魔獣創造を手に入れたが開き直ることにした (ダ・ヴィンチちゃん)
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コカビエル

 その昔、一人の神は未来を恐れた。

 外から来る神々に匹敵、凌駕する強大な力を持つ外敵が来るのを全知故に知ってしまったから。しかし彼の全能は、外の世界に対しては余りに小さかった。

 故に、恨まれるのを承知で、混沌を生むのを承知で様々な神話から良質な魂を集め、或いは未来それに魂が宿るように武器を造った。目をくらませるための、どうでも良い量産品も加えて。

 そして最後に目を付けたのは二匹のドラゴン。

 ドラゴンは時として己の予想を超えることがある。聖女の舎弟になった時は思わずマジか、と呟くほどに予想外の結果を残す。

 故に、神をも越える二匹のドラゴンを戦争中だった二勢力を巻き込み殺し、封印した。

 これで準備は整った。ああ、安心だ。きっと多くの不幸を生むだろうが、外敵が来る頃までにはきっと手を取り合える。子供達をそう信じている。

 最後に心残りがあるとすれば、あの神滅具。あれは使い手によっては、外敵以上の脅威となる。しかし使い手によっては最も心強い存在にもなるのだ。どうか、心優しき者にあれを…………

 しかし、だ。先も告げたようにこの神は外の世界から見れば全能ではなく、ましてやそれが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ともなれば叶うはずもない。

 

 

 

 

「神が、いない?」

 

 ここは駒王町。日本の一つの町。

 ここには現在、大戦後お互いに不干渉を貫いていたはずの堕天使、悪魔、そして天使の部下である教会の信徒がそろっていた。

 そして、堕天使のコカビエルから放たれた言葉に信徒であるゼノヴィアと元信徒であるアーシアが目を見開かせて震えていた。

 

「嘘だ………嘘だ……」

「主は、いないのですか?ならば、私達に与えられる愛は」

「既に死んでいる者がいったいどうやって人を愛するというのだ?」

 

 くくく、と笑うコカビエルにアーシアはフッと意識を手放す。イッセーが慌ててアーシアを支え上空のコカビエルを睨みつけるがコカビエルは気にもとめない。彼程度、敵にすらならないのだから。

 ゼノヴィアも絶望に押しつぶされそうになったその時だった。

 

「あの、もし………コカビエル様はいらっしゃいませんか?」

「「「!?」」」

「ん?」

 

 唐突に、この場にいた誰の者でもない声が響く。全員が其方に振り返り、それを見た。

 それは純白の修道女の格好をした美しい女性の姿をしており、背には六対12枚の純白の翼を持ち頭には幾何学的な光輪が浮かんでいる。一言で表すなら、天使という言葉がしっくりくる。

 

「何者だ、貴様は?」

「あ、その黒い翼はもしや貴方様がコカビエル様ですか?始めまして、私の名はヴェーラ。神の命により、貴方様を殺しに来たものです」

 

 神? 神と言ったか、この天使は!?

 

 ゼノヴィアはバッと顔を上げるが、コカビエルはふん、と鼻を鳴らす。

 

「一見天使に見えるが天使ではないな? どこの神話の者だ」

「どこの、と言われても……強いて言うなら魔獣神話とでも名付けましょうか。私は、神滅具(ロンギヌス)が一つ『魔獣創造』(アナイアレイション・メーカー)から生み出された魔獣ですので」

「────」

 

 今度こそゼノヴィアが固まる。あれは神の造った天使ではないらしい。神が死んでいないと否定する材料が一つ失われた。

 

「ふん。人間如きの模造品が俺を殺す、か………まあ、極めれば神さえ殺せるというのだから強ち大きくでたわけではないのか?」

 

 ヴェーラを前にコカビエルは不適に笑う。強者と戦うことこそ彼の喜び。ヴェーラが神を殺せるほどの力の持ち主なのかは知らないが、まあ良い。こうして派遣される程度には実力者なのだろう。

 

「はい。これでも『信仰の将』という位を携わった身。十分な強さを持つと自負しております」

「面白い。では、やろうか」

「………戦うのですね。解りました………せめて、苦しまぬように手加減いたします」

「大言もそこまでにしろ小娘が!」

 

 と、コカビエルが光の槍を放つ。地面に佇み何も出来ないでいる悪魔達なら魂すら残さず消し去る槍。だが──

 

「光よ──散りなさい」

 

 ヴェーラが片手を翳すと光の槍は霧散し光輪に吸い込まれていく。

 

「───何?」

「私に聖なる力は効きませんよ。もちろん、それ以外の攻撃にも耐えるつもりではありますが……聖なる力………いいえ、()()()()()()()()()()()()()()

 

 そう造られているから。と、微笑むヴェーラ。

 彼女の役目はまさにそれなのだ。己を産んだ、己の神以外の存在を拒絶する魔獣。

 

「なんて、望まれながらも相手の力が強すぎると呑みきれないんですけどね。そうあれと望まれ、そうあれなかった未熟な身でお恥ずかしい」

 

 と、照れたように笑うヴェーラ。ですが、と続ける。

 

「この程度の力なら大丈夫ですね。良かった、これなら主命を果たせる」

「────ッ!なめるな!」

 

 その言葉にコカビエルが激高し大量の光の槍を生み出す。が、それよりも速く───

 

「光よ、貫きなさい」

「────!」

 

 コカビエルの物より遙かに濃密な光が線となり放たれコカビエルの側頭部が消し飛ぶ。

 

「あ、申し訳ありません!頭を狙ったのですが───」

「ぐう──!?」

 

 気を使われている。敵であるのに………いや、敵とすら思われていない。

 

「ふざけるな!」

「ええ、本当に。申し訳ありません。今度はちゃんと殺しますので………光よ降り注ぎなさい」

 

 宣言通り光の雨が降り注ぐ。一つ一つが先程の光の線よりも強力な光の豪雨。コカビエルは抗う術もなく消し飛んだ。

 

 

 

「………さて」

 

 と、ヴェーラがイッセー達に向き直る。コカビエルをあっさり殺したヴェーラ。それが自分達に意識を向けた。そして、警戒していたのに何時の間にか目の前に現れる。

 

「あの、顔色が悪いですが大丈夫でしょうか?」

 

 心の底から心配しているような声色に、表情。

 

「ええと、こういう時は確か………大丈夫ですか、おっぱい揉みます?」

「揉みます!」

 

 その言葉に脊髄反射するイッセーだが直ぐに主であるリアス達が窘める。

 

「イッセー!こんな時まで!」

「駄目ですわよイッセー君。少しは警戒しませんと」

「あらあらうふふ。どうやら慕われているようで……私の一言は余計でしたね。失礼いたしました」

 

 スッとスカートを摘まみお辞儀するヴェーラからは敵意を感じない。少しだけ警戒心を解く。

 

「貴方は何者かしら?」

「主命によりコカビエル様を討ちに来た我が神の僕にございます」

「その主とやらは、何を目的に───」

 

 と、リアスが問いかけようとした時、学園を包んでいた結界が破壊され、一条の光がヴェーラに向かって迫り、ヴェーラの腕が吹き飛ばされる。

 

「…………貴方は?」

「白龍皇……」

 

 白い鎧に身を包んだ男にヴェーラが問いかけるとそんな言葉が帰ってきた。

 

「コカビエルを捕らえるように言われていたんだが、どうやら死んでしまったらしい。せっかく戦えると思ったのにな……まあ、その代わりさ」

「あらまあ……シュラハトと同じタイプでしょうか?申し訳ありません、私はもう帰ります。光よ、輝きなさい」

「─────!?」

 

 目を焼く強烈な閃光。それが晴れるとヴェーラの姿はどこにもなかった。

 

 

 

 

「ただいま戻りました、我が神よ」

 

 次元の狭間を遊泳する気配遮断と迷彩能力を持った巨大な鯨。その中に広がる鯨よりも巨大な空間に存在する日本家屋の縁側で西瓜を食う褐色銀髪の少年。名をエミヤ・リリィ。本名は別にあった気もするが忘れて適当に付けた。

 

「ん、どうなった?」

「はい。コカビエル様は無事倒しました………」

「ん、良くやった」

 

 エミヤの言葉に感極まったように震えるヴェーラ。

 

「これで俺の菓子も安泰だな」

 

 そう、それがエミヤがヴェーラにコカビエルの対処を命じた理由。行きつけの菓子屋があるから街を壊されると困る。だから町を破壊しようとしているコカビエルを始末するように命じたのだ。

 

「ヴェーラもほら、褒美だ。その菓子屋の菓子」

「そんな! エミヤ様のお菓子をいただくなんて……」

「そうか」

 

 ぱくんとそのまま菓子を食うエミヤ。

 

「しかし堕天使幹部が聖剣盗んで悪魔の領地かぁ……世も荒れるな」

「いかがなさいます?」

「俺もそろそろ表に出ようかねぇ……何時までも隠れていられるほどこの世界は甘くないだろうしなぁ」




ヴェーラ
『信仰の将』
見た目は幾何学的な光輪を持った修道女姿の天使。
能力は聖なる力や神の力を吸収し己の力に変えるというもの。本人自身も単体で強力な光を扱える。
創造主であるエミヤを神として信仰しており、その命令を絶対としているが出来るだけ苦しめないように命令を果たそうとするなど慈愛を持っている。

エミヤ・リリィ
『魔獣の創造主』
気がついたらヤバそうな能力を持って転生していた転生者。基本的には娯楽好きで快楽主義者。
限界を超えた力を与えるため心が必要と考え強い情動を『将』達に与える。
転生得点は倫理観の消去と世界に存在する物語の鍵になりそうなもの三つ。
『王の駒』『幽世の聖杯』『リリス』
リリスの肉を取り込んでいる『超越者』。


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創造主の方針

 それは純然たる邪気によりその世界に産み落とされた。

 世界をかき回せ、世界を混乱させろと願われ産み落とされた。

 だが───

 

「やーだよ、面倒くさい」

 

 無邪気な悪意を持つ子供のような万能者の言葉にそれはそう返した。

 自分と似ているのを選んでしまったのが運の尽きだろう。彼は常に自分本位。己のために行動する。世界の敵にはなろうとしない。

 だが、まあ……そもそもが異端だ。故に存在しているだけでその世界は本来の歴史を歩まない。せいぜい正史との相違を見て楽しもう。

 

 

 

「と言うわけでそろそろ表……って言っていいのか解らんが他の神話を関わるべきだと俺は思うのよ」

 

 『将』の内何名かを集めて己の方針を話すエミヤ。メイド服姿の『奉仕の将』セルヴィスに膝枕されながらの姿では威厳もへったくれもないが、彼に生み出された者達はヴェーラに劣るとはいえ高い忠誠心を持つため気にしない。

 が、意見はする者が居る。

 

「神よ、よろしいでしょうか?」

「ん、何?」

 

 挙手したのは『忠誠の将』フィエルダー。

 全身を西洋甲冑で包んだ彼は臣下の礼を取ったまま片手を上げる。

 

「無礼を承知で申し上げます。おやめになった方がよろしいかと」

 

 瞬間、周囲から殺気が飛ぶ。並の人外ならその場にいるだけで消滅しそうな重圧のど真ん中に晒されたフィエルダーはしかしいっさい動じず主であるエミヤを見る。

 

「今は時ではありません。三大勢力が動くと言うことは、あの組織が動くと言うこと。ここは傍観が望ましいかと」

「はん、なら全部ぶち殺せばいいだろ」

 

 と、吐き捨てたのは『闘争の将』シュラハト。

 

「ならば聞くが、君は世界最強のあのドラゴンをどう倒すつもりだ?」

「ハッ! そんなもん、正面からぶっ潰すに決まってんだろうが」

「不可能だ。現存の戦力じゃとても足りない」

「ビビってんのかよフィエルダー……『忠誠の将』が聞いてあきれる。所詮組織裏切ってあっけなく死んだ()()()か………」

「従うだけが忠義ではない。時に意見するのも忠臣の行い。そんな事も理解せず我が忠義を侮辱するか、考える脳のない頷くだけの大蜥蜴が」

 

 シュラハトの言葉にフィエルダーが腰の剣に手をかける。ギョロリと剣が開眼し、尋常ならざる光の力が放たれる。それに対しシュラハトは牙に変わった歯を剥き出しにして爪を伸ばし低く唸る。

 ビリビリと空気が震える中、不意にその場にそぐわぬ声が聞こえた。

 

「エミヤちゃーん、新しい服作ったの!ほら、お着替えお着替え!」

 

 朗らかな笑みを浮かべやってきたのは『母性の将』ミテラ。彼女は他の将達とは扱いが異なる。

 何せ彼女も元は魔獣ではない。エミヤが幼い頃、両親に捨てられた日と同日に突然現れたのだ。彼女自身も混乱していたが、自分より幼いエミヤを放っておけなかったのか育て現在にいたる。いわばエミヤの母親代わり。本人も母親を自称している。

 そんな彼女の突然の出現に立ち上がりかけていた二人は慌てて跪く。

 

「ミテラ、それどうみても女物の着物」

「うん。可愛いでしょ?」

「俺は男だから着ない。断じて」

「えー?……あら?」

 

 ぷぅ、と頬を膨らませるミテラ。しかし集まっている幹部達を見て重要な話し中だと察したのかその場でおとなしく引き下がった。

 

「………さて、取り敢えずシュラハト。フィエルダーは確かに元人間だがこの俺が『忠義の将』の与えたんだ。それを疑うのは俺の判定を疑うって事だ」

「………申し訳ありません」

 

 と、素直に謝罪するシュラハト。

 

「フィエルダー、お前の言うことに一理あるのも解る。だがもう決めた……」

「………理由をお聞きしても?」

「だって、面白そうじゃん。それにテロリストに人権はない。ぶち殺そうと材料にしようとだぁれにも責められないんだぜ?だから決まり。神話の表舞台に立つぞ」

「「「我が神のお心のままに」」」

 

 面白そう、そんな子供みたいな理由であろうと決めたというなら従う。それが彼等の存在意義。

 それは当たり前のことであり、喜ぶことでも感激することでもない。故にエミヤは欠伸をするとさっさと眠ってしまおうと目をつぶる。

 そして彼が彼等の忠義を当然として気にもとめないのは彼らにとってはむしろそれだけ当然と思われているという事であり、喜ばしいこと。故に誰もが喜びに震える。

 

「あ、そだ………」

 

 が、不意にエミヤが目を開けたので姿勢を整える。

 

「ヴェーラ、お前の腕悪魔か堕天使が持ってるだろうし、適当にからかっとけ」

「はい、神よ」

 

 と、ヴェーラは()()()()()神意に従った。

 

 

 

「へぇ、これがコカビエルをぶっ殺した()()の腕か………」

 

 堕天使総督、アザゼルはコカビエルの回収を命じたはずの白龍皇ヴァーリが代わりに持って帰ってきた白く綺麗な腕をしげしげと見つめる。その姿はどこか猟奇的だが彼に宿るのは人の肉体を愛でる異常愛ではなく研究者としての本能。

 

『 魔 獣 創 造 』(アナイアレイション・メーカー)か……過去の所有者で堕天使幹部、最上級悪魔クラスを瞬殺できる奴が造られたなんて情報はない。今回の所有者はとんでもなく優秀だな………問題は………」

 

 目的と規模。

 コカビエルを殺すように命じたようだが、目的は何だ?堕天使が嫌いとかだったら最悪だ。それに戦力規模も……もしこのレベルがまだまだ無数に居るとなれば一神話に匹敵する脅威だ。唯一の救いは創造主が人間であることか。それなら寿命で………

 

「いや、最近ハーフの神器待ちも増えてきてたな………ん?」

 

 腕を観察していると不意にピクリと動く。

 気のせいか?と、首を傾げた瞬間切り口からボタボタと大量の血が流れ出した。先程まで血の一滴も流れなかったのにだ……。

 

「──!?」

 

 気持ち悪さと血に何らかの毒が含まれている可能性を考慮して腕を放り投げる。

 そして直ぐに次の異変。飛び散った血液が蠢き無数の純白の翼を持った獣に姿を変える。いや、血液だけではない。腕も質量を無視して膨らみ姿を変える。

 こちらは獣が鎧をまとったような陶器のような白く滑らかな甲殻を持っており、目と思われる赤い宝石がアザゼルを見つめ光る。

 

『キュオオオオオオオオ!!』

『オオオオオオオオオッ!!』

「────っ!」

 

 その他とは異なる個体が笛の音のような遠吠えを上げると他の個体も共鳴するように吠える。そして、光を放ち壁を破壊すると窓から出て行く。異常を感じた堕天使達が気付いて追うが一体一体が中級クラス。逆に返り討ちにされ、結局幹部達が対処するももとより戦う気など無かったかのように殆どが逃げていった。

 修繕費と治療費はもちろんアザゼルの個人資産であった。




セルヴィス
『奉仕の将』
メイド。エミヤの願いを叶えることこそ至上の喜び。
家事全般から戦闘までこなす。エミヤだけではなく他人にも奉仕精神が働くが最優先はエミヤ。
特殊能力は無し。


フィエルダー
『忠誠の将』
元人間でありエミヤに忠言できる数少ない存在。
既に故人だったが聖杯とエミヤの力により恋人と共に生まれ変わった。その恩から絶対の忠誠を誓っている。
能力は個体スペックとしてはヴェーラを超える光とエクスカリバー級の聖剣型魔獣の創造。


シュラハト
『闘争の将』
集めに集めたある共通点を持つドラゴンの魂を聖杯でこねくり回して感情が擦り潰れるほど混ぜ合わせて戦いを求める部分を切り離し創った魔獣。闘争心が高く粗暴。
エミヤの敵を葬ることが指命と感じてはいるが出来れば強い敵と戦いたいと思っている。兄弟として性欲の部分を切り取った『色欲の将』が居る。仲は悪くないが主に止める役目を担っている。


ミテラ
『母性の将』
ある日エミヤの前に現れた女性。エミヤも彼女も何故出会ったのかは解らないがエミヤ二には何となく心当たりがあるらしい。厳密には『将』ではないが幹部達を見て名乗り始める。
エミヤの母を自称しておりエミヤが頭の上がらない唯一存在。エミヤを女装させようとしてくる。一体どこの吸血鬼何だ……



『新興の劣兵』
『新興の将』ヴェーラの血肉から産み落とされる量産型魔獣達。
血を媒介にした個体は堕天使、悪魔、天使の中級クラス。肉を媒介にした個体は量に左右されるが上級クラス。
『将』全員が類似の能力を持っておりフィエルダーの聖剣型魔獣はこれの亜種。フィエルダー自身も『劣兵』を生み出すことは出来る。
『劣兵』とは別に『兵』がいる。兵についてはその内書く


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初めての友達

 堕天使幹部を一方的に殺した天使のような姿をした自称『魔獣』の報告。

 それを見て、魔王達は頭を抱える。

 

『 魔 獣 創 造 』(アナイアレイション・メーカー)………か。本来なら天使、堕天使、悪魔の何れかが発見次第監視態勢に入る凶悪な神滅具(ロンギヌス)……まさか発見した頃に堕天使幹部、光を使うことから考えて最上級悪魔すら葬る魔獣を創り出せるようになるまで発見できなかったとは」

「今も発見できました~って、言える状況じゃないけどね~。所有者が現れたことしか解ってないし~」

 

 アジュカ・ベルゼブブの言葉にファルビウム・アスモデウスが間延びした声で応える。

 

「しかし、コカビエルを倒してくれたのだろう?友好的と見て良いんじゃないか?」

「でもでも~、見た目天使でしょ?天使を崇拝していて悪魔が嫌い!な可能性もあるよ☆」

 

 セルフォルー・レヴィアタンがサーゼクス・ルシファーの言葉にそう返すとぐっ、と言葉に詰まる。自分でも楽観視しすぎていたと気付いているのだろう。それでも、堕天使幹部クラスを瞬殺できる光の使い手がもし大量にいるとなると悪魔にとっては悪夢のような光景なのだ。

 

「とにかく、発見を急ごう。出来ることなら、友好関係を結びたいからね」

 

 

 

 

「いやぁ、君も中々良い鎧を着ている」

「そうだろうか?誉められるのはうれしいよ」

 

 駒王町のとある喫茶、異様な光景があった。何と西洋甲冑を着た2人と日本の鎧を着た1人、計三人が同じ席に座っているのだ。映画の撮影の休憩だろうか?

 オマケに褐色銀髪のショタ。目立たないわけがない。と言うかショタが食ってるホットケーキの皿が塔のようになっているのだが。

 

「………世の中には変な奴らが居るなぁ」

「変な奴?堀井君、大変です!エミヤ君が不審者を見つけたって!」

「何だって!?エミヤ君、スーザン。僕の後ろに隠れて!フィエルダー、戦えるかい?」

「腕には自身はあるけどね…………」

 

 ショタの言葉にオロオロしだす武者。庇うように西洋甲冑が立ち上がりランスを構える。不審者に心当たりがあるフィエルダーは呆れたような雰囲気を出していた。と、その時

 

「お美しいお嬢さん、こんにちは」

「え、あ……はい」

 

 1人の男が女性に声をかけていた。中々整った顔立ちの男に声をかけられすわナンパかと顔を赤くして喜ぶ女性。が──

 

「おっぱいを触らせてください」

「…………はい?」

「貴様か、この不審者め!」

「きゃー!不審者!」

 

 堂々とセクハラ発言をした男に向かってランスを構えながら突撃する堀井。女性の言う不審者とは果たして誰を指すのか………。

 

「ぬ?男に興味ねーんだよ!」

「な!?僕のランスを止めた、だと……中々やるようだね」

「ふ。これでも俺は『色欲の将』!人間如きに遅れを取るものか!」

「威張るなルクスリア」

「げふぅ!?」

 

 と、フィエルダーが後頭部を殴り地面に叩きつける。地面が揺れたが道路に罅は入っていない。衝撃が広がるようにしたのだろう。なにげに器用なことをしている。

 

「何をするフィエルダー!俺はな、女性の胸に触ると力が増すんだよ!今の内に蓄えておかないと!」

「嘘をつくな嘘を!お前の能力は見るだけで十分だろ!」

 

 だいたい何処の世界に胸を触れば強くなる変態が居るんだ、と首を振るフィエルダー。それに対してエミヤは……

 

「まあ正確には性的興奮を力に変える、だから強ち間違いとは言えないけどな………それに、世界は広いし案外いたりして」

「本当にそんな変態居たら僕はその変態をフェデルタに近づく前に殺しますよ。と言うわけでこの変態殺して良いですか?」

「面白いから駄目」

 

 ケタケタと笑う主に仕方ありませんか、と一歩距離をとるフィエルダー。ルクスリアはパンパンと土埃を払って起きあがる。

 

「えっと……ひょっとして知り合いなのかな?」

「知り合いと言えば知り合いだが、まあ不審者に変わりはない。警察くる前に俺らは逃げる。またな堀井、スーザン」

 

 

 

 

「………見つけた」

「ん?」

 

 不意に聞き覚えのない声が聞こえ振り返る。エミヤと同じぐらいの小柄な少女が居た。

 

「リリス、久しい……我の仲間になって」

「リリス?ああ、そういやあれ取り込んでたな俺」

 

 上位観測者世界の神にこの世界に落とされた、両親に捨てられミテラと共に歩み始めた数ヶ月後に現れた肉塊が確かそんな名前だったのを思い出す。魂はまだギリギリ名乗る程度のことは出来ていたので聞いたのだ。復活も出来るには出来たがいっそ取り込んだ。

 その肉塊の気配をエミヤから感じて勘違いしているのだろう。

 

「俺はエミヤ・リリィだ。間違えるな。間違えたらサマエル級のドラゴンスレイヤーのゴキブリ型魔獣のプールに放り込んでやる」

「エミヤ?リリスではない?」

「ああ、違う」

「エミヤ………覚えた。エミヤ、我と共にグレート・レッド倒す」

「え、何それ面白そう。倒した後どうなんの?」

「さあ………」

「ほほう。未知か………んー、でもなぁ、まだまだこの世界の色んな店の色んなお菓子食べてないしなぁ。ゲームだって漫画だってあるし……そういうのなくなって世界の菓子喰いあきたら手伝ってやるよ。それまでは仲間じゃないけど………まあ、友達とか?」

 

 この世界の菓子を堪能し、娯楽がなくなればこんな世界に用はない。世界最強との戦いなんて面白いこと間違いなしなイベントの末破壊されようと気にならないのでそれまで待って貰うことにした。

 

「友達?何それ」

「さあ?俺も友達いないし………でもなぁ、ミテラが作れってうるさいんだよ。だから友達になってくれ………ええと」

「我、オーフィス」

「オーフィス!?」

「やっぱりか!」

 

 と、剣を構えるフィエルダーに拳を構えるルクスリア。が、エミヤがパンと手を叩くと臨戦態勢を解く。

 

「んじゃ、友達らしくカラオケ行こうぜカラオケ」

「空桶?」

「その後ラウワンな」

「神よ……それ、高校生の友人同士の遊びでは?少なくとも見た目小学生の貴方達では違和感が………」




堀井
『西洋甲冑』
全身を西洋甲冑で覆った男。スーザンの恋人


スーザン
『武者』
夜に見ると落ち武者かと勘違いしそうになる。堀井の恋人


ルクスリア
『色欲の将』
シュラハトを創る際残ったドラゴンの雄が雌を求める部分の寄せ集め。特殊能力は性的興奮で強くなる。また、材料となったドラゴン達の力も使えるが戦闘行為が好きなシュラハトには劣る。ドラゴンの雄らしく他生物の雄が嫌いだがエミヤとエミヤの生み出した仲間たちは例外。
『性欲の将』が別にいる。


オーフィス
『無限の龍神』
ママが造れってうるさいから初めてつくった友達。
カラオケ、ゲーセン、ラウワンなどに行く。無限の胃袋は今日もエミヤの財布の中身を減らす。

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会談

 オーフィスと遊んだ後別れて町を適当にぶらつくエミヤ。護衛のフィエルダーが異様に目立っている。ルクスリアはナンパしにいった。

 

「おや、その西洋甲冑……もしや君がイッセー君のお客の堀井君かな?」

「ん?」

 

 気配は最初から感じていたが話しかけられるとは思っていなかったので少し驚き振り返るとそこには紅髪の好青年と銀髪のメイドが居た。

 

「イッセー?」

「おや、違うのかい?」

「堀井って西洋甲冑姿の友人はいるけどね」

 

 その言葉になるほど、と頷い好青年。

 

「ああ、失礼。私はサーゼクス・ルシファー。君の友人のお兄さん、と言ったところかな」

 

 にこやかな笑みを浮かべるフレンドリーの好青年、サーゼクス・ルシファー。ルシファーだ、初めから正体には気づいていたけど隠す気が無いのだろうか?

 

「神よ、ここは一旦………」

「俺はエミヤ・リリィ。今代の『魔 獣 創 造』(アナイアレイション・メーカー)の所有者だよ」

「「!?」」

「………はぁ」

 

 サーゼクスとメイドがバッと距離をとり警戒する。主のあっさりした暴露にフィエルダーは兜ごしに頭を押さえた。

 

「………本物、かい?何をしにこの町に……」

「ん?いや、ここにうまい菓子屋があってな」

「………菓子屋?まさか、コカビエルを倒し町を守った理由もそれ、だなんて言う気じゃ………」

「そだよ?この町には別に俺の好きな漫画描く漫画家もいないし、それ以外に何の価値あるんだ?」

「……………」

 

 何当たり前のこと聞いてんの?と首を傾げるエミヤにサーゼクスは薄ら寒いモノを感じる。多くの命が関わっていたんだぞ、それなのに優先するのは己の娯楽。人間の……いや、知性ある者の思考か?

 サーゼクスの脳裏にヘラヘラと笑みを浮かべる、今の己と同じ名を持つ銀髪の悪魔が浮かぶ。

 

「だが、会えたのは僥倖だね……」

「あん?」

「君とは敵対したくないからね。どうだろう、親睦を深めるために食事でも。もちろん奢りだよ」

「ん~………いいや、今日はもう満喫したし。三大勢力の会談あるんだろ?日時と場所教えてくれりゃ行ってやるかもよ」

「あ、ああ……それなら───」

 

 

 

「───ご主人様、ご主人様……起きてください」

「んー?」

 

 セルヴィスに起こされエミヤは眠そうに目を擦りながら上体を起こす。

 

「そろそろ会談のお時間です。向かいませんと……」

「あー………あったね、そんな話も……でも行くかもとしか言ってないしな~」

 

 断言してないし眠いから行きたくない。と、駄々をこねる主にいけませんよ、と注意するセルヴィス。『奉仕の将』は何も主に全て従うというわけではないのだ。この辺りからフィエルダーと仲が良く、フェデルタに嫉妬されている。

 

「………仕方ない、行くか。セルヴィス、フィエルダー、ヴェーラ、シュラハト……後、誰にしよっかな?アドラシオンでいっか」

「過剰戦力すぎるのでは?」

「向こうは魔王とか天使長とか堕天使総督とかいるんだぜ?そこを襲うなら彼奴等も同等の戦力持ってるって考えるべきだろ。ほら行くぞ」

 

 と、彼の言葉に『将』達が尽き従う。と、エミヤは思い出したように資料がばらまかれた机をみる。

 

「そういやあの町時間操作能力持ち居たっけ。やっぱりアケディアつれてこーぜ。無理矢理にでも」

「彼女を、ですか………まあヴァンデッダをつれてくよりはマシですが……というか彼を連れてこうなんて言うかと思ってましたよ」

「ほら、俺ってば部下思いだから彼奴のいやがることはしないたちなの」

 

 どの口が言うか、と思ったが口には出さない。

 

 

 

「そろそろ会談の時間だが………こねぇな」

「来るかも、としか聞いてないしね」

 

 三大勢力が揃った中、一つだけ席が空いている。本来ならこの会談のきっかけとなったコカビエルの暴走、それを止めた外部勢力の者が座る予定だというのに。

 

「あそこってこの前の天使みたいな奴の主が来るんですよね?どんな奴なんですかね」

「さあ、でも勝手に私の領地に侵入して何も弁明せず帰るような奴だし、礼儀が足りてないのは確かね。お兄様と会ったのも私の領地らしいし………」

 

 と、イッセーの言葉に不快感を表すリアス。と、その時扉が開く。

 

「………子供?」

 

 イッセーが思わずと言った風に呟く。入ってきたのは褐色銀髪の幼い少年。彼の仲間の中でもっとも幼い塔城小猫よりもなお幼い。

 

「俺の名はエミヤ・リリィ。魔獣達の神だ………待たせて悪いな。これは詫びだ」

 

 パンパンと手を叩くと数人のメイドたちが入ってきて魔王であるサーゼクス、セラフォルー、堕天使総督アザゼル、天使長ミカエルの前にケーキと紅茶をおいていく。

 次に入ってきたのはイッセー達も知る『信仰の将』を名乗ったヴェーラ。髪をかき揚げた凶暴そうな男、西洋甲冑。そして眠そうなパジャマ姿の女の子。ふぁ、と欠伸をすると何故か引きずっていた枕をポイッと床に放り投げ横になる。

 

「アケディア、起きろ」

「やだ~、働きたくない立ちたくない話したくない聞きたくない寝ていたい。寝ると言ったら寝るの~」

「後で俺の布団貸してやるから。超ふわっふわだぞ?」

「………同じ素材の枕ちょうだい」

「解った」

 

 アケディアと呼ばれた少女はコシコシと目を擦りながら起き上がる。

 

「んじゃ、来てやったから三大勢力同士で会話してろよ」

 

 どうせ俺には関係ないんだし、と笑うエミヤ。まずは、今回の会談の発端となった出来事の成り行きをリアスが説明した。

 

 

 

「と、今回の事件の報告です」

「あんがとよ。さて、今回の会話で気になるのはやっぱりコカビエルを瞬殺したって言うその女だが………」

 

 リアスの報告が終わるとアザゼルをヴェーラに向き直る。堕天使であるコカビエルを消滅させるほどの光を生み出すことが出来、さらには本人自身天使殺し、堕天使殺し、悪魔殺しと言っても過言ではない能力持ち。今までの歴史から見ても、異常すぎる。警戒が必要なほどに。

 

「そいつの腕、研究しようとしたら血が流れて大量の魔獣になったんだがありゃなんだ?一匹一匹が中級クラスだったぞ。腕に至っては上級クラスの魔獣になった」

「ああ。そりゃ『劣兵』だな……『将』達の持つ権限だ。己の血や肉体の一部を魔獣に変える。魔力が続く限り無限に産める。まあ、俺らの雑兵。下級かな」

 

 アザゼルの言葉にヴェーラに視線を向ける魔王達と天使長。エミヤが何でもないことのように言うとヴェーラはお辞儀をする。

 

「魔力さえありゃ無限に、か……つか、『将』()って事は……」

「うん。『将』達にゃ全員同様の能力が備わっている」

「その『将』ってのは?」

「家の幹部たち。まあ、最上級クラスみたいなもんかな?『将』の中でも特に強いのを『王』にして、これがそっちの魔王とか天使長とかかな」

 

 つまりコカビエルを瞬殺する奴が『将』最強だったとしても、最低後4人は強い奴がいることになる。

 

「恐ろしいな」

「そうか。じゃ、畏れ崇めろ」

 

 ケタケタと笑うエミヤ。恐ろしい、つまり危険視されたというのにこれっぽっちも気にした様子はない。だって彼は別に死ぬことは恐ろしくないのだ。娯楽が無くなることの方が恐ろしい。

 

「ちなみに既に知ってると思うが此奴が『信仰の将』ヴェーラ。こっちが『闘争の将』シュラハト。鎧は『忠誠の将』フィエルダーで、メイドは『奉仕の将』セルヴィス。他のメイド達は『奉仕の劣兵』だ。そこで立ったまま寝てんのが『怠惰の将』アケディア」

 

 少し感覚をこらせばどいつもこいつも馬鹿みたいな力を感じる。ここにいる『将』が『将』全体から見てどの程度の実力なのか解らない。ひょっとしたら中堅で、まだまだこのクラスが大量にいるのかもしれない。

 

「まあ、お前があの組織に入ってないのが唯一の救いか」

「アザゼル、あの組織とは?」

「お前等少しは外に目を向けろよ。俺と違って下を見張りながら行動できるだけの余裕があるくせによ……」

 

 はぁ、と呆れるアザゼル。まあ自分も調査と同時に趣味の研究をしてしまってるのだから強く言えないが。不意にチラリとエミヤを見る。人間の……仮にハーフだとしても神器を宿す以上は必ず人間の血を引いているはずの彼は現状をどう思っているのだろうか?

 帰ったら組織を見直すか。

 

「その組織ってのは二天龍を超えるドラゴンをトップとする組織でな。俺はそれに対策するために今回同盟を結びたいと思っててな………」

「同盟?いや、そうだね………これ以上、争うのも馬鹿らしい。小競り合いで数を少しずつ減らすより手を組むべきだ」

「我々天使も、それに反対する理由はありませんね」

「助かるよ。で、お前はどうする気だ?」

 

 と、エミヤに視線を向けるアザゼル。

 

「どうするって?」

「お前は本来なら俺らの何れかの監視下に入れられるやべー奴だ。その魔獣達をみる限り余計にな。だが、こうして三大勢力が手を組んだ以上どこかの組織が引き抜くのは争いの種になる。お前本人が選べば……」

「監視下だと……」

「我々の神を侮辱する気ですか?」

「無礼な」

「お、やれんのか?」

「……………」

 

 アザゼルの言葉にフィエルダーが聖剣を出現させヴェーラが幾何学的な光輪を激しく回転させる。シュラハトが牙を剥き出しにセルヴィスが不快感を示しアケディアも薄目をあける。その空間が軋むような殺気にリアス達が気絶しそうになる。向けられたのがアザゼルだからギリギリ耐えたが、少しでも意識を向けられたら気絶、敵意を向けられた日にはショック死して放たれる魔力で消滅していたことだろう。

 

「やめろやめろ。俺は別に喧嘩しに来た訳じゃねーからよ」

 

 と、エミヤの言葉に殺気が消える。

 

「悪いな。気が短くて……でも俺は何処かの下につく気はねーよ」

「無所属のままだと狙われるぞ……」

 

 ここで悪魔に、と続けなかったのはこの言葉を出せば同盟に亀裂を入れると考えたからだ。

 悪魔だけでなく、堕天使を殺せる天使型の魔獣を創れるなら天界も欲してるのかもしれない。

 

「俺としては対等を望むね。つまり俺自身は魔王や堕天使総督、天使長と同格。幹部達は貴族、最上級堕天使、熾天使(セラフ)と同等」

 

 それは余りに傲慢な願い。短命にして脆弱な人間が、魔王に、天使長に、堕天使総督に俺はお前等と同格だから、と言い切ったのだ。

 

「その上で同盟組んでやるよ。こうすりゃお前等の配下にならないままその内ほかの神話にも関われるだろうしな」

 

 ニヤリと笑うエミヤ。だが、彼の戦力は未知数で、少なくとも最上級堕天使を瞬殺する実力者がこの場には5人。

 

「………良いぜ。堕天使は受け入れる」

「アザゼル?……いや、そうだね。悪魔も受け入れる」

「受け入れちゃう☆」

「………多数決なら既に決まりましたね。天使も受け入れます」

「おう。じゃ、コンゴトモヨロシク」

 

 エミヤがそう言った瞬間、時が止まった。




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襲撃者

「およ?時間が止まっとる」

 

 呼吸音も感じさせず動かなくなったイッセー達を見て首を傾げるエミヤ。動けるのは各陣営トップと堕天使総督の護衛ヴァーリ、魔王の護衛グレイフィア・ルキフグスに魔王の妹の配下デュランダル使いゼノヴィア・クァルタに騎士の木場祐斗。後リアス。眼鏡をかけたソーナ・シトリーは固まっている。

 

「アケディア、仕事」

「え~?」

「命令」

「は~い。()()()()()

 

 ()()()ではなく()()ならば神軍の『将』たる自分に断る権利も道理も意志もない。神の命令ならば従うまで。間延びした声と同時に固まっていた連中が動き出し、時を止められた違和感を感じたのか周囲を見回す。

 

「い、一体何が……」

「テロだろ。ほら、何か外にコスプレイヤーいるし」

 

 と、エミヤが外を見ると魔法使いのような格好をした連中が大量に現れる。

 

「一人一人が『劣兵』程度か?雑魚だな、殺してこいセルヴィス」

「かしこまりましたご主人様」

 

 エミヤの言葉に礼を取ったセルヴィスが窓を開け飛び出す。魔法使い達が魔法を放つのとほぼ同時に、セルヴィスもまた魔法を放つ。

 凍り付き砕け、焼け焦げ崩れ、押し潰され破裂する魔法使い達。

 セルヴィスは特殊な力をいっさい持たない『将』の中でも下位に属する存在。しかしそれでも情動を以て力と成す『将』だ。その魔力は膨大。その肉体は強大。その上で人間如き脆弱な種族でも簡単に扱える魔法を、人間なら魔力が足りず、体がついて行かず放てない威力を放つことができる。

 端的に言ってしまえば生物としても術者としても格が違う。

 

「今の感覚、ギャスパー?」

「お前等のところのハーフヴァンパイアが利用されたらしいな」

 

 リアスの言葉にアザゼルが旧校舎をみる。そこから力の流れを感じた。

 

「けど、その嬢ちゃんが解除したみたいだな」

「アケディアは時間を操る能力を持つからな。この能力で1日50時間は寝るし一日で片さなきゃならねー仕事を自分の時間の流れを早くしたり周囲を遅くすることで本人にとって1日の時間に1%だけやるとかする。下手すりゃ時間を止めて数日は寝ることもあるまさに怠惰の能力だ」

「加速、減速、停止、再生、全てこなすのかよ……滅茶苦茶だな」

 

 流石全神滅具(ロンギヌス)の中でもとりわけ凶悪と謡われるだけある。

 

「ハーフヴァンパイアね~。よしフィエルダー、ぶち殺して神器(セイクリッド・ギア)奪ってこい。魂も後で使うかもしれないから肉体は残しとけよ」

「はっ」

 

 と、エミヤが命令を下し実行しようとする騎士。が──

 

「な、何て事言いやがる!」

「ギャスパーを殺すですって!?」

 

 イッセーとリアスが反応した。彼女の眷属達も敵意を向け睨んでくるがエミヤは何怒ってんだ?と首を傾げる。

 

「そりゃ当然だろ。だってこっちは天使長に堕天使総督、そんでお前等のトップでもある魔王と同格扱いの俺がいるんだぜ?テロリストの玩具にされてる奴に気を使う理由がない」

「確かに同意だが同盟が成立する前にそれはまずいんじゃねーか?むしろ恩を売るべきだと俺は思うがね。ここでさらに売りゃそうとう儲かるぜ?」

 

 と、エミヤを止めるアザゼル。損得勘定で考えるならここで悪魔に恩を売るのが得だと考えての発言。冷静に物事を判断していたアザゼルはこの言葉で止まると思っていた。が、エミヤは損得勘定など考えない。

 

「いやいや、建前だからねあんなの。ハーフヴァンパイアでしかも時間操作とか超面白い材料じゃん」

 

 それが本音。別にテロリストがどうしようと知った事じゃない。もとより興味があり、どうせなら魔獣創る触媒にしようかと思っただけだ。

 

「だぶってる神器(セイクリッド・ギア)幾つかやるから」

「仕方ないな。感謝しろよ?」

 

 と、あっさり引き下がった。

 一つの材料を手に入れるより複数の玩具を手に入れる方が面白いと思ったらしい。気分屋すぎる。見た目通りの子供で、しかし持つ力は強大。笑えない。

 

「じゃ、ヴェーラは俺の護衛。残りは殺してこい」

「はっ」

「おうよ!」

「承知いたしました」

「神様~、私は~?」

「アケディアは時間動かしてろ。で、誰が吸血鬼助けに行くんだ?」

 

 エミヤの言葉に私が行くわと挙手をするリアス。主人として云々言ってるが興味ないので聞き流す。

 

「うわー、ゴキブリみたいにうじゃうじゃ出てくるな」

「仮にも同じ種族に何て言いようだ……」

「え、だって他人だし。そもそも知性ある生き物は基本己と己の大切な者以外同族としてみてないだろ。殺し合うんだもん。派閥を分けて殺し合いにならねーように総督一人にするとか、お前が優しすぎるんだよ、ばっかじゃねーの?」

 

 各々個があり願いがある。故に例え同じ動物だったとしても知性を持てば他人は他人。何処まで行っても命を懸ける相手には値しない。中には命を懸けることのできる奴がいるけどそんなのは少数だ。

 エミヤの戦力はエミヤによって創られ本能的にエミヤを絶対とする。その本能がないが忠誠を誓うからこそフィエルダーは『忠誠の将』なのだ。

 逆にそんな本能もなく神の代行者としてこの方に従うなんて考える天使とも違い、嘗ての主を裏切った連中を纏めて背負おうと考えるアザゼルは馬鹿すぎる。

 派閥を作りその派閥のトップの上に立つと言うことをすれば少しは楽になるだろうに。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。堕天使が内部分裂しようが悪魔が虐げてきた転生悪魔に反乱されようが天使が騙してきた信徒達に命を狙われようが、それに巻き込まれようがエミヤは責任を求める気はいっさい無い。だってそれは、きっと()()()()()()()

 正義を語ろうと悪を語ろうと、戦えるなら、遊べるならそれでいい。強かろうが弱かろうが信念だろうが建前だろうが何かを喚き散らして己の命をぶつけてくる者をエミヤは素直に歓迎する。故に───

 

「ご機嫌よう、現魔王サーゼクス殿」

 

 魔王の座をかけた戦いで負けたにも関わらず認められないと反乱を起こし義は自分達にありと語るその女は、実に遊びがいのある玩具だ。

 そして子供は、玩具を壊さぬように大事にすることもあれば壊して遊ぶこともある。

 この世界は彼にとっては玩具箱。中身がどれだけ壊れようと知らない。無くなったなら捨てるだけ。




アケディア
『怠惰の将』
時間操作能力を持つ『将』。怠惰だけありエミヤのお願いは基本的に面倒くさがるが命令なら一年働けと言われても働く。『将』の中でも直接戦闘能力はともかくかなりのチート能力持ち。世界そのものを停止されることも可能。これで動けるのは神でも上位の者達。また、時を巻き戻し死んだ状態から復活することできる。殺せる奴はストラーダクラスのチートじゃないと無理だろうけど


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エミヤの狂気

「ヴェーラ、やれ」

「はい神よ」

 

 悪魔にとって猛毒である光が放たれ、魔法陣から現れた女の腕を貫く。キョトンとした女と周囲の者達。が、直ぐに腕から広がる熱に女が絶叫した。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「へ、カテレアちゃん?」

「お前が今回の首謀者だな?良しヴェーラ、死なない程度に壊せ」

「残酷なのは嫌いですが、主命とあらば……」

 

 と、ヴェーラが光を放つ。カテレアと呼ばれた女悪魔は慌てて障壁張るがあっさり貫かれる。

 

「ぐあ!」

 

 腹を貫かれゴボリと血を吐き出すカテレア。そのまま光力を込めた拳で校庭に吹き飛んでいく。

 

「あ、あの……いきなりすぎるのでは……」

「あん?だってテロリストだぞ、どうして加減してやる必要がある」

 

 ミカエルのひきつった言葉にエミヤは淡々と返して、次に笑う。

 

「それともあれか?彼奴等の言葉に正当性がありゃ、要求を受け入れるのか?魔王の血筋だから次の魔王になるのは当然と考えて何もせず喚くだけ喚いて前線に立ってたどうせ自分の配下になるとか考えてた貴族悪魔に魔王の座取られて激高してクソ雑魚蛞蝓の癖に舐めプして返り討ちにあったのにまだ自分の方が魔王に相応しいとかほざいてる上級程度の力しかない悪魔の言葉を?」

「ぐ、ぎぃ……ぎざまぁぁぁぁ!」

「静粛に──」

「ぎあ!」

 

 その声が届いていたのか忌々しげにエミヤを睨み吠えるカテレアだがヴェーラが頭を踏みつけ黙らせる。

 

「神は貴方に発言を許しておりません」

「そうだな。だから今から許す。ほら、何か言って見ろ」

 

 と、会談の場の椅子を蹴り上げ見事カテレアの前に落とすとその椅子に腰を下ろす。

 地面に這い蹲るカテレアを見下す視線にカテレアが歯をギシリと鳴らすがヴェーラがいるので諦める。

 そして必死に考える。隙をつき『蛇』を飲む瞬間をどう作るか……

 

「我々の味方になりませんか」

「面白そうだけどねー。最終目的達成しようとしたら世界壊れてるかもじゃん」

「は?」

「ああ、うん。続けろ……そうだな、俺がお前等に手を組む得を提示して見ろ」

「ちょっとエミヤちゃん!?」

 

 と、勧誘交渉に乗っているエミヤを見てセラフォルーが慌てるがこれもヴェーラに制される。カテレアは内心ほくそ笑む。所詮は生意気な人間のガキ、仲間意識の強い人間ならばあの一言で十分だ。

 

「我々が魔王となった暁には人間界などに関わることはありません。よって、これより先転生悪魔が生まれることも天使、堕天使が人間界に姿を現すこともないでしょう」

「そうか、で?続けろ」

「…………は?」

 

 それだけ?いや、なんだその反応は!?

 

「お前にも思うところがあるはずだろう!?だから、無能な管理者に変わりコカビエルを倒したのではないのか!?」

「おおう、敬語忘れてる。そっちが素?ま、人間を見下してるお前等が敬語使うのが変なんだけどな。で、何?思うところ………?思うところねぇ……」

 

 ふむ、と顎に手を当てる。

 

「行きつけの菓子屋が無くなると思って焦ったな」

「……………は?」

 

 かし?菓子?菓子屋と言ったか?えっと、つまりどう言うこと?

 

「い、偽りの魔王の妹であるリアス・グレモリーの失態とか、無いのか!?この町の住人が死ぬところだったんだぞ!」

「ああ。だから菓子屋が危なかったな、って……」

「………何を、何を言っているんだお前は」

「まああれだ。俺は人間を助けてやる気なんて微塵もねーのに、どうしてリアス・グレモリーを同じ人間なんてどうとも思ってないってだけで責められる。あ、そういや領主名乗ってんだっけ?でもそれで人間が被害被ろうが俺はどうでも良いしな」

「………………」

 

 正史の世界においてはその扱いはただ簡単に肯定されるが、外史、いわゆる平行世界においてはリアス・グレモリーや三大勢力を責める存在は多い。

 例えば正史に置いても外史においても性格が異なるが歴史の中心にいる兵藤一誠。町を守れないリアス・グレモリーを無能と呼び三大勢力に敵意を抱く彼も外史において多々いる。

 或いは特異点。その外史にのみしか存在しない者達。主に三大勢力の被害者故に彼等を強く恨み、殲滅し被害者がでないようにしようとする。だが、それは言ってしまえば彼等が人間を守ろうとする故だ。

 三大勢力の被害者である人間であり、同じ被害者がでないようにする。しかしエミヤは血も繋がらない、友人でもない赤の他人など例え目の前で死んでも気にしない。死に方によっては腹を抱えて笑う。

 人間の命を何とも思っていない。己が楽しければ名誉も金もいらない。

 だからリアス・グレモリーが堕天使幹部の存在を認知しながら魔王に連絡を取らず、結果としてエミヤが町を守るようにヴェーラに命じた時も菓子屋の無事しか願ってない。

 そして彼は己がズレていることを自覚している。故に怒りを向けない。まるで自分がほかの人間を仲間のように思っているなどと言う態度をとるのは、人間にとって失礼だとすら思う。

 

「だから別に、三大勢力がどれだけ人間に迷惑かけてよーとお前等が勝てばそれが無くなろうと、俺にとっちゃお気に入りの漫画家やアニメーター、ゲームクリエイターと菓子職人さえ無事ならどーでもいいんだ」

 

 カテレアは痛みも忘れて目の前の存在に恐怖する。理解できない故の恐怖。

 

「発言終わったか?さて、じゃあヴェーラ、殺せ」

「なめるな!」

 

 と、主人の話していたからか下がっていたヴェーラが動く前に懐から取り出した瓶の中身を飲み込む。魔力が膨れ上がり、エミヤが頭を踏みつけた。

 

「ほお、面白いもん持ってたな。吐き出してちょっと見せてみろ」

「ごぇ!?」

 

 腹を蹴り飛ばされ地面を転がるカテレアはあり得ないと目を見開く。今飲んだ『蛇』の力で自分は先代魔王クラスになったはず。なのに何故、戦闘能力の無いはずの『魔 獣 創 造』(アナイアレイション・メーカー)の所有者の人間如きに……。

 

「貴様何をした!?」

「普通に蹴った」

「ふざけるな!人間如きの蹴りで!」

「だが事実だ。俺はお前を簡単に殺せる………で、次はどうする?お前は真なる魔王なんだから人間如きに負けるな。ほら、頑張れ頑張れ」

 

 パンパンと手を叩き挑発するエミヤから、膨大な魔力が放たれる。魔法力ではない、魔力。

 その魔力を見てカテレアはエミヤの背後に美しい女を幻視する。悪魔の細胞が、それを見せてくる。

 

「き、貴様いったい………」

「………ありゃおびえちまったか。こうなると退屈だな……」

「うん。もういいや……」

 

 魔力が収まり踵を返すエミヤ。カテレアがほっと息をなで下ろした瞬間、光の柱に飲まれ消えた。

 

「良かった。死なせてあげられて……これ以上苦しめずにすんで。神よ、感謝いたします」

 

 と、死なない程度に壊せという命令から殺していいと許可をくれたエミヤに頭を下げた。

 

「で、これは一体何のつもりだ?」

「裏切り、かな。あくまで魔獣を創るだけの君には期待してなかったが……」

 

 迫ってきた拳を止めるエミヤは拳を放ってきたヴァーリを見る。

 

「貴方、何のつもりですか──」

「──────」

 

 ゾワリとヴェーラが殺気を放つ。エミヤはヴァーリを力任せに空に投げる。もはや転移してくる魔法使い達も数が減ってきた残党狩りで目の前の魔法使いをぶっ飛ばしたヴァーリを見て固まるシュラハト。

 

「シュラハト、そいつ()()()()()()。白龍皇の魂だ、念入りに噛み潰して取り込め……ルクスリアにも赤龍帝喰わせてみようかな?性格的にあってるだろうし………ん、赤龍帝?」

 

 と、思い出したように呟くエミヤ。主人の命令と己の内に宿る闘争心故にまさに戦おうとしていたシュラハトもそれに気づき止まる。

 

「どうせなら紅白龍合戦を見てからで良いか……」

 

 と、旧校舎から出てきたイッセーを見てエミヤはお楽しみの映画を見ようとしている子供のような笑みを浮かべた。




カテレア
旧魔王の血筋。72柱の悪魔にやられる

エミヤ
原作では72柱を作り出した存在でさらには上級クラスの悪魔を十万作り超越者も数体作るリリスを取り込んだ

うん。勝てるわけないね。


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天龍対邪龍

「あひゃひゃひゃ!うひゃひゃひゃひゃ!」

 

 エミヤが腹を抱えて大笑いする。

 紅白龍合戦とエミヤが名付けた戦いは、舌戦でヴァーリが先代魔王ルシファーの子孫と解った。

 ルシファーの血族だけあり、当初こそヴァーリがイッセーを圧倒していたが、イッセーが天界から剣士でもないくせに貰っていたらしいアスカロンの力で一度ヴァーリの鎧を破壊し、その欠片を取り込むというエミヤを楽しませることをやってのけた。

 そこまででも面白いのに周囲のモノを半減するヴァーリの能力が広がっていけばリアス・グレモリーの胸まで半分になるとアザゼルに言われ、すんごいきれた。

 

「き、聞いたかお前等?む、胸が半分って!彼奴親殺されるって言われたときよりきれてたぜ!?親の命より他人の胸の大きさの方が大事だとよ!いひ、いひひひひ!」

 

 ひーひー過呼吸になるエミヤ。

 

「………まあ、欲望に素直なのが悪魔ですしね」

「だとしてもよぉ、ドラゴンの性欲集めて創ったルクスリア並じゃねーのかあの変態」

「きっと親も後悔しているでしょうね。ご主人様と違って、あの人自分が周りとズレてると思ってなさそうですし」

「仮にリアス・グレモリーの命と胸のどちらかを奪うと言われたら、どちらに強く怒りを覚えるのかな……」

「ん~、胸じゃないの~?流石に主人と言ってもつい最近まで赤の他人の命が両親の命より大切とは思えないしね~」

 

 大笑いするエミヤの後ろで苦笑を浮かべるヴェーラ、呆れた様子で弟を思い出すシュラハト、親に同情するセルヴィス、素直に疑問に思うフィエルダー、どうでも良さそうなアケディア。

 

「あー、笑った笑った………さて、兵藤一誠じゃあヴァーリ・ルシファーにゃ勝てないな」

 

 一頻り笑うと二人の戦いを冷静に評価したエミヤはそう切り捨てる。後ろでリアスがむっとしていたが無視した。

 

「面白かったけど、どうするか………これあれだ、お互いがお互い意識してさらに強くなる奴だ」

「どうする?」

「んー……ま、兵藤一誠ならともかくヴァーリ・ルシファーは普通に強くなってくだけだろうし面白味もなさそうだしなぁ……あの性格なら自分より強くて芯が通ってる奴になら誰でも憧れ越えようとするだろうし…もう良いや。ヴァーリ・ルシファーを殺せ」

「おうよ!」

 

 と、ヴァーリに向かってブレスを吐く。

 

「──!?」

「な!?邪魔するな!あの半分野郎は俺が!部長と朱乃さんとゼノヴィアと成長中のアーシアと半分にされたらまるっきりなくなる小猫ちゃんのおっぱいは俺が守るんだ!」

「あー、うん。そうか………けど神命なんでな」

 

 イッセーの主張などどうでも良さそうに押し退ける。イッセーは鎧を纏っていたがアザゼルから貰ったアイテムを使っていた、その効力が切れ鎧が砕ける。

 

「どのみちお前みてーな雑魚じゃ勝てねーよ」

「そ、そんなことねー!俺だって禁手(バランス・ブレイク)してたなら!」

「聞こえねーのな?邪魔だ」

 

 と、イッセーを殴り飛ばすシュラハト。

 

「……君が俺と戦ってくれるのかい?」

「それが神からの命令だからな」

「そうか、なら……強いのかい?」

「ヴェーラよりはな」

 

 コカビエルを瞬殺したヴェーラより強いという。その言葉にヴァーリが笑みを深める。

 

「そうか、ならばやはり使うか……『我、目覚めるは、覇の理に──』」

『自重しろ、ヴァーリ!我が力に翻弄されるのがお前の本懐か!』

「お、覇龍を己の意思で扱えるのか?良いぞ良いぞ!」

「…………」

 

 エミヤが面白がっているのでシュラハトは強化を黙って待つ。

 

「おい待て!そんな事したらこの町が吹っ飛ぶぞ!」

「じゃ、頑張って結界張ってろよ。なぁに、魔王クラスが二人に超越者、堕天使総督に天使長いる。家の幹部も貸してやる」

 

 と、止めようとするアザゼルが叫ぶがエミヤは取り合わない。仕方なく結界を強化し、例え魔王クラスであろうと出入りできないレベルに変わる。

 

「お、何時の間にか完成してた」

 

 と、ヴァーリの鎧が変化していた。物凄い力の波動にイッセー達は息を飲む。

 

「行くぞ、シュラハトとやら!」

「ははっ!」

 

 ヴァーリが突撃する。イッセー達には最早見えず魔王達でも感心する高速の突撃。その拳は最上級悪魔にも匹敵する一撃。しかし、その()()だ……

 

「なに!?」

 

 黒い翼がヴァーリの拳を受け止める。攻撃したはずのヴァーリの鎧に罅が入った。

 

『この気配は、グレンデル!?いや、ラードゥンか?アポプス、それに…八岐大蛇…?何なんだ、お前は!?』

 

 アルビオンはシュラハトから感じる数多の龍の気配に叫ぶ。一体一体が強力で凶悪なドラゴン。故に滅ぼされたはずのドラゴン達の気配。

 

「おいエミヤ、彼奴は何者だ?」

「シュラハトは世界を転々と巡り集めた邪龍の魂を聖杯で煮詰めて混ぜて意志同士をすり減るまで掻き回した後残ったドラゴンの本能の内闘争心を集めて創った魔獣だよ」

「邪龍!?それに、聖杯だと!?」

神滅具(ロンギヌス)持ちが、二人も?」

 

 アザゼル達はただただ驚くことしか出来なかった。

 

「ひゃは!」

『ッ!ヴァーリ、あの闇に触れるな!溶け消えるぞ!』

「───ッ!これでは近づけんな、ならば!」

 

 と、宝玉が光り光線が放たれ闇が貫かれる。が、シュラハトが片腕を凪げばあっさり弾かれる。

 

「はぁ!」

「ほお?」

 

 弾いた瞬間、一瞬だけ開いた穴から接近し腹に強烈な蹴りを与える。吹き飛ばされたシュラハトはコキコキ首を鳴らしながら起きあがった。

 

「いいねぇ、その勝とうとする執念!最高だ!ほら、魔力が尽きかけただけでへたってんじゃねーよ!命を燃やせ、命を懸けろ!もっと抗ってみろ!」

「────ッ!魔力なら、君から貰うさ!」

『DivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivide!!!』

 

 ヴァーリの覇龍は、本来なら寿命を削るそれを魔力で補うことで使用していた。当然魔力も加速度的に消費する。が、彼の能力は『半減』と『吸収』。シュラハトから魔力を吸収し己の力に変える。翼からものすご勢いで光の粒子が溢れるのは、ヴァーリ程度ではシュラハトの力を吸収しても殆ど受けきれず上限を越えると言うこと。

 

「ふぅん、こりゃ時間かけるとやべーな」

 

 と、シュラハトは力を吸収されているとは思えないほど軽快に笑い、地面を踏み砕き跳ぶ。

 

「!?」

「死ねや」

 

 八岐大蛇の猛毒とアポプスの闇が合わさったオーラの渦を纏った拳。とっさに張った障壁を貫きヴァーリの腹を穿つ。

 

「ガハ───」

「おお流石魔王の血族。まだ生きてんのか………んじゃ、神の許可も下りてる。()()()()()()()

 

 ズルリと両肩からドラゴンの首が二つ生え、腰からは尾のように蛇にも似たドラゴンの首が8つ現れる。

 

「丁寧に魂も心も噛み砕いて喰ってやるよ」

「お、おい待て!何も殺さなくても!」

「あ?俺に命令すんなよカラス。俺に命令できるのは神だけだ」

 

 と、人間の顔で振り替えてっている間にドラゴンの頭がヴァーリを噛み砕く。腕引きちぎり魂を毒で犯し腐らせ飲み込んでいく。ものの数秒でヴァーリのいた痕跡は血痕しか残らなかった。




イッセーの中で大切の基準ってやっぱ第一に胸だよな、絶対。
リアスの胸が無くなるなら死を選ぶとか断言してたし


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駒王協定

「う、ぐ………」

「イッセーさん!」

 

 イッセーが目を開けるとアーシアの顔が飛び込んできた。すぐにイッセー、イッセー君、イッセー先輩と眷属仲間達や主のリアスが駆け寄ってくる。

 

「俺は………そうだ、ヴァーリは!?」

 

 確か奴と戦っていて、勝てないから退いてろとシュラハトに殴り飛ばされて……。

 

「ん、ああ、喰った……」

 

 と、そこへやってきたシュラハトが何でもないことのように言う。

 

「うん。俺の命令でな」

「お、神。話は終わったか?」

「終わった終わった。元々そこまで長くするような話じゃねーし?俺等の土地は異空間にあるし金も別にいらねーから契約内容は面白いことに誘うのと各神話の神界冥界に俺が遊びに行けるように面談の機会を設けること。見返りは俺等の力。な、話す事なんてとくにねーだろ?」

 

 欲しいのは金ではないし名誉でもない。遊べる範囲が人間界のみだったから、それを増やしたいだけのエミヤとの交渉なんて単純なモノだ。元より揺さぶられる組織でもない。

 

「おい、喰ったってどういうことだよ……」

「そのまんま、殺して喰わせた」

「何で!?」

「いやお前だって殺すとか言ってたじゃん?それにテロリスト生かす意味あんの?」

「意味とかじゃねーだろ!生きてるんだぞ、なのに、そんな簡単に殺して!」

「おお、成る程。で?お前はお前を殺した堕天使殺した時後悔したのか?」

「─────ッ!」

 

 その言葉にイッセーは固まる。

 あれは自分が殺したのではない、と叫ぶのは簡単だが、殺さずにすむ道を選ぶことができたのも事実。

 

「………まあ、俺はあれだよあれ……」

 

 と、エミヤは語り出す。

 

「普通の人が誰しも持つ倫理観が無いから。いや、昔は持ってたよ?けど無くしちまってな……再び教える義務のある両親も俺を捨てて倫理観なんざ教えてくれない。代わりにできた家族も、お互い悪魔やら教会の信徒やら堕天使やらに狙われ必死にいきる毎日。んで、俺の神器(セイクリッド・ギア)は心を持った生命を生み出せる──」

 

 だから、と首を傾げイッセーを下から見下すエミヤ。

 

「生命を創れる俺が命に無頓着になるのって、そんなに責められる事か?」

 

 転生させた神に倫理観を消し去られ、それを教える役目持つ両親には捨てられた。

 その後出会った彼女も優しいが浮き世離れしていたし、まともに学べる余裕もなかった。その上でエミヤは感情を持つ生命を生み出した。命の価値観など周りと同じはずがなく、本人も自覚している。

 

「お前だって女の胸の方が両親より大切なんだろ?それと同じ、俺は他人の命に価値を見いだせないからな………心配しているふりなんて相手にも失礼だろうし」

 

 他人の命なんてどうでも良いのだから、他人のために怒るのは筋違いというもの。それがエミヤなりの倫理観だ。だからこそ親の命より胸の大きさできれていたイッセーが自分の言葉を理解できないと言った顔をしているのが不思議で仕方ない。

 

「ま、良いや。いちいち気にしないのが俺の生き方だからな」

 

 と、それだけ言い残し去っていくエミヤ。『将』達はそれに続く。

 

「あ、そうだ。近々冥界に遊びに行くからホテルの予約お願いな。後、うまい飯や楽しい遊び場。アザゼルも、キチンと神器おくれよ」

「あ、ああ……」

「………おう」

 

 その協定は後の歴史に『駒王協定』と名付けられた。

 それは三大勢力が手を組んだ歴史の分岐点。これにより多くの神話もまた手を組み始める。

 当然それを快く思わない者達が暗躍を始める、別の形の戦争が始まるきっかけでもある。しかし、そこ本来の歴史において存在しない異物が混じる。その先の未来は、誰にも予測できない。




エミヤ・リリィ

原作のレオナルドに憑依するも原作を知らず見た目で適当に名前を付けた。
生前から人が死んだ時のインタビューなどで悲しくもない赤の他人が可哀想で、などと言うのに違和感を感じていて倫理観を消されると同時に他人に興味が失せた。
新しい両親がキチンと育てていたなら話は変わった可能性もある。
通常なら忌避すべき感情を持った命の創造は勿論魂を混ぜ合わせるなどの行為も出来てしまう。
自分は他人とは違うと自覚している。
悲しくもない他人のために涙を流したり同情するのは相手に失礼と言う考えを持ち肉体の付属品でしかない胸の方が大事なくせに命を云々いってくるイッセーを不思議な存在として興味を持っている。



感想ありがとうございます


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冥界へgo

しかし今更だけど、アニメみて思う。エミヤとエミヤの部下達ってオバロのナザリックみたいだよなぁ。
同じ世界に転移したら絶対部下同士が至高の存在はこっちだって喧嘩しそう。
ビーストマンがうっかりエミヤ達に喧嘩売ったら法国もニッコリ
ガジっちゃん一応信念を死んでも果たそうとしてるからもし気に入ったら世界はドンヨリ
竜王達はシュラハト達の餌かな?強さ的に喰う気も起きないだろうな。バーベキュー様の肉になるか


「やはり反感が多いな」

「解らなくもないけどね~」

「堕天使幹部を瞬殺したって実績あるのにね☆」

 

 サーゼクスが冥界の貴族達の反応を記した書類を見てため息を吐く。ファルビウムも眠そうに呆れセラフォルーもふざけた態度だが呆れている。

 

「ふむ……セラフォルー、サーゼクス。彼とは協力できないかな?」

「協力?」

「もうしてるじゃん☆」

「テロ対策として、ではないよ。例えば彼は、レーティングゲームに参加すると思うかい?」

 

 アジュカの言葉にセラフォルーはんー、と顎に手を当てる。

 

「多分参加すると思うよ♪あの子、子供だし。面白いことにはむしろ混ぜろって言ってくるかも☆」

「そうか。なら………頼みごとを聞いてくれるかな?」

「アジュカ、何をする気だ?」

「大王派を減らす。転生悪魔のためのレーティング・ゲームのルールと評価をこれ以上彼等の好きにさせたくないからね」

「殺すのか………」

「じゃーサーゼクスちゃんは、お菓子で悪魔が滅びても良いの?彼、お気に入りのお菓子屋が神器持ってたとかで悪魔に攫われたりはぐれ悪魔にされたりしたら絶対殺すよ☆」

「そんで文句を言ってくる貴族もね~。幸い大王派の殆どがゼクラムおじいちゃん同様悪魔以外を見下していて、ゼクラムおじいちゃんと違ってプライドだけの馬鹿だ」

「………利用しないてはない、か。セラフォルー、外交官として……協力の要請を頼む」

「任せて☆これは十分投資する価値あるしね」

「私としては二人が行うテレビ番組の投資は価値がないと思うんだけどね」

「ん~、でも民衆には人気だよ~?」

「む、民心か………彼、テレビにでると思うか?冥界の民の人気者になれば、彼を立てる声も多くなるだろう」

 

 

 

 

「冥界行きたい人手を挙げろ~!」

「はーい!」

「僕も行く!」

「私も興味ある!」

 

 エミヤの言葉に比較的幼い見た目をした『将』達が手を挙げる。が、殆どの者が興味なさそうだ。

 

「神よ、冥界の様子など何時でも見れるではないですか」

「ん?いや、直接行くから」

「「「──────!!」」」

 

 バババ!と沢山の手が挙がる。元々興味なかったが、神とともに行動できるなら話は別だ。例え蛆のわいた肥溜めだろうと付いていく。

 

「じゃ、くじで決めるか」

 

 

 

 

「ハーイエミヤちゃーん。お菓子食べる~?」

「食べる~」

 

 冥界の指定された場所に転移するとセラフォルーが大量のお菓子を持って出迎えた。

 

「ええっと、そっちが今回の『将』さん達?始めましては、セラフォルー・レヴィアタンです☆レヴィアたんって呼んでね♪」

「レヴィアたん」

「ありがとうエミヤちゃん!そう呼んでくれる人全然いなくて……もう、大好き!」

「俺も好きだよ。俺のことが」

 

 ガサガサとダンボールをあけ中のお菓子をとる。幾つかを幼い子供の姿をした『将』に渡す。

 

「では、我々も自己紹介を………と言っても、私は既にあっていますね。改めまして『信仰の将』ヴェーラです」

「『童心の将』アルトンだよ。よろしく!」

 

 ヴェーラに続き黒髪黒目の活発そうな少年が手を挙げ答える。

 

「『好奇の将』テリエルギア。ねーねー何で魔法少女の格好してるの?それだと魔力あがるの?」

 

 白衣を着た眼鏡の少女がツインテールを揺らしながら迫る。流石のセラフォルーも動揺し、テリエルギアの首根っこを誰かがつかみ引き寄せる。

 

「困らせてはいけません。申し遅れました、私は『慈愛の将』エレオスと申します」

 

 と、黒衣に身を包んだ優しげな女性。同性のセラフォルーすら思わずドキリとした。

 

「『母性の将』ミテラです。まあ私は正確には『将』ではないんだけど、心配性のエミヤが『将』達と同じ力をくれたのよ。ふふ、この子ったらお母さん思いなのよね」

 

 最後に美しい女性がエミヤを後ろから抱きしめよしよしと頭を撫でる。

 母親?にしては若い気がするし、ていうかこの気配吸血鬼に似ている気がする。

 

「昔も私が周りの『皆』と話すもんだから嫉妬して自分も『皆』に干渉できるようにして、って言われて………あれ、そういえばここ数年『皆』何処行ったのかしら?」

「……………………」

 

 ミテラの言葉にエミヤはつい、と目を逸らした。何か知ってるようだ。

 

「ええっと、取り敢えず移動しながら話そっか☆」

 

 

 

 

 

「良いよ」

「軽!?」

 

 車の中、セラフォルーが大王派の暗殺を頼むという結構重要な依頼をあっさり了承するエミヤ。流石のセラフォルーも素が出た。

 

「だって其奴等いると俺冥界を自由に観光できないんだろ?なら殺すよ」

「……………」

「お前等もそれで良いか?」

「神命、受託いたしました」

「えー、神様俺面倒くさい」

「解剖して良いんですかね?駄目ならやりませーん」

「流石に可哀想です」

「やれ」

「「「はい」」」

 

 その言葉に一矢乱れず了承した。羨ましい、悪魔達もこんなに従順なら良いのだが。

 

「でも良いの?その、恨みとか買いそうだけど」

「それ込みで頼んで何を今更。別に、皆殺しにしても構わんのだろう?」

「うん。でもできれば私達の派閥に権力与える用意できたらお願いね☆」

「注文が多いな。ゼクラムとかいう奴ぶち殺せばいいのに」

()()がやると面等だからね~」




『童心の将』アルトン
名前通り基本的には子供。能力はかなりチートで『将』の中でも上位の実力者

『好奇の将』テリエルギア
好奇心旺盛な女の子。改造、改良、模倣はお手の物だが新たな発明は苦手な部類。戦闘能力は中の上 

『慈愛の将』エレオス
『将』の中で最も慈悲深い存在。戦闘能力はこの中では最弱が皆殺し目的ならばこの中で最高


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若手悪魔

「んー、ミノタウロスうめー……本場ギリシャのだとどんくらいうまいんだ?」

「ギリシャのミノタウロスは名の元になっただけで、本場というわけじゃないよ☆」

 

 セラフォルーの言葉に何だ、とつまらなそうにステーキにかぶりつく。

 

「ねえねえエミヤちゃん。エミヤちゃんの事おじいちゃん達に紹介したいからさ、若手悪魔達の集まりに来てくれない?あ、席は私の隣でいーい?」

「そうやって俺が魔王と同格であると伝えるのか」

「そーだよ☆そしてエミヤちゃんがちょーっとからかったら私達のエミヤちゃんに逆らっちゃ駄目だよーっていう命令聞かない悪いおじいちゃん達が調子に乗るな人間めーってなって………」

「俺がなら実力を見せてやるって言えば──」

「単純なおじいちゃん達は良かろう、ならばレーティングゲームだって、なるだろうねー」

 

 そんなにうまく行くのか?と尋ねるといくいく、だっておじいちゃん達プライドの塊だもーん、と応えるセラフォルー。

 

「お前等そんな奴らに手こずってたの?」

「耳が痛いけど、反乱を起こされるとまた多くの民が死ぬからね☆でもでも、エミヤちゃんがぶち殺してくれれば転生悪魔達にも地位を上げられて、転生する際に魔王の許可が居るって法律作れるはず!」

 

 そうすれば好き勝手転生出来なくなる。と。

 

「くふふ。今に見てろよ爺どもめ!」

「─……ストレス溜まってんだな」

「そりゃ溜まるよ。うちの老人はエミヤちゃん達のところみたいに、良い子少ないしね☆」

 

 

 

 

「おお、こりゃ良い」

「良いの?」

「うん。プライドの高そうな奴見下ろすのって最高☆」

「こらこら、思っても口に出しちゃ駄・目・だ・ゾ☆」

 

 もー、ツンツンとエミヤの額をつつくセラフォルー。どうもおちゃらけた雰囲気のセラフォルーとその時の気分で動くエミヤは気があったらしい。早速仲良くなっている。

 

「うん。いや、まあ………良いことなんだけどね。ああ、今日はエミヤ殿。私はアジュカ・ベルゼブブ。現ベルゼブブだ」

「ファルビウム・アスモデウスだよ~。会議の時報告にあった子、アケディアちゃんだっけ?その子とは仲良くなれそう~」

「よろしくお二方。ファルビウムは俺とも仲良くできそうだな。俺も仕事したくないもん。こうして、組織として関わる以上どうしても仕事できたけど全部それ専用の魔獣創って任せた」

「良いな~、忠実かつ有能な人材捜すの苦労したんだよね~」

 

 と、魔王と軽口をたたき合うエミヤ。嫌悪の視線が飛ぶ。

 それは魔王になれなれしい態度をとるエミヤはもちろん、エミヤを対等と扱う四大魔王達にも向けられていた。

 

 

 

「あれが若手悪魔ね~。良さそうなのは一人か……」

「一人?ソーナちゃんは入ってないの?」

「その一人が解ってる時点で俺を責める権利なんてないだろ?お、各々の目標ね」

 

 エミヤが目につけたのは一人。視線を追うまでもなく、その一人が解るセラフォルーはムッとしたがエミヤの言葉に確かに、と目を逸らした。ちょうど、そのセラフォルーの妹ソーナの番が来た。

 

「冥界にレーティングゲームの学校を建てることです」

「レーティングゲームを学ぶところならば、すでにあるはずだが?」

「それは上級悪魔と一部の特権階級の悪魔のみしか行くことが許されない学校のことです。私が建てたいのは下級悪魔、転生悪魔も通える分け隔てのない学舎です」

 

 その言葉にエミヤの隣のセラフォルーとソーナの眷属達が誇らしげな顔をする。だが、それを笑う者がいた

 

「うひゃひゃひゃひゃひゃ!いひひひ、あははははは!」

「え、ちょ……エミヤちゃん?」

「大口を開けて、はしたない」

「これだから下等な人間は」

「あの成り上がり達も何故隣に座らせているのか……」

 

 セラフォルーが困惑し上級悪魔達が非難の視線を向ける。エミヤが笑わなかったら自分達が笑ったくせに。

 

「私は本気です」

「ぐほ!?『わ……私は本気です』って、お前!これ以上笑わせるな腹がよじれる!いひひひ!」

「てめぇ!さっきからなんで会長の夢を笑うんだよ!」

 

 と、ソーナの眷属の男子が叫ぶ。が、エミヤは呼吸を整えるためにヒーヒーしており応えない。子供の、それも悪魔になり強くなった自分と違い人間の子供がそんな態度をとることにムッとなる男子。力を持つと良うことは、本人が無自覚でも傲慢になると言うこと。元一般人でいまだ世間を知らない彼はその例に漏れず神器まで呼び出す始末。次の瞬間───

 

「────止まりなさい」

「────!?」

 

 突如現れたヴェーラ達『将』が男子の周りに現れる。

 アルトンは日朝ヒーローが持ってそうな剣を、ヴェーラは悪魔の弱点である光の槍を、テリエルギアが手刀を、エレオスが爪を首や目の寸前で止めていた。

 

「………俺、待ってろと言った気がするんだけど?」

「「「────!」」」

「申し訳ありません、我が神よ。出来過ぎた真似を致しました……」

 

 『将』達がエミヤの不機嫌そうな声に身を震わせる中、ヴェーラが跪く。

 

「まあ、良いけどね。気をつけろよ」

「申し訳ありません……」

「まあ良いや。じゃ、そこの壁でおとなしくしてな」

 

 エミヤが言うと全員壁際にたった。

 

「さて、何で笑うんだよ、だっけ?簡単簡単、夢はすばらしいと思うけどこんな場で言うなよ。ここにゃ旧体制にしがみついて自分たちは偉いんだぞ~、転生悪魔や下級悪魔に強くなられたら立場を失うからやめるんだぞ~、とか思ってる奴らに邪魔されるのは見えてるじゃん。馬鹿なの?」

「ええ、でしょうね。誤魔化すことは出来ましたですが……」

「ん?」

「ここで誤魔化してしまえば、きっと私はこの先も誤魔化し続ける。そして、何時かこの夢を嘘にしてしまうかもしれない。この覚悟を失うかもしれない……だから、誤魔化しません」

「…………へぇ、良いねお前。うん、笑って悪かったな。お前ならここの偉いんだぞうおじいちゃん達に邪魔されても何時か夢を叶えられる!」

 

 ぐっ!と指を立てるエミヤ。隣のセラフォルーもうんうんと頷く。そして

 

「さっきから黙って聞いておれば、なんなんだその態度は!」

「ん?どうした偉いんだぞうおじいちゃん」

「人間風情がその口の利き方は何だ!だいたい、誰の許可を得て魔王の隣に座っている!」

「魔王」

「ぬぐ……」

 

 その言葉に今度は魔王達を睨みつける悪魔達。

 

「まーしかたねーよ。俺等超強いからねー。魔王もさ、力で選ばれただけあり強いけど他のお偉いさんが雑魚だと苦労するじゃん?いざという時俺達の力を借りれるように関係は対等なのよね」

「ふざけるな貴様!たかだか人間と、その人形如きが我等より強いだと!?寝言は寝ていえ!」

「そうだ、魔王様方もそんな条件を飲むなど、悪魔という種族をなんだと思っているのですか!?」

「……彼等は堕天使幹部を瞬殺し、エミヤ君本人も上級悪魔カテレア・レヴィアタンを圧倒する力の持ち主だと伝えたはずだが?」

 

 その言葉でも、いっこうに怒りが収まる気配がない。信じていないのだろう。 

 

「なら、彼と戦ってみるかい?」

「お、良いね。ただし一々蟻潰すのも面倒だから纏めて。後死なない程度に踏むの大変だから殺しありにしてくれよ」

 

 と、エミヤが言うと殺気が強まる。が、エミヤは気にしない。

 

「さて、空気を悪くしちまったな。俺は帰るぜ、あばよ。ほら、お前等もついてこい」

「はい」

 

 と、真っ先にヴェーラが歩き出す。その背中を、舐め回すように見つめる若手悪魔が一人いた。




最後のはいったい何ドラなんだ……


感想まってます


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パーティー

「さーて、レーティングゲームには時間があるし………冥界の観光でもしようぜ」

「はい。あの、所でパーティーのお誘いが」

「パーティー!?行く行く!」

 

 会場から出て行く際、魔王派の者からこっそり渡された招待状を見せるとやはり反応するエミヤ。

 

「まあどの道時間あるし、観光が先だな!」

「おー!」

 

 

 

 

 そして遊園地やスポーツ事務、絶景スポットを回っている内にあっさりパーティー当日。時刻は開始一時間前。

 

「堅苦しい」

「似合ってるよ☆」

「うーん、でもどうせならドレスも……」

「……似合いそうだね☆」

 

 正装に着替えたエミヤは襟を弄り不機嫌そうな顔をする。元々顔立ちは整っているほうだ、幼いとは言え確かに似合っている。年下好きのお姉様方が放っておかないだろう。

 ミテラは深紅のドレスを着て、不機嫌そうだった。その手には同じ意匠のサイズの異なるドレスが……ペアルックにでもする気だったのだろう。

 

「ふふ。じゃあ行こっか」

 

 

 

 

 会場に入るなり侮蔑の視線が飛んできた。エミヤが重鎮悪魔達を見下していたのが知れ渡っているのだろう。

 血筋を重んじる悪魔からすればそれは許されない行為のようだ。

 

「殺しますか?」

「別に良いって………あ、猫だ!捕まえて三味線にしようぜ!」

「ぎにゃー!?」

 

 ヴェーラが不快そうに周囲を睨むがエミヤは気にせず何処からか迷い込んだ黒猫を追いかける。アルトンもそれに続いた。

 

「もう、子供なんだから……」

「え、その反応でいいの?猫殺すとか言ってるようなもんだよ?」

 

 三味線は猫の革で造られる。なお、材料にするのに最も適しているのは未通の雌猫だとか。

 

「え?だってその猫、私には何の関係もありませんし……」

 

 幼い頃の、まだ未熟すぎるエミヤと共にいたミテラは周りの命にまで気が回るはず無かった。当初こそ巻き込んだことに罪悪感を感じこそすれ、それが続けば倫理観の完成する前の少女からそんなものはあっさり消える。ましてやその頃は精神が汚染されかけ、そしてミテラもまた命の価値に緩くなる能力、『蘇生』を持っていた。

 

「………………」

 

 つまりこの女性にも殺すのは可哀想、などという感情は一切無い。口には出すかもしれないが、心の底ではどうとも思っていないことだろう。

 

「本当にやになるねー☆生まれた時から?なら、心が完成するまでせめて覚醒するなよ。そんなんだから、天界に恨みを持つ奴が減らないんだし…………聖書の神は何を思って神器なんか残したのかな?」

「それはもちろん、敵に備えて………って、エミヤが言ってました」

「敵?敵って…………」

「────ヴァレリー?」

 

 と、その時声がかかる。

 ミテラが振り返るとそこにはハーフ吸血鬼の転生悪魔の少女、いな、女装少年が呆然とたっていた。

 

「………ギャスパー?」

「!ヴァレリー、やっぱりヴァレリーなんだね!」

「ぬぉい!?下級悪魔が国賓に何て事を!?」

 

 その奇行に慌てるセラフォルーだったがミテラが片手で制する。

 

「久し振りギャスパー。大きくなったね?」

「うん……うん!でも、何でヴァレリーがここに?ヴァレリーも誰かの眷属に?」

「ううん。私はお母さんになったの………あ、今は名前も変えてるのよ。ミテラ、そう呼んで」

「お、お母さん………?え、結婚したの?」

「してないわ。養子、みたいな……?うん、今は血の繋がりもあるけど……」

 

 うーんと唸るミテラ。養子なのに血の繋がり?どういうことだろうか?

 

「まあ私は今魔獣派閥だけど、悪魔とは同盟組んでるしこれからも仲良くしましょうね」

「う、うん……え、魔獣派閥?それって、イッセー先輩が言ってた………」

 

 と、不安そうな顔をするギャスパー。なんと聞かされだろうか?

 

「大丈夫よ。エミヤは良い子だもん。敵対しなければ殺しはしないわ。得が無ければ助けもしないけど」

 

 

 

 

 その頃件のエミヤと言えば。

 

「おいアルトン、居たか?」

「見失った。ごめん神様………」

 

 会場近くの森にいた。

 黒猫を追いかけて迷ったのだ。

 

「んで、誰だお前」

「あら気づいてたの?こんにちはボウヤ達、貴方達のせいで計画が狂っちゃったにゃん」

 

 エミヤが虚空を見つめると景色から滲み出るように黒い着物を纏った猫耳の女性が現れる。

 

「かわいいボウヤ達。でも、子供って残酷にゃん。生きてる猫を三味線にしようだなんて」

「うわぁ、にゃんとか………あざと」

「………………」

 

 エミヤの視線にコホン、と咳を一つする女性。

 

「はじめまして、お姉さんは黒歌。知ってるかしら?」

「あー、賞金出てる悪魔に関しちゃ知ってるよ。確か上級悪魔クラスの……」

「そうよ。だから、ね……すこーし大人しくしててくれないかしら?」

「…………にゃは良いのか?」

「……………」

 

 ヒクヒクと眉をふるわせる黒歌。と、その黒歌とエミヤ達の間に空から何かが降ってきた。

 

「美猴?ちょっとどうしたのよ、この子達まだ子供よ?あんまり手荒なことは……」

 

 やってきたのは古代中国風の鎧を纏った男。

 

「さがるんだぜい黒歌、コイツは報告にあったエミヤだ」

「え、この子が!?嘘、本当にこんな幼い子がヴァーリを殺せるレベルの魔獣を生んだの?」

「ヴァーリ?誰だそれ、アルトン知ってるか?」

「さあ?」

「お前の部下がぶち殺した白龍皇だよ……覚えてねぇのかい?」

「…………ああ、で?仇討ちでもするか?」 

「ああ、まあ……まだ出会ったばかりだったけど話の合う奴だったぜぃ」

 

 すぅ、とエミヤが目を細める。ゾワリと悍ましい魔力が周囲に立ちこめる。

 

「とんでもねぇな……人間としての魔法力に加えて、こいつは悪魔か?それに、よく解らねーのも……」

「混濁してるように見えて、殆ど合わさってる……いったい何時から取り込んでるのよ」

 

 その気配に美猴と黒歌は冷や汗をかく。彼等は仙術という術を使う。故にエミヤの力の底が知れないことを知ることができた。

 

「へぇ、仙術使えるのか。家でもリンインとかシェンリーとかが使えたな。どっちも()()()だけど……」

「……………」

 

 警戒心なんて一切見せないエミヤ。しかし黒歌達は警戒心を解かない。

 

「お前等テロリストだし、持って帰っても誰も文句言わないよな?」

「「─────!?」」

 

 エミヤが一歩踏み出す。その瞬間───

 

「姉、さま………?」

「ん?」

 

 黒猫を追うエミヤ達を追ってきたであろう塔城小猫が現れエミヤの注意がそちらに向く。

 

「────!」

 

 その瞬間、まずは美猴が飛び出す。驚愕する小猫、そして──

 

「ドラゴン波ぁ!」

 

 アルトンが両手を付きだし放った一撃がその上半身を消し飛ばす。

 

「続いて、お面ライダーキーック!」

「にゃ!?」

 

 アルトンが上に飛べば不可思議な光をまとい物理法則無視した角度で迫ってくる。とっさに周囲の木を操り防御するも勢いが一度は落ちてしかしすぐに増していくという慣性の法則を無視した蹴りで防壁を貫く。

 

「っぅ!?」

「おいアルトン、森が消し飛んでんぞ……」

「あ、やべ……」

 

 黒歌はとっさに上に跳んで避けたが、その後方にあった森の一部がごっそり抉られていた。

 コイツ、ヤバい。主もそうだが創られた魔獣もやばい。ここは逃げなくては───

 

「ほう、はぐれ悪魔黒歌か………」

「───え」

 

 そして目の前に迫る己を捕らえようする龍の手に気が付き、意識を失った。




ヴァーリ・チーム、残りはアーサー……あ、でもこいつ元英雄派だ


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レーティングゲーム開始

「うはは。大失態だな悪魔………ま、俺はそれに関しちゃ責任を求めたりはしねーよ。俺の部下が傷ついた訳じゃねーし仮に暴れられても死ぬのも怪我するもの俺には関係ない奴らだけだし」

 

 仮に黒歌と美猴が暴れていても自分達『魔獣派閥』は誰一人傷つかなかったと言い切るエミヤ達に貴族悪魔達から傲慢な、と言う呟きが聞こえてきた。

 

「んで、あの猫どうすんだ?妹に全く信用されない可哀想なお姉ちゃんをよ……いらないなら俺にちょーだい」

「……どうする気だい?」

「仙術覚える。いやー、家にいる仙術使いって他とは少し違ってね。でもあれなら教えることできるだろ?ほら、俺達は戦力が強化されてお前等は安心。まさにウィンウィン」

 

 と、その言葉に一人の悪魔が叫ぶ。

 

「貴様!全く反省せずなんだその態度は!」

「反省?まだ実力差も解らせてないのに?」

「試すまでのないことだろう!」

「うひゃひゃひゃ。舐められてるね俺等。ま、お互い様か」

 

 ケラケラと笑うエミヤに殺気が飛ぶがエミヤは気にも止めない。

 

「そうそう流石に数が多いから助っ人一人呼んで良い?新入りでな、性能も見ときたいし」

 

 その対応に悪魔が顔を赤くして叫ぼうとした瞬間………

 

「ふん。若造どもが老体の出迎えもせず何をしているかと思えば喧嘩か?」

「ん?誰、おじいちゃん……」

 

 と、そこへ古ぼけた帽子をかぶった隻眼の老人が現れた。

 

「───オーディン………久し振りじゃねーか。北の田舎のクソジジイ」

「久しいの悪ガキ堕天使。長年敵対していた者と仲睦まじいようじゃが……また小賢しいことでも考えているのかの?」

 

 軽口をたたき合う二人を見てエミヤは首を傾げる。

 

「………オーディンって北欧の主神だよな?アザゼルって北欧の主神と軽口叩けるのか」

「まあ古い付き合いじゃからのう」

「そーなのか」

「ふむ……お主が今代の魔獣産みか……聞けば堕天使幹部を瞬殺したとか天龍クラスの邪龍達の魂を寄せ集めて新たなドラゴンを創ったとか……興味深いのお。北欧(うち)にこんか?」

「どっかに縛られる気はありませんので」

 

 と、断る。何処かの勢力に縛られれば世界を自由に見て回るといエミヤの夢も叶わなくなる。

 

「敬語はよい。しかしそうか、残念じゃ……じゃあまだ若いが嫁を取る気はないかの?ほれ、このヴァルキリーなどどうじゃ?」

 

 そういって隣にたつ銀髪の女性を顎でさすオーディン。女性はへ!? と目を見開き叫ぶ。

 

「オーディン様!? 相手はまだ子供ですよ!?」

「しかしありゃ将来が期待できるぞ? 顔はもちろん、一組織の長じゃから収入にもの」

「顔……収入………いやいやいや! 駄目ですよ!」

「何故じゃ? 別にあの程度の年齢差など探せばいくらでもおる。で、どうじゃエミヤとやら」

「んー………チェンジで」

「告白してもないのにフられたぁ!? うわああああああああん! オーディン様のせいですからねぇ!」」

 

 と、大泣きしだしたヴァルキリー。オーディンも狼狽えていた。

 

「あ、少し欲しくなったかも」

「少し、か……なら儂の娘のブリュンヒルデはどうじゃ? 少し病んどるが器量の良い娘じゃぞ」

「病んでるのかぁ………」

「え゙、本気ですかオーディン様……あの方を? 厄介払いしたいだけなんじゃ……シグルド様の件で嫌われてると聞きますし………」

 

 どうやら相当やばい相手らしい。いや、だからこそエミヤは興味を持つのだが。

 

「ふぅん……興味出てきた。会ってみるか」

「おうおうそうこなくてはな。時にエミヤよ、かわいい女の魔獣はおらんのか?」

「…………ラストなら最後までやってくるぞ? 『性欲の将』だからな。ちなみに能力はまぐわった相手の劣化能力を使うことと、それを『劣兵』に付与すること。彼奴は女もいけるし、あんたもどうだ?」

「私にそんな趣味はありません!」

 

 顔を真っ赤にして叫ぶヴァルキリー。北欧の主神の護衛なのだから実力者なのだろうが、残念だ。

 

 

 

 

 

 

「………始まりますわね」

「余興、らしいけど………」

 

 リアス達が見るのは、今まさに始まろうとしてるレーティングゲーム。といっても、相手は一人の人間に複数の部下、それに対して悪魔側は数人の王に全ての眷属。数に差がありすぎる。

 

「お前等、よく見ておけよ………彼奴等の実力を知る良い機会だ。特にイッセー、お前は同じ神滅具持ち同士嫌でも比べられる」

「……………」

 

 選手達が入場していく。悪魔達はすでに勝ち誇った笑みで悠々と陣地に現れ、対するエミヤは退屈そうに欠伸をしていた。

 

「ん、彼奴は………は!?」

 

 と、その中に混じった一人の人物を見てイッセーが目を見開く。イッセーだけではない、ギャスパー以外の全てのグレモリー眷属が驚いていた。

 

「…………彼奴は、フリード?」

 

 

 

 

 

「うひひひひ! 今頃アザゼル達の驚くか目に浮かぶざんす」

 

 ケラケラヘラヘラ笑う神父姿の白髪の少年。名をフリード・セルゼン。

 アーシアを一度殺したレイナーレの元部下にして、駒王町で聖剣を復活させ町を破壊しようとしていたコカビエルの元部下。

 

「神さんには感謝してますぜ~。グリゴリ脱退させられた俺を拾ってくれたからな~」

「使えそうだったからな。『兵』として役立てよ?」

「ういうい~。まかせんしゃい!」

 

 フリードがケラケラ笑い、放送がなる。

 

『それでは、ゲームを開始してください』

 

 

 

 

「今回の戦いは簡単だ。己の実力も弁えない下等生物のガキとそれの創った人形だからな」

「さよう。それに、殺しても構わんと来た。蟻を潰さぬように踏むのは骨がおれるが、潰して良いなら話は楽だ」

「だが女型の人形は見た目は良い。生かしたまま捕らえようではないか」

 

 ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべる『王』達。

 

「では、行け………」

「「「はっ」」」

 

 と、眷属達が敵地に向かおうとした瞬間、何かが駆け抜ける。

 

「おっと、行き過ぎた……」

 

 その声に振り返り、眷属の何名かの首がそのまま落ちた。

 

「やっほー。元気?歯をキチンと磨いてるかーい?」

 

 現れたのはヘラヘラと軽薄な笑みを浮かべた白髪の神父。その手には光の剣が握られている。

 

「な!?き、貴様!」

「うひひ!おはようこんにちはこんばんは!そしてサイナラ!」

 

 と、剣を振るう。戦車達が盾になると光の剣は砕け散った。

 

「………ありゃ」

「ふ、ふん。驚かさおって……しかも人間如きが貴族の眷属を殺すなど、その罪命を持ってあらがえ」

「やーだよ」

 

 ズルリとフリードの背から白い翼が生えてくる。羽毛の一つ一つが硬質で剣のように鋭く、強い光の力を宿していた。

 

「んじゃ、改めて自己紹介といこーじゃねーか。俺はフリード・セルゼン。『信仰の将』ヴェーラ様のお力で人間やめた『信仰の兵』ですよん♪」




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魔獣の兵

 フリード・セルゼン。

 元教会の悪魔祓いにして、仲間を殺し神を裏切ったはぐれ悪魔祓い。グリゴリに所属した後も己の享楽のために悪魔と契約した一般人を殺し、コカビエルが戦争を起こそうとした際にも当たり前のように彼の下につき派遣された悪魔祓いを殺した、教会からすれば忌まわしい人物。

 それが純白の翼をはやして飛び回るのだから笑えない。

 

「ちょろちょろ逃げやがってうざってぇネズミ共! 針鼠にしてやんよぉ!」

 

 一枚一枚が破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)が可愛らしく思える威力の破壊力と光力をばらまく。

 戦車達が盾になろうとするも一瞬で消し飛ぶ。

 

「おのれ! 私は騎士だ、いざ尋常に勝負しろ!」

「お前馬鹿だろ? 何でわざわざ有利な制空権手放すんだよおお!」

 

 純白の翼が聖火、雷光、聖水、光を纏い悪魔達に殺到する。中には体を貫かれた瞬間聖木が生え焼かれながら体中の水分を吸い取られるものもいる。

 

「オレの~、翼は千変万化~♪」

 

 と、イラつく歌を歌うフリード。無数の魔力が殺到するが板のように平たなった羽毛が周囲を飛び回り攻撃を無効化する。

 

「のんのん。そんなんじゃぁ俺には勝てないZE☆」

 

 キラッと歯を光らせるフリード。悪魔達は思う、こいつうぜぇ。

 

「くっ! こうなれば奴らの王を狙うぞ! 配下が多少強力でもそれを作り出した小僧は人間だ! 別れて探せ!」

「多少? 一方的にやられてんのに評価が多少とかこの俺も多少驚いたぜ、やるな悪魔」

 

 ふー、と何故か冷や汗を拭うような動作をするフリード。『王』達が何名かを引き連れ走っていく。残りの面々はここでフリードを足止めする気のようだ。

 

「うんうん別に構わねーよ。今回はスペシャルグレートフリード君の性能チェックだからね。生まれ変わった俺の力をとくとみよ!」

「生まれ変わった、か………貴様、本当に元人間か?」

「そだよん。『将』達の血肉はその一片でも無数の魔獣を生み出す事ができるのは知ってるよね? 知らない? なら知れたねおめでとさん! んで、その濃密な魔獣因子とも言える血液で作った剣を心臓にプスリ。するとあら不思議、血液は血管を通って全身へ巡り他生物を魔獣に変えるのデス!」

 

 それが『兵』。情動を、心を持つ故に強い力を得ることのできる『将』同様の存在。

 

「ちなみに神さんから与えられりゃ『将』になるらしいぜ。んで、その『将』の実力なんですが………ぶっちゃけ中の中からもう相手したくねー絶対強者なんすよね!」

 

 

 

「ふむふむ。今まで異形化した奴しか解剖してこなかったから解らなかったけど、悪魔の肉体と人間と変わらないんだー。つまんな」

「あ、が………ひゅー……」

「でもでも、貴族って家によって使う能力が違うよね? どこか違いがあるのかな? 脳とか?」

「あびば、あばばば!?」

 

 テリエルギアはグチャグチャと内臓を弄び、ポイと捨てると頭蓋を爪で切り裂き脳にさわる。

 

「く、この狂人め!」

 

 と、逃げられないように手足を切り裂かれた悪魔の一人が腕を再生させ炎を放つ。彼は代を辿ればフェニックスの血を引くのだ。本家ほどではなくとも、他の傷を放置すれば腕の一本は──

 

「邪魔だよ」

「ぶえ!?」

 

 その炎はしかしテリエルギアの前に現れた穴に吸い込まれ本人の真下から飛び出し悪魔を燃やす。

 

「ぐあああ!? こ、これは………アバドンの!?」

「ようするに空間干渉でしょ? 仕組みが解れば模倣も簡単! じゃ、次はおじいちゃんの番。不死身ってどんなのかな?」

「ま、待て……来るな────!」

 

 当然、止まるわけがない。『将』は神への忠誠の次に己の欲求を優先する。この世の全てを解き明かしたいと願う『好奇の将』は、悪魔達がどう言った存在なのか解明するまで止まらない。

 

 

 

 

 相手は子供。だというのに一方的にやられている。

 黒髪黒目の少年は笑いながら圧倒的な破壊力を持って敵を葬る。

 

「食らえ、スペリウム光線!」

 

 と、両手を交差させ放った一撃は食らうと何故か爆発する。

 子供の想像力は無限大。時には己がヒーローとなり、あるいは怪獣となり、時にはまだついていない職業も夢想する。

 『想像して創造する能力』。それが『童心の将』アルトンに与えられた権能。

 

 

 

「………ああ、暖かい……」

「心地良い……」

「幸せだ……」

 

 手足が吹き飛び内臓が焼かれ、しかし悪魔達が浮かべる表情は満ち足りていた。後方に控えていた『王』達も責めず自分もその場へと歩み出す。

 

「死は恐ろしい。痛みは苦しい……ですが安心してください。私はあなた方に幸福なる死を約束します。神が与えてくれた、この慈悲深き能力で」

 

 『慈愛の将』エレオス。与えられた能力は苦痛や恐怖といったあらゆるマイナス側面の感情を幸福感に変化するという者。故に苦しまない。むしろ残酷に殺されるほど幸せになれる。

 

「ああ、殺してくれ……この『女王』は私の恋人なんだ。どうか、彼女を殺してくれ。そして私も……私達に幸せをくれ」

「はい。お任せを……例え神の敵であろうと、幸福なる死を与えるのが私の役目です」

 

 

 

 次々聞こえてくる()()のアナウンス。冗談ではない、何故自分達側ばかりが死んでいる!?

 これは貴族の、悪魔の威光を示すゲームでもあった。なのに一方的に殺され続けている。もしこれが公式で、冥界の民にまで流されていたら例え生き残っても発言力を失うには違いない。

 

「おのれ! エミヤとやら、隠れてないで出てこい! 『王』同士正々堂々正面から雌雄を決める覚悟はないのか!?」

「そうだ! 出てこい!」

「配下に任せてないで己で戦え!」

 

 この場の『王』達が一斉に叫ぶ。その『眷属』達も口々に叫ぶ。

 

「呼んだ?」

「馬鹿め!」

 

 と、現れたエミヤに向かって無数の魔力によって練られた炎や雷、水に土などが飛んでくる。が………

 

「滅びろ……」

「………は?」

 

 どす黒いオーラに飲み込まれ消えた。

 

「今のは、バアルの……滅びの力? あ、ありえん! 何故人間如きがそんな力を!」

「バアルだけじゃないぜ、ほら……『無価値』」

「な!? 我らの力が、これは………ベリアルの!? 貴様いったい!」

「お前ら悪魔が持ってて俺が持ってない能力はねーよ。んじゃ、もう死ね」

 

 エミヤの背中から炎の翼が噴き出す。フェニックス家特有の翼。が、それは滅びの力をすい黒く染まる。そして、一瞬も耐えることなく残りの悪魔達は消滅した。




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原初の悪魔

「……………」

「うぷ………うぇぇぇ!」

 

 極一部の者にのみ観覧が許されたレーティングゲーム。その極一部に該当するグレモリー眷属のギャスパーが吐き出していた。アーシアは既に気絶している。

 『好奇の将』テリエルギア。『慈愛の将』エレオス。この二人の戦いが、蹂躙が余りに不快すぎた。

 命を何とも思わず解剖し観察するテリエルギアはもちろんだが、エレオスのがあまりにも……。

 

「何で、何であんな能力を持った魔獣を………創れるんですか……」

「まともな感性なんて持つ暇がなかったからだろ」

 

 ギャスパーの言葉にアザゼルが呟く。と、画面はエミヤ達と『王』達の戦いに切り替わる。

 一瞬だった。一瞬で『王』も眷属も消え去った。

 

「………滅びの力? え、あの子………ハーフ?」

 

 

 

 

 

 『初代』と呼ばれる世代。

 始まりの悪魔と呼ばれるその一柱、ゼクラム・バアルは目の前の少年を黙ってみる。

 バアルしか持つことを許されない『滅びの力』を持ち、だというのに人間の血を引いている証である神器を所有する少年。

 

「バアル家の血が混じっているのか?」

「逆だよ。俺の血が、お前等に混じってんだ」

 

 この場に同席するのはゼクラムと四大魔王。エミヤの部下はいない。だが、彼の余裕は崩れない。

 

「俺にはお前等の血筋の源流が流れている。お前なら知ってるだろ? 始まりの悪魔は俺等の『劣兵』同様、強大な個の肉片から創られた存在だって……」

「まさか貴様、リリス様を!?」

「ああ。縁あって見つけて、取り込んだ。俺の神滅具(ロンギヌス)とも相性が良かったしな。まあ、馴染むのに時間はかかったし最初は死にかけるし性別も代わりそうになるで大変だったが。さすがは原初の悪魔だよな」

 

 今の悪魔社会を作った『初代』達よりもなお古い悪魔リリス。いったい如何なる理由か、神の創造物でありながらその肉片と初代ルシファーが考案した術式で強力な悪魔を何体も産み落とした存在。

 

「ちなみに俺の下に来た頃には既に意識も死んだ肉塊だったぞ?ありゃ生きてるとは言えねーな」

「だからって、生きてる者を………ああ、君は他者の命に興味無いんだったね」

 

 サーゼクスはもうあきらめたと言わんばかりに首を振った。

 

「まあ他にも取り込んではいるが、それは良いだろ。最終目的はある獣を喰うこと。以上、他に質問は?」

「………冥界が欲しいか?」

「え、いらねーねけど何いきなり…………ああ、成る程。リリスを取り込んだ俺が生み出した魔獣達が新世代の悪魔と言われるのを恐れてんだ?そりゃそうだよな、お前等旧体制を貫く奴らが血筋こそ至高といっても『原初の悪魔』の力をまんま引き継ぐ俺の一言で冥界はあっさり覆る………良いよ、黙っててやる。代わりに五月蠅く騒ぐであろう貴族達黙らせろ。大王派は魔王派の言う事なんて聞かねーだろうしな。全く誰が作ったんだか……じゃ、頼むなゼクラム」

「…………はっ」

 

 もはや自分の立場など完全に借り物と化した。ゼクラムはそう理解した。

 魔王達を借り物の立場に居る者と判断していたからこそ、己の立位置を理解できてしまった。

 

 

 

「んじゃ、帰るぞ。てっしゅー」

 

 エミヤがパンパンと手を叩く。場所はホテル。

 手を出させるなとは命じたが、果たしてどれだけ従うか。ほとぼりが冷めるまで冥界から離れる。別にぶち殺すのは簡単だがそうなれば冥界で遊ぶことも出来なくなるかもしれない。なので離れる。

 

 

 

 

「そうか、上級悪魔達を、ね………うん。やはり良いな」

 

 部下の報告を聞いた男はそういって頷く。

 

「彼を仲間に引き入れよう。貴重な戦力だ」



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主神の護衛

 エミヤは都内に存在する有名な和菓子店に来ていた。因みに護衛はフィエルダー。

 

「暇だなー。異世界にでも行くか?」

「また征服でもするのですか?」

「おいおいありゃ観光をしようとしてただけなのにいきなり襲ってきたからボコっただけだ。俺は基本無害だぜ?」

「そうでしたね」

「しかしあれは楽しかったな。ほら、ミルたんと一緒に異世界救ったの」

 

 と、懐かしむ。彼等魔獣派閥はその昔、といってもそんなに昔ではないが筋骨隆々の魔法少女に憧れる漢とともに異世界を観測した。以来暇になると時折赴く。とはいえあくまで近辺世界のみだが。だって漫画とか最終回来てないし。

 モムモムと和菓子を口に放り込むエミヤは不意に目を細めた。

 

「誰だ?」

「ふぅん、気づいたんだ……」

 

 現れたのは白髪の優男。神父のような格好をした少年はどこかフリードに似ている。

 

「やあ、僕はジークフリート。英雄シグルドの末裔で、君を『禍の団』(カオス・ブリゲード)英雄派に勧誘しに来た」

「フィエルダー、やれ」

「はっ」

「おや戦うのかい?仕方ない」

 

 と、魔剣を取り出したジークフリート。一瞬で細切れにされ、肉片は魔法で転位させた。

 静かになったので再びお茶を飲むエミヤ。

 

「所でこの剣、どうします?」

「ん? ああ、異世界じゃ三百万で売ってるし捨ててもいいんじゃね?いや、どっか駆け出しの街系の場所で素人に渡して観察するのも面白そう。ま、それはこの世界の娯楽が終わってからで良いか」

 

 こうして伝説級の魔剣は魔獣派閥の倉庫で埃を被ることが決定した。と、思いきや……… 

 

「あの、その剣を見せてもらえませんか?」

 

 不意にそんな声が聞こえた。振り返るとそこには青みがかった白髪を持った美しい幸薄そうな女性が立っており、その視線は肉片が持っていた剣に向けられている。

 

「ああ、ああ……やはりその剣はシグルドの………」

「これか?欲しいの?」

「はい……所で、この剣は誰が?」

「シグルドの末裔とか名乗ってた奴」

「おおいブリュンヒルデ、儂をおいてどこに行く気じゃ……」

 

 と、そこへ追加で現れるオーディンと銀髪の女性に厳ついおっさん。それとリアス・グレモリーとその眷属達。

 

「おおエミヤ。菓子屋めぐりか?」

「オーディンか。俺は菓子が好きだからな。菓子のためなら世界だって守るぜ」

「そうか。では今度北欧の菓子を馳走してやろう………む、その剣は……」

 

 オーディンは不意にブリュンヒルデと呼んだ女性が頬摺りしている剣を見る。

 

「それはもしや、グラムか?昔何者かに盗まれたんじゃが……」

「ああ、神父の格好した自称シグルドの子供が持ってたよ」

 

 

 

「日本神話からの対談?あ、そういやあったなそんなのも………」

 

 オーディンが日本に来ていた理由を聞き思い出したように手をぽんと叩くエミヤ。

 一応一勢力として存在しているエミヤも会談の文は届いていた。が、日本神話は基本的にそこにあるだけ──故に悪魔達が好き勝手やっているわけだし──なので書類に署名さえしてくれれば人間なのだから好きに観光して良いとのこと。そもそも昔からそうしていたし。

 

「つーわけで俺は暇つぶしの護衛をやるよ。よろしくオーディン。護衛のリクエストはあるか?」

「ふむ。では前に言っていた『色欲の将』とやらを………後『性欲の将』も別でおったか?その二人を頼む」

 

 オーディンの言葉にエミヤが連絡すると直ぐ来た。神からの命令なのだから当然だ。

 軽薄そうなイケメンに、ライダースーツを着込んだ色っぽい女性。それとオマケに黒いゴシックロリーター衣装にボロボロに縫いぐるみを抱き抱えた少女。

 

「『色欲の将』ルクスリア。呼ばれて来た」

「『性欲の将』ラスト。御身の前に」

「『依存の将』ディペンデレ……」

「む?最後の者は?」

「ブリュンヒルデと気が合いそうだと思ってな」

 

 ああ、何となくわかると頷くオーディン。と、不意にラストがイッセーの下に歩み寄りジッと見つめる。

 

「こんにちはボク。女の子が大好きなんだって?お姉さんと良いことしない?」

 

 ムニュン、のその豊満な胸にイッセーの手が沈む。イッセーが目を見開き、赤い光を全身から放ち赤い鎧に包まれた。

 

「…………あら?」

「え、な……これは!?」

『………嘘だろ相棒。今ので至ったのか』

 

 困惑するイッセーの籠手からそんな声が聞こえエミヤは腹を抱えた笑い出した。

 

「あははは!か、覚醒条件が胸を揉むって!揉むってお前、流石家族の命より大切なだけはある!うははは!」

「おい、取り消せよ!」

「………ん?」

「俺は家族大事にしてるぞ!おっぱいも父さん達も、俺にとって大切な存在だ!」

「………同程度なのね」

 

 じゃあ切れんなよと言いたいがまあ言っても無駄なんだろうな。

 

「ははは。早速仲良くなって居るみたいで……。というわけで俺達も……おっぱいを揉ませてください」

「おい!部長に近づくんじゃねーよ変態野郎!」

「なにをぅ、?お前だって変態だろうが!」

「お前みたいに女を性欲発散の道具にする奴と一緒にすんな!」

「…………すごいブーメランを見た」

 

 と、エミヤが呟く。

 

「……ん?てか北欧の主神が来てるのに護衛が若手?」

「ええ。貴方のせいで人材が足りていないのと、実力が評価されての事よ……しばらくはレーティングゲームも行えないし、それならばとね……」

「……………評価、ね。まああれだ、えっと………」

「バラキエルだ」

「そうか。期待できるのはお前だけだ、期待してるぜ」

「うむ。任された」

「そんな男がなんの役に立つと言うのですか……」

「そりゃお前等弱っちぃ奴らと違って多少は腕に信頼が置けるからな」

 

 何せ堕天使幹部なのだ。コカビエルの一件を考えるにそこまで強くないのだろうが足手纏いを押さえるぐらいは出来るだろう。

 

「雑魚共が無理に出てこないよう、押さえ役頼むぜ」

「………待てよ」

「あん?」

 

 不意にイッセーがガシリと肩を掴む。

 

「俺たちは弱くない。取り消せ!俺達は、ずっと修行してたんだ!お前の最初っから強く創った魔獣になんか、負けるもんかよ!」

「…………気合いで勝てるほど弱く創ってないぞ?あんま俺の子供達馬鹿にするな」

 

 ガシリとイッセーの腕をフィエルダーが掴む。バキリと音が鳴った。

 

「が───!?」

「イッセー!よくも!」

「ははん、さては当たり屋だなおめー等」

 

 エミヤの言葉に『将』達が構える。が───

 

「あの、お父様の護衛同士で喧嘩はあまり………ほら、貴方もこれを食べて落ち着いてください」

「OK。抑えろお前等」

 

 ブリュンヒルデが差し出したアンマンにパクリと食らいつくエミヤ。ブリュンヒルデはそんなエミヤの頭を撫でた。



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護衛任務

「……………」

「くぁ……」

 

 警戒心むき出しのリアス・グレモリー他眷属達を前に欠伸をするエミヤ。お前等の事など眼中にもないと態度が言っている。

 

「んー、暇だ……」

 

 オーディンは現在キャバクラに入った。案内のアザゼル、護衛のためにバラキエルとラスト、絶対自分が楽しむためにルクスリアまで中に入った。

 残ったのはブリュンヒルデとロスヴァイセ、リアスとその眷属にエミヤとディペンデレ。

 

「俺その辺のゲーセン行ってくる。ディペンデレ、オーディンが出て来たら連絡よろしく」

「………はい」

「ちょっと!護衛の任はどうする気よ!」

 

 と、その場から離れようとしたエミヤにリアスが叫ぶ。他の眷属達も似たような心境らしく、睨んでくる。もちろん眼中にもないので気にしないが。

 

「俺はそもそも護衛は義務じゃねーしな。問題あるかブリュンヒルデ」

「いえ。お父様も『将』に会ってみたかっただけでしょうし問題ないかと」

「それにそこのディペンデレだけでお前等足手纏いのマイナス要素を補えるしな。つか、人手が足りないからって雑魚寄越す悪魔よりは個人的に護衛貸す俺の方が働いてね?せめて若手最強のほら、あれだ………サクラーグとかにしろよな次からは」

 

 実際コカビエルの相手にもならない目の前の連中が主神を狙う、つまり殺せるかもしれない準備をしてきた相手に時間稼ぎ出来るなど思えない。

 

「あ、そうだディペンデレ。お前ブリュンヒルデと話しては良いけど、他の奴とは話すなよ?お前等も、ディペンデレに話をするな。危ないから」

 

 それだけ言い残すとエミヤは去っていった。

 

 

 

「くそ!何だよ彼奴!」

 

 エミヤの姿が見えなくなるとイッセーは思い切り叫ぶ。自分だけなら我慢できる、それでも仲間まで雑魚と呼ばれるのは我慢できない。

 

「ギャスパーだって人見知りを克服して、木場だって聖魔剣創れるようになって……部長や朱乃さん、アーシアやゼノヴィア、小猫ちゃんだって………」

 

 みんな強くなっているはずだ。

 そう、それはまあ事実だ。だが己の血を受け入れない朱乃や小猫はもちろん使いこなせてなかった剣の力を取り敢えず引き出そうとする脳筋ゼノヴィア、テロリストがルールなど守るはずないのに何故か戦略の勉強をするリアスが強くなったというのは微妙なところだ。それにこれらの関門をクリアしたところでスタートラインに達せただけだろう。

 

「まあ、ではディペンデレさんも好きな人と一緒にいたいんですね」

「うん。でも……ボク達魔獣将と違って、ボクが好きになった人は、皆弱いから……」

「沢山恋をしたんですね」

「うん……」

「そうですか……」

 

 と、本当にブリュンヒルデとだけ会話を開始するする。エミヤの言いつけ通りイッセー達に話しかけないディペンデレ。

 その繋がりを絶つような身勝手な命令も、その命令に従うディペンデレにもムッとする。

 

「なあ、俺らも話そうぜ!」

「え……」

 

 イッセーが話しかけるとキョトンと目を見開くディペンデレ。

 

「あ、あの…神様が貴方達と話すなって………」

 

 と、困ったような表情を浮かべるディペンデレ。

 

「関係ねーって!俺はお前と話したいんだ…」

「で、でも神様が………」

「ちょっとぐらい大丈夫だって、な?」

「あ、う………はい」

 

 手を握られ頬を赤く染めるディペンデレ。イッセーの後ろでリアスと眷属仲間達が仕方ないと言いたげな顔をしていた。

 

 

 

「ふぅ、楽しかったのぉ」

「よおただいま」

「お、なんじゃどっか行っておったのか?」

 

 オーディンがが出てくると同時にエミヤが戻ってくる。

 

「まあただ待つのは暇だしな。とはいえ此方から言い出した護衛だ、直ぐに転移できる距離には居たし周辺も魔物に探らせていた」

「うぅむ。そもそもお主は一勢力の王なのだからそこまでしなくても良いのにな」

「あー、そうなの?いや、なんか悪魔の対応見るに一勢力の長もなめられるのかなって……中に入れてやらないアンタを睨んでる下級悪魔居るし……」

 

 と、イッセーを見るエミヤ。とはいえ、今日の観光はこれで終わり。

 

「俺らはいったん帰るな。ラストは貸そうか?」

「お、良いのか?」

「私でよければお相手いたします」

「うむそうかそうか……」

 

 と、鼻の下を伸ばしながら髭をさするオーディン。

 

「じゃあ行くぞルクスリア、ディペンデレ………ディペンデレ?」

 

 歩き出し付いて来るルクスリア。ディペンデレが立ち止まっていることに気づき振り返るエミヤ。ディペンデレはジッとイッセーを見ていた。

 

「………ばいばい」

「おう、またな!」

「…………友達にでもなったか?」

「は、はい……」

「………そうか」

 

 それだけいうと歩き出すエミヤ。

 

「忠告してやったのに………ルクスリアに喰われるまでは死なないように手を貸してやるか」

 

 少し後ろを歩くディペンデレを見ながらエミヤははぁ、とため息を吐きながら呟いた。




イッセー、原作でキャバクラおごってくらないから憎悪の念を抱いたって言ってたなぁ


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婚約交渉

「よーやく会談か……完全に日本神話について知る気皆無だったな。キャバクラとか寿司屋とかにしか行ってねーじゃん」

「ほっほ。ゲイシャガール、ヤマトナデシコ最高じゃわい」

 

 と、エミヤの呆れたような言葉にオーディンがからから笑う。

 

「だがラストもすごかったぞ?若返った気分じゃった……」

「ああ、ヤったのか……ん?」

 

 怒気を感じて見てみるとイッセーが憎悪の念が籠もった視線でオーディンを睨んでいた。キャバクラを奢って貰えず、しかも相手は楽しみまくって自分達はヘトヘトだから羨ましがっているのだろう。

 

「……まあ、良いか」

 

 ディペンデレと仲良くなった時点で哀れな存在なんだし、見逃してやろう。ディペンデレからは救ってやるが、どうせ死ぬ命なら利用する訳だし……。

 

「あ、あのねイッセー……この子、ボクが造ったんだ」

「へぇ、器用なんだな!」

「うん!」

「………神様、あの子自殺志願者ですか?それも飛びっきりの……」

 

 ディペンデレと話すイッセーを見てルクスリアが口を耳に寄せ話しかけてくる。知って者からすれば、イッセーの行動は死にたがっているようにしか見えない。

 

「知らないんだろ」

「教えてやらないんすか?」

「危ないからって忠告はしたぞ?能力に関しては、手の内さらす馬鹿が居る訳ないだろ」

 

 ディペンデレの危険性を教えると、能力について説明する必要が出てくる。同盟を結んでいるとはいえ警戒してくる相手に教えてやるほどエミヤは人道的ではない。そもそも忠告を無視した方が悪い。

 

「ところでオーディン、仮に襲撃者が現れた場合どうする?一応俺たちは敵ごと転移するつもりだが、護衛対象のお前は残る?」

「いや。『将』や赤龍帝の力がみたい。儂も転移させよ」

「OK。ラスト、傷一つ付けさせるなよ。リアス・グレモリー達は護衛役なんだし無視していい」

「まるで私たちが守られるだけみたいな言い方ね」

「…………確かに。こっちの実力はともかく相手の実力も解らない内に判断が早かったな」

 

 と、少なくとも自分達よりは格下であると言い切る。リアス達がムッとするが気にしない。

 

「私の眷属への侮辱は許さないわ」

「はいはい解った解った。強いねー、そこらの悪魔よりは」

「ほっほっほ。そりゃ、そこらの悪魔は神器などもっておらんからのぉ」

 

 エミヤが適当に返すとオーディンが笑う。

 

「時にエミヤよ、ブリュンヒルデはどうじゃ?」

「どう、ってのは?」

「嫁に、じゃ。器量は悪くないと思うんじゃが……美人じゃし胸だってなかなかでかいぞ?」

「お、お父様?」

「俺をそんなに縛りたいか」

「他人に興味ないお主でも身内には甘いらしいからのぉ、この際儂の息子にならんか?もちろん他の神話とも婚約して構わん。戦争になった時、最低限敵に付かない保証がほしいんじゃよ。ブリュンヒルデはどうじゃ?」

 

 現存戦力は不明だが報告では覇龍をモノにした歴代最強の白龍皇を一方的に殺すドラゴンでさえ、まだ最低でも4人上が居る模様。ドラゴンならばハーデスを動かせば()()で対応できるがそうでなければ………故に確かな繋がりが欲しいのだ。

 

「そんな、いきなり………困ります」

 

 と、ブリュンヒルデ。しかしそれほど嫌悪は見て取れない。

 

「エミヤは善人ではないが悪人でもない。他者の命に無頓着すぎるが無意味に殺すわけでなし、好きか嫌いかで言えば、好きな方じゃろ?」

「それは、ですが………エミヤ様も困るでしょう?こんなおばさん」

「ん?まあ、神話時代から生きてる時点で人間の俺にとっちゃ全員ジジババだし気にしないけど……」

「ほれ、エミヤもこう言っておる」

「ちょっと待てよ!自分の娘を、そんな道具みたいに!」

 

 不意にイッセーがオーディンに向かって叫ぶ。見れば眷属達も良い顔をしておらず、リアスに居たっては嫌悪の視線をオーディンに向けていた。結婚というなの家の繋がりの胴国でもされたのだろうか?

 

「おかしな事を言うの小僧。儂は別に道具のように扱っているわけではないぞ?」

「え、でも……」

「道具として扱っておる」

「な!?ブ、ブリュンヒルデさんはそれで良いのか!?」

「はい?え、ええ……まあ。お父様は北欧の主神ですし、身内といえど神話のために道具として扱うのは普通では?」

 

 イッセーが怒っていることを、リアス達が己の父に嫌悪を向けている理由をさっぱり理解できないと表情で物語るブリュンヒルデ。イッセーは目を見開き己の娘にそんな教育を施したオーディンを睨む。

 

「………………」

 

 銀髪のヴァルキリー、ロスヴァイセが目を細めブリュンヒルデも槍を握る手に力を込める。と……

 

「やめとけやめとけ。相手は北欧の主神にその娘の半神、オマケにお付きのヴァルキリーだ。負けるぞ、お前等」

「そんなことやってみなくちゃ!」

「やるまでもなく解るんだよ。つかオーディン、一勢力そのものの引き抜きとか目の前で堂々とやるなよ」

「ふむ?儂はただ身内になろうとしておるだけよ。婿にとるのではなく、嫁を与えるわけじゃからなぁ。不安ならお主もやればよいじゃろ?ほれ、確か幹部に………」

「ベネムネか……おいエミヤ、お前ギャップ萌は好きか?」

 

 と、アザゼルも真面目に思案し出す。

 

「先生!?」

「こいつの勢力はそんだけの価値があんだよ。ましてや俺らは大戦の影響で疲弊した種族。むしろ悪魔達が緩いんだよ婚約自由とか───」

 

 アザゼルがやれやれと肩をすくめた時、馬車が止まる。

 

「な、何事ですか!?まさか、テロ!」

「ロスヴァイセ、落ち着きなさい。冷静に」

「も、申し訳ありませんブリュンヒルデ様──」

「……………」

 

 よっこらせ、と窓から顔を出すと目つきの悪い男が居た。

 その背後には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「はっじめまして魔獣の創造主!これでも龍王の一角を創った神でね?私と貴殿、どちらが真に魔獣創造者に相応しいか決めようではないか!」

「………オーディン、あれ………()()()()()()?」



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襲撃

「………ん?俺に用事なのか?」

「いや。本来の目的は他神話と和議を結ぼうとする愚かな主神を止めに来たのだが、まさか君が居るとはね」

 

 エミヤの言葉にロキがハッハッハと朗らかに笑う。

 

「………なぁ、オーディン。上を失って、他に頼らなきゃ直ぐにでも絶滅する三大勢力が神の一柱を殺すのは世間体が悪いよな?」

「うむ。まあ、この場の者で殺せるとは思えんが……」

「俺なら構わないか?新勢力の王である俺なら問題ないか?」

「………ほう?まあ、構わん。お主の勢力には誰もが注目しておる、世に示せ」

 

 パチンとエミヤが指を鳴らすと周囲を包み込むように魔法陣が現れる。

 

「ほう、場所を変えるか……良い。いこうか」

 

 

 

 景色が代わる。

 辺りは岩場。空の色からして冥界。

 

「魔王から買い取った戦闘用の土地だ。あんまり体内で暴れると白鯨がキレるからな」

 

 と、己の拠点を兼ねる魔獣を思い出すエミヤ。中に世界が広がる彼も、世界を壊しかねないレベルの『将』達が暴れまくるのは好まない。それを魔王達に相談したら、大王派の一部の土地がその日の内に差し出された。

 

「ここなら存分に暴れられる。じゃあお前等、行け」

「「「はっ、我が神よ」」」

「ふはは!行け、まずはお手並み拝見だ!」

「「「オオオオオオオオッ!!」」」

 

 エミヤの言葉に『将』達が飛び出しロキの言葉に蛇型の龍、量産型ミドガルズオルムが飛び出す。

 

「あっは!」

「いけ!」

 

 ラストとルクスリアが己の腕を爪で引き裂く。血が溢れ、無数のドラゴンと女性型の魔獣、『劣兵』が現れる。

 一体一体の強さは三大勢力の中級クラス、向かれた皮膚から生まれた四匹は上級クラス。血から生まれた『劣兵』の数はそれこそ視界を覆い尽くすほど。それが量産型ミドガルズオルムに殺到する。

 

「らぁ!」

「はぁ!」

 

 そして動きが止まった量産型ミドガルズオルム達をルクスリアの爪や足が、ラストの放った光や魔力、果てには神力までもを放って蹂躙していく。

 

「皆、頑張れ……」

 

 と、ディペンデレも己の腕を取り出したナイフで切り裂く。溢れ出た血から生まれた『劣兵』は、他の『将』の『劣兵』とは異なる。

 堕天使、天使、人間、ドラゴンetc.……模した、ではなく()()()()の姿をした『劣兵』達は同様にそれそのものの気配を放つ。顔は、同じ者も複数いれば別の顔もいる。共通点と言えば目に光がないことか。

 

「うへぇ、相変わらずえげつねぇ……」

「まあ、神様が敵対者の心を完全に破壊するために生み出した子だし……」

「まあ『劣兵』つー枠組みの中じゃお前以上のチートだもんなぁ」

 

 その『劣兵』の強さは、上級の見た目をした者は上級並の強さを持っていた。

 そんな『劣兵』達を見てルクスリアとラストが顔をひきつらせていた。

 

「よお、こっちはこっちで遊ぼうぜ」

「ぬ!?」

 

 ドゴォ!とエミヤがロキを蹴り飛ばす。岩肌を削りながら吹き飛んだロキは土煙の中から飛び出すとエミヤの蹴りを咄嗟に防ぎ骨に罅が入った腕を見る。

 

「………人間とは思えぬ力だ。まあ良い、人間が神に届かぬと知れ!」

 

 と、ロキが神力を迸られる。

 

「悪神ロキ!これは一体どういうつもり!?」

「む?」

 

 臨戦態勢に入ったロキに向かって叫ぶ者が居た。リアスだ。ロキは不快気に顔を歪める。

 

「ゴミだからと舞う許可を誰が出した?目障りだ、食えフェンリル、スコル、ハティ」

「グオウ!」

「バァウ!」

「ガルァ!」

 

 と、ロキの命令に三匹の狼がリアス達に向かう。

 

「さて、待たせたね……しかし、止めないのかい?」

「何で?彼奴等が死ぬと俺に何か不都合が?ましてや、断ることも出来たろうに主神の護衛の任を引き受けたんだ。死ぬ覚悟ぐらいあるだろうしなくても俺には関係ない。悪いのは魔王だ」

「ふははは!違いない!」

 

 

 

 

「グオオオ!」

「ちぃ、フェンリルか!お前等は下がってろ!」

「朱乃、危険だ!」

「ッ!あなた方の助けなど無くても!」

 

 母を見殺しにした父、そしてその父と同じである穢らわしい堕天使その総督の言葉に、父の姿を見て反抗心が再び表に出てきた朱乃は反発し、彼らの言葉を無視して小型のフェンリルに向かって雷を放つ。当然のように効きはしないが、不快に思い睨み付けるフェンリルの子、ハティ。

 

「ぐおう!」

「朱乃さん!」

「朱乃!」

「ぐおお!」

「イッセー君!?」

 

 イッセーとバラキエルが庇おうとするが邪魔だと爪で弾く。イッセーが纏っていた赤い鎧が一瞬で貫かれバラキエルの内臓が穿たれる。そのまま吹き飛んでいく二人。アザゼルは慌ててバラキエルを捕まえるとアーシアに投げ渡す。

 

「アーシア!バラキエルを癒せ!」

「で、でもイッセーさんは?」

「今は戦力維持が優先だ!」

「イッセー君を見捨てる気ですの!?私の母の時のように、これだから堕天使は!」

 

 と、アザゼルの言葉に朱乃が嫌悪感を露わに叫ぶ。

 

「んなこと言ってる場合か!エミヤ達は護衛対象であるオーディン達しか護る気はねー!俺等は俺等で身を護しかねーんだ、戦闘力高い奴を優先する!」

「ふざけないで!アーシアちゃん、聞く必要ありませんわ。すぐにイッセー君のところに!」

「え、えっと……でもバラキエルさんも……」

「そんな男、どうでも──ッ!」

「きゃああ!」

「チィ!」

 

 と、大声を出していた朱乃にハティの牙が迫る。アザゼルが咄嗟に押し退けるが牙が眼前に迫り、アザゼルの左腕を噛み千切る。

 

「この、犬っころが!」

「ぎゃうん!?」

 

 ドォン!とハティの口の中で光の力が爆発する。喰われると悟った瞬間込められるだけの光のを込めた左腕が爆発したのだ。

 流石に口内で爆発すればただではすまず、その場に倒れるハティ。だが、まだ二匹、それも片方はオリジナルが残っている。

 

 

「────っ」

 

 イッセーはドクドクと流れる血の熱さと、血が抜けていくことによって寒気を感じていた。

 やばい、死ぬ。そんな実感がある。一度死んだ身として解る。これは死に通じる傷だ。

 

「──くそ、せめて……死ぬ前にもう一度部長の、おっぱい……を」

 

 性的興奮をすると力が増すように創られたルクスリアでもあるまいに、凄い根性である。

 

「イッセー………」

「ディペンデレ………?」

 

 現れたのはしかしリアスではなくディペンデレ。心配そうな顔でイッセーを見下ろす。

 

「イッセー、死んじゃうの?」

「大、丈夫だ……死な、ねーから……」

 

 とはいえ死にかけである事は変わらない。時期に間違いなく死ぬ。

 

「……死なせない」

「………ディペンデレ?」

「大丈夫、ボクは……神様からそういう力を貰ったんだから」

 

 ガパ、とディペンデレが小さな口を精一杯大きく開く。口内に広がるのは、暗い暗い闇。イッセーは目を凝らしそれをみた。

 闇の中に何かがいる。誰かがいる。

 それは悪魔であり堕天使であり天使でありドラゴンであり人であり、種族もバラバラなそれらの共通点は性別ぐらいか。いや、後一つ。見覚えがある。そう、この顔は……『劣兵』の………

 

「お、おい待で──!」

 

 ゴフッと血を吐きながら叫ぶがディペンデレの口は近づいていき………

 

「やめい……」

 

 エミヤがディペンデレの首を蹴り飛ばした。

 

「………神様?」

 

 が、ディペンデレはキョトンとした顔でエミヤを見る。イッセーが驚くが首を失ったディペンデレの身体は首まで歩くと拾い、繋げる。

 

「これは食うな。」

「えう……で、でも……このままじゃ……」

「死なない死なない。治してやるから……」

 

 と、エミヤは懐から小瓶を取り出しイッセーにかけると傷が見る見るふさがる。

 

「んじゃ俺はロキんとこ戻る。ディペンデレは犬相手にしてろ………それから其奴は忘れろ」

「解った、神様………」




ディペンデレの能力説明
言葉さえ通じれば簡単に惚れてしまうディペンデレはとにかく依存症で相手が死にそうになると己の中に取り込む。相手は死にかけの状態のままディペンデレの中で生き続けて、取り込んだ相手のコピーを『劣兵』として召喚できる。
なお、元はエミヤがうざったい敵を苦しめるために創った魔獣で分身が死ぬと死の瞬間の痛みと恐怖が本体にフィードバックされる。
範囲強化効果弱化能力の『孤独の将』と仲が良い


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魔獣の創造主達

 ミドガルズオルムを倒したラストとルクスリアはフェンリル達に向かって迫る。

 エミヤから命令を受けたディペンデレも同様に。

 

「グオオオ!」

「ふふ。遅いわよ!」

 

 スコルが神をも殺す牙で噛み砕こうとするも当たらず、頬を蹴りつけられ大きく仰け反る。と、ディペンデレが大きく息を吸い、取り込んだ話すことすら可能な力あるドラゴン達のブレスを放つ。スコルの片足が吹き飛んだ。

 

「ギャウウウン!」

「これで、とどめ!」

 

 と、ラストの手に一本の槍が現れる。

 

「グングニル」

「─────!」

 

 オーディンと一晩ともに過ごしたことで得た神の槍。それも、一本ではない。ランクはガクリと下がるが神の力を宿した光線が『性欲の劣兵』達が持っていた槍からも放たれる。スコルは断末魔をあげながら肉塊へと姿を変えた。

 

「さあて、と………ルクスリアは………まだ戦ってるんだ」

 

 槍を消しフェンリルとルクスリアの戦闘を見るラスト。流石はオリジナルのフェンリル、力の殆どをシュラハトに持っていかれたとは言え天龍、龍王クラスのドラゴン達の集合体であるルクスリアと互角とは。仕方ないか、とラストはため息を吐く。

 

「ルクスリアー!勝ったら胸触らせてあげるー!」

「マジで!?いよっしゃあ!」

 

 と、ルクスリアから膨大な量のオーラが溢れ出し、大口をあけていたフェンリルの牙を砕き上顎を脳ごと消し飛ばした。

 

「………あの人達、戦場で何してるのよ」

「それだけ余裕ってこった……しかし、幾ら何でも強すぎる。彼奴、リリス以外に何を喰った?」

 

 リアスの言葉にアザゼルが返す。最後の呟きは幸いにも聞こえなかったようだが……。

 

 

 

 

「………なる程認めよう。魔獣の産み手としては、私の方が貴殿に劣るらしい。ならば、術者として勝負だ!」

「良いよん」

 

 ロキが両手を広げ大量の魔法陣を出しエミヤはポケットに手を入れたまま魔法陣を生み出す。魔力と神力が空間を歪めかねない濃度で放たれ、魔法がぶつかり合う。

 当たれば山脈の一つは軽く消し去る一撃。しかしどちらも未だ様子見。さらに威力が上がる。さらに上がる。

 大陸を削り取るレベルの一撃が今まさに放たれようとした瞬間、ハティがエミヤに噛みついた。

 

「………あ?」

 

 足が食いちぎられるエミヤ。落下し、地面に横たわる。

 

「ぬ、ハティ……余計なことを」

 

 と、ロキが不快気に顔を歪めるとハティがビクリと震える。

 

「ははは。怒ってやるな、おじいちゃん思いの良い孫じゃねーか」

「………は?」

 

 ロキは目を見開く。エミヤがハティを許したことではない。エミヤが()()で立ち上がった光景を見たからだ。

 

「なあロキ、神話のお前でもウイルスは知ってるか?」

「馬鹿にするな。そんなもの、人間が発見する前から知っている……細胞に寄生し増える生物……細胞持ってないから非生物だったか?」

「まあ、俺はそれを生物と定義して魔獣を創ったんだよ。『将』なら誰もが持ってるウイルスのな……」

「………そうか、貴様………既に人をやめていたか」

 

 ロキの言葉にキヒヒ、と笑うエミヤ。

 

「んで、だ……他生物を魔獣に変える。あるいは一匹一匹が魔獣になるウイルスを喰ったらどうなると思うよ?」

「───ガ!?」

 

 と、ハティが突然倒れる。ヒューヒューと荒い呼吸をして目を精一杯見開き、のけぞりその腹が裂ける。

 

「答え、こうなる。まあ俺の魔獣にも出来るには出来たけどな」

 

 バシャバシャと辺りにハティの血が降り注ぐ。

 その血を浴びて産まれ出たのは様々な異形。角と四本の腕を持った黒い骸骨がカタカタ笑う。四つ目の蜥蜴が刃物のような鰭を震わせガチガチ歯を鳴らし笑う。堕天使のような翼を持った蛇がシュルシュル笑う。縦に避けた独眼の女がケタケタ笑う。

 見ているだけで精神が削れそうなほどの異形の群。それは、全てハティが食いちぎったエミヤの血肉から産まれた『神の劣兵』。その強さ一つ一つが上級悪魔、天使、堕天使を優に越える。

 

「………ありえん」

「ん?」

「幾ら魔獣化しているとはいえ、こんな力……それこそ、神のような!」

「んー、まあ中にいた女神二人とも喰ったしね」

「…………は?」

「幸いにも魂の質は俺の方が上。しっかりと取り込んで俺の力に変えましたよ、ええ」

 

 懐かしむようにうんうん頷くエミヤ。

 

「女神、だと……?」

「うん。メソポタミアの主神にしてお前と同じく龍王、それも最強の龍王を産んだ女神に、神産みの神でありながら1日に千の命を奪う死神。この女神達をな。ほら、そもそも神器自体封印な訳じゃん?本来の力なんか使えっこねー……なら、魂自分の力にすれば十全に使えると思った訳よ」

「バカな!神を二柱も、人間が耐えられるわけがない!」

「でも耐えたから仕方ないだろ?」

 

 話は終わりだ、と指を鳴らすと魔獣達が一斉にロキに迫る。数体、数10体の上級クラスなら対応できた。だが避けたハティの腹から次々現れる魔獣の群は今や千を超える。

 

「ぐう、おのれぇぇぇぇ!」

「おお……」

 

 神力を全開に、辺り一面に魔法を放つ。魔獣達が居なければ北海道程度なら飲み込める大爆発。だが───

 

「そら、追加だ───」

「─────!」

 

 悪夢は終わらない。

 

 

 

「さてさて。俺の勝ちだな……」

 

 手足を魔獣に食いちぎられ地面に横たわるロキを見下ろすエミヤ。その影が蠢きロキの下にくると無数の腕が飛び出してくる。

 

「これは……そうか、貴様亡者まで……」

「放置するとミテラの精神がやばいらしいからな。どうせ混在しすぎて己でも自分がなんだったのか、今がなんなのかすら認識できない感情なんてないそこにあるだけのエネルギー体だ……だから最初にミテラの周りにいた奴らを喰って、残りが集まるようにした。結構便利だぜ?魔獣生むときエネルギー源として利用できる。亡者自身、消えたいという本能があるから互いに利益があるしな。しかし魂の行き着く先とか、俺グレートスプリッツみたいでかっこよくね?」

 

 などと訳の分からないことを言っている間にロキの体は殆ど影の中に沈んでいた。

 

「貴様、何故発狂しない………」

「俺はいわゆる上位世界の魂なんだってよ。だから、下位世界の魂の『作り』を知った所で問題ないんじゃねーの?と、思ってる」

「………そうか、既に狂っているのか……哀れだな、異界の来訪者……」

 

 ズプンとロキが影の中に完全に沈む。

 

「哀れ?俺が?」

 

 ふむ、と手を顎に当てるエミヤ。

 哀れ、か。倫理観を奪われたのは確かに哀れなことだろう。だが、そのおかげで今がある。

 

「……うん。俺は哀れじゃない、っと。全く勝手に哀れむなよな……」

 

 と、呆れたように首を振る。『神の劣兵』達を拠点に転送すると思い出したように、あ……と口を開く。

 

「ごちそうさま」




確か原作二巻でイッセーが山を吹き飛ばした力が上級悪魔クラスで隕石に匹敵するブレスを放つタンニーンが最上級悪魔でそのタンニーンより強いであろう五大龍王最強のティアマットが魔王クラスなんだから……うん。神なら島一つ消し飛ばせても可笑しくないね!


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結婚

「ういーっす。終わったよん」

「はやかったのぉ。ロキは?」

「ごちそうさま」

 

 オーディンは死んだか、と顎髭をする。

 

「しかし地味じゃのぉ。ふむ……ここはお主の土地なのだろう?」

「そうだけど、ああ……仮にも神を殺すなら大規模な破壊っていうわかりやすい形を残してもらわないと北欧としても面目が立たないのね」

「うむ。頼めるか?」

「OK」

 

 ポゥ、と滅びの力で出来た小さな球体がエミヤの掌にたまる。

 

「思いつき必殺、滅びの理」

 

 高速で突き進むとゴウ!と巨大な球体へと様変わり。地平線が消え、巨大なクレーターが出来る。底は、暗くて見えない。

 

「これここの観光スポットにしよっと」

 

 滅びの力を持つリアスは、その比べるのも烏滸がましい力に目を見開き固まるしか出来なかった。

 

「エミヤよ、やはりブリュンヒルデを嫁にとってくれんか?」

「ん?別に良いけど……」

 

 

 

 

「で、北欧と日本の神話の会談は終わったのに何でいんのお前?」

「それは、エミヤ様に差し出されたからでしょうか?」

「ああ、そういや……んじゃよろしく」

 

 駒王町で菓子や巡りをしているとブリュンヒルデに出会った。そういえば嫁にとると言っていたがすっかり忘れて帰ってた。

 

「ごめんごめん。お嫁さんおいてくとは俺も薄情だった」

「いえ、お気になさらず」

「そうする。あ、これ食べる?」

 

 と、菓子を差し出すエミヤ。ブリュンヒルデは隣に座ると一つもらう。と、そこへヴェーラが戻ってきた。

 

「神よ、戻りました。おや、その方は?」

「正妻」

「え、私が正妻なのですか?いえ、嬉しいは嬉しいのですが、そんな急に……困ります」

「そりゃ最初に結婚したからな。ん、どうしたヴェーラ?」

 

 見るとヴェーラはプルプル震えていた。怒らせてしまったのだろうかと不安になるブリュンヒルデに飛びついたヴェーラはそのまま両手をとる。

 

「素晴らしいです!とうとう我が神にも伴侶が……。ああ、今日はなんとめでたい日なのでしょう!私はヴェーラ、神の伴侶たる女神よ、どうぞ何でも命じてください」

 

 恍惚とした表情で跪くヴェーラ。彼等魔獣に取ってはエミヤこそ絶対で、そのエミヤが妻と言ったのならば余程の無能か見るに耐えない性格でもしていない限りどんなに弱い生物だろうと受け入れる。そしてブリュンヒルデはエミヤが産み出した魔獣の将や王達と比べれば劣るが、神話で見れば実力もあるし見た目も良い。

 

「あ、あの……そんな急に………あら、そういえば護衛なのですよね?先程までどちらに?」

「はい。この町に忍び込んでいた英雄派なる者達を滅してきました」

「めっ、したのですか……でも、ここってリアス・グレモリーとソーナ・シトリーの領地では?」

「彼らは学生。相手も放課後に攻めてきますから、今は学校から飛び出した辺りでしょうか」

「………律儀なテロリストも居たものですね。しかし、()()派……彼等は何を見据えているのでしょう?」

 

 英雄とは困難に立ち向かい民を守った者を指す。今でこそ各神話に迷惑をかけたり神器所有者を誘拐し洗脳したりとしているが、それが困難に備えてだとすると……。

 

「彼等と話し合いは出来ないでしょうか?ヴァルキリーとして、英雄を名乗る者の真意も知りたいですし」

「三大勢力だけならともかくほかの神話にも攻めてるし、案外何にも考えてねーんじゃねーの?」

 

 エミヤが和菓子に楊子をプスリとさしケラケラ笑った。

 

 

「ちなみにここが学校な。大きいだろ?俺は入らねーけど。勉強したくないし」

「待ちなさいこのエロ猿三人衆!今度こそ見えざる聞けざる喋れざるにしてやるわ!」

「うおおお!速い、速いが俺をおいてくな二人とも!」

 

 この地の主(学生が本分)のリアス・グレモリーの居場所にも一応案内しておこうかと駒王学園に来れば、イッセーと眼鏡とハゲが女子の群れに追いかけられていた。眼鏡は身体能力で劣るのか、徐々においてかれていく。

 倍化がなければ雑魚同然といえ、悪魔と互角に走るあのハゲはなかなかの逸材だ。

 

「あれは、何でしょう?」

「さあ?服がはだけてる奴もいるし、覗き……かな?」

「今度こそ、ということは常習犯なのでしょうか?」

 

 

 

「お、あれは………」

 

 その後町を適当に歩いていると覚えのある気配を感じ、そこへ向かってみるとイッセー達がいた。あの後逃げ切ったのか傷はない。目も耳も口も全部そろっている。

 

「僕の妻になって欲しい。僕はキミを愛しているんだ」

「あら」

「まあ」

 

 なんとプロポーズの場面に遭遇してしまったらしい。優男がアーシア・アルジェントに告ってた。その優男がヴェーラに気づくと今度は此方に歩み寄ってきた。

 

「こんにちはミス・ヴェーラ……お恥ずかしながら、僕はアーシアを愛した身でありながら貴方にも惹かれてしまった。どうか、僕の妾になってくれないだろうか」

「うはは。妻候補の前でどうどう二人目になれ宣言とか面白いは此奴。ヴェーラ的にはどうだ?俺は気に入ったぞ」

「ちょっと待てぇ!」

 

 と、イッセーが叫ぶ。

 

「おいお前、アーシアに惚れてんだよな?なのに何で別の女に告白してんだ!」

「どちらにも、惹かれてしまってね。自分でも気の多い男だとは思っているよ。でも、僕はどちらも絶対幸せにしてみせる!」

「だってよ、よかったなアーシア・アルジェント、ヴェーラ」

「アーシアはお嫁にあげねーぞ!」

「何が不満なんだ?顔よし、金よし、地位よしの三拍子じゃねーか」

「いや!だって此奴、告白した女の子の前で別の女に告白したんだぞ!そいつが愛だの何だと、信じられるか!」

「………お前の将来の夢は何だったけ?」

「?ハーレムだけど、今の話に何か関係あるのか?」

「…………………」

 

 いきなり何だ、と首を傾げ訝しむイッセーはそのまま尚も続ける。

 

「だいたい見ろアーシアの顔、嫌がってんだ!女の子が嫌がるのに繰り返す奴なんて最低だ!」

「それはひょっとしてギャグで言っているのか?」

「何でだよ!んなわけねぇだろうが!」

「…………まあ何だ、お前の惚れた女変な男に捕まってるが、頑張れ」

「触らないでくれるかな?穢らわしい人間に触れられるの、ちょっとね」

「……………」

 

 取り敢えず顔の大きさが三倍になるまで殴った。途中魔力やらなにやら放ってきたが、痒みすら感じなかったので無視して殴り続けた。




ちなみに原作のイッセーは猫又姉妹両方にプロポーズしている


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運動会からの蹂躙

「運動会?」

「ああ。三大勢力が集まった運動会だ。トップは一通り集めるつもりだが、テロリストが食いつきそうだとは思わないかい?」

 

 アジュカ・ベルゼブブの言葉にふむ、と手渡された資料を見る。

 

「おとりなら何で若手が?」

「恥ずかしながら、内通者が混じっていてね。一人だけでは浮いて、悟られる可能性がある。君にとっても悪い話ではないと思うよ?参加するだけで警備代も払うし襲撃があれば対応さえしてくれるならボーナス。優勝したなら賞金も出るしね」

「良いよん」

 

 おもしろそうだし、とエミヤはケタケタ笑う。

 

 

 

「………やべぇ。帰りたい」

 

 アザゼルはゲスト枠として参加している魔獣派閥を見て呟く。おかしいだろあれ、最低でも超越者クラスって……しかもエミヤが着ているコート気のせいじゃなければフェンリルの気配を感じるしペットのように足下を走る101匹わんちゃん一匹一匹フェンリルを凌ぐ気配をまとっている。

 

「よしよし。皆集まったな。結構結構……さて、終末を彼等にとかハルマゲドーンとか暴れ回れとか言ってるので俺もともなって………敵対した神は?」

「「「我等が神の糧!」」」

「死んだ魂は?」

「「「我等が神の糧!」」」

「ならばお前等の使命は何だ?」

「「「我等の神に糧を献上すること!」」」

「のりいいねお前等。大好きだぜ!」

 

 エミヤが叫ぶとオオオオオ!と魔獣達が吼えた。

 

「新しいペット101匹フェンリルの性能も試しとくか」

「「「わんわん!ハッハッハッ!」」」

 

 今フェンリルって言った。絶対言った。

 

 

・障害物競争

 

 平均台を走り抜けネットを潜り様々なボールをついたり蹴ったしながら進み、あっという間に最後の関門。

 ヒュドラにケルベロスに怪鳥シズに元龍王タンニーンが競技者達に襲いかかり………

 

「………ああ?」

 

 天龍クラスの邪龍達の魂が原材料の天龍を優に越える実力を持つシュラハトに吹き飛ばされた。

 

 

・借り物競争

 

 漫画の影響を受けたとしか思えない借り物の内容で選手達が叫ぶ中ブリュンヒルデは紙をめくる。

 

『既婚者』

「………エミヤ様!」

 

 

・玉入れ競技

 

「大丈夫かいフェデルタ?」

「ありがとうフィエルダー……」

「もう、君を失いたくないからね………しかし玉入れってこんな戦争じみてたっけ?」

 

 各勢力が喧嘩を始める。一応、きちんと実力のある者達は本来の役目を覚えて居るのか手加減はしているようだが、信憑性を持たせるためなのか一部の下っ端達は本気で殺し合ってる。

 『将』からすればそよ風だが『忠誠の兵』であるフェデルタは生前からの恋人であるフィエルダーに守られていた。

 

 

・騎馬戦

 

 イッセーが女の服を破裂させていた。

 

「……何で彼奴、ディオドラ責めれたんだろ?」

 

 エミヤは女が間違いなく嫌がる事を平然と行うイッセーが何故女にしつこく言い寄る男を責める事が出来るのか不思議に思った。

 

 

・バトンリレー

 

「ヒャッハー!俺の後ろは誰も走らせねー!」

 

 フリードが翼から放つ聖火を推進力に突き進む。ウリエルの聖なる炎の火力を優に越える炎に悪魔はもちろん天使も堕天使も近づけずあっと言う間に距離を開く。

 さて、魔獣達は平均的にほかの種族よりも優れている。ならばどうならか、簡単。普通に優勝する。

 

 

「ヒャッホー!見ろこの黄金に輝くtrophy!」

 

 無駄に滑舌良く優勝トロフィーを掲げるエミヤ。魔獣達が拍手する。

 そういや何しに今回の運動会に参加したんだっけ?と、本来の目的も忘れつつあるエミヤ。と、その時───

 

「下らん児戯をしているな」

 

 高々と掲げられていたエミヤのトロフィーが打ち抜かれ上半分が消滅し───

 

「きゃあ!?」

「アーシア!?」

 

 アーシアが攫われ

 

「これは──」

「やはり、来たか………」

 

 周囲に魔法陣が大量に現れ旧魔王派に属した悪魔達が現れる。全員『蛇』でも使っているのか最上級悪魔クラスの気配を放つ。

 

「久し振りだな偽りの魔王、サーゼクス、セラフォルー……アジュカとファルビウムはいないか……」

「………クルゼレイ」

「クルゼレイだけではない」

「シャルバ…」

 

 現れたのは旧魔王の血筋、クルゼレイ・アスモデウスにシャルバ・ベルゼブブ。

 警戒する魔獣達、その一人、ヴェーラの背後に魔法陣が現れて手が伸びてきたが、裏拳に吹き飛ばされた。

 

「ぷげぇ!?」

「あら、貴方は………ディ、ディオ………ドラ○もんさん?」

「え、あれが?顔は確かに大きいけど体が普通で気持ち悪いけど……」

 

 と、アルトンが気持ち悪がる。

 

「ヴェーラ。君も僕の元に来てくれないかい?」

「はぁ、それについてはお断りしましたが……」

「ふふ。だけどこのままだと君の主人とともに殺されてしまうよ?なぁに、僕が神を忘れさせてあげよう……僕の眷属達のようにね……」

 

 腫れていて解らないがきっとどや顔を浮かべているのだろう。

 

「…………は?」

 

 と、ディオドラの言葉に『慈愛の将』であるエレオス程でないにしろ、献身な信徒らしく心優しく常に慈悲深いヴェーラが無表情になった。

 

「………神を、忘れさせる?ああ、なるほど……貴方は私から信仰を奪おうというのですね?いけませんね、ええ……とてもいけないことです。許されない」

 

 ゾワリとヴェーラから禍々しいほどの光量が放たれる。と、その時───

 

「………俺の、トロフィー……」

 

 エミヤが上半分が消滅したトロフィーを見て呟く。

 

「…………ぶち殺してやる。『目覚めよ我が身に宿りし女神の残滓、魔の残滓───』」

「!?か、神よ!!ま──皆、今すぐ避難を!」

「『我は女神を喰らいし者。我は死を喰らう者。命の理を祖の女神より奪い、死の理を国産みの女神より奪いし人ならざる者』」

 

 エミヤから神々しいオーラが放たれる。

 ドラゴンにも似た気配を放つ藍色の女形のオーラが笑い消える。死の気配をまとう黒い女形のオーラが叫び消える。

 

「『我は魔の祖を喰らいし者。魔の母より魔を賜りし者──我、新なる世界の神となりて──』」

 

 翼を生やした女の姿をした禍々しいオーラが現れ消える。かろうじて人の形に見えるオーラが喰われるように消える。

 

「何だ、人間風情が何かする気か?下らん、殺せ」

 

 と、シャルバの言葉に悪魔達がエミヤを見下しながら向かう。

 

「『古き世界の命を喰らい尽くす』」

 

 膨大な量のオーラがエミヤから放たれる。

 その余波で最上級クラスになった悪魔達が塵一つ残さず消し飛ぶ。結界を張っていた魔獣達とその魔獣達に庇われていた三大勢力、上空にいた残りの旧魔王達は無事だが、誰一人動けない。

 

「……ふぅ、少しすっきりしたが……うん、正直やりすぎたな」

 

 と、オーラを周囲に放ち落ち着いたのかエミヤが銀の()()を払い嘆息する。その反動で無駄にでかすぎない形の整った()()()()が揺れる。イッセーがおお、と反応した。

 

「………女?貴様、女だったのか……」

「うんにゃ。ただ、喰った奴の中に力が強い女が多すぎて、完全に馴染みきってない今力を解放すると少し老けて女になる」

 

 美の女神と自称しても不思議ではない程の美貌。瑞々しく健康的な褐色の肌。純銀を伸ばしたかのような美しい銀髪。そんな女と化したエミヤは美笑を浮かべ赤い舌をんべ、と出す。つ、と……唾液が垂れ、その一滴から無数の魔獣が産まれる。

 

「そこの俺のトロフィー壊した男を殺せ」

「ルルルルロロロロロロロロロロッ!!」

 

 産み落とされた魔獣の一匹が叫び迫る。

 

「なめるな!今の私は魔王にも匹敵────」

 

 一瞬で消し飛ばされた。

 

「己、よくも真の魔王を!その罪、死を以て償え!」

「消し飛ぶがいい!」

「…………此奴等は喰え。意味は分かるな?」 

「ガアア!」「ケタケタケタケタ!」「シャアア!」

「ブルル!」「ギャオオン!」

「ひ、ひぃ!」

 

 エミヤの言葉に蹂躙を開始する魔獣達。一人だけ挑まずに逃げるという英断をした悪魔がいた。転移魔法陣を生み出し、後ろから迫った魔獣に向かって捕えていた下級悪魔を餌として差し出す。が、両方喰われる。

 

「よし、だいぶ喰わせたな。じゃ、時間かけてゆっくり溶かせよ……」

「アーシアァァァァァァァァァァッッ!!」

「ん?」

 

 と、不意に入るは難く出るのは簡単な結界から赤い小さなドラゴンが迫ってきた。なので地面に向かって叩きつけた。全身を包む鎧が砕け、血だらけの下級悪魔が地面に横たわる。が、再び鎧をまとい飛び出そうとしてエミヤに踏みつけられる。

 

「………覇龍か。それも完全の……こりゃ暴れて死ぬだけだな。おーい、ルクスリア。ドラゴンの口出せ」

 

 エミヤが言うとルクスリアが背中から龍の顎を出して結界を抜ける。

 

「グルアアアア!コロス、コロスゥゥゥゥゥ!」

「喰え。こっちは殺せ」

「あいよ~。いや~、可愛い女の子じゃなくてよかった」

 

 エミヤが足をはなし飛び出そうとするイッセーを蹴りつけるとルクスリアは龍の口で受け止め、噛み砕き飲み込んだ。



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騒動の後

「あ、そういやさっき旧魔王派じゃねー悪魔喰ってた。おら、吐き出せ」

「キュウウ」

 

 ゲシゲシと腹を蹴られ鳴き声をあげると口からデロリとアーシアを吐き出す魔獣。時間をかけてゆっくり溶かすつもりだったのが幸いして死んでいない。皮膚の所々は溶けて神経がむき出しになっているのは苦しめるための仕様だ。魔法で回復してやる。

 

「トロフィーが壊れたのは残念だったが、ま……いろいろ楽しめた。またな」

「待ちなさい………」

「……ん?」

 

 年は戻ったが女のままの肉体を見てはぁ、とため息を吐いていたエミヤはその声にシャフ度で振り返る。

 リアス・グレモリーとその眷属達が睨みつけていた。

 

「私の眷属を、可愛いイッセーを殺してただで帰れると思っているの?」

「思ってるけど?だってここには同盟相手のトップが居るんだぜ?」

「な!?貴方、イッセーを殺したことに何も思わないの!?」

「うん。面白い奴だったとは思うけど……ルクスリアでも代わりが効くしルクスリアと違って他人だしな。それに、うっかり殺しちまうほど弱かったが建前なんて簡単に思いつく。ほら、一応あれ神滅具(ロンギヌス)だし?転生してテロリストに見つかったら間違いなく抜かれて殺される子供とその被害で死ぬ奴等が可愛そうだと思うだろ?俺は思わないけどグレモリーは慈愛が深いんだし」

 

 チッとリアスから放たれた滅びの力がエミヤの髪の表面の細胞の極一部を僅かに消し去る。

 

「………へぇ」

 

 エミヤが笑う。せっかく手に入れた賞品を壊されれば怒り、蟻が噛みついてくればその反応を楽しむ子供そのものであるエミヤだが持つ力、勢力は強大。魔獣の『将』と『兵』、101匹の子犬達、そして解放された力より産まれ出でた最上級悪魔共を腹の内に納め悠々と宙を泳ぐ魔獣達が創造主に敵意を向けたリアス・グレモリーを殺そうと構えるも創造主の喜悦に思いとどまる。

 

「良いね。勇気ある行動だ……良く、勇気と蛮勇を履き違えるなと聞くが俺はそうは思わないね。例え無駄に死んでも勇気は勇気だ。俺は尊重するぜ?殺したいと願うなら殺されてやる。お前が俺より強ければな」

 

 殺されることに抵抗はない。倫理観を失っても知識として存在する以上、他者の命を菓子より軽く見る自分が悪と見られるクズである事は理解しているのだから。だが生きたい理由もある。

 殺しにくる者は憎まないししつこくないなら報復もしない。だが挑んでくるなら殺す。生きて楽しみたいから。

 ああ、しかし……そういう顔は大好きだ。死ぬかもしれないのに挑もうとする勝ってみせると意気込む勇気はその存在がいかに脆弱だろうと褒め称えるべきだとエミヤは思う。まあ、それでもやはり殺そうとするなら殺すけど。

 年齢は戻っても性別が戻っていないのは、取り込んだ女神達と原初の悪魔の力が完全に封じられていない証。放たれる殺気は怒気を漲らせていたリアス達を怯えさせ戦意を削ぐには十分だった。と、リアス達を庇うように魔王サーゼクスとセラフォルーが出てくる。

 

「………魔王様、そこの下手人を庇うと言うことは、悪魔は我が夫である魔獣神エミヤ様を殺そうとすることを是とする、ということでしょうか?それはつまり、北欧も敵に回すことだとご理解ください」

「え、おれそんな名前で広まってんの?」

 

 ブリュンヒルデが槍を構え魔王達と対峙する中エミヤはどうでも良いことに反応していた。

 

「先に魔王の妹の眷属に危害を加え、殺したのはそちらだろう」

「お言葉ですがあの状況で人質一人にはかまっていられません。それに、赤龍帝に関しては既にエミヤ様が仰った通りかと……」

「だが!」

「我々と敵対するか、貴方達二人で決めて良いことでもないでしょう。一度戻り、魔王達、そして大王を交えて冷静にお話を。その上で決めた判断ならば、それは悪魔の総意と受け取りましょう」

「え、いや俺は別に敵対した奴だ───ごめんなさい」

 

 余計なことは言うなと睨まれ大人しくなるエミヤ。今度キチンと政治の勉強しよう、己本人はどうでもよくても、どうも嫁さんに迷惑かけるらしい。

 

「んじゃ、今度こそ帰るねー。俺は別にどっちでも良いよん」

 

 

 

「非があるのは此方だ。敵対など馬鹿らしい」

「どうか~ん。てか偉そうにしてるけどあのクレーター公開しちゃえばよかったんだよね~」

 

 サーゼクスとセラフォルーの言葉にあっさり返すゼクラムはファルビウムの言葉にチッと吐き出した。

 エミヤが冥界に作り出した巨大なクレーター。聞けば滅びの力を使ったのだとか。そんなもの、初代である自分でも不可能だ。全盛期に残りの寿命全てつぎ込めばあるいは、というレベル。だからこそ隠してしまったのが今回の原因の一つだろう。

 

「まあ、その光景を見てなお強気に出られるリアス君には正直感嘆するがね」

 

 と、アジュカが目頭を押さえる。

 

「こっちとしては旧魔王派を討ってもらった上に暴走した赤龍帝を止めてくれたという、借りしかないんだよね~。むしろ謝礼金を払うレベル。いや、彼の場合大量のお菓子かな~?」

「とにかく。彼は冥界の恩人として報道する。異論は認めん……」

 

 

 

「………ふむ」

 

 漸く男に戻ったエミヤは、行きつけの店の店主が渡されるように頼まれた、という手紙を見る。

 

『一生大人の姿を取って私を弟にしてください』

 

 はっきり言おう。意味が分からないでござる。解ることと言えば女扱いされているということ。

 

「ブリュンヒルデ~、これになんかあれだ。北欧式の呪いかけといて」

「では差出人が不幸になる呪いを……」



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新婚旅行

「エミヤ、結婚おめでとう」

「あれ、オーフィスじゃん。おっひさー♪」

 

 パーティーの一件で悪魔側から頂いた黒猫を縄で縛り遊んでいるとオーフィスがやってきた。

 エミヤ達の拠点は次元の狭間を遊泳しているためある程度の実力か専用の道具がなければ発見する前に消滅するのだが、目の前の幼女はある程度の実力など優に越えた力を持つ龍の神様。

 

「……黒歌も、久しい」

「お、オーフィス助け──」

 

 『誰でも出来る瞬間束縛術 これで貴方もカウボーイ』とかかれた本を片手にもう片方の手にロープを持つエミヤ。ロープの先には雁字搦めになった猫の妖怪黒歌がいた。

 

「ていうかお前仙術学びたいから私を悪魔から買ったんじゃないのにゃ!?」

「仙術……?あ、そういえば」

 

 今思い出したとばかりに縄を離すエミヤ。黒歌はうう、と涙目になりながら何とか縄を解いていく。

 

「もうやだぁ、此奴……白音に会いたい」

「無理無理。彼奴今主が馬鹿やったせいで主ごと屋敷に幽閉されてるもん。面会は不可能だ……周辺の記憶はしっかり改竄してグレモリー眷属達は最初っから居なかったことになったらしい」

「は?その馬鹿主は何したにゃん?」

「俺に攻撃した。魔獣達の前でな」

「その馬鹿はこの世界から跡形もなく消滅したいのかにゃ!?」

 

 黒歌は思い切り叫ぶ。この理不尽の固まりが群れているような勢力の頂点を、よりにもよって構成員達の目の前で攻撃するとかよほど死にたがりか有り得ないほどの大馬鹿ぐらいだろう。

 

「ちなみにお前の妹も何時でも攻撃出来るよう構えてたぞ。赤龍帝殺したのがよほど気に入らなかったらしい」

「え、赤龍帝ちん死んだの?」

「覇龍になったからな。踏み潰して蹴り砕いてルクスリアに喰わせた」

「覇龍になった赤龍帝を………?その光景見て何で敵意抱けるかな、お姉ちゃん白音の未来心配だにゃん……」

 

 何時か身の程をわきまえず強敵に挑んで死んだりしないだろうか?不安だ。

 

「赤龍帝食べられた?なら、二天龍消えた。次は龍王の中から天龍出来る?」

 

 と、オーフィスがムシャムシャ和菓子を食べながら呟く。

 

「あ、それ俺の!てか何しに来たんだよオーフィス………」

「結婚祝い?これ、お祝い……」

 

 と、別の和菓子を差し出すオーフィス。八橋だ。

 

「おお、律儀だな。誰に言われたんだ?」

「エミヤが友達だっていったらルフェイが結婚したそうだからお祝いにいけって……」

「ルフェイ?」

「構成員二人のペンドラゴン・チームの一人」

「二人って」

「家が有名だからどこかの勢力に入っても家に送り戻されるって言ってたにゃん。きっとお金が必要で入れる組織に入ったものの趣味が合わなかったのかにゃ……」

 

 家出中なのか。

 

「しかし八橋か………おーい、ブリュンヒルデ」

「はい」

「わ、吃驚したにゃ!」

 

 エミヤが呼ぶと何処からともなくブリュンヒルデが現れる。黒歌は突然現れたブリュンヒルデにビクリと震える。

 

「気配はずっと感じてたけど、何で隠れてたんだ?」

「……旦那様は、ずいぶんと猫と遊ぶのが楽しそうだったので」

「ん?まあ黒歌()遊ぶのは楽しかったけど」

「それで、用事は?」

 

 ブリュンヒルデは拗ねたようにエミヤを睨む。

 

「京都に行こうぜ。新婚旅行だ……」

「はい旦那様!」

 

 

 

 京都サーゼクスホテル。

 魔王サーゼクスが経営するホテルで、その最高級スイートルームに荷物を放り捨てるエミヤ。

 

「奥様、荷物はこちらに」

「フィエルダー、ありがとうございます……さあ旦那様、何を見て回りましょうか?」

 

 護衛の将はフィエルダー。『暴食の将』グラトニー。『否定の将』デナイアル。そしてペットの101匹フェンリルの内二匹と黒歌。

 

「誰がペットにゃ!?」

「いきなり何言ってんだお前」

「いや、なんか急にペット扱いされてる気が………というかされてるよねこれ絶対。何この首輪」

「『大きさを合わせる魔法かかってるから猫に化けても落ちないし人型になっても締まらない首輪』だ」

「長い上にまんまにゃん」

 

 黒歌は『KUROKA』と刻まれた鉄のプレートがついた赤い首輪を撫でながら呆れた目でため息をはく。

 

「………………」

「………後でブリュンヒルデに指輪でも買ってやるよ」

「旦那様………」

「首輪を見て指輪を連想するとかどうなのかにゃ………」

「皆、はやくはやく。我懐石料理食べたい……」

 

 と、扉の前でピョンピョン跳ねるオーフィス。その手には京都の観光ガイドが握られている。主に食い物にマーキングされていた。

 

 

 

 

「お、あのロリすげえ格好」

「それより俺はあのエロいねーちゃん………」

 

 ホテルのエントランスに降りると駒王学園の生徒がいた。修学旅行だろうか?

 ハゲと眼鏡がオーフィスと黒歌に視線を向ける。

 

「あの食いしん坊そうな子も良いな………」

「あっちのなんか儚げな美人も……」

「………何か、年頃にしたって性欲強すぎるのが二人いるにゃん」

 

 と、そこまでいってふと黒歌は思い出す。

 

「白音もそろそろ発情期だけど……まあ惚れた雄が死んだなら暫くなりを潜めるかにゃ。うん、相手はご主人様に喧嘩売るような命知らずだし、タイミングが良かったにゃん」

 



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英雄を名乗る者

 ムシャムシャと和菓子がもの凄い勢いで一人の幼女に喰われていく。

 

「ん、我満足。次の菓子……」

「おうよ」

「あの、旦那様……お金の方は」

「大丈夫大丈夫。後でリアス・グレモリーの個人口座に請求いく魔法のカードファルビウムから貰ってるし」

「それ、クレジットカードなのでは……」

 

 と、ブリュンヒルデが何ともいえない表情を浮かべる。まあ、しかし一勢力の長の顔に向けて滅びの力を振るっているのだ、命が助かるなら全財産失う程度軽いものか。

 

「フェン~、リル~お待たせ~」

「あんあん!」

「くぅ~ん」

 

 外で待っていた二匹の子犬がエミヤ達の足下でクルクル走る。尻尾をパタパタして大変かわいらしいがフェンリルだ。

 もう一度言う、フェンリルだ。

 

「………所でさっきから俺等を付けている奴、何かようか?別に俺はここでおっぱじめ……あ、たんま。ここ菓子屋が多いから場所移そうぜ」

 

 と、エミヤが路地裏の入り口を見つめながら言う。ブリュンヒルデもそちらに厳しい視線を送りオーフィスはハクハクと雀焼きを喰っていた。ジッと野生の雀を見ていると雀が慌てて飛んでいった。

 

「気づいておったか……」

「巫女だ」

 

 現れたのは金髪の巫女服姿の幼い少女。見た目の年齢的にはオーフィスやエミヤと同年代に見える。そういえば最近ミテラが新しい友達を作るように言ってきたような………。

 

「暫く監視させてもらった。その上で、貴様等には悪意がないと判断した。が、念のため聞こう……我が母、八坂を攫ったのは貴様等か?」

「八坂?誰それ……」

「……そう、か……手掛かりは、また一つ消えたか」

 

 と、悲しげな表情をする少女。エミヤはふむ、と顎に手を当てた。

 

「良く解らんが、ま、頑張れよ!」

「えぇ!ここ普通は話を聞く場面であろう!?」

「え、だって俺には関係ないし」

「旦那様、彼方の少女はどうも京妖怪に連なる者のようです。妖力からして、立場のある。日本神話より神話世界の行き来の自由をもらうという契約をしている以上無視できる事柄ではないかと」

「え、まじ……はぁ、自由が欲しくての同盟なのに自由が奪われるとか。帰りたい」

「お菓子屋巡ってから。まだたくさん残ってる……」

「お腹減った……」

「ま、待て!報酬ならやる、えっと………ええと……菓子!私はガイドブックにも乗っていない穴場の菓子屋を知っておるぞ!」

「「「何をしている狐。ほら、早く案内しろ」」」

 

 エミヤとオーフィスとグラトニーのあっさりな掌がえしにガクリとこける巫女少女に黒歌。ブリュンヒルデはニコニコ笑っていた。

 

 

 

「へぇ、じゃあ場合によっては俺等を襲ったのか……」

「うむ。京の者ではなく、人でもなかった故、焦っていたのだ……すまぬ」

 

 と、頭を下げる巫女少女。九尾の狐、八坂姫の娘九重と言うらしい。

 何でも母である八坂が何者かに攫われ焦っていたらしい。そこでたまたま見つけた人外達の群であるエミヤ達に目を向けた、というのが今回の顛末。

 

「くだらん、早とちりして同情を誘うとでも言うのか………忌々しい、腹立たしい。襲っていても間違いだ、すまぬ、謝ったから協力してくれとでも言っていんだろう?ああ、嫌だ嫌だ」

「す、すまぬ……」

「気にするな九重。其奴は『否定の将』だから基本的に否定的なんだよ」

 

 ブツブツと呟く眉間にしわを寄せた男に九重がビクリと震えるがエミヤが何でもないかのように言う。『将』とは情動を力とする存在。故に司る情動はそのまま性格に反映される。

 

「ひゃんひゃん!」

「うう、お主等は慰めてくれるのだな……」

 

 よしよしとすり寄ってくる子犬をなで回す。銀の毛並みが気持ちいい。と、不意にエミヤが立ち止まる。

 

「む、どうし───」

 

 ヌルリ、と生暖かい感触が身を包む。

 気がつけば辺りから人が居なくなっていた。いや、これは───

 

「そっくりな空間に転移か。敵の仕業だろうな……この場合捕えて八坂の居場所聞くのが良いかな」

「じゃ、私は邪魔にならないようにお姫様と大人しくしてるにゃん」

 

 と、九重を抱えて結界を張る黒歌。空間を断裂させた結界だがぶっちゃけこのメンツに通じる気はしない。

 

「始めましては北欧の主神の娘、ブリュンヒルデ。そして魔獣神エミヤ殿」

「うわだっさ……」

「駄目ですよ旦那様。そういうのは黙ってあげるのが優しさです」

 

 現れた学生服の上に漢服を着た男を見た瞬間エミヤは思わず呟きブリュンヒルデが窘める。

 

「曹操、九重のお母さん返す……」

「オーフィス?何故君がそこに……しかし返せと言われてもね。この実験は君のためでもあるんだろ?グレートレッドに『龍喰者』(ドラゴンイーター)を使うからね」

「?グレートレッドが実験なら、本番は何に使う?」

「……………」

 

 オーフィスの言葉に曹操が固まる。オーフィスが首を傾げ、曹操はやれやれと首を振る。

 

「とにかく邪魔をしないでくれ。俺達は仲間の敵討ちに来てね」

「敵討ち?」

「ああ。ジークフリートを殺したろう?」

「……………誰それ?」

 

 曹操とやらの言葉に不思議そうに首を傾げるエミヤ。そのエミヤにフィエルダーがこっそり耳打ちする。

 

「神よ、ほらあのシグルドの末裔を自称する雑魚ですよ。レア武器だけ持ってた」

「……………あ、ああー……うん、彼奴ね。覚えてるよ、緑の髪の」

「白髪でしたよ」

「…………ま、良いか。拷問されて八坂の居場所をはくか素直に吐くか選ばせてやるよ」

 

 と、どうでも良さそうに言うエミヤ。と、複数の人影が飛び出してきた。

 

「魔獣神の相手は私たちが!」

「人類の裏切り者めが!」

「フェン、リル……体当たり」

「「わん!」」

 

 しつこいようだが何度言う。フェンリルだ。

 見た目子犬の二匹が体当たりした瞬間曹操の部下達が纏めて吹き飛ぶ。文字通り跡形もなく。

 そのまま褒めて褒めてと尻尾を振ってエミヤの元に集まるフェンリルを見て黒歌はうへぇ、と呻いた。

 

「よしよし。じゃ、とりあえずダセェの生かして後は殺すか………ん?」

 

 と、突然魔法陣が現れ中央から女の子が出てくる。

 

「あ、ルフェイ……」

「え、彼奴が?そうか……」

「………あ、オーフィス様!」

 

 ルフェイというらしい少女はオーフィスに気づくと手を振ってきた。曹操は眉根を寄せルフェイを睨んだ。

 

「何のつもりかな?」

「兄さんからの伝言です『ボスが友人と遊びに行っているのに邪魔するのは良くありませんよ。と、言っても止まらないんでしょうが。一応一時期は英雄派に属していたのでせめてもの情けです。今すぐ謝りなさい、きっと彼等も許してくれる』だそうです。それとブリュンヒルデ様、兄さんが北欧に保護を頼めないか、と……」

「はあ、まあ構いませんが……」

「ははは。謝れ、か……負ける前提なのか。でも俺だって祖先にならって英雄を目指している一人だ。困難に立ち向かわずして英雄など名乗れるものか……」

「……………は?」

「──────」

 

 ゾワリと殺気が膨れ上がりルフェイがヒッと息を詰まらせる。殺気の発生源は、ブリュンヒルデ。

 

「……困難に、立ち向かう?まさか貴方は、()()()()()()()()()で英雄を名乗れると思っているのですか?」

「?英雄とはそういうものだからね」

 

 違うのかい?と首を傾げる曹操にブリュンヒルデは恐ろしく冷たい声でそうですか、と呟く。

 

「私は、貴方方を英雄とは認めません。そんな者が、私が愛する英雄を騙って良いはずがない……信念もなく、何かに備えているわけでもないと解った以上、私は貴方達を殺すことに最早躊躇いはない」

 

 槍を構え、北欧式の魔法陣を展開するブリュンヒルデ。

 

「まあ待ちなよ。君達は八坂姫を取り返したいのだろう?」

「…………」

 

 ピクリと眉根を寄せ動きを止めるブリュンヒルデ。

 

「今夜、二条城に来ると良い。そこで実験を行う!是非とも制止するために我等の祭りに参加してくれ!」

 

 

 

 

「逃がして良かったので?」

 

 フィエルダーが問いかける。周りに喧噪が戻る。元の世界だ。

 エミヤはトントン地面を足で叩く。

 

「ブリュンヒルデは嫌ってるけど俺は好きだよ彼奴等。自分のために恥ずかしげもなく動ける奴は大好きだ。でもまあ、あのやり方で英雄を名乗るのは確かに面白くない………というわけでグラトニー、今地下を流れ二条城に集まりつつあるエネルギー喰っちまえ」

「はーい」

 

 そういうとグラトニーは地面に口つけズルリと何かを吸い込むように頬を窄ませゴクリゴクリと喉を動かす。時折口の周りに何かキラキラ光る。

 

「あれは何しておるのじゃ?」

「気脈、あるいは龍脈にたまるエネルギー喰わせてる。ドヤ顔で儀式を始めようとして何も起きない光景が目に浮かぶぜ」

「あの、エミヤさん!このわんちゃん私にくださいませんか!?」

「良いよ」

「やったー!」




ちなみに召喚とか転移系でエミヤが異世界に行った場合どうなると思う?

オーバーロード

アインズの魂は人間だから喰われることはないだろうけど王都で魔王(笑)が菓子屋を攫ったらナザリックが滅びるだろうなぁ

ゼロ使

初期ルイズ偉そうだから下手したら……

ティファニアだったらエルフと人間が共存できるな

ジョゼフならタバサは復讐を諦めなきゃ

教皇だったら、ハルケギニア終わるな


問題児

何人の神様がご飯になるかな?


異世界魔王と召喚少女の奴隷魔術

フォースヒュドラは美味しいのだろうか?クルブスクルムとはお菓子巡りしそうだな


ゲート 

異世界オワタ


fate

この戦争、我々の勝利だ……え、めんどい?


うん。混沌だな


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二条城

「ねえねえ九重。お母さん助けるけど代わりにお願いして良いかい?」

「む、願いじゃと?」

「俺と友達になってくれよ。今、オーフィス一人しかいないからな」

 

 オーフィスはん?と振り向く。呼ばれたと思ったのだろう。

 

「……お主、寂しいの」

「そうでもないさ。愉快な部下達が居るからな」

「うむ。そうか………うむ!では今日から友達だ、エミヤ殿もオーフィス殿もよろしく頼む!」

「我も?」

「うむ!友人の友人は友人だ!」

「………友人」

 

 言われない言葉を復唱し、オーフィスはコテンと首を傾げる。

 

「さあ行きましょう皆さん。おそらくバラバラに転移させてくる可能性があるので互いに位置が解るように魔法───エミヤさん?」

 

 ルフェイが各々に魔法によるマーキングを施そうとするとエミヤが拳を握っているのが見えた。

 

「てい…」

「ええ~」

 

 そのまま空間に穴をあけた。元々龍脈を利用する都合上、京都と密接する場所にあった結界空間ではあるのだが仮にも神滅具の結界を拳で空間ごと破るって………。

 

「ん、京都再現されてる………つまり食べ放題?」

「いや、食料までは再現されていないな」

「チッ、使えない」

「だからゲオルクはゲオルクって呼ばれる………」

 

 オーフィスの言葉に目を輝かせたグラトニーだったがエミヤの言葉に舌打ちし、オーフィスも人の名前を蔑称のように扱った。

 

「所でエミヤさん、この子何が出来ますか?」

「体当たり、噛みつく、引っ掻く、火炎放射、仲間を呼ぶ、大きくなるだ……」

「なるほど。ではリルちゃん、仲間を呼ぶ」

「あおぉぉぉぉん!」

 

 ルフェイの言葉に遠吠えをあげるリル。足下に大量の魔法陣が現れ沢山の子犬型フェンリルが現れる。その数、元々この場にいたのを含めて101匹。黒歌の顔がひきつった。

 

「わん!」

「はっはっ!」

「にゃぁぁぁぁ!来るにゃ来るにゃあ!おす、わぷ!やめ、おねが──甘噛みするにゃあ!」

「……黒歌さん、ずいぶん懐かれてますね」

「ペットとして先輩だからな。彼奴がボス、じゃれてるのさ」

「そうですか。微笑ましいですね」

 

 たくさんの子犬がじゃれつく姿はなるほど確かに可愛らしい。一匹一匹が神をも殺せる力を持っていることを除けば………甘噛みでもうっかり死にかねない。

 

「おすわり!」

「「「わん!」」」

 

 黒歌の言葉に一糸乱れぬ動きでおすわりするフェンリル達。黒歌ははぁはぁ、と乱れた着物を整えながら肩で息をする。おすわりの姿勢で待っているフェンリル達は褒めてと言わんばかりに尻尾を振って首を傾げる。

 

「………いくにゃ」

 

 

 

 途中で慌てた様子でやってきた攻撃を吸収する影使いをオーフィスが瞬殺して、そのほかの神器使いをフィエルダーが切り裂きあっという間に二条城についた。

 

「やあ良く来──なんだこの大量の子犬は!?」

「リル君と100匹の仲間達です!全部で101匹、可愛いですよね?」

「確かに可愛いが、気が抜ける光景だ………」

 

 と、ルフェイに抱えられたリルを筆頭に尻尾を振って此方を見つめるつぶらな瞳にため息を吐く。しかし何故此方を見て尻尾を?餌でももらえると思っているのだろうか?

 

「母上!」

 

 と、九重が叫ぶ。視線を追うとそこには虚ろな目をした女性。九重の言葉に反応しない。

 

「洗脳か……」

「ああ。そうだよ、実験に協力してくれるようにね……さあ、始めようか」

 

 そういうと曹操は槍の石突きで地面を叩き……叩き……

 

「……あれ?」

「ゲオルク?」

「これは、馬鹿な………集めた気脈のパワーが、消えている?」

 

 九重が首を傾げ曹操が眼鏡の男性に問いかけ眼鏡の男性が驚愕してエミヤがあ、と手を叩く。

 

「忘れてた。気脈のエネルギーはもうないぞ。あんな堂々集めて対策されないと思ったのか?全部グラトニーが喰ったよ………しかし『さあ、始めようか』って………ぷふ!」

「笑ってはいけませんよ旦那様。そもそもあんな事を英雄の本質だと真面目な顔で言う輩が考えた作戦など穴があって当然です」

 

 吹き出すエミヤを窘めるブリュンヒルデ。エミヤもそうだな、と笑うのをやめ向き直る。

 

「さてそういうわけでもうお前等の実験は行えない。早く九重の母さん返しな」

「そして和菓子の再現も結界の中に」

「我も命じる」

「うん、二人とも静かにするにゃ」

 

 場の空気を読まないグラトニーとオーフィスを黒歌が呆れたように窘める。

 英雄派達になにやらいたたまれない空気が流れる。

 

「………まあ、良いさ。どのみち最終的な目的が今ここに現れただけ。ヘラクレス、ジャンヌ」

 

 と、曹操が呼ぶと金髪の女性と大男が出てくる。エミヤはふむ、と顎に手を当てるとブリュンヒルデに正座させる。

 

「フィエルダーはあの聖なる雰囲気がかけらもないジャンヌ、ルフェイは101匹の子犬達ででかいのと戦っててくれ。デナイアル、その魔法使いの知識と神器は欲しいから生かしたまま捕らえろ。俺は寝る。きちんと加減して仮眠できるぐらいの時間は戦えよ?ふあぁ……」

 

 とエミヤはそういうとブリュンヒルデの膝に頭を乗せ眠り始める。オーフィスは暫く曹操達と見比べた後、エミヤの腹に頭を乗せ眠る。

 

「お、おいお主等!?」

「大丈夫にゃんお姫様。手加減するよう言ってたから、きっと暫くは安全だにゃん。さ、おねーさんと結界に閉じこもるにゃ」

 

 黒歌は全てを諦めたような目で呟くのだった。



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蹂躙

「仮眠できるぐらいの、か……神様は寝るときは本当に深い眠りにつくからなぁ」

 

 フィエルダーは聖剣型の魔獣を生み出す。

 儚い寿命しか持たず生物として得るべき機能も感情も全て捨て去り、剣としてのみ存在を許された結果強大な光力を得た『忠誠の劣兵』の亜種は、普段より光力が押さえられている。

 

「なめられたものよねぇ、確かに産み出せる聖剣は私のに匹敵するけど、手加減して倒せ、だなんて」

 

 聖剣を生み出しクルリと回して再び構えるジャンヌ。その目は既に自分が勝者であると騙っていた。

 

「一つ質問だが、ジャンヌというのはあのジャンヌダルクの事かな?」

「ええそうよ。私、彼女の生まれ変わりなの」

「僕は元は教会の信者だけど、家に輪廻転生なんてあったけ?」

 

 と、首を傾げるフィエルダー。しかもジャンヌダルクの魂は鳩になって飛び去ったという逸話もある。天に召されたのなら何故こうして現世に産まれているのだろうか?いや、それより気になるのは………

 

「ジャンヌダルクは救国の英雄だろう?君はいったい何を救う気なんだ?」

「ん?救うって……別に?ただ前世にならって偉業を成さなくちゃって思ってね♪」

「…………なる程、馬鹿か……」

 

 何も救う気がないのに何で聖女名乗ってるんだろうコイツ。

 

「時間をかけて倒せと言われたし、寝起きは運が悪ければ最悪だが、それは他の人に任せよう」

「あら、なめないでよね。私がただ剣を扱うだけとでも?禁手化(バランス・ブレイク)♪」

 

 と、ジャンヌの足下から大量の聖剣が現れ重なり合いドラゴンの形を取る。

 

「この子は私の禁手(バランス・ブレイカー)『断罪の聖龍』(ステイク・ビクティム・ドラグーン)。もう至ってたのよね、私」

「それで?」

「………へ」

 

 視界がひっくり返る。見れば聖剣のドラグーンもバラバラに切り刻まれており、ジャンヌは有り得ないと叫ぶ。否、叫ぼうとするが、口がパクパク動くだけで声は出ない。仕方ない、人間は魔獣と違って肺がなくては声を出せないのだから。

 

「しかし魂、か……神は上質な魂を好むけど、無視してた。本当に生まれ変わりなのか?」

 

 まあエミヤの興味なさそうな態度と彼女のアレっぷりをみる限り単なる馬鹿の可能性が高いが。

 

 

「がい!くそ、くそぉぉぉ!」

 

 ヘラクレスは必死に拳を振るう。その度に爆発が起こるが子犬はその場でポリポリ後ろ足でかくだけで傷一つ無い。

 

「わあ、凄いですね!」

「わん!」

 

 ルフェイは素直に褒めているが冗談ではない。なんなんだこの子犬達。殴る度に拳が痛み、何時しか子犬が巨大な狼に見えてきた。

 

「それじゃあ、えっと………噛みつく!わぷ!?」

 

 ルフェイが新たな指示を出すと一匹の子犬が顔に飛びついてきた。慌てて離すと尻尾を振り首を傾げる。

 

「もー、今は戦闘中だから邪魔しちゃだめ………あれ?」

 

 ヘラクレスの姿は何処にもなかった。ただ子犬達が尻尾を振り何匹かがケプ、とげっぷをした。可愛い。

 

 

「どうした、こんなものか?この程度で良く強気になれたものだ、笑わせる、いや、笑いすら起きないな」

 

 ふん、と鼻を鳴らすデナイアル。巨大な炎が放たれるがそれをあっさり掌から生やした刀で切り裂く。

 上着を脱ぎノースリーブ姿になったデナイアルの腕から複数の刀の刃が生えていた。近づくものを、歩み寄る者を拒絶するように。

 

「くぅ、貴様ぁ!」

「吼えるな、喋るな。不快だ、我が神が生み出した存在と、認められた存在なら息をすることを認めてやる。だが我が神に敵意を向けた者が息をするなど、存在するなど私は認めん。貴様の存在を否定する」

 

 迫り来る凶刃に障壁と霧を同時に発生させるもあっさり切り裂かれる。

 

「無駄だ。我が剣に切れぬモノはない……そんな存在、私は否定する」

 

 それがデナイアルの、『否定の将』の能力。魔力の結合、分子の結合、空間の結合、果ては刃が触れるという結果すら否定してあらゆるモノを切り裂く。あらゆるモノを傷つける。その気になればゲオルクなど空間ごと切り裂くことが出来るし、例えば触れるという概念すら否定し骨や肉に傷を付けず心臓を切り裂くことすら容易い。

 

「───っく!」

 

 だが、攻めきれない。ゲオルクはそう判断する。まだ己は生きている。それが証拠だ。

 もちろん勘違いだ。殺さぬように、さらに手加減するよう言われているから時間がかかるだけ。他の全てに否定的でも、否定的だからこそデナイアルの忠誠はフィエルダーにも劣らない。

 

「………10分か、もう良いだろ」

「何を………───な!?」

 

 と、突然ゲオルクの身体が崩れ始める。デナイアルに斬られた場所から、分子の結合が否定されているのだ。

 

「脳と心臓と肺、血管さえあればとりあえず生きれるだろう?このまま連れて行くか」

 

 血管と内蔵、脳の固まりになったそれを運びやすいように纏めると主に向かって歩き出すデナイアル。眼球を失い鼓膜を失い皮膚を失い神経を失った五感のないゲオルクにはもはや神器を操ることすら不可能だった。

 

 

 

「まさか、そんな………」

 

 幹部達がまるで相手にならない。しかも派手な戦闘音はいっさいしない、エミヤの寝たいという意思を尊重したのだろう。見誤っていた、彼等の強さを。まずい、まずい!内心焦りながら何とか手を探す曹操。仲間もやられて、思いつくはずがない。だが──

 

「………?」

 

 全身から流れる冷や汗を押さえられずにいた曹操の顔から不意に表情が消える。エミヤの頭を撫でていたブリュンヒルデが訝しみオーフィスがピクリと肩を振るわせ目を開ける。

 

「…………ほう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「旦那様?」

 

 ムクリとエミヤが起きあがる。その口調は何時もと異なり、その声は何時もより高い。

 髪が深い海底の水のように青色に染まり不機嫌に歪められた眉根の下に輝く瞳は翡翠色で、瞳孔は縦に避けていた。

 

「あ、まずい方の寝起きだこれ……」

 

 戻ってきたフィエルダーがそう呟く。

 エミヤは女神の魂を取り込んだ。故に本来性別などあってないようなもので、その気になれば女にも男にもなれる。元が男だから男の姿を取っているが力を解放すると女神の側面が出て女になる。なら、果たしてそれは外面だけですむだろうか?

 

「………久しいなティアマト、子に殺された哀れな神よ」

 

 曹操の見下したような言葉にエミヤはさらに不快そうに顔を歪める。髪が伸び、胸が膨らみ背が伸び角が生える。

 

「我はエミヤだ、間違え───む、エミヤ?いや確かにティアマト……ああ、イライラする!だが、どうでも良い!何せ貴様がそこにいるのだからなぁ!」

「………既に取り込まれつつあるか。皮肉なものだ、外敵に備えたモノが外敵に喰われるなど」

「な、何の、話をしているですか?」

 

 ブリュンヒルデが問いかけるとオーフィスが代わりに答えてくれた。

 

「エミヤ、一番馴染んでないのがリリスだったから気づかなかった。まだいる……あれ、その一人……一人?でも、殆どエミヤ」

「馴染む?」

「それとあっち、もう曹操じゃない……あれ、聖書の神」



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聖書の神

「忌々しい小僧め。良く我の前に姿を出せたものだ、この場で滅ぼされる覚悟は出来ているのだろうなぁ、ええ?」

 

 エミヤの体を使うティアマト………いや、ほぼエミヤに取り込まれかけたティアマトの残滓が曹操の体を乗っ取った聖書の神を睨みつける。ビリビリと震える空気。偽りの京都の地面が、建築物が、空が、空間そのものがひび割れる。

 

「相変わらず馬鹿げた力だ。世界そのものに匹敵する………真龍と龍神さえいなければ貴方が頂点だったろう。世界になった、などと言う逸話が広がるわけだ」

「貴様が素直に余所の神を、己以外の神を誉めるとは思えん」

「酷い言われようだ………私は君達の強さを尊敬してるよ。この世界の未来も知らずに平然と過ごすことを見下しているだけだ」

 

 ふん、と鼻を鳴らす聖書の神の目には確かな侮蔑が浮かんでいた。

 

「知れるだけで実現できるわけでもない全知風情が吼えよる」

「全能のくせをして、唆された我が子を殺すことも出来ず死んだ女神が偉そうに……いや、今はもう殆ど外敵に喰われているのだったな」

 

 聖書の神から、その手に持つ槍から膨大な聖なるオーラが放たれる。

 

「我や()、その他神話の怪物に全知という特性を利用して生み出した術式を刻んだ道具……それらを作り何がしたかった?」

「この世界を守る。貴方達では役者不足だ」

「言ってくれるな……」

「貴方達は、今の世界以外に世界があるとは思わないのか?我々だって、互いを知らなかったというのに」

「何だと?」

「その身に宿る魂は間違いなく我等の知らぬ理の外からきた。そして、我々や或いは貴方よりも神格が上の神だ。貴方達を取り込むほどにな」

 

 その言葉にエミヤは己の胸に手を当てる。今己の中にある記憶は、誰の記憶だ?

 神を産み続け、炎の神を産んで焼け死んだ記憶がある、神を産み続け、その内子供達に反逆され殺された記憶がある。他人との価値観の違いを自覚しながら隠して生きていて、気がつけば不可思議な力を持って異なる世界に暮らしていた記憶がある。己の神話の主神が他の神話と和議を結ぼうとしているのが我慢できず襲撃し()()に殺された記憶がある。

 だが、主観は一つ。その記憶こそ己のモノだと言えるのは一つ。

 

「────ああ、そうだな。うん、感謝する」

「────」

「これが俺だ。思い出した」

「───余計なことをしてしまったか」

 

 聖書の神としては挑発し、己を強く思い起こさせ調和を乱そうとしたが外敵の魂が思った以上に我が強かったらしい、むしろ己を見直して完全に吸収してしまった。

 

「イザナミ、ティアマト、ロキ……いろんな記憶を見てもお前やらかしてんなー……しかし外の存在に備える、ね……俺のことを予知してたのか?」

「残念ながら、君は完全なるイレギュラーだよ。機械の邪神が攻めてくるのは見えていたんだが、君は知らん。だが未来この世界を守る礎になるはずだった赤龍帝を殺した君は間違いなくこの世界の敵だ」

 

 え、あんな変態が世界を守る礎?大丈夫かよこの世界と世界の未来が心配になるエミヤ。しかしどうも相手は真面目に言っているらしい。

 

「だから、ここで君に対抗する用意をさせてもらおう」

 

 パチンと聖書の神が指を鳴らすとオーフィスの足下に魔法陣が現れる。そこから溢れてきた黒いオーラがオーフィスを包む。エミヤが黒いオーラを腕に纏い魔法陣に腕を突っ込む。

 

『があぁぁぁぁぁぁ────!?』

 

 引きずり出されたのは堕天使の上半身と東洋の龍のような長い龍の下半身を持った貼り付けの生物。首を捕まれ苦悶の声を漏らすもボギリと首の骨が折られる。

 

「イザナミの死のオーラで防いだか。嫌になるよ、私のように術式を編み出さずともそれほどの力を持つのだからね……」

 

 エミヤがポイッと放り投げると広がった影に吸い込まれていく。が、その前に腹を突き破った黒い蛇が聖書の神の手に収まる。

 

「……我の力、取られた」

「もとよりそのために造った堕天使だ。ハーデスめ、私を嫌ったくせに私が残したものを使うか。まあ、彼ではこれを十全には使えないだろうがね」

「我今二天龍の五倍程度の弱さ」

「そりゃまた、弱体化したな」

「残念……」

 

 と、オーフィスの頭を撫でて慰める。

 

「んじゃ、それ返せ聖書の神」

「断る」

 

 エミヤの言葉にそう返した聖書の神。なら殺すとエミヤがゴキリと指を鳴らす、瞬間聖書の神が描いた術式から霧が放たれる。

 

「………神滅具の再現か。流石制作者………」

「逃げられましたか?」

 

 と、問いかけてくるブリュンヒルデ。

 

「……旦那様」

「ん?」

「私は、例え貴方が何処の何者であろうとも、貴方の妻です」

「………そう、ありがとう」

 

 エミヤはそういうとデナイアルが持ってきたSAN値チェックが必要そうな物体を取り込み偽物の京都を消し去った。



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報告

「おーすサーゼクス、ホテルサンキュー。楽しめたぜ」

「ああ、それは何よりだよ」

 

 と、笑顔のまましかし親しげ雰囲気は全く感じさせないサーゼクス。

 

「それで、我々を集めたのは何故でしょう?」

 

 この場には天界、堕天使、悪魔のトップが集まっていた。集めたのは当然エミヤ。

 三大勢力の他にいるのは北欧の主神であるオーディンだ。

 

「ん?京都で襲ってきたテロリストの内二人が神滅具持ちだったから。片方は霧で片方は槍」

『絶霧』(ディメンション・ロスト)『黄昏の聖槍』(トゥルー・ロンギヌス)か!?くそ、テロリスト共が持ってたのか………それで、そいつ等は?」

「霧の方は喰った。おかげでちょっとした世界作れるようになったぜすごくね俺?白鯨も強化できたしな……」

「また神滅具を手に入れたのか。一つの勢力に、集まりすぎじゃないかな?」

「ホホ。元より神殺しの獣を無限に産み出せるエミヤからすれば今更であろうよ」

 

 サーゼクスの皮肉にオーディンが笑う。確かにそうだ。魔獣派閥には多くの神クラスの存在がおりしかも今でこそ北欧に一匹渡ったがそれでも100匹のフェンリルが居る。

 

「それとオーフィス保護した」

「「「………は?」」」

「いやー、聖書の神が名前忘れたけどだせぇ格好の奴の体を乗っ取ってサマエル使ってさ。それで力失って一応友達だったから保護したんだよね」

「ま、待て!お前今いろいろ凄いこと言ったぞ!?聖書の神?サマエルゥ!?」

 

 アザゼルが思わず立ち上がり叫ぶ。とても聞き逃せ無い単語だ。特に聖書の神。

 

「復活したのですか、主が?」

「復活って良いのかも微妙だな……あれ、あくまで意志と知識だけで能力は殆ど失ってるし。まあだからこそ神滅具なんて残したんだろうな」

「?まるで知り合いだったように言うね」

「知り合いだったからな。俺が食ったティアマト、イザナミ、この前のサマエルの記憶をみた俺からしたら良く知る相手だよ」

 

 キシシ、と笑うエミヤ。またしても聞き逃せ無い言葉。

 

「ティアマトにイザナミだと?どっちも神産みの神、規格外の神格じゃねーか……」

「俺の神器に封じられていたからな。喰った」

「はあぁ!?あのオヤジ、何考えて余所の神話の祖神に手を出しやがった!?」

「外敵に備えるとか言ってたぜ?で、お前等はどーすんの?」

「どうする、とは?」

 

 エミヤの問いかけにビクビクしながら聞き返すミカエル。解ってんだろ、と笑うエミヤ。

 

「このまま復活した神について俺に仲良く殺されるか、同盟続けて生き残るか、俺はどっちでも良いよ?」

「─────!」

 

 口ではどちらを選ぼうと気にしないというも、ビリビリと大気を揺らす圧力がオーディンから放たれる。

 オーディンから……ということはやはりエミヤ自身はどちらを選んでも構わないと思っているのだろう。殺せると思っているから。

 

「わ、我々は………その……まだ、聖槍使いが騙っているだけの可能性もありますので何とも……」

「そうか、残念。四大天使を喰うのも面白そうと思ったんだがな……」

「──────」

「取り敢えず監視をつけるぞい。監視からの連絡が途絶えたり、お主等が聖書の神と接触したと知れば即座に屠りにゆくからの?」

「肝に銘じます………」

 

 

 

 

「良かったのかお義父さん、あれ、本物だったら裏切るって事だぞ?」

「聖書の神は力を失っておるのだろう?それに、奴を嫌う者は多い。他の神話も監視につくだろうし、干渉はしてこんだろうよ」

 

 何せ全ての神話に狙われるのだ。ただでさえ追われることになるだろうにわざわざ見つかるリスクを犯すはずがない。

 

「でも一人じゃ出来ないこともあるだろうし、どこかに協力もとめねー?」

「ふむ。問題は何処に、だが………」

「あれに協力する勢力がいるとは思えないけどな………勢力っつえば俺ギリシャと須佐山の顔合わせがあったんだ………面倒くせ」

「力を持つ故に仕方なかろう」

「最近ブリュンヒルデが機嫌悪いんだよなぁ、面会の話が来てから………」

 

 どうせお見合いの申込があるからだろうが………。それが原因なんだろうなぁ。

 

「俺は別に相手を愛してねーけどな」

「ブリュンヒルデもじゃろ?だが、妻という地位は今はあやつだけ。特別でいたいのだろうよ」

「かわいいねぇ、そう言うところは好きだよ俺」

 

 ケタケタと笑うエミヤ。ブリュンヒルデの嫉妬を微笑ましく思っているのだろう。

 

「帝釈天は娘のジャヤンティ、ゼウスは娘のムーサ達芸術の女神九姉妹だったか?」

「嫁が一気に10人も増えるとか、面倒くせーなぁ。特に嫁が増えることに対抗心持ってるのかブリュンヒルデが夜来るし………」

「惚気か」

「うん」

「はぁ、儂も若い頃はなぁ……」

 

 

 

 

「ふぅん、どうせ天界にゃ干渉できないから俺を、ねぇ……」

 

 銀髪の神持つ男は目の前の男の言葉にヘラヘラと軽薄な笑みを浮かべる。

 

「策はあんのかよ?相手は一神話に匹敵、凌駕するものほんのバケモンですぜ?」

「ある。まずは悪魔の領からある女を奪う。それで夢幻が手に入る……」

「夢幻?グレードレッドがか!?おんもしれーなそれ!」

「その後はある獣を起こす。この体では時間がかかるが、目覚めさせさえすればグレードレッドと同等の戦力になる」

「操れんのかよそんなん」

「元々は神話同士が手を組まなくてはならない脅威かつ古い世代を離すために捕らえていた獣だ。操る方法など持ち合わせていない。が、攻めてきた時に起こせば自ずと騒がしい方に向かうだろう」

 

 神話同士が手を組むレベルの獣?まさか、あれか?と楽しそうに笑う男。

 

「協力してくれるね?協力してくれるというのなら、グレードレッドをもって好きな世界を破壊すると良い。私はそちらに興味はない。この世界さえ救えるならそれで良い」

「……………」

「彼の体も、魔神化させ成長した女にして君に渡そう。君を弟として時に厳しく時に優しく接してくれるよう人格を植え付けてから、ね……」

「それはすばらしい」

「戦力についても問題ない。本物の聖杯さえ手に入れば、自分達こそ至高の種族と思っている奴らを味方に出来るからね」

 

 

 

「────!?」

「どうした?」

「なんか、嫌な予感が」

「お主が嫌な予感じゃと………これは、警戒しなくてはならなそうだ」




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お見合い

今回はちょっとしたネタ回


 世界内包式魔獣『白鯨』。

 名前の通り腹の中に広大な空間を持ち独自の生態系と知性を持つ魔獣達が住む町がある。その町中に存在する武家屋敷。そこに……

 

「やーん、可愛い~!」

「小さい~♪」

「私にも撫でさせて~」

 

 10人の美女美少女達にもみくちゃされる褐色ショタが居た。

 

「デハハハ!早速仲良くなれたようだの!」

「HAHAHA!その年で女に囲まれるとか将来はどんだけ囲ってるって話だな!」

 

 楽しそうに笑い出された菓子を頬張るのは大男とアロハシャツ姿の男。ゼウスと帝釈天、各々の神話のトップだ。

 そして目の前の少年は人間でありながら宿った神器の内に眠る魂を喰らい、北欧の悪神を圧倒しそれすら喰らい神格を得た神話の世界において話題の存在エミヤ・リリィ。

 

「つーかお前その角なんだ?」

「これがなければ頭にすりすり出来るのに~」

 

 帝釈天の言葉にエミヤに抱きつく女性の一人が残念そうに言う。

 現在エミヤを抱きしめ、取り合っている者達の名は帝釈天の娘ジャヤンティ。ゼウスの娘達九姉妹(ムーサイ)のカリオペイア、クレイオー、エウテルペー、タレイア、メルポメネー、テルプシコラー、エラトー、ポリュムニアー、ウーラニアー。

 

「ああ、これはリリスやらティアマトやら完全に取り込んだからか生えてきた。因みに埋めることも出来る」

「………何処に入っている?」

 

 エミヤが手で押すとズブズブと頭に生えていた角が沈んでいく。どうなってるんだろうか……。

 

「やった~、これですりすりでき───」

「コホン」

 

 と、わざとらしい咳にムーサイ達とジャヤンティがギギギと振り返る。そこにはにっこりと微笑むブリュンヒルデ(第 一 夫 人)の姿が。

 

「旦那様が多くの妻を娶ることは仕方ありません。ええ、それは理解しております。ですが、正妻である私を前に好き勝手するのはやめていただけないでしょうか?」

「「「ご、ごめんなさい」」」

 

 ブリュンヒルデは半神。本来なら純神である彼女達の方が神格は上なのだが、逆らったらヤバいと本能で悟った。というかジャヤンティ以外は芸術の神だ。どこぞの英霊として召喚した方が本物より強くなる女神達みたいなものだ、戦乙女に意見できるはずがない。

 

「旦那様も、そのようにされるがままなんて……」

「悪いな俺、お前が嫉妬した姿見るのが楽しいから」

「好きだから、ではなく楽しいからなのですね………困った人ですね」

 

 と言いながらもテレている様子のブリュンヒルデ。ゼウスがうむうむと頷いていた。

 

「新しいお菓子、持ってきた……ました?」

 

 そこへ菓子を盛ってきたメイド幼女がやってきた。何を隠そうオーフィスである。

 

「おおオーフィスか!デハハ!今回はまた随分かわいらしい姿になったではないか、大人の姿でないのが残念だがこれはこれで……ぶへぇ!?」

 

 オーフィスを抱き寄せようとしたゼウスは可愛らしい紅葉を作り吹っ飛んだ。弱体化しているとはいえ天龍の五倍は力が残っている。神すらも恐れた天龍の、だ。ゼウスといえども吹っ飛ばされる。

 

「きゃー、お客さんの……エッチ~?」

「HAHAHAHAHA!なぁにやってんだよゼウス!つかオーフィスがメイドって」

「我はただのメイドじゃない。戦闘もこなし時には主を背に乗せ飛ぶ万能ドラゴンロリメイド……」

「すまんな、アニメを教えたらこうなった」

「後四人募集中。具体的には魔女っ娘メイドにロボットメイドにケモ耳メイドに謎のメイドX。我はケモ耳に九重をお勧め」

「誰だオーフィスをここまで汚染しやがったのは……」

「俺ですぜ神さん、気に入ってくれた?」

「HAHAHA、お前最高!」

「良くやったな!デハハ!」

 

 エミヤの言葉に塀からニュと親指を立てて姿を現したフリード。帝釈天とゼウスに誉められるとニヒルな笑みを浮かべながら去っていった。

 

「しかし魔女っ娘ねぇ………一人知り合いが居た、呼んでみるか」

 

 と、電話をかけるエミヤ。果たして────

 

 

「エミヤくーん、呼ばれてきたにょ☆」

「「ヴオェェェェェェ!」」

「「「キャアアアアア!?」」」

 

 現れたのはパッツンパッツンに引き延ばされたメイド服を着た巨漢。もう一度言おう、巨漢だ。それがメイド服が今にも弾けそうなほどきついというのに着ておりポーズを取る。帝釈天とゼウスが吐き出し女神達が叫ぶ。

 

「紹介しよう。魔女っ娘メイド候補の俺の友人ミルたんだ」

「…………これはない」

 

 オーフィスがぼそりと呟いたので却下になった。ミルたんは別の部屋に移動すると今度は魔法少女のような格好をして戻ってきた。だが巨漢だ。

 

「な、なんだこの生物……魔獣?」

「人間だ」

「嘘だろぉ!?」

「ミルたんとは次元の狭間で知り合ってな。魔法少女になるために異世界に向かってたらしいんだ」

 

 うん、その時点でもう意味が分からない。

 

「いやぁ、なかなか有意義な旅だったぜ。バカな女を騙して宇宙のエネルギーにしようとしてる宇宙人と、騙されたバカな女こと魔法少女がいる世界では文明を破壊し尽くせる奴食えたし……」

「あれは解決方法が大変だったにょ。なんとかマスコットさんに感情を思い出してもらい自分達で代用してもらったんだにょ」

「あれは感情と言うより生物の原始的な本能だと俺は思うよ」

「ミルたん的にはあの世界が大変だったにょ。願いを叶える石を集めてミルたんが魔法少女になれるよう願ったのに暴走するし……結局これもエミヤ君が食べちゃったにょ。それでもう娘を生き返らせられないって泣いてるかわいそうな人も居たから、ミテラさんが聖杯で生き返らせたにょ」

「あー、あの世界か~………俺、彼処でミルたんに殺されかかったけ」

「あれはエミヤ君が呪われた本を持つ女の子を本ごと食べようとしたからにょ」

「反省してるよ」

 

 お手上げ、と言うように手を挙げるエミヤ。どの程度前なのかはしらないがあのエミヤを殺しかけるなんて何者だろうか、この男は。

 

「それにしてもエミヤ君のところのご飯は美味しいにょ」

「そう言う風に造った魔獣達だからな。時間の流れが違う空間で生態系を宿らせてみたら……これがびっくり!元々は『美味くなり続ける』つー進化をするだけの設定だったんだが、美味いイコール狙われるって事で美味い奴ほど強くなったり美味い食材を独占するために強くなる奴がいたりともう生態系がめっちゃくちゃ。一応美味くなるつー進化には従ってんのか体がクッキーの動物とかもいるしな」

「へぇ、そりゃ面白そうなところだ」

 

 

 

 

 

「んじゃ、俺の娘を任せたぜ」

「泣かすなよ、小僧。儂のように泣かしてばかり居るといつかひどい目に遭わされるからな!」

 

 帝釈天とゼウスはそう言い残すと去っていった。




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吸血鬼

 エミヤは基本的に人間関係に嫌いはない。楽しければ好きで楽しくなければどうでも良い。

 事実自分を殺そうとしたリアスに対してもまた向かってくるなら面白いなぁ、程度には思っている。

 そんなエミヤが嫌いな種族がいる。それは──

 

「吸血鬼ぃ?何で彼奴等が俺に面会望んでんだよ、何?食われたいの?喰うよ?能力も残らないほど噛み潰してただのエネルギーにして喰い殺すぞ?」

 

 手紙を受け取り不機嫌そうな顔をするエミヤ。

 エミヤが家族として好きなミテラは元吸血鬼である。が、王家の血を引きながら人間の血も引くという所謂ハーフ。城に幽閉されてた頃はまだ安全だったがエミヤの前に突如現れた結果過激派に命を狙われた。

全員返り討ちにしたがそれ以来エミヤは吸血鬼が嫌いだ。正確にはミテラをハーフの卑しい娘などとのたまう吸血鬼が。

 

「てか恥とか言って幽閉したり殺そうとしたりしといて俺の母という地位を得たからって何を今更……」

「ふふ。お母さんってやっと認めてくれたのね」

「おい誰かミテラ追い出せ」

「神よ、母上殿にそのような態度は………」

 

 どうやら母かどうかについて自分の味方はいないらしい。

 

「とりあえず俺は吸血鬼共のところに行ってくる。対応次第では殺してくるから遅くなるかも」

「あ、それなら新しい奥さん達と新婚旅行にしたらどうかしら?」

「…………………」

 

 

 

「我々はヴァレリー・シュペシュを呼んだはずですが………大切な家族にも会えないのですか?」

「さんざん嫌っといて今更ほざくな。殺すぞ」

 

 出迎えた男にエミヤが吐き捨てると周りの吸血鬼達が不快そうに顔を歪める。

 

「貴様、元人間が何様のつもりだ!」

「帝釈天とゼウスとオーディンの義理の息子様ですよ」

 

 ケラケラ笑うエミヤの言葉にぐっと言葉に詰まる吸血鬼達。

 

「虎の威を狩る狐め……元人間の分際で」

「お前等が崇めるヴラド・シュペシュだって元人間じゃねーか。あ、自分達は下等です罵ってくださいってふりか?」

「貴様ぁ!もう我慢できん、元より結果は変わらん、ここで殺してくれる!」

 

 と、一人の吸血鬼が影を獣に変え襲いかかってきたので、グシャリと頭を踏みつぶす。黒いオーラを纏った足で。

 

「殺すのが、結果は変わらないねぇ………白状ありがとう。俺はお前等吸血鬼がミテラに今更会おうとして企みがないなんて思ってねーよ」

「ほざくな!本物の聖杯によって魔王も越える力を得た真なる吸血鬼の力をとくとみるがいい!」

 

 一人の吸血鬼が叫ぶと成る程確かに膨大な力を持っていた。

 

「本物の聖杯?」

「ええ。提供されたそれと、使い方を記された書を使い我々を強化したのですよ」

 

 そう答えたのはエミヤを出迎えた吸血鬼の男性。

 

「それにより我等はフェニックスに匹敵する力を手に入れたのですよ」

「………ふぅん」

「その通りだ!頭を潰した程度で、最早我々を殺せると………殺せ………る、はずが………」

 

 勝ち誇った顔でエミヤが頭を踏みつぶした吸血鬼を見る。いっこうに再生しない、どころか黒く染まり朽ちていく身体。

 

「……は?」

「俺は日本神話の原初の神の一柱にして死という概念の始まりの女神、イザナミを喰ってるんだぞ?例え本当に死なない存在が居たとしても『死』と言う概念を押しつけ殺すことが出来るんだよ」

 

 ヘラヘラと笑うエミヤからズルリと黒いオーラが溢れる。触れた瞬間に並の神性でも殺しきる程濃密な『死』そのもの。

 

「死ねよ、虫螻」

「えい」

「───!?」

 

 と、不意に聞こえる聞き覚えのある声。同時に走る激痛。吹き飛ばされるエミヤ。

 

「いてて……なんだぁ?」

 

 背骨が折れて内臓が破裂した。油断していたとはいえ仮にも祖神を取り込んだ自分をここまで吹き飛ばすとは何者だ?

 

「………オーフィス?」

「………オーフィス?」

 

 コテリと首を傾げる黒いドレスの少女。見た目はオーフィスにそっくりだ。気配も………オーフィスから奪われた力を利用したのだろうか?

 

「……ふむ……しかし、この程度か?」

 

 今のオーフィスよりは強いかもしれないが、それでも弱い。

 

「で、いきなり何だ」

「きゅーけつきたちは、リゼヴィムの下僕。守れって言われた」

「リゼヴィム?」

「ん……」

 

 聞いたことがある名前だ。確か旧ルシファーの息子、又の名をリリン。

 

「………リリン?」

 

 てっきり聖書の神かと思ったが、リゼヴィムが本物の聖杯の使用方法を知っていたのか?いや、まさか手を組んだのか?悪魔の王の息子と聖書の神が?

 

「……それで、お前は吸血鬼を救うように言われたのか?」

「うん。手駒はしっかり残せって……」

 

 壁の吹っ飛んだ城をみる。だいぶとばされたようだ。

 

「おい、お前名前は?」

「リリス」

「お菓子やるからどけリリス」

「……………………駄目」

「ずいぶん間があったな………あん?」

 

 と、何かが襲いかかってくる。裏拳で殴るとあっさり死んだ。

 何時の間にか辺りに異形のバケモノ達が集まっていた。

 

「なんだこりゃ」

「吸血鬼」

「ああ、貴族以外と賛同しなかった貴族の成れの果てってわけか………死ね」

 

 と、黒い風が当たりに撒き散らされ吸血鬼だった醜い怪物がバタバタ倒れていく。リリスが何もしてこなかったという事はリゼヴィムの下についた吸血鬼達は皆逃げたのだろう。

 

「帰るのか?」

「うん……」

「家に来たら好きなだけ美味い菓子が食えるぞ。向こうにいて何か手に入るのか?」

「………………」

 

 仮にも祖神二柱に悪神、その他亡者達を喰らったエミヤ相手にこの程度の相手を送るなどどう考えても捨て駒として利用したとしか思えない。ならば、何かが与えられているはずもなく──

 

「我、ついていく──」

 

 あっさりついてきた。

 余談だがリリスを見たオーフィスが謎のメイドX枠に入れた。その後新しい嫁達と生き残りのいない吸血鬼の街を観光して帰った。何か見覚えのある紅髪の女とシスターと堕天使のハーフと女装吸血鬼と優男と堕天使の男が死に絶えた街を見て戸惑っているのが遠目に見えたが例の眷属ならまだ謹慎中のはずだから別人だろう。と、ブリュンヒルデに報告したら念のために悪魔に確認してみるらしい。




まあ原作のかませ達がエミヤ一人の相手にだってなれるわけ無い。さて、リリスが仲間になりましたが残りのオーフィスの力はいったい何処に(すっとぼけ


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冥界陥落

「おおう、あれてんなー聖書勢力」

 

 神話新聞と言う各神話が手を組み始め生まれた新たな新聞。様々な勢力の情報が乗る新聞に書かれていいて内容は様々でゼウスの浮気事件とかハーデスの部下のプルートの仮面の下の秘密に迫る企画だとかオーディンのヴァルキリーに対するセクハラ問題とか色々書かれているがまあ良い。

 問題は三大勢力。

 『本物の聖杯』が何者かに強奪される。その際『奇跡の子』を含めた多数の死者。伝説のエクソシストにして聖剣使いの退役戦士も強力な聖なる力による氷に封じられたらしい。そんな事が出来るのは恐らく聖書の神ぐらいだろう。

 レヴィアタン領では誘拐事件。しかもその誘拐された人物は神滅具(ロンギヌス)所有者にして旧レヴィアタンの末裔。

 後なんかレーティングゲームの聖地とか言われる場所が盗まれたらしい。下手人は旧魔王ルシファーの血筋リゼヴィム・リヴァン・ルシファー。ついでに『王の駒』の秘密が暴露され、同時期に起こった無理やり転生させられた転生悪魔達によるクーデター。中には英雄派も混じっているらしく、なんと全員が禁手(バランス・ブレイカー)に目覚めているらしい。

 扇動はリゼヴィムで禁手(バランス・ブレイカー)は制作者である聖書の神が行ったと見るべきか。後ついでに堕天使領からも保管していた大量の神器が吸血鬼という枠組みを越えた力を持つ吸血鬼に襲われ盗まれたとか。

 

「しっかし何で助けを求めねーかね?俺なら喜んで参加するのに」

「旦那様に頼める立場ではありませんよ。一勢力の長を殺そうとした相手を許可なく幽閉解除したのですから……」

「ああ、でもあれ吸血鬼に呼ばれてたんだろ?」

 

 一応そう聞いた。まあ吸血鬼如きと三大勢力より立場が上の三つの神話の主神の義子どちらを優先するかというのは明白で、この行為は悪魔は吸血鬼を優先していると取られるのだが。

 ちなみに猫又がいなかったのは黒歌がエミヤのペットになっているのが思いのほか広まり、その妹である彼女だけは悪魔達の監視のために幽閉が続けられていたからだ。

 

「まあ俺は嫌われてるとして、他に助力を求めないのか?」

「他の神話に関しては、このままではいずれ各神話に飲み込まれると理解しているのでしょう」

「いっそ飲み込まれた方が楽になるんじゃね?」

「プライドというモノが彼らにもあるのでしょう……」

「七大罪の傲慢のほう?それとも誇り?」

「…………答えるまでもないと思います」

 

 皮肉の意味を分かった上で尋ねられそつ返すブリュンヒルデ。成る程、確かに言われるまでもなく解っていることだ。

 

「エミヤ様こそ良いんですか~?」

「悪魔の中に気に入ってる方が居たんですよね?」

「お父様には私から誤魔化しておきますよ?」

 

 と、嫁達が尋ねてくる。リリスとオーフィスを含めた三人でピコピコゲームをしていたエミヤは新聞を少し読んでいる間にポーズ画面を勝手に解除されボコボコにされている自分のキャラを見て、速攻でスターを手に入れ二人を場外に吹っ飛ばす。

 

「別に良いよ。謝礼金としての冥界の菓子は喰い飽きたし、気に入ってる奴らだって死ぬならそれだけだろ。助けてやろうと思うほど興味もない」

「もう一人のリリス、協力する」

「任せる」

「よかろう、返り討ちにしてくれる!」

 

 他の神話では助けにこそ行かなくとも結果を気にしているというのにエミヤはどうでも良いらしい。

 

「どっちが王権を手に入れても、まあ……今と大して変わらねーし。たんにご機嫌取りがなくなって潰しに動かれるだけだ」

「潰しに……まあやったことがやったことですからね」

「目的はあったぽいよ?俺のことを外敵とか言ってたし……まあ、自分だけで止めなくてはなんて思ったんだろ」

 

 ガリガリと飴を噛み砕くエミヤはキシシと笑う。

 

「だが彼奴は俺を殺しにくる。良いよ、そういうの。殺意はでっけー感情だ………お前等もそう思うだろ?」

 

 と、エミヤが後ろに視線を向けるとそこには4人の魔獣がいた。『将』ではない。さらに一線を越える強さを持った『王』達。

 

「憎い、憎い………のうのうと生きてようやく反逆されたか哀れな奴らめあっさり死ぬなああ憎い」

 

 大柄な筋肉質な肉体を持ち血の涙を流す目玉模様が大量に書かれた目隠しをしてぶつぶつと呟くのは『復讐の王』ヴァンデッタ。エミヤが喰らう為に集めた亡者の中から怨霊を選び合わせた存在。元々与えていた能力は『同調』。他者の中に存在する復讐心と己の内に宿る復讐心を共鳴させ暴走させるというものだったのだが、予想外の進化により恨みを持つ魂を制限なく取り込み今に至る。

 ギリシャの男神に運命を狂わされた哀れな人間や、戦争で無意味に殺された非戦闘員。もちろん魔女狩りの被害者やその親族、はぐれ悪魔にされ家族に再び会うことも叶わず堕天使に殺された子供などの魂も含むため基本全ての存在に憎悪を抱いている。

 魔獣としての本能か、魔獣やエミヤに対する憎しみを宿す魂は喰らわないが。

 

「戦争か、嫌になる。大義名分を掲げて命を奪いまくる。なら、私が殺す。私なら特に理由はなく殺せる。正義を押しつけあうよりよほど綺麗だ」

 

 日本刀を腰に差しながら目を閉じ呟く黒髪の美少女は『殺意の王』キリング。

 この世界に存在する殺意の集合体。復讐は勿論夜五月蠅いという理由で人を殺すような奴もいる。楽しいから殺すクズもいる。そういった殺意のみを集め生まれた理由無き殺意の固まり。純粋な殺意を持つ魔獣だ。

 

「どうでも良い……俺は俺が生き残っていればそれで良い。死にたくない」

 

 そう言った見た目普通の男は『自愛の王』メルプスト。自分が生き残ることを優先。魔獣の中で唯一エミヤが死ぬと消滅するように設定付けされた存在。故にエミヤを守る特異な魔獣。己が優先という人間らしい人間とも言える魔獣で、『王』の中において最も防御力が高い。

 

「……………………」

 

 最後の『王』、彼女は何も言わない。名前はアトカース。

 エミヤ曰くどんな奴も大概がこれに落ち着く。夢も希望もありゃしない。らしい………。

 

「………………」

 

 『将』とは情動を司る。その中でも特に秀でた力を持つ故に『王』と呼ばれる彼らが我が強いのは当然と言えよう。本格的に戦争になったら投入する予定である。

 

「近い内にお前等も動けるだろうよ。まあ死なねーとは思うが………死ぬのも別に良い。最悪なのは死ぬことじゃねーからな。だからアケディアは必ず守れよメルプスト」

「ああ……お前はともかく俺は死にたくないからな」

 

 

 

「リゼヴィム、その力は……!」

 

 サーゼクスは赤い鎧に身を包む自分と同じ名を持つ男を睨む。

 

「うひゃひゃ!どうよ、すごくねーこの鎧!力が後から後から溢れてくるぜ!」

 

 ビシッとポーズを取るリゼヴィム。鎧に包まれている故に解らないがどうせヘラヘラ笑っているに違いない。

 滅びの魔力そのものになったサーゼクスすら消しきれない力を持つ愉快犯。最悪すぎる。

 

「俺様サイキョー!この『黙示録の悪魔の鎧』(アポカリュプス・サタン・スケイル・メイル)がある限りなー!ヘイヘヘーイ!」

 

 

 

「いったいどうやって、封印したあんな化け物を………!」

『終わる翠緑海の詠』(ネ レ イ ス ・ キ リ エ)で眠らせている。所有者の彼女には、オーフィスの蛇の一部を植え付けてね。まあ、おかげで長くはないだろうが悪魔の血筋が滅ぼうと私の知ったことではないからね。むしろ世界の敵たるあのイレギュラーを殺すために役に立てるだけ感謝してほしいものだ」

「そんな事のためにイングヴィルドちゃんを攫ったの!?」

 

 二人の魔王を前に槍を構えた聖書の神は悪びれもせずに言う。そして、セラフォルーの言葉に顔を不快そうに歪める。

 

「そんな事、そんな事だと!?あれとなれ合っていた貴様等が、私の行為をそんな事だと!ふざけるな、何も知らず、のうのうと生きてきた分際で!手を組めば打ち勝てるのに、私がわざわざ神器を残し死ななければ手を組むという歴史すら歩めぬ無知な連中の分際で!」

「「─────!?」」

 

 腕に巻かれた黒い蛇をかたどった腕輪から溢れるオーラが聖槍に込められ、聖槍から膨大な光が溢れる。魔王である二人にも離れていてダメージが与えられるレベル。

 

「私は貴様等を、他の神々を蔑視する!強大な力を持ちながら、神を殺せる脅威と興味を残さなければ手を組むこともできず迫る脅威などに気付かぬ貴様等を!」

「君が言っていることは何一つ理解できないね。説明してくれないか?」

「死者に語ってやる言葉などない」

 

 

 

「ご主人様お願いがあるにゃ!妹を、白音を助けて!」

「OK。ケモ耳メイド枠がこれで埋まるな。行くぞオーフィス、リリス。これが終われば残るは魔女っ娘メイド枠とロボットメイド枠だけ………だよな?増やさない?」

「「善処する」」



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バロール

「おーおー、こりゃまたあれてるなぁ……ん、天使じゃん。結局裏切ったのか」

 

 悪魔との同盟として駆けつけた堕天使が吸血鬼達と戦う中天使の軍勢が悪魔に攻撃しているのが目に入る。監視はつけられていただろうから直ぐに他の神話も関わってくるだろう。早いとこ目的を果たそう。

 

「お供します主様」

 

 目を閉ざしたままのキリングがそう呟く。その後ろには夥しい数の肉片が血の海に沈んでいた。

 全てキリングが切り刻んだ旧魔王派の悪魔やそれに続く魔法使い、無理矢理転生させられた転生悪魔達に天使、吸血鬼、後ついでに堕天使からの裏切り者。

 

「さぁってと……何処に居るのかね~?」

「誰を捜しているのですか?」

「ん、言ってなかったか?白音とか言う俺のペットの妹助けに来たんだよ」

「成る程。殺しますか?」

「何でだ殺すな」

 

 助けると言ったのに何故その質問が来るのか………ああ、そう言えば『殺意の王』だ。自分でそう創ったんだった。

 

「屋敷にいると思ったんだが、避難した後かね?」

 

 と、そこまでいって気配を感じる。向かうと、居た。グレモリー家の使用人達に護衛されているリアス・グレモリーとその眷属達。

 

「しかし主、そう簡単についてきますか?」

「ん?そりゃついてくるだろうよ。彼奴の来歴ちょっと調べりゃそんなの簡単に解る。ま、本人は良い子ちゃんぶりたがるだろうがその分調教しやすい」

 

 ほらいくぞ、とキリングを連れ歩き出すエミヤ。楽しそうに笑う主に、少し不安を感じるキリング。感情が揺れ動くのが好きな主が余計な挑発しないか………そうしたら、相手を殺せるかも。

 

 

 

 

 リアス達は突如起きた冥界各地での暴動により屋敷に避難していたが、ここも危ないとルシファー領に移動することになった。

 

「全くお義姉様もお兄様も心配しすぎなのよ。私達だって戦えるわ」

 

 リアスはどうやら守られているのが不満のようだ。まあ伝説の聖剣使いに聖魔剣の使い手、時間を止める半吸血鬼に自慢の女王が居るから強気なのだろう。戦車……も、まあ可愛いし強いから自慢の眷属だ。

 

「ご自愛くださいリアス様。貴方はグレモリー家の次期当主なのですから」

「ん?次はミリキャスとか言う奴じゃねーの?」

「勿論リアス様はそれまでの繋ぎではありま────!?」

 

 不意にかけられた声にバッと振り向く。そこには魔獣神エミヤ・リリィとおそらく魔獣と思われる黒衣に身を包んだ黒髪の女性。目は閉ざされており、何処を見ているのかは不明だ。

 

「エミヤ・リリィ!?どうしてここに!」

「ん、そりゃ───」

「そういうことね」

「ん?どういうことだ?」

 

 護衛達が驚く中リアス・グレモリーが突然合点が言ったというような顔をする。

 

「今回の暴動、裏で手引きしていたのは貴方ね!」

「どういうことだってばよ………まさかお前等、たかが悪魔如きが搦め手使って貰えると思ってんの?」

 

 心底不思議そうな顔をするエミヤ。だってそうだろう、此方には二天龍を越えるレベルの強者達が何人もいるのだ。戦いは強力な個によって決まるものではないが、衰退中の三大勢力など『王』を一人か二人派遣すれば一日で片が付く。

 

「イッセーを殺したのも、悪魔側から戦力を奪って反乱を起こさせるためだったのね!」

「いや、あの餓鬼一人で戦況が覆るわけねーじゃん。覆るとしたら最初っから勝ちの決まってた戦いがようやく軌道に乗っただけだろ」

 

 もしくは戦争とも呼べない小規模の戦いならまあ、戦況は変わるだろうが……。

 

「俺はそこの白音っつー猫を迎えに来ただけだ」

「───!?」

「白音だと、誰だそれは?」

 

 エミヤの言葉に塔城小猫がビクリと震えゼノヴィアやアーシアなどが首を傾げる。と、その時───

 

「居たぞ!偽りの魔王の血筋だ!」

「殺せ、貴族を殺せ!」

 

 旧魔王派と転生悪魔の反逆者と思われる悪魔達がやってきた。その数、30。聖杯で強化されてさらに禁手(バランス・ブレイク)にも目覚めている様子。リアス達は覚悟を決め───

 

「黙らせろキリング」

「はっ」

 

 戦おうとする前にキリングが前に立ち目を開く。黒い眼球に、金色の虹彩。虹彩には不気味な赤い文様が描かれており、その瞳に見つめられた者は死んだ。

 焼き殺され斬り殺され絞め殺され圧縮して殺され抉られて殺され凍らされて殺され感電して殺され溶かされ殺され病んで殺された。

 

「よし閉じろ」

 

 エミヤの言葉にスッと目を閉ざすキリング。振り向けばリアス達が絶句していた。

 

「何、今の………」

「キリングの能力の一つ。この世界で誰が見た殺し方を己の視界の中で再現する。まさに直死の魔眼ってな。あ、ちなみに赤い部分が青く変わると相手は心臓麻痺を起こして紫に変わるとまんま直死の魔眼になるぜ」

 

 3パターンとか凝ってるだろ、と良く解らない自慢をするエミヤはまあ良いか、と再び小猫を見る。

 

「んじゃ行こうぜ。大丈夫、俺のところにいれば守ってもらえるから」

 

 何なら強くしてやろーか?と笑うエミヤに小猫は当然前にでない。後ろにも引かないので距離は近くなるが。

 

「条件が、あります……」

「ん?」

「皆さんを、助けてください……そしたら、私は貴方についていきますから」

「小猫!?何を言っているの!」

「そうですわ!こんな奴らの言うことなんて」

「………皆殺しにします」

「だから白音は連れてくって………それとその条件は却下だ。だってお前別に嫌々じゃないもん」

 

 刀の柄に手をかけるキリングを止め小猫の条件を却下するエミヤ。その言葉にリアス達が不快そうに顔を歪める。

 

「小猫は私達を守ろうとしているのよ、そんな事も解らないのかしら?」

「お前こそ自分の眷属のことなぁんも解ってないな。なぁお前さ、何で黒歌を嫌う?」

 

 と、急に問いかけてくるエミヤにえ、と固まる小猫。

 

「それは、姉様が暴走したから………」

「嘘だね。自分を守ってくれなかったからだろ?お前は本心では自分を守ってくれる奴が居ればそれで良いって思ってる」

「そんな事───!」

「じゃあ何で信じようとしなかった?ずっと守ってきてくれた大好きな姉様だったはずだろ?お前は信じようとしたか?」

「─────」

 

 小猫はようやく一歩後ずさる。自分より幼い少年に怯えるように。

 

「お前は守ってくれるなら誰でも良いんだ。守るっていって目の前で体を張られりゃ、お前は簡単にそいつに惚れる。黒歌だって、庇ってくれたならお前は簡単に許すよ。お前はそう言う奴だ」

 

 自分を命がけで守ってくれる奴は好きで、それ以外はどうでもよくて、守ろうとしない奴は嫌い。そんな自己中心的な奴だとエミヤは言う。そんな事ないとリアス達が叫ぶが小猫にはどこか遠くの出来事のように聞こえる。

「これをお前にやろう。メルプストの血から造らせた剣だ。お前にゃぴったり、心臓にさせばはい終わり。簡単だろ?それだけで俺達の仲間だ」

《────おい》

「ん?」

 

 小猫に短剣を渡し引っ込めようとした手をガシリと捕まれる。見れば闇を放つギャスパーがエミヤを睨んでいた。

 

《黙って聞いていれば小猫ちゃんを侮辱して───イッセー先輩まで殺した上、何様のつもりだおま───!!》

 

 虫でも払うように腕を振ると壁突き破り庭の彫像や木々を貫きながら吹き飛ぶギャスパー。ゆらりと闇を放ちながら起きあがる。

 

「………この気配、()()()()()。どの記憶かは忘れたが、バロールか………」

 

 魔神バロール。ギャスパーの神器の名の由来となった魔神。聖書の神はおそらく回収できなかった神を手に入れる器として造っていたのだろう。本当、そう言うのは得意らしい。

 

()()()()()()()()()()の残滓か………キリング。あれ、喰え」

「はっ……」

 

 キリングはスラリと剣を抜く。ゆらりとギャスパーの闇にも引けを取らぬ禍々しい黒いオーラを放つ。それが様々な武器の形を取る。

 

「人とは面白いと思わないか?こんなにも多くの殺しの道具を造り、本来なら別の用途で使う道具を殺しのために使えるのだから」

《コオォォォォォォォォッ!!》

 

 獣のような方向をあげ闇の獣へと姿を変えたギャスパー。それに合わせるように現れた無数の闇の異形の怪物。

 

「私はお前に恨みも憎しみも抱かない。主の命令だからとも言い訳もしない。特に理由はない、だが殺したい。故に殺す」

 

 殺到する無数の刀剣、槍に斧。銃弾に工具に果ては車。様々な殺意の固まりが闇の獣に迫る。本来なら全て飲み込む闇は純粋な込められた力の質と量にあっさり敗北し打ち破られ、残った本体の首がキリングに跳ねられる。

 闇が消えていく中ギャスパーの体はキリングが放つオーラから生まれた獣に喰われて消えた。




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生きるための代償

「ギャスパー!良くも───!」

「おいおい俺はそもそも参加する義理がねーのに少しは謀反者退治に協力してやってたんだぜ?その俺を殺そうとしたんだ、殺されても文句は言えねーだろ」

 

 睨んでくるリアス・グレモリー達にエミヤはそう返す。事実としてエミヤは悪魔と堕天使の裏切り者と吸血鬼に天使もここに来るまでに殺している。色々無礼を働いている悪魔達に味方してやらなくても良いだけの貸しがあるのに、だ。

 

「まあ、やろうってんなら良いけど………むしろ嬉しいね。お前は果たして、彼我の実力差を意志の力で乗り越えられるかな?」

 

 RPGでは序盤の町では敵が弱く奥に進むほど強くなっている。おかげで主人公は順調に強くなれるわけだが、脅威と認定された時点で何故ラスボスは潰さないのか?エミヤはそんな疑問をオーフィスとリリスにされたことを思い出し、その時の答えを思い出す。

 きっと退屈なのだろう、挑みにくる者がいないというのは。かといって魔王という立場がある以上種族のために生きなければならないから敵を倒すように命じる。が、エミヤの勢力は統治されるまでもなく規律が生まれている。故にエミヤは気にせず挑戦者の前に立つ。喜んで前に立つ。

 

「こいよ。惚れた男を殺されて、大切な仲間も殺されて、きれてるだろ?その思いをぶつけて見ろ」

 

 その言葉と同時に滅びの力と雷光が飛んでくる。それを片手で弾くエミヤ。産毛が少し消えた。

 

「この力は、あの人の前で見せて乗り越えようと思っていましたの」

「力は力だろ?それ使うと死ぬわけでもあるまいに」

「イッセーは私のためにライザーを倒してくれた。ずっとあの子に助けられていた」

「たぶんお前より才能あったんだな」

「「許さない」」

 

 エミヤがニィ、と笑みを浮かべる。怒りにより少しは強くなっているようだ。戦闘としては楽しめないが感情の観賞としては十分に───

 

「お嬢様、お逃げください!」

「………ん?」

 

 と、横から声がかかる。見れば銀髪のメイド、グレイフィアが傷だらけの状態で飛んできて、光の槍に貫かれた。

 

「お、天使だ……多いな。お、ガブリエルじゃん」

「………貴方は、魔獣神様……?我々の援護、ではありませんよね絶対」

「解ってんじゃん」

「ですが悪魔を助けるとも思えない。目的は何です?」

 

 ガブリエルはゆっくりと距離を測る。彼とともにいるのは、見たこともない魔獣だ。だからこそ余計怖い。と、警戒するガブリエルに向かって飛んでくる滅びの力。それを光で払う。

 

「良くも───!」

「………ええ。恨まれて当然です、否定はしません。ですが、これも主の命令なのです……」

 

 と、リアスに向き直るガブリエル。エミヤが自分達を放置していると判断したのだろう。最終的には彼をどうにかできる手段があると聖書の神は言っていた。ならばここで敵対するのは馬鹿らしい。

 

「ん?ああ、好きにしろ。黒歌には悪いが、拒否られたしなぁ。仲間じゃないなら助けない」

 

 ガブリエルの視線にエミヤが返すとホッと一息つく。そして改めてリアス達を見て、やはり気になりエミヤ達を見るともう姿は何処にもなかった。

 

「………やはり、恐ろしい方ですねぇ。残りの寿命が少ないとは言え、進んで相手したくはありませんよぉ」

 

 残りの寿命は少ない、そう。彼女は、彼女達天使はもう先が長くない。聖書の神はエミヤを倒した後その力を使いまた創ればいいと、現存の天使達全ての寿命を引き替えに力を与えた。そうでなければ、魔王クラスのグレイフィアを一方的に殺せるはずがない。

 

「後残り一週間…………私も堕天すれば良かったですかねぇ………」

 

 そもそも何故アザゼル達は堕天できたのだろうか?神を愛し、神の為に存在するように創られたのに。何故?

 存在意義を変えられるほどの恋をしたという事だろうか?自分もそんな恋をしてみたかった……。

 

「まあ、それができないから今もなお天使などをしているわけですが……」

 

 と、リアス・グレモリー達を見る。逃げる気はないらしい、助かる。

 

「ゼノヴィア・クァルタ……貴方はどうします?主が復活したのです。今一度此方につく気は?」

「私は悪魔という種族を知ったよ。人間と、何も変わらない。それを悪とし裁く今の神を、私は認めない」

「……………そうですか」

 

 ガブリエルは光の槍を構える。近くにいるだけで皮膚が焼けるように熱い。だが、リアス達は戦う気だ。

 

 

 

 いや何してるですか、逃げるべきでしょう。

 小猫はそう叫びたかった。コカビエルの時だって、何時だって、自分たちが活躍した場などないだろうに、何故そんなにこの怒りが新たな力をくれるみたいな顔してるんだ。

 木場のせいか?彼奴が土壇場で覚醒したから自分達も出きると思い上がったか?ふざけるな殺すぞ。第一それでもコカビエルにはとどかかなかったろう。

 怒りだなんだで覚醒できる可能性もなければ、たった一回の覚醒で勝てるほどの都合のいい強さの相手でもない。

 でも、みんな戦う気だ。ならば自分も───

 

──お前は本心では自分を守ってくれる奴が居ればそれで良いって思ってる──

 

「────ッ!」

 

 あの時の声が脳内で再生される。動きが一瞬硬直し、次の瞬間光の槍の雨が降り注いだ。

 

 

 

「っう───」

 

 生きている。何故?

 解らない。手加減するとも思えないが、生きている。皆より後ろに下がっていたからだろうか?戦車だから?

 違う、解ってる。懐にしまっていた短剣が熱を持つ。

 

「生きてましたか………」

 

 この短剣から放たれるオーラが威力を殺していた。だから、皆ぎりぎり生きている。そう、ギリギリ。次くれば皆死ぬ。

 

──心臓にさせばはい終わり。簡単だろ?それだけで俺達の仲間だ──

 

 ゴクリと唾を飲む。これを使えば、力が手に入る。あの魔獣達のように理不尽な力が……だが、他の皆は助からない。

 自分を救ってくれたリアスが────救ってくれた?

 なら、今はどうだ?救ってくれるのか、彼女が?あんなに弱いのにどうやって──

 

──お前は守ってくれるなら誰でも良いんだ。守るっていって目の前で体を張られりゃ、お前は簡単にそいつに惚れる。黒歌だって、庇ってくれたならお前は簡単に許すよ。お前はそう言う奴だ──

 

 違う……!

 違う違う違う違う違う違う違う!

 私はそんなんじゃない、部長を、朱乃さんを、祐斗先輩を、アーシア先輩を、ゼノヴィア先輩を大切に思っている。見捨てるなんてしない!

 と、小猫が内心で叫ぶ中再び光の槍が迫る。

 

 

 

「……………え?」

 

 ガブリエルは右肩から感じる熱と喪失感に目を見開く。

 振り返ればガブリエルの腕を咥える塔城小猫の姿が。地面を見れば光の豪雨によって形を変えた地面。悪魔達があの中で生き残れるはずがない、消滅するはず。

 

「───この、気配……魔獣?」

 

 肩を押さえながらガブリエルは呟く。小猫は頭から猫耳を生やし尻尾を揺らすと手足を包む白い毛をペロペロ舐める。

 

「───にゃん♪」

「─────!」

 

 可愛らしい笑顔で、かわいらしい動作で爪をふるう。ザグリとガブリエル達の体が無数の斬撃に切り裂かれる。

 

「かふ───ァ──」

 

 魔獣。魔獣?これはそんな可愛らしい存在じゃないだろう。

 エミヤの力の本質がイザナミが混じっているというのならば、体の一部から神が産まれる日本神話の祖神の力が混じっているというのならば、その力で産み落とされた者、その血により変質した者は───

 

「────神?」

「にゃは」

 

 呟く間の僅かな時間に小猫の顔が完全に洗われる。その口が開き、唾液にまみれた舌と歯が可愛らしい唇から覗く。

 

 

 

「ほら、やっぱり使った……」

「にゃ?」

 

 口元を血に染め食事をとる子猫は現れた存在に首を傾げる。そして、飛びつく。本能的に彼が己を救ってくれた存在だと認識してすりすり額こすりつける。

 

「にゃ~ん」

「ああ、こりゃまた、壊れてるなぁ……」

「殺しますか?」

「何でだ………まあ他人に依存しなきゃ安心できない奴だしな、罪悪感に押しつぶされるのは目に見えてたけど幼児退行どころか野生にまで戻るとは……メイド枠なのにこれじゃペットだ。ま、教育はセルヴィスに任せるか」

「にゃあ……ゴロゴロ」

 

 顎を撫でられ文字通りの猫なで声を出す小猫。と、そこへ──

 

「こんにちは。エミヤ──ああ、今はその姿なのですね。ざんね───」

「………私が殺したかった……って、あれ?主が話を聞かずに殺すのって珍しいですね」

 

 突然現れた銀髪の青年は文字通り消し飛ばされた。他人との会話や心の動きが大好きなエミヤにしては珍しく、言葉の途中でぶち殺していた。

 

「いや、何か知らんがキモくて……まあ良いや。オーフィスとリリスにこの猫届けてやるか」



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決戦前

「にゃあぁぁぁ~!!」

「フウゥゥゥゥッ!!」

「グルルルル!」

 

 100匹の子犬が新入りにボスを取られまいと引っ張り白猫は姉を子犬達に取られまいと必死に引っ張る。

 

「死ぬ死ぬ!内臓でちゃう、腕とれちゃう!やめるにゃ皆!」

「わうう!」

「シャー!」

 

 腕を咥えるフェンリル達と腰に抱きつく白音。

 神殺しの狼達に魔獣化したことにより力が上がった妹に引っ張られる黒歌。それを見てゲラゲラ腹を抱えて大笑いするエミヤ。

 

「あはははは!」

「ちょ、死ぬ!そろそろ死ぬ!おす、おすわり!」

「グルルルル」

「ふー!」

「な、何で言うこと訊かないにゃー!?」

 

 そりゃ、ここでおすわり何てしたら新入りにボスをペロペロされるからだろう。

 

「ふにゃー!」

「白音も産まれた頃みたいに猫になっちゃってるし~!」

「ん?ああ、お前等猫又だもんな。幼児退行ではあるのか………」

 

 野生化かと思ったが、そもそも猫だ。とりあえずそろそろ止めないと黒歌が取り返しのつかない壊れた人形みたいになるだろう。

 

「黒歌~、どうする?魔獣になる?『ペットの将』」

「助けるじゃにゃいのね……うん、ご主人様らしいにゃ……」

「ほらお前等、散れ散れ」

「きゅううん」

「みゃう……」

 

 エミヤがパンパンと手を叩くとおとなしく離れる一同。魔獣だけあり、その辺はわきまえているようだ。いや、単純に逆らえば殺されると解っていからだろうか。

 

「ところでなんで白音こうなってるにゃん」

「仲間を見捨てたことを後悔してるんだろ。俺の知ったこっちゃない……それより、六日後にもう一度冥界に攻めいるぞ」

「とうとう滅ぼすにゃ?」

「何だとうとうって。てかもうほっといても滅びるだろ。俺はただ、攻めてくる前に攻めるだけだよ。一週間後にはくるんだろうし」

 

 

 

 

「と、向こうは考えているだろうな」

 

 聖書の神は目の前で眠る獣を見て呟く。向こうには不完全の無限が二体居るとは言え、此方には完全なる夢幻とこの獣の力がある。術式で無限を復活させた腕輪もある。

 

「お前には期待しているぞ…」

「………はい」

 

 そして、全ての天使を取り込ませたミカエル。その力は最早天龍にも匹敵する。代わりに寿命が減ったが、決戦には間に合う。

 

「でもさ~おっちゃん、ぶっちゃけ殺せるんすかい彼奴?『死』そのものであるイザナミ喰ってんだろ?」

「殺すのは難しいな。黄泉の支配者であるイザナミを取り込んだ以上、魂の状態からでも復活するだろう。だから魂を切り分ける。そして新たな神滅具(ロンギヌス)に砕いた魂を封じる。それが今回の最終目標だ」

 

 

 

 

「今更だけど旦那様は死ぬのが怖くないのですか?」

「怖くないさ。許す、殺しに来い。俺は俺が強いのを、勢力が強いのを自覚している。だからこそ向こうだって策を講じるはずだ。素敵だと思わないか?」

 

 命など娯楽のための切符にすぎない。本気でそう思っているからこそ、エミヤは上位世界の神にここに落とされた。例え殺されても恨みはしないだろう。仲間が殺されたなら怒るかもしれないが自分に関してはあり得ない。

 

「まあでも、封印とかは勘弁だけどな。だって封印解けたとき俺が食えなかった菓子が出てたり遊べなかった遊園地があったりしたら最悪じゃん」

 

 そしたら裏技使ってでも絶対そいつ殺すよ。とエミヤは笑った。目は決して笑っていなかった。




全ての天使……………おや、転生天使が何もいってないのはどういうことなんだろうね?


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第三のムゲン

久々の投稿。お気に入り、減るな。仕方ないけどさ


 堕天使の中には神が居ない事実を知り、ならば神のごとき強者であったアザゼルに仕える、という考え方をした者達もいる。そういった者達は当然復活した神に跪き、堕天使を裏切った。

 その者達は寿命を引き替えに強大な力を手にして最上級達に牙をむいた。そして、堕天使領で残ったのは神に再び忠誠を誓った堕天使のみ。

 強化堕天使は悪魔達を殺していく。悲鳴が響き、慟哭が聞こえ、絶望が生まれる。

 その行動は余りにおぞましく、正義とは呼べない。その行為は同盟の破綻だ。準備が終わり次第他の神話がやってきて、滅ぼされることだろう。

 だがその殺戮の首謀者である聖書の神は慌てない。真っ先に来るであろう勢力の長を捕らえその力を得れば目的が果たされるからだ。そして、案の定真っ先に現れた。

 その勢力は利益など気にしない。その勢力は長が一声言えば残りは黙って従う。だから、どこよりも早く行動する。

 現れたるは一年も経たぬうちに多くの神話が敵に回したくないと判断した魔獣勢力。一体一体が超越者を優に越え神に迫る実力者。その群が堕天使共に迫る。

 そして、そんな雑魚共(堕天使)とは比べものにならない強者達の元にも魔獣が現れる。

 

 

 

「天使の所行とは思えませんね」

「………全ては、神の御心のままに」

 

 残り全ての天使を取り込み絶大な力を得たミカエルの元に現れたのは『忠誠』の将、フィエルダー。その配下である『忠誠』の兵フェデルタ。

 

「……この光景を見てなお、必要な犠牲だなどと宣う気ですか?紫藤さん」

「………何処かで、あったかな?」

 

 憔悴しきった顔で、しかし聖剣を構える男は敵意を宿しフィエルダーに問いかける。

 

「?ああ、そういえば………」

 

 その反応に首を傾げたフィエルダーは思い出したかのように兜を消すと、紫藤は目を見開き持っていた剣が震えた。

 

「八重垣、くん……?そんな、どうして君が!?君は、あの時───!」

「ええ、殺されましたよ。私も、彼女も」

 

 そういってフェデルタを見るフィエルダー。つられて彼女を見ると、彼女も兜をはずす。その顔は報告書で見た顔だった。

 

 

 

 八重垣正臣。クレーリア・ベリアル。教会の戦士と貴族悪魔という関係でありながら恋に落ち、その両方から粛正され死亡したはずの二人。

 しかし数多の亡者を取り込み魂の在り方に触れたエミヤは偶然見つけた二つの魂をすくい上げ肉体と力を与え、復活させた。

 それこそが忠誠の将フィエルダーと、その兵フェデルタ。

 もう一度恋人とともにいられることを許された彼は、絶対の忠誠をエミヤに誓った。

 

 

 

「ですから、我が神の敵たる貴方達を殺すのに、何の躊躇いもありません」

 

 そう言って魔獣剣を振るうフィエルダー。紫藤は聖剣で受け止めるが、吹き飛ばされる。しかし純白の翼を広げ空中に止まる。

 

「天使化、ですか。僕たちを殺した貴方が、これも神の慈悲とやらですか?」

「悪いが、私も負けるわけには行かない!イリナの為にも!」

 

 彼の娘、紫藤イリナは現在ミカエルに取り込まれた。聖書の神が決戦に備えて、全ての天使をミカエルのエネルギーに変えたのだ。彼にミカエルからイリナを取り出す方法など解らず、しかし神は約束してくれた。魔獣を打ち破ったその時にミカエルの中から解放してやると。

 父として、故に負けるわけには行かないと叫ぶ紫藤にフィエルダーは笑う。

 

「神のために命を差し出せたんです。娘さんも喜んでいるのでは?私にはあの時、我等の全ては神のためにこそあるなどと言っていたでしょう」

「─────!!」

 

 聖剣が砕かれる。目を見開く紫藤の心臓を、剣が貫く。とどめを刺したまさにその瞬間こそ好機!とばかりにミカエルがフィエルダーに向かって光の矢を放った。が───

 

「ふふ、御馳走様です」

 

 ヴェーラがその光を飲み込む。飲み込んだ光はヴェーラの力となり、ミカエルに牙をむいた。

 

 

 

 

 

「がああああ!畜生、畜生ぉぉぉっ!!」

 

 リゼヴィムは夢幻の力を放つ。物質という理から外れた道理の通じぬはずのその力は、しかしその女に触れると溶けるように消えた。

 容姿は、美少女だが印象に残らない、そんな儚げなような何処にでも居る……そんな少女が夢幻の力を得たはずのリゼヴィムを圧倒する。

 

「何なんだよ、何なんだよお前は!?」

「……………『ムゲン』の王」

「ムゲンだと!?ふざけんな、夢幻も無限も顕在なんだ、新しく産めるわけが───」

夢現(ゆめうつつ)とかいて、夢現………私は、人々の夢の終着点」

 

 人は誰しも自分が優れた存在になることを()みて()視する。ヒーローとなり世界を救い、医者になり命を繋ぎ、アイドルになり崇められ、そんななれもしない夢を見る。そして、やがて現実を知り夢を捨てる。

 彼女はそんな捨てられた夢の集合体。何者にもなれないと知った誰かの絶望。

 その能力は想いの籠もったモノの消滅。彼女を倒すと意気込んだ身の程知らずな夢や、一矢報いると出来もしない夢を込められた攻撃を消滅させる。防御も同じ。そこに意志が干渉すれば彼女は全てを消し去る。

 例え機械を持ってきても、その機械に制作者の最強の兵器なんて夢が込められた時点で彼女にとって触れれば消える単なる泡沫の泡。

 そしてリゼヴィム、異世界にて唯一の魔王になると夢見た男。

 ふぅ、と夢現の王アトカースが手のひらに揺らめく光をともし、それを吹く。炎のように揺らめいたそれはリゼヴィムを飲み込むと叫び声をあげるまもなくリゼヴィムという夢見る男をこの世から消し去った。

 残された鎧が砕け、赤い龍が姿を現す。その龍はアトカースを一瞥した後次元の狭間に潜っていった。

 

「…………バイバイ」

 

 アトカースが手を振るうと一鳴きして、完全に次元の狭間へと姿を消した。




『夢現の王』アトカース

 人、悪魔、天使、神問わず現実を知り夢をあきらめた存在の捨てられた夢の行き着く場所。
 何者にもなれはしないと知った人の意志の総意体。人の感情より生まれた全ての存在を消し去る。グレードレッドの天敵。何の意志もなく完全なる作業で殺せる者がいるとしたら傷くらいは付けられる。本人自体もクソ強いからね。


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聖書の神と魔獣神

 エミヤは護衛も引き連れず悠々と歩く。途中襲ってくるのは本来なら曹操が禁手で操る人形。聖書の神の術式と無限の龍の力の一部によるブーストで最上級レベルに強化されていたが、エミヤは気にもとめない。

 ただ歩く。普段は押さえている神威や原初の魔としてのオーラを放つだけで人形は耐えきれず押しつぶされる。

 その隣をついて歩くメイドはそのオーラの中無表情でついて行く。彼女もただ者ではないのだろう。

 

「お、付いた付いた………」

 

 開けた場所にでた。その奥には獣が眠っていて、その前にたつのは曹操の身体を乗っ取った聖書の神。

 聖なるオーラを放ちながらエミヤのオーラを押し返す。

 

「堕天使も、ミカエルも、君達の相手にならないか………理不尽な強さだ」

 

 そう呟く聖書の神にエミヤはケラケラ笑う。

 

「当然だろ?俺ってば最強なのよ。勝てる奴なんて居ない居ない。だけどあきらめるなよ?足掻く様を見守ることこそ俺の娯楽だ」

「それだけの力を持ちながら、それでも君は人間だな。直ぐにつけあがるその傲慢さ、まるでルシファーのようだ」

「照れるぜ」

「誉めていないよ」

 

 ケラケラと余裕を崩さないエミヤに苛立ったように顔をしかめる聖書の神。エミヤは彼には大した興味は抱かない。むしろその背後にいる獣にこそ興味を引かれる。

 

「それトライヘキサか?」

「知ってるのか」

「俺には祖神の記憶があるんだぜ?知らないはずあるか………しかし、ふーん……オーフィスやグレードレッドと同格って所か」

「そうさ。しかし、これでも備えているとは言い難い」

「………お前は一体何をみたんだ?」

 

 オーフィスといえばこの世界最強の一角。それと同程度の力を前に足りないと称する神にエミヤは何を思ったのか尋ねる。何処からか取り出した椅子に座り膝に小柄なメイドを乗せ頭をなで始めるその姿は自分こそがここの王だと言っているようだ。

 メイドは……青ざめた顔で大人しく従っている。魔獣、ではないのだろうか?或いは忠義を植え付けられていないタイプか、転生した魔獣………まあ、今はどうでもいいかと切り捨てエミヤを睨み、自分とお前は同格であると言うように玉座を取り出し腰を下ろす。

 

「………絶対の絶望」

「絶対の絶望とは大きくでたな。この世界にゃ神が溢れてんだぜ?神話通り宇宙焼けるほど強いのはいないけど全員がんばれば星一つは消せるだろ」

「星一つなんかではとても足りない。奴らは、それだけ強大なんだ!」

「ほほう?」

「奴の強さはオーフィスやグレードレッドを凌ぐ!奴の妹と兄も同様に!その部下だけでも、主神クラスだ!わかるか?そんな連中が組織だって攻めてくる!なのに、なのにだ!私が予知した未来では各神話は足並みをそろえようともせず蹂躙されていくだけ………」

 

 だからこそ彼は人間に力を与えた。どの神話にもつく可能性がある人間が力を持てば、引き入れようと神話同士が接触すると踏んで。神器を生み出し、改めて予知すれば確かに未来が変わっていて。神器持ちの中に極めることができれば神さえ殺せる代物も作った。結果、ほんの少し足並みがそろい始めた。だが、足りない。

 そこで神が行ったのは、さらなる敵を作ること。そして、三大宗教と呼ばれるまで肥大化した己の宗教に同盟のきっかけになってもらうことだった。

 まずは魔王を殺す。二匹のドラゴンがやってくれば、残った力の全てを使い封印して神殺しを増やし己も死ぬ。

 その先は予知していた。魔王の血筋を戦争を嫌った悪魔達が反乱で追い出し、三大勢力は冷戦状態になる。追い出された魔法の血筋はオーフィスに頼り、オーフィスを恐れた彼等は他の神話にも同盟を誘いかける。

 オーフィスの元に集まったのは何も悪魔だけではない。神器持ちの人間、中には神殺しも。その結果、神話の足並みは更に揃う。そこにトライヘキサが復活すれば、同盟は完成する。

 ハーデスなど一部神が調和を乱すがそれを止める者もいる。その筆頭が兵藤一誠。自分にまっすぐな彼は神をも魅了し好感を抱かせ、同盟の中心人物となる………筈だった。

 

「それを、貴様が殺した!貴様は、この世界を救う唯一の手だてを奪ったのだ!」

「お、セラフォルーの死体みっけ。オーフィスの欲しがってた魔女っ娘メイドにしよっと」

 

 グサリとセラフォルーの死体に己の血で作ったナイフを突き刺すエミヤ。聖なる力で焼かれたのだ。魂は残っていない。が、脳に残った記憶から生前の性格は再現できるだろう。

 

「……人の話を聞いていたか?」

「聞いてた聞いてた。で、絶対の絶望だっけ?うんうん、悪いことしたな。責任はとるよ……」

「は?え……ほ、本当に?いや、なら助か───」

「というかもうとった。なあ、メルヴァゾア」

「……はい」

「………は?」

 

 何故、その名が今出てくる。30年後現れる絶対の絶望の名を何故彼が知り、そしてそれをメイドが答える。

 

「紹介しよう。ロボッ娘メイドのメルヴァゾアだ………時を操ったり存在という概念に干渉したり平行世界の自分をコピーして生き残ったりとまあまあ厄介な不死者ではありましたが。ぶち殺して部下と妹と兄を喰って、こいつだけ特別にメイドに転生して生き残ることを許した。あれ、此奴もと男だっけ?女だっけ?まあいいや、お前がいずれ攻めてくると恐れたあの世界唯一の生き残りですよー」

「……………は?」

「お前の言うとおり、あの世界の連中は強い。この世界に責めてきたら勝ち目なんてないほどに。恐らくこの世界より上位なんだろうな……だから、虫螻一匹にいたるまで丁寧に食べてやった」

「……………は?」

 

 何を、いっている。訳が分からない。あの可憐な少女が、予知したあの絶望?それがいた世界を、滅ぼした?あの絶望を何度も倒しているが殺しきれない善神は?それだって、グレードレッドよりも強者のはず。

 

「だーかーらー。全部俺の糧にしたんだって、あったまわるいな」

「あ、ありえない!たった三神と原初の魔を喰っただけで、そんな……!それに、全部?そんなことをしたら、魂が持つはずがない!」

「あっはは。お前等とあの世界の連中はまあ、格が違うわな。それでも同じ次元だ………()()()()()()()()()()()()()()()

 

 エミヤは混乱する聖書の神を前に楽しそうに笑った。



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別次元の強さ

 それで?と混乱する聖書の神に問いかけるエミヤ。聖書の神は顔を上げる。

 

「一つ、聞きたい……君の目的は何だ」

「目的?とりあえず、同盟相手襲ったお前を殺しに来たけど」

「そうじゃない………それだけの力を持って、君は何をしたい!?この世界に何をなす!?」

 

 主神クラスが存在する世界を、グレードレッド以上の戦闘力を持つ者達を食らったというエミヤ。それが本当なら、彼はそれこそ宇宙一つ滅ぼせることだろう。ならばその力を持って、果てして何をする気なのか………。

 

「…………特に何も?」

 

 しばらく考えた後、エミヤはそう答えた。

 

「この世界に何をするってさ、俺この世界にゃ漫画とゲームと菓子がありゃいいのよね。だからこの世界に何かする目的はない。俺自身の目的はあるけど」

「………それは?」

「回帰……俺は俺が生まれた世界へ帰りたい。けど、次元が違う。落とされた俺がそこにあがるには魂の格が足りないんだよ。降りるのは簡単、上るのは難しいって事だね。ここより下の世界なら行き来できるんだけど」

 

 回帰……故郷に帰りたいという、思ったよりも普通な目的に、言葉に詰まる。そう、普通なのだ。家族がいて、友がいて、己が生まれ育った場所に戻りたいと思うのは。彼の言葉が確かなら、食らえるものを食らい己の魂の質を上げなければならないらしい。いや、それで世界が危機になるのは放っておけないが……それでも、彼は敵対しない限りは手を出さない。だが、善神もいた世界を滅ぼしたのは事実。娯楽のために命を奪うのも……しかし、逆に言えら彼の娯楽を邪魔しなければ殺されることは───

 

「だって最終回迎えてない漫画結構あるし……ワンピにハンハン、コナンにビースターズ……」

「……………は?まん……漫、画……?お前は、それだけのために、世界を一つ滅ぼしたのか?」

「そうだけど?」

「……………」

 

 やはり、駄目だ。生かすのは駄目だ。此奴は、危険すぎる。力もそうだが、何より在り方が。

 今でこそこの世界の娯楽も楽しんでいるから存在することを許されているが、それすら消えればこの世界にあまねく命を食らい己の糧とするだろう。

 

「………目覚めろ、トライヘキサ」

 

 操ることはできない。しかし、寝起きの獣は間違いなくこの場において自分の驚異となる存在を狙うだろう。故に、封印を説く。

 ゆっくりと目を醒ましたトライヘキサはエミヤとメルヴァゾアを見据え体を起こす。

 

「メルヴァゾア~、お前オーフィスやグレードレッドより………つまりはあれより強いんだろ?遊んでこい。俺は聖書の神様で遊ぶから♪」

 

 ケラケラと笑うエミヤ。己に敵意を向ける相手を前に遊ぶなどと言う。見下している、訳ではない。仮にメルヴァゾアの世界に存在した全ての魂を食らったのならそれだけの力があるはず。

 メルヴァゾアは片手をあげる。袖口から大量の歯車やコード、金属片が飛び出てきてガチャガチャと音を立て巨大な砲身を生み出す。

 

『オオオオォォォォォォッ!!』

「ファイア」

 

 トライヘキサが放った火炎とメルヴァゾアの放つ光線がぶつかり合い、メルヴァゾアの光線がジリジリと炎を押す。

 一瞬で押し返すほどかけ離れた戦闘力ではないらしい。エミヤがふーんと見てるとメルヴァゾアの顔が青くなり、光線の威力が増しトライヘキサを吹き飛ばす。

 壁にあいた穴から出て行くメルヴァゾアを見送り、聖書の神に向き直る。

 

「で?お前はどうする?今なら土下座すれば許してやるぞ」

「なめるな!」

 

 聖書の神が聖槍を振るうと、エミヤの周りに幾何学的な模様が現れるエミヤの身体に絡みつく。エミヤの頭上には己の尻尾加える蛇のような文様が現れる。

 

「ん?なんだこれ………」

 

 直ぐに取り払おうとしたエミヤだったが、魔力も神力も流れない。物理的には干渉できず、異能の力も発動しない。いや、少し違う。魔力も神力も確かに体外に出ている筈だ。なのに、何処かに消えている。

 

「『無』だ……」

「む?」

「サマエルは本来、『夢幻』を『夢』と『幻』に分け消滅させ、『無限』から『無』を消し去り限りあるモノにする為の装置。君は、無限とは何だと思う?」

「限り無い、だろ?」

「それは無限という概念だ。オーフィスという無限を何だと思うか、ということだよ」

「知らん。教えて」

「………」

 

 その反応に何とも言えない顔をする聖書の神。この男には緊張感というモノがないのだろうか?

 

「………オーフィスは無から生じた、本来なら有り得ざる絶対の矛盾だ。無という限りあるものが行き着く先から、終焉から生まれた因果の逆転。故に永遠。始まりと終わりを繰り返す様は、己の尾を飲む蛇に例えられるわけだ」

「ふーん。で、これはどういう状況なの?そこを話せよ」

「……………限りある存在にかえ、切り出したオーフィスの一部。それに再び無という概念を与え直した。それこそ君を取り巻くものだ……どれだけ力を込めようと、どれだけ足掻こうと無に飲まれ消え去る」

 

 つまり先ほどから振り払おうとオーラを放っても、それは無に飲まれているのか。飲まれるというか、出した分はなかった事になるのだろう。

 

「おお!おもしろいな、で、これからどうする?俺を消すか?」

「いいや。封印する」

「…………ふーいん?」

 

 コテンと首を傾げるエミヤに、聖書の神はそうだと応える。

 

「絶対の絶望は消えたわけでもない。それに、脅威があれだけとも限らない。だから、君を神器に封印しそれに備え───」

「………お前さ、死ねよ」

 

 エミヤの言葉と同時に、エミヤの周りに渦巻いていた無という概念は消し飛ばされる。後に残ったのは空気や時間、空間という概念が存在する普通の世界。

 

「…………は?」

 

 本日何度目の混乱だろうか。

 だけど、今此奴何をした?いや()()()()()()筈だ。少なくとも、自分の感覚では。

 神力も魔力も感じない。何も、何一つ………なのに、なのに何故世界は今まさに悲鳴を上げている!?

 

「簡単に例えるとな。俺は折り紙だ。だけど開かれこの次元に糊付けされた……でも俺は実は研究者気質。与えられた力を使って暴れるより先に、まずは俺に施された封印の解き方を見つけた」

「封、印?」

「そうさ。俺は封印されてんだ。世界を壊さないように……考えて見ろ、人間を紙に押し付けてど根性人間になると思うか?紙が破けて終わりだ。だから俺はこの世界に()()()()()()()………それを解いただけ。一時的にな」

 

 つまりはこれこそがエミヤの本来の力。なのに、何も感じないとはどう言うことだ?

 

「三次元が二次元の奴らに干渉するなんて簡単だ。小説なら『○○は死にました』って書くだけで、絵なら炎や心臓を貫く剣を描き足すだけでいい。だけどその逆は不可能だ。二次元のものは三次元のものに何か行うなんて出来やしない。そもそもそれがあるなんて()()()()()()

「………まさか、そんな………」

「いったろ?次元が違うんだよ。何万何億と存在しようが世界を圧迫することのないお前等と、一人ただ存在するだけ世界を壊しかねない俺………一体どうして勝負になろうか。お前がただただ愚直に挑み俺を楽しませたなら、同じ次元で相手してやったのに」

 

 まあ今更か、と手を前に突きだし親指と人差し指の先端を近づける。まるで何かを摘まむように。エミヤの視線には丁度、聖書の神が隙間に収まっている。その隙間を、潰す。そんな何気ない動作で、聖書の神は消滅した。



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魔獣神

 一つの神話が滅びた。生き残りはいるが復興は厳しいだろう。

 主犯は聖書の神。対応したのは魔獣神として世に名を知られていくエミヤ・リリィ。僅か一日で終わらせた。

 当然住む者の居なくなった天界や、生き残りが僅かにしかいない冥界の領土の所有権は彼にあるがいらね、と義父であるオーディンとゼウスに所有権を明け渡した。

 そして、今更ながらハーデスにサマエルの件を追求しにいくエミヤ。聖書の神の復活など色々あって先送りになってエミヤ本人は忘れていたがブリュンヒルデが覚えていた。

 エミヤはわざわざ会いに行くの面倒くさ~いと渋ったがいいえ行きます、とブリュンヒルデが襟首を掴んで引きずる。

 ぶーたれるエミヤだが本当に嫌なら振り払うだろう。それをしないのは、そこまで嫌じゃないか、ブリュンヒルデが多少なりとも特別なのか………。

 

「というわけでして、サマエルの封印を無断で解きテロリストに貸し与えた事実は確認済みです。弁明はありますか?」

《ファファファ。貸し与えた?それは誤解だ、奪われたのだよ。いやはや人間というのは油断ならん。うむ、儂の管理不足。その件に関しては責任をとろう》

「奪われた?そのような戯れ言を信じろと?」

《信じぬと?ならどうする?》

「えー……そりゃまあ、テロリストの残党としてぶっ殺す」

 

 

 

 

「旦那様、ああいう圧力外交はどうかと………」

「彼奴が悪い。素直に罪を認めて冥府の英雄差し出せばいいのに、元人間で神と呼ばれるようになった俺を嫌って下に見るからこーなるんだ」

 

 ボリボリと人骨のようなのを食いながらケラケラ笑うエミヤ。

 

「まあ冥府の管理はプルートだっけ?彼に任せようぜ。何、復讐してくるならその時は改めて喰えばいい」

「………だから大人しく付いてきたんですか?私に言われたからではなく、食事のために」

「食事ねぇ……こんな身もないのを食っても腹の足しにゃならねぇし、デートしようぜブリュンヒルデ。冥府のうまい飯屋探そう」

「…………はい!」

 

 

 

 神話同士の争いは人類の発展とともに沈静化していく。人がそもそも神を信じなくなってきているのだ、自分の神話こそ最強、などと宣言するのも馬鹿らしい。

 しかしそんなある意味平和を気に入らぬ者達も居る。悪を司る悪神アンリ・マユなど格神話の悪神達だ。

 己の神話が最強かは関係なく、ただ人も神も魔も関係なく力なき者が死に力ある者が蔓延る世を創ろうとして、最低でも行動した一週間後には消える。

 新しく生まれたばかりの勢力の王は喰った喰ったと腹をなでる姿が同盟神話によく目撃される。

 その新勢力はある意味同盟の象徴でもある。

 北欧からは主神オーディンの娘ブリュンヒルデ。

 須弥山からも同じく主神帝釈天の娘ジャヤンティ。

 ギリシャからは主神ゼウスの娘達九姉妹(ムーサイ)のカリオペイア、クレイオー、エウテルペー、タレイア、メルポメネー、テルプシコラー、エラトー、ポリュムニアー、ウーラニアー。

 インドは主神シヴァの義妹ガンガー。

 その他神話からも主神に連なる女神達を嫁としてあてがわれ、平和の象徴となった男。

 黒猫の顎をなでながら読んでいた雑誌を閉じる。

 

「おもしろい漫画がとうとう終わった。残りのはつまらん……最近の映画もリメイクばっかだし、飽きてきた」

 

 ビクリと彼の妻の大半が震える。そばに控えていたメイドのうち一人も顔を青くしてガタガタ震え出す。

 

「別にこの世界滅ぼしたりはしねーよ。お義父さん沢山居るしな。というわけで、次の世界いこうぜ次の世界。候補は三つ……一つは魔人族、人間族、亜人族の三種族で別れて喧嘩してる世界。ここにある迷宮っての攻略してみたい。次に百年ごとになんか別世界から強いのが神か魔王として現れる世界。ちょうどその周期が近くてな、魔王として現れたら神として、神として現れたら魔王として振る舞うのも楽しそうだな………最後はここに似てるな。色んな神話のごった煮。神々が遊ぶゲーム盤。命懸けたものから手持ちの小遣いをかけたものまで色んなゲームが出来る世界だ。お前等、何処の世界行きたい?」

 

 魔獣の王はケタケタ笑う。未知なる世界で自分が殺されるなど微塵も考えない……訳ではない。余程気に入らないことでもされない限り、彼は格は兎も角次元は合わせてやるのだ。ひょっとしたら勝てる存在もいるかもしれない。

 でも彼は笑う。死ぬかもしれなくても、その課程はきっと楽しいだろうからな。

 

「………旦那様は、変わりませんね。未知が待ち受けていようと、楽しそうです。怖くないんですか?」

「ワクワクするな。人生楽しんだ者勝ちだもの……」

 

 ケタケタケラケラ楽しそうに笑う彼に、戦乙女ははぁ、とため息をはいたのだった。



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