我、深海棲艦ニ転生ス! (☆桜椛★)
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我、空母ヲ級ニ転生ス!

東京のとある住宅街、夏の日差しが照りつける中、1人の青年がお茶やジュースが入ったレジ袋片手に汗を流しながら家を目指していた。

 

 

「あークッソ、あっついなぁ。これ暑過ぎて死ぬかも知れん」

 

 

額の汗を拭う彼の名は《十六夜(いざよい) (なぎさ)》。今年で20歳になる男子大学生だ。因みに趣味はゲームと読書である。

そんな彼は現在、家の冷蔵庫に飲み物が全く入っていなかった為、態々家からかなり離れた場所にあるコンビニに行って数本のお茶やジュースが入ったペットボトルを買い、家に帰っている途中である。

 

 

「てか、なんで俺の家の近くのスーパーが全部『今日暑いから』って理由で閉まってたんだよ!?子供か!!」

 

 

十六夜は遠くのコンビニに行く事になった理由に愚痴を言いながら家を目指して歩き続ける。

 

 

「はぁ…早く帰ってゲームしたい。そういえば今日からイベント始まるんだっけか?」

 

 

十六夜は赤になった信号をぼんやり見ながら自分が嵌まりまくっているネットゲームのイベントの事を呟いた。

 

【艦隊これくしょん】、通称『艦これ』。

第二次世界大戦期に活躍した駆逐艦や戦艦、空母などの艦艇が美少女に擬人化した《艦娘(かんむす)》として登場し、彼女達を育成、強化、編成などをして敵艦隊である《深海棲艦(しんかいせいかん)》と戦闘させたりするブラウザゲームである。

 

十六夜は親友に勧められてやり始めたのだが、思ったより嵌り、今では毎日の楽しみとなっている。

信号が青になり、十六夜は早く家に帰ろうと少し足早に横断歩道を歩き始めた。

 

 

「さて、早く家に帰r《ヒュゥゥゥゥゥゥ〜〜!!》…あん?」

 

 

だいたい半分くらい渡った所で、妙な音が聞こえてきた為十六夜は足を止めて辺りを見回した。しかし車どころか人1人いない。なんの音か分からず首を傾げていると、音が段々大きくなり、十六夜がふと上に目をやった瞬間、激しい音と衝撃と共に十六夜の意識はなくなった。

その日、東京都のとある住宅街に小型の隕石が落下し、多数の被害を受けた。幸い死者は確認されていないが、近所に住む1人の大学生の男性と連絡が取れなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

???side…

 

(………う…こ、ここは?)

 

 

ゆっくりと閉じていた目を開くと、綺麗な青空が見えた。その空にはカモメが鳴きながら空を舞い、耳には波立つ水の音が聞こえ、鼻には潮の香りが漂って来た。どうやらここは海らしい。

 

 

(……うん、ちょっと待とうか)

 

 

何故かズキズキ痛む体をゆっくり起こして辺りを見回した。目に入るのは照りつける太陽、青く美しい海、白い砂浜。そして空を舞うカモメや砂浜に数本だけ生えている椰子の木。

まごう事ねぇ、完全に海だわここ。

 

 

「何故、私ハ海ナンカニン〜〜〜〜???

 

 

あれ?何今の声と口調?それに私の一人称は俺の筈なんだがどういう事だ?

私…もう私でいいや。私はなんとなく自分の体を見てみると、体が石の様に固まった。

だが仕方ないと思う。何故なら自分の服が見た事の無い物に変わっている上、男の私には無い筈の()が目に入った。恐る恐る嫌な予感がしつつもアソコに手をやり、確認を取ると膝から崩れ落ちてショックを受けた。

 

 

「ナ、何故…()ニナッテルンダ?……ウン?」

 

 

手をついて若干泣きそうになっていると、自分の視界に長い銀髪?と今の自分の腕ぐらいの太さの細長い物が入った。なんだろうと思いながら頭の上に手をやると、今まで全く気付かなかったが、大きな帽子な様な物があった。

 

 

(不思議な感触だな。被っていることすら気付かない程軽いのに、まるで鋼鉄の塊の様な触り心地だ)

 

 

私は帽子を外して手に取ってみると、その帽子に見覚えがある事に気付き、慌てて自分の姿を確認しようと何か鏡の様な物がないか探した。取り敢えず帽子を被りなおして探していると、少し離れた場所に水溜りがあり、そこで自分の姿を確認した。

青い目と白い歯が並ぶ口の様な物が付いた鉄の塊の様な大きな黒い帽子。脚の部分が黒い水着の様な服装。風に靡く黒いマント。そしてそれらに身を包む雪の様に白い肌をし、左目に蒼い炎の様な光を灯す青い瞳をした少女の姿が水溜りには映っていた。

私はこの姿に見覚えがある。

 

 

「……空母ヲ級改flagship」

 

 

《空母ヲ級》。『艦これ』に登場する敵艦隊、深海棲艦の人型の1人だ。深海棲艦の中でも正規空母に匹敵する能力を持ち、高火力の航空攻撃で艦隊を容赦無くボロボロにしてくる敵空母である。

それの強化版である《空母ヲ級改flagship》にどうやら私はなってしまった様だ。

私は水溜りから視線を外し、どこまでも続く青い空を見上げながら呟いた。

 

 

「ドウシテコウナッタ?……」

 

 

いやホント何がどうしてこうなった?だいたい思い付くのは小説やアニメでよくある“転生”とかだが、私は神様なんぞに会った覚えは無いぞ。というか空母ヲ級って事はここは『艦これ』の世界か?じゃあ私は艦娘達に砲弾やら爆弾やら魚雷やらを撃たれまくるのか?

 

 

「ダトシタラ、最悪ダナ…」

 

 

何が悲しくて自分が好きだったゲームのキャラクター達に殺されなくちゃならないんだ。

私は深海棲艦になってしまった事にしばらくの間ショックを受けていたが、殺されない為にも艦娘達には手を出さず、最低限の戦い方を身に付けてひっそりと暮らそうと決めて気を取り直した。

早速海に行って艤装(ぎそう)が使えるか確認しようとしたが、そこでふと気付いた。

 

 

(あれ?ヲ級のステッキが無い)

 

 

ヲ級が手に持っているあの黒いステッキが見当たらないのだ。あの黒いステッキもちゃんとしたヲ級の艤装なので、失くしたとあっては非常に困る。

試しに先程自分が寝ていた砂浜に戻ると、黒いステッキが私が寝ていた場所の近くに突き刺さっていた為安心した。

 

 

「良カッタ…失クシタラドウシヨウカト思ッタ」

 

 

ホッと安堵しながら私は砂浜に突き刺さっているステッキを掴んだ。その瞬間、激しい頭痛が私に襲い掛かり、膝をついて頭を抱える。少しの間頭痛は続いたが、しばらくするとさっきまでの頭痛が嘘の様に痛みが消えた。

そして、先程まで無かった艤装や艦載機などの様々な知識が頭の中に入っていた。

 

 

「イタタ…コウイウノハ先ニ言ッテ欲シイモノダ」

 

 

私はゆっくりと立ち上がり、目を閉じて1つ1つ頭の中に入って来た知識を確認した。艤装の展開と収納方法、水上航行のやり方、艦載機の操縦や武装の事などの知識があるのは正直有り難い。有り難いんだが……。

砲撃の方法や潜行方法、更には艦載機の製作方法とかの知識があるのはなんで?おかしいだろ?というかヲ級の頭の艤装に付いた大砲っポイやつホントに弾撃てるのかよ。

そんな事を思っていると、何処からか女性の声が聞こえて来た。

 

 

『ヲ級さん、聞こえていますか?』

 

「ヲ?誰ダ?何処ニイルンダ?」

 

 

周囲を見回すが人影すら見当たらない。おかしいな…結構近くから聞こえた筈なんだがな。

声の主が見付からず首を傾げていると、再び女性の声が聞こえて来た。

 

 

『何処見てるんですか?下ですよ下!』

 

「下?下ッテ言オオォォォォォォォォオ!!?

 

 

私は足元にいた人…人?を見て驚き、尻餅をついてしまった。私の足元にはグダ〜っとした猫を両手で吊るし、水兵服を着たニ頭身程のデフォルメ化した茶髪の女の子がいた。

 

 

「ヨ、妖怪猫吊ルシ!!!」

 

『確かにそう呼ばれたりしますが責めて《エラー娘》と呼んでください』

 

 

妖怪猫吊r「あ〝?」ゴホンッ!エラー娘さんは私を見上げながらそう言った。

え?マジで本物のエラー娘?

 

 

『正確にはちょっと違います。私はこの世界とは別の世界のエラー娘です』

 

「サラット私ノ心読ンダナ……ソレヨリ、別ノ世界トハドウイウ事ダ?」

 

 

エラー娘がいるという事はここは『艦これ』の世界で間違い無いと考えていたのだが、私は「別の世界のエラー娘」という言葉に疑問を抱いた。

 

 

『はい、ここは貴女達で言う【艦これ】の世界ではないのです。この世界に艦娘や深海棲艦はいません。ここは貴女達で言う【ONE PIECE】の世界なのです』

 

「【ONE PIECE】?アマリ知ラナイナ…」

 

『貴女はテレビを殆ど見ずにずっと『艦これ』してましたしね』

 

 

私の私生活の事も知っているのか。もうなんでもありだなエラー娘。

という事は……。

 

 

「ナラ、私ガ何故 ヲ級 ニナッテイルノカモ、知ッテイルナ?」

 

 

私がエラー娘にそう聞くと、エラー娘は滅茶苦茶気不味そうな顔をしてスッと目を逸らした。おいこっち見ろや。

私はエラー娘をジト目で見続けていると、ポツポツと彼女はこうなった原因を話し始めた。

物凄く長かったので簡単に説明すると、このエラー娘が管理する『艦これ』の世界でバグの様な物が発生、それを直す為にエラー娘が力を使った結果、色々あって私は死に、ヲ級の姿でこの世界に転生したらしい。

うん、意味が分からん。

 

 

『まぁ、そんな訳でですね。流石にそのまま放置というのは悪いので、その体にちょっとした能力を付与したのです』

 

「能力?アァ、頭ノ艤装ノ砲撃トカカ?」

 

『はい。ただ、この世界にはボーキサイトなどが存在しなくてですね。このままではすぐに燃料などがなくなってしまうので、私の力でこの世界の海底でのみ、それ等の資材を回収出来るようにしました。それと一緒に貴女にはボーキサイトなどの資材が一目で分かるようにしました。私はそれを教える為にここに来たのです』

 

(なんか本当になんでもありだなエラー娘。まぁ、確かにそれは有難いな)

 

『そうでしょう!感謝するのです!』

 

「一気ニ感謝スル気ガ失セタナ…」

 

 

えっへん!と胸を張るその姿は可愛く見えるが、最後の言葉でなんか感謝の言葉を言う気が失せたわ。本人も流石に今のは恥ずいと思ったのか、少し頬を染めて目を逸らした。

 

 

「エーット…マァ、アリガトウ」

 

『ッ!!はい!どういたしまして♪それでは私はこの辺で失礼します。新しい艦生をお楽しみ下さいなのです』

 

 

エラー娘は笑顔で手を振りながら空気に溶ける様に消えていった。私も小さく手を振りながらそれを見送った。

 

 

(さて、私もそろそろ行こうか。この島はもう何もないしな)

 

 

この島は小学校のグランド程の広さしかない為、私は早速別の島へ向かうことにした。水上航行のやり方は分かっているから私は難無く海面に立つことが出来た。私は本当に立っている事に感動を覚えながらも、海面を滑る様に別の島を目指して航行し始めた。

 

 

「深海棲艦、空母ヲ級改flagship。抜錨スル」



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我、道ニ迷ッテ島ヲ発見ス!

偉大なる航路(グランドライン)前半、《シャボンディ諸島》と《ウォーターセブン》の間の海域、そこに2隻の海賊船が波に揺られながらも航行していた。

普通の船より沢山の大砲を搭載し、船首には一際大きい大砲が付いている。黒い帆には骨の代わりに大砲が交差した髑髏のマークが赤色で描かれており、マストの先に付いた海賊旗にも同じマークが描かれている。殺る気満々な海賊船に乗っている彼等は《フレイム海賊団》。懸賞金3200万ベリーの海賊、通称“戦争屋”《ガンスキー・スミス》率いる海賊達である。

本来なら計5隻の船を持つそんな彼等だが、今はその数を2隻に減らし、皆焦った様子で甲板を走り回っていた。そんな時、後ろに付いていた彼等の仲間の船が大爆発して海に沈み始めた。

 

 

「ッ!?ガンスキー船長!とうとう残るは俺達の船だけに成りました!」

 

「畜生!!何ボサッとしてやがる!?撃てぇ!!撃ち殺せぇ!!」

 

 

炎を上げて沈んで行く仲間の船を見て叫んだ船員に片腕をガトリングガンになっている大柄な男…ガンスキー・スミスが怒鳴る。船員達はすぐに自分達の自慢の大砲を用意し、何故か船が見当たらない方向に向けて大砲を撃ちまくった。

 

 

「船長!!ダメです!敵が遠過ぎて砲弾が届きません!!」

 

「クソッ!!なんでこんな事に……」

 

 

ガンスキーは苦虫を噛み潰した様な顔で頭を抱えた。つい30分前まで自分達は次の島を目指して航海をしていた筈なのだ。だが見張りをしていた仲間の1人が海の上を走る(・・・・・・)人影らしきものを見つけ、暇潰しに他の仲間と一緒に砲撃したのだ。

しかし的が小さ過ぎて砲弾は当たらず、次の弾を撃とうと準備を始めた時、仲間の船の内の1隻が突然大爆発を起こして沈んだのだ。ガンスキーは身の危険を感じて逃げる事にしたのだが、次々と船が沈んでいき、もう自分達が乗る船しか残っていなかった。

 

 

「ガンスキー船長!敵がいる方向から何か飛んできます!」

 

「何!?砲弾か!?」

 

「い、いえ。なんと言うか…黒い鳥の様な…」

 

は!?鳥!!?

 

 

望遠鏡を覗きながら報告する仲間の見る方向に目を向けると、段々黒い何かが飛んで来るのが見えた。アレはなんだと疑問に思っている内にそれ等はあっという間に船に接近し、銃弾を放って来た。ガンスキーの腕に付いたガトリングガンよりも早い連射速度で弾丸は放たれ、弾丸の雨は甲板にいた仲間達に襲い掛かった。

 

 

「ぎゃあああああ!!?」

 

「ぐわぁあ!!痛ぇ!!痛ぇよぉ!!」

 

 

次々と撃たれて倒れて行く仲間達に大きく舌打ちし、ガンスキーはガトリングガンを構えて上空を旋回している黒い鳥の様なものを撃ち墜とそうと銃弾を放った。しかしそれ等が速過ぎて狙いが定まらず、弾は当たる事はなかった。黒い鳥の様なものはそのまま敵がいた方向へ飛んで行った。

 

 

「クソが!!アレがあの野郎の《悪魔の実》の能力か?」

 

 

《悪魔の実》、別名“海の秘宝”と呼ばれる食べると何かしらの能力を手にする代わりに、海に嫌われて2度と泳げなくなる実の事である。悪魔の実には通常では有り得ない特殊な体質になる“超人(パラミシア)系”、動物の能力を得て変形も出来るようになる“動物(ゾオン)系”、体を自然の物質そのもの変化させられるようになる“自然(ロギア)系”の3種類がある。

ガンスキーの予想では“超人系”だと予想しているのだが……。

 

 

(なんで悪魔の実の能力者が海の上を走ってやがる!!?)

 

「ッ!?ガンスキー船長!上!」

 

 

無事だった仲間の叫びに反応してガンスキーは真上を見上げた。そこにはさっきの黒い鳥の様なものが3匹飛んでおり、黒い何かを落とした。風を切る様な音を立てて落ちて来るそれがガンスキーの目の前に落ちた瞬間、ガンスキーの意識は途絶えた。

大爆発を起こして燃え盛るフレイム海賊団の海賊船を、遠くから1人の黒い大きな帽子を被った少女がマントを風に靡かせながら眺めていた。

 

 

 

 

 

 

ヲ級side…

 

 

私は燃えながら海に沈んで行く海賊船を眺めながら深い溜め息を吐いた。今月に入って5回目の海賊の襲撃だから仕方ないと思う。

私が空母ヲ級になってから早4ヶ月。この世界の生活にも慣れ、今は島を転々としながらお金を稼いでいた。島を出た時は無一文だったからね。

お金は今みたいに海賊船を沈め、海に沈んだ海賊船の残骸の中から金目の物を回収している。最初は人を殺す事を躊躇っていたが、慣れとは恐ろしいもので、今では敵には躊躇い無く攻撃出来る。

 

 

「ン、ゴ苦労様。戻ッテクレ」

 

 

私は先程の海賊船を爆撃させた深海棲艦の使っている先の尖った甲羅に目が付いた様な見た目をした艦載機を回収する。発艦する時はやっぱり頭の艤装の口が開いてそこから飛び立って行った。

あ、後砲撃も少し前に試したのだが、砲撃して飛び出した砲弾が私から少し離れたら実弾サイズに巨大化して飛んで行ったんだけどどうなってんの?

 

 

「サテ、早速金目ノ物ヲ回収スルカ」

 

 

私は艦載機を全て回収したのを確認すると、私は先程の海賊船から金目の物を回収する為に海に潜って行った。

うん、やっぱり不思議な感覚だ。ゴーグルも酸素ボンベも付けていないのに海の中で息も出来るし、深い所でも昼間の様に……とまでは行かないが、曇りの日程度の明るさで見える。それに深海棲艦だからかなんとなく心地良く感じる。

 

 

(お!あったあった。さて、今回はいくらあるかな?)

 

 

かなり深い所に海賊船の残骸は沈んでいた。船長室に大体の海賊は金貨やら金庫やらを置いている。私は船長室らしき場所を見つけ、中に入った。

 

 

(ふむ…今回は金庫が1つか。まぁ、いいか)

 

 

私は自分と同じくらいの大きさの金庫を持ち上げて海上へと浮上した。この体って意外に力持ちなんだよな。海面に出た所で金庫の扉をこじ開けて中身を確認。

・・・・う〜〜〜ん。

 

 

(札束が20個…金庫の大きさの割に滅茶苦茶少ない。金欠だったのかな?)

 

 

取り敢えず中身は全部頭の艤装の口の中に放り込む。コレ、何故か口に入る大きさの物なら沢山入れられるんだよね。出したい時はそれをイメージしながら帽子に手を突っ込むと出てくるのだ。

 

 

「良シ、次ノ島ヲ目指スカ。……フム、コッチダナ」

 

 

私はシャボンディ諸島の《永久指針(エターナルポース)》という方位磁石みたいな物を見て、その針が指す方向へ進み始めた。コレがあれば確実に次の島まで迷わずに進む事が出来るから重宝している。値段も高かったし。

 

 

 

 

 

 

「・・・ドウシヨウ。完全ニ迷ッタ

 

 

数時間前の自分の顔面に1000ポンド爆弾をぶつけてやりたい。何が「コレがあれば確実に次の島まで迷わずに進む事が出来る」だこの野郎。さっきから針がグルグル回りまくってるわ。

私は深い溜め息を吐いて辺りを見回す。どの方角を見ても海しか見えず、島影すら見えない。30分程前に次の島…海図によるとシャボンディ諸島と呼ばれる島に向かっている途中、突然エターナルポースの針がグルグル回り始め、次に進む航路が分からなくなってしまったのだ。

 

 

「ア!電探ヲ使エバ、ナントカナラナイカ?」

 

 

電探とは簡単に言えばレーダーの事である。正直言ってエターナルポースがダメならコレに頼る以外には運に任せて進むしかない。私は集中しやすいように目を閉じて電探を使用した。すると今いる場所から7時の方向に反応があった。反応した数は3つ。全く動かない事を見るにどこかに停泊した船だろう。

私は目を開き、電探を使用しながら反応がある方へ向かった。しばらく反応のする方向へ進んでいると、突然先程まで島影すら見えなかった海の上にそこそこ大きな島が出現した為驚いて足を止めた。

緑豊かな島だが、港らしき場所があり、そこには3隻のガレオン船が停泊していた。アレが電探で探知出来た船だな?

 

 

「シカシ、本当ニ突然現レタナ。ドウイウ原理ナノダロウカ?」

 

 

物凄く気になる所ではあるが、流石に30分も変な海域をグルグルしてたら体力的にではなく精神的に疲れた。私は取り敢えず島に上陸する為にゆっくり進み始めた。

 

 

 

 

 

 

「ウッソダロオイ……」

 

 

島に無事上陸出来た私だが、そこで島の異変に気付いた。なんというか、建物がボロボロなのだ。もう何十年も使われていない様な建物に、今にも沈んでしまいそうなガレオン船。それにさっきから電探で捜索しているが、人の反応が全くしない。おそらくここは捨てられた無人島なのだろう。

 

 

(しかし参ったな。この様子だとお金を持っていてもなんの役にも立たない。エターナルポースは未だにグルグル回っている。……仕方がない。今日は野宿にするか)

 

 

艦載機を使えば簡単に魚も捕まえられるし、海に入ればボーキサイトや燃料も確保出来るしな。そうと決まれば寝床の確保だな。

私はボロボロになっている建物の中でもレンガで出来たそこまでボロくない2階建て建物の中に入った。中は誰も住んでいないからか埃だらけで、玄関の扉も開けようとすると扉ごとバキッ!と取れてしまった。私悪くないよ?

とにかく1番マシそうな部屋を探して建物内を散策した。10分程すると2階にソファや机が置いてある応接室の様な場所を見つけた。

 

 

「コノ部屋ニスルカ……ン?」

 

 

ソファの上の埃を払おうとすると、妙なものを見つけた。ソファの上の埃に所々足跡の様な跡があるのだ。最初はネズミか何かだと思ったが、少しおかしい。まるで小さな人間(・・・・・)が靴を履いて歩いた様な跡なのだ。いや、ここは私の知っている常識がある世界じゃない。タンカーも丸呑みできる程の巨大な海王類と呼ばれる魚、手長族や魚人といった人種もいるのだ。小人サイズの人間やこんな足跡を残す動物がいる可能性もある。

 

 

(となるとこの島小人でもいるのか?足跡はつい最近ついた様だし……取り敢えず少し休むか。晩御飯は確かウォーターセブンで買ったみずみず肉があったはずだし)

 

 

私はソファの埃を払って腰を下ろした。再びエターナルポースを見るが、やはりまだ針はグルグル回っている。この島が針を狂わせているのだろうか?さっきも突然島が現れたから可能性はあるな。なんとなく天井を見ながら思考を巡らせていると、ガタン!と何かが床に落ちた様な音がし、反射的に音がした方向を見た。

 

 

『『『あっ……』』』

 

「・・・・ハ?

 

 

私は予想外の光景にそんな声が出てしまった。私の視線の先には本棚があり、床に落ちた古い本があった。おそらくコレが落ちた音だろう。だが問題はそこではない。本があったであろう場所にニ頭身程のデフォルメされた少女の姿をした小人…妖精さん(・・・・)が3人、こっちを見て固まっていた。



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我、妖精さん達ト交渉ス!

ヲ級side…

 

 

『た…退却ぅぅぅぅぅぅぅぅ!!

 

『『『『『わぁぁぁぁぁぁぁ!!!』』』』』

 

エエェェェェェェ!!?

 

 

真ん中にいた妖精さんが叫ぶと、机の影やソファの下、箪笥の引き出し、シャンデリアの上などから沢山の妖精さん達が飛び出し、皆一斉にドアから逃げ出した。数は軽く30人はいそうだ。

 

 

「…アッ!待、待ッテ!!」

 

 

突然の事に驚いて反応が遅れたが、私は慌てて彼女達を追って廊下に出た。妖精さん達は思ったより足が速く、更に体が小さい為なかなか捕まらない。このままでは逃げられてしまいそうなので、私は手に持ったステッキを振って妖精さん達に向けた。

 

 

「第1攻撃部隊!全機発艦!彼女達ヲ外ヘ逃ガサナイデ!」

 

 

すると頭の艤装の口が開き、中から5機の艦載機が発艦した。艦載機は廊下を走る妖精さん達の上を通過して先回りした。それを見た先頭の妖精さんは急ブレーキを掛けたが、後ろにいた妖精さんは止まる事が出来ずに衝突し、その衝突した妖精さんに更に後ろにいた妖精さんが衝突する連鎖が起こり、妖精さん達はみんな転んでしまった。

私はようやく彼女達に追いつき、妖精さんの山の中から最初に叫んだ妖精さんを掘り出し、手の上に乗せた。妖精さんは目を回していたが、すぐに今の自分の状況を把握すると頭を抱えてプルプル震え始めた。例えるとアレだ、どっかの紅い館の吸血鬼お嬢様のカリスマガードみたいな感じ。

 

 

『ひえぇぇぇぇ!お助けなのですぅぅぅぅ!』

 

『あ!リーダーが捕まった!』

 

『リーダー!あなたの事は忘れません!』

 

『ねぇ?今どんな気持ち?ねぇどんな気持ち?』

 

 

なんか他の妖精さん達が凄い事言ってる!最後の奴に至っては完全に煽ってるだろ!あ、私の手の上に乗っている妖精さんが泣きそうになってる!どうしよう、私子供どころか妖精さんのあやし方なんて知らないんだけど!?

 

 

「エット…コ、コレカラ良イ事アルト思ウゾ?」

 

『グスン…せめて言い切って下さいよ』

 

 

リーダーと呼ばれている妖精さんはどこからか取り出したハンカチで涙を拭きながらそう言った。それにしてもどこからどう見ても『艦これ』の妖精さんだよな?なんでこんな所にいるんだ?……いや、ここに来るまで手が長い人や足が長い人や普通の人の倍近い身長の大男とかがいた。もしかしたら妖精さんにそっくりな別の種族かもしれな……。

 

 

『うぅ…まさか深海棲艦に励まされるとは…』

 

「ハイ私ノ知ッテル妖精さんダワ…」

 

 

なんでこの世界にいるんだ?エラー娘の話ではここは【ONE PIECE】の世界の筈なんだろ?しかも深海棲艦を知っているって言っても、この世界には私以外に深海棲艦はいない筈だ。

私が首を傾げていると、いつの間にか全員立ち上がった妖精さん達の内の1人が隣にいた妖精さんと話し始めた。

 

 

『なんだか、私達の知ってる深海棲艦と違くないですか?』

 

『ふむ、確かにさっきから攻撃してこないな』

 

『深海棲艦って危ない艦娘じゃなかったか?』

 

『もしかして実は良い人です?』

 

 

どうやら彼女達は深海棲艦の事は知っているようだな。という事は彼女達は『艦これ』の世界からやって来たのだろうか?

 

 

「私ハ別ニ危害ヲ加エル気ハ無イ。ソレヨリ深海棲艦ノ事ヲ知ッテイルノカ?私以外ニモ見タ事アルノカ?」

 

『え?い、いえ。私達は知識として深海棲艦や艦娘達を知っているだけで、今まで見た事は無いです』

 

「知識?ドウイウ事ダ?」

 

 

私が意味が分からず手の上に乗せた妖精さんに詳しく聞いてみると、妖精さんは少しずつではあるが教えてくれた。

彼女達はまだこの島に人が住んでいた頃に、気が付いたら色々な知識や技術を持ってこの島にいたらしい。最初は自分達で話し合った結果、この島の住民達と共存しようとした。だが、この島の住民達に彼女達の姿は見えず、更にはある日島の人々は島を捨てて海に出て行った。

理由は大きく分けて2つあり、1つはこの島が《記録指針(ログポース)》や永久指針(エターナルポース)の針を狂わせ、更に蜃気楼によって島が接近しないと見つからず、漁に出た人達が遭難するという事故が多発しまくった為、住みにくい環境だったから。

もう1つはある日を境に島のあちこちで食料が消えたり、誰も触っていないのに物が倒れたり動いたりするなどの怪奇現象(・・・・)が起きるようになったからである。

・・・・・・うん。

 

 

「1ツ目ハ兎モ角、2ツ目ハ完全ニ妖精さん達ガ原因ダロ?」

 

『『『『『確かにそうですけど!』』』』』

 

 

しかし、成る程な。私のエターナルポースの針が狂ったり、あの突然島が現れたりする現象は全部この島が原因だったのか。蜃気楼って確か島や水上の物が浮いて見えたり、逆さに見えたりするだけだったと思ったのだが…この世界の海ならそんな現象が起きても不思議じゃないな。

 

 

「ソレナラ、島ヲ出テ行ク住民達ニ、付イテ行ケバ良カッタンジャナイノカ?」

 

『それが出来たらここに居ねーです!』

 

『島から出ようとすると私達が最初に現れた場所にテレポートするです!』

 

『279回中、279回失敗したです!』

 

『そんな事よりお腹減ったです…』

 

 

ふむ、つまりこの島から妖精さん達は何故か出る事が出来ないという事か。というかもうそろそろ他の妖精さん達が飽きて来たのか、何人か遊び始めたな。

しかしそうか、お腹が空いたか。確かにもう日が暮れて来たからな……良し!

 

 

「私ハコレカラ夕食ヲ食ベルガ……一緒ニ食ベナイカ?」

 

『『『『『いいのですか!!?』』』』』

 

私の誘いを聞くと、妖精さん達がみんな揃ってキラキラした目で私に注目した。私が勿論だと頷くと、妖精さん達から歓声が上がった。この人数ならウォーターセブンで買ったみずみず肉で事足りるだろう。もし足りないようなら炒飯でも作ってあげよう。

私は出していた艦載機を回収し、妖精さん達を引き連れて外に出た。

 

 

 

 

 

 

『う、うめぇ!この肉うめぇ!』

 

『久しぶりのお肉です!』

 

『この炒飯うめぇです!お代わりを所望するです!』

 

「口ニ合ッテ良カッタ。ア、みずみず肉マダアルケド、食ベル?」

 

『『『『『いただきます!』』』』』

 

 

現在時刻、午後7時37分。私は現在、妖精さん達と一緒に夕飯を食べている。それにしてもよく食べるなぁ。しかもなんか、美味しそうに炒飯やみずみず肉をパクパク食べる姿を見てると心が和むわぁ♪

でも、あの小さな体のどこに食べた物が入ってるんだ?明らかに自分の体より多い量を食べまくってるんだけど。

私が美味しそうにみずみず肉を頬張る妖精さんを見ていると、リーダーと呼ばれていた妖精さんが話し掛けて来た。この子は他の子と違って真っ黒な作業着に黄色いヘルメットを着用しているから区別しやすい。『艦これ』の工廠娘の色違いだな。

 

 

『あの、ヲ級さん。この度は私達にご飯を下さいまして、ありがとうございます』

 

「気ニシナクテ良イ。私モ妖精さん達ヲ見レテ良カッタト思ッテル(だって可愛いし……)」

 

 

妖精さん…紛らわしいからリーダー妖精でいいか。リーダー妖精はペコリと下げていた頭を上げ、少し嬉しそうにしていた。話を聞いた限りだと、彼女達はこの島でずっと自給自足の生活をしていたらしい。ただ、食べてるものが哀れ過ぎた。昨日の晩御飯、タンポポの葉っぱのソテーだってよ。なんでも魚が釣れなかったらしい。お肉に至っては動物狩に行って逆に喰われそうになったらしい。

 

 

「ソウ言エバ、色々ナ知識ヲ持ッテルラシイナ。ドンナ知識ダ?」

 

『色々ですよ?建物の建築とか装備の開発とか……あ、後深海棲艦(・・・・)の建造とか…』

 

「待テ待テ待テ!!チョット待ッテ!!!

 

 

今普通の妖精さんなら絶対有り得ない事聞いたんですけど!?深海棲艦の建造って言ったよな今!!

 

 

「深海棲艦ノ建造ダト!?オ前達カラ見テ深海棲艦ハ、危ナイ艦娘ッテ言ッテタダロウ!!」

 

『だから建造しなかったんですよ。それに建造に必要な設備も資材もありませんし』

 

「逆ニ言エバソノ2ツガアレバ建造出来ルノカ!?」

 

 

うっそだろオイ!じぁあ何か?私が設備と資材を用意すれば深海棲艦が建造出来るのか?……ヤバい、滅茶苦茶気になる!

それに今まで1人旅だったから、仲間が欲しいと思っていたからな。………良し!

 

 

「仲間ノ深海棲艦ニハ一度会ッテミタイナ。…資材ナドハ私ガ集メルカラ、一度建造シテミテクレナイカ?」

 

『………なら、条件があるです』

 

 

かなり難しい顔をしながら考え込んだリーダー妖精は、他の妖精さん達を集めてコソコソ話し出した。しばらく話し合った後、リーダー妖精と妖精さん達

 

 

『1つ、建造する為に必要な資材はヲ級さんが用意する事。設備については資材をくれれば私達で作るです。必要な資材はボーキや鋼材、燃料などです。

2つ、私達に食料を提供するです。保存庫とか作りますので日持ちのする食べ物がいいです。出来ればお肉がいいです。

3つ、もし建造した深海棲艦が攻撃してきた時は貴女が私達を守るです。私達の知識通りなら、ヲ級さんは別ですが、深海棲艦は基本人類の敵のはずなので』

 

「フム………」

 

 

1つ目は問題ない。ボーキサイトや鋼材は海に潜れば幾らでも取ってこれる。資材を持って来れば設備は妖精さん達が作ってくれるらしいのでそこは助かる。

2つ目も問題ない。ぶっちゃけ昨日の晩御飯の話を聞いた時から定期的に食料を持ってこようと思っていたからな。お金はそこら辺の海賊を沈めればいい。

問題は3つ目の条件だ。いくら改flagshipとはいえ私は空母ヲ級だ。1発目の建造で《姫級(ひめきゅう)》が出て来たら勝てるか分からない。

 

 

「………分カッタ。ソノ条件ヲ飲モウ。ドノ道貴女達ニハ定期的ニ食料ヲ提供シヨウト思ッテイタカラ」

 

『マジですか!!良し!やりましたよヤロー共!食料確保です!』

 

『おー!流石リーダー!』

 

『建造か…フッ。腕がなるです』

 

『お肉祭りじゃ〜〜♪』

 

 

私が条件を飲むと妖精さん達は歓声を上げた。今日はもう遅い為、明日私が資材を海に潜って採取して来て、その資材を使ってリーダー妖精を中心とする工廠娘達が建造に必要な設備を作り、その後また資材を取って来て建造する事になった。

 

 

 

 

 

 

私が妖精さん達と出会って早1週間経過した。この1週間、私はひたすら海に潜って資材を採取して工廠娘達に渡した。工廠娘達は資材を受け取ると、あっという間に工廠を港に建設した。工廠娘の技術力は凄いものだった。工廠を造る映像を早送りで観ているような感じだったからな。

後、5日目辺りから気付いたのだが、ボーキサイトや鋼材なんかは一度採取すると、数日すれば新しく生成される様だ。前世でふと深海棲艦は無尽蔵に出てくるが、資材とか不足しないのだろうか?と疑問に思った事があったが、こういう原理になっていたなら納得出来る。

そして今日、私は妖精さん達と一緒に新しく造られた工廠に来ていた。御察しの通り、今日はいよいよ深海棲艦が建造されるのである。



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我、深海棲艦ヲ建造ス!

ヲ級side…

 

 

私は今、妖精さん達によって建てられた工廠の中にある、幾つも並んだ鋼鉄製の物置のような立方体の内1つの前にいる。それらには全てシャッターが付いており、シャッターの上には『建造』と書かれたプレートが付いており、プレートの下には赤と緑のランプが付いていた。今は赤のランプが点灯している。

 

 

『後10分程で建造出来るです!』

 

『深海棲艦の建造なんて初めてですよ!』

 

『まぁ、艦娘も建造した事ないですけどね!』

 

「……オ前達、深海棲艦カラ守レト条件出シタ割ニハ楽シソウダナ」

 

『『『『『そりゃ勿論♪』』』』』

 

 

妖精さん達は声を揃えて笑顔でそう言った。まぁ、彼女達の作る物の殆どは私が採って来たボーキサイトや鋼材が必要不可欠らしいからな。他の材料で代用しても動作しなかったり、爆発したらしい。何作ってたんだ?

しかし、そう言う私も内心凄くワクワクしている。『艦これ』で艦娘を建造した事はあるが、実際に彼女達に会える訳ではなかった。ましてや深海棲艦の建造なんて人生…はもう終わってたわ。艦生?初なのだから。

 

 

「念ノ為ニ建造出来ル前ニ離レテロヨ?建造サレタ深海棲艦ガ、オ前達ヲ襲ウ可能性ガアルカラナ」

 

『大丈夫ですよ。ちゃんと余った資材を使って盾作りましたし』

 

『そうだぞ!私も余った資材でチャンバラソード作ったから大丈夫なのです!』

 

『私は割り箸と輪ゴムで作った銃を持ってるから問題無いです』

 

「リーダー妖精ハ兎モ角、後ノ2人ハ何処ガ大丈夫カ本気デ分カラナインダガ!?」

 

 

なんで普通のサーベルや銃より遥かに弱いチャンバラソードと輪ゴム鉄砲でそこまで自信が持てるのか分からないよ!それにリーダー妖精の盾も妖精サイズなだけあって凄く小さいから深海棲艦の攻撃防げなくないか!?

というかよく見たら他の妖精さん達もまともな物持ってないな。ハサミや包丁はまだ分かるとして、なんでヨーヨーやけん玉を持ってんの?戦う道具ですらないじゃん。遊び道具じゃん。

私はドヤ顔で自分の武器?を見せてくる妖精さん達を見て思わず額を片手でパシンと叩いた。

 

 

「ハァ……取リ敢エズ、貴女達ハ私ノ後ロニイテ。怪我ヲサレタラ困ル」

 

『了解しました!全員、後退!』

 

『『『『『は〜〜〜い!』』』』』

 

 

リーダー妖精の号令によって私の後ろの方へみんな退がって行き、そこら辺に置かれていた木箱やドラム缶の陰に隠れ、顔だけ出してこちらを伺い始めた。最初からそうしとけば良かったじゃないか。

私は小さく溜め息を吐きながら立方体の側の壁に付いているカウントダウンクロックを見上げる。1〜4番まである内、1番のカウントダウンクロックを見ると、残り時間は5分を切っていた。どんな深海棲艦が建造されるのか楽しみに思ったが、ふと気になる事が出来た。

 

 

「ソウイエバ、“建造レシピ”ハドンナ感ジニシタンダ?」

 

 

実は私は深海棲艦の建造レシピなんて知らない為、今回の建造に必要な資材配分は全て妖精さん達に任せていたのだが、今日お昼ご飯を作ろうと思っていると1人の工廠娘がやって来て、『もう少しで深海棲艦が建造されます!』と教えてくれたから急いで工廠にやって来たのだ。

私がリーダー妖精に聞いてみると、彼女は胸を張って答えた。

 

 

『勿論!大物狙いで“戦艦レシピ”にしたです!』

 

「・・・・・今ナンテ言ッタ!!?

 

 

私の聞き間違いでなければ今“戦艦レシピ”って言ったか今!?深海棲艦の戦艦って言ったら私は《戦艦タ級》と《戦艦ル級》と《戦艦レ級》の3人と、姫級や鬼級の“戦艦型”でもたったの4人しか知らないんだが!?

私はドヤ顔でこっちを見るリーダー妖精の頭を掴んで目の前まで持ち上げた。

 

 

「オイ!コレハ初建造ナ上ニ、敵カモ知レナイ深海棲艦ノ建造ダゾ!?何“戦艦レシピ”デ建造シテルンダ!?」

 

『だ、大丈夫なのです!姫級や鬼級の建造は隣のドックでしか出来ないのです!』

 

ソレヲ差シ引イテモ大丈夫ジャネーンダヨ!!!

 

 

特にレ級が出て来たら不味い!リ級やタ級はまだ勝機はある可能性はあるが、姫級や鬼級並の強さを持つレ級に勝てる気がしない!今の私でもかなりの高スペックではあるが、私は空母ヲ級で相手は戦艦の誰か……力も火力も桁違いに高いと思う。

私がどうしようかと思考を巡らせていると、突然背後からブザーの様な音が聞こえ、工廠中に鳴り響いた。私の背後にはもうすぐ戦艦が建造されるドックがある。私は油の切れた機械の様にギギギと後ろを見る。そこには緑のランプが点灯した立方体…もといドックがあった。

………遅かったか。

 

 

(い、いやいや待てよ?別にレ級が建造されると決まった訳じゃない。タ級かル級の可能性だって十分にある。安心しろ、大丈夫だ。前世だって建造の運とか滅茶苦茶良かったんだからな。きっと大丈夫だ。問題ない………あれ?今私フラグ立てなかった?)

 

『それでは!シャッターを開きます!』

 

 

工廠娘の1人がスイッチを押すと、ゆっくりとドックのシャッターが上に上がっていった。私はゴクリと唾を飲み込んでステッキを構え、いつでも艦載機を飛ばせる様にした。そしてシャッターが上に登り切り、建造された深海棲艦の姿が現れた。

黒いレインコートの様な服を着用し、私に近い白い髪をした頭に服に付属したフードを被っている。首にはアフガンストールの様な物を巻き、胸から臍にかけては白い素肌が露出していて、黒いビキニの様な物が見える。背中には白いリュックサックの様な物を背負い、レインコートからは白い脚が伸びている。そして腰の後ろの辺りから白い蛇の様な尻尾が伸びており、尻尾の先は戦艦を模した深海棲艦特有の意匠が施されている。 全体的に幼い子供の様な容姿をしており、紫色の瞳を持った顔には笑顔が浮かんでいた。

ゆっくりとドックから出て来た彼女はゆっくりと右手を上げ、陸軍式の敬礼をした。私はその姿を見て冷や汗を流す。

彼女は戦艦でありながら姫級や鬼級に匹敵する力を持った小さくも強大な力を持った深海棲艦……。

 

 

「………レ♪

 

 

戦艦レ級である。

 

 

 

 

 

 

で、出たぁぁぁぁぁぁぁあ!!今1番建造されて欲しくなかった戦艦が建造されたぁぁぁぁぁ!!!!最悪だどうすんだコレ!?ヤバい!何がヤバいってもう色々ヤバい!!数分前の自分の顔面にドロップキックを叩き込みたい!!)

 

 

私は目の前にいる戦艦レ級を見ながら内心凄くパニックになっていた。戦艦レ級と言えば砲撃、爆撃、雷撃、夜戦、対艦、対空、対潜戦闘のどの局面においても高い能力を発揮するハイスペック戦艦だ。彼女と殺り合う事になったらflagship改で更に幾つかのオリジナル能力を持っている空母ヲ級の私でも妖精さんを守り切るどころか、私も生き残れるかどうかも分からない。

そんな私の心情を知らないで妖精さん達は初めての深海棲艦の建造成功に歓声を上げてはしゃぎ回っている。

あぁ、私もその中に入りたかったな(涙)。

 

 

「レ?……レ!」

 

(ッ!!来るか!!?)

 

 

レ級は辺りをキョロキョロ見回して私の姿を見つけると、浮かべていた笑みを更に深めた。私が砲撃に構えると、レ級は私の方にまっすぐ走って来た。私の予想よりも速く、レ級が建造されてかなりパニックになっていた事もあり、私はレ級の接近を許してしまった。私は目を固く閉じて襲って来るであろう衝撃と痛みを耐えようと身構えた。

 

 

ポスッ!

「……………エ?アレ?」

 

「レ〜♪レレ〜〜♪」

 

 

思ったより弱い衝撃と、子供に抱き着かれる様な感触を不思議に思い、閉じていた目を開けて自分のお腹辺りを見下ろした。そこには私の体に抱き着いてスリスリと顔を擦り付けるレ級の姿があった。声もなんとなく親に甘える子供の様な感じで、彼女の腰辺りから伸びる尻尾も嬉しそうにフリフリと揺れていた。

 

 

「レ……レ級?」

 

「!レレッ♪」

 

 

少しの間驚いて硬直していたが、今の自分の状況が理解出来ると次第に落ち着いていった。おそるおそるレ級の名前を呼んでみると、レ級は私に抱き着いたまま顔を上げ、花が咲いた様な笑顔を浮かべた。何この娘可愛い♡

 

 

『おぉ!随分と懐かれてますねヲ級さん!』

 

『まるで姉妹の様なのです!ヲ級お姉ちゃんなのです!』

 

『思ったより可愛いですね〜♡ヲ級さんの妹なのです♪』

 

「オ前等ソノ装備ハドッカラ出シタンダ?」

 

 

妖精さん達は先程いた場所から工廠の出入り口まで退がり、おそらく鋼鉄製の盾やバリケードを作ってその隙間からこちらを覗いていた。取り敢えずなんか腹が立ったから今日の晩御飯に出す予定だったすき焼きを私とレ級だけにして妖精さん達は白ご飯とキノコの串焼きにしよう。

 

 

「レ?レレェ〜〜〜♪」

 

『『『『『ヒィ!!!』』』』』

 

「ア!コラ、ダメダゾ レ級。妖精さん達ハ食ベ物ジャナイゾ。食ベチャダメダ」

 

「レ?レェ〜..........」

 

 

妖精さん達の姿を見つけると、レ級は尻尾の先にある口で食べようとした為、私はレ級に注意した。レ級はショボ〜ンとした様子で尻尾を戻した。ちょっと可哀想に思えたので頭を優しく撫でてやると、レ級は目を輝かせて上機嫌になって「レ♪レ♪レ♪」と歌?いだした。しかし、先程から『レ』としか喋っていないのだが、言葉はこれから覚えられるのだろうか?

私が疑問に思っていると、どこからか『クゥ〜…』と可愛らしい腹の虫が聞こえて来た。反射的に妖精さん達の方を見たが、彼女達は首を左右に振っていた。私でもなかった為、工廠のみんなの視線はレ級に向かった。レ級はお腹を押さえて「レェ〜…」と言っており、初見でもお腹が空いているのだと理解出来た。

そういえば、まだ私達もお昼まだだったな。

 

 

「レ級、コレカラ一緒ニオ昼ゴ飯ヲ食ベナイカ?」

 

「レ!?レレレ〜〜〜♪♪」

 

 

私が膝を曲げて彼女の視線に合わせてそう聞くと、レ級は嬉しそうに笑顔を浮かべて万歳をした。私はレ級と手を繋ぎ、妖精さん達を連れてリフォームされた妖精さん達と初めて会った建物(後で気付いたが、見た目は完璧にアニメ『艦これ』の呉鎮守府)に入って行った。この中に簡易的なキッチンがあるのだ。

 

 

 

 

 

 

「出来タゾ。ホラ、食ベテミロ」

 

「レ?」

 

 

私はレ級の前にカレーとスプーンと水の入ったコップを置いた。今日は前世で言う金曜日なので、カレーにした。海軍カレーってヤツだ。レ級は最初はカレーを見て不思議そうな顔をして私とカレーを交互に見た。レ級の隣では小さいお皿に盛ったカレーを美味しそうに食べている妖精さん達がいる。

私も手を合わせて「いただきます」と言ってスプーンを使ってカレーを食べ始めると、レ級は私を真似て手を合わせてからスプーンを握ると、カレーを掬って一気にパクッ!と口の中に入れた。

 

 

「ッ!?レレ〜♪」

 

「ドウダ?美味シイカ?」

 

「レ♪」

 

 

レ級は美味しそうにカレーをパクパクと食べ続け、あっと言う間に完食した。ただレ級はまだ足りなかった様で、カレーの無くなったお皿を悲しそうに見つめていた。私はクスリと笑って彼女のお皿を持ってカレーのお代わりを入れた。レ級はそれを見てまた嬉しそうな顔になった。そして私も自分のカレーを食べ終え、お皿を片付けようと席を立つと、レ級がマントをギュッと握って私を見上げて何か言いたそうにしていた。

 

 

「?ドウシタンダ?レ級」

 

「レ…レォ……ヲ…キュウ…オ、オネ…オ姉チャン!」

 

「ファ!!?」

 

『『『『『ヲ級お姉ちゃん!!?』』』』』

 

 

報告。今日私はレ級という妹が出来た様です。

……なんでお姉ちゃん!!?



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我、仲間ト成リ行キデ海賊ヲ撃破スル?

偉大なる航路(グランドライン)前半のとある海、そこに《メシウマシ島》と呼ばれる新鮮でそのまま食べても美味しい食材が豊富な島があった。街は毎日客寄せの声や主婦達の世間話、子供達の笑い声や怪しい大人達の取引会話や女性にナンパチャラ男の悲鳴などが聞こえ、賑やかな様子だった。

しかし、それも1時間程前までの話だ。今は街のあちこちで銃声や誰かの悲鳴が聞こえ、港とその周辺では火事が起きていた。現在、ここメシウマシ島は1つの海賊団に襲撃されていた。普段なら海賊が襲って来た方向の反対側にある海軍支部から海兵達が武装してやって来て、海賊達を逮捕したりして騒ぎはすぐに収まるのだが、その海兵達は皆海賊達によって返り討ちにされた。

だが、それも仕方がない事だった。今回この島に襲撃して来たのは懸賞金1億4800万ベリーという億越え賞金首である“自然汚染”の《ベネット・ガイラー》率いる《セイキマツ海賊団》だからである。

 

 

「ヒャッハァァァァ!!どうした海軍!歯応えがねーぞ!!」

 

「海軍兵士がなんぼのもんじゃーい!!」

 

「いよっしゃぁぁぁぁぁあ!金品全部いただくぜぇぇぇぇ!!」

 

 

モヒカン頭の男達が銃を空に向けて乱射しながら街中を走り回っていた。彼等がセイキマツ海賊団の船員達である。

 

 

「あん?オイ!あれ見ろよ!!」

 

「どうした兄弟?……お?おぉ!?」

 

 

暴れ回っていた船員の1人があるものを見つけ、近くにいる仲間達に知らせた。仲間達もなんだなんだとその方向を見ると、2人の美少女が手に持った紙を見ながらキョロキョロと辺りを見回していた。1人は黒いレインコートを着用し、開いたチャックの隙間からは黒いビキニが見える紫色の瞳をした女の子。そしてもう1人は所々に黒い装飾が付いた純白のワンピースにミトンの手袋を着用し、雪の様に真っ白な肌に紅い瞳、白髪の頭には黒い小さな角の様なものがある可愛らしい女の子だった。

 

 

「なんだ?あのガキ共?もしかして迷子か?」

 

「しかし可愛らしい容姿してんじゃねーか。おい、あのガキ攫ってヒューマンショップに売らねぇか?」

 

「お!そりゃいい!行くぞお前等!手伝え!!」

 

「「「「「ヒャッハー!!」」」」」

 

 

無駄にハイテンションに返事をしてそれぞれ自分の得物を手に持って少女達の所に歩み寄って行った。少女達は近付いて来る海賊達に目もくれず、手に持った小さな紙を見ながら話をしていた。

 

 

「アレ〜?オカシイナ?地図ダト、コノ辺リノ筈ナノニ」

 

「?ミチ……マヨッタ?」

 

「ソウカモ。ソレニ、周リ燃エテルシ……オ姉チャンノトコ行ッタ方ガ良イカナァ?」

 

「デモ…オツカイ、マダオワッテナイ」

 

 

ウ〜〜ンと少女達が悩んでいる間に、海賊達は彼女達の周りを完全包囲し、1番初めに彼女達を見つけたモヒカン頭の…全員モヒカンだったな。じゃあモヒカン1号がニヤニヤしながら彼女達に話し掛けた。

 

 

「よぉ、嬢ちゃん。ちょっといいか?」

 

「レ?オジサン、誰?」

 

「オォ…トサカ。カラアゲ?」

 

「誰が鶏じゃゴラァ!?……じゃなかった、お嬢ちゃん達?何か探し物か?」

 

 

白いワンピースの少女に思わず怒鳴ってしまったが、すぐにハッとした様子で顔を笑顔に戻した。だが、怒りは隠しきれておらず、その笑顔は引き攣っている。

 

 

「ウン、実ハオ姉チャンカラ、御使イ頼マレタンダケド…オ店ガ見付カラナイ」

 

「(御使い?海賊が襲撃してる街でか?俺様がいうのもなんだが、クレイジーな奴がいたもんだ)そうか。なら、俺様達とお店探さないか?」

 

「サガス…カラアゲト?」

 

「テメェ!クソガキ!俺様をおちょくってんのか!?」

 

 

不思議そうにコテンと可愛らしく首を傾げる白いワンピースの少女にモヒカン1号は青筋を浮かべて怒鳴った。だが怒鳴られた本人は只々キョトンとモヒカン1号を見上げるだけで、表情を変える事はなかった。

 

 

「おい、もういいだろ?さっさとガキ共攫って金品の回収に向かおうぜ」

 

「レ?オジサン達、人攫イナノカ?」

 

「フハハハ!聞いて泣き喚け!俺様達は懸賞金1億4800万ベリーの賞金首!“自然汚染”のベネット・ガイラー様率いるセイキマツ海賊団の海賊よぉ!!」

 

 

少女達にピストルやガトリングガン、サーベルなどを向け、モヒカン1号は胸を張って自分達の自己紹介をした。これで後はこの2人を攫ってヒューマンショップに売り、自分達はお金が大量に手に入る。

………そう、思っていた。

 

 

「ヘェ?海賊ナンダァ?海賊ナラ、良インダヨネ?」

 

「ウン。オネエチャン、イッテタ。カイゾク二オソワレタラ…シズメテイイッテ」

 

 

突如彼女達から今まで感じた事がない程の強い殺気が溢れ出した。その殺気に海賊達はギョッとして彼女達から距離を取る。するとレインコートの少女の腰辺りから黒い装甲と筒の付いた尻尾が生え、ワンピースの少女にはワンピースの中後ろ辺りから赤黒い機械の様な蛇?が出現した。しかしただの蛇ではなく、左側の蛇の小さ目の口からクレーンが出て、右側の大きめの頭には口だけでなく、目の部分に2本の筒、左側に取っ手、右側に中央に白い線が書かれた板が付いていた。海賊達が驚いていると、レインコートの少女はニヤァァ♪と笑って尻尾の先を海賊達が集まっている方向に向けた。

 

 

レ!!

ドドドォォン!!!!!

 

「シズンデッ!!!」

ドガァァンッ!!

 

「え!?ちょ!待っ!!」

 

「「「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁあ!!!」」」」」

 

 

数分後、彼女達を包囲していた海賊達は皆血を流して地に伏し、周囲の建物は倒壊し、道は穴だらけになっていた。海賊達を倒した少女達はお互いにハイタッチしてはしゃいでいる。すると、遠くの方から女性の声が聞こえて来た。

 

 

レ級〜〜!!ホッポ〜〜!!

 

「レ!オ姉チャンノ声ダ!」

 

「オネエチャン♪」

 

 

その声を聞いた瞬間2人の顔は嬉しそうな表情になり、声のした方へ向かって走り出した。その場に合わない可愛らしい光景を、物陰で顔を蒼くしながら1人のモヒカン頭が見ていた。

 

 

 

 

 

 

ヲ級side…

 

 

私がレ級を建造してから約3ヶ月。今日私はレ級とこの3ヶ月で建造された深海棲艦達の内2人の計4人でメシウマシ島に食料を買いに来ている。島の住民が増えたからね。え?時間飛び過ぎ?気にしたらダメだと思うよ。

で、島に食料を買いに来たまではいいんだけど、いきなり海賊達が島に襲撃して来たから、今は別れて買い物をしている2人を捜している最中である。

 

 

レ級〜〜!!ホッポ〜〜!!

 

「ヲ級オ姉チャン!!」

 

「オネエチャン!」

 

 

2人が頼んだお肉屋さんがある港の近くで2人の名前を呼んでいると、笑顔を浮かべたレ級と、白いワンピースにミトンの手袋を着た女の子…2週間前に建造されたばかりの姫級、《北方棲姫(ほっぽうせいき)》がこちらに向かって走って来た。私は抱き着いてくる2人を優しく受け止めた。

 

 

「レ級!ホッポ!良かっタ。やっト見つカッタ」

 

「レレ〜♪」

 

「………♪」

 

 

レ級と北方棲姫…通称“ホッポ”は嬉しそうかな顔をしている。因みにこの3ヶ月で喋り方を練習した為、私の口調は普通の人の発音に近くなっている。これで他の深海棲艦達と少しは見分けが付くと思う。……って、私は誰に対して話しているんだ?

 

 

「オヤ?ドウヤラ、レ級 ト ホッポ様ハ、見付カッタヨウデスネ」

 

 

私がそう思っていると、背後から女性に声を掛けられた。振り返ると、そこには私達と同じ人型の深海棲艦がゆっくりと歩み寄って来ていた。

黒いミディアムヘアーに深海棲艦特有の白い肌。黒い装飾が付いたショート丈のタンクトップの様な服を着用し、下半身は機械の塊の様になっている。顔に右目部分にだけ穴がある白い仮面を付けた彼女は《雷巡チ級》。今回私とレ級、そしてホッポと一緒に買い物を手伝ってくれている重雷装巡洋艦だ。

彼女は下半身は完全に機械なのだが、なんか陸上では少し浮いて滑る様に移動出来るのでちょっと面白そうとか思ったりした。

 

 

「エェ、一緒に捜しテもらって済まナイワネ。チ級」

 

「イエイエ!ヲ級()ノ為ナラバ…」

 

 

チ級は慌てた様子で気にしないで欲しいと言って来たが、私は少し顔が引き攣る感じがした。何故か建造された深海棲艦達は、私と姫級と鬼級を様付けで呼ぶんだよな。

姫級や鬼級はなんとなく分かるが、最初は何故私も様付けなのか分からなかったので直接聞いてみた所、彼女達からしたら私が『ヲ級の姿をした姫級だからですよ?』と不思議そうな顔で言われたんだけどどういうこと?

その事が私の今1番の謎だったりする。

 

 

「ア!オ姉チャン、オ肉屋サンナカッタカラ、オ肉買エナカッタ」

 

「アァ、今この島ニ海賊が襲撃しテ来テイるからナ。今日ハもう帰るゾ」

 

「カラアゲナラ…レキュウトワタシガ、シズメテキタ」

 

ハ?唐揚げヲ沈めタ?

 

 

えっへん!と可愛らしく胸を張るホッポに私が疑問符を浮かべていると、ホッポ達が走って来た方向から1人のモヒカン頭で筋肉隆々の大男が歩いて来た。

………ん?

 

 

(モヒカン…トサカ…鶏……あぁ、成る程)

 

「おいそこのデカい帽子被った女!今変な事考えたな!?」

 

 

唐揚…モヒカン男は物凄い形相で怒鳴って来た。私口に出してなかったよな?

 

 

「何者ダ?我々ニ何カ用カ?」

 

「アァ!?惚けんじゃねぇ!そこのガキ2人が俺様の子分をボコボコにしたって事は分かってんだ!!」

 

「レ?モシカシテ、サッキノ海賊ノ事カ?」

 

 

何?という事は、この火炎放射器を持たせたら似合いそうな大男は今島を襲撃している海賊達の船長か?

すると大男はニヤリと笑いながら名乗り出した。

 

 

「そうだ!俺様はセイキマツ海賊団の船長!懸賞金1億4800万の賞金首、ベネット・ガイラー様だ!殺られた子分の落とし前を付けてやる!」

 

 

ベネットがそう言うと、ベネットの腕が灰色に近い色をしたヘドロに変化し、その塊を私の方へ弾丸な速度で放った。おそらくアレは悪魔の実の能力だろう。

私はレ級達の前に出るとステッキを地面に突き刺した。すると放たれたヘドロは私の少し前でバリアの様なものに防がれた。コレはいつの間にか使えるようになったもので、姫級や鬼級も使える物だ。因みにホッポも使える。

……もしかして、私がヲ級の姿をした姫級って言われる理由ってコレか?

 

 

「ッ!?テメェも能力者か!」

 

「私は悪魔の実ハ食べていナイ。お前ハ能力者ダナ?」

 

「そーだ!俺様は“ヘドヘドの実”のヘドロ人間!ロギアの俺様にはどんな攻撃も効かねぇn《ドゴォン!!》ガハァ!!?」

 

 

自慢そうに両手を広げて自分の食べた悪魔の実を暴露するベネットが突然爆発して吹き飛ばされ、建物を貫通して消えて行った。私とレ級とホッポが隣を見ると、左手だけ艤装を展開して砲撃していた。

 

 

「チ級…責めテ最後まで言ワセテやればいいノニ」

 

「海賊デ攻撃シテキタナラバ敵デス」

 

 

チ級は左手を上に向けながら当然の様に言った。どうやら私達の攻撃はこの世界でいう《海楼石(かいろうせき)》と同じ効果を持っているらしく、物理攻撃も普通に通用する。深海棲艦だからだろうか?

 

 

「ハァ……今日ハもう帰るゾ。次いでダかラ港ノ海賊船も沈めテ帰ろう」

 

「「ハ〜〜イ♪」」

 

「了解シマシタ」

 

 

その後、港に停泊していた海賊船を乗組員ごとチ級の魚雷で沈め、私達は島を後にした。その後、遅れてやって来た海軍の応援によって残党は皆逮捕された。



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我、深海鎮守府ニ帰投スル!

ヲ級side…

 

 

「レ〜レレ〜♪レ〜レレ〜♪」

 

「フンフフ〜ン♪フフン♪フフ〜ン♪」

 

 

メシウマシ島で海賊船を沈めた私達は、艤装を展開して海の上を約2日程航行している。レ級とホッポは海の上を航行するのが大好きな様で、私とチ級より前を鼻歌を歌いながら航行している。私はそんな2人の様子にホッコリしつつ、辺りに飛ばしている偵察機の視界を共有して周囲を索敵している。

別に海賊船に襲われない為ではない。寧ろ逆に海賊船を探しているといってもいい。理由はレ級とホッポの2人が、魚雷で海賊船を沈めたチ級を見て、自分達もやりたいと言い出したからだ。海賊船を沈めれば金目の物も手に入る為、私もそれを了承し、島に帰るまでに海賊船を見つけたら2人に任せる事にしたのだ。

 

 

「ドウデスカ?見付カリソウデスカ?」

 

「イイエ、全然見当たらナイワ」

 

 

隣で航行しているチ級に私はそう答えた。というか本当に船影すら見当たらないんだけど?いつもは食料調達の行きも帰りも海賊船に遭遇して挨拶代わりに

砲弾ぶち込まれるのになんでこっちから探したらこんなにも見付からないんだ?

 

 

「ソウイエバ、オ肉ハ、レ級達ニ任セテイタ分ガ買エテイマセンガ…ヨロシイノデスカ?」

 

「一応私とチ級デ買った分ガアル。マァ、足りなくなっタラまた別ノ島ニ買いに行ク……ヲ?」

 

 

チ級とそんな話をしていると、12時の方向に飛ばしていた偵察機が何かを見付けた。ようやく海賊船を発見したのかと思って視界を共有して確認したが、映ったものを見て私はガックリと肩を落とした。そんな私の様子を見てチ級が首を傾げた。

 

 

「ドウシマシタ?海賊船ヲ発見シタノデスカ?」

 

「イヤ、海賊船ではなかッタ。残念ながラ時間切れヨ」

 

「アァ〜〜ア。モウ島ノ近海カ〜…」

 

「ム〜……カイゾクセン、シズメタカッタ」

 

 

チ級は私の言葉に首を傾げていたが、正面から近付いてくるものを見て成る程と頷いた。鼻歌を歌っていたレ級達もそれに気付き、レ級はつまらなそうに両手を頭の後ろで組み、ホッポは可愛らしく頬をプク〜ッと膨らませた。

私が偵察機で見つけたものは、私達の方に近付いて来ている合計5人…いや、3人と2匹かな?兎に角、深海棲艦の艦隊だ。彼女達は私達の前で一旦停止すると、中央にいた深海棲艦が話し掛けて来た。

 

 

「オ帰リナサイ。食料ハ確保出来マシタ?」

 

 

最初に話し掛けて来たのは《戦艦ル級》。黒尽くめのスレンダーな女性の姿をしており、服装は黒いノースリーブの下に白い和服の様な物を着ている。黒髪ロングヘアーで、両手には戦艦の主砲が搭載されている巨大な盾の様なものを軽々と持っている。

 

 

「野菜や調味料なんカハ沢山買えタンダが、途中で海賊共が襲撃して来てナ。お肉ガ少しシカ買えなカッタ」

 

「エェ!?ジャ、ジャア!明日ノ焼肉パーティーハ、ドウナルッスカ!?」

 

「ソウッス!楽シミニシテタンスヨ!?」

 

 

今の語尾に「〜ッス!」と付いている見た目全く同じの2人は《重巡リ級》。黒いビキニ水着の様な露出度の高い服装をした黒髪ショートカットをした女性の姿で、両手を覆う様に艤装が装着されている。

実はこの子達の様に同じ姿をした艦が建造される事は今までに何度もある。リ級然り、ル級、チ級だって島には何人かいる。勿論ヲ級もだ。そのままでは見分けが全く付かなかった為、初めて建造された艦以外は見分けがつくように、艤装に番号を書いたり、首に番号が書かれたネックレスやチョーカーを付けてもらっている。イ級などの人型ではない艦には分かりやすい場所に番号が書かれている。

因みに目の前にいるル級には『4』と書かれたネックレス。リ級達にはそれぞれ『7』と『9』と書かれたチョーカーを付けている。イ級達には『12』と『13』とボディに書かれている。

というか、焼肉パーティーの事すっかり忘れてたな。明日だったんだ。

 

 

「………海賊共メ……今度会ッタラ、海ノ藻屑ニシテヤル」

 

ヲ!?カ、《カ級》!いたのカ!?」

 

 

突然私とル級の間からザバァ〜ッ!と浮上して来た《潜水カ級》に驚いた。彼女は潜水艦で、スキューバダイビングで使うレギュレーターを装備し、背中には司令塔の様な艤装を背負っている。海では常に肩から上しか海面には出さず、髪型はどことなく某テレビから出て来る幽霊みたいな髪型で、突然浮上して来ると私も結構ビビる。彼女の場合はレギュレーターに『6』と書かれている。

後、驚いた事に彼女…というか潜水艦のみんなは水中では何故か姿が消える(・・・)。分かりやすく言えば水中限定の透明化だ。多分普通の深海棲艦が潜水出来るから潜水艦専用の特殊能力的なものかなとは思っているが、詳しい事は彼女達自身も知らないらしい。

 

 

「オォ!カ級!ソレイイ考エッス!」

 

「私モ……楽シミダッタカラ」

 

「ナラ、早速哨戒ニ戻リマショウカ。ソレデハ ヲ級様、チ級、レ級、ホッポ様。我々ハコレデ…」

 

 

ル級達はそのまま哨戒を再開した。私は段々と小さくなって行く彼女達の背中を見ながら「あぁ、今日哨戒ルートに入った海賊は不運だな」と思ったりした。私は小さく彼女達に手を振ってからレ級達を連れて島に向かった。

 

 

 

 

 

 

3時間程するとやっと島が見えてきた。やっぱり一定距離近付かないと蜃気楼で島が見えないのは不思議だ。3ヶ月以上前までボロボロだった建物は全て妖精さん達によって建て直され、完全に『艦これ』のアニメで見た立派な鎮守府になっている。更に深海棲艦達と妖精さん達の話し合いによって、名前が《深海(しんかい)鎮守府(ちんじゅふ)》となっている。

 

 

「ヲ級オ姉チャン!私、オ腹空イタ!」

 

「ッ!ワタシモ!ワタシモ!」

 

 

艤装を解いて陸に上がると、レ級が手を挙げてお腹が空いたと騒ぎ出し、ホッポもレ級の真似をして片手を挙げてぴょんぴょんジャンプし出した。

うん、可愛いわこの子達。まだ夕食までかなり時間あるし、簡単なクッキーでも焼いてやろう。

 

 

「分かッタ。後でクッキーを焼イテやろう。それまデ外であs《ドガァァァン!!!》………エ?

 

 

レ級達に外で遊んで待っているよう言おうとしたら、突然食堂の方から爆発音が聞こえて来た。私やチ級、果てにはレ級やホッポも突然の事で体を硬直させ、ゆっくりと食堂の方を向いた。

あぁ、な〜〜んか嫌な予感がする!!というか、食堂で爆発起こすバカは現在この鎮守府には1人しかいない。

私達は互いに頷き合うと食堂に走り、中に入ってキッチンを目指した。キッチンに入ると、そこにはいつもの綺麗なキッチンの姿は跡形も無く、代わりに黒い煙を出したオーブンや燃えるコンロ、大破した冷蔵庫。更にはコンロがあった場所の壁には巨大な穴が開いていた。

 

 

「ケホッ!ケホッ!……全ク、危ナイワネ。機械ノ調子ガ悪カッタノカシラ?」

 

 

私が変わり果てたキッチンに唖然としていると、瓦礫の山から1人の深海棲艦が出て来た。

姫級の特徴である白い肌に紅い瞳を持った彼女はホッポと同じ姫級の《南方棲戦姫(なんぽうせいせんき)》。炎の様なエフェクトで髪をツインテールに纏め、腕には鉤爪、脚には片足だけ鎧の様な物を装着しているが、服装はリ級よりも遥かに露出度が高い。街を歩けばお巡りさんに逮捕される程高い。

私は彼女の姿を確認すると、無言のまま落ちていたフライパンを拾い上げ、彼女に歩み寄る。そしてフライパンを振り上げ、埃などを払っている南方棲戦姫に向かって……。

 

 

何してンダこのバカ露出狂ガァァァァ!!!

 

ゴカァ〜〜〜ン!!!!

イ〝ッ!タァァァァァ〜〜〜イ!!!!

 

 

フライパンの形が彼女の頭の形になるくらいの力で振り下ろした。フライパンから鳴ってはいけない様な鈍い音が鳴り響き、南方棲戦姫は頭を押さえて地面を転がり回った。私はフライパンを投げ捨てて転がり回る彼女の頭をガシッと掴み、そのまま持ち上げて手に力を込める。

 

 

ナァ?私言ったヨナ?お前ハ絶対にキッチンに入るナッテ。私ノ記憶違いカ?ンン?

 

メキメキメキメキメキメキ……

イダダダダダダ!!チョ!ゴメン!ゴメンナサイ!謝ルカラ離シテェェェェェェ!!!」

 

 

南方棲戦姫は私の手をペシペシと叩いてギブアップの合図をしているが、もうしばらくは緩めるつもりはない。何故なら…彼女がキッチンをこんなにしたのは今月入ってもう4回目だからだ!!

何故かは不明だが、彼女は料理が出来ない。それはもう私も手の打ちようがない程だ。キャベツの千切りをさせると火花が散って包丁が折れる。キッチンの蛇口をひねれば水道管が破裂する。コンロを点けると大爆発が起きるなどもはや呪われてるんじゃないのかと思う程料理が出来ないのだ。

だから彼女にはキッチンに入らないようきつく言っておいたのに……それをこの子はまたぁぁぁぁぁあ!!

 

 

「チョ!ヲ級様、落チ着イテ下サイ!南方棲戦姫様ガ死ニソウニナッテマスヨ!?」

 

「レレ!?ヤバイ!南方棲戦姫ガ白目剥イテルヨ!?」

 

『なんか食堂爆発しましたけど何かありました?……って、どういう状況です?』

 

 

1時間後、私は気を失った南方棲戦姫を彼女の部屋に放り込み、妖精さん達にキッチンを直してもらった。

 

 

 

 

 

 

ここは、シャボンディ諸島の近くに位置する島、《マリンフォード》。そこにある世界中の『正義』の戦力の最高峰、海軍本部のとある一室にて、1人の老兵が報告書を読みながら難しい顔をしていた。

 

 

「白い肌の少女達か……俄かには信じ難い話だ」

 

 

アフロ頭に眼鏡を掛けた彼の名は《センゴク》。海軍本部の元帥である。彼は今、先日起こったメシウマシ島で起きた海賊襲撃事件の報告書を読んでいた。最初はスラスラと読んでいたが、『海賊達は白い肌の少女達によって壊滅した』という文に目が止まった。

勿論これはヲ級達の事である。実はあそこには何人か逃げ遅れた住民達がおり、偶々ヲ級達がベネットを倒したり、船を沈めるのを目撃していたのである。

 

 

「目撃情報によれば少女達は4人。内2人はまだ小さな子供。そんな子達が億越えの賞金首を討ち取るとは………最近海賊達が消息を絶っている事にも関係しているのか?」

 

 

センゴクは報告書を読みながら最近多数の名のある海賊達が行方不明になっている事と関係しているのかと考えた。実際、その行方不明になっている海賊達は全てヲ級達に手を出して返り討ちに遭い、沈んで行った海賊達である。

 

 

「う〜む……警戒はしておくか」

 

 

センゴクはその報告書を仕舞い、机の上に山の様にある書類を整理する為に手を動かした。



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我、シャボンディ諸島ニテヤラカシタ

ヲ級side…

 

 

ある日、私はレ級とホッポ、そして仲間の深海棲艦を4人連れて、シャボンディ諸島という島を訪れていた。この島は巨大な《ヤルキマンマングローブ》という樹木が集まって構成された島だ。その名の通り、地面…正確には木の根からシャボン玉が発生しており、島の住民達はそのシャボン玉を利用して日々の生活に役立てている。島の樹木にはそれぞれ番号が書かれており、1〜29番は無法地帯。30〜39番は繁華街。40〜49番は観光関係といった感じに分けられており、他にも造船所、海軍駐屯地、ホテル街などもある。

また、シャボンディ諸島は偉大なる航路(グランドライン)の後半の海…《新世界》に行く為の裏ルートである魚人や人魚達の住む島である《魚人島》に行く為の準備をする島として、海賊達も利用している。その為シャボンディ諸島は名高い凶悪な海賊達が集まる島としても有名で、それ等に睨みを効かせる為に、近隣に海軍本部も設置されている。

そんな島に私達が何しに行くのかというと、今まで沈めてきた海賊達の財宝の換金をする為だ。札束や硬貨はそのまま使えるが、金の杯やダイヤの指輪なんて普通の島では使えないからな。

 

 

「オォ♪シャボンダマ、ノレタ♪」

 

「ア、コラ!危ナイカラ降リナサイ」

 

 

島から発生するシャボン玉に乗ってはしゃいでいるホッポに注意をしたのは《戦艦棲姫(せんかんせいき)》。非常に長い黒髪と、肩紐を首の後ろで縛ったネグリジェのような黒いワンピースを身に着けている。 他の姫級の深海棲艦と同様に瞳は真紅であり、その額には鬼のように一対の角が生えており、胸元にも4本の小さな黒い角が生えている。

 

 

「マァマァ、イイジャナイカ。別ニ人間達ニ迷惑ヲ掛ケテナイシ」

 

「ソウデスヨ戦艦棲姫サン。ホッポ ハマダ小サイノデスヨ?」

 

 

シャボン玉からホッポを降ろそうとする戦艦棲姫に2人の深海棲姫が待ったを掛けた。最初に話し掛けたのは《飛行場姫(ひこうじょうき)》。肌と同じくらい白く長い白髪に加え、どこまでが衣服なのか判別するのが難しい白いボディスーツを着用しており、 足元も白いショートブーツを履いている。円らな真紅の瞳が特徴で、頭に左右一対ずつ突き出た角は赤い誘導灯のようなデザインをしている。

もう1人は鬼級の《空母水鬼(くうぼすいき)》。銀色のロングヘアーにカチューシャらしきものを頭に付け、黒いセーラーワンピース。3段に分かれるブーツに、入り口に縦縞の入ったニーソックスを履いている。

 

 

「シカシダナ。我々ハ今回、沈メタ海賊共ノ財宝ヲ換金シニ来タノダゾ?」

 

「ソウダケドサ、別ニ暴レテル訳ジャナイダロ?迷子ニナラナイヨウニ見テルダケデイイノサ」

 

「レ級ダッテ、出店デ綿飴買ッテマスシ、気ニスル程デハナイト思イマス」

 

「ナ!?レ級!イツノ間ニ!?」

 

「レレ〜♪」

 

 

なんかホントにいつの間にかレ級が大きな綿飴を食べながら私の隣を歩いてた。レ級は甘いものが大好きで、よく私が作ったケーキやクッキーを本当に幸せそうな顔で口に頬張ってるんだよな。偶に私にも分けてくれたりする。

 

 

「ウルサイワネェ?モウ少シ静カニ出来ナイノカシラァ?」

 

「もう少しデ換金所ニ着くかラ、我慢してクレ」

 

 

私の隣を歩きながら眉を顰めているのは《防空棲姫(ぼうくうせいき)》。ボディースーツのように肌に密着する半袖タイプの服で、長袖の袖のような意匠が施されている黒い手袋をはめている。 首元は詰襟状の金属パーツで防御し、胸元も刺々しい金属パーツを付けている。その両端から腰からお尻辺りまでしかないスカートまで黒いラインが走っている。 ふとももに碇が付いた鎖を金輪でつなぎ、厳めしいブーツ状の脚絆を履いている。 羊のように太く曲がった角が生えており、髪は白の長髪。頭にはペンネントの様なものを鉢巻代わりのように巻いている。

しかし、凄い面子に成ってしまった。戦艦1と空母1と鬼級1と姫級4。どこに戦争をしに行く気なんだろうな?

 

 

(クジ引きで決めたとはいえ、まさか過半数が姫級になるとは……しかもみんな美人だからさっきから凄い視線を感じる)

 

 

チラッと視線のする方に目を向けると、視界に入った男達が全員顔を真っ赤にして視線を逸らした。さっきからずっとこんな感じだ。中には奥さんか彼女さんにぶん殴られている奴もいる。何やってんだよ。

しばらくあちこちから視線を感じながら道を歩き、ようやく換金所に到着した。中に入ると外より視線は少なくなったが、外よりジロジロと見られている。見世物じゃないんだがな。

 

 

「不愉快ダナ…ヲ級、ココノ人間共ヲ消シテイイカ?」

 

「ダメに決まっテルだろう。私達はただ換金シニ来ただけ。どうせ殺ルなら《天竜人》共にシロ」

 

 

私はあの忌々しい連中を思い出しながら物騒な事を言っている戦艦棲姫に言った。

天竜人…800年前に世界政府を創設し、聖地マリージョアに移り住んだ20人の王達の末裔の一族の事だ。これだけ聞けば大昔凄い事した人達の子孫としか思わないが、800年の長い時間と共に、天竜人は殺人や奴隷所持などの極悪非道の行為を当然の様に行う外道だ。語尾に「だえ〜」とか「アマス!」とか付けてるし、宇宙服みたいなものを着ている。常に奴隷達とSPと兵士達を従えており、それ等が歩いて来ると市民達は道を開けて土下座しなければならないのだ。以前シャボンディ諸島に買い出しに来た時に建物の影からみたことはあるが、あれ程腹が立った事は前世も含めて無かった。

 

 

「防空棲姫とレ級は一緒ニ来てクレ。換金しに行ク。ホッポ達は少しの間待ってイテクレ」

 

「リョ〜カ〜イ♪」

 

「分カッタワァ。サッサト行キマショウ」

 

 

私はレ級と防空棲姫を引き連れてカウンターの列に並んだ。しばらく待っていると私達の順番が来た。受付の男性は私達…主に防空棲姫の胸辺りを見て鼻の下を伸ばしてる。ぶっ飛ばすぞお前

 

 

「はい、お待たせ致しました。今回はどういったご用件で?」

 

「アァ、少し換金シテ欲しイ物があってナ。悪いガ、奥の部屋ヲ使わセテ欲しイ」

 

「はいはい♪畏まりました。ささ、こちらへどうぞ」

 

 

私達は受付の男性の後に着いて行き、換金所の奥にある応接室らしき部屋に案内された。私達は部屋に置かれたソファに座った。

 

 

「それで?換金する物は何処にあるのでしょうか?」

 

「ン?オ前が鑑定するのカ?」

 

「えぇ、ここにいる職員は殆どが鑑定する事が出来るんですよ。私もちゃんとした鑑定士です」

 

「そうなのカ?なら構わなイ。レ級、全部出しテクレ」

 

 

レ級はビシッと陸軍式の敬礼をすると、背中に背負っているリュックサックを降ろし、テーブルの上に置いた。チャックを開けて、レ級がリュックサックを逆さまにすると、ガラガラと音を立てて金の延べ棒や金の杯などなど…海賊達の財宝が雪崩の様に出て来た。レ級のリュックサックも私の頭の艤装と同じ様に、見た目より沢山収納する事が出来るのだ。

財宝の山が高くなって行くのに比例して、受付の男性の顔は真っ青になって行き、全て出し終わる頃にはガタガタ足を震わせていた。

 

 

「これを全テ換金して欲しイ。……ッテ、どうかしたのカ?」

 

「お……オォォォォォナァァァァァ!!!ちょ、ちょっとこっちに来て下さぁぁぁぁぁい!!!

 

 

彼はドアを蹴破る勢いで部屋を飛び出し、何処かに走って行った。

 

 

 

 

 

 

10分程すると、この換金所のオーナーと名乗る老人が入って来て、さっきの彼の代わりに鑑定をしてくれた。ルーペを使って1つ、また1つと鑑定していく内に、オーナーは顔を驚愕に染めて行った。じっくり30分以上鑑定していたオーナーは、額に浮き出た汗をハンカチで拭いながら換金金額を提示した。金額はなんと………。

 

 

「「「ヨ、ヨヨヨヨ4億ゥゥゥゥゥゥ!!?」」」

 

「はい。長い事鑑定をして来ましたが、こんなに素晴らしい財宝を見た事はありませんからね」

 

 

マジでか!?ヤバい!換金所に着いて1時間も経ってないのに、4億の大金手に入れてしまった!やった♪4億もあったら深海鎮守府のみんなの食費補えるぞ!

オーナーはそのまま退室し、しばらくすると4つのアタッシュケースを台車に乗せて戻って来た。オーナーはアタッシュケースの蓋を全て開けると、中には沢山の札束が詰まっていた。私達はそれ等を受け取り、2つをレ級のリュックサックの中に、もう2つを私の頭の艤装に収納し、オーナーに礼を言って部屋を後にした。

 

 

「思ったヨリ高くて良かッタナ。最近お金が足りなクテ、困ってタ所ダ」

 

「私モ含メテェ、空母ヤ戦艦…特ニ私達姫級ヤ鬼級ハ食ベル量モ多イモノネェ」

 

「最近はル級やチ級モ手伝ッテくれているガ…姫級の貴女達は空母や戦艦よりよく食べるカラナ」

 

 

ホッポ達と合流する為にロビーに戻って来ると、3人の姿は無く、店の中にいた人達はみんな顔を蒼くしながら窓の外をこっそり覗いていた。私達は互いに顔を見合わせてから、彼等の後ろから窓の外を見た。

窓の外では不機嫌そうな顔をした戦艦棲姫と飛行場姫、そして空母水鬼と彼女に肩車されたホッポが天竜人の前に仁王立ちして睨み付けてう〜〜んちょっと待って?

私は一度目をゴシゴシと擦ってから再び窓の外を見た。だが、景色が変わっているなんて事は無かった。

………何やっちゃってんのぉぉぉぉぉ!!?

私は慌てて換金所を飛び出して戦艦棲姫達の所に走って行き、出来るだけ小さな声で戦艦棲姫と話した。レ級と防空棲姫も後を追って外に出て来た。

 

 

「ちょっと戦艦棲姫!何やっテル!?私確かシャボンディ諸島ニ来る前に天竜人ガ来たラ建物の中ニ隠れロッテ言ったヨネ!?」

 

「何?コノ人間達ガ天竜人カ?ナラ消シテモ構ワナイナ」

 

良くねーヨ!!なんデそんなニ殺気立ってるノ!?」

 

「ホッポ ト外デ遊ンデタラ、コノ人間達ガ偉ソウニ話シ掛ケテキタンダ」

 

 

飛行場姫もでっぷりお腹が出た天竜人を睨みながら小さな声で話に混ざって来た。ヤバいな…このままだと確実に面倒な事になる。しかもこの天竜人私の体を気持ち悪い目付きでジロジロ見て来るから超気持ち悪い!!出来る事なら今すぐコイツを殺りたい!…いやいやいや!ダメだわそんなの!取り敢えず謝れば許してくれるか?でもどうしよう、凄く謝りたくない!

私がどうやってこの場を乗り切るか考えていると、天竜人が話し出した。

 

 

「ぬぅ〜?おい、そこのデカい帽子の女。こっちを向くんだえ〜」

 

「エ?ア、はい。何カ?」

 

 

いきなり言われたので取り敢えず向いてみると、今度は私の顔をジロジロ見て来た。今すぐ砲弾をぶち込みたいが、ここは我慢して乗り切r……。

 

 

「よし、お前!ボクちゃんの奴隷にな「死ねオラァァァァァァ!!!!」ぐぶぅえがぁぁぁぁ!!?」

ドゴゴゴォォォン!!!!

 

 

私は至近距離で全主砲による一斉砲撃を天竜人に喰らわせた。天竜人は砲撃によって吹き飛ばされ、遠くにある建物を幾つか貫通し、更に遠くにある頑丈そうな建物に激突した。



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我、海軍大将ト交戦ス!

ヲ級side…

 

 

「や、やりやがったぁぁぁぁぁ!!

 

「女が、天竜人に逆らったぞ!!」

 

「早く逃げろ!!海軍大将が来るぞぉぉぉぉ!!」

 

 

少し遅れて私が天竜人に逆らった上に、吹き飛ばした事を理解した周囲の住民は騒ぎ出し、海賊達は島から脱出する為に走り出した。天竜人のSPや兵士達は慌てて吹き飛ばされた天竜人を追いかけ、電伝虫を取り出して海軍大将を呼んだ。

すぐに海軍大将がやって来てしまうがそんな事知った事か!そもそも人の顔や体をジロジロ見た上に奴隷になれなんて言うゴミは消し飛ばしても構わないだろう!あんな屑に砲弾ぶち込んだ程度でやって来る海軍なんて、1人残らず返り討ちにしてくれるわ!!

 

 

「良シ!海軍大将なんテ気にせズニ何か食べニ行こウカ」

 

「ム?逃ゲタリシナクテイイノカ?海軍大将トヤラガ来ルノダロウ?」

 

「なんかモウどうでも良くなッタ!」

 

 

天竜人の言う事に逆らった時点でもう海軍は私…いや、私達を指名手配をするだろう。そうなれば海軍は勿論、懸賞金狙いの賞金稼ぎや海賊達に狙われる様になる。それに今更後悔しても何にもならないからな。

 

 

「ソウイエバ、換金出来タンデスヨネ?幾ラニナッタノデスカ?」

 

「フフフ♪ソレガネェ?4億ベリー ニモナッタノヨォ♪」

 

「「「4億ゥ!!?」」」

 

「………?ヨンオク?」

 

 

防空棲姫の口にした金額を聞いて、4億ベリーがどれ程の金額かいまいち理解しきれていなくて首をコテンと傾げるホッポ以外の深海棲艦は驚愕を露わにした。それもそうだろう。なんせ私だって4億ベリーなんて大金に化けるとは思ってもみなかったからな。

 

 

「本当カ!?ソ、ソレナラ食ベニ行ッテモ問題無イナ!ナラ私ハ ステーキ ガ食ベタイノダガ…」

 

「私ハ ハンバーグ ガ食ベタイナ。空母水鬼ハドウスル?」

 

「私?私ハ……出来レバ ケーキ ヲ食ベタイデスネ」

 

「私ハ パスタ料理カナァ?レ級ト ホッポ ハァ?」

 

「レ?私ハ オ姉チャン ト食ベタイ!」

 

「ワタシモ……オネエチャン トガイイ」

 

 

4億ベリーもあると知って、みんなそれぞれ食べたい物を挙げていった。レ級とホッポは可愛い事を言ってくれる。そうと決まればレストランでも見つけないといけないな。

 

 

「マァ、取り敢えズ今はレストランを探ソウ。海軍が来たラ、返り討チニしてもイイ」

 

「………ヲ級ガ言ウ、海軍大将トヤラハ、強イノカ?」

 

「私は一度モ会っタ事ハ無いガ、“海軍最高戦力”ト言われテいル」

 

 

私の話を聞いて戦艦棲姫と飛行場姫、そして防空棲姫はニヤァァ♪と笑みを浮かべ、殺気を漏らした。深海棲艦はその殆どが好戦的な性格で、深海鎮守府でもよく互いに演習(殺)をよくやっているのだ。

 

 

「マ、来たラの話ダ。今は早くレストランを探ソウ」

 

「フム……ソウダナ。良シ、行コウ!」

 

 

私達はスッカリ静かになった町中を堂々と歩き出し、まだ開いているレストランを探し始めた。

 

 

 

 

 

 

数時間後…

 

 

オイ!ナンデ繁華街ノ全テノ レストラン ガ閉店シテルノサ!?私達深海棲艦ヘノ嫌ガラセカ!?

 

 

繁華街をどれだけ探しても開いているレストランが見つからない為、飛行場姫が近くに転がっていた石ころを力一杯蹴り飛ばした。石は猛スピードで飛んで行くどころか、蹴られた瞬間木っ端微塵になった。どうやら私達が天竜人に逆らい、海軍大将がやって来ると知ってみんな店を閉めたらしい。

やっぱり砲撃して吹き飛ばすのはやり過ぎ…ではないな。うん。

 

 

「確カニ、流石ニ人間達ハ大袈裟過ギデハナイカ?マルデ ゴーストタウン デハナイカ」

 

「ソウデスネ。ドウシマスカ ヲ級?」

 

 

空母水鬼は私に聞いて来た。そうだなぁ…これだけ探しても見つからないなら、もういっそ鎮守府に戻ってみんなのリクエストに応えるか?でもそれだと時間が掛かるんだよな。しかしこのまま町中を歩き回るのは時間の無駄だし………仕方ない。

 

 

「もう鎮守府ニ戻るしカ無いだろウ。この島ニ居るだケ時間の無d……ッ!!?」

 

 

私が話して居ると、突然私達目掛けて何かが飛来して来た。私はみんなの前に出てステッキを地面に突き刺し、バリアを張った。飛来物は全てバリアに防がれ、それによって飛来物の正体が分かった。

 

 

「コレハ………マグマ(・・・) カ?」

 

「ほう?随分と奇妙な能力を持っとるようじゃのう。わしらが来るまで島に残っとるっちゅうたあ、ええ度胸じゃのう!」

 

 

ドロドロとした赤い溶岩がバリアを滑って地面に落ちると、私達の正面に大勢の海兵達を引き連れた海軍帽を被り、赤いスーツを着用した大柄な海兵が歩いて来た。その赤いスーツの海兵の両手はボコボコと泡を立てる赤いマグマとなっており、私達を睨み付けていた。

彼の名は《サカズキ》。“マグマグの実”のマグマ人間にして、『徹底的な正義』を掲げる海軍の最高戦力。通称、海軍大将“赤犬”である。

 

 

「いきなりマグマを飛ばしテ来るトハ、随分物騒ナ挨拶ダナ」

 

「貴様等の様な『悪』には丁度ええじゃろう。上からは貴様等を見つけ次第死刑にせいと言われちょる。天竜人の1人を殺害したんじゃ、こうなる事ぐらい分かっとったじゃろう。覚悟せい!!」

 

 

あ、やっぱりあの屑死んじゃったのか。まぁ私の砲撃喰らって人の形残して吹き飛んだだけでも凄いと思うがな。

私がそう思っていると、サカズキは溶岩の塊をこちらに向けて放って来た。放たれた溶岩は巨大な犬の顔となり、その口を大きく開けて私達を喰らおうと迫って来る。

 

 

犬噛紅蓮(いぬがみぐれん)”!!!

 

 

迫り来る溶岩の犬は私のバリアに食らい付き、食い破ろうとする。だがこんな物では私のバリアは破れない。溶岩の犬は徐々に力を失って行き、遂にはドロリと形を崩して地面に落ちた。目を見開くサカズキを睨みながら、私は戦艦棲姫達に指示を出した。

 

 

「全艦、戦闘開始。さっさト蹴散らしテ鎮守府ニ戻ル」

 

「!!了解シタ。サァ、久々ノ戦闘ダ!楽シクヤロウデハナイカ!!!」

 

 

戦艦棲姫達は一斉に自身の艤装を展開し、それぞれ行動を開始した。

飛行場姫の座る飛行甲板が背後から伸び、右側に88㎜高射砲を頭に乗せた船首を模した深海棲艦特有の意匠が施されたものがある玉座の様な艤装と、空母水鬼の座る空母の船首に口が付いたようなものに飛行甲板や砲塔が装備された艤装の飛行甲板から多数の艦載機が発艦し、サカズキの背後に待機している海兵達に銃撃と爆撃を始めた。放たれた弾丸の雨と、投下された爆弾の爆発によって海兵達は次々と地に伏して行く。

 

 

ドゴゴゴゴォォン!!!ドゴゴゴォォォン!!!

「「「「「ぐわぁぁぁぁ!!?」」」」」

 

「「「「「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!」」」」

 

「ッ!!?お前等ァ!!」

 

「フフフフ♪コノ程度?モット、攻メテ来イ!」

 

「私ハ正直、争イハアマリ好キデハナイノデスガ……襲ッテ来ルノナラバ、手加減…シナイヨッ!」

 

「おどれ等ァ!!流星火山(りゅうせいかざん)”!!

 

 

サカズキは空に向けてマグマの塊を多数発射した。艦載機を墜とそうとしているのかも知れないが、そんなスピードでは艦載機を捉えることは出来ない。しかし少しすると先程外れたマグマの塊が巨大な拳の形となって降り注いで来た。これによって空を飛んでいた艦載機が何機か被弾し、墜落して爆発した。

 

 

「アララ?墜チテシマッタカ。デモ、ヨク見レバ回避ハ簡単ダナ」

 

「アレハ邪魔ネェ……全砲門、砲撃開始ィ!!」

ドガガガガァァァァン!!!!

 

 

防空棲姫の跨る背後から4つの目の部分が2門の高射砲の様なもので出来た船首に歯が剥き出しの口が付いたようなものが伸びた艤装から放たれた砲弾が、降り注ぐマグマの拳を全て撃ち墜とした。

流石は防空棲姫だな。防空(・・)の名は伊達じゃない。攻撃したサカズキもまさか全て撃ち墜とされるとは思っていなかったのか、驚愕を露わにしている。そんな隙だらけのサカズキに、戦艦棲姫が背後に立つまるで獰猛な巨人の怪物の様な艤装の両肩部分に搭載された三連装砲による砲撃を行った。放たれた3発の砲弾に気付いてサカズキは体をマグマに変えて受け流そうとしたが、悪魔の実の効果を無視してダメージを与える砲弾はサカズキに見事命中し、背後の海兵ごと吹き飛ばした。

 

 

「…?思ッタヨリ遥カニ弱イ。ヲ級、コレガ本当ニ海軍最高戦力カ?」

 

「サァ?私も話ニ聞いタだけだかラナ。多分この人間モ自然(ロギア)系悪魔の実ノ能力者なんじゃナイカ?」

 

「アァ、アノ自分デ砲弾ヲ躱ソウトシナイ連中ダッケ?ナラ納得ダナ」

 

「フッフフ♪ネェ痛イ?痛イ?海軍大将ォ?ソレガ“ホント”ヨ。アッハハハハ♪」

 

 

吹き飛ばされて建物に激突し、血を流しながら倒れているサカズキに、防空棲姫は楽しそうに笑いながら話し掛けている。

防空棲姫って、自分が傷付くと滅茶苦茶ぶちキレるけど、相手が傷付くと滅茶苦茶上機嫌になるんだよなぁ。というか、私とレ級とホッポ何もしてないのにもう海軍ほぼ全滅してんだけど?

 

 

「グッ!!…ハァ…ハァ……おどれ等ァ…今、何しよった…?」

 

「ム?ナンダ、マダ生キテタノカ?思ッタヨリ丈夫ダナ」

 

 

サカズキは血をダラダラと流しながらもフラフラと立ち上がった。しかしその顔は完全に驚愕に染まっていた。よほどロギアの自分に砲弾によるダメージを受けた事が信じられないのだろう。

 

 

「おどれ等のそれ(・・)は…!悪魔の実の能力じゃないんか!?」

 

「私達はハそんな物ヲ食べてイナイ。これ等ハそうだナ……種族特有の能力ト言った所カ?」

 

「種族……じゃとぉ?ハァ…ハァ…おどれ等は人間じゃないとでも言うんか!!」

 

 

サカズキはそう叫びながらまたもやマグマの塊を私に向けて放って来るが、全てバリアに防がれる。このバリアは許容量を超えると破られてしまうのだが、まだ戦艦棲姫の砲撃の方が強い為、まだまだ余裕がある。

てか、ダメージは受けていないが滅茶苦茶暑い。マグマの所為で気温が上がりまくってるみたいだな。

 

 

「ハァ…暑いナ。というカ、周りノ建物がマグマの所為デ燃え盛ッテるんだガ…そこら辺ハ海軍トしてどうなんダ?」

 

「そがな事より、今はおどれ等を処刑するのが最優先じゃ!!」

 

「………そうカ。全艦砲撃用意!」

 

 

私の号令に従って戦艦棲姫達がサカズキに砲口を向ける。サカズキも片腕をマグマにして拳を握り締めた。マグマは段々大きくなり、巨大な拳を作り出した。

 

 

「全主砲、一斉射……撃テェェー!!!

ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォン!!!!!

 

大噴火(だいふんか)”ァ!!!

 

 

深海棲艦7名の一斉射撃による砲弾と、大将赤犬の放った巨大なマグマの拳はほぼ同時に放たれ、空中で激突した。



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我、行動ヲ開始スル!

ヲ級side…

 

 

シャボンディ諸島での戦闘から数日。私は現在、深海鎮守府にある会議室のテーブルに座って会議にて、シャボンディ諸島に行ったメンバーを代表して私と飛行場姫と戦艦棲姫、そして鎮守府に残ってもらっていた姫級4名を集めて会議を開いていた。

因みにシャボンディ諸島での戦闘は、一応私達の勝利という形で終わった。一応というのは、最後の私達の一斉射撃とサカズキ“大噴火”が激突して大爆発が起きた後、爆煙で視界が悪くなっている内に逃げられてしまったからだ。煙が晴れた時には既にサカズキの姿は無く、かなり遠くに気を失ったサカズキを担いだアイマスクを付けた背の高い海兵が走り去って行くのが見えた。戦艦棲姫と飛行場姫は逃すものかと彼等に狙いを定めたのだが、突然分厚い氷の壁が出現してそのまま逃げられたのだ。

飛行場姫はまだ艦載機で仕留めようとしていたが、正直言って別に絶対に殺す必要もなかったので、攻撃を止めさせてそのまま深海鎮守府に帰還した。まぁ、飛行場姫は滅茶苦茶不満そうにしていたので、帰りに攻撃して来た軍艦4隻を沈めさせてあげた。

しかし、今回の件で私達は確実に海軍に賞金首として指名手配される。天竜人を殺して、シャボンディ諸島の繁華街のど真ん中で海軍大将の赤犬と殺り合って、大将返り討ちにした上に帰りに軍艦4隻沈めて帰ったのだ。海軍や世界政府から見たら私達は天竜人を殺害した未知の力を持った大罪人だ。

だが、私としてはそもそもあの会ってすぐ奴隷にしようとする屑を守る海軍や世界政府が非常に許せないのだよ。

 

 

「ト言う訳デちょっとアチこちノ海ヲ私達の縄張りニして海軍ト世界政府ノ船ヲ沈めまくロウ思うノだけド、どう思ウ?」

 

「突然何ヲ言イ出スンデスノ?ヲ級」

 

 

私が満面の笑みを浮かべながらみんなに聞いてみたら、私の正面に座ってる鬼級の深海棲艦が疑問符を浮かべた。

彼女は《離島棲鬼(りとうせいき)》。外見は他の姫級や鬼級に比べて若干幼く、強くウェーブした腰より長い黒髪をしたお嬢様風。服装は頭には黒い大きな布が二重になっているボンネットとリブ生地のノースリーブに、膝丈位の黒のフリルフレアスカート。黒いボディストッキングのようなものを着ていて、露出は顔と手だけという全体的に真っ黒な服装だ。よく見るとボンネットのカチューシャ部分の横から角が生えており、背中にも角がある。

本当は今回の会議には彼女曰く姉の《離島棲()》が来る予定だったが、彼女は今手が離せないらしく、代わりに来てもらった。因みに離島棲鬼は語尾が「〜デスノ」で、離島棲姫は「〜デスワ」だ。そんな離島棲鬼はカップに入った紅茶を飲みながら私に聞き返してきた。

 

 

「イヤ、多分今回の件デ私達深海棲艦ハ海軍や賞金稼ぎニ常に狙われル事になるダロウ?それだけナラ私は気にスル事も無イ。襲って来たラ返り討チニすればイイ。しかし、あの屑ヲ守り、連中ノ犯罪行為に何もしナイ海軍と世界政府ガ気に食ワナイから嫌がらセしようト思っテナ」

 

「デモ意外デスノ。ヲ級ハアマリ争イガ好キデハナイト思ッテイマシタノ」

 

「ウン……私モ…ソウ思ッテタワ」

 

 

離島棲鬼に同意したのは《集積地棲姫(しゅうせきちせいき)》。深海棲艦としては初のメガネを掛けた姫級で、ヘッドフォンのような物を装着し、髪は大きく長い三つ編みにして首にマフラーのように巻いて、白いワンピースの様な服装をしている。彼女はこの鎮守府で物資の調達や、島の外の情報収集をしてもらっている。収集癖があり、偶に島に流れ着く漂流物や、沈めた海賊船から面白い物を拾っては、彼女専用の倉庫にコレクションとして大事にしまっている。後、工廠娘達と共同で新兵器や設備をよく開発している。

 

 

「そういウ時もあル。それデ?どう思ウ?」

 

「ワタクシ ハ賛成デスノ。キットオ姉様モ賛成シマスノ」

 

「ウ〜ン……私モ…別ニ構ワナイカナ」

 

「離島棲鬼と集積地棲姫ハ賛成カ。……他のみんなハ?」

 

「私ハ賛成ダ」

 

「私モサ」

 

 

離島棲鬼と集積地棲姫の賛成を確認し、私は他の飛行場姫と戦艦棲姫以外の姫級達に顔を向けた。戦艦棲姫と飛行場姫は聞かなくても賛成一筋だろう。多分この2人が現在ここにいるメンバーの中で1番進んで海軍とかを沈めるだろう。だが海軍にだっていい奴はいる筈だ。そこら辺は集積地棲姫に聞いて確認してから沈めるようにと言っておこう。

 

 

「私ハ、ヤリタイ事ガアルノデ、積極的ニハ参加出来マセンガ、賛成デス」

 

 

離島棲鬼の隣に座っている姫級が小さく手を挙げながら賛成してくれた。

彼女は《港湾棲姫(こうわんせいき)》。腰周りはキュっと引きしまり、臀部から脚にかけてはむっちりしたかなりグラマラスな体型をしており、トップスにはノースリーブのたてセタを連想させるリブ生地のワンピースを着用しているが、ボトムにはズボンやスカートの類ははいていない。白い長髪をしていて、額には大きな角が1本あり、両手には大きな鉤爪を持っている。戦闘以外では基本的に優しい性格で、よく建造されたばかりの深海棲艦達の世話をしたり、私が留守の時には食堂でみんなのご飯を作っており、みんなのオカン的な立場にある。ただ、彼女はその…何よりも目を引くのが横からはみ出ちゃうほどの巨乳であり、よく離島棲鬼などの胸を気にしている者達からは恨み篭った目で涙を流しながら睨まれたりしている。

……っていうか、やりたい事?

 

 

「やりたイ事ッテなんダ?初耳なんだガ」

 

「ソノ…《ヒューマンショップ》ナル物ニ、無理矢理奴隷ニサレタ者ガイルト聞イタノデ…」

 

「アァ……成る程、納得しタ。いいゾ、好きにスルとイイ」

 

 

ヒューマンショップは分かりやすく言えば奴隷専門店だ。そこには様々な理由で奴隷になった者達が、天竜人やどこかの国のお偉いさんに金で買われたりする場所で、天竜人が主に奴隷を買う為に利用するので海軍や世界政府も営業を黙認している店だ。その様々な理由の中に、親が金が欲しくて自分の子供を売ったり、海賊や人攫いに攫われたりと、無理矢理奴隷にされた者達が多く存在する。

つまり優しい性格の港湾棲姫は、そんな者達を出来れば元の居場所に戻す、または保護したいと考えているのだろう。それはみんな察しているのか、許可が出て聖母の様な笑みを浮かべて「良シ♪」と小さくガッツポーズをしている港湾棲姫を優しい眼差しで眺めていた。

 

 

「………私モ……賛成デイイワ」

 

 

みんなで港湾棲姫を眺めていると、ふと1人の深海棲艦が思い出したかのように小さく片手を挙げ賛成した。

彼女は《中間棲姫(ちゅうかんせいき)》。飛行場姫の様な白色ベースの成人女性型をしている。飛行場姫と比べると目付きが鋭くなっており、角の白色の部分の面積が増えている。服装は姫袖に大きく波打ったロングドレスと大人びたもので、顔の下半分を武骨な鉤爪状の艤装で覆っている。彼女は他の深海棲艦の中でもあまり表情を変える事がなく、まるで機械のような雰囲気ではあるが、意外と可愛い物好きである。以前私が作ったクッキーをパクパク食べる妖精さん達を普段からは想像出来ない穏やかな表情で見つめているのを目撃した。

これで取り敢えず全員の賛成を確認した。私はその後みんなにどのようにするかを詳しく説明した。

簡単に纏めると、鎮守府にいる姫級達はそれぞれ自分の気に入った島を中心に近海を縄張りとしてもらい、その海域に入った海賊や不正などを行う海軍、また天竜人がのる船や奴隷船(奴隷は保護)を沈める。一般市民や貿易船などには攻撃してはいけない。主にこの2つを守ればOKだ。他にも色々やってはいけない事、緊急時の対応なども話した。

 

 

「では、準備ガ出来次第行動開始。以上解散!」

 

 

 

 

 

 

マリンフォードにある海軍本部のとある一室。そこに今、海軍中将達と、重傷を負って入院中のサカズキ以外の大将。そして、今回彼等を呼んだセンゴク元帥が会議をしていた。議題は勿論、先日発生したシャボンディ諸島での天竜人殺害事件と、海軍大将に重傷を負わせ逃亡した犯人達についてだ。

 

 

「……以上を持ちまして、報告を終わります。」

 

「まさか…赤犬が負かされるとはな」

 

 

報告書の束を持った海兵の話を聞き、センゴク元帥は苦虫を噛み潰した様な顔をした。他の中将・大将達も同様である。

今回の件での被害は大きい。戦闘により、シャボンディ諸島の繁華街の一部が壊滅状態。シャボンディ諸島に置かれた海軍駐屯地に所属する海兵約500名の内約7割が死亡、2割が重傷、1割が軽傷。海軍大将赤犬が重傷。港に停泊していた軍艦4隻が轟沈。そして何より天竜人が1名殺害された上に犯人達にはまんまと逃げられてしまった。しかもそれが幼い子供を含めた女性7名による被害ときた。

 

 

「しっかし、あの嬢ちゃん達がこんな力を持ってるとはなぁ…」

 

 

手元の資料を見ながら頭を掻くアイマスクを付けた海兵は《クザン》。“ヒエヒエの実”の氷結人間にして、『だらけきった正義』を掲げる海軍大将“青雉”である。そして、シャボンディ諸島にて瀕死のサカズキを回収し、一度だけ犯人達の顔を見ている人物だ。

 

 

「しかも、全員が何かの実の能力者で、ロギアの能力者でもダメージを受け流せない。おっそろしい女達だねぇ〜?」

 

 

クザン座るサングラスを掛けた黄色いスーツの海兵は《ボルサリーノ》。“ピカピカの実”の光人間にして、『どっちつかずの正義』を掲げる海軍大将“黄猿”である。彼の言葉を聞いてセンゴクは頭を抱えたくなった。そんなセンゴクを見て、1人の老兵…海軍の英雄とも呼ばれている海軍中将《モンキー・D・ガープ》が豪快に煎餅をバリバリ食べながら笑い出した。

 

 

ぶわはははは!!なんじゃいセンゴク。いつもより窶れて見えるぞ?」

 

黙っとれガープ!!貴様はもう少し事の重大さを理解したらどうなんだ!!」

 

 

センゴクは呑気に煎餅をバリバリ食べるガープに怒鳴り声をあげた。しかしガープは全く臆する事なく普通に煎餅を食べ続ける。そんなガープにイライラしながらも、センゴクは話し出した。

 

 

「今回の件で、天竜人達は犯人を一刻も早く逮捕または処刑しろと言って来ている。本来ならばすぐに懸賞金を懸け、手配書を世界中にばら撒く所だが、天竜人が殺害されるのは前代未聞。更に海軍大将に1人重傷を負わせる連中だ。しかも写真も無い。写真は似顔絵にするとして、懸賞金は幾らにすればいいだろうか?」

 

「サカズキを負かすぐらいだからねぇ〜。軽く1億は超えてるよぉ〜?」

 

「しかもそれが複数人いるからなぁ……天竜人殺害した奴を億越えで後は5000から7000万辺りがいいんじゃあねーの?」

 

「う〜〜む……やはりその辺りが妥当か。良し、天竜人を殺害した娘を懸賞金1億4000万。他の者達はそれぞれ6500万ベリーで懸賞金を懸け「元帥!!センゴク元帥!!」ん?」

 

 

 

センゴクが話していると、ドタドタと廊下を走る足音が聞こえて来た。センゴク達が何事だと足音のする方を見ると、とても焦った様子の海兵が1人部屋に入って来て、海軍式の敬礼をした。

 

 

「報告します!!か、海軍第4、第7、第8、第12支部が、『深海棲艦』と名乗る先日の天竜人殺害事件の犯人と特徴が一致する者達から襲撃を受け!崩壊しました!!更に第9、第13、第18支部は現在襲撃を受け、ほぼ壊滅状態です!!」

 

「「「「「ッ!!?」」」」」

 

なんだと!?どういう事だ!!?何かの間違いではないのか!?

 

 

突然の報告にセンゴクは顔を驚愕に染め、クザン、ボルサリーノ、その他海軍中将達は目を見開いて騒めき、先程まで笑っていたガープも真剣な表情となった。



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我等、懸賞金ヲ懸ケラレル!

海軍支部が同時に多数襲撃され、崩壊された事は新聞や号外によってたちまち世界中に知れ渡った。海軍はすぐさま襲撃者達全員に懸賞金を賭けようとしたのだが、ここで今までになかった問題が発生した。

深海棲艦達の殆どが、同じ顔をしているのだ。

これにはセンゴク元帥どころかあの“海軍の英雄”ガープですら写真を見て唖然とした。初めは同じ人物を撮影しただけだと思っていたが、1枚の写真に6人の全く姿が同じの深海棲艦達が写っているのを見て、センゴクは頭を抱えた。

このままでは手配書が完成しないと悟ったセンゴクは、写真に写る深海棲艦達を種類別に分けて懸賞金を懸け、シャボンディ諸島の事件の犯人と同じ種類に高額の懸賞金を懸け手配書を作った。

そして手配書を作成すると同時に、センゴク元帥は崩壊された海軍支部の近隣の海軍支部に深海棲艦達を出来るだけ優先して捕らえるよう命令した。

 

 

 

 

 

 

離島棲鬼side…

 

 

ワタクシは離島棲鬼。深海棲艦の鬼級の1人ですの。そんなワタクシは現在、先日手に入れた海軍第18支部の湾岸の広場にテーブルと椅子を用意し、私の姉…姫級の離島棲姫姉様と一緒に、海を眺めながら紅茶を飲んでいますの。

離島棲姫姉様は本当にワタクシにそっくりで、鈎形の装備が所々に見え、両手やニーソックスの先端部分にも装備し、ボンネットを突き破って生えている角と背中の角はワタクシのものより長いですの。服装はワタクシと違って胸から上下に分離しているような服装で、肩部分と袖口にフリルが追加されていますの。

そして今姉様と見ている普段見慣れた海ですが、今はただ海だけを見てるだけではありませんの。

 

 

「敵船捕捉!撃テェ!!」

ドドドドォォォォォン!!!!!

 

 

ワタクシの部下の戦艦ル級の号令を聞いて駆逐艦から戦艦までの全深海棲艦達が沖にいる海軍の軍艦に向けて砲撃を開始しましたの。放たれた砲弾は風を切って目標に向かって飛んで行き、軍艦を次々と沈めて行っていますの。

今から10分程前、ワタクシと離島棲姫姉様がティータイムを過ごしていると丁度海軍が島を取り戻しに攻めて来たので、ワタクシ達の部下達に相手を任せて彼等が沈む様をゆっくり眺めながら紅茶を飲んでいますの。

あら、また沈みましたわね♪

 

 

「フフ♪懲リナイ子達……スグニ撤退スレバ被害ヲ最小限ニ抑エラレマスノニ」

 

「確カニソウデスワネ。コレダケ沈メレバ力ノ差ハ分カル筈ナノデスガ……マァ、ダカラコソ今ノ光景ヲ見レテイルノデスワ。……アラ?」

 

 

ワタクシが離島棲姫姉様と話をしていると、テーブルに上から紙の束が落ちて来ましたの。何事かと空を見上げると、水兵帽を被り、首から新聞の束を入れた赤いカバンをぶら下げているカモメが慌てた様子で飛び去って行くのが見えました。確かアレは《ニュースクー》とかいう新聞配達をするカモメですわね。部下達の砲撃に驚いて落として行ったのでしょうか?

ワタクシがその紙の束を拾い上げると、それは手配書の束でした。暇潰しにパラパラとめくっていると、面白い物を見つけましたの♪

ワタクシは手配書の束から2枚の手配書を抜き取ってテーブルに置き、離島棲姫姉様に見せましたの。

 

 

「姉様!姉様!コレヲ見テ欲シイデスノ!」

 

「ドウシマシタ離島棲鬼?………アラ?コレハ」

 

“黒鬼人形”離島棲姫 懸賞金1億2500万ベリー

 

“黒鬼人形の妹” 離島棲鬼 懸賞金1億2000万ベリー

 

 

それはワタクシ達の手配書でしたの!写真はおそらくワタクシ達が第18支部を襲撃した時のもの。なんだか有名人になったみたいでちょっと興奮しますの♪それは離島棲姫姉様も同じな様で、自分の手配書をマジマジと見つめていますの。

 

 

「良ク撮レテマスワ♪離島棲鬼モ美シク撮レテイマスワ♪」

 

「姉様コソ!コノ艦載機ニ指示ヲ出ス姿ハカッコイイデスノ♪」

 

 

ワタクシ達は互いに写真の良い所を言い合いましたの。ただ懸賞金が姉様より500万低いのは残念ですの。……まぁコレはその内上がるでしょう。

しかし“黒鬼人形”とはおそらくワタクシと離島棲姫姉様の通り名でしょうか?もう少し可愛いものが良かったですの……。

ワタクシがそんな風にちょっと自分の手配書の通り名を残念に思っていると、最後の軍艦が水底に沈みましたの。さて、次はいつ来るのでしょうか?

 

 

 

 

 

 

飛行場姫side…

 

 

「ヘェ〜?結構イイ町ダナ!気ニイッタ!」

 

 

私は今2日程前に襲撃して手に入れた海軍支部の目と鼻の先にあった島…確か《クビカリ島》ってチ級が言ってたな?その島の町に部下のリ級2人を連れて訪れている。若干並んでる店が武器屋とかが多い気がするけど、ちゃんと料理屋もあるから気にする事でもないな。

私が並んでる店をキョロキョロと見回していると、私の後ろを歩くリ級が話し掛けて来た。

 

 

「飛行場姫様、少シイイッスカ?」

 

「ドウシタ?何カ見ツケタノカ?」

 

「イエ、逆ッス。見ラレテルッス」

 

「アァ…前ニ2人、後ロニ3人。後は左右ニ2人ズツ。私達ガ町ニ上陸シテカラズット見テルナ」

 

 

私はバレない程度にチラッとこちらを見ている連中を見た。太刀を背負った男、銃を腰に下げた女、剣を2本腰に下げた中年男性…そんな連中が手に紙を数枚持ちながら私達を見ている。そして目は獲物を見つけた獣見たいだ。

私が適当に人気の無い場所に偶然を装って入って行くと、案の定人間達は私達を囲む様に姿を見せた。

 

 

「ちょいと待ちな。嬢ちゃん達…」

 

「イイヨ。サテ、オ前等ハ何者ダ?島ニ上陸シテカラズット見テタナ?」

 

 

私が話し掛けて来た太刀を背負った男にニヤリと笑いながら聞き返すと、人間達は苦虫を噛み潰した様な表情をしてから太刀を構えた。周りの人間達もそれぞれ自分の得物を構え、私達に向けた。

 

 

「気付いてやがったか!!俺達は賞金稼ぎだ!その首に懸けられた懸賞金をいただく!!」

 

「フフフ♪イイヨォ。何度デモ、沈メテアゲルカラサ♪」

 

「ッ!!調子に乗ってんじゃねぇ!!掛かれぇ!!!」

 

「「「「「うおおぉぉぉぉぉ!!!」」」」」

 

 

私がニヤァァ♪と笑いながら挑発すると、人間達は青筋を浮かべて襲い掛かって来た。私はリ級達に手を出さないよう合図を送ってから拳を構えた。

 

 

 

〜10分後〜

 

 

 

「ハァ……思ッタヨリ歯応エガ無カッタナ。期待外レダ」

 

「マァ、ソウナルッスヨネェ?」

 

「ぐ……ぐぞぉ……」

 

 

艤装を展開するどころか拳1つで事足りてしまった。集積地棲姫に頼んで態々治安が悪くて強い人間がいそうな島の近くにある支部を教えてもらったのに、こんな連中だとなぁ……いや、もしかしたら強い人間がまだ私達の前に来ていないだけかも知れない!

私がそう思っていると、山積みにした人間達の荷物を漁っていたリ級達が何かの紙の束を手に、興奮した様子で戻って来た。

 

 

「飛行場姫様!コレ!コレ見テ下サイッス!!」

 

「飛行場姫様ト私達達ガ、手配書ニ載ッテルッス!」

 

「……ヘェ?面白ソウダナ。見セテクレ」

 

 

私はリ級から手配書を受け取り、その手配書を見てみた。そこには確かに私の写真と名前が書いてあった。ペラペラと巡って行けばリ級、ル級、チ級と、他の深海棲艦達の顔写真があった。

 

 

“白鬼”の飛行場姫 懸賞金2億1200万ベリー

 

“黒籠手”のリ級 懸賞金4200万ベリー

 

「オォ!2億ダッテサ!コレッテ凄インジャナイカ?」

 

「確カ、手配書ノ初期金額デ1億ヲ超エルノハ珍シイッテ聞イタッス!」

 

「凄イッス!……ア!他ノ皆ンナモ手配書ニ載ッテルッス!」

 

 

片方のリ級が手配書の束から何枚か抜き出し、私達に見せて来た。確かに私達深海棲艦の手配書だな。て事はこの人間達は賞金稼ぎって奴か?なら、このまま懸賞金を上げて行けば、いつか強い賞金稼ぎが私を倒しに来るかもしれないな♪

私は手配書を見ながら、これから先の事を想像して笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

戦艦棲姫side…

 

 

「全主砲斉射!……撃テェ!!」

ドドドドォォォォォン!!!!

 

 

私の部下のル級達が遠くに見える海賊船の船団に向けて一斉に砲撃した。海軍第13支部を僅か1時間で崩壊させた私達は、艦隊の一部を島の守護の為待機させ、残りの艦隊を引き連れて近海を航行中の海賊船を沈めている。今も10隻程の船団を気付かれないように数千メートル離れた場所から砲撃し、7隻を水底に沈めた。

しかし今回の海賊船は奇妙だな。気の所為でなければあの船首…歌っている(・・・・・)ように見える。船もまるでお菓子(・・・)で作ってあるかの様な見た目だ。

 

 

「マァ、沈メル事ニ違イハ無イ。サッサト水底ニ沈ムトイイ!」

ドドドォォォォォン!!!ドドドォォォォォン!!!

 

 

私の艤装から放たれた6発の砲弾は風を切る様な音を出しながら海賊船に向かって飛んで行き、砲弾を目視出来なくなってから数秒遅れて先頭を航行する海賊船に命中、轟沈させた。

 

 

「流石ハ戦艦棲姫ダナ。全弾命中ヲ確認シタ」

 

 

隣に立っていた私の姉上…《戦艦水鬼(せんかんすいき)》が顔に笑みを浮かべながら褒めて下さった。姉上は私と似てはいるが、角が左側に1本だけ生え、垂れた前髪2束を眉間のあたりでクロスしている。 服装は肩を露出した膝丈の黒いドレス。胸元に模様が入っており、スカートはバルーン風に膨らんでいる。黒いタイツにスタッズのついたゴツい装飾の靴を履き、二の腕まであるロンググローブを身に着けている。

姉上の艤装は私の艤装より遥かに凶暴性に溢れており、首と両腕には黒い枷が嵌められている。砲撃の威力も私より段違いで、先程も砲弾2発で1番大きな海賊船を吹き飛ばしていた。私の憧れる自慢の姉だ。

 

 

「イイエ、姉上ニ比ベレバ、私ナド…」

 

「フフ♪アリガトウ。ダガソウ自分ヲ卑下スルナ。私ノ妹ナラバ、堂々トシテイレバイイ」

 

「〜〜〜ッ!!ハ、ハイ!!」///

 

 

姉上は私の頭を撫でながらそう言ってくれた。少し恥ずかしいが、姉上は撫でるのが上手いので断れない。

姉上はしばらく私の頭を撫でた後、海賊船が全船破壊したのを確認し、部下達を物資などの回収を命じた。結果、まだ沈み切っていない船の残骸からは丁寧に包装されたクッキーや煎餅などのお菓子の入った木箱多数と、食料や金銀財宝、そして私達が載っているという手配書の束を部下達が回収して来た。

お菓子の入った木箱が何故海賊船に入っていたのか少し気になったが、それよりも私達の手配書とやらに興味があった。拾って来たチ級から手配書を受け取ると、そこには確かに我々深海棲艦の手配書があり、私と姉上の手配書もあった。

 

 

“双頭魔人”戦艦水鬼 懸賞金1億8700万ベリー

 

“巨兵”戦艦棲姫 懸賞金2億2200万ベリー

 

「ナ、何故姉上ヨリ私ガ懸賞金ガ高ク…!?」

 

「フム…オソラク シャボンディ諸島デノ事件ニ戦艦棲姫ガ居タカラダロウナ。2億カ…凄イジャナイカ」

 

 

姉上は笑いながらそう言って下さったが、普通私よりも姉上の方が懸賞金上だと思うんだがな。

 

 

「ソレデ?我々ノ中デ1番懸賞金ガ高イノハ誰ダ?」

 

「チョット待ッテ下サイ………アリマシタ」

 

 

私は手配書の中から最も高額な懸賞金の手配書を抜き出し、姉上に渡した。姉上は手配書を見ると、すぐ納得したと言わんばかりに頷いた。私もその手配書の人物と金額には納得した。

そういえば、彼女は港湾棲姫の手伝いをすると言っていたな。今頃どこの海を進んでいるのだろうか?

 

 

“深海軍師”ヲ級 懸賞金3億8400万ベリー



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我、奴隷達ヲ解放ス!

偉大なる航路(グランドライン)前半のとある海、そこに地図には載っていないある島があった。その島の名は《フォールジン島》。通称“奴隷島”と呼ばれる、天竜人の命令で世界政府と海軍が公認し、隠している奴隷商人や人攫いなど達の島である。

この島では近海の島々から攫った人間達や、世界政府の役人や一部の海兵達に捕らえた海賊達などを集めて奴隷にし、各地のヒューマンショップに輸送しており、島にヒューマンショップがない人攫い達などはここで捕らえた者達を売っている。

普通ならば世界政府や海軍はこんな事を許してはいけないのだが、奴隷を買っている天竜人達の約90%が奴隷を増やし続ける為、世界政府にこの島の存在を隠し、海軍を使って守らせるよう命令したのである。

よってこの様な島は世界政府によって存在を隠され、今では偉大なる航路(グランドライン)前半の海のあちこちに同じ目的の島が出来た。更にこれ等の島は全て砲台や見張り台などを設置されて要塞と化し、一部の海兵達が守っている。

そして今日もまた、この島に船に乗せられた新しい奴隷にされる攫われた人間達が運ばれて来た。「家に帰してくれ!」と叫ぶ男性、「お母さんに会いたい!」と泣き叫ぶ少女、「一思いに殺せ!」と叫ぶ手錠を付けられた女海賊…様々な人間達が次々と島の施設の中に連れて行かれる。

その光景を砲台にいる海兵達が眺めていた。

 

「お〜お〜♪今日も沢山連れて来られたなぁ」

 

「連れて来られた奴は気の毒だなぁ。お!あのねーちゃんは天竜人が買いそうだな」

 

「おいおい、サボってないで仕事しろよ〜?じゃねーと遊ばせて(・・・・)もらえねーぞ」

 

 

連れて行かれる人達を眺めていた海兵達は「そうだな」と言いながら自分達の仕事場に戻った。その内の1人の海兵は砲台の近くに建てられた見張り台に登り、単眼鏡で海を監視し始めた。

 

 

「ハァ〜……どうせこの島は世界政府が存在を隠してんだから、誰も攻めて来ねーだろ〜に。見張りなんざ必要無いだろ。…………ん?」

 

 

深い溜め息を吐きながら海を眺めていると、遠くの方で点々と黒い物が海面に次々と現れ始めた。海兵は「なんだアレ?」と呟きながらそれ等が単眼鏡で見ていると、ようやくハッキリ見える距離まで近づいたのか、単眼鏡でそれ等の姿がハッキリと見えた。その中央の存在を見た瞬間、風を切る様な音が鳴り響き、少し離れた場所に設置されていた砲台が大爆発を起こした。それを見た海兵は慌てて見張り台に吊るされた鐘を鳴らした。

 

 

カン!!カン!!カン!!カン!!

敵襲ぅ〜〜!!敵襲ぅ〜〜!!

 

「何!?敵襲だと!?」

 

「ッ!?敵影発見!!あ、あんな遠くから攻撃したのか!?」

 

 

鐘の音を聞いた海兵達は慌てて各自の持ち場に着き、砲手は砲台を用意した。他の見張りの海兵達も敵の姿を確認し、敵までの距離に驚愕した。最初に敵を見つけた海兵は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら単眼鏡を覗いた。

 

 

「クソ!なんで……なんで“深海軍師”がこの島に……!?」

 

 

 

 

 

 

ヲ級side…

 

 

私は今、集積地棲姫の集めた情報で見つけたフォールジン島を港湾棲姫と一緒に部下の深海棲艦達を率いて襲撃している。

私の両隣では戦艦ル級と、同じ戦艦である《戦艦タ級》が艦砲射撃を行なっていた。

タ級は他の深海棲艦同様白い肌に腰まで伸びた白髪をしており、青く光る瞳を持っている。セーラー服とブルマの様に見える黒いパンツを着用し、黒いニーソックスに黒いブーツを装着している。艤装は左肩に黒い肩当てを装備し、白いマントを羽織っており、背中辺りから戦艦を模した深海棲艦特有の意匠が施されている尻尾の様なものが4本伸びている。彼女はかなり真面目で、深海棲艦の割には海軍より正義感が強い性格をしている者が多い。

そのため……。

 

 

ドドォォン!!ドドォォン!!

「撃テェェ!!人間ヲ攫イ、奴隷ニシテイル連中ヲ殲滅セヨ!!」

 

「「「「オォォォォ!!!」」」」」

 

「やっぱりコウなったカ…」

 

 

タ級達はル級達も少し距離を開ける程の勢いで砲撃しまくっている。でもちゃんと奴隷達がいる施設に着弾させていないからちゃんと理性はある様だな。

私が苦笑いを浮かべながら彼女達を眺めていると、後方で待機していた私ではない普通の空母ヲ級が近寄って来た。

 

 

「ヲ!ヲヲ、ヲッヲヲ!」

 

「そうカ。港湾棲姫ハ無事上陸したカ」

 

 

今回は戦艦と空母で島の砲台などを破壊する私の部隊と、島に上陸して奴隷達を解放する港湾棲姫の部隊で別れて行動している。因みに深海棲艦の中には彼女の様に話す事が出来ない者達も沢山いる。だけど何故か何が言いたいのか理解出来るんだよなぁ…なんでだ?

まぁ、取り敢えず次の行動に移るか。

 

 

「各方角に偵察機ヲ発艦。海軍の軍艦ガ接近していタラ、速やカニ撃沈せヨ」

 

「ヲ!」

 

 

ヲ級はビシッと敬礼してから仲間達に指示を伝えに戻って行った。

さて、これから忙しくなりそうだな。

 

 

 

 

 

 

港湾棲姫side…

 

 

私は港湾棲姫。今私は集積地棲姫さんが見付けて下さったフォールジン島という島に上陸しています。私は戦闘はあまり好きではないのですが、この島には攫われたりして無理矢理奴隷にされる人間達がいらっしゃる様なので、そんな事を言っている場合ではありません。

私達が上陸すると、島にある施設の中から沢山の武器を持った人間達が攻撃して来ましたが、私が展開したバリアに弾かれました。どうやらこの島にはヲ級さん達が戦った海軍大将という人物はいない様です。

攻撃が効かないと分かっても銃を撃ち続ける人間達に向かって砲撃すると、人間達は簡単に吹き飛ばされました。因みに私の艤装は玉座の様な形をしており、右側にレ級さんの尻尾に似た滑走路、左側にクレーンの付いた砲台、そして背後に燃料タンクのようなものが装着しています。

 

 

「私達ハ深海棲艦デス。無駄ナ抵抗ハ止メ、速ヤカニ降伏シ、奴隷達ヲ解放シテ下サイ」

 

「う、うるせぇ!!誰が商品を捨てる様な真似するかよ!この島は天竜人が必要としている島だ!逆にテメェ等が俺達に捕まりやがれ!お前なら高値で売れる!!」

 

「そうだそうだ!お前等だったら、上手く行けば億は行きそうだぜ!」

 

 

私は出来るだけ戦闘を避けるために降伏を命じましたが、彼等は言う事を聞きはしませんでした。再び攻撃を開始した彼等を見て私は深い溜め息を吐いてしまいました。

彼等の会話を聞く度に怒りを感じる。私は確かに戦闘は好まず、出来る事なら敵も殺さない様にしたいのですが、彼等にはそんな感情は浮かばず、殺意しか感じません。

 

 

「……ソウデスカ。ナラ、仕方有リマセン。諦メマショウ」

 

「へ…へへ♪そーか!諦めるか!ならとっとと首輪を…」

 

「貴方達ヲ全員水底ニ沈メテカラ、奴隷達ヲ解放シマス。……全艦、砲撃用意!目標、正面ノ敵兵!放テェ!!」

ドドドドドォォォォォォン!!!!

 

「「「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁあ!!?」」」」」

 

 

私の号令で、背後に並んでいた私の部下達が奴隷達がいると教えられた建物に被害が出ないようにしながら砲撃し、敵を吹き飛ばしました。

私は砲撃によって荒れ、先程まで私達の前にいた敵が血を流して転がる道を進み、敵の殲滅を部下に命じて奴隷達がいる建物に1人で入りました。

中に入るとまだ生きている人間がバズーカ砲を撃ち込んできましたが、私はその砲弾を片手で受け止め、そのまま握り潰した。潰れた砲弾だった物を床に落として撃った人間を睨み付けると、彼等は小さく悲鳴を上げて後退った。

 

 

「……私ノ邪魔ヲ……スルナァ!!

 

「ヒィ!!ひ、怯むな!撃て撃t《ドゴッ!!》ガハッ!!?」

 

「く、来るな!来るんじゃねぇ!!《バキッ!!》グギャッ!!?」

 

 

彼等はバズーカ砲や銃を構えましたが、私は動き易くする為艤装を収納し、向けられる銃口を気にする事なく接近し、殴り、蹴り、投げ飛ばしながら先に進みました。

そのまましばらく進み続けていると、鉄製の巨大な扉を見つけました。鍵が掛かっているようで、押しても引いても動きません。なので仕方なく私は扉から少し離れ、拳を握り締め……。

 

 

ハァ!!!

バゴンッ!!!!

 

 

扉を突き破りました。中に入るとそこには沢山の檻があり、その中には沢山の人間達が震えながら私を見つめています。どうやらこの部屋が目的地の様ですね。

私は早く人間達を解放する為に鍵を探そうとしたのですが、檻の陰からまるで生き物の様に太いロープが伸びて来て、私をグルグル巻きにしました。

 

 

「コレハ……?」

 

「俺様の能力によって生み出された鋼鉄製(・・・)のロープさ。待ちくたびれたぜ?侵入者」

 

 

私が首を傾げていると、檻の陰から1人のカウボーイの様な服装をした小太りの男が出て来ました。掌から直接このロープが伸びているところを見ると、どうやら彼は悪魔の実の能力者のようですね。

 

 

「初めまして、深海棲艦殿ぉ?俺様の名はウッディル。“ナワナワの実”の縄人間だ。俺は触れた物をロープにし、自在に操る事が出来る。それはさっきも言った通り鋼鉄で出来ている。もう逃げられねーぜ」

 

 

どうやら正解のようですが、何故聞いてもいないのにペラペラと自分の情報を喋ったのでしょうか?取り敢えず鍵の在り処を聞いてみますか。

 

 

「……檻ト、奴隷達ノ首輪ノ鍵ハ、何処デスカ?」

 

「鍵ぃ?クククッ♪なんだ、お前奴隷共を解放する為に態々攻めて来やがったのか?可愛い顔して馬鹿な女だなぁ。鍵なら俺が持ってるぜ?ま、渡す訳ねーがな!クハハハハ♪」

 

 

ウッディルと名乗る彼は懐から鍵の束を取り出して目の前でプラプラと笑いながら私に見せつけました。この場合、普通ならば相手がなんらかの脱出方法を持っていると考えて喋らなかったり、嘘の情報を流すのが決まりなのですが……彼はそれ程の自信や実力を持っていて、知った上で喋っているのでしょうか?

まぁ、取り敢えず鍵の在り処は分かりました。私はすぐに体に力を入れてロープを引き千切り、鍵を奪いに掛かりました。

 

 

「な!?こ、鋼鉄製のロープだぞ!?化け物かよ!!」

 

「アンナ物デ私ハ捕ラエラレマセン。鍵ハ頂キマス!」

 

「ヒィ!?ス、“鋼鉄の縄(ステール・ロープ)”!!」

 

「無駄デス!!」

 

 

再び迫って来た鋼鉄のロープを鉤爪で斬り裂き、目を見開くウッディルの頭を掴んでそのまま頭から床に叩きつけました。ドゴン!!と重く響く音と共に床にスプーンでくり抜いたようなクレーターが出来上がり、ウッディルはそのまま動かなくなりました。

私は彼から鍵を取り上げ、奴隷達を解放して行くと、先程まで戦闘を黙って見ていた檻の中の人々が大きな歓声を上げ、涙を流しながら喜び合ってくれました。

そして部屋にある全ての奴隷達を解放する頃には、既に島は私達深海棲艦が占領していました。

流石はヲ級さんですね♪



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我、奴隷解放ニ協力ス!

ヲ級side…

 

 

フォールジン島を無事占領した私達は、先ず始めに手分けして奴隷達の解放を行った。奴隷達の首には逃亡防止の為、触れたりしたら爆発する時限爆弾付きの首輪が付けられている。私達は首輪に触れないよう注意しながら1人、また1人と奴隷達を解放して行った。

奴隷達は最初こそ得体の知れない私達を恐れ、警戒していたのだが、奴隷から解放してあげると涙を流しながら喜び合っていた。それ程奴隷になるのが嫌だったのだろう。私だって首に爆弾つけられて無理矢理言うこと聞かされるのはゴメンだしな。

その後、私達深海棲艦は解放された人間達に食事を与え、妖精さん達に前以て作ってもらっていたテントを設置した。港湾棲姫は早く人間達を元いた場所に帰してあげたいと私に頼みこんで来たが、解放された人間達が予想より遥かに多い為、1人1人の故郷を聞き、それぞれの島に護衛付きで送り帰すのには時間が掛かる為、準備が出来るまではこの島で過ごして貰う事を説明したら、港湾棲姫は残念そうだったが了解してくれた。

そして占領してから2週間後、ようやく全体の約80%の人間達の故郷である島を聞き出す事が出来た。これなら後もう1週間経てば送り帰すことが出来るだろう。他の深海棲艦達も人間達と仲良くなり、今では互いに遊んだり、世間話したり、料理したりなどしている。

だがその間に問題が2つ発生した。1つは人間達を送り帰す為に使う船の数が少ない事だ。島には奴隷輸送用のガレオン船が5隻あったが、コレだけでは全ての奴隷達を送るのには時間が掛かる。まぁ、コレについては近隣を航行している海賊船を襲撃して奪って使用すればいい。問題はもう1つの方だ。

人間達の全体の約30%が、帰る場所を失っていたのだ

連れて来られた人間達の中には、攫われる際に家族を殺されたり、海賊をやっていて船を沈められたり、親や親族に売り払われた者もいる。中には幼過ぎて自分の住んでいた島の名前を知らない子供も大勢いた。

この人間達には申し訳ないが、今いるこの島を深海棲艦達と協力して開拓し、この島の住民として一から過ごして貰うという形で固まった。勿論私達も全多面協力する。

そして現在、私は何をしているのかと言うと………。

 

 

「……という訳で、俺1人では手が回り切らない可能性がある。そこでお前達にマリージョアの奴隷解放に協力してもらいたい」

 

何がいきなり来て『という訳で』だ分かり易く説明しろ

 

 

先程突然私達に訪ねて来た鯛の魚人…《フィッシャー・タイガー》にジト目で詳しい説明を要求していた。

 

 

 

 

 

 

「それデ?何故私達ニそんな話ヲ持ち掛けテ来タ?フィッシャー・タイガー」

 

 

私は目の前の椅子に座る鯛の魚人…フィッシャー・タイガーと名乗る巨体の男に質問した。今から1時間程前、私が人間達と何か不自由はないかなどの話をしていると、近海を巡航していた第4艦隊から島にまっすぐ接近している魚人を見つけたと連絡があり、連れて来てもらった。

敵か味方か、更には何の目的でこの島に接近して来るのか分からなかったが、取り敢えず本人が「お前達のリーダーと話がしたい」と攻撃の意思はないとばかりに両手を挙げながら要求して来た為、念の為に私が使っている仕事用のテントの中に港湾棲姫とリ級2人、外にタ級とリ級の戦艦達を待機させる事を条件に要求に応じた。

そして話の内容だが、分かり易く言うとマリージョアに行って天竜人の奴隷全員逃すから協力しろとのこと。

何故に?

 

 

「俺の事はタイガーでいい。何、お前達が天竜人を殺害し、この島にいた奴隷達を解放したと聞いてな。目的が奴隷解放なら協力して頂こうと思ったまでだ」

 

聞いタ(・・・)?この島ハ、世界政府が存在ヲ隠蔽した存在しなイ筈の島ダ。それヲ誰から聞いタ?」

 

「近海を泳いでいた魚達から話を聞いた。まぁ、この島の存在を知ったのもその時だったのだがな」

 

 

タイガーは少し顔を苦めながら説明した。成る程、魚か…確かにこの近海にも沢山の魚達が住んでいる。普通魚達と会話するのは私達深海棲艦でも不可能…だがそれが魚人や人魚ならば会話する事が出来るのにも納得出来る。

 

 

「便利ナ能力だナ。確かニ私達は奴隷解放も行なってイル。だが何故私達なんダ?そこは仲間ノ魚人などニ協力ヲ要請するンじゃないカ?」

 

「?だからこうしてお前達に協力を求めているのではないか」

 

「?ソレハ、ドウイウ意味デショウカ?」

 

 

タイガーの言葉に私達は疑問を抱き、港湾棲姫がコテンと首を傾げながら質問した。するとタイガーは何を言っているんだ?と言いたげな顔で私を指差した。

 

 

「俺も初めて見るんだが、そこのお前……クラゲの魚人(・・・・・・)だろう?」

 

誰がクラゲの魚人ダ!!!貴様絶対私ノ頭の艤装ヲ見て判断したナ!!?

 

 

確かに私の頭の艤装はクラゲに見えなくもないけど!!断じてクラゲの魚人ではない!!おい!何故そんな「嘘だろ!?」と言いたげで私を見るんだ!?港湾棲姫も必死に我慢している様だが目を逸らして口元を手で隠してプルプル震えてるから殆ど効果無いぞ!!リ級達に至っては爆笑するんじゃない!!今日の晩御飯はお前達だけピーマン100%サラダにするぞ!?

 

 

「う、嘘を付くな!!魚人でも人魚でもないなら、何故海の中で息が出来る!?力も人間の女の物ではないだろう!!」

 

嘘じゃナイ!!そもそもソレなら私以外ノ子達も海の中ヤ上でも活動出来テいるダロウ!!」

 

「俺だって全ての魚を知っている訳じゃない!!俺の知らない魚の魚人の可能性があるだろう!!!」

 

「………でもクラゲはないだろウ!!」

 

「アハハハハ!!イ、今納得シカケタッスヨネ!?」

 

「ク、クラゲ…プッ!アハハハハ!!」

 

貴様等水底ニ沈めてやろうカ!!?

 

「「スンマセンッシタァ!!!

 

 

爆笑していたリ級達は見事な土下座を見せて謝って来た。よし、お前達は謝ったから今晩の夕食はピーマンの串焼きにしてやろう。私の砲撃と爆撃を食らうよりはマシだろう。

 

 

「な、ならお前達は何だ!?魚人でもないのなら、何故海中で活動出来る!?クラゲの魚人でもないなら何故そんな頭をしている!!?」

 

いい加減にしなイト塩焼きにしテそこらヲ飛ぶカモメの餌ニするゾ貴様ァ!!

 

 

まだ私の艤装をクラゲと言う目の前の魚人に私は自分でも驚く程の怒鳴り声を上げた。このままではまともに会話が出来ないため、一度深呼吸して気持ちを落ち着かせる。やがてタイガーの方も落ち着き、港湾棲姫とリ級達も笑いが収まった。

 

 

「ハァ…ハァ……サテ、私達が何カだったナ?」

 

「あ、あぁ。魚人でもないのなら、お前達は何者なんだ?何故奴隷解放などしている?」

 

「私達ハ深海棲艦…マァ、分かり易ク言えバ沈んだ船ノ魂が人の姿ニなったものダ。奴隷解放は私ノ隣に座ッテいる港湾棲姫ノ考えダ。私達はそれヲ手伝っテいル」

 

「そ、そうだったのか……実はk「私ハ断じてクラゲの魚人ではナイ!!!」す…済まん」

 

 

タイガーはちょっと引き気味だが謝ってきた。どれだけ私をクラゲの魚人にしたいんだ?

私が少し殺気を込めながらタイガーを睨み続けていると、今まで笑いを堪える以外何も喋らなかった港湾棲姫が口を開いた。

 

 

「ヲ級サン……私ハ、出来レバ彼ニ協力シタイノデスガ。ヨロシイデショウカ?」

 

「ン?……マァ、今更『天竜人ニ手を出しタラ面倒にナルからダメ』なんテ言わないガ。私達を魚人ト思っテ協力ヲ持ち掛ケタお前ハどうなんダ?」

 

 

私はテーブルの向かい側に座るフィッシャー・タイガーに視線を向ける。彼は私達が魚人や人魚だと思って協力を要請した。だが私達が魚人や人魚ではないと知った彼はどう思うのか疑問だった。

タイガーは腕を組んで難しい顔をしたまま目を閉じていたが、しばらく重い時間が続いた後、彼は私と港湾棲姫を順に見て、口を開いた。

 

 

「………1つだけ聞きたい。…お前達は、魚人をどう思う?」

 

 

タイガーは真剣な顔でそんな質問をして来た。私や港湾棲姫は何故その質問をして来たのか分からなかったが、彼の表情を見て思った事をそのまま答える事にした。

 

 

「………そうだナ。私は魚人ハ魚人だと思ウ。私達からすれバ、人間は人間、魚人ハ魚人、巨人ハ巨人……どれも同ジこの世界ニ住む住民だからナ」

 

 

私の答えに港湾棲姫やリ級達も黙って頷いた。それを聞いたタイガーは「そうか…」と頷いた。私は彼が小さく笑った様な気がした。

 

 

「いきなりこんな質問をして済まないな。では改めて、奴隷解放の協力。お願い出来ないだろうか?」

 

「……分かっタ。私達深海棲艦はその奴隷解放ニ協力しよウ」

 

 

私はそれに応じ、リ級達にマリージョア近海にいる手の空いた姫級、鬼級の深海棲艦達に、手の空いている艦隊を連れて深海鎮守府に集結せよと連絡するよう命じた。

後日、私と港湾棲姫、タイガーの3人はフォールジン島を部下達に任せて一度深海鎮守府に向かった。

 

 

 

 

 

 

フィッシャー・タイガーにマリージョアの奴隷解放の協力を要請されてから2週間が経過した。

今回の奴隷解放に参加するのは私を含め、港湾棲姫、北方棲姫、中間棲姫、集積地棲姫、防空棲姫、南方棲戦姫、離島棲鬼、空母水鬼、その他3名の姫級を含めた旗艦。

そしてそれぞれが指揮をする戦艦レ級を含めた戦艦、雷巡、重巡、軽巡、潜水艦、駆逐艦、空母が混合した大艦隊だ。

正直言って過剰戦力にも程があるかもしれないが、今回はマリージョアという天竜人が住む場所に奴隷解放の為に襲撃する。そうなると、大勢の海軍や世界政府の連中が守っている場所から解放された奴隷達を守りながら連れ出すという事になる。

マリージョアでそんな騒ぎが起きれば必ず海軍本部から大将達…もしかしたら元帥もやってくる可能性がある。赤犬は意外と楽に倒せたが、アレはおそらく完全にこちらの情報が無い上に、相手が油断していたからだ。次はそう簡単に倒せはしないだろう。

そして、私達は解放された人間達や多種族達を護衛する事にもなっている。だからこそ念を入れてこれだけの戦力にした。因みにタイガーとは別行動になるのだが、最初に私が建造した戦艦レ級を旗艦としたル級2、リ級3の艦隊が護衛として連れて行ってもらう事になった。

そして今日、私達深海棲艦は、マリージョアに向けて深海鎮守府を出港した。



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我、聖地マリージョア ヲ襲撃ス!

マリンフォードにある海軍本部の一室では、海軍の元帥センゴクが胃を痛めていた。原因は勿論、深海棲艦達だ。

あちこちの海軍支部を同時に襲撃し、その支部を中心に近海を縄張りにしている彼女達をどうにか捕らえようとセンゴクは今まで大勢の海兵と軍艦を出撃させた。だが襲撃した軍艦の90%は轟沈し、戻って来た軍艦も大破していていつ沈んでも可笑しくない状態だった。これだけでもセンゴクは胃に深刻なダメージを受けた。

更に追い討ちをかける様に1ヶ月程前に世界政府と協力して世界から存在を隠していたフォールジン島を襲撃され、奪われてしまった。これには天竜人が激怒し、彼女達を捕らえる為に再び世界政府共々大きな被害を受けた。

そして今センゴクは、医師に「胃の調子が改善するまで薬を飲んで仕事をしないで休むように」とドクターストップが掛けられており、仕事を休んでいるのである。これにはあのサボり屋なクザンやガープも同情し、せめてセンゴクが回復するまでは真面目に仕事をしようと思う程だった。

 

 

「イツツツ!……はぁ、彼女達の目的は、いったい何なのだ?」

 

 

センゴクは椅子に座ってぼんやりと窓の外に広がる海を眺めながら、深海棲艦について考えていた。彼が元帥に就任してから、これ程の胃痛に苦しめられたのは今回で何回目かだ。

ただでさえガープやクザンがサボった所為で増える仕事に自分の休み時間や睡眠時間を削りに削りまくっているのに、今回は天竜人が殺害され、海軍支部が落とされ、更には世界政府と協力して隠していたフォールジン島が奪われるという海軍始まって以来の大事件。

はっきり言って胃に穴が開いてもおかしくなかったとセンゴクは医師に言われた。

 

 

「……むぅ、そろそろ薬を飲む時間だな。全く、海軍元帥である私が胃痛に苦しめられるとは…」

 

 

センゴクは机に置かれていた薬袋から医師に渡された薬を取り出し、湯呑みにお茶を入れた。

すると、突然廊下から慌しい足音が近付いて来て、部屋の襖が開かれ、1人の海兵が入って来た。仕事は基本休んでいても、大事な報告だけは聞くようにしているのだ。

 

 

「せ、センゴク元帥!また深海棲艦が……!!」

 

「また何か事件を起こしたのか?すまんが私はもうちょっとやそっとの事ではもう驚かんぞ?取り敢えず報告はしろ」

 

 

慌てる海兵を殆ど表情を変えずに見ながらセンゴクは口に薬を放り込み、湯呑みのお茶で流し込む。どうやら本当に慣れてしまった様だ。

 

 

「深海棲艦の軍勢が1人の魚人と共に聖地マリージョアを襲撃!!マリージョアにいる奴隷達を次々と解放しています!マリージョア近海を巡航していた軍艦は、全て深海棲艦に奪われました!!」

 

「ブゥゥゥーーーッ!!?ゲッホ!ゴホゴホッ!!な、なんだとぉ!?すぐに大将達とガープを向かわせろ!!なんとしても奴等を…はう!?い、胃がぁぁぁ〜〜……」

 

センゴク元帥ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!?

 

 

口に含んでいたお茶を凄まじい勢いで吹き出したセンゴクは、すぐ命令を出そうとしたが、命令の途中で突然襲い掛かって来た胃の痛みに耐えられず、医務室へと搬送されて行った。

因みに、医師の診察の結果、本当に胃に穴が開いてしまっていたらしい。

 

 

 

 

 

 

ヲ級side…

 

 

「建物ハ破壊してモいいガ、無人かどうかヲ確認してカラにシロ!!天竜人や兵士達は好きニして構わなイガ、奴隷達は見つケ次第全員解放しロ!!解放した元奴隷達にハ流れ弾1発当てるナ!!」

 

「「「「「了解!!!」」」」」

 

 

私の指示を受けて人型の深海棲艦達が次々と進んで行く。私達は現在、天竜人の住処である聖地マリージョアを襲撃していた。辺りは火の海と化し、道路には政府の役人や兵士、海兵達と数人の天竜人が血を流しながら倒れており、あちこちからライフルの銃声や深海棲艦達の砲撃音や爆撃音、そして兵士達などの怒号や悲鳴と解放された元奴隷達の歓喜の叫びが聞こえてくる。

解放された元奴隷達は奪った軍艦に乗せて、私達が占領した各島々まで輸送する予定だ。勿論全ての軍艦は私達深海棲艦が護衛する。近海を航行していた海軍から奪った軍艦は全部で20隻だが……これ足りるかどうか分からないなぁ?

私は重巡リ級と雷巡チ級達に誘導されて軍艦を停めてある港にお礼や歓喜の叫び声を上げながら走り去っていく解放された元奴隷達の集団を建物の屋根の上から見下ろしながら軍艦が足りるか不安になって来た。

すると、奴隷解放を命じていた戦艦タ級から通信が来た。

 

 

『コチラ戦艦タ級、少シイイダロウカ?』

 

「こちら空母ヲ級改flagship。どうしタ?何か問題デモ起きたカ?」

 

『サッキカラ集積地棲姫様ノ姿ガ見エナイノダガ……ソチラニ、イラッシャラナイダロウカ?』

 

「アァ〜〜………多分いつもノ収集癖が発動したんだロウ。ほっとけバ戻って来ルから自分の仕事ニ集中しロ」

 

 

このマリージョアには天竜人がコレクションとして各地から買い集めた珍しい物もあるだろう。おそらく集積地棲姫は奴隷解放作業中に偶然そのコレクションの保管庫か何かを見付けてしまったんだろうな。

 

 

『了解シタ。引キ続キ奴隷解放作業ヲ続ケル』

 

 

タ級はそう言い終わると通信を切った。全く、アイツはいったいこの忙しい時に何をやっているんだか。

 

 

 

 

 

 

一方その頃…

 

 

とある天竜人のコレクションルームにて、集積地棲姫は眼鏡の奥の目をキラキラとさせながら子供の様にはしゃいでいた。

 

 

「オォ!オォ〜!!…凄イ!!コンナニ、珍シイ物ガ…イッパイ♪」

 

 

彼女の前には様々な物が透明なガラスのケースに入れられ、綺麗に並べられていた。世界に2つと無い有名な鍛治師が打った銘刀、美しい装飾が施された槍、不思議な魅力を持った古びた本、何かの船の舵輪、更には珍しい形をした木の実…悪魔の実などなど。どれもこれも集積地棲姫にとっては宝物に見えた。

まじまじと観察した集積地棲姫は全部持って帰る事を決め、次々とガラスを割っては自分の艤装であるドラム缶の中に入れて行く。このドラム缶も幾らでも物を入れる事が出来るため、集積地棲姫は鼻歌を歌いながら作業を続けた。

 

 

「フン♪フン♪フフン♪……ウン?」

 

 

部屋のコレクションのだいたい半分をドラム缶に収納した所で、集積地棲姫はこの部屋に近付く多数の足音と誰かの声に気付いた。

折角の楽しい気分が台無しにされた感じがした集積地棲姫は、ギロッと部屋の出入り口を睨み付けた。そして無言で1本の魚雷を手に持ち、野球の投手の様な構えを取り………。

 

 

「ッ!?深海棲艦だ!ウッゼーヨ様のコレクションルームn「沈メオラァァァァ!!」…へ?」

 

 

扉を開けて入って来た黒いスーツを着た人間達に向かって投擲した。投げられた魚雷は綺麗な直線の軌道を描きながらまっすぐ彼等に飛んで行く。黒いスーツを着た人間達も投げられた物が何やらヤバい物だと本能的に察知して慌てて引き返そうとするが、時すでに遅し。魚雷の先端が先頭を走っていた男にコツンと当たった瞬間!

 

 

ドゴォォォォォン!!!

「「「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁあ!!?」」」」」

 

「………フッ、邪魔者ハ滅ンダ。……サテ!回収♪回収♪」

 

 

魚雷は盛大に爆発して人間達を吹き飛ばし、それを見届けた集積地棲姫は再びコレクションの回収に戻った。

 

 

 

 

 

 

(………なんか天竜人の住居が爆発したな。あそこにはまだ深海棲艦達は送ってない筈だから、アレは集積地棲姫か)

 

 

私は遠くの方に建っている爆発した派手な装飾が施された天竜人の住居を呆れ顔で眺めていた。正直言ってこれだけの深海棲艦達は流石に過剰戦力過ぎたと思っている。

最初は集積地棲姫や中間棲姫達と話し合ってそれぞれの役割に必要な人数より10人程多く分配されるよう計算していたのだが、解放された元奴隷達の約4割が天竜人に復讐するために暴れ始め、思ったより簡単に敵を殲滅または退かせる事が出来た。というかちょっと流石に暴れ過ぎじゃないか?どんだけ天竜人は奴隷達に恨み買われていたんだ?

私が暴れ回る元奴隷達を苦笑いを浮かべながら見下ろしていると、奴隷解放をさせている深海棲艦から通信が入った。

 

 

『コチラ第3奴隷解放部隊隊長重巡リ級ッス!ナンカマダ突入シテナイ建物ガ爆発シタンスケド大丈夫ッスカ?』

 

「アァ、多分集積地棲姫の魚雷カ何かだろウ。気にせズ奴隷達の解放ヲ続けてくレ」

 

『了解ッス!ソレデハ……』

 

 

リ級はそう言って通信を切った。どうやら彼女達もちゃんと仕事をしてくれているようで安心した。今回私達は港と海軍や世界政府の船を奪取し、港を海軍から防衛する防衛側と、奴隷解放と解放された奴隷達を港へ誘導する奴隷解放側に別れて行動している。奴隷解放側は私と港湾棲姫、集積地棲姫、空母水鬼の4名。防衛側は残りの姫級と鬼級達がやっている。因みにタイガーは奴隷解放側ではあるが、別行動をとっている。

しばらくすると再び通信が入った。またリ級からだったが、今度はさっきの娘とは別の場所にいるリ級からだった。

 

 

『コチラ第11奴隷解放部隊隊長重巡リ級ッス!サッキカラギャーギャー煩イ天竜人ガイルンスケド、コレドウスルッスカ?』

 

「丁重に海ニでも投げ捨てテしまエ。天竜人ハとても偉い(笑)らしいカラ、笑顔で投げ捨てなサイ」

 

『了解ッス!ホォ〜ラ天竜人サン、チョット来ルッス!』

 

『は、離すんだえ〜!!わ、ワチキに何をする気だえぇ〜!?』

 

『サァ、鳥ニナッテ来ルッス!!』

 

『だええぇぇぇぇぇぇぇ(ぇぇぇぇ………)

 

 

繋ぎっ放しの通信から天竜人のものらしき悲鳴が聞こえ、離れた場所にある建物から人型っぽいものが崖の方へ向かって飛んで行くのが見えた。普通あんなに人間はぶっ飛びはしないのだが、この世界ではやってみたら案外出来るものなのだ。

その後リ級は自分達の仕事に戻ると告げて通信を切った。そしてその通信から約2時間後、ようやく殆どの建物を調べ尽くして奴隷達を解放した所で、港を防衛している中間棲姫から連絡が入った。

 

 

『……コチラ中間棲姫。…海軍ノ艦隊ガ、ヨウヤク来タワ』

 

「私は出来れバ来て欲しクなかったけどネ。人間達ヲ乗せた軍艦ハ、後何隻残っテイル?」

 

『……後、4隻ヨ。ドウスルノ?ヲ級』

 

 

中間棲姫は私にどうするか聞いてくるが、その声は通信越しからでも戦いたくてウズウズしているように聞こえた。

というか防衛側に向かわせた深海棲艦達はホッポを除いてほとんど全員戦闘をしたがっていた子ばかりだからそれも仕方ないか。

 

 

「ハァ……あまり殺すんじゃナイゾ?海軍本部の人間達ハいい人間モ多いカラナ」

 

『……了解シタワ。出来ルダケ人間ハ沈メナイヨウニ注意スルワネ』

 

 

中間棲姫は少し声を弾ませながら通信を切った。

・・・・やっちまったか?私……。



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我、海軍カラ港ヲ防衛ス!

解放された人間達を乗せる軍艦が停泊させてあるマリージョアの港。その沖では現在、中間棲姫を中心とした深海棲艦達と三大将が率いる海兵達が激しい戦闘を行っていた。

海は海軍の大将の1人…大将青雉であるクザンの“ヒエヒエの実”の能力によって凍り付いており、砲手や非戦闘員以外の海兵達は自分の武器を手に凍った海に降り立ってマリージョアを目指している。

深海棲艦側は海が凍ってしまった事で、解放された人間達を乗せた軍艦を動かすのに戦艦クラスが何人か戦闘を離脱しているが、他の人型深海棲艦は氷を砕いて体を自由にして海軍を足止めし、駆逐艦や潜水艦達は海に潜って魚雷で氷ごと海軍の軍艦を吹き飛ばしていた。

 

 

ズドドドドドドォォォォン!!!

「キヒヒヒヒヒヒ♪ココカラ先ヘハ、行カセナイワヨ!!人間共!!」

 

「ッ!!おっとぉ!“アイス(ブロック)”【両棘矛(パルチザン)】!!」

 

 

腕部や腰部に接続された砲塔や機銃が目立つまるでハリネズミのような印象を与えてくる艤装を展開した南方棲戦姫は、狂った様な笑みを浮かべながら海軍大将“青雉”…クザンと戦っていた。南方棲戦姫は笑いながら砲弾の嵐をクザンに向けて放ち続けるが、クザンは人間離れした身体能力を駆使してそれを躱して自身が食べた“ヒエヒエの実”の能力で作り出した氷の両棘矛を6本程南方棲戦姫に放った。だが飛んで来た矛を今度は南方棲戦姫が砲撃で粉々にしてしまうため、彼女にはダメージは入っていない。

また砲撃で粉々にされた自分の矛を見て、クザンは面倒臭そうな顔をする。

 

 

「あらら、また全部落とされちまった。見た目は可愛らしいオープンねーちゃんなのに、ここまでやるかぁ……」

 

「キヒヒヒ♪諦メテ帰レバ、私ハ何モシナイワヨ?多分ダケド〜♪」

 

「いや〜こっちも仕事で来てるんでなぁ。早く嬢ちゃん達捕まえねぇと、アレだよ…ほら!……ん〜………忘れた。もういいや」

 

 

面倒臭そうに頭を掻くクザンだが、南方棲戦姫に対して一切警戒を怠らず、相手の挙動を観察していた。勿論それは南方棲戦姫も気付いており、彼女は今まで相手にして来た海賊や海兵よりも強いクザンを相手に戦っている事を楽しんでいた。

 

 

「キッヒヒ♪サァ、行クワヨ!!」

ズドドドドドドォォォォン!!!

 

「んま、やるしかねーよな!!“アイスBALL(ボール)”!!」

 

 

 

 

 

 

南方棲戦姫とクザンの2人が激しく戦っている一方で、少し離れたこの場所でも1人の深海棲艦と1人の大将が激しい戦闘を行なっていた。氷の足場にはあちこちに大穴が開き、度々爆発も起きている。

 

 

「“八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)”ぁ!!!」

 

「ッ!眩シイゾ!忌々シイ海軍メ!!沈ンデシマエ!!」

ドガァァァン!!ドガァァァン!!

 

 

頭上から飛来する光の弾丸をバリアで防ぎ、敵を睨みつけながら砲撃を行なっている彼女は《泊地棲姫(はくちせいき)》。白い肌に真紅の瞳を持ち、先端部が黒っぽくなっている白髪のロングヘアーをしており、腹部が開いた黒い水着の様な服装に両手には黒い手袋、頭部には姫級の特徴である黒い機械の様な角が生えていた。

艤装は展開されており、腰辺りからスカートの様に黒い装甲がのび、背後には砲身が長い単装砲がある。そして彼女の周囲には6機程の《浮遊要塞(ふゆうようさい)》と呼ばれる口が付いた白い球体状の物体が彼女を守る様に浮かび、口から対空機銃による弾丸を放っていた。

そんな彼女の弾幕を、海軍大将“黄猿”…ボルサリーノは自分が食べた“ピカピカの実”の能力で文字通り光速で躱しながらレーザーを放っていた。だがそのレーザーもバリアで防がれてしまう。

 

 

「おぉ〜なかなか面倒だねぇ〜?ここまでわっしの攻撃を受けて無傷でいられるとぉ、わっしの自信がなくなっちまいそうだよぉ」

 

「チッ!面倒ナ能力ダナ。シカシ、光ノ速度ノ割ニハ予想ヨリ遅イ……コレナラモウ少シ調整スレバ当タル」

 

「これでもそこそこスピードを出してるんだけどねぇ〜?そんな事を言われたのは初めてだよぉ〜」

 

 

泊地棲姫から見ると、ボルサリーノのスピードは確かに速いが『光の速度』とまではいかなかった。本来光の速度は1秒で地球を7周半する為、光の速度で攻撃してくるのなら泊地棲姫の目には見えない筈なのだが、ボルサリーノのレーザーも光の中を移動する技も確かに速いが泊地棲姫の目で追う事が出来た。

 

 

「それにしても悪魔の実の能力者だって聞いていたんだけどぉ……明らかに悪魔の実とは違う力だよねぇ?いったいその力はなんだ〜い?」

 

「人間の貴様ニ言ウ積リハ無イ!撃チ墜トシテヤル!!」

ガコン!…ドガァァァン!!

 

「お〜っとっと!今のは危なかったねぇ〜。“天岩戸(あまのいわと)”」

 

 

泊地棲姫の砲弾はボルサリーノのコートを掠め、ボルサリーノは足から太いレーザーを放った。レーザーは泊地棲姫のバリアに防がれたが、爆発によって泊地棲姫を中心に、凍った海の足場に大穴が開いた。

 

 

「これも防いじゃうのかいぃ〜?自信無くすねぇ〜…」

 

「惜シカッタナ……次ハ、当テルゾ!!」

 

 

 

 

 

 

「おんどりゃあ…!!そこを通さんかい!!」

 

「……通セト言ワレテ通ス敵ガイルカシラ?第1攻撃部隊、全機発艦!」

 

 

また一方で、こちらでは“マグマグの実”の能力で両腕をマグマに変えて怒鳴る海軍大将“赤犬”…サカズキと、体を3本の滑走路で取り囲み、背後に巨大な大口を開けた白い球体状の艤装を展開した中間棲姫の2名が、周囲の軍艦や海兵達を巻き込む程の戦闘を行なっていた。

中間棲姫の滑走路から発艦した口と角がある白い球体状の艦載機がサカズキの頭上に爆弾を投下し、サカズキは自分の両腕のマグマを放って落ちて来る爆弾を防ぎ切った。彼はシャボンディ諸島で深海棲艦を舐めて重傷を負っている為、以前の様に油断する事無く戦闘を続けている。

 

 

「……意外ダワ。マサカ全部防グナンテ。戦艦棲姫ヤ飛行場姫ノ話デハ、貴方ハ大シタ事無イト聞イテイタノダケド」

 

「あの時は油断しとっただけじゃ!!もう前みたいな事にはならん!!“流星火山(りゅうせいかざん)”!!」

 

 

サカズキは空に向けてマグマの塊を何十発も放ち、中間棲姫にマグマの拳の雨を降らせた。中間棲姫は降って来るマグマの雨を見ても臆する事無く滑走路から何十機もの艦載機を発艦させ、自分に当たりそうなものだけを全て撃ち墜とした。

そして中間棲姫がサカズキの方に視線を向けると、既にサカズキは中間棲姫に接近してマグマの拳を振り上げており、そのまま中間棲姫を殴りつけた。

だがそれは中間棲姫のバリアに防がれてしまい、サカズキは舌打ちしてもう1発打ち込もうとしたが、周囲を飛んでいた艦載機がサカズキに向けて機銃を掃射して来た為サカズキはバックステップで距離を取りこれを回避した。

 

 

「チッ!厄介な鳥じゃのう!!おどれ等、いったい何者じゃあ!?」

 

「……私達ハ深海棲艦。ソレ以上デモ、ソレ以下デモナイワ。サァ…何度デモ、沈ンデ行ケ」

 

「フン!沈むのはおどれの方じゃ!!“大噴火(だいふんか)”ァ!!」

 

 

サカズキは巨大なマグマの拳を中間棲姫に放ち、中間棲姫は新たに艦載機を発艦させ、現在発艦中の艦載機に指示をだしてサカズキに銃弾と爆弾の雨を降らせた。

 

 

 

 

 

 

ドガガガガガガァァァァン!!

「「「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!?」」」」」

 

ドゴォォォン!!ドゴォォォン!!

「「「「「ぐわぁぁぁぁぁぁ!!?」」」」」

 

 

大将“赤犬”、“青雉”、“黄猿”の3名が激しい戦闘を行なっている一方で、他の海兵達は港を目指して進行していたのだが、人型深海棲艦達の妨害によって近付く事すら叶っていなかった。

更に普通の人型深海棲艦達だけならまだ良かったが、深海棲艦側には北方棲姫と離島棲鬼、そして北方棲姫の姉的立場にある《北方水姫(ほっぽうすいき)》と、見た目は北方棲姫と同い年ぐらいの容姿をした《潜水新棲姫(せんすいしんせいき)》の4人がいる為、海軍側は強さを知らない為分かっていないが、寧ろ大将達よりも危険な状況に陥っていた。

因みに北方水姫は白い肌と髪に青く光る目をしており、茨模様の丈の高いミトラのような冠を被っている。艤装は胸元には深海棲艦に特有の『歯』の意匠があり、上から白いマントを羽織ってサイハイブーツを履いている。背後からは巨大なマニピュレータが2本伸び、その上に三連装砲塔が付いており、両腕の籠手に似た艤装には鋭い爪が付いている。

そして潜水新棲姫は白いワンピースを着た深海棲艦特有の白いロングヘアーの幼女のような姿をしており、頭頂部から二本の長いアホ毛が飛び出している。クジラを模したような黒い艤装に下半身を収め、両手に二本の魚雷を抱ち、先端に浮き輪を結んだロープを袈裟懸けにしており、彼女の両脇には一体ずつ駆逐イ級の様な見た目をした取り巻き(?)がいる。

 

 

カエレ!!

ドガァァァンッ!!

 

「アナタタチ…ハ、…トオサナイ…!!」

 

 

 

ドゴゴゴォォォォォォン!!!

「「「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」」

 

「なんだこのチビ共!?クソ強ぇ!!」

 

 

北方棲姫は艦載機と艤装による砲撃で海兵達を吹き飛ばし、潜水新棲姫は魚雷を見た目とは似つかない力で投げて同じく海兵達を吹き飛ばしていた。彼女達は普段進んで戦闘を行う性格ではないのだが、今回はヲ級に「この港ヲ皆と守り切ったラ、美味しイお菓子ヲ作ってあげヨウ」と言われている為、全力で港を防衛していた。

そんな2人を北方水姫と離島棲鬼の2名は港で解放された人間達を軍艦に誘導しながら眺めていた。

 

 

「アラアラ、フフフ♪アノ子達ッタラ。張リ切ッテイマスネェ♪」

 

「ヲ級ノ作ルオ菓子ハ絶品デスカラ、分カラナクモアリマセンノ。……ア!コラ!喧嘩シテハイケマセンノ!!」

 

 

北方水姫は頬に手を当てながら楽しそうに笑い、離島棲鬼は何故か喧嘩を始めた手長族と足長族の2人に注意する。既に凍り付いた軍艦は氷を砕いて航行可能となっており、海も離脱航路の部分だけ氷は破壊されていて、満員になった軍艦2隻は深海棲艦の護衛の下港を出港しており、もうすぐ3隻目も満員になる所だ。

 

 

「サァサァ、順番ニ乗ッテ下サイネェ〜………アラ?」

 

「覚悟ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 

北方水姫が笑顔で人間達を誘導していると、刀を持ったボロボロの姿の海兵が1人飛んで来て、彼女に斬り掛かった。どうやら奇跡的に深海棲艦の防衛ラインを抜けてきた様だ。

だが北方水姫はチラッと視線を向けるとすぐに艤装を操作して2本のマニピュレータに搭載されている三連装砲塔を彼に向け、砲撃した。

 

ドドドドドドォォォォォォン!!!

「ぐぎゃぱぁぁぁぁぁ!!?」

 

「全ク、オ痛ハイケマセンヨォ?サテ、喧嘩ヲシテイル方々ガイル様デスガ……何方デショウ?」

 

「「すいませんでしたぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

(((((こ、こえ〜〜………)))))

 

 

北方水姫が何故か恐ろしく感じる笑顔を見て、喧嘩をしていた2名は見事な土下座を披露し、人間達は彼女の笑顔を見て絶対に彼女に逆らってはならないと思った。

港の防衛については、問題なさそうである。



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我、マリージョア ヲ脱出ス!

ヲ級side…

 

 

(ドォォォォン!ドゴォォォォン…!)

 

「………おいヲ級、ちゃんと港の仲間達には海軍の足止めを命じたんだろうな?」

 

 

遠くから港を防衛している深海棲艦達の砲撃音が鳴り響いているマリージョアのとある道路の真ん中で、隣に立つ奴隷達を解放し終えて合流したタイガーが私と同じ方向を見ながら険しい顔で聞いて来た。

私はそんな彼に今見ている方向から目を逸らさずに、どうしても引き攣ってしまう顔で勿論だと答えた。

 

 

「今鳴り響いテいる砲撃音ガ証拠ダ。海軍大将だろうガ億越え賞金首だろウト突破する事ハ困難……の筈なんだガナァ………」

 

「………そうか。なら、もう1つ聞いていいか?」

 

「………何ヲ聞きたいカは察しガ付くガ……なんダ?」

 

 

私が質問の内容を尋ねると、タイガーはゆったりと片手を上げて私達が見ている方向をまっすぐ指差した。彼が指を差す方には、犬の被り物を被って背中にデカデカと『正義』の2文字が書かれているコートを羽織り、何故か海苔煎餅の入った袋を片手にバリバリと煎餅を食べながら豪快に笑う大柄な1人の老人が道のど真ん中で仁王立ちしていた。

 

 

じゃあ、何故俺達の目の前(・・・)で、海軍中将“拳骨”のガープが爆笑しながら煎餅食ってんのか説明しろ……!!

 

「そんな事私ガ聞きたイ………」

 

ぶわはははははは!!お前さん、“深海軍師”じゃな!?実際に会うのは初めてじゃわい!!」

 

 

ガープはバリバリと煎餅を噛み砕きながら何がそんなに面白いのか笑い続けている。いやホントになんでここにお前がいるんだよ。港は今中間棲姫達が防衛している筈だろうが?

 

 

「いやぁ〜ここに来るのは大変じゃったわい!港はお前さん等に完全に封鎖されておったから、仕方なく“月歩(げっぽう)”で空からマリージョアに上陸したからのう!かなり上空を行っておったのに何故か気付かれて撃ち落とされそうになったから焦ったわい!!なかなかのスリルじゃったぞ!ぶわはははははははは!!!

 

「聞きたい事ヲ先に答えテくれて感謝するヨ……」

 

「とんでもない爺さんだな……」

 

 

いやホントに私もそう思う。港には対空戦闘に長けている防空棲姫や、艦載機を飛ばせる深海棲艦達が沢山いた筈なのだ。なのにこのお爺さんは特に大した怪我も負わずに私達の前までやって来た。多少汚れていたり服やコートの端が破れていたりはしているが、その程度だ。このお爺さん本当に人間なんだろうな?実はスーパーなサイ○爺さんだったりしないか?

 

 

「しかし、お前さん等はいったい何者なんじゃ?海の上を滑る様に進むわ、天竜人を殺害するわ、海軍支部を襲撃するわ、挙げ句の果てにはマリージョアをそこの魚人と協力して襲撃して奴隷達を解放するわ……それに全く同じ顔をした奴等も大勢いるし………ん?もしかして、お前さん等全員姉妹か!?」

 

「当たらずトも遠からずダ。しかし騒がしイ人間だナ……さっきかラ笑ったり、真剣な表情になッタり、不思議そうナ顔したリ、驚愕したリ」

 

「油断するなヲ級……あの人間は今までの人間達とは違うぞ」

 

「分かってイル。今も豪快ニ笑っているガ、隙が全く見当たらナイ。それに海軍支部ヲ幾つも落トしているト、自然ト海軍の情報ガ手に入ッテ来るかラ、あの人間の事モ知っていル」

 

 

知っているからこそ、油断は出来ない。この老兵は過去に何度もこの大海賊時代の幕を開けた“海賊王”《ゴール・D・ロジャー》と闘ったり、山をサンドバッグ代わりに粉砕したり、5億の賞金首である“錐”の《チンジャオ》と呼ばれていた男と闘って勝利しているなどの経歴を持っている。油断する方が無理があるのだ。

彼の事は意思を持つ深海棲艦達全員に知れ渡っており、現在私とタイガーを守る様に艤装を展開した陣形を組んでいるリ級やル級達は真剣な表情でガープを観察していた。

彼女達の全ての砲口がガープに向けられても、ガープは臆するどころか私達の艤装を興味深げに観察している。

 

 

「ほぉ!!それがお前さん等の能力……いや、武器か?なんか格好良いのう!!」

 

「コ、コノ人間……砲口向ケラレテイルノニ、ナンデビビラナインッスカ!?艤装ヲ知ラナクモ、コレガ武器ダト察シハシテルンッスヨネ!?」

 

「当タリ前デショウ。相手ハ“海軍の英雄”ト呼バレル老兵ヨ?砲口向ケラレタグライデ臆スル事ハ無イワ」

 

 

まぁ確かに“海賊王”と闘って来た男が、見た目普通の大きさをしたバズーカ砲を徹底的に改造した様なものくらいでビビる訳ないよな。それどころかル級の構えている盾に砲が付いた見た目の艤装を見て心なしか目を輝かせている様な気がする。

 

 

「どうするヲ級?あの人間はかなり面倒だぞ…」

 

「………マリージョアの奴隷達は皆解放シテ、もうこの場所ニ用は無イ。無駄に燃料や弾薬ヲ消費してまで戦う必要は無いだロウ。どうにかシテ、港に向かってこの場所ヲ去ろウ」

 

「それもそうだが……どうやって振り切るつもりだ?あの人間がそう簡単に俺達を見逃すとは到底思えないぞ」

 

(そこが問題なんだよなぁ。いっそ残ってる艦載機の爆弾でこの辺り一帯を吹き飛ばして、その内に逃げるか?)

 

 

私がそんな事を考えていると、先程まで豪快に笑いながら煎餅を食べていたガープは笑うのを止め、真剣な表情を浮かべながらまっすぐ私を見た。

 

 

「さてと、お喋りはこのくらいにしておくかのう。儂はお前さん達を捕まえる為にここに来たんじゃが、実は個人的にお前さん達に聞きたい事がある」

 

「……聞きたい事?何ガ聞きたイ」

 

「お前さん達が儂等海軍の支部を襲撃した理由じゃ。海兵達や軍艦を沈めたのは身を守る為だと理解は出来るが、攻撃に参加しておらん海軍支部が襲撃されたのかが分からん」

 

 

ガープはそう言うとバリッ!と音を鳴らしながら煎餅を噛み砕いた。しかし襲撃した理由か……まぁ、言っても構わないな。別に隠す必要も無いし、言った所でこっちが困る事もないしな。

 

 

「マァ、簡単に言えバお前達海軍と世界政府に対する嫌がラせだナ」

 

「嫌がらせじゃと?」

 

 

顔をしかめながら聞き返して来るガープに私は小さく頷いて、話を続けた。

 

 

「お前達海軍や世界政府ハ、あの屑(天竜人)共ガ何ヲしてモ…例え人間ヲ殺してモ黙認するだろウ?それが非常に気に食わナイから襲撃しタ」

 

「天竜人か……確かに儂等は立場上、天竜人は護衛対象じゃ。天竜人が儂等の目の前で子供を殺そうが何をしようが、儂等は手を出す事は出来ん。実際、世間では天竜人はあまりいい印象はないしのう。じゃが無差別に海軍支部を襲撃する事もないじゃろう?中にはその支部のお陰で海賊の襲撃が無くなった場所もあるんじゃぞ」

 

 

ガープは拳を握り締め、少しだけ殺気を放ちながらそう言った。仲間が無差別に襲撃された事に怒りは抱いていたんだろうな。

 

 

「私達モ手当たり次第に支部ヲ襲撃している訳ではなイ。私達ガ襲撃した支部は全テ、裏で海賊ヤ犯罪組織などト繋がっテいるものばかりダゾ?」

 

「な、なんじゃと!?それは本当か!?」

 

 

私が発した言葉に反応して、ガープは驚きの表情をした。だが実際私達が襲撃した海軍支部は全て裏で海賊と繋がっていたり、島の住民達から法外な税金を巻き上げていたりと、好き勝手にやっていた連中がいた場所だ。海軍本部へ定期的に提出されていた報告書は全て偽造されたものらしいので、彼が知らないのも無理はないだろう。

私達の場合は集積地棲姫が調べてくれたから分かったんだが……実を言うと彼女がどうやって調べたのか私は勿論、深海棲艦全員が知らない。明らかに普通なら絶対に知られる事の無い情報をいつの間にか入手しているんだけど、どうやって入手したのかは全く教えてくれないんだよね。

 

 

「本当ダ。私達の仲間ニ情報収集能力に長けてイル者がいてナ。実際襲撃後その支部を調べてみるト、海賊とノ裏取引、違法ドラックの売買、法外な税金ノ巻き上げなどなド……マァ、信じるかどうカは自由だガ」

 

「成る程のう……そうじゃったのか」

 

私が言うのモなんだガ信じルの早くないカ!?

 

 

ビックリする程簡単に信じたな!?いや嘘じゃないから別に構わないんだけど、仮にも敵である私の言葉を簡単に信じるのは流石にどうなの!?ほら!リ級やル級、更にはタイガーまで目を見開いて驚いてるよ!!

 

 

「儂だって長い間海兵として色んな奴等を見てきたからのう。お前さんが嘘を言っとるかどうかぐらい分かるわい」

 

「いやそれデも少しハ疑うとカするべきだト思うぞ!?」

 

「なんじゃ、嘘なのか?」

 

「エ?…いヤ、本当だけド……」

 

「なら大丈夫じゃろう!ぶわはははははは!!

 

 

ガープはそう言うと再び豪快に笑い出した。今まで色んな海兵達と戦って来たが、こんなにも自由過ぎる海兵は見た事ないかも知れない。

私が呆れ顔でガープを見ていると、クイクイと誰かに私のマントを引っ張られた。私がそっちを向くと、今までずっと一言も喋っていなかったレ級がまるで新しい玩具を見付けた時の子供の様な表情を浮かべながら私を笑顔で見上げていた。

 

 

「ヲ級オ姉チャン!アノ人間、沈メテモイイ!?」

 

「ダメ。あの人間ハ一応不正などは行っテいない海兵ダ。沈めチャいけなイ」

 

 

多分さっきガープが放った殺気に反応したな?この子はホッポよりもずっと好戦的だから仕方ないとは思うが、今回は相手もかなりの実力者なので、下手をすればレ級が怪我をしてしまうかもしれない。だから今回は諦めてもらおう。

 

 

「戦いたいナラ鎮守府に戻れバ私が好きなダケ付き合ッテあげル。だから今回ハ諦めテクレ」

 

「エェ〜……デモ…」

 

「帰ったラお前の大好きナ ハンバーグを作ってあげルゾ?」

 

「レ!?ホント!?」

 

 

一瞬物凄く不満そうにほっぺを膨らませたレ級だったが、大好きなハンバーグを作ってあげると言ったら目をキラキラさせた。私が「本当ダ」と言いながら頷くと彼女は両手を上げて万歳しながら喜んだ。

 

 

「レレ〜〜♪ハンバーグ!ハンバーグ!」

 

「お前は本当にハンバーグが大好キだナ。サテ、そう言う事だカラ私達はこれデ失礼すルゾ」

 

「えぇぇ〜……儂は別に戦っても構わんのじゃが…」

 

「何故お前がそんナに残念そうニシてるんだヨ……」

 

 

その後、私達は色々あったがなんとかマリージョアを脱出する事に成功した。ん?ガープはどうしたって?ガープは私が艦載機を全て飛ばして足止めして振り切った。

………殆ど破壊されちゃったけどね。帰ったら妖精さん達に新しく艦載機を作ってもらわないとなぁ…。



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我、世界経済新聞社ニ取材ヲ求メラレル!

ヲ級side…

 

 

「………平和だネェ〜」

 

「ヘイワ〜♪」

 

「レレ〜♪」

 

 

私は今、ファールジン島に新しく造られた灯台のある突堤で、レ級とホッポと一緒に海に釣り糸を垂らしていた。ぶっちゃけ魚を捕まえるなら自分達で直接海に潜って捕まえる方が私達にとって遥かに捕まえ易いのだが、偶にはこうしてゆったりと釣りを楽しむのもなかなかいいものだ。

あのマリージョア襲撃から早くも2年の年月が経過した。あの事件は瞬く間に全世界へと知り渡り、海軍や世界政府は事件の主犯であるタイガーに2億3000万ベリーの懸賞金がかけられ、私達深海棲艦には普通の駆逐艦から姫級や鬼級までそれぞれ3億ずつ金額が上乗せされた。

特に他の深海棲艦達に指示を出している私は、どうやら世界政府や海軍共にボスだと認識された様で、今では他のヲ級達と同じ“深海軍師”という通り名から“深海総督”になり、懸賞金に至っては私だけ8億4500万ベリーにまで一気に上がってしまった。何故に?私よりもっと凶悪そうな深海棲艦が今も約2名私の隣で釣りしてんだけど?

 

 

「(まぁ、いいか)…さぁテ、今日は何ガ釣れるかナ?」

 

「私ハ滅茶苦茶大ッキイ魚釣ル!100mクライノヤツ!」

 

「クジラ!サメ!シーラカンス!」

 

「ウン、レ級は可能性ハあるけどコノ釣竿だとちょっと難しいカナ。後ホッポ?なんでその3匹ヲ選んだノ?」

 

 

クジラやサメはまだいいけど、シーラカンスってこの世界の海にいるのか?というかシーラカンスって食べられるっけ?

 

 

「ここに居たんですね。捜しましたよ」

 

 

私がシーラカンスは食べられるのか否かというとてもくだらない事を考えながら波に揺られる浮きを眺めていると、背後から声が掛かった。声のした方に顔を向けると、そこには若草色というのだろうか?そんな色の髪をした少し癖のあるロングヘアーの女性と、彼女より少し青っぽい色をしたミディアムボブの見た目12、3歳くらいの女の子が立っていた。

彼女達は2年前にマリージョアで解放された元奴隷の姉妹だ。この2年で殆どの元奴隷達を住んでいた島に返したのだが、彼女達の様に帰る場所をなんらかの理由で失っている者達は、タイガーとの話し合いの結果、私達が引き取る事になったんだ。ただ少し数が多かったので、占領した元海軍支部の近隣の島々に事情を話して、私達が海賊などから島を守る代わりに彼等を受け入れてもらった。この島にはだいたい3000人ちょっとかな?それぐらいの人が新しく暮らすようになった。今では島で暮らしていた元奴隷の住民達と仲良く生活している。

因みに今目の前にいる若草色の髪の女性は《モネ》。女の子の方は《シュガー》という。2人とも悪魔の実の能力者だ。モネは体を雪に変え、周囲に雪を降り積もらせ操る“ユキユキの実”の自然(ロギア)系能力者。そしてシュガーは触れた物を人だろうが動物だろうがなんでもオモチャに変えてしまう“ホビホビの実”の超人(パラミシア)系能力者だ。こう見えて実年齢はもっと上らしいのだが、女性に年齢を聞くのは流石に失礼なので知らない。

彼女達はこの島に来て1週間くらい経った頃に私の所に来て仲間にしてくれと頼み込んで来た。なんでも自分達を奴隷から解放してくれた私達に恩義を感じたんだとか。こちらとしては拒む理由もなかったので、彼女達には港湾棲姫の下でこの島の管理の仕事を手伝ってもらっている。

 

 

「モネとシュガーじゃないカ。どうかしたのカ?」

 

「ア、シュガー。イッショニ、サカナ ツル?」

 

「私はやらないわよ。それよりもヲ級。貴女にお客さんよ」

 

「私に客?この島ニ辿り着ける者となるト……タイガー達カ?」

 

 

タイガーは奴隷達を解放したその年に、知り合いや元奴隷だった魚人達を集めて《タイヨウの海賊団》を結成したらしい。本人曰く、『行き場のない脱走した魚人奴隷達の受け皿としてこの海賊団を結成した』とのこと。一応彼とは一緒にマリージョアを襲撃した仲なので、全深海棲艦に彼等が私に会いたいと言って来たらこの島に誘導せよと命じている。だから私に客が来るとなると彼等以外にいないのだが、モネは首を横に振った。

・・・・・え?違うの?

 

 

「タイガー達じゃないのカ?」

 

「えぇ…巡航中のリ級達の艦隊が、“新聞屋”を名乗る鳥が乗った船を発見したんですが……その鳥が貴女に取材をさせてくれと言ってリ級に抱き付いているそうで…」

 

ハ!?鳥!?

 

 

“新聞屋”を名乗る鳥が船に乗ってリ級に抱き付いて私に取材をさせてくれと言っている?………ごめんなんか私の頭の中で物凄く意味不明な光景が浮かび上がってるんだけど、ホントにどういう事だ?

 

 

「……取り敢えズちょっとリ級に連絡しテみるカ。今日の巡航担当ハ124番だったな」

 

 

私は釣竿が海に落ちないよう固定して、リ級に連絡を取ってみた。

 

 

「こちら空母ヲ級改flagship。私ヲ取材したいト言ってイル鳥がいるトいうのは事実カ?」

 

『ソウナンッスヨ。コレドウスルッスカ?今ココデ沈メル事モ出来ルッスケド……』

 

「“新聞屋”ト名乗っているそうだガ……その鳥ノ名前ハ?」

 

『ア、イキナリ喋リ出シタンデ聞イテナカッタッス。……チョットアンタ!名前ハナンテ言ッス?………オーケー!分カッタッス。鳥ノ名前ハ、《モルガンズ》ッテ言ウラシイッス!』

 

 

モルガンズ……確か《世界経済新聞社》の社長がそんな名前だったな。なんでも新聞のネタの為なら自分の命を懸ける男だとかなんとか……そんな男なら確かに取材に来たと聞いても納得出来るな。この島は世間的には存在しない島ではあるが、その存在を隠している世界政府と繋がりがある世界経済新聞社の社長なら、この島に来る事も可能だしな。

 

 

「………マァ、別に新聞ニ載せられテモ今更だしナ。彼ヲ私の所に連れテ来てくレ。場所は《フライハイト》の個室デ」

 

『了解ッス!!』

 

 

リ級はそう言うと通信を切った。フライハイトとはこの島で元料理人だった者が作ったレストランだ。他にも色々個人で店をやっている者も最近増えてきているが、話し合いならフライハイトには個室があるからこっちの方が向いている。

 

 

「ジャ、私ハこれからフライハイトに行って来ル。ホッポとレ級は釣りヲ楽しむとイイ」

 

「「ハ〜〜イ!!」」

 

「ア、後シュガー。ちょっと来てくレ」

 

「?何よ……?」

 

 

シュガーは訝しげな表情で私を見ながらも、私の近くに歩いて来た。私は固定していた釣竿を持ち、彼女に手渡した。

 

 

「後宜しク」

 

 

私は釣竿を手渡されてポカンとしているシュガーを置いて、フライハイトに向かって走った。背後からシュガーの困惑した声が聞こえて来る。

 

 

「……はぁ!?ちょっと何勝手に決めてんのよ!!」

 

「レ!!シュガー!引イテル!引イテル!」

 

「え?えぇ!?ちょ、ちょっとこれどうすればいいの!?」

 

「わ、私に聞かれても!私も釣りなんてやった事ないし…!」

 

「シュガー。ガンバッテ!」

 

 

仲が良さそうで何よりだ。

 

 

 

 

 

 

「おぉ〜!!噂通りの白い肌!蒼い炎の様な片目!黒い生き物の様な大きな帽子!!君が“深海総督”のヲ級だね!?会えて光栄だ!私は世界経済新聞社のモルガンズという者だ」

 

「ア、アァ……私は空母ヲ級改flagshipダ。ヨロシク」

 

 

フライハイトの店の奥にある個室にて、私は港湾棲姫と一緒に、シルクハットを被った鳥の着ぐるみの様な見た目の人物…世界経済新聞社の社長、モルガンズと握手を交わした。

しかし驚いたな……本当に鳥の様だ。

 

 

「私ハ、港湾棲姫トイイマス。初メマシテ」

 

「なんと!君があの“鬼子母神”か!?手配書では写真入手失敗で顔は載っていなかったが……まさか、こんなにも美しいとは!これは、ビッグ・ニュース!!」

 

 

そう言いながらカメラ(見た目はデカいカタツムリ)を取り出して港湾棲姫を撮影する。港湾棲姫は写真を撮られるのは慣れていないのか、モルガンズの勢いにオロオロしている。

……“鬼子母神”か、なんか納得出来る。

 

 

「……お前、取材しに来たんジャないのカ?写真ヲ撮るだけなら私ハ釣りヲしに戻るゾ」

 

「ハッ!そうだった!」

 

 

モルガンズは椅子に座りなおすと、鞄からメモ帳とペンを両手…いや両翼?で器用に取り出すと、私達の方を向いた。

 

 

「では改めて…この度は取材に応じてもらい、感謝する」

 

「気にすル事は無イ。それデ?何ヲ聞きたいんダ?言えるものだけデいいナラ、答えよウ」

 

「それだけでも十分だ!君達は今や世界中の人々が注目しているが、今まで誰も海軍を相手に圧勝する君達を取材しようという強者は私の所にはいなかったからね」

 

 

そんなに注目されているのか……そういえばマリージョアを襲撃して2〜3週間程した頃から別の島へ食料の買い出しに出掛けた時によく視線を感じるが、それが原因か?

 

 

「さて、先ずは1つ目の質問だ。ズバリ!君達は何者なんだ?私は今まであらゆる種族達を見て来たが、君達の様に海の上を立ったり、同じ顔をした者達が沢山いる種族は見た事がない」

 

「私達は深海棲艦。簡単ニ言えば沈んだ船ノ魂が人の姿ニなったものダ。元が船だかラ海の上に立てるシ、同じ艦種ならそっくリな見た目の者が生まれル。どうやって生まれルカ、元はなんの船だったかハ悪いが答えられなイ」

 

「ッ!?つまり君達は船が人間になった種族なのか!?今まで海軍や世界政府は何かの悪魔の実の能力者ではないかと推測していたが……これはビッグ・ニュース!!」

 

 

モルガンズは物凄い勢いでメモ帳にペンを走らせる。流石は新聞記者、ペンを走らせるスピードが速い。残像で手が3本くらいに見えないかアレ?

 

 

「これは凄いぞ!この取材は、今までにない素晴らしい新聞が書ける気がする!!次の質問に移るぞ!!」

 

 

それから約1時間。数え切れない程の質問をするモルガンズに、私と港湾棲姫は交代しながら答えて行った。中には話せないものもあって答えられないと言ったが、彼は気にした様子もなく次の質問に移って行った。取材を終えると彼は島に出来た町を撮影しに行き、しばらくすると乗って来た船に乗って帰って行った。

そして翌日、ニュース・クーが運んで来た新聞には早くも私達の事が載っていた。あの人仕事早いな!?



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我、予想外ノ建造ニ成功ス!

ヲ級side…

 

 

「ウ〜〜〜〜ン…………すっごく暇ダ

 

 

深海鎮守府へ帰還した私は、執務室の椅子に座ってぼんやりと外を眺めながらそう呟いた。外は相変わらず快晴であり、窓からはル級を旗艦とした艦隊が海へ巡航に向かっているのが見える。うん、実に平和だ。

しかし平和過ぎて退屈でもある。今日の仕事は全部終わってしまったし、最近の海賊共は私達が活動している海域にあまり近寄らなくなったし、海軍や世界政府の連中は私達が占領した島や支部を取り返そうとしなくなってしまったから、ぶっちゃけ超暇。

 

 

「いっそ海軍本部ニ殴り込みに行こうカナ?」

 

「レ?ソレ楽シソウ♪私モヤル!」

 

「ヤルヤル〜♪」

 

いや冗談だからナ!?

 

 

暇過ぎてつい零した冗談を執務室で本物の艦載機を使った飛行機ごっこをして遊んでいたレ級とホッポが本気にしてしまったので慌てて冗談だと付け加える。結構いい笑顔で参戦しようとしたなこの子達……こら、不満そうな顔をするんじゃありません。

 

 

「チェ〜。ナンダ、冗談カ」

 

「スッゴク、タノシソウダッタノニ……」

 

「気持ちは分からなくもないガ、そんなに不満そうニしないでくれないカ?……後、屋内で飛行機ごっこヲするのは構わないガ、責めてその手に持つ艦載機に搭載されている爆弾ハ取り外して遊んでクレ」

 

「「ハァ〜〜イ」」

 

 

レ級とホッポは慣れた手つきで遊んでいた艦載機から爆弾を取り外すと飛行機ごっこを再開した。もっと言えば本物の艦載機で飛行機ごっこをする事そのものをやめて欲しいのだが……今度妖精さん達にホッポ達専用の艦載機の玩具を作ってもらう様に頼むとしよう。

機体はやっぱり烈風がいいかなと艦載機で遊んでいる2人を眺めながら考えていると、執務室の扉のすぐ側に取り付けられている妖精さん専用の扉が開き、リーダー妖精が入って来た。だがちょっと慌てた様子だ。いったいどうしたんだ?

 

 

『ヲ級さん!ヲ級さん!そろそろ姫級か鬼級の建造出来るのです!』

 

 

ん?やっとか。今回は建造時間がいつもより掛かったな。元々姫級や鬼級の建造は資材を大量に消費するし、建造に1日から2日程の時間が必要になる上、何故か高確率で建造に失敗する事がある。失敗すると『失敗』と書かれたプレートを持ったしょんぼりとした表情の妖精さんのぬいぐるみが服装はランダムでドックから出て来る。因みにこのぬいぐるみはホッポを始め一部の深海棲艦達に大人気だったりする。

だが、いつもは今回の様に慌てた……いや、どちらかと言えば興奮しまくっている様子で報告しに来る事はない。

 

 

「どうしたんダ?少し慌てていル様だガ……?」

 

『実は急にドックが変になったのです!今までに無い現象なのです!きっと“かくてーえんしゅつ”ってヤツなのです!』

 

 

確定演出?【艦これ】の建造にそんなものはない筈だ。でも建造しているのは艦娘ではなく深海棲艦だし、今回の建造時間はなんと3日と14時間!確定演出だという可能性は十分にある!そう考えると私もなんだかワクワクして来た。

 

 

「分かっタ!直ぐに工廠へ向かおウ。ホッポとレ級も来るカ?」

 

「ウン!イク〜!」

 

「私モ行クヨ!」

 

「決まりだナ。じゃア、行こうカ」

 

 

そうして私はリーダー妖精を肩に乗せ、レ級とホッポと一緒に工廠の建造ドックへと向かった。

 

 

 

 

 

 

工廠に着いた私達は、リーダー妖精の案内で確定演出とやらが起こっているドックへ向かった。そこでは沢山の工廠娘達が騒いでおり、彼女達の視線の先にはなんかバチバチと激しく放電し、ヤバそうな音を立てながら光を発している6つの建造ドックが……え゛?

 

 

『ほら!今までに無い現象なのです!これは確定演出に間違い無いのです!』

 

いやイヤいやいヤ待って待ッテちょっと待ッテ!!あれ絶対確定演出的なヤツじゃないヨネ!?絶対致命的な故障か何かダよねアレ!?

 

 

だって普通の機械から鳴ってはいけない様な音トップ10に入りそうな音滅茶苦茶鳴ってるし!工廠娘達が何人か放電で感電して担架でどっかに運ばれてるし!しかもなんか光ってるもん!なんかめっちゃ光ってるもん!!

 

 

『大丈夫なのです!カウントダウンクロックも凄い事になっていますが、ちゃんと建造はされている様なので問題無いです!』

 

「ア!ホントダ!ナンカ凄イ事ニナッテル!」

 

「ホントダ!スゴイ……!」

 

「いや凄い事ッテ何……って本当ダ!本当になんか凄い事ニなってル!」

 

 

リーダー妖精達の言う通り、建造に掛かる時間を知らせるカウントダウンクロックが狂ってなんかもう凄い事になってた!しかも気のせいじゃなかったらドックから段々煙的なものが発生している気がするんだけど絶対気のせいじゃないよねコレ!?

 

 

「ちょっとリーダー妖精!!これ絶対大丈夫ジャないよネ!?建造終了した瞬間ドカァーンってなヤツだよネ!?」

 

『もう!ヲ級さん落ち着いてください!安心するのです!建造はされているので多分大丈夫なのです!』

 

「今『多分』って言ッタ!!やっぱり駄目なヤツなんダ!今すグ異常発生中のドックから工廠娘達ヲ退がらせテ!レ級とホッポは念ノ為に艤装ヲ展開!爆発とかしたラ工廠娘達ヲ守ってくレ!」

 

「「リョウカ〜〜イ♪」」

 

 

どこか面白そうにドックを見ていたホッポ達は瞬時に艤装を展開し、いつでも動ける様に構えた。ドックの前で騒ぎまくっていた工廠娘達は最初は『えぇぇ〜〜?』とすっごく不満そうに言ってこちらを見たが、やがて渋々全員ドックから退がり、ヘルメットを着用して物陰に身を隠しながらドックの様子を見始めた。まぁ、それぐらいならいいかな?

 

 

(さてと、後はこのドックだが………ぶっちゃけどうすりゃいいの?停止ボタンなんて建造ドックには存在しないし、今まで何百回も建造を行なって来たがこんな風になったのは初めてだからなぁ…)

 

 

いっそ一斉射撃でドックを破壊して建造を無理矢理止めるかと考え込んでいると、急にドックが放電を止め、音も光も発さなくなった。狂っていたカウントダウンクロックは『00:00:00』で停止している。

え?急に止まられても困るんだけど………何?私にどうしろっての?

 

 

『建造が終了したのです』

 

『今回は失敗ではなさそうなのです』

 

『でも、これってちゃんと新しい艦が建造されるのですか?』

 

『そう言えば知らないのです。なんだか静か過ぎて不気味なのです』

 

『……嵐の前の静けさ』

 

 

急にうんともすんとも言わなくなったドックに、先程まで騒ぎまくっていた工廠娘達も緊張した雰囲気を醸し出した。誰かは知らないけど最後に言った妖精さんの言葉の通り、今建造ドックが置かれている部屋は異様な程静かだ。レ級とホッポはどうすればいいか分からず、私に視線を送って来た。

 

 

「ヲ級オ姉チャン、ドウスル?」

 

「エ?いやどうするッテ言われてもナァ……」

 

 

ぶっちゃけ私が聞きたい。取り敢えず建造ドックの状態を調べたいんだけど、いつ爆発とか起こすか分からないしなぁ。バリア張っておけば大丈夫かな?工廠娘達の話が本当なら、誰かは分からないけど建造は終わってるらしいから中が気になるんだよね。

 

 

「アケテミル?」

 

「………そうだナ。レ級とホッポはここデ待機。シャッターが開き切ったラ私が中ヲ確認してくル。もし爆発とカしたら工廠娘達ヲ守ってくレ」

 

「了解」

 

「ワカッタ」

 

 

私はステッキを構えていつでも艦載機を発艦出来るようにしてバリアは展開した。これで開いている途中に爆発しても防げるだろう。そしてドックの前まで来ると、私は工廠娘にドックを開けるよう指示を出す。1つずつ順番にだ。

 

 

『では、行きますよ?先ずは1番建造ドック……シャッターを開きます!』

 

 

工廠娘がスイッチを押し、ガコン!と音を立ててシャッターがゆっくりと開き始めた。姫級と鬼級の建造ドックは普通の建造ドックと違って扉は両開きになっている。ゆっくりと左右に開いて行くシャッターを睨みながら、私はゴクリと固唾を飲む。やはり先程の現象で建造ドック自体にダメージが入っているのか、シャッターが開いて行くと共にギギギと油が切れたような音が鳴り響き、時折バチバチッと小さく火花が散っている。シャッターが開いて出来た隙間からは煙が漏れ、それが邪魔をして中を確認出来ない。

 

 

(煙が邪魔だけど、誰かいるのは確かだな。………というか、今思ったけど中にいる奴無事かな?結構放電とかしまくってたし)

 

 

電探に建造ドックのある位置に艦の反応があるので誰かいるのは分かったが、中にいる誰かが無事かちょっと心配になって来た。深海棲艦だから多分大丈夫だとは思うが、建造中の状況がアレだったので心配だ。やがてシャッターは開き切り、私はジリジリと建造ドックに近付いて行く。するとドックの中から人が倒れ込んで来たので、私は慌てて地面に倒れる前にそれをキャッチした。

 

 

(ぎ、ギリギリセーフ!間に合って良かったぁ……)

 

 

私は無事にキャッチ出来た事に安堵する。倒れたまま動かないって事は気を失っているのだろうか?ホッポや飛行場姫達が建造された時は気を失ってはいなかったが、まぁ今回は気を失っていても不思議ではないな。

 

 

(さて、いったい誰が建造され…て………え?)

 

 

私は抱えている人物を改めて見て驚愕した。抱えている人物が誰なのかすぐに理解出来たのだが、完全に予想外の艦だったのだ。

膝くらいまである長い焦げ茶色の髪をポニーテールにまとめ、健康的な普通の人間の様な肌色。

服装は何故かボロボロではあるが、上が体のラインにフィットした前留め式の紅白のセーラー服で、首元にはスカーフではなく金色の注連縄状のものが巻かれている。 袖は肩が露出しており脇下で胴と繋がっており、袖口は手のひらを半分覆い隠すほど長く、左の二の腕にはZ旗状の腕章が着けられている。

下は。両腰の部分が露出している赤いミニスカートで、黒紐パンの紐のようなものに錨が掛けられている。足には左右非対称の紺の靴下を履いており、右は普通の、左は白ラインの入ったニーソックスになっており、外側面に日本語(・・・)で『非理法権天』の文字が書かれていた。

 

 

(な、なんでお前が建造されるんだ!?これは深海棲艦用(・・・・・)の建造ドックだぞ!!?)

 

 

私は自分の腕の中で気を失ったまま動かない彼女が何故この世界(・・・・)にいるのか分からなかった。私は彼女を知っている。彼女はかつて日本海軍が建造した世界最大の戦艦が擬人化された少女………。

 

 

(大和(やまと)……!!!)

 

 

大和型戦艦、一番艦、“大和”だ。



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