人間やろうと思えばどんな環境でも生きていける (憲彦)
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第1話

大切な仲間が1人居なくなってしまった寂しさと悲しさ。そして沢山の謎。それを考えて考えて考え抜いたら、何故か出来てしまった副産物です

ツッコミは感想でしろぉぉぉぉ!!

タグは後で追加します。なので教えてください。


「鍬と肥料とジョーロと野菜の種と除草剤……あ、種イモ買おう。園芸用の土も持っていくかな」

 

手当たり次第に園芸道具を買い込んでいくこの男。彼は別に農家の人とか園芸が趣味とかそう言う訳ではない。単純に臨時収入が入ったから何か新しい事をやろうとした結果、畑でも作っていこうと言う答えが出たのだ。因みに完全に勢いで行っているため、完全にノープランである。

 

「お会計、13206円になります」

 

「はい」

 

「ちょうどお預かりします。会員カードはお持ちでしょうか?」

 

「いいえ」

 

「でしたら今入会して頂くと、月々1000円で―」

 

「結構です」

 

「そうですか。ありがとうございました~」

 

内容は不明だが、月々1000円と言う言葉を聞いた瞬間に入会を許否し、レシートを貰って店を出ていった。内容を聞いていれば考えたかも知れないが、月々1000円。つまり1年で12000円。この男の月収は18万とそこそこ。どの道入ると言う結果にはならなかっただろう。

 

「……包丁と砥石買おう」

 

何を思ったのかは分からないが、突然包丁を買うと言う考えが出てきて、近くのホームセンターに直行。目的以外の商品には目もくれず、目的のコーナーに歩いていく。そして懐に余裕があるためか、少し値段が高めの包丁に手を出す。

 

「ダイヤモンド砥石……よしこれにしよう」

 

包丁は出刃と牛刀、薄刃、柳刃の4本。砥石は両面のダイヤモンド砥石を購入。一体この男がどこへ向かって何をしたいのかは完全に不明である。

 

「さてと。帰ろう」

 

満足した様子で家に帰っていくが、この男は1つ忘れている事があった。今日は星座占いで10年に1度の最悪の日であることを。つまり死ぬかもしれないと言うことだ。占いを信じる人からすると、当該する場合は部屋から出たくないと思ってしまう日だ。

 

だがそんなことは完全に忘れている為、欲しいものを買えたと言うテンションの高い状態で車を運転している。お陰で異変に全く気付けずにいた。

 

「ん?……は!?嘘だろ!?」

 

ブレーキが効かないのだ。下り坂に入ったとき、スピードを落とすためにブレーキペダルを踏むのだが、効いてる感覚がなく、徐々にスピードが上がっていく。何度も力一杯ペダルを踏むが全くかからない。

 

キキィィィィ!!ガシャン!!!

 

カーブを曲がりきれず、電柱に直撃。更に悪いことに電柱が倒れて運転席に。完全に潰されてしまった。近所の人が通報し、すぐに警察や救急が駆け付け男は車から救出され病院に運ばれたが、助かる見込みは無いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ウワァァァァアッ!?…んあ?どこだ?」

 

事故に遭って死んだ筈。だが目が覚めてみると車の中でもなく病室でもなく草原。投げ出されたとも考えられるが、その割には体に傷はなく車の部品も転がっていない。あるのは買った鍬とエコバックに入れてた数種の野菜の種、包丁と砥石、後自分が常に持ち運んでいるスマホやタブレット、充電器が入っている別の鞄だけだった。

 

「マジかよ……肥料とか除草剤とか土結構高かったのに……なんでこれだけ残ってんだよ……」

 

「珍しいな。こんなところに冒険者以外の人が居るなんて」

 

「ん?誰だ?」

 

軽く絶望に打ちひしがれてると、横から声をかけられた。だが目を向けてもそこには誰もいない。不思議に思い辺りを見回すと、「ここだここ。目線を下に向けろ」と偉そうに言われた。

 

「……スライム?」

 

「なに不思議そうな目で見てん……あぁ、別の世界から来た人間か。そりゃあ不思議な目で見るか」

 

「ん~。夢だな、寝よ。どのゲームでも雑魚扱いのスライムが喋れる訳ね~し」

 

「お~い、現実逃避すんなよ~。夢じゃねーしこれ現実だからな~。あと俺は喋れるスライムだからな。そこら辺の雑魚スライムと一緒にすんな」

 

寝ようとした男の頭の上に乗っかって、男の言葉を1つ1つ否定しながら跳ねる。感触が確かにある事から、今目の前の事は全て現実であると認識する。

 

「はぁ……現実なら仕方ない。なぁ、この近くに町とかあるか?と言うかこの世界で生きていくにはどうすれば良い?」

 

「おいおい。まずはお前さんの名前を教えろよ。と言うか質問しすぎだ」

 

「あぁ悪い。少し混乱しててな。名前は大塚直輝(オオツカ ナオキ)。事故って死んだと思ったらここに居た」

 

「事故って……災難だったな。まぁ質問には答えてやるよ。町はある。この辺は資源が豊富だからな。ここから南に15キロ歩けば小さな町につく。後はどの町にも冒険者ギルドがあるから冒険者登録すればいい。冒険者になれば色々と補助がある。無条件に家も与えられるぞ。毎回稼いだ分の数%は納めることになってるけどな。じゃあ俺はこれで」

 

スライムが背を向けて森の中に帰ろうとした。だが、何故か動きを止めて少し震えている。何事かと思い、目線の先を直輝も除いてみると、RPGで出てくる中級者向けのモンスターである牛人、ミノタウロスが立っていた。

 

「なんでお前同じモンスターなのに震えてんだ?」

 

「あ~、実はな、ミノタウロスって同族以外は基本敵と判断するんだよ。つまり」

 

「つまり?」

 

「俺達2人して敵って見られてるって事だよ!!」

 

それを聞いた瞬間、自分の荷物を全部もって南に走り出した。スライムなんか無視して全力で走っていく。まさに一目散にと言う感じにだ。

 

「バカ野郎!俺を置いていくんじゃない!」

 

「なんでくっ付いてんだよ!離れろ!!」

 

「色々と教えてやっただろ!少し位助けても良いだろ!!」

 

「ふざけんな!重てーんだよ!」

 

「仕方ねーだろ殆ど水分なんだから!つーかもっと速く走れ!追い付かれるぞ!!」

 

『グオオオオオ!!!』

 

「「ギャアアアアアアアアアア!!!!」」

 

直輝とスライムの悲鳴が響き渡りながら、ミノタウロスから逃げるために必死に走っている。そして十数分後、ようやく撒くことができた。

 

「はぁはぁはぁ……逃げられたか?」

 

「なんとかな……」

 

「じゃあ降りろ。重い」

 

「あぁはいはい」

 

「はぁはぁ……町に着く前に疲れた」

 

「でも問題ないみたいだぞ。ほら」

 

スライムにそう言われ、顔を前に向けてみる。そこには巨大な壁があり、目的の町に着いた様だ。

 

「入るの、もう少し後で良いか?」

 

「そうしてくれ……ついでに俺も町で休みたい……」




続ける予定?気が向いたら書きます。何が言いたいかって言うと、予定は無いってこと。でも感想や評価、お気に入り登録によっては続けるかもです。なのでお気に入り登録と感想ください笑


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第2話

「臨時収入が入ったから全力で買い物をしていた平の会社員の俺は、その日が最悪の運勢だと言うことを忘れて事故に遭い死んだ。と思ってたんだが、気付いたら草原にいて偉そうなスライムに遭遇」

「おい!偉そうなってなんだ?!助けてやったの俺だろ!」

「アホか。ミノタウロスに追いかけ回され、体力尽きるまで走らされて、ようやく町に着いたかと思えばダウン。クソ重たいお前を肩に乗せてたからだぞ」

「俺は重たくねー!スライムの中じゃ軽い方だわ!!」

「だまれ!とっとと第2話始めるぞ!」


ミノタウロスから全力で逃げて着いた町。本来なら今すぐにでも入って休息を取りたいところだが、直輝もスライムも疲れきっている。歩くことはおろか、立つ体力すら残されていないのだ。

 

「おいスライム。お前そこらの雑魚スライムと違うんだろ?回復の魔法とか使えないのかよ。RPG風に」

 

「アホ言うな。体力が残ってないんだ。出せるわけ無いだろう。つーか俺、回復魔法苦手なんだよ」

 

「ガッカリさせんなよ……結局雑魚じゃねーか」

 

「それだけ言ってくる体力あるなら必要ないだろ。さっさと町に入ろうぜ」

 

「だから乗るなっての……重い」

 

「ここから何千キロも東に行けば巨大な王国がある。そこは、様々な町や村、小国に俺達モンスターが入れないように面倒な結界を張って回るんだよ。唯一、人間とコンビ組んでるヤツしか入れない。だからこうするしかねーんだよ。我慢しろ」

 

この世界はこの世界で色々と訳ありの様だ。このスライムは一応友好的な部類に入るようだが、あの時襲ってきたミノタウロスを見るからに、人間を襲うモンスターによる被害があり、巨大な王国が動くレベルの事になっている。

 

「はぁ……そんな事情があるなら仕方ねー。さっさと行くぞ……」

 

体感で10Kgはあるスライムを肩に乗せて、町の門を潜っていく。入った時に少しビリビリしたが、スライムも一緒に入ることが出来た。

 

「小さい町の割には栄えてるな~」

 

「お前来たこと無いのかよ」

 

「これるか。お前と一緒じゃなかったら門くぐった瞬間に消滅してたわ!」

 

「あっそ。で?冒険者ギルドってどこだ?」

 

「知るか。町の人に聞け」

 

「使えねーな」

 

スライムに悪態を吐きながら話せそうな人を探す。だが何かどの人も声をかけられそうにない。忙しく働いている様な人が多いからだ。かと言って遊んでいる子供に声をかけるのも気が引ける。仕方無いから様々な道具を売っている人に声をかけることにした。

 

「すみません」

 

「いらっしゃい。なに買うんだ?」

 

「あぁいや。買い物じゃなくて、冒険者ギルドの場所を教えて欲しいんですけど」

 

「ん?冒険者ギルド?それなら門のすぐそばにあるだろ」

 

店の人はそう言って門の近くを指さす。そこには確かに大きな建物があるが、どう見ても冒険者ギルドと言うよりも酒場だ。酒瓶が彫られた看板が入り口にぶら下がっている。

 

「夜は酒場やってるんだよ。冒険者ギルドと酒場兼用でな。だからよく間違えられるんだよ」

 

「成る程」

 

「それよりも兄ちゃん見ない顔だな?どこの町から来たんだ?」

 

「いや、町って言うか……国って言うか?そもそも世界が違うと言うか……」

 

「異世界から来たのか?なら冒険者はお勧めしないぞ」

 

「え?驚かないの?と言うか何故?」

 

道具屋の男曰く、この世界と直輝の居た世界は昔からよく行き来出来たらしく、この世界の物が直輝の世界へ、直輝の世界の物がこの世界へと言うように交易が出来ていたようだ。が、次第にそれも無くなってきて、今ではこの世界からは行くことが出来なくなってしまった。しかし、逆に直輝の居た世界からは今でもたまに人が流れてくる。不思議な道具を持ってたり、この世界には無い知識を使ったりで国にとって重要な存在になったり有名な冒険者になったりしていた。だが、多くの場合は能力が無いにも関わらず上へ上へと行ってしまい国が混乱したり、大戦で兵士が多く死んだり、レベルが足りないにも関わらず上級者向けのクエストで失敗して同行者を殺したり、民に話もせず敵国の人間、主に若い女を連れ込んだりと迷惑事も多いとの事。

 

「随分な事になってんだな」

 

「まぁ、元はと言えば、異世界から来た人間が国を救った勇者になったって話が広がって、他の異世界から来た人間もきっと自分達の利益になるって考えのせいだから、俺達の責任でもある。だが今も異世界から来た人間は強いとか勇者になるとかの風潮は残ってるから、冒険者はお勧めできない。悪いことは言わないから止めとけ」

 

「……なぁ、冒険者になったからって、絶対に冒険しないといけない。何て事は無いんだろ?」

 

「え?まぁ、冒険するしないは個人の自由だからな。ギルドや国、町が強制できる事じゃない。でも、4ヶ月以上ギルドに納めるもの納めないと、登録書から消される様になってるぞ」

 

「なら大丈夫だな。ありがとね~」

 

「え?おい!話聞いてたか?!」

 

男の話を聞いて、少し考えるが冒険者にはなるようだ。そしていくつか確認して、そのままギルドへと向かう。後ろからは今でも止めた方が良いと言ってきているが、手を振ってそのまま進んでいってしまう。

 

「おい良いのか?あのおっさんの話だと、力が無くても異世界から来たって理由で特別視されるぞ。そうなったらお前、無理矢理高ランククエストに出されて、終いには死ぬぞ」

 

「誰がクエストなんか真面目に受けるかよ。そもそもクエストなんて受けないわ。取り敢えず冒険者登録して、毎回少しずつ稼いで生きていければ良いんだから」

 

「Oh……」

 

つまり、まともにこの世界の流れに従うつもりはないようだ。直輝からすれば従う必要の無い物には最初から従わないだけのこと。それが吉と出るか凶と出るかは誰にも分からない。そんな大雑把なプランを話しながら、ギルドの受付へと向かっていく。

 

「いらっしゃいませ。ご用件は何ですか?」

 

「冒険者登録したいんですけど。ついでにコイツも」

 

「俺も一緒にすんのかよ?!」

 

「かしこまりました。モンスターはお共登録になりますがよろしいでしょうか?」

 

「はい。大丈夫です」

 

「俺が大丈夫じゃねーわ!!」

 

「分かりました。ではその様に書類を作成します。少々お待ちください」

 

「お前らさっきから俺の話聞いてる!?モンスターだからって無視は良くないぞ!!」

 

「少し静かにしろ。ここで変に拒否したら、お前消されるぞ。多分」

 

受付をしてくれた女の人が書類を取りに行ってる間、スライムの声をガン無視し続けた理由を小声で言った。何故そんな対応をしているのかと言うと、受付をしてくれた女の人からは、普通に話してるだけなのに妙な圧力を感じたからだ。スライムは怒っていたから気付かなかった様だが、冷静になって見てみると青い体が更に青くなっていった。

 

「あれ?そんなにヤバかった?」

 

「……だって、あの女から漏れ出てる力、大昔俺達魔物を統治してた魔王やそれを倒しに来た勇者以上の力なんだぞ!漏れ出てる力だけでだぞ!全力だしたらこの星が砕けるぞ!ヤベーに決まってるだろ!」

 

「わぁお……ドラゴンボールかな?」

 

そんな話をしていたら、女の人が戻ってきて2枚の書類とカード、ペンを差し出した。

 

「こちらの書類に名前と出身地を、カードには名前だけを記入してください」

 

言われた通りに、書類には

・オオツカ ナオキ。出身、異世界。

・スライム。出身、多分森の中。

と記入し、カードにも同様に名前を書き込んだ。

 

「おい。俺の名前スライムかよ」

 

「え?名前あんの?」

 

「いや無いけど……なんか納得いかねーな」

 

不服そうだが、変えるのも面倒なのでそのままにしておいた。

 

「オオツカさんは異世界の出身でしたか。では、このカードについて説明します。このカードは、貴方の大まかなプロフィールと、レベル、経験値、ステータス、使用可能な魔法やスキル、レベルが上がった際のステータス振り分けポイントが記載されます」

 

「……RPGか何かかな?」

 

「経験値はモンスターの討伐やトレーニング等による身体強化等で上げることができますので、お好きな方を選んで下さい。後、カードの内容の更新や破棄をする場合は、担当者にお待ちください」

 

「担当者?」

 

「はい。オオツカさんの場合は私になります。総合案内に私の名前を言うと案内されますので、それに従ってください」

 

「その前に、貴女の名前は?」

 

「すいません。申し遅れました私、フリザと申します」

 

(フリーザ様かな?)

 

カード裏にある担当者の欄に名前を記入され、直輝とスライムの2人にカードを手渡し、登録は完了となった。そして、直輝が少し疑問に思ってる事をフリザに聞いてみる。

 

「あの、フリザさんのレベルっていくつですか?参考までに聞いてみたいんですけど」

 

「俺も気になってた」

 

2人にそう言われ、懐から自分の冒険者カードを出す。そして内容を確認して2人に言った。

 

「私のレベルは、530000です」

 

(フリーザ様ぁぁぁぁぁ!!!?)

 

圧倒的だが日本人には聞き覚えのある数字に、心の中で大絶叫。そのまま固まってしまった。そしてスライムはと言うと、

 

「あり得ないだろそんなの!?討伐される前の魔王や全盛期の勇者でもそんなレベルは無かったぞ!2人合わせても200にすら行かなかった!なのに何だその滅茶苦茶なレベルは!?今まで聞いたこと無いぞ!」

 

「いえ。私の場合はレベルの上がりも技修得のスピードも早かったので、鍛練を続けてたらいつの間にか。と言う感じです。そのせいか、このレベルに到達してからもう600年以上も生きてますし」

 

「それこそ可笑しいわ!600年前と言えば、魔王と勇者がバチバチに戦ってた時代だぞ!なんでお前が戦わないんだよ!!」

 

「私も当初は魔王討伐に行くつもりでしたが、あまりにも力が強大すぎて星を壊しかねないと言う理由で、待機させられてました。代わりに勇者ご一行の武器や防具に能力向上魔法をかけて、戦いの影響が外に溢れない為に巨大な結界を張ってサポートしてましたね」

 

「もう嫌だこの女……」

 

圧倒的の領域を越えているフリザの話に、ついにスライムも言葉を失ってしまう。そして話が一通り終わると、ギルドから初期装備に当たる動物の革でできた防具と鉄の剣、日本円で30000円相当の金、鉱石や植物、モンスターについて纏められた本、町の地図にこの世界の服、そして家を与えられた。

 

「今日支給した物はお好きに使ってください。ダンジョンの攻略やクエストの成功、新種の鉱石等の発見で報酬の他にギルドから特別金が支払われます。頑張って下さいね」

 

この日は渡された沢山の荷物を持って新居へと向かい、それで終わった。




シリアスだったり冒険だったりハーレムになると思ったか?!残念!ギャグだよ!て言うことで、感想下さい。

仮面ライダービルド最終話、良かったですね。万丈マジヒロインでワロタ


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第3話

「車の事故で死んだ俺は異世界で目が覚め、ミノタウロスに追いかけ回されて町に到着。道具屋の人からお勧めできないと言われたが、それなりに考えがあるため無事登録をすませた」

「町の規模の割に、海は近くにあるし町を出れば動物が生息する山もあるし川もある。冒険者ギルド以外のギルドも充実してる」

「本当。良い場所だよな~」

「でも、この小さい町のギルドにあんなヤバい化け物がいるとは……」

「あぁ。レベル530000のフリーザ様ね」

「フリザだろ。前回から思ってたけど、誰なんだよそれ」

「気にすんな。ただの悪の帝王だから。それより俺達の家ってどんな感じなんだろうな?と言うか冒険者そこそこいるのに家が与えられるってどう言うことだよ」

「当たり前だろ。優秀な冒険者が1ヵ所に留まってる訳ないだろうが。家が気になるなら早く第3話行け」


「えっと……家どこだ?」

 

「地図ではどこになってるんだ?」

 

「この辺の筈なんだけど……」

 

「どれどれ」

 

与えられた荷物を地面に置いて、スライムと一緒に地図を凝視。確かに地形を見るからにこの付近であることに間違いはないのだが、どうもそれらしい物は見えない。

 

「よう!お2人さん。さっき振りだな。その様子を見ると、冒険者登録してきたな?」

 

「あ、道具屋の」

 

「ルーカスだ。あの店の店長やってる。ところで、なにやってんだそんな所で?」

 

「家を探してるんだよ。地図だとこの辺になってるんだけど……」

 

地図をルーカスに渡して見てもらうと、すぐにこの先だと言われて案内して貰うことに。着いていくと、坂を少し下った海岸付近だった。

 

「ここだな」

 

「おぉ、ありがとう。意外と敷地面積広いな~」

 

「この町は人口が多いって訳じゃないからな。それに町の経済に直接関わる冒険者は多少優遇されるんだよ。まぁこの家は中々買い取り手が居なかっただけなんだけどな」

 

「良い場所なのに何故」

 

「昔住んでた冒険者が、原因不明で死亡したらしくてな。その次に住んだ人は盗賊の強盗殺人に、その次に住んだ女は自殺。この前まで住んでたジーさんは突然訳の分からない事を叫びながら門を飛び出て、そのままモンスターに殺られた」

 

事故物件だったようだ。確かに場所も良し広さも良し見た目も良しなこの家を、現在収入が全く無い新入り冒険者に与えるのは可笑しな話だが、そんな曰く付きの物件なら当然だと思えてしまう。

 

「一応、何度かお祓いはしてんだけどな。教会の神父さんや大国のまじない師が来て。しばらく俺の家にでも住むか?」

 

「いや。俺スライムと一緒だから大丈夫だろ。呪われんならアイツの方じゃねーか?」

 

「ハハッ!ソイツは面白いわ!仲間と酒を飲むときの話題にさせてもらうよ!」

 

「おい!何俺が呪われるの確定してんだよ!大体モンスターに呪いが効くか!!」

 

効かないと自信ありげだったが、それを強いモンスターが言っているなら説得力があったかもしれない。しかしスライムが言うとただの強がりに感じてしまう。

 

その後、ルーカスは明日の準備があると言うことで帰宅。直輝とスライムの2人は家の中に入って荷物の整理をすることにした。

 

「中は綺麗だな。もっと汚れてると思ったんだが」

 

「流石にそれはないだろ。人に渡す物だぞ」

 

「それもそうか。あ、ベッドが付いてる。台所も充実してんな~、釜戸だけど。あ、水だ。井戸でも引いてんのか?」

 

「こっちには風呂もあるぞ。しかも広い」

 

そんなスゴくラッキーな部屋だった。事故物件ではあるけども、それを入れても好条件。人が生活する分には全く問題ない。と言うか十分だ。

 

「この箱は何だ?」

 

「あ?これお前らの世界にもあるぞ」

 

「こんな箱が?どれどれ」

 

正体不明の箱。上下に把っ手が2つ付いており、2ヶ所開けることが出来るようだ。スライムは正体を知っているようで、開けるように促した。

 

「空っぽ……」

 

開けてみると、中には何も入っていなかった。しかし妙に冷たい。上の小さい戸を開けてみると、そこは更に冷たかった。内側に氷が貼るくらいにだ。

 

「もしかして、冷蔵庫と冷凍庫か?」

 

「正解」

 

「嘘だろ!?電機も何もないし、見た目ただの木で出来た箱だぞ!?どう言う構造だよ!!?」

 

「南極方面と北極方面に行くと、万年氷って言う氷が取れる。それは名前の通り、何万年経っても溶けない氷と言われ、出てくる冷気も普通の氷とは違う。しかも火山にでも投げ込まない限り、自然に溶ける事もない。この世界では食材の保存とかによく使われるんだよ。それを木で覆ってる。下の冷蔵庫は厚めの木、上の冷凍庫は薄めの木で作られてるんだよ」

 

「高いんじゃないのか?それって」

 

「いや。その地方に行けばよく取れるから、Eランクの素材だ。結構安い値段で買うことができるぞ」

 

「ほぇ~。便利な世界だな~」

 

この世界の物に感心した所で、今日は眠ることにした。まだ時間的に言えば午後の8時程度だが、色々と精神的にも肉体的にも疲れた日だ。早く寝入ってしまいたい。そんな気持ちなのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こけこっこう~!!

 

近くの家が飼育している鶏の鳴き声。この町ではこれが朝の合図になるようだ。この世界に来たばかりの直輝もこれで目が覚めた。

 

「……水」

 

起きて早々に井戸から水を組み上げて飲む。長い間使われていない訳だが、特に吐き出したりしていない所を見るに、問題はないようだ。そして服をこの世界の物に着替えて、身の回りの整理を始める。普通ならすぐにでも冒険やクエストを始める所だが、そんなRPG的展開を律儀に守るつもりはない。

 

「おい起きろスライム」

 

「んあ?もう少し寝かせろよ」

 

「冷凍庫で寝かせてやろうか?」

 

「遠慮しとくよ。クエストにでも行くのか?」

 

「行かねーよ。この家の整理とその他諸々をやるんだよ」

 

それを伝えてから、スライムを連れて昨日の道具屋に向かう。早い時間帯のため開いているかは心配だったが、意外にも開けていてくれた。

 

「店長おはようさん」

 

「おうおはよう。これからクエストでも受けてくるのか?」

 

「まさか。箒とバケツと雑巾くれ。家の掃除をしたい」

 

「え~っと……ほい。お待ちどうさん。銅貨1枚ね」

 

「ん」

 

「はい。ちょうど貰うよ」

 

購入した後は家に直行。そして開けられる窓と言う窓を全て開ける。掃除に支障をきたす家具の全てを外に出して、天井から床までの埃を全て外に飛ばす。

 

「スライム、お前体に埃付けて掃除できないのか?」

 

「洗い流すの面倒だから嫌だ。代わりにこれなら出来るぞ」

 

そう言いながら水の入っているバケツに浸かり、体に水を吸収。徐々に体が膨れ上がっていく。そして勢い良く跳ね上がると天井付近から勢い良く吐き出す。それは高圧洗浄機の様に小さいゴミも浮き上がらせて流してくれる。

 

「おぉ便利(乾くまで何時間かかるかな)」

 

「ポコッ……どうだ!スゴいだろ!!」

 

「あぁ。スゴいな。そのまま乾かしてくれ。俺は食材とか買ってくるから」

 

「え?」

 

疑問符を頭の上に浮かべて、直輝に声をかけようとするが、既にいなくなっていた。こう言うときの行動の早さには驚きを隠すことができない。仕方なく風魔法で部屋の中に風を起こして乾かし始めた。

 

そしてその頃直輝はと言うと、木工ギルドまで足を伸ばしていくつか木材を買い漁ってた。因みに買ったものは薪と炭、まな板、何かの器と木の棒を数本買っていた。その後に水運ギルドの港に寄って何匹か魚を買い込んだ。何故か淡水魚も置いていたが、深く触れるのは止めておいた。後は道具屋で調味料を購入。

 

「乾かせたか~?」

 

「ご覧の通りだ。少し休むぞオッ!?何しやがる!」

 

「ごめんごめん。もう1回水吸い込んで膨らんで。屋根とか外壁洗いたいから」

 

「ふざけッブシュゥゥゥゥゥゥ!!!!(×_×)」

 

「よし。水追加するか」

 

新手のモンスターに対する拷問か何かに見える。無理矢理スライムに水を吐かせ続け、壁と屋根を洗い流していく。この作業が終わったときには、スライムはグロッキー状態だ。

 

「オェ……気持ち悪い」

 

「ご苦労さん。さてと、飯でも作るか」

 

「そうしてくれ。なんか食わせてくれ……つーか、なに作るんだ?」

 

「鰻の蒲焼き。もしくは白焼き。まぁ今ある調味料的に白焼きの方が楽なんだけどな」

 

「どっちも知らねー料理だな。てか鰻!?あれ食えないだろ!不味いだろ!!」

 

「不味いって……どうやって食ってたんだよ」

 

「生で丸かじり」

 

「そりゃあ不味いわ。じゃあ白焼きで良いな?道具は揃ってるし……って、蒸し器ねーじゃねーかよ。鍋1つに穴開けるか」

 

※道具は大切に使いましょう

 

「お前その体の形変えられない?アイスピックとかに」

 

「え?まぁ見たことあるものなら」

 

「じゃあ細長い針に変わってくれ。折れないくらいの太さに」

 

「ほれ」

 

言われた通りの形に変わって、直輝の手に飛び乗る。そして直輝は鍋の底に押し当てて、大きめの岩で打ち付けながら穴を開けていく。

 

「よしご苦労。休んでて良いぞ~」

 

「いや。調理法気になるから見てる」

 

とのことだったので、頭まで這い上がってまな板を見下ろす。さっきまで水を吸ったり吐き出したりしてたお陰か、少しひんやりしてて気持ちい。

 

「まずは氷水にぶちこんで動きを鈍らせる。動かなくなったら取り出して中骨を断ち切って絞める。その後、俺は背開き派だから背中を手前にして尖ったもので目打ちをして固定する。後は中骨にそって開くだけだ」

 

「死んだやつじゃダメなのか?そっちの方が動かなくて楽だろ」

 

「死んだのは臭くて食えたもんじゃねーよ。開いたら中骨を剥がして、一緒に尾を切り落とす。内蔵や血合いをとったら頭から離して、腹骨にも包丁を入れても掻き出すんだ。面倒だろ?」

 

「だな」

 

そう。鰻は旨いが、調理行程がやたらと多い。勿論これよりも面倒な物は沢山あるが、難易度はかなり高いだろう。因みに、今は普通の出刃包丁を使っているが、鰻を裂くための鰻裂包丁と言うのもある。しかし扱いが難しいらしく、大体は使いなれたもので捌く。

 

「で捌けたら丁度良いサイズに切って串を打つ。そして蒸し焼きだ。10分程度で大丈夫かな?」

 

「食っても腹下すのはお前だから大丈夫だ。俺は下さないからな」

 

「そうか。なら今度トラフグ毒食わせてやるよ。反応を見るのが楽しみだ」

 

※トラフグ、特に旬を迎えた時期のトラフグの非可食部分は本当にシャレになりません。特に卵巣は爪の大きさ程度を食べただけでも死にます。

 

そんな冗談を言いながら蒸していく。出来上がるまでの間は外に出した家具を中に取り込んでいく事にした。重たいかと思ったが、パーツごとに分解したためかそうでもなかった。意外にもサクサク運んでいける。あとはそもそも家具が少なかったと言うのもある。

 

「ん?おい。ベッドのマットレスと布団と枕は入れないのか?」

 

「あぁ。昨日使ってて何か埃っぽかったから。埃とか叩き出してから入れるわ」

 

そう言うことで取り出したのが木工ギルドから買ってきた木の棒。かなり丈夫そうで細くもなく太くもない。何かを撲るのにちょうど良さげだ。

 

「こいつで殴って埃やダニを飛ばす」

 

そう言って殴り続ける事5分。埃も何も出なくなってしまったマットレス、布団、枕を家の中に運んでいく。心なしか3つ共少し薄くなったような気がする。

 

「あ、鰻いい感じになってきたぞ」

 

「お。じゃあ次は焼きだ。両面に焦げ目が付くくらいまでな。焼けたら皿に盛って完成だ」

 

皿に盛り付けた白焼きをテーブルに持って行って、早速1切れスライムの口に突っ込む。

 

「おぉ!ウメー!!あのウナギがちゃんと食い物になってる!」

 

「いやウナギは食い物だろうが……ん~今度は蒲焼きにでもするかな。タレもちゃんと作って」

 

スライムは満足そうに食べているが、直輝的には少し物足りないと感じているようだ。次は蒲焼きを作ると誓うと、買ってきた調味料を幾つか取り出して使うことにした。

 

「なんだそれ?」

 

「ワサビと醤油。まさかこっちの世界にもあるとは思えなかったよ……」

 

「あぁ。調味料とかはそっちから伝わってきた物がそこそこ置いてあるからな。それに昔こっちに来た人間がここでも製造してたって言ってたし」

 

「ふぅ~ん……昔から交易があったってのは本当なんだな」

 

「人が行き交えば嫌でも文化は交流するからな」

 

「成る程……ホイッ」

 

「ん?グアァァァァァァア!!!」

 

「わぁお。ワサビの効果は絶大だ」

 

スライムの口にワサビを投げ込んだようだ。




フリザさんの見た目は「ヲタクに恋は難しい」の小柳花子(高校時代)な感じ。ただし落ち着いた性格。この世界最強で最凶の存在。見た目は20代のそれだが、実は600年以上生きてる。RPGのラスボスや裏ボスをワンパンで倒せる強さ。ゲーム廃人が作ったキャラとも言える。

主人公も「ヲタクに恋は難しい」の樺倉太郎の前髪を下ろした黒髪Verな感じです。ただし熱くないしどっちかと言えば冷めてる。生きるために必要最低限の努力しかしない。彼女なし。と言うか興味ない。

そしてスライムはドラクエに出てるヤツじゃなくて、バレーボールサイズの球体でそれに目と口が付いてるのを想像してください。でもスライムで柔らかい為、完全な球体と言うより楕円形。それがポヨンポヨン跳ねてます。

感想よろしくお願いします。次回?あれば期待してください。


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第4話

「運勢が最悪の時に事故で死んでしまった俺は、RPGみたいな世界に来てしまっていた。スライムと共に町に来て、そのまま冒険者に登録。資源豊富なこの町に家を貰うことが出来た」

「家って言っても事故物件だろ。住んでた人は相次いで死んでるんだからな」

「気にしすぎだろ。何も見なかっただろ?」

「いや。実は初日の夜に誰かが部屋を歩いてた……」

「あ、それ俺だわ。寝相悪くて歩くことあるから」

「お前かよ!無駄な時間使ったわ!さっさと第4話行くぞ!」


「ヤバい……」

 

「なにが?つーか飯まだ?」

 

「スライムのくせに飯が必要なのかよ……悪いが金が無くなってきてるんだ。暫くは米と塩、水、釣った魚だけだ」

 

「なんで無くなったんだよ。そんな無駄遣いして無いだろ?」

 

「無駄遣いしなくても生活の浪費ってのはデカいもんなんだよ。普通に生活してるだけで無くなる。つーか、大体3万程度の金でよく3ヶ月生きられたな。結構買い物してたのに」

 

「お前のいた世界とは根本的に金銭の価値が違う。ギルドから貰った金、この世界じゃ遊んで暮らせるぞ。短い間だけど」

 

日本円にして30000円程の金。この世界では2ヶ月は遊んで暮らせる金になる。しかし直輝はこの世界に来てからと言うもの必要な物を購入したり食料を購入したりと、そこそこの出費をしてきた。手持ちが少なくなってきたのは当然と言える。

 

「あ、」

 

「ん?なんだ?そのヤバいみたいな「あ、」は」

 

「俺たち、ギルドに納めるもの納めてねーだろ」

 

「あ……忘れてた」

 

ギルドには自分の獲得したカネなどを納めなくてはならない。それは4ヶ月に一度で、納められなければギルドから冒険者登録は抹消。過去に抹消されては再登録、抹消されては再登録を繰り返し金を得る輩が居たため、登録抹消後の再登録は不能。つまり住む場所が無くなると言うことだ。

 

「ヤベーな。なぁ、この世界で1番金を稼ぎやすいのはなんだ?」

 

「んあ?鉱石や素材だな。この世界では様々な職業に必要なものだ。そこら辺にある石ころだって、価値は低いが金にはなる」

 

「鉱石ねぇ~。あ、あそこ行くか」

 

ギルドからもらった荷物を漁り、中からこの周辺にある採集可能な物が記されている地図をだす。そして目を付けたのは、鉱石が大量に入手可能な洞窟。事前にギルドからは初心者でも浅いエリアなら問題ないと聞いている。問題はただ1つ。

 

「ツルハシ、大量に買うぞ」

 

と言うことで来たのはいつもの道具屋。冒険に行かないお前が急にどうしたと驚かれたが、生活費と行ったらすぐに理解してくれた。ツルハシを10個購入し、サービスとして干肉を3日分ほど貰った。これで所持金は0円となり、何としても金を作らなくてはならない状況へとなってしまう。

 

「で?洞窟に鉱石採取に行くのは良いが、なんかプランはあるのか?」

 

「ツルハシ全部ぶっ壊れるまで掘り続ける。以上。だからお前は取り敢えず荷作りしてくれ。俺は飯作っとくからよ」

 

木工ギルドで買ってきていた弁当箱を大量に取り出して、炊いた米で作った握り飯を大量に詰め込んでいく。当然悪くならない様に塩を使ったり酢を入れたりしてだ。後は残ってる魚でオカズ。大量の水筒を準備していく。

 

「おい。詰め込んだぞ」

 

「おう……って、道具袋ペッタンコじゃねーか。本当に入れたのか?」

 

「あぁ、そっかお前知らないんだったな。この世界じゃ、冒険者や業者が使う袋は全部魔法をかけられた物を使ってんだ。破けにくいし、一種の時空間魔法を使ってるから入る量も多いんだよ。まだ入るな……」

 

所謂ドラえもんの四次元ポケット。仕組み的にはそれと同じ様だ。しかも食料や道具を含めそこそこ入れたのだが、まだ余裕があるようだ。ついでに明かりになる物も詰め込んでおいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「着いたな」

 

「あぁ。ここだな。あ、あんま奥に行くなよ。奥には普通に強いモンスターが結構いるからな。その分価値の高いものが多いけど」

 

「今回は準備してないなら行かねーよ」

 

スライムの言うように、この洞窟は奥に行けば行くほどに強いモンスターが出てくる。場合によっては上級冒険者でも冒険者生命を断たれるレベルのモンスターも。それ故に奥に行くのはかなり危険なのだ。だがその分、ランクで言うSSSクラスのとんでもない鉱石が出てくる事がある。希にそれすら超えてしまう化け物鉱石も転がってきてしまう。随分と上手く出来たシステムだ。

 

「さてと、どの辺を掘れば良いんだ?」

 

「あ~……こんな感じの亀裂が入った場所だ。砕きやすいしな。何でこんなところからってのがあるが、気にするなよ。お前らの世界の常識が通じるような世界じゃないからな」

 

「そんなもん初日で散々感じたわ。ほら見ろ。こんなところから水晶出てきてる時点でおかしいだろ」

 

「マジかよ……いきなり価値のある物が出てきたな」

 

水晶。SSS~Gの10段階ある内の7番目のDランク鉱石。高価な置物の装飾、城等の建物の内装、魔法使いの道具などを作る際の素材として扱われる。大きさによって値段が変わるが、用途が広いため成人男性の掌サイズは日本円で2000円程の値段で取引される。

 

「いきなりスゲーの出たな」

 

「昔から地形の変化は頻繁にあったからな。ここ800年位は落ち着いてたけど。こんなのが出てくるのもおかしくは無いのかもな」

 

「あ、また出てきた。さっきより大きいな」

 

もう一度ツルハシを突き刺してみたらまた水晶が出てきた。しかもさっきのはピンポン玉程度だが、今度出てきたのは野球ボール程の物。しかも透明度がかなり高い。これなら結構な金になる筈だ。その後も堀り続けるが、ボロボロボロボロと何かしらの物が出てくる。

 

「……こここんなに出てくるのか?」

 

「いや。普通は出てこない筈だが……お前運がいいな」

 

「もう帰ろうか考えてた所―ん?なんだこれ?」

 

「あ?剣の柄だな。しかも高価な作りだ。掘り出すか?金にはなると思うぞ」

 

高価な物と聞くと、ツルハシを器用に使って周りの岩を砕いて行き、剣に傷を付けない様慎重に外していく。

 

「もう少しか……」

 

少し強めに1番下の岩を叩く。すると綺麗に縦に割れて剣を取り出すことが出来た。そして本当に値打ち物かどうかを確かめる為に、スライムによく見せる。

 

「で?どうなんだ?」

 

「こりゃあ王国の最上級冒険者に与えられる物だな。大体2、300年前の物。強い魔法も掛けられてる。モンスターに対して絶大な攻撃力を発揮する。つまり」

 

「つまり?」

 

「売ればとんでもない金に。冒険者として使えば一気に名がしれわたる」

 

「よし。売るか」

 

「勿体ないことするな~」

 

「俺が持ってたって宝の持ち腐れ。ギルドに俺の貯金として預けとくなら話は別だけど」

 

「はぁ。お前さんの現金主義には少し呆れるよ」

 

「誉め言葉として受け取っとくよ。あ、鞘も出てきた」

 

魔法の力が込められた高価な剣。鞘とセットで獲得。スライムの見立て通りなら、これはとんでもない値打ち品。恐らく売れば莫大な金が手に入るだろう。と言っても、どこの店がこれを買い取ってくれるかは定かではない。むしろそれだけ高価なら買い取ってくれる場所があるかどうかが危うい。

 

「暫くはギルドに預金として預けとくか。あ、何か鉄っぽいの出てきたな。ここ地下何メートルだよ……」

 

「お前らの世界の常識が通用しないって言ったばかりだろ。悩むだけ時間の無駄だ。まぁ、この位置で鉄っぽい何かが出てきたのは確かに不自然だが。お前の運の良さの一言で片付きそうだな」

 

「止めてくれ。元いた世界じゃ運が最悪だったんだ。死んじまうレベルでな。今の運の良さがどこかで切れたら、マジでどうなるやら……」

 

頭の中にグロテスクかつ嫌なイメージが大量に流れてきたが、その考えを振り払って堀り続けた。持ってきた食糧3日分とツルハシ10個全てが完全に壊れるまでだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んお?直輝とスライムじゃねーか。久し振りだな。なんだ?そのアグレッシブルな格好は」

 

「あ、ルーカスの旦那か。いやな、金が無くなったって言ったろ?3日間稼ぎに言ってた。洞窟に」

 

「採掘か?その袋を見る限り、結構な量取ってきたんだろ?」

 

ルーカスの言う通り、袋はパンパンに膨れ上がっている。普通ならあり得ないだろと言うレベルでだ。あと少し入れれば100%破れてしまいそうだ。

 

「後で売りに来るから、買い取れる物は買い取ってくれ」

 

「おう。サービスしとくよ。で?いつくる?」

 

「今日はもう眠りたいんだ。明日にしてくれ。体中バッキバキなんだよ」

 

そう言うと、何故か憐れみの目を向けられてしまった。だが状態を見るからに満身創痍なのは分かる。夜通し作業に取り掛かっていたのだろう。2人の目の下にデカい隈が付いている。

 

~次の日~

 

「う~い。持ってきたぞ~」

 

「よう!来たな。さぁ、見せてくれ。何を取ってきたのかを」

 

「ほい」

 

袋をテーブルの上で逆さまにすると、ゴロゴロと派手な音を立てながら大量に流れ出てくる。どうやらとんでもない量の様で、見ているルーカスは完全に引いている。口角が完全に引き攣っているのだ。

 

「これで全部だな。査定してくれ。買い取れない物はギルドに預けてくから」

 

「あ、あぁ。じゃあ少し時間くれ。えっと……これが水晶でこっちが鉄鉱石、石コロに化石、ダイア……ダイア!?どこで掘ってきたんだよ……後は滅茶苦茶立派な剣、金鉱石。どれも量が尋常じゃねーな」

 

ブツブツと呟きながら、1つ1つ丁寧に査定していく。まず結果を言うと、全部日本円換算だと合計40万円程で買い取ってもらえた。だが1番高そうな剣だけは買い取っては貰えなかった。これはある意味予想通りだ。

 

「この剣、家じゃあ買い取れないな。高価すぎる。4年かかっても払えそうに無い。これは、専門の店に買い取ってもらうか自分で使った方が良いかもしれないが……」

 

「俺モンスター相手と戦う気無いんだよね~。でも買い取ってもらえないんだろ?」

 

「あぁ。そこら辺の店で買って貰うのは無理だ。王国の専門店に買って貰うか、ギルドに預けるかだな」

 

「そもそも王国に持っていったら偽物や盗品、最悪盗んだ物って扱われるだろ」

 

「そうだな。あり得なくはない。最近新しいヤツが王になって国の内政が混乱してるって言ってたからな。余所者のほとんど門を潜って早々に憲兵に捕まって尋問を受ける。スライム連れてたら間違いなく斬られるな」

 

スライムの予想にルーカスは同意し相槌を打つ。聞く限りではかなり危険な状態のようだ。これは行かないと言う選択が正解だろう。

 

「じゃあギルドに預けてるわ。買い取ってくれてありがとうな~」

 

「おう。また頼むぞ」

 

恐らくしばらくの間は採集に行かないだろう。店を出ると、そのままギルドへ直行。必要以上の金と見付けた剣はまとめて預けた。そしてついでに納める分を入金して帰っていく。

 

「あ、食材買うの忘れた……」

 

「おい!1番大事な物忘れんなよ!」




この世界での通貨の単位どうしよう……

あ、タイトル変えました。なんか気に入らなかったので。


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第5話

「不運にも事故で死んでしまった俺は、いつの間にか異世界へと飛ばされていた。そこで出会ったスライムと共に生活し、前回は初の冒険で大金を手にいれた!」

「まさかあんな所に魔法の力が込められた剣があるとは……お前これから冒険者として有名になれるぞ!」

「あ、今まで通りクエストも冒険も最小限だからな。普通の冒険RPG物語なんて始まらないからな」

「なんでだよ!そこはガンガン稼ぎに行くところだろ!!」

「俺はのんびりまったり暮らせればそれで良いんだよ。激しい冒険者ライフなんかお望みじゃねーんだよ。それはじゃあ第5話行ってみよう!」


「よし!始めるか!」

 

「なにをだ?こんな朝早くから」

 

現在午前6時。店や仕事のある人は兎も角、普通ならまだ寝てても問題のない時間だが、直輝とスライムは既に起きており、何かの準備をしていた。

 

「畑を作るんだよ。俺が元居た世界からこっちに来たとき、荷物もいくつかこっちに来てただろ?その中に死ぬ直前に買った野菜の種とか入ってたんだよ。植えないのは勿体ないだろ」

 

「あぁ~。そう言えばあったな。高かったのが無くなったって嘆いてたけど」

 

「当たり前だ!除草剤とか肥料とか土とか種イモって結構高いんだぞ!しかもキロで買ってたんだからな!そりゃ嘆くだろ!しかも残念なことに種イモはバッグの中に転がってた10個だけ……」

 

そして、鍬に関してはミノタウロスに追いかけ回された時に投げ捨てている。結果から言えば、高い金払って買ったものは全て無くなった。現在手元にある野菜の種はニンジン、トマト、きゅうり、オクラ、トウモロコシ、枝豆、ジャガイモ、かぼちゃ、キャベツの9種類。十分といえば十分だし、実った野菜から種を集めればまた作ることができる。いくつか失ったとは言え元は取れるだろう。

 

「畑つくったら海にでも行くか。食材調達に」

 

「まぁ食いもんが増えるのはありがたいな。早く作ろうぜ」

 

「はいはい。ほれ、お前の鍬。昨日買ってきた」

 

「準備が良いな」

 

「まぁな。さぁ、最初は土を軟らかくするぞ。その後に植える場所を割り振る」

 

プランは決まった。最初は2人で手分けして畑にする範囲の土を耕していく。肥料を失ったため、そこら辺に転がっている落ち葉や牛農家から貰ってきた牛糞を土に混ぜながら耕す。

 

「意外と土が固いな」

 

「当たり前だ。ここは元々畑を想定してないからな。人が住んでても1回も耕されたことが無いなら固くて当然だろ」

 

「……それよりもお前、便利な体の構造してるな」

 

直輝の吐いた愚痴にスライムがツッコミを入れるが、そんなスライムを見て新しい疑問が生まれた。今スライムも鍬を持って耕しているのだが、体の頭頂部にあたる所を伸ばして鍬の取っ手に絡み付き、ムチの様にしならせて勢いよく降り下ろしている。何故こうなるのか、非常に興味が出てくる。

 

「しかし……肥料の代わりがこれで良いのか?」

 

「俺の居た場所じゃよく使ってるぞ。取り敢えず肥料になりそうなものは全部使って野菜を育ててるからな」

 

「成る程。ここらじゃ肥料とか言うのは殆んど使わないし無くても育つからな~。その辺は遅れてるのかもしれない」

 

こっちの世界では余り落ち葉や動物の糞を肥料として利用はしないようだ。スライムの口振りから察するに、直輝の元居た世界で肥料と認識されている物はこの世界では使われずに野菜を育てているのだと思われる。それほどまでに植物が育ちやすい土壌なのかもしれない。

 

「なら入れなくても良かったかもな」

 

「まぁ育たねぇ事はねーだろ」

 

「どうかね~。栄養与えすぎると逆に悪くなるって言うし……つーか俺農業の知識ねーし」

 

「お前の持ってきた道具で調べられないのかよ」

 

「この世界に電波が通じてる訳ないだろ。どうやって調べ物をするんだよ。あれはもはや中に入ってる映像や音楽を聴く以外に価値のないただの板に変わってしまったよ」

 

「どっかの国じゃあ、お前の持ってきたそれと同じものを使ってウェイウェイ言わせてるのがいるけどな」

 

「知ったこっちゃねーよ。どうせ神様にどうかして貰ったんだろ。俺には関係ねーよ。つーか神になんて会ってねーからな」

 

「つくづく運がないヤツだな」

 

作業の合間にある何気ない会話だが、何故か最後の方ではスライムに運の無さを笑われてしまった。スライムの言っている道具とは、直輝の世界ではすっかり世界中に馴染んでいる便利アイテム、スマホとタブレットだ。通信環境さえあれば、どこでも調べたい物を調べられ、見たいものを見ることができる。更に買い物や離れた場所との会話も可能。しかし通信環境の「つ」の字すらないこの世界。調べたり会話をするのは不可能。既に中にダウンロードして回線のない場所で見聞きできる動画や音楽、オフラインのゲームを楽しむ以外なにもできない。早い話、娯楽以外は役に立たない板になってしまったのだ。

 

「海から帰ったら中に入ってる映画見よ。アニメや特撮のだけど……はぁ、こうなるんなら、アニメをいくつか1話から最終話まで落としとくんだったな~。SDカードにさえ移してれば、デバイスは重くならずに持ち運び楽なのに」

 

因みに言っておくと、既に映画やドラマ、ドラマCDにアニメ、音楽をそこそこダウンロードしている。徹夜して見ようと思わなければしばらくは楽しんでられる量はあるのだ。

 

「おい。いつまで固まってる。こっちは終わったぞ」

 

「え?あぁ。こっちも終わったよ。次は柵を建てるぞ。きゅうりやトマトは蔓を伸ばすからな。それを絡める為に必要な物だ。等間隔に土に突き刺してくれ。あ、畝を作ってからな」

 

等間隔に土を盛り上げて畝を作り、その一部に蔦を絡める用の柵を打ち付けていく。ここまで来たら後は簡単だ。種を蒔いて水を適量かけるだけ。そこからは適度に雑草を抜いたりして待つだけだ。

 

「なぁ、種の野菜はともかく、芋はどうやって植えるんだ?」

 

「あぁ、半分に切って芽のある部分を上にして埋めるんだよ。多分」

 

最後の一言が無ければ良かったが、自信が無いのでは仕方ない。取り敢えずうろ覚えの知識に頼るしかない。埋め終わると最後に水をまく。だがジョーロがない。バケツでやれば加減を間違えた時苦労が水の泡。なので部屋を掃除したときと同様、スライムに水を含ませてそれを空中に向かって吐き出させていた。

 

「いや~。本当に便利な構造だ。絞る力1つで水滴の大きさを変えられるんだからな」

 

「おぇぇぇぇぇ!!テメ……次やったら窒息させるぞ!」

 

「なら俺はお前を料理するぞ。涼しげな麺料理にでも転生させてやろうか?」

 

お互いにブラックジョークを交わしながら畑作業は開始から4時間程で終わった。元々広範囲を畑にする訳ではなく、庭の1角20畳ほどの広さなため時間もかからなかったのだろう。植えた量も多いと言う訳ではない。スライムとの2人暮しにはちょうど良い量だ。

 

「海行くぞ~。岩場になんか転がってね~かな?」

 

「流石に無いだろ。潜れば話は別だろうが」

 

「潜る……成る程。よし潜るか。ゴーグルはあるし」

 

「一応ナイフも持っていけ。1回死んだのにここでも死ぬのは嫌だろ」

 

元の世界での嫌な思い出が甦ってくる。確かにここでも死ぬのは嫌だ。しかも潜ってる途中に死ぬと言うことは確実に窒息死。呼吸ができずに悶え苦しんだ上での死。苦しき事この上無しだ。

 

「じゃ、俺は魚釣ってくるから。お前は溺れないように気を付けろよ~」

 

再度溺れないように釘をさし、スライムは釣りスポットへ移動。直輝もスライムに言われた通りにモンスターから素材を剥ぎ取る為に使うナイフを持っていく。

 

「魚はスライムが捕るとして……俺は貝が取れれば良いな。ナイフしかないし」

 

そうナイフしかない。武器は一切持っていない。一応持ってはいるが、ギルドに預金として預けているし、最初に貰った武器は使わないために売り払った。

 

「さてと、潜りますか」

 

海岸に来るとゴーグルを着けて海に潜った。潮は穏やかで流れは全然早くない。釣り以外の漁はしたことの無い直輝だが、これなら簡単に獲物が取れそうだ。早速貝を見付けていくつか拾っている。

 

「プハッ!…簡単にとれるな。数もたくさんいるし、これならしばらくは食い繋げられるぞ」

 

とった貝をアミに入れて再び潜る。それを20分ほど繰り返すと、かなりの量を収穫できた。だがほとんど見たことの無い種類のため、食えるかは分からない。

 

「そろそろ見たことあるヤツ欲しいな……」

 

そう意気込んでもう一度潜る。見慣れたものを取るために必死に岩の裏を探したりする。そしてようやく見付けた。見慣れた食材を。しかし

 

「ブボラァァァァ!!!ゲハッ!?はぁはぁはぁ……見間違いか?俺の顔よりでかかったぞ……あのウニ」

 

大きさが見慣れてなかった。異常なまでに巨大化していたのだ。恐らく見た目的に食べれないと判断され、そのまま成長してしまったのだろう。

 

「持ち上がるか……?」

 

正直余り触りたいとは思わないが、ようやく見付けた見慣れた食材。取るしかない。

 

「ングッ!!」

 

かなりの大きさがあるため、岩と岩の間にみっちり挟まっている。しかし手を付けたからには意地でも取る。手袋のお陰でトゲは刺さらないが、覆われていない部分が少し痛む。トゲが簡単に折れないのが救いだ。

 

「グググググッ!!!オワッ!?」

 

そろそら酸素が続かなくなったとき、綺麗にスッポリと隙間から抜けてくれた。巨大過ぎるウニを抱えたまま、酸素を求めて海面へと上がっていく。

 

「ダアッ!?あぁ!抜けた!重て!はぁ、もう今日は良いや。沢山取れたし」

 

もう十分と思いとった分をもって家へと帰ろうとしたのだが、アミを置いていた岩場の岩、一部分が妙な膨らみかたをしていた。なんか取れそうな感じもするので、隙間にナイフを突き刺し柄の部分を岩で叩く。

 

「お、取れた。……岩牡蠣?うっわその辺にゴロゴロいるわ。潜らなくて良かったわ……」

 

帰り際に岩牡蠣の大群に遭遇。そのままいくつか捕獲して帰っていった。




うp主明日から母親の里帰りに付き合って日本から10日程離れます。その間一切の感想の返信ができないので、その辺お願いします。

では、感想をお願いします!お気に入り登録や高評価もよろしくお願いしますね!!

この小説に懲りず、次回以降も別の小説もよろしくお願いします!


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第6話

「不運な事故で死んでしまって、異世界に飛ばされた俺はスライムと一緒に冒険者になってスローライフを送っていた」

「普通なら冒険に行きまくって金を貯めるところだけどな」

「元の世界で死んだのにこっちで態々寿命縮める訳ないだろ普通。その辺しっかり考えろよ」

「不運で死んだから運は良くなってるけどな」

「まぁだからって冒険に出るわけ無いけどな。じゃあ久し振りの第6話行くぞ」


「これは毒。こっちは食えない。これ不味い。これは食ったら即死だな。この辺は食えないのが多いぞ~。代わりに食えるのは旨いヤツばっかりだけど」

 

「マジか。まさか採った半分以上が食えないとはな」

 

「量は多いが食えないのが多い。やたらと貝類がゴロゴロしてただろ?それは毒が多いから食う魚が寄り付かないからだ。このトゲトゲと岩はよく分からんが」

 

直輝が大量に採ってきた貝だが、スライムに見てもらった結果、約7割が食べられない物だった。しかも内4割が毒。残りの3割は食用に向かない物だった。しかし残りの食べられる種類の物はどれも高級品種。中々採れない物だった。今回に関しては運が悪いのか良いのかが微妙な所だ。

 

「食えねーの持ってても仕方ねーし海に帰してくるか。食えるヤツ砂吐かせて置いてくれ」

 

「おい。この岩とトゲトゲはなんだ?」

 

「岩牡蠣とウニ。旨いぞ」

 

「とても食えそうに思えないんだが……」

 

確かにビジュアル的には食えそうに無い。片方は小さ目の岩。片方はトゲだらげでどこが食えるのか分からない。だから成人男性の顔のサイズまで成長したのかもしれない。いったい何年物なのだろうか。

 

「使い道無いのが勿体無いな~」

 

勿体無いと言う気持ちはあるが、バケツに入れた食べれない貝を海に帰し、家に戻って採ってきた岩牡蠣と巨大ウニの調理に入る。

 

「で?どうやって食うんだ?」

 

「取り合えず、牡蠣蒸しといて。この前作った蒸し器使って。このウニはどうするか……」

 

「捌き方知らねーのか?」

 

「いや。知ってはいる。昔動画で見たことあるから。でも捌いた事はない」

 

ご存知の通り、知っているとやったことがあるでは大きな違いになる。やり方を知っていても、実際にその動きをしていないなら失敗する確率は遥かに大きくなる。しかも今回のウニは直輝の暮らしてた日本では手に入らない規格外な大きさのもの。大きすぎて少し引いてしまうレベルだ。

 

「取り敢えずやってみるか……」

 

包丁のつけ根の部分を使って口の周りに亀裂を作っていく。一般的なウニの捌き方と言えばこれだ。口の周りに亀裂を作って口を外し、中の身を取り出す。その感覚でウニを捌いていくのだが、大きい分当然殻が硬い。割りと全力でやっているが奥まで入ったと言う感覚がない。

 

「もう真っ二つにしたらどうだ?ギルドに預けた剣使って。その方が速いと思うぞ」

 

「はぁそれしかないな。包丁じゃ出来そうにない」

 

と言うことで急いでギルドに向かって預けてた剣を受けとる。刀身等には一切の汚れがなく、このまま切っても問題ない様に見える。が、切った後は口に入れるため熱湯で消毒しておいた。

 

「斬れっかな?」

 

「それで切れなかったら海に捨ててこい。と言うかそれ使って切れなかったらそれ化け物だぞ」

 

「大きさは既に化け物だけどな」

 

いつまでも悩んでいても仕方無い。剣を構えて一気に降り下ろした。少し心配した物の、問題なく綺麗に真っ二つにすることができた。

 

「おぉスゲー。本当に切れた」

 

「逆に切れなかったら問題だけどな」

 

「まな板ごと切れるとは思わなかったけど」

 

「それくらい出来なかったら最上級冒険者に渡すわけには行かないけどな。昔、剣の達人がそれと同じのを使って山を切り裂いたって話もある程だぞ」

 

「成る程。これ包丁にならねーかな?」

 

伝説レベルの武器を手にしてなんと言う事を言っているのだろうかと思うが、この男ならやりかねない気もしてくる。

 

「この後はどうするんだ?」

 

「中の水捨てて、身を洗うんだよそれで終わり。やっぱり身もデケーな。味大丈夫か?」

 

殻もデカいがやはり身もデカかったが、皿に盛り付けてウニは終了した。そして殻を割るなどに時間がかかった為、牡蠣の方も蒸し上がった。

 

「さてと。食うぞ~。飯も炊けてるし」

 

普通サイズの牡蠣は兎も角、問題は大きくなりすぎたウニだ。大きい身を切り分けて口に運んでいくが、少し箸が震えている。

 

「おい、早く食えよ。俺が食えないだろ」

 

「自分で食えよ……アグッ!……お、問題ないな。旨い」

 

「マジかよ……」

 

少し疑っているが、直輝の反応を見て自分も食べる。お気に召した様で、そのまま続けて触手を伸ばして食べ続けた。どうやら直輝の世界の食べ物はこっちでも受けるようだ。食事開始から数分で皿から食べ物が消えていってしまった。

 

「あ~食った食った……あ、そう言えばカード確認したか?」

 

「あ?してねーけど」

 

スライムに指摘され、自分の冒険者カードを取り出す。そして裏側のステータスの部分を確認した。

 

「上がってるな」

 

「冒険で3日間続けて採掘したり、海に潜ったりで体が常に運動されてたからな。レベルが上がったんだろ」

 

「みたいだな。レベルが1から15になってる」

 

「ならポイントも溜まったんじゃねーか?俺も結構溜まってたからよ」

 

「ん~……お、30ポイント溜まってるな。これを振り分けるんだっけ?」

 

「あぁ。持ってるヤツに直接作用するように魔法がかけられてるから、実際にかなり変わった感じがするぞ」

 

「あっそ。運に全振りで良いや」

 

「おい!少しは考えて振り分けろよ!」

 

「いや。大した冒険もクエストも受けないのに防御や攻撃上げても意味無いだろ。だったら運に全振りしてランクの高い素材大量に採って売った方が良いだろ」

 

そう言ってポイントの全てを運に全振り。RPGで言うなら絶対にあり得ないことだ。だがそれをやってしまったのだ。スライムもその行動に仰天している。

 

「はぁ……いくら戦わないとは言え、これはどうなんだか……」

 

剣をギルドに戻すために刀身を布で拭いている直輝を見ながら呟くが、このスタンスは今後も変わらないと思われる。

 

「じゃあギルドに戻してくるわ~」

 

「おう」

 

直輝が出ていくと、テーブルの上に置かれた冒険者カードのステータス部分を覗き込んでみた。さっき振った運以外は大体60前後と言う所だ。元々の体型やこの世界に来てからの生活もあり、力や防御は結構高くなっていた。ここは100後半程ある。

 

「早さ・HPは68、MPは60、力は153、防御は122。で運が…………運360ってどう言う事だよ」

 

大体は平均的な数値を示している。力や防御は体格や性格が直結するものも直輝の体なら当然と言える位の数値だ。しかし運360は余りにもおかしい。さっき振ったポイント分を引いても330。これなら採掘で高ランク素材が出てくることに納得が行くが、本来なら運は大して上がるものではない。もはや異常だ。

 

「前の世界で死んだ反動か?兎に角この数字はどうなってんだ?」

 

この事にスライムは頭を悩ませる。人間の言葉を話し、世界に対するかなりの知識を持っている。そしてモンスター故に人間の何百倍も生きてきた。当然その中で人間に関わったこともある。だが今回の事態は初めてだ。いくら交通事故と言う最大の不運に襲われてこの世界に来たと言ってもこれはあり得ない。

 

「どっかで運を上げる物を食ったか?いや……食ってたのは俺と同じものだからそれはない……そもそもそれを食ってもここまで大きな変化が出てくるわけない……元から運が良いのか?いやそれじゃあ事故にあって死ぬわけないか……う~ん」

 

頭を捻るが一向に答えが出てきそうにない。今までの経験から様々な可能性が出てくるが、そのどれもが該当しない。それでも考え続け、悩みに悩み抜いた結果出てきた答えが、

 

「もう考えるの止めよう。分からん。めんどくさくなってきた」

 

諦める。と言うことだった。最後まで答えは出なかったようだ。




ネタをいくつか活動報告でまとめました。コメント等で設定の追加、変更を行ない実際に出すさどうかを検討します。もしかしたら出すかもですね。


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第7話

「不運な事故で死んでしまった俺は、気付いたらRPGみたいな世界でスライムと一緒に冒険者をやっていた」

「レベルがせっかく上がったのに全部ポイントを運に振りやがって……少し考えろよ」

「うるさいぞスライム。これで良いんだよ。こっちの生活を考えた上での振り分けだからな」

「その振り分けが吉と出るのか凶と出るのか、第7話行くぞ!」


「あ~……暇だ」

 

「掃除よし。食料よし。ギルドへの入金よし。所持金よし。やること無いな……」

 

7月の中旬。この世界に来てから既に3ヶ月経ったが、最近は暇な日々が続いている。資源豊富なこの町のお陰で釣りに行けば必ず必要な量を採ることが出来る。ギルドへの納入金は初めて冒険に言ったときに稼いだ金で暫くは問題ない。やること無さすぎて家の掃除をやったが、今では埃1つ無い程にピカピカ。植えた野菜も順調に成長している。

 

「クエストでも受けるか?」

 

「ふざけんな。やるわけねーだろ……なぁ、この世界の夏って、暑いのか?」

 

「ん?なんだよ急に。まぁ、暑いって言ったら暑いな」

 

「どのくらいだ?」

 

「は?」

 

「正確な温度を教えろ。何度以上になるんだ?」

 

「あぁ~……風呂の湯と同じくらいだな」

 

「ハッ!?」

 

直輝がこの家で過ごし初始めてからの風呂の温度は、43度程にしている。これは温度計を使って計った為、正確な数字である。

 

「マジかよ……今の内に対策しとかないと!」

 

「俺も溶けないように気を付けないとな~。毎年夏は仲間のスライムが気温で殺られてたから」

 

それは確実に43度よりも高いことになる。早めにどうにかしなくては熱中症で倒れる。もしくは死んでしまう。この世界には当然電気が存在しない。つまりクーラーがない。乗り切れるかが心配な暑さである。

 

「まぁ頑張れば乗り越えられない事は……居ないし。どこ行った?」

 

スライムが振り替えると、既に直輝がいなくなっていた。直前まで話をしていたのにだ。当の直輝はと言うと財布の中に入っている金を全部持って店を走り回っていた。

 

「ルーカスいるか?!」

 

「ど、どうした?そんなに急いで?取り敢えず水でも飲め」

 

「助かる……」

 

出された水を一気に飲み干して、ここに来た用件を話した。目的は冷蔵庫に使われている万年氷の購入。しかも大量にだ。

 

「…………何に使うんだ?」

 

「俺は暑いのが嫌だ。だから」

 

「だから?」

 

「だから!涼しい地下室を作るんだよ!!」

 

「はぁ!?地下室?!お前作れるのか?」

 

「どうにかする!兎に角暑いのは嫌だ!」

 

「そんな理由で作るか普通?!」

 

「作って見せるわ!あとセメントとレンガもくれ。金はこれくらいあれば足りるだろ」

 

「多すぎだ!どんだけ仕入れさせるつもりだ?!」

 

「兎に角大量に!」

 

怒鳴るように注文して次に木工ギルドへ。そこでは大量に木材を購入。吸湿性の高い板を何十枚も買い取った。あと皮を剥いだ4メートル程の丸太。いきなり金を大量に出された木工ギルドも道具屋のルーカスと同様の顔をしていた。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…………」

 

「で?そんな大がかりな買い物して、財布の中は大丈夫なのか?」

 

「見事に空……また稼ぎに行かないとダメだ」

 

財布を逆さまにして振るが、出てくるものは何もない。強いて言えば埃くらいだ。今月の生活費は完全に0となってしまった。

 

「じゃあまた鉱石取りに行くか?」

 

「あぁ。ツルハシは大量に買い込んでる。非常食もあるから2日くらい洞窟に籠るか」

 

「またか……と言うか今回は2日で良いのか?初めての頃は3日で、その後が5日、そして前回が1週間。お陰で随分稼げたが、今日で全部パァ。なのに2日で大丈夫か?」

 

「問題ない。今回は少し深い場所に行くからな」

 

「モンスターが出てくるぞ。本当に大丈夫なのか?」

 

「あぁ。1つ良い手を思い付いたからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここだ」

 

「確か、ここから先に行くとモンスターに遭遇するんだっけ?」

 

「そうだ。しかもそこそこ強い」

 

目印として、そこには赤いラインが引かれている。町のギルドが迷い込んだ人のために付けたのだろう。そこに木工ギルドから貰ってきた粉状の木屑をラインの上に大量に置く。

 

「しっかしよくここまで集められたな。金も無いのに」

 

「物を作ると必ず出るからな。要らないから全部持っていってくれだと」

 

置かれた量は直輝の身長の半分程の高さ、約90㎝程の山が6つ出来上がった。そのまま入り口まで山を作っていき、等々洞窟の外にまで繋がった。

 

「ほい。風系の魔法で木屑を舞い上がらせてくれ」

 

「ん?」

 

まだ疑問が残っているが、言われた通り洞窟内の木屑を舞い上がらせる。範囲が広いため少し時間がかかったが、3分程で作業が完了した。

 

「舞い上がったぞ。で次は?」

 

「離れてろ」

 

スライムを適当な岩影に隠して、火の付けた松明を洞窟の中に全力で投げ付ける。すると

 

ズドーン!!

 

洞窟の中が爆発した。所謂粉塵爆発だ。ある程度塵が舞っている場所に火を放り込めば簡単に起きる爆発。マンガ等では建物の屋根すら吹き飛ぶ程の強さだが、粉塵爆発は密閉された空間でこそ真価を発揮する。爆発音等の反響で威力が倍増するからだ。

 

「嘘だろ……」

 

「さぁ~てと。これで安心して採掘が出来る」

 

「たまにお前の神経を疑うよ」

 

モンスター出現ラインまで行って採掘を開始しようとしたのだが、既に爆発で鉱石が大量に転がっている。その為採掘と言うよりは殆ど拾っている状態だ。

 

「吹っ飛ばしたから価値の高い鉱石がゴロゴロ転がってるな。こりゃあ2日も籠る必要は無さそうだぞ」

 

「じゃあ1番価値の高い鉱石を採ったら帰るか」

 

「だな」

 

そう言って2人は奥へ進んでいき、爆発の痕跡の終わりに到着した。どうやら爆発は1番奥まで来ていた様で、そこから先は進めないようになっている。モンスターもチラホラ見えるが、爆死しているか爆発の影響で目を回しているのが殆ど。起きて襲い掛かってくるようなモンスターは1匹も残っていなかった。

 

「モンスター全然襲ってこないな~」

 

「爆発で真空になったしいきなり明るくなったからな。ここで過ごしてる連中からしたら、パニックになって当たり前だろ」

 

「なるほど。お、面白い形のルビー発見。って、何でこんなところからルビー出てくんだよ」

 

「いい加減慣れろ。お前の世界とは勝手が違うんだからよ。ここで取れるのは確かに不自然だが……お前のふざけた運ってことにしとけば良いだろ」

 

直輝が掘り出したのは深い赤色をした小さい宝石。しかもルビーと来た。これはかなりの価値を持っている。売れば取り敢えず使った分の半分は取り戻せるだろう。

 

「また出た。しかもデケーな」

 

「もう何が出ても俺はツッコまんぞ」

 

その後も採掘を続けたが、吹っ飛ばしたお陰かすぐに袋の空きが埋まってしまい切り上げる事にした。

 

「今回は武器出なかったな~」

 

「普通出ねーよ。出る方がおかしいわ」

 

武器が出てくるのは非常に希な様で、派手に爆破した今回の採掘では出てこなかった。その代わり希少価値の高い鉱石を大量に採取できた為、損と言う訳ではないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作業が終わると町に戻った。昼に出たが早めに終わった為まだ明るいと思っていたが、もう夜になっていた。洞窟での作業で時間感覚が狂ったのか、はたまたこの世界の時間の流れが速いのかは分からないが、今日売ることは出来ないようだ。1日置いて次の日朝一でルーカスの店に売りに行く事にした。

 

「で?今回は何を採ってきたんだ?」

 

「大体はこの前と同じだ。鉄鉱石や金鉱石、水晶にダイア。後ルビーが取れた」

 

「ルビー?この辺で出たっけ?」

 

「出たぞ。デカいのと小さいのが。形は妙だがな」

 

袋からルビーらしきものを取り出しルーカスに渡す。直輝の言うように確かに妙な形をしている。まるでドラゴンが丸まっている様な形だ。

 

「ん~……ん?!」

 

「どうした?」

 

「これルビーじゃなくて龍血結晶だろ!?SSSクラスの素材だぞ!」

 

「マジで!?」

 

龍血結晶。素材ランクは最高級のSSSクラス。強い力を持ったドラゴンの死体から、体に残った力が血液と共に流れ出し結晶化した物。武器や防具に使えば強力な力を与える上に、ドラゴンに対する絶対耐性を付けることが出来る。因みに、レベルで言うなら60以上のドラゴンで無い限り作り出されることはない上に、例え60以上のレベルがあったとしても作られると言う保証はない。

 

「小さい方でも国を運営するには十分な金になる。希少価値が高すぎて様々な国や冒険者が欲しがるからな。どうする?売るか?」

 

「買い取れるのか?」

 

「デカい方は無理だが、小さい方なら買える。昔馴染みの冒険者から手に入ったら譲ってくれって言われてたからな。金は用意してるらしい。デカい方は剣と同様にギルドにでも預けとくんだな」

 

商談は今回も両者満足と言う形で終わらせることが出来た。そして店で買い取り不可能な龍血結晶は剣と同様にギルドに預けておくことにした。

 

「龍血結晶ですか。このサイズは珍しいですね」

 

「やっぱ珍しいのか?」

 

「はい。このサイズは私は見たことありませんね」

 

「600年以上生きてる人間が見たこと無いって……」

 

この様に、フリザも珍しがっていた。膨大な魔力の影響でかなりの時間を生きてきた彼女が見たこと無いと言うことは、相当レアなケースなのだろう。

 

「どこで見付けたんですか?」

 

「鉱石採掘の洞窟の1番奥で」

 

「あぁ。あそこですか。と言うことはあのドラゴンかな?」

 

「何だ?その懐かしむ様な目は?と言うかあのドラゴンってなに?!」

 

ここまで言っているが、スライムはもう察している。巨大な龍血結晶が誕生した理由を。そしてその原因は恐らく目の前にいるこの世界最強の存在。殆ど確定している様な物である。

 

「あのドラゴンはレベル460程でしたので、これくらいの大きさの結晶を作れても不思議ではありませんね」

 

「なに恐ろしい事サラっと言ってんの!?もうレベルのインフレとかそんなレベルじゃねーんだけど!魔王とかもう子供レベルじゃねーかよ!なに460って!魔王が1番力あった時でもレベル84だぞ!なんでそんなアホみたいに強いドラゴンいるのに世界滅んでねーんだよ!魔王なんか一捻りだろうが!」

 

「フリザさんいるからじゃねーの?」

 

「そうだった!目の前にすぐ解決する化け物がいたよ!世界の不思議その物がいたよ!」

 

結構長いスライムのツッコミ。そしてツッコミに疑問を乗せてぶつけるが、直輝の冷静な言葉で全てが何故か納得できてしまった。

 

「言われる程でもありませんよ。そのドラゴンと喧嘩した当時は、まだレベル8000程度でしたから」

 

「頭おかしいんじゃねーの!?それでも十分あり得ないわ!レベル530000もおかしいけど8000あり得ねーわ!!どうなってんだお前の体は!」

 

「おかしいと言われても。私の師匠でも……いや、あの人レベル40も無かったな……じゃあ剣術の師匠の王国戦士長……あの人もレベル60くらいか……なら体術を教えてくれた格闘家は……ダメだレベル52だ。あれ?身の回りに100越えてる人がいない?」

 

「普通いねーよ!なんちゅう恐ろしい事言ってんだ!」

 

レベル40や60も相当な化け物であることを忘れてはならない。この世界では普通かも知れないが、まともに考えてそれでも十分な強さだ。ただフリザが規格外過ぎるだけの事。それだけはお忘れなき様お願いします。




これ10話超えたら、なろうにも載せようと思います。友人に面白いのがあると言われてアカウント作ったんですけど、結局使わずに放置してたので週1で1話ずつ載せていこうかと思います。

使わなかったら勿体ないですからね笑


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第8話

「事故で死んでRPGみたいな世界に行った俺は、そこで出会ったスライムとのんびりまったり異世界生活を送っていた」

「最近金を使いすぎて財布が1回空になったけどな」

「その後しっかり取り戻しただろ?さ、今回から地下室作り始めるぞ」

「なんか嫌な予感がするが、取り敢えず進むぞ第8話!」


「ここから……こんなもんかな?いやもう少し広く取るか。うん。これくらいだな」

 

「今からここを掘るのかと思うと少し気が重くなるな。今日1日で終わるか?」

 

洞窟から取ってきた物を売った次の日、直輝は家の横のスペースに印を付けながら掘る範囲を決めていた。広さで言えば縦と横で10メートルの正方形。やり方としては、気の済むまで土を掘り返して、万年氷とセメントを混ぜたコンクリートを塗り、そこに木材で部屋を作ると言うやり方だ。潰れないかと言う心配が出てくるが、恐らくそんな心配を越える勢いで暑いのが嫌いなのだろう。

 

「別に1日で終わらせる必要はないだろ。取り敢えず暑くなるまでに終わらせれば良い。と言うわけで、今日は助っ人を呼んできた」

 

「助っ人?誰」

 

「私です」

 

「あ~……こりゃ1日で終わるな」

 

「スライム、残念ながら1日では終わらない。何故なら材料が揃ってないからだ」

 

直輝が助っ人に呼んでいたのは恐らくこの世界最強の存在である冒険者ギルド受付嬢フリザ。この助っ人を見て1日で終わることを確信したスライムだが、残念な事にここにあるのは木材だけで、肝心の万年氷やセメントはまだ届いていない。

 

「届いてないって……今日は到着日だぞ?何か問題でもあったのか?」

 

「航路になってる東の海の沖合いに、巨大な海龍が出たって言ってたな。多分それで遅れてんだろ」

 

「なら最初にそっち始末しますか」

 

「「え?」」

 

親指と人さし指で輪を作り、東の海を覗いてみる。そのまま少しの間、その方向を凝視していた。

 

「なにやってんだ?あれ」

 

「指で作った輪に魔力の膜を張って遠くを見通す魔法だよ。ただ、持ってる魔力量で見える範囲が変わってくるから好んで使う人間はいない。大体は水晶玉を補助に使って見てる」

 

「あ、いた。まだ出港して100キロも進んでませんね。海龍は……進行方向の40キロ先にいますね」

 

「因みに、あれくらいの距離を見る為の魔力はどれくらいなんだ?」

 

「お前の持ってる魔力の9000億倍くらい」

 

直輝の魔力量は最近漸く100になった。これは魔法を使うことのない人間からしたら普通の量だ。しかしフリザは魔法を主体に使う。魔力量が多いのは当然のことだが、流石にその量は異常。しかしそれを飛び越えてある意味感動してしまう。

 

「まず海龍沈めておきますね」

 

「え?静める?」

 

「いや鎮めるじゃねーか?」

 

「いえ。沈めます」

 

慈悲は無いようだ。使っていない片手で指を鳴らすと、その方向から妙な轟音が聞こえてきた。まるで落雷の様な音だ。

 

「今、雷でも落ちたか?」

 

「落ちたな。ここまで音が聞こえるレベルの音となると、船は無事なのだろうか……」

 

「積み荷が落ちてないことを祈るか」

 

「あぁ。それは大丈夫ですよ?あと5秒ほどでここに到着するので」

 

何の事だと思っているが、その言葉通り5秒後に街の港に船が現れた。この光景に直輝とスライムと船に乗っていた人達は言葉を失っていたが、街の住民たちは「またか」と言う感じになっている。

 

「うわぁ~……」

 

「もうヤダこの女……」

 

チートと言う言葉がこの人には似合う。と言うか正にチートその物だ。

 

「じゃ、作業始めますか。深さはどれくらいに?」

 

「そうだな~。5メートルくらいかな」

 

「分かりました。ゼログラ」

 

「無重力?」

 

呪文だろうか。それを唱えると指定した範囲の土が綺麗に持ち上がった。硬く巨大な岩も含めて持ち上げられている。

 

「取り敢えずこの辺に置いておきますね」

 

そのまま邪魔に成らない場所に土砂を置き、今度は逆に超重力をかけて地盤を崩れないように固める。

 

「これで大丈夫ですけど、一応基礎も入れておきますね」

 

そのまま太い角材が17本飛び、各々固定されるべき場所に入っていく。

 

「後はコンクリート入れるだけですね。私細かい作業はできませんので、その辺はお願いします」

 

この直後、ルーカスが直輝の注文した物を持ってきてくれた。万年氷の巨大な塊2つ、大量のセメント、そして注文した覚えのない妙な小石。

 

「んお?なんだ。もうここまで進んだのか」

 

「殆どのフリザさんのお陰だよ」

 

「成る程。ほい。注文されてた物と、コイツは余った仕入れ値で買った太陽石の欠片だ」

 

太陽石。太陽と同じく自らが光を発する石。本来はSクラスの素材だが、欠片はダンジョンのその辺に転がって照らしているため、Cランク素材として扱われる。この世界では建物の照明として使われることが一般的。

 

「地下室の照明にでも使ってくれ。明るすぎるからフィルター機能の付いてるケースもあるぞ」

 

因みに、持ってきたのはラージのピンポン球サイズの物だが、直輝達が作った空間ならこれ1つで明るく照らすことができる。

 

「このケースで明かりを調節できるのか?」

 

「そうだ。4段階で切り替えられる。完全に蓋を閉めれば明かりは溢れないし、この石は周りの光を吸収して光から、蓋を閉めたら自分の光を吸収して半永久的に光続けるぞ」

 

「便利な石だな~」

 

と言うか、便利に作られた世界である。ありがたく太陽石の欠片を貰うと、ちょうどフリザが万年氷を砕いてセメントに混ぜてくれた物が完成したので水を入れてコンクリートに。適当な量を取ってから穴に入ると、壁や床となる部分にそれを塗っていく。

 

「成る程。こうやって涼しい部屋を作るのか。コイツは良いアイディアだな」

 

「俺も聞いたときは驚いたよ。と言うかフリザ、ギルドの仕事は良いのか?」

 

「たいして冒険者が来るって訳じゃないですからね。王国からのクエストの仕訳が主な仕事ですので基本は暇です。街に常駐してる冒険者は直輝さんだけですし」

 

「…………何に釣られた?」

 

「夏場、涼しい環境を使わせてやると言われて」

 

「成る程」

 

「あ、俺にも使わせてくれ。手伝うからよ」

 

やっぱり夏は暑いのだろう。ルーカスも手伝いと引き換えに使わせてもらうことにした。その後はフリザを除く3人でコンクリートを塗っていき、いつの間にか終わっていた。

 

「終わったな。後はどうやって乾かすか……」

 

「急激にやったら割れるし」

 

「時間かけたら次の作業が遅れるし」

 

「固まりましたよ」

 

「「「え?」」」

 

どうやって固めるかで悩んでいたが、既にフリザが固めてくれていた。穴を覗くと、なんか太陽の様な物が中に入っており、程よい熱を放出している。

 

「何だ?これ」

 

「サンシャイン。私の得意な魔法です」

 

「スライム」

 

「…………魔王の城にあった古い魔導書に書かれてた最強の魔法だ。魔王も勇者も習得できなかった伝説の魔法と言う扱いになっている。しかしもっと大きいものかと思ってたんだが」

 

「あ、サイズの調整は可能です。これも魔力量によって変わるようなので、最初はよく山とか湖を消し飛ばしてました」

 

もう訳が分からない。目の前にいる宇宙の帝王と言っても間違いない様な存在に、再び言葉を失ってしまった。ともあれ作業が再開可能になったため、板と釘、トンカチを持ってもう1度中に入っていった。

 

「普通に打ち付ければ良いのか?」

 

「あぁ。あ、でも釜戸や調理場も作るから、そのスペースは作っておいてくれ」

 

「なら、この辺に小さい倉庫とかも欲しいな」

 

「お風呂も付けたらどうですか?」

 

「どうやってスペース増やすんだよ……」

 

「じゃあその辺は私が作っておきますね。ここで良いかな?複製」

 

そのまま横に穴を2ヶ所作って、それも部屋に変えてしまう。ついでに複製の魔法を使って今作っている部屋と同じ素材で固めた。

 

「この辺には湿気を放出する穴が欲しいですね」

 

1人で一気に作業を進めている。それを男たちは地道に作業を進めながら見ていた。

 

「はえーな」

 

「俺はもう驚かねーぞ」

 

もう驚くことを諦めた。驚くと言う感情が勿体なくなってきたのだろう。そしていつの間にか部屋が2つ完成していた。何故か直輝が足を伸ばしても余裕がある浴槽までできてる。もうギルドの受付嬢なんて辞めて内装工場の職に就いた方が良いかもしれない。




次回もお楽しみに。感想とかもよろしくお願いします!

あ、IS×牙狼のクロスオーバー。書くのは未定だと言ったな。あれは嘘だ。もう2話投稿しています。よろしければどうぞ。


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第9話

「死んでRPGみたいな世界でスライムと一緒に過ごしてる俺は、現在夏に備えて地下室を作っていた」

「ほとんどフリザがやってたけどな。もういつかあの女が世界を滅ぼしそうで怖ぇーよ……」

「そんな事する人には見えねーけどな。ただ単に平和に過ごしたいってだけだろ?」

「それなら良いんだけどな。じゃあ第9話始めるぞ」


地下室を作りはじめて1日。屋根や家具などは完成していないが、既に部屋は作り上げられた。大部屋と倉庫と風呂場、そして家との通路もできあがった。

 

「まさか1日でここまでできるとは……」

 

「建築の知識全く無いのにな……」

 

「フリザと言うチートがいるからだろ……」

 

確かにほとんどフリザが作ったようなものだ。他の3人がやった作業と言えば、板を貼り付けたことやコンクリートを塗ったことくらい。後の穴を掘ったり部屋を作ったり出入口を作ったりは全てフリザだ。

 

「後は料理場と水屋と家具か」

 

「屋根も忘れるな。俺は屋根なしで長時間過ごせる自信はない」

 

「その辺は明日だな。もう日が暮れそうだ」

 

「そうですね。ではまた明日……ん?」

 

「どうした?」

 

「いえ。何でもありません」

 

フリザはそのまま冒険者ギルドの方向へと戻っていき、ルーカスも自分の店へと帰っていった。残ったスライムと直輝は使ってない木材の片付けを行い、使っていないコンクリートは袋に入れて空気に触れさせないように密閉させる。

 

「これでしばらくコンクリートは大丈夫だな」

 

「どっかに売っ払って金にしたらどうだ?」

 

「欲しいヤツが居たらな」

 

片付けが終わると、明日に備えて早めの睡眠を取った。

 

「その前に飯を作れ!」

 

「おっと。忘れてた。簡単な物で良いだろ?」

 

「あぁ。食えれば大丈夫だ」

 

と言うわけで魚を焼いてそれを食べることに。特に食べ物にたいして拘りがある2人ではないため、魚を焼くだけでも問題ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぅあ~あ。朝だな。飯食って作業始めるか」

 

また魚を焼いて朝食を作り、眠っているスライムを叩き起こして食事を始める。

 

「また魚かよ……」

 

「他の物ねーだろ」

 

「まぁ別に良いんだけどよ~。たまには肉が食いたい」

 

「町出て猪でも狩ってこい。捌いてやるから」

 

「できんのか?」

 

「分からん。まぁどうにかなるだろ」

 

非常に楽観的だ。しかし運の良さの部分だけ数値が異状なためもしかしたら捌けてしまうかもしれない。そんな話をしながら朝食を終わらせると、道具を持って外に出て作業を始めようとする。しかし、何故か街の人達の様子が慌ただしかった。

 

「なんだ?朝から」

 

「客か?」

 

「いやこんなに慌てて出迎える準備するかよ」

 

「だよな~」

 

慌ただしい様子を脇目に、黙々と作業を続けていく。と言っても2人しかいない。頑丈で太い木材を運ぶことができないでいる。

 

「スライムもう少し力出せっ!」

 

「これで目一杯だっ!」

 

「バイキルトとか使えねーのかよ!?」

 

「何だよバイキルトって!聞いたことねー呪文だわ!」

 

ドラクエでお馴染みの攻撃力を2倍にするありがたい呪文だ。しかしこの世界には存在しないらしい。なんと勿体無い事だろうか。

 

「あ、スライムと直輝。お前らも急いだ方が良いぞ」

 

「なんかあるのか?」

 

「どう言うわけか、王国から大量の兵士と国王がこの街に向かってるんだよ」

 

「なんのために?何かそう言う行事か何かか?」

 

「そんな行事はねーよ。大国同士なら兎も角、そこら辺にある街なんかとする筈がない」

 

この異常事態に街は朝から慌てていた様だ。街の住人全員が入り口の前に集合し、王国から来た者たちを迎え入れた。

 

「これはこれは国王。態々こんな田舎町に何の用で?金目の物を出せと言うなら、申し訳ありませんがお引き取りを。生憎そんな物はありませんので」

 

フリザが対応している。最年長者であるからなのだろう。がしかし、金目の物なら残念ながら2つ程ギルドに保管されている。下手すれば国1つを軽々と作れるほどの物が。

 

「お前には僕が権力に物を言わせてこんな寂れた町から物を奪うと思ったか?思い上がるな町娘風情が」

 

人の神経を逆撫でするような言い方。見た目は完全に直輝が元居た世界の若者と言う感じだ。しかも周りに沢山の女性をベッタリと付けている。ルックスもかなり高い。そこら辺の女ならすぐに堕ちるだろう。

 

「ルーカス。あれ誰だ?」

 

「最近国王になったケンジってヤツだ。ほら、お前がこの世界に初めて来た時に言ったろ?妙な道具使って国王になった異世界の住人だよ」

 

「ふ~ん。で女を敵味方構わずに連れ込んで国が混乱してると?」

 

「バカ、声が大きいぞ……!」

 

「ん?」

 

「ほら目を付けられた……」

 

不用意な一言を普通に聞こえる声で言ってしまったお陰で、ケンジと言う国王に目を付けられた。余りにも不謹慎な言動にルーカスは頭を抱えている。

 

「貴様、見ない顔だな。どこから来た?」

 

「見ない顔もなにも、この街に来たこと自体が初めてだろうが」

 

「俺は異世界から神の天命を受けてこの世界に来た。そして、世界の全てを見通せる目を貰った。その他にも沢山の力をな。だがお前の顔は見たことがない。名を聞こう」

 

「あぁ。じゃあ山田太郎で良いや」

 

「「「「「ブハッ……!!!」」」」」

 

「貴様ふざけているのか?」

 

普通なら国王と言うだけでも畏まった態度を取る筈だが、直輝の一切敬意を払わない態度には流石に全員吹いた。ギリギリまでこらえてはいたものの、適当な名前を言った所で限界を迎えてしまったのだ。

 

「別にふざけてねーよ。さぁ~てと。地下室作りに戻るかな。行くぞスライム。ルーカスもだ」

 

「おぉ」

 

「なっ!?スライム?!なぜ街の中にスライムがいる!この街には結界が張られていないのか!?」

 

「このスライムは彼の仲間です。そこらにいるモンスターとは違います」

 

「黙れ!人間の住まう場所にモンスターを入れるとは何事だ!今すぐに殺してやる!!」

 

「あ、小銭。ラッキー!」

 

ケンジが直輝に向けて手を伸ばし、巨大な電撃を飛ばすのだが、小銭を見付けた直輝が屈んで直撃することはなかった。

 

「なっ!?」

 

「ん?どうした?」

 

その光景を間近でみた者全員が口を開けて驚いていた。どう考えても確実に直撃する一撃だったからだ。しかしそれが見事に外れた。かすりもしなかった。むしろ何かしたか?と言う顔をしている。

 

「どうなっている……マジックアイ!」

 

マジックアイ。自身の眼球に魔力を通して、相手の実力を見抜く技。戦う人間は誰しも最初に覚える基本的だが重用な技だ。

 

「ん?レベル21だと?魔力も体力も一般人と変わらない?何故だ!あの攻撃を避けたと言うのに……!!」

 

しかし、実力によっては見抜けないステータスもある。本来なら相手の攻撃力、魔力、体力の他にも冒険者カードの裏に書いてあるステータス全てを見抜ける。極めれば持っている魔法や技、装備に所持している道具も見ることができる。

 

つまり、この男は強力な技や魔法を使うことができたとしても、本来の実力はそんなもんと言うことだ。

 

「良いのか?フリザも呼ばなくて」

 

「どうせ王国の連中の相手で手一杯だろ。分身する魔法でも使えば別だろうけどな。そんな便利な魔法があるかは分からねーけど」

 

「それは聞いたことないな。ならしばらくは俺らだけで作業だな~」

 

と言っても、本来は直輝とスライムと業者がやるべき仕事だ。道具屋の店長やギルドの受付嬢に手伝って貰うこと自体が間違っている。

 

「と言うかお前……一国の国王をコケにしすぎだろ」

 

「別にコケにしてた訳じゃねーよ。つーかコケにしてねーだろ」

 

「あれでコケにしてなかったのか。国王の魔法を避けて「何かしたか?」みたいな顔してたのに」

 

「それ言ったらお前も、スライムがいるどうこう言われてたときガン無視してただろ」

 

どっちにしろロクな物ではない。端から見れば完全に国王をコケにしていた。そして笑い者にした。無駄にプライドの高い愚王で尚且つ周りの兵士達がその王に心底忠誠を誓っている連中なら、あの場で斬り捨てられていたのは確かだ。

 

「お前ら2人無駄に運が良いな」

 

「お陰で毎日が楽しいよ」




感想やお気に入り登録、そして次回もよろしくお願いします。

新連載、「牙狼〈GARO〉インフィニット・ストラトス」もよろしくお願いします。


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第10話

「事故に遭ってRPGみたいな世界に来た俺は、スライムと一緒にのんびりと生活をしていた」

「この前は地下室の屋根作ってたな。家具はどうするんだ?」

「家具は業者に発注するよ。竈門と調理場は広めに取りたいから注文するけど」

「その方が楽だな」

「その通り。のんびりな生活をしていた俺達だが、少しの間はそうも行かないかもしれない……」


「あ~。屋根はこれで良いか」

 

「いや。この辺潮風があるから屋根は瓦にした方が良いんじゃないか?」

 

「また発注か……」

 

「まぁ瓦に関しては在庫がある。そろそろ処分しようかと思ってたから、この際全部使うか」

 

「そりゃあ助かるよ」

 

屋根の板を柱に張り付けて、このまま塗料を塗って完成にしようとしたのだが、ここは海に面した街。いくら金属製の物ではないとは言え、木でも影響をいくらかは受ける。ルーカスの提案で瓦を張り付けることにして、今日の作業は終わりを迎えた。

 

「王国の連中はいつまでいるんだろうな」

 

「そもそも何で来たかだよ」

 

「俺らには関係ねーだろ。お前はスライムだし、俺はそもそもこの世界の人間じゃない。あの国王もだけどな」

 

「俺はツッコミを放棄する」

 

「ツッコミがツッコミを放棄するなよ。誰がこれからツッコミの役割をするんだ?」

 

「モブやその他の誰かがやってくれるだろ」

 

まだ王国の兵士達や国王が来てから1日も経ってないが、既にスライムはうんざりしている。今は夜になっているのだが、どう言う訳か兵士達はドンチャン騒ぎをしている。煩き事この上ない。

 

「お邪魔します」

 

「あら?フリザさん?どうした?」

 

「行き着けの店が占領されたので、何か作って貰おうかと。代金は出します」

 

「いや別にいらねーけど」

 

王国の兵士達に店を占領されたと言うことで、直輝の家で食事をしに来た様だ。そして今の今まで対応をしていたのか疲れた顔をしている。そして機嫌も悪そうだ。

 

「魚料理で良いか?それしかない」

 

「お願いします」

 

「はいよ」

 

冷蔵庫から魚を取り出し、適当に捌いてからサラダとして皿に野菜と一緒に盛り付けていく。時間も遅いためこれ1品でも十分だろうが、サラダだけと言うのも味気ない。残ってるパンも焼いてだした。

 

「ほら。できたぞ」

 

「ありがとうございます」

 

出されたものを食べ始めると。適当な飲み物を出しながら何故王国の国王が大量の兵士を連れてこの街にやって来たのかを聞いてみた。

 

「これが原因です」

 

「龍血結晶?これ目当てか?」

 

「いえ。これは原因です。ご存知の通り、龍血結晶はドラゴンの力が血液と共に流れ出し結晶化した物です。当然これだけでも強力な力を放っている訳ですが、強い力と言うのは磁石の様に強い物を引き寄せます。同族ならなおのこと」

 

「つまり、ドラゴンが来るって事か?」

 

「はい。レベルで言うところ、500ですかね。それくらいのドラゴンがここに向かってます。それを討伐するために来たんだとか」

 

レベルが500と言うことは、龍血結晶の元となったドラゴンよりもレベルが高いことになる。それを知ってか知らずかは定かではないが、王国の兵力の殆どを注ぎ込んできたのだろう。

 

「王国の兵力で倒せるのか?」

 

「無理ですね。そもそも、ドラゴンの平均レベルは60程です。それですら大国が最低でも4つ同盟を結び総戦力を注ぎ込まないと難しいです。あの程度の兵力ではとても勝てるとは思えません」

 

バッサリと切り捨てた。しかしそれなら何故王国が討伐をしようと言うことになったのかだ。だがそれもフリザの次の言葉で少し納得した。

 

「国王の持っていた武器、あれは聖剣アスカロンです。ドラゴンにもっとも有効な属性を持つと言われる武器。恐らく神からでも与えられたんでしょう。後は持っている攻撃魔法の数ですかね。先程見てきましたが、数は多かったです。殆どが強力な物ですし」

 

「でも倒せないんだろ?」

 

「はい。魔法は使う人間の力が大きく影響しますからね。たとえば、基本的な炎を出す魔法。レベル1の魔法使いとレベル100の魔法使いが使うのでは天と地の差が生まれます。と言うか、そもそもどこでアスカロンを手に入れたのかと言うことです。神が与えたにしても、あれはゲオルギオスに魔女カリブが与えた物です。サイクロプスが造り上げたどんなに硬い火打石でも鋼でも斬ることが出来る剣。そちらの世界にも伝承が残っているはずです」

 

「あぁ~……まぁ、俺はその方面詳しくないから何とも言えないが、名前くらいなら聞いたことあるな」

 

曖昧な答えだが、直輝のいた世界にもその伝説は存在する。数多く存在する聖剣伝説の1つとして。その伝承では、サイクロプスが匠の技で極上の金属から鍛え上げ、どんな硬い火打石でも鋼でさえあろうと断ち切り、柄頭に込められた加護によって剣を帯びる限り、如何なる裏切りにも、魔法にも、暴力にもさらされることはない。と言う様に語られている。しかし伝説は伝説。事実と言うわけではない。そもそも直輝の世界ではゲオルギオスが存在したのかさえ怪しいのだ。

 

「あの剣は、この世界からそちらの世界に迷いこんだドラゴンをゲオルギオスが討伐した後に行方不明になっていました。こちらに帰ってきたゲオルギオスの様子を見るからに、甲冑と共に破壊されたとの噂が流れましたが、アスカロンがドラゴンごときの攻撃で破壊されるとは思えません。神が自身の所有物として扱っていたとしたら、あの剣は回収する必要があります」

 

「ふ~ん。ま、難しいことは置いといて、ドラゴンはいつ此方に来るんだ?」

 

「今日から2日後とのことです」

 

「アイツら街に迷惑かけないと良いけどな」

 

「その辺はさっき約束を取り付けてきました。ドラゴンを撃退、もしくは討伐した時に多額の報酬を払うことを条件にですけど」

 

「アイツら金欲しがってんのかよ。王国の住民のくせに」

 

「いえ。お金もありますけど、それはおまけみたいな物です。本命は私と直輝さんの身柄だそうですよ。直輝さんには個人的な恨みを返し、私は8人目の妻にするんだとか」

 

「見境なしかよ……と言うか個人的な恨みって何だ?」

 

「魔法を避けられた事じゃないですか?」

 

「イヤに理不尽だな」

 

「愚王なんて大体そんなもんですよ」

 

酷い言われようだが、目の前に現れてしまえばそうも言ってられない。実際街には迷惑をかけないと言うのがここでの滞在条件なのだが、既に騒音で迷惑をかけている。これを静め兵士全体を統治し指揮を取るのが1番上の立場にいる王のやるべき事なのだが、そんな様子は全く見られない。宿の一室に連れてきた女性たちと籠っているだけだ。

 

「今日どこで寝るか……」

 

「寝床まで占領されたのか?」

 

「いつもは冒険者ギルドで寝てますけど、宿の部屋が足りなかったようでギルドでも兵士が寝泊まりしてます。私の部屋、汚されてたら使った兵士の葬式挙げよ」

 

「物騒なこと言うなよ……寝る場所がないなら、アイツらが帰るまでこの家で過ごすか?」

 

「狭くないですか?」

 

「スライムと俺だけだ。それに俺は洞窟で過ごす時間が最近は多かったから、ベッドより床の方が寝やすい。スライムはこの時期冷蔵庫の中で寝てるから場所は問題ないぞ」

 

「なら、少しの間は厄介になります」

 

「おう」

 

と言う訳で、少しの間フリザがここで過ごすことになった。因みに、スライムが何故冷蔵庫で寝ているかだが、この時期から微妙に暑くなってくるからだ。寝ているときに気を抜いてしまうとすぐに融解してしまう。それを防ぐための一手。

 

夜が明けると、朝から騒がしくなっていた。国王達が来たときとは別の意味でだ。いろんな場所から怒鳴り声や奇声、何かが壊れる音、女の人の悲鳴等々。迷惑行為はこの街では御法度。それが滞在条件なのだが一切守られている様子はない。

 

「たった数時間で無法地帯になったな~」

 

「滞在条件取り付けたのに、それでこれだとしたら国王の才能だな」

 

「俺達の行き着いた街がここで助かったよ」

 

屋根に瓦を貼りながらぼやいていた。フリザは朝からこの事態を鎮静化するために動き回り、ルーカスは瓦を置いていくと店に戻って兵士の相手をしている。自分達の立場を使って無理矢理値下げさせているようだ。

 

「冒険者で良かったな」

 

「ほとんど冒険してないけどな」

 

現在進行形で地下室を作っている辺り、冒険者と言うより建築士に見える。と言っても、冒険者としての確かな実績を上げているため文句は言えないし言われない。

 

「おいお前」

 

「なんだスライム」

 

「いや俺じゃなくて下からだ」

 

「ん?何だ国王か」

 

「何だとはなんだ!?一国の主に向かってその態度はどう言うつもりだ!!」

 

態々王自らが出向いたようだが、直輝には歓迎されなかった。と言うか作業中に来られても歓迎しようと言う気にはなれない。

 

「はいはい。で何の用ですか?」

 

「ふん。お前も僕と同じ異世界から来た人間だと聞いたから来てやったんだ。それに冒険者だそうじゃないか。腕が良いかどうかを見に来てやったんだ。が、見るまでも無さそうだな。確実に僕の方が実力が上だ」

 

「なんとでも言え。俺には関係のないことだ」

 

「一々癪に触るヤツだな……王に対する忠誠は無いのかお前には」

 

「アンタに誓う忠誠なんてねーよ」

 

どうやら、まともに取り合うつもりは無いようだ。国王の言った言葉に対して短い答えを返す。そもそも忠誠と言われても、大国とはほとんど無縁の街。何か物資を送ってもらっていると言う訳でもなければ資金援助をしてもらってる訳でもない。自給自足の街に住んでる人間に忠誠を誓えと言う方が無理だ。

 

「そうか。なら、僕と勝負しろ」

 

「は?」

 

「僕が勝ったら、お前は僕に対して忠誠を誓え。勝敗はどちらかが戦闘不能になるまでだ」

 

「あのなぁ、自分の勝利に対する報酬を決めといて、こっちの報酬を決めないのに何が勝負だ。んなもん勝負として成立しねーよ。互いに報酬なしだったら別だけどな」

 

「万が一にもお前が勝つことは有り得ない。僕の勝利は揺るがないからな」

 

「だとしたら尚の事勝負として成立しないだろ。何が悲しくて勝敗の分かる出来レースに参加せにゃならんのだっての」

 

至極当然の判断だ。この場合、多額の報酬があれば別なのだろうが、相手が提示した内容の中には直輝への報酬は一切なし。自分の絶対的な勝利を確信しているが故にだ。だとしたらそんな物に参加する必要はない。どう考えても頭の中お花畑の痛い人間の提案に乗る方がおかしい。

 

「勝負しないと言うのなら、貴様が必死に作っているその家を破壊するぞ?神から力を授かった僕の魔法でね」

 

「それは困るな……仕方ない。乗ってやるよ」

 

「ふん。良い度胸だ。その度胸だけは認めてやる。しかし、無事でいられるとは思うなよ」

 

地下室の屋根部分から降りた直輝は、国王の目の前に立つ。武器になりそうなのは持っていたトンカチと釘。他の武器は持っていない。ギルドに置いてある。まともな勝負になるのか、判断に困るところだ。

 

「おい王さま。気を付けろよ。ソイツはあるステータスが数値異常を起こしてる。その辺にいる普通の人間相手に挑む程度の覚悟なら、戦わないことをお勧めするぞ」

 

「スライムごときの忠告を受けるつもりはない。弱小モンスターが。黙ってお前の主人が倒されるところを見ていろ」

 

武器をまともに持っていない相手にフル装備で挑んでる人間とは思えないほどの言い草だ。これでは実力に差があるのか装備で差があるのかが分からない。

 

「喧嘩するのは構いませんが、街に被害は出さないでくださいね?出したら王国に請求します」

 

「フリザさん?」

 

「ギルドの受付嬢?」

 

「どうぞ。トンカチと釘じゃ、勝てる勝負も勝てませんからね。あと、少し街を空けます」

 

「なにかあった?」

 

「いえ。少し神と話してくるだけですが夜には帰ってくるので、また部屋を借りますね」

 

「あぁ。食事も用意しとくよ」

 

そう言ってフリザを見送ると、鞘から剣を抜き出して構えた。いよいよ2人の勝負が始まる。

 

「話は終わったようだな。なら……死ね!!下級冒険者!」

 

勢いを着けて構えた剣を振り回す。しかし国王の斬撃は直輝に当たる様子がない。全て当たる直前で避けられてしまう。

 

「チッ!おりゃあ!!」

 

「よっと……」

 

「このっ!死ね!!」

 

「ほい」

 

「ガハッ!?」

 

全く当たらない。斬撃のスピードを速めるが全く当たらない。それどころか直輝が適当に突き出した拳に自分から鳩尾を押し付けて苦しんでいる。

 

「なら……ライトニング!」

 

「うわっと!?」

 

「ヴォルケーノ!」

 

「あっち!熱!?」

 

ライトニング。光速で敵を襲う雷。スピード、範囲、威力を設定可能で、覚えれば幅広い用途で使うことが出来る使い勝手のいい呪文。そのスピード故、避けることは不可能。初めて使用したときは直輝に掠りもしなかった。

 

ヴォルケーノ。火山の噴火の様な激しい炎が敵を襲う呪文。広範囲魔法で、炎に対する耐性が無い場合大ダメージは避けられない。

 

「まだだ!ウォーターフォール!!」

 

「グッ!」

 

「ブリザード!!」

 

「ッ!?動けないっ!」

 

「終わりだ。エクスプロージョン!!」

 

ウォーターフォール。激しい滝の様に流れ落ちる大量の水で相手を押し潰す魔法。しかし使った後は周りが荒れてしまうのが弱点。

 

ブリザード。凍える程に冷たい風で相手の動きを鈍らせる魔法。濡れている状態の相手や、体の殆どが水で出来ているようなモンスターは簡単に凍らせることが出来る。

 

エクスプロージョン。指定した範囲を強烈な爆発が襲う攻撃魔法。かなりの上位クラス魔法で、威力も範囲も桁違いに大きい。

 

「僕の勝ちだ。ハハ」

 

「あぁ~。ビックリした」

 

「なッ!?」

 

「いったろ。あるステータスが数値異常を起こしてるって。数値異常を起こしてるのは運だ」

 

「運、だと?戦闘に全く意味のないステータスが何故!!」

 

一般的に運は戦闘の役に立たないステータスとして扱われるが、実際は運以上に戦闘を左右するものはない。相手の防御力を無視して大きいダメージを与えられるのも、相手の攻撃力を無視して最小限のダメージに留めるのも全て運が絡んでくるのだ。アイテムのドロップや敵との遭遇率以上に、運は戦闘を左右することがある。

 

「たかが運ごときで……!なら!運も防御も攻撃も関係ない!これで終わらせてやる!最大火力、エクスプロージョン!!!」

 

呪文を唱えた直後、直輝を中心に半径10メートル程の炎の円が出来上り、数秒後に巨大な火柱を産み出しながら爆発した。

 

「これなら……!」

 

勝利を確信した。しかし、勝利で清々しい表情をしていた顔は、すぐに絶望で青ざめた物へと変わってしまう。

 

「たく……街に被害出すなよ」

 

「やっぱ生きてたか」

 

「当たり前だろ」

 

「そんなことだろうとは思ってたけどよ。後ろ見てみろ。地下室壊れかけてるぞ」

 

「なに!?」

 

スライムに言われて後ろを振り返ると、貼り付けた屋根と瓦が一部消し飛び、部屋の中は水浸し、壁には亀裂が入っており柱も焦げて一部が炭になっている。

 

「あぁ……作り直しか……」

 

「アイツにやらせればいいだろ?」

 

「俺はこれでも社会人。子供相手に仕返しするつもりは微塵もねーよ」

 

「どこまでも僕をコケに……ゼアァァァァァア!!」

 

「少しは静かにしろ!!」

 

手をかざすと、無意識に魔法を発動し国王を吹き飛ばしてしまった。見たところ規模は小さいがエクスプロージョンの様だ。吹き飛ばされた国王は伸びている。

 

「エクスプロージョン?」

 

「いや。多分それはコピーだな。最後に見た魔法を再現し発動を可能にする魔法。と言えば聞こえは良いが、コピー出来るのは敵が最後に使った魔法で、コピー故に威力も範囲も随分弱体化される」

 

「なんだよ。勿体ねー魔法覚えちまったな~」

 

「まぁ使いどころが難しいだけで、使えなくはないだろ」

 

覚えたての魔法の説明を受けながら、ボロボロになってしまった地下室の修繕に入ろうとした。だが、国王が周りに置いていた女性が集り、各々なにかと直輝に文句を大声で言い始めた。

 

「待ちなさい卑怯者!一体どんな手を使ってケンジに勝ったの?!」

 

「アンタみたいな下級冒険者風情に、ケンジが負ける筈無いわ!!」

 

「早く何をやったのか言いなさい!」

 

「そうよ卑怯者!!」

 

「卑怯者!!」

 

女性達からは卑怯者コールが始まるが、当の直輝は風か何かの様に受け流していた。が、すこし煩く感じたのか、コピーでエクスプロージョンを放って黙らせた。

 

「女に対して容赦無さすぎるだろ?!」

 

「俺は男だとか女だとか、そんな下らん物で人への対応を変えるつもりはない。これでも男女平等を唱ってる側の人間だからな」

 

女性達を丸々無視して、屋根を取り外し柱を治し、そして溜まった水を取り除いていく。これだけの作業で1日が終わってしまった。

 

そして夜になり、フリザが街に戻ってくるとすぐに直輝の家に向かって食事をご馳走になる。

 

「何でそんなにボロボロなんだ?」

 

「天界に行って神とアスカロンについて話してきたんですが、やはり自身の所有物としていたようで。それで少し喧嘩になりました。私としても少ししばきたかったので、問題は無かったんですけどね」

 

この人の底知れぬ力に恐怖を覚え、この日は寝るだけとなった。明日は朝からドラゴン討伐で忙しくなるだろう。




あ、国王の一人称を俺から僕に変更しました。

次回もよろしくお願いします。感想とかもついでにどうぞ。


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第11話

「RPG的な世界に来た俺は、冒険もそこそこにスライムと一緒にゆっくりライフを送っていたのだが、俺が拾って来た龍血結晶でドラゴンが町に来ることになった。それを討伐するために、国王が兵士を引き連れてやって来たのだが……」

「見た感じ役に立ちそうには思えないな。レベル600のドラゴン。魔王でも勇者でも負けるわ」

「今日がドラゴン到着日。さぁどうなる?!」


「ドラゴンが到着するまで時間がある!焦らずに陣形を組み警戒しろ!砲撃班は弾詰めを急げ!地上に降りたら集中砲火だ!」

 

ケンジ自らが指揮をとり兵士を動かしているのだが、レベル600のドラゴンに対して有効なのかと言う不安が残ってしまう。前日の夜にフリザから平均的なレベルのドラゴン相手でも、大国が4つ同盟を結んでやっとと聞いているからだ。

 

「街壊されないと良いけどな~」

 

「それは大丈夫だろ。ほら」

 

直輝がぼやくと、スライムが後ろを見るように促す。そこではフリザが街全体に結界を張ってくれていた。確実にドラゴンは破壊できないかもしれない。むしろ兵士たちも必要ない。

 

「こりゃ街は問題ないな。フリザさんへのストレスは別として」

 

「言うな。後が怖い」

 

兵士たちが着てから今日で3日になるが、その3日の間にフリザが受けたストレスは今まで生きてきた中で上位にランクインするほどの物。髪型と肌が少し荒れており、目付きが鋭いものになっている。そして、激しい怒りのオーラが身を包んでいた。

 

「こりゃ助かっても地獄だ……」

 

それから1時間後、ドラゴンが街へと向かって飛来してきた。それを見て、王国の兵士たちは攻撃を開始する。最初は国王のケンジ自ら巨大な攻撃魔法をドラゴンに放ち地上に落とす。それが攻撃の合図となり、兵士たちが砲撃を開始。数分の間、辺り一帯が轟音と土煙に包まれていた。

 

「砲撃止め!!」

 

ケンジの指示で砲撃が止まる。数分間絶え間なく大量の砲弾を浴びせたのだ。当然ドラゴンは死んだ。王国の兵士達は自分達の勝利を確信して武器を納め、喜びの声を上げようとした。だが

 

『グオオオオオオオ!!!!』

 

「「「「ッ!?」」」」

 

ドラゴンは全くダメージを受けていなかった。砲弾は全て固い鱗に阻まれ、ドラゴンに傷を負わせることができずに割れており、そのまま地面に転がっていた。そしてこの攻撃がドラゴンの怒りを買うことになり、怒り狂ったドラゴンは巨大な爪を付けた腕を振り上げて、一気に地面に叩き付ける。単純な攻撃だが、それは地面を割り風圧で多くの兵士を吹き飛ばす程の威力。普通の人間では当然勝てそうもない。

 

それでも負けじと兵士達が攻撃をするのだが、当然人間の腕力ごときでどうにかなる相手ではない。剣を叩きつけても真っ二つに折れ、斧も砕けるだけだった。

 

『ハァァァァァァァ……』

 

「ッ!?炎が来るぞ!重装兵前へ!!」

 

『グワァァァァア!!!』

 

大量の空気を吸いこんたドラゴンを見て、炎のブレスが来ることを確信した兵士は、分厚い盾と鎧を装備した者を前に出して攻撃を防ごうとする。しかし、その熱量は凄まじいもので、鉄でできたが分厚い盾と鎧はあっという間に溶けてなくなり、重装兵が全滅した。

 

「も、もう駄目だ……勝てるわけがない……!」

 

兵士達は既に戦意が喪失している。戦争では前線にいる兵士の2割~3割が倒れただけで壊滅状態として扱われる。それは見ている側の兵士達が戦う気力を失うからだ。そして現在、王国の兵士は全体の7割が消失。士気が落ちて戦えなくなるのも無理はない。

 

「エクスプロージョン」

 

膝を着いて戦う気力を無くしている兵士達を無視して、ケンジが巨大な攻撃魔法をドラゴンに叩き込んだ。

 

「使えない連中だな。下がってろ。僕がヤツを消し飛ばしてあげるよ」

 

言葉は乱暴だが、ケンジのこの行動は戦えなくなっていた兵士達に希望を与え、取巻きの女達はそんなケンジに黄色い声援を浴びせる事になった。

 

「派手な魔法バンバン浴びせてるな~」

 

「なんか不味いのか?」

 

「魔法ってのは、体の中にある魔力よりも体力を大きく消費するものもある。あの王さまの使ってる魔法、とりわけ体力の消費が大きい物。あの調子で撃ってたら後2発3発で―」

 

と言っている間に、魔法の威力が落ちてきた。今だドラゴンは派手な土煙に包まれているが、倒れたと言う感じは全くしない。そしてついに

 

「グッ……!ま、魔法が……撃てない?!」

 

魔力、体力共に尽きて倒れこんでしまう。しかしドラゴンにも深傷を追わせたと言う確信があるのか、やりきったと言う目をしている。

 

「流石にあんだけ魔法撃たれたら、レベル600でも無事じゃ済まねーだろ」

 

「いや。ありゃ駄目だな」

 

「え?」

 

スライムがそう言うと、街の住民は土煙に視線を向ける。時間が経つに連れて煙は薄くなり、次第に中心部の様子が伺えるようになる。ドラゴンは倒れている。そう思う人も沢山いるだろう。しかし、立っていた。ドラゴンは倒れることなく立っていたのだ。ドラゴンは攻撃をして来たケンジを無視して、街に向かって突っ込んでくる。攻撃を浴びせた者には目もくれず、自分が引き寄せられた力の根源を破壊しようとしているのだ。

 

「これ、大丈夫か?」

 

「あぁ……フリザの魔法なら大丈夫だろ。な?」

 

「私、防御系魔法苦手なんですよね」

 

「本当に大丈夫なの?!つーかフリザさん戦わねーのかよ!?」

 

「王国の人達に泥を塗るわけには行きません。彼らが討伐を約束したんです。ここで見物しましょう。ほら、王様が剣を取り出して走ってきましたよ」

 

もはや力のない王国の兵士達と国王を嘲笑うかのようだ。実際嘲笑っている。溜まりに溜まったストレスがこの様な形で吹き出しているのだろう。実に凶悪な笑みで魔法の向こう側にいる国王達を見ていた。

 

「ドラゴンごときが、僕に勝てると思うな!僕は誰よりも強い!神に認められ異世界から来た最強の存在なんだ!モンスターごときに負ける筈がない!!」

 

うるさい。と言いたげに、ドラゴンが尻尾で吹き飛ばしてしまった。もうこれで、王国から来た人間で戦える人間はいなくなった。

 

「フリザさん。俺のいた国には、『人間時にはガス抜きが必要』って言葉があってね、たまには派手に暴れまわることが必要とされる意味の言葉があるんだよ!だからそう言う意味でドラゴンを相手に暴れてくれないかな?!ねぇお願い!300円あげるから!!」

 

言ってることは滅茶苦茶だが、間違ってはいない。人間たまにはガス抜きと称してストレスを発散させる物だ。それを利用して、目の前のドラゴンを倒して貰おうと言うのが直輝の魂胆なのだろう。

 

「成る程。ガス抜きですか。それは、実に良いですねぇ!」

 

「え?」

 

「良いでしょう!このフリザが、ドラゴンの相手をして差し上げましょう!!」

 

「え?」

 

「言っておきますが、簡単に壊れないで下さいね?せっかくのお遊びが台無しですから。では、行きますよ!」

 

「ちょっ!激しく別キャラ降臨してるんだけど!!?不味いって!その方向は不味いって!!!」

 

普段とは全く別のキャラになってしまったフリザに一抹の不安を抱えているが、今の状態のフリザ相手にドラゴンが万が一にも勝てる可能性はない。金色に輝く伝説の力でも身に付けない限り不可能だ。

 

「ハァッ!」

 

きれいなアッパーカットがドラゴンの顎に決まる。相手は自分の何倍もの大きさだが、簡単に飛んでいってしまう。

 

「おやおや。その程度で吹っ飛ばされては、私に勝つことなんてできませんよ?はぁ!」

 

倒れそうになった所に、後頭部に蹴りを叩き込みそのまま前に倒れこませる。

 

「たった2発ですけど、この程度ですか?もっと骨のある相手だと期待していたのですが、どうやら私の勘違いだったようですね」

 

空中に浮かびなから、ドラゴンを見下ろしている。兵士達が大量の砲弾を浴びせ、ケンジが強力な攻撃魔法を撃ってもダメージを与えられていなかったにも関わらず、たった2発の攻撃でドラゴンを地に伏せさせた。

 

「……フリザさん強いな」

 

「味方で良かったって心底思うよ……」

 

「どう言う原理で飛んでんだよ」

 

飛行の原理は簡単だ。体内の魔力を外に放出して巨大な膜を張り空中へ浮遊する。そして一部の魔力の膜を破裂させ推進力にして縦横無尽に空中を駆け回る。詰まる所膨張と破裂だ。それを繰り返しているだけのこと。口で言うのは簡単だが、実際にやるとなるとそうも行かない。調整を1つ間違えば全く別の場所に飛んでいく上に体が破裂する可能性だってある。熟練の魔法使い以外には絶対にできない芸当だ。

 

「いつまで寝ているつもりですかっ!もう少し全力を出してください。それとも、あんなちっぽけな大砲や魔法でダメージを受けた。なんて言いませんよね?」

 

倒れていたドラゴンを蹴りあげ、空中で容赦なく攻撃を叩き込んでいく。圧倒的すぎて止めてあげろと言いたくなってくるレベルだ。

 

「おっと。どこへ行こうと言うのですか?逃がしませんよ!」

 

翼を広げて逃げようとするドラゴンだが、そんなドラゴンの翼に指を伸ばして何かを出すと、翼を貫いて再び地面に落とした。

 

「なにあの魔法」

 

「魔法って言うよりは、ただの魔力の塊を撃っただけだな。とんでもない勢いで」

 

「オォホホホホホホホ!!逃がしはしませんよ!私は貴方を殺すと決めました。ですので、この場で塵になってもらいます!!」

 

もうフリザが誰も届かない向こう側へ行ってしまった。本当にドラゴンを消し飛ばすまでこの一方的な蹂躙は続きそうだ。

 

「この程度で音を上げるとは、だらしないですね~。言っておきますが私はまだマックスパワーの半分どころか、その半分も出していないんですよ?」

 

もはや爆弾発言が多すぎて、どれが本当の爆弾発言か理解できなくなってきた。しかも戦いの様子を見るからに、ハッタリではなく本当の事だと理解できる。

 

「しかし、それが実力だと言うのなら仕方ありません。そろそろ飽きてきたので、ここらで終わりにしましょう」

 

指先に小さい太陽にも似た球体を出現させる。それを徐々に膨れ上がらせていき、ドラゴンを簡単に呑み込みそうな大きさにまでする。街には防御魔法のお蔭で影響はないが、フリザやドラゴンの周りは熱で焼け焦げて行っている。

 

「これで終わりと言いたいところですが、さすがに地上で爆発させるのは不味いですね」

 

そう言うと、作り上げた太陽ごとドラゴンを空中に持ち上げ、爆発の被害がでない場所まで移動。太陽はまだ膨張を続けているが、もう良いですねとフリザが呟き開いていた指を閉じた。

 

ドカアアアアアアアン!!!

 

ドラゴンはフリザの作り出した太陽と共に消滅し、辺りに素材を撒き散らしながら消えてしまった。

 

「少しは発散させないと本当にダメですね。と言うよりも、久し振りに戦ったので随分体が鈍ってましたよ」

 

「あれで鈍ってたのか……」




力尽きたので今日はここまで!次回もお楽しみに!感想や評価、お気に入り登録もよろしくお願いします!!


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第12話

「ドラゴン襲撃騒動はフリザさんの活躍によって無事に終わりを迎えた。あれは怖かった……目の前に悪の帝王がいる気分だったよ」

「あれは本当に魔王討伐の戦いに参加しない方が良かった。確実に世界は終わってたからな。物理的に」

「星ごと木端微塵は回避できないな。ただただ恐怖体験をしていた1日だった」

「フリザにしばかれた神様も興味あるけどな」

「そう言えばそんなことも言ってたな。神様が心配だ」

「フリザの心配じゃねーのかよ」

「神様と喧嘩してかすり傷程度で帰ってくる人?だぞ。心配の必要なんてないだろ」

「あぁ。心配するだけ無駄だな。さてと、今回はドラゴン討伐直後か。早く本編行くか」

最近また更新を始めた「インフィニット・ネクサス」と「牙狼〈GARO〉~インフィニット・ストラトス~」もよろしくお願いします!


「ご覧ください直輝さん!綺麗な花火ですよ!」

 

「本当に綺麗だよ……ドラゴンの肉片やアイテムがドロップしてなかったらな」

 

フリザの得意魔法のサンシャインで吹っ飛ばされたドラゴンは、直輝の言うように体をバラバラにしながら街に降り注いでいる。太陽の様な熱量を持つ小さい火球をドラゴンに密着させた状態で破裂させたため、綺麗に爆発したと言えば確かに綺麗だ。ちょっと変わった花火と思えば悪くない。

 

「あ、鱗落ちてきた」

 

「それ逆鱗ですね。ランクSの素材ですよ」

 

「マジか」

 

ここでも運の良さを発動した。その後もいくつか直輝の元にアイテムが降ってきたのだが、当然のように高ランクアイテムで少し気味が悪い。

 

「なんて清清しいのでしょうか。さっきまでのストレスが嘘のようです!」

 

「まぁ、それは良かったよ。それよりも目の前の王国の人達どうするのさ」

 

「このまま王国に返してしまいましょう。ほい」

 

王国の人達に向けた指を軽く振ると、空間に穴が開いて全員を飲み込んだ。恐らく転送系の魔法だろう。全員を王国へと送ったようだ。ほとんど亡くなってしまったが、国王のケンジに批判が浴びせられ国が混乱しないかが心配である。

 

「さてと、スッキリしたところでいつもの生活に戻りますが」

 

「周り焼け野原だけど良いの!?」

 

「ちゃんと直しますよ」

 

その宣言通り、指を鳴らして焼け野原を元に戻してしまった。直輝とスライムは若干驚いているが、そろそろフリザのチートっぷりにも慣れてきたのか反応は薄くなってきている。

 

そのまま時間は過ぎドラゴン騒動から2週間後。次の日と言うかドラゴン吹っ飛んで焼け野原から直った直後から元の生活に戻っていた。住民達の適応力がある意味伝説級である。

 

「あの騒ぎが嘘みたいだな」

 

「最強チート魔王がいるんだぞ。あの騒ぎが今後語られることは無いだろうな。あ、ちょっと出掛けてくるぞ」

 

「どこに?」

 

「ちょっと森にな」

 

そう言ってスライムは何故か森へと出掛けて行き、直輝は暇な時間を過ごすことに。やること無さすぎて天上の木目の数を数え始める始末だ。因みに地下室は中途半端状態。しかし屋根の瓦は壊されたし柱も一部やられたし家具は完成してないしで、作業は進めたくても進められない。

 

「こうなるんなら余計に発注しとくんだったな~。何だよ届くのが27日後って。中途半端すぎるだろ。これだったら1ヶ月後って言われた方が納得できたわ」

 

徐々に暑くなってくる気温に僅かな焦りを覚えつつも、久し振りの何もない1日を満喫するためにベッドに横になって目を閉じた。後はこのまま1日が終わるのを待てば良いだけ。財布にも食料にも余裕があるからできることだ。

 

そしてその頃スライムはと言うと。

 

「久し振りにここまで来たな~。何も変わってねーけど」

 

1匹で森を散策していた。食料を調達しているようで、既にいくつかの野草を摘み取っている。しかし目当ての獲物が見つかっていない為か、帰る様子が無い。

 

「お、スライム」

 

「ガーディアンか。久し振りだな」

 

「あぁ。久し振り。最近人間と生活しているそうだな。どうだ?人間との暮らしは」

 

「案外悪くないぞ。運のステータス異常が起きてることを省いてはな」

 

「なんだ?0振り切ってマイナスにでも行ってるのか?」

 

「いや。その逆。運が良すぎてアホみたいに金がガッポガッポ入ってくる。うまい飯にもありつけるし悪いことはない。最近面倒事はあったけどな」

 

「何があったからは知らんが、取り敢えずは問題ないみたいだな」

 

「おう。あ、この辺に猪や鹿いないか?」

 

「欲しいのか?」

 

「最近魚しか食ってなくてよ。たまにはガッツリと肉が食いたいんだ」

 

「成る程。西の森、最近鹿が増えてきている様だ。町や国のギルドにも捕獲の依頼が届いてる筈だぞ?」

 

「そうか。それは助かった。1、2匹貰っていくとしよう。お前も仕事頑張れよ」

 

「あぁ。お前もッ!死ねゴミ野郎!!」

 

「ギャアアアアアアアアア!!!!!」

 

「あ~あ。森でゴミなんか捨てるから……」

 

鹿の生息している場所を聞いて向かおうとした矢先、旅人の様な人間がゴミを森に捨てた。それが視界に入るや否や、ガーディアンは会話を切り上げて旅人に突っ込んでいき、そのまま斬り捨てる。血飛沫が舞い上がり、返り血と言う形でガーディアンの全身に降り注がれた。ただでさえ白いガーディアンだ。鮮血を全身に浴びると見た目がかなりホラーになってしまう。

 

「さてと。西の森にでも行くか」

 

そのまま暫く歩いて森に入る。森の状況を見て、国や町に鹿捕獲の依頼が届く理由が分かった。大量に繁殖した鹿が原因で、森の一部だけ草木が1本も生えていないのだ。

 

「さて……どこにいる?食べ頃でちょうど良いサイズの鹿は?」

 

丸裸になった地面を進んで鹿を探していく。そこら中に足跡や糞は転がっている。辿ればすぐに見付かる筈。なのだが、量が多すぎて逆にどっちに向かって歩いているのかが判別できない。

 

「仕方ない。あれやるか。ガーディアン、済まん」

 

ここには居ないガーディアンに謝罪を入れると、人間で言う頭頂部の辺りを伸ばして、近くに奇跡的に残っていた木に鞭の様に振るう。結構な太さの木だが、綺麗に折れて倒れてくれた。

 

「北か。よし」

 

倒れた木の方向に進んでいくようだ。ほとんど運で進んでいく様で、倒れた方向に躊躇なく歩いていく。普通ならこんなことで見付かる筈はないのだが、10分程すると1匹の鹿がスライムの目の前に現れた。サイズ的には申し分ない。そして雄ではあるが、群のリーダーでも無ければ家族がいると言うわけでも無さそうだ。

 

「頂きます」

 

一言告げて、鹿の命を貰い街まで担いで持ち帰っていく。もう1匹捕る予定ではいたが、中々のサイズの鹿を確保できた為かもう捕まえる気は無いようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっと」

 

「ゴブァッ!?何しやがる!!」

 

「寝てたから起こしてやろうと思って」

 

「やり方を考えろ…!」

 

寝ている直輝の腹部に、スライムが取ってきた鹿を投げ付けた。しかしタイミングが悪いことに、ちょうど息を吐いたときに鹿を叩き付けられたせいで、少し胃袋の中の物が出てきそうになってしまう。

 

「で何を持ってきたんだ?」

 

「鹿」

 

「うわぁ~……どうすんだよこんなの」

 

「捌いてくれよ。魚やる感覚で。前に何と無くでできるかもって言ってたろ?」

 

「いや。せめて子鹿からだろ……こんなにデケーの素人にどう捌けってんだよ……仕方ない。肉屋に持っていってやってもらうか」

 

財布を取り出し、スライムが持ってきた鹿を抱えて肉屋へと向かっていった。着いてからすぐに事情を話して料金を払い、それぞれの部位に分けて貰った。

 

「多いな。2ヶ月いや、3ヶ月は行けそうだな……」

 

かごに入れて貰ったのだが、量が尋常ではなかった。直輝もスライムもよく食べる方ではあるが、それは平均よりも少し多い程度。アニメのキャラクターの様に腹が膨れて体型が変わるまで食べているわけではない。そんな2人ですら3ヶ月かかりそうな量なのだ。冷蔵冷凍の技術があるとは言え、不安になってしまう。

 

「まぁ良いや。どうにかなんだろ。ルーカスやフリザさんいるし」

 

人を処理場の様に言うのはどうかと思う。しかしそれも仕方の無い事だろう。腐らせて捨てる方が勿体ない。そして何より鹿に失礼だ。食材として自分の元に来たのなら全てを食べるのが礼儀と言う物だろう。

 

「ほい。お前お望みの肉料理だ。と言っても、急だったからただ焼いて味付けしただけだけどな」

 

初日の鹿料理はシンプルに焼いただけ。一応付け合わせにジャガイモの素揚げがトッピングされている。

 

「久し振りの肉だ……魚からようやく離れられた……」

 

本当に魚類には飽きていたようだ。泣きながら肉にかじりついている。直輝もスライムに釣られて肉を口に運んでいく。だが、

 

「やっぱり少し獣臭いな……」

 

「んあ?気にすることか?」

 

「俺の居た国じゃ、そこら辺は結構デリケートだからな~。豚とか牛とか鳥とか、癖の強くない肉が主な食用だったんだよ」

 

「成る程」

 

「まぁ、もう手は打ってるんだけどな」

 

そう言って、スライムにボウルに入れている鹿肉を見せてみた。中には確かに肉は入っているが、それ以外にも何かが一緒に入れられている。

 

「なんだこれ?」

 

「ヨーグルトだ。こっちのボウルには酒と一緒に入れてある。俺の居た国と違う酒だから効果が同じかは分からないけどな」

 

「酒は兎も角、なんでヨーグルトなんだ?」

 

「酒と同じだ。こうすると臭みが取れて肉が柔らかくなるらしい。やったことは無いけどな」

 

異世界。故に探り探り事を進めていく。冒険にしろ生活にしろ料理にしろ、この世界にある物と自分の頭を使い工夫をしていく。そんな直輝の生活を垣間見た瞬間である。




お久し振りです。忘れてた訳ではありません。単に書けてなかっただけです。

お詫びとして、仮面ライダー剣のブレイバックル・アブゾーバー・ブレイラウザーのCSM化を記念して、1つ思い付いたネタを。

状況、ピーコックアンデット戦or桐生レンゲル戦
「祝え!通常フォームで強敵を圧倒し、強化フォームを弱体化と言われるプロフェッショナル。 その名も”仮面ライダーギャレン橘朔也”! まさに生誕の瞬間である!」

こんなの考えてる暇があるならとっとと続きを作れって話ですよね笑


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第13話

いつの間にか出ていたアンケート機能。実験がてらこの小説で使ってみましょうかね。


スライムが狩ってきた鹿をチマチマと食べながら、何もない時間を過ごしていた。

 

「なぁ、資材届くのって今日じゃなかったか?」

 

「そう言えばそうだな……忘れてたわ。普通に飯作ろうとしてたわ」

 

「記憶を無くすほどの時間は経ってないだろ……」

 

27日と言う中途半端な日数だった故、忘れてしまうのにも無理はない。しかし直輝は完全に頭の中から資材到着が消えていた様で、現に作った挽き肉をこねて何かを作ろうとしている真っ最中なのだ。

 

「つーか何作ろうとしてんだよ?」

 

「コロッケ。揚げ物が食べたい気分でな。卵とパン粉と小麦粉出してくれ」

 

「あ~っと……パン粉ないぞ」

 

「え?切れてたか?」

 

「すっからかん」

 

「えぇ……メニューをハンバーガーに変えるか。野菜あるしパンもあるし」

 

棚から丸い形をした厚めのパンを取り出し、冷蔵庫に詰めておいた野菜もいくつか取り出していい感じに包丁で切っていく。後は作った具材をパンに挟めて少し圧力をかけ形を成形すれば完成。なのだが

 

「ヤベ……作りすぎた……」

 

テーブルの上に大量に並べられたハンバーガー。数にして20個と言う所だ。それが並べられていた。サイズは日本に置かれている基本的なサイズではなく、そこそこ大きい。そのせいか余計に多く感じてしまう。更にそれだけではなくハンバーガーの付け合わせでお馴染みのフライドポテトまである。1人と1匹では当然食べきれる様な量ではない。

 

「流石に、俺でもこんなにな食えんぞ。精々4つって所だ……」

 

「俺は2つあれば十分だよ」

 

「まぁこうなる予感はしてたけどな。5つ超えた辺りからヤベェ気はしてたよ。作りすぎる気はしてたよ」

 

「じゃあ何で止めないんだよ」

 

「声かけたけど聞こえてなかったろ」

 

どうやら、作ることに没頭していてスライムの声が届いていなかった様だ。しかしこの量は不味い。食べきれない上に日持ちする食品と言う訳ではない。残れば廃棄するしないが、それは余りにも勿体ない。この世界では1日1日の生活が気を抜けないレベルで厳しい物がある。食品はその1つだ。作った量が多いと言うことは、使った食材も多いと言うこと。これは数日後にかなり大きなダメージとなって帰ってくる。一口たりとも無駄にするわけには行かないのだ。

 

「よし。売るか」

 

棚に入れてあるバスケットを2つ取り出し、自分達の食べる分以外を詰め込んでいく。片方をスライムに持たせルーカスの働く道具屋へ、直輝はフリザのいる冒険者ギルドへ向かっていく。

 

「おい。昼飯の配達だ」

 

「え?頼んでないけど?」

 

「俺の相方が作りすぎたんだ。察しろよ。家に溢れかえってんだよ」

 

「あぁ。そう言うこと……まぁ、ちょうど小腹が空いてたし良いか」

 

小腹を満たすと言う量ではないが、1つ取り出して口へと運んでいく。

 

「お、ウメェなこれ。ガツガツいける」

 

「付け合わせのポテトもあるぞ」

 

「おう。貰うわ」

 

バスケットから1つ。また1つと取り出して食べ進めていく。8つ程詰め込んできたのだが、ルーカス1人で4つも消費してくれた。

 

「いやぁ~美味かった!サンキュー。これ代金な」

 

「おい。まだ4つ残ってるぞ」

 

「流石にこれ以上は食えねぇわ。そこら辺歩いてれば買ってくれるのがいるかもよ」

 

その後、確かにルーカスの言うように買ってくれる人が居た。が、売り切れたのは1時間後だった。そして冒険者ギルドに向かった直輝はと言うと……

 

「しまった……この冒険者ギルド、冒険者ほとんど集まらないんだった」

 

「当たってるだけに腹立ちますね。事実なので否定はできませんけど。で?本日の予定は?冒険ですか?クエストの受付ですか?」

 

「まさか。これだ。作りすぎて困ってんだよ。ハンバーガー」

 

「ハンバーガー?サンドイッチみたいな物ですか?」

 

「まぁそんなところだ。買ってくれ。昼飯として」

 

「美味しかったら払います」

 

不味いものに金は払いたくない。当然と言えば当然の反応である。見たこともない料理ならなおのこと。1つ取り出して観察し、一口かじりとる。

 

「…………」

 

「ん?どうした?」

 

一口食べると一旦皿の上に残りを置いて、裏へと回っていく。そして金貨を5枚ほど置いた。

 

「お釣りはいりません。全部買います」

 

「俺の分もあるんだよ。1セット残しとけ」

 

「チッ…仕方ないですね。じゃあ残りは置いといてください」

 

恨めしそうに直輝を睨みながらハンバーガーをかじっていく。直輝も1つ手にとって食べる。初めてな上に感覚で作ったため味が心配だったが、意外にも店に出てくるような味になっていて安心した。

 

「感覚で作ったが、意外にもどうにかなるもんだな~。コーラがあれば最高なんだが」

 

「コーラ?」

 

「あぁ。黒い炭酸飲料な」

 

「エールみたいな物ですか?」

 

「いや。酒じゃねーよ。まぁエールみたいな苦味はあるけど、どちらかと言えば甘い方だし、ジュースだな」

 

「あれかな?ちょっと待ってて下さい」

 

受付の中にある地下の倉庫につづく扉を開けて中に入っていく。そして中で何やらガサゴソ音を立てながら何かを探している。

 

「スゲー音と埃……」

 

ガダン!バキッ!

 

(手伝ってやりたいが……こればっかりはな~)

 

汗を流しながらフリザの入っていった倉庫の入り口を眺めている。手伝うべきか悩んでいるが、入ったらただでは済まない事が簡単に想像できてしまう故に入れない。

 

「あった。よっと」

 

大きい樽を持って地下室からフリザが出てきた。片腕には樽を乗せる為の台座も持っている。

 

「1番大きいので申し訳ないですけど、多分コーラってこれですかね?」

 

「何リットル入ってるんだよ……」

 

「さぁ?この大きさなら大ジョッキ200杯分と聞いたことはありますが」

 

(大ジョッキってたしか800ミリリットル入るんだよな……それが200だから160リットル。それが入る樽だから約50キロ。総重量、約210キロ……それを片腕で担いでもう片方の手で台座を持ってくるとか……どんな腕力してんだよ)

 

「いつも酒を運んでくれている業者がいるんですけど、間違ってこれを大量に持ってきてしまいまして。困ってたので買い取ったんです。でも人気が無くてずっと地下倉庫においてたんですよね~」

 

「大丈夫なのか?それ」

 

「まぁ、地下倉庫は昔使ってた酒蔵ですし、問題は無いかと思います。樽に隙間もありませんので」

 

保存状態が不安だが、栓を抜いてジョッキに注いでいく。プシュッと言う炭酸飲料ではお馴染みの音が響き泡を立てながら注がれた。

 

「うん。問題ないみたいですね」

 

「何年前に入ったんだ?」

 

「10年くらい前じゃないですか?覚えてませんね」

 

「大丈夫か?」

 

「飲めば分かりますよ」

 

恐る恐るジョッキに口を付けて飲み込む。10年くらい前から保存されてたと言われるコーラの様な飲み物。腹を下す可能性もある飲み物。なのだが

 

「全然問題ねぇ……味も悪くないし炭酸も強い……苦味が少し強いがこっちの方が好きだな」

 

「まぁ保存はしっかりしてましたから。一応軽く時間停止の魔法もかけてましたし(半年前に切れてましたけど)あと20樽程残ってますけど、持っていきますか?」

 

「あぁ、貰っていく」

 

「じゃあ工事が終わったら地下室の倉庫に持っていきますね。そろそろ終わるはずですので」

 

直輝はコーラを手に入れた。その後、工事終了と同時にフリザがコーラ樽を全部新しくできた地下室の倉庫に入れてくれた。




次回もお楽しみに。感想等もよろしくお願いします!

アンケートを設置したので、合わせてお願いします。結果によって次回内容が変化します。


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第14話

「前回は前枠無かったな」

「忘れてたらしい。アンケート機能の宣伝してたし」

「じゃあ前回のお復習からだな。前回は業者が入って地下室が完成。その間は作りすぎたハンバーガーを売り歩いて時間を潰してたな」

「俺がルーカス。お前がフリザん所に行ったんだったな~。俺は全部売るのに1時間と少しかかったが、お前は全部フリザが買い取ってくれたんだよな?」

「あぁ。しかもコーラにありつけた。最高だ」

「大量に地下室の倉庫に入れられたな。スペースがソコソコ持っていかれたけど」

「まぁ風呂上がりに飲んだり何かつまみながら飲めばすぐに無くなるだろ」

「俺は飲んだら体が少し黒くなるけどな。じゃ、本編行くぞ~」


「では明日、少し早い時間に出ますのでよろしくお願いします」

 

「はいはい。王国までだっけ?」

 

「えぇ。あのときの請求書を渡しに行きます」

 

手に持っているのは200枚はありそうな大量の請求書。ドラゴン討伐の時にこの町にやって来た王国の兵士達がやらかした問題の数々。小さな者は無銭飲食や食器の破壊などで、大きいものでは傷害罪や店の壁やドア等の器物破損。その他多くの苦情。被害総額が気になるところだ。

 

「いや~それにしても」

 

「ん?なんだ?」

 

「良い部屋ですね。この時季でも涼しく快適に過ごせるなんて。お酒が美味しいです」

 

「なんだ?エールか?」

 

「いえ。これはラガーです。最近解禁されたようで、この町にも流通する様になったんですよ」

 

「ふ~ん。そう言えば、エールとラガーって何が違うんだろうな?俺はどっちも飲めねぇけど」

 

「エールは高温発酵で発酵期間が短い。それに対してはラガーは低温発酵で発酵期間も長いです。まぁ、私は美味しければ何でも良いので気にしませんけど」

 

因みに発酵温度はエールが20℃~25℃、ラガーが0℃~15℃程で、低温のラガーの方が雑菌の繁殖が少なく管理しやすい等のメリットなどがある。日本でビールと言えばラガーを指すことが多い。

 

「あ」

 

「どうした?」

 

「エールで思い出した。王国から昔こっちに入れて貰ってたエール。粗悪品で不味かったんですよね。この程度の町ならこれで十分だとか失礼な事も言ってたんですよ。その分も請求書に入れましょう。舐めた酒を買わせた慰謝料として」

 

現代では完璧に法律に触れそうな行為だが、この世界ならまぁ問題は無いだろう。

 

「と言うか直輝さんはお酒飲めないんですね」

 

「あぁ。どうもアルコールの感じが苦手でな。昔上司から一応飲めるようになっておいた方が良いとは言われたんだが、いつになっても飲めないんだよな~。コーラで十分」

 

ジョッキに注ぎ込んだコーラを飲みながら、テーブルの上に置いておいた肴を食べる。

 

「でも意外だよな~。冷蔵庫に使われてる素材をコンクリートに混ぜ込んで作った壁なのに、温度は過ごしやすいままだ。もっと冷えるもんだと思ってたんだが……」

 

「万年氷の配分が良かったのかもしれませんね。あと少し多かったら寒かったかもしれませんが、まぁ良かったじゃないですか」

 

建築中に無意識に運の良さを発動していた様だ。もう固有スキル「幸運」と言われてもなんの疑問も抱かないだろう。

 

「あれ?今日スライムさんはどうしたんですか?」

 

「コーラ樽の上で寝てるぞ。なんか樽と樽の隙間がちょうど良いとかで、最近はそこに嵌まって寝るのが楽なんだと」

 

「あぁ。あれスライムさんだったんですか。なんかゴミがたまってるな~と思いましたよ」

 

「何で倉庫に行ったんだよ……つーな掃除はしてねーよな?スライム捨ててねーよな?」

 

「捨ててませんよ。倉庫には私のラガーとエールを置きに入りました。ついでにルーカスさんのウィスキーも樽で置いてます」

 

「いつの間にか飲み物共有スペースに……?!」

 

「さてと。十分涼みましたので今日は帰ります。明日はよろしくお願いしますね」

 

「はいよ~」

 

ジョッキはマイジョッキの為、軽く水で濯いでから帰っていった。その姿を見送りながらコーラを飲むと、1つの疑問が頭に浮かんだ。

 

「…そう言えば、俺まで王国に行く必要はあるのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁ~あ……眠い」

 

「おはようございます」

 

「おう、おはようさ~ん」

 

寝ボケ気味の直輝とスライム、そしてバッチリ目が覚めているフリザが町の入り口に立っていた。その数分後にフリザが手配したであろう馬車が到着。2人と1匹はそれに乗り込んで王国へ出発していった。

 

「そう言えば、何で王国に請求書出すだけの仕事にコイツまで同行させてるんだ?」

 

「まぁ、本来なら私1人で行くところなんですが、あの国王相手です。適当にあしらわれれば王国滅ぼせば良いんですが」

 

「おい何サラッと国1つ滅ぼそうとしてんだよ……」

 

「それは最終手段です。国王殴れば済むのですが、今後絶対に面倒な事になるので、運がステータス異常起こしてる直輝さんが必要と言うことです。なんか上手く行きそうな気がしますので」

 

「結構適当だよね……人選が適当すぎるよね?」

 

「とは言え、運はかなりの武器になります。私はレベルの割りには運のステータスが低いので。全部魔力や攻撃力、防御、HPに振ってましたし」

 

所謂ガチ勢タイプがフリザ。ネタ勢タイプが直輝と言うことになる。恐らく装備を付ける時は完全にネタ装備になることは避けられない。

 

「取り敢えず外交問題は起こしたくないので、運の良い直輝さんを連れて自分に都合の良い方向に持っていこうと言う魂胆です」

 

「あんた相手に歯向かえる人間なんてこの世にいねーだろ……」

 

案外ブラックな内容の話を聞いてしまったが、その後も馬車は順調に進んでいき休憩ポイントに辿り着いた。馬車馬と運転手は軽く休憩を取り、フリザと直輝とスライムは馬車から降りて体を伸ばしている。

 

「あ、ガーディアンだ。こんな所にもいるんだな」

 

周りを見渡していたスライムが見慣れた人型のモンスターの1種であるガーディアンを見つけた。ナイフ型の武器を腰にぶら下げて歩いている。

 

「この前洞窟に素材収集に行ったときも見掛けたけど、アイツらってなんなの?」

 

「さぁ?基本穏やかだけど森を汚すヤツを問答無用で潰すモンスターってことしか知らねーからな」

 

「あぁ。彼らですか」

 

「知ってるのか?」

 

「知ってるも何も、作ったの私ですから」

 

「「………………」」

 

「何百年前だったかな?確か勇者一行が魔王討伐した後でしたけど、モンスターが大量発生したときがあってギルドに大量にモンスター討伐依頼が届いてたんですよ」

 

因みに、当時のフリザはただの冒険者である。レベル6万程の控え目なレベルではあるが。

 

「一々討伐が面倒だったので、自立してモンスターを討伐するモンスターを造り上げたんですよ。それがガーディアンです。因みに種類は沢山いますが、大きく分けて3つ。目の前にいる割りかし何でも対応できるオールマイティー型のマルチガーディアン。高レベルモンスター専門のキラーガーディアン。天災クラスの異変を解決するゴッドガーディアンが私の造り出した大本のガーディアン達です。ふむ……自己進化して繁殖と私が作ったときよりも多様な存在ができたようですね」

 

直輝とスライムは何か聞いてはいけないことを聞いてしまったかのように、顔を引きつらせている。その後もう1度馬車に乗り込んで王国に向かって進み始めた。

 

「ウォット!?……ありゃ~。こりゃ今日は進めないな……」

 

「どうしたんですか?」

 

「あぁお客さん。いやその……あれが道塞いでて」

 

「ん?なんだあれ?」

 

「これは……」

 

馬車から出たフリザが道を塞いでいる巨大な岩を触り始めた。

 

「珍しい形と色の岩だな。丸いし色も普通の岩と違う……」

 

「魔力が微量に含まれてる……この岩、攻撃魔法じゃ破壊できませんね」

 

「なんで?」

 

「こう言う無機質なものに魔力が混ざると、人間やモンスターの使う攻撃魔法が通じなくなるスキルが発動して強度も上がるんですよ。上位冒険者が身に付けてる装備はこの原理が利用されています。なので物理攻撃での破壊しかありません。とは言え……こんなに大ききものとなると」

 

そう言いながら拳を握り岩を殴ってみた。が、軽く動くだけで壊れる様子はない。普通ならフリザが軽く殴っただけで砕けて前方に数十メートルの範囲の地面が風圧で抉れる。その拳でも破壊できないのだ。

 

「大きさに比例して硬さが異常なまでに上がってる様だな」

 

「仕方無い……スキル、筋力向上。レベル3」

 

「え?なにそれ」

 

フリザの体の周りを赤いオーラが包み筋肉が膨れ上がったように見えたが、それは一瞬ですぐにオーラの様な物も消えて膨れた筋肉も元の状態に戻っていった。

 

「今のは単純な筋力向上スキルだ。レベルは確か20まであったはずだな」

 

「私は30まで行けますけどね」

 

「何で上限越えてんだよ!!おかしいだろ!!」

 

スライムの鋭いツッコミが入ったところで、岩の周りをぐるりと1周。掴みやすそうな場所を探しだす。

 

「この辺で良いかな?よっと!」

 

「え?」

 

「ホイッと」

 

岩を持ち上げ、近くにある岩山に投げ飛ばした。飛んでいった岩は綺麗に山の中腹に突き刺さり固定。山が崩れない限り二度と落ちてくる事はないだろう。

 

「地面も直して……これで通れますよ~」

 

「あ、あぁ……じゃ、出発しようかな……」

 

開いた口が塞がっていないが、2人を馬車に乗せてから再び馬を走らせ始める。この旅があと2日も続くとなると、少し先が重たくなってきた。




次回もお楽しみに!感想やお気にいり登録等もよろしくお願いします!!

スキル紹介~

「ツッコミ」
スライムの固有スキル。様々なボケに対して鋭いツッコミを叩き込む。なお、ダメージを与えるようなスキルではない。

「驚愕させる」
フリザの固有スキル(と言われてもおかしくないもの)。規格外な強さと人生経験で、相手の度肝を抜くような言動する。された相手は一定時間行動不能。

「筋力向上」
ソコソコのレベルになれば取得可能なスキル。単純な筋力底上げスキル。レベルは20までだが、フリザに限り30まである。この世界で1位2位を争う脳筋スキルである。


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第15話

前回のお復習

200枚はあるんじゃないかと言う大量の請求書。相手は全てドラゴン討伐に来た王国。被害総額を全額払ってもらうため、フリザと直輝とスライムは王国に向かっていた。


「そろそろ王国ですね。直輝さん、これを腰に着けてください」

 

渡したのは直輝が発掘した剣だ。貯金としてギルドに預けていたのだが、ハッキリと言ってまともに使った試しがない。一度だけ国王のケンジに喧嘩を売られたときにフリザが丸腰じゃ可哀相と言うことで渡して以来だ。

 

「何でこんなのが必要なんだ?」

 

「面倒なことに、あの転生者が王になってから冒険者は王国には一定以上の実力の持ち主以外入れない事になったんですよ。そこでこの剣が頼りになると言う事です。因みに私は適当に魔法でも見せれば問題ありません」

 

「あぁ。成る程」

 

この剣は最上級冒険者に与えられるもの。つまりこれが身分証明書みたいなものになると言うことだ。

 

「俺は大丈夫なのか?コイツと一緒とは言えモンスターだぞ」

 

「まぁ問題無いんじゃないんですか?多分どうにかなります。じゃ、行きますよ」

 

門を潜り中へ入っていった。王国全体を囲んでいる壁は思ったよりも薄い印象がある。大体2歩3歩で通り抜けられる程度の厚さしかない。フリザが殴れば一瞬で砕けそうだ。そしてそのイメージが鮮明に直輝とスライムの頭に流れた。

 

(確か、うやむやにされたらこの国を消し飛ばすんだったよな……マジで簡単に消し飛びそうだな)

 

冷や汗をかきなから、国全体を見渡していた。一応最強の王国として名高いのがここなのだが、フリザの手に掛かれば一瞬にして瓦礫の山に変わる。お手軽に巨大な古墳が完成しそうだ。

 

「おい、止まれ」

 

2人の兵士に止められた。恐らく憲兵だろう。しかしやり方が手荒い。いきなり槍を突き付けられた。

 

「人に尖った物を向けないでください。邪魔です」

 

「ハェッ!?」

 

結構高価そうな槍だったが、フリザに握られ形が歪んでしまった。この光景に憲兵の2人は顎が外れそうなくらい口が開き、目玉が飛び出そうなほど目を見開いている。

 

「ッ!この国に何の目的で来たか話せ」

 

「だから尖った物を向けるなって言ってるでしょ」

 

槍を捨てて腰の剣を抜いて向けるが、刀身がサラダ味のプリッツの様にポキポキ折られていく。

 

「この前のドラゴン討伐の際の請求書を届けに来ました。国王に全額支払って貰います。身分はこれで証明できますよね」

 

直輝の腰に着けている剣、自身の得意魔法であるサンシャインを見せ、通してももらおうとした。

 

「待て。そのスライムはなんだ?モンスターだぞ」

 

「あぁ、俺のお供だ。気にしないでくれ」

 

適当に憲兵をあしらい、フリザと共に城に向かっていった。中は一般解放されているようで、1階は普通の人も出入りしている。特に重要なものは無いと言う事なのだろう。

 

「国王の部屋は3階です。用事は特にありませんが、特別ここには居たくないのでさっさと仕事を終わらせましょう」

 

「へいへい。まぁ観光じゃねーからそりゃそうか」

 

「モンスターの俺でも普通にはいれる城ってどうなんだよ。ヤベェと思うぞ」

 

「未熟者が強さを持つと傲ると言う事です。ここ200年、天変地異クラスの災厄は到来してません。魔王も勇者がボコってから音沙汰なし。当時の魔王軍も消息不明ですから、警戒心が無くなったのでしょう。故に現状王国最強と言われている戦士は、レベル60程度の雑魚ですし、魔法の技術も600年前に比べて随分と衰退しました。良くも悪くも、争いが人間の文明を発展させるんですよね~」

 

「本来ならふざけるなと一蹴りする言葉なんだろうが、600年以上生きてきたアンタが言うと妙に納得しちまうな」

 

「実際、今ある技術のほとんどが争いが元ですからね。普段使ってる冷蔵庫は飢餓に備えるための物でしたし、造船は海上戦や新天地発見のため、攻撃回復防御等の全ての魔法や武術は言わずもがな。喧嘩に型ができていくつかに派生したのが現在の武術と言うものです。護身用だ何だと取り繕おうが、実際はそんなもんですよ。さてと、着きましたね。あれが国王達がいる部屋です」

 

「立派なもんだな~」

 

「一国の王がいる部屋ですよ。当然じゃないですか」

 

細かい装飾が施され、きらびやかなデザインをした巨大な扉。大人の男が全力を出して漸く片方が開けそうなイメージだ。

 

「妙ですね。普段なら扉の前にも近衛がいるはずなんですが……」

 

「良いんじゃねーの?」

 

「扉を勝手に開けるのは失礼ですからね。壁をぶち抜きましょう」

 

「そっちの方が遥かに失礼だろ!ここ王国の城だぞ!」

 

「客人が来るのを分かってて居留守を使うのが悪いんですよ」

 

スライムのツッコミを無視して、扉から少し離れた位置にある壁にデコピンをした。するとどう言うことだろう、綺麗に風穴が開き中の様子を確認することができた。

 

「お久し振りですね。ケンジ国王」

 

「ふ、フリザ!それにスライムを連れた妙な冒険者の直輝まで……!」

 

「あぁ、バリケード作って待っててくれたんですね。これは大変失礼しました。今から扉を開けて入ってきます」

 

その言葉に、重そうなタンスやテーブル、机や椅子で扉を固めていた近衛2人は顔を見合わせ、悲鳴を上げながら急いでその場から離れる。

 

バゴーン!!

 

またデコピンで吹っ飛ばしてきた。

 

「さてと、これで話ができますね。既に憲兵のお2人から話は聞いていると思いますが、この大量の請求書、全額支払って頂きます。理由はお分かりですよね?まぁ払っても払わなくても構わないのですが、払わなかった場合はどうなるか、ご存知ですよね?」

 

右手に請求書。左手にサンシャインを出しながら脅しにかかった。もはや王国には、請求額を全額払うと言う選択肢以外無いようなものだ。

 

「ま、待てフリザよ。こちらにも準備と言う物がある。流石に今すぐと言う訳には」

 

「なら家具を売ってでも金を作ってこい。それくらいは国王でもできるでしょ」

 

「流石にそう言うわけには……」

 

一刻の猶予も無いのだが、ドラゴン討伐時に自分達が仕出かした事は鮮明に覚えている。額は恐らく伝説的な物になっているはずだ。それを今すぐ全額支払うのは王としての信頼が揺らぎかねない。故に少し待ってほしいのだが、目の前の帝王はそれを許さないだろう。

 

「おい貴様。一国の主に向かって何をしている」

 

「戦士長!戻ってきたのか!」

 

「国王陛下、ただいま戻りました。して、この者達は?」

 

「ドラゴン討伐の際に拠点にした町の者だ。兵士が手荒な真似をして町を荒らした為、その請求に来たのだ」

 

背後から突然普通の兵士よりも高級そうな装備で身を包んだ男が現れる。この国の戦士長の様だ。

 

「なぁ、このオッサン誰だ?」

 

「さっきフリザがコケにしてた王国最強の戦士だよ。フリザに慣れちまったせいで弱く見えるが、普通の人間からしたら化けもんだよ」

 

後でスライムと直輝が話しているが、それと平行してフリザ達の話もズンズン進んでいく。

 

「たかが小さい町の請求なんぞ、無視してしまえば良いじゃないですか」

 

「しかし此方に非があるのだ。無下にもできん」

 

「まったく……王は優しすぎますぞ。ならこうしましょう。この戦士長ギガに、この女が勝つことができたら払うと言うのは」

 

「は?」

 

「兵士たちから話は聞きましたよ。なんでもこの女、ギルドの受付嬢にしては相当の力を持っているとか。でしたら!この私と一騎討ちをしてもし、勝つことができたら払ってあげれば良いのです。まぁ、私が負けるなど万に一つもありませんけどね。魔法使いが戦士に勝つなど笑止千万!すぐに終わりますよ」

 

「良いですよ。そちらがそれで払ってくれると言うなら、いくらでも勝負は受けましょう。とは言え……先程の言い草には少々腹が立ちましたね。貴方には地獄以上の恐怖を味わわせて上げますよ」

 

「ふん。大した自信だな。だが後悔するぞ。怪我では済まんのだからな」

 

こうして、城のど真ん中で派手な喧嘩が起ころうとしていた。

 

「あぁ、また宇宙の帝王を見れるのか……」




今日はここまで!次回の更新は未定です。ゴールデンウィークに休みなんてありませんからね。ではでは次回もお楽しみに!感想や評価、お気にいり登録などもよろしくお願いします!!


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第16話

「前回はかなりヤバい所で終わったな」

「あぁ。あの国王はドラゴンの一件でフリザの恐ろしさを目の当たりにしたお陰か、少しまともになっていたが、またバカなヤツが現れて喧嘩売って……」

「今国王の部屋で一触即発状態。とは言え、どうなるかは大体予想できるけどな」

「じゃあとっとと第16話行くぞ」


「さてと、始めますか」

 

部屋の中心に立ち、王国最強と言われている戦士長と対峙していた。フリザは力が入ったとは言えない無表情の状態で戦士長を見据えているが、逆に戦士長は余裕その物の態度を取っており、ニタニタと気持ち悪く笑っている。

 

「兵士達の話だと、確かドラゴンを圧倒したんだって?アンタ程度に圧倒されるドラゴンのレベルのたかが知れるな!」

 

「いいからさっさとかかってきなさい。言っておきますが、全力で来ることをお勧めしますよ?」

 

「フッ。後悔するなよ……ハァァァァア!!!」

 

フリザの挑発を受けて、体に力を入れた。すると辺りの家具が振動し、床などにある埃やゴミ等が浮き上がり始める。

 

「ハアアア!!!」

 

「ほう。これは驚きました。先程までレベルは60程でしたが、一気に倍以上に膨れ上がりましたね」

 

「驚いたか?これが俺の固有スキル!レベルアップだ」

 

「成る程。その様な固有スキルをお持ちでしたか。ここ数百年、魔法や戦闘技術、人間その物のレベルは大分落ちましたが、どうやらスキルだけは目覚ましい発展を遂げていたようですね。どれ、正確なステータスを見てみましょう」

 

「いいぜ。でもやる気は無くすなよ?戦う気のない相手を一方的に甚振るのは戦士として気が引けるからな」

 

自信満々に言う戦士長だが、そんなのを無視してマジックアイを発動。レベルを含む全てのステータスを細かくチェックした。

 

「レベルは140に到達しましたか。これはスゴいですね」

 

「ふん。だろ?今の俺は魔王を倒した伝説の勇者よりも高いレベルを持っているんだ。止めるなら今のうちだぞ?」

 

「平和なこの時代において、そこまでのレベルを持つことは確かに自信に繋がりますね。では、ここで参考までに今から貴方が戦う私のレベルをお教えしましょう。私のレベルは、53万です」

 

この男にとって、固有スキルであるレベルアップは自分の全ステータスを一気に上げることができる最強のスキルである。確かに戦士長に届く人間は存在しないかもしれない。だが、それは魔王や魔王軍の存在しない平和な時代でのこと。勇者と魔王、人間とモンスターがバチバチに争っていた時代から生きているフリザに、その道理が通じるとは思えない。

 

「なっ!?」

 

「ですが、勿論フルパワーで貴方と戦うつもりはありませんからご心配なく」

 

「グッ……!」

 

「そうだ。私はこの左手だけで戦ってあげましょう。それなら、少しは楽しめるかもしれません」

 

「グググ……ほざけぇぇぇぇぇえ!!!!」

 

構えていた剣を振り上げ、力を込めて一気に降り下ろした。だがフリザは慌てる様子もなく、それどころか自ら首を差し出しに行った。

 

「ッ!?」

 

「ホホホホ。いけませんね~。せっかくちゃんと当たるように首を差し出してあげましたのに、この程度なんですか?まぁしかし、レベル140ならこの程度ですね」

 

確かに剣は首に当たった。その証拠に、戦士長が剣を振るった衝撃波で剣が向いている方向の物は綺麗に片付いている。だが、フリザは血も流すことなく、首で剣を受け止めている。そして剣の刀身を握り、一気に砕いた。

 

「ナニッ!ガハァッ!?あぁ……」

 

一瞬の事で見ていた人達は理解できなかったが、フリザは刀身を砕いた直後に、戦士長の鳩尾に肘鉄を叩き込んだのだ。これだけの事だが、レベルに雲泥の差がある。単純な攻撃でも大ダメージを受けることに間違いはない。レベルが53万と140ではなおのことだ。

 

「おや。これはこれは、失礼しましたね。お返ししますよ」

 

膝をついて倒れている戦士長に砕いた刀身の半分を投げて渡した。脂汗をにじませ、胃液を吐いているが無理をしてでも立ち上がろうとしている。

 

「無理はしないほうが良いんじゃないんですか?」

 

「ぐぁ……グッ!」

 

「殺すつもりはありませんが、私が勢い余って殺さない内にさっさと金を払ったほうが身のためですよ?」

 

「はぁ、はぁ……ウオォォォォォオ!!」

 

「?」

 

再び体に力を入れると、へし折れた刀身に戦士長の魔力が集り刀身を形成していった。

 

「ほう。コイツは驚きました。魔力で剣を作るとは。ですが、剣が元に戻っても同じことですよ?戦士職の貴方には剣を形成し、更に高い硬度の刀身を作るほどの魔力は当然無い筈です。マイナス分は魔力以外のステータスから差し引かれますから、体力などは随分と落ちている様ですよ?固有スキルで上がったレベルも随分落ちて、今や元々あった60をも下回っています」

 

マジックアイは常時発動している。故にリアルタイムで戦士長のステータスの確認が可能だ。徐々に徐々に、戦士長の体力等が低下しているのを見ているのだろう。力が落ちていることは戦士長も理解しているが、戦士が魔法使いに負けると言うのはプライドが許さないのか、剣を再び構えた。

 

「やれやれ。あれほどの差を見せ付けられてもまだやるのですね……全く。この国の人間は何を考えているのか、さっぱり分かりませんよ」

 

「貴様などに……貴様などに分かってたまるか!ただの町のギルドの受付嬢ごときに、王国戦士の俺の考えが分かってたまるか!!」

 

感情に任せてか、剣をやたらに振り回した。だが、当然フリザに当たるはずがなく、全て避けられて戦士長の体力を削るだけの結果になった。

 

「なぁ王さま。そろそろ止めたらどうだ?お宅の戦士長、死ぬぞ」

 

「そ、そうだな……戦士長、そろそろ―」

 

「黙っていて下さい!勝負は終わっていません!」

 

「おや?勝負だと思っていたんですか?私は単なるお遊びかと思いましたよ」

 

「なッ!……どこまで戦士を愚弄する気だ!」

 

恐らく最後の一撃だろう。刀身がフリザに当たる直前で大爆発。フリザは爆発に飲み込まれた。

 

「フフフ……ハハハハハハ!!どうだ!反応できまい!如何にレベルが高かろうが、この一撃を受ければただでは済まないぞ!魔法使いごときが戦士に逆らうからこうなるのだ。思い知ったか!ハハハハハハ!!」

 

完全に勝った気でいる。フリザの立っていた場所は半径2メートル程爆煙に包まれており、状態は確認できない。だが、普通なら戦士長の勝ちを誰もが確信する。

 

「ハハハハハハ!ハァハハハハハ!…ハッ!?」

 

「ふぅん。埃を巻き上げただけですか。いい加減飽きてきましたね。そろそろ終わらせるとしましょう」

 

人差し指を伸ばし、戦士長の額に軽くぶつけた。だが、それはフリザにとっての軽くであり、常人にとってそれは大砲の一撃と言われても可笑しくない程の威力がある。大きく後方に飛ばされ、壁にめり込んでしまった。

 

「さて、相手に戦う意思は残っていないと思いますが、まだ意識はあるようですね。どうしますか?金を払うことを約束して、この茶番を終わらせますか?それとも、国の大切な戦力である戦士長を失いますか?選ぶ権利は国王である貴方にありますよ?」

 

「金はお支払いする。だが少し待ってもらいたい。1週間いや5日で良い!それまでには必ず揃えてお渡しする。今日のところはそれで勘弁して貰えないか?」

 

「5日?長いですねぇ。4日間猶予を与えます。それまでに揃えなさい。でなければ国もろともあなた方を消します」

 

最後に脅しをかけ、直輝とスライムと一緒に自分達の町へと帰っていった。帰りは魔法で飛んでるため、馬車を使うよりは速いだろう。そして先程まで戦闘が行われていた部屋だが、見ていた人達は腰を抜かして座り込んでいたが、期限は4日間しかない。ケンジはすぐに立ち上がり、城の兵士をかき集めて請求額の収集に動いた。




今回はここまで!次回もお楽しみに!感想や評価、お気にいり登録などもよろしくお願いします!!


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第17話

「また、宇宙の帝王が降臨したな……」

「戦士長をあそこまでボコボコにするとはな……しかもほとんど不意打ちの爆破を受けたのに無傷とか……」

「レベル53万は伊達じゃねーな」

「今度魔王と全力で戦ってみて欲しいな。星が壊れない程度に」

「勇者が魔王討伐したみたいだしそれは無いだろ。じゃ、とっとと本編行くぞ~」


「あれ?魔法で帰れたなら行きも魔法で良かったんじゃないか?」

 

「この魔法は行ったことがある場所に飛んでいく物なんですが、道を覚えてないと使えないんですよね。最後に王国に行ったのは何百年も前ですから、道を完全に忘れてました」

 

「じゃあ4日後はこれで飛んでいくのか?」

 

「そうなりますね。馬車より速いのでこれで行きます」

 

軽い会話をしている間に町へ着いてしまった。馬車を使うより格段に速いのがよく分かる。

 

「あ。おーいフリザー!お前に客人が来てるぞ~!」

 

丁度町の上を通ったときだ。ルーカスが大声でフリザに客人が来ていることを伝えた。ギルドの中まで飛んでいくつもりだったが、話を聞くためにルーカスの側に降りることにした。

 

「私に客人なんて珍しいですね。どこの国からですか?」

 

「いやそれが、アンタの古い友人って言ってんだよ。あと旅をしていたって。昔はこの町に住んでたそうなんだが……正直覚えてなくて」

 

「誰でしょう?」

 

「取り敢えずギルドで待って貰ってるから、会いに行ってやってくれ」

 

それを伝えると、ルーカスは自分の店の方へと帰っていった。残されたフリザと直輝とスライムは唐突な来客に少し戸惑っている様子を見せている。

 

「アンタの客って誰だ?」

 

「誰でしょう……?そもそも昔この町に住んでたって言われても、どれくらい昔の話なのか」

 

「少なくとも今の住民が生きてない頃なら、結構絞れそうな気もするんだがな」

 

「ん~……私昔の知り合いとかは会わないと思い出せないタイプなんですよね~。会ってみない事には何とも言えませんよ」

 

フリザへの客だが、古い友人となれば興味が出てくる。直輝とスライムの2人もフリザと一緒にギルドへと向かっていった。

 

「フハハハハハ!ようやく来たか!久し振りだなフリザよ!ハハハハハ!!」

 

「……私のラガーが樽1個無くなってる?」

 

「済まないな。貴様が来るまで暇だったんで、酒を飲ませてもらっていた!中々に良い酒だったな!」

 

随分と大味な人間が出てきた。

 

「で?誰なの?このグラサンかけた如何にもな感じの人。パッと見ただの変態だけど……」

 

グラサンと言うよりも、舞踏会で着ける仮面、ドミノマスクに近いものだ。しかも服装もかなり特徴的だ。基本的にこの世界の住人でハッキリとした役割のある人間は「それ普段着か?」と質問したくなる格好をしているが、目の前の男はそれだけではなく、この世界でも滅多に見ないドミノマスクとマントを普通に着けている。普通に不審者である。

 

「ディック……貴方でしたか。直輝さん、紹介します。この男はディック。見ての通りの変態です」

 

「変態とは失礼だな~。私は自分の本能に従って生きているだけだ!それを変態だと言うのなら世界が間違っている!」

 

「あぁ……本当に変態だな」

 

「この男、魔眼持ちなんですよね……しかも全知全能で全てを見通すことのできるヤツ」

 

魔眼。特別な魔力を持つ眼球の事で、生来の特殊能力。基本的にはマジックアイを常時発動しており、そこに更に個別の能力が追加される。大体は敵の魔法を吸収し自身の力にしたり跳ね返したり、幻を見せたり解除したり等が可能。他人に眼の移植は可能。故に悲惨な最期を迎える者が多い。魔眼を持つ人間は総称して「魔眼持ち」と呼ばれている。

 

「元々は魔眼の力を使って怪我や病を治す善良な医者だったのですが、あることを切っ掛けに変態として目覚めました」

 

「あること?」

 

「この男の魔眼は先程も行った通り全知全能で全てを見通せます。文字通り全てを。なのでそれを利用して病気や怪我を治していたのですが、あるとき来た女性の患者が原因で……」

 

『あの~。診察に来た者なんですけども』

 

『アルドさんですね。お待ちしていました。事前の問診では数年前の怪我による筋肉や節々の痛みとお伺いしましたが、間違いはありませんか?』

 

『はい。そこそこ大きな怪我ではあったんですが、もう結構前の事ですけど、ここ1週間怪我をした箇所に痛みが出てきて……』

 

『分かりました。では服を脱いでベッドに横にうつ伏せになってください。触診しますので』

 

『よろしくお願いします』

 

『それでは始めます。力を抜いてください』

 

魔眼を使い、痛みを起こしていると思われる部位を探っていく。魔眼ならすぐ見つかるだろと言いたいが、見付けられたとしてもそれがどの程度の物なのかまでは判別できない。故に触診等が必要なのだ。

 

『ここら辺ですかね……』

 

『アッ!そ、そこは、ちょっと…///』

 

『し、失礼しました!(しまった…俺とした事が……これは診察だぞ。いかんいかん。平常心平常心)』

 

『ここはどうですか?』

 

『んっ!んんん……!あ、あの……そこ、弱いので、触るなら優しくお願いします///』

 

『ッ!?……アルドさん。失礼ですが現在交際相手はいますか?』

 

『へ?い、いえ。独身で誰とも交際していませんけど?』

 

『では今晩、私の家に来てください。そこでゆっくりと診察しましょう』

 

「とまぁ、以上の事があってから、コイツは医者としての仕事を全て放り投げて、魔眼を女遊びの為に使うようになりました」

 

「最低の屑野郎じゃねーかよ……」

 

「魔眼持ちって、もっと威厳のある存在の筈なんだけどな~……」

 

「それにコイツ、クエストや冒険をするわけでもなく、どこかに行っては女を手込めにしてるんですよね」

 

「手込めとは侵害だな~。私は相手との同意のもと行っている。旦那や恋人持ちには手を出さないし、暴力的な行為も一切しない。相手が心の底から解放される事をするだけだ!ところでフリザよ、そこにいる男も気になるが、お前はまだSを気取っているのか?何度言ったら分かるんだ?お前は確かにSだが、その奥底にはドMの才能が眠っているのだ!さぁ!本当の自分を曝け出すのだ!」

 

「貴重な魔眼持ちとは言え、いい加減にしないと殺しますよ?」

 

手のひらの上でそこそこ大きな火球を作り出した。恐らく当たれば塵1つ残らずに消滅するだろう。

 

「この男、さっきからなに言ってんだ?」

 

「医者を辞めた後、コイツは魔眼を使って女性の体で感度の高い所や、サディストかマゾヒストかを見抜いて女性と関係を持つんですよ。サディストであっても多少のマゾッ気があればそれを解放させたりします」

 

「もう始末されててもおかしくない存在だな……」

 

「私も何度かコイツを墓に埋めたんですが、コイツの固有スキルのお陰で無駄に終わるんですよね」

 

「因みにこれが私の固有スキルだ!」

 

一応資格として持っている冒険者カードを直輝に見せる。フリザの言っていた固有スキルの欄に目を向けると、魔眼の他にも2つ程記載されている。

 

「えっと……超耐久とオートヒール(極)?」

 

超耐久、自身のHP以上のダメージを食らっても必ずHPが0以外にはならない。そしてオートヒール(極)は文字通りダメージを受ければオートで回復してくれる物だ。極はそれの最上級。回復量もかなりのもの。尚、この2つは常に発動しているため、実質ディックを殺すことは不可能な状態である。

 

「そのスキルのお陰で、何度始末してもHP全快になって、墓穴から出てくるんですよね。塵も残さず消すしか方法はありません」

 

「フハハハハハ!悪いなフリザよ!私は更にこの魔眼を鍛え上げた!お前の使う魔法も我が力の糧とすることができるのだ!故に私はもう殺せないぞ!フハハハハハハハハハハ!!」

 

「コイツとはもう500年の付き合いになりますが……500年前に完全に殺しておくべきでしたね」

 

「え?この人もそんなに生きてるの!?」

 

「魔眼持ちは必然的に魔力が高いですからね。それくらい生きることはどうってことありません。移植されたものならまぁ普通の寿命で死にますけど、コイツは生れつき持ってますからね」

 

とは言ってもレベルは全く高くない。そこら辺の冒険者と代わらない位だ。恐らく魔眼に頼りまくって直接戦闘はやってこなかったのだろう。だからと言って簡単に倒せる相手ではない事だけは確かだ。




俺の書いてきた小説のキャラクターのイメージCVって誰だろうな~。と最近考えるようになりました。今度活動報告でも出して聞いてみるので、是非とも皆さんのイメージCVを教えてください!

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第18話

「とんでもない大味なキャラが出てきたな」

「500年生きてるんだ。大味になるのも仕方ないだろ」

「残念な魔眼持ちだったけどな。しかも変態だし」

「まぁ、それは目を瞑ろう。じゃ、本編行くぞ~」


「で?この町には何しに来たんですか?まさかホームシックとは言いませんよね?」

 

「フハハハハハ!!そんなわけ無いだろ。私の家は今や世界中にあるんだ!嫁も数えて1000人は超えた!そしてその全てを愛している!ホームシックになる訳は無いのだ!嫁探しをしている道中に妙な噂を聞いてな。一応ギルドの受付である貴様に伝えておこうと思って帰ってきたのだ」

 

「成る程。話を聞きましょう。が、その前に私のラガー代を払ってもらいます」

 

いつの間にか取っていたディックの財布を漁り、中からラガーの代金分をキッチリと抜き取った。後は必要なくなったので返した。

 

「で噂って何ですか?」

 

「勇者が討伐したとされる魔王に関するものだ。どうやら、最近になって判明したのだが、勇者は魔王を討伐していなかったそうだ」

 

「チッ。あのポンコツ共が。魔王に情でも湧いたのか?」

 

魔王が実際は討伐されていなかったと言う話も中々に衝撃的だが、伝説の勇者一行をポンコツ呼ばわりするフリザも衝撃である。

 

「まぁ討伐してないと言っても、しっかりと封印はしていたようだ。封印された場所も既に分かっている。が、最近そこにちょっかいを出すバカが現れたらしくてな。万が一封印が解けた時は、誰かが再び勇者にならなくてはならない。この噂を伝えるついでに、貴様に勇者の心当たりが無いか聞いてみようと思ってな」

 

「いきなりそんなこと言われても……」

 

「異世界からの住民はどうだ?最近は多くこちらに流れてきているそうではないか?」

 

「残念ながら、2人程知っていますがどちらも勇者ではありません」

 

「そこの男はどうなんだ?見たところ異世界の様だが?」

 

「その目で見たらどうですか?」

 

フリザに言われ顔に着けているドミノマスクをずらして直輝をジロジロと舐め回すように見る。

 

「なッ!?こ、これは……!」

 

「ん?どうしました?」

 

「SでもMでも無いだと!?何故だ!人間は必ずSかMに別けられる筈なのに何故だ!まさか!コイツはNだと言うのか!?どちらにも属さない完全なるNだと言うのか!?」

 

※N=ノーマル

 

「ねぇ、コイツの魔眼潰して良い?なんかイラッとくるんだけど」

 

「貴重な魔眼なので潰すのは止めてください。ただ、なに見てんだ変態野郎」

 

「ヘブッ!」

 

フリザがディックの背後に回り込み、強烈な拳骨を脳天に落とした。見事に入ったのか、床を突き破り首から下が完全に地面に埋もれてしまった。相当な威力だったことを物語っている。

 

「魔王復活の可能性があって、万が一の場合の備えが欲しいときにこの男は……。殺せなくても殺すまで痛め付けますよ?」

 

「フハハハハハ!私を精神的に痛め付けようと言うのだな?だが無駄だ!私は如何なるプレイも物怖じせずに行うことができる!どんな羞恥プレイでも受けて見せよう!フハハハハハ!!」

 

「では、彼と採掘に行ってください。どんなプレイにも耐えるんですよね?彼との採掘に耐えたら、先のふざけた行為全てを水に流しましょう」

 

「なんだそんなことか。別に構わぬぞ。採掘なら私も何度か経験があるからな」

 

土から抜け出してふたつ返事で了承した。だが、それがこの男を苦しめることになるとは思いもよらなかった。採掘の最中、ディックは今までにない恐怖を身をもって体験することになるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあツルハシ無くなるまで掘るぞ」

 

「いつも通りな。はいはい」

 

「なんだ?お前たちはこうやって生計を立てているのか?随分と面倒な方法を取っているな~」

 

「いいから早く手を動かせ。その眼があればレア素材くらい簡単に見つかるだろ」

 

「フハハハハハ!当然だ!この魔眼に不可能はない!ん!早速見つけたぞ~。では私はここで素材を採掘しやる!貴様も良い素材が掘れるといいな~!ハハハハハ!!」

 

余裕な態度を取っているディックを無視して、少し離れた位置でツルハシを振っている。かなりの回数採掘をしてきたお陰か、動きに無駄がなく最短の時間で素材を大量に回収していく。

 

「お?出たなレア素材!さぁ!この私に発掘されるがよグワァァ!?」

 

「火薬石堀り当てたみたいだな」

 

「しかも衝撃で爆発するタイプのな」

 

火薬石。火薬と同じ効果を持つ石。9割以上は熱を加えることで爆発する為、粉末にして通常の火薬と同様に扱われるが、極希に衝撃で爆発するタイプも存在する。見分ける方法は色しかない。

 

「何故だ!私の魔眼にはレア素材として映っていると言うのに何故なんだ!?」

 

「火薬石の衝撃で爆発するタイプはランクBの素材。レア素材であることに間違いは無いからな」

 

「スライムごときに教えられるとは……!ならこっちのアイテムはどうだ!?」

 

と、新しい素材を見付け掘りに進む。だが、

 

「キャァァァ!!熱い熱い熱い!!!」

 

「今度はマグマ石だな」

 

マグマ石。外側は堅い岩で覆われているが、中にはマグマが結晶化せずに残っている石。見た目の割りに大量にマグマが入っている為、穴を開けると後が大変。加工屋では重宝される素材である。

 

「アイツ運悪いな」

 

その後もディックはガツガツ掘り進めるが、気持ち悪い虫の巣に穴を開けて襲われたり、モンスターが大量に現れて襲われたり、落とし穴のトラップが発動して落とされたり、落石にあったりと散々な目にあっていた。

 

「何故だ……?私の運はここまで悪くはなかった筈だ!なのに何故!」

 

急いで自分の冒険者カードを取り出し、裏面のステータス表を確認した。すると何故か運の項目が、元々あった200から0を通り越えてマイナスになっていた。

 

「はぁあ!?何で!?」

 

「さっきからなに騒いでるんだ?」

 

「さぁな」

 

「何故アイツらはトラップに引っ掛からないんだ!?」

 

魔眼で2人のステータスを確認した。すると直輝の運は元々あった680から900に、スライムの運が元々あった200から350に上がっていた。

 

「何で貴様らは運が上がってるんだ!?」

 

実はこれ、直輝のスキルである。最近発見した物だが、直輝が仲間ではないと判断している存在からは運のステータス値を吸収してしまうのだ。そして仲間とみなしている存在には運を分け与える事もできる。洞窟で採掘するとやたらにレア素材が出てくるのは、周りにいるモンスターから運を吸いとってるからだ。

 

「フリザめ……!この男の事を詳しく言わなかったのはこの為か……!!」

 

「さてと、終わったし帰るか」

 

「だな。アンタ早く行くぞ~」

 

「この恨み……いつか必ず返す……!!」

 

恨めしそうな声を上げるディックだが、恐らくその声は直輝の耳に入ってはいない。




本当に運だけはぶっ壊れてますね笑

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