レイレナードのNo.23 (Edain)
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第1話

 俺が生まれたのは、雪の降る日だった。窓の外に一面の雪景色が広がっていたのをなぜか覚えている。

 

 両親は共働きで、幼少期のほとんどを祖父母と過ごした。

 共働きとはいえ、いないのは平日くらいで休日は必ず家に居てくれたため、特に不満もなく過ごしていた。

 

 しかし、そんな生活も余り続かなかった。

 

 両親の勤める会社が、レイヴンに襲撃されたのだ。

 レイヴン。人型の機動兵器、AC(アーマードコア)を操る傭兵。

 

 父は死に、母は右足を失った。

 

 両親の勤めていた会社は無くなり、右足を失った母を雇ってくれる会社が見つからなかったため、それからは母と祖父母と共に暮らした。

 しかし、そうなると働き手がいなくなるため、まだ小学生だった俺と祖父母がアルバイトをし、生活費を稼いだ。

 

 レイヴンを恨まなかったわけではないが、いつまでも恨んでいては仕方がないと割り切っていた。

 

 その後、小学校、中学校を卒業した俺は高校には行かず、バイトをして生活費を稼いでいた。

 そんなある日、母がどこからか新技術の治験のバイトを探してきた。

 新技術を使った義手や義足を実際に使用し問題が無いか確認するという内容のそれを、母は受けることになった。

 

 バイト開始日、俺は母について少し遠いところにある大きな病院に来ていた。

 まず始めに、適性検査を行うということで母や他のバイトに来ていた人たちが連れられていき、付き添いで来た人も適性検査を受けるだけで少しバイト代が出るということなので俺も一緒に適性を測りに行った。

 

 その数日後のこと、俺のもとに一通の手紙が届いた。

 送り主はレイレナード社。内容は新兵器のパイロットとして俺を雇いたいという物で、詳細については実際に雇われてから説明するとのことだ。

 

 そろそろバイトを辞めて、雇ってくれる企業を探そうと思っていたところだったので、俺はこれを受けることにした。

 もちろん、新兵器のパイロットということなので、命の危険があるというのは承知の上でだ。

 

「これが君に乗ってもらう機体だ。と言っても、まだ試作段階だがな」

 

 幾つかの契約書にサインをし、正式にレイレナード社所属のパイロットになった俺は、自分が乗る予定の新兵器の前に連れてこられていた。

 

「これは…AC?」

 

 人に近い形をしたそれは、何度か見たことのあるそれよりもスラッとした印象を抱かせた。

 

ネクストAC(アーマードコアネクスト)、通称ネクスト。それがこの兵器の名前だ」

 

 ネクスト。脳と機械を繋げ直接操縦する新技術、AMS(Allegory-Manipulate-System)によって操作を行い、PA(プライマルアーマー)QB(クイックブースト)などの機能を搭載した新型のAC。

 俺がパイロットとしてスカウトされたのは、AMS適性がレイレナード社が求めている水準を超えていたかららしい。

 母が受けたバイトはこのAMSの実験のオマケのようなもので、本来の目的は俺のようにAMS適性が一定以上ある人材を探すことだったらしい。



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第2話

遅くなりました


「作戦内容を確認する。今回はネクスト全機による軍主要施設の同時襲撃を行う。ネクストのお披露目を兼ねている今回の作戦に失敗は許されない。君たちの活躍に我々の今後がかかっていると思ってくれ。まぁ、性能差を考えればまず失敗することはないとは思うがな。では、各員の健闘を祈る」

 

 その日、主要国家の軍主要施設が同時に襲撃を受けると言う事件が起き、襲撃を受けた主要施設を防衛していた部隊は全て壊滅した。

 後に国家解体戦争と呼ばれる戦いの始まりである。

 

 

 

 

 

「出撃回数を減らす?」

 

 初出撃から約一週間が経ったある日。俺は上司に呼び出されていた。

 

「あぁ。お前は既にここ一週間で十分な戦果を挙げている。これ以上戦果を挙げると他の企業からも注目され、今後君の本来の任務を行うときに影響が出るかもしれない。そのため、お前には悪いが戦果を少なくするために出撃回数を減らすという話だ。なに、出撃が無くなる訳ではない」

 

「了解しました」

 

 上司に礼をし、部屋を退出する。しかし、出撃が減るのは困ったな。これではほかのやつとの差が開いてしまう。

 

「よう、どうした浮かない顔して」

 

 廊下を歩いていると、一人の男がこちらに話しかけてきた。

 

「何だ、ベルリオーズか」

 

 ベルリオーズ。俺と同じネクストのパイロット、リンクス(Links)であり、複数いるレイレナード社のリンクスの中でもっとも優秀な男だ。

 

「少し考え事をしていたんだ」

 

「考え事?」

 

「あぁ、実はさっき俺の出撃を減らすという話をされてな」

 

「なに…?」

 

 ベルリオーズが目を見開きこちらを見てくる。

 

「どういうことだ?俺ほどではないがお前もかなりの戦果を挙げていただろう?」

 

「確かにお前ほどではないが、ずいぶんはっきりと言ってくれるな」

 

「事実だからな。それはさておき、それほど優秀な者の出撃を減らすなど、上層部は何を考えているんだ?」

 

「まぁ、上には上なりの考えがあるんだろうさ」

 

 上の考えは理解できている。だが、ベルリオーズに俺の本来の任務について教えることはできない。もどかしいがこれは仕方の無いことだ。

 

「それよりさっきの続きなんだが、出撃が減ると他の奴と腕に差ができてしまうと思ってな。ちょうどいい、ベルリオーズ。訓練に付き合ってくれないか?」

 

「あぁ、そういうことなら付き合おう」

 

 

 

 飛び上がり、追い越し、クイックターンする。目の前には背中をこちらに向けるネクストの姿。しかし、此方が引き金を引くのと同時にその姿がぶれ、躱されてしまう。

 

『どうした、そんなことでは捉えられんぞ』

 

 その声と共に、地面へと落ちるこちらに向かってグレネードが放たれる。それを避けきれずに被弾してしまう。

 グレネードの衝撃と共に、残っていたAPがすべて無くなってしまった。

 

「くそ、また負けた」

 

 シミュレーターを使った実戦形式での訓練。今までにもベルリオーズと何度かやっているが、その全てにおいて俺は負けていた。

 

「お前は腕はいいんだが動きがワンパターンすぎる。そんなことでは戦い慣れた者には絶対に勝てんぞ」

 

 ベルリオーズがこちらに近づきながらそう言ってくる。

 

「それは分かってるんだが、どう動けばいいのか分からなくてな。なにせACの動かし方が分かるのは同じリンクスくらいしかいないんだがなかなか合わなくてな」

 

「なるほどな。ふむ…もう少し左右に動いてみたらどうだ。飛びあがったときにも上を飛び越すのではなく横にずれるようにするとかな。そうすれば狙いを定めさせないようにできるし、飛び越したはずなのに横に居れば不意を突くこともできる」

 

「なるほど…確かにそうだな。ありがとうなベルリオーズ。おかげでもう少し強くなれそうだ」

 

「なに、これくらいならいくらでも付き合うさ。それで、さっそく実践してみるのか?」

 

「あぁ。悪いがもう少し付き合ってくれるか?」

 

「言っただろう?いくらでも付き合うさ」




主人公とベルリオーズの口調に違いがつけられない…
くそがっ!オレのせいかよっ!


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第3話

 In The Myth(神話の御世にあって),God Is Force(神とは即ち力のことである)

 

 その言葉の通り、戦場に於いてネクストは神のごとき存在だった。突然戦場に現れ、敵対する存在を殺し尽くす姿に、いつしか『死神』と呼ばれるようになっていた。

 

 

 

 

 

『ネクストだ!!ネクストが来たぞ!!』

 

 無線機から敵の叫び声が聞こえてくる。最初の頃はこちらと通信をしようとしてきたり、所属を明かすように言ってきたりしていたのだが、今では此方の姿が見えた瞬間にこうして戦闘体制をとってくる。

 まぁ、だとしてもこちらのすることは変わらないのだが。

 

「レイレナード社所属、ネクスト、ラ・プロヴだ。ただちに降服しろ。我々は無駄な殺生を望んではいない」

 

 こちらの言葉に対して返ってきたのは言葉ではなく、ミサイルや砲弾だった。

 空中にいるこちらに向かって殺到するそれらを避けつつつづける。

 

「なるほど、貴様らの返答はよく分かった。ラ・プロヴ、これより戦闘を開始する」

 

 

 

『死神…成る程、これほどとは。勝てないわけだ…』

 

 最後の一機に向けてライフルを撃つ。それが最後の一撃となり、敵は全滅した。

 

「こちらラ・プロヴ。敵を殲滅した、作戦終了だ」

 

『こちらレイレナード社管制室。ラ・プロヴ、申し訳ないがそのまま次の作戦に向かってくれるか?』

 

「弾はそれほど使っていないからこのまま向かえるが、どうしたんだ?補給もせずに連続とは珍しいな」

 

『アクアビット社から援軍要請が入った。どうやら向こうのネクストが弾切れ寸前の上に徐々に敵に押され始めているらしい』

 

 2週間前から始まったこの戦いについて、上から厳命されていることが二つある。

 一つ目は、ネクストが参加する作戦に於いて失敗、及び撤退は許されないということ。これは作戦の重要度の問題ではなく、ネクストという存在を絶対的な力の象徴とするためだ。

 二つ目は、レイヴンよりも国家の正規軍を優先して攻撃すること。こちらはレイヴンが傭兵であり、契約を結べば味方となる存在であるのに比べ、国家の正規軍は味方となることのない存在だからである。

 とはいえ二つ目には例外もある。正規軍でも降服した者は受け入れるし、ネクストを撃破するために国家に雇われたレイヴンなど最優先撃破対象だ。

 

「成る程、理由は分かった。しかし何故俺に?向こうにも他のリンクスが居るだろう?」

 

『理由は二つ。一つは君が一番近くに居ること。そしてもう一つは敵の中に伝説と呼ばれるレイヴンが居ることだ』

 

「…成る程、理解した。ではこれより援軍に向かう。目標地点までのナビゲートを頼む。伝説と呼ばれるレイヴン…どれ程のものか」

 

『了解、これよりナビゲートを開始する。決して油断はするなよ』

 

 

 

『そろそろ目的地だ。それでは、健闘を祈る』

 

 さて、まずは無線を入れておかなければ。

 

「あー、こちらラ・プロヴ。間もなく援軍に到着する。聞えているなら返事をしてくれ」

 

 これは味方に対する連絡だけではなく敵に向けての警告でもある。ネクスト2機を相手にするのか、という。それで逃げ始めるなら背後から襲いかかればいいし、逃げなくてもネクスト2機を相手にして生き残ることはできない。

 

『こちらアクアビット所属、ヒラリエスだ。援軍感謝する』

 

 無線から聞こえてきたのは、若い女の声だった。おそらく同じくらいの年齢ではないだろうか。

 そろそろ戦場に着く。ノーマル相手とはいえ相手は伝説と呼ばれるほどの相手、油断は禁物か。



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第4話

友人に煽られたので本日二話目投稿です


 そのレイヴンには、いくつもの逸話がある。

 

 曰く、受けた依頼は全て完璧にこなし、依頼に失敗したことは一度もない。

 

 曰く、被弾したことはあれど機体が動かなくなるほど損傷したことはなく、今でもレイヴンになった時と同じ機体に乗っている。

 

 曰く、その戦績に黒星は一つもなく、歴戦のレイヴンでさえ勝つことはできないほどの強者である。

 

 

 

 曰く、その実力はネクストに届きうるほどである。

 

 

 

 そのいくつもの逸話から、そのレイヴンは『伝説』と呼ばれた。

 

 

 

 

 

 戦場に着くと、そこでは複数のACの残骸が広がる戦場で二機のACが戦闘を繰り広げていた。

 二機のうち一機は移動中に聞いていたヒラリエスの外見と一致した。そして残るもう一機のACは、黒に近いカラーリングをした軽量機だった。

 

 その二機を見たとき、俺は驚愕した。両者ともに損傷していない(・・・・・・・・・・・・)のだ。

 アクアビット社製のネクストはプライマルアーマーが非常に優れていると聞いたことがあるため、ヒラリエスの方は分かる。だが、もう一機の方はプライマルアーマーで守られているわけではないただのノーマルACである。

 いくらヒラリエスの武装が単発の威力を重視していて回避されやすいとはいえ、ノーマル相手に一発も当てられないということはないはずだ。

 つまり、伝説とまで謳われたレイヴンの実力は我々の想像を上回るということだろう。

 

「なるほど、その称号にふさわしい実力と言うことか。どうやら過小評価していたようだな」

 

 今までの有象無象の敵とは違う強敵を前に、無意識のうちに体に力が入る。

 そして、クイックブーストを噴かして一気に接近し、マシンガンを叩き込みながら無線機に向かって叫ぶ。

 

「さあ、お前の実力を見せてみろ!!」

 

 レイヴンは答えずブーストを吹かし回り込むようにして回避する。が、さすがに近距離でのマシンガンは避けきれなかったようでその機体に傷がつく。

 そしてお返しとばかりにその手に持ったマシンガンを撃ってくる。

 それを横方向へのクイックブーストで回避し、レイヴンの方向へクイックターン。今度はライフルを撃ちつつ飛び上がり頭上を飛び越える。

 そして再びクイックターンをし背後を取りマシンガンとライフルを撃ち込む。

 

「どうした、伝説と言ってもその程度か?」

 

 レイヴンは先ほどと同じようにブーストを噴かして回避をする。それに対して俺も先ほどと同じように飛び上がり頭上を飛び越える。

 しかし、そこからは同じようにはいかなかった。

 

「なんだと!?」

 

 レイヴンはこちらが着地する位置が分かっていたかのように正確にこちらを向き、そしてマシンガンとは逆の腕に装備したハイレーザーライフルを放ってきたのだ。

 それは此方に吸い込まれるかのように向かって来ていた。

 

「くっ…」

 

 急いでクイックブーストを噴かし避けようとするが、反応が間に合わずに直撃してしまった。

 此方が被弾の影響で硬直している間にも、今度は背中に背負ったミサイルをこちらに向けて放ってくる。さすがに連続で被弾するわけにはいかないので、ブーストとクイックブーストを用いてすべて回避する。

 そしてそのまま今度はネクストの機動力を生かして旋回し常に背後に回り込みマシンガンとライフルを叩き込むが、このままではまた対応されてしまうだろう。

 俺がどうすべきかと考えていると、レイヴンに二条の緑色の光が吸い込まれ、そのまま沈黙した。

 

『援軍感謝する、ラ・プロヴ。あのままでは確実に弾切れしていたところだった』

 

 その声を聞き、ようやくヒラリエスの存在を思い出す。待ち望んだ強敵が現れたことで忘れてしまっていたようだ。

 

「あぁ、それよりも大丈夫だったか?見た感じは問題無さそうだが…」

 

『心配してくれるのか?優しいんだな。あぁ、私は問題ない』

 

 アクアビット製のネクストはプライマルアーマーが非常に優れているというのは本当の事だったようだ。すごい技術力だな。

 

「さて、任務は無事に達成した。俺は帰還するとしよう」

 

『あぁ…それなんだが、すまないがもう少し付き合ってくれないか?』

 

「どうした、まだ敵がいるのか?」

 

『いや、そうではないんだが…その…恥ずかしい話だがさっきのですべて弾薬を使い切ってしまってな…』

 

 どうやら援軍は本当にぎりぎりだったかようだ…間に合ってよかった。

 

「そういうことか。分かった、そちらが無事に帰還するまで護衛しよう」

 

『すまない、助かる。どうせなら私達の基地で補給して行くといい。改めて今回の事を礼もしたいしな』




次回はP.ダムさんのフラグを建てるんだ…頑張ります(白目)


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第5話

 アクアビット社の基地に着き、休憩室の一室に通されしばらくすると、職員の一人が部屋に入ってきた。

 

「レイレナード社のリンクスの方ですね。この度は援軍に来ていただきありがとうございました」

 

「たまたま俺が一番近場に居ただけだ。それにあのレイヴンに少し用があったんでな。それで、整備の方はどのくらいで終わりそうだ?」

 

「はい、機体の損傷はそこまで深刻ではないようですので、補給作業修復作業合わせて5時間程で終わる予定です」

 

「そうか、なら俺は少し休ませてもらう。終わったら知らせに来てくれ」

 

 職員が部屋から出ていくのを確認し、そのままソファーで少し眠ろうと目を閉じたところで、俺は部屋のドアがゆっくりと開くのを感じた。

 

「…」

 

 ドアから入ってきた気配は息を潜めてこちらに向かって来ていた。

 

 これは…どうするべきだ?アクアビット社はレイレナード社と同盟関係にあるからここで俺を殺すことは無いと思うが…いや、国家の刺客か?だがさっき職員が出ていったばかりだぞ?いくらなんでも早すぎる…

 

 そうこうしているうちに気配はどんどん近づいてきており、とうとう俺が横になっているソファーの目の前で停止した。

 

「…」

 

 見られている。無言で見つめられている。

 

 なんだ、何がしたいんだこいつは。刺客ではないのか?だったらなぜ息をひそめてこちらに…

 

 部屋は物音一つせず、室温も心地よい温度になっていたが俺はとてつもない重圧を感じていた。

 

 

 

 あれから一時間ほどが経過しただろうか。本当ならすでに夢の中に旅立っていたはずの俺は、いまだに重圧に苦しんでいた。

 

 おいおい、一体いつまでこうしているつもりなんだこいつは。頼むから用が無いなら休ませてくれ。

 

 目の前から発せられる重圧に耐えかねた俺は、とうとう目を開けてしまった。

 

「…」

 

 目を開けると、すぐ目の前に淡いピンク色をした目があった。

 

「!?!?」

 

 驚き、後ずさろうとするが既にソファーに寝ているために逃げ場などどこにもない。

 そのまま無言で見つめ合っていると、それまで殆ど動かなかったそいつはスッと顔を離した。

 

「…起こしちゃいましたか」

 

 目の前から顔が離れていったことにより、そいつをしっかりと視認できるようになる。

 ついさっきまで目の前にあった瞳に、それと同色の長い髪。身長はあまり高くなく、むしろ低いくらいで全体的に小柄な印象だ。服装は先ほどの職員のようにスーツを着ているわけではなく、黒と白のワンピースを着ており、両手でクマとウサギのぬいぐるみを抱きかかえていた。

 目の前のその女性に見覚えはなかったが、口調こそ違うもののその声には聞き覚えがあった。

 

「ヒラリエスのパイロット…アクアビットのリンクスか」

 

「はい、私がヒラリエスのパイロットです。名前はP.ダムと言います」

 

 こちらの推測通りの言葉が帰ってくる。

 無線越しに声を聞いたときに抱いた印象よりも幼く見えることにも驚きだが、それよりも口調が全くの別人のようになっていることに驚く。

 すると、こちらの反応に少し焦りながら彼女がしゃべり始めた。

 

「あ、あの。私、ネクストに乗っている間は少し性格が変わっちゃって…仲間の方たちは気にしないでいいって言ってくれるんですけど、やっぱり怖くて…変ですよね…」

 

 これもAMSの影響なのだろうか。

 AMSと言うのは精神的な負荷がとてもひどい技術だと、エンジニアが言っていたのを思い出す。俺にはネクストから降りた後に気分が悪くなる程度の影響しかなかったからそこまで気にしたことはないが、人によってはそれこそ人格が崩壊してしまう恐れもあるほどだと言っていたことも。

 

「いや、性格が変わるだけで人格が変わっているわけではないのだろう?だったらどちらの性格でも君は君だ。その仲間の言う通り気にしなくてもいいだろう」

 

 あまりありがたみのある言葉ではないが、それでも少しは助けになるといいのだが…

 そう思いつつ改めて彼女の顔を見ると、なぜか嬉しそうに笑っていた。

 

「そう、ですか…そうですよね。うん、確かに私は私です。なんだ、言われてみれば確かにどっちも私です。なら怖がらなくてもいいですよね。えへへ、ありがとうございます、えっと…」

 

「ゴーシュ・アインザックだ」

 

「ありがとうございます、ゴーシュさん。おかげで悩みが解決しました」

 

 そんなに良いことを言っただろうか。少なくともここまで笑顔になるようなことは言ってないはずだが…

 そう考えながら、しばらくの間嬉しそうな彼女を眺めていた。




この話の展開にも悩みましたが次の話の展開にも悩んでいます。
一体どういう展開にしようか…


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