隣人は小さなプロ雀士 (タウリン200)
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和装ロリ美少女との出会い

須賀京太郎と三尋木咏メインのお話の予定です。
今後は自分の好きなキャラを主に出していくつもりです。

不定期更新だと思いますが、宜しくお願いします。


「荷物は以上で間違いないですかね?」

 

「はい、大丈夫です!ありがとうございました!」

 

部屋に運ばれた段ボールの数を数え、俺こと須賀京太郎は元気に答える。

初めての引っ越しは思っていたよりも大変だったが、ほとんど業者の人に任せたのでそれほど疲れてはいない。

むしろこれからの新生活を考えると、ワクワクとした気持ちが溢れてきてテンションはかなり高くなっていた。

 

「とうとう俺も一人暮らしか…へへっ!」

 

業者が帰り、段ボールと少しの家具しかない部屋の真ん中で一人呟く。誰からの返事もない静かな空間は少し寂しい気もしたが、ここが自分一人の部屋だということをより強調して更に笑いがこみ上げてきた。

 

「ふっふっふ…一人だから、こんなことしても怒られない!」

 

そう言って、まだマットレスしか敷かれていないベッドに勢いよくダイブする。

実家でやったら間違いなく親に叱られたであろう行為だが、それを咎める者はどこにもいなかった。

 

「あー、一人暮らし最高…っといけねぇいけねぇ。さすがにはしゃぎすぎた。」

 

あまり初日からうるさくして隣人に迷惑をかけるのも申し訳ない。

一人暮らしはまだまだ始まったばかり。これからここでの生活をゆっくり楽しむことにしよう。

 

「そうと決まれば、さっさとやるべきことを済ませるか。」

 

ベッドから起き上がり、まず何をするかを考える。

時計を見るとちょうど18時だ。

 

「今のうちにお隣さんに挨拶行っとくか。」

 

あまり遅くなってから行くのも申し訳ないし、この時間ならきっと家に人もいるだろう。

荷ほどきは、明日一日使ってやればいい。

 

俺は事前に親から貰っていた引っ越しそばの包みを持って、お隣さんに挨拶に行くことにした。

 

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

 

俺の住むマンションは2階建てで、横に部屋が3つ並んでいる。

俺はそこの2階の真ん中、202号室に住むことになった。

ちなみに1階には誰も住んでおらず、2階だけが埋まているという奇妙な状態だった。

まあその分、お隣さんだけに挨拶すればいいから気楽でいい。

 

そんなわけで、まず最初に201号室の人に挨拶に行くことにした。

ピンポーン…ピンポーン…

 

「…あれ、留守なのかな?」

 

何度かチャイムを鳴らしてみたが誰も出てこない。それに人の気配もないようだ。

 

まあ仕方がない。明日のお昼前にでも訪ねることにしよう。

 

そう諦めて、今度は203号室に挨拶に行くことにした。

ピンポーン…ピンポーン…

 

『…はい』

 

インターホンから聞こえて来たのは女性の声だった。少し気ダルそうだが、可愛らしい女性の声。

まさかの隣人が女性ということで、俺のテンションが少しだけ上がった。

 

「あ、初めまして!今日隣に引っ越して来ました者です!引っ越しのご挨拶に来ました!」

 

『ああ、なるほどねっ。ちょいと待ってなー』

 

割りと明るい返事の後、ガチャっとインターホンが切れる。

今のだけで、何となく気さくな人なのかなと思った。

てか、少し独特な喋り方だったな。

何だろう、どっかの方言なのだろうか。

 

そんなことを考えていると、ガチャリと目の前のドアが開いた。

 

「悪いねー、わざわざ。あんがとさん」

 

「いえいえ、こちらこそ急に来てすみま…」

 

返そうとした言葉は、出てきた彼女の姿を見てふと止まってしまった。

 

というのも、出てきたのがなんとびっくり、子供だったからだ。

恐らく小学校高学年くらいだろう。

インターホン越しの少し大人びた雰囲気からは思いもしない、可愛らしい女の子が出てきたのだった。

これには少しばかり驚いてしまった。

 

「…ん?どうかしたかい、お兄さん?」

 

「あ、いや、何でもない」

 

急に止まった俺を不思議に思ったのか、目の前の女の子は小首を傾げながら尋ねてきた。

少しつり上がったパッチりとした大きな目の彼女のその仕草は、何とも可愛らしく、下から見上げる形なので自然と上目遣いになり、少しだけドキッとした。

それからよく見ると、彼女は和服を着ていた。

それが小柄な彼女に何となく色気を与えているような気がして、さらにドキッとしてしまった。

 

って、いかんいかん。そうじゃない。引っ越しの挨拶に来たんだった。

 

少し揺るんだ気を引き締め直して、俺は目の前の少女に話しかけることにした。

 

「えっと、いきなりでごめんね。お母さん、いるかな?」

 

「……は?」

 

俺の問いかけに、彼女は顔をしかめる。

あれ、俺何か不味いこと言ったか?

 

「あ、えっと、その…」

 

「…ここ、一人暮らし用のマンションだぜい?」

 

彼女はさも当たり前のことを言う。

確かにその通りだ。だから俺も今日からここで一人暮らしをするわけで…って、なるほどそういうことか!

つまり彼女も一人で暮らしていると言うわけだ!

それなのに親がいるか聞くなんて、確かにそれは非常識だ。彼女が怒るのも無理はない。

ということはつまり…

 

「ごめんな!変なこと言って!」

 

「ったく、わかりゃ別にいいけどねっ」

 

「いやー、子供なのに一人暮らしってすごいな!俺尊敬するよ!」

 

「……ああ?」

 

「……え?」

 

先程よりも更に怒った顔で睨み付けてくる少女。

背中に炎が燃え盛っている幻覚が見えるくらい、彼女は激怒していた。

 

え、また俺間違ったこと言ったか⁉

一人暮らしマンションに子供が一人ってことは、何か特別な理由があって住んでるってことだろ?だから俺は素直にすごいと思って…

 

なぜ怒っているのか見当もつかない俺の頭には、大量のハテナが浮かんでいた。

その様子を見た彼女は、とうとうキレてしまった。

 

「…おいあんた…名前は何て言うんだい?」

 

「……須賀…京太郎、です……」

 

「…そうかい、須賀京太郎か…」

 

「…え、えっと…」

 

「…いいかい、よーく覚えとけよ須賀…」

 

「……」

 

「私は子供じゃない」

 

「…え?」

 

「私は……とっくに成人済みだーー!!!」

 

「ゴフッ!!」

 

彼女の正拳突きが俺の鳩尾に刺さる。

身長差的に、俺の腹部は彼女のちょうど殴りやすい位置にあったようだ。

 

い、いてぇ…

ってか、子供じゃないって…そんな馬鹿な⁉

 

「ふん!!」

 

そうして彼女はドアを勢いよく閉めて家の中に戻っていってしまった。

いったい全体、どういうことだよ…

 

 

こうして、須賀京太郎と和装ロリ美少女(成人済み)との、隣人生活が始まるのだった。

 

「…引っ越しそば、渡しそびれた…ガクッ」

 

 




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ご飯のお誘い

続きがサクッと書けたので投稿します。



「はぁ…さっきはひどい目にあった」

 

和風ロリ美少女(成人)に殴られてしばらく、引っ越しそばはまた後日渡すことにして、俺は一旦自分の部屋へと帰った。

鳩尾はまだジンジンしており、あの小さな体からは想像できないほどの強いパンチであった。

 

「にしても、あれで成人してるとは…てかむしろ何歳なんだ?」

 

どうみても小学生にしか見えない(雰囲気も合わせれば中学生に見えないこともないが)彼女は、自分を成人済みだと言った。

それが本当だとしたら、この世に合法ロリというのが実在したということになる。

いやはや、何とも感慨深い…

 

「むちゃくちゃ可愛かったしな。和服…着物か?着物もスゲー似合ってたし。喋り方はちょっと変だったけど。」

 

ドアが開いてから殴られるまでのわずかな時間で、よくそれだけ観察できたものだ。

自分でも少し驚きながらふと時間を見る。

 

「あー、夕飯どうすっかな…」

 

時刻は19時。

先ほどから1時間しか経っていないが、随分と長い時間が過ぎた気がした。

 

まだ台所用品も段ボールから出してないし、今日はコンビニでいいかな。

 

そんなことを考えていると、突然家のチャイムがなった。

ピンポーン…ピンポーン…

誰だろう?

 

インターホンの画面を見るが、そこには誰も映っていなかった。

 

なんだ、イタズラか?

引っ越しそうそう嫌だな。

とりあえず無視しよう。

そう考えていると、再びチャイムが鳴らされた。

ピンポーン…ピンポーン…

 

相変わらず画面には誰も映っていない。

ったく、何なんだよいったい。

空腹も相まって少しイライラしながら、俺はドアを開けて外を覗いてみた。

 

すると、目線の少し下に先ほど挨拶に行ったばかりのお隣さんがいたのだった。

 

「やー、さっきぶりだねっ、少年」

 

「…え⁉あ、ど、どうも…」

 

あまりの予想外の人物に驚きを隠せなかった。

何でお隣さんが?

てか何で画面に映ってないんだよ…

 

急な状況についていけず軽くパニック状態になる俺。

そんな俺を見て、お隣さんはふふんっと笑った。

かわいいな…ってそうじゃなくて。

 

よく分からない状況だが、とりあえず今は彼女に尋ねる方が早いと思った。

 

「…あの、何かご用でしょうか?」

 

「んー?いやねっ、少年は夜ご飯食べたのかなーっと思ってねぃ」

 

「あー…いえ、まだですけど」

 

「そうかいそうかい。そいつは可愛そうだねっ、知らんけど」

 

いや知らんけどって。

聞いてきたのはそっちだろ!

じゃあ何で聞いたんだよ…

 

意図の見えない彼女の質問に余計に混乱してしまう。

何だかこの人と話してると調子が狂ってくるようだ。

 

困り顔の俺を見てさらにふふんと笑う女性。

ちょっとムカつく顔だが、彼女のその表情は非常に可愛いと思った。

 

「いやねっ、もしよかったらうちに来てご飯食べないかと思ってねっ」

 

「…え?今なんて?」

 

予想だにしないお誘いに、つい聞き返してしまった。

いやだって、この流れでご飯食べに来ないかって…

彼女の考えがますますわからない。

本当にこの人は何を考えているんだ?

 

「だから、夜ご飯うちに食べに来ないかいって、お誘いさ」

 

「あ、いや…はあ」

 

「なーに、さっき殴っちゃったお詫びだよ。子供に間違われたとはいえ、私も大人げなかったからねぃ」

 

「い、いえ!あれは俺が悪いんです!本当にすみませんでした!」

 

「あはは、いいのいいの。お姉さん、もう気にしてないからさ!知らんけど」

 

どうやらさっき殴ったお礼にご飯をどうかということだったみたいだ。

てかまた知らんけどって…彼女の口癖なのだろうか。

 

にこやかに笑う彼女は、俺を見上げながら再度尋ねる。

 

「それでどうする?」

 

「あー…じゃあ、ご迷惑でなければ」

 

「ん、決まりだねっ」

 

少々気まずいが、特に断る理由もない。

それに、今のうちに仲良くなっておくに越したことはない。

そんでもって、タダでご飯が食べれるのもありがたいしな。

 

「そんじゃ、お姉さんについてきなー」

 

そう言って回れ右をする彼女。

俺もそのまま彼女に着いていくことにした。

 

先ほどから、妙に「大人」や「お姉さん」という言葉が目立つが気のせいだろうか。

もしかして、さっきのこと少し根に持っているのでは…

 

「ふふんっ。お姉さんが、とっておきの、大人の料理、食べさせてあげるねっ」

 

そう言って振り向き様にウインクする彼女は、とても可愛らしいのだが、何となく迫力があった。

…やっぱり根に持ってるだろこれ。

 

「そういえば、あの…お姉さん」

 

「なんだい少年?」

 

お姉さんと言われ少し満足そうな彼女に、まだ聞いてないことがあったので尋ねることにした。

 

「まだお名前伺ってなかったなーと思って」

 

「おっ、そう言えばまだだったねっ」

 

袖を揺らしながら、くるりと振り返る彼女。

どこから取り出したのか、黒い扇子をバサりと開き、口元を隠しながら答えた。

 

「私の名前は三尋木咏。24歳のお姉さんだぜっ。まあ知らんけど」

 

そう言って彼女、三尋木咏は、自分の部屋の鍵をガチャリと開けるのだった。

 

……え?24歳??

……うそ…

 

 

ますます彼女のことがわからなくなった俺は、とにもかくにも、彼女の家でご飯をご馳走になるのだった。

 

「見てろよ須賀少年。お姉さんの大人の余裕、たっぷり見せつけてあげるよ」

 

 

 




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初めての女性(合法ロリ)の家

今日の咏さんは可愛いと思います。


「さー、あがったあがった」

 

そう言って先導するのは、隣人の和装ロリ美少女。

名前は三尋木咏といい、なんとびっくり24歳だそうだ。

どこからどう見ても子供にしか見えない彼女は、玄関で草履を脱ぎ、トテトテと部屋の中へ入っていった。

俺も続いて玄関で靴を脱ぎ部屋に上がろうとすると、ふと石けんのいい香りが辺りを包み込んだ。

 

「す、すげー、いい匂いがする…」

 

彼女の見た目があまりにも幼いため意識していなかったが、ここは女性の部屋だ。

しかも一人暮らし。

急に思い出した事実に、何だか妙に緊張してしまう。

なんてったって、須賀京太郎人生初の母親以外の女性の部屋だ。

緊張してしまうのも無理はない。

 

「ほーら、そんなとこいないで早く来なっ」

 

ボーッとしている俺にそうこえをかける彼女。

俺はハッとして、すぐに彼女の後に続く。

深いことは考えないで、とにかく今はご飯を食べることだけに意識を向けることにした。

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

短い廊下を通ってリビングに着くと、そこは彼女の着物姿からは予想外の、以外と今風な内装だった。

 

家具は白を貴重としていて、物もあまり少なく、主にテーブルとソファー、テレビ、数個の棚、それからベッドがあった。

まあ、ワンルームマンションの一般的な感じを想像すればいいだろう。

彼女の見た目から部屋も「和」をイメージしていたのだが、意外とそうでもないらしい。

綺麗に整頓されていて、非常に清潔感のある部屋だった。

 

「ん?そんなにジロジロ見てー、女の人の部屋は初めてかい?」

 

「あ、す、すみません!」

 

「にゅっふっふ。まっ、見られて困るもんは何もないからいいけどねぃ」

 

そう言って彼女はキッチンへと姿を消すと、鍋を持って戻ってきた。

別に鍋はそれほど大きくはないのだが、小柄な彼女が持つとやけに大きく見えて、今にも落としてしまうのではないかと心配になった。

 

「今日の夜ご飯は~、こいつだ!」

 

テーブルに鍋敷を敷いてそこに鍋を置き、彼女はパカリと蓋を開けた。

すると中からスパイシーな香りが広がった。

 

「おお!カレーですか!」

 

「ふふんっ、その通り~」

 

いいにおいのするカレーには、野菜と肉がゴロゴロ入っていて、見てるだけでヨダレが出てきた。

 

「さー、座った座った。今ご飯とルーをよそったげるからねぃ」

 

彼女に促されるまま席につく。

炊飯器から炊きたての白米をよそい、その上にたっぷりのルーをかける。

目の前に置かれたカレーライスは、俺の胃袋に特大の刺激を与えた。

 

「ほい、スプーンとコップ。飲み物は麦茶でいいかい?」

 

「大丈夫です!」

 

コップに麦茶を注いでくれる彼女を待ち、全ての用意が終わったところで勢いよく手を合わせる。

 

「んじゃ、いただくとしますか」

 

「いただきます!!」

 

待ちに待ったカレーを、皿ごと持って口に頬張る。

口いっぱいに広がるスパイスと野菜や肉の旨味、それから程好い辛さが俺の幸福神経をビンビンに刺激した。

 

「う、うめぇ~!!」

 

「ふふんっ、そうだろ?おかわり沢山あるから、好きなだけ食べなっ」

 

「はい!ありがとうございます!」

 

空腹だったこともあり、俺はものすごいスピードで一皿目を完食した。

そしてすぐさまおかわりをお願いする。

彼女はそんな俺に驚きながらも、満足そうにおかわりをよそってくれるのだった。

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

「ふぅ…もう食べれない」

 

「まさかご飯もカレーも全部食べきるとはねぃ。さすが男の子ってところかい?」

 

「あんまりにも美味しくて、つい。食べ過ぎちゃってすみません」

 

「いいのいいの。お姉さんも喜んで貰えて嬉しいよっ」

 

結局あのあと3杯も食べた俺は、全てのご飯とカレーを食べ尽くしてしまった。

申し訳ない気もするが、気にしないと言ってくれているのでありがたく思うことにする。

何より本当に美味しかったのだから仕方がない。

 

「そんじゃ、私は洗い物済ませちゃうねぃ」

 

「あ、それぐらいだったら俺がやりますよ!」

 

さすがにこれだけご馳走してもらったのに何もしないというのも申し訳ない。

せめて洗い物くらいはしないと。

そう思い腰を上げようとしたのだが、それは彼女によって食い止められた。

 

「いいんだよ、お客さんなんだからゆっくりしてなって」

 

「いや、でも…」

 

「大丈夫だってー」

 

「洗い物くらいなら俺」

 

「あーもう、いいって言ってるだろう?元はと言えば、君に大人っぽいところを見せつけるため…じゃなくて。お、お詫びをするために呼んだんだから。須賀少年はそこでくつろいでなっ」

 

「は、はぁ、そういうことなら…」

 

そう言ってキッチンへとお皿などを持っていってしまった。

てか、大人っぽいところを見せつけるためって…やっぱりそういうことだったのか…

意外と根に持っているようなので、今度ちゃんと謝ることに決めた。

あと今後はもっと大人扱いしていこうとも思った。

 

さて、くつろげと言われても特にすることもないので洗い物をしている彼女を見てみる。

鼻唄を歌いながら洗い物をしている彼女だが、どうやらそのままでは流しに高さが合わないらしく、何か台の上に乗って洗い物をしているらしい。

そんな彼女の姿はとても可愛らしく、なんというか、娘が家事のお手伝いをしているのを見ている気分になってきた。

こんな娘がいたら幸せだろうなー。

まあ年齢的には、まだ奥さんとかの方がしっくりくるけど。

 

じっと見ていたからか、その視線に洗い物をしている彼女も気がついた。

ニヤリと意地悪く笑うと、こちらに声をかけてきた。

 

「なんだい少年~、もしかしてお姉さんで変な想像とかしてないだろうねぃ?」

 

「え⁉いや、そんな別に…」

 

「ひょっとして、新妻とか思ったんだろ~。全く、これだから若いもんは…っいた!」

 

「⁉どうかしたんですか⁉」

 

「…あー、いやーなに、ちょっと皿の欠けてた部分で指を切っちゃったみたいでねっ。全然気づかなかったよ」

 

俺に意地悪を言おうとしてた彼女は突如苦痛の声をあげた。

どうやら、お皿が欠けていたのに気が付かず、それで指を切ってしまったらしい。

 

「いってて~」

 

「ちょっと大丈夫ですか⁉」

 

「なーに、こんくらい平気さっ」

 

「そんなこと言って…ちょっと見せて下さい」

 

立ち上がって彼女の元まで行き、少し強引だが、切った手を引き寄せる。

見ると大したことないようだが、血がジワリと滲んでいた。

 

「ほらっ、血が出てるじゃないですか!」

 

「そ、そんな、大げさだねぃ」

 

「全くもう…」

 

 

 

この後、俺は人生最大の過ちを犯す。

何でこの時こんなことをやったのか。

後から思うと、本当に自分の行動のわけがわからない。

彼女が自分の娘に見えたからだらうか。

とにかくにも、俺はこの日のことを、一生後悔することとなるのだった。

 

 

 

「あむっ…」

 

「……ひぇっ⁉」

 

俺は彼女の指をくわえたのだった。

 

「……ちょ、ちょっと…須賀…⁉」

 

「んむ?……ん………んん⁉」

 

あまりにも突然の出来事に一瞬パニックになる二人。

顔を赤らめ口をパクパクしながら呟く彼女の呼び掛けに、俺も今自分がしていることの大変さに気がついた。

 

「ぷはっ!…あ、あ、…す、すみません!!!」

 

「へ⁉いや、あの、その…」

 

全力で謝る俺。

地面に頭が着くのではないかというくらい頭を下げ、全力の謝罪をする。

彼女の顔は見えないが、間違いなく怒っているだろう。

それくらい俺はとんでもないことをしでかしたのだ。

 

顔を上げて彼女を見ると、顔が真っ赤であわあわと何ともつかない表情をしていた。

やっぱり相当怒ってる。

何とかして謝らないと…

 

そう考えを巡らせているとき、彼女の指に再び血が滲んでいるのが見えた。

すっかり忘れていた。

今はまず、彼女の指の止血の方が先だ。

 

「と、とにかく!今は先に血を止めないと!」

 

「え⁉あ、ああ、そうだねぃ!」

 

「絆創膏とかどこにありますか?」

 

「う、うち、そういうの無いんだけど」

 

「え⁉じゃあどうしよう…」

 

「だ、だ、だ、大丈夫だよ!ほら!こうやって口にくわえとけば自然と血が……」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「な、何やってるんですかー⁉」

 

「わ、わっかんねー!わっかんねー!!!」

 

何とあろうことか、彼女は先ほど俺がくわえた指を、今度は自分でくわえてしまったのだ。

 

彼女の予想外すぎる行動に完全にパニックになってしまう二人。

お互いの顔は真っ赤にゆで上がり、今にも倒れるのではと思うくらいだった。

 

「あの、えっと、そ、その三尋木さん」

 

「わ、わっかんねー!」

 

「とりあえず血を…」

 

「わ、わ、あ!ち、血だねぃ!大丈夫大丈夫、後は自分で何とかするから!」

 

「え⁉でも」

 

「しょ、少年はもう帰りなよ!時間も遅いし!」

 

「ちょ、えっ、そんな⁉」

 

「そんじゃ、またな!バイバイ須賀!!」

 

バタン!!

 

……

 

結局俺も彼女もテンパったまま、俺は家を追い出されたのだった。

追い出されたドアにもたれかかり深い溜め息をつく。

 

「お、俺は…なんであんなことを…」

 

悔やんでも悔やみきれない思いが胸中を駆け回る。

死ねるなら今すぐ死にたい気分だ。

絶対彼女にも嫌われた。

せっかく少し仲良くなれたと思ったのに…

 

「…はぁ…とりあえず帰ろう」

 

重たい体を引きずりながら、自分の部屋と帰る。

もたれかかっていたドアの向こうでは、何やらブツブツと声が聞こえたが、きっと恨み言に違いない。

ますます陰鬱な気持ちになりながら、トボトボと自室へ帰るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…わっかんねー…すべてがわっかんねー…」

 

彼を追い出した後玄関に座り込んだ彼女は、今までにないほど早く胸を打つ心臓を押さえながら、一人何度も何度もその言葉を呟くのだった。

 

 

 




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もう一人のお隣さん

アラフォージャナイヨマダアラサーダヨ!!!


よく晴れた平日の朝。

目覚まし時計の鳴る音で目を覚ました俺は、カーテンの隙間から差す日を浴びながら、まだハッキリと覚めない頭でボーッと宙を眺めていた。

 

ここに引っ越してきてから早1週間。

荷物が詰められた段ボールも全て開け、荷ほどきは完全に済んでいた。

近くに商店街があることもわかってきて、買い物なども楽になり、だいぶここでの暮らしに慣れてきた気がする。

それでもしかし、1週間が経った今でも、あれ以来隣の彼女にちゃんと謝ることができていないのであった。

 

「てか露骨に避けられてるしな…」

 

彼女と顔を合わせることは何度かあった。

買い物に出掛けようと家を出ると偶然同じタイミングで彼女が出てきたり、何なら一度勇気を振り絞って彼女の部屋を訪ねたりもしたのだ。

しかしその度に、

 

「あ、何か忘れ物したわー、し、知らんけど…」

 

とか、

 

「い、いま、ちょっと忙しいから、また今度な!し、知らんけど…」

 

といった具合で、ろくに挨拶もできないまま彼女は姿を隠してしまうのだった。

これには流石の俺もかなり堪えていた。

 

「完全に嫌われてるよな…ああー!何であんなことしたんだよ俺は!!」

 

怪我した彼女の指を突然くわえる。

それは家族ならまだギリギリわからないでもない行動だが、まだ会ったばかりの、しかも男女二人きりの空間でやってしまったあの行為は、今考えただけでも恥ずかしさと後悔で死にたくなった。

 

「…でも三尋木さんの指…ちっちゃくて可愛かったな…」

 

後悔はしてると言っても思春期真っ盛りの男の子。

うっかりくわえてしまった彼女の綺麗で小さな指を思い出す度に、何度もドキドキしてしまうのだった。

 

「ってこれじゃ変態じゃんかよ!」

 

一人呟いた言葉に盛大なツッコミを入れて冷静さを取り戻す。

いくら可愛いとはいえ、人の指をくわえて喜んでるような変態にはなりたくない。

戒めの意味も込めつつ、自分の両頬をバシバシと叩いた。

 

「とりあえず、朝飯用意しよう」

 

そう言って布団から出て着替えをする。

着替え終わって何を食べようか考えていると、突然家のチャイムが鳴り出した。

ピンポーン…ピンポーン…

 

こんな朝早くに誰だろうか。

少し不思議に思い、インターホンの画面を覗くと、そこには見知らぬ女性が立っていた。

隣の和装ロリ美少女(24歳)が訪ねてきたあの日以来、初めての女性の訪問。

ちなみに三尋木咏がモニターに映らなかったのは、高さが足りなかったからのようだ。

このマンションは若干カメラが高い位置にあるので、背の低い彼女ではギリギリ映らないらしい。

それ完全に設計ミスだろうけどな…

 

そんなことを考えながら、インターホン越しに見覚えのない女性に声を掛ける。

 

「はい?」

 

「あ、おはようございます。私、隣に住んでるものなんですけど、朝早くにすみません。202号室に新しい方が来たと聞いたものでご挨拶に来ました。」

 

「お隣…あ!201号室の!すみませんこちらから挨拶に行かないで!今出ます!」

 

慌ててインターホンの受話器を下ろし、玄関へと向かう。

何と、訪ねてきたのはもう一人のお隣さんだった。

初日以来何度か訪ねたのだが、一度もいなかったお隣さんがわざわざ向こうから訪ねて来てくれたのだった。

 

ガチャリとドアを開けて外を見ると、そこには少し地味だがかなり美人なセミロングの女性が立っていた。

見た感じまだ若そうで、年齢的にはもう一人のお隣さん(合法ロリ)と同じかそれより若い気がした。

 

どこかで見たことがあるような気もしたが、多分気のせいだろう。

俺はドアを後ろ手に閉めて、彼女の前に出る。

 

「初めまして。私、隣の201号室に住んでる、小鍛治です。朝早くにごめんなさいね。」

 

「いえいえ、本来こっちが挨拶に行かなきゃなのに本当すみません。須賀です、宜しくお願いします。」

 

丁寧に挨拶をしてくれる小鍛治さんに、俺もちゃんとした挨拶を返す。

そんな俺を見て、彼女は微笑みながら話してくれた。

 

「いえいえ。実は私、さっき出張から帰ってきたんですよ。そしたらお掃除してる大家さんと会って、新しいお隣さんが何回か挨拶しに来てたと教えてくれたので。それでそのままこちら伺っちゃいました。」

 

「あー、そうなんですか。わざわざすみません。」

 

朝早くに向こうから訪ねてきたのはそういう理由があったらしい。

こちらから向かう手間が省けてありがたい限りだ。

 

っとそこでふと、引っ越しそばのことを思い出した。

そう言えばまだ渡してない。

 

「ちょっと待っててください」

 

そう断りを入れた俺は、部屋から引っ越しそばを持って戻り彼女に渡す。

 

「これ、よかったら貰って下さい」

 

「わぁ、引っ越しそばですか!嬉しい!ありがとう」

 

「いえいえこれくらい当たり前ですよ」

 

「ふふふ。若いのに感心だね」

 

先ほどよりも幾分か砕けた雰囲気で話しかけてくれる彼女。

ほんわかとした彼女の雰囲気と笑顔は、最近ちょっと疲れぎみだった俺の心を癒してくれたのだった。

 

お姉さんって感じだなー…。

そうしみじみ思っていると、彼女がまた話しかけてくれた。

 

「見たところ学生さんっぽいけど、高校生?」

 

「はい!今年から高校に通います!」

 

「高校生で一人暮らしってすごいね」

 

「両親が海外に出張に行くことになって。俺もせっかくなんで一人暮らしをさせてもらうことにしました。高校も、実家からだと少し遠かったので」

 

お隣さんとの世間話。

しかもかなりの美人さんである。

俺は今この時間がとても幸せだった。

 

「小鍛治さんは出張、どこに行ってたんですか?」

 

「ちょっと地元の高校にね。1週間くらいずっと指導に行ってて、実家があるからそこに泊まってたんだ」

 

「指導…って、小鍛治さん、何かの先生なんですか?」

 

そう尋ねると、彼女は少しだけ考えてから、ちょっと予想外の質問を俺に投げ掛けてきた。

 

「…須賀君は、麻雀とかやったりするのかな?」

 

「…へ?」

 

急に出てきた「麻雀」という言葉に、俺は気の抜けた返事をしてしまう。

目の前の大人しそうな女性からはあまりイメージできないワードに、少しだけ驚いてしまったのだ。

 

「…いえ、全然ないです。学校で友達とかがやってるのは見たことあるんですけど…」

 

彼女から麻雀はイメージできないと言ったが、別に今時麻雀をやっていても珍しいことはない。

昔こそマイナーな競技であった麻雀だが、今や競技人口は数億にも登るほどのメジャー競技である。

美人で大人しそうな女性とはいえ、やっていても別段おかしなことはなかった。

 

それにしても、それを聞いてくるということはもしかして…

 

「小鍛治さんって、そこの麻雀部のOGなんですか?」

 

「ん?まあ、そうだけど…」

 

「すごいですね!OGとはいえ指導を頼まれるほど強いなんて!もしかして、麻雀教室の先生とか何ですか?」

 

「え?…いや…当たらずも遠からずというか…」

 

俺の言葉に何とも言えない微妙な顔をする彼女。

あれ、俺もしかして見当外れなこと言ったか?

麻雀やってるか質問してきて地元の高校の指導に行ってきたというから、てっきりそういう感じなのかと思ったのだが…

 

考えこんでいる俺に対して、彼女は何かを言おうか言わまいか悩んでいる様子だった。

 

そんな微妙な空気が流れる中、ふと、ガチャリとドアが開く音がする。

 

「あ、咏ちゃん!おはよー」

 

「おろっ、すこやん帰ってきてたんだー…って、す、す、須賀⁉」

 

振り向くと、ドアの隙間からもう一人のお隣さん、和装ロリ美少女こと三尋木咏がこちらを覗いていたのだった。

三尋木さんは俺の顔を見るやいなや、ゆっくりと扉を閉じ始めた。

 

「あー、な、何か知らんけど、ちょ、ちょっと用事が…」

 

「あ、咏ちゃんちょっと待って」

 

逃げようとする三尋木さんだが、小鍛治さんの呼び掛けにより止められてしまう。

 

「な、なんですかいね?」

 

「なにそのいつも以上に変な喋り方…」

 

もともと独特な喋り方の彼女がいつも以上に変な喋り方なことにツッコミを入れる小鍛治さん。

どうやら、見たところ二人は旧知の仲らしい。

それも結構仲がいいのだろう。

呼び方も友達同士のそれらしかった。

 

「咏ちゃん、須賀君とはもう会ってお話しした?」

 

「ひゃうっ⁉え、ま、まあ、は、はなひたけど?」

 

唐突な質問にびくりとする三尋木さん。

相当動揺しているのか、微妙に噛んでしまっている。

 

そして、ちらりとこちらに視線を向ける三尋木さん。

俺と目が合うと、顔を赤らめて目線を反らされてしまった。

さらに、袖元からバサりと扇子を取りだし、口元を隠してしまう。

 

…やっぱり俺、相当嫌われてるな…

彼女に避けられていることを改めて実感した俺は、かなりショックを受けていた。

しかもあの時のことを思い出してまた恥ずかしくもなってくるし、穴があったら入りたいと正に今のことだ。

 

「…二人とも、何かあったの?」

 

俺らの様子を見て、怪訝そうな顔をするもう一人のお隣さん。

俺らはそろってばつの悪そうな顔をするしかできなかった。

 

「ふーん…まあいいけど。それで咏ちゃん、須賀君に私達の仕事のこととか話した?」

 

「…へ?し、してないけど…」

 

予想外の質問だったのか。

三尋木さんは少し間抜けな顔をして返事をした。

 

間抜けな顔も可愛いな…って、だから俺ってやつは…!

 

自分の思考回路に嫌気が差しながらも、小鍛治さんの言った、「私たち」という部分が気になった。

 

「もしかして、お二人とも麻雀教室の先生をしているんですか?」

 

「…は?麻雀教室の先生?…なんで?」

 

「須賀君に麻雀やったことあるか聞いたんだけど、やったことないみたいで。出張の話をしたら、何かそう思ったみたい」

 

「あー…なるほどねぃ」

 

またしても微妙な空気が流れてしまう。

どうやら俺は見当違いなことを言っているようだ。

少なくとも、麻雀教室の先生ではない。

しかしそうなると仕事とはいったい…

 

ますます謎が深まる二人に頭を悩ませていると、ふと小鍛治さんが何かを閃いたようだ。

 

「そうだ咏ちゃん!咏ちゃんって、今日で謹慎とけるよね?」

 

「え⁉…そ、そうだけど?」

 

「それで今日この後、謹慎開け最初の試合でしょ?」

 

「な、何ですこやんがそんなこと知ってんのさ!」

 

「だって私、それの解説だし」

 

「くっ…ぐぬぬ…」

 

「それでさ、私思ったんだけど、その試合を須賀君に観に来てもらうのはどうかなって」

 

「……は、はあああああああ⁉⁉」

 

小鍛治さんの提案に絶叫する三尋木さん。

提案者である小鍛治さんは、ニコニコと笑みを浮かべていた。

 

「じょ、冗談じゃないよ!何で須賀が私の試合観に来るのさ!」

 

「いいじゃん別に。私達の仕事を知ってもらうにはこれが手っ取り早いし」

 

「だ、だからって、いきなり試合を観に来るだなんて!」

 

「何か問題あるの?」

 

「べ、別に問題はないけど…い、今須賀が来たら私、試合に集中できるかどうか…」

 

「んん?何で?」

 

「し、知らんけど…知らんけど!!」

 

「プロなんだから、試合になれば集中できるでしょ?」

 

「う…そうだけど…」

 

「じゃ、決まりだね!」

 

「ううぅ…わっかんねー…わっかんねー…」

 

全く着いていけない二人の話。

終始小鍛治さんが余裕の笑みを浮かべ、三尋木さんは怒ったりモニョモニョ声が小さくなったり、只でさえ小さな彼女がより小さくなってしまっていた。

 

てか試合って何?プロって何?

 

「よし!そうと決まれば須賀君、一緒に行こっか」

 

「いやあの…」

 

「もしかして今日空いてなかったりする?」

 

「いえ、空いてますけど…」

 

「うん!じゃあ決まりだね!」

 

ほんわかしたイメージの彼女は、意外にもどんどん強引に話を進めていった。

そんな彼女は何だかとても楽しそうである。

 

「くぅ…すこやん、ぜってー許さねえからな…!」

 

対照的に三尋木さんは、目に涙を溜めながら恨めしそうに彼女を睨み付ける。

 

「須賀!お前もぜってー許さねえからな…!」

 

そして俺までも睨み付けてくる三尋木さん。

何で俺もなんだ…

 

あまりにも急な展開すぎてわけがわからない。

何が何だか、全く話が見えないのだが…

 

「あ、あのー…」

 

「ん?」

 

「それで、行くってどこに…?そもそも試合とかプロとかっていったい…」

 

恐る恐る聞いた俺を見て、小鍛治さんは今日一番の素敵な笑みを浮かべてこう答えた。

 

 

 

 

「麻雀の試合だよ。しかも、プロのね!」

 

 

 

 

そして俺はこの後、お隣さんの…小さなプロ雀士の試合を観に行くこととなるのだった…。

 




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小さな背中

お気に入りや高評価がいきなり増えていて驚きました。
とても嬉しいです。
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小鍛治さんから麻雀の試合を観に行くと言われたそのすぐ後、俺は彼女が運転する車の助手席に座っていた。

車内には二人だけで、試合に出場するもう一人のお隣さんは乗っていない。

というのも、その彼女は突如現れた真っ白なリムジンに乗って消えてしまったからであった。

 

「まさか三尋木さんが、お金持ちのお嬢様だったとは…」

 

リムジンの運転手が「咏様、お迎えにあがりました。」って言ってきた時には、驚きのあまり呆然と立ち尽くすしかできなかった。

そんな俺をちらりと見て、車を運転する小鍛治さんはくすりと笑う。

 

「彼女、三尋木流っていう華道の家元の娘さんなの。一回お家にお邪魔したことあるけど、スッゴい豪邸だったよ~。なんか旅館みたいだった」

 

結局そこでも麻雀しかしなかったけど…と付け足して、小鍛治さんは三尋木さんがリムジンに乗っていった理由を教えくれる。

着物を着ているのもそういう理由からのようだ。

そんな彼女自身は、割りと庶民的な感覚を持っているのだろう。

家元の実家を「旅館」と表現するあたりに、何となく親近感を覚えた。

 

「それにしても、お二人が麻雀のプロだったとは…」

 

「あははは…まあ、私はもう地元のクラブチームで、ランキング戦とかは全然出てないけどね」

 

「それでもプロってことは結構すごいんじゃないですか?あと、解説だってされてるみたいだし…」

 

ハニカミながら謙遜する小鍛治さんだが、彼女も三尋木さん同様にすごい人なのだろう。

麻雀とかに全く詳しくはないが、今や超がつくほどのメジャー競技の麻雀だ。

その中でプロや解説として仕事しているということは、かなりの実力がないとできないことに違いない。

 

ふと麻雀プロとしての彼女が気になり、調べてみようとスマホを取り出した。

すると何故だが、小鍛治さんが慌てて止めてきた。

 

「す、須賀君、もしかして私のこと調べようとしてる?」

 

「ええ、そうですけど…」

 

「出来ればその、やめてほしいかなーって…」

 

「どうしてです?」

 

「いや、ほら!何て言うか、須賀君にはまだ知られたくないことがあったりなかったり…特に年齢のこととか…」

 

「?まあよくわかんないですけど、それでしたらやめておきます」

 

「ほっ…ありがとう」

 

あまり自分のことを調べて欲しくないらしい彼女は、俺がスマホを戻すのを見ると、ほっと安堵のため息を吐いた。

途中声が小さくて聞き取れなかったが、どうやら知られたくないことがあるらしい。

なら無理に調べる必要もないだろう。

それに、女性が嫌がることをするなんて紳士のすることじゃないしな。

彼女の名前を途中まで入力したときの、「小鍛治健夜 アラフォー」という予測ワードが少し気にはなったが、俺はこれ以上彼女について詮索するのをやめることにした。

 

「それで今日の三尋木さんの試合って、どういうの何ですか?」

 

「タイトル戦の予選だね。彼女2週間くらい謹慎させられてるから、残りの試合全勝しないとなんだ」

 

試合を観に行くことが決まる前の二人の会話にも出てきていたが、三尋木さんはとある事情で2週間の謹慎処分を受けていたようだ。

いったい彼女が何をしてしまったのか…

気になって尋ねてみると、小鍛治さんは苦笑いを浮かべながら答えてくれた。

 

「咏ちゃん、試合会場の照明を全部壊しちゃったんだよね…」

 

「…え⁉どういうことですか?」

 

「その日同卓してた子に、背が低いのを散々馬鹿にされて…試合でもちょっと負けてたから機嫌が悪かったんだろうね。怒りのオーラで会場の照明全部割っちゃったみたい」

 

そう言って彼女はあははと笑うが、何を言ってるのかわけがわからない。

オーラで照明割るってどういうことだよ…

 

「あの二人はもともとあんまり仲良くないしね。見た目も真逆だし。まあ須賀君も、咏ちゃんに身長のこととかあんまり言っちゃだめだよ?」

 

…もう時すでに遅しなんですが…

とにもかくにも、今後一切は三尋木さんに対して身長のことは言わないと心に決めたのだった。

 

「でもそのせいで残りの試合全勝って、結構大変じゃないですか?」

 

「んーどうだろ?組み合わせにもよるけど、咏ちゃんなら多分大丈夫じゃないかな?」

 

「え、三尋木さんってそんなに強いんですか?」

 

「まあまあ強いと思うよ。タイトルも持ってるし、女子日本代表のメンバーだし」

 

何てことないように答える小鍛治さんだが、言ってることは衝撃的すぎた。

タイトル持ちで日本代表⁉

それって相当強いんじゃ…てかそんな彼女を「まあまあ強い」ってこの人はいったい…

 

朝から驚きの連続で未だに頭がついてこない中、俺を乗せた車は試合会場へと到着した。

 

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

 

「はいこれ、スタッフ用の身分証ね。これがあれば会場の大抵のところは入れるから」

 

そう言ってスタッフ証を渡してくる小鍛治さん。

試合を観に来ただけなのに、まさかこんなものまで渡されるとは思ってもみなかった。

 

「まあ試合を観ることが目的なんだけど、その前に須賀君には一つお願いがあります」

 

「お願いですか?」

 

「今から試合前の咏ちゃんの控え室に行ってきてください」

 

小鍛治さんの申し出は驚くべきものだったが、スタッフ証を渡されたときから何となくそんな気はしていた。

 

「…やっぱり何かあったってわかりますよね?」

 

「当たり前です。あんな咏ちゃん見たの私初めてだよ?」

 

ちょっと可笑しそうにする小鍛治さん。

このお願いは彼女なりの気遣いらしい。

 

「二人の間に何があったかは知らないけど、今のうちに仲直りしてた方がいいんじゃないかな。それにいくら咏ちゃんって言っても、今のままだと須賀君のことが気になって試合に集中できないかもだし。負けちゃったら須賀君のせいになるかもよ?」

 

そう言われてしまっては断ることもできない。

解説へと去っていく小鍛治さんを見送りながら、俺は教えてもらった三尋木さんの控え室へとむかうのだった。

 

 

 

 

□□□□□□□□□

 

 

 

 

「三尋木咏様」と書かれた部屋の扉を3回ノックする。

しばらくの間の後、中から「はいよー」という声が返ってきた。

俺はドアのぶに手を掛けて数回深呼吸をした後、意を決して彼女の控え室へと入っていった。

 

「失礼します!」

 

「おーう、どちら様…って、す、須賀⁉」

 

本来いるはずのない俺の姿を見た彼女は、驚きに目を見開いていた。

 

「ど、ど、どうして、須賀がここに…⁉」

 

「いえあの、小鍛治さんがスタッフ証くれて…それで三尋木さんの控え室を教えてくれたので」

 

「んなっ⁉あんのアラフォーが…」

 

恨めしそうに呟く三尋木さん。

まあいきなり俺なんかがやって来たのだ。

そう思うのも無理はない。

しかしそれでも、折角小鍛治さんがくれた機会なのだ。何としてでも彼女と仲直りをする必要がある。

そう思って俺は、彼女へと一歩足を踏み出した。

 

「あの三尋木さん、俺…」

 

「わ、私、ちょっとお手洗いに…」

 

「ま、待ってください!」

 

またも逃げようとする彼女を止めるべく、俺は咄嗟に彼女の小さな手を捕まえてしまった。

 

「あっ…」

 

「…はっ⁉す、すみません!」

 

慌てて彼女の手を離して全力で謝る。

二人の間に静寂が訪れ、見ると三尋木さんは固まったまま真っ赤な顔をして自分のを手を見つめていた。

 

またやってしまった。

前回から全く反省できてない自分の行動に嫌気が差す。

折角彼女と仲直りしようと思ってきたのに、またしてもこの様だ。

 

彼女をまた怒らせてしまった…

どうしたものかと頭を悩ませるがいい案が全く思い付かない。

ただ静かな時間だけが少しずつ進んでいくだけだった。

 

しかし、その静寂を破る者がいた。

それは京太郎ではなく、目の前の小さな彼女だった。

さっきまでフリーズしていた三尋木咏はなんと、突如暴れだしたのだった。

 

 

「う、うがあああああ!!」

 

「み、三尋木さん⁉」

 

「全く何なんだいお前って奴は!お前って奴は!!」

 

そう言いながら扇子で俺をビシビシ叩き始める。

彼女はまるで癇癪を起こした子供のようだった。

 

「痛い!痛いです三尋木さん!」

 

「うっせー!お前ってやつはこの前といいこれといい、何だってそういうことするんだよっ!!」

 

身長差のせいで扇子が届くのがギリギリ俺の肩くらいの彼女は、俺のお腹をひたすらに叩き続けるのだった。

 

「すみません、すみません!」

 

「謝ったって許すもんか!お前みたいな変態野郎は、変態野郎は…!」

 

そう言って大きく振りかぶる三尋木さん。

思わず目をつむった俺だったが、彼女の扇子が飛んでくることはなかった。

その代わりに、お腹にポスッと、温かい何かが軽くぶつかってくる。

下を見るとそれは彼女の頭で、顔を伏せたまま俺にもたれ掛かってきたのだった。

 

「み、三尋木さん…⁉」

 

「うっせーばか…お前があんなことするからな…私はあれから大変なんだぞっ…」

 

ポツポツと語り始める彼女。

今のこの体勢にドキドキが収まらない。

しかし、真面目な彼女のトーンに自然と俺も耳を傾けていた。

 

「…ずっと心臓はドキドキ鳴ってるし、手を見るたびにお前のこと思い出すし…それなのにお前と偶然家出るタイミングが同じになったり、それどころはお前は平気な顔して会いに来るし…」

 

ここ1週間のことを、彼女はゆっくりと言葉にする。

頭と接触しているお腹のあたりが、彼女の体温とで少しずつ、温かくなっていくのを感じた。

 

「何か意識してるの私ばっかで悔しいし、でも恥ずかしいし…」

 

そういう彼女は、さらに頭を押し付けてきた。

今までの思いを俺にぶつけるようなその行為に、彼女のことがどんどん愛しくなってくるのだった。

 

「あの…本当にすみません…」

 

「別に怒ってないけど…」

 

「いえ、改めてちゃんと謝らせて下さい。あのときは本当にすみませんでした」

 

体勢は変わらないまま、彼女に謝罪の言葉を伝える。

言葉だけのその謝罪だが、今までの中で一番彼女にちゃんと伝わったような気がした。

 

「…ん。わかった」

 

二人の間の空気が、ゆっくりと温かいものへと変わっていく。

1週間ぶりに、ちゃんと彼女と向き合っていると実感することができた気がした。

 

「…あ、そろそろ試合じゃないですか?」

 

ふと時計を見てみると、事前に聞いていた試合時間まであとわずかであった。

この温かい時間が終わってしまうのは物寂しいが仕方がない。

そっと離れようとすると、ふと洋服の袖が引っ張られる。

引っ張ったのはもちろん目の前の彼女で、それに少しだけびっくりしてしまった。

 

「あ、あの…三尋木さん?」

 

「なあ須賀…これから試合観ていくんだろ?」

 

いまだにうつ向いたままの彼女の表情はよく見えない。

だが、その声はしっかりとした意思を持っていて、今の彼女が最初に会った頃の彼女に戻っているのだとそう感じさせた。

 

「ええ、もちろんです」

 

「…にゅふふ、そうかいそうかい」

 

俺の返事に満足そうに頷く。

そして彼女は、パッと顔をあげて俺を見据えると、俺の家を尋ねてきた時のような、自信満々の勝ち気な様子で宣言するのだった。

 

「見とけよ須賀。お姉さんの本気…見せてやるぜ!」

 

試合会場へと背を向けて歩く彼女。

その後ろ姿はとても小さく、可愛らしいく、そしてとても頼もしく感じるのだった。

 

 

 




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おもちと名前とアラフォーと

お気に入り登録や高評価が増えていたり、ランキングにもちょいちょい載ったり嬉しい限りです。
ありがとうございます。

今日のは書いてて特に楽しかったです。


『決まったぁぁぁ!最後は三倍満をツモっての圧倒的勝利!勝者、三尋木咏~!!』

 

観戦室の巨大モニターから聞こえてくる声は、たった今終わったばかりの麻雀の試合の勝者を告げていた。

 

『三尋木プロ、今日は絶好調でしたね~!』

 

『そうですね。謹慎明けの初戦としては、かなりいい滑り出しではないかと思います』

 

『小鍛治プロから見て、三尋木プロの今日の勝因はなんだと思いますか?』

 

『気持ち的な面ではないでしょうか。三尋木選手は、力の作用に精神的な部分が大きく絡むタイプなので、そういう意味では今日はかなりいい状態で挑めたのではないかと思います』

 

『なるほど!さすが小鍛治プロ、人のことがよく見えています。伊達にアラフォーまで生きていません!!』

 

『私まだアラサーだよ!!自分で言いたくないけど!』

 

『さて、今後の三尋木プロの活躍に乞うご期待です!という訳で!ここまでのお相手は、ふくよかじゃないスーパーアナウンサー福与恒子と!』

 

『す、すこやかじゃない小鍛治健夜でお送りしました…ってこれラジオじゃないから!!』

 

麻雀ファンからすればもはやテンプレとなった二人の掛け合いが終わり、観戦室にいた人々もゾロゾロとその場を後にしていく。

その中で唯一、初めて麻雀の試合を観た須賀京太郎は、いまだ席から動くことができずにいた。

 

「…三尋木さん、凄かったな…」

 

今なお、半ば放心状態でモニターの三尋木咏を見つめながらそんなことを呟く。

 

さきほど控え室で見送ったばかりの小さなプロ雀士は、試合を圧倒的火力で完全に支配していた。

麻雀のルールこそいまいちわかってはいなかったが、彼女があがりを宣言し点数を増やしていく度に、自分も段々と興奮していくのがわかった。

固く握られていた両手には、じんわりと汗が滲んでいる。

卓上で勝ち気な笑みを浮かべる彼女はとてもカッコよく、そしていつも以上に自分を魅了するのだった。

 

彼女に会って、直接今の気持ちを伝えたい。

そう思った京太郎は、観戦室を後にする。

さきほど彼女と別れたばかりの控え室へと足を早めるのだった。

 

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

 

彼女の控え室へと向かう途中。

どうやって今の気持ちを伝えようか…急ぎ足になりながらもどう言葉にすればいいか、いまだ考えのまとまらない京太郎は、顎に手をあてながらうつむき加減に歩いていた。

だからだろう。廊下の曲がり角でうっかり人にぶつかってしまったのだった。

 

「きゃっ!」

 

曲がった瞬間に軽く柔らかい衝撃を受ける。

何事かと声がした方を見ると、自分とぶつかったせいで一人の女性が尻餅をついていたのだった。

 

「す、すみません!大丈夫ですか?」

 

慌てて彼女に駆け寄り、手を差しのべる。

今年から高校生とはいえ、京太郎はそれなりに体格のいいほうだ。

目の前の女性は見たところ少々小柄なので、そんな自分とぶつかって転んでしまった彼女が少し心配になった。

 

「いててて…うんっ、大丈夫だよー☆」

 

差しのべた手を掴んで起き上がる女性。

軽く引っ張り上げて立たせた彼女をよく見ると、何ともまあ、超がつくほどの美人だった。

 

艶やかな茶髪ロングをサイドテールで結んでおり、顔は少し幼いがとても整っている。

どちらかというと可愛いよりのその美人は、首からヘッドホンをさげ、可愛らしいエプロンを身に付けており、何というか少しファンシーな感じがした。

声も甘く耳がとろけそうになるなど、どこぞのアイドルのようだ。

 

しかし、それらの注目を集める要素を持ってして、それ以上に京太郎の視線を惹き付けたのは、彼女の特大のおもちだった。

 

で、でかい…!

 

今まで出会った女性の中でも一際大きい、その存在感を嫌でも感じてしまうほど素敵なおもちは、京太郎の視線を釘付けにした。

 

もしかしてさっきぶつかった時の柔らかい感触って…

 

そんないやらしい妄想が頭の中を駆け巡ったが、彼女から声を掛けられることにより何とか現実へと引き戻された。

 

「ごめんね~、ちゃんと前見てなくて!」

 

「あ、いえ!こっちこそすみません!怪我とかしてないですか?」

 

さきほど大丈夫とは言っていたが、一応もう一度確認しておく。

こんな綺麗な人に怪我なんかさせた日にはたまったもんじゃない。

 

優しく話しかけると、目の前の彼女がじっと俺の目を見つめてきた。

そしてその後、全身を舐め回すように観察される。

 

な、何事だ?

若干気味の悪い視線に居心地が悪くなる。

 

ひとしきり俺を見た彼女は、ポツリと呟いた。

 

「やばっ、タイプかも…」

 

彼女の目が、獲物を定めた肉食獣のようにギラリと光る。

呟いた言葉が何かは聞き取れなかったが、彼女の鋭い視線に身の危険を感じる。

 

美人に見つめられてるはずなのにこの恐怖はなんだ…?

ゾクゾクと鳥肌が身体中に広がる。

逃げなくては…

本能的に彼はそう考えたのだった。

しかしそれは目の前の肉食獣の猛攻により阻止される。

 

「君、お名前は~???」

 

「ひっ……す、須賀、です…」

 

「下の名前は~???」

 

「…え?」

 

「し、た、の、な、ま、え、は~?☆」

 

「……きょ、京太郎、です…」

 

有無を言わせぬ彼女の迫力に完全に気圧される。

逆らえばまずい。

あっという間に骨まで食べられてしまうと思った。

 

「へー!京太郎君って言うんだ☆」

 

「……」

 

「私は瑞原はやり☆はやりちゃんとか、はやりんって呼んでね☆…って、流石に私のこと知ってるよね~」

 

「…え?」

 

「…ん?え、知らないの?」

 

「すみません。知らない、です…」

 

「…こんなところにいるのに??」

 

「…はい」

 

「…ふーん、そっか~」

 

自分を知らないと言われ驚いた様子の彼女。

口ぶりからするに、結構有名な人らしい。

といっても、恐らくここにいるということは麻雀関連の有名人なのだろうから、知らなくても無理はないと思った。

まあそんな人間が麻雀の試合会場にいるとも思わないだろうが。

 

しかしこれで彼女の機嫌を損ねてしまったら…

 

そう不安に思い彼女の表情を恐る恐る見てみると、彼女は怒るどころか非常に嬉しそうな顔をしていた。

 

「かんっぺきじゃん…」

 

予想外の呟きを漏らした彼女は、なんといきなり、京太郎の右腕に抱き着いてきたのだった。

二つの暴力的なまでのおもちが、右腕をむにむにと刺激する。

 

「み、瑞原さん⁉な、なにを⁉」

 

「もう、京太郎君ってば☆私のことは、はやりちゃんかはやりんって呼んでって言ったでしょう?」

 

「え、あいや、そうじゃなくて…」

 

「は、や、り、ちゃ、ん!」

 

「…は、はやり…さん…」

 

「むむ。んー、まあでもいっか☆」

 

名前を呼ばれて嬉しそうにするはやりさん。

そんな彼女はとても可愛らしいのだが、今はそれよりも右腕の感触が気になって仕方がなかった。

 

お、おもちってこんなに柔らかいのか…⁉

 

いきなりの状況に戸惑いながらも、柔らかなおもちの感触を堪能する。

本来ならばこのままではいけないのだが、あまりの気持ちよさに体が動こうとしない。

 

どうしたもんかと思いながらも、これは向こうが抱き着いて来たからであって自分は悪くないと結論付け、もう少しこの感触を楽しもうと思ったのだった。

 

おもち…最高!!

ぐへへへへっ。

 

…しかし、幸せは長くは続かない。

 

「…何してんだ、須賀?」

 

突如後ろから掛けられる声にハッとする。

ゆっくりと振り返ると、そこにはさきほどの試合で見事勝利を収めた、プロ雀士兼お隣さんの三尋木咏がいたのだった。

 

彼女はとても優しそうな笑みを浮かべているが、目が全く笑っていない。

声にも明らかに怒気が含まれていて、彼女が怒っているのが一目瞭然だった。

 

ま、まずい!

何がまずいのかはよく分からないが、何となくこのままではいけない気がした。

どうにかして言い訳をしないと…多分ヤられる!

 

何とか彼女の怒りを静めようと頭をひねっているうちに、自分よりも先に答えたのは、今なお腕に抱き着いておもちをあててくるはやりさんだった。

 

「あれれ~?こんなところにお子様が~、迷子ですか~??」

 

ピキリと三尋木さんの額に青筋が浮かぶ。

まさかの人が、いきなり三尋木さんを煽り始めたのだった。

 

え、ちょ、何言ってるのこの人⁉

 

あまりの衝撃に口を挟むことが出来ない京太郎は、ただその成り行きを見ていることしかできなかった。

 

「あっれー、おっかしいねぃ。こんなところに年不相応の格好したおばさんがいるけど、何でかなー。わっかんねー」

 

売り言葉に買い言葉。

俺を挟んだ二人はバチバチと火花を散らし、今にも掴み掛かるのではないかと思うほどだった。

 

てかこの二人は知り合いなのか?

 

そんなことを思っていると、一瞬の隙を突いて三尋木さんが俺の腕を引っ張り、はやりさんから引き剥がすことに成功する。

 

あっ…おもち…

 

アホなことを考えているのも束の間、俺はお尻を扇子で思い切り叩かれたのだった。

 

「いった!ちょ、三尋木さん」

 

「どういうことか説明してもらおうか、須賀?」

 

俺の抗議の声は、圧倒的火力によりかき消されてしまう。

今の彼女に決して逆らってはいけない。

直感でそう感じたのだった。

 

「さ、さっきそこでぶつかってしまって。それで起こしてあげただけです…」

 

俺は事情を端的に話して彼女を落ち着けようとする。

しかし、そこに火に油を注ぐ存在がいた。

 

「そんな京太郎君!あんなことまでしておいて、私とは遊びだったの?ひどい!」

 

おいおいと嘘泣きを始めるはやりさん。

それに対して、三尋木さんがさらに火力を上げる。

 

「すーがー…どういうことだ?ああん?」

 

「い、いえ違います!俺は何にも!!」

 

必死で無罪を主張する。

あんなことって言われても身に覚えがない。

せいぜい腕に当たるおもちの感触を楽しんだだけだ。

 

「京太郎君、あなたが遊びでも私は本気だよ?」

 

「ちょ、はやりさん!いい加減にしてくださいよ!」

 

いつまでもふざけるはやりさん。

この人は何がしたいんだ⁉

こんなことばっか言って三尋木さんが怒らないわけが…

 

見ると彼女は、やはり見るからに怒っている。

しかし、その怒りは先ほどとは少し代わり別の方向へと向いていた。

 

「さっきから聞いてりゃ京太郎君京太郎君って、どういうことだい?それからはやりさんって呼んでるし…」

 

彼女が気になったのは俺たちが何をしていたかということよりも、どうしてお互いに下の名前で呼びあっているかということのようだった。

何でそんなこと気にするんだ?

不思議に思っていると、それに答えたのははやりさんだった。

 

「べっつに~?京太郎君は京太郎君だし、私は下の名前で呼んでってお願いしただけだよー☆」

 

ことも無げに答える彼女は、どこか自慢気であった。

それに対して三尋木さんは、ぐぬぬっと狼狽えている。

そしてはやりさんは、さらにそこに追い討ちをかける。

 

「それよりー、咏ちゃんこそ、京太郎君とはどういう関係なの???」

 

「別にー?ただの、マンションのお隣さん、だけど?」

 

負けじと胸を張って答える三尋木さんだったが、それは失敗だった。

肉食獣の目がキラリと光る。

 

「えー!?お隣さんなのに名字呼びなの~?会ったばかりのはやりですら下の名前呼びなのに~???」

 

どこまでも嫌らしく言うはやりさん。

 

先ほどから思ったのだが、どうやらこの二人は相当に仲が悪いらしい。

そんでもって、はやりさんが平気で三尋木さんの身長のことをいじるあたりから、三尋木さんが謹慎の原因になることを言ったのはこの人だと簡単に想像がついた。

てかこの人しかありない。

 

何て言うか、子供の喧嘩みたいだな…

 

もはやこの状況に慣れつつある京太郎は、少し達観して今の状況を冷静に見ていた。

というより、もうどうにでもなれと半ば諦めいた。

 

「な、な、別にいいだろ呼び方なんて!」

 

「あれれ~、先に名前のこと言ってきたのはそっちじゃないの~???」

 

「うっ、うっせー!別にそんな気にしてないし!てか、下の名前呼びくらい、全然できっから!」

 

「ふーん?じゃあ今やってみせてよ☆」

 

「あ、ああ、いいぜ?余裕っでやってやんよ!」

 

若干涙目な三尋木さんは、必死ではやりさんに対抗する。

というか、別にお隣さん同士だったら名字呼びでも何もおかしくないのだが…

 

冷静に分析する京太郎だが、彼女の方はそうではない。

半ばヤケになりながら、俺の方をじっと見つめてくる。

潤んだ瞳と上目遣いにドキっとした心臓だったが、次の彼女の言葉によりいっそうドキドキすることとなるのだった。

 

 

「…きょ、きょう……きょうた、ろう…」

 

 

どんどん尻すぼみになっていく彼女の声は、しかし、はっきりと俺の名前を呼んだのだった。

 

「…っ」

 

瞬時に顔が熱くなる。

ただ名前を呼ばれただけなのに、心拍数が一気に上昇するのがわかった。

そして胸の辺りがポカポカと温かくなってくる。

 

な、なんだろう。この気持ちは…

 

自分でもわからない胸の高鳴り。

京太郎は、プルプルと震えながら一生懸命に何かを堪えている目の前の彼女を直視することができなかった。

きっと今の自分も、彼女と同じような顔をしているのだろう。

そう思うと、余計に恥ずかしさがこみあげてくるのだった。

 

「ほ、ほら!今度はそ、そっちの番、だぜ…」

 

恥ずかしさを誤魔化すようにそう言う彼女は、弱々しく、それでも何か期待するような眼差しを俺に向けてくる。

 

そ、そんなに見つめられても…

 

たかが彼女の名前を呼ぶだけだというのに、なんだろうこの恥ずかしさは。

顔の火照りがおさまらない。

心臓は今までにないくらい早く胸を打ち、今にも破裂しそうなほどだった。

 

「…は、はやくしろよっ…」

 

少しいじけたように上目遣いで訴えてくる彼女に、何とも言えない感情が胸からこみ上げてくる。

体の中で何かが暴れまわっているようだった。

 

しかし、いつまでもそんなことを考えていても仕方がない。

 

…ええい!覚悟を決めろ!

いつまでも待たせるのももうしわけない。

名前を呼ぶだけだ。

ここは腹をくくってやってやる!

 

そう決意して口を開こうとしたその時、

 

 

「みんなお疲れ様~」

 

 

そう言って現れたのは、今日の試合の解説をしていた小鍛治さんだった。

 

「「「……」」」

 

「咏ちゃんもお疲れ様。いい試合だったねー」

 

労いの言葉をかけてくれる彼女だったが、今はその時ではない。

明らかに漂う空気がおかしいことに気がついた小鍛治さんは、「あれ?」と言って気まずそうな顔をした。

 

「もしかして私、お邪魔だった…?」

 

そう言って顔色を伺うが時すでに遅し…

俺の目の前にいる小さな彼女は、とうとう怒りを爆発させてしまったのだった。

 

「うがあぁぁぁぁ!!」

 

「う、咏ちゃん?」

 

「すこやんのバカ!今いいところだったのに!」

 

「え⁉あ、その、ごめん」

 

「うっせー!このいきおくれアラフォーが!」

 

「ひどいよ!後、私まだアラサーだよ!」

 

名前を呼ばれるのを邪魔された三尋木さんは憤慨し、小鍛治さんに罵声を浴びせる。

そしてやっかいなことに、そこにはやりさんも参戦するのだった。

 

「すこやんナイス!いい仕事したね☆」

 

「ちょ、瑞原さんいたんですか⁉」

 

「さすがアラフォーなだけあるよ☆」

 

「お前もアラフォーだろうがこの牛乳女!」

 

「残念でしたー、私はまだアラサーですー☆」

 

「私もアラサーだよ!」

 

何故かやたら年齢の話が出てくるこの喧嘩。

 

てかはやりさんアラサーなのか⁉

信じられない…

それに小鍛治さんにいたってはアラフォーだなんて…

人は見た目によらないんだなあ。

 

もうこの状況に諦めている京太郎は、呑気にそんなことを考えていた。

てか完全に俺の存在忘れられてない?

 

「全くもう!もう少しで京太郎に名前呼んでもらえたのに…」

 

「え、どうしたの?」

 

「うっせーアラフォー!」

 

「ひどい!」

 

「てゆーか何気に咏ちゃん、京太郎君のこと名前で呼んでるね(笑)」

 

「い、いいだろ別に!私は絶対に、お前には負けないかんな!」

 

「お子様じゃあ、牌のお姉さんには勝てないんじゃないかな???」

 

「牌のお姉さん(笑)」

 

「ああん?」

 

「二人とも落ち着きなよ!」

 

「「アラフォーは黙ってて!!」」

 

ヤンヤンワーワーと続く口論。

だんだん内容が可哀想な感じになってきているが気にしないことにする。

 

大人の女性の喧嘩ってちょっと醜いなー、とか全然思ったりしていない。

 

てかひたすらアラフォーって言われ続ける小鍛治さん可哀想だなー。

そんなことを思っていると、それは突如起こった。

 

流石に我慢の限界が来たのだろう。

プルプルと体を震わせていた小鍛治さんの体から、大量のどす黒い何かが放出されたのだった。

 

「私はまだ、アラサーだよぉぉぉぉぉ!!」

 

彼女が叫んだ瞬間、パリんとガラスが割れる音と共に目の前が真っ暗になった。

会場の至るところから悲鳴があがり、会場中全ての照明類が割れたことにより停電が起こったのだった。

 

 

「「「「…………」」」」

 

 

本当にオーラで照明って割れるんだなぁ。

 

この日の後、小鍛治さんは麻雀協会から1ヶ月の謹慎を言い渡されるのであった。

 

 

 




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