双葉杏へのエトセトラ (内臓脂肪が多いガリノッポ)
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双葉杏とは
双葉杏という人物を聞いたことがあるだろうか。
双葉杏とはかの有名な346プロに所属するアイドルである。北海道出身の身長139センチ、体重30キロ。誕生日は9月2日の乙女座の17歳で、右利き。そして血液型はB型である。なお、スリーサイズは明かされていない。
容姿はその年齢にそぐわぬ身長により、綺麗というよりは可愛らしい。妖精と言っても差し支えない程の童顔には、それに見合う二つに纏められた長い金髪に大きな瞳が、見る者の目を惹きつける。
性格は面倒臭がり屋で、レッスンはサボりがち。やる気の無さはその『働いたら負け』と書かれたTシャツからも見て取れる。
しかし天才肌な彼女は、本気を出せば大抵の事を難なくこなせ、極上の笑顔を浮かべることが出来る。その笑顔に魅力されるファンは大変多い。
面倒臭がり屋な一方で、頭が良く回る彼女はとても人に気が使える。緊張している同僚をフォローしたり、後輩の活動の後押しをしたり等々、優しい一面も存在している。
そんな彼女が、働きたくないのにも関わらずアイドルをしている理由はただ一つ。若いうちに稼いだ金で、働かずして遊び、食べ、寝ることである。怠惰を極めたこの生活を送る為に、彼女は日々アイドル活動を続けているのである。
長々と双葉杏のことを述べたが、この小説が描くのは他にある。
この『双葉杏』という人物に魅力された者。世話をさせられている者。また彼女と親しい者や、同僚。そんな彼女と関わる不特定多数の人物から見た彼女を語る物語である。彼女を取り巻く環境を語る物語である。
「それと、あともう一つ。」
そう、そしてその他に一つ重要なことがある。
「「我々は双葉杏を心から好いている」」
ある者は友人として、ある者は家族として、ある者は相棒として。またある者は
そんな、単調な彼らの思いを綴って、または語っていこうと考えている。自己満足とも言えるこの物語だが、必ず誰かの心に響くものだと我々は信じている。何故ならこの世界に双葉杏を愛する者は、数多く存在しているからだ。
さあ、双葉杏を愛する同士よ。またはあまり彼女について知らない者たちよ。もし許すならば、この本のページを次へとめくって欲しい。そして彼女を知り、あわよくば好いて貰えるなら我々は本望だ。そして、彼女の輝きを是非とも感じて欲しい。
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双葉杏のプロデューサー
ピーンポーン。
………………
ピンポーン
…………
ピンポンピンポーン
「…………で・な・い。アイツ、また居留守使ってんな。」
携帯電話を取り出した俺は、迷うことなく双葉杏の名をタップする。
プルル、プルル、プルル……
『留守番電話サービスです。ピーという発信音_____』
通話を切り、電話ポケットにしまう。ああ、分かったよ杏。お前、俺にケンカ売ってんだな?いいだろう、大人を怒らせたら怖いってこと教えてやるよ。
「……本当は使いたくなかったが、仕方がない。それに許可はしっかりと取ったからな。」
懐から取り出したものをドアノブに向ける。そして、それで鍵を開けた俺は宅内に入る。
玄関を抜け、電気が付きっぱなしなっている部屋をいくつか過ぎ、ひとつだけ電気が消えている部屋を見つける。
「________」
息を思いっきり吸って、そして止める。さあ、お仕置きの時間だ。
「起きろ!!このあほんだら!!」
「わあああぁ!?ちょ、ちょっとプロデューサー!?驚かさないでよ!」
俺の怒号に飛び起きたソイツの首根っこを掴む。もう逃さねぇからな。
「驚いたのはこっちだよ!!お前今何時か知ってっか!?10時だよ10時!んで番組収録は何時からか覚えてるよな……!?」
ゴゴゴゴゴゴ ジャンプかなんかなら間違いなく俺の体からは、そんな文字が出てることだろう。ん?このままスタンドでも出してやろうか?今の俺なら出来そうだ。
「……えーと、杏の記憶が正しければ〜、確か10時半だったような……。」
此方には向かずに泳ぐ目。寝癖もあるし、服装はいつもの阿保みたいなシャツ。どう見ても今から仕事に向かう奴の格好ではない。
「その通り!よく覚えてたな、後は時間通りに起きてりゃ文句なしだったよ!!さてはお前、昨日も遅くまでネトゲしてやがったな!ああ言い訳はいらねぇ、その証拠につきっぱなしのパソコンがそこにあるからな!」
散らかりに散らかった部屋に佇むPC。夜通し付いていだろうそれは、画面に未だにインしたままのキャラクターを写していた。
「……あ、あはは。その、さ?イベント限定アイテムの期間が深夜までで_____」
「言い訳はいらん!!時間も無い、今から現場に直行だ!文句は聞かんぞ!!」
脇に小さな体を抱え、玄関を飛び出す。階段を駆け下け降りていると、後ろから扉の閉まる音が聞こえた。
「確かおまえん家オートロックだったよな!?」
「そ、そうだけど。って待ってよプロデューサー!杏まだパジャマなんだけど!?」
「知らん!仕事着は車の中にあるし今日は『とときら学園』の収録だ、挨拶回りも必要無い!よって問題なしだ!!」
車の後部座席にソイツを放り込み、運転席に乗る。そして鍵を指し回してエンジン音を響かせる。
「_____今日は飛ばすぞ。」
「ちょ、ちょっと待って!?シートベルトがまだ____」
俺のメルセデスが法定速度を無視して動き出した。
♢
「「あんきらンキング〜!!」」
双葉杏と諸星きらりのランキング形式のコーナー、あんきらンキング。仲良しな凸凹コンビ(物理的に)がテーマにそって順位を紹介していくコーナーだ。
「……なんとかなった、というよりなんとかしたって感じだな。」
収録の様子をを遠目に壁に思わず寄りかかる。仕事に支障が起きなかったことに安堵を覚えながら、缶コーヒーを片手に己の担当アイドルに意識を傾ける。
『____?___、_____!!」
『_____!!_____!!」
コーナーは問題無く進んでいく。二人は笑顔で楽しそうに話していた。時折、営業スマイルじみた笑顔を見せたウチのアイドルだが、それすらも様になっているのがなんとも言えない。いや、むしろそのスマイルがファンを惹きつける一端なのかもしれない。
「仕事はしっかり出来るんだから、私生活ももうちょいどうにかできると思うんだがなぁ……」
しかし、そこはマイペースを極めたアイドルこと双葉杏。私生活は欲望に正直に過ごしている。お陰で俺の勤務外労働が増えているわけなんだが、まぁそれもこの仕事の出来なら多少は仕方のないことか。
「______さて、ご褒美の飴でも買ってくるかね。」
担当アイドルの様子から問題なしと安心した俺は、近場のコンビニへ向かうことにした。サボることばかり考えてる奴が働いてるんだ。これくらいは俺のポケットマネーから出してやろうじゃないか。
♢
「んで、どうだった?今日の杏は。」
仕事を終えた杏はだらけにだらけた格好で楽屋に転がっている。こちらを横目に、ナマケモノの如く力の抜けた饅頭のような顔をしていた。それは、思わず頬をつつきたくなる魔力を放っていた。
「周りのフォローも出来て、笑顔も絶やさず話せてた。ノリも良かったし、あんきらンキングは文句なし。その他諸々も特に問題無し、つまりオールオッケーだ!仕事に関しては百点満点、よくやってくれた。」
「ま、杏がやる気出したんだから当たり前だよね〜」
「ーーーーと言いたいところだが、朝の寝坊で台無しで台無しだから50点だ。」
「えぇ〜、そりゃないよプロデューサー。杏はこんなにも身を粉にして頑張ったっていうのに。むしろ休日をあげるくらいされてもバチは当たらないよ?」
口を尖らせてそんなことをほざく娘っ子。ほうほう、此奴はそんなにも俺を修羅にさせたいのか。此方もそこまで言うなら吝かじゃない。
ゴキ、ゴキ。
「ほぉ〜、そうかそうか、そこまで言うなら俺の全身全霊を持ってお前を褒めてやろうじゃないか。」
後ろから鬼が浮かぶのを感じる。文字通り、コイツにはお灸を据えなきゃならんらしい。
「ちょ、ちょっと待ってよプロデューサー!?なんか後ろから鬼が見えるんだけど!?手がゴキゴキなってるんだけど!?それ絶対褒める為の動作じゃ無いよね……って、くすぐったーーーーーー」
一応アイドルであるコイツの為に、この後のことを明言するのは止めておこう。一言で言うならば、『ぶち撫で転がした』という感じだろうか。このときばかりは、年相応の笑顔が見れた気がする。
♢
帰りの車の中。俺と其奴が乗る車内には静寂が訪れていた。今日の仕事もつつがなく終えた訳だが、何故かお互いに口を開けないでいたのだ。
……………
…………
………
……
「…なぁ、杏。」
「ん?」
少し、重苦しい声色をしていた俺に対し、杏はいつも通りの力の抜けた声を返してくれた。
「……アイドルは楽しいか?」
「どうしたの〜、藪から棒に。杏いつも言ってるけど、夢の印税生活のためにアイドルしてるんだよ?」
「それは知ってる。けど、そのためとはいえ仕事は大変だろ?疲れで体調を崩したりはしてないよな?」
「……う〜ん。確かに杏は働くのは嫌だし疲れるも嫌だよ?けど、そんな心配されるほどじゃないよ?」
うぅむ、イマイチ伝えたいことが上手く届かない。気恥ずかしくてストレートに言えない自分がもどかしい。
「……あーはいはい、そういうことね。プロデューサー、流石に回りくど過ぎだよ。」
そして杏はめんどくさいなぁと呟き、ひと呼吸置いた後、口を開いた。
「……別に私は今すぐにでもアイドルを辞めたい訳じゃないよ。夢の印税生活はまだ遠いし、ほんの少しだけだけどやってもいいかな〜って仕事もある。だからーーーーーー」
後部座席にいる杏が、少し前かがみになるのがバックミラーから見えた。そして顔を俺の耳元に近づけて、
「ーーーー安心してよ、プロデューサー。」
杏は大丈夫だよ。そう続けたソイツの声は正に妖精だった。心が落ち着き、強張っていた肩から力が抜ける。確かに、俺は安心した。
「そう……か。なら良かった、ああ本当に。」
実は少しだけ不安だった。俺はコイツに無理矢理働かせているのではないか。俺はコイツを傷つけているのではないのか、と。
「全くもう、杏はプロデューサーがいないと朝に起きられないよ?ご飯も用意するの面倒だし、家から出るのも無理。」
ポスンと深く座り直したソイツは、指を折りながら出来ないことを挙げていった。いやいや、流石に家からは自分で出てくれ。
そして杏はだからさ、と一度言葉を区切ってそう言った。
「明日も杏を起こしてよ、プロデューサー。」
コイツは……本当に、本当に大した奴だよ。
俺が杏を傷つけていないかと心配していたことも。俺を安心させる方法も。俺を元気づける方法も。コイツは全部わかってたんだ。
一見、面倒臭がって何もしていないように見える杏。だがしかし、コイツはしっかり人を見ている。だから、杏が深刻な問題を起こすことはほとんどない。ある種打算的だが、これは杏の長所だ。
だから、俺はコイツのプロデューサーをしたいと思ってしまうのかもしれない。面倒臭がりで少し大人びているコイツを、俺はいつか本気でアイドル業で笑顔にしたいと思っている。既にその笑顔で多くの人を魅了する杏が、もし本気の満面の笑みを見せたら。きっと誰にも負けないアイドルがそこにはいるはずだ。
「玄関までは迎えに来てやる。」
「えぇ〜、プロデューサーのケチ〜。」
だから、それまでは俺も遠慮無しだ。いつか、コイツをトップアイドルにしてやる。きっと、杏ならなれると俺信じている。
「あ、そうだ。ほら、今日頑張ったご褒美だ。前にお前が気になってた新発売のやつだろ?これ。」
「お、気が効くじゃんプロデューサ〜。あーん。もごもご……うん、甘くて美味しい。」
「そりゃ良かった。んじゃあ明日も頑張るしかないな。飴食べちゃったからな。」
「な!?そ、そりゃないよ〜。杏、明日は家でだらけるって決めてるんだからー!」
「いや明日の予定は一月も前から決まってるからな。お前には知らせてなかったけど、どうせだらけてるってのは分かってるし。」
さて、と。明日も頑張りますかね。
「そんな〜。もう、励まして損したよ!嫌だ!杏は働かないぞ!」
「週休8日を希望する〜!!」
杏の察する力はとんでもないと思います。きらりの話し方の理由を見抜いた時は、「コイツすげぇな」と素で口にしてしまったことを今も覚えてます。
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双葉杏のファン
にしてもデレステのMVのクオリティが未だに上がり続けていることに驚きですよね。このまま5年も10年も続いて欲しいものです。いや、デレマスはそのうち10年いくんですけどね。
¥月€日 多分晴れ
今日、双葉杏というアイドルをテレビで見た。初めて存在を知ったし、アイドルに興味があるわけでもなかったが、そのキャラがやけに印象に残った。
何しろ、『働いたら負け』などとニートの様なセリフを小さな女の子が口にしているのだ。それはそれは驚くだろう。
しかし仕事帰りで疲れていた俺の頭には、あまり内容が入っては来なかった。しかし、可愛らしい娘だなとは感じた。さて、明日も仕事だからもう寝なければ。
ろうどう月したくない日 心は雨降り
今日も疲れた。もう日記を書くことも億劫だ。しかし日課なので休むのは躊躇われる。
しかし、書くこともないしとにかく疲れた。昨日のアイドルも言っていたが、できることなら働きたくないものだ。
はぁ、寝よう。
¥月#日 おそらく曇り
今日は休日だから久しぶりにゆっくりしようと、テレビをつけたらまた双葉杏とかいうアイドルの姿を見た。そして、我が目を疑った。
アイドルが『印税生活』とプリントされた服を着ていたのである。小さくて、金髪の可愛らしい女の子がそんな服を着ている。そのギャップといったらすざましかった。
少し双葉杏に興味を持った俺はネットでプロフィールを調べてみた。
そして、そこでもびっくり仰天だ。まさか、あの容姿で17歳とは思いもしなかった。こんなにも小さな娘が高校に通っていると考えると、なんだかフィクションの様にも感じる。
結局その日は、双葉杏についてネットでサーフィンし続けて終わってしまった。ゲーマーで、引きこもりがちで、けれどアイドルをしている。そんな姿に、なんだか憧れている自分がいた。
できることなら、俺も仕事なんか辞めてゆっくりと生活したいもんだ……
双葉杏とはその点、同じ思いをしているのかもしれない。
つか月れた日 自分的には台風
特に体調が悪いわけではなかったが、仕事を休んだ。いや、正直精神的にはあまり体調はよろしくなかっただろう。無理に仕事に出続ければ多分そのうち倒れてたと思う。
休んだ甲斐あって、少しスッキリした。同僚や上司には申し訳ないが、休んで正解だったようだ。気を入れっぱなしは良くない、と今回で学んだ。
休む勇気ができたのは、もしかしたら双葉杏のおかげかもしれない。働きたい訳ではないのだから、身体を削ってまで働くのは自分の為にならない、だったか。彼女の言う通りだったようだ。
今日は気持ちよく寝れそうだ。さて、明日は仕事を頑張ろう。それと双葉杏よ、ありがとう。
あん月きら日 そりゃもう晴天
今日は市内でも有数の大きなショッピングモールに来ていた。家電製品や家具などを買い換えるために、いろいろと物色しに来た、という感じだ。
そして適当に商品を見ていたら、いつのまにか昼時。混む前にフードコートへと向かうことにした。そこで、ラーメンを食べて一息。買い物は既に終わって宅配をしてもらうことになっているので、この後は暇だった。
このまま帰るのは遠出した意味が無いし、どうしたものかと悩んでいると店内で放送が流れてきた。
なんでも一階の簡易ステージで、アイドルのミニライブがあるらしい。どうせやることもないので、見に行くことにした。
「「あんずときらりであんきらでーす!!」」と声が聞こえた。
……とんだ偶然もあったものだと思わず感じた。
そう、そこに立っていたのは最近よく目にする双葉杏と、その相方ともいうべき諸星きらりだった。
そして気がつけば、俺は人混みを掻き分け最前列まで来ていた。正直に言えば双葉杏を自分の目で見てみたかった。なぜ興味を持ったのかも分からないが、このアイドルがどんな人物なのか知りたかったのである。
そして、ミニライブは始まった。
二人の声に反応する、ファンたちのコールが後ろから聞こえる。その熱気に思わず息を呑んだ。
そして、それにまた答えるようにパフォーマンスをする二人。息はピッタリだ。
何より目を現れたのは双葉杏のパフォーマンスの高さだった。あんなにも労働に対して苦言を漏らしていたのにも関わらず、今の彼女は正にアイドルだった。
曲が終わり、歓声が上がった。その中に俺の声が入っていたことは言うまでもないだろう。
案外、いやかなり有意義な休みになった。
のの月ワ日 晴れのち曇り
仕事の関係で、東京に泊りがけで来た。慣れない場所に、慣れない仕事はそりゃもう疲れに疲れた。双葉杏のセリフにもある通り、そのときは週休8日が欲
しかった。
でも、今日は最終日なので明日からは振り替えの連休がある。今日はホテルでぐっすり寝て、明日は東京で息抜きをしよう。
72月くっ日 雨と見せかけての曇り
なんたる偶然。今日、双葉杏の握手会があるらしい。
そんなチラシを会場近くで見た。先日から続々買っている電化製品類を、秋葉原で探していた俺はそのチラシを見て、即刻買い物を止め会場へと急いだ。
会場には既に沢山の人が列に並んでいた。此処にいる人の全員が双葉杏のファンだと考えると、なんだか壮観だ。
集まっている人を見てみると、双葉杏が普段着にしているらしい『働いたら負け』だとか『印税生活』とプリントされたTシャツを着ている人がかなりいた。……お前らも仕事に疲れいるんだな、と謎の親近感が湧いた。
そして始まった握手会。長蛇の列は少しずつ進んでいた。かなりの時間をかけて俺の番が来た。しかし、そこで俺は気づいた。
ーーーー何と声をかければ良いんだろうか。
衝動的に来てしまった俺はそのことを何も考えていなかったのだ。しかし、もう双葉杏が正面にいた。
そして、追い討ちをかけるように双葉杏がにこりと微笑みを見せた。取り敢えず前に立つも、言葉が出てこず固まってしまった。
「……あ、その顔、仕事に疲れてるサラリーマンって感じだね。杏と同じで頑張って労働してるんだね〜」
俺の顔を見て、双葉杏はそんなことを言ってきた。さっきまでのスマイルを崩して、まぁ頑張ってよ、と言うとあちらから手を伸ばしてきてくれた。
「ーーーーそうだな、ありがとう。明日も頑張るからさ、君も無理せず頑張ってくれ。」
上から目線なセリフしか出ない。社会に出て身についた年功序列制に塗れた自分が少し嫌だった。
だが、それも彼女との握手で全てチャラになった。
それじゃあ杏に貢いで帰ってね、そんな台詞を最後に係員の誘導のもと出口に向かった。
帰りに、双葉杏が歌っている曲のCDを一通り買った。財布は軽くなったが、後悔はなかった。
アイ月マス日 ふつうに晴れ
今日、職場の後輩にオタク認定を受けた。
何故かと聞いてみたら、自分の行動を思い返せみろと言われた。その場では否定しかしてなかったから無理だったが、いま日記に書き出してみたいと思う。
・双葉杏の生年月日及び、プロフィールを知っている。
・双葉杏のライブに行った。
・双葉杏の握手会に行った。
・双葉杏の歌っている曲のCDを買った。
……………あれ?
いや、待て。別に俺は双葉杏のファンではない筈だ。たしかに彼女の労働への考え方は共感できなくもない。だが、この程度でファンとは呼べないだろう。ライブのときにいたファンや、握手会のときにいたファンはもっと、(ここで文章が途切れている)
…………日記を書いている途中に電話が鳴ったので、それを見た後でこれを書いている。なんでも、ライブのチケットが当選したらしい。そりゃもう嬉しかった。これでまた、双葉杏の姿が見れる訳だから喜ばない筈がない。
だがしかし、喜んでいてふと気がついた。
ーーーーーーーー俺、ファンみたいじゃん。
あれ?
いや、そんなはずは……………
ーーーーーーーーーーーーあれ?
気がついたら双葉杏が好きになってた。なんて人は多いんじゃないかなと、思います。かくいう私もそうで、いつのまにか担当になってました。
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