転生者”エレン・イェーガー” (あいうえ王)
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未来を知る君へ
人々は思い出した。人類は所詮、彼らにとって家畜に過ぎないことを。
「ちくしょう!ちくしょう!どうして…どうして!かあさん!かあさん!」
「俺は、知っていたはずなのに…!どうしようもねぇな!あのころから何も変わっちゃいねぇ!本当、どうしようもねえ奴だよおまえは!ちくしょう、ちくしょう…!」
「ウ…うわァあああああああああああああ!!!!」
人類は…壁の中の人間たちは突如やってきた巨人たちに敗北した。
そうだ、あの日だ。今でも忘れないあの日、すべてを知っていたはずなのに何か悟ったような、そんな無力なガキだった俺は俺が大嫌いになった。
もう決まった運命なのだから仕方がないと、そう思っていたのに…何も、覚悟なんてできていなかった。
目の前で死んでいく大切な人たち。赤い液体と撒き散らされた臓物を見て、どことなく夢のようだと思っていた考えは消え去った。
そして決めたんだ。殺してやろう、と。
巨人どもを。身体だけがバカみたいにでかいゴミどもを皆殺しにしてやろうと。
諸悪の根源である外の人間たち。マーレの人間共もついでに皆殺しにしてやろうと。
そう誓ったんだ。
例え、それが本来の物語から外れることになろうとも。
それが、未来を知っていながら何もしなかった俺の罰。逃げることはできない。
進むしかないんだ。死んでも、死んだ後も。
これは、俺が始めた物語なのだから。
「駆逐…してやる…!一匹、残らず・・・!」
「エレン…。」
そうして、自由を手に入れる為に。
第一話 未来を知る君へ
あの、運命の日から5年。訓練兵を終え、今日ついに解散式を迎える。
「本日諸君らは「訓練兵」を卒業する。その中でもっとも訓練成績がよかった上位10名を発表する。呼ばれた者は前へ」
「主席。エレン・イェーガー」
「2番。ミカサ・アッカーマン」
「3番。ライナー・ブラウン」
「4番。ベルトルト・フーバー」
「5番。アニ・レオンハート」
「6番。ジャン・キルシュタイン」
「7番。マルコ・ポット」
「8番。コニー・スプリンガー」
「9番。サシャ・ブラウス」
「10番。クリスタ・レンズ」
「呼ばれた者は、前へ!」
「はっ!」
やっと。やっとここまでたどり着いた。
兵站行進。馬術。格闘術。兵法講義。技巧術。立体起動。その全てでミカサを超えてトップになれた。
人間性を捨てた戦闘スタイル。巨人を殺すことに特化した戦い方は周りの同期どころか上官にすらドン引きされて…結局まともな知り合いもアルミンとミカサしかいなくなったが、それでも主席になれた。
少なくとも、原作のエレンよりかは強いはずだ。…失った物は多いが。
まあ、いい。ここからだ。ここから、俺はあのスカしたクズども3人。ライナー・ベルトルト・アニの3人をぶっ殺して、ついでに巨人どもも皆殺しにする。
・・・原作知識を持っている俺は、彼ら3人が何で大量殺戮を行ったか、巨人はなぜ人を殺すのかを知っている。
読者だったあの頃は同情もした。
今?同情なんて欠片もしない。クソ食らえだ。死んでしまえ。
巨人はもともと人間だった?マーレの3人はそういう境遇だから仕方がなかった?そんなカスみたいな答えはいらない。
誰がなんといおうと、どんな理由があろうと大量殺人者であるクズに発言権はない。そんなクズを殺すことに何のためらいがある。
この残酷でどうしようもない世界ならば、それは許される。許されるならば、俺はあのダニ3匹を確実に殺してみせよう。
どうしようもなくきもちわりぃ。あの達成感に満ちているライナーとかいうゴミをぶっ殺せるならそれはどれだけの…快感なんだろうな。
その日が楽しみだよ、3人とも。
その日、食堂で一つの騒動が起きた。
「ああ、俺は調査兵団に行く。」
「エレン。てめえは本気で言ってんのか?・・・それで、ミカサやアルミンも地獄につれていくってか?正気じゃねえよ」
「…同期としてのよしみだ、言ってやる。現実を見ろってな」
「…あ?」
騒動の原因はイカれた死に急ぎ野郎として有名なエレン・イェーガー。初日で俺の家は巨人に破壊されたよ…。エレンの家ぇがあああああ(イェーガー)なんてクソつまらない親父ギャグをかました結果友人一人作れなかった哀れな奴だ。
もう一人は、ジャン・キルシュタイン。そこそこの容姿とそこそこのコミュ力を持つ立体起動装置がうまいそこそこの人間。
「だってそうだろ!4年前…。あの日、人類は2割の人口を投入したんだ!ウォールマリア奪還のために。で、だ。結果はどうなったと思う?お前は座学でもトップだったんだ。わかるだろ?な?」
「何がいいてぇ」
「無理なんだよ!あの日、人類は2割の人口を投入した!それでも完全敗北だ。1匹巨人を殺すために、30人は死んだって知ってんだろ?とてもじゃねぇが今の全人類を合わせても足りない。もう十分これで判明した!人類じゃ巨人に勝てないってな!」
「それで?」
「・・・あぁ?じゃあ逆に聞くが、てめえが何がいいてぇんだ」
「だから、それがどうしたってんだ?てめぇ、まさか、本気で負けると思ってんのか?」
「だから、そういって「俺は思わない」ッ―――!」
「ようはウナジを削げば終わりだ。一撃で終わる。あんなでけぇ的。むしろ何で倒せないかが不思議だね」
「いやだから現実も「それに」ッまたてめぇ俺の発言を邪魔しやがって」
「お前、外の世界を知らないだろ?知ってたら巨人に勝てないなんて、言えない」
「…お前、さ。本当不気味なやつだよな。無口と思ったら突然饒舌になるし、まるで何でも知ってるみたいな面しやがって。外の世界を知っていると、そういいたいのか?」
「ああ。俺はお前が壁の中で怯えている中、外で楽しく生きていくよ。俺のには壁の中は窮屈すぎるんでね」
「ッ!」
それはまるで確信じみた発言。とてもハッタリとは思えない自信の表れ。
壁の外には天国が広がっていると、彼は確信している。
とんでもない妄想癖のイカれ野郎か、それとも本当に世界の真実を知っているか。この場にいるほとんどは前者を見た。
あらゆる点でトップだが、残虐性の塊の妄想癖のある死に急ぎ野郎。それがエレン・イェーガーの評価である。
・・・3人ほどは、後者の可能性がもしかしたら欠片でもあるのではないか、と。考えているが。
なぜ、彼がそこまでの自信をもって、外の世界は天国だと確信しているか。
それはエレン・イェーガーは転生者であるから。ただ、それだけの話である。
この世界が創作の世界。進撃の巨人と呼ばれた漫画の世界であると、また、世界の謎を知っている唯一の存在。
さて、なぜそんな世界に異物が混じったかは不明だが、それはさほど重要ではない。
問題は彼は原作知識という物のおかげで絶対的な未来を知っているということだ。
進撃の巨人。創作の歴史の中でもトップクラスに世間を沸かせた名作。おそらく、有名な作品群の中では最も残酷で、救いがない話のひとつ。裏切りあり、虐殺あり。主要人物もバンバン死んでいく作品。
そんな世界に原作知識など余り意味のないものだが…それでも、”裏切り者”である壁の中の人類の敵は知っている。3人、いる。
だからこそ、彼は。
アニ・ライナー・ベルトルトの3人が自身の発言を聞いてこちらをじっと見ているのに、気づいている。
立体起動装置を自由に使える立場になった今。自分自身が思い描く最強の自分になれたと確信している今。
エサは出した。ならば、この3人のゴミのどれかが巨人化したら、その瞬間にウナジを削ぐ。
原作知識のことは誰にも明かせない。そんなもの話したところで異常者扱いされるのがオチだ。
だから、決定的なスキを作ったら瞬時にぶち殺す。そのための準備をしてきた。
そうじゃなくてももう少ししたら原作どおりならば、決戦の時間だ。
もう少しだ。もう少しで・・・。
絶対に、皆殺しにしてやる。ゴミどもを。駆逐してやる。
巨人を殺して。殺して、殺しつくそう。
それが、すべてを知っていながら何もしなかった俺の唯一の贖罪なのだから。
特に意味のある暴言がライナーを襲う!
殺意マシマシの転生者エレン・イェーガーのお話。
なお、巨人化できない模様。
ミカサを超えて主席になれた理由:人間性を捨てたから。
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超大型巨人
エレン・イェーガーと呼ばれる転生者は原作26巻までの知識を一字一句間違えることなく記憶している。
これが転生特典と呼ばれる物なのかは不明。
転生者でもなんでもない、特別なことが何もないただの学生で、無気力で世界は灰色に見えていたあの頃。
全てに興味がなく、きれいなものを、海を、山を。未知を知ってもソレは当然あるものと認識していたから、何も感動することがなかった。
俺の学生生活はただの灰色で、だからこそバラ色の人生とまでは言わないけど、何かを変えたいと思った。
キッカケはそんなもので、そんな少年は運命に流されるようにとある漫画に出合った。進撃の巨人と呼ばれたそれは心の色を、価値観を変えるには十分な作品で、だからこそ、世界は残酷でどうしようもないと改めて気づかされて。それでも何もしなくて。
そんな俺だったからこそ、死んで転生してエレン・イェーガーに為ったのだと思う。
偽りの主人公。偽りの世界。そんな、どうしようもない世界。世界は灰色でしかなく、全てが虚構に見えた。
それでも、そんな世界に生まれても一度死んだからには生きたいと思った。
だから、親父を事故に見せかけて殺した。巨人になりたくなかったから。たった13年の人生なんて嫌だったから。なんとかなると、ボンヤリとした考えで父親を殺した。
それが間違いだと、今では思う。かつての前世の記憶は13年でほとんど擦り切れた。何故か進撃原作の知識は一字一句覚えているが。とはいえ、かつての思いはもうない。あの頃のガキだった俺の選択は間違いだと、年がたってから気づいた。いつもいつも間違いしか選択できていない。
今世の母親が目の前で巨人に殺されて、ようやく世界に色が…赤色が世界全てを満たした。
…白状すると、父親をぶっ殺したときは何も感じなかったんだ。俺が何かを感じたのは母親が目の前に食われたときだけ。
そうして、後から全ての敵を皆殺しにしたいと思ったとき俺は…どうして進撃の巨人を継承しなかったのか、とどうしようもなく後悔した。無垢の巨人にはなれる。それ用の薬を一つだけ父は持っていたから奪いとった。だがソレでは意味がない。
原作の設定通りならば進撃の巨人と始祖の巨人はマーレ側に移ったはずだ。継承者が死ぬと、ユミルの民と呼ばれる人種の赤ん坊に巨人能力は継承されるから。だから、時間の問題だ。もしその赤ん坊が自我を持ち自覚したら俺たちは終わる。それを理解している。それを理解しているのに、俺は俺が可愛いから父を殺した。無鉄砲でどうしようもない行動だ。
…仕方が、ないだろ。
俺は一度死んだんだ。あの暗闇の地獄に行きたくないと思ったガキの俺を責めることが…仕方がないじゃないか。
死にたくない。生きたい。そう思うことは人間の本能なのだから。だから殺すことに…。
…あれ。だったらなんだ?俺は本能の赴くままに父親を殺したのか?
クズじゃねえか。
どうしようもない。どうしようもないクズ野郎じゃねえか俺は。自分の本能のままに人を殺すなんて畜生にも劣る。
そもそも全てを知っていたはずなのに、未来の何もかもを知っていたのに、逃げだしたのだから。
こんな俺はハッピーエンドにたどり着くことなく、本来の物語の途中で死ぬのだろう。おそらく本来の主人公よりももっと早く。ジャンの死に急ぎ野郎という評価も正しい。食堂でのジャンの発言も正しい。
それでも、それでもだ。そんなクズであることを認めても、俺は認められない。本来よりも早く死ぬことになってでも、それでも家畜のようにビビって一生を過ごすなんて絶対に嫌だ。巨人を、マーレのゴミどもを全員皆殺しにしたい。
そうだ。それに…俺がクズだとして、始祖の巨人をマーレ側に渡した弊害で未来の人間を見殺しにするのだとしても。
それでもやっぱり俺よりもライナー。お前が一番悪い。お前が原因なんだから一番悪い。おめえがユミル辺りに食われてれば問題なかったんだ。てめえが一番悪い。
なんでてめぇはそうやって同期の奴らと笑いながら飯を食えてるんだ?ずっと、ずっと疑問だった。
すっげぇイライラしたよ。よくもまあ平然とした顔で皆と笑い合えるんだってな。何で大量殺人者の、クソ野郎が被害者と笑いあっているんだ?お前、本当厚顔無恥というか…信じられねえよ。
だから殺すよ。お前と、あの長鼻の気持ちの悪い女と腰ぎんちゃく野郎を。
できる限り苦しんで死ぬように、生きてきたことを後悔するように。お前らが苦しんで死ねるよう努力するよ。
第二話 超大型巨人
そこは、壁の上。意味があるかはわからない大砲の整備のために訓練兵である僕たちはここにいる。
サシャやコニー。トーマスと談笑しながら、整備を始めた。
勿論喋っているところを上官に見られないように。
…ただ僕たちと同じ斑なのに、一人黙々と作業に移るかつての友人がいるが。
一人、そう一人だ。誰とも喋っていない。彼はいつからか寡黙になった。
彼を見た。あ、笑った。ニヤリ、と。残虐性の塊のような笑みを浮かべるかつての友、エレン・イェーガー。
あの日みた笑みと同じ顔をした。
作業の手を休めることなく、壁の外を見ながらそんな顔をする彼はとても気持ち悪かった。
…僕にはわからなかった。いや、今もわからない。友の気持ちが。エレンの思いを。
昔は誰よりもエレンのことを理解しているつもりだった。多分だけどミカサよりも。
ミカサは…盲目だからね、少し。エレンのこととなると思考を停止させるんだ。それが悪いことかどうかといわれたら、まあ…悪くはないんだろうけど。
恐らく、恐らくだけどエレンは何も未来に対して希望を持っていなかった。あの日巨人が大勢来て僕らの故郷を蹂躙する日まで、エレンの目は曇ったままだった。
エレンはそういう奴だと思ってた。そうどこかでわかった気でいたんだ。
でも…違った。決定的に僕が君との明確な差を感じたのはあの日、君の母親が僕たちの目の前で死んだ日。確かに、確かにエレンは笑ったんだ。
実の母親が目の前で臓物を撒き散らして、血まみれで全てに後悔した顔で死んだ姿を見て、確かに笑った。
目の色が変わったんだ。
今では彼は復讐の鬼になっている。僕ですら引いてしまう、正直言うと友達をやめようかと思うくらい残虐な巨人の殺し方には距離をおきそうになった。
巨人は人に夢中なのだから、人を一人生贄にしてソイツに夢中の間にうなじを斬るだとか、落とし穴に人を落とせば、それに巨人は釣られて落とし穴に落ちるだとか、いくらなんでもない。人間性を捨てすぎだ。僕も考えたことはあるけど、実際それを発言したことはない。
まあ、ソレはわかるんだ。あんな悲惨な目にあったんだから。あの時の地獄を考えたらそんな思考になってもおかしくない。
でも、それで僕たちの絆が崩れることはなかった。だってソレは正当な復讐心だからね。
それは分かるさ。けど、なんでキミは…自分の母親が死ぬ姿を見て笑ったの?
確かにあの時、キミは笑った。母親が死んだことに対して笑ったんだ。心の底から相手が死んだことに対して嘲笑していた。
あの日、決定的に僕たちの仲に亀裂が走った
僕にはキミがわからなくなったんだ。
それでも、僕はキミと友達であると、信じたいんだけど…。
「アルミン!休憩にすんぞ!」
…おっと。休憩か。何かエレンと話せたらいいな。
近くでサシャが上官の肉を採ってきたとか、トーマスがウォールマリア奪還の前祝に食おうとか、そんな話をしている。俺はその話に加わっていない。…もう少しで戦いなのに、加われるわけがない。
あれから、5年たった。
ようやく、この日が来た。俺の後悔を、失敗を帳消しにできる計画を。
…やっぱり、原作知識というのは便利だな。もう少しでベルトルト…超大型巨人が来ると知っているから、不思議と心臓の音は響く…が、それだけだった。
今の気持ちは、この胸をズキズキと貫く感情はなんだろう。期待?悲しみ?この戦いが終わったら、俺は今の気持ちを理解できるのだろうか。
今、俺たちがいる場所は壁の上だ。だから町を一望できる。町には大勢の人たちが、笑いながらすごしている。
もう少しでこの場所は地獄になるのだろう。そのとき、俺はどんな気持ちになるのだろうか。
俺はいったい、何を思うのだろうか。こんな感傷も、消えていく記憶なんだろうか。
まあ、どうでもいいか。
ふと、息を吐く。
「えっ?」
それは、誰の声だったか。誰もがあっけにとられ、思考を停止させた。
同時に、響く爆音。
誰も理解していない。その音が、壁が破壊された音だと認識しているのは誰もいない。
その日、人類は思い出した。かつての地獄を。
開戦の音とともに、地獄は再度作られる。
とある、転生者を除いて。
その巨人を見て、歓喜の感情を浮かべるのはただ一人だけ。
それを見て、その惨劇を見てコニーが叫んだ
「壁が、壁が壊された!巨人が入ってくる!チクショウ、やっぱり人類は巨人に「後は頼んだ!」エレンッ!??!」
ただ一人、その状況を予知していた者。死に急ぎ野郎だけが動きだしていた。
この赤い巨体。皮のない、むき出しの筋肉の塊を見て、ただ…ただ笑いがとまらない。
きた、きた、きた。
やはり、このタイミング。腰巾着野郎がきた!!!
同期のサムエルが超大型の出現にあわせて吹き飛んだが、どうでもいい!人一人死ぬ?今はそれよりもこちらのほうが重要だ。
「目標、目の前!超大型巨人!!」
このときを、このときを…!!
「これは好機だ!絶対、絶対に逃がすな!」
「壁を破壊できるのはコイツだけだ!コイツさえ殺せば人類は勝てる!」
そんなものは建前だ。俺はただ、ただコイツを殺したい!!!
猛る精神は立体起動と比例し、最速の動きを、理想の動きを!
もっと、もっと速く!
うなじを削ぐつもりはない。それをしても原作と同じく逃げられるに決まっている。
大量の蒸気。目の前に広がるそれは視界をふさぐが、全てが見えねえわけじゃない。この日を、この日だけを待っていた。口角はギチギチと、自分の意思にかかわらず上がりきっている。
蒸気が超大型から吹き荒れる中、うなじに見える人影。影しか見えねえがベルトルト…てめぇ…逃げるつもりか。そりゃそうだ。コイツの目的は壁を壊すことだけか。
壁を壊したなら、スカした顔して訓練兵に混ざればいいだけだもんな。
ふざけんな…。ふざけんじゃねぇぞ。ありえねぇよ腰巾着野郎。てめぇを許すわけねえだろうが…!
絶対に逃がさない。コイツだけは…こいつだけは継承する
巨人を最も殺すのに適した巨人。マーレのゴミを皆殺しにするのに最適の巨人。
デカい、というのはそれだけで強い。事実、9種類いる巨人の中で戦ったら間違いなく最強の巨人こそが、超大型。
元々、今日この日超大型が来るのを俺は原作知識で知っていた。だからこそ対策をしてきた。超大型に対する秘策を。失敗は許されない。
この日のために用意した武器の一つ、閃光玉。ぶんなげると爆音とともに閃光を放つソレは壁内ではとても貴重ではあったが、これでも訓練兵主席だ。大量に、とはいかないが一つだけなら手に入る術はいくらでもある。一つだけでいい。
殺傷能力はない。ただ一瞬でも光で動きを止めればいい。コイツを超大型のうなじ付近にぶんなげれば、勝ちが確定する。
キャッチボールは…得意じゃなかったが、勿論この日のために練習した。立体起動を動かしながらでも確実に閃光玉を当てる。当てなくてはいけない。
…手が汗で滑る。ようやく来たチャンス。そりゃ手に汗握るのも当たり前だけど、それでもはずさねえよ。
ここで外したら何もかもがお仕舞いになるしな。
この日を、この時を待ちわびていた。
「うっガぁアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
ただ、吼える。自身の存在を誇示するように、その思いを載せて大きく手を振りかぶり、閃光玉を大きく振りなげた。
「おっ、ァアアアアあああああ!!!!!」
意味はない叫び。それこそが俺の恨み。行き場を失った意味のない怒り。本能のあるがままに、自信からあふれ出た怒り。閃光玉は俺の怒りと呼応するように、爆発する。
大きく広がる光と爆音。その閃光のせいで、視界は何も見えず。だが関係ない。
位置は、角度は理解している。場所を間違えるはずがない。ベルトルトの位置は頭の中に入ってる。
これでも俺はミカサを超えて立体起動は訓練時代ナンバーワンだ。ズレるはずがない。
ここまでは計画通り。ここからは運。運が悪ければ俺は終わる。だが、運に勝てないのなら世界を相手に勝てるはずもない。
誰にも見せることがなかった、胸ポケットにいれた”ソレ”を口の中にいれて、噛み砕いた。
無垢の巨人になるための薬。フラスコに入ったそれを、確実に、一瞬で発動できるように。噛む力だけで壊せるよう細工しておいたソレを、確かに噛み砕いた。
後悔が…なかったとは言わない。だって、俺は巨人になりたくなかったから父親を殺したのだ。ただ生きたいという生物の原初の願いにとりついた俺に、巨人薬は正反対のものだった。たった13年で死ぬのは、絶対に嫌だった。だからあの日、5年前はそれを否定した。
―――でも、13年だけに寿命を縮めなければ自由を得られないというのなら。
家畜のような生き方しかできないのならば。
母さんの敵をとることができるのならば。
俺は―――あの日できなかった選択をする。
俺の計画を、失敗するつもりはなかった。否、失敗する心配はなかった。
だって、俺は主人公だから。だったら、俺の計画通りに行くはずだ。お前も物語をこんなところで終わらせたくねえはずだよなぁ。だから、俺に運という力を貸せ!
なぁ!俺を転生させた神さまとやらよぉ!!!!!
目は閃光弾のせいで見えないはずなのに、黄色いイカヅチがバチバチと俺を構成する世界に広がって、そうして――――――
「…あれ?」
ふと目を開けると、そこには空が広がっていた。余りにも青い、何者にも染まることができない青。
…冷たい。風の音が大きく広がっている。…いや、それに混じってこれは…人々の、怨嗟の声?
これは…知っている。すぐ分かった。あの時の、5年前のあの時と同じ声だ。
―――地獄を見た。
血まみれで、臓物を撒き散らす母親を見た。
大量の怨嗟の声を何度も聞いた。死体は、もう見飽きた。
5年前、それを知った。知ったからには、もう地獄にはなれた。
だからこそ、風の音に混じった声でわかる。
あの時知った地獄。それと同じ質だ。
ここは、どこだ。どうなった?近く最近の記憶がない。ただ、これは、この現象は恐らく…そういう、ことなのか?
今の場所は、…この肌寒い感覚は…この開放感は、つまりは壁の上。それは…下に広がるのは予想しなくても分かる。
下を覗いた。世界は赤色に染まっていた。大量の巨人と、大量の死体と、逃げ惑う人。
俺が、あの日知った地獄。嫌って嫌って、そうしてようやく望んだ世界。
そうだ、俺はこの景色を望んでいた。この景色があって記憶喪失ということは。
ああ、やった。やってやったぞ。
超大型巨人を継承してやった…!ざまあみろ!ざまあみろベルトルト!
「クックック。…クックックックック」
笑いが、とまらねえ。
ただ、笑っていた。
目の前で壁が破壊されたことで広がった地獄。大量の人間が巨人に食われている地獄。
ソレすらも多大な歓喜という感情に飲み込まれて。胸のズキズキとした痛みを抑えながらも、その地獄を正しく理解し、それでも――――
「やった、やったぞ。やってやった!あっはっはっはっは!!」
地獄の中、ただ。エレン・イェーガーの笑い声は壁の中に広がっていた。
母親が死んだ姿を見たエレン「これが、これが生きるってことかぁ」ニチャァ
アルミン「ええ・・・。」
ぶっ壊してやった!2話にして原作をぶっ壊してやったぞ!やべぇ次どう書くかぜんぜんわかんねえ!どうしよう!エレンやべぇ奴にしすぎた!もう蹂躙しか思いつかねぇ!というか勢いで書いたから文章メチャクチャだ!やべえよ!
すみません。修正するかもしれないですこの話。
Qベルトルト迂闊すぎね?
Aエレンが巨人は人間であると知っているなんて知らなかったのと閃光玉を持ってるなんて知らなかったためそちらに気を向けてなかった。
まあ閃光玉を普通うなじに投げないよね。
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進撃の巨人
エレン・イェーガーに特別な力はない。彼はどこにでもいる普通の人間である。主人公補正と呼ばれるものは存在しない。
「巨人の最大の能力。それは再生能力にある。古来より人類は巨人の頭を吹き飛ばす程度の力は持っていた。では、なぜ抵抗できなかったか。それは頭を吹き飛ばしても個体差こそあるものの1、2分で再生するからだ。」
「では不死身ではないか、というとそうではない。人間でいううなじの部分。ここを狙う」
「巨人はここを大きく損傷すると再生することなく絶滅する。そのために最も有効な手段が有名だが立体起動装置呼ばれる物だ」
「そしてコレだ。この付け替えできる刃の武器。この武器は硬い肉の塊を削げるよう柔らかく、しなやかになっている。」
「そしてこれを2本もって、その刃で肉を削ぎ、またそれが巨人の弱点であるうなじに当たれば相手は即死する」
「では、エレン・イェーガー。これを最も効率よくする方法は分かるか?」
「はい、分かります。」
「…ほう?私は状況に応じて使おう、と言おうとした。そんな効率的なものがあるのなら人類は勝てると思っている。では、君の意見を聞こう。」
「それは、丸腰の人間を使うことです。まず、立体起動装置も何もつけてない住民を一人用意します。」
「…続けろ」
「勿論巨人といえど生物。立体起動で捕らえにくい獲物よりも、丸腰で動かないほうを狙うはずです。ならば一人だけ何もつけてない人を用意して、食わせます」
「…は?」
「そうして、捕食をしている最中に巨人のうなじを削ります。生贄は絶対に助かりませんが、それでも1:1で巨人を狩ることができます。以前のウォールマリア奪還の際は巨人一人狩るのに30人はかかったとのこと。この方法ならば人類の損失を最小限にできます。」
「いや…まあ、そうだが…。ああ、うん。では、巨人が大勢攻めてきたらどうするんだ?そんな悠長なことはできないだろうに。」
「その場合、まず最初に大きな落とし穴を使います。勿論その落とし穴を作るのは生贄に使う人たちです。そうして落とし穴を作ったら生贄を数人ほど落とし穴に入れておき、巨人が落とし穴に落ちるのを待ちます。そうですね。3人ほど落とし穴にいたら、確実に巨人はそちらに落ちていくと思われます。巨人は日光にあたらなくなると活動を低下させます。落とし穴に落としてしまえばこちらのもの。あとは埋めれば実質討伐です。」
「…えぇ?いやごめん…さすがにそれはないわ」
そうして、講師と同期全員が引いてその日からエレン・イェーガーに友達はいなくなった。
苛烈すぎるエレンの訓練姿を見た同期は、彼と関わることをしなくなった。
壁の中には地獄が広がっていた。
燃え盛る火。血に塗れた地。あまたの臓物が撒き散らされ、巨人が蹂躙する世界。
どうしようもなく現実に塗れた、世界の真実を見せ付ける世界。
ふと、昔を思い出す。
子供の頃、エレン・イェーガーになったと知った時。
自分は進撃の巨人の世界に生まれたと知った時、正義の味方になりたいと思った。
誰もが笑顔で、誰もが幸せな世界になればと。所詮この世界は漫画の世界なのだから転生者であり主人公である俺には超能力やら異能やらがあって、全員を幸せにできると思った。
…俺には、何も力はなかった。所詮きれいごとだった。結局原作通りミカサを襲った強盗達を皆殺しにした。
あのとき、俺は主人公としての”運”を知った。勿論所詮運だから過信こそできないが、それでもただのガキだった俺が武器を持った強盗達をぶっ殺せる程度の運を所有しているのだと知った。
そうして、強盗達をぶっ殺して改めて自分は死が怖くなった。底なし沼のような闇。ソコにはいきたくないと、巨人の継承者になって13年の寿命に縛られるのは嫌だと、父親を殺した。そして、母親が目の前で死んでから俺は正義の味方を目指そうと思わなくなった。
ハッピーエンドもどうでもよくなった。誰もを救うことなんて無理だという現実を見せ付けられた。
この世界は現実だ。どうしようもない不条理が存在する。
それでもこの身は主人公だと思ったから。だから、唯一俺に存在する”主人公補正”とやらを信じようとして必死に努力した。けれど、訓練兵時代ですら訓練で目の前の同期は死んでいった。俺の主人公補正とやらは、少し俺が死ににくいだけのものだとその時知った。
この世界は残酷で、美しくない。けれど、どこまでも現実だ。
それを知ったから俺は主人公であろうとしなくなった。
ただ、皆殺しにする。敵を全員ぶち殺す。それだけを願った。
ほかは、どうでもよくなった。
それが、俺の原点。
ただ生きたいという当たり前の願いから、母親を殺した敵に復讐したいという当たり前の願いに代わった俺の全て。
それ以外は、どうでもいい。
目の前の、壁の中の地獄を見ても何も悲しみを感じない。悔しさを感じない。ただ、今心の中にあるのは超大型を継承したという歓喜だけだった。
運はもとより持っている。
力は手に入れた。ならば、恐れるものは何もない。
さぁ、はじめよう。俺だけの人生を。
第三話 進撃の巨人
「9体目!」
うなじを削ぐ。それだけで敵は倒せる。
ミカサすらねじ伏せた実力を持っている今の俺ならそれは容易だ。
超大型は使うつもりはない。アレは人類の敵と思われている。いざとなれば使うが切り札は最後の最後までとっておくものだ。主にライナーとかに。
しかし俺が思ったとおり、やはり、巨人を狩るのは楽だ。それも捕食中ならなお楽だ。
わざと巨人を誘導し、そこらの住民を食わせてからうなじを削ぐ。ハッキリ言って簡単にすぎる。
罪悪感は感じない。というのも住民の位置的に誘導しなくても助からないと分かっていたからだ。
ふと思う。この程度の作戦、エルヴィン団長ならば思いつくだろうに。ここまで簡単になるのならばなぜ調査兵団はしないんだ…?心臓を捧げるんじゃなかったのか…?人間性を捨てなければ勝てないと、エルヴィン。お前言ったよな?なぜしない?
「10体目!」
まあ今はいい。
ただ、ただ速く。加速させろ、思考を、腕を。
目の前の巨人どもをぶっ殺すために、うなじを削ぐために。
心を剣に見立てて、世界をただの白と黒に見立てて。
自分自身を機械のように見立てて、周りの惨状を気にせず、ただ只管に。
「11体目!」
この世界の最強、リヴァイを超えるように。
もっと、強く。強く。あの頃の無力なガキである自分を戒めとして。
心は錬鉄のように、決して曲がらず、決して折れず、決して揺るがない。
「12体目!」
俺がここまで巨人を狩る必要はないのだろう。だが、それでも。
血にヌレテイク。ああ、どうしようもなくタノシイ。
この全能感。何でもできる感覚。
この真っ赤な血に染まった世界が、ドウシヨウモナク…
「…あれ?」
ふと、気づく。周りから巨人がいなくなっている。殲滅完了だ。
ガスや刃の残量は…まだ十分。記憶を失う前の俺は多めに持ってきていたらしいが…それでも簡単だ。
やはりこの方法ならば。人一人を犠牲にする方法ならば人類は勝てる。
…もう周りには人の死骸しかなく、生贄もいないな。これでは俺一人では巨人に負ける可能性がある。
ならばこそ、皆と合流しなければ。
訓練兵の皆、アルミンやミカサ、ジャンはどこにいった?確か原作では…そうだ。ガスの補給をする為に本部に向かったはず。
さすがに訓練兵、同期を生贄にするつもりはない。104期生は原作でも重要人物。下手に動かすと原作知識が働かなくなる可能性がある。まあ今更といえば今更だが。
とりあえず、本部の補給場に行くことにするか。
ガスを強く吹かす必要はない。急いで向こうについてもガスがなかった。巨人を狩れなかった、となったらお仕舞いだ。本部のガスが使われていない保障がないからな。
本部に近づくにつれ…何だ…この雑音は。人の声。何かの叫び声。聞き飽きた声だが…なぜだろう。とても懐かしく思う。
ビキリ、と頭が痛い。人の叫び声に混じって何かザラザラとしたノイズのような…何かに…共鳴している?こんなもの原作にはなかったはず。まるで分からん。
分からんが…進むしかない。
ガスを少し強く吹かす。そこにあるのはただの興味だけ。だが、そこには――――
「は?なんだよ、コイツ」
周りには血があった。
人々の臓物があった。
巨人の死体があった。
同期の姿があった。
「ッ…!」
声が、でない。
そこには、巨人がいた。金色の髪の巨人がいた。
知らない。こんな巨人知らない。
原作にはいなかった巨人。だが、その巨人は他の巨人とは明確に違う所があった。
戦っている。明らかに知性ある動きで、周りの巨人どもを駆逐している。
ありえない。
モブの巨人がこんなことをするはずがない。
9つの継承巨人にもこんな巨人はいない。
ライナーはありえない。アイツは鎧のはずだ。確かに見たことがある。
ならばアニ…もない。明らかに目の前の巨人は女型ではない。勿論ユミルでもない。
こんな巨人、俺の知る限りでは一種類しかない。
いや、ありえない!
俺は親父を殺したはずだ。もし目の前の巨人がそうなら、いや。ありえないだろう…!
だが、髪の色以外は、確かにあの巨人に…。
そんな困惑が、いや。
ただ、それ以上に。どうしようもなく目の前の現実に
高揚した―――。
その光景は、巨人が巨人を駆逐するさまは俺の夢を見ているようで。
まるで人類の怒りが詰まった重い一撃は確かに巨人を駆逐していて。
ああ。この光景を見せられたら間違いない。
俺ではない誰かが継承した姿。
自由の翼を追い求めた者。
これが。こいつこそが。
「進撃の巨人」
薄暗い地下室。特異な一人の少年だけが知る秘密の場所。
とある、少女がそこにいた。否、少女だったものが、そこにいた。
四肢をもがれ、頬には乾いた涙と、血が混じっており。
身体を雁字搦めに鎖で固められ、明らかな拷問の後がその部屋には残っていた。
部屋に付着した乾いた血は明らかに一人分とは思えない量。致死量を超えていた。それでも、その血は少女だったものから溢れ出たものである。
何度も顔をグシャグシャにされた結果、再生不良を起こしもはやかつての面影はなくなった少女だったもの。
彼女の名は、アニ=レオンハート。短時間ながらも様々な趣向を凝らされた拷問の結果、もはやかつての記憶はない。精神は完全に崩壊しつくした。
ただの呼吸をする肉達磨が、そこに幽閉されていた。
エレンは自身に主人公補正があると思ってますがそんなもの存在してません。
ただ、たまたま運がよかっただけです。
生贄作戦といいエレンが順調にクズになっていく~。
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拷問
エレン=イェーガーと呼ばれた転生者は生前、拷問に精通していた。
よお、目が覚めたか?アニ。
うん、焦らないように最初にいっとくか。
ここは俺だけが知ってる地下室だ。ああ、安心しろよ。エロいことをするつもりなんてないから。お前汚いし。
まあ、安心しろよ。ここの部屋の隣にお前の親父がいるだけだ。
ん?何いってるか分からないって顔だな。ベルトルトとライナーはここにいないぞ?
オイオイ、そんなあせるなよ。そんな目で俺を見ないでくれよ女型。
第四話 拷問
ん?ああ。知ってたよそんなこと。お前らが巨人で、マーレの一員だってこと。
訓練兵の解散式で浮かれてたってのが失敗したな。隙だらけだったよ。まあ、お前のキャラ的に一人でいてもおかしくないから時間がある程度たたないと騒ぎにはなんないから安心しろよ。
…はぁ?父親がいるなんてありえない?うそ?
オイオイ。俺の発言でまだ信用できないのか?このことが。
俺、お前らも知ってる通り巨人が大嫌いでさ。で、だ。イェーガー家…。お前らの知ってるジーク戦士長ってヤツだな。アイツは俺と血がつながってて、当然マーレにも何回も行った事がある。
勿論、お前らのことも聞いてるし、状況からしてマルセルとかいうカスが無垢の巨人に食われたことも知ってるよ。
というか、だ。お前、何でマーレに壁の中の人間が隠れ住んでるって思わなかったんだ?壁の中には始祖の巨人がいるんだぞ?無垢の巨人をどうにかできないわけないだろ。
ああ。そうだったな。うん、話がズレちまった。
いやな?まあ、俺が始祖云々知ってるとか、そんなことはどうでもいいんだよ。問題はそれでも平和に壁の中で過ごしていた何の罪もない俺たちを、お前ら5年前蹂躙したよな?
すっげぇむかついたよ。父親も母親もお前らに殺されてさ。マーレのゴミどもを蹂躙しようと思ったし、今も思ってる。
けど、まあ。壁の中のお前らをさ。拷問にかけるのが先だと思ったんだよ。だから父親を用意した。
あ?見せろ?いや見せないって。見せたらお前、戦意喪失するじゃん。…いや。そもそもお前父親って認識できないと思うし。今の彼の状態を、まあしいて言うならもう二度と腕と足は使えない。目も使えず声帯も完全に破壊したってだけだな。
ありゃもうお前のことも覚えてないぞ。それでもまあ、巨人化して生き埋めになるのが嫌だから隣の部屋にいてもらってるが。
とはいえ、楽しかったよ。お前の父親を拷問してるとき、アニ。アニって言い続けてた。お前の父親に聞いたんだが、何でもあの足、お前がやったんだってな。
実は心のソコから憎悪したらしいぞ。あの時。
いやなんでもな。さすがに良心が痛んだのやら、あの時は笑顔で過ごしたらしいけど心の中じゃ殺したくて仕方がなかったってヤツらしい。
お前を女型にしたとき、どうしようもなく嬉しくて涙が出たんだと。13年で死ぬなんて惨めだな、と。
まあ仕方ねえよな。お前はそれだけのことを父親にしたからな。あ、安心しろよ。足の怪我ごとそぎ落として食ったからもうそのときの怪我はないぞ。
ッハッハ。怒るなって。いやさ。でもな?
お前らが、俺たちに何をしたか分かっていってんのか?
…おっと。怖がらせてしまったな。すまんすまん、でも事実じゃねえか。
お前ら、何でそんな平然とした顔で過ごせるんだ?俺の母親があの時巨人に食われたってこと話したよな?知ってるよなぁ?話したもんな?あの時、どう思った?どう思ったんだ?…大体、ソレにしたってだ。お前ら、何人殺した?まあ。覚えてないよな。多すぎて。答えは奪還の時の人間も含めたら20万だ。つっても約、だが。人の命が尊いのに、約でしかわかんねえんだよ。おかしいだろ、いくらなんでも。
まあ、お前には分かんないか。死んだ人間の気持ちなんて。もう喋らねえ骸だからな。この世界で死んだ人間の気持ちなんて俺くらい…まあ、それはいい。
問題は、お前らが被害者の気持ちをまったく理解していない悪魔だっつう話だ。だから俺も同じことをお前にした。
ああ、そういうことだ。お前らの知り合いはもう皆死んでる。俺が殺した。ライナーとベルトルトの家族もな。ガビ、だっけか。ライナーの従姉妹がいるんだが…そいつがまあ、面白かったよ。おっと、関係なかったな。結論からいうとお前の残ったのは父親だけだ。その父親も、もうお前のことも認識できてない状態だ。お前に帰る場所はねえんだよ。
勿論、お前をボロボロにした後ライナーとベルトルトも拷問にかけて殺す。まあ、お前のことを誰も覚えずに死ねるってやつだな。よかったじゃねえか。
…オイオイ、発狂するなよ。ここまでいって信じないか。じゃあ、さ。うん。
アニ…。俺が間違っていた。いまさら俺を許してくれとは言わない。けど…一つだけ…。一つだけでいい…。頼みがある…。この世のすべてからお前が恨まれることになっても父さんだけはお前の味方だ。…だから約束してくれ。かえってくるって…。
だっけか?おいおい、唖然とするなよ。一字一句完璧だったろ?まあ、そのときの父親の気持ちは清々したって感じだったんだが。
ああ。これか。これが、始祖の巨人の力ってヤツだ。一部でもいいから対象者の肉を食うことで、対象の記憶を知ることができるってやつだ。とはいえ全部食べれば勿論全部継承できるが…頭痛くなるんでな。流石にそんな記憶容量俺にはない。だから、何かの因縁がありそうな足を食った。そしたらやっぱ強烈なもんで、足を食ったからか、そのときの記憶が浮かんできたよ。やっぱ始祖ってのは偉大だよ。
本当、規格外の力だよ。ああ、眠ってる時にお前を食って、そんでその記憶を知ってデマ言ってるってわけじゃないからな?というか流石に食われたらいくら化け物のお前でも気づくだろ。というか、そもそもこんな力が始祖にあるなんてお前ら知らなかったろ?
うん。そういうわけで、俺が始祖の巨人の継承者さ。お前らの目的ってヤツだ。
…オイオイ。何希望を手に入れたかのような顔してんだ?お前さぁ…バカだろ。状況考えたら?もう一回。…いいぞその顔、安心した。
うん、安心ついでに今から拷問するわ。当然継承者だからきもちのわりい再生能力持ってんだろ?
まずは爪の一枚一枚を…っておいおい。たった1枚だぞ。こんなことで発狂するなよ。ああ、巨人化しても結晶化してもお前の父親は殺すからそのつもりでな。
まずは爪から、その次は指、その次は足首と手首。ユックリ苦しむよう刻んでやるよ。
うん。しょうがねえよ。それがお前がしたことへの報いってヤツだ。しょうがないよな。
お前の父親は拷問した後殺すから。安心しろよ。一緒の場所にいけるぞ。
まあ、お前が悪いんだから仕方ないな。
その後、地下室に断末魔が響き。
3時間21分42秒。それが、アニ・レオンハートの精神が保たれた時間だった。
短め。
まあ、ライナー拷問の前哨戦ということで。ちなみに発言のほとんどに嘘が混じってます。エレンは始祖継承してないし、父親も拷問してません。マーレにも一度も行ってません。
ふと思ったんだがこれってアンチ・ヘイトタグいるんじゃね?
追伸。今気づいたんですけど誤字報告機能ってあったんですね。
いや誤字多すぎでしょ。修正教えてくれた人ありがとうございます。
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