ドラクエの戦士がダンジョンに潜るのは間違ってるだろうか? (流れる素麺)
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プロローグ

 落ちる。落ちる。どこまでも。

 ああ、自分は死ぬんだなと、漠然と感じ取っていた。

 

 「くそったれめ。」

 

 魔王討伐の旅に出て早くも1年たった。

 厳しい冬も熱い火山も乗り越えてきたのに、俺はこんなところで死ぬのか。

 

───どうか、来世は平和に生きられますように。

 

 願いも虚しく、地面が近づき──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───目を覚ましなさい。

 

あなたは?

 

───私は女神ヘラ。

 

ヘラ?そんな女神の名は聞いたことがない。

 

───龍の世界に生きた戦士よ、あなたに新たな肉体をさずけましょう。

 

新たな肉体?わけがわからない。

 

───力も魔法もそのままに、新たな道を歩みなさい。

 

待ってくれ、俺はどこへ行くんだ。

 

───あなたの第2の世界、それはオラリオ。迷宮都市です。どうか、あなたに幸多からんことを。

 

 そこで俺の意識は一度途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「………ぅ。」

 

 三度ほど目を瞬かせる。

 何が起こったのか把握するために上体を起こすと、そこは柔らかな風吹く草原だった。

 

 「ここは……?」

 

 記憶が正しければ自分は名もわからぬ龍のブレスによって、谷底へと真っ逆さまに落ちていったはずだ。

 そしてヘラという女神にオラリオ?とやらに連れてこられた、のか?

 

 「もしや、ここがオラリオ?」

 

 とにかく人を探そう。そう思い、まずは手近に見えた裏路地らしき場所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…………はァ。」

 

 一つため息をつく。昔はこういう時、おじいちゃんはため息をすると幸せが逃げると叱っていただろう。

 しかし、今の僕は1人。僕を叱る人も慰める人もいない。

 

 「何がダメなのかな……。」

 

 有名どころのファミリアにはことごとく入団の許可を出されなかった。面接、組手、実践。どれもそこそこの結果を出せたと思うのは自分だけだろうか。

 

 街の石段に座り、悩んでいたその時だった。

 

 「おーい、そこの少年。」

 

 自分のことか?と思い顔を上げると、そこには紅い髪の高身長の人が立っていた。

 この人の最初の印象は、誰?という疑問ではなく、怖い、だった。

 

 「はっ、はい!」

 

 思わずかしこまった声を出してしまう。だって不用意に何?なんてフランクに声をかけようものならば、襟首を掴まれるのではという恐怖すら感じたのだ。

 

 「……まあいいや、ここどこだ?」

 

 「えっ?」

 

 あまりにも間の抜けた質問に、こちらも間抜けな声を出してしまう。どこ、と言われてもただの路地だから詳しい地名なぞ僕にはわからない。

 

 「あ、えーっと。」

 

 「言い方が悪かったな。この街はなんて名前だっけ?」

 

 そんな問いならば簡単だ。

 

 「オラリオ、ですが……?」

 

 そう、ここは迷宮都市オラリオ。このぐらいならばここに来たばかりの僕でもわかる。

 

 「やっぱりオラリオか。くそ、よくわからねえな。すまんな少年。」

 

 そう言って彼は立ち去ろうとした時。

 

 「あ、あの!待ってください!」

 

 僕のどこから出たのかという程の声が彼を呼び止めた。僕でも何がしたかったのかわからない。でも、間違いなく呼び止めなくてはならなかった気がした。

 

 「僕と一緒に、ファミリアを探してください!」

 

 これが僕と彼の出会いだった。




感想アドバイスよろしければお願いします。


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ヘスティアファミリアへの入団

 「は?ファ……何?」

 

 彼の返事は何を言っているんだと言わんばかりの返事だった。

 

 「……ダメ、ですか。」

 

 がっくりと肩を落として落ち込んでますよー、と言わんばかりの反応をしてしまう。このままでは彼に気を使わせてしまう。

 

 「あ、いや、その。」

 

 「そのファミリア?って何だ?」

 

 「へ?」

 

 彼の何を言っているんだという反応はあながち間違ってなかった。ただしそれは、意味がわからないという意味だった。

 

─────

 

少年説明中…

 

─────

 

 「んー、つまり大人数でダンジョンを探索する所、ってか。」

 

 「は、はい。」

 

 説明するのにかなり苦労した。

 ファミリアというのがなんなのか、ということはすぐに理解してくれたものの、途中に出てきたスキルや冒険者、魔石などの冒険者志望でもわかる言葉をわからないときたもんだ。

 見た感じこの人はだいぶ強そうに感じられるのに、冒険者ではないという。

 

 「んじゃ、神様探すか。」

 

 「えっ!?」

 

 「え?ファミリアに入りたいんだろ?」

 

 違う、そこじゃない。

 

 「あ、もしかして有名どころがいいのか?でも、見たところお前さん強くなさそうなんだが?」

 

 「ぐはっ!?」

 

 とんでもない図星だ。僕には実践経験なんて微塵もない。

 

 「いや、そうじゃなくて!」

 

 「あん?」

 

 「一緒に探してくれるんですか?」

 

 何を言っているんだこいつは、と言いたげな目でこちらを見てくる。え?僕そんなに変なこと言った?

 

 「いや、だって初対面ですよ?」

 

 「その初対面の得体の知れん男に懇々と説明してくれたお節介の礼をしなきゃいけねえからな。」

 

 言われてみれば。たしかに僕はお節介をよくやくお人好しだ。

 でも、そんな僕でも警戒心くらいは抱く。だけど僕はこの人になんの警戒もせず、彼に僕の知識を持てるだけ教えた。

 

 「えっと、その……。」

 

 「御託はいいから探すぞ。」

 

 「は、はい!」

 

 あまりの嬉しさに涙が溢れてくる。なるほど、一人より二人とはよく言ったものだ。1人の時と頼もしさが段違いだ。

 

 「ねえ君たち、青春してるところ悪いんだけど……。」

 

 「「ん?」」

 

 振り返った先には明らかに人とは違う何かが滲み出ている少女が立っていた。間違いなく神だ。

 

 「あんた誰だ?」

 

 「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれた!僕の名はヘスティア、こう見えても女神さ!」

 

 ヒュ〜と木枯らしが吹いた気がした。

 

 「んじゃ、少年。ファミリアを探しに行くか。」

 

 「あっ、はい。」

 

 「ちょっと!?せめて無視しないでくれないかい!?」

 

 あっ、回り込んできた。

 

 「君たちには僕のファミリアに入って欲しいんだって!」

 

 「んなこと言われてもさー。急に出てきた女神を名乗る少女の言うことを聞けと言われても、ねえ?」

 

 身も蓋もない。しかもド正論。僕でも神とわかっても警戒する。

 

 「うぐっ、たしかに怪しいかもしれないけど。」

 

 「えっと、あなたの名前はわかりませんが、信用しませんか?」

 

 「ええ?」

 

 「よく言った少年!」

 

 なんとなくだけど、この方は人に嘘をつけない神様だと思う。あとはほとんど勘でしかない。

 

 「……ま、いっか。俺はガズロ。よろしく。」

 

 「あ、ベル・クラネルです!よろしくお願いします!」

 

 こうして僕達のヘスティアファミリアへの入団が決まった。



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神の恵み

 「よっすおっちゃん!二階を借りるよ!」

 

 返事も待たずにヘスティアは階段をずんずんと駆け上がっていく。念の為、おっちゃんにぺこりと一礼だけしてヘスティアの後を追う。

 

 「さあここへ来てくれ!背中にステイタスを書いてあげる!」

 

 ステイタス。ベルから聞いたが、俺のいた世界では誰にでも生まれつき存在する身体能力に似ている。

 前の世界で思い出したが、腰には前の世界で愛用していた決して折れない剣だけがある。が、こんな物騒なものを今ヘスティアに見せるわけにもいかない。

 

 「うん?どうしたんだい、ガズロ君。」

 

 「いや、何でもない。それより早くやってくれ。」

 

 ヘスティアは軽い調子でおっけー、と言うと背中に指を走らせた。

 ………何だろう、くすぐったいようなこそばゆいような、変な感覚だ。

 

 「………………。」

 

 「……?ヘスティア?終わったのか?」

 

 「ふぇっ!?あ、ああうん。」

 

 共通語に書き直されたシートを渡され、ベルが神の恵みを授かっているのを尻目にシートを眺める。

 

─────

 

ガズロ

Lv1

力:i0

耐久:i0

器用:i0

敏捷:i0

魔力:i0

《魔法》

【竜物語】

様々な効果を発揮。

思い描いた効果を発揮。

詠唱によって効果変更。

《スキル》

【竜物語】

前ステータス引き継ぎ。

前魔法引き継ぎ。

成長速度上昇。

魔法使用により効果上昇。

【魔法戦士】

魔力消費量減少。

魔法効果上昇。

アクティブな行動のチャージ権。

エンチャント可能。

 

─────

 

 ……………。はい?

 

 「ヘスティアー。これなんか間違ってねえ?」

 

 「い、いやー。僕にも何が何だか……。」

 

 大体の予想はつく。大方前の世界の能力が色濃く残った結果だろう。前の世界で魔法戦士やってた名残が強い。

 

 「……ま、強くあるに越したことはないか。」

 

 女神ヘラの目的が何かは知らんが、少なくとも死ぬよりはマシだろう。

 

 「…うん、ベル君は普通だ。」

 

 「どれどれ?」

 

 ベルのシートを横から覗き見する。

 

─────

 

ベル・クラネル

Lv1

力:i0

耐久:i0

器用:i0

敏捷:i0

魔力:i0

《魔法》

【】

《スキル》

【竜友】

【竜物語】のスキルの影響を受ける。

 

─────

 

 ………ヘスティア、これを普通と見るのはいささか早計がすぎるぞ。俺に比べればマシというだけで、こいつもいつかぶっ壊れ性能発揮するぞ。

 

 「あ、一応言っておくけど2日はダンジョンに潜らないでね?」

 

 「「何で?」」

 

 ヘスティア曰く、神の恵みが馴染むまで時間がかかるというのだ。何とも面倒くさいものだ。

 

 「そんじゃベル、それまでは筋トレな。」

 

 「ええっ!?……うう、わかったよ。わかったからそんな目で見ないで。」

 

 そんな目と言われても、俺の表情はさっきから微塵も変わってないはずだが。

 

 「んじゃ、さっそく腕立て伏せ50回3セットな。」

 

 「えっ!?あっ、はい。」

 

 さっ、いっちょやったりますか。



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アイズとの出会い

 ヘスティア様のファミリアに入団してからかれこれ半月がたった。

 ガズロと名乗った彼はとても強く、既に僕の先を行っている。その時彼は僕にこう言った。

 

 『先に行ってるぜ?』

 

 あの時ほど悔しかったことは無い。彼の目にはたっぷりの余裕とほんの少しの嫌味が見れた。

 

 「はあっ!」

 

 今しがたゴブリンをすれ違いざまに切り裂く技も、彼から教えて貰ったものだ。

 

 足りない。力も速度も。技も器量も。

 

 まさに格が違う。

 

 「もっと……!」

 

 速く。

 

 「もっと!」

 

 速く!

 

 そして僕は今更気づいた。

 

 「ブモオオゥ……!」

 

 「えっ。」

 

 ダンジョンは危険なものだと。

 

 「ブモオオオオオオオオ!」

 

 「うわあああっ!」

 

 ミノタウロス。本来であれば15階層に出現し、Lv2にカテゴライズされている魔物。

 ミノタウロスの振り下ろした丸太のように太い腕は、ダンジョンの壁に亀裂を入れるほどの威力を誇る。

 

 「ブモオオゥ!」

 

 「………っ!」

 

 でも、彼ならば。彼ならば、たとえ負けるとわかっていても逃げない。逃げるな!戦え!

 

 乱暴に振り回される右腕を姿勢を低くして駆け出して回避。勢いを殺さずに逆手に持ったナイフを叩きつけるように振るう。

 

が、

 

ガギィッ!

 

 「っ、くそっ!」

 

 やはりLv2にカテゴライズされるだけはある。こんな素人に毛が生えた程度のナイフでは太刀打ち出来ない。

 そのまま駆け抜け、ミノタウロスの背後に回り込むとくるりと回転し、回し蹴りを背中のど真ん中に打つ。

 しかし帰ってくるのは鉄の如き硬さのみ。ダメージが通っているとは到底思えない。

 

 「ブモッ!」

 

 「ぐっ!?」

 

 鬱陶しい、とコバエを散らすように手を振るうミノタウロス。当たってもいないのに風圧だけで大きく吹き飛ばされる。

 

 「このっ、うっ!?」

 

 それでも歯向かう気力は削がれておらず、体勢を整えようと1歩さがったところで背中が壁にぶつかる。

 しまった、そう思った時には既に遅く、目の前にはこちらを睨むミノタウロスがいた。

 

 「…………う、うわあああっ!」

 

 もうどうにもならない。その事実が冷や水をかけられたように心を冷たくし、恐怖に呑まれてしまう。

 

 だが、それも次の瞬間両断された。

 

 ヒュンッ

 

 細い、小さい何かが風を切る音。それと同時にミノタウロスの胴体に一閃、銀の一筋が走った。

 

 「え?」

 

 「ブモ?」

 

 ミノタウロスと示し合わせたかのように、間抜けな声を揃えて出す。

 

 そこからはまさに神速と呼ぶにふさわしかった。

 

 次々と銀の一筋が刻まれていき、やがてミノタウロスは跡形もなくバラバラになってから灰と消えた。

 

 問題はその後だ。

 ミノタウロスの影に隠れて見えなかったその人はまさに美女と呼ぶにふさわしかった。

 華奢な身体つき、金細工のような美しい髪の毛。水晶のように透き通った目。どこを切り取っても絵になる女性。

 

 Lv5の冒険者、【ロキファミリア】アイズ・ヴァレンシュタイン。

 

 「あの、大丈夫ですか?」

 

 大丈夫じゃない。

 全然大丈夫じゃない。

 

 「うっ、うわああああああっ!」

 

 思わず駆け出してしまった。

 背後から彼女の声が聞こえるのも構わず。




ドラゴンボールの二次創作も書かせて頂いています。
よろしければそちらもお願いします。


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勇者と魔法戦士

 ベルと別れてダンジョンを探索するようにしてから1週間。正直ベルのことが心配でならない。

 怪我云々もそうだが、ダンジョンにイレギュラーは付き物のようだ。ベルもその事を忘れずに居てくれればいいのだが。

 

 「………しかし、弱い。」

 

 こんなことならまだ向こうの世界で戦っていたモンスターたちのほうがまだ張りあいがある。ゴブリン一つとっても実力が雲泥の差だ。

 

 さて、そろそろ帰るか。そう思っていた時。

 

 「ん?」

 

 何と、見覚えのある魔物、ミノタウロスがこちらに3匹向かってきたのだ。

 

 「「「ブモオオゥ!」」」

 

 「うるせえ。サラウンドで喋るな。」

 

 向かってきた前衛?の2匹を一思いに細切れにしていく。さてあと1匹と思い振り向くと、既に背を向けてさらに上階へと逃げていってしまった。

 

 「なんだそりゃ。」

 

 一応後を追おうかと思い、剣を鞘に収めると。

 

 「失礼、君何者なんだい?君みたいな人見たことなくてさ。」

 

 「ん?」

 

 振り返ると、誰もいない。しかし次の声が届く。

 

 「下。下だよ。」

 

 「うん?」

 

 2メートルにもなる彼から見えない下に彼はいた。ベルから聞いたパルゥムという種族だろう。

 

 「すまん。見ての通り無駄にでかくてな。」

 

 「あははいいよそんなこと。それより質問に答えてくれると助かるな。」

 

 「?ただの冒険者なりたてだ。」

 

 何者と言われても、かつては魔王……名前忘れたが、魔王ナントカを倒すために魔王城に派遣されるくらいには有名だったが、今では一介の冒険者に過ぎない。

 

 「………うん、ごめん。冒険者のなんだって?」

 

 「冒険者の、なりたて。そう言ったんだが。」

 

 聞き取れなかったのかと思い、少しゆっくり聞きやすいようにはっきりと発音する。そして彼は一言。

 

 「……嘘、じゃないのかい?」

 

 「?嘘をつく理由もないが。」

 

 初対面の人に自己紹介するだけに何故確執を作るようなことをせねばならんのか。

 

 「………もう一度きくよ、君は何者?」

 

 ああ、そういうことか。この世界ではミノタウロスをLv1が倒すのはおかしいのか。

 

 「Lv1冒険者、ガズロだ。」

 

 「ガズロ………?」

 

 一応極東でいう苗字はありはするが、家族の繋がりが薄いのとそっちで呼ばれないせいで忘れた。クラなんとかだったはず。

 

 「あっ、もしかしてさっきのミノタウロスお前の獲物だったか?」

 

 「いやいや、逃げ出されて困ってたところさ。倒してくれてありがとう。」

 

 「1匹逃がしたけどな。」

 

 「え?」

 

 瞬間、金髪の少女が俺とパルゥムの横を駆け抜けていった。

 

 「………すまん。」

 

 「……元は僕達のミスだから謝ることはないよ。僕はフィン・ディムナ。」

 

 お互い自己紹介を終えてやれやれと、金髪の少女の後を追う。

 



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少女アイズ・ヴァレンシュタイン

 とりあえず俺とパルゥムもといフィンはさっきの疾風の主の後を追う。するとそこには。

 

 「……どういう状況だこれ?」

 

 「…さあ?」

 

 とんでもない量の血の痕と、その前に佇む1人の少女。少なくともさっきのミノタウロスがこの少女に切り刻まれたことはわかるが、そのど真ん中。

 

 「なんであそこだけ血がないんだ?」

 

 言ったそばから、その血液も灰と消えていくのだが。まるでそこに人が1人へたり込んでいたような──

 

 「…いやそれだろ。」

 

 「それだね。アイズ、何があったんだい?」

 

 どうやらこの少女とフィンは知り合いのようで、事情を聞かせてもらうことにした。ら。

 

 「白い髪に赤い目の人が襲われてたから助けた。」

 

 「オーケー理解。」

 

 なんということでしょう。ミノタウロスに襲われていたのはベルではあーりませんか。

 しかも聞いた話によると割と抵抗してたそうじゃないか。怖かったろうになあ。

 

 「……あー、それ多分うちのファミリアだわ。すまんな。」

 

 「大丈夫。困った時はお互い様。」

 

 お互い様て。Lv1が助けられることはあってもLv5が助けられることなんてなかろうに。

 ん?待てよ?

 

 「そのトマトになった奴はどこに?」

 

 それを聞くと、彼女は感じ取れるかどうかギリギリのラインの表情の変化を見せた。

 

 「なんか、逃げられた。」

 

 「あー…。」

 

 大体の察しはついた。大方この目の前の美女に助けられて情けなくなったか、もしくはこの嬢ちゃんに惚れたかだな。

 まああいつ童貞っぽいし後者かな。一応非童貞の身として色々教えてやったがいいのか、な?

 

 「んじゃ、逃げたそいつに代わって礼を言う。ありがとな。」

 

 感謝され慣れてないのか、困惑した顔で別に…と短く呟く。

 

 用事も済んだし、俺は帰ることにした。その途中でベルを見つけたので、ついでに拾っておいた。なんかやけににやけてたからこりゃ確定だな。

 

 「ベル。お前金髪の嬢ちゃんに惚れたろ。」

 

 「ヒュッ!?そ、そんにゃことないです!」

 

 噛みっ噛みだし顔真っ赤だし嘘つくの下手くそか。こいつマジで純粋なやつだな。

 

 「別に隠すこたぁねえよ。からかうつもりも無いしな。」

 

 「う〜……本当に?」

 

 そういやどうでもいい事だが、ベルはもう俺にタメ口を使うことに躊躇はない。この半月で徹底的にしつけた。

 

 などとどうでもいいことに思考を割いているうちに、ファミリアのホームに着いてしまった。元々ギルドからそう遠くなかったが、今日はやけに短く感じた。

 

 「「ただいま」帰りました。」

 

 「おかえり二人とも〜!」

 

 そう言いながら抱きついてくる満面の笑みの主神を横に避けてベルを生贄に差し出す。

 

 「うわっ!?あ、神様でしたか。」

 

 「むっ、僕以外のなんだと思ったんだい。」

 

 「リップスとかに見えてたりして。」

 

 「ん?今なんか言った?」

 

 主神の問いも無視してテキパキと武器や防具をいつもの棚へとかける。

 ちなみにどうでもいいことだが、俺の世界の金は全部金か銀だったため普通に換金したところ50万ヴァリスになった。その金は基本的には2人には内緒にしており、使ってもいない。なんかあった時のために貯めてる。

 

 「君たちの稼ぎはどうだった?」

 

 「僕はいつもより少なかったですね。」

 

 「俺はいつも通り。」

 

 ベルは2100ヴァリス、俺は15000ヴァリス。2人で17100ヴァリス集めた。

 

 「ふっふっふ……なんと僕は普段の稼ぎ+αにジャガ丸君が7つだー!」

 

 「「おお〜。」」

 

 酷いかもしれないが、ぶっちゃけ俺もベルもヘスティアのアルバイトに期待はしてない。だが、時たまこんなふうに成果をあげてくるから侮れない。

 

 「今夜は君たちを寝かさないぜ!」

 

 「「いぇーい!」」

 

 俺たちの宴は午後九時には終わった。



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筋トレは正義

 次の日の朝、俺とベルは5時ぴったりに目が覚めた。俺はいつもの習慣で起きたのだが、ベルは無理やり俺が起こした。何があったのかは知らないが、やけに疲れていた。知らんけど。

 

 「んじゃ、ベル。今日は俺が指導してやる。」

 

 「あ、うん。よろしくね。」

 

 最初は人に指導するなんて…、と思っていたが、なんかこう、初心に帰った気がして楽しい。特に、動きの拙いベルを見ていると、昔の自分を見てるようで面白いのだ。

 ただ、一つ問題があった。この世界の仕組みについて全くの無知である俺が、戦うことに関しては1級品であることに疑問を持たれた。

 例えばダメージディーラーという特攻役を指す言葉など。それらに強けりゃそりゃ疑う。

 

 「まずは朝いちの筋トレな。」

 

 「うっ、キツいんだよねあれ。」

 

 キツくなけりゃ筋トレにならんぞベル。

 

 

 

 

 「それで、今日は何階層まで行くんだ?」

 

 「んー、7階層かな。だいぶステイタスも成長してきたし。」

 

 たしかにベルのステイタスは、通常なら───通常を知らんが───おかしいほどの速度で成長している。向こうの世界でもこんなに速く成長するやつは見なかった。俺は例外。

 斯く言う俺も、ベルに負けず劣らずの速度で成長を続けている。やはり例のスキルが大きいのだろうな。

 

 「あ、あのー……。」

 

 「「ん?」」

 

 どこからか視線を感じていたその時、後ろから声をかけられた。

 

 「えっと、魔石?を落とされましたよ。」

 

 「あれ?すいません。」

 

 しっかりしろよ、と言いたいところだが、今のは嬢ちゃんが嘘ついたな。ベルの魔石ポーチはいつもひっくり返してまで残りがないか見てるからな。

 

 「強かな嬢ちゃんだな。」

 

 「あ、わかります?」

 

 「?」

 

 この嬢ちゃん本当に強かだ。ベルは理解出来てないが、気にすることでもなかろう。大方客寄せだろうな。

 

 「嬢ちゃん、晩飯ここに食いに来ていいか?」

 

 「ええ!もちろん歓迎しますよ!」

 

 「ガズロ?いいの?」

 

 たまにゃいいさ、と呟くように返事してダンジョンへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダンジョンでは散々だった。コボルトに囲まれたと思いきや、魔石回収中にゴブリンに蹴飛ばされるわで大変だった。ちなみに全部ベルが被害を受けた。

 

 そして現在。

 

 「2人で好きにしてくればいいじゃないか!ふんっ!」

 

 なんかヘスティアがキレた。

 俺は女心がわかるわけじゃないからなんとも言えんが、今のは多分ベルに原因がある。ベルが悪いわけではないと思うがな。

 

 「ま、いいさ。ベル、そういうわけだ、2人で行こうぜ。」

 

 「あ、うん。」

 

 たしか豊饒の女主人だったな。



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傷つくベル

 豊饒の女主人、来てみてびっくりした。なんと女性しか働いていないというのだ。

 別にいやらしいお店ではないとはわかっているが、なんか、こう、少し恥ずかしくなってくる。

 

 しかし入り口でモゴモゴしているわけにもいかず、ガズロは自然体で普通に入っていった。

 

 「2名様ごあんなーい!」

 

 ああ、頼むから目立つような真似をしないでくれ、と思ったがこれが普通なのか誰もこちらを見やしない。たすかった…のかな?

 

 「おお、あんたたちかい?あたしたちにヒィヒィ言わせる程の大食漢は。」

 

 え?と思ったが。

 

 「あれ?俺それ言ったっけ?」

 

 とガズロ。え?ガズロって大食いなの?多分それを伝えたであろうシルさんも「あ、あれぇ〜?」って言ってるし。

 

 「はっはっは!またシルが出鱈目言ったのかと思ったけど今日は違うみたいだね!たんと食べておくれよ!」

 

 そう言うと、まだ席に座ったばかりの僕達の前にドンと山盛りのパスタが置かれた。…僕こんなに食べれないんだけど。

 

 「おっ、いい前菜じゃねえか。」

 

 前菜なの!?これが!?

 改めて知った新たな一面に思わず心の中で何度もツッコミを入れてしまった。

 

 何故か横で驚愕しているベルを差し置いて、もそもそと貪り食う。.次いで出てきたステーキに舌なめずりをしていた時だ。

 

 「あ…。」

 

 ベルが声をこぼしたので何かと見れば、昨日出くわした嬢ちゃんとフィンがいた。てことは。

 

 「ロキファミリアか。」

 

 「うん…。」

 

 途端にそわそわと落ち着かなくなるベル。ああ、例の金髪の嬢ちゃんか。

 勝手に納得した俺は、ベルから視線を外してステーキにナイフを入れていた。

 

 ロキファミリアがきて5分と経たずに、この酒場は一気に騒がしくなった。その大半を占めるのはロキファミリアとその話題。やはり大規模ファミリアだけあって話の種には事欠かないようだ。

 

 「なあアイズ、あれ話してくれよ!」

 

 そのうちの1人、狼のような青年がアイズに話しかけていた。アイズの名を知ったのは彼らの会話を盗み聞きしてたからだ。

 狼青年はだいぶ酔っているようで、かなり上機嫌だった。

 

 「あの逃げたトマト野郎の事だよ!」

 

 その瞬間、マジで俺は一瞬凍りついた。恐る恐るといった様子で隣を見やると、さっきとは真逆に1ミリも動かない石像と化していた。

 

 「あの野郎、最初は凄かったぜー、なんせLv1のくせにミノタウロスに食らいつこうとしてたからな!」

 

 やけにステーキの焼ける音が大きく聞こえたような気がした。ヤバい。これベルキレてるか恥ずかしがってるかのどっちかだ。多分後者。

 

 「かと思いきや、すぐに振り払われてやんの!まるで羽虫みてえによ!」

 

 あ、これあかんやつや。ベルが爆発するまで3秒まーえ。さーん。

 

 「あんな雑魚久しぶりに見たぜ!あんな笑わせてくれる雑魚はよ!」

 

 にーい。

 

 「そこらの雑魚とならともかくよぉ、」

 

 いーち。

 

 「ぜってぇアイズとは関わることすら許されねえよな!なんつって!」

 

 はい、発射。

 と、冗談半分でカウントしていたところ、本当にベルが発射された。いや自分で駆け出したんだけど。

 一気に周りの視線がこちらに向く。悪いの俺じゃねーし。

 

 「なんだ?今のは?」

 

 「食い逃げか?せやったら勇気あるなあ。ミア母さんのとこで。」

 

 残念だったな。支払いは俺だ。じゃなくて。

 

 「すんませんね、うちの仲間が。さ、いつも通りお食事を楽しんでくんさい。」

 

 俺の言葉にゆっくりと喧騒が戻っていき、やがて元の騒がしさを取り戻す。

 横でシルの嬢ちゃんが説明しろとうるさいくらい睨みつけてきやがる。後でやるから黙っとけ。

 

 「すまない、ガズロ。」

 

 「あん?ってあんたかフィン。」

 

 声の方に視線を動かすと、見覚えのあるパルゥムがいた。

 

 「いいよ別に。どうせいつか突きつけるつもりだった現実を突きつけてもらっただけだ。」

 

 「……彼の名は?」

 

 「?ベル。ベル・クラネルだ。」

 

 なんでそんなこと聞いてきたか知らねーがっと。

 

 俺はよっと、と言いながら立ち上がると、代金を払ってある場所へと向かった。さあて、ベルを拾いに行くか。



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ベル拾い

 足を一歩踏み入れれば、自分もそこらに転がる骸となりかねない死の世界。そこに彼は1人立っていた。

 

 「おいベル。帰るぞ。」

 

 そんな彼にも臆することなくガズロは話しかける。

 帰ってくる返事はというと。

 

 「………嫌だ。」

 

 「あ?」

 

 今までのあどけなさなど皆無に等しいドスの効いた声による、はっきりとした拒絶。

 ガズロとて予想はしていたが、彼の様子に少し驚かされる。

 

 「……ガズロも思ってたんでしょ?」

 

 「………一応聞くが、何て?」

 

 「弱いって。僕のこと。惨めなやつだって。僕のこと。」

 

 彼の言葉の半分は正しい。ガズロはベルのことを弱いと思っているが、それは仕方ないことだと思っている。何せつい半月前まで農民、急に剣をとって魔物の前に放り出されても身を守ることで精一杯だ。

 しかし彼の言う弱いとは、何故か重みが違うように感じられた。

 

 「…否定はしねえよ。ただし、前者だけな。」

 

 「嘘だっ!」

 

 彼にしては珍しく声を荒らげる。

 

 「絶対に嘘だ、僕なんか弱い。そうさ、僕は弱いさ。でも、嗤われる理由なんかない!なのに何でだ!何で僕を馬鹿にするんだ!」

 

 「ベル…。」

 

 自分はここに来てからの彼しか知らない。しかもその彼は話を聞いた限り、蔑まれる人生を送ってきたという。

 祖父一人守れない子供。武器ひとつ持たぬ雑魚。剣姫に関わることを許されない屑。

 自分はそんな経験などしたことがない。罵倒、悪口、聞いたことはあれど、その殆どは妬み嫉み、もしくは単に自分を嫌う者からだった。故に気にしたことは一度もなく、ベルのように深く傷つけられたことはない。

 

 それでもだ。

 

 「ベル、俺にはお前の痛みがわかる。」

 

 「わかる?強い君に?弱い僕の何がわかるんだい?」

 

 そう、ガズロは強い。前世のレベルが100目前だったこともあり、とても強い。

 だが。

 

 「誰だって最初はそんなもんだろ。最初っから強い奴なんていねえよ。」

 

 「……。」

 

 誰でもレベルは1からスタートなのだ。ガズロでも、スライムに苦戦していた時期がある。あの剣姫、アイズヴァレンシュタインにもゴブリンを狩り続けた時期がある。

 単純に今のベルに必要なのは時間。時間さえあればベルでも自分の元を超える、そうガズロは言いたかった。

 

 「でも、」

 

 「その間も剣姫は強くなると言いたいんだろ?当たり前だ。経験値が違いすぎる。」

 

 先に冒険者になっていた奴が先にランクアップしたところで別におかしいことは何も無いし、そいつが先に強くなることもおかしくない。

 その差を詰めたければ努力しかないのだ。

 

 「………つかさ、わかってんだろ?」

 

 「……………うん。」

 

 よかった。いつものベルに戻った、と安堵の息をつく。半ば酔っ払いのようなふらついた足取りのベルに肩を貸す。

 

 「強くなれ、ベル。」

 

 誰にも聞こえないようなつぶやく声でガズロはそっと呟いた。



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改めてステイタス確認

ドラクエのどの作品のキャラなのか、疑問に思われる方がいたかもしれないので明言しておきます。
あくまで世界設定はドラクエと言うだけで、ナンバリングされたタイトルのドラクエの世界ではありません。


──────────

 

ガズロ

Lv1(Lv98)

 

力:a872

耐久:c631

器用:a811

敏捷:s967

魔力:s985

 

『龍の世界にて』

ちから:1254

みのまもり:963

まりょく:1023

すばやさ:1101

きようさ:912

みりょく:151

 

《魔法》

【竜物語】

様々な効果を発揮。

思い描いた効果を発揮。

詠唱によって効果変更。

《スキル》

【竜物語】

前ステータス引き継ぎ。

前魔法引き継ぎ。

成長速度上昇。

魔法使用により効果上昇。

【魔法戦士】

魔力消費量減少。

魔法効果上昇。

アクティブな行動のチャージ権。

エンチャント可能。

 

【龍物語】使用可能魔法

メラ

メラミ

メラストーム

メラミストーム

メラゾーマ

メラガイアー

ヒャド

ヒャダルコ

ヒャダイン

マヒャド

マヒャデドス

バギ

バギマ

バギクロス

バギムーチョ

デイン

ライデイン

ギガデイン

ミナデイン(仲間から魔力吸収)

ドルマ

ドルクマ

ドルモーア

ドルマドン

ギラ

ベギラマ

ベギラゴン

ギラグレイド

イオ

イオラ

イオナズン

イオグランデ

ザキ

ザラキ

ザラキーマ

ベタン

ベタドロン

ベタロール

ベタランブル

ジバリア

ジバリカ

ジバリーナ

ジバルンバ

ザバ

ザバラ

ザバラーン

ザバトローム

マダンテ

メラマータ

ギラマータ

イオマータ

バギマータ

デイナマータ

ドルマータ

ベタナマータ

ジバマータ

ザバマータ

ベホイミ

ベホマ

ベホマラー

ザオラル

ザオリク

キアリー

キアリク

キアラル

シャナク

ザメハ

バイキルト

バイシオン

スカラ

スクルト

ピオラ

ピオリム

インテ

インテラ(ここでは魔力上昇)

マジックバリア

バーハ

フバーハ

マホカンタ

アストロン

ドラゴラム

ダウン

ダウンオール

ヘナトス

ヘナトール

ルカニ

ルカナン

フール

マフール

マヌーサ

ラリホー

ラリホーマ

メダパニ

メダパニーマ

マホトーン

マホトラ

ルーラ

リレミト

ステルス

レミーラ

レミラーマ

インパス

アバカム

 

──────────

 

 「こんなところかな。」

 

 ベルを拾うついでにダンジョンで試してたけど、基本的に向こうで使えた呪文はこちらでも使えるようだ。ちなみにこんなに種類が多い理由は、片っ端から古文書やら魔導書やら読み漁ってたらいつの間にかこうなった。

 

 「ガズロ…僕、みんなに怒られないかな?」

 

 ベルの言う皆とは豊饒の女主人のところの店員達だ。支払いは俺が済ませておいたものの、何も言わずに飛び出したあたりは心象はよくない。

 

 「とりあえず謝っとけ。」

 

 「う、うん。」

 

 ベルに適当なアドバイスを送りつつ、街でよく見かけるポスターに視線を落とす。

 なんでも、モンスターフィリアとかいうお祭りがあるらしい。祭りはどこに行ってもあるようだ。

 だが、名前からして嫌な予感しかしない。すれ違った冒険者に尋ねたら、モンスターのテイムを見世物にしてるという。

 

 「…まあ出店には興味あるし、行ってみるかな。」

 

 そういやヘスティアが二三日空けると言ってたな。ありゃなんか決意した顔だったからスルーしたけど大丈夫かね。

 

 どうでもいい思考をよそに、足はどんどん豊饒の女主人へと向かっていく。



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久しぶりの遭遇

 「あんたいつまでそうやってるつもり?」

 

 「………。」

 

 ヘスティアは答えない。

 神の宴以来、彼女はこうしてヘファイストスにずっと東洋直伝の奥義であるDO☆GE☆ZAをしている。もっとも、それを知らないヘファイストスにはただ丸まっているようにしか見えないのだが。

 

 「ひとつ聞くわ、貴女、どうしてそこまでするの?」

 

 「………ベル君の、ガズロ君の力になってあげたいんだ!」

 

 ヘスティアは吠える。ヘスティアにヘファイストスを説得できるだけの何かはない。だから、ただ思いの丈をそのまま叫ぶ。

 

 「もう、何も出来ないのは嫌なんだよ………。」

 

 悲しそうな、後悔に満ちた目で彼女は答える。

 ガズロが血塗れのベルを連れ帰ったあの日、ヘスティアはベルの心の声をたしかに聞いた。

 

 『強く……なりたいです……。』

 

 ヘスティアに決心させるには十分過ぎた。

 その結果ヘファイストスが苦労を被っては元も子もないが。

 

 「…はあ、わかったわ。打ってあげるわ。」

 

 「本当かい!?」

 

 ヘファイストスの言葉に向日葵のごとく、ぱっと笑顔を開かせるヘスティア。現金なものだ、と苦笑いしてしまう。

 

 「で?あんたの子の武器は?」

 

 「えっと、ベル君はナイフで、あれ?そういえばガズロ君は自前のいい武器があるって言ってたな。」

 

 「じゃ、そのベルって子のだけね。」

 

 こうして彼女は武器を打ち始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「しっ!」

 

 「お見事。」

 

 目の前では、ベルがキラーアントを真っ二つに切り裂いていた。異世界の魔物の名前を知ってるのは、エイナとかいう担当の人がめっちゃ懇切丁寧に教えてくれたからだ。

 話が逸れたが、今ベルの動きを見させて貰っている。勿論、危なくなったりこちらに牙が向けられたら俺も戦っている。といっても、

 

 「メラ。」

 

 『ギイッ!?』

 

 呪文1発で簡単に死ぬけどな。魔力なんてオート回復のスキルを向こうの世界で無理やり取得してるし。

 

 「どう?僕強くなってる?」

 

 「おう、ステイタス的にも、技術的にもな。」

 

 とは言ったものの、マジで成長速い。この分だと、俺を超えるのも時間の問題か、そう思っていた時だった。

 

 「お、敵か───」

 

 振り返って硬直した。なぜならそこにはいるはずのない見覚えのあるモンスターがいたからだ。

 

 「………メタルスライム?」

 

 そう、あのプニプニした銀色のスライム、メタルスライムだ。

 

 「あれ、ガズロ知ってるの?」

 

 「あ、ああ。」

 

 あの防御も俺の前には無意味故に、あっという間に真っ二つに切り裂く。相変わらず硬い奴だ。

 

 (……もしかして、向こうのモンスターってこっちにもいるのか?)

 

 新たな発見。てことはゴーレムやらメラゴースト、マドハンドもいるのか。

 て思ってたらマジでマドハンドいるし。

 

 「こいつは敵を呼ぶから厄介なんだよなっと!」

 

 ベルには荷が重かろうと、マドハンドだけ先に排除しておく。

 

 「うし、どんどんいくぞ。」

 

 「うん!」

 

 こうしてベルはまた一段と強くなっていく。




ガズロはダンまちのレベルで言えば、レベル6ぐらいはあります。


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モンスターフィリア

 モンスターフィリア開催日。ガズロは一足先に祭りへと来ていた。

 

 (…人多っ。)

 

 彼の感想は至極当然なものだ。何せどこを見ても人、人、人なのだ。彼のように呆れ返る人も珍しくはない。

 

 ふと顔を上げたところ、見覚えのある人物が見えた。

 

 「あ、あれ?確かにここに入れた筈なのに?」

 

 どうやら何か、おそらく財布を忘れてしまったようで、店員と何やら揉めている。

 

 「おい嬢ちゃん、どうした?」

 

 「あ、ガズロさん。実は財布を忘れてしまって……。」

 

 やはりと言ったところか。シルは財布がいつも入れてるポケットに入っておらず、困惑していたところだったようだ。

 

 「店員さんよ、いくら?」

 

 「100ヴァリスだよ。」

 

 「あい。」

 

 値段を聞いてシルが止めるのも聞かずに勝手に金を払う。

 

 「……す、すいません。」

 

 「なに、知り合いが困ってちゃあしょうがない。」

 

 そのままシルを置いてけぼりにして、キョロキョロと辺りを見回していると。

 

 「あ。」

 

 近くに周りの人間とは明らかにオーラの違う女性が一人、いや一柱いた。

 ガズロは一目でわかった。あれが自分達とは違う、神という存在だと。

 

 「…神様もくんのか。」

 

 迂闊に問題おこせねえな、と物騒なことを言いつつまた散策に戻る。

 

 散策していたところ、一際盛り上がりを見せるエリアがあったため、人混みを掻き分けながらようやく最前列に辿り着いた。

 

 「ぷはっ、なんちゅう人の多さだ。」

 

 その最前列から見えたものは。

 

 「………モンスターのテイム、か。」

 

 いい趣味してるな、と口の中で呟きながら冷静な目でテイマーの動きを観察する。

 

 彼の動きはさながら闘牛士のようで、真っ直ぐに向かっていくモンスターが闘牛に見えて仕方がなかった。

 

 「…向こうでもあんなことしてる奴いたなあ。」

 

 どうしてるのやら、と思いつつ観戦を続けていたその時。

 

 「脱走だあああああああああ!」

 

 会場が騒然とする。この場に最も多くいるのは一般人、仮にいてもレベル1がいいところだろう。

 見たところあのモンスター達は高くてレベル3ぐらいだろうか、いや、それでもここに武器を持っている奴はそうそういまい。

 

 だからこそ。

 

 「しっ!」

 

 『グギッ!?』

 

 ダンジョンに潜る予定だった自分には丁度いい。

 

 「次は!?」

 

 「む、向こうに食人花が!」

 

 「うっし!」

 

 一般人の報せを聞いて、すぐさまそちらの方へと向かう。途中でちらりとシルバーバックを見かけたが、ベルが近くにいるのを見てスルーする。

 

 辿り着いたところで見た光景は、まさにダンジョンで発生している戦場のそれだった。

 見覚えのある金髪───アイズ───と見覚えのないアマゾネスが戦っていた。

 

 「メラミ!」

 

 ひとまず牽制とばかりにメラミを1発ぶっぱなす。おかげでこちらに伸びてきていた触手が弾かれ、ジリジリと焼かれている。

 

 「あ、応援来た?」

 

 「あれ?あの人何者?」

 

 こちらに顔を向けられて一瞬びっくりするが、すぐに納得した。どうやらあのアマゾネス二人は姉妹のようだ。

 

 「話は後だ!倒すぞ!」

 

 「「はーい。」」

 

 アマゾネスの姉妹は二人して間の伸びた返事を返す。

 

 手順は簡単なもので、伸びてくる触手を払い除けて本体を叩く。問題はそれがかなりめんどくさいということだ。

 

 「ああもう、鬱陶しい!」

 

 「ホントだよねー。」

 

 「お前はちゃんと触手を払え!」

 

 メラゾーマを使おうにも、触手が多いせいで途中で阻まれそうだ。だから今は触手を斬り払うことに専念しているのだが、如何せんキリがない。

 斬り払えば斬り払う程、別の位置から触手を展開してきてガードを固める。それはひとえにガズロのメラゾーマを警戒するが所以だった。

 

 「あーうざってえ!イオラ!」

 

 苛立ちを隠すこともせず、呪文による小爆発の連鎖を引き起こす。ティオナとティオネは、見たこともない呪文、いや魔法に目を見開いている。

 

 「え!?今詠唱した!?」

 

 「したっつーの、イオラーって。」

 

 「短くない!?」

 

 何だ?こっちの魔法は詠唱文長いのか?あのマジャなんとかとかギガなんとかみたいにか?

 

 どうでもいいことに思考を割いていると、触手を薙ぎ払われたことに焦りを感じたのか一気に大量の触手を展開した。

 

 「うぉわっ!」

 

 「うわ、気持ち悪ー。」

 

 たしかにそうだけども。楽観視し過ぎでは……いや、この程度の魔物ならどうにでもなるか。

 

 「イオラ!」

 

 先程と同じように小爆発を連鎖させて触手を取り払うと。

 

 「からの───」

 

 メラゾーマと唱えようとしたその時。

 

 ヒュルッ。

 

 銀の風が迸った。

 

 「ありゃ。」

 

 どうやら先を越されたようだ。と理解する。

 魔物を挟んで向こう側、アイズがトドメをさすのが速かったみたいだ。

 

 「乙華麗。」

 

 「お疲れ様…。」

 

 さて、ベルは無事かな。



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モンスターフィリア後日談

 『ベル君!ここで君がアイツを倒すんだ!』

 

 ヘスティアからナイフを渡され、ステイタスを更新したベルは弾丸の如くシルバーバックへと向かっていく。

 毛皮の上からもわかる筋肉に塗れた身体を梯子のように駆け上がる。

 

 『ウゴゥ!?』

 

 『ああああああああっ!』

 

 咆哮し、一刀両断。

 振り下ろされた漆黒の刀身が、シルバーバックのチェストプレートを斬り裂き、毛皮を貫いてその肉を断つ。

 

 『ガグゥ!』

 

 グラりとダメージを受けてフラつくシルバーバック。その胸のど真ん中にベルは突貫する。

 

 『やああああああああああっ!』

 

 胸のど真ん中を一突き。その切っ先はたしかに魔石を貫いた。

 

 『ガ……。』

 

 魔石を砕かれたシルバーバックが目から光を失い、ナイフの勢いを打ち消すことなく後ろにゆっくりと倒れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おいベル!生きてるか?」

 

 「ファッ!?はい!なんでしょう!」

 

 そこでようやっと僕は我に返った。そうだ、僕はシルバーバックと戦って勝利したんだ。

 その後神様が気絶して僕も意識が遠のいて……!?

 

 「神様は!?」

 

 「無事だからさっさと寝てろ。」

 

 僕の必死な叫びはいとも容易く受け流され、ポンと頭を叩かれてベッドの枕に頭を沈める。あれ?僕がベッド?

 

 「あ、先に言っとくけどヘスティアは先に目覚ましてるからな?」

 

 「あ、それで……。」

 

 それまではソファに寝かせられてたが、神様が目覚めたためベッドに移したとか。

 

 「……ま、よくやったんじゃないの?」

 

 照れくさそうにガズロは言った。彼は滅多に僕のことを褒めない。だから僕は思わず聞き返してしまった。

 

 「え?今……。」

 

 「よくやったっつったの!あーもーうるせえな、取り消すぞ!」

 

 な、何で!?僕そんな悪いことした!?取り消して欲しくない僕は必死に謝っていた。

 

 「……やっぱスキルのせいか。」

 

 彼は僕の背中を見ながら何かを呟いていたが、それは僕の耳には届かなかった。

 

 「ベルくーん!起きたのかーい!」

 

 「あ、神さ…グエッ!」

 

 ボーッとしていた僕のところを、次に訪ねたのは嵐のような神様だった。ベッドから上体を起こしていた僕の胸のど真ん中───奇しくもシルバーバックと同じところ───に神様の頭突きを受ける。あまりの勢いにカエルが潰されたような声を出してしまった。

 

 「あ、これベル君のステイタスの写し。新しくしといたよ。」

 

 寝てる間にも更新してくれたらしい。どれどれ、とステイタスに目を走らせる。

 

─────

 

ベル・クラネル

Lv1

力:D501

耐久:G213

器用:E483

敏捷:C603

魔力:I0

《魔法》

【】

《スキル》

【】

 

─────

 

 愕然とした。何せ、一番低い(魔力除く)耐久でさえG。一番高い敏捷に至ってはCだ。

 

 「神様~書き間違えとかは……。」

 

 念の為に確認をとると、ガズロと揃って首を横に振った。て、ガズロ神聖文字読めるの?

 

 「高いに越したことはない、喜べよ。」

 

 「あ、う、うん。」

 

 どこか釈然としないまま、僕達は少し遅めの夕食をとった。



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パルゥムの少女

 あれから二日が経った。特に変化はなく、せいぜいあの時の騒動の犯人探しが行われているくらいか。

 そんで今俺たちはというと。

 

 「はあっ!」

 

 「力が乗ってなーい。もうちょい腰入れるー。」

 

 「うわっ!?」

 

 もはや日常の光景になってしまった、ベルの特訓をしている。実際はひたすら組手をし続けるというものなのだが。

 今は振るわれたナイフに力が乗ってないことを理由に、ベルをコロコロと玉のように転がしていた。

 

 「んじゃ、ダンジョン行くか。」

 

 「うう……うん。」

 

 最初の時から見れば、十分過ぎるくらいに、いや過剰と言えるほど成長している。

 冒険者になったばかりのころ、ベルのナイフはあまりにも軽く、威力もクソもなかった。強いて言うなら、速さしかなかった。

 

 「安心しろ、少しは強くなってる。」

 

 「だといいんだけど。」

 

 やはり彼の目に自信は未だに宿らずにいる。どうしたらいいものか。

 

 ダンジョンに向かう途中、俺たちは変な?光景を目にした。

 

 「このっ、糞ガキ!」

 

 「離してください!」

 

 パルゥムと思わしきフードの少女と、冒険者が争っているのが見えたのだ。そこまではまだよかった。

 

 (…なんで割り込んじゃうかな君わぁ!?)

 

 (ごごご、ごめんなさいー!?)

 

 問題はベルが割り込んでしまったことだ。放っておけば良いものを、目を離した隙に少女と冒険者の前に躍り出てしまったのだ。

 

 「あぁん!?なんだてめぇ!ぶっ殺されてえのか!」

 

 「あ…いや、その。」

 

 言い訳くらい考えてから行けよ、と文句のひとつくらい言いたくなったが、ぐっと堪えて今度は自分がベルと冒険者の前に出る。

 

 「悪いねうちの仲間が。」

 

 「まったくだ!さっさとそいつ連れてどっか行け!」

 

 「だが断る。」

 

 キッパリと言い放つ。一瞬ベルも少女も目の前の冒険者も、は?という表情になる。

 

 「ならてめえから殺してやらあ!」

 

 そうして向かってくる冒険者を俺は。

 

 「ふんっ!」

 

 「え?」

 

 飛びかかって来た勢いを殺すことなく、そのまま一本背負いでぶん投げる。誤算があったとすれば、あまりの勢いに吹っ飛ばし過ぎたことだろうか。

 

 「うおおおおおおぉぉぉぉ……。」

 

 だんだん奴の声は小さくなり、ドゴン!と衝突音が聞こえて静かになった。

 

 「うし、終わり。」

 

 パンパンと暴れたことで服についたであろう埃を念の為に払っておく。

 嬢ちゃんは無事かと、呆けたベルの横に目をやると。

 

 「あれ?」

 

 「え?あ、あれ?」

 

 パルゥムの嬢ちゃんは忽然と姿を消していた。

 

 「一体なんだったんだ?」

 

 「さ、さあ?」

 

 まあいいかと無理やり納得し、そのままダンジョンへと足を運んだ。



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何気ない戦闘の一コマ

 「ふっ!」

 

 闇に溶ける刃を握りしめた左手が翻り、さながらラグビーボールのように回転しながら魔物の脇をすり抜けていく。

 

 『『『アイエエエ!?』』』

 

 すれ違いざまに斬られたキラーアント達は一様に奇妙な声を上げて灰と散る。

 

 「やー、やるなあ。」

 

 「それほどでもっと!」

 

 俺とベルは7階層に来ていた。アドバイザーのエイナはまだ早いとしきりに口にしていたが、俺の見立てが正しければ、ここでもまだベルを満足させられないと思う。何せ最高ランクのアビリティはCだ。こんなとこに留まる理由の方が少ない。

 

 「ベル、8階層行こうぜ。」

 

 「えっ、もう8階層に行くの?」

 

 「もうこんなところにいる理由はねえよ。」

 

 本人は未だに自信が無さげだが、多分俺の見解は正しいはず。最悪リレミト使って脱出すりゃいいしな。

 

 まあ結果はというと。

 

 「うっ、うわわわわわわわわ!?」

 

 「だあー!めんどくせー!」

 

 パスパレード───魔物を押し付ける行為───にあって、今大量の魔物達に追いかけられている。

 

 「ああもう隠すのもめんどくせえ!イオラ!」

 

 向こうの世界と違って世知辛いこちらでは、あまり魔法を漏らすまいと考えて魔法を封印してきたがいい加減めんどくさくなった。

 小爆発が連鎖し、次々と魔物を吹き飛ばす、或いは灰へと変えていく。

 その光景を見たベルはというと。

 

 「ま、魔法使えたの?」

 

 「あれ、言ってなかったっけ?何十種も使えるぞ。」

 

 と、その言葉にベルは目玉が零れ落ちんばかりに目を見開く。

 何故ならば。

 

 「普通…魔法のスロットって三個しかないはずじゃ…?」

 

 「…………え。」

 

 ジーザス。なんということでしょう。どうやらこちらの世界では魔法は三個までのようです。馬鹿正直に教えるんじゃなかった。

 

 「あれだ!突然変異だ!」

 

 勢いとノリで誤魔化しにかかる。後は魔石回収の名目で話を無理やり終わらせる。

 

 (………向こうだとみんなめっちゃ魔法使ってたからなー。)

 

 こちらの世界では考えられないことだが、ガズロの元いた世界では皆同じ魔法を使い、誰もが何十種もの魔法を習得出来た。ところが、こちらでは三個までときたもんだ。それも二つもあれば珍しい方で、三個全部埋まってる奴なんて聞いたこともないとか。

 盛大に自爆したところで、彼らは帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ((………気まずい!))

 

 彼らは帰り道、何故か会話出来ずにいた。ガズロは自分が異質な存在であることを隠すために自然と無口になり、ベルはガズロから滲み出る「話しかけるな」オーラに呑まれて話せなかった。

 

 ((何か、何か会話の種を!))

 

 二人して同じことを考えて、何かしら話の種を必死に視線だけで探す。すると。

 

 「あっ。」

 

 「ん?どした?」

 

 ここでベルはあることを思い出した。

 

 「僕、エイナさんに呼び出されてるんだったー!」

 

 彼の沈痛な叫びに、キョトンとしてしまうガズロ。それもそのはず、もはやホームは目前のところでそれを思い出したというのだから。

 

 「まあそのなんだ、どんまい。」

 

 「急げえええええ!」

 

 文字通り兎の如く、脱兎の勢いでバベルへと向かっていった。

 

 



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リリとの出会い

 翌日、少し遅く帰ってきたベルを睨むヘスティアを制しながら朝食をとった。昨日もただでさえ単体で帰ってきた俺にだいぶ怪しんでいたというのに、当の本人はギルドの受付嬢とデートときたもんだ。そりゃ俺も怒る。

 

 「ふんっ!」

 

 「けっ!」

 

 「うう……ごめんなさい。」

 

 これ以上は大人気ないしやめとくか。おいヘスティア、お前はまじで今やめないとただのガキだぞ。

 

 

 

 

 「でりゃっ!」

 

 「おー、遅い遅い。」

 

 「こっのっ!」

 

 ひらりはらりと紙切れのように振り抜かれる二振りのナイフを避けていく。今回俺は防御もカウンターもしないと宣言し、1発でも当てるか時間が来たら終わりということにしている。

 

 「はあっ!」

 

 「やりますねぇ!」

 

 煽るように、道化のように巫山戯た声で挑発してみる。すると面白いように彼は全身に力が入り、無駄な動きが増えてくる。

 最終的に大振りの一撃を見舞ってきたのを見計らってしゃがみ、 ベルの突進を回避する。

 

 「うわわわっ!?」

 

 どてん、と無様に転がるベル。昨日も一昨日も見た光景だ。

 

 「煽られたからって力むんじゃねえよ。」

 

 「うう~。ガズロの煽りって腹が立つんだよね。」

 

 否定はしない。何せ昔仲間に『まじで1回殺していいか?』と聞かれるくらいには煽るのは上手いからな。

 

 

 朝の組手も終わり、いつも通りダンジョンへと向かっていった。いつもと違うことが起こったのは、向かう途中だった。

 

 「お兄さん、お兄さん、白髪のお兄さんと赤い髪のお兄さん。」

 

 「「ん?」」

 

 声の主へと視線をやると、身長およそ100センチ、いやセルチの少女がいた。この前見た少女と瓜二つだが、深く被られたフードの膨らみから見て他人の空似かもしれない。

 

 「初めまして、お兄さん達。突然ですが、サポーターなんか探してませんか?」

 

 ベルが何かを言おうとするのを遮って少女はベルの背中に人差し指を向けた。示す先はバックパック。

 

 「混乱してますか?今の状況は簡単ですよ?お零れに預かりたいサポーターが、自分を売り込んでるんですよ?」

 

 目を丸くするベルとは逆に、少女はニコリと笑ってみせる。俺の苦手な眩しいタイプの微笑みだ。

 

 「そ、それより昨日会わなかった?」

 

 「……?リリはお兄さんと会ったことはないと思うのですが?」

 

 そこでガズロはピーンとくる。魔法か、と。自分の世界にも多種多様な魔法があった。今更変身魔法くらいでは驚かない。

 

 (……ま、いっか。)

 

 相手にも変身しなければならない何かがあることを察し、深い詮索をやめる。

 

 「あ、これは失礼しました。自己紹介をしていませんでしたね。リリの名はリリルカ・アーデです。お兄さん達はなんというんですか?」

 

 彼女の目は少し怪しく輝いていた。



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サポーターのお仕事

 「じゃあ君は無所属のサポーターじゃなくて……。」

 

 「そうですよ。リリはちゃんとファミリアに入ってますよ。」

 

 バベル二階の簡易食堂。殆どの冒険者達がダンジョンで命をかける中、俺たちは呑気に会話していた。

 

 「ファミリアは?」

 

 「【ソーマファミリア】です。」

 

 ソーマ。あれか、神に捧げる酒の名前か。それの神様ってところか?あれめちゃくちゃ美味いんだよな。

 

 リリはサポーターとして俺たちに同行したいというのだ。多分嘘だろうが、今まで同行していたパーティに契約解消されたらしい。困り果てた末に見つけたのが俺らだと。他にもたくさん冒険者いたのにな。

 たしかにサポーターが一人いればいいかなーとは思っていた。だってバックパック邪魔だし。

 

 チラリと目の前の少女を観察する。痩せぎすとは言わないが、痩せ気味な身体つきとその小さな体から何処と無く頼りなさが滲み出る。これは冒険者には見えない。

 ぶっちゃけこんな無邪気───に見える───少女を疑いたくはないが、ベルは騙されやすいが故に俺がしっかりする必要がある。

 

 「どうして違うファミリアの僕達に?」

 

 「それはですね………。」

 

 ベルの方を見ると、ほんの少しだけ、疑いをその目に覗かせているがあれはおそらく半分以上傾いてる。

 

 「まどろっこしい話はやめにしようぜ。とりあえずベル、雇うか雇わないかだけ決めようじゃないか。」

 

 一通り話し終えた為、言うのは少し遅かったかもしれないなとボヤきつつベルに問いかける。その答えは。

 

 「………うん、よろしくリリルカさん。」

 

 雇うようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ギイイッ!』

 

 ガチガチと不気味に牙を打ち鳴らすキラーアントの甲殻の隙間にナイフを閃かせるベル。瞬間キラーアントは悲鳴の一つも挙げずにその場で沈黙する。

 

 「遅いっ!」

 

 誰と比べてのことかは知らないが、そう言いながら次々と魔物を両断していく。

 

 『ジギギギギ!』

 

 「うるせえな、メラ。」

 

 『ウボアー』

 

 上空から襲いくるパープルモスに小さな火の玉を撃ち込む。衝突した火の玉はパープルモスを巻き込んで爆ぜ、やがて包み込むように炎が広がる。

 

 「そこ動くなよおおおっ!」

 

 ベルはというと、再びキラーアントに飛びかかっている。どうやらまた新しく湧いたらしい。

 そのすぐ後ろにまた別のキラーアントが出現する。すかさずメラを放つ。

 

 血の風にも見える俺たちの快進撃はとどまることを知らず、だいぶ大量の魔物を討伐していた。

 

 『グシュ…ッ!シャアアッ!』

 

 「お二人様ー!また産まれました!」

 

 ダンジョンの壁面を煎餅のように破って、キラーアントがギチギチと牙を鳴らす。

 もう数えるのも億劫な場面の遭遇に苦笑いしながら突貫する。

 

 「せーのっ!」

 

 『イ゛エ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛』

 

 踏み込んだ勢いを殺すことなく、飛び蹴りを炸裂させる。

 壁に鈍い音が響き、無様に首を傾げた状態で頭を埋めたままキラーアントは意識を手放していた。

 

 「ガズロ様、やりすぎですよ。」

 

 「すまんすまん。」

 

 己の身長より高い位置に埋まった魔物に向かって飛び跳ねる様を見て、ベルはぷっと微笑んだ。

 

 「笑ってないで手伝ってくださいよぉ。」

 

 「へいへい。」

 

 ガズロはこのダンジョンでのリリを見て、総評をくだしていた。

 

 こいつは上手いな、と。



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サポーターの闇

 「話は変わるんですが、貴方達は本当に駆け出し冒険者なんですか?」

 

 はい来ましたこの話題。触れないようにしてきたけど、どうやら一般人から見ても以上な程の成長と実力でした。

 たしかにベルの成長速度は頭おかしいし、俺もLv1の実力ではないと思う。

 

 「で、でも危なっかしいところもあったろ?ほら、ベルとかベルとかベルとか。」

 

 「僕ばっかり!?」

 

 「いえ、お二人とも、たった二人なのにとても強いです。特にガズロ様は。」

 

 うん、やっぱこいつやばい。もしや観察眼も鋭いんじゃないかなーって思ってたけど本当に鋭かった。

 

 「でもさ、リリも色んな冒険者たちと契約してきたなら僕達より強い人達いたんじゃない?」

 

 わかってない、わかってないよベル。お前の強さの問題はまだ半月程度しか経っていない冒険者のそれじゃないというところだよ。

 要は時間をかければ誰だってベルくらいまでなれるけども、半月ではそこまでいかないんだよなあ。

 

 「まあベル様の強さの秘訣は、ステイタス以外にも武器によるところもありそうですがね。」

 

 その一瞬、リリの声色が少しだけ変わった気がした。感覚の鋭いベルでも気づかない程自然なトーンの変化。俺も注視してなければ気づかなかったかもしれない。

 なるほど、狙いは金目のもんか。ならば俺の剣を狙った方がはやいとは思うんだけどな。

 

 「ベル様。」

 

 そこではっとする。ああ、こいつヘスティアナイフ狙ってんな、と。ベルに壁に埋まったキラーアントの魔石回収を頼み、その隙に奪おうって算段か。

 

 「いいよ俺やるし。」

 

 「あ、いやその。」

 

 リリがしどろもどろになるのも無視して、ザックザックと甲殻を俺の剣『光の剣』で切り裂いていく。

 背後で微かにリリが俺のことを睨んでいたような気がした。

 

 「んじゃ、今日はもう帰るか。稼ぎは十分だろ。」

 

 「あ、はい。そうですね…。」

 

 随分と露骨に落ち込むなおい。

 

 

 

 

 

 帰り道、リリはおかしなことを言い出した。

 

 「今回のドロップアイテムと魔石は全て持っていっていいですよ。」

 

 「ええ!?本当に!?」

 

 何?てことはもうあのヘスティアナイフを盗んだということか?と思いベルのナイフの鞘に目をやると、プラプラとぶら下がる鞘にはナイフが収まっていなかった。

 ヤバいな…。ここで下手に騒いだらリリに逃げられかねない。

 

 「それじゃ、リリはここで失礼しますね。」

 

 「あ、ちょっ。」

 

 俺の静止も聞かずに、飛び跳ねるように人混みの隙間を縫って行ってしまった。俺の勘が正しければ、あのドワーフの店の前!

 

 っと、その前に。

 

 「ベル、ナイフどした?」

 

 「えっ?あっ!」

 

 瞬間ベルはどこかへ駆け出して行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「まったく、こんな危ない橋もう渡りたくないですよ。」

 

 リリは不満を露わにして裏のストリートを歩いていた。

 ベル、と名乗る白い髪の冒険者はまだよかった。人を疑うことを知らない、ともすれば罪悪感すら湧いてくる純白な少年。はまだいい。

 問題はもう1人、赤い髪の冒険者だ。おそらく超短文詠唱の魔法をもつ冒険者で、無駄に感覚が鋭く盗む瞬間は気が気じゃなかった。

 

 「ほんと、よく盗めましたね。」

 

 その時だった。

 

 「ちょっとよろしいでしょうか?」

 

 声をかけられたのは。



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リリ砲発射

 話しかけてきたのは一人のエルフだった。

 

 「な、なんでしょうか?」

 

 「そのナイフ、よく見せて貰いたい。」

 

 伸ばされる手に、思わずナイフを袖の下に引っ込める。

 冷や汗をかきながら必死に言い訳、いや何もしてないはずだから言い訳というのはおかしい。

 とにかくこの場を誤魔化そう。そう思い、震える足に逃げるなと言い聞かせてエルフの方に向き直る。

 

 「な、なんですか?これは私の───」

 

 「吐かせ。」

 

 次の瞬間、リリはボールのように吹っ飛ばされた。

 

 「ぎっ!あがっ!?がふっ!」

 

 二転三転としてT字路に転がりでる。あまりの激痛に視界が明滅し、肺が二酸化炭素を吐き出す度にズキズキと痛む。自分が蹴り飛ばされたことを理解するまでにたっぷり5秒かかった。

 

 「ヒエログリフが刻まれた武器の持ち主など、私は1人しか知らない。」

 

 そしてリリはまた蹴り飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「どこ?どこ!?どこなの!?」

 

 僕はものすごく焦っていた。何故ならば、かけがえのないナイフである、神様のナイフ。通称ヘスティアナイフを無くしてしまったからだ。

 僕はどこかに落としたと思い、今まで来た道を探しながら戻っている。

 

 だから飛んできたリリに反応するのは早かった。

 

 「リリっ!?」

 

 「あ…ベル様…。」

 

 何故かリリはボロボロで、探せばどこか出血してるのではと思うほど。

 そんな彼女は息も絶え絶えに語った。

 

 「べ、ベル様がこれを落としていたので、探していたのです……。そしたら、あの凶暴な女……いや、犬に襲われてこのざまです。」

 

 凶暴な犬、か。動物好きな僕は犬が来たら犬を容赦なく蹴り飛ばせる自信がない。どうする!?と思っていたその時。

 通路からヌッと影が現れ、思わず身構えた。が。

 

 「クラネルさん。」

 

 「リューさん…。」

 

 知り合いだとわかりホッとする。どうやら犬はこちらには来なかったようだ。

 しかしリューさんはキョロキョロとあたりを見回しており、横にいるシルさんはくすくすと笑っていた。

 

 「あの、何かあったんですか?」

 

 「いえ、パルゥムの少女を追っていたのですが、逃げられました。」

 

 何があったのか知りたかったけど、まずはリリの治療だ。とリリの方に振り返ると、蒼白な顔で震えていた。

 

 「リリ?どうしたの?」

 

 「あちらの方々と知り合いなんですか?」

 

 「え?うん。豊饒の女主人ってところの店員さんで…。」

 

 「絶対リリをそこに連れていかないでくださいね?」

 

 何故か怯えたようにふるえるリリに首を傾げながらも、治療のために僕達のホームまでリリを連れていくことにしたが、リリが強く断ったため、断念した。



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本日の稼ぎは3万ヴァリス

 次の日の朝、僕達はまたダンジョンに来ていた。ガズロは用事があると言って朝一で先に出ていってしまった。

 

 「ベル様。」

 

 「ん?」

 

 「あのナイフはどこにしまわれたのですか?」

 

 「うん、今度は落とさないようにプロテクターの中に鞘ごと入れてる。格納スペースがあってよかったよ。」

 

 「そ、そうですか……。」

 

 がっくりと項垂れるリリ。そういえば今日はいつもと違ってリリの様子がおかしい。なんというか、空元気のような感じがする。

 

 「ベル様、今日の予定はどうなっていますか?」

 

 「もうちょっと7階層で頑張ろうかなって思ってるよ。夕方まで粘るつもりだけど、リリは大丈夫?」

 

 そういうとリリは少しだけ困ったように微笑んだ。

 

 「どちらかというと、リリの心配より自分の心配をしてくださいベル様。あなたは今日はソロで戦うことになるんですから。」

 

 言われてみれば。最近はガズロが一緒にいてくれたから背中を任せられたけど、今は一人。いや、リリもいるがあくまでもサポーター、戦力として数えるには申し訳ないが少々頼りない。

 

 「…うん、久しぶりのソロ。気張って行こうと思う。」

 

 「はい!頑張ってくださいねベル様!」

 

 僕達は7階層へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「だらっしゃあああぁぁぁ!」

 

 『ブモォッ!?』

 

 俺はベルもリリもつけずに一人、15階層まで来ていた。

 理由は簡単、自分の実力がこちらだとどのくらいなのか確かめるため。

 向こうだと魔王城近くでも摩耗しない武器のおかげで余裕はあったが、こちらでは自分がどの位置にいるのかさっぱりわからなかった。

 だからこそ、それを確認するためにまずはLv2が潜るという15階層まで来てみたのだが。

 

 「………弱っ。」

 

 貧弱すぎて話にならなかった。剣を振るえば魔物はただの肉塊に成り下がり、一度左手から魔法を撃てば魔物は抵抗出来ずに灰になる。

 端的に言うと、彼はLv2程度では収まらないのだ。

 

 「俺レベル何なんだよ。」

 

 自分の力量が測れないことに苛立ちながら、目の前に現れた放火魔と呼ばれるヘルハウンドをそれ以上の火力で焼き尽くす。

 

 「もうちょい下いくか。」

 

 こちらで新しく習得した魔法、フローミを使って次の階層への階段を探す。帰る時はリレミトという脱出魔法で一瞬で帰れる。

 そして彼は更に下へ下へと進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リリというサポーターの存在は劇的なものだった。彼女がバックパックを受け持つ為に普段より長い時間ダンジョンに潜れる。

 探索階層が下がって脱出する時の時間も増えるため稼ぎは大して変わらなかった。

 

 それらは全てサポーターに解消される。

 

 「「やったー!」」

 

 二人で3万ヴァリス。僕達は歓喜して飛び上がった。

 

 「ドロップアイテムは数えるくらいしか出なかったのに凄いです!お1人で3万ヴァリス稼いじゃいましたよ!」

 

 リリはそう言うけど、僕にはサポーターのおかげにしか見えない。だって彼女がいなければこうはならなかったもの。

 

 「それではベル様、分け前を頂けませんか?」

 

 「うん!はい!」

 

 ドバっと15000ヴァリスをリリの方に渡す。

 

 「……………へ?」

 

 「うんうん!これならガズロにも神様にも褒めて貰えるかも!」

 

 やっと2人にちゃんと褒めてもらえる!

 隣でリリが目を点にしていたけど、僕はそれに気づかず妄想に耽っていた。

 

 「ひ、独り占めとか……ベル様は考えないんですか?」

 

 「え、どうして?」

 

 ガズロがいれば『質問を質問で返すなぁぁぁぁっ!』って言われそうだけど。

 

 「僕一人じゃここまで稼げなかったよ。リリがいてくれたから、でしょ?」

 

 だからありがとう、と僕は上機嫌に言った。

 

 「………変なの。」

 

 彼女のちっちゃな呟きを僕は聞き逃した。



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本日の稼ぎは10万ヴァリス

 「ぬあああっ!?」

 

 目を覚ました直後、ヘスティアに降りかかっていたのは、あられもない頭痛だ。

 経験したことのある身としてわかる。あれは絶対二日酔いだ。2ポンドかけてもいい。

 

 「飲みすぎだヘスティア。」

 

 「うっ…ごめんなしゃい。」

 

 しおしおと小さくなるヘスティア。自覚はあるらしいな。

 

 昨日結局30階層あたりでめんどくさくなった俺は、リレミトを唱えてすぐに帰った。稼ぎはというと、魔石とドロップアイテムを合わせて計120万ヴァリス。少し暴れすぎてたからそりゃこの金額になるか。

 リリがいなかった為、久しぶりに俺は無限に道具の入る『大きな袋』を使っていた。久しぶりの感覚に思わず笑みを零したくらいだ。

 どうでもいいが、ギルドの職員はかなり驚いていた。

 

 「それで、ベルは今日は休むのか。」

 

 「うん、あの状態の神様を放っておけないしね。」

 

 帰ってきたらニヤニヤしながら待ち構えていたので、何かと思えば3万ヴァリス稼いだらしい。その半分はサポーターにくれてやったんだと。

 その後俺の稼ぎを伝えたらベルは膝から崩れ落ちた。何がしたかったのかさっぱりわからんかった。

 

 「じゃあリリは俺が借りてくぞ。」

 

 「借りるって、そんな道具じゃないんだから。」

 

 少しムッとした表情でこちらを睨む。そんな睨むなよ。ただの比喩だろうに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ああうざってえ!フィンガーフレアボムズ!」

 

 中2臭い技名を叫びながら、メラを五つ指先に展開して放つ。かつて仲間が適当に名付けてくれやがった技名だ。

 突き出した左手を思いっきりひいて、後ろで牙を鳴らしていたキラーアントの顔面に肘を突き刺す。その威力は絶大で、キラーアントはその一撃で絶命していた。

 

 「………ガズロ様って、鬼気迫る感じですよね。」

 

 「否定はしねえよ!」

 

 俺は敢えてキラーアントにフェロモンを出させて、大量のキラーアントを狩っていた。その数、既に100を超えており、もう数えるのをやめたくらいだ。

 

 「よっしゃ!でけえのいくぞ!」

 

 「ひっ!?」

 

 イオラァ!と叫ぶと、チカチカっとキラーアントのすぐそばで光が瞬き、次の瞬間爆ぜた。これでここに殺到していたキラーアントは全て倒した。

 

 「くぅ~これこれ!一気に雑魚どもを吹き飛ばす快感!」

 

 「……あなたバーサーカーかなんかですか?」

 

 失礼な。立派な魔法戦士だぞ。

 

 

 

 

 

 来た道を戻るのも面倒だったので、リレミトを使って帰ったところリリにめっちゃ驚かれた。なんでも移動系の魔法を持つ人は初めて見たそうだ。

 だからそういうのは先に行ってくれよ。俺普通に性能おかしい冒険者じゃん。

 

 「………じゅ、10万ヴァリス。」

 

 少ねえ。めっちゃ少ねえ。昨日の12分の1ジャマイカ。

 

 「す、凄いですね。」

 

 あれ?これでも凄い方なの?あ、そっか。Lv1は万単位で稼ぐのが普通か。

 

 「おう。んで、これが分け前な。」

 

 そう言ってどっちゃりと5万ヴァリスの入った金貨袋を渡す。

 

 「えええっ!?」

 

 「ん?どした?」

 

 あ、もしかして少なかったか?

 

 「さ、サポーターには過ぎた分け前ですよ!?」

 

 「分け前決めるのは俺だ。それがお前の妥当な働きだ。」

 

 事実こいつめっちゃ役立つ。スキルだろうけど、どれだけ重くてもひょいひょい運んでやがる。

 結果としてパンパンに膨れ上がったバックパックを抱えてここまで戻ってきたくらいだ。

 

 「…………本当に変なの。」

 

 「変とはなんだ変とは。」

 

 「いえっ、その!?」



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借金2億ヴァリス

 リリと契約してからだいぶ時間がたった。

 今日は俺は部屋の片付けをしていた。ただでさえ狭っ苦しい教会の隠し部屋、せめて小洒落た感じに整えようとしていた。

 

 「……ん?なんだこれ?」

 

 あれを見つけるまでは。

 

 

 

 

 

 

 「んで?ヘスティア、何か言うことは?」

 

 「えと、その、ごめんなさい…。」

 

 俺は今、ヘスティアに説教をしている。ヘスティアの状態はというと正座したまま顔を蒼白に染め、子鹿のようにプルプルと震えていた。

 

 「借金2億ヴァリスってどういうことじゃ!」

 

 「あだっ!?」

 

 本当は恐れ多いことらしいが、今ばかりは容赦なく神にゲンコツを見舞う。一応手加減はしてる。

 

 「うう~……それはベル君の…。」

 

 「やかましい!」

 

 言いたいことは大体わかる。大方、ベルのナイフを用意する為の必要経費だとでも言いたいんだろう。

 だが、本来ならベルは駆け出し。リアリスフレーゼとかいう変なスキルのおかげで成長こそ早いが、ベルには妥当な武器があるはずだったのだ。

 言ってしまえば、あのナイフは素人目にもわかるほど駆け出しには過ぎたものなのだ。

 

 「何が言いたいか教えてやろうか?簡潔に言おう、あのナイフはあんたのわがままでしかないんだよ!」

 

 「ぐはあっ!?」

 

 それをどうしても欲しがった理由。それは自分が役立たずだと言われたくなかったからだ。

 自分は何も出来ない、だから無理していい武器を与えることしか出来なかった。しかしその無理は結局俺たちに返ってくる。

 

 「そこまで考えてから動けこの駄女神ィ!」

 

 「うっ、うわーん!ベルくーん!」

 

 ちっ、ベルを盾に取られるとめんどくさいな。と、悪役のようなことを考えながらヘスティアの後を追う。

 

 「神様?どうしたんですか?」

 

 「聞いてくれよベル君!………何それ?」

 

 ヘスティアはふとベルの手元を見た。そこには仰々しい装飾過多な分厚い本が抱えられていた。

 

 「ベル、それどうした?」

 

 「え?ああこれ?実はね。」

 

 本を手渡されながら説明を聞く。豊饒の女主人に忘れ物として置いてあったものを借りてきたんだとか。何かきな臭いな。

 ペラペラと本をめくったところ。

 

 「……ん?この本、白紙じゃねえか。」

 

 そう、不思議なことに全てのページが白紙なのだ。どういうことだ、とベルに視線で訴えかけるも、ベルも知らないと首を横に振る。

 そんな中ヘスティアがボソリと呟いた。

 

 「………グリモアじゃないか。」

 

 「グリモア?」

 

 グリモア、要は魔導書。魔法について記された本を指す言葉だ。だが、俺の知るグリモア、魔導書はびっしりと魔法について饒舌に書き綴られていたはずだ。

 こちらの世界ではどういうものなのか知らない為、なんとも言えずにいたが。

 

 「魔法強制発現装置だと思えばいい。」

 

 「てことは高いんじゃね?」

 

 その一言に2人は言葉を失う。ヘスティアに至っては全身から色が抜け落ちた抜け殻のようになってしまっている。

 

 「き、昨日魔法が発現してたのはこれかぁ…。」

 

 「納得してる場合じゃないですよ神様!?ぼっ、僕、謝ってきます!」

 

 「あっ、おい!」

 

 引き止める間もなくベルは豊饒の女主人へと駆け出して行った。



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裏切るリリ

 「悪い、今日はちょっと用事あるわ。」

 

 ガズロはそう言って朝早くから出ていってしまった。どうでもいいことだが、彼はいつも朝からどこかへ行くことが多い。

 

 昨日僕は夕飯の時に二人に言われた。

 

 『リリをどうするのか。』

 

 と。ガズロも言っていた。本当はリリが僕のナイフを狙っていたこと、拾っていたのではなく盗んでいたこと、彼女はソーマファミリアで酷い目にあわされて冒険者を憎んでいることも。

 

 『神様、ガズロ、僕は…。』

 

 

 

 

 

 「ベル様?」

 

 思考がパッと打ち消される。リリの声に僕の意識は昨夜の記憶から舞い戻る。

 いけない、と思い頬をペちペちと叩いて意識をしっかりさせる。

 

 「ベル様、本日は10階層まで行きませんか?」

 

 リリは僕にそう持ちかけてきた。

 その提案に、思考に耽っていた僕は驚きの表情でリリを見る。

 

 「どうしていきなり?」

 

 「リリが見た限り、ベル様はとうに10階層を踏破可能な実力をお持ちですよ。」

 

 リリの言う実力がステイタスを指していたのはすぐにわかった。

 たしかに僕のステイタスは敏捷を初めとした基本アビリティの能力値がAになっている。ギルドの示している参考値はとっくにクリアしている。

 それでもすぐに降りないのは、僕が今日はソロだと言うのもあるが、2桁に増えた階層は、それまでより殊更タチの悪いものになるからだ。

 何より、出るのだ。大型級のモンスターが。そう、あのミノタウロスのような。

 

 「……わかった行こう。」

 

 それでも僕は進むことを選択する。

 

 

 

 

 

 

 『ブググウウッ!』

 

 低い呻き声とともに大型級のモンスター、オークが姿を現す。

 僕はそれを見て反射的にリリに渡された両刃短剣、バゼラードを引き抜く。

 それと合わせるように、オークは壁際に生えていた枯れ木、ランドフォームと呼ばれる自然の武器を引き抜いた。

 

 「タイミング悪いな…。」

 

 ランドフォームは破壊可能だが、これもダンジョンの一部のため時間経過で復活する。モンスターが使用しても同じことだ。

 

 オークは雄叫びをあげた。

 

 『ブゴオオオオオオッ!』

 

 戦闘開始の合図。それと同時に僕はオークに向かって駆け出した。

 

 『いいかベル。お前のステイタスはヒットアンドアウェイに特化している。』

 

 ガズロの言葉が脳裏を走る。

 曰く、僕のステイタスは敏捷で相手を翻弄し、、高い火力で削っていくスタイルになっているという。

 防御を捨てて回避を選んだ。ということらしい。

 

 (真っ向から受ければやられる!)

 

 それだけは忘れないように心の中で呟く。

 オークは無骨な棍棒を頭上まで振り上げていた。振り上げたということは。

 

 「っく!」

 

 まっすぐ振り下ろす。ならば範囲はそこまでない。僕は更に速度をあげて突っ込む。

 錐揉み回転しながら、オークの首元にナイフをあてがい、身体と連動して手元を捻り一思いに首を刎ねる。

 

 「やった!」

 

 「ベル様!また来ます!」

 

 その言葉に目を背後に向けると、リリの姿は通路端にあり、オークがこちらを無愛想に睨みつけていた。

 あまり頼ってはいけないと思いつつ、右手を大砲のように突き出して砲声する。

 

 「ファイヤボルト!」

 

 発現した僕だけの魔法、ファイヤボルト。雷の速度の炎。それは速攻魔法で、火力こそ低いもののその速度は十分な武器であるとガズロに言わしめた魔法だ。

 もちろん、威力は軽いためオークは表皮を焦がされても平然と立っているだからこそ。

 

 「ファイヤボルト!」

 

 連射。

 赤い雷が走り、次々とオークに着弾する。その時。

 

 「っ!?」

 

 バチン!と音がなり、何事かと音の方に目をやると、ヘスティア様のナイフをしまっていたレッグホルスターが外れていた。

 ホルスターの皮の留め具には、キラリと光る金属矢が突き立っていた。

 

 「ごめんなさいベル様。もうここまでです。」

 

 彼女はそれだけ口にすると霧の奥へと消えていった。

 

 「リリ!リリ!?っっ!あーもうっ、やっかましい!」

 

 『ブギッ!?』



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救いか裁きか

 「……はあ。」

 

 彼女、リリは変身魔法の使い手だった。彼女は姿形を変えて人々を欺き、盗みを働いていた。巷で噂のパルゥムたちの窃盗も、全てリリの単独犯だった。

 その窃盗の犯人であるリリは、盗みが成功したというのにどこか曇った表情をしていた。

 

 と、次の瞬間。

 

 「あ?」

 

 ポキリと、軽快な音がして視界がグルグルと回った。遅れてきたのはとてつもない激痛。

 

 「あがっ!?ゲボっ、がはっ!?」

 

 何が、その答えはすぐにわかった。

 

 「よう、久しぶりだなパルゥム。」

 

 「……!」

 

 ベルたちと出会った時に絡んできた───リリから盗まれた物を取り返そうとした───冒険者のヒューマンだ。

 焼けた鉄を押し当てられるように痛む腹部は、冒険者の男による蹴りだった。

 

 「とったもん、返して貰うぜっ

!」

 

 リリは何度も玉のように蹴り転がされた。さながらサッカーボールのように。

 

 「オラッ!だしやがれ!」

 

 「出します!出しますから…!?」

 

 リリは死にたくない一心で、これまで盗んできた物をだす。

 

 「ナイフに、魔石に、金に、ははっ、こりゃおもしれえ。魔剣まであるじゃねえか!」

 

 ニタニタと意地の悪い笑みを浮かべる。対してリリは必死だった。

 

 「でしたら、リリを逃がして…!?」

 

 「そらよ!」

 

 「あぐっ!?」

 

 何故かこの場を離れたがるリリを鬱陶しいとばかりに蹴り飛ばす。

 そしてちっとも息を吸い込めずにいた時だ。

 

 「派手にやってんな、ゲドの旦那。」

 

 第三者の声が投じられる。

 そこにいたのは先日リリを脅迫して金を巻き上げようとした者達の1人だ。これまでも何度も彼女から金品を巻き上げて散々虐げてきたソーマファミリアの冒険者。

 リリは悟る。男の協力者はソーマファミリア。自分と一悶着起こしていた彼等を利用できると踏んで協力を要求したのだろう。

 

 「聞けよカヌゥ。こいつ魔剣なんか持ってやがったぜ!てめえらの読み通りたらふく金を溜め込んでるみてえだ。くははっ!」

 

 「…そうですかい。」

 

 カヌゥと呼ばれた獣人が目を細めた時と同時だった。

 

 彼が現れるのは。

 

 「イオラァ!」

 

 「「「なっ!?」」」

 

 光が小さく瞬き、近くにいたカヌゥたちを巻き添えにして爆ぜる。

 

 「「「グワァッ!?」」」

 

 爆発に仰け反ったカヌゥたちの手からは、事切れたキラーアントがぼとりと落ちた。

 

 「てめえら!?まさか俺を嵌める気で…!」

 

 「お喋りはそこまでだ。」

 

 刃物のような殺気が彼らに突きつけられた。

 

 「「「ヒイッ!?」」」

 

 「てめえら全員、去ね。」

 

 「「「は、はいいい!」」」

 

 先程まで目をギラつかせていた冒険者達は、皆一様に尻尾を巻いて逃げ出してしまった。

 カツンと音を立ててこちらに歩み寄るのは。

 

 「久しぶりだなぁ?リリ。」

 

 この場において最強の冒険者、ガズロ。



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赦し

 不味い不味い不味い。

 リリはなんとしてもこの場から逃げ出したかった。だがその目標も潰えた。

 なぜなら彼がいるから。

 リリはこれまで盗んできた物を掻き集めて取られないようにしたかった。だがそれも出来ない。

 なぜなら彼がいるから。

 

 「リリっ!…あれ?ガズロ?」

 

 タイミング悪く2人の中間の位置に躍り出るベル。少なくとも険悪な空気の流れるところに出てきてしまったのはわかるようで、彼の動作はどこかぎこちなかった。

 

 「リリ、無事だったんだね?」

 

 「………。」

 

 彼が最後に見た姿からボロボロの傷だらけになっていることに首を傾げ、なにかに気がついたように肩を跳ねさせると、ギギギっと錆び付いた人形のようにガズロの方を見る。

 そして視線で問いかけたのだろう。君がやったの?と。当然返事はNO。

 

 「ベル、とっくにわかってんだろ?」

 

 「………うん。」

 

 気づかれてしまった。あのとても鈍感な少年にも。初めて憎しみを抱かなかった冒険者にも。

 その事実が彼女の心を蝕み、頭の中を焦りが埋め尽くす。

 

 「リリ。」

 

 やめてくれ。その続きを言わないでくれ。

 

 「僕は」

 

 やめてくれ。

 

 「君を」

 

 嫌だ。

 

 「………許すよ。」

 

 「……え?」

 

 思いがけない一言に間の抜けた返事を返してしまう。自分を死地に追いやり、挙句武器を奪って逃げ出していったことはとても罪深い。そう簡単に許されるはずがない。

 そう思ってガズロに目をやると。

 

 「…。」

 

 クイッと顎だけでベルの方へと視線を向けろと言われる。反射的に眩しいくらいの少年に目をやる。

 

 「……リリはさ、今まで散々辛い思いをしてきたんでしょ?」

 

 少年の言葉はズブリとナイフのように凝り固まった心に刺さっていく。やめてくれ。これ以上心に踏み込んで来ないで。

 

 「冒険者を殺したいと思ったこともあったんでしょ?」

 

 耳を塞ぎたかった。でも塞げない。最後まで聞きたいという意思が彼女の手を動かさせない。

 

 「だからさ、せめてもの、これからはリリには幸せになってもらいたいからさ。」

 

 ああ、やっとわかった。何故彼にだけ憎しみを抱かなかったのか。

 自分は彼に期待していたのだ。こんな自分も救ってくれないか、と。

 

 「僕はリリを仲間だと言うよ。」

 

 彼はそんな自分勝手でわがままでしかない思いに応えてくれた。

 この時ばかりは泣いた。年相応の見た目相応の少女のように声をあげて泣いた。

 

 「うわあああああああ……!」

 

 「よく頑張ったね。」

 

 目の前の少年は眩しすぎた。汚れきった自分にはとても眩しく感じられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人通りの多いメインストリートのど真ん中。また彼らは出会う。

 

 「………!」

 

 「……サポーターさん、サポーターさん。」

 

 「?」

 

 「冒険者を探してませんか?」

 

 「!!」

 

 「混乱していますか?でも今の状況は簡単ですよ?サポーターさんの手を借りたい半人前が自分を売り込みに来てるんです。

 

 

 

 

 

 

 僕と一緒にダンジョンに来てくれないかな?」

 

 「はいっ!リリを連れて行ってください!」

 

 2人はまた始める。最初から。



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あの日の影で

 「さてと。どこに隠れてようかな。」

 

 俺は万が一、リリがベルを陥れた時のために隠れる場所を探していた。

 リリから見ればベルはかなり格上の存在。真正面から戦えば絶対に負けるとわかっている以上は、確実に何かしら仕掛ける筈だ。

 

 「どれ、ステルス。」

 

 あまり好きではない魔法を使い、モンスターと冒険者の目を欺く。これで自分は透明人間になったはずだ。

 ステルスはダメージや強い魔力を受けたりしない限り、自分の位置を探り当てる全ての要素を消す。だから厳密には透明人間ではないのだが、原理はわからんので割愛する。

 

 「ベル様!また来ました!」

 

 ピクリと聞こえてくる声に反応する。この声は間違いなくリリの物だ。聞こえてきた方角へと向かうと、ベルが何匹ものオークに囲まれており、霧がもうもうと漂っていた。

 その中にリリの姿はなく、またベルのレッグホルスターが外れているのを見てやられたことに気づく。

 

 だが今はそれどころじゃなさそうだ。

 

 「あーもうっ、やっかましい!」

 

 「…同感だ。」

 

 ベルにも聞こえぬようにボソリと呟き、俊足をもってオークを斬り裂いていた時だった。

 

 「…あ?」

 

 自分とは違う第三者の刃が見える。太刀筋、剣の残光からみてアイズ・ヴァレンシュタインだろう。

 全てのオークから解放されたベルは、すぐにリリの元へと向かった。エメラルドグリーンのサポーターを落としていることにも気づかず。

 

 「すまん!後で直接あいつに渡しといてくれ!」

 

 返事が返ってくるのも待たずにベルのあとを追いかけ、何なら追い越す。

 

 着いた時にはリリはボロボロだった。おそらく近くに立っているあの男がやったのだろう。その前に立っている男達は背後に下半身を千切られたキラーアントを持っている。

 

 「なるほどね……イオラァ!」

 

 あとはそのままである。

 

 

 

 

 「ってわけだ。」

 

 「「………。」」

 

 ヘスティアとリリの顔が引き攣る。俺そんなに変なこと言ったかしら。

 

 「……前から思ってたんですが、貴方一体何種類の魔法が使えるんですか?少なくとも三種類は超えてますよね?」

 

 「前から思ってたけど、君なんかおかしいよね?何か隠してない?」

 

 うん否定はしないよ?二人とも。だって魔法は何十種も使えるし、おまけに転生してきた人間だし。

 でもそれを教えていいものやら。

 ちなみに今、ベルはこの場にいない。俺が2人を呼び出したからで、ベルも同行したがっていたが俺が丁重にお断りした。

 

 「「さあ!さあ!」」

 

 んでこの2人うるさい。どうすっかなあ。



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語られる真実

 よし、もう言っちまおう。彼は心に決めた。

 

 「俺は転生者なんだ。」

 

 「「はい?」」

 

 2人してキョトンとした顔でこちらを見た後、パチクリと顔を合わせる。

 

 「元は魔王が世界を支配せんとする世界………そうだな、色んな魔王がいたが、一番強いと言われた『りゅうおう』からとってドラゴンクエストの世界とでも言おうか。」

 

 そこの世界にはこちらと同じようにモンスターが存在するが、ひとつ違うのはダンジョンだけでなく世界中にいること。

 魔法も一人何個でも習得出来るし、レベルアップなんていくらでも出来た。そして誰もが戦うことのできる世界だった。

 こちらの世界は聞いたり見た感じ、戦える一般人は知らないし、いるかどうかもわからない。

 

 「そんな世界が……。」

 

 人間が嘘をついているかどうかわかるヘスティアは、彼の言葉が真実であることに驚きを隠せない。リリはその様子を見て本当のことだと理解する。

 

 「俺の実力やら魔法やらは前の世界から来たもんで、実際のステイタスはもっと高い。前回確認した限りでは30階層まで行けた。」

 

 30という数字に声をなくす2人。当然だが、Lv1の冒険者が入っていいところではない。そこに土足で踏み入り、挙句踏破して来るという前代未聞の成果。それが何よりの証拠だった。

 

 「なんでベル君には教えないんだい?」

 

 「あいつ嘘ヘッタクソだからさー。」

 

 その一言で全てを理解する。彼は眩しいくらいに純白だ。その代わり、彼は悲しくなるくらい嘘をつくことが出来ない。そこから情報が漏れるのを防ぐためだろう。

 そして何より。

 

 「あいつに教えたらずるいって言われそうだからさ。」

 

 彼なりの配慮。自分の強さには理由があるが、彼にはまだそれを飲み込めるだけの器量はないだろう。そう判断したのだ。

 

 「つーことでお前ら共犯者な。」

 

 「「ええっ!?」」

 

 そしてまさかの共犯者扱い。だが知ってしまった以上はその義務があるだろう。

 

 「絶対漏らすなよ?」

 

 「はい。」 「うん。」

 

 2人は頷く。ぶっちゃけヘスティアはそこまで信用はないが、いずれ話すべきだ。ならば早い方がいい。

 

 「んじゃ、こっからは裁判な。」

 

 「うっ………。」

 

 ヘスティアと2人でリリを睨む。睨まれたリリはしおしおと小さくなる。

 

 結果だけ報告しておこう。

 

 判決:ベルのお守りをする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、ベル・クラネルは。

 

 「是非、お願いします!」

 

 「…うん、よろしく。」

 

 アイズ・ヴァレンシュタインからグリーンサポーターを受け取り、彼女からのまさかの提案である稽古をつけることを了承していた。



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アイズとベルの修行

 「遅かったね。」

 

 「は、はい……。」

 

 ガズロ達が会議を行った翌日、僕はアイズさんとオラリオを取り囲む壁の上に来ていた。

 

 ガズロとの修行を始める2時間前、夜中の3時に僕は家を出ようとした。

 

 『お前どこ行こうとしてんの?』

 

 『ヒョワッ!?』

 

 一番気づかれたくない存在のガズロにバレたのだ。僕は嘘が下手くそなことを自覚しているため、包み隠さず事の全てを話した。

 僕が一番気づかれたくないという理由は、彼が着いてきたいというかもしれないということだ。彼は戦闘におけること全てを知りたがっており、Lv6にもなった彼女の指導に興味を持つことを危惧し、……いや、もうはっきり言おう。

 僕はアイズさんとガズロを引き合わせたくない。あれだけ強いガズロなら彼女にも見劣りしないということを見せつけられたくないのだ。

 それも含めて全てを彼に伝えた。その返事は。

 

 『ふーん。じゃ頑張れ〜。』

 

 というとてつもなく軽薄な返事だった。バレるまで悩み抜いた僕の苦悩はなんだったというのか。

 一応興味はないのか、と聞いたところ、『他人の指導には興味ない。』と、ありがたい返事がもらえた。

 

 とにかく、彼にはバレたものの、ヘスティア様には内緒にしてくれるとの事だったので僕は安心してここに来ている。

 

 「昨日から、色々考えてきたんだけど……。」

 

 だが、ここにきてさらなる問題が出てきた。

 

 「何を、すればいいのか…。」

 

 ………前途多難のようだ。

 

 「うん、やっぱり戦おう。」

 

 「っ!」

 

 ドクンと心臓が跳ね上がり、身体は反射的に距離を取った。彼女がとった行動は単純なもので、ただの抜剣。それは僕に警戒させるには十分過ぎた。

 

 「君は、臆病だね。」

 

 「っ!」

 

 彼女にだけは言われたくないことを言われる。その言葉はいつか僕がリリに放った言葉のように、僕の心にズブリと突き刺さる。

 

 「臆病なのはいいこと、でも、君はそれ以上に何かに怯えている。」

 

 「っ!うああああっ!」

 

 その後、僕は宙を舞った。

 

 

 

 「んで?どうだった?」

 

 「あはは、やってることはガズロとほとんど変わんないかなぁ。」

 

 僕は地面に転がされながら答える。思えば先の修行でもこんなふうに転がされてた気がする。

 などとくだらないことを考えていると、ガズロに軽く小突かれる。

 

 「たりめーだ、違いはほとんどねえよ。」

 

 「えっ?」

 

 「違いっつったら俺かその嬢ちゃんかだ。ちゃんと身につけろよ。」

 

 言われてみれば。やってることはほとんど、いや相手以外は全部変わらない。組手をやって転がされた時に欠点を指摘される。ただそれだけだ。

 

 「安心しろ。その痛みはちゃんとお前の身についている。」

 

 それっぽいことしか言えないけどな、と苦笑いしながら話すガズロ。でもこの時僕は、どうやれば強くなるかばかり考えていた。



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フレイヤの思惑

 ベルとアイズの修行が行われる前の日。彼女は天高くそびえる塔の中で一人、ある人間達を見ていた。

 彼女の本来の興味は、白髪の赤い目の少年に注がれていたが、その横にいた者の魂は見覚えのない輝きを放っていた為、ついでとばかりに観察している。

 

 (……でも、こんな魂見たことないわね。何かに守られている?)

 

 美の神であるフレイヤには魂の色が見える。その力を活かして彼女は選別を行い、気に入った者達を囲っているのだ。

 白髪の少年は囲う為に目をつけたのだが、未だに彼は未熟、囲うにはいささか早いのだ。

 

 「オッタル。」

 

 「はっ。」

 

 ボアズの獣人はその巨躯ながらに、一切の音を立てることなくフレイヤの背後から現れた。

 フレイヤにとっては日常なことをスルーすると、オッタルに尋ねた。

 

 「貴方はどう思う?」

 

 「何を、ですか?」

 

 「彼、手を出してでも器を昇格させるべきだと思うかしら?」

 

 ボアズの獣人、オッタルは口を真一文字に結び、考え込むような態度を見せた後にこう答えた。

 

 「あなたの望むままに。」

 

 「ふふっ、その答えは想像してたわ。」

 

 「…すいません。」

 

 暗にお前はつまらないな、と言われたと思い少しだけ小さな耳を垂れさせる。

 巨躯の見せた可愛らしさの見える一面にフレイヤは面白おかしいように笑った。

 

 「まあいいわ。そうね、手を出そうかしら。でも……。」

 

 貴方に任せるわ。と彼女は言った。

 

 

 

 「……ダンジョンに潜るのはいつぶりだろうか。」

 

 一人オッタルは呟く。正直なところ、いつダンジョンに潜ったのかも定かではないのだが、懐かしい光景に思わず口から漏れてしまったようだ。

 

 彼女は去りゆくオッタルに問うた。『嫉妬しないの?』と。

 嫉妬。それはとても醜い感情で、とても人間らしい感情だ。当然だがオッタルもその感情はある。あるが。

 

 『貴女の愛は平等です。』

 

 オッタルの答えは簡単に言えば、フレイヤの愛に特別はあれども優劣は存在しないという。その後───彼女にしてみれば戯れ程度の───問答に生真面目な答えをして思いっきり笑われたのは少々恥ずかしかった。

 

 (……膳立てには過ぎるかもしれんが。)

 

 オッタルはずっとダンジョンに潜りミノタウロスの吟味をしていた。だが、彼女は一言言った。

 

 『赤い髪のあの子、貴方より強いかもしれないわね。』

 

 それではミノタウロス程度相手にはならんだろう。それに、聞いた噂では30階層まで行っているとも言う。ならば尚更のこと。

 あくまで受けたのはベルのことだけだが、オッタルの私情でガズロのことも推し量りたい。それだけオッタルはガズロに興味を持った。

 

 (……俺もまだ青いものだ。)

 

 まだ見ぬ強者との戦いに心を震わせるなど、と心の中で付け加える。

 

 「……ぬ。」

 

 『ブウウウッ……。』

 

 彼の前に無謀にも立ちはだかったのは一頭のミノタウロス。彼を見て一言彼は呟いた。

 

 「合格だ。」

 

 と。



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ガズロの過去

 『お前さあ、戦うこと以外に関心持たねえよなあ。』

 

 『……だからなんだ。』

 

 おどけた口調で話す彼女を俺はずっと嫌っていた。いつもお調子者を気取っており、そのくせ自分よりもはるかに強かった。

 そんな彼女は自分を強くしてくれた。

 

 『お前そのまんまだと死ぬな。よし、せめて死なないように強くしてやる。』

 

 そこからはまさに地獄と呼ぶに相応しかった。寝る時と食う時以外は常に戦闘。魔物がいなけりゃ俺が相手してやると彼はいつも俺をボコボコにしてきた。

 

 『ダメダメ、魔法に頼りすぎー。』

 

 奴には散々スっ転ばされた。酷い時は一日で数百もの傷を作られた。おまけにたんこぶやら打撲痕でボロボロ。まさに満身創痍。

 

 そんな地獄の日々もある日突然終わりを迎えた。

 

 『もう教えることはねーよ。強いていえばそうだな、お前恋愛しろよ?』

 

 最後までくだらんことばかり吐く口だったことをよく覚えている。

 そんな彼女は魔王に挑み死んだ。第三の魔王と相打ちしたという。その魔王の名はゾーマ。大魔王ゾーマ。

 

 『俺も行くかな。』

 

 そう決心するまでにそう時間はかからなかった。

 周りからは散々からかわれた。あんだけあいつを毛嫌いしていた奴がとうとう出るのかーとか、生きて帰ってこれたら付き合ってやってもいいぜ?とか。

 なぜだか誰もが───俺も例に漏れず───涙を流していたが、俺は振り返ることなく進んだ。

 

 『魔物殺す。魔王殺す。』

 

 それが俺の全てだった。俺からあいつを奪ったあいつらへの復讐として思い浮かんだのはそれだった。

 だから殺した。だから奪った。何度も刺した。何度も斬った。何度も刺された。何度も斬られた。

 それでも進んだ。全てはあいつの仇をとるため。

 

 そして第8の魔王を倒し、第9の魔王を目指そうとした時だった。

 

 『貴様なぞあのエルギオス様の足元にも及ばぬ!』

 

 あの黒竜はそう豪語した。だから殺そうとした。

 ブレスを掻い潜り、呪文を斬り裂いて、幾多もの爪を受け止めて戦った。

 

 そして最後、俺は奴のブレスで足場を崩された。

 

 『堕ちよ!人間風情が!』

 

 最後に笑う黒竜をどれだけ憎んだかはわからない。気づいた時にはオラリオの地を踏んでいたのだ。

 

 

 

 

 いつからだろう、この生活を楽しいと思い出したのは。

 

 「はあっ!」

 

 目の前ではベルがナイフを振るい、自分を取り囲むキラーアントをたたっ斬っている。リレミトのことは伝えてある為、帰りの消耗は気にしていないだろう。

 

 「終わったよ。」

 

 「お疲れ。」

 

 気だるげに返すこの返事も、くたばったありんこ共の魔石を回収するのも。

 この世界では分かち合える仲間がいるだけでとても楽しく感じられた。

 守りたいと思う。この生活を。



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魔法への考察

 「っ!」

 

 『『『イ゛エ゛ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙』』』

 

 数匹のインプが纏めてバラバラと腰のあたりを斬られて、真っ二つになりながら着地していく中を駆け抜ける。

 鈍い。

 全然鈍い。

 ガズロやアイズさんよりも全っ然鈍い!

 

 「ベル様!後ろからも一匹来てます!」

 

 わかってる、と返すことも躊躇い加速し、インプとすれ違う。その時にナイフを閃かせる。

 

 『ギイっ!?』

 

 インプは頭、胴体、脚と身体を3つにわけながらバラバラと落ちていく。

 すぐさま顔を上げて視界の確保に務める。霧の奥では依然として揺らめく影が減っていない。

 牽制がわりにファイヤボルトを連射して残るモンスター達の元へと駆け出した。

 

 現在地10階層と9階層の間。

 地面は草生しており、各通路や各広間はこれまでになく一段と広い。そして出処のしれない白い霧が絶えず視界に映り込む。

 が、この9階層と10階層の間に存在するこのエリアは、少し勝手が違って霧が出ていない。見晴らしのよさから奇襲される可能性もぐっと減るため、10階層唯一の安地でもある。

 

 「ねえリリ、僕魔法に頼りきりかなあ?」

 

 今日も試行錯誤されたであろう、フレッシュな苦味の広がるサンドイッチを頬張りながらリリに問いかける。

 

 「う〜ん、リリはそこまで気にはなりませんが……確かにベル様の魔法は使いやすい節もありますし…。」

 

 こぢんまりしたパンを両手に、リリは少し考えに耽っているようだった。

 小さな唇がパンを齧り、やがて食べ終わるとナプキンで口元を拭いてリリは喋り出した。

 

 「発動条件のハードルが低いので、手軽に使ってしまっているのかもしれませんね。依存とはまた違う、ガズロ様のメラのように動作に組み込まれていると言ったところでしょうか。」

 

 そう言われればしっくりくるような気はする。

 ファイヤボルトは速攻魔法。どんな魔法にもある筈の詠唱、溜めが存在しない。

 それ故に頼りがちではないが、戦闘に組み込みやすくなり使いがちになってしまうのだという。

 でも、僕にはもう右手なり左手なりを突き出して放つのは、もはや動作の一部になってしまっている。今更変えろと言われても難しいかもしれない。

 

 「つまり、僕の魔法は切り札というより、強力な飛び道具くらいに考えた方がいいのかな。」

 

 ガズロはよくそう使っている。というかめんどくさくなったら使ってる気がするな。

 リリはいかにもその通り!みたいな目でこちらを見てくる。

 

 「ガズロ様を参考にしたらわかりやすいですね。彼のよく使っている、メラ、は切り札ではなく、投げナイフのような感覚で使われています。」

 

 そして見たことはないが、おそらく存在するであろうガズロの長文詠唱は、それこそメラやファイヤボルトなんかとは比べ物にならない火力を誇るだろう、とのこと。

 言われてみればガズロの魔法は僕よりも詠唱は短い。メラと2文字唱えるだけだ。

 速攻魔法と切り札になりうる長文詠唱の魔法。両方を併せ持っていれば、魔道士の後衛としては十分すぎるだろう。

 しかし彼は。

 

 「近接もそうとう強いんだよなあ……。」

 

 「そうなんですよね……。」

 

 僕達のパーティは僕とリリ、ガズロの一人と別れている。

 そもそもガズロは僕と一緒に潜っている時は戦ってくれない。何なら彼の実力なんてほとんど知らない。

 仮にパーティを組んで一緒に戦う時は、僕とガズロで前衛二人か、はたまた中衛にガズロを入れるかになる。

 その中衛にあたる場合、ガズロの近接があまり活かせなくなるのだ。

 どうしたものかと頭を悩ませていると、モンスターの声が聞こえ、思考を中断せざるを得なくなった。

 

 「行こうか、リリ。」

 

 「はいっ、どこまでもお供します!」



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出会っちゃった

──────────

 

ベル・クラネル

Lv1

力:A851

耐久:A833

器用:A872

敏捷:S974

魔力:B786

《魔法》

【ファイヤボルト】

・速攻魔法

《スキル》

【龍友】

・【龍物語】のスキルの影響を受ける

【憧憬一途】

・早熟する

・懸想が続く限り効果持続

・懸想の丈により効果向上

──────────

 

ガズロ・????

Lv1

力:SSS1298

耐久:SS1051

器用:SS1034

敏捷:SSS1569

魔力:SSS1781

《魔法》

【竜物語】

様々な効果を発揮。

思い描いた効果を発揮。

詠唱によって効果変更。

《スキル》

【竜物語】

前ステータス引き継ぎ。

前魔法引き継ぎ。

成長速度上昇。

魔法使用により効果上昇。

【魔法戦士】

魔力消費量減少。

魔法効果上昇。

アクティブな行動のチャージ権。

エンチャント可能。

──────────

 

 どうやら俺のステイタスはぶっ飛んでるようで、とうとうSSSというわけのわからん領域に到達した。ヘスティアは見たことも聞いたこともないステイタスの桁に驚いてるし。

 

 そんで話は変わるが、俺は今日だけベル達の訓練を見せて貰えるように頼んだ。

 そしたら物の見事にベルが蹴っ飛ばされるわ、刃を潰した剣にたたっ斬られるわ散々な目に遭ってた。

 その途中ベルの腹がグゥとなったもので、今はジャガ丸くんを買いに来てる。ジャガ丸くんとは、ほとんどコロッケみたいなものだ。

 ところがだ。

 

 「何をやってるんだ君はああああああああぁぁぁ!?」

 

 「ごごごごごごご、ごめんなさいいいっっっ!?」

 

 神が噴火した。

 いやもうちょい正確に話そう。

 北のメインストリートのジャガ丸くんというと、ヘスティアがバイトしているところだった。そこでアイズとベルが一緒にいるところを目撃されてしまった。

 今は俺たちは店の裏側で4人、円を作って話している。

 

 「うん、話はわかった。それじゃあ二人とも、もう縁を切るんだ。」

 

 「えっ!?」

 

 「駄目、ですか?」

 

 「ああ、ヴァレン何某君、僕のベル君にもう関わらないでくれ。君にだって立場があるだろう。お互いのファミリアの為にもこれが一番むぐぐぐぐぐぐ!?」

 

 おっとベルがヘスティアの口を塞いだ。あ、もちろん手でな?

 

 「まあヘスティア、許してやれよ。他ならない本人の我儘だぜ?」

 

 「ヌウッ……!」

 

 ああどうしよう。この状況すっごく楽しい。俺実はどクズかもしんねえ。

 

 「でも、このまま他派閥と関わりを持つわけには…!」

 

 「ああ、それなら安心しろ。あと二日しか出来ねえし。」

 

 どうせアイズは三日後にロキファミリアの遠征が控えている。それを告げるとさらにヘスティアは唸る。

 

 「本当に、あと二日だけだぜ?」

 

 ヘスティアのその言葉にベルは深々と頭を下げた。本人的には我儘言ってるつもりだろうけど、本当は我儘なのはヘスティアなんだよなあと思いながらベルの後頭部を見る。

 

 「それじゃあ、今日は僕も君たちの訓練を見物させてもらおうかな!」

 

 ……やっぱ我儘だこいつ。



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真夜中の襲撃

 ヘスティアを伴って市壁に赴いた俺たちは、それまでの時間を取り戻すベル達の特訓を見守った。

 途中でヘスティアが見てられないとばかりに目をそらしたのも見てた。せめて見てやれよ。

 結果、俺たちは夜が更けたことに気づくのが遅れた。

 

 「なあベル君。君ボコボコにされてるだけじゃないか。もうやめてしまおうぜ、きっとヴァレン何某君にとって君は体のいいサンドバッグ代わりなんだよ。」

 

 おっとヘスティア。それも経験値として反映されておりますぜ。

 ニコニコと機嫌がいいのはおそらく手を繋いでいるからだろうが、ベルから見たら虐めるのが楽しい神様に見えてんだろうな。

 

 「もう着きます……。」

 

 小型の魔石灯を持って先頭に立つアイズは俺たちにそう告げた。

 コツコツとアイズの履くブーツの音が反響する中、やがて階段を下りきり、出入り口である扉を開け放つ。

 

 「………ん?」

 

 瞬間、建物と建物の細い間隙から、影を払うように何者かが歩み出てきた。

 

 (……ケット・シー、いや、キャットピープルだっけか?)

 

 さらに次の瞬間、トンっと石畳に軽い音を鳴らして姿をブラした。

 だが。

 

 「俺より遅いなぁ!」

 

 「っ!?」

 

 アイズに斬り掛かる予定だったのか、爛々と光る目を見開いて驚く。

 受け止めた俺の剣と奴の槍がギシギシと軋む。こいつ割と強い、かな?

 緩い思考でいると、さらに四人の影が宵闇に揺らめいた。

 人家の屋上に出現したそれは、音もなくその場から飛び降りる。

 見えたのは剣、槌、槍、斧。これはさすがにめんどくさい。

 

 「ヴァレンシュタイン!」

 

 「っ。」

 

 こくりと頷くのが見えてすぐに戦いに意識を戻す。ベル達も絡まれてるがどうにかなるだろ。

 

 「っ、てめえ、何者だ!」

 

 「勝手に考えてろ。野良猫。」

 

 上段右、下段左、中断左、右肩上部と激しい剣と槍のぶつかり合いが再開される。

 目の前のキャットピープルは予想外にやれるようで、俺との剣戟の速度についてくる。

 

 「っ!?何故、Lv1が俺についてこれる!?」

 

 「ブァーカ、俺はLv98だっつーの。」

 

 力ずくで槍を斬り払い、無理やり身体を開かせる。

 

 「なっ……。」

 

 「はいドーン。」

 

 「ガボッ!?」

 

 開いた身体のど真ん中、鳩尾あたりに蹴りをひとつ捻じ込んでくれてやる。

 素っ頓狂な悲鳴をあげて遠ざかるキャットピープルを尻目に、ベルの方に目をやると。

 

 「アイズさん!ファイヤボルト!」

 

 目だけでアイズに合図を送り───ギャグではない───ファイヤボルトの6連射。それが一瞬だけ闇の中に光を灯し、4人のパルゥムの姿が微かに顕になる。

 

 「あいつ、詠唱抜きで魔法を。」

 

 「あの方に報告だ。きっと喜ばれる。」

 

 「勝手に帰ろうとすんな!イオラァ!」

 

 チカチカっと光が瞬いて爆発が連鎖する。手応えはなく、煙が晴れた時にはもう誰もそこにはいなかった。



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ランクアップへの道

 今日もベルは訓練に励んでいる。

 さすれば必然的に俺は暇になる。

 どうしたものかと街をぶらついていた。

 そこへ。

 

 「やあ。」

 

 「お?」

 

 振り返ると誰もいない。このパターンは。

 

 「ディムナか。」

 

 「正解。あとフィンでいいよ。」

 

 190cmもある身長だと、一瞬だけだがパルゥムは視界に入らない。だが声がするのは相手がパルゥムだから。

 せっかく街中であった事だしと、そこらの喫茶店に入った。

 フィンの人気はすごいもので、様々な人物から注目されていた。

 

 「そういやひとつ聞きたいことがあるんだが。」

 

 「何だい?答えられる範囲でよければ答えるよ。」

 

 「ランクアップってどうやるんだ?」

 

 向こうの世界では漠然と経験値を貯めていけばいつかはレベルアップ出来た。だが、こちらの世界では一向にランクアップする気配がない。

 すると目の前のパルゥムの青年は、ふむと顎に手を当ていかにも考えてますよーみたいな仕草をして黙り込んだ。

 口を開いたかと思うと、本当は教えてはいけないことだが、と前置きして話してくれた。

 

 「偉業を成し遂げるんだ。」

 

 「偉業?」

 

 「ああ、己自身よりも強大な相手の打破。より上位の経験値を手に入れて一定量を超過することがランクアップの条件なんだ。」

 

 なるほど、向こうと違って自分以下を倒してても話にならんのか。向こうじゃ最初はみんなスライム狩ってレベルアップしてたからなあ。

 

 「Lvの上昇は心身の強化、器の進化と同義。そして神々の恩恵は試練を乗り越えた者にしか資格を与えないんだ。」

 

 「んじゃアビリティは、極論になるがランクアップへの礎でしかないわけか。」

 

 アビリティ評価Dに達して初めてランクアップできるんだとか。

 

 「でもよ、普通自分より強い相手と戦ったら負けるくね?」

 

 何せ自分より強いんだからな。

 

 「それを埋め合わせるのが技であり駆け引きであり、パーティなのさ。」

 

 なるほど。つまりは徒党を組むしかないわけか。別に悪いとは思わねえが、俺はソロの方がやりやすいしなあ。

 ポケーっとしているとフィンは言葉を続けた。

 

 「君が本当に強くなりたい……もう十分強そうだけど、少なからずパーティの存在は必須になるかもしれない。」

 

 「そうか。」

 

 そこで俺たちは店を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、俺は起きてすぐに何か高ぶる何かを感じた。

 これは向こうでもよく感じていた、魔王や幹部に挑む前の空気だ。しかしこの世界に俺に張り合うだけの奴がいるのだろうか?と思いながらベルが帰ってきたら転がすために軽くストレッチをしてベルを待った。



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作られた絶望

 ゲドとカヌゥ達はダンジョンにいた。

 理由は、リリの時に裏切ろうとしたことについてだった。

 別に呼び出したりしたわけではないが、ゲドがダンジョンに潜ったところ、見覚えのある顔がおり気づいたのだ。

 

 だが今は彼らはそんなことは話していない。何故なら。

 

 「かっ、カヌゥ!?助け───」

 

 カヌゥの目の先で仲間───利用価値のある男───が、赤い飛沫をあげたかとおもうと、もの言わぬただの肉塊に成り下がる。

 カヌゥとゲドは干からびる口の中を気にもしていられず、二手に別れて逃げた。もちろんお互いがお互いを餌にするつもりで。

 

 (ちくしょう!ちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょう!)

 

 これが散々仲間を陥れてきた罰だとでも言うのか神よ、とこの光景を見れば指でも指して笑いそうな神たちに祈る。

 何度も脚をもつれさせ、何度転びそうになったかわからない。ただひたすら走る。

 

 そしてとうとう辿り着いてしまったのは。

 

 「……っ!!!?」

 

 袋小路。行き止まり。

 カヌゥはそれが現れないことを必死に祈って息を殺す。

 それは突如現れた。ヌウッと音もなくその身体は顕になった。

 

 「っ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!?」

 

 声にならない悲鳴をあげる。その者が持っていたのは、先程餌にしようと思ったゲド、だったもの。

 赤黒い塊は何も話さずピクリとも動かない。

 ガチガチと付け根の合わない歯を鳴らして彼は最後に叫んだ。

 

 「な、なんでミノタウロスがここにいるんだよおおおおおおっ!」

 

 そこでカヌゥの意識は潰えた。

 

 

 

 パキンと、マグカップの取っ手が音を立てて本体であるカップから離れて手元に残る。ヘスティアは言い様のない不安を感じた。

 

 「……二人とも。ステイタスを更新していかないか?」

 

 「ん?」 「はい?」

 

 「いやさ、ベル君はヴァレン何某君と訓練してだいぶ経験値が溜まっただろうし、ガズロ君もしばしば筋トレをしていたみたいだしさ。」

 

 ヘスティア自身も戸惑っているような笑みを浮かべていた。ベルもガズロもその様子に押し切られるように、眉を下げて笑い提案を呑む。

 

 「……うーん、ベル君?あのサポーター君とは上手くやっているかい?」

 

 「ヘスティア、前から同じことばっか聞いてやるなよ。」

 

 「そ、そうだったかいっ?」

 

 黙っているのも落ち着かないヘスティアは何とか探し出したが、ガズロに突っ込まれたおかげでワタワタと慌てさせられる。

 更新を終えてヘスティアは驚愕した。伸び幅がとてつもないのだ。

 

 「ベル君、散々しごかれたろ?耐久の伸びが半端ないぜ。」

 

 「あは、あはは…。」

 

 ガズロもうんうんと頷いているあたり、本当に酷い目にあってきたようだ。やはり容認すべきではなかったのだろうか。

 次いでガズロの物も更新する。もうこっちに関してはどうなっていても驚かない。だってぶっ飛んでるし。

 

 「んじゃ、更新も終わったことだし、行くか。」

 

 「うん。」

 

 「あ、ちょっ。」

 

 引き止めるのも聞かずに彼らは言ってしまった。

 

 「SSSって何なんだよ…。」



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絶望との出会い

 ちりっと首筋に何かが擦れたような気がした。

 

 「……?」

 

 僕はこの階層、10階層に来てからずっと誰かに見られているような気がしてならなかった。無遠慮過ぎる視線。まるで全身を舐め回すかのように眺められている気分だ。

 

 「ベル様?どうかなさいました。」

 

 「っ。いや、何かモンスターが少なくないかなと思って……。」

 

 「言われて見りゃそうだな。」

 

 ふと思ったが、この視線はどうやら僕だけに向けられているようで、ガズロは違和感に眉を顰めることも無い。

 しかしこのモンスターがいない状況。これではまるで───

 

 「い、行こうか。」

 

 「?おお。」

 

 まさか、ね。と思い、10階層の最初のルームに行こうとしていた時だ。

 

 「っ!危ない!」

 

 「え?」

 

 「きゃっ!?」

 

 僕とリリはガズロに突き飛ばされた。そして先程まで僕らの立っていた位置に瓦礫が雨あられの如く降り注いだ。

 

 「ガズロ!?」

 

 「俺は無事だ!それより瓦礫をぶっ壊すから離れてろ!」

 

 言われるがままに、僕達は顔を見合わせてから距離をとった。が。

 

 『───ヴォ』

 

 ドクンと心臓が飛び跳ねる。

 いやまさかそんな、ありえない。潤滑さを失ったブリキの人形のように、錆び付いた動作で後ろを見る。

 ドシンドシンと小さく地面が震える。その振動の主は鼻息荒くこちらを見ており、赤い目をギラつかせていた。

 

 『ヴモオオオオオオッ!』

 

 「な、何で10階層にミノタウロスが……。」

 

 こっちが聞きたい。

 幾度となく夢に現れ僕を苦しめた存在、何度他のモンスターと重ねたかわからない姿。

 まさしくそれは悪夢と呼ぶに相応しい見た目をしていた。

 

 『ヴモウッ!』

 

 「ベル様っ!」

 

 「うあ!?」

 

 目を見開いた次の瞬間、赤い血がべっとりとこびりついた大剣が、袈裟斬りに薙ぎ払われる。それと同時、いや少し早く僕の身体は横に突き飛ばされる。

 刹那、地面が爆ぜた。土煙がもうもうと舞い上がり、草花の生していた地面は広く捲られていた。

 そこでやっと僕は我にかえった。

 

 「リリっ!?」

 

 「………ぅ。」

 

 リリは目を閉じたまま動かない。頭から血を流し静かな呼吸をしていた。

 大剣が掠めたのか、はたまた捲られた地面があたったのかはわからない。だが少なくともこのままでは二人とも死んでしまう!

 そこで縋るように瓦礫の壁の方に目をやる。今すぐにでもガズロが瓦礫を破って出てこないかと。

 微かに聞こえてきたのはあまりにも多すぎる剣戟の音。おそらく彼も何かと戦っている。

 救いの手はないことに絶望するベル。それでも目の前の絶望はそれを待ってくれない。

 

 『ヴモオオオオウウウ……。』

 

 「っ!リリ!ごめん!」

 

 リリを大きく横に投げ出すと同時だった。奴の右手が腹の真横を掠めていったのは。

 

 「っあ!?」

 

 『ッモオオオオウ!』

 

 直接あたったわけでもないのに、決河の勢いで壁際まで吹き飛ばされる。

 激しく壁に叩きつけられ、一瞬呼吸を手放す。

 

 『ヴモオオオオオオッ!』

 

 これが僕の冒険。

 初めての僕の冒険。

 

 勝てない。



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激突する冒険者

 瓦礫に気づいたのは偶然だった。

 無遠慮過ぎる銀の視線に誘導されるように目を上にやったところ、岩石が降り注いで来るのが見えたのだ。

 とっさに二人を突き飛ばして、自分は後ろに飛び退くことでどうにかなった。が、分断されてしまった。

 一応回れば別のルートで合流出来るが、それはやらせてくれそうにない。

 

 「なあ、どこかの誰かさんよ。」

 

 「………。」

 

 ガズロが背後に振り返ると、そこにいたのは1人のダークエルフ。明かりに照らされて輝くのは、黄金の首飾りで縁取られた戦乙女の側面像、フレイヤファミリアの徽章だった。

 

 「お前の力を試させてもらう。」

 

 「別にいいが───

 

 

 

 

 

  せいぜい死ぬなよ?」

 

 刹那、二人は激突した。幾多もの斬撃と斬撃が斬り結び、激しい剣戟の音を響かせる。

 ガズロの愛剣、『光の剣』が金色の糸をひきながら次々と向かってくる剣をパリィしていく。

 

 「っ、お前本当にLv1か?」

 

 「何度も言わすな、俺はLv98だ。」

 

 さらにガズロの剣はパリィにはとどまらない。

 

 「…………っ!」

 

 「そらそらそらそらそらぁ!」

 

 10発程の突きが、ダークエルフの剣を抜けて向かう。咄嗟に飛びのかれたことで突きが空振り、ヒュヒュヒュン!と風を切る音が鳴る。

 この一瞬でお互いに理解した。

 

 「「やるじゃないか。」」

 

 二人の激突は加速する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はぁー、はぁー。」

 

 『ヴモオオオッ!』

 

 「くっ!」

 

 休む間もなく、次から次へと大剣が振り下ろされる。その度に広範囲に地面がめくれ上がり、石と呼ぶには少し大きい石つぶてが散弾のように襲いかかる。

 

 「こっ、のっ!」

 

 不思議と恐怖はさほどない。だがそれ以上に頭が冷静に告げている。

 

 このままでは勝てない、と。

 

 現に今、すれ違いざまに一閃斬りつけてやったが、ナイフは浅く表皮を傷つけただけでろくなダメージになっていない。

 攻撃が成立しない限り、たとえどれだけ敏捷があれども、回避出来ようとも勝ち目はないのだ。

 

 「ファイヤボルト!ファイヤボルト!ファイヤボルトおおおおおお!」

 

 『ヴモッ!?』

 

 赤い雷が宙を駆け、ミノタウロスへと殺到し炸裂していく。これまであんなにも頼りになっていた魔法も、今ではただの豆鉄砲にしか過ぎない。

 

 『ヴモオオオオッ!』

 

 「うわっ!?」

 

 ミノタウロスは身体を低くして、一思いに突いてやろうと剛角を振るってくる。身体を捻ることで致命傷を回避したことに安堵した僕は、プロテクターに引っかかったことに一瞬気づけなかった。

 

 「うわっ、うわあああああっ!?」

 

 『ヴモオオオオオオッ!』

 

 ミノタウロスは引っかかった僕を鬱陶しいとばかりに頭部を体ごと振り回す。あまりの勢いに腕がちぎれるかと思った。

 先に限界を迎えたのはプロテクターだった。音を立てて亀裂が入り、ガラスが砕けるような音と共に辺りに散らばる。

 

 「あぐっ、がはっ!?」

 

 『ヴヴヴヴモモモモモ………。』

 

 やはり僕では勝てないのか。僕何かじゃ勝者になれないのか。

 あまりの自分への怒りに、僕はアイズさんが助けに来てくれたことにも気づかなかった。



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奥の手の一つ

 「おのれおのれおのれェェェエ!」

 

 「あっはっは!あーっはっはっは!あーっはっはっはっは!」

 

 二人の様子は対照的なもので、片や鬼気迫る勢いで焦るように剣を振り回し、片や愉悦とばかりに高笑いするのとは反対に、冷静に次から次へと飛んでくる突きや斬り払いをパリィしていく。

 

 「Lv1風情がぁ!この私にぃ!かなうわけないのだああっ!」

 

 「現実見てろ糞エルフ!」

 

 怒気を孕んだ声と共に振り下ろされる剣を、ガズロは切っ先でそっと受け止めて、一瞬の間を置いてダンジョンの天井へと向けてかちあげる。

 

 「なっ……!」

 

 「本気の一端を見せてやるよ!ドラゴラムぅ!」

 

 ガズロが呪文を唱えると、ガズロを囲む炎の渦が出現する。それは急速にガズロに向かって収縮し、ガズロの姿をすっぽりと覆い隠してしまう。

 

 「な、なんだ?」

 

 「見せてやるよ。俺の奥の手の一つ。」

 

 炎は繭のような形になり、次の瞬間大きく爆ぜた。

 

 「なっ!?」

 

 『グオオオオオオッ!』

 

 「なっ、なんだあああああ!?」

 

 爆ぜた繭から産まれたそれは、龍だった。

 龍変身魔法、ドラゴラム。自身の思い描く龍へと変身してみせる古代魔法の一つ。ガズロは前世界では数少ない使い手だった。

 

 『グオオオオオオッ!』

 

 「うっ、うわあああああっ!」

 

 ボッ、と音を立てて牙の内側に火が灯り、メラメラと燃え盛る炎が隙間から漏れている。

 そしてそれは吐き出された。

 

 ゴオオオオオッ!

 

 まさに獄炎。灼熱の奔流が岩をも溶かし、一直線に突き進んでいく。ダークエルフの横を。

 

 「あ、ああ………?」

 

 『ウセロ。』

 

 「うっ、うわあああああっ!?」

 

 ダークエルフは恥も外聞もなく逃げた。そうしなければ殺されると、本能も理性も大音量で警告を鳴らしていた。

 

 「やれやれっと。」

 

 ガズロはしゅるりと元に戻り、瓦礫の方へと向き直ろうとした。彼らを見つけるまでは。

 

 「「「………。」」」

 

 「……………え?」

 

 見られていた。まずい。だが、それどころじゃないことを思い出した。

 

 「フィンガーフレアボムズ!」

 

 「「「!?」」」

 

 5つのメラゾーマを瓦礫にぶつけると、瓦礫は跡形もなく吹き飛んだ。その様子を見て彼らは驚いていたがそれどころじゃない!

 

 「ベルっ!」

 

 瓦礫の先のルームに広がっていたのは、アイズに庇われるように蹲っているベルだった。

 

 「よかった……。」

 

 「………よくっ、ない!」

 

 「あ?」

 

 ベルはふらりと頼りなく立ち上がると、アイズを押しのけてミノタウロスの前に出た。

 ガズロには角度的に一瞬しか見えなかったが、彼の目には確かな決意が宿っていた。

 

 『こいつは僕が倒す。』と。



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見定める面々

 アイズさんが助けに来てくれたことにも気づかない僕は、ブツブツと独り言を続ける。

 

 助けられる?誰が?僕が。

 助けられる?誰に?彼女に。

 

 思えば僕はいつもダンジョンを舐めていた。

 後ろにガズロがいるから、どうせ誰かが助けてくれるから。

 どんな時でもそばにいる、どこかにいる誰かを頼ってきた。いつも安牌を切って生きてきた。

 

 それじゃダメだろ!

 

 「ないんだ……。」

 

 「……?」

 

 今、今高みに手を伸ばさなくてどうするんだ。

 

 「ないんだ。」

 

 後ろから瓦礫を破って、ガズロとロキファミリアの一流冒険者達が現れるが、僕には些細なことだ。

 

 「よくっ、ない!」

 

 「……!」

 

 「もうアイズ・ヴァレンシュタインに助けられるわけにはいかないんだ!」

 

 アイズさんが目を見開いて驚くのを尻目に、僕はミノタウロスの前に躍り出る。

 

 「勝負だっ……!」

 

 僕は今日、冒険をする。

 

 

 

 

 

 

 

 「……ヴァレンシュタイン、獲物の横取りは御法度、だろ?」

 

 「………うん。」

 

 「おいてめっ!何うちのファミリアの人間に気安く声掛けてんだ!」

 

 「やかましい駄犬が。」

 

 「あ゛あ゛!?」

 

 やかましい駄犬をスルーして戦いをじっと見据える。一人と一頭は激突する。

 俺の教えてきたことは身体に染み付いてるらしく、振り下ろされ薙がれる大剣を上手くパリィしたり回避したりしている。

 

 「いいの?あの子、絶対やられちゃうよ?」

 

 戦いをよく見ていないアマゾネスがアイズに声をかけるが、アイズは何も答えない。

 彼女は躊躇いながらも前に出てベルを助けようとした。

 

 「…なんのつもり?」

 

 俺は戦いに目をやったまま剣を横に突き出して助けに行くのを止める。

 

 「やめとけ、あいつは今冒険してんだ。それを止める権利は誰にもねえはずだ。」

 

 「………。」

 

 納得したのかしてないのかよくわからん複雑な表情で引き下がる。きっと納得しただろうと思う。

 後ろの駄犬野郎は苦々しい顔でこちらを睨んでいることだろう。あいつもアマゾネスの少女を止めようとしていた。意見が一致したことにいらついてるだろうな。

 

 「……冒険者様、お願いです。ベル様を、どうかベル様を助けてください……!」

 

 俺の存在にも気づいていないリリが、後ろの駄犬に縋り付く。どうやらこの場でベルの勝利を信じているのは俺と彼女だけのようだ。

 

 「お願いです…後からリリで良ければ何でもしますから……どうかベル様を……。」

 

 「あまり動くな。まだ治療は施してないんだ。」

 

 おそらくエルフのものであろう、子供を諭すような声が聞こえる。リリは落ち着いたのか、静かな吐息を漏らしている。

 

 「…さあ、こっからが見ものだ。」

 

 ベルの勝利を確信して呟いた。



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ミノタウロスとベル

 大剣が空を薙ぐ。しゃがんで回避して前進し、踏み込んだ勢いで表皮を抉る。

 

 『ヴモッ!?』

 

 「ああっ!」

 

 さらに無理やり身体を捻り、左手に持ったバゼラードで背中に十字の傷をつける。

 風を切って突き出される肘を後ろに跳んで避け、ファイヤボルトを傷口目掛けて撃ち込む。

 

 『ヴモオッ!?』

 

 ファイヤボルトを撃つために一瞬空に投げたへスティアナイフをキャッチし、その場で右回転してさらに傷口を抉る。

 

 足りない。

 こんなんじゃ、まだ足りない。

 

 『ヴモオオオオオオッ!』

 

 ミノタウロスは鬱陶しいと言わんばかりに吠え、右に左にと大剣を右往左往させる。

 僕はそれを冷静に見極め、大剣の側面を叩いて逸らしたりして回避する。

 

 足りない。

 憧憬にも憧憬にも全然届かない。

 

 『ヴモッ!』

 

 「っ!」

 

 小細工は無用と、引き絞られた上体からゴウ!と空間を引き裂くように大剣が振り下ろされる。

 爆発に巻き込まれぬように一旦距離をとり、ファイヤボルトを連射する。

 

 『ヴヴヴヴヴ……。』

 

 煙が晴れ、そこには表皮を焦がしたミノタウロスがだらりと腕を垂らして立っている。

 やはり火力が足りない。いつの日かリリに指摘された、必殺としての一面が欠けている。

 

 だからなんだ!

 そんなこと、勝てない理由にはならないだろうが!

 

 「うああああああっ!」

 

 『!』

 

 だから僕はあえて突貫した。

 ミノタウロスはそれを見て馬鹿め、と笑うように目を細めて大剣を横に大きく薙いだ。

 だが、チャンスは僕のものだ。

 

 「それをよこせえええええ!」

 

 『ヴモッ!?』

 

 振り抜かれた大剣を軽く跳躍して躱し、着地と同時に振り終えた右手に向かう。

 鍛えに鍛え抜かれた敏捷と器用のステイタスが加速し、一呼吸で十回ほど奴の右腕に斬撃を打ち込む。

 

 「っああああああああああっ!」

 

 剣を地面に突き刺す勇者のように、両の手に持ったナイフとバゼラードを地面まで貫通させるように上から突き刺す。

 そして一捻り。

 

 『ヴモアアアアアッ!』

 

 「っ!」

 

 奴が手を離した瞬間、僕は無我夢中でそれに飛びついた。

 奴が力のままに振り回していた銀色の大剣。乱雑に布の巻かれたグリップを固く握りしめる。

 

 『ッヴモオオオオオオッ!』

 

 それを返せとばかりに手を伸ばしてくる。それに僕は斬撃で応えた。

 

 「ああああああああああっ!」

 

 大きく振りかぶった大剣を袈裟斬り、右薙ぎ、そして大上段から振り下ろされる渾身の一撃。

 

 『ヴグッ!?』

 

 「入ったぁっ!?」

 

 ロキファミリアの誰かの声が聞こえるが、それすら僕には届かない。

 鋼を彷彿とさせる強靭な皮膚と肉体に、太い赤線が迸る。

 僕はその好機を逃すほど甘くはない。

 

 「らあああああああっ!」

 

 風を巻き込んで、斬撃の竜巻のようになりながらミノタウロスへと突撃する。

 立て続けに殺到する刃は次々とミノタウロスに赤い太線を走らせる。

 規格外とも言える大物の剣は休む間もなく空を、ミノタウロスの肉を斬る。

 お世辞にも大剣捌きはかっこいいとは言えないだろう。それでもいい。今はとにかくこいつに勝つ。

 大剣を振るう、と言うより振り回されている。が、怒涛の勢いはミノタウロスを着実に追い詰めていく。

 

 『ヴ───モオオオオオッ!』

 

 剣圧に押されていたミノタウロスが一つ大きく吠えた。調子に乗るなと。

 

 『フゥーッ、フゥーッ……!ンヴウウウウウウウモオオオオオオッ!』

 

 離れた彼らの間合い、およそ5メートル。

 ミノタウロスは血の滴る腹を一頻り押さえたあと、両手を地面に叩きつける。

 数えきれない程の斬撃を受けた両手が地面を踏みしめ、頭は低く構えられる。臀部の位置は高く保たれ、四つん這いになるその姿はまさに猛牛。

 その場に居合わせた彼らは目を剥いた。

 追い込まれたミノタウロスがよく行う突撃の体勢。

 

 ベルの眼差しとミノタウロスの眼光がかち合い、そして。

 

 「あああああああああああああああああああああああああああっ!」

 『ヴヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』

 

 激突する。

 

 (──若い。)

 

 真っ向からの突撃を敢行したベルに、誰かとガズロは目を細める。

 

 「馬鹿がっ!」

 

 「駄目です。ベル様ぁ!?」

 

 リリとあの時僕を笑った誰かの声が聞こえる。

 一気に間合いは縮まり、お互いの瞳にお互いの血塗れの姿が映る。

 響く声も鼓動も突撃への加速剤に変えて二人の耳に風切りの音が鳴る。

 大剣を右肩に構え、一角が巻くように右肩に溜められる。

 

 ぶつかり合うすくい上げと振り下ろし。

 寸分狂わず同時にさらなる加速を行う。

 

 (──────っ!)

 

 銀塊が砕ける音が響き渡る。

 大剣に食いこんだ角は、そのまま勢いのままに突き進み、果てに刃を砕いた。

 

 『ヴヴッ!』

 

 ダンジョンに閉じ込められること2週間。オッタル、そしてミノタウロスという怪力達に振り回されていた大剣は消耗し、限界を迎えた。

 根元から砕け、その上からの剣身が明後日の方に輝き飛ぶ。

 細かい破片が雨あられに降り注ぐ。

 ミノタウロスは引き伸ばされた時間の中で口角を釣り上げた。その時、ベルはもう一度加速する。

 

 (本命は、)

 

 漆黒の。

 

 (こっちだ!)

 

 ナイフを抜いた。

 

 急激なブレーキ。最大酷使される膝の悲鳴も無視して回転する。

 互いの位置は密着してるかと思う程の背中合わせ。背中で燃える敏捷のアビリティが第二撃へと導く。

 

 「シッッ!」

 

 『ヴモッ!?』

 

 遠心力が上乗せされたまさかの第二撃に、ミノタウロスの姿勢がブレる。

 そしてベルは、天然の鎧を貫通させた己の相棒目掛けて砲声する。

 

 「ファイヤボルト!」

 

 ドゴンッ、とミノタウロスの全身が赤熱する。

 体内で何かが爆ぜたかのように、肉厚の胸板が膨張する。

 今まで付けられた傷口から炎が吹き出した。

 

 「ファイヤボルトォッ!」

 

 さらに肥大。

 いっそ噴飯ものなまでに、ミノタウロスの上半身は膨れ上がる。

 体表ならば魔法に耐えれども、さしものミノタウロスでも体内を防ぐことは出来やしない。

 逃げ場のない火炎の奔流は出口を求めて暴れ狂い、ゴオッと鼻腔や口から勢いよく噴き出される。

 

 『ガハッ、ゲッハッ…!?ヴモオオオオオオッ!』

 

 これ以上好き勝手させるかと、巨躯から繰り出されるは肘鉄。

 寸分の違いも無くベルへと向かう無慈悲な一撃。

 死が迫る中、ベルはただ一言砲声した。

 

 「ファイヤボルトオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

 

 爆散。

 断末魔をあげる間もなく、ミノタウロスの上半身は粉々に吹き飛んだ。

 空高く舞い上がる巨大な魔石はザンッと地面に突き刺さった。



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後日談

 僕は見慣れた天井を見て目を覚ました。

 

 「………あれ?」

 

 確か、僕はミノタウロスと戦って、ファイヤボルトで上半身を爆発させて……。それで?

 

 「俺が回収したんだよ。」

 

 「ふえっ?」

 

 頭のネジが二三本外れたような声を出して振り向くと、ガズロが壁に腕を組んでもたれかかっていた。

 

 「ほれ、ステイタスの写し。」

 

 「え?あ、うん。」

 

 そこには。

 

─────

ベル・クラネル

Lv2

力:I0

耐久:I0

器用:I0

敏捷:I0

魔力:I0

《魔法》

【ファイヤボルト】

《スキル》

【龍友】

─────

 

 え?

 

 「レベルアップおめでとさん。」

 

 「──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  いやったああああああああ!」

 

 

 

 

 

 『リヴェリア!あいつのステイタスを見ろ!』

 

 『ざんねーん。それは吾輩がさせないんだなこれが。』

 

 ロキファミリアの面々がいたこともあり、俺はすぐにベルを回収した。立ったまま精神枯渇とは恐れ入ったね。

 最後まで駄犬野郎はこちらを睨んでいたが、貴重な情報欲しけりゃ俺をどうにかしてみろ駄犬。

 

 「やったよ!とうとうLv2だよ!」

 

 「ああ、俺もな。」

 

 「えっ?」

 

 ベルがキョトンとした顔でこちらを見る。俺はそれを隠すようにステイタスの写しを突き出した。

 

─────

ガズロ

Lv2

力:I0

耐久:I0

器用:I0

敏捷:I0

魔力:I0

《魔法》

【龍物語】

《スキル》

【龍物語】

─────

 

 それを見てベルは愕然としていた。悪いが俺を出し抜こうなんざ100年早いと諦めな。

 

 「いやっ、でも、仲間も強くなるのは嬉しいや!」

 

 「………お前さあ、真っ白過ぎねえ?」

 

 何を言われているかわからずにさらにキョトンとした顔になるベル。そういうところだと思います。

 

 「あっ、そう言えば神様は?」

 

 「バイト。ホームから追い出すのにだいぶ時間食ったけどな。」

 

 『ベル君が起きるまでバイトなんて行くもんかー!?』って朝っぱらからうるさかったから蹴り出した。しばらくドンドンとノックがうるさかったけど、五分もしたらいなくなってた。

 それを伝えるとベルはアハハ…と乾いた笑みを浮かべていた。

 

 「それにしてもガズロがレベルアップって……一体何したの?」

 

 「(おそらく)Lv6(と思わしき)冒険者と戦って勝った。」

 

 「えええええっ!?」

 

 Lv6がどのくらいか知らねえけど、ベルでも1ヶ月ちょいでLv2なんだからそんな強くなかろうて。

 

 「Lv6っていったらアイズさんと同じくらいだよ!?」

 

 はいしっぱーい。Lv6でもこの世界珍しいのね。俺の知るLv6は駆け出しってところだったからなあ。

 

 「どうやって勝ったの?ねえねえ、教えて!教えて!」

 

 やけに目を輝かせるベルをよそに、俺はどうしたもんかと頭を悩ませていた。




最終ステイタス
──────────

ベル・クラネル
Lv1
力:SS1094
耐久:SS1099
器用:SS1031
敏捷:SSS1514
魔力:SS1059
《魔法》
【ファイヤボルト】
・速攻魔法
《スキル》
【龍友】
・【龍物語】のスキルの影響を受ける
【憧憬一途】
・早熟する
・懸想が続く限り効果持続
・懸想の丈により効果向上
──────────

ガズロ・????
Lv1
力:SSS1969
耐久:SSS1522
器用:SSS1673
敏捷:SSS2034
魔力:SSS2015
《魔法》
【竜物語】
様々な効果を発揮。
思い描いた効果を発揮。
詠唱によって効果変更。
《スキル》
【竜物語】
前ステータス引き継ぎ。
前魔法引き継ぎ。
成長速度上昇。
魔法使用により効果上昇。
【魔法戦士】
魔力消費量減少。
魔法効果上昇。
アクティブな行動のチャージ権。
エンチャント可能。
──────────


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レベルアップの報告

 今日は俺とベルはギルドにレベルアップの報告をしに来た。

 レベルアップはこちらではかなり重要らしく、ギルドにはステイタスの代わりにLvだけでも把握させていなければならないようだ。

 

 「ったく、流出とかしねえだろうな?」

 

 「さすがにないとは思うけど。」

 

 こういうどこかでっかいところが管理しだすと怖いのは、情報が流れ出すことだ。うっかり情報をほかのファミリアに流してしまいましたーなんて言われたら、たまったもんじゃない。

 

 「そこはギルドを信用するしかないか。」

 

 ボヤきながらも、人混みの中、視線の先にエイナを見つけて二人で掻き分けて向かう。

 

 「エイナさん!」

 

 「ベル君!と、ガズロ君、今日はどうしたの?」

 

 アドバイザーの質問に二人で顔を見合わせてニヒッと笑う。

 タイミングを合わせて報告した。

 

 「「Lv2に到達しました!」」

 

 「……………………………え?」

 

 しかしアドバイザーの反応は薄いもので、ニコニコと笑いながら首を傾げるだけだった。

 

 「だからLv2になったんだって。」

 

 「本当に?」

 

 「はい。」

 

 「二人とも嘘ついてない?」

 

 「はい。」 「おお。」

 

 エイナはたっぷり数秒間を置いて叫んだ。

 

 「1ヶ月でLv2〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?」

 

 ええ、高らかに叫んでくれましたよちくしょう。

 

 

 

 

 

 「ホンットにごめん!」

 

 「ま、まあいいですよ。どうせいつかはLvは公開されるんで。」

 

 ベルよ、エイナが気にしてるのはLvじゃなくてレベルアップまでにかかった期間のことだぜ。

 あのアイズの嬢ちゃんでも一年かかったってことは、普通は五六年はかかるんだろうな。つくづく俺の世界とは勝手が違うな。

 こほんとアドバイザーはわざとらしく咳き込むと、俺たちに聞いてきた。

 

 「それじゃあ二人とも、どんなことをしてきたかおしえてくれる?」

 

 「えっ?」

 

 「あれか?今後のレベルアップの参考にさせて欲しいのか?」

 

 「うん、そんなところ。」

 

 レベルアップした奴らの後を追わせるってことか。同じことすりゃいいってもんでもないとは思うけどなあ。

 あまり乗り気ではなかったものの、話せと言われた以上ベルの戦歴を話した。

 

 「み、ミノタウロス……。」

 

 くらりと頭を抑えて見せるアドバイザー。その気持ちはわからんでもない。

 多分だがミノタウロスはLv2にカテゴライズされる中でもそうとう強い方だろう。途中で1回だけ出くわしたインファントドラゴンの方が強くはあったが、インファントドラゴンはおそらくレアモンスター。あれは計算にいれても変わらんだろう。

 

 「それで、君は?」

 

 「えーっと…。」

 

 俺はめんどくさいのもあり、馬鹿正直に全てを話した。

 

 「………………うん、嘘ついてない?」

 

 「それさっきやった。」

 

 アドバイザーは如何にも信じられないと言った様子でこちらを見ていた。そりゃまあ、Lv1のはずの冒険者がミノタウロスやらインファントドラゴンやら狩った挙句に30階層まで行って、最後はLv6と思わしき奴に勝利って頭おかしいよな。

 アドバイザーは俺の態度から本当だと理解すると、また叫びそうになったので口元に手を当てて静かにさせる。

 

 「すまん、叫ばれるとめんどくさい。」

 

 「す、すいません。」

 

 そして今回来たのはもう一つ。

 発展アビリティについてだ。

 

 「えっ?複数発現したの?」

 

 「ベルが三つで俺が二つ。」

 

 俺はいいもんが手に入ったと思って、少しばかり浮かれていたところ一つしか取得できないと知ってがっかりした。

 ベルのは『耐異常』『狩人』『幸運』の三つ。俺は『魔導』『剣士』だった。

 ベルのやつはだいたい予想がつくからいいが、俺のはさっぱりわかんねえ。

 

 「…多分、魔導は魔力の強化とマインドの消費を抑えてくれるものだと思うんだけど、剣士は確か剣での攻撃に補正がかかる、だったかな?」

 

 「ほう。」

 

 要は魔導は魔法強化、剣士は近接強化だと思えばいいわけか。だったら俺は魔導一択だな。

 

 「ベル君は?」

 

 「僕は狩人もいいと思うんですが、神様は幸運がいいかも、と。」

 

 ベルが目指しているのは英雄という途方もなく遠いところ。だったらその途中で実力とは違う、運が絡むこともあるかもしれないとアドバイザーは言った。

 俺もそういう経験はある。剣を振りかぶった魔物の目に、たまたま投げた石が当たったり、魔法が暴走して強化されたりと。そういうのも必要になるかもしれない。

 

 「これは私の意見でしかないけどね。」

 

 「いえ、すっごく参考になりました!」

 

 ベルは幸運を選ぶようだな。

 そこまで話して俺たちはギルドを後にした。



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デナトゥスにて

 僕はデナトゥス───暇な神々の集まり───に顔を出していた。理由は子供たち、ベル君とガズロ君のレベルアップによる二つ名の名付けがあるからだ。

 万が一、ないとは思うが、この二つ名をつける会に自分の子が出てる時に来なければ、それはもう痛い痛い名前をつけられることになる。

 まあそれは子供たちの間ではかっこいいだの可愛いだの言われているが、僕達神様からすれば痛くて可笑しくてしょうがないのだ。

 

 (…だからこそ、平凡な二つ名を勝ち取って見せるぜ!二人とも!)

 

 最悪ベル君だけでも、いやいや、ガズロ君も守らないと、と一人葛藤しながら円卓についた。

 

 「えー、それでは第ン千回デナトゥスを始めるでー!司会はうちことロキやー!」

 

 「「「いぇぇぇぇぇっ!」」」

 

 神々はとてつもない盛り上がりを見せる。僕達神々は比喩抜きで娯楽に飢えている。だからこそ、面白そうなことが詰まっているこのデナトゥスに参加しないやつはかなり少ない。

 そして本題である、二つ名の命名式に取り掛かる。

 

 「決定!冒険者セティ・セルティ、二つ名は【暁の聖竜騎士】」

 

 「「「いてえええええっ!」」」

 

 そしてその命名式では痛恨の名が大量生産される。

 性根の腐ったくそ神共が、酸欠上等の笑いを得たいがためだけに、子供たちには畏敬さえ抱かれている痛々しい二つ名を連発してくる。

 

 「惨い………!」

 

 「あんたの気持ちはよーくわかるわ。」

 

 唖然と呟く僕にヘファイストスは同調する。

 このデナトゥス、新参の神の扱いはだいたい、いや全部酷い。

 たとえ二つ名を理由に戦争をふっかけても、負けることはない連中があまりにも多すぎるから。

 

 そして次々と痛恨の名が決まっていく中、とうとう自分の番が来た。

 

 「おー?どれどれ、最後の2人は〜…………は?」

 

 ロキは書類をパシパシ叩きながら眺め、やがて硬直した。

 

 「おいどチビ。」

 

 「な、なんだよっ。」

 

 「これ、どういうことや?」

 

 言いたいことはわかる。でも僕にも───ガズロ君は特に───わからないからしょうがないのだ。

 

 「うちのアイズたんでも一年かかったんやで?それを1ヶ月で2人も?アホか。正直に吐け、なんかしたやろ。」

 

 「何もしてないよ!……僕は。」

 

 ムスッとした表情で言ったためか、ロキもはァ?とわけがわからなそうな顔をした。

 

 「自分もわからんてか?自分の子供なのにか?」

 

 「……ああそうだよっ。ベル君はともかくガズロ君に関しては本当にさっぱりだ。」

 

 思わず口を滑らせてしまったことに不味い、と思ったが、ロキはそれ以上追究してこなかった。

 

 「まあええわ。………なんや、フレイヤ、もう帰るんか?」

 

 「ええ、やりたいことは終わったから。それよりもその2人には可愛い名前をつけてあげてね?」

 

 「「「オッケー!」」」

 

 何ともまあ現金なやつらだ。美の神に微笑まれてようやく本気で名前をつける気になったようだ。

 

 「しかし、いざ本気で名前をつけるってなると、難しいな。」

 

 「完全にノーマークだったもんな。」

 

 「むしろ予想してたやつがすごいわ。」

 

 神々は好き勝手に思い思いの二つ名を提案していく中、僕は呆然としていた。そこへ。

 

 「おいどチビ。」

 

 「……な、なんだい?ロキ?」

 

 「お前、あの女に注意しとけよ。」

 

 「え?」

 

 あの女、とは空気や流れ的にフレイヤのことだろうか?だが僕がいったい彼女のなんに注意しろというのか。

 

 「まだわからんか?アイツがお前の男らを庇ったんやで。」

 

 庇った。言われてみれば、普段はそもそもデナトゥスにすらでない彼女が出たのは僕のファミリアがいつも関わっている。ベル君が入った時、ベル君がレベルアップした時。

 もしかしてフレイヤはベル君を狙って?いやでもガズロ君の可能性も、いやどちらにしてもダメだ。僕の大切な子供たちだ。

 

 「……うん、注意しておくよ。」

 

 「そーしとき。」

 

 「「「決まったー!」」」

 

 会話が終わると同時に、神々はより一層ざわめいた。



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決まった二つ名

 へスティアが帰ってきた。デナトゥス?とかいう神々の集会みたいなやつに出てきたらしい。その顔は疑問符でいっぱいですよーみたいな顔してた。

 

 「どうした、へスティア。」

 

 「あっ、なんでもないよ。それより二人とも、二つ名が決まったよ!」

 

 「やったー!」

 

 どれどれ、向こうじゃブラッディガイとかモンスターキラーとか言われてたからな。どんな名前だ?

 

─────

ベル・クラネル

【リトル・ルーキー】

 

ガズロ

【緋色】(スカーレット)

─────

 

 ………普通だ。なんかバーニング何とかかんとかみたいな名前のやついたからどんな痛恨の名前をつけられるか戦々恐々としていたのが馬鹿らしいくらいの普通さだ。

 それをへスティアに尋ねると、苦々しい顔をしていた。

 

 「どっかの女神にでも感謝したらいいんじゃないか?」

 

 「おいおい、拗ねるなよ。」

 

 何があったか知らんが、八つ当たりは勘弁してくれ。あんまりいいことじゃない。

 

 「そういやベル、お前結局新しいスキルのことなんかわかった?」

 

 「それが、何にも。」

 

 ベルに発現した新しいスキル。それは【英雄願望】。

 効果はアクティブアクションに対してのチャージ権。俺のにも似たような効果があったが、未だに能力の使い方がさっぱりわからん。

 

 「…それは多分、英雄の一撃だと思うよ。」

 

 「「英雄の一撃?」」

 

 俺とベルは揃って首を傾げる。

 へスティア曰く、ベルと俺のそれは、自分より遥か格上である敵を倒すための武器であり、己の力を持って倒すということの意思表示であるという。俺より格上て、いんの?

 

 「んじゃあ、ベル。」

 

 「何?」

 

 「これからはあんまり1人で彷徨くなよ?」

 

 「えっ。」

 

 コンコンと諭してやった。内容は、『ただでさえ娯楽に飢えた神々にはレベルアップに1ヶ月しかかかってないのは格好の餌だから』という内容だ。

 下手すりゃ強制引き抜きも有り得る、と言うとベルは顔をさっと青くして肝に銘じた。

 

 「だからしばらくは俺と行動な。」

 

 「う、うん……。」

 

 

 

 

 

 

 

───ギルドにて。

 

 「エイナ!弟君と赤髪君の名前出てるよ!」

 

 「【リトル・ルーキー】に、【緋色】かあ。」

 

 リトル・ルーキーも緋色も私的には中々似合ってると思う。特にガズロ君の方。

 彼はよく炎の魔法を使っているらしいし、髪の毛も瞳も赤いときたもんだ。ならばこれ以上うってつけの名前はあるまい。

 

 「ほら、噂話しているとさっそく弟君と赤髪君が来たよ!」

 

 その言葉に振り返ると、彼らはにこやかな顔で笑顔を振りまいていた。

 

 「こんにちは、二人とも!」



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レベルアップの宴会

 あれから僕達は二つ名が決まったことを報告しに行ったら、どうやらギルドの方でも二つ名は連絡が来ていたようで、それならと僕とガズロは豊饒の女主人のところへと向かった。

 

 「いや〜それにしても、お得意さんが有名になるのは嬉しいですねえ。」

 

 シルさんはほろ酔いの顔でまじまじとこちらを見ながら呟く。未だに有名になった気はしないのだが、ガズロも言っていた。短期間でのレベルアップによってかなり注目されていると。

 でもこの人達の僕達の扱いは変わらず、こうして普通に接してくれた。それが何故か嬉しかった。

 

 『おい見ろよ、リトル・ルーキーだぜ。』

 

 『あんなガキがレコードホルダーとはな。世も末だぜ。』

 

 今でもこうして横目を投げられている中、彼女たちの扱いは本当に嬉しい。

 

 「一躍人気者になってしまいましたね、ベル様。」

 

 「そ、そうなの?何だかすごく落ち着かないんだけど……。」

 

 「名をあげる者の宿命だ。お前に限った話じゃねえし、我慢しろ。」

 

 笑いかけるガズロとリリに、僕は情けない笑みを浮かべる。

 

 「シルさんよぉ、本当にいいのか?この忙しい時に店開けて。」

 

 「私達の代わりにたくさん食べるように、と言われてます。」

 

 やっぱり強かな人だなあと思う。カウンターの奥で不敵に笑うミアさんも。

 それからすぐに僕達は乾杯してそれぞれのグラスをぶつけあった。

 様々な料理が運ばれ、そのほとんどがガズロの胃の中に消えていき、僕達はそれを苦笑いで見つめたりと、僕達はこの時間を楽しんでいた。

 

 「クラネルさん、今後はどうするんですか?」

 

 「?」

 

 「今後の探索だよ。ベル。」

 

 「あ、とりあえず明日はリリと一緒に装備品を揃えに行こうかと。」

 

 しかし、リリが話に割り込んでくるなり、ごめんなさいと頭を下げた。なんでも、下宿先の仕事が立て込んだために同伴できないという。

 ガズロでもいいのだが、ガズロは隙あらば高い商品を買ってこようとするから困るのだ。ガズロ曰く『装備品をケチると死ぬ』と言うが。

 それにシルさんが着いてくると言い出して、ミアさんにズパァン!とシルさんに叩かれていた。

 

 「そう簡単に休まれちゃこっちが堪んないよ。」

 

君あたしに話も通さないで休みの相談とはどういう了見だい、とミアさんは続けた。

 テーブルに伏せた彼女はゆっくりと起き上がり、おそらくミアさんを睨んだ。

 

 「で、ベル。中層はどうするんだ?」

 

 ガズロのストレートな問いに、少しの間キョトンとする。ガズロはそれをみて一度酒臭いため息を吐いて言い直した。

 

 「だからよ、次から行くのか行かないのかって話したなんだが。」

 

 その言葉にやっと僕はガズロの意図を掴んだ。リリと一度顔を見合わせてからガズロに向き直る。

 

 「ひとまず11階層で様子を見るよ。簡単そうだったら12、って感じかな。」

 

 「ええ、それが賢明でしょう。」

 

 リューさんは冷静に言った。彼女は慎重にことを進めることを勧める人だ。

 彼女は中層と上層は明らかな違いがあると言う。中層から先は、どう足掻いてもソロでは処理しきれなくなる。中層とはそういう場所だ、と彼女は言った。

 

 「要するに、あなたはパーティを組むべきだ。」

 

 ギルドは少なくともスリーマンセルの形式を基本としている。だからギルドから出版されたことのある本には大抵3人以上の連携が書かれていた。

 最低でも前衛、中衛、後衛が必要と言われている。ガズロ風に言うなら、ダメージディーラーとタンク、そしてヒーラーがいれば一番安定するという。

 人数が少い方が逃げやすくはなるが、そもそもパーティを組んでいれば逃げなければならないことはないという。

 そこへ。

 

 「話は聞いたぜ!仲間が欲しいんだって?」

 

 「えっ!?」 「あ?」

 

 今度こそ驚いた。

 見知らぬ赤の他人が、いきなり自分のパーティに誘い出したのだから。

 ところが。

 

 「さっさと去ね、雑魚ども。」

 

 ガズロの一言に彼らは静まり返った。決して大人しく引き下がったわけではない。静かにキレているのだ。

 

 「……俺たちゃLv2になって2年は経ってるぜ?それでもレベルアップしたてのお前らより弱いってか?」

 

 「何遍も言わすな。去ね雑魚ども。」

 

 その一言に彼が手を振りかぶった時、ガズロは捉えられぬ程の速度で動きその場でモルド?と呼ばれていた男性を極東でよく見られるとかいう柔?で倒してしまった。

 

 「………は?」

 

 「仏の顔も三度までだぜ、去ね。」

 

 何が起こったかわかっていなかった男性も、すぐに何が起きたか理解して顔を青ざめ、尻尾を巻いて逃げ出した。

 

 「バカタレ!金は置いてくんだよ!」

 

 「はっ、はいいい!?」

 

 仲間の一人がお金の詰まっているであろう袋を投げて逃げ去ってしまった。

 

 「さっ、飲み直しだ。」

 

 ガズロはその後も平然と飲み続けた。



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鍛冶師との出会い

 翌日、僕は1人でバベルに来ていた。今日はダンジョンではなく、ヘファイストスファミリアの装備品を買うため。

 できることなら前回お世話になっていたヴェルフという人の防具を買いたいが、また隅の方に追いやられているのかと思い、店員さんに尋ねようと向かった。

 

 「………何で………あんな……。」

 

 「……が、………の方針で。」

 

 すると、店員さんと誰かが言い合っているのが聞こえた。恐る恐る棚の横から顔だけ出して覗いてみると、1人のヒューマンの男性と店員さんが言い合っていた。

 ガズロと違い、艶のない炎を連想させる真っ赤な髪に、僕より少し高い身長の中肉中背。

 カウンターの上には軽装の詰まったボックスが無造作に置いてあり、苦情を吐き散らしていた。購入した防具に欠陥でもあったのだろうか?

 

 「こちとら命懸けでやってんだぞ!もうちょっとましな扱いをだな!」

 

 「ですが上の決定ですし、せめて売れるようになっていただかないと。」

 

 「それを引き合いにだすなら、尚更まともな位置にだな!」

 

 店員さんは僕が立っていることに気がつくと、赤髪の人をスルーして僕ににこやかな笑みを浮かべて話しかけてきた。

 

 「お客様、どうなさいました?」

 

 「あの、ヴェルフ・クロッゾという方の防具が欲しいんですが。」

 

 僕がそう言うと、店員さんはピシリと固まり、ぞんざいな扱いを受けていた男性が対照的ににんまりと笑った。

 

 「それみろ!俺にだって顧客の一人くらいはいるんだよ!」

 

 わけのわからぬまま、背中をばしばしと叩かれてふらつく。というか、俺にだって?てことは。

 

 「あなたがヴェルフ・クロッゾ?」

 

 「ああ、あるぜ、俺の防具!」

 

 カウンターに置かれたボックスをゴソゴソと漁ると、やがてひとつのライトアーマーを取り出した。

 

 「ほれっ!」

 

 差し出されたライトアーマーは、他の防具と擦れたあとこそあれども、目立った傷はひとつもなく、まさに彼の作品と言えるものだった。

 僕はその光景に感嘆の声を漏らしてしまう。

 

 「ふわぁ……!」

 

 ヴェルフさんはニヒッと笑うと、改めて腕を突き出して握手を求める。それに応じる形でおずおずと手を出してがっちりと握られる。

 

 

 

 

 「しっかし、あのリトル・ルーキーが俺の防具を使ってくれてるとはな。」

 

 カウンターの人が気まずそうにしていたため、一度会計を済ませてから店の外、バベルの1階の休憩所で話している。

 

 「軽くて使いやすかったからね。なんで売れないんだろう?」

 

 「さあな。」

 

 兎吉とかいう名前のせいじゃないかな、とは言えずに黙って相槌をうつ。

 それから僕はいろんなことをヴェルフさんに教えて貰った。

 鍛冶師は皆客を取り合っていること、そして僕はその中でもかなり狙われていること、仲間たちからハブられていること、などなど。

 

 「そこで俺はさ、お前ともう一歩踏み込んだ関係になりたいんだ。」

 

 踏み込んだ関係?と首を傾げていると、彼は告げた。

 

 「お前さ、俺と直接契約しねえか?」

 

 「直接契約?」

 

 なんでも、鍛冶師と冒険者が文字通り直接契約し、より強固なギブアンドテイクだと。

 冒険者は鍛冶師のためにダンジョンからドロップアイテムを持ち帰り、鍛冶師は冒険者のために武器を作成しこれを格安で譲る。

 持ちつ持たれつの助け合い。

 そしてヴェルフさん曰く、特定の誰かのために打った武器はより強いという。

 

 「えっ、いいんですか!?」

 

 「そりゃこっちのセリフだ。あっちとか見てみろ。」

 

 指さされる方に視線をやると、ちらちらと何人かの亜人とヒューマンがこちらを頻りに気にしていた。

 

 「ありゃ全部お前を狙ってんだぞ。」

 

 「ええっ!?」

 

 改めて僕は注目する側から、注目される側になったことを理解する。そういえばガズロも言っていた。『やすやすと契約なんかするな』と。

 

 「だからこうして俺はいち早くお前と接触できて嬉しいんだよ。ファン一号だから尚更な。」

 

 それにな、とヴェルフさんは続けた。

 

 「こんな話のあとじゃ信じて貰えないだろうが、俺はLvなんか気にしてねえんだ。他の誰でもない、俺の防具を選んでくれたってのがさ。」

 

 「…あ。」

 

 「理解してくれたか?誰かに選ばれるってすんげえ嬉しいんだよ。」

 

 僕も神様に選んで貰えた時はとても嬉しかった。彼にとっての神様が僕なんだろう。

 ヴェルフさんはニコニコと快活な笑みを浮かべて話す。

 

 「だからさ、どうか俺と契約しちゃくれねえか?」

 

 僕は少し考える。仮にこの人が悪い人だったとして、考えられる被害は何か?それは冒険者としての信用を失いかねないところが、少しだけあるかもしれないということだ。

 鍛冶師一人も見る目がない、と言うだけで、別に直接被害が出ることはなく、風評被害がでるだけ。

 逆にこの人がいい人ならば。

 僕は今までのように防具のお金に戸惑うことなく、安心して防具や武器の手入れ、新調ができる。

 どう考えてもメリットが大きすぎる。そこに行き着いた僕は少し躊躇いながらも告げる。

 

 「よろしくお願いします。」

 

 「おっしゃぁ!」

 

 ヴェルフさんはガッツポーズをとる。それから彼は続けて話す。

 

 「早速だが、俺のわがままを聞いてくれるか?」

 

 「えっ?」

 

 彼はニヤリと笑った。



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鍛冶貴族クロッゾ

 「で?おめおめ防具に釣られたわけか?」

 

 「つ、釣られたなんて……。」

 

 否定できずにもごもごと口ごもるベル。昨日一人でも買い物できると豪語したベルを信じてみたところ、物の見事に鍛冶師が着いてきた。

 

 「で、お前の名前は?」

 

 「ヴェルフ・クロッゾだ。」

 

 「クロッゾ?」

 

 ここでリリが彼の名前に食いついた。

 

 「クロッゾと言うとあの没落貴族の?」

 

 何を知っているのか尋ねた。

 すると帰ってきたのは衝撃の事実だった。

 

 「クロッゾ一族は、鍛冶貴族と呼ばれていました。」

 

 鍛冶の貴族。かつてはクロッゾの魔剣と呼ばれるものを打つことができる一族で、ラキアという国はその魔剣を持って戦争に勝利し続けた国で、ある日魔剣が全て砕け散り、クロッゾ一族も魔剣が打てなくなると全ての責任を押し付けられてその権利を剥奪されたのだとか。

 ぶっちゃけ戦争経験者の俺からすれば、そもそも魔剣に頼っている時点で負けだと思う。それ魔剣が砕けたらどうなるのよ?って思うし、何より責任を押し付けるあたり、連携なんてなかったのだろう。

 それではいつか魔剣が効かない相手がでたら負けてしまう。実際彼らは魔剣が無くなると、ことごとく返り討ちにあったというのだから。

 

 「……その辺にしとこうぜ、モンスターも出てきた事だしよ。」

 

 「そうするかな。俺はここらで失礼するぜ。」

 

 そこで俺はベルたちから離れた。

 

 

 

 

 ところ変わって25階層。俺はちょいとそこまで来ていた。

 理由は特になく、強いて言うなら今日の探索はここまで足を伸ばそうと思っていただけだ。そんなわけで、俺はブラブラと手当たり次第にモンスターを殺しては魔石やドロップアイテムを回収していた。

 

 「しっかし、ここ湿度たけえな。」

 

 グレートフォールと呼ばれている巨大な滝を見据えて、滝から飛んでくる魚を次々と斬り裂いていく。時折外したやつが、後ろの壁に激突してはトマトを叩きつけたようにビシャリと肉片に成り下がっていく。

 この魚は、自爆覚悟で冒険者に突っ込んで来てるようで、つくづくダンジョンが如何に冒険者を殺したいのかひしひしと伝わってくるようだった。

 

 「………だが、特攻は少々悪趣味だな。」

 

 たしかに特攻とは強い。人間同士の対決ならば精神的なダメージも与えることが出来る。何より、その効果は絶大なもので、あまりの勢いに撤退させてしまうこともある程。

 しかし対処ができればその効果はぐっと変わってくる。

 

 「こんなふうになっ!」

 

 チカチカっと小さく光が魚の群れの隙間を縫うように瞬き、爆発が連鎖的におこる。

 この世界では唯一彼だけが使える魔法、イオラである。

 爆炎が魚たちを吹き飛ばし、特攻に失敗した者達と同然の結末を迎えさせる。

 

 「ま、こんなもんかね。」

 

 たまにあえて特攻を受けたりもした。そうすればステイタスも少しは上がるだろうという打算だ。

 彼は一度大きく息を吐くと、さらに深くへと足を運んだ。



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遭遇

 ガズロと別れてからアルゴノゥトによる能力を把握出来た僕は、ダンジョンから帰り、次の日になった。

 

 「ガズロ君は………大丈、夫だよね?」

 

 神様は心配そうに呟く。ガズロの実力を知る僕からすれば、彼が帰らないくらいは杞憂でしかないのだが、ガズロの実力を知らない神様はとても不安そうだ。

 

 「神様、ガズロは僕なんかよりもずっと強いんです。心配するのもおこがましい程に。」

 

 「……ほんとに?」

 

 「……気持ちはわかりますけど、とにかく、ガズロに関しては心配無用だと思います。」

 

 その当の本人はどこにいるのやら。と思いつつ、軋むドアを開けてヴェルフの元へと向かった。

 

 

 

 

 

 さて、当の本人だが。

 

 「ここらへんかな?」

 

 ダンジョン下層の27階層。彼はそこにいた。

 その顔には不敵な微笑みがたたえられ、傍から見れば何かする気満々の人間にしか見えないだろう。

 

 彼はここに来る途中、18階層にあるアンダーリゾートと呼ばれるダンジョン唯一のセーフティスポット、リヴィラの街にてある情報を手に入れた。

 

 『27階層を一気にぶっ壊しまくると何かが起こる。』

 

 何が起こる、なんてあまり期待はしちゃいないが、これに歴戦の勘で何かを感じ取ったガズロはそれを実践してみようとここに来たわけだ。

 そして今、ダンジョンの27階層に仕掛け終えた彼は今それを解き放つ。

 

 「さあ、暴れろ。イオグランデ。」

 

 次の瞬間、ダンジョンが、バベルが揺れた。

 

 

 

 

 『何だああああああああ!?』

 

 バベルが激しく左右に揺れる。その震源は間違いなくダンジョン。この時たった一人の人間が一階層まるごとぶち抜いたなんて誰が信じようか。

 

 「フレイヤ様!」

 

 「大丈夫よ、オッタル。」

 

 背後からズシンと現れる巨体がフレイヤの身を案じる。それにフレイヤはヒラヒラと手を振って応える。

 フレイヤは自分の知らない誰かがいるのかと、胸騒ぎから取得した許可を使って下界を映す鏡を出した。

 上層、いない。中層、特に問題は見られない。下層にてそれは見つかった。

 

 「彼は………?」

 

 ベルの隣にいた紅い髪の男。ともすれば人すら殺しかねない鋭い目付きをある一方に向けていた。

 とてつもない魂の輝きを見せる彼にあんな目をさせるのは誰かと鏡を移動させると、異形も異形なまさに化け物と呼ぶに相応しいものがいた。

 

 

 

 

 「んだこいつぁ。」

 

 ドラゴンの頭蓋骨のようなものが中心に据え置かれ、そこから四方に伸びるのは肋のような骨。いや、骨のような爪といったところだろうか。

 

 『───!』

 

 「うるっせえ!メラミ!」

 

 吼える魔物に放たれる火の玉は、一際大きく輝いた途端、こちらに向かって帰ってきた。

 

 「ああ!?」

 

 とっさにその場を飛び退いて反射されたメラミを回避する。

 見上げれば、奴の体の1部がキラキラと不思議な光を放っていた。

 

 「……マホカンタか!」

 

 その光に見覚えのある彼は一瞬で正体を確信する。

 刹那、彼の元いた場所を極太の爪が薙いだ。元いた、と言う通り、彼は一歩後ずさって爪を避ける。

 

 「………こいつっ!」

 

 『──────!』

 

 ダンジョンの白血球

 

 ジャガーノートがそこにいた。



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vs白血球

 ジャガーノートの爪がギシギシと軋み、ゆっくりと曲げられていき。

 

 斬ッ!

 

 急加速。それは壁をも抉り空を引き裂く必殺の一撃。相手がガズロでなければ、並大抵の冒険者であれば既に七八回は殺されているだろう。

 死神の鎌にも似たそれは次々と死を与えんと振り下ろされる。

 回避、パリィ、回避、回避、パリィ。断続的に降り注ぐ刃を、ことごとく阻む。だが、このままでは押し切られる。そう思い、魔法を手に構えようとするが。

 

 

 「─────っ!」

 

 脳内で再生されるのは反射されるメラミ。あれの繰り返しを続けても同じことと考え、振り下ろされる爪を受け止める。

 

 「久々だな、この感覚。」

 

 ゆっくりと自分の感覚が研ぎ澄まされる感じ。だんだん鋭利に尖りだす第六感。

 より野生に近く、より理性的に働く頭と本能を武器に殺到する爪を弾く。

 

 『─────!?』

 

 モンスターといえども感情はあるのか、驚いた様子を見せる。

 全ての攻撃を弾かれたことに驚いた一瞬、ガズロは一転して攻勢にでる。

 天井に張り付くジャガーノートの元まで飛び込むと、腰に携えた光の剣を抜刀し、何十回と斬りつける。

 

 『─────!』

 

 「うわたぁっ!」

 

 置かれるように配置された斬撃は、嵐のように振り回される爪によって叩き落とされる。

 しかし対処しきれなかった分の刃が、ジャガーノートの顔と思われる場所に切り傷を残していく。

 それに怒ったジャガーノートは無茶苦茶に爪を振り回し、壁や床と共に引き裂かんと刃の竜巻となってガズロに突貫する。

 ガズロは仁王立ちでそれを見据え、左の親指でかちりと光の剣を鳴らすと。

 

 「火炎切り。」

 

 斬ッ!!!

 

 振り抜かれた一刀は、ジャガーノートの伸びた爪を一つ断ち切った。

 

 『─────!!』

 

 「おっ、特技は効くんだな。」

 

 彼が行ったのは魔法の行使ではなく、エンチャントでもなく。

 彼の世界では特技と呼ばれた魔力を伴う一撃。時には魔力すら使わない一撃。

 それは魔法の反射も硬い外皮も無視して豆腐を切るようにあっさりと骨を断つ。

 

 『──────!!!?!?!?!!』

 

 「そう慌てんなよ。」

 

 生まれ落ちて己の役割を全うしようとしたジャガーノートは、敗北の可能性に初めて怯えを見せた。

 それに対するガズロの態度は淡々としたもので、ジャガーノートに語りかける素振りすら見せた。

 ガズロは右手に持った光の剣を天に、いやダンジョンの天井に向けて掲げると、剣に稲妻が走りその輝きを増す。

 バチバチと音を立ててほとばしるエネルギーの奔流が、次に放たれるであろう一撃の威力をありありと示していた。

 これにジャガーノートは恐怖を感じた。生まれ落ちて初めての感情はダンジョンを破壊されたことへの怒り、そして彼の強さへの敬意、最後に見えたのは彼への恐怖。

 普段感情を顕にしない彼らモンスターが、初めて感情を見せた。

 

 「さあ、魔法だろうか、物理だろうか、どっちだろうな?」

 

 彼の手に握られた剣がゆっくりと後ろに振りかぶられる。もはやなりふり構ってられないと、全ての爪をガズロに向けて斬撃を殺到させた。

 彼の動作はとてもゆっくりに見えた。

 

 「ギガスラッシュ。」

 

 音が消え、光に飲まれ、意識が途絶えた。

 光の剣から放たれた光の奔流は、一思いにジャガーノートの全てを呑み込み喰らい尽くした。

 雷を思わせるその斬撃の名はギガスラッシュ。かつて魔王をも断った究極の一撃。



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ガズロ帰宅

 帰ったらびっくりした。

 泣き腫らしたであろう顔面が酷いことになってるへスティアとベルが涙目で飛びかかってきた。

 それはまだいいのだが、二人とも鼻水とか垂らして突っ込んで来たもんだから思わず避けちゃったんだ。

 閉まったドアに顔を激しく打ち付けた2人は、ズルズルと床に崩れ落ちて溶けたようにべチャリと床に張り付く。

 

 「「心配したんだよ!?」」

 

 「いやすまん。その顔キモくて。」

 

 「「キモっ!?」」

 

 仲いいなお前ら。

 

 あの後、俺はベル達に何があったのかを話した。といっても、ダンジョン一階層まるごとぶち抜いたことと、あの骨みたいなやつが出てきたことしかないが。

 それを話し終えるとものすごい形相で2人が突っ込んできた。

 

 「「普通じゃないよ!」」

 

 「あれ?」

 

 ダンジョン一階層まるごとぶち抜いた、なんて未だに前例はなくそもそもできるはずがないとのこと。いや、仮に出来ても普通はしないと。

 へスティアからは興味深い話が聞けた。あれはダンジョンの白血球のような存在だという。ダンジョンが急激に破壊されたことで生み出された怪物。その元凶である俺を取り除こうとしたモンスター。そんなものを返り討ちにした俺は頭とステイタスがおかしいとのこと。

 

 「ああもう!とりあえずいっかいステイタス更新だ!」

 

 そう言って俺はソファに強制的にうつ伏せにされる。

 

──────────

 

ガズロ・????

Lv3

力:I0

耐久:I0

器用:I0

敏捷:I0

魔力:I0

《魔法》

【竜物語】

様々な効果を発揮。

思い描いた効果を発揮。

詠唱によって効果変更。

《スキル》

【竜物語】

前ステータス引き継ぎ。

前魔法引き継ぎ。

成長速度上昇。

魔法使用により効果上昇。

【魔法戦士】

魔力消費量減少。

魔法効果上昇。

アクティブな行動のチャージ権。

エンチャント可能。

──────────

 

 へスティアとベルが硬直し、俺は沈黙する。無理もなかろう。だって昨日今日でいきなり器が成長してるんだもの。

 

 「「……何をしたの?」」

 

 「言った通りさ。」

 

 どうやら白血球野郎はなかなかの経験値を溜め込んでいたようで、それを倒したら当然のようにレベルアップしたようだ。

 そもそもダンジョン側、運営としては倒されないことを前提に作ったモンスター。そりゃ経験値は馬鹿みたいに内包されているだろう。現に俺はすぐにレベルアップした。

 呆然とする2人に一言告げる。

 

 「なんかすまん。」

 

 「「ほんとだよ!?」」

 

 

 

 あの後だいぶ膨れていたへスティアを無視して夕食をとり、寝床につこうとしていた。

 いつもへスティアにはベッドを使ってもらい、ベルはソファ、俺は床に寝ている。理由は俺は寝返りの頻度が高いため落ちるからだ。

 すると、ベルがポツリと話しかけてきた。

 

 「……ねえガズロ。」

 

 「……なんだ。」

 

 「……恋愛……ってしたことある?」

 

 突然ベルらしくない、いやらしいっちゃらしいことを問いかけてきた。普段はあまり話題に出さないが、こいつはダンジョンに出会いを求めてきたらしいしな。

 さて、質問に話を戻す。

 

 「……あるぜ。」

 

 「ほんと?」

 

 「ああ。」

 

 初めての恋はいつだったか、たしか5歳くらいの時に育ての親の妹さんに恋した覚えがある。その時はどちらかというと親愛と恋愛の区別がつかなかっただけだろう。

 次の恋は9歳。いつの日かあった祭りに来ていた王女様に恋をした。思えば強くなりたかったのはその人の横に立ちたかったからだった。

 そして今の恋は、今の俺を作ってくれた人。剣の握り方、魔法の使い方、戦闘に関するありとあらゆるを教えてくれた人に恋をした。

 

 「………以上だ。」

 

 「……今もしてる恋、の人ってどこにいるの?」

 

 「…………死んだ。」

 

 「えっ。」

 

 あの人は決して憎しみに囚われるなと俺を諭した。そういうあの人はいつも魔物を憎しみの目で見ていた。

 彼女はその憎しみの根源に挑み、死闘の末に相討ちで死んだ。俺は彼女の言った憎しみに囚われるな、という教えの通り、憎しみに囚われず、俺なりの目的をもって彼女を討った者達に挑んでいった。

 

 「……それで?」

 

 「………さあな、どうなったらこんなとこに来ちまったんだろうな。」

 

 もう寝ろ、とベルに促し、そっと目を閉じた。



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二本目

 ベル達がダンジョンに潜っている中、俺はある場所に来ていた。

 

 「………ふう。」

 

 最初にベルと出会ったあの場所だ。

 あの時、ベルに出会う前にある一本の剣を落としてしまっていた。それに気づいたのはへスティアにステイタスをつけてもらう時だ。

 あの剣は呪われている。ただしくは俺以外を呪うように出来ている。誰かに拾われれば確実にそいつの悲鳴が響き渡るはずだからすぐにわかるんだが。

 

 「…………おっ。」

 

 それは落ちていた。

 腰に結びつける紐がプチりとちぎれており、長いこと雨風に晒されたからかどこか汚れていた。

 剣の鍔あたりに手を伸ばしてしっかりと握りしめる。すると手に軽い電流が走ったような感触がする。

 相変わらずなれない感触に微笑みを浮かべて剣を手に取り目の前に持ってくる。

 

 「すまんて。」

 

 抗議するようにピリピリと手を刺激するそれを宥めるように話しかける。

 やがてそれも収まると、ハラハラと花びらの如く汚れが落ちていく。

 

 「………『八咫烏』、か。」

 

 久しい愛剣、いや愛刀の名を目を細めて唱える。

 かつて千の魔物を喰らい、万の命を消した妖刀。その伝説は極東にて受け継がれており、その村も滅びんとした時に訪れたガズロがその剣を手に取ると、今まで愛用してきた剣と同等に手に馴染んだ。

 それを見た村人達はすぐにガズロに八咫烏を差し出した。手に馴染んだ者が受け継ぐというしきたりだったらしく、あまり細かいことは教えて貰えなかったが。

 

 「こっちとは真逆なんだよなあ。」

 

 光の剣、別名『エクスカリバー』を抜き、まじまじと見つめる。

 八咫烏は闇に溶けるような漆黒の刀身なのに対して、こちらは太陽もかくやと言う純白の剣だ。

 改めて相反する不思議な物を持ったものだと実感し、剣を今度こそ落とさぬように紐をつけ直す。

 

 「今頃ベルはどうしてっかなー。」

 

 と、今は隣におらぬ家族への思いを馳せる。

 

 

 

 

 その頃ベルは。

 

 「でりゃああっ!」

 

 『『『ウボアー。』』』

 

 飛び交うメタルスライムやスライムベスを次々と真っ二つにしていた。

 

 「ヴェルフ!後ろ!」

 

 「あいよっ!」

 

 顔も向けずにヴェルフに指示を出して目の前に立ちふさがる巨躯を持ったゴーレムを袈裟斬りにする。

 

 「………鬼気迫るって言葉がしっくりきますね。」

 

 「そいつぁ同感だな。」

 

 最後のゴーレムを斬り捨てた僕はナイフを鞘にしまって二人に笑いかけた。返ってきたのは何故か苦笑いだったが。

 

 

 

 「お前んとこのさ、ガズロ?だっけ?あいつどのぐらい強いんだ?」

 

 ヴェルフはモギュモギュとサンドイッチを頬張りながら問いかける。

 改めてガズロの強さを考え直す。この前ダンジョンの白血球みたいなのと戦って勝ち、レベルアップの時にはLv6と思わしき人と戦ったという。何故Lvがわかったのかはさておき。

 よく考えてみれば、僕はあまりガズロのことを知らない。ここに来るまでとか、何故ここに来たのかとか、彼は何も話さなかった。

 

 「……ベル?」

 

 「ああごめん。ちょっと考え事してた。」

 

 どうやら僕は彼に強さを求めるあまり、話してこなかったようだ。帰ったら少しは話して見ようかと思う。



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知られざる過去1

遅くなって申し訳ありません。


 「ねえ、ガズロのことが知りたいんだ。教えてくれないかな?」

 

 ベルは帰ってくるなりおもむろにこう話しかけてきた。

 だが、言われてみれば俺は自分の身の上話をしたことはない。いい機会だと思い、肝心なところをぼかして話すことにした。

 

 

 

 

 「…………はぁ。」

 

 風の吹く小さな裏路地。ポツンと建っている食堂の換気扇の下に彼はいた。

 あまりにも厳しい寒さの中、ボロきれ1枚を纏った彼、ガズロは肩を抱いて座り込んでいた。

 彼に手を差し伸べる者などおらず、腹を満たした者達は皆一様に横目で彼を見ては素通りする。

 

 「今季はだいぶ冷え込むな。メラ。」

 

 彼はボソリと呟くと手のひらの中に小さな火の玉を生み出した。

 

 生まれ持った強大な魔力を彼の親は恐ろしく思い、3歳の誕生日を迎えたその日から彼を放り出した。

 それを彼はまるで気にもしていなかった。そもそも彼の周りに魔法を行使する人はいても、使えるのはメラやヒャドといった初心者用の魔法だったり、規模は小さかったりしていた。

 それを彼は大人でさえ行使するのが難しいメラゾーマやマヒャドといった高威力で高難度の魔法を易々と使っていたのだ。

 それを気味悪く思うのは当然だろうと、3歳にして彼は達観していた。

 

 「………まあだからって宛があった訳ではないんだが。」

 

 結局彼は残飯を漁る生活を余儀なくされたことを受け入れただけに過ぎない。根本的な解決は出来ていなかった。

 大抵の人はこの環境を哀れみ、仕事なり金なり飯なりを与えてくれる。彼はその環境にも慣れた。が、それも一回や二回程度でその場しのぎに過ぎなかった。

 

 そこへ初めてだった。

 

 「大丈夫か?」

 

 「あん?」

 

 手を差し伸べる者が現れたのは。

 

 

 

 

 

 「つまりあんたは俺があんまりにも可哀想だから手を差し伸べたと。」

 

 「まあ、そうだな。」

 

 彼はいきなり手を出してきた彼女に驚きつつも苛立っていた。

 元々彼は可哀想という言葉が嫌いだった。可哀想という言葉は自分よりも格下であり、自分がその立場なら耐えられないということだからだ。

 少なくとも自分はこの環境でも多少支えられながら、死ぬ事は無いため不満はない。もとより暖かい家庭という物を知らぬ故に求めることすらしない。

 

 「話はわかった。帰れ。」

 

 「何故!?」

 

 何より彼は今しかないこの自由を満喫しようと考えていたのだ。ならばいっそ中途半端に何かを与えられているよりも面白みがあるというものだ。

 拒絶された目の前の女性は信じられないというよりは、やっぱりかーといった顔をしている。

 

 「んじゃ、これはどうだ?」

 

 「あ?」

 

 「せめて暴漢なりに襲われぬように鍛えてやる!」

 

 彼女はそういうと子供のようにニヒッと笑った。



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知られざる過去2

 あの日を境に、彼の生活は激変した。

 朝日が昇るか昇らないかぐらいの時間に彼女がやってくるのだ。

 

 「おし!今日も鍛えてやっからな!」

 

 「…………ハァ。」

 

 「ため息つくなし!」

 

 鍛える、と言っているが、実際は3時間ほどぶっ通しで彼女が襲ってくるというものだ。

 言葉だけ聞けばそこまで過酷には聞こえない。だが、考えてみて欲しい。レベル99のメタルキング並の速度で、レベル99のトロルボンバーが襲ってくると。

 答えは簡単。全力で凌ぐ。

 生まれ持った強大な魔力を遺憾無く発揮し、嵐のような刃も雨のような魔法も全てを凌いできた。

 

 「…お前さん、凄い才能してるねえ。」

 

 「んなこと言う前に攻撃の手を緩めて欲しいんですがそれは。」

 

 そう、彼は凌げたのだ。

 魔王討伐隊のリーダーにも抜擢されるほどの彼女の猛攻を。

 そこらの魔物や兵士であれば跡形もなく消し去り、メタル系と呼ばれる頑丈な者達さえ両断する刃を、彼は魔法による身体強化で避けて防ぎ、時化た海にも劣らぬ荒れ狂う魔法の波を、反射魔法一つで跳ね返して見せた。

 彼女が何者なのか知らぬあの時では何が凄いのかさっぱりわからなかったが。

 

 修行が終わると強制的に風呂に突っ込まれる。それも彼女の家まで引きずるように連れていかれ、無理やり住まされている部屋で着替えを与えられてから。

 一人お湯を浴びながら何度何をしてるのか自問自答したことか。

 

 「マーリン、風呂上がったぞ。」

 

 「あいよー。」

 

 半ば無理やり教えられた名前を呼ぶのもすっかり慣れてきた頃。彼はあることを思い出した。

 

 「なあマーリン、お前って何者なの?」

 

 「……さあな。」

 

 彼女の正体についてだ。

 彼女は何度尋ねてもはぐらかされたりスルーされたりする。彼女と出会ってもう1年が経とうとしており、彼も何かしらの苛立ちを感じていたのだ。

 

 「書類見たぞ。既に一体の魔王、堕天使エルギオスを倒したんだってな。」

 

 その言葉に彼女は背を向けたままピクリと身体を跳ねさせる。

 

 「もしかしてお前、俺が死ぬほど嫌ってる王国騎士じゃ───」

 

 「一緒にするな!」

 

 彼女は初めて怒鳴った。ビクリと身体を硬直させる。

 恐る恐る書類から彼女に視線を移すと、今にも泣きだしそうで、今にも噴火しそうな怒りの2つが見えた。

 

 「……一緒に、しないでくれ。」

 

 ガズロとマーリンがこれ程までに拒絶するのには理由があった。

 王国騎士達のほとんどはその権力を乱用している。そもそも騎士というのは貴族でもない平民がなれる最高の職業であり、それを目指すものも皆一様に腐っているのだ。

 しかし王の彼らへの信頼は厚く、誰が何をしようと王は騎士達を疑わない。故に彼ら騎士達は好き放題しており、遊ぶ金が欲しいからと金を奪い、暇だからと平気で人を陥れる。

 彼らが嫌悪するのも無理はない程に腐り切った者達なのだ。

 

 「………悪い。」

 

 ガズロは踵を返して部屋へと戻って行った。



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知られざる過去3

 彼らの関係がギスギスしだして3日ほど経ったある日、ガズロはマーリンにひとつの課題を出された。

 

 『どれだけ時間をかけてもいいから一人でギガントドラゴンを倒すこと。』

 

 ギガントドラゴンは、いや魔物のドラゴン族は基本的に戦士達の登竜門だと言われている。何日もぶっ通しで戦い続けて初めて勝てるかもしれないという、集中力と体力、そしてギガントドラゴンの生命力を削りきる力を必要とされる。

 だが、本来は数人がかりでやっと倒せる相手。それをあえてガズロには一人でという条件を課せた。

 

 「……それだけか?」

 

 「ああ。」

 

 その証拠として、奴のコアである竜玉、もしくはその欠片を持ってこいと命じた。

 

 そしてガズロは渋々ながらギガントドラゴンの元へと向かった。

 

 「………いた。」

 

 感情を押し殺した声で呟く彼の目線の先には、腹を除く全身が緑の鱗で覆われた巨体がノシノシと広い岩場のど真ん中を歩いていた。

 肩から伸びた太い腕、腰から生えたたくましい尻尾。そして何より人の何人分はあろうかという大きさ。そのサイズは身長の高いガズロの五人分。中々のサイズである。

 

 全てを観察したガズロは一呼吸おいて大きく吠えた。

 

 「ライデイン!」

 

 『!?』

 

 ギガントドラゴンが声に振り返るより早く、ガズロの手より放たれた雷がギガントドラゴンの鱗を焼いた。

 

 『ッ、ガアアアアアアアッ!』

 

 ドラゴンは高らかに雄叫びを上げる。貴様がその気ならば、と吠えるように。

 

 咆哮が終わると同時にギガントドラゴンの裂けた口から三発の火炎弾が放たれる。これを巨大な氷塊をヒャドを唱えてぶつけて相殺する。

 隠れていた時から一転、ギガントドラゴンの元へと一気に距離を詰めに行く。近距離では分が悪いと見たのか、ギガントドラゴンは大量の火炎を吐き出して近接戦闘を拒絶する。予めフバーハという対ブレス魔法をかけていたおかげで火炎ブレスのダメージはゼロで済む。

 

 「おおっ、らあああっ!」

 

 片足で大きく踏み切り、高く跳躍して重力を味方にドラゴン斬りを叩き込む。でっぷりと突き出された鱗に覆われていない腹の分厚い皮を斬り裂いていく。

 斬り裂かれた腹から内臓が見えるかと思えば、吹き出した血を避けて覗きこんでみても、見えるのはただ血が吹き出すだけの皮。どうやら斬り裂けたのは表面の一部だけだったようだ。

 

 「浅い!」

 

 『ガアッ!』

 

 そうこうしているうちに、ギガントドラゴンはその巨体を軽く弾ませると、両の巨腕を一気に振り下ろしてきた。

 慌ててその場から離れ、後方で鳴り響く大地が砕かれる音を聞きながら背筋を凍らせる。

 

 「さすがのパワーだなおい!」

 

 ギガントドラゴン、舐めてかかってはいけない敵だと改めて認識させられたところで、如何にして戦うか。それを考える。しかし出てくる案は結局。

 

 「………っ!」

 

 『ガアッガアッ!』

 

 奴にないもの、すなわちスピードで翻弄するしか思い浮かばない。

 ギガントドラゴンの剛腕を避けながら彼は頭の中で即席で組み立てていく。

 そして組み立て終わり、彼はさらに加速する。



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知られざる過去4

 「………倒し、た?」

 

 焼け焦げた大地の中、彼は一人意識も朧気に呟く。その身体は今すぐに倒れてもおかしくない程のダメージを負っており、頼りなく風にすら揺られている程だ。

 そんな彼の目の前では、猛威を奮っていたギガントドラゴンの巨体がサラサラと空気中に溶けていた。

 やがて巨体も見る影をなくし溶け切った後には、おおよそ魔物の核とは思えぬサイズの竜玉がコロコロと足元に転がってきた。

 ガズロはその竜玉をしかし拾い上げると、ポーチにしまい込みふらつく足に鞭打ちマーリンの元へと帰って行った。

 そしてギガントドラゴン討伐にかかった時間は、なんとたったの5時間。平均の2日を遥かに超える速さだった。

 

 「……ただいま。」

 

 未だ言い慣れぬ帰宅の言葉を口にしながらドアを潜る。だが家に明かりはついておらず部屋は真っ暗だった。

 はてな、と思い魔石灯のスイッチを入れると、自分以外のいない静かな部屋が煌々と照らされた。

 

 「………マーリン?」

 

 冷静にしようとする思いとは裏腹に焦る心を宥め透かして、自分の拾い主である彼女の名を呼ぶも、声は虚しく部屋に響くばかりで彼女の明るい声は返ってこなかった。

 ふと視線を落としてみると、食卓の上には何やら彼女が書いたであろう字の汚い書き置きが残されていた。そこには。

 

 『ガズロがこれを見ているということは、きっと私よりも先に貴方が帰ってきたのでしょう。私は諸用により少しの間家を開けます。心配せずともすぐに帰ります。』

 

 最後にはミミズがのたくったような文字で彼女の名が走り書きされていた。

 どうやらよっぽど急いでいたようだ。ガズロはあまり気にもとめずベットに横になった。

 

 それから二日後、彼女は帰ってきた。変わり果てた姿で。

 

 「………マー、リン?」

 

 右の腕は肩からなくなっており、肩口には包帯が巻かれていた。左脚はもともと義足だったのか、無残に食いちぎられたであろう断面がぐちゃぐちゃになった義足がプラプラと垂れ下がっていた。

 

 「…………ガズロ?どうして、泣いてるの?」

 

 ガズロは自分でも気づかないうちに泣いていた。涙は頬をつたい、ポタリと床に落ちた。

 

 2人が再会したのは、ギルドの病院の一室。マーリンは動くことも出来ない状態で担ぎ込まれたのだ。

 再会するなりマーリンはガズロに尋ねた。『大丈夫だった?』と。

 

 「……死ぬのか。」

 

 「……うん、そうみたい。」

 

 同行していた者の話によると、魔王が手を組んでいたのだという。デスピサロとゾーマの二体が手を組み、マーリン1人を切り離して二人がかりで来たという。

 やっとの思いでマーリンの元にたどり着いた時には、二人の魔王は血溜まりに沈んでおり、マーリンも同様に沈んでいたという。

 ここで死なせてなるものかと様々な手段を用いてやっとこさここまで連れ帰ってきたらしく、帰ってきた他の者達は戦いの疲れよりも魔力消費の激しさに疲れていた。

 

 「………まだ全部習ってねえぞ。」

 

 「もう教えることはないよ……。強いて言うなら、恋愛、しなさい…。」

 

 彼女は最後にニヤリと笑うと息を引き取った。



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言えぬ過去

 「そっからはまた今度な。」

 

 「あっ、う、うん。」

 

 寝るように促し、俺もベットに横になった。しかし改めて考えるとアイツの真意がわからない。マーリンは何故俺を拾って、俺を鍛え上げたのか。

 おそらく考えたところで俺にはわからないだろう。なんせ俺は俺だしマーリンはマーリンだ。

 そこまで考えた辺りで俺は眠りに落ちた。

 

 

 

 気づけば朝が来ており、外では小鳥がさえずっていた。眠るのをやめて上体を起こす。

 キッチンからは既に暖かな優しい香りが漂っており、ベルが先に起きていることを知らせてくれる。

 

 「あっ、起きた?」

 

 「おう。へスティアは?」

 

 「まだ眠っているようです。」

 

 そうか、と短く返して机に置かれたコーヒーをズズズとすすり、口の中に広がる苦味を楽しむ。

 そこでベルに目をやると何か言いたげな顔をしていた。

 

 「どした、ベル。」

 

 「あ、いや、なんでもないよ。」

 

 ベルは俺の追求を振り切るように背を向けてキッチンで目玉焼きを焼きはじめる。本人が言いたくないなら追求する気もない。

 

 「今日はどうする?」

 

 「うーん、そろそろエイナさんに中層の許可を貰おうかと思うんだ。」

 

 中層。上層とは大きく異なる世界。曰く意気揚々と乗り込んだルーキーが死にかけて帰ってきたとか。曰くベテランの冒険者を死に至らしめたとか。

 とにかく上層とは色々と話が変わってくるところだとは聞いた。(何度も行ったことあるけど。)しかしベルには早いどころか遅すぎると思う。こちらては安全が優先されるとはいえ、本来であればレベルが1でも問題なく行けなくはないと思うのは俺だけだろうか?

 そうこう考えているうちに、目玉焼きが焼きあがったらしくトーストにチーズと目玉焼きを乗せた簡易的な朝ごはんを出される。

 

 「で、ガズロはどう思う?」

 

 「いいんじゃね?」

 

 ベルの不安そうな問いかけにあっさりと答える。ベルはまるで拍子抜けだと言わんばかりに驚いた顔をしてみせる。そんな顔されてもそれ以外言うことねえよ。

 

 「ほ、ほんとに?」

 

 「こんなことで嘘つくかよ。」

 

 そう言うと、ベルは飛び跳ねて喜んだ。いや比喩じゃなくて。

 どうやらギルドの受付嬢は俺の判断を仰ぐように言ったらしいな。無駄に真剣な顔してたのはそれか。

 俺の言葉を聞いたベルは未だに飛び跳ねて喜んでおり、俺の言葉でようやくおさまった。

 

 「ご、ごめんね。嬉しくてつい…。」

 

 ついであんなことされてたまるか。何回パンが飛びそうになってたと思ってやがる。

 

 だが、この時引き止めていればこの後の悲劇を防げたかもしれない。



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