MONS‐THE KAIJU GUYS- (神乃東呉)
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再会の兄妹

かつてこの世界には「怪獣」と呼ばれる巨大な生物がいた。
動物、植物、異星人と様々な怪獣たちが存在していた。
怪獣に対抗する「光の巨人」と「人類」によって平和を勝ち取って数十年――
かつての怪獣の魂を持つ者が存在していた。

――これは怪獣の魂を受け継いだ者たちの物語である。


 少女の夢は見る。

 赤き巨人と牛のような怪獣と銀色のロボットのような怪獣

 彼女の役目は赤き巨人が戦えない代わりに戦い続けるという不思議な夢

 やがてそれだけに止まらずどこかの星の緑あふれる場所で同族らしき生物とそこから見える光の星。

 だが次第に視界は黒く薄気味悪くなる。

 自分の周りには自分と同じ怪獣と多数の戦艦と赤き巨人と銀色の巨人様々な体色の巨人が多数、目の前には敵怪獣らしき存在と円盤、宇宙人、激しく戦い火花散り次々と仲間の怪獣たちが倒れていく。

 悲しく辛く逃げたい衝動、やがて自分も負傷してしまう。

 絶望の中で息が苦しくなる中、自分に止めを刺そうとする者が黒い怪獣によってその太き尻尾で吹き飛ばされた。

 自分でさえ歯が立たない存在を羽虫の如く薙ぎ払い、その怪獣は悠々と前へ前進する。

 その怪獣を筆頭に多くの怪獣が進軍していく。

 やがて戦いに勝利し誰も彼も怪獣も巨人も黒き大怪獣にひれ伏す、さながら怪獣の王が如し面構えとその眼光から光線の如く降り注ぎその王の偉大さを物語っていた。

 次第に虚ろになり赤き巨人に寄りかかり眠りにつく。

 

 今度は怪獣ではない自分、人間の自分。

 立っている場所はいつも悩むと来る河川敷

 その先には後ろ姿の男がボクサーバックを片手に立っている。

「いつ帰ってくるの…」

 少女は投げかけた。

 男からは返事はない。相槌もない。ただひたすら立っている。

 やがて歩き始めたと同時に彼女は男を止めようと追いかける。

「待って!!待ってよ!」

 男は待たず歩く歩くひたすら歩く。

 こっちは走っているのに追いつかない。

「待ってよ!お兄ちゃん!!」

 そのまま転び転落するように落ちていく。

 その瞳には彼女が兄と呼ぶ男の後ろ姿が映る。

 

 やがて目が覚める。自分の部屋、自分の机、自分の窓、夢の中の戦場でもなければ、河川敷でもない。

「またボク…夢を見たのかな…」

 おぼつかない意識の中、彼女は起き上がり着替え始めた。

 彼女の名は宮下アキ、カイジューソウル『アギラ』の魂を宿す高校1年生のイマドキの女の子だが年寄りくさいのが玉に瑕な悩める年頃の子である。

 台所に入ると日曜あってか誰もいない家、祖父母がいるはずの台所には二人は老人会に出向くと言う内容の置手紙とネットの被った食事。

 テレビの無いアキの家には静かに時計の秒針が毎秒一定のリズム刻み進みながら一人食事を済ませる。

「今日もGIRLSの方に顔を出そうかな…」

 彼女の今日の方針が決まり食器を片付け、日曜にも限らずいつもの学生服、やや大きめのベージュのセーターに弛ませた黒ソックス、飾り気のない出で立ちで準備ができ、そのまま出ようとすると「いっけない」と言い、写真縦の若年の女性に手を合わせる。

「行ってきます」

 そう告げると扉を開け出かけた。

 

 電車を乗り継いでGIRLS東京支部近くの駅で降り改札に電子パスを翳し支部の方に向かう。

 

 『GIRLS』

 

 世界各地で確認される怪獣の魂を持つ少女たちを中心に国連の指導の下、『怪獣娘』の保護・カウンセリング・研究・生活保護・教育など様々な活動と謎の敵『シャドウ』の動向の監視と掃討する目的で結成された『怪獣娘』のための組織である。

 支部の自動ドアが開くと女性隊員たちと受け付けや電工のパネルが幾つか、そこには過去の怪獣のシルエットやら写真やら一階は一般観覧用のブースや売店、大怪獣ファイトの告知チラシなどが多く見られた。

 国際怪獣救助指導組織と位置付けられるが多くは大怪獣ファイトなどの興行やボランティア活動、中にはモデル、ファッション活動など幅広く怪獣娘が活躍していることもあって多くの人に知ってもらおうとある種の怪獣と言うカルチャーの観光地として東京支部は連日お客が絶えない。

 特に今日は日曜もあってか来客が大勢来場しており中には観光外国人のツアー客もいた。

 大勢の来客をすり抜け何とか関係者用エレベーターに乗りGIRLS支給のソウルライザーを読み取りパネルに翳し指定する階のボタンを押しエレベーターが動き出す。

 押した階に着くとGIRLSの資料室にアキは足を踏み入れる。

 中は図書館のようになっており怪獣の資料や記録が見ることができる。無論、館内では静かにするのが鉄則。

 ここはアキにとって憩いの場でもあった静かで心落ち着く場所を何よりも好む。

「やっほーアギちゃん!!」

 静かで心落ち…着く?

 飛び込んできたのはゴモタンことゴモラであった。

「もーアギちゃんは可愛いなーー聞いてよーエレちゃんもピグちゃんもみんな忙しいって相手してくれなくへんー寂しいよーゴモタンは寂しいと死んじゃうよー」

「何でボクなのさ…」

 何度も唐突にやってくるゴモラに慣れた様子で受け答えた。

すると、続いていつもの仲良しの二人ミクラス、ウインダムことミク、レイカがやって来た。

「ヤッホーアギちゃん!」「おはようございます、アギさん」

もともとこの三人は資料によると赤き巨人「セブン」のカプセル怪獣と言うこともありまた同時期にGIRLSの隊員になった仲である。

「これからお昼にカフェに行くけどアギちゃんとゴモタンも行く?新しく新作のスイーツができたらしいからみんなで行こうよ」

食事の誘いにアキは頷き

「うん、行こう」

「ごめーん!うちパス、試合近いからこれから練習なんだー、アギちゃんからかいに来ただけ」

「ええー、もうそんな理由で来ないでよー」

 ゴモラは平謝りで軽く済ませその場で三人と別れてった。

 

 

 

  神奈川県 横浜港

 

「なっ何がどうなっているいだこれは」

 それはいつもの横浜港ではなかった。神奈川県警の捜査一課が目にした光景は異常なものであった。

 黒く塗りつぶされた密航船と思われる船舶内は酷く損傷してまるで内部で猛獣が暴れたような爪跡と船員の血だまりそして遺体、だが刑事が驚いたのはこの船舶を中心に周辺で“何か”が“何か”と戦って荒れた後がくっきりと残っていた。

「俺は専門家じゃないけどライオン、トラ、そのどれとも違う…なんなんだ、このバカでかい爪跡は」

 船体についている爪跡に触れますます疑問が残るこの状況、生存者0、遺体の死亡推定時刻から考えて深夜にこの漁港に着き中の荷物が暴れ飛び出し惨殺。

「お待たせしました。GIRLS調査部の湖上です」

 突如、世間で話題のGIRLSの制服を着た女性がやってきた。

 あまりにも異常事件のため警視庁上層部は正式にGIRLSに調査依頼に方針を切り替えたため実質、警視庁とGIRLSとの合同捜査となった。

「あなたが例のGIRLSさんの、ああっ神奈川県警捜査一課の堀口です。まあ船舶の方はお嬢さんにあんまり見せられませんが、問題はこいつですな」

 堀口がそう言うと地面にまるで何かをたたきつけたかのような小さなクレーター上のへこみを指さした。

 すると彼女はスマートフォンらしき機械を取り出しイヤホン穴に伸縮する手持ちのアンテナをさし何かを調べ始める。何やら数値らしきものが上げ下げなる中、彼女が、

「間違いないわ、ここで一度シャドウが現れた形跡がある」

 何が何だかわからないが『シャドウ』その言葉に聞き覚えが堀口にはあった。彼女のようなGIRLSの怪獣娘にしか倒せない化け物、そんな化け物がこの船舶の『荷物』と戦ったのか頭をよぎらせた。

「でもおかしいこの数値、明らかに倒され消滅したのかしら…この船舶の乗組員は?証言者はいるんですか?」

彼女の質問に堀口は船舶内の状況等を伝えた。

「そうですか…わかりました」

 堀口は気乗りしないながらも少女にある程度伝えたが彼女はいたって冷静であった。堀口にも同じ年頃の娘がいるがそんな子がこうまで冷静なのがかえって不気味にも感じた。

 すると突然黒服の男たちがやってきた。堀口が着ているスーツとは明らかに違う格好の集団が船舶内に入り鑑識やほかの刑事たちを追い返しかってに捜査を始めだした。

「何なんだあんたたちは!かってに何してるんだ」

「我々は地球防衛軍捜査機関のものです。これより当現場は我々の捜査管轄に入ります」

 突然のことに堀口は戸惑った。

「誰の権限でそんなこと…」

「これは日本政府直々の指示です。あなた方は速やかにここから離れてください」

 言い返す言葉はいくらでもあったが捜査員のあまりにも死人のような目に堀口は返せなかった。

 

 

 

 GIRLS 東京支部

 

モニターに湖上の顔が映り彼女は状況を説明した。

「現場からシャドウの痕跡が見受けられたけどすでに何者かによって殲滅されていたわ」

 それを聞いていたGIRLSの指導係兼マスコット的存在『ピグモン』こと岡田トモミは驚いた。

「シャドウが!?すでに倒されていたのですか」

「わからないわ、すでに何者かによって倒されていたことは間違いないわ。もう少し調べたかったけど現場調査が地球防衛軍の捜査機関に管轄を移されいま追い出されたところよ」

 シャドウがすでに倒されていたことにトモミは驚いたが何より現場に地球防衛軍が介入したことにも彼女は驚いていた。

 いくら国連傘下のGIRLSとて国連組織内においては規模が小さく地球防衛軍のような大規模組織の介入があれば立場的に厳しいのが現状である。

 しかし、その地球防衛軍が今回の事件に関わるということは、事態はそれだけ重大な何かがあることを意味する.

「わかりました。とにかくエレエレは引き続き調査をお願いします。ほかの怪獣娘の皆さんにも準警戒態勢を取らせます」

 トモミはすぐさまパソコンで他の怪獣娘の持つソウルライザーに緊急で準警戒態勢のメールを一斉送信しようとしたその時、シャドウ出現の一報が入った。

 

 

 

 カフェ GALAXYDAYS

 

 GIRLS東京支部の近くにある喫茶店でまた怪獣娘たちがよく利用するため彼女たちの憩いの場となっているこの店でお茶をしていた。しかし、束の間の平和は彼女たちの休息を待ってはくれなかった。

「すぐ近くでシャドウが出たって!」

 突如、カフェから数㎞先にある駅でシャドウ出現警報の緊急テロップがカフェの備え付けのテレビに流れた事にミクが気付いた。

 すぐさまソウルライザーにトモミから出動要請が入った。

「お休み中すみません。三人とも今すぐ現場に向かってください。後でそちらに私とほかの増援も向かいます」

 三人は息を合わせるように了解した。

「ミクちゃん、ウインちゃん、行こう!」

 「はいっ!」「おおっ!」

 すぐさま店を飛び出し三人は現場に急行した。

 

 

 環状線 線路内

 

 三人が現場に到着するや否やシャドウが現れた。

「「「ソウルライド、アギラ、ミクラス、ウインダム!」」」

ソウルライザーに触れ三人が光に包まれフード型のエリマキ、複数のツノや、メタリックなトサカなどが現れ少女たちは膜を破るように光を突き抜け怪獣娘の姿に変身した。

 すかさず変身した三人はシャドウとの戦闘が始まった。

 アギラは得意の瞬発力を活かした突進で牽制し、ミクラスは怪力でシャドウをねじ伏せ、ウインダムは額からのレーザー光線で狙撃する。

 しかし、通常のシャドウでは考えられないほど攻撃に味気ない、というよりシャドウたちは明らかに逃げようとしている。

「なんか変だよ、このシャドウたち逃げることに精一杯って感じ」

 直感でミクラスが気付き二人もこの異常に気が付いた。

「確かに変だね。ボクたちに見向きもしないで逃げてく」

「いったいどうゆうことでしょう」

 すぐにゴモラとガッツ星人が現場に到着した。

「お待たせちゃーん!ってあれもう終わっちゃった?」

「さて!さてさて!来ました!私が!ガッツ星人が!ってあれ?」

 彼女たちも事の異変に気付き異変を感じた。

「どうゆうわけかボクたちと戦いもせず一目散に逃げて行ったよ」

 アギラは事の異変を説明した瞬間、全員が同時にトンネル内に悪寒を感じた。

 この環状線は一駅だけ地下に駅が存在しトンネルはその地下に電車車両を収納するための路線が繋がっている唯一の駅でここから切り替えで電車が出入りする仕組みの線路なのだが、ここからシャドウが湧き出たのにもかかわらず、まるで小動物が巣穴を逃げ出した後の様に異様に静かであった。

 

 

 中は乗客がすでに逃げたためピーク時の普段の駅とは思えないほど静かであった。

怪獣娘たちは非常用のライトを手にウィンダム先頭に進んでいく。

「なんで先頭が私なんですか」

「じゃんけんで決まったから」

 怖がるウインダムをよそにアギラたちは一列にどんどん進んでいき奥に何か黒い影が見えた。

「ちょっ皆さんあれ!」

 ウインダムはすぐさまライトを照らしてみると

「シャドウビースト!?」

 そこにはコウモリ型のシャドウビーストが横たわっていた。

「うっ動けないのかな」

 アギラが気にしていると突如シャドウビーストが弱々しいく泣きわめき始めた。

 するとシャドウビーストが何者かに引きずられていった。

「ちょっウソーォ!?しゃっシャドウビーストが」

 驚くミクラスたちの横の反対線路側で物音がしてすかさずガッツ星人がライトを照らす。

「だっ誰!?」

 ライトを照らした瞬間、さっきのシャドウビーストを喰っている化け物がこちらに気付いた。

「キシャアアアアアアアアアアアーーーーーーーー!!」

「キャアアアアアアアアアアアアーーーーーーーー!!」

 大急ぎで駅のホームから降りてすぐに外の方へみんな走っていった。

 追いかけるかのようにシャドウ喰いの化け物が後を追う。

「なにあれなにあれーー!!」

「わかんないよーー!!」

「とにかく出口まで走るでぇーーー!!」

 光が見え始め何とか逃げ切るがトンネル内からその怪物が姿を晒しだす。巨大で真っ赤な目、黒い爬虫類状の皮膚、鋭い爪、何より通常のシャドウの第二形態と言われるシャドウビーストの羽をむしゃむしゃと喰っている。

 思わず嗚咽するウィンダム。自分たちの敵であるシャドウを喰ってるそいつはまさに凶悪そのものに感じ取れた。

 すると他の怪獣娘、レッドキングとエレキングが到着した。

「うぉっ何だ、こいつ!」

「あの生物が横浜に出現したシャドウを…」

 それは二人にも驚愕の現実であった。

「キシャアアアアアアアアアアアーーーーーーーー!!」

 威嚇する化け物はすかさず攻撃を開始した。

 

 

 テナントビル 屋上

 

「あー始まっちゃったかー…さて行きますか “獣装”ゴジラ」

 男は突如、光とともに体を変化させそのまま一番後ろに下がりスタートダッシュとともにビルの柵から飛び出し落下とともに加速していく。

 

 

 

 

 

 化け物に攻撃を加えるも決定打にならずまた素早く動き化け物は捕えづらく苦戦する中、ゴモラとガッツの背後に爆音とともに何かが着地した。

 「今度は何!?」

 すると砂煙の中からまた黒い生物が猛スピードで迫ってきた。すぐ二人は身構えるも黒い生物は二人を見向きもせず化け物に襲い掛かり2匹は転がるようにそのまま激突した黒い生物が馬乗りになり強打で化け物の緑色の血液で拳が染また。

 さっきまで自分たちと戦っていた化け物が突然現れた怪獣娘(?)によって倒されたことに驚愕と動揺は彼女たちに隠せる余裕はなかった。

 そもそもこの生物が自分たちと同じ怪獣娘なのかわからなかった。怪獣娘にしては獣殻(シェル)の部分が全身に及んでおり身長は自分たちよりかなり高く骨格は筋骨隆々で広背筋はその生物の戦闘力を表すかのように広かった。全員の目から見ても明らかに男であった。即ち男の『カイジューソウル』保持者であった。

 男がクルリとこちらを見るとアギラを凝視した。

「えっ!ぼっボク?」

 困惑するあまりアキはさながら肉食獣を目の前にした草食動物が如く恐怖のあまり身動き取れないでいた。

 困惑するアギラに男が近づき化け物の血液で染まった手でアギラの頬をベチャっと触れた。

「ひゃあああ!!!!」

 アギラは突然の事に仰天し、一同も仰天しながらも『うわぁ』と思った。

「お前、アキか!?」

 男が訪ねるとアギラにはその声にこんなことをする人物に心当たりがあった。

「お兄ちゃん!?お兄ちゃんなの!?」

「「「お兄ちゃん!!??」」」

 一同驚愕した。この生物がアギラの兄であることに。

「あっアギさんの…おっおおお兄さんですか?」

 ウインダムが恐る恐る尋ねた。

「あっこれはどうも、いつもアキがお世話になっています。兄のユウゴです」

 丁寧に挨拶をすると背後の化け物が飛び起きそのままユウゴに襲い掛かった。

「「「危ない!!!!」」」

 その瞬間、化け物はユウゴの尻尾に殴られたかのように化け物の横顔が凹み、横へ吹っ飛び壁にめり込んだのを目の当たりにした。

 よく見るとそれはプロレスラーの太い腕のような尻尾で何よりゴモラのような尻尾を使った戦闘をする怪獣娘もいるが、ユウゴの尻尾はそれを遥かに凌ぐ太さでまさに動く鈍器のようであった。

「カロロロロロッ」

 弱々しい鳴きながら化け物は肉体をドロッと溶けていく。

「あっ!ああああ!!しまった!脊髄からマイクロチップ取るの忘れてた!!」

 慌てて化け物の溶けた肉体を触り何かを探し出す。

「あった!!」

 取り出した小型のチップを持つと壊れてたのか粉々に砕けていった。

「ウソー!!これじゃこいつ購入した組織わかんねえじゃん」

 全員なにがなんだかわからない状況に置かれていたがひとまずこの人はアギラの兄で先ほどのシャドウ喰いの化け物を知っていること、そして強いこと。

「まっいいか!変異体探せば」

 何かを吹っ切れたかのように立ち上がり後ろを振り返り

「よっアキ!久しぶりだな、何してたんだ。ずいぶん友達出来たみたいだな。根暗なお前だったから見直したぜ」

「今更なんで帰って来たのさ!ボクに何も告げずに突然のいなくなっといて」

「まあ俺にも事情ってもんがあるんだよ」

「そんなことより何で汚い手で触るのさ!顔汚れちゃったじゃん」

「わりぃずいぶんと印象変わったからよく見ないとわかんなくて」

「わざわざ触る必要ないじゃん」

「まあまあ、いいじゃねえか」

 そう言うとまたしても血液のついた手で今度は頭を撫でようとした。

「キシャアアア!!ボクに触らないで!手を洗って!」

「と言っても洗うものないし」

 そうこうしていると遅れてピグモンが線路に降りてきた。

「すみません皆さん、遅くなりました。皆さんもうシャドウは倒しちゃいましたか?」

 やってきたピグモンにゴモラはとりあえず状況を教えた。

「それがさーアギちゃんのお兄ちゃんがやってきてなんというか」

「ええっアギアギのお兄さんが!?アギアギにお兄さんがいらっしゃったなんて驚きです、どんな方ですか?」

 ゴモラが指を指した方向には怒るアギラと邪悪な怪物が目の前にいるようにピグモンには見えた。

「キャアアアアアア!!!!あっあっあっアギアギ!!いいい今すぐははは離れてください!!しし新種のシャドウです!!!」

 取り乱したピグモンにミクラスとウインダムは止めにかかる。

「落ち着いてピグモンさん!」

「確かに黒いですけどシャドウじゃありません!!アギさんのお兄さんですよ!!」

 ピグモンには俄かに信じがたい状況であった。アギラの二倍近い身長のこの生物がアギラの兄であることが、何より一番理解しがたいのは怪獣娘ではなく男性がカイジューソウルを宿していることに。

「皆さんの話を整理しますとシャドウビーストを捕食した怪物をこちらアギアギのお兄さんが退治してくれたと」

「はぁ…まぁそうなりますかね、ああっ初めましていつも妹のアキがお世話どうもありがとうございます」

 ユウゴは物腰柔らかくピグモンに挨拶をした。

「いえいえ、こちらこそ。丁寧にありがとうございます、でも突然なのですが」

 そう言うとピグモンはユウゴの両手首にGIRLS製対怪獣娘拘束用手錠をはめた。

「ありっ?」

「申し訳ありませんがあなたを一度拘束します。大変異例ではありますが、今一度GIRLSでの事情聴取のためご同行願います。」

 それはさながら手錠はめられ護送前の凶悪犯そのものであった。

「お兄ちゃん…」

「心配するな。俺は逃げも隠れもしないよ、んじゃ行きましょうかピグモンさんとやら」

 数分後、GIRLS専用の護送車両が到着しアギラはもどかしい心境の中、自分の兄が護送さて行くのをただ見届けるしかなかった。

           

 

 

 

 

 GIRLS東京支部 聴取室

 

 GIRLS東京支部には様々な部屋が設けられている。

 怪獣娘のための講義室、トレーニングルーム、シャワールーム、休憩室など幅広く設けられてはいるが無論、発見された野良の怪獣娘を一度保護し暴走した時の経緯を聞くためこの聴取室が設けられているが、今回は特に異例中の異例なため何とも怪獣娘とはとても言いがたい存在を招き入れたのは今回が初めての事のため聴取役としてピグモンとエレキングが万が一のため怪獣娘の姿で事情聴取が始まった。

「それでは、まずあなたのお名前とご職業は?」

 それの質問にいまだ怪獣の姿でいるユウゴが答えた。

「宮下ユウゴ、職業と言っても雇われの怪獣人間かな」

 苗字は大方予想していたアキと同じ苗字であったが、何より気になったのは彼が自分を『怪獣娘』もしくは『カイジューソウル』の保持者などと言わずあえて『怪獣人間』と呼称するところをそれまで彼がいかに自分の現状の状態をある程度は認識しているかが窺えた。

「それでは、あなたにいくつか質問します。まず、あなたのカイジューソウルはどこまで把握しているのですか」

「んんーとりあえず『ゴジラ』って言う怪獣が俺のカイジューソウルらしい」

 それはあまり知っているようではなかった。ただ名前を知っていると言う感じであったが、すぐさまピグモンは手持ちのデバイスパッドで調べたが『ゴジラ』と言う怪獣の該当はなかった。

 怪獣であることは間違いないにもかかわらずその『ゴジラ』には何の手掛かりもなかった。

 ピグモンは次の質問に移った。

「あなたはいつから怪獣の魂の発現に気付きましたか」

「3年くらい前かな…長いこと日本に離れたけどまぁなんというか…悪いがこの質問には黙秘させてもらう」

 ユウゴ改めゴジラはこの質問には答えなかった。

「かまいません。これはあくまで任意の聴取ですのであなたには黙秘権があります。答えられなければ答えなくてもかまいません」

                

 聴取室前

 

 GIRLSの聴取室とはいえ怪獣娘を事実上拘束して保護するが、少女の親族関係者に現状を知ってもらうためマジックミラーを取り付けガラス越しで見えるようになっている。

「にしてもアギちゃんにお兄ちゃんがいたなんてしらなかったなー」

「別にボクは隠してたわけじゃなかったけどボク自身お兄ちゃんがカイジューソウルを持つ人間だったなんて知らなかったから、実際声でようやくわかったくらいだし」

「でも声だけで分かったなんて凄いですアギさん」

「もーうお兄ちゃんがいたなんてアギちゃん水くさいなー」

 ゴモラこと黒田ミカヅキはアキに抱き着き頬を突っついた。

「わわわっゴモタン」

「別に家族の事とか自分以外の人間に教える必要ないでしょ、そういうのってなかなか語るほどの事でもないし」

 悟るように語るのガッツ星人こと、印南ミコをよそにアキは自身の兄について語った。

「ボクもお兄ちゃんの心中はよくわかってないんだ。どうして3年前に突然いなくなったのか、お兄ちゃんとボクとは考え方も人生観もまるで別人のように違うから、兄妹なのにおかしいよね」

 アキの表情はとても安らかではなかった。久しぶりの再会を果たした兄妹なのにこうも悲しい顔をするアキに全員の内心は困惑していた。

 

 

 

「ピグモン、次変わるわ」

 エレキングはピグモンに交代するように告げた。

「エレエレ、わかりました。交代して次は彼女の質問に答えてください」

 変わって次にエレキングの聴取に入った。

「あなたの倒した化け物、そして今朝方に横浜港で発見された無国籍の船舶、この船舶内にあった『荷物』と周辺で出現したシャドウと戦闘、横浜市内の防犯カメラ8台にその姿は確認されているわ。早速ながらこの生物は何者なのかしら」

 エレキングは今朝、自分が調査しことを告げゴジラは正体を語り始めた。

「MonsterOrganicNitroSeries通称MONSと言う生物兵器だ。特にこのチュパカブラ種のMONSは紛争地帯では最もスタンダードな兵器で末端価格は日本円で約10万前後、今回日本に上陸したチュパカブラ種は改良されたタイプで災厄をもたらす『シャドウ』を喰ってしまうことから『ShadowEaterType』SE型っていう新種だ」

「MONS?初めて聞くわ」

「俺はこの『MONS』を駆除するように要請されて日本にきた」

 エレキングには自分達以外に『シャドウ』のような存在がほかにもいることに何より信じ難い現実に押しつぶされそうな心境であった。

 しかし、仮に彼のような怪獣の魂を持つ男性が存在していることが国際怪獣救助指導組織たるGIRLSの情報にないことに非常の事態の追及を国連にしなければならない許しがたい事実であった。

 即ち、国際怪獣救助指導組織たるGIRLSとしての立場をよそに裏で情報操作がなされていたことが明白なのだが、仮に情報操作がなされているならばなぜ彼はここまで自分の知っている情報をしゃべるのか、黙秘した部分は個人の事情であるがしゃべった部分はあまりにも重要視する内容ながら彼の中でその事実が別に特別ではないことを指していた。

 つまり彼はどこの組織にも属さないフリーの傭兵のような人物であることが窺えた。

「そろそろ腹が減ったなー、ここ食堂とかあるだろ」

「いいえ…すぐ近くにカフェがあるけど、でも今は聴取中よ」

「かつ丼とかないのか?」

「ないわよ。警察ではないから」

 すると、ゴジラは立ち上がり出した。

「まっ待って下さい!まだ聴取は終わってませんよ!」

 慌ててピグモンは止めに入った。

 エレキングはすぐさま後ろにある自身の武器を持ち構えた。

「ピグモン…押しなさい…」

「でっでもあれは非常用の…」

「いいから押すのよ!!」

 エレキングは剣幕を張りピグモンに何かを押すように指示した。

「はっはいい!!ごごっごめんなさい!!」

 勢いに負け手持ちのデバイスパッドに“Danger”のマークを起動して、その中にあったボタンをすぐさま押してしまった。

         

 『GIRLS製対怪獣娘拘束用手錠』

 

 狂暴化及び暴走した怪獣娘に取り付けるための拘束具。

 シャドウガッツ事件以降開発が進められ、この手錠はその最新式の代物で一度拘束すると解除するまで外れず、暴れだしたとき用に非常用に手首から電流を流す仕組みとなっている。

 従来スタンガンなどで使用される護身用電気武器には低電圧で5万ボルトが主流とされている30万から50万ボルトとなると服の上から使用を義務付けられる。

 しかし、怪獣娘に使用するため『獣殻』(シェル)から皮膚に到達するまでの電圧を考慮して設計されている。

 その電圧、実に110万ボルト、一般用の2.2倍。

「?…どうかしました」

「えっ?あれそんな確かに押したはず」

 ゴジラは平然としていた。110万ボルトの電圧が彼の体を襲ったにもかかわらずなに事も無い。

 手首にはバチバチと音がしたがスタンは一瞬でしか発動できず安全のため連発での発動は制限される。

「フン!!」

 手首の手錠は見るも無残に崩れゴジラの手首を解放させてしまった。

「ピグモン!下がりなさい!!」

 エレキングはピグモンに自分の後ろに下がるよう告げた。

 ゴジラはドアに手をかけるが当然鍵がかかっているはずのドアをドアノブごと引っ張った勢いでドアを破壊した。

「開いた」

 唖然とする一同のうち、ミカヅキとミコはしまっていたソウルライザーを構え戦闘態勢に入った。

「いますぐ戻りなさい!」

 ミコは警告を発した。

 しかし、ゴジラは突如深く息を鼻で吸い。

「ふーぅ…下か」

 突如、床を足で叩き始めた。

「ここだな」

 突如、足を高く上げそのまま振り下ろし爆音とともに床に大きな穴が開いた。

 その予想外の状況に一同さらに唖然としてしまった。

 ゴジラはそのまま飛び降り下の階へ

 

 

「ええっと…こっちだな」

 そのままどこかへ向かうゴジラの前にレッドキングが立ちはだかった。

「ピグモンに下で待機するように言われてたが本当に来るとはな…ずいぶんと大きな穴開けてくれたな…今なら引き返せるぜ」

 レッドキングは強気ではあったがそれはこのGIRLSの怪獣娘としての立場の上で害ある存在の身勝手を抑止しなければならないが、本当に自分にこんな怪物に立ち向かえるのか内心悩んでいた。

「君は?」

「へっ…俺はレッドキング。アギラの兄貴だからって手加減はしねぇ…ぜ!!」

 最初に仕掛けたのはレッドキングであった。レッドキングの飛び膝蹴りが不意打ち同然の仕掛けにゴジラは…

 

 

 

 

 

 全員が上の階の聴取室から全員降りてきたが開いた穴の下にはレッドキングが気絶して倒れこんでいた。

「レッドキング先輩!!」

 慌ててミクが駆け寄った。

 大怪獣ファイターであるレッドキングが戦えば何かしら破損したり、レッドキング本人がケガをするなど戦った爪跡が残るはずが何か激しく戦闘した形跡はなくただレッドキングが気絶していただけであった。

「先輩!大丈夫ですか!?」

「うっうーん…なっ何が起きたのか思い出せない」

 ピグモンはすぐにこの階にある防犯カメラの映像をデバイスパッドで確認した。

 それは時間にして3分間の出来事だった。

 レッドキングの飛び膝蹴り、太ももから脛の間の膝から繰り出される攻撃技である。

 熟練された格闘技者であれば飛び上がった勢いからくる膝の衝撃波は実に振り下ろしたハンマーと同じ威力である。特定の物を曲げたりへし折ったりする膝は、まさに人体のハンマーである。

 その飛び膝を手のひらで軽く受け止め人差し指でレッドキングの蟀谷を突き脳震盪を起こさせた。力のレッドキングに対して僅かな意表を突いただけでなく指から繰り出される衝撃で人の脳を揺らすことが異常な強さを表していた。

 明らかな人間業ではない、怪獣の力と人間の小手先の器用差が『怪獣人間』の本来の実力を物語っていた。

「チクショーあの野郎…オレを気遣いやがったってのかよ」

 レッドキングは屈辱を感じていた。それは負けたからではない、大怪獣ファイト初代チャンピオンたる自分を気遣い優しく丁寧に倒したことに腹を立てていた。

「この後この先の方に行ってますね」

 ピグモンは後の映像を確認しレッドキングの先の通路をと通ったことを指した。この先には休憩室があった。

 

 

 休憩室

 

 全員たどり着くとさっきまでの大柄の怪獣人間は存在せず、休憩室に異常は…あった。

 それは一人静かにお茶をしている男がいた。

 GIRLSには女性隊員がほとんどであるためその光景は異常であった。

 身長が190cmあるかないかほどのまるでプロの格闘家のような体格と上は黒のシャツに黒色のズボンに黒い軍用靴、全身一式黒い姿。さらに短髪の黒髪、筋骨隆々を除けば一般的な日本人男性の姿がそこにはあった。

「?…もう降りてきたのか」

 男性は振り向きざまに上にいた怪獣娘たちに気が付く。

「お兄ちゃんなんで勝手にぬけだすのさぁ」

 この男がアキの兄の本来の姿であることが窺えた。

 それは寝ぼけ眼のアキと比べてハッキリとした眼に黒い瞳、先ほどの怪獣体の時とは打って変わって人間らしい顔立ちであった。

「ええー!これがさっきまでのアギちゃんのお兄ちゃんなの!?」

 ミクは度肝を抜いた。何とも先ほどの怪獣とは違いすぎるギャップにミクのみならず全員驚いた。

「何と言いますか…その…」

 言葉が詰まってしまったレイカは何とも言い難いこの兄妹の…

「ぶっちゃけ、アギちゃんとお兄ちゃんって似てないよね」

 ミカヅキは誰しもが言うまいとしていたことをあっさりと言ってしまった。

「ゴモタンさん!!ちょちょそれはーー!!」

「いいよ別に、ボク自身それは思ってたから」

 アキは気にしないように促した。

「んじゃ俺は仕事に戻りますか」

「ちょっ止まってくださーい!!勝手に手錠を壊して聴取室のドアも通路の床も壊して!!ピグモン怒っちゃいますよー!」

 怒っているらしいがピョンピョン跳ねているだけにしかユウゴには見えなかった。

「はぁ…でもまぁこっちも仕事があるんで」

「もう…怒っても仕方ありませんし、あなたを止められる怪獣娘さんもいなさそうなので、でもこちらとしてもあなたの自由勝手を見過ごせません!そこで一人こちらからあなたの監視役をつけさせていただきます」

 ピグモンの提案に全員アキの方を見た。

「……えっボク!?」

 この場で考えられる適任者は妹であるアキが適任であるとみんな考えた。

「アギアギ!あなたにお兄さんの監視を命じます」

「ええー!それってあんな怪物とまた出くわすんじゃ」

「はいー」

「バイオレンスなことになるんじゃ」

「たぶんー」

「嫌だよ!!怖いよ!」

「頑張ってくださいー」

 ピグモンは無慈悲にアキの意見を受け流した。

「ピグモンさん相変わらず容赦ない!」

 ミクは同情からか哀れんだ。

「どうすんだアキ、決めるとこ決めないと変異体は街に出現するぞ」

「どういうこと?お兄ちゃんがさっき倒したシャドウを食べちゃう怪物じゃないの?」

「『MONS』は人間の味を覚えると稀に変異を起こすんだよ。本来なら拒否反応を起こすように設定されているはずが一度でも人間が弱いとわかったら自然と街に現れる。野生動物に知的好奇心が芽生えるように雑食性の変異体になってしまう。早いとこ駆除しないと『シャドウ』と同じく大災害は免れないぞ」

 全員思わず息を飲んだ。シャドウは確かに人的被害を及ぼす。シャドウミストも人間に憑依して狂暴化させる。だがユウゴの言った『MONS』は正しく害獣そのもの。

 そんな怪物が街などに出てしまったら未曾有の大災害は必須であるのは確かであった。

「悪いが時間が押している。こっちも時間が無限にあるわけじゃない」

「ボク…行くよ…他の誰かでなく、ボクがやらなきゃ」

 アキの決心はついた。

「んじゃ行くか」

 一大決心とも言える自身の妹の覚悟に対して何も返答はなかった。

「あっ待ってよ、お兄ちゃん」

「アギアギー頑張ってくださいねぇー」

 全員が見送り先を急ぐユウゴの後をアキは追っていく。

 

 

 GIRLS 東京支部 屋上

 

 ここにユウゴを見下ろす者がいた。

「ゴジラ…荒ぶる神…怪獣の王」

 彼女の名はゼットン。大怪獣ファイト現チャンピオンにして怪獣娘最強の絶対王者である。

 

 

 

 ユウゴは上から誰かが見ていることにすぐに気が付き、上を見上げたがそこには自分を見ていたものはすでにいなかった。

「どうしたの?」

「……いや何でもない」

 

 

 




見せられないMONS~

 化け物に攻撃を加えるも決定打にならずまた素早く動き化け物は捕えづらく苦戦する中、ゴモラとガッツの背後に爆音とともに何かが着地した。
 「今度は何!?」
 すると砂煙の中から着地に失敗して人型の穴が開いて陥没していた。
「みっミスった…着地…」


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向かい戦う

 シャドウ出現地 環状線地下入り口

 

 シャドウ出現とあってか報道陣が立ち並ぶ。しかし、報道陣はシャドウよりもこの現場に地球防衛軍の介入を報道していた。

 環状線入り口は大き目なブルーシートが被せられ両端に重武装をした地球防衛軍兵士が立っていた。

 多くの報道陣が非日常的現状にカメラのレンズを向け、テレビ関係者はアナウンサーを間に挟み、アナウンサーは現状を鮮明に伝える。

 日曜あってか報道は午後のニュース番組に流すVTR用の収録などをするテレビ局が多かった。

 シャドウ出現後の報道はよくあることだが、テレビ局は今回の出現に地球防衛軍の介入が前例のないこともあり現場からは収録とは言え緊張が走っていた。

 パシャパシャと取材陣のカメラマンたちが撮る中、彼女もまたこの話題に飛びついていた。

「横浜での怪物目撃情報に東京環状線にシャドウ出現、そこへ地球防衛軍の介入、ますます怪しく匂うわ…」

 淀川ヒロミ。東都日報でジャーナリストとして怪獣娘の取材をする。かつて大学時代の友人で怪獣娘研究の第一人者である多岐沢マコトと共に怪獣娘と関わり、以来「怪獣娘あるとこ淀川あり」とまで言わしめるほどの人物である。

「しかしまぁ、厳重な装備だこと…M-79メーサーライフルにR-98ハンドメーサー、異常な装備ねぇ…どれも対人向けじゃないオーバー装備…」

 一目見ただけでヒロミは現状の異常さが彼女には、ほかの報道陣の誰よりもわかっていた。

 しかし、ほかの取材陣が一眼以上のフルスペックカメラで撮っている中、彼女だけスマホのフォト機能で写真を撮っていた。

「これで私にフォトの才能があったらなー…おばあちゃんみたいにはいかないなートホホ…」

 落胆して自分のフォト能力の無さを改めて痛感した。

 

 国道沿い 環状線駅東口

 

 こちらはバスターミナルから駅までを封鎖され人通りは完全になく報道陣がシャドウ出現場所である環状線地下トンネルに殺到しているためこちらは打って変わって静かであった。

 するとユウゴとアキが東口に到着しユウゴは兵士に敬礼され、そのまま通過した。

 多少の電光あるがアキには不穏が感じられるほど悪寒があった。

 つい先ほどとはいえ化け物との戦闘後とあって、まるでお化け屋敷に入るような緊張と恐怖がアキの全身を駆け巡っていた。

「やっやっぱりこうまで人がいないと駅も薄気味悪いね」

 アキは素朴な会話を少しでもして気を紛らわせたかった。

「そうか?よくわからん、駅とかあんまり利用しないから」

「お兄ちゃんの学校って前の家から近かったもんね…」

「まぁな」

「「………」」

 結局会話は続くはずもなく二人はやがて沈黙する。

 しかし、アキは耐え切れず心の内に秘めていたある疑問を投げかけた。

「…ねぇお兄ちゃん…どうして急にボクの前からいなくなったの…」

 アキはとうとう耐え切れず沈黙を破りユウゴに問いただした。

 アキにはユウゴの3年前からの心意を確かめたい気持ちでいっぱいだった。

「………」

 ユウゴからの返答は何もなかった。

 それでもアキは質疑を止めたくなかった。

 アキは歩を止め、再度質問をした。

「……3年もどこで何してたのさぁ」

 アキの問いにユウゴも歩を止めた。

「……お前…怪獣の魂を自覚した時、何を思った」

 質問を質問で返されると同時にどこからか雫がしたたり落ちるのをアキは感じた。まるで悲しき涙のように。

「ボクが怪獣の魂を自覚した時…」

 アキは考え三つ思い当たることを答えた。

「突然叫びたくなり、軽い傷ならすぐに治ったり、力が増して加減できなくて物を壊したり」

「やはり違うな…確かに俺にもその三つは当てはまる…でも肝心なものが一つある…」

「何?」

「…戦いを求めてしまうことだ。どんなに否定しても戦うことを止められない狂ったように血迷い自ら危険地帯に足を踏み入れる。俺以外にもそんな奴らがたくさんいる。何もそれが『怪獣』だからじゃない。人間も怪獣も本質は同じ戦いにあることを俺は学んだよ」

「戦い…」

「お前も見ただろあの『MONS』を…あれは怪獣と人間の血塗られた業の慣れの果てだ…あいつらも元は動物だったが怪獣の業に汚染され怪獣にもなれず動物にも戻れずにやがて人に使われ兵器化した姿だ…『シャドウ』も近いうちに人によって兵器化するだろう…もっとさかのぼれば怪獣だって似たような境遇だ」

 アキにはユウゴの言っていることがわからなくもなかった。確かに怪獣の多くは人類の何らかの影響で出現した者もいること、特にアキの『アギラ』のいた時代はそう言った記録のある怪獣がほとんどだったからである。

「でも…ボクは怪獣になれてから良い事だってあったよ。ミクちゃんやウィンちゃんに会えたし、ピグモンさんにだっていっぱい褒められたし、ガッツの強いとこも弱いとこも感じた、何より憧れる人が、ゼットンさんがカッコイイって思えたからボクは怪獣に、怪獣娘になれたんだ!」

 アキは必死で訴えた。怪獣であることもそれほどに悪くわないことを。

「お前は変われたんだな…自分を」

「うん…お兄ちゃんだってきっと…」

「やっぱりお前ら『怪獣娘』は純度が低い」

「えっ?」

「低いからこそ人間らしい考えでいられる。お前も見ただろ、あの時の俺の姿を…あれが『怪獣人間』の本来の姿だ。獣殻(シェル)の部分が全身まで広がって、骨格は大きく、力なんか倍の倍、俺はそんな溢れる力を抑えるためにお前の元を離れたんだ…3年間も人間じゃなくなるとさえ思いながら、でも俺は克服した…変わったんじゃない、モノにしたんだ。もう誰も傷つかせないために、三年前のあの日から…」

「お兄ちゃん…」

 ピシッ 横の壁から何かひび割れるような音が入った。

「!?――アキ!!」

 その瞬間、アキはユウゴに突き飛ばされた時、横から壁が吹き飛び、その大きな壁の破片がユウゴを襲った。

「お兄ちゃん!!!」

 しかし、瓦礫に下敷きになってしまったユウゴから返事は無かった。

 すると空いた穴から先ほどの黒い爪長の生物とは打って変わって目はより赤く鋭く、骨格はユウゴのように筋骨隆々の人型になっており、特徴的な爪はかなり短くなったがそれでも武器には確実に近い形状であった。その姿はまるで短期間で進化した二足歩行生物であった。

「そっソウルライド!アギラ!」

 防護本能が働きアキはすぐさま変身した。

 しかし、すかさず化け物は襲い掛かった。

 アギラは身を固めた…が、一歩手前で獣殻(シェル)をかすり、苦し悶えている。

「ってめぇ…折角の兄妹の会話に割り込んでんじゃねぇ!!」

 変身したゴジラの左手が化け物の首を捕え、そのまま回転反動をつけた右拳で化け物の顔面に凹む勢いでめり込み化け物は自動改札を超えて吹っ飛んだ。

「カロロロロロッ」

「そっちからわざわざ出向いてくれるとは…探す手間が省けた」

 指を鳴らしながら自動改札を飛び越え化け物に近づき

「もう逃げられんぞ、テメェは地球上にいちゃいけない存在だ」

 のびている化け物は危険を察知してすぐさま飛び起き臨戦態勢に入った。

「人間喰ってずいぶん成長したらしいな…旨かったか?」

「カロロロロロッ」

 ゴジラは化け物にジリジリと近づき迫っていくが不利と判断したのかそのまま1番線ホームの階段を飛び降りるが如く下った。

「あっ待ちやがれ!!」

 すかさずゴジラも後を追う。

「待ってよ!お兄ちゃん」

 アギラも後を追うが、二人が降りた時には既に化け物はそこにはいなかった。

「あれ?さっきの怪物がいない」

「いや見ろ、線路に飛び降りた跡がある」

 そこには化け物がゴジラの拳が顔面にめり込んだ時の流血が続いていた。

「まずい…この先は渋谷方面だ!野郎は繁華街に向かったんだ」

 線路に飛び降り二人も後を走って追った。先に進むと報道陣が集まっていた方とは逆のトンネルで地球防衛軍兵士の包囲網を突破した後だった。

「おいっ!奴は!?」

「こっ…この先の方に…」

 負傷した兵士のさした方角は間違いなくゴジラの予想通り繁華街に向かっていた。

 ユウゴは落ちていた銃を拾いアギラに手渡した。

「こいつを使え。お前の怪獣ろくな攻撃技がないだろ」

「ええっ!?ぼぼぼっボクは銃なんか使ったことないよ」

「ほかに無いだろ、あの変異体を見ただろ。確実に潜んでた。駅そのものを巣穴にして獲物を待つかのように、変異体の多くは通常以上に賢くなっている。脳が活性化してるんだ、人間を喰ったことで動物以上の知性を奴は得ている。俺から逃げたのも防衛本能が強く働いて逃げることを考えたんだ。あいつには考えることができる、だからこそ生かしちゃいけないんだ。幸いまだ防御力は低いままだ、その間に何としてでも仕留める」

 ゴジラは繁華街まで走り続け追いかけた。

 

 

 渋谷 喫茶AQUA

 

 おしゃれな内装に魚介類の入った水槽が目立つこのカフェでヒロミは一人お茶をしていた。

「何よ…急に追い返して…地球防衛軍だからって偉そうに怪獣がいない時代で何の役にも立たない組織の連中が今更何でシャドウの現場にしゃしゃり出るのよ」

 ユウゴが到着したことで報道陣が一斉退去を余儀なくされ渋々追い返されたことを彼女は根に持っていた。

「はぁ…もっといいスクープ無いかなー…やっぱ自分から行くべきなのかな…あれからマコちゃんと会ってないからなー…でも自分で決めたことだしマコちゃんに手を借りるのはなー…大体何なのこの黒い怪獣…『ゴジラ』だっけ?結局手掛かりないしますます謎よ…」

 ヒロミはうなだれカウンターに頬をつけるように写真を眺めながら頭を横に置いた。

「あんたは一体何者なのー教えてくださーい」

 まるで写真が質問するように問いかけた。

 無論、返事は帰ってくるわけもなく諦め写真を伏せたと同時に喫茶店の出入り口から車でも突っ込んで来たかのような衝撃音が店内を響かせヒロミの耳に入った。

「なっ何!?」

 慌てて音のした方向に向かうと観覧用の水槽に顔を突っ込みながら魚介類を捕食している化け物がいた。

「しゃシャドウ!?」

 ヒロミは真っ先にシャドウを疑ったがその生物は明らかにヒロミの知っているシャドウから逸脱した仰々しい姿で大きさが2m強ほどあるその姿に仰天しながらもスマホで写真を撮りまくった。

「私って我ながらツイてるー!」

 しかし、シャッター音に気付いたのか化け物の目にヒロミが映った。

「へっ?えっえっえっ…うそでしょ」

 化け物はヒロミに狙いを定め向かってきた。

「いっいやーーーーー!!!!」

 足を滑らせ逃げるタイミングを失い、苦し紛れに無意識に身構えた。

 ジリジリとまるで追いつめた獲物に恐怖という名のスパイスをかけるようにゆっくりとヒロミに近づき口内に収納された太い蛇のようにしならせ、さながら生き物のような舌でヒロミに迫ろうとした。

「たすけてたすけてたすけて」

 小声でぶつぶつと連呼するが当然届くはずなく、まるで彼女が怯えているのをわかっているようにニヤリと化け物は笑う。

 しかし、そのサドな行為が仇となり窓ガラスが割れゴジラのドロップキックが化け物の顔面を直撃しそのまま本日のオススメメニュー用の黒板に激突した。

「えっ?」

 何が起きたのかわからないヒロミの前にゴツゴツした体表に白い背びれに太い尻尾、風圧で飛んで落ちてきた祖母からの写真をキャッチして照らし合わせるとまんま同じような姿にヒロミはビックリした。

「あっああああああ!!」

 まさかの事態に指を指した。

 何事かと思いゴジラは振り返るとピシッっと足元に何かを踏んだ。

「あああああああああ!!私の携帯!!」

 それはヒロミに商売道具とも言える安月給でようやく購入できた最新型のスマートフォンだった。

 液晶は割れ、基盤がむき出しになるほどの重さがこの携帯を襲ったことを物語っていた。

「どうしてくれるのよ!!わたしの携帯!!」

「ええっ!?ええっとー…」

 ゴジラは突然の事に何と言えぬ中、化け物はお返しとばかりに同じくドロップキックが炸裂し、ヒロミは何とか横にズレていた為かわせたが、吹っ飛んだゴジラはそのまま真向いのコンビニまで飛んで行った。

 邪魔者を排除したことにより再度またヒロミに標的を定めもうなりふり構わず味付け無しで襲い掛かった。

「まてぇぇ!!」

 アギラはユウゴに託されたライフルを構え発砲したが…

「ウアアア!!」

 アギラは反動で後ろに転がっていった。

 が、奇跡的に化け物の左胸部に直撃し化け物は悶えた。

「あれほれひれれれ…」

 アギラは目を回していた。

「ちょっちょっとあなた大丈夫」

「えっ?あっ!こっこっちです」

 アギラはヒロミの手を引き出口に走った。

 

 

 真向いのコンビニ

 

「ひいいいっ」

 バイトの店員がカウンターに身を縮めてガタガタ震えていた。

「…おおー結構飛んだわ…さすがに今のは…あれどう見たって俺のドロップキックだよな…あの一瞬で覚えるとかさすがに変異体の学習能力は未知だなー」

 するとゴジラの手の下には箱からはみ出した羊羹が散乱していた。

「おおお!これ羊羹じゃん!こっちに栗羊羹、おお芋羊羹もある。おおっ!こっちには期間限定のスイーツが!!俺甘い物に目がないんだよなー…おーい店員さん、これください」

「どうぞ好きなだけ持って行ってくれ―――!!!!」

「んじゃお言葉に甘えて」

 ゴジラは太い指で丁寧にビニールを開けて一口…やがて一心不乱に甘い物にかじりついた。

 

 

 アギラとヒロミは喫茶店から出るとあとを追うかの様に喫茶店の壁を破壊して砂煙と共に顔面から集中して血管が浮き出ていた。それは2人の目からでも確実に化け物が怒っているのを感じられた。

 アギラは再びライフルを素人ながらも震えながらグリップを両手で持ち構えた。

 すると横から先端のプラスチックが取れ、金属の骨組みがむき出しのビニール傘が化け物の目に刺さる。

「キシャアアアアアアアアアアアーーーーーーーー!!」

 その激痛にまたしても悶え苦しんでいる。

「なっ何、何なの!?」

 何が何だかわからないヒロミをよそにアギラは後ろを振り向くと甘い物を抱えたゴジラがコンビニにいた。

「ふっっっかぁぁぁつぅぅぅ!!」

 何かを吹っ切れたような顔でコンビニから出てくると化け物もゴジラに挑むようにビニール傘を眼から取り出し投げ捨て猛スピードでゴジラに襲い掛かったがゴジラはムーンサルトのように化け物の頭部を軸にヒラリとかわした。

 その隙に皮下と脊髄の間にある小型のチップを切り離し両足で背中を蹴り上げ回転しながら着地した。

「アk…アギラ!!持ってろ」

 ゴジラはチップをアギラに渡した、が肉体から切り離しただけあって黄緑色の血液がべっとりついていた。

「ひええええええ!!!!!」

 アギラはそんな血液べっとりついたチップに鳥肌を立て絶叫した。慌ててヒロミは取材前に購入していた飲みそびれていたミネラルウォーターの水をアキの両手に抱えた血液付きのマイクロチップに全部をかけた。

「さて後はお前だ」

「カロロロロロッ」

 最初に仕掛けたのは『MONS』だった。

 スイカを丸々かじりそうなほど大きな口を開けゴジラに飛びかかったが、ゴジラは化け物の顎に上蹴り繰り出し、そのまま回し延髄蹴りが炸裂、勢いで首を掴みハンマー投げの勢いで上空に投げ飛ばし、回転の勢いでゴジラの背びれが白く光りだした。

「おおっ!!これって…間違いないわ!この子が…この子が…」

 ヒロミは確信した。自分が探し求めていた怪獣が今、目の前にいることを。

「くらえ!!“放射熱線”」

 ゴジラは背びれの光が最高潮に達した時、口内を白く光らせ荷電粒子砲のように発射し、その強力な一撃に地面が耐え切れずユウゴごと地面に足がめり込んだ。

「カロッ―…」

 化け物は遥か上空に飛ばされ、もがく間もなく消滅した。

「ふっ…ざっとこんなところかな」

 やり切った顔をして清々しい表情になった。

「お兄ちゃん…やっt」

 アギラはヒロミにぶつかり回転して目をまたも回した。

「今の凄いわ!ねぇ君なんて言う怪獣娘?ていうか男?うんうん男じゃなければ化け物よね!ねぇねぇ君の事をもっと教えて!」

「はっはい?」

 ゴジラはヒロミの強引な取材に押されたが…

「あっそんなことより、どうしてくれるのよ!ワタシの携帯!大切な安月給でようやく購入できた商売道具兼私のすべてが詰まった世界に一つしかない携帯なのに!おまけにここまで粉々にして」

「わわわっおお落ち着いてください」

「弁償してよ!」

「アギラ!!」

 ゴジラはすぐにアギラの腰に自身の太い尻尾を巻き付け右足で高速で地面に穴を作り砂煙を作り出した。

「きゃっ!」

 せき込むヒロミは眼を瞑ってしまい、開けた瞬間には既にゴジラとアギラはいなかったが地面に器用にこのような文字が書かれていた。

『ごめんなさい』

「なにこれ」

 

 

 どっかのビルの最上階

 

「いやー間一髪だった。危うく質問攻めにあうとこだった」

 変身を解き、二人はビルの最上階でその場に座り込んだ。

「やっぱお兄ちゃんはすごいよ、あんな怪物と戦って倒しちゃうなんて」

「なーに、あいつも元は生物、本来人間とは離れた存在、それを人だけが支配しようとした結果が招いたこと、それを止めるのも怪獣でも巨人でもない…俺たち『怪獣人間』の役目だから…」

 改めてアキはユウゴを尊敬した。ただ強いだけでなく誰よりも優しいことに変わりないことに安堵を感じていた。もしかしたらゼットンに憧れたのもユウゴとゼットンがどこか似ていた気がしたのかもしれないとアキは改めて思痛感した。

「んんっ?どうした」

「いやっ、お兄ちゃんって何だかゼットンさんに似ているなーって」

「ああっあの時GIRLSのビルの上にいた奴?」

「ええっ!?あの時いたの!?ゼットンさん」

「いやわかんないけど、たぶん気配かな?」

「もうっあの時、何でもないって言ってたじゃん」

「んーんっまぁいつかあってみたいなー」

「じゃあ今度紹介するよ」

「そうか…んっ、お前ケガしたのか!?」

 それは先ほど『MONS』の爪がかすり、獣殻(シェル)に傷があった。

「だっ大丈夫だよ、このくらい」

「んんっ…そうか…ついその…」

「…やっぱりお兄ちゃんはお兄ちゃんなんだね…どんなに怪獣に近い姿になっても誰よりも強くて、優しくて、甘いもの好きなボクの知ってるお兄ちゃん‟宮下ユウゴ”なんだね」

「……そうかもな…」

 ユウゴはアキの言葉に少し気分が晴れていた気がした。

「あっそうそう、はいこれっ」

 アキはきれいになったマイクロチップをユウゴに渡した。

「あのお姉さんが水くれてきれいにしたから」

 確かにアキの手は比較的きれいだった。

「お兄ちゃんもちゃんと手を洗ってよ」

「はいはい」

「あっそれとピグモンさんからこれ」

 それは以下の通りだった。

 最新拘束手錠修繕費  1540万円

 聴取室出入り口修繕費  300万円

 通路修繕費      4030万円

 お茶           200円

 総額      5870万200円

 最後欄に『きっちり払ってくださいね ピグモン』と手書きで書かれていた。

「……ああっわかった…アキ、お前に教えとかなきゃならないことがある」

「何?」

 STEP1 折る

 STEP2 渡す

 STEP3 逃げる!!

「ああっ!!ちょっとお兄ちゃん!!…まったく…バカ」

アキは夕日が沈む東京の街を眺めた。

「……ってボクどうやって降りるのさぁ――――!!!」

 その後、約30分後に下を見ないようにフェンスを上りビルのドアからアキは下へ降り帰ったのであった。

 

 

 翌日

 

「で、そのあとお兄さんとはそこで別れたんですか」

「そう、ボクを置いて逃げるように」

「でもまぁこれはさすがにねー…ピグモンさんはとことん容赦ないよねー」

「ほんと、約6000万なんて払えるわけねぇよな」

「……お兄ちゃん(さん)!!」

 三人の会話に何食わぬ顔で、羊羹を小脇にお茶をしていた。

「またどうやって入ってきたのさ」

「窓を開けて入った」

 指した方には非常用の窓が破壊され開いていた。

「また壊したの!?」

 するとアキの背後に怖いオーラを抱く者がいた。

「ゴジゴジ…あなたはどれだけGIRLSを壊す気ですか」

「どうも…まぁこれ良ければどうぞ」

 ユウゴは羊羹を差し出した。

「ああっこれはどうもじゃありません!!いいかげんにしてください!大佐さんとようやく話がまとまったと思った矢先!」

「大佐さん?」

「帰国早々お前は何してくれてるんだ、ゴジラ」

 ピグモンの横から黒い制服の男が現れた。

「おおっ尾崎大佐、ご足労お疲れ」

「お疲れだと!貴様のせいで散々火消し周りで疲れさせてもらったよ!!」

「あん?後始末はてめぇらで保証すんだろうが」

「俺たち地球防衛軍は保険屋じゃない!何のために貴様らに情報提供し駆除役を任せてやっていると思っている!」

「うるせぇ!中間管理職!一生デスクワークでもしてブクブク太ってろ!」

「何だと貴様!」

「おっお二人共、その辺に」

 ピグモンは口論になった二人を静止した。

「フンッ、全く…例のマイクロチップを調べた結果だ。いまガメラが出向いているがおそらく時間の問題だ。それとお前が壊した床、扉、駅、渋谷繁華街エトセトラエトセトラこっちで何とかした感謝しろ」

「へいへい…」

「ええっと…どちら様でしょうか」

 レイカは恐る恐る訪ねた。

「おっと失礼、私は地球防衛軍大佐兼国際怪獣平和維持組織『MONARCH』代表管理責任者の尾崎だ」

 

そして、これが『GIRLS』と『MONARCH』の最初のセッションになったのであった。

 

ズズズッ(お茶ウメェ…)




見せられないMONS~

「あっそれとピグモンさんからこれ」
 それは以下の通りだった。
 最新拘束手錠修繕費  1540万円
 聴取室出入り口修繕費  300万円
 通路修繕費      4030万円
 お茶           200円
 総額      5870万200円
 最後欄に『きっちり払ってくださいね ピグモン』と手書きで書かれていた。
「……ああっわかった…アキ…こういうのは」
 背びれを光らせ熱線で燃やした。
「そうすると思ってピグモンさんあと100枚くらい用意してるよ」
「えっ…」
 アキの両手に抱えた請求書を見てピグモンは抜かりなかった。


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守る怪獣

~さかのぼること3時間前~

 

 GIRLS 会議室

 

『MONS』対策会議

 現出席者

GIRLS代表 岡田トモミ

防衛省代表   鷹栖レイコ防衛大臣

警視庁代表   沢本キヨシ官房長官

内閣府代表   檜山カズオ危機管理監

 

地球防衛機関地球防衛軍

国際怪獣平和維持機関

『MONARCH』代表   尾崎シンイチ大佐

 以下、大佐含め5名

「それではこれより『MONS』対策会議に映らせていただきます。お手元の資料をご覧ください」

 トモミ含む各組織の代表たちは地球防衛軍側から配布されたプリントの資料を見開き、目を通した。

 そこにはトモミがエレキングから渡された報告書に記載されていた未確認の生物のイラストに瓜二つの生物が見受けられた。

「それでは順を追って説明いたします。まず、『MONS』について説明いたします。『MONS』とは初期発見時での名称は『MonsterOriginalNaturalSingle』でした。1976年にイギリス、スコットランド北部ハイランド地方のネス湖にて初めて観測さた個体を期に現在でも数多くの『MONS』を我々の方で確認されています」

 すかさず防衛省代表鷹栖レイコ防衛大臣が挙手をして質問した。

「それはつまり未確認生物の事でしょうか」

「世間側が確認を取れていないだけで地球防衛軍は既にこれら生物の確認が取れているため我々の方では『MONS』と呼称しています。あらかじめ事前に言いますがこれからお見せすることに皆様の固定概念は払拭することをお勧めいたします。続けさせていただきます。『MONS』は元々、第一次大怪獣時代すなわち1966年から1998年にかけて怪獣頻出期の時期にいわゆる怪獣の亜種もしくは副産物として誕生したと当時の調査結果に上がっています」

 尾崎の背後のスクリーンのプロジェクターから映される『MONS』の数々の記録が写真と共に描写されていた。

 中には大きな生物や人型の生物、小型でも観測者の両手で抱えている写真や動画などが流れていた。

 再度、鷹栖防衛大臣が質問した。

「なぜ今までこのような生物の情報が日本政府側の記録に無いのでしょうか」

 尾崎はその質問にも答えた。

「問題視されなかったのでしょう。当時の日本の現状を考えると怪獣頻出期の当時日本政府も防衛組織も目的はあくまで怪獣の掃討にありましたから」

 鷹栖防衛大臣は不服ながらも尾崎の回答に納得せざる負えなかった。それなりの理由が政府側にあったからである。

 当時の日本政府は怪獣頻出期の第一次大怪獣時代を迎えていたこともあり防衛組織との連携で自衛隊と協力のもと怪獣の掃討に躍起になっていたこともまた事実であった。

 その年の一年間だけでも少なくとも40体以上出現した時代に国家予算も時間も人材も何もかもをつぎ込んだゆえに現在の日本国家は莫大な負債を抱えることになった。

 しかし、それだけで終わるはずもなく現在では『シャドウ』という新たな脅威の出現による事態と今回の『MONS』の上陸に常人なら頭を抱える事態であった。

 今度は、内閣府代表檜山カズヤが質問に入った。

「ずばり、今回の『MONS』の日本本土上陸はこちらでの確認では生物兵器としての密輸と見て確かなのでしょうか」

「その点につきましても早速本題の要の今回の事件についてご説明いたします。…まず今回渋谷繁華街に出現した『MONS』は先ほど述べた『MONS』と違う別の姿『MonsterOrganicNitroSeries』と呼ばれる生物兵器として中東方面など紛争地帯で流用されているチュパカブラ種の『MONS』の最新改良版『SE型』と確認されました。このタイプは従来の戦闘タイプと違い要人並びに戦争経営者用に改良された物で対人戦はさることながら最大の特徴は『シャドウ』を捕食し体内で自身のタンパク源に変換するメカニズムをしています」

「しゃ…シャドウを食べるんですか?」

 檜山含む全員の顔がこわばる。世界の災厄たるシャドウを捕食する存在に明らかに彼らの常識を逸脱してた。

「残念ながら彼らの捕獲には我々も何度か試みましたが、『MONS』の体内にある自滅酵素が有り、細胞組織ごと消滅して証拠を隠滅する仕組みとなっていますが皮下と脊髄の間にマイクロチップを神経に張り付け、購入者の情報を植え付け、敵味方を判別する装置の役割を果たしているためこれを取り出し購入者の情報を探知することに我々は成功しています。既に中東での武装組織の購入者を摘発し制圧実績を我々は得ています」

 ここで警視庁代表の沢本官房長官が初めて挙手をした。

「つまり購入者を割り出せるのであれば捜査一課での検挙もできると」

 沢本の言葉に警告するように尾崎は次のように述べた。

「いえ、『MONS』特にチュパカブラ種は兵器市場内でも日本円で末端価格10万円前後という破格的値段で取引され、しかもチュパカブラ種だけでその戦力は一体につき一個師団レベルといえる化け物です。今回の事件のケースだけでもこのSE型チュパカブラを複数体購入していることから察するに他にも購入者は常習で事前に他にも別の『MONS』を購入していると考えられます」

「しかし、事は密輸による新種の生物兵器の日本本土上陸、更に今回の事件の前に横浜港で発見された不審船、日本の水域内の海上保安庁の監視網のどこにも確認されず更にはその船舶の積み荷が生物兵器となれば、これら進入を許した日本の国際社会への影響があまりにも大きすぎる」

 沢本官房長官は言うことは正しかった。今回の事件は日本の網目状に張り巡らせた近海の領域を国籍不明の船舶の侵入を許した事、ならびにその船舶の積み荷の『MONS』による首都の繁華街での暴走、被害甚大な現状は変わらなかった。

「沢本官房長官、もはや国際問題以上の事態がこの日本に迫っているのです。新たな脅威による侵略行為なのです」

 『侵略』という実に20年ぶりに耳にするその言葉の重みが日本政府、捜査機関、防衛省、各日本の代表の三人にはシャドウ問題含み新たにMONS問題に今後の対応を考え始めた。

「自衛隊の方で何とかならないのでしょうか」

「いえ、ことは銃火器含め自衛隊の害獣の駆除なら前例はありますが何よりこの生物兵器が怪獣災害の副産物となれば現役銃火器で対抗できるとも限りません。2001年の憲法改正時で特生自衛隊の解体で当時現存していたメーサー兵器等もすべて退役していますので、我が国に残された戦力で最低限の自衛も内閣府の意思決定にあります」

「それよりも警視庁にもそんな危険な生物兵器に対する対抗策も必要でしょう。むざむざ警視庁の人間を危険にさらすわけにも行きませんし」

 意見が飛びあう中、トモミは話題を変えるように尾崎に投げかけた。

「尾崎さん、誠に勝手なのですが、もしその『MONS』に対抗しできる『方々』の協力はしていただけないのでしょうか」

「と、言いますと」

「例えば、あなた方『MONARCH』に所属する男性の『カイジューソウル』保持者が全面協力はできないのでしょうか」

 三人は耳を疑った。男性の『カイジューソウル』保持者、女性にしか発現しない『カイジューソウル』を持つ男性がいることをトモミの発言は示唆していた。

 しかし、尾崎は考え込んでいた。

「所属?いえしていませんが…所属と言うより我々と『彼ら』はあくまで協力関係に過ぎません」

「はい?」

「はっきり言ってお勧めはできません。『彼ら』は何と言いますか…怪獣そのものなのです。飼いならすことも鎖でつなぐこともできません」

 二人の会話は代表者三名には明らかに逸脱していた。

 すかさず整理するために檜山は待ったをかけた。

「ちょちょちょちょっと待ってください。男性の…その怪獣娘がいると」

「ええっいますけど男性なのに怪獣娘と言うのもおかしいでしょうからここから先は彼らの事は『怪獣』と漢字の『漢』の字と書いて『怪獣漢』(かいじゅうおとこ)としましょう」

 何ともあっさりと衝撃事実を尾崎は軽口で語った。

 当然、全員茫然としてしまった。

「つまりあなた方『MONARCH』は『怪獣漢』さんとは、利害の一致で協力しているだけと」

「利害は確かに同じですがあくまで名前とその存在、『カイジューソウル』の登録はある程度こちらで管理しますが、彼らは現代社会に溶け込んでいるので基本は自由です。我々が彼らに依頼を引き受けてもらい、それに見合う報酬を与えるに過ぎません」

 『GIRLS』と打って変わって『MONARCH』の方針は根本的に違いがあった。

 『GIRLS』はあくまで救助指導組織として位置づけられているが『MONARCH』は平和維持を目的としているがある種のギルドのような仕組みであった。

「何度も言いますがハッキリ言ってお勧めはしません。『怪獣漢』はあなた方『怪獣娘』以上に扱いが難しいのです。一人一人が一国の軍隊以上の戦力を誇りますが自分勝手で融通が利かない者たちばかりなのです」

「はっはあ…」

 尾崎の言葉はいかに彼が『怪獣漢』の扱いとその苦労を物語っていた。

 トモミも尾崎の言葉通り考えると確かにユウゴのような人材を扱うには組織に身を置くほど安らかな存在じゃないことが窺えた。

「ええっとその『怪獣漢』は日本国に存在しているのですか?」

 檜山は状況把握のためにまずは日本にどれほどの『怪獣漢』が存在しているのか確認した。

「日本人で数名の男性が『カイジューソウル』を保持しています。今回の事件もそのうちの一人が対処し解決に至ったことは事実です」

 尾崎はありのままの事実を三名に伝えた。

「まさかここへ来てまた新たな怪獣の存在が現れるとは」

「しかし、彼らの協力が有れば問題の早期解決は内閣府も世間も容認できるでしょうが『怪獣娘』ようにある程度の時間を置く必要もあるでしょうし」

「警視庁含む警察各署とも協力できるでしょう」

 三者の代表が新たな存在『怪獣漢』に対して協議し始めた。

「うっ…ちょっと失礼、一度席を外させていただきます」

 突如、尾崎は急遽、席を外した。

 

会議室前 廊下

 尾崎は打つポケットにしまっていた携帯に電話をかけた。

 耳元で電話の待機音が連続して鳴り始めて10秒後繋がった。

「三枝、何度も言っているだろう。テレパシーじゃなく電話から掛けろとあれほど」

 

 東京都港区 ビル屋上

 

 このビルの屋上で仮設のテントと組み立て式テーブルを横に携帯と会話する女性が一人と勾玉を首にぶら下げた女性が一人いた。

「だってテレパシーの方が早くつながる…つながらないのは尾崎さんのM塩基と私の超能力の愛称が悪いからでしょー私は悪くありませんもーん」

 携帯側の尾崎と痴話げんかをするのは三枝ミキ。MONARCHきってのサイキッカーすなわち超能力者である。90年代後期にオカルトブームが再来し瞬く間に彼女は有名になったが彼女自身のマスコミ嫌いもあって人眼を避け、現在はMONARCHにて調査部主任として活動している。

「ちょっと待ってください。どうアサギちゃん」

「……いま会長と一緒に入っていきましたね」

 勾玉を首にぶら下げ双眼鏡で遠くの屋敷を見ている女性は草薙アサギ。同じくMONARCHの調査部副主任としてミキと共に行動している。

「今入ったそうでーす」

 

 『関東連合会総本部田中組』

 関東5県ほか全国38県に勢力を伸ばし傘下組員含め延べ2万人ほどの大規模な暴力団組織として点在、現在は港区に本所を構え国家公安委員会から主要暴力団として警視庁に監視対象として位置づけれている。

 

 そしてここにもミキたちとは別に監視する者たちが二人。

「連中が急に動きを見せたな」

 警視庁捜査一課 内野ハルアキ警部。

「青年一人と老人一人、スーツの男一人を迎えて正門が閉まりました。組員が頭下げるほどと言うことは相当な重要人物かと」

 同じく捜査一課 木城キセキ警部補。

 現在指定暴力団田中組本部を監視中の二人の後ろから階段を駆け上がる人物が一人。

「すみません!選んでたら遅くなりました」

 同じく捜査一課 菊地コマエ警部補

「お前、食い物と飲み物買いに行くのに何時間かかってんだ」

「すみません、だって最近のパンって意外と種類があって悩んじゃうんですもん」

「女子か!お前は」

「女子ですよ!」

 盛大に突っ込まれながらもコマエは大袋に入ったたくさんのパンに手を入れた。

「お前どんだけ買って来たんだよ」

「2割はお二人のであとは私のです」

 内野は呆れてしまった。

「お前な…いつまで頭の中お花畑なんだ?ピクニックにでも来てんじゃねぇぞ!そんだけ喰って栄養がどこに言ってんだ?胸か?胸なのか?」

内野はコマエの豊満な胸に対して大胆なまでのセクハラ発言をかました。

「セクハラで訴えますよ。内野さん」

 さながら死んだ魚の目で内野を睨んだ。

「先輩は何にします?」

 木城は何も言わず袋に手を伸ばしパンを確保した。

 袋を開けパンを取り出した瞬間、目標に動きがあった。

「内野さん!動きました」

 なりふり構わずパンを放り投げ、慌てて双眼鏡を覗き込んだ。

「わとととっ!」

 すかさずコマエはキャッチして木城のパンを確保した。

「何ッ!?見せろ」

「いくつか田中組系の傘下組織のマークの車が入っていきましたね」

「橋本組に大嵩組、山波興業に鹿倉会まで」

「じゃあいよいよ、突入ですね」

「馬鹿か!まだ何もしてねぇ連中を逮捕できるわけねぇーだろ」

 コマエは少しがっかりした様子で落ち込んだ。

「とはいえ穏便ではないでしょうね」

「まぁな、ここ最近の抗争事件で軒並み組員が俺たちに逮捕されてるからな」

「例の渋谷騒動の一件といい陰で動き始めてますからね」

「世間様はちんけなヤクザの抗争より怪物騒ぎに敏感になっちまったからなぁ」

 二人の脳裏には不穏と刑事らしい勘が働いていた。

 

 関東連合会田中組直系幹部会

 田中組 3代目会長 田中ユウジ

「財界のトップであるあなたがわざわざこのような場所に来られると何かと黒い噂が立ってしまいますよ」

 円谷財団 会長 円谷エイザン

「黒い噂など当にわしは慣れておる。今更、何を恐れればよいのやら」

「フフフッ…貴方らしい」

「ええ加減、昔みたいに呼び合おうじゃないかユウちゃん」

「幹部連中がそろっている場にユウちゃんはないでしょう。エイちゃん」

 この独特な雰囲気の中、突如始まった双方の老人の会話。

中肉中背の傷面で着物を着た関東連合会田中組三代目会長田中ユウジ氏を中央に真向いに座る同じく小柄の和服姿の円谷財団会長円谷エイザン氏をはじめ周りには高価な壺や刀剣、旧式の額入りされた銃から水墨画、さながら美術館のような内装に両者が田中氏と円谷氏の周りには直系幹部らが並び座っていた。

 円谷氏側から左に田中組直系2代目大嵩組組長 大嵩ヨシタケ

(まさかあの円谷氏がお見えになるとは)

 田中組直系鹿倉会会長 大友タカシ

(マスコミさえ名を出すだけでタブーとされる方がなぜ…)

 田中組直系山波組2代目組長 山田タカオミ

(…うちとどういう関係なんだ)

次に右から田中組直系橋本組4代目組長 橋本モリヘイ

(…えらい爺さんなのか?わからん…)

 田中組直系飯嶋会会長 島田ダイゴ

(…確か今話題のGIRLSとかいう…)

 田中組直系筑波会会長 眞田ミチオ

(…怪獣娘とかいうガキどもの組織のスポンサーだったか?…)

 以上幹部総勢6名。

「んで?今回なぜ今更、私の幹部を集めていったいどうしようと?」

 田中氏は早速ことの本題に切り替えた。

 空気が突如ピリッとなり始めた。

「そうじゃの…本題に入らせてもらおう、川崎」

「はいっ」

 円谷氏の隣にいた秘書が手に持っていたアタッシュケースを開き、中に入っている機械からレンズに光が通り、突如光の形が立体映像となり騒然となった。

「何じゃこりゃぁ!」

「いったいどうなってんだ…」

「じゃかわしぃぃわいおどれら!!」

 田中氏の老人とも思えない剣幕で回りは静まり返った。

「うおっほん、では始めるぞ。先日の渋谷でのシャドウ騒動をニュースか新聞で見とるじゃろぅが、あれはダミーじゃよ」

「ダミー?」

「こっちでのぅチョロッと内容を変えさせてもらったんじゃよ」

「内容を変えた!?いったいどうやって」

 確かな情報操作をしたことを暴露した円谷氏が不敵に笑った。

「細かいことはええじゃろう。問題はこれの本当の内容じゃよ。確かに渋谷での騒動はあったが、この騒動にはとある生物兵器が街中に解き放たれてことにあるんじゃよ」

「せっ生物兵器!?そんな軍事レベルのことがうちに何の関係があるんだ!」

「いくらあなた方でも横暴だ!根拠があんのか」

 剣幕飛び交う中、一人で周りに配置された刀剣や壺などを眺め回し田中氏の近くまで近づきメモを取るこの幹部会に似つかわしくない場違いな緑色のパーカーに少しぶかぶかのジーンズと言ったラフ姿の180cmほどの少し大柄な青年がいた。

「なるほど…葉巻はコイーバねぇ…後いくつかの古い切創がかえって親分肌に貫録を与えるのかぁ」

 そのあまりにも無礼講な態度に業を煮やした幹部会参加者の中で最年少の橋本組4代目組長、橋本モリヘイが立ち上がり怒鳴った。

「てめぇ!会長の前で何晒しとんじゃ!?」

 怒鳴りつけたことに円谷氏が初めて顔色を変えた。

「あっ!ああー邪魔しよった…」

「ああーもう知りません…」

 二人の突然のリアクションに橋本は不思議に感じた。

「はぁあ?…ぶっぐぅ!!」

 突如、田中氏を眺めていた青年が橋本の頬を親指と残りの指で両頬をつまみ強制的に口元がおちょぼ口になった。

 振りほどこうとするも予想以上の握力で力強く握られているため頬を指から離すことができなかった。

「こっちはせっかくヤクザのネタが掴めるって聞いて同伴させてもらったのに…てめぇ…邪魔しやがったな!!」

 7、80kgある成人男性の橋本の両頬を掴んだままスーツの襟を掴み、さながら柔道の背負い投げのように投げ飛ばし、壺や刀剣の並ぶ所まで吹っ飛び激突した。

 飾ってあった品々は割れ、砕け、傾き、逆さになった橋本は何が起きたのか混乱していた。

「俺が嫌いなものは三つ。人の読切の原稿を勝手に腐ったBLモノに改造する昔のアシスタント、ハイエナの様に湧いて出てくる編集者、俺の取材を邪魔する奴、あんたはその三番目だ」

 何のことか訳が分からず、しかしヤクザとしても威厳をけなされた橋本も黙らなかった。

「てってめぇこんなことしてタダで済むとおもごっ!!」

 またしても両頬を掴まれ橋本の意見を潰すように遮った。

「いつまでもダラダラと長ったらしく犯人追及をして2話完結に持ち込む推理小説じゃあるまいし目の前に犯人がいるのに追いつめるような真似なんかせずこうやって顔面ごと掴めばいいのにと俺は昔から思うよ。まぁ一度犯人を知ってるこっちが言うのもなんだけど」

「なんじゃよ、ガメラせっかくのわしたちみんなの迫真の演技が無駄じゃないか」

「芝居が凝りすぎる。オーデェンスは素人の大根芝居が一番嫌うんだよ、じいさん」

 橋本以外全員が今回の幹部会という演劇の仕掛人であった。

「どっどういうことだ!演技!?芝居!?何の話だ!?」

「とぼけんなよ、橋本組長さんよ…ほうら、お届け物だぜ」

 そういうと青年はパーカーのポケットから先日の渋谷で暴れた変異体チュパカブラのマイクロチップを橋本の強制的に開けた口に放り込んだ。

「ここ最近のあんたの代で組全体の不況で悪化が深刻化し関東連合会の立場を失いかけてた矢先、生物兵器なんかに手を出した。大筋のあんたのシナリオはこうだろ?」

「ぺっ…なんの話だ!?何の根拠があって」

 すると田中氏が立ち上がり懐に入っていたMONARCHが田中氏に提供した橋本の数々の不正と兵器購入のリスト、中には『MONS』の事や取引現場に現れていた橋本の姿が撮られている写真、もはや言い逃れできる状況ではなくなった橋本は錯乱した。

「ちちちち違うんです!!…これは!これは!…罠だ!罠だ!!てめぇらが俺をはめようと!!」

 苦し紛れの言い訳をする中、田中氏は手を出し。

「盃を返しな。もうお前は破門だ」

「まままっ待ってください会長!!見捨てないでください!」

「哀れだな…お前のじいさんとはよく殴り合い共に分かち酒も交わしたのに…お前は自分の名に泥を塗った」

 崩れた橋本は何も言わなかった…が、突如狂ったように笑い始めた。

「くくくくくくくくくっははははっはははははっはははははははははっははああああああああ!!!!何が橋本組だ!何が組長だ!!名ばかりの俺があんたの傘下にこき使われ広島制圧も大阪進出もぜーーーーんんんんんぶ俺がやったのにどいつもこいつも自分の手柄の様に。そこに偉そうにふんぞり返っている幹部連中もあんたも俺がいなきゃ何もできないクズどものくせに偉そうにしやがって何が関東連合会だ!何が田中組直系だ!何が極道だ!!すうううううううううううっはああああああああ!!もういい、ちょっと早いけど……やれ」

 橋本はポケットに入っていたスマートフォンに部下に指示を出した瞬間、田中氏が座っていた席の後ろの壁がクレーン車でこじ開けられた。

「橋本!!てめぇ何してやがる!!」

「田中組並びに全関東連合会幹部の皆さん!これよりこの先の時代を担う新兵器をご賞味あれ!!したがって皆さんにはここで消えてもらいます!!」

 突如トラックが外の中庭に無理やりバックで入り込んだ。

 降りてきた部下たちが後ろの扉を開けると中から体色が緑色の通常型のチュパカブラが中から姿を現した。

「どうだ!こんな化け物に10万ほど払えば軍隊を手に入れたも同然になるなんてなぁ!」

「ガルルルル…カロロロロロロッ…」

 橋本は懐に入っていたピストル型の特殊音響銃を取り出し田中氏にレーザーライトを照らした。

「やれっ化け物」

 引き金を引くと同時に超音波が発射されその弾道に動くかのようにチュパカブラが中にいる者に襲い掛かった。

「会長を守れ!!」

 すかさず幹部たちが取り囲み懐に入っていた銃を取り出した。

「“獣装”ガメラ」

 突如、青年の体が光だし前へ飛び出した。

「なっなんだ!?」

「まあ見ておれ、ユウちゃんや」

 チュパカブラが3mほど近づいた瞬間一斉射撃で銃弾が発射された。

 そこへ光に包まれた青年が飛び出し弾丸は光の中から現れた青年の背中の深緑色の甲羅に弾かれ、硬質な甲羅は背中から腰を甲羅の鎧に覆われて、足、顔に至るまでも硬質な鎧で覆われさながら全身甲冑を思わせるいでたちであった。

 飛び出した青年の横には見事にヘッドロックがきまったチュパカブラがもがいていた。

 四足歩行立ちのチュパカブラを首ごと放り上げ、上を向いた状態で二足立ちになり青年のさながらガントレットのような背中と同質の鎧の拳が吊り下げられた巨大肉にパンチするボクサーの様に超高速の連続パンチを繰り出した。

 最後の一撃に力を1秒間に溜め込み1秒後溜めたパンチがチュパカブラの腹部に直撃し勢いよくそのまま宙に浮くほど飛びトラックの荷台の中に収納、奥の壁に激突した。

 中に吹っ飛ばされたチュパカブラが入ったことで少し車体が浮かびあがり弾むように車体が傾き倒れた。

「ひっひいいいいい」

 幸い橋本は下敷きにならず部下と一緒に茂みに隠れた。

 青年は深く息を吸い腹の底から光はじめ、光が口まで到着すると。

「“熱炎火球”」

 口内から火の玉上の火球が発射され。

 トラックごと中にいるチュパカブラに火球がぶつかり爆発炎上した。

 

 

 遠くのビルで見ていたミキはすぐさまスマホで別同隊に連絡した。

「はーい、処理班さん後はお願いしますー…さて、あとはあちらで監視しているお三方も動き出したなぁ」

ミキの探知能力で既に把握していた刑事三名の動向を探った。

 

 

 それは監視いていた刑事三名にもその火柱は見えた。

「うおっ!ななななんだ!?あれ!!」

 突然の火柱に驚愕した内野は慌てて双眼鏡で確認した。

「おいおいおい!関東連合会本部で爆破テロか!?」

「とにかく行きましょう!内野さん」

「おうっ!菊地は消防と応援要請しろ!」

「はっはい!」

 菊地はすぐに手持ちの携帯で消防と応援を要請した。

 二人はすぐさま爆発のあった関東連合会本部の屋敷に直行した。

 

 

 周辺で待機していたMONARCH処理班が到着しトラックの消火活動に迅速に対処していた。

 ガメラは変身を解き円谷氏の方に腕を回しながら戻った。

「終わったぞ、じいさん」

「ずいぶん派手にやったのう、お前さん」

 二人が会話する横で川崎の携帯にミキから連絡が入った。

「ああっ三枝さん…はいっ…わかりました」

「何じゃ、ミキちゃんからか?」

「会長、先ほどボヤで監視中の刑事三名と消防、警察がこちらに向かっているそうです」

「ほほーう、そうかいならばわしらはとっとと撤収するかのう。そういうことじゃからユウちゃん。向こうの正門が騒がしくなるから後の事はそっちに任せるわい」

「ええっ何から何まで世話になった。おいっ、裏口まで車出せ、お送りして差し上げろ!」

「へいっ!!」

 田中氏も同行の下すぐに正門から反対の方に回った。

 

 

 一方正門では円谷の言う通り監視いていた三人と警察、消防、何事かと集まるやじ馬で予想通り騒がしくなっていた。

「いやいやすみませんうちの若いもんが花火に火つけちまって…いやもう収まったんで、お騒がせしやした」

 あまりにも見え透いた言い訳に内野が剣幕を張った。

「花火ごときであんな火柱が立つか!とにかく入らせろ!」

 言い合う中、コマエは木城に問いかけた。

「先輩、本当に花火なんでしょうかね」

「いいや、あそこまでの火柱が起きたんだ。可燃性の例えばガソリンいっぱい詰めた大型車の炎上なんかだろう」

 コマエは納得するように首を縦に振った。

(しかし、渋谷騒動しかり今回のボヤといいなんか匂うな…)

 木城はこの異常に不審を抱いていた。

 

 

 裏口に逃れて来た円谷氏と川崎と青年は田中氏と共に車で既に田中組本部から離れていた。

「しかし、まぁエイちゃんよぉぅ、お前さんはいつも人材に恵まれるなぁ」

「ほっほっほっ、何もわしはすべて完璧じゃない。無理だってあるわい。所詮は怪獣好きのじじいじゃよ」

「兄ちゃん、よかったらうちに来て見ないか?たった今さっきあんたのおかげで幹部に空きができた。あんたのような男はそう居ない」

 田中氏は青年に自身の組に属することを誘った。

「俺は作家だ。ネタを探しネタを元に物語を書いて出版社に本を作らせる、それが作家亀沢トオルの流儀であり美学だ」

「……そうか、勿体ないが残念だ」

「はははっ!フラれたのう、ユウちゃんやぁ…こやつらに鎖なんぞ不要じゃよう」

「どうやらその様ですな」

 やがて国道を進むにつれGIRLSの文字を掲げたビルが見えてきた。

「すみません、あのビルで我々を下ろしてください」

「へい!」

 川崎が運転手にGIRLSのビルに立ち寄るように指示した。

 突如、田中氏の懐に入っていた旧型のボタン式の二つ折りの携帯に着信音が鳴る。

「ああ、わしだ……何?…わかった…」

「どうしたんじゃ?」

「――――――――――――――――」

 

 

 車がブレーキ音と共に制止すると運転手が先に降り円谷氏たちの乗る扉を開け、蟹股に膝に手を突き、頭を下げた。

「これぁどうも」

 三人が降りると田中氏も降りた。

「ではさっきの話の通りよろしく頼みます」

「うむ、あとの事は任せなさい」

 二人が会話する中、上の空に聳え立つビルにトオルの眼は奪われていた。

「なかなかいい建造物だ…今度の作品のいい素材になるかもしれない」

「おい、兄ちゃん」

 田中氏はトオルを呼び止め彼に手を差し伸べる。

「あんたのわしの命の恩人だ」

「……それが雇われた俺の任務だ」

 二人は固く握手した。

「そうか…いい目をしている…堅気には勿体ないほど立派な目だ」

「それはどうも」

 お互い握手を緩め、手を離した。

「あんたの本、ぜひ読んでみたい」

「『相沢トト』というペンネームで書いてる。漫画から小説、イラストまで何でも。作家は創作においてすべて万能を志すものだ。もうずいぶんと休載しているが本屋にでも立ち寄る機会があったら探してみな」

「そうさせてもらおう」

 田中氏は振り返り自身の車に乗り込んだ。

「それじゃあ、また会おう」

 車のエンジンがかかると発進し車はやがて国道を沿って進み消えていった。

 

「さて行こうかのう」

 三人はGIRLSのビルに入っていった。




見せられないMONS~

「“熱炎火球”」
 口内から火の玉上の火球が発射され。
 トラックごと中にいるチュパカブラに火球がぶつかり爆発炎上した。
 その火は木々に燃え移り邸内は大炎上した。
「やっべ…やり過ぎた…」
「やり過ぎじゃ!!」


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書くも恥 逃げるも恥

 GIRLS 休憩室

 

 休憩室ではアキ含めミク、レイカ、そして距離を離れてユウゴと尾崎がいた。

「それで今回の件について日本政府並びに防衛省、警視庁の見解は『MONARCH』に一時的に一任することを決定した」

「一時的?すべてではないのか」

「状況が状況なだけあってこの国での内情と国際的立場もある、余所者である俺たち『MONARCH』と『怪獣漢』に陰での処理を依頼された」

「『怪獣漢』?なんだそのふざけた名前は」

「便宜上において君たちの事は今後からそう呼ぶことをたったさっき私が決定した」

「まぁいい、なぜ余所者に一時的に一任するんだ」

「日本政府も今回の一件に黙認できるほどの事態ではない。『SE型』を購入した者達のこともある。今回の作戦は隠密の任務になる」

「いつもの事だ…」

 二人の会話は少し離れているほかの3人には聞き取れなかった。

「何話しているんだろう」

 ミクは二人の話す会話に興味があった。

「べっ別に気にすることかな」

「ええー!?気にならないの!?自分の家族の事が」

 ミクの言葉にアキは肯定半分、否定半分、YESNOどちらでもよかった。

「気にならないわけじゃないけどだからと言ってお兄ちゃんの仕事に肩入れするのは…」

 アキはユウゴの領域に嫌悪を感じていた。自分の兄があのような化け物と戦って精神が歪んでいるのではないのか、誇りに思う部分もあれど得体の知り得ぬ何かがユウゴの中にあることがアキには妹とし家族としての恐れが彼女にあったことを表面上には出さなかった。

「でもさぁアギちゃんとユウゴさんって似ているところはあるよね」

「どっどこが?」

「ほら、アギちゃんってカフェのギャラクシーパフェとかを平らげちゃうじゃん、とにかく二人は甘い物好き兄妹なんだよ」

 ミクの普段からは考えられないほどの鋭い観察眼にアキは驚きが隠せないが、しかし第三者の目線からの意見はアキにとって自分からでは見ることのできない大変貴重な事であった。

「そっそうかな」

「確かにな…」

「うわぁ!お兄ちゃん聞いてたの!?」

 アキはいきなり割り込んできたユウゴにびっくりした。

「もう話し終わったからな、いま大佐はピグモンと話してるし、これを機会にお前の普段の会話がどんなのか気になってな」

「もーそういうのいいから」

「でも、俺からもお前に言いたいことがある」

「なに?」

「おまえ…太っただろ」

 突然、アキはユウゴの脛に蹴りを繰り出した…が、蹴った本人であるアキが床に足を抱えて転げまわり悶絶した。

「$%&?▽○●○×%#”!!!」

「お前の貧弱アンヨが俺の脛に勝てるわけないだろ」

 ユウゴは弁慶の泣き所とも呼ばれる脛に怪獣娘の蹴りをくらったにもかかわらず顔色一つ変えず立ち尽くしていた。

「ボッボクは太ってなんかない…」

 足を抱えながらもアキは自身が肥えたことを真っ向から否定した。

「いやー正直久しぶりに会った時、眼で見てもわからなかったから頭蓋の骨格に触れてようやくわかったほどだし」

「うるさいうるさいうるさーい!!太ってないったら太ってないんだー!」

「アキ…プラシーボ効果では痩せないぞ」

「だから太ってない!!」

 二人のやり取りにミクはクスクスと笑った。

 しかし、一人レイカは落ち着けなかった。

「?…ウィンちゃんどうしたの?」

「へあっ!なっ何でもありません」

 レイカの様子が気がかりになったミクは不審に思った。

「具合でも悪いの?」

「いっいえ」(はぁーほんとは今日来たのは今度プライベートで同人サイトに上げるための諏訪さんのイラストを描いてみたからエレキングさんに見てもらおうとしていたのに来る途中でアキさんとミクさんに会ってしまって断るにも断り切れず、今は平然を装っているけれどこの鞄には諏訪さんのみならず他の『おまピト』キャラも書き溜めプリントしたモノがあるからそんなのこの感情が解る同志でないと見られたら私もう生きていけない、っていうか恥ずかしいー、何としてでもエレキングさんと合流しなければ)

 『おまピト』とは正式タイトルは「お前にピットイン!」の略語で、週刊少年ツブラヤで連載されている中高生、特に女性層に大人気の青春スポーツ系少年漫画である。すでにアニメ化や劇場作品も公開されるほどの人気を博しているが作品自体は健全な少年漫画だが一部の女子の間ではカップリング談義まで持ち上がっているなど二次創作も盛んに行われている。

 レイカもその一人ではあるがこういった活動をするファン層はごく一部なため表沙汰には出せないモノもある。

 レイカの書いたイラストは至って健全な部類に入るのだが本人自身はそういった活動や趣味趣向を明るみに出すのは恥ずかしいと感じる者も多くいる。

「ねぇウインちゃん?」

「はははっはい!?なななんでしょう」

 あからさまな挙動不審にミクもさすがにレイカを心配し始めた。

「なんかほかの事考えてるっぽい」

「べっ別にそんなことないですよ」

「気もそぼろって感じ」

((気もそぞろ))

 ミクの言い間違いに宮下兄妹は心の中で訂正した。

 すると、ソウルライザーからエレキングのメールが届いた。

 メールの内容によると調査を終えて今、支部に着いたとの事であった。

「ああー私、用事を思い出したのでこれで失礼します」

 その場を立ち去るように小走りで向かったが曲がり角ですれ違う人とぶつかった。

「きゃあ!?」

 レイカは勢いの反動でしりもちをついてしまいその場で転倒した。

「すっすみません!私の不注意で…なあぁっ!!」

 謝罪をするレイカだったがレイカの鞄は衝撃の反動で中身が散らばってしまっていた。

 中にはレイカが書いていてイラストもばら撒いていた。

「うっウインちゃん大丈夫?」

「ギャアアアアアアアアアア!!こっこっ殺じてくだざい!!」

 突如、自身の首を絞め奇声と共に自決を図ろうとしていた。

「うっウインちゃん!?どっどうしたのウインちゃん!?」

「おお落ち着いてまっまさかまた暴走!?」

 すると、ぶつかった相手が鞄からはみ出たイラストを手に取り見詰めた。

「おおおおお願いします、何も見なかったごとにじでぐだざい…何でもじまずから」

 涙ながらも仲のいいはずの二人に必死で説得した。

「うっうん…何が?」

「とりあえず落ち着こうウインちゃん」

 何のことかさっぱりの二人をよそに険しい顔でレイカのイラストを見ていた。

「ひぎゃぁ!!あっあああああのう」

「何だ、これは」

 先ほどの険しい顔がさらに険しくなり始めた。

「これを書いたのは君か」

「はっ…はい」

 もはや空前の灯の様になったレイカは今にも崩れそうなほど白くなっていた。

「何なんだ、このイラストは、キャラクターのバランスが悪すぎる」

「へっ?」

「まず、この右の諏訪は原作に忠実にしようとするあまり君の持つ本来の個性と原作者の絵タッチを無理に真似ようとするあまりバランスを悪くしている。それとこっちの背景はピットボール部の合宿編の山中トレーニングを意識して書いたな」

「はっはい」

「君、右利きだろう。特にこの山の絵は一見は自然な形に仕上がっているが無理に右手で自然に仕上げているあまり山の自然な背景がかえって不自然になっている。こういう一つが無数にある山の場合、右手ではなく普段使わない左手で書け」

「はっはい!」

 そのあまりにも的確な見解は長らくファンであるレイカを驚かせた。

 そのアドバイスはキャラクターの特性、レイカ自身の個性と癖、絵描きの特徴の的を的確に捉えつつ欠点を見抜く目がこの人がプロであることをレイカは理解した。

「だが画力は見事だ。いい才能を持っている」

「あっありがとうございます」

 レイカは自分が生まれて初めて何かで褒められたことがあまりにも嬉しくお辞儀しながら笑みを浮かべた。

「よう、トオル」

「むっ、ユウゴ」

 ユウゴはハイタッチの感覚で手をかざし、トオルも同じように手をかざすと二人の手から接触と共に炸裂音と共に固く組んだ。

「お兄ちゃんの知り合い?」

「ああ、こいつは亀沢トオルって言って俺の仕事仲間兼同業者兼変態作家だ」

「誰が変態だよ」

「ほんとの事だろ」

 アキには二人が肩を組むほどの仲の良さが窺えた。

「あっそうそう関東連合会の件、こっちで片しといた。橋本モリヘイは拘束され今頃拷m…ンンッ…尋問中だろう」

「例の渋谷の『MONS』の購入者か」

「ああ、途中経過だがこれからまた仕事だ」

 二人の会話にミクが割って入った。

「お兄さんも怪獣人間なの?」

「んんっ?ああ、俺は『ガメラ』の『カイジューソウル』を持つ怪獣人間だ」

 ミクとアキは『ガメラ』という怪獣に聞き覚えが無かった。

 もっともアキはユウゴの『カイジューソウル』である『ゴジラ』でさえ知らなかった。

 そもそも彼らの怪獣は『GIRLS』の記録には無い、未知の怪獣である故か彼女たち怪獣娘は首をかしげるしかなかった。

「もう俺らは怪獣人間の名称じゃ呼ばれないらしいぞ。『怪獣娘』との区別もかねて今後は『怪獣漢』らしい」

「『怪獣漢』!?なんだその変な名前は」

「俺もそう思うよ…もっとも『怪獣娘』っていう名称もちんちくりんな名前だと思う」

 アキ、ミク、レイカはそんなちんちくりんな名前の『怪獣娘』であることが三人の頭の上に乗っかった。

「んじゃ…案件があるから俺はこれで」

 その場を立ち去ろうとした時、トオルの背後から首に巻きつく黒斑点模様の尻尾形状のものがトオルの首を強く締めていた。

「ぬぐぁ!!」

「お久しぶりですね…先生」

「おっおっお前は、まっまさかこここ湖上かぁ!?ちぇりゃあああ!!」

 かろうじて首に巻きつく前に指先で防いでいたためその場で鞭を蹴り上げ鞭がほどけた瞬間、エレキングから1mほど後ろに下がった。

「えっエレキングさんのお知合いですか?」

「亀沢トオル、ペンネーム『相沢トト』 私はその人の下で1年前にアシスタントとしてたの」

「『相沢トト』って漫画、小説、ラノベなんかをたった半年でたくさん連載してる売れっ子の作家さんじゃないですか!…でもずいぶん前から活動休業中では」

 レイカにはトオルのペンネームに聞き覚えがあった。

「この人はネタ探しのためには地の果てまで行く人よ、人の迷惑お構いなしに」

「貴様のような歩く有害女がなぜここにいる」

「見ての通り、私もちんちくりんな『怪獣娘』の一人ですから」

「げっ…聞かれてたのか…」

 ユウゴは先ほどの会話から彼女がずっと隠れて聞いていたことに彼女の性格の悪さが感じた。

「俺は忘れないぞ!貴様のおかげで俺はデビューからずっと共に歩んできたペンネームを捨てる羽目になったことを!」

「あなたの放浪癖によるせいで連載は一時的にストップするは不定期に連載を余儀なくされた出版社に私がどれほど頭を下げたか」

「はぁん、作家の不都合にも対応できない出版社に頭下げる義理はない」

「なんか無茶苦茶な人だなぁ」

 ミクには作家トオルが何とも自分勝手な傲慢な性格であることを印象付いた。

「う~ん…でもそれって自分のやることに迷いのない人なのかもなぁ」

「どいうこと?」

「一見無茶苦茶なことを言ってるけど誰よりも本を書くことが好きだからの行動力なのかも」

 アキの見解はミクとは違った。

 それはトオルがいかに作家としてのプライドとこだわりを見抜いていた。

「とにかくもう半年以上も休載なさってらっしゃるのですから出版社に詫びを入れるためにも半年間溜め込んだ作品、提出してください」

「来るなー!!貴様なんぞにこの半年間培った俺の作品を腐らせるわけにはいかん!それに貴様はもう俺のアシスタントじゃないだろう」

「いつまでも意地を張らないでください。私がチェックします。場合によっては実力行使も…」

 エレキングは手持ちの鞭をしならせ臨戦態勢に入った。

「やれるもんならやってみろ!」

 負けじとトオルも近くにあった丸テーブルを盾に両者一歩引かぬ勢いだった。

「ままっ待ってください。二人とも落ち着いて」

 レイカが割って二人を止めようとした。

「むっ…そうだ!!むははははは!!湖上!!貴様の代わりになるアシは既にいるんだよ!ここに!!」

 トオルがそう言うとレイカの頭を掴み自分の前に突き出した。…そう、彼は咄嗟にレイカを強引にアシスタントとして任命したのであった。

「えっ?えええええええええええっ!!?」

「先ほど彼女の絵を見て才能を感じた!今日から彼女が俺の新アシスタントだ!」

 レイカが戸惑う中、トオルはもう是が非でも何でもいいから理由をつけて勝手に決めた。

「さっきまでボロクソ言ってたのに…」

 ミクは先ほどの事と今の発言に矛盾を感じ突っ込んだ。

「でも褒めるところは褒めてたよ」

 アキはフォローをした。

「単に『飴と鞭』の使い分けだろう…悪い所はボロクソに言いたいこと言って最後にちょっと褒める常套手段だろう」

「台無しだよ、お兄ちゃん」

 アキのフォローを無に帰すような見解をユウゴは語った。

「ええい!そこ、ごちゃごちゃうるさい!!」

「ちょっと待ってください!!私はそんな、まだやるとは、せめてちゃんとお話を」

 するとトオルの腰バックからレイカに向けて何かを手渡した。

 それは何と現金で120万円の札束であった。

「$%%$%&&%#&‘’#&%&‘!?」

 突如、一高校生であるレイカに驚愕の額の札束を手渡され戸惑うあまり言動がおかしくなり混乱のあまり手にある大金の重みに目が回っていた。

「いま手元にある俺の全額を君に前金として支払う、高校生の平均金額の六倍の値を支払うんだ!それほどの仕事はしてもらうからな」

 もはやレイカには何が何だか追いつけないでいた。

 それもそのはず、大金を手渡され為す術もなくなるとは正にこのことであった。

「先生、彼女に迷惑です。自分から人に迷惑をかけないことを心掛けていたあなたが迷惑かけてどうするつもりですか」

「それは、迷惑かける作品を作るなと言ったんだ!血迷った作品なんぞ創作界の毒物だ!!特に昔、お前に任せた…あああっあああああ!!!思い出すだけで吐き気がする!!こここっこんな時は別のネタを探して創作意欲をわかせなければ…おい!お前、名は」

 ようやく我に返ったレイカに錯乱するトオルが尋ねた。

「はへっ?うっウインダムです…」

「よし、ダム子!早速仕事だ、この劣悪女から逃げるぞ!!」

「だっダム子!?」

 普段呼ばれ慣れている『ウインちゃん』ではなくあまり言われてほしくない『ダム子』呼びされたことに固まったが、トオルにはそんなことお構いなしにレイカを小脇に抱えた。

「へっ?ちょちょちょ何してるんですか!?」

 突然の事に小脇に捕まったレイカが抵抗した。

 その拍子でGIRLS指定制服がスカートであったため下着がモロにアキとミクに見えてしまった。

「うっウィンちゃん…」

「だっ…大胆…」

「見ないでくださぁぁいぃぃ!!!」

 トオルはレイカを抱え窓のあるカウンターに乗り上げ腰を深く落とし蟹股状になるとレイカを抱えている方とは逆の右手の第2から第5指の基節骨にあたる指の中間部に窓ガラスに触れるとトオルは深く息を吸うと。

「はぁ!!!!」

 唐突に声を上げた瞬間、ガラスが振動し始めガラスが耐え切れず原子崩壊を起こし粒子となって砂の様にサラサラと一部は外の空気の風に吸い上げられ流され、残りの一部はカウンターに落ちた。

「「「ええええええええええ!!!!!」」」

 トオルの起こした仰天能力にレイカ、アキ、ミクは度肝を抜かれた。

「あばよ!湖上!!フハハハハッ!!」

 振り向きざま後ろに倒れるように二人は落ちていった。

 落下の中、レイカはもう一連のカオスについていけないあまりに笑いながら涙を浮かべこう思った。

(ああ~私、死んだ~…アギさん、ミクさん…さようなら…)

「いまだ!!獣装‘‘ガメラ’’」

 すぐさまトオルはガメラに変身して硬質な背中の甲羅の内の二枚の下から光が漏れ始めた。

「シェルバーニアァァァァ!!ギャハハハハハッ!この亀沢トオルがただ落ちて死んでたまるか!!ぶわははははっ!!」

「とっととと飛んでる!?」

 やがて二人は飛びさって見えなくなっていった。

 

 

 ガラスの無いの休憩室でエレキングは変身を解き湖上ランに戻っていた。

「逃げたわね…まったくどこまでも図々しい人ねぇ」

 ランはポケットにしまっていたソウルライザーに耳を当て誰かに連絡した。

「ピグモン…5階休憩室で『怪獣漢』が窓を破壊して『怪獣娘』一人誘拐して逃走したわ…私はこの後、用事があるから後の事はお願いね」

 何とも間違いは無いが誤解のある報告をしたランはその場を立ち去り、入れ替わりで大急ぎで飛び出してきたトモミはその凄惨な現場に到着すると絶句と共に目を丸くした。

「ひぃやああああああ!!もっもぉぉぉぉういい加減にしてください!!ゴジゴジ!あなたはどこまでGIRLSを破壊する気ですか!!ピグモンかつてないほど怒りますよ!!」

 頬を膨らませ顔を真っ赤にしてユウゴに攻めよった。

「俺じゃないんですが…まぁ同じ『怪獣漢』がやったことだから何と言いますか」

「ゴジラァァァ!!」

 トモミの後に次いで老人がユウゴに向かって飛び込んできた。

「じっちゃん…何でここに…」

「何を言うか!わしの大好きな怪獣よ、お前さんのような怪獣に生涯を捧げることこそわし、円谷エイザンの生きがいじゃよ~」

「ああっじっちゃん、ちょっと今立て込んでて…」

「今度は何しよったんじゃ?ええ~」

「まぁ見ての通り…ガメラが少女誘拐したってところかな」

「なんと事案を起こしよったか…ガメラの奴は」

「じっちゃん…あんたが来たってことは先方にまた厄介ごと押し付けられたか」

「まぁそんなとこじゃのう…悪いがお前さんもガメラの仕事に回ってくれぬか。あやつの向かい先まで案内してやるわい」

「……なるほど、わかった」

 突然の事にミクとアキには何が何だか理解が追い付いていない状況にいる中、円谷が二人の方を振り返り二人に近づいた。

「ほほほっ、突然乱入してすまんのう。わしは円谷エイザン。そこの寝ぼけ眼の子がアキちゃんじゃな。ユウゴから聞いとるよ」

「ぼっボク?…ねっ寝ぼけ眼!?お兄ちゃん!!」

「…………」

「ユウゴの言う通り、いつも眠そうでちょっと不機嫌そうな普通の子って感じじゃのう」

「お・に・い・ちゃ・ん!!」

「……………」

 アキのジト目から光線のような視線がユウゴに突き刺さりユウゴは目を合わせられなかった。

「じっちゃん、早く行こうぜ」

「おおっそうじゃ、どうじゃ嬢ちゃん二人も一緒に行ってみるか」

「ああっ!?こいつらも連れていくのか」

「ぼっボクらも!?行くってどこですか?」

 アキの疑問に円谷は人差し指を上に向けた。

「上じゃよ」

「「上?」」

 

 

 GIRLS東京支部ヘリポート

 

 ヘリポートでは既にメインローターを回転させ、いつでも飛び立てる準備が出来ている『TBRY・F』とテール部分に書かれた灰色の装甲のヘリが待機していた。

「へっヘリコプター!?」

「その通り!アメリカにあった200機ほどの内MONARCHに3機を取り寄せ改造したUH-60改エアロボットじゃよ!」

「これに乗るんですか!?」

「もちろんじゃよ!お前さんたちを空にご招待じゃ!!」

 風圧がミクとアキの肌にヒリヒリと伝わるに連れて初めてのヘリコプターの搭乗に二人の高揚が高まっていた。

 円谷が先に入るとあとに続いてアキとミク、ユウゴが乗り込んだ。

「うわぁーヘリコプターの中ってこんなになってるんだ…」

 ミクは初めてのヘリコプターに感極まっていた。初めて見るヘリの内部、いろいろな計器や電子機器類、そのどれもがミクとアキには新鮮な気分であった。

 ヘリの外ではトモミが見送っていた。

「アギアギー、ミクミクー、あとの事は頼みますよー。あとゴジゴジ!あなた達怪獣漢さんたちがGIRLS所有のものを破壊した分はきっちり払ってもらい、」

 最後に乗り込んだユウゴがトモミの言うことを遮るかのようにヘリのスライドドアを閉めた。

 外でトモミが怒りながら何かを言っているのだが、何も聞こえなかった。

「円谷財団所有のUH-60改エアロボットにご登場いただき誠にありがとうございます。当機の操縦を担当させていただきます。円谷会長の秘書兼代表取締役の川崎です。これより港区埠頭倉庫地に向買います」

 機体が上昇しGIRLS東京支部のヘリポートから離れていき、アキとミクは窓を覗き込むとヘリポートでトモミが手を振っているのが見て取れた。

「「わぁぁぁぁぁ~~~~!!」」

 ヘリポートから離れて数秒後には既に東京のどのビル群よりも高い位置まで飛び立ち東京の街を二人は見下ろしていた。

「あんまり動き回るな。ヘリの中では静かにしていろ」

 ユウゴにはあまり珍しくない様子であった。

「お兄ちゃんはヘリコプターに乗ったことあるの?」

「何回も乗ってる。紛争地帯では道路より空路が速いからな…ただ、欠点がある」

「欠点?」

「撃ち落されやすい」

「「……………」」

 

 

さかのぼること一時間前

 

「ああ、わしだ……何?…わかった…」

「どうしたんじゃ?」

「先ほど橋本を尋問にかけたら驚くべきことを吐きましてね。橋本はおたくらが追う生物兵器の仲介業者をこっそり企てていたらしくて別組織からその生物兵器を買い、近々その生物兵器を大量に全国の極道や裏組織に高値で売買するために幾つかのうちの所有する倉庫に大量発注していたようで」

「『MONS』の転売か…」

「おいっ地図出せ」

「ヘイっ!」

 田中氏の付き添いの鞄から東京二十三区の地図が取り出され、その地図をある位置を目安に他の区間を省き、港区のある場所を指した。

「ここですな。ここは元々うちの管轄になる前は企業の冷凍食品の保管庫だった所で当時の倉庫の冷蔵システムを残してそのままうちの傘下が買い取り後任で橋本組が管理していた場所ですな」

「仕入れた『MONS』を保管するのにうってつけってわけか」

「たしかに前に摘発したとこではパッケージ状の『MONS』の保管場所は冷凍倉庫じゃったのう」

「何度もご迷惑をお掛けしやすがどうかわしのツラに免じてお願いしやす」

「よし、この件は俺が預かる。いまおそらくその倉庫の方も橋本の一件でごった返してるだろう」

「それでしたらうちの者を回し確認に向かわせます。現地でお互い合流しやしょう」

「ああ…」

 

 

 港区埠頭倉庫 倉庫屋根

「と言うわけだ。『MONS』の確認がてらついでにここへネタ探しと言うわけだ」

「じゃないですよ!!急に窓ガラスを粉々にするはビルから落下するは飛ぶはもう無茶苦茶ですよ!!」

「いやーあのままテーブルを使って窓ガラスを割るのも良かったけど、もし下に人がいたら困るから前に中国に取材しに行ったときに教わった『発勁』の原理を応用してみたら案の定、窓ガラスが砂になったからさぁもう笑っちゃうよ」

 ガメラは指を鳴らしながら自画自賛した。

「笑い事じゃないですよ」

 屋根に着陸したガメラとレイカだったが先ほどのことをレイカは振り返り恐ろしくなり屋根に膝をついて崩れた。

「トオルさん、エレキングさんと何があったんですか」

「奴の話をするな!!思い出すだけで俺の今日の気分が悪くなる」

 ガメラはレイカの質問には嫌でも黙秘した。

 レイカ自身も他人の事情には深く関わる必要が無いと感じた。しかし、彼女はガメラの基『相沢トト』のアシスタントはさすがに荷が重く感じた。なぜなら彼女の鞄にはガメラから手渡されたアシスタント料の前金120万円がずっしりと重圧がかかっていた。

 レイカはやはり耐え切れず鞄から120万円を取り出し、ガメラに返した。

「トオルさん、やっぱり私には荷が重すぎます。このお金は返します」

 レイカが返金した120万円を素直に受け取った。

「まぁ仕方ない。俺も湖上から逃げるために君を巻き込んでしまった。やるやらないは君の自由だ、強制はしないよ」

「すみません、アシスタントはまたの機会にでも」

「ああ、そうだね。俺もこんな手を使いたくは無いが仕方ないね」

「へっ?」

 ガメラの左手には『おまピト』の諏訪のキーホルダーが付いたレイカの私物のスマートフォンがあった。

「わっ私の携帯!えっえっいつの間に!?」

 鞄を漁るもそこには無かったことから間違いなく彼女のスマートフォンであった。

 レイカはいつどこでスリ取られたか考えると彼に抱えられた時からビルから落下した時を思い出し、あの時しかないと確信した。

「ほうほうっこれはこれは、ずいぶんとえげつない物を抱えてるねぇ」

「やっ止めてください!見ないでください!ていうかどうやってパスワード解除したんですか!?」

「大方、『お前にピットイン』の諏訪にちなんで『4030(スワサン)』だろう。アシスタントの行動パターンなどお見通しなんだよ」

 レイカの身長では変身し2mもある巨体のガメラの頭上に掲げた彼女のスマートフォンにはレイカが飛び跳ねるも届くはずがなかった。おまけに彼女のスマートフォンに謎のパーセンテージが表示されていた。

 やがてパーセンテージが100%になるとレイカに帰した。

「君のデータは全部、俺の携帯にコピーさせてもらった。別にアシスタントをやるやらないは君の自由だから、ヒャァハハハハッ!!」

 悪魔である。レイカの目の前に悪魔がいた。

 呆然とするレイカに鞄にしまっていたソウルライザーからエレキングから受信メールが届いた。

『伝え忘れたけど。先生はすぐにあなたの弱みを握ってくるから気を付けなさい』

 メッセージを見たレイカは空を見上げ鼻からゆっくり息を吸い、鼻から排気した。

(エレキングさん……既に手遅れです…)

 注意喚起の遅れた遠くのエレキングに対して心の中でツッコんだ。

「さっもたもたせず行くぞ、ダム子!」

「ちょっ待ってください、せめて画像だけは!画像だけは削除してください!あとダム子って呼ばないでください!」

 レイカが自分の携帯のデータの処分を懇願するもガメラは一貫して「ヤダ」の一点張りだった。

 レイカはまたもガメラの小脇に抱えられそのまま屋根から下に飛び降りた。

 着地と同時に倉庫の中にいた田中組の構成員が突如現れた怪物にびっくりして全員が懐にしまっていた銃を取り出した。

「なっなんだてめぃ!!」

「ひやぁ!!じゅじゅじゅ銃向けられてますよ!」

「落ち着け」

 銃を構える構成員に奥にいた男がげんこつをくらわせた。

「馬鹿野郎!銃を下ろせ!このお方は親父の俺たち幹部の命の恩人だ!」

「ええっ!?こっこいつが…」

 男の顔にガメラは見覚えがあった。それは、先ほどの幹部会に参加していた山波組組長 山田タカオミであった。

「若いのが失礼をした。幹部会ではお世話になりやした」

 山田は深く頭を下げガメラたちを案内した。

「あっあのう、どういう御関係なのでしょうか」

「つい数時間前に私含め田中組直系幹部全員が先生に命を救われた次第です」

「仕事だからな…それで高橋は何を吐いたんだ」

「ええっ、奴は裏家業で例の生物兵器を密売しようとしていたらしくここはその保管庫としての機能をしていたらしく幸い競売前に取り押さえましたがその中身ってのがこれなんですよ」

 ビニールのカーテンをくぐるとそこは巨大な冷蔵庫の如く、中は人間にはとてつもなく寒い空間が広がっていた。

「さっささ寒いですね」

 レイカはガタガタと体を震え、両手で腕を擦り摩擦熱を起こしながら内部の寒さに耐えていた。

「変身しておけば寒くないだろう」

「いやいや、余計寒いですよ。私の怪獣娘の姿っておへそとか出ちゃってますし」

 確かに怪獣娘の身体は『獣殻(シェル)』で覆われてはいるがほとんどの場合、露出の多い格好になる。

 対して怪獣漢は『全身獣殻(フルシェル)』と呼ばれる、全身が『獣殻』に覆われた状態になるため素肌部分の露出は無い。

 レイカはガメラの姿を改めて見直すと頭から足にかけて『獣殻』に覆われ顔と腕、関節部や脹脛からつま先は背中の硬質な甲羅状の素材で固められ、まるで子供の頃に絵本で見た鎧甲冑の騎士…には程遠いが全身甲冑のような姿であることは共通点としてあった。

「?なんだ」

「いっいえ…なんでも」

「ここです」

 山田に案内された場所は倉庫の全体の半分ほど先を通ると天井から床まで5mを壁となり実に4分の3ほどがスライド式の扉の入口前に三人は立ち止った。

「では、開けます」

 山田が左にぶら下がっていた緑と赤の二色のボタンのついたリモコンを手に取り赤のボタンを押すと扉がゆっくりと開き、中から今いる位置以上の冷気が流れ込できた。

「ひっひぇぇぇ!さっさっきより寒すぎます」

 中に入ると上下に酸素カプセルのような容器に冷凍保存されたチュパカブラが10体ほど保管されていた。

「こっこれ全部あの怪物なんでしょうか」

「だろうな、通常型のチュパカブラをこれだけ仕入れれば大規模なテロだって起こせるだろうな」

「てっテロですか!?」

 レイカの耳にはテレビのニュースでしか聞いたことのない『テロ』という言葉の元凶を目の前にしていることに身の毛がよだった。

 ガメラが一つ一つ確認する中、レイカも恐る恐る容器の中を覗こうとしたが、『MONS』に気を取られ床に広がった霜に気づかず踏んでバランスが崩れそうになった。

「わわわわわぁわっわぁわぁ!!!」

 辛うじて壁に手を付け体制を保ったが何か凸凹した感触を感じた。

「?…あまり寒くなくなってきたような」

 山田は異変に気が付いた。巨大冷凍庫にいるはずが妙に寒くなくなってきたことにいち早く気付いた。

「…おい、お前何してんだ」

 ガメラはレイカが壁に手を突きながら冷や汗をかいていることに気付いた。

「……………っ」

 冷や汗をかきながらレイカは恐る恐る振り返ると『冷凍システム制御装置』のパネルに触れていた。おまけにシステムの機能が解除になっており徐々にこの倉庫の温度が高くなり『MONS』の容器の温度が高くなっていた。

 シュゥゥゥーッと全容器から蒸気が噴出し始めた。

「…ダム子、その人を外に連れて逃げろ」

「すっすみませんすみません!!」

「誤ってないで早く逃げろ!!」

「はいぃぃぃ!!こここっこっちです」

 レイカは山田を連れ扉まで走った。

 

 扉の外に出ると人が一人出れる程度に開けていた隙間から山田とレイカが出る。

「二代目!中で何が」

 山波組の構成員が駆け寄ると隙間から後を追ってきたチュパカブラたちが顔を出すが辛うじて詰まり出ては来なかった。

「うわぁぁぁ!!なんだこの化け物!!」

 チュパカブラが出ようとしたところを奥からガメラがチュパカブラの尻尾を掴み、詰まった隙間から無理やり引っこ抜いた。

「おい!!聞こえるか!」

「せっ先生!ご無事で」

「俺の事はいい!とにかくここを閉めろ!」

「でもそんなことしたら」

「いいから早くしろ!!」

 薄暗い扉の奥でたった一人、ガメラが残り戦っていた。

(わっ私のせいだ。私の不注意でこんなことに…なのに、なのに…)

 レイカは自分の失態が招いたことに悔やんでいた。

(せっかくGIRLSの隊員になったのに…いま私にできることは、できることは…)

 山田は事態の悪化を防ぐために自分の恩人を見捨てることに躊躇っていた。

「ぐっくっっ…」

「二代目どうするんですか!?」

「うるせぇ!今考えてるんだろうが!!」

「私が行きます」

「「「!!?」」」

 レイカは自ら中に入ることを懇願した。

「無茶だ、御嬢さん!あんな化け物の中に突っ込もうなんて」

「それでも見捨てられません!!たった一人で皆さんを逃がすためだけに自分だけ残って戦おうなんて漫画じゃないのに…なのに…恰好が良すぎます!私だってGIRLSの怪獣娘なんです!」

 レイカは鞄にしまっていたソウルライザーを取り出した。

「おっお嬢ちゃんが…あの…」

「離れてください。私が変身して中に入ったら扉を閉めてください」

「……しかし、」

「…わかりました」

「二代目…」

 山田の了承を得て、レイカはソウルライザーを手に翳した。

「ソウルライド!ウインダム!」

 ソウルライザーの光と共にレイカが光に包まれレイカの『カイジューソウル』が活性化した。

 光の中で彼女の身体にメタリックな『獣殻』が現れ、光の中から怪獣娘『ウインダム』が現れた。

 

 チュパカブラが一体、外に飛び出そうとした。

「待ちやがれ!!」

 しかし、隙間からレーザー光線が飛び出しチュパカブラが吹き飛んだ。

「何!?」

 何事かと思い後ろを振り返ると隙間からウインダムが飛び出してきた。

「先生!私も加勢します!」

「どうして戻って来た!逃げる時間はあっただろう」

 二人は背中を合わせて身を固め防御姿勢に入った。

「もともとは私の失態なんです。それに作家業界に『相沢トト』を失ったら大きな損害ですよ!そんなことをしたらアシスタントとして失格ですしエレキングさんに怒られちゃいます。何よりエレキングさんを悲しませたくはありません!…でもやっぱり怖いです」

 隙を狙いチュパカブラの一体が跳びかかってきた。

「ひぎゃあぁぁぁぁ!!」

「フンッ!!」

 ウインダムに飛びかかったチュパカブラはガメラの貫手によって皮膚に突き刺さり肉を抉った。

 貫手が確実に心臓部に刺さり一匹絶命した。

 肉体が崩壊して溶けだし泡状のスライムの様になった。

 残り9匹。

「はわわわわっ…」

「あいつが悲しむだと…寝言は寝て言え。いいかダム子、奴らは群れから成す集団戦闘術がプログラムされている。さっきの様に一匹でお前目掛けて襲い掛かったことで戦略分析をされた。そしてたどり着いた結論はお前が一番の弱者であることに目をつけた。次は確実におまえを狙ってくるぞ」

「えええ!?どどどどうするんですか!?」

「まだ奴らも俺がいるから迂闊にはお前に近づけない。それに見ろ、先ほどお前のレーザー光線に飛ばされた奴。まだピンピンしている。わかるかこいつらに怪獣娘の攻撃は通用しない。せいぜい頬を突っつかれた程度だろう」

「私じゃ打つ手なしじゃないですか」

 二人が中央で固まっていたその時、ゆっくり閉まるはずの扉が勢いよく開いた。

「打つ手ならここにいるぞ!」

 扉から漏れる逆光で影のシルエットの三人がウインダムの目に飛びこんできた。

 目が慣れるとその正体が変身したユウゴことゴジラとアキとミクことアギラとミクラスだった。

「ウインちゃん!お待たせ~」

「間に合ったみたいだね」

 応援が来たことにウインダムは安堵した。

「みっ皆さん…」

「そういうことだ!ダム子、お前は下がってろ!!」

 ガメラはウインダムの横腹をアメフトボールの様に持ち上げそのまま三人のいる方向へ構え。

「わわわっせっせんせー!!なな何をするつもりですか!?」

「決まっているだろう!この構えときたら投げるまで!!」

 そのままウインダムはミサイルの様に三人のいる方向に投げた。

「いやぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁっぁぁぁぁっぁぁっぁぁ!!!」

 投げられたと同時にゴジラが走り出した。

「二人とも!捕えろよ!!」

 そのままスライディングでウインダムとゴジラがすれ違い、ウィンダムは二人キャッチされ、ゴジラはガメラと背中合わせに身構えた。

「よう、ゴジラ。遅かったな、もう一匹そこの地面のシミになってる。ざっと残り9匹だ」

「んじゃ、俺が5匹、お前が4匹で公平に行こう」

「公平?」「くくくっいいや公平なんて似合わないよな…」

「「どっちかが全部倒せばそれでいい!!」」

 二人は襲い掛かる残り9匹のチュパカブラに迎え撃った。

 一方、ウインダムを運びアギラとミクラスはドラム缶に隠れていた。

 目を回していたウィンダムはようやく意識を起こして何があったのか二人に訪ねた。

「いやーもう凄かったよ。あの緑の人がウインちゃんをボールみたいに投げたんだよ!ウィンちゃんの新必殺技『エッフェル塔ミサイル』炸裂だよ!」

「そんな技、嫌です!」

「でも、まぁ今もすごいよ」

 アギラが覗く先に二人も見るとゴジラとガメラの鬼神の如き戦いぶりに三人は眼を奪われた。

 その光景は怪獣娘の戦い方とは打って変わってまるで違った。

 己の肉体を最大限利用し小手先の貫手の技や強烈な一撃強打撃の力、更には二人の息の合った連携。

 怪獣娘にも技や力、怪獣娘たちの連携もできるが、これは明らかに練度も次元も違い過ぎることは三人の目からでも理解できた。

「「「すっすごい…」」」

 一匹一匹と倒され、次第に数が減り残るは二体となった。

「「ガロロロロッ」」

「さて、あとはお前らだ」

「「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」

 戦況的に乏しいこの状況下でさえ二匹はそれでも立ち向かった。しかし、その無謀ともいえる行為が二大怪獣の拳に下顎を強打されそのまま吹き飛び天井の折板屋根に激突し屋根が変形を起こしオマケに屋根のボルトや金具類に突き刺さりガッツリとはまり二匹は身動きが取れなくなった。

「これでお前らは動けない」

「そう動けなくなった」

「「だからこそ俺たちの熱線と火球が良く当たる!!」」

“放射熱線”

“熱炎火球”

 二大怪獣の熱線と火球が捉えた二匹に直撃し天井ごとぶち抜きそのまま上空で跡形もなく爆発四散した。

 穴の開いた天井から日光の光が流れ込みゴジラとガメラを照らした。

「「「おおーー…」」」

 隠れていた三人は完璧なフィニッシュに感激のあまり言葉が無かった、とその時。

「動くな!!」

 背後から何者かがゴジラとガメラに銃を向け静止を呼びかけた。

「そのままゆっくりこっちを向け」

 二人がゆっくり手を挙げながら体を向けると短髪に少し青めの背広の刑事がくっきりとした黒目で二人を捉えつつ刑事は銃を構えている。

「お前たち何者だ!」

 刑事の目には相手の生物二体の床に散乱する謎の緑の液体らしきものに穴の開いた天井を見てこの異常な光景にもかかわらず冷静に分析した。

「手を上げてこっちを向くということは言葉が解るんだな」

 遅れて男性の後に同じく背広の女性の刑事が現れ二人に仰天して慌てて銃を構えた。

「せせせっ先輩!ななっ何なんですか、こいつら!?」

「わからん、まだ打つな どうやら言葉が解るらしい」

 この隙にゴジラはアギラたちに尻尾を回して合図を出した。

 アギラたちは息をひそめアギラは先ほどから腰に巻いていたストックから音を立てずにゆっくりとグレネードを取り出した。

 

 

 ヘリ内

「いいかこれから二人に託す物がある」

「なっ何?急に改まって」

 そういうとユウゴは備え付けの装備品のグレネードとそれらをしまうストックを手に取った。

「ばっばば爆弾!?」

「いいやこれは殺傷の無い『スモークグレネード』という手榴弾の一種だ。文字通りこれで煙りを巻いて逃げるための物だ。もし、やばくなったら俺が合図を送る」

 ユウゴはアキに事前に異常事態が起きたとき用のために『スモークグレネード』を手渡していた。

 

 

(お兄ちゃんの合図は尻尾が地面を3回叩いた時、コントロール力のあるミクちゃんがお兄ちゃんに向かって投げて、その隙にボクがボクたちの周りに投げ込む…)

 ゴジラの尻尾が一回地面を叩き、もう一回叩き、そして最後に強く叩き合図が入った。

 ミクラスが安全ピンを抜きゴジラに向けて投げ込み、それを尻尾で打ち返すと高く上がり穴から煙が宙に上がったことでより早く空間に煙が蔓延した。

 すかさずアギラも安全ピンを抜き地面に転がすとアギラたちを覆い隠して煙で姿を晦ました。

「うっぐっ!煙!?」

「せせっ先輩!!何も見えません!?」

「いったん出るぞ!!」

 耐え切れず倉庫から飛び出して二人は新鮮な空気を吸いに飛び出した。

「木城!菊地!中で何があった!?」

「うううっ内野さん聞いてください!変な化け物が煙の何かを打ち上げて」

「何を言ってんだお前?」

「とにかくまだ近くにいるはずだ!探すぞ!」

 そこには既に警察の包囲網で埋め尽くされていた。

 山波組構成員を軒並み取り押さえ警察車両バスに無理矢理押し込められた。

 内野は車内に入り運転席に着いた。

「ったく、あの爺さんは相変わらず警察使いが荒いたらありゃしない」

「お久しぶりですね、内野さん」

 車内には運転席に内野、後部座席に山田、他の者はおらずパワーウィンドウはすべて閉められ完全防音の空間にこの二人だけの会話があった。

「ああ、巣鴨事件以来だな…野郎は元気だったか?」

「驚きましたよ。あの時の少年がずいぶんと大きくなってたことに、これで怪獣に助けられたのは()()()になります」

「お前らに引き渡された高橋組の若造、ずいぶんかわいがったな」

「いえいえ、これから先もっと恐ろしいことになるのにあの程度など序の口ですよ」

「連中はあの小僧がベラベラと吐いたことじゃぁ収まる連中じゃないだろうな」

「例のGIRLSに連なる組織ですか」

「いいや、GIRLSがあの組織を真似たんだよ。最もそうとは思ってないだろうけど」

「では、この日本に集まるのですね…」

「ああ、どうやら集結するらしい…じいさん曰く『大戦争』の再来らしい…ったくあの怪獣戦闘愛好家(クソジジイ)は何考えてんのやら、とっとと隠居しろ」

「ご老公に隠居は無理でしょう。それに私どもの様な『支持者』もあなた達『協力者』もあの方と同じことをお考えでしょうし」

「俺は世間の堅気が巻き込まれないようにしてるだけだ」

「でしょうね」

 

 

 ちょうどその頃、屋根にはゴジラ達がアギラたちを背中に乗せ身を隠していた。

「予想より早く来たな…」

「お兄ちゃんたちは知ってたの?」

「あれだけすればおのずとそうなるだろう」

「とにかくここから退散するぞ」

「なんかゴキブリみたいな退散の仕方だね」

「落とすぞ」

 ミクラスの言う通りさながらゴキブリの様に這いつくばって全員この場をゆっくりと退散した。

 

 

 倉庫から退散して数キロ地点…

「それにしてもすごかったな~こうビシュンってパンチを繰り出したと思ったら後ろから飛びかかってきたら見ないで肘で応戦してさ」

 ミクラスたちが先ほどの戦闘の話題に花を咲かせている少し後ろをトオルとレイカが歩いていた。

「考え直すのなら今の内だぞ」

「いいえ、私が決めた事です」

「仕事きついぞ給料安いぞ休みないぞ」

「えっええええ!?」

「今のはギャグだ。こんなことでいちいち驚くな」

「もー脅かさないでくださいよせんせーってば」

 そういうとトオルはまたしてもレイカからくすねたスマートフォンを取り出しいじくり始めた。

「ってまた私のスマホ勝手に!」

「ほらよ」

 しかし、今度は素直にレイカに帰したが画面にはレイカがいつも使用している『ツブッター』のアプリが起動していた。

「まずはSNSなどに自分で書いた画像などをアップして第三者に見てもらえ。多くの人間に自分の書いたイラストや作品を共有しろ。お前はまず恥を捨てることからだ」

 『ツブッター』には新規のレイカの別アカウントが表示されていた。

「先生…でも『エッフェル塔.bot』なんてアカウント名は嫌です!!ああー!機能制限がかけられてる!」

 そのアカウントは悪意に満ちたまでのアカウント名にされ『ツブッター』のトラブル防止用の制限項目をすべて作動させられており卑猥や過激な発言と投稿、更には誹謗中傷な内容の書き込みがある場合、第2者が強制ブロックできるようにされていた。

 レイカ自身、特にそういった書き込みはしないが腐女子特有の腐った内容の情報も投稿も一切遮断されていた。

 これら等の設定は第2者であるトオルによってすべて一括管理されていた。

 なお、この設定は個人が所有するすべてのアカウントに適用されメイン垢、複数のサブ垢に制限がかけられる設定がなされていた。

「これじゃ不自由すぎます!」

「俺の下で働く以上この手のトラブルには対策が必要だ。文句があるなら減給するぞ」

「ええー…」

「やっぱ『エッフェル塔ミサイル』似合ってるんじゃない」

 横からミクが入り込んで先ほどのウィンダムの新必殺技について語り掛けた。

「嫌ですよ!そんな技。って先生さっきの話聞いてたんですか!?」

「当たり前だ!俺を誰だと思ってる。どんな時でも常に周囲に耳を傾け研ぎ澄ましているんだよ。それが俺のネタ探しのポリシーだ」

 レイカはトオルがあんな戦闘中でも聞こえていたことに驚いた。

「あれ?なんかGIRLSの前にすごい人が…」

 アキが目にした光景は玄関先に20人ほどのスーツ姿の人だかりが出来ていた。

 しかし、トオルには彼らの顔に見覚えがあった。

「げっ!?あいつら編集者どもだ!」

 彼らはすべて『相沢トト』の連載の出版社の編集者達であった。

 トオルはすぐにこの場を去ろうとした瞬間、一人の編集者がトオルに気付いた。

「いたぞ!!相沢先生だ!!」

 突如、それに気付きなだれ込む様にトオルを追いかけた。

「チクショウ!!湖上の奴めぇ全出版社にチクりやがったな!!」

 一目散に逃げていきそれを追うように大量の編集者がなだれ込んできた。

「先生!待ってください!!『はるぞら』の原稿を!」

「何言ってんだ!うちが先だ!」

「いいや、うちの『金の子』が先だ!!」

 やがて、集団が通りすぎて行き、奥でトオルが何かを言っていた。

「おぉぉぉぉぼぉぉぉぉぉえぇぇぇぇてぇぇぇぇぇろぉぉぉぉこがぁぁぁみぃぃぃぃ――――――――!!!!!」

 この声にこたえるかのようにランがやって来た。

「自業自得です。先生」

「えっエレキングさん!」

「まったく、あの人は相変わらず懲りない人ね。あなたも気を付けなさい。先生のアシスタントは楽じゃないから」

「はっはい!」

 こうして一連の案件を終えユウゴたちはひと段落落ち着くこととなった。

「あいつらどこまで行くつもりだ?」

「さっさぁ…」




見せられないMONS~

「ユウゴの言う通り、いつも眠そうでちょっと不機嫌そうな普通の子って感じじゃのう」
「お・に・い・ちゃ・ん!!」
「……………」
 アキのジト目から光線のような視線がユウゴに突き刺さりユウゴは目を合わせられなかった。
「他にも根暗だとか死んだ魚の目だとか…」
「お・に・い・ちゃ・ん!!!!」
 アキは変身して観葉植物をユウゴに叩きつけた。


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猿人にはゴリ押しで

 アメリカ 某高速道路

 

 合衆国において年間何万台もの一般乗用車が通る膨大な国土を持つアメリカにとってありふれた高速道路。

 しかし、今日に限って車は一台も通らなかった。

 今日の異常に料金所に10年勤務するバルト・チャールズには腹の底からこみ上げる不安と緊張が彼自身の発汗を促していた。

「なっ何がどうなっているんだ?」

 もっと異常は彼の目の前にあった。

 たかだか高速道路の入り口の料金所にバリケードを張って待機している合衆国陸軍兵士が背中にアサルトライフルぶら下げて何人もいた。

「パッ…パンデミックでも起きちまったのか?」

 バルトは今朝方、上司から「今日、一般車は来ない」と告げられたが彼にはイマイチ、ピンと来なかったが今になってようやく理解した。

「日曜の釣りはできるかな…」

 今更、やり残したことを考え始めたら突如、兵士たちが横一列に並び敬礼し始めた。

 やがて一分後に大勢の黒い車がやって来た。車体は細く平べったい塗装は真っ黒な車が縦一列に並走して料金所を通ると中間にフロントの前レーンの鏡のような銀のバンパー部分に合衆国の国旗が付いたやたら長いリムジンが通った。

 バルトはようやく理解した。馬鹿みたいに多くの黒い護衛車を引き連れ中央に国旗掲げて通るリムジンに乗る人物はこの合衆国の国家元首、すなわち合衆国一の偉い人がバルトの目の前を通っていた。

 バルトはここの担当になる前にこの高速道路の間に纏わるある噂を思い出していた。

 合衆国新大統領就任後に必ず新大統領と前大統領が決まってここを通るという噂を思い出していた。

「あれって…ほんとだったんだ」

 既に通りすぎると今更ながら自分も大統領車に敬礼した。

 

 

 高速道路内

 

 高速道路を多数の護衛車に守らながら中央のリムジン車内で一人の国家元首が新たな一人の国家元首に移ろうとしていた。

「……一通り目を通したが、私はいまだにまだ信じられる自信はない。『怪獣娘』に次いで『怪獣漢』…おまけにこんな秘密を就任してそうそう知るとは…」

 車内の左座席にはブロンドの短髪にスーツの上からでもわかる多少の筋肉を持つの新たな大統領ロナルド・ロスは手帳よりやや大きい古びた本と書類に目を通しきり酷く項垂れた。

「信じるしかない…君は今や世界の名だたる元首たちと同じ秘密を持ってしまった。新合衆国大統領への第一歩だ」

 その真向いに座るアメリカ初の黒人前大統領ヒューストン・ブルックスは老年の顔のしわを無理にでも寄せながらロス新大統領に説いた。

「この地球に怪獣はまだまだたくさん居そうだな…私がまだマンハッタンにいた頃、奇妙の噂は何度か耳にしたがこうも都市伝説が事実であることを信じろと言われても…」

「肩身が狭くなっただろう…でもそんなものさ、大統領なんて子供の頃はテレビの有名人程度かと思ったら上にはよりさらに上がいることを知らされたよ」

「フレッドが提唱していた怪獣娘による特別機関の発案にさえ当時の政府高官どもは難色を示したほどだ。そんな親友と大統領選で戦うことになるとは思わなかった…あの大統領選後、フレッドは消息を絶ってしまった。副大統領の椅子まで用意したのにこれではまるで喧嘩別れしたようだ…彼が大統領選を辞退しなければ今の私は大統領でもない。前代未聞だぞ『不戦勝の大統領』なんて、明らかにフレッドの方が勝ってたなのに…彼は私に恨みでもあるのか」

「NO…それは違うよロナルド。君は託されたんだ、彼からこの合衆国を世界を」

 ロナルドは顔を覆い深いため息の名、現実を受け入れるしかなかった。

「これから行くところも『怪獣』に関係しているのか?」

「そうだ、これは大統領就任の通過儀礼、これから挨拶に向かうのは合衆国の3つの象徴の内の1つ…いや1つではないな、正確には一人だ」

 ロナルドは耳を傾けるもよくわからなかった。

「挨拶?…誰に?」

「その人物は合衆国の象徴だ」

「……誰が?…合衆国の?…象徴?」

 ロナルドはやはり理解できなかった…その人物が『象徴』と呼ばれていることに。

「ロナルド、よく聞くんだ。この合衆国内には3つの象徴が存在する。1つは『自由の象徴』である『自由の女神』、2つは『栄光の象徴』である『ラシュモア山の大統領像』、そして3つ目こそこれから君が向かう所に彼はいる」

 ロナルドは少し汗ばんだ。

「私もバカではない、この国には王室制は存在しないことなどティーンでもわかることだぞ!この合衆国は様々な民族の下で一つの国家として成り立っているんだ!」

「王室か…彼はある意味では王様だ…」

「かっ…はっぁ…」

「行っただろう、君は信じるしかない…この世の中は誰もが国を持っている。人が歩く所、食べる所、寝る所、それを行えるすべての場所がその人の国だ。だが、これがもし『怪獣』なら『怪獣』と『国家』双方が挨拶するしかない…」

 ヒューストンの言うことはすなわち『怪獣』が『国家』と同等あるいはそれ以上と言うことにロナルドはこれから会う人物に頭を下げただ挨拶するということだけにこれほどまで自分が緊張したことはなかった。

 彼の人生の中で、大学の研究発表や大統領選の時の演説以上に自分が緊張していることに汗ばんでいた。

それでも彼の心情お構いなしに車も時間も進行していた。

 

 

 約2時間後

 

 高速道を超え、州をまたいでたどり着いたのはカルフォルニア州のヨセミテ国立公園などの自然が点在する原生自然地域群の森林地帯…のはずがやたらデカい門に何十人もの兵士…とにかくその門前には警備する兵士しかいなかった。

 リムジン車内の窓から見たロナルドはただ一言「What's this?(何これ?)」としか言うことはなかった。

 リムジンのブレーキがかかりリムジンから降りると就任後に数回顔を合わせた政府高官グレアム・カスリ―が出迎えた。

「お待ちしていましたロナルド・ロス新大統領!早速これに着替えてください!」

「えっ…ええー…」

 何が何だか分からずもとりあえず奥にある大統領がただ着替えるためだけに建設された仮設のコテージに入り30分後出てきたのは登山客のような質素なほど普通の服装にちょっと大きめのバックパックに日よけ用の帽子、40代のロナルドの体力を考慮してか登山用の1本の杖も用意されていた。

「ねっ…ねぇ…これ何しに行くの…」

「新大統領、あなたはこれからこの奥におられる方に挨拶をしに行くのです」

 いざ門の前に立つと10mはあるこの馬鹿でかい門の奥に誰がいるのかロナルドは唾を飲んだ。

「GATE OPEN!!」

 グレアムの声に合わせるかのように門が開きその先の世界の空気が流れこんできた。

 ロナルドが目にした光景は橋のかかった川に人工的に開けた林道、その横には3mから5mはある木々が生い茂っていた。

「なっ…」

「驚かれるも無理はありません、ですがこれらすべて彼が作ったのです」

「What's !? でもここはどう見ても」

「人工的に確かに開きましたが、この道は彼が作ったのです。重機類を持ちいらず己の力のみで」

 ロナルドにはもっとさらに理解できなかった。

 重機を持ちいらずにこんなきれいな道ができるのかと。

「あの川も彼が自ら引き、あの道に生い茂っていた木々を木の葉を退けるように横に追いやり道を作ったのです。すべては来客を迎えるために橋を造り、道を作ったと伝え聞いております」

 グレアムの言うことはまるで神話のような話ばかりであった。

「それではいってらっしゃいませ」

 あっけにとられつい中に入ってしまったロナルドは後ろの門がしまったのに気付いた。

「ええー…仮にも大統領だよ…」

 ロナルドに残されたことはただこの先の道に沿って進むしか無かった。

 

 

2時間後…

 しばらく進んで2kmあたりで奥に何やら家が見えてきた。

「こんなところに家?」

 進んでみるとやはり小屋であった。

 しかもその家に着くと家の先は草原に山々が連なる絶景出会った。

「なっ…なんて綺麗なんだ…」

 美しい女性を見つけたかのように目を丸くしてこの雄大で最高の絶景にロナルドは目を奪われていた。

「気に入ったかなボーイ」

 すぐ後ろから声がしたことに気付くと振り返るとそこには少し薄い黒髪のやや色味のある肌の老人ではあるがだがロナルドがすぐに思ったのは『デカッ!?』と思えるほどの巨体であった。

 元大学のアメリカンフットボールのエースだった身長180cmのロナルドが小さく思えるほどの2m超えの老人が彼の目の前にいた。

「遠路はるばるよく来たね、まぁ上がりたまえ」

 彼の言う通り彼の家にお邪魔させてもらった。

 家に入る前にこの老人の全体像を眺め回した。

 とにかく巨大であった2mの巨体にそれに似合わぬ人間のウエストよりある腕、足、更に胴体は何とも巨大だが弛んでるわけではなかった。そうすべて筋肉、筋肉の老人がいた。

 恐る恐る入るとやたらと涼しい空間に開放的な間取りだがそのすべてが木で出来ていた。

「ウェルカム、ロナルド・ロス」

「わっ私を知っているのですか!?」

「当然だ。ここへは毎日、軍からラプターが私の家目掛けて新聞を届けてくれる。不自由はないよ……んんっちょうど来たようだ」

 老人が外に出ると上空から何やら高音速の音が聞こえ始めてきた。

 ロナルドは老人の後ろで覗くと本当に戦闘機が飛んできていた。それどころか大統領就任前に演習で何度も見たF-22ラプターであった。

 ラプターから何かカプセルが射出したのが見え、こちらに落ちてきた。

 F-22ラプターはロッキード社とボーイング社が共同開発した第五世代戦闘機で最大速度2,410 km/hを誇る現役戦闘機から射出されたカプセルをアメフトボールの様にキャッチした。中に入っていたのはニューヨークタイムズやロイター通信など様々な新聞がそこにはあった。

 つまりたかだか新聞配達のために軍の現役戦闘機に配達してもらっているのである。

 一体この老人は何者なのか考えると先ほどの車内でのヒューストンとの会話を思い出した。

『彼は『力の象徴』。権力でも暴力でもない、腕力や脚力、体力すべてにおいて最強、あそこにいるのはそういう神様の様な人なのさぁ。名は『ジョン・コング』アメリカ一強くて偉い『キングコング』だ』

 あまりのインパクトに驚かされてロナルドはすっかり忘れていた。

「ミッ、Mr.コング…ここへは、お一人で住まわれているのでしょうか」

「ああっそうだとも…妻はずいぶん昔に死んでしまい、娘も3年前に病で亡くなったことをさっきみたいにカプセルに挿入された一報と私宛の遺書が届いてね、それで知ったよ」

「ではご家族はもう…」

「いいや、一人日本に旅立った孫がいるんだ」

「お孫さん…ですか」

「ああ…おや、ロナルド…君はツイている。こんな早くに私への挑戦者が来るとは」

 二人がいる家の前に巨大なグリズリーが茂みから現れた。

「でっデカい!!」

「なぁに、毎回ランダムでこの森に住まい、育ち、子を残した雄たちが私に挑戦してくるんだ。下がっていなさいロナルド」

 グリズリーはその巨体を持ち上げ立ち上がり仁王立ちになりその巨体は3mにも達していた。

「ふふふっ楽しませてくれ…」

 そして、グリズリーは老人に向かって襲い掛かった。

 日本 東京都台東区倉庫

 

 雨風に晒され金属部が全体的にひどく錆びれた倉庫に正門を無理矢理こじ開け侵入した男女4人組が真昼間に肝試しに来ていた。

「ここって元々ヤクザの所有地だったんだぜ」

「おいおいまじかよ!金目のモノとかあんじゃねぇの!?」

「ねぇやっぱやめようよ」

「大丈夫だってどうせ何もないんだか」

 積極的な三人に無理に連れられた消極的な一人の合わせた大学生四人グループが無人とはいえ所有地の倉庫の奥に足を踏み入れていく。

 やがて奥へ進むと錆びれた倉庫に似つかわしくないほど真新しい扉があった。

「何だ、この扉…他とは違ってずいぶんと新しいな…」

「とにかく開けてみようぜ」

 不審に思うも彼らの好奇心は扉の開をした。

 中には錆びれた倉庫には似つかわしくもない巨大な装置と容器があった。

「なっ何これ…」

「酸素カプセル?…にしては大きすぎるな」

 装置には何本もの管と無数のコードがビッシリと複雑に絡まっていた。

 一人の男性が鉄パイプを持ち出し度胸試しに容器の中身を鉄パイプで叩き開けようとしていた。

「おいおい!何してんだよ!!」

「何でもいいからこいつの中身見てみようぜ」

 無策無謀にも彼は容器の周りを叩き始めた。

 激しい金属音が倉庫内に響き、僅かしかないガラス部分にあたり割れた。

 ガラス部分に光が差し込み中にいる者を目覚めさせた。

 容器の蓋部分が吹っ飛び倉庫の出口前にいた3人に落ちてきた。

「危ない!!」「きゃぁぁぁ!!」

 もう一人の男性が女性二人を突き飛ばし二人は難を逃れたがもう一人の男性は容器の蓋の下敷きになっていた。

 女性たちが駆け寄り彼の名前を呼ぶも気絶して返事が返ってこなかった。

 何が起きたのか分からず、『奴』を目覚めさせた男性は容器の方を見ると2m以上はある毛むくじゃらの猿のような怪物が容器から出てきて自分を見ていた。

 やがてゆっくりと自分に近づき始め男性は腰を抜かしながらも下がり続け、壁にぶつかると最後の抵抗ばかりに持っていた鉄パイプを投げつけるも効果などなかった。

 ゆっくりと怪物は足を上げ男性を踏みつけようとした。

 男性は自分の行った無謀な行為を恥じるばかりに小言の様に『ごめんなさい』を連呼していた。

 すると男性の後ろの壁の少し錆びて開いた穴から入り込む光が消えた瞬間、壁を突き破る巨大な拳が怪物に命中してそのまま巨体の怪物が宙を舞いに奥の壁を突き破り倉庫の外に出た。

 突然の事に仰天して男性は自分のいた位置から左にズレると先ほどいた位置の壁から突き破ってまたしても猿のような怪物がデカい拳を両手に下げ出てきた。

 吹っ飛んだ化け物と同じサイズだが明らかに全体的な面では壁を突き破って出てきた化け物の方がデカく見えた。

 外から兵士らしき集団が入ってきて大学生たちを守るように銃を吹っ飛んだ化け物の方に向けて衛生兵らしき人たちが下敷きになった男性を救出し体を仰向けにして持ち出した担架に乗せた。

 女性二人も外に連れ出し、腰を抜かしていた男性も兵士に両脇を抱えられ運び出された。

「救助者は確保した。後は任せた『キングコング』」

 突如、兵士の胸ぐらを掴み額に血管を浮き出させ兵士を一回り大きな目の茶色い瞳で睨んだ。

「なっ何をする!!」

「俺は『キング』じゃない!ただの『コング』だ!!」

「すっすまなかった…ついっ」

 コングは兵士の胸ぐらを離し怪物の確認をしたが既に吹っ飛んだ先にはいなかった。

 中隊の隊長が無線を取り連絡を送った。

「こちら02中隊、目標は逃亡。要救助者は無事保護後、現在国際怪獣病院に搬送中」

《了解した。ソリトンレーダーで確認した。目標はそのまま北西に向けて進行中、直ちに『コング』を向かわせろ》

「了解と言いたいところですが…既に向かったようです」

 目の前にコングはいなく、天井に大きな穴が開いていた。

 

 

 同区 上野動物園

 

 『上野動物園』

 

 保有種数約500種以上を飼育し、上野駅から徒歩5分の都内最大級のレジャー施設。

 GIRLS東京支部からも近く、最近ではGIRLS主催の怪獣娘のイベント活動なども盛んに行われている。

 例えばチラシ配りなど、

「お願いしまーす」「お願いしまーす」

「なんだか正規の隊員になってもこういうことするんですね…」

「ボクは別にチラシ配り嫌いじゃないよ」

 レイカとアキはGIRLS主催の午後からのイベントと大怪獣ファイトの告知に派遣されていた。

「ほら、お兄ちゃんもキビキビ動いて」

「何で俺が着ぐるみなんぞ着てなきゃならん」

 二人の後ろで妙にギョロ目のクジラのようなキャラクターの着ぐるみを着たユウゴとトオルが愛想よくふるまっていた。

「もとはと言えばお兄ちゃんたちがGIRLSの所有物を破壊したのが原因でしょ」

 既にGIRLS内で散々破壊の限りを尽くしたユウゴとトオルがトモミから弁償勧告がなされ今後『GIRLS』と『MONARCH』が共同戦線する上での協調を図るために廊下を破壊したユウゴと休憩室のガラスを破壊したトオルは修繕するまで弁償兼依頼で駆り出されている。

「とはいえ、着ぐるみを着ながらボディーガードってのもなぁ」

 二人が着る着ぐるみのキャラクターが異様にもずんぐりとした二頭身体形なためとてもボディーガードできるような姿ではなかった。ちなみに黒がユウゴで緑がトオルである。

「ガマちゃんでしたっけ、子供向け番組のキャラクターで今度の大怪獣ファイトが地上波で放送に先駆けてのテレビ局の宣伝マスコットに起用されたらしいです」

「へぇーボク家はテレビ無いからよくは知らないなぁ」

「おかげで俺は中学の時、ジジイと揉めて家を飛び出した」

「ええー!!家出したんですか!?」

「そう、お兄ちゃんは些細なことで揉めて家を飛び出してほぼ1年間ホームレスをしてたんだ」

「テレビが無いだけでホームレス生活をするって相当な覚悟ですよね…」

 レイカはユウゴの行動力に驚愕した。その人並外れた思考はレイカの頭では想像ができないほどであった。

「ご家族とか心配なさらないのですか?」

「おじいちゃんは『心配する必要ない』って言ってたけどお母さんは心配してたかな…」

「やっぱりそうですよね…」

「もともとお母さんが倒れてボクたちはおじいちゃんの家に引き取られることになってたから」

「・・・・・・・・・ええええええっ!?」

 あまりにもあっさりしてよくもない様な内容をアキがさらっと言ったことにレイカはさらなる驚愕を隠せなかった。

「どっどうしたの?ウインちゃん」

「いやいやいや!えっえっえっ!?アギさんのお母さまはご病気なんですか!?」

「病気も何も、もう亡くなったよ…」

 レイカは言葉を無くした。こうもあっさりしていると気まずく自分がしたことに後悔と罪悪感でレイカの胸が締め付けられていた。

「どうしたの?ウインちゃん…具合が悪いの?」

「あっアギさん…私はどんなことがあってもアギさんの味方です」

 レイカはアキをそっと抱きしめ抱擁した。

「あっありがとう…」

 その後ろで着ぐるみのユウゴとトオルが着ぐるみ隔てて話していた。

「お前、母親いなかったのか?」

「母親どころか親父もいないよ」

「ええええ!?どういうことですか!?」

 さらなる驚愕の事実にレイカはユウゴの着ぐるみの開閉式の口を開き問い詰めた。

「開けるな」

「だだだだっだっていないって…えええ!?」

「別に不思議でもないと思うよ…両親が居ない家庭なんて」

「そんな普通みたいに言わないでください!どうなってるんですかアギさんもとい宮下家の家系は!?」

「お母さんは三年前に亡くなって、お父さんは行方不明、ああそういえば父方の父、つまり今のお爺ちゃんとは別のおじいちゃんも行方不明だったかな…」

「アギさんの父方勢のお父様は何かの呪いでもかけられてるんですか…」

「たぶん…でも親戚はいるから別にこれと言って特には…」

「あああっアギさん!どうしちゃたんですか!目に余りますよ!ご家族に対して冷めすぎですよ!!」

 レイカはアキの肩をしっかりと掴みグラグラと揺らした。

「わぁわぁわぁわぁわぁわぁわぁっ」

 レイカは気が済んだのかアキの肩から手を離し日ごろの運動不足により両ひざに手をついて疲労が現れていた。

「はぁはぁはぁはぁっ…」

 対するアキは頭が揺れたことで軽い眩暈を起こし項垂れた。

「うううううんんんんんっ…」

「気は済んだか?」

「どっどうしてお二人はそんな平然と…」

「ぼっボクも最初は悲しかったよ…でも、もう立ち直ったから別に辛くも無いしおじいちゃんおばあちゃんもいるから、それにこうして今もお兄ちゃんがいるから必然的に悲しくないから…心配してくれてありがとうウインちゃん」

「あっ…アギざんっッっッ~~~!!」

「おいっ茶番は終わったか?」

「せっ先生!何てこと言うんですか!」

「お前たちがアホみたいに傷の嘗め合いしてる間にこっちは全部のチラシ配ったぞ!」

「へっ?」

 レイカ達はようやく我に返り周りを見るとクスクスと笑われて子供には指差されそれを親が遮るのを見て顔を赤らめて着ぐるみ二人を引っ張って別の方で配ってるミクの方に向かった。

 

 

 休憩地点

 

 ベンチで手に顎を乗せ普段あまり考えることをしないはずのミクが深くため息をつきながら休んでいた。

 すると奥からアキたちが向かって来た。

「ミクさん、こっちはチラシ配り終わりましたよ~」

「どうしたのミクちゃん?手に顎なんか乗せて」

 ミクの普段とは考えられない異変に空きは気付いた。

「なにそれーあたしが普段から何も考えないみたいに~…と言いたいんだけどさぁ…ちょっと悩み事をねぇ」

「「悩み事?」」

「うんっ…前にレッドキング先輩とザンドリアスとで練習したんだけどさぁ…ザンドリアスって先輩の指導でなんかこう…成長したなーって思ったの」

「それはいい事じゃないですか。ザンさんも一人前に成長した証拠ですよ」

「でもさぁそれに比べてあたし何も変わってないなーって思っちゃって…何と言うか、アギちゃんにはさぁゼットンさんやユウゴさん、ウィンちゃんにはエレキングさんやトオルさんみたいに…こうなんか年上の支えみたいな人がその…私にはいなくて…ちょっと不安というか」

「ミクちゃん!そんなことはn」

 アキの激励を遮るかのように着ぐるみのユウゴがミクの座るベンチの横に座り、ミクがちょっと動揺する中ユウゴはミクにアドバイスをした。

「これはさっき話してたんだがなぁ…俺とアキには両親が居ない。でもだからって悲しくないわけじゃない。なぜなら、親に代わりの存在があったからだ。アキにはジジイとばあさんがいる、俺にもホームレス時代にそういう人がいた。人ってのは何かが足りない分を誰かから見て学ぶ生き物だ」

「話が見えてこないんだけど…っていうかアギちゃんって両親居ないの!?」

「うっうん…」

「それでも何かを得たいならお前も誰かから学んでみるか?」

「誰からですか?」

「俺の知る限り間違いなく強いやつが1人いる。俺自身、1度戦って引き分けたほどだ」

「ゆっユウゴさんと引き分けたんですか!?」

 トオルにはその人物が誰なのか見当がついた。

「ユウゴ、お前まさか…あいつの事か?」

「そうだ、そいつの名は『コング』。俺の知る中じゃなかなかのパワーファイトタイプの奴だ」

 ユウゴの話に耳を傾けていたミクには『コング』という人物がユウゴと同じくらい強く、何よりパワーファイトのスタイルが自分と同じタイプの人物に違いないと踏んだ。

「おっ教えてください!その人どんな人なんですか?」

「聞くより会う方がいいだろう。今度会わせてやるよ」

 ミクは立ち上がりユウゴと『コング』に会う約束をしてすっかり立ち直った。

「よかったですね、ミクさん」

「いいのか…本当に」

「先生、知ってるんですか?」

「ああっ…何というか確かにパワーファイターだが…」

 少し不穏な面持ちのトオルがレイカには気がかりであった。

 すっかり立ち直りこの後の午後のイベントに向けてミクを先頭にこのままイベントホールの準備室に向かおうとした時、前方から少しチャラけた団体客が近寄って来た。

「その制服って君たちGIRLSでしょ」

「ねぇねぇよかったら俺たちと一緒にお茶でもどお?」

 これはいわゆるナンパである。最近、GIRLSのイベントにナンパを持ち掛けるタチの悪い出会い目的で怪獣娘に話しかけトラブルを起こす輩が後を絶たない。

 ユウゴとトオルの依頼はすなわちそういうことである。

「いや、あたしら急いでるんで」

「まぁまぁちょっとだけいいじゃん」

 そういうと男がミクの腕を掴み強引に引っ張った。

「ちょっ放してよ!」

 事案発生!すぐさまユウゴとトオルは男の手を着ぐるみ手の部分(ヒレ)ではたき割って入った。

「何だ?この着ぐるみ…」

 トモミからの指示、『無理にでも連れて行こうとしたらやっちゃってください』とのこと。

 問答無用、次の瞬間ガマちゃんの口が大きく開き中にいたユウゴに捕まりそのまま捕縛、着ぐるみの中でゴソモソと動くがやがて静まり後ろを振り返り着ぐるみの後ろ先から破り完全に伸びきったタチの悪い客が出てきた。

 この一連の流れはさながらガマちゃんが捕食しそのまま排泄したようにも見えた。

「おっおまえ、どうしたんだ!?」

「てめぇ!何しやがんだ!!」

 剣幕張るもガマちゃんから滲み出る殺気のオーラにビクつき渋々タチの悪い客は伸びきった男を連れこの場を去っていった。

「ざまぁみろ!こっちには強い怪獣が付いてるもんねぇーだ」

「いいからミクさん、先急ぎましょう」

「おおっそうだった」

 全員が急いでイベントホールに向かおうとする中、最後尾にいたユウゴの鼻に小豆の匂いに洋菓子のような少し焦がしのきいた芳醇な香りに誘われユウゴは立ち止り匂いのする方向に進み皆とはぐれた。

 本来の方向に進んでいた皆の内アキは異変に気付いた。

「あれっ!?お兄ちゃんがいない」

「ええっ!?そういえば」

「ゴメンみんな、ボクお兄ちゃん探してくるから先行ってて。すぐ見つけて後を追うから」

 アキと三人で別れ、三人はすぐさまイベントホールに向かう一方アキは着ぐるみのユウゴを探しに向かった。

 

 

 みんなとはぐれ一人でビニール袋を提げてその中の紙袋の中の物を早く食べたい気持ちの着ぐるみの中のユウゴがいた。

「俺の鼻に狂いはなかった。あの焼きたてのカステラの匂いに練り上げた餡子を挟むモノと言ったらやっぱ『羊羹カステラ』」

 『羊羹カステラ』

 シベリア(菓子)とも呼ばれ、カステラで餡子を挟み冷やし固めた和洋折衷の絶品菓子である。

「あの屋台なかなかいい趣味してるな~、今じゃ製造に手間がかかる上に需要が少ないはずなのにまさかこんな所で御目にかかれるとは、何で売ってあったんだろう…それよりもココ…どこ?」

 周りは自分が先ほどまで着ぐるみを着たまま買いに行っていた屋台と子供用の遊具、木、木、…完全に迷子になっていた。

 ユウゴはひとまず立ち止っても仕方ないと思い進むがイベントホールとは完全に真逆の方向に進んでいた。

 やがて徐々に人通りの少ないエリアに入った。

(人も全然居ない…)

 周りを見渡すあまり着ぐるみの視野が狭いせいかユウゴは誰かとぶつかった。

(あっ…とっとっ…誰だ?)

 着ぐるみのユウゴの前にぶつかったのは、黒髪を長い髪に頭に変な形状のツノ、全身の殆どが黒を占める格好、その佇まいと面持ちからユウゴは彼女が『怪獣娘』であることが直ぐに分かった。

(この人…あの時ビルにいた他の怪獣娘より高い気配と同じ…ってことはこの人があのゼットンって人か?)

「…ガマちゃん…」

 突如、ゼットンは着ぐるみ近づき抱き着いた。

 着ぐるみに抱き着いてきたゼットンに対して中にいたユウゴは呆気にとられた。

(えっ?えっ?何してんのこの人…)

 さらに横の通りからアキがユウゴを探しにやって来た。

「どこに行ったんだろうお兄ちゃん……あっ居た。お兄ちゃ…えっ!?」

アキの目にした光景は自分が憧れている人ゼットンその人が自分の兄が着こんだ着ぐるみに抱き着いていた。

「ぜっ…ゼットンさん?」

 ゼットンはアキの呼びかけに気付き顔を赤らめてすぐに着ぐるみから離れた。

「すっ好きなんですね…ガマちゃんが…」

 恥ずかしい気持ちがゼットンの頬を赤く染めながら小さく頷いた。

「よっよかったら写真、ボクが撮りましょうか?」

「ありがとうアギラ、お願い」

 そういうとゼットンは自信のソウルライザーを取り出しアキに手渡した。

「じゃっじゃぁ撮りますよ」

 アキはソウルライザーをカメラのアプリを起動して構えフォーカスに合わせピースをするゼットンとガマちゃんを捉えた。

「それじゃ撮りまーす」

 アキがシャッターボタンを押そうとした瞬間、着ぐるみの口が先ほどのレイカの強引な開け方でボルトが緩んだのか突如、ガマちゃんの口の下顎がズレ落ちアキの目から中にいるユウゴが丸見えになり、間に合わずそのままシャッターを押してしまった。

 二人が仰天する中、ゼットンもさすがに横にいるガマちゃんの異変に気付くと振り返ろうとした。

 横にいるガマちゃんに異常は特になかった。

 幸いユウゴが咄嗟にもとに戻した為、着ぐるみと言う生き物の魔法を崩すことなく難を逃れた。

 アギラはホッと安心して胸を撫で下ろした。

「もっもう一枚撮りますね」

 次こそしっかり構え直して再度撮影を試み今度はちゃんと撮れた。

その時、ユウゴの着ぐるみの口の隙間から見たのは何かが木々の間を走っていく生物をユウゴの目は捉えた。

 人間では無い、身長は2m以上の二足歩行の生き物が走っていたのを見て着ぐるみのヒレでアキに撮影に待ったをかけた。

「お兄ちゃん、どうしたの?」

 ユウゴは着ぐるみの開閉式の口をゼットンに見えない角度を維持し自分の顎まで下げた。

「撮影は止めだ、『MONS』が通り過ぎて行った!」

「ええっ!?」

「おそらく野郎は人の密集地、イベントホールに向かった。俺は先に向かうぞ」

 そういうとアキより先に『MONS』の後を着ぐるみのままユウゴは走って追った。

 困惑するアキはおどついていた。

「行って、アギラ。もうガマちゃんの写真は撮れたから、あなたはあなたのできることをして」

「ゼットンさん…ごめんなさい、これお返しします」

 アキはゼットンのソウルライザーを返し着ぐるみのユウゴを追うように走りながらソウルライザーに手を翳し変身して後を追った。

 ゼットンが見届けると改めてソウルライザーのフォトフォルダーを見るとあとに取れたガマちゃんのツーショットに少し微笑んだ。そのまま指で画面をスクロールすると先ほど失敗した写真が出てきた。

「ゴジラ…」

 その写真はゼットンの横にいたのはガマちゃんの口の中にいたユウゴであることに驚いた。

「どうして…」

 疑問に思うも足元にビニール袋が落ちていた。

「これ…」

 それはユウゴが購入していた『羊羹カステラ』であった。

 

 

 イベントホール

 

 一方、ここイベントホールでは最近改装して連日、動物たちの芸を披露する等のイベントはもちろんの事、GIRLSの告知イベントとして利用させてもらっている。

 円状の土壌の半分を座席で囲みお客さんが満員であった。

 子供連れもいれば大怪獣ファイトファンで賑わっていた。

 土壌のカーテンの後ろで変身したミクラスが覗いていた。

「うわぁぁー…人がこんなにたくさん」

 舞台裏では先に着いて居たミクラスたちがスタンバイしていた。

 舞台裏では様々な動物たちがケージに入っていて順番が来たら飼育員がこのケージから出て土壌の舞台で芸を披露する、しかし今回はこの場に怪獣娘がいることにケージにいる動物たちは興味津々で視線を送っていた。

「せっせんせー、どっ動物たちがこっちを睨んでるんですけど」

 ウインダムは周りの動物達にビクつきながら恐怖心を和らげるためにトオルの着ぐるみもヒレにしがみ付いていた。

「当たり前だ、動物は好奇心が存在する。珍しい物、動くものに追従する習性がある。さっき飼育員の取材で教えてもらった」

「こっこんな時にも取材してたんですか!?」

「動物園なんぞそうそう行く事も無い。ここで動物園のネタを掴んで俺の作品に注ぎ込む」

 ウインダムはトオルの取材熱に呆気にとられていると後ろで動く箱にビクつく。

振り返ると『キングコブラ』と書かれた箱にウィンダムの目に飛びこんだ。

「ひぃぃぃーー!!」

 そうこうしているとアナウンスのスピーカーにキーッと音が入り込んだ。

《さぁ続きましてゴリラのラーラとGIRLSの皆さんと一緒に登場です。今回特別にGIRLSさんから元気でかわいらしい怪獣娘さんたちが遊びに来てくれましたー》

 出番のアナウンスが入り自分たちと反対側の大型動物用のカーテンから絵描きゴリラのラーラが最初に出て少し遅れて自分たちが出る登場の手はず通り行こうとしたその時、着ぐるみの中のトオルが何かを感じ取りガマちゃんの口から体を出し、二人を下がらせた。

「下がれ!」

「わっ!」「へっぇ!?」

 咄嗟の事に二人が動揺すると自分たちの出るカーテンの外からいきなりゴリラが入り込んできた。

 入って来たゴリラは隅っこで怯えていた。

「えっ?何が起きてるんですか!?」

 何事かと思いトオルは着ぐるみを着こみカーテンを開くと土壌の中央で仁王立ちのまま息を荒げながらこちらを睨む猿人の化け物がいた。

「せっせんせぇっあれ、アナウンスで言ってたゴリラのラーラさんですよね…」

「いや、俺たちの後ろで丸まってるのがたぶんそいつだろう…」

「じゃあっあれなんですか」

「お前ら…観客の避難誘導をしろ」

 観客がざわつき始め、これが演出なのかそうでないのかわかっていなかった。

 あたりの匂いを嗅ぐ化け物は全体への威嚇とばかりに大きな雄叫びを荒げた。

 突如、園内にシャドウ警報のサイレンと避難勧告が流れてようやくこの非常事態に気付き観客は慌てて非難し始めた。

 逃げまどう観客に興味を抱いたのか猿人の化け物は方向を観客の方に進もうとしていた。

「おい!エテ公!どこ行こうとしてる!」

 これに気付くように猿人はトオルに気付いた。

 猿人は自身の足を地面に強く踏み込み巨体が加速した。

「獣装ガメラ!」

 トオルの着ぐるみの中が光の輝き手足を通す部分から鋭利な爪の手と硬質な鎧の手足が着ぐるみから生えて異形の格好になったまま猿人に拳を突き立て猿人は腹部に走った衝撃に怯みよろけた。

 観客席で避難誘導を終えたウインダム達が見たのはオタマジャクシがカエルに急速に進化した姿の着ぐるみを被ったままのガメラであった。

「えっええええ!?センセー何してるんですか!」

「臨機応変だ!」

「そう言うことじゃないですよ!何で着ぐるみを脱がないんですか」

 戦いの中にイレギュラー対応にも程があるその恰好をウインダムは追及せざるを得ない状況にツッコんだ。

「来いよ、エテ公」

 ようやく回復が済み、立ち上がり再度挑もうとした時、横から何かが着地して砂煙の中、また更なる猿人が現れた。

「手を出すなガメラ、そいつは俺の獲物だ」

 しかし、突如現れた猿人は言葉を話すことができおまけにガメラを知っていた。

「おっお前、コングか!?」

「コング…」

 ミクラスの耳に先ほどユウゴに会う約束をした人物『コング』が頭によぎり、ミクラスの目の前に現れた猿人がミクラスの瞳に映った。

 




見せられないMONS~

「来いよ、エテ公」
 ようやく回復が済み、立ち上がり再度挑もうとした時、横から何かが着地して砂煙の中、また更なる猿人が現れ、地面に腰まで深々と突き刺さっていた。
「ぬっ…少し力み過ぎた」
「なにやってんだあほエテ公!!」


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三大怪獣

 アメリカ 

 

 切り株を土台に腕ほどの大きさの丸太を斧で切る作業。

 農夫、樵、様々な男達が開拓時代から連日共に続く肉体労働。

 そして、ここに黙々と丸太を切り続ける者がいた、ただ唯一の違いは上記の職のような者達ではなくこの作業をする人物が合衆国大統領であること以外に違いはない。

「ふっん!!」

 丸太を一刀両断する音が響く中、向かい焚火の上に大きめの吊し上げた鉄鍋でジョンが何かを焼いていた。

「ウンッ…だいぶ焼け目が付いたな…ロナルド!そろそろ止めて食事にしよう」

 ジョンの一声に振り降ろしてた斧が止まり、作業を中断し焚火の前にあった大きな丸太を椅子代わりに座った。

「君はなかなか筋がある。君は元々、都会人ではないな。その肉体の付き具合も従来のモノではない、自然に形成されたモノだ。農家出身だね」

「えっ…ええっテキサスの田舎の農家の生まれでティーンの頃から大学に行くまでは…もう随分とこういうことをしてきませんでしたので何だか不思議な気分で」

「初心は大事だ、君の職は常にそれを忘れがちになるだろう。元々、私はアメリカ人ではない。スカルアイランドと呼ばれた絶海の孤島出身でアメリカに来たのは54年の時さ。まだ10の時だ…さあ、召し上がれ」

 そういうと彼は大きな手の指先で持った木で形成しフライ返したで器用にすくい、木で作った皿に鉄鍋で焼いたジャガイモ、ニンジン、マッシュルーム、中央にはこんがり焼けた小判状のハンバーグが二つであった。

「どっどうも」

「さっ手を合わせて」

「はい?」

「祈る相手は神ではない。感謝するのはすべてだ。ジャガイモ、ニンジン、マッシュルームを形成した土、この肉を育てた森、すべてに等しく感謝を込めてこういうのだ。『いただきます』と」

 彼の言うことは確かにそうだ。特にこのハンバーグ、この肉は先ほどまで生きていた。

 思い返せば一突きだった。そう一突き、一突きで先ほど茂みから現れ彼に挑戦した熊の心臓部を陥没させ仕留めたのだ。

 人間ではない。人間技ではなかった。しかし、彼は人間のまま拳で熊の心臓に突きで熊を絶命させた。

「心配せんでも彼ならちゃんと弔ってやった。後は我々が彼の死に報いるためにも彼の血肉を食べねばならん。それが残った者の責務だ。さぁいただきます」

「いただき…ます」

 ロナルドは手を合わせ日本語で『いただきます』の合言葉をかけ、木のフォークでハンバーグを口にした。

 熊肉は独特な臭みがありあまり好まない人も多いが、この肉はあまりにも柔らかく、ジューシーで甘くコクのある味わいであった。

「肉は臭みを取るためにここに自生する自然のハーブを使用して柔らかくするために天然のスズメバチの蜂蜜で混ぜ込んだ…どうだね?」

 『ウマい』『うまい』『旨い』とにかくそれしかなかった。

 高級フレンチだろうが高級な店であろうがこの味は再現できない。できるはずがなかった。

 なぜならロナルド自身がこの一皿で自然を食している。

 調味料も保存料も着色料も無い。自然そのものだ。

 こればかりは偉そうに御託を並べて料理を評価する料理評論家のようなレビューをするのがおこがましいかった。

 とにかく『美味い』それだけで十分であった。

「とても美味しいです。これほどの料理を口にするのは初めてかもしれない」

「日本には『働かざる者食うべからず』と言う言葉がある。君は今日この料理に見合うだけの仕事をした。誇りを持って食しなさい」

 ジョンの言葉にロナルドの身体を引き締めるような重みを感じた。

「随分と日本に精通しているのですね」

「フフフッ…彼のアインシュタインは『神秘のベールに包まれている国』とまで言ったほどだ。私はそんな国に敬意を表する【ヤツ】がいるからだよ」

「やっ…ヤツ??」

「そう、怪獣はすべて【ヤツ】を筆頭にこれまで幾度となく幾種類の怪獣が現れた本当の始まりの怪獣」

「や…【ヤツ】とは一体何者なんですか?」

「……1962年…私は【ヤツ】と戦った。東経141度、南緯11度に位置する名もなき小さな島。多少の木々が生い茂るその島で私は【ヤツ】と戦った。お互いに一歩も引かぬ攻防の末に結果勝敗が決まらず引き分けたが、私は今でも忘れない。奴の名は【ゴジラ】」

日本 上野動物園外

 

 

「ほほほう、暴れとる暴れとる」

「御老公、あなたが現場まで足を御運びになってご覧になる事も無いのでは」

「何を言うか!三大怪獣の夢の共闘、これを見ずして何とする」

「はぁ…」

 遠く離れで尾崎と円谷は軍用のトレーラーに備え付けられたモニターにドローンから捉えた映像を見据えていた。

「まさか橋本があんなモノまで購入していたなんて…警察の尋問では少々時間かかったでしょうな」

「中型MONS、ピテクス種ビックフット。機関銃、大砲、戦車、陸上兵器であれほどの怪物はおらん」

「巨体はさることながらのそれに似合わぬ運動性能、おまけにその強靭な耐久性能、核ミサイルでも生き延びる異常な強度と生命力、おまけに驚異的なパワー。怪獣でないにしろ現代兵器市場を揺るがしかねない怪物であることは確かです…」

「さて、どう出るかな…怪獣たちよ」

(出来れば最小限の被害でありますように)

 尾崎は両手の指を重ね合わせた後ろに回してる手で祈った。

 

 

 イベントホール

 

 先にこの場に下りたビックフットは硬直していた。それもそのはず、目の前にいるこの怪獣に先ほど自分に致命的な攻撃を喰らい逃げてきた、故にビックフットの脳裏には人間の重火器の攻撃や核ミサイルの攻撃でさえ喰らったことのない攻撃を怪獣(こいつ)は持っていることを理解している。

 そんなことを考える中、巨体の怪獣が動くのを悟り、威嚇とばかりに咆哮した。

 するとその威嚇に応えるかのように突如コングは深く息を吸った。

「おい!お前ら耳を塞げ!」

「「えっ?」」

 深々と一呼吸で大胸筋が肥大化していき溜め込んだ酸素を放出するかのように大音量の咆哮が園内を駆け巡った。

 動物は威嚇には威嚇で返す。それが勝負前の相手の様子探りの一種として相手の力量を測る。

 が、ここまでくるともはや威嚇ではない、周辺の動物たちはさながら核爆発や地震、とにかく災害級の何かがそこにいることを理解するととる行動はただ一つ、『逃げる』である。

 ある種は自身の体格では破壊不可能なはずの檻を壊そうとして、ある種は巣を捨て子を抱え逃げようとする。

 周辺にいた動物はとにかく逃げること一択に徹する。

 しかし、それを目の前で聞いたビックフットはどうなるか。

 逃げる?…否、何が起きたのか理解できていなかった。

 ビックフットの今の状況は『箱の中』であった。この世から音が消え、光も消え、風も消えたかのようなほど自分が茫然として…いっ…ぼふぁぁぁぁぁぁ…回っている…回っている…世界が?地面が?空が?…違う。回っていたのはビックフット自身であった。

 壁に激突してめり込んでいる。ここは動物たちの洞穴?目の前には自分が降りた時に尻尾巻いて逃げ出していった自分より小さい自分ポイやつ?…ようやく理解した。

ビックフットは自分がコングに殴り飛ばされたことにようやく理解できた時には壁からずり落ち床に伏せていた。

 アイツだ!アイツの馬鹿げた力にまた吹き飛ばされた。

 やがて壁が崩れ外に続く穴が開いた。

 

 一方、殴り飛ばしたコング本人は先ほどのビックフット同様に仁王立ちに佇んでいた。

「むっ無茶苦茶じゃないですか!?あんな巨体の化け物をパンチ一つで」

「それがコングのやり方だよ。馬鹿げた超怪力で相手をねじ伏せるなんてあいつにとってそれが主流なんだよ」

 ガメラの言う通りであるとレッドキングやミクラスのようなパワーファイターとは明らかに違う。

 上記の二人の様に自身の筋力に物言わせぬ様な戦い方に酷似する部分はあるが次元が違い過ぎていた。

 ウインダム自身見たこともない様な馬鹿でかい拳と腕、あんなデカい棍棒のような手からあの超怪力を物体が喰らったならひとたまりもないことに背筋がゾッとした。

 

 獲物を追うようにコングが歩き出すと吹っ飛んだビックフットがいる舞台裏のカーテン前に近づくとカーテンからニョロニョロ動く蛇が出てきた。

「?…なんだこいつ」

 気を取られ蛇の頭部分を掴み確認した。

「邪魔だ」

 自分で掴んでおいて邪魔に感じたのか放り投げた。

 しかも、投げた方向には運悪くウインダムがそこにいた。

「へっ?ひゃぁぁぁぁぁぁぁ!!??ととと取ってください!!」

「わわわわっウインちゃん!!こっち来ないでよ!」

 その蛇は最悪なことに先ほど箱に入っていた広い鎌首のキングコブラであった。

「せせせんせー!!コブラが!コブラが!()()()()()()取ってください!」

 突如、カーテン前に差し掛かったコングの足が立ち止りレイカ達の方をふり向き、向かってきた。

「誰だ!いま()()()()()()って言った奴は!」

「落ち着けコング!()()()だ!()()()()()()!」

「俺はキングじゃねぇ!()()()()()()だ!」

 ガメラが静止するもブルドーザーの如く差し迫った。

「ひぃぃぃぃぃ!ごごごごめんなさいごめんなさい!でもこれどうにかしてくださいぃぃ」

 既にウインダムの身体に2mにも及ぶ長い胴体を巻き付いたキングコブラだったがコングに頭ごと掴まれそのままコングが持ちあげるとウィンダムまでコブラの縄のような胴体が余計にきつく縄縛りの様に絡まってしまった。

「あわわわっおおろしてくださぁぁぃぃ!!」

「ウインちゃんまた大胆に…」

「見ないでください!!」

 コブラの頭部がコングの握力で握り潰され筋肉が緩んだのか巻き付いていた胴体がウィンダムの身体をスルッと緩み、ウインダムは地面にしりもちをついて着地した。

「いたたっ…もう最近の私こんなことばっかりすぎます…」

 ウインダムが臀部を優しく撫で痛みを緩和しているとドサッという音が後ろで鈍く響いた。

後ろにはキングコブラの特徴的な広い鎌首が鉛筆の様に細くなっていた。

「…ひいぃぃぃぃぃ!!」

「ガメラ…お前何で着ぐるみなんか着ながら変身してんだ?」

「あん?…あっそんなことより」

 ガメラが駆けつけカーテンを捲るもそこにビックフットは既にいなかった。

 

 

 イベントホール近くまで辿り着こうとしていたユウゴの横をまたしてもビックフットと木々を隔ててすれ違った。

「いた!待て!!っクソ動きずらい、着ぐるみを脱ぐ時間もない…こうなったら“獣装”ゴジラ!!」

 着ぐるみの中で光が漏れ出し着ぐるみの目と口が光線の様に光が出ると手足と後ろ部分から二頭身のキャラクターに似つかわしくない異形の手足と尻尾が生えた。

「お兄ちゃんーもうおいてかない…でってぇえええ!?なっ何してるの?」

 後を追ってきたアキが見たのはユウゴが変身したことによって二頭身のガマちゃんが突然変異を起こしたような姿だった。

「あっちへ行った、お前も変身しろ」

「ちょちょっと待ってよ!恥ずかしいから着ぐるみくらい脱いで行動してよ!」

「俺だってなりふり構ってられないんだ、行くぞ!」

 

 

 上野動物園 エントランスゲート

 

 出入口前のゲートにはシャドウ警報に混乱した客とそれに対応にあたった職員で溢れかえっていた。

「早く通してくれ!シャドウがすぐそこにいるんだぞ!!」

「子供を!子供だけでも!」

「お客様落ち着いてください!今GIRLSが対処にあたっておりますので」

「いいや、あれはシャドウなんかじゃない!あんな化け物見たことないぞ!おまけに新たな化け物までいるそうじゃないか」

 ゲートに人々でごった返す中、記念写真用の顔出しパネルが吹き飛んだ。

 不気味な鳴き声を鳴らしながらビックフットの瞳には逃げ惑う人々が映った。

「きっ来たぞ!!」「化け物だ!!」「どいてくれ!!」「誰か助けて!!」「押すな!!」

 客が混乱する中、一人の少年の前に瞬間移動してきた怪獣娘が現れた。

「これ持っていて」

「えっ!?ぜっゼットン!?」

 少年の目でも理解できた。テレビで散々目にする超が付くほどの有名人、ゼットンその人であった。

「おい、ゼットンだ!」「うっそほんもの!?」「俺ファンです!」「サインください!」「握手して~!」

 ゼットンが現れたことにより一段と騒がしくなった。

 残り数メートルほどの距離、するとゼットンのクリスタル状の額が光輝きだしゼットンの必殺技『一兆度の火球』である。

 そんな超高温の火球がビックフットの顔面に直撃し当然静止した。まさに終焉の一撃であった。

「すっすごい…」

「ありがとう」

「えっ?…あっああ」

 少年がゼットンから預かっていたビニール袋を手渡そうとすると少年の顔が強張った。

「うっ後ろ!!」

「!!?」

 ビックフットの大きな手がゼットンの腕を捉えて持ち上がり少年含め近くにいた客は一目散に後ろへと下がった。

 その場にいる全員とゼットンでさえ驚愕した。

 すべてを焼き払うゼットンの火球攻撃を喰らったにもかかわらず顔面の頬に穴が空き、筋肉が多少は露出して毛に少し残り火があるだけ、生物としては重症だがあの火球は決定打になっていなかったのである。その姿はまさに不死身のゾンビのようなおぞましい姿だった。

 ゼットンの火球は決して一兆度ではない。いつだれがそのような事を言ったのか定かではないが近年ではマスメディアが勝手にこじつけた過大表現なキャッチコピーが有力とされている。

 過去の防衛組織の記録上では実際は10万度という説もあるが定かではない。10万度は核爆発直後のおよその温度と同じである。

 ビックバン爆発後の温度が約10兆度、1兆度はこれの10分の1にあたる。一兆度でも地球そのものが跡形もなく焼失させてしまう。

 しかし、10万度前後であれば核爆発でも耐えられるビックフットには多少顔の皮が幾つかはがれる程度、戦闘続行には問題なかった。

「ぐっ…くっ」

 ビックフットの想定外の耐久力に加えゼットンを取り押さえるほどの桁外れな握力、パワーは怪獣娘の中でそれなりにあるはずのゼットンでさえ身動きが取れなかった。

 ゼットンの腕がミシミシときしむような音がし始めた。

 誰しもがゼットンの得意技である『バリア』や『テレポーテーション』で逃げればいいはずと思う中、これら能力はゼットンの現状使用できない状況にあった。

 ゼットンの『バリア』は両手を自身の前方に構える動作が必要であった。しかし今は両手が塞がれバリアは張れなかった。

 『テレポーテーション』に関しては2点間の空間移動には座標に集中しなければ発動しない。火球同様一点の集中によって発動するため動揺したり精神の乱れが生じると発動できない。

 万事休すとはまさにこのことかの様に思われた。

「もうだめだ…」「ゼットンが勝てなきゃ無理だ」

 誰しもが絶望するのも無理はなかった。

 大怪獣ファイトのファイターの現チャンピオンでもあるゼットンが追いつめられているこの光景は人々の目から次々と光が消えそうなほど空前の灯同然であった。

「がんばれ!ゼットン!!」「勝ってくれゼットン!」

 それでもあきらめない人たちもいた。

 この状況を打破してくれると信じて声援を送った。

「わたし…は…あきら…め…ない…」

 ゼットンは踏ん張ろうと試みるもそれでも期待に応えられずこの化け物の想定外の力に逃げることができずにいた。

 絶望する人もいれば諦めずに声援を送り続ける人たちが突如静寂に変わり全員上を見上げていた。

 見上げていた上に上る太陽が黒い何かに隠れていた。

 日食ではない。やがて黒い何かがビックフットとゼットンの方に落ちてきた。

 激突は免れないと思ったその時、黒い何かに生えていたやたら長い黒い手がゼットンの肩を捉えて逆立ち状態で止まるとそのまま倒れるかのように脚部に伸びた足でビックフットの手首を蹴り上げ鈍いボギッと言うような音が鳴り響いた。

 さらに追い打ちかの様に臀部に生えた尻尾がビックフットの頭部を直撃し、その拍子でゼットンの腕からビックフットの手が離れた。

 ゼットンは黒い何かによって回転するように空中で回りゼットンが上にきた瞬間、黒い奴が手を離しゼットンが宙を舞うと下にいた黒い奴が脚部に生えた異形の足と爪が地面を深々と抉るように突き刺さり着地が安定するとその長い両手でゼットンをキャッチすると横抱きの格好になった。

 一方、ビックフットの両手首は完全に手首の骨が砕かれてプラプラと振り子のようになっていた。

 ビックフットは痛がるそぶりもなくただこの現状に固まっていた。

 一体どこの誰がこの状況に救いの手を差し伸べたのか後ろにいた客が身を乗り出してみた先にはゼットンを横抱きで抱える…黒いガマちゃん!?…否、 二頭身体形のガマちゃんに似つかわしくもないほどのやたら長い手足に異形な尻尾が生えていた。

「大丈夫か?あんた」

「えっ…ええ」

 突然の事にゼットンは膠着していたが…

「ママー、ゼットンがガマちゃんにお姫様抱っこされてるよ」

「こっコラ!シィイ!」

 子供の指摘にようやく理解したゼットンは顔が赤くした。

「おっ…おろして…」

「?…ああ」

 横抱きから降ろされたゼットンはいまだ顔を真っ赤に染め今更先ほどの事が恥ずかしくなり真っ赤になった自分の顔を見られたくない一心で顔を手で覆った。

 遅れてアギラが二人に駆け寄り着いた。

「お兄ちゃん…早すぎるよ」

 息が切れるほど走ったのかアギラはゼットンの顔を見る余裕もない隙にゼットンはすぐさまいつも通りのポーカーフェイスに切り替えた。

「んんー邪魔だな…脱いじゃうか。着たまま戦っても意味も無い」

 そういうと両手でガマちゃんの開閉式の口を握りしめ、背中が何かが突き出るように鋭利になっていくと先端からビリビリと突き破り白い背びれが現れた。

 そして中から着ぐるみを破り脱いだゴジラが現れた。

 その突然の事にその場にいた子供たちが口をそろえてこう言った。

「「「「ガマちゃんが脱皮した!!!!!」」」」

 子供の目からは完全にガマちゃんが脱皮して突然変異を起こしたようにしか見えなかった。

「ふーう…少しは動きやすいかな」

 腕を大きく回し動きを確認すると戦闘態勢に入った。

 しかし、またしても邪魔されたビックフットはよろめきながらも自分が壊したライオンの顔出しパネルとは逆のトラの顔出しパネルによりか帰ろうとした瞬間、トラの顔出し穴からデカい巨拳が飛び出しトラの顔出しパネルごと粉砕しながらビックフットの顔面に直撃した。

 どれだけの力がビックフットに加わったのか、あの巨体が宙を舞って客の方にいるゴジラとゼットンに激突しようとしていた。

「おいおいおいおい!!こっちに向かってくんっなぁ!!」

 ゴジラは体に勢いをつけるようにくねらせその反動で戻ろうとした時、自身の身体を飛びあがらせ空中でビックフットの背面部を蹴り上げ吹っ飛んだビックフットの勢いを消した。

 うつ伏せになったビックフットの先にはビックフットを二度にわたって超怪力でふっ飛ばしたヤツとビックフットの腹を抉るほどの威力の拳を持つ着ぐるみの奴がモゾモゾと動きながら現れた。

「ぬっ脱げない…おいダム子、反対側持て」

「だから脱いだ方がよかったじゃないですか」

「ええぃ、まどろっこしい。ふんぬっ」

 ガメラはガマちゃんの口を掴み縦に裂くように開閉式の口の横の端と端がビリビリと音をたてながら裂け着ぐるみを破り脱いだ。

「「「「もう一匹のガマちゃんも脱皮した!!!」」」」

 あまりにもショッキングな脱ぎ方に子供たちはさっきよりも驚愕した。

「どうしてビックフットなんてデカブツが日本にいるんだよ」

「見ての通り違法輸入だ」

「嫌な輸入品持ち込まれたな…」

 三匹の怪獣の出現に客の多くがスマートフォンを片手に写真を撮ろうとしていた。

「すっげーゴリラとトカゲとカメっぽい怪物だ…ああもう何で携帯が起動しないんだ?」

 

 

 

「周辺の木々に配置したECMの感度は良好、上野動物園全域にソウルライザー以外の電子機器をジャミング完了」

「よし、そのまま怪獣1,2,3がMONSを倒し撤収するまで出し続けろ」

「ほっほっほっ、人類にはまだ怪獣漢はちとばかし早すぎるからのう

 

 

 

 ユウゴが振り返るとこの状況下でまだ逃げきれていないどころかこの場にとどまっている客がいることを確認した。

おまけに前列の殆どが子供たちでいっぱいであった。

「仕方ない、お前ら!プランBで始末するぞ!」

「プランBってあれをやるのか!」

「プランAはお子様にはお見せできない。やれ!コング!!」

 ゴジラの合図でコングがビックフットの足を掴むと100キロ以上は確実にある巨体を片手でハンマー投げの様に回し始めた。

「ぬううううおおおおおおおらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

重量の巨体が轟音を響かせながら遥か上空に投げ飛ばされるとゴジラがガメラの方まで走りだした。

「しっかり押さえとけよ!ガメラ!」

「お前こそしっかり狙えよ!」

背中向きで飛び込むとガメラがすかさず背中を両手で押さえると背びれが光だし口内が光で満たされる。

直後、ゴジラの口内から“放射熱線”が放たれビックフットに直撃するとビックフットはよりさらに上空に押し出されると跡形もなく爆発四散した。

 怪物が倒されたことに唖然としたのかその場にいた客たちは思考が停止したかのように上空を茫然と見上げていた。

 突如、どこからか缶のようなものがゴジラ達の周りに投げ込まれ缶の中から煙が立ちこもり上野動物園ゲート付近は煙で満たされゴジラ達は煙と共に姿を晦ませた。

 

 

「スモーク消滅、怪獣1,2,3は怪獣娘を連れ現場から離脱、覆面回収班ECM装置とスモーク残骸の回収を完了しました」

「よし、全班撤収。引き上げる」

 尾崎の無線で全班の撤収と共に尾崎たちが乗るトレーラーも移動し始めた。

「ほほほっまた良きものを見てわしも寿命が延びたわい」

(まだ生きるのか、このじいさん…)

 尾崎は年相応に収まりきらない円谷に心の内にツッコミつつも呆れかえった。

「なんじゃ?」

「いえ、何も」

 

 

 数分後、騒ぎの通報で駆け付けたパトカーと警官隊が到着し上野動物園を包囲し急ごしらえの包囲網を作り数名の客に事情聴取を行っていた。

「いやもう凄かったです。こうゴリラみたいなのがその化け物の足を掴んでハンマー投げの選手の様に…いや片手だったなぁ、こう片手でブンブンって」

「そしたら全身甲冑のような格好の大男の方へトカゲみたいな大男が向かって走り出して」

「ビィーーーーバ――――ンっておおきなおさるさんがひになって」

「突然誰かが缶みたいなのを…いえ複数?それを投げてきて缶の中から煙を上げ始めました」

「気付いたらその大男たちも怪獣娘もゼットンさんもいなくなってました。僕、彼女からビニール袋に入った紙袋を託されてたのにいつの間にか手元になかったんです。たぶんすぐそこの出店のシベリアだと思います」

 男性や女性、子供に少年の証言に捜査一課の木城の脳裏にあの時がよぎった。

(間違いない、港区の埠頭倉庫にいたトカゲと鎧の化け物…いや怪物あるいはそう怪獣…怪獣娘とは違う2mほどの大男、ゴリラは知らないが内二匹は間違いなく奴らに違いない)

 身体的特徴に加え逃走方法までも一致していたことに木城は確信していた。

離れにいた内野が聴取を終えた木城に気付き近づいてきた。

「どうだ?何かわかったか」

「えっええ」

「んん?あれは…」

「はい?」

 内野は聴取を終えた重要参考人たちの中に見慣れない人物が居た。

「それでそのトカゲの大男に加え鎧の大男にゴリラの大男についても詳しくお願いします」

「テメェ!淀川!!何してんだ!」

「げっ内野刑事!?」

 大音量なまでの怒鳴り声にビクつきどこからはいって来たのか、そこにいたのは勝手に取材をしていたヒロミであった。

「ここは警察関係者以外立ち入り禁止だ!どっから入って来た」

「企業秘密であります」

「つまみ出せ!」

「わわわっまってまって!わたし、そのトカゲの大男に用があるんですって」

「なにがだ」

「わたしそいつに携帯壊されたんです!だから見つけて弁償してもらわなきゃ」

「そういうのは最寄りの交番か署に被害届を出して正規の裁判手続きを取って法廷に呼び出せ!さっさとつまみ出せ!!」

 ヒロミは所轄の警官に両脇抱えられ抵抗しながらも外の立ち入り禁止テープまで連れ出されていった。

「せんぱーい!ちょちょっと来てください」

 ヒロミが連れ出されたと同時に変わるようにイベントホール方面から菊地が走って来た。

「?」 「俺は?」

 

 

「ほらラーラ、出ておいで。もう怪物も変な化け物もいないから、怖くないから」

 イベントホール裏方では完全に怯え切ったゴリラのラーラを動かそうと飼育員が躍起になっていた。

「何だか可哀そう…」

「お前はこっちだ」「ぐびっ」

 木城が菊地の頭を掴み、顔を向けさせた先には先ほどのコングのパンチで陥没させた漫画のような大の字の穴の開いた壁を鑑識が調べた結果が出た。

「こりゃここまでくるとギャグみたいですが現実なんでしょうな…まず外から吹っ飛ばされ回転して激突してますな、見てください。人型の頭が下に足が上、完全に逆さまに壁に激突し、おまけにここの構造は像も収容できる設計にしてるため特殊なプレキャストコンクリートを使用し内部にも外側も何層にも分けて補強材がミルフィーユの様にぎっしり詰まっているのにぶち抜いて穴がガッポリ開いてますよ」

「それってどういうことですか?」

「つまりここは特殊コンクリートで覆われた超硬度な要塞、万tクラスの怪獣がぶつかってこようが大丈夫な設計なんです。世界最高水準の建築技術がとんでもない力で吹き飛ばされこの壁に穴をあけるレベルなんです。当然、人間が鉄球の衝撃を受ければ死ぬようにそんな馬鹿げた力を喰らった上に最強度の壁に激突、生物なら即死は免れないはずが歩いてるんですよ」

 鑑識官はビックフットの踏みしめた足跡を指差した。

「生物じゃない…おそらく怪獣…あるいはそれに準ずる何かが等身大で収まった存在でしょうね」

 木城の見解は自信が見た例の二匹が脳内で焼き付いていることに対する重みがあった。

「だろうな…」

「ほほぉぅこれはこれは…いいネタになりそうねぇ」

「ああ……ってまたテメェっ」

「ああああ!!淀川先輩!お久しぶりです、菊地です」

「菊地?…ああああ!!うそっ菊ちゃん!?いつ以来?高校の時以来かなぁ、何だ刑事さんになってたの?」

「はい!先輩も相変わらずですね」

 二人の唐突な邂逅に大はしゃぎを起こし始めた。

「おい!所轄は何やってるんだ!つまみ出せ!!」

 所轄の笊な警備に業を煮やして再度ヒロミの両腕を掴んで先ほど同様つまみ出されていった。

「今度一緒に飲もうねー」

「はーい!絶対にご一緒させていただきまヴぅっ!!」

手を大きく振るのを強制終了させるかの如く内野のチョップが下った。

「何してんだお前は」

「だってついうれしくて」

「知り合いなのか?」

「はい、同じ高校の先輩なんです」

「先輩だか何だか知らんがあいつに関わるな。東都日報の淀川ヒロミって言って警察の包囲網に勝手に侵入してまでネタを模索する厄介者だよ」

「淀川先輩はそんな人じゃありません!」

(…そういえばさっきまるであのトカゲの大男に弁償がどうの言ってたな…もしかしたら奴のことを何か知っているのか?あの人…)

 

 

 数km離れた牛丼屋にて

 

「改めて紹介するとこいつはジャック・コング。見ての通り全身筋肉のゴリラだ…狭い!!もう少しユウゴの方に行け」

「俺の方も無理だ…限界」

「嘘つけ!お前の方がスペースあるだろう」

「このままいくと落ちる」

「コングお前痩せろ!」

 牛丼屋の奥のテーブル席でコングの体積で二人が座るには狭い状況にいた。

「こっコングさんって外国人さんだったんですね」

「…国籍がアメリカであるだけだ」

「へっへぇー」

 アキとレイカの目の前にはブラウンの髪にスッキリとしたまでの顔立ちにイエローの瞳を持つコングの人間体。

 しかし、その体は人間…否、同じヒト科霊長類なのか疑いたくなるような程の異常なまでに発達した丸太のような腕にパンパンに膨れあがった大胸筋に度肝を抜く要素は多々あったはずだが何より一番目に入ったのは彼の服装に会った。

((どうでもいいけど何あの『暴力』て書かれた漢字Tシャツ))

 発達し過ぎた筋肉の上に着たサイズがピッチリとしたTシャツに大胸筋のせいか中央の文字が伸びきっていたがそこに書かれた文字がコングにピッタリすぎて二人は笑いこらえるのに必死であった。

「もう凄かったっす!こうぐぅぅってさらにバァァァンってやったと思ったらデッカイ猿が宙を舞って大回転して、すっごくかっこよかったっす!!」

「別に普通だろう…ただ殴っただけだ」

(アレが普通!?)

 語彙力のないミクと同じくコングのファイトスタイルを見たレイカには異常な超怪力が普通には思えなかった。

「コングさん日本語流暢ですね」

 アキはアメリカ人であるコングの完璧なまでの流暢な日本語に気付いた。

「最初はニューヨークで日本語を覚えた。日本に来て3年目で今ぐらいになった。他にもアラビア語やドイツ語やフランス語も喋れる」

「俺も英語は喋れるが中国語や韓国語などのアジア圏の言語が多いかな、英語圏は英語で通じるがアジア圏は独特の言語が多いから取材の時は結構そういう国が多い」

「まぁ俺たち三人は日本語と英語を基本言語として主軸となってその他に幾つかの言語が解るし話せる聞けるって訳だ。ちなみに俺はアフリカ系言語とアルバニア語が得意だな。長らく紛争地帯を転々としていたからなぁ、おまえらも英語ぐらいは覚えた方がいいぞ」

「ええー勉強するのやだー」

「まぁ確かに英語はあんまり得意でもありませんし…アギさん?」

 二人が不得意なことに悩む中レイカが普段からは考えにくいほど目を細めるアキがいた。

「おっお兄ちゃんが…外国語を…」

「お前信じてないだろう」

「うん、信憑性が無い」

 ユウゴは我ながら自分の家族に対しての信用のなさに愕然として額に手を当てため息をついた。

「…よし、じゃあこうしよう。おれが一つお前らに使えるラテン語を教えよう。ラテン語はヨーロッパ系統言語の始祖とされその歴史は紀元前2千年にまで遡るほどだ。今でこそ英語の基礎であるアルファベットもここで誕生している」

「「「おおーー」」」

「どうだ?一つ覚えてみたくはないか」

 三人は興味津々に大きく頷いた。

「よし、んんっ…Aki et corpulentiores præ in praeteritis」

「んんっぶ」「ぷっくくっ」

「「「???」」」

 アキたちはユウゴの言葉が流暢すぎて理解できないがコングとトオルには少々受けるジョークか何かにも見て取れた。

「ええー意味は何ですか、気になる~」

「そっそうだな…よし、ダム子ミクラス耳貸せ」

「はい…」ゴニョゴニョ

「「……ブフッー!!」」

 二人がトオルから聞いたソレはコングとトオルの様に微笑ではなく腹を抱えてまで笑うほどであった。

「ウィンちゃんミクちゃん何を聞いたの、意味は?」

 するとミクがアキの肩に手を当て、腹を抱えながらも教えた。

「あっアギちゃん…よっ世の中知らない方がううっ…良いよ…ププッ」

「ええー何それ気になるよぉ余計に」

 そういうとミクはアキのお腹を撫でるようにさすった。

「ひっヒントは…アギちゃんのここに関係することだよ」

 その瞬間、アキは何かを理解したかのように思いつき顔を真っ赤にした。

「しばらくは食べ過ぎに気を付けろよ、肥満まっしぐらになるぜ」

 答えが分かったアキは真っ赤にした顔を上げたまま、テーブルの下で何か鈍い音が響くとアキは激痛のあまり右足を抱えた。

「今お前が蹴ったのはコングの足だ」

「ごっごめんなさいコングさんってお兄ちゃん!」

「どうやらお前は昔より頭もお腹も緩くなったみたいだな」

「「ぶっふっくくくっ」」

「ひどいよ、みんなして!」

「ごっごめんごめんアギちゃん…アギちゃんこういうのあんま受け入れ難そうだったから」

「ううっボクは太ってないよぉ」

 アキは現実逃避の如く、机に突っ伏した。

 

 

「「ありがとうございました」」

 従業員の声掛けが外まで響くと自動ドアが開き6人は食事を終え外に出た。

「はぁ~おいしかった」

「御馳走さまです、せんせー」

「…誰だ、丼もの1杯以上にサイドメニュー頼んだ奴…」

 トオルが目を凝らしているのは15cmまで伸びきった会計のレシートだった。

 アキとユウゴ、ミクとコングはトオルに目を合わせまいと明後日の方向を向いていた。

「お前ら俺がトイレ行ってる間に何頼んでんだ」

「「「「…………」」」」

 

 店の前の道路で差し掛かるとユウゴには見覚えのある黒い車がガードレール横で停車していた。

 車のウィンドウがゆっくり開き中から尾崎の横顔が見えた。

「随分と派手にやってくれたなお前ら」

「大佐!…どうしてピテクス種のMONSがこの国にいるんだ」

 尾崎はユウゴの質問を静止するジェスチャーをするように自分の前に手を翳した。

「ここでその話をするのはまずい。敵は何処にいるかわからん。お前たちも気を付けろ。『MONARCH』はこれから忙しくなる。その為には今以上にお前たちの力と各地に散らばる怪獣漢を召集が急務に」

「『GIRLS』はどうする、まさか子供を巻き込むつもりか」

「いや、我々もそんなことは望んじゃいない。とにかく今は

『GIRLS』を隠れ蓑として行動せざる負えない。我々はまだ表沙汰にはできないからな。追って連絡はする」

「………」

 ウィンドウが上がり窓が閉まると尾崎を乗せた車は発進し車道に紛れ消えていった。

 

「話しは終わった。これから俺はまた仕事だけどお前らは」

「ボクはこのまま帰るよ」

「俺はこれからネタ探しをする。せっかく上野周辺に来ているんだ、せめてネタ収穫だけでもしていく」

「じゃぁ私も先生とご一緒します」

「あたしはこれから大怪獣ファイトの特訓のために一度GIRLSに戻るよ、よかったら師匠も一緒に行きましょ」

「…師匠?」

「あたし師匠みたいに強くなりたいんです。さっきみたいにあんなに大きな怪物を相手にする師匠の戦い方が知りたいんだ。それにみんなにも紹介したいっす」

「……強くなるかどうか知らんがまぁ暇だからな…」

「んじゃこのあたりで解散とするか」

 各自各々別れるようにこの場を解散した。

 途中アキが振り返るも真正面にさっきまでいたユウゴは既に人ごみの中に消えていた。

 

 

 上野動物園近くのビル

 

 上野動物園ではいまだ警察の包囲網が解除されていない状況にあった。

「さすがにあの中に戻るのは目立つな…俺としたことがまさかあの中にカステラ羊羹を忘れるとはなぁ…」

 目を凝らし辺りを見渡すユウゴの背後に誰かいる気配を感じた。

 足取りは比較的落ち着いているが、もし背後にいる『者』が尾崎の言う『敵』の可能性もあった。

「…部装」

 ユウゴの右手が獣殻で覆われると刃物を振りかざすように右手を後ろに回した。

「!!」

 ギリギリでユウゴは右手を寸止めた。

「あんた…あの時の」

 そこにいたのはゼットンその人であった。

「確かゼットンさんだったか…妹があんたの事よく話してたよ、一度お礼が言いたかった。アキの事ありがとう」

 ゼットンは謙遜するかのように首を横に振った。

「私はできる限りの事をしただけ…コレ」

 その手元にはビニール袋に入った紙袋、間違いなくユウゴが先ほど購入した羊羹カステラの袋だった。

「拾ってくれてたのか!?ありがとう!あんたには感謝してもしきれないぜ」

 喜びのあまりゼットンの手握り大きく握手するように縦に振った。

「これお礼と言っちゃなんだけど羊羹カステラ一つやるよ」

 ユウゴは厚意の印としてゼットンに自分の羊羹カステラを差し出した。

ゼットンは羊羹カステラを受け取った。

 ユウゴは羊羹カステラを頬張りながら上野動物園を眺めていた。

 ゼットンはユウゴの底の見えない気配に引かれるかのようにそっとゼットンの手がユウゴの肩に触れようした。

「?」

 そこにゼットンはもういなかった。

 

 ???

 

 ゼットンはこれまでにないほどの距離をテレポートした。

 ゼットン自身もこれまでやったことのないほど長距離のテレポートをしたことによって生じた疲労からか心拍数が高くなっているのが自分でもわかるほどであった。

 しかし、この高まる心臓の鼓動がするたびにユウゴが握った自分の手の感覚がまるで自分の全身の神経がむき出しになるような感覚がゼットンを襲っていた。

 疲労ではない。息が苦しく胸が締め付けられるような感覚、これが疲労で無い事だとわかっていても疲労だと言い聞かせてやまなかった。

 ゼットンは気持ちを落ち着かせるためにユウゴから手渡された羊羹カステラをそっと口にした。

「……美味しい」

 

 

 見渡す限りにいまだ包囲網を解除しない警察をユウゴは見下ろしながら鑑賞していた。

「警察も大変だねぇ……んん?あれってあの時の刑事か?」

 目を止めたのは先には先日の港区の倉庫での一件で自分に銃口を向けた刑事がいた。

 

「んんっ」

 木城は何かの気配を感じ振り返った。

「どうしたんですか?先輩」

「ああいやで誰かに見られていた気がして」

「??変な先輩…ここ最近先輩なんか変ですよ」

「そうか?」

 

 

「なっあっあの刑事…まさか見えていたのか?」

 咄嗟に自分の身体をベッドで寝るような仰向け状態で体とビルの塀の陰になるように隠れた。

「不思議な刑事だなぁ…偶然か?……まっいいか」

 そういうとユウゴはビルの屋上の端に寄りかかる。

 そして、ゼロからマックスのスピードで走り出し柵を超えビルを超え夜の東京の空を舞った。

 ビルとビルを飛び乗ってさながら夜の空中散歩の如く夜に消えた。

 

 すべてはまだ始まったばかり。怪獣の魂を持つ者たちはやがて大きな渦へと世界を巻き込んでいく。

 




見せられないMONS~

 ゼットンは気持ちを落ち着かせるためにユウゴから手渡された羊羹カステラをそっと口にした。
「……!!」
―翌日―
「ゼットンが風邪!?」
「ええっ…なんでも腹痛だとか」
 レッドキングとピグモンがゼットンの風邪に驚く中で…
「お兄ちゃんそれ昨日の羊羹カステラ?」
「あぁ?ああ…まぁダイジョブだろう」
※羊羹カステラは腐りやすいのでお早めに―


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拝啓 博士

 拝啓 多岐沢博士

 

 お元気ですか?博士が日本を離れてから随分経ちます。

 その間にGIRLS東京支部は日本における怪獣救助指導組織としての中心としてだいぶ大きく成長しました。

 以前のイズミさんのご報告で男性の『カイジューソウル保持者』が存在することが発覚した事と『MONARCH』さんの件に関してお伝えした通りです。

 博士ならすぐさま帰国して研究対象になさるでしょうが彼らはちょっと一筋縄では行きません。

 既に日本に3名の怪獣漢さんがGIRLS東京支部に集まっています。

 

 トレーニングルーム

 

「おいミクラス無理すんな…」「マジあれでやんの?」

「?…レッド、ザンザンどうしたのですかぁー」

「ピグモン、あれ見ろよ…」

「ここをこうして…オッケーっす師匠、乗っけちゃってください」

「いいのか?お前…」

「平気っす!少しでも師匠に近づきたいんす、ささっラックに乗せてください」

「………」スッ…

「師匠、そんなところ指で掴んでも…持ち…あが…」

「うっ嘘だろ…200キロのバーベルのシャフトの端を指三本だけで…」「ヒェェェェェ…」

 スッ…カシャン

 

 一人はレッドンやミクミクのようなパワー系怪獣さんのキン…おっと彼には禁句でした。

 コングさんことジャック・コングさん

 身長210cm 体重156kg (人間時)

 誕生日3月10日 血液型B型

 変身前の状態で既に2mを超える身長と桁外れな力持ちさんです。

 ちなみに今日のTシャツコーデは【ゴリマッチョ】みたいです。

 なかなか妙な服選びをされているみたいです

 

 

 休憩室)「ピョコ…」

 

「おいダム子…これはなんだ?答えろ」

「えぇぇぇと…その…これは」

「別に個人の趣味性癖にとやかく言うつもりはない…が、こういう作品に対しての腐った二次創作は原作を腐敗させ原作の価値を下げる、違うか?」

「はっはい…ごもっどもです」

「貴様は俺のアシスタントをするのにあたってこういう事のを『しない』と言ったな」

「はい…」

「…内通者もしくは協力者がいるな」

「いっいえ…いません」

「…俺の作品よりゴミ以下の腐敗書物の方が面白いんだな」

「べべべ別にそんな」

「そんなに面白いなら世間様に御広めて共有してもらおうじゃないか…つまり貴様の最も効果的な苦痛をなぁ」

「まままっまっままさか…」

「そのまさかの『音読』だよ」ペラッ

「んんんっあああ……おまえの○○○を××にーーーば%%で&&&が####に############」

「うぁっぁっぁぁっぁぁぁっぁぁぁっぁぁっぁぁ!!!!」

「****をもっと#####は$$$$が○○○○○○」

「やぁやぁやめてぐだざいゼンゼ~!!わだじが悪かったです!許じでぐだざい!!」

 

 もう一人は現役の作家さんで元アシスタントのエレエレ曰く『逃亡常習無責任暴走作家』だとか。

 ガメラさんこと亀沢トオルさん

身長185cm 体重84kg (人間時)

 誕生日4月29日 血液型AB型

 世界各国を取材し覚えた打撃格闘戦術を得意とする方ですが、エレエレは他にも『鬼畜変人作家』『現代作家界の闇』だとか言ってましたが、エレエレも隅に置けませんね。

 現在はウインウインがアシスタントをされてます。

 

 講義室

 

「よぉ~し、一発ギャグやってみよう!アギちゃんのお兄ちゃんが!」ビシッ

「・・・はぁ?」

「も~ノリ悪いよぉ、アギちゃんはこういう時すぐにパッと出るのにぃ」

「いっいつもやってるように言わないでよ!」

「んん~もーーアギちゃんはかわいいなぁ~特にこのむにむにほっぺの柔らかさときたらもぉー」

「やっ止めてよゴモタン」

「しかし、こっちはこのむにむにほっぺとはまた格別な弾力、緩んでも崩れずキープした腹筋、たくましい丸太のような上腕二頭筋、極めつけはこの大胸筋!!これだけの筋肉…まさに筋肉の兄に脂肪のいもうt」

「止めてよ、その例え!ボクとお兄ちゃんを比べないでよ」

「こいついつもこうなのか?」

 

 最後は何とアギアギのお兄さんでアギアギによると三年前に家を飛び出すしてその後、世界中のあらゆる紛争地帯を渡り歩いてきた方だそうです。

 ゴジラさんこと宮下ユウゴさん

 身長190cm 体重90kg (人間時)

 誕生日12月11日 血液型O型

 各地の紛争地帯で身に着けた格闘技術と口から出す荷電粒子砲を武器に戦う方です。

以上が『MONARCH』側から提示された情報含めた限りの怪獣漢さん三名の基礎データですが上記ですべて挙げたお三方に関して未知の部分が多く博士の見解をお聞きししたいところですが、今回ご連絡させていただいたのには、今GIRLSがMONARCHさんから提示された彼ら『怪獣漢』さん達との共同戦線に対して最大の問題を抱えています。

それは…

「腹減った…飯食いに行くぞ」

「おごってくれるの!?」

「この間トオルが奢ったからな…今日俺が奢ってやるよ」

「おおおっうち今日パスタな気分!」

「ボッボクは…何にしよう」

「店行ってから決めればいいだろ」

「「賛成ぃぃ!」」

「……あれ、開かな…いっ……フンッ!!!」バキィン!!

「わぁぁぁぁ!!何してんのさぁ」

「いや…開かなかったから」

「だからってドアを壊す必要ないじゃん!」

「あっアギちゃん…前」

「わぁ!ぴっピグモンさん!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

PiPiPiPi

「ピグちゃんライザー鳴ってるでぇ」

「ザンザン?…はいぃ」

『ああっピグモンさん、今さっき先輩たちが変身して特訓だって言ってコングさんも変身したら床がコングさんの重さに耐えきれなくて今埋まっちゃってるんです』

『ミクラス、そっち持ったか?行くぞ!…せぇぇの!!ふんぎぎぎぎぎぎぎぎぎっ!!』

『おっおもいいいいいいいい…』

 GRRRRRrrrrr!!“休憩室にて火災発生”“火災発生”“職員は安全を確保し速やかに避難してください”

 ―休憩室―

「わぁぁぁぁぁぁ!!私の戦利品がぁぁぁ!!」

「内通者は貴様か!湖上ぃぃぃぃ!!」

「あなたはまたそうやって表現の自由を踏み躙るのですか先生!!」

「何が表現の自由だ!かつて俺の許可なく俺の作品の同人誌勝手に出して万単位稼ぎやがった貴様が言うか!!おかげで一部ファンに変な輩が一時期増えたのを忘れたか!?」

「男色は芸術です。それに許可なら取りました」

「疲労困憊時の原作者に曖昧な言質取る悪質なアシスタントが何処にいる!大体貴様ら二次創作者はいつもそうだ!原作サイドに許可も得ずに同人なんぞ書きよって、あまつさえそれを大規模なイベントと称して根城を固めて原作者の反論させまいとして小遣い稼ぎをするなどおこがましいわ!」

「同人イベントは絵師の祭典です。それを侮辱することは許しません!」

「絵を書くこと自体悪いわけじゃない、むしろそういうきっかけで絵師や作家が生まれるのは喜ばしいことだ、だがせめて原作者のアポを取れ!だから貴様らの自由なんぞクソ以下なんだ、ろくに持ち込みも路上絵描きも下済みの努力もできないコミュ障な連中の描く作品は真似事ばかりになるんだ!」

「関係ありません!」

「いいや大いにある!そんな連中の自由を許した故に原作の価値を下げクソ以下な同人がのさばり、あまつさえ原作をネットにばら撒き海賊版を蔓延らせた!」

「いい加減にしてください先生!」

「うるさい!!貴様らのやってることは原作を侮辱し踏み躙っているのと一緒だ!!」

 

 そう…最大の問題は彼らにはGIRLSのような組織は狭すぎる故破壊の限りを尽くしています。

 博士…GIRLS東京支部は壊滅寸前です。

 

 

 ふたたび講堂にて

 

「いい加減にしてください!これまであなた達が破壊し尽くしたことでGIRLSはもうボロボロです!!」

 トモエはついに我慢の限界の如く壇上の講義台をたたきつけ怒りを露わにしたが…

「3持ってる」「いいや」「ない」

 まったく意に介さず反省の色なく三人は大富豪をしていた。

「コラー!!トランプはやめてください!もうっ没収です」

 強制にトランプを取り上げた。

「何すんだ!今勝ってたのに」

「エレエレとあなたが喧嘩したせいで休憩室が滅茶苦茶じゃないですか!仲良しさんなのもいい加減にビィ!」

 トオルはトモエの頭を鷲掴みにして血管浮き出た血眼で睨みつけた。

「次言ったら貴様とて容赦しないぞ」

「はっはひぃぃ…ピッピグモンは脅しには屈しません!!」

「落ち着けトオル…で、何に怒ってたんでしたっけ」

「モノを壊し過ぎです!もう忘れたんですか!?」

 怒り心頭なトモエがやいのやいの言っている時、ユウゴが壊したドアの入り口からアキたちが覗き込んでいた。

「あちゃ~ピグちゃんがああなったらもう止まらないんだよねぇ~」

「ええぇぇ…でも相手がお兄ちゃんたちだからあんまり効果無さそうだよ」

「メンタルスゴッ!さすがアギちゃんのお兄ちゃん…」

「それどういう意味?!」

「ううっ私の戦利品…」

「元気出しなよ、ウインちゃん」

「あなたに何が解ると言うの、一度先生に消滅させられた同人誌は…もう帰ってこないのよ…その気持ち、わかるわ」

「エレキングさん…」

 湖上はレイカをそっと慰めつつも自分も悲しみをこらえた。

「読みたかったんやなぁ」

「今朝からずっと上機嫌だったからなぁ」

 

「仕方ないでしょう…俺たちは平常時でも時折怪獣因子が体外に滲み出て粒子化して力が出ちゃうんですから、これでもセーブしてますよ」

「出来てないから壊しちゃってるじゃないですか」

「ゴミは燃やして当然だ」

 

 今にも我慢できずエレキングに変身して鞭を持つ手を震わせながら攻撃を加えようとしていた。

「エレキングさん落ち着いてください」

 

「床が脆かった…それだけだ」

「痩せて下さーい!…はぁはぁはぁ」

 トモエはこれまでにないほどの怒りを表現したことで身体能力の低いピグモンは酸欠状態になっていた。

「とうっとととにかく、これ以上の問題を起こされる前に私から三人にこれから審査をさせていただきます」

「「審査?」」「?」

「はいぃ、これは簡単な事です。2日間にかけて今日、筆記と面接を行い、明日別の場所に移り実技審査を行います」

「はぁ…」

「基本的にはGIRLSの新人隊員の入隊試験【怪獣漢版】に変えただけです」

「これに不合格の場合は?」

「今後GIRLSの出入り禁止です。大事なので解り易く言いますね、出・禁・で・す♡」

「なるほど…つまりこれを口実に追い出そうと…」

「つまりそれは俺たちに対する宣戦布告と言うことだな」

「……………」

 怪獣のオーラが三人の背後を覆い始めた。

 しかし、トモエも決してくじけなかった。

「そういう事ですぅ」

 と言いつつもアキを盾に笑顔で答えた。

「…ピグモンさん、ボクを盾にしないで!!」

「悔しければ受けてみろとアギちゃんも言っとるで」

「言ってない言ってない言ってない!!止めてよゴモタンも!」

 アキは精一杯、手をはたかせ全力で否定の意思表示をした。

「面白い…別に居場所にこだわりは無いが、ここのお茶は菓子との相性がいいから少し気に入っている。受けるよ…俺は」

「……フンッ、アシスタントには重宝している。あのやかましい編集者どもの隠れ蓑に丁度良いだけだ」

「特にない」

「それでは決まりです。抜き打ちになってしまいますが、まずは筆記からです。この筆記では実力筆記と質問筆記2枚に分けて行います」

 プリントは計6枚を一人2枚分けて配られた。

 試験官としてアキ、ミク、ベニオの3名の巡回で不正防止に形式上の巡回をしていた。

 しかし、アキは自分たち怪獣娘が受けたテストとの違いが気になり、そっと覗き込むと『うっ』となるような内容であった。

 回答方式はマークシートだが、その内容はほぼセンター入試やTOEIC試験のような内容でかなりの上級一般常識のような内容で到底抜き打ちテストと言える代物ではなかった。

 難解なこの試験にアキは静かに驚いてると向かいでミクとベニオもコングの試験内容にも驚いていた。

 ユウゴとトオルは日本式の試験内容であるがコングだけアメリカのSAT試験をベースに組まれているためコングの実力筆記はすべて英語であった。

 無論、二人にはチンプンカンプンであった。

 横でざわつく二人に気付いたコングは振り向いた。

「なんだ…」

「あっいや…あんたの試験、数字しかわかんねぇな!」

「あたしもっす!」

「退出!!」「「ヒャホーイ!」」

 試験官2名追い出された。

 

 別室にて

 

 講義室の隣の部屋でユウゴたちが解いた実力筆記がスキャナーにかけられ、湖上とレイカがパソコンに移された採点結果を確認していた。ドアを開けトモエが入って来た。

「どうですか?採点の方は」

「凄いです。御三方正解率100%です」

 この脅威の正解率にレイカは度肝を向いた。

「当たり前よ、先生はこれくらいできて当然よ。あんな人だけど意外と頭脳明晰なのよ…」

 トモエは笑みを浮かべながら湖上を見つめた。

「もぉーエレエレは素直じゃないですねぇ」

「…別にそういう訳じゃないわよ」

「ホントですかねぇ~…でも重要なのはこっちです」

 トモエが机に置いたのは三人用の質問筆記の解答用紙であった。

 今回の試験の最大の要。それは彼らの中にある怪獣についての意識であった。

 これだけはGIRLS方式に則った問題であった。

 この見覚えのある問題にレイカは頷いた。

「これ私たちの問題にもありましたね」

『あなたに宿る怪獣について、名前、身長と体重、特徴を書きなさい』

ユウゴ)ゴジラ 身長:不明 体重:不明 特徴:背ビレと熱線

トオル)ガメラ 身長:不明 体重:不明 特徴:甲羅と火球

コング)コング 身長:不明 体重:不明 特徴:毛と筋肉

『あなたはいつ怪獣の魂に気付きましたか』

ユウゴ)なんかあった。

トオル)知らん。

コング)わからん。

「どうやら本人たちでさえ知らないようですね。これじゃあデータが取れませんね」

 この質問筆記は怪獣娘がいかに自分の事を知っているかの見極めなのだが、ユウゴたちの怪獣はGIRLSの記録に無い怪獣のため本人たちなら何かわかってるとトモエは踏んでいたが特徴以外不鮮明な回答であった。

「先生たちあまり自分たちのこと気にしてないって感じですね」

「うーん…と言うより興味が無いって感じもします」

 するとドアを叩く音がした。『どうぞ』とトモエが言うとドアを開けてノックの主であるザンドリアスこと道理サチコが入った。

「ピグモンさん、面接準備できましたよ」

「は~い、今行きます。次の面接なら何かわかるかもしれません」

 

 面接会場

 

 今回はグループ面接ではなく一人一人に聞く個別面接で行われた。

≪宮下ユウゴ≫

「ではまず」「ずばりお兄ちゃんから見てアギちゃんはどんな感じなん?」

「卑屈、根暗、老人臭い、半目、寝ぼけ眼、死んだ魚のような眼、デヴゥッ!!」

「はぁっはぁっはぁっはぁっ…」

 3名の面接官の一人のアキは書記用のペンケースを投げつけ息を荒げた。

「退出~!」「わぁぁ~」「ああぁぁぁ」

 面接結果:妹の短所ばかり(面接官2名退出)

 

 ≪亀沢トオル≫

「それでは」「先生は先ほどBL同人誌を音読して何を感じましたか」

「フンッあんな作品を考え付く奴は作家として終わっている」

「果たしてそういいきれるでしょうか、先ほどの作品は男色描写はあれど芸術的背景を十分に表した一級品だと思えますが」

「イカれた作家が書くものを読むやつの意見など頭が狂った人間を止めたやつの言い分だな」

「その割には随分と楽しそうに音読されてましてねぇ」

「ああ、楽しいよ。特にそんな作品を支持する奴の前で堂々と音読してやる気分は愉快でたまらんよ」

「もっもう止めてください許してください!」

 この論争にレイカは耐えかねて面接の中止を呼び掛けた。

 面接結果:創作物論争第二ラウンド(強制終了)

 

 ≪ジャック・コング≫

「でっでは」「いつもどうやって鍛えてんだ!?どうやったらあんなことできんだよ」

「喰い続けることだ。常にすべての食物に感謝しつつ喰らうことだ」

「そんなんで強くなれたら苦労しねぇよ!なぁなんか秘密でもあんだろ!」

「特にない…食う事しか特には」

 コングの重さに耐えかねたかパイプ椅子がギシギシと悲鳴を上げガシャンと音をたて砕けてコングの下敷きになった。

「見ればわかりますよ」「ヒャァァァ…」

 面接結果:パイプ椅子破壊(育ちすぎ)

 

 3人の面接を終えたことによりトモエの疲労がピークに達し魂抜けたような真っ白なる程に疲れ切っていた。

「ピッピグモンさん!?」

「あのピグモンがここまで疲れ切るとは」

 サチコとベニオはトモエの姿に同情した。

「あっ後は明日の実技試験は別の場所で行いますので…一試験…お疲れ様でキュゥゥ――」

 トモエはそのままぐったりと倒れ伏せた。

「ひどいよ、ゴモタンもお兄ちゃんも…」

 アキが怒りのあまり膨れ切っていた。

「ごめんってばアギちゃん」

「俺は事実を言っただけだぞ」

「全部ボクのコンプレックスじゃん」

「もう機嫌直してよぅ…よぉし!せっかくだからみんなで遊びに行こぉ!」

「どこへですか?」

「決まってるでしょ。原宿に」

ミカヅキの提案にユウゴは顎に手を当て深く考えだした。

「原宿か…そういえば行ったことないな、長らく戦場生活が長かったから縁の無いものだと思っていた」

「俺も原宿をネタにすることはなかった」

「HARAJUKU…興味はある」

 三人のこれほどまでの原宿に対する認識の低さに皆納得しつつも少し意外性があった。

「なっなんか意外と納得やな」

「ですね」

「じゃあ、ボクたちが教えてあげるから行こう」

 アキはユウゴの手を取って自信に満ちた輝く瞳で訴えた。

「そう言ってアギちゃんもまだまだにわかの原宿経験者やけどなぁ~」「ヴッ!…」

 水を差すようにミカヅキが割って茶化され『にわか』と言う言葉が頭に刺さった。

「にわか?」

「いっいいから行こう!」

 アキはユウゴの手を強引に引きみんなで原宿に向かった。

 

 

―渋谷区原宿まつした通り

 

原宿駅からメイン通りまで徒歩5分に位置する渋谷区の一角。明治通りに向かって緩やかに下ることその全長は350mの道のりの歩行者天国。様々な店舗が多く、若者向けのファッションやブティックなど個性的な魅力が詰まった街として近年では観光客でにぎわっていた。

「若者っぽい!?」

「人多ッ!?」

「This is HARAJYUKU!?」

 最もこのような場での耐性の無い者にとって原宿の混雑状況はカオスである。※時間帯によります。

「どうですか原宿は」

「今日、マカオに取材に行く予定だった」

 この場を逃げようとしたトオルはユウゴとコングに両腕掴まれ完全に逃亡に失敗した。

「離せ!貴様ら、何のつもりだ!」

「こっちのセリフだ、財布」

「お前、本で稼いでるだろう」

「俺の作品は私欲のためにあるんじゃねぇ!」

 その場にいた怪獣娘は全員どこかで見たような光景に思えた。

「先生…そうなったらもう逃げられませんよ」

 レイカだけはしみじみと共感できた。

「よぉーし、お前ら今日はトオルの奢りだ!みんな好きなのえらべ!」

「「「「「「おおおおーーーー」」」」」」

「ふざけるな!昨日牛丼奢っただろう!だぁー湖上貴様俺の財布を取るな!!」

 湖上がトオルの懐から取り出したパンパンに膨れた長財布が怪獣娘全員には驚愕だった。

「おおー結構持っとるんやな…」

「作家って結構儲かるんだなぁ、うん百はあるぞ」

「いいなーGIRLSじゃこんなに稼げないし」

「こんなの序の口よ。先生の口座にはもっとあるわ。これはお札用の財布」

全員、お札用と言うだけでこれだけ財布がパンパンに膨れていることに驚いた

「他にも小銭用、ポイントカード用、クレジットカード用、口座用等と複数あるわ」

 湖上の一言で金銭に乏しい現代女子である怪獣娘の目の色が変わった。

「よぉーし!この長財布を使い切るまで買い物しちゃぉぉぉ!」

 一同、息が合うように「おおー」と掲げた。約1名覗いて。

「放せ!返せゴラ!!ざけんな!!」

 

 まつしたの門を通りそこから先は後の祭りであった。

 みんなが各々欲しい物を欲しいだけ買い、支払いは湖上(トオルの財布)でブティック、ファッション、アクセサリー、漫画・雑誌と買い漁れるだけ漁った結果、トオルの長財布は少し細くなった。

あれだけ買ったのに財布の外見はさほど変わらないが中身はお札どころかお釣りの小銭もなく代わりに大量のレシートがぎっしりと入っていた。

 

 

 喫茶店

 

「いやーいっぱい買っちゃった」

「ボクも前々から欲しかったの買えた」

「あたしなんて赤か青か迷ったけど全部選んじゃった」

 買い物を終えた怪獣娘一同は店内で買い物談議に花咲いていたが、テラス席では優雅にお茶をするユウゴとコングとテーブルに沈むトオルがドンヨリとしていた。

「これなんかもすごい良かったも…!!!」

 ミカヅキの会話が突如として途切れるようにその場にいた怪獣娘全員が固まった。

 来る、来る、かなり大規模な何かが来る気配を感じた。

 案の定、外からシャドウが出現した。それもかなりの規模が溢れ出し渋谷は騒然とした。

 奇怪な音をたて渋谷は混乱の中、怪獣娘全員が変身してシャドウに立ち向かった。

「行っくで!!メガトンテール!」

「おらおらおら!!」

「だりゃぁ!!」

「フンッ!!」

「うぉおおおおおおおおおお」

 各々が自身の能力を駆使してシャドウに立ち向かっている中…

「あっすいませーん、ギガパフェください…あれ店員いない」

「何してるのお兄ちゃんたち!?」

 こんな状況下に悠然とまだケーキやランチを食べているユウゴたちに驚愕した。

「んん?注文」

「見てわかんない!?シャドウが出てるんだよ!!」

「へぇーそれシャドウって言うんだ…新聞ぐらいでしか見なかったけど生で見ると本当にブヨブヨしてんだな…お前みたいに」

「今そんな冗談言ってる場合じゃないでしょ!手伝ってよ!」

「別に俺らの仕事じゃないし…そういう雑草狩りはお前らの仕事だろう」

「これのどこが雑草狩りに見えるのさ!?」

 ああだこうだ揉めていたアギラとユウゴとは別でレッドキングがシャドウを掴みハンマー投げの様に回し手を放した。

「レッドちゃんそっちは!?」

「へっ?あっ!!やっべ気を付けろ!!」

 シャドウが弾着し起き上がるとシャドウの頭に何かが垂れた。スライム状の触手で触るとそれは白いクリームだった。上を見上げたシャドウが見たものは…

 

「きゃぁぁ!!」

「ザンさん!?」

「いや…来ないで」

 攻撃を喰ったザンドリアスに追い打ちをかけるように近づこうとシャドウが迫った。

 これで終わりだ小娘がヴゥゥとどこからか同胞のシャドウが飛んできて迫ったシャドウと激突し爆発四散した。

 近くにいたシャドウが見たのは頭にクリームの付いた同胞が飛んできて同胞にぶつかった。誰がこんなこと…を…おっおっおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!

 なんかいる!?あっちになんかヤバそうなのが3匹いる!?何あれ!?怖っ!?自分たち以上の化け物が…マジもんの化け物がいヴゥゥ!!

 またしても同胞と同胞が激突した事に感づいたシャドウがその場に立ち止り同胞をまるでバスケットボールの様に投げ飛ばす奴が何者かと見ると黒いのと鎧とゴリラがその先にいた。

「テメェら…くたばる覚悟が出来てんだろうな!!」

 この巨大な剣幕がまるで突風の様に波紋を描くとその波紋にシャドウが干渉したように突如として大きく震えだした。

 シャドウはようやく気付いた。

 草食動物が肉食動物を目の前にするように逃げる術が無いように完全に動けない。

 食物連鎖の中で完全に底辺にいる存在が頂点にいる者に歯向かったら、偶然木の葉が人間の指を切り、切傷させたらどうなるか…答えはただ一つ。

 伐採確定!!

 ここからはシャドウにとって地獄絵図であった。コングに潰されるはガメラに切られるはゴジラにサッカーボールの様に蹴られピンポンゲームの玉のように弾き同胞が次々と消滅していった。

 怪獣娘程度なら数内大量ならほぼほぼいい勝負だがここまでくるともはや大群が意味をなさなかった。

 焼け石に水、もはや災害に立ち向かっているようであった。

「圧倒的すぎる…」

 レッドキングが呆然と見ているとソウルライザーから『WARNING』と表記が現れ、その瞬間地響きが鳴りだし地面から以前アギラたちが倒したのと同じ恐竜型のシャドウビーストの別個体が現れた。

「しゃシャドウビースト!?」

 しかし、怪獣娘に目もくれず何かを探すようにキョロキョロと何かを探るようにあたりを見回していた。

「お兄ちゃん…あれがシャドウビーストだよ…あれ?」

 アギラが振り返るとゴジラ達はそこにはいなかった。

 同時にシャドウビーストも何かに気付いた。

 それは自分の陰の頭部部分のてっぺんに何かがいることに気が付いた。

「へぇー…これ目なんだ…バイザーみたいだなぁ!!」

 無慈悲にも頭部にいたゴジラの指の第二間接を突き出した状態の拳でシャドウビーストの目を抉るように突き刺し、以前アギラがビルから飛び降りてその勢いでひび割れたのがやっとであるのにこちらは完全に粉々に割れた。

 激痛なのか叫ぼうとするも顎に何かが当たりそのまま口を捕まれたように口先を引っ張られそのままうつ伏せに倒れ込んだ。

 今だ口を開けることもできず、ものすごい力でシャドウビーストの口を押さえつけられていた。

「おいコング、口開けさせろ」

「んん」

「おいブヨブヨの親玉、運が無かったな…今日の俺は至極不機嫌なんだよ」

 次の瞬間、ガメラが熱を帯びた火球を口に放り込みそのままコングが馬鹿力でシャドウビーストの口を塞ぎシャドウビーストの体内で放り込まれた火球が弾け出しシャドウビーストの身体は爆発し残ったのはシャドウビーストの頭だけであった。

 シャドウビーストが倒されたことにより撤退なのか他にいたシャドウたちはみるみる溶け出すように消滅した。

「せんせぇ…」

「ケガ無いか?ダム子…」

「はいっ私、先生が助けてくれると信じてました…」

 ガメラは崩れるウインダムの頭をポンと触れた。

「そうか…俺を信じてくれてありがとな…なんていうと思ったかこのボケが!!」

 不意打ちの如く雰囲気台無しのヘッドロックをウインダムに繰り出した。

「貴様まで悪乗りして俺の金バンバカ使い切りやがって!おまえは一生タダ働きじゃ!!」

「ぜっぜんぜぃ…ぐぐるじいでず!」

「問答無用じゃこのド阿呆が!!」

「ごめんなさーーい!!」

 さすがに見かねて全員が笑いながらも止めに入った。

 遅れて現場にピグモンが駆け付けた。

「皆さーん遅れました!…あれ…どういう状況ですか?」

「うーん…なんでしょうね」

「あれー?アギアギ今にやけてますよぉ~」

「そっそうですか?」

「そうですよ~」

 

―追伸―

 

でも今は様子を見ます。なんだかんだ彼らは何処か頼もしいですし優しいですしそれにちょっとカッコイイです。

まだ世界にはどれだけの『カイジューソウル保持者』が存在するのかわかりませんが今後どんな人たちだろうと私は寛大な心をもって受け入れるつもりです。

私もまだまだ未熟ですけれども。

また何かあったらご連絡します。

博士もお元気で、お体に気をつけてください。

 

ピグモンこと

岡田トモミより

 

―送信中―

―送信完了―

 

 

―受信中―

 -受信完了―

 

 ご連絡ありがとうございます。トモミさんも相変わらずのようで安心しました。

 僕はいま少し日本に帰れそうにもない状況です。

 怪獣漢さんの事も気になりますが世界にはまだまだ多くの発見がありすぎて僕の脳が弾けそうなほどです。

 ??国 ???

 

「トモミさんも相変わらずですね…」

「お待たせしました多岐沢さま、会長がお待ちです」

 多岐沢は川崎について行くように長い廊下を渡っていた。

 この長い廊下の殆どに化石が展示されていた。

 下にはガラス張りの先にアンモナイト。

 横や天井にはいくつもの海洋生物の化石が未発掘の状態で留まっていた。

 扉の前に立つと川崎がカードキーを翳した。

「よく来たのう多岐沢君」

 そこには円谷と多岐沢の見覚え有る人物が居た。

「お久しぶりです。芹沢先生」

「城南大学以来かな、当時君はまだ学生だったが私が一目置くほど優秀な子だった…そんな君が今や怪獣研究で私と同じ土俵にいる」

 こげ茶色のジャケットにフチなし眼鏡にしわのよった顔立ちに整ったひげを生やした初老の男性がいた。

「まだまだ先生には遠く及びません」

「その腰の低さは昔から心配だったが今も健在のようだな…胸を張りたまえ、今や君は立派な学者だ」

「あなたはそれより遥か先を行く方ですよ、芹沢イシロウ博士」

「立ち話も何じゃろう、多岐沢くん君はここへ学びに来たんじゃろう。ささっ座ろうかのう」

 多岐沢は円谷に座るよう勧められ大胆にもこのガラスドームの中央にドンと置かれたソファーに座ると前方からスクリーンがゆっくりと降りてきた。

「心の準備はでき取るか?これら見せるモノは君たち怪獣救助指導組織のどのドキュメントにも載っていない否乗るはずのない怪獣たちのドキュメントじゃ」

「はい…僕はそれを知るためにここへ来ました。僕は知りたいんです。怪獣がなぜ存在し今消えた代わりになぜ怪獣娘などの怪獣人間が存在するのかを、そしてどうしてあなた方MONARCHが隠し続けたのか、僕は知りたいです」

「…その心意気しかと受け賜った。川崎」

「はい」

 川崎が旧式の映写機のスイッチを押すと二輪式のフィルムが回りだした。

 スクリーンに映し出された映像に多岐沢は目を奪われた。

 映像からは50年いやもっと昔の映像、そこにはアメリカのエンパイア・ステート・ビルに上る規格外のゴリラに、建造物を破壊する黒い怪獣、脚部から火を出して飛ぶ亀、エトセトラエトセトラ、最後に差し掛かってその映像には先ほどの黒い怪獣とビルに上ったゴリラを人のような形にしたような…否、これは紛れもなく怪獣人間であった。

 次の瞬間、音声が無いのにこれほどまでの臨場感のある怪獣人間同士が森の木々や岩を砕きながら戦っていた。

 上空からの撮影であろうがこれは紛れもなく大怪獣ファイトであった。

 多岐沢はこの映像で地球最古の大怪獣ファイトを目撃したのであった。

「彼らは…一体…せめてあの黒い怪獣の事だけでも教えてください!あの怪獣こそ僕がこれまでずっと探し続けてきた怪獣かもしれないんです」

「この映像はまだわしが君くらいの頃に撮影された奴でのう、今さっき君が見た黒い怪獣は『ゴジラ』、地球上最初にして最強の怪獣じゃよ。最後に見た怪獣人間はその怪獣の魂を持つ怪獣人間、『宮下ゴウケン』じゃ」

 多岐沢は混乱せず冷静に受け止めた。

「川崎君、次を頼む」

「はい」

 次に川崎が持ち出したのビデオカメラ用の映写機であった。

 一般用ではないがそれでも多岐沢の生まれる少し前あたりか後ぐらいのかなり最近、二十数年ほど前の映像であった。

 そこにも見なれない怪獣たちばかりの映像とまたしても最後に現れたのは『ゴジラ』の怪獣人間と複数の怪獣人間たちが映像に流れた。

「そしてその息子、『宮下ゴウイチロウ』と愉快な仲間たちっと言ったところかのう…いつ見ても懐かしい」

 先ほどから多岐沢は『宮下』というなに何か聞き覚えがあった。

 口に手を当てよく考えると思い出したのは…

「宮下ユウゴと宮下アキ…」

「ほほう…話が速いのう、左様その二人の父親と祖父じゃ、そしてユウゴは怪獣人間『ゴジラ』の三代目じゃよ」




見せられないMONS~

「卑屈、根暗、老人臭い、半目、寝ぼけ眼、死んだ魚のような眼、デヴゥッ!!」
「はぁっはぁっはぁっはぁっ…」
 3名の面接官の一人のアキは書記用のペンケースを投げつけ息を荒げた。
「ぺっ…地味、冴えない、戦い方が雑」
「まだ~言うかぁぁああ!!」
 変身して今度は組み立て机を持ち上げて一触即発になった。


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小数点対無限大

 ロシア シベリア連邦管区間 

―バイカル湖

 

 ロシア南東部に位置するブリヤート共和国とイルクーツク州・チタ州に挟まれた三日月型の湖。

 面積31,722㎢ 最大水深1642mを誇り、1997年に世界遺産として登録され『シベリアの真珠』として有名な湖である。

 

「ああ?凍結してない」

「ああ、この時期ならばこの湖は凍結しているはずなんだが」

 ボート小屋の店主は頭を掻くように防寒着の男の質問に答えた。

「あんた遅かったな、過ぎてるよ。バイカル湖の氷は殆ど溶けちまったよ。でもまだ氷山が残っているから一般船は出れないし無論ボートも無理だ。高くなっちまうがもう少し先行けば砕氷船を取り扱っている大手の船着き場があるぜ」

 店主は男にここから先の船着き場を勧めた。

「それは困る。ここからまっすぐの先のイルクーツク国際空港で人を待たせてる、日本に用事もあるし何せ金が無い」

「あんた日本人か?なら諦めて砕氷船に乗りな」

 店主は諦めるよう促し、止まっていた丸多斬りを再開した。

「だぁークソ、年のせいか固てぇな」

 男はこの店主がなぜ丸太を斬っているのかよく考えた。

「…ペチカか?」

「ああ、シベリアの作業はペチカが無いと死ぬ。大昔から暖房、料理には欠かせないんだよ。あんた見たところいい体つきしてんな、防寒着からでも分かるぜ」

「まぁな」

「ちょうどいい、あんたやってみるか?っても単に俺がサボりたいだけだが」

 そういうと店主は手にしていた斧を差し出した。

「どのくらい必要なんだ」

「そうだな…保存用だから40本くらい切ってくれ。あんたならそれくらいできるだろ」

「40…50だ」

「おおー大きく出たな、いいだろう、ホレ」

 男は店主が差し出した斧を拒否した。

「はぁ?斧なしでどうやって丸太を斬るっモガブゥ!」

 男から投げ渡された防寒着が店主を覆いかぶさり振りほどくと目と鼻の先には氷点下のシベリアに似つかわしくない薄着の白道着に黒帯を巻いた姿になっていた。

「かっカラテ?」

「そう、俺は空手家だ。空手家は武器なんざ必要ね…フンッ」

 手から繰り出された手刀で斧では切れなかった木があっさりと真っ二つになった。

「はっハラショー…」

「あんた!いつまでサボってるんだい!?さっさと薪斬りな!」

 家の中から怒鳴り声が響く中、外に出てきた店主の妻が目を丸くした。

「なっ何やってんだい…あんたたち」

「母ちゃん見てくれよ、このあんちゃんがカラテチョップで丸太を真っ二つにしちまったんだよ」

「んん~さすがにこいつじゃ効率が悪いな…なぁ店主、丸太を俺に投げてくれ」

「はへぇ?おっ俺が?」

「おうよ。……さっどっからでも」

 男は開けた場所に移動すると腰を低く落とした構えになった。

「いっいくぞ…ほい」

 店主が投げた丸太は空を舞うように回転するが、この回転した薪の僅かな切り口部分に手刀を当て真っ二つに裂いた。

「ひゃぁぁぁ~俺のへたくそな投げ方で回っちまったのにきれいに中心沿って」

「よし、じゃんじゃん来な」

 ~30分後~

 男の宣告通り50本すべてを切り伏せた。

「ほんとにやりやがった…」

「ざっとこんなもんかな…んっ、こいつはボルシチの匂いか」

 家の中から白い湯気を立ち込める鍋を抱えて店主の妻が出てきた。

「こいつはあんたに良いもん見せてもらったお礼だ。食ってくれ」

 木皿に盛り付けたボルシチを店主は礼とばかりに男に差し出した。

「おおきに、店主、奥さん」

「俺もカラテやってみようかな」

「馬鹿言ってんじゃないよ、ヘルニア持ち」

「ふーふー」

 店主は男のあることに気付いた。それはこの男、先ほどから一切白い息も出ず、あれだけの丸太を斬っても手を真っ赤にせずおまけに極寒のシベリアなのに道着1枚羽織って下に何も来ていないどころか寒そうにしていなかった。

(世の中すげぇ奴が居んだな)

 店主は単に寒さに強い、空手の修練が為せるものだと思い気にしなかった。

「ところであんた空港に行くんじゃなかったのか?」

「・・・ああああ!!そうだったぁ!!…んっんっあっつぃぃぃ!ごちそうさん!おれ行くは」

「行くってどこにだ!?船はもう行っちまったぞ!!」

 男は防寒着片手に走り出したのは店主が勧めた船着き場に向かわずに向かったのは店主が運営するボートが停留する船着き場だった。

「まさかあのおにいちゃん、湖を泳ごうとしてんじゃないの?」

「なに!?ばか言え、この湖はまだ氷点下だぞ!?ってあんちゃん!泳ごうなんて馬鹿な真似すんな!」

 店主の呼びかけに男は停止した。

「おお!そうか、靴脱がなきゃな」

 店主はずっこけた。

「そういうことじゃねぇ!」

「ありゃよっと!」

「ああ!!あんちゃん!?んんんん??!」

 店主の予想を大きく上回って泳がず何と水面を凍らせてその上を走って渡って行った。

 さすがに店主と妻も二人して驚いた。

「湖渡ってるよ…」

「と言うかあのあんちゃんの足、あんなに茶色かったか?」

 すると横から大きな汽笛を響かせながら横から店主が勧めた大手の船着き場から出港した砕氷船が通ろうとしていた。

「いかん!あのまま進んだらあのあんちゃんミンチだ!おおーい!もどれぇいあんちゃん!!」

 しかし、もうかなりの距離を進んだせいか店主の声は聞こえていなかった。

「キャァァ!!ぶつかる!!」

「もうだめだ!!」

 そして、案の定ぶつかったかに思えた。

 なんと砕氷船の船体に沿って壁を歩くように重力に逆らって歩いていた。

「「ええええええぇぇぇぇぇぇぇ!!?」」

 完全に二人の度肝を抜いた。

 それは船内にいた乗組員も同じであった。

「いいいいよぉぉぉっと!よっ、通るぜ!」

 そう告げて甲板の幅を通って甲板を飛び降りて氷山を飛び乗ってまた水面を凍らせて湖を渡り切っていった。

「だっ…誰も信じねぇわなぁー…こりゃぁ」

 イルクーツク国際空港

 

 滑走路内ではMONARCH所有のジェット機が待機していた。そして尾崎もここで待っていた。

「……来たか」

「お出迎えありがとう、尾崎さん」

「ギリギリだ、このまま置いて行ってやりたいところだがそうもいかない。あいつの相手はお前ぐらいしかいない」

「こっちとらすっ飛ばしてきてんだからな」

「いいからさっさと乗れ、アンギラス」

 日本 GIRLS特別競技場

 

 怪獣娘出現に伴い、特に怪獣娘の身体能力向上には人知を大幅に超えていることにより社会的これらを除外される対象となる。例えばスポーツなどの競技等の出場権剥奪など怪獣娘の立場の縮小を解決するため近年では『大怪獣ファイト』を中心とした怪獣娘のための大会、イベント用に様々な施設やエリアが設けられています。

 ここGIRLS特別競技場もその一つです。

 江東区の敷地面積内に設けられた当施設は怪獣娘の高い能力を存分に発揮できるように設計され、陸上、スポーツ、大怪獣ファイトなどの修練が行えるます。

 怪獣娘の可能性を広げるため怪獣娘の皆さんのために私たちGIRLSスポーツ課は最大限支援いたします。

 

スポーツ課 広報課より

 

「以上が当施設の説明になります」

「……ほぼ宣伝文句臭い感じが」

「宣伝ではありません。GIRLS特別競技場がいかに怪獣娘のために作られいかに怪獣娘の拠り所になっているのか御三方には十分理解したうえでお貸しいたしますので、く・れ・ぐ・れ・も壊さないでください」

「怪獣娘の能力が発揮できるように設計されてるんでしょ」

「あなた方は人知どころか生物知も怪獣知も大幅に凌駕し過ぎていることを自覚してください。これから行う実技審査はMONARCHさんのご協力のもとあなた方の能力審査をさせていただきます」

「ZZZ~ZZZ~」

「Z~Z~Z~」

「起きてください!」

 ピグモン叩き起こされながら二人も注意深く説明する中迎えた審査2日目、今回は競技場にて3人の身体機能検査が始まろうとしていた。

 

 ユウゴたちの実技審査に計測員として待機していた非番のアギラたちは初めての特別競技場にあたりを見回していた。

「ほぇぇぇぇぇぇ…」

「選手じゃない私たちがこういう所の中心に立つのって初めてですね」

「あたしは何度か来たことあるよ。大怪獣ファイターはここで能力検査もされるんだよ」

 得意げに話すミクラスだが、かなりうずうずした様子でいた。

「ああもう早く始まんないかなぁ、計測員なんてつまんないよぉー!」

「そう言わないでください。折角任されたんですし、それに先生たちの能力を間近で見れるんですよ」

「それだよウインちゃん!師匠の強さの秘密が知れるんだよ。大怪獣ファイターとして気にならないわけないじゃん。なのに遅いよ!ピグモンさんの説明長すぎ!」

「まだここにきて5分くらいじゃないですか」

「ウインダムの言う通りだぜ、ミクラス」

 間に入るようにレッドキングやゴモラにエレキング並びにガッツとキングジョーも来ていた。

「ガッツにキングジョーさん」

「ヤッホー、アギ」

「私たちもピグモンに呼ばれたんデス」

 GIRLSで一二の戦闘能力に特化した怪獣娘たちがピグモンに召集がかけられていた。

「話しを聞いたときは驚きマシタ。まさか『カイジューソウル』を持つ男性がいてGIRLSでも把握していなかったことでUSAのGIRLSも今回の計測に注目してイマス」

「しかもそれがアギのお兄ちゃんだなんてアギって意外とすごい子なのかもね」

「ぼっボクとお兄ちゃんは違い過ぎるよ」

「でもGIRLSでの研究上、血縁者内でのカイジューソウルの因果関係は遺伝上にも影響があるという説もアリマス」

「確かにザンドリアスのお母さんも怪獣娘だったし何らかの関係性があるのかもな」

 全員が素朴な疑問のトークをする中、入場口からピグモンが出てきた。

 そして、入場口の影から異形なまでの2mを超えた怪獣漢三名が影のベールから姿を現した。

「おおー、中々のビックサイズデスネ。NBA選手ぐらいアリマスヨ」

「おっ男の子ってあんなに大きいの?」

 ガッツはコングとガメラを見るのは初めてだがキングジョーは三人を見るのはこれが初めてだったため内心驚愕を隠せなかった。

「んんっ」

 コングは突如歩みを止め怪獣娘たちに近づいた。

 2m以上の大男を目の前に全員がギョッとする中、コングは一人を指さした。

「oh?私デスカ…」

「お前、アメリカ人だろう」

 その場にいた全員がコングのいきなりの呼びかけで困惑がキングジョーはコングの問いかけに答えた。

「イ、イエス…」

「そうか、俺も一様国籍はアメリカ人だ」

「オオー祖国の方でしたか。お会いできて光栄デス」

「ああっジャック・コングだ。すまんが日本語でもいいか、俺はその国の土地にいる以上この国の言葉で会話を重視している。まぁ俺なりの流儀であり美学だ」

 そういうとコングは右手を出しそれに続いてキングジョーもコングの右手を握り握手した。

「キングジョーことクララ・ソーンデース。日本語でもOKデスヨ。ジャックは日本語が得意ナンデスネ」

「まぁな、この国にいる以上の必要最低限のマナーだ」

 全員が「おおー」と思えるほどコングがマナーに寛容なところが以外に感じたため表情に現れるがキングジョーにはそれが不服だった。

「なんデスカみんなして」

「いやまぁ…」

「何というか同じパワータイプとは思えなくって…ぶっちゃけ、力任せにするしか能がないおジョーとは大違いなんて口が裂けてもいえないもんね」

 ガッツがアギラにヒソヒソ声で話すもキングジョーには筒抜けであった。

「んん~?ガッツ~何か言いました~?」

「ごめんごめん!おジョー、怒っちゃダーメ!」

 眼を光らせムキになりキングジョーは怒りを露わにした。

「ちょっと待ったー!ガールズトークで盛り上がってるところ悪いけど、ささっお嬢さんたちそこ開けて!」

 突如、どこからか声がして全員がキョロキョロ辺りを見回した。

「上よ、上!」

 見上げるとそこにはポニーテールの女性が一人絶妙なバランスでアリーナ席の手すりに乗っていた。

「ミキさん、何してんですか!?」

「ああ、ゴジラくん。もうちょい左に」

「えっ?こっち」

「違う違う!私から見て左…そうそう、そこ。んじゃぁいっくよーとぉう!」

 女性が飛び降りるとゴジラに向かって落ちてきたが結局着地場所が悪くゴジラを移動させた場所とは横の方に着地してしまい脚部に衝撃が全身に駆け巡り足を抑えながら地面に伏せた。

「あだーーー!!」

 痛みに耐えかね転げまわるように悶えた。

「もうちょっと左って言ったじゃん」

「言われた通りにしましたけど…」

 何ともアグレッシブな着地の後に関係者入り口からまた一人、短髪の女性が出てきた。

「何してるんですかミキさん。入り口あるのに」

「普通な登場の仕方じゃつまんないでしょ…インパクト持たせたかったのアサギちゃん…タタァ」

 気を取り直して膝の汚れをはらい、足を庇いながら胸を張りつつ自己紹介をした。

「私は三枝ミキ、『MONARCH』調査部長兼研究員の永遠の17歳。GIRLSのみんなよろしくね。こっちは助手の草薙アサギちゃん」

「どうも」

 活発な三枝と違い何処かしこに御淑やかな感じを醸し出す草薙のなんとも言い難いデコボコな二人だった。

「はっ初めまして三枝さん…」

 代表してピグモンが挨拶するも三枝はピグモンの前に手を翳した。

「ちょっと待って……岡田トモミちゃん、カイジューソウルはピグモン、人の事が大好きで気に入った子にはあだ名をつける癖ある子ね」

 全員がピグモンの特徴をピタリと当てた三枝に驚いた。

「えっへへ、すごいでしょ。私はサイキッカーなの」

「サイキッカー?」

 全員、首を傾げた。

「ええっ!?あなたたちサイキッカー知らないの?超能力者とか聞かない?」

「さっさぁ?」

「そうよね…ナウでヤングな子たちに今どきサイキッカーなんて古臭い過去の栄光よ…なら見せてあげたちゃうよ!まずはそこの3人」

「えっ!」「わっ私たちですか」「??」

 三枝が指名したのはアギラ、ウインダム、ミクラスだった。

 意識を集中させて数秒後…

「宮下アキ、カイジューソウルはアギラで最近太り気味を気にしてる。白金レイカ、カイジューソウルはウインダムで性癖が異常。牛丸ミク、カイジューソウルはミクラスで脳筋お馬鹿さん、どう?」

「ふっ太って…」

「性癖…異常…」

「あたし馬鹿じゃないもん!」

「ふふふっこれが私の能力でチャームポイントなのよ」

「ほぼプライバシーの侵害ですけどね」

「ああーアサギちゃん酷い!」

「だから男が出来ないんだよ、年増」

 ガメラの心無い一言で三枝の何かがプツンと切れた。

「言いやがったな、この甲冑ガメ!!ウガァー!!」

 三枝は超人的な跳躍力で2mのガメラに飛びついた。

「うおっ!?ミキさんがプッツンいっちまった!!止めるぞコング!」

 ゴジラとコングが止めに入る中。

「ええー皆さん、女性は婚期を逃すと」

「離れろ年増!!」

「じゃかわし!!男が私の魅力に気付かないだけじゃぁぁ!!」

「ミキさん落ち着いて!トオルは正直なだけですから」

「お前もか!まっくろくろすけ!!」

「おわ!コング押さえろ!!」

「最終的には怪獣以上に厄介になります。皆さんもああならないように気を付けてください」

 アサギの後ろでロデオ状態になっている三枝を見て怪獣娘たちは引き気味で「はーい」と答えた。

 

 

「それでは試験官の怪獣娘の皆さん。審査内容のご説明をします。ご存知の通りゴジゴジたちの能力はGIRLSの範疇を大幅に超えています。事前の体力測定でも腕立てで床に穴を開け、垂直飛びで天井に突っ込んだり、変身しただけで重さに耐えきれず大穴を開けたりしたせいで支部のトレーニングルームは滅茶苦茶になって使えなくなってしまったので急遽ここに変更しました」

 三枝はピグモンの言葉に耳を疑った。

「待って!?床に穴ッ!?天井に突っ込んだ!?あんたたちいったいなにしたの!?」

「何もかも破壊の限りを尽くしましたよぉ~、これ請求書です」

 その請求書には三枝の目が飛び出すほどの額が記されていた。

「すぅぅぅぅぅぅ……」

 深く息をして冷静を保ち顔を片手で覆い隠した。

「あっアサギちゃん…これとっておいて」

「はい」

 アサギは手渡された請求書を手帳にしまった。

 ピグモンは改めて審査の内容説明に入った。

「今回皆さんに集まっていただいたのは他でもありません。今回の人選のメインは高度な戦闘能力のある皆さんだからこその審査なのです」

「つまりどういうことなのピグっち」

「その審査内容は…スパーリングです!」

 それは以下、全員の身の毛が身震いする内容だった。

 普段、怪獣救助の名目上怪獣娘の保護のためその力を存分に使うために日々鍛錬は怠らない怪獣娘だがそれはあくまで対怪獣娘戦闘のエキスパートたちであるが、しかし今回の相手は怪獣娘ではない。

 マジもんの化け物、怪獣漢である。

「しゃぁ!それなら話は早いぜ」

「つまり大怪獣ファイトってことやな」

「えっええーみんながお兄ちゃんたちと戦うの!?」

「いえ、今回は相手が悪すぎるのでエリア場外制とします。怪獣漢さん達には事前説明で怪獣娘の皆さんにケガをさせたりした場合即失格としますのでハンデは大きく見積もりました」

 中央に備え付けられた大怪獣ファイトの特設エリアは縦25m×横25mの四角いコーナーエリアからお互いのどちらかが出れば勝敗の決着と言う相撲のようなルールであった。

「それではこちらが今回の実技審査構成表をお配りします」

 キングジョー×ガメラ

 レッドキング×コング

 ガッツ星人&ゴモラ×ゴジラ

「ガッツとゴモタン二人がお兄ちゃんの相手」

「ゴジゴジの能力は我々の知る中では特に驚異的なのでハンデとして2対1はゴジゴジからも承諾済みです」

 こうしてGIRLSによる実技審査が開始された。

 

 第一審査

―キングジョー×ガメラ

「おねがいシマス」「んっ」

 キングジョーはモデル業などをこなす怪獣娘であるがその反面、ダンプカーなどを持ち上げるほどの怪力の持ち主であるがガメラとの差は既に体格差にも表れていた。

 怪獣娘は平均的な女の子の身長に対し相手は変身後約20cmも伸びるためガメラの身長は実に205cm、もはや子供と大人であった。

「それにしても不思議です。怪獣漢さんは変身するとどうしてあんなに大きくなるんでしょうか」

「あれは骨格延長。変身時の急速なホルモン分泌による戦闘形態の一種よ。骨格延長による体格の大幅アップは戦闘能力の向上、更に20センチという間隔は人型脊椎生物が大幅なパフォーマンス能力の向上が可能なベストラインなの。君たち怪獣娘と大きく異なるのは『獣殻』が体を覆うのではなく『獣殻』そのものが彼らの肉体の内側も外側も変異させるから怪獣と人間の中間ではなく本当の異形な姿になるの」

 三枝の説明の中、動き出したのはキングジョーであった。

 ゆっくりと機械音のような足音が大地を響かせ、その質量がいかに重量なものかを思わせるような足音だった。

「むぅぅっ…うりゃあああ!!!」

「出た!おジョーの渾身のボディプレス!!」

 あれだけの重量の足取りに似合わぬ跳躍力でガメラの頭一つ以上から落下してきた。

 相当な質量がガメラに向かって落ちてきた……が

 ポスンッと気が抜けたような感じでガメラにキャッチされ抱えられた。

「……えっ?おジョー…」

「…………」

「大丈夫か?…まぁケガ無ければ不合格でもないし…それに何かしたそうだったが…どうする?やり直すか?」

 小脇を軽々と抱えられながら下ろされたキングジョーは何も言わずうつむきで戻り自分からリングを降りた。

「oh~~~~!!!!」

 突然の事に動揺を隠しきれず両手で自分の顔を隠した。

「何しに行ったのおジョー!?」

「だっだって…おっおお男の人にあんな感じで受け止められるなんて思いもしなかったんデス!ホールがあったら入りたいデス!」

「うん…おジョー、気持ちはわかるけど…前見て」

 キングジョーの目の前には血走らせたエレキングがいた。

「oh!?エレキング!そっソーリー!不可抗力デース!エレキングのボーイフレンドとはつい知らず」

「そういう関係じゃない!」

 エレキングは赤面しながらも否定し鞭をしならせた。

「オーマイガー!!ムガッ」

 エレキングから目を逸らすと反対からガメラに顔を捕まれた。

「いいねぇその表情!赤面した人間がここまで真っ赤になるとは、ダム子スケッチを寄越せ!」

「はっはい!」

「ohーNO~~!」

 キングジョーは完全にガメラたちのペースに耐えかねて顔を覆い隠した。

「なぜ隠す!もっとしっかり顔を見せろ!」

「オーマイガー!ゆっ許してくだサーイ!!」

 

 第二審査

―レッドキング×コング

「レッドキングセンパーイ!ししょーう!がんばってくださーい」

「おっおう…いろいろあんたの事は尊敬できるが、だからって手を抜いたりはしねぇぜ…」

 そういうもレッドキングの内心はビクつきながらも決してそれを体に出さない強気の姿勢だが体格差は先ほどのガメラたち以上の差があからさまであった。

(男相手に勝負するのは初めてだが…なんだこいつは…2mどころじゃねぇ…20…いや30…どんだけデケェんだよ)

 体格だけでもレッドキングがコングの腰の位置、レッドキング二人分の大きさにまで到達していた。

(だがビビるこったねぇ…ちょっとデケェぐらいシャドウビーストに比べりゃぁどうってことねぇぜぇ)

 先制はレッドキングだった。文字通り手加減なしの速攻腹パンチ、自慢の戦闘特化の太い腕から繰り出すパンチがコングのお腹を捉えた

 しかし、自慢のパンチでこれまで幾度も使ってきた技。

 なのにレッドキングの脳がよぎらせたのは…石…岩…違う…違う…普段、頭より行動派のレットキングがイメージしたのは…地面…即ち地球そのもの。

(硬ったぁ!?何をどうしたらこんな肉体が手に入るだ!?)

「終わりだな…」

 そういうと次に動き出したのはコングだった。

 仕掛けたレッドキングの耐空の隙をついてレッドキングよりも太い両腕でレッドキングを捉えた。

「いっでぇ!てめぇ!どこ触ってんだ!!」

 コングの大きな手が捉えたのはレッドキングの腰で慎重に最新の注意を払われながらもレッドキングからは抜け出すことのできないまるで機械に挟まれたように動けなかった。

「離せ!離しやがれ!!」

「うむ」

 そういうとレッドキングの言葉通り本当に離しベットから子供を下ろすようにリングから降ろされた。

「いっててぇ…チクショー負けだ…俺の」

「…そうか」

「何だよ…勝ってうれしくねぇのか?」

「…これは勝負なのか?」

 レットキングは呆れた。これを勝負だと思っていたのは自分だけだったことに。

 コングにとってこれ自体勝負だったのか…否勝負にも遊戯にもならないかった。

 レットキングは改めてゼットン以上の格の差を味わった。

 

 続く第三審査の前に事前説明でゴジラはピグモンに提案をしていた。

「なぁピグモンさん。2対1をフェアじゃないとは言わないけど一人怪獣娘を加えたいのがいるんだが」

「ええっどなたですか」

 

 第三審査

―ガッツ星人&ゴモラ×ゴジラ+α

「さて! さてさて! 来ました! 私が! ガッツ星人が! あなた達を倒しに、ね♡」

「二人まとめて倒しちゃうからね」

「……これどう言うこと…」

 +αに選抜されたのは自身の妹アギラだった。

「どうもこうも俺とお前で戦うんだよ」

「そういうことじゃないでしょ!何でボクなの!?ボクはお兄ちゃんみたいな武闘派じゃないんだよ!」

 アギラは納得いかず準備体操するゴジラに怒鳴り込んだ。

「安心しろ、お前はどうせ0.01程度のままでいればいいから」

「ああ成る程安心にはならないよ!相手はガッツとゴモタンなんだよ!?」

「友達だから戦えないってか?」

「そっそれは…そんなこと…」

「いいかアキ、俺は例え相手がガメラやコングでも手は抜かない。それはお前も同じだ。まぁこれは俺の審査だから居るだけ居てくれ」

「なんか無理矢理丸め込まれた気分」

「そういうことだ、あとの事は俺に任せモガッ」

 ゴモラは耐えかねたのか、ゴジラの頭に飛び乗った。

「ニシシッ先手必勝」

「ごっゴモタン!?」

「なぁなぁここだけの話アギちゃんの恥かしぃ話とか持ってへん?」

「ごっゴモタン!お兄ちゃんに何聞こうとしてるのさ!」

「恥ずかしい話?」

「せやせや、なんかあるやろ。初恋相手のとか」

「初恋相手なら中学の時、石黒先生って人に」

「わぁーーーーーー!!わぁーーーーーーー!!」

 突然の兄の暴露に動揺して大きく取り乱して赤面の中、軽い握りこぶしがゴジラの身体に当て続けた。

「ガチ告白してフラれて号泣してたような」

「えっ、マジで!?」

「わぁーー!!わぁーー!!!!やめてよ!!お兄ちゃん!あれは告白じゃないから!」

「あっでももっと古いのだったら少6の時の五十嵐先生に」

「いい加減にしてよお兄ちゃん!!」

「その話もっと詳しく!!」

 飛びつくようにガッツも興味津々で寄って来た。

「ガッツまで、やめてよ!」

 最後の審査がしょっぱなからアギラの恋愛話に発展して混乱を極めた。

「まじめにやってくださ~い!!」

 耐えかねたピグモンに全員注意喚起された。

 

―気を取り直して…

「うぅ~~」

 どんよりとした面持ちで開始直前から既にぐったりとアギラには疲労がたまっていた。

「…石黒先生の時は結婚まで妄想してたよなぁ」

「もういいから!やめてよ!」

「アギちゃ~ん、あとでゆっくり話そうね~」

「もうだめだ…おしまいだよ」

 アギラの脳裏には絶対後でいじられることを予見していると、ゴモラは先ほどよりも早く動き出した。

「んじゃいっくで~メガトンテール!!」

 ゴモラは先手に大ジャンプをして自慢の尻尾で攻撃を仕掛けた。

「お兄ちゃん来たよ!ゴモタンのメガトンテール」

 アギラはこんな状況でもゴジラは不敵にも笑っていた。

「ぃよし!行ってこい!!」

 次も瞬間、アギラのツノを掴みゴジラはゴモラに向かって投げた。

「わぁぁぁっぁぁぁっぁぁぁっ!!」

「へっ?ぐへぇ!!」

 アギラとゴモラ、二人は空中で激突した。

「アギ!ゴモ!」

「イタタァ…」

「もう!!何するのさぁ!」

「言っただろ、居るだけ居てくれって。居るだけなんだから武器にされようが投げられようが文句言えないだろ」

「今のはうちもカチンときたでぇ、折角アギちゃんのええお兄ちゃんやと思ったのに」

「ゴッゴモタン…」

「そうよ!アギを飛び道具に使うなんて最低だわ!私、もう容赦しないんだから!」

「ガッツ……ボクはもう怒ったからね!三人でお兄ちゃんを倒そう!」

「ええっ」「おおともよ!」

 

 急遽3対1になり不利になったゴジラを見たみんなは…

「あちゃーユウゴさん不利になっちゃった」

「あいつ…策士だな」

「えっ?どういうことですか?」

「はじめっから3対1になるつもりだったんだよ。だからアギラをワザとこの審査にねじ込んだんだ」

 

 思惑通りになったことにゴジラは少し笑った。

「何がおかしいのさ!」

「いや…まんまとお前がそっち側に行ったからつい」

「えっじゃぁ最初っから2対2なんてするつもりじゃなかったの!?」

「そんなわけないだろ…お前ら…0.21になったところで俺に勝てるとでも」

 それはガッツとゴモラがまるで0.1と言わんばかりの皮肉だった。

「じゃぁお兄ちゃんから見てこれは、この状況は何」

「0.21対無限かな」

 大胆にも自分を過信するような発言に三人の怪獣娘に火を着けた。

「ガッツ、分身してお兄ちゃんの動きを止めて。ゴモタン、『アレ』できるよね」

「『アレ』やんの!?」

「かまわないよ、相手はお兄ちゃんだもん。手は抜かないよ。見せてあげようみんなのGIRLSの怪獣娘の力を」

「「おおー!!」」

 次の瞬間、ガッツは分身にて二手に分かれ左右からガッツの両手から放たれる拘束光線でゴジラの動きを止め、アギラはゴモラの後ろに回り込み背中を抑えた。

「いっくでアギちゃん!『超振動波』!!」

 突如ゴモラのツノが震えだし中央のツノが紅く光り出し目視でも確認できる光の線がゴジラに向かって飛んで行った。

「「「「「「いっけぇーーーー!!」」」」」」

 その光は怪獣娘すべてを一心に背負った光の矢となった。

「……スッ…ギャオオオオンンン!!!!」

 突然のゴジラの大音量の咆哮が響き渡った。

 そして、ゴモラ渾身の超振動波はあらぬ方向に拡散した。

 それは分身したガッツに観戦していた他の怪獣娘たちにガメラとコングに三枝達にも飛び火した。

「なっ何が起きたんや…」

「わっわかんない…」

「…壁だわ…ユウゴ君は口で音の壁を作ったのよ」

 真横にいたガッツだけが一部始終を捉えていた。

 物体がマッハの領域を超えるのは容易な事ではない。音速の入り口には必ず空気の壁が存在する。それがより速ければ空気の壁はより硬くなる。しかし、音速は人体で再現するのは実に簡単な事である。むしろ人は常に音速を口から発している。しかし、声だけで不可視のバリアは生成されないが怪獣ゴジラはそれを可能にした。

 以下ガッツの見たものはゴジラの背びれが電磁パルスで帯電しこれらが口に集約され一気に咆哮し音の爆発から生じた空気の壁を発生させゴモラの超振動波はこの空気の壁に衝突したことによりホースの水を壁に流すように一気に周りに拡散したのだった。

「今俺がやったのは超振動を()()()不安定にさせ、口から咆哮して壁を作る『超振動壁』。これが安定して初めて俺にとっての『超振動波』が完成する。『超振動波』くらい俺でもできる」

「ゴッゴモタンの必殺技が…お兄ちゃんにも使えたなんて」

「いや必殺技じゃない。威力が強ければ確かに技としては上出来だが俺にとって非殺傷の技、実践向きじゃない。他にもシャドウとかにも使った『超振動波紋』は化け物には有効だが人間に使うと嘔吐や眩暈などを起こす…まぁテロ鎮圧には使えるかな。技ってのは臨機応変な使い方ってのが求められるんだ。ただ自分の能力を闇雲に使えばいいってもんじゃない。バリエーション豊かに状況に応じた的確な技術と経験が最後は物を言う。ちなみに『超振動』の技は『超振動波紋』と『超振動壁』、『超振動波』以外にあともう一つ俺の中にある。計4つだ」

 途方もなく大きな戦力差がアギラとガッツに現実を突きつけたが一人は違った。

「すっご~い!!今のどうやったん!?『超振動波』っていろんなのがあるんやなぁ、他にも教えて!」

「ゴモタン元気ッ!?」

「そりゃそうや、アギちゃんのお兄ちゃんも超振動波が使えるなんて同じ超振動仲間がいて今うちは感動もんや!」

「えっええ~」

「教えてもいいが折角だ、お前の最大火力の『超振動波』を打ってきな、俺もここから動かずに俺の『超振動波』を打ってやるよ」

 それは西部劇のガンマンのような申し出であった。

「どっどうするの」

「お兄ちゃんはああいうときは嘘をつかない人だから」

「でも…うちやってみたい。自分の本気がどこまで通じるか試したい」

「じゃぁ決まりね。アギが中央から私が分身して左右からゴモの背中を支える」

「うん、それで行こう。ゴモタンが最大を出せるようボクたちも全力で後ろから支えるよ」

「ありがとう二人とも…OKやで!」

 そして迎え撃つ構えに入り作戦通りにアギラが中央をガッツが分身して左右を支えるとゴジラも今まで以上の背びれのプラズマが可視できるほど帯電していた。

「いくで!これが最大火力の超振動波やぁ!!」

 それは全員が見た事も無いほどに真っ赤になった超振動波だったがゴジラも口前方から咆哮してこちらも超振動波を打った。

 赤い超振動波と青白い超振動波がぶつかり合った。

 しかし、結果はゴモラが押される形でゴジラの超振動波はすぐにそこまで来ていた。

「うっぐぐぐこれは…さすがにきつい…ごめんアギちゃんガッちゃん」

 そういうとゴモラは後ろの尻尾で二人を払いのけゴモラは抑えられていた反動に上体が倒れゴジラの超振動波をツノが掠めると超振動波はアリーナ席まで飛んでいき、一部が共振現象を起こし粉砕してしまった。

「あっ…やべ」

 爆音響かせ倒れた三人の目線から火柱と慌てるみんなが見えていた。

「…結局、負けちゃったね」

「でも、アギちゃんのお兄ちゃんの超振動波すごかった~」

「うん…凄すぎて事故起こしてるけどね…」

「「「ぷっはははは…」」」

 立ちこもる火煙を眺めていると突如信じられない現象が起きた。

 あれだけ燃え盛っていた火が突如凍りだしたのであった。

 何事かと思い、その場にいた全員が固まった。

「あ~あ…相変わらず派手にやったな…はいはい道開けて」

 凍った火柱からひょっこりと皮ジャケットを着た男がリングまで近づいてきた。

「ささっガキども、選手交代や。こっからはあいつの相手は俺や。このアンギラスにまかしとき」




見せられないMONS~

「んじゃいっくで~メガトンテール!!」
 ゴモラは先手に大ジャンプをして自慢の尻尾で攻撃を仕掛けた。
「お兄ちゃん来たよ!ゴモタンのメガトンテール」
 アギラはこんな状況でもゴジラは不敵にも笑っていた。
「ぃよし!行ってこい!!」
 次も瞬間、アギラのツノを掴みゴジラはゴモラに向かって投げた。
「わぁぁぁっぁぁぁっぁぁぁっ!!」
「へっ?ぐへぇ!!」
「「わぁぁああああああああああああ!!」」
 2人はそのまま空の彼方へ飛んで行った。
「アギィィ!!ゴモォォ!!」


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無限大対無限大

 ロシア シベリア山脈

 

「……こっこれを掘ったというのか…」

 ロシア連邦軍陸軍将校が目にしたのはまるで獣の口を連想させるかのような一寸先まで光も届かぬ暗黒の闇の影で覆われた洞穴であった。

「そうです。我がロシア連邦の名だたる格闘家を病院送りにし、討伐編成した選りすぐりのスペツナズの精鋭を返り討ちにしたあの化け物の潜伏場所です」

「諜報員の報告だけでも耳も目も疑ったが…まさか我がロシア連邦にあの『阿修羅の暴龍』がこんなところに…奴は人間ではない。表沙汰にはなっていまいが奴は『怪獣』なのだ。1年半前の中国の河北省で起きた『変異獣事件』で中国軍が出動する事態となり延べ243名の被害を出したキメラ『瑞』を葬り、その首を早朝の天安門に掲げた張本人だぞ」

「将軍、奴に関わった被害者の方が重大です。アマレス、システマ、サンボ等の名手、その被害者たちはどれも我がロシア連邦にいくつもの栄光をもたらした英雄たちに世界最強の我がロシアが誇る特殊部隊『スペツナズ』の精鋭、彼らが今だに病院に出られない事実」

「そんなことは分かってる!問題はそんな奴を野放しにし、あまつさえ軍隊まで出して捉えられず日本に帰国させたこの失態…奴を捉えて解剖しようなどと楽観的に考えた政府連中どもめ」

「もはや無かったことにするしかありません。一体誰がこんな話を信じると」

 

 日本 GIRLS特設競技場

 

「アマチュア相手にプロが本気出してどうすんねん」

「アラシさん、シベリアで隠居してたらロシア連邦政府に捕まってたんじゃ」

「しょっぴかれてたなら今いるわけねぇだろ」

「庵堂さん!?あんたロシアの研究所に拘留されてたんじゃ」

「だから今ここいるわけねぇだろ、シベリア修行でロシアに訪れて片っ端からロシアの強者と勝負してたらロシア政府に目つけられて研究送りにしようしてきたとスペツナズと交戦して返り討ちにしてシベリア山脈にこもってたんだよ!」

「「両方かよ!!」」

「一貫して捕まってねぇわ」

 男は強く否定しつつもリングに上がった。

「ちょっちょっと待ってください!部外者が勝手に」

「うっせぇよ、ちっこいのは下がってろ」

「あうっ!」

 男は怪獣娘の姿であるピグモンにデコピンをくらわせた。

「だっ誰よ!?あんた何者」

「ああ?自己紹介…は、まだ中途半端だったな。一から言うと俺の名は庵堂アラシ、そこにいるゴジラと同じ怪獣人間だよ」

 アラシはユウゴたち以外の四人目の怪獣漢だった。

「あっあああ…」

「ゴモたん?」

「アンちゃ~ん!!ひっさしぶり~!本当にアンちゃんや」

 突然ゴモラは飛びつくようにアラシに抱き着いた。

「お前、もしかしてミカか!?なんだ随分変わったな、最後に会ったのはお前が中学生の時やったか?」

「せやで、アンちゃんが海外行ったあとウチは怪獣娘になって大怪獣ファイターにもなったんやで」

「ああ~いろいろあって俺も忙しゅうなったから外界の情報一切入ってこうへんかったからな」

 二人の会話に置いてけぼりになったアギラたちはぽかんと茫然となっていた。

「ゴモたん、知り合い?」

「そや、みんなにも紹介するわ。こん人は『ナニワのアンちゃん』って言ってウチの地元大阪に住んどった昔馴染や」

「元々、実家の道場の本部が大阪にあってなぁ、でも諸事情で東京に移動してもうて、これを機に海外修行に行っとったんや」

(おっ大阪弁だ…)

 普段ゴモラの標準語交じりの大阪弁とは違うコテコテな感じの会話に新鮮味を感じた。

「おうせや、ちょっと下がっときミカ。危なくなるでこれから」

「ええー?なになに」

「いうたやろ、選手交代やって。あんなバケモンにかわゆいお前らが相手するも無理や。俺にまかしとき」

「もーウマいこと言うて」

「ほな下がっとき」

「わっ私たちも下がった方が…」

「うっうん…」

「おう、お前らも離れな。いまからちょっとアカンなるから」

 もはや審査そっちのけの状況に一同困惑の色を隠せない状況だった。

「何とか間に合ったようだな」

「大佐!」

「途中空港で肉うどんが食いたいと言い出して揉めた」

「言い訳ですか、それで遅れたと…」

「まぁな…」

 突然乱入した男は少し茶色の短髪を携え身長はおおよそ185以上…だが皮ジャケットを脱ぐとその体格は鍛え上げられた筋骨隆々の肉付きが既に人間体のアラシの戦闘力は充分であった。

 しかし、この男の最大の異常性はこの鍛え上げられた肉体にあった。

「なっ何あの体…」

「ああ…ガッツにもわかるだろ…俺でも分かる。ありゃぁ人間の身体じゃねぇ…ボディービルダーやアスリートの筋肉とは次元が違う…」

 仕事上武闘派なガッツもファイターのレッドキングもその場にいる怪獣娘全員が人ならざる完全戦闘特化型の肉体であることを理解した。

 ボディービルダーのような見せるための筋肉などではなく確実に実戦などで使用されるヒッティングマッスルの完璧なまでの仕上がりが格闘に長けた最適な姿であった。

「飛び入り参加やけど承諾の必要なさそうやな」

「……アラシさん、俺たちがこの場に出くわした時点ですでに始まってますよ…」

「せやな…スッ…獣装 アンギラス」

 同様にアラシの身体に変化が起き背中に刺々しいまでの鋭利な針が生え、腕にはメリケンサックの様に中手指節関節の位置からも短めの針が出ていた。

 その姿、まさにハリネズミ。全身凶器であった。

「あっアンちゃんその姿…」

「驚くことないやろ…お前にもツノの一本や二本くら生えてるんやから…まぁ俺はちと多すぎるがな…あっせやせや、だぁらー!!」

 突如、合図無しの不意打ち跳び蹴りが来た。

「試合開始や」

「……!」

 しかし、ゴジラは予見していた。

 既に防御の姿勢を取っておりそこからアンギラスの足を掴みかかった。

「ちぇりゃ!!」

 そこへアンギラスの顎蹴りが炸裂。が、しかしこれも防がれるが狙いは蹴りでも顎でもなく胴体、両足捕まった状態から逆さに上中下の正拳が入った。

 一見三か所にしか入っていないように見えるがその三か所に既に連続して杭を打つように正拳が撃ち込まれていた。

「ぐっ…」

 思わずゴジラの手がアンギラスの足を離し、アンギラスはそのまま床飛びの様に両手で状態を飛びあがらせ着地すると上下に手を構え体制を整えた。

「これってさぁ…あれだよね…確かテレビで見た」

 ミクラスは何処となくアンギラスの戦い方に見覚えがあった。

 一つ一つが一糸乱れぬ動きがミクラスの頭にある格闘技を思い出させた。

「そうだ!空手だよ!」

「せやで、アンちゃんは空手の達人なんや」

「確かに空手の動き方ですね」

「空手…」

「庵堂さんは空手の実力者だ。亜真流と言って関西を中心に広まったが今現在は日本空手道から離脱した流派らしい」

「離脱ってどうしてなんですか?」

「俺も庵堂さんに取材した時聞いた話だが、庵堂さんの親父は世界各国に名の知れた武道家らしい。その中には著名な人物から大物政治家と数知れず。無論、それをよくは思わない連盟連中が今の庵堂さんの代で連盟側から強制離脱をさせたらしい」

「それって腹いせじゃないですか!」

「強くなるってそういうことだよ。本来の上限を大幅に外れた強さは他の人間、特に同業の者にとって脅威になる。怪獣と同じだ」

 

「どうや、シベリア修行の成果。籠りすぎてブランクなんかありゃせぇへん」

「……驚いた…アラシさんあんた俺を気遣ってるでしょ」

「……そう思うか…」

「あなた…さっきから空手しか使ってない」

「…バレちったか…んじゃこっから先は出し惜しみなしや」

 その一言がこの場の空気を変容させることとなった。

 

「…はぁー、なんか…ちょっと肌寒くなってきてません」

「たっ確かに…なんか冷気と言うか」

「……来るぞ」

 リング上に白いモヤのような何かがアンギラスから明らかに出ているのが肉眼でも確認できた。

 

 構えから一瞬にしてマックススピードでゴジラに向かってきた。

(来る!…だがこれは…正拳!?)

 何の変哲もない普通の正拳を右へと左へと受け流す。

 そして攻撃の終了とばかりに後ろへ後退した。

「!!」

 

「「「「「「!!!!??」」」」」」

「おっお兄ちゃんの腕が!?」

 全員が見たものは正拳を受け流したはずのゴジラに腕が…

 

「ぐっ…」

 完全に凍っていた。

「ひゃぁぁ~つべたそ~。どうなもんや。マジックでも魔法でもない。理にかなったことだぜ。この空気、元をただせば水。冷凍庫開けっぱなしにしたことあるか?不思議なもんでちょっと目離すと気付けば周りには霜だらけ、あっという間に気体が一気に凝縮され固体になる。中国じゃ『凝華』って言うらしいで」

「なるほど…通りで炎が凍り付くわけだ」

「こっちとら暑がりなんだよ」

 

 突然の冷凍現象がアンギラスの能力によるものであることに怪獣娘たちは驚愕した。

「あっアンギラスさんは冷凍怪獣さんだったのですね」

「いいえ、アンギラスは元々曲竜類の恐竜の生き残りなの。様々な種類の恐竜が地球の気候変動に耐えきれない中アンギラスの原種は体内に冷凍装置のような器官を持ち自らを冷凍化させ一定周期で冷凍休眠を繰り返して種の生存をしてきた。けど核実験の影響でアンギラスは突然変異を起こしてその機能に異常をきたし怪獣となった。あらゆる生物が氷河期などの気象変動に耐えることを選んだけどアンギラスは違う、『耐久』より『同化』を選んだ『歩く氷河期』よ」

 

「人間ってのは脆いもんでなぁ、ちょっと寒い所にいると慣れるまで時間がかかるし、下手すれば凍傷や低体温症を起こす、厄介なもんだな。だが俺はそんなことにはならねぇ、そして編み出したのがこの『氷拳』だ」

「…さすがに驚きましたよ…」

「だが、まだこんなもんやないで。コォォォォ」

 口から深く呼吸を整え何かの攻撃準備に入った。

(まずい!来る!!)

 仕掛けられる前にこちらから先手打つようにゴジラが向かい出した。

 しかし、一足遅くアンギラスは不敵に笑い動作のモーションが空を斬りながらその拳を前へ前へと行くと…

 

 アンギラスはバタンと倒れた。

「へっ!?」

 

 全員が「えっ!?」と固まった。

 あれだけ快調な動きを見せていたアンギラスが突然倒れたのである。

 そして、尾崎は片手で額を抱えた。

 

「アラシさん!!?」

 思わずゴジラは駆け寄る。

「こっこれ……寝てる」

「ZZZ~ZZZ~ZZZ~」

 

 全員、大きくずっこけた。

 

 

 

 医務室

 

「……んっあり?俺は一体」

 気が付いたアンギラスは眼を開けた先に真っ白な天井が目に入った。

 起き上がるとアンギラスの周りには心配そうに寄り添うみんながいた。

「アンちゃーーん!!心配じたよぉ――!!」

 ずっとそばにいたゴモラの変身を解いたミカヅキが飛びついてきた。

「ああ?何が起きたん??」

「……お前が負けたんだよ、アンギラス」

「はぁ!?敗因は!?」

「……寝落ち…だよね」

 尾崎たちの言葉に驚きを隠せないが…

「アラシさんいつから寝てないんっすか」

「……実はここ1か月ロシア政府からの追撃を撒くのにほぼ1か月」

 全員が1か月も不眠不休の中あれだけゴジラと互角に戦ってたことに驚きを隠せなかった。

「思えば随分とスッキリしたような気がする…フン」

 体を曲げ寝そべった状態から勢いで飛び起きたが背中からビリビリと音が立った。

「あああ!!ベットが!!」

 ピグモンは何万円もする医務室のベットがアンギラスの背中の棘によってズタズタにされたことに驚愕した。

「だから言ったじゃないですか!!せめて布団を退けてから乗せるべきだったと」

「いやぁ俺たち自分の任意で変身を解除しないと元に戻らないんで」

「悪いけどこの背中に着いた綿ゴミ取ってくれへん」

「変身解除すればいいじゃないですか」

「おおーせやった」

「それよりもアラシさん…方言」

「ああ?…ああーんんっこれでどうだ?…いやーつい無意識で出ちまうからなぁ、うっかりしてた」

 背中の綿ゴミを取っていたミカヅキの手がピタリと止まった。

「あっあああアンちゃんが…標準語を…」

「ああ?標準語がどうしたんだよ」

 ゴモラは近くにあった枕でアンギラスを殴り始めた。

「わぁっちょミッミカ!?どうしたんだよいきなり」

「どうしたもあらへんわ!この裏切りもんが!大阪の魂忘れよって自分が東京に魂売り追ったな!!」

「なんのことじゃ!!」

「とぼけても無駄や!!関西弁こそが大阪の魂やとかぬかしといて自分は標準語バリバリ使いおって!ウチがどれだけ辛い思いして関西弁マスターしたとおもとるんや!!」

「はぁ!?…ああ!そういえばお前あのボクっ娘気質の喋り方じゃねぇ」

「せや!大怪獣ファイターとして舐められないようにしとけって言ったのはどこの誰や!!」

「……そうか、いろいろ苦労したんだな」

 振り回す枕を抑えてアンギラスはポンっとミカヅキの頭を撫でた。

 涙目になりそうなミカヅキだがみんなの手前、必死でこらえた。

「でもさすがに違和感あるぞ、そのエセ関西弁」

 御涙返上のこの一言でミカヅキの堪えてきた怒りが頂点に達した。

「ソウルライド!!ゴモラ!!」

 ミカヅキはソウルライザーに指を走らせ光に包まれると三日月状のツノと小さなツノを携え、お尻から太い尻尾に不釣り合いの太ももの硬質な獣の皮膚が現れ『ゴモラ』に変身した。

「へっ?ちょ…」

「うがぁーー!!その減らず口に代わって噛みついてやる!!」

 虎の如く怒りのパワーに身を任せアンギラスに飛びかかった。

「おいおいおい!!落ち着けミカ!!おわっととと」

 抑えるように反動でバランスを崩しかけると背中の棘がカーテンを突き破りそのまま鋭利な棘がみんなに向かって襲い掛かった。

「ひゃぁぁーー!!こっちに来ないでくださーい!!」

「おわっ!こっちに来んなぁー!」

「その前にこのピラニア恐竜どうにかしろ!!」

「誰がピラニアじゃぁ!!」

 ガブッと痛々しい音と共に怪獣漢たちの審査は終わりを告げた。

「いっでぇぇぇぇ!!!」

 今後の方針については『GIRLS』・『MONARC』双方の合理的見解を重ねた上でまとめることに落ち着いたのであった。

 

 

 カフェ GALAXYDAYS

 

 一心不乱に運ばれてきた料理に貪りつくアキとミカヅキがここにいた。

「あっアギさん、ゴモたんさん…そんなに急いで食べると体に悪いですよ」

「うるさーい!ダム子のくせに生意気じゃーい!もう今日はガツガツ食べて食べて明日に生かす!!」

「おおーー!」

「キャラが豹変してる…二人ともどうしちゃったの」

 さすがのミクも見かねて問いただした。

「どうもこうもないもん!アンちゃんには呆れたよ!あそこで普通ダメだしなんてデリカシーの欠片もない!昔っから口減らずなデリカシー無し男なんだよ」

「そうだよ。自分から指名しておいてボクのことぞんざいに扱って、ボクは武器じゃないもん。男の人なんてみんなガサツだよ。すみませーん、おかわり」

 二人は吐けるだけ吐ける鬱憤を肴にやけ食いをしていた。

「う~ん…でもアギのお兄ちゃんなにかと戦いながら的確なアドバイスもできるいいお兄ちゃんじゃない」

「だからっていいお兄ちゃんとは限らないよ!だからボクの怒りは収まらないし三年間分の鬱憤爆発だよ」

 いつもからは考えられない言動に引っかかるが二人のユウゴとアラシの関わりについて話題をシフトチェンジした。

「いろいろ聞きたいけどまずゴモたんと庵堂さんってどういう関係なの?」

「んん?…ゴクッ…アンちゃんの事についての前にまずそもそもウチは元々、大怪獣ファイターなんてやるような子じゃぁなかったんやで」

「ええー!?ゴモたんが!?」

「それこそアギちゃんみたいなボクっ娘気質な喋り方をするすこし虚弱な感じだったらしいかなぁ」

「ぼっボクみたい…?」

「そうっだからアギちゃんを見てると昔の自分みたいでついいじりたくなっちゃうんや~」

「わわわっ…で、それで庵堂さんとは」

「さっきも言ったようにアンちゃんの実家の空手道場があってな、でもそこは全国でも有名の実力派の空手流派で入団だけでも厳しい程なんや。おまけに指導も超スパルタで」

「あっ、それって亜真流ですよね。先生が言ってました」

「せや、だからとてもウチには無縁なところだったんだけど、当時ウチの中学から少し離れた所の高校でその流派の高校生がいるっていうから当時の友達とお化け屋敷感覚で見に行ったんだけど案の定そこの高校の部活動場所前で怖い空手部員に見つかって逃げ遅れた私だけ捕まっちゃったの」

「そっそれでどうされたんですか!?」

「もう号泣、怖かったからただひたすら泣いちゃった」

「ええー!?あのゴモたんが!?」

 泣きじゃくるイメージの無いミカヅキのギャップにミクは驚いた。

「ウチだって泣きたい時ぐらいあるよ、むしろ昔の方が涙もろかったもん…で、大泣きしてたらその怖い部員に強烈なげんこつがクリーンヒットさせて助けてくれたのがアンちゃんなんよ」

「おおーなかなか粋な事するわね」

「まぁでもウチの大泣きのせいで職員室まで響いてたらしく何事かと思いその高校の先生が来ちゃって大騒ぎになっちゃってアンちゃんの妹の友達が見学に来たってことで落ち着いたんや。それからちょくちょく興味で道場の方にもアンちゃん目当てで顔出すようになったんや」

「とても素敵なお話ですね」

「えへへ、アンちゃんはその後高校卒業と同時に海外に行っちゃったけどちょくちょく国際郵便で近況報告してたけど1年ほど前からすっかり途絶えちゃってて今日会えてうれしかった半分、変わらず生意気なトコにむかっ腹が立って腕に噛みついてやった」

 全員、苦笑いで先ほどの事を思い返した。

「さぁ、ウチは洗いざらい話したでぇ…次はアギちゃんや」

「ギクッ!…なっ何の…事で…ございま…しょう…」

「アギさん、ネタは上がってるんですよ~」

「逃がさないからね~」

「さぁ~洗いざらい話してもらおうかしら…」

「観念して取り調べを受けろ~!!アギちゃん!!」

「わぁ~みんな忘れてると思ったのに~」

「吐け!!石黒先生とは!?五十嵐先生とは!?アギちゃん告白事件の真実を答えろ!」

「もぉーお兄ちゃんのバ~カ!」

 アギは全員からの尋問ようなの質問攻めに防御姿勢の如く俯いて伏せた。

 そして店内はアキの尋問と備え付けのテレビから流れるニュースの音だけが流れてくるのであった。

『続いてのニュースです。先週のパワハラ問題から一転、今日午前に日本空手連盟の各代表者が江東区辰巳の総本部にて緊急招集されて明日未明には…』

 

 

「へっくしゅん」

 ユウゴは珍しくクシャミをした。

「誰か噂してんじゃねぇのか?」

「まさか…それより腕大丈夫ですか?」

「ああ…なんてことない、軽い甘噛みみたいなもんだよ」

 ユウゴには先ほど見たが腕に思いっきり痛々しい噛み後に触れないでおいた。

「それよりいいんですか俺なんかで」

「トオルは湖上とかいうねぇちゃんに追いかけられて行って、コングは予約してた店に行って、大佐たちはあの少うるさそうな赤いガキと交渉中だしな。おめぇ暇だろ」

「まぁ…」

「わりぃな…今日は俺のストッパーになってくれ」

「…まぁできる限り」

 

 東京都江東区辰巳

―全日本空手道会館総本部会議室

 

 100以上ある流派の内、6人の代表者と老年の会長を間に挟み落ち着かぬ面持ちで会話も進まぬ中、一人が口を開いた。

「招集されたことにつきましては、皆さんと同意見です」

「同意見だと…意見も何もない。ハッキリ言って私は反対だ。なぜよりによって今更体罰に関してこれほどまで空手道含めスポーツ指導になんら問題ないはずだった」

「よせ狭間」

「申し訳ないが、私も狭間さんの意見に同感です。たかだか強く当たっただけで昨今はパワハラだのと…」

「我々の世代ならば至極当然だった」

「この場でハッキリさせよう。私は謝罪など断じてしない」

「おい!お前ら、会長の御前だぞ」

 6名の意見がぶつかり合う中、老年の会長は一旦静止をするようにと手を翳すジェスチャーした。

「その辺にしたまえ…皆の気持ちは分かる…各々がプライドも有ろう。わしが謝罪して事を終え、私も辞するつもりだ」

「しかし、会長。そんなことをすれば我々連盟の非を認めることになります。ことは国際スポーツとして今日まで至った空手道の…」

 

「何が国際だのプライドだの我々の世代だのと御託並べるだけだな」

 

 全員が声のする方を見るとそこにはいつ入ってきたのかドアに寄りかかるアラシとその横にユウゴがいた。

「きっ貴様、庵堂アラシ!?なぜ貴様がこの場にいる!!」

「貴様は連盟が除外したはず」

「よさぬか、わしが呼んだのじゃ…」

「かっ会長が!?会長!お忘れですか、こいつは過去に多くのオリンピック候補者を壊した男ですよ!」

「俺と戦った奴が弱すぎただけだ…それよりも青少年健全育成を掲げる良き指導者共が聞いて呆れる。蓋を開ければ自分よがりな阿呆ばかり、あんたら指導者失格だ」

「口を慎まんか!!」

「それはこっちのセリフだ!力で指導しようなど空手道400年始まって以来の珍事だな」

「…貴様の事は門下から伝わってる。中国で化け物狩りをしてロシアで大層な暴れっぷりだったそうじゃないか」

「それなら永遠に狩人として引退すべきではないのか」

 安い挑発で煽ると6人の代表者はクスクスと笑い出した。

「笑ってられる余裕があんたらにあるか?…そんな化け物を狩った相手に…いつまで偉そうに座っているつもりだ」

「何ぃ?」

「御託を並べてないで空手家なら己の心技体で追い出せ。それが出来もしないから口八丁しか能がない。そして、今日もまた自分の門下に八つ当たるんじゃないのか?才能がない凡骨どもは演武用の技でも磨いてろマリオネット共!!」

 6人の代表者たちは自分達が日ごろ鍛錬してきたことを年端もいかない若造に侮辱されたことに今にも堪忍袋の緒が切れる寸前まで額の血管は浮き出てソファーの木で出来たひじ掛け部分を怒りが吹き出んばかりに握力でひびが入るが、こんなにまで怒り心頭で数的にも6人がかりであれば優勢と思えるはずだが、誰一人としてアラシに仕掛けることはできない。

たとえここが空手の試合であっても6人がかりでもアラシには勝てないと分かっているからである。

 年齢的な体力差でも身体差でもなく根本的に次元が違い過ぎるからである。

「アラシさん…本題からズレてます」

「おお…そうだな、改めてテメェら全員クビだ!」

「なっなんの権限があって貴様に指図でき」

「俺じゃない。新会長直々のご命令だ」

「誰が!?」

 アラシたちの背後のドアからコンコンとノック音が響いた。

「失礼、お取込み中だったかな」

「いいや、グットタイミングだ親父」

 ドアから入って来たのはトレンチコートに身を包みソフト帽を深くかぶり渋い声の初老の男性だったがユウゴの目に留まったのはそんな時代遅れのファッションよりこの男の傷だらけの手であった。

 修練による傷ではないもっと実戦的についた傷であった。

「貴様は庵堂センラ!「千手のセンラ」か!?」

「おう、なんや連盟はいつから無能のたまり場になった」

「お前が新会長だと!?空手を見下した貴様が何を今さら」

「それはテメェらだろうが、見下すどころか力で指導するなど空手を心底嘗めてる」

「何だと…」

「指導てのは門下に真意に導くためにアドバイスするに過ぎない。そっから先は自分たちで答えを導かせ見守るのが指導者ってもんだ。それをそろいもそろって偉そうにふんぞり返りおって弟子をサンドバックにするからパワハラだの揶揄され今に至ってんだろうが」

「そんなことはどうでもよい!誰が貴様を新会長と」

「わしじゃ…わしが選抜した」

 それは老年の旧会長であったことに全員が驚愕した。

「かっ会長!ヤツらの流派をお忘れなのですか!?亜真流は軍隊です!空手道に反した野蛮な危険組織です」

「現に奴の流派のシンパが世界中に…」

「それが怖くてテメェらは俺の倅に取り入ったんだろうが」

「まぁアホ過ぎて俺から抜けたんだが、抜けたことによりおかげで自由に好きなようにやれたからより強固になったぜ。あんたらは自ら亜真流を進化させちまったわけよ」

 代表者たちが悔しがる中、旧会長は帰り支度を済ませ立ち去ろうとした。

「ふぅ~これでゆっくり隠居できる。後の事は頼むわい」

「ええ…お体にお気をつけてお元気で」

 庵堂親子に後を託す様に静かに去っていった。

「さて、お前さんたちどうする?退職金は出すぜぇ、残りたきゃ残っても構わんし空手を続けたきゃ好きにしな。こっちにも後任は選抜している」

 歯ぎしりきしむ中、6人は苦い顔が隠せないでいた。

 

 

 そして、残ったのはアラシとユウゴとセンラの三人となった。

「ふぅ~…なかなか居心地悪いなぁこの椅子は、訛りそうだ。お前さんがゴジラの倅だろ、尾崎から聞いておるわ」

「らしいですね。よくは知りませんし、良くも思ってませんから父親の事は」

「……恨んでるのか」

「………」

「まぁアイツとは腐れだけど俺も奴の真意までは知らん。だが、常に笑顔の消えない奴だった…それだけが俺の頭のどこかにこびりついているよ、あいつのニヤケ面が」

「…そうですか、今日はあなたに会えてよかったです。センラさん」

 ユウゴはセンラと硬い握手を交わした。

「それじゃぁ俺はこれで」

「おう、気ぃ付けてな」

「途中まで送ってくよ」

 部屋から出ようとした時、廊下から響く誰かが走ってくる音がした。

 そしてドアを蹴りで開けて制服姿の少女が入って来た。

「バーカーおーにーぃー!!シネェェェ!!」

 入ってくるなりそうそうアラシに跳び蹴りをくらわせた。

「チアキ!いきなり何してんだ!?」

「それはこっちのセリフや!帰ってくるなり連絡寄越せ!ボコボコにしたるさかい!あんたなんかシベリアの氷河に凍ってろ!!」

「テメェはどっちなんだ!連絡しろだの帰ってくるなと」

「おいおい、客人の前で何兄弟喧嘩始めてんだ」

「客人?」

「どっどうも」

「……わわわわっ!!!…だっだだだだ誰やあの男前」

「ああ?親父から聞いてないのか?ユウゴだよ」

「ええ!?あん人がユウゴさん!?なんで早く言わんのやバカにぃ…超ハズイやん」

 ヒソヒソ声で会話を終え、取り乱したことを無かったことにした少女は制服を払い除け整えると咳ばらいをして落ち着かせた。

「はっ初めまして、いつもウチの馬鹿がお世話になってます。あっ庵堂チアキです」

「ああ、どうもユウゴです」

「あっあの~いっいきなり変な事お尋ねするんですけど…彼女とかいてはるんですか!?」

「はぁ?いや…いないけど」

「ご家族は?ご趣味は?好きな食べ物は?」

「えっ?君くらいの妹が一人とじいさんばあさん、趣味って程かわかんないけど読書とちょっとの運動、好きな物は甘い物全般と羊羹カステラが好きだけど」

 あっさりと質問返すユウゴを見かねてアラシは肩を取り…

「おいっユウゴ…どんなにお前が疎くてもこいつだけは止めとけ」

「はいぃ?」

「うっさいわ!バカおにぃ!!」

 そしてまたしても喧嘩が始まり激しい攻防が繰り広げた。

「…じゃぁこれで」

「ええっちょユウゴさん帰っちゃうんですか!?」

「うっうん…お邪魔みたいだからそれじゃぁ」

「ああっちょま…ぐぃ」

「今の内だユウゴ!早くいけぇ!!」

 アラシがチアキのヘッドロックで押さえつけた。

「それじゃぁ失礼します」

「おっおう」

「ああっちょユウゴさん!離せこのクソおにぃ!!」

 

 

 

 

 帰りの道中、先ほどのチアキとアラシを見て改めて自分とアキを比較していた。

(兄妹ってああいうものなのか…思えばアキと俺ってああいうことなかったし…うーん、兄妹って何なんだ?…俺とアキあんまり兄妹らしくないのかもな…)

 悩みながら歩いてるとユウゴの目に洋菓子店が目に留まった。

 

 

 GIRLS トレーニングルーム

 

 まだ修繕が完璧ではない中、アギラたちが利用していた。

「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 アギラは紙の張ったサンドバックに向かって激しく向き合っていた。

 アギラの身体能力でそれなりの力がサンドバックに加わりぶら下げているチェーンがきしむ。

「アギちゃんやっぱワンパターンすぎるねぇ~」

「雑って感じよねぇ」

「そっそんなこと言ったって」

「アギ!お兄ちゃんをギャフンと言わせたくないの!?」

「でっでも…これやる意味あるの」

「あります!先生から教えてもらったボクシング漫画に既に効果は実証済みです」

「あやしい…」

 疲れて膝を付くアギラの隣のサンドバックに貼り付けてる紙がテープの粘着力が弱まって剥がれ落ち木の葉の様に流れ落ちていき通りかかった者に拾われた。

 全員の顔が強張った。

 アギラも振り返ると拾ったのはユウゴ本人で拾った紙をジッと見つめていた。

 紙には幼稚園児が書いたような黒い体に白い背びれと牙、完全にゴジラらしい絵であった。

「あっあああここここれはその…」

 怯えるアギラの両腕をゴモラとガッツが掴みかかり…

「アギちゃんがお兄ちゃんにリベンジしたいって」

「アギ!特訓の成果見せてあげよう」

「えっえええ!?まだそんな段階じゃぁ」

「ええやん、あれ使えるで」

「善は急げ、やってみよう」

「ええぇ~…」

「いつでもいいぜ」

「へぇ!?」

 で…

 先ほどと同様に大怪獣ファイトスタイルで模擬戦へと運ばれアギラは無責任にも言い出しっぺのゴモラとガッツの二人はミクラスとウインダムと一緒に応援しているだけであった。

「もう、みんな勝手すぎるよ!」

「アギちゃん!さっき教えた通りガッと行ってなぁ」

「うっううう」

 アギラは不安で仕方なかった。目の前には一段と怖い2mのゴジラ、対してアギラには先ほどの様にゴモラとガッツの頼れる仲間はいない。

 しかし、それでも勇気を振り絞って走り出すと目を瞑りながらゴジラに飛びかかった。

 ガブッと先ほどゴモラがアンギラスに噛みついたことで痛がったことに思いつき怪獣漢にもそれなりの痛覚があると睨んでの噛みつき攻撃であった。

 必死であり目を瞑りながらの攻撃だったため見えないがそっと目を開けるとしっかりと腕に噛みついているはずがアギラはぶら下がりながら腕に噛みついているのに顔色一つ変えず痛がるそぶりもないどころか『獣殻』にはアギラの歯が突き刺さっていなかった。

 強固すぎるゴジラの『獣殻』どうしようもないアギラはこの後をどう知ればいいのかわからないでいた。

 しかし、そんな心情お構いなく無慈悲にアギラの口に指二本突っ込むとまるでマグロの吊し上げのような状態になりそのまま先ほど持っていた箱を物色し取り出した物をアギラの口に放り込んだ。

「むががっ…モグモグ…おいしい」

 放り込んだのは洋菓子店で買った甘くてクリーミーなシュークリームだった。

「お前らもどうだ」

「いっいいんですか!?」

「わーい!いっただきー」

 全員、シュークリームを手に取り食べるとゴジラ厳選とあってそのおいしさに頬が落ちそうなほどのうまさであった。

「おっおいし~い!!」

「甘くてクリーミーで口の中の唾液腺が弾けてる」

 みんな各々が喜び合う中、ドアを開けピグモンが入って来た。

「コラー!まだトレーニングルームは修繕中なのですから使用禁止って言ったじゃないですか!ピグモンぷんぷんです…トレーニングルームで…は…い…飲食…禁止…で…ジュル…」

 注意するもおいしそうなシュークリームに目が留まる。ピグモンも女の子ゆえのサガ、おいしそうな甘い物の前では無力に等しかった。

「ぴっピグっちもどう…ほ~れほれアギのお兄ちゃん厳選の超美味しいシュークリームだぞ~」

 ガッツは箱に入ったシュークリームをちらつかせピグモンを誘った。

「しっ仕方ありません…こっ今回だけですよ…」

「ピグっち分かってる~」

 ピグモンがシュークリームの箱に手を伸ばそうとすると足元見えず補修前の穴の開いた床に落ちスッポリとはまってしまった。

「ぴぎゃぁ!!」

「ピグっち!?」

 全員慌てて引っ張るもかなり深くはまってるせいかなかなか抜けなかった。

「ちょお兄ちゃんも手伝って!」

「んん」

 変わってゴジラがピグモンの両脇を掴む。

「ひぎゃ!」

 変な声が出てしまい顔を真っ赤にしたピグモンは恥じた。

「ピグちゃん可愛い声出た」

「言わないでください!だっ男性に捕まれるのが…ハッ初めてなんでぅす!!」

「ふんっ!あっ…」

 そのままスッポリと抜けるつもりだったがゴジラは力み過ぎて今度はピグモンが天井に頭から突き刺さった。

「「「ピグモンさ――ん!!!!!!」」」

 ピグモンの頭は天井に突っ込み、身体だけが宙に浮いてぶら下がっていた。

 

 

「も~うこのシュークリームに免じて…モグモグ…許しますけど、次やったらピグモン怒っちゃいますからね」

 ピグモンの前に怪獣娘たちが正座させられていた。

「うぅ~お兄ちゃんだけずるい…自分だけ逃げるなんて」

「アギアギ~何か言いたいんですか~」

「ひゃぁ何でも…」

「今回は大目に見て皆さんにここの修繕をしてもらいます」

 全員、「ええええ!!」とブーイングするもピグモンは容赦なく道具を手渡して作業を始めさせた。

 

 

 ひょっこり窓からのぞくゴジラは内心ほっとした。

(…逃げといてよかったー…退散退散)

 ビルの壁をつたってヤモリの如く去るのであった。

 




見せられないMONS~

「しっ仕方ありません…こっ今回だけですよ…」
「ピグっち分かってる~」
 ピグモンがシュークリームの箱に手を伸ばそうとすると足元見えず補修前の穴の開いた床に落ち、下の階まで落ちて行った。
「「「ぴぐもんさぁぁぁぁん!!
   ぴぐっちぃぃぃぃぃぃ!!」」」
「おお~落ちて行ったな…」


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炎の翼竜

 地球防衛軍 情報司令センター

 

「αチームは1,2,3に向かいマークA,Bに対処してください」

「ΣチームはV方面に進行する反政府軍の迎撃に対処してください」

「第一連隊、ンゴラ地区に潜伏する武装組織鎮圧に成功、人質救出後にランデブーポイントに合流」

 広大な情報司令センターに何十名ものオペレーターがヘッドに装着したマイクに向かった指示が飛び交っていた。

 前方の巨大モニターに映し出される膨大な衛星位置情報と様々な部隊の主観カメラからの映像や空撮の映像が秒追うごとに変わる中、尾崎はその様子を見つめていた。

 尾崎に近づいてきたオペレーターが左に持った紙の内容を伝えた。

「ご報告いたします。先ほど日本領空にて飛行型MONSの侵入を衛星で確認、『モスマンタイプ』と断定されます」

「スクランブルは」

「航空機でないため日本の防空には認識せれず予想時刻0800(午前8時)にて首都圏に侵入します」

「現在、首都圏内にいる空戦のできる怪獣は」

「都内住宅地にてラドンが待機」

「直ちにラドンにリクエストして墜とさせろ」

「了解しました」

「失礼します。オーストラリアから入国したとされる『荒野の狼』のメンバーが入国管理を通過したと諜報員から打電、現在追跡中とのこと」

「そのまま追跡継続、泳がせろ。日本にいる残党を炙り出す」

 

 

 都心 住宅地 アパート

『次のニュースです。オーストラリア当局は昨日、GIRLSイベント会場爆破事件を『荒野の狼』による犯行と断定し6名の実行犯の内3名を逮捕し現在残り3名の行方を捜索中と公表し新たな情報が入り次第――』

「あらら何だかとても物騒ね…」

 心配そうにテレビのニュースに見つめる青味のかかった縦セーターを着る巻き髪の女性がいた。

「別にママが心配することないんじゃない?海外の事件だし」

「とは行ってもGIRLS関連の事件よ、もうママはザンちゃんが心配よ。ザンちゃんは見た目が可愛すぎるからすぐ危ないことに巻き込まれちゃいそうだから」

「なわけないでしょ!あと家だからいいけどみんなの前でザンちゃんとか呼ばないで!」

「はいはい、ザンちゃん」

「もーう!!ワザと言わないでよ!!」

 この名前を可愛く呼ばれて照れている子供こそザンドリアスの怪獣娘こと道理サチコである。

 現在はGIRLSのメンバーとして家では母親とアパート二人暮らしの中学生である。

「じゃぁ私バンドの練習に行くから」

 サチコは身支度を済ませ家の扉を開け出た。

「いってらっしゃい~ザンちゃん」

「だからザンちゃんって呼ばないで!!」

 サチコの声と重なるように扉が閉まった。

 母親は最近より生き生きとGIRLSの活動に打ち込めている我が子に嬉しさのあまり笑みがこぼれた。

 鍵を閉め扉から離れようとした時、ゴトッと郵便受けから重々しい音が鳴り母親は真っ先に郵便受けより先に鍵に手が触れる。

「開けるな」

 扉越しからの重々しい声が彼女の身に突き刺さった。

「しばらくの生活費だ。養育費も含まれている」

 鍵に触れている手が郵便受けにそっと手を伸ばし開けると封筒にはぎっしり膨らむ程詰められた札束でいっぱいであった。

「どうして…あなたはいつも」

「答える必要はない」

「一体…いつまでこんなことを…せめて、せめて顔だけでも」

「……必要ない」

「あるわよ!あなたは…あなたは…本当に」

「お前が知る必要の無い事だ」

「……そうやっていつもはぐらかすのね…あの子にはずっとどれだけ苦労させたか…どれだけ辛い思いをさせたか…」

「……関係のないことだ」

「関係あるわ!お願い!一目だけでも…あの子にだけでも…会って」

「話過ぎた…この場は去る」

「待って!あなたは、キャッ!!」

 扉を開けた瞬間、暖かな突風が声の主を見せんとするように吹き荒れ、家の前にいた声の主は居なかった。

 

 

 東京都文京区 御茶ノ水

 

 御茶ノ水のできる限り人気のない所のビルの屋上に『バードマン』の銘柄の入った煙草に火を着け一服をする男が一人。

「はぁー…ったく、合わせる顔があるわけないだろう」

 赤い帽子に赤い肩の配色の入ったジャンパーに身を包んでいる男は仮にも8階建てのビルの最上階のフェンスの上で絶妙なバランスを取りながら居座り副流煙で絵を描くように時間を持て余していた。

「さっさと仕事すっか…」

 吸殻をポータブル灰皿にしまい深く飛びあがりきれいに着地をした。

「んんっ?」

「ほぁ~~…」

 ・・・目のクリクリしたガキがいる・・・

「くぁwせdrftgyふじこlp!?!?」

「えっ?クワ?ふじこ??」

 男は突然の事に変な奇声を上げてしまった。

 

 

 付いて来る、付いて来る、さっきのガキが付いて来る。

「ねぇねぇ、おじさんさっきあそこで何してたの?」

「・・・・・・・・・」

「さっきのドーナツみたいな煙どうやって出してたの?」

「・・・・・・・・・」

「ねぇさっきのどうやって跳んだの?どうやったらあんな身軽になれるの?」

 男はピッタリと止まり振り返り一つ一つ答えた。

「先ず俺はおっさんじゃない、これでも二十代だし、たばこの副流煙はガキに有毒で、俺の身体能力だ!」

「なによ!!私子供じゃないんだから」

「いいや、ガキだ!現に知らない奴にホイホイ付いて来てる時点でガキ中のガキだ!家に帰れ!」

「帰れないわよ!これから待ち合わせ何だから!」

 男にとってこの状況は最悪だった。

 無理もない、この子は自分が毎月金を受け渡してる母親の子、背負っている翼の生えたバックにぶかぶかのセーターに黒いスカートを履いたサチコであった。

「ったく…何であんな廃ビルにいたんだ」

「だってセルリアントビルで待ち合わせなのに何だか内装がおかしいし待っても来ないし」

「普通内装がおかしい時点で気付くだろう」

「なによぉ!子ども扱いしたら承知しないんだから!」

「お前、ビルに第一、第二があるの知ってるか?」

「なによそれ」

 男はさらに呆れ返った。

「いいか、ビルってのは同じ構造でその土地にいくつも点在してるテナントビルが多数あるんだ。ここ御茶ノ水なんてそんなのばっかりなのは常識だぞ」

 サチコは自分の無知さに気付きつつも「知ってるもん!」と苦し紛れの強気になった。

「あそこのビルはずいぶんと前に事業撤廃して解体前だったんだぞ」

「何があったの?」

「1年前に男と女が無理心中を…そして今も第二の撤廃後第一ビルに移った今もうめき声が…」

「いやいやいや!!聞きたくない!!」

「冗談だ、今考えた。第一ビルはあっちだ。気を付けていけよ」

 振り向きざま立ち去ろうとするもサチコが涙目に必死でガッシリと男の腕にしがみ付いて放そうとしなかった。

「何してんだ…」

「散々怖がらせといて逃げないでよ!一緒について来てよ!」

 真昼間に怖がることもないはずがあまりにもサチコのビビり具合に『マジか』と男は思った。

「放せ!ガキじゃないんだろ!」

「怖い物は怖いの!人を脅かせておいて逃げないでよ!この無責任男!」

「ばっ!誤解生むようなことを言うな!」

 路上で中学生と大の大人が揉めだすことに何か犯罪臭も感じ行きつく人が怪しんだ。

「だぁ~もうわったわぁったからついて行ってやるからハハハッ遊園地のお化け屋敷ぐらい駄々こねなくても連れてってやるから安心しなさい、妹よ!」

「別にあんたの妹じゃ…」

「いいからそういう事にしろ!周りの視線がヤバいだろう」

「ていうか遊園地の方がよっぽど子供っぽい!!」

「文句言うな!行くぞ」

 男は『やれやれ』と思いながら信号を渡ってそそくさと第一ビルに向かった。

 

 

 セルリアントビル

 

「ザンドリアスの奴、やっぱり迷子になりやりやがった」

「もうちょっと待ってあげよう、無理にこっちから探すと行き違いになるから」

 イラ立つノイズラーこと鳴無ミサオとアキとユウゴがビル前のモニュメントで待っていた。

「…なんだこの黒い音符みたいな目玉……セルリア…ダメだ、途中まで文字が掠れて読めない」

 プレートを読み上げるていると遠くの方からサチコが来た。

「お~い!お待たせ!!」

「遅い!!何してたのさってなんか連れてきてる!?お前また人に迷惑かけて…」

「違うもん!道案内してもらうために拾った」

「お前は物拾い癖の強いイヌか!?」

「おれは鳥の死骸か!?」

 サチコに引っ張られている男にユウゴは見覚えがあった。

「あれ?ヒエンさん?何してんですか」

「ああ?ってユウゴ!?お前こそ何してんだ」

「えっ?二人は知り合いなの?」

「あっ?ああ、炎翔寺ヒエンさんって言って一応同業の仕事仲間」

「炎翔寺!?ヒエン!?ヒュ~パンクな名前」

「長ったらしい名前だからあんまり好きじゃない」

「ていうかどうして先輩たちがいるんっすか?」

 サチコはミサオと待ち合わせしてはずがアキたちがいることに気にかかった。

「アギラのお兄ちゃんに海外の話を聞いてたら歌詞のインスピレーションが浮かんだからあたしが呼んだ」

 サチコはあんまり面識も話したことも無いアキの兄とあって少し人見知りを起こしてしまいヒエンの後ろに隠れて警戒的になった。

「先輩のお兄さんって怪獣漢っていう怖い人なんでしょ」

「怖い人って…なんか警戒されてる」

「顔は良いけど、怪獣漢って野蛮そう」

「どっちだよ、行っておくけどヒエンさんも怪獣漢だぞ」

「ええ!?おじさんも怪獣漢なの!?」

「俺はおっさんじゃねぇって言ってんだろうが」

「良いから早く練習するぞ!もう場所予約してんだから」

 

 

 GIRLSスタジオ

 

 様々な音楽敷材が豊富に取り揃えられておりGIRLSの芸能課の怪獣娘たちの多くが利用するスタジオは複数存在する。

 そのうちの一つがこのビル内に設けられている。

 各ブースがすべて防音になっており思いっきり歌える演奏するに持ってこい、したがって。

「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 どんなに大声を出そうがギターを引こうが問題ない。

「アホみたいに叫んでるなぁガキども」

「ええ、発声練習らしいですけどよくわかんないですね」

「音楽とは無縁だからな、俺もお前も」

 防音壁隔ててユウゴたちはサチコたちの練習風景を眺めていた。

「ヒエンさんはどんなカイジューソウルを持ってるんですか?」

「ああ?俺か、俺は「ラドン」って怪獣だ」

「ラドン?プテラノドンみたいな名前ですね」

「まんまだよ、ラドンは元々プテラノドンの生き残りが核実験の影響で怪獣になったらしい…まぁ俺にとっちゃどうでもいいがな」

 懐から締まっていた煙草を取り出し銜えた煙草に火を着けようとした。

 ユウゴはヒエンの肩を叩き「禁煙」の文字を指した。

 ヒエンは舌打ちしながらも喫煙者としてのマナーを優先にして下の喫煙ブースに向かった。

 

 喫煙ブース

 

 「っち…喫煙者はいつからこんなに肩身が狭くなったんだ」

 喫煙者たるヒエンは吸いづらくなったご時世に愚痴りながらもようやく火を着けようとするとブースのガラスをバンバン叩く者がいた。

「誰だ、うっせぇな!…あっ」

 振り返ると変身してザンドリアスとなっていたサチコが何かを叫んでいた。

 

「何でフラッとどっか行っちゃうのよぉ!」

「俺がどこ行こうが勝手だろう」

「うっ…それはそうなんだけどさぁ…その私が無理矢理案内させちゃったから…その…お礼がしたの」

「・・・いらん帰る」

 あっさり断り今にも帰りそうになったヒエンを待てとばかりにザンドリアスは腕を強く掴みかかった。

「なによ!私が礼してやるって言ってるじゃない!人の厚意を無下にしないでよ」

「いいから、気持ちは受け取っとくからっぁてててて!!何お前のその似合わねぇ握力!?」

 ヒエンはザンドリアスの想定外の握力に驚いた。

「えっ?だって怪獣娘だもん、おじさんも怪獣なんでしょ」

「おっさんじゃねぇし、怪獣がみんなパワーバカなわけねぇだろ」

「遠慮しないでいいから来てよ」

「いだだだだ!!おまっ引っ張るな!!腕もげる!!」

 強引に引っ張られ煙草も吸えず仕舞いにとなったヒエンは喫煙ブースが遠のくことにため息をつき渋々諦めて連行された。

 

 

「だから変身するから爪もあるしピックはいらないんだ」

「「へぇ~」」

 変身していたノイズラーからギターについて二人は聞いていた。

「お待たせ~連れてきた」

「いっててぇ…腕が…」

 強く引っ張られて肩を抑えるヒエンを連れてザンドリアスが戻って来た。

「大丈夫っすか?」

「そう見えるか…このガキ、無理矢理引っ張るからっててぇ」

「無理しないでください、ヒエンさん腕弱いんですから」

「飛行特化って言えよっててぇ」

 痛がるヒエンを気にもせずザンドリアスはマイクを持ちノイズラーはチューニングを済ませ歌う準備万全となった。

「今日はいろいろとありがとうアギラ、お兄さんたち、お礼に歌を一曲プレゼントするよ」

「んじゃ行っくよぉ~!」

「おおー」「「……」」

 ノイズラーのギターソロが始まりメロディーを奏で出だしが好調になるとザンドリアスのボーカルパートに差し掛かった時、ドーンと大きな爆発音で二人の演奏が遮られた。

「なになに!?なんなのよー!!折角いい調子だったのに」

「外からだ!」

 全員が通路の窓から覗き込むと飛翔型のシャドウビーストたちが暴れていた。

「うっそ!?こんな時にシャドウビースト!?」

「とにかく急ごう!」

 すぐさまみんなで下に降りようとした。

「まてユウゴ…あの黒い鳥どもともう一匹何か居るぞ」

「えっ?まさか…」

「ああっ…あいつらその一匹相手に苦戦してるってところだな」

 

 

 慌てて降りてきてアキも途中で変身してアギラとなって外に出てきたが、肝心のシャドウビーストが墜落してきた。

「きゃぁ!!なになになによ!?」

「シャドウビーストが落ちてきた!?」

 弱々しくなったシャドウビーストに頭を押さえつけるように巨大なフクロウのような怪物が咆哮した。

 翼を大きく広げて威嚇をするフクロウはその翼長は4mほどの大きさでシャドウビーストが小さくも見えてしまうほどであった。

「あれって…MONS!?」

「なんかよくわかんないけど行くよ!アギラ、ザンドリアス」

「ええ!?あれと戦うな!?無理無理マジ無理だって!?」

「そうだ、お前らじゃ無理だ。むざむざ餌にされに行くつもりか?」

 遅れて出てきたヒエンたちは自分が被っていた帽子をザンドリアスの頭に被せた。

「わぶっ……くさっ!!おじさん臭い!!」

「臭かねぇわ!まだ20代だぞこっちとら…って馬鹿言ってる場合じゃないか…こっからはマジになるか…獣装“ラドン”」

 ヒエンの身体が大きく変貌し始め180cmあった身体は200mまで大きくなり口から大きな口ばしが生えだし、腕から翼竜の翼が生え、小指が腕と同じくらいに伸びだしその姿こそまさに『プテラノドン』、身体を中心に翼を広げると熱波の波紋が広がりアギラたちに干渉した。

「あっつ!?何よ、一体何が起きてんのよ!?」

「あっアレが…ラドン…凄い熱気を感じる」

 この熱気に気付いたのはアギラたちだけではなかった。

 それはこの目の前にいるミミズクの化け物もこのラドンに脅威を抱いていた。

 むざむざ未知の敵に向かっていくほどMONSも無知では無かった。

 取るべき行動は他のタイプのMONS同様、撤退であった。

「あっ!この野郎待ちやがれ!」

 同時にミミズクを追うようにラドンも翼を羽ばたかせ超高速での滑空飛行で追ったがその道をシャドウビーストが遮って来た。

「邪魔だ!!雑魚ども!!」

 そのまま突っ切ろうとラドンの身体が炎を帯び始めた。

 炎の矢のように突っ切り、残る3体のシャドウビーストが ビルの壁に、窓ガラスに、宝くじの売り場に突っ込み吹き飛ばされた。

「うわぁ~無茶苦茶過ぎない…」

 しかし、シャドウもラドンが通り過ぎていくのを見計らったかのように続々と下位のシャドウがあふれ出してきた。

「ボクたちも戦おう!お兄ちゃんも手伝って」

「何で俺が…ってまぁいいか、雑魚の後始末と行くか」

「うぉーー!!行くよ、ザンドリアス」

「ええー!?もうめんどくさすぎ!!」

 各自、それぞれの能力を生かしてシャドウ殲滅にあたった。

 

 

 御茶ノ水橋付近

 

 上空で空戦を繰り広げていたラドンとミミズクのMONSは御茶ノ水橋を滑空して地形を狭め人の出入りが頻繁な御茶ノ水駅に突っ込んだ。

 幸いにも人は少ないがそれでも御茶ノ水駅構内は騒然として騒ぎになったが通行人に衝突は回避された。

「このミミズクもどき!いい加減にくたばれ!」

 ミミズクの頭を地面に叩きつけ脳震盪を起こさせ一時的に沈黙させた。

 殺気立った闘争を傍観するように売店の老婆が半目で見つめていた。

「はぁっ…はぁっはぁっ…あん?何見てんだババア」

「偉く大きな鳩ちゃんが喧嘩してるねぇ…」

「あぁ?だれが鳩っ…くっふーーそういえば飯食ってなかった…おい、ばあさん え~とこれとこれとあと鉄分ゼリーと…なんだよ、ここの煙草タルデしかねぇのか…んじゃこれで」

「おやっ…あっちの鳩ちゃんどっかいったのう」

「あぁ?…ああああ!!あの野郎!!」

 

 

 御茶ノ水駅 ホーム

―まもなく一番線に各駅停車の お客様にお知らせします。ただいま、駅周辺にてシャドウ警報が発令されました。安全のため運行を停止し警報が解除されるまで今しばらくお待ちください。

「またシャドウ警報か…取引先に連絡を……んん?」

 サラリーマンの前にパラパラと鉄さびのようなものが頭上から降ってきて見上げると大きなヒビが天井で大きな音をたてながら徐々に広がって来た。

「なっなんだ?」

 ずっと見上げていると大きな音と共にラドンとミミズクのMONSが天井を突き破って降って来た。

「おわぁ!?」

「くたばれ!このフクロウが!!てめぇフクロウなのかミミズクなのかどっちなんだ!!?何が『モスマン』だぁ、テメェのどこが蛾だコラァ!!」

 追い詰められたMONSは弱々しく「キィキィ」と鳴くがラドンは首根っこを足で掴み宙を一回転で回りMONSを器用に上空へ投げ飛ばしラドンが大勢を立て直して体表を真っ赤に染め足が烈火の如く発火をして強い熱波が翼を広げると同時に広がった。

「焼き殺す!!“火喰い鳳”!!」

 翼を羽ばたかせ上空に舞ったMONSを燃えさかる両足で連続蹴りを喰らわせた。

 MONSはダメージと共に発火して爆発四散した。

 ラドンは体から蒸気を噴出させながら駅の屋根に着地した。

 

 

 遠くの方で爆発したMONSを確認したゴジラはラドンが倒したことを認識した。

「おおーヒエンさん倒したか」

「ぎっぎぎぎ」

「うるさい」

 シャドウビーストはヘッドロックで身動きとれないところをゴジラの拳で何発も殴られていた。

 

 一方のアギラとノイズラーもシャドウビーストを二人がかりで応戦していた。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 アギラは自慢のツノで応戦し

「くらえ!!ギギャオオオオオオオオオオン!!」

 ノイズラーはギターソロと自身の声から発する超音波で応戦した。

 

 

 そして、ザンドリアスは残り少しの下位のシャドウを倒し一息ついていた。

「はぁ~もう戦闘タイプじゃないのに…でも一人でも戦えるようになったってことは私の一人前の怪獣娘になったってことじゃん」

 変身を解除して元のサチコの姿に戻り一段落ち着き近くに座り込んだ。

「なんなのよもう…変な化け物も来るし、シャドウは現れるし…ブワッ」

 頭からズレてきたヒエンの帽子がサチコの顔を覆いかぶさり目の前が真っ赤になった。

「これ…おじさんの帽子っておじさんって言ったら怒るんだった・・・・・・・・・だっ誰も見てないよね…さっきは臭いとか言っちゃったけどホントは意外といい匂いかも…って何言ってんの私!?」

 サチコは立ち上がり自分がしたことを今更恥じた。

「おっおお男の人の匂い嗅いでいい匂いとか私変態みたいじゃん!たっ確かに別にそんな悪くないけど…わぁ~もう自分が一番キモいんだけど!!」

 恥ずかしがる中、頭の後ろに何かの感触が走った。

「騒いでるところ悪いがお嬢ちゃん、我々とご同行願おうか」

 その後ろには目出し帽を被った男がサチコに銃を向けていた。

 そして、後ろから布で猿轡をして喋れないようにし縄で体を縛り上げ、逃走用の車に乗れと指示するがサチコは必死で抵抗した。

「んんんんっっっ!!!!んんんっ!!んんんん!!」

「このガキ!大人しくしろ!」

 その様子が遠方でシャドウビーストを鎮静化させたノイズラー達に見えた。

「ああっ!!ザンドリアスが!」

 異常事態に気付いたが既に遅くサチコを乗せた黒いバンは急発進して立ち去って行った。

「あっあああああアギラ!!どうしよう!!ザンドリアスが!ザンドリアスが!!」

「落ち着いてノイズラー、とにかくお兄ちゃんを」

「よっ終わったか、お前ら」

「わぁ~~~ユウゴざん!!ザンドリアスがザンドリアスが!!」

「えっ??えっ!!えっ!?」

ノイズラーとアギラは一部始終をゴジラに伝えた。

「つまり俺たちが戦ってる間にそのギャン声の子が連れ去られたと」

 ノイズラーは泣きながら大きく頷いた。

「分かった…その車の色は?車体番号は?」

「うっぅっ黒いバンで…67しか見えなくて」

「あっ確かボクが見たのは確かその先の89だった」

「そうか…よし、アキ、ソウルライザー貸せ」

 アギラが取り出したソウルライザーに器用に指でなぞるように番号パネルを押した。

 

 

「ふ~あっち~…んんっ?」

 倒れ込むヒエンの懐に入った耐熱性にカスタムされた携帯電話から着信音が流れた。

 見ると知らない電話番号からだった。

「あぁ?誰だ?…おおっユウゴか・・・・・・ああぁ!?サチコが攫われた!?名前がどうとか後にしろ・・・黒いバンに89-67分かった…獣装“ラドン”」

 再度、変身して大きく翼を広げ羽ばたかせ上空へと高く飛び立った。

 

 

 その様子は遠くにいたゴジラ達にも見えていた。

「すっごぉ…あれどこまで行くんだろう」

「ヒエンさんは空間認識能力が高くああやって上空200mまで飛んで探索することが出来んだ。俺たちも移動するぞ。乗れ」

「乗れって…」

「ノイズラー、お兄ちゃんの背びれに掴んで足入れると乗りやすいよ」

 既に乗ること前提なのがノイズラーにはゴジラが乗り物かと疑問視したが、アギラの言う通り乗るとゴジラが助走をつけて何kmも先へと飛び越え建物に飛び乗りながら移動した。

「ひゃほーーーー!!すっげー速ぁ~い!!」

 途中、アギラのソウルライザーからラドンに着信が入りゴジラの耳元まで運んだ。

『おい、ユウゴ見つけた!首都5号の上りだ!俺は先に行くからお前も後から合流しろ!』

「分かりました。今おれもアキたち連れて向かってます」

 通話を切り、指定された首都5号線の上りに向かった。

 

 

 首都5号線高速道 上り

 

「んんっんんんんーー!!」

 頑丈に絞められた縄がサチコの身体に食い込み危機感で押しつぶされそうな中、見張りの黒いライダースーツの目出し帽の男と同じく運転中の男、どこかへ連絡中の男の計3人であることからテレビでニュースになっていたオーストラリアの事件の生き残りかとも考えたがやけに日本語を流暢に話すことから日本人である可能性もあった。

「はいっ子供は回収しました…はい…では至急そちらに向かい『戦利品』と『素材』はオーストラリア支部に…はい」

 この時の『戦利品』とはおそらくサチコのソウルライザーで『素材』とはサチコの事を指していることが危機に直面してか普段から考えない程に冷静な分析をサチコはしていたがそれでも恐怖心が何よりも増していた。

(ああ…ママの言う通りだった…こんなことになるなんて…怖いよ…怖い…怖い…誰か…助けて…ママ…みんな…おじさん…)

 涙がサチコの頬を伝っていく中、見張りの男がサチコを見ているとサチコの後ろに組んだ手が掴んでいたヒエンの帽子が目に留まった。

「何だ?コレ…ぐっ、放せガキ」

「んん~~!!!んんっんんんんーーー!!」

「おい!『素体』に傷をつけるな。例の組織に売りつけるんだからな」

「分かってるよ!ったく…なんだこの小汚い帽子は…おい窓開けろ、外に捨てとく」

「んんん!!んんんんんんんん!!!」

 ヒエンの帽子が今にも捨てられそうになった時、サチコは力いっぱい歯で猿轡になっていた布を引きちぎり男に噛みついた。

「かえせぇぇぇぇええええええ!!」

「いっでぇえええええ!!このガキ!!」

「おい何してる!車内で暴れさせるな!」

「なこと言ったってこのガキ!いい加減放しやがれ!」

 後部席で揉めている時、ガコンと何かがぶつかったように車体が大きく揺れた。

「なっなんだ?」

 次の瞬間、後ろのリアゲートに大きく鋭利な爪が突き刺さり無理矢理リアゲートごと取り外され後部が解放された。

「うっぐっうわぁぁぁぁ!!」

 後部で揉めていた男がラドンの爪に捕まれ外に放り出された。

「なななっ化け物!?聞いてないぞ!なんなんださっきからシャドウと化け物が戦っている所に遭遇したり今度は違う化け物が出たり」

 ラドンは腕を入れてサチコに捕まるように言った。

 サチコはそれにラドンの抱き着きしっかりしがみ付いて目を瞑った。

「絶対離すなよ…それからあばよクソ野郎ども」

 ラドンは手を放し羽ばたくと同時に足で掴んでいたリアバンパーを持ち上げバンを大きく回転させひっくり返した。

 ひっくり返ったバンはサイドガラスが何枚か割れるほどの衝撃が加わった。

「ひぇぇぇぇ…」

「はっ…ひっくり返った亀だなぁこりゃ」

「へっくしゅん!!」

「大丈夫ですか?先生」

「よっとと…ケガないか?」

「うっうん…」

「そうか…何よりだ…せっかくもらった身一つなんだ…大切にしろ…っ!!」

 背後からアサルトライフルで撃ってくるバンから這い出た二人がいた。

「この化け物!よくもやりやがったな!」

「殺してやる!!」

 次から次へと撃ち続ける奴らからラドンはサチコを守るように自分を盾にして銃弾の雨を凌いだ。

「キャァァァァァァァァ!!撃ってる!!撃ってきてんだけど!!」

「馬鹿が…そんな豆鉄砲が俺に聞くわけじゃないのに…いいかガキ…次に奴らがリロードに入った瞬間お前を高く投げる、ちょっとの辛抱だ」

「えっ?どういうこと?」

 そしてちょうど銃撃が止んだ瞬間、ラドンはサチコを掴み空中に放り投げた。

「あああああぁぁぁぁぁ!!なんなのよぉぉぉぉぉぉ!!」

 それにつられて上を見上げた二人はラドンに秒で蹴り倒された。

 タイミングピッタリでサチコをキャッチした。

「ふっ~無事か?」

「なわけないでしょ!人を投げ飛ばすなんて捕まるより怖かったんだから!」

 ギャアギャアわめくサチコを無視して変身を解除させて戦闘後の一服を高速道の壁に座り込んで煙草を漁ったが…

「だぁー!くそっ変身したせいで煙草が全部ダメだ…」

 やけに焦げただれた煙草の箱から嫌な予感が的中して全部の煙草が焦げ付いてダメになっていた。

「煙草吸ってるの?」

「ああ?…ああ、まぁな。あんまり興味持つなよ煙草は」

「マ――お母さんが言ってたもん、煙草は体にも悪いし周りの人にも迷惑かけるからって」

「…そうか…ならそいつは俺と一緒だ。俺と煙草は似た者同士だよ…迷惑な疫病だ」

「そんなことない!!だって…おじさんは…命がけで私の事を…」

「……救ったつもりはねぇよ…これが俺の仕事だ」

 サチコはヒエンから預かっていた帽子を突きつけた。

「ああ?…なんだ持っていてくれたのか?」

「大切な物なんでしょ…あいつらに捨てられそうになったから…取り返そうとして…すっごく怖くって…」

 今にも泣きそうになっているサチコの気持ちがヒシヒシと伝わって来た。

「泣くな…お前は勇気を持って立ち向かったんだ…武器に頼った奴らにお前は勝ってた…誇りに想え」

「だから!おじさんも自分のことも大切にしてよ!おじさんは疫病なんかじゃないんだからさ…」

「……おっさんじゃぁねぇよ」

 サチコはヒエンの隣に座り込み自分のバックを漁った。

「あっあのさぁ…たっ煙草の代わりになるかわかんないけど…これ…」

 サチコはバックから取り出した渦巻き状のキャンディーだった。

「……子供じゃねぇか…」

「子供じゃないもん!」

「……キャンディーか…子供の時以来だ」

「おじさんの子供の頃って?」

「……俺は熊本の阿蘇の出身だ。元は炭鉱町で阿蘇山の見えるとこだった…高校までジジイとババアが営む温泉宿で育った」

「温泉!?いいな~」

「何が良いか知らんが…俺にとってはどうでもいいことだ」

「お母さんとお父さんは?」

「…おふくろは死んだ…親父は俺を捨てた」

「えええっ!?何その重い家庭事情!?」

「お前が聞いてきたんだろうが……家族は大切にしろよ…でないと俺みたいになるぞ」

「私、家族なんてお母さんしか居ないもん…お父さん居ないし」

「おふくろが居るだけいいじゃねぇか…」

 遅れて遠くからゴジラ達が車から転げ落ちた男を引きずってやって来た。

「おおーい!ザンドリアス~」

「あっ!ノイズラーと先輩達だってああー!何で二人して先輩のお兄さんに乗って来てるのさぁ!」

「いいだろ~乗り心地抜群だぞ~」

「ずるぃ!私なんか捕まって連れ去られてガタゴト揺れる恐怖の中だったのに」

「ヒエンさん、こいつ向こうで転がってましたけどあそこで伸びてる奴らの仲間ですよね」

「ぐっぐるじいぃぃだずげでぇぇ」

「あぁ?ああ、今頃は大佐が応援向かわせてるだろう。縛り上げておけ」

「うぃ、ほらお前らも降りて手伝え」

 ゴジラは二人を下ろして誘拐犯3名を一つにまとめさせバンのバンパー部分を引きはがして誘拐犯が逃げられないように縛り上げた。

「これで良し」

「うわぁ~強引…」

「あの~ちょっとあたしのソウルライザー取ってくれません」

「んん?どれどれ」

 ひっくり返ったバンのスライドドアを無理矢理引きはがして袋にしまわれたソウルライザーを取り出したが横転した衝撃でソウルライザーの液晶が割れていた。

「ああああ!!ソウルライザー壊れてる!!どうしよう!!再発行手数料24800円なのに!!」

「あっあたしに言われても」

 ノイズラーは泣きついてきたサチコに困惑した。

「わあぁ~今月のお小遣い無しじゃん!いてっ!」

 サチコの頭に何かがぶつかった衝撃が走った。

「俺の財布だ…そいつの手数料代分はある…残りは好きに使え」

「ええ!?マジ!?いいの!?」

「バカ、そういうのは遠慮しろよ」

「えええっ…でもってあれ?おじさんが居ない」

 既にそこにヒエンは居なかった代わりに座り込んでいた場所には大きな穴が開いていた。

「これ…本当にいいのかな」

 二つ折りの茶色い財布にサチコは戸惑いもあった。

 

 

 

 GIRLS 休憩室(仮)

 

 GIRLS内で特別に怪獣漢用の仮でありながらも小型多目的室を利用して入り浸っていた。

「ふーんでお前は今やビタ一文無しってわけ」

 休憩室にはアラシ、ユウゴ、トオル、コングとヒエンがポーカーをしていた。

「さっきまでは一文くらいはあったがこいつと煙草買って無くなったよ」

 ヒエンはくわえている棒付きの丸いキャンディーを指した。

「でも、俺の怪獣の残留能力のせいですぐ溶けちまうから意味がねぇよ」

「禁煙には程遠いなぁ…大体、お前の言うその小悪魔に持ってかれたって…お前、今だに親父の再婚相手とそのガキの慰謝料払ってんだろ」

「フンッ…あいつが勝手にくたばっただけだ…俺はただ残されたその人らに不幸な思いをしてほしくないだけだ…っち、もう溶けた…やっぱ飴じゃ無理がある…こいつの代用は無いな」

 そういうとヒエンは懐にしまっていた煙草を1本取り出しライターに火を着けようとした。

「コラー!GIRLSは全面禁煙ですよぉ!!」

 トモミはヒエンの喫煙を阻止しようと割り込んできた。

「っち…窓開けて換気してんだろうが」

「そういう問題じゃありません!この施設すべてが禁煙なのです!煙草はよそで吸ってください!」

 しつこく注意されたヒエンは2秒静止して何を血迷ったかトモミの注意を無視して煙草に火を着けた。

「ああああ!!なんで火を着けちゃうんですか!!」

 注意喚起は効果なし。ヒエンは根元まで吸い上げ口内に溜まった煙草を口からトモミに向かって吐き出した。

※副流煙は有害です。絶対にマネしないでください。

「げほっゴホゴホ!!何するんですか!!」

「うわぁ~大人気なっ」

「うるせぇ、こっちはイライラが最高潮なんだよ」

「ゴホン!ともかく、今回のザンザンの一件についてGIRLS代表として礼だけ言います」

「ああ、そうかい…まぁ誘拐犯については大佐に任せてるがあれからガキの方は大丈夫なのか?」

「はいっそれにつきましてはザンザンとザンザンのお母さんがあなたにお礼が言いたいとこちらにいらっしゃってます」

「ぶぅぅっ!!こっここに来てんのか!?」

「はいっいらっしゃいますよぉ~ザンザン~こっちでムゴッ」

 咄嗟にコングはトモミの口を塞ぎ押さえつけ、その場にいる全員が慌てた。

 扉がゆっくり開く。休憩室の扉が今にもヒエンと道理親子を鉢合わせになってしまう。

「お~い、おじさーん!見て見て新しいソウルライザーが支給されたんだぁ~ってあれ?おじさんいない…」

「あら~ザンちゃんの王子様は居ないみたいねぇ」

「ママ!そんなんじゃないってば!」

 サチコたちが入って来た時にはヒエンは居ず、そこにはトランプを囲む様にアラシたちと「んんー」と唸りながら抑えられているトモエしかいなかった。

 それもそのはず、ヒエンはこの場にいる。

 正確には道理親子の死角、後ろのドアの上の壁と天井に足だけ変身させ張り付いていた。

「ええ~おじさんここにいるって言ってたのに~ってかピグモンさんどうしたんすか?」

「あああああ!!ええええっと、あの人はちょっと野暮用でさっきここを抜けてどっか行っちゃったんだ…きっと行き違いになったんだろうね!うん!」

 咄嗟にユウゴは割り込んでごまかした。

「そうかなぁ~まぁいいや、はいこれ。おじさんに渡しといてください」

 サチコが取り出したのはヒエンの二つ折り財布だった。

「私、新しいソウルライザーをタダで支給されたからおじさんにも悪いしこれ返しといてください」

 ユウゴはヒエンの代わりに財布を受け取った。

「あっああ…わざわざありがとう…でもあの人もおじさんって年でもないから『おじさん』って呼ばず『お兄さん』って呼んであげて」

「ええーなにそれ、まぁでも呼び方は…考えとく…」

 さり気にフォローを入れたことに張り付いていたヒエンはユウゴを拝む様に手を合わせ感謝したが、緩くなっていたのか帽子がズレ落ち道理親子に落ちて行った。

 全員が静かに目を丸くした。

 帽子は…ギリギリでサチコのお母さんの頭上スレスレで捉えて間一髪であった。

 ヒエンもさすがにひやひやして「あっぶねぇ」と心の中で思った。

「あらら~ザンちゃんを助けてくれたヒーローさんに会えなくて残念。折角ザンちゃんの彼氏候補になるかと思ったのに」

「もうママいい加減にしてよ!そんなんじゃないってば!」

「はいはい、それじゃぁ失礼しました。今後もうちの子をよろしくお願いします」

「えっええこちらこそ」

「もう、ママ恥ずかしいから帰ろう!そもそもここにママ連れてくるだけでも恥ずかしいんだから」

 サチコは母親の後ろを押して部屋を後にした。

 ドアが閉まると同時に降りたヒエンは後ろが振り向けなかった。

 そこへポンと肩をアラシは手を乗せた。

「……何が食いてぇ…」

「……なんでも…」

「そうか…奢ってくれとはすまんな」

「はぁ?」

 振り返るとアラシが不敵にニヤついた顔をしていた。

「口止め料」

「………ぷっははははははははっ」

「はははははは」

「ははははははは」

「はははははははは」

「ははははははははは」

 

 

―通路

 

 ちょうど隣でノイズラーとホーが通りかかった。

「それでさぁその人の背中ってもう広くてさぁ背びれが超掴みやすくておまけにすっごく速かったんだぁ」

「へぇ~アギラさんのお兄さんってすっすごいんですね」

「今度お前にも合わせてやるよ」

 スタスタと歩いていると壁を突き破ってラドンとアンギラスが取っ組み合っていた。

「くたばりやがれこのトゲ蔵が!!」

「やれるもんならやってみろ焼き鳥野郎!!」

 突然、殺伐とした領域を目の前にして二人は困惑のあまりに固まった。

「コラー!!喧嘩は止めてください!あと誰か止めてください!!」

「えっえええ!?あれを止めろと…」

「ヒェェェ!!」

「邪魔だガキ!!」

「ヒィ!!ごごごっごめんなざ~い!!ビエェェェェ!!」

「何でお前が泣く必要があるんだよ!」

「だっだって怖いんでず!!ビエェェェェ!!」

 ホーの涙が床に落ちていくにつれ徐々に酸で床が煙を吹きながら溶け出していた。

「くらえ!この氷ハリネズミ!!」

「あんだとこの赤アホウドリ!!」

「「のわっ!!」」

 ホーの酸の涙で溶け切った床が脆くなり廊下が崩落して二人は下の階に落ちて行った。

「もーう!!GIRLSを壊さないでくださ~い!!」

 

 

 その騒がしさは外にまで響いていた。

「?…なんか騒がしわねぇ」

「あらあら、GIRLSも賑やかになったのねぇ~ママ常々ザンちゃんをGIRLSに任せてよかったと思うわ~何だか毎日ザンちゃん楽しそうだもん」

「そっそうかなぁ~えっへへ」

「ええっ日本支部残党とオーストラリア支部の入国者3名につきましては現在尋問中です…はいっ…はいっ…しかし、例の組織についてはまだ…はいっ…無論、ここでの会話は誰にも…はいっ…わかりました。では、失礼します。ゴードン将軍、神宮寺元帥…………いよいよ動き出し始めたか…」

 




見せられないMONS~

「放せ!ガキじゃないんだろ!」
「怖い物は怖いの!人を脅かせておいて逃げないでよ!この無責任男!」
「ばっ!誤解生むようなことを言うな!」
 路上で中学生と大の大人が揉めだすことに何か犯罪臭も感じ行きつく人が怪しんだ。
「君、ちょっといいかな」
 案の定、怪しまれて警察に職務質問された。


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自分の身は自分

 栃木県 山中別荘地

 

 山の動植物が絶妙な鳴き声と風に揺れる音のハーモニーを奏でていた。

 それはさながら自然が生み出すオーケストラに円谷は耳を澄ませていた。

「……ここは元々、MONARCHの前身の組織が建てたいくつもの拠点の一つだった場所でのう…あの頃は御徒町や祖師谷にいくつも年を追うごとに増えそして減っていった…失い過ぎたなぁ」

 老人の独り言に耳傾けるのは警視庁捜査一課長村山警視正と同じく内野ハルアキ警部がそこにいた。

「ご老公…今回の『荒野の狼』の一件につきまして警視庁を代表してお礼申し上げます」

「そうかしこまらんでもよい…わしは何もしとらん。それよりもお前さんたちの手際よく国道を封鎖してくれたから、アヤツらも迅速に対応できたもんじゃよ…それよりもお前さん内野警部は『巣鴨事件』の担当じゃったな」

「ええっ…3年前のあの事件ですね…今でも忘れません」

 内野の顔は強張りその表情から円谷の口にした『巣鴨事件』がいかに彼の心に突き刺さっているかが村山には窺えた。

「突然すまんな…じゃがあの当時の事件について今しがた深く審議する必要が出てきたのじゃ」

「審議…ですか」

「左様、あの事件の裏に何かが動いていることをMONARCHは掴みかかってる最中じゃからな」

 

 

 

警視庁刑事部捜査一課

 

 日本の警察機構の中で主に刑法犯罪を取り扱い警察の顔たる刑事部捜査一課は殺人、強盗、傷害などの凶悪犯罪に対し本庁刑事部捜査一課はこれら凶悪犯罪におけるエキスパートである。

「・・・・・・」

「お疲れさまです先輩」

 菊地は塞がっていた両手に持つコーヒーを木城のデスクに置いた。

「ああっ菊地か…」

「それってこの間の怪物の人相絵ですか?」

 木城が見つめる先は捜査用に人相を書かれた用紙にゴジラとガメラ、コングらしき姿が描かれていた。

「あの時の倉庫にいた正体不明の生物第1号2号、そしてその二体と同時に上野動物園にいた第3号、その他複数の不明生物の目撃等から推察するとこの三体の生物たちが複数不明生物との戦闘に第三の正体不明の組織による介入による隠蔽工作…ますます怪しくなる…おまけにこの一連の事件に怪獣娘の目撃…GIRLSも関係しているだろう…この間の御茶ノ水にも同様の生物の目撃と戦闘…」

「あれってラッシュ時じゃなかったから被害も最小限で済んだんですよね」

「それでも御茶ノ水駅は現在修復工事中につきそこから数キロ先の5号線高速道は一時通行止め…怪獣娘とシャドウの戦闘にしては規模が広範囲すぎる…」

「先輩…何だかこのお化けに執着してるみたいですよ」

「……事件に関係する以上、彼らが一連の事件の重要参考人だ」

「…人と言うより獣…ですよね…内野さんも課長もいったいどこ行ってるんですかね」

 菊地は課長デスクと内野のデスクを見回すも2人のいないデスクにどこか寂しい気持ちであった。

「ちょっと寂しいですね…あっ先輩の妹さん高校生になられたんですよね」

「んっ…ああっ下の妹が上の妹と同じ高校に今年入学してな…俺は高校…行かなかったからせめて二人にもお義母さんにも辛い思いはしてほしくない」

「へぇ~先輩家族想いなのに…何だか…自分を追い込み過ぎじゃないんですか?…最近お家帰ってます?」

「……いいや…そんな暇は無い」

「……やっぱり…言うと思いました」

「やはり情報が少なすぎる…出るぞ菊地」

 木城は椅子に掛けていたジャケットを着て立ち上がった。

「出るってどこ行く気ですか?」

「もう一度上野から回って御茶ノ水駅に聞き込む」

「聞き込むって御茶ノ水なんて売店のおばあさんに聞き込むの大変だったんですよ!ずっとハトちゃんがハトちゃんがって聞き込みが一向に進まなかったんですよ」

「聴取は粘り強くだ、行くぞ」

 む~っと頭を悩ませ菊地は木城に連いて廊下を差し掛かった時、バンッバンッと大きな音が廊下に響いていた。

 目をやるとその先には修練場で柔道に打ち込む他の課の者たちがいた。

「柔道ですね先輩」

「んんっ…ああ、俺は剣道だから柔道は警察学校以来だな、逮捕術でこと足りているからなぁ」

「ちょっと見ていきましょうよ」

「んんっまぁ少し時間もあるし見学だけだぞ」

 木城も少しとばかり興味本位の菊地と同じく修練場の見学に入ったが中を見るとある一か所を中心に修練に励んでいた。

「おおっあんたら一課の…見学かい」

「えっええ…あのう、あの中心の窪みは」

 木城が指したのは練習生が打ち込む中の中央にできた窪みだった。

「あぁ?ああっあれなぁ~この間、新人の逮捕術指導に招待した合気道の先生を呼んだんだけど、その先生が急遽来れなくなって代わりにとそのお孫さんが来てな…来たはいいがその…新米どもには強そうに見えなかったらしく、カラかい半分で一人国体出身者がその先生に勝負持ち掛けたんだ。そしたら軽くあしらわれて受け身は取ったんだがその衝撃で中央が凹んじまって、あいつも腰の療養中、他の修練場は全部埋まってるから中央にテープ張って今やってるとこだ。午後には修理が来るらしいが…」

「へぇ~すごい人もいたんですね」

「凄いも何も体格差がありすぎるんだよ、差はそう…30センチくらいかな先生は160くらいだったけど、190センチをいとも簡単にねじ伏せて」

 師範の刑事がジェスチャーする様にその時の凄まじさが菊地には伝わりづらかったが木城はその床の凹みが何よりもの証拠だと思った。

 

 

 GIRLS東京支部 付近

 

「………あっもしもし土田です。ああいえこの度はお招きありがとうございます。…ええっ…ああ~そちらでみんなが散々ご迷惑を…そうですか…ええっもうすぐ着きますので…では後程に、失礼します………怪獣娘かぁ…女の子に教えるのなんて初めてなんだよなぁ~」

 耳に当てていた二つ折りの携帯を閉じて不安を漏らす男は渋々とGIRLSの支部に向かっていた。

 

 

 GIRLS トレーニングルーム講堂

 

 上階のトレーニングルームを散々破壊されしばらく復旧の目途が立つまで学校の体育館に似た場所で畳を敷いて様々な課の怪獣娘たちが集められていた。

「それでは皆さん、今回新たに男性の怪獣さん達が現れたことにより急遽カリキュラムを変更して対人戦闘における護身術を学んでいただきたくゴジゴジのお知り合いの方にご指導をお願いしました」

 当然の如く、女性ばかりのGIRLSにとって初めての試みであった。

「今回、アンギラスさんとゴジゴジにもご協力いただきもう一方が本日の講師を招いてご指導いただきます、その方ももちろん怪獣さんだそうです」

 ピグモンの言葉に全員がざわつき始めた。ゴジラ達の知り合いとなるともちろん怪獣漢であることが明白であった。

 GIRLS内でも既に怪獣漢の件は内部で広まっていた為、女性ばかりのGIRLS隊員にとって必然的に興味がわき一同に飛び交うのがどんな人物かの考察であった。

「怪獣漢ってことは私たちと大きく違うのかな」

「きっとものすごく大きな人なのかも…」

「変身したらもっと大きくなるのかな」

「ふぇ~こっ怖い人だったらどうしましょう」

 興味が湧いてきた一同を見ていたアギラたちはどんな人なのか気になりだして来た。

「お兄ちゃんの知り合いってどんな人なの?」

「んんっ…ん~取りあえず常識人ではある。他のイカレた奴らよりかはマシ」

「えっえ~」

 アギラはゴジラがそれを言うかと心の中で思った。

「まぁ、焼き鳥や暴走ガメよりはマシな奴だと思うぞ」

 アンギラスの言うことを踏まえるとアギラは頭の中にラドンとガメラが浮かんできた。

「へぇ~どんな人なんだろう…なんか遅れているみたいだけど」

 講師がもうすぐ来るはずなのに一向に来る気配が無かった。その間さらに怪獣娘たちは今に来る怪獣漢がどんな人物かの考察が止まらなかった。

「やっぱ2mはあるんじゃない?きっとものすごい大男」

「案外、イケメンだったりして」

「確かにアンギラスさんもゴジラさんも他の怪獣漢さんってみんな顔立ち良いよね」

 ざわつき始める場に見かねたピグモンは静粛にするよう注意した。

「こらー!私語は厳禁です!ちょっと遅てれますから静かにお願いします!」

「あっあの~」

 そのか細い声と共に入り口のドアからひょっこりと男が出てきた。

「おう、来たかコウタ」

 全員が目を凝らすと真っ先に驚愕したのは他の怪獣漢のイメージとは似つかないほど体格も小さく誰しもが『ちっさ!!』と思えるほど一般的男性より低めで腰の低い童顔の優しそうな男性だった。

「お待ちしてました土田さん、ピグモンこと岡田トモミです」

「どっどうも…一応、土田流合気柔術の師範の土田コウタです。よっよろしくお願いします…すみません遅れて…いや遅れたは遅れたんですけど扉の前に来ていろいろと皆さんご想像されていたので出るに出れず…タイミング見失っちゃって」

「そっそれは大変申し訳ありませんでした!」

 ピグモンは深く謝罪してそれを『いえいえ』と許すようにコウタは頭を上げるように言った。

「よう、ピグモン。また新しい怪獣漢が来たんだって?」

 別の入り口から怪獣娘ならほとんどが認知してる大怪獣ファイターのレッドキングが来たことにより大きくざわつき始めた。

「レッド、どうしたのですか?」

「オレも気になって来てみたんだ、どんなつえぇ奴か気になってな…で、どんな奴なんだ?」

「あっあの~僕です」

「はぁ!?…あんたが話に聞いた怪獣漢か?偉く強そうに見えない小っせ優男だな」

「なっ!?」

「あのバカ!?」

「えっ?」

 二人の顔が強張り興味本位で来たレッドキングは大きな手でポンポンと肩を叩いた。

「まっ人は見かけによらねわなぁ、今度相手してくれよ」

 コウタの手に乗ったレッドキングの手をコウタは掴みかかりその瞬間、先ほどまでの優男の表情ではなくなった。

「…誰が…小さいから弱そうだッて?」

 レッドキングの腕を掴んだコウタの手からものすごい力がレッドキングの腕から脳にかけて神経が伝達しこの男は強いと認識したと同時にこの男から攻撃的な意図を感知しすぐさま掴まれた腕を振りほどこうとした。

「んなっ!おいっ放っうぐっくぬぬぬぬぬぬぬぬぬっ!!」

 精一杯力を込めているはずのレッドキングの腕からのパワーが全くと言って通用しなかった。

 むしろ力を入れれば入れるほどコウタはそれを一枚上にと増ししたような力で対抗してきた…否、返されているような力の流れがあった。

「言っときますけど僕は力なんて入れてませんよ、これ全部あなたの腕力の逆流です」

 それを物語るかのように次第にレッドキングの上体が曲がり始め背中が床につきそうになるほど到達し既にレッドキングの膝が床に着いていた。

 その光景を見ていた怪獣娘たちは異常な光景を目にした。

 人智を超え社会的に様々な弊害によって怪獣娘たちは立場的に危うくなった要因である荒ぶる超能力、特に強化された腕力は鉄などを捻じ曲げるほどのパワーが備わっている。

 しかし、これはそんな人間を超える腕力を備わって尚且つそれが自慢の怪力怪獣レッドキング、怪獣娘の姿の彼女が一人の人間に一人の小柄な男に腕一本で押さえられていた。

「この様に柔は豪を制すといいますが確かに高度な合気術であれば腕力は意味を成しませんが皆さんがこれよりもっと簡単な護身術をマスターしていただきます」

 全員とても内容が頭に入ってこなかった。

 人間が怪獣娘を押さえつけているこの状況に言葉を失っていた。

 アンギラスは呆れ返って額に手を当て、頭を横に振った。

「はぁ~あの阿呆は…コウタは『小さい』と言われるのはいいけど『小さいから見下される』ことを一番嫌うんだよ」

 その下にいまだ押さえつけられていたレッドキングは自慢の拳で対抗していたが無効果に等しくても自慢の腕力に負けたくない一心で抵抗していた。

「むぎぎぎぎっ!!なめんじゃねぇ!!このオレが負けてたまるか!!この放しやがれ!!」

「はいっ」

「ばっ!!?本当に放すな!!」

 レッドキングは焦った。押さえつけられていて溜まっていた腕力のパワーが拳に上増されてその反動がコウタの顔面に向かっていた。その距離は実に0距離に等しく超至近距離からのレッドキングのパンチがコウタの頬に触れ衝撃がコウタに加わろうとしていた。

 誰しもがこの状況を手遅れと思うだろう。

 それは違う、手遅れなのはレッドキング、彼女自身だった。

 レッドキングの拳がコウタを捉えた次の瞬間にレッドキングの腹部から胴体にかけて強い衝撃が走り腰から下の床に小さいながらもクレーターのような窪みを作った。

 幸いにもレッドキングの鍛え上げられた腹筋のおかげか定かではないがそれでもレットキングはグロッキー状態でぐったりと気絶していた。

 コウタの手の先は扇の様に両手がレッドキングの腹の前に翳してあった。

「今の様に相手の力を利用することは合気でも柔術でも基本原理とされています。またこれは相手を流血や骨折などの外傷にさせない最善な戦闘法ですので相手も自分も傷つけない戦い方を心がけましょう」

 とても説得力の無い解説であった。

 

―1時間後

 

 1対1での組手に入り怪獣娘の持つ格闘センスが示すように上達が早かった。

「良いですよ。皆さんだいぶ板についてきましたね。重心の回転は忘れないことです。重心あってこその体技ですからね」

 気絶していたレットキングは横になっていた壇上から起き上がりようやく目が覚め目を周りに見渡すと既に進行している練習生の怪獣娘とコウタ、その後ろで見守るピグモンとアギラとゴジラと胡坐掻いて見守るアンギラスが見えた。

「……あれ?オレ一体どうしちまったんだっけ?」

「あっレッド起きたのですね」

「う~んまだ頭がグワグワする」

「無理しちゃだめです!あれだけの強い衝撃が加わったのですから安静にしていないと」

 その様子は指導していたコウタも気付いた。

「それではそのまま続けてください…―…大丈夫ですか?すみません僕が大人げなくムキになってしまったばかりに」

「いやいや、気にすんなってこれくらい慣れっこだ、寧ろこれくらい日常茶飯事だぜ。それよりあんたスゲーなコングのダンナ然りあんたら怪獣漢はみんなつえぇんだな」

 レットキングは心配してくれたコウタに自分が頑丈であるが故に丈夫であることを伝えた。

「なぁ、あんたら3人の中で誰が一番つえぇだ?」

 素朴な疑問が脳筋のレッドキングは質問を3人に投げかけた。

「「「それはもちろん俺だろう ああぁ!?

  それはもちろん俺だろう あぁ!?

  それはもちろん僕です  んんっ!?」」」

 レットキングの軽はずみな質問に三人の戦意に火を着けることになった。

「テメェのどこがつえぇんだコラァ?相手の力利用してるだけじゃねぇか」

「利用じゃないです!合気です」

「こっちはあんたらより修羅場の数が違いますから」

「んだとコラ」

「上等です、今ここで白黒つけましょう」

 一触即発な状況にピグモンは焦り止めに入った。

「まっままま待ってくださいここでまたケンカしないでください!!」

「まぁまぁピグモン、止めてやるな。男同士が決着をつけるもんだぜここは」

「レットキングさん…もしかしてワザと焚きつけたんですか…また」

「まぁまぁアギラ、見て見たくねぇか?最強同士の戦いってやつをよぉ!ワクワクして燃えるだろう」

「そのたんびに周りが被害にあうんじゃ」

「そうです!アギアギの言う通りです!レッドはいつも後先考えずに!これ以上彼らに破壊させないでください!」

「大丈夫だろう、ここなら。そもそもここは大怪獣ファイター用に設計されたとこだろう。床も壁も天井だって特別強固に作られてるんだから模擬選にもってこいだろう」

 確かにアギラは思い返せばここは前にもミクラスとウインダムでゴモラと再実技試験を行った場所でもあるためそのことを思い返せば確かに理には適っていた。

「全然納得いきません!そもそも彼らの能力値が計り知れないから危険だって言ってるのです!」

 ピョンピョン飛び跳ね怒っているピグモンの後ろで今にも乱闘通り越して大乱闘待ったなしの非常に危険な状況にあった。

 特に怪獣娘が危険にさらされる。その辺にある物なら何でも使い例え怪獣娘だろうと武器にしようとする野蛮さを持っているため非常に危険だった。

「じゃぁさぁ、みんなを上のギャラリーに上げて上から観戦するってのはどうだ?それなら安全だしみんなで見れるぜ。怪獣漢同士の大怪獣ファイト」

 レットキングの言葉に納得いくように他の怪獣娘たちが賛成の挙手をした。

 一人一人が『見たい見たい』と騒ぎ出しはじめ見かねたピグモンは押されつつも渋々それなら安全だろうと判断してのことで了承した。

 

 

 そして、みんながギャラリーまで上がって見下ろすと三対になって配置についた。

 2人は首を回し、腕を回し、指を鳴らし終わると準備万端を示した。

 一方一人だけいまだコウタのみ目だけ瞑り精神統一をしていた。

 やがてゆっくり瞼を開きだし…

「獣装“バラゴン”」

 怪獣漢特有の掛け声と共にコウタの体格が大きくなり体表は茶色く背中から重なるように大きなヒダと両耳から三日月形の獣耳と額から一本の小さなツノが生えた。

 その姿はまるで可愛らしい子犬のような姿であった。2mあるゴジラやアンギラスと比べてもやはり185cmとなると大柄ではあるが二人と並ぶとやはり変わらず小さく見えた。

「わぁ~コウタさんの怪獣さんはかわいいですね」

「へぇ~女受けしそうな怪獣だな」

「かっかわいい…」

 上のギャラリーの怪獣娘たちには可愛く見えるがいざ相対する2人にはそんな小さな怪獣からは武道家の視線と未知のオーラが滲み出ていた。

 しかし、それは2人も同様であった。

 3人のオーラが混ざり合うようにぶつかり合っていた。

 この戦いに始まりはない、怪獣漢の戦いに始めは存在しない、審判も実況も存在しない。

 この空気、この状況、この一瞬が相撲のような駆け引き、武士の果し合い、ガンマンの1対1の様に一瞬で決まる。

 それと同時にギャラリーにいる怪獣娘 たちにも伝わってくるのがわかる

「……うっ動かないね…」

「…ああっこの勝負動いた奴が先制を得るだろうな…」

 レットキングがそれを誰よりも理解していた。

 子供の頃、見たことある格闘技の試合。

 お互いが探り合う読みの勝負が既に始まっていたことを暗示していた。

 そして、その沈黙を破って動き出したのはゴジラとアンギラスであった。

 ぶつかり合う爆裂音、弾ける様な火花、誰しもが想像した。

 しかし、マックススピードで動き出した2人は衝突することなくバラゴンの手前で止まった。

「なっ!?とっ止まった」

「どっどうして…」

「あっ!あれって…」

 ピグモン含めギャラリーにいる怪獣娘全員並びにゴジラとアンギラスが目にしたのは何と土下座するバラゴンであった。

 恥もなく尊厳もプライドも丸投げにし頭を床につけた情けなき哀れな姿に全員が硬直して思考を停止させる。

 しかし、アンギラスは2秒の静止を経てあることに気付いた。

「バカヤロォォォォ!!ここでアレを使うなバカ!!!!」

 突然アンギラスの剣幕にハッとゴジラも気付いたが既に遅くゴジラとアンギラスが突如、頭上から崩れ落ちるように倒れ二人とも地面にうつ伏せでめり込み始めた。

 何が起きたのか怪獣娘たちはこの状況から理解できないでいた。

「なっはぁ!?どういうことだ!?」

「何が起きてるの!?お兄ちゃんたちが床に…」

 唐突な事に動揺し始める怪獣娘たちのギャラリーからこのトレーニングルーム全体が大きく地響きを上げ始め周りからヒビが入りだし今にも倒壊し始めていた。

「ぐぬぬぎぎっ!!お前らぁぁぁっっここがら逃げろ!!」

「ぬらぁぁぁぁぁ」

 アンギラスとゴジラは自力で何とか立ち上がるがそれでもバラゴンは顔を上げなかった。

「いい加減に止めろコウタ!!」

「コウタさん!!いったん顔を上げて!!」

 バラゴンは次の事をボソッと小さく言った。

「………ごめんなさい」

 結局土下座して謝罪しただけになった。

 そして別館のトレーニングルームは潰れたケーキの如く崩壊した。

 

 

 

 トレーニングルーム崩壊後、諸悪の根源たる言い出しっぺのレッドキングは正座をさせられ額に反省の字が書かれた紙を額に張られピグモンにこっぴどく叱られている中、今回の講習に参加していた怪獣娘たちによる生き埋めになった3人の救出作業が進められたがその必要はなく自力で這い出てきた。

 出てきてそうそうアンギラスは鉄骨を拾い上げ雄叫びの如くこう言った。

「あんのアホモグラは何処じゃ!!!!」

 鬼の形相でバラゴンを探し回り倒壊した瓦礫を無理矢理彫り上げだし乱暴な捜索を始めた。

「何処じゃゴラァァァ!!出でごんかわれボケ!!」

「アキ、謝罪ついでにこれでみんな分の飲み物買ってこい」

 変身を解いたユウゴは懐にしまっていた財布から5000円の千円札五枚をアキに渡した。

「うん、わかった」

 

 

 

「えっ~と、確かこっちの裏に」

 アギラは記憶を探り探りに自動販売機を探していた。

「あっあった、ええっと…んん?わぁ!!」

 アギラが驚く先にはペットボトル片手に項垂れているコウタがいた。

「んっ?君は確かあの時いた指導課のユウゴ君の妹の」

「あっアギラの宮下アキです…バラゴンさん…ですよね」

「いいよ無理しなくてコウタでもいいよ……はぁ~」

「さっきはすごかったですね、お兄ちゃんたち2人を相手にして、あのレッドキングさんと人間の姿で互角に」

「いやぁ、レッドキングって子には単に合気のタイミングで対抗してたから実質力勝負じゃないから…技に逃げただけさ…男として情けない限りだよ…さっきはごめんね、GIRLSの大切な施設の一つを壊してしまって」

「そんなことないですよ…コウタさん凄い力を持ってるじゃないですか…ボクなんて何もないし」

「凄い力ってコレの事かい、動いてごらん」

 アギラはコウタの言う通り動いてみるも金縛りにあったような感覚がアキを押さえつけられていた。

「あれ?動けない…ふえ~どうして?」

「これは僕の怪獣の残留能力さ、僕バラゴンの能力は元々地底怪獣っていうカテゴライズの始祖なんだ。バラゴンはある種の重力操作みたいなものを脳から伸びてきたツノにかけて全身に発生させる。頭から地面に接していれば僕以外の広範囲に重力降下を発生させられるんだ。その他にも、足から先の重力降下に至るとその射程距離も縮むけど相手を捉えて足止めできるんだ。残留能力だと足からはせいぜい1m位さ…と言ってもこの能力は元々あったわけじゃないんだけどね」

「??どういうことですか?」

「実は作ったんだ。この能力事態を。何も珍しい事じゃないよ、自然界じゃありふれたことさ。高いとこの草を食べるために首を伸ばしたり敵から身を守るために変化したりと様々な能力が進化によって編み出されてるんだ」

「へぇ~コウタさんは物知りですね」

「いや、実際ここまで来るともはや合気に程遠いけどね…」

 アギラの心の中にコウタに対する疑問を投げた。

「コウタさんはどうして合気道を始めたんですか?」

「んん?…始めたわけじゃないんだ、僕は物心付く時からおじいちゃんに育てられておじいちゃんは僕の前の流派の師範代だった人だったんだ。僕は元々祖父母家庭だったから」

「コウタさんは僕と一緒なんですね、ボクも祖父母家庭です」

「君もってことはユウゴ君も?」

「お兄ちゃんは放浪者だから勝手に育ったような感じです」

「彼も彼だね…まぁ僕みたいに中途半端よりはマシかもね」

「中途半端な?」

「うん…去年まで僕は城南の大学生だったんだけど今年おじいちゃんが急に倒れてね、大学卒業しても将来性が無かったから中退して流派引き継いだんだ」

「えぇ!?そうだったんですか…」

「でもおじいちゃんみたいに今のところウマくいってないんだ…おじいちゃんは僕より小柄だけど長年の形成された威圧で他の追随を許さないって感じだけど…僕はこの通り小心者だからさ、他の人から下に見られちゃうし今日だって指導相手が女の子たちって聞いただけで断ろうとした程なんだ…我ながらヘタレだと思うよ」

 アギラにはコウタがこれだけ悩んでいる姿にガッツの姿を重ねていた。

 この人もガッツと同じ自分を追い込み過ぎている感じがしたからこそ、悩んでいる人に手を差し伸べて背中を押したいと思いピグモンと同じ指導課に配属したのであった。

「……そんなことないです…むしろコウタさんは立派に指導してボクなんか見習いたいほどです。ボクも前に友達の苦しんでる時に気付いてあげられなくて自分自身を責めて自分が許せなくてだから自分まで知らず知らずに追い込んじゃって」

「そうだったんだ…」

「でもコウタさんはボクより教えるのが上手ですし何よりコウタさんに教わった怪獣娘のみんな生き生きとしてました。怪獣娘に目覚めたばかりの人たちはみんな不安の中このGIRLSに足運ぶから打ち解けるのに時間がかかるのにコウタさんにはみんなすぐに打ち解けたじゃないですか、だから自信を持ってください。それにお兄ちゃんたちと同格に戦ってる姿とてもかっこよかったです。誰よりも武道に生きみんなと向き合うコウタさんをボクは尊敬します」

「アキちゃん…」

「ってちょっと生意気でしたね…」

「いや、ありがとう。そういってくれると僕もうれしい限りだよ」

 コウタはアギラに近づき頭をポンッと手を乗せた。

「ありがとう、君の立派な指導の心得こそ中々だよ」

「うっ…ちょっと照れ臭いです」

 アギラは照れた。兄以外年上の男性に褒められた経験のないアギラにとって初めての感覚に不思議と笑みがこぼれた。

「じゃぁ僕はこれで失礼するよ、アラシ君は今頃カンカンだろうから岡田さんには申し訳ないと伝えてください」

「えっ、あっはいっ」

 コウタは小柄な体を活かした身軽な跳躍力でフェンスを軽く乗り越えフェンス越しに手を振って去っていった。

 行き違いになるように鉄骨の一部を片手にアンギラスが来た。

「おいアギラ、あのドぐざれモグラどこ行ったか知らんか!?」

「えっ?わぁわぁ!!何持ってきてるんですか!?」

「アギアギ!!アンギラスさんを止めてくださ~い!!」

 アンギラスと同じくらいの2mある鉄骨を木の棒の如く振り回し振り向けば建物を気付つけ怪獣娘たちに当たりそうになった。

「アラシさん、のわぁ!危ないっすよ」

「あん?何が…」

 声をかければアラシが振り返るため次々と回るごとに鉄骨の回る凶器度が増していた。

 

 

 

横須賀米海軍基地 

―ニミッツ級原子力航空母艦

 

 胸にいくつもの称号を表すようにつけられた勲章がアメリカ海軍第七艦隊のウィリアム・ステンツ少将が自身の部下でありニミッツ空母の艦長のラッセル・ハンプトン大佐に尋ねた。

「ハンプトン大佐、ドクターセリザワは」

「はっ デッキにいらっしゃるかと思われます」

「基地からの連絡はどうだ」

 ウィリアムは通信士に基地からの情報を伝えた。

「お客さまが見え、ドクターと合流せよ」

「分かった。至急合流の後帰投すと打電しろ」

「了解しました」

 

 

 甲板デッキ

 

 海兵が芹沢博士に伝言を伝えに来た。

「ドクターセリザワ まもなく横須賀につきます。それと少将から『空母をタクシーにするな』とのことです」

「なら次は戦艦を使わせてもらうと伝えてくれ」

「その時は私のクビが航空機より飛ぶでしょう」

「なら航空業界は安泰だ」

 艦を降りるとその場にいた海兵隊に敬礼をされ見送られた。

 そして、降りてそうそう尾崎に出迎えられた。

「お待ちしてました、芹沢博士」

「君は相変わらず出世に興味が無いらしいな、この国では出世こそ男の本懐だろ」

「博士、私はこの国の考えはありませんが妻からは給料を上げろと言われる始末です」

「相変わらず頭が上がらないか」

「妻は私よりエスパーですよ、積もるお話は車内で」

 尾崎は立ち話より先に芹沢博士を自身が乗って来た車に案内した。

 

 米軍基地を抜け話に戻った。

「先ずダッシュボードを開けてください」

 芹沢博士は尾崎の言う通りダッシュボードを開けると大量の紙が飛び出てきた。

「何だねこれは、偉く数字が書かれているが」

「すべて怪獣どもがGIRLSに与えた損害賠償です」

「こういうのは経理のはずだろう、三枝君は」

「南の島に現実逃避を図って逃亡、もう間もなく草薙に連行されてくるでしょう…ですが肝心なのは奥のファイルです」

 芹沢博士は奥の二つ折りのファイルを見開くと現時点の怪獣漢たちの情報が記されていた。

「ヘドラは静岡で葉っぱ摘み、バランはロサンゼルスの上空で米軍の教官として空挺訓練にクモンガは長野で絶賛営業中、同じくカマキラスも横浜で営業、ガイラはパキスタン、サンダは今だにフランスで猛威を振るって、変わらないのはガバラだけか…君の右腕は」

「ケニーはいつも通り富士の山麓あたりでしょう」

「君も相変わらずなら部下も相変わらずか…この時期に富士籠りは荒れるだろう」

「確かに富士はここ20年の影響で熊が獰猛になって現れる時期でしょうがケニーには関係ないでしょう。あいつにとって富士は修行場ですから」

「彼らはみんな相変わらずだな…変わらないことは好きではないが平穏が何よりだよ」

「唯一はあの三人でしょう…」

「ゴジラとコングとガメラか…彼らは特別中の特別だ」

「そしていつもことを起こす元凶…融通は聞きもしないでしょう」

「見向きもしないよ…全員」

「でしょね」

 しかし、芹沢博士は自身が急遽日本に呼ばれMONARCHが怪獣漢たちの情報を集め出したことに切り替えた。

「それでなぜ私が呼ばれ急に彼らの事を探り出したのだね」

「確保した『荒野の狼』のメンバーが今回の『モスマン』は所有していたと口にし供述していた通り『荒野の狼』の拠点で押さえつけられなくなり放り出し逃がした。無責任な飼い主同様です」

「本当にそれだけかい?」

「奴ら妙なことを供述しました。そのMONSの仲介人が言ってたことらしいですが」

「何と?」

「『大規模な生存競争が始まる』…と」

「我々への挑戦状か…」

「いや、恐らく人間と人間が生み出した怪獣たちへのあるいは」

 尾崎のこの警告とも取れるこの言葉がフロントガラスに映る自分に思うことがあったのだろう。

 やがて国道の高速のトンネルに入る。

 それはまるで出ることの許されない世界への長き道のりにも2人には感じた。




見せられないMONS~

 ざわつき始める場に見かねたピグモンは静粛にするよう注意した。
「こらー!私語は厳禁です!ちょっと遅てれますから静かにお願いします!」
「あっあの~」
 そのか細い声は聞こえるが声の主は見当たらない。
「あっあの~声は聞こえますよね…声のする方に集まってください」
 言われた通りに集まると…
「はい、見下ぁぁ~げてぇごらん」
「「「わあっ!!」」
「新喜劇か」


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知ることを恐れるか

 偶然は思いがけない時に現れる。

 場所も時間も関係なく突然にやってくる。

「お兄ちゃんいつまで日本にいるの?」

「さぁな、こっちでの仕事も豊富にあるししばらくは」

 偶然は引力だ。

「ねぇねぇ~トモちゃ~ん本当はなにかしってるんでしょ~GIRLS設立の功労者たるマコちゃんのお友達として教えてよ」

「申し訳ございません~部外者にはGIRLS内の機密事項はお答えできませんよ~ヒロミさ~ん」

「も~いじわる~私とトモちゃんの仲じゃない~」

 その引力に引き寄せられたものは…

「まぁでもどこ行ってもいろいろ情勢が…んん?あれって」

「あっ」

 そして偶然はGIRLS一階ロビーで引き起った。

 偶然が引き起こす悪ふざけは時に双方の表情は得体のしれない者に遭遇した様に驚愕に満ちた顔つきになる。

「何て顔してんのトモちゃん」

「いっいえ何でも」

「んんんん~やっぱり何か知ってるんじゃないの?…はぁ~じゃぁもう出血大サービスでコレについて知らない?」

 それはヒロミが祖母から預かった『黒い怪獣』の写真をトモミにつきつけた。

「さっさぁ~なっ何のことでしょ~」

「トモちゃんなんか焦ってない?」

「そっそんなことありません」

 実際、かなり焦っていた。

 あなたのお目当ては後ろでございますと言わんばかりにヒロミの真後ろにそれは居るからである。

「なんか後ろにいるの?」

「ひぎゃ!!」

 そして、偶然はヒロミを首も身体も後ろに振り向かせた。

「君はそうやってすぐ答えから知りたがろうとするから単位がギリギリだったのじゃないのかな ヒロミ君」

 ヒロミは背中から這い上がるような悪寒がこの渋くも気品のある声の主が目の前にして硬直した。

 恐る恐る上を見上げるとそこにはヒロミにとって最も恐れる人物がそこにいた。

「せっせせせせせせ芹沢教授!!!!」

「人を見て驚くのは失礼では無いかね」

「どっどどどどうじてこここちらに」

「GIRLSさんからにお招きいただいたからね、それより君は相変わらず人を困らせるのが得意なようだね」

 ヒロミにとって芹沢博士は苦手この上ない存在であった。

 大学時代の最終学年の卒業論文の終わりなき永遠の悪夢がヒロミのトラウマを呼び覚ました。

「ところでヒロミ君、私が大学在任時の君の成績についていくつか疑問点があるのだが今ここでお話しようか」

「わぁ~もうこんな時間!トモちゃんありがとう、次の取材に行かなければごめんね、それじゃまた教授もお元気で」

 あたかもすたこらとこの場を去ろうとした。

「それと多岐沢くんから君に伝言だ」

 ヒロミの足がピタリと止まった。

「『居なくなってすまない』…と」

「・・・・・・」

 ヒロミは振り返らなかった。顔を合わせなかった。

 ただ一言つぶやくだけだった。

「卑怯者…」

 その言葉を残してGIRLSをトモミと芹沢博士を後にした。

 振り返らず真っすぐと。

「もう出てきたまえ」

 ひょっこりと自動ドアの上からゴジラが顔を出した。

 ちなみに変身してゴジラは入り口の上の死角に張り付いて尻尾でアキを抱えていた。

 

 

 GIRLS 控室

 

 今日この日にユウゴと芹沢博士は怪獣と人間の関係性に深くかかわることになるその時までの待機中に二人だけ静かな会話をしていた。

「博士の知り合いなんですか?あの記者」

「私がかつて在任していた大学で教授をしていた頃の教え子だ…出来の悪い生徒程よくもまぁ忘れないでいる者だよ」

「あの人最近よくもまぁ諦めずに顔出すから俺がここへ来るのも一苦労で…実はあの人の携帯壊しちゃって…じっちゃんに調べてもらって小切手で弁償したら余計に俺の事を嗅ぎ付け始めて」

「彼女もまた相変わらずだな……話が変わるが尾崎君からの君に言伝だ」

「博士、あなた随分と伝言を頼まれるんですね」

「昔から記憶力が良いからね、頼まれることは悪い事じゃない」

「それで」

「『国内にいる怪獣漢の現状確認』が依頼だそうだ」

「仕事依頼なら直接依頼しろ…と伝えといてください」

「結局、君も伝言をするんじゃないか。いい加減に携帯電話くらい持ったらどうだ、プリペイドでも通信くらいできるぞ…よし、これで検査は終了だ。後は医者の診断結果だけだ」

 芹沢博士はユウゴの身体についた電極を通してタブレットに流れる情報を解析し終えた。

 ユウゴは目の色を変え、芹沢博士に本題に切り替えた。

「どうして急に学者たちを招集して今更、怪獣漢を公表しようと」

「MONARCHは規模が大きくないからね、平和維持を目的にしているが実情、地球防衛軍も過去の栄光のおかげで今日まで留まり続けているが未だ国連も我々と共に地球防衛軍の解体に躍起になっている」

「俺にとってはどうでもいい、潰れるか消えるかなんてあんたらが勝手にやればいいだけだ」

「そうもいかない、地球防衛軍から万人の失業者を出すわけにも行かない。怪獣や侵略者の脅威にさらされなくなった今、人類は君たちを理解しなければならない。無論、我々は今後とも君たちのサポートに徹底する方針だがなにぶんGIRLSを重視する見方が今の国連の現状理念さ。こちらは長年音沙汰なくこちらは何も言わなかったが今日でそれは変わる…その為にはGIRLS側がからの信頼を得なければならない。何事も慎重に順調に情報を共有する」

 部屋のドアからノックが打ち込まれる。

「博士、ゴジゴジ、お時間でっ…きゃぁ!」

「んん?」

「君だよ、服を着たまえ」

 服を手渡し着なおす終えたユウゴに芹沢博士は選択を迫るように右手を伸ばした。

「君はどちらに行く。かつての様に孤高に生きるか。それとも希望の先に行くか」

 ユウゴは芹沢博士が差し伸べているの右手を見詰めた。

 しかし、ユウゴが選んだのはそのどちらでもなく芹沢博士の手をはらった。

「自分で立てる」

「賢明な判断だ…プレゼンは任せてもらおう」

 

 

 GIRLS大講堂

―有識者会

 通常の講堂より広く設置されたこの大講堂は主にGIRLS研究者にとって怪獣研究発表の神聖な場、多方面様々な支部の著名な研究者たちが今か今かと怪獣研究の権威である『芹沢イシロウ』自らが発表することに期待と不安が彼らの心中には残っていた。

 不安の理由はここ最近に起こっている事態、報告に上がって今彼らの手元にある極秘の資料『第三の怪獣』について何を話すのか。

 何より一番の気がかりはこの会そもそも非公式であり極秘の会、すべてが秘匿、公表もされない、何もかもが秘密で他言無用での条件下で選別され集められた専門家たちはこれから何が始まるのか固唾をのむ。

 廊下からコツコツと革靴で歩く人物が近づいてきた。

 芹沢博士だ。誰しもがそう思った。

 やがてドアが開き予想通り芹沢博士だった。

 壇上まで上がると発表台の前で軽く咳を吐きマイクのチェックをしていよいよ芹沢博士の口から語られる。

「ええーこの度はこのような場を設けていただいたGIRLSさん並びにお集まりいただいた皆さんに感謝いたします。 さて、今回この場に集まられた皆様は我々MONARCが独自の選別法で選ばせていただきました。 長いアンケートが事前にあったと思いますがこの場にいない方もいらっしゃるでしょうがあなた方は今この瞬間、国家、組織、宗教、すべてのあらゆる事から外れ、ただ一つ今回の場を秘匿という条件下で怪獣研究者として皆さんに集まっていただきました」

 

 

 この発表の様子は講堂の別室ながら映画館などよくある後ろの映写室ではトモミとアキがいた。

「ありがとうございます。ピグモンさん、ボクまで同席させてもらって」

「お安い事です~アギアギもご家族の事が気になるのですね」

「うっ…う~ん…気になるというより知りたい…かな、ボク自身お兄ちゃんの事を知らなすぎるから…そもそもボクの家系の事自体ボク自身が何も知らないんです。宮下っていう名前が何なのか何も知らないから、でもお兄ちゃんだけがそれを知っているような気がして…ずっと気にもかけていなかったのにここ最近お兄ちゃんと再会してそれが急に気になりだして…」

「…アギアギ…」

 トモミはアキの顔を見ていると初めて彼女の事を知った時のことを思い出していた。

 怪獣娘がGIRLSに紹介されるにあたって申請は学校機関や病院からGIRLSに名簿が渡る。

 その中には怪獣娘の家族歴や現状が記された推薦状が支部に届くがアキだけは学校や病院ではなく地方のクリニックからの推薦だった。

 当初は大きな病院の精神科にて受診をしていたらしいがその病院から紹介されたクリニックを通してGIRLSに推薦、紹介されてきた。

 無論このような紹介は少なからずあることなのはトモミ自身の経験上何度かあるが、気になったのはアキの家族歴だ。

 苗字の違う祖父母以外の近親はおらず、またその中にユウゴの名前自体が無かった。

 当初は複雑な家庭事情とも思い、また個人情報の類であるためこれらの情報の追及はしない。

 トモミ自身、様々な怪獣娘を見てきたがアキだけ不明な点が多かった。

 だが、それはカプセル怪獣アギラも同じであった。

 アギラはGIRLSの所有する記録の中で一番情報量が少なく現存する映像もどこに存在していたのか出所不明であるが記録としてGIRLS資料として存在している。

 多少の記録は有るが決して多いとは言えないが、裏を返せば他の怪獣と比べて情報量が一番少ないと言うことはゴジラやガメラのようなGIRLSが知らない未知の怪獣たちに一番近い存在とも思えた。

 傍から見ても曖昧で根拠のない因果関係だが、しかしトモミはアキとアギラにとってこの場は正に自分を知る機会と睨んでアキだけを招いたのである。

「アギアギ~」

「なっなんですか?」

「何かわかるといいですね、自分の事やゴジゴジの事が」

「はっはい…」

 アキの顔を見て笑うトモミに不思議に思った。

 

「資料にあります通り『第三の怪獣』についてご説明する前に皆さんもお話やお噂など耳にした方が多かれいらっしゃると思われます。この場を借りて私の口から単刀直入に申し上げましょう…怪獣の魂を持つ男性は存在する!!」

 それは研究者にとって衝撃的な宣言であった。

 男性の『カイジューソウル』を持つ者がいるこの事実にざわつき始めるのも無理はなかった。

 単に噂の類でしかなかった『男性のカイジューソウル保持者』、女性だけに発現するという固定概念に矛盾する存在の出現に研究者たちは戸惑いの色が隠せなかった。

「我々怪獣研究の分野では現状『怪獣娘』なる呼称とし私はかつて『怪獣たちの魂の不滅性』の論文を公表により現在までの『魂』と言う科学とは相反する存在の信憑性に確信付ける事が起きた。それこそあなた方も既にご存知でしょう、怪獣娘の出現により『魂』と言うものが明確になり怪獣たちが新たな進化とも言える形に変化した、つまり怪獣は自ら肉体を転移させ人として現代によみがえった…と、ここまでは怪獣娘、『第二の怪獣』の姿ですがスクリーンをご覧ください」

 映写室から光と共に流れ資料としてゴモラの姿がスクリーンに映し出された。

「ご覧の様に怪獣娘はこれまで人の形からその周り一部からなるいくつかの個所に『獣殻(シェル)』と呼ばれる物質で覆われ怪獣と人の中間の姿に変化し、これが怪獣娘でしたが、MONARCが確認している『第三の怪獣』は彼女たちとは大きく異なる部分が存在します 今回特別にこの場に呼んでおります さぁ入ってきてくれ」

 博士がドアを指すと全員がドアに目が向き、ドアを開き外から2mを超える怪物に驚きが隠せずにいた。

「あっぐっ!せっ背びれが…フンッ!!」

 案の定、デカすぎて背びれが引っ掛かり入り口の上に背びれを型取った形に穴が開いた。

 

 

 その様子は映写室にいたアキたちにも確認できた。

「あぁああ…また」

 アキはまたしても無意識にモノを壊すゴジラより隣にいたトモミが一番気になりそっと目を隣に向けると目元に影が掛かるほど静かなったトモミが雰囲気だけ怒っているのが見て取れた。

 なぜならアキは知っている中で一番怖いピグモンの姿だからである。

 普段の怒りの上位に位置する超激おこ状態である。

 

 

「ご紹介しましょう。彼が『第三の怪獣』、『怪獣漢』のゴジラです 見ての通り最大の違いは外見のシェルの面積率が彼の場合、目や口以外の実に98%を占めており、また彼の元の身長は大柄な190cmでしたが変身により約20センチ伸び現在の身長は210cmとさらに大柄変化した姿になります。 これが大きな違いで怪獣娘は変身後の自身の体格的変化は少しあれど怪獣漢の様に骨格延長は起きません。また20センチと言う間隔は一時的骨格の変化に最適なラインで運動性能が向上する最適な状態とも言えます。 また筋力も」

 ゴジラは跳び上がり尻尾を椅子の様にして巧みなバランスを取り腰かけるとさながら宙に浮いているような状態になった。

「彼はこの状態で悠々と長編小説を読むこともできます。本来存在しない個所の筋力の使用、増加も見られますが反面彼らの能力に大きな影響が従来であれば通常の人間と比べて身体能力が劇的に上昇し体内に生成される変異時の怪獣器官から循環する怪獣因子が体外に流出し怪獣の能力や技を構成する怪獣粒子による超常的な能力も行使できるようになり、その威力は現行の兵器以上です」

 この場にいる科学者にとって未知の存在を認知すること、だがゴジラのその異形な姿は怪獣娘の様に愛嬌があるとは到底思えないほど人受けの無い姿に学者としては興味深いがこの有識者会を極秘にする理由がなぜなのか全員が理解した。

 彼ら怪獣漢の存在は言わば巨大な渦である。

 平和の均衡を崩しかねない、人類と怪獣の関係に混乱を招く巨大な核も同然な存在であった。

 しかし、この場にいる者たちは全員が学者である。

 必然と質問をしようと挙手が次々と増えた。

「君たちは疑問の答えを知りたいであろう…ではここで一時的に質問の時間としよう、ではまず君から」

 芹沢博士は初めに自分の位置から中間の席にいる学者を指した。

「えぇ~、怪獣漢は具体的にどれほどの数が存在するのでしょうか。具体的な分布をお教え願います」

「数については我々が確認しているだけで実に20名以上、未確認の存在もいる可能性もあり、また現時点で怪獣漢は世代に分けて現在まで第三世代に至るため、つまり怪獣娘が確認される遥か以前から怪獣漢は存在しているの事がMONARCでは確認が取れており過去10数年の時点で我々が確認している数としては30名以上いるかと思われます」

 芹沢博士から口にした30名とこれだけの数がこの地球上に存在している事実に更なる驚愕が波の如く走った。

 

 

 その様子は映写室にいたアキたちにも伝わったが、アキは席を立った。

「ごめんなさいピグモンさん…ボクはこれで失礼します」

「えっ?アギアギどうしたんですか?」

 突然の事にピグモンは動揺するがアキは映写室を出た。

 

 

 河川敷

 

 いつもの河川敷、いつも悩むと訪れる場所にしてアキが初めて変身に成功した場所、この河川敷に座り込むアキは溜息をついた。

「はぁ~なんか逃げ出したような感じだなぁ~」

「どうしたの、アギラ」

 アキに声をかけるこの声にアキは聞き覚えがあった。

 アキの隣にはアキ自信が理想とする存在、ゼットンその人だった。

「ゼットンさん…」

 ゼットンの心配そうな眼差しにアキは眼を合わせなかった。

 いつもなら嬉しいはずなのにアキにはそんな気持ちになれないでいた。

「何かあった?」

「いや…その…ボク、逃げたんです」

「何に?」

「お兄ちゃんを…家族を知ることを……ボクには両親が居ないんです。お母さんは3年前に病気で亡くなって、お父さんは物心つくときから知らなくて……最近、何だか怖いんです」

「なぜ?」

「今日、ピグモンさんにお兄ちゃんの学会に席を設けてもらったんですけど…途中で逃げちゃって」

 アキは組んだ腕に自分の顎を沈めて川を見つめた。

 その方が楽だから、一番尊敬し理想とする憧れの人に自分の今の顔を、姿を、目を見てほしくない気持ちでいっぱいだった。

「ボクは…怖いんです…お兄ちゃんを見ていると自分が何なのか…それを知れば知ろうとすると自分が何なのか解らなくなって行きそうな気がするんです」

 アキは自分と言う存在に怯えていた。

 アキにとってここ最近の出来事、特に兄ユウゴの再会から感じていた感覚が『恐れ』であること。知ることへの恐怖に胸が締め付けられるような苦しい気分が襲い掛かっていた。

「アギラは知ることを本当に恐れているの?」

「ふぇ?」

 ゼットンから来たこの問に意外さに戸惑った。

 自分が抱いてるこの気持ちに何かをゼットンは感じたのか知りたくなった。

「どういうことですか?」

「アギラはまるで知ることより失うことを恐れている気がする…確かにアギラの言葉通りならゴジラを知れば知るほど自分を知ることになるけどそれと同時にあなたはゴジラを失いそうになるのを恐れている」

 ゼットンは足もとに落ちている花びらを拾い上げ、息を吹きかけると花びらが宙に舞った。

「花には花の生態がある…けど知ろうとしている間にいつか風が吹き花びらが花から離れて飛んでいく、そうなると自力で掴むのは困難。あなたはこの花の観察者ならどうする?」

「それは、花と花びらたちが離れ離れにならないようにしたいです…その花にとって自分の周りにいる花びらは…その…子供みたいな…ふえぇ~、わっ解んないです」

 よくわからずアキは思いつく限りの答えを頭いっぱいに振り絞るも結局わからなかった。

「もしその花がタンポポなら理想的じゃない…タンポポにとって春になれば種が咲き、風と共に飛んでいく。 それがタンポポにとって別れであり巣立ちであり誇りだから…それは私達から見てもそう見えるように進化している。 誰かに飛ばしてもらえるように…でもアギラは知らない花だからより知ろうとして花びら1枚とも飛ばさせたくない、知らないからまだ1枚とも失いたくないと感じている。 アギラは家族と言う存在を失いたくないと感じている気がする」

 ゼットンの深く鋭い洞察力にアキの知らない自分の本当の気持ちに気付かれ内心驚いた。

―すごい…さすがゼットンさん。

「私が以前あなたにここで言ったこと…答えは簡単じゃないかもしれない、でも自分が信じた気持ちを大事に自分だけができることをやったらいい、あなたはどうしたい?」

「ボクができる事…ボクは…お兄ちゃんを知りたい…ずっと知らなかった分のお兄ちゃんが見て感じたことをボクは知りたかったんだ…でもまたどこかに行きそうな気がしていたからボクは焦っていた気がします」

 アキは立ち上がり両手をグッと握って改めてユウゴを、ゴジラを知ろうと決意した。

「…知りたいのはあなただけじゃない気がする」

 ゼットンは小さな声で思ったことが口に出てしまった。

「えっ?どういう?」

「!…なんでもない…独り言…」

 アキには聞き取れなかったがとにかくアキが胸の内に秘めていたあることをゼットンに打ち明けた。

「とりあえず今は…お兄ちゃんとお母さんのお墓参りに行きたいです。 そこでまた改めていろいろ聞いてみたいです」

「……そう、なら私はこれで」

 そう言い残しゼットンはどこかへテレポートで行ってしまった。

 ゼットンを改めて凄くてかっこよく素敵な人だと感じた。

 どことなく聞こえてくるメロディーが耳を通り抜けていた。

「ちょいっと失礼…御嬢さん…」

 ゼットンを考えすぎて横から呼ぶ声に気付き我に返った。

「あっごめんなさい」

 やたらと大きなフードに全体的に暗めな紫のローブを纏い越しに手を当て猫背のような人が通り過ぎて行った。

 顔は見えず鼻歌と口笛のような不協和音のような独特な音を奏でアキの事をお嬢さんと言ったあたりかなりのご年配にも感じたが不思議な感じを醸し出していた。

 ジッとローブの人を見ているとその人から何か光るものが坂に落ちて行った。

「あっ待って、なんか落ちましたよ」

 慌てて拾いに行くとなぜかいつだれが停めていたのか動かない乗用車が突然動き出した。

「ええっ!?…もうまた誰なの、ここに車止めるのは…やぁー!ソウルライド!」

 アキは変身してアギラになりクリープ状態の乗用車を止めに入った。

「ふんぐっ!」

 ガッシリと乗用車を抑えたがいつもならフレームを曲げるだけの握力とジャイアントスイングの様に回し投げるがこのクリープ状態の乗用車が突如エンジンを吹き始めた。

「えっ!?なんで!?」

運転する者など誰もいないはずが中でエンジンが作動しフレームから振動が伝わってきていた。

 おまけに怪獣娘の力で抑えきれないほどの乗用車とも思えないこの馬力にアギラは押されていた。

「むっ無理…こんなパワー…抑えきれない…ぐっ…でも、このままだとこの先には幼稚園が…ぐっ…ボクには…ボクには…」

 アギラは抑えつけるあまり脳内に流れる映像が彼女を突き動かす、過去2回にわたって守ったこの先の幼稚園の子供たちの笑顔、他の怪獣娘たちのこと、ゼットンの姿、なぜ今になってこのような映像が流れているのか…でも不思議と辛くない。

脳内に流れるエンドル何とかやアドレ何とかが出ているせいなのか必死過ぎて自分でもミクラスのような考え方になっていたがとにかく守りたい一心でアギラの脳が、体が必死に頑張っている証拠だった。

 しかし、現状は残酷にも変わらず押されているのはアキの方だった。

「辛くない…けど…抑えられない…どうして…どうして」

 ふとさらに映像がフラッシュバックしてきた。

 それはこれまで見てきた怪獣漢たち。彼らがなぜ怖い敵にも余裕を持って戦えるのか、自分たちが強いから?格下相手に余裕だから?守りたいものがあるから?自尊心?正義感?彼らがなぜ彼らなりの様々な強さがこんな時でも、否こんな時だからこそなのか?わからない、わからない、…でもそんな時でもこの中に必ずと言ってユウゴ、ゴジラの背中を思い出していた。

 兄だとわかる前、姿を見せたあの線路での一件、一目で解るほどのその戦闘力を物語る背中、否どこかで見たことがあるような気がしていた。

 

 もっと昔に、ずっとずっと昔に見ていた背中…

 子供の時から見ていた背中…

 いつも自分の先頭にいた…

 いつもすぐ先にいた…

『アキ!早く来いよ!』

『待ってよ、お兄ちゃん!どうしてお兄ちゃんは先に行くのさ』

『……先に行ってない、前に進んでるんだ。そうすれば誰かがついて来るんだ。だから俺はその先に行く、誰かが俺の行く道が解るように、その誰かって言うのは分かってるだろ…』

 なぜ自分が遠い人を好き好みするのか、なぜ自分より先にいる人に憧れ目指し目標にするのかようやくわかった気がした。

 

 ガンっとアギラの横から伸びアギラのお腹の中央に位置するフレームに恐竜のような足が深く抑えつけ、あれだけの馬力がビクともせず動かなくなりそっと手を放しても全然動かなかった。

「俺より前に言ってんじゃねぇか、でも今は下がってろ」

「わぶっ!!」

 アギラの顔に大きな手が覆いかぶさり前方が見えなくなると強い力で押され吹き飛んだ。

 吹き飛び後ろにしりもち付き転がる。

 うつ伏せになったアギラの前には大きく黒い背中に白く先端の丸い白の背びれ、目の前に暴走車を抑えるゴジラの姿がそこに居た。

「お兄ちゃん!!」

「身の丈に合わないトコに行くなって言ったろ、お前にはまだ早いってな」

「行ったことないじゃん!そんなこと」

「えっ?そうだっけ? まぁ~いいか、とにかくこの車を!!」

 ゴジラはアンダースローのようなフォームでバンパーの下から抉るように掴みかかるとそのまま空中へ放り投げ、その回転反動で車は回転しながら宙を舞い、ゴジラもそれに合わせスケートのアクセルの如く片足を軸に押さえつけていた足で踏みしめ背びれからパルス状の稲妻が背びれから集約しやがて口に到達するとゴモラと同じだが威力は格段に上の超振動波が放たれ回転しながら回り続けながらエンジン部分に超振動波が貫くと爆発四散した。

「ふぅ~んん?」

 爆発の勢いでゴジラの方に向かって飛んでくる光るものが見えた。

 動体視力と反射によりキャッチするとゴジラは眼をまるめた。

「お兄ちゃん?」

「んんっ!ああ、大丈夫か?」

「ボクは平気だけど…車の持ち主は無事じゃないね…」

「知らねぇ、放置駐車をしてる奴が悪い」

「…無理矢理な正当化だね…でも一理ある。ここら辺最近こういうことばっかりだもん」

「そうかい、“獣解” 帰るぞ」

 変身を解き、そそくさと坂を上った。

 アキはまたこの背中に助けられた気がした。

 もし、父親を知っていたら多分きっと同じ背中なのだろうかと思った。

「何だよ、行くぞ」

「待ってよ  お兄ちゃん」

 アキは久しぶりにこのセリフが言えたことに微笑みが自然と出た。

「何だ急に、気味がわるっ…!!」

 違和感はアキの突然の笑顔ではなくもっと先の先の先の先から何かに誰かに見られていた気がした。

「どうしたの?お兄ちゃん…」

「いや、何でもない」

「??…ねぇ、今度お母さんのお墓参り行こう」

「もう行った」

「ええ!?いつ?」

「この間だ」

「お母さんなんて言ってた?」

「死人が口きくかよ」

 

 

 

「ふっふっふっ…驚くべき進化だ、たった十数年でこれほどまでの急速な進化、目にもの見るに中々だが、これでは不十分だ」

 先ほどアキを通り過ぎたローブの人物とは思えないほど真っすぐした姿勢で遠方のユウゴたちを1世紀くらい前の古い望遠鏡で覗き込んでいた。

 そんな古びた望遠鏡を使用するが腕から鳴るハイテクな機械の受信に気付きから手を伸ばし腕につく機械の操作を行い映像に切り替えた。

『こちらザグレス、こちらの手筈は整いました』

『こちらランデス、REDBANBOOがB・BMONSを世界中からの召集中ですが、B・コンドルがまたも単独行動を』

 独特な一線状のサングラスに長茶髪のザグレスに短茶髪のランデスからの報告に指示を問われた。

「ザグレスは常時待機。ランデスよ、その審議は私ではなくREDBANBOOの総括にある。私が手を下さずとも彼らの自由は彼らにあるであろう。まぁコンドルの異常性は私も一目置いている、問題なかろう。それが奴にとっては正常だ」

『いらぬことを申しました、まもなくそちらにベルベラが到着する頃だと思われます。統制官』

「いらぬのはその統制官だ。もう私は統べるに値しない。これからは陰からの侵略こそこの世界にとって効果的だ」

 そうこうしていると黒い翼を羽ばたかせながらやってきた怪獣娘が降り立ち変身を解いてゴシックなファッションの女が姿を現した。

「お~い黒影!あたしを迎えに使うな!アンタのタクシーじゃないちゅうの」

「インファントの巫女か…」

「むき~!あたしはもうあんな廃れた島の巫女じゃないわ!!」

 ベルベラはここに大きな来る大きな気配を感じ取った。

「なにかこっちに来よる!!」

 気配を感じとるとゼットンがテレポートしてきた。

「あなた達何者、誰なの」

「ほほぅ、かつてのゼットン星人の遺物か…」

「あぁ~あんた!!ムッキ~!!忌々しいチンチクリン怪獣!ちょっと人気だからってなにさぁ!!」

「あなた達が何者か知らないけど、敵なら排除するわ」

「フンッ!!」

 突如、ローブの手から放つ波動がゼットンに干渉するとゼットンは身動きが取れなくなった。

「ぐっくっ…うごっけっない」

「驕るな、貴様程度の怪獣ごときが光の巨人を倒したぐらいで驕り高ぶる哀れな星人などたかが知れている。20年前の主要都市への大規模な侵略が仇となった、あの日から」

「ひゃぁ~ざまぁざまぁ!!むき~!!あんたは特にこの二つ付けた脂肪が特に気に食わない!!」

 身動き取れないゼットンをうろつきながら好き放題言うベルベラを無視してゼットンは更に問いただす。

「あなた達の目的は何!」「無視すんな!!」

「…貴様には到底理解できまい…ゴジラの持つ進化の力を、それにはあの深紅の巨人の遺物が大きなカギとなることを…大きく変化するだろう、このごく短い時の中で大きなる災いをぶつける」

「ひゃぁ~~!!」

 横でベルベラが大きな声で怯えるように影法師の背後に隠れた。

 ゼットンの背後から異常な殺気が風の如く生暖かなにも思える様な得体のしれない何かが彼女の後ろにいることがわかる。

「化け者を見たような顔で驚くな コスプレ女」

「あんたのどこが人よ、このトカゲモドキ!大体これはゴスロリっていうファッションなのよ!」

「ボスからあんたを迎えに出向くように言われてたが…何やら面白そうなことをしてるな~どうすんだ?始末するか」

 ゼットンの肩に爬虫類を思わせる手がヒタリと乗り右手には大きな赤い刀身のマチェットがゼットンの頸に刃が触れた。

「よせ、必要以上な殺しは目立つ。私はここを出る」

「おお~そうかぃ、んんん?ちょっと待てよ…スンスススン…この匂い…緊張、不安、恐怖、いや入り乱れた感情によって分泌物が混ざり過ぎてるがこれは間違いない、フェロモンだなぁ…んん~時間的に考えて…ゴジラと言ったあたりだなぁ~…ああ~お前ゴジラに『惚の字』って訳か…ふ~んっフンッ!!」

 突如、ゼットンがこれまで体験したことのない強い力で地面にめり込むほど叩きつけられた。

「随分と奴の事がだいちゅきってか…奴の事を何も知らねぇガキが、一丁前に恋心とは~健気で甘酸っぱ~くてヘドが出る…甘え~は、奴の本性を知らなすぎる…」

「あっあなだわ…な…に…」

「俺か?…俺はゴジラと言う存在をだ~れよりも知っている…お前やアギラとかいう平和ボケした世界でヌクヌクと育った愛情と言う名の添加物まみれじゃなく、天然純度100%のイカれた世界こそが相応しいことも、何もかもだ」

「しゃべり過ぎだ…散れ」

「はいよ…じゃぁな…精々叶わぬ恋を楽しみ苦しめ…」

 力が緩まった瞬間、振り向きざまに裏拳で拳を構えると既に敵は居なかった。

 ゴジラをよく知っていると自称する見えなかった蜥蜴腕の怪獣漢らしき存在の言葉がいまだにゼットンの脳裏から離れないでいた。

 すぐさまソウルライザーに指を走らせトモミに連絡した。

「ピグモン…すぐに応援を呼んで…それとこのことは皆に言わな…い…で…」

『ゼットン!ゼットン!!どうしたのですか!?』

 滴る額の血が顔を伝う。次第に意識が朦朧としてきた。

 そして、ゼットンは横たわるように倒れ込んだ。

 

 

 

 ?? ??階地下

「んっ、珍しい。ユウゴ君がここに来るなんて」

「草薙さん、三枝さんは?」

「現在進行でボイコット中」

 扉の前にミキスペースと書かれた立て札に『立ち入り禁止』と下げ出入りを完全に拒んでいた。

 仕方なくユウゴは扉の前に立ち三枝に開けることを懇願した。

「三枝さん、俺です、ユウゴです」

 扉は開かれユウゴの胴体に飛び付く様に飛び出してきた。

「わぁ~!!やっぱりジュニアだ~!!聞いてよ、アサギちゃんに強制連行されて中年尾崎に文句垂れられミキお姉さんはこんな鉄で覆われたシェルターに幽閉されてもう3日も寝てない、辛い」

「毎回飛びついた挙句にドサクサに紛れてジュニアって呼ぶのやめてください」

「うるさいうるさい!私を癒せ!心身ともに疲れ切った私をあんたのそのあり余す筋肉で」

「無理です」

「いやぁ~やっぱ男は筋肉よねぇ~経年劣化による40の加齢臭親父より18のピチピチ筋肉ボーイよ」

「それより…例のアレ、どうなってます?」

「うん?あぁ~あれね…GIRLSから調査依頼引き受けたけど…どうしてこいつだけ頭部が残ったのかわからないけど今は機能停止しているわ」

 三枝に案内されたのは複数の電極に繋げられた大破して頭部だけ残ったシャドウビーストだった。

「シャドウだっけ?妙なブヨブヨの水羊羹タイプから大型のこのビースト、様々いるけど単に自然発生した怪物と言うよりそこら辺から生えだした草木みたいね。植物も一様生きているけど動物みたいに擬態する種もいるもの。細胞そのものがまず動物細胞と言うより植物細胞に近いわね…」

「誰かが作ったとか?」

「多分、ルーツの元をたどるとこいつらもMONS同様なのかもね。人間のエゴの傲慢によって怪獣の派生としてこの世に種を得た、とここまでが私の見解」

「……これっ」

 ユウゴは三枝に先ほどの乗用車から降ってきた何かを手渡した。

「なに?新しいMONSチップ?」

「そう見えるでしょう、こいつは一般乗用車に引っ付いて俺の妹が襲われました」

「うっそ!!アキちゃんが!?」

「俺が乗用車を破壊した時に落ちてきました」

「つまり、これ一つでどんな物質であろうとMONSになるってこと?これは実験のする甲斐があるってものね…でもちょっと休もう、羊羹あるわよ」

「いただきます……」

 ユウゴは振り向きシャドウビーストの頭部を見つめた。

「…お前も俺たちと一緒なのか?」

 シャドウに答えは返ってこなかった。

 やがてユウゴが出ると扉が閉まり誰も何も居ない暗い部屋となった。




見せられないMONS~

「ボクができる事…ボクは…お兄ちゃんを知りたい…ずっと知らなかった分のお兄ちゃんが見て感じたことをボクは知りたかったんだ…でもまたどこかに行きそうな気がしていたからボクは焦っていた気がします」
 アキは立ち上がり、足を滑らせて坂を転がって落ちて行った。
「わぁぁああああああああああああ!!」
 坂に止まりアキは顔を伏せた。
「だっ大丈夫?アギラ…」
(はっ恥ずかしくて顔を上げられない…)


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食後は吐くな

 山梨県 進錆村

 

 富士の樹海の中央に位置し、外界と隔離され国道以外の公共交通機関は無く現在ではネット上では「樹海に迷い込んだ人々が作り上げた村」「法律が通用しない村」「国の極秘実験施設」など様々な憶測が交差するが、実際はごく平凡な村である。

 

 村内 国道30号線

『鳥も~魚も~どこへいったの~~トンボも蝶も~~どこへいったの~』

 男は備え付けのラジオから流れる軽トラックを運転しながら国道を沿って進む中、田んぼや木々など自然豊かな領域で陽気にラジオと一緒に歌い出した。

『「水銀コバルトカドミウム 鉛硫酸オキシダン シアンマンガンバナジュウム クロ~ムカリュウムストロンチュウム 汚れちまった海 汚れちまった空」』

 この歌が流れる軽トラックに村人たちは目にするな否や叫び出した。

「久野先生だ!久野先生が帰ったぞ!!」

 村人たちは村民全域に聞こえるまで伝達すると軽トラックが向かう先に全員が向かった。

 

 

「か~えせ か~えせ…んん、ありゃりゃ~静岡に出てる間にまた…」

 軽トラックが民家の道の手前で止まると村民たちが波の如く押し寄せた。

「先生!ウチの母ちゃんがまた咳込み始めちまった見てくれ!」

「何言ってんだ、うちの娘は39度の熱出してんだぞ!」

全員が我先へと押し寄せる中、担架で運ばれてくる男の子がいた。

「いてぇ!!いてぇええよおおお!!」

「先生!マサの野郎が作業中に置いていたヤカンの湯被っちまって大やけどしちまったんだ!!」

 軽トラックから降りてきたのはお化けとも見間違ってもおかしくない程前髪で顔が隠れていた。

「見せて…」

 男の子の症状は腕から手にかけて皮膚が真っ赤になった熱傷だった。

 他にもむくれや水疱が目立つほどに広範囲に発生して深刻の状況であった。

「深達性Ⅱ度の熱傷だな。範囲もかなり酷い、今すぐ治療が必要だ」

 男は前髪も含めすべての髪を後ろに回しポニーテールの様な髪型となり先ほどと違いすっきりとした顔立ちが現れた。

「静岡まで行ってきたかいがあった。熱傷に効く薬草も手に入っている」

 男は後ろにある荷台に乗る様々な薬草から厳選して薬研と呼ばれる薬草類を細かくする道具で細かくし加工した。

 細かくした薬草を混ぜ合わせスライム状の液体が完成した。

「皮膚再生をさせるために血小板を促進させる薬草も入れた。これでよくなるぞ。その子の口にタオルか何か噛ませて」

 火傷した男の子の腕に筆ブラシで塗っていく。

 タオルを口に加えた男の子は痛みで悶え唸りだした。

「我慢しろ!男だろマサ!!」

「よし、しばらくすると痛みも引くだろう。後は包帯を巻いて経過を待ってくれ」

「先生!ありがとうございます」

「礼ならその子が完治してからにしてくれ。さっ次は?んん?」

 男の子が火傷した手で男の服を掴んだ。

 既に回復しかかっている証拠であった。

「ありがとう…ヘドラ先生」

「こら!先生に向かってヘドラって言うな」

「……いいや、よく頑張ったぞマサ坊」

 進錆村に病院はない。ただ一人、漢方医久野ヘイタが村のただ一人の医者である。

「さっ次は誰だ?全部回ったら次は東京に用事があるんでな」

 

 

 国際怪獣病院

 

 GIRLS発足後度重なる怪獣娘の出現に合わせ怪獣娘に対応できる医師と医療機関のために設立された総合病院である。

 従来の医療機関としての機能はもちろん、近年増加するシャドウ災害によって負傷した傷病者の搬送、怪獣娘のメディカルケアなどを行っている。

 

 そして、ここ内科でも怪獣娘の診断も行っている。

「ふ~ん…まぁ問題ないでしょう。でも無理は禁物ですよ。シャドウガッツによる外傷も目立たなくなっているけど怪獣娘だからと言って無茶しちゃダメです。次の大怪獣ファイトの出場には問題ないかと」

「ホントですか!?」

「ええっ、あとは経過的な観察も踏まえて今後ともお怪我の無い程度に練習してください」

 診察を受けているミクは医者からの朗報に歓喜した。

 以前の大怪獣ファイトの試合からしばらくしてこれまでずっと練習の日々に対戦相手がまだ決まらない中で、試合はいつでもOKと言う条件の中、ミクはいつ次の試合が決まっても良く待ち遠しい気持ちだった。

「次の試合まで待ってらんないよ」

「ミクさんの体力面や回復力なら問題ないでしょう。ミクラスは僕の知る限りここ最近の中で期待していますよ」

「えっへへありがとう久世先生」

 胸に光る『久世』のネームプレートと部屋いっぱいに置かれた怪獣のソフトビニール人形が目立つ診察室で看護師にミクのカルテが回った。

「そういえば、ミクさんにはもう師事する方がいるんでしたっけ」

「うん!あたしの師匠はもう凄い人なんだぁ。こう自分と同サイズの相手を拳一つでぶっ飛ばしちゃうんだ。 あたし、力こそ正義主義だから」

「はははっ、なんかわかるというより看護師から聞いていたけど…長いこと医者をやっているほど歴は無いけど僕も待合室であんな大きい人見たことないな~」

 

―待合室

「ママー大きい」

「こら!見ちゃダメ、指も指さないの」

 コングは目立っていた。

 待合室にいる人達頭一つ飛び越えガッシリした体格の『増量中』と書かれた変なTシャツを着た傍から見てプロレスラーにしか見えなかった。

「お~い!師匠~、バッチリOKだって」

「…そうか」

「次の試合まで特訓、特訓!」

 診断も終え上機嫌になるミクに連れられて来ていた。

「あれ~ミクミクとコングさん」

 丁度帰ろうとした時にトモミと偶然出会った。

「あれ?ピグモンさんが病院なんて珍しい」

「えっ、ええ…ちょっと院長先生に」

「えぇ~!病院の院長にピグモンさんが?…本当に珍しいなぁ~院長先生に会うなんて」

「まっまぁ、そういう日もありますよ~それじゃぁ」

 トモミにとってこの場でミクに会う手筈は無かった。言えない。急いでいた。ミクから離れるやトモミは駆けた。

 

 

 トモミは受付で指定された病室の前に立ち息を整えた。

 そっと扉に手を伸ばし、扉を開けた。

「あっ、ピグモンさん…お待ちしてました」

 奥には当病院の院長 川埜ノボルがいた。

「川埜院長、……ゼットンの容体は…」

「特にこれと言った事はまだ…」

「失礼しますが、あなたが岡田トモミさんですね」

 トモミの背後から長髪の女性に尋ねられた。

「あなたは…」

「MONARCのドクター、神宮寺ミサトです。今回のゼットンさんの緊急処置を担当させていただいた者です」

「…ゼットンをありがとうございます…それで」

 ミサトはゼットンのカルテを捲って容体の詳細を述べた。

「バイタルに問題はありませんが外傷は頭部頭蓋にヒビが入っており数秒間だけ意識はあったようです、あなたに連絡を送ったおそらくその後に、発見時ソウルライザーを握って気絶していたらしく、幸い彼女が怪獣娘でかなり頑丈だったから命に別状はありませんが脳震盪が激しく処置は施しましたが今も昏睡状態です」

「私もこちらに運び込まれたと聞いて…一体だれが…」

「発見時の隊員の証言ではビルの最上階で横たわり気絶していましたがゼットンの前の床に窪みが出来ていたことを見ると何者かに動きを封じられて頭を強く打ちつけられと予想されると見ています」

「あっあのゼットンが手も足も出ずに…私も俄かに信じられませんがピグモンさん、ご面会なら…どうぞ」

 川埜はパーテーションを捲った。

「お言葉に甘えて失礼します」

 中に入り、外では川埜とミサトが医者同士で話し合う声が聞こえる中、パーテーションに覆われた空間に生理食塩水の点滴とマスク型の酸素吸入で繋がれ頭に包帯を巻かれ変身の解けたゼットンの姿があった。

 トモミは置かれた椅子に腰かけ、ゼットンの本来の姿を改めて見直した。

 そして、答えるはずのないゼットンに思うことがあったのか語り掛けるように話し始めた。

「…ゼットン…私です、ピグモンです…お久しぶりですね、あなたが変身を解いている姿…ほんと、どこにでもいる普通の女の子のですね…ゼットンも女の子なんですから…ガッツみたいに無理しちゃダメじゃないですか……私達は怪獣娘…普通の人間じゃないわけないんですよ…今のあなたの姿が他の怪獣娘さんが見たら…心配しちゃいますよ…特にアギアギが知ったら…飛んでくるでしょうね………最強だとか有名だとか関係なく、普通の女の子の様に世間話をしながらおいしいスイーツを食べてください……スイーツと言えばゴジゴジから教えていただいた都内で美味しいスイーツのお店がいくつもあるんです……今日ゴジゴジがアギアギ達を連れて行くって言っていました…ほんとはあなたにアギアギの礼がしたいって言ってましたけど…あなたはいつもどこにいるか分からないから断っちゃいました……ゴジゴジの選ぶスイーツってはずれが無いんですよ…ほんと、残念ですねゼットン…あなたにも一緒に食べてほしかったです………もう行きますね…」

 トモミは立ち上がりゼットンが眠るベットから離れようとした。

 ピクッと僅かに指が動き、吸引器内の口から声を発した。

「…――ゴジ…ラ…―ゴジラ…」

「ゼットン、今なんて」

「……ゴ…ジ…ラ」

「ゼットン!ゼットン!」

 突然の異変に気付き外にいた川埜たちが入って来た。

「どうされたんですか!?」

「ゼットンが喋ったんです…」

「ちょっと失礼、……特に異常はありませんが」

 川埜が確認するも特に何も異変は無く、ゼットンは未だ昏睡状態であった。

「おそらくあなたが聞いたのはレム睡眠時の寝言でしょう」

「ねっ寝言…」

「まぁ気長に待ちましょう…回復力は普通の人間より高いですし」

「…えっええっ…」

 トモミはゼットンの寝言、『ゴジラ』と言っていたことをはっきりと聞いていたが故にどこか引っかかっていた。

(……なぜゼットンが…まさか!…そういうことですか…まったくあなたは素直じゃないですね~)

「ピグモンさん?」

 突然ニヤつくトモミに川埜は変に感じた。

「岡田さん、お取込み中すみませんがゼットンさんは次の週に試合が控えていると聞いていますが」

「えっええ、残念ですがこのような状態では試合どころではありませんので試合は棄権として…」

「それなんですが、もしよろしければ彼の力であれば早期に完治できるかと」

「えっ!?それって一体…」

 軽傷とは言えないゼットンの容体を解決できる方法があることにトモミは驚いた。

「一応、我々MONARCが知る限りの名医の一人を読んでおりますが少し問題が…」

「そっそれってまさか怪獣漢さんですか…」

「御名答ですが、彼自体は優秀な漢方医なのですが…問題は彼のカイジューソウルにあり…」

 

 

 

 レストラン REDMAN

「ミクちゃんドクターチェック通過おめでと~!!」

 ミカヅキに祝われると同時にみんなから拍手が沸いた。

「イエ~イ!!これであたし次の試合もバッチリだよ」

「今回、私出場しないけど次からは敵同士だかね~」

「お手柔らかにお願いしますよ~ゴモたんは~ん」

「ボクたちも応援しているからね」

「頑張ってくださいミクさん」

「みんな~ありがと~!!でもさぁ…」

 ミクは皆に激励され涙ながらに感激したが…

「すいません、惨殺イチゴパフェください」

「皆殺しミート盛り3つ」

「投げ落としサイダーを7つ」

 何とも言えないグロテスクなメニュー内容に店内のいたるところに血しぶきと血だまりの内装が彼女たちの食欲は失せ、カイジューソウルが恐怖していた。

「なんででしょう…妙に怖いです」

「何でこんな店にしたのさぁ…」

「前々から来てみたかった」

「今じゃなくていいじゃん!」

 店内から流れる不気味なBGMに呼ぶと毎回店員が『レッドファイト!』と言う度に怪獣娘たちのカイジューソウルの肝が冷える。

「こっ怖い…」

「わっ私もです…何か知りませんけど鳥肌が…」

「まっまぁせっかくのミクちゃんのお祝いなんだからアギちゃんのお兄ちゃんが一推すんだからきっといいお店だよ」

 そうこうしていると先に飲み物が来た。

 ジョッキサイダーの中に怪獣のような形の何かが幾つもあり水面には水死体のようなモノが浮いていた。

「「「「ひぃ~~!!」」」」

 怪獣娘たちが絶叫している中、意にも介さずユウゴたちは勢いよく飲みついた。

「かぁ~お前ら何してんだ。早く飲め」

「えっええ~…うぅぅ…えええい!ゴクゴクッ…ゴクッ…あれっ…おいしい…」

「ホントだ…見た目はアレだけど中々行ける」

「この上の奴もチョコですね」

続いて来たのは5キロ相当のソーセージやチキンにステーキと言った見ただけで胃もたれしそうな量の肉料理が来た。

「うわぁ~すっごい…いっただきまーす」

 これはさすがにおいしそうにも見え怪獣娘も噛り付いた。

「もっもうお腹いっぱい…」

「限界でず…先生たちはよく食べれますね…」

「当たり前だ…これくらい腹に入れろ、作家業も体力勝負だ…むっ!良いモノが思いついた。ダム子、メモを取れ!」

「むっ無理でず…」

「貴様!俺の前で腹抱えて無理とほざくか!!」

「ひへ~ゆるじてぐだざ~い!!」

 

 料理も食べ終えお腹を膨らます怪獣娘たちの横で別腹のデザートをユウゴは食していた。

「いや~なんだかんだで結構おいしかったね~」

「うん、ありがとうお兄ちゃん…」

「でもさぁ~こういうお腹いっぱいって時にシャドウとか現れたりするんだよね~ほらお約束~みたいな」

「ごっゴモたんさん…そういうこと言わないでください…フラグたっちゃいますよ~」

 しかし、そんなことを言っていたら本当にドーンと爆発音が飛びこんできた。

 ゴモラの冗談は本当になり店内を飛び出す一同だが食後とあって非常に動きにくかった。

「シャドウだよ皆~…いっいくよ~」

「「「「ソウルライド!!アギラミクラスウインダムゴ~モラ」」」」

 4人は変身してシャドウに立ち向かっていった。

「おらーー!!ウゲッ…お腹が」

「うぉぉぉ!!…はぁはぁくっ苦しい…」

「はっぁはっぁ…全然…動きにくいです」

「メガトンテールゥゥゥゥうううウゲェェ~気持ち悪い…ブッ…あっぶな…」

 全員がいつものコンディションにあらず食べ過ぎによってかなり危うい状況であった。

「お~い…モグモグ…お前らもっと頑張れよ…モグモグ」

「まだ食べてる!?」

 しかし、シャドウの猛攻はもちろん止められずシャドウの光線が荷物を乗せた軽トラックにぶつかりそうになったがギリギリで地面に当たったが爆風で横転した。

「あああ!!車が!!中の人がいるかも、早く助け出さなきゃ」

 怪獣娘たちが駆け寄り救助しようとしたが横転した反対側のドアからシャドウより怖い髪の毛のお化けが出てきた。

「「「「ぎゃぁあああああああ!!おばけぇぇぇ!!」」」」

「誰がお化けじゃ!!何してんじゃコラ!!」

 突然の髪の毛お化けに度肝を抜いて驚き腰を抜かした。

 しかし、一番驚いたのはユウゴたちであった。

「「「獣装!!ゴジラ コング ガメラ!!」」」

「あっお兄ちゃんたち…手伝ってくれるブッグゥゥ!!」

「えっちょぉきゃぁ!」

「「わぁぁ~~」」

 突然の介入かと思いきや軽トラックの持ち主だけおいてその場から怪獣娘たちだけ抱えて離れた。

「何してるのさぁお兄ちゃん!あの人がシャドウに」

「逆だ!あの中で一番危険ヤツはあの人だよ!」

「へっ?」

 軽トラックの持ち主は後ろの荷台の現状を見て震えだした。

「俺の…静岡での成果が……この時期しか取れない貴重な薬草を…テメェら…」

 ウネウネと動きながら持ち主に近づくシャドウたちが続々と集まりそして—

 バンッと持ち主の平手打ちが炸裂した。

 吹っ飛ばされた同胞の先を見ると転げまわりながら徐々に膨れ上がりやがて爆弾の様に破裂した。

 恐る恐るシャドウは持ち主の方を見ると手が何か黒い液体が滲み出て溶けているように見えた。

「水銀コバルトカドミウム鉛硫酸オキシダンシアンマンガンバナジュウムクロムカリュウムストロンチュウム 全部受ける覚悟はあるかコラァァァ!!獣装 ヘドラ!!」

 全身からヘドロのような液体を垂れ流しながら真っ赤な目が現れそれはまるでこの世の生き物とは到底思えず何ならシャドウに似ていなくもなかった。

「ひえ~~!!何ですかアレ…」

「公害怪獣ヘドラ…様々なヤバいバクテリアや細菌を体表に垂れ流しながら戦う歩く病原体だ」

 次々と黒い液体に覆われた手足でシャドウを撃退するが怪獣娘たちの目の前で生きたままシャドウと言う一つの種の生物が溶かされていくその姿はまさに地獄絵図であった。

「ウゲッ…どうしよう…もうダメ」

「げっ限界です…もう…もう」

「はっ吐きそう…ウブッ」

「馬鹿ッ!!ここで吐くっあああああああああ!!」

 

※ただいま文章が乱れております。今しばらくお待ちください。

 

「ふぅ~何だったんだ?今のブヨブヨ」

「ヘイタさん…急患です」

「うげぇ~えっ?ヒィィ!!」

「ヤダヤダ!!ヘドロお化け!!」

「馬鹿ッ!!滅多なこと言うな、この人はこれでも名医だぞ」

 抱えこまれた怪獣娘たちが暴れだした。

 後方ではガメラが火炎放射で熱処理を行っていた。

「大体、こんな危険な怪獣に医者なわけないじゃん!」

「大丈夫だ、ヘドラの体表のヘドロ事態が怪獣粒子だ。技と一緒で怪獣人間にはちょっと効くぐらいだ」

「それより車体を元に戻すの手伝ってくれ」

 コングが片手で元の車体に戻し変身を解いて全員で薬草拾いを始めた。

「おい、それはボレイだ、高麗人参の方に入れるな。おい!オウゴンとシコンを一緒に混ぜるな!」

「全部同じ草じゃん!!」

「薬草は全部一つ一つ違う効果があるんだ、それらを全部混ぜちまうと効果が無くなるものもある。リンゴとキウイを一緒にするようなモノだ。甘くなるが熟し過ぎて腐りやすくなるんだよ」

 黙々と分別され集められた薬草から選別しそれらを加工し始めた。

「お兄ちゃん…誰なの?…」

「ああ、久野ヘイタさんって言って中国の北京大学を飛び級で中国医学の博士号を取得して天津では名の知れた漢方薬膳、薬物療法の名医だったが今は富士の樹海の小さな村で漢方薬店をやっている人だ」

「えええ!?あの北京大学を飛び級で!?」

「知ってるのウインちゃん?」

「中国の国立名門大学ですよ!そんなところを日本人が飛び級で卒業して博士号を取るってすごい事ですよ」

「そうでもない…単に東洋医学を極めたく留学して才能が良かっただけの事だ…さっ出来たぞ…」

 スプーンでドロドロに溶けた薬を口に運ばれた。

「そのまんまだとお子様には苦すぎるから甘めにした。嘔吐による体力低下も考慮して胃腸機能を整える高麗人参も調整調合して入れた」

「…う~ん…栄養ドリンクっぽいけど…」

「…おいしくは、ないね…」

「文句を言うな…薬膳とはそういうものだ」

 しかし、薬が効いたのかみるみるよくなりかなりの即効性の効果が現れた。

「だいぶ良くなった気がする」

「そうか、なら俺はこれから国際怪獣病院へ向かわねばならない用事がある」

「国際怪獣病院ってGIRLSの近くの病院じゃん」

「確かに、ヘドラさんは大きな病院でも薬を取り扱ってるんですね」

「いや、漢方医として重症患者の薬物手術をおこないに行く。一応漢方医であるが医師免許を持つ医者でもあるからな、遠方からの依頼も多くある。あんたらGIRLSだろ、GIRLSに用があるなら乗せていくぜ、ただし最大2人までだ。俺の軽トラで大人数は無理だ」

「あっボク指導課に仕事があるからじゃぁついでに」

「じゃぁアギちゃんとはここでお別れだね、も~寂しくなるな~ウリウリ~」

「わわわっ止めてよゴモたん」

「んじゃぁ俺もついでに…次のスイーツ店に行きたいから」

「よし…ユウゴお前さんは後ろだ」

「へぇ?」

 

「ばいば~いアギちゃん」

 みんなで大きく手を振ってこの場を去るアキを見送った。

 それを返すようにアキも手を振ってわかれた。

「おい、ユウゴ。荷台に尻尾でてる」

「何で俺がここなんだ…」

 ちなみにゴジラは荷台の中で布を被って大き目の怪獣人形として荷物扱いだった。

「俺は人形じゃねっての」

 

 

『誰も いなけりゃ 泣くことも出来ない か~えせ か~えせ か~えせ か~えせ み~どりを 青~空を か~えせか~えせ か~えせ』

「凄い歌ですね…なんて曲なんですか?」

「『かえせ 太陽を』1971年に麻里圭子が歌っていた曲で日本の高度経済成長期の50年から60年にかけて起きた公害をテーマに誕生した曲だ。5,60年代はそれこそ四大公害病など教科書に載る公害病への抗議とアンチテーゼをイメージして作曲された歌さ」

 アキは学校の授業で習ったことのある四大公害病を知っていた。

 当時その時期に起きた水俣病やイタイイタイ病など急速な工場の生産性に伴い発生した有害物質による地域住民への被害と訴訟の歴史、やがて危機感を抱いた日本は1967年に公害対策基本法が公布され現在までに至ることを…

「あのころの日本ってのは急速な経済発展によって始まった公害で多くの人が苦しめられた時代の中、それでも永続に続く環境汚染に生物の死滅と自然破壊を繰り返す文明の業、自然が失われていることに気付こうとも見ようともせずにいた人間のエゴ、そんな中で誕生したのがヘドラだ。元は海に隕石と共に出現した極小微生物だったが地球の度重なる環境汚染によってさっきみたいなへドロまみれの化け物になっちまった哀れな人間の業の末路さ」

 ヘイタの言葉を聞いているうちにアキはユウゴの言葉を思い出していた。

 怪獣の存在、人間の業、それらすべて具現化した怪獣こそヘドラなのだと考えさせられた。

「俺は静岡の薬剤医だった親の過程でそういったことに触れてきて、しまいには中国で東洋医学の研究をしてきたが、中国の大気汚染に大規模な公害の数々、更にはヘドラときた…怪獣だとか医学だとかよりヘドラは俺にとって運命にも思えたし、使命にも感じた。でも現実は絶えず変わらない。発展が有れば失うものもあり、失えば得る者もある。それが、俺が中国で学んだことだ。所詮は文明と自然は水と油、人の便利の代償こそが公害であることに馬鹿馬鹿しくなって今は辺境の村でしがない漢方医って訳だ」

 単に運転しているから遠くの方を見据えているのかもしれない。

 しかし、その顔は何処か悲しげな雰囲気だ。

暗めの髪の毛で覆われたせいでもあるとも言い切れるため表情は読めないが、ヘイタの言った言葉は公害と真摯に向き合った者の目であった。

「おっ、着いたぞ」

 車で進むこと15分して病院の駐車場に入り、中で車を止め降りると川埜とミサトとトモミが待っていた。

「ひっ!おばっけ!」

 トモミは降りてきたヘイタの前髪の垂れ切った姿にビクついた。

「岡田さん、見た目はアレですがお化けではありません。彼が漢方医 久野ヘイタ先生です」

「あれ?ピグモンさん…どうしてここに?」

「ひゃぁ!!アギアギ!?」

 トモミがゼットンに合わせるのを最も危惧していた人物が漢方医と一緒に来た事に驚いた。

「なっなんでアギアギがこちらに!?」

「ちょっと訳ありでGIRLSに行くついでに乗せてもらったんです」

「そっそうだったんですか…」

 病院長としてあいさつと握手を求めた。

「お待ちせてました。当医院の院長の川埜ノボルです」

「漢方医の久野ヘイタです。それで患者のカルテは」

「こちらに」

「ちょっと待ってくれ…君、名前は?」

「えっああ、アキ、宮下アキです」

「よし、アキ。車内から俺のヘアゴム取ってくれ。それといい加減そこの特大怪獣人形を下ろしてやれ」

 アキは言われた通りにまず布を捲りゴジラを外に出させた。

「誰が特大怪獣人形だ!」

「へぇえ!?ゴジゴジも居たんですか!?」

「こっこれが怪獣漢ですか…意外と、でっデカいんですね…久世先生が喜びそうなタイプの怪獣だ…」

「荷物ついでに荷台に乗せてた」

「ったく…獣解」

「変身が解けてもなおデカい…」

 アキは言われた通り車内にあったヘアゴムをヘイタに手渡し前髪ごと後ろに回し束ねポニーテールにした整った顔立ちになった。

「カルテを拝見します」

「……意外といい顔立ちなんだな…」

 ヘイタにカルテが手渡されカルテの詳細から薬草を変別し始めた。

「患者は頭部にヒビがあり、バイタルは正常だが意識は無く現在昏睡状態…うん、適切な応急処置だ…これならこれとこれ、後これだ…患者がゼットンとか言う怪獣娘であることも考慮して骨芽細胞を促進させるものを…」

「ゼットンさん!?どういうことなんですかピグモンさん!!」

「はわわ!!ああ~バレちゃいましたか~…ああ~もう、仕方ありません! アギアギ、ゴジゴジ、これからお話することは他言無用にしてください。 昨日何者かにゼットンが襲われ現在昏睡状態にあります…」

「そんな!ぜっゼットンが…誰に!?」

「それを知っているのはゼットン自身なのです…だから久野先生に来ていただいて早急にゼットンの手術をお願いしているんです」

「うっうう…」

「にわかにも信じられないでしょうが…事実なのです…」

「手術と言っても薬物治療による処置だがね…」

 選別した薬草から加工した薬を持ちヘイタ達は病室に案内された。

 

 

 

「こちらです」

(こっここに…ゼットンさんが…)

 全員が病室の前で立ち止るとトモミがみんなの前に立った。

「申し訳ありませんがここから先は本人の意向のもと私とゴジゴジだけ入室をしていただきます」

「おれ?」

 突然の事に全員が止まった。

「えっ!?なんでお兄ちゃんが!?」

「実は先ほどゼットンが譫言の様にあなたの事を読んでましたので、あくまで重要参考人として私と同行を願います」

「そっそんな…大体お兄ちゃんは昨日僕と…」

「ええっ、十分理解しています。ですがゴジゴジには容疑者ではなく重要参考参考人として同行していただきます」

「それなら別に2人のどちらかが、この薬を患者に飲ませてくれるなら構わない」

「私たちも患者の守秘義務を尊重して了承します」

「ええ」

「うっ…うううう…お兄ちゃん!ゼットンさんに…迷惑かけないでね…絶対!ぜっ・た・い・に!!」

 アキは念を押すように口酸っぱく忠告した。

「わっ分かったから…」

「それでは…」

 ユウゴは薬を片手にトモミと共に病室に入っていった。

「お兄ちゃん…ゼットンさん…」

 

 病室内はたった一つのパーテーションで覆い隠された所だけ、他の患者はおらず一人の患者のために用意された大部屋だった。

 そのまま進み、奥の左にいる患者の場所に立ちパーテーションを捲りトモミと中に入った。

「それではゴジゴジ…お薬を」

「ああっ…」

 ユウゴはゼットンの眠るベットに近づいて首に手を回し、そっとゆっくりゼットンを起き上がらせ薬を口に運ばせた。

 わずかに意識がゆっくりと意識が戻りだし半目の中、辺りを見回した。

(ここは………ゴジラ……んん!!)

 ようやく意識を戻したゼットンだが僅かに薬を口にしたがあまりにも苦すぎて毒霧の如く噴出した。

 

 それは、外にいたヘイタも気付いた。

「……あっやっべ…甘味調合してねぇ」

「「「えっ?」」」

 

 薬にむせて咳込むゼットンの横で顔面に薬を欠けられたユウゴとさらにその横で吹き出し笑いそうになったトモミがいた。

「ごっごめんなさい…みっ水取ってもらえる」

「ほらよ」

 ユウゴはゼットンに水を手渡し、ピグモンから借りたハンカチで顔を拭いた。

「ゴクゴク…はぁっはぁっはぁっ…」

「あの人、甘く作ってなかったのか…すまんゼットン…新しく作り直してもらってくるぜ」

 一度置いた薬に手を伸ばすが手を掴み止められた。

「いい…これでいいから…もう大丈夫…」

「だけど苦いんだろ…新しく作り直してもらうからっておい!」

 ゼットンは勢いよく椀に残った薬を飲みほし苦いのを痩せ我慢で堪えながら口一杯に頬張ったが今にも吐きそうであった。

「ほっほら、無理するな。水飲め、水を」

「ゴクゴクゴクッ…プハァ~…はぁはぁ…いつ…私はこんなところに…どうしてあなたがここにいるの…」

「そんなことよりまだ無理しちゃダメだ…ほら横になって」

「いい…問題ない…大丈夫…」

「お前、頭蓋にヒビがあるんだぞ…まだ休んでなきゃだめだ」

 近い。近い近い近い…肩をしっかり掴まれ至近距離で男に横になるよう許容されるのはゼットンにとって初めてだった。

 自身の心臓がバクバク言っている心拍音が聞かれているかもしれない、脳が止まれ心臓と指示するも受け付けるわけない。止めたら心肺機能が停止し生命にかかわる大惨事になるため到底できるわけない。

 したがってゼットンが取るべき行動は、意地のポーカーフェイスであった。

 しかし、ここでも心配事はある。自分の顔は今、赤くないか赤面した顔がバレていないか、しかし他に方法は無い。

だから…

「ゼットン?」「おほんっ!よろしいですか」

「えっああ……」

「それでは…ゼットン、昨日あなたを襲った相手は誰か、あの時に何があったのか、どんな些細な事でも構いません。教えください」

 ゼットンは記憶の整理をした。

 昨日の事、ゼットンが見た物、そのすべてを…

「黒い…喪服の…怪獣娘…鳥いや竜…ベル?…あと黒みがかった紫のローブの男!」

「いま紫のローブの男といったか!?」

「御存じなのですか!?ゴジゴジ」

「そいつはきっと『影法師』だ…2年半前に戦場現地に多くの目撃情報が点々と増え巷では紫なのに『黒い影法師』と呼ばれている謎の人物だ…男か女か国籍も不明、当初は戦場界隈でよくいる聖職者ではないかとされていたが俺も直接会った事も無く1度だけ姿を見たことがあった…」

「どんな人物なのですか?」

「わからん…とにかく生きているような気配が感じなかった…まるで屍の様に生気を感じず…でも死んでるわけでは無かった…会話らしきこともしてたし意思疎通ができていた…」

 次にゼットンは思い出した事を口にした。

「あとトカゲのような腕をした男に頭を強く打ちつけられた」

 それこそ、ゼットンに傷を負わせた者の事であった。

「誰なんだ一体…」

「分からない…気配があなたに似ているようで違う存在にも思えた」

「どういう意味ですか?ゴジゴジに似ているようで違う?」

「分からない…気配がやけに生暖かく血生臭い感じで…嗅覚が鋭くて…」

 ゼットンは蜥蜴腕の男に言われたことを思いだしていた。

 思いだした中でただ一つだけ覚えていた。

『じゃぁな…精々叶わぬ恋を楽しみ苦しめ…』

 ゼットンは頭を大きく振ったが痛みで悶えた。

「おい!無理すんな」

「おっ思いだした…そのトカゲ腕…あなたの事を誰よりも知っているといっていた」

「俺を?蜥蜴っぽい腕の奴なら他に数人いるが俺をよく知っている奴はあんまり居ないが…昔からってのならアキと、あとは何人かだがいずれも人間だ」

「ゴジゴジをよく知る人物…一体誰なんでしょうか…」

「ごめんなさいピグモン…ゴジラと二人で話させて…」

「はっ…は~い」

 トモミは二人が見えない角度でグッと拳を握った。

 

「ええ~っとどうしようどうしよう」

 一方、外ではアキが入ろうか入りまいか迷っていた。

「よし…いっいこう」

 ガラッと開けたのはトモミだった。

 今にも開けそうだったアキを睨み返した。

「ごっ…ごめんなさい…」

 そっと扉は閉じられた。

 

 トモミは出たと見せかけて二人がいるパーテーションの陰に隠れて盗み聞きをした。

「……アギラはあなたを心配していた。いつか忽然と消えそうなあなたを…あの子は家族を失うことを恐れていた…」

「……それが何だ…」

「私は…あなたとは別のもう一人のゴジラを知っている…その人は常に笑顔でどんな時でも平常時でも笑っているように周囲から見えていた…本人は顔の作り状そう見えるといっていた」

「ならそいつは相当の皮肉屋だったんだろうな…そんなニヤケ面の男は…」

「違う!…皮肉なんかじゃない…彼は…心の底から笑っていた…辛い時も悲しい時も楽しい時も…どんな時でも…でも、誰も彼の本当の笑顔を知らない……私も…」

「…情緒不安定だな…そんな奴がいるなら拝んで矯正してやりたいぐらいだ…何処にいるんだ、そいつは…」

「……わからない、誰も知らない、彼の行き先も行方も…誰も知らない」

「話しにならない、そんなヤツと重ねられてモガッ」

「重ねてない…私は今のあなたに…アギラの前で…みんなの前で…―ぁしの前で…笑っていてほしい……心の底から」

 ユウゴの口に突っ込んだゼットンの両方の親指で笑顔を逆に矯正させられた。

 が、ユウゴはゼットンの手をそっと触れ、掴み、彼女の膝の上に置いた。

「俺だって笑う時もある、だがあんたの言うそいつの様に常時笑い続ける程、器用でもない……たぶんそいつは…もう人間でも生物でも怪獣でもなくなっていたはずだから…」

 ユウゴは立ち上がりゼットンの前から去ろうとした。

「……あっ…それとあんた、俺に見ることの感性があるのかどうかわからないが…あんた怪獣じゃ無ければと普通の人間なんだな…どこにでもいる普通の女性なのかもな……もしも、正しいのなら俺にはそういう事は知らないが…キレイはあんたのようなの人を指すのかもな…あんたもいつか本当の自分を出せる日が来るといいな…」

 パーテーションを分けて開き覆われた空間からユウゴは出た。

 

 

 一方、廊下ではアキと川埜だけになっていた。

「あれ?ヘイタさんは?」

「自分の用は済んだから帰っちゃったよ」

 

 

「『か~えせ か~えせ か~えせ命ぃ~を 太ぃ~陽を か~えせ か~えせ か~えせ』」

 漢方医 久野ヘイタの治療は続く…

 

 

「神宮寺先生も次も手術があると言って帰られた……そうか、君がアキ君が言っていたお兄ちゃんか…改めて見た限りいい青年だ……だが、君たち二人重要なことを教えておく」

「なっなんですか…」

「まっまさか…」

「それは………私の娘が今年で10歳になったんだ!んん~妻と告ってフラれて告ってフラれての繰り返し、ようやく結婚にこじつけようやく出来た娘、苦節十年、荒波に如く今や絶頂の幸せあ~ああ~愛してるぞ~!!シノブ~シノ~!!」

 国際怪獣病院長 川埜ノボル 既婚妻子持ちである。

「はっ始まった…川埜院長の家族自慢が…」

「なに!?」

「さて君たち、家族とは何か!そう家族とは愛!LOVE!」

 川埜ノボルの家族講座 ほぼ内容同じ永遠ループ5時間

 

 

 一方、ゼットンはユウゴが言っていたことをについて改めて考え直していた。

 パーテーションに区切られ隔離された空間、まさにゼットンの心を表していた。

 自ら孤高に生き、誰とも関らず、そうしてきたが故の孤独。

 しかし、彼女のそんな心を破壊する者が現れたことにゼットンの心臓は、血管は、神経は、脳は、全身が鼓動していた。

 何よりあの一言『キレイ』…これがどれほどの破壊力か、解らない、解らない、とにかく熱いがこの熱さを保ちたく布団を覆いかぶさ…

 シャー――と隣のパーテーションが開きトモミが口をニヤつかせ開ききった瞳いわゆる『温かい目』でゼットンを見つめていた。

「……いつから…聞いていたの…」

 トモミはゆっくり口を閉じ、ゆっくり目を閉じニッコリとした笑顔でいった。

「出ていくフリをしてパーテーションの陰に隠れたので~ず~っとです」

・・・ゼットンは顎から徐々に赤面し頭部に到達すると傷口から血ではなく蒸気がたちこめた。バレたから、違う違う。見られたから、違う違う。

 ゼットンは混乱した。とにかくソウルライド!!

「残念で~す、ゼットンはすぐ変身しようとするから事前にボッシュートで~す」

 悪魔だ。ここに赤い悪魔がいた。

「それに~今のゼットンの顔、ちゃ~んと女の子ですよ~」

 病室・廊下、双方カオスであった。




見せられないMONS~

「そうでもない…単に東洋医学を極めたく留学して才能が良かっただけの事だ…さっ出来たぞ…」
 スプーンでドロドロに溶けた薬を口に運ばれた。
「ぶっまずうゥゥゥゥゥ!!」

※ただいま文章が乱れております。今しばらくお待ちください。


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飛びこむ空挺

 アメリカ ロサンゼルス州某郊外

 NAVY SEALs

市街戦想定訓練

 

『NAVY SEALs』

 

 アメリカ海軍で2つの特殊戦グループと8つのチームに分かれて編成される特殊作戦部隊である。

 兵科は特殊部隊だがSEALsという名称はSEがSEA(海)、AがAIR(空)・LがLAND(陸)とあるように主に潜水、空挺、上陸戦と言ったように様々な作戦任務遂行に必須要項の資格者を有するエキスパート所属するアメリカ海軍エリート部隊である。

 

 しかし、年に一度だけ本部が存在するバージニア州でも所在地のカルフォルニア州でもないロサンゼルス州の郊外にて士官含み隊員編成された潜水、空挺、上陸戦にて武装勢力に占拠された郊外中央に位置するカトリック教会の爆発物処理と武総勢力に雇われた傭兵一体の確保もしくは殺害が想定任務である。

 あえて再度もう一度言おう、雇われた傭兵一体の確保もしくは殺害である。

 町の面積は実に約10K㎡、町としては大きくはないがそんな町にたった一人だけ?…いやいや、人ではない。

 先ほどから言うように一人ではなく一体である。

 そう、人ではないのである。

 

―C-17 グローブマスターIII

 

 しかし、特別に彼だけこの訓練に参加権が存在する。

 彼の名はフォード・ブロディ大尉、SEALsとは全く関係のない爆弾処理を専門とする部隊の所属である彼だが本訓練の常連者である。

 主に他SEALs隊員の観測者という位置づけだが無論彼も訓練参加者であるため任務遂行が優先される。

 しかし、チームで訓練されるこの任務だが彼だけチームは居ない…否、いらないのである。

「大尉、まもなく降下ポイントにつきます」

 フォードは立ち上がり準備が始める。

 降下用マスクを着け、パラシュートバックパックを背負い武装はM-4ペイント弾、ペイントナイフ、ペイント手榴弾と言った何とも実践装備を想定しているがほとんどサバイバルゲーム同然の装備であったが、これら用いてターゲットの胴体もしくは頭に命中からの爆弾処理、もしくはターゲットと交戦せず爆弾処理成功による訓練任務成功によって終了となる。

 既にSEALs隊員がフォードより先に訓練を開始している。

 町には港もあり水路も存在する陸路からなる囲まれた山々からの空挺着陸と様々な方法で四方八方の方角から隊員たちは教会を目指すが未だこの訓練の成功者はいない。

 ただ一人フォードを除いては……なぜ、彼だけ参加権があるか、それは想定の武総勢力に雇われた傭兵からのご指名だった。

 ランプが降下サインを出した。降下開始。

 フォードは勢いよく輸送機から降下し自分のマスクからの呼吸音だけが聞こえる世界がそこにはあった。

 パラシュートを開き森の木々に引っ掛かりながらパラシュートが木に引っ掛かりフォードはパラシュートを外して降り立った。

 マスクを外し、町の様子を双眼鏡で確認する。

 人気のない程、静かな町に不気味さがにじみ出ていた。

「他の部隊は…全滅か…」

 フォードは双眼鏡をしまい町に向かうが、ここで誰もが考えるだろう『森を出よう』と、だが一体はそんな思考を読んでこの訓練開始前に事前にいくつものこの森にトラップを仕掛けている。

 フォードは手より大きな石を投げた。

 石は地面にめり込みカモフラージュされた布と一緒に落とし穴に落ちた。

 フォードは思わずこんなトラップを仕掛けていたことに対して『いたずらっ子だ』と口にした。

 参加者は一体の仕掛けたトラップに引っ掛かった時点で即終了となる。なかなかの意地悪だ。

 フォードは警戒を怠らなかった。森を出るのではなく抜け出すことに専念した。

 

 そしてようやく抜け出すと今度は町に入った…がそこはペイントだらけの後、祭りは既に終了し残すはフォードのみとなった。

 ちなみにフォードのヘルメットには主観カメラがあり…

 

―モニタリング野営地

 

 粗末だが作戦本部である野営中継地点に届く。

 既に終了した部隊が渋々集まっていた。

 フォードの映像を見守るのは芹沢博士を日本まで見送ったステンツ提督だった。

「残すはフォードのみか…」

「いえ、まだトラップにいる複数の部隊が…」

「助けるだけ無駄だ。この作戦自体複数で行動すれば奴の思うつぼだ。単独で動くのが得策だ」

 

 

 フォードはこの静かすぎる世界にただ一人だけ…一方、相手は一体、数的には五分、だがこれは一人対一体、人間対人間にあらず者、先ほどから見られている気配がしていた。

 道中大きな爆発音がフォードに大きく反応を起こした。

 爆発音のする方を建物の影を背に隠れながらたどり着くとそこには網トラップに引っ掛かり木に吊り下げられたSEALs隊員たちが幾人もいた。

 皆、最初のトラップを超えここまで来たがこの町のトラップに気付かずに引っ掛かった者達であった。

 これに対しフォードはさすがに『MANGAみたいだ』と突っ込んだ。

 しかし、肝心は爆発した場所に書かれていた文字だった。

 SEALs隊員たちの所持するペイント手榴弾で器用に『1on1』1対1を表してペイントライフルで矢印を描き、その方向は爆弾の有るカトリック教会だった。

「…来いってことか…」

 お望み通り一体に導かれるように建物に隠れながら協会にたどり着いた。

 しかし、内部はおそらくSEALs隊員たちから奪ったであろうM-4のペイント弾の入ったマガジンで散乱していた。

 ゆっくりライフルを構えながらフォードは思った。

 自分は優秀な海兵ではない。それはフォードが良く知っている。フォードにとって最大の不幸であり幸運、こんな事に駆り出されて迷惑に思っているがそれでも毎年そつなくこなし続けた事により不思議と緊張はしなかったがそれがフォードにとって自分が自分じゃなくなった証拠にも思えたが同時に多くを学び、他の海兵以上に成長した証だった。

 爆弾はC4爆薬を模して造られた配線を複雑にしたトラップの多いダミーボムだがフォードにとっては朝飯前だ。

爆弾まで近づき解除を進め始め、ふと思い返した。

 ここまであまりにも順調すぎる、こんなにも何かメッセージ性の高いことをする奴がこうもあっさりと爆弾をどうぞ解除してくださいと言っているわけがなかった。

 と言うよりこれ自体が罠ァァ!!

 振り向きざまに銃を構えて見ると入り口上部のステンドグラスを割って奴が飛び出してきた。

 自分の身体を腕から生えたムササビを思わせる膜で守り教会の狭い空間を縦横無尽に飛び交うそいつは爬虫類を思わせるような手、何本も一列に並んだ角のような棘のシンプルな怪獣だった。

「本性表したな 東洋のチベット」

 光る眼に見つめられとにかく形成を有利に進めるために外に飛び出そうとするも内部で滑空飛行する怪獣に阻まれ抜け出せなかった。

「なら手土産だ!ムササビマン!!」

 手土産と称した指で持てるだけの手榴弾計4つのピンの抜き空中に放り投げた。

 手榴弾4つは爆発し教会全面にペイントが飛び散った。

 怪獣がひるんだすきに教会の入り口横の窓ガラスを割って飛び出し外に出ることができたが同時に割ったステンドグラスからムササビの怪獣がフォードに向かって飛び降りてきた。

 怪獣は爪をフォードの前に突き出し、フォードはもう一つ手持ちペイントハンドガンの銃口を怪獣の腹に突きつけた。

「爆弾の前で手榴弾使う爆弾処理兵が居るか」

「武装勢力が君を雇わず、アメリカが僕を派遣しないことを願うよ バラン」

「…訓練終了 今年は…引き分けだ」

 

 

 想定市街 港

 

 海を眺めコーラ缶を片手にふける男がいた。

 フォードはガウンを着た後ろ姿の男に近づいた。

「…日本に帰るのかい?…明日には」

「…ああ、みんな十分に成長したよ…お前もSEALsも…変わらないのは俺だけだ…」

「…僕は君の事を誇りに思うよ…尊敬している……初めて君と交戦した日の事…今でも覚えている…僕は手も足も出なかった」

「銃は出たけどな」

「爆弾を相手にする僕に比べて…災害を相手に多くの命を救う自衛隊を僕は尊敬している…幼いころ原発事故で退避を余儀なくされた時も…君たち自衛官が僕たちに衣食住を提供してくれた……君は僕に…お守りを託してくれた。僕のお守りだ…君は僕のヒーローだ」

そういうとフォードは胸ポケットにしまっていた両親と映る幼きフォードの写真を取り出した。

「あの時は防衛大生も災害派遣に学生隊として駆り出されて周辺の住民捜索の時、偶然お前の家に入って玄関に落ちていたのを拾っただけだ……それに俺はもう自衛官じゃない…凶悪な怪獣バランそれが今の俺だ…」

「それでもボクのヒーローに変わりない…君は必死になって避難所で父さんを探してくれた…僕の手をつないで…僅かな自由時間を切ってまで」

「ようやく見つかった親父さんも17年前に移住したハワイで…」

「僕はラッキーだったもんさ…親戚がサンフランシスコにいたからそこに引き取られて君と同じ道を…そして今がある」

「………サムは大きくなったろう…エルに無理させるなよ」

「ああっ…今度、帰って家族と過ごす。君も日本で幸があらんことを…東洋のチベットに」

 二人が持つコーラ缶を交わしその後、今回の市街想定訓練は今年で終了となり幕を閉じた。

 日本 国際怪獣病院

 

アキは病院の面会時間は早くにゼットンを見舞いに来た。

「すみません、204号室のゼットンの面会に」

「204号室ですね、少々お待ちください」

 受付が確認を取ると首を傾げて検索結果を伝えた。

「申し訳ございません。その様な方は入院されていないようですが」

「そんな…昨日確かにここの入院していたんですよ」

「申し訳ございませんがこちらでお調べできることができませんので」

 アキは落胆して渋々病院を後にした。

(きっと良くなって退院したんだよね…ゼットンは有名人だからきっと病院側も入院したことになっていないんだ)

 アキは自分の中で解釈して理解した。

 ゼットンはきっと無事に退院をして今もどこかで元気でいるに決まっていると考えるので精一杯だった。

 

 

 東京上空 高度3万フィート

 輸送航空機「メリーアン」

 

「降下20分前…機内減圧開始…周辺民間機無し、雲底高度視程よし、視界は良好です」

 MONARCは東京に怪獣を輸送していた。

「降下実施点に接近中…降下10分前、機内減圧完了」

 機内の輸送空気は薄くなった貨物室にその怪獣はいた。

 マスクもつけずただひたすらその時を待っていた。

「降下6分前! 後部ハッチ開きます!」

 機内の後部ハッチが開かれついにその時が来た。

「外気温度摂氏マイナス40度 降下2分前 起立せよ」

 怪獣はその2mの巨体を起こし二足立ちでハッチの前に立った。

「降下1分前…後部に移動せよ」

 怪獣はハッチの上に立ち、中から入ってくる風が怪獣の表皮を通っていく。

「降下10秒前…スタンバイ」

「すべて正常 オールグリーン」

 ランプが光りOKのサインを出し…そして

「着陸ポイントGIRLS東京支部…降下準備…カウント…5、4、3、2、1―」

 ハッチから飛び出しその反動に身を任せ身体を回転させながら東京上空に怪獣は降下した。

 空気を裂き、雲を抜けて東京全土が見えた。

 目標とするGIRLS東京支部が次第に見え始め怪獣は自分の脇にある飛翔膜を開くと落下が減速し風に乗って飛行した。

 

 

 GIRLS東京支部

―食堂

 

 改修工事を終え食堂が解放され期間限定でドーナツが食べ放題を開催していた。

「本当にゼットンさんに迷惑かけてないよね!!モグモグ」

「何度も言っているだろ、別に何も言ってないモグモグ」

「お兄ちゃんが何かをしないわけないでしょ!なに話したの!?モグモグ」

 そんなドーナツを頬張る兄妹二人の後ろで何やら躊躇っている者が2人いた。

「なぁなぁやっぱ聞いてみようよ」

「ふえ~でもちょっと近寄りがたいです…」

「平気だって、見た目はそこらにいる男の人と変わりないんだから」

 彼女たちはマガバッサーとその背後に隠れるマガジャッパの怪獣娘の風巻ヨウと竜波ユカはドーナツを頬張るユウゴとアキに話しかけてきた。

「あっあの~…ちょっといいですか」

「ほぁに?(何?)」

「あれ?君たちは確か…」

「あっあたしはマガバッサーです、こっちは」

「まっマガジャッパです」

「ほぉれで…?(それで…?)」

「あっあの…そっ空を飛ぶ飛行型の怪獣漢さんとかお知り合いに居ないかな~って思って…」

「どうして空を飛べる人なの?」

「あたし、もっと速く飛んでみたいんです。戦闘機とか見たいに速くてカッコイイ怪獣娘が今のあたしの目標何です」

「マガバッサーは男の子みたいだね」

「ガキっぽいってよく言われます」

 ユウゴは頬張ったドーナツを飲み込みヨウとユカの間を指差した。

「空ならあの人が専売特許」

 その指の先には狭そうな仮設の1人用喫煙所にいるヒエンだった。

「せっ狭い…」

 狭いがヒエンにとって有意義な時間の中での喫煙が唯一の…

「ヒエンさ~んヒエンさ~ん!」

 ヒエンは思った…どいつもこいつも空気を読め!

「なんだ!うっせぇな!!」

「ひぃぃ!!」「はわわわ!!」

「子供がいるんだから怒鳴らないでください」

 ヨウとユカはユウゴの後ろに隠れて警戒した。

「あっああ…わりぃ…で、なんだ。俺は忙しいんだから手短に頼むぞ」

 

 ヒエンはテーブルを囲みながらヨウの言い分を聞いて深く考えた。

「なるほど…速く飛んでみたいか……アホか!!」

「ひぃぃ!!」

「そもそも空中での音速の突破がどれだけ困難か分かっているか?…そもそも航空力学とか分かってるのか」

「ま~ったくです!!」

 ヒエンは呆れて頭を抱えた。

「まぁ、俺も人に詳しく教えられるほどでもないが…一人心当たりがある…その人に聞け」

「誰ですか?」

「う~んまぁ、言うなら…元自衛隊の教導だった人だけど」

「「!!」」

 ヨウとユカは目を丸くしていた。

 ヒエンとユウゴにではなく二人の後ろを見て丸くしていた。

 二人も振り返るとこちらに向かって何かが飛んでくるのが見えた。

「おい…おいおいおいおい!!嘘だろ!!」

 飛んできた生物はバンッと窓ガラスの外にヤモリの如く張り付いた。

「「「きゃぁぁぁああああ!!」」」

「「獣装!!ラドン、ゴジラ!!」」

 思わず変身して身構えるも二人には見覚えがあった。

「トビオさん?…あんたまた飛び降りてきたんすか…」

 窓をバンバン叩き始めた。

「多分聞こえてねぇぞ…窓を開けてやれ」

 窓を開け外の冷たい空気と共にゴジラ達と同じ2m越えの怪獣漢が入って来た。

「…よっ、ユウゴにヒエン…いや~東京の空はまずまずだった…ああっ…そう警戒しないでくれ」

 怪獣漢の目にはアキを盾にヨウとユカは怯えながら警戒していた。

「「「獣解」」」

 変身が解かれ180センチ代のガタイのいい多少老け込みが目立つガウンを着こんだ男性が現れた。

「…ほら、君らと同じ怪獣人間だ」

「ひぇぇぇえええ!!食べないでください食べないでください!!わっわわ私なんて食べてもおいしくないですし最近、匂いとか目立ち始めていますしとにかく助けてぇぇぇ!!」

 ヒエンが確認するもユカは完全に怯え切っていた。

「ああ~だめだこりゃ…トラウマになってる」

 男は頭に手を当てかきむしった。

「いや~すまんすまん、高度9000メートルから来たもんだから…GIRLS東京支部に着いたってことでいいかな」

「お兄ちゃん…誰なの?」

「さっき話そうとした、バランっていう怪獣の魂を持つ婆羅陀トビオさん。元陸上自衛隊第一空挺団に所属していた怪獣漢だ」

「空挺って…?」

「空中挺身って言って航空機から降下する陸上部隊の展開を目的とした歩兵の長距離移動法だ」

「「へぇ~…」」

 ユウゴはトビオの目的を訪ねた。

「今日は何しにきたんっすか」

「んんっ…ああ…ちょっと仕事でな…なぁ子供たちよ…おじさんから質問だ、ピグモンとやらの怪獣娘は居るか?」

「ぴっピグモンさん?…」

 

 事務室

 

「初めまして、ピグモンこと岡田トモミです」

「バランの婆羅陀トビオです」

「元自衛官さんと聞いていましたので怖い人かと思いましたが優しい方で安心しました」

 人当たりの良いトビオを見てピグモンは心の底から安心した。

「はははっ自衛官も人間ですから十人十色様々ですよ、まぁ私はもう人間ではありませんが…早速ながら明日の習志野駐屯地イベントに出場する怪獣娘の名簿を一通り拝見しました。 あとは当日の日程と予想されるイベントの—」

 GIRLSは明日の陸上自衛隊習志野駐屯地主催のイベントに元習志野勤務のトビオに警護を依頼していた。

 その様子を事務前の窓から覗き込む様にアキたちがいた。

「バランさんってお兄ちゃんたちより大人っぽい…」

「俺は10代だし、あっちは30年選手でベテランだぞ…」

「おい…ここにも一様大人がいるんだが」

「煙草を吸えば大人って訳じゃないっすよ」

「飲酒と喫煙が出来て初めて人は大人になるんだよ」

「む~~なんか大人ってそういうのじゃない気がします、ボクは」

「ドーナツばっか食ってるようなチンチクリンのガキにはわからんよ…20になって急に腹が出ても知らんぞ、20になると急に代謝が堕ちてブクブク太ってくるんだぞ」

「むぅぅぅ~~ちょっと筋肉があるからって…ボクは太ってなんか…」

 トビオは最終チェックに差し掛かり…

「あとは警護の人員なのですが…」

 トビオは首をぐるりとその目に映った事務室の窓からのぞくユウゴとヒエンを認識した。

「今、二人増えました」

「ちょっと待った――!!おい、おっさん!俺たちを勝手に入れるな!!」

 窓から身を乗り出してヒエンは抗議しに来た。

「良いじゃねぇか、お前ら暇だろ。考えても見ろ…自衛隊のイベントってマニアと家族連れが一般的だ。富士の総合火力演習だって夏祭りだってみ~んなそう。だが、今年になってGIRLS関連のイベントが開催とあって実際どれだけの人が来るか、どんなケダモノがいるかわかったもんじゃないだろ」

「そういわれると確かにそうだが警護なんて当日の自衛官でも事足りるだろう…大体、俺たちが関わることでも—」

「これが当日の怪獣娘の名簿だ」

 トビオが翳した名簿には数名の怪獣娘たちの中に「道理サチコ」の名があった。

「想像してみろ…大勢の人ごみの中からケダモノ…」

 ヒエンは即座に携帯で誰かに連絡をかけた。

「おう、俺だ?…ありったけの武器を用意しろ!銃器から火炎放射器に至るすべてだ!!ケダモノを血祭りの火だるまの燃えカスにする!!」

 解り易いほど単純に紅蓮のオーラが滲み出ていた。

「お兄ちゃんも同行するの?」

「まぁ、俺も暇だし…トビオさんには空挺技術教えてもらった仲だし…それに危ない人もいるから」

 ユウゴが隣に目をやるとヒエンは壁に向かってブツブツと自己暗示し始めていた。

「ケダモノコロスケダモノコロスケダモノコロスケダモノコロスケダモノコロスー」

 トモミ自身も自分が依頼しておいて不安に感じていた。

(私から依頼しておいて何ですけど不安ですね…当日、問題起こさないよう配慮しないと…)

 トモミはタブレットであるものを探った。

「それよりユウゴ…ちょっといいか?」

「?…ええっ」

 

 自販機前

 

 自販機から購入した缶コーヒーをトビオは取り出し一つをユウゴに譲った。

「あっ…ありがとうございます」

「ああっ…話ってのは、まぁ子供たちの前でいうのも癪だったからなぁ……今、世界で起きている状況が彼女たちには大きすぎる…」

「それで…」

「例のオーストラリアの一件でGIRLS並びに怪獣娘の疑念的思想が芽生え始めた…『荒野の狼』とか言うエコテロリストもそれを口実に規模を増やしつつあり、とうとう誘拐や生物兵器の使用未遂…まだ小規模な組織ならまだしも怪獣娘が手に負えきれない表沙汰になっていない組織の活動も増えている」

「…裏組織…」(例の“影法師”と正体不明の敵も…)

「おまけに今回の自衛隊イベント自体は防衛省からの唐突のお誘いらしい…尾崎大佐の言う通りならこの一件何かある…が、俺も元職場を疑うつもりが無いが現職上すべてに目を光らせるのが上等ってものだ」

 ユウゴは途方もなく何かが引っ掛かるほど胸騒ぎがしていた。

 自販機の横の窓から夕陽が沈んでいくように自分の中で何かが堕ちている気がした。

 

 

 

 

 千葉県 船橋市

―陸上自衛隊習志野駐屯地

イベント当日

 

「リポーターの立花ユリです。本日ここ陸上自衛隊習志野駐屯地にてGIRLS怪獣娘たちのイベントとあって会場は大いに盛り上がっています。 本日自衛隊駐屯地でのGIRLSイベントは初めてであり—」

 駐屯地は取材陣から観覧客で賑わっており、人で溢れかえっていた。

 そんな駐屯地の様子を駐車場からでもアキたちには確認ができた。

「ほぇ~…人いっぱい…」

「えぇ~…どうしよう…今され緊張してきた…あんな中でライブする何て無理無理!!」

「なに弱音履いてんのさぁ!」

「うぉ~なんかワクワクしてきた!!」

「はわわっ!!緊張します…」

「何だかお祭り見たいね…バードン」

「さぁ…興味ない」

 各自各々がこの熱気に押されそうになる中…

「結局俺は着ぐるみかよ…」

「おいユウゴもう少し足上げろ」

 ユウゴは上野動物園の時のガマちゃん着ぐるみを着こんでいた。

「それでは皆さん、案内役の自衛官さんに従って行動してくださ~い」

「案内役を務めさせていただきます。上倉一等陸尉です。本日はどうぞよろしく…んっ…もしかして…ちょっと失礼」

 上倉は怪獣娘たちをわけて間を通り彼の目に留まったのは奥でユウゴの着ぐるみ作業を手伝うトビオだった。

「やっぱり婆羅陀三佐ではありませんか!お久しぶりです!」

「お前…上倉か」

「はいっ…今は小隊長として入間に勤務してます。 今日は人が例年より多いため他の駐屯地からも派遣で来ているんです。 本日はよろしくお願いいたします」

 上倉はトビオに向けて敬礼を向けた。

「敬礼はよせ、もう俺は自衛官じゃない」

「失礼しました。それでは…」

 上倉は帽子のつばを下げ怪獣娘たちの案内に専念した。

 着ぐるみガマちゃんの少し口を開きユウゴが少し顔を出した。

「知り合いですか」

「ああっ…習志野駐屯地勤務時の同僚だ…」

 そしていよいよ彼女たちの祭りが始まった。

「それでは各自がんばりましょ~!」

「「「「「おおーーー!!」」」」」

 

 

 特設アスレチック

 

 ヒエンはここ体験ゾーンにて4人の怪獣娘たちの引率をしていた。

 (ったく…何で俺がガキどもの引率を…学校の先生じゃあるまいし…サチコに何かあったらどうすんだ…と言いたいがあっちはあっちでユウゴがいるから何とかなるだろうし)

 自衛隊でも使用される訓練用の設備は自衛官の体感能力と基礎体力向上を目的として設置されている。

 イベントなどでは一般人向けに自衛官の補助付きで体験することができる。

これに挑戦するは怪獣娘、バードンこと火野ユリカとブリッツブこと國枝アサミが立ちはだかる壁にぶら下がった縄を掴んで登るアスレチックに挑戦するのであった。

「バードン!どちらが先に着くか勝負よ」

「別にいいけど…」

 二人は一について合図と共に走り出し縄に掴みかかった。

「うんっしょ!いいいよぉっと!イエ~イ私の勝っ―」

「うっくっあぁぁ…ぐっ~」

 アサミに遅れて今だに登っているユリカがいた。

 しかし、ユリカから出る声はあまりにも必死過ぎる故に周りから非常に目立つほどの喘ぎ声に聞こえた。

「ばっバードンさん…なんか」

「ハッハレンチな感じが…」

 次のイベントまで自由行動だったヨウとユカにはあまりにも過激すぎた。

 しかし、アサミの目の方向はユリカの大きな胸にあった。

 大きな胸が弊害となっているユリカにアサミは自分の胸に手を添え確認した。天と地、雲と泥、山と板の差だった。

「くっぐっううもうダメ…あっ」

 ユリカの腕は限界に到達し力が抜け縄から手を放してしまった。

「あぶねぇ!!」

 咄嗟に動いたのはヒエンだった走り出しユリカを横抱きで抱えた。

「えっ…」

 落ちる際、世界がゆっくりと見える中、そこへ現れた救いの腕が彼女を捉えた。

「「「おおおおーー!!」」」

 グッキ!!それはヒエン、終焉の響きであった。

「あああああああああああああああああああ!!!!!」

 同時に声にもならない声が駐屯地全域に響いた。

・・・

「こっ腰がぁぁぁぁ!!」

 腰を抑え担架で運ばれるヒエンを見送る一同だったが、ユリカは顔を真っ赤にして手に握った拳が小刻みに震えていた。

 そこにアサミがポンと肩に手を添えた。

「きっ気にしないで…何もユリカが…その…重いって訳じゃないから…きっと捉えどころが悪かったんだよ…」

 アサミはユリカを精一杯フォローした。

 

 

 

一方ピグモンは風船を子供たちに配っていた。

「はいっどうぞ~はいっどうぞ~」

 子供たちに囲まれて人気であった。

 

 

 

 GIRLSイベント会場

 

 イベントは大きな盛り上がりを見せザンドリアスとノイズラーのバンド演奏は大盛況となった。

「可愛らしい怪獣娘さん達の生演奏でした。さぁ続きまして現役自衛官さんとの挑戦参加型スピードクライミングです!!こちらをご覧ください」

 怪獣娘たち、観客たちの目の前に布でずっと覆われていた大きなセットがその姿を現した。

 高さ10m、従来のロッククライミングのようにセメントで作られた掴む箇所がある。

 違いはロッククライミングより掴める箇所が少ない…それがスピードクライミングである。

「ではここでスピードクライミング上位ランカーの佐野さんにお伺いしますが、佐野さん、ずばりコツは何か有るのでしょうか?」

 佐野二等陸尉 国内ランキング4位。

「スピードクライミングは従来のロッククライミングより速いのでむしろ速く動くことを重視されます。その場で止まると手の疲労が蓄積してしまうのでより早く上へ上へと行くことですね」

「おお~…それではご自身の自己ベストは?」

「…平均男性では24~25秒ほどですが…これくらいなら速い人で14秒くらいでしょう…私もこの壁と同じ高さで普段練習していますがその時の自己ベストでしたら8秒ですかね…」

「なんとこの大きな壁を8秒!! では、この10mの壁に共に競える挑戦者は居るのでしょうか?どなたか挑戦されるという方はいらっしゃるでしょうか?」

 アナウンサーの合図で次々と我こそはと言うそれなりの筋力を持った猛者達が挙手し始めた。

「さぁ他に…なんでしたら怪獣娘さんたちの中いらっしゃるでしょうか?」

 アナウンサーが怪獣娘たちに振るとそれに無理と言わんばかりに首を横に振った。

「無理に決まってんじゃん、あんな高いとこに上るなんて」

「う~ん…飛び越えるのならまだしも、速く登る技術は無いからな~」

 しかし、怪獣娘たちが無理と言う中で壁を見つめる者がいた。

「なお、ご参加された方の中で佐野さんに勝利された方には習志野駐屯地食堂限定パフェが無料でご提供されます」

 それを聞いた瞬間、猛ダッシュでアナウンサーに走った。

「さぁ…どなたかいらっしゃ—えっ?」

 アナウンサーの目の前で手を上げる…いや、手と言うよりヒレを挙げる人物と言うよりキャラクターがいた。

 それは黒いガマちゃん(中のユウゴ)がズイズイと迫ってきた。

「なんとここでガマちゃんが小さなヒレで挑戦しに来ました!!」

「面白いですね…いいでしょう、やりましょう…ではすぐに着替えて—」

 佐野はもちろんガマちゃんが着ぐるみであることを分かっている。その着ぐるみの中の人の意思であることも。

 しかし、着ぐるみとはいえキャラクターの夢を壊すわけにもいかずガマちゃんは着替える必要はないとばかりに着ぐるみを脱ぐことを拒否した。

「…つまり、そのまんまで私に勝てるとあなたは仰るんですね」

 佐野はフェアな勝負のために着ぐるみを脱いで挑むことを勧めたが逆にこのままで十分というガマちゃんの挑戦に闘志に火が付いた。

 そしてここに人間対人外(?)対決が実現した。

「なんかすごいことになってるけど…あんな手でどうやって登るの?」

 ザンドリアスは心配そうに見つめる中、後ろからアギラの手が肩に乗った。

「アギラさん…」

「ザンドリアス…あれの中身はお兄ちゃんだよ…それはつまりどういうことか分かるでしょ」

「えっ…それってつまり」

 そう、ガマちゃんの中身はユウゴである。

 普通にはいかない。

「これどうやってつけるんだ?」

 設営の自衛官がずんぐりした体系のガマちゃんにクライミング用のハーネスをどうつけるか悩んでいたが…

 ガマちゃんはハーネスを身に付けず壁の前に立った。

「あっちょっと、ハーネスつけないと」

 ガマちゃんの口が開かれ中からバンッと手が現れた。

「「「えええええええ!?」」」

 突然の事に設営も観客もアナウンサーも佐野の度肝を抜いて驚いた。

 ガマちゃんは勝手にスタートボタンを押し秒がカウントし始めた。

 そして次の瞬間、壁に着いた僅かな取っ掛かりに手をかけた瞬間、ヒュンヒュンと素早く登り始めた。

「「「!!!!!!!??????」」」

 佐野もアナウンサーも観客も設営も何が起きているのかさっぱりだった。

 目の前で二頭身の着ぐるみがクライミングをしていることに人間の理解力が追い付いていなかった。

 しかし、もっと理解できていないのは佐野自身だった。

 クライミングは手だけで上ることもあるがボルダリングでも基本的には手と足、特に足の力で支え、手でその場の位置をホールドするためこれら手足の維持が重要視される。

 しかし、相手は着ぐるみを着たまま、手だけでスピードクライミングをしている。手と言うより指の力だけでこの僅かな取っ掛かりに捕まりながら上に登っている。

 しかもかなり速い…もはや常識の範疇外であった。

(よく着ぐるみズレ落ちないな…アレ…あの着ぐるみってあんなに幅あったっけ?)

 佐野の目にはガマちゃんの胴体が潰れたおはぎのように伸びきっているように見えた。

 解説するとガマちゃんの内部では着ぐるみがズレ落ちないように両足でガマちゃんのお腹部分の端と端を固定し、ボルトを調整して上っている時に口が開かないように固定して、僅かに開いた口のガマちゃんの下顎部分の金具をユウゴが口でくわえて支えていた。

 無論、内部のユウゴことゴジラの馬鹿げた体力と技術と力業が為せる人間離れした芸当である。

※絶対にマネしないでください。

 そうこう考えていると挑戦者のガマちゃんが一番上の銀のゴールプレートに触れタイマーが止まった。

 その記録、実に5,24秒である。

 この記録を着ぐるみを着たまま、手の力だけで登り、佐野の最高記録を上回っていた。

 佐野の完全なまでの敗北であった。

「…ええっと…この場合は…」

「私の負けで…完膚なきまでに」

 会場は突如現れたスーパーゆるキャラに歓喜湧いて盛大に盛り上がった。

「えっええっと…しょっ勝者飛び入り参加の挑戦者!ガマちゃ—ひっ!」

 アナウンサーはガマちゃんの口から出る両腕に両肩を掴まれた。

「パフェのタダ券寄越せぇぇ」

「ひぃぃぃ!!」

 内部から漏れる禍々しい声にアナウンサーは恐怖した。

 

 駐屯地 舎内食堂

 

 食堂は異様な光景だった。

 ずんぐりした体型の着ぐるみがパフェを食べていた。

 口から伸びる手で器用にデカい口に運ぶ姿はシュールの何物でもなかった。

 その光景はイベントを終え休憩中の怪獣娘たちにもガマちゃんの席から離れの席で見ていた。

「何で着ぐるみのまま食べてんの…」

「おそらく勝ったのはお兄ちゃんじゃなくあの着ぐるみのガマちゃんだからだと思う」

「キャラクターに徹底してるなー…ていうかシュールすぎてめっちゃ目立ってる…でも」

 ノイズラーはガマちゃんよりその周りにスピードクライミング上位ランカーの佐野に勝った化け物着ぐるみを見ようと他の人たちや自衛官が見物に来ていた。

「めっちゃくちゃ目立ってる…」

 

 

 設営本部

 

 本部ではひと段落終えたトビオが先に休憩していた。

「ふ~…歳かなぁ…疲れるのが最近早すぎる」

「あっあのう、婆羅陀三佐…少しお話良いですか…」

 そこに上倉が入って来た。

「だから俺はもう自衛官じゃねぇって言ってるだろ」

「…私には今だ…納得がいかないんです…あなたのような人がなぜ突然自衛官であることを捨てたのか…」

「……」

「教えてください!…あなたはなぜ!あなたは一体…2年前のアジアでの海外災害派遣で何を見たのですか」

 それは、婆羅陀トビオの過去に関わる追及であった。




見せられないMONS~

 ヒエンとユウゴにではなく二人の後ろを見て丸くしていた。
 二人も振り返るとこちらに向かって何かが飛んでくるのが見えた。
「おい…おいおいおいおい!!嘘だろ!!」
 飛んできた生物はバンッと窓ガラスの外にヤモリの如く張り付けずビルの下へと落ちて行った。
「着地に失敗したな…」


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超え過ぎた自衛

 『アジア連鎖型地震』

 始まりはドイツ系アメリカ人の地質学者アーノルド・シュターゲンが提唱したアジア連動プレート説の発表だった。

 彼曰く過去32年間にわたる怪獣頻出期の影響でアジア一帯の地質プレートに活発にぶつかり合う動きによって今後過去に類を見ない大規模な大型の地震が発生すると予想された。

 当初、学会側はアーノルドの妄想と捉えていた。

 アーノルド自身が足を運びインド山中まで地質調査による得た解析データが物語っていたにも目もくれずにたかだか4,50mの生物がキロ単位のプレートに影響及ぼすはずが無いと決めつけていた。

 しかし、のちにアーノルドの見立てた通り、それは起きた。 

 ネパールを震源として次々とマグニチュード7クラスの地震が連鎖の如く発生し、南、東、東南アジアの3つのアジア圏から中国南部、ミャンマー、タイ、ラオス、ブータン、ネパール,バングラデシュ、カンボジアと計8か国の地域で大規模な震災被害が発生した。

 発生後、既に高齢を迎えガンに蝕まれたアーノルドは『だから言ったではないか』と言い残し老衰で自宅にて息を引き取ったという。

 これを受け各国の軍隊、並びにNGO団体がアジア派遣を決定、日本も自衛隊と消防救助機動部隊から編成して最初の震源地のネパールへ海外派遣を決定した。

 海外派遣後、帰国した海外派遣組が国民栄誉賞を団体で受賞した。

 ただ二人、拒否した自衛隊海外派遣隊の佐官である婆羅陀トビオと消防救助機動第一部隊長を除いて…

 習志野駐屯地 設営本部

 

 上倉は問い詰めた…固く閉ざしたトビオの2年前のアジア派遣の真相を知るために—

「教えてください!…あなたは一体何を見てきたんですか」

「…なんでお前がそれを知りたがる」

「知りたいんです…あなたが国民栄誉賞を拒否した理由を…」

「……無能だったからだ俺が…溢れかえる瓦礫の下からたった一人の人命も救えないで、遺体をご遺族に見せ、崩れて泣く姿をただ見ているだけ…もちろん救えたこともあった…でも、帰国後に待っていたのは俺に降り注いだのはこれまで培ってきたものすべてが無意味に思えた虚無感…防衛大生からレンジャー徽章を取得し第一空挺団に配属されたこれまでの道のりが無意味に思えた…だから俺はレンジャー徽章も空挺徽章も何もかもをネパールの地に捨て婆羅陀トビオ三等陸佐は死んだ…そして自衛隊から俺は消え去った」

「それが…あなたがここを去った理由ですか…」

「自衛隊っての元々警察の予備として作られた保険に過ぎない…国や他方が有事の際にしか行動ができない、そのためこれまで散々金食い虫と揶揄されてきたが、いざ有事が起きて見れば俺たちができることは少ない…そんな中でも前見て進むしかない…レンジャーの意思たるダイヤモンドの精神がそれを表していたのに…俺は心に負けた最低の自衛官だった…それだけだ…」

 上倉は改めてトビオの真意を聞いたことに言葉が出なかった。

「くだらない話をしたな…じゃぁな…仕事に戻る」

 トビオは椅子から立ち上がり上倉から離れ立ち去った。

 自分から聞き始めて現実を目の当たりにした自分の後輩をこれ以上見たくない一心だった。

「あれ?…もしかして婆羅陀か?」

 突然話しかけてきたのはトビオと同じ体格の同年代の自衛官だった。

「丘村…」

「なんだ、お前も来ていたのか!…久しぶりじゃないか、連絡ぐらい寄越せよ」

 トビオの自衛官時代の同期との再会にはとても喜べない空気であった。

「なんだ?…ちょっと暗いな…上倉と何かあったのか?」

「まぁな…お前も派遣か?…市ヶ谷はデスクワークばっかりだと聞いていたが」

「腹出ると思ったか?残念。来いよ久しぶりに話そうぜ」

「……あぁ」

 二人は人ごみの中へと消えていった。

 その様子は上倉も見ていた。

「あれ?…あの人、朝の派遣集会にいたか?」

 

 

 習志野装備展示館

 

『こちらでは過去32年間での怪獣頻出期に実際に使用、運用されてきた自衛隊の国防名機の数々を展示しております』とテレビモニターから流れるナビゲーターの案内と共にその奥には実際に対怪獣戦で使用され退役した兵器をここ習志野駐屯地の展示館に寄贈されていた

 世界で類を見ない怪獣被災国である日本がこれまでいかにして怪獣から日本を自衛してきたのを見ようと観光客でいっぱいであった。

 そんな中、休憩の自由時間に観覧に来ていたユウゴとアキがいた。

「ほぇ~…これ全部が怪獣と戦ったのかな…」

「ああっ…ここにいる奴等もみんな歴戦も猛者たちなのかもな…なぜか知らないけどとても他人には思えない気配を感じる」

「きっとゴジラとも戦ったんだろうね」

「…かもな」

 やがて眺めながら奥へ奥へと進むと当館の目玉である歴代メーサー兵器が展示していた。

『こちらでは過去怪獣戦闘で運用された初代66式メーサー殺獣光線車を始めとした数々のメーサー兵器を展示しております』

 案内通りで行くとユウゴとアキが最初に目にしたのは初代メーサー兵器として有名な1966年に正式採用され85年まで怪獣たちと渡り合ってきた戦士が展示されていた。

 パラボラアンテナを思わせるような照射装置に装輪式のメーサー装置車と装軌式の牽引車で構成される自衛隊カラーの深緑色で配色され多少の傷を修繕した痕が残る姿をしていた。

 その他にも66式に続き改良された70式に続き、後継機の90式にこれら派生型の92式メーサー戦車に93式自走高射メーサー砲、95式冷凍レーザータンクと計5台のメーサー兵器が展示されていた。

「ほへぇ~…すごい」

「…こいつらも怪獣たちと激戦を繰り広げたのかもな…並々ならぬ気配を強く感じる」

 奥ではメーサーとは何か、そしてこのメーサー兵器を用いてきた数々の歴史が記されていた。

『そもそもメーサーとは小型原子炉により10万ボルト威力の高出量電撃を発生させる技術で1961年にロリシカ国から提供された原子熱線砲を研究し熱エネルギーの集中照射型発射機として初めてメーサー砲を開発したとされます。しかし、この時点ではメーサー兵器の基礎段階が完成されていましたがまだメーサーと言う名称ではありません。そして、ここから5年後に初めてメーサー兵器として完成され名称されたの井上ムツ率いる東宝学校にて1965年に後の66式メーサー殺獣光線車が誕生し、1966年に脳波怪獣ギャンゴに初めて実戦運用され以降数多くの怪獣に闘ってきましたが2000年にて国連調査で怪獣の絶滅が発表され2000年怪獣時代終焉に2001年憲法第9条の改正と全対怪獣兵器と共にメーサー兵器の退役、第四の自衛隊『特生自衛隊』の解体が決定し以後平穏となった現在はここ習志野駐屯地装備展示館に寄贈され保管されております』

「平和になった今だからみんな役目を終えたんだね」

「こいつらにとって平穏になったからこそここいるのが相応しいんだろうな」

「果たしてそういいきれるであろうか…兵器を美術品の如く扱うことが兵器にとって最善とは私は思えないがね」

 割り込む様にスーツ姿に帽子を深く被り目元がやや見えない男がユウゴとアキの隣にいた。

「すまない…恋人同士の観覧中に割り込むような無粋な真似をしてしまい」

「こっこいびぃ!…ちっ違います!!ボクたちは兄妹です!!」

「これは失礼…あまりにもお似合いのカップルに思えてしまったもので」

「かっ…かかかぁカップル!?」

「私がとんだ勘違いをしていたようですね…では」

 深くかぶった帽子をより深く下げユウゴとアキにすれ違った。

「…待てよ…あんたがさっき言ったこと…兵器は展示するのが最善じゃないとあんたは本当に考えているのか」

「…兵器は所詮人の殺意の総意。しかし、負の産物を美術的に見る者がいるのもまた事実…人にはそれぞれの観点の見方と言うものがある、私はそうは思えない…ただそれだけです……あなたはどちらに思えましたか?」

「…さぁな…美術などよくわからない…だがこいつらにも歴史がある。それらを多くの人に知ってもらうからここにあるんじゃないか、自分の存在を忘れてもらわないために」

「…そうですか、では失礼します」

 男はユウゴとアキから離れ観覧者の人ごみに紛れ姿を消した。

「不思議な人だったね…」

「ああ…不思議とどこかで会ったような気がする」

 男の独特の雰囲気にユウゴは何か引っ掛かる気配を感じていた。

 

 舎房 医務室

 

 あの後、ヒエンは搬送され腰にシップを張られ女性自衛官に看護されていた。

「これで大丈夫です。しかし、一体どうしてギックリ腰になったんですか?」

「メガトン級の肉に潰されかけた…」

 すると医務室のドアをノックする音が響いた。

「はいっ」

 女性自衛官がドアを開けるとサチコたち怪獣娘たちが様子を見に来た。

「お~い、おじさん!見舞いに来たよ~」

「ええっと?あなた達は…」

「お前ら!ああっ…俺の知り合いだ、って俺はおっさんじゃねぇって言ってんだろうが…いてて」

 無理に起き上がろうとして腰にズキズキと杭を打ち込まれる痛みが走った。

「ああー、まだ動いちゃダメです」

「ヒエンさん重症なんっすか?」

「重症も何も…かなり酷い急性の椎間板ヘルニアよ、何をしたらこんなになるのか見当もつかないわ」

 同行していた全員はクスクスと笑いながら廊下の方をチラリと向いた。

「それは謝らないとね~ユリカ~」

 散々言われて恥ずかしさのあまり顔を出せないユリカが廊下にいた。

「…わっわたしは悪くないから…ちゃんとキャッチしないその人が悪いんじゃない…」

「そういって~ほんとはお姫様抱っこされてうれしかったんじゃないの~…」

「ブゥゥゥ―!!おっおおお姫様抱っこなななっ馬鹿じゃないの!!」

「ユリカ動揺し過ぎ~」

 医務室内は本来の静けさと打って変わって騒がしくなった。

「にしてもホント速かった~!ヒエンさんの反射神経ってどうやって鍛えてんっすか?」

「超クールだったらしいじゃん!おかげでいい曲が出来そうだよ!んじゃ1曲行って~」

「はわわわ…しぃ静かにしないと…」

「頼むから静かにしてくれ…タバコも吸えないこんな場所に搬送された身にもなりやがれ」

 割ってトモミがGIRLS代表して御礼を申した。

「大変お騒がせしてすみません。ヒエンさん、バードンの事は私からもお礼を申し上げます。おかげでバードンもケガ無く済んで私も安心しました。あなたが身を挺して守ってくれなかったら大惨事になっていました。ヒエンさんはバードンのヒーローなのに本人が不愛想でごめんなさい」

「ちょっピグモン!変なこと言わないでよ!大体そんな貧弱で脆くてボロボロなその人のどこがヒーローよ、バッカじゃないの!?」

「コラー!それ以上言うとピグモンも怒っちゃいますよ~!」

「分かったから静かにしろ…用が済んだら帰れ」

「彼の言う通り、今は絶対安静です。申し訳ありませんが面会はここまでにお願いします」

「ごめんなさい…じゃぁまた後で見に来るね、おじさん」

 わらわらと医務室から出ても彼女たちの話し声は中まで聞こえてきた。

「まぁぶっちゃけお前の方がヒエンさんに会いたがってたよな~…もしかしてヒエンさんみたいな人が好み~」

「はぁ~?なぁ何言ってんのよノイズラー!!なわけないでしょ!歳離れ過ぎよ!――」

 騒がしかった医務室が一瞬にして静まり返った。

「良い子たちじゃないですか…わざわざお見舞いに来るなんて」

「ったくおっさんじゃねぇつうの…なぁあんた」

「はい?」

「タバコ吸って」

「ダメです」

 ヒエンは再度試みるも女性自衛官に念を押され喫煙を禁じられた。

 

 

 ?? ??

『こちらガーゴイル1、カメレオンがムササビの誘導に成功、送れ』

「ムササビはそのまま所定まで引き付けろ、送れ」

『ガーゴイル、了解』

『こちらスリーパー、配置に着いた、送れ』

「その場で別名あるまで待機、送れ」

『スリーパー1、了解』

『スリーパー2、了解』

『スリーパー3、了解』

 暗がりの部屋からスーツ姿の男が扉を開いて入って来た。

「全員の配置、完了しました。後はトロールを動かすだけです」

「よくやった…さて、どう出るかな怪獣たちよ…君たちの力が果たしてこの国に必要な自衛力を有するか…拝見させてもらおう」

 帽子を取り、机に置きモニターに映るユウゴをその瞳に入れた。

「…宮下ユウゴ…私は君に対する私念はない…が、ゴジラには君が知り得ない程に私とゴジラは深い因縁が存在する…他のどの怪獣よりも…ずっと」

 

 

 トビオは駐屯地兵舎裏まで進み続けると人気が無くなって来た。

「それでそれで話ってのはまぁ大したことでも」

「待てよ丘村…お前、今でもカラオケで長渕剛の『とんぼ』歌っているのか?」

「ああ…『とんぼ』俺の一番好きな曲だからな…特に出だしのコツコツとから始まるところがなぁ」

「……そうか…フンッ!!」

 突如、トビオは丘村の顔に回し蹴りを繰り出した。

 衝撃の反動を喰らった丘村だが、勢いを殺すように受け身を取った。

「丘村は俺の防衛大時代一の音痴だ。カラオケなんか一緒に行ったことすらない…」

「……こちらカメレオン…割れた、送れ」

 偽者の丘村の無線に続いて茂みや窓から次々と黒ずくめの兵士が姿を現しトビオに銃口を向けていた。

「……独特のコードネーム、全身黒ずくめ集団…お前ら、特殊作戦群だな」

 トビオはこの囲い込む黒ずくめ集団に見覚えがあった。

 自衛隊内でもごく少数僅かの隊員で編成され実態の殆どが不明、隊員も顔も所属も殆ど不明の特殊部隊であった。

「昔にオファーを受けた後に止めたことをまだ根に持っているって訳でもなさそうだな…おまけにメーサー銃ときた…何で自衛隊が地球防衛軍と同じ装備を所持しているんだ、そもそもお前ら陸自か?」

 偽者の丘村の隠し無線からノイズが流れだしてきた。

 それをトビオに突きつけるように翳した。

『ザザーッザー…やぁ婆羅陀三佐、いや今はバランと呼んだ方が君にはよろしいかな』

 明らかにボイスチェンジャーで声を変えた無線の主が無線マイクから現した。

「誰だ、お前…こいつはどういうことだ…」

『彼等は君の察しの通り特殊作戦群の精鋭部隊…ただし陸自ではない…陸自特戦群からさらに選別して選ばれた極1割の存在…特生自衛隊特殊作戦群、主に近年頻発するシャドウ災害への対抗として武力鎮圧を目的として編成された部隊です』

 無線から交わされた内容にトビオは驚愕した。

「馬鹿な!特生自衛隊は2001年に解体されたはず」

『あなたが思う以上に我々は既に対不明生物との対抗のため防衛省から極秘裏に再建され組織されているのですよ…まぁその点ではMONARCと同類でしょう…規模も五分の五分、なにぶん秘密事が多すぎて予算が降りないのが悩みですがね』

「その割には世界の軍隊がのどから手が出るほど欲しがるような装備を有しているな…メーサー銃はメーサー兵器の部類に入るだろう、なぜ自衛隊が所有している!明らかな憲法違反だ」

『さすがは三佐、伊達に10年間勤務していたわけではないようですね…しかし、これはメーサー銃ではありません。従来のメーサー兵器とは小型原子炉により10万ボルト威力の高出量電撃を発生させる技術、それらを応用して銃に高電圧エネルギーを弾丸に込め内部で回転運動を起こし弾丸の速度と威力を高め射出するのがメーサー銃…ですがこの銃が射出するのは弾丸ではありません』

「!!…レーザー兵器か」

『あなたはどうやら勘がよろしいようだ…だが我々はあなたと銃談議をしに来たのではありません…ご存知でしょうか?なぜ怪獣娘にしかシャドウが倒せないと言われているか』

「さぁな…興味は無い」

『実はこれらは全くのカバーなのです。正確には核で焼き払えば済むでしょう…しかし、核の使用は大きすぎるが故に使用は制限され、また使用しても次のシャドウが現れる可能性がある。所詮はいたちごっこ同然…そんな時に現れたのが怪獣娘と言う都合の良い兵器、人類が為す術の無い中で突如として現れ可憐に戦うその姿を人々は救世主とする、国連にとってこれほど外見も良しな、都合の良い兵器が有るでしょうか』

「…つまり国連は女子供を都合よく利用して兵器に利用していると」

『実際そうではありませんか、彼女たちをうまく利用して今日までウマいことをしてきたのは一体だれか?…それはこの世界に住まう人類ですよ。彼の光の巨人がいなくなり怪獣が絶滅した今、怪獣の魂を持つ少女たちを飾り人形として祀っている。それまで厄災の存在だった怪獣を化け物とぶつける…これほど理にかなった関係性は他に無い』

「…誰が良いとか悪いとか俺にも彼女たちにも関係ない…」

『この世界に善など存在しません。持ちつ持たれつ利用し合いうまく回す、それが自然の摂理と言うものですがあなた達怪獣漢はその摂理から大きく逸脱している。居るだけで危険な存在、動き出せば世界をも破壊しかねない…あなた方怪獣漢はイレギュラーなのですよ…あなた方が世界で何しようが勝手ですが、この国であなた方の自由を認めるわけにはいかないのですよ三佐』

「……ほざきやがれ、お前は所詮伝書鳩に過ぎない。本当は俺たち怪獣が存在することに都合が悪い人間の代理人だろうが」

『三佐…あなたはお話が早い。さすが元自衛官、他の怪獣漢ではこうはいかなかったでしょう…』

「さぁな…あいつらも俺も馬鹿じゃない、おのずとお前らの心理にたどり着くだろう」

『では、あなたと我々自衛隊、どちらがこの国をこの世界を自衛するにあたるのか…ハッキリさせましょう』

 それはすべての合図だった。

 

 

 《UNDER LOADER Standing reboot》

 駐車場の一角に突如として起動した機兵が狙うは—

 機兵から向けた銃口の放たれた銃弾は怪獣娘たちが乗って来たバスに被弾、爆発炎上した。

 幸い誰も乗っていない…否、いないことを最初から想定されていた。

その爆音は駐屯地全域に響く程であった。

 

 

 そしてそれはユウゴとアキの耳にも届いていた。

「なっ何!?爆発…」

「……!?」

 

 

 同時に怪獣娘たちにも—

「なになになんなの!?ここ自衛隊の基地でしょ!?何で爆発起きてんの!?」

「あっちは私たちの乗って来たバスがある駐車場…」

 廊下の先々にまで響いた爆音が彼女たちの不穏を掻きたてた。

 廊下の奥から自衛隊標準の小銃、89式小銃を抱えた自衛官が駆け寄って来た。

「GIRLSさんですね!申し訳ありませんがイベントは中止です!たった今あなた方が乗って来たバスが何者かの兵器により破壊され大破、炎上しています。詳しい事は後にして我々の誘導にしたがってください」

「待ってください!まだ私たちと別行動中の怪獣娘たちが何人かいるんです!」

「今駐屯地全域に避難勧告が発令され我々も総力上げて事態の鎮静に当たってますので皆さんは一度避難を、他の関係者も後に合流して避難していただきます」

「それなら私たちも手伝…」

「待ってください! ここは自衛隊の皆さんの誘導に従いましょう」

 トモミは冷静な判断で自衛隊の避難誘導に従うことを選んだ。

「どうしてピグモン!私達なら解決できるじゃ」

「バードン、私達怪獣娘はテロリストと戦うためにいるんじゃありません」

「それなら私とアサミなら経験済みよ、前にだって旅客機で」

「今回だって旅客機の事件の様に行くとは限りません!ここには何人もの来場者や皆さんもいるのです!一人で勝手な行動を取ればより危険は増すのです! だからここは自衛隊の皆さんに任せて私たちも避難します!」

 ユリカは歯をきしませ苦虫を嚙み潰した。

「……何よそれ…逃げるようなものじゃん」

「バードン…」

「ご案内します!」

 怪獣娘たちは自衛官の誘導に従い避難した。

 

 

 一方、今も避難活動をしている敷地内で大騒ぎになり混雑していた。

「慌てないでください!落ち着いて避難に従ってください!」

「おい!押すな!」「早く行って!」「どうなってんだ!?前に進めねぇぞ!!」「わぁ~ん!!怖いよ!!」

 大混乱の状況を目の当たりしたユウゴとアキも避難活動にあたっていた。

「どうしようお兄ちゃん…」

「かなりの混乱状況だな…」

 そこに屋台などを叩き潰しながら機兵が姿を現した。

 身長は屋台と比較して少し高めに5m弱の白みがかった配色の二足歩行ロボットだった。

「ロッロボット!?」

「何で自衛隊の駐屯地にロボットがいるんだ」

 ロボットは内蔵カメラでターゲットを認識した。

 狙いはゴジラ、ユウゴに向かって走り出した。

「のわぁ!?って狙いは俺か!…アキ!お前は狙われてない!こいつの狙いは俺だ!今すぐここから離れろ!!」

 ロボットはユウゴを追うように地面を叩き、更には機関銃で応戦までしてきた。

「くっこいつ…なら来いデカブツ!」

 ユウゴはダッシュでロボットの視界の下にスライディングをしてそのままある場所に向かった。

 

 

 医務室では騒ぎに気付き女性自衛官が確認を取っていた。

「こちら医務室!今そちらの状況は何が起きているんですか!…もしもし!?もしもし!?」

「……なぁあんた…俺が合図したら伏せろ」

「えっ?」

「行くぞ!321伏せろ!!」

 女性自衛官は何が何だか分からず反射的にかがんで伏せるとヒエンはベットをひっくり返してベット自体を盾にすると窓から黒ずくめの何者かがスタングレネードを投げ込み閃光が飛び散り銃を向けて撃って来た。

「きゃぁぁああああああああ!!」

 閃光の影響で女性自衛官は気絶した。

 しかし、ベットが盾となり二人に銃弾は防がれた。

「こいつ!ベットを盾に!!」

「うらぁ!!」

 ギックリ腰のはずの患者とは思えない身軽さで敵二人を蹴りで制圧した。

「ぐっ!!」「のわぁ!!」

 着地するもやはり腰に痛みが走り腰を抑えた。

「動くな!!」

 声のする方向を見ると女性を取り押さえヒエンに銃を構えていた。

「てめぇ!!その人を人質に—ウグッ」

 それは首と腹部辺りから何かが刺さる感覚が走った。

 確認すると首と腹部に麻酔弾が撃ち込まれていた。

「てってめぇ…グううう…らぁ!!」

 それでもヒエンは倒れず渾身の力で近くにあった花瓶を取った敵に投げ当てた。

「ぐっ!この化け物め」

 そういうと逆上して人質を取っていた敵は持っていた麻酔銃からありったけの残弾を打ち込んだ。

「馬鹿よせ!!殺すな!」

 しかし、既に18発も打ち込んだためさすがのヒエンも倒れた。

「死んだのか?」

 敵が脈を確認するとまだ鼓動を続けていた。

「いっ生きてるぞ…20発も麻酔銃を撃たれているのに」

「とんだ化け物だ…」

「さっさと“ヒノトリ”を運ぶぞ」

 用意した携帯担架を組み立てその担架にヒエンを乗せ運び出した。

 

 

 こちらは今も避難誘導中のさなかに上倉はトビオを探しまわっていた。

「婆羅陀さん!婆羅陀さん!どこですか!?」

 舎房連棟裏に差し掛かって来た。

 僅かな角度で差し掛かるとトビオとその周りを囲む謎の集団を目撃する。

(あれは…婆羅陀さん…と、さっきの人…よく見ると市ヶ谷の丘村さん…市ヶ谷は今日のイベントに派遣されていないのになぜいるんだ?)

 

『あなたは後輩に随分と下手な嘘をつくのですね…三佐…挫折したから自衛隊を止めたなど下手すぎます…あなたが本当に辞めた理由…私は深くあなたの事を調べ、何もかもを知っている』

「…………」

『婆羅陀トビオ、生まれは岩手県北上川の上流の小さな集落で幼少まで過ごすもダム建設により集落は閉鎖、その後宮崎県に移住し以後高校まで過ごし、防衛大をブービーで入学しその後、雀路羅市原子力発電所にて学生隊として派遣、その数年後に幹部レンジャー資格取得、空挺資格を取得の後に第一空挺団所属するも訓練の日々、しかし、あなたに突如転機が訪れた…そう『アジア連鎖型地震』が発生、海外災害派遣にてあなたはアレと出会う…』

「何の事だ…」

『あなたの事はすべて知っていると言っているでしょ…あなたがネパールで取り憑かれた…当時、ネパール政府に管理されていた『バランの魂』にあなたは触れてしまった…大まかな筋書きはこうです…あなたは自身がモルモットにされることを危惧して自衛隊から逃げる形で退職…そもそもあなたのカイジューソウルは『後天性』、他の怪獣人間のような『先天性』ではない』

「………」

 

(怪獣…人間?…バラン?…それにネパールでいったい何が…)

 

『そもそもあなたとバランはずいぶんと言った相互関係の良好な方らしいですね…あなたの生まれた集落では婆羅陀魏山神と呼ばれる神を祀っていた不思議な風習がおありで特に婆羅陀家は代々婆羅陀魏山神の守り人だったそうで…そんな方がなぜ集落を捨てたかは不明ですが…あなたの家系が祀っていた神の正体こそバラン…あなたとバランは深い深いご関係だそうで……さてここから本題です。 婆羅陀三佐、今一度その力をこの国の自衛に役立てて見ませんか?』

「何…止めた自衛官をまた戻そうってのか…自衛隊はいつから人材不足なブラックになった」

『我々はあなたを高く評価している…いつまでも傭兵まがいなことをして日銭を稼ぐおつもりですか』

「その対価は…」

『この国に住まう人たちの盾となれる…それ以上に無い対価では』

「国のために戻り、一生捨て駒同然として働けと…自衛隊には虫の良すぎる話だな…人間じゃないから人権なんてクソくらえと……どこまでも狂ったドス黒さだな…」

『あなたの今のお姿…亡きご両親が見たらどう思うでしょうね』

「…三文以下芝居の泣き落としとは…自衛隊も焼きが回ったな」

『この国はもとより狂ってます…残業時間の増大、少子高齢化、教育の質の低下、上げれば上げるほどにキリがない事実、良い所しか見ず悪い所は目を逸らし見て見ぬふりをする。誰も望まないから誰も見たくない…それがこの国の現状でしょう』

 

「おいっ!離せ!!」

「コマンダー、目撃者です」

『おやおや、これは…あなたにお客様のようですね…』

「上倉!!」

「何なんだお前たち!これはどういうことだ!?」

『どうやら騒ぎが招いて呼び寄せてしまったようですね…』

「まさか…この騒ぎも全部お前たちの仕業か!?どこの所属だ!!場合によっては裁判ものだぞ!!」

『仕方ありません…始末してください』

「了解」

「おい待て!!何をするつもりだ!止めろ!!」

「くくくくくくっははははははははははははっ!!」

「ばっ婆羅陀さん…」

『とうとう気でも狂いましたか?』

「このレベルならお前らほどではないだろう……お国のためにお命捨てがまりの連中がとうとう同職に対して銃口を向けていることに笑えないわけないだろう…なにが『この国に住まう人たちの盾となれる』だ…アホらしい……愛国心が聞いて呆れる…特生自衛隊は多少の犠牲何て何とも思わなくなったか…それこそまさにお前らも怪獣の一匹だ……だがなぁ、怪獣を飼いならそうなんて考えないことだ……野郎どもに手を出すとお前らごと世界だって宇宙だって滅ぼすぜ…アホみたいなスケールの話をしているが…あいつ等ならやりかねないし俺もそうしかねないからな…」

『つまり交渉は決裂ですね……構え!!あなたの言うことが正しいのなら…怪獣など生かすわけには行きませんね』

 周りの兵士がトビオに向けて銃口を向け始めた。

「それともう一つ…俺が嘘が下手なら…お前は芝居が下手だ…黒木」

『……どうやらバレていたようだな』

「プライドの高いお前の事だ…俺みたいタイプが一番嫌いなのによくもまぁ我慢してリクルートしようとしたもんだ…おまけに敬語まで使いって…そこだけは褒めてやる」

『すべて上の命令だ…お前のような怪獣を利用しようなど死んでもごめんだ。で、お前はこの状況…どうするつもりだ婆羅陀』

「その前に事前に言っておくぜ…今回の一件でお前ら特生自衛隊は俺らを敵に回した……おそらく今頃怒り狂っているぜ…そして俺もだ…獣装!バラン!」

「変身するぞ!」

「待て!発砲許可が出ていない!」

『……』

「ばっ婆羅陀さん…」

 上倉の目の前に突如として全体を豹変させた婆羅陀ことバランの姿を目にした。

「おいっ…」

「ひっ!来るな化け物!」

 バランは上倉を抑えていた兵士に近づいた。

「セーフティが掛かってるぞルーキー」

「あぁ……」

 僅かに確認した隙にバランは兵士から銃を軸に対人格闘を繰り出し投げ伏せた。

「貴様!」

『待て!そいつに銃は効かない…新しく開発しなければな…』

 バランは銃を投げ捨て上倉を掴んで高く飛び去った。

「こちらカメレオン…目標が離れますが」

『構わない…我々の目的は怪獣にある…民間人を利用する度胸は我々にあるはずもなかろう…』

 兵士たちは追従を諦め撤収をかけた。

 

 ひとまず舎房裏から離れた舎房の屋上にたどり着き降り立った。

「ここなら安全だ…じゃあな…」

「待ってください!婆羅陀さん!…あなたは一体…」

「……俺はバラン…怪獣漢バランだ」

 そういうとバランは大きく羽ばたいて滑空してユウゴの方に飛んで行った。

「バラン…婆羅陀さんあなたは人間を止めたのですね…」

 

 

?? ??

「…怪獣は私の獲物だ…どこまでも追いつめるぞ…婆羅陀」

「特佐、Gに動きが」

「さてこちらの様子は…」

 

 

 ユウゴは一方的に変身せず逃げ回っていた。

 それはある場所を探していたからである。

「何処だ…何処だ…あっ!あった!!」

 ユウゴはダッシュをかけて先の小屋に入った。

 ロボットも追うように小屋に腕を突っ込んだ。

 しかし、捉えられずモニターに映ったのは大きな黒い足—

 更にそこに大きく吹き飛ぶと宙を舞ってバランが蹴りを降下して繰り出した。

「婆羅陀さん!?」

「遅くなったゴジラ!行くぞ!!」

 ロボットは起き上がり2匹の怪獣の前に立ちはだかった。

 

 

 怪獣娘たちは避難に従って高機動車に乗り込み進み出した。

 車内では怪獣娘としてもどかしい気持ちで揺れながら固く押し殺した。

「ねぇ…私達って何処に避難するのかなぁ?」

「さぁな…別の自衛隊の基地じゃねぇか?」

「ふ~ん…おじさん達大丈夫かな…」

 それでもまだ駐屯地にいるかもしれない者たちの不安が彼女たちに降り注いだ。

 

「こちら1号車、GIRLS移送車異常なし、送れ」

『こちら2号車、ヒノトリ移送車異常なし、このまま八王子まで迎う、送れ』

「了解」

 

 

「さぁ見せてくれ…進化して隠れ続けた怪獣の力を」

それは高らかにまるで卓上ゲームの如くモニターを見据える怪獣に憑りつかれた一人の男の歪んだ執念だった。




見せられないMONS~

 偽者の丘村の隠し無線からノイズが流れだしてきた。
 それをトビオに突きつけるように翳した。
『ザザーッザー…1番サラバガラナに追いつき4番ミナトモズクが出たぁぁああ!!』
「おい、競馬ラジオついてんぞ」


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大人と防衛

 ロボットに意思は無い。

「くっ!こいつ…」

 プログラムに従い、獲物を狩る。狩らねばならない。

「こいつは第一世代型土木汎用人型機械『UNDER LOADER』こと『10式Uローダー』だ。 元々は自衛隊の災害派遣用に都美之重工社製の作業機械として採用されたヤツだが、この動き…おそらく現行のパーツを入り組まれて改造されている のわぁ!!」

 狩らねば自分という存在が消滅する…だが機械に明確な生存意欲は存在しない。

 簡易的なAIで稼働するデカいだけの人形。

「こんな機械人形でも中に人が入って操縦する、下手に内部のコックピットを狙うな!足だ!足を狙え!」

「なぁこと言っても相手のリーチが長過ぎる…」

 ゴジラは勝機を見出そうと考える。

 中に人がいる可能性がある中でこの巨人とどう戦うか…

「うぇえええん!!お母さぁぁん!!へっぐひっく!」

 ゴジラたちの目に逃げ遅れた女の子が映った。

 それはUローダーの主観カメラも捉えた。

 しかし、反射的に大きな音に対して攻撃プログラムの動作のもと、子供にその凶器が牙を向いた。

「あぶなぁぁいぃぃぃぃ!!」

 アギラは咄嗟に女の子に走った。走って走って女の子を庇うように覆いかぶさった。

「アギラ君!」「アキ!!うぉぉぉおおお!!」

 ゴジラもまた咄嗟だった。Uローダーが壊した屋台の長い鉄パイプを怪獣粒子でコーティングした素手で斬りつけ鋭利になった鉄パイプを槍投げの様に遠投し鉄パイプは空気を貫きながらUローダーの足を貫いた。

 足に鉄パイプ槍が突き刺さりバランスを崩して銃口は僅かにアギラから外れ二人は怪我無く無事に済んだ。

「よし!Uローダーの動きが止まった!」

「アキ!今のうちにその子を連れて逃げろ!」

「うんっ!しっかり捕まって」

「…うんっ」

 アギラは女の子を抱えて走った。

 ゴジラは動けなくなったUローダーの中身を確認すべくコックピットハッチを無理矢理こじ開けた。

「こっこいつ!……誰もいない…誰も乗っていないです!」

「なにっ!?そんな馬鹿な…」

 機械人形の中は、もぬけの殻だった。

 しかし、内部の無線からノイズ混じりで声が現れた。

『ザァーザァーザザッ—Uローダーを止めていただきありがとうございます。おかげでケガ人が出ずに済んで何よりです』

 ゴジラにはこの声に聞き覚えがあった。

 脳裏にフラッシュバックするのはあの時、装備資料館で話しかけすれ違ってきた男、ゴジラに間違いないという確信と共にマグマの如く煮えたぎるような感情が溢れかえりそうになった。

「ケガ人が出ずに済んだだと—この状況の中で一体どこで何を見ているか知らないがこの元凶はお前かスーツ男!!」

『勘違いをなさらないでください。こうしてこの機体の無線が通じたのがやっとなのです。我々も何度もこの機体にハッキングをかけ停止させようとしたのですが、システムにウイルスに浸食させこちらのコードを受け付けなかったのです』

「なんだと…どこの誰だか知らないが、仮にも自衛隊の大規模イベントをぶち壊されたか分かってんのか!?」

『あなたがなぜそんな心配をしているのです…怪獣が民間人の心配など似合わないことをしますね』

「なんだと!」

『あなたは足もとにアリが居ても気にしますか?そうやってあなた方は私達人間をアリの様にうごめく存在として認識して気にもせずに踏みつぶしてきたではありませんか』

「……てめぇ…今どこだ!!」

『あなた方のすぐ近くに我々はあなた方を監視している』

「ならすぐに顔を出さない方がいい、俺はお前をどうするか俺自身が解らない」

 ゴジラはあたりを見回す。それは同時に警告とばかりの眼差しからの視線をすべての方向に飛ばした。

 無線の主が何処で見ていようが必ず真向から対抗するという意思表示だった。

『ほぉ~…さすがは破壊の怪獣、あなたは破壊のために生まれた存在、あなたはそうやって直接も間接も関係なく自分の周辺のモノすべてを破壊する…まさに怪獣そのものですね』

「言いたいことはそれだけか…」

『ああ、そうそう。その機体はどうやら囮でありウイルスの輸送の役割を担っているようですね』

突如、先ほどゴジラとアギラが賢覧に行っていた装備資料館から爆発音が鳴り響いた。

 トビオは目を疑った。それは自衛官時代から何度も見て聞いてきた存在が姿を現したからである。

「嘘だろおい!!ありゃ90式メーサー殺獣光線車だぞ!!何考えてんだ!!」

 栄光のメーサー殺獣光線車が資料館から飛び出しその姿を露わにした。

『どうやら過去の栄光を目覚めさせてしまったようですねぇ…さぁあなた方はどうなさるおつもりで』

 その機体のパラボラメーサー照射装置から高電圧の電撃が発射された。

 

 

 

 

 一方、駐屯地から少し離れ高機動車に乗せられ避難中の怪獣娘たちが不安な面持ちで車内に揺れながら外に続く後ろの高機動車の辺りを見渡していた。

「…ねぇおかしいよ…あたし達が乗る車以外の同じ車何て全然ない」

 ヨウが外をのぞいた限り確かに避難する高機動車はなく、その代わり仰々しい程にゴツゴツとした見た目の車が一列に並走して進んでいた。

「本当にどこに向かってんのよ、この車!」

「確かに…ちょっと変ですね」

 トモミもこの異変に気にかかっていたが先ほどから運転席からの自衛官からの返答は無い。

 

 

「こちらGIRLS移送車、八王子までの道の交通規制を確認した。これより高速に入る。送れ」

『ザーザー—トリ、かく—ザーザー』

「どうした、応答しろ」

『ザーザザー―ヒノトリ 覚醒!繰り返す!ヒノトリかくあぁああ!!』

「おい!どうした2号車!送れ送っ…」

 通信からの異変と同時に運転席の頭上に護送車が宙を舞って墜落してきた。

 思わず慌ててハンドルを切り急停車した。

「「「「きゃぁぁぁ!!」」」」

「何なのよ~急に!!」

「もっ申し訳ありません!皆様はこのまま待機をお願いします!…行くぞ!」

 運転者の自衛官二人が降りて後方に向かっていった。

「なんなの…一体」

「あっザンドリアス、勝手に」

 待機を言い渡されるも後ろにいたサチコはそっと高機動車から顔を出すとラドンを取り囲んで多勢無勢の状況にいた。

「ガキども!!今すぐ逃げろ!!このっ」

「取り囲め!ヒノトリに近づきすぎるな!!」

 テーザーガン複数をラドンに打ち込み電流を流し込み電流が流れているようすが目視でも分かるくらいラドンが光輝き流れ切ると体表から煙を吹きながら捕獲縄で首と手を捉えた。

「よし!捉えたぞ!」

「なぁぁめぇぇぇるぅぅぅなぁぁああ!!」

「のわぁ!!」「うぁぁああ!!」

「馬鹿な…50万ボルトのテーザーガンを複数も受けているんだぞ!普通なら死んでもおかしくないはずなのに…」

「気をつけろ!!奴は怪獣だ!もっと広く囲んで取り押さえろ!!麻酔銃を打ち込め!!」

 指揮者の合図に合わせ回り込み銃をラドンに向け始めた。

 目に余るこの状況にサチコは今にも前に出ようとした。

「おじさっ」

「待ってよザンドリアス!さすがにこの状況はまずいよ…」

 静止するように引き留めたミサオはサチコの腕を掴み止めた。

「でも、このままじゃ、おじさんが…こんな…こんな…こんなの弱い者いじめじゃない!それを黙ってみているなんてできないよ!!」

 サチコはミサオの手を振りほどき機動車から飛び降りてラドンに向かって走り出した。

「…あっ!君、来てはダメだ!!車に戻って!!」

 サチコは自衛官を突き飛ばして前へ前へと走った。

 そして、全力走でラドンにたどり着き、振り向いて体を大の字に隊員の前に立ちはだかった。

「おっおおおおおっおっおじさんを!!いじめないでぇぇぇぇ!!」

「ば…か…野郎…なんできやがった…」

 涙ながら銃を構えた隊員たちの前に叫びをあげた。

「コマンダー、ヒノトリの間に子供が入りました。発砲許可を願います」

『構わない、君たちはこれまでどのような状況下でも対処できるように訓練されたはずだ…が、子供を避けて狙うように…標的はヒノトリ一点』

「了解、構え!!」

「何でなのよ!!私いるんだけど!!」

 隊員たちは冷静だった。サチコが前にいよういまいが御構い無しに狙いを定めた。

「ちょっと待った!!とりゃぁ!!」

「ひやぁぁ!!」

「よっと!!」

「はわわわっ!!」

 次々と変身した怪獣娘たちがラドンを取り囲む様に立ち塞がった。

「お前ら…何で逃げなかった」

「みんなヒエンさんを置いて逃げるなんてできないです。ザンザンが勇気を持って身を挺しているのにGIRLSの仲間として黙ってるわけがありませんよ~」

「みっみんな~~ちょ~怖かった!!マジ無理マジ無理!!」

「なんのために飛び出していったんだよ、お前」

 全員で取り囲む状況でも隊員たちに変化は無いが、狙いにくく撃ちにくかった。

 仮にも彼らも自衛官として民間人に流れ弾が当たる確率を考慮して待機を余儀なくした。

「おい、サチ…ザンドリアス、バック開けるぞ」

「えっ?ってちょ何してんの!!私のバックを漁らないでよ!!」

 隊員たちが躊躇している僅かな隙をついてラドンはサチコのバックを漁りあるものを取り出した。

「あった…こいつさえあれば」

「それって…タバコ!!ザンザン~あなたはいつからそんな悪い子に~」

「わっ私のじゃないですって!!」

「非常時のためにこいつのバックに忍ばせておいた新品の煙草だ。こいつがあればこの状況を打破できる」

 サチコのバックから取り出した新品の煙草をラドンの鋭利な爪で箱ごとカステラの様に切り分けた。

「これを…ばら撒く!!」

 空中に散った煙草は内部に入っていた小間切れになった葉が空気中に漂った。

「新品だからこそいい…空気に触れていない真新しい粉状の葉は酸化していないから燃えやすい!!伏せろ!!」

 全員が反射的に伏せるとラドンは指のスナップと共に投げた軌道上の葉に引火、そして発火した。

「“遠隔火炎(リモートファイヤー)”」

 小規模ながら空中爆発を引き起こし、炎が広がった。

「火炎だ!下がれ!!」

「ただの火炎だと思うな…炎は自由自在、縦横無尽だ、俺が操る以上お前らには効果的威嚇となる、フンッ」

 ラドンの指の動きと共に炎は形を変えて鳥の様に羽ばたきながら隊員たちに飛びかかった。

「なっこいつ…」

「離れろ!体制を立て直せ!」

「おい!ヒノトリとGIRLSの怪獣娘たちが居ないぞ!」

 わずかに気を取られた隙をついてラドンたちは炎と共に消えていた。

 

 

 ??ビル最上階 屋上

 

 難を逃れて全員で自衛隊車から離れる事、数km地点…

「とりあえず何とか連中から離れられたな…テテェッ」

 腰を抑えながら周辺を確認する中、納得のいかない者がいた。

「も~!!言いたいことが有り過ぎるよ!!何で自衛隊がおじさんをいじめて、私のバックに煙草が入っていて、なんか知らない間におじさんの技で離脱して、もうわけわかんない~!!」

「あん?…ふ~ぅ…だ・れ・が・おっ・さ・ん・だ!!」

「アイダダダダダダダダ!ひっぱらにゃいで~!!」

 ラドンはサチコの両頬を餅の如く引っ張って伸ばした。

「ぐっ!!…くそっ…ザンドリアス」

「へっ?なに…ってああー!ちょっ勝手にバックを漁れないでよ!!」

 取り出したのは煙草とガチの拳銃が出てきた。

「ざっザンザン!?…ピグモン悲しいです~とうとうGIRLSに犯罪者を…およおよ~」

 泣きじゃくるピグモンに囲みながらみんながサチコに冷たい視線を送った。

「ちっ違います!!私のじゃないよ~!!ぴぎゃぁぁああ!」

「ガタガタうるせぇ!!…こいつはあのエセ自衛隊からくすねた麻酔銃と引火性の高い銘柄の言わば武器用煙草だ、さっきみたいな遠隔技などを使用するためにこいつのバックに入れていただけだ」

「何で私のバックにそんな物騒な物ばかり入れてんのよ!!」

「プロは用意周到なんだよ…ぐがっ!!がっ…クソ!!」

 腰に麻酔銃の麻酔弾による局所麻酔で粗治療ながらも腰痛の痛みを緩和した。

「はわわっわっワイルドです…」

「すっすげぇ~…さすが怪獣漢…」

「ユリカ~」

「なっ何よ!私は悪くないわよ!!」

 さらにサチコのバックを漁り双眼鏡を取り出した。

「何で私のバックにさっきから私の知らない物ばかり出てくるの!?ていうかバックの中殆ど煙草!?私の荷物は!?」

「あのお菓子と身の丈に合わない香水か?そんなのユウゴの口に菓子を放り込んであとは全部捨てた」

(どおりで着ぐるみの中にやたらとお菓子のゴミがあるわけですねぇ)

 ピグモンは先ほどのイベント終了時のガマちゃんの着ぐるみ内の謎のお菓子のゴミに納得がいった。

「何してんのよ!!お菓子もだけどママにおねだりしてもらった香水高かいんだからね!!」

「なんで香水なんかしてんだよ」

「だって初の大規模なイベントなんだよ!!少しでもいい恰好したかったんだもん、どうして捨てちゃうのよ!!ちょっと大人になって素敵な出会いができないじゃない!」

 ラドンはサチコの両肩をガッシリ掴み血走った眼で煙い口で警告した。

「何を馬鹿なことを考えるんだ!!この世にどれだけの危険な輩がいるか分かってんのか!!」

「少なからずおじさんみたいな荒っぽくて煙くて老けこんでる人なんか大嫌い!!怖い思いして損した!!アギラさんみたくお兄さんって呼ぼうと思ったのにもう一緒おじさん呼ばわりしてやるんだから!おじさんおじさんおじさんお・じ・さ・ん!!」

「ぐげぼは!がががっ!」

 さも千本槍を受けたかの如く口から血潮を吹いた。

「うわぁ!!ラドンさん!!」

「何もそこまで言う必要ないだろう」

「フンだ!」

 サチコはソッポを向いてラドンに背を向けた。

「だっ大丈夫ですか?」

「なっ…なぁ大したことはねぇ…ガキの見栄何て良くあることだ」

 そう言いつつよほどのショックか、煙草の銜える方に火を着けようとしていた。

「っち…切り替えろ俺……とにかく今の現状からだ…ここはおそらく新習志野駅から近くだな…習志野駐屯地はおそらくあのエセ自衛隊が入り混じっているだろうな」

 ラドンが双眼鏡で確認すると双眼鏡で見える限りJR新習志野駅とその周辺を捜索している自衛隊が確認できた。

「先ほどからそのエセ自衛隊とは何なのですか?」

「ありゃ元来の陸空海自のどこにも属さない形は自衛隊だがおそらく3つの自衛隊とは違う存在だろう…その証拠に奴らが持っていた銃はメーサー銃らしきものだった。おそらくメーサー動力の小型メーサータービンを外した麻酔カスタム…そもそもおかしい過ぎる、避難なら本来近いはずの下志津駐屯地に向かうはずが逆走して八王子に向かっていた…とにかく一度ルートを模索する、そしてそこから今一度もしものために用意していた場所に向かうしかない…そのためには地面を這いつくばって行くしかない」

 ミサオはラドンが想定するルートに気付いた。

「ちょっと待って!このまま下に降りるんっすか!?」

「ああっ…それ以外に方法は無い、空を飛んでも姿が丸見えだ。そうなればいい的になるだけ、地面張って行くしか安全な道は無い…ここもそろそろ離れた方がいいな、行くぞ」

 下に降りるための階段口に差し掛かろうとした時、階段口を塞ぐようにバードンが立ち塞がった。

「バードン!?」

「…なんの真似だ」

「それはこっちのセリフ…あなたが何様か知らないけど私たちはGIRLSの怪獣娘、私達の安全は私達で守れる。そもそもあなたが自衛隊と抗争事態を引き起こした」

「だから、そんな危険な男より自分たちの身は自分たちで守るって言いたいのか?」

「他のみんながどう思おうと私はあなたを信用していない。パッといきなり現れた得体の知れないあなたに私は従う気は無い」

「バードン!!今はそんなこと言っている場合じゃいないんですよ!」

「そんなこと誰が決めたの!?この人が大人だからみんなは従うの!?この人に着いて行って安全って保障は何処にもないのよ!…大人何てみんなそう…勝手に決めつけて偉そうにいばるだけで何もできない無能じゃない!!」

「バードン!…それ以上はピグモンも怒りますよ」

 ピグモンはいつものピョンピョン跳びの怒り方から想像つかない程、静かな怒りを表していた。

「じゃぁ、今のこの状況は何?自衛隊に追われてコソコソ隠れて逃げる羽目になったのは誰のせい!?」

 バードンの主張はラドンが事の発端を作った張本人であることを指すようにラドンを目に捉えた。

「私は大人も男も信用しない…だから私たちは私達で解決してぇ—」

 バゴーンっとバードンの横脇を素通りしたラドンの足が階段口のドアを吹っ飛ばしたのだ。

「大人が信用できない…だったら勝手に信用せず突っ走って捕まりてぇならテメェの勝手だ…テメェが青信号を信用出来ず赤信号で渡って轢かれようがテメェの勝手だ…だがなぁ俺の仕事の前で勝手に死ぬな、テメェの好き勝手で俺の目の前で屍になられると仕事終わりの一服の後味がまずくなる。お前らもそうだ! さっきの行動を見ただろう、野郎どもはガキが居ようが御構い無しに銃口を向けた。子供だろうが民間人だろうが奴らに関係ない、子供が怪獣の力と言う武器を持っている以上、抵抗あれば殺すことも厭わない。そんな連中だ。 なぁピグモン…おれへの依頼は何か、復唱してみろ」

「…『怪獣娘さんが安全に怪我無くイベントを迎えられるための警護』です」

「そうだ…俺にとって重要なのはお前らが安全にイベントを終えて家路に着かせるのが俺の仕事だ、そのためなら俺は銃で撃たれようが電気で黒焦げになろうが仕事をこなす、それがプロの仕事だ。プロフェッショナルのやり方が気に入らなかろうがテメェを担いででも首根っこ掴んででも俺は自分の仕事をこなす…何が何でもだ…だが俺も強制はしない、時間は遣る、先見て様子を窺う必要がある 下で待つ それまで考えが変わらないなら俺は意地でもお前をGIRLSまで引きずってでも帰す」

 バードンは反論余地なくラドンすれ違った。

「私達も行きましょう、アサミさん…」

 ピグモンはブリッツブロッツに頷くように合図を送った。

 それに合わせブリッツブロッツも頷き、ブリッツブロッツ以外のみんなはバードンとすれ違うようにラドンの後をついて行った。ブリッツブロッツとバードンを残して…

「…ユ~リ~カ~…どうするの?」

 バードンは座り込む様にうずくまった。

「……大人何て嫌いよ…周りの大人も、これから先で大人になる自分も…」

 バードンに合わせるようにブリッツブロッツも隣に同じ目線で座り込んだ。

「じゃぁさ、ユリカは一生子供でいたいの?」

「なわけないでしょ…わたしはただ…周りみたいな大人になりたくなかった…個性も感情もない機械のような大人に」

「…それで?」

 バードンの頬に伝う涙が煌いた。

「大人になりだいぃ―自分なりの自分だけの大人になりたいって今日初めて思えた!…大人になることがずっと怖がった…」

 それは無口で他人と関わろうとしないバードンの心からの本音であった。

「…じゃぁ見つけよ…自分だけの自分なりの大人を…」

 バードンは小さく頷いた。

 怪獣娘も一人の少女、やがて月日がたち年を重ねる。

 そして、やがて大人になる。

 それは一人階段に残り様子を聞いてたピグモンもしみじみと感じていた。

「やれやれ、私まで考えさせられちゃいました……大人かぁ…怪獣漢さんから見て私たちはまだまだ子供なんですねぇ」

 ピグモンたち怪獣娘は改めて大人になることの在り方を考えさせられることとなった。

 

 

 習志野駐屯地 宿舎房

 

「お姉ちゃん…怖いよ…」

「大丈夫…今に助けが来るから」

「助けって何?あの怖い大きなトカゲさん?」

「うっう~ん…確かに見た目は怖いけど根はやさしい正義の…味方って訳でもないけど、とにかくあの人たちが解決してくれるよ」

 アギラは女の子を慰めるのに精一杯だった。

 この小さな子から伝わる微弱な振動がこの子の不安であることが分かる。

アギラとってこの状況の早期解決を望むことしかなかった。

 そのためにはゴジラ達の頑張り次第だったが…

 現実はそう行かず、ドーンッと真横から爆音を上げてメーサー光線が舎房廊下を突き抜けた。

「わぁ~ん!!怖いよ!!」

「ちょっと!!こっちまで来てるよ!!」

「もっと別のトコに避難しとけ!!こっちも精一杯だ!」

 ゴジラ達は90式メーサー殺獣光線車と随時交戦中で苦戦を強いられていた。

 それもそのはずであった…

「ユウゴ!メーサー車をぶっ壊すなよ!ありゃ国立保護遺産に指定されている!迂闊にぶっ壊そうもんなら近所の植木鉢壊したレベルの問題じゃ済まなくなる!連中はお前がそうすることを狙ってるんだ!」

「じゃぁ攻撃も破壊もせず生け捕りの機能停止しか無いと!?誰だよ!あれを遺産とかにしようと言ったのは」

「この国の行政と鷹栖大臣に言え!あのオババが言い出しっぺだ!あれを世界遺産にしようとか考えるイカれたババアだぞ!!のわっ!!」

 90式はあたり構わず光線を射出してくる。

「しかし、メーサー車自体が元来は対巨大怪獣との交戦目的で建造されているせいなのか小型の俺らとの対戦は慣れていないから所かまわず狙ってくる!コンピューター制御を停止させないと野郎はアホみたいに撃ち続けるぞ!」

 この一言とゴジラが目にしたある兵器がこの情況を打破できると睨んだ。

「婆羅陀さん!そのまま上空へ!俺が道を開きます!」

「はぁ!?何をのわっ!?…くそっ早くしろよ!」

 バランが高く飛び超え上空を旋回し始めた。

 それに合わせて90式も上空に旋回し続けるバランに狙いを定めてメーサー光線を射出した。

「おわっと!こいつ…なんでメーサー光線出せるんだ!タービンは退役後に撤去されたはずだろう!」

 さすがに上空に停滞しているだけでは旋回していられず近くの舎房の壁を利用して跳躍回避行動で繰り返し時間稼ぎをした。

「「ぎゃぁぁぁあああ!!」」

 案の定、中に避難していたアギラたちの危険は増した。

「すまん!もうちょっと他のトコに避難してくれ!」

 よけながら旋回しているとドスドスと大きな足踏みが聞こえてきてゴジラが戻ってきた。

「お待たせしました!!」

「おうユウごぉぉおおお前何持ってきてんだ!!」

 時間を稼いでゴジラが持ってきたのはなんと陸上自衛隊の10式戦車を軽々とまるで凧揚げの様に抱えて持ってきたのであった。

「そんなにデカいのと戦いたいならこれでどうじゃい!!」

「おまえ無茶苦茶だろう!!1台で億額だぞ!!」

「午後の式典用に合ったのを拝借しました!」

「するな―!!」

 しかし、ゴジラの読み通り90式は比較的巨大な存在に照準が定まり始め、狙いは10式戦車を抱えたゴジラに向いた。

「そら来た!!今です!婆羅陀さん!」

「ったく、怪獣漢はどうしてこう無茶苦茶な奴ばかりなんだ」

 照射装置からメーサー光線が射出され戦車に照射した。

 ゴジラもそれに合わせるように10式戦車を盾の様にして地面に突き立てメーサー光線を受け止めた。

「ぐっ!!やはりな…メーサー光線って言っても所詮は雷同然の電撃攻撃、落雷が乗用車に落ちても絶縁体であるから落雷を受け流すのと一緒だ!」

「だからって戦車を盾にする発想できるの野郎はお前だけだよ!…よし!内部に入った!」

 バランが装置車内部の操作パネルを模索、機能プログラムから探り探りで一つずつ機能を停止し始めたが、起動プログラムだけ完全停止されないようシャットダウンブロックがされていた。

「誰だ!シャットダウンスイッチをブロッキングしやがったのは!?-くそ、他に方法があるとするなら…強引だが冷却装置の冷却芯棒を抜き取るしかない…そうすればオーバーヒート回避のための緊急停止シーケンスに入り機体そのものが停止するはず…今の俺なら…やるしかない」

 バランは冷却装置が設置された装置車後方に回り込み、4つある冷却芯棒を2つずつ抜き取ろうと手に触れるが…

「だぁ~!!くそっ…怪獣粒子で手をコーティングしているが…クソ冷てぇ!!神経が狂いそうだ……初期怪獣時代はこれで多くの奴が凍傷を起こしたって聞いていたがまさかこの時代で俺がなるとはぁぁぁあああ!!」

 気合で二本同時に抜き取れ、残るはもう二本…

「あともう少し…この二本だけ…ぐっぬぬ…あれっ…どうなってる…抜けないぞ!」

 それはバランが抜き取った二本の冷却芯棒が4つから2つになったことで残りの冷却装置で打ち続けるメーサー装置を冷却しようとよりさらに冷却が強くなり、残り2つの冷却装置は内部で固く凍り付いていた。

「クソッ…メーサー光線車自体が電撃を出し続けるから冷却芯が凍り付いている…このぉぉぉおおおお!!」

 バランは自分の力と全体重で冷却芯棒を自力で抜き取ろうと打って掛かった。

「抜けろぉぉぉぉぉおおおお!!」

「おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!」

 バランとゴジラ、2体と90式の攻防の正念場であった。

 すると、冷却芯棒の入った冷却装置内部でピシピシと音をたて始め、そしてスポッと二本同時に抜けた。

「抜けたぁぁぁああああ!!」

『冷却装置強制停止を確認、これよりメーサー射出装置の緊急停止シーケンスを作動し緊急停止します』

 操作パネルのアナウンスと共にメーサー装置は息が切れたように停止した。

「とっ止まった…」

「何とか…止めたぞぉぉぉ!!」

 冷却芯棒を両手から離しバランは大の字で倒れ込んだ。

 同じく戦車を盾に突き立ていた地面を抉るように10式戦車は仰向けに転倒してひっくり返り装甲車輪が空を向いていた。

「ふぅぅぅ~…んんっ?」

 ゴジラの目には舎房に隠れていたアギラが顔を出していた。

 遠く声の届か来そうにないがゴジラは4本の指を握り、親指を突き立てサムズアップを表した。

 同時にそれを見たアギラもゴジラに真似てサムズアップで返した。

 しかし、ゴジラ達の周りを現場に到着した自衛隊員が89式自動小銃を構えて囲み始めた。

「動くな!そのまま地面に伏せろ!!」

 ゴジラは瞬く間に自衛隊に囲まれた。

 

 

 路地を抜けてヒエンたちも大通りに差し掛かっていた。

 が、ヒエンは突如立ち止り大通りの先を防いだ。

「あぐっ…ちょっと何で止まるのよ!!」

「……先回れてた」

「はぁ?」

「そこを動くな!!」

 僅かな隙間からサチコが覗くと先ほどの自衛隊に路地口を囲んで銃口を向けていた。

 僅かな人だかりを自衛隊が抑えながら騒然とする自衛隊が待機していた大通りに出てしまった。

「怪獣娘をこちらに引き渡し、直ちに投降せよ!繰り返す!直ちに投降せよ!」

 大きな声が路地道にいる怪獣娘たちにも響いて聞こえていた。

 さらに路地道の後ろからも自衛隊が先回りをしてゆっくりと近づいてきた。

「ちょっ囲まれたんだけど!どうすんのよぉおじさん!!」

「いや…ここでいい…目的地はここだ」

 ヒエンは両手を上げ、無抵抗を体で示した。

「んっ…貴様!?その手に持っているものはなんだ!!」

「どうした…ただの煙草じゃねぇか」

 ヒエンの右手に持つ煙草は突如発火をして右手はたちまち火だるまになったがヒエンは火炎の怪獣ラドンであるが故の能力によるため煙草を発火させたのはヒエン自身である。

「気をつけろ!また怪しげな技を使うぞ!」

 発火した煙草は見る見る煙が立ちこもり天高く昇る。

 それが合図だった。

「うわぁ!!」「のわぁぁあ!!」

「なに!?」

 一般人を安全のため抑えていたがその一般人が突如自衛隊員を取り押さえ始めた。

 ランニング姿の男から退避していたコンビニ店員、配達員に野次馬の一般人や観光中の外国人に至る男性、と言うよりこの場にいるすべて男性が突如ノイズと共に擬態が剥がれ武装した兵士が自衛官を取り押さえていた。

「どういうことだ!?これは…」

『ハイハ~イ~、自衛隊のみなさ~んそこまで~!!ただいまよりその子たちは我々~地球防衛軍の管轄下で保護させていただきま~す!言っときますけど本当に地球防衛軍ですよ~ほらこの紋所が目に入らぬか~ってほらアサギちゃんさっき打ち合わせした通りに』

「ミキさん、真面目に言ってください」

『キィイイン―なにぉ~ミキさんはこれでも真面目よ~』

「うるさいです…はいっ」

『わた~しの御前であ~る!頭が高い~控えをろぅ~』

 電子メガホン越しに地球防衛軍紋証を翳して擬態した防衛軍兵士と共に三枝と草薙が自衛隊の早期撤収を呼び掛けた。

 草薙は呆れてもう一つのメガホンで三枝に代わって呼び掛けた。

『ええ~繰り返す繰り返す、直ちにその物騒な武器を子供達から下ろし撤収を求む!撤収を求む!』

「あっちょっと、アサギちゃんまでやんないでよ!私の出番無いじゃないの~」

『ここにおわす方は、ほっといてとっとと速やかに撤収をする様に』

『キィィイイン―ぁにぃおおお!!助手の分際で生意気だぞ!!』

 何とも二人の漫才寄りの呼びかけに無線で指揮隊長が支持を仰いだ。

「コマンダー、地球防衛軍が参入しました。指示を求む送れ」

『撤収しなさい、目的は達成された。彼らとの交戦を避けなさい』

「了解、撤収!!」

 次々と自衛隊は撤収していき後に残るは擬態を外して地球防衛軍兵士が残った。

「なっ何が起きてるの?」

「言っただろ…もしもは常に用意するもんだ」

 そう、これこそヒエンが言っていたもしもであった。

 

 

「…上等だ!!出てきやがれスーツ男!!」

 ゴジラはひっくり返った10式戦車の走行車体と砲塔切り離して砲身を持ち手にハンマーの様に持ち上げ振り回した。

 簡単に言うと10式戦車を二つにぶっ壊して砲塔部分を特大ハンマーにしているのである。

「わぁっぁぁぁああああああ!!!」

 自衛官たちは思わず腰を落として戦意喪失した。

『よせ!ゴジラ、そいつらは本来の陸上自衛隊だ!10式戦車の砲塔を振り回すな』

 上空から尾崎を乗せた移動ヘリがホバリングをしながら防衛軍兵士がロープで降りてきた。

「一班は自衛隊と協力して作業にかかれ、衛生班は民間人の処置にかかれ、2班は残った民間人の捜索、ゴジラは10式戦車を元の場所に戻してこい」

「あん?」

「「「おわぁ!!」」」

 ゴジラが振り向くと砲塔が他の隊員に牙を向き掛けた。

 ちょうど同時に三枝達が駐屯地に戻って来た。

『ザザァーおお~い、大佐~ラドン君はヘドラ君のトコに搬送して子供たち無事に確保してきました~』

「ご苦労、そのまま民間人の救護にあてろ」

『了かぃぃぃいいい!?何やってんのよぉジュニア!?』

「あっあれって…戦車?の部分だよね…」

「えっええー…まさか戦車を武器にしたの…」

 怪獣娘たちはゴジラが片手に抱え持っている砲塔部分に度肝を抜いた。

「戦車担いだ怪獣は~♪」

 ゴジラは走行車体を引きずりながら元に有った場所に返しに行った。

「三枝…10億は必要経費に入るか?」

「知りませんよ!!」

 

 

 ちょうどその頃、避難所についたアギラは女の子の家族を探し始めた。

「すみませ~ん!この子のご両親いませんかぁ?」

 声かけて探していると女の子の親が駆け寄って来た。

「お母さん!!」

「ミサキ!!よかった…無事なのね、本当に良かった…ありがとうございます!本当にありがとうございます!」

「いえ、見つかってよかったです」

「ありがとう怪獣娘のお姉ちゃん、大きなトカゲさんたちにもありがとうって伝えてね」

「…うんっ、大きなトカゲさんは気まぐれだけど絶対伝えとくね」

 女の子と母親はアギラにお辞儀をして人込みに戻っていった。

「あっアギラさ~ん!はぁっはぁっはぁっ、アギラざんのお兄さんが戦車で片手に%$▽●おじさんがバックに炎ば#*+しっちゃかめっちゃかで」

 ザンドリアスは慌て過ぎて言動がおかしくなり今日だけでいろいろ起き過ぎて脳が混乱していた。

「おお落ち着いてザンドリアス!」

「あっアギアギ~ご無事だったのですね」

「ピグモンさん、ええっ何とか…」

「それでは皆さん、ケガ人の手当ても含めGIRLS総出で頑張りましょ~」

「「「「「おおおぉぉぉぉぉぉ!!」」」」」

 かくしてGIRLS全員で避難民の救護に徹底し始めた。

「あら?あなたたちはさっきの」

「あっ医務室にいた…」

「あなた達も手伝ってくれるのね、その前にこの中で道理サチコさんはいらっしゃる?」

「あっはい…道理は私ですけど…」

「あなたたちの腰痛めた引率さんからあなたに渡してほしいって頼まれてたの…はい」

 女性自衛官が取り出したのはサチコが母からもらった香水だった。

「あっこれ私の…」

「あの後いろいろあってよく覚えてないけどそれをあなたに渡してほしいってことだけは覚えてたみたいなの…」

「そっそうですか…」(なんだ…捨ててなかったんだ…妙に律儀な人だなぁおじ…あのお兄さん…)

 サチコは受け取った香水を握りしめヒエンの顔が浮かんだ。

「おやおや~ザンさん、彼氏からの贈り物ですか~」

「ぶぅぅ!!かっ彼氏とかじゃないから!私とおじさんはそんなんじゃないから!」

「ええ~あたしは一言もおじさんとかヒエンさんとか言ってないんだけど~」

 ミサオはニヤニヤ顔で煽って来た。

「うっさいわねノイズラー!関係ないったら」

「ええ~ザンザン彼氏さんがいらっしゃるんですかぁ」

「もぉぉ!!余計にややこしくなった!」

 頭を抱えるサチコに離れてその様子はアサミたちにも見えていた。

「あらら~恋のライバル出現かな~ユ・リ・カ・さん」

「ぶぅ~!なっ何が恋よ!」

「ええ~普通ああいうこと言われたら惚れるもんでしょ、壁ドンまでされて」

「かっ壁ドンって、あれのどこが壁ドンよ!」

「大人になりたくないお子様はああいう大人の男性が好きになる傾向があるんだねぇ~ザンドリアスもユリカも隅に置けないね~」

「へっ変なこと言ってないでさっさとこれ運ぶわよ!」

「はいはい…フフフッ」

「失礼、ニッポンテレビの立花ユリです。今回の一件でGIRLSさんにインタビューよろしいですか」

こうして自衛隊イベントの騒動はいろいろあったがGIRLSの活躍により鎮静したと後に報じられることとなった。

 

 

 防衛省 ??室

 

『以上が怪獣漢の報告です』

「ご苦労、黒木特佐。初の実戦、良い結果であった…」

『それでは失礼します』

 スピーカーからの報告が終わり、男は指と指を重ねた手を顎に乗せた。

「いかがでしたかな?今回の一件であなたの株は一段階上がられましたな、鷹栖大臣」

「株ですって、こんなテロ紛いなことをしておいて」

「おや、それを承諾したのは一体どなたでしょうか?」

「調子に乗らないことを勧めておくわ、あなた方特生自衛隊も存在しない幕僚長のあなたもこんなことをして済むはずが」

「鷹栖大臣…あなたは夢をお持ちでしょうか」

「夢ですって…」

「あなたはいずれ女性初の内閣総理大臣になられる…中条内閣の後もこの国はあなたのような人物を求められる…この国を鳩ケ谷先生に任せられますか」

「あなたのような五十嵐先生の様に怪獣に憑りつかれた男たちに任せるよりはマシね」

 鷹栖大臣は立ち上がりこの薄暗くも気味の悪い部屋を出ようとした。

「柘植先生は今もお元気で?」

 鷹栖大臣の手がピタリと止まった。

「…姉は…姉はあなた達のような男たちのせいで、今も辛い思いを抱えているわ!…たった1匹の怪獣のため…ゴジラを殺すためだけに」

 鷹栖大臣は強く扉を閉め部屋を後にした。

「…ゴジラを殺すことは自衛隊の夢であり、悲願でもあるんですよ…それは同時に私と五十嵐先生の夢でもある…そのためには鷹栖大臣、あなたは我々にとって布石…あなたも柘植先生と同様に灰になるまで利用させてもらいますよ」

 男は引き出しを開け、そこに入っていた写真縦を取り出した。

「よもや姿を変えこの世に生を受け化けて出てくるとは…ゴジラ…お前を殺せば、この国も世界も地球も大きく変革するだろう…お前を殺せるのは怪獣でも異星人でもない…我々、人間と特生自衛隊だ」

 写真を立てかけ背後のブラインドから外を覗き込み男は思い吹けるのであった。

 

 

 ?? ??

 所在不明の山岳地にてバランは日が沈むのを眺めていた。

「……………」

 ただ一枚、防衛大時代の卒業写真だけ手に持ちそれを指で自分から左に一人一人なぞった。

「おれ、青木、宮川、富樫、小早川、袖原、そして黒木……」

 それは無線の男の素顔がそこにいた。

「黒木…どうして今更…」

 バランは写真をボクサーバックにしまい背負い風に乗ってまたどこかへと去っていた。

 

 

 山梨県 進錆村

 

 腰を痛めたヒエンはヘイタの楽物療法による治療を受けていた。

「まったく、不動化薬を腰にぶち込んで局所麻酔にするなんて人間だったら死んでるぞ…ええっと腰痛と薬物中和と」

「御託並べてないでさっさとしろ藪医者」

「ほらよ」

 ヘイタはとりあえずシップを張った。

「ぐがぁああ!!」

「なにやったらそんな腰になるんだか」

「メガトン級の肉に潰されかけた…」

「はぁ?」

 うつ伏せに枕を抱え込みながらヒエンはヘイタに投げかけた。

「……なぁヘドラ…お前はいつ大人になった?」

「大人?」

「マジな話…今日妙に俺に似た奴がいてな…そいつ見てたら昔の俺を思いだしちまってよ…」

「昔のお前って…」

「誰も信用できない哀れなガキだったよ」

「大人ねぇ…俺は高校出てすぐ北京に行っちまったからなぁ」

「…俺も似たようなもんだ…」

「生物はいつかなるんだ…それこそお前さんが守りたい例のサチコだっけ?あれだっていつかそういう時期が来るだろう」

「それなんだが今日、サチコのヤツが香水なんかつけ始めてた」

「マジで!?じゃぁ近い将来はすぐそこだな」

「んな事ぜってぇさせてたまるか!」

 グキッと響く痛みがヒエンを襲った。

「!!!~~~!!!~~~」

「まだ動くな…ホレ」

 痛みはさらにヘイタの塗る薬からも上乗せされた。

「がぁああああ!!」

 

 

 習志野駐屯地 装備資料館

 

 ゴジラは90式を元の位置に戻した。

「よいしょっと、これで良し」

 手に着いた汚れをはらい、90式が開けた穴から外に出ようとした。

 その時、ゴジラはふと何を思ったか後ろの牽引車の外れた5台のメーサー車を見た。

 言葉を発しているわけでもない…が、その姿はまるでお前もいつか我々の様に忘れられると語っているようにも思えた。

「何をしている…行くぞゴジラ」

 尾崎の呼びかけに前を向き、ゴジラもまた振り返ることはなかった。




見せられないMONS~

 さらにサチコのバックを漁り双眼鏡を取り出した。
「何で私のバックにさっきから私の知らない物ばかり出てくるの!?ていうかバックの中殆ど煙草に煙草に煙草に煙草にどんだけ煙草入ってんのよ!!」
 サチコが取り出して確認すると入っているのは全部煙草であった。
「ザンザンが悪い子になってしまってピグモン悲しいでずぅぅ」
「いやいや!ピグモンさん私のじゃないですから!!」
 サチコは必死で否定をするもみんな冷たい視線を送った。
「いい加減罪を認めろ」
「あんたが入れたんでしょうが!!」


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横浜へ取材

 GIRLS 休憩室

 

「ええっ!?それで自衛隊のイベント中止になったの!?」

「うん、工業用ロボットの暴走に加えてお兄ちゃんが自衛隊の戦車を壊してハンマーにしてもう滅茶苦茶で…」

「ユウゴさんも凄いですね…戦車を武器にして事態を鎮静化させてしまうなんて」

 アキは昨日のイベントの事態をレイカとミクに教えていた。

「でもまぁ被害も最小限だったんでしょう、米軍基地みたいにならなくてよかったじゃん」

「えっ?米軍基地?…ミクちゃん何の話?」

「あれ、ユウゴさんから聞いてないの?師匠とユウゴさんが初めて会って交戦した時の横須賀米軍基地の方がかなりの被害が出たらしいよ…確か、戦闘機6機破壊して、船2隻破壊して、車とか戦車100台近く壊しまくって大変なことになったって師匠言ってた」

「なにそれ!?ボク知らないけど…」

 アキは自衛隊イベントの比にならないくらいの被害を出していたことに驚愕した。

「やっぱ怪獣漢さんってすごい人ばかりですね…」

「そう言ってウインちゃんはトオルさんとどうなの?」

「へぁ!?べっ別に私は先生とは良く取材に同行させてもらってる次第ですし…これと言って変わったことは……いやあります…先生の原稿を出版社にお渡しに行くと必ず…ゾンビの群れの様に押し寄せてきて…次の入稿の為に担当編集さんに尋問の如く問い詰められて…もう…はははあはははははははははははっ」

 レイカは完全に壊れていた。突然笑い出して情緒不安定な彼女を見てその壮絶さが2人にヒシヒシと伝わって来た。

「ウインちゃんが壊れてる…」

「一体どんな目にあったらこうなるの」

「ミクちゃんはコングさんとどうなの?」

「あたしの師匠は基本的に見て覚える感じかな…具体的な事はあまり教えてくれないし、師匠ってどっちかって言うとゼットンさんタイプなところあるから、無口って程も無いけどあまり自分から語らないって言うか」

「ゼットンさん…ゼットンさんもそれなりに話してくれるよ!」

 アキはズイズイとミクに輝いた目で寄って来た。

「わぁ分かったよ…もうアギちゃんのゼットンさん好きは変わらないな」

「べっ別にそんな…ボクはただ憧れているだけで」

「それも何回も聞いたよ…あっでもさぁ、師匠は良くおいしいごはんのお店に連れてってくれるねぁ」

 突如、アキとレイカはピクッと止まった。

「前に連れて行ってもらったのは新橋の何とかってお店のお寿司屋さんでその前は銀座の何とかってお店の御前だっけ?なんかそんな感じのお店ばっかだから高校生のあたしだとちょっと場違いな感じもしたけど、それでも美味しかったよ。師匠は食事の作法や価値観に厳しい人だけど…」

「ミクちゃん

 ミクさん」

 食事自体が問題ではない…が、最大の問題は新橋や銀座と超高級店が立ち並ぶ場所で自分たちが苦労している中、贅沢をしていることに二人は揺らめくように立ち上がった。

「あっアギちゃん…ウインちゃん…」

 しかし、一足早くレイカに先回りされミクは背後をガッシリと羽交い締めにされ拘束された。

「ねぇねぇ二人とも!?ちょっとなにえっ!?」

「ミクちゃん~ミクちゃんはボクたちがお兄ちゃんたちに振り回されている中、随分とお贅沢をされているんだね~」

 アキの目は完全に光を失った死んだ魚の目にミクは嫌な気配を感じた。

「それだけおいしい物を食べてるんだよね~さぞ大きく変化しているんだろうね~」

「ねぇねぇ!アギちゃん!ちょちょちょっと待って!!」

 正気を失っている。アキの手がわらわらと動く指の動きに更なる悪寒を感じた。

「それは確かめる必要がありますね~」

 レイカの眼鏡は光の反射では目全体がわからない。

 逆にそれが不気味で怖い気配も感じた。

「何をぉ!?何の事!?」

「ミクちゃん…覚悟はいいね」

「待って待って二人とも!話し合えば、話し合えば、分かり合えぁぁああああああああ!!!!」

 裏切りは絶対に許さない。それが女子の暗黙の了解である。

「うっううううっうう」

 アキはバンッとテーブルを叩きつけた。

「なぜ…なぜそれほどの贅沢をしてお腹周りに変化が無いの!!」

「何のことぉぉ!?」

「とぼけないでください!!私たちは大変な思いをいる合間にミクさんは贅沢をしている…これは由々しき事態です!」

「そんなに言うならユウゴさんとトオルさんに頼めばいいじゃん!」

「ミクちゃん…お兄ちゃんはこれまでボクの前で財布の中身を見せたことが無いよ!」

「確かに!これと言って無いね!基本的に支払いはトオルさんだもんね!」

 振り返れば確かに無い。ユウゴの財布自体存在するがなにかと支払いの都度なぜか毎度の如く何かが起きたりしている。

「先生は渋谷の一件以来、財布のひもが厳重になり超資産有るにもかかわらず金銭面はドケチレベルでシビアなんですよ!」

 レイカは反射するメガネから滴る涙が逆に怖かった。

「じゃぁ二人もユウゴさんトオルさんに頼んでどっか連れてってもらえばいいじゃん」

「そんな事が出来たら苦労しないよ…ミクちゃんは分かってない…お兄ちゃんは…超が付くほど朴念仁なんだもん!!」

「ええー!?」

「感情概念が欠落し、基本的に甘い物の事しか考えてない!」

「同じく、先生はネタ探りのあまり、ありとあらゆる情報が錯綜しているため基本的に脳がバグってるんです!心が無いんです!現代社会の闇なんです」

「二人とも凄い言われ様!!」

「要するに~お兄ちゃんたちはコングさんみたいにまともじゃないんだよ~」

「まともな人について行きたい~美味しい物が食べたい~」

 二人の揺らめく負の念が空間を歪めていた。

 しかし、最大に空間が歪んでいたのは二人の更に後ろ…

「あっああアギちゃん、ウインちゃん!後ろ!!」

 残念ながら手遅れであった。ゴスンッと大きく打ち込まれた拳に二人の頭に大きなコブを形成しテーブル伏せ倒れた。

「「誰がまともじゃないだって」」

 その後ろにはユウゴとトオルとコングがいた。

「おっお兄ちゃんたち!?いつから聞いてたの…」

「お前がミクラスに変なことしてた辺りから」

 すなわち一部始終を見ていたのである。

「誰がまともじゃないだとダム子」

「いっいや、せっ先生は価値観が人より違うからこそ素晴らしい作品を世に出せるって話で」

「減給」

「ぎゃぁぁああああ!!」

 レイカは減給の言い渡しに頭を抱えてショックを受けた。

「ええっと…あっいたいた、お~い、お三方!」

 帽子に『Earth Defense Force』のロゴマークの入ったツナギ姿の女性が2人を追って近づいてきた。

「あっ香田さん」

「小山の整備工場から調整の終えた例のビークル3台をわざわざ私が持ってきてあげたよ、ハイこれにサイン」

 ツナギの女性はユウゴにクリップファイルに止められた書類を手渡し、サインを記入するよう押し付けた。

「先生、そちらの方は?」

「初めまして、MONARCHの輸送屋兼整備の香田ナオ、よろしく」

「どっどうも」

 アキたち3人は小さくお辞儀をした。

「はいっ、書きました」

「うんうん、確かに…じゃぁ、あとはあんたたちの目で確認して」

 

 

 GIRLS駐車場

 

 広くも狭くもない敷地の駐車場に中央にドンと駐車した輸送用の大型トラックがいた。

「ちょっと待ってね」

 トラックの荷台のスロープを下ろして扉が開かれ布を被った“何か”が光と共にトラックに入る空気の風でたなびく。

「1機ずつ下ろすから手伝って」

 ナオに合わせてユウゴがゆっくりトラックのスロープから滑らせて2機の布を被ったビークルが降りてきた。

 2台の“何か”の前にユウゴとトオルが立ち、布のベールを引きはがすと“何か”は姿を露わにした。

「ばっバイクだ」

「バイクですね…」

「かっかっこいい…」

 それはシルバーメタリックの塗装に前後輪2輪の後部には『小山Cご05-07』と『小山Cが05-08』と記載されたナンバープレートの付いたオートバイだった。

「どうよ、小山整備の完璧な仕上がりよ。『ガンヘッダー』1号機と2号機、元々は地球防衛軍が怪獣頻出期に運用していた『ガンヘッド』の機械類、鉄類、すべて溶かして建造した8JO製自動二輪。動力はガンヘッドの507号機と508号機のハイパーリキッド・ジェネレーターを小型化にして平均最高速度でも700km/hを叩きだしてる実質地球上最速のバイクね」

「平均?ただの最高速度じゃないんですか」

「う~ん、実は開発者のご隠居が隠し玉にもうひとギア付けて人間が乗れる速度じゃなくなっちゃったの、何回も試運転して700km/h台だって十分速いのにそのさらにギアに入るとこれより2倍の速度が計算上出るらしいけど…何分試せるわけもないし、まぁあんたたちの事だから大丈夫でしょう」

「世のじいさんは変態しかいないのか」

 アキたちは嘗め回すように眺めるとふとある疑問が降った。

「お兄ちゃんたち免許持ってるの!?」

「ああっ…ほら、ゴールドだ」

 確かにユウゴ名義でゴールドフチの免許証だった。

「いつの間に…」

「あっそうだナオさん」

「もちのろん、はいっ」

 手渡されたヘルメットを装着してバイクにまたがった。

「…何しているダム子、さっさと乗れアシスタント」

「へっ!?いっ良いんですか!?」

 トオルは後部に乗るようレイカに指示した。

「ジィー…」

 それを見てアキもユウゴに目で訴えてきた。

 その視線はユウゴにも痛い程、伝わってくる。

「わかったから、乗れ」

「わ~い」

「はいっじゃぁ二人共、安全のためにお姉さんからプレゼント」

 そういうとナオは二人にオレンジとシルバーのヘルメットを手渡した。

 初めてのヘルメット装着に沸き立ってワクワクしながら後部にまたがった。

「こっこれがバイク…」

 初めての感覚に戸惑いながらも心臓の鼓動が早く感じていた。

「あんたたちこれからどっか行くの?」

「俺は長野へ」

「俺は横浜に取材だ」

「そう、女の子を乗せているんだからくれぐれも気を付けて安全運転でね」

「はいっ、御隠居にも礼は8JOに行くとき伝えます」

「ええっ、それじゃぁ行ってらっしゃい!」

「アギちゃんウインちゃん、お土産待ってるよ!」

 二人はミクに手を振って返答して運転者の二人の操作でコールと共に鳴り響き両者同時に動きだし駐車場を後にした。

「行っちゃった…いいな~二人共…」

「……」

「それじゃぁ、ほいっジャックにはアメリカからこっちで整備調整したヤツを地下駐車場においてるよ」

「んんっ」

コングはナオに手渡されたキーを手にしてGIRLS地下駐車場に歩き出した。

「えっ?なになに…師匠も何かもらってるの?」

「本国から取り寄せていたモノがある」

 二人もまた地下駐車場に入って“あるモノ”を取りに行った。

 

 

 首都高速道路

 

 バイクで高速道に入り、ここから2つに分かれてユウゴは長野方面に向かい、トオルは横浜方面に向かった。

 アキたちと別れてレイカはトオルと二輪の二傑、少女漫画で夢にまで見たバイクでの逃避行にレイカの脳が心臓の鼓動を早めた。

 初めてのバイク、初めて感じる風、その何もかもが新鮮な気分だった。

 レイカは少し強めにトオルの身体にしがみ付いた。

 そうして、横浜方面のトンネルに入るとレイカの目にはオレンジのライトが橙の流星のように伸びてバイクの速さを物語っているように感じた。

 

 

 神奈川県 横浜市

 

「着いたぞ…横浜だ」

 最寄りの駐車場にバイクを止め、さっそうとレイカは降り立ちヘルメットを脱いで一早く横浜の空気を吸い込み高ぶる気持ちを溜め込んだ。

 そう、そこは観光地として名高い横浜の町並みがあった。

 見渡す限りが観光名所の横浜市に着いた。

「せっ先生!!横浜ですよ横浜!!」

「だからどうした、さっさと行くぞ」

「はい!まず赤レンガに行って、ランドマークタワー…」

「仕事だと言っただろ馬鹿、目的の場所にさっさと行くぞ!」

「ええ~…せめてちょっとぐらい良いじゃないですか…」

 大通りに出て車が行き来する道路の脇の歩道に沿って歩いてみればそこは見えるはやはりランドマークや観覧車など様々であった。

 横浜無料パンフレットの道案内図を見て確認するとレイカは気になるものがあった。

「先生、このキングとかクイーンって何ですか?」

「横浜三塔って言って県庁本庁舎のキング、横浜税関のクイーン、横浜市開港記念会館のジャックからなる横浜の3つの塔の愛称だ」

「へぇ~えっえっえっえっ……」

「んっ?…おいダム子、何している」

 レイカが立ち止った目線の先には漫画やアニメなど取り扱う全国展開のアニメショップ『aniだらけ横浜店』。

 しかし、レイカがただアニメショップで立ち止っただけではない、店外のショーウィンドウに貼られた『お前にピットイン』の横浜限定グッズの広告ポスターにレイカの目が輝くように留まったのである。

(あっあれは、おまピトの横浜限定グッズぅぅ…ほしい!!でも…先生との付き添いもあるし…さすがに)

 物欲しそうに見つめるあまりトオルも呆れた。

「無理するな…さすがに俺もそこまで強制はしない、個人の好きな物には好きにするのが道理だ。 待っておいてやるから見てこい」

 いつもの鬼畜魔人からのお言葉とは思えないほどの思いがけない優しさにレイカは感極まった。

「せっせんせ~…はいっお言葉に甘えて」

 レイカの心はフローラルだった。好きなアニメ、好きなキャラの限定グッズが買えるとなった今、店内へ一歩…

「あら、ウインダム。奇遇ね」

 エレキング、湖上ラン、まさかの横浜にて遭遇、aniだらけ横浜店の自動ドアからまさかのバッタリ遭遇。

 普段のレイカならGIRLS屈指のアニオタであり、おまピトファンの一人にしてレイカの尊敬する数少ない人物の湖上ランに出会えたことはうれしい限り。

 だがしかし、この状況にしてこの展開は最悪であった。

 恐る恐る背後を振り返ると、ものすごい形相になったトオルが湖上を睨んでいた。

「なんでてめぇがここにいんだ湖上ぃぃ!」

「私は別にGIRLSの調査部の仕事で来ているだけです。ショップ巡りをしているわけではありません」

「要するにサボりじゃねぇか、はぁっ俺が甘かった…少し気を許したばかりにとんでもない野郎と出くわしてしまった…悪いがダム子さっさと行くぞ!!」

「えっ!あっちょっ!まだお店に入ってあっあっああああぁぁぁエレキングさぁぁん!!」

 レイカは首根っこを掴まれ引きずられて先に進んだ。

 

 横浜中華街

 

 ついて来る、付いて来る。もう並走して歩いている。

「先生、一体どういう風の吹き回しですか。あなたが横浜まで出向かれると言うことはとうとう『アンリミテッド』の横浜激戦編に取り掛かられたのですか」

「何でお前まで付いて来る!!そいでもって何でお前もノコノコこいつを連れてくるダム子!」

「良いじゃないですか、せっかくですからエレキングさんとご一緒に横浜を回りましょう先生」

 トオルはそれでもレイカを間に挟んで湖上との距離を離していた。

 これでは一向に気まずい空気のままだったが何処からともなく中華の匂いがレイカの食欲をそそり、そして気まずい空気を打ち消すようにレイカのお腹からギュルルとなった。

「ぶっ!…うっうう」

 あまりの恥ずかしさに顔を上げられずに赤面した。

「っ…はぁ~あほらし」

 トオルは方向をずらして中華まんを売っている屋台に立ち止った。

「把3个包子给我(包子を3個くれ)」

「是,每次有(ヘイ、毎度あり)」

 トオルはレイカと湖上にコンビニの肉まんとは明らかに違いが分かるほどの大きめの本場の中華まんを手渡した。

「良いんですか先生!?」

「気を張った俺があほらしくなっただけだ…さっさと食って小腹の虫を抑えろ」

 レイカは思った。そうこう言っては何かと面倒見のいい人であることを、レイカの分だけでなく湖上にまで気を配る感じが彼のツンデレ属性が現実に留めておくことが勿体ないと思えた。

 二人は顔を合わせて笑みを浮かべながら中華まんに噛り付いた。

「ほぉれよりはっきなんて言ったんれす?パオズ?モグモグッ」

「中華まんの本来の名称だ。包む子と書いて『包子(バォズ)』。餡の入った蒸しパンの総称で俺たちが食っているのは肉の入った『肉包子(ロォゥ バォズ)』に分類される」

「へぇ~…」

 中華まんを食べ歩き名が中華街最深部の先の道路に出た。

 ここもまた交通の行き来が多く一際目に入った。

「車多いですね…あっ東京のバスの色と違うんですね」

「あれは横浜市営の「あかいくつバス」だ。観光スポットに限定した地区を行き来する市バスだな」

「赤い靴?どうして赤い靴何ですか?」

「この先にある山下公園にある「赤い靴はいてた女の子像」にちなんでいるからよ」

「赤い靴の少女?」

「童謡「赤い靴」の歌詞に出てくる女の子をモチーフにして建てられた銅像だ。横浜市の姉妹都市としてアメリカのカルフォルニア州のサンディエゴにも同じ形の銅像があるとコングから聞いたことがある」

「へぇ~…「赤い靴」ってどういったお話なんでしょう」

「諸説あるが…」

 その昔、カヨと言う女性とその娘キミは明治期開拓が進められていた北海道に渡ったが開拓生活の厳しさもあって娘の養育のためアメリカ人宣教師の夫婦に養子として託され本国に帰国することとなるが、キミは当時不治の病とされる『結核』になり連れて行くことができなくなり東京の孤児院に預けられ、その後キミは母親に会うことなく9歳でこの世を去った。

 母親カヨはキミがアメリカ人夫婦と共にアメリカに渡ったと思い続け、キミが亡くなったことを知らず一生を過ごしたという。

「これが定説としてあるが、まぁ様々あるって…んっ?」

 レイカと湖上はトオルから『赤い靴』のモデルを聞いて涙を滝のように流していた。

「カヨさん可哀想過ぎまずぅぅ!!」

「おい!こんなトコで泣くな」

 人通りの多い路上で号泣し始め、周囲から目立ち始めた。

「ああっもういいからいくぞ」

 

 

 先ほどの気まずい大通りを抜けて人通りの少ない公園にたどり着いた。

「ここって…」

「山下公園ね」

 そこは東京湾に隣接した海が一望できる山下公園だった。

 その中心地には先ほどの話していた『赤い靴はいてた女の子像』があった。

「あっほんとですね、赤い靴の少女のぞっっうっうううっ」

 2人は思い出して再度涙が溢れた。

「いちいち泣くな」

「だって…悲しい過ぎますよ!自分の子の死を知らず、お母さんの愛も知らずに死んじゃうなんて…先生みたいに人の気持ちも愛も知らない心の死んだ人にはわかりませんよ!」

「おまえ俺を何だと思っているんだ…」

「普段の行いが原因ですよ……でもねウインダム、確かに先生の人間性は酷いけど何も知らないわけでは無いわ」

「えっ?どういうことですか」

「…逆に俺は母親が居ないからな」

「・・・・・・えっ?」

「10歳の時に死んだ」

「あっあっあっあっ…」

「まぁその点はこいつと俺は逆だがどこか親近感がある…どんな思いで死んだか知らんが他人には思えんがな」

 銅像の台に手を乗せ寄りかかり銅像と背中合わせになるように思いふけた。

「せっせんせ~…」

 レイカは改めてトオルの精神的強さを垣間見えた気がした。

 しかし、刻一刻とレイカの背後から魔の手が彼女を狙っていた。

「先生のお母さまってどんな方だったのでビィイ!!」

 何かがレイカの脇腹を触られて思わず声を荒げたと同時に衝撃で眼鏡を落とした。

「めっメガネがメガネがぁ!あぐっ!!」

 レイカは近眼で周囲がぼやけてほぼ周りが見えなくなった。

「なにしてるんだ馬鹿」

「だっだって誰かが私の脇腹を急に…先生もメガネを探してください」

「それは銅像だ…ったく…うっ!」

 トオルの目に反射光が入り眩しさのあまり遮ったがその反射した光の先にレイカのメガネを持った少女がいた。

「おいっ!まて!」

 トオルはその子を追いかけるように走るとその子も走り出した。

「あっ先生!待って下さ、あいたっ!」

 レイカは見えず徘徊していると街灯にぶつかった。

「まぁ運動タイプじゃない私が走ったところで追いつけるわけでもないわね」

「エレキングさ~ん、どこですか…あぎゃっ!」

 レイカはされに徘徊して草むらに突っ込んだ。

 

 

 一直線の道を走って追いかけるも差は縮まらず、100m10秒台のトオルにも関わらず女の子との距離は7m先ほどだった。

 よく見ると黒く長い髪、白いワンピース、赤い靴、そして左手にはレイカのメガネを持っていた。

 走り方も普通の女の子走りにも拘わらずトオルと同じ速度にも思えた。

「最近のガキはあんなに速いもんなのか、クソッ差が一向に縮まらない…変身して追いたいがココだと目立ちすぎる」

 そう、今いる場所は仮にも公園。人通りの多いこの場所ではあまりにも見え易かった。

 次第に先へ先へと進み、日本郵船氷川丸が見え、噴水が囲む水の守護神像、マリンタワー、土壌広場に差し掛かり、そして…

 先程まで公園にいたはずがギリシャ神殿を思わせるような外観の大倉山記念館の前にいた。

 周りを見ても人も観光客の鳥すらも居ない誰も居なかった。

「どうなっている…さっきまで俺は山下公園の土壌広場に差し掛かって…どこだここは」

 大倉山記念館は文化施設としながらその外観と内装の芸術性から横浜市指定有形文化財となっているがそんな記念館の中からどこか悲しげなメロディーが流れてきた。

「このメロディー…「赤い靴」!?」

「へぇ~お兄さん、知ってるんだ…この曲」

 トオルは反射的に背後に拳を回して身構えた。

 背後には黒い長髪に白いワンピースに赤い靴を履いた少女がいた。

 気付かなかった。背後に誰かいるなら気配で分かるはず名のだが気配が全くない…一体この子は何者なのか頭で交錯する中、彼女の手に持っているメガネこそレイカのメガネだった。

「おまえ、親にどんな教育されているのか知らんが窃盗は立派な犯罪だ、返せ。そいつは俺のアシスタントの物だ」

「ごめんなさい、あのお姉ちゃんが珍しい形のメガネをしてたから気になって、どんくさそうだったから揶揄っちゃった」

「まぁ否定はしないが、あいつを揶揄っていいのは俺だけだ」

「フフッ、私よく意地悪って言われるけどお兄さんも中々だね、よっぽどあのお姉ちゃんが大切で大好きなんだね」

「あん?気色悪いこと言ってないでさっさと返せ、警察呼ぶぞ」

「フフッはいっ」

 女の子は素直にレイカのメガネを手渡し返した。

「お兄さんって彼等とは違うね…8人の勇者たちとは違う、寧ろ逆、同じようで同じじゃない、彼らが光の勇者なら…あなたは獣の戦士かな…お兄さんの信念は正義と言うより本能に近い感じがする…ねぇ!お兄さん、怪獣さんなんでしょ」

 トオルはさらに身構えた。この子は自分の正体を知っている。得体の知れない子供にトオルは警戒した。

「お前は一体何者だ!」

「う~ん、さぁよくわかんない~♪~赤い靴~はぁいてたぁ 女のぉ子ぉ~異人さんにつれられて行っちゃぁったぁ~♪」

 女の子はピアノのメロディーと共に歌いながら大倉山記念館の中に入っていった。

「待てぇ!!」

 トオルは女の子を追いかけるように後を追って記念館の中に入ると山下公園に戻っていた。

 戻ってきた場所は山下3大像の最後、水で囲まれた光の巨人石像が在る場所だった。

「いつの間に…あの子供は一体…」

「せんせ~どこですか~」

 後ろからレイカの声がして振り返るとレイカの手を引いて湖上がやって来た。

「ダム子、湖上」

「その声、先生ですね…どこですか?ふぎゃぁ!」

 レイカは躓いてトオルにとび込んだ。

「ごっごごごめんなさい!」

 レイカは我に返って顔を赤らめた。

「何してんだ…ほら、メガネかけろ」

 トオルは取り返したメガネを手渡し、レイカはそれをかけるとようやくホッと安心した。

「はぁ~よかったです…一時はどうなるかと思いました……わぁ~これってあの有名な「8兄弟像」ですよねぇ!」

「んんっ?…ああっ確か左からメビウス、ガイア、ダイナ、ティガ、マン、セブン、ジャック、エースだったか?…1999年の最後の怪獣頻出の年に横浜に5体の怪獣が出現した時に現れた8体の巨人を一括りにして兄弟と称しているとか」

「私、授業で習ったことあります。それで横浜市は光の巨人が最も多く出現した都市として有名ですしねぇ…こうやって見ると圧巻ですね…写メ撮っておこう」

 レイカはソウルライザーを取り出して画角に8兄弟像全員が収まるようにパシャッと撮った。

「確か2008年に万城目ジュンが高齢で執筆した『8兄弟』が芥川賞を取って、その賞金でここに建てたとか…まぁ俺も呼んだことあるがウルトラマンであることを忘れた主人公とその仲間のウルトラマンたちが力を取り戻して巨悪に立ち向かうって話だったなぁ…小学校の頃に一時期ブームになったのをよく覚えてる」

「私は右から3番目のセブンが好きですね~…資料でも見たんですけどウインダムってセブンに使役されていた怪獣らしいのでなんかちょっと好きです」

「そうっ…私は好きではないわね…そいつを見てるとやたらと首回りが痛くなるから」

「ええ~そうですか…」

「下らねぇ…興味ない…ヒーローモノをちょくちょく書くこともあるがこいつらにはリアリティさが無いから俺の作風には合わないなぁ…」

 レイカは心の中でトオルと自分たちも『怪獣人間』と言う曖昧な存在なのに人の事は言えないのではと思ったが口にしなかった。

 しかし、トオルには先ほどの女の子の言葉にどこか引っかかりを感じていた。

(光の勇者と対を成す…獣の戦士…アホくさっ…書く気も湧かない…が、記憶にでも一様留めておくか)

 

 

 トオルに連れられ辿り着いたのはホテルニューグランド隣にある西洋感漂う外装のレストラン『SOLGEL』。

「せっ先生…ここって」

「ミシュラン3星を獲得した知り合いの店だ」

「ミシュッ…!3つ星…!?」

「どうしたの?ただの3星のお店よ」

 レイカは今更ながらいざ高級店を目の前にしての自分が無力に感じていた。

 それに対していかにも行き慣れている二人が異常にも思えた。

 普段どんな食生活をしているのか中流家庭のレイカには皆目見当がつかなかった。

 扉が開き、扉に着いた鈴の音が入店の合図と共に中からタキシード姿の男性店員が来た。

「いらっしゃいませ、お待ちしておりました。亀沢トオルさまとその他御一行様でございますね」

「ああっ一人オマケで厄介なのがついてきたが構わんだろ」

「はいっ当支配人から存じ上げております…それではこちらに」

 タキシードの案内人に連れられ奥へ奥へと進む。

「せっ先生…私、」

「うまいモンが食いたいんだろう?なら食わしてやるよ…正しいマナーを理解してれば問題なかろう」

 不敵な笑み、レイカは理解した。辱めだ。鬼だ。悪魔だ。

「安心なさい、私が付き添ってあげるから」

「エレキングさん…お願いします」

 奥へとたどり着きと二枚扉が開かれ会場のような広さ、結婚式や宴会などに使用される規模の部屋にポツンと似つかわしくないほどの四角いテーブル1つに椅子4つ、右ナイフ、左フォーク、ワイングラス、丸い食器、そして本日の11品のメニュー表を含めた人数分の3つが置かれていた。

「それでは、お掛けください」

 ウェイターが椅子を引き出し3人はテーブルついてメニューを拝見した。

(はひっ!…ねっ値段が…値段が書いてない…ぶどうジュースだけでよく知らない地名産で書かれてるけど…)

「失礼します」

 ワイングラスにぶどうジュースが注がれ始めた。

 しかし、二人はスパーリングの炭酸水が注がれた。

 この時点でお子様と大人2名、既に恥ずかしかった。

(そっ…そういうことですか!!ここは…ここは…先生たち大人の独壇場なんだ!!)

 まんまとはめられ、ここが大人の社交場こそレイカに場違いさを思い知らされるためだった。

 そう思うとトオルの顔はますます悪魔だった。

 しかし、時すでに遅かった。料理が運び込まれてきた。

 初めは突き出しの『アミューズ』、いわばお通し、本来は食前酒のために出される小品である。

「えっええっと…」

 どれで食べればいいのかレイカが迷っていると湖上はボソリと小声でつぶやいた。

「端から順番によ…」

「はっはい…」

「………」

 続いて野菜類で彩られた『オードブル』、コンソメの『スープ』と続いていよいよ魚料理『ポワソン』ソースのかかった旬の魚を使ったグリルが来た。

 レイカは早速フォークに手が伸びた。

「ウインダム、ソースが多いからフィッシュスプ―ンよ」

「あっはいっ…」

 続いて口直しの氷菓『ソルベ』ほのかにミントのシャーベットが口の中をスッキリさせてくれる。

(うっうわぁ~ミントが食べやすい程に甘めだ…いつものようなスゥスゥする感じがしない)

 そしていよいよ肉料理『アントレ』、オレンジソースのかかった鴨肉だ。

(鴨のオレンジソース!私でも知ってますけど、初めて食べた…)

 メイン料理を食しただけでは終わらなかった。

 今回は一般的なコース料理よりも格式が高く品数も多い11品、続いて『サラダ』に次が『チーズ』ときた。

(サラダとかチーズは後に来るのかぁ…)

 そして終盤に差し掛かりデザートに当たる2品、甘味菓子の「アントルメ」に、果物の『フルーツ』が来た。

(うっうわぁ~この辺りがアギさんとユウゴさんだったら喜びそうだなぁ)

 最後は『カフェ・ブティフール』コーヒーと菓子が来た。

「おいっ…シェフを呼べ、ヤツと話がしたい」

「かしこまりました」

 トオルは本日のシェフをいきなり呼びつけた。

 

 

 キッチン

 

「オーナー、亀沢様が」

「分かっている…すぐ行こう」

 シェフは手を拭い、エプロンを脱いでトオルたちがいる広間へ向かった。

 

 

 広間

 

「まぁまずまずだったな…お前のテーブルマナーに20点だけやろう」

「にっ20…」

 レイカは何とも言い難い採点結果に肩が竦み落胆した。

「残りは補助抜きだったらこうも行かんな…もっと低かったろうに」

「……先生は意地悪です」

「そうっ!そいつは料理になると意地の悪さは怪獣1だ」

 全員が声のする方を向くと白い料理服上下一式の男がいた。

「この美食屋め…料理前に華ってか?」

「ロウさん…これのどこが?」

「ふぅむっ…普通シェフを呼ぶときは料理がクソ不味かったり些細な手違いを手玉に料理代金を踏み倒す輩が相場だぜ」

 男は中華系の顔つきにそこはかとなき流暢な会話が何者かを窺わせる。ていうか若い。

「新しく店をまた構えたって聞いたがあんた、もう何件目だ?ここまで来るとチェーン店だぜ」

「んんっ?…う~ん横浜はこことベイエリヤに東京は銀座、新橋、新宿、エトセトラエトセトラ、海外にまであるからわっかんね!!」

「えっええっと…先生、こちらの方は?」

「ロウ・シンリョウ、中国系日本人にして数多くの賞を総なめにしていくつもの店を構える料理人だ」

「まぁな、商売繁盛、景気向上ってな。俺の料理を食べに来ようと世界中からくる。どうだい、嬢ちゃんたち、俺の料理は?」

「はっはい!とっとてもおいしかったです」

「結構なお手前です」

「それはなりより!!……さて、お前はそうも行かないな…おまえ、怒ってるな?」

 トオルの顔は至って正常な顔つき無表情、ただいつもより笑っていないことが違う。取材する時は常に相手に好印象を維持し続けるための喜怒哀楽の内の2つ喜楽のみで表情を形成するが、それが無である。

 レイカは今思いだした。そもそもこれって取材の仕事で来てるんだと言うことに…

「おっ怒ってる?…」

「あっ?ああ、君は知らないのかい?こいつの人間としての怒りは無、こういう顔つきの時は大体怒ってるよ。でもこれが怪獣時ならこいつの怒りはもう凄まじ…お前、まだ見せてないのか?この子たちに自分の本当の素顔を…」

「えっ?…」

 素顔?何に?なんの?……あっ、そういえばガメラって素顔を見たことないとレイカは脳内で考えた。

 思えばガメラは背後を覆う甲羅状の背中と同質の硬質な鉄仮面みたいなので覆われていると思い返した。

「こいつの形相見たことあるか?もう凄まじいのなんのって」

「ロウさん、俺はそんなことを話すためにあんたを呼んだんじゃない。そろそろ真面目な話をしようか…」

 そういうと懐から財布を取り出したがレイカはその財布に見覚えがある諏訪ストラップが付いていた。

「そっそれ私の!!」

「これは俺のアシスタントの財布だが中身は雀の涙」

 その財布を背後の端へと投げ捨てた。

「一方、そこにいる電気ヘビ女も出費して同じく雀の涙、俺は手持ちどころかビタ一文なし、到底3人分コース料金なんて無い。さぁそうなればどうするか?…そうクレームで押し切る。まずい拙い不味いといって料金を踏み倒させる」

「つまり…」

「俺からのクレームは、左に電気ヘビ女、右にダム子、扉を背後に背負ってあんたが立ちはだかり、あんたと俺が向かい合ってる」

―止めて止めて止めて止めた…

「部屋は一式大理石、テーブル長方形」

―やだやだやだやだやだやだ…

「ヤル気満々と伝わってくるぜ…」

 レイカの念むなしく、二人の間の空間が歪み始めた。

「俺の店で無銭飲食は許さねぇぜ」

「……なぁダム子、香港映画でよくあるよな…香港映画は決まって食事シーンは…アクションだっ!!」

 次の瞬間、トオルはテーブルを蹴り上げテーブルは宙を舞った。

 しかし、テーブルは真っ二つ、刃物で切ったように真っ二つになった。

「俺の店で無銭飲食をしたヤツの相場は働いて返すか、てめぇの命で払うかだ」

 ロウの手首から鋭利な刃が生えていた。まるで草刈鎌のように…

「だろうね…獣装“ガメラ”」

「獣装“カマキラス」

 変身するとロウは両手首に鎌、虫を思わせる口元、全身深緑色、大きな目からなる集合した複眼、体格は実に190cm以上、さしずめカマキリ人間だ。

「本性表したな蟷螂拳の使い手「鎌斬りロウ」、蟷螂怪獣カマキラス」

 二人は身構えた。カマキラスは深く腰を落としさながら蟷螂まんまの構えで一方のガメラピーカブースタイル、さながらボクシング対中国拳法、違いは等身大の亀対蟷螂だ。

―アギさんアギさんアギさんアギさんアギさん!!

 

 

 一方…

「う~んっどうしよう」

「早いとこ決めろよ」

「だってチョコかバニラか迷うんだ」

「ミックスにすればいいだろ」

「それだと味が混ざっちゃうよ」

 パーキングエリアでソフトクリームの味で悩んでいた。




見せられないMONS~

中華まんを食べ歩き名が中華街最深部の先の道路に出た。
「ほらよダム子」
 トオルがレイカに手渡したのは赤い靴を模した飴細工だった。
「なんですかこれ?」
「さっきの親父から子供サービスだと」
「わぁ~い…って私、子供じゃないですよ!!そういうので喜ぶのザンさんだけでしょ!」



「ㇸックシュン!!」


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長野はゆる忍ぶ

 昔、昔の大昔、中国清の時代に『王朗』と言う武術家が居ました。

 王朗には師匠がいました。それは人ではなく何とカマキリ。

 王朗は武術を極める修行の日々の中である日、カマキリがセミを捕える瞬間を目にしてカマキリの動きをマネする蟷螂拳が完成しました。

 そこから時間が遡り、中国武術界に蟷螂拳の天才の三兄弟が生まれました。

 3人は仲の良く抜群のコンビネーションを持っていましたが日本から来た『強者』に負け、世界には自分たち以上に強い存在が居ると知らされ兄弟は別れを決意しそれぞれが別の道を歩みました。

 その内の1人は『強者』の出身地で強者が集う国、日本へと移住しました。

 そして、時が経ち…

「ギルッギャァァアア!!」

「コォァアアォオオン!!」

 カマキラスの鎌手とガメラの籠手がぶつかり合い火花が散った。

「うあああああああ!!何でこんなことに!!」

「男と男の戦い…両者一歩も引かない攻め同士…嫌いじゃないわねズズズッ」

「こんなのBLなわけないじゃないですか!!」

 優雅にコーヒーを飲みながら安全のためエレキングとウインダムとして変身していた。

「わぁぁぁ私の財布が遥か先にぃぃ!!」

 ウインダムの財布は危険地帯の先であった。

「はぁぁっ!!フランス修行で編み出した“ハーケン・クラッシュ”の餌食にしてやろう!デェヤァァァ!!」

「フンッ!」

「えっ?ぎゃぁあああ!!」

 ガメラが避けた事によりウインダムの股の間の床に突き刺さり、頭から肩の隣の壁に『猟奇壁ドン』が炸裂した。

「あっごめん」

「何で避けるんですかせんせぇぇ!!」

「自分の身は自分で守れ」

 戦闘は継続された。

「も~う嫌です!!誰かこの状況助けてぇぇ!!」

 救いの神は聞きもしないが救いの女神が電話をかけてきた。

「はっ、あっアギざん、アギさんだぁ!…もしもし!!」

『あっウインちゃん、ピグモンざんだじのおひはげはひんげんもちでいいはなぁ…モグモグ』

「アギさん!今はそれどころじゃ…待って、アギさん何食べながら電話してるんですか!?」

『ほへっ?ひんげんもち…んんっ風が!わぁきな粉が』

「今そんな状況じゃないんですよ!!先生が蟷螂とドメンスティックハードバトルをっ」『ハックシュン!…ツーツー』

「…切られた…自分から掛けて来といて…」

 

 

 長野県長野市戸隠

 

「あれ?切れちゃった…なんか言ってたけどまぁいいか…でもやっぱ長野県にまで来て信玄餅はやっぱおかしいかなぁ…そもそも信玄餅は山梨県の特産だよねぇ」

「隣県だから桔梗屋が販売してるんだろ…まぁ戦国時代は甲斐の国(現在の山梨県)も信濃の国(現在の長野県)も武田信玄が納めてたらしいからゆかりがあるんだろう…土産なら信州蕎麦か野沢菜にでもしておけ」

 2人は現在、戸隠で広大に広がる田んぼと連なる山々を絵にお茶をしていた。

「のどかだねぇ~こうしてるとGIRLSの忙しい日々を忘れちゃいそうだよ」

「ここら辺は元々1万人規模の村だったらしいが今現在は4千規模になって2005年に長野市に編入されて村自体は消滅したが今でも字名に戸隠がある地域は戸隠村の区域だったらしい」

「過疎化なんだね…」

「仕方ない、農村なんかじゃ稼ぎもよろしくないからな…物流も乏しいし長野は東京より広いからなぁ…過密の東京と比べて穏やかではあるがな」

「それもまた良いんだろうねぇ…ボク将来こういうとこに住んでおばあちゃんになりたい…」

「今も十分ババア臭せぇけどお前じゃ農作業は無理だ貧弱」

「むぅ~やってみなきゃわかんないよ」

 アキは餅のように頬を膨らませユウゴを睨んだ。

「そういえば長野辺りは宮下性が多いって聞いたことがある」

「そうなの?…じゃぁボクたちのご先祖様はここがルーツなのかなぁ…」

「かもな…」

 ほのかに香る土に匂いが雄大な土地が生きている気配を感じさせ、上空ではトンビが鳴きながら旋回していた。

「やっぱいいな~こういうとこ、東京みたくワイワイと騒がしくなくて…ボクの周りは騒がしい人が多いからなぁ~」

「ゴモたんみたいに?」

「そうっゴモたんみたいに…えっ?」

「何も言ってないぞ」

 ユウゴでは無いとして先ほど喋ったのが誰なのか、そしてどうしてどこから現れたのか恐る恐るギッギッギッと首を90度後ろに回すとそこにいたのはゴモたんことミカヅキだった。

「ごっごごごゴモたん!!」

「イエ~イ!二人共こんなところで会うとは奇遇だね~っと言いたいところだけど…何々~このバイクもしかしてお兄ちゃんのバイク?」

「ああっじっちゃんがバイクくらい乗ってみろって言われて用意してもらった」

「ほへ~いいないいな~アギちゃんこれに乗せてもらって長野まで来たの~」

「それよりどうしてゴモたんがココにいるのさぁ!!」

「ニッシシ~だってウチは今、チビッ子忍者村のゆるキャラグランプリのイベントで来とるんよ」

「ゆるキャラグランプリ?」

「そうっ全国から様々なゆるキャラたちが集って競い合ういわばゆるキャラの大怪獣ファイト、違いは己の存在意義をかけたゆるキャラたちの壮絶な名を上げの場やけどな」

 ゆるキャラたちの壮絶な名上げとは一体どんなものか、アキは少し興味が湧いてきた。

「ちょっと見て見たい…」

「じゃぁさ、アギちゃんたちも出てみない!特にアギちゃんのお兄ちゃんにどうしてもやってほしいことが有るんや」

 ユウゴはミカヅキの提案の中で自分にしてほしいことと両手を拝む様に頼み込まれ「俺が?」と自分を指さした。

「そうそう、ピグちゃんから聞いてるよ~なんでも着ぐるみを着たまま超身体能力でスピードクライミングをしたんでしょ~お願~い、GIRLS側からもゆるキャラを出す予定だったんだけどスーツアクターが急遽来れなくなって探してたんよ、アギちゃんからも頼むよ~ウリウリィィ」

 ミカヅキはアキに抱き着くようにワシワシと撫でまわした。

「わわわっボクに言われても…」

「何で俺がそんなことをしなきゃならん…大体こっちも仕事が―」

「ちなみに優勝者には栗とリンゴの長野スイーツ食べ放題らしいよ」

「やろう!」

 チョロかった。スイーツと聞いてまんまと釣れた。

「会場はチビッ子忍者村だな!とっと行くぞ!」

「よぉ~しせっかくだからさぁ~バイクに乗せてってよ~ウチもアギちゃんのお兄ちゃんのバイクに乗っけてもらいた~い」

「ちょっちょっと待ってよ、ゴモたんが乗ったらボクはどうなるのさぁ!」

「3人で乗ればええやん、ちょうどウチら二人でもアギちゃんのお兄ちゃんの体重分なんやし、アギラとゴモラは一心同体、二人で一人の大怪獣ってことでさぁ~ウリウリッ!」

「わわわぁ!さっ三人乗りは交通違反だよ…それに三人で乗ったら事故を起こすよ!」

「バイクでの三人乗りが違反なのは三人で乗って事故を起こす下手糞が多いから作られた法律だ。だが、俺の運転能力なら問題ない」

「大ありだよ!!お兄ちゃんまで乗り気にならないでよ!」

「も~アギちゃんは可愛いなぁ~…でも仕方ない、じゃぁ百歩譲ってウリャァ!!」

 ミカヅキはユウゴのライダースーツに潜り込んでユウゴの胴体にしがみ付いた。

「ゴモたーーーん!!何してるのさぁ、ちょっと!!」

「もう妥協案がこれしかないんよ…いやぁ~中は意外とお兄ちゃんの温もりで温かいんやなぁ~気に入った、ここはもうウチのモンや!」

 ミカヅキの小さな身体でユウゴのライダースーツ内に入り込んだことによりユウゴの身体が大きく膨れた姿となった。

「ゴモたん!さすがに違和感があるよ!!出てきてよ!!」

「いやぁ~ここはもうウチの縄張り、アギちゃんのお兄ちゃんの身体はウチのモンや!」

「誤解を招く変なことを言わないでよ!!」

「ねぇねぇ、もう一人、妹欲しくなぁい?お・に・い・ちゃ・ん」

 ミカヅキはユウゴに体を擦り付けるようにくねらせた。

「これ以上厄介な者はいらない」

「んも~連れないな~そこはノリでアギちゃんを困らせようよぉ~お・に・い・ちゃ・ん、ウチの知らない超振動技をお兄ちゃんに教えてほ・し・い・なぁ~」

 いつもの明るく人懐っこい性格のミカヅキとは思えないほど妖艶なアプローチをユウゴに仕掛けてきた。

(スイーツスイーツスイーツスイーツスイーツスイーツ…)

 しかし、ユウゴには全く響いてなく頭の中はスイーツの事しか考えていなかった。

「ゴモたん!いいから離れてよ!!」

「おやおや~もしかしてヤキモチかなぁ~」

「そんなんじゃないよ!!不自然過ぎるから!」

「ええ~ウチ、アギちゃんのお兄ちゃんが好きなんやもん、離れとうない」

 大胆なまでの告白にアキの顔は真っ赤になった。

「おっお兄ちゃんはボクのお兄ちゃんなんだから!!」

 そして、ムキになった勢いでアキは大胆なことを口走った。

「ニッシシィィ…眼福眼福」

「何でもいいからとっとと行くぞ、スイーツは俺を物だ!」

 やはりミカヅキがどれだけアプローチしてもアキが何を言おうと気にもせずユウゴの頭の中はスイーツ一式だった。

 結局、不服ながらアキも後部に座り再度ヘルメットを装着してチビッ子忍者村に向かった。

 

 チビッ子忍者村

 

 戸隠には戸隠流の忍術流派が存在する。

 文献上平安末期頃に誕生したとされるが今現在の忍術原型自体は木曾義仲に仕えた仁科大助が、主君が源義経に撃たれた後に伊賀へ雲隠れしたことにより伊賀流忍術を取り入れた事により完成されたとされている。

 そうした背景もあって現在まで戸隠は忍者及び忍術ゆかりの地として知られているが、しかし今宵はゆるキャラたちの祭典、『戸隠ゆるキャラグランプリ』。

 己が存在を世に知らしめるため一同に集まったゆるキャラたちの熱き死闘が今始まろうとしていた。

 ちなみにユウゴはいつも通り黒いガマちゃんで出場していた。

「さぁ始まりました!みんな~ゆるキャラはすきかなぁ~」

「「「おおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」」」

 ゴモラの掛け声と共に観客と子供たちが合わせて声を上げた。

「ウチもやでぇ~今日はゆるキャラたちがいっぱい来てくれてウチはもうテンション上がりまくりや!!なんたって今回は最有力候補が勢ぞろい、まずウチがお勧めするんは今最も行き良いがありシュワシュワ動画で大怪獣ファイトの次に人気を把握しているカワウソの妖精、暴れる珍獣『ちよたん』!!」

 ゴモラの紹介と共に観客に大きくアピールをするちよたんは大きく目立った動きを示した。

「続いて不動の一位、誰にも譲らぬ、ゆるキャラ界のゼットンちゃん!熊本も帝王、『グマもん』!」

 こちらも黒い体格を大きく意識させながらアピールをしてきた。

「船舶戦艦何のその!船と橋と腹巻はワイの武器(チャーム)じゃい!愛媛の黄色いトリ!?『バリバリさん』!」

 持っている舟の模型を高らかに掲げアピールをした。

「あんたそれ下半身が人やん、ゆるキャラとしてギリセーフ!西東京の怪しキャラ、『ニシコー』!!」

 下半身はもはや人だった。

「ゆるキャラの元祖ここにあり、私が先!『ぜんとさん』!」

 今回きっての人型ゆるキャラ。

「非公式?だからどうした、汁かけるぞ!千葉の非公認のナシの怪物『しなっしー』」

「シナシナ汁ブッシャー!!お前ら全員シナシナになれ!」

「しなっしーの二番煎じ!?だからどうした、ネバネバのばねばねにしたやんよ!茨城の嫌がらせモンスター『ばねばねーるやん』」

「ネバネバの納豆はSNS撥ねするバネ~、みんなに送りつけるバネ~」

「そして飛び入り参加で今大会きっての黒いだけにダークホース、いやブラックガマ!上野動物園イベントに自衛隊イベントで突如として頭角を現した超新星!!この体格で軽い身のこなし、スピードクライミング5秒台を叩きだしたウルトラゆるキャラモンスター、ウチの超お墨付き『クロガマちゃん』!!」

 ガマちゃんの紹介と同時に自分たちより目立ち且つゴモラのお墨付きとあってパッとでの新人に全ゆるキャラがメンチを切っていた。

(スイーツスイーツスイーツスイーツスイーツスイーツ…)

「それでは今大会のルートを謎の『コオリヤマアラシ』さんにご説明願います」

「とぉう!!おれっ…私が氷の使者『コオリヤマアラシ』だっぅぶ!」

 突如現れた『コオリヤマアラシ』こと謎の銀色の粒の着いた黒いマスクを付けサングラスと白いマフラーを付けただけのアンギラスまんまだったことに思わずガマちゃんの口が開き、中のユウゴが目を丸くして見られた。

 以下、ユウゴたちの手話での会話です。

《何してんですか!アラシさん》

《ミカに頼まれたんだよ!大体こっちのセリフだ!何でお前がこの大会に出ている!?》

《スイーツ!!》

《阿呆!!》

「コオリヤマアラシさん?」

「えっ!うほんっ!でっではコースを説明しよう!」

 まずスタートはチビッ子忍者村を出て県道36号線の約3kmの道のりを進み戸隠流忍法資料館の忍者からくり屋敷を目指しますが道中忍者たちによる様々な弊害と罠が待ち構えておりこれを潜り抜けなければならないコースとなっていた。

 なおその様子は中継され会場のモニターで確認ができることになっている。

「先にからくり屋敷にゴールした者が優勝だ!では検討を」

 ブンッと突如、モニターにタコのような着ぐるみが姿を現した。

『……えっ?これ撮れてます?もう撮れてる!?ええっウホンッぶわっはははははっ!苦しゅうない哀れなゆるキャラの諸君!』

「あっあんたは!」

『我こそはタガール!ガマちゃんのキャラクターだった者!『絵本版ガマちゃん』の急な路線変更に伴い6話以降一切登場させてもらえずにロクに可愛くもないガマちゃんの方が人気となりグッズもイベントもぜ~んぶガマちゃんであることが気に食わない!!よってGIRLS諸君の大切なお仲間を預かった!』

『ゴモたん!!ボクこんなことあるって聞いてないよ!!』

 タガールの背後には手足首を十字架に拘束されさながらゴルゴダの丘のキリストのように縛られたアギラが映し出された。

『貴様らへの積年の恨み、この何とも冴えなそうなごく普通な感じの怪獣娘にこのゴルゴダくんクスグリ十字架マシーンではらさせてもらう』

『冴えないは余計だよぉ!!』

『あポチっとな!』

 手に持っていたボタンを押すと十字架の脇からウネウネと機械ハンドが現れアギラの身体に迫って来た。

『えっちょっとまっあぐっあぁぁああぐぎぐあはぁう!!』

『ほぉほほほほっ!どうだ、GIRあっやばっ…私、特性のゴルゴダくんクスグリ十字架マシーンの威力は!』

『今、GIRLSって言ようとしたあふぐっううっ!』

『GIRLSとか関係ない!感度をもっと上げるぞ!!…どうだGIRLSとゆるキャラたち諸君!彼女を返してほしくば私が用意した地獄の県道36号線マラソンコースに設置した幾つもの試練をくぐってもらう!』

 タガールからの試練は以下の通りだった。

 まず、チビッ子忍者村からスタートした350m地点の戸隠神告げ温泉湯行館でカップ焼きそばタコヤングを食し水分を奪わせ、そこから先の1km地点そば処うずら家にてさらに水分を吸わせるためにGIRLS印メとロンパンを食し、さらに進んで2km地点の鏡池入り口バス停の給水所で眼兎龍茶が配られ、あとはラストスパートだがこの残り1kmゾーンで更なるトラップが待ち構えていた。

『諸君の頑張り次第だ!さあ検討を祈る!!』

『ふっグあっぐぁあああっぐああ』

『意外とヤバい声出るなぁ…』

 ブツンと切れ、各自スタート位置着き始め訳の分からないタコにあのようなものを見せられメラメラと闘志を燃やしていた。

 目的はただ一つ!あのタコ潰す!!そしてその道中であのタコと関係するガマちゃんも潰すと言った面持ちであった。

(スイーツスイーツスイーツスイーツスイーツスイーツ…)

『それではウチの大切な仲間であるアギちゃんが捕らわれたカラクリ忍者屋敷までゆるキャラのみんな!アギちゃんを助けてぇ~よ~い―』

 パンッとスターターピストルの雷管が響き、音と共に各ゆるキャラが一斉に飛び出した。

 ただ1体、クロガマちゃんを除いて…

「さぁ各自が一斉に飛び出しスタートしましたが、おや?ガマちゃんだけ出遅れたのでしょうか、一切微動だにしません。あっ実況はウチことゴモたんと解説は」

「アンギっ…あっコオリヤマアラシがお送りする」

「さぁ始まりましたがガマちゃんは一向に動かずに他ゆるキャラたちは一斉に出ておおっと5m地点で何か起きたようです」

 ドローンからの空撮で映し出された映像は先に一斉にスタートしたはずのゆるキャラたちが大きな落とし穴に落ちて泥だらけになっていた。

「これはどお行ったことなんでしょうかヤマアラシさん」

「早速ゆるキャラたちは最初の罠『奈落泥落とし』にまんまと引っ掛かりましたねぇ…戦国時代では非常にポピュラーなトラップで落とし穴に竹槍などを仕込んで非常にグロテスクなエグいトラップだったという記録もありますが良い子が見ている手前でそのようなのは教育的によろしくないので今回は大量の泥を用意しました」

「アラシさん、先ほどのアギちゃんの絵面もかなりまずいのでは」

「誰だってイタズラでくすぐり攻撃はするでしょう…そういうことです」

「なるほどそこはかとなく分かる気もしますが、おおっとここでようやくガマちゃんが動いたようですが速い速い速い!出遅れたことを意にも介さず猛スピードで走ってます!彼は既に落とし穴があることを見透かしてずっと動かなかったのでしょうか」

 映像から猛スピードで走ってくるクロガマちゃんは落とし穴に差し掛かるも落とし穴手前で跳び超えた。

「何とここでガマちゃんが驚異的な跳躍力で落とし穴を飛び超えました!!」

「6m四方はあるのに人間ではありませんねぇ」

「人間?何の事でしょうかガマちゃんはガマちゃんです、さぁこのまま一気に突っ切るかおおっとここで落とし穴に落ちていたゆるキャラたちが落とし穴に敷かれた泥で泥弾を作りガマちゃんに向けて投げています。 ゆるキャラ基、キャラクター界に安全安心信頼などありませんね」

「いったいコレのどこがゆるいのでしょうか、泥だけにドロドロな人間味溢れる感じですねぇ、一番前の奴から潰す、キャラクター業界も人間界も変わらないと言うことですねぇ」

「ああっと今度は泥の代わりに穴から這い上がって石を投げつけ始めました。君たちのゆるさは何処に行ったのか、これが現代のキャラクター業界の闇なのか!?だとしたら大変教育上よろしくはありませんが当たらない当たらない、まるで頭に目でもあるのかすべてを躱して今350キロ地点にガマちゃんが到着、戸隠神告げ温泉湯行館でタコヤングを今、手渡され、あれ?なんか口から手が…舌でしょう、きっとあれはガマちゃんの舌なのでしょうって速い!ここでも早すぎる!タコヤングを口に入れてモノの数秒で完食しました!」

「乾麺類はなかなかに水分を吸ってお腹持ちも溜まりますからね…普通ならマラソンの中では大変エグいはずなのですが」

「しかし、そこは人にあらず生物にあらず、超究極生命体ガマちゃん!恐ろしいまでの身体能力だぁ!!」

「どうやら他のゆるキャラたちもぞろぞろと来ていますねぇ」

 

「さぁ次にクリアするのはおおっとタガールの第一試練クリア二体目はしなっしー…おや?スタッフに止められました…今、チャックが開かれおおっとタコヤングが背中から出てきました!どうやら反則があったようです、タコヤングを自身の中に隠そうとしていましたがスタッフの目はごまかせません!『何でしっなー!アイツだって同じことしているはずしっなー!』と映像からでも分かりやすいまでのジェスチャーです!しかし、ガマちゃんはちゃんとスタッフに着ぐるみ内まで確認され厳しいチェックをクリアして、ちゃんと最後まで食べて進んでおります!…そうこうしなっしーが揉めている内に次々とクリア者が出てきました」

 スタッフチェックにより『しなっしー』含め5名失格。

 

「さぁ次に差し掛かったのはおおっとここへ来て戸隠忍者による妨害忍法、水遁『ポンプ車』がガマちゃんを襲う!」

「長野市消防署ご協力のもと安全面に配慮して行っております」

「さぁここをどうやって切り抜けるか、おおっとコレは!?鉄板です!ガマちゃんは畑などの給水門などの蓋に使用される農村などに良くある鉄板蓋を盾に切り抜けた!!」

「落ちている物を使ってはいけないというルールはありませんがこの先どうなるか想像できませんねぇ…」

「さぁ他のゆるキャラたちも来ましたがさすがにガマちゃんのように行きません!次々とポンプ車に弾かれ田んぼに落ちていきますが、ここで着ぐるみの中から白旗が次々とギブアップを宣告しています」

 ギブアップ13名 脱落

 

「さぁここへ来て1キロ地点のそば処うずら家に今、ガマちゃんが到着!ここでメとロンパンが手渡され完食しなければなりま…速い!!もう完食!?先ほどのタコヤングよりも速いです」

「スタッフにOKが出ましたねぇ…本当に完食したみたいです」

「ええっ追加情報ですがガマちゃんは甘い物が大好きだそうで、パンはおやつにすぎないとのことです。いや~それにしても速すぎる、パンはパンでもパンにあらずメとロンパンです。GIRLS東京支部販売店で屈指のボリュームを誇るなぜか『と』だけ平仮名の菓子パンです。お求めはお近くのコンビニなどで随時販売しております」

「宣伝はしっかりしますね」

 しかし、更なる妨害がガマちゃんを襲った。

「おおっとここでさらに戸隠忍者の妨害忍法、火遁『特殊爆破』の準備ができたみたいです!!」

 ガマちゃんが通りかかった瞬間、バンバンバンバンと火柱が上がったが火柱が強すぎ火柱の方がガマちゃんを覆い隠し煙で県道一帯が覆われた。

 しかもこれを機にと次々とゆるキャラたちがガマちゃんの進行を止めようと煙の中へ入っていった。

「ちょっと煙が多すぎるなぁぁあああああ!!」

 妨害忍者が近づいて様子を確認すると煙の中からゾンビの如くボロボロになった狂獣ガマちゃんが姿を現した。他のゆるキャラたちは田んぼに頭から突っ込んでいるがご想像にお任せする。

「こっコワッ!!」

「ありゃダメだ…完全にタガが外れちまってる…こうなったらミカ、ソウルライザーを貸せ…ああなったユウゴはもう普通の人間じゃあ止まらない……ああっ俺だ…すまんがそっちにもうすぐゴジラが向かう…準備だけしておいてくれ」

「アンちゃん誰を呼んだの?」

「あいつが本来ここ長野に向かう目的だった人のトコに…それより早めにタガールのスーツアクターに連絡した方がいいぞ」

「あっそうだった」

 ゴモラは席を離れて野営テントの裏に回りソウルライザーに番号を走らせた

 

 

 戸隠流忍法資料館 忍者からくり屋敷

 

「ううっまだ脇に変な感覚が…」

「ごっごめんなさい…アギラさんをこんな事に巻き込んじゃって」

 タガールの着ぐるみは丁寧に謝罪をしてきた。

 実際既に8回ぐらい同じ話をしている。

「いいよもう、ゴモたんの悪ふざけには慣れたくないけどお互い大変だね…シーボーズ」

 タガールの頭部を外し、着ぐるみを脱ぐと中から滑川シイナことシーボーズが3本の小さなツノに骨を思わせる体の衣装が表れた。

「ふっ~えっええ…私もゴモたんの声に合わせて動くのに精一杯で…」

「しかし、誰、こんな変な機械作ったの…」

「わっ私のカウンセラーだった人が用意して…元々暴走した怪獣娘のお仕置き用に製造したらしいんですけど初期はもっとその…ひっ卑猥で…破廉恥だから責めてくすぐるとかにした方がいいってことになって…もう何度も実験台にされて」

 シーボーズはネガティブになることにより周りにどんよりとした空気と共に青白い火の玉が浮かびあがった。

「メトロンさんだっけ?今回のイベントを立案したの…おまけに自分の商標の商品宣伝までして…商売上手なんだね」

「えっええ…でもアギラさんたちまで巻き込んじゃってすみません!」

「もう謝んないでよ…それにお兄ちゃんはスイーツのためなら火の中だろうが水の中だろうが飛びこむ人だから」

「ぷっふふっ…面白いお兄さんですね…でもスイーツより一番大事なのはアギラさんじゃないですか?」

「うっう~ん…どうだろう…ゴモたんは『どちらが大切か確かめる』って言ってたけどボクなんかよりスイーツを取るかも」

「そっそんなこと…だって一番大切な家族じゃ…」

 シーボーズのソウルライザーが鳴りだしゴモラから連絡が入った。

『あっシーちゃん、ウチやけど予定より速くそっちに怒り狂ったアギちゃんのお兄ちゃんが来るでぇ』

「えっ!?いっ怒り狂ったってどういう…」

『言葉通りやシーちゃんだけでも逃げといた方がええで、多分シーちゃん死ぬかも』

「しっ死ぬ!?まっまってくださいゴモたんさん!話が見えてこな…」

『んじゃぁ後はよろしく~ツーツー』

「……そんな~!!無責任すぎますよ!!死ぬって何!?何でこんな怖い思いしなきゃならないの!?ワァァ~ン!」

 シーボーズは突如大粒の涙を流しながら泣きわめきだした。

「落ち着いてシーボーズ…ゴモたんの言う通りにした方がいいよ…今頃、レース内は物凄いバイオレンスな展開になっていると思う…」

「ばっバイオレンスって何ですか!?私こんなことになるなんて聞いてないですよぉ!!わぁぁ~どうしよう!!」

「そう混乱するな…仕事ってのはぁ混乱しちまったら自分に不安と言う鎖を身体に縛って手職がままならなくなったらおしまいだ」

 気配もなくいきなり現れた男に気付いたが既に遅かった。

 謎の薬品を二人は布で口元と鼻に当てられ、そのまま昏睡した。

「約束は守るもんだぜ…ユウゴ」

 

 

 現在、ガマちゃん以外のゆるキャラは全員がリタイアして残す所は眼兎龍茶給水場を通過して眼兎龍茶を飲みほし、最終トラップの戸隠忍者の餅遁『ベタベタトリモチ防衛線』のみ、バズーカで撃ってくるトリモチを避けながら進むが…

「…よし、いよいよ最後の妨害だ!気を引き締めてぇ…ぇっぇえええええええええ!!??」

 見えてきたのは県道の街灯を無理矢理武器にして最後の妨害を阻止した。

「「「「うわあああああああ!!!!」」」」

 怖じ気づいた戸隠忍者たちはトリモチバズーカを捨てて県道の道を開けた。

 そして暴走特急ガマちゃんはラストスパートに駆け出しゴールまで向かった。

 防衛線の忍者の一人が無線で連絡した。

「だっダメだ!あんな化け物敵いっこない!雲居さん、あとは頼みます!」

『おうっ、ご苦労…あとはこの雲居ネツに任せな…』

 

 

 戸隠流忍法資料館 忍者からくり屋敷

 

 ガマちゃんは内部に潜入するが先ほどまでの暴れっぷりを抑え隠し冷静に館の敷地内を警戒的な姿勢で移動していた。

 仮にもここは忍者の館、何があるか分からない以上むやみやたらな行動は慎むのが得策だった。

「…妙だ…人の気配がない…アキがいるとしてもそれ以外の気配がない」

 館内の違和感に恐る恐る慎重に敷地内を移動するが人の気配が無い事に嫌な気配も感じていた。

「待っていたぞ!宮下ユウゴ!」

 声のする方向に振り向くとカラクリの屋敷の屋根の上に虎柄の縞模様に加え流線型の体格に肩から爪足のようなモノが生え、目は2つ大きな主眼とその他複数の目が主眼を囲む様に点在し、口元には黄色いマフラーのようだが1本1本が束になったスカーフで出来ていた。

 その姿は蜘蛛を思わせる忍者、蜘蛛忍者だった。

「ネツさん!あんたに会うのをすっかり忘れてた…」

「まぁ大方そうだと思っていた…怪無山で瞑想して待っていれば…なんだそのふざけた格好は…」

「見ての通り着ぐるみでゆるキャラグランプリに優勝してスイーツたらふく食うんですよ」

「…はぁ…何をしてるんだか…まぁでもこれは我が雲居流の掟だ…悪く思うなよ、これを見ろ」

 蜘蛛忍者は指の操作でカラクリ扉が回転してそこに黄色い蜘蛛の糸で縛られたアギラとシーボーズがいた。

「アキ!と誰か知らない怪獣娘!…ネツさん!これは一体どういうことだ!!」

「そっくりそのまま返すが…なぁユウゴ…忍者にとって最も重要なのは信頼だ…信頼できる主君に信頼できる己の技量、そして信頼できる情報など忍者のすべては信頼によって形成される…が、時に忍者はその信頼を踏みにじられることを何よりも気嫌いするよう教育されている、信頼を踏みにじるってことは重罪な裏切り行為だ…信頼を踏みにじった奴はそいつの周りから徐々に壊し裏切り奴の首を落す…そろそろかな」

 アギラたちは目を見開きユウゴを目視した。

「おにい…ちゃん……うぐっあぁぁあっあぐあっ!!」

「ふぐっあっああっぐあっああぁひゃぁぁああぁ!!」

 突如、自分たちの体の足先の毛細血管から全身にかけて何か這い上がる感覚に襲われた。

「アキ!!」

 蜘蛛忍者は手に持っていたカラの小瓶を見せた。

「これは我が雲居流に伝わる秘薬で元々は、くノ一の拷問のために開発された『快楽薬』だ…でも、そのあまりにも効きすぎるため1時間として持たず快楽死する…解きたくば、ここいらのどこかに隠してある解毒剤が必要だ……なぁユウゴ…これはお前が招いた侮辱だ…忍者にとって侮辱されることは戦の申し立てと一緒だ…踏みにじった行為に対する償いは大きいぜ…んっ!」

 ガマちゃんの位置から石材の灯篭が飛んできた。

「言いたいことはそれだけか……俺に対してあんたがどう思っているのかはわかった…だが、関係のない奴らまで巻き込んだことが、あんたが俺に対しても苦しめられ辱めているそいつらに対してもあんたは侮辱している!!…あんたをなぶり半殺しにしてでも解毒剤を聞きだす!」

「やれるもんならやってみろ…だが忘れるな…ここがこの俺、クモンガのテリトリーである以上お前に勝機は無い!!」

 クモンガはガマちゃんに向かって跳びかかり手に持っていた忍刀で変身したゴジラに斬りかかった。

「蜘蛛の巣に入った以上お前は逃げられん!!」

「跡形もなく八つ裂きにしてやる!!」

 クモンガとゴジラ、2体の怪獣漢の戦闘が始まった。

 両者の格闘技術がぶつかり合う中で、その様子は貼り付けにされ体が烈火の如く火照ったアギラの眼にも映った。

「おっお兄ちゃん…」

 

 

 チビッ子忍者村 野営中継場

 

 戸隠流忍法資料館からドローンに今の状況が中継されていた。

「なっ!アンちゃん、誰を呼んだん!?」

「雲居流忍術宗家二十二代師範、雲居ネツ。現役の忍者にして全忍術流派最強の男にして蜘蛛怪獣クモンガの怪獣漢だ」

「クモンガ…」

「あいつには事を招いた重大さに対する認識が欠けているからここいらで学んでもらおうと思ってな…要はお灸だ」

「なんか、アギちゃんとシーちゃんの様子がおかしいで!」

「おそらく何らかの薬を投与されたか…ネツの野郎がおそらくあの館そのものを巣にして彼らを自分の忍技の餌食にするつもりだ」

「まっ待ってよ…餌食って…アギちゃんのお兄ちゃんが何とかして」

「…今回ばかりはユウゴもゴジラもお手上げになるかもな…状況が悪すぎる…あそこは忍者にとってのイロハが何もかも揃い過ぎている…勝てる確率どころか勝機は…0だ」

 観客もゆるキャラたちもモニターに映ったゴジラとクモンガの攻防に釘付けになった。

 だが、一番釘付けなのはゴモラ自身だった。

 ゴモラは今大会の仕掛け人であるが故に焦りと緊張が自分の胸を締め付けていた。




見せられないMONS~

「あれ?切れちゃった…なんか言ってたけどまぁいいか…でもやっぱ長野県にまで来て信玄餅はやっぱおかしいかなぁ…そもそも信玄餅は山梨県の特産だよねぇ…へっへっへっヘックシュン!!」
 鼻にきな粉の粉が入り、クシャミと共に信玄餅のきな粉が舞い上がりユウゴの顔面に降りかかった。
 有無を言わさぬチョークスリーパー炸裂!!
「ぐえぇぇええ!ごめんなざ~い!」


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二県と共に

 長野県 怪無山

―昨日

 

 岩の上に座禅を組んで和服姿の男がいた。

「ようっ、ネツ…」

「アラシか…ユウゴが来る前にお前が来るとわな…長野に何の用だ」

「用も何も昔馴染みに無理やり運転要員で来させられて、近々この近くの忍術村のイベントがあるから『忍者探して来い』って無理難題押し付けられてお前を訪ねて来たわけだ」

「雲居流は一子相伝の忍術流派だ…テーマパークにするつもりは毛頭ない…どこにも交わらんよ」

「……最近の忍者って外国人受けにアミューズメント化してると思ってたが」

「所詮、侍も忍者もヒーローじゃぁ無い、殺し殺され生き残るが定めの時代の存在だ…相手の首、大将首を掻っ攫って処世する…現代的には残虐非道な行いだがな…」

 ネツは岩の下が断崖絶壁にもかかわらず立ち上がり振り向いた。

「折角来たんだ…拠点に来い」

 

 

 ネツに案内され山奥の森に入るとポツンと素朴な旧式世代の茅葺屋根の小屋が現れた。

「綺麗では無いぞ」

「基、期待しちゃいねぇよ」

 床につき、囲炉裏に火を着け、茶釜の湯を沸かし始めた。

 至って昔ながらの一室だった。

 壁にかかった数多の武器を除けば…

「……落ち着かねぇな…こうも武器に囲まれた中で茶など」

「武器を使わない空手家にはわからんよ…武器の良し悪しは日によって大きく変わるし、そこら辺の物でも武器になる。鉄骨、ガラス、針金、いろいろ…場合によっては己の五体そのものを武器にする…それらを如何に利用して任務をこなす…もし戦国期の忍びが現代にいるなら旅客機のハイジャックも可能だろう…」

「忍者は黒装束だろう…さすがに目立つぞ」

「全部が全部黒一式では無い…虚無僧、商人、芸者、いろいろな職に扮して全国に潜伏する最古の諜報員だ。その気に成ればサラリーマンやコンビニ店員、郵便配送員、この世のあらゆる職に扮するのが現代の諜報戦だ。 昨今はサブカルチャーなどの影響で紛いな見方が多いから本来の忍びの在り方を知らんだろう」

「…その方がカッコイイと思うぜ」

「現実を見て幻滅されるよりマシだ…」

 囲炉裏の中の湯が沸き、尺で湯を掬い茶葉の粉末が入った茶器に注ぐ、それを茶筅で混ぜ合わせる。

「『吾郷茶器』じゃねぇか…時代が違えば国一つ捨てたぞ」

「『茶器一つで国が買える』など天保銭の考え方だぞ…物一つで国が左右されるなど当時の国は物以下と同じ、所詮はそこまでだ…それとこれは『本来の吾郷茶器』ではない、分家茶器の物だ。本物は400年前に失われた。この世のかつての物は皆そう言った偽物がばかリだが、それを本物とする現代に合わせるしかあるまい…現代にも現代なりの誇りがあるからな…さぁ」

「いただくぜ…ゴクッ」

 口に運んだ茶から抹茶の風味が口いっぱいに広がる。

 飲みほし終えるとまだ茶の後味が残っていた。

「ウメェな…結構な手前だ」

「お粗末…それで何用で来た」

 そう言われるとアラシは懐から膨れた封筒を手渡した。

「まさかお前がとうとう暗殺を依頼するとわな…誰を殺るつもりだ…旧空手道幹部か」

「そんな物騒なことを頼むつもりねぇよ…お前、ユウゴを待っているんだってな」

「まぁな…“ある場所”に案内するだけだ」

「そのユウゴをやれ…倒す殺すはお前の好きにしろ、要は戦え…」

 チビッ子忍者村 野営中継場

 

「勝てないってどういうことなん」

「お前、戦国期の戦がどんなものか解っているのか。刀に弓、槍に火縄銃、物騒な物が四方八方からくる中で現代の長距離戦よりも遥かに狭まった空間内で至近距離での殺し合った白兵戦闘メインの正に人類史上逃げることが敵わない世界、それが戦国時代の戦だ…そんな中で武士兵士より最も重宝され重要視されたのが忍者だ。情報戦はさることながら様々な武器術や組手術を取り入れた兵戦、数多の兵法に特化した戦闘のスペシャリスト、高度な電子社会で無いにもかかわらずこれだけの事をやってのける忍者は現代のCIAと同等あるいはそれ以上だ」

「それだからアギちゃんのお兄ちゃんが勝てないと…」

「さっきも言っただろう、忍者の扱う忍術は格闘技においても既に完成された白兵戦が現代白兵戦に引けを取らないどころか寧ろ勝てる可能性は無い。戦国生まれの技術にとって相手と距離を取って戦う現代戦闘はあくびが出るほど平和的戦いなんだよ」

「そんな…」

「…それより、客の反応が怪しく成って来たぞ」

 ガマちゃんの中身からゴジラが現れた事により動揺が広がり始めた。

「とりあえず何とか誤魔化した方がいいぞ、客が着ぐるみが脱げたゴジラに怪しみだしたぞ」

 ざわつく会場にゴモラは頭を振り絞れるだけ振り絞った。

「えっとえっと…あっ追加情報ですが只今ガマちゃんは脱皮をしてタガールの手下と戦っとるでぇ!ガマちゃんは脱皮をすることで狂獣形態となり戦闘能力が化け物級になるんや!みんな~ガマちゃんを応援しよ~う!!」

 大きく掲げたが強引で無理矢理な後付けだが観客とりあえず納得した。

「ガマちゃんがんばれ~!!がんばれ~!!」

 特に子供たちが簡単に騙せたどころかガマちゃんとなってしまったゴジラを応援し始めた。

 ギブアップしたゆるキャラたちも大きな動きで応援を現した。

 

 

 戸隠流忍法資料館 忍者からくり屋敷

 

 投げるクナイ、それを素手で払う黒い手、すかさず手持ちの複数の手裏剣を手投げる。

 クモンガとゴジラの攻防、武器を使うものと使わざる者同士の譲らぬ攻防…

 吊り橋に差し掛かり、揺れる足場の不安定な吊り橋の上でゴジラとクモンガの組手が合わさった。

「どういうつもりだ…あんたの雲居流は何処にも交わらない流派だろう…こんなイベントごとに現れるとはどういう風の吹き回しだ!」

「この『いべんと』とやらとお前への依頼は別件だ」

「どういうことだ!誰に依頼された!」

「忍びは絶対秘匿主義だぞ、依頼人の名を明かさないのが仕事人の務めだ」

「じゃぁなぜアキと関係のないヤツを巻き込んでいる!」

「あくまで依頼はお前と戦うこと、それ以外の指定は去れていない。相手を動揺させることも忍法だ。武士道と一緒にするな」

 二人は距離を取った。揺れる吊り橋の上で睨み合った。

「忍びはどんな手を使ってでも任務をこなす、お前の妹を使おうがそれはお前自身が招いたことに似合っただけの侮辱をした。恨むなら自分の無力さを恨め!!」

「だぁまぁれぇえええ!!」

 ゴジラの尻尾から電流のように複数の稲妻が放電しだし帯電した尻尾を刃のようにつり橋を止めている縄を斬りつけ留め具から吊り橋を切り離し、吊り橋は下へと垂れ堕ち始めた。

「なっ!吊り橋を切り離しやがった!!」

 さらに頭上に飛びあがったゴジラがクモンガの喉元を掴みかかり捉えた。

「ぐっ…!!こいつ…がぁはっ!!」

 崩れた吊り橋と共に橋下へ叩きついた。

「ぐっがっ!この!!」

 クモンガは抵抗するようにゴジラの腕に巻き付くように足を使って腕固めで応戦した。

「ギィイイイオオオオオオンンンンン!!」

 ゴジラはクモンガごと片腕で持ち上げ草が生え咲く坂に叩きつけた。

「ぐがっぁ!!くそっ!」

 バンッとクモンガは衝撃と共に煙で覆われた。

「ぐっ!煙幕か…」

 煙幕が晴れるがそこにクモンガはいなかった。

「っち…正攻法で真向な勝負じゃぁあいつが有利か…だがこっちの本領はあそこに行けば…」

 クモンガは敷地内を見渡せる高さに位置するツリーハウスに身を潜めながら身を隠していた。

 ユウゴはクモンガを探していた。時間がない。

 アキたちの体力を持って考えても時間がなかった。

 戸隠民俗資料館の屋根に吊り下げられた2人は今だ苦し悶えていた。

「あっアギラさん!…熱いです!かっ身体が!」

「しっシーボーズ…頑張って…おっお兄ちゃんがなっ…何とかしてくれる…はずっ…」

 痩せ我慢がアギラには精一杯だった。

 ゴジラが何とかしてくれる…それだけを考える以外なかった。

 横浜 『SOLGEL』

 

 大きな音が店内に響き、店内にいる客に不穏が走っていた。

「何の音だ?一体…」

「お客様…大変申し訳ございません、只今大広間の方を改装工事中に着きましてお客さまには大変ご迷惑をおかけして誠に申し訳ありません…」

 

工事ではなかった。殺し合いであった。

「キシャァァァッ!!」

 カマキラスは手首の鎌を振り下ろしたがこれをガメラは右腕の籠手で受け止めた。

 受け止めたと同時にカマキラスの腹に拳を叩き込んだ。

「ぐっ…!!」

 カマキラスは壁に向かって吹っ飛ぶが身軽で故、壁に張り付いた。

「どうした…お前、お得意の“貫手”はどうした…殴るなんて素人の喧嘩じゃあるまい」

「黙れ…」

「まさかまだ躊躇っているのか…今更躊躇うな」

「黙れ!!」

 ガメラの剣幕と共に口から放った火球をカマキラスに狙うも壁に張り付いたまま走り回った。

「せんせー!!私達が危ないですよ!!……エレキングさん大丈夫ですか?」

 蹲って防御の姿勢をとるウインダムと打って変わって、エレキングはコーヒーを片手にガメラの戦いを見据えていた。

「ウインダム…あなた何をしているの……先生のアシスタントともあろう者が先生の戦いに目を逸らすのかしら…」

「えっ?」

「目を逸らしてはダメ…先生は作家…でも作家は一人で本を書くわけでも印刷するわけではない、誤字脱字を誰が見るの…先生?編集?…いいえ、その間に貴方がいるんでしょう…あなたが先生から目を離してどうするの…」

 エレキングの目はしっかりとガメラを捉えていた。

 それに比べてウインダム自身はただ目を逸らしていた。

 逃げていた。恥じるしかなかった。人間として怪獣としてアシスタントとしても未熟で半人前だった。

「喰らえ!!」

 鎌が振り下ろされた。今度は強くて鋭い一撃がガメラに迫った。

「…っ!」

 すかさず右籠手でその一撃を迎えうバァアアアアン!!

「キャァアアアア!!」

 突然の爆発!ガメラの腕が、右腕が爆発したのである。

 カマキラスはその爆発と破片に身軽故に吹き飛ばされウインダムの真横の壁に撃突した。

「せっせんせー…」

 爆発した右腕には見た事も無い血管を思わせる紋章のような赤い線が光り輝くように鼓動しながら点滅を繰り返していた。

「ぐっはっ…まさか…アイツの甲羅自体が爆発反応装甲(リアクティブアーマー)だったとは」

『爆発反応装甲(リアクティブアーマー)』

 近代兵器、主に陸上兵器の戦車などに使用される2枚の銅板の間に爆発物質を挟み込み、敵弾が命中すると装甲が浮き上がり敵弾の爆発を分散させ機体を保護する役割が実証されている。

「グルラララララッ…」

 ガメラの大きな歩みがカマキラスに迫り始めた。

 目が正気のタガが外れていた。非常に危険な目つきであった。

「こりゃぁ…まずいわ…正気じゃねぇ」

 煽った報いか、今さら逃げることはカマキラスのプライドが許さなかった。

 逃げるなら死んだ方がマシだったが…

 跳びだした。ウインダムが飛び出しガメラの胴体に抱き着いた。

 さながら子供と大人の相撲、大きな大人の歩みが止まるはずもないにも関わらずひたすら押し止めようとした。

「せんせー!!もう止めてください!!先生の手は物語を書くためにあるんですから!!」

 ウインダムの声がガメラの耳に入りガメラはピタッと止まった。

「ダ…ム…子」

「せっせんせー…」

 ガメラのまだ籠手の付いた左手でウインダムを探り探りで腕、肩、首、そして髪をかき上げウインダムの頬に触れた。

「せっせんせぶっう!!」

 ウインダムは首ごと勢いで吹き飛ばされた。

「何するんですか先生!!」

「それはこっちのセリフだ。引っ付くな」

「もー!!先生がユウゴさんみたいに暴走しそうだったからアシスタントとして止めに入ったのにー」

「アシスタントごときが口出しした上にあの暴走トカゲと一緒にしやがったなぁ!!」

 ガメラはウインダムの首と脚部を固めるようにコブラツイストをかけた。

「ぜっぜんぜぇ~ぐるじいでぇずぅぅ!!」

「くたばれ給料泥棒がぁ!!」

 二人のやり取りにカマキラスは呆れた。

「はぁ~…嬢ちゃんが勇気だしたと思ったら…ったく、店を新しく改装しきゃなぁこれ以上壊されたら大赤字だ…テメェらのお代は俺の奢りだ馬鹿野郎共」

 エレキングは立ち上がり、端に飛ばされていたウインダムの財布を拾い上げた。

「ウインダム…はいっ」

「あっエレキング…ありがとうございます」

「見せてもらったわ…あなたのアシスタントとしての意地を」

「何がアシスタントとしての意地だ…アホらしい」

「むぅ~ほんと先生は一言二言多いです!!だから編集さんにも好かれないんですよ!」

「なぜ俺が高学歴の出来損ないの顔色伺いのクソ編集共の機嫌を考える必要が何処にあるだ!あん!?」

 ガメラはウインダムの頬を餅のように伸ばして引っ張った。

「いだだだだっほっぺたつままないでくだざ~いぃぃぃぃぜんぜぇー!!」

 こんなやり取りの中、1人浮かない面持ちであることをカマキラスは気付いた。

「ああ?電気の嬢ちゃん、どうした?」

「…なっ何でもありません」

「……あ~…コーヒーおかわりいるか?」

「……いただきます」

 戸隠流忍法資料館 忍法資料館

 

 江戸時代を思わせる外観の建築の資料館には約500点にも及ぶ忍具が展示されていた。

「くそっ…どこ行った…」

 クモンガを見失い、珈琲の館や手裏剣道場を模索したが一向に見つからず既に20分余りが過ぎ、時間が押していた。

「…………」

 この中にはクモンガは……いた! 入り口の頭上に張り付いてクモンガはゴジラの死角を背に息を潜めていた。

 ゴジラが館内を移動すると同時に天井に張り付きながらゴジラに合わせて移動する。

 僅かな音も立てずにゆっくりと勢いを溜め込み…

 そして狩る!!

 が、ゴジラも僅かな背後からの空気の流れの変化に気付き合わせるように近くにあった草刈鎌の刃と忍刀の刃がぶつかり合った。

「ッチ!―よっと!あばよ!」

「待てぇ!!」

 クモンガは2階の忍法資料館への上り階段口に上がっていった。

 ゴジラも階段を上がって登ろうとするが注意書きを読まずにすっ飛ばして階段が重さに耐えきれず踏み場が割れ落ちた。

「………………」

 落ちた目先には見ずにいた注意書きの看板が横たわっていた。

『注意 こちらの階段は登れません。二階の忍法資料館には外右側の階段をご利用ください』 

 飛び超えて壊した階段の入り口から入ったがクモンガは待ちくたびれたかのように向い窓で胡坐をかいて待っていた。

「おせぇぞ…待ちくたびれちまった」

「てめぇ!!どの口が言ってやがる!!アキたちを解毒しろ!!」

「そうもいかない…解毒剤はお前が自力で探せ」

 窓から背中向きで落ちていった。

 ゴジラが窓から顔を出すとクモンガは既にトイレ屋根を伝ってカラクリ屋敷に入っていった。

(ふ~…さて、ここからアイツも時間が押して焦りだす頃か…効率が悪いが虱潰しに探し始めるか…それとも)

 迷路をぶち抜いてクモンガにタックルで捉えた。

「なっ!!お前…カラクリの意味ねぇじゃねぇか!!」

「迷路ごとぶち抜いてやらぁ!!」

 ゴジラにカラクリも迷路も関係なかった。

 迷路の壁と壁をぶち抜いてさらに外に出て、その先のビックリ堂に2体は突っ込んだ。

「がっ…まさか建物ごとをぶち抜いて突っ込んでくるとは…」

「俺たちは怪獣だぞ…建物がどうなろうが知ったこっちゃない」

「くっはっ…仮にもここは公認の由緒正しい博物館だぞ…だがなぁ同時にここは忍びの館だと言うことを忘れるな!」

 クモンガは真横にある起動スイッチを作動させた。

「無茶苦茶な野郎だがここまで来た以上教えてやるよ…上を見な…」

 指がさし示すの方を見ると上には竹筒で作られた水筒と長野スイーツ博食べ放題券がクモンガの糸に繋がれ、その先には歯車が糸を引いていた。

「もう時間がねぇぞ…竹筒の解毒剤を取るか、優賞品を取るかどっちか選…なっ!」

 ゴジラは迷わずビックリ堂の壁を蹴り上げて登り、手を伸ばしたのは食べ放題券…ではなく解毒剤の入った竹筒だった。

 クモンガの糸を斬り、ビックリ堂の窓から飛び出して真っ先にアギラたちがいる民俗資料館に向かった。

「あいつ…ぷはははっそうくるか…」

 

 

 ぶら下がった2人の縄を斬り下ろし、持ってきた薬をアギラに飲ませた。

「さぁアキ、飲め…」

 ひどい汗と熱だった。どれだけ自分を待っていたのか考える余裕もなかった。

 しかし、アキは自分が飲むのを拒んだ。

「ぼっボクより先にシーボーズを…」

「なっ…お前何を…っ!!」

 ゴジラは気付いた。ほんの数cmに水筒を動かした時の振動で水量から薬量を考えると確実に1人分程しかなく、少なかった。

 焦りのあまり薬の内容量を把握していなかった。

「なんでこれだけの量なんだ!…くそっ」

 薬はアギラの望み通りシーボーズに与えるつもりだが、その前にせめてアギラの口にゴジラ自身の指を突っ込ませて嘔吐させようと考えた。

「うぇっぷっ!!おえっがっ!」

「吐きだせ!薬さえ吐き出せばきっと…」

 アギラが嘔吐するも薬が浸透しているのか吐瀉物は出なかった。

 先程食べたはずの信玄餅すら消化し切ったのかそれすらも出なかった。

「そんなことしても浸透した薬は効果でてんだから意味ねぇよ」

 背後にはクモンガいた。ゴジラは諸悪の元凶たるこの男を許せなかった。

振り返り、殴り掛かろうとしたが…クモンガから投げられたのはもう1つの竹筒だった。

「これって…薬…」

「なわけねぇだろ、そん中にあるのはただのスポーツドリンクだ」

「「……へっ?……」」

 クモンガはゴジラが取って来た薬を拾い上げ、シーボーズを抱えて竹筒に入ってるスポーツドリンクを飲ませた。

「そもそも『快楽薬』なんて物が在るわけないだろう。確かに媚薬での拷問はあるが死ぬことはまずねぇよ、死なせたら拷問の意味が無く本末転倒だ。まぁ廃人には成る麻薬ではあったらしいが俺はそんな信憑性の薄いやり方で得た情報は信用しねぇよ。 …そもそも、こいつ等に投与したのは新陳代謝を高めて発汗作用を促し体内にある老廃物や毒素を毛穴などから出す薬だ。汗がダラダラ出て、体温が微熱程度に高くなっているのは良好な証だよ…むしろ女性には肌に効果的だが水を飲まないと脱水症状が出るがな」

「「えええええええええっ!!!!」」

「俺が自分の利己的な都合で子供を巻き込むわけねぇだろ、…それを媚薬でもなんでも無い薬なのに「あんあん」と変な喘ぎ声を出しやがって、まるで俺が犯罪者ねぇか」

 アキは薬の副作用よりも体温が紅くなり、頭を冷ますためゴジラが持つ竹筒のスポーツドリンクを一気に飲み干した。

「んっんっんっプハァー!!げほげほっ!」

「けど、あんたがどうして…」

「言っただろう、利己的な都合で子供を巻き込まないって…忍びは殺し屋じゃねぇ、諜報員だ。依頼人からは殺しについて明言されてなかったし、何より自分の今後を優先して考えた上でも判断している、何よりも必要のない殺しはしないし殺しは俺の流儀に反する、殺しは何より目立つかからなぁ。俺のひいじい様はかつて第二次世界大戦中の陸軍スパイ養成の中野学校で『死ぬな、殺すな、捉われるな』のモットーを掲げていた。それは今の雲居流でも色濃く組み込まれている。大昔からある流派の考え方には昔ながらのやり方を重んじる考えもあるが、それは逆に進歩してないとも言える。雲居流は進化を続けた忍術流派だ。他と一緒にするな…まぁ、大昔のやり方をしてた忍び衆は時代に合わず盗賊家業を生業にする連中が多かったからな…『風魔衆』や『石川五右衛門』しかり、『服部忍者』は2代目がクズだったからストライキまで起こされたからなぁ~」

 クモンガは仕事人としての自分なりの考えの行動をしていたことにゴジラとアギラは拍子抜けた。

「あっちなみにこの薬、ヘドラ印だから一様安全には配慮している」

 ゴジラとアギラの頭の中に『私が作りました』と契約農家の様な、にこやかな顔をしたヘイタが浮かんだ。

「さっとっとと会場に戻るんだろう、車で送ってやるよ。忍者も時代に合わせて車を使うよ…獣解」

 変身が解け、現れたのは和服姿のボサボサな髪に無精ひげの生えた男だった。

「あっそれよりゆるキャラグランプリ!…」

「…げっ…脱げたるの忘れてたぁ」

 アギラのソウルライザーにゴモラから着信が入った。

『あっもしも~し、アギちゃんお疲れ~…いやぁ~おかげで良い物が見れたよ~…お客さんも大盛況で特にガマちゃんの事を誤魔化したらガマちゃん(狂獣形態)なんて新しいキャラクターが誕生しちゃった』

「えっ!?じゃぁお客さんにはバレてないの?」

『バレてないどころかアギちゃんのお兄ちゃんがガマちゃんの新形態と思われちゃったテヘペロ☆』

「いっ一応…バレてないんだ」

『そっ!…開会式あるからすぐに戻ってきといてぇな~』

 ピッと切られ、呆気になったこの空気にアギラは呆れ返した。

「とっとりあえず…戻ろう…」

「着ぐるみ取ってくる…」

 

 

 戸隠流忍法資料館 駐車場

 

 ネツが用意したミニバンにみんな乗り合わせたがガマちゃんだけ体格のせいか入らず乗れなかった。

「ぐっぬぬぬっ…ダメだ、入らない…」

「ああ~…この大きさだと荷台にも乗らねぇな…仕方ない」

 ネツは手持ちにしているクモンガの糸を引きのばした。

 県道36号線

 

 ガマちゃんをユウゴごと車の上に縛り上げ、サーフボードかマウンテンバイクのような雑な扱いに空を見上げた状態で不服な気分にいた。

「…納得いかねぇ…」

「そのままジッとしてろよ!…っこちら雲居、イベントの方はどうなっている…」

 ネツはトランシーバー型の無線機で連絡をするも応答は無かった。

「おかしい…イベントの警護に出動しているはずの長野県警の戸隠流の忍び仲間の連絡がない……なっくっ!!」

 急ブレーキを踏みしめて車は回転して止まった。

「なっなんですか!?」

「全員頭伏せろ!!」

 止まった先から突如の爆発による爆風に車が横転した。

―キシャシャシャシャ!!…カカカカカカカカカッ!!…

 イベントに使用されていた横転したポンプ車を囲む様にシャドウがその姿をゼリーのように揺らめかせて現れた。

「デヤァァァァァァ!!」

 大きく飛びあがったアギラは降下と共にアギラのツノの衝撃波をシャドウたちに与えた。

 残ったシャドウは黄色い雲糸で次々と縛り上げられた。

「“強縛ネット”よくもやりやがったな、この水羊羹野郎!!」

 そこへ手持ちの吹き筒で1体1体に毒針を打ち込んだ。

 撃ち込まれたシャドウはみるみる溶けていくように消滅した。

 ゴジラもシーボーズも己の能力でシャドウを殲滅した。

 イベント会場

 

「慌てず順番に避難してくださいぃぃ!!」

 こちらにもシャドウが出現に騒動が起きていた。

「メガトンテール!!」

 ゴモラはシャドウに自慢の太い尻尾を叩きつけた。

 残るシャドウの地面には水が撒かれたいた。

「“氷河針千法”」

 アンギラスは地面中に広がった水を凍らせ氷の針山を形成しシャドウを迎撃した。

「まっくろくろすけシャーベットなんざ犬も食わんな…」

 横浜中華街

 

―キシャシャシャシャ!!

 時を同じくして横浜にもシャドウは出現した。

「フンッ!!」

 エレキングは尻尾鞭をしならせ、次々と切り伏せた。

「“ハーケン・クラッシュ”!!」

 カマキラスは背中に収納していた羽をはばたかせ、シャドウに回転運動による辻斬りで切り刻んだ。

 ウインダムもビルの影からビームで応戦していた。

 GIRLS 司令室

 

ここGIRLSの司令室にも次々と現れるシャドウの一報が入ってきた。

「長野、埼玉を始め次々とシャドウが出現!」

「ゴモラ、エレキングを筆頭に戦闘開始!」

 オペレーターの情報が飛び交う中、不安な面持ちで見つめるピグモンとキングジョーがいた。

「対応できる怪獣娘さん達はそのままシャドウの迎撃を維持、怪獣漢さんとも協力を―」

「まさか、エレキングが予想していた事態がこうも早くに起きると思いませんデシタ」

「本当です…エレエレの調査結果の前に起こるとは…」

 横浜 中華街

 

「きゃぁあ!!」

 油断によってウインダムはシャドウのビームに倒れた。

「ウインダム!」

「あっぁあああ…」

 腰を抜かしたウインダムに徐々に迫るシャドウだったが、ウインダムの背後の先からコール音を鳴らしながらバイクで突っ込んでくるガメラにシャドウは焦った。

「ダム子!!邪魔だ!!」

「へっ?ぎゃぁあああああわあぁっ!!」

 ウインダムが避けるとシャドウにガンヘッダーの車輪をぶつけて轢き倒した。

「せんせー!!私いるんですよ!!」

「うるさい!こっちはこいつを取りに行ってたいるんだ、お前がもっと踏ん張れ!」

 戸隠 チビッ子忍者村

 

「超振動波!!」

 ゴモラはツノからの超振動波で迎撃するが、次々と現れるシャドウの多勢に苦戦していた。

「さっさすがのウチもこれはきついわ…」

 隙を付いてシャドウたちはゴモラに襲い掛かった…が、別の場所から青白い光線によって殲滅された。

 振り返るとミニバンの上にしがみ付くゴジラを乗せてアギラたちが応援に駆け付けて来た。

「おいユウゴ!爪立てるな!!この車、役所の車なんだぞ!!っだぁくそ、変身してるから狭すぎる!!」

「ゴモたん!応援に来たよ!」

「アギちゃん!みんなが来てくれたなら心強いでぇ」

「ああっ俺たちはここまでだ…お前らの出番もおしまいだよ」「いいから降りろ!」

「えっ?どういうこと」

「そろそろ来る頃かなっ…」

 聞き覚えのあるエンジン音が徐々に近づき始め、大きく飛び超えシャドウに車輪を激突させた誰も乗っていないガンヘッダーがやって来た。

「おっお兄ちゃんのバイクが…」

「だっ誰も乗っていないのに動いてる…幽霊バイクじゃないですか!!」

 シーボーズは驚くが、この中で全身骸骨が青い火の玉が浮かんだシーボーズが一番幽霊っぽいと思え「お前が言うな」とばかりの全員が同じ目線だった。

《幽霊ではありません、MBR-507ガンヘッダー1号機です》

 唐突、バイクから女性の声で発言したことに一同硬直して思考が停止したが…

「「「バイクが喋った!!!!!!!!」」」

《初めまして、私は対話インターフェイス搭載型多目的可変戦闘車両MBR-508 ガンヘッダー2号機です》

 横浜では男性の声でしゃべり始めたことにウインダム達の度肝を抜いていた。

「ばっバイクが…」

「喋ってる…わね」

「悪いが説明の時間は無い、今すぐ行けるか」

《はい、ご命令とあらば》

《既にチューニングを終えています》

≪≪私たちはいつでも準備万端です、さぁ初期認証コードを所望します≫≫

「「よし!authentication code “It is better to die while standing than to live on kneeling”(ひざまずいて生きるより、立ったまま死ぬ方がいい)」」

≪≪Confirm initial verification code. Gun Header Transit from Vehicle Mode to Stand Mode and start battle (初期認証コードを確認 ガンヘッダー ビークルモードからスタンドモードに移行し戦闘を開始します)≫≫

 2機は認証コードが確定すると英語と共に機体が可変し始め、1号機は赤を基調としたカラーリングに2号機は青を基調としたカラーリングで両機は人を思わせるツインアイのメインカメラを備え、直立してゴジラやガメラと同じ体格へと変化した。

《周辺被害を考慮して近接攻撃での格闘戦術を開始します。ガンブレード展開》

 直立のガンヘッダー1号機は両腕から収納されていた剣を展開して次々とシャドウに斬りかかった。

 同じく2号機もガンブレードで斬りかかった。

 1匹2匹と次々と現れるシャドウを斬るもシャドウはそれでも数を増えてくる。

 同時にパイルバンカー型シャドウビーストも出現した。

《大型の敵性生物が出現しました》

 同時に戸隠にもムカデ型のシャドウビーストが出現した。

《メテオールの使用解禁を要請します》

「仕方ない…」

「「Liberation of METEOR!Permission to shift Maneuver(メテオール解禁!マニューバモードへの移行を許可する)」」

≪≪Roger that! Move to Meteor Expand Maneuver mode(了解!メテオール展開 マニューバモードへ移行します)≫≫

 2機はゴジラ達の合図で肩などの一部から黄色の固定翼が開かれ、全身が金色の粒子が散布され始めた。

 シャドウビーストのビーム攻撃が2機に向かって発射されるが外れる。外れると言うより当たらなかった。

 それもそのはず、金色に全身が発光し始めると僅か1m先に高速移動をしたのである、陸上選手が走る速度でもバイクで走る速度でもなく瞬間移動、UFOが一瞬にして超高速で移動するような速度で移動した。

《敵性生物すべてをロックオン、“スペシウムミサイル”を射出します》

1号機は装備されたミサイルポットから多くのミサイルが次々とシャドウに命中し次々と消滅した。

《敵性生物に向けて“トルネード・ボルテクサー”を発射します》

 2号機は背部に回った車輪が送風装置として高速回転による人工竜巻を発生させ通常シャドウ含めシャドウビーストが竜巻に巻き込まれ竜巻内でぶつかり合い消滅した。

「しゃっシャドウビーストが…」

「木っ端微塵ね」

 ウインダムとエレキングは見上げながらシャドウたちの消滅を確認した。

 しかし、2号機は事切れたかのように停止した。

 戸隠でもシャドウが消滅すると1号機も停止した。

「とっ止まっちゃった…」

「ビクともしませんね」

 するとアギラのソウルライザーにピグモンから着信が入った。

『あっアギアギ!こちらでもシャドウの消滅は確認しましたが、ちょっとゴジゴジに変わってもらえます』

「えっ?はい……はい、お兄ちゃん」

「ああ?」

『あ~もしもし、香田だけど~あんた携帯持ってないから赤い子の携帯から電話かけてるよ~、いま横浜にも自分の携帯で同時通話中だけど2人に行っておくの忘れてたけど~メテオール使用についてメテオール規約第7条項においてメテオールは一様、過去の記録上の宇宙人や怪獣が残した兵器や円盤技術や能力を研究と解析した超技術だから地球上の物質との相互関係にまだ完璧に調和できていないから機体保護のために「その時間しか使ってはならない」制限としてメテオールの使用時間は1分間になってるから~』

「……ウンともスンとも動かないぞ…」

『ああ~それきっとガンヘッダーの処理演算のAIに対してメテオールシステム自体が、まだ試験運用の段階だし安全配慮のため1分間超えたら全機能停止するようにしてるから~自力で小山まで持ってきて~』

『『役立たず!!』』

 2人の声は電話越しでも司令室を響いかせた。

「そんなこと言わないでよ!私らだってまさかご隠居とご老公がそんな代物を搭載したモンスターマシーンをあんた達に託したこと自体が驚きよ!」

 ナオが端でゴジラともめる中、キングジョーのソウルライザーからエレキングから着信が入った。

「ohエレキング!はいは~いわかりマシタ、調査結果については後日に…は~い、ピグモンにそう伝えておきマス」

「エレエレはなんて」

「今回の調査結果について東京支部にいる怪獣娘たちの召集をとの事デ~ス」

「何か情報を得たのでしょうか…」

 GIRLS陣営テント

 

 シャドウは完全に出現しなくなったがイベント陣営総出で撤去工事が行われていた中で今回のイベントに関わったみんながゴモラによって召集されていた。

「ごめぇぇんんんみんな!!」

 突然のゴモラの謝罪でアギラたちはびっくりして言葉を失った。

「実はアギちゃんたちが長野に行くことを事前に知ってたんや、だから2人にも大会に参加してもらうために全部仕込んどったんや!」

 深く頭を下げるゴモラに対してアギラはどこかで見たことのある光景にも思えた。

「アギちゃんのお兄ちゃんの超絶能力を利用してイベント自体を大いに盛り上げようとしたかったんや!」

 ゴモラは心意の本音をすべて吐き出した。

 頭を下げた目先にゴツゴツの足が立った。ゴジラだ。

「お前が俺たちをこの大会に参加させようとしてたこと自体、俺は知ってたぜ」

「・・・へっ?」

「と言うよりあの畑にいるように指示されていた」

「誰に!?」

 ゴジラの目線はアンギラスに向いていた。

「お前が長野で何か企んでるのを逆手にとってイベント自体を俺の手の上で動かしてんだよ!クモンガを呼んだのもいったい誰だった?ミカよ」

 ゴモラの頭はこんがらがっていた。

「どどどういうこと?」

「あの赤いガキに依頼されてお前が何か企んでいるか捜査兼阻止を依頼されてたんだよ…おかげで良い収入になったわ」

「……じゃぁピグちゃんに全部バレてたの…私はアンちゃんの手のひらの上で踊らされていたってわけ…」

「俺がいつゴジラにお灸をすえるって言って?…本当はここ最近、自分が楽しみたいからって他人を巻き込んでるお前にお灸をすえるのが俺の目的だよバーカ」

「じゃぁ…アンちゃんはウチをダマして真横でずっとあざ笑ってたん」

「人聞き悪いな…俺はお前に他人を巻き込むとどうなるか教えてやったんだぜ~むしろ感謝してほしいくらいだ、まぁ人生の教訓だな」

「へぇ~…」

 アギラとシーボーズはゴモラの顔を見てゾッとした。

 ギギギっと口が開かれ鋭利な歯が剥き出しになり、顔が黒く影が掛かり目だけが丸く赤く光るように解り易いほど怒りが伝わって来た。

 次の瞬間、ガブッとテント内で響いた。

 

 

「じゃぁ俺はガキども東京まで送ってったらこの上に縛ったポンコツを小山まで持ってくわ」

「お願いしますアラシさん…けど先にまず病院行った方がいいですよ…頭、血だらけですし」

「怪獣だからすぐ直るわ…」

「ええ~一緒に帰んないのお兄ちゃん~」

 ミカヅキは寂しげな声で窓から覗き込んだ。

「こっちでやることがあるからな」

「そっか~ほんとウチはアギちゃんのお兄ちゃんがうらやましいわぁ~でもアギちゃんのお兄ちゃんならウチも考えてやらん事も無いでぇ~」

 ミカヅキはチラリとアキを見ながらニヤニヤと鎌をかけた。

「うっ…もう止めてよ!ゴモたん!」

「ニシシ~冗談冗談、でもこれからも同じアギちゃんを思うもの同士、仲良くしようねゴジちゃん」

 ミカヅキ窓から手を差し伸べ握手を求めた。

 ユウゴはミカヅキの手を握り握手した。

 アラシの車はエンジン音と共にユウゴたちから離れて去って行った。

「さて、俺たちも行くか…」

 ユウゴはネツの車に乗せられある場所に向かった。

「しかし、お前もまた業突く張りだなぁ…まさか水筒と同時に尻尾でちゃっかりスイーツ券まで獲得してたとは…」

 ちゃっかりと優勝景品のスイーツ券を手にしてたなびかせていた。

「1より2、一石二鳥も三鳥でも得したもん勝ちですよ」

「仮にも長野市役所の付き合いで提供されたんだぞ…ありがたく思え」

「感謝していますよ、公務員さん。まさか現代の忍者が市役所職員だとは」

「忍者にも事情があんだよ…大変だったんだぞ、調べるの」

 長野県 松川町

 

 車を走らせること2,30分…

 着いたのは山道の森の入り口だった。

 道の中央には立ち入り禁止の札が縄に下げられ塞がれていた。

「ここからは歩きだ」

 車から降りて2人は山奥へと進むのであった。

 進むこと徒歩30分ほど経つとポツンと一軒家が立っていた。

 中は相当傷んでおり築は60年ほどで外には人工的に作られた畑から自生する野菜類から見て人が住んでいた形跡が幾つもあった。

「着いたぜ、ここが宮下サダコの家だ……宮下の名は長野じゃ珍しくもない名だが、宮下サダコの実家は米所として成功を収めていた裕福な家庭だったらしい…けれど戦後にサダコは駆け落ち同然で家を飛び出したが、30の時に子供を1人連れてここへ戻った。死亡した両親の遺産をつぎ込んでこの家を建てその後、息子と二人暮らし畑仕事一筋だったが息子はかなりの秀才だったらしい…息子はその後、単身アメリカへ渡った記録があるがその後の行方は不明…サダコは息子が留学したと同時に結核で倒れ享年41だったらしい」

「…息子に会えず仕舞いで床に臥せた生涯か…」

「お前が求めてるのはサダコの正体と足取りだろう…サダコはどうやら特殊な力を持っていたらしい、当時の地方新聞には水脈を当てるなどのサイキッカーと思われる記録もあったが記録は少ないが地元ではそれなりの有名人だったらしい。それと足取りについては戸籍を1度、長野からその駆け落ちした男と今は無き“大戸島”に移っていた形跡がある」

「“大戸島”…」

 ユウゴは大戸島に自分の中で強く反応を示している感覚があった。




見せられないMONS~

「…そもそも、こいつ等に投与したのは新陳代謝を高めて発汗作用を促し体内にある老廃物や毒素を毛穴などから出す薬だ。汗がダラダラ出て、体温が微熱程度に高くなっているのは良好な証だよ…むしろ女性には肌に効果的だが水を飲まないと脱水症状が出るがな…ただ2,3日は汗臭くなるらしい」
「「それはそれで嫌ですよ!!」」
 女の子としてアギラとシーボーズは動揺した。
「冗談だ」


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生態系連鎖

 ?? ??

 

 わからない。ここが何処で、一体この先どうなるのか。

 目の前が目隠しで暗い…そりゃあそうだ布を歌舞されてんだから。水漏れの音も生き物の音もしない。

 おそらく中東などの汚らしい場所ではないのだろう。

 一体どれだけの時間がたった。仲間は…

 GIRLSの怪獣娘の誘拐を依頼されて…ツノと小さな羽の生えたガキを捉えたら巨大なプテラノドンに車を…

 手を後ろに回されて何だこれ…縄じゃない…手錠?…ネットで見た覚えがある形状をしている…確か世界一頑丈な手錠だったか?

 ギィィィ…って耳が痛くなるような金属音だなぁ…

「やぁ…初めまして…今から君に拷問をかける拷問官だ…君はあまり拷問と聞いて驚かないのだなぁ?」

「はっ…拷問くらい中東で良くあるさ…他2人と比べて俺は戦争経験者だぞ」

「尋問の記録は見せてもらったよ…中々のメンタルだ…それだけのハッタれる嘘を付けるとは…そして今も君は私に嘘を付いている」

「嘘だと!ふざけるな!!俺は本物の戦闘のプロだぞ!」

「いいや君はプロでは無い…私に嘘は通用しないよ」

「何だと…」

「…プロと言うのは自信過剰になったらプロ失格だ。自分の仕事に誇りを持ち、尚且つ悪目立ちしない。この世は自分一人で動いているわけでは無い事を自覚している者の事をプロフェッショナルという……さぁまずは自己紹介からだ。私の名は便宜上ガバラと名乗っておこう、これから君に拷問をする者の名だ…拷問と言っても最近は肉体的拷問より自白剤によるやり方が効果的だからねぇ…その方が君の本音が聞けるし、何より君を痛めつけるのは心苦しい…今から君にアミタールと言う自白剤が注射される、あっもちろん私はれっきとした医者だ。専門は精神科医だがちゃんと医師免許を取得したお医者さんだよ」

「やめろ…やめてくれ」

「安心したまえ、このアミタールは君の思考を低下させ意思とは関係なく君は答えてくれる。だから君が誰かとの約束を破ることには決してならない」

「やめろやめろやだやだ…がっがぁぐっ」

 男は頭を抑えられ抵抗の余儀なく頸動脈に注射針が挿入され中にある自白剤が頸動脈に流れていくのが伝わって来た。

~数分後~

「君はなぜ戦争に固執するのかね?」

「戦争がしたかった…ゲームみたいにゲームのようにしたかった…」

「昨今はゲーム等に影響されて刺激される異常者が多い、昨年反政府テロ組織に加担しようとした日本人が拘束されたニュースを知っているかい?」

「ニュースなんて見ない…見たくない…いつもやることはバイトして日銭を稼ぐか、シュワシュワ動画で大怪獣ファイトの視聴を試みる単調な日々…でもいつも回線がパンクするから見れたのは2、3回ほど…そん時はSNSとかでヒーロー扱いされて嬉しかった…だから戦争に関わってヒーローになったら怪獣娘と肩を並べられると思ったから先輩に誘われて裏社会の仕事に着いた…」

「では君はなぜ今回のGIRLS誘拐事件にかかわった?」

「『荒野の狼』とか言う組織が怪獣娘を欲しがっているって情報で誰でもいいから怪獣娘を1匹捉えて大金稼げば夢だった戦争に関われると思って…」

 彼に意思はない。自白剤の効果が表れている証拠だった。

 その様子はマジックミラー越しの尾崎もこの様子を聞いていた。

 扉が開かれ背広姿の男が医療用のゴム手袋を外して部屋を出た。

「一通り今のですべてだろう…彼が関わった組織も表層状の断片的情報しか与えてないと見た。金を与えて動くだけの他2人と同じ操り人形だ」

「ご苦労だった、ガバラ…これからどうするんだ?」

「次の仕事が入っている…患者の治療後の検査も私の仕事ですよ…二次性徴期の子供達には何かと精神的な問題を抱えやすいですから」

 男はトランクに身支度を済ませ、トランクの持ち手に手を入れ、ぶら下げた。

「それでは私はこれで…」

 出口の扉が開かれ薄暗い部屋に眩いまでの光が差し込んだ。

 国際怪獣病院 手術室前

 

「ですから先ほども言いました通り、傷病者2名は1人の男性と口論になりその男性に頭を掴まれると突然、路上で殴り合い始めて内出血複数に加え、下顎及び肋骨に腕部左右複数骨接に擦傷からの出血に…」

「そういうことを言っているんじゃないんです!どうしろと言うんですかあれだけ今も暴れた状態で、抑えるのも手いっぱいですよ!」

 手術室は喚き声と大きな音が響いて救急搬送された患者の手術室は確かに騒然としているが、今日に限って一段と騒がしかった。

「何事だ、久世先生…医院長の川埜です」

「ああっ…これは」

「先ずは一から説明してください」

「傷病者は2名、両名20代、JCSは一桁でバイタルに異常はありませんが、打撲複数に内出血、擦傷による出血が複数、腕部に下顎、肋骨に骨折の疑いあり…」

「それより、搬送時の周辺聴取は?」

「あっはい、通報者は10代の高校生で2名にぶつかり因縁を付けられ、いわゆるカツアゲを強要されていたところに30代と思われる男性に止められたところ逆上してその男性と口論になり、その男性に頭を掴まれると突然双方が殴り合い始めたとの事です」

 川埜は治療室の扉を開くと中で押さえつけられながら手術ベットに乗せられた搬送されてきた傷病者が暴れていた。

「誰か止めてくれよ!!止めたくても止まんねぇんだよ!!」

 いまだにもがきながら暴れる傷病者を見て川埜は患者の手が虫のような動きの症状から推測してある病気を診断した。

「“エイリアンハンド症候群”だねこれ…」

「エイリアンハンド?」

「“他人の手症候群”とも言う、脳梁に何らかの問題が発生して伝達ができなくなり脳からの意思とは関係なく勝手に行動する様子から宇宙人が腕を動かしているようだからそう呼ばれているがこの目で見るのは私も初めてだ…我々ができることはまずない…催眠療法で何とかするしかない、北斗君、GIRLSに連絡して催眠系の怪獣娘の要請をしてくれ」

「はいっ」

川埜は看護師にGIRLSから怪獣娘の派遣を要請した。

 

 

 首都高トンネル入り口

 

 シャドウの出現によるトンネル入り口前では乗用車が玉突きで事故を起こし、混乱を極めていた。

「おいどうなってんだ!?」「いてぇいてぇよ!!」

 停止した車のカーナビにはこの先の交通情報からシャドウ警報情報が流れていた。

「くそ!どうなっている!俺はこれから会議なのに…」

 そこへ車外の窓からバンッとスライムシャドウが叩いてきた。

「ひいいいぃぃ!!」

「うぉぉぉおおおおおお!!」

 しかし、アギラたち怪獣娘の到着によりシャドウ迎撃が始まった。

「おりゃぁ!!」

 レッドキングはシャドウをドミノ倒しのようにシャドウとシャドウを重ねてまとめて退治した。

「あぎゃぁぁあああああ!!」

「うぉおおおおおおおお!!」

 ザンドリアスとノイズラーは音響攻撃でシャドウを撃退。

「おらおらおらおらぁぁ!!」

 ミクラスはボクシングのように連続パンチでシャドウを次々と撃退した。

 しかし、それでも様子はおかしかった。

「やっぱおかしいぞ…こいつら逃げるようにただひたすらオレたちに目もくれず逃げること一択だ」

「…前にも線路での一件と同じ感じがします…」

「ええ~!!じゃぁまたあの中にあの変な怪物がぁ!?」

「『MONS』だったか?…オレは初めて見るからちょっとワクワクするぜぇ」

「ええっ!?師匠あんな怪物にワクワクなんてしませんよ!!」

「弱気になんな!怪獣漢のダンナたちにできてオレたちにできねぇはずないぜ!」

 するとトンネル内からゾッとする悪寒を感じた…何か来る、何かがこっちに来る…そんな気配が彼女たちのカイジューソウルが警鐘を激しく鳴らしていた。

 ズウンッ!現れたのは5mほどの恐竜型シャドウビースト、渋谷に現れたのより一周り小さいが十分驚異的だった。

 怪獣娘たちは全員身構えたが、シャドウビーストもまた様子がおかしかった。

 この場にいる下級のシャドウを貪り喰い始めた。

「しゃシャドウビーストがぁ…」

「シャドウを…食べている…」

 すると、更にトンネルからひた歩くような足音と共に中の影から外の光に照らされるようにその輪郭と色合いがその者の姿を映し出した。

 カエルを思わせる緑色に水膨れのような皮膚、筋骨隆々な全体部に加え、鋭利な爪の生えた太い指を携えた手、鬼を思わせる角に薄茶色の鬣、ガラス玉のような目つき、その姿こそまさに怪獣の鬼だった。

「面白い…こんな不確かな生物にも神経系の電流麻痺術が通用するとは…おまけに共食いまでし始めるとこんなデカブツでも可愛く見えるな…明確な意思もあり脳がおそらく存在するのだろう…」

 新たな怪獣漢による仕業と見て間違いなかったが、この怪獣漢は他の怪獣漢のようにシャドウに興味を持っていないが、その様子はまるで生き物を虐めて遊んでいるような眼差しをシャドウビーストに向けているようにも思えた。

「おっおい、あんた怪獣漢…だよなぁ…こっこのシャドウビーストに何をした」

「局所的な電流催眠を施し、この生物は完全なる夢の中にいる状態だ…同じ黒いのを水羊羹をおいしく食べているようにこの生物は夢心地にあるというわけだ…共食いとはつい知らずにプフフフッ」

 口に握り拳を回して抑えるように笑い堪えようとしていた。

 他の怪獣漢とは毛色の違う、何と言うべきかサド、サディスティックな性格をしていることが伺えるが、相手が相手なだけ会って人類の敵シャドウを愛玩具のように弄んで楽しんでいた。

 怪獣漢にとってシャドウは興味も湧かない弱者、目も暮れずシャドウは怪獣漢に睨まれただけで逃げだす、逃げるしかない、津波を前に、台風を前にする人間のように…

「おっと…少々遊び過ぎたか…では催眠を解こう」

 パンッ、鬼の怪獣漢の一本手拍子にシャドウビーストが止まり次の瞬間、吐き出し始め嘔吐を繰り返した。

 ドロドロな黒い液体が吐き出され我に返ったシャドウビーストが同胞を食い殺したことを自覚した。

 誰がこんな惨いことをさせた…誰が…誰がと辺りを見返すと目に留まったのは角の生えた緑色のこいつだと逆上し足を上げて踏み付けようとした。

「あぶなぁぁあい!!」

 レッドキングは思わず叫んだが鬼はその場から逃げようとも動こうともせずジッと踏まれた…

「自分がした行いに気付いて自らを悔い改めて仲間の敵討ちとばかりの攻撃…食べたのは君だろう…君は今、誰よりも人間らしい行動をしているぞ」

 なんと、シャドウビーストの足を片手で止めていた。

「…だが、もうサヨナラだ…君には興味は無い…おもちゃは飽きたら壊してリサイクルされるべきだ…最も君にリサイクルができる金属類やプラスチックがあると思えないが…」

 鬼はゴツゴツとした手から稲妻を帯びるようにシャドウビーストに電流を流すとシャドウビーストは内側から膨れて空気が入り過ぎたように破裂し消滅した。

「いい年しておもちゃ遊びはさすがに目に余ったかなぁ……おやぁ?君たちはGIRLSの怪獣娘さんたちかなぁ?」

「へぁ!?はっはい…そうですが」

 レッドキングは唖然となる中、声をかけられたことに驚いて変な声が出てしまったが、あんな事をシャドウビースト相手にするこの怪獣漢に異質な何か得体の知れない気配を感じていた。

「私もこれからGIRLSに向かう途中だったんだ…よかったら今トンネル内に車を止めているが送っていくよ…」

「へっあっ…いやその」

 レッドキングはさすがにもはや自分の足りない頭が追い付いていなかった。

 しかし、鬼の目はアギラに向くと凝視するように彼女に近寄った。

「えっボク!?」

「君はもしかしてアキ君かい?見ない間に随分と変わったようだが驚いた…君の担当医だった三木だ…ああっこの姿だから驚くかもしれないが…実は私も怪獣だったんだ…」

「えっえええぇぇ!?やっヤスヒコ先生!?」

 全員が状況を理解できないでいたが、どうにか鬼の怪獣漢は彼女たちに解り易く説明するために1度変身を解くと背広姿に先ほどのような猛獣の鬣とは違い、普通の黒髪の出で立ちに驚きが隠せなかった。

 背広の内ポケットからメガネを取り出しかけると先ほどの鬼のような怪獣とは打って変わっておおらかな顔つきになった。

「初めまして、私は精神科医の三木ヤスヒコです。この通り、川崎でクリニックを開いている者です」

 名刺入れからヤスヒコの名刺が手渡されるもどうしていいかわからなかった。

「えっええっと…」

「さぁ、時間も押している車を出すから」

「えっあっ…どっどうする?」

「一様ボクの知り合いですから…その…」

 トンネル内からワゴン車に乗ってやって来た。

「さぁ遠慮せず…」

「おっお言葉に甘えて…」

 

 

 GIRLS 講堂

 

「精神科医の三木ヤスヒコです」

 ヤスヒコは自前の名刺をトモミに手渡した。

「あっはい…GIRLS指導課のピグモンです…三木先生は怪獣漢さんでしたのですね…」

「ええっガバラという酷い怪獣でしたけど…名前の由来は革命家のチェ・ゲバラから来ていると言えば格好が付くんですがなにぶん記録上酷いモノで他人に明かすのが酷な怪獣で…」

「いえいえ、構いません…そういう方もいらっしゃいます」

 素朴な会話を交わすヤスヒコの様子を窺うベニオ含め思い返せばガバラの取ったシャドウビーストに対する行動がヤスヒコに対して只ならぬ不穏が残っていた。

「いったい何者なんだアイツ…さっきから偉くニコニコしい野郎だが…」

「さっさぁ…アギラさんのお医者さんだったそうですけど…やっぱ他の怪獣漢さんと違ってちょっと不気味ですね」

「ぶっちゃけ怪獣漢って得体が知れないからなぁ…」

 そうこうしているとアキを交えて三つ巴で会話が始まった。

「アギアギの担当医でいらっしゃったのですね」

「ええっ、ほんの1年半ほど前ですが、当時の彼女は誰とも関わろうともしない程内気な性格でしたがここに来て随分と印象が変られて驚きました」

「えっええ…あの時はボクもお母さんが亡くなって辛い時期でしたけど、今はGIRLSに入って指導課でまだ怪獣の力に目覚めたばかりの怪獣娘と向き合えたほど自分でも成長を感じれます…先生のおかげで今のボクが居れることに何よりも感謝しています」

「はははっそう言われると精神科医としてやりがいを感じれるよ…君をここへ推薦した事はどうやら間違いじゃなかったみたいだね、それが聞けて私も安心したよ…せっかくお話が出来てうれしいんですがこれからまた新しい患者の診察をしなければならないので私はこれで」

 ヤスヒコは鞄を持ち上げ、去ろうとした。

「えっ?もう行かれるのですか」

「ええっ次の診察は彼女からのアキ君からの要望である人物の診断何です」

「そっ…その相手ってまさか…」

 トモミの頭にはあの男しかいないほど浮かび上がっていた。

「そのまさかです…彼女から事前に予約されていたのでどうやらこちらに今いらっしゃるようなので早速診断しに行きます」

「ヤスヒコ先生…お兄ちゃんをお願いします」

「ああっもちろんだとも…君のお兄さんにも1度会ってみたかったからね」

 ヤスヒコは講堂を出て去って行ったのであった。

「アギアギの担当医さんだったとは驚きです、おまけにこれからゴジゴジの診断をなさるとは仕事熱心な方なのですね」

「先生ならお兄ちゃんの内面的なことを知れるかと思って…ボクも指導課として同じ怪獣の魂を受け継ぐ者の事を理解したいです…だから怪獣漢もきっとボクたちと同じ心に大きな問題を抱えながら生きていると思うんです…そういうの少しでも理解したいしもっと知りたいんです…」

 アキはトモミとこの後始まる会議のプリントを整理しながら自分の思いを意見交換した。

「アギアギは本当に変わりマシタねぇ~私もアギアギが指導課に入ってくれてピグモンはうれしいかぎりですよぉ~」

 アキは頬を赤く染めながら照れ臭くなった。

 

 

 GIRLS食堂

 

 GIRLS食堂は基本的に持ち込み自体ジュース程度なら可能だが、ユウゴのようにスーパーで大量購入した大型の常人なら胃もたれするようなスイーツなどの大掛かりな持ち込みはさすがに限度を超えているが怪獣漢とあって誰も口出しも話しかけることさえできないでいた。

「失礼、お隣よろしいかな…」

「んんっ?いいぜ…」

「初めまして宮下ユウゴさん、私は精神科医の三木ヤスヒコです」

「……ガバラか…」

「おや…私をご存じでいらっしゃるとは光栄ですねぇゴジラさん」

「ブラジルのデバル刑務所では随分と凶悪犯を更生させたらしいなぁ…ペンシルベニア州立刑務所じゃ暴動をたった一人で鎮圧したとか…刑務所は血に染まったらしいがあんたも血生臭い男だなぁ」

「それはお互い様でしょう…君もなかなか危ない世界に随分と足を入れて来たらしいですねぇ」

「暴動を起こした凶悪犯をおもちゃにする異常者と一緒にするな」

「これは失礼…患者に嫌な思いをさせないよう細心の注意を払ったつもりですが私とあなたも同じ怪獣漢として同じ立場でやり取りをするのが心療の基礎です」

「…それで俺に何を診断するって」

「私は彼女からあなたに聞きだすのが私のやるべき使命ですから…あなたが忘れたという『母親との最後の会話』を」

 ユウゴは食べていたケーキを飲み込み、ヤスヒコを睨み返した。

「丁度いい、アキから聞いていたが暇していたところだ、やって経験ってもんだから、その催眠療法ってのを受けますよ」

「君は度胸と言うより興味主体主義ですね…普通は催眠術なんて怪しすぎて最初はだれしも警戒するモノなのに」

 2人はおもむろに立ち上がり互いの顔を見つめ合った。と言うより睨み合うがニュアンスが近かった。

 

 

 GIRLS 講堂

 

 今回会議に参加した怪獣娘はアキ、ミク、レイカ、ミカヅキ、ベニオ、サチコ、ミコ、クララ、ミサオ、ヨウ、ユカとGIRLS東京支部の怪獣娘ほとんどが参加していた。

「それではこれよりエレエレが調べて調査結果の報告会を開始します」

 壇上にはトモミと湖上が会議を始めた。

「今回、横浜、長野を中心に発生した大規模なシャドウの出現について私が調査した結果を踏まえて発表するわ」

 スクリーンに映し出されたのは日本地図の県に分けて大きくグラフ化された立体グラフが現れた。

「これは今月に入ってのシャドウの出現率よ」

 このグラフの変化にベニオは発言をした。

「東京がやたらと少ねぇじゃねぇか!」

「そう、レットキングの言う通りここ最近の東京都心を含め関東圏のシャドウの出現は減りだしている…それと同時に都外の道府県のシャドウ発生平均は東京都のシャドウ出現率を分けたかのような割合で増えているわ」

「この結果についてGIRLSではある仮説を立てました」

「結論から言って元々東京などの大規模都心部に出現していたシャドウはおそらく東京都を生息地として巣を張り巡らせていたと考えられるわ…ところがそれが一気に各地に分散するようにシャドウの出現率が物語っているの…特にここ1週間において東京の隣県に渡って増えている、このことからシャドウは東京から逃亡を図っていると推測されるわ…つまり自分たちの本来の生息地を捨てて方角様々に散って逃げ出し始めている」

 サチコにはピンとこない、なぜなら自分が東京にいる間でさほど変わっている感覚が無いからである。

「ええ~御茶ノ水とか今日の高速道の出現とか結構あるけど…」

「本当にそう言い切れるかしら…むしろ逃げることをしていなかった」

 ベニオは手のひらに拳を叩くように思い当たる節を思いだした。

「そういえば確かに俺たちに目も暮れずに一目散に逃げようとしていたなぁ」

「今日あなた達が対処した高速道のトンネルの先は埼玉方面、そして現れたのは新たな怪獣漢、ここから推測されるのはシャドウにとってもっとも最悪にして最大の天敵の出現からの逃亡と推察されるわ」

「つまり怪獣漢さんがシャドウの天敵なのですか?」

 レイカの疑問に適切に湖上は答えた。

「本来いるはずの無かった存在の出現にシャドウは歯向かうより種の存続を優先したと見て考えられるわ…シャドウの情報ネットワークに私たちと同じく緊急避難警報が出たと思ってもらって結構よ」

「じゃぁつまり怪獣漢がシャドウたちへの抑止力となっているってのか?」

「そう、彼らの出現、彼等怪獣漢の存在自体によって本来野生物であるシャドウは怪獣漢を脅威と認識したと見て間違いないわ」

「それっていいことじゃないっすか」

「いいえザンザン、大変深刻な問題なのです」

「東京都心を離れた事によりそれまで被害も少なく対処レベルも低かった地域にシャドウが出現した事により地方の物資、例えば農作物への被害が発生したり、逃げ出したシャドウたちの大量の出現は逃げられる逃走経路にシャドウが溢れかえったことによる地上への出現などこれまでに例を見ない被害が災害レベルで発生するわ」

「じゃっ…じゃぁお兄ちゃんたちが東京に集まっているからシャドウは一目散に逃げて他の地域に居場所を移して被害を増やしているの…」

「そもそも最大の要因はゴジゴジの存在にあると言い切れます。ゴジゴジは他の怪獣漢さんに比べてありとあらゆる数値が異常値を占めています」

「私調べで他怪獣漢の数値は私達怪獣娘基準での検査では大概エラーが発生するレベルだけどゴジラだけは検査にかければ私達GIRLSの全機器類を破壊しかねないレベルでイレギュラーなの…イレギュラー以上のイレギュラー、それがあなたの兄なのよ」

 衝撃な事を突きつけられたアキは言葉を失った。

 他のみんなもさすがに可哀そうに思えたが、これまでのゴジラに対して口を噤んできたがゴジラは未知中の超未知の存在であることから得体が知れない存在に不穏を感じていた者が少なからずこの中に反論しない者がその人であった。

 

 

 GIRLS 診察室

 

「一様ここをお借りして診察をするがなにぶん彼女たち規準で設計されているがまぁ文句は言わないでくれ」

「…歯医者みたいだ」

 そこは診察台用のベットに様々な医療器具が備え付けられた部屋でユウゴの診察が始まった。

「獣装“ガバラ”…さぁ君も変身したまえ」

「何で変身する必要があるんだ」

「私は相手と同じ立場に立って診察することにしているんだ、君も同じ怪獣であるなら怪獣として私の診察を受ける権利がある…無論、それが嫌なら君は君のままで診察を受けても構わない、そこは君の自由だ」

「…わかりました…獣装“ゴジラ”」

 ゴジラも変身してガバラと同じ土俵に立った。

「うん…さぁベットに横になってくれ」

「…背びれがあって寝れないんですが」

「少し待ってくれ…たしか」

 ガバラは診察ベットの操作パネルを操作するとベットが二つに分かれてた。

「怪獣娘にも背びれが存在する者もいるためそれを避けられるように設定できる…さぁ横になって」

 ゴジラは恐る恐る背びれをベットに合わせて重ねるように横になった。

「では、君に幾つかの聴取をする…答えたくない質問には答えなくていい…君の名前、誕生日は?」

「宮下ユウゴ…4月29日」

「では、君は自分の事をどう思っている?」

「…ろくでもない奴だった…時折、自分が嫌になってくることがある…」

「ふぅん…随分と悲観的に自分を見ているようだね…それはなぜ…」

「…俺は多くの物を失い過ぎた…この人生の中で俺は欠落したモノは数え切れないし、特に自分が中に秘めたモノが」

「…それは宮下ユウゴ含めてどんなモノがある?…例えば…君のお母さんとか」

「…………」

 

 

 GIRLS 講堂

 

「なぁエレ、それならシャドウたちは怪獣漢をシャドウミストによって自分たちが利用しやすいよう憑依しようとするんじゃないのか?シャドウガッツみたいに」

「ぶっ…」

 シャドウミストの話題に触れられてミコは痛い所を突かれた。

「怪獣漢についてGIRLS含めMONARCHもすべて把握しきれていないけど彼らの生態と性質は大きく分けて精神面に影響があると見ているわ…彼らの精神はある種の野生的な本能に近い精神構造にあるの…そもそもシャドウは都心など人間社会に出現するけど、自然界など野生動物がいる大自然には出現しないことから人間のような複雑な精神構造をもつ知的生物に引き寄せられる傾向にあるわ」

「つまり単純な人には乗り移らんの?…確かにゴジちゃんはスイーツで簡単に釣れるけど」

「ぶっ…」

 アキも痛いとこを突かれた。

「いいえ、彼らは簡単に縛られない…むしろ縛った所でリードを付けた張本人は生きてないわ…彼らの精神は単純も居れば私たち以上に複雑な人も居る、でも一貫して彼らのカイジューソウルは私たちと違ってそれこそもっと複雑で簡単な存在で無いとも言い切れる…そもそも思い返して見れば彼らはソウルライザーを持ちいらずに自在にカイジューソウルの変身を任意でしているのは彼らの精神が強固であることが何よりの表している証拠…ガッツのように心に隙どころか入り込む余地なんて無いの」

「ちょっとぉそれじゃぁ私がブロークンハートみたいじゃん!…まぁ…本当なんだけど」

 ぐうの音も出なかった。

「つまりシャドウは単純も複雑でもない中間の尚且つ脆い精神に憑きいるけど、それらが無い怪獣漢はまさに脅威であり天敵に加えて強大で凶悪なカイジューソウルを持つ怪獣漢が怖いから逃げ出しているんの…野生生物の生態系の変化の影響ね」

「ですから生息地を変えて厄災をもたらす存在が他の地域への進行を阻止するのもGIRLSの役目なのです…そこでこの中にも既に怪獣漢さんとご関係にある方には申し訳ありませんがGIRLSとしては怪獣漢さんがこれ以上東京都に集中されると日本国内の秩序が不安定になるので彼らはこれまで通りのGIRLSへの出入りを控えていただくしかないかと」

「そんな!お兄ちゃんがGIRLSを出て行かなきゃならないの…」

「アギアギのお気持ちも分かります、何よりアギアギはゴジゴジのご家族である以上お辛いでしょうがシャドウとの対応を優先しなければなりません」

 苦渋の決断を迫られてきた…それまでGIRLSとして怪獣娘として生きることをようやく決断したアキに3年ぶりに再会したユウゴとまた別れなければならないというアキが危惧していたことが現実となった瞬間だった。

 自分が信頼を寄せた組織が自分の兄を危険視することに気持ちが揺らいでいた。

 

 

 GIRLS 診察室

 

「それでは早速催眠療法を行うが私の催眠療法は少し特殊だがそれでもやるかい?」

「ああっ…お願いします」

「では君の頭に私の怪獣粒子による電極催眠波を君の脳に直接送り返すと私に君の脳内の真相記憶がビジョンとして見れる…人の脳内を見る異常プライバシーもあるが…良いかね」

「かまいませんよ…どうせロクな記憶もないから」

「では…」

 ガバラはヒキガエルのように腫れあがった太い手でゴジラの頭に触れた。

「では、君に電極を…うっ!」

 触れた時、何かがガバラに迫っている感覚がした。

 それはガバラ自身に伝って威圧的な何かが這い上がって来た。

 これはゴジラだ!ユウゴではない…ゴジラの思念がガバラを襲いかかり…そして…

 

 

 ドオオオオンッ!!とビル全体が振動するほどの揺れがGIRLS東京支部を襲った。

 

 GIRLS 講堂

 

「きゅあぁぁ!!なによ地震!?」

「何の揺れだ…」

「ピグモン!一体どこから…」

「…どうやら地震では無いみたいです…揺れ自体はこのGIRLSのビル内で起きてます…場所は…診察室です!」

「行くぞお前ら!」

 怪獣娘はすぐさま診察室へ向かった。

 

 

 GIRLS 診察室

 

 診察室のスライドドアが開かれ、中を見るとベットで仰向けになっているゴジラと壁にめり込んでいるガバラがいた。

「おっおいあんた大丈夫か!?」

「あっああ…いたたっ…さすがにゴジラとなると一筋縄では行かなかった…カイジューソウルが完全に拒否られた…」

「ZZZ~ZZZ~ZZZ~」

 その目の前にはのんきに眠っているゴジラがいた。

「いつまで寝てんだ!起きろ!」

「あっ!ダメ!」

「ぐっがっ!!ブウハァァアアア!!」

 ベニオは引っ叩こうとするもゴジラは睡眠をしながら尻尾で弾かれた。

「寝ているお兄ちゃんに近づいたら攻撃されます。睡眠中のお兄ちゃんにはレーダーのように外敵からの攻撃を寄せ付けない防御機構が存在するんです」

「はっ早く言えよ…」

 ゴジラは眼を覚まし、あくびと共に今の現状を目の当たりにする。

「んあぁぁああっ…あれもう会議は終わったのか?」

 起き上がったところをこの隙にトモミは本題に切り替えた」

「ごっゴジゴジ…誠に勝手なのですが…」

「出ていけと言うんだろう…大方、あのシャドウとかいうブヨブヨのスライムが俺達怪獣漢を前に逃げだしたから地域被害を防ぐために都心から離れろと…その必要は無い…」

「なっなぜ…どうしてそう言い切れるのです!?」

「簡単だ…そのシャドウとか言うヤツらが何処に逃げようとも逃げることはできないよ…たとえ逃げれたところで行き先々に奴らがいる」

 神奈川県 秩父市農地

 

―キシャシャシャシャ!!

「何だ…野菜を買いに来たら新しい野菜が成ってるなぁ…刈り取ってソテーにするか…」

 シャドウはカマキラスの鎌で小間切れにされた。

 残り現れたシャドウに待つのは恐怖の解体ショーのみ…

 山梨県 甲府市梨畑

 

「最近変な雑草が生えてるって聞いたから着て見れば隣県に迷惑かけられたら長野が廃る…お前らのようにこっちはのうのうと生きてないんだよ…農作業はお前らごときに邪魔されてたまるか」

 此方はクモンガのネットに捕まり、もがいても逃げられない。

 茨城県南部 つくば市日本料亭『月見』

 

―ブギバァァァァァァァァ!!

 吹き飛ばされた同胞は完全に顔面が潰されていた。

「食い物への冒涜は許さん」

 わぁ~ゴリラがいる~シャドウに生き残る術は無かった。

 千葉県 船橋市アウトレットモール

 

―ビブギャァァァアアアアア!!

 同胞が…火だるまの如く燃やされている。

「船橋でゆるキャラ展覧会があるって聞いていたのにお前らが居るから取材できねぇじゃねぇか…漫画のネタが台無しだボケが!!」

 …亀って…火出せるんだぁ~…もはやシャドウに生気の目は無かった。

 栃木県 宇都宮市空手会館

 

「……ったく、この氷のオブジェどうするか…ここのモニュメントにでもするかぁ……いや、不細工すぎるゼェッ!!」

 アンギラスの正拳によって氷漬けシャドウは氷粉と共に散った。

 神奈川県 箱根妙高山

「う~ん…登山に来たつもりなのになんか汚いのをパンケーキみたいに潰しちゃった…怒られるかなぁ…」

 バラゴンの半径100mは黒に染まっていた。

 群馬県 高崎市春名山

 

「そんでこいつら火葬するには燃えにくそうだと思ったけどよぉ…案外燃えたわ、大佐」

『山火事は起こしてないだろうな…』

「……多少」

 ラドンの後ろは焦げた匂いと丸焦げになったシャドウがいた。

 山梨県富士吉田市

 

「なんか最近薬売りの帰り道に変なのに出くわすけど…干物にしても薬になりそうもないし虱潰しに溶かすか…技の研究に丁度いいし」

 こちらは道中で煙を上げて溶かされていた。

「今頃、勝手に潰されてるだろう…心配せずとも勝手に縄張りを荒らした以上、そいつらは絶滅あるのみだろう」

 ゴジラは再度、横になって眠り始めた。

 怪獣漢にとってシャドウは他愛のない小動物、見る価値もなければ関わる価値もない…でも、もし彼らの周りで悪さをしようものなら彼らはシャドウという種ごと『絶滅』させてもおかしくなかった。

 トモミは初めてだ。初めてシャドウを可哀そうとも思うがそれがおそらく自然の摂理なのだろう…生態系の頂点に逆らえば種の存続は無いに等しかった。

 どうあろうと何処へ逃げようともシャドウに生存の道は無かった。

「…出ていけ~?さぁ~何の事でしょう…私の目の前には甘いもの好きの巨大トカゲさんしか見えませんねぇ~」

 トモミが取った行動はただ一つ…

「さぁ~て、お仕事お仕事~」

 見て見ぬフリだった。

(はぁ~…ほんと天邪鬼…)

 アキ含め怪獣娘たちは人騒がせな怪獣漢に呆れ返るのであった。

 

 

 だが、シャドウがもし絶滅した先、本当に脅威は去るのか…

 疑念の答えを神は教えてくれはしない…

 

 

 

 ?? ??

 

「よう、プロフェッサーギャオス…あんたもまたこんな薄暗い部屋に居るから白髪が増えるんだよ…」

「私の髪は白髪では無い…アルビノと言う動物学においてメラニンの生合成が欠損した先天性変異だ」

「ならアルビノギャオスってか…」

「あとは私の執念さ…私はいまむず痒くて仕方ない…私の作った「作品たち」が…私は忘れないぞ!!名古屋で私の姉を殺した亀野郎に復讐まであと少しと言う所なのに…」

 白髪の男はガメラと思しき写真が貼られた黒板に頭を打ち付けだし、怒りが溢れんばかりだった。

「殺してやる、殺してやる…さすれば私は神に成れるんだ…ガメラもゴジラもキングコングもどいつもこいつもぶっ殺してやる!!ぁああああああああああ!!!!」

「ったく…鳥にはどうしてこうまともな奴が居ないんだか…巣鴨で散ったイーグルがまともだったかぁ……ほどほどにしろよ…あっそれとシャドウがどうやら減ってるみたいだぜ…」

「シャドウだと…あんな自然界の粗悪品が絶滅したところで私が作り上げる「MONS」には遠く及ばない…時代は人工物…天然に優れたモノを厳選する…添加物まみれのね…で、今日のメシは」

「キングバーガ―のバッカ―セット」

「よぉ~し…それに似合った対価としてレイスを出そう…」

「そう来なくちゃ…俺もあんたと同じ、戦争家だ!」




見せられないMONS~

 彼に意思はない。自白剤の効果が表れている証拠だった。
「他に何か言うことは?」
「好きな怪獣娘はゼットンで、朝起きての日課はゼットンのタペストリーに向かって両手を合わせて神のように拝んでる」
「それは知らないよ」


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京都大平寺

 警視庁 捜査一課

 

 連日休むことを許されない警視庁の捜査一課は今日も忙しい中、一人だけ居ないことにコマエは気付いた。

「内野さん、今日先輩休みですか?」

「なわけないだろ…例の不審死事件について京都府警に似たような事件の記録があるって調べに行っているよ」

 書類を書く内野にコマエは彼のマグカップに注いだコーヒーをデスクに置いた。

「不審死ってあの顔無し遺体のですか」

「ああっ…あの事件と酷似する事件の記録があるから京都府警まで行かせた…」

「京都かぁ~いいなぁ~」

 

 新東名高速道路 京都方面

―静岡県内

 

「ひゃぁほ~い!めっちゃ速~い!!」

 ミカヅキはユウゴのガンヘッダーに後部席に乗り新東名高速道路を突っ切っていた。

 その後方につくようにトオルもガンヘッダーに乗っていたが今日に限って後部席にレイカの代わりに大きめの段ボール箱が縛って乗せられていた。

 更にその後方には赤と白と青のトリコロールカラーのラングラーが並走して走行していた。

「むぅぅ…あそこはボクの席だったのに…じゃんけんに負けなければ」

 ラングラーの後部席にはアキとミクとレイカが乗車しており、助手席にはアラシが乗っていた。

「悪いなぁ…俺まで乗せてもらって」

「私たちまでご同行させてもらってありがとうございます」

 後部席で丁寧に礼を言うレイカとそれ以外の2人は外を眺めていた。

「構わん…こいつの試運転に5人数でどれだけの速さが出せるか知りたかった…」

「ラングラーとは随分とまた洒落た物をアメリカも寄越すなぁ…」

「メルセデスベンツのG-CLASSシリーズの内の2013年モデルでのペプシコーラの120アニバーサリーとしてレッドホワイトブルーカラーモデルが出る予定だったが計画内で断念された。当時は飲料価格のアメリカ市場内の短期での高騰があったせいで出ること敵わず、2013年の大統領の2期就任祝いとしてホワイトハウスに送られたが、ジープよりゼネラルモーターズ社のキャデラックの方が安全とされて結局倉庫にしまわれた中古だが、誰も乗っていなかったから譲り受けて小山で日本の交通仕様に改造してもらった、ちなみに幻のラングラーとして愛称は「ロボコーラ」らしい」

「って!これ大統領車だったのかよ!」

「乗っていないって言っただろう…当時の大統領にドライブする余裕は無かったからなぁ…」

 2人の車談議をしている中、『大統領』だとか『ホワイトハウス』とか規格外な会話にレイカは付いていけなかった。

「山に山に山にああ~もうつまんない~!!まだ着かないんっすか!!」

「まだ静岡あたりですよ、ミクさん」

「京都まで暇すぎる~以前行ったときみたいに新幹線使えばよかったじゃん!!」

 ミクの癇癪に2人の目が鋭くなった…

「ミクさん…言い出したのはあなたですよねぇ…」

「お兄ちゃんたちが京都に行くから同行しようと言ったのはミクちゃんだよねぇ…そしたらゴモたんも同行したいって言いだして2人で駄々こねた上にボクはじゃんけんで負けてなくなく…」

「ひぇ~やめてぇ~二人共!!あたしが悪かったから!」

 2人の圧力に押されてミクの胸が痛く成って来た。

「何してんだお前ら…それよりお前、前のジープはどうしたんだ?あのスポ根系が乗りそうなジープは」

「最初に乗っていたのは、なぜか浅草観光中に止めていたら何者かに投げ飛ばされて大破させられた」

「ぶっ!…」

 アキはジープと浅草と聞いて、まだGIRLSに入ったばかりの時期にシャドウが大量発生した時にミクラスのピンチに投げたのがジープだったような心当たりがあったが隣の二人にジィーっとみられる中、ズズズッとアキは明後日の方向の窓の景色に目を背けた。

 

 

 京都府 京都市

 

 南部に位置する京都市は日本の政令指定都市に指定され1000年の歴史が色濃く残り、かつては平安京が置かれていた古都として知られている。

 観光地としてさることながら東京と並んで年間万単位の観光客で毎日溢れかえっている。

 

―清水寺付近 茶屋

 清水の茶屋にて八つ橋を傍らにお茶をしながら先日の怪獣漢たちによるシャドウ殲滅作戦の功もありGIRLSの怪獣娘たちにひと時の休暇がすべてに渡された。

 あれ以来、シャドウの出現は息が止まったかのように無くなったが、ユウゴのカウンセリングを施したガバラこと、三木ヤスヒコはクリニックをしばらく休業することとなった。

 これにより、未知の存在である怪獣漢と怪獣娘・GIRLSとの間の溝が無くなったわけでは、なかった。

「あれ以来、シャドウの出現自体減少したけど…それでもまだピグモンさんはお兄ちゃんたちを監察の警戒は緩めないって言ってたけど…」

「ピグモンさんも診察室を無茶苦茶に壊した上にユウゴさんが起きてきたらずっと3時間も説教してたよねぇ~」

「あれで意にも返さず涅槃像みたいにまた眠りにつきましたよね…ユウゴさんも凄いですよ」

「さすがアギちゃんのお兄ちゃんって感じ…」

「止めてよみんなして…」

「でもさぁ…アギちゃんはどうしたいの?」

「えっ?」

「アギちゃんさぁ、あん時の会議で誰よりも焦ってたやん…あん時のアギちゃんはホンマ過去一番かわいかったでぇ~うりうり~」

 ミカヅキはいつものようにアキの身体を探るように撫でまわした。

「わわわっ…何するのさぁゴモたん!」

「お兄ちゃんと離れ離れになるのがまるで飼い主と離れ離れになったワンちゃんみたいで可愛かったなぁ~」

「もう止めてよゴモたんその例え!」

「でもどうしてアギちゃんはそんなにゴジちゃんと離れたくないん?」

「別にお兄ちゃんがどこかに行くのはお兄ちゃんの勝手だよ…でも時折心配になるんだ…お兄ちゃんってどこかすぐに居なくなって消えてしまう気がするんだ…だからそれが不安で…」

「そんな人が直ぐに消滅するわけじゃぁ無いんだからアギちゃん心配し過ぎだよ」

 ミクは楽観的に言うが、ミクの肩をレイカは手を乗せた。

「ミクさん…その辺に…」「へっ?なんで?」

「へぇ~じゃぁみんなはボクの家系がどんなのか知りたいの…」

「ああぁやっぱり…」

「ええ~アギちゃんの家族の事!知りたい知りたい!」

「ウチも興味ある!」

「へぇ~じゃぁ教えてあげるよ…」

 アキの目に生気は無かった。恐ろしく死んだ眼だった。

 そしてアキは宮下家がどういう家系か1から10まで洗いざらい解説した。

 母親が亡くなり、父親は行方不明、そのまた父親も行方不明、3代先についての家系情報は不明というないない尽くしに加えてアキの壮絶人生を耳にしたミクとミカヅキはこう言った。

「「おっおっもォぉおお…」」

 2人には胃もたれ、腹痛、動悸に倦怠感が降り注ぐほども耐え切れないネガティブオーラに圧し潰されていた。

「これでもまだ笑える?」

 2人は腕を組んでドンとしたアキに頭を深く畳にこすり付けた。

「あたしたちが間違ってまじだぁ」

「おゆるじぐだざい殿下ぁぁ」

「よろしい」

 かつてこれほどまで勇ましいアキをレイカは見たことなかった。

(わぁ~アギさんってこんなキャラだったっけぇ…)

 しかし、土下座をし終えると2人はアキにそっと抱擁した。

「アギちゃん辛がったんだねぇ~」

「でも心配いれへん、ウチたちがいつでもそばにいるでぇ」

「ふっ二人とも苦しいよ……それよりお兄ちゃんたちは?」

「先生たちなら清水寺の方に行かれましたけど…ユウゴさんは…あっ噂をすれば来たってすごい荷物!!」

 レイカが目にしたのはありったけの紙袋をひっさげた姿のユウゴが戻って来た。

「なっなにその大荷物…」

「一部は俺用でこれから行くとこへの手土産だ」

 よく見ると八つ橋や羊羹などの和菓子ばかりであった。

 清水寺 手水舎前

 

 ミカヅキは手を叩いてある提案をした。

「それじゃぁせっかくだしゴジちゃんも居るからみんなで一緒に観光しよう、ちょうど清水寺も近いし」

「以前京都に来た時も観光しましたけど2度目の観光ですね」

「そう、あの時に見た観光名所以外にも京都にはまだまだ見どころもあるし、そして宮下兄妹が舞台から飛び降りる方向で」

 ミカヅキはアキとユウゴにビシッと無茶ぶりを振った。

「きしゃぁああ」「??」

「以前出来なかったことに兄妹パワーで再チャレンジ!!」

「いやいや、お兄ちゃんはやりかねないけど…ボクが何で飛び降りなきゃならないのさぁ」「どういう意味だ」

「そもそも前にも言ったけど説明不足だからもっと詳しく言うと…ええっと…はいっ」

 アキはユウゴに振った。

「清水の舞台から飛び降りる:思い切って大きな決断をすること」

 便利な辞書が居た。

「このようにあくまで物のたとえであって本当に飛び降りるわけじゃ―」

「んんんっも~兄妹揃って可愛いなぁ~」

 ミカヅキはアキの顔を撫でまわすように擦る光景にレイカ達はデジャブを感じた。

「でもあたしは1度飛んで見たことあるし、案外大丈夫だよ」

「ないよ!そもそもあの時はザンドリアスに助けてもらったじゃん!」

「さすがにあそこから飛ぼうとする人なんて…」

 レイカは清水寺を見上げると何やら見たことある2人の怪獣娘が揉めていた。

「またいましたね…」

「また揉めてる…」

 

―清水寺本堂

 

「師匠!無理無理無理絶対無理!」

「大丈夫だよ!お前怪獣娘なんだし頑丈だから」

 ザンリアスはレッドキングに清水の断崖絶壁手前で抱えられて落させかけていた。

「やめて師匠!2回目は本当にやめて!!」

「お前に足りないのは根性!根性足りないとワンマンライブ成功しないぞ!もう一回飛んで来い!」

 そこへミカヅキが声をかけて来た。

「よっレッドちゃん!せいが出るね!」

「んっ?おうゴモラじゃねぇか、なんだお前らも来てたのか」

「ああっアギラさんのお兄さん!助けて!助けてくださ~い!!」

「あっコラ!ゴジラのダンナに助けを求めるな!コノヤローオレが虐めてるみたいじゃねぇか!!」

「なんか…」「すごい…」「デジャブですね…」

「でもレッドちゃん何でまたここにいるの?」

 とりあえずザンドリアスを一旦下ろして説明をした。

「いやな、明日こいつがシングルソングを出すことになってそれで明日京都市のウエスティってところのステージでこいつが初のワンマンライブをすることになったんだよ。その願掛けにと思って根性を叩き直してもう一度ここから飛んでみようってことで」

「無理ですって!何でまたこんなすっごい高いとこから飛ばなきゃならないんですか!!」

「あのなぁお前だって前に飛んでできたじゃねぇか」

「いやいや!無理ですって!こんな高い所から飛ぼうなんてできる人なんていませんって!」

 ザンドリアスが無理と言う中、ミカヅキがある提案をした。

「よぉ~し!じゃぁお手本として飛んで見せたらできるんじゃない!…ゴジちゃんが!」

 ミカヅキがビシッと指名したのはユウゴだった。

「おお~!ダンナならきっと手本になる飛び方があるぜ、きっと!お前も見てやってみろ!」

 突然の無茶ぶりにさすがに見かねたアキも止めに入った。

「いやいや、何考えてるの!お兄ちゃんにそんな急に振られても―」

 しかし、ユウゴはあることをふと思い出した。

「あっ!!しまった阿闍梨餅を買うの忘れてた!!」

 買い忘れを思いだしすぐさま柵に向かって走り出し、手すりに飛び乗り、清水から飛び出した。

 腕を広げ、足をピッシリとたたみ、きれいなフォームを描きながらさながら鷹のように清水の先に舞った。

「うぅぅぅぅぅぅそぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「おぉぉぉぉにぃぃぃぃちゃぁぁぁぁぁぁんんんん!!」

 人が本当に飛び降りると世界は一瞬にしてスローモーションになるのであった。

 案の定、飛んだが落ちて行った。

「獣装“ゴジラ”!!」

 耐空中にすかさず変身してそのまま清水の下に着地して「阿闍梨餅」を買いに行った。

※絶対にマネしないでください。ユウゴに特殊な力が有るためできることです。

「にっ人間じゃない…」

「いや怪獣漢だからそりゃねぇ…」

「ありゃぁ超特急で走って行ったな…」

 横に双眼鏡片手に覗き込むアラシが居た。

「アンちゃん…居たの…」

「お前らが騒いでるから見に来た」

「ほら見ただろ!ダンナの雄姿に続いてお前も行ってこい!」

「やだやだやだやだ!!何でそうなるんですか!?」

「おい暴れんな!…グビッ!!」

 ザンドリアスを持ち上げているレッドキングは首の頸動脈に何かが撃ち込まれレッドキングはそのまま倒れ伏せた。

「レッドキングさん!?あれ?首に何か刺さってる…」

 アラシが撃って来た方向を見ると双眼鏡の中に映ったのは山からスナイパーライフルで麻酔弾を撃ち込み終えた後の一服を吸っているサングラスをかけたヒエンがいた。

(何してんだアイツ…サングラスダサッ!)

「それよりアンちゃん他の怪獣漢は?」

「んっ」

 アラシが指したのは本堂の内部だった。

「こちらかの有名な武蔵坊弁慶が使用していたとされる錫杖です、右から小錫杖で長さ1.76mと平均男性ほどの長さで17キロあります。 左の大きい方は長さ2.6mで重さは何と96キロです。これを持ち上げられた方は大変ご利益があるとされます。どなたか挑戦してみたいって方はいらっしゃいますか?」

 観光客の団体も修学旅行生も外国人も目を丸くしていた。

 バキッと背後で木材が割れる音がすると案内人が振り返ると錫杖を引っこ抜く大男たちがいた。

「おい抜けたぞ…」

「なんだこれ爪楊枝か?武器のネタにならんな…」

 土台から引っこ抜いてしまった錫杖を指三本で掴んでいるコングと小錫杖が異様に軽いと思い、空洞になっているんじゃないかと下から覗き込むトオルがいた。

「ちょちょっとちょっと君たちなにしてるんだ!!」

 清水の関係者が駆け寄るも背後を振り返った勢いで小錫杖がぶつかった。

「太棒了…弁慶是的(すごい…弁慶だ)」

「我可以拍照吗?(写真いいですか?)」

 押し寄せる中国人観光客に割って止めにアラシが入った。

「是的,是的,禁止摄影。我从危险中走了下来,在这里我们有更好的京都〜(はいは~い、写真撮影は禁止です。危ないから下がって、ほら京都はもっといいとこあるよ~)」

「なにしてるんですか先生!」

「おっおいこれちょっ」

 レイカたちはトオルたちをここから退散させるべく手を引いて去って行った。

 

 

 製菓店前

 

「むぐむぐむぐ…阿闍梨餅の前に腹ごしらえだ」

 ユウゴはみたらし団子を口いっぱいに食していた。

「すみませんがちょっとよろしいですか、警察の者です」

「むっ…んんっ!!?」

 ユウゴに聞き訪ねて来たのは背広姿に捜査一課のバッチが襟もとで輝く、捜査一課の警察手帳を翳す木城だった。

「すみませんが人を探しているのですが…」

(なんであの時の刑事がここにいるんだよ!!)

 そう思っていると木城は内ポケットから写真を撮りだした。

「この方に見覚えはありませんか?」

 木城が見せ写真は女性のどこかの大学の卒業アルバムから撮った写真だった。

「いっいえ…見覚え有りませんね…」

「そうですか…失礼しました……あっそれと…あなたどこかでお会いしたことありませんか?」

「えっ!?なっ何のこっこどでしょう…」

(この人マジか!?)

 木城の鋭すぎる感に内心驚き言動がおかしくなった。

「…そうですか…いや失礼しました……」

 ユウゴから離れていくも木城にはどこか引っかかる感覚に勘が妙にあった。

「…まさか…気のせいか…」

 それでも気にせず聞きこみを再開して人ごみに消えた。

 

 

 京都市駐車場

 

 ユウゴはガンヘッダーを止めていた駐車場にたどり着きみんなと合流した。

「おうお前ら、お待たせ」

「どこ行ってたのさ、お兄ちゃん…こっちはあの後いろいろと大変だったんだからね」

「何が…」

 話が進む中、トオルのガンヘッダー2号機に乗せている段ボール箱にレイカは気になっていた。

「先生、この段ボール箱って何ですか?」

「あぁ?…これはこれから行くとこに持っていくんだよ」

 そうこうしているとミカヅキが更なる提案をしてきた。

「せっかくだからレッドちゃんたちも一緒に行こう」

「えっ…オレたちもか?」

「まだ泊まる所無いんやろ、ウチらはこれからガメちゃんの知り合いのお寺に行くんやけど」

「お寺?なんでお寺に行くんすか?」

 サチコはなぜ寺にみんなが行こうとしているのか頭にハテナが浮かんだ。

「まぁ確かにまだホテルとか決めてなかったけどオレたち押しかけても大丈夫か?」

「構わん…あの人も懐が広いからな…で、どうする?行くのか」

 既にヘルメットを被ったトオルの問いに答えるように2人は言葉に甘えてコングの車に乗った。

 

 

 車で進んで20分ほど、着いたのは確かにお寺だった。

 京都市の寺院は実に1700近くあると言われその内の1つがこの『大平寺』である。

「寺っだな…」「お寺ですね…」

 2人が唖然とする中、境内から住職と思しき人物がやって来た。

「ようこそ、おこしはったな亀沢はん」

「お世話になります」

「先生…」

「この人はここの住職の方だ」

「これはこれは初めまして住職の大平ブンジと申します…」

 住職と聞いてお坊さんを皆が連想していたイメージとは裏腹に伸びきった髪を七三分けにした出で立ちに僧侶の和服を着飾った普通の男性と相違ない感じに思えた。

 ブンジに案内されて玄関に入った。

 すると奥からドタドタと小走りで走ってくる音が近づいてきた。

 そして、音の主がトオルに飛びこんできた。

「おおっコレ、ショウタ…亀沢はんが来てくれはったのがうれしいのはわかるがみなはんに挨拶ぐらいしぃ」

 トオルに抱き着く小さな男の子『ショウタ』はレイカ達を睨みつけながらも軽くお辞儀した。

「どっどうも…」

 しかし、人見知りなのか一向にトオルから離れようとしなかった。

「それではこちらです」

 ブンジに案内について行き奥へと進んだ。

 

 

―わんわん!わんわん!

 鳴き声を響かせる柴犬と小さな池にいるザリガニがハサミで踊るように動き、草むらには蟷螂がジッとしている庭園が見える居間にみんな寛いでいた。

「はぁ~…意外と落ち着くな~お寺も」

「そうっすね~師匠…見てくださいあの木とか」

「へぇ~木って?」

 サチコが指した木は、木と名ばかりな程、下が細くどちらかというと鳥の留場に見えたが上の茶色い物体がサチコたちに顔を向けた。

「ひゃぁ!!鳥じゃん!?」

「はははっあれは鷹の『ハシタカ』ですよ、住職仲間と山へ行ったときケガをしてたところ保護して以来うちの庭園に住み着いた居候ですわ」

 ブンジは、お茶をみんなに配った。

「あっどうも…」

「あのワンちゃんはなんて名前なんですか?」

「この際ですから全部教えますと、柴犬の『トモスケ』、ザリガニの『サワモリ』、カマキリの『キリノハ』、庭園に居る生きモン全員名前があります」

「大平さん動物がお好きなんですね」

「いえいえ、寧ろ昔の仕事柄で生きていることに触れて来た影響でしょうね」

「住職さんは依然になんのお仕事をされてたんですか?」

「はいっ5年前までは京都府警で刑事をしていました」

 怪獣娘たちは驚いた、この人当たりの良い住職がかつては京都一線の刑事だったことに驚いた。

「じゅ、住職さん刑事さんだったんですか?」

「ほんの5年前にですが、父が病死してこの寺の後を継ぐことになるまでは日夜犯罪者とのいたちごっこの日々でした」

「すっすげぇ…」

「お恥ずかしいながら恐縮です」

「んっ?」

 トオルの位置からショウタがジィーっと覗き込む様にレイカを見つめていた。。

「こっこんにちはショウタ君…」

 レイカが挨拶するも何も言わず襖を開け居間から去って行った。

「すっすみません…ご子息さんに嫌われたみたいで…」

「いえいえ、滅相もございません…ショウタは大変人見知りなもんで私か今出かけている者か亀沢はんにしか心を開きませんので……それと良く間違われますが私とショウタは親子ではありまへんのですわ」

「えっ?どういう…」

「あん子は孤児なんです…ある日突然、亀沢はんが私の寺の門をたたいてケガをした亀沢はんが抱えた連れて来はって私も最初は驚きました…まだあんこが3歳の時でした…そうでっしゃろう亀沢はん」

「…鈴虫がうるせぇ時期だったのは覚えてる…」

 涅槃像のように横になっているトオルが何処か寂しげであった。

「せっ先生…」

「ほらよ…受け取れ」

 トオルは持ってきた段ボール箱の荷物を畳から滑らせるようにブンジに渡した。

「どれどれ…おお~これはなかなか立派なランドセルですな」

 その中身は小学生のマークとも言える黒のランドセルだった。

「大層な質の良い物で…亀沢はん、あんた作家はんは儲かりますなぁ」

「…金があるだけだ…」

「あとは筆箱に鉛筆に色鉛筆、これなら来年のあの子の小学校に間に合いますなぁ…ではありがたく頂戴いたします」

 ブンジは立ち上がり、段ボール箱ごとショウタに見せに行った。

「……せ~んせ」

「あん?」

 振り返ると背後ではニヤニヤと怪獣娘たちが笑みを浮かべていた。

「何笑ってんだ気色悪い…」

「ちょっと見直しました」

「ガメちゃ~ん!!ええパパさんやないの―ブギッ」

「誰が親父だ!一緒にすんな」

 トオルはミカヅキの抱擁を片手で拒否した。

「しかし、あのショウタって子供を抱えてなぜお前が…」

 アラシの質問に寝ながら答えた。

「3年前に名古屋でいろいろあったんだよ」

「名古屋…3年前…」

 その言葉にアラシは口を噤んだ。

 そのことに対して誰も口にはしなかった。

 ガラガラッ玄関戸が開く音がした。

「只今戻りました~…ってあれ?お客さん?」

 廊下から木が軋む音と共に女性がきた。

「あら…随分と」

「ああっ、お帰りカノン…こちらは亀沢はんのお知り合いの方々や、挨拶しい」

「あっトオル君のお知り合いでしたか、初めまして住職見習の巫崎カノンです」

(あれ…この人)

 ユウゴは帰って来た女性に見覚えがあった。

 それは、先ほどの木城が探しているという女性の顔写真と同じ顔だったからである。

「あっそれより先ほど偶然会っちゃたんですけど」

 襖の後ろから湖上が顔を出した。

「えっエレ!?」「エレちゃん!?」

「何!?湖上!!」

「あらみんな来ていたの?」

「何でテメェがココに居る湖上!!」

「偶然です。偶然仕事で京都に寄ってたら巫崎さんにお会いしただけです」

「あれれ…いつから二人ってこんな険悪に…」

「あっあの~…先生とエレキングさん、昔はどうだったかわかりませんが今はちょっと険悪で…」

「ええええ!!昔はおしどり夫婦かと間違われるくらいお2人は公私にわたる関係やったのに―」

 ブンジの目鼻を素通りして襖に爪楊枝が突き刺さった。

「それ以上間違った情報を言ってみろ…殺すぞクソ坊主」

「冗談や冗談…遠路はるばるおこしやす湖上はん」

「いえ、お邪魔いたします」

「けっ!…挨拶したらとっとと帰れ電気ヘビ女…」

 皆には2人の険悪な雰囲気がまるで離婚後の元夫婦かのように思えた。

「えっエレちゃん仕事で来とったんやな~」

「当然よ…いつもグッズ巡りしてるわけじゃないわ」

「けっ!どうせサボりだろう」「せんせー!」

 場の空気はさらに悪くなった。

「そっそれじゃぁ私は夕飯の支度します」

「あっああ…」

「あっボクも手伝います」

「いえいえ、お客様に御手を煩わせませんわ、ではごゆっくり~」

 カノンはすぐに気まずい空気を封印するかのように襖を閉めた。

 トオルと湖上以外、全員が『気まずい』と感じていた。

「みんなある程度いるのね…丁度いいわ、今から皆に連絡事項があるの」

「へぇ?何を?」

「まず先にピグモンから皆に説明してもらうわ」

 湖上は自分のソウルライザーからビデオ通話でトモミにかけた。

『あっ映りましたって皆さん!?どうしてほとんどの人が京都に!?』

「ピグモン、こっちの説明は後にしてあなたから例の件を説明して」

『あっそうでした…まずその場にいる怪獣漢さんに今回のシャドウ分散の阻止についてGIRLSを代表してお礼申し上げます』

「ああ…」

『しかし、怪獣漢さんもそちらに居る休暇中の怪獣娘さんにも急なのですが、先ほどMONARCHさんからの事後調査の結果が提示されたのですが、一部分散して移動していたシャドウは消滅しましたが…それが囮であることが判明しました』

 それは全員が驚愕する内容だった。

『正確に言いますと単にランダムでシャドウがあなた達怪獣漢さんから逃げていたのは事実ですが、問題は逃げる本命の目的地が存在していたのです!…エレエレ、シャドウ数値検出アプリを』

 湖上はビデオ通話をそのままに操作しながらトモミの指示通りシャドウ数値検出アプリを起動すると何やら数値が上がったり下がったりしていた。

「なっなんだこれ…こんな動き見たことねぇぞ」

「私も最初は目を疑ったけど、この数値は大きい時でシャドウ出現時と同じだったり小さい時で0だったりと大きく変動しているのにここ京都市内でのシャドウ警報どころかシャドウの目撃すらないの…」

「待てよエレ、ピグモン!じゃぁシャドウはこの京都に集まりだしているってのか!?」

『レッドの言う通りなのかもしれませんが、エレエレのいう0の時の数値が既に50回以上こちらでもエレエレの記録で確認されています…まるで…』

「京都がシャドウを食べている…みたいだな…」

『ゴジゴジの言う通りなのです…これはまるで周期的に京都と言う土地がシャドウを餌にしているとしか見えません』

「あるいは何らかがシャドウを食って栄養を蓄えている…そう考えると相手は『MONS』…」

 全員の肌に毛が逆立つような気配が来た。

「じゃっ…じゃぁまたあの化け物…」

「いや、これだけのそのシャドウを餌にして栄養を蓄えてる…相手はかなりの規模のデカさだ…いつも通りの『MONS』じゃぁないってことになる…そうなれば…被害はかつての怪獣災害規模だ」

 怪獣娘たちは化け物退治の専門家である怪獣漢がかつてない程に真剣な眼差しと表情をしていた。

『とにかく怪獣娘さんも怪獣漢の皆さんも随時警戒をお願いします…私もできる限りの事は調べますので…では!』

 ビデオ通話が切れ、全員がだんまりとしてしまった。

「シャドウビーストやシャドウジェネラルより強大な敵なのか…」

「さぁな…最も軍事用に存在していたMONSとは違う…天然物のMONSとなれば俺たちは何度か見たことが有るが…シャドウを食っている巨大にして強大な存在がこの京都市内の上か下か何処にいるのかさえ分からん…」

「とにかく対策を立てるしかない…だが最新の注意は掃って行動する…相手は未知の存在だ、お前らみたいに出し惜しみで能力を使えばいいと言うわけではない」

 ユウゴの言う通りだがそれでも怪獣娘たちに残る不穏は残ったままだった。

 そこにピンポーンと玄関外で誰かがインターホンを鳴らした。

「はい~今行きます…」

 カノンが戸を開けるとそこには木城がいた。

(なっ!あの時の刑事…)

 ユウゴは陰に隠れて様子を窺った。

「巫崎カノンさんですね…警視庁の木城キセキです」

 木城は警察であることの証明の警察手帳を翳した。

「はっはい…なっなんの御用でしょうか…」

「後根コウタロウさんをご存知でしょうか」

「はっはい…大学時代に同じ「レイドシー」ってバンドに一緒に所属していた元カレです…」

「その後根コウタロウさんが先日亡くなられていたことが判明しました」

「こっコウタロウさんが!?」

 カノンは衝撃のあまり口元を手で覆い隠すように塞いだ。

「死因は衰弱死ですが、他殺の線も見て捜査していますが後根さんの遺留品で彼の手持ちの携帯にあなたへ頻繁に連絡を入れていた形跡があったので何かお心当たりはございませんか?」

「こっ心当たりと言われましても…確かに彼からメールは来てましたけど…その…彼から縁を切ったのに最近になってバンドも解散したらしく、そのバンドで私のパートだった代わりの人と交際が破局して復縁を何度も求めて来たので…気味が悪くてメールも全部消してメアドも削除して携帯も電話番号まで変えたほどで…」

 カノンは腕を擦るように今の気持ちを落ち着かせていた。

「では後根さんとは既にご関係に無いと」

「はっはい…もうずっと彼の事は考えないように関わらないようにしてたので…」

「わかりました…また何かございましたらこちらに来ます。夜分遅くに失礼しました…お客さんですか?…随分と大勢ですね」

「えっええ…近隣の方々がいらっしゃってるので」

「そうですか…では」

 そういうと木城は玄関を後に去って行った。

 

 

 しかし、やはり気になることが木城には引っ掛かっていた。

(男物が4つに1つはかなり特大サイズで女性物が7つか…ここら辺は老人世帯が多いに随分と平均が若いなぁ…それよりもこの変死事件について調べなければ…)

 

 

 木城が去って緊張が抜けたのか、見知っていた人物が無くなっていたことに驚いたのか、崩れるように玄関で座り込んだ。

「…んっ?カノン!…どうした大丈夫か?」

「たっ大平さん…だっ大丈夫です…さっき刑事さんが来てその驚いただけです」

「刑事が?…なぜ」

「わっ私の知人が亡くなったって聞いて…事件の可能性もあるからって…」

「…そっか…とっとりあえず君は休んで…料理は彼に作ってもらうから…」

 

 

「すみません亀沢はん…カノンの体調が優れないので客人にこんな事を頼むのもあれなんですが…」

 トオルは涅槃姿から起き上がった。

「わかった…手伝おう…」

 トオルはそのまま台所へ向かった。

「あっ先生…」

「ウインダム…いいのよ…先生に任せなさい」

「ガメちゃん料理できるの?」

「出来るも何も、あいつの実家は三重の伊勢志摩の定食屋だぞ、料理は作家業の次に眼を瞑ってでもできるよ」

 

 

 台所

 

 トオルは台所に立ち今日作るメニューを確認した。

「なるほど…今日のレシピか…んんっ?」

 僅かな視線の気配を感じ取り振り返るとドアの隙間からショウタが見ていた。

「……一緒に作るか?」

 ショウタは大きく頷き、台所に入り自分のエプロンを付けた。

 そしてトオルもエプロンを着け…

「調理開始だ」

 手際よく食材を切り、焼き、煮て、様々な工程を素早くこなした。

「ショウタ、皿出せ!」

 ショウタもテキパキと動き、皿を出し、そして—

 

 

 居間に運ばれ豪華絢爛、色とりどりの料理が出てきた。

「「「「「おおおおおお!!!!」」」」」

 見ているだけでおいしそうで今にも食欲を刺激してくる勢いだった。

「めっちゃおいしそう!!」

「早く食べよう食べよう!!」

 育ち盛りの怪獣娘には待ちきれずにいた。

「それじゃ…」

「「「「「「「いただきます!!!!」」」」」」

 そして、料理を口に運び頬がとろけそうなほどのうまさを噛み締めた。

「ん~~!!うまぁ!!」

「めっちゃうまいじゃん!何これ…」

「ガメちゃんが料理上手だったなんて意外~こりゃぁいいパパさんになるわ~」

「出来ることをしているだけだ、自分が料理一つもできないようじゃ話にならん」

 普段から外食ばかりの怪獣娘たちは痛い所を付かれた。

卓上にある料理に舌鼓を打つ中、ブンジはトオルにカノンの体調も考慮して作ってもらった料理をカノンの部屋まで運んだ。

 ブンジは部屋の扉にノックを打ち許可を得て入った。

「カノン、気分はどうや?」

「ああっ大平さん…すみません」

「ああ~かまへからジッとしてなアカンで」

 無理して起き上がろうとしたカノンを止めるように料理を乗せた台をカノンの前に差し出した。

「これっトオル君が作ってくれたんですか?」

「ああっ…これを食べて元気を付けなはれ」

「いただきます…ズズッ…おいしい」

「…そうか…何があったか聞かんが自暴自棄になったらアカン…そんなんはカノンが求めとることちゃうで」

「はいっ…」

 ブンジの優しき眼がカノンに見守った。

 

 

 ザバーンッと湯船から湯が溢れ流れていく。

「ふぅぅぅ~…いやぁ~お寺のお風呂ってなかなかオツだねぇ~」

「意外と広いから怪獣娘全員が入れますね~」

「ホントだねぇ~バブッビ!!」

 アキの顔に湯がかかった。

「ニッシシ~ゴモたん必殺「湯でっぽう」なり~」

「もうゴモたん!」

「いやぁ~銭湯みたいに足が延ばせるから~アギちゃんに好き放題できるね~ウリウリ~」

 ミカヅキはアキの身体に手を回して撫でまわした。

「あれれ~アギちゃんもしかして胸大きくなった?」

「ちょっどこ触ってんのゴモたん」

 

 

『グリットォォビィィィィムゥゥゥゥゥ!!』

『ギャァオオオオオンンンン!!』

 テレビの中の特撮番組をショウタはトオルと一緒に干渉する中、縁側でユウゴ、アラシ、コングの3人が話をしていた。

「とりあえず京都市内を分けて探すしかない、京都は広い。そんな中で何者かが掃除機のようにシャドウを吸いよせていると考えると相手も動けないことが推察される」

「じゃぁどこかそれもシャドウが移動できる地下と考えると同じく地下建造空間で停滞しているでしょう」

「じゃぁ地下に居ると言うことか」

「かもな…」

「まぁ人員は多い方がいいだろう…そうだろ焼き鳥野郎」

 屋根の上から顔を逆さでヒエンが覗き込んできた。

「今日本にいる連中を京都市内各所に入っているぞハリネズミ」

「大佐含めMONARCHも召集しているんすか?」

「ああっ…三枝さんは例のシャドウビーストの頭部の解析中だがな」

 すべては整った。京都は大規模な怪獣たちによる包囲網が完成しようとしていグゥゥゥゥゥ…

「……それより飯をくれ」

「「「・・・・・・・・・」」」

「ほらよ、握りの糧食を作っておいた」

 おにぎり2個にたくあんが乗った皿を回すようにヒエンに渡った。

「すまんな…」

 ヒエンは屋根に戻って行った。

「なら明日は早速大捜査戦と行くか…」

京都の夜は異様な静けさがユウゴたちの本能を刺激するように不気味な雰囲気だけが残っていた。

 

 

 

 

 ?? ??

 

「ほ~う…これがあんたの作品か…」

 その先には大きな容器にいくつもの管が通され緑の液である物が浸されていた。

「そうだ…肉体はとうにないがこうして骨格だけが京に残っていた…歴史上の文献では首だけが怨念と言うマイナスエネルギーによって構築され関東にまで飛んだ化け物だが…こうして胴体がシャドウを喰いつつ力を蓄えている…後は首がこちらに来ればこいつはMONSとして完成する」

「ほぉ~…ならこれが『()()()の身体』となるわけか」




見せられないMONS~

「ほら見ただろ!ダンナの雄姿に続いてお前も行ってこい!」
「やだやだやだやだ!!何でそうなるんですか!?」
「ばっ!すぐにそいつを下ろせ!!」
 アラシは必死でレットキングにザンドリアスを下ろすよう説得した。
「何でですか?」「何でもだ!!」

 遥か遠方ではロケットランチャーを構えたヒエンがいた。
「っち…あのハリネズミ、余計な邪魔しやがって」


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京都大捜査

 京都市 比叡山

―MONARCH仮設中継拠点

 

 夜の夜行性動物の声が飛び交う比叡山では地球防衛軍兵士や白衣姿の人物が行きかう拠点のテントを捲って京都市内の地図が置かれた卓上に休憩用のスペース、幾つの書類と共に尾崎が難しい顔をしていた。

「お待たせしました」

「ああっ…ガバラか、すまんな療養中に」

「いえいえ、既に完治していますので怪獣さまさまってところです…結局ゴジラも他の怪獣漢同様プライドが最上級過ぎて確認できませんでしたし、それに京都は何度も仕事でもプライベートでも来ますので一大事とあれば」

 テントの布を捲って現れたのはガバラ・三木ヤスヒコその人だった。

「彼らは、今は?」

「現在、『太平寺』で就寝中だ…人の気も知らずな」

「まぁまぁ…それで、あなたが今欲しい情報はこちらでは?」

 ヤスヒコが片手に掲げた紙材質の二つ折りファイルの中にあるカルテを尾崎は今もっとも欲している。

「その前になぜこれが今のあなた方に必要なのかお教え願いたい…私も医者の1人として患者の情報には秘匿義務があります。例え亡くなられていても」

「…では、これは?」

 尾崎が卓上に設置したパソコンから映像が流れた。

 どうやら監視カメラの映像であるが…

「なっ…そんな馬鹿な…」

 京都府警察本部

 

「夜分遅くまで探してもらってすみません」

「いえいえ、何分事件が多いんですので…しっかしまぁ…またあの事件の繰り返しなのかねぇ…」

 木城は京都府警本部のある捜査資料を老年の桑原刑事と一緒に探していた。

「ええっとああっありました。これですわ、CH2号事件」

 少々古ぼけしわが目立つ二つ折りのファイルが木城に手渡された。

「これですか…」

「ええっ…立ち話も何ですから、室へ」

 桑原刑事に案内され控室に2人は入った。

 

 控室

 

「いやぁ~東京からの刑事さんがいらっしゃるとお聞きしてはりましたが、えらい男前さんで…さぞ、世の女性に御モテになられるでしょう」

「いえっなにぶん警視庁は仕事ばかりですし、女性関係はあまり…家にもここ何日か帰れてませんので」

 素朴な会話をする中でも木城は『CH2号事件』に目を通していた。

 以下、『CH2号事件』の概要となっていた。

 5年前、京都市内の計4か所で殺人が行われ、被害者の計四名はいずれも刺殺による腹部損傷による肝臓からの多量出血死、犯人は防犯カメラの映像で解析され特定された。

 犯人は冴木ケント(当時24歳)、冴木自身の実家は裕福であったが幼少期は母親から勉学の強要に抑圧された幼少時期を過ごしていたが彼が高校に卒業した年に両親が死亡、冴木に莫大な遺産が降りたが後の供述でこの両親も冴木によるトリカブトでの毒殺であり最初の殺人であったことを後に供述していた。

 その後、毒殺した両親の遺産で京都大学に進学、専攻は量子力学、成績はトップで将来を嘱望されたほどの好青年だったがそんな彼の中の狂気があることなど誰も知る由もなかったであろう。

 大学卒業後、大手化学製品会社に就職したがその会社の不況の煽りに加え、親会社からの尻尾切りに合い会えなく倒産して無職となったが冴木にとってどうでもよかった事だが冴木はそれまで抑えていた殺人衝動と何らかの実験に意欲を燃やし凶行に走った。

 そして、事件は最初の精肉店の男性店長(当時42歳)を殺害、次に不動産支店の女性従業員(当時27歳)、公園に偶然居合わせた男性(当時32歳)、そして最後は京都府八幡警察署近くのマンションで女性(当時23歳)が殺害された。

 しかし、冴木はこの犯行はいずれも犯行が行われた場所を線で結ぶとまるで四角で囲むような形で最後の犯行場所として京都タワーで修学旅行生を人質に取り立てこもった。

その後、一人の刑事の尽力によって冴木の身柄は確保された。

「実は、この事件を解決したのは私の部下やったんですけど…大層優秀な奴でしたが冴木の四件目の犯行の被害者が何を隠そうもその部下の奥さんで…まだ新婚はんやったのに…辛いとか悲しいとかの気持ちより彼も冴木に似た感情になったんでしょうなぁ…私情を挟まぬように事件から外されたにも拘らず犯行の手口や冴木の素性を徹底的に探り出そうと尽力したのが冴木の最後の凶行を駆り立てたかのように京都タワーに立てこもったんですわ…」

「それでどうなられたんですか?」

「部下も冴木の尻尾を掴みかかり追いつめ、同時に冴木も追われる形で追いつめられ、京都タワーに立てこもり機動隊やSATが取り囲む中、私の銃を奪って京都タワーに単独で突入して立てこもった最上階で冴木は観念したのか抵抗もなくその部下にお縄にかけられ事件は終息しました」

「その方は、今は?」

「事件後、自分勝手に突入した挙句、人質が居る危険の中で犯人逮捕、彼は本部長表彰と停職を受けるはずでしたが表彰を拒否して警察を辞職、今は実家の寺で住職をしておりますよ…私もこの事件後はここの管理職にまかされ定年を待つ身です」

「…そうですか、是非ともその方に一度お会いしたいもの