一球一願〜魂込めて〜 (ランディー/Randy)
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戦いの狼煙

今回から「輝きが起こす最高の奇跡」と並行して、こちらも出そうと思います

僕の気分次第なんでこちらは結構頻度が低いかと

あと、あらすじの通り恋愛要素は一切いれません

その要素は基本的に上記の作品のみを予定しています

ご理解の上、ご覧いただければ幸いです


「あと、1つ・・・」

 

最終回ウラ

 

3-2

 

2アウトランナー3塁2塁

 

ここで抑えれば、優勝だ

 

しかし、1ヒットで2点入ればサヨナラを浴びることもある

 

「タイム!!」

 

俺はそう言って伝令を送った

 

このチームは僅か9人しかいない

 

だから、外野を伝令として呼ぶ

 

「慌てたらいけない。君らしく周りを和ませて来てくれ」

 

「うん、分かった♪」

 

相変わらずである

 

そして、しばらくして試合が始まった

 

「頼む・・・」

 

そういって心の中で願った

 

ただただ・・・

 

♦︎

 

「ピッチャー、投げました!!」

 

さっきから俺の家では、ラジオが流れっぱなしである

 

この時期は春の高校野球が始まっていて

 

常にその盛り上がりが増しているような気がする

 

「空振り三振!!ピッチャー見事に抑えて試合終了!」

 

どうやら今日最後の試合が終わったようだ

 

「ほぉ〜、3-1か。懐かしいな」

 

そう思って、あの写真を眺めた

 

そこには

 

「第2回全国高校野球大会優勝」

 

本当に名誉あるものである

 

かつて、俺は音ノ木坂学院高校の野球部の監督として

 

廃校の危機を救い、優勝へと導いた

 

その選手と一緒に撮ったものである

 

当時は、優勝候補のUTX高校を破ってダークホースと化し

 

東京の星とまで言われたっけ

 

「μ's」

 

それが俺らのチームの愛称である

 

その文字がユニフォームに書かれている

 

「よし、外でも行きますか」

 

気分が高まったので外に出ることにした

 

外に出ると相変わらずの海が広がっている

 

夕日のさしかかったものは特にその世界観が素晴らしい

 

その雰囲気にいつも魅了されてしまう

 

東京とはまた違う景色・・・

 

俺は数ヶ月前に東京を離れていた

 

理由は学校の転勤と言えば分かるだろうか

 

音ノ木坂には3年滞在したものの

 

転勤によりここに来たのだ

 

優勝した後もそれなりに全国ではいい成績が出ていたので

 

理事長も痛手だと苦笑いしていた

 

まったく光栄なことである

 

そしてやってきたのは

 

静岡県の内浦という場所

 

なんというか田舎で閑静な場所というべきだ

 

すると、バットを振るひとりの女子高生が見えた

 

「また・・・か」

 

最近、よくこの光景を見かける

 

オレンジの髪の毛の子だな

 

すごい熱心というか

 

さらに滑らかな振り

 

まるで巨刃の坂橋みたいな・・・

 

「あの・・・どうしたんですか?」

 

あ、そうだ

 

さっきからじろじろと見過ぎたせいか

 

変な目で見ている気がした

 

「あ〜、ごめん。野球してるのかなぁとか思って」

 

「はい!」

 

元気そうに豪語する

 

μ'sのキャプテンもこんな感じだった気がする

 

「お兄さんも、野球好きなんですか?」

 

「ん?あぁ、そうだな」

 

「私もです。いつかμ'sみたいになりたいな〜ってお兄さんさすがに女子野球のことはそんなに知らないですよね」

 

 

「あ、知ってるけど」

 

「え!?知ってるんですか!?」

 

なんかますます変態に見られてしまいそうだ

 

「いや〜、俺μ'sの関係者だけど。見覚えない?」

 

「まさか、そう言って私を」

 

「そんなんじゃないから。ほら」

 

と、携帯に入ってた集合写真を見せる

 

「え・・・まさか。えーーー!!!監督さん!!!?」

 

「う、うん。そうだけど」

 

「奇跡だよ・・・。奇跡過ぎるよ!!」

 

そう言って跳ね回る

 

「もしよかったら、うちのチームで教えてくれませんか!?」

 

そこから出会いが始まった




はい、ということで終了です

また次回いつになるかはわからないですが

また宜しくお願いします!!


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輝きとは

続きです(´・ω・`)

どうぞ


うちのチーム?

 

まさかここら辺にも野球部とか

 

シニアチームでも存在するのだろうか

 

「うちのチームってどこよ?」

 

そう聞くと、彼女からは意外な言葉が飛びだした

 

「あの、浦の星女学院という学校の野球部です!」

 

浦の星・・・女学院!?

 

それってまた女学校じゃないか!!

 

「ん、まてよ・・・」

 

確か俺の転勤先も・・・

 

「浦の星って書いてた気がする」

 

こんな奇跡、あり得ただろうか

 

当然、向こうで野球できないなんて思ってたけど

 

最近の部活は野球部もあるんだと関心する

 

「へぇ、で?部員はまさか1人だけじゃないよね?」

 

「違いますよ!もう一人3年生がいて2人です!」

 

??????

 

あのー、野球って何人でするスポーツか知ってるだろうか

 

9人だ

 

今からでは無理とかの問題でなく

 

人数が足りてない以上大会にも出させてあげれないのだ

 

「2人だけなの?野球は9人でするんだぞ!?」

 

「知ってますよ!!だから部員集めてるんです!!」

 

見ても取れるけどやっぱり元気だな

 

でも、このパターン

 

音ノ木坂学院の野球部が出来たときも

 

こんな感じだったのを覚えている

 

 

「あの、ちょっといいですか?」

 

オレンジ髪の女子生徒がそう話しかけてきた

 

「うん、どうした?」

 

ようやく音ノ木に慣れたものの未だ生徒とよく喋れていない俺だ

 

「好きなスポーツ、野球でしたよね?」

 

「まぁ、うん」

 

何故知ってるのかは定かではないが取り敢えず頷いた

 

「うちの野球部に入ってくれませんか!?」

 

?????

 

ここに野球チームとかあったか?

 

「え?ここにそんな部活あった?」

 

「いや、ないんですけど・・・」

 

ああ、やはり

 

「でも、これから作ろうかな〜なんて」

 

新規で部活を作るのか

 

野球部って男子しか興味ないと思ってたけど

 

野球が好きな女子もいることに深く感動を憶える

 

「で、部員は?」

 

「え〜と・・・」

 

ん?なにそんなもじもじする理由があるのか

 

「私含めて3人なんで」

 

 

まさか、こんな驚きを再び感じる事になるとは

 

思ってもみなかった

 

「まぁ一応今年度から浦の星女学院に転勤が決まっている」

 

すると、オレンジ髪の女子は驚く

 

「え、ほんとにき・・・」

 

「まぁ、聞いてくれ。とりあえずだ、野球はやった事あるのか?」

 

以前この状況に初めてたったあの日は、全員初心者という全く予想のつかないスタートを切った記憶があった

 

念のためである

 

「う〜ん、野球はやった事ないけどソフトボールは得意ですよ!」

 

ソ、ソフトボールか・・・

 

「で、でももう1人はすんごい強いピッチャーなんだよ!」

 

へぇー

 

まあ、凄いって言ってもどれくらいか分からない

 

「う〜ん、そだなー」

 

μ'sの件もあり「今更遅い」とかは言えないし

 

もしかしたら、ダイヤの原石がこういう所に埋まっているかも知れない

 

とりあえず、見るだけでもみてあげるか

 

「じゃあ明日昼から少し時間空いてるか?ちょっと見てみるわ」

 

そう言って集合場所だけ教えて今日は帰った

 

まさか転勤先でもこのような展開があるとは

 

すると、スマホからSNSの着信音がした

 

「そっちで元気にしてる〜?」

 

最初は、よく敬語を使ってくれていたものの中盤になってからタメ口ばっかだった生徒からだ

 

それでも部のキャプテンで、明るく振る舞い二刀流を丁寧にこなしてくれた

 

高坂穂乃果・・・

 

普段だらけているように見えるけど部で一番可能性を信じ続けて努力したのは彼女だと俺は思う

 

言ってしまえば彼女なしに優勝はなかったと言ってもいいだろう

 

「うん、それなりに。なんかお前らみたいなことがもう一度起こりそうだ」

 

「そうなの!?また頑張らないとね!」

 

「そうだな」

 

もう一度奇跡を起こす・・・

 

なかなか出来るものでもないが名将はそれを可能に変える

 

俺ごときで、そんなことできるかはわからないけど

 

まぁやってみるか

 

俺は意外と新しい部活を作る事に乗り気だった

 

♦︎

 

やってきたのはちょっと狭めな公園

 

すると、話しかけたあの子を含め二人が仲良くキャッチボールをしている

 

すると、こちらに気がつき

 

「こんにちは!」

 

とある公園にて

 

昨日の女子が声を掛けてきた

 

「こんにちは」

 

遠慮しながらもう1人の女子も声を掛けてきた

 

「名前言ってなかったな。俺は内野将司」

 

「私、高海千歌。で、こっちが・・・」

 

「松浦果南です」

 

昨日の子とは打って変わって大人しそうだ

 

でも、仕事に入れば豹変することも充分ある

 

「で、2人とも守備はどこを守ってるの?」

 

「私は、ショートとピッチャーだよ!まぁ、ソフトボールだけど」

 

ショートとピッチャー

 

非常にやりにくい種の一つである

 

まるで男子の高校野球で二刀流し一世を風靡したあの選手みたいだ

 

たが、ソフトボールの投手は下手投げで野球とは少し違う

 

てな訳で

 

「ん〜、君はショートの方が生きそうだな。振りも良いし、努力次第では大砲になりそうだ。でも、ここの公園狭いしバッティングはまた今度な。で、松浦さん?君は、ピッチャーって聞いたけど?」

 

「はい。まだまだ完成形ではないんですが・・・見てもらえます?」

 

そう言ってグローブをはめた

 

俺はもともと大学で捕手を務めていた

 

実績もそこそこでベストナインの称号を得ている

 

なので投手のアドバイスぐらいは手慣れている

 

(穂乃果の球はどちらかといえば打たせてとる投手だけど松浦さんはそうでもなさそうだな)

 

そう思いながらミットを構える

 

ワインドアップからー

 

ドン!

 

投げた瞬間、自分の中で衝撃が走った

 

μ'sにはなかった逸材だ

 

推定では大体120km/hは出ているだろうか

 

女子野球で言う所のかなりの速球

 

さらに重い球でノビがありパワーのあるバッターでも封じ込めれるかもしれない

 

「す、凄いな、、まさかこんな所にダイヤモンドの原石が眠ってたとは思いもしなかったよ」

 

思わず本音がポロリ出てしまう

 

「いや〜これぐらいあんまり速くないんじゃないですか?この前テレビで160km/hって・・・」

 

松浦さんは少々謙遜する

 

「それって、男子じゃない?」

 

「はい、女子も大体そんな・・・」

 

「なんか勘違いされてそうだから一応言うけど女子の平均の球の速さは100km/hだぞ?160なんてとんでもない。君の場合それが大体120km出てる。もっと自信持っても良いと思う」

 

と、言ってあげると少しだけ笑顔になった

 

これなら・・・いける気がする

 

スター候補がいるし、こんなけ気持ちが熱いのなら

 

なんとでもなるし、もしかすればμ'sのようになるかもしれない

 

「うん、分かった。手伝おうかな?君たちのこと」

 

「え?良いんですか!?」

 

「君達なら可能性に溢れてそうだし、ポテンシャルの高さには評価したいところだよ。絶対って訳じゃないけど甲子園に出すぐらいまでなら協力できる。それでいいか?」

 

「「はい!」」

 

また新しい自分の人生の1ページが開かれる




なんか色々皆さんの二次小説を読ませて頂く機会が多いのですが

一つ共通点があるんです

「女子野球の割に球速が速いすぎ!!」

なんか皆さん平均140km/h近く、高い所では160km/hとか凄い超人を作り出していることに驚き

男子かよ!!

女子でいうところの120km/hが、150km/h程度

ということは果南ちゃん超人すぎ!!


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やってきた転校生

今回なんとあの人が登場!!

果たして・・・


翌日、俺は浦の星女学院までお邪魔することになった

 

理事長直々にお話があるそうだ

 

しかも、少しの間だけならグラウンドを使わせてもらえるというのだからなんと言った好待遇だろうか

 

そして今、持ち運びができるバッティングネットを持参して高海さんのフォームを確認している

 

「うん、確かに球は芯で打ててるしコントロールも申し分ない。化けるっちゃ化けるといったところか」

 

流石はソフトボール経験者といったところだ

 

現代で、ソフトボール経験者がプロ野球に入団するケースが生まれたためか自分には合いさえすればソフトボールから野球にも転じれると思えるようになった

 

「いや、これぐらい出来るなら音ノ木坂でやった方がいいだろ?120km/h出せて、バッティングは天才肌。俺が音ノ木の監督ならスタメンにすぐ使ってるぞ?」

 

最初は、冗談で言ったつもりだった

 

でも、少し高海さんが俯いたように感じた

 

「それじゃあ、ダメなんです」

 

「?」

 

 

 

 

 

「私達、浦女を廃校の危機から救わないといけないんです」

 

 

 

 

 

また、、廃校という言葉を聞いた

 

音ノ木坂で野球の伝説が始まったのも廃校を阻止する為だ

 

「そうで〜す♪」

 

何処からともなく見知らぬ声が聞こえた

 

その声の主は

 

「ま、鞠莉!?」

 

松浦さんが驚いた表情を見せる

 

「はじめまして。私が浦の星女学院理事長兼生徒の小原鞠莉です!

チャオ〜♪」

 

ハーフだろうか、日本とは違った風貌をしていて日本語にも海外の訛り

 

しかも、理事長兼生徒!?

 

ここは何処かのワンダーランドか何かだろうか

 

 

 

「貴方には、ここを救って貰うべく私がスカウトしました」

 

「また小原グループの金で解決させたの?」

 

「ちょっとだけ・・・ね?」

 

小原グループってちょっとだけ知ってるけどまさかそこのお嬢様か

 

どおりで給料が跳ね上がるように高かった訳だ

 

(金目当てで入った訳でははないが)

 

「実は貴方に少々お知らせしておくことがあります」

 

理事長が改まったようにそう言った

 

「来月からここに転校生が入って来るそうですが

 

それが音ノ木坂からやってくるらしいんですよ、しかも元野球部の」

 

俺には余りにも衝撃で声も出なかった

 

まさか・・・

 

「ほ、ほんとー!?」

 

高海さんも目を丸くしている

 

「その子の名前がー」

 

「桜内梨子、、そうじゃないですか?」

 

理事長が驚きを隠せない表情をしている

 

どうやら図星のようだ

 

「よく知ってるのですか?」

 

「あぁ、ただあいつは一癖あるからなぁってのもあるけどもしかしたら野球部入らないかもしれないかもなぁ」

 

「えー!?」

 

「まぁ、そのことを伝えに来ただけだから。それでは、チャーオ!」

 

と、風のように理事長は去っていく

 

「そういえば、桜内さんだっけ?その子どんな子なの?」

 

松浦さんが少々首をかしげる

 

「会ってみれば分かるよ。決して悪い子じゃないしむしろ凄く優しいし良いんだけどそれが、、、なぁ」

 

始業式

 

僕は事務室の椅子によそよそしく座る

 

学校の外からだと伝統ある校舎で年季があるなぁ

 

なんて感心してたが

 

事務室は意外にも新しげだった

 

音ノ木でよく遠征の交渉や予定表なんかを作っていたおかげか

 

事務の中では大分と業績があった俺は浦の星でもサクサクと仕事を終わらせていく

 

はずだったが

 

そんなに仕事がない

 

廃校が近づいてるだけあってかする事も何もなくて

 

ましてやこの学校1年目の俺が

 

でかい仕事を用意してくれるはずもなかった

 

それでも無理やりパソコンを開いて用事を作ろうとしていると

 

「すいません、ここに内野先生っていらっしゃいますか?」

 

誰かが俺の名前を呼んだようだ

 

事務室から一歩外に出て、

 

「どうしました?」

 

「先生は、野球部の顧問でいらっしゃいますよね?」

 

「顧問・・・?そんな感じ・・・なのか?」

 

「それなら・・・。私は、ここの生徒会長です。お言葉ですが、野球部の申請もないのに勝手に始めるのはいかがなものかと・・・」

 

「!?」

 

え!?まだ部として学校側から認められてないの!?

 

マジかよ・・・ん?

 

理事長はこのこと知ってるんだよな・・・

 

「理事長は認めてくださっているのですが、その事に関してはご存知ですか?」

 

「鞠莉さん・・・、またややこしい事を。まぁいいです。ただし、部員は5人以上いないと認められないのでまず人を増やしてから私の所に来てください」

 

そう言って、去っていった

 

それにしても野球部、公式に認められてないの!?

 

これは尋問しないといけないやつだな

 

「大変そうですね」

 

隣の先生が話しかけてくれた

 

俺は失笑するしかなかった

 

放課後、俺が指定したバッティングセンターで彼女たちを待っていた

 

前に使った公園も公共施設だし、学校側も認めているのか認めていないのかガバガバなので敷地はやはりとれなかった

 

「あれ?君、大学で野球やってた内野くん?」

 

バッティングセンターの店長らしきおじさんが退屈そうな僕に声をかけてくれた

 

大学で野球やってたことを知ってるってことはそれなりのマニアさんであることが分かる

 

「はい、そうですが」

 

「お〜!!やはり噂は本当だったようだなぁ。何しにここへ?」

 

俺はここにきた理由を簡潔に話した

 

「浦の星で監督か〜、うちにこんなスターが来てくれるのはありがたい。

・・・そういえば、今あそこにすんごい打ってる女の子がいるけど教え子さん?」

 

おじさんが指差す方向を見ると

 

僅かな紅色の髪

 

真っ直ぐな瞳の女の子が120km/hの球をいとも簡単に前へ飛ばしている

 

しかもその球は綺麗な放物線を描き、あとひと伸びでホームランといった所でネットに当たった

 

「梨子・・・」

 

そう、あの人が桜内梨子

 

折角の機会ではあるし、話しかけたら?との事で

 

俺は打ち終わるのを待って

 

「おい!久しぶり」

 

「・・・!監督?なぜここに?」

 

「おい、聞いてなかった?俺こっちに転勤してきた。お前はこっちに何しに来た?

 

 

 

まさか俺みたいに逃げてきたのか?」

 

 

 

「・・・。言い方。それじゃあ帰るから」

 

少し揶揄ったら冷たくあしらわれた

 

しかし、本人は「逃げた」を否定しなかった

 

本音は否定して欲しかったのだが

 

やはり・・・

 

「遅れてごめんなさい!!って、、あれ?桜内さん!?」

 

高海さんが慌てて、松浦さんが後を追うようにゆっくり入ってきた

 

「あ、高海さん・・・」

 

「どう?野球部、入らない?」

 

「・・・ごめんなさい」

 

怪訝そうな顔で、梨子は去った

 

「桜内さん、やっぱり入ってくれないのかなぁ・・・」

 

「まぁまぁ・・・」

 

「言ったろ?難しいって」

 

「じゃあ、何故そう思うんですか?」



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4話

「何故って・・・」

 

高海さんが食い下がってくる

 

それに驚いて一歩後ろ下がる俺

 

確かに、悪気は無いわけではない

 

自分だけ分かりきったように偉く話している

 

高海さんの表情を見る限り本気・・・と捉えて大丈夫だろうか

 

「なんでなの〜」

 

「分かった、分かったから!教えるから!」

 

ここでジタバタされても仕方ないので話してあげることにした

 

(野球してる時は良い眼してるのに、OFFの時は常にこんな感じなのか)

ー音ノ木坂学院グラウンドー

 

あの伝説のμ'sの9人が廃校を救ったのは事実だったが、彼女たちの決断でμ'sの9人は野球部に幕を下ろした

 

μ'sはこの9人だからこそー

 

という事だ

 

しかし、野球部再設立の要望はあったらしく

 

一見この時点で俺は転勤と思っていたが全く新しいメンバーで復活したという事で残留した

 

以前とは違い、野球経験者が多数なのでより優勝出来る可能性はある

 

梨子もその中の一人だった

 

桁違いのストレート、プロ顔負けの打力

 

普通なら一軍メンバーで大活躍出来る実力はある

 

しかし、梨子には難点があった

 

 

 

自分に自信がない

 

 

 

いくら実力があってもピンチの時に抑えられなければいけない

 

そのピンチにこそ試されるのが自尊心

 

「自分なら出来る」と思えば、安心出来るのだが梨子にはそれが難しかった

 

自分がダメな時、自身を責めてパニックになってそのうち思考回路が回らなくなる

 

梨子は結果が出ず二軍続き

 

俺が一番最後にいた時には梨子は一度も二軍に上がれなかった

「そんな事が・・・」

 

「桜内さん、野球で苦しんでたんだね」

 

二人とも少し真剣な顔になる

 

「でも、梨子はまだ野球を諦めてないと思う。今日こういう場所に来てたし、何処かで野球したいって思いはあると思うよ」

 

諦めてない、そう思った

 

いや思いたかったのかもしれない

 

「っておい!練習!!」

 

「あ!忘れてた!」

 

そして、練習が始まった

 

110km/hの球を打とうとする高海さん

 

ソフトボールを少々やってきたお陰か、綺麗なフォームで魅了する

 

キーン

 

梨子・・・とまではいかないが弾道は明らかに良い

 

一方

 

ブンッ

 

「あれ〜、やっぱり当たらないなぁ」

 

松浦さんは、フォームこそ豪快で当たればドカンといくのだろうが

 

驚きな事に、あれだけ速い球を投げておきながら初心者なのだ

 

タイミングに慣れたらきっと良くなるはず

 

「あ〜、やっぱりホームラン出ないなぁ」

 

高海さんがそう嘆く

 

「そんな簡単に出ないよ、ほらもっとプロの選手とか・・・」

 

そう言いながらホームランを打った人の表を確認すると、

 

「・・・!?ま、マジかよ」

 

そこには、桜内梨子の文字があった

 

しかも、120km/hを3回も

 

「どうしたんですか?・・・え!?桜内さん?」

 

「やっぱり、野球好きなんだろ。な?」

 

「へ〜桜内さん、だよね?本当に凄い人なんだ」

 

松浦さんも関心している

 

「やっぱり、私・・・」

練習を終えて、バスに乗って帰路につく3人

 

海が段々と見えてきた

 

何度見ても忘れられないこの群青色の景色

 

・・・あれ?あそこにいるのって・・・

 

「あれ、桜内さんじゃない?」

 

本当に今日何回会うんだよ

 

高海さんの言葉を借りるとするならば

 

「奇跡だよ!」の一言である

 

偶然にも付近のバス停がちょうど降りようとしていたところだったので

 

降りるなり、高海さんがめちゃくちゃ速いスピードで走っていった

 

それを追いかける俺と松浦さん

 

「千歌、ああ見えて諦めは悪いんですよ。今日もかなり勧誘してたらしいですし」

 

「今日・・・も?まだ始業式だぞ?」

 

「家がちょうど隣らしくて・・・」

 

衝撃の事実

 

本当に高海さんには奇跡が纏わり付いているとしか言いようがないな

 

それにしても、あいつストーカーじゃねぇかよ!

 

不審者って訴えられてもおかしくないぞ!

 

「桜内さん!やっぱり野球好きなんだよね?」

 

「何度言っても結果は同じです!」

 

なんかきた時には喧嘩なんじゃないかというレベルに発展していた

 

「高海さん、一回落ち着け・・・」

 

「か、監督!?」

 

「梨子がやりたくない理由はこれだろ?自分が入っても迷惑がかかるだけだから」

 

梨子は少々迷ってゆっくりと頷く

 

「そ、そんなことないよ!!」

 

「これから出来るかも・・・」

 

「これからって、私何回その言葉信じなくちゃいけないの?もう・・・」

 

梨子は、軽く落ち込んでしまった

 

「梨子、この世の中沢山努力しても報われないことっていっぱいある。それを一番自分が分かってるだろ?」

 

梨子は、小さく頷く

 

「でも、これからって何度も立ち上がらないと報われるチャンスすら与えてくれない。

 

少なくともこの2人はどんなけ上手くいかなくても責めるような人達じゃないし、野球が好きって気持ちだけでどうにかしようとしてる。

 

もし良かったらでいいから一度考えてみてくれ。

 

俺からもだけど、、梨子が必要だ」

 

そう言うと、驚いた表情でこちらを見る梨子

 

顔を赤らめている

 

「いやいや!何を考えてるかは知らないが、少なくともそっち方向ではないからな・・・」

 

というところで、別れた

 

別れ際に聞いた

 

「私、やっぱり本気で野球がしたい」

 

という梨子の本音は心の芯からそう言っていたように感じた

 

また1人、部員が増えた

 

そう思って、俺たちは夕日に向かって歩き出した



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