有名蹴球児のバイト生活 in CIRCLE (かるな)
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一試合目
今回は月島まりなさん関係のSSを書きたいと思い、弟設定でやらせてもらっています!
では、気軽に読んでってください!!
俺の名前は'月島 海人'。高校3年生で、サッカー部に所属している。俺が通っている学校はかなりの強豪校で、全国大会常連校。さらにそこでスタメンとして絶賛活躍中だ。
そんな俺は今、姉が働いている店の手伝いをしている。要はバイトだ。
「海人、掃除終わった?」
「終わったよ。後は片付けだけ」
「じゃあそれが終わったら休憩していいからね」
「はいよ」
今のが俺の姉、'月島 まりな'だ。昔バンドをやっていた経験があり、その影響かこういった仕事をしている。
ところで、さっき強豪校に所属していると言ったが、なぜその選手である俺がこんな所にいるのか。練習はどうしたのかと言われると痛い所である。
だが決してサボっている訳では無い。事情は後々説明しよう。
「ふぅ」
掃除を終え、姉ちゃんに言われた通り店のテーブルで飲み物を飲みながらスマホをいじる。
LI〇Eを開くと、マネージャーからの通知が溜まっていた。
「開きたくねぇ」
俺が暇だということは部の全員が知っているため、既読を付けてしまうとすぐ返さなければという気持ちになってしまう。かといって無視をし続けると後が怖い。
面倒だと思いつつもトーク画面を開くと、週末に予定されていた練習試合の詳細が送られていた。
「あいつは纏めて文章打てねぇのかよ・・・」
詳細を細かく伝えてくれるのは嬉しいが、その一つ一つを分割して送ってくるのはいかがなものなのか。マネージャーの友達付き合いが少し不安になる。
内容を確認していると、不意に店のドアが開いた。
「いらっしゃ・・・あ、今休憩中だったわ」
さっきまで働いていたせいか、ついクセが出てしまった。
「そこまで言ったら最後まで言ってよ」
入ってきたのは黒髪ショートに赤メッシュを一本入れ、年頃の女の子とは思えない中々ファンキーな格好をした'美竹 蘭'だった。
「珍しいな、お前が1人なんて。ギター持ってない辺り練習ってわけじゃなさそうだ。忘れ物か?」
「違う。前に次の予約しないで帰っちゃったから、それで来ただけ」
「そうか。悪いが俺は今休憩中なんでな。姉ちゃんにでも頼んでくれ」
「言われなくてもそうする」
俺がそう言うと、美竹はカウンターへと向かった。俺は引き続きスマホをいじる。
すると直ぐに美竹が俺の方へとやって来た。
「ねぇ、誰もいないんだけど」
「は?そんなわけねぇだろ。おーい姉ちゃん!」
大声で呼び掛けるも返答は無し。不審に思ったが、勝手に何処かへ行く人物でもないため、奥の方で機器の整備でもしているのだろう。
「悪ぃな美竹。出直してくれ」
「は?アンタがやってよ」
「断る。俺は今休憩中だからな」
「まりなさんに言いつけるよ?」
次の瞬間、俺はカウンターに立って営業スマイルを浮かべていた。
「ったく美竹のヤロー、後で覚えとけよ・・・」
軽く脅されながら仕事をするハメになった俺は、元凶に悪態をつきつつタイムカードを切った。元々休憩の後はすぐに引き継いで上がる予定だったのだ。
俺はロッカー室に置いてあるリュックサックを背負い、サッカー部が練習を行っているグラウンドへと向かうことにした。
CIRCLEからグラウンドまでは割と近い。歩いて15分ぐらいだ。
『月島先輩こんちわっす!』
「こんちわー。どうしたお前ら、今日はやけに気合い入ってんな」
グラウンドへ入ると、練習を行っていた選手(主に後輩)が姿勢を整えて挨拶をしてくる。それに軽く返すと、すぐ様練習へと戻った。
一旦荷物をベンチに置くと、近くで飲み物を補充していたマネージャーが俺の方へと近寄ってきた。
「月島先輩、こっち手伝って下さい!」
「あぁ、今行く・・・どうしたんだお前?ヘアピンなんか付けて。失恋でもぶふっ!」
言い終わる前に先程補充したばかりであろう飲み物を顔面にかけられた。ほんのり甘い味がするので、中身はおそらくポカリであろう。
「今日は若宮さんが来るんですよ。なので、皆気合が入ってるんです」
「あぁー、成程。確か選手権終わるまで密着取材だかだっけ?にしても、自主練にまで取材に来るとはな」
「あ、今日は違うみたいですよ。何だか、チームの事をもっと知りたいって。お忍びで来るんです」
「へぇ。ま、それでアイツらの指揮が上がるならありがたいな。そんでお前は、若宮が来るからちやほやされなくて不機げぶふっ!」
今度は先程よりも大量のポカリが顔面へと直撃した。
これは選手権優勝を目指す俺達が、ガールズバンドとお互いに支え合う物語だ。
キャラの口調や言動、行動に違和感がありましたら、遠慮なく言ってください!
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二試合目
この調子で頑張っていきますよぉ!!
「いらっしゃいませー」
今日も今日とて俺はCIRCLEでバイトをしている。俺の主な仕事は、受付や掃除などの簡単な事だ。
俺には音楽の知識が無いため、そこら辺は姉ちゃんや他のスタッフに丸投げ。それで役に立っているかと言われると疑問だが、姉ちゃん的には大助かりらしい。
「あら海人さん。お久しぶりですね」
今日の客は、あの有名な天才子役の'白鷺 千聖'だ。自然な変装をしているので見た目では気付きにくいが、声を聞けば分かる。
「よっ。珍しいな白鷺、今日はオフか?」
「えぇ。自主練をしても良いのだけれど、折角だから遊びに来たわ」
「今は忙しくないからな。ゆっくりしてけよ」
「そうさせてもらうわね」
白鷺は近くの椅子に座ると、付けていた伊達眼鏡を外した。
「お前、変装上手いよな」
「そうかしら?」
「この前丸山も眼鏡掛けてたけど、結構バレバレだったぞ」
そう言うと、白鷺は少しため息をついた。どうやら余り言わない方が良かったかもしれない。
「丸山に言っといてくれ。眼鏡掛けるなら、派手なフレームはやめとけってな。あと余談だが、動物ってのは目元で人を判断してるから、そこに注目を集めるのはナンセンスだ」
「流石、豆知識だけは豊富ね」
「うっせ」
俺は運動は出来るが勉強はからっきしである。高校で平均点など超えたことは無く、赤点の教科も勿論存在する。
そのせいか補修のせいで練習に出られないこともしばしば。
「そいやよ、最近若宮はどうなんだ?」
「イヴちゃんのこと?あまり変わりはないわ」
「なら良かった。あいつ、密着取材の件かなり気合入ってるらしくてな。この前自主練見に来たんだよ」
「そうだったのね。分かったわ、イヴちゃんには無理しないように言っておくわね」
会話が途切れた段階で、千聖は自身の腕時計をチラリと確認した。
「ごめんなさい。もう時間だから行くわ」
「先約か?」
「えぇ。花音と一緒に遠くにお出かけよ」
成程それは心配だ。方向音痴の松原と、電車の乗り継ぎが苦手な白鷺。この2人の組み合わせは、例え文明の利器があったとしても迷子を引き起こす。
「迷子になる前に行き方をちゃんと確認しとけよ?」
「ま、迷子になんてならないわよ!」
「後ででいいからよ、目的地さえ教えてくれれば行き方纏めといてやるぜ」
「・・・・・・出来るだけ早めに返信して頂戴ね」
白鷺はそう言い残し、急ぎめに店を出ていった。
「さて、俺もそろそろ出ないとな」
『月島先輩ちわーす』
「ちわー・・・何だお前ら、この前のやる気は何処行ったんだよ」
俺がグラウンドへ入ると、いつも通り後輩達が挨拶を返してくれる。だが、この前の自主練の時のような熱は感じなかった。
そう言いながら荷物を置くと、いつものようにマネージャーが寄ってきた。
「今日は若宮さん来ませんからね!さて、今日も張り切って頑張りましょう!」
「皆の士気のためだ。お前、若宮のコスプレしてこぶふっ!冷たっ!?」
「今日は暑いので沢山氷が入ってるんですよ。どうです?今度は頭から被ってみませんか?」
「すまん。俺が悪かった」
マネージャーが醸し出す雰囲気につい気圧されてしまった。気を取り直すべく体操マットを倉庫から取り出し、皆の練習風景が見えるような位置に敷いた。その上に四つん這いになると、右手と左足を地面と垂直になるように上げた。これは体幹トレーニングと呼ばれるものである。
「あ、タイマー忘れた」
本来なら先にストップウォッチ等で時間を設定するのだが、うっかりしていた。仕方なくスマホで代用しようとしたのだが、俺としたことかスマホをバッグに忘れていた。取りに行くのも面倒なので、近くのマネージャーに頼むことにする。
「あ、わりぃんだけどさ、時間計ってくんね?」
「いいわよ。よーいスタート」
合図とともに手足を上げる。意識を集中させてなるべく体を水平にし、そのままキープする。体感時間では割と長く感じたが、いつもの経験からするともうそろそろ終わるぐらいだろう。限界が近いせいか、ちょくちょく手足が下がっている。
「お、おい・・・後どんくらいだ?」
「うーん、2分かな」
「な、長くないか?」
「少しでもズレたら時間止めてるからね」
は?この女今何て言った?時間止めた?え、少しでもズレたら?いや、厳しくするのは構わないけど、それならせめて言ってくれよ!!
「も、もう無理・・・」
「情けないわね」
地獄の体幹トレーニングが終わり、俺は一足先に帰宅した。だが家には誰もいない。なぜなら俺は一人暮らしをしているからだ。ならば姉ちゃんはどうしているのかと言うと、姉ちゃんも一人暮らしだ。俺たちは元々この付近に住んでいたわけではない。姉ちゃんは大学を出てからここで仕事を見つけ、俺は強豪校に進学するために家を離れた。
最初は地元を離れることに反対されたが、姉ちゃんと同じアパートに住むことで親を説得させた。
姉ちゃんの部屋は大家さんのご厚意により俺の部屋とは隣同士である。それはありがたいのだが、姉ちゃんは世話焼きなため、毎日夕飯を作って持ってきてくれる。それはありがたいのだが・・・
『海人!夕飯持ってきたよ!』
「ありがと!そこ置いといてくれ、今から風呂入るから」
『はいよー』
姉ちゃんは合いカギを持っている。それは全然問題ないのだが、いつもタイミングが悪い。今日はまだ自然な方だが、連絡もなく唐突に部屋に来るため、ゲームなどで遊んでいると「勉強しなさい」と怒られる。
「はぁ・・・今日も疲れたなー」
『海人ー!』
「なんだよ姉ちゃん」
『怪我、もう大丈夫なのー?』
湯船に浸かっていると、リビングの方から姉ちゃんの声が聞こえてきた。
「良くはなってるけど、まだ激しく動くなって言われたよ」
「悪化させないようにしなさいよ?」
「分かってるって・・・・・・んっ!?」
不意に姉ちゃんの声がクリアに聞こえ始めたことに違和感を覚えたので脱衣所の方に目を向けると、なぜか姉ちゃんがいた。しかも浴室のドアを開けて、俺の方を向いていた。
「きゃあああぁぁぁ!!!」
「何女の子みたいに叫んでんのよ。海人の裸なんて興味ないから。リビングだと声が聞こえにくいのよ。あーそうそう、お姉ちゃん今からCIRCLE行ってくるから」
「あ、あぁ・・・分かった」
「じゃ、お風呂から出たらちゃんとストレッチしなさいよ」
そう言って姉ちゃんは部屋を出て行った。その後すぐに俺も風呂から出て、ストレッチをした後に姉ちゃんの作ったご飯を食べる。
「こんなに旨いのに、何で彼氏の一人も出来ないんだか・・・」
面と向かって言ったらぶち殺されそうな事だが、弟の俺としては本気で心配している。
今度CIRCLEにこっそりと彼氏募集中の札を下げておくのも良いかもしれない。そんな事を思いながら、最後の一口を頬張った。
前回短かった分、今回は少しだけ長めでした!
ではまたお会いしましょう!
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三試合目
今日はインターハイ予選。シード校である俺らは、二回戦からの参戦である。俺らにとっては初戦だが、向こうは違う。勝利を得て勢いを付けている。油断はならない。
「って思っても、俺は出れないんだけどなぁ」
「でも、カイトさんのチームです!絶対勝てますよ!」
俺はある人と一緒に、チームの初戦を応援席で見守っている。彼女こそ、'若宮 イヴ'である。事務所がどういう意図でやってるのかは知らないが、彼女は数か月前から密着取材を初め、今ではそれなりにチームに馴染んでいる。彼女の元気な姿に全員が元気をもらっている。それを見てマネージャーが嫉妬するときもあるが、それも含めてよい雰囲気を作り出している。
「それにしても、初戦だというのに凄い数ですね!」
「初戦だからというのもあるけどな、一応強豪校だし。去年は決勝で負けちった分、他の皆も気合入ってるんだろ。嬉しいもんだぜ」
「心強いですね!」
最前列にいた俺とイヴの後ろには二軍、三軍のメンバーや、吹奏楽部、応援団、それ以外の生徒、OBなんかもいた。
「お、そろそろ始まるな。若宮、今のうちに水分取っとけよ。試合が始まると水分補給忘れるからな」
「はい!えっと・・・あっ!すみません、水筒を家に忘れてしまいました・・・今から買いに行ってきます!」
がっくりと項垂れる若宮。鞄の中にはメモ帳やサッカー雑誌、タオル等色々なものが入っていたが、水稲は無かったようだ。
「おい待てって。お前ここ初めてだろ?一緒に行ってやるよ」
「お願いします・・・」
最前列にいる他の生徒に道を空けてもらい、自販機を目指す。途中、すぐ傍で「いいな~月島先輩」という後輩の声が聞こえたので、小突いておくのを忘れない。
飲み物を買い終えて応援席へ戻ると選手が既に整列しており、試合が始まろうとしていた。
「ま、間に合いました!」
「んじゃ、精一杯応援しようか」
「はい!」
試合は思ったよりも拮抗した。相手はそれ程強い学校ではない。だが最初に抱いた不安が的中し、こっちは中々攻め切れないでいた。
「海人さん、大丈夫でしょうか・・・?」
「まずいな。格下相手に点が取れなくて、デフェンス陣が苛立ち始めてる。このままだと、ミスから先制点を取られるかもな・・・うおっ!あっぶねぇ」
若宮に説明をしていたまさにその瞬間、恐れていたことが起きそうになった。デフェンス陣がパスミスをし、そのままボールを取られてシュートにまで持ち込まれたのだ。
幸いキーパーが素早く詰めていたためシュートを弾くことが出来た。間一髪だ。もしこれが入っていたら、俺たちの夏は終わっていたかもしれない。それ程の決定打だ。
「危なかったですね、カイトさ・・・っ!」
安堵した若宮だが、俺の顔を見るなり怯えてしまう。恐らく、今の俺の雰囲気はすさまじいものなのだろう。俺はフィールドにいる一人の選手を視界に捉えると、フェンスから身を乗り出して叫んだ。
「おい狩谷!腑抜けたプレーしてんじゃねぇぞ!!」
突然の俺の怒号に、若宮のみならず周りにいた応援団もビックリしていた。俺はある一人の選手に対して叱責した。一言言い終えた俺は、不機嫌そうに椅子へと座った。
「あ、あの。カイトさんはどうしちゃったんですか?カリヤさんと言うと、先程ミスをした選手ではないですよね?」
若宮が怯えたように他の選手へと聞いていた。
「あー、月島がさっき言ってた奴は、あいつの代わりに試合に出てるんですよ。ポジションはボランチで、簡単に言うとゲームを組み立てる戦術家なんです。今のピンチに直接絡んではいませんけど、さっきまでチームの調子が上がらなかったのは狩谷が原因なんです。月島は、自分の代わりに出てるあいつに期待してるんですよ。あいつ二年生ですし、来年キャプテン候補なんで」
「成程、サッカーは奥が深いんですね」
「結構簡単にまとめましたね・・・ま、そんな感じです」
納得したらしい若宮は、未だ不機嫌な俺の方に向き直った。
「カイトさん、まだ試合は終わっていません!さぁ立ってください、応援しますよ!」
「・・・・・・ま、そうだな」
「月島先輩が素直に従っ・・・いててて!先輩ごめんなさい!マジすんません!!」
若宮の純粋さを目の当たりにし、何だか怒るのがアホらしくなってしまった。気を取り直してグラウンドへ目を向けると、メンバーが先程とは全く別の動きをしていた。どうやら、先程のピンチのお陰で目が覚めたらしい。
「すごいですよカイトさん!皆さんの動きが全然違います!」
「ようやくエンジンかかったって感じだな。ったく、心配させやがって」
それからの試合展開は一方的だった。自分たちの動きを取り戻したあいつらは相手を全く寄せ付けず、完全にボールを支配していた。
気づいてみれば4-0の圧勝。試合終了後はキャプテンと監督がインタビューを受け、そのまま解散した。
「若宮、先バス行くぞ」
「ハイ!お供します!」
俺は若宮を連れ、ひとまず先にバスへと戻った。
「いやー、勝って良かったっすよ!月島先輩の声が聞こえた時は殺されるかと・・・」
「よぉ狩谷。こっち座れよ」
「・・・ハイ」
皆が勝利の余韻に浸るバスの中。俺は一番後ろの席を陣取り、今日の戦犯とも言える〇〇を自分の隣へ座らせた。しかもその場所は窓際のため、絶対に逃げることは出来ない。さらに俺を宥める役目を担う若宮は前の方のマネージャー集団の席へ座らせているため、俺を止める者はいない。死んだような顔をする狩谷を横に、学校へ着くまで説教をするのであった。
試合描写って難しいですね。ほとんど書いてないんですけど()
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四試合目
今回はご報告があります!
前回までモブキャラ(MF)のMF子を〇〇と表記していました。これからもそんな感じでやってこうかと思ってたんですが、名前を付けた方が良いとご指摘を頂きました!物語でサッカーをやっている以上、オリキャラが多くなるかもしれませんが、なるべく分かりやすく書いていきます!
最後に、MFの彼には'狩谷 京介'という名前を付けました!彼の活躍にも期待してください!
夏休みへと入っても俺のバイトは続く。だが、今日はちょっと一休みだ。
「んー、どれにすっかなぁ」
俺は今、近くのスポーツ用品店へと来ている。目的は勿論サッカー用品だ。怪我をする前に使っていたスパイクはもうボロボロで、怪我の再発を促しかねない。そこで、バイトで貯めたお金を使い、スパイクを新調しようと考えた。
「練習用と試合用で分けるのもいいんだけどなぁ・・・」
両手に持った二つのスパイクを見比べ、どれにするか悩むこと数分。結局決まらず、頭をリセットするためにその場を離れた。
他のスポーツ売り場にも足を運んでいると、テニス用品の所である人物を発見した。
「よっ、上原」
「あ、海人先輩!どうしてテニスコーナーに?」
「ちょっと気分転換にな。てかお前、テニスやってるのか?」
「そうなんですよ!今度大会があるので、思い切って靴を新しくしようと思いまして!」
正直、上原がスポーツをやっていたことが驚きだ。彼女と言えばスイーツと豊満な胸しか思い浮かばない。こんなことは本人の前では決して言えないが・・・
「海人先輩は何を買いに来たんですか?」
「スパイクをな。試合がテレビ放送されんのに、ボロボロのスパイク履いてたんじゃかっこ悪いだろ?」
「テ、テレビに出るんですか!?」
「まだ県予選だから全国放送はされないが、確か決勝ぐらいは放送してくれるはずだ」
自分がテレビに出るかもしれない伝えると、上原の目がキラキラと輝いていた。
「あ、あの!サイン下さい!!」
「気がはえーよ。まだ三回戦だっての」
一応断るが、俺の顔は珍しくにやけていた。最近はまともに練習に参加してないこともあり、あまり尊敬の目を向けられることが少なくなったのが原因だろう。
「じゃあな上原。お前も頑張れよ」
「ありがとうございます!先輩も頑張ってください!」
上原と別れ、またスパイクを選びに戻る。悩んでいた物を再検討すべく、先程いた場所へと向かったのだが・・・
「今日は良く知り合いに会うな。おい若宮、何やってんだ?」
スパイクの棚を見ていた女子がいて珍しいなと思えば、その後ろ姿は見慣れた人物の物であった。俺に気付いた若宮は開いていたメモ帳を閉じ、俺の方へとやってきた。
「カイトさんお久しぶりです!押忍!」
「お、押忍・・・。お前、サッカーでも始めるのか?」
俺がそう尋ねると、若宮はサムズアップした。どうやらそのようだ。
「はい!私もやってみたくなりました!」
「そうか。なら、最初はトレシューを使うんだな」
「トレシュー・・・ですか?」
「トレーニングシューズの略だ。お前、サッカー初めてだろ?だからまずはボールに慣れろ。それにこっから先、トレシューはサッカー以外のスポーツでも使える」
若宮は俺の説明を聞くと、感動したような表情を浮かべた。
「では、まずはトレシューですね!早速行きましょう!」
俺は若宮を連れてトレシューのコーナーへと向かった。
「いろんな種類があるんですね!」
「確かにな。レディースでここまで多いのは珍しいもんだ。ところで若宮、お前足のサイズはいく・・・あ、いやすまん。トレシューやスパイクを買うときは、普段履いている靴よりも少し大きめの物を選べよ」
サラッと芸能人の個人情報を聞き出そうとしていたことに気付き、慌てて言い直した。
「どうして大きいサイズを選ぶんですか?」
若宮の疑問はもっともだ。サイズが合わない靴を履いてしまうと靴擦れが起こる可能性がある。しかもサッカーの様に走り回るスポーツでは怪我もしやすいのだ。
「こいつらを履くときは、普通の靴下とは違うやつを履くんだよ。サッカーソックスっていうんだけどな、普通のやつより厚みがあるから、普段通りのサイズを選ぶときつくなっちまうんだよ。ま、ズレは大体0.5cmぐらいだ」
「流石カイトさん、物知りです!」
「これぐらいはやってれば・・・いや、ありがとな」
若宮の言葉にはどうも敵わない。心に響くのだ。そのせいか彼女に尊敬されたり、叱責されたりすると自分でも驚くほどに素直になってしまう。この前の初戦でも、不機嫌だったはずの俺は、若宮の言葉ですぐに普段通りに戻った。不思議なものである。
「カイトさん!私これがいいです!」
少しだけ考え事をしていたのだが、その間に若宮は靴を決めたようだ。女子というのは買い物に時間がかかる印象がある。身近な人物で言えば姉ちゃんや、後輩のマネージャーなんかが当てはまる。
「へぇ。お前、紫が好きなのか?」
若宮が選んだ靴は紫を基調としたもので、所々に黄緑のラインが入っている。
「私のイメージカラーは紫なんです!」
「成程な。いいんじゃねぇか?後は履き心地だが・・・ちょっと待ってろ」
俺は近くにいた店員を呼び、試着用のソックスを貸してもらうとそれを若宮に渡し、近くの椅子へと連れて行った。
「んっ、よいしょ」
「・・・・・・っ!」
履いていた靴と靴下を脱ぎ、今までに見たこともないような白くて綺麗な足が露になる。俺はその足にくぎ付けになってしまった。
「どうしたんですか?」
「綺麗な足だなと・・・・・・はっ、忘れてくれ若宮!頼む!!今のは忘れてくれ!!」
つい素直な感想を言ってしまい、若宮の両肩を掴んで揺さぶりながら懇願する。普段見せない俺の態度に、若宮は困惑しつつ素足を褒められた嬉しさからか、それとも恥ずかしさからか、おそらく後者だが、顔を赤らめていた。
「あ、ありがとう・・・ございます」
「~~っ!!」
若宮のその反応に、俺はさらに恥ずかしくなってしまう。しまいにはお互いに顔を赤くして黙ってしまう。その後はお互いに何とか気を保ち、黙々と買い物を進めたのだった。
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五試合目
若宮と一緒にスパイクを買ってから2週間程が経った。チームはあれから3回戦を突破。そのまま準決勝でも勝利した。俺は準決勝からチームと合流。大事を取って後半からの出場だったが、前半にリードを取ってくれていたお陰で、危なげなく勝つことが出来た。
「では、決勝進出を祝って~乾杯!!」
『かんぱ~い!!』
その次の日、姉ちゃんとその他数名のCIRLCE常連客が俺の部屋に集まって祝勝会を行っていた。メンバーとしては美竹、若宮、今井、奥沢、山吹だ。部屋も狭いため、各バンドグループから1名ずつだが。
「まだ決勝残ってるんだけどな」
「まあそうだけど、優勝したらもっと人数呼ぶからね!それこそCIRCLEを使ってる人全員!」
「流石に多すぎだろ。ま、いいけどさ」
紙コップに注がれた麦茶を一気飲みして空をテーブルへ置くと、すかさず若宮が同じものをついできた。さらに自分の分のパンを食べ終えると、山吹が無尽蔵にパンを追加していく。美竹は相変わらずぶっきらぼうだが、時折俺と目が合うと、「何・・・おめでとうならさっき言ったけど」と言ってすぐに目を反らしてしまう。奥沢はそんな光景を見ながら「やれやれ」と苦笑いし、今井は先程からパシャパシャと俺の写真を撮っている。
「おい今井、勝ってに写真撮ってんじゃねぇよ」
「えー、いいじゃん減るもんじゃないんだしさ~。それに、両手に花な海人を収められるしね~」
「そうそう。お姉ちゃんはCIRCLEに飾る写真が増えて嬉しいよ~」
「えぇい!撮るな飾るなぁ!」
そんな感じで騒ぎつつ、決勝進出の祝勝会は幕を閉じたのだった。
その後決勝に向けて練習しているうちに、あっという間に当日となった。観客の熱気あふれるスタジアムの裏側では、控室で各選手が試合の準備を行っている。
「月島、お前は今日も後半からだ。しっかり準備しておけよ」
「はい」
怪我が治ったばかりの俺は、この試合もフル出場の許可が下りなかった。だがそれで皆の士気が下がることは無い。むしろ俺はチームの中心人物。ニュースでも取り上げられるのは大体が俺の事だ。そのせいか、このチームの総合的な評価はそれ程高くない。なので、皆は俺が居なくても勝てるということを世間に知らしめたいのだ。
「おい狩谷。お前、確かあそこと戦うのは初めてだよな」
「は、はい!」
「なら、深く考えすぎるなよ。ビデオでも見た通り、あいつらは俺たちと似たようなチームだ。いつもの紅白戦を思い出せ。何のためにお前をわざわざ二軍に入れて、俺らと練習試合をしたと思ってる」
俺の言葉に深く頷く狩谷。こいつは俺が怪我をしてからずっと、俺の代わりにボランチとして試合に出ている。今大会の初戦は心配させられたが、それからというもの安定感が出てきた。こいつなら俺の代わりとしても十分だ。チームメイトや監督もそう感じている。
「よし、そろそろ時間だな。準備が出来たやつから外へ並べ」
『はい!』
その頃、CIRCLEでは・・・
「まりなさーん。私たち、先行きますねー」
「うん!ごめんね皆、すぐ終わらせて向かうから!」
AftergrowのメンバーがCIRCLE内で待機しており、外にはスタジアムへ向かうための車が一台止まっていた。ぎりぎりまでまりなの仕事が終わるのを待っていたのである。だが、こんな日に限ってまりなの仕事は多く、彼女を待っていては試合に間に合わない。なので彼女たちは一足先に向かうことにしたのだ。
「じゃあ真琴、よろしく」
「うん。でも初めて行くところだからなぁ、出来ればまりなさんに先導してもらいたかったけどしょうがないね。菜々花はあこ達乗せて先に行っちゃったし」
「試合に間に合わなかったら許さないから」
「が、頑張るよ・・・」
Aftergrowを乗せた車はスタジアムへと向かっていった。残されたまりなは急ピッチで作業を進め、チームの勝利を願った。
前日のスポーツ番組にて・・・
『ついに明日、花丘学園対桜高校の決勝戦が行われるということで、非常に楽しみですね八部さん』
『そうですね~。両校ともにかなりハイレベルですからね。しかも去年と同じカード。これは本当に面白い対決ですよ』
『怪我から復帰した花丘学園の月島君にも注目が集まりますが、去年のインターハイで桜高校をベスト4まで上り詰めたその立役者、2年生の望月君にもかなりの期待が寄せられています』
『丸山君は2年生ながらチームのキーマンですからね』
『八部さんはこの試合、どちらが勝つと思いますか?』
『難しいですねぇ・・・ただ望月君は後半からの出場でしょうから、その間に点を取れるかが勝敗を分けると思いますよ』
だがこの時、まさかあんな試合展開になるとは誰も予想していなかった。
~人物紹介~
'狩谷 京介'
学年:高校二年
ポジション:ミッドフィルダー(MF)
憧れの人:月島 海人
苦手な人:月島 海人
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六試合目
PS:最初書き忘れてましたが、僕が前書いていた宇田川兄の小説、「過保護な兄」に出てくるキャラも出てきます!
「はぁっ、はぁっ」
スタジアムの駐車場へ車を停めた私は、学生時代以来の全力ダッシュでメインスタンドへと続く階段を駆け上がっている。先程から建物全体に響いている歓声が、私の気持ちを焦らせる。だが、心配などしていなかった。弟の仲間は皆良い子たちで、頼りになる。口の悪いあのバカなんかよりもよっぽどだ。
「つ、着いた!」
やっとの思いでへと辿り着いた。登り切った時に勢いあまって転びそうになったが、けんけんの要領で何とかフェンスにしがみついた。私はフェンスにもたれかかり、肩で息をする。下げていた頭を上げ、試合がどうなってるかを確認しようとしたその時だった。
『ワアアァァァ!!!』
一際大きい歓声がサイドスタンドから聞こえてきた。立ち上がる応援団。ベンチ入りしていない選手であろう学生たち。だが、彼らは全員、桜高校の子たちであった。何があったのかと思ったけど、フィールドの様子を見て察してしまった。
嫌な予感がした私は、すぐさまスコアを確認する。
「そんな・・・」
0-2!?信じられない・・・だって、あの子たちだよ?今までの練習試合だってほとんど負け無しだったんだよ?今やってるところとだって、勝率は高いは・・・ず・・・え?ちょっと待って!
何で・・・一人、少ないの?
「まりなさん、こっちです!」
「真琴君?」
声のした方を向くと、そこには巴ちゃんのお兄さんである真琴君がいた。彼の周りにはAftergrowとRoselia、そして彼の幼馴染である菜々花ちゃんが座っていた。
私も傍に行って座ると、息を落ち着けてから何が起こったのかを聞いた。
~数十分前~
桜高校のキックオフで始まった県大会決勝戦。両者ともに素早いパス回しを得意としたチーム同士の対決は、花丘学園が最初のチャンスを作った。
素早いプレスから中盤でボールを奪った狩谷は、ボールをキープせずにすぐさま前線へと送る。パスを受け取ったフォワードの'金井'は、大きな体と強い体幹を生かしてボールをキープした。
すると花丘学園の両サイドにいた二人の選手がラインぎりぎりを駆け上がり、桜高校のディフェンスはそれにつられて横に開いてしまう。
中央には金井と桜高校のディフェンス二人だけとなった。金井は二人を背に、右足の裏でボールを取られないように相手のプレスを捌く。
「金井!」
右サイドから上がっていた'奈雲'が金井を呼んだ。ディフェンスを一人引きつれたままだが、若干相手より前に出ている。
奈雲の方を確認すると、パスを出すために体を右へむけた。だがそうはさせまいと一人が移動し、パスコースを潰してくる。このまま出しては取られてしまうが、コースを潰すために動いたためディフェンス二人の間には、隙間が出来ていた。
針の穴を通すような狭さだが、それでも構わずに金井は右足を振り上げた。
「させねぇ!」
すると、もう一人がその間を埋めようと足を延ばしてくる。これで完全にコースは潰れてしまった。
「金井さん!」
だがそれと同時に、左から狩谷が走りこんでいた。それに気づいていた金井は、パスを出そうとした右足をボールに触れる直前に軌道を変え、軸足である左足の裏を通すように切り返す。そして前に走りぬけて言った狩谷へ鋭いパスを出した。
「ちょっ、強す・・・ぎっ!」
全力疾走していた狩谷の足元に、ドンピシャで強烈なパスが収まった。若干ボールが浮いてしまったが問題は無い。素早くボールとの距離を調整し、そのまま右足でを振りぬいた。強烈なシュートが桜高校ゴールを襲う。だが・・・・・・
「あ、やっべ!」
放たれたシュートは枠から外れ、ゴールの上を通過した。
「か・り・や~!何やってんだドアホ!少しでも行けると思った俺の気持ちを返せ!!そもそもボール持ち変える余裕あっただぐえっ・・・」
ベンチから月島が怒号を発した。そのまま説教をしようとした彼だが、同級生のマネージャーが彼の首根っこを掴んで強制的にベンチへと座らせた。
「ナイッシュー狩谷。もう一本行こうぜ」
「金井さんもサイスパスでしたよ」
「嘘つけ、さっきの聞こえてたぞ」
「・・・さぁ!どんどん行きましょう!」
初っ端からチャンスを作った花丘学園は、そのまま流れをも持っていこうとした。だが、ここから予想だにしない悪夢が待っていた。
前半残り20分となった。試合はまだ大きく動いておらず、一進一退の攻防が続いた。
「そろそろ点が欲しいですね」
「あぁ。だが攻め急ぐなよ?」
「分かってますって」
攻めの起点である狩谷と金井が、試合が止まっている間にお互いに方針を確認する。桜高校のコーナーキックで試合は再開された。
相手の選手がコーナーからボールを蹴り上げ、混雑しているゴール前へと放り込んだ。
「狩谷、ボールが来たらカウンターを・・・・・・な、なんだ?!」
ゴール前でボールを競り合っていたはずの選手たちが倒れていた。その数は2人。ユニフォームを見る限り、花丘学園のゴールキーパーと、桜高校のフォワードの選手だ。すぐさま主審が笛を吹いて試合を中断する。
「おい、大丈夫か!」
お互いの選手たちが、それぞれ倒れている選手の元へと駆け寄った。倒れていた桜高校の選手はゆっくりと立ち上がった。だが、花丘学園のキーパーは立ち上がることが出来ずにいた。恐らく空中で激しくぶつかり合ったのだろう。
ピーー!!
担架が用意され、キーパーが運ばれている最中に主審が笛を吹いた。何事かと思い見てみると、なんと花丘学園のディフェンダーにレッドカードが出されていた。何と、ファウルをしたのは花丘学園の選手だった。どうやら3人が衝突したらしい。
「ま、待ってください!いくら何でも!!」
花丘学園のキャプテンである'黒田'が主審に問い詰めるも、判定は覆らなかった。ディフェンダーは一人退場し、キーパーも負傷退場してしまった。さらにはペナルティエリア内でのファウルのため、桜高校にはPKが与えられる。
スタメン選手を二人も失ってしまった花丘学園は、すぐに控えのキーパーを出場させるもPKを決められ先制点を奪われてしまう。その後も一人少ないという現状を打開することは出来なかった。
その結果、試合終了間際、追加点を取られるわけにはいかない花丘学園だったが、一人少ないせいで激しいプレスが行えず、中央からのミドルシュートは無情にもゴールへと突き刺さってしまった。
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