城下町のダンデライオン 王様だ~れだ! (イレキ)
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王家の朝

「2人共、おはよう」

 

早朝の櫻田家、まだ家族が寝静まる中、この家の母・櫻田五月は目覚め朝の仕度を始める。

 

「うん、おはよう」

「おはようー」

 

この時間に起きるこの家の子供は2人、長女・櫻田葵。

そして次男・櫻田零だ。

 

「いつもありがとね葵。

あと零は気をつけるのよ」

 

葵は自主的に母の手伝いを、零は習慣の朝のジョギングへ。

 

「行ってきまーす」

 

この家の早朝は実に平和だ。

だが、日が昇りジョギングか帰る頃には仕事に学校と、それぞれが朝の身支度にと、大変な混雑を見せるのが櫻田家の常だ。

 

「おい、遥早くしてくれ。輝がもう限界だ」

 

「ごめん、もう少し待って」

 

「あ、兄上。僕はまだ我慢出来ます」

 

トイレは三男・櫻田遥の順番待ちに我慢する、四男・櫻田輝に催促する長男・櫻田修。

 

「もう、お父さん長すぎるよちょっとどいて」

 

「栞、ちゃんと歯磨きなさいよ」

 

「はい、奏姉様」

 

洗面所には鏡の使用権を要求する四女・櫻田岬、六女・櫻田栞の面倒をみる次女・櫻田奏。

 

「ふー。さっぱりした」

 

「ごめん、お先ー!」

 

「茜ちゃんズルーい」

 

お風呂で汗を軽く流した頃に漸く、三女・櫻田茜が遅れてやってき、五女・櫻田光が同じ寝坊助に先を越され不満を訴える。

櫻田家は四男六女の大家族、この家の朝は戦争、そこに家族といえども容赦はなく、早い者勝ちが暗黙の了解となっている。

 

「今日はママ特製野菜オムレツでーす。

みんな残さず食べるように」

 

「「「い(っ)ただきま(ー)す」」」

 

「うぇ、やっぱりグリーンピース入ってる。零くんあげる」ヒョイ

 

「好き嫌い言ってると身長伸びないわよ。零も甘やかさない」

 

「朝から走ってお腹空いてるのにー」

 

「母上、僕は好き嫌いないので大きくなれますよね!」

 

「えぇ、そうね。栞よく噛んで食べてね」

 

「うん」

 

「あっそういえば、もうトイレットペーパー、ストックがないけど」

 

「今週の買い物当番誰だっけ?」

 

「修ちゃんでしょう」

 

「ああ俺か、(モグ)今日帰りにでも買ってくるよ」

 

「修くん、お願いね」

 

「親孝行な子達で助かるわ~」

 

「いえいえ~」

 

大所帯の為集まれば会話が途切れる事無く続く。

一見普通の家庭に見えるが、人数以外にもこの家族の特殊な所は多々ある。

 

「もうパパいい加減にしなさい、はしたないわよ」

 

「あぁ、あとちょっと」

 

「また迎えを待たせちゃうから」

 

「なんで大冠してるの…」

 

朝食を兄弟達が済ませていく中、新聞を読んでいてペースが遅い父・櫻田総一朗から新聞を取り上げると、頭の上には煌びやかな装飾の施された立派な大冠が。

 

「あっいや、間違って待って帰っちゃったから、せっかくなんで」

 

「パパなんか王様みたい!」

 

「あの…一応本物だから」

 

そう、出来る限り子供達に普通の暮らしをさせてたいという思いから、国王たる父親の方針により、この一家は城下町に住むこの国の王族。櫻田御一家なのだ。

 



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大家の選挙

「皆さんこんばんは、櫻田ファミリーニュースの時間です」

 

日曜夕方のゴールデンタイムに放送される人気ニュース番組、自分達の事柄が上げられるだけあって、櫻田家では自然とお決まりに観る番組。

 

『今週はなんと、茜様が引ったくり犯を捕まえました!!』

 

「茜、また無茶したのか」

 

『カメラが茜様を捉える事自体大変珍しく、そんな貴重なVTRがこちらです!!』

 

兄の修からの心配を他所に、犯人確保の瞬間、スカートの中身を気にして、手で押さえつけながら飛び膝蹴りをお見舞いする瞬間が映る。

 

「うわー、痛そー」

 

『茜様、犯人逮捕の経緯の詳しくお願いします!!』

『茜様、何か犯人に対しておっしゃりたい事は?』

 

『みっ、見ないで…』

 

零の感想の中、制服の上着で顔を隠した、連行される犯人と同じ茜の姿が報道される。

 

『ご覧頂いたのは、茜様が引ったくり犯を捕まえたニュースてました』

 

『こんな貴重なVTRが見れるのも、櫻田ファミリーニュースならではですね』

 

「やっぱり恥ずかしいよー。

毎週テレビで放送されるなんて」

 

茜は極度の人見知りを拗らせている為、町内に設置されている200を超える監視カメラ(※茜調べ)を避けて帰宅途中、偶然遭遇した引ったくり犯に正義感が働き、本人的にはエレガントに済ませるつもりだったようだがこうなったのだ。

 

「茜頑張ったんだからいいじゃない」

 

「そうそう。国民に皆の事を知ってもらうのも大切な仕事よ」

 

葵が夕食の手伝いをしながら宥め、五月が大族の務めだと話す。

というのも、只今時期国王選挙の真っ最中、候補者は10人兄弟全員参加の為、やる気の有無は兎も角、アピールに繋がる行為は褒められる。

 

『ではここで、最新の世論調査による支持率の発表をしたいと思います』

 

1位、葵「安心、安全な暮らし」

10位、修「やる時はやる男!」

2位、奏「清き一票で明るい社会を」

3位、茜「私は…負けません」

4位、零「世界が国が人が、平和」

7位、岬「みんなの力、みんなのため」

8位、遥「将来を託すなら」

6位、光「キラめく⭐世界を!」

9位、輝「この手で、国を守ります!」

5位、栞「優しい町、優しい国に」

 

「あっ、零兄さん茜姉さんに抜かされてる」

 

「なんか上位4人はお決まりになってきたね」

 

「犯人確保で票が伸びたんじゃないかしら」

 

「流石です。姉上」

 

「さすが」

 

遥が順位の変化に気付き、岬が票差が現れ出した上位陣を指摘し、奏でが票数の変化を推測し、輝がすかさず尊敬の眼差しで姉を見、栞もそれに続く。

 

「うぅ…、言わないでぇ~!!!!」

 

「いい加減慣れなよ」

 

遂には崩れ落ちた茜に、光が興味なさげに返す。

残り約2年、果たしてどうなるとことやら。

 



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大家の能力

「急な話だが、お前達のテレビ出演が決まった」

 

始まりの鐘は帰宅した国王、総一朗の鶴の一声だった。

そして番組企画名は、

 

『危機一髪ダンディー君を救え!』

 

貸し切ったデパートの屋上に、取り残された人々に見立てたダンディー君(人形)を、制限時間内により多く回収し、下に用意された自分の籠に入れる。

 

「皆、惜しみなく力を発揮し、国民の皆様に自分達の事をよく知ってもらうように頑張ってほしい。

1番成績の悪かった者には城のトイレ掃除をしてもらう」

 

最後に悪ふざけなのか罰ゲームが追加されながらも、至ってシンプルなルールの競技、それ故に王族にのみ備わる各自の特殊能力、それの使い所が光る。

 

「僕はこのビル、登ります!」

 

真っ先に動いたのは輝、橙色に体を光らせ能力・怪力超人(リミットオーバー)で、大人顔負けの力を引き出し、手掴みでよじ登ってゆく。

 

「よし。私だって」

 

輝に感化され光が手近な木に登り、黄色に体を光らせ能力・生命操作(ゴッドハンド)で、樹木の成長を操り屋上に一番乗りしようとするが、間違えて通り越してしまう。24時間は持続しもう手を加えれないのに。

 

「光ー!!乗せてくれるなら助けるぞーー」

 

「うぇーん、助けて零くんーー!」

 

しっかり確認してから成長した大樹に触れ、黒色に体を光らせ能力・時空回帰(クロノクロック)で、体力を消費して成長前まで戻し、2人で再スタートを切る。

 

「よく考えたら自分で登るなんて効率悪いですわね」

 

開幕組を見送った奏が冷静に思考し、緑色に体を光らせ能力・物質生成(ヘブンズゲート)で、ドローン5機を出現させ取りに行かせる。但し等価の金額分通帳からお金が減る。

 

「私も頑張らなきゃ」

 

そう言って桃色に体を光らせ能力・感情分裂(オールフォーワン)で、傲慢・憤怒・嫉妬・怠惰・強欲・暴食・色欲の岬を生み出し、8人に人手を増やしてビルに駆け込む。

 

「そうなの。ごめんなさい、ちょっと分からない」

 

「栞、何話してるの」

 

紫に体を光らせ能力・物体会話(ソウルメイト)で、備え付けてある消火栓と会話し、栞は近道を教わるも分からず終いだったが、葵の能力・完全学習(インビジブルワーク)で、記憶してあった内部経路に照らし合わせ、2人でルートを進む。

 

「じゃあ俺も」

 

マイペースに頃合いとみた修も、体を水色に光らせ能力・瞬間移動(トランスポーター)で、一瞬にして屋上に難なく到着しダンディー君を回収し出す。

 

「(僕がビリになる確率は…)」

 

ここまで静観を貫いていた遥が、突如菫色に体を光らせ能力・確立予知(ロッツオブネクスト)で、どう立ち回るのが良いか確率を見て判断する。

 

「はっ、どっどっどどうしよう遥。わっわっ私何すればいい!?」

 

人が居なくなり隠れる者がいないせいで、半ばパニックになった茜が助けを求める。

 

「とりあえず落ち着いて。

このまま何もしないとビリになる確率は100%、同じく僕も87%、でも2人で協力すれば、その確率は25%まで下がるって僕の予知にも出てる」

 

「別にビリだっていいよ、だってこれ以上目立つの嫌だし。

トイレ掃除くらいなら…」

 

「姉さん…お城のトイレ幾つか知ってるの。

僕も詳しくは知らないけどあの大きさだからね、細かい所も数えたら…、それにお城に行けば色んな人に会うかもだよ」

 

「…ぁ…ぁ…。

やるわ私。絶対9位になってみせる!」

 

顔面蒼白になった後直ぐさま目的の順位を狙いに、赤色に体を光らせ能力・重力制御(グラビティコア)で、重力を感じさせない大ジャンプで、遥共々屋上に跳ね上がっていく。

 



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