーロ達が驚きの声を上げるのを見ながら、俺は奴隷商を脅す。

 半分ぐらい本気ではある。

 クズ王とビッチ(ゴミ)掃除も出来て一石二鳥だ。あ、ビッチはモトヤスと一緒か。チッィィ。

 

 

「分かっていますとも、ですが専門家が来るのに少々お時間が必要なだけです。ハイ」

 

 

「……まあ、良いだろう。任せた。何かあったら慰謝料を要求するだけだ」

 

 

「クエエエ!?」

 

 

「俺はマジで暴れるからな」

 

 

 ナオフミの返答にフィーロが異議を申し立てるように羽ばたく。

 ニーナも悲しそうな眼差しでこちらを見る。

 俺はニーナを撫でて安心させる。

 奴隷商の部下がフィーロ達に首輪をつけて檻に連行した。俺が近くにいることもあってか、意外にも素直に檻に入る。

 

 

「じゃあ、明日には迎えに来る。それまでに答えを出しておけよ」

 

 

 ナオフミが最後にそう言って俺達はテントを出る。

 

 

「クエエエエエエエ!」

 

 

 フィーロのでっかい声がテントを出ても聞こえて来た。

 その日の晩……宿に泊まっていると、急に宿の店主に呼ばれた。

 

 

「あの勇者様」

 

 

「ん? どうした?」

 

 

「お客様がお見えになっています」

 

 

 誰だ?と俺達は顔を見合わせつつ、店主が待たせているカウンターに顔を出す。するとそこには見覚えの無い男がいた。

 

 

「何の用だ?」

 

 

「あの、私……魔物商の使いのものです」

 

 

 魔物商……ああ、奴隷商か。確かに表立って自己紹介できないもんな。

 

 

「どうしたんだ?」

 

 

「あの、お預かりしている魔物をお返ししたく主様に仰せつかってきました」

 

 

「はぁ!?」

 

 

 あれから数時間しか経っていないというのに……どうしたというのだ。

 3人でテントに行くと、まだフィーロの鳴き声が木霊しており、今はニーナの鳴き声と暴れるような音まで聞こえてくる。

 というかテント少し壊れてないか?

 

 

「いやはや、夜分遅く申し訳ありません。ハイ」

 

 

 少々くたびれた様子の奴隷商が俺達を出迎える。

 

 

「どうしたんだよ。明日まで預ける約束だっただろ?」

 

 

「そのつもりだったのですが、勇者様の魔物が些か困り物でして」

 

 

 勇者様?ニーナは?

 

 

「「クエエエエエエ!」」

 

 

 フィーロとニーナは怪獣大戦争の如く戦っている。奴隷商の部下や使役されている魔物達も近寄れないようだ。

 じゃれあっているのではなく、戦っていた。

 しかし、フィーロは俺達を見つけるとやっと大人しくなり、それを見たニーナも大人しくなった。

 

 

「メリオダス様の魔物は最初大人しかったのですが勇者様の魔物が暴れるのを止めようとした結果、激しい戦闘になりまして周囲の檻や道具などを破壊し、取り押さえようとした部下10名を治療院送り、使役していた魔物4匹が重傷を負い、周りにいた奴隷や魔物にも負傷者が出ております、ハイ」

 

 

 ニーナは大人しかったのか。いい子だな。

 褒めるようにニーナを撫でるとニーナは気持ちよさそうな声を上げる。

 

 

「弁償はしないぞ」

 

 

「こんな時でも金銭を第一に考える勇者様に脱帽です。ハイ」

 

 

「いや、フィーロが悪いんだから少しくらい弁償してやれよ」

 

 

「で、どうなんだ? 分かったのか?」

 

 

 俺の言葉を無視してナオフミは話を進める。

 

 

「いえ……ただ、フィロリアルの王に似たような個体がいるという目撃報告があるのを発見しました」

 

 

「王?」

 

 

「正確にはフィロリアルの群にはそれを取り仕切る主がいるとの話です。冒険者の中でも有名な話でありまして」

 

 

 奴隷商の奴、どうも知る限りの情報網で、何か引っかからないかを調べていたらしい。

 で、野生のフィロリアルには大きな群が存在し、それを取り仕切る王がいると言う話を聞いた。

 滅多に人前に現れないフィロリアルの主であり王が……フィーロ達なのではないかという憶測だ。

 

 

「ふーん。で、それはなんと呼ばれているんだ?」

 

 

「フィロリアル・キング、もしくはクイーンと呼ばれております」

 

 

「フィーロ達は雌だからクイーンか」

 

 

「で、ですね……ここまで勇者様に懐いていますと、この状態で売買に出されると私、困ってしまいます」

 

 

 鳴いて暴れて、周囲破壊か。

 周りを見れば鉄の檻の残骸や、怯えたような奴隷商の部下や使役されている魔物、商品と思われる魔物や奴隷達の姿がある。

 どうしようもないな。

 

 

「……さま」

 

 

「ん? いま、聞き覚えの無い声が聞こえなかったか?」

 

 

「はて? 私もそのような声が聞こえた気が」

 

 

「俺にも聞こえたぞ?」

 

 

「あ、あの……」

 

 

 ラフタリアが口元を押さえながら、フィーロの居る檻を指差す。同様に奴隷商の部下も絶句したように指差していた。

 俺とナオフミと奴隷商はどうしたんだと首を傾げつつ振り返った。

 

 

「ごしゅじんさまー」

 

 

「……ご主人様」

 

 

 そこには淡い光を残滓に、白い翼を持った2人の裸の少女が俺達に手を伸ばしていた。

 ……俺はそれを見て驚き、恐怖を感じながらロストヴェインの柄を握りながら距離を取った。

 

 




 メリオダスの反応の理由は次回。
 分かる人もいるかも知れませんが。

 それでは第19話をお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第19話 変身能力

 なんか、感想で結構な人がわかってしまっているようですねw
 そこまで分かりやすかっただろうか。分かりやすかったか。
 第2章を「盾の勇者の成り上がり」にすると決めた当初から決めていました。
 やっとヒロインの1人が登場ですね。
 第2章以降ハーレムとタグに付けましたが2章は2人か3人程度になる予定です。

 それでは第19話をどうぞ。


 ——彼女達はまさしく、天使だった。

 

 

 片や、金髪碧眼の美幼女。

 腰まで伸びた金髪はさながら純金のように光を反射して煌めき、10歳前後の幼い容姿だが誰もが見惚れる可愛らしいと背中に生えた白い翼が神の使いを彷彿とさせる。

 

 

 それいい。素晴らしい容姿だ。ロリコン製造機である。

 ラフタリアにも引けを取らない美幼女だ。

 思わず抱きつき撫で回したくなるが今はそれどころではない。

 もう片方の天使が俺に警戒とトラウマを呼び起こすものだった。

 

 

 同じく腰まで伸びた長髪は、打って変わって鮮やかなピンク色。

 誰もが見惚れる芸術品の如き可愛らしい容姿。

 そして、背中に生える白い翼と来ると、頭の上に幾何学的な光輪や琥珀色の瞳に宿る十字架を幻視出来そうで……。

 というかぶっちゃけ——

 

 

「ご主人様?」

 

 

 恥ずかしさ故にか僅かに頬を赤らめつつ、俺の行動を不安げに見つめるその顔は完全に『天撃』を放ち幼児化(じゃくたいか)したジブリールであり、困惑気味に呟かれたその鈴のような声は完全に田村ゆ〇りボイス。

 翼の生えている位置が腰ではなく背中だったり、天翼種(フリューゲル)の特徴たる光輪や瞳の十字架がなかったり、髪がプリズム色ではなく完全にピンク色だったりなど、色々違いはあるが容姿は完全に一緒である。

 故に、咄嗟にロストヴェインの柄を掴み、距離を取ってしまったのだが——

 

 

「ご、ご主人様は、こ、この姿が……お嫌いですか?」

 

 

 涙目で捨てられた子猫よようにプルプルと震え出した少女にハッと我に返り、ロストヴェインから手を離して首と手を左右に振りながら大慌てで否定した。

 

 

「ち、ちが、違うよ!?別にそういう訳ではなく——」

 

 

「では、私のことが嫌いに……?」

 

 

「違う!ただトラウマに似ていただけで——ってぇ、そもそも貴方はどちら様!?」

 

 

 いや待て、少女達がいる場所はフィーロやニーナがいた場所だ。つまり?

 

 

「え!?ニーナなのか!?魔物が人に!?ていうかなんでジブリールなんだよ!?突然悪魔が目の前にいたから心臓が止まるかと——」

 

 

「ごっ、ごめん、ぐすっ、なさいっ……人になって……ひっ、す、すぐに戻ります……からっ、私の事……嫌いに、ならないでっ」

 

 

「あぁ〜~〜〜〜〜!!違うってばぁ!俺がお前のことを嫌いになるわけないだろ!?どんな姿のお前も大好きだよ!」

 

 

 そう叫びながらニーナに抱きつき撫で回す。

 ……全裸の少女に抱きつくのは犯罪臭がプンプンするが気にしている場合ではない。

 というかジブリールと性格が違いすぎる。

 ……いや、あれと一緒でも困るけどさ。

 

 

 それから俺はマントを羽織らせた俺の言葉に安心した様子のニーナに抱きつかれながら、頭を撫でて、いつの間にかいなくなっていたナオフミ達を待っていた。

 

 

 しばらくすると疲れた様子のナオフミがラフタリアとフィーロと思われる少女を連れて戻って来た。

 

 

 どうやら武器屋に行って、変身しても破れない服がないか聞いてきたようだ。

 結果は何故かボロボロのマントを羽織ったフィーロを見れば分かるか。

 

 

 テントに戻ったナオフミ達を奴隷商は待っていたとばかりに出迎えた。

 

 

「いやぁ。驚きの展開でしたね。ハイ」

 

 

「ああ」

 

 

「驚きすぎて、かつてないほどテンパったわ」

 

 

「して、フィロリアルの王が何故目撃証言が少ないか判明しました」

 

 

「お? 分かったのか」

 

 

「はい。というか勇者様も理解していると思いますよ」

 

 

 なんだろ?変身能力のことかな?

 

 

「分かりませんか?」

 

 

「……だから言えよ」

 

 

 奴隷商は人型でボロボロになったマントを羽織るフィーロを指差した。

 

 

「フィロリアルの王は、高度な変身能力を持っているのですよ。ですから同類のフィロリアルに化けて人目を掻い潜っていた。というのが私共の認識です」

 

 

 なるほど……一目でフィロリアルのボスであるのを分からせない為、化けて隠れる習性を持ち、その習性を利用して人型に変身した。という訳か。

 

 

「いやはや、研究が捗っていないフィロリアルの王をこの目にすることができるとは、私、勇者様の魔物育成能力の高さに感服です。ハイ」

 

 

「は?」

 

 

「ただのフィロリアルを女王にまで育て上げるとは……どのような育て方をすれば女王になるのでしょうか?」

 

 

 ……奴隷商の目的が分かったぞ。こいつ、フィロリアルを王にする方法をナオフミから聞いて量産する気だ。

 かなり珍しい魔物に分類されるだろうし、変身能力を持っているんだ。チビチビとけち臭く、それでいて高く売れば大儲けだ。

 

 

「たぶん、伝説の盾の力って奴だと思うぞ」

 

 

 成長補正の力でここまで育ったのだろうと推理する。そうでもしないと説明できない。

 ニーナに関してはそれだと説明出来ないような気もするが、パーティメンバーだからなのかな?

 

 

「そうやってうやむやにする勇者様に私、ゾクゾクしてきました。どれくらい金銭を積めば教えてくれますかな?」

 

 

「そういう意味じゃねえから!」

 

 

「では、もう一匹フィロリアルを贈与するので、育ててみて――」

 

 

「結構だ!」

 

 

「え?」

 

 

 こんな美少女が増えるとか歓喜するしかないんですけど。

 そう思ってたら腕の中のニーナに半眼を向けられた。

 これ以上は黙っておこう。

 金もかかるしね。

 

 

「はぁ……後は思いつく可能性と言うとアレだな」

 

 

「なんでございましょう」

 

 

 奴隷商の奴、目を輝かせている。

 気持ち悪い。

 

 

「波で倒された大物の肉をコイツは食っていた。だから、その影響を受けていない可能性を否定できない」

 

 

 ああ、なるほど。確かに食ってたな。

 無理やり捻り出した感じだけど、フィーロ達はキメラの肉を食べていたからなぁ。間違った事も言ってない。

 

 

「ふむ……それではしょうがありませんね」

 

 

 奴隷商の奴も、信じていないがナオフミが嫌がっているのだからしょうがないって態度で引き下がる。

 

 

「何時でもフィロリアルはお譲りしますので、試してください。ハイ」

 

 

「出来れば断りたいがなぁ……」

 

 

「もしも扱いやすい個体に育てたらお金は積みますよ」

 

 

「ふむ、余裕が出たら考えておこう」

 

 

「止めとけ、俺が愛着湧いて全力で阻止する」

 

 

「ふざけんな」

 

 

「お話は終わりました?」

 

 

「ああ」

 

 

「所でどうしましょう」

 

 

「なにが?」

 

 

 フィーロが会話に入り込んで疑問符を浮かべる。

 

 

「アナタの処遇ですよ」

 

 

「ごしゅじんさまと一緒にねるー」

 

 

「させません!」

 

 

「あーずるーい! ラフタリアお姉ちゃんはごしゅじんさまを独り占めしてるー」

 

 

「してません!」

 

 

 まさにハーレムだな。

 他人事のように考えていると腕の中のニーナに、

 

 

「わ、私もその、ご主人様と寝たいです///」

 

 

 可愛らしさが当社比1億倍!

 顔を赤らめ、モジモジしながらそう言うニーナの姿は冗談抜きで破壊力抜群だった。

 

 

「わかった、一緒に寝ような」

 

 

「は、はい!」

 

 

 服を着ていない美少女と一緒に寝るか……。

 いや、何もしないよ!?

 さすがに見た目10歳実年齢0歳児に手を出したりしませんよ!?

 

 

「さて、じゃあフィーロは宿に備え付けられている馬小屋で寝ような」

 

 

「イヤ!ごしゅじんさまとねるのー!」

 

 

「そうかそうか、しょうがない」

 

 

「ナオフミ様!?」

 

 

「ここで否定したって、ワガママ言うんだからある程度あわせてやらなきゃいけないだろ?」

 

 

「まあ……そうですけど」

 

 

 納得しかねると言うかのようにラフタリアが呟く。

 

 

「でも、絶対人前で裸になるんじゃないぞ」

 

 

「はーい!」

 

 

 ほんとに分かっているのかな?

 というかフィーロとニーナ全然違うな。

 フィーロに羞恥心無さげだし、見た目相応の——いやもっと幼い精神年齢だし。

 宿屋に戻り、店主に追加の宿泊代を払って部屋に帰って来た。

 

 

「わぁ! 柔らかい寝床ー!」

 

 

 ポンポンとベッドに乗って跳ねるフィーロにナオフミが注意を促しているのを横目に、今日は早めに寝る事にした。

 

 

「……ダス!メリオダス!」

 

 

「うぅん……?」

 

 

 俺を呼ぶ大きな声に俺は目を覚ます。

 目を擦りながら起き上がろうとすると腕に抱きついて幸せそうに眠るニーナによって出来なかった。

 

 

「すー……すー……えへへ」

 

 

 うんかわいい。

 

 

「おい!メリオダス!今はそんなことをしてる場合じゃない!」

 

 

「ったく、なんなんだよ。せっかくの俺の安眠と美少女の寝顔を拝見する機会を邪魔しやが——マジでどういう状況だよ」

 

 

 苛立ちながら、声のした方を振り返ると何故か元の姿に戻っているフィーロに抱きつかれているナオフミとそれを救出しようとしているラフタリアの姿があった。

 

 

「すー……すー……」

 

 

 ふむ。どうやら何時の間にか元の姿に戻ったフィーロがベッドから転げ落ちてナオフミを抱き枕にして寝入ったようだ。

 

 

「起きろ! このデブ鳥!」

 

 

「お前、仮にも女の子にデブだなんて」

 

 

「んな事言ってる場合か!」

 

 

「やーん」

 

 

 なんと、本当の姿でも喋れるようになっている。

 ナオフミが殴ってもフィーロは起きやしない。単純にナオフミの攻撃力が足りない所為だろう。

 

 

「起きなさいフィーロ!」

 

 

「むにゃむにゃ……ごしゅじんさまー」

 

 

 ごろんとフィーロは床を転がる。

 ミシミシミシ……

 嫌な音が床から聞こえてくる。木製の床じゃ耐久限界が近い。

 壊したら弁償かなぁ。

 

 

「起きろ!」

 

 

 しかし、フィーロはナオフミを抱き締めたまま起きる気配が無い。

 

 

「起きなさい!」

 

 

「メリオダスお前も手伝え!」

 

 

「いいじゃん。モフモフで気持ちいいだろ?」

 

 

「死ね!!!」

 

 

 ナオフミが直球の罵倒をしているとラフタリアがナオフミを抱き締めるフィーロの腕をなんとか力技で開いた。

 ナオフミはその隙を逃さずにどうにか脱出した。

 

 

「ふう……朝から散々だ」

 

 

「お疲れ、俺無しでどうにかなったじゃん」

 

 

「お前、マジでふざけんなよ?」

 

 

 こめかみをヒクヒクさせているナオフミを無視してフィーロを見つめる。

 

 

「んにゃ?」

 

 

 抱いていたナオフミが居なくなったのを察知してかフィーロが目を覚ました。

 フィーロはナオフミとラフタリアが睨んでいるのに気付き、首を傾げる。

 

 

「どうしたの?」

 

 

「まずは人型になれ!」

 

 

「えーおきていきなりー?」

 

 

 ナオフミはその言葉にもはや我慢ならんとステータス魔法を弄り出す。

 恐らく魔物の項目の禁則事項を構っているのだろう。

 

 

「人型になれ!」

 

 

 ナオフミの命令がフィーロに向って響く。

 

 

「えー……もうちょっとごしゅじんさまと寝たいー」

 

 

 ナオフミの命令に背いた所為でかフィーロの腹部に魔物紋が浮かび上がる。

 

 

「え?」

 

 

「聞かねば苦しくなるぞ」

 

 

 赤く輝く魔物紋がフィーロの体を侵食していく。

 

 

「やーん」

 

 

 フィーロの翼から何か幾何学模様が浮かび上がり、魔物紋へ飛んでいく。

 スーッと音を立てて、魔物紋は沈黙した。

 

 

「は?」

 

 

 ナオフミの間向けた声を聞きながら俺も唖然とする。

 魔物紋に抵抗とか出来るのかよ。

 ナオフミは魔物のアイコンを確認する。

 何度も弄っているが何も変わらないのだろう。

 さらに苛立っているのが分かる。

 

 

「くそっ!言う事を聞かない魔物とはどういう事だ!俺は魔物が命令を聞くから買ったんだぞ!奴隷商の所に行くぞ!」

 

 

 そう叫んで準備を始めるナオフミにため息を吐いて俺はこの騒ぎの中未だに俺に抱きついて幸せそうに眠るニーナを起こすのだった。

 

 




絶対神「アハハハッ!あの反応最高!」←元凶

 というわけでニーナの容姿はジブリールでした。
 性格は全く違いますが。

 ジブリールって見た目だけはかわいいんですけどね。性格が……。
 まあ、好きなキャラではあるんですけどねw
 毒舌キャラって結構好きなんですよね。1番ではないですけど。

 それでは第20話をお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第20話 魔物紋

 色々言われた結果感想のgood、bad機能を無くすことにしました。
 なんか感想全部にbadをつけまくる人がいるみたいで。
 というかこの機能私は使ったこと1度もないんですよね。
 使っている人もあまり見ませんし。
 というわけで無くすことにしました。

 後、前回の後書きに1文だけ追加しました。
 特に重要というわけではないですが。

 それでは第20話をどうぞ。


「奴隷商!」

 

 

 俺達は朝一で奴隷商のテントに乗り込んでいた。

 

 

「朝からどうしたというのです勇者様。ハイ」

 

 

「お前の所の魔物紋が不良品だったぞ。返答しだいでは俺の危険な奴隷と魔物がここで暴れる事になる。な?」

 

 

「フィーロ、お腹空いたから後でね」

 

 

「……いい加減にしないとお前を朝飯にするぞ」

 

 

 ナオフミはかなりイライラしてるようだ。

 

 

「落ち着けよ。そんなイライラしてると禿げるぞ?」

 

 

「お前は黙ってろ」

 

 

「おや? それはどういう事ですかな?」

 

 

 奴隷商にナオフミは朝の出来事を説明する。あの後が大変だった。フィーロをどうにか宥めて人間の姿にさせてからテントにやってきた。

 ラフタリアに至ってはフィーロが変な事をしないか常時気を張っていて、大変そうだ。

 というかナオフミやラフタリアの言うことを聞かせるのはかなり大変だったのにニーナが「こらっ」と可愛らしく叱ったら言うことを聞いた。

 それを見たナオフミは頭を掻きむしっていた。

 

 

「どうやらフィロリアル・クイーンには普通の魔物紋では拘束を解いてしまわれるようですね。ハイ」

 

 

「というと?」

 

 

「高位の魔物は普通の魔物紋では縛れないのですよ。くじの景品である騎竜には特別な魔物紋を刻みます」

 

 

「つまりコイツには普通の魔物紋だと効かないと?」

 

 

「ええ」

 

 

 奴隷商の奴、新たな事実にやや興奮気味に手帳に何かをカリカリと書いている。

 

 

「で、その特別な魔物紋は施してくれるのか?」

 

 

「いやはや、それはサービスの適応外です。ハイ」

 

 

「なんだと」

 

 

「さすがに安くはない金銭がかかりますので、サービスするには厳しい所です。こちらの被害も限界に近いですので」

 

 

 これ以上のサービスはさすがに出せないと言う訳か。

 まあ、あれだけの被害を出させてしまったのだから、しょうがないか。

 というかむしろ賠償しろと言われても文句を言えないくらいの被害出してるよな。

 

 

「幾らだ?」

 

 

「勇者様の将来に期待して、大マケにまけて銀貨200枚でどうでしょう」

 

 

 高いなぁ。

 

 

「そこを——」

 

 

「ちなみに相場は安くて銀貨800枚ですぞ。私、勇者様には期待しておりますので嘘は吐いておりません」

 

 

 値切ろうとしたナオフミへ奴隷商が先回りして答える。

 ナオフミは敗北を認め、非常に遺憾そうにしながらも奴隷商に銀貨200枚を渡した。

 

 

「……嘘だったら俺の危険な配下が貴様を血祭りにあげるからな」

 

 

「承知しておりますとも」

 

 

 キョロキョロと辺りを見渡していたフィロリアル・クイーンの姿をしているフィーロの大きな翼をラフタリアが手を繋いで、連れて来る。

 ちなみにニーナは人の姿でマントを羽織って俺の側にいる。

 

 

「そこでジッとしていろよ、フィーロ」

 

 

「なんでー?」

 

 

「ジッとしていたら後で良いものを食べさせてやる」

 

 

「ホント?」

 

 

「ああ」

 

 

 ナオフミの言葉に目を輝かせたフィーロは奴隷商の指示する場所でジッとしている。

 ナオフミが奴隷商に目で合図を送ると奴隷商も頷き、顔の見えないローヴを着た部下を12人も呼んでフィーロを取り囲む。

 そして何やら薬品を地面に流し、フィーロに向って全員で魔法を唱えだした。

 床が光り輝き、フィーロを中心に魔法陣が展開される。

 

 

「え、な、なーに」

 

 

 バチバチとフィーロは抵抗を試みるが、それも叶わず、魔方陣がフィーロに侵食する。

 

 

「い、いたーーーい! やめてー!」

 

 

 魔物紋の更新に痛みを感じたフィーロが暴れ回り、その度にバチバチと魔法陣が揺らぐ。

 ……ちょっと可哀想だな。

 ニーナがフィーロの様子を見て俺の服の袖を掴んだ。

 奴隷商の部下からは驚愕の声が発せられた。

 

 

「念には念を、多めの人数で魔法拘束をさせておりますが……この重圧の中で動けるとは、将来が末恐ろしいです。ハイ」

 

 

 そういや、まだLv20だものな、これで70とか行ったらどれだけの強さを見せるのか。奴隷商の言葉も頷ける。

 やがて、魔法陣はフィーロの腹部に完全に刻み込まれ、静かになった。

 

 

「終わりです。ハイ」

 

 

 その言葉にナオフミは即座にアイコンを構っている。

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 

 フィーロは肩で息をしながらナオフミの方に歩いてくる。

 

 

「ごしゅじんさまひどーい。すごく痛かったー」

 

 

 ナオフミは邪悪な笑顔を浮かべながらフィーロに命令する。

 

 

「まずは人型になれ」

 

 

「えー、痛かったからやだー。おいしいものちょうだい!」

 

 

 舐めた口調で命令を拒否し、食べ物をねだるフィーロの魔物紋が輝く。

 

 

「え、いや! 何、やだやだ」

 

 

 フィーロは魔物紋に何か魔法を飛ばすが、今度は弾かれて呪いが発動した。

 

 

「いたい、いたい、いたい!」

 

 

 フィーロは魔物紋の痛みで転がる。

 

 

「俺の言う事を聞かないと、もっと痛くなるぞ」

 

 

「いたい、いたい! うう……」

 

 

 嫌々ながら人型に変身するフィーロ。すると魔物紋の輝きは収まった。

 ……鬼畜だな。

 

 

「ふむ……今度はちゃんと発動したな。よくやったぞ、奴隷商」

 

 

「ええ、かなり強力な紋様なので、簡単には弄ることは出来ません。ハイ」

 

 

 ナオフミは倒れているフィーロの前に出て告げる。

 

 

「お前本体で銀貨100枚、次にその魔物紋で200枚。合計銀貨300枚の損失だ。その分は俺の指示に従って返してもらうからな」

 

 

「ご、ごしゅじんさまー」

 

 

 フィーロがよろよろとナオフミに手を伸ばす。

 なんか純粋そうな顔をしている子供にこんな事を言うのも良心が傷つかないのだろうか。

 

 

「言う事を聞け」

 

 

「や、やー」

 

 

「そうかそうか、どうしても俺の言う事に従えないのなら、ここであの怖いおじさんにお前を引き取ってもらおう」

 

 

「……!?」

 

 

 フィーロの奴、やっと自分の立場が分かったのか、恐怖に顔が歪む。

 奴隷商の奴、何か微妙に困ったような嬉しそうな表情でナオフミを見ているな……。

 

 

「いくらでコイツを買ってくれる?」

 

 

「そうですねぇ。珍しいので迷惑料込みとして金貨30枚出しても購入したいですな。重度の魔物紋を刻んでいるのでもう暴れることも出来ないでしょうし、使い道には事欠かないかと。ハイ」

 

 

 奴隷商の奴、自分で売買されるのが困ると言っていた癖にここぞとばかりに値段を付けてきた。

 本音は知らないが、こいつの手に渡ればフィーロの一生は終わるな。

 それにしてもフィーロの奴、凄く怯えた表情でナオフミを見上げている。

 それにはナオフミも少し、良心が傷んだようだ。

 だが脅すのを辞めるつもりは無さそうだ。

 奴隷商の言葉にニーナまで不安そうにこちらを見上げているが俺はそんなことはしない。

 ニーナはいい子だから脅す必要もないしな。

 俺は微笑んでニーナを撫でてやる。

 するとニーナは安心したように俺の腕に頬擦りをする。かわいい。

 

 

「だ、そうだ。今度はお前が暴れても俺は迎えに来ないぞ……にがーい薬を飲まされて、色々体を弄繰り回された挙句……死んじゃうんだろうなぁ……?」

 

 

「や、やーーーー!」

 

 

 フィーロは大きな声で拒否する。

 

 

「ごしゅじんさまーフィーロを嫌いにならないでー……」

 

 

 ナオフミの足に縋って懇願するフィーロ。

 効果は ばつぐんだ !

 ナオフミはその様子に怯んだようだがそれでも引く気はないようだ。

 

 

「俺の言う事を素直に聞くなら嫌いにならない。これからはちゃんと聞くんだぞ」

 

 

「う、うん!」

 

 

「よしよし、じゃあ宿屋で寝るときは絶対に本当の姿になるな。これが最初の約束だ」

 

 

「うん!」

 

 

 ナオフミがフィーロから視線を逸らすと奴隷商がこれでもかと言う程、楽しげな笑みを浮かべている。

 

 

「素晴らしい程の外道っぷりに私、ゾクゾクしています。アナタこそ伝説の盾の勇者です!」

 

 

 賞賛の観点が間違っている気がする。

 と、その隣にいるラフタリアも微妙な顔でナオフミを見てる。

 

 

「ナオフミ様……さすがにあんまりでは……」

 

 

「こうでもしないと言う事聞かないだろ、コイツは。お前だって最初はそうだったろうが」

 

 

 俺の返答にラフタリアも頷く。

 

 

「そういえば、そうでしたね」

 

 

「納得すんのかよ……」

 

 

 どんな状況だったんだ。

 

 

「ワガママは許せる所と許しちゃいけない所があるんだ」

 

 

「飴と鞭ですね分かります。ハイ」

 

 

「奴隷商、貴様には言っていない」

 

 

「俺には出来そうにないな」

 

 

「というか、メリオダスはニーナに特別な魔物紋を施さなくていいのか?」

 

 

 ナオフミの言葉に怯えた様子のニーナを庇うように抱きしめながらナオフミに返す。

 

 

「ニーナにあんな痛い目に遭わせろとか貴方の血は何色なの!?」

 

 

「いや、別にお前がいいならいいけど、魔物紋の効果発揮しないぞ?」

 

 

「ふふふ、ニーナはフィーロと違っていい子だからな。命令する必要がないんだよ」

 

 

「むー、フィーロいい子だもん」

 

 

「ハハハ、面白い冗談だな」

 

 

「というかなんでこいつらこんなに性格違うんだよ」

 

 

「あれじゃないか。ペットは飼い主に似るってやつ」

 

 

「俺はこんな自由でワガママじゃない。むしろ逆だろ」

 

 

「え?それ本気で言ってんの?」

 

 

「ぶっ飛ばすぞ」

 

 

「お前が?ご冗談を」

 

 

「死ね!」

 

 

 そんな会話を飼い主がしている横では、

 

 

「フィーロ、ナオフミさんを困らせちゃダメですよ」

 

 

「はーい。ごしゅじんさまのいうことちゃんときくー」

 

 

 っと、なんとも微笑ましい会話をしていた。

 

 

「色々迷惑を掛けたな」

 

 

 ナオフミがそう奴隷商に声をかける。

 まあ、かなり迷惑を掛けたな。

 

 

「そう思うのでしたら是非、扱いやすいよう、私共が用意したフィロリアルの育成を——」

 

 

「さて、今日はまだ行く所があるんだ。行かせてもらおう」

 

 

「極力、私共のペースに飲まれないようにしている勇者様の意志の強さに尊敬の念を抱きます。ハイ」

 

 

 こんな調子で話を終えた俺達はテントを後にした。

 

 




 ニーナには特別な魔物紋は施しませんでした。
 ニーナはいい子だからね。
 というか原作でも殆ど使ってないしね。

 それでは第21話もお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第21話 ご褒美

 ああ、1月もそろそろ終わりか。
 投稿を休みたいというより他の小説を書きたい。
 ……休めよ。
 まあ、毎日投稿はさすがにないですが設定とかプロット組んでそう。
 っていうか今もその日の分を書いた後に設定考えてる。
 授業中とかも「こんな話にしたら面白そうだな」とか考えてるし。
 ……やっぱ、自由に書く分には楽しいんだよなぁ。
 締め切りとか決めると一気にだるくなる。

 それでは第21話をどうぞ。


 奴隷商のテントを後にした俺達は武器屋に顔を出した。

 

 

「お、アンちゃん」

 

 

 ナオフミが来るのを待っていたと言わんばかりに親父は手を振る。

 

 

「何かあったか?」

 

 

「おうよ。ちょっと待ってな」

 

 

 そう言って武器屋の親父は店を一度閉店して、俺達を案内する。

 すると俺達に魔法書をくれたあの魔法屋にたどり着いた。

 

 

「あらあら」

 

 

 武器屋の親父と一緒に顔を出すと魔法屋のおばちゃんは朗らかに笑って出迎える。

 

 

「ちょっと店の奥に来てくれるかい?」

 

 

「ああ、フィーロ、俺が許可するまで本当の姿になるなよ」

 

 

「はーい」

 

 

「ニーナもな」

 

 

「はい」

 

 

 魔法屋の奥に入るとそこは生活臭のする部屋と、作業場らしき部屋があった。

 俺達が案内されたのは作業場らしい部屋だ。

 天井がやや高く、3mくらいはある。

 床には魔方陣が書かれ、真ん中には水晶が鎮座している。

 

 

「ごめんねぇ、作業中だからちょっと狭くて」

 

 

「いや……それより、この子達の服はここで売っているのか?」

 

 

「朝一で知り合いに尋ねてみたら魔法屋のおばちゃんが良いものがあるって言うからよ」

 

 

「そうなのよ~」

 

 

 おばちゃんは水晶を外して、台座に古いデザインのミシンっぽい道具を載せる。糸巻き機だっけ? 眠り姫とかの童話で出てくるアレ。

 

 

「その子、本当に魔物なのかしら?」

 

 

「ああ、だから本当の姿に戻ると服が破ける。フィーロ、元に戻れ」

 

 

「ニーナも戻って」

 

 

 ここでなら本当の姿に戻しても大丈夫だろう。

 

 

「うん」

 

 

「はい」

 

 

 2匹は俺らの指示にコクリと頷き、マントを外して元の姿に戻る。

 

 

「あらあら、まあまあ」

 

 

 魔法屋のおばちゃんはフィロリアル・クイーンの姿に戻ったフィーロ達を、驚きながら見上げる。

 

 

「これでいいの?」

 

 

 声はフィーロのままだからなんとも異様な光景だ。

 話す魔物とかはファンタジーの世界のお約束だけどな。

 前の世界には殆どいなかったけど。龍精種(ドラゴニア)ぐらいか?

 まあ、ラフタリアみたいな亜人の類は沢山いたけど。

 

 

「じゃあ服を作るかしらね」

 

 

「作れるのか? 変身しても破れない服が」

 

 

「そうねえ……厳密に言えば服と呼べるのか分からないけどね」

 

 

「は?」

 

 

「勇者様は私が何に見えるかしら?」

 

 

「魔法屋……魔女っぽい」

 

 

 本当に見たまんまだな。

 

 

「そうよ。だから変身という事には多少の知識があるのよ」

 

 

 へぇ。

 俺の知る魔女には確か動物に変身するとか出来たよな。

 七つの大罪でもビビアンが変身してたな。

 

 

「まあ、動物に変身するというのは大体、面倒な手順と多大な魔力、そしてリスクが伴うのだけどね。変身が解ける度に服を着るのは面倒でしょう?」

 

 

 この世界だと変身というのは魔法使いとかなら出来るらしいな。

 おばちゃんは裁縫用の木製の道具を弄りながら答える。

 見たところ俺の世界で言う、ミシンに近い。

 

 

「自分の家とかで元に戻れるのなら良いけど、見知らぬ場所で変身が解けたらそれこそ大変よね」

 

 

「まあ、そうだよな」

 

 

 主に服とかだろう。全裸で歩いていたらそれこそ目立つ。

 というか、通報もんだな。

 

 

「だから変身しても大丈夫なようにそれ相応の服があるの、変身が解けると着ている便利な服がね」

 

 

「なるほど」

 

 

 一理ある。変身中は消えて、変身が解けると着ている服か。

 便利なものだな。

 

 

「魔物のカテゴリーに入ってしまったりする亜人の一部にも伝わる技術なのよ。有名所だと吸血鬼のマントとか」

 

 

 確かに蝙蝠に変身したり、狼に変身する能力があったはずだな。

 てかこの世界にもいるのか。

 会ってみたいが、吸血鬼の設定的にあまり数はいなさそう。

 

 

「で、これがその服の材料を作ってくれる糸巻き機よ」

 

 

「へー……どういう理屈で変身すると服に?」

 

 

「厳密に言えば服……とは言いがたい物かしら、服に見えるようにする力が正確ね」

 

 

 魔法屋のおばちゃんの返答に俺達は揃って首を傾げる。

 どういう意味だ?

 

 

「この道具は魔力を糸に変える道具なの、そして所持者が任意のタイミングで糸か、魔力に変えれる訳」

 

 

「分かりやすく言うと人型になった時、魔力を糸に変えれるようになるってことさ」

 

 

「ああ、そういう事か」

 

 

「なるほどね」

 

 

 武器屋の親父の補足でなんとなく理解する。

 確かに服とは言いがたいかもしれない。人間の姿をしていない時は形の無い魔力となり、所持者の体の中で循環し、人型の時には形を成して服となるってことか。

 どういう原理なんだろ?

 

 

「それじゃあ、まずはフィーロちゃんかしら? この道具のハンドルをゆっくりと回して」

 

 

「うん」

 

 

 フィーロは糸巻き機のハンドルを回し始める。

 すぐに糸が出てきておばちゃんが糸巻き機の先にある回る棒に括り付ける。すると糸はそこに集まって糸巻きとなっていく。

 

 

「あれ? なんか力が抜けるような感じがするよ」

 

 

「魔力を糸に変えているからね。疲れるはずよ。だけどもうちょっと頑張って、服を作るにはまだ足りないわ」

 

 

「うう……おもしろくなーい」

 

 

 ……本質的には子供だからだろう。生後1週間にも満たないからな。

 フィーロはキョロキョロと糸巻き機を回しながらアッチを向いたりコッチを向いたりしている。

 ニーナは大人しいんだがな。

 ニーナは逆にいい子すぎてなぁ。子供なんだから少しくらいワガママ言って欲しい。

 ……フィーロは言い過ぎだけど。

 

 

「こら、ちゃんとしないとダメですよ」

 

 

 ニーナがお姉ちゃんみたいに注意している。

 可愛いけどお宅ら同い年ですよね?

 精神年齢違いすぎないか。

 

 

「うー」

 

 

「我慢しろ、それが終われば約束を守ってやるから」

 

 

 ニーナの注意を受けてもなお不満げなフィーロにナオフミが言う。

 

 

「ゴハン? おいしいもの?」

 

 

「ああ」

 

 

「じゃあがんばる!」

 

 

 ギュルギュルとフィーロが勢いよく糸巻き機を回しだした。

 

 

「わぁ、がんばるわね」

 

 

 おばちゃんも驚きの速さらしい。

 

 

「武器屋の親父、お前とも約束があったな。この後は暇か?」

 

 

「昼過ぎまでは閉店すると店には書置きを残しておいたからな。アンちゃん、何か奢ってくれるのか?」

 

 

「そんな所だ。大きな鉄板とかを用意できないか?」

 

 

「ん? そんなものを何に使うんだ?」

 

 

「料理に使うんだよ」

 

 

「アンちゃんの手料理か? ちょっと期待しているのとは違うんだが」

 

 

「なんだよ」

 

 

 ガッカリした表情の親父にナオフミがムッとする。

 

 

「まあ期待しておくか」

 

 

「じゃあラフタリア、市場で炭と、適当に野菜、肉を買ってきてくれ、フィーロ達の食欲を考えて8人分くらいな。ほらメリオダス、自分達分くらい自分で出せ」

 

 

「ちぇっ、ケチだな」

 

 

 俺とナオフミはラフタリアに銀貨を渡し、買い物に行かせた。

 

 

「ゴッハン~ゴッハン~」

 

 

 フィーロのテンションも高く、糸巻き機がグルグルと回っていく。

 ニーナも少しテンションが上がっている。

 やはり種族が同じだからか食いしん坊のようだ。

 

 

「そろそろ良いかしらね。回すのをやめて良いわよ」

 

 

 それからしばらくして、おばちゃんが回すのをやめさせた。

 

 

「もっと回したらごはん増えるかな?」

 

 

「増えない。もう回すな」

 

 

「は~い」

 

 

 フィーロは魔物の姿でナオフミの元へ戻ってくる。

 

 

「ごしゅじんさま~ごはん」

 

 

「まだだ。服が出来てないだろ」

 

 

「えー……」

 

 

 非常に残念そうにフィーロは声を出す。

 ラフタリアがまだ戻ってないのだからどうしようもないだろ。

 

 

「店を出るときには人の姿に戻るんだぞ」

 

 

「はーい」

 

 

「次はニーナちゃんね」

 

 

「はい」

 

 

 おばちゃんの言葉にニーナがクルクル回し始めた。

 しばらく回した後おばちゃんがニーナをやめさせる?

 

 

「後はこれを布にして、服にすれば完成ね」

 

 

 魔法屋は出来上がった糸を、俺達に見せる。

 

 

「布の方は機織をしてくれる人に頼めば何とかなるだろ」

 

 

「そいつにはあてがある。付いてきな」

 

 

「じゃあ、買い物に出かけたお嬢ちゃんが戻ってきたらなんて言えば良いかしら?」

 

 

「城下町を出る所にある門で待っていてくれと伝えて欲しい」

 

 

「分かったわ」

 

 

 武器屋の親父の勧めで、そのまま俺達は魔法屋を後にする。

 

 

「料金は後で武器屋から頂くわよ~」

 

 

「……幾らくらいになりそうなんだ?」

 

 

 守銭奴のナオフミは気になるご様子。

 ……ニーナもちょっと気になってるな。気にしなくていいのに。

 

 

「魔力の糸化の事? 水晶がちょっと値が張るのよ、勇者様には原価で提供させてもらうけど銀貨50枚よ」

 

 

 これから糸を布にして服に変えるとなると合計でかなり行きそうだな。

 ナオフミはまたイライラしている。

 で、機織をしてくれる人の所に行き、糸を布にしてくれるという話になった。

 

 

「珍しい素材だから、こっちも色々とやらなきゃダメっぽいなぁ……たぶん、今日の夕方には出来上がるから、今のうちに洋裁屋に行ってサイズを測ると良いよ。後で届けとく」

 

 

 との事なので、俺達はそのまま洋裁屋に行く。

 服一つが出来るのにこんなにも時間が掛かるとは……かなり大変なんだな。

 まあ、地球だと機械とかあるからまだマシなのかな?

 

 

「わぁ……凄くかわいい子ですね」

 

 

 洋裁屋には頭にスカーフを巻いたメガネの女の子が店員をしていた。

 ちょっと地味な印象を受ける。

 オタクっぽい。

 

 

「羽が生えていて天使みたい。亜人にも似たのがいるけど……それよりも整っているわね」

 

 

「そうなのか?」

 

 

 ナオフミが親父に聞くと肩を上げられた。

 

 

「羽の生えた亜人さんは、足とか手とか、他の所にも鳥のような特徴があるのよ。だけどこの子、羽以外にそれらしいのは無くて凄いわ」

 

 

「ん~?」

 

 

 フィーロは首を傾けて洋裁屋の女の子を見上げる。

 

 

「ああ、コイツらは魔物なんだ。人に化けている。本当の姿だと普通の服じゃ破けるんだ」

 

 

「へぇ……じゃあ依頼は魔力化する布の洋裁ね。面白いわぁ」

 

 

 何かメガネが輝いてる。

 やっぱりこの子、俺のいた世界じゃオタクに該当するタイプだ。

 

 

「素材が良いからシンプルにワンピースとかが良いかも、後は魔力化しても影響を受けそうにないアクセントがあれば完璧!」

 

 

「へ? あ、へ?」

 

 

「え? あの」

 

 

 マントを羽織ったフィーロ達をメジャーでサイズを測定し、何やらデザインを始める。

 

 

「魔物化した時の姿が見たいわ!」

 

 

 フィーロ達が困り顔で俺達の方を見てくる。

 うん、俺もなんか空気に飲まれそう。

 

 

「ここじゃギリギリだな」

 

 

 天井の高さが2m弱しかない洋裁屋じゃあフィーロ達が元に戻った時に天井に頭がぶつかるな。

 

 

「座って戻る?」

 

 

「まあ、それで良いだろ」

 

 

 フィーロは天井を気にしながら魔物の姿に戻り、洋裁屋の女の子を見つめる。

 続いてニーナも魔物の姿に戻る。

 

 

「おおー……ギャップが良いアクセントね!」

 

 

 フィーロ達の本当の姿にも動じないとは……この洋裁屋、できる!

 まあ、冗談は置いておいて本当に肝が据わってるな。

 

 

「となるとリボンが良いアクセントになるわ」

 

 

 フィーロ達の首回りを測定し、洋裁屋は服の設計を始めた。

 

 

「じゃあ素材が届くのを待っているから!」

 

 

 何やら興奮気味に答えられる。

 

 

「コイツは良い職人なんだぜ」

 

 

「だろうな」

 

 

 ああいうタイプは一度火がつくと凝るタイプだ。仕事は必ずやり遂げるだろう。

 っと、それより1つ言っておかなきゃな。

 

 

「服のデザインはなんでもいいけど水着みたいなのはやめてくれよ」

 

 

 ジブリールを連想するから。

 俺の言葉に全員が首を傾げる。

 

 

「どういう意味だ?」

 

 

「ニーナが知ってる奴に凄く似てるんだよ。だから似たようなカッコにならないようにと」

 

 

「そいつは普段から水着を着てるのか……」

 

 

「いや、水着みたいな服ってだけだ。露出が多いんだよ。それ自体は悪かぁないだがな」

 

 

 そう言うと人の姿に戻ったニーナが顔を真っ赤してモジモジしながら言った。

 

 

「その、ご主人様が、いいなら///……露出が多い服でも、その///」

 

 

「ほほう、それは素晴らしい提案——冗談だからそんな目で見るのはやめろ」

 

 

 悪ノリした俺に武器屋の親父とナオフミの冷たい半眼が向けられる。

 

 

「それにだねニーナくん。露出が多ければいいと言うものでもないのだよ。ニーナほど可愛ければなんでも似合うだろうしな」

 

 

「え、えへへ/// か、可愛いですか///」

 

 

 可愛すぎる。

 

 

「さて、どれくらいで完成するかな」

 

 

「ま、明日には完成しているだろうな」

 

 

 俺ら会話を無視して2人は話し始めた。解せぬ。

 

 

「早いな。それよりも結局、金額は幾らになるんだ? 合計だ」

 

 

「アンちゃんにはどれも原価で提供したとして……銀貨100枚って所だろうなぁ……」

 

 

「フィーロ、分かっているな。お前には銀貨400枚もの大金を掛けたんだ。相応に働いて返してもらうぞ」

 

 

「はーい!」

 

 

「あ、あの!私は——」

 

 

「ニーナは気にしなくていいぜ。俺はナオフミと違って戦力や金のために買ったわけじゃないし」

 

 

「で、でも」

 

 

「いいって。それに俺達に着いてくるなら結局働くなるしな。無理に気負う必要は無いよ」

 

 

 未だ納得していない様子のニーナを連れて俺達は洋裁屋から出る。

 とにかく、やる事は大体終わったので、城下町の門で待っていたラフタリアと合流する。

 

 

「ナオフミ様、言われた通りの食材を買ってきましたよ」

 

 

「フィーロに合計銀貨400枚掛かった。ラフタリアはもっと安かった」

 

 

「私が安い女みたいな言い方しないでくださいよ」

 

 

「そのままの意味で安い女だな、にしし」

 

 

「じゃあ親父、鉄板を持ってきてくれ、フィーロ、お前は荷車を武器屋の前に付けて運んでくるんだ」

 

 

 ラフタリアに睨まれている俺を無視してナオフミは2人に指示を出す。

 

 

「うん!」

 

 

「おうよ」

 

 

「ニーナも行ってこい」

 

 

「はい!」

 

 

 フィーロ達はトテトテと武器屋の親父と一緒に行き、しばらくすると荷車を引いて帰って来た。

 ……なんで人の姿で引いてくるかな。

 荷車には俺の想像の範囲の鉄板が入れてある。

 

 

「よし、じゃあ城を出て、草原の方にある川原に行くぞ」

 

 

 そうして川原に到着した俺達。

 ナオフミは早速、石を詰んで鉄板を置き、下に炭を敷いてから火を点ける。

 

 

「ラフタリアと親父とメリオダスは火の世話をしておいてくれ」

 

 

「あ、ああ……」

 

 

「はい」

 

 

「いいけどこんなに人数いらなくね」

 

 

「フィーロは?」

 

 

「お前はそうだな……バルーンが近寄ってこないか見張っていろ」

 

 

「はーい!」

 

 

 変に好奇心を働かされてフィーロに参加されると失敗しそうだからなんだろうなぁ。

 一応ニーナにフィーロを見張っておくように言っておいた。

 ナオフミは俺らが炭の準備をしている間にラフタリアが調達した野菜や肉を適度な大きさにナイフで切り、一方は鉄串を通していた。

 

 

「炭の準備ができたぞアンちゃん」

 

 

「ああ」

 

 

 ナオフミは熱くなった鉄板の上に脂身の肉を先に乗せて油を滲ませる。

 それから野菜や肉をばら撒き、隅の方で直火で鉄串に指した物を焼いて転がす。

 

 

「アンちゃん器用だなー」

 

 

 武器屋の親父の言葉に俺は感心しながら頷く。

 ナオフミはその間も作業用のナイフや木の棒を使って肉や野菜を焦げないようにひっくり返す。

 

 

「まあ、こんな所だろう」

 

 

 そう、川原でバーベキューが今日の昼飯のようだ。

 

 

「フィーロ、ニーナ、できたぞ」

 

 

「はーい」

 

 

「分かりました」

 

 

 匂いで既に涎を垂らしたフィーロとさすがに涎は垂らしていないがテンション高めのニーナがやってきてナオフミの渡したフォークを使って肉や野菜を食べる。

 

 

「わぁ! 凄く美味しい!」

 

 

「美味しいです!」

 

 

 パクパクとフィーロとニーナは本当の姉妹のように焼きあがった肉や野菜を口に放り込んでいく。

 

 

「コラ、みんなの分もあるんだから全部食うなよ」

 

 

「ふぁーい」

 

 

「わふぁっていまふ」

 

 

 頬張りながら頷くフィーロとニーナ。

 可愛い。

 

 

「そんな訳だ。お前らもも食え」

 

 

「はい」

 

 

「おうよ」

 

 

「ふへへ、美味そうだな」

 

 

 ナオフミが渡した葉っぱを小皿に俺達もナオフミが焼く肉と野菜を食べ始める。

 

 

「お、こりゃあ美味い。ただの焼いた肉がこんなに美味しいなんて驚いた」

 

 

「何故かナオフミ様が作る料理は不思議と美味しいんですよね」

 

 

「ガツガツむしゃむしゃ」

 

 

「世辞として受け取っておく。ってメリオダス勢いよく食いすぎだろ」

 

 

 うめぇんだよ。

 

 

「お世辞じゃねえよ。これ、店が開ける次元じゃないか?」

 

 

 親父が首を傾げながら料理をついばんで行く。

 俺も口いっぱいに頬張りながらうんうんと頷く。

 

 

「理由として考えられるのは習得した料理スキルの所為だろうな」

 

 

「盾の力か?」

 

 

「ま、そんな所だ」

 

 

 なんでも出来すぎだろ。

 

 

「不思議な盾だよなぁ。本当に羨ましくなって来たぜ」

 

 

「外せねえし、かなり不便なんだぞ」

 

 

 攻撃力無いしな。

 

 

「アンちゃんも大分強くなってきたんじゃないか?」

 

 

「他の勇者と比べたらどうか分からないな」

 

 

「そうだろうけど、伝説の武器ってどんな力が備わるんだ?」

 

 

「そうだな……俺の経験則だが良いか?」

 

 

「ああ」

 

 

「じゃあ——」

 

 

 盾を解放する度に色々な技能を修得しているので、ある程度やれば人並み以上には出来るのが伝説の武器に備わっている力のようだ。

 しかもステータスアップの類は能力解放すれば累積してナオフミのステータスに付与される。

 モンスター、素材、レベル、ツリーに繋がる盾、など複数の条件を満たせば変化させ装備できる。

 そして盾を装備して能力を解放すれば専用効果以外は永続的に効果を得られる。

 解放さえすれば、弱い盾でもそれなりに防御力も維持できるという事だ。

 装備ボーナスは引き継がれるので、態々別の盾にしなくても技能は発動するし、解放後は使っていない盾の方が多いようだ。

 ステータスにはどれだけ付与されたか、一応の数字として見れる。ラフタリアと比べるとナオフミの総合ステータスの方が高いらしい。

 曲がりなりにも勇者という事だろう。

 

 

 特に防御力だけ見たら3倍以上もあるみたいだ。更にこれに加えて盾の解放による永続効果も加わる。さすが盾。

 元々攻撃を受けないラフタリアには良い防具を与えていないので一概には言えないが、盾の勇者としての潜在能力は、やはり防御力に重点を置かれている。その代価として攻撃力は10分の1以下のご様子。

 代価が高すぎるなぁ。

 

 

 この世界の住人と勇者の違いはこの盾による付与効果による差なのだろう。

 伝説の武器の補正が加わる事によって勇者が形成されていくと見れば、勇者と普通の人の違いは、やはり武器に集約する。

 伝説の武器によってナオフミを含む勇者達は特別なのだろう。

 

 

 それは勇者の仲間にまで影響を及ぼす。

 奴隷使いの盾によってラフタリアは普通の亜人よりも能力に優れ、フィーロに至っては、まだLvが追いつかれていないのにラフタリアを上回っている部分が多い。

 成長補正の効果がどれだけあるのか分からないが、相当な補正が掛かっていると思われる。

 ナオフミは奴隷使いの盾と魔物使いの盾だったが、仮に仲間の盾や友の盾の様な物があったなら、影響を及ぼすはずだ。

 つまり勇者にとって仲間という存在は必要不可欠。

 ていうかニーナもフィーロも同程度のステータスなんだよな。

 なんでだ?

 

 

「なるほどなぁ……勇者は一般人とは根底が違うと言う訳か」

 

 

「そうなんだろう」

 

 

「勇者っていうむしゃむしゃ、種族なのかもなガツガツ」

 

 

「食べながら喋るな」

 

 

 世界中を巡って、様々な魔物や素材を武器に吸わせ、成長させて強くなる。旅でもした方がいい気がするな。

 

 

「そういえば、カースシリーズという盾についても気になるんだよな。波が終わった後にクズ王やビッチに国ぐるみでハメられたことに気づいた時に盾を侵食して解放されたはずのカースシリーズという盾なんだけど。あれから俺は何度もツリーを探してみたけど見つからないんだよ」

 

 

「カース?」

 

 

 呪いとかの意味だっけ?

 

 

「ヘルプで見てみても「触れる事さえ、はばかられる。」っで終わってて、しかも何度も調べると。視界に電撃が走り文字が変わるんだよ。「手を染めし者にそれ相応の力と呪いを授ける武具。勇者よ、触れることなかれ。」ってさ」

 

 

「ホラーかよ……」

 

 

 条件が厳しい盾なのかな?

 

 

「ごしゅじんさまーお肉なくなった」

 

 

「なに!」

 

 

 見ると既に肉が無い。鉄串に刺した奴も既にみんなが食べきっていた。残っているのは野菜だけだ。

 

 

「もうお仕舞い? フィーロ食べ足りない」

 

 

「こらっ、フィーロ野菜も食べなさい!」

 

 

「うー、お肉がいい!」

 

 

 珍しくフィーロがニーナの言うことを聞かない。

 ……どんだけ食いしん坊なんだよ。

 ていうかフィーロお前雑食だろ。

 肉だけじゃなくて野菜も食えよ。

 ニーナは食ってるぞ。

 

 

「はぁ……じゃあ、草原を抜けた森にいるウサピルを5匹くらいとって来い。追加で焼いてやる」

 

 

「はーい!」

 

 

 フィーロは全速力で森にまで走って行った。

 

 

「……ニーナも行ってきていいんだぞ」

 

 

「え!?いや、でも……」

 

 

 フィーロを羨ましそうに見ていたニーナに言うとナオフミを見ながら悩んでいる。

 

 

「遠慮すんなって」

 

 

「は、はい」

 

 

 ニーナも野菜を頬張りながら森まで走っていった。

 

 

「作るの俺なんだがな」

 

 

「手伝いくらいしてやるから頼むよ」

 

 

「しょうがないな」

 

 

「いやぁ、美味い。こりゃあ得をしたな」

 

 

「そう思うなら服の代金を割り引け」

 

 

「これ以上割り引いたらこっちが大損だぞアンちゃん」

 

 

 まあ、こんな感じで今日は夕方近くまで川原でバーベキューをして一日を終えた。

 ちなみにフィーロはウサピルを10匹ほど捕獲してきた。

 ニーナも同様。

 ナオフミに至っては殆ど食べる暇も無く、ウサピルの解体と焼肉作りで終わった。

 解体は手伝ってやったが料理はどうしようもない。

 ナオフミが作らないとそこまで美味しくならないし、俺が作れば美味しくないどころか激マズ料理に大変身だ。

 

 




 最近原作と殆ど同じで書いてる側としてもつまらない……。
 オリジナル展開予定になかったけど入れてしまおうか。
 でも思いつきでやると後々面倒なことになりそうだしなぁ。

 それでは第22話もお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第22話 衣装

 明日でついに終わりだッ!
 長かったような——長い時間だった……。
 次にやることがあれば書き溜めをしようか。

 それでは第22話をどうぞ。


 翌日。

 洋裁屋に顔を出すとあのオタクっぽい店員が笑顔で出迎えてくれた。

 

 

「はいはーい。服は出来てますよー。久々に徹夜しちゃった」

 

 

 その割りにギンギンとテンションが高い様子の洋裁屋。その洋裁屋は店の奥からフィーロ達の服を持ってきた。

 フィーロのは基本色が白のワンピースだった。真ん中には青いリボンに所々青い色を使ったコントラストが施されており、素朴だけど綺麗に作られているのが分かる。

 ニーナのは基本色が薄い桃色のワンピース。真ん中のリボンは赤色で所々黄色のコントラストが施されている。

 ……色合いがジブリールの衣装に似ているところには突っ込むまい。

 

 

「わあ……!」

 

 

「ごしゅじんさまーこれを着るの?」

 

 

「ああ」

 

 

「わーい!」

 

 

 今までマントを羽織っていたフィーロはその場で全裸になろうとする。

 

 

「ダメです」

 

 

「えー」

 

 

 それをラフタリアが止めて、ニーナも一緒に店の奥へと案内してもらう。

 俺はナオフミと一緒に店内で着替えてくるのを待った。

 

 

「じゃあ魔物の姿にも変わってね」

 

 

 あの店員の声が店の奥から聞こえてくる。

 

 

「なんでー?」

 

 

「じゃないとリボンが肉に食い込みますよー」

 

 

「やー!」

 

 

 微妙に怖いことを言うな。

 

 

「分かったー」

 

 

 ボフンボフンと変身する時に聞こえる音が2回して、そして。

 

 

「うん。やっぱり似合うわぁ……」

 

 

 なんともうっとりするような声が聞こえた。

 

 

「じゃあ行きましょうね」

 

 

「うん!」

 

 

「はい」

 

 

 店の奥から女性陣が出てくる。

 その中のフィーロとニーナの姿を見た瞬間、俺は店員の手を握って、言った。

 

 

 

「……弟子にしてください」

 

 

「「「はあ?」」」

 

 

 フィーロ以外の全員の声が一致した。

 

 

 その2人の天使はマントを羽織っていただけの先ほどと違い、2人の完成された容姿にマッチした素晴らしい衣装を着ており、男女問わずロリコンにしてしまうだろう。

 

 

「こんなアルティメッツプリティなニーナとフィーロにここまで似合う服を作れるとんでもねぇセンスに惚れました!是非ともこの虫けらめにご教授ぅぅ……?」

 

 

 店員の手を握ったまま、弟子入り志願をしていると突然横からニーナに抱きつかれ店員から離された。

 

 

「うー! うー!」

 

 

 そう呻きながら、頬を膨らませて俺の胸に顔を埋めてぐりぐりと押し付けている。

 ……ぐはぁ!わ、我が生涯に一片の悔いなし!

 

 

「かぁぁわいいなぁぁぁぁ、ニーナちゃんは!!嫉妬したのかぁぁぁあ!萌死してしまうではないかぁぁあ!!!」

 

 

「ふえ///ちょ、ちょっと///」

 

 

 ニーナを抱き締め返し、ニーナの頭に頬擦りをする。

 ……大丈夫。メリオダスの外見年齢はせいぜい中学1年程度。

 犯罪にはなら……ない、よな?

 ……ナオフミとラフタリアに冷たい視線を向けられているのはスルーで。

 

 

 服の代金は既に武器屋の親父に払っている。

 そこそこ高かったが後悔はないというか凄く嬉しい。

 拠点にしているリユート村へ戻る為にフィーロ達に荷車を引かせる。

 あの服、フィーロ達が魔物の姿になると確かに消えて、リボンがフィーロ達の首輪に変わるという離れ業をかます様になっていた。

 高いだけあって便利な機能が備わっている物だ。

 

 

「あ、盾の勇者様」

 

 

 魔法屋のおばちゃんが城下町を出るときに偶然会う。

 

 

「リユート村に行くのかい?」

 

 

「ああ」

 

 

「私もちょっと用事で行くんだよ。ついでに乗せてってくれないかい?」

 

 

 魔法屋のおばちゃんは笑顔で提案してくる。

 まあ、どうせ行きがけの途中だしな。

 

 

「乗り心地は保障しないが良いか?」

 

 

「ええ」

 

 

 ラフタリアは既に乗り物酔いと戦う為になんか遠くを見ている。

 

 

「じゃあ失礼して」

 

 

 魔法屋のおばちゃんはナオフミの荷車に乗る。

 

 

「よし、フィーロ。あんまり速度を出さないように進めよ」

 

 

「はーい」

 

 

 通りかかった通行人がフィーロの方を見て驚いている。喋る魔物は珍しいのだろう。

 トコトコと2つの荷車は縦に並んで道を進んでいく。

 ナオフミの荷車で何やら話をしているようだがよく聞こえなかった。

 リユート村に到着すると魔法屋のおばちゃんはナオフミにに銅貨25枚くれた。

 

 

「これは?」

 

 

「運んでくれた料金よ」

 

 

「ああ、なるほど」

 

 

 リユート村は合いも変わらず復興中だ。宿屋に顔を出すと店主が快く俺達を出迎えてくれる。

 一応としてキメラの肉について謝罪しておいた。

 あっちも無いなら無いでしょうがないと妥協してくれたので助かる。

 

 

「さて、これからラフタリアの乗り物酔いの訓練と材木運びに出かける」

 

 

 肉の賠償として復興の手伝いをすると約束した。少ないが報酬もくれるとの話だ。

 

 

「え!?」

 

 

 ラフタリアが渋い顔をする。まあ、苦手の克服となったらしょうがないか。

 

 

「これから俺達の移動手段はフィーロとニーナの引く荷車になるんだぞ、慣れろ」

 

 

「は、はい」

 

 

「はーい!」

 

 

「フィーロ、お前は引く側だ」

 

 

「うん!」

 

 

 フィロリアルは本当に荷車を引くのが好きなんだな。フィーロの目がメチャクチャ輝いてる。

 ニーナも嬉しそうだ。

 

 

「あの……何か考えが?」

 

 

「ああ、これから俺達は行商を始めようと思うんだ」

 

 

「行商、ですか?」

 

 

「あんまり品揃えは良くないが薬を基本にな、後は運び屋とかだな、手広く行きたい」

 

 

「はぁ……」

 

 

「ふむぅ」

 

 

 ラフタリアはピンと来ないようだ。

 なるほどなぁいい考えではある。

 せっかくの荷車があるのだから利用しない手は無いしな、

 

 

「と言う訳で、運び屋もするとなるとフィーロ達の最高速で荷車を引いていく事にもなる。その度に乗り物酔いで倒れられたら俺も困るんだ」

 

 

「さっきにみたいに客を乗せる場合は最高速を出す訳にはいかんけどな」

 

 

「その時はゆっくりさせればいいさ」

 

 

「理由は分かりましたけど……」

 

 

「何……酔いにくいと言われる場所を知っている。最初はそこで慣れるといいさ」

 

 

「そんな所があるんですか?」

 

 

「ああ」

 

 

 俺もそれは知らないな。

 俺が気になっているとナオフミはラフタリアをフィーロの背中に乗せた。

 

 

「酔いにくい場所ってそこかよ」

 

 

「ごしゅじんさまが良いのに、なんでお姉ちゃんを背中に乗せなきゃいけないの……」

 

 

 フィーロはラフタリアを背中に乗せてブツブツと呟く。

 

 

「それはこちらも同じです。これ、かなり恥ずかしいんですよ」

 

 

 フクロウみたいな体形をしているフィーロが中腰でラフタリアを乗せると何か変な感じだな。

 

 

「きつくはないか?」

 

 

「うん。楽だよー」

 

 

 元々の体形に近いからなのか、フィーロ自身は問題ないらしい。

 

 

「じゃあ行くか」

 

 

「うん!」

 

 

「あ、メリオダスは薬のレシピ本の解読を手伝ってくれ」

 

 

「解読って……」

 

 

 呟きつつ、俺はフィーロの荷車に乗った。

 ……ニーナが寂しそうにしてたけどしょうがないんだよ。フィーロはニーナより我慢しないからナオフミをニーナの方に乗せるとか言ったらやかましいし。

 後で埋め合わせをしておこう。

 

 

 そうして、フィーロはラフタリアを乗せながら荷車を引いて行く。

 結構な重量のはずなのに、本人曰くそこまで重くないとか。

 俺はその間に、ナオフミに文字を教えながら薬の中級レシピの本の内容を読み進めていく。

 どうやらさっきの魔法屋のおばちゃんに魔法の勉強の状況を聞かれ、文字が読めないことを理由に進んでいないことを話したら謝られてしまったらしい。

 おばちゃんの善意に報いるべくなるべく早く文字を覚えたいようだ。

 ……やっぱ、根っこの部分は変わらないんだな。

 

 

 ……ゴトゴト。

 …………ゴトゴト。

 

 

 心地の良い車輪音をバックミュージックに授業をしていると。

 

 

「あの……」

 

 

 ………………ゴトゴト。

 

 

「あ、あの……」

 

 

「ん?」

 

 

「なんだ?」

 

 

 ふと気が付いてフィーロの方を見ると何故か人型になってラフタリアを背負っている。ラフタリアが困り顔で俺達に何度も話しかけていたのだった。

 ヒソヒソと通りすがりの冒険者が俺達を指差しながら囁き合っている。

 

 

「変な噂が出るような事をするんじゃない!」

 

 

 奴隷の女の子に女の子を背負わせた挙句、荷車を引かせて強制労働させている。なんておかしな噂が流れたらやっと良くなってきたナオフミの風聞がもっと悪くなるだろうな。

 注意をするニーナは残念ながらフィーロの荷車の後ろにいたので気づかなかったようだ。

 

 

「えー……」

 

 

「荷車を引いているときも人化するな」

 

 

「はぁい」

 

 

 不満そうにフィーロは頷き、魔物の姿に戻る。

 たぶん、退屈なのだろう。ラフタリアもまだ乗り物酔いをしていないようだ。

 ならば少しハードにしても大丈夫だろう。

 

 

「よし、じゃあスピードアップだ」

 

 

「わーい!」

 

 

 ナオフミの指示にフィーロはテンションを上げて頷き走り出す。

 ガラガラガラ!

 荷車の車輪が音を立てて回る。

 それを見たニーナも走り出した。

 

 

「わ!」

 

 

 ラフタリアが驚きの声を出し、フィーロにしがみ付く。

 まあ、目的地まで早くたどり着けるだろう。

 ……ちょっと速すぎる気がするが。

 この速度の中本を読むのはキツイぜ。

 

 




 ニーナの衣装のイメージが湧かない人はフィーロの衣装を検索して本編の色に変わっていると想像してみてください。
 それでもイメージが湧かないひとはジブリールの服の色合いのワンピースと思っていれば結構です。

 それでは第23話もお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第23話 馬車の旅

 今日で毎日投稿終了!!!
 頑張ったぞ俺。
 よくやったぞ俺。
 1週間休んだけどな俺。

 しばらくはこの作品はお休みして他の2ヶ月以上放置作品達を書いていきます……約1つモチベが著しく低いですが。
 後、「盾の勇者の成り上がり」の原作もまだ読み終わってないのでそれも読まないと。
 前も言った気がしますが本編は全部読み終わっているんですけど外伝の「槍の勇者のやり直し」がまだ読み終わってないんです。
 読まねば(使命感

 それでは第23話をどうぞ。


「うう……到着したんですか?」

 

 

 目的地に到着し、若干グッタリしているラフタリアを見てナオフミは唸っていた。

 前よりは問題なさそうだけど、まだ爆走するのは無理だな。

 

 

「小屋に着いたよ?」

 

 

 フィーロはまだ走り足りないようで荷車を止めても足をばたつかせている。

 ニーナも同感のようで不満そうだ。

 いや、俺を乗せられなかったことかな?

 ラフタリアは気持ち悪そうにフラフラしている。

 

 

「じゃあ材木を運ぶか」

 

 

「了解っと」

 

 

 小屋から出てきた木こりと一緒に材木を荷車に載せる。

 ついでに木こりと一緒に伐採作業も行った。

 メリオダス(おれ)の身体能力にその場の全員が驚いていた。

 とりあえず、ラフタリアの乗り物訓練はしばらく続いた。

 そのついでにナオフミが材木を盾に吸わせていた。

 なんでも吸うな、その盾。

 

 


 

 

 数日後。

 カンカンカン。

 俺達は自分の荷車を馬車に改造する為に木槌片手に精を出していた。

 ノゲノラゼロの世界で多少の木材加工なら経験した。

 後は、復興がある程度まで進んだリユート村の村人達に手伝ってもらいながら、何とか進めた。

 荷車の上に骨組みを追加でつけて、後は上に厚手の布を被せて止める。

 ニーナも手伝ってくれたがフィーロは遊んでいた。

 まあ、フィーロだと下手に手伝わせると逆に邪魔をしそうだからな。

 

 

「よし、こんな所だろう」

 

 

「そうだな」

 

 

「やりましたね!」

 

 

「完成ですね」

 

 

 数名の村人と一緒に馬車を完成させて祝う。

 

 

「手伝ってくれた事を感謝する」

 

 

「俺からもお礼を言うよ。ありがと」

 

 

「いえいえ、勇者様達には色々と協力して頂きましたのに、この程度しか力になれず申し訳ありません」

 

 

 村の奴等、いい笑顔で俺達に力を貸してくれていた。

 命の恩人とは言ってもそれに甘えるわけには行かない。だけど、ここは素直に感謝の気持ちを抱く。

 

 

「そう言ってもらえると嬉しい」

 

 

「ああ」

 

 

「行商をするのでしたっけ?」

 

 

「具体的には何でも屋だな、村から村、町から町へ荷物運びをしながら商品を売り、人を運ぶ」

 

 

「はぁ……」

 

 

 村人の奴等もさすがにピンと来ないようだ。

 まあ、伝説の勇者のする行動ではないのは事実だが。

 まあ、せっかくフィーロ達がいるのだから使わない手は無いな。

 

 

「ん? うわぁ……荷車が馬車になったー」

 

 

 先ほどまで人型の姿で遊んでいたフィーロが荷車が大きく変わって驚いている。

 ……気づくのが遅い。

 

 

「これをフィーロが引くの?」

 

 

 目をキラキラと輝かせて、フィーロはナオフミに聞く。

 ニーナは作ってる最中からずっと目を輝かせていて、やる気は俺達の中で1番あった。

 

 

「ああ、そうだ。お前はこれからこの馬車を引いて、国中を走るんだ」

 

 

「ホント!?」

 

 

 とても楽しげにフィーロは声を上げる。

 俺だったら重労働に嫌気がさしそうな仕事だと言うのに……。

 あ、いや前回の世界でも似たようなことしてたな。

 木材と食料収集。

 

 

「本当にやるんですね」

 

 

 ラフタリアが憂鬱気味に呟く。

 未だに乗り物酔いを完全に克服していないラフタリアはどうも馬車の旅に乗り気ではない。

 

 

「いずれ慣れる。それまでの辛抱だ」

 

 

「はい」

 

 

 ナオフミの言葉にラフタリアは頷いた。

 ナオフミはフィーロに顔を向けて何度目かの確認する。

 

 

「フィーロ、お前の仕事は?」

 

 

「えっとね。フィーロの仕事は馬車を引いてごしゅじんさまの言うとおりの場所に行くこと」

 

 

「ああ」

 

 

「そして槍を持ったあの人を見つけたら蹴ること」

 

 

「正解だ」

 

 

「後半は違います! なんですかそれは?」

 

 

 ラフタリアが異議を唱える。

 そんなラフタリアをナオフミは「何を言っているんだ?」とばかりの目を向ける。

 

 

「なんですか……そのまるで私がおかしいみたいな目は」

 

 

 ナオフミとフィーロに俺は苦笑、ニーナは困った顔をしている。

 さすがにニーナがフィーロの主の命令を叱るわけにもいくまい。

 まあ、元康が全面的に悪いからフィーロの教育に良くないんじゃないかという心配以外特にないが。

 

 

「ニーナはしなくていいからな。するとしても俺がする」

 

 

「え? あっはい」

 

 

 俺はあのビッチ女辺りでも蹴ろうかな?

 

 

「さて、じゃあこれから行商の始まりだ。俺は馬車の中に隠れているからラフタリアとメリオダス。お前らが最初に村や町に着いたら物を売るんだ」

 

 

「はぁ……分かりました」

 

 

「了解!」

 

 

 ナオフミの悪名はリユート村近隣以外では未だに轟いている。だから下手にナオフミが交渉に出たら売れるものも売れない。

 だから俺とラフタリアが販売と交渉を担当することになっている。

 特にラフタリアは容姿に優れる。人見知りする訳でもないし、客商売に向いていると見ていいだろう。

 俺は子供だと舐められそうだが、そんな奴は脅——いや、それだと別の悪名が轟きそうだな。

 まあ、ラフタリアがいれば大丈夫かな?

 

 

「では出発するとしよう」

 

 

 準備を終えた俺達は馬車に荷物を載せて、フィーロ達に引かせる。

 

 

「あ、勇者様」

 

 

「ん? どうした?」

 

 

 リユート村の連中が総出で俺達の出発に集まってくる。その中で一際衣服の良い壮年に入りかかった男がナオフミの前に来る。

 

 

「私はこのリユート村を国に任されている領主です。盾の勇者様、今までどうもありがとうございました」

 

 

「気にするな、ちょうど拠点にこの村がよかっただけだ」

 

 

「……これを」

 

 

 領主はそう言って一枚の羊皮紙をナオフミに手渡す。

 

 

「これは?」

 

 

「行商をする上で役に立つ商業通行手形です」

 

 

「商業通行手形?」

 

 

「はい。この国では行商をする時、各々の村、町に着いたら一定の金銭をその地域の領主に振り込まねばなりません」

 

 

 ……そうだったのか。まあ、勇者の権力を振りかざし……ってナオフミの悪名が祟って悪影響を与えかねないか。

 力づくも同じくダメだろうな。

 

 

「そこで私の判を押した商業通行手形の出番です。これさえあれば基本的には金銭を払う必要は無くなります。どうかお役に立ててください」

 

 

「えっと……良いのか?」

 

 

「はい。私は勇者様が行った事に対して相応の対価を支払わねば村人に合わせる顔がありませんので」

 

 

 考えてみればここはメルロマルク国の近くにある農村だ。交通の便も良いのでここの領主をしているというのはそれだけ権力や威厳も必要となる。

 俺達が波で被害を最小限に抑えたのはリユート村の連中の目に入っている。いや俺の場合は見えなかったのかな?

 まあともかく助けられたのは事実だ。悪名が響き、王様に睨まれても村人の為に苦渋の決断を背負わされた……にしては顔が明るい。

 

 

「……アナタの悪名が商売の障害にならないようにするための配慮です」

 

 

 善意的に受け取ってくれている。だからかナオフミは素直に感謝した。

 

 

「感謝する。使わせてもらう」

 

 

「いってらっしゃいませ」

 

 

「……ああ、行って来る」

 

 

「私達も勇者様の仕事の助けになるよう。色々とご協力させていただきます」

 

 

「自分達の生活に無理が出ない程度に頼む」

 

 

「はい!」

 

 

 こうして俺達は何でも屋として旅立つことになるのだった。

 

 


 

 

 手始めに行ったのは薬の販売だった。

 品は少ないけれどそれを相場より安めで売る。

 目玉は治療薬と栄養剤らしい。これだけは初級よりも高位の薬らしいのでそれなりに高値で売れるというわけらしい。

 ……商人の才能あるね。

 そして立ち寄った村で知っている薬草などを買い取り、移動中は薬に調合しておく。

 基本的にフィーロ達の足が速いので一日の内に次の村に辿り着けるのだが、稀に野宿になるときもある。

 そういう時は馬車を止めて、焚き火を起こして食事を取る。

 

 

「ごしゅじんさま! フィーロの隣! あいてるよ。一緒に寝ようよ!」

 

 

 ナオフミにパンパンと自分の隣を魔物の姿で座って欲しいと懇願するフィーロ。

 

 

「お前の隣は暑いんだよ……」

 

 

 フィーロはナオフミと一緒に寝たがる。宿屋で魔物の姿になるなと命令したからか、野宿だと尚の事、ワガママを言う。

 ニーナ? ニーナはもちろんいつでもどこでも俺と一緒にぐっすりです。

 

 

「フィーロは本当にナオフミ様が好きなんですね」

 

 

「うん! ラフタリアお姉ちゃんには負けないよ」

 

 

「なんでそうなるんですか!」

 

 

 何か微妙に仲が悪いような良いような喧嘩をラフタリアとフィーロはする時がある。

 「()()負けない」じゃなくて「()()負けない」か。

 ナオフミの取り合いだな。

 ナオフミは2人を子供の喧嘩を見守るような視線で見つめている。

 

 

「はいはい。二人とも早く寝ような。交代になったら起こすぞー」

 

 

「あーまたフィーロをこども扱いするー!」

 

 

「そうです! 子供扱いしないでください」

 

 

「そうだなーラフタリアもフィーロも大人だよなー」

 

 

「絶対にそう思ってない!」

 

 

「うん! ごしゅじんさまヒドーイ!」

 

 

 実年齢的には二人とも子供だがラフタリアは見た目も精神年齢も大人なんだから子供扱いすることないと思うんだがなぁ。

 フィーロ? フィーロは実年齢も外見年齢も精神年齢も子供じゃないか。

 ニーナは精神年齢は高いような気がするが、なんか大人ぶろうとしている子供みたいな感じだからなんとも言えないな。

 

 

「さて、あっちは置いといて俺達は寝るか」

 

 

「はい!」

 

 

 魔物の姿で準備万端だとポンポンと隣を叩く。

 

 

「いや、メリオダスは最高戦力なんだからずっと起きてろよ」

 

 

「知ってるか? 人は寝なきゃ死ぬんだぜ?」

 

 

「昼間に寝れば問題ないな」

 

 

「鬼畜かお前は!!」

 

 

 なんて馬鹿な会話をしつつ、俺達の行商は続いていった。

 

 




 ニーナは寝る時魔物の姿だったり、人の姿だったりします。
 ニーナの気分で変わります。
 メリオダス的にはどっちでも嬉しいね。

 次回はいつになるか分かりませんがまあ、1ヶ月は開けません。

 それでは第24話をお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第24話 行商

 皆様お久しぶりです^^;
 1ヶ月も開けないとかほざいておきながらお待たせしてしまい申し訳ございませんでしたm(_ _)m

 そして、更新開いている間にアニメに越されましたね^^;
 とりあえずフィーロたん可愛い。
 意外と原作と違う部分があって驚きました。書籍版だとあるのかな?
 楽しみにしていた元康がフィーロに蹴られるシーンもきっちりあって私大満足です(*´ω`*)
 元康とのレースとかこの作品でもやりたかったなぁ。もう遅いけど。
 温泉街のはまだ間に合うからやろうかなぁ。尚文の冤罪が晴れた後のカルミラ島で露天風呂のイベントがあるからどうしようかなぁ。
 というかアニメだと温泉街に行く前は結構ラフタリアとフィーロが険悪ですね。
 中途半端に混ぜるとめんどそうではあるんだけど温泉街に寄るくらいだったら問題ないかな?
 疫病が流行っていた村も報酬払うのが治療師になってたり、細かな変更が色々あったなぁ。憤怒の盾もやばかったし。

 後、原作を読み進めてたら尚文の傍に強いヤツがいると暗殺されそうになってしまうみたいですね^^;
 もちろんメリオダスが傍にいるのにそんなこと出来るわけはないんですがさて、どうしたものか。
 メリオダスの強さで暗殺は無理だと判断した——はあのパッパラパーのクズ共じゃしないかなぁ。でもそれ以外に思いつかないしなぁ。
 今からでも遅くないかな。暗殺者を撃退するイベントを入れるか?
 って暗殺者を送るなら城下町付近をウロウロしてる時に送るよなぁ。

 どうでもいいですが毎日投稿が終わった後に気が付きましたがノゲノラにもニーナって名前のキャラいましたね。メガネかけた男の娘。
 名前以外見た目も性格も口調も性別すら違うのでホントどうでもいいですね。

 今回は難産でした……。今回の展開をどうするかかなり本気で悩みました。
 活動報告でも言いましたがこの先を原作沿いのまま行くか、変更するかをずっと悩んでました。
 前話を投稿した時は変更するつもりだったんですけどそれによって生じる面倒事を考えると原作沿いの方がいいかなぁと。でも助けたいキャラいるしなぁと。
 まあ、詳しくは活動報告を読んで頂きたいのですが、色々考えて皆さんに意見を募集した次第です。
 しかし、原作に沿いつつ、助けたいキャラを助けるアイデアが自分で浮かんだので解決しました……募集した意味よ。
 取り敢えず原作と変わるのはドラゴンゾンビ戦とナオフミへの指名手配からになります。それまではちょこちょこ変わりますが大きな変更はありません。

 それでは前置きが長くなりましたが、第24話をどうぞ。


 2週間位経った頃には、どうも珍しい魔物を連れた何でも屋として近隣では有名になり始めていた。

 有名になるというのは信用を得るという事であり、馬車に乗り込む客も増えてくる。

 結果的に金銭も少しずつ上昇傾向になってきた。

 ナオフミの盾の1つにあったスキルで薬効果上昇なるものがあり、治療薬を求めるものには直接飲ませるようにしていた。

 それのおかげで効果が劇的に上がったようだ。

 さらに、俺は寄った村を困らせる魔物を狩ったりなどもしていた。

 他の勇者達がいるから問題ないのではと思うかもしれないが、勇者に頼る程ではないが常駐している騎士や自警団などでは厳しい魔物がそこそこいるらしい。これも波の影響だろう。

 これもそこそこ金になった。

 

 

 行商の旅の長所は何個かある。

 まずは移動中に作った薬が売れる。

 次に、移動中に出てくる魔物を倒してナオフミの盾の種類が増えている。殆どが弱いものらしいが。

 旅を始めてわかった事だが、地方によって魔物の種類はガラリと変わる。

 強さは大して変わらないので俺無双は続く。というかこの世界にいる間はずっと続きそうだなぁ。

 弱い魔物でも盾に吸わせる事で強くなるナオフミには、行商は結果的に正解だったと考えて良いだろう。

 

 

 そして、様々な情報が耳に入ってくる。

 今まで知らなかったがナオフミ以外の三馬鹿勇者がどの辺りを拠点に活動しているのかが推測できるようになった。

 

 

 モトヤスは城から南西地域を重点的に回っているようで、話によると飢饉で苦しんでいた村を、伝説に存在する作物の封印を解いて救ったとか聞く。

 ナオフミ以外の勇者は召喚前の世界のゲームでこの世界を知っていたらしいので大方、ゲームとかで知った知識を使っているのだろう。

 俺もしたいけど盾の勇者って単語に聞き覚えはあるんだが全く思い出せない。聞いた事あるだけなんだろうか。

 

 

 レンは城から南東地域を拠点にしているらしいが、凶暴な魔物が生息する地域なら何処へでも行く傾向があるようだ。東の地で凶暴なドラゴンが暴れていたのを討伐したとか、様々な噂が流れてくる。

 うん。東の地でドラゴンね。

 嫌な予感しかしないけど今更行っても遅すぎるし、せめてあの獣人の少女が無事なことを祈ろう。

 

 

 イツキは……何がしたいのか良く分からないけど、メルロマルク国から来訪した冒険者として北方にある小さな国の悪政を布く支配者をレジスタンスと一緒に倒したとか噂が流れてくる。

 ただ、イツキだと特定する決定的な材料が欠けていて良く分からない。何か弓を持った冒険者が一番強かったとか……イツキを連想させる様な、そんな曖昧な話しか聞かないのだ。

 

 

 まあ、そんな感じで馬車の旅は続いていったのだが、1つ問題が発生していた。

 それを説明する前にまずはナオフミ達のLvを確認して欲しい。

 

 

 ナオフミ Lv41

 ラフタリア Lv40★

 フィーロ Lv40★

 ニーナ Lv40★

 

 

 ……魔物だからかニーナ達の上がりが異常だ。

 この頃になるとニーナの身体的能力の上昇が顕著になり、馬車を両手(翼?)で引いていたフィーロが片手で欠伸交じりに引くようになった。

 もちろんナオフミが注意するのだが、本人(本鳥?)曰く。

 

 

「馬車が軽すぎてやる気が落ちるのー」

 

 だそうだ。

 無論、ニーナはいつも真面目に仕事をしております……マジで性格正反対だなコイツら。

 まあ、それはどうでも良い。

 

 

 問題はナオフミを除く3人に★がつき、レベルが上がらなくなったことだ。

 理由がさっぱり分からず俺達は首を傾げていたが、立ち寄った村で話を聞くと成長限界に到達したらしい。

 それを超えるにはクラスアップなるものをしなければならないようでそれは龍刻の砂時計で出来るようだ。

 つまり城下町に戻らねばならぬようで。

 それ即ち、クズ王やナオフミに侮蔑等の不快な視線を向けるヤツらの所に行かないと行けないわけで。

 俺らのストレスがマッハであるわけでもある。

 

 

 というわけで俺達は話し合った結果、クラスアップは厄災の波が近づき、どうしても城下町に戻らなければならない時に行うことにした。

 

 

 今のままでも3人は十分強いし、ニーナとフィーロの魔物組は化け物じみている……俺が言えたことじゃないが。

 恐らくナオフミ達4人なら俺が手を貸さずともあのドラゴン相手でも善戦出来るだろう。

 というかレンでも勝てたんだし、多分勝てるだろう。

 あいつ多分ニーナやフィーロに勝てないし。

 前回の厄災の波でも余裕だったからな。あの時のLvの倍近い。

 波は徐々に手強くなるらしいが今のところ危ない場面もなかったから急ぐ必要もないと俺達は判断した。

 もしもの時は俺が何とかすれば良いしな。

 

 

 2週間の間にナオフミはついに薬屋から貰った中級レシピの解読を終えた。

 さすがに2週間も経てば解読は終わる。元々3週間近くにらめっこしていたのだから分からないはずも無い。

 計10個の薬を解読した所で本は終わったようだ。

 うち2つは既に作れたようなので新しく作れるようになったのは8つだ。

 本の内容をある程度理解したという所でナオフミは徐に薬の中級レシピ本を盾に吸わせた。

 その結果出たのはブックシールドという盾で中級レシピは出なかったらしく下手に薬の中級レシピが自然と出ると思って吸ったら善意を無下にする所だったようだ。

 しかも、防御力が凄く低い。

 それをやっちまった日にはしばらく落ち込んでいただろう。

 

 

 余談だが中級レシピの解読が終わった数日後にトレントという魔物が現れ、倒して盾に吸わせた結果中級レシピ1というのが出てナオフミが唸っていた。

 ヒール軟膏までしかなかったみたいなんだけどね。

 レシピ2と3が早急に出ないことを祈れ。

 

 

 問題は魔法書の解読だった。

 これはかなり困難を要する。

 というかこれは文字を解読すればいいというものではないらしい。

 最近ではラフタリアはコツが分かって来たらしくて、それらしい現象を、まだ習得していないにも関わらず出来るようになっている。

 光の玉がラフタリアの前に数秒だけ浮かぶのだ。

 これは勇者の面目が潰れかねないとフィーロが変身の魔法を使えるので、ラフタリアが寝た後、尋ねてみた。

 あれを魔法と呼ぶかは非常に難しいが、藁にもすがる気持ちで聞いていたが。

 

 

「えっとねー。体の底から力をねーぎゅっと入れてバッと考えてね、なりたい自分にね、なるの」

 

 

 と訳の分からないことを言っていた。

 考えてやってる訳では無いらしい。

 フィーロに聞いたのがバカだったと言う表情でニーナにも聞いていたがニーナも感覚的なもので説明しづらい用で役に立てないことを謝っていた。

 

 

 波の戦いには基本的に不参加のつもりらしく、近隣の村や町の守護をするつもりのようだが、そうなると魔法が使えるのと使えないのとではいずれ差が出てくる。

 水晶玉を買うと言う選択もあるけれど、安く覚えられるのなら本で覚えるに越したことは無い。

 だから最近は馬車の中で魔法書を片手にうんうん唸っている。

 ラフタリア曰く、書いてある文字に魔力を反応させ、魂に同調させるとかフィーロと同じく、体感的で難しい説明をされた。

 フィーロよりは理解できそうなものだけど、ナオフミは魔力が分からないようだ。

 

 

 ちなみに俺はナオフミの前で魔法のようなものを使っていないので何も聞かれなかった。魔法適性もないしね。

 一応魔力は扱えるんだけど説明はやっぱ難しいから黙っとこ、と自分の魔力を感じながら思っていたがそこで、ふと俺は魔力を普通に使えるんだなと疑問を感じた。

 ナオフミが魔力を感じれないのは恐らく魔力なんぞない世界から来たからだろう。

 それなら俺も同じはずだが俺は細かな制御こそ練習しなければ出来なかったが使うこと自体は即座に出来た。

 前の世界では疑問に思う暇はなかったから気づかなかったがよく考えたら謎だ。精霊の気配も直ぐに感じれたし。

 絶対神の粋な計らい?それなら最初から力を十全に使えるようにしとけよ。

 もしくはメリオダスの魔力が強すぎてとかかな?

 

 

 色々考えたが次にクソ女神に会ったら聞けばいいやと思考を放棄した。

 使えないならともかく別に使えない訳じゃないから考察したって意味ないしね。

 

 

 まあ、こんな感じが2週間の成果だった。




 今回は説明だけで終わりましたね^^;
 原作と大して変わらないのでどうするか悩みましたが盾と薬の説明を無くして、クラスアップについての話を入れてやることにしました。
 疲れたんですこれで勘弁してください(白目)

 ちなみにメリオダスが慢心で痛い目を見るのはもう少し先のお話。

 中級レシピでナオフミが作れるようになった薬は使う時に説明を入れます。盾もこれまで通り使うやつだけを。

 最近後書きでの説明がないけど原作に沿いまくってるから説明することがないのよね。
 原作を知らない人で聞きたいことがある人は感想でどうぞ。
 もしくは原作を読もう!長いけど面白いぜ!アニメもいいぞ!
 そういえばアニメって1クールなのかな?そうならクズとビッチの改名する辺りで終わりかな。OPでメルティ出てたし。

 次回こそはもっと早く投稿致します。
 今回は遅れてしまい大変申し訳ございませんでしたm(_ _)m

 それでは第25話もお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第25話 蹴り逃げと盗賊

 何とか平成が終わる前には投稿出来たぜ( •̀ω•́ )✧

 …………。

 またしても遅れてしまい申し訳ございません!m(_ _)m
 次回こそは早めに投稿します!

 盾の勇者のアニメはメルティが原作より可愛いですね。
 後、波も結構変わってましたね。
 グラスが原作よりめちゃくちゃ強くなってるし。
 書籍版はあんな感じなのかな?
 アニメと混ぜるかかなり悩みますね……。
 なんかいつの間にかアンケート機能がハーメルンに出来てたのでそれでアンケートしようかなぁ。
 まあ、混ぜるにしても波以降だからもう少し自分で考えてみます。

 そういえば、七つの大罪が終わりそうな雰囲気を出してますね。
 ……よし、首括ろう。
 ハッ!アニメ3期!
 生きねば。
 まあ、これは冗談ですけど泣きそうなのは事実ですね。
 メリオダスの魔力の説明とメリオダスとエリザベスの馴れ初めくらいはやるよね?(震え声

 それでは第25話をどうぞ。


「ニーナ?」

 

 

「ぷい」

 

 

「ニーナちゃん?」

 

 

「プクーーッ」

 

 

「……そろそろ機嫌直してくれよ」

 

 

 その日は俺は馬車を引くニーナの背中に乗りながら、ニーナを撫で回していた。

 

 

 唐突だがこの身体(メリオダス)の容姿は非常に優れている。

 原作でもメリオダスはエリザベスはもちろん、記憶を失っていたディアンヌ、ザネリ、さらにはかつてマーリンが片想いしていたなど非常にモテモテである。

 もちろん、彼の仲間思いな所や、優しさ、種族で差別をしない等の内面の部分も大いにあるだろう。

 しかし、イケメンであることも大いに関係しているはずだ。

 

 

 さて、まあ何が言いたいかと言うと……行く先々の村でお姉様方にモテてしまうのだ。

 モテると言っても本気で惚れているのは恐らくいないと思う。

 

 

 メリオダスはイケメンと言っても容姿は少年だ。可愛いと言い換えてもいいかもしれない。

 つまり、「可愛い男の子が一生懸命仕事をしている」というのがショタコンのお姉様方の琴線に触れたのだろう。

 付け加えると俺は特に容姿相応の言葉遣いをしている訳では無いので「大人ぶっている」がさらに追加されてしまうのかもしれない。

 

 

 というわけでさすがに毎回という訳では無いがお姉様方にモテまくった結果ニーナが拗ねた。可愛い。

 最初のうちはその日の夜に撫で回してやれば簡単に機嫌が治った。

 が、何度も何度もお姉様方に撫でられたり、褒められたり、抱きしめられたりした俺を見続けた結果ついにここ数日口を聞いてくれなくなってしまった。

 さすがにこうなると嫉妬するニーナたんかわゆすなんて言ってられない。普通に凹む。

 というわけで現在進行形でニーナのご機嫌取り中だ。

 

 

 まあ、嫉妬して拗ねていると言ってもニーナは真面目なので指示にはちゃんと従うし、寂しいのか夜には拗ねながらも一緒に寝ている。可愛い。

 

 

 どうでもいいことだが、最近俺達の馬車が神鳥の馬車なんて呼ばれ方をしているようだ。

 曰く、「神の鳥が引く馬車が奇跡を振りまきながら各地で商売をしている」と。

 ニーナやフィーロが珍しいのに加えてナオフミが盾の力で薬の効果を上げて飲ませたのが原因だろう。

 

 

 神の鳥、か。

 (ゴッド)級に可愛いという事なら認めよう。

 まあ、俺の知ってる神って変なのしかいないけど。

 

 

「クエエエエエエエエエエエ!」

 

 

 そんなことを考えていると俺らの前を行くフィーロが突然奇声を上げて爆走する。

 「ガララララララ!」と車輪が音を立てる。

 

 

「ギャアアァァァァァッ!!」

 

 

「モトヤス様ああぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

 そして、近くを歩いていたモトヤス蹴り飛ばし、それをビッチ以下取り巻きが追いかけて行った。

 

 

 行商を初めて4回目である。

 フィーロはどうやら行商を始める前にナオフミが言ったことを律儀に守っているらしい。

 根は素直でいい子なんだよなぁ。フィーロも。わがままだけど。

 

 

 そんなことを思っていたのだが1ついいことを思いつき、爆走したフィーロを追いかけようとしたニーナを一旦引き止めて、馬車から降りた。

 そして、吹っ飛ぶモトヤスを追いかける1団のビッチに向かって跳び、後ろからモトヤスに目掛けて蹴り飛ばした。

 

 

「キャアアアァァァァァ!!」

 

 

 そう叫び、飛んでいくビッチを尻目にニーナの元に戻ると俺は何事も無かったかのように、

 

 

「さあ、ニーナ! フィーロを追いかけるんだ!」

 

 

 と言った。

 ニーナは若干呆れたような顔をした気がするが命令通りに走り出した。

 

 

 ビッチには天罰が下ったのであるッ!

 決して、俺がニーナに最近無視されているストレスを発散するためにやったのではないッ!

 ないったらない!

 

 

 そういえば、ナオフミやラフタリアは中にいるので外の様子が分からないらしく、フィーロの行動に気づいていない。

 俺は何か黙っていた方が面白そうなので黙っている。

 

 

 その後も引き続き、ニーナのご機嫌取りをしていると森の奥から複数人の気配を感じた。

 するとニーナも感じたのか少々緊迫した声で話しかけてきた。

 

 

「……ご主人様」

 

 

「ああ、団体のお客さんらしいな」

 

 

 ナオフミ達に警告をしようとしたが、その前にフィーロの馬車が止まった。

 恐らくフィーロも気がついたのだろう。

 そして、ナオフミとラフタリアが急いで馬車から外の様子を確認した時にちょうど、森の奥深くから人影が現れた。

 全員、それぞれ武器を持ち、善意的な歓迎とは反対の態度でこちらに向ってくる。

 格好はかなり疎らだが、それぞれ鎧を着込み、野蛮そうだ。

 どう見ても、山賊です本当にありがとうございました。

 

 

「盗賊だ!」

 

 

 フィーロの馬車に乗っていた客が焦ったようにそう叫んだ。

 

 

「へへへ……お前等、金目の物を置いてきな」

 

 

 なんとも常套句の台詞に半ば呆れる。

 勝てるとか舐めたこと考えているような顔がムカつく。

 あの三馬鹿勇者が似たような顔してたな。

 

 

 しばらくして、ラフタリアと中の客を引きずったナオフミが馬車から出てきてフィーロと共に臨戦態勢を取る。

 

 

「絶対に俺から離れるなよ」

 

 

「は、はい!」

 

 

 宝石商を庇いながらそう言ったナオフミは、盾を戦闘用の盾に変化させた。

 

 

「あ、あなたは盾の?」

 

 

「ああ……」

 

 

 神鳥の馬車の持ち主が悪名高い盾の勇者だと知って、宝石商の奴は驚いている。

 

 

「おい、メリオダス! お前らも来い!」

 

 

「えー、お前らだけで十分じゃね?」

 

 

 ざっと見た感じ大したやつはいない。

 人数も15人程で武具も大したことなく、隙だらけ。

 うん。俺いなくてもいいよね。

 

 

「いいから来い!」

 

 

「へーへー、仰せの通りに勇者様。んじゃニーナ行くぞ」

 

 

「はい!」

 

 

 俺は元気よく返事したニーナとナオフミ達と共に盗賊と相対する。

 やはりニーナは真面目なのでこういう場面だといじけていることを忘れてしまうらしい。可愛い。

 

 

「舐めやがってッ! 俺達とやろうってのか!?」

 

 

 俺の言葉を聞いてか、若干キレ気味に盗賊が言う。

 

 

「ああ、降りかかる火の粉は払わねばやっていけないのでね」

 

 

 ナオフミは盗賊を睨みつけながら答えた。

 

 

「ラフタリア、フィーロ、やれるか?」

 

 

「ええ、やらねばやられます」

 

 

「丁度退屈だったの」

 

 

「そうか、じゃあ……ヤレ!」

 

 

 ナオフミの命令と同時に盗賊も武器を振りかざして襲い掛かってくる。

 

 

「ガキが! 舐めるんじゃねぇぞ!」

 

 

 ガキと見てか、さっきの発言故か、3人程が俺へ向かって来た。

 

 

「死ねぇぇぇぇぶへぇ!」

 

 

 まず俺へ剣を振り下ろした奴の顔面を剣をへし折りながら殴り飛ばした。

 歯が何本か抜けて、感触的に鼻も折れたと思われる。まあ、自業自得だが。

 

 

「な、こ、こいつ……」

 

 

「ほら、どうした? お前ら如き剣を抜くまでもないぜ」

 

 

「舐めるな!」

 

 

 1人が瞬殺されたのを見た残りの2人がたじろぐが、俺が挑発すると今度は左右から二人同時に来た。

 右が斧、左が槍を持っている。

 俺は左から迫る槍を掴むとそれを持ち主ごと右の斧を振っている盗賊にぶつけた。

 そして、地面で重なって起き上がろうともがいている2人を顔を押さえて悶えているさっきの男目掛けて蹴り飛ばした。

 

 

「「「ぐえっ」」」

 

 

 その衝撃で3人は気絶した。

 

 

「はぁ、弱」

 

 

 腐っても伝説の勇者と言った所なのか三馬鹿勇者の方が遥かにマシなレベルだった。

 この感じだとこの世界では戦闘経験を積めなさそうだ。

 戦いにすらなっていない。

 

 

「こ、こいつ、盾の勇者だ!」

 

 

 そんなことを考えているとナオフミの下へ行っていた盗賊が叫んだ。

 ナオフミの足元には何人かの盗賊が倒れている。

 攻撃反射だがなんかの盾でも使ったのだろうか。

 

 

「てえい!」

 

 

「えーい!」

 

 

「やぁ!」

 

 

 周りを見るとラフタリア達も順調に敵を倒している。

 15人程だから俺達は5人(3人+2匹?)だから1人3人は倒せば片付くんだよな。

 そんなことを考えているとあっという間に盗賊の数は減り、満足に立っているのは3名にまで減っていた。

 

 

「チッ! 撤退だ!」

 

 

「させるか!」

 

 

 この盗賊のリーダーくさい奴をナオフミが盾の檻——シールドプリズンというスキルらしい——で閉じ込め、逃げる盗賊をフィーロに乗ったラフタリアが捕獲した。

 というか俺最初の3人を片付けてから何もしてねぇ。

 

 

「さて」

 

 

 倒した盗賊を縛り上げ、ナオフミは盗賊たちを見定める。

 

 

「コイツ等、何処かの町の自警団とかに出せば報奨金とか出るか?」

 

 

「今のご時勢そこまでお金を出しているか……」

 

 

 ラフタリアが困った表情を浮かべて答える。

 

 

「お前は知ってるか?」

 

 

 宝石商に尋ねるが、やはり首を振る。

 

 

「だけど、やはり自警団に渡すべきかと」

 

 

「ふむ……そうなんだが……」

 

 

 盗賊団のリーダーっぽい奴がナオフミを見てヘラヘラしている。

 大方、考えているシナリオの想像がつく。

 ナオフミも同じことを思ったのかそれを口にする。

 

 

「『盾の勇者に襲われた。俺達はただの冒険者だ』か?」

 

 

 リーダーの顔が不快に歪む。

 

 

「そうだ! なに、自警団の連中も悪名高い盾の勇者より俺達を信じるさ」

 

 

「ま、その可能性も確かにあるだろうなぁ……」

 

 

 リーダーが喚いた言葉にナオフミは呟く。

 残念ながら俺も同意見だな。

 リユート村なら大丈夫だろうがここからだと遠い。

 

 

「しょうがない。死んでもらうか」

 

 

 その選択を選ばないと思っていたのか、ナオフミの言葉に盗賊の連中は途端に表情を青くした。

 中には必死に縄を解こうとしている奴も居るが、速攻でフィーロに蹴られて悶絶する。

 

 

「俺の危険な魔物に人間の味を覚えさせるのもいいなぁ……」

 

 

 威圧を込めた声を出しながら、ナオフミは盗賊団に呟く。

 

 

「ごはん?」

 

 

 フィーロが涎を垂らしながら盗賊団を凝視する。

 ……教育的に良くないだろ。

 

 

「ヒ、ヒィイイイイ!?」

 

 

「ニーナはしなくていいからな」

 

 

「あ、はい……ハッ、プィッ」

 

 

 あら可愛い。

 

 

「どうするかな」

 

 

「し、神鳥の馬車なんだろ! 奇跡を振りまくくせに人殺しをするのか!」

 

 

「別に自称した覚えは無い。降りかかる火の粉は払うのが当たり前だろ? 今まで他人の汁を啜ってきたんだ。今度はお前の番になったと思って諦めてくれ」

 

 

「い、命ばかりは助けてくれ!」

 

 

「じゃあ、金目の物と装備を寄越せ、お前等のアジトの場所も教えろ。いくらでも嘘を吐いていいぞ。ただし俺は騙されるのが死ぬ程嫌いだ。一度でも嘘を吐けば神鳥がお前等の四肢を一個一個引き千切って食べるからな」

 

 

 震え上がる盗賊達に軽い感じでナオフミが答えた。

 悪名高い盾の勇者だからか、非常に効果的だ。

 ぐう畜。

 

 

「わ、わかった! 俺達のアジトの場所は——」

 

 

 地図上で何処にあるかを確認した。

 近いな。

 

 

「よし、交渉成立だ」

 

 

 ナオフミが手を下げるとフィーロが盗賊全員に失神するくらいの力を込めて一撃を加えた。

 

 

「とりあえず、金目の物を剥ぎ取れ、お? コイツ良い装備しているな、ラフタリア、お前の装備にするぞ」

 

 

「盗賊の身包みを剥ぐなんて……やってることが盗賊と変わらないですよ」

 

 

 そう言うラフタリアもナオフミの指示に従ってテキパキと盗賊から装備を奪っていく。

 

 

「後は毒にさせた奴に解毒剤を飲ませて馬車に乗せろ。早くしろ、こいつらのアジトにも寄るからな」

 

 

「はーい!」

 

 

 盗賊達のアジトが本当かを確認し、見張りをしていた奴等も同様の手口で身包みを剥いだ。

 そしてたんまりと溜め込んだ盗賊達の宝を馬車に詰め込んだ後、全員アジトに縛る。

 宝の種類は豊富だ。

 単純に金、食料、酒、武器防具、貴金属、ヒール丸薬などの安い薬、などなど。

 想像よりも随分と持っていたので思い掛けない臨時収入だ。

 もしかするとこいつ等、ここ等辺を荒らしていた盗賊団かもしれないな。

 

 

「なんて……したたかさだ」

 

 

 アクセサリー商——宝石商ではないらしい——の奴、今までの出来事に半ば放心して、ナオフミを見つめていた。

 

 

「で、お前はどれくらい迷惑料を払うんだ?」

 

 

 ナオフミの問いにアクセサリー商の奴、我に返る。

 どうやら、冒険者用のそこまで高価では無いアクセサリーを売っているのだが、商品ではない高価な宝石を持っていたらしい。

 商品じゃないので護衛代をケチったらご覧の有様というわけらしい。

 

 

「銀貨数枚なら……」

 

 

「お前の所為でこんな面倒な事になっているのだ。その程度で済んだら苦労しない」

 

 

 ナオフミの言葉に品物のアクセサリー1個を譲り受けるという条件で了承した。

 

 

「……盗賊に襲われてもタダじゃ転ばないその精神……感銘を受けました」

 

 

 何か感激してる。アクセサリー商の奴、先ほどよりナオフミを見る目が熱い。

 嘘を言ってない気がした。

 

 

「良いでしょう。私が秘蔵にしていた細工と魔力付与。そして流通ルートを斡旋させていただきます」

 

 

「……些か多くないか? それ」

 

 

 幾らなんでも報酬が大きすぎる。

 ナオフミも訝しげにしている。

 アクセサリー1個を奪われた腹いせに騙そうとしている可能性を考えているのだろう。

 

 

「いえいえ、昨今、アナタのような貪欲でタダでは転ばない商人が少なくなっているのです」

 

 

「欲が深い連中は幾らでも湧くんじゃないか?」

 

 

「意味が違いますよ。誰かから利益を搾り取り、使い捨てるのではなく、生かしながら絞るという塩梅を見極めている者が必要なのです」

 

 

「使い捨てるねぇ……」

 

 

 ナオフミから搾り取られて縛られている盗賊達に俺達は目をやる。

 羽振りが良かったのか衣類も良い物を着ていたので装備も含め全部奪ったんだが……。

 自業自得とはいえ、すべてを奪われた奴の末路って感じだ。

 

 

「あれでか?」

 

 

「彼らは私とアナタから金銭と命を奪い取ろうとしました。ですがアナタは妥協し、生かして身包みを剥ぐだけで抑えたじゃないですか。命あってのモノダネ、殺されるのが自然です。アナタの身分と比べれば彼等には最高の結果でしょう」

 

 

 まあ、ナオフミは悪名が轟いているので、自警団が盗賊の証言を信じる可能性は十分にある。信じない可能性もあるけど。

 

 

「彼らは全財産で自らの命をアナタから買ったのです」

 

 

「そういう表現も出来るが……」

 

 

「そして……アナタに復讐しようと財産を増やした彼等から、アナタはまた搾り取る!」

 

 

 アクセサリー商が残忍に笑っている。

 なんだコイツ、急にキャラ変わってね?

 

 

「ま、まあ、次の町で降ろしてやるから」

 

 

「いえ、色々と教えます。それまでは降りませんからね」

 

 

 このアクセサリー商、ナオフミに何を教え込むつもりなんだろう。

 やる気いっぱいのアクセサリー商と不安そうなナオフミを見て俺はあまり関わらないことにした。

 ともあれ、こうして盗賊から奪った宝で懐を温めた俺達の行商は続いていく。

 どうでも良い補足かもしれないが、アクセサリー商が乗っている情報を盗賊に売った商人組合員がいたそうなのだが、後に粛清されたらしい。

 

 




某神様「せっかく転生させたのに変なのとか言う、ふじこふじこ!」

 どっかで七つの大罪のキャラで1番イケメンなのはメリオダスだと作者が書いているのを読んだ気がしたんですが見つからなかったので記憶違いか勘違いの可能性を考えて本文には書きませんでした。
 知っている人がいたら教えてください。
 まあ、どちらにしてもメリオダスって多分美形だと思いますけどね。

 メリオダスって外見年齢的にはショタですよね?
 平均身長を調べる限り中学生くらいっぽいですし。
 まあ、原作で子供子供言われてますからね。

 前に感想で来ていたフィーロに蹴り飛ばされたモトヤスにメリオダスが蹴り飛ばしたビッチって追撃というのをやってみました!
 ざまぁwwww。
 最近のアニメでビッチが順調に視聴者をイラつかせに来てますからね。

 この作品の総合評価が1000ptを突破しました!
 お気に入り数も700を超えまして嬉しい限りです。
 皆様本当にありがとうございますm(_ _)m
 拙い文章に亀更新のこの作品ではありますがこれからも応援しただけると嬉しいです。

 今回で平成最後ではないですよ!
 絶対に令和になる前にもう1話を書いてみせます!

 それでは皆様第26話をお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第26話 モトヤス(バカ)の尻拭い

 約束を守れてホッとしてるどうも私です。

 いや〜今日で平成も終わりですね。
 令和になって1番にやることは決まっています。
 マガポケで七つの大罪の次話を見る(キリッ
 令和始めが水曜日なのがいけない。

 そういえばRPGツクールで「盾の勇者の成り上がり」のゲームが出たみたいですけど皆さんはやりましたか?
 私はまだやっていないんですけど面白そうですよねぇ。
 あれってアニメ準拠なのかな?

 あ、ちなみに今回平成最後ではありますが原作と大して変わりません。
 最近オリジナルの展開を入れるんじゃなくて原作を変えないと面白くないと言われたんですけどどうしますかね?
 この先はメリオダスがいるのでそれに合わせて敵を増やしたり、味方が増えたり、ナオフミ達が強化されたりしますが大筋は変わりません。

 メリオダスじゃどう足掻いてもラスボスを倒せないんですよね。
 かといって原作を知らないメリオダスが四霊結界を発動させようとするのもおかしな話ですし。
 メリオダスの本来の魔力の詳細が分かれば何とかなる可能性はありますが……。

 原作をぶち壊すだけなら前にチラ見せした女神族の転生者を使えば簡単なんですけどね。
 タクトのそばに居る竜帝の女をペテンの光(チートホープ)で洗脳して応竜を復活させるだけで大きく原作と変わりますよね。
 それを三馬鹿勇者が霊亀を復活させた時にやって、世界が混乱している隙に鳳凰と麒麟を復活させて、最後に四霊が人を殺しまくっているのを尻目に女神族の転生者がメリオダスを抑えれば四霊結界が発動して世界救済完了!
 霊亀が復活した時期ってナオフミ達以外にまともな戦力がないのでメリオダスさえ抑えれば簡単ですね。
 まあ、完全にバットエンドな上に誰が主人公か分からなくなるので原作から変えるにしてもやりませんけど。
 そうしなくても女神族の転生者を暴れさせるだけでも結構原作と変わりますよね。
 原作と大きく変えると矛盾が出そうで怖いんですよね。

 いつの間にか追加されてたアンケート機能で変えるかそのままにするかご意見をください。

 それでは平成最後の話をどうぞ!


 あれから俺達の行商に何故かアクセサリー商が同行していた。

 乗車賃はもらっているのでナオフミは文句は言わないが、こいつの行動理由がわからない。

 どうにも盗賊の一件で偉くナオフミを気に入ったのか、アクセサリー商の奴、自身の身分を明かして、降りるまでずっとナオフミにレクチャーするとか言い出した。

 

 

 何でも、この辺りを荒らしている行商の顔を覚え、釘を刺すために乗り込んだのが目的だったらしい。商人組合の刺客って奴だったみたいだ。

 それがナオフミの資質を見出し、磨きたくなったとか……。

 しかも組合内でかなり権力を持っているアクセサリー商で、表面上は優しいけど、弟子とかに教えるような事をする人じゃないと有名だったと、後に知り合った商人仲間にナオフミが愚痴られてた。

 

 

 教えられた内容は、まずは宝石等の付与に使う物の調達、これはこのアクセサリー商の知り合いが居る採掘場を斡旋してくれた。

 次に貴金属をアクセサリーに加工する作業。色々と凝ったデザインが今は受けるらしい。絵はナオフミがオタクだから多少心得があるので、なんとなくそれっぽいのを作ったら気に入られた。

 

 

 そして加工するための道具を安く売ってくれた。

 この世界にしか無い魔法道具で燃料は石炭に似た魔法石という物だ。

 俺の世界で言う、研磨機という奴やバーナーみたいなのが数点ある。これを使ってアクセサリーを作る。

 鉄とかの硬い金属の加工は製鉄所に金型を作って持っていくのが当たり前なのだとか。

 

 

 そして、魔力付与という作業。

 これはやはり魔法が使えなければいけない。

 ナオフミは魔法を使えなかったのだが、アクセサリー商に借りた鉱石で魔力を感じ取れるようになり、無事魔法を習得出来たようだ。

 そしてそのままアクセサリー商に教えられるまま、ナオフミは魔力付与を覚えた。

 難しいものとなると、別の宝石の力を混合させたり、別の、例えば薬から魔力を吸い出して付与する事だって出来るらしい。

 

 

 そして、そこまで教えるとアクセサリー商は馬車を降りていったのだった。

 こうしてナオフミは薬の調合以外に細工技術も覚えることが出来たのだった。

 

 

 前回のノゲノラの世界で首飾りと腕輪を作った俺としてはかなり興味深かった。

 その時はろくに知識も道具もなかったのでこの身体(メリオダス)のスペックをフルに使った力技で作ったからなぁ。

 

 

 ちなみにこの世界、宝石自体の価値は低いらしい。

 出るところでは畑を耕すようにそこらの地面を掘るだけでゴロゴロ出てくるらしい。

 まあ、地表に近い場所だと魔力的に質が悪いがらしいんだが。

 どれだけ流行に乗った斬新なデザインかに値打ちがあるとか。些か矛盾した題材だ。

 なんでも今はそういうブームらしい。異世界でも流行って奴があるみたいだ。

 

 

 そんな感じで行商の日々を続けていたある日。

 丁度、南方の街へ寄った時の事。

 とある信頼できる筋……アクセサリー商からの斡旋で、除草剤を大量に欲している地方があるという情報を耳に入れた。

 なんでも速度からして間に合うのは神鳥……フィーロ達位なものらしい。

 死の商人ではないが大金が手に入るならと、俺達は南西にあるという村へ急行した。

 

 


 

 

 大量の除草剤を欲していると聞き、急いでその村へ向かった俺達だが……。

 フィーロ達の足が早い事もあり数日で該当の地域に近付いていた。

 

 

「うわぁ……」

 

 

 そこでは道を埋め尽くさんと蔓のような植物が蠢いていた。

 進行は遅いが少しずつ、確実に植物の支配領域は増えて行っている。

 きっとこの侵食する蔓を駆除する為に欲しているんだろう。

 なるほど、あれならアクセサリー商が大金になると断言したのも頷ける。

 

 

「な、なんだぁ!?」

 

 

 馬車から顔を出したナオフミがこの光景に声を上げた。

 

 

 辺りを確認すると難民キャンプみたいに人が寄り集まっている所を発見した。

 俺達はそこへ向かって馬車を走らせた。

 

 

 俺達はキャンプをしている所に辿り着き、馬車から降りて、事情を尋ねる。

 ちなみにナオフミの盾はブックシールドに変えている。そして腕の裏側に回して本を持っている行商人の振りをしている。

 目立つ盾が無ければ盾の勇者だと気付かれないからだ。

 

 

「除草剤を高く買い取ってくれると聞いてやってきた者だが」

 

 

 キャンプの中で偉そうな装飾をしている人にナオフミが尋ねる。

 

 

「おお……行商の方ですか。助かります」

 

 

 待っていたとばかりに答えられる。

 

 

「しかし、一体どうしたんだこれは?」

 

 

 ナオフミは植物が侵食する大地の方を見ながら呟く。

 

 

「その……私達の村は飢饉だったのです」

 

 

 ああ、そういえばそんな噂があったな。

 でもあれはモトヤスが解決したんじゃなかったのか?

 

 

「ですが槍の勇者様の来訪によって古に封印された奇跡の種を入手し、飢饉は解消されたのですが……」

 

 

「まさかその奇跡の種が?」

 

 

 俺はナオフミの侵食する蔓の方を見る。よく見ると様々な果物や野菜が蔓から生えていた。

 このキャンプの連中も食料には困っていないようで、炊き出しとかは行われていない。根っこからは芋が取れるようで、農民が侵食する蔓の方へ行って、土を掘っている。

 つまり、植物から食べ物は得られるが繁殖のし過ぎで自分達の住処を追われたという事か……。

 アホくさ

 

 

 よくよく考えてみれば封印されているにはそれ相応の理由があるよな。問題が無ければ残っているはずだし。

 あの馬鹿は、何を思ってこんな真似をしたんだ。

 

 

「しかも外周はまだ問題が無いのですが、村の方へ行きますと植物が魔物化しておりまして」

 

 

 変異性の植物って奴か。

 まさしくファンタジーだな。

 

 

「だから除草剤が欲しいと?」

 

 

「はい」

 

 

 農民とかなら植物の駆除方法とかを熟知していそうなものだが……。

 

 

「最初は豊かでみんな喜んでいたんです。ですけど、畑から家にまで生えてきて……がんばって村中で刈り取っていたのですが、それも追いつかなくなり……」

 

 

「ちなみに……何時からだ?」

 

 

「勇者様が去った後、2週間は問題なかったのです。ですが半月ほど前から……」

 

 

「へぇ。国には申告したのか?」

 

 

「はい。ですがお忙しい勇者様が来るのにもうしばらく掛かる様で、除草剤でこれ以上の侵食を抑えている状況です」

 

 

 そこまで聞いてナオフミは思わずといった様子で溜息を吐く。

 ぶっちゃけ俺も似たような気持ちだ。

 

 

「火で焼き払えば良いのではないですか?」

 

 

「考えうる全てを試したのですが……」

 

 

「ああ、既にやったわけね」

 

 

 おそらく、冒険者にも駆除を頼んでいたのだろう。

 周りを見ると村人ではない、武器などを持った連中も見かける。

 

 

「うわぁああああああああああああ!」

 

 

 村のある方向から叫び声が聞こえてくる。

 

 

「なんだ!?」

 

 

「冒険者がLv上げに行くと止めたのにも関わらず入って行きましたので、その声かと」

 

 

 半ば諦めたかのように村人は答える。

 

 

「チッ! フィーロ!」

 

 

「はーい!」

 

 

 ナオフミは村の方を指差すと、植物から実った食べ物を頬張っていたフィーロが走り出す。……食い意地張りすぎだろ。

 植物地帯を高速で駆け抜けて、フィーロは三人のボロボロの冒険者を担いで持ってくる。

 

 

「村のほうはどうだった?」

 

 

「えっとね。植物の魔物がぐねぐねと動いてたよ。毒とか酸とか吐いてくる面白いのもいたの。弱いのにあんな所へ行くなんてバカだねー」

 

 

「最後の一言は余計だ」

 

 

「はーい!」

 

 

 案外毒吐くよなこいつ。

 フィーロが流暢に喋るので村人は驚いている。

 

 

「あ、アナタは最近噂になっている神鳥の馬車に乗る聖人様ですか?」

 

 

 今更になって村人はナオフミに手を合わせて尋ねる。

 

 

「まあ……聖人かどうかは知らんが、馬車と鳥の持ち主だな」

 

 

「お願いします! どうか、私達をお救いください! ここには植物に侵食された者もいるのです!」

 

 

「寄生能力まで持っているのかよ……」

 

 

 なんでもアリなとんでも植物だな。

 

 

 俺達は治療薬と除草剤を片手に案内されたテントに入る。

 するとそこには体の半分が植物になっている人が数名、横になっていた。

 

 

「治るかわからないからな。後、俺は慈善家じゃないから治療費は寄越せよ」

 

 

「はい……」

 

 

 人々がそれぞれ、槍の勇者が来なければこんなことには……と、小さく嘆く声が聞こえ、若干ナオフミの機嫌がいい。気持ちは分かる。

 

 

 ナオフミはまず一番近くに居た息苦しそうに寝ている子供に近づき、治療薬を飲ませた。

 淡い光が宿り、子供の呼吸が大人しくなる。そして除草剤を患部に撒いた。

 子供はしばらく苦しんだが、植物が枯れて、ハラハラと落ち、見た感じ全快した。

 

 

「おお……」

 

 

「さすが聖人様だ」

 

 

 感嘆の声が漏れる。

 続けて、他の患者にも同様に薬を飲ませて撒く。

 全員の治療が終わった所で、何故かキャンプ中の雰囲気が明るくなっている。

 まあ、多少なりとも改善の兆しがあれば明るくもなるか。

 

 

「ありがとうございます! ありがとうございます!」

 

 

 人々がナオフミに礼を述べる。

 

 

「まずは治療費だ」

 

 

 ナオフミは相場より若干高めの金銭を要求した。

 しかし、村の連中は笑顔でナオフミに金を渡した。

 

 

「さて、じゃあ後は除草剤を売るから買ってくれ、そしたら、もうここには用が無い」

 

 

「あの……聖人様、どうかこの村を救って頂けないでしょうか?」

 

 

「ああ!? 国の勇者に頼むんだろ?」

 

 

「その……」

 

 

 なんか村人の奴、全員が集まってナオフミに祈るように懇願してきている。

 

 

「断る」

 

 

 しかし、ナオフミはばっさりと断った。

 そんなことをする義理はないし、ここに長居すると依頼を受けた勇者達が来る可能性があるからな。そうなるとめんどそうだ。

 

 

「お願いします。お金ならどうにか工面するので」

 

 

「……先払いだぞ、後……何があっても後から不満は聞かないからな。他に槍の勇者が解いた封印の概要とかを知ってる範囲で答えろ」

 

 

 しかし、ナオフミは村人の言葉を聞いて受けることにしたらしい。

 さっきの冒険者を助けさせた時といい、ナオフミはやっぱり優しいよな。金は取ってるけど。

 

 

 ナオフミの返答に村人の連中は自らの懐から寄付を募り、財産を集める。その間にナオフミは情報を最大限集めた。

 

 

 話によると近くの遺跡に封印されていた植物の種子で、堅牢な守護者が守っていたらしい。

 そんな守護者が守っていた種なら何か問題があったのではないかとか疑わなかったのだろうか。

 で、槍の勇者……モトヤスからの話はそれ以外無かったそうだ。

 村人の調査によると、大昔にこの辺りを根城にしていた錬金術師が作った傑作の一つだったのだけど、封印された物だと言う。

 記述では一時期、この近隣が植物によって支配されていたとか……。

 

 

「そんな伝承があるのなら封印を解くなよ! 誰も気付かなかったのか?」

 

 

 ナオフミの鋭いツッコミに皆一斉に視線を逸らした。

 勇者が持ってきたから安全な物とでも思っていたのだろう。

 

 

 これ以外の情報は見つかっていないらしい。

 で、しばらく話していると寄付金が集まった。

 ……結構な金額だ。

 先払いなら、ナオフミの正体を知っても逃げ切れるな。

 

 

「分かった。じゃあやってみるとするか」

 

 

 そう言ってナオフミは盾を戦闘用に変化させた。

 

 

「た、盾の勇者!?」

 

 

 村人達の声を無視して俺達は受け取った金のたっぷり入った袋を腰に下げて、植物が侵食する大地に歩いて行く。

 

 




 平成最後の回がこんなで本当に申し訳ありません。
 次回も早めに投稿したいなと思っています。

 ここまでこの作品を応援してくださった方々ありがとうございました。
 令和でも「新・メリオダスになって異世界を渡る」をよろしくお願いします。

 それでは第27話もお楽しみに。
 アンケートもよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 メリオダスの誕生日その1

 うん、皆様お久しぶりです。
 完全にモチベが死んでおりました。
 前回からアニメが終わったり、七つの大罪がまだ完結しなかったりと色々ありましたね。

 タイトル通り今回はメリオダスの誕生日を祝っての番外編です。
 旧作をご覧になっていた方はご存知だと思いますが去年もやってました。
 毎年やる所存にございます。
 それでは

メリオダス誕生日おめでとう‼︎


 第1章にて

 

 

「え? メリオダスって今日が誕生日なのか?」

 

 

 シュヴィとリクのチェスを見ながら俺のことを色々話しているとリクがそんな声を上げた。

 

 

「あ、ああ。一応な」

 

 

 正確にはメリオダスの誕生日で俺の誕生日ではないがまあこれからはメリオダスの誕生日を俺の誕生日にしてもいいと思うけど。

 

 

「んじゃ、お誕生会的なのするか?」

 

 

 リクがそんなことを言ってくる。

 

 

「……? ……お誕生会……って何……?」

 

 

「あ〜、そりゃ、機凱種(エクスマキナ)は知らないか」

 

 

 そう言ってリクは苦笑する。

 そりゃ知っているわけないだろう。

 機械なんだから誕生日を祝うなんてことはしないだろう。……まあ、こんな地獄みたいな世界で生物でもそんなことをする種族は極少数だろうが。

 

 

「まあ、簡単に言うと生まれた日を祝うことかな? っていうか別にそんなことしなくていいよ。ガキじゃあるまいし」

 

 

「ガキだろ見た目も中身も」

 

 

「……中身は18なんですが」

 

 

「だからガキだろ」

 

 

「2歳上なだけのくせに……」

 

 

「うっせ。ちょうど今日はコロンが人間の集落の様子を報告に来る日だからな。一緒に祝おう」

 

 

「……そんな余裕あるのか? 物資と時間的な意味で。一応超高難易度のゲームの最中だぜ?」

 

 

「……それは大戦終結へのゲームか? それとも——シュヴィとのチェスか?」

 

 

「……両方」

 

 

 話している間にもチェスは進み、チェックメイトを取られたリクが頭を抱えてうめく。

 その様子にため息を吐きながら適当に答える。

 

 

 俺たちが暗躍を始めてから7ヶ月。

 ここまで計算通りに事が運んでいるとはいえ、決して油断できるものではない。

 ちなみにリクは未だにシュヴィに一度も勝てていない。俺も何度か挑んだ事があるがボコボコにされた。

「……リクより……弱い……」という呟きに事実とはいえ少し落ち込んだ。

 

 

「真面目な話、そんな余裕なくね?」

 

 

「無ければ獲りに行けばいいだろ?」

 

 

「だれが?」

 

 

 そう言うとリクはこちらをじー、と見つめてくる。

 

 

「は? 俺?」

 

 

「大物期待してるぜ?」

 

 

「俺、祝ってもらう側じゃないのか……」

 

 

「こまけぇこたぁいいんだよ」

 

 

「なんでそのネタ知ってるんですかねえ」

 

 

「いいからさっさと行ってこいよ」

 

 

「適当だなあ。んじゃシュヴィも来てくれないか?」

 

 

「あ? なんで」

 

 

「便利ではないか」

 

 

「……ん……いい、よ」

 

 

 というわけで俺とシュヴィは隠れ家を出て、他種族に見つからないように熊やウサギなどの動物たちを探しに行った。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「おーい、戻ったぞー」

 

 

「……リク……ただい、ま……」

 

 俺とシュヴィは熊一匹と猪一匹、ウサギを五匹を担いで隠れ家へ戻ってきた。

 大漁である。

 

 

「……見た目子供の二人が熊と猪担いでいるのはシュールだな」

 

 

 俺らが背負っていた熊などを下ろすしているとリクがそんなことを言ってきた。

 

 

「獲ってこいって行ったのお前だろ?」

 

 

 気持ちはわかるが。

 

 

「おかえりなさい、二人とも。今日はメリオダスの誕生日なんだって?」

 

 

 リクの後ろからコロンが顔を出して言う。

 

 

「コロン、来てたのか」

 

 

「ええ。それじゃ、その大物を調理しましょうか」

 

 

「あ、俺も手伝——」

 

 

「「絶対にやめ()」」

 

 

 リクとコロンは俺の言葉を遮って言った。

 

 

「解せぬ」

 

 

 いやまあたぶん前に俺がリク達に料理を振舞ったのが原因だろうけど。

 転生前の俺の料理の腕前は多少出来る程度だったのだが、この体になってから原作メリオダスのような見た目完璧ゲロまず料理しか作れなくなっていた。

 前に振舞った時に食べたリクとコロンに二度と料理するなと厳命されてしまう程だ。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「それじゃ、みんなコップを持って」

 

 

 コロンにの料理がテーブルに並べられ、俺が採ってきたハチミツや果実で作ったジュースを全員が持つ。

 

 

「それじゃあ、メリオダスの誕生日を祝して、乾杯! 

 

 

「「「乾杯! 」」」

 

 

 全員でコップをぶつけ、シュヴィ以外がそれを飲む。それからは雑談しつつ、飲んで食べてを繰り返した。

 

 

 そして、ある程度料理が片付いたらゲームの時間だ。まあ、コロンはゲームなんて出来ないし、俺もチェス以外は自信がないので俺とリクがチェスをしたり、リクとシュヴィが俺とコロンにチェス以外のゲームについて教えたりして過ごした。

 

 

 俺は3人が楽しそうに笑っているのを見て、これからもこの光景がずっと続けばいいなと思ったのだった。

 




 ごめん無理。
 めちゃくちゃ短いというか去年のほぼそのままだけど今日中に投稿できなくなりそうだからこれで勘弁してください……。

 明日から夏休みなので頑張りたいな〜。

 それでは次回をお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第27話 めだま植物

 この度は更新が1ヶ月以上、番外編を除くと4ヶ月以上お待たせしてしまい深く陳謝致します。

 はい、口調を戻します。
 完全に小説そのもののモチベが死んでました……。
 ウソみたいだろ? コイツ1月に25話投稿してたんだぜ?

 あ、最近この作品の外伝として「憤怒の魔神とゲーマー夫嫁達のラクシア冒険記」の更新を始めました。
 テトがGMとなってメリオダス、リク、シュヴィ、コロン達とソード・ワールド2.0で遊ぶ話になってます。
 良ければご覧下さい。
 あ、ソード・ワールドを知らない方は読まないことをおすすめします。
 そういう人はニコニコ動画で動画を漁ってみましょう。
 オススメはゲーマー卓。

 「なに新作なんか出しとんじゃワレェ」という方もいるかと——というか大半でしょうが大丈夫です。自分が1番思ってます……。

 あ、それから覚えてる人がいるか分かりませんが第26話で取ったアンケートで「勝手にせぇや」が1番多かったので原作沿いで行きます。

 それでは第27話をどうぞ。


 さてさてさーて、今回の敵は植物と来たものだ。

 植物に詳しくない俺からしても目の前にある植物は異色だ。

 蔓からは様々な果実が実っていて、根には芋が出来る。

 それだけではなく、人体に寄生する能力を持ち、酸や毒を吐くそうだ。

 効果がありそうなのはナオフミの除草剤か……物理的に倒せば効果があるのか分からないな。

 しばらく進むと蔓が蠢き、俺達に襲い掛かってきた。

 

 

「ハァ!」

 

 

「やあ!」

 

 

「たあ!」

 

 

「ほいっと」

 

 

 ナオフミ以外の俺たちが蔓をなぎ払う。

 周り中の蔓が俺たちに向って来る。

 数が多いな。

 

 

『力の根源足る盾の勇者が命ずる。理を今一度読み解き、彼の者を守れ!』

「ファストガード!」

 

 

 ナオフミが俺を除く3人——1人と2匹——に防御魔法を掛けた。

 効果は対象の防御力を%でアップさせる。元々防御力の高いナオフミに使うと効果が高い補助魔法だ。

 

 

「ナオフミ様、ありがとうございます」

 

 

「ありがとーう」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

 3人はナオフミに礼を言うと各々、襲い掛かる蔓に攻撃を続行した。

 というかさあ——

 

 

「なぁんで俺にだけ魔法使わないんですかねぇ」

 

 

「必要ねぇだろ。というかふざけてないで真面目にやれ」

 

 

「にしし」

 

 

 わざと攻撃をくらったり、蔓を結んで遊んでいる俺にナオフミが叱責する。

 この世界に敵がいなさすぎて油断というか慢心というかしまくってるんだがマシな敵はいないのか。

 

 

 まあ、このまま進んでいくのは良いけれど、どうすればこの植物を除去出来る事やら。

 アレだよな。強力な魔法で焼き飛ばすとか、専用の薬、魔法が無ければ抑えられないとなると今は撤退しかない。

 さすがにナオフミ達の前で魔神化して〝獄炎(ヘルブレイズ)〟で焼き払う勇気はまだない。

 ナオフミ達に化け物を見る目で見られたら悲しみで首を括る自信がある。

 

 

 まあそれはともかく、とにかくここの敵を殲滅していくのも一応は手だ。

 村のほうに居る魔物に何かしらのヒントが隠されている可能性は高い。

 伝承の類に駆除をどう行ったか明らかにされていないので、具体的な方法は見つかっていない。

 ならば正攻法で攻めて、無理なら何かしら別の手を考えるしか無いだろう。

 蔓の攻撃はいつもの如く俺とナオフミの防御力を突破するのは出来ないようで、進みを妨害することは出来ていない。

 

 

「とりあえず、調査するために進むぞ!」

 

 

「はい!」

 

 

「はーい!」

 

 

「はい!」

 

 

「はいよ」

 

 

 元気に返事をする3人に対しやる気なさげの俺をナオフミが睨む。……しゃあないじゃないですか

 俺達は走り出し、村にある植物の根元であろう中枢部に進む。

 そこには植物型の魔物が溢れかえっていた。

 敵の強さはナオフミを始め、ラフタリアやフィーロ、ニーナで処理できる程度。

 ただ、ラフタリアとフィロリアル姉妹には防御面で不安が残る。

 

 

 ナオフミに聞くところ魔物の名前はバイオプラント、プラントリウェ、マンドラゴラ。

 

 

 バイオプラントはこの植物の全ての総称で、プラントリウェは蔓で構築された人型の魔物。マンドラゴラはウツボカズラのような非移動型の魔物のようだ。

 フィーロの言っていた毒を吐くのはプラントリウェで頭に位置する大きな花から毒の花粉をばら撒く。

 次にマンドラゴラは蔓から酸性の溶解液を吹きかけ、弱らせた獲物を蔓で本体まで引き寄せて捕食するようだ。

 バイオプラントはこの二種の魔物を生産している大本の魔物だ。時折、膨れ上がった蔓が弾けて中からこの二種の魔物が出てくる。

 

 

 ナオフミが試しに除草剤を撒くと会心の一撃でも受けたかのように枯れる。

 盾の攻撃判定に違約しないらしい。

 どういう基準なんだ……。

 

 

 敵の攻撃に意味は無いが、毒の花粉の所為で若干息苦しい。

 酸は多少厄介なようだ。

 どうもナオフミ曰く、防御力低下の効果があるようで、ステータスを見るとかなりの低下が起こっている。

 俺? もちろんバグってて分からないですが?

 それでもナオフミや俺の防御を突破できないようだ。

 

 

「ラフタリア」

 

 

「ゲホ……! なんですか?」

 

 

 ナオフミが声を掛けると空気が悪いからかラフタリアは、若干咽ながら応える。

 聞くところによるとラフタリアは以前呼吸器系を痛めていたらしい。

 完治したようだが呼吸器系は弱いのかもしれない。

 

 

「一応、お前も除草剤を持っていろ」

 

 

「あ、はい!」

 

 

 ナオフミは除草剤をラフタリアに投げ渡す。いざという時に使わせるつもりかな?

 

 

 ……ふむ。しかし、酸に蠢く蔓、と。エロゲとかならヒロインが蹂躙されそうな題材だ。

 男のロマンである。触手プレイ。

 だが悲しきかな。

 酸は服だけじゃなく普通に体も溶かすし、蠢く蔓はラフタリアに絡みついても平然と引きちぎられる。

 人の夢と書いて儚い、か。

 

 

 さて、これくらいにしておこう。

 心なしかラフタリアの視線が冷たい。

 

 

 先に進んでいくと、村の中心に大木があった。

 いや、よく見ると木ではなく、大きな蔓の集合体だ。

 

 

「あれが本体……だといいなぁ」

 

 

 そう呟くナオフミと共に集合体に近づくと集合体の幹から巨大な目のような器官が俺達を凝視する。

 

 

「!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 不気味だな。

 だけどあれが本体っぽい。

 

 

「雑草の分際で目なんか持ってるとか生意気だな」

 

 

「お前にゃあれが雑草に見えんのか……」

 

 

「ごしゅじんさまーフィーロいくねー!」

 

 

 俺とナオフミが余裕綽々に雑談してると、フィーロが駆け出して本体の目玉に跳躍する。しかし途中で巨大な蔓が襲い掛かる。

 

 

「えい!」

 

 

 ゲシっとフィーロは強靭な足で蔓を蹴り飛ばしてそのまま飛び上がるが距離が足りない。

 

 

「ごしゅじんさまー」

 

 

「分かってる! エアストシールド!」

 

 

 だが、ナオフミが落下するフィーロの足元にエアストシールドを出し、足場として使わせる。

 盾の上に一度着地したフィーロはもう一度飛び上がって、目玉の目の前に到達した。

 

 

「てい!」

 

 

 ビチャ! っと音を立てて、目玉がフィーロの蹴りで消し飛ぶ。

 結構グロイ。

 

 

「!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 蔓がメチャクチャ暴れだして大地が揺らぐ。

 やはり目玉を破壊した程度で簡単に倒れてはくれないらしい。

 

 

「倒れないねー」

 

 

「そうだな」

 

 

 そんな緊張感のない2人をしり目に目玉がシュウシュウと音を立てて再生していく。

 その最中……ふと、目玉の中に植物の種のような何かが見えた。

 その次にはニーナが駆け出した。

 ニーナは襲い来る触手もとい蔓をかいくぐり、蔓の集合体の根元に行くと全力で根元を蹴り飛ばした。

 なるほど、木を倒すが如くアレを切り倒してしまおうということか。

 アレだって一応植物だし地面から離れれば栄養を取れなくなるかもしれないし、少なくとも切り離されてるから蔓を操るのは出来なくなるかもしれない。

 

 

 ただ、問題はニーナの攻撃力だとアレを切り倒すことが出来ないことか。

 ニーナは3分の1ほど抉ったが完全に断つことは出来なかった。

 攻撃後で動きが止まったニーナに無数の蔓が襲いかかる。

 それを見た俺は即座に駆け出し、ニーナの背に飛び乗って襲いかかる蔓達を切断する。

 

 

「あ、ありがとうございます、ご主人様」

 

 

 背に乗る俺に礼を言うニーナの頭をポンポンと叩いてから。

 俺は再生しつつあるニーナが抉った蔓の集合体の傷口へ剣を振り、両断する。

 

 

「!!!!????」

 

 

 蔓を振り回しながら倒れたそれに、周囲の蔓が集まると再び木のように聳え立った。

 

 

「……ダメだこりゃ」

 

 

 俺は思わず呟く。

 仕返しか無数の蔓が遅い来るがその全てを切り払う。

 どうしたもんかな〜、と考えているとラフタリアを乗せたフィーロが目玉に向かって走り出した。

 よく見るとラフタリアはナオフミに貰った除草剤を持ってる。

 なるほどやっぱ草にゃそれが1番かもな。

 目玉は俺に気を取られてフィーロ達の接近に気づいていない。

 

 

「てえい!」

 

 

 先程と同じようにナオフミが作った盾の足場を蹴って目玉に接近したフィーロは同じように目玉を蹴り飛ばす。

 

 

「!?????」

 

 

 目玉の奴、不意打ちを受けたからか動きが一瞬止まった。

 その隙を突いて、目玉の中にあった種っぽい部分にラフタリアが除草剤を振り掛ける。

 

 

「!!!!?????」

 

 

 凄い声とも音とも言い得ない振動が辺りに響き渡り、バイオプラントの動きがピタリと止まる。

 しかし、それだけでバイオプラントは、また動き出した。

 ちゃんと掛かっていたからどうやら薬としての効果が枯らすに至らなかったのだろう。

 となると打つ手が〝獄炎(ヘルブレイズ)〟で焼き尽くすしかないんだけど。

 と、考えているとナオフミが除草剤を片手に群がる敵を無視して蔓の集合体へ向かって歩き出した。

 最近、気付いたのだけど、ナオフミの防御力は力にも範囲が及んでいるらしく、大量に敵にしがみ付かれても進める。

 ただ、攻撃となるとてんで効果を発揮しないようだ。

 だから大量の魔物を抱えても全く問題なく歩ける。

 で、先ほどのバイオプラントの根元に辿り着いた。

 そして、ナオフミは根元に除草剤を何個も撒いた。

 

 

「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!???????????」

 

 

 先ほどよりバイオプラントの動きが強まる。まるで断末魔かの様な振動だ。

 そしてバイオプラントは目玉の部分から茶色に染まり、枯れていく。

 スーッと音を立てているかのように、全てが枯れ始めた。

 バキバキと音を立て、バイオプラント本体が崩れ落ち、俺達は急いで避難する。

 

 

「おお……」

 

 

 見れば他の魔物も全てが茶色に染まっている。実った果実以外の全てが茶色一色になり、辺りで動くの俺達だけになった。

 そして……バイオプラントが聳え立っていた場所に光り輝く種が降り注ぐ。

 ……あれ、放置していたらやばそうだなぁ……。

 

 

「一応、掃除だな。盾にも吸わせられるかもしれない。集めておくぞ」

 

 

「はい」

 

 

「ハイハイ」

 

 

「はい」

 

 

「ごっはん!」

 

 

 種などを集めている俺達を他所に、フィーロは残った果実と芋を頬張っていた。

 ニーナが羨ましげに見ていたのでニーナに食ってきていいぞと言うと目を輝かせてお礼を言ってきた。

 可愛い奴め。




 はい、多少オリジナル要素を入れてみました。
 メリオダスとニーナの出番が無いまま終わりそうだったので。……出番と言えるかは謎ですが。
 バイオプラントを2本に増やしたり、植物を操る系の転生者を出そうか悩みましたがこのままで行くことに。

 次回はいつになることやら……せめて月一で出せるくらいには回復したいなぁ。

 それでは第28話もお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第28話 フィ〝ロリ〟アル

 ふぅ、何とか1ヶ月経つ前に投稿できたぜ……。

 タイトルは気にしたら負けです。
 今回は前回ニーナ可愛い要素が少なかったので今回補充するです。
 後、昨日ロリの日だったしね。

 後、今回から尚文達、勇者の名前をカタカナにするの辞めます。
 よく考えたらメリオダスって元々日本人だし、日本人の名前普通に言えると思うですよね……。
 決して作者が面倒くさくなった訳ではなくありませぬ。

 それでは第28話をどうぞ!


「こんなもんか?」

 

 

「はい、後は村の方に頼めば良いかと」

 

 

「ふぅ、あの植物倒すよりめんどかったな」

 

 

 奇跡の種……もとい元康の失敗であるバイオプラントを討伐した俺達は種子などを集めていた。

 尚文は拳大の光る種を集め、ついでに盾に枯れた植物を吸わせてみた。

 なんか面白い盾でもあったのか盾を変えてなんかしてるがそれは後で聞くとして俺はフィーロと果実や芋を食べてるニーナに近づいた。

 

 

「美味いかー? ニーナ」

 

 

「はい! とっても美味しいです!」

 

 

 俺が聞くとニーナは輝くような笑顔で返事をした。

 え? 何この可愛い生物。あの悪魔(ジブリール)と見た目は同じなのにこの違いはなんだ。

 

 

「た、種拾うのあらかた終わったからそろそろ帰るぞ」

 

 

「はい、分かりました。フィーロ! 帰りますよ!」

 

 

「えー! フィーロもっと食べたーい!」

 

 

「ダメです! 尚文様やご主人様にご迷惑をかけてはいけませんよ!」

 

 

「むー、はーい!」

 

 

 可愛い。

 「帰るぞ」とニーナに言っただけなのにフィーロ呼び戻そうとする辺り可愛い。

 もう、やり取りが可愛い。

 

 

 ニーナの言葉に不満そうだったフィーロも尚文の名前を出されると痛いのか不満げながら近付いてきた。

 

 

「おーい! 村に戻るぞ!」

 

 

「分かった! ほら行くぞ」

 

 

「はい!」

 

 

「はーい」

 

 

 大声で俺達を呼んだ尚文の元へ俺はロリ鳥達を率いて戻った。

 合流した俺達は静まり返った茶色の植物地帯からキャンプに戻った。

 

 

「ありがとうございます、勇者様!」

 

 

 人間というのは現金なものだ。

 尚文が村を救うと連中は快く歓迎した。

 まあ、村の掃除をしなきゃ住めないから色々と大変だろうけどな。

 その日は枯れた植物の片付けを手伝って終わった。

 ニーナがとてとて歩いて手伝っていたのが可愛かった。

 なんか本体は枯れても実と根の芋は残っているらしく、しばらく食料は問題が無いらしい。

 ただ、元々飢饉だった訳だから逆戻りだろう。

 近い未来、この村は別の所へ移動するかもしれないな。

 今日は村人達が聖人様、神鳥様と勧めてくるので村で一泊した。

 食べ物は程々に美味しい……というか、バイオプラントの芋やら実だ。

 迷惑な植物だが、味は良いんだよな。

 

 

 次の日俺は外から聞こえる騒ぎに目が覚めた。

 俺の腕にはニーナが気持ちよさそうに寝ながら抱きついていて、一瞬2度寝しようかと思ったが尚文達がいないのも気になるので泣く泣くニーナを起こし、ついでにフィーロも起こし、外に出た。

 

 

 眠そうなニーナを連れて外に出ると、人集りが出来ており、その中心では尚文とラフタリアがおり、瑞々しいトマトのような実を付けた植物が生えていた。

 

 

「尚文〜? なにしてんの?」

 

 

「ああ、メリオダスか。昨日出た盾に植物改造ってのがあってな。あのバイオプラントは元々食糧生産が目的だったんだろうが変異性が高くて魔物化してたようだ。だから、繁殖力と変異性を下げて生産力、成長力を上げてみた」

 

 

「ははぁ……なんでもできるなその盾」

 

 

 なるほどなぁ……そうなると大昔の錬金術師とやらも根からの悪人ではなかったのかもしれない。

 トマトのような実を1つ取り、食べてみる。うん、美味しい。

 これなら村の名産品にできるだろう。

 問題があるとすれば実が一種類しかないことだろうか。

 ロリ鳥2羽がもの欲しげな顔をしていたので上げたら、美味しそうに食べだした。可愛い。

 

 

「一応、成功だと思う」

 

 

「おお……」

 

 

 俺達の様子を見て尚文は頷き、村人は声を上げる。

 

 

「問題は一種類って所か、使うかはお前等次第だけどな。もしもダメだったら今回の様になる前に手を打てよ」

 

 

 除草剤を撒いて、植物を枯らして種に戻し、そしてその種をそこの領主らしき男に注意と共に渡した。

 

 

「と言う訳で俺達は行く、じゃあな」

 

 

 ロリ鳥2姉妹はまだ残っているトマトみたいな実を頬張って馬車を引き出した。

 

 

「お待ちください!」

 

 

「ん? なんだ」

 

 

「まだお礼を渡し切れません。是非――」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「あいつ等、在庫処理に困ったから俺に押し付けたんじゃないのか?」

 

 

「ど、どうでしょう……」

 

 

「まあ、いいんじゃないか?」

 

 

 現在、俺達の馬車は3車両づつになっていた。

 先頭の馬車2つの後ろに2台の荷車がそれぞれバイオプラントの実らせた作物を積載している。

 荷車と一緒に俺達に贈与された物だ。

 笑顔で渡されたので尚文は仕方なく受け取ったけれど、体のいい処分だったのではないかと疑いたくなるぞ。

 これだけ連結していると言うのにロリ鳥ツインズはご機嫌に競うように馬車を引いている。

 

 

「重くて楽すぃいー!」

 

 

 フィロリアルとは変わった魔物だよな。

 テンションの高く叫ぶフィーロの声を聞きながら思う。

 ゴトゴトと馬車は揺れながら旅は続いていく。

 

 

 尚、除草剤が武器として使える事が判明したので、トレントが湧いた際、尚文が撒こうとしたら弾かれていた。

 まあ、無理に尚文が攻撃する必要もないしな。

 

 

「こんな量食べきれないから売るぞ。確か北方な飢饉があるとかいう話があったはずだ。そこに行くぞ」

 

 

「了解」

 

 

「じゃあ北へ出発だ」

 

 

「はーい!」

 

 

「はい!」

 

 

 ロリ鳥シスターズは元気な声を上げながら、北方に向かって馬車を引く。

 

 




 「ロリ鳥〇〇」って書いてる途中で思いついてちょっと気に入っちゃった(てへ
 次回から乱用はしません。

 皆様台風はどうでしょうか。
 こちらは大雨と風はありますが浸水や道路が川みたいになるほどではないですね。
 台風で引きこもってる皆様を少しでも楽しませることが出来たなら幸いです。
 皆様お気をつけください。

 次回も1ヶ月位で投稿したいな〜。
 それでは第29話もお楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第29話 弓もバカでした

 また1ヶ月以内に更新できたけど1ヶ月ごとに更新とかいつ終わるんだよこれ……

 さて、恐ろしいことに2周年記念まで残り1ヶ月となってしまいました……震える。
 去年の1周年記念では1月毎日更新をまあ、1週間くらい休みましたがしました。
 ですが今年は最近の更新ペースを見ていただければ分かる通りモチベが去年より酷いので毎日更新できるか不安なんですよねぇ……。
 というわけで1周年記念に何をするかのアンケートを取ります。
 最後に適当にポチッと押していただけると幸いです。

 それでは第29話をどうぞ!


 北へ向う道中で立ち寄った町での事。

 

 

「あ? 商業通行手形だと?」

 

 

 町へ入ろうとした時、検問所の様な場所で町の見張りらしき人物に領主からの通行税と商業税を請求されたのでリユート村発行の商業通行手形を見せたのだが……。

 

 

「そんなものは受け付けん! さっさと払え!」

 

 

「ですが」

 

 

 ラフタリアの交渉にも見張りは応じず、金の請求ばかり。

 尚文も前に出て交渉しようとしたのだけど、見張りは一歩も引かなかった。

 

 

「強情な奴だ!」

 

 

 一触即発な程、見張りは俺達に向けていきり立っていた。

 うーむ……ここまで強く出るには何か理由があるな。

 この世界で行商を始めて幾つか学んだ事がある。

 一つは脅迫、力による威圧を行うことで無理を通したり、弱みを握って高めに買わせる事。これは舐めた相手に効く手段。

 次に交渉、相手と話をしながらノリで下げたり上げたりを行うことで人間関係を循環させる。敵意の無い相手に効く。

 この二つが効かない相手となると、考えられる理由は……。

 

 

「ここの領主はとんでもない奴みたいだな」

 

 

 ふと、町の方を見ながら尚文が呟く。すると見張りの奴の表情が若干変化が生まれる。

 

 

「領主様の悪口を言うな! 不敬罪に処すぞ」

 

 

 なるほど。これは上が問題を抱えているパターンだ。この場合、脅迫も交渉も意味が無い。

 あっちは引くに引けないのだ。引いてしまえば自分が処罰されてしまう。

 それでも下げさせる方法といったら騒ぎを起こすか、その領主が出るまで問題を起こすしかない。

 けど……そこまでのリスクを払うメリットが俺達にはない。

 

 

「わかったよ。お前も苦労しているな」

 

 

 尚文が言われた金額を見張りに渡す。

 すると見張りの奴、肩透かしを食らったように呆けた。

 

 

「ああ……それなら良いんだ」

 

 

 そして見張りはポツリと尚文の耳元で何事かを呟く。

 恐らく謝罪か何かだろう。

 見る限りこの見張りは悪いやつには見えない。

 

 

 クズ王の管轄かな? この国も腐った領主というのがいるのだろう。

 荷車に満載した食料は売り上げに税がかかるので売らなかった。

 そして、宿を取る。近隣と比べて遥かに高い。

 この町……殆どの場所に税が掛かっているのか、日用品から食料、武器防具、細工品、挙句の果てに宿代まで、なにもかもが割高だ。

 住み辛いな。

 商業も衰退傾向にあって、市場も活気が無い。

 相当重い税金が掛けられているに違いない。

 

 

「何処の村であの食料を買ってくれるか、情報を集めてくる」

 

 

「分かりました」

 

 

「いってらー」

 

 

「はーい! ごしゅじんさまーおみやげ待ってるねー」

 

 

「あれだけ食料があってまだ欲しいのか!」

 

 

 フィーロの奴、ここの物価が高いというのに土産を要求するとは……。

 ニーナがフィーロを叱ってる。ホントこいつらなんなんだ……。

 宿の室内に俺達をおいて尚文は部屋を出ていった。

 

 

 しばらくして戻ってきた尚文によるとこの街に樹がいたらしい。

 なんでもここの領主は私腹を肥やすために国の方針以上に税を引き上げ、近隣の商人から賄賂を受け取り、用心棒を雇って異議を唱えるものには厳罰に処してるというありきたりな悪徳領主らしい。

 その情報を集めていた樹だったんだが尚文のブックシールドのように偽装できる弓に変えて、剣なんぞ持ってたらしい。

 そして、仲間の影に隠れていたらしい。

 な〜にがしたいんでしょうね。

 

 

 尚文は特に興味がないのか魔法書を読み解いていた。

 ちなみにフィーロへのお土産はなくフィーロは文句を言っていたが尚文はスルーしていた。

 物価が高いから仕方ないね。

 魔法を新たに1つ覚えたようだがまた補助回復系だったようだ。

 

 

 翌朝。

 国から雇われた冒険者がこの町を密かに視察し、領主は失脚したという話が町にもたらされた。

 何か町の往来のど真ん中で、美人の女の子と何やら世間話をしている樹達を見かけた。

 

 

「本当に、ありがとうございました」

 

 

「いえいえ、なんて事はありませんよ。これは秘密ですよ」

 

 

 こいつアホか。

 

 

 そういえば樹——弓の勇者が何かをしたという噂を耳にしなかったがこれが理由か。

 コイツ、自身を隠し、目立たないけど実は凄いんですよって思っているタイプだ。

 それを実感して喜ぶというのは、ちょっと趣味が悪い。

 

 

 自己顕示欲を満たす為だけに自分の正体を隠していやがる。

 でなければ、こんな目立つ所で立ち話なんて普通しないだろ。

 大方、あの女性も税の代わりに連れ去られそうになっていた、病気で床に伏せっている爺さんの娘とかそんな所だろう。

 

 

「馬鹿馬鹿しい」

 

 

 尚文がポツリと呟いた。

 気持ちは分かる。

 

 

「まあ、あの女達みたいに助かったヤツらがいるんだからいいんじゃね? 『やらない善よりやる偽善』って言葉もあるしね? 俺TUEEEEのためとはいえね?」

 

 

「アイツが馬鹿なことに変わりはないだろ」

 

 

 そう言って尚文は足早に街を出ようとする。

 

 

「ごもっとも」

 

 

 俺は苦笑して尚文の後を追いかけた。

 

 

 それから半日ほど進んだ隣国の国境付近の村での事。

 昨日売れなかった馬車の食料を売り出すと見る見る売れた。飢饉のあった地域に入ったらしい。

 ただ、何かこの村の住人じゃないっぽい奴が多い。

 服装とか、雰囲気がこの国と微妙に異なる。

 

 

「なあ。お前等……」

 

 

 隣国の圧政を引く悪い王が退治されたとか噂を聞く地域だったはずなのだが。

 その辺りの連中が行商に来ているのか?

 彼等は俺達の馬車を覗くと、鬼気迫る勢いで商談を持ち掛けてきた。

 何か金じゃなくて物々交換で買おうとしている。薬草は良いけど材木とか……木工品とか渡されてもな。

 尚文は馬車を降りて、そいつ等から事情を尋ねる。

 

 

「金の方が助かるんだが」

 

 

 藁の束とか紐とか炭とか渡されても、こっちは大量に在庫を抱えている分、処分に困る。

 大量の薬草は薬にすれば良いから買い取るが。

 

 

「すいません。何分、売るものが殆どなくて……」

 

 

 見ると、なんともやせ細っていて、今にも死にそうに見える。

 

 

「……どうせもらい物だ。少しだけ炊き出しをするから食っていけ」

 

 

 尚文はそう言って大きめの鍋を村の連中から借りる。

 ……やっぱりこいつ優しいな。

 

 

 尚文に優しい視線を送ると尚文に睨まれた。てへ。

 

 

 村の連中も飢えで苦しんでいたのもあって、快く協力してくれた。

 生モノ故に腐る危険がある。もらってまだ4日ほどだけど。

 まあ尚文は腐敗防止の技能を取得しているので、普通よりは腐りづらいが。

 

 

「ありがとうございます!」

 

 

 みんな貪るように振舞った鍋を食べきる。

 その間に、どうしてこんな事になっているのかを尋ねた。

 なんでも圧政を敷く王は倒されたまではよかったのだという。

 税も軽くなり、人々の生活が少しだけ楽になった。

 けれど、それも直ぐに元に戻ってしまった。

 なんとレジスタンスだった連中が今度は税を引き上げたのだと言う。

 

 

「なんでだ? せっかく悪い王を倒したんだろ?」

 

 

「……その、国の運営となると金が必要になり、戦力の減少を抑える為に税の引き上げが起こりまして」

 

 

 なるほど、別に圧政を敷いていた悪い王、ではなく、国を守る為に軍事力を最低限確保しようとしていた訳か。

 民なくして国ではないというが、民を守れなくては国ではない、とも言えるのか……。

 そんな状況で王様の悪い噂だけを集めていたら、そりゃあ退治されるかもしれないな。

 哀れなもんだな。

 王とかって、悪い事だと分かっていてもやらなきゃいけない事もあるだろうし。

 ま、この国のクズ王は、最初から馬鹿で悪だけど。

 

 

「頭が変わっただけで生活が出来ません。ですからどうにか金になるものを持ってきて、こうして少しでも裕福なメルロマルク国に来ています」

 

 

「王様がかわいそうー! 本当はみんなのことを一番に考えてたのにねー。今おなかが空いてるのはだれのせいなんだろうねー?」

 

 

「黙れ鳥! 飼い主である俺の精神を疑われるだろうが!」

 

 

「はーい」

 

 

 人の傷口を抉る様に毒を吐いたフィーロを尚文が叱る。

 最近フィーロは妙な知恵を付けて来たのか、口が悪くなってきた。

 

 

「一体誰に似たんだ……」

 

 

 尚文がそうボソッと呟いたので思わずラフタリアと尚文に視線を送ってしまう。

 

 

「なんだ?」

 

 

「いえ、なんでもありません……」

 

 

「尚文……ペットは飼い主に似るという言葉をご存いて」

 

 

 喋ってる途中で尚文に頭を殴られた。いや痛くないんだけどね。

 

 

 まあ、フィーロはああ言っているが、あの樹がレジスタンスに加担したんだから根からの善人では無かったのかもな。

 ともあれ、こいつ等は密入国して闇米とかを買いに来ている感じか?

 そういえば食べ物の物価がこの辺りじゃ急上昇しているようだし。そのお陰で稼げてはいるけど。

 確か、樹が……将軍様がこの辺りの世直しをしているんだよな。

 アフターサービス位しておけよな……。

 

 

「おい、メリオダス。『助かったやつがいるんだからいいんじゃね』だったか? その場で正義感を満たしてるだけな気がするがな」

 

 

 そう言う尚文に俺は何も言い返せなかった。

 クソっ、樹の野郎!

 馬鹿だけど良い奴かもしれないと思って庇ってやった俺の思いを返せ!

 今度会ったら1発殴ってやる。

 

 

「このままじゃ何処かの国が弱っている私達の国に攻めてくるかもしれない……でも、飢饉で生活ができないんですよ」

 

 

「なるほどなぁ……」

 

 

 俺が固く決意している間も話は続いている。

 

 

 波の影響なのか、各地で飢饉が頻発しているのかもしれない。

 

 

「しょうがないな」

 

 

 尚文は改造したバイオプラントの種をそいつ等のリーダーらしい奴に一個渡す。

 

 

「これは?」

 

 

「植えたら直ぐに育つ、国の南方の地で問題を起こした植物の種を特殊な技術で改造した物だ。おそらく大丈夫だろうが管理には気をつけろよ。下手に扱うと危険な代物でもある」

 

 

「は、はぁ……」

 

 

「また近々、この辺りを通る。その時にでも礼を寄越せ」

 

 

 マジで聖人名乗ってもいいんじゃねこいつ。

 

 

 そう思ってまた尚文に視線を送ったら殴られた。解せぬ。

 

 

 4台あった荷車の2台が完全に売り切れたのでオマケで種を渡し、その場を後にした。

 次にこの近隣に来たとき、熱烈な歓迎をされるのは別の話か。

 尚文の正体も完全にばれていたし、その小さな隣国も飢饉から脱して住民は食べるに困らなくなったらしい。

 

 

 尚、ここで腐るほど大量に薬草を手に入れたので、東の地方で疫病が流行していると聞き、俺達はそっちに売りに行く事にした。

 

 

 東……か。

 

 




 原作とあんま変わらんなぁ……
 まぁ、次回は変わる……といいなぁ(願望

 そんなことはさておき、前書きで書いた通り下のアンケートにぜひご参加ください。
 他に案のある方は活動報告にてお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第30話 罪の意識

 また1ヵ月ぶりだよ……。

 さて、皆様今日12月11日は私がハーメルンにて小説を投稿し始めた日になります。
 今年で2周年目です。
 活動報告にて毎日更新の件についてや他にも色々話しているので暇な方はどうぞ。

 それでは第30話をどうぞ!


 その日は野宿となった。

 

 

「どうにかあの処分に困った食料を高値で処理できたな」

 

 

「そうだな」

 

 

 尚文の若干疲れた声に苦笑する。

 南方じゃ飢饉が解消されていたから売れず、北方に来てやっとだった。

 まだ二台は食料を満載した荷車が残っているけれど、これは食いしん坊鳥達の餌だ。

 

 

「ごっはーん!」

 

 

 布を被せた荷車に頭を入れて中身を貪る鳥。

 

 

「おーいすぃーいぃ!」

 

 

 テンション高いね君。

 まぁ、フィーロだけじゃなくニーナも美味しそうに食べてる。

 フィーロほどテンション高くないが。

 

 

 この子ら、成長が終わっているのに大食漢なんだよなぁ。

 日々の食費に尚文が頭を抱えてる。

 その代わりに移動は異様に早く済むが。

 けれど、色々と無茶をしている所為で馬車がすぐにおかしくなる。

 修理代もかなりの金額に上っているし……。

 

 

「どうしたものか」

 

 

「この際、木製ではなく金属製にするか? フィーロが軽い軽いうるさいし。かなり高くなりそうだが今後の修理代も考えると金属製の方が安上がりだと思うが」

 

 

 ラフタリアは乗り物酔いを克服したけど、フィーロの全速力だと同乗する客が凄い勢いでリバースして馬車の中が大惨事になるんだよなぁ。

 スプリングとかを入れさせてショックを緩和するのも良いかも。

 

 

「そうだな。金も貯まってきたし、武器屋の親父にちょっと聞いてみるか」

 

 

 この国を回ってみて分かるのは、やはり国の中枢である城下町の武器屋が一番良い物を売っている。

 他の勇者(アホ)が何処で武器防具を買っているか知らないが、俺達が回った町や村では親父の店よりもよい装備は売っていない。

 

 

「ごしゅじんさまー」

 

 

 尚文とそんな相談をしていると、もふ……とフィーロの羽毛が尚文に圧し掛かる。

 北方だからか少し肌寒い。だからフィーロの羽毛は本体の体温もあって温かそう。

 

 

「……ご主人様」

 

 

 ニーナも俺に擦り寄ってきた。可愛い。そして温かい。

 

 

「えへへー」

 

 

「むう……」

 

 

 尚文に抱きつくフィーロを見てラフタリアが尚文に引っ付くように座る。

 

 

「へへへ、みんなでポカポカ」

 

 

「俺はもう暑い……」

 

 

「フィーロ、離れなさい。アナタが離れれば丁度よくなります」

 

 

「やー、ラフタリアお姉ちゃんが離れれば良いんだよ。ごしゅじんさまを独り占めよくない」

 

 

「独り占めしてません!」

 

 

「さわがしい! さっさと寝ろ。お前等!」

 

 

「そんなー……」

 

 

「一緒に寝ようよーごしゅじんさまー」

 

 

「俺は東の地域に到着する前に薬を作っておかなきゃいけないんだよ」

 

 

 尚文は在庫の治療薬だけでは間に合わないのを見越して、大量に手に入った薬草で鋭意調合中だ。

 それでも足りるか分からないらしい。

 というか尚文、ここまで好意を寄せられて気づかないとかいっそ清々しいまでの鈍感っぷりだな。

 

 

「ぶー……」

 

 フィーロはむくれながら尚文から離れて眠る。

 同時にラフタリアも馬車の中に入った。地べたで寝るよりは寝心地が悪くないからだろう。

 

 

「さて、んじゃ俺らも寝るわ。がんばれー」

 

 

「ああ」

 

 

 俺は火の番をしながら治療薬の調合を続ける尚文に一言断ってニーナをつれて自分の馬車に入った。

 馬車に入る直前、尚文とラフタリアの話し声が聞こえてきたが俺はそのまま馬車に入ってニーナを抱き枕に寝た。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 国の東の地域に到着した。

 なんていうのだろう。辺りの木々が枯れていて空気が重たい。

 別に特別、寒いわけでもない地域だと言うのに。

 大地の色も黒く、例えて言うのなら暗黒の大地みたいだ。

 空を見上げると雲も分厚く、大きな山脈が少しずつ近づいてくる。

 何とも不吉な感じだ。

 俺が前来た時は普通だった。

 俺が離れてから何かがあったようだ。

 俺が戦ったドラゴンが錬に殺られたらしいが獣人の女の子は無事だろうか。

 ……俺に心配資格ないか。

 

 

「えっと」

 

 

 道が割れていたので尚文が地図を確認する。

 

 

「フィーロ、山の方へ進め」

 

 

「はーい!」

 

 

「みんな、念のために布で口を覆っておけよ。この辺りは疫病が流行しているらしいからな」

 

 

「はい」

 

 

「……ああ」

 

 

 尚文の言葉に頷き口を布で覆い、最低限の防御をしてから目的の農村に辿り着いた。

 村の印象をあえて言うのなら、暗い。暗雲がこみ上げていて、何とも黒っぽい村だ。

 ここもやはり前に来た時とは全く異なっている。

 

 

「……行商の……方ですか? 申し訳ありませんがこの村は、疫病が蔓延していまして、ゴホ……避難した方が……」

 

 

 苦しそうに咳き込みながら村人が俺達に説明する。

 

 

「分かっています。だから治療薬を売りに来ました」

 

 

「そ、そうですか! 助かった」

 

 

 村人が走り出し、薬の行商が来たことを告げに行く。

 ……かなり緊迫した様子だ。

 村中から薬を欲する声が響く。

 

 

「ち、巷で有名な神鳥の馬車だ! これで村も救われる!」

 

 

 いつも通り期待が重い。

 これで尚文の作った薬の効果が無いとかだと途端に信用が落ちる。

 

 

「薬を飲ませたい奴は何処だ?」

 

 

 治療薬を購入した奴から順に一番効果が高い方法の尚文が飲ませるという行動に出る。

 

 

「こちらです。聖人様」

 

 

 案内されたのは症状の重い者達を一緒に集めた建物だった。

 隔離施設的なものだったのだろう。

 施設の裏には墓地があり、真新しい墓標が何本も建っている。

 

 ……死の匂いがする。

 前の世界ではそこら中で漂っていた死の匂い。

 尚文の治療薬だけで治せるだろうか。

 尚文が解読したのは中級レシピだ。

 中級ということは上級があるのだろう。

 もしも、ここで治療薬の効果が無かったら手段が無くなる。

 高く付くが高額の薬を尚文が服用させれば効果は出るだろうが。

 

 

「妻をお願いします!」

 

 

「ああ」

 

 

 尚文は病で咳を止め処なくする女性を起こし、少しずつ、治療薬を飲ませる。

 パア……っと光が女性を中心に広がった。

 少しは効果があっただろうか。女性の血色がよくなったように感じる。

 そして更に驚くことに女性の隣で横になっていた子供の咳も止まっていた。

 俺と案内した村人は目を見開き尚文を見つめる。

 

 

「次!」

 

 

 尚文がそう言って顔を上げると俺達の視線に気づいたのか怪訝な顔をする。

 

 

「どうした?」

 

 

「あ、あの……」

 

 

 村人は女性の隣で横になっている子供を指差す。

 尚文は死んだと思ったのか子供の呼吸を確認する。

 だが、普通に呼吸をしており随分と安定している。

 

 

「どうなっているんだ?」

 

 

「聖人様が妻に薬を飲ませるとほぼ同時に隣の子の呼吸も和らいだように見えました」

 

 

「俺にもそう見えた」

 

 

「もしかして、薬効果範囲拡大(小)とはこの事を指していたのか?」

 

 

 どうやらまた盾の効果らしい。

 範囲が増えるって、有能すぎるだろ。

 見た限りだと半径1メートル程度、薬を服用させた者の周囲に同様の効果を出せるようだ。

 どれだけのスペックを秘めているんだこの盾は。

 ただ、戦闘になると範囲外である可能性は高いな。1メートル内で固まっていたら格下でない限り一網打尽にされる。

 

 

「それなら話は早い! 治療薬の効く奴は半径1メートル範囲で飲ませる。いそげ!」

 

 

「は、はい!」

 

 

 人手が足りないのでフィーロとニーナとラフタリアにも病人を運ばせて、近くで薬を飲ませた。

 薬の節約にもなり、隔離施設の連中の治療も思いのほか早く終わった。

 ただ……あれからしばらく経ったけれど、症状の緩和だけで完全に快方に向っている訳ではないのが厳しい所だ。

 

 

「やはり俺の治療薬じゃこれが限界か……」

 

 

「ありがとうございました!」

 

 

 感謝されこそすれ、尚文は不満そうだ。

 感染する危険性も孕んでいるものを根絶できなかったからだろう。

 

 

「そういえば、この病は何処から? 風土病か何かからか? いや普通は流行り病か」

 

 

 治療薬がこの程度しか効果が無いという事はかなりの病だ。

 俺達も感染する危険性がある。

 最悪、足早にここを去るという選択を決断せねばならないだろう。

 

 

「その……実は魔物の住む山から流れてくる風が原因だと治療師は説明しておりました」

 

 

「詳しく話せ」

 

 

「では、彼に……」

 

 

 治療師とは俺の世界で言う医者に近い、回復魔法と薬学に精通した職種だ。

 その治療師はこの村で病に効果のある薬の調合を行っており、丁度俺達が治療中に隔離施設に来て治療を手伝っていた。

 

 

「お前、治療薬より高位の薬が作れるか?」

 

 

「はい。現在製作中です。聖人様が行った薬で症状の大規模な改善が見られたので、放置しています」

 

 

「早く作業を再開しろ、完全に治療できていないという事は、いずれ再発する」

 

 

「は、はい!」

 

 

「待て」

 

 

 走って作業を続行しようとする治療師を呼び止める。

 

 

「お前がこの病の原因が山からの風だと説明していたそうだな。何故だ」

 

 

「あ、はい。約一ヶ月ほど前、山脈を縄張りにする巨大なドラゴンを剣の勇者様が退治いたしました」

 

 

 …………ッ!

 

 

「お、おい? どうしたメリオダス?」

 

 

 尚文の言葉に我に返る。

 怒気が漏れていたのか治療師が青ざめている。

 

 

「……なんでもない」

 

 

 そう言って俺は治療師に先を促す。

 

 

「は、はい、ドラゴンは人里離れた地を根城にして巣を作るのですが、このドラゴンははぐれ者だったようなのです」

 

 

「それと何の関係があるんだ?」

 

 

「一時期、この村には勇者様の偉業を見に冒険者が集まったそうです。そして冒険者は山に上り、勇者様が倒したドラゴンの素材を持ち帰ってきました」

 

 

 ドラゴンの素材で優秀な武器とか防具を作る気だったのだろうか。

 

 

「で?」

 

 

「ここからが本題です。素材が剥がされたまではよかったのです。そのお陰でこの寂れた村も非常に潤いました。ですが……そのドラゴンの死骸が腐り始めた頃に問題が起こったのです。ちょうど同時期に死骸を見に行った冒険者が病を発症しました」

 

 

「……分かってきたぞ。その死骸がこの病の原因か」

 

 

「おそらくは……」

 

 

 素材を剥ぎまくっているのに……という所で安易に想像が付く、ドラゴンの死骸で残されていそうな部位。

 肉だな。幾らドラゴンといえど一番に腐るといったらその辺りだろう。

 一部の美食家とかが欲するかもしれないが大抵は腐りかけの肉など冒険者は欲しない。

 後は臓物だ。特に肝臓の類は腐りやすい。

 錬は素材目当ての可能性が高いから臓物辺りは無視していそうだ。

 精々、心臓とか……魔力的効果の高そうな部位だろうなぁ。

 

 

「原因が分かっているならササッと処分すれば良いだろ」

 

 

「それが……元々冒険者でもなければ入らない凶悪な魔物の住む地域の山脈なので……近隣の農民では撤去も不可能なのです」

 

 

「じゃあ、冒険者に頼めば良いだろ」

 

 

「気付いた頃には山の生態系が劇的に変化していまして、空気には毒が混ざり、病の影響で並みの冒険者では入ることさえ困難に……しかも流行り病を警戒して冒険者も近づきません」

 

 

 錬は勇者の中で一番年下だ。

 物が腐って困る、なんて発想は出てこなかっただろう。

 ましてや、あいつは勇者の中で一番ゲームに精通している。

 それもVRMMOとかいうSFの産物だ。

 ゲームと現実の違いに一番遠いと言われれば、この結果は必然と言える。

 

 

「聖人様、どうしましょう」

 

 

「国には報告したのか?」

 

 

「はい。近々、薬が届く予定です」

 

 

「……勇者は?」

 

 

「何分、忙しい身なので、後回しになっている可能性が高いかと」

 

 

 元康といい錬といい。

 腹立たしくてしょうがない。

 

 

「国への依頼料とかは既に払っているのか?」

 

 

「ええ……」

 

 

「キャンセルしたら戻ってくるか?」

 

 

 治療師は、尚文をまっすぐに見て目を見開く。

 

 

「聖人様が行くのですか?」

 

 

「どうせ薬が出来るまで時間が掛かるだろ?」

 

 

「はい……後半日は掛かるかと」

 

 

「分かった。その間にドラゴンの死骸を処分しに行ってくる。代わりに国への依頼料を寄越せ」

 

 

「わ、わかりました」

 

 

 こうして俺達は山の方へドラゴンの死骸を処分しに行く事になった。




 また大して変わってないですね……。
 モチベが低いんだ済まない……。
 次回は変わる予定です……ちょっと。

 後、今年の更新は恐らく今回で最後になるかと……。
 もしかしたらクリスマスや年末に更新するかもしれませんがあまり期待はしないでください。

 それでは第31話もお楽しみ!
 良いお年を!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第31話 ドラゴンゾンビ

 皆様あけましておめでとうございます!
 去年はまぁ酷い有様でしたが今年は頑張りたいと思います!
 まずは1月毎日更新をサボらない!

 それでは毎日更新1日目!第31話をどうぞ!


「わぁあ……魔物がいっぱいだー」

 

 元々不毛の大地だった影響か山は岩がごろごろしている岩山だった。

 東の国への山道があるおかげでどうにか進めている。

 登りだして30分程経っての事。

 フィーロが魔物を蹴り飛ばしながら呟く。

 現在の所持品は回復薬と念のために治療薬、そして毒が空気に混ざっているというので解毒剤。

 ちなみに出発前、馬車を置いていこうとした所。

 

 

「やー! これにはフィーロの思い出がたくさん詰まってるのー!」

 

 

 などとフィーロの奴、絶対に引いていくと駄々を捏ね、ニーナは馬車を抱きしめ大粒の涙を目に浮かべ無言で懇願したので結局そのままだ。

 まあ2人にとって馬車は一生の九割近くを引いていたし、種族の特徴でもあるのかな? 

 敵はポイズンツリーやポイズンフロッグ等、毒系統をもつ魔物が多い。

 尚文は倒した後、マメに盾に吸わせている。

 大体が毒耐性系が置き換わってステータス系アップの装備ボーナス盾だそうだ。

 

 

 という話は置いて置いて、敵の出現が激しい。

 倒しても次々と湧いてくるというくらいだ。

 確かに、これは疫病を振りまく風と毒、更に地面から瘴気みたいのが立ち込めていて、普通の冒険者は厳しいかもしれない。

 

 

「相手をしていてはキリが無い! フィーロ、駆け抜けろ!」

 

 

 尚文とラフタリアは馬車に乗り、フィーロに指示を出す。

 

 

「はーい!」

 

 

 フィーロは馬車を引いて全力で駆け抜ける。

 ニーナもそれに続く。

 2人がバシバシと敵を跳ね飛ばして若干、経験値が入る。

 道中、ヘドロみたいな魔物と遭遇したが、フィーロが跳ね飛ばしてしまったので盾に吸わせる余裕がなかった。

 

 

「やっと目的地か」

 

 

 そしてしばらくして、尚文のつぶやきと共に毒の瘴気と腐敗臭が辺りに立ち込めている根源、ドラゴンの死骸が見えてきた。

 もはやかつて見たドラゴンの面影はほとんどなかった。

 何色のドラゴンだったのか、それすらも認識する事が不可能なほど腐敗は進み、黒い皮が認識できる程度だ。

 致命傷は腹部への一撃だったのだろう。腹部に大きな傷跡があり、内臓が露出して異臭を放つ。

 ポイズンフライがドラゴンの腐った肉に群がり、不快感を増長させる。

 しかし、右腕に刻まれたあの斬痕は紛れもなく俺が付けたものだ。

 微かにあった別個体かもしれないという期待は裏切られた。

 

 

 別にそこまで気にする必要は無いかもしれない。

 俺との傷がなくても殺されていたかもしれないし、知り合いと言うほど関わりを持った訳でもない。

 だが、拳に力が入るのを抑えることが出来なかった。

 

 

「……メリオダス、あのドラゴン知ってるのか? なんか変だぞ?」

 

 

 尚文の言葉に我に返り、振り返ると尚文、ラフタリア、そしてニーナがこちらを訝しそうに、心配そうに見ていた。

 ……フィーロだけは「お腹すいたー」と馬車に入れてある作物をむしゃむしゃと食べだした。

 3人と一緒にフィーロに半眼を送ってから3人に向けて話し出す。

 

 

「……尚文がこの世界に来た日に俺王に呼ばれて別れたろ?」

 

 

「ああ」

 

 

「その時にこのドラゴンの討伐を依頼されてな。ここまで来て戦ったんだよ。んであと少しで殺せるって時にこいつの子供だって言う獣人の女の子が出てきてさ」

 

 

「ドラゴンの子供なのに獣人なのか?」

 

 

「ああ、多分拾ったかなんかしたんじゃないかな? この国だと孤児とかも多そうだし。んで、その子とその子を守ろうとするドラゴンにちょっとやる気無くしてな。見逃して帰ったってだけだ。別に仲良くなったわけでもないし、気にすることじゃないと自分でも思うんだがな〜」

 

 

 俺はやれやれと首を振って、ドラゴンへ向かって歩き出した。

 尚文達は何も言わず着いてきたが、ニーナは黙って俺の手を握ってきた。

 

 

 錬や冒険者たちに剥ぎ取られて行ったのだろう。爪や角、ウロコ、皮、翼などの主要な部分は殆ど無くなっている。舌すらも無い。

 残されているのは骨と肉だけと言っても過言ではない。

 皮もごく一部を除いて、残されていないようだ。

 鼻が曲がるような異臭が辺りに漂っている。これは確かに厳しい。

 

 

「んで、どうするよこれ」

 

 

「フィーロはポイズンフライの駆除、ラフタリアは俺と一緒に死骸の解体だ。大きすぎて盾に吸わせられない」

 

 

 まぁ、確かに下手に埋めるよりも盾に吸わせて消した方が確実だろう。大地が腐る危険性もあるし。

 

 

「うん」

 

 

 と、食事を終えて腹をパンパンに膨れさせたフィーロが頷く。

 

 

「ちょっと気持ち悪くなっちゃった」

 

 

「それは食いすぎだ」

 

 

「よくあれ見て飯食えるな……」

 

 

 打ち合わせ通りに解体をしようとドラゴンの死骸に近づく。

 ゴソ……。

 

 

「……気のせいか?」

 

 

「えっと……」

 

 

 尚文が呟く。

 今、ドラゴンの死骸がビクリと動き出したように見えた。

 

 

「まあ、ポイズンフライが死骸に群がっている所為でそのように見えたのだろうな」

 

 

「尚文、それはフラグだ」

 

 

 

 ゴロリ……。

 ……うん。気のせいじゃない。

 俺の言葉に同意するようにドラゴンの死骸が動き出し、四つんばいになって臨戦態勢を取った。

 

 

「GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」

 

 

 牙も角も無いドラゴンの頭部が持ち上がって咆哮をあげる。

 

 

「バカな! 咆哮だと!? 肺も喉も無事だったわけじゃないだろ!? どうやって声出したんだ!?」

 

 

「そこじゃねぇだろ!」

 

 

「2人とも落ち着いてください!」

 

 

 動き出したドラゴンの死骸……ドラゴンゾンビを前にして俺達は叫んでいた。

 おいおい、俺はともかく尚文達には荷が重過ぎる相手なんじゃないか? 

 必要Lvは不明だけど、ドラゴンゾンビってゲームとかだと生前よりも能力が高くなるとかあるよな。

 その辺り、この世界だとどうなのよ! 

 ボコボコとドラゴンゾンビは各々の器官を再生させつつ、俺達に顔を向ける。

 再生した部位は羽、そして尻尾だ。牙や爪などの器官の再生にはまだ時間が必要なのかわからない。

 腐敗した肉が液状化して羽と尻尾に変化したようにも見える。内臓部分にもそれは及び、致命傷だと思わしき傷は塞がっていた。

 ちょっとこれは本気出さないと尚文達が危ない。

 

 

「逃げるぞ!」

 

 

「ですがフィーロが既に」

 

 

 尚文が叫ぶがラフタリアがドラゴンゾンビに向けて指差す。

 

 

「てりゃあ!」

 

 

 するとフィーロが丁度、ドラゴンゾンビに跳躍し、その頭部に蹴りを加える瞬間だった。

 ドゴっと良い音がしてドラゴンゾンビが仰け反る。

 

 

「案外……戦える、のか?」

 

 

 それを見て尚文が呟く。

 フィーロの攻撃力が高いと言うのもあるが、このドラゴンゾンビ、攻撃の要である爪と牙がない。

 俺がいることも加味すれば確実に勝てるだろう。

 ここで俺達が引いたら、村の方へこのドラゴンゾンビが来る危険性がある。

 もちろん、生前と同じようにここを縄張りにする可能性もあるが、再生中だと思う、今倒さねば次に戦う誰かが厳しくなるかもしれない。

 

 

「無茶をするなよ!」

 

 

「うん!」

 

 

「よし、ここは俺達が止めるぞ!」

 

 

「はい!」

 

 

「おう!」

 

 

 と、息巻いて戦ったまではよかった。

 尚文も一番防御力の高いキメラヴァイパーシールドに変えて、ドラゴンゾンビの攻撃を受け止めきった所は良いとしよう。

 だが、

 

 

「GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」

 

 

 ドラゴンゾンビの腹部から何かが咽あがってきて、俺達に向けてドラゴンゾンビが口から紫色のガスを放った。

 ラフタリアとフィーロ、ニーナは打ち合わせ通りに尚文の背後に回って盾にする。

 尚文も盾を構えて相手のブレスに備えたのだが……。

 

 

「う……なんだこれ!」

 

 

「ゲホ、ゲッホ!」

 

 

「くっ……ど、毒か……!」

 

 

「ケホッ、ケホッ」

 

 

 ブレスの正体は高濃度の毒ガスだった。

 毒耐性のある尚文ですらも完全には無効化出来ず、背後にいたラフタリアに至っては咳き込み、息をするのでやっとになってしまった。

 俺も息苦しさを感じ、ニーナもラフタリアほどでは無いが小さく咳をする。

 フィーロは毒ガスを物ともせず、いや、正確には息を止めていたのかもしれないがブレスを吐くドラゴンの隙を突いて蹴りを加えた。

 ニーナも後に続く。

 

 

「ラ、ラフタリア大丈夫か!?」

 

 

「ゲホゲホゲホ──」

 

 

 尚文の問いに涙ながらラフタリアは大丈夫ですと答えたかったようなのだが、咳が止まらずにいる。

 ……これは厳しいかもしれない。

 俺達は戦えるけれど、ラフタリアが持たない。

 ラフタリアは元々呼吸器系の病を患っていたらしいからその影響で毒のダメージが1番大きい。

 

 

「早く、ラフタリアは戦線から離脱しろ、馬車に解毒薬がある。それを飲んで安静に」

 

 

「ゲホゲホ!」

 

 

 ラフタリアが必死にドラゴンゾンビの方を指差した。

 俺達はその指の先を見て絶句する。

 ドラゴンゾンビがちょうど、大きなアギトを広げ、跳躍から落下するフィーロに向けて掬うように喰らい付く瞬間だったのだ。

 

 

「あ──」

 

 

 ニーナがフォローに回ろうとするが間に合わない。

 バグン! 

 大きな音が響き、ドラゴンゾンビの口から真紅の液体が滴る。

 

 

「フィーロォオオオオオオオオオオ!」

 

 

 尚文かラフタリアか、もしくは俺かニーナか、誰があるいは全員だったのかもしれない。声を出していたのか、頭が真っ白になって、俺には理解できていなかった。

 ドラゴンゾンビは口に含めた獲物を何度か咀嚼すると、

 ゴクリ。

 という大きな音を立てて飲み下してしまった。

 

 

 尚文は放心し、ニーナもドラゴンゾンビの近くで目に涙を浮かべている。

 

 

「ゲホ!」

 

 

 ラフタリアが放心する尚文に向けてドンと強く頬を叩く。

 目には涙を浮かべている。

 ここで、放心しているだけでは事態は悪くなるだけだと言っている。

 それを見て俺は我に帰る、が尚文はなおも放心したままだ。

 

 

「……?」

 

 

 我に帰ると同時に俺はふと違和感に気づいた。

 フィーロが食われた時に真紅の液体が出たがドラゴンゾンビに歯はなかったような……。

 そして、戦闘前に赤い作物を食っていたフィーロ。

 

 

「…………」

 

 

 思わず崩れ落ちるほどの脱力。

 心配させられたが恐らくフィーロは無事だろう。

 だが、消化される可能性もあるし自力で脱出するのは難しいかもしれない。

 まずはドラゴンゾンビの次の標的にされてるニーナを助け出すか。

 

 

「あらよっと」

 

 

 放心していたニーナを食べようとしていたドラゴンゾンビからニーナをかっさらう。

 

 

「ご主人様……ご主人様……フィーロが……フィーロがぁ……」

 

 

「落ち着け! フィーロは無事だ!」

 

 

「ほ、本当ですか?」

 

 

「ああ、あのドラゴンゾンビに歯はなかっただろ? 多分丸呑みにされただけだ。だからとっとと助け——」

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 

 俺の言葉を遮るように尚文の叫び声が響いた。

 振り返ると、禍々しい炎の装飾がされた盾を持ち、いつもと様子の違う尚文がいた。




 あっぶねぇ、更新出来ないところだった(--;)
 前書きは本文を書く前に書いてるのです……。
 実は次回の話も今回の話と一緒にするつもりだったけど後8分で今日が終わるので今回はここまでです(--;)
 なんか話そうと思ってたことがあった気がしますが思い出せないので明日の更新にて。

 それでは第32話もお楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第32話 憤怒の盾と魔神の力

 待たせたな!
 …………いやホントすみません(陳謝

 というわけで毎日更新6日目!
 今回は短編じゃなくて連載物を更新できたぜ……。
 今回はやっと原作と相違点が出ます。ちょっとだけね。

 それでは第32話をどうぞ!


「GYAOOOOOOOOOOOOOOOO!」

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 

 尚文とドラゴンゾンビは張り合うように叫び合い、ドラゴンゾンビは尚文へ腕を振り下ろす。

 尚文はそれを容易く盾で受け止めた。

 

 

「GYA!?」

 

 

 ドラゴンゾンビは驚愕に口元を歪ませている。

 

 

「死ね!」

 

 

 尚文はそのままドラゴンゾンビを投げ飛ばした。

 ドラゴンゾンビは驚きの声を出しながら飛んでいった。

 

 

「GYAOOOOO!」

 

 

 しかし、ドラゴンゾンビは尚文の攻撃など物ともせず、直ぐに起き上がって尚文の方へ駆けて来る。

 援護しようと俺は動こうとしたが出来なかった。

 抑えていた内なる魔神の魔力が尚文の禍々しい盾に呼応するように溢れ出したからだ。

 

 

「……っ!」

 

 

 しかしさほど問題視するほどではない。

 ただ勝手に魔神化した程度であり、暴走するほどではないからだ。

 多少驚いた——というかビビったが普通に動けたので尚文の元へ急ごうと思ったが俺の隣から悲鳴が上がった。

 

 

「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 

 

 その直後、この世界で初めて感じる痛みとともに頬を殴られ、吹き飛ばされた。

 

 

「!?」

 

 

 痛みに少し驚いたが大したことはなく、直ぐに体勢を立て直し殴られた方を振り返ると、そこには悲鳴を上げながらのたうち回り、体から魔神族の闇の魔力を放出するニーナがいた。

 

 

「ニーナ!?」

 

 

 なぜニーナに魔神の力が!? 

 そう考えた俺だったが直ぐに思い至った。

 ニーナが生まれた卵を買った時に俺の——魔神の血を使っていた……っ! 

 

 

(バカか俺は! なぜ思い至らなかった!)

 

 

 だが、反省している暇はない。

 ニーナは俺のその隙に闇に完全に呑まれたのか原作のメリオダスの喧嘩祭りの時のように悲鳴が無くなり、無表情になると闇を自身の翼を延長させるように展開すると羽ばたき、高々に跳躍し、その翼を尚文に攻撃を続けていたドラゴンゾンビへ叩きつけた。

 

 

「GYAOO!?」

 

 

 ドラゴンゾンビは悲鳴を上げ、大きくダメージを受けると倒れ伏せた。

 まだ死んではいな——いや死んでいるのだが——活動不能になっていないのか倒れたまま呻いているがしばらくは動けないだろう。

 ていうかあれ中のフィーロ大丈夫? 怪我してないだろうな……。

 

 

 ドラゴンゾンビを容易く倒したニーナは続けて尚文へ攻撃を仕掛けた。

 今度は足に闇を纏い、巨大な爪を形成するとそれで尚文を貫かんと振り下ろした。

 だが、尚文はそれを盾で受け止め、盾の効果か黒い炎が尚文を中心に巻き起こり、ニーナへ迫る。

 だが、ニーナはそれを尚文の炎よりも闇のように深い獄炎(ヘルブレイズ)で相殺する。

 

 

「死ね! 死ねぇ!!」

 

 

「…………」

 

 

 尚文は正気を失ったように死ねと連呼。

 対照的にニーナは不気味なまでに静か。

 だが、互いにそれぞれ共鳴するように力が増大していく。

 

 

「ぇ、ちょこれやばくね」

 

 

 ていうかこれ俺のせいじゃね? 

 俺の力があの二人に干渉してるのを感じんだけど……。

 

 

「っておいラフタリア!?」

 

 

 思わず俺が顔を引き攣らせているとラフタリアが尚文の名を呼びながら周囲に破壊を撒き散らしながら戦いを続ける2人に近づこうとする。

 俺は思わず悲鳴のような声を出して、ラフタリアを引き止める。

 どちらかの炎かニーナの攻撃をラフタリアが受ければラフタリアは死にかねない。

 

 

「ラフタリア落ち着け今近づけば死ぬぞ!?」

 

 

「ゲホゲホ……!」

 

 

「分かってる俺があの2人を何とかするから待ってろ!」

 

 

 咳をしながらも2人を心配するラフタリアにそう言うと俺は自身の闇の力を押さえつけ始めた。

 俺のこの力さえ抑えれば2人の力は落ちるだろう。

 出来れば正気に戻ってくれないかな……。

 

 

 何とか苦労して闇を抑え込むとニーナは糸が切れたように闇が消え、気を失い空から落下してきた。

 そして、尚文は力が随分と落ちたようだ。

 

 

「よし! ラフタリア尚文を頼む!」

 

 

 俺はラフタリアにそう叫ぶと落下しているニーナの元へ走る。

 

 

「ニーナ! 大丈夫か!?」

 

 

 何とか受け止めるとニーナに声をかけるがニーナから返事はない。

 だが、呼吸はちゃんとしてるし怪我の様子はない。

 恐らく気絶しているだけだろう。

 その事にホッと息を吐く。

 

 

「GYAAAAAAAAAAAAA!!!」

 

 

 だが、そんな暇は与えぬとニーナに倒されたドラゴンゾンビが回復したのか立ち上がり、近くの尚文へその腕を振り下ろした。

 尚文はそれを盾で受け止め、再び尚文を中心に炎が巻き起こる。

 

 

「GYOOO!?」

 

 

 ドラゴンゾンビの腕や尻尾が焼かれ、ドラゴンゾンビは怯えるように尚文から距離を取ろうとする。

 それを尚文は追いかけようとするがラフタリアが尚文の炎に焼かれながらも尚文の手を取る。

 

 

「大丈夫か!?」

 

 

 尚文はそれによって正気に戻ったのかラフタリアへ声を上げる。

 ラフタリアは酷い火傷を負っていた。

 火力が大幅に下がったとはいえ尚文の炎はラフタリアのステータスでもかなりやばかったらしい。

 

 

「ラフタリア!」

 

 

「ゲホ──」

 

 

 崩れ落ちるようにラフタリアは微笑んで倒れる。

 

 

『力の根源足る盾の勇者が命ずる。理を今一度読み解き、彼の者を癒せ!』

「ファストヒール!」

『力の根源足る盾の勇者が命ずる。理を今一度読み解き、彼の者を癒せ!』

「ファストヒール!」

『力の根源足る盾の勇者が命ずる。理を今一度読み解き、彼の者を癒せ!』

「ファストヒール!」

『力の根源足る盾の勇者が命ずる。理を今一度読み解き、彼の者を癒せ!』

「ファストヒール!」

 

 

 尚文が魔力が尽きるのも厭わず魔法を唱え続ける

 しかし火傷が酷すぎる。

 尚文の回復魔法では足りない。急いで馬車の方へ行ってヒール軟膏を使わねば。

 

 

「GYAOOOOOO!」

 

 

 しかしドラゴンゾンビが咆哮をして、尚文達に向けて焦げた腕とは反対の腕をブレスと共に降ろす。

 俺は走り出し、ニーナを尚文に投げつけブレスを全反撃(フルカウンター)で跳ね返し、腕を受け止める。

 

 

「尚文! こいつは俺が引き受けるからラフタリアとニーナを!」

 

 

 そう言って俺は受け止めた腕を弾き返した。

 

 

「GYA!?」

 

 

 驚きの声を上げながらドラゴンゾンビが簡単に倒れる。

 トドメを誘うと剣を振り上げるがかつて見た獣人の少女の顔がよぎり固まる。

 

 

 もう眠らせてやるべきだ。

 あの時のような知性はもはや感じられない。

 だが、俺の体は動かなかった。

 

 

「GYA!?」

 

 

 俺が葛藤していると、突如ドラゴンゾンビはおかしな声を上げ、胸を掻き毟りながら悶え苦しみだした。

 

 

「な、何が……」

 

 

 一体何が起こっているんだ? 尚文の炎の追加効果か? 

 

 

「GYAOOOOOOOOOO!!!」

 

 

 やがてドラゴンゾンビはピクリとも動かなくなり、元の骸に戻った。

 今は、事態を観察している状況じゃない。

 見ると、辺りをブンブンと飛んでいたポイズンフライの姿が無い。ドラゴンゾンビが暴れまわった所為でしばらくの間、どこかへ逃げたのだろう。

 尚文は既にラフタリアとニーナを抱えて馬車へ戻っていた。

 俺はドラゴンの骸を複雑な心境で一瞥して、馬車へ向かって歩き出した。

 

 

 馬車の中に入るとラフタリアは呼吸が落ち着き、火傷もあらかた治っていた。

 しかしあの炎の追加効果か黒い痕が残ってしまっている。

 少しずつ治っているようだが治りが遅い。

 

 

「メリオダス、アイツを倒したのか?」

 

 

「いや、なんか突然苦しみ出して死ん——えーと、ただの死体に戻った」

 

 

「そうか……」

 

 

「尚文様、わ、私よりも……早く……ドラゴンを」

 

 

「ドラゴンゾンビはもう動いていないって……」

 

 

「そう、ではなく……早く死骸の処理をしないと」

 

 

「……分かった」

 

 

 ラフタリアの視線は強く、尚文がドラゴンの死骸を処理しないといけないと注意していた。

 

 

「ここに置いていって大丈夫か?」

 

 

「自分の身を守る程度には戦えます」

 

 

「そうか……分かった」

 

 

 尚文は頷いて馬車から降りて、ドラゴンの死骸に向けて歩き出した。

 ニーナはまだ気絶している。

 外傷はないから命に別状はないと信じたいが今魔物に襲われたら一溜りもないだろう。

 ラフタリアもさすがにこの傷でニーナを守るのは厳しいだろう。

 

 

「……ニーナは私が見てますからメリオダスも尚文様と一緒にドラゴンの死骸を」

 

 

「だが、さすがにニーナまで守るのは無理だろう?」

 

 

「時間稼ぎくらいならできます。それより早くドラゴンの死骸の処理を」

 

 

 ラフタリアの目は有無を言わさないほど強かった。

 

 

「はぁ……分かったよ」

 

 

 俺は観念して尚文を追いかけるために馬車を下りた。

 馬車から降りると尚文が死骸に向かって盾を構えていた。

 まさかまだ何かあるのか!? 

 俺は急いで尚文の元へ走る。

 そして、尚文の横に並んだ時——

 

 

「ぷはぁ!」

 

 

 そんな気の抜けた声とともに体中を腐った液体で滴らせた見慣れた鳥がドラゴンの死骸から体を出した。

 

 

「ふう……やっと外に出られたー」

 

 

「フィーロ? 無事だったのか!? 怪我はしていないか?」

 

 

「うん。怪我なんてしてないよ」

 

 

「じゃあ……お前が食われたとき出たあの血はなんだ?」

 

 

「血? フィーロ、ドラゴンにパックンされた時にお腹を押されてゴハンを吐いちゃったの」

 

 

 やっぱり俺の予想通りだったみたいだな……。

 心配させやがって。

 

 

「驚かすな! お前が死んだかと思ったんだぞ!」

 

 

「あの程度の攻撃じゃフィーロ痛くもかゆくもなーい」

 

 

「うんまぁ、あのドラゴンゾンビに歯がなかったの思い出したから一瞬焦ったけど無事だとは思ってたけどな」

 

 

「分かってたならそう言え!」

 

 

「いや、だって言う前になんかお前変な盾出して暴れだしたじゃねぇか……」

 

 

「…………チッ!」

 

 

 俺の言葉に尚文は舌打ちしてそっぽを向いた。

 

 

「ごしゅじんさま、フィーロのこと心配してくれるのー?」

 

 

「知るか」

 

 

「ごしゅじんさま照れてるー」

 

 

「今度は俺自ら引導を渡してやろうか?」

 

 

「やーん」

 

 

 ツンデレか。

 ニヤニヤしているフィーロを尚文は苛立ち気に睨む。

 

 

「それで何があった」

 

 

「うん。このドラゴンのお腹の中を引き裂いて進んでいったら紫色に光る大きな水晶があったの……」

 

 

「ヘー……」

 

 

 もしかしてあれか? 

 ドラゴンゾンビの体を動かしていた大本がその大きな水晶なのか? 

 フィーロが出てきた場所は胸の辺り……心臓か。

 しかしなんでそんなものが……。

 ドラゴンだからか? 死んでも体に宿った魔力が死後の放置された骸で結晶化して動き出したとか……。

 ありうる。

 

 

「で……その結晶は?」

 

 

「ゲッフゥウウウ!」

 

 

 うん。この返答はアレだよな、食ったんだな。何か腹部が光ってるし。

 俺は呆れた視線を送る。

 

 

「少しだけ余ったの。ごしゅじんさまにおみやげ」

 

 

 そう言って、フィーロはポンっと紫色の小さな欠片を尚文に渡す。

 尚文はそれを少し悩んだ痕が、半分にして盾に吸わせた。

 しかし、Lvとかが足りなくて盾は出なかったようだ。

 

 

「ラフタリアは怪我をしてて、ニーナは気絶してるからフィーロ、お前らと一緒にこの死骸を掃除するぞ」

 

 

「はーい!」

 

 

 全く緊張感のないやつだ。

 

 

「いただきまーす!」

 

 

「こらフィーロ、その肉は腐ってる! 食うな!」

 

 

「お肉は腐りかけが一番おいしいんだよ、ごしゅじんさまー」

 

 

「腐りかけじゃない! 完全に腐ってるんだよ!」

 

 

「いや、そもそも腐りかけの肉って美味いのか……?」

 

 

 なんだか緊張感の無いまま、ドラゴンゾンビの処理は終わった。

 フィーロや尚文と話をしながらも処理をしつつも俺は罪悪感に潰されそうだった。

 あのドラゴンゾンビは俺なら簡単に潰せた。

 ニーナが気絶することもラフタリアが怪我を負うことも尚文にラフタリアを傷つけさせることもなかっただろう。

 だが、俺が躊躇したばかりにそれらは起こってしまった。

 俺はいつもそうだ。

 力があるくせに何も出来ていない。

 

 

 俺は尚文達に気づかれないように拳を固く握り、自己嫌悪を募らせた。

 




 喧嘩祭りの時、メリオダスが暴走した時ギーラやジェリコの魔神の血が反応していたので魔神の魔力はそれぞれ共鳴し合うという独自解釈。
 この時以外こういう描写ないので微妙ですが……。
 後、尚文の憤怒の盾やその他カースシリーズは魔神の力に近い物とします。
 女神族の力で浄化だ!
 あ、ちなみに強化は一時的なもので盾のLvが上がっているわけではありません。
 その他分からないことがあれば質問していただければお答えします。
 あと、前回言おうとしてたこと前々回「次回は原作と変わります」とかほざいてたのにほとんど違いがなかったことについて謝ろうと思ってたんですよね……。
 いや、ホントは今回の話と前回の話一緒にするつもりだったんですよ。
 ちょっと時間がなくて無理でした……。

 それでは第33話もお楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第33話 告白

 毎日更新7日目です!
 今回はちょっと短めです……。

 それでは第33話をどうぞ!


「これは呪詛ですね」

 

 

 村に急いで戻った俺達は黒い火傷を負ってしまったラフタリアを急いで治療師に見てもらった。

 

 

「しかも相当強力な類ですよ。山のドラゴンの死骸にはこんなにも強力な呪いが?」

 

 

「え……いや……その」

 

 

 尚文は治療師の言葉に言い淀む。

 ドラゴンじゃなくて直接の原因は尚文だからな。

 

 

「はい。私が誤ってドラゴンの腐肉を浴びたらこんな火傷と共に……」

 

 

 ラフタリアが内緒だと尚文に視線を送りながら笑みを向ける。

 

 

「どうにかできないか? 金なら幾らだって払う」

 

 

 尚文は必死に治療師に問いかける。

 

 

「出来なくはないですが……」

 

 

 治療師は調合中の部屋に戻って透明な液体の入ったビンを持ってくる。

 

 

「かなり強力ですからね。直ぐに治せるか……」

 

 

「それは何だ?」

 

 

「聖水ですよ。呪いには聖なる力で除去するのが一番なのですが……」

 

 

「そうか」

 

 

 尚文曰く、憤怒の盾で起こる傷は傷の治りを悪くさせる呪いの効果まで宿っているのか。

 あれは非常に危険だ。

 敵味方の区別が付かず、しかも仲間すら巻き込むカウンター効果がある。

 そして、俺が持つ魔神の力に似た力でもあるようだ。

 迂闊に俺が魔神化すればまた盾が暴走する危険がある。

 

 

 魔神の力といえばニーナは山を降りている途中で目を覚ました。

 しかしどうやら何も覚えていないようだった。

 

 

「聖水を包帯に染み込ませて……」

 

 

 治療師は聖水を染み込ませた包帯をラフタリアの黒い痣のある場所に巻いていく。

 

 

「今は簡易的な物で申し訳ありません。出来れば大きな町にある教会で作られた強力な聖水を使ってください」

 

 

「どれくらいで治る?」

 

 

「正直……かなり強い呪いです。簡単に根絶できるかどうか……ドラゴンが施したとなると……」

 

 

 本当は尚文の盾がしたのだけど……ドラゴンがやったと頷けるほどに強力な呪いなのか。

 俺の力で増幅されなくてもかなりの力を秘めていることが伺える。

 

 

「そうだ。薬は後どれくらいで出来る?」

 

 

「一応、少しだけ出来ました。聖人様、どうか病で苦しんでいる者達に」

 

 

「ああ」

 

 

 尚文はラフタリアを治療師の部屋に残して、病人を収容している建物に薬を持って入った。

 さすが本職が作った薬だ。

 治療薬では出来なかった病の根絶をしてくれている。

 寝息が静かになった病人達を見てホッとする。

 俺はそれを見ると治療師の部屋に戻った尚文とは別れてニーナを置いてきた宿に戻った。

 

 

 部屋に入ると人の姿で肩を落とし、落ち込んでいるニーナの姿があった。

 目を覚ましてから何があったかの説明をしたらこの通り申し訳ないと落ち込んでしまっているのだ。

 

 

「……そろそろ元気出せって。お前のせいじゃねぇよ」

 

 

「でも……」

 

 

「でもじゃない。……悪いのは俺だ」

 

 

「え?」

 

 

 疑問に顔を上げたニーナの隣に座り込む。

 そして、両手をベッドにつき、天井を仰ぎ見てこの世界で初めて自身の力について告白する。

 

 

「俺さ……人間じゃないんだよね」

 

 

「え?……だって……」

 

 

 俺の体を下から上に眺めてニーナは首を傾げる。

 その様に俺は苦笑する。

 

 

「こんななりだけど人間じゃないんだよ。ほら」

 

 

 ニーナの手を取り、俺の胸に当てた。

 そうすれば感じるだろう……複数の鼓動を。

 

 

「これ、は……」

 

 

「な?……ニーナが使った力と同じ——それ以上に強大で恐ろしい力を持ってる……ニーナがそんな力を持ってしまったのはニーナの生まれた卵に俺の血を使ったからだと思う。もっと深く考えるべきだったすまない」

 

 

 頭を下げた俺にニーナが慌てたような声を上げる。

 

 

「そ、そんな顔を上げてくださいご主人様!」

 

 

「俺のせいで……俺の元に生まれてしまったから……」

 

 

「……ご主人様」

 

 

 俺のみっともない懺悔の言葉にニーナは真剣な声と共に俺の手を両手で握った。

 それに俺は顔を上げる。

 

 

「私はご主人様の元に生まれることが出来て本当に幸せです。それは今も変わりません。たとえ、こんな力を持ってしまったとしても、ご主人様に恐ろしい力があったとしても変わりません」

 

 

 そう言うニーナの瞳は真っ直ぐ俺の目を見ていて、俺は涙を堪えるのに必死だった。

 

 

「ありがとうニーナ」

 

 

 ニーナの言葉に俺は決心をした。

 尚文達にも話そうと。

 そもそも今回のことでいつまでも秘密にしていることは出来ない。

 今追求されていないのはラフタリアの怪我のせいだろう。

 だから俺は落ち着いたら尚文達にも俺のことを話すことを決意した。

 たとえ拒絶されることになったとしても。

 

 

 こうして俺達はその日は村で眠った。

 次の日も疫病の根絶の為、俺達は精一杯働いた。

 尚文は治療師の薬制作を手伝い、俺はその他の雑用に力を注いだ。

 病で苦しむ人々がいなくなり、村は平穏になってくれることを願う。

 

 

「次はどこへ行商に行くか。治療師に薬の作り方を聞くのも手だな」

 

 

 そう呟く尚文の言葉を拾ってラフタリアな答える。

 

 

「あのナオフミ様? そろそろ波ではありませんか?」

 

 

 ラフタリアの言葉にああ、と納得する。

 そういえばそろそろ1ヶ月過ぎたな。

 

 

「やばい! 3日と少ししか残ってないぞ!」

 

 

 確認した尚文が慌てて声を上げる。

 まあ、全然準備してないからな。

 

 

「フィーロ、急いで城下町へ行くぞ!」

 

 

「りょうかーい!」

 

 

「あの聖人様……これを……」

 

 

 そう言って村の長から渡されたのは金の入った袋。

 

 

「聖人様、所望の金銭です。どうかお納めください」

 

 

 そういえば、今回は尚文の正体がばれていなかったな。

 

 

「ああ……」

 

 

 尚文は金の入った袋を受け取り、どれくらい入っているかを数えた後、半分ほど別の袋に入れて返した。

 

 

「え?」

 

 

「俺だけの力じゃない。この村にいる治療師の手柄でもある。そいつに渡しておけ」

 

 

「は、はぁ……」

 

 

 確かに今回はあの治療師が居なかったら危なかった。尚文だけでは病の進行を抑えるので限界だっただろう。

 そういう意味では功労者はあの治療師だろう。

 

 

「じゃあな」

 

 

「あ、ありがとうございました!」

 

 

 村の連中が総出で俺達を見送った。

 急いで準備を整えねばならないともはや馬車の調子なんて気にせず尚文は急いで城下町に急行した。

 その日、もの凄い速度で爆走する馬車を見たという噂が流れたとか……。

 

 




 最近自分はシリアス書くのに向いてないなと思い始めた……。
 あ、またしばらく原作沿いのままです……。

 それでは第34話もお楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第34話 武器屋

 毎日更新8日目!
 最近マジでこの章いつ終わるか心配になってきた((( ゚ д ゚ ;)))
 原作だと300話以上かかってるんですよね……。
 下手したら来年もこの章書いてるかも……。

 それでは第34話をどうぞ!


 やっとの事でその日の内に城下町に到着した。

 その道中野生のフィロリアルがニーナやフィーロを見て逃げ出したなんてことがあったが……まぁどうでもいい事だな。

 

 

「でだ親父、波に備えて武器と防具を売ってくれ」

 

 

 なんか久々に見た武器屋の親父が何か眉間に手を当てて考え込んだ。

 

 

「アンちゃんは何時も、いきなり来るな」

 

 

 ああ、そういえばいつも事前連絡なしに来てるな。

 

 

「商売とは突然の出来事の連続だと思わないか?」

 

 

「まあ、そうだが。予算金額はどれくらいだ?」

 

 

「そうだな」

 

 

 尚文はドンっと親父の立つカウンターにここ一ヶ月ちょっとの収入を乗せる。ずっしりと入った大きな金袋を5つほどだ。

 

 

「銀貨何枚だったか、これだけある」

 

 

「アンちゃんちゃんと数えろよ! どれだけ荒稼ぎしたんだよアンちゃん!」

 

 

「ははは、行商の成果だ」

 

 

「まったく……アンちゃんは驚かせる趣味でも持っているのか?」

 

 

「あいにく無いな」

 

 

「さて、じゃあどれだけあるか数えるか」

 

 

「おう」

 

 

 フィーロ以外の5人で金袋の中身を数えた。

 なんでフィーロだけ何もしないって? 

 愚問。あの鳥頭に数えられるわけが無い。

 

 

「そういえば嬢ちゃん怪我でもしたのか?」

 

 

 親父は金を数えながら包帯巻きのラフタリアを指差す。

 

 

「ええ、この前、強力な魔物の攻撃で強力な呪いを受けてしまいまして」

 

 

「ああ、呪いかーそうなると厄介だよな。治療中って奴か」

 

 

「ええ、この後、教会で聖水を買おうとも思ってますよ」

 

 

「なるほどな」

 

 

「後は装備を買った後で良いが金属製の馬車とか依頼できないか?」

 

 

「アンちゃんホント何でも俺に頼むな」

 

 

「出来ないのか?」

 

 

「まあ……金属を扱うのは慣れているけどさ」

 

 

 量が多く見えたけど、銅貨も多く、銀貨に換算すると意外と少なくなっていく。

 

 

「金貨90枚相当だぞ! ものすごい稼いだなアンちゃん」

 

 

「商才の自覚はあるさ」

 

 

 俺も尚文には商売の才能があるんじゃないかと思っている。

 あとは俺がテキトーに狩ってた魔物の報酬や素材換金のおかげか。

 

 

「後は、盗賊から奪った装備とか色々とあるな」

 

 

 尚文は店の品をキョロキョロと見ていたフィーロに指示を出し、店の前に止めていたボロボロの馬車から色々と持ってこさせる。

 

 

「これも下取りに出す」

 

 

「アンちゃん、手広くやってるな」

 

 

「で、これだけでどれくらいの装備を売ってくれる?」

 

 

「そうだなぁ……お嬢ちゃんの武器と防具、で、アンちゃんの防具を売るとなるとなぁ」

 

 

「っとそういえばメリオダスはまた武器とか防具はいらないのか?」

 

 

 武器屋の親父の言葉に尚文が俺を見て聞いてくる。

 

 

「ああ、防具は今まで大したダメージを受けたことないし、武器は親父にゃ悪いがこの剣以上の武器はそうそうないだろ」

 

 

 俺の言葉にプライドを刺激されたのか武器屋の親父が眉をひそめる。

 

 

「なにぃ? ちょっと見せてみろ」

 

 

「いいぜ」

 

 

 背中のロストヴェインを抜き、武器屋の親父に手渡す。

 武器屋の親父が何事か呟くと指先から小さな光の玉がロストヴェインに向かって飛んで弾けた。

 すると武器屋の親父は驚いたように目を見開いた。

 

 

「こいつは驚いた、確かにとんでもない業物だ。特殊効果まである上に俺が扱うどんな武器よりも斬れ味が高く頑丈だ」

 

 

 若干悔しそうな顔をしつつ、ロストヴェインを返してくる。

 

 

「確かにこれ以上の武器は置いてないし、作るのも難しいだろうな。一体誰がそんな武器を作ったんだ?」

 

 

 ロストヴェインを鞘に収めながら考える。

 はて? ロストヴェインは誰が作ったんだっけ? 

 いや、公式では情報が出てなかったかな? 

 ハウザーの父親が〜とか巨人の名工ダブズが〜とかの考察は聞いたことがあるが——。

 

 

「いや、偶然手に入れただけで誰が作ったとかは知らないんだ」

 

 

「そうか、そいつは残念だな」

 

 

 武器屋の親父は感慨深いと言うかのように考え込む。

 

 

「アンちゃん、うちの店を贔屓にしてくれるのはありがたいが、別の店へ行くのも手だぞ?」

 

 

「どういう意味だ?」

 

 

「いやな、他の勇者は最近、めっきり顔を出さなくてな、どこかに優秀な店でもあるのだろうと思ってな。こんな見事な品を見ちまうと余計にな」

 

 

「ふむ……」

 

 

 考えられない話では無い。あの連中はゲームの情報を持っているから、親父の店より品揃えや性能が高い装備を売っている場所を知っている可能性は非常に高い。

 城下町で一番性能の良い店が親父の店だとして……どこか別の国か? 

 

 

「心当たりがあるとすれば?」

 

 

「隣国辺りまで行けば、俺の所より良いものを売ってるかも知れねえな」

 

 

「そんな雲を掴むような可能性に掛ける位なら親父の店で十分だ」

 

 

「アンちゃん……」

 

 

「最悪、親父に武器と防具を作ってもらえば良い。見た感じ……腕は良いのだろ?」

 

 

「おうよ! 俺は若い頃に東方の名工の弟子をしていたんだぜ」

 

 

「そういう訳だ。効率とかそう言う全てを考えて俺は親父に頼んでいる」

 

 

「アンちゃん。わかったよ。俺もアンちゃんの期待に答えなきゃな」

 

 

 武器屋の親父はカウンターから乗り出して自身の店の商品を眺めた。

 

 

「そうだなぁ……嬢ちゃんの武器には魔法上級銀の剣辺りが妥当な範囲だろうなぁ。もちろんブラッドクリーンコーティング加工済みでな」

 

 

 金貨10枚相当と指示して、分ける。もちろん、下取り分を混ぜて10枚だ。

 

 

「次に魔力防御加工が掛かった魔法銀の鎧が妥当な範囲だろうな」

 

 

「魔力防御加工?」

 

 

「装着者の魔力を吸収して防御力を上乗せする加工だ」

 

 

「なるほどな」

 

 

 尚文や俺がが守りきれずに怪我をさせてしまう可能性を視野に入れたらラフタリアの装備は重点的に着けさせたい。

 親父はまた10枚相当を移動させる。かなりの高額だな。

 だが、尚文は納得してないのか武器屋の親父に声をかける

 

 

「なあ、もっと金を掛けて良い装備にしても良いんだが?」

 

 

「金属製の馬車と嬢ちゃんの治療費をどうするんだよアンちゃん。後な、自身に釣り合わない装備じゃ無茶が出るってんだ」

 

 

「そういうもんか」

 

 

「あと、今うちにある在庫の装備じゃこの辺りが限界だ」

 

 

「ああ、そういう事か」

 

 

 親父の店でも扱いやすい方の装備で良い方なのか。

 

 

「ここから先はオーダーメイドになるな。そうなると少し時間が掛かる」

 

 

「それは困るな。後三日で波が来るらしいから間に合うか?」

 

 

「材料の調達を考えると間に合わないだろ」

 

 

 もうちっと早く気づくべきだったなこりゃ。

 

 

「かなり色々な素材を持ってきているが、どれも足りないんだよ」

 

 

「そうか……腐竜の皮とかは使えるかと思ったんだけどなぁ……」

 

 

「問題はそれだな、アンちゃんはどうする?」

 

 

「どうするって?」

 

 

「アンちゃんの場合は重い装備をエアウェイク加工で軽くさせて売れるが、持ち寄った素材で新しい装備も作れるぞ」

 

 

「ちなみにどっちが性能が良いんだ?」

 

 

「トントンだな、拡張性が高いから作る方を勧めたい所だ」

 

 

「ふむ……そういえば、蛮族の鎧に骨を付与すれば性能が上がるんだったか」

 

 

「ああ、それを勧めるつもりだったよ。キメラとドラゴンの骨なんて凄い素材じゃないか。後は腐竜の皮を張り替えて……腐竜の核を鎧の中心に装飾すれば完璧だ」

 

 

 腐竜の核って確かフィーロのお土産のアレだよな……。良い装備になりそうだ。

 

 

「へー……じゃあそれを頼むか」

 

 

「毎度! 骨の付与代はオマケとして、加工費と素材代っと」

 

 

 そう言って親父は金貨5枚を移動させて素材をカウンターの奥に持っていく。

 

 

「アンちゃんも装備している蛮族の鎧を置いていけよ」

 

 

「分かった」

 

 尚文は更衣室に行き、着替えて蛮族の鎧をカウンターに置いた。

 

「ごしゅじんさま村人みたいー」

 

 

「うるさい」

 

 

「フィーロ、めっ!」

 

 

 フィーロは相変わらず口が悪い。

 ニーナは相変わらず可愛い。

 

 

「ねえねえ、フィーロは?」

 

 

「お前は馬車があるだろ」

 

 

 親父と打ち合わせをし、金属製の馬車を発注してもらった。これがかなり高くついた。

 金貨10枚もしたのだ。

 2つで金貨20枚だ。

 まあ、それもかなりオマケしてもらった訳だけど。

 

 

「えーフィーロもごしゅじんさまやラフタリアお姉ちゃんみたいなのが欲しい」

 

 

「ダメだ」

 

 

「欲しい欲しい欲しい!」

 

 

 駄々を捏ねるフィーロに尚文がイラつき出す。

 

 

「フィーロ、ワガママ言っちゃいけません!」

 

 

「でも、ニーナも欲しいでしょ?」

 

 

「そ、それは……そんなこと——」

 

 

「親父、一番いい装備を頼む」

 

 

 フィーロの問いかけのニーナの反応にニーナの言葉が終わる前に俺は親父にいい顔で言った。……1度言ってみたかった。

 

 

「おいバカやめろ」

 

 

「ほら! フィーロも買って買って!」

 

 

 俺の言葉にフィーロは目を輝かせ、尚文は俺を忌々しそうに睨んできた。知らぬ知らぬ。

 

 

「あ、あの私はいいですから」

 

 

 フィーロと尚文の様子を見てニーナがおずおずと言ってくる。

 

 

「やれやれ、ニーナよ、あのアホォ鳥のようにワガママを言いすぎるのも問題だが、ワガママを言わないのも問題なんだぞ?」

 

 

「てめえは自分の魔物を甘やかしたいだけだろうが」

 

 

 いいこと言った俺に即座に尚文がツッコミをいれる。

 

 

「ふっ、大正解だ」

 

 

「ふざけんな」

 

 

「まあまあ、アンちゃん。鳥の嬢ちゃんにも装備くらい買ってやったらどうだ?」

 

 

「だがなぁ……」

 

 

 まあ、尚文が悩む理由も分かる。

 ニーナとフィーロは、素手というか足だけでラフタリアの攻撃力を超えている。

 

 

「何かあるか?」

 

 

「うーん。鳥の嬢ちゃんたちは普段、魔物の姿で戦っているんだろ?」

 

 

「ああ」

 

 

「じゃあ俺の管轄外だろうなぁ。用意は出来なくは無いが魔物商から買った方が確実だな」

 

 

「魔物商……」

 

 

 ふむ、あの変な紳士か。

 

 

「紹介するか?」

 

 

「いや、当てがある」

 

 

「じゃあ、そうだな……二日後に来てくれ、その頃にはアンちゃんの装備ができてる」

 

 

「わかった。……そうだ。なあ親父」

 

 

「なんだ?」

 

 

「クラスアップとやらは龍刻の砂時計でできるで間違いないんだな?」

 

 

「お? アンちゃん達もクラスアップの領域に達したか。そうだ確かに龍刻の砂時計でできるぜ」

 

 

「そうか」

 

 

 よくよく考えてみればあそこって確かに高尚そうな、管理が厳重な施設だった。

 ……もしかして、前にあそこで他の勇者共に会えたのも……クラスアップが理由か? 

 あいつ等Lv幾つなんだよ。

 

 

「本来、クラスアップは国に認められた騎士とか魔術師と、後一部のお抱え冒険者じゃないと出来ないんだけどな。アンちゃんは勇者だから信用は足りているだろ?」

 

 

 これを逆に考えると盗賊団が思いのほか弱かったのにも頷けるな。最高でもLv40だ。信用のおけない冒険者や村人にはクラスアップが出来ないという枷を掛けて、力で管理している。

 国が信用できない人間はクラスアップを行うことができない訳か……。

 

 

「クラスアップするときに自分の方向性を決めるんだが、俺も悩んだものだぜ……星に達しているとなると全部の可能性が開いているからなおの事だろうな」

 

 

「じゃあ行ってくる」

 

 

 俺達は武器屋を後にして龍刻の砂時計へと急ぐ……。

 馬車は限界を迎えたので、武器屋の裏に置いて来た。

 その影響でフィーロとニーナは人型だ。

 いや、ニーナは武器屋にいる時から人型だったけど。

 

 

「どうしたの?」

 

 

「いや……」

 

 

 毎日、宿屋で見ているはずなのに、何か珍しい構図になってしまっているような気がする。

 コイツは最近、ずっと鳥で居る方が多かったからな。

 その所為だろう。

 

 

「そういえば、クラスアップは可能性を広げると言うが、どういうものなのだろう?」

 

 

「私はナオフミ様の思うとおりクラスアップしたいです」

 

 

「……それはやめておけ。ラフタリア、お前が自分で自分の可能性を決めろ」

 

 

 ゲームだとクラスアップって結構重要だったりするし、この世界だと一生の問題だしな。

 

 

「波が終わって、俺が元の世界に帰った時、俺が居なくなっても生きていけると思う方になれ」

 

 

「え……ナオフミ様は帰ってしまうのですか?」

 

 

「ああ」

 

 

 ああ、尚文は帰るつもりなのか。

 そりゃまあ家族とか友人とかもいるだろうしな。

 ふと、元の世界や前回の世界の家族や友人たちが浮かんだ。

 ……俺はもう二度と彼らに会うことは無いだろう。

 

 

「私は連れて行ってくださらないのですか?」

 

 

「何処へ?」

 

 

「フィーロが運んで行きたい。何処へ行くの?」

 

 

「フィーロじゃ行けないなぁ……」

 

 

「そうなの?」

 

 

「まあ良い。フィーロはどういうクラスアップをしたい?」

 

 

「えっとねーフィーロは毒を吐けるようになりたい」

 

 

「…………」

 

 

 絶句した。何を言っているんだ? この鳥は。

 感傷が完全に吹き飛んだ。

 アレか、最近、毒ばかり使う魔物と戦ってきたからフィーロが変な憧れを抱いたのか? 

 バイオプラントとかドラゴンゾンビとか。

 

 

「既に吐いているがな」

 

 

 毒舌という意味で。

 

 

「ホント!?」

 

 

 フーっと口をすぼめてフィーロは息を吐く。

 

 

「出ないよ?」

 

 

「そう言う意味じゃねぇから」

 

 

「ニーナはどんなクラスアップがしたい?」

 

 

「……私もご主人様の思う通りがいいです」

 

 

「そうか〜、俺はニーナの思う通りのクラスアップがいいな〜」

 

 

 ニーナの言葉に、にししと笑う。

 

 

「んじゃ、一緒に考えようか」

 

 

「! はい!」

 

 

 そうして、俺達はクラスアップへの期待に胸を弾ませて、龍刻の砂時計へ向かった。




 ロストヴェインとかの神器の製作者って誰なんでしょうね。
 明かされる時は来るのでしょうか。

 それでは第35話もお楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第35話 蹴り逃げ、再び

 毎日更新12日目!
 まだ半分も終わってないんだぜ!?
 ちょとこれ更新しきれるか不安なんだけど……。

 というか原作と変わらねぇ!
 あと、いつ終わるんだこれ!
 同じことしか言ってねぇなコイツ……。

 それでは第35話をどうぞ!


 龍刻の砂時計のある場所にたどり着いた。

 相変わらず、静かだけど重々しい雰囲気の漂う施設だ。

 

 

「盾の勇者様ですね」

 

 

 前に来た時と態度の変わらない怪訝な目をこちらに向けるシスターが俺達に話しかけてくる。

 

 

「ああ……」

 

 

「今回は何の御用で?」

 

 

「クラスアップをしたい」

 

 

「では……一人に付き、金貨15枚をお納めください」

 

 

 金貨15枚だと!? 幾らなんでも高すぎるだろ!

 絶対盾の勇者だからって高くしてるだろ!

 シスターは表情こそ変えていないが目が笑っている。

 払えないと見て、馬鹿にでもするつもりだったのか?

 

 

「金貨15枚だな」

 

 

 尚文は渋々、ラフタリア達の分である金貨45枚相当の金の入った袋を見せる。

 するとシスターの奴、顔色を変えて、書類を受付から取り出す。

 

 

「……盾の勇者様は禁止されています」

 

 

「なんだと!? どういう意味だ!」

 

 

「王直々の命令で、盾の勇者様一行のクラスアップの許可は降りません」

 

 

 その言葉に俺は思わず顔をひきつらせる。

 あのクソ王、本格的にウザイ事をかましてやがったな……。

 態々、法外なクラスアップ費用を要求し、それを満たしたら許可が降りないで突っぱねるとか性格が悪いにも程がある。

 というか仮にも波に対抗する為の勇者だろ……成長止めてどうすんだ……。

 Lvアップができないってどうすりゃ良いんでしょうねぇ……。

 転職が出来るはずなのにしないで行くってマゾプレイヤーかな?

 

 

「ふざけるな!」

 

 

「規則です。何より、盾の勇者様は最初から……いえ、なんでもありません」

 

 

「最初からなんだよ!」

 

 

 尚文がいきり立つと、受付の奥から騎士っぽいのがずらずらと出てくる。

 

 

「チッ! 分かったよ!」

 

 

 足に力を入れて、大きく音を立てながら俺達は龍刻の砂時計を後にした。

 

 

「まったく、何処まで人を不愉快にさせる気だ、この国は!」

 

 

 尚文は大声で叫ぶ。

 

 

「気持ちは分かるが落ち着け」

 

 

「しかし、どうしましょう」

 

 

 ラフタリアが困ったように呟く、確かにこれは大問題だ。

 

 

「ねえねえ、あの砂時計はなんなのー? フィーロもっと見ていたかった」

 

 

「我慢しろ」

 

 

 ふと、ニーナが俺の手を握ってきた。

 ニーナの顔を見ると不安そうにこちらを見上げていた。

 

 

「よし、奴らを即座に抹殺しに行こう」

 

 

 ニーナにこんな顔をさせるとは万死に値する。

 

 

「ちょ、さすがにそれはまずいですよ!」

 

 

「俺に落ち着けとか言っときながら何言ってんだお前は……」

 

 

「さすがに冗談だよ……チッ!」

 

 

 尚文が盾のヘルプを見ると勇者には成長限界がないらしい。

 という事は、尚文だけ40以上になっているのはこういう理由のようだ。

 しかし、どうにかしてラフタリア達にクラスアップをさせなければそのうち戦力外通告されかねない。

 

 

「どうしましょう……」

 

 

「しょうがない、これは後回しにしておこう」

 

 

 幸い、波を過ぎるまではLv上げをする予定は無かったし、その後に考えれば良い。

 クラスアップの紹介状を持っていそうな冒険者にラフタリア達を預けて、させるという奥の手も考えにある。

 金で釣ればどうにかなるだろ。

 けど、今は時間がない。

 態々探すのもなぁ。

 

 

「あああああああああああーーーーーーーーー!」

 

 

 なんだ?

 俺達が振り返ると元康一行が尚文を指差しながら詰め寄ってくる。

 

 

「お前! 何考えてるんだよ!」

 

 

「何の事だ? 変な因縁をつけてくるな」

 

 

「とぼける気か!? 分かってるんだぞ。あのデブ鳥の飼い主がお前だっていう事を」

 

 

 デブ鳥……フィーロの事か。

 ってこれもしかして蹴り飛ばしたことへの文句かな?

 なんかクソ女がこっち睨んでるし。

 取り敢えず鼻で嗤っておいた。

 

 

「そういえば、お前、股間は潰れたか?」

 

 

「潰れるかと思ったよ、このクソ野郎!」

 

 

「なん、だと……!?」

 

 

 潰れなかったのか……チッ、悪運の強いヤツめッ。

 

 

「お前は俺達の期待を裏切った」

 

 

「てめぇ――」

 

 

「私は違います! 何ですか股間が潰れるって!」

 

 

 ラフタリアが呆れながら聞いてくる。

 そういえばラフタリアはコイツが吹っ飛ぶ爽快な所を目撃していないな。

 

 

「なんで私をかわいそうな目で見るんですか」

 

 

「いや、凄く爽快な瞬間だったんだぞ?」

 

 

「見なくて良かったです!」

 

 

「なんで?ラフタリアもコイツはウザかったろ?」

 

 

「いや、まぁそうですけど……」

 

 

「良いからあのデブ鳥を出せ! ぶっ殺してやる!」

 

 

「出せと言われてもな。一体どうしたんだ? あの時のはお前が不用意に近づいたからだろ」

 

 

「しらばっくれる気か!? あのデブ鳥、俺を見るたびに跳ね飛ばしていったんだぞ!」

 

 

 尚文はなんのこっちゃって顔をしている。

 やっぱ気づいてなかったか。

 

 

「どういうことだ?」

 

 

「だから、お前の飼ってるデブでブサイクな鳥が、遭遇するたびに轢いて行くんだよ!」

 

 

「ああ、確かに蹴っ飛ばしてたぞ?」

 

 

 尚文はフィーロに目を向ける。

 するとフィーロは。

 

 

「うん。見かけるたびに蹴ったの」

 

 

「そうかそうか、偉いぞー」

 

 

「えへへー」

 

 

「どうして褒めているんですか!」

 

 

 フィーロの頭を撫でる尚文にラフタリアがキレのいいツッコミを入れる。

 だが尚文は無視。

 フィーロを撫でながら、尚文はこっちを見た。

 

 

「というかそんな最高なことになってるなら言っとけよ」

 

 

「いや、黙ってた方が面白いかと思って」

 

 

 そして元康を見ると、装備は豪華になりつつ、股間にファールカップが付いているのに気付いた。

 これは笑える! トラウマだコイツ!

 大爆笑だ。

 

 

「アッハッハ!」

 

 

「てめぇいい加減にしろ!」

 

 

「そうよそうよ! 盾の分際でモトヤス様に嫌がらせとか不相応なのよ!」

 

 

 何を言ってるんだ、この取り巻き。

 クソ女も顔を真っ赤にして尚文を糾弾している。

 これは爽快。

 

 

「ナオフミ様がこれまでに無い程、さわやかな笑みを」

 

 

「しかもこのガキはこの間マインちゃんを蹴り飛ばしたんだぞ!」

 

 

 その言葉に尚文は再び俺を見て、

 

 

「メリオダス……」

 

 

「なんだ?」

 

 

「グッチョブ」

 

 

「おう」

 

 

 俺達はさわやかな笑みを浮かべ合い、親指を立てた。

 

 

「てめえ——」

 

 

 元康が拳を握り締め、尚文の胸倉を掴んだその時。

 

 

「ごしゅじんさまーフィーロお腹すいたー」

 

 

 空気を読まない鳥が自己主張した。

 そこに元康が視線を向ける。

 ピタ。

 なんか元康が硬直してフィーロと視線を合わせる。

 ……どうしたんだ?

 

 

「でりゃあああああああああああああああああああああああああ!」

 

 

 そして尚文を見るなり、顔面に向けてテレフォンパンチをかますが、尚文はその拳を見切って掴む。

 

 

「何の真似だ? 俺とやりあうんだったら、槍を使え」

 

 

「お嬢さん! 早く逃げるんだ! コイツはとても危険な男なんだ」

 

 

 元康の奴、フィーロに向けて必死に良い男アピールをしている。

 お前が先ほどまで、殺す殺す連呼していたデブ鳥だぞ。

 ああ、そういえば今は人の姿だったな。

 基準では美少女だからか。元康らしい発想だ。

 

 

「えー? ごしゅじんさま危険じゃないよー?」

 

 

「ごしゅじんさま、だと!?」

 

 

 元康の顔が怒りに染められる。

 

 

「また奴隷か貴様!」

 

 

「いやぁ……それより何だよお前は、女なら何でも良いのか?」

 

 

「違う!」

 

 

 何か豪語しやがった。

 

 

「すげぇ……こんな理想的な女性は初めてみた……」

 

 

「……は?」

 

 

「こんな魔界大地のフレオンちゃんみたいな子が実在するなんて思わなかった!」

 

 

 誰だよソレ。

 ……ゲームのキャラか。

 そういえば、フィーロの外見はゲームやアニメにも居る典型的なピュア天使娘だよな。

 フィーロが理想的な女性ってロリコンか。

 

 

「俺、天使萌えなんだ……」

 

 

「黙れ! お前の性的嗜好なんて知りたくもない!」

 

 

「異世界最高!」

 

 

 元康のテンションが最高潮に達している。気持ちは分かる。

 取り巻きの機嫌は逆に悪くなっている。

 とてもじゃないがさっきまで激怒していた人間とは思えない。

 というか天使萌えか……天翼種(フリューゲル)見せたらどんな顔するのか少し気になるな……。

 すると、ニーナにも気づいたのか俺の後ろに隠れているニーナを見て目を見開く。

 

 

「天使がもう1人……」

 

 

「お前、良い奴だったのか…っ」

 

 

「アホかお前は……」

 

 

 尚文が何やら呟いているが知らぬ知らぬ。

 

 

 そして、キリッとした顔でフィーロとニーナに話しかける

 

 

「お嬢さん、お名前は?」

 

 

「えっとねーフィーロ」

 

 

「素直に答えるな!」

 

 

「そちらのお嬢さんは?」

 

 

 元康の問いかけにニーナは怯えて俺の背中に顔を押し付けた。

 ……ふむ、やはりこいつはクソ野郎だったらしい。

 ニーナを怯えさせるとは……殺す。

 

 

「ふっ、怯えなくていい。俺が救ってあげるから」

 

 

「てめえに怯えてんじゃボケ。自覚しろナルシスト野郎。死なすぞこら」

 

 

「黙れ!どうせこの子達を馬車馬のように働かせているのだろう!」

 

 

「まあ、馬車馬のように馬車を引かせているな」

 

 

「うん、まあそうだな」

 

 

 それは素直に認めないといけない。そういう種族だし。

 尚文と共に頷く。

 

 

「一ヶ月以上毎日の様に重い馬車を引かせていた」

 

 

 まあ引かせないとうるさいんだけどな。

 特にフィーロ。

 

 

「貴様ーーーー!」

 

 

 元康の奴、うるさいな。

 こっちだって暇じゃないんだ。早く次に行きたいというのに。

 

 

「フィーロちゃんとニーナちゃんを解放しろ!」

 

 

「またか、お前!」

 

 

 尚文が叫ぶ。

 ラフタリアがダメだったら今度はフィーロか?

 尚文からそんなに配下を奪いたいのか?

 元康が殺気を放って尚文に槍を向ける。

 その時。

 

 

「ごしゅじんさまになにするのー!」

 

 

 フィーロが眉を寄せて詰問する。

 

 

「大丈夫だよフィーロちゃん! 俺が君を救ってあげるからね」

 

 

 人の話を聞いていない……。

 完全に空回りしているぞ。

 

 

「フィーロの事、ぶさいくって言った。デブ鳥って言った」

 

 

「尚文! 貴様、女の子になんて事を言うんだ」

 

 

「お前だ。お前がフィーロに連呼している言葉だ。ぶっ殺すとも言っていたな」

 

 

「はぁ?」

 

 

 何言ってんだコイツって顔してる。

 実際に言ったくせに。

 

 

「つべこべ言わず、早く――」

 

 

「フィーロはごしゅじんさまを守るー!」

 

 

 ボフンと音を立ててフィーロは本当の姿に戻る。

 

 

「へ? アレ?」

 

 

 フィーロは唖然としている元康の股間目掛けて強靭な足で蹴り上げた。

 

 

「ああああああ――――」

 

 

 俺には見えた。元康が困惑した表情のまま、錐揉み回転で10メートル以上飛んでいくのを。

 さらにファールカップが粉々に砕け散っていた。

 

 

「うげ!」

 

 

 今度こそ潰れたか?

 いや、おそらく平気だろうな。ファールカップがあったし。

 無しでも潰れなかったみたいだしな。

 

 

「さて、馬鹿はおいて、先を急ぐか」

 

 

 ラフタリアが青い顔をしてアワアワと呟いていたが、まあ、良いだろ。

 さすがに取り巻きも不快だったのか助けようとしない。

 いやぁ……さっきの不愉快な気分が若干晴れたな。

 

 

「よし、じゃあこれから奴隷商の所へ行くか」

 

 

 人型に戻ったフィーロが怯えた表情を浮かべる。

 

 

「フィーロを売るの?」

 

 

「売らないから安心しろ、ご褒美だよ」

 

 

 あの元康を出会うたびに蹴っていたし、さっきも会心の一撃を加えていたからな。

 これは褒美をやらなきゃいけないだろう。

 

 

「ほしがっていた装備を買ってやろう」

 

 

「わーい! ごはんもほしい」

 

 

「ああ、絶対に食わせてやる」

 

 

「じゃあ、ごしゅじんさまの手料理がたべたーい」

 

 

「良いだろう。特別だぞ」

 

 

「はーい!」

 

 

 フィーロはご機嫌でスキップを始めた。




 私は天使っ子より獣耳っ子の方が好きですね(知らん

 それでは第36話もお楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第36話 天使達の装備

 毎日更新13日目!
 昨日の更新した回35話だったのに34話になってました……。
 すみません修正しておきましたが内容に変更はありません。

 それでは第36話をどうぞ!


「これはこれは勇者様、ウェルカムです」

 

 

「俺の想像通りに答えるな」

 

 

 元康との一件の後、俺達は奴隷商の所へ顔を出した。

 

 

「今日は何の御用で?」

 

 

「それよりも……」

 

 

 何やら見れば奴隷商奴隷商の部下でさえも同様に……羽振りが良さそうな印象を受けるほど、装飾品が豪華になっている。

 

 

「妙に羽振りが良さそうだな」

 

 

「勇者様のお陰です。ハイ」

 

 

「は?」

 

 

「勇者様が行商へ出ているお陰でこちらも儲けさせて貰っているのですよ」

 

 

「どういう意味だ?」

 

 

「まずはフィロリアル・クイーンの評判です。あの魔物はどうやったら手に入るのかと貴族の収集家が来るのですよ。ハイ」

 

 

 ああ、フィーロやニーナが馬車を引くことによって、評判が上がる訳か。確かに珍しい魔物だろうし、何処で手に入るのかを調べたら奴隷商の所へ行き着くのか。尚文や俺に譲ってくれという貴族も何人かいたしな。

 そんなことするわけないけどな!

 

 

「後は口八丁で様々な魔物を購入していただくだけです。ハイ」

 

 

「お前も大概だな」

 

 

 フィロリアル・クイーンになる条件は今のところ不明だ。そうなれば容易く売ること等できる筈もない。

 勇者が育てれば、クイーンになるのか?

 となるとニーナは?

 それとも勇者の仲間なら?

 

 

「次に勇者様の奴隷を見て、私の所の奴隷は質が良いと噂になったので、儲けさせてもらっているのですよ。ハイ」

 

 

 今度はラフタリアか……。

 確かにラフタリアは美少女と称さるおえない整った顔つき、体形をしているからなぁ。

 その奴隷の出所を知ったら奴隷を使う者からしたら信用に値する訳か。

 尚文は奴隷商の評判を上げるのに一枚噛んでしまっているという事になるか。

 

 

「で、今回はどの様なご用件で? 奴隷ですか? それともフィロリアルの実験に協力を?」

 

 

 揉み手をしながら奴隷商が尚文の機嫌を伺う。

 

 

「いや、今回は魔物商のお前に用があってきた」

 

 

「ではフィロリアルの実験ですね」

 

 

「違う」

 

 

 コイツの頭の中には二択しか無いのか。

 

 

「では、何の御用で?」

 

 

「ああ、フィーロとニーナの装備をここで買えないかと思ってな」

 

 

「装備ですか……ご用意できますよ」

 

 

 奴隷商の奴、フィーロ達の方へ目を向ける。

 機嫌よく鼻歌を歌っていた人型のフィーロが奴隷商に見られるや怯えるように尚文の後ろに隠れる。

 やっぱり苦手なのか。

 ニーナはそんなだからやっぱ尚文の脅しが効いてるのだろうか。

 

 

「武器となりそうな物だと突撃角か蹄鉄ですかね。防具だとフィロリアル用の鎧もありますが……」

 

 

 フィーロ達の体形を考えると鎧は無理だろ、オーダーメイドで作れなくは無いが、変身するから直ぐに着直す羽目になる。

 

 

「突撃角ってなんだ?」

 

 

「頭に付けさせる兜ですよ。突進時に使います」

 

 

「へー……」

 

 

 蹄鉄は馬の蹄に付ける奴だったはずだ。

 

 

「後はツメですかね」

 

 

「フィーロは何が欲しい?」

 

 

「え?」

 

 

 フィーロの奴、奴隷商に怯えて話を聞いていなかったのか?

 

 

「頭に付ける兜か足につける靴みたいな奴、後は鎧だ」

 

 

「うーん……フィーロ、変身するから、姿が変わったときに肉に食い込むのは、やー」

 

 

 

 あ、洋裁屋の言った脅しが今も効いているのか。

 コイツ脅しに弱いな……。

 となると突撃角は魔物の姿だと問題は無いが人間の姿だと重そうだな。蹄鉄も足に食い込むだろうし、鎧はサイズが合わないだろう。

 魔法屋に行って、あの糸みたいのを金属板で出せないかとか聞く手もあるが、凄く金が掛かりそうだ。

 防御力とか雀の涙になりそうだし。

 

 

「着脱を考えるとツメがよろしいかと、ハイ」

 

 

「じゃあ、ソレだけで良いか、フィーロ」

 

 

「うん」

 

 

「ニーナはどうする?」

 

 

 フィーロの装備が決まったところで俺はニーナに問いかける。

 

 

「私もフィーロと同じ物がいいです」

 

 

「というわけでツメを2つな」

 

 

「それでは、サイズを測りますので魔物の姿になっていただきたいのですが。ハイ」

 

 

「だ、そうだ」

 

 

「わかったー」

 

 

「はい」

 

 

 ボフンとフィーロとニーナは魔物の姿に戻り、足を前に出す。

 奴隷商の部下がフィーロ達の足のサイズを測った。

 

 

「ふむ……フィロリアルの平均からかなり大きいですな」

 

 

「すぐには用意できそうに無いか?」

 

 

「いえ、辛うじてサイズがあるかと思います。素材は鉄でよろしいですかな?」

 

 

 こういう時って、どういう基準で攻撃力を期待できるんだろうか?

 固ければいいのか? 鋭ければとか……。

 

 

「多少、金には余裕があるから、良い奴がいい」

 

 

「分かりました。では魔法鉄が現在、用意できる限界ですね」

 

 

「ちなみに幾らだ?」

 

 

「勇者様には贔屓にさせて頂いているので、特別に相場の半額で、金貨5枚で提供したいと思っております」

 

 

「更に値切って良いか?」

 

 

「勇者様の貪欲さに私、ゾクゾクします。良いでしょう4枚で妥協しましょう」

 

 

「買った。ついでに良い手綱も付けろ」

 

 

「お売りしましょう!」

 

 

 奴隷商の奴、テンションが高いよな。扱いやすくもあるけど、利用されているような気もする。

 そういう意味では商売上手で怖いよな。こいつ。

 テントの奥から大きなツメが運び込まれる。

 大きさは丁度、フィーロの足に嵌りそうな金属製のツメだ。よくあったな。

 

 

「よくこんなでかいのあったな」

 

 

「飛竜用のツメです。もっと大きなサイズもありますよ」

 

 

 フィロリアル用では既に無いのか。

 というか戦闘用のフィロリアルとかいるのかな?

 馬車引いてる印象しかないけど。

 

 

「これを履くの?」

 

 

「ああ、それがお前の武器だ」

 

 

 フィーロは地面に置かれたツメに自分の足を乗せる。

 ニーナも同じく。

 

 

「ピッタリのようですね」

 

 

「みたいだな」

 

 

 双子かってくらい足のサイズが同じだった。

 後は紐でツメと足を結ぶだけだ。

 フィーロは片足を上げて、ツメを付けた実感を確かめている。

 

 

「なんか変な感じー」

 

 

「慣れろ、慣れれば前よりも攻撃力の上昇が見込める」

 

 

「ニーナはどうだ?」

 

 

「うーん、やっぱり違和感がありますね……」

 

 

「そっか……まぁ慣れるしかないかな?」

 

 

 フィーロやニーナの脚力での攻撃は今でも高いのだ。更に高くなったという事はかなりいい前衛になれそうだな。

 

 

「……ニーナさんや?」

 

 

「ん?はい?」

 

 

 軽く蹴りの素振りをしてたニーナにふと気になり、話しかける。

 

 

「ちょっとそれ付けたまま全力で俺を蹴って貰える?」

 

 

「………………はい?」

 

 

「何言ってんだお前」

 

 

 ニーナが唖然とし、尚文が呆れたように呟く。

 

 

「いや、ちょっとニーナの攻撃力と俺の防御力の確認をとね。さぁカモン!」

 

 

 困惑してるニーナに声を上げる。

 

 

「え、えとそれじゃあ行きますよ?」

 

 

 未だ困惑しつつも足を構えるニーナに頷く。

 直後マジで躊躇なく全力で繰り出された蹴りが俺の胸に突き刺さった。

 しかし、衝撃で僅かにたたらを踏んだもののやはり俺にダメージはなかった。

 

 

「むー、まだ無傷かー……」

 

 

 蹴りで破れた服の切れ端をつまみながら呟く。

 ドラゴンゾンビとの戦いの時にニーナは俺に僅かとはいえダメージを与えるほどの攻撃力を持っていた。

 そして、尚文はそれを無傷で受け止めていた。

 成長すれば、俺の力との共鳴による力の増幅に頼らなくてもあれだけのステータスを発揮できるようになるのかな?

 

 

「おいおい……さすがに今のは俺でも盾で受け止めなきゃ無傷は無理だぞ?」

 

 

「だろうなぁ……」

 

 

 尚文以上の防御力は未だ健在ですな。

 そこでふと、俺の脳裏にフィーロが元康を蹴った時の出来事が思い出される。

 今度こそフィーロの脚力で蹴ったら引き裂いてしまいそうだ。

 

 

「フィーロ、今度槍を持った奴を蹴る時はツメを使って蹴ってはダメだぞ」

 

 

「なんでー?」

 

 

「さすがに玉が潰れるでは済まなくなるからだ」

 

 

 尚文も同じことを思ったのかフィーロに忠告する。

 まがりなりにも勇者だ。殺したら何が起こるか分からん。今更遅い気もするが。

 元康も、尚文の部下に玉を蹴られてくやしいとか言えなかったのだろう。

 あいつの行動理由は女にモテたいに集約するからな。

 クズ王に言いつけるなんてかっこわるい事はできなかった、と言った方が良いのか。

 

 

「ふーん」

 

 

 フィーロは買ってもらったツメに意識を集中していて、話半分という感じだ。

 ちゃんと聞いているのか?

 まあ……元康がどうなろうと知ったことではないか。

 尚文は奴隷商に金貨8枚を渡す。

 

 

「やっぱり鎧はいらないー」

 

 

 ツメが合わないからか、フィーロは鎧が不必要だと思っているようだ。

 まあ、買う予定は無いから、良いだろう。

 

 

「さて、次はと……なあ、奴隷商。お前の所でクラスアップの斡旋とか出来ないか?」

 

 

「クラスアップですか?」

 

 

「ああ、ここのクズ王が俺の配下のクラスアップ許可を出さないんで困っているんだ。お前の所に40越えの奴隷が居ただろ、紹介状とかあるのかと思ってな」

 

 

 尚文の頼みに奴隷商は何やら考え込むように顎に手を当てる。

 

 

「勇者様のご希望にお答えできず非常に残念です。私共は紹介状を持っておりません」

 

 

「そうか……」

 

 

 あの奴隷は奴隷商の権力でクラスアップした訳ではなかったのか。

 

 

「クラスアップなら隣国などで信用を得ればその国にある龍刻の砂時計で可能ですよ」

 

 

「なに?」

 

 

 ちょっと待て、龍刻の砂時計ってこの国にしかないとかじゃないのか。

 

 

「他の国にもあるのか?」

 

 

「ええ、ですが信用を得るとなると非常に時間が掛かりますからねぇ……」

 

 

 早急に上げたい俺達にはその時間が非常に惜しい。

 隣国にも盾の勇者の悪名が響いているだろうか?

 響いていた場合、難しいだろうな。

 

 

「出来そうな所というと傭兵の国ゼルトブル、亜人の国シルトヴェルト、シルドフリーデン辺りですかね。ハイ」

 

 

「そんなにあるのか」

 

 

「ええ、勇者様にオススメはシルトヴェルトかシルドフリーデンですかね。あそこならフリーパスかと」

 

 

「ふむ……そこまで行くのにどれくらいかかるんだ?」

 

 

「それぞれ、馬車でなら一ヶ月、船なら二週間は掛かります」

 

 

 奴隷商は地図を持ってきて、俺達に道を教えた。

 確かに、メルロマルク国での一日の平均移動範囲を逆算すると相当遠い。

 フィーロ達なら二週間と少しで到着するかどうかという範囲だ。

 大きく見積もって三週間は掛かると踏んだ方がいいな。

 船で二週間というのは魅力的だが、その間何もできないのが厳しい。

 

 

「飛竜ならもっと早く到着するでしょうが、勇者様の移動手段ですとこの辺りが妥当ですね」

 

 

「遠いな……」

 

 

 しかし、戦力アップを考えるのなら行かなきゃダメだろう。

 道中この国にはいない魔物の素材や盾を計算に入れれば悪くはないのか?

 その分、他の奴等に遅れを取るが、ラフタリアとフィーロ、ニーナが成長しないんじゃ、ここに留まる意味が無くなる。

 必然的に俺達が亜人の国とやらに行くのは決定事項か。

 

 

「波が終わったら行くとしよう」

 

 

 まったく、あのクズ王は尚文を困らせることに情熱を傾けすぎだ。

 

 

「世話になったな」

 

 

「そう思うのでしたら是非――」

 

 

「断る。そうだ。人間ってここで売れるか?」

 

 

 盗賊を倒したとき、奴隷として売れないかと思ったんだけど面倒だったんでやめたんだよな。

 

 

「この国で人間は無理ですね。もっと深い所に行けば買う方もいるでしょうが、その分、質とリスクを求められます」

 

 

 なるほど、この国では安全なラインは亜人か。人間至上主義の国だったか。

 つまり逆に考えると獣人の国では……。

 尚文の安全には気をつけよう。

 

 

「そうか、じゃあな」

 

 

 こうして俺達は奴隷商のテントを後にした。フィーロ達は人の姿になり、脱げたツメを紐で縛って持っていく。

 しかし、ラフタリアは奴隷商との会話に殆ど入ってこずに静かにしているなぁ。

 まあ、商談には口を出されたら困るが、よく考えている子だと感心する。

 

 

「次はラフタリアの番だな」

 

 

「はい?」

 

 

「聖水だよ。確か教会で売ってるんだよな」

 

 

「あ、はい」

 

 

「何だかんだ言ってラフタリアも女の子だもんな、そんな黒い痣があったら困るだろ」

 

 

「えっと……ナオフミ様が気になるのなら」

 

 

 なんか恥ずかしそうにラフタリアが呟く。

 

 

「いや、普通気になるだろ。俺が原因なんだから」

 

 

「そういう意味では……いえ、なんでもありません」

 

 

 これがリアル鈍感系主人公か。

 俺は尚文に呆れた視線を送った。

 

 




 実は鈍感系主人公って苦手なんですよね……。
 なんかイライラしちゃう。

 後、現在の尚文達の闘級は3000程度のつもりです。
 さすがに初期の七つの大罪より弱い気もしますがこれ以上弱くするとマジでメリオダス無双になるんで……。
 ちなみに暴走時のニーナの闘級はメリオダスの暴走時と同じく1万ちょいです。

 それでは第37話もお楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第37話 怪しい神父

 毎日更新14日目!
 すみませんが今日は疲れたので短めです……。

 それでは第37話をどうぞ!


 城下町の目立つ所に建っている教会に顔を出す。

 

 

「た、盾の勇者!?」

 

 

 なんかものすごく渋い顔で歓迎された。

 さすが盾の勇者以外を信仰する三勇教。

 盾の勇者には厳しいらしい。

 

 

「うろたえるものではありませんよ」

 

 

 教会の神父らしき落ち着いた態度の男が渋い顔をしたシスターを注意した。

 

 

「本日は我が教会に何の御用ですか?」

 

 

「ああ、仲間が酷い呪いを受けてしまってな、呪いを解く強力な聖水を譲っていただきたい」

 

 

 尚文なんか普通の対応だな。

 聖水の料金表のような物が壁に掛けられている。

 

 

「ではお布施を」

 

 

「幾らだ?」

 

 

「聖水ですと安い物から銀貨5枚、10枚、50枚、金貨1枚と効果によって上がっていきます」

 

 

 ふむ……吹っかけてはいないようだ。

 だが、前の世界で鍛えたゲーム脳が断ずる。コイツは信用ならないと。

 

 

「神様の前で値引き交渉するのもアレだな、じゃあ金貨1枚の強力な奴を頂こう」

 

 

「いけません、ナオフミ様。そんな高価な物は頂けません」

 

 

「いいんだよ。前に言っただろう。俺はお前を大切にしている。ラフタリアに比べれば金貨一枚なんて安いもんさ」

 

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 

 俺が神父を軽く睨んでいると話は進んでいく。

 尚文は感謝しているラフタリアを余所に金貨1枚を取り出して神父に渡した。

 うーん、少なくとも今すぐ何かする気は無さそうだが……。

 

 

「分かりました」

 

 

 神父はシスターに指示して聖水の入ったビンを持ってこさせた。

 しかし尚文はそれを受け取らず渋い顔をして神父を睨んだ。

 俺がはて?と首を傾げていると尚文の顔を見た神父も聖水に視線を移して顔色を変えた。

 

 

「何故、質の悪い物を持ってくるのかね?」

 

 

「ですが」

 

 

「神は慈悲深いものです。あなた個人の正義感を満足させる為の蛮行なら今すぐ悔い改めなさい」

 

 

「ま、誠に申し訳ございません!」

 

 

「すいませんね。我が教会の者が無礼を働いてしまいまして」

 

 

「金に見合った物を最終的に寄越すのなら文句は言わないさ」

 

 

「慈悲に感謝いたします」

 

 

 どうやらさっきの聖水は質が悪い物だったらしい。

 神父らしき奴が直々に聖水を持ってくる。

 

 

「まあ、こんな所だろう」

 

 

 尚文はそう言って聖水の入ったビンを受け取る。

 

 

「そのお水、そんなにおいしいの? フィーロにもちょうだい!」

 

 

「飲むなよ。これはラフタリアの薬だ。お前はどこも異常が無いだろう?」

 

 

「うん。フィーロいつも元気!」

 

 

「じゃあ必要無いな」

 

 

「あれー?」

 

 

 疑問符を浮かべているフィーロを無視して尚文は神父に告げる。

 

 

「礼を言う。後、龍刻の砂時計の所にいるシスターにも同じ事を言っておけ。人をバカにしてほくそ笑みやがったぞ」

 

 

「わかりました。信仰者としてあるまじき姿ですね」

 

 

「……そうか。じゃあな」

 

 

「神の導きに感謝を」

 

 

 尚文はあの神父にいい印象を持ってるようだが俺はあのやり取りを見てもやっぱり信用出来ない。

 俺はモヤモヤした気持ちを抱きつつ、尚文達と共に教会を後にした。

 

 




 槍の勇者見る限り尚文の近くに強い奴がいると三勇教が動くみたいですがそれを知ったのがそこそこ書いてからという……。
 前にも同じこと言いましたけどやっぱりめんどゲフンゲフン大変なので改変はなしでこのまま突っ走ります(

 それでは第38話もお楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第38話 転生者

 毎日更新18日目!
 休日は余裕を持ってかけていいわ〜(*´ω`*)
 まぁ、今日はちょっと短めなんですけどね。

 それでは第38話をどうぞ!


「あ! いました!」

 

 

 教会を出た所で、何故か樹と錬とその取り巻きが俺達の方へ駆け寄ってくる。

 なんだコイツ等。

 揃いも揃って城下町に居るってどういう状況だよ。

 呆れた眼差しを勇者とその取り巻きに送ると、俺は目を剥いた。

 錬の取り巻きの1人の左肩にこんなものが日本語で浮いていたからだ。

 

 

『想像した物を創造する』と。

 

 

 転生者ッ! しかもとんでもない転生特典だッ! 

 

 

 何やら樹が先頭に立って、尚文に声をかけているがもはや俺にそちらを気にする余裕はなかった。

 この世界で初めて出会った転生者を俺は睨む。

 あちらもメリオダス(おれ)を知っているのか、この世界の原作を知っているのか、こちらを睨む。

 

 

 無言で俺達が睨み合っていると、尚文や他の勇者達も俺達の様子に気がついたのか声をかけてくる。

 

 

「どうしたメリオダス? 知り合いか?」

 

 

「シュン、そいつのこと知ってるのか?」

 

 

 尚文が俺に、錬がシュンという名前らしき転生者に話しかける。

 俺達は、僅かな時間睨み合い、同時に顔を逸らして答えた。

 

 

「……いや、全く知らんヤツだな」

 

 

「……そうですね、初対面です」

 

 

 尚文達から疑惑の視線を向けられながら俺は思考する。

 恐らく前回の波の時にちらっと見たのはコイツだったんだろう。

 あの地雷もコイツの転生特典だろう。

 どこまで創造できるんだ? 

 〝物〟ってことは生物は無理っぽいがコイツの認識によって変わるならそれも怪しいが……。

 シュンか……日本人の名前っぽくなおかつファンタジー世界でもそこまで違和感はないな。

 そして、コイツが着いてるのは錬の方か。

 コイツが原作を知ってるのなら何か理由があるのか? 

 知らん可能性もあるが……。

 

 

 いや、そんなことはどうでもいいか。

 コイツの転生特典がどの程度のものとか原作知識があるかとかそんなことよりコイツが敵になるか否かだ。

 消すか消さないか……。

 創造された物によってはメリオダスの力を使っても苦戦する可能性がある。

 なら、真っ向からやるより転生特典を消しちまった方がいい。

 

 

 だが——

 

 

「……ぃ……おい……おい! メリオダス!」

 

 

「ぅえ、あっはい、えなに?」

 

 

 尚文に声をかけられ、思考の海から引き戻される。

 尚文を見ると何やら呆れたような顔をしている。

 周囲にはもう勇者達はおらず俺達だけだった。

 

 

「なにってずっとボーッとしてて、声掛けても反応しなかったこっちこそなにだよ」

 

 

「あ、あはは、ちょっと考え事をね……」

 

 

 どうやら考え事をしてる最中に勇者達はどっか行ったようだ。

 あの転生者も逃がしたが……今は置いておこう。

 

 

「本当に大丈夫かお前……」

 

 

「あ、うん大丈夫大丈夫。んでアイツらなんの用だったんだ?」

 

 

「聞いてなかったのか……」

 

 

「まぁまぁ、んで?」

 

 

 尚文に話を聞くとまた冤罪をかけられたらしい。

 樹の達成した依頼の報酬を成りすまして奪ったというのと錬への依頼を横取りしたと。

 まぁ、錬の方は冤罪じゃなくて事実だが……。

 

 

 城から北のほうの地域で問題を起こしている領主等の調査と退治の依頼を行った樹は普段通り、仲間である目立つ鎧を着せた奴に国からの依頼を受け持つギルドへ報酬を受け取りに行かせたらしい。

 しかし、弓の勇者が達成した依頼の報酬が既に支払われていると言われ、樹はこんな事をしそうな人物は尚文だと断定して問い詰めてたのだとか。

 また証拠もなしに……。

 まぁ、そっちは状況証拠だけだし、尚文が論破して錬も入って黙ったらしい。

 

 

 んで、錬の方も錬が倒したドラゴンのせいで疫病が蔓延したことと、尚文が現地にいた事を話したら納得したらしい。

 何やら錬のやつ、真っ青になって東に向かおうとまでしたらしい。

 そんな冷酷なやつじゃなかったみたいだな。

 三馬鹿の中じゃ1番マシだという評価をつけよう。

 

 

 樹はまだ諦めてなかったようで証拠を持ってくるとかほざいて去っていったらしい。

 

 

「じゃあ行くか」

 

 

 話をし終わると尚文はそう言って歩き出した。

 やっぱりあのクズ王の管轄である城下町は碌な目に合わないな。

 

 

 日も落ちてきたのでその日は宿をとって、宿の部屋でラフタリアの治療に専念することにした。

 尚文が買った聖水を別の器に移して、包帯を浸し、ラフタリアの黒い痣の部分に巻き直す。

 ジュウ……っと音がして、黒い煙が包帯を掛けた所から立ち昇る。

 

 

「う……く……」

 

 

「大丈夫か?」

 

 

「は、はい。なんと言いますか痒い様な、凝りが取れるようなそんな感覚があります」

 

 

「そうか……」

 

 

 尚文は痛ましそうな表情でラフタリアに触れていると黒い痣がふんわりと薄くなっていくような気がした。

 

 

「ナオフミ様が巻いてくださった所は治りが早いのですよ」

 

 

「それなら良いのだけどな」

 

 

 早く治るといいな。

 

 

「あーラフタリアお姉ちゃんがごしゅじんさまとイチャイチャしてずるーい!」

 

 

 と、そんなことを思っているとフィーロが治療中だというのに尚文にじゃれ付いて行った。

 

 

「イチャイチャしてません!」

 

 

「そうだぞ、俺はラフタリアの怪我を治療しているんだ」

 

 

「ラフタリアお姉ちゃん黒いもんね」

 

 

「私が腹黒みたいな言い方しないでください」

 

 

「ぷっ」

 

 

「メリオダス! 笑わないでください!」

 

 

「フィーロが変なこと言うから悪いだろ?」

 

 

「フィーロ、尚文さんの邪魔をしてはいけません」

 

 

「むー、はーい」

 

 

「ま、近々波が来るし、それまではゆっくりするとしよう」

 

 

「はーい!」

 

 

「そうですね。最近は色々忙しかったですし、たまには悪くありませんよね」

 

 

「そうだな、ずっと行商としてあっちこっち行ってたしなぁ」

 

 

 よく考えたら休みとかなかったな。

 移動中はまぁ、何も無かったけど。

 

 

「ごしゅじんさまのごはんは何時作ってくれるの?」

 

 

「そうだなぁ……明日かな」

 

 

「わかったー!」

 

 

「尚文……」

 

 

「おい、まさかニーナの分まで作れと?」

 

 

「お、分かってるじゃないか。よろ♪」

 

 

 顔をひきつらせる尚文にサムズアップして言う。

 

 

 こうしてラフタリアの治療をしつつ、宿でその日は眠った。

 




 この転生者はちょこちょこ出てきますが大したやつじゃないです。

 それでは第39話もお楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第39話 志願兵

 毎日更新19日目!

 メリオダスの影が薄すぎて辛い……。
 ま、まぁこれから…ね?

 原作見返してたら次の波の時と霊亀からは原作と色々変わりつつ、メリオダスも目立てそう。
 しかし、代わりにメリオダスが居るバランスを取るために転生者が沢山になっちゃうんだよなぁ……。
 霊亀だってメリオダスなら簡単に倒せるだろうし。
 まぁ、殺せるかは別として。

 そんな訳で踏み台転生者と言うべきキャラ達が複数登場しますのでご注意を。
 仲間になる転生者もいますけどね。

 それでは第39話をどうぞ!


「さて、今日は何をするかな」

 

 

 翌日。

 まだ親父に依頼した装備の類は完成していないだろうということで今日は何するか悩んでいた。

 

 

「薬屋とか魔法屋に顔を出すのも良いかもしれないな」

 

 

 尚文はそう言って、準備を始めた。

 波までの間に出来ることを考えると回復薬の調合とかが妥当だけど……既に準備は出来ている。

 かといってLv上げはラフタリアたちが成長限界だから尚文だけになる。

 もったいないがしばらくは休むのが妥当だろう。

 ラフタリアの傷も完全に癒えてはいないし。

 

 

「また聖水でも買いに行くか」

 

 

「え? まだ残ってますよ」

 

 

「完全に治るにはしばらく必要だろ?」

 

 

 昨日よりは薄くなっているが、まだ完治には遠い。量も不安なくらいしかない。

 この調子なら波までには相当薄くなるだろうけど、毎日聖水を取り替えないと効果の低下が懸念される。

 やはり自分が付けた傷だからか結構気にしてるらしい。

 

 

「じゃあ、今日は薬屋に顔を出して飯でも食うか」

 

 

「うん!」

 

 

「おう」

 

 

 俺達は頷き、宿に荷物を預けて出かけた。

 

 

 薬屋では何時ぞやのアクセサリー商の話題が出た。

 何やら薬屋の店主とは知り合いで、尚文のことを絶賛していたらしい。

 それでどうやってあの守銭奴に取り入ったのかと聞いてきた。

 盗賊の件を話すと納得していた。

 

 

 そして、尚文は疫病の件で自分の薬じゃ完治させられなかったことを気にしていたようで上級レシピを売ってくれと頼んだが上級レシピはまだ早いと違うレシピ書を売ってくれた。

 毒草や毒薬のレシピ書だった。

 薬に精通するには避けては通れないらしい。

 後は初級の基礎をメモった紙も貰っていた。

 

 

「盾の勇者様!」

 

 

 そうして、用事を終え、薬屋を出た所で聞きなれぬ声に振り返る。

 見ると息を切らした14、5歳くらいの兵士の格好をした少年がこちらに駆けて来る瞬間だった。

 尚文が咄嗟に逃げようと走り出す。俺達も後に続く。心当たりが多すぎる。

 

 

「待ってください! 別に捕まえようとかじゃありませんから!」

 

 

「じゃあ何のようだ!」

 

 

「ちょっと話がしたいだけです!」

 

 

 ……怪しいが……とりあえず、尚文は止まった。

 嘘だったらフィーロを嗾ければ良いかとか考えてそうだ……。

 嘘には見えないがさて。

 

 

「はぁ……はぁ……やっと逢えました」

 

 

 肩で息を切らしている少年は尚文の前で呼吸を整えて、顔を上げる。

 

 

「俺に何のようだ」

 

 

「えっとですね。波の……間、だけですが、ご一緒、させてください」

 

 

「はあ?」

 

 

 何を言っているんだ?

 俺は訳が分からず首を傾げる。

 

 

「前の波の時に僕達、下級兵士達は盾の勇者様の戦い方に感銘を受けまして」

 

 

 少年の話はこうだ。

 前回の波の時、リユート村を守っていた俺達の姿に感銘を受けた階級の低い兵士が何人も居たらしいのだ。

 騎士団の風潮から声を大きくして尚文を褒めることは出来なかったが、波が終わってからしばらくして、水面下での輪が広がったそうだ。

 

 

「町の見回りの時に、盾の勇者様を見つけたものはこの話をしようとみんなで決めていたんですよ」

 

 

「へえ……」

 

 

「僕達の役目は波と戦うことではありますが、それよりも国民への被害を抑えるのが最優先にすることにあります」

 

 

 高尚な考えだ。あの勇者共に聞かせてやりたい言葉だな。

 

 

「ですので、その……盾の勇者様、どうか波の時にご一緒させてください」

 

 

「別に波で戦いたいだけなら俺じゃなくても良いんじゃないか?」

 

 

 ステータス魔法、仲間の項目には編隊という項目が存在する。おそらく、波に備えた物だろう。

 これを使用して隊を作り、波で戦うというのが俺が思う波との正しい戦い方だ。

 どちらかと言うと、ネットゲームのギルドとかチームで競う攻防戦のようなものではないだろうか。敵が人間では無いが、感覚的に間違いは無いと思う。

 じゃないとあんなに大量の魔物を相手にして一人で戦うなんて無謀極まりない。

 いくら強くともあの数相手に周囲に被害を出さず殲滅とか、俺にも無理だ。

 確かにボス級の魔物を倒すのはゲームでいうところのLvの高いエースプレイヤー……勇者が役目を背負うのだろうが、他の雑魚はこの世界の住人でも対処できるはずだ。

 

 

 前回の波がそれに該当する。

 リユート村という城下町から近い場所に波が起こったから、城下町から騎士団が駆けつける事が出来たが次はわからない。

 この国も広い。もしも遠い場所に出たら大惨事だ。

 そうなったら、少人数で被害を抑えなくてはならなくなる。

 まあ、波での戦いにおける定石は置いておいて、目の前の少年がどうしてこんな提案をしてきたのか、返事を聞きたい。

 

 

「いえ、僕達は盾の勇者様と一緒に国民を守りたいのです」

 

 

「目的は出世か?」

 

 

「違います」

 

 

 即答と呼べるほどの速さで少年は首を振る。そして尚文の後ろの方にいた魔法使いっぽい衣装の少年に手招きする。

 魔法使いっぽいと言っても魔法屋みたいな紫色ではなく、なんか安っぽい黄色だ。

 そして二人で並んで尚文に頭を下げた。

 

 

「僕……出身がリユート村なんです。ですから盾の勇者様に家族を助けてもらって……だからせめて少しでもお役に立ちたくて」

 

 

「ああ、なるほどね」

 

 

 家族を助けて貰ったから恩を返したい奴か。

 

 

「確かに勇者様の言うとおりの者も居るとは思います。ですが、僕は盾の勇者様のお力になりたいのです」

 

 

「そうか、物好きもいたもんだな……ん?」

 

 

「あの……勇者様」

 

 

 魔法使いっぽい衣装の少年が顔を上げてローブの裏地を出すなり、羽ペンを尚文に向ける。

 

 

「……サインください」

 

 

 おお、ついに尚文にファンが。

 まぁ、勇者なのに今までいなかったのがむしろ異常なんだろうが……。

 よく見るとこの子、亜人だ。

 人間至上主義のこの国で亜人、しかも兵士になるって事は何か思う所があるのかもしれない。

 以前の波で騎士団と同伴していた魔法使い達と比べて安っぽい衣装をしているのは、何も年齢や階級だけが原因ではなさそうだな。

 

 

 無言でサインを強請る魔法使いっぽい衣装の少年の願い通り、尚文はローブの裏地に軽くそれっぽいサインをしておく。

 魔法使いっぽい衣装の少年は顔を若干赤くして嬉しそうに笑みを尚文に向ける。

 それを見て尚文は若干むず痒そうだ。

 

 

「こいつ、盾の勇者様のファンなんですよ。昔から、この国とは別の勇者の伝承を聞いていて盾の勇者様にあこがれていたんです」

 

 

「へー……」

 

 

 極々一部の俺を信用している連中が力になりたいという事か。

 という事はこの少年は話していないが、行商している間に救った村とかの出身者が同じ思いで集まったとかかもしれない。

 尚文は何やらステータス魔法を操作しだす。

 恐らく、ステータス魔法の編隊の項目から分隊長を目の前の少年に向けて発したのだろう。

 パーティの状態はリーダーが尚文でラフタリア、フィーロ、俺、ニーナと続いている。

 その下に、分隊長の権限を与えたのだ。

 この権限は尚文の方が優先されるパーティ状態。つまり、分隊長に経験値を渡さないようにする事も可能だ。

 

 

「これは……」

 

 

「分からないか?」

 

 

「いえ」

 

 

「お前が代表じゃないならソイツにそれを渡せ、で、参加したい奴を集めればいい。だけど勘違いするなよ。俺をただ利用したり、何か不埒な事をしようとしたら間違いなく任を解いて解散させる」

 

 

「はい! ありがとうございました!」

 

 

 二人揃って敬礼し、立ち去っていった。

 思う所はあるが、少しずつ尚文がこの国でも信用されだしている。

 そんな実感を得られた瞬間だった。

 

 




 悲しいほど影が薄いメリオダス。
 一応主人公だったりします(

 それでは第40話をお楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第40話 嵐の前の

 毎日更新21日目です……。
 皆様昨日は毎日更新が途切れてしまい申し訳ございませんでしたm(_ _)m
 とあることがありメンタルがやられてました……。

 ということで今回もまた原作と変わらねぇ( ;∀;)
 次回は波がついに始まるので変わるのです。

 それでは第40話をどうぞ


「アンちゃん。まだ防具は出来てねえからよ。人ん家のキッチンを使うのやめてくれねえか?」

 

 

「何故だ? 許可はさっき取っただろうが」

 

 

「そりゃあキッチンを貸してくれとか言って金まで出されたら無下には出来ねえけど」

 

 

 少年兵と別れた後、俺達は市場で大量に食材を買い。手ごろな知り合いである武器屋に押しかけ、キッチンを占拠して料理を始めた。

 安く武器防具を提供してくれている武器屋にも食い物をやろうと尚文が押しかけた訳だが……。

 

 

「ごっはん! ごっはん!」

 

 

 ちなみにさっきからフィーロとニーナは尚文の作る合間の焼肉や串焼きをずっと食っている。

 フィーロと違ってニーナは静かである。

 食う速度は同じだけど……。

 

 

「匂いがすげえんだよ! さっきから入ってくる奴みんなが匂いに釣られて、覗き込むわ、市場に食い物買いに行くわで散々だ」

 

 

 ラフタリアがカウンターの方で尚文の防具を作りながら接客する親父に出来上がった料理を運んで行く。

 

 

「しかも嬢ちゃんが持ってくる料理を盗み食いした馬鹿が、何処でこんな味が! ってさっきから騒ぎまくってる」

 

 

「盗み食いする奴なんて追い出せば良いだろ」

 

 

「盗み食いした奴が気前がよくて武器を買っていくんだ。アンちゃんの買い物以外で売り上げ記録が今月を抜きそうなんだよ」

 

 

「良かったな。俺のお陰だ」

 

 

「まあな。じゃねえよ! ここは飯屋じゃねえ武器屋だ!」

 

 

「だが、またバーベキューでは味気ないだろ。鍋物に挑戦しているのだが……」

 

 

 武器屋の奴、近所の金物屋まで兼任していて結構大きな鍋を持っていたのだ。

 だからその大なべを貸してもらって、この世界独特のカレーに似た料理をいま作っている最中だ。

 非常に美味そうである。

 

 

「……」

 

 

 換気窓からなんか近所のおばちゃんらしき人が覗き込んでくる。他、冒険者っぽい奴が数名。

 バタンと換気窓を閉める。

 すると武器屋のカウンター方面に匂いがなおの事漂う。

 

 

「アンちゃん!」

 

 

 親父の声が大きくなった。

 結局、鍋が完成した所で親父に追い出され、フィーロ達への手料理は終わってしまった。

 フィーロ達もまだ食べ足りないのか不満そうだ。鍋の中身も半分しか平らげていない。

 後日、俺達が残していった鍋の中身を食いきれないからと来客に振舞った所為で武器屋は時々、メチャクチャ美味い飯を披露してくれる店という風聞が付くのは別の話。

 

 

「フィーロごしゅじんさまのごはん、もっと食べたかった」

 

 

 不満そうに頬を膨らませるフィーロに尚文は店で買った串焼きを渡し、俺も串焼きを渡す。

 そして、町をぶらつきながら、手ごろな食材を物色する。

 

 

「ま、川辺で何か作ればいいか」

 

 

「またお肉?」

 

 

「ああ、飽きるだろ?」

 

 

「ごしゅじんさまの料理なら飽きないよー」

 

 

「はいはい」

 

 

 フィーロの返答に空返事しつつ、尚文は武器屋から拝借した鉄板をフィーロに担がせて進む。

 材料を適当に買い占めて、毎度お馴染みの川原でバーベキューを始める。

 フィーロ達は肉が足りなくなることを懸念して森へ走って行き、ウサピルを何匹か捕まえてくる。

 ひとしきりフィーロ達が満足するまでバーベキューをして、次は何をするかと考える。

 

 

「こんなゆっくりとした時間は初めてですね」

 

 

「そういえば、そうだな」

 

 

 殺伐とした時間の中で過ごしていた異世界での日々、空を見上げると青くて、とても平和だ。

 厄災の波が数日と迫っているとは思えない。

 ふと、ラフタリアを見るとボールを跳ねさせて遊んでいる。

 そんなの持ってたっけ? 

 

 

「それ……前に買ってやった奴だよな」

 

 

 尚文が指差すとラフタリアは微笑む。

 なるほど尚文が買い与えた奴か。

 

 

「覚えていてくださったんですね。ナオフミ様が初めて私にくださったものですよ」

 

 

「物欲しそうに見ていたら誰だって買ってやるさ」

 

 

「私はそうは思いませんけどね」

 

 

「んあ?」

 

 

「そうだな」

 

 

 ラフタリアの言葉に膝上のバーベキューの残り物をはむはむ食べてるニーナを撫でながら苦笑する。

 なんだかんだ言って尚文は優しいのだろう。

 フィーロが、同じくバーベキューの残り物を啄ばみながらこちらに振り向く。

 

 

「お姉ちゃんどうしたの?」

 

 

「フィーロが生まれる前の話をしていたのですよ」

 

 

「ふーん……」

 

 

 跳ねるボールを良く見る。

 所々擦り切れていて、ボロボロになっていた。おそらく、俺の知らない間にラフタリアはボールで遊んでいたのだろう。

 

 

「新しいのを買ってやろうか?」

 

 

「いえいえ、これは私の思い出の品なので、代わりはいりませんよ」

 

 

「そういう意味じゃないのだけど……」

 

 

 大切な思い出だと思ってくれているのなら割れたりしたら困るだろうに……本人がそれで良いのなら良いんだろうが……。

 

 

「俺も一緒に遊ばせてもらうかな」

 

 

「え!?」

 

 

「は!?」

 

 

 思わずラフタリアと共に尚文を見る。

 

 

「どうした?」

 

 

「いえ……ナオフミ様は玉遊びをするような方とは思っていなかったので」

 

 

「俺をなんだと思っているんだ……まあ、そう思われてもしょうがないが。こんなゆっくりとした日くらいは遊び位するさ」

 

 

「その歳で?」

 

 

「ほっとけ」

 

 

 トンっと尚文は自分に飛んでくるボールをバレーの要領で跳ね上げてラフタリアに返す。

 特にバレー経験者という訳では無いのか動きがぎこちない。

 

 

「ごしゅじんさまとラフタリアお姉ちゃんが遊んでるー! フィーロも混ぜてー」

 

 

 しばらくトスを繰り返しているとフィーロが食事を終えて人型になって騒ぎ出した。

 

 

「一緒に遊んでも良いが、ボールは割るなよ。後、力を入れないこと」

 

 

「はーい!」

 

 

「ふふふ」

 

 

 ラフタリアはとても楽しそうにトスをする。

 

 

「次の波を超えたらクラスアップの為に別の国へ行こうと思う」

 

 

「はい。どこまでも着いて行きます」

 

 

「フィーロもー!」

 

 

「俺らもな」

 

 

「はい!」

 

 

 俺はうっかりボールを割ったら悪いので見学に回り、ニーナも俺がやらないのならと俺の膝上で同じく見学する。

 ボールが尚文、ラフタリア、フィーロへと飛んで行き、尚文に戻っていく。

 

 

「あ」

 

 

 そんな声と共に尚文はボールをラフタリアの後ろへ飛ばしてしまった。あれでは振り向く前に地面に落ちてしまうだろう。

 

 

「えい」

 

 

「何!」

 

 

 尻尾で器用にボールを弾いてフィーロの方へ飛ばす。

 

 

「わぁ……フィーロもー」

 

 

 フィーロも背中に生えた羽でボールを弾く。

 

 

「ナオフミ様」

 

 

 なんだろう。変な限定条件の入った勝負になりつつあるな。

 

 

「エアストシールド!」

 

 

 尚文も張り合うように空中に現れた盾を使い、ボールをバウンドさせる。

 

 

「あ、ずるーい!」

 

 

「ずるくない!」

 

 

 完全に子供の遊びだな。

 尚文は俺より歳上のはずなんだが……。

 いや、俺も参加すればムキになって色々使いそうだが……。

 クールタイムの所為で、結局尚文が負けた。その後は普通にバレーをやっている。

 

 

「さてどうするかな」

 

 

 更に強くなる為にはラフタリア達がクラスアップするのは必須だろう。

 また波が来たらどうせ召喚されるんだ。その間は行った先の国で金稼ぎとLv上げをすればいい。

 

 

「まだ時間に余裕があるな。ラフタリア、フィーロ、後メリオダスとニーナ。何か欲しいアクセサリーはあるか?」

 

 

「アクセサリーですか?」

 

 

「ああ、細工でお前達の装備品ぐらいは作れるだろうからな」

 

 

「ん? 俺達もか?」

 

 

「ああ、色々助かってるからな」

 

 

「ふぅん……特にないけど……ニーナはどうだ?」

 

 

 膝上で俺の手を構ってるニーナに問いかけてみる。

 転生する前も特にそういうのに興味持ったことないんだよなぁ……。

 

 

「私ですか? うーん……。ご、ご主人様はどんなのが似合うと思いますか?」

 

 

 頬を赤らめ何かを期待するような顔をするニーナに大きく頷いて俺は答える。

 

 

「ニーナならなんでも似合う!」

 

 

 ニーナはガックリと項垂れた。

 すまんな。そういうのには疎いんだ。そして本心なんだ。

 

 

「ラフタリアはどうだ? ラフタリアもそういうのを欲しがる年頃だろ?」

 

 

「え、ええ……」

 

 

「フィーロも!」

 

 

「分かってる。だからお前達に何が欲しいか聞いているんだよ」

 

 

 ラフタリアは若干呆気に取られたような顔をしていた。

 まぁ、いきなりだったしな。

 

 

「えっとねーフィーロはヘアピンが欲しーい」

 

 

 フィーロはヘアピンか……手綱とか鞍が欲しいとか言うかと思ったから意外だ。

 

 

「ヘアピン? なんでだ?」

 

 

「変身しても肉に食い込まないからー」

 

 

 まだ気にしてるのか。まあ、頭に付ければ良いからなのかもしれないが。

 フィーロの人型時の外見年齢から察するに妥当な所か。

 

 

「ラフタリアは何が欲しい?」

 

 

「私ですか? そうですね……」

 

 

 しばし考えたラフタリアは尚文を見て答える。

 

 

「腕輪が欲しいですね。重要なのは付与効果です。これがダメでは意味がありません」

 

 

「「は?」」

 

 

 尚文とハモった。

 

 

「能力の上昇が期待できる物が望ましいです、ナオフミ様」

 

 

 なんだろう。ラフタリアの返答が想像の斜め上を行っていて理解が追いつかない。

 指輪やイヤリングとかネックレスとかを欲しがると思ったのに腕輪、しかも付与効果重視って。

 

 

「尚文……お前はラフタリアの教育を間違えた……」

 

 

 尚文も自覚があるのか顔を逸らした。

 

 

「わ、わかった。善処する」

 

 

「フィーロもー」

 

 

「はいはい」

 

 

「ニーナもヘアピンがいいかもな。腕輪とか指輪だと肉にくい込むし。いや、変身ので砕け散るかもだけどそれもあれだしな」

 

 

 フィーロと双子みたいで似合いそうだ。

 

 

「は、はい……」

 

 

「というかイヤリングにしたら変身した時どうなるんだろうな? 鳥って確か耳たぶとかなかったはずだけど……」

 

 

 穴だけって話だったな。

 落ちるのかな? 

 

 

「どうでもいいだろ……」

 

 

「いや、極めて重要な案件だ。今後ニーナにどのようなオシャレをさせられるかという——」

 

 

 こうしてその日は日が暮れるまで草原でゆっくりと遊び、俺達は波に備えて早めに宿に戻ったのだった。

 




 メリオダスにアクセサリーって何が似合うかな……。
 なんでも似合いそうだな……。
 まぁ、ぶっちゃけ無しでもいい気はする。

 それでは第41話もお楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第41話 第三の災厄と転生者

 毎日更新22日目!
 今回は原作と変わると言ったな……あれは嘘だ。
 そこまで進まなかった(・ω<) テヘペロ
 ……えっと……ごめんなさい。

 まぁ、ラストは変わってるんですがほぼ変わってないです……。
 というか今回文字数多くて結構強引にラスト入れた感がする……。

 それでは第41話をどうぞ!


 今日は武器屋の親父に頼んだ防具が出来る日だ。

 店が開店する時間になると顔を出す。

 

 

「お、アンちゃん。朝一か」

 

 

「まあな、どうだ? 出来たか?」

 

 

「おうよ。所で、アンちゃんの鍋が凄く話題になっているんだが、何故か俺が作ったことになってるぞ」

 

 

「知らん。噂を広めている奴をとっちめろ」

 

 

「アンちゃんには敵わねえな……」

 

 

 親父は店の奥から尚文の防具を持ってきた。

 キメラとドラゴンの骨をバラバラに砕いて作られたボーンメイル……では無く、ライダースーツにパンクなファッションとして骨が縫いついている。そんな感じだ。

 ってライダースーツって言うと某特撮ヒーローのスーツみたいに聞こえるな……。

 

 

「親父、お前は俺をそんなに盗賊のボスにしたいのか?」

 

 

 尚文はジト目で親父を睨むが——

 

 

「あ? 何言ってんだアンちゃん?」

 

 

 親父は尚文の言ってる意味が分からず首を傾げる。

 

 

「ちなみにこれはなんて鎧なんだ?」

 

 

「もうオーダーメイドが進みすぎてなんだか分からねえな、蛮族の鎧+1で良いだろ」

 

 

「これは+1では済まない改造だと思うぞ。腐竜の皮とかが別の服を連想させるというかなんていうか」

 

 

 デザインさえ変わっているし。

 前はデニムっぽい世紀末の雑魚だったが、腐竜の皮の黒い光沢がラバーっぽいというか。

 申し訳程度に胸周りだけ金属製。

 なんていうの? バイクにでも乗れって言う服装だ。

 この世界にはバイクが無いからフィーロに跨って爆走する感じ?想像したら笑えてきた。

 尚文に睨まれたので笑いを抑える。

 

 

「なんだ? アンちゃんはこの鎧を別の所で見たことあるのか?」

 

 

「俺がこの世界の人間じゃないのは知っているだろ? 俺の世界だと……この世界で言う馬とかフィロリアルより早い物に乗るときに着る服に似てんだよ」

 

 

「じゃあごしゅじんさまはこの格好でフィーロの上に乗ってくれるんだ!」

 

 

 メチャクチャフィーロが目を輝かせて俺を見つめてくる。

 

 

「アンちゃん。鳥の嬢ちゃんが言うと卑猥に聞こえるな」

 

 

 半眼で親父が呆れ気味に呟く。

 

 

「うるさい!」

 

 

「興奮した」

 

 

「死ね!」

 

 

 軽いジョークなのに本気でキレられた……。

 

 

「はぁ、まあ。受け取っておく」

 

 

 ラフタリアは尚文の格好をカッコいいとか言ってる。

 まぁ、カッコよくはある。着たくはないが。

 町を歩くと浮くんだよな、この服。

 もはや鎧ではなく服だ。

 あまり隣を歩きたい服ではない。

 

 

 とまあ、波までの準備は問題なく終わった。

 ラフタリアの黒い痣も強力な聖水を毎日使ったお陰で完治。

 尚文は胸を撫で下ろした。

 傷の治りが悪くなる効果があるらしいからなぁ。出来る限り早く治って欲しかったのだ。

 ラフタリア達のそれぞれアクセサリは当日に完成した。

 俺へのお礼は波の後で別で貰うことにした。

 

 

「じゃあ要望のアクセサリーだぞ」

 

 

「はーい!」

 

 

「はい!」

 

 

「はい」

 

 

 テンションの落差。

 

 

「まずはラフタリア」

 

 

 尚文はラフタリアに翡翠のブレスレットを渡す。

 

 

「ありがとうございます」

 

 

「付与効果は魔力上昇(小)だ。装備している鎧の魔力防御加工によって低下した魔力を若干補う事が出来る」

 

 

「大切にしますね」

 

 

「本当にそんなので良いのか? もっと見た目重視のシャレた奴だって作れるぞ?」

 

 

「何を言っているんですか。そんな物で着飾る余裕がどこにあるのです?」

 

 

 ダメだこりゃ……。

 

 

「次にフィーロとニーナ」

 

 

 尚文はフィーロに琥珀の、ニーナに碧いヘアピンを渡す。

 若干、細工に力が入っており、魔物時のフィーロとニーナにも似合うように羽毛で挟むと羽飾りっぽくなるようにしてある。

 ……っていうかニーナのヘアピンの色が完全に精霊の色なんだが……。

 

 

「付与効果は敏捷上昇(小)だ」

 

 

「ごしゅじんさまありがとう」

 

 

「手元の素材じゃそれが限界だった。また必要になったら作るから我慢してくれ」

 

 

「問題ありません。このアクセサリーの性能を最大限に引き出して見せます」

 

 

「うん! フィーロも頑張る!」

 

 

「私も頑張ります!」

 

 

「期待している」

 

 

 俺達は時間に合わせて準備をしていた。志願した奴とも若干の打ち合わせをしたし、準備は万端だ。

 波との戦いは既にフィーロとニーナに話している。最初こそ波とは何なのだろうかと疑問を浮かべていたフィーロとニーナだったが解決させないといけない事なのだと理解させた。

 薬も揃えてある。馬車は……壊れていて、新しいのもまだ出来ていないので、荷車を代わりに引かせた。

 どうせ尚文は波で、他の勇者共とは違って近隣の町や村を守るのが役目だ。そもそも参加する必要すらないのだが、下手に参加しないでいたら何を言われて処分されるか分かったものじゃないからな。

 

 

 00:05

 

 

 後5分。

 転送されたらどの辺りに飛んだのかを察知して、志願兵へ指示を出そう。

 

 

 00:00

 

 

 時間になった!

 世界中に響くガラスを割る様な大きな音が木霊する。

 次の瞬間、フッと景色が一瞬にして変わった。

 俺達は冷静に辺りを見渡す。

 

 

「ここは……」

 

 

 うん。確か病に苦しんでいる老婆に薬を持っていこうとしていた男の住む村の近くだ。

 城下町からだと、どんなに早くても一日半は掛かるだろう。

 空を見るとやはりワインレッドのような色で亀裂が走っている。

 

 

「盾の勇者様!」

 

 

 志願兵たちも召喚され、俺達の方へ駆け寄ってくる。

 そして尚文は他の3人の勇者とその――。

 

 

「フィーロ! 槍を蹴って亀裂に向おうとする奴等にぶつけろ。加減はしろよ」

 

 

「はーい!」

 

 

 尚文の指示通りにツメを脱いでフィーロは駆ける!

 そして猪突猛進と表現するのが正しい連中に追いついた。

 

 

「え――?」

 

 

 槍は振り返ると同時にフィーロに蹴られて他の連中へぶつけられる。

 

 

「「「わあああああああああああああああ!」」」

 

 

 ボーリングのように盛大に吹き飛んだ連中に俺達は近づいた。クソ女も吹っ飛んで気分が良い。

 加減したフィーロの蹴りによって大してダメージは負っていない。

 

 

「な、何をするんだ!」

 

 

 槍が騒いで俺達に弾劾する。

 尚文は槍を無視して、剣と弓を睨みつけた。

 

 

「それはこっちの台詞だ馬鹿共!」

 

 

「いきなりなんだ!?」

 

 

「そうです! 僕達は波から湧き出る敵を倒さねばいけないのですよ!」

 

 

 尚文は馬鹿勇者共に怒りを通り越して呆れていた。

 

 

「まずは話を聞け、敵を倒しに行くのはその後だ」

 

 

 尚文は視線で志願兵たちに近隣の村へ向うように指示する。

 頷いた志願兵たちは尚文の命令通りに村へ駆け出した。

 

 

「さては……僕達への妨害工作ですね!」

 

 

「違う!」

 

 

 尚文の一喝に樹がビックリして目をパチクリさせる。

 

 

「落ち着け、そして考えろ。俺は援助金を貰えないから波の本体とは戦わない。精々近隣の町や村を守るのが仕事だ。そこは理解したか?」

 

 

「ああ」

 

 

「勇者としては失格ですね」

 

 

「そうだそうだ!」

 

 

 それぞれの取り巻きも尚文に野次を飛ばしてくる。

 コイツら……尚文がいなかったら近隣の町とかにどれだけ被害が出ると……。

 

 

「次にお前達。波の大本から湧き出る敵の撃破が仕事だ。大物を倒せば波は収まるのか、亀裂に攻撃をするのかはやってないから知らない」

 

 

「ボスとリンクしているのですよ!」

 

 

 樹の奴がムキになって答える。

 そんな事はどうでも良いな。

 

 

「だけどな、俺達にはそれ以外に重要な仕事があるの……分かってない?」

 

 

「なんだ?」

 

 

「あのな、騎士団はどうしたんだよ!」

 

 

 尚文の声に三人の勇者は目を強く瞑った。

 

 

「そんなものは後から来る」

 

 

 見せ付けるかのように上に照明弾のような魔法が上がっている。

 

 

「ここは城下町から馬やフィロリアルで一日半の距離があるんだぞ! 間に合うかボケ!」

 

 

「じゃ、じゃあどうすれば良いんだよ!」

 

 

「情報通のお前等が言うのか!?」

 

 

 尚文は村の方へ駆けて行く志願兵たちを指差す。

 

 

「そういえば……あの方々はどうやって一緒に転送を?」

 

 

「……本気で言っている? 編隊機能……知らないのか?」

 

 

「仲間ですか? 何時の間にか大量に勧誘したんですね」

 

 

「違う……編隊で一人を下位のリーダーに指名してパーティーを作らせているんだよ。で、一斉転送させた訳」

 

 

 もしかして……コイツ等。波の知識とか無いのか?

 

 

「とりあえず確認だ。誰か、波での戦いについて、ヘルプなどの確認を行ったもの」

 

 

 ……誰も手をあげやしねえ。

 

 

「熟知しているゲームのヘルプやチュートリアルを見る必要なんてねえだろ?」

 

 

「そうだ。俺達はこの世界を熟知している」

 

 

「ええ、ですから早く波を抑えることを最優先にしましょう!」

 

 

「じゃあ波の戦いはお前等……他のゲームでなんて言う?」

 

 

「は?」

 

 

「何のことだ?」

 

 

「それよりも早く行きましょう!」

 

 

 尚文の質問を無視して樹は走っていきやがった。

 バカか。

 

 

「元康、お前は俺の質問の意味がわかるだろ?」

 

 

「まあ……インスタントダンジョン?」

 

 

 ちげえ……。

 

 

「違う。タイムアタックウェーブだろ?」

 

 

 錬……それも違う。

 

 

「ギルド戦、またはチーム戦、もしくは大規模戦闘だよ!」

 

 

 俺が元々居た世界でやっていたゲームはプレイヤー同士で週に一回程のプレイヤー同士の大きなイベントがあった。

 編隊のシステムを使うとなると勇者だけでは対応できる相手を超えてしまうという事が予想される。

 現に前回の波の時も俺という規格外がいなければ騎士団が間に合わなかったら尚文は後退して、もっと被害を出していただろう。

 

 

「……お前等、完全に理解していても大きなギルドの運営をしたことがないんじゃないか?」

 

 

 こう言うのは連携が最優先される。

 もちろん、エースプレイヤーである勇者が筆頭に立つのは前提だ。

 だけど、他の守らねばいけない対象への被害を最小限に抑える為にはこの世界の住人に協力してもらわねばいけない。

 それが理解できていないと言うのは幾らなんでもおかしい。

 

 

「俺はチームの運営をしていたぞ」

 

 

 元康の奴が答える。

 視線は魔物の姿のフィーロに釘付けだ。蹴られたくないのだろう。

 

 

「じゃあなんで理解できない」

 

 

「必要無いだろ」

 

 

「はぁ!?」

 

 

「どうにかなるもんさ」

 

 

 はぁ……これは秘書的な、サブマスター辺りに丸投げしていたな。

 

 

「俺はそういうのに興味が無かった」

 

 

 錬の奴……確かにこういうタイプってギルド戦以前に人と話すのが苦手だよな。

 クールを装っているし。

 そんな奴が大規模ギルドのマスターとか言われたらどう成り立っているのか知りたくなる。

 コミュ障のぼっち野郎が……俺も人の事言えんが……。

 実は俺も知識として知ってるだけだし。

 知り合いにギルマスがいたから。

 

 

「とにかく、今回は俺達がどうにか頑張ってみるが、次はちゃんと騎士団と連携を取れよ!」

 

 

 尚文がシッシと早く波の大本へ向うように追い払う。

 錬も元康も俺への不快感を隠さずに走り去っていく。

 コラ、道に唾を吐くんじゃない!

 

 

「という訳だ。俺達も近隣の村へ行くぞ!」

 

 

「はーい!」

 

 

 荷車に乗り、俺達は近隣の村へ急いだ。

 

 

 

「アチャー!」

 

 

 村に到着すると波から湧いて出た。黒いコンドルみたいな奴と黒い影の狼、あとゴブリンのような奴とリザードマンみたいのが居る。

 だた、亜人みたいな奴は造詣が一定しないようで、なんていうか影っぽい。

 それぞれ、ダークコンドル、ブラックウルフ、ゴブリンアサルトシャドウ、リザードマンシャドウと揺らぎながら名前が表示されている。

 そしてハッキリと、名前の欄に『次元ノ』が追加された。

 亜人種に近い、シャドウと名の付く魔物は倒すと幽霊の様に消える。

 なんとも不気味な奴等だ。

 前回の波とまるで魔物の種類が違うし、法則の様な物は無いのか?

 ともあれ、面倒な事は全部あいつ等に任せよう。

 でだ。

 

 

「アチョー!」

 

 

 先ほどから妙な叫び声を出しているのは尚文が薬を飲ませた老婆。クワを片手に善戦している。

 志願兵達も老婆の姿に困惑している。

 

 

「あ、聖人様! あのせつはどうも! アチョー!」

 

 

 老婆は尚文に一礼するなり波から湧き出た魔物にクワで一撃を加える。

 結構強く、老婆を中心に魔物の死骸がかなり転がっていた。

 

 

「ほら、お前もお礼を言い」

 

 

「あ、はい。ありがとうございました」

 

 

 老婆の息子も相変わらずのようで尚文に頭を下げる。

 

 

「とりあえず、波から敵が湧き出てくるので避難してください」

 

 

 志願兵達は村人の避難誘導を行っている。その合間に敵の殲滅も行っているが、かなり厳しそうだ。

 俺達も敵の討伐に加わる。

 

 

「アチョー!」

 

 

 老婆が軽快に敵を屠って行っている。

 これが一ヶ月くらい前に死にそうだった奴の動きか?

 

 

「聖人様のご加護で昔の強さが戻りました。ハッハ!」

 

 

 老婆の息子に目を向けると恥ずかしそうに息子も精一杯戦っている。

 しかし親よりは芳しくはない。志願兵と一緒にいて、やっと戦えているような状態だ。

 老婆には匹敵していない。

 

 

「これでもわしゃあ昔冒険者をやっていて名を馳せていたんじゃ。今は年齢と同じLvでしてのう! アチャー!」

 

 

「ババア無茶すんな!」

 

 

 一騎当千というか、この中でもかなり強いんじゃないか?

 尚文が敵の攻撃を止めている最中にゴスゴスとフィーロ達に匹敵する勢いで敵を仕留めていく。

 俺?乱舞無双。

 頼りになるのは良いとして、戦いが終わったら電池が切れるみたいに死にそうで怖い。

 

 

「俺はババアに何を飲ませたんだ?」

 

 

「さあ……」

 

 

 尚文の問いにラフタリアも呆然として老婆を見る。

 ともかく今は怪我人の治療だ。

 

 

「怪我をしたものは荷車の方へ、それ以外は防衛線から最優先で安全な所へ下がれ」

 

 

 尚文も指示を出しながら余裕があったら怪我人の治療を行う。

 

 

「アチョー! 聖人様、中々の曲者が混じっておりますぞ」

 

 

 見ると次元ノリザードマンシャドウの中にかなり大きな個体が混じっていた。他の固体の倍くらいの大きさだ。

 

 

「お前ら、俺達もアイツを仕留めるぞ」

 

 

 尚文が盾を構えて言う。

 確かに志願兵には荷が重いだろう。

 

 

「はい!」

 

 

「はーい!」

 

 

「はい!」

 

 

「ああ」

 

 

 大物へと走り出す。

 次元ノリザードマンシャドウの黒く大きな剣が振りかざされる。

 尚文は一番前に出て盾を構える。

 ガインと大きな音がして、火花が散る。

 それを尻目に別の大物へ俺は剣を振りかぶる。

 

 

「ハァ…ッ!」

 

 

 そして振り抜くと、大物ごと周囲の魔物を両断した。

 振り返ると尚文達も大物を倒したところだった。

 

 

「すごい……」

 

 

 志願兵が言葉を漏らす。

 

 

「よし! お前達は少しでも被害を抑える為に近隣の村へ救助に向え」

 

 

 この村は老婆と志願兵6名、さらに駐在していた冒険者がいれば被害を抑えられそうだ。

 まだこの近隣には他にも村がある。一刻も早く、そっちにも向わねば危ないだろう。

 

 

「薬の類は少し置いていく、乗り心地は最悪だが、次へ向うぞ!」

 

 

 尚文の指示に荷車に志願兵が乗り込む。

 

 

「行け!」

 

 

「らじゃー!」

 

 

 フィーロとニーナは重くなった荷車を引いて、爆走を開始した。

 次の村に到着した時、志願兵がかなり苦しそうにしていたが気にしている状態ではない。

 先ほどよりも被害の多そうな村だ。

 家は焼かれ、村人にも被害が及んでいる。

 

 

「急いで救助に向うぞ!」

 

 

「は、はい!」

 

 

 波から湧き出る魔物を屠りながら、俺達は波が終わるのを待ち続けた。

 

 

 

 

「……遅い!」

 

 

 あれから3時間経過していた。

 近隣の村への対処も辛うじて終わり、今は波から無限に湧き出す魔物の対応に追われている。

 避難誘導は進み、村人達の死傷者は出来る限り少なく済んだ。

 だけど、避難している先に攻められたら目も当てられない。そんな攻防がまだ続いている。

 幾らなんでも遅すぎだろう。

 あの勇者共、何時まで掛かっていやがる。

 

 

「勇者様、ここは僕達に任せて、他の勇者様の援護に向われては?」

 

 

 尚文に一緒に戦いたいと話しかけてきた少年兵が進言する。

 

 

「行く意味はないんだがなぁ……」

 

 

 波の大本を倒すのが奴等の仕事だった訳だし、そっちまで行って文句を言われるのもな。

 

 

「ですが……」

 

 

 志願兵たちの顔色も大分悪い。3時間という長い間断続的に続く敵の攻撃にさすがにスタミナが切れているのだ。

 尚文やラフタリアにも疲れが見え始めている。

 フィーロ達は——

 

 

「アハハハー!」

 

 

「ヤァ…ッ!」

 

 

 フィーロが次元ノゴブリンアサルトシャドウを蹴り飛ばして笑っている。

 ニーナは別の魔物を蹴り殺してる。

 うん2人とも大丈夫だな。

 

 

「任せられるか?」

 

 

「お任せください!」

 

 

 まだ余裕がありそうだ。

 

 

「じゃあ言葉に甘えて様子を見てくる。頼んだぞ」

 

 

「はい!」

 

 

「お前ら、行くぞ!」

 

 

「了解です」

 

 

「はーい!」

 

 

 そう言って俺達は志願兵と冒険者に近隣の村を任せ、フィーロ達に乗って波の大本へ向かおうとした時だった。

 不意に笛の音のような音が聞こえてきた。

 

 

「なんだ……?」

 

 

 尚文が呟き、ラフタリアや志願兵達も周囲を見回す。

 特に何がいる訳でもない。

 すると——

 

 

「「「GYAAAAAAAA!!!!」」」

 

 

 魔物達が急に雄叫びを上げた。

 何やら魔物達に紅いオーラのような物が出ている

 そして、魔物達の攻撃が急に苛烈になった。

 

 

「なんだ!?」

 

 

 志願兵や冒険者達が押され出す。

 

 

「チッ!」

 

 

 俺は舌打ち1つ。

 地を蹴り砕き、魔物達を薙ぎ払う。

 すると魔物達の影に隠れた1人の人影が見えた。

 それは、尚文と同じ位の男でフルートのような笛を吹いていた。

 そして、そいつの左上にこのような日本語が浮いていた。

 

 

 魔物の強化及び操作と。

 

 

「転生者のバーゲンセールかよッ」

 

 

 吐き捨てるように呟く。

 ノゲノラの世界と違ってずいぶんと転生者に会う確率高いなクソが。

 

 

「尚文!フィーロ達連れてクソ勇者共の所行け!」

 

 

 転生者が操作してるのか魔物達は志願兵達への攻撃を辞め、俺を囲うように移動しだした。

 転生特典の範囲が広いのか後ろから押し寄せる魔物達に押し潰される様子はない。

 とっとと波を収めてくれないと面倒なことになりそうだ。

 

 

「だが——ッ」

 

 

「いいからさっさと行け!こんな有象無象に俺が負けるか!それよかあの役立たず共の代わりに波を収めてくれないと面倒なんだよ!」

 

 

 俺の言葉にまだしばらく悩んでいたようだが、しばらくして頷いた。

 

 

「死ぬなよ、メリオダス」

 

 

「当然!ニーナも連れてけ!」

 

 

「え!?でも——」

 

 

「尚文を頼んだぞ!」

 

 

 反論を許さず、そう叫ぶとニーナは悲しそうな顔で頷いた。

 そして、フィーロに乗った尚文はラフタリアを連れて走り出し、ニーナはその後をついて行った。

 ニーナに悲しそうな顔はさせたくないが、俺が一緒に入れない今戦力は多い方がいい。

 

 

 そして、俺は俺を包囲する強化された魔物とその奥で笛を吹きながら睨む転生者に向けてロストヴェインを構えた。

 

 




 転生者増量中。
 タグに転生者複数を入れるべきだろうか……。

 次回は笛転生者との対決です。

 それでは第42話もお楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第42話 笛使い

 皆様お久しぶりです。
 いや、ホントにすみません……。
 モチベが死んでおりましたって何度目の言い訳でしょうね……。

 というかアレですね。
 完全オリジナル回は久しぶりだったもので……。

 さて、ガブリエル以来2度目のVS転生者回です。
 ガブリエルよりは弱いと思われるが果たして……?

 それでは第42話をどうぞ!


 俺を囲んでいた魔物達が一斉に襲いくる。

 

 

「ハァッ!」

 

 

 俺はそれを体を一回転させ、両断する。

 そして、地を蹴り、笛を吹き続けている転生者へ向かう。

 しかし、魔物の一体がそれを阻む。

 

 

「邪魔だ!」

 

 

 ロストヴェイン振るい斬り飛ばすが、その隙に、別の魔物が俺へ剣を振り下ろす。

 俺はそれを右腕で受ける。

 が——

 

 

「ッ!?」

 

 

 いつもの如く、金属音と共に剣を弾くことは無く、右腕に僅かな痛みが走る。

 俺は咄嗟に剣を持つ魔物を蹴り、距離を取る。

 その魔物はそれに耐えきれず、肉片へと変ずるが、俺はそれに目を向けることなく、距離を取った先に居た魔物の攻撃をロストヴェインで受け止める。

 動きが止まった俺へ無数の魔物達が殺到する。

 

 

 俺は舌打ち一つ。

 ロストヴェインを2度振り周囲の魔物を斬り払う。

 それにより出来た僅かな隙に俺は自分の右腕を見る。

 右腕には小さな切り傷が出来ていた。

 強化された魔物共は現在のフィーロやニーナをも上回る攻撃力になっているようだ。

 

 

「ハッ、上等だ」

 

 

 俺TUEEEEにも飽きてきたところだったんだ。

 前の世界は僅かなミスで即死に繋がるような世界だったんだ。

 今更この程度で俺をどうにか出来ると思うな! 

 

 

 俺は再び接近してきた無数の魔物達を斬り捨てる。

 

 

 しかし、どうしたものかと笛の音が聞こえてくる方を睨む。

 魔物が多すぎて転生者に近づけない。

 無論魔神の力を使えば余裕だが、不特定多数が見てる前で魔神の力を使うのは抵抗がある。

 とはいえこのままというわけにもいかない。

 尚文達が心配だから早く向かいたい。

 

 

 魔物達の攻撃を全て捌ききれず、体に切り傷が刻まれていく。

 その様に舌打ちをする。

 やはり力を持て余してるな。

 俺、これが終わったら修行するんだ……。

 

 

 とフラグを立てつつ1つ策を思いついたので実行する。

 

 

「神器解放」

 

 

 ロストヴェインに右手を翳し、呟く。

 同時、出現した2人の分身が周囲の魔物を斬り飛ばす。

 俺は分身に俺に近づく魔物を倒してもらいつつ、転生者に近づく。

 転生者は未だ笛を吹いたままだ。

 

 

 吹き続けるってことはそうしてないと強化や操作が出来ないのか、吹いた時間によって強化倍率上がるのか。

 なんにしても転生特典消して終わりだ。

 

 

 そう思い、転生者に触れようと近づいた時——曲が変わった

 

 

「ぐお……ッ」

 

 

 それを訝しむ暇もなく横合いからぶっ飛ばされた。

 数度地面を跳ねた後、着地し、地面を削りながら滑り、やっと止まった。

 この世界に来てから初めての激痛に顔を歪めながら、殴られた方向を睨む。

 そこには魔物達が溶け合い、1つの巨大な魔物へと変貌している様があった。

 

 

「おいおい、いくらなんでもそりゃねぇだろ……ていうかきめぇ」

 

 

 ドロドロの肉塊に腕だけが形成された不格好な姿に顔をしかめる。

 拳だけで俺の身長程もある巨大な魔物は更に混ざり合い巨大化していく。それも複数箇所で。

 

 

「はは、こりゃピンチかもな」

 

 

 ものの数秒で10m程の人型と言えなくもない魔物達にさすがに冷や汗が垂れる。

 何やら武器まで溶け合っており、巨大な大剣をそれぞれ構えている。

 

 

「ガァァァァア!!!」

 

 

 叫び、大剣を両手で振りかぶり一体の魔物が突っ込んでくる。

 避けようとした俺だったが直ぐにやめる。

 後ろは志願兵達がいる。

 避ければ彼らが両断されるだろう。

 仕方なく、俺は振り下ろされた大剣をロストヴェインで受け止める。

 

 

「くっ……!」

 

 

 受け止めた衝撃で周囲の木々が吹き飛び、大地が陥没する。

 志願兵達の悲鳴を聞きながら俺は小さく呻く。

 片手では防ぎきれず、右手をロストヴェインの峰に添える。

 それでもなお止めきれず、膝をつく。

 

 

 恐ろしいほどの馬鹿力だ。

 ガランくらいなら超えてるんじゃないか? 

 だが——

 

 

「舐めんなよ!」

 

 

 勢いよく立ち上がり、大剣をはじき返す。

 魔物がたたらを踏んだ隙に、地を蹴り、魔物の首を切り落とした。

 すると魔物は崩れ落ち、複数の肉塊へと変わった。

 

 

 しかし、息付く暇もなく魔物達が迫る。

 しかも、波から湧き出る魔物が更に溶け合い、この強力な魔物が増量され続けている。

 

 

「ちょ、これマジでやべぇんじゃね?」

 

 

 顔が引き攣るのを抑えられない。

 ていうか冗談抜きでヤバくね? 

 

 

 左右から再び魔物が迫り、2つの大剣が俺めがけて横薙ぎに振られる。

 俺は跳躍して回避し、左手のロストヴェインを右の魔物へ投げつける。

 回転しながら見事額に突き刺さり、魔物は崩れ落ちる。

 しかし、左の魔物が大剣を片手で振り上げる。

 空中では回避できない……とでも? 

 

 

「らァ!」

 

 

 大剣が当たる直前に大剣の腹を蹴り、回避する。

 着地した俺は急いでロストヴェインを回収する。

 魔物に振り返ると、ちょうど片手で大剣を構え、俺へ振り下ろすところだった。

 

 

「ハァッ!」

 

 

 それをロストヴェインではじき返す。

 しかし、すかさず無数の斬撃が俺へ振るわれた。

 俺はそれらをはじき返さんとロストヴェインを振る。

 俺と魔物の剣戟に周囲を衝撃波が揺らす。

 

 

 数十に及ぶ衝突の最中、唐突に魔物が何かに気づいたように動きを止める。

 右手に握られた大剣を目を見開き、見つめる。

 大剣の刃の部分がロストヴェインとの打ち合いに耐えきれず、ボロボロになっているのだ。

 俺はニヤリと笑うと、地を蹴り、隙だらけの魔物の頭頂部から胸にかけて斬り裂いた。

 

 

 後ろで肉塊が地面に落ちる音を聞きながら、着地し、息を吐く。

 しかし、次の魔物が俺へと大剣を振り下ろす。

 

 

「ちったぁ休ませろ!」

 

 

 悪態を着きながら回避し、地面へと突き刺さった大剣を蹴り、魔物の頭部へロストヴェインを振り下ろす。

 しかし、魔物はそれを左手を盾にして防ぐ。

 

 

「なっ!」

 

 

 手首から両断された左手に目もくれず魔物は、驚きに固まった俺へ頭突きする。

 

 

「がっ!」

 

 

 あまりの衝撃に声を上げてしまう。

 辛うじて受け身を取れはしたが大地に叩きつけられた俺は、ダメージが大きく、すぐには動けない。

 そんな俺に別の魔物が大剣を振り下ろす。

 

 

「クソッ!」

 

 

 無様に地面を転がり回避し、大剣を振り下ろした魔物の股下を駆け抜ける。

 すれ違いざまに魔物の片足を切り落す。

 両手をついた魔物にトドメを刺そうと跳躍した俺は、背中に焼けるような痛みと衝撃を感じた。

 

 

「!?」

 

 

 わけも分からず両手をつく魔物の頭上を通り過ぎ、今度こそ受け身も取れず地面に叩きつけられた。

 

 

「ガハッ……クソ……」

 

 

 血を吐き、悪態をつく。

 背中から流れる血に斬られたと理解する。

 何とか立ち上がろうとする俺に複数の地を揺らす足音が迫る。

 

 

「クソが……強くなりすぎだろ……とんでもねぇチート特典貰いやがって……」

 

 

 フラフラながらも立ち上がり、顔を上げると複数の魔物が俺に大剣を振り下ろしているところだった。

 しかし、それらが俺に届くことはなかった。

 今までの倍近い速度と威力で振ったロストヴェインが迫り来る大剣を全て斬り裂いたからだ。

 

 

「まったく……自分の未熟さに嫌気がさす」

 

 

 魔神化した訳では無い。

 不特定多数に見られている現状で魔神の力を使えば絶対に面倒なことになる。

 だからそれ以外のパワーアップ法として最凶状態になったのだ。

 こうすれば魔神の力を使わず、闘級を引き上げられる。

 というか通常状態で魔神化するより闘級は上がる。

 

 

 しかし、これはあまり使いたくなかった。

 最凶状態になると自分でも実感できるほど感情が薄くなるからだ。

 その上、なんか負の感情が強い気がする。

 自分が自分で無くなりそうな感じがするので殲滅状態(アサルトモード)程ではないが使いたくはなかった。

 

 

 だが、そうも言ってられない。

 こいつらは一体一体が恐らくガランと同程度の闘級をしている。

 技術もない俺では物量で押しつぶされる。

 ここで死んでしまっては元も子もないので使うしかなかった。

 

 

「お前ら……これは高くつくぞ?」

 

 

 苛立ちのあまりドスの効いた声を魔物達にかけると気圧されたように1歩下がる。

 その隙に一体の魔物へ跳び、顔に回し蹴りを叩き込む。

 悲鳴を上げることも叶わず、横へ飛んだ魔物は別の魔物を何匹か巻き込んで倒れる。

 まとめて倒れた魔物達へ数回ロストヴェインを振り、それぞれに致命傷を与える。

 

 

 あっという間に仲間達を殺された魔物達は俺を警戒し、距離をとる。

 俺はそれを見て嘲笑を浮かべる。

 

 

 その選択は間違いだなゴミ共。

 

 

 内心で呟きながら、魔物達を無視して笛を吹き続けている転生者へ駆け出した。

 

 

 そう、俺は別に魔物達を皆殺しにする必要は無い。

 というかただの徒労だ。

 やつがいる限りいくらでも増える。

 どうせ換えの効く捨て駒なのだから物量に任せて消耗を気にせずこれば良かったのだ。

 

 

 俺は道を塞ごうとする魔物達を斬り捨てながら、速度を緩めず転生者へ突き進む。

 フルートを吹きながらも慌てて逃げ出す転生者だが、奴自身の身体能力はそれこそ後ろで固まっている志願兵達にすら劣る。

 だが、走りながらフルートの綺麗な音色を奏で続けるのは賞賛に値する。

 前世では有名な演奏家だったのだろうか。

 その才をもっと別の方法に使えばよかったものを。

 

 

「死ね」

 

 

 あっという間に追いつき、そのままの速度で追い越しざまに転生者の首を切り落とした。

 死ぬ直前の転生者の顔は恐怖に歪んでいた。

 

 

 俺が転生者の首を切り落とした瞬間、巨大な魔物達は崩れ去った。

 転生者の力で維持していたのだろう。

 残ってたら面倒だったから助かった。

 

 

 しかし、俺は未だワインレッドの空を睨む。

 勇者共はクソだがこの世界基準ならかなり強いはずだ。

 その仲間も然り。

 そこに尚文達4人が入ってすら波を終わらせられないのか? 

 

 

「こりゃ、また転生者がいるんじゃねぇのか……」

 

 

 うんざりして呟く。

 もしくは波の強さに勇者共や尚文達の成長が追いついていないのか。

 どちらにしても早く向かった方が良さそうだ。

 

 

「おいお前らまだ戦えるか?」

 

 

 俺と転生者の戦いの余波に巻き込まれた志願兵や冒険者達の元に向かい、問いかける。

 見れば多少怪我をしているが重傷者も死者も出ていないようだ。

 最後の方は気にする余裕がなかったんだが……あの転生者メリオダスを知ってたのかもしれないな。

 だから、俺を仕留めることに注力したと。

 その結果があのザマか。

 こいつらを人質にでも取られたら為す術なかったのに。

 

 

「は、はい! おかげさまで大きな怪我はありません!」

 

 

 志願兵の1人が大きな声で答える。

 ……こいつすげえなあの戦いを見て普通に尊敬してやがるぞ。

 キラキラとした目を向ける志願兵から目を逸らして言う。

 

 

「そ、そうか。ならここは任せる。俺は尚文達を追いかける」

 

 

「メ、メリオダス様、傷がっ」

 

 

「あ? ……ああ、こんなかすり傷唾付けときゃ治る」

 

 

 背を向けて歩き出すと、俺の傷に気づいたのか志願兵が悲鳴混じりの声を上げる。

 というかメリオダス()って……。

 

 

 まあそれはともかく、言ったほど軽傷でもないが動けなくなるほど重傷ではない……といいなぁ。

 血は結構出てるし、闘級が上がったから動けてるだけな気もしなくもないが今は悠長に手当てをしてる暇はない。

 こっそり魔神の力で治したくはあるがバッチリ怪我見られてるのに勇者共に無傷なの見られたら後々面倒になりかねない。

 まぁ、前の世界で身体の内外を霊骸に汚染された時に比べれば屁みたいなものだ。

 余裕で耐えられる。

 

 

「し、しかし——」

 

 

「お前らはお前らの仕事をしな」

 

 

 言い捨て、俺は尚文達の下へ走り出した。




 なんか綺麗に4500文字で終わりましたわ。
 未だに1度も転生特典を消す転生特典を使っていない件について。

 今回のは難産でした……。
 笛の転生者にもっと色々能力付けるべきでしたわ……。
 というか魔物を混ぜ混ぜするのもかなりグレーな気はしますが……。

 次回は早めに出したいなぁ(願望

 それでは第43話をお楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第43話 鎖使い

 皆様大変お待たせ致しました。
 まさか3月の休み中一度も更新しないとは自分でも驚いてます……。

 そして今回いつも以上に駄文です。
 腕が衰えたかもです……。
 それでもいいという方は読んでいただけると幸いです。

 それでは第43話をどうぞ!


 ワインレッド色に染まった空の下、俺は尚文達の下へ走る。

 森をメリオダスの身体能力を駆使して駆け抜けると空を飛ぶボロボロの船が見えた。

 正しく幽霊船と言うにふさわしい船の上から複数の戦闘音が聞こえてくる。

 

 

「あそこか」

 

 

 ポツリと呟いて俺は地面を強く蹴り跳び上がる。

 幽霊船を軽く飛び越え、上から幽霊船の様子を確認する。

 上から確認した幽霊船では尚文達と三馬鹿勇者御一行が並び立ち。

 それと対峙する形で日本の着物を着込んだ男女の姿があった。

 女の方は鉄扇を持ち、男の方は裾から無数の黄金の鎖を出している。

 更には男の左上に日本語で文字が浮かんでいた。

 

 

 ・神を戒める鎖

 

 

 それを見て思わず舌打ちをする。

 マジで転生者多いな、クソッタレ。

 内心で悪態を着きながら、尚文達と着物を着た男女の間に着地した。

 

 

「メリオダス!」

 

 

「ご主人様……!」

 

 

 後ろから尚文達の声が聞こえる。

 

 

「よう、無事で何よりだ」

 

 

「ご主人様! 血が!」

 

 

「ん? ああ、こんなのかすり傷——ッ!」

 

 

 唐突に飛んできた楔付きの鎖を俺は弾き飛ばす。

 男が投げるような動作をした訳では無いのに鎖が蛇のように俺に向かってきた。

 

 

「ったく、話してる最中に攻撃とか卑怯なやつだな?」

 

 

「戦闘中にベラベラと喋っているお前達が悪い」

 

 

「ごもっとも」

 

 

 ロストヴェインを構えて軽口を返す。

 先程の攻撃は大したこと無かった。

 だが、物騒な転生特典に警戒せざるを得ない。

 神を戒めるって具体的にはどんな能力だ? 

 取り敢えず縛られたら詰みと考えとくか。

 

 

「……お前、メリオダスなんだな」

 

 

「あらら、知ってるのか」

 

 

 おどけてみせるが内心舌打ちする。

 メリオダス(おれ)の手の内は知られてるだろうな。面倒な。

 

 

「俺と同じか……それとも本物が来たのか?」

 

 

「にしし、どうでしょう?」

 

 

「……その口ぶりは俺と同じか」

 

 

「あらら、バレちった」

 

 

 軽口を叩きながらどう攻めるか思考を巡らせる。

 身体能力でゴリ押しが効くか? 

 しかし、あの鎖が自動的に迎撃するならそれも厳しいかもしれないな……。

 魔神の力は使いたくないし、どうしたものか。

 

 

「なるほど、一匹フィロリアルが増えてると思えばお前が原因か。面倒だが大した問題じゃないな」

 

 

「ほほう? 随分と余裕だな?」

 

 

 余裕綽々という態度に思わず思考を止め、眉を寄せる。

 メリオダスの力を知っていれば誰だって警戒するだろう。

 それだけメリオダスは強い。

 自分の転生特典に余程の自信があるのか? 

 だが、この世界でその転生特典を試せるような相手がいたのか? 

 一度も試してない力に自信もっちゃう奴なら少しは楽なんだがなぁ。

 

 

「ふん、お前がどれだけ強かろうと俺には勝てん」

 

 

 ふーむ。

 やっぱり、だいぶ転生特典に自信があるようだな。

 戦闘能力関係なく神なら無力化できるのだろうか。

 

 

「おい、メリオダスアイツと知り合いなのか?」

 

 

「知り合いではないな。どういうやつかは知ってるけど。まぁ、後ではなすよ」

 

 

「…………ああ、分かった」

 

 

 そう言ってチラリと後ろを見ると尚文は納得いかなそうな顔をしつつもそう言って頷いた。

 

 

「……慎也、あの者を知っているのですか?」

 

 

「知っているといえば知ってるし知らないといえば知らないな」

 

 

 男の方も仲間の女に詰問されている。

 しんや、か。

 完全に日本人だな。

 話をしながらも鎖の楔をこちらに向けていつでも攻撃できる体制を取り続けている。

 ……油断ならねぇやつだ。

 

 

「……グラス、気をつけろ子供と思って油断するな。あいつは俺が押さえるから周りの雑魚を片付けろ」

 

 

「……あなたがそこまで言う相手なのですね。分かりました、勇者達はお任せを」

 

 

 2人とも構える。来るか。

 女のグラスってやつは転生者じゃない感じだから速攻で片付けて尚文達と鎖野郎を袋叩きにするか? 

 だけど鎖野郎が邪魔するよなぁ……。

 …………しょうがない。

 

 

「尚文、あの女を頼めるか?」

 

 

「ああ、任せろ」

 

 

 尚文は盾を構え直して言う。

 

 

「ふん、無駄だそいつらではグラスには勝てなかった。四聖をここで纏めて始末してやる」

 

 

「まあまあ落ち着きたまえよ? メリオダスを知ってるってことは趣味が合いそうなんだけどなぁ? 話し合おうぜ?」

 

 

 慎也というやつにダメ元で和平交渉をしてみる。

 さっきからの口ぶりからしてこの世界のことを知ってる可能性が高い。

 三馬鹿勇者と同じか、それともこの世界が転生物の作品で知ってるのか。

 転生物の作品なら尚文辺りが主人公かな? 

 他はちょっと頭がアレだし……いやリアルだからそう思うだけかな? 

 

 

 そんなことを考えながらの言葉だったのだがその言葉を聞いた慎也は余裕の笑みを消し無表情になった。

 

 

「そうか、お前この世界——『盾の勇者の成り上がり』を知らないのか。なるほどだからそんな甘ったれたことを言えるんだな。メリオダスの力を持って原作と変わっているのが一匹のフィロリアルと1人の男とはな」

 

 

 そう言って慎也はニーナと錬の取り巻きの一人の転生者を見る。

 あ、やっぱりアイツも原作いないのね。

 というか『盾の勇者の成り上がり』か……完全に尚文主人公だな。

 なら何故やつは主人公に付かない? 

 何を考えてやがる? 

 

 

「お前は何を知っている?」

 

 

「話す必要はない。お前程度の力では世界を救うことなど出来はしない」

 

 

 言った直後やつの無数の鎖が俺を突き刺さんと向かってきた。

 俺は舌打ちしてそれらを全て弾き飛ばす。

 やはり先程の攻撃より威力も速度も上がっている。

 というか気になることばっかりいいやがって! 

 四聖に世界を救うねぇ? 

 四聖ってのは多分勇者達だろう。ちょうど4人だし。

 世界を救うってのはなんだ? 

 波がそれっぽいがそれを止めるのが勇者だろ? 

 なぜ始末なんて言葉が出る? 

 ………………捕まえて色々吐かせるしかないか。

 

 

 俺は床を踏み砕いて全力で跳躍する。

 ロストヴェインを振りかぶり、横薙ぎに払う。

 最凶状態を解いていないので闘級6万の膂力から繰り出される必殺の一撃は——

 

 

「——は?」

 

 

 だが、必殺足りえなかった。

 複数の鎖が絡み合い壁を作り俺の一撃を防いだ。

 その衝撃で幽霊船は揺れ、亀裂が入る。

 鎖は傷一つ着いていない。

 寸止めするつもりで多少手加減したとはいえ俺の攻撃を無傷で……? 

 どれだけ力を込めようと鎖を斬ることは出来ない。

 魔神化してないとはいえ闘級6万あるんだぞこっちは! 

 そのうちの武力がいくつかは分からないがこんな細い鎖で受け止められるような攻撃のはずが——

 

 

「無駄だという確認は済んだか?」

 

 

「——ッ!」

 

 

 その言葉と共に鎖が再び俺に攻撃を仕掛ける。

 咄嗟に後ろに跳び回避する。

 だが、跳んだ俺を追尾して鎖が襲いかかる。

 

 

「ちぃぃッ!」

 

 

 空中で無理矢理体勢を変えてそれらを回避する。

 そのせいで着地に失敗し、無様に床を転がるが即座に体勢整え、追撃に備える。

 その瞬間には慎也の追撃がすぐ目の前まで迫っていた。

 

 

「ッ!?」

 

 

 もはや舌打ちする暇もなくそれを後ろへ回避する。

 それらの鎖は床を貫通する。

 だが、他の鎖が次は左右前後から俺に迫る。

 

 

 上へッ——いや。

 上へ跳躍しかけた俺は、回避ではなく迎撃の構えをとる。

 床を貫通している鎖が5本。前後左右から俺へ向かう鎖が3本づつ。

 それだけの鎖を俺への攻撃に使いながらまだ10本以上の鎖が慎也の周囲を囲んでいる。

 というか少し目を離した隙になんか鎖の数が増えている。

 制限ないのか? クソッタレめ。

 上へ跳んでも回避しづらい空中で攻撃を受けるのは自明。

 なら全て弾くしかない。

 

 

 俺はまっすぐ向かう鎖を弾き飛ばす。

 剣術なんてできない俺は身体能力に任せて弾いたがかなりギリギリだった。

 

 

 攻撃してきた鎖を1本だけ右手で掴む。

 そして、その鎖へ全力でロストヴェインを振り下ろした。

 

 

「ッ!!」

 

 

 手加減なしの全力の一撃を甲高い金属音を立てながらだがやはり鎖には傷1つつかない。

 小指ほどの太さしかない鎖がこれほどの強度を持つことに戦慄を禁じ得ない。

 これに縛られたらたとえ武力を封じられなくても自力での脱出は困難だろう。

 

 

 俺が鎖の強度を確かめていると鎖達は今度は全方位を取り囲んでいた。

 鎖の本数は更に増えている。

 俺は顔を顰めて生き物のように手の中で暴れる鎖を全力で引っ張ってみた。

 だが鎖は無限に伸びるだけで慎也本体を引くことは出来なかった。

 

 

 やばいな逃げ場がない。

 おまけに技術もないから防ぎきれるか? 

 さっきの12本でもギリギリだったのに今度は30は軽くあるな。

 というか背中の傷もそろそろまずいかもしれない。

 ズキズキと痛むし、魔神族といえども治さずに血を流し続ければさすがにまずいだろう。

 この鎖の攻撃を受けて無事で済むか分からないし……。

 

 

 俺を囲んでいた鎖はしばらく気を伺うように空中で止まっていたが、次の瞬間一斉に襲いかかってきた。

 俺はそれらを弾き飛ばそうとロストヴェインを振る。

 間に合わない分は必死に身体を捩り回避する。

 避けきれなかった楔がいくつか俺の身体に切り傷を残していく。

 その感触に避けなければ身体を貫かれるという確信を抱き嫌な汗が出る。

 

 

 無傷とは行かなかったが何とか凌ぎ切ったが、弾かれた鎖が再び俺に攻撃を仕掛けようとする。

 クソッ、キリがない! 

 俺は床を殴り下へ回避する。

 幽霊船を貫通し、空中へ投げ出されるが俺は魔神化する。

 翼を作り、1度羽ばたき魔神化を解除。

 1度の羽ばたきで再び幽霊船の上へ戻った俺は慎也の死角から慎也目掛けて駆ける。

 今度は手加減なしの全力の一閃。

 しかし、やはり鎖に防がれてしまう。

 そして、慎也の反撃が来る。

 それを避けながら俺は舌打ちする。

 完全にさっきの焼き直しだ。

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 

 俺が攻めあぐねていると尚文の叫び声が聞こえた。

 反射的にそちらを見ると尚文が禍々しいあの憤怒の盾とやらを構えていた。

 あれを使わなければならないほど追い詰められたのか……。

 ふつふつと湧き上がる闇の魔力を抑えつける。

 慣れればそこそこ簡単だ。

 というか尚文の周りに勇者とその御一行が倒れてる。

 勇者達はともかくおい転生者! 

 もうちょい頑張れよ! 

 散々引っ張っておいて簡単にやられ過ぎだろ! 

 

 

「ふん、見たことない奴らも大したこと無かったらしいな」

 

 

 倒れる転生者と尚文のそばにいるニーナを見て慎也はつぶやく。

 クソ、余裕かましやがって。

 

 

 内心で悪態を吐き慎也を睨む俺だが、唐突に視界が揺れた。

 あー、クソ血を流しすぎたか。

 背中の傷や身体中についた傷から留まることなく血が流れ続けている。

 魔神族と言えども限界が来たのかもしれない。

 

 

「さて、こっちもそろそろ終わりにするか」

 

 

 こちらに向き直って、慎也が言う。

 そして続けて、訝しげに。

 

 

「……なぜ魔神化しない? 魔神化すればそんな傷など治せて、俺に攻撃出来る可能性も上がるだろう?」

 

 

「うっせバーカ」

 

 

 慎也の言う通り魔神化すれば傷を治せて鎖の防御を破れる可能性もあるだろう。

 尚文達が見られるかもしれないし、100歩譲って見られるのを許容したとしても俺の力の影響で尚文が暴走したら笑えない。

 感情的にも理性的にも魔神化する訳にはいかないのだ。

 

 

「……まぁいい。どちらにしても貴様は終わりだ」

 

 

 言った直後床を突き破って鎖が現れた。

 

 

「しま——ッ!」

 

 

 避ける間もなくそれは俺の左腕に巻きついた。

 よく見れば慎也の足元に1本だけ鎖が刺さっている。

 油断した……ッ

 そう後悔する間も無くさらに無数の鎖が俺に殺到し身体を拘束していく。

 あっという間に俺は雁字搦めにされて身動き一つ取れなくなった。

 

 

「トドメだ」

 

 

 言って鎖の1つが俺に狙いを定める。

 クソがこんなところで死ねるか! 

 

 

「神器解放……ッ!」

 

 

 俺の叫びに神器は応えてくれた。

 2人の実像分身が出現する。

 慎也は予想外だったのか目を見開いた。

 実像分身達は俺に狙いを定める鎖を弾き、慎也へ駆け出した。

 それを見て慌てて鎖で迎撃する慎也だが実像分身達は回避し、慎也に迫る。

 

 

 その間に俺は必死に鎖から逃れようと身体に力を入れる。

 しかし、鎖はビクともしない。

 感覚的に身体能力を封じられたわけではない。

 にもかかわらずどれだけ力を込めても音を鳴らすだけで逃れることが出来ない。

 しかも、尚文の憤怒の盾に呼応して溢れだそうとしていた俺の魔力が何かに縛られたように一切体外に出すことが出来なくなった。

 魔神化することはおろか、魔神化せずとも使える獄炎(ヘルブレイズ)も封じられてしまった。

 おそらくこの鎖は縛った相手の異能のみを封じるのだろう。

 縛られた者は自らの身体能力のみで抜け出すしかないと。

 どこのクルタ族だクソッタレめ! 

 

 

 どうしようも出来ず正に手も足も出ない状態にされた俺と違い実像分身達は同時に慎也を蹴り飛ばした。

 

 

「ガハ……ッ」

 

 

 鎖は自動迎撃している訳では無いのか。

 それとも慎也の動揺を反映しているのか。

 どちらか分からないが防御が間に合わず慎也は血を吐きながら叩きつけられた。

 

 

 頑丈だな……分身2人だから闘級1万5000あるはずなんだが。

 十戒に及ばないとはいえ人間なら簡単に殺せるはずだが……。

 相当レベルを上げてるのかもしれないな。

 というかぶっ飛ばされて血反吐吐いてるのになんで少しも鎖が解かれる気配ないんだよ……! 

 

 

 実像分身達に膝をつく慎也に追撃させる。

 さすがに気絶させれば解けるだろう。

 

 

「舐めるな!」

 

 

 しかしそう叫んで立ち上がった慎也はさらに鎖を出し実像分身達を襲わせる。

 実像分身達は必死に攻撃を凌ごうとするが、やはり本物の俺に劣る闘級では防ぎきれずそれぞれ身体を鎖に貫かれて消える。

 しかしダメージが大きかったのか血を吐いて膝をつく。

 それでもなお、こちらを睨む慎也は確実に俺を仕留めるつもりのようだ。

 必死に抵抗する俺だが鎖はやはりビクともしない。

 

 

「らぁ!」

 

 

「「!?」」

 

 

 唐突にそんな声と共に慎也に攻撃を仕掛ける者がいた。

 倒れていたあの転生者が身の丈に迫るほど巨大なハサミを慎也に振った。

 咄嗟に回避した慎也だったがハサミの攻撃に巻き込まれた鎖が容易く両断された。

 

 

「はぁ!?」

 

 

「なんだと!?」

 

 

 俺と慎也が同時に叫んだ。

 俺ですら傷一つつけられなかった鎖をあんな容易く!? 

 どんだけ強——いや、まてよ。

 あいつの転生特典的に奴自身の力じゃないな? 

 となるとあのハサミか? 

 ん? 斬れ味のいいハサミ? はてどこかで——

 

 

「てめぇらオリ主の俺を無視してんじゃねぇよ!」

 

 

 転生者の叫びが俺の思考を断ち切った。

 というかそもそもこいつの名前なんだっけ? 

 あ、シュンだったか。

 

 

「お前らは俺の引き立て役なんだよ! なのに主人公みたいなことしてんじゃねぇよ!」

 

 

 え、何こいつ、セリフが完全に踏み台転生者なんだけど。

 さっきまで無様に地面に転がってた奴とは思えない発言だな。

 

 

「特にお前!」

 

 

「あっはい?」

 

 

 急に指さされた。

 ヤダ関わりたくない。

 

 

「メリオダスの力なんて転生特典貰ってんじゃねぇよ生意気なんだよ」

 

 

「はぁ……」

 

 

 バカなんですか? と続けようとした口を閉じる。

 ちょっとこいつなんなん? 

 もしかしてありきたりな踏み台転生者みたいに「俺主人公!」みたいなこと考えてんの? 

 アホかな? 

 

 

 俺は状況を忘れてもはや可哀想なものを見る目でシュンとかいう転生者を見ていたが慎也は何故かシュンの見る目がとてつもない憎悪に染まった。

 

 

「貴様……波の尖兵か! お前こんな奴を仲間にしやがって!」

 

 

「仲間じゃねぇよ!」

 

 

 慎也の怒鳴りに反射的に返した。

 波の尖兵だぁ? 

 どちらかと言うとお前がそうっぽいんだがなぁ。

 

 

「踏み台転生者なんだからそれらしくしやがれ!」

 

 

「えぇ……」

 

 

 何この色々可哀想な奴。

 俺が困惑していると慎也が無数の鎖をシュンに向けて飛ばした。

 

 

「効くかぁ!」

 

 

 しかしそれをシュンはハサミの一振で防いだ。

 反撃に慎也へハサミを振るが回避される。

 

 

 な、なんという蚊帳の外……っ

 せめてこの鎖を外せよクソが! 

 

 

 慎也とシュンが攻防している間に何とか抜け出そうとするがやはりビクともしない。

 なんでこんな頑丈な鎖をあんな簡単に斬れんだよ! 

 マジでなんだあのハサミ! 

 

 

 鎖とハサミの攻防の側で鎖に縛られてもがく俺というダサい構図が続く中、幽霊船が揺れた。

 戦いに耐えられなかったか? 

 そう思ったが慎也が忌々しそうに呟いた言葉で違うと悟る。

 

 

「くっ、時間切れか……」

 

 

 時間切れ? 

 疑問に思っている俺に慎也は視線を向けた。

 

 

「お前、こいつと関わらない方がいい。ロクなことにならないぞ」

 

 

 そう言って鎖が解かれた。

 

 

「いや、言われなくても分かるけど」

 

 

 こんなある意味勇者以上に頭が残念な奴とは関わりたくない。

 その言葉にフンと鼻を鳴らして続けてシュンに目を向ける。

 

 

「愚かなあやつり人形よ。次会った時は確実に殺す」

 

 

「何言ってんだ! 逃がすわけねぇだろ!」

 

 

「さらばだメリオダス。次会う時は味方かもしれないな」

 

 

「は? 〜〜ッおい! お前は何を知ってる! 意味深なことばっか言ってんじゃねぇぞ!」

 

 

「もしもの話だ。そうならないように俺がしてみせる」

 

 

 俺の言葉には応えず、そう言い捨て空へ飛び上がった。

 そして、喚くシュンをよそに慎也は消えた。

 直後ワインレッドに染まっていた空が元の色へと戻った。

 

 

「メリオダス!」

 

 

 慎也が消えた空を睨んでいると尚文がそう言って駆け寄ってきた。

 あのグラスとか呼ばれてた女も同時に消えたらしい。

 

 

「おう、4人とも無事か?」

 

 

「お前こそボロボロじゃないか!」

 

 

「大丈夫ですかご主人様!」

 

 

 ニーナや尚文どころかフィーロやラフタリアまでこちらを心配して声を出す。

 

 

「いやいや、お恥ずかしい限りで中々に翻弄されまして。まぁでもピンピン、して……」

 

 

 俺は言い切ることが出来なかった。

 唐突に視界が揺れた。

 

 

 あ、限界か。

 

 

 その思考を最後に、俺の名を呼ぶ尚文やニーナ達の声を聞きながら俺は意識を失った。




 うーん、これは酷い。

 鎖使いの転生者の転生特典の元はHUNTER × HUNTERのチェーンジェイルです。
 それを元に私が考えた能力です。

 最後に唐突に湧いて出た転生者の転生特典で創ったハサミは後でメリオダスが名前を思い出すのでそこで。
 分かる人には分かる。
 ちなみにこの転生者は別に波の尖兵じゃないです。

 神を僭称する存在に転生させられた波の尖兵は原作キャラとなりメリオダスの転生特典では転生特典を見ることは出来ず消すことも出来ません。
 前に説明したかな? 

 次回はすぐですよ〜

 それでは第44話もお楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第44話 自分を大切に

 1日2話更新……っ
 ちょっと贖罪の意味も込めてととTwitterで言った約束のため珍しく1日2話更新です。
 2000文字くらいで短めですけどね。

 それでは第44話をどうぞ!


「ここは……?」

 

 

 気づくと俺は少し騒がしい建物に寝かされていた。

 

 

「イテッ」

 

 

 起き上がろうとすると背中が痛んだ。

 そこまで来てようやく思い出してきた。

 戦いの後俺は倒れたんだった。

 

 

 起き上がるのを諦めて腕を持ち上げると包帯が巻かれていた。

 身体を見下ろせば上半身は服を脱がされ、身体中を包帯が巻かれていた。

 横になったまま視線を巡らせると俺の近くには俺の服が折り畳まれ、その上にリク達にも渡した首飾りとロストヴェインが置かれていた。

 どうやらこの建物は怪我人をまとめて治療しているようだ。

 怪我人の呻き声や治療する人達の声で少々騒がしかったらしい。

 

 

 それを確認すると俺はもう一度、今度は足で反動をつけて起き上がった。

 

 

「イテテ」

 

 

 さすがに傷が痛んで背中をを押さえる。

 思ってたより重傷だったのかな? 

 

 

「さてさてさーて、尚文達はどこかな?」

 

 

 起き上がってさっきより見やすくなった状態でもう一度周囲を見回す。

 しかし——

 

 

「ご主人様!」

 

 

「ごふぅ!?」

 

 

 俺が見つけるより先に俺の背中にニーナが抱きついてきた。

 傷口にダイレクトアタックされた俺は悲鳴を上げるしかなかった。

 

 

「に、ニーナ……心配させたのは悪かったからトドメを刺そうとするのやめてくれないか?」

 

 

「ご主人様……っ、ご主人様……っ」

 

 

 あ、聞いてない。

 涙を流しながらただ俺を呼び続けるニーナにため息一つ。

 心配かけたのは悪いけど背中の傷口に顔を擦り付けるのはやめてくださいお願いします。

 

 

 痛くてしょうがないので背中に抱きつくニーナを前に抱えて頭を撫で回す。

 

 

「よしよしよーし、心配かけたみたいだな。もう大丈夫だからな」

 

 

「ご主人様ぁ……ご主人様ぁ……!」

 

 

 泣き続けるニーナに罪悪感が湧いてくる。

 ふーむ、ちょっと無理しすぎたかなぁ……。

 そうは思うがそれでもメリオダスの身体能力をきちんと制御出来ていればくぐり抜けられた危機だった。

 やはり後回しにしていい問題じゃないよな……。

 そう思って天井を見上げる。

 

 

「メリオダス! 目が覚めたのか!」

 

 

 騒ぎに気づいたのか尚文とフィーロ、ラフタリアも俺の所にやってきた。

 

 

「ああ、おかげさまで。この手当て尚文がやってくれたんだろ?」

 

 

「ああ。……まったく、かなり重傷だったぞ? 特に背中の傷」

 

 

「あらら、そこまで酷かったか〜。俺も未熟ですな〜」

 

 

 やれやれと首を振ると尚文とラフタリアに睨まれた。

 

 

「お前はもう少し自分を大切にしろ!」

 

 

「そうです! あんな傷で戦うなんて……。確かにメリオダスより私達は弱いかもしれませんがそれでも少しくらい私達を頼ってください。仲間なんですから」

 

 

「…………ああ、悪かったな」

 

 

 尚文とラフタリアの本気で俺を心配する言葉にバツが悪くなり視線を逸らして謝った。

 

 

「メリオダス、大丈夫?」

 

 

 フィーロは怒っていないが心配そうに俺の眼を覗き込んだ。

 

 

「ああ、心配かけたな」

 

 

 ニーナを撫でるのと反対の手でフィーロを安心させるように撫でた。

 

 

「それであの後どうなった?」

 

 

 ニーナ以外が落ち着いたのを見て俺は尚文に問いかけた。

 

 

「あの後は——」

 

 

 尚文によるとあの後、倒れた俺を見て3人ともすごく取り乱したらしい。

 特にニーナは酷かったようだ。

 ざ、罪悪感が……。

 実は近くにいたシュンはどうやら俺を殺そうとしたらしい。

 それに尚文達は激怒、ニーナにぶっ飛ばされてシュンは気絶したらしい。

 おい転生者。

 勇者達は村人達に運び込まれ傷の手当て。

 それほど酷い怪我ではないようなので今日中に目を覚ますだろうとのこと。

 というかあれから一夜明けてしまっていたらしい。

 ホントに重傷だったんだなぁ、俺。

 

 

 俺は尚文が魔法や治療薬を使って何とか完治させようとしたんだが無理だったようだ。

 それでもしばらく安静にして治療を続ければ完治するとのこと。

 いや、まぁ魔神の魔力使えば一瞬だけど。

 まぁ、それは俺のことを話すときに信憑性を持たせるために取っておいて。

 

 

「尚文お前、普通に村の復興とか手伝ってるのな……」

 

 

「うるさい、頼られたから仕方なくだ」

 

 

 そっぽを向く尚文をラフタリアと微笑ましく見た。

 すると苛立ちげに尚文は口を開く。

 

 

「そろそろ治療に戻る」

 

 

「ん、じゃあ俺も手伝——」

 

 

 そう口にした瞬間、尚文とラフタリアにものすごい目で睨まれた。

 しかし、2人が何か言う前にニーナがガバッと顔を上げた。

 

 

「何言ってるんですかご主人様!!! 安静にしてなきゃダメですよ!!! まだ怪我が治ってないんですよ!!!」

 

 

「ちょ、ニーナ他に怪我人がいるんだからもっと静かに」

 

 

「ご主人様がおかしなことを言うからです!!!」

 

 

 こ、こんな怒ってるニーナ初めて見たな。

 なのに尚文もラフタリアも驚いておらず同意するように頷いている。

 フィーロはなんか怯えてる。

 

 

「安静にしていてください!!! いいですね!!!」

 

 

「わ、分かったよ。寝てます寝てます」

 

 

 そう言って俺は倒れ込む。

 そして、尚文に手を振る。

 

 

「ほら、お前らさっさと行けよ」

 

 

 しかし、尚文は顎に手をやり、

 

 

「ニーナ、こいつのことしっかり見張ってろよ」

 

 

「はい……!」

 

 

「いや、人手は多いに越したことは——ごめんなさい」

 

 

 ギロリとフィーロ以外の3人に睨まれた。

 別に抜け出すつもりとかないのに何故こんなにも信用がないんだ……解せぬ。

 

 

 結局尚文達は怪我人の治療に行き、ニーナは俺の見張りとして残った。

 俺は未だ抱きついたままのニーナの頭を撫でてため息を吐いた。




 やっぱり死んでも大丈夫だと自分を大切にしなくなっちゃうですよね。
 そのため、お説教を受けてしまいました。

 そして、しばらくニーナの出番が少なかったのでちょっとニーナ成分補給。
 珍しく怒るニーナの図。

 次回はいつになるでしょう……来月中に上げられたら褒めて……。

 それでは第45話をお楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第45話 旅立ち

 1ヶ月以上間を開けてしまい大変申し訳ございませんでしたm(_ _)m

 前回七つの大罪が完結したことに関して一切触れてなくて唖然とした()
 更新した日完結してから大分経ってたからしょうがないね(目逸らし
 いや、そもそもこの作品であまり七つの大罪について触れてきませんでしたね……
 実は私、マガジン本誌とか単行本とか買わずにアプリで読んでるんですが最終話掲載のマガジン17号と最終巻特装版買ってしまいました( ˶ˆ꒳ˆ˵ )エヘヘ
 ウラ話はどこ探してもなかったんで断腸の思いで電子書籍版を買いました……ッ
 七つの大罪メリオダス除くとバンが一番強いのか……極み(アルティメット)使えばエスカノールが一番みたいですが。
 色々ウラ話を沢山聞けて面白かったのですが私が1番求めていたメリオダスの本来の魔力の説明とエスカノールの外伝の「王は孤独に歌う」にて天上天下唯我独尊(ザ・ワン)エスカノールを殲滅状態(アサルトモード)メリオダスがワンパンでぶっ飛ばした件についての説明がなかったのが残念でした。
 魔力に関しては次回作で出るようですのでまだいいんですけど第232話で逆に一撃で倒されていたメリオダスがエスカノールをワンパンで下したことは一体どういうことなのでしょう……。
 外伝のメリオダスは一度死ぬ前なので第232話のメリオダスより弱いはずなんですよね……。
 というかあの外伝メリオダスが普通に殲滅状態(アサルトモード)になってて目ん玉飛び出るかと思いました……。
 感情さえあれば暴走しないのね……。
 メリオダスがエスカノールをワンパンしたことに関しては個人的にゼルドリスが言っていた「奴は強すぎるが故にいかなる強敵をも侮りかかる悪い癖があった」のセリフの通りメリオダスが第232話では手加減していた説かエスカノールが言っていた「太陽(サンシャイン)の魔力を使いこなす術を知らず暴走していた」のセリフの通りエスカノールが上手く力を扱えていなかった説の2つのどちらかだと思ってます。というかそれ以外ない…………ないよね? 
 私としてはメリオダスが好きなので前者を推したいですがそれだとゴウセルの言っていたメリオダスの闘級が合わない気がするんですよね……。
 というかあの闘級14万2000って低くね? 
 四大天使すら恐れたとか言ってるのに普通にリュドシエルより弱いし……多分圧勝できるでしょ。
 やっぱメリオダス手加減してたのかな……でも闘級って手加減しても変わらなそうだしな……わがんね。
 エスカノールの力持った転生者とか後々出したいな〜とは思ってるんですけど出すならキチンとこの辺り決めないとですね……多分自分メリオダス推しなんでエスカノールより強くすると思います()
 次回作でどうなるかですが……

 さて、前置きが長くなりましたが第45話をどうぞ!


 しばらくニーナに抱きつかれ至福の一時を味わっていた俺だったが、建物の外から言い争いのような声が聞こえてきた。

 何を言っているかは分からないが尚文やラフタリアの声のように思える。

 

 

「ダメです」

 

 

 気になって起き上がろうとしたらニーナに止められた。

 

 

「いや、でも2人に何かあったのかもしれないし……」

 

 

「私が見てきますのでご主人様はここにいてください!」

 

 

 言ってニーナは起き上がり、建物の外へ駆け出した。

 俺はそれをやれやれと見送って、ニーナの言う通り大人しく横になっていた。

 しかし、待てども待てどもニーナは戻ってこないばかりか、外から聞こえる言い争いにニーナも加わった気がする。

 

 

「しょうがないよね。ニーナが戻ってこないのが悪いんだし。何かあったのかもしれないし」

 

 

 誰に言うでもなく言い訳をこぼして俺は足で反動をつけて立ち上がった。

 

 

「あーイテイテ」

 

 愚痴りながら近くにある服を着て、ロストヴェインを背負う。

 最後に首飾りを首から提げて服の中にしまう。

 

 

「さてさてさーて、何があったのやら」

 

 

 外へ出てみると、尚文達と騎士団の奴らが言い争いをしていた。

 両者の間では志願兵達がオロオロとしている。

 

 

「良いから城へ報告へ来い!」

 

 

「何度言ったら分かる! 仲間が怪我をしてるって言ってるだろ! なんでその仲間引っ張ってまでテメェらに従わなきゃいけねぇんだ!」

 

 

「そんなこと知ったことではない! 報告が優先だ!」

 

 

「いくらなんでも横暴が過ぎます!」

 

 

 おk把握。

 つまりは城に尚文達を引っ張って行こうとした騎士達だったけど尚文達は俺を理由に拒否ったわけだ。

 志願兵達は従って欲しいけど俺の怪我のこと知ってるからお願いしずらいからオロオロしてるってとこかな? 

 騎士達に従うのは誠に遺憾ではあるが志願兵達にゃ世話になったからな。

 尚文達を説得しますか。

 

 

「やーやー何を騒いでいるのかね皆様方?」

 

 

「メリオダス!? お前安静にしてろよ!」

 

 

「あそこにいてくださいって言ったじゃないですか!」

 

 

「いや、だって尚文達騒がしいしニーナだって戻ってこないし何があったのか気になるじゃん」

 

 

「おい貴様!」

 

 

 尚文とニーナに言い訳を述べていると騎士がドスドスと近づいてきた。

 

 

「なんだ、元気ではないか! 騎士に虚偽の報告をするとは!」

 

 

「元気じゃねぇよ! 安静を要する大怪我だ! メリオダスとっとと戻れ!」

 

 

「まぁまぁ、落ち着きたまえよ。いいじゃん行こうぜ? こいつらには世話になったし」

 

 

 志願兵達を指差して言うと尚文も口ごもる。

 さすがの尚文も志願兵達には今回世話になったと思っているらしい。

 

 

「ふん! いい心がけではないか! さぁ、早く報告に——」

 

 

「勘違いするなよ?」

 

 

 何を勘違いしたのかほざき始めた騎士の足元に奴らでは捉えられない速度でロストヴェインを一振り。

 足元の地面に斬痕を刻みつけた。

 

 

「お前らのためじゃない。民を思い、立場やその身を顧みずに尚文に着いてきたそいつらのためだ」

 

 

 尻もちをついて恐怖に歪んだ顔をする騎士を嗤い、尚文へ振り返った。

 

 

「と、いうわけでちゃっちゃと城行って如何にお前らが活躍したかをクズ王に教えてやろうぜ」

 

 

「お、お前……その傷で……」

 

 

「ん? あぁ、まぁこんな傷大したことねぇって。大丈夫大丈夫」

 

 

 訝しそうにしていた尚文だったが大きくため息を吐いて俺に問いかけてきた。

 

 

「本当に大丈夫なんだな?」

 

 

「おう、問題ねぇ」

 

 

 親指を立てて笑うと若干諦めたような面持ちで尚文は頷いた。

 

 

「ご主人様……」

 

 

 ニーナが俺の手を取り不安げな顔で俺を見上げてきたので、安心させるように笑いかけ、頭を撫でた。

 

 


 

 

 馬車に揺られ、翌日。

 城下町に到着し、城へと入る。

 

 

「盾の仲間は別の部屋で待っていてもらおう」

 

 

「ここまで来て俺だけかよ!」

 

 

 なんでコイツ等こんなに偉そうなんだろうか。

 一晩ですっかり調子を取り戻してやがる。

 今回の戦いの流れは道中で既に話している。

 といっても俺らもよく分からないことが多いが。

 よく分からん言いがかりをつけられるかもしれないがその時は早々と逃げ出せばいい。

 今の尚文達なら可能だし、フィーロやニーナの機動力があれば簡単には捕まらないし、俺だっている。

 

 

 そう思いながら、案内された部屋で適当に寛いでいようとした。

 

 

「さて、脱出の準備をいたしましょうか」

 

 

「え?」

 

 

 しかし、そんな俺をラフタリアの言葉が止めた。

 ラフタリアに振り向くといそいそと準備を進めながらラフタリアは続けた。

 

 

「きっとナオフミ様は何かやらかすので今のうちに脱出の準備を進めておくんですよ」

 

 

「あっはい」

 

 

 やらかすと()()ではないことに俺は顔を引き攣らせずにはいられない。

 尚文のことを理解していると思うべきなのかなんなのか……。

 まぁ、俺も何かやらかしそうではあるなと思ってたけど。

 

 

 その後、案の定やらかした尚文も合流した。

 どうやら、クズ王を脅したらしい。

 一国の王に真っ向から喧嘩売る行動だが大丈夫だろうか? 

 まぁ、他国へ行けば問題ないか。

 どうせニーナ達のクラスアップもしなければだし。

 

 

 そんなこんなで俺達は城を後にした。

 

 


 

 

 翌日。

 武器屋に顔を出して、依頼していた馬車が出来ているか聞きに行った。

 

 

「お、アンちゃん。頼まれていた馬車が完成したぜ」

 

 

「おお、早いな。だが親父、お前は金属系の頼みなら何でも達成するな」

 

 

「俺が窓口になって知り合いに掛け合っただけだよ。俺が作ったわけねえだろ!」

 

 

 そらそうだ。

 流石に鍛冶屋があんなモノまで作れないだろう。

 製鉄所辺りで作ってもらったと言うのが妥当か。

 

 

「いや、金さえあれば何でも出来るからそういう奴かと」

 

 

「アンちゃんにそう言われると何でも出来るように聞こえて悲しくなってくるな。俺はアンちゃんみたいに万能じゃねえよ」

 

 

「俺も万能じゃないのだが……」

 

 

「いや、結構万能じゃね? 攻撃面以外は」

 

 

 回復補助防御と戦闘面は意外と色々できるし、調合料理細工とそれ以外も色々できる。

 しかし、尚文は呆れた眼差しを向けてきた。

 

 

「裏に停めてあるから見てくれ」

 

 

「ああ、じゃあ見させてもらうかな。所で親父、ラフタリアの——」

 

 

 尚文が言い終わる前にラフタリアが尚文の手を握る。

 

 

「どうした?」

 

 

「剣ならまだ大丈夫だと思います。今はそのお金を元に行動しましょう」

 

 

「ふむ……ラフタリアがそう言うのなら止めはしないが……」

 

 

 まあ、今は俺やロリ鳥達が攻撃の要として動いている。

 ラフタリアは補助的に立ち回ってくれるのなら緊急に必要ではないだろう。

 武器屋の裏手に回ると、確かに金属製の馬車が2つ置かれていた。

 幌の部分も金属製だった。

 

 

「「わぁあ……」」

 

 

 人型のニーナとフィーロの目がこれまでにないくらいキラキラ輝いている。

 よろよろと引く場所に入り、取っ手を掴む。

 

 

「フィーロが引いても良いんだよね!」

 

 

「ああ」

 

 

「やったぁ!」

 

 

 凄くご機嫌のフィーロは両足をばたつかせて今にも出発が待ち遠しい。そんな顔をしている。

 対するニーナは取っ手を掴んだまま感動に打ち震えている。かわいい。

 

 

「とりあえず荷物を運び込むぞ」

 

 

「はい」

 

 

「はーい!」

 

 

「おう、ニーナそろそろ戻ってこい?」

 

 

「………………ぇあっはい? ……は! すすすすみません!」

 

 

 ペコペコ頭を下げるニーナに苦笑しながら、波と城下町までの間だけ使っていた荷車から荷物を降ろし、新しい馬車に移す。

 何だかんだで売り物や素材、道具を運び込むのに時間が掛かった。

 

 

「どうだい、アンちゃん」

 

 

 暇を見て武器屋の親父が顔を出す。尚文はは良い仕事をしたと指を立てて答えた。

 俺もまったく同感である。

 

 

「ああ、期待通りの品だ」

 

 

「そうか、しかしかなりの重量らしいが……鳥の嬢ちゃん達なら問題ないか」

 

 

「うん!」

 

 

「はい!」

 

 

「コイツら、馬車に荷車を3台連結させた状態で楽しく引いていたからな」

 

 

「そりゃあすげぇ」

 

 

「むしろ期待より軽くてガッカリとか言い出すかも知れない」

 

 

「えっとね。硬いのが良いの!」

 

 

 フィロリアルの基準なのか? あれだ、引く物が良いフィロリアルが偉いとかそんな感じで。

 

 

「ははは、まあ頑張れや。所でアンちゃんはこれからどうするんだ?」

 

 

「どうするって?」

 

 

「聞いたぜ、城で何かかましたらしいな」

 

 

 親父の奴、若干困り顔で尚文に言う。

 

 

「耳が早いな」

 

 

「噂は楽しく生きるスパイスだぜ」

 

 

「まあ、な。あのクズが偉そうにほざくから立場を理解させてやったんだ」

 

 

「……何時かやらかすとは思ってたよアンちゃん」

 

 

「期待には応えるさ」

 

 

「出来れば応えないで欲しかったぜ」

 

 

「で、先ほどの質問だが、そうだな……クラスアップしにシルトヴェルトかシルドフリーデンに行こうと思ってる」

 

 

 流石に王に喧嘩売ったここでクラスアップは無理だろう。

 ならば最初から問題のなさそうな、フリーパスらしいこの二つの国でクラスアップさせてもらうのが一番だろうな。

 

 

 尚文と親父の話を横で聞いているとちょいちょいとニーナが袖を引いてきた。

 

 

「ん? どしたニーナ?」

 

 

「あの……傷は本当に大丈夫なんですか?」

 

 

 不安げなその表情に力こぶを作って頷く。

 

 

「おう、平気平気。前に俺が人間じゃないって言ったろ? だからタフで頑丈なんだよ。それにその気になればこんな傷すぐ治せるんだよ。まっ、尚文達に話す時に見せてやるから安心しろ、な?」

 

 

「はい……」

 

 

 納得していない顔ではあれどひとまずニーナは頷いた。

 

 

「おーい、お前ら出発するぞ!」

 

 

「分かった! ほら行くぞ?」

 

 

「はい」

 

 

「じゃあな親父!」

 

 

「またな」

 

 

 ニーナの手を引いて馬車に向かいながら、親父に手を振る。

 ニーナとフィーロが馬車をゴトゴトと引き出した。

 当面の目的はクラスアップだ。やや長い道のりだけど、今後の為にも行くとしよう。

 ニーナ達なら2週間の道のりだ。

 

 

「あれです!」

 

 

 城下町を出る直前、騎士を引き連れた女の子が現れ、後ろの騎士が尚文の金属の馬車を叩いた。

 

 

「見つけたわよ!」

 

 

「……なんだ?」

 

 

 ニーナとフィーロを止めさせる

 尚文が馬車から顔を覗かせると女の子が眉を跳ね上げて尚文を指差していた。

 

 

「父上に酷いことをしたのはアナタね!」

 

 

「は?」

 

 

 なんだ? 見覚えがあるような無いような青髪の女の子が尚文に詰め寄ってくる。

 んー? 誰かに似てる? 

 

 

「いきなりなんだ」

 

 

「シラを切るつもりね! 隠したって知っているんだから! アナタはとても酷い極悪人なんでしょ! だって盾の勇者だもの」

 

 

 うるさい子供だな。何処かの貴族だろうか。

 そういえば、尚文が貴族に安物のアクセサリーを売りつけた事があったな。

 それも一度や二度じゃなかったな……。

 

 

「そうかそうか、目利きができないお前の親父が悪いんだ。一つ賢くなったな」

 

 

「なんですって!?」

 

 

「お前の親父に伝えろ。今度は審美眼でも磨いておくんだな」

 

 

「む、む……絶対許さない! 母上が間違ってる! 盾の勇者は悪人だ! 成敗してやる!」

 

 

 配下の騎士っぽい奴が女の子の命令に従って前に出てくる。

 

 

「ふん。相手してられるか。フィーロ」

 

 

「なーに?」

 

 

「行くぞ」

 

 

「うん」

 

 

「あ……」

 

 

 女の子がフィーロを凝視して何か惚けている。

 

 

「神鳥?」

 

 

「ふぇ?」

 

 

 フィーロが首を傾げる女の子に合わせて顔を傾ける。

 

 

「早く行け!」

 

 

「はーい」

 

 

 フィーロは頷くと前を向き、馬車を急発進させた。

 それに合わせてニーナも馬車を発進させた。

 

 

「あ、まてーーーーーーーーーーーーーー! にげるなぁああああああああああああああ!」

 

 

 女の子の声はみるみる遠くなっていった。




 あ、私別にエスカノールが嫌いとかでは無いですよ? 
 エスカノール死んじゃったの普通に悲しかったですし……。
 一部のキャラ除いて七つの大罪のキャラはみんな好きです(*´ω`*)
 みんなそれぞれ良さがあっていいよね。

 本文でメリオダスがニーナに大したことないって言ってますがこれ痩せ我慢とかではないです。
 ウラ話大放談で原作7話でギルサンダーの攻撃で倒れていたメリオダスは別に瀕死の重症という訳ではなく、寝ているくらいの感じで放置しても死にはしないと書いてありました。
 あの傷を闇の力で再生させずに放置しても死なないとか魔神族の生命力は凄いですね……。

 それでは第46話もお楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 メリオダスの誕生日その2〜ロリ鳥の冒険〜

 またしても更新が遅れてしまい申し訳ございませんでした!!! 
 もう、私に早い更新を期待するのは無駄ですね……

 本日はメリオダスの誕生日ということで去年一昨年のように番外編です。
 今回はタイトルにある通りニーナが主人公のお話です。
 本編主人公のメリオダスは影が薄いですが、まぁいつものことですね! ()
 時系列的には行商をしながら旅をしている時のお話ですね。

 それでは——メリオダス誕生日おめでとう‼︎


「メリオダス今日誕生日なのか?」

 

 

「ん? そうだけど?」

 

 

 そんな会話が聞こえて私は顔を上げました。

 

 

「ご主人様、誕生日ってなんですか?」

 

 

「ん〜? その人が生まれた日だな。毎年その日が来ると祝ってパーティを開いたりプレゼントを贈ったりする慣習があるんだよ」

 

 

 私の質問にご主人様は優しく教えてくださいました。

 なるほど、そのような慣習があるのですね。

 私はそんなことを呑気に考えていましたがすぐに気がついてしまいました。

 わ、私ご主人様に何もプレゼントするような物がありません……! 

 

 

「ご、ごめんなさいご主人様! わ、私何もプレゼントするような物がありません!」

 

 

「え? いや、いいよ別に気にするなって。何も言ってなかった俺が悪いんだし。別段祝って貰うつもりもなかったしな」

 

 

 対して気にした様子も無くご主人様は言いますが、折角特別な日なのですから何もないというのは寂しいと思います……。

 そんな私の内心を察してか、ご主人様は苦笑して私の頭を優しく撫でてくださいました。

 

 

「プレゼントなんてな、心がこもってればなんでもいいんだよ。物じゃなくてもな。ただ一言『おめでとう』って言ってくれれば嬉しいから」

 

 

「で、でも……」

 

 

 ご主人様はそう言いますが、それでは私の気が済みません。

 日頃のお礼もしたいのに……。

 でも、これ以上ワガママを言ってご主人様を困らせるのも……。

 

 

「……んじゃ、パーティするか?」

 

 

 私とご主人様のやり取りを見ていたナオフミさんが助け舟を出してくださいました。

 

 

「本当ですか!?」

 

 

「ああ、金がないからそんな豪華なのは無理だけどな」

 

 

 やっぱりナオフミさんは優しいですね! 

 でも、そんなナオフミさんにご主人様は愕然として口を開きました。

 

 

「ば、バカな……守銭奴の尚文が俺の為にパーティだと……!?」

 

 

「お前な……」

 

 

 こめかみを引くつかせるナオフミさんに私は慌てて声を上げます。

 

 

「ご主人様! ナオフミさんはご主人様の為を思って提案してくださったんですよ!」

 

 

「ハイハイ、ありがとな」

 

 

「ったく、んじゃ食材買ってくるか」

 

 

「ごはん!?」

 

 

 ナオフミさんの言葉にフィーロが唐突に反応しました。

 もう、フィーロったら……。

 

 

「フィーロ、これはご主人様のお祝いなんですからね?」

 

 

「んー? なんのー?」

 

 

 今までの話を全く聞いていなかった様子のフィーロの思わず肩を落としてしまいました。

 そんな私の頭をご主人様は苦笑しながら、ポンポンと叩きました。

 

 

「まぁまぁ、みんなでワイワイ食った方が美味いだろ?」

 

 

「それじゃ、俺とラフタリアで買い出しに行ってくるわ。今日の夜にでもやるか」

 

 

「りょーかい。俺らは留守番してるわ」

 

 

 ナオフミさんとラフタリアさんは買い出しに出かけていきました。

 

 

「ごっはん♪ ごっはん♪」

 

 

 心底楽しみそうにしているフィーロの声を聞きながら、私はやっぱりプレゼントを考えるべきかなと思っていました。

 パーティに関してはほとんどナオフミさんからのプレゼントみたいなもので私は何もしてないですし……。

 

 

「ご主人様、ちょっと出てきていいですか?」

 

 

「ん? どうした?」

 

 

「いえ……その、少し……用事が……」

 

 

 咄嗟に言い訳が思いつかなかった私にご主人様は苦笑しました。

 

 

「まぁ、いいよ。遅くなる前に帰って来いよ?」

 

 

「は、はい!」

 

 

 私は大きく返事をして宿を飛び出しました。

 もしかしたらご主人様は気づいていたかもしれませんね。

 なんにしてもご主人様が喜ぶプレゼントを用意しなくては! 

 

 

「でも、ご主人様が喜ぶプレゼントってなんでしょう?」

 

 

 よく考えたら私はそれほど長くご主人様と一緒にいた訳ではありません。

 ご主人様もあまり自分のことを話したりしませんし……。

 

 

「あら、神鳥様のところのニーナちゃんじゃないの。今日は1人?」

 

 

「あ、おばさんこんにちは」

 

 

 考え事をしながら歩いているとこの町で滞在している時にナオフミさんのところでよく買い物をしているおばさんに出会いました。

 そうだ、おばさんに聞いてみましょう。

 何かいい案をいただけるかもしれません。

 

 

「あの、誕生日プレゼントで何かいい物ってありますか?」

 

 

「あらぁ、唐突ねぇ。そうねぇ、昔はこの町の特産品をオススメできたんだけどねぇ……今は、もうね」

 

 

「特産品ですか?」

 

 

「ええ、この町の近くの山の頂上の木に美味しい果実が実るのよ。昔はよく冒険者に依頼して取ってきて貰ってたんだけど、数年前に強力な魔物が住み着いてね。全く取れなくなっちゃったのよ。しかも、ココ最近の波も相まってね……。とても美味しくて他所から来た人には絶対にオススメしてたんだけどね」

 

 

「そうなんですか……」

 

 

 山の果実ですか……。

 

 

「それ以外だと特にこれといった物はないわねぇ。ごめんなさいね」

 

 

 おばさんと別れた私はしばらく立ち尽くして、考えた後、山に向かって走り出しました。

 ご主人様に絶対美味しい果実をプレゼントします! 

 

 


 

 

 山に入った私は本来の姿に戻って辺りを警戒しながら進んでいました。

 山は木々が生い茂り、かなりの頻度でも魔物に遭遇します。

 ご主人様はこの姿より人の姿の方が好きなようですのでその姿でいることが多いのですが戦闘となるとこの姿の方がいいので本来の姿に戻っています。

 しかし、1人だと寂しいですね……。

 思えば私は産まれた時からご主人様達と一緒で1人での冒険も戦闘も初めてです。

 少し心配です……。

 

 

「やぁッ!」

 

 

 私の蹴りで襲って来た魔物を吹き飛ばしました。

 そこまでの強さの魔物は現れませんね。

 これなら早く山頂へ行って果実を取ってきましょう。

 私は慎重に進むのをやめて寂しさを紛らわすように山頂に向かってかけ出しました。

 途中何度か魔物を轢きましたが私を止められる魔物は居ませんでした。

 

 

 しばらく進むと木々の間から一際大きな木が見えてきました。

 恐らくあれが例の果実を実らせる木でしょう。

 私はさらに足を速めました。

 

 

 山頂は大きな広間となっていました。

 その中央には他の木の数倍の大きさの木が聳えていて、その木からは沢山の黄色い果実が垂れ下がって実っていました。

 

 

「わぁ……!」

 

 

 その光景に思わず声が出てしまいました。

 果実はざっと見ただけで数十個は実っていました。

 確かにこれだけあれば町の特産品として成立するのではないでしょうか。

 私は警戒も忘れて、その木に近づきました。

 

 

「ッ!?」

 

 

 その瞬間私は猛烈な悪寒を感じました。

 何かを考える先に体が動き、後方へ跳躍しました。

 その直後、元々私がいた場所に巨大な何かが落下してきました。

 後ろへ跳ばなければ確実に踏み潰されていたでしょう。

 

 

 落ちてきたものは巨大な魔物でした。

 赤い体毛が筋肉質な体を覆い、その顔は怒りに歪めて、牙をむき出しこちらを威嚇してきています。

 ご主人様が前にゴリラと呼んでいた魔物に近い姿をしています。

 しかし、こちらは見上げるほどの高さがあります。

 10m程でしょうか? とにかく大きいです。

 低く唸っており、果実を分けてくれる様子はありません。

 

 

「独り占めはいけませんよ!」

 

 

 言って私は先制攻撃を仕掛けるべく魔物に向かって跳びました。

 

 

「やぁッ!」

 

 

 顔に向かって、跳び蹴りを打ち込みます。

 他の魔物はこの攻撃にまともに反応出来ませんでしたがこの魔物は右腕を盾にして受け止めてしまいました。

 

 

「うぅ……!」

 

 

 足に力を込めて押し込もうとしますが、相手の力が強くて押し込めません。

 

 

「ゴラァ!!」

 

 

「きゃぁ!」

 

 

 一声で逆にこちらが弾き飛ばされてしまいました。

 力の差より体格差がまずい気がします。

 正面からは勝てないと認めざるを得ません。

 魔法も解禁しましょう。

 

 

「ハイクイック!」

 

 

 それと同時に私は魔物に向かってかけ出しました。

 さっきより数段早くなった私に魔物は拳を振り下ろしましたが今の私には遅すぎます。

 魔物の懐に飛び込んで連続で蹴りを叩き込みました。

 

 

「ゴアァッ!!!」

 

 

 魔物は口から血を吐いて後方へ飛ばされて木に衝突しました。

 一瞬焦りましたが、木は揺れただけで折れることはありませんでした。

 しかし、それより驚くことは魔物は大きなダメージを負いながらもまだ動けるようです。

 さっきの魔法はそう何度も使えるものではないのですが……。

 やはり、1人での戦闘に心細さを感じてしまいます。

 

 

 魔物は血を吐きながら、こちらへ拳を振り下ろしてきます。

 魔法無しだと少し厳しいですが、避けられないほどではありません。

 あちらもダメージを負っているので動きが鈍くなっているのもあります。

 攻撃の合間に攻撃を入れますがあまりこたえた様子はありません。

 

 

「ゴルゥゥアア!!!」

 

 

 攻撃が当たらないことに焦れたのか魔物は大きく叫びました。

 

 

 

「オッオッオッオッ!!!」

 

 

 すると突然、独特な鳴き声を発しながら魔物は自分の胸を叩き始めました。

 それに首を傾げていると魔物が赤いオーラを纏いました。

 赤いオーラを纏った魔物は両腕を大きく振り上げて地面に叩きつけました。

 

 

「ッ!?」

 

 

 その衝撃は凄まじく、地面を大きく砕き、私は衝撃に足を取られてしまいました。

 その隙を魔物は逃さず、私へ腕を振りました。

 

 

「きゃぁぁぁ!!!」

 

 

 咄嗟に後ろへ跳びましたが間に合わず、私は吹き飛ばされてしまいました。

 ダメージは大きく、私はまともに立ち上がれなくなってしまいました。

 フラフラになりながら何とか立ち上がる私を嘲笑うかのように、どしどしと魔物はトドメを刺すべく拳を振り上げ、走ってきました。

 

 

「ぁぁぁぁああああハイクイックゥゥゥゥゥウウウ!!!!!」

 

 

 回避は間に合わない——そもそも、回避出来たとしてもダメージでその後まともに動けるか分かりません。

 ならば迎え撃つしかありません。

 無理やり魔法を使い私は、振り下ろされた拳に飛び蹴りを叩き込みました。

 

 

「くぅ……っ!」

 

 

 やはり力では勝てず、逆に吹き飛ばされそうです。

 しかし、私はその時ご主人様の顔を思い浮かべました。

 私を育ててくれて、沢山の愛情を注いでくれた優しい人。

 私などおよびもつかないほど凄いあの人にまだ何も返せていません。

 私が倒れればあの優しい人はとても悲しむでしょう。

 まだ何も返せていないのにさらに悲しませる訳にはいきません。

 だから——ッ! 

 

 

「絶対に負けられないんです!!!」

 

 

 そう叫んだ瞬間私の内側から巨大な力が溢れ出すのを感じました。

 

 

「ぁぁぁぁああああ!!!!」

 

 

 その力のまま、魔物の腕をへし折り、弾き飛ばし、魔物の顔を全力で蹴り飛ばしました。

 魔物は凄まじい速度で木の横を通り過ぎ、木々をなぎ倒しながらさらに進んでいきました。

 それを為した私は強烈な虚脱感に地面に墜落してしまいました。

 

 

「ハァッ……ハァッ……ハァッ……勝ちました……」

 

 

 私はしばらく地面に倒れて休んで、その後、果実を取りました。

 とてもいい匂いがして今すぐにでも食べてしまいそうになりましたが我慢して、ご主人様の分と少し考えてナオフミさん達みんなの分も取って町へ戻りました。

 

 


 

 

 疲労で町に着く頃にはもう暗くなってしまいました。

 遅くなる前に帰って来いと言われたのに、これでは怒られてしまうかもしれません。

 

 

 急いで宿に戻るとその前でご主人様達が集まっていました。

 

 

「ニーナ! お前、こんな時間までどこ行ってたんだ!」

 

 

 ご主人様の珍しい厳しい口調に思わず肩が上がってしまいました。

 

 

「あ、あの……す、すみません……わ、私、ご主人様にプレゼントを……上げたくて……」

 

 

 声が震えるのを抑えることは出来ませんでした。

 ご主人様の顔を見れず、顔を俯かせてしまいます。

 

 

「そ、そのために……? そんなことのためにそんな怪我までして……?」

 

 

 ご主人様はどこか驚いたような様子で言いました。

 怒られると私は思いました。

 ご主人様に恩を少しでも返したいと思ったのに結局心配させて、怒らせてしまいました。

 私は自分の不甲斐なさに涙を堪えるので必死でした。

 

 

 ご主人様の近づく気配を感じます。

 怒鳴られるのでしょうか? 殴られるのでしょうか? 

 しかし、覚悟していた衝撃は来ず、代わりに私の体は暖かく包まれました。

 

 

「……ありがとう。すごく嬉しいよ」

 

 

 その言葉と抱きしめられたということに気づいた私はもう涙をこらえることが出来ませんでした。

 

 

「うわぁぁん! ご主人様、すみません!」

 

 

「まったく、ちょっとどっかでプレゼント買ってくる程度だと思ってたのにこんな無茶するなんて……でも本当に嬉しい。こんな嬉しい誕生日プレゼントは初めてだ。ありがとう」

 

 

 その言葉にもはや私は泣き声を上げることしか出来ませんでした。

 

 

「それで、これはなんなんだ?」

 

 

 しばらくして泣き止んだ私にご主人様は優しく問いかけてくれました。

 

 

「えっと、あの山の山頂で取れる果実です。すごく美味しいらしくて……ご主人様に食べて欲しくて……」

 

 

「ありがとう。でもあんま心配させないでくれ」

 

 

「……ごめんなさい」

 

 

「分かればよろしい! んじゃ、さっそくパーティ始めるか。メインはニーナが取ってきてくれた果実だな」

 

 

「は、はい!」

 

 

「ごっはん!」

 

 

 空気を読まないフィーロの言葉にみんなで笑いました。

 

 

 その後は5人でご主人様の誕生日を祝いました。

 この日の1人きりの冒険は私の忘れられない思い出になりそうです。




【悲報】ラフタリアセリフなし()

 今回の番外編はいかがだったでしょうか? 
 時間が無くて駆け足で書きましたが……。
 戦闘シーンが雑な気がしますねぇ……。
 フィーロは「ごはん」しか言ってないし……。
 後、実は私は女の子視点の一人称視点初めてで何度も男口調になりそうでした……。
 男口調になってるところないよね? 

 次回からは普通に本編に戻ります。

 それでは次回もお楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第46話 不審

皆様、またしても遅くなりすみません……。
私がハーメルンにて物書きを始めてから3年目になりました。
先週の金曜日から毎日更新を始めてます。
なので次回は早くなると思います。

それでは第46話をどうぞ!


 これからシルドフリーデンに向かう俺たちだが、今回も行商をしながら向かう。

 旅費の捻出とラフタリアたちの武器の制作費。

 そして、1番大きいのが、ニーナとフィーロの食費だ。

 馬力はあるが、その分食事が多すぎる。

 目に付いた魔物も食べさせているが全然賄いきれる量じゃない。

 それに、何処で金を使うことになるか分からないから、稼げる時に稼いで起きたいというのもあるようだ。

 

 

 そうして、俺たちの旅がまた始まった……のだが。

 

 

「やっと追いついた!」

 

 

 その日の夕方の事だ。

 城下町で因縁をつけてきた子供が追いついてきた。

 宿を決めて、行商をしていたら馬を走らせて来たのだ。

 

 

「しつこいなクソガキ……」

 

 

「わたしの話は終わってないの!」

 

 

「はいはい。お前の父親ね。だからどうした」

 

 

「だからどうした? ですって!」

 

 

 子供の顔が見る見る赤くなる。

 感情豊かだなぁ、としか俺は思わないが尚文は面倒くさそうにしてる。

 ぶっちゃけ面倒ではある。

 

 

「父上、あの盾って怒っている」

 

 

「そうかそうか、良かったな」

 

 

「よくない!」

 

 

 泊まる場所も決めて宿代も払っているから逃げる訳にも行かない。

 無視したいだろうが、城下町を出てるのに追いかけて来てるからなぁ……しつこそう。

 

 

「どうしたの?」

 

 

 フィーロが近くで遊び飽きたのか、帰ってきた。ちなみにある程度離れていても、パーティーメンバーが魔物を倒せば経験値が入る。時々、経験値が俺の視界に浮かぶので、尚文はフィーロに行商中は邪魔なので遊んでもらっていた。

 土産と称して素材を持ってくる事もある。

 

 

「あ……」

 

 

 子供がフィーロを見て、また止まった。

 

 

「馬車を引いてたって事はフィロリアル?」

 

 

「ああ、良く分かったな」

 

 

「わたしの知るフィロリアルと全然違う。この子、初めてみる」

 

 

 まあ、フィロリアル・クイーンなんて見たことがある人は少ないらしいからな。国内でも俺たちだけだろう。

 

 

「ごしゅじんさま、何かあったの?」

 

 

「しゃべってる!」

 

 

「最初からだろ」

 

 

 お前と会ってからずっとフィーロは喋っているだろ。

 

 

「はーいって鳴くのかと思ってた」

 

 

「違うよ。フィーロは言葉を話せるよ」

 

 

「わぁ……すごーい!」

 

 

「えへへーすごいって言われちゃった」

 

 

 子供がフィーロに近づいて触れる。

 フィーロの方も満更ではないのか、受け入れている。

 まあ外見的に精神年齢が近いのかもしれない。

 ……尚文が悪い笑みを浮かべている。

 

 

「何ならそのフィロリアル、フィーロと遊んで行っても良いぞ」

 

 

「ホント!?」

 

 

「ああ、気が済むまで遊んで行け、遊び終わったら帰れよ」

 

 

「うん!」

 

 チョッロ。

 子供は笑顔でフィーロを撫でる。

 

 

「ごしゅじんさま。フィーロは?」

 

 

「その子と遊んで来い。怪我をさせないようにな」

 

 

「うん!」

 

 

 フィーロは子供を翼で抱え上げて、背中に乗せた。

 みるみる子供の表情が明るくなっていく。

 

 

「わぁ! 高い高い!」

 

 

「じゃあ、あそぼ!」

 

 

「うん!」

 

 

 子供を乗せたフィーロは仲良く走り去っていった。

 後ろにいる騎士達は困惑の表情で追いかけていく。

 

「やっと静かになったな」

 

 

「ナオフミ様、なんか邪悪な顔をしてます」

 

 

「子供相手にヒッドイ奴」

 

 

「問題あるまい。あのクソガキはこれで因縁を付けるのを忘れるだろ」

 

 

「クソガキ……ナオフミ様、子供嫌いなんですか?」

 

 

「別に。嫌いなら、お前やフィーロを捨ててるだろ」

 

 

「まあ、そうなんですけどね」

 

 

「ニーナ〜? お前もフィーロたちと遊んできていいぞ〜?」

 

 

 俺はフィーロとは違い戦力になり、行商の手伝いをしていたニーナに話しかける。

 友達ができそうだし、ニーナも遊びたそうにしていた。

 そこまで忙しい訳では無いし遊ばせてもいいだろう。

 

 

「え!? いや、でも……」

 

 

「いや、そんな忙しくないから大丈夫だよ。な?」

 

 

「まぁ、別にいいが……」

 

 

「ほら、尚文もこう言ってるから行ってこい」

 

 

「は、はい!」

 

 

 ニーナは嬉しいそうに返事をするとフィロリアルの姿に戻ってフィーロたちが向かった方へ駆けて行った。

 

 

「さて、これで俺達が隣国に入る頃には追ってこなくなるだろ」

 

 

「確かに動物好きっぽいからな」

 

 

「……ですね」

 

 

 その日、ニーナとフィーロはずいぶん晩くなるまで帰ってこなかった。

 沢山遊んだとか大興奮で、新しく出来た友達の自慢話を聞かされた。

 どちらも楽しいそうで微笑ましかった。

 ちなみにあの子供の名前はメルちゃんというらしい。

 

 

 翌朝。

 朝食を軽く取った後、俺達は足早に宿屋を後にした。そんな街道。

 

 

「まてえええええええええええ!」

 

 

 あちゃーと俺は額に手を当てる。

 意外と早く気づいたものだ。

 あるいはお付きの騎士が教えたのかもしれないが……。

 メルちゃんとやらが忘れているうちに村から離れようと朝早くから出発したというのに。

 

 

「あ、メルちゃんだ」

 

 

 フィーロが立ち止まったので、尚文が馬車を降りて子供を出迎える。

 

 

「よく考えたらフィーロちゃんとニーナちゃんと遊んでいただけで盾の勇者に謝ってもらってない!」

 

 

「ごめん。これで良いか?」

 

 

「わたしじゃなくて父上に謝って!」

 

 

 めっちゃ尚文が迷惑そうにしてる。

 相手してる時間が無駄だからな。

 

 

「謝らないならみんなが許さないんだから」

 

 

 そう言って、後ろの騎士っぽい奴が剣を抜く。

 戦う気か? 

 勇者を相手に? 

 あれ? 一番の後ろの奴が水晶玉を尚文と子供。に向けている。

 なんだ、あれは? 

 そこでふと気付く。

 

 

 コイツ等……尚文を見ていない。

 

 

 直感的に嫌な予感がした。

 

 

 尚文も同じことを思ったのか咄嗟に騎士っぽい奴に向けて走り出す。

 その予感は現実の物となって俺達に降りかかった。

 クソガキに向けて騎士は剣を振りかぶったのだ。

 

 

「キャアアアアアアアアア!?」

 

 

「エアストシールド!」

 

 

 子供が絶叫を上げる。尚文が咄嗟にエアストシールドを出して妨害する。

 

 

「……なんのつもりだ!」

 

 

 尚文が腰を抜かす子供の前に出て敵を睨む。

 俺もこうしちゃおれんと馬車から降り、尚文の隣へ歩み寄る。

 

 

「おのれ、盾め! 姫を人質にするとは!」

 

 

「は?」

 

 

 姫? 

 自分達が手を掛けようとしていたにも関わらず、何を言っているんだ。

 子供の方もそこを理解しているらしく、顔色が青い。

 

 

「盾は悪! 最初からそう決まっているのだ!」

 

 

 そう言いながら敵たちは俺達に襲い掛かってきた。

 俺は子供を引き寄せて庇う。

 ガキンという金属音が辺りに響き渡った。

 直後、俺は敵の1人を蹴り飛ばす。

 殺しはしない。

 面倒なことになること確定だからだ……現在進行形で面倒事に巻き込まれてる感があるが……。

 

 

 敵は魔法を詠唱し、上から火の雨を降らす。

 尚文はマントで子供を覆い魔法をやり過ごす。

 

 

「おのれ……盾の悪魔め!」

 

 

「フィーロ、ラフタリア!」

 

 

「ニーナ!」

 

 

「はい!」

 

 

「はーい!」

 

 

「はい!」

 

 

 

 俺たちの指示に従い、ラフタリアとフィーロ、ニーナは敵に向って駆ける。

 反撃を察知して敵は馬に乗って走り出す。

 

 

「馬鹿が」

 

 

 尚文がそう毒づく。

 ニーナとフィーロの脚力は馬よりも早い。一瞬にして敵の一人を落馬させる。

 そして、俺も馬より早い。

 

 

「ぐあああああああああ!」

 

 

「あ、悪魔なんかに」

 

 

 更に追い討ちをかけるのだが、いかんせん数が多い。

 ……しょうがないか。

 

 

「神器解放」

 

 

 俺の言葉に応え、俺の分身が5人出現する。

 分身を増やす度に闘級は下がるがそれでも1人1人の闘級は3000を超える。

 あっという間に敵たちを捕縛していく。

 

 

「お前、そんなことできたのか……」

 

 

「にしし、すげぇだろ? まぁ、俺の能力じゃなくてこの武器の能力だけどな」

 

 

 尚文と話している間にもニーナとフィーロ、5人の俺の分身に敵は逃げられずどんどん捕まっていく。

 

 

「く、クソ! 忌々しい魔の存在が!」

 

 

 敵の1人が吐き捨てた言葉に俺は眉を寄せる。

 一瞬尚文のことかと思ったが、そいつは俺を見て言っていた。

 何故? 

 

 

 その疑問に隙が出来た僅かな間に敵は元々抜いていた剣を捨て、腰に差していた別の剣を抜いた。

 その剣は天使の羽根を模したような白い片刃のロストヴェインと同じ程の短い剣だった。

 その剣から嫌なオーラを感じた。

 俺がその剣を注視しているとその剣を抜いた敵は近くの俺の分身を斬りつけた。

 その分身がいつものごとく腕を盾に防ごうとするが——

 

 

「!? ぐあぁぁぁぁああぁぁぁぁぁあ!!!」

 

 

「なっ!?」

 

 

 その腕ごと、体を袈裟斬りに斬られた。

 分身から血が吹き出し、分身は絶叫を上げ、地面で悶絶している。

 よく見ると傷口に淡い光が宿っている。

 数秒その場で悶絶していた分身はしばらくして消滅した。

 俺だけでなく、尚文たちも立ち尽くしてしまっている。

 

 

「ははっ、見よ! 聖なる剣に魔なるものが消滅したぞ! 全員、剣の勇者様のお仲間から託された剣を抜け!」

 

 

 分身を斬った敵がそう叫ぶと敵たちが次々と同じ剣を抜いた。

 剣の勇者? お仲間? 

 そこまで考え、ようやく何故こいつらが俺の事を知っていてこんな剣を持っているのか悟った。

 

 

(波の時にいた勇者の仲間の転生者! あのやろが俺の事吹き込んだ後にこの剣作って渡しやがったな!)

 

 

 恐らく、この剣は女神族の力が宿っているのだろう。

 しかし、こんなアイテムは七つの大罪に出てきた覚えがないが……。

 いや、待て、映画で見たような気が……。

 

 

 考え事をしていた俺だったが、敵が動き出した。

 俺の分身へ次々に剣を振った。

 さすがにもう受けることはないが、分身ではさすがに余裕が無い。

 しかも、何人かが逃げようとしている。

 

 

「チッ」

 

 

 舌打ち一つ。

 考え事は後だ。

 とりあえずこいつらをどうにかしないと……。

 

 

 俺は駆け出し、敵へ接近した。

 俺の接近に気づいた敵だったが、遅い。

 敵が剣を振る前に殴り飛ばす。

 吹き飛び、木に激突し気絶したのを後目に次の敵へ向かう——が。

 

 

「消えよ魔なるものよ!」

 

 

 別の敵が俺へ弓を放つ。

 しかし、ただの弓など恐れるに足らず。

 腕で弾いて構わず進もうとしたが、

 

 

「ぐあ!?」

 

 

 弾くこと叶わず、俺の腕に矢が突き刺さった。

 その激痛に思わず膝を着く。

 

 

(ただの矢じゃない!)

 

 

 傷口からの痛みに俺は内心で叫ぶ。

 矢が刺さった痛みだけでなく、傷口を焼かれるような痛みが襲う。

 これにも恐らく女神族由来の力が宿ってる…………っ。

 しかし、矢なんて見たこともないぞ!? 

 

 

 霊骸に身体を冒された時に匹敵する痛みにまともに動けずにいると、尚文たちが敵を捕縛するが、何人かを取り逃してしまった。

 

 

「おいメリオダス、大丈夫か!?」

 

 

「……あ、あんま大丈夫じゃない……」

 

 

 痛みが引かず、地面に座り込む俺に尚文たちが近づいてくる。

 痛みに顔を歪めながら、何とか答える。

 4人ともめちゃくちゃ心配そうだが、ぶっちゃけ背中の傷なんかより全然痛くて表情に出るのを抑えられない。

 

 

「待ってろ、すぐ治す」

 

 

 そう言って、尚文が傷口に回復薬をかけ、さらに俺の口にも流し込まれた。

 

 

「むぐ!?」

 

 

 無理やり飲まされ、変な声を出した俺を意に返すことなく、黙々と尚文は傷の治療を行う。

 包帯を巻かれ、処置が完了した頃には痛みもだいぶ引いていた。

 

 

「おお、サンキュ。痛みも引いてきたわ」

 

 

「……おい、メリオダス。さっきのヤツらが言ってたこと——」

 

 

「まあ待て尚文。それは後で話すからまずはそいつらの話を聞こうぜ? こいつらにまで聞かれたくないからな」

 

 

 尚文を手で制し、顔を青くする子供と捕縛した敵に目を向ける。

 

 

「…………分かった」

 

 

 少しの沈黙の後、頷いた尚文と共に、子供と敵たちに近づいた。




矢の謎はいずれ。
久しぶり過ぎて、この作品の書き方忘れてる気がする()

それでは第47話もお楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。