念獣?神様?それとも稲荷?な御狐様奇譚 (弥生月 霊華)
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社の主なればこそ、神託を
神託其の一 御狐様と神の物の子


御狐様が神様だった頃第一話、時は原作の二千年前と言う、私達で例えると卑弥呼様がいた時代。

今回は日照り続きの年の事、存在を維持するのに必死な神様の気まぐれによる物語。


何時からかは解らないけれど、気が付けば漠然とそこに存在していた。

 

人型をとれば金髪長身、稲荷の御狐様として存在している獣。獣の型をとればその大きさ、化け物と呼ばれるには十分な要素となる。一般の人には見えないし、そもそも高貴な気品あふれる神としてあがめられて居なければの話だが。来る日も来る日も石像に向かって念じられ、それが何年も何十年も何十人と代替わりしていくのだ。像を核とした念獣の様な物が出来てもおかしくはない。

それに加え、数多の人間は御狐様を信仰して死んでいくのだ。つもりに積もって死後の念とも組み合わされ強力な念獣、もとい神が生まれる事など時を重ねれば容易な事だ。

鰯の頭も信心から、などと言うことわざがある国だからこそ起こった現象なのだろう。そんな御狐様の物語。

 

「御狐様、どうか雨を降らせてください」

 

(ここの所、良うあの少女がそうせがんで来る。雨を降らすなど、些細な事。なれど近年は豊作続きじゃった故信仰が離れていく。そうなっては我も困るでな、少したたりと言うモノを味わえばよい)

社の上、必死に願う少女を残酷に見下すは御狐様。それは自分の存在意義のために授かった力を使っていた。慈悲を持っていようとも、所詮は畏れを求める神。そう形作られ、そうして存在してきたもの。だから御狐様は、少女を見捨てた。

「死にたくありません、どうか」

(生贄、か。私にとっては有りがたいものだな)

自分に思いが向けられて死ぬ、それが御狐様のごちそうだった。それが怨念だろうと、信仰だろうと。

(本当に生贄ならば、夕立位降らせてみるかの)

最近は特にひどい日照りが続いている。畑にやる分どころか自分たちの飲む分さえないのだからどんどん脱水症状で倒れていく。川ももうすぐ枯れてしまうだろう。井戸を掘り起こすのに必死になっている人が多い。今年の作物は諦めた方が良いと言われている位だ。別に食べる者に困っている訳では無い。だって近年は豊作だったのだから。それでも水が無いだけで人が死んでいくのだ。

(人とは不便な物だ。……そんな人から生まれ、支えられねば存在出来ぬ我も、な)

 

来る日も来る日も、少女はお参りに来た。

(何故来るのか、我は恨まれようが構わぬのにな)

服は毎日同じ物を着ている事から、貧乏なのだろうと推測していた。そして一刻ほど祈って帰って行く。この日は何の気まぐれか、御狐様は姿を子狐に変えその少女の後を憑けた。社の外に出るには人に憑くしかない。狐憑きと呼ばれる術で、狐の概念そのものである御狐様と同一視される、妖狐の使えるとされる術である。

同一視されると言うよりも、御狐様は福をもたらし妖狐は御狐様の祟り役とされる伝承がその地方に多かった。

社のある山を下り、森を抜けた先の、社へのお参り客目当ての宿泊や物の流通が盛んな町へと少女は向かう。どこに家が有るのかと思ったら、社とは反対側のボロ屋敷に住んでいるみたいだった。

(大人の住んでいる気配が無い。孤児か、なれば贄となるのも時間の問題)

生きるために必要な物は揃ってはいるが全てお古と解るレベルの使い古された道具だった。そして家にある食材で料理しはじめる少女。その動作に無駄はなく長い事同じことをしている事が解る。

(子供は七つまで神の物とは良く言ったものだ。六つに成ったか解らぬような娘)

特に気になる事も無かったため、憑くのをやめ御狐様は社に帰った。子狐の姿を、狐の姿に成っている時は人に姿を現している時だ。そして人型を取っている時は姿を隠している時と見せている時との二択だ。自在に姿を見せる事も出来るがそれをしない。それは自分への勝手な願掛けを避けるためである。気軽に何でも願われて叶えていたら身がいくつあっても足りない。それに御狐様は多くの人が念じる思い(オーラ)や死んでいくときに信用、信頼、信仰している物への執着(死後の念)によって構成された念獣なのだ。

(よくよく見れば可愛ゆい娘であった。力も有るのだし神託を託して巫女にするも面白い)

微弱に流れる力を目覚めさせ生涯使えるが良いか、微弱な力を生への執着にして取り込むも良い。そう御狐様は考える。自分にとって力となるのはどちらがいいか。あの娘の様な七つに成る前の孤児など生贄として必要ならいくらでも探し出して捧げるだろう。雨が降らないたびにそうなるのも悪くはない。そう考えるがもし毎年必要だと考えられてしまったらそれはそれで面倒だとも考える。

 

「御狐様、どうか雨を降らせてください」

少女だけでなく色々な人間が、神主も巫女も弟子も参拝客も願う事は同じだった。それでも一刻近い時間祈っている参拝客はあの少女だけだった。

(飽きもせずに良く来るものだ。確か、明日だっただろうに)

生贄を捧げる準備でどたばたとしている神主たち。あわただしくて一人一人の願いを聞く余裕さえない。それでもあの少女はお参りに来ていた。そしてそのまま巫女に社の中へと案内されていく。なけなしの水を使って禊をさせる。その様子をずっと、御狐様はただ見て居るだけだった。自分の事だけを考えながら。

 

祭壇の上に捧げられた少女は、死んだような目をしていた。もう既に儀式を終えて神主さえも自らの家へと返った。松明に灯された火が揺らめいていて、それ以外は闇に包まれている真夜中の事。さんざん考えて、御狐様は大きな狐となって闇の中から現れた。

「ヒィ!お、御狐様?!」

少女は少しだけ後ずさった。美しくも恐ろしい大狐は静かに清められた少女を噛み、背中に乗せた。

「え?」

そして、御狐様は少女を背中に乗せたまま星の夜を飛んだ。大狐に乗せられた少女は背にしがみついてその景色を見た。

「美しかろう」

初めて御狐様は声を発した。少女は驚いたが小さな声で頷いた。そして慈悲深い安心できる優しい声をかけられて、少女は涙を流した。

「雨雲を探しなさい。お前なら見つけられるだろう。お前はまだ神の物なのだから」

夜を飛ぶ狐。もしも生贄をそのまま返せば今度は確実に殺される可能性の方が高かった。だから雨雲を探させたのだ。そうすれば、雨と同時に帰る事が出来るから。

「あっち!星が見えないから雲が有るとおもう、ます」

前方右側を指さして少女は叫んだ。夜風は昼間の風よりもはるかに冷たくて気持ち良かった。御狐様は空を駆ける様に飛び雨雲の方へと向かっていく。そして少女に語り掛けた。それは入れ知恵に近い物で、ある種神託でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

日が昇った時、町の者達は騒然としていた。生贄とした少女が消えたのだ。きっと逃げ出したのだろうと考える人々は口々に怒鳴ったり可愛そうな事をしたとひそひそと話したりしている。神主が必死に取り繕い、御狐様が妖狐へと変わらぬ様に祈り文を口にしている。

そんな神主の元へ、一滴の水滴が落ちた。神主が驚いて顔を上げると同時に振り始める雨。町人はそれを喜んだ。

「あ、あれは!?」

神主も一安心で祭壇へと視線を向けると、木造りの祭壇の向かい側の森から現れる、贄を横に連れた壮麗な獣。

「御狐様?!」

「御狐様だ!」

人の子は口々に礼を述べ、礼に準じる。神の厳麗なるお姿を見る事が出来たなら、一生を幸福で埋める事が出来るだろうと言われるその姿。そして、贄の少女は狐よりも一歩前に進み出て、進言した。

「神託を授ける!丑の門近くに御狐様のお姿を模った物を奉るべし!これ即ち御狐様の命で有られる!」

雨の中、少女は神託を、御狐様の入れ知恵の通りに堂々たる態度で宣言した。大狐はそれを見届けると昨晩の、夜闇を飛んだ時の様に空へと駆ける。そして雨雲の中に消えていくのだった。

 

 

 

 

 

 

「近年の豊作、誠にありがとうございます」

数年後、少女は成長し立派な巫女として社に仕えていた。あの一夜の事は忘れられない。何故ならば御狐様が教えた事、即ち雨雲を操作して呼び寄せる技であり、術だったからだ。この時はまだ遠い未来では全て念能力で片づけられてしまうほどの事。それでも彼女は感謝した。一生をこの神様に与え、そして命散らす時にはそのお力の一部に成れれば良いと願いながら。

{待っている}

時々聞こえる声を支えに、巫女様は修行と人への説法に明け暮れるのだった。

 

(あの娘が死す時、あの娘の力は我が物になる。それに生きている限り我の身を保証してくれるのだと思えば、アレは安いモノだったか)

時々助言をしながらもじっと見ているだけの御狐様は、社の上で捕ったタヌキの皮算用をするのだった。





巫女様はゆくゆくは神託を下す神主よりも偉い位を手に入れる事に成ります。勿論死後はきっちりその魂を御狐様に頂かれますが。
御狐様に性別は有りません。その時代によって御狐様=男と言うイメージが人の中で多きれば男。=女と言うイメージが多ければ女に成る設定。だから萌えアニメとかめっちゃ美人の狐の登場するゲームがある原作時では女性に成る予定。


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神託其の二 御狐様の初陣記

具体的な年数は出さないで置きますが、取りあえず戦国時代モチーフという事を頭に入れておいてください。

また、自己解釈で言葉を使っていますが、この世界観ではそうなのだと思っていてください。


(最近、人間が騒がしい)

最近、社に参拝する人間が爆発的に増えた。見れば皆農村の女子供で、口々に父親や夫の無事を祈っている。時々税を負担できるだけの豊作を願う事も有る。たまに野の焼けた匂いが辺りを漂う事からも、戦が行われているのだろう。

「どうか~~~~~の国の~~~~~の命に勝利をもたらしたまえ」

神主も毎日のごとく同じことを、日に日に力強く唱え念じそして勝利と平穏を願う。皮肉かな、こんな時ばかり御狐様への信仰は高まるばかりだ。それも足軽などの一人一人ではどうしようもない権力を持たない者達ばかりから。死後の()を喰らうとされる妖狐と同一視されているのだから力が高まるのは当たり前の事でもあるのだが。御狐様も、所詮は人の空想や狐自体の概念の寄せ集めに過ぎないという事か。存在し始めてから随分と年月が経って手入れをしようともボロボロになっていく社に住まう御狐様は、考える。どうすれば更に信仰を集める事が出来るのかを。

(戦に赴くも面倒だが価値がある。もし負ければ人の心は移ろうだろうか。信仰の制限などされてはたまった物じゃない)

御狐様は人の子を見守っているだけの存在。何時までも我らの栄光を見守りたまえと祝詞にも記されているし、それが本来の有り方だった。それだけではいつかは途絶えてしまうだろうか?飴と鞭で上手く人心を掌握してきた御狐様は、判断を下した。合戦が行われているとされる、野が有る方向のずっと遠くを見つめた。今も人は死んでいるのだろう。近隣の住民の怯え具合からして負け続きなのだろうと予測して、人型のまま、人には見えない姿のまま合戦の場へと跳んでいく。

この時代には、まだ念能力は仙人や超人などの使える技として、世捨て人のみの力と権力者の中では通っていた。勿論この国、後のジャポンだからという事もあるが、明らかに人では無い力を使える物は少なかった。その分、力の強い者が多く、世捨て人を上手く取り込んだ国はそれだけで戦況を傾ける事が出来るほどには。

合戦を上から見れば、一回休戦。つまりは陣の引き直しを両陣営は行っていた。社の有る国の陣営は青色、敵陣である赤陣営よりも数が少し少ない様に見え、劣勢なのは明らかだった。

(青陣営に白い霧……どこぞの地仙の端くれの術か?それにしては大規模な)

白い霧が薄っすらと立ち込める自陣営、心なしか皆諦め絶望し生を諦めた様な位表情をしている。対極的に赤陣営は活気づいており終わっても居ない戦争の祝杯を挙げ得居る様だった。敵陣営の垂れ幕の中、そこから発せられる力を原因と見た御狐様は、自陣営勝利のために動き出したのだった。

 

 

念能力とは、様々な制約と誓約の元強力な技として昇華して行く物である。時の者達はそれを仙術だの妖術だの神通力だのともてはやしているが、実際に使えるのはほんの一握りと言って良いだろう。だから、才能が無くて破門された仙人もどきの技でも強固な制約を重ねたうえで戦況を傾ける事が出来るのである。

垂れ幕の中、人払いがされ簡易的な祭壇の上で術者は練を続ける。彼は放出系に属していたのだろうと後の御狐様は考える。大した効力も無いが霧を発生させ気分を最悪に、体調を物凄く悪化させる。この霧を広範囲に発生させるのであればそれこそこの戦争限定でも、日中しか効果が無くても、術中に着る服や周りの環境を定めていても、集中力が居るのだろう。だから気の散らない様に警護が完璧な垂れ幕の中で儀式をしていると権力者には言っているのだ。だからここには、人が来るはずなんてない。虫よけの香も焚いてるのだし、生命自体がこの膜の中に入る事など有り得なかった。

「ご苦労な事よのう」

御狐様は人の形のまま術者にその姿を見せたのだ。

「!何だお前は!どこから入って……、あっ、え、衛へ」

「静かにしいや」

術者は驚き、衛兵を呼ぼうとするも、御狐様に爪を首に充てられてしまう。殺気を浴びた事が有ったからとか無かったからとか、そんな経験の差があるから術者は固まった………訳でも無い。術者が固まったのは他でも無い、有り得ない、見た事が無いそれこそ妖の様なモノを見て、理解不能に陥ったのだ。

「おまっ、貴女は、一体?」

がくがくと震え、錬も切れ、無様にしりもちをついたまま後ずさろうとするも動けない術者。爪はもう首から離れているが、それに気が付いていない様に怯えている。

「神託を下そう。今すぐにその術を解け、そして山にこもるがいい」

ゆったりと抑揚のない声で命じるが、そんな事を聞き入れるだけの冷静さも失っている術者はただ怯えるだけだった。

(壊れたか?)

そして御狐様は姿を消した。神隠しの様に少しの煙と絶とかの演出で消えて見せた。

 

その脅しの効果は無かった。霧が止むことは無かったのだ。

脅しの二日後、丁度お昼時の事だった。赤陣営では頼みの綱の術者が死体で見つかった。明らかに獣の爪で喉元を掻っ切られたかの様な死体だった。一方青陣営では、御狐様が出現した話が出回り兵士たちの士気が爆上がりしていた。多くの足軽が空を舞う姿を見たのだった。

赤陣営では上層部の術者が死んだ事による無能っぷりが発覚し、士気はダダ下がり。その日の合戦で随分青陣営の勝利一歩手前まで追いつめる事が出来た。

 

 

 

 

(暇じゃ、御神酒も供え物も有るのに皆祭りでは無く宴会を開いてばかり。面白くないの)

勝利の宴会を村ごとに開き、御狐様のお守りが売れ社の改築が決まり、形ばかりの信仰しかない人間に悪態をつく御狐様。

(やはり飴だけでは人の心は集まらないのだろうな)

人と関わるのがいい加減面倒に成って来た御狐様。定位置である社の屋根から祭りと言う名の宴会を眺めている。もうすぐ夜に成ると言う時、父親が戦から帰って来た事を喜び祈りを捧げる子供がいた。

「ありがとうございます御狐様」

何度も何度も笑顔で繰り返す五歳位の童、一人だけ遊びもせずにずっとそうして居るものだからつい見入ってしまった。

(あの童、神童か)

神童とは、要するに前話の巫女に成った少女などの、念能力の才能が有る人間の事を指している。(御狐様にとって)

それと同時に、神に気に入られた者、つまり自分が気に入った人間の事としても御狐様は使っていた。

 

 

数日後、近隣の御狐様に良く参拝していた人は一人も死んでいないと言う事実が発覚して信者が倍増したそうな。




信心深き人の子は、御狐様から神童の名を頂いた。彼はそれを知らずとも教えどころで一番の成績を取り、そして面倒見のいい青年になって行くと言う。御狐様の見守る、信心深き平民の一生。

次回、神託其の三 御狐様と町民の一生   お楽しみに!












すいません、やって見たかったんです。 


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神託其の三 御狐様と町民の一生

平々凡々な平民は、家長は家業を継ぐが一番良しとされ、他は嫁に行くなり婿に出るなり出家するなりが理想とされている。御狐様は社から出た事があまりなく、勿論知ってはいるが実際にそれがどういう事なのかは知らないのだった。

(そもそも人の子は何人ほど一家庭から生まれるのじゃ?)

少なくて一人、多くても四人くらいだろうと思われる。しかし御狐様にこの文章は読めないのだから、ちょうどいいサンプルとして、戦争以来毎日社に参る神童を見守る事にした。ただ見ているだけ成ればと、社の奥深くに飾ってある鏡に術をかけて、彼を監視し始めた。

 

『英二~!御飯だから明子と太郎を呼んできて!』

『はい、母さん』

台所で呼びかける気の強そうな女性と、それに答えるは居間で竹籠を編んでいた神童。手を一旦止め、外へと自分の兄弟たちを呼びに行く。

(子は母に従うモノと聞いたが、従属している訳でも無いのだな)

人(物凄い大人数)から生まれた御狐様にとっては、両親からの愛情がどうのこうのは全く理解できなかった。必要も無いと思っていたが、それがいつか信仰を集める手掛かりに成るのではと思って、研究者の気持ちで観察を続けた。

 

 

次に御狐様が興味を持ったのは、教えどころでの出来事。

『こら明子!教えどころに来ちゃだめだろう!』

(ふむ、明子は学ぶ必要が無いのか?男しかいないのはそのせいか)

要するに、そう言う事である。人間の文化を良く知らない御狐様にとって、現代では男女差別と名称される文化など知る由も無かったのだ。故に鏡に向かって憤慨する。

(全く、男女の差を生かそうとは考えぬのか。女は家を守るなどと言う考えを捨てぬ限りは何れ衰退するだろうに)

盛者必衰の理。即ち変わらないモノは何時か薄れて壊れていく。改良を加えようが無くなった時点でそれは壊れ消えていく。

(文化を大事にしたところで、完璧なシステムなど有り得はしない。臨機応変が一番だと言うのにのぉ)

こういう、頭が固い所が愚かだと思われる原因なのだろうかと思う。

『でも!お兄ちゃんと一緒に居たい!』

明子と呼ばれた少女は必死に神童の裾を掴んで一緒に居ようとごねる。兎に角、泣いてごねる。

(なんじゃ、学びに来たのではないのか)

 

 

人の一生、その間には色々有るのだろう。特にこの時代に良くあったのはお見合い結婚と呼ばれるもの。しかし、御狐様が神童と言った彼は次男坊。故に結婚するのであれば婿として家を出る事に等しかった。

この年に成ると神童にはあてはめられなくなる物で、御狐様の労力が増えた事は蛇足として付け加えておく。(神童と名するのが見守る(ストーカーする)制約だった)

(本人達の婚姻なのだよな?何故本人たち以外が盛り上がっておる)

この時代、恋愛結婚何て有り得ないに等しかった。もしくは、お偉いさんの娘か息子が一方的に婚姻を結ぶことはままあった。けど、それよりも不可解なのは、御狐様に理解しえない事とは、

(一々他の社に行く事など信じられん)

自分の社以外にもお参りする事だ。まぁ、御狐様にとっては面白くないのだろうが。

 

 

人の一生は何が有るか解らない。この時代、子供を産むという事は女性にとって命がけ。

御狐様にとっては命を懸けて命をつなぐ事に意味を見出す事は出来なかった。

英二は妻とした人を、無くしたのだ。子は残ったため、世に言うシングルファザーとなった。鬱状態になりつつも何とか娘を育てる神童に、御狐様は何となくお情けをかけた。

「きちゅね~、かあい!」

子狐として娘の遊び相手に成ってあげることが有ったのだ。その時でさえ、社参りを怠らなかった英二のため。死なせてしまったらどうなるか解らなかったと言うのも有る。勿論僧に成るかもしれないと思ったけれど、御狐様はその可能性を無視して一生を観察する事に決めたのだ。

 

 

飢饉が起きた。子供が有る程度育ってきた時の事だ。その時は生贄の文化が有った、けれど今度は直球に口減らしとして殺される文化しかない。

(罰当たりな、命を壊すと言う意味を理解しているのだろうか?)

御狐様だって幼子の(死後の念)は有る程度純粋で取り込むのに苦労が無い。正直言って、死後の念は取り込む際にその人の未練まで受け継ぐせいで取り込むのに苦労する。その未練を消化するのにも時間が掛かるし、怨みを晴らす事だって労力が必要なのだから。

そんな事が必要のない時間が解決する幼子の(死後の念)が良いとしても、命を繋ぐリレーに無暗に手を加えるのは良しとしない。

「済まないな、お主に罪はないんだ」

そう言って里の長老に森の中で放置される娘。その言葉の意味を娘自身は理解出来なかった。良く解らないまま森の中で待つように言い渡される。

(仕方ない)

御狐様は、神として崇められている絵と同じ装束を着て娘の前に現れる。

一日に一食と生きて行ける程度の水。それだけで少女は生き延びて、何時しか飢饉が終わった里へと帰って行った。

 

 

彼は、仕事も出来なくなった年に僧侶となった。神官に成るには少し年を取り過ぎたからだ。分霊のある寺へと出家し、自らの家を跡取りに継がせた。

(多分、こんなケースは珍しくとも幾度となく繰り返されてきたのだろう)

既に老い先短い老人の事など、気に掛けるまでも無かった。

(彼は、この世に未練(死後の念)を残さない)

それすなわち、御狐様にとって見張る事でさえ無駄な労力に成るという事。それでも鏡の術を解かないのは、

(単に気に入ったのか、気まぐれな慈悲か)

 

 

それだけの理由で、御狐様は不浄と言われるを見た。その光景は、穢れなんてもので括れなかった。

(まるで、花が散る様のようだな)

 





次回、御狐様が妖怪扱いされて、怒って放浪の旅に出ます。一週間以内に出したいけど、そろそろ学校始まるしなぁ。今の内に書き溜めときます。


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神託其の四 御狐様、妖怪扱いされる

平凡な人間が死んでから幾年経ち、御狐様は今日も人の事をただ見ている。見ているだけで、特に何かする訳でも無い。恐らく、と言うか十中八九それが祟ったが故の騒動だったのだろう。

「成程」

そんな呟きが聞こえた時点で、御狐様は姿を隠すべきだったのかもしれない。山伏みたいな男を社の上から見下ろして、何となく目が有ったと思った時点で。

「この社には妖怪が住み着いている!」

(もともと我は妖怪と同一だったモノなのだが。今更な)

山伏は大声を張り上げて民衆の注目を集めた。神主が慌てて飛び出て来たのをきっかけに参拝者からひそひそとした話し声が聞こえて来る。言っている事なんて耳を澄まさなくても解る位に顔が物語っている。御狐様に対して疑惑を持っている様子だった。

 

 

「___と言う訳でして、妖を退治してもよろしいでしょうか?」

 

「そう言う事でしたら、是非お願いします」

 

御狐様がどういう存在だったのか、段々と解らなくなっていったのだろうか。心が移ろう事に御狐様は美しさを見ている節があるが、これはには流石に怒りを覚えた。

 

(少しばかり、灸を据えてやらねばいけぬかもな)

 

自分の存在が居なくなるだけで、住みにくいこの土地は荒れ果てていくだろう。それだけで人は神を崇め奉り、畏れ、そして生贄をささげることも有る。山伏が何を思っているか解らないが、御狐様の事が見えるだけな人物だとは検討が付いていた。

 

「さて、そろそろ出てきたらどうだ!妖!」

 

「妖とは失礼だな」

 

人型を取った御狐様が、人目の付かない場所まで来た山伏の前に現れる。並大抵の者ならば、この時点で気が付くのだろうが、恐らくこいつは素人。そんな事すらも解らないのだからコイツは凝が出来るだけで止まっている初心者だ。

 

「お主の様な面妖なモノは成敗してくれるわ!」

 

(面倒な、一時消えれば心を戻せる、だろうな)

 

「成敗するまでも無い!我はこの地から去ろう。その時に後悔せぬことだな!」

 

御狐様は、そう言って狐に化け空の彼方へと飛び立った。山伏は経だか何だか良く解らないモノを必死に唱えているが、それらしいことをしているつもりなのだろう。本像がある社を長い事は慣れる事は出来ないが、それは御狐様の存在している時間に比べればの話である。

 

(勢い切って出て来たは良いモノの、しばらくどうして過ごすか。他の神の社にでも参るか)

 

次に人に見えない人型に成って空を飛んでいる御狐様の姿を捉えたのは御狐様の同種だった。

幾日かが過ぎ去って、御狐様は風の向くまま海の方面まで来た。人のふりをして、深くかぶり物をして髪の毛を隠す。それだけで人の世の中に溶け込めたのだった。

 

(ふむ、このあたりの社は我の所に匹敵するだけの大きさらしいな)

 

当時、ジャポン五大社と数えられている社が有った。この五つを全て一年以内に回れば、必ず極楽浄土に行けると言われているのだった。

勿論の事一つは御狐様の稲荷の社。そしてこの度御狐様が参った社もその一つ、人魚様と呼ばれる神が古来から祀られている社である。

 

「そこの狐様や、私の社に何か用かえ?」

 

何処からか聞こえて来る声に、御狐様は周囲を見回った。人の流れに逆らって、人よりもはるかに優れた耳が掴んだ声の聞こえて来る方角に向かっていく。後の絶と呼ばれる技を用いているため、立ち入り禁止の場所に立ち入っても誰も咎めることは無い。

 

「特に用はない。人が妖呼ばわりするから捨てて来た」

 

人魚そのものだった、人の作ったであろう神域に、彼女は居た。神としては珍しい、女性で固定されている神様は池のふちに腰を掛けていた。その神様に足は無く、代わりにあるのは魚の様な尾ひれだった。

 

「あら物騒な、でもそのおかげで噂されるほどの御狐様に会えたことには喜ぶべきか?」

 

「知らぬ、社に来たのも偶然じゃ」

 

冷たく言い返すも、人魚様はただくすくすと笑うだけ。煌びやかな礼装の袖で口を隠すしぐさをしながらも、人魚様は御狐様に聞いた。

 

「家出、いえ社出ね。をして、何か解った事は有るのかえ?」

 

「我と同種が居ると知れた事だな。余り出た事が無かった故、居るかもしれないと思っていただけだったのだが」

 

御狐様はそう言って池の傍に腰を掛けた。そして自分と同じ存在をじっと見つめる。現在の性別は男なだけに、少し不躾かも知れないと思ったが、両生類としてカウントしてもらおうと思った。性別なんて、彼にとってはどうでも良いのだ。

 

「そうなの?まぁ我も見知っている程度の物だけどな」

 

「他に誰ぞ居るのか?」

 

「東方面に福神様、北の島には鬼神様、御狐様の社のもっと先には龍神様。噂だけなら、海を越えた大陸にも居るらしい」

 

そんなにいるのか、そう思いつつも御狐様はここから一番近い社の場所を問う。人魚様曰く、それは福神様の所らしい。

 

「そう言えば、貴方は妖狐と同一視されておるんだったな」

 

人魚様が水の中に身を鎮め、顔と手だけが見える姿勢で御狐様の返答を待つ。

 

「そちらこそ。人魚は元は妖怪であろう?」

 

「何を言うか、水神様とも同一視されておるわ」

 

そう返される御狐様は透き通っていて、水底が簡単に見えてしまう池の水に手を付けてみる。それはとても冷たいのと同時に、不浄な念が一切感じられなかった。

 

「この水はな、私と同時に具現化された物じゃ。人から見れば我を奉る場所に勝手に水がわいて出たように見えるだろうな」

 

何故かとても得意げに言った。つまりは人魚様とこの冷たい水は一心同体と言ったものなのだろう。そう言えば礼装以外に特に付属品が無かったと御狐様は思う。

 

「まぁ良い。良い交流に成った。礼を言う」

 

「あら、お次はどこぞへ?」

 

立ち上がって飛び立とうとする御狐様に、人魚様は好奇心の入った含みのある、慈愛に満ちた表情で問うた。その問いに、御狐様は口元に笑みを浮かべて、悪戯っ子の様に答えた。

 

「まずは鬼神とやらにでも参ってみるわ」

 

その心は、あからさまに妖怪と同じに扱われやすい名前に、自分を重ねたからだろう。





次回予告、御狐様の初死闘



予定よりも第一章が長くなることが確定しました。簡単に言うと複線のためです。なんだかんだ、その内神様たちは自分の社に縛られる事も無く勝手に活動していく感じに成るので。

そうなるとどうしても原作キャラがどっかの神様の神童とか、それに関する御狐様と保護者みたいな他神様の葛藤とか、悪魔として登場する原作キャラとのすったもんだが書きたくなったので。



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神託其の五 御狐様の初死闘

(このあたりか、鬼神とやらが居る場所は)

 

御狐様が来た場所は、鬼神様が居る社の裏手。にぎわっている社は山の上にあり、その裏側には分霊と思わしき石像が有った。恐らくこれが核となって形成しているのだろう。御狐様も元は石像を元に具現化されたのだから、その辺は良く解っていた。

 

「狐が何の用だ」

 

石造を見上げていると、背後から殺気に満ちた声がした。振り返れば石造と同じ、武人の恰好をした鬼がそこに武器を構えていた。若い印象を植え付ける人で言う二十代くらいの容姿で、額には鬼の角がしっかりと生えていた。

 

「鬼神殿の社に参っていただけじゃ」

 

恐らくこの神は戦いの神なのだろう。それも割と近年に作られたのが格好と石像が出来た年号から解る。血の気の多いのはそれだけ畏怖の対象にされやすいのだろうが、少しは節度を知って欲しいと思う御狐様である。

 

「何を言うか妖め!拙者が成敗いたす!」

 

「ふざけるな!我もお主も同類じゃ、鬼と同一視されるお主なら解るじゃろう?」

 

懸命に訴えるも鬼神様は聞く耳を持っておらず、薙刀で切りかかる。御狐様はそれを避けて、人型の時のみ腰にさしている小刀を抜く。

 

「敵意を持っておらぬ相手に切りかかるとは、鬼神殿は大層良い神位にいると思われる」

 

「ふざけるで無い!本気でかかってまいれ!」

 

この時点で御狐様は察しました。

 

(こやつ、馬鹿だ)

 

幾ら近年生まれたからと言って、敵意全開でかかって来る者に対してそれを受け入れるだけの優しさは御狐様には無い。幼いが故に敵の力量も計れないのだろうと思って、御狐様は小刀を放った。

あからさまに戸惑う鬼神に、本性に変化して襲い掛かる。成人男性の三倍ほどある大きさの狐に対して、彼は硬直する事しか出来なかった。かろうじて構えていた薙刀など前足の爪で薙ぎ払い、そのまま鬼神を押し倒して抑え込む。

この時、僅か五秒も無い。

 

「ええい!離せ!」

 

身をよじって何とかしようとするも、存在する年数や信仰度によって力量が変化する神様と言う部類に居る限り、御狐様に適うのは随分先の話になってしまう。

 

「こちらが言いたい。話せ、そしてよく見てみろ。我が妖だと思うか?」

 

「うるさい!離さぬのなら!」

 

オーラ放出、と後に呼ばれる技術を用いて、御狐様から身を逃れる鬼神。御狐様が怯んだ隙に薙刀を広い、再び構える事から、流石戦いの神とされるだけは有るのだと思った。

 

「猪口才な青二才が何をほざくか」

 

完全に頭に血が上った御狐様は、再び人型となって素早く移動し、そして鬼神のみぞおちに蹴りを入れようとする。

 

「ええい!拙者は神なるぞ!崇めよ!」

 

鬼神も完全に頭に血が上っているらしく、それを薙刀の柄の部分で振り払い、追撃として薙ぎ払う。それは当たるはずの無い一撃だったが、御狐様の礼装が少し切れてしまった。

 

「生まれて間もない奴が我に適うと?」

 

暫くの間、激闘の攻防戦が続いて行く。しかし、信仰などからくるオーラ量には御狐様に一日の長が有った。だから、鬼神は直ぐに自分のオーラを使い果たしても御狐様はまだ余裕が有ったのだ。

 

「何かいう事は有るか?」

 

力が完全に抜けてしまい、その場にうつ伏せで倒れ込んでいる鬼神に、御狐様は言う。血こそ流れていないが、双方礼装がボロボロであった。視線を何とか御狐様に向ける鬼神が見たものは、一陣の風と砂埃と共に礼装や汚れが消え一瞬で元通りの姿に成った御狐様である。

そこでようやく気が付いた。

 

「まさか、御狐様か?」

 

自分と同じ、大きな社を持ち人々の信仰で成り立っている存在だという事に。

 

「今更か、全く。自分の力量と相手の力量位考えよ」

 

神だという事に奢りを持って天狗に成っていたのだろう。その鼻を折られて驚き半分後悔半分な鬼神は、そんな力も無いだろうにいきなり起き上がって土下座をした。

 

「申し訳ない!こちらから参った事が無かったが故に顔を知らずに」

 

真っ青になって謝罪の言葉を入れている。こんなに頭を地面に近づけては角が刺さるんじゃないかとも思うが。

 

「どうでも良い。まさか鬼神様がこんなにも馬………短絡的だと思わなんだ」

 

意訳すると、どうでも良くないのが良く解るが鬼神の着眼点は御狐様の斜め上を行くのだった。

 

「この度の行いは言いなおさなくても構わぬ。存分に言って欲しい。それが拙者の反省につながる」

 

マジトーンでそんな事をほざくのだから、御狐様はあっけにとられてしまう。この間も土下座からは治っていない。

 

「はぁ、もう良い。良いから頭を上げよ」

 

単純思考の馬鹿とは言え、この地の神と言われる存在である鬼神に話を聞きに来たという事。御狐様は馬鹿の生で痛む頭を押さえながらため息をつく。

 

しかし、鬼神は力んでいるばかりで一向に頭を上げる様子が無い。

 

「あの、」

 

「どうした?」

 

この時点でとんでもなく嫌な予感がする御狐様。この期待を裏切って欲しいと願いながら聞いてみる。絶対にそうなのだと解っている。解っているのだ。この馬鹿がやりそうな事など本当に短い付き合いでは良く解る。

 

「角が、刺さって、ふん!……抜けない」

 

「もういい解った。馬鹿だろお主」

 

呆れるを通り越してどうでも良くなった御狐様は、鬼神の頭を蹴り上げた。その衝撃で抜けるが、同時に鬼神は気を失ってしまった。

 

(面倒だ、こいつの相手するの)

 

 

 

 

「いやー面目ない。重ね重ね申し訳ない」

 

「もういい、解ったから頭を上げよ」

 

猪突猛進、そんな言葉が良く似合う青年。もしも彼に角が無ければただの人としても生きられただろう。まぁ彼も人型に成ろうと思うえばなれるのだろうが。

 

「本題に入るが、お主の核はあの石像なのだろう?」

 

「ええ、まぁ正確にはあの中の水晶だ」

 

「水晶?」

 

水晶と言うと、この時代ではとんでもない貴重品であり重要文化財でも有った。それが石像の中に埋め込まれているとなると次第によっては大事件に発展する可能性すらあった。

 

「随分前に鬼を召還したとかで、いつの間にか拙者も存在していたのだから詳細は知らぬ」

 

「十分じゃ。ここで得られる情報はこれくらいだろうし、我は次に行くだけ」

 

「ああ待たれよ!その前に里を見てはくれぬか?」

 

「里?」

 

御狐様は怪訝に思う。このあたりには町は有れど里と言えるほどの小規模なところはない。しかしこの鬼神の口ぶりと性格からして嘘では無い事は明確なのだろう。

 

「此方じゃ。鬼を呼び出したのも、元をただせばあの里の祖先の方々だ」

 

案内するように森の奥へと進んで行く鬼神。特に付き合わない理由も無いので付いていくと、そこに有ったのは結界の様な物。眼くらまし程度だが、この里に来ようと思わなければ来れない様に仕組まれているのだろう。

 

(相当の術者が張ったのだろうな。それか、複数人による長きにわたっての物か)

 

見せられた里には子供たちは活気があふれているのに、どこか寂しそうな形相を見せる大人たちがいた。

 

「忍者の里、か?」

 

「ああ、拙者が一番に加護を与えねばならぬ里だ」

 

得意げに里を見下ろしている鬼神様。その横顔は慈愛に満ち溢れたものだった。

 

「忍者なれば、お主の様な戦の神に頼る事などないだろうに」

 

少なくとも念能力者なのだから姿を確認させる事くらい簡単だろう。だったら尚の事加護なんていらないはず。

 

「この地が何より好きだからな」

 

そう言って、鬼神は年相応に無邪気に笑った。彼は彼として存在する限り、何時までもこの里を守り続けるのだろう。もしくは一つのモノに執着した結果が何時しか忘れ去られた時も自我なき守り神として存在できるのかも知れなかった。

そして、きっと鬼を召還したと言うのはこの里出身の物なのだろう。いわば生みの親と言うモノ。

 

「それは、人ならば血の絆と言われるものなのかもな」

 

「そうなのだろうか?拙者には解らん」

 

鬼を召還しただけの力を持っているのならば、このように新しく出来る社に寄贈されてもおかしくはない。持ってる人から見れば不気味なもので不幸を呼び寄せるかもしれないのだから。

もう話す事は無いだろうと思った御狐様はあっけらかんとした鬼神に、今度こそ別れを告げる。

 

「いきなり済まなんだの。用が有ればまた来よう」

 

「次はどちらへ参られますか?」

 

見送りと言わんばかりに木の上に立っている鬼神と、本性姿で空を飛んでいる御狐様。ニヤリと笑って、御狐様は言った。

 

「次は滝の龍にでも会いに行くかの」

 

 







次回、神託其の六 御狐様と竜の滝


神様は神様なりの価値観を持っていて、それは到底人の価値観では測れず、且つ変わる事なんてない。自分の性格は全て誰かが想像して望んだモノ。生きている者に執着を見せようとも狂う事さえ許されはしない。そんな世界で生きるのもかなり固っ苦しいでしょうね。


さて、次回で複線張りは終了です。本筋の物語に戻ります。シリアス回の予定、有る程度ギャグっぽいのは神託章が終わったら出てくる予定。


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神託其の六 御狐様と竜の滝

「歓迎いたすよ、御狐殿」

 

「それは有りがたい。それに加え、この度はいきなりの訪問、申し訳ない」

 

社についたと同時に、龍神に迎え入れられた御狐様。現在は神域である茶の間でお茶をいただいている。龍神様の社は山を登った崖の近くで、修行僧しか入れない場所にある。だからこそ、掃除する時か儀式の時しか入られない場所なんて山とある。

龍神様の容姿は、まさに龍のような老人でありながら隙の無い武人の様で、齢は御狐様と同じかそれ以上だろう。礼装は柔道着の様な質素な物と言うのが、それを更に引き立てていた。

 

「いえ、御狐殿には常々お会いしたいと思っていた。訪問していただき本当に有りがたい」

 

「そんなにかしこまられてもな」

 

何だか気恥ずかしくなって、御狐様は神域の部屋を見回す。滝の、水の落ちていく音が聞こえるこの地は、確かに修行をするにはもってこいの場所だろう。

 

「そう言えば、御狐殿は石像が核なのだろう?」

 

「ええ。そう言う龍神様は?」

 

話しのネタを言ってくれた龍神は、お茶を手にあったまりながら聞いた。御狐様は肯定しながら龍神様の事を聞いた。そう言うと、龍神様はお茶を置いて立ち上がり、付いてくるように手招きした。

トン、と軽く飛ぶと、そのまま空中に浮遊する龍神は、にっこりと笑って付いて来てくれと言う様に再び手招きする。

不思議に思いながらも飛び立って付いていくと、滝の裏側に回れる空間が、社の下の崖に有った。飛ばないと来る事なんて絶対に不可能な位の角度にある空間。そこに降り立つと、滝の裏側を見上げるように得意げに滝の裏を指さした。

見上げると、そこには滝の裏の岩全体に掘られた大きな龍の彫刻。目を見張るような細かい彫刻。見事なまでのくだり龍。

 

「凄い」

 

思わず出た言葉、ここまでの物を人間が作り上げるなど、考えられなかった。御狐様がここまで驚くのは初めての事だろう。

 

「私はね、水の力でいつかは消えてしまうんだ。滝は常に岩を削っている。後数百年もすればこの彫刻は水に浸蝕されて消えるんだ」

 

悲しそうな声で、哀しそうな表情で自分の核となっている彫刻を見上げる龍神様。感慨深いものがあるのだろう。もう既に消えると言う運命に抗う気も無く、受け入れている龍神様に御狐様は一種の畏怖を覚えた。

 

「り、龍神様が、居たと言う事実と、その信仰が消えない限り、……消える事は、、無いと、思う」

 

言葉が震えてしまう。消えると言う事は、人で言う死ぬと同意義な事。自分が生きているかも定かでは無く、生まれた実感さえも無い御狐様だからこそ、消えるという事に対してとんでもない恐怖を感じるのだ。

 

「良いのだよ、仮にそうなったとしてもその時には私の神位は消えるだろう。龍の概念そのものに成るのだろうしな」

 

死と言うモノへの恐怖。人すべてが抱えていると思ったら、御狐様は人に対して尊敬の念を抱いた。それによって自分が支えられているのだと思ったら、自分がどんな存在なのかと思考の迷宮に陥ったように感じる。

明確には、御狐様が恐れるのは死では無い。忘れ去られて消える事。それはまさしく消滅であって、死などと言う転生と言う救いも、地獄で科される咎による罪の清算も出来ない事。

 

「我々の核が壊れた時にどうなるかなど、まだ前例のない事だから、かの」

 

「生無き(亡き)我ら。いつか消える事などあるのだろうか?」

 

水の落ちる音が心地よく耳に届き、水が落ちる際に生じる飛沫もそよ風もが心地よい。この滝の主である龍神の心境を再現しているものなのだろうか?御狐様には追及するなんて言う野暮な事は出来なかった。

 

「人の心から消え去れば、我らが居たと言う歴史さえも無くなるだろうな」

 

「我は消えぬ」

 

御狐様は絶対的な声で言った。そこにはある種の革新的な要素が有った。

 

「何か?」

 

怪訝に思った龍神様は聞いた。初老の優しい御爺さんの雰囲気は崩さない。

 

「我は、自我を失おうとも消えることは無い。幾人もの贄を取り込んだ。そのモノらの未練が消えない限り消える事さえ出来ぬ」

 

何時か死ぬ=生きている。その方程式は絶対的な物で覆ることは無い。未練が消えない限りは消えられない怨霊。その事を踏まえて考察すると、自我を失い抑止力の無くなった怨霊が暴れ回るかもしれない。

 

「何者にも侵されない場所も地位も有りはせぬ。存在する限りは絶対に」

 

行くときかが過ぎた時、修行僧の経を読む声が聞こえて来る。それは力強く抑揚のある声だった。龍の滝は彼らの師の師の……が作った物なのだろうか。その心意気は膨大な時間をリレーの様につながれていったのだろう。

 

「龍神様、我は、」

 

消える事さえできなくて、その時に自分に自我も理性も無くなる。それがどれほど恐ろしい事か。要するに人が思う祟りを、怨みの心が片っ端から試していくのだ。下手すれば彼の近くの場所に居る人間を全滅させてしまう可能性すらある。

 

「愛すべき人間を屠りたくはない」

 

「それは私もそうじゃ」

 

龍神様のそのお言葉を聞いたや否や、いたたまれなくなった御狐様は本性に変化して福神様の社へと向かうのだった。

 

その姿を見て、龍神様は朗らかな笑みを浮かべていたと言う。




敬老の日という事で、お爺さんみたいな龍神様を登場させてみました。

我が家には関係のない祝日ですが。祝うと祖母に物凄く怒られるので。


取りあえず目処は立っているので、今年中には原作に入れます。まぁそれまで大体十話位の話数稼ぎはさせていただきますが。今の所は短編集の様な形に成っていますが、それも話をはしょるためだったりするので、申し訳ないですが今しばらくお待ちください。


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神託其の七 御狐様と福と貧

福神様は、貧乏神様と一対の神様である。だから神童を選ぶときも貧乏神様の神童の中から福神様が福を授けて初めて福神様の神童となれるのだ。貧乏神様の神童で終わってしまう人間は一生貧乏で、それでいてねじまがった性格をしているのだ。故にそこまで同情することは無い。

 

そしてその一対の神様達は、とんでもなく仲が良いと言う。勿論の事、人がそう思っているなら事実そうなるのがこの神様たちの性質なのだ。

 

「御狐様がいらっしゃるとは~いや~めでたいめでたい!」

 

そう言って御狐様にお酌をしてくるふくよかで煌びやかな服を着、それでいて人の好さげな男性。

 

「ふんっ!用も無いのに来て持て成す等せんでも良いだろう!」

 

そう言って同じ部屋に居るボロボロの服を着たガリガリの御爺さんは自分で自分にお酌する。

 

「我はこの様なおもてなしされるために来たわけじゃないがな」

 

断るのも又一つの無礼として受けてはいるが、この一対の神様の仲を険悪にさせてしまうのも悪いと思う。頭を悩ませる御狐様に対して空けるたびにどんどん酒を注いでくる福神様。負けじと御狐様も注ぐが、なんだかんだ神様=酒豪のため潰すには三日位はかかるだろう。

 

「そう言えば御狐様はご存知かな?お主の社で今起こっている騒動を」

 

「騒動?我が居なくなったのだから一つや二つ起こってもおかしくないだろうが……」

 

そこで言葉を詰まらせた。あまりにも早すぎるのだ。物見遊山などを含めて各地の社を回り始めて早一月足らず、そんな期間で怪異が起こる等早すぎた。

 

「はん!御狐様は解ってない様じゃな!お主の社の周辺にはたくさんの物の怪が居ると言うのを!」

 

追撃して気分を下げようと言う魂胆が丸見えな貧乏神様の言いぐさに、御狐様は更に頭を悩ませる。考えてみれば簡単な事だったのかもしれない。

 

「神隠しと言われておってな、近々生贄も捧げられるそうじゃぞ」

 

酒を注ぎながら福神様は言った。含みのある笑顔は、人によっては恐怖を覚える事も有るだろう。

 

「人が捨てた。ならば我はそれに従うだけの事だったのだがな」

 

こんなにも早く呼び出されるなんて知りもしなかった御狐様は悪態をつく。彼にとっては人の望み通りに行動するのは結構本位な事だ。だけどその懐深さを利用したり良い様に扱っている事に対してイラつきを感じていた。

 

「そんな事いつもの事じゃろが!人間に生み出された我々の宿命とやらだ」

 

きっとそういう意味なのだろう。人の面倒事やその他不都合な事を押し付けるために造られた存在だ。それを貧乏神様は良く分かっているのだろうか。だからこのような捻くれた性格に作られてしまったのだろう。もしも彼が人の手から離れて独り歩きする生物に成ったらどうなるのだろう。

 

「仕方ない、我は社に帰る」

 

「そうですか、それではまた何時しか合いましょう」

 

福神様はどうもいろいろ抜けているのだろう。人の面倒事を見ない様にしているからそう成っているのだろうか。

 

福神様は、神にも福を授ける事が出来るのだろうか?それが出来るという事は、つまり貧乏神様も神に貧を与える事が出来ると言うモノ。それが現実ならば、御狐様は社に戻ってから見た光景を貧乏神様のせいにしてしまいたかった。

 

(やれやれ、本当に人間は)

 

小賢しくも愛らしい。そう思ったのだろうか?その真意は誰にも解らない。疑心暗鬼に満ちた人里を見て思う。他の妖怪、天狗や猫又が跋扈する人里。百鬼夜行でも出来そうなその量に、御狐様はため息をついた。

この地の人間は、どうやら物凄く思い込みが激しいらしい。

 

(我が居なくば、何も出来ぬくせに)

 

神主の話を聞く限りでは、生贄と称されてはいるが、殺されるのは自分を追い出した山伏という事らしい。御狐様がその話を聞いて、怨みを持つのは決して山伏に対してではないと言うのに。自分を見捨てた、信じてくれなかった第三者と、そしてそれを認めた神主であることに気が付いていないのだ。

 

「小賢しい」

 

言葉に出た言葉は、呪詛となり、黒い煙になり社の山と人里を上空から覆った。突如現れた黒雲に、人々はどよめき、不安を煽った。

その黒雲は、しばらくして閃光を抱えるようになった。人々の不安が徐々に大きくなり、辺りがどんどん暗くなっていく。

 

(例えるなら、これが貧。不幸に落とし、神罰として人への不安と畏怖を募る)

 

そして、御狐様は一気にその閃光を落とした。耳を劈く様な轟音と共に。

 

人々の叫びが木霊して、子供の鳴き声が人里に響く。数多の雷が人里の貧の元、妖たちを貫き浄化したと言うのに、だ。

 

(その効果は、後に来る日常を常に福と感じる事が出来る)

 

これで少しでも信仰の足しになればと、御狐様は思うのだった。

 




ちょっと短めですが。第七話でした。

さて、次で神託回は最後です。そうなったら軽く御狐様と協会、組織などとの付き合いが始まったきっかけなどを書いていきます。自分で言って何だけど、早く試験編が書きたい……

因みに映画のストーリーも入れていく予定です。そうじゃないと前々回が無駄になってしまう


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最終神託 御狐様と人の選択

騒がしい。そう呟いたのか思ったのか、御狐様は身を起して辺りを見回す。己の姿(人型)が女性のモノを取るようになってからもう数十年は過ぎたであろう年の事。胸騒ぎは収まらず、ただ自分への危機感を募らせるばかり。

 

(出来る事など、何もない)

 

社の神域とされる場所にて、御狐様は本性(狐姿)でしばらくの間眠っていた。其れなのに、起きたら何故だか騒がしい。ここの所の信仰心の薄れは感じていたが為に余計である。だからこそお眠りに成っていらっしゃったのだろうけど。

姿を隠して人の居る部屋に行く。そこで話されていた内容は、彼にとって思いもしない内容だった。

 

《御狐様の石像を壊すか否か》

 

そんな議題だった。御狐様にとって寝耳に熱湯をかけられた様な言葉だった。己の核を壊されることは、即ち自我が消える事を意味するのだから。力を節約していれば十分に暮らしていける今でさえ、理性と言う名の抑止力が無ければ

 

(幾人もの(死者の念)を喰らった我ならば、消える事さえ叶わぬ。されども人が望んだことを叶えるは我が勤め。人が選んだものなれば是非も無い)

 

全ては、人の思うがままに。人が生贄を差し出す事を望んで、生贄を受け取る御狐様を望んだのだ。だからそう言う形になって行ったのだ。

 

 

 

「しかし!御狐様を壊す訳には参りませぬ!」

 

「だが!それで国を傾ける訳にも行かぬだろう!」

 

激しい言い合いが続いている。御狐様の石像は二千年単位昔に作られたものだ。そんな物持っておれば争いの種に成りかねないということなのだろうか?

 

「もし外の国にそこを付け込まれたら、長老殿はどうするおつもりか?血を流すのは愛すべき国民だぞ!」

 

破壊するのに賛成と言う意見の代表らしき若い将軍が、破壊するのに否定的な長老方を圧倒する。保身的な立場の人間は、壊すのにこそ反対でその上で何か方法が無いかと言っている。

 

(全ては人が願った通りに)

 

勿論、多数の意見ばかりを聞いている訳でも特定の人間の願いだけを叶えている訳でも無い。人の願いをただずっと見つめ向き合い続けて来た御狐様だからこそ解る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結論は早かった。だから、御狐様はそれをずっと見守っていた。

 

「罰当たりな」

「天罰が下るぞ」

 

野次馬たちはそう言いつつも反抗なんかしやしない。口ばっかり、加害者になるのも被害者に成るのも怖いから傍観する愚か者。

 

「止めろよ!それでも神主か!」

 

絞り出すような声で叫びながら民衆の間を潜り抜けて執行人を止めようとする人間がいた。衛兵に止められながらも、同席している神主を指さして泣き叫んでいた。

 

(アレは、かつての神童の子孫か)

 

その様に購われても、それに意味は全くなかった。きっと彼女にとって意義が有るモノだったのだろう。御狐様はそんな人間のまっすぐな思いが絡まって出来た物だったから、それを良く理解していたのだ。

 

取り壊される最後の瞬間。ハンマーが石像に当たる瞬間に、御狐様は目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「御狐様!」

 

その声にハッとする。我に返って周りを見渡せば地面は血と肉片で覆われていて、本人は本性で当代の神主を前足で踏みつけていた。殺すつもりだったのか、踏み抜くような勢いを付けていたのが爪が神主の腹に刺さっていたりすることからも頷けた。

口にも血が付いている感覚が有って、其れだと言うのに気持ち悪くはなかった。

 

(祟り神だったせいか?それとも、我が狐妖怪そのものの概念に成ったとでも?)

 

自分で自分が解らない。鵺のようなモノだろうかとも結論付けたが、この光景を見てどうした物かと思い悩む。この様なさまを見られれば、他の、否、神様達から何を言われた物か解った物じゃない。

 

そして、気が付いた、神主の声で我に返った訳じゃないと。

 

「御狐様?」

 

絶望した表情で、社の御賽銭箱に叩きつけられてなお生きていたあの止めた少女がただその名前を呼んでいた。

 

(我は、堕ちたのか?それとも)

 

きっと、人が捨てたのか。御狐様は自分を切り捨ててまで国の保身に走った人間に加護をもたらす事など到底できなかった。信仰が足りなければ祟る神様。それを体現したモノだから。

 

(大陸に、わたるか)

 

人魚に見られない様なルートを通って、御狐様は逃げた。自分の性を作っておきながら否定した人間たちの居るその地から。自分の事など知らない、知りもしない場所まで逃げたのだ。

 

大陸には、御狐様が人型に化けてマントを被れば紛れ込める位に人が多かった。ただ、それだけを彼、、彼女は思う。心の中には、清廉な事はほとんどなく、欲望か何かに対する恐怖しかない。

 

信仰しなければ救ってくれない神様、自分の力で叶えられることには誰にでも顔を見せる悪霊たち。全ては人が望んだ事、己を捨てた人に怨みなんてない。ただ、祟る事を恐れるなら、そのように変化していくだけ。

 

「今しばらくは、存在していてやるか」

 

別に、石像が壊されたとてどうにかなる訳でも無かったのだ。元から、自由なんて無い(有ってはいけない)存在だ。自由は、存在の消失につながるから。だったら、せめて、必要とされなくても、人間に恐怖の本能が残る限りは存在してやろうと思う。厄介者(人へのムチ)に成る事を、彼女は自ら選んだのだ。





次回予告、とある国の、裏通りにはホームレスがたむろし、表通りには繁華街が存在する政府も手を出しかねているほどに治安が悪い町での事。御狐様はサキュバスに魅入られている男を見つけた。最初は手を出す気も無かった彼女も、憑りつかれている相手が裏社会に君臨するマフィアのボスと知って、、、?

次回、探索其の一、御狐様と裏社会



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夢か現か、世界探索
探索其の一、御狐様と裏社会


御狐様視点

大陸に渡って、幾日かが過ぎていく。正直、ここまで人の心が入り乱れているのも興味深いと思った。発明品も、興味深い物ばかりだ。そして、何より、

 

貧富の差が激しすぎやしないだろうか。我が社を治めていた時なれば、付近の里は食べる物には困らない位にはアメを与えてやった物を。

しかし、人はそれを神に縋りはしないのだから驚きだな。自分よりも高い位の者を恨むことで心の均衡を保っている。どうやらこの地で主なキリスト教とやらは人間らしいな、合って見たい物だ。

 

……、元神童、か?其れよりも禍々しいな。強いて言うなれば魅入られたか憑りつかれたの方が正しいやも知れぬ。向かいから来る男からか。

仰々しい、雑念よりも欲望が強い。それに、あれは?

 

「ふざけるな!あの方との縁が切れたらどうするんだ!」

 

「申し訳ありません!」

 

仰々しいと御狐様が評した男と、その男に礼を尽くして怒鳴られている気持ちヒョロッとした優男。それ自体、この町では大したことではない事は、ホームレス達の「またか」と言う視線が語っていた。しかし、何より異様なのは、、、

 

 

同類か、新参者が口を出す事では無い。

 

 

御狐様は深くマントを被り治して、歩を進める。どうやら男たちには見えていない、派手なドレスを着、女性さえもが目を見張るほどの艶冶な美女。だけど彼女には悪魔の尻尾も有れば、サキュバスらしい耳と羽がある。怒鳴り釣らしている男と腕を組んでいる様に、御狐様には見えた。

彼女はちらりと御狐様と視線を交えて、無邪気に、悪意を込めずに笑って会釈した。

 

あの男、アレに気に入られるとは不運じゃの。否、一人称では最高の幸かも知れぬ。どちらにしろ、我には関係のない事だ。

 

そうして、その日は過ぎていく。日が暮れるのをこの町で一番高い所から見通す御狐様。一般の旅人に成りきって過ごして人間の目線で物事の会話を聞く。これだけの事でも御狐様には良い勉強になった。

 

さて、キリストとやらに会いに行くか。

 

元よりかなり知名度も有り、少なくとも人魚や鬼神と同じく位に歴史があるのだ。例え元が人間と言われようと信仰が今でも続いていると言う可能性から考えても、必ずや神格化されているはず。

そんな事を薄っすらと考えていると、蝙蝠の羽音を大きくした、そんな音が聞こえて来る。

 

「はぁ~い❤異国の狐さん、何かこの町に御用でも♪」

 

「無い、故に飛び去れ」

 

「何それひっどーい!」

 

建物の屋根の上、普通の人間ならば絶対に一足で登る事が出来ない場所。そこに、異形二人が立ち並ぶ。サキュバスと元社の狐。サキュバスは無邪気な笑顔を見せながらも、裏に何かを隠してそうな不思議な雰囲気を持っている。

 

出来れば余り関わりとう無い。

 

何処かに飛び立とうとする御狐様に、独り言のように彼女は呟いた。御狐様の耳に届く様にしている事は明白だ。

 

「あれね、マフィアのボスなんだ~❤良いパトロンでしょ?(私の正体って知ってる?)

 

同時に聞こえた。だから、思わず振り向いた。そこに居たサキュバスは、それに相応しい黒い表情をしていた。

 

何が言いたい。正直に言えれば苦労はない。少なくとも、言葉に重なって聞こえたモノ、それを隠そうとしているから、何か違和感を覚えるのだろうか。……面倒な事に巻き込まれた。

 

「望みは?」

 

裏社会に属する事は、即ち乱心を起こさせることも彼女なら可能なのだろう。それが意味するのは大量の血が流れる事。

 

「聞いた意味無いじゃん、別にいいけどさぁ~。私は~私が面白ければいいんです~」

 

その言葉の裏に何か思う事が有ったのか、御狐様はその場に座りこんだ。サキュバスに魅入られた者、この世界では堕落したモノを意味するのだ。そして、目の前で何かを呟き続ける彼女の目を、じいっと見つめる御狐様。その表情も、何時しか人間たちがしていたモノ(表情)に酷似していた。本人さえも気が付かぬ己の正体()。御狐様はわざとらしいため息をついて、立ち上がった。

 

「何にせよ、我には関係ない。あまり人を殺めれば、困るのはお主だろう?サキュバス」

 

言い捨てるように冷酷に言い放つ。それでもサキュバスは何かを感じたかのようににっこりと、今度は慈愛に満ちた笑みを浮かべた。

 

「楽しみにしてる」

 

そう言い残し、サキュバスは月夜を飛び去った。

そう言えばもうこんなに夜も更けたのかと、一人?月を見上げる御狐様。月夜は神や妖、魔などの人ならざる者に影響を及ぼすとされ、実際その考えのおかげで有る程度力が増す。

 

人間を矯正など、したことないぞ。安請負はするものでは無いな。

 

こんな夜には国の酒が恋しくなる。そう思いつつも、夜はふけていくのだった。

 

 

トン、トン、トン、ス……

 

効果音を付けるならこんなものか、御狐様は日の変わった時間に、行動を開始した。

 

我には化かす事しか出来ぬが

 

己の力を応用するだけの技術力を、御狐様は持っている。だから、暗闇しかない道を駆け抜ける。知っているから、願いも思いもその意味も。月の光が入る部屋に、その男は寝ていた。御狐様は狐火を右手に出現させ、窓越しにそれを男に向かって投げた。

彼の夢を、化かすのだ。狐火は男の胸の中に潜る様に入って行く。こうなっては、念能力者による除念でも無い限り男の夢は御狐様の気分しだいなのだ。

 

夢を設定して、それを繰り返すだけと狐火に命令を伝えた所で、御狐様は己の影が誰かの影で覆われ居る事に気が付いた。

 

「何したの?」

 

サキュバスが不安そうに、そして何かあったなら許さないと言う様なオーラを纏って御狐様に月の光の影を落とす。その目に光は無く、一歩でも間違えれば町が吹き飛ぶレベルでの乱闘にでもなりそうな勢いだった。

 

「夢を見せたのじゃ。アレの一日でお主が見えていたら、どのように見えていたのか」

 

例えば、すれ違った場所だとすれば、その時の光景はサキュバスが腕を組んでいる映像が浮かび上がってくると言うのだ。それでもなお、男は誰かに怒鳴り散らす事があるのだろうか。それは、夢を見ている男にしか解らない。

 

御狐様の報告を聞いて、嬉しさの中に寂しそうな儚い表情を浮かべ窓から男を見下ろすサキュバス。その時には既に御狐様の事は彼女の視線の中には無かった。

 

「音もそのまま反映させておる故、何を伝えるもお主の自由じゃ」

 

御狐様に出来る事はもう無かった。一方的な思いを伝えるのは、本人に任せてしまいたかったから。

 

「触れ合うことは出来ないの?」

 

寂しいのだろう。哀愁漂う背中を見て、保護欲が出ない生物がいないだろうと思うほどには。

 

「あ奴が使えるようになればあるいは、と言った所じゃ。伝えるのは自分でやれ」

 

そう言って、御狐様は飛び立った。ココからはサキュバス自身が向き合わないといけないから。

 

大方、あの者も核が壊されたのだろう。だから、サキュバスと言う名と人のイメージで作られている。それが意味する事は____

 

 

イメージ次第で如何様にも性格が変わり、幾多ものイメージの中から感覚でこれが良いと言うモノを選び取って自分の性格にしていく。そして恐らく、あのサキュバスは、悪魔と同類にされているのだろう。同類、と言うより同一視、御狐様が稲荷であり妖狐で有るのと似た様な物だ。

 

人を愛し、故に愚直だろうと願いを叶えその魂を己の物にする。このイメージを、あの一人の男を愛したサキュバスは選び取ったのだろう。






次回予告 キリスト郷を探す御狐様。当ても無く彷徨う中で、ゴミの寄せ集めの様な国で暮らす人々がその目に留まる。丁度いい機会だと神位を振るおうとするが、、、?


次回 探索其の二、御狐様とゴミの中の星が流れる街





新連載、モンスト×色々の短編集始めました


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探索其の二 御狐様とゴミの中の星の流れる星

読んで字のごとくな場所に飛来してその土地の政治家の戦争を終わらせる話。どっちが悪で善なんか無いのです。




御狐様は、本性のまま空を飛んでいた。その時は、丁度黄昏時、夕日が白いはずの雲と自分自身の金色の毛を等しく赤色へと変化させている。ふと、昏く成っている場所に一番星が有る事に気が付いた。今宵はそっち方面で休もうか、休息が必要無いとは言え、一晩中飛んで居た所でキリスト教が見つかるとも限らない。

むしろ人間上がりならば、人としての本能、睡眠を大事にするかもしれない。そう考えて、御狐様は一番星の下に有った、人が住んでいるとは思えない位ゴミだらけの集落に足を付けた。

 

(何故、この様にしておくのだろうか?)

 

これは好機かも知れないと思う一面、彼女はそんな事を思った。自分を見る視線は今の所はない。しかし、自分を凝によって見る事が出来る人間がこの町、と言うかこの小さい国にどれだけいるかなんて知れたことでは無い。

夜も更けて、流れ星が綺麗に見えるほど、この国のテクノロジーは発展していない。周りの国よりもはるかに、だ。

 

(我に関係、あ、無いな。実力者が幾名もいるなれば、我に出来る事などたかが知れている)

 

例えば、飢えている人の子供一人でも助けられる程度の事は出来るかもしれない。だけど、それだけだ。命を一生守る事も出来なければ、今生き残る事が出来ないのならいつか殺されるのが目に見えている。

弱肉強食、それを見守って行くための御狐様なのだ。やるべき事は人が生きていくために必要な恵みを文得る事だけ。それも一人、信者や神童でも無い人間に与える事はやるべき事でも無い。

 

一度は乾いたこの地に雨でも降らせてやろうかと思ったが、それはこの地に住まう、生き抜くだけの力を持っている人間にとっては神に感謝する事ではないだろう。強いて言うなれば、自分の運が良かったと思うのだろうか。所詮は無駄に終わる、そう思って御狐様は振り上げた手を降ろす。

 

(?!)

 

御狐様は、その時悪寒を感じた。否、悪寒と言うよりも悪意を向けられていると言った方が早いか。

 

「誰ぞ、言いたい事が有らば出て来い」

 

いざとなったら逃げてやろう。そう考えつつも近くに有ったゴミ山に視線と警戒心を向ける。狐ほど鼻が利く、狐以上に鼻が利く御狐様にとっては、このゴミ山の中の生活は出来なくはないが常にイライラを抱える様な物である。故にとんでもなく、機嫌が悪くなってます。

 

「誰だてめぇ!ここは俺のシマだ!」

 

どうやら、巡回と言うかそんな感じだったらしい。そして、男の反応から見るに、一定のラインから人が居る場所といない場所で別れているのはそのせいのようだ。

 

「安心せい、我は直ぐ出ていく」

 

そう言って人気のある、屈強な男が出て来た場所から遠い場所まで徒歩で移動しようとする。男に対して興味を失って、さっそうと立ち去ろうとする。しかし、男はそうは行かせてくれなかった。

 

「待ちな!ただでシマ入って五体満足で出ていかれるとこっちが困るんだよ!」

 

引き留める男に、御狐様は振り向いて、品定めをする。興味を失ったと言っても、この男の所属している、人に恐怖をあたえる組織には興味があった。

 

(この男は半覚醒、こやつよりも強い者など外に五万といるが)

 

それでも能力者が入ってこないのは、どう考えてもこの男の上司が凄いからとしか考えられない。

 

「上の者を呼べ。いや、其れよりも案内された方が早いか。、案内しろ、上の者の所まで」

 

振り返っていた体を再び男に向け、恐れなど微塵も無い様に近づいていく。男にとっては、見目麗しく、自分に対して恐れない、どこか冷酷さをはらんだ目の前の女が恐ろしいのも無理はない。狼狽えるだけで済んでいるだけすごいと言うか、神経が図太いと言えるだろう。

 

「どうした?案内せぬなら」

 

解っておるな?そう言葉は続いたのだろうか?それに関係なく御狐様は爪を男の首に突き立てた。いつの間にかそこまでの接近を許してしまった事や、突き立てられた爪に対しての対処法で頭をフル回転させるも、その時間は文字通り間もなく終わった。

 

「何をしている?」

 

威厳のある声。男は命を刈り取られかけている事も忘れてしまうほど驚いて、顔を青くした。振り向いて土下座せんばかりの勢いで正座をしたところで、声の張本人から「止めんか見苦しい」と呆れら半分で止められた。

 

「手前の者が失礼した。して、滅多に人が入らない場所になんの様ですかな?」

 

(使えるな。国で偉いのであれば利用するに越したことは無い)

 

「人探しだ。迷惑なれば出ていくが?」

 

男が土下座を披露しようとしたのは、スーツ姿の初老で左目辺りに切り傷の跡をもつ男。見た限りでは、そんな恰好を出来るという事は、この国ではかなりの位置に居るのだろうと考えた。しかし、そんな概念が無いかもしれないと言う可能性については除外している事がそもそもの間違いである。

 

「いや、この地には人はほとんどいないからな。迷惑以前に別の場所を探す事をお勧めするよ」

 

御狐様の目は、真実だけを掬い取る様に相手の目を見つめ、射すくめるだけの眼力を持っていた。人の闇を知っていれば、嘘や本当など直感で解ってしまうのだろう。

 

「そうか。では、縁が有ったらまた」

 

口ではにこやかにしつつも、内心ではタヌキ親父に向けて毒づいている御狐様。自分の身分を明かす事も無く彼女を厄介払いしたのだからだ。

 

(まぁ、関係ないか)

 

今現在の目的は、キリスト郷を見つける事。恐らく絶対生前と性格は変わっているだろうが、それはそれとして考えた方が良いだろう。

 

徒歩で男たちの縄張りから出たと思われるボーダーラインで、御狐様は数名の念能力者に囲まれることとなった。いざとなったら実力行使で逃げる事も可能なため、どうなるのかを面白そうに、楽しそうに、他人事のように人の行動を観察する事にした。

 

すぐに協会?と思わしき場所まで連行され、御狐様は椅子に座らされた。そして、机を挟んだ向かい側に、面談の様にお偉いさん?が三人座った。

 

「どうしてあの場所から出てこれたのか、理由を聞かせて貰おうか」

 

それを始まりに、御狐様に数々の質問を浴びせていく。されど、それは本来の聞きたい事ではないのだろう。答えた時の反応の薄さから、御狐様はそう考えた。

 

「お前は何者だ?」

 

一番聞きたかったであろう言葉が出た時には、既に一時間ほどの時間が連行されてから経っていた。正直に自分の正体を話すのもアレだったので、至る所でごまかして答える事にした。まぁ、言った事に間違いはないのだが

 

「我は、聖職者の作り出した念獣の様なモノ。複数人による術な事、既に死者である事が重なってこの様に自由に動く事が出来る」

 

そんな御狐様に持ち掛けられた話は、望みを叶える代わりにあいつらを追い出して欲しいとの事。

使えると、信仰心を求める御狐様が思わないはずもない。

 

「ならば、教会を建てよ。我を崇め奉れ、さすれば願いを叶えん」

 

立ち上がって、多少の威厳を示す。そこからの話はとんでもなく早かった。教会が建つ算段を付け、その日の内に御狐様は男たちの拠点に水攻めを始めた。水攻めと言っても、雨を大量に振らせ続けただけなのだが。数日もしない内に男たちは降伏。

その後、教会を立てた側の男たちが新たな政権?を立てた事を、御狐様は風のうわさで聞いた。何時しか自分の存在は本当に神として昇華されればいい方だと目星をつける。

 

(さて、キリスト郷は何処にいるのか)

 

裏社会にも精通する神様なんて、それでいいのかと苦笑を浮かべる。その時見上げた月は、いやに綺麗だと思ったのだった。






次回予告 キリスト郷を探し旅する御狐様は、ある時森で夜を過ごしていた。そんな時、久しぶりに人の心に耳を傾けると、そこには純粋で強烈な好奇心が有ったのだった。その好奇心に興味を持った御狐様。ハンターと自称する狩人の後を憑いて?行くとそこには?


次回 探索其の三 御狐様と狩人の夢


やっと、念能力らしい戦闘がかけそうだ


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探索其の三 御狐様と狩人の夢

キリスト郷を探して三千里、とまではいかないがかなりの距離を飛んで居るはずだ。御狐様は随分とこの生活に開き始めていた。他のジャポン神たちは自分と同じように成っているのだろうか?そう考えつつこの日も星を見上げる。

 

(思えば、放浪してからゆっくりした事なぞ、無かったな)

 

久しぶりに人の(願い)に耳を傾けてみれば、この近辺から純粋な好奇心を強く感じ取った。人里離れた森の中、そんなに強く聞こえるはずは無かった。有るとしたら、この近辺に人が居るかもしれないと言う可能性。

 

(人が我から気配を消す、か。そう言えばそんな技術もあったか)

 

別に、人間の分際でなどとは思わず、むしろ念能力者、仙人や超人ともてはやされる人間の人物像に興味を持った。姿こそは確認できないが、願いの声を頼りに近づくことは出来る。その声を頼りにあまり離れすぎず、且つ見つけられない程度の距離を保って付いていく。

力の弱まっている(全盛期に比べ)御狐様には、人の大雑把な感情が読み取れても、声を言葉にして聞き取る事は出来なかった。昔はよく雨が降って欲しいだの、家畜の馬が安産で有る様にだの、色々聞こえたのにも関わらず、だ。

 

(それにしてもどこに行くと言うのだ。この先に何か特別なモノが有るのか?)

 

何となく警戒の色が強くなった狩人を追いかける。因みに御狐様たち念獣もどきな神様たちは、力を抜いていて姿形を問わず一般人には見えない、念能力者には見える、陰をすれば凝で見られないと見つかる事も気配を察知することも出来ないと言う性質が、割と昔からあったりする。凝で耳を強化しなければ陰している神様のお声は聞こえないのです。

 

「誰か、いるのか?」

 

そう言って腰に携えた剣に右手を掛け静かに辺りを見回す狩人。背には小さめの、けれど見る人が見れば強弓だとすぐに解る弓と矢を背負っている。足を止め、振り返って四方を見渡している。

 

凝をしている事からも、視界に御狐様が入れば見つかってしまうだろう。気が付かれない様にストーカーしていく御狐様。何を目指しているのか知りたかったのかもしれないが、暇つぶしと言うのが大きいのかもしれない。こんな風に人に隠れて後を憑けると言う行動自体が初めてで、スリルの有るモノだったからかはわからない。結局彼女も戦闘狂なのかもしれない。

 

「いない、のか?」

 

疑り深く何か引っかかっていると言う表情をした狩人は、警戒心をマックスまで高めて森の奥へと進んで行く。

 

(危なかったな。別に、見つかってどうと言うことは無いが)

 

むしろちょっとくらいなら信仰心の足しになるのではないかと考えた所で、止めた。そんな事を考えても、今の世の中は酷く現金な物だと解っているから。人の自己満足で生贄を受け取ってくれるような神様なんて人用とされて無いのだから。

 

しばらく進むと、小川の音が御狐様の耳に届いた。せせらぎとは言えない位に小さい音、その音に反応したかのように狩人は足を速めた。

 

(何か、有る)

 

具体的な物は御狐様にも解らなかったが、その音に何かしらの手がかりと、この状況事態に違和感を覚えた。具体性の無い違和感。人だったなら、それほど恐怖心を煽る物なんて無かった。

 

「有った!これが!」

 

感動に言葉を詰まらせている狩人が手に取ったのは、黄色に輝いている様に見える泉だった。

 

(アレは、なんと言ったか。黄の仙水、だったか?)

 

御狐様の思うとうり、狩人が目指したのはこの、読んで字のごとくな仙人の泉である。黄の、と付いているからには世界七大美色に入るだけの美しさを持ち合わせていた。周りの緑の植物と相まって、かなり神秘的な空間が生まれている。

 

(喜びと、安堵の色がうかがえるが、あの男。訳ありか)

 

謎は解けたので、さっさと立ち去ろうかと思った御狐様だったが、その安堵の気持ちを感じ取ってもうしばらくストーカーする事にした。人聞きが悪いと言われるだろうが真実だから仕方ない。

 

泉の水を水筒に入れ、再び警戒心を高めた狩人は何人にも見られていないか辺りを見回していく。彼の目には移らないが、かなりの数の精霊や妖精たちが辺りを飛び交っているのだが。

 

(このあたりは特に多いな)

 

普段から街中だろうとどこだろうと見かけるそれらの数が多すぎる事に、彼女は気が付いた。まぁ、それも黄の仙水によるものと言われてしまえばそれまでなのだろう。

泉の水をくんだことによって、数匹の妖精がその水筒の傍で飛び交っている。御狐様の存在に妖精たちは気がついてはいるが、眼中には無い様子だった。

 

ただ、御狐様にしか気づいていない悪意が一つ、狩人に向かって放たれている事を除いては。

 

(悪意に無意識下で気づいている妖精どもがざわめき立っているのか。この男が連れて来たのか?)

 

悪意事態は人間の物で間違いはない。ただ、その悪意が出て来たタイミングが仙水を汲んだ時と言うのが問題なのだ。もしも、御狐様と同じくずっと付けていたこの泉の所有者や管理人だったとしたら、下手すれば戦闘にまで発展するだろう。

 

(それは、面白い事に成りそうだな)

 

そして、人間の営み観察が趣味と言って良い御狐様にとっては手を出すと言う無粋な事をする発想は生まれなかった。むしろ、面白いから放って置く、もしくは余計ややこしくさせる性格の持ち主である。

流石狐。狡猾である。

 

「!?誰だ!」

 

思えば、前々から後ろを警戒していたのは、自分を付ける義務を持つ人間がいると言うのを知っていたからなのかもしれない。そう言う風に、人間に考えが裏切られることを、自分の知恵を人間の知恵が上回る事を、御狐様は何よりも嬉しく思った。

 

ガサッと音がして、狩人が振り返る。弓を引き、纏をして戦闘態勢に入る。よく見れば、その矢の筈には細い縄が結わえつけられていた。

 

「出て来い、さもなくば」

 

打つ、そう言おうとした時、語る事など何もないと言わんばかりに周によって強化された小石が十数個ばかり狩人に投げつけられる。

 

狩人はジャンプしてそれを避け、矢を放つ。無論、当たりはしなかった。だが相手の事を草むらから追い出すには十分だったようだ。

 

「その水を置いていけ!」

 

青年の様な程よく筋肉の付いた狩人とは違い、ガタイはでかく色黒で顔にクマにでも引っ掻かれたかのような傷を持つ男性。剣や力の勝負になればどっちが勝つかなんて目に見えている。両者共に念能力者でさえなければの話だ。

恐らくは最大の譲歩のつもりで発した男の、バルアの言葉は狩人の、ライルには届きはし無かった。

 

「奪い取って見な!」

 

そう言ってライルはバルアに背を向けて全力で走る。精霊たちはそれに付いていく。ふと、違和感に気が付いた。

 

(まさか、見えていたのか?)

 

気に入られたのなら見えたって不思議も無ければ、上手くやれば協力関係を得る事だって出来るだろう。自分の考えが根底から覆されたようで、御狐様はにやりと口角を上げた。

 

全力で森の中を縫って駆けるライルは考える。思考停止したら捕まってしまうだろう。一見強化系に見えるあの男から自分が逃げ切るには、一瞬の隙を見ての発しかない。その為にも、隙を作らせるためにも今は逃げる事を優先した。

そしてそれを追うバルアはまんまと罠にかかった青年の背を見て表情に喜びの色を交えた。何系だか知らないが罠にかけてしまえば自分が勝つに決まっていると確信しているからである。

 

ピュー!

 

バルアの口笛が響いてライルは一瞬その音に気を取られてしまう。やばい、そう思った時には既に体は動かなくなっていた。咄嗟に凝をしても、何かに掴まれている訳では無い様だ。その事実にライルは焦った。もしかしたら自分の作戦が効かないのかもしれないと。

 

「捕まえたぜ」

 

バルアは身体の動かないライルの腰に付けた水筒を取ろうとする。

御狐様から見ると、口笛が聞こえたと同時に傍にいた妖精精霊類がライルの体を拘束したように見えた。バルアは幼い頃からこの森に居るのだろうか?そんな事はいまはどうでも良いか。

 

(いまだ!)

 

その時、ライルを中心とした円が展開された。そして、水筒に手をかけたバルアの手が燃えた。燃えたと言うよりも、火が彼の手を退けたとでも言おうか。

その隙のおかげで妖精たちの拘束は解かれた。おかげで自由を手に入れたライルは戦闘態勢を整える。様に見せかけた。

 

「ちッ!」

 

バルアは作戦が失敗したことに対するいらだちで舌打ちをして腰の刀を抜く。

ライルは火を操って武術の構えを取った。どこの物かは知らないが、御狐様が知らない時点で割とマイナーな物な事は確かだ。

 

暫く、間が開いた。その間でさえも、御狐様がバルアに興味を無くすには十分だった。

 

一瞬の攻防。

 

火を纏った拳と周によって強化された剣が重なり合う。右斜めからの斬撃を堅の火を纏っている拳が正面から打ち砕く。そこから堅と流と凝との押収だった。バルアは、何かが可笑しいと思いつつも、それを続けていた。

 

 

 

 

 

「はぁ~門番がいるって聞いたからどんなもんかと思ったけど。拍子抜けだったなぁ~。ねぇ~ずっと付いてくる位なら話し相手になってよ~」

 

人目のない、けれどいつ通るか解らない道まで出るとライルは道の傍に座り込んだ。付かれた訳でも無いが、期待外れだったことも有ってか御狐様の方向を向いて言う。当てずっぽうと言う訳ではないだろう。

 

「逃げに徹するか、それも一つの戦術じゃな」

 

「うっわ、思ったより美人」

 

(思ったよりも残念な美形じゃな)

 

仕方なく姿を全て見せる(人型)と、まぁあざ笑う様な、ではないか。見下す?品定めする様な目で御狐様を見た。多分神様時代だったなら落雷の一つや二つ落ちているだろうが、今となってはどうでも良い事だ。

 

「して、何をそんなに残念がる」

 

目的は果たせたはずだ。なのに、残念と言うか物足りなさそうな顔で御狐様を呼んだのだ。何かあると思うのは当然の事だろう。

 

「なんていうか、つまんないって言うか。ぶっちゃけ大したことなかった」

 

「あれだけ喜んでおったのにな」

 

「いや、そうじゃなくてさ。何て言うか、ほんと、もっと骨が有ると思ってたし、思い返せばほっとんど喜ぶ要素ないし」

 

手を横に振りながら絶対それは無い的な表情で苦笑い、後に御狐様は思った。あの青年、絶対友達少ないだろうなと。むかつくムードメーカーと言った所だろうか。

 

「どうでも良い、だがな、余り妖精相手に喧嘩を売らぬ方が良い」

 

「え!ちょっと待ってよ!もう行っちゃうのか?」

 

狐に変化しようとすると驚いた顔で止めにかかる。どうやら、戦いたいらしい。と錬をしているオーラが物語っている。ここは山中出こそないが人が何時通ってもおかしくない野道、こんな所で戦闘を行うなどそれこそ馬鹿のやる事だ。あまり本性を知られたくない御狐様にとっては嫌な事この上ない。ついでに、オーラ補充が難しいからあんまり戦闘を行いたくないと言うのが有る。

 

と言う訳で、逃げた。

 

「おいこらずるいぞー!」

 

狐姿を見られたくない一心で人型で飛び去ったが、ライルは念弾で追撃して来る。面倒で、自分勝手な事この上ないのだ。

 

~~~~五分後~~~~

 

「もういいか?」

 

「はひ、すみませんれした」

 

要約すれば、面倒になった御狐様が殺す気で落雷と言う名の天罰を与えてみたのだ。全力の硬で防がれたので、それを何十発と。そのように片づけた人間をほっぽってどこかに行ってしまう御狐様は結構薄情なのかもしれない。

 

「あ~あ!せっかくの好敵手が!」

 

大の字に寝っ転がって悔しげな声を上げるライルは、どこか満足げだった。

 

「まだまだあるじゃん」

 

語尾に音符でも付きそうなくらい楽しみにするのは、それは彼にしか解らない。でもまぁ、やりたい事、人生にとって意味の有るモノを、彼は見つけたのだろうと思う。

 

 

 

 

 

それから十年後、ハンター協会なるモノが発足されたと、御狐様は耳にするのだった。




ごめんなさいマジで更新遅れました。


と言う訳で次回予告は無しです。すみません。

次回は~映画編に続く伏線を張っておきます。この事がバタフライエフェクトを呼び、きっとハッピーエンドで終わるでしょう(誰にとってのハッピーエンドかは言ってない)


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探索其の四 御狐様と蒼き影

(新年早々、血腥い物を見た)

 

血の海と形容できる光景と、今は懐かしいとも感じるジャポンの門松が同じ空間に存在しているという事自体が嫌な事であり、別に血の海事態は見慣れているしどうでも良い。ただ問題は、門松が血で汚れているという事。

 

(影と言ったか?協会が発足されてから変なのしか生まれないな)

 

手を下したのは影と言われたハンター協会裏の顔、つまりは汚れ役と言ったものだ。今回御狐様が目にしたのは、所謂お掃除後。変なのと言い切った御狐様も十分変なのだが、今はその話は関係ないので置いておこう。

 

「そこに居る奴!何者だ!」

 

後ろから声をかけられて、御狐様は振り合える事も無く気配を感じなかった事への違和感による思考を開始する。並行して、この状況を打開する解決策を練る。正直言って、無理やり逃げようと思えばできるのが恐ろしい。今更ながら、御狐様も死者の念に分類できるため、チート過ぎるがバトル漫画のお約束として一回死んだモノは総じて強いのだ。

 

「怪しい者では無い。ただの通りすがりの旅人じゃ」

 

絶対にこんな言葉では騙されてはくれないと思うが、言わないよりもましだ。

 

「有り得ないな、お前は、、言うなら化け物だ!」

 

(化け物、間違ってはいないが)

 

やっぱり気分が悪い、仕方ないだろう。念獣にも似つかない、未練が凝り固まった死後の念獣でもない、化け物。負の感情で出来た未練じゃない、善の方向で出来た未練の凝り固まった化け物。本来なら有り得ない、何故なら人間は負の感情と善の感情のどちらかでも欠けたら壊れてしまう生物だから。それに加え、執着が無ければ成りえない、そして執着は負の感情に属するからだ。

ある意味、影と一番近くて根本が違うともいえるかもしれない。

 

「間違っては無い、けどお主らに被害を与える気はない」

 

(今の所は、な)

 

後ろに銃を突き付けられたまま、相手の顔も知らないままで御狐様は相手に脅しをかけていく。威圧のある声は2000年来のモノなので、流石の貫録だ。相手もたじたじになってしまっている。

 

「その証拠がどこにある!?」

 

「無いな。けれど、我らには我らなりのルールと言うモノがある。仕方なかろう」

 

ハッタリだ、けれどそれを悟らせるほど、御狐様は耄碌していない。虚偽の威勢を張り巡らせた相手は、声からして女性らしい。女性戦士、かっこいいと思うし御狐様も今では女性の形をしているので何か言う気も無いが、珍しい事この上ない。

 

「まぁ、兎に角銃を下ろせ。さもなくばその手ごと、、いや、面倒だ」

 

一度言葉を止めた御狐様が言った事は、正直死刑宣告と等しい物がある。それが愛おしければ生かし、必要無ければ殺す。それは何時の世だろうがかわることは無い。

 

「ヒィ!」

 

面倒だから、そんな理由で人の腕を切り落とそうとするのは、神の所業では無い。と、この国の民は言うだろう。されど、彼女が生まれたジャポンでは、そうであれと望まれた。祟り神として、人の事を思い天罰を下す恐ろしくも慈愛深きモノ。まぁ、狐のイメージが加算されている時点で性格はズル賢く気まぐれに成るのだが。

それでも気分を損ねない様に人は彼女らと付き合ってきたのだ。

 

ガキンッ!

 

そんな音がした。爪を突き立てようとした銃を持つ腕に、結界のようなモノが張られていた。女性の怯えた表情から察するに彼女が張ったモノではないらしい。

 

(わらわ)の使いに触れるで無い」

 

煌びやかなドレスを着た、見るからに冷酷な眼つきをした女性。纏っている物は、銃を向けた女性と同じ、否、それ以上に禍々しいオーラの様な物だった。

 

(同類、この女性は神童では無い様じゃな。なれば、《神》では無いだけか)

 

失礼したと言いながら、結界に阻まれて少し煤の付いた手を、御狐様は右手で労わる様に撫で回復させる。突然現れた。

 

「汝何者じゃ?我は東洋の島国の稲荷狐なりて」

 

銃を向けた女性の意識を飛ばした、神では無いモノに向かって御狐様は聞く。

 

「妾は、夜叉。ヤクシニーとも称される財宝の神の使い。だが、主はとうに」

 

(そうか、我と同じように___)

 

きっと夜叉の主は、御狐様の様には行かなかったのだろう。それがきっと人に、万人に必要とされなくなった神の末路だったのだろう。夜叉と名乗ったお使い様?に同情を向けるでも無く安堵のため息を付く。こういう、自分と同じ輩にはこのように本心で接した方が良いと解っているためだ。

 

「夜叉、鬼の総称じゃな。お主が今存在すはそれ故か」

 

「妾とて、望んだわけでは無い」

 

「同意、されどお主は人に必要とされているだろう?」

 

所で皆様、現在の状況を覚えてだろうか?路地裏の血の海に、和装した狐の耳と尾の付いた金髪の女性と、大柄な黒いマントを着用する女性をちょっと小柄な蒼系統のドレスを着た女性が支えているのだ。そして、気絶しているその女性は銃を手に握ったまま。シリアスをする前に移動した方が良いと思われるのだが。

 

「悪くはない」

 

そう言って名も知れぬ彼女、影と呼ばれる一族の一員を抱えて何処かに立ち去ろうとする夜叉。

 

「これから先、生まれるかも定かではないが、我の神童には手を出すな」

 

腐っても祟り神、そして御狐様はまだ腐っていない。逆鱗に触れでもしたら土砂崩れが起きるとまで言われた彼女が本気で怒るとどうなるのか、それはまだ本人でさえ知る由も無い。

 

「善処する」

 

言い残して、血の足跡を残しながら歩き去った夜叉だった。

 

(当分、作る予定はないがな)

 

この事件から、丸々二百年が経過した後に、森の中でひっそりと暮らしている一族の子供二人が神童になるとは思いもしなかった御狐様は思うのでした。(御狐様の当分=1000年位)

 






次回予告!

ようやくキリスト郷を見つけた御狐様。彼と語り合うは自らの思想と民の望み、そして宗教間の違い。そして、自立した御狐様に語る、誰にも言えないキリストの本音(妄想です。あくまでこの世界観でのことです。事実の聖書などとは全く関係ありません。名前が同じだけの全く違う人物だとお考えください)
因みに、捜索章最終回です。

次々回、次々々回予告。

前々から散々言っていた、悪魔が生まれるまでの話です。リアルに土下座して、婆ちゃんに心配されました。


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探索終了 御狐様とキリスト郷の理想の違い

「お探ししましたよ、キリスト郷」

 

「おや、貴女様は?」

 

とある大きな建物の屋上で、朝日に照らされていた紅葉を眺めていたキリスト郷を、御狐様は三年越しにようやく見つけたのだった。後姿が肖像画と寸分違わないので間違っている可能性など微塵を考えなかった。

 

「我は、東の国、ジャポンにて社の主神だった者成り。御狐様と呼ばれておった」

 

「それはそれは、遠い所からようこそ」

 

御狐様は彼の隣に座ると、同じように紅葉を眺め始める。いざ合ってみると何しに合いに来たのかさっぱりである。確か興味本位だったはずなのだが。

 

「普通神様は社から余り遠くへはいけないはずですが、何かあったのですか?」

 

何処までも聖人なキリスト郷。御狐様を心配しての質問だとその声音が語っていた。

 

「我は既に流れ者じゃ。人が我を必要としなくなった故」

 

必要とされたかった、それだけの理由で人と関わっているのかもしれないと彼女は思う。神として必要とされたかったのか、それとも個人として人格を見て欲しくなったのかはわからない。もう既に彼女を縛る神と言う名の枷は無い。

 

「キリスト郷はまだまだ現役であろう?羨ましい限りじゃ」

 

「それでも流れ者と言うのは御狐様と変わりませぬ。それに、少しは自分の正義を持ってほしいですしな」

 

要するに、神の名のもとに、とか、我が神の正義を持って、などと言う言葉を盾に戦争するなと言いたいのである。

 

「信ずる物は人それぞれ、それを受け入れる事を知って欲しいのだ」

 

自分の信じている神様だけが正義と考える事を辞めて欲しいと、意訳すれば自分から離れて欲しいとも取れる言い方をするキリスト。

 

「全てが平和に成れば我らは必要とされなくなる。感謝の気持ちを持ち続ける事の出来得る人間は数少ないからの」

 

もしもの話、御狐様たち神様がもっと繁栄しようと思ったならば方法は単純明快、人の世に戦争と災害を淘汰しない程度に起こし続ければ良い。各々の勢力が自らの神を仕立てあげ、それに殉じる人間が出るようになれば新しい神様がその思い込みの死者の念によって誕生する。

 

「平和が過ぎれば貧富の差が生まれるようになり、新たな神を仕立てあげ戦争を起こすのが人間と言うモノだ。」

 

キリスト郷が寂しげな表情をして言う。貧乏人にとっては確かに聖人であり心の助けになる彼だからこそ、本物に成ってしまったからこそ彼には人間の心の醜さと言うモノも知ってしまったのだ。

 

「我には既に人の心を動かすだけの力は無いが、お主は違うだろう?」

 

現役神様として、まだまだ活動している彼に比べれば、確かに彼女はもう力が少ない部類になるだろう。

まぁ人間と戦うには十分すぎるほどチートなのだが。流と堅を自動で行える+死者の念の塊=チートである。一応あまり人を殺してはいけないと言う決まりは有るっちゃあるが時と場合と機嫌による。要するになるべく殺しはせず、流れに任せるという事だ。

 

「それでもですよ。私でも出来ない事の方が既に多くなっている」

 

全盛期を過ぎてしまったキリストには、御狐様が言う事は少し荷が重かったのかもしれない。既に、という事は出来た時代が有ると言う時点で結構恐ろしい。

 

「生まれたら直ぐに洗礼だったのだろう?大変じゃな、お主を信仰する親を持つ子は」

 

自らの意思で自らの信ずる事を選べないのだから、そんな強制的な信仰心は彼らにとって毒にこそなれ、薬にはなれない。

 

「その様な考え方も有りますか」

 

「ジャポンの神は皆共存しておるからな。我は山、龍神は天、人魚は水、鬼神は病、福神は縁。それぞれ司るモノが違う」

 

万能な神様などいない、それを物語っている神話が有るジャポンは凄いと思いました。

 

暫くの間、彼らは語り合って別れた。理想なんて一人一人違うが、誰しもが幸せに成ろうとしたうえでの行動なのかもしれない。

 

この物語に終止符が打たれるのは、何時になるのか、それはまだ誰も知らない。始まっても居ない因果を解ける者なんて、居やしないのだから。





今回は短くて済みません。
探索終了です、ついでに連続投稿します。

次の物語のキーワードは{因果}です!ようやく原作パートに入ります。(試験編とは言ってない)


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因果の序章前編 御狐様と二人の神童

妖狐の概念そのものに成り早三百年ちょい、そんな御狐様でもついに安住の地を見つけたのだった。

それは悪魔の住むとされる森で、本性の狐姿で居ても誰にも見つかる事の無い所。そこで御狐様は森の主として君臨し、絶対的な地位を確立させたのだった。しばらくは此処でただの大狐として暮らそうかとでも考えたのかは本人でも解らないが、ただそこに社が壊されて以来の期間とどまっていたのだった。

森の木々の間を通る木漏れ日を浴びながら、その日も御狐様は体を休めていた。夏だと言うのに風は気持ちよく近くを流れる小川の音が更に眠気を誘っている。本性を表している御狐様は傍から見ればただの魔獣の類に見えるだろう。

 

(人に見つかったとて、一人じゃ何も出来まい)

 

寝ぼけていたのか平和ぼけていたのか、御狐様はそこでお眠りになった。

数刻はそうしていたであろうか、人の近づいてくる気配で御狐様は目を覚ました。

 

(人の子、二人。神童に成れるだろうな。されどもう神の物では無いな)

 

目だけを開けて様子をうかがうも、此方に近づて来るスピードは止まりそうもない。

そして、二人は狐の姿をとらえたのか、空気に警戒の色が見えた。眠気のせいでどうでもよくなっていた御狐様はその二人の頭隠して尻隠さずな姿を見て目を閉じた。気を張りながらも戻論で居ると、腹を撫でられる感覚が有って目が覚めた。

 

『目を開けたけど、大丈夫かな?』

 

黒髪の少年と金髪の少年。どちらも神童と呼ぶに相応しい才能を持っていた。しかし、年齢からして神童とはもう呼べなかった。

 

(どこぞの民族言語か、我には理解できぬ)

 

『大丈夫だって!追い払う気があるなら威嚇して来るからな!』

 

手を伸ばしたのは金髪の少年で、黒髪の少年はそれを不安そうに見ていた。とりあえず脅威として見られていたわけではないと解った御狐様は軽く尾を振り、再びまどろみ始めた。

 

 

意識が覚醒していくうちに、腹の辺りに僅かな重みを感じた。感覚を集中させてみれば、神童と言った二人が自分をベット代わりに寝ていたのだった。

 

(何ともまぁ怖いもの知らずな。このような奴らが大物に成るのだから人の世は面白いのだがな)

 

軽いため息をついて、御狐様は尾を彼らに被せた。十を過ぎたであろうこの二人は、今までに見た事が無い衣装を着ていた。

 

(油断させて襲う様な獣など多いだろうに。寝首をかかれても知らぬぞ)

 

何となく森に成れていた様な気がしたのも有ってこの近くの集落で生まれ育ったのだろうと踏む。眠くも無いが動くのも億劫なのでこの神童を良い訳にぼーっとする御狐様。

 

(思えば子供の寝顔など初めて見る、か?)

 

少なくとも千五百年位の記憶の中では、まじまじと見るのは初めてだっただろう。金髪の方は警戒心の欠片も無いようで前足の付け根辺りを抱き枕代わりにしている様に思えた。

 

『ん、ふぁ~』

 

今度は黒髪の方が起きた。伸びをして眠気眼であくびをして、片割れを起こそうとして御狐様と目が合う。首だけを上げている大狐と立っている自分と目線が地面と水平なのだ。そりゃ驚きもする。慌てて隣の片割れを揺り起こした。

 

『ちょっとクラピカ!起きて起きて!』

 

『ん~?何だよパイロ』

 

取りあえず眠気覚ましにという事で、御狐様は悪戯半分に彼に顔を近づけすりすりと懐いたようにすり寄ってみる。多少驚かれたけど、敵意のない事は伝わったらしく困惑しながらも撫で返してくるのだった。

 

そんな事が有ったせいか、それから数日おきに来るようになっていた。

そのたび御狐様は静かに座っている状態だったけれど、尾を猫じゃらしの様にして遊ぶ位の事はしていた。そして御狐様自身、何時消えた方が良いかと思い悩むようになった時に、いつの間にか彼らが来ることは無くなっていた。

 

(寂しい、と言うのだろうな)

 

いつも有った光景が消える事が寂しく美しいと言うのは、神であった時に散々思い知ったはずだった。それでも湧き上がる感情は、神としてはいらない物だった。だから消し去った。その時は。

今はどうだろうか、消し去る必要も無く自分勝手に行動できる。それが素晴らしい事と解りながらも、神童の成長のためと、探されようとも逃げるようになったのだ。いつか人型で酒でも、と思いながら。

 

それからずいぶん経った有るときの事。人型を取っている時、暇だったことも有って気まぐれで森の道近くをうろついていた。すると遠くから地走鳥の駆ける音が聞こえて来た。

 

(野生、じゃないな。誰か乗っているのか?)

 

近づいてくる鳥に、誰か乗っている事に気が付いてからは早かった。御狐様は乗っているのがいつかの神童だと気が付くと、面白い事に成りそうだと直感して後をつける事にした。

彼ら二人が向かっているのは市場らしく、鳥には手綱と荷物を入れる袋が有った。そして夜も更け、彼らが仮眠をとると言う時に成って、初めて御狐様は異変に気が付いた。

 

(目が見えないのか?それに足も何かしらの後遺症を持っている)

 

直してやろうかと思ったが、自分のやっている事が完全にストーカーだと気が付いて、御狐様はさらに悩んだ。それに加え、彼らは念の事を知らない訳だし、人の姿で姿を見せれば不審者、狐から人に化けるさまを見せても魔獣と言う位置づけに成ってしまうだろう。

 

(見ていても何も出来まい、ならばもう戻るか)

 

最後に見た時よりも成長している彼らの事を最後に一目だけ見て、御狐様はその場から立ち去った。

 

数日が立って、御狐様はまだ最後に彼らを見た場所周辺に居た。どうしようもないと考えながらも、自分のために成るかどうかの瀬戸際としてどうにか出来ないかと策を巡らせていた。

そして再び地走鳥の走る音が聞こえた。振り返れば今度は金髪の少年だけが鳥に乗っていて、前に乗っていた時よりも真剣な眼差して走らせていた。買い物に行くにしては身軽なことから、旅にでも出るのだろうと予測し、今度は大狐の姿で後を追った。

 

(どこかに行くと言うの成れば、加護位授けてやってもいいかも知れぬ)

 

森を抜け、彼が鳥から降りた時に、最後のつもりで後ろを振り返った。当然御狐様の姿も目に入り、懐かしいやらなんやらの複雑な表情をしたのちに、彼は言った。

 

「行ってきます」

 

遊んでいた時とは違い、綺麗な公用語だった。御狐様は何をするでも無く佇んでおられたが、彼の姿が見えなく取ると同時に森の中へと帰って行った。それでもそこは御狐様、神の加護を授ける事は忘れなかった。万が一の事が有っても、その加護が続く限りは彼は生きていけるだろう。

 

それから数週間が立った。御狐様にとっては退屈だろうと一瞬で片付く時間とは言え、人にとっては一日一日の変動はとても大きい物なのだろう。

風に乗って届いたモノは、血の匂い。方向から察するに神童が生まれた所だろうと狐姿で森を駆ける。万が一、自分の目の付けた童に何かあっては嫌だと思ったからだろう。

途中、とんでもなく血の匂いが強い連中とすれ違った。その事からしてもうとっくに結論は出ていたのだろうが、一応のため御狐様は里に向かった。勿論の事、連中に気が付かれない様に。

 

(強い力を持っている、いつかはちあうかもしれぬな)

 

それでなくても、もし自分の目をつけた童に何かしていたのであれば、神罰を下す事に成るのだろうと思いながら。

 

結果は、言うまでも無く血の海だった。御狐様は横たわる死体を見て回り、目が赤い事に気が付いた。

 

 

 

そして反射的に人型に成り後ろに飛びのく。

 

 

御狐様が避けなければバラバラにされていたであろう。

 

謎の、いや、『クルタ族の印象(緋目の悪魔)』の具現化された、

 

 

自らと同じ存在のモノに



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因果の序章後編 御狐様と悪魔の誕生

悪魔と形容するは、その頭から生えた禍々しい二本の角。本来人間ならば有り得ない悪魔の尾。そして背から生える羽。人間としての特徴にそれらが組み合わさっていて、それでも違和感が無いのは、偏に緋色に染まっている目のおかげだろう。

 

「同類、と言うべきか。言葉は解るか?」

 

一応理性が有るかの確認として声をかけた。御狐様は自分と同じ存在である悪魔が具現化された事に事に喜んでいた。しかし、悪魔は依然としてこちらを警戒しているようで、オーラを集中させている爪先を構えている。とても理性が有るようには見えなかった。

 

(何故じゃ?役目が解らぬゆえか?それとも悪魔とはこの様なイメージしか持たれていないのか?)

 

御狐様は考えた。様々な要因を。理性を持っているならこんな事はしないはず。ならばなぜ?それが悪魔たる所以とはとても考えられなかった。振りかぶる事も無く、奇襲に失敗した悪魔は御狐様をただ睨んでいた。そうして時が過ぎるうちに、御狐様は一つの答えを導き出した。それは、

 

「お主、パイロか?」

 

何となく、名前かも知れない単語をいう事。それがもし本当に悪魔を形作る思念(オーラ)の一人格だったらそれが主人格となるかもしれなかったからだ。もしそうでなければ、彼らが持つ≪パイロ≫へのイメージが悪魔の自我に成る。その二つに一つだった。もしもこれでだめならば、きっと何をしてもだめだろうと踏んでいた御狐様は構えた。

 

しかし、そんな心配はするまでも無かった。悪魔は、≪彼≫は少なくとも御狐様の神童だった面影の残る人物に変化して意識を失った。

 

(あの時の童、か)

 

もしも予想が外れたら、なんてことは無かっただろう。悪魔は殺されたクルタ族と呼ばれる民族の怨念と≪クルタ族の印象(緋目の悪魔)≫の寄せ集め。そうと決まれば名前を付ければそれは御狐様と同じように意思を持つ事が出来る。御狐様もそうだった。

最後、と言うか良く遊び?に来てた時よりも大きくなったパイロ?の顔を見て、それとはかなり不釣り合いに取れる悪魔の特色を見る。何よりも先に状況説明しないといけないこの光景を見て、御狐様はため息をついた。

彼が横たわっているところは、まさに血の海と形容できる場所。見回せば死体の確認もできるだろう。

 

「うう、」

 

意識を失ったのは一時的な物らしく、彼は呻いて体を起こす。そして目を開いて、絶叫した。声に成らない叫びで、それはそれは悲痛な叫びだった。

 

「あああぁぁぁぁぁああッ!ッあああ!」

 

絞り出すような声で、阿吽の混じった叫び。彼には意味が解らないだろう。目が見える事。それは緋色の視界な事。殺されたはずなのに生きている事。そして何よりも、、

 

 

 

自分が悪魔だという事を、本能が痛感させる事。

 

「大丈夫か?」

 

人が殺されたり苦しんだとしても哀れだとしか思えない御狐様でさえ、そう声をかける程度には。彼の目には見えていた。彼女が、幼い頃に遊んで?いた大狐だという事実が。

 

「はぁ、はぁッ」

 

うずくまってのたうち回って、そして方で息をする。その内に落ち着いてきたのか、ようやく彼は自分で立った。

 

「自分の事、解るか?」

 

文章に成らない言葉で、御狐様は聞く。そして、彼はそれに答えた。

 

「悪魔だと、いう事なら。名前は、……パイロ」

 

まだ頭が痛むのか、頭部を左手で抑えながら彼は彼女に目を合わせた。

 

「自分の正体、と言うか成り立ちは?」

 

彼は聡明だから、それが単に両親の事を聞いている訳では無い事くらい理解できた。今どうして存在できているのか理由を問うている事くらい、簡単に理解できてしまった。

 

「解り、ません」

 

「そうか、まぁ座れ。まず基本から教えてやる」

 

御狐様が行っているのは、所謂チュートリアル。まずは念の基本や、それらが生命エネルギーであること、そして制約と誓約。更には死後の念の事まで、つまりは一般のハンターに知られている事を教えた。

 

「……、と、ここまではいいか?」

 

「はい、それが有ってようやくハンターに成れるという事は」

 

そして次に説明すべきは、

 

「次に我らの事じゃ。先ほど職人なんかが集中して作った名作にはオーラが籠るといったろう。その意味が解るか?」

 

「オーラに目覚めていない人でもそれを扱う事は出来る」

 

「さよう。そして死後の念は除念が難しく、とても強い物だとも言った。つまり、お前は悪魔と言う人のイメー

ジや概念と、そこらに散らばる人間の死後の念(死霊)が合わさって出来た物だ」

 

彼の脳内で響くのは、緋の目に成ったクラピカを見て言われた、悪魔と言う罵り。耳に間違いが無ければ、石を投げつけられていたのだろう。無意識に握り拳を作り歯を食いしばっている。

 

「我はそれとは違うがな、何百年も同じモノに念を送られたらこうなる。……お主らも長い事悪魔と呼ばれ忌み嫌われていたのだろう?」

 

裏切られた事に対する恨みはなかった。ただ、彼にとって理不尽な行為は、彼にとって悲しみしか生み出さなかった。

 

「我は神と呼ばれ、そう有る様に望まれた。故に人に飴と鞭を与える。反対に、お主はこれから人を貶め、呪う行為を生業とせねばならぬ」

 

彼も、ハンターとして活躍したかった。幼馴染と共に、冒険や発掘、希少生物の保護をしていきたかった。人に誇れるように成りたかったのに、突きつけられるは反対の事。

見かねた御狐様は助け舟を出す。

 

「悪魔はな、時には神よりも必要とされる。その悪魔としての力の活かし様によっては、人も救えるさ」

それでも俯いて黙り込む彼に、御狐様はもう一度ため息をついた。

 

(ここまでか、成ればもう用は)

 

そう思いながら立ち上がった所で、パイロから待ったがかかる。

 

「人に化ける方法は有りますか?」

合いも変わらず俯いたままだが、その声には確かに意思が有った。そうなりたいと願う、断固たる意志が。

 

「有る。そう思うだけじゃ」

 

そう言うと実行したのか、彼の角や羽、尾が消えていく。目の色もこげ茶色へと変化した。

 

「僕は、生きなきゃいけない。僕には、まだやるべきことが有るから」

 

言葉の裏に、その為なら何でもすると感じ取れた。それほどまでに、慈愛に満ちた悲しげな眼をしていたのだ。その目を、顔を、決意を、御狐様は面白いと、美しいと思った。

 

「やるべき事を終えたら?」

 

「……どうしましょうね」

 

意地の悪い質問にも、困った笑いで返す彼には、何を言っても変わらないのだと思った。悪魔として生きる事、それはとっても暗い道に成るだろう。その中で彼が今の様に人を愛し、笑えるのかが気になった。

 

「まぁ、片割れに姿を見せるのは彼が念を取得してからの方が良い」

 

 

死後の念や、人のイメージするその≪思い≫が尽きない限り存在し続けなくてはならない、ナラズモノと成った彼に突きつけられたその永遠に近い時間。彼女は元からそう望まれたし、そうあるのが当たり前と思ってきた。それが通じない事に絶望するのだと、彼は悟っているだろう。それでも、今存在する理由として、絶対に生きている(何時か死ぬ)親友をあてがうのだった。

 

「ではこれでな、退治されぬよう気を付けろ」

 

「そちらこそ、お元気で」

 

元気も何もないだろうと思いながら、御狐様は本性で森から人型で出ていく彼を見送ったのだった。





段々ご都合主義が入ってきましたが、それも次回で消えます。ここまでが前提で、ようやく書きたかった所か書けます。

主人公が念を取得するまではシリアスやっている隣で場の雰囲気をぶっ壊す発言を連発(主人公達には聞こえない)していきます。

次話は普通に人外の登場人物まとめです。登場予定のキャラもまとめて紹介するので、その中に入っている以外で増やす予定は有りません。


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幕間 オリジナルキャラクター紹介(人外紹介)

御狐様

 本作の主人公、ジャポン五大社の一社の神様。狐という事から主に戦術、知力の神として崇められている。大本は山を守る祟り神で、土砂崩れなどを起こさない様にという事で祀り上げられたのが起源。つまり山の危険の権化であり、主と古くは伝えられて来た。動物なせいで性別が無い、と言うせいで時代によってコロコロ変わる。現代社会のアニメの影響か女性で固定される今日この頃。

性格は気まぐれで一度気に入ったモノにとことん慈愛を注ぐ。これは動物としての種の保存と言う本能からくる母性や父性だと本人は解釈している。

 

人魚様

 ジャポン五大社の一人。海の神様で海の災害から人を護るために祭り上げられた。作者のお気に入りで結構腹黒だけど結構良い奴。服装が和装から貝ビキニへと変貌を遂げている。

ノリが良くフレンドリー。過ぎて神様としての威厳が零に等しい位軽い性格。一度でいいから本気モードにして見たい所存(島を一つ海に沈めるレベルで)

 

鬼神様

 ジャポン五大社の一人。鬼の中でも特に高位で疫病、病から人を護るとされている。大本は鬼を呼び出したとされる水晶。武士道に走っていたのだが、いつの間にか真反対の暗殺者(忍者)の里を護る守り神になっていた。

猪突猛進で憎めないタイプの馬鹿、且つフレンドリーで威厳の欠片も無い。現代で唯一核となった水晶が残っている神様(他、石像などは壊された)

 

龍神様

 ジャポン五大社の一人。天気の災害から人を護るとされている。名の通り龍の化身で核は滝の裏に掘られた龍の彫刻。僧しか入り、みる事の出来ない場所で暮らしている。朗らかで威厳のあるおじいちゃん。あんまりがやがやとした場所が好きでは無いらしく、現代でも他人が滅多に立ち入れない場所に住む。だけど純粋無垢な子供は好きなようだ。

 

福神様、貧乏神様

 ジャポン五大社の一人?人の縁とお金回りの神様。祟り神と福の神が一つになってない典型例。(ふつうは1神で両方の力を持っている)現代では二人は別々で彷徨っては居るものの、良く貧乏神様の神童を見かけるとか。特記事項は無いが、二人とも無類の酒好き。

 

サキュバス

 裏社会が出来た辺りから色んなところのボスを全力で愛してきた悪魔。その人が生きている限りはその人一筋なのだが、人間には少し重い模様。現代では趣向を変えてとある有名な箱入りお嬢様に憑りついている。

 

夜叉

 ハンター協会所属の影とか言う一族に祀られている神様。思いが業に変わる典型例でもある。本来の性格は慈悲深く受け入れる心を持っていたのだが。

 

イエス=キリスト

 多分この人はこの世界でも救世主やってると思って出しました。世界観はかなり違うので、本来の物と重ねるのは止めて下さい、わざと違くしているので。

温厚で慈悲深い、人間の善方向での死者の念。ぶっちゃけると信仰心が彼らの存在を確立している訳だから、いい加減自分から離れて欲しいとも思ってる。(独り立ちして欲しい親の心境的な)

 

パイロ(悪魔) 

 クルタ族のイメージ(赤目の化け物、悪魔)がクルタ族の未練の怨霊(死後の念の塊)に合わさって生まれた存在。御狐様が名づけしなければ幻影旅団をそのまま殺しに行く本物の化け物に成る所だった。正確は悪魔になったおかげである程度ダークサイドに落ちてます。けど原作よろしく優しい一面も持ち合わせている。そういう意味で葛藤の日々。

 

 

登場予定のオリキャラ―ズ

 

 

メドゥーサ

 髪の毛が蛇で目を合わせると石に成ってしまう。人にしか効かないらしく、神様業界の方々には効果が無い。しかし能力の気味の悪さからいろんな所で爪弾きにされてきた。その影響か、本人はかなり卑屈でねじまがった性格の持ち主。それ故爪弾きにされたとかは、鶏卵問題に匹敵する難題である。

 

女郎蜘蛛

 とある団を率いている団長が気まぐれで助けた蜘蛛は実は女郎蜘蛛の化けた姿で、恩返しと言う名の暇つぶしをしている。かなり卑屈で残虐な性格をしているが、本人には本人なりの流儀があるそうだ。

 

死神 

 自分の友達には一生の幸福を約束する存在。死を誘うだけじゃなく、死が近い人間の近くに良く居るので、友達は彼が見える殺人鬼位しかいない。快楽殺人鬼量産者。業界の中の逸れ者。

 

本作品の限定ワード

 

ジャポン五大社

 人間を自然の災害から守って貰えるようにと祀り上げられた自然そのものの権化を祀る社。山の災害が御狐様、水の災害は人魚様、天の災害が龍神様、病魔の災害は鬼神様、人の円が貧乏神様、福神様。形だけなら現代で再建築されている。

 

神童

 本来の意味は神がかった才能を持った子供に与えられる。本作品では神様のお気に入りに寄生型の念獣(分霊)が付いている子供、もしくは念獣が付いていた大人の事を言う。

 

 

神様の能力集  人外全員持っている能力です。

 

天気に通じていない神様もオーラを消費する事で自分の周り100m位の天気を操る事が出来る。

 

神童の念獣(加護?)を通して神様同士通信する事が出来る。

 

死者の念の集合体でもあるから、基本的に性能がチート。それに加え、人間じゃないという事が思い込み(誓約)のおかげで強化されている。性能と言うのは、流とか錬とか、消費オーラが凄いけど円とか。

 

制約、信仰心(向けられたオーラ)か死者の念を取り込むことでしかオーラを補給できない。

 

 

以上

 

その他の人間は使い捨てと言いますか、再登場は絶対に有りません。と言うよりも、これから出て来る名無しのモブキャラも全て使い捨てです。

この作品は全て作者の妄想で出来ております、苦手な方はブラウザバックしてください。その内原作改変タグつけます。所で、映画編って原作に入らないですけど公式ですよね?一応ストーリーの流れに入れてますが、見て無くてもちゃんと読めるように頑張ります。



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集約の因果、望みと現実
因果其の一 御狐様と人魚の神童


その日、御狐様がうろつくのは、ハンター志望者の集まるザバン港。一応念能力が使える人間が居た場合の正体ばれ防止のため、人型に成って練り歩く。凝をされればそれでも狐耳や尾は隠せない。故にマントとフードは外せない。ふと、すれ違う三人組に目が留まる。何となく気になったために憑いて行こうかと思ったが、何となく呼ばれている気がしてザバン港の端へと向かう。

 

「なんだ、お主か。人魚様。息災だの」

 

「何だとは何よ~。それに最近では人魚様では無くてアクアちゃんて呼ばれる事が多いんだけど」

 

テトラポットの隙間から姿を見せる何時かの人魚だった。にっこりと笑っている笑顔は変わらないが、着物姿が世間一般で言うマーメイドの様な服装?に成っている。

 

「どうした?我を呼ぶからには何か有るのだろう?」

 

姿を一般人に見えない様にしているのは、人魚に合わせているのだが、それに意味が有るのかはわからない。人型を保つことに労力を取られたく無くて御狐様も狐型を取っている。

 

「あのね~、前から目をつけて来た私の神童がね~、ハンター試験とかに行くのよ~。それでね~頼みたいんだけど~」

 

お願い~、と手を合わせる人魚。それに御狐様は座り込んで首を振った。

 

「断らせてもらう。我に得が無い」

 

そう言ってそっぽを向く御狐様。意訳すると、報酬無ければやらないぞと。ついでにあるならやってやんなくも無いぞ、と言う訳である。なんのかんので同世代な人魚様はそれを理解しているから、得意げに言った。

 

「御狐様が入れ込んでる~悪魔?みたいな新入りさん繋がりのさ~、多分君の元神童さんが一緒だったんだよね~。いいの?」

 

その言葉に、御狐様の目線が人魚様に戻る。しかしその目は、情報を求める猛獣の目をしていた。変な発言をすれば飲まれてしまいそうだ。

 

「アンタの神力()の罹った金髪の少年。解るでしょ?お・ね・が・い❤その子ついでに私の久しぶりの神童も見守っといて♪」

 

意訳、命に関わらなければほっといていいけど、反対に命レベルで危なくなったらアンタの神童と私の神童守って頂戴❤

 

まぁ、とんでもない悪女である。もしこれで誤って死なせてしまったら、これから永遠に近い時間存在しなくてはいけない同士邪険な仲に成る訳にはいけないのだから。

 

「仕方ない、場所は解っているのか?」

 

立ち上がって人型に変形していく御狐様。相変わらずの幻想的な化け方に人魚は御得意げな表情を浮かべる。

 

「山の上の一本杉、そこに行けって言われてた」

 

反対に、御狐様ははめられたとでも言いたげに髪をまとめる。

本来の服装である巫女服を豪華にした装飾では無く、現代の服装を装着する御狐様。フード付きマントは変わらずに羽織り、空を浮遊する。

 

「いいの?人型で?見られるよ?」

 

「大丈夫だ、これでも見えない様に出来る。物によってはこの姿の方が勝手が良い」

 

どんな試験よ、そう思っても声には出さない人魚。

 

 

「キリコ、久しいな」

 

未だに受験生が来ないのは、道のりが長い事が影響しているのだろう。

 

「御狐様かい、どうかなさいましたかー!」

 

サバサバとした母ちゃんキャラなキリコに声をかける。初めましてな訳でも無いけれど、そこまで親密な訳でも無い。けれど、ネテロ会長、もといハンター協会に対して協力的で唯一存在が知られている念獣(死後の念)であることも関係されているのだろう。

 

「まだ受験生は来ていないのか」

 

「ええまぁ、厳密な審査をする予定ですが」

 

「そうか、死なせるなとだけ言っておこう」

 

そう言って姿を消す。実際には絶で見えない様にしただけだが。

 

(三人で行動しているらしいな。福神様の元神童もいるのか?)

 

三人の気配とその三人に加護をもたらしている神の気配もする。一つは御狐様の物、そして二つ目は人魚様のだろうけれど、まさか福神様の物まで居るとは思わなかった御狐様である。

福を授ける福神様、その実態は不幸でありながらも前を向くもの、つまり貧乏神の神童の加護の上から重ね掛けする事でしか得られない福の加護を授ける物。それだけで神様と呼ばれた者達は青年の性根を理解する事が出来るのだった。

 

 

 

 

 

 

読者の方々にはお分かりだろう、この三人の加護を持った人間こそこの物語の主人公である。彼らはいとも簡単に?キリコの試練を突破し、そして試験会場までたどり着く事が出来た。

 

 

 

 

オマケ 没案と有ったかもしれないやり取り。あくまで没案です。時系列バラバラ。

 

 

 

 

龍神様「お主が御狐様の言う悪魔か?」

 

パイロ「はい、パイロと言います」

 

龍神様「して、一つ聞いていいか?」

 

パイロ「?」

 

龍神様「何じゃ?その服装は?」

 

パイロ「御狐様が、悪魔っぽいと、執事服を着せて来まして」

 

龍神様「そうか……」

 

_________

 

 

パイロ「クラピカが試験受けるって?僕も行きたいな~」

 

とある森の木の上でぼやく。対して御狐様は本を手に持ち興味無さそうにしている。

 

御狐様「行って来ればよかろう。姿を見せなければ退治される事もあるまい」

 

パイロ「じゃ、行ってきます!」

 

御狐様「ちょっと待て」

 

パイロ「?何ですか?」

 

御狐様「衣服を変えて来い。そんな血濡れの執事服でどうする気だ」

 

パイロ「………、マント貸してください」

 

__________

 

 

レオリオ「畜生……」(医者に成ってやる)

 

貧乏神「ほう……ここまでやって折れない若者も最近では珍しいな」

 

福神様「では、この者に福を授けよう」

 

持っている小槌を振る。

 

その後_____

 

人魚様「あの人、大丈夫?」

 

福神様「早まったかのう?」

 

貧乏神「知るか!ワシに聞くな!」

 

 

___________

 

 

人魚様「あの子可愛い❤神童にしちゃお」

 

その後____

 

人魚様「えーあの子でてっちゃうの?いいけどさぁ~。試練替わりに嵐起こして船にぶつけてやる!」

 

 

 

人魚様「って言う風にしたんだよね」

 

御狐様「知るか、船が沈まない様に加減できたことだけ褒めてやる」

 

人魚様「えーひっどーい。じゃあ悪魔くんに教えない方が良かった?」

 

御狐様「どういう事だ」

 

人魚様「試験が始まるって事と会場を教えといたんだー!」

 

御狐様「本当、その性格をどうにかしてくれ」

 

___________

 

 

御狐様「おいパイロ。これ着ろ」

 

パイロ「コレ、何ですか?」

 

御狐様「見てわからぬか?執事服じゃ」

 

パイロ「それは見れば解ります」

 

御狐様「悪魔と言えば、だろう?」

 

パイロ「形から入れと」

 

御狐様「むしろ形が一番最後じゃな、お主の種族は既に悪魔ぞ」

 

パイロ「そうでした、それで、拒否権は?」

 

御狐様「有ると思うのか、そうかそうか」

 

パイロ「無いなら無いと言っていただきたいです」

 

 




オマケばっか長くてすみません。

次回予告?

龍神様に頼まれてもう一人の主人公組、キルアの後を憑けているパイロ。そして初めて見る死神の友達である道化師に焦る彼。さて、試験官以外の念能力者に存在がばれない様に見守る事が出来るのか?

次回、御狐様のかくれんぼ

良ければ評価、ご感想よろしくお願いします。


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因果其の二 御狐様のかくれんぼ

試験会場にて、ゴン達が来る前の話。

 

キルアの見守りを任されたパイロは、付いてきた先で念能力者に見つからない様に息を潜めながら彼を見守っていた。見た限りでは現段階で使える人は試験管除き一人だけ。しかし、その一人がとんでもなくやばそうと言うのは、悪魔と言う種族柄いやでも伝わって来たのだった。

 

(ああ~、安請負しちゃったかなぁ)

 

御狐様と知り合いだと言う先輩に、命に関わらない様にとのことで任された見守りは、どうやら思ったよりもはるかにハードモードだったようだ。

 

(羽とか、しまっておいた方が良いのかな?でも見られた=ばれたじゃないし、でも雰囲気とかオーラで解るし)

 

きっと読者ならお分かりだろう。某道化師の恰好をした変態のせいで内心、テンパりまくりである。この後、御狐様が来るまでずっと緊張感が抜けなかったのは言うまでも無いだろう。来なければどうなっていた事か。

 

 

________

 

 

チーン!

 

エレベーターの到着する音が響いて、平均年齢を大きく下回る少年ら三人が入って来る。試験会場で隠れていたパイロは、取りあえずソレに憑いてきた気配に一安心した。

 

「お久しぶりです」

 

自分の存在に気が付いて、天井近くの隠れ場所に来た御狐様に声をかけた。注意、纏をしていないと聞こえません。

 

「久しいな、して、何故ここにいる?」

 

久しいと微塵も思っていない真顔で言われても正直言わない方が良いと思う以外他にない。

 

「あの子の保護神?に任されたんですよ」

 

「ふーん」

 

銀髪の、キルアの方を指さして言うと彼女は品定めするかのような目で見る。彼に憑いている神様のオーラを見極めると、大きくため息をついた。

 

(人の縁は妙と言うが、神の縁もそれなりじゃな)

 

人の世の中は結構狭い、これ世界の真理である。恐らく、主人公補正と言うか性格が御狐様や他神様の縁も引き寄せているのだろう。自然と人の好意が寄せられる所に近づいて行くのが彼ら彼女らの無意識的な本能なのだろう。

 

「ふーんて、そんな興味無さげに言わなくても」

 

「面倒が増えた以外に何も思わぬ」

 

後で挨拶だかに行かなければならない事を考えると、面倒事でしかない。しかも、必ず通信で会話をしなければならないだろう。平たく言うと、ジャポンを出ていくときにやらかした事に対して向き合うこと自体が頭痛の種である。人魚様については、大津波の事件が耳に入っていたのでお互い様として言わなかったのだろうけど。(頭痛に成る事は有りません)

 

「我と共に来た者らを見守っておいてくれ」

 

丸投げと言う名の責任転嫁行った御狐様に、パイロが半ば半泣きで縋って止めたのは、この時から役五分後の出来事である。

 

 

 

 

 

「流石、人魚が気に入るだけある」

 

あっという間にキルアと友達になったゴンを見て、御狐様はそうつぶやく。

 

「ああ、件の。それで、あの、いつまでこのまま何ですか?」

 

しどろもどろに言うパイロ。彼の手には普通サイズの狐が抱えられている。そう、節約モードの御狐様である。羽の無い御狐様が飛ぶのには羽が有るパイロが飛ぶよりも使用オーラが多くなってしまう。そんな建前と楽をしたいからと言う理由でパイロは御狐様を抱えて飛ぶ羽目になってしまうのだ。

 

「少なくとも、彼らに命の危機が来るまで、じゃな」

 

だらけモード全開、パイロはそれに対してため息を小さくついた。心境的には面倒な上司の世話をしている気分である。一方御狐様には有る程度の予防線が有っての事だった。

 

(気が付いている者が計三名。面倒なのは二人、否一人か)

 

某変態クラウンさんの事である。もう一人は有る程度のラインを護っていれば敵対することは無いだろう。パイロの子守を任された少年、キルアの兄の事である。面倒じゃないのは普通に試験管であるサトツさんの事だ。

変態にも薄っすらとだが堕落神の気配がするため、そっち方面の人間だと気が付いていたが故、自分が弱いと思わせておきたいと言う、合っても無くても同じような打算なのだが。

 

 

まぁ、ヒソカ目線、気が付かれているんですけどね。面白そうな存在に。

 

 

「あんの馬鹿!」

 

暫くして、抱えられていた御狐様が突然毒付いた。呆れる様な、怒っている様な声に一瞬体をこわばらせたパイロと、彼らの存在に気が付いた、人間に成りきっていた馬鹿、、、もとい鬼神様。角も無ければ忍者の恰好をしていて、明らかに294番、ハンゾーと同郷だと言うのを物語っていた。

 

「御狐様?」

 

それに気が付いてない、良く言えば完全的な鬼神様の擬態を裏付けるパイロは恐る恐る彼女に聞く。

 

「凝」

 

それですべて解ると、むしろ何故解らないのだと怒られている様な気分に彼は陥った。解らない僕が悪いのだろうかとも思った、だけど安心して欲しい。全ての元凶は鬼神様で、悪いのは八つ当たりをする御狐様なのだから。

 

凝をして、初めて鬼神様と言う、自分と同種な存在が自分たち以外にこの場に居る事に気が付いたパイロは、のんきに後で挨拶をしておこうとしか考えていない。

 

「後で説教じゃな」

 

しかし考えて見て欲しい。鬼神様は今、人間に擬態して一体何をしているのか。そう、試験を、ハンター試験と言う世界共通で使える身分証明書を貰える試験に参加しているのである。マジで何をしているのか。ただし、それを本人に問えば、自分の加護下にある人間を護るために憑いてきたと言うだろう。

 

(心意気や良し。しかし、やりようと言うモノが有るじゃろうに)

 

確かに守り易いだろう。念を知らない人間たちを守るために人型を取って人として守る。理に適っているどころか力を使った場合のつじつま合わせがどれだけ楽な事か。

 

「御狐様、どうしますか」

 

悪魔の様な(本物だけど)冷酷な声で、パイロは聞いた。冷たい、熱の無い声をいつの間に出せるようになったのかと聞く前に、御狐様はある種の不安を感じた。

 

(こやつ、もしもが起これば)

 

きっと彼は彼の生前の親友の矛となって親友の前に立つ者を穿つ事に成るだろう。心を殺してでも、尽してあげたいと思う狂愛の片鱗を、見てしまったから。

 

(まぁ、どうなろうと人が望むそのままに)

 

その時はその時だろうと思う。だから今だけは、止められる内は止めてあげようと思う。正しい知識を得たうえで己自らの未来を選べるその時まで。

 

「後で話し合う。今は放って置け」

 

パイロはきっと、クラピカの試験の邪魔を人外がするのであれば、それを押しのけ関係のない人さえも傷つけてでも、合格させたのだろうから。




書いている内に段々キャラが壊れたのか見失ったのか、そんなコンセプトでも形になって行きました。複雑そうで、案外そのまんまだったりするんですよね、御狐様たちって。

次回予告

試験が始まり、自身を見る事が出来る人間から隠れつつも沼地へと突入する御狐様たち。過酷な試練を簡単な物にしようとするパイロを、御狐様は止められるのか。
次回 御狐様の沼地探訪


パイロ君のキャラが安定しないです。そうなる様に作ったのは私なんですけど、御狐様が思ったよりも冷静過ぎたのが原因ですかね。


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因果其の三 御狐様が行く沼地探訪

湿地帯に出た時に、御狐様はパイロから降ろしてもらい今度は地上を駆けている。理由は単純明快、その方が目立たないからである。万が一にでも見えた時、狐が走っているのと浮いているのとどっちの方がやばいのかは一目瞭然なのだから。

 

「不穏じゃな」

 

「縁起の悪い事言わないで下さいよ」

 

「縁起の悪いモノ代表が何をほざく」

 

雲行きと言うよりも、とある死神の友達がいる事が問題なのだと、御狐様は続けた。死神の友達と言うのは、死神の加護を一生得る事に成るので、神童の上位互換という事に成る。

 

「合った事有るんですけどね。正直人間目線では理解しがたい性格でしたよ」

 

「安心せい、あ奴は我らの中でも特異な類じゃ」

 

安心できる要素が掻き消えた所で、かなり霧が濃く成って来た。前が見えにくくても気配で本来よりも周りの状況が確認しやすいので悪魔と言う性に多分初めてパイロは感謝した。そもそも自分が生きていたらと言うIFは、考えない。考えたくも無い、一度考えた事だってあるけれど、虚しさが増すだけだった。

 

「どうします?」

 

「関係なければ放っておくに限る。ただ、あ奴の性格を考えるにあの道化師は《今》は殺されないだろう」

 

今は、という事は、これからは解らないという事に他ならず、現段階での気休めにしかならない。

 

「性格、悪そうですね」

 

「そう思う事であ奴もあ奴の友達とやらもそう成って行く、余り深く考えるで無い」

 

余計タチが悪いとも言いまわせる言い方に、極力関わりたくないのだと伝わって来た。思い返せば厄介事しかないと言う事実に、パイロはそれ以上追及する事は出来なかった。

 

「でも、気にしないと危ないのでは?」

 

段々と殺気を隠すのに一苦労しているのだろうと、お預けを喰らっているせいで暴れたりない死神の友達が今にも暴れ出しそうなのである。気にかけていないと、何時誰が殺されてしまうか何て知れたものじゃない。

 

「死ぬことは無いだろう。我らに気に入られた御子が、才能を見極められない訳は無い」

 

暗にヒソカを、死神の友達を信用しての言葉である。性格が解っていないとここまで断言する事は難しいどころか、御狐様の性格的にももっと警戒するだろう。

 

「少なくともパイロ、お主が任された者は絶対に安全じゃ」

 

彼はこの時点では気が付いていなかった。何がって?龍神様の元神童がもう一人その場にいるという事を、だ。

けれど、彼の方は気が付いているようだ。自身の保護対象がその場にいる事に。

 

「しかし、福神様のは怪我程度は覚悟しなければな」

 

既に一番前を見失っている彼らの事を見て言う。それより前で殺伐といた空気が流れているのは、パイロも彼女も気が付いている。そして、血の匂いも漂い、それが濃くなっていく。

 

「あの道化師の好み次第だと思いますが」

 

例えば、未来有るモノの未来を閉ざすのが趣味だった場合には、彼らの命は直ぐに潰えるだろう。ただ、御狐様がそれを懸念しないのにだって、ちゃんと訳が有る。

 

「ならば、あ奴はこの近くに居なければならぬ」

 

死にほど近い所に居たいと望む死神だって、思い()が積み重なって出来た存在なのだから、思い()を取り込み続けなければ消えてしまう。だから、多くの死者を友達が出す時、才能を持った者が死者となるときには近くに居なければいけない。そうでなければ取り込めないのだから。

御狐様だってそうだ。むしろ、神童全般が大本死後に取り込むと言う予約に近しい物なのだ。横取りは、規定違反でしかない。

 

「そう言うモノですか」

 

「お主だって主な活動は自殺者の手伝いだろう?」

 

「それだけじゃないですよ」

 

納得しかねているパイロに、御狐様は諭す?話を逸らしたの方が正しいだろう。

 

「いじめの復讐の後押しとか、スパイまがいの事だってします」

 

そう言う事ではないと、御狐様は空を仰いだ。

 

 

 

 

 

 

「血が香って来たな」

 

一寸先が見えない位に霧が濃くなって、御狐様はそんな事を言い出した。クラピカとレオリオのちょい後ろを、気配を頼りに飛んでいる&走っている。ゴンとキルア?龍神様と人魚様の加護も有るし何とかなると先に行かせました。

 

「あちこちから悲鳴が聞こえますね。ちょっと前方確認してきます」

 

「待てパイロ。これ含めての試験だと言うのが解らないのか?」

 

彼が良い笑顔で前方の危機に成りえる生物を駆逐しに行こうとしたのを、御狐様も結構いい笑顔で止めた。子ぎつね状態で走るのもどうかと思ったので、人型に変化する。

 

「ええ、解ってます。解ってますよ?」

 

黒い笑顔の下に、とんでもない過保護が眠っていたのだと彼女は思う。解った上で開き直って守ろうとするその工場は見上げたものだと思った。

 

「獅子は子を千尋の谷へと突き落とすと言う。汝もそれを見習え」

 

そう言って諌めるが、パイロは諦める様子を見せない。そうこうしている間にレオリオの叫びが響いた。持ち前の運動能力だけでも、彼は十分人として並外れた物を持っていると思うのは私だけだろうか?

 

「やばっ!クラピカ!?っ痛い!」

 

その声を聴いて、クラピカにも何かあったのかと判断したパイロは全力でスタートダッシュを切った。しかし、御狐様に足を駆けられた末、拳骨を喰らう羽目になった。冷静なキャラの割に、周りが見えなくなる時が有るのは一体何故なのだろうか?

 

「死ぬことは無い。と、何度言えば理解する」

 

運動能力やその他諸々考えても、ここの沼地の住民たちに一撃でやられることは無い。そして、あの道化師にやられる事も、少なくとも今は、無いだろう。

 

レオリオが首長の怪物に振り回されている時、パイロはちょっぴりクラピカのジャンプ力に細工した。そして、

 

「手助けは無用と、申しているだろうが!」

 

と、御狐様に二度目の拳骨を喰らうのだった。

幸か不幸か、それに彼は疑問を持つことは無く、怪物の目を木刀で貫き華麗に着地。後にレオリオと共に逃げ去った。思えばそれが、彼らの縁の始まりだったのかもしれない。

 

 

以下、会話文が混ざるので、人外『』  人間「」で表示します。これから、聞こえないけれど会話が混ざるときは基本そうします。

 

「先頭集団を、見失ってしまった」

 

『パイロ』

 

クラピカの言葉に、彼は目を輝かせ、そして御狐様からの戒めを貰う。しゅんとしてその場限りは我慢すれど、きっとすぐにその事は忘れてしまうだろう。

 

「どっちに行けばいいんだ」

 

吐き捨てるように、レオリオが言った。

 

『でも』

 

『人間の世は、成る様に成る。その様に回って来た』

 

何とか自分の手を加えようとするパイロに、霧の奥を指さして伝える。レオリオも同時に気が付き、クラピカに伝える。

死神の様な道化師は、幾人ともいえる、今回の試験を諦めた集団に囲まれていた。

 

「去年から思っていた。貴様はハンターにはふさわしくないと」

 

『愚かしい。其の生自ら死に急ぐとは』

 

リーダーらしき男が言う。そして、御狐様は冷ややかな目でその《茶番》を眺めていた。彼女にとっては、今この光景は食にもならない、得も無ければ面白くも無い《茶番》でしかない。人の命のやり取りに、立ち入ってはならない決まりがある。

それでも守りとして彼らに引っ付いているのは、偏にその規定を護らない輩がいるからであって、必要以上に関わる事は良しとされない。

 

「二度とハンター試験を受けないと誓うなら見逃してやるぜ」

 

『これ、戦う利点無いですよね?』

 

ヒソカにとって、この試験自体は結構簡単な物。それでも受からなかったのは偏に我慢が足りなかっただけに過ぎない。故に、誓った所でヒソカに損はない。むしろ

 

『合理性を求めるなら、な』

 

自らの欲求を少しでも晴らそうと言うの成れば、話は別だ。

 

案の定、ヒソカの答えは今年で受かるから誓う。だった。

 

もしも、ヒソカを止めようと言う集団が一人でも念能力者だったのならと、パイロはIF物語を巡らせた。

 

『助けないんですか?』

 

そこまで考えて、止めた。そして何となく思った事を口にする。御狐様はこういう時、誰も助けないのかと。

 

『人が望んだ。我らは気まぐれで身勝手、それ故に人が見捨てられる時も有ると。成れば我はその思いを叶えるまで。人が望んだ姿のままに、性格のままに行動するだけじゃ』

 

意訳するならば、気に入らないから助ける意味も無いと言うモノだろうか。さらに言えば、自分から笑いの一つでも命を懸けて取ってくれればそれはそれで面白いとさえ思っていそうだ。

 

試験官を気取った両者が戦っているさなか、御狐様もパイロに聞いた。助けなくて良いのか、と。

 

『あんな食べても腹にたまらなそうな連中、助けても無駄、、』

 

そこまで言って、彼は閉まったと言う様な表情をした。ご丁寧に両手を上げてジェスチャーまでしていたが、その恰好で固まる。

 

(そこまで堕ちた、いや染まったのか。望まなくとも望まれるがまま変わって行くのは、さぞかし辛かろう)

 

一般的に、自分が殺されたとして、友達や家族に復讐を願う人物など、結構な屑だと言い切っていいだろう。志半ばでくじけたのなら、誰かにそれをついで貰いたいと思いこそすれ、自分を殺した強盗殺人を親友に殺して欲しいなどと思う人物はそうだと思う。そう望まれれているから、自分の命と相手の命を対等に扱えなくなっていくのだ。

たった一人の少年に固執しているが故に、特にその者の望みが繁栄されやすいのだろう。

 

(何の因果か。これでは両者共に救われまい)

 

しかし、片割れを失いこそすれ、久しぶりに作った自分の神童。彼はきっと死ぬ頃にはかなり大きな思い()を抱えている事だろうと、御狐様は舌なめずりを、誰にも悟られない様にしたのだった。

 

確かに、たった一人で多数の人間を円を描くように切り裂いた道化師と目を合わせながら。





次回予告、ヒソカに正体がばれてしまったが故、元々そこまで隠しいない情報を全て語る御狐様。そして神が説くは人の倫理、それは死神の友達が持つ価値観に通用するのか?

次回、因果其の四 倫理を説くは御狐様。



大まかなあらすじを書き出してみたら、とんでもなくカオスな事になりました。特に第一作映画の物語で。と言うよりも、ラスボスは変わらずエクストラボスが追加された様な感じ。

それ以外にも、物語とは別の所で人外同士過保護な争いが常時起こってるんですよ。どうしてこうなった?


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因果其の四 倫理を説くは御狐様

(凝、見られているな)

 

ニヤリと、その口角を上げるヒソカ。明らかに御狐様の姿が見えている証拠である。しかし、彼女の今の立ち位置はクラピカとレオリオの後ろだ。彼らにもそれなりの恐怖を与えてしまった事だろう。

 

「た、助け!」

 

何もできないでいる二人と、それに縋ろうとする一人。いや、縋ろうとしているのは二人の後ろに居る神と悪魔か。

人外をも疑えるような肌の白い手が、武器であるトランプを拾い上げる。既にとどめは刺された。彼はゆっくりと二人に近寄る。それが人外を見ての事か、手前の二人を見ての事か。

 

『陰』

 

御狐様は小さくつぶやいて、自らの姿を消す。その行動で言葉の意味を理解したパイロも同じく陰と言う技術で姿を隠す。これによって、彼らの姿、声を認識できるのは同族以外に有り得ない。

 

『くだらない茶番、そうは思わないか?』

 

『きっと、深層心理では思ってるでしょうね。認めたくないだけで』

 

彼女の問いに、パイロは自虐気味に答えた。

その時前に居た二人は逃げる算段を付ける。

 

「こんな所で無駄な戦いをしている場合では無いんだ」

 

クラピカが説得し、レオリオははを食いしばりながらもそれに納得する。近づいてくるまるで死神の様な道化師が纏うものに恐怖を感じながらも、クラピカはタイミングを計った。

 

”カァ~”

 

一陣の風が吹いて、烏や他鳥たちが飛び立った。それをタイミングと見て、彼は今だと叫ぶ。それを合図に別方向へと二人は別れて逃げた。

 

「なるほど❤賢明な判断だ♠そう思うだろう?」

 

『お前は黙っていろ「試験官ごっこは終わっていないだろう?」』

 

ヒソカは御狐様がいる方向を見て言う。されど視線が少し動いている事から姿は見えていないと確信する。彼女はパイロにだけ聞こえるように言ってから、ヒソカへと言葉を綴る。俗に言う、神託の様な物だ。

 

彼は笑って、周りへと意識を向ける。そうすれば必ずわかる、隠す気も無い気配が一つこちらに向かっている事くらい。

 

『止めた方が良いのでは?』

 

パイロはそう進言するが、御狐様は悪巧みしている様な笑みを浮かべていた。その意味が彼には理解できなかったが、少なくとも手を出すほどの物では無いと言う事は理解できたのでそのまま視線を彼らへと向ける。

 

「やっぱ駄目だな」

 

木の棒を装備したレオリオが、ヒソカに対して向かって来る。御狐様にとってこれは決して『茶番』には成りはしない。敵の実力も計れない愚か者と、何となく理解したうえでなお立ち向かうその無謀は、御狐様にとっては『茶番』では無く『演劇』だった。

舞台袖の給仕係のやる物とプロの演じるそれは決定的に違うのと同じ事だ。

 

「例え、売られた喧嘩じゃねぇにしても、何にもしねぇで逃げるのは、俺の性に合わないんだよ!」

 

それに気が付いたクラピカは止めようと彼の名を呼ぶが効果なし。それと同時にレオリオがヒソカに殴りかかる。御狐様は小さく笑って髪飾りとして使われている簪の蒼い石だけを取り出した。小粒で小指の爪ほどしかない其れ、しかし見る人が見れば一級品で有る事は一目瞭然だろう。

 

『どこでそのようなモノ手に入れるのですか?』

 

パイロが聞く。それは明らかに人間の手によって加工された物で、物質的な質量を持ち、彼らの様な思念の塊では無いからだ。まぁ、とんでもない量の力が宿っているのは目に見えて明らかだけれども。

 

『これは献上物じゃ。そうじゃの、後でその辺りの講習会でもするかの』

 

後で、と言う言葉からこの後二手に分かれると言う事を暗示させた。と同時にレオリオがヒソカの残像を殴りつけ、兆発のつもりか目線一瞬を御狐様に向けた。

そしてそのままレオリオに視線を向け、見事としか言いようのないフォームで彼を殴ろうとした。と同時に赤い物と蒼い石がヒソカの左右のこめかみに当たる。

 

けれど、彼は蒼い石の事は無視して、赤い浮きの付いた釣竿を持った少年の方へと向き直った。

 

 

~~~~~~

 

「付いて来てるんだろう?出てきたらどうだい♠」

 

レオリオを担いだまま、ヒソカはどこかに話し掛けた。そして、ゴンに殴られた時にでも自分の能力で拾った石をこれまたどこかに放り投げた。投げ渡したの方が正しいのかもしれない。

御狐様はと言うと、パイロをゴン、クラピカの方に置いて来て見守りように告げヒソカの考え通り、ちゃんと付いて来ていたのだった。

 

(この者は我にとっては害にしかならぬ。されど___)

 

葬ってしまえば自分の存在はそこで消されてしまうだろう。そうなれば神童同士の争いでどちらが勝つかによって変わって来る。この様な場合は、勝った方の神童の神が負けた方の神童の死後の思いまで取る事が出来る。しかし、相手はそのルールを守ってくれるか解らない死神。どう行動するのか普通の神様ならば迷う所であろう。

 

御狐様は例外だ。むしろ、ジャポンの神々全般そうだ。

 

「これで、満足かや?」

 

和魂、荒魂。要するに悪と善が一つの器に入れてある神様は人の邪心と善心どちらだろうとエネルギーに変換する事が出来る。即ち、ルールを守らなければ死神ごと食えばいいと言う発想に至った訳だ。普通の神様にとっては存在が保てなくなるレベルでお腹を壊すほどの邪心の塊だと言うのに、だ。多少消化に時間はかかれど、元からそう言う神様なのだ。

 

「御狐様、とか言ったっけ♣」

 

「死神から聞いたか」

 

「君以外にも沢山ね❤」

 

「面倒くさい」

 

浮かんでヒソカと並走しながらバッサリと言い切った御狐様。どうやら彼女は物ぐさな様で、表情からも面倒という事がうかがえた。しかし彼はそれでも笑っていた。面白い物を見つけた、と言う表情が隠しきれていない。彼にとってはの話であって、他から見ればただの変態である。

 

「少しは人間らしくあれ。我らの存在が必要成ればな」

 

自身の事を玩具と思っているのを知ってか知らずか、御狐様は決して彼と目を合わせようとはしない。

 

「人間らしく、かぁ♠そんな曖昧事、どこで定義されるんだい?」

 

「人の法の中に居れ。我らの領域に立ち入るな」

 

「君が先につけて来たんじゃないか♦」

 

お前の事じゃない、と言うのさえ億劫に成るほど彼女はヒソカに対しての評価を最低値に設定している。元よりそこから動かそうともしていないが。

 

そして彼女の言う”我ら”の領域とは、一体何処から何処までなのか。

 

「一方的に干渉して来るなんて酷いじゃないか♣」

 

神童がそうならば、御狐様たち事態がそのそれぞれの領域には立ち入らないと言う規律を破っている事になる。しかし、そう簡単な物でも無い。そして、それを解ったうえで彼は言っている。本当にタチが悪い。

 

「人は我らに無意識下で干渉している。意識介入が入ればそれは不安定な物になる」

 

無意識下での干渉と意識下での干渉は彼女らにとっては存在意地に関わるほど重大な事だ。自らの存在を安定させるためにも、神様はこうあるべきだと言う決めつけに則って存在しなければいけないのだから。

 

「あの子達はいいのかい?」

 

「人が望んだのだろう?」

 

ヒソカの質問に質問で返す。と言うよりは確認の方がニュアンス的には近いのだろうけど、それでも彼は自分の斜め上を行く発言に気分を良くしなかった。

 

「下手すれば、、君の大事な子も殺し__」

 

「やって見ろ」

 

鋭くも無い平坦な声で、ヒソカの声を遮った。挑発という事も十二分に理解していてもそれに理性が追い付かない。荒魂が強くなっているせいだろうか、元からそこまで強くない和魂しか持ち合わせていないのだから仕方のない気もする。

 

「神託だ、よく聞くがいい。

 

我が神の子、死させれば汝の願いは永久に叶わぬ」

 

どういう意味かと問う間もなく、御狐様は彼の前から姿を消した。ヒソカはまぁ自分の想像以上の殺気に当てられてそれなりに嬉しそうでは有った。

神託の意味など、考えもしなかった。





すみませんが今回は次回予告なしです、二連続投稿ですので。



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因果其の五 御狐様と食の話

『さて、食についてじゃったな』

 

御狐様が壁にもたれかかりながら発言する。気持ち不機嫌そうなのは気にしない方が良いだろう。そこまで追求できるほど彼らは出来た仲では無い。

 

『二次試験、予測してたんですか?』

 

二次試験が料理関係である事を会場に用意されている調理器具から察し、パイロは机に手を掛けながら困った表情で言った。

シャッターを挟んだ外側には試験官が居て、今丁度一題目が出されたところだった。

 

『出来る訳が無かろう。未来予測の神は今はもう既に潰えた』

 

『そうですか』

 

『いたとしたら、が付くがな。我らは人の無意識下での認識によって出来ておる。アレは、それでは足りぬ』

 

御狐様なら、山の神、稲荷。パイロなら、悪魔(クルタ族の)。そう言う様に有る程度決まった言葉で初めに思い浮かぶ姿や性格、それがそのまま具現化されているのが彼らだ。だから、原始の神など、そんな万能な神が生まれるまでに必要なエネルギーはそんな無意識下での存在として生きるには足りなさすぎるし、元から作られるまでにどれだけ必要な物か。

 

『それで、食。でしたっけ』

 

『お主もちゃんと取って居るか』

 

悪魔の食事、負の感情と言う人間からすれば悪食この上ない物。

 

『見えるんですよね。ジサツしたいって思う人の本気度合と言うか、死に際が迫ってる人』

 

『未練を無くす方向性では無いのだろう?』

 

未練を無くせば思いを食すことは出来ない。と言うよりもその前に、死に際が迫ってる人が見えるとは普通死神が持っていそうな能力である。

悪魔(クルタ族)特有の地域に根付いている逸話が具体化したのだろうか?

 

『夢枕に立って復讐計画を一緒に組み立ててるんですよ。勿論実行できそうな人間を選んでますけどね』

 

後良い食事場が有るんですよと、さわやかな笑顔で言うが、それはある意味掲示板サイトなどで有名な名所ではなかろうか。なんだかんだ、彼もしっかり悪魔らしく過ごしている物だ。

 

『まぁ皆さん復讐の途中で不慮の事故が起きて、最後までやり遂げられませんでしたけど』

 

『される側も、助かりはしなかった癖に何を申すか』

 

『解りました?』

 

要するに、不慮の事故故の死亡者は数えられないと。ちゃんと食事をしている事へ安堵した御狐様は、話を続けた。

 

『我らも経口捕食は可能、と言うのは知ってたか?』

 

『むしろ取り込み方のイメージが上手くいかなくて、経口捕食しか出来ないです』

 

そう言えば人間上がりだったなと、御狐様は思うのだった。一応が付いても、やっぱり人間としての理性は消えても本能は残っている。食欲睡眠欲etc。

彼女からすれば面倒な事この上ないが、人が生きる上での進化だと思えばその内消える人間性だろう。そう考えれば可愛い物だった。

 

『……人の食物からエネルギーを補充出来ると言うのは?』

 

しばらくの沈黙の後、彼女は頭を抱えながら発言した。エネルギーとは、言わずもがな、念の事である。

 

『食べる事が出来るのは知ってます』

 

『職人と言われる位の高い人間の作った、心のこもった物、それを食べれば何もせず一日を過ごせるだけのエネルギーは手に入る』

 

何もしなければ、活動しなければ。という事はつまり寿命、存在できる年月を一日伸ばす単なる悪あがきでしかない。パイロもそれに気が付いているせいか往生際が悪いですねとブラックすぎるジョークを挟んだ。

 

『その理論で行けば職人作の無機物からも取れる事になりますけど』

 

『物を壊さずに喰らうのは難しい』

 

遠まわしの肯定にどう反応したものかと思うパイロ。彼は台所に置かれた包丁を手に取って見定めると、刃の部分に噛みついた。

 

(知識を得れば即実行。それも一つだが、壊したらどうするつもりじゃあ奴は)

 

彼女の視点から見れば背中しか見えないが、何をしているかなど一目瞭然だった。

刃に噛みついて咀嚼するまでも無く物理的な物体だけを手で抜き出して、口に残った職人の思いを飲み下す。

 

(腹の足しに、と言うよりも嗜好品の方が近い、かな?)

 

彼女にとってはそれだけでも有りがたいのかとも考えたが、いまいち信仰心だどうのと言われても基準がまだハッキリしていないせいか彼にはそれをわざわざ食べる意味が解らなかった。彼は知らない。

全盛期のジャポンはそう言う品であふれていた。それを彼は知らず、今の世でかなり減った職人の品でさえもそこまでの物と思っていた。

そのそこまでの品と言ったものでさえ今では貴重だという事に気が付くのは一体いつになるのだろうか。

 

「次はこれよ!」

 

勢いよくシャッターが開かれて、受験生たちが入って来る。開かれた刹那に彼らは陰で自らの姿を消す。そして、窓の方から建物を出る。

 

木の上に移動して先ほどの試験官が隣の木の上で様子見しているのを見つけた。声をかけるかとジェスチャーされたが彼女は首を横に振る。

 

「握りズシしか認めないわよ」

 

途中途中で途切れて試験官の、メンチの声が聞こえて来る。

 

『知ってますか?』

 

『ジャポン食の一つじゃ。先ほど言った我らも食せる品が多い』

 

職人が多い=高級食品だと言う意味で言い、それを彼は正しく受け取った。そして思う、食べてみたいと。食として腹にたまるのは今では数少ないジャポンの職人だけしか作れないと言うのが痛いが、本場で食べようと思うのだった。

 

そして彼は気が付いていない。心を込める=念を込める。我が子のために作ったおかゆだって時にはスーパー非常食と成りえる事に。

 

~~~~~

 

『ゆで卵かぁ、あれも美味しいのかな?』

 

『思いは本能では無い。本能故に子を育てるアレらを食せども腹にはたまらぬ』

 

でも味は感じるでしょう。そう言いかけて飲み込む。そもそも狐は山に住む。だから魚を、ましてや生魚を食べると言うのは正しいのだろうかとも思う。捧げものとして食べた事有るなら別であるが。

 

御狐様の言うアレらとは、即ち本能に生きるクモワシの事である。第二次試験、やり直しとなって作ったのはクモワシのゆで卵。ゆで卵と言う美味しく成れと言う思いが向かっている先が御狐様でない以上は彼女は食べないだろう。

詰まる所、いまだ味覚を持っているのは悪魔としてもおかしいのだと彼は悟る。

 

(生きてるうちに、食べてみたかったなぁ)

 

人として有る事を許された思考回路が無意識にそう考える。勿論声に出せるはずも無いし、十秒後には自分でも有り得ない未来として切り捨てる事が出来るのに、である。

 

(いっそパイロの記憶だけを消してしまえれば、もう少しばかり楽になるモノを)

 

御狐様は思う。そもそも彼の異常なまでの悪魔としての馴染み具合は可笑しいのだ。彼が最も思いを寄せる相手がそれを望んでいないと絶対にありえない位に。

つまり、その彼が望んでいるのだ。復讐を望む性格であれと、望まれているのだ。

 

(難儀な事よの)

 

それでもそれをしないのは、大陸の外、遥か遠い過去に前世が住んでいた土地を思っての事。

 

(この二度目の世が、何時まで持つか。せめて、あの地へ人が向かうまでは)

 

そんな事を思っているなんて、パイロは知らないだろう。そうして、二次試験は大した余興も無く終了。三次試験まで、一夜の猶予が設けられた。

 

 

御狐様に残された時間は、実は彼女の生に比べれば残りわずかだったりする。




次回予告 御狐様と制限時間

自分がいる事に関してネテロ会長と話し合う御狐様。その結論は一体?


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元凶其の一 かつての事件

御稲荷様が住まうのは、途轍もなく広い自然公園の中の一角にある社だった。昔は一国に祀られる程の力を持っていたが、今ではそれだけの信仰心など無いに等しかった。

強いて言わずとも、この近くにある研究所とそれに系列する大学の受験シーズンにはかなりの人数が都合の良い時にしか信じていない神頼みを行いにやって来るレベルだ。

 

ずっと、社の屋根から見える範囲にある研究所を見るのは、ある種趣味や日課と同じだけの意味を持っていた。そして見るたびに思う。

 

自分の力が及ばなくなり、漂う力を抑える事が出来るのは一体何時までなのだろうか、と。

 

見るたび膨れ上がっていくソレは、もう御稲荷様だけの力で抑えられている訳では無い。人の心は形式ばった物にこだわり過ぎて心が無い。もう既に限界は近かった。御稲荷様にできる事は、現時点で全て尽くしていると言って良いだろう。もしも均衡が崩されたらと思うと、ぞっとする。

 

 

ある時、御稲荷様が考えていたことが現実になった。研究所の中に漂う力が抑えきれずに実験体や被検体に力を与え、押さえつけていた人間たちに、彼らが付けた牙を向いたのだ。

あくまで大多数の人間の味方であるためには、それらは押さえつけねばならなかった。しかし、それだけの力はもう無い。

 

窓ガラスが割られ、ビルは崩れ、植物は燃え、兎に角カオスとしか言いようの無い状態が生まれた。人々の悲鳴があちこちから木霊して、子供は泣き叫びながら元凶である生物兵器たちから逃げまどう。大人は立ち向かう者、逃げる者、絶望し諦める者。

 

数日のうちに、御稲荷様の社周辺に生き残った人達が集まって来た。さながらバイオ○ザードに似た物だった。ゲームでやるからこそ面白いそのイベントも、ライフは一、しかも難易度の補正も無く強制ルナティック。冷静でいられるものの方が珍しかったし、異端者扱いを受けた。きっとどこの国の研究所も壊れてしまったのだろう。

御稲荷様の長年の仲間とも言うべき神様たちからの連絡が無い。つまりはもう既に国ごと消えてしまったのかもしれない。

 

そんな中で、無人島(少数民族の生息を確認済み)のある湖に近いこの国は、国の先導者の煽りも受けて大きな船を作り上げた。

 

銃火器が普通に民家に置いてある国だったから、国民がほぼ全員武道と呼ばれるもので体を鍛えていたから防衛と食料調達、および船の制作をする事が出来たのだ。

 

とある今では珍しく信心深い老人が、御稲荷様の御本尊である狐の石像の額飾りである赤い勾玉を持ち出して、本人の代わりとした。

それを依代としてほしいと言う意味だろう。最も、そんな力が残って居ればの話だが。ほぼほぼ死力を尽くして仲間と連絡を取り、集まった数柱の神と共に作戦を練る。如何にして人類を生き残すか、と。

 

満場一致で既に数少ない人間の生き残りであるこの国の人間を船で逃がす事に決まった。問題は方法だ。中間地点に亜人と呼ばれる種族がいるが、それらが協力してくれるかも定かではないし、勿論厄災となった生物兵器たちが湖の中心に来ないとも限らない。

怨みを募らせ向かって来る可能性の方が高いなら、と、有る国の主催神が意見を言う。龍に見立てられた彼女は武神として名高い。女性の神でありながら天気と戦場を司るとまで言われている、鎧を着た気の強い竜神だ。

 

彼女はこう言った。

 

”湖全体に結界を張り、人ならざる者が容易に出入りできない様にすればよい”

 

しかし、何処の神様も力が不足しているのは必然で、それは自らの存在自体を掻き消す事に他ならなかった。ならず者の霊に飲まれない様に必死な神もそれに同意した。そして、結果として行われるのは誰がそのいなくなるのか、と言う御題目の結界を張る担当の押し付け合いだった。

 

龍神は当たり前として、他に誰が行うのか。結果としては御稲荷様とほか三柱の神に決定され、他は亜人族に話を通したりと色々な役目を割り振って行く。

 

ついには出立の日。幾多の神に守護されたその希望の船は湖の中心を目指していた。既に人魚の形をした神が亜人に協力を依頼、そして承諾を受けているのであとは結界係がへまをしなければ人類は生き残るのだ。

 

一方で亜人たちは、自らの業を背負う事さえ出来ない、自ら生んだ霊にどうすることも出来ない人間を怨み、それでもなお人間と共にあろうとした人外たちに賞賛の意を込めていた。自分の身を危ぶませてもその対象者の事を願う。その思いが伝わったからこそ、きっと亜人は承諾してくれたのだろう。数千年後に人間自らその地へと向かうその時に留めなかったのは、偏に恨みからくる八つ当たりとけじめの意味が有ったのだ。

 

結界を張り、既に存在が消えてしまった神々をよそに、御稲荷様だけはその場にとどまっていた。しかし動くことも出来ず、どうにもならなかった。この世に留まれるのなら、いつかきっと信仰心を得て復活する事が出来るのではないかと考える。例え天文学的な数字になろうとも、無限に近いその時が有ればと希望的楽観視をする。

最後に思うのは、何故自分が生まれたのかと言う自分の存在意義。

 

泥沼にはまった思考の中で、聴覚も何もかも消えた御稲荷様の世界で最後に感じたのは、自分の額飾りだった勾玉に祈る人間の暖かな希望だった。




という事で脱線作品一作目。関係なくはないけど無くても良かった話です。会話文は皆無だけど、いつかこの話が重要な情報となる日が来るでしょう。

因みに友達の誕生日という事でこんな作品を作りました。全く祝ってない上に縁起が悪いですね。

決めていないけど、御狐様はかなりの年数人間もとい人類の事を護ってます。それで、いまのうちに明かされて無い部分の設定を色々考察していきたい所存。
作中に出て来た結界のお蔭でなんだかんだ人類生き残ってます。

なのに力の強い人が大勢行っちゃう今やってる話を見るとその結界を破ってでも進出しそうだなぁ。
ただ一つ言えるのは、最終的にギャグ路線に突っ走りそうな感じなんですよね。はは。。


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因果其の六 御狐様と老人、若人

遅くなってすみません!しかしコメントで応援されまして復活にございまする!

実はハンターはまってから、ポケモンが再燃してヒロアカの沼に突き落とされて、まぁ色々ありましたがしばらくはこちらの方を専念させていただきます!


二次試験が終わり飛行船の中での事、パイロは得も言えぬ悪寒を感じて誰も来れないであろう飛行船の上に居た。そして御狐様はと言うと、ネテロ会長の部屋にいた。別に不法侵入した訳じゃ無い。強いて言うなら稲荷の神の仏壇がその部屋に何故かあり、そこに結構良い所の油揚げが供えられたからである。

 

よくよく考えて見なくても解るだろう。狐=油揚げが好き、そんなイメージが定着しているのだから当然御狐様の好物も油揚げと言う事になる。ここまで考え付いているのか単なるイメージで備えたのかは知らないが、祀られて呼び出されたら行かない訳にも行かないのだ。

 

『して、何用か?』

 

「神が居れば祀るモノじゃろ?」

 

頼みごとか聞きたい事でもあるのかと思っていた御狐様は調子が狂ったかのように髪を整える。戸惑う≪見た目≫は若い御狐様を見て笑いそうになるネテロに、彼女は鋭い視線を送ってそれを制した。

 

人が居る手前油揚げの(オーラ)だけを頂くのも説明が面倒だし、その実物ごと食べた。自分の体を実体化する術を知っていれば簡単な事である。それまで凝をネテロにやらせることで対話を可能にしていたが、それが必要なくなった途端にそれを止める辺り彼も又一流である事を物語っていた。物ぐさなだけかもしれないが。

 

「祀る、一言で言うても多様な在り方が存在する。お主はどうなのじゃ?」

 

差し出された盃の中のジャポン酒に口を付けた後、そう言ってから御狐様はそれを一飲みにした。さらっとかなり高い大吟醸だったことも有って少しネテロはもったいなそうにしていたが、気を取り直して口を開く。

 

「五穀豊穣、無病息災、せめて暴走せぬ様に怒りを鎮めようと祀っておるが?」

 

「正解じゃ。ただ何人も自分を救ってくれと言う様な無茶しか言わぬ故、少し疑り深くなっていたかもしれんの」

 

 神とはぶっちゃけ強大な力を持ったものの事を指す事が多く、創造主=全知全能と思われる事さえ有るがそんな事は全くない。不可能な事は少ないが、それでも確かに存在するものだ。

閑話休題

御狐様は盃を開けては自分で酌し、そしてまた飲んではとかなり消費した所で、つまみにしていた油揚げが切れた。

 

「もう無いぞ」

 

ネテロがくぎを刺すかのように御狐様に告げれば、露骨に残念そうな表情をする。別に解り易い訳でない、悪乗りした結果のオーバーリアクションだ。

しかしそれも簡単に受け流され、つまらないという風に踵を返して立ち去ろうとすれば、部屋の外に二つの気配。メンチとブハラである。

 

「そう言えばお主以外にも来ておるのか?」

 

「把握しとるのは一匹だけじゃ。後は知らん」

 

言い捨てるようにして消える御狐様。それにしても神相手にお主と呼ぶのはどうなのだろうか。他の宗教では神の事を主と呼んだりすることも有るし別に無礼と言う訳でもないのだろうが。何かが腑に落ちない。

 

 

その後、飛行船の上でうだうだとしているパイロの元へ向かった彼女が見たものは、

 

「これ、どうしましょう?」

 

『知るか』

 

寝ていたのかボーっとしていたのかは定かではないが、鳥の止まり木代わりになっているパイロの姿だった。これがかの恐ろしい悪魔が具現化したものだと考えると笑いがこみあげて来る。口元を隠して小さく震える御狐様に、怪訝な顔を返す彼はどうやら動く気が無いらしい。と言うか何となく休みたいであろう鳥の事も考えているのだろう。

 

「どうすれば良いと思います?」

 

同じ声音、同じ話題に聞こえるように彼は繰り返す。

 

『何がとは聞かんぞ』

 

解るからこそ聞かない。

 

「何でですか。良いじゃないですか。相談ぐらいさせて下さいよ」

 

『それら全ての選択肢の中で、お主らがどのような選択をするのか見てみたい』

 

クラピカに姿を見せるか否か。

 

「止めて下さいよ。僕生首だけはまだ原型残ってるんですから」

 

『なんじゃ。もう答は出てたのか』

 

詰まらないと言うでもなく、透過するようにその場を離れようとする彼女。呼び止めようとしたけれど、鳥たちの止まり木になっていると言う大義名分を捨てるのは惜しいと考えた彼はその場に押とどまった。

 

それも一つの選択か、と風に乗って聞こえた言葉は幻聴かはたまた御狐様が言った言葉なのかを、止まり木である彼に確認する術はなかった。






ネテロ会長とボール遊びをする少年二人を意味も無く眺める御狐様、何かいる、的な幽霊っぽく感づかれたりしたけれど彼女は結構自由奔放に生きてます!

次回、因果其の七 御狐様とトリック



後半時間が開いたせいでかなり変な内容になってしまいましたが、気を引き締めて頑張ります!


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