日本帝国召喚 (こたねᶴ᳝ᵀᴹᴷᵀᶴ᳝͏≪.O)
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1話 接触

本作品における日本は、主な差異として太平洋戦争において現実よりもさらに善戦し、長期の戦争を戦って史実よりは良い条件での講和に持ち込んだという設定です。大東亜共栄圏に現実よりも真摯に取り組んでいました。
本作品の地球では軍用機での小型ジェットエンジンの開発が遅れ、プロペラ機が主流であった時代が現実よりも長くありました。プロペラ機はジェット機と並びまだ現役であり、ジェット機の速度等単純な機体性能は1950、60年代程度です。
長射程の対艦ミサイルの登場も遅れたため、また、噴進弾からにより射程の延伸した戦艦砲のコストパフォーマンスのために、戦艦砲がそこそこ現役です。
代わりに現実よりも電子機器関連の技術が発達気味です。

作者は書籍版をまだ読んでいませんので、そちらで追加、変更された設定等はwikiからの知識となります。基本はweb版の設定に倣い、書籍版の設定も少々盛り込む形としたいと思います。


―中央暦1639年1月24日午前8時

―クワ・トイネ公国軍 第六飛竜隊

 

その日は青空の美しい、よく晴れた日だった。クワ・トイネ公国の竜騎士であるマールパティマは、公国北東方面の哨戒任務についていた。

北東方面には、海以外に何もない。

最近は隣国ロウリア王国との緊張状態が続いており、軍船による迂回奇襲を警戒して飛竜が哨戒にあたっていて、彼と相棒もその哨戒騎のひとつだった。

 

「ん?……なんだ、あれは!?」

 

自分以外に飛ぶもののいないはずの空で、彼は何かを見つけた。

ロウリア王国からここまで、ワイバーンでは航続距離が絶対的に不足している。となれば味方のワイバーンしかないが、この時間帯にこの近くを飛行する予定の騎はない。

その飛行物体が近づくにつれ、その風貌がはっきりと見えてくる。明らかに味方のワイバーンではない。

 

「羽ばたいていない」

 

彼は即座に通信用の魔法装置、通称魔信で司令部に通報する。

 

「我、未確認騎を確認、これより要撃し、確認を行う。現在地は―――」

 

 幸い高度差はほとんどない。彼は未確認騎と一度すれ違い、反転して距離を詰める気でいた。

 すれ違い際に見えたその物体は羽ばたくことなく空を飛び、暗い緑色の胴体と翼に白く縁どられた赤い丸が描かれていた。

 

「大きいな……」

 

虫の羽音を重く低く、力強くしたような轟音が通り過ぎる。

彼はすぐに反転し、風圧に耐えながら相棒を羽ばたかせる。

その速度は235km/h、ワイバーンの最高速度だ。

しかし、速度はぐんぐん離れていく。生物としては最強クラスの航空戦力、空の覇者たるワイバーンが全く追いつけない。

 

「くそっ、なんなんだ、あいつは!司令部、司令部!!我、未確認騎を確認しようとするも速度が違いすぎ追い付けない!未確認騎は本土マイハーク方面へ進行、繰り返す。マイハーク方面へ進行した!」

 

 通報を受けた司令部では、蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。

 ワイバーンでも追いつけない未確認騎がよりによって、クワトイネ公国の経済の中枢都市たるマイハークに向かって飛んで来ると言う。

それだけの速度ならば、おそらくすでに本土に侵入されているはずだ。

 

「第六飛龍隊は全騎発進せよ、未確認騎がマイハークへ接近中、領空へ進入したと思われる。発見次第撃墜せよ、これは演習ではない。繰り返す、これは演習ではない、発見次第撃墜せよ。」

 

 滑走路を駆け、次々にワイバーンが離陸する。その数12騎、全力出撃であった。

彼らは透き通るような青い空に羽ばたき、舞い上がっていった。

 

 

 

第六飛竜隊は運良く未確認騎に正対する形となった。相手が超高速である以上、チャンスはすれ違う一瞬のみ。

12騎の飛竜が横一列に並び、首を伸ばして口を開ける。

12騎による導力火炎弾の一斉射撃。これが当たれば、墜ちない飛竜はいない。

口の中に火球が形成されていく。その時、未確認騎が上昇を始めた。

高度はすでにワイバーンの限界高度である4000m。想定外の事態だ。

未確認騎はぐんぐんと高度を上げ、飛竜隊は敵を射程にとらえる前に引き離される。

 

「第六飛竜隊より司令部へ、我、未確認騎を発見し攻撃態勢に入るも未確認騎は上昇、超高々度でマイハーク方向へ進行した。繰り返す―――」

 

 

 

 マイハーク防衛騎士団、団長イーネは、第六飛龍隊からの報告を受けて上空を見上げた。

 一般的に、飛龍から地上への攻撃方法は口から吐く導力火炎弾である。矢をばらまいたり、岩を落とすといった方法も過去には検討されたが、空を飛ぶ生き物は重たい物を運ぶ事が出来ない。

 単騎で来るなら、攻撃されても大した被害は出ない。おそらく敵の目的は偵察だろう。

 飛龍でも追いつけない、飛龍の上昇限度を超えて飛行していく恐るべきもの、正体不明のそれがまもなく経済都市マイハーク上空に現れる。一体敵の正体はなんなのだろうか?

 団長イーネは、空を睨んでいた。

 

 遠くの方から音が聞こえ始めた。虫の羽音を重く低く、力強くしたような聞き慣れない音。

しばらくして、それはマイハーク上空に現れた。それは高度を落とし、上空を旋回した。

 奇妙な物体、大きくて緑色で、羽ばたかない翼を持ち、奇怪な音を発し、翼と胴体に赤い丸が描かれている。

 明らかな領空侵犯であった。しかし、飛龍は遙か遠くからこちらへ向かっている最中であり、現時点で対抗する手段はない。

 それはマイハーク上空を何度も旋回し、北東方向へ飛び去った。

 

 

 

―クワトイネ公国 政治部会

 

 国の代表が集まるこの会議で、首相のカナタは悩んでいた。昨日の事、クワトイネ公国の防衛、軍務を司る軍務卿から、正体不明の物体が超高速、超高高度でマイハークに空から進入し、町上空を旋回して去っていったとの報告が上がった。

 所属は全く不明、赤い丸が描いてあったとの事だが、赤い丸だけの国旗を持つ国など、この世界には存在しない。

 カナタは発言する。

 

「皆のもの、この報告について、どう思う、どう解釈する」

 

情報分析部の代表が手を挙げ、発言する

 

「情報分析部によれば、同物体は、三大文明圏の一つ、西方第2文明圏の大国、ムーが開発している飛行機械に酷似しているとのことです。しかし、ムーにおいて開発されている飛行機械は、最新の物でも最高速力が時速350kmとの事、今回の飛行物体は、明らかに600kmを超えています。ただ……。」

 

「ただ、なんだ?」

 

「はい、ムーの遙か西、文明圏から外れた西の果てに新興国家が出現し、付近の国家を配下に置き、暴れ回っているとの報告があります。かれらは、自らを第八帝国と名乗り、第2文明圏の大陸国家群連合に対して、宣戦を布告したと、昨日諜報部に情報が入っています。彼らの武器については、全く不明です。」

 

 会場にわずかな笑いが巻き起こる。文明圏から外れた新興国家が、3大文明圏5列強国のうち2列強国が存在する第2文明圏のすべてを敵に回して宣戦布告したという話だ。

 無謀にしても程がある。

 

「しかし、第八帝国は、ムーから遙か西にあるとの事です。ムーまでの距離でさえ、我が国から2万km以上離れています。今回の物体が、それであるとは考えにくいのです」

 

会議は振り出しに戻る、結局解らないのだ。

ただでさえ、ロウリア王国との緊張状態が続き、準有事体制のこの状態で、頭の痛いこの情報は、首脳部を悩ませた。

味方なら、接触してくれば良いだけの話、わざわざ領空侵犯といった敵対行為を行うという事は敵である可能性が高い

 

 その時、政治部会に、外交部の若手幹部が、息を切らして入り込んでくる。

平時では考えられない。明らかに緊急事態であった。

 

「何事か!!!」

 

 外務卿が声を張り上げる。

 

「報告します!!」

 

 若手幹部が報告を始める。要約したところ、本日の朝、クワ・トイネ公国の北側海上に、長さ230mクラスの超巨大船が現れ、海軍にが臨検を行ったところ、日本という国の特使がおり、敵対の意思は無い、日本という国は、突如としてこの世界に転移してきて、元の世界との全てが断絶されたために、哨戒機により付近の偵察を行っていた。その際、陸地があることを発見。

偵察活動の一環として、貴国に進入しており、その際領空を侵犯したことについて深く謝罪し、クワ・トイネ公国と会談を行いたいという旨を伝えてきた。

 

 突拍子もない話に、政治部会の誰もが信じられない思いでいた。

 しかし、昨日都市上空にあっさり進入されたのは事実である。230mという常識では考えられないほどの大きさの船も、報告に上がってきている。

 国ごと転移、などということは、神話に登場することはあれど、現実にはとてもありえない。

 しかし、日本という国は礼節を弁えており、謝罪や会談の申し入れは筋が通っている。

そのため、特使による会談の申し入れを受け入れることに決定した。




P-3C:
本編中に登場した謎の飛行物体こと日本帝国の哨戒機。
塗装が異なったりその他の細々とした差異はあれど現実のP-3Cとほぼ同じ機体である。


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2話 動乱

クワ・トイネ公国、そしてクイラ王国が日本帝国と国交を締結してから、2ヶ月が経とうとしていた。

この2ヶ月間は、クワ・トイネ公国にとって、歴史上で最も変化した2ヶ月間であった。

2ヶ月前、日本は、クワ・トイネ公国と、クイラ王国両方に同時に接触し、双方と国交を結んだ。

日本からの食料の買い付け量はとてつもない規模であったが、大地の神の祝福を受けた土地を持ち、家畜にさえ旨い食料を与えることが出来る農耕国たるクワ・トイネ公国は日本からの受注に応える事が出来た。

 クイラ王国についても、元々作物が育たない不毛の土地であったが、日本にとっては資源の宝庫であるらしくクイラ王国は大量の資源を日本に輸出していた。

 

 一方日本はこれらと引き換えにインフラを輸出してきた。

 大都市間を結ぶ、石畳の進化したような継ぎ目の無い道路、そして鉄道と呼ばれる大規模輸送システムを構築しようとしていた。これが完成すれば各地の流通が活発化し、いままでとは比較にならない発展を遂げるだろうとの試算が経済部から上がってきている。

 各種技術の提供、も求めたが、日本には新たに「新世界技術流出防止法」と呼ばれる法律が出来たために中核的技術は貰えなかった。

 

彼らからもたらされた便利なものは、今までの常識を全く塗り替えてしまうほどのものであった。

 真水ではとても飲めるものではなかった今までのものと違い、いつでも清潔な水が飲めるようになる水道技術、夜でも昼のように明るく出来る照明、手元をひねるだけで火を起こせ、さらにいつでも温かいお湯を出すことが出来るプロパンガス、これだけでも生活はとてつもなく楽になる。

 まだ、2ヶ月しか経っていないために普及はしていないが、それらのサンプルを見た経済部の担当者は驚愕で放心状態になったという。

 国がとてつもなく豊かになると……。

 

「すごいものだな、日本という国は……。明らかに3大文明圏を超えている。もしかしたら、我が国も生活水準において、3大文明圏を超えるやもしれぬぞ」

 

 クワ・トイネ公国首相カナタは、秘書に語りかける。

まだ見ぬ国の劇的発展を、彼は見据えていた。

 

「いや、それだけではない。国としても3大文明圏を超えられるだろう。」

 

 軍事技術の提供を求めた際、日本側は代わりの提案をしてきた。

日本と強固な同盟を結べば、旧式の兵器や一部新鋭技術をも輸出し、近代的な軍の編成や技術開発体制の確立を支援するというのだ。

それも事実上の属国といった条件ではなく、対等の国家が連合を結成するのと同じような条件でだ。断る理由もなく。クワ・トイネ公国とクイラ王国はこれを承諾した。

現在輸出に適当な兵器の輸出や数を補うための既存品の改造はすでに始まっており、着々と近代的な軍へと生まれ変わっている。

 

「彼らが平和主義で助かりました。彼らが覇権国家だったらと考えるとぞっとします。」

 

落ちる夕日が穀倉地帯を照らし、一面金色の美しい風景が広がる。

この世界でも太陽は東から西へと沈む。日の沈む方には、ロウリア王国があった。

 

「……ロウリア王国が、近代化がひと段落するまで待ってくれると助かるのだが……」

 

カナタは夕日を眺めながらそう嘆いた。

 

 

 

―ロウリア王国 王都 ジン・ハーク ハーク城

―御前会議

 

 「我が王よ、準備はすべて整いました」

 

 白銀の鎧に身を包み、鎧の上からでもその盛り上がった筋肉がわかるほどの鍛え上げられた体を持った30代ほどの男が王に跪き、報告する。

 彼の名はパタジン、ロウリア王国の将軍である。

 

 「2国を同時に敵に回して、勝てるか?」

 

 34代ロウリア王国、大王ハーク・ロウリア34世はその男に尋ねる。

 

 「一国は、農民の集まりであり、もう一国は不毛の地に住まう者、どちらも亜人比率が多い国などに、負けることはありませぬ。」

 

「その両国と関係を結んだ日本帝国とやらはどうだ。」

 

「ワイバーンも持たない蛮国の模様でございます。気が向いた時にでも、攻め滅ぼしてやりましょう。」

 

 「そうか……。しかし、ついにこのロデニウス大陸が統一され、忌々しい亜人どもが根絶やしにされると思うと、余は嬉しいぞ」

 

この時のために6年も前から準備をしてきた。屈辱的な条件を飲み、列強パーパルディア皇国の支援も取り付けた。負けるなどあり得なかった。

 

王は哄笑する。

 

「この日は、我が人生で一番良い日だ……余は、ロウリア王国大王の名をもって、クワ・トイネ、クイラ両国との開戦を命ずる!!」

 

王城は多いに沸いた。

 

 

 

―クワ・トイネ公国日本大使館

 

「本当ですか!?」

 

クワ・トイネ公国外交官ヤゴウの喜びの声が響く。

彼はロウリア王国との開戦により食料の輸出が困難になること、援軍を要請したいことを伝えに来ていたのだが、日本側の田中大使から最良の答えが返ってきたのだ。

 

「ええ、我が国と貴国は強固な同盟を結んでいます。貴国を助けることは当然です。すでに派遣する部隊の編制も決まっています。」

 

頼もしい答え。ヤゴウは大きな安心を感じていた。

 

「そのためにも貴国にある駐屯地の拡張工事が必要ですし、軍の共同作戦会議の機会も欲しいのです。お手数をおかけしますが、お伝え願えますか?」

 

「勿論です!すぐにお伝えします!」

 

この要望は迅速に首相まで届けられ、首相カナタはこれを許可。すぐに拡張工事が始まり、日本帝国軍とクワ・トイネ軍は作戦会議をすぐに始めることができた。

そしてロウリア王国がクワ・トイネ公国、クイラ王国両国に宣戦布告したとき、日本帝国はロウリア王国に宣戦を布告、四国は戦争へと突入した。



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3話 ロデニウス沖大海戦

─中央歴1639年4月25日

―マイハーク港

 

 

ついにロウリア王国が総勢4000隻以上の大艦隊を出港させたとの情報を得て、クワ・トイネ公国はここ、マイハーク港に艦隊を集結させていた。

ガレー船に魚雷発射管と小型の砲塔、煙突が載ったような、我々からすると歪な艦艇が並び、その列の先頭に日本から輸出された松型駆逐艦の改修型が陣取る。そして艦隊の先頭には際立って大きな艦が一隻。唯一の軽巡洋艦、阿賀野型軽巡洋艦の改修型だ。

 

「壮観だな……」

 

提督パンカーレは自らの指揮する艦隊を眺めて呟く。日本の協力により、クワ・トイネ公国軍は以前とは全く比較にもならないほどの躍進を遂げた。

今回の海戦には日本の派遣艦隊も参加するが、初撃である程度敵を減らした後は援護に徹し、主にクワ・トイネ公国艦隊が相手をすることになっていた。

自分たちにも花を持たせてくれるというのだ。日本軍任せではなく、自ら敵を迎え撃つことができる、パンカーレの胸は熱くなっていた。

 

夕刻、日本帝国海軍派遣艦隊が到着した。パンカーレの側近ブルーアイが観戦武官として乗艦することになっていた。

 

「いつ見ても日本の艦は凄まじいな……」

 

ブルーアイは目の前の230m級の巨艦、軽空母『出雲』を見て呟く。

これが日本帝国海軍派遣艦隊の旗艦であった。周囲には大きな砲を積んだ駆逐艦のような艦や駆逐艦が並んでいる。8隻と比較的小規模な艦隊だったが、ロウリア王国の戦力を考えれば圧倒的だった。

『出雲』から降りてきた艦長山本に挨拶をし、ブルーアイは『出雲』に乗り込んで行った。

 

 

 

―――

―ロデニウス沖大海戦

―中央暦1639年4月25日

―クワ・トイネ公国沖

 

クワ・トイネ公国海軍戦力

バーン級軽巡洋艦(阿賀野型改修) 『バーン』 1隻

キャトル級駆逐艦(松型改修) 『キャトル』、『フィード』他 10隻

機帆魚雷船(ガレー船改造) 『グレイン』、『ドーン・オブ・キューカンバー号』他 50隻

 

クイラ王国海軍派遣艦戦力

ウェストランド級駆逐艦(キャトル級と同) 『ウェイストランド』 1隻

機帆魚雷船(クワ・トイネのものと同) 『ン・イラ号』、『ドライランド』 2隻

 

日本帝国海軍派遣艦隊戦力

出雲型軽空母 『出雲』 1隻

夕立型機動砲艦 『夕立』『村雨』他 3隻

雪風型駆逐艦 『磯風』『浜風』他 4隻

 

ロウリア王国東方討伐海軍戦力

軍船     4380隻

戦列艦    20隻

ワイバーン  250騎

―――

 

 

 

「いい景色だ。美しい」

 

大海原を白い帆を張った帆船が整然と進んで行く。その数は実に4400隻。視界に入るのが海よりもむしろ船の方が多いぐらいの大艦隊だった。

6年もの歳月をかけて作り上げた大艦隊。それに旧式とはいえ虎の子の戦列艦もいる。

ロデニウス大陸にはこの艦隊に敵う戦力はいないだろう。

それどころか、これほどの物量であれば、パーパルディア皇国でさえ……

シャークンはその考えを理性で打ち消す。自分たちにとって虎の子の戦列艦が、皇国では型落ち品だ。列強国に挑むのは、やはり危険だろう。

 

「海将、魔信です。クワ・トイネ公国提督パンカーレから、引き返せとの警告が。」

 

「今更それを言うのか、とでも言っておけ。」

 

すでに戦争は始まっているのだ。引き返す理由などない。

 

「日本帝国という国の軍人からも魔信が届いています。同じような内容です。」

 

「日本帝国か……」

 

日本帝国。以前外交官を門前払いしたこと、クワ・トイネとクイラについて宣戦布告を受けたことは知っていた。

ワイバーンもいない蛮国だと聞いていたが、シャークンは油断はしていなかった。

 

「とにかく引き返すことはない。」

 

4400隻の大艦隊は、まっすぐにマイハークへと進んで行った。

 

 

 

「返事が来ました。何を今更、だそうです。」

 

「そうか……」

 

軽空母『出雲』艦長にして艦隊司令も兼ねる山本は海の向こうを見据える。

わかっていたことではあるが、戦いは避けられないらしい。

 

「総員戦闘配置。各艦にも通達。艦載機を発艦させろ。」

 

指揮官の号令を受け、各艦では戦闘準備がされる。

『出雲』の甲板を蹴って、日本海軍の艦上戦闘機『旋風』、無人戦闘機『かつをどり』が飛び立っていく。

整然と並んだ艦隊から、日本の駆逐艦が前に出る。

 

「作戦通り、まずは艦載機が敵ワイバーンを叩き落とす。クワ・トイネ、クイラ艦隊含め全艦が魚雷の射程に入ったら一斉に魚雷を発射。その後砲撃を加えて我々は下がる。残りはクワ・トイネとクイラの仕事だ。」

 

「艦載機、全機発艦しました。無人機にも異常ありません。」

 

山本は無言で頷く。その引き締まった表情には少しの油断も見られなかった。

 

「無人機?まさか、あの飛行機には人が乗っていないのですか?」

 

観戦武官として乗艦しているブルーアイが付けられた兵士に尋ねる。

 

「え?ああ。はい。今発艦していった機体の小さい方には人は乗っていません。」

 

「それで、飛んで戦えるのですか?」

 

「はい。戦えますよ。高度な判断はできないので人からの指令が必要ですが、単純な強さだけなら有人機よりも強いかもしれません、」

 

これを聞いてブルーアイは衝撃を受けた。人無しで戦うことのできる兵器。そんなものは、戦争そのものを根本から変えてしまう。

ブルーアイは恐怖すらおぼえていた。

 

 

 

『出雲』の艦載機たち、総勢50機の戦闘機が空を翔ける。

10機の『旋風』と傍らに1機ずつ侍る『かつをどり』、その後ろから30機の『かつをどり』が追い、プロペラ機の限界近い800km/hほどの速度で敵艦隊へ突進する。

航空隊はすぐに敵艦隊に接近。

 

「な、なんだ、あれは!?」

 

プロペラの力強い音を響かせて飛んでくる謎の物体にロウリア王国の兵は目を剥くが、すぐにワイバーンが迎撃態勢に入り、船上の兵士もバリスタや弓矢で航空隊を狙う。

『旋風』は尖った機首を下げ降下、ワイバーンをロックオンして『かつをどり』に戦闘を指示する。

ワイバーンの火球の一斉射。実に5倍の相手からの攻撃を、戦闘機はバレルロールで華麗に回避。降下の勢いのまま機体を翻し真下から突き上げる。

射撃。『旋風』の30mmリボルヴァーカノン1門と12.7mmホ103機銃2門の射撃を腹に喰らったワイバーンは血を吹いて騎手もろとも海へと落ちる。

 

「赤い丸が描いてある、あれは日本帝国の兵器なのか!?」

 

『かつをどり』が3機ほどで敵飛竜に食らいつく。その様はカツオドリというよりは群れで狩りをする獣のようだ。

1機につき2門の20mm機関砲がワイバーンを引き裂く。

 

ロウリア王国東方征伐海軍のワイバーン250騎は瞬く間に全滅した。

 

 

 

『出雲』航空隊が翼を翻し母艦に戻る中、ロウリア艦隊には海中からも脅威が迫っていた。

日本帝国、クワ・トイネ公国、クイラ王国艦隊から放たれた魚雷である。

 

ロウリア艦隊は八年式魚雷改の曳く白い航跡に気づいていたが、それが何であるか理解することはできない。

やがて魚雷が到達し、爆ぜる。日本軍の最新魚雷は目標が木造であろうと問題なく起爆し、あまりの密度に近くの八年式魚雷改も巻き込まれる。

巨大な爆発がそこら中で起こり、喫水線下に大穴を穿たれた帆船はただの流木と化し、爆風や油に引火した炎に飲まれて消えていく。

ロウリア艦隊の前線に居た軍船はごっそりと削られていた。

海将シャークンをはじめとした将兵たちはただただ呆然とするしかなかった。

 

 

 

「よし、全艦減速、残りは彼らに任せるぞ」

 

山本が命じる。日本艦は一斉に急減速し、入れ替わるようにクワ・トイネとクイラの艦隊が前に出る。

 

「『出雲』より『バーン』『ウェイストランド』へ、"敵航空戦力は全滅、前進されたし"」

 

「「『バーン』/『ウェイストランド』より『出雲』、"貴艦隊の援護に感謝する"」」

 

クワ・トイネ、クイラ艦隊は軽巡『バーン』を先導に、キャトル級駆逐艦を戦闘とし機帆魚雷船が5隻ほどで後に続く単縦陣の隊が10個、クイラの駆逐艦と機帆魚雷船2隻の隊が1個で陣形を組み、まっすぐ前進していく。各艦では魚雷の再装填作業が行われていた。

 

 

 

「あれは……」

 

海将シャークンの眼が海の向こうに何かをとらえる。それはどんどん近づいてくる。

見慣れた帆船が恐ろしい速さで航行していて、それにに混じって変わった艦がいる。

速く、帆がない。鉄でできているように見えて、妙な棒が何本も生えている。

日本の艦かと思ったが、掲げられている旗を見て気づく。クワ・トイネとクイラの旗だ。

先ほどの恐ろしい飛行物体は日の丸をつけていた。クワ・トイネとクイラはただの文明圏外国家のはずだ。だとすれば……

 

「なんてことだ……」

 

日本帝国はワイバーンのいない蛮国などではない。もっと恐ろしい存在で、敵国はその助けを借りているのだ。

しかし退くことはできなかった。どうせ逃げ切れないだろう。

シャークンの停止した思考が回りだす。

クワ・トイネ、クイラ艦隊とロウリア艦隊は接近、ロウリアの戦列艦が『バーン』に砲撃を仕掛けるも、装甲に弾かれて効果がない。

 

「魔導砲が通じない」

 

シャークンはもはや大して驚かなかった。。

駆逐艦を先頭にした単縦陣が突撃を開始、ロウリア艦の射かけるバリスタは駆逐艦には弾かれ、機帆魚雷船にしても矢避けの盾に弾かれたり受け止められる。

そして応射の12.7cm砲、37mm砲が軍船のマストをへし折り、木材を吹き飛ばす。

機帆魚雷船では機銃、さらに無人だったバリスタにも兵士が取り付いて敵兵に射撃を加える。

シャークンは側近から魔信機をひったくり矢継ぎ早に、いや、まるで機関銃のように指示を出す。

単縦陣の先頭の艦から順に転舵し魚雷を発射。被雷した艦は巨大な水柱を上げて漂流物と化していく。

魚雷を発射した後は機銃や砲で敵艦を掃討していく。『バーン』の15.2cm砲が時折飛んできて帆船を吹き飛ばす。

 

キャトル級駆逐3番艦、『ヘレフォード』もまた銃砲撃を加えながら敵艦の中を切り裂いて突き進んでいた。掃討のために単縦陣は解かれ、各々で戦闘している。あくまで木造船の機帆魚雷船は戦列艦を警戒して外周にいるものが多かった。

艦首の12.7cm砲で敵艦を吹き飛ばし、大量の機銃の焼夷弾が多数の敵艦に火をつける。

『ヘレフォード』は何者にも止められず突き進む。

まるで敵艦が自らどいていくようだった。

 

「艦長、前方、戦列艦です!敵艦発砲!」

 

「回避だ!面舵一杯!」

 

砲を敵戦列艦に向けたまま、回避機動をとる。敵の射弾は『ヘレフォード』の急激な機動により簡単に回避される。応射の主砲弾と機銃弾が敵艦を抉り、燃やす。

戦列艦には勝ち目がない、そう思われた。

 

「艦長、前方にも敵戦列艦!複数います!」

 

複数の戦列艦が、戦列を組んで転舵し弧を描いていた。『ヘレフォード』は半円の中に単艦でとらわれていた。

 

「なっ……」

 

戦列艦が次々に舷側砲を一斉射する。

回避機動を取るが、ほぼ包囲された至近距離で大量の砲を浴びれば避けきれるはずもなく、球状砲弾とはいえ駆逐艦の薄い装甲にはまずまずの効果があった。

『ヘレフォード』、中破。

 

 

 

「一矢報いたか……」

 

海将シャークンは息を吐く。シャークンはガレー船を前に出して虎の子の戦列艦を温存し、乱戦になってばらけた中の単艦となった敵艦を戦列艦の包囲に引き込んで砲撃を浴びせたのだ。

まさかやられるとは思わなかったのか敵艦は引いていく。敵を退かせたとはいえこちらも戦力の3分の1ほどを失った。それに追撃しようとしたところで返り討ちにあうだろうし、日本軍もいるだろう、先ほどの策が何度も通じるとも限らない。

 

「全軍撤退せよ、繰り返す、全軍撤退せよ」

 

これだけの損害を受けて、戦果は敵艦一隻に手傷を負わせただけ。国に帰れば死刑は免れないだろうし、歴史書には無能の将軍として名が残るだろう。

しかしこれ以上部下を犠牲にはできなかった。降参してもギムでの虐殺を行ったロウリア人が許されるはずがない。

彼の乗る旗艦も撤退を開始したその時、彼の艦に砲弾が直撃。

船は真っ二つに折れ、彼は海に投げ出されてその光景を見ていた。

 

 

 

「敵艦隊、撤退していきます」

 

攻撃を停止するよう命令が飛ぶ

 

「生存者の救助を開始せよ」

 

冷静に命じながらも、山本は悔いていた。

クワ・トイネ、クイラの艦隊に、積極的に攻撃はせずとも随伴していれば。

それを決めたのは彼ではなかったが、それでも悔やまずにはいられなかった。

敵将はかなりのやり手だった。駆逐艦が1隻中破した。圧倒的な戦力たる日本軍がいれば、あるいは戦列艦をすべて事前に排除していれば。

駆逐艦が惜しいわけではなかったが、犠牲となったであろう乗員を思わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 パーパルディア皇国の観戦武官ヴァルハルは震えていた。

 彼の乗っている艦は運よく撃沈されなかった。

 ロウリアの4400隻の艦隊がどのようにクワ・トイネ公国を消滅させるのか、それを記録することが彼の任務だった。

 蛮族にふさわしいバリスタと、切り込みといった原始的戦法でこれだけの数をそろえたらどうなるのか、個人的興味もあり、彼はこの任務が楽しかった。

 

 しかし、現れた敵は、かれの常識をも遥かに超えたものだった。

まず謎の飛行物体である。

恐ろしい速度で空を飛び、機敏に動き、ワイバーンが全く歯がたたなかった。

さらに謎の大爆発が起こり、大量の船が沈んでいった。

それから現れた艦も恐ろしい。

帆船を増速させる「風神の涙」を使った形跡が無いのに、圧倒的に速い。

そもそも帆が無い。

 100門級戦列艦よりも大きい船であるにも関わらず、やけに長い大砲を1門しか積んでいないのを見た時にはこう思った。

何かの冗談か?と。

 蛮地に無いはずの大砲があったのには驚いたが、大砲はそう当たるものでは無い。

なかなか当たらないから、100門級の戦列艦が存在するのだ。

 しかし、彼らの艦は2kmも3kmも放れているにも関わらず簡単に命中させる。しかも非常に威力が高く、1撃で船が轟沈する。

クワ・トイネ、クイラの旗を掲げていたが、恐らくはこれも日本帝国とかいう国の差し金であろう。

 彼らの存在を知らずに、事を進めると、パーパルディア皇国をも脅かすかもしれない。

 

 ヴァルハルは魔伝により、見たまま、ありのままを本国に報告した。




改造機帆魚雷船:
もともとあったガレー船を改造したもの。
有り余る石炭を使った機関とスクリューを搭載し(石炭機関といっても性能は決して悪くない)、主兵装としての魚雷を搭載、副兵装として多少の銃砲を搭載したもの。櫂は側面に貼り付けられ矢避けの盾は固定、バリスタもそのまま残されている。
様々な軍船から改造されているため仕様はものによってある程度異なるが総合的な性能はいずれも以下のようなものとなる。

改造機帆魚雷船級コルベット(艦籍上コルベットと類別される)
全長;60~90m
機関;低質風神の涙使用帆走+石炭式蒸気タービン
速力;29ノット程度
兵装;八年式魚雷改誘導魚雷発射管6門(艦首)
一式三十七粍砲1~2門(旋回式砲架、水上向け改修)
一式十二・七粍旋回機関砲(ホ103)単装2~3門
同型艦;艦籍上は改造された全てのクワ・トイネ公国、クイラ王国軍船が同型艦とされる。


キャトル級駆逐艦:
松型駆逐艦を改修したもの。
変更点としては機関に石炭が使用できること、25mm機銃がなくなりホ103の3連装10基に変更されていること。魚雷発射管は八年式魚雷改誘導魚雷を発射できるようになっている。


バーン級軽巡洋艦
阿賀野型軽巡洋艦を改修したもの。キャトル級同様機関に石炭が使用可能、25mm機銃がホ103連装4基に、魚雷発射管が八年式魚雷改誘導魚雷発射可能に。また8cm連装高角砲が一式三十七粍砲を対空射撃可能に連装砲塔式に搭載したものとなっている(対空兵装としては通常ほとんど効果がないが)。艦載機は現状搭載していない。。


出雲型軽空母
現実の『いずも』にあたる艦。対潜・哨戒用の機体を搭載するのが主任務だが、それ以外の艦載機も搭載可能。


夕立型機動砲艦
この地球では長射程の対艦ミサイルの登場が遅れたため、最近まで魚雷と戦艦砲がその位置を占めており、対艦ミサイル艦の立ち位置にあるのが砲艦や海防戦艦だ。
機動砲艦という艦種はその名の通り、機動することのできる砲艦で、この夕立型は駆逐艦クラスの艦体をもち単装2基の30.5cm砲を主兵装とする。


雪風型駆逐艦
駆逐艦。まだミサイルは搭載していないので、2基の砲と多量の魚雷が主兵装となり、大戦中の駆逐艦と大きくは変わらない艦上構造物の配置をもつ。(現代的な索敵機器の装備があるので外見的には変化している。)


艦上戦闘機『突風』
艦上戦闘機。
800km/hほどの速度が出る。運動性能が高い。
特攻機の梅花などのような尖った機首に三角形のカナード翼、キャノピー回りは橘花に近く、後部は震電に近い。
この地球ではレシプロ機が現実よりも長く主流であったためにこのような高性能機が登場していた。
その他の技術水準は変わりないか電子機器で上回るぐらいのため当然レーダーも搭載し、そのためと性能のために推進式が主流となっている。
固定武装は30mmリボルヴァーカノン1門とホ103を2門。

無人戦闘機『かつをどり』
大体指示のかつをどりと変わらない外見で、後部に推進式プロペラを装備するなどク4に近い。キャノピーはふさがれており、前部にカメラアイがある。
有人機や基地、艦艇から目標や戦闘、護衛などの指示を受けて戦闘する。自らそういった判断はできないが、飛行や戦闘自体は自立して行える。
固定武装は20mm機銃2門。


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4話 エジェイ近郊防衛戦

クワ・トイネ公国の城塞都市、エジェイへ向けてロウリア王国約20000の兵力が侵攻しているとの情報を受け、日本軍とクワ・トイネ軍は迎撃の準備を整えていた。

日本軍の、クワ・トイネ軍を作戦の主力としようという方針は変わってはいなかったが、ロデニウス沖海戦での『ヘレフォード』の損害を受け、共に参加してより積極的に協同戦闘を行うことにしていた。

日本軍の主力は70式戦車。皇紀2670年採用であることから名前が付いた、我々の地球で言う10式戦車に相当する車両だ。

そしてクワ・トイネ軍、こちらの主力となる戦車は九八式軽戦車『ケニ』を改設計した戦車、T-1『プラウ』だ。

各々の車両に余剰となった武具を増加装甲代わりに貼り付けたために微妙に外見が異なった、緑色の迷彩色に塗られた車両たちが初陣の時を待っている。

日本軍の通常の戦法であれば迫撃砲を放ってから前進するところだが、今回はそうではない。戦闘の火蓋を切るのは、クワ・トイネ軍所属の航空機だ。

九八式軽爆撃機の改設計であるS-1『イルドヴァ』が編隊を組んで飛び、それを五式戦闘機ことキ-100の改設計であるV-1『ファーマー』が護衛する。

さらに編隊の上空には日本軍の60式戦闘機『突風』がカバーについていた。

敵軍上空に到達、S-1は次々に50kg爆弾を投下し、敵軍を焼き払う。

ロウリア王国軍からは矢が飛んでくることもあったが、届く前に重力に負けて落ちていく。

迎撃のワイバーンが上がる。V-1が次々に降下してワイバーンへ突撃。上空からの降下の勢いを乗せて射弾を叩き込む。

射撃して下に飛び抜けたV-1は勢いのままに急上昇、後から降下していく味方の後ろから再攻撃をかけることで、ローテーションのように途切れない一撃離脱戦法を行う。ロウリア王国のワイバーンは次々と空に血と臓物を散らして墜ちてゆき、全滅した。

少々の機銃掃射を加えたのちに航空機部隊は離脱し、陸の部隊に攻撃指令が下った。

 

 

 

ロウリア王国軍先遣部隊の指揮を執っていたジューンフィルア伯爵は混乱していた。突如としてクワ・トイネ軍旗の柄を描いた謎の飛竜と赤い丸を描いた謎の飛竜が飛来し、落とされた高威力な爆弾と放たれた魔導によって大損害を受けたためだ。

ジューンフィルアは指揮官として己を律し、辛うじて思考を保ったが、部隊は依然混乱していた。戦意を失わず、平静を保っている者もいたが、10000人以上の人数のすべてがそうとは行かなかった。

ああ、嫌な予感が当たってしまった。ジューンフィルアは心の中で嘆いた。

しかし、前進するより他はない。退いても地獄、進んでも地獄だ。ならば少しでも目のある方に賭ける。どの道ここにとどまっていても先ほどの飛竜が再びやって来て時間をかけて皆殺しにされるだけだろう。

ジューンフィルアは城塞都市エジェイへ向け渋々と軍を進めた。

 

 

 

ロウリア王国軍先遣部隊前進開始と時を同じくして、クワ・トイネ軍、日本軍も前進を開始していた。

二つの部隊は接触し、戦闘が始まった。

エジェイ近郊の戦闘地点には、隠れられるような場所はどこにもなかった。T-1などにとっては都合が悪いとされる地形だったが、今回の敵は弓矢や剣で武装した軍、ワイバーンは排除されている。歩兵が逃げ隠れできない分むしろ都合がよかった。

70式戦車、T-1軽戦車が榴弾を撃ち、砲塔上の機銃や同軸機銃を撃ちまくる。榴弾は騎兵や密集して盾で防御を固める隊形をとった兵士を吹き飛ばし、機銃が兵士たちを貫いていく。

さらに戦車はロードキルを使い、T-1の一部の車体前部に並べられた馬上槍が突き刺してゆくこともあった。

 

 

「なんだ、これは」

 

ジューンフィルアはあまりの光景に絶望していた。

部下たちが。

共に戦ってきた戦友が、歴戦の猛者が、優秀な将軍が、家族ぐるみの付き合いのあった上級騎士が、共に強くなるために汗を流した仲間たちが。

あまりにあっさりと、敵に何の損害も与えることなく殺されていく。

腰の引けていた兵士が魔導に撃ちぬかれた。勇敢にも槍を構え、愛馬と共に突撃した騎士が轢き潰された。地獄のような光景、いや、そこは地獄そのものだった。

臆病者は獲物、勇敢な者は無謀。皆効率的に殺処分されていく。これが地獄でなくて何だというのか。

 

死神は彼だけを逃がしてはくれなかった。目の前に70式戦車が迫る。

彼は絶望し、どうすることもできず、しかし体に染みついた動きが剣を構えさせ―――

次の瞬間、120mmの砲弾の直撃を受けて、ジューンフィルア伯爵はこの世から消え去った。




T-1『プラウ』
九八式軽戦車『ケニ』の改設計型の軽戦車。
近代化改修によって全体的な信頼性の向上と、加減速や旋回などの機動性などが向上するなど全体的な性能向上がなされた。
また、同軸機銃はホ-103に変更されている。

S-1『イルドヴァ』
九八式軽爆撃機の改設計型の攻撃機あるいは軽爆撃機。襲撃機とも。
T-1等他の兵器同様の性能向上がなされた。また、構造のいくらかを木製としている。
また、固定武装は機首にホ-103が1門となっている。

V-1『ファーマー』
五式戦闘機ことキ-100の改設計型の戦闘機。
他の兵器同様の性能向上がなされた。また、構造のいくらかを木製としている。

70式戦車
皇紀による命名がされているために名前が違うが、10式戦車と同じもの。


戦艦砲の射程を伸ばすか対艦ミサイルの射程を初期のものの短めとするか。
グラ・バルカス帝国と戦争させるか。しなかった場合や次の戦争相手を想像&強化したアニュンリール皇国としていいか。
色々と悩ましいです。


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