読み切りSS(※遊戯王作品) (ウェットル)
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二次創作家が【遊戯王ARCーV】の世界に行ったら。

 ブラック・マジシャン・ガールって可愛いですよね。
 でも、それを真面目に活躍させようって変人はいないと思うんですよ。

 ・・・・・・周りにいなかったんですよ!()


 諸君、私は《ブラック・マジシャン・ガール》が好きだ・・・・・・だなんて流れから始まりそうな、どこかで聞いたことがあるような演説だか御高説だかは前振りで終わらせるとして。

 あえて、自分の言葉で語ろう。

 僕は《ブラック・マジシャン・ガール》が好きだ。《ブラック・マジシャン・ガール》のためだけのデッキを組もうとして、《ブラック・マジシャン・ガール》を採用する意味をデッキに持たせるべく様々なカードとのシナジーを考え、あるカードたちが刷られるまでは何年経っても《ブラック・マジシャン・ガール》が強くなれない現実に枕を濡らし、何度も《ブラック・マジシャン・ガール》を捨てることを考えれば希望を未来に託し。

 新規カードが発表されては《ブラック・マジシャン・ガール》と相性のいいものはないかと一喜一憂し、最終的に理想的なデッキを完成させてもなお《ブラック・マジシャン・ガール》をより強くしようと考えるくらいには好きだ。

 ついでに《ブラック・マジシャン・ガール》を題材としたネット小説、あるいはSSと呼ばれるものを書きたくなるくらいには好きだ。そして何度も廃案を重ねて完成させるまでの苦行を終え、完走させるくらいには好きだと言ってもいい。

 どこかの同士は拷問カードとメタビートによるコンボを兼ね備えたリョナラー垂涎の《ブラック・マジシャン・ガール》デッキを組んでいるそうだが、違う、僕が作りたかったのはそういうものではないし、実際に作ったのはそういうものでもないのだ・・・・・・。

 などと、一端のデュエリストっぽく語りはしたいが、所詮は現実世界の人間。

 正直な話、『決闘者の初恋』『どの時代でも色あせない美少女』だなんて呼ばれているカードを、わざわざデッキのエースにして小説まで書こうとするオトコの最初の夢だなんて決まりきっているようなものだ。

 

 

 

 ――――《ブラック・マジシャン・ガール》と付き合いたい。

 

 

 

 アークファイブの世界にあるリアル・ソリッド・ビジョンでもあれば、あとはAIを突っ込むだけで擬似的にお付き合いも、お突合だろうともできうる程度のちっぽけなユメだろう。

 その程度であれば、腹話術を学んで寂しく遊ぶまでもないし、もちろんそんな恥ずかしすぎる宴会芸を夜な夜な一人でやるよりは自分を磨いて女の子を引っ掛ける努力をしたほうがいい。妄想にふけって現実と妄想の区別もつかない狂人になる必要もない。

 そんな現実なんて、嫌でもわかっているというのに。

 

【こっちの世界、遊戯王専門雑誌ってほんとにあるんですね、マスター?

 まあ書いてあること、ヴァリアブル・ブックくらいの・・・・・・そう、当時のデュエリストのお財布事情とかカードショップ事情とかをあんまり考えてないくらいの内容ですけど。

 見てくださいよコレ、トマハンですよ、トマハン!】

 

 目の前の、「めっちゃ荒んでて死んでる目をしている《ブラック・マジシャン・ガール》の嘲笑が、ずっと聞こえてくるという嫌な夢」が、ひとかけらの妄想(理想)の余地もない現実なのだと教えてくれる――――

 

【テキスト表記がガバガバすぎてワンターンエクゾディアが普通(公式)だった、あの時代。

 そこから数年経って黒蠍とかいう連中が出てきて、相手の手札を削り取る戦略が《押収》のたぐいもなしに普通になった、そう、GX放送当時くらいのってとこでしょうかね?

 それにしては、ずいぶんとまあ・・・・・・スピリット、いるんですねー・・・・・・。

 現実準拠ならともかく、原作の漫画、アニメ準拠なら絶対ありえないですよね、この特集のデッキレシピ。あれって一応、ペガサス・J・クロフォードのアニメオリカですし】

 

 チョット待ちなさい、なんで君そういうメタいこと知ってるの。

 

【いや、私、別にアニメとか漫画の《ブラック・マジシャン・ガール》じゃないですし?

 そういう時期に捨てられたり売られたりした方の《ブラック・マジシャン・ガール》ですしぃ~? 《人造人間サイコ・ショッカー》にも帝にも負ける方のですし】

 

 パラパラと雑誌をめくりながら、ブラック・マジシャン・ガールの精霊は口を尖らせる。

 さすがに宙に浮かびながら前回転するのを何度もやらないでほしい。目のやり場に困る。体育座りふうに足を畳んでいるせいで、彼女の陰鬱とした雰囲気がより強くなるのも含めて目のやり場に困る。

 というか、その言いぐさだと、まるで実際に負けたことがあるかのように聞こえるが。

 ・・・・・・まさか。

 

【べっつにー? いいですもん、私を捨てたマスターたちの都合なんて。

 隣で一緒に楽しくアニメ見てたのに、数年経ったら子供の遊びだからとかってバカにされながら捨てられたって? それを誰が拾って弱いって言って捨てたって?

 メタいも何も。こっちは本物ですよ、本物。なのに誰も気が付かないですしぃ・・・・・・】

 

 ああ、そういう。確か、ええと、付喪神的な。

 

【そーですよ、付喪神的なアレです。

 実はマスターのアレとかアレとかナニとか見てたりする方のアレです。

 よかったですね~、友達にも内緒な嫁のカード公認で。気持ち悪かったですけど】

 

 やめてください死にたくなります。

 

【とか言いつつ、下半身に正直すぎて生きたくなるんですよね?

 わかりますよ、そのくらい。ところで、どうするんですか?】

 

 どうするって、なにを?

 

【決まってますよ、()()()()についてです。

 なんか気がついたら世界変わってたぜ系の状況に私みたく内心でパニックするより、私を見て目が元気になったマスターにわかりやすく現状を説明してあげますよ】

 

 彼女は、くるくると宙を浮かび回り続けながら、今度は膝を立てて横になるような姿勢へと移り変わる。やめなさい、服と肌の間とかがデンジャラス過ぎます。

 もうちょっと、ご自分のキャラデザというものを考えてですね。

 

【コ⬜ミや海馬コーポレーションが販売していないモデルのデュエルディスクがあって、こうして「誰が置いたのかわからないデュエルディスク」の上に置かれたカードの私が実体化した以上、どう考えたってここ、アークファイブの世界じゃないですか。

・・・・・・マジで、どうしますか?】

 

 あ、ダメだ彼女、全然聞いてくれねぇや。

 

【アークファイブの世界に来たマスターが、すまほ? で昔に読んでいたネット小説とかによくある転生や転移だの、超B級映画な謎すぎる陰謀だの、そういった気配はしません。

 ここにいる理由も原因も(分から)ないっていう、二次創作ならダサくて駄作なショート・ショート以下の産物です。

 例えるなら、えっと、マスターが数ヶ月も何年も二次創作のオリキャラ主人公を作るのに頑張り続けて、最終的に「その世界出身の既存キャラとかモブキャラに憑依か転生でよくね? オリキャラ主人公にする意味ってあんのかコレ。それはそれで嫌だしダルいからやめるか、かえって使わせたいカードのイメージとの辻褄合わなくなるし」って匙を投げたレベルですね】

 

 ああ~、やったことある、そういうの。

 ボツにしたアイデアのひとつに、そんなんあったっけ。

 よくそんなネタ覚えてくれているなぁ、「ずっと見てたから」って言われたら死ぬほど恥ずかしくなるくらいのを。ちくしょう。

 

【ぶっちゃけヌルゲーの気配ですよコレ、そしてエタるくらいには、たぶん私達の出番は特別これと言ってないでしょう。元から何の因縁もない世界ですしね】

 

 おお、メタいメタい。

 まあ実際、アークファイブを含めても遊戯王の二次創作は連載不可能になりやすい。

 なにせ、主人公にとっての因縁というものが完結しやすい題材だからだ。

かの有名なハ□ー・ポッターでなら闇の陣営関係からでも原作の運命に抗う主人公が作れるし、ハー☓ルンではなにかとアンチ作品をよくみるハイスクール□☓Dだってアンチ要素を消化していくだけでも話は作れてしまう。

 

 しかし、遊戯王だけは特別なのだ。

 

 基本的にカードゲームという知能スポーツが主体であるせいか、書き手そのものに高度なデュエルタクティクスを必要とされることがあるだけでなく、大体がタイマンを張った文字通りの決闘であるがために後腐れに繋がりにくいのだ。次の話を書きにくいのだ。

 しかも、あまりにも敵陣営のキャラクターに原作主人公の陣営との因縁がありすぎて、誰かが間に割って入ると原作の物語全体が一気に破綻しうる。あくまでも味方のキャラひとりに因縁の相手がひとり、というのが遊戯王作品の相場なので、まず因縁などないオリキャラにはこじつけで戦える原作のネームドキャラなど多くはないのである。

 暗にそれは、原作そのものの話の分かりやすさだけでなく、より意図的にオリジナルの展開に持っていってモブ中心の好きな話を描きやすいとも言えるのだが、大概の人が書きたいアンド読みたい二次創作とはネームドキャラへの待遇がメインディッシュであって、流石に「モブキャラ同士やらオリキャラとモブキャラの絡みがメインなんです食らいやがれお客様」というのは難易度が高すぎる。

 というか、そんなん遊戯王上級者向け過ぎて誰も読めんわ。

 

【ですよね~、マスター。

 結局マスターには難しすぎて、アニメの二次創作って形にはしませんでしたよね。

 『ブラック・マジシャン・ガールと賢者の石』でしたっけ、アニオリでの私のミュージカル。あれをネタにして一本書いたんでしたっけ?】

 

 そうそう、そうやった、それやった。

 先程の話とつなげるなら根本的な問題点として、遊戯王シリーズにモブでしかないオリキャラにまで構ってくれるほどの「使い勝手のいい悪党」というものが極端に少ないのだ。

 ハ⬜ー・ポッターなら闇の陣営と対立するか、闇の陣営の都合を知っている上で立ち回り学園長の慧眼を欺き生き延びようとするチキンレースをするだけでも大筋が乱れずに話が成立するというのに、ハイスクール⬜☓Dであればアンチ要素と仲良く喧嘩するか、普通に能力者として立ち回るだけでも同じく大筋を乱さずに話が成立しうるというのに、だ。

 簡単に言えば、物語構成がガッチガチすぎて、いわゆる遊び、つまるところ話の余裕がない。

 モブだけに着目しても、それはそれで大筋から離れすぎていて、読者に時系列が伝わりにくくなってしまう。それは結局の所、原作の展開を追っていったほうが読者に優しいということでもある。すると、そのために主要キャラの出番が増えてしまう。

 オリキャラが主人公であれば、まず活躍の場が減るということでもある。

 アークファイブの世界では幸いなのか不幸なのか、オベリスク・フォースだのセキュリティだのがいるものの、全員が名前すらないガチモブ過ぎて、モブとオリキャラだけのバトルなんて誰が見るんだ状態にだってなりうる。

 簡潔に言えば、遊戯王の世界はオリキャラに優しくなどなかった、ということだ。

 もちろん、お話を面白く成立させるという意味で。

 

【「だったら世界観も因縁もまるごと作って満足するしかねぇ!」、でしたよね!

 ・・・・・・で、マジでどうするんですか。私達にやることって、あります?】

 

 そう言われてみると、実のところ、そんなにはない。

 原作に対して手を加えたいと考える夢想家ならばともかく、だが。

 遊戯王の世界は、ほんの僅かなズレがどんな世界の滅びに繋がりうるか明確なのが恐ろしい。ファイブディーズからのアニメ世界の場合、ファイブディーズならばヒロインひとりが主人公たる不動遊星やチーム・ファイブディーズから離れただけで最終決戦で勝てなくなるフラグになるし、ゼアルならば黒幕のドン・サウザンドに興味を持たれて記憶を覗かれるなりするだけで主人公たる九十九遊馬たちに対してオウンゴールを決めてしまう戦犯になる。

 このアークファイブの世界であれば、赤馬零児だろうが赤馬零王だろうが、記憶を除く(または覗く)技術があるので余計にやばい。

 ついうっかり捕まろうものならば、主人公たる榊遊矢の身に何が起きるかわからない。ズァーク関連とか遊戯王作品関係のやばい設定持ちカードまで覗かれたら、何をされるかわからん。機皇帝とか再現されたらシンクロ次元絶対ヤババナイト。

 これらを見越した上で「原作乖離をなるべく避けたい」と考える側からすれば、「しかも遊戯王の世界でもある」ので普通の戦いでの死ぬ可能性もあるというハードモード付き。メタい考察込みでも遊戯王の世界にだけは行かないほうがいいとは、よくネットで聞いたものだ。

 

 

 それでも、この世界に来た以上は仕方がない。

 かといって、せっかく《ブラック・マジシャン・ガール》と話せるのだ。

 まだ、そう、死に急ぐにはまだ早い。

 

 

【・・・・・・知ってますよ、そうやって()()、ダラダラと生きるんですよね。

 わかりました、そういう腹づもりなら? 私もダラダラしちゃいますね?!】

 

 なんか彼女、今、「よし、後はマスターと竜騎士♀できれば・・・・・・!」とかボソボソと言っているっぽいけど。そういえば、そもそも、こんな仲になるようなフラグってなんかあったっけ。

 そんな仲になろうと思ってもらえるだけの、そういうなにかをしたこと、あったっけ。

 TUT△YAで叩き売られてたの、全部買い集めはしたけど。別に無限回収くらいなら、やるひとはそんなにいないはずもなし。マジでキモがられることしかしてないぞ、僕。

 仮にそれが理由なら、いくらなんでもチョロすぎませんかね?

 こういうのもネット小説系の強引な展開ってやつなんだろうか、ねえ、作者(カミ)様。

 

 

 ・・・・・・よし、今日もダラダラしますか。前世のときみたいに。

 

 

 

 前世のときみたいに!!!

 




 壮大でもなく! なにも! 始まらなぁい!!!

 BMGは精霊にしていいのか、喋らせていいのか、そもそもヒロインにしていいのか、かーなーりーデュエリストのご都合主義(※非モテのイメージする恋愛)の体現者になりかねないのではないか、なんて四苦八苦した結果が、


「決闘者の初恋とか呼ばれてるけど、現実はストレージで投げ売りされてるよなー」
 ↓
「どうせなら、キャラを改変して荒んだ子にして腐らせるかぁ!!!(発狂)」



 この有様です、本当にありがとうございましたクソッタレ。


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電子光虫使いが逝くARC-V

 ぶっちゃけ嬉しいけど!(お気に入りとか、しおりとか!)
 正直そこまでやってくださったなら、読み切り作品(主にお蔵入りネタ)がたくさん見たいのか、読み切りの続編が見たいのか、あるいは読み切り自体を書き直せやオラァンなのかを教えてくださると! 有り難いなーと思います!!



 

「だあっ、もうっ、めんどくせぇ!」

 

 重い音がする。

 それは、高速道路を走るトラックの響かせる音よりも重く、重く。

 巨象の行進をも思わせる足踏みで、臓腑をも震わせる太鼓のような鼓動で。

 確かに近づいてくるのだ、いたずらで子供がアリを追う様に似た無邪気さで。

 大きな影の、赤く光る目の、ちっぽけな人間(アリ)を追いかけてくる怪物の音が。

 

「たかが4000ぽっちの性能で調子づきやがって!

 こっちは何回頑張っても2600なんだぞ、やってられっかぁ!?」

 

 震える。恐ろしいと、背を追う怪物が恐ろしいと体が震える。

 奮える。所詮はいつものことなのさ、そう呟く魂が冷ややかに燃えがる。

 こんなものなど味わいたくないと、心の臓から悲鳴を上げる。

 こんなものなど大したことないと、口角が上がり数字を数える。

 そうして、この身体と魂は共に訴えかけるのだ。

 

 デュエリストとは、このようにあるものだったのか、と。

 

「ええと、《古代の機械混沌巨人》が封じるのは、フィールド上のモンスター効果!

 手札や墓地のモンスター効果までもは無効にできねぇ、だったら・・・・・・!」

 

 方や歓喜に震えて微笑み、方や恐怖に呑まれて頬を痙攣させる。

 ヒトはそれを狂気と呼ぶのかもしれないが、狂えるだけの頼りの綱というものさえあれば、狂気というものは案外にも正気を維持し続けながら扱えるものだ。

 手綱のひとつは、地面に座り込んで自らを見上げる、死ぬには勿体無い体格をしたオベリスク・フォースの金髪少女。人間としてはともかく、野郎としての報酬には十分だ。

 惚けるように口を開いているところも、また色気が強くて心に毒だが有り難い。

 もうひとつは、この自分を乗せて、震える羽根で空を飛ぶ甲虫。

 蒼く輝き、紫電と共に虚空を焼き続ける鎧兜の昆虫は、鈍重なる猟犬が如き駄巨兵など気にもとめずに、時折歌でも歌うかのように羽根の震わせ方を変えていた。

 

 

 

 《電子光虫(デジタルバグ)―ライノセバス》。

 ランク7、光属性、昆虫族のモンスター・エクシーズ。

 アニメ遊戯王ARC-V放送時期に印刷された、当時の遊戯王OCG環境において「最大の産廃にして、最弱のエクシーズ召喚テーマのカテゴリー」の切り札級モンスター。

 効果は単純、「表側守備表示絶対殺す(守備力が最も高いものを全部破壊する)裏側守備表示にしても殺す(守備貫通効果)」。

 

 

 

 こいつが、今のボクの相棒というわけだ。

 全く頼りにならねぇ。自分の腕前を信じるしかねぇ。

 

「おっしゃあ、()()()()

 迎え撃つぞ、ライノセバス!」

 

 「待ってました」と意気込むように、複眼を輝かせたライノセバスは旋回する。

 その鋭利なる剣を、大いなる影へと切っ先を変えて、

 

「――――前進(カチコミ)だ、ブチ抜きに行くぞ!」

 

 白装束の輝きを宿す。

 

「手札から、《オネスト》の効果を発動!

 テメェのモンスター、どんな火力だろうが! 知ったこっちゃねぇなぁ!」

 

 狼狽する声がデュエルディスクから聴こえるが、それさえもどうだっていい。

 

「ライノセバス、《古代の機械混沌巨人(アンティーク・ギア・カオス・ジャイアント)》に・・・・・・居合切れ! その刹那の、瞬きに掛けて!」

 

 すべては、綺麗な(オンナ)を守るため。

 つぼみ(こころ)の中身の話など、生かしてから、じっくりと考えればいい。

 迷う暇などあるものか、助ける理由など「色気に負けた」なんてもんでもいい。

 何はともあれ。信じられないものを見たと言わんがばかりの、あるいは、この世の終わりだと言わんがばかりの絶叫を対戦相手たちがあげている。

 減衰する音が、デュエルディスクから鳴り響く。

 勝利だ。相手のライフポイントがゼロになった音だ。

 ボクは、眼前に広がる絡繰り仕掛けの犬人形たち、それらの残骸を見下ろしながら確信した。これだけ高く飛べれば、自分の戦果というものも実感が湧く。散り散りになって逃げ続ける遠くの人影が、どこかから現れた鷹やドラゴンに狩られていく姿もよく見える。

 

「・・・・・・で、そこの脱走兵さん、機嫌はどう?」

 

 ライノセバスの着地が終わってから、ボクは相棒の外骨格から滑り降りる。

 顔を引き締めた彼女は、一言二言ほど礼を口にすると、「できれば匿ってほしい」とも続けた。迷惑になってしまうのは承知の上で、どうしても逃げるわけにはいかないのだとも。

 仮面越しには伺えないものの、唇の引き加減からして本気の目をしているのだろう。

 

 それにしても、本当になんでここに来たんだろうか。

 自分の身に起こった出来事を頼りに、何度も答えを出そうとしてもわからない。

 この可能性(ゲンジツ)を導き出した、自分たちのある事情を思い浮かべながらでも、だ。

 

 

 

 

 

 

 

【お主らには、ちょっと異世界に行ってもらいます】

 

 惨めに寿命を迎えたはずの今日が、明日に繋がったと知った気分は最悪だった。

 いや、なにをどう惨めとするのかは他人任せだが、少なくとも自分にとっては納得の行く一日だったと言える。特別に幸せだったとか、特別に不幸だったというものではない。

 ただひたすらに穏やかで、侘びしく、それでいて空虚。

 だからこそ、自分の歩んだ道筋に間違いが合っても、不満足はなかった。

 欲しいものが手に入らないことなど星のようにあったが、手放したくないものを手放さないことだけは、自分の命の数が変わらないように絶対だった。

 そこに誇りを持って、納得して『死んだ』はずだったのだが。

 ・・・・・・どうにも、目の前の老人もどきは面白いことを口にする。

 

【ほれ、そういう二次創作物ってあるじゃろ?

 なんなら一次創作でもいい。つまりはの、そういう話じゃ】

 

 そういう話って、どういう話だ。

 そんな声を上げた誰かが、どこかにいた。サブカルチャーに疎そうだ。

 

【転生じゃよ、強くてニューゲームじゃよ?

 ・・・・・・あれ、もしかして、あんまりメジャーな娯楽じゃないのん?】

 

 ジジイが「のん?」とか言うんじゃねぇ、キモいわ。

 そう罵声を浴びせた誰かが、どこかにいた。豪胆すぎやしないか、こいつ。

 

【あ、ワシ、あとでちょくちょく出番あるからな?

 みんな同じ世界にぶち込んどくから、もし会ったら覚悟するがよい】

 

 え、なにそれ、メタすぎて怖っ。

 その声を発端として、ざわざわと周りが煩くなった。

 殆どは神様に対する暴言か、謙る声かの二種類。まともに聞くまでもない。

 ・・・・・・さてはこいつら、かなりの割合で気がついたらしい。自分と同じように。

 

【はい、ということでワシ、神様です。

 ワシの手違いで殺しちゃった、テヘ。っていうので有名な神様です。

 もちろん手違いじゃないぞい、なんか冥界から溢れたから在庫整理でな。

 細かいことは問わんでくれ、懲役数億年とかある向こうが悪いんじゃからな?】

 

 ああ、今のでもうゲンナリしそうだ、ボクは。

 おそらくは、仏教の地獄の話をしているのであろう。

 仏教出身なのか神道出身なのか、あるいはインド神話出身なのかサッパリわからない自称『神様』を見て、ないはずの目が疲れてきた。(肉体がないのだから、目は疲れなくて当たり前である。)

 

【行き先は、『遊戯王ARC-V』の世界じゃな。

 もちろんアニメじゃよ。ワシも楽しみじゃ、せっかくのバカンスじゃしのう!】

 

 杖らしきものを神様は掲げると、自分の目の前からデッキケースが落ちてきた。

 見覚えのある、馴染み深いデッキケースだ。

 

【その中に、お前さんらが使ったことのあるデッキが入っておる。

 遊戯王やったことないヤツには、ルルブつきで適当に見繕っておいたぞい。

 お前さんが使ったことのあるカードで、ARC-Vの世界に持っていっても問題のない、それでいてお前さんらをマスターと認めるカードを中心に連れてきたんじゃ。

 一人に付き、魂のカード入のデッキが1つ、そんなところじゃのう。

 GXみたいでワクワクするのう? ワシも楽しみなんじゃよ、これ!】

 

 はしゃぐ老人の声が、男性の声が、女性の声が、子供の声が。

 どこの国の人間の声かもわからないほどに混ざり合い、ただ笑い声であるということしかわからない『音』が響き渡る。どこかで悲鳴は上がるが、神様は気にもとめない。

 目の前の居場所が『白い』だけの虚空であると、自分がふと気がついたときには。

 

 どこの誰ともわからない、それでいて自分と同じ顔の人間が。

 いいや、自分も同じ顔だったが、遠い昔に変わり果てた懐かしい顔をした人間が。

鏡の中で必死に歯を磨いていた。違う、自分の手が歯ブラシを握っていたのだ。

 その後に慌ててネットを父さんから、前世の父さんそっくりな誰かから使わせてもらって、あの日の今がいつだったのかを、あの日のボクは知った。

 

 ネット新聞のピックアップリストには、『榊遊勝』の写真が載せられていたのだ。

 ――――『ハートランドシティ』の中心にある、巨大なハートの塔を背景に含めながら。

 

 

 アニメ『遊戯王ARC-V』第一話での時間軸から、数年前。

 ボクの転生して物心がついた日とは、あの榊遊勝が、ある異世界から、『スタンダード次元』からハートランドシティにやってきて名を馳せた日だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 本当に、ただそれだけだ。

 自分の居場所が『エクシーズ次元』の『ハートランド』である以上、『融合次元』の『アカデミア』という組織に所属する彼女の方で、どのような事情があったかなどさっぱりわからない。

 本当に、彼女の身に何が起こったのかがわからない。

 何をどうすれば、彼女はこの次元に来てしまうのだろうか。

 

 原作の『天上院明日香』は、エクシーズ次元に攻め入っていないはずなのだが。

 

 同じアカデミアの戦士同士で、どうして追いかけあっていたのかもわからない。

 原作の流れからして想像するには容易いが、そうなるまでに何があったのか。

 わからない、わからない。わからないことだらけだ。

 

「とりあえず、明日香さんって呼んでいいんだね?

 それじゃあ、しばらくはよろしくです。ボクのアジトまで案内しますね」

 

 それはともかく。

 目の前の報酬を、美しい宝珠の花を鑑賞することに専念しよう。

 せっかく生き残って、助けて、疲れたのだから。ああ、本当に助けてよかった。

 

 

 

 

 助けることができて(カードにさせなくて)、本当に良かった。

 

 




 彼女をGX二次創作でオリ主のヒロインにする人、けっこういますけど。
 いっそARC-Vの明日香さんをヒロインにするのも、一応はアリだと思うんです。
 なんならDM終了~GX開始までの時間軸とかの明日香さんとか・・・・・・どうせなら、そっち方面で、こう、こう! ぜひとも読みたい!



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二次創作家が【遊戯王ARCーV】の世界に行ったら。②

 今回はBMG(ブラック・マジシャン・ガール)メインではありません。
 あくまで、「二次創作家から見た【榊遊矢】」についてがメインです。
 BMGの活躍が見たい人は、別の機会をお待ち下さい。


 自分は、榊遊矢(主人公)を助けないと決めている。

 どうして助けないのかを語るには、「主人公とは、作家的になんぞや?」を語る必要がある。ほんの少しばかり、長めの解説にお付き合い頂きたい。

 

 

 主人公には、まず二種類いる。

 ひとつは「世界を食いつぶす」主人公。

 何かの問題が起きたり、宿敵が現れたり、宿命が立ちはだかったりすると、真っ先にそれらを消化することで物語を終えるタイプだ。

 一次創作であれば王道の一種だが、次から次へとアイデアを消化していくため、連載作品であれば作者自身のアイデア量に物を言わせる必要がある。

 二次創作であれば邪道の一種であり、次から次へと原作の展開を消化していくため、費やすネタを得るために原作の悪い点に焦点を当てることも視野に入る。

 

 「世界を食いつぶす」主人公の問題点は、主人公自身が何も生み出さなくていいことか。

 正確には、その主人公を原因とした次の展開を、生み出す必要性がまったくないこと。

 とりあえず敵を大量に用意すればいい、とりあえず片っ端から敵を作ればいい――――そういう考えに作家が陥りやすく、主人公自体が対立構造を消化するものであるため、結果としてアイデアを消化するという選択肢ばかりが優先される。

 とりあえず敵キャラを生かしておいて別の機会に再戦させる、という発想には繋がりにくくなるように、自然と作家自身を誘導してしまう。

 そう、「優先しやすい方針に従う」という、惰性を自業自得で植え付けてしまうのだ。

 こういったタイプの原作主人公ほど、二次創作では非常に扱いづらいし、二次創作のオリジナル主人公としては「扱いやすい」。そういったタイプに成り果てた作家ほど、物語が一辺倒で普遍的なものに、腕を未熟なものにさせてしまいやすい。

 

 もうひとつは、「世界を生み出す」主人公だ。

 主人公自身が問題を起こしたり、恨まれるだけの行いをしてしまったり、巡り巡って自分の行いが自分に返ってきたり、元々の性格の問題で物語を作り出すタイプ。

 または、他人との関係性の延長上に、新しい物語を、何気ない他者との交流を、あるいは誰かとの日常を。物語のネタそのものを、自分から創っていけるタイプの主人公だ。

 一次創作であれば王道の一種でもあり、次から次へとトラブルを招き寄せるため、場合によっては読者に嫌われやすい。俗にいう無能な主人公を作り出すこともある。

 二次創作であれば王道の一種であり、「原作の展開に沿わずとも、勝手にキャラを動かして物語を作れる」ため、まったく原作の展開を消化せずに話を作り出すことができる。

 

 このタイプの主人公の問題点は、主人公に何の正義も実力もなくていいこと。

 あくまでも問題を主人公自身が作ってしまうか、周りが主人公に巻き込まれる物語を描きやすく出来てしまうため、主人公が何をするまでもなく裏で事件が解決する、などという展開も容認せざるを得なくなる。

つまり主人公が活躍しなくても、周りの女の子が活躍しまくれば後片付けが終わる、というような事態に陥りやすくなるのである。

 主人公の成長を作者がさせるというような、典型的な意味での王道を守らなくてよくなる余裕を作者に与えてしまう。

こういったタイプの原作主人公ほど、二次創作では嫌われやすく、やはり無能という賞賛と共に「世界を食いつぶす」オリジナル主人公の攻撃の的になるか、オリジナル主人公のための踏み台、成果の横取りの対象となりやすい。

そういったタイプの作家ほど、引き出しは多いが話はまとまらない、という間の抜けた事態に陥りやすい。物語を完結させにくい主人公、といえば分かりやすいか?

 

 どちらもいいところだけを語ると枚挙に暇がないが、今回は悪い側面だけを強調させて説明した。なぜ、そうする必要があるのかと言うと・・・・・・アンチ・ヘイトの側面だけで榊遊矢を語るには、まず「アンチ・ヘイトに繋がる榊遊矢の二側面」を知っていないと正確には語り尽くせないからだ。

 

 榊遊矢は、どちらかと言えば。

 九十九遊馬のような『世界を生み出す(かっとビングの)』才能はあったのに、『世界を食いつぶす(絆☆パワーの)』方向にだけ物語が傾向いた結果、

 

「仲間には守られ、過ちを正されるが、仲間から過ちを許される展開はない」

 

 という、中途半端な展開が相次ぐようになった主人公だとボクは思っている。

 ・・・・・・いや、不動遊星そのものを悪く言ったのではない。

 不動遊星にだって、キャラクター性に扱いにくさはある。

 そもそもの5D’sの『世界を生み出す』原因となる父親の息子であるがゆえの悩みを、あるいは普段からの悪癖を、「仲間が咎め理解する」からこその絆が、超展開を生み出す力といえる本来の絆☆パワーに繋がったのだ。

 もしも単なる完璧超人であったならば、父親の息子であるという悩みなど描かれずに、シグナーとしての使命をまっとうするだけに終わる。

 ただ問題を消化するだけで終わらず、さらに未来へ続くような答えを出すか、未来を相手に選ばせるという方向性での不動遊星の活躍というものは非常に少ない。

 精々がお説教、そう揶揄できなくもない戦いも相応に多い。

 どれも悪いお説教ではないし、未来を作るという意味での活躍もまた素晴らしいシーンが多いが。その悪い側面を指摘したのであって、不動遊星自体が悪いとは言っていない。

 問題があるとすれば、シグナーとしての使命と、未来にある宿命だろう。

 もちろん同じように、九十九遊馬にも手放しでいいと言える要素ばかりではない、とボクが思っている、暗に考察していることは留意していただきたい。

 

 閑話休題。

 

 とにかく、だ。

 榊遊矢は自ら超展開やトラブルを作るという『覇王』の側面を持っていながら、榊遊矢本人としては、物語やトラブルを作る才能を発揮してはいなかった。

 その上で、榊遊矢には『覇王』の側面そのものや、大会参加資格を得ることや、旅先の次元にまつわる問題という、とことん周りの問題を解決し消化する展開ばかりが立て続けに続いてしまっていた。

 

 遊戯王ARC-Vという物語自体が、榊遊矢に依存する試練ですらない『アカデミアを原因とする事件』を常に与えるものであったがために、歴代主人公であればあったはずの自業を正す余裕、自らの心の闇に向かい合う展開。

 

 特に、何気ない日常コメディを挟む展開が間に合わなかったのだろう。

 エンターテイナーを自称する彼にとっては、むしろこちらのほうが死活問題だったのかもしれない。エンタメデュエルの説得力のためにも。

 

 せっかく自分で物語やトラブルを作って、自分で消化するという『エンターテイナー、またはトリックスター』の側面を与えられているのに、序盤はともかく、次元を渡ってからはまったく活かされていなかったのである。

 

 

 

 そんな、ただただ忙しくなるだけの主人公に、自分ができることはあるか?

 

 

 

 決まっている。

 『そんなものはある』に決まっているだろう。

 ただし、そんなものを()()必要がないだけだ。

 義理のある絆もなければ恩義もない、そもそも放って置いても物語は完結する。

 もちろん必ずしもそうはならない可能性こそあるが、どんな形であれ復活しうるであろう《覇王龍ズァーク》なるラスボスを倒せるのは、結局は赤馬レイの分身である少女たちが全員アカデミアに捕まってから。

 どう転ぼうが、彼女たちの器になる赤馬零羅さえ生きていれば、全部解決するのである。

 ほんの少しのボタンの掛け違いで、赤馬零羅が死ぬ可能性もあることはある。

 あることはあるのだが、それは榊遊矢も同じだ。

 ズァークの分身たる榊遊矢を助けることができない、なんて展開が偶然でも起きれば、それだけでズァークの復活が永遠に叶わない世界だって生まれうる。

 冗談みたいな奇跡的な偶然の連続で赤馬零羅か榊遊矢のうち、榊遊矢だけが生き残り、赤馬零羅が死ぬという展開にさえならなければ、自然と解決してしまう。

 とりあえず榊遊矢が死ぬか、同じズァークの分身が死ねば早々に解決する。

 あとは戦後処理だけ。主人公の重要性など、大筋の上では命だけしかない。

 

 それが、遊戯王ARC-Vの物語なのだから。

 

 できることはあるが、その行動自体が自らの生死に関わりうるだけでなく、放って置いても解決するがゆえに、やるかやらないかで言えば、『やらなくてもよい』のである。

 最悪を引き当てる可能性など、最善の罷り通る未来(原作通りのハッピーエンド)は起こらないという予想が当たる可能性と、ここまでくれば大差などない。

 机上の現実主義で不安になるくらいなら、机上の空論に希望を抱いたほうがいいに決まっているだろう。夢を叶える馬鹿というものは、総じて机上の空論に自信が持てるのだから。

 そういう馬鹿を見習ったほうが、人生は楽しいものである。

 大層な夢を抱くか、ちっぽけな日常(ユメ)を重んじるかなど関係ない、夢は夢だ。

 中途半端に賢しいものほど、特にかくあるほうが良い。絵の中の絶望的な世界を見て、幸せになれると思える阿呆はいまい。

 つまるところ、絵に餅を描いてしまうべきなのだ、どうせならば。

 自分は、「放って置いても解決する」という夢を見ているだけなのだ。

 だからこそ、何もしない。死ぬよりはマシだから。

 

【・・・・・・なーんて卑怯に、卑屈に言いつつ、ただ面倒くさいだけだったりしません?】

 

「他人を助けない人間なんて、実際はボクと違いがない屁理屈を考えてるもんだぞ。

 本気でアイツに()が描けるなら、最初から人助けをするに決まってるだろ?

 そんなことも肯定しないから大概の人間はつまらない人生に飽きて遊び呆けるし、夢を見ることを無意識に馬鹿にしがちになるし、自分を成長させようともしなくなるんだ。

 だとしても僕は、まずはキミに肉体を与える方法を探さなきゃ、でしょ」

 

【いや、まあ、そ~ですけどぉ・・・・・・】

 

 どうせなら、餅を描いているマスターも見たいなぁ、とボヤく彼女を見上げる。

 あんな面倒くさい主人公とボクを、そんなに付き合わせたいのだろうか?

 

 あの、「パパのデュエルが最高なんだ、エンタメデュエル以外はみんな死ね」くらいの暴言を、少しでも発狂(劣化)させれば普通に言いそうなファザコンな主人公に?

 何をどうすれば仲良くなれるのかを、是非教えてもらいたいものだ。

 

 あ、おい、そっぽ向いて黙るな。口笛吹くな。

 




 文句を直接本人に言って、デュエルで勝ってしまうのもアリでしょう。
 ですが、「関わること自体が、ある意味でカード化フラグ」と言えるのであれば、命大事に生きる上では「関わらない、関わりたくない」を貫いてもいいのです。


 自分や誰かの正義観で死にたいなら、ともかく。


 どうせなら納得できる正義感を持って、自分の意志で戦うほうがいいでしょう。
 主人公が助けないと決めた理由は、それです。助ける義理もない相手に、大口叩いて助けに行って死んで、今あるチャンスを捨てるくらいならBMGを取るってだけです。



 けっきょくはBMGじゃねーか!


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二次創作家が【遊戯王ARCーV】の世界に行ったら。③

 新年明けましておめでとうございます。
 今回の話は、赤馬零児を含めた「レオ・コーポレーション」へのツッコミから始まります。今回はアークファイブの物語自体がなぜ成立するのか、もう自分にもよくわからなくなりました。


 え、フィクションだから別にいいだろって?


 子供向けアニメは「子供騙し」とは違うんだぜ。
 【仮面ライダーシリーズ】と【HUGっと!プリキュア】を見てから、その台詞の意味を考え直してほしいな。


 舞網チャンピオンシップ。

 それは海馬コーポレーションが開催した伝説のデュエル大会『バトルシティ』とは異なり、第三回戦だけが舞網市のスタジアム周辺地域に交通網やら通常勤務やらを放棄させて、ようやく成立するバトルロイヤル方式であるなどという頭のおかしい大会だ。

 

 ・・・・・・え、そんなはずはない?

 いやいや、そんなはずがあるからこそ成立する大会なのだ、アレは。

 

 諸君らも気がついているだろうが、舞網チャンピオンシップ第三回戦は「スタジアム周辺地域」が戦いの舞台となるということは、街中にリアルソリッドビジョンが投影されてしまうため、元々そこにあったはずの市街地の姿など見えはしないし、触れられもしない、ということでもある。

 上書きするわけではないが、市街地にテーブルクロスでもかけるかのように覆い尽くしてしまう。当然質量がある映像なので、そこにあったはずの建物に入ることさえできない。

 もし当日に仕事があっても第三回戦が始まろうものならば、会社から出ることはもちろんのこと、休憩時間であれ営業であれ外に出てしまえば会社に戻ることもできない。

 タイミングが悪ければ、リアルソリッドビジョンの中に埋もれるか、リアルソリッドビジョンが投影される際の処理で歩きながら雪に埋もれるか、マグマに呑まれるか、そんなことなどなくとも土地がまるごと変化するため「自分がどこにいるのか」を把握しづらくなってしまう。

 歩道だけ普通に通れるようにして仕事がある程度できるようにしても、第三回戦は二十四時間もやるためコンビニや飲食店では食料品や食材の供給すらままならなくなるにも関わらず、その状況下で余計に食べ物の需要が高まってしまう。

 もちろん、タクシーやバスや運送トラックなど走ることすらできない。選手を交通事故で死なせる訳にはいかないし、リアルソリッドビジョンの演出でタクシーやバスを破壊してしまうわけにもいかないためだ。

 この時点で運送業が関わる商売は、スタジアム周辺地域に限って儲からなくなるも同然だ。極めて広い範囲で土地を占拠するため、スタジアム周辺地域を挟んだ反対側にある町まで運ぶための運送料だって大幅に変化してしまうだろう。

 では、ここまでの話をわかりやすくまとめよう。

 

 スタジアム周辺地域外では警官が交通規制をして、周辺地域内の出入りを抑止して。

 スタジアム周辺地域内では一切の営業活動を丸一日休止してもらい、土地を確保する。

 

 これらの意味を、冷静に考えてみよう。

 馬鹿じゃないのか、レオ・コーポレーションの御曹司殿と塾長様は。

 そんなことを実行すれば、舞網市の経済がガタガタになるに決まっているだろう。

 たった丸一日会社が休むだけと言えば易い問題に思えるのだろうが、現実はそんなことはない。スタジアム周辺地域のすべての企業が休まないと成立しないのだから、一時的に電気水道ガスおよび各業種の工場での生産活動以外の経済活動が急停止してしまうようなものだ。あの地域に保険会社や小売業、SE関連の本社でもあろうものなら目も当てられない。

 すべての企業や店舗が日曜日に休むわけではないのは、そういう理屈だ。平日に稼ぐ商売をしている企業や店舗は極力日曜日に休めるように努力をしているだけで、日曜日や祭日が書き入れ時となる企業や店舗は休むわけにはいかない。

 本社移転の話をまとまらせるとしても、それをやるための大会のプレゼンやら不動産売買契約ありきの立ち退き交渉やらを退いてもらいたい相手企業に対してやらねばならないのだ。舞網チャンピオンシップを開催する何年も前から。

 仮にそれらすべてを、全部やりきれたとしてもだ。

 スタジアム周辺地域から飲食店やコンビニを出入りするサラリーマンやOLが大幅に減ったという時点で、もうスタジアム周辺地域の飲食店やコンビニは儲からなくなって撤退するほかに道がなくなりうる。

 つまり、大企業の思惑のためにチェーン店を展開している企業が大損をして、不動産会社も空いた不動産ばかりを確保した状態になりかねず、エトセトラ、エトセトラ・・・・・・。

 

 

 

 そんなもん実際にやってみろ。

 舞網市を融合次元から守る前に、舞網市がレオ・コーポレーションに殺されるわ。

 

 

 

【で、それを赤馬零児が実際にやらかして、この有様なんですよねぇ・・・・・・?】

 

「そーだね、この有様だね」

 

 死んだ魚の眼を通り越して、もはや表情がデスマスクかなにかのように色を失った状態の《ブラック・マジシャン・ガール》(OCG)の付喪神が呟く。

 

【スタジアム周辺の町をゴーストタウン一歩手前まで追い込んで?

 立ち退きが無理だった企業は高額の取引をして黙らせたとして?

 っていう前提の上で、それでもスタンダード次元を守りたいひとなんでしたよね?】

 

「なんかそーみたいだよね、昨日とか店が何件か潰れてたし。

 マジで実行したんだろうね、こっちの予想でしかなかったはずなのにね」

 

【じゃあ、じゃあですよ、マスター?】

 

 わなわなと肩を震わせ、くたりと宙に浮いた身体をボクに乗せてくる。

 だから、キミはもうちょっと自分のキャラというものを考えてください。

 ただでさえ際どい恰好なんだから、肩に顎乗せるだけでも当たるんだから。何がとは言わないけど、本当にもうちょっと自分のキャラというものをですね。

 

「いま実体あるからってそういうのするの、禁止にしていい?」

 

【マスター、マスターも現実を見ましょうよ。

 そろそろ背中のちびっこくん・・・・・・ちびっこちゃん・・・・・・ちびっこくんちゃん?

 とにかく、ちゃんと話に付き合ってくださいよ、私だってメンタルに限界バトルぶちかまされて燃え尽きそうなんですってばぁっ!】

 

 ちらちらと後ろを観ながら、《ブラック・マジシャン・ガール》は叫ぶ。

 しょうがない、そろそろ本題に移ろうか。

 両手と顎を乗せられた右肩を手で払い、左へと首を回して振り返ってみる。

 そこには、帽子を拾おうとしている長髪の少年(※主に未成年の子供を指す。男性の子供だけを指さない。一例として《ユベル》はアニメ公式設定では「ユベル少年態」と呼ばれる形態である)がいた。

 

「そうだね、プロテインだね」

 

【マスター、この世界に「ニつニつ動画」はありませんよ。

 現実を見るのがキツイのでしたら、その、私もなので。えっと。

 ・・・・・・手とか握りましょうか? むしろ握ってくれません?】

 

「はい」

 

 手を握り返し、改めて前を見る。

 こちらを見て下卑た笑いを浮かべたもの、なにやら羨ましげに口をとがらせて文句を吐き出すもの、両手で顔を抑えたもの。口笛を吹いてからかうもの、怒号を吐き続けて何かを要求するもの。気持ち悪がって叫ぶもの。

 色んな種類はいたが、どれもが似たような制服を身にまとい、似たようなデュエルディスクを左手に構え、似たような仮面を顔につけていた。

 

「リアルソリッドビジョンっていいね、体温があって落ち着くし」

 

【・・・・・・そ、そうですね。

 って、マスター、いつもより手が白くないですか?】

 

 そう、全員が全員、同じ外見をしているようなモブキャラクターじみたデュエリスト。

 共通点だらけで関連性を見つけないことに無理がある連中を、遊戯王アークファイブではなんと呼ばれていたのだったか。

 

「いいから。何が言いたかったのさ?」

 

【ああ、そうです、そうでした!

 マスター、赤馬零児が彼なりに頑張っていたのだとしたらですよ?】

 

 両隣に倒れているのは、どこかで見たことのあるような装束に身をまとう二人組。

 その姿は光と共に消え去り、2枚のカードだけが風に舞う。影も形もなく、種も仕掛けもありませぬ、これが本当の隠形の術にござるってか。

 隠形の術を楽しむ上で惜しむらくは、彼等が披露した手品は二人がかりの忍法などではなく、場所も場所で風情のある密林ですらなく、火山や氷山、遺跡などの神秘的と言えなくもない場所ですらない。

 

 

 

 

 

【あのひとたち、なんでデュエルフィールドから出てきちゃってるんですか!?

 オベリスク・フォースとかっ、月影とか日影とかっ!

 よ、よりにもよって、その、――――あの零羅くんちゃんとかぁっ!?】

 

 

 

 

 

 現代建築ばかりが目に映る、市街地のど真ん中。

 デュエルフィールドに設定された範囲外だったことだろうか。

 

「お、おお、おおおっ・・・・・・・・・・・・!」

 

 原作通りの展開になんか、榊遊矢の前になんか通りすがりたくもなかったから、舞網チャンピオンシップに参加する権利をついうっかり手に入れたりしないように、それを理由にかこつけて舞網チャンピオンシップに参加するように強制されたりしないように、何かにつけてデュエルを拒否して勉強一途に生活してきたのに。

 

「おのれおのれおのれおのれ、おのれぇっ!

おのれ、赤馬零児ィ!」

 

まさか、向こう側からポカやらかしてくるとは思わなかったよ。

 




 原作に関わらないと決める分には、何の問題もないんですよ。
 デュエルをしないということは、普通に学生生活をエンジョイしつつエンタメデュエルの舞台の上から遠のくという意味でもあるので、一般人としては問題がないんです。
 もちろんデュエル塾になんか通わずにすみますし、それをきっかけに榊遊矢とデュエリストとして面識を得てしまうことも、LDSの動向に左右されることもありません。

 短編集ではなく連載版だったなら、榊遊矢や沢渡シンゴらと学校が違うであろうLDS三人組、あるいは両手に花とばかりに斜芽美伎代、オルガら女性陣との出会いなんてものも、ひょっとしたら描かけたかも知れません。

 そんな展開をカットして打ち切り、新しいアイデアを短編集に乗せるのも悪くはないでしょう。自分は、そういうことをせざるを得ない自分を許せるでしょう。



  > > だが、オベリスク・フォースが許すかな! < <





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このデッキはきっと、無数の愛で出来ていた。

 息抜きで書き溜めていた原稿を投げることにしました。


 どこの世界でもない、人が知り得ぬ空間にて。

 1人の青年と1人の少年が、カードゲームを嗜んでいた。

 

「なんでだ、なんでだ、なんでだよっ!

 なんでモブキャラ風情がモンスター1体で、こんな強えんだ!?

 なんでアド獲得すんの弱いカードも使わねぇ、なんで墓地発動できる時代遅れでガチなのばっかり使ってくるんだ、【BK】なんて古いカテゴリーなんかで、どうして俺が・・・・・・?」

 

 名も無き青年は、理解ができないと喚き続ける。

 遊戯王デュエルモンスターズ・オフィシャルカードゲーム、通称【遊戯王OCG】はカードゲームである以上、どうしてもカード・アドバンテージという概念がつきまとう。

 カード1枚の消費でどれほどの利益を得るのか、カード1枚の消費でどれほどの損害を与えられるのか、そしてカード1枚の消費でどれほどの戦略を編み出せるのか。

 手札の枚数だけ遊戯王OCGのカードゲーマーに可能性を与えるとされる一方、墓地で発動できるカードの数だけ可能性を得ることもできるという側面も持つ。

 ここが遊戯王OCGの持つ、通常のカードゲームでは珍しい多様性の一端だ。

 

 つまり、遊戯王OCGにおいて、単純に戦略を数多く編み出す方法のひとつにして筆頭としては、より多くの手札と大量の墓地のカードを得ることが挙げられるのだ。

 

 そういった意味では、現在の遊戯王OCG大会環境のトップクラスに立つ遊戯王OCGカードゲーマーが使用するデッキとは、この方法を選んだデッキであることが非常に多い。

 それらは相手に与える損害を一定値、毎ターン与えつつ手札と墓地を増やすことができるという、攻撃性と耐久性のバランスがよいデッキであるとも言える。

 特に1枚のカードで手札、フィールド、墓地を含めた、複数回のカード効果の使用が見込めるカードを使用できるデッキなどは最たる例だ。

 

 青年が使用するデッキには、それらを含め、モンスターの召喚自体を妨害するというカードも何枚か入っていた。彼は遊戯王OCG大会環境トップクラスのカードゲーマーと言えるかは別として、それなりに強いデッキの使い手ではあった。

 

 

 しかし、だからこそ。

 そのようなデッキを使うプレイヤーが、極めて多かったからこそ。

 

「そういった損害を殆ど受けない、モンスターの耐久力に物を言わせるデッキ」

 

 というものが、かつて遊戯王OCG大会環境に食い込んだこともある。

 

 

 青年の相手をする少年が使用するデッキは、そちらであった。

 

「んっ、んんンッ!

 素晴らしい、いいデュエルだよ圧制(テンセイ)者くんッ!」

 

 青年の目の前に立ちはだかる、人型のモンスター。

 そのモンスターの名前は、《BK拘束蛮兵リードブロー》。

 全身を拘束具で縛り付け、身に纏い、ひたすら「破壊する」という効果や戦闘に対して二度も受け付けず、その戦闘能力を破壊されかけるたびに強化していく剣闘士のドMモンスター。

 

 ただのドMカードと侮るなかれ、確かにその攻撃力は、かつて遊戯王OCG大会環境を斡旋した2400台の上級モンスターの攻撃力にこそ「始めは」劣る。

 しかし、戦闘や効果による破壊を受ければ受けるほど攻撃力は上昇し、「一度目」には通常モンスターと呼ばれる効果を持たないモンスターの最高打点3000になり、「二度目」にはそれすら上回る3800、神のカードと呼ばれる伝説のカード群の攻撃力4000に並ぶ脳筋モンスターに化けるのだ。

 

 このモンスターの拳は、あとほんの少し。

 ほんの少しでも何かしらの補助を与えれば、たやすく神をも砕く攻撃力を秘めている。

 

 

 

 そう。このモンスターは。

 《BK拘束蛮兵リードブロー》は――――神をも屠る、筋肉(マッスル)であった。

 

 

 

 そして、二度も破壊を受け付けないということは、破壊を行うカードを最大で三度も相手に無駄遣いさせることができる、ということでもある。

 もちろん、遊戯王OCGにはカードの効果による破壊に対して、ある程度の妨害が行えるカードは数多く存在する。中には、前述したように「墓地でも発動できる」というカードも何種類か含まれる。

 これらを100%使いこなし、徹底的に効果を防ぎ切ると何が起きるのか?

 リードブローを含めた、たった二枚のカードでも最大5回も効果による破壊を受けきれる、すなわち最大5枚も相手の手札を使わせることができるのだ。

 

 遊戯王OCGにおける最初のドローを除く初期手札は5枚なので、ほぼ相手の手札を使い切らせる計算となる。どれほどの相手の利益も、たった1体のモンスターを倒すためだけに溶かさせてしまうというわけだ。

 

 何より、これは遊戯王OCGにおいて、例えるならばFXで有り金を全部溶かしてしまうかのような損害でもある。

 

 リードブロー召喚に必要な手札は基本的な召喚方法では最大で2枚まで、初動が終わってからは最大効率で実質手札が1枚というだけでも十分にはなる意外なリーズナブルを誇るが、その自分の手札1枚を使って、通常の手段では、何度も言うが相手の手札3枚を使わせた計算になるのだ。

 初動から召喚していれば、消費させるカード枚数は倍の6枚になる。相手の初期手札など一気に溶け切ってしまう。

 

 そのくせ自分は、初期手札から計算しても残り3枚分の手札の余裕を確保できる。

 そのような蛮行が実現できるのが【BK】、バーニング・ナックラーなのである。

 はっきり言おう、そりゃ大会環境を一時は斡旋するハズである。

 だが、ここに初期手札にあと数枚、同じく墓地でも発動できる対除去効果用の妨害札を混ぜ込んだ場合、その耐久力と相手に消費させる手札枚数は飛躍的に上昇し続ける。

 

 

 

 結果、リードブローを操る少年と戦う青年は、すべての手札と戦術を溶かしきったのだ。破壊ではない除去効果さえも使い切らされ、対処する手段は残っていない。

 

 

 

「君のデュエルは、まさしく圧政だった!

 《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》によるカード効果の発動妨害、《キメラテック・ランページ・ドラゴン》による複数枚破壊、《キメラテック・オーバー・ドラゴン》による複数回攻撃と打点10000オーバーでのワンショット・キル!

 あらゆるモンスター効果による相手フィールドへの弾圧と波状攻撃、連続召喚と連続破壊はまさしく圧制者となるにふさわしい転生者のデュエルだった、しかし・・・・・・」

 

 リードブローを操る少年は、リードブローとくらべて筋肉量はそう多くない。

 極めて普通の痩せ型よりは、少し筋肉をつけている程度。

 肌はリードブローと同じ色ではなく、むしろリードブローの肌の色のほうが人間に違和感を抱かせる青白いもの。とてもではないが、筋肉な魔物を操るデュエリストと呼ぶには少々程遠いものを感じさせる。

 

 数多くのモンスターが舞うデュエル・フィールドにおいて、本来ならばデュエル・マッスルと呼ばれる筋肉質な肉体が必要となるため、その程度の筋肉量では自分に頼りなさを抱き、モンスターを見て多少なりとも恐怖感や劣等感を抱くはずである。

 

 それでも、彼の表情は、笑っていた。

 

 デュエリストとして、明らかに劣勢であったはずの状況からの逆転を実現したことに、そして相手の全力を使い尽くさせたデュエルタクティクスに誇りを抱いていた。

 

 少年は、笑っていたのだ。

 

 カードゲーマーとしてではない、たったひとりのデュエリストとして。

 相棒である《BK拘束蛮兵リードブロー》とともに、笑っていたのである。

 

「このボクを倒すには、程遠いんだよねぇ!

 攻撃力3800の《BK拘束蛮兵リードブロー》で、効果が無効となり攻撃力が0となった《キメラテック・オーバー・ドラゴン》に叛逆の一撃を与える!」

 

「ちくしょうっ、なんでだよクソッタレ、イカサマでもしたのか!?

 カードの精霊が応えた的なチートか? カードを書き換えた的なチートか? 俺の手札を全部見てたとか、俺の考えを読む的なチートでも持ってたのかよ!?

 なんで俺が負けるんだ、どうして俺が!!!」

 

「その戦闘のダメージ計算前に、《BKカウンターブロー》攻撃力を1000ポイントアップ、合計4800の【即死ダメージ】を、我が愛を受け給え!

 《庇獣の咆哮(クライング・ウォーモンガー)》!」

 

「う、うわあああっ!?」

 

 拘束蛮兵リードブローによる、もはや《ジャブ(リード・ブロー)》どころかカウンター・パンチとも呼べない超重量級のストレート・パンチを、青年は直接その身に抱擁することとなる。

 

 神をも屠る一撃により、青年の身体は宙を舞う。

 それは青年が生前、トラックに轢かれた際に味わった衝撃よりも重く。

 死してなお、カードゲームでも戦闘ダメージでも【死】を味わうことになった青年は、何度もアスファルトの上を跳ねては転がり、跳ねては転がり続け、ようやく止まった頃には首が背中へと向き、二度目の旅路を迎えていた。

 

 

 

 

 

 

 誰もいない、ただデュエルをする場所という概念しかない空間にて。

 少年は天を仰ぎ、たった一言だけ、大きな声で吠えた。

 

「――――(ア゛イ)゛ィッ!」

 




 【Fate/】作品のスパルタクスを見て、何となく宝具が《BK拘束蛮兵リードブロー》っぽいなーとか思っていたら、そういえば元々の使い手も生前剣闘士じゃねーかっつうか、ある意味で英霊じゃねーか! と、気がついた始末、

 スパルタクスのファンで【BK】使いのデュエリストが完成してました、愛゛ッ!

 なお、これの続きはありません。


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二次創作家が【遊戯王ARCーV】の世界に行ったら。④

 読みやすさを考えて、もうちょっと話数をまたいで解説しようかなとか思って推敲していました・・・・・・が、「うん、これ短編だし、アークファイブは群像劇だからしょうがないよね、無理!」ってことで割り切って解説丸々一話にまとめて投稿しました。

 たっだいまー!



 吉野原氏、および黒無垢氏の誤字修正に感謝を。


 忍者たちの守っていた少年、「赤馬零羅」を拾って。

 オベリスク・フォースを相手に大立ち回りをした後、ボクたちは零羅を連れてファミリーレストランで時間を潰してから、舞網チャンピオンシップの第三回戦が終わる時間を見計らい、仕方なく、仕方なく赤馬零児のいるであろうスタジアムへと歩いた。

 

 え、前回から、どんなデュエルをしてオベリスク・フォースに勝ったのか?

 ひたすら《古代の破滅機械(アンティーク・ハルマゲドン・ギア)》なる永続魔法を相手が貼ってくるまで粘って、発動してきたタイミングを狙って、あらかじめ《クリバンデット》の効果で手札に加えておいた《ブラック・マジシャン・ガール》専用の通常魔法、《黒・魔・導・爆・裂・破(ブラック・バーニング)》をぶちかましました。

 

 ――――なんてミラクルが起こせたら、BMG使いは苦労したりしない。

 

 実際には、「マジシャン・ガール」と名のつくモンスターたちで《ブラック・マジシャン・ガール》をサポートして攻撃を封じたり、《融合塹壕-フュージョン・トレンチ-》なるアニメのメタカードでなぶり殺しにしようとしてきた相手に《エルシャドール・シェキナーガ》で自分から殴りに行きつつ「古代の機械」融合体の効果を封じたり、といった具合だ。

 複数体のモンスターによる連続攻撃以外の有効打となる手段を奪い、かつ融合召喚を行わない相手へのメタを踏み倒し、パワーカードでゴリ押しにきた相手を悪名高き「仁王立ちΩ」コンボで封殺しに行く。

 そこまでやって動きを封じた上で、やっとオベリスク・フォースの《古代の破滅機械》を逆に利用できるカードを呼び寄せて逆転できたのだ。

 あんまりにも泥仕合すぎて説明するのも描写するのも大変だったので、今回はカットさせてもらいます。

 

【え、ちょっと? それ私の出番がなくなっちゃうじゃないですか!】

 

 複数人を相手にデュエルをひとりでやる描写だから無理。

 歴代のボスデュエルでも特に不利なデュエルをしたボスキャラクターの、「アポリア」も真っ青になるような状況で戦ったんだから、このくらいは勘弁してほしい。

 っていうか回想めんどう。小説風に書くのもマジだるい。

 

【うぅ、次はちゃんと出番くださいよ?】

 

 はいはい。ってか勝手に自動筆記(メタ発言)しないで、怖い。

 

 じゃあ、そろそろ本題に移るとしよう。

 そのような激戦を終えた後、当然他にもオベリスク・フォースがデュエルフィールドにいるであろうと踏んだボクたちは、もちろん舞網チャンピオンシップ第三回戦が終わってデュエルフィールドが解かれるまでの暇な時間は・・・・・・もとい、オベリスク・フォースがいるであろう時間帯には無理にスタジアムに向かおうとはしなかった。

 

 それもそのはず。

 第三回戦の間、丸一日もの長い拘束時間を楽しめる体力のあるアクションデュエルの好事家たちのひしめくスタジアムでは、第三回戦の様子が中継されている。大会参加者とオベリスク・フォースの戦いも映像記録として残ってしまうのだ。

 その中継映像に少しでも自分が映ってしまおうものならば、いくらオベリスク・フォースを相手に生き残れたとしても、部外者であるはずの人間が大会に乱入してきているのだから、相応の混乱がスタジアム内で起こってしまうはず。

 

 だからこそ、今の今までスタジアムには行けなかった。大会参加資格をそもそも持たないほどに「デュエルをしていない」人間が、映像記録であれ突然戦果を叩き出したら赤馬零児に目をつけられてマズいことになってしまうという問題もあるためだ。

 こちらは融合もシンクロもエクシーズも使うのだから、余計に目を引いてしまうはず。個人的には《ブラック・マジシャン・ガール》のためのコンボの方を見てほしいが、手札や墓地で待ち構えるアイドルカードの活躍を真面目に捉えてくれるデュエリストのほうが少ないだろう、戦略をあまり見てもらえない可能性は仕方がないかもしれない。

 さいわい零羅の目の前では融合とシンクロしか使ってないとはいえ、それでもスタンダード次元では複数の召喚法をただ使っているだけでも凄腕のデュエリストかのように扱われる。そんな声に酔いしれるのも結構だが、そこまでボクは暇じゃない。

 

 リアルソリッドビジョンの勉強と実践がまだなんだ。

 見栄や名誉よりも《ブラック・マジシャン・ガール》との生活を夢見たほうがいい。

 

 もうこうなったら他人任せだと割り切って、零羅に、

 

「自分はデュエルを楽しみたいんであって、デュエルで争って誰かの上に立つとか誰かを引きずり下ろすとか、なにかの召喚法が使えるからどうだとか、そういうつまらない話に付き合いたくないし、そういう戦いに付き合うのも疲れちゃったからウンヌン」

 

 などと、まったく嘘ではないが絶対に本当ではない理由を伝えて、ボクたちのことを黙ってもらうようにお願いするだけお願いしてみた。

 戦うだとか、争うだとかの言い回しに共感できるところがあったのか、ありがたいことに零羅は頷いて、途中から一人で帰ろうとしてくれた。

 

 

 

 ・・・・・・そう、「零羅は」納得して帰ろうとしてくれてはいたのだ。

 

 

 

 たまたま黒服サングラスのガードマンたちが、そうやって帰ろうとしていた零羅の目の前にバッタリと顔を合わせて、そこからなにをどう察したのか思い込んだのかボクを捕まえて赤馬零児たちの目の前まで連れて行ってくれたよチクショウめ。

 

 ただ、そこから先がもっとひどい。

 零羅にやっていることが母親らしすぎて別人にしか見えない赤馬日美香、メガネを押し上げるように親指と人差し指の腹で軽くまぶたを拭った赤馬零児。

 

 の、様子を、明らかに原作より人数が少ないとわかる第三回戦に生き残ったメンバーたちの目の前で見せられるという意味不明な状況に立ち会ってしまうだとか。

 なんだか生ぬるいアットホームな雰囲気から、いきなりほぼ原作と大差のない赤馬零児の煽りじみた説明を始められてマジ切れした榊遊矢を交えた、目の前の登場人物たちの口喧嘩が始まるだとか。

 

 まるで意味がわからないよ、こんなのっておかしいよ。

 

 もう状況が荒れすぎていて、直接は赤馬零児から聞き出しにくくなってしまったが。

 大まかな内容とボクの原作知識による補完から推測するに、どうにも第三回戦では次のような事態が起こっていたらしいのだ。

 

 

 

 スタンダード次元まで遠出をしてきたセレナ。

 本来は「そのセレナの護衛のために」月影と日影が行動していたのだが、観戦中にトイレに行った零羅が遊勝塾の生徒に見つかって「一緒に大会を直接観戦しよう」と誘われた・・・・・・もとい、攫われた(?)結果、なんやかんやで零羅を守らせるために赤馬日美香がヒステリーを起こして暴走。

 その予想外すぎる言動を見た赤馬零児も慌てて、即座に月影と日影へと護衛対象を増やすよう、零羅を探すよう指示を飛ばしたのだとか。そりゃあ誰だって慌てるだろう。

 

 自分の母親から虐待も同然の待遇を受けさせられていた、自分を兄と慕ってくれる養子の兄弟(兄妹?)が行方知らずになった途端、自分の母親がまっとうな感情で錯乱したら。

 

 彼らの混乱が通信機越しであれ伝わってしまったのが、肝心のセレナからの印象ではあまりよろしくなかった――――彼らの様子から、アカデミアでの過保護すぎる軟禁生活を思い起こさせられたからなのか?――――らしく、

 

「くだらないな、子守もできない連中に付き合っていられるか」

 

 と、独断で月影たちを振り切ってオベリスク・フォースと衝突、そのまま捕縛されたそうだ。そうなってしまえば、やることがなくなる人物たちは当然現れるわけで。

 ひと仕事を終えたオベリスク・フォースたちや榊遊矢に似た誰かは暇を持て余して、せっかくだからと次から次へと大会参加者を集団デュエルで屠り始めたのだという。

 ようやく月影たちが事態を把握した頃には味方が周りにおらず、”友達”とはぐれた零羅がオベリスク・フォースに狙われていたがために、氷山エリアをデュエルしながら移動してモンスターからの攻撃を避け、逃げ回り、そのまま押し出されてデュエルフィールド圏外へ。

 結果、ボクたちの目の前に月影たちや零羅、オベリスク・フォースたちまでもがデュエルフィールドから現れて「ご覧の有様(前回の展開)」になったのだとか。

 

 

 

 察しのいいひとなら、この時点での真の問題点にもう気がついたかもしれないが、あえて情報共有のために言及はしておこう。

 

 

 

 

 

 我らがストロング系遊戯王ヒロイン、「柊柚子」の出番が丸々なくなってませんかね?

 

 

 

 

 

【あ、あれれぇ~、おっかしいぞぉ~っ・・・・・・?】

 

 《ブラック・マジシャン・ガール》が白目をむいて、唇をわなわなと震わせながらブツブツと呟き続ける。思わず喉が笑っている辺り、ものすごく動揺しているらしい。

 

【トイレの下りは分かるけど、えっ、もしかして本当に柚子ちゃんとセレナちゃん、出会う前に月影たちの通信機のやりとりを聞いたくらいで歴史が変わっちゃったってこと?

 じゃ、じゃあ、二人で着替えて囮作戦とかは? 囮作戦に騙されたユーリの徹夜デュエルからユーゴに会って柚子がシンクロ次元に飛ばされちゃうとかは?

 黒咲と素良のデュエルを見てセレナちゃんが改心するイベントとか、セレナちゃんに介抱されてからスタンダード次元のデュエリストに心を開いていく展開とかは?

 えっ、えっ・・・・・・えっ。ええっ・・・・・・・・・・・・??】

 

 思わず喉が笑っている辺り、ものすごく動揺しているらしい。

 こればかりは無理もないことだ。

 まさか子供たちのやんちゃと母親のヒステリーでメインヒロインの出番がガッツリ減って、準ヒロインは舞台上から即退場、月影も日影もカード化され、黒咲に至っては誰も邪魔しに参らなかったせいで紫雲院素良にカード化されて行方知らずになるだなんて、そんなの誰も想定できるわけがない。

 

 できる方が凄いわ、こんなもん。

 

 元から生き残るはずだった権現坂たちのうち月影も黒咲もいない状態であれば、いくら月影や日影がデュエルフィールドの外へオベリスク・フォースたちの多くを誘導していたとしても、権現坂や沢渡に担当するオベリスク・フォースのデュエル戦士を捌き切ることは限界があるはずなのだが、どうも二人が助かったのは、シンクロ次元から迷い込んだ榊遊矢のそっくりさんが乱入して助けに入ったから、らしい。

 そんな有様を聞かされたうえで、しかも目の前に彼らを助けた本人がいる。

 柊柚子を連れてシンクロ次元に飛ばされる、なんてことには全くならないままにだ。

 もちろん、この場に柊柚子はいない。おおかたセレナとの見間違いで一緒に連れ去られたのだろう、オベリスク・フォースがやったのかは知らないが。

 

 そこまで原作を原作側から崩壊させられたら、そりゃ笑うしかないだろうさ。

 

「あのさ」

 

【なんでしょうか、マスター】

 

 目の前で《覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン》と《DDD双暁王カリ・ユガ》の、やっぱりどこかで見たことのある衝突を目の当たりにしながら、なるべく他の大会参加者や大会関係者に聞こえないようなほどの小声で、

 

「これ、なにげにシンクロ次元編も潰れかけてない?」

 

【たぶん、戦力強化狙いで無理矢理にでも赤馬零児が連れて行くんでしょうから、完全になくなるってわけじゃない・・・・・・はずです、きっと。むしろこれって、アークエリア・プロジェクトが早まったりしません?】

 

「それはないでしょ、ズァークの因子がこうして生きてるわけだし」

 

 などと、ボクたちは、ひたすら現実に少しずつ目を向け直すことにした。

 さすがにどこかで見たことのある一連の流れなどに、わざわざ意識に入れるほどの気力を費やすつもりもない。回想と解説が長すぎるって?

 そもそもこんな超展開を毎回やってる遊戯王が凄いんだよ。

 当事者としてはさ、状況の整理だけでも手一杯なんだよねぇ!?

 

【あのぅ、ひょっとして、絵に餅描いてくれたり】

 

「しません」

 

【えぇ~!?】

 

 ましてやアークファイブは群像劇。

 ちょっとでもテレビの前から席を外したり、軽く回を跨いで視聴しちゃっただけでもガラリと視点が変わったり展開が進んでいたりする群像劇だ。

 今の今までモブキャラやってたボクがここまで解説できただけでも、席を外した視聴者目線なりによく頑張ったと褒めてもらいたい。

 第一、そこまで原作から乖離しきったら余計に次元戦争どうなるか分からないじゃないか。群像劇だからこその各チームのフォローが成り立っていたものが、月影と黒咲のカード化で成り立たなくなる今の状況で、わざわざ絵に餅を描いて参戦しようにも、どうやってカード化させずに生き残れというのでしょうか。

 無理じゃね?

 

【わ、私はその、《サイバー・ドラゴン》にも負けるくらい弱いですけど!

 そんな私を採用して、あれだけ対応しきれるくらい強いんですよマスターは!

 私を実体化させて、でっ、でー・・・・・・】

 

「で?」

 

【でぇぇぇぇっ・・・・・・】

 

 《ブラック・マジシャン・ガール》が、風船が勢いよく萎むような声で言葉を詰まらせた。俯いたまま顔をあげないので覗こうとしてみる。

 帽子を深く被って避けられた。ごめん。

 

【その、とにかくっ、リアルソリッドビジョンの勉強はわかってます!

 ぐだぐだ、だらだらと生きるのも悪くはありません! 確かに原作がどうなろうと零羅くんちゃんさえ生きていれば、柚子ちゃんたちが無事であれば、ええ、遊矢たちの誰かが死んじゃったりすればアークファイブの物語なんか簡単に終わっちゃうんです!

 それでも《覇王龍ズァーク》関係が解決すれば私たちの勝ちとはいえ、やっぱり、精霊ってわけじゃないですが戦う場所があって、えっと、あの、信頼できるっていうか、してもいいっていうか、してあげてもいいっていうか、一緒に――――】

 

「よし、どうやってフェードアウトしようかな」

 

【マスター、さてはわかってます?

 さっきから全部、わかっててからかってませんか!?】

 

 

 




 ジェンガは土台のを引き抜くと、一気にバランスを失いますよね。
 つまり月影と黒咲が脱落するのは、そういう感じ。セレナ関係も成り立たなくなるので、どんどんヒロイン(柚子&セレナ)の出番が潰れていきます。

 となれば、彼女たちの物語も変わるわけで・・・・・・?


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堅物転生者の心労

 筆休めに筆を走らせました(休むってなんだ?)


 自分はどうやら、本当にフィクションの世界にいるらしい。

 ・・・・・・意味がわからないのかと問われれば、嘘になる。

 

 今の状況も、文章のうえでは既知のものだ。

 色彩鮮やかな建築物の数々も懐かしさがあり、それでいて色合いは現代建築から考えるといささか暖色が多すぎる不自然なものだ。いや、不自然だと思う人間は自分だけか。

 自分の知る建築物はいずれも灰色が目立ち、蛍光色など繁華街で多く見る程度のものでしかなく、住宅街であっても橙色や茶色などの木材を思わせる色調が主体で白色が基調となるものが多い。良くも悪くも日本人は日本家屋に近い配色の建物を好むものだ。

 だからこそ違和感があるのだが、細かなことに口を尖らせる思考を一度やめよう。

 

 この街に感慨深いものがある。

 懐かしいものではある。愛おしいものではある。

 来てはならない遠い地でもある。たどり着けない理想の都市でもある。

 持ってきてはならないものを持ってきている自覚はある。

 

 憧れのようなものもあるが、叶ってはならない自覚もある。

 物事の道理ではなく、正誤ではなく。抗いようのない確信からのものだ。

 ひとは理想を見上げ、理想に手を伸ばし、手が届くことを夢に見る。

 普通は届かせるものだが、その夢は努めずに手が届くものだと知るやいなや。

 ほとんどの人間は誰彼構わず、我が思うがままに飽食を繰り返す。

 ・・・・・・これは、そんなあり得ざる願いの実現だ。

 

 叶うはずのない道理にある場所へ、叶うはずのない夢の先に足がついた。

 そのような夢の実現とは、元来名も知れぬ人々の努力によって、ようやく「技術」や「立法」、「サービス」といった見える器に収まり結実される。

 間違っても、神の奇跡にような偶然をもって実現することはできない。

 まさしく人間の夢とは必然であり、小さな必然を積み重ねた先に多くの願望を受け止める器が生じる。大器晩成とはよく言ったもので、誰かが陶器をいちから作るような手間ひまをかけてようやく誰にでも叶えられるものなのだ。

 我々はときに、それを文明と呼ぶのだが。

 

 文明ですらありえないものを目の前で実現されると、抗いようの難しい誘惑を知る。

 既知のものだからこそ、自分にもできるのではないか。既知の人物であるからこそ、今度こそ自分の思いのようにできるのではないか。

 馬鹿馬鹿しい、我々の人生は常に限りあるものであるように、我々の自由意志もまた自我がある限り、まったくの別人にはなれもしない限界がある。

 成長こそあるだろうが、完全な変性など起こりえない。

 アルカリ性の内容物が酸性になることはない。酸性の液体を混ぜ込めば叶う、というのは屁理屈だ。我々という心の有様に、まったくの別人の心を混ぜれば自分のままに誰かになれるとほざくような愚行をさもできて当然のように口走る、子供の理屈だ。

 

 オレンジジュースにリンゴジュースを混ぜてしまえば、それはもうオレンジジュースではありえないと言えば馬鹿でもわかる。

 

 そう、我々の人生に・・・・・・過去に関しての可能性は、決してありえない。

 二度目の人生だろうが、二度目のチャンスだろうが、人類は同じ過ちを犯し、似たような過ちを犯し、無自覚に誰かに迷惑をかけ、無自覚に誰かを傷つける。

 二度目の人生だからこそ成功するなんて保証は、一度目の人生に一生懸命になれなければ同じことなのだ。当の本人が真面目になにかを追い求めたわけでもないのに、二度目の人生になにかを追い求めようとしたところで、それは一度目に頑張るのと何も変わらない。

 それほどに手遅れな人間でなくとも、二度目のチャンスすらフイにするのが人間だ。

 二度目の人生になってから頑張ろうなど、もはやそのような人間未満。

 「タイミングが遅すぎる」の一言に尽きる。

 

 二度目の人生も頑張ろうならば、言ってもいいだろう。

 

 そう、だからこそ困惑するのだ。

 二度目の人生で何を経験しようが、純粋な繰り返しにはならない。

 一度目の人生の延長線でしかないからこそ、らしくない間違いをする。

 子供らしい言動、子供らしい反応。

 そのようなものでさえ純粋なありのままにいづるものにならず、「子供らしさ」という先入観の上で歪んでしまう。だとしても、多少のわざとらしさは性格の悪そうな印象で済んだり、先入観で歪まなくとも大人びた印象に映ってしまうものだろうとは思う。

 それでも一筋になにかを頑張るのであれば、きっとまだ青臭い姿に映るはずで。

 

 ・・・・・・だからこそ、なぜだ。

 どうして、自分が彼女に好かれてしまったのかが理解できない。

 理屈で解釈できるものではない、それこそが心だという事実は疑いようもない。

 だからとはいえ、だとしても。

 

 確かに、確かに周りの男子と比べれば、年上の印象を持たれてしまうだろうとも。

 そういった少年が優等生であるか、不良であるかは問わず、「回りが持たないものを先んじて持つ」という異性は色気であれ知性であれ冷徹さえであれ魅力になるものだ。

 その手の魅力を魅力と認識してしまう青春に男女の差はない。差はないが。

 

 

 ここが遊戯王の世界でさえ無ければ、こんなことに悩みはしなかった。

 知りもしない作品の世界でさえあれば、色恋沙汰くらい原作知識など関係なしに自由にできたと思うのに、どうしてこうも恋愛運が転生してもなお酷いんだ。

 

 

 君が原作で惚れ込んでいたのは、あの銀河眼使いじゃなかったのか?

 しかもその衣装、あくまで君の相棒の衣装を見て連想した女子たちの妄想の中で留まったものであって、君の発想ではなかったと思うんだが違ったのか?

 今の君は原作が始まる以前の時期で、つまり年齢がだね、今の自分と同じ中学生か高校生くらいだったはずだと認識しているんだ。

 ナンバーズがあったとしても、ナンバーズハントを隠れてやっていたとしても、やっていなくともなんにせよ。コスプレしてまで天下の往来で、スーパーヒロインショーをナンバーズハントのたびにやっているかのような言動は本気でやっているのか?

 あとナンバーズの刻印の位置が、その、冗談じゃない位置に輝いているような気がするのは見間違いなのだろうか。自分の心労が焦点を乱しているからだと信じたいんだ、頼む、あんまり近づかないでくれないか、今の格好のままで!

 フィクションの世界なのに妙に前世(現実)を連想させられるのは何故だ!

 

 そもそもがだ。

 

 

 

 【ドロワ・ザ・フォーリンコメット】ってなんなんだ!?

 




 ナンバーズは内なる欲望を解放する代物ですよね?
 つまりはそういうことです、もげろ。


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ど~れだ?(※なお、どちらでも現実は非情である。)

 やあ、ただいま。
 いろいろと創作のネタはあるけれど、アニメオリカありにしないと色々と成立しないZEXALの世界のネタばかりが浮かんで「ほびゃああああああ!!!」と錯乱しているウェットルです。

 めんどうなので、まとめました。今回はそういう作品です。


 

 朝起きて、洗面台の鏡の前に立つ。

 鏡の向こうの誰かは、ひまわりをモンスター化させたキャラクターのぬいぐるみを片腕に抱き寄せたまま、眠たさそうにいち等身の羊がプリントアウトされたパジャマの袖でまぶたを擦る。相変わらず可愛いなコイツ。

 そうやって自分の姿を見ると、やはり不思議に思うことがあるのだ。

 

「・・・・・・二十越えてたはずなんだけどなー」

 

 自分が幼い少年の姿である、という事実そのものが。

 

 前世の記憶だけが薄っすらとある、という状態。

 それそのものは悪い気分ではない。『自分と全く違う顔の誰か』が鏡を見て身だしなみを整えている記憶のようなものでもあれば、多少は気持ち悪かったかもしれないが。

 

「これ・・・・・・やっぱり、同じ顔だよなぁ・・・・・・??」

 

 まったく同じ顔の、前世での『幼い頃の自分』が鏡に立っている。

 ここまでそっくりだと悪い気分を通り越して、なんとなく高揚感はあるのだ。

 ああ、自分は夢に見る妄想を現実にしているのだ、という実感。現実にはなかったグッズが流通していて、グッズ元のゲームが――――前世では遊戯王、こちらではデュエルモンスターズと呼ばれるものが――――社会の公用言語にも等しいツールとして楽しまれている世界にいるのだ、という夢心地の正夢。

 同じ顔に対して悪い気分にならない、なったとしても過ぎ去ってしまう感覚。

 

 だからこそ、ありえない。

 

 どんな偶然があったとしても、前世とまったくおなじ家庭環境で、同じ顔。

 こればかりは何が原因であっても、どんな数式を組んだとしても、そんなものが成立する確立は限りなくゼロだ。転生という概念を抜きにしても。

 

 こんな事が起こりうるのか、いや起こってはいるのだが。

 実際にそんなものを実現するための方法とはなんだ。

 

「神様・・・・・・ありえないな、日本神話はそういう宗教観じゃない。

 ギリシャ・・・・・・余計にありえない。国も違うし、死者の蘇生は医術でも禁忌なんだ。

 インド神話・・・・・・絶対にないし意味が違う、同じ意味なら『神々の転生』だし・・・・・・」

 

 そもそも、神話が関わる『人間の転生』なんて歓迎されるようなものじゃない。

 似たような真似ができうる創作神話だったら、アメリカ関連で少々思い至るものはあるのだが。その技術を実用している神話生物の目的が目的であって、とてもじゃないが同じ技術を流用し得るはずの『無限の顔を持つ、顔を持たないもの』しか転生の真似事などに使い得ない。

 脳みそを別の身体に移し替えるとか、脳みその中身の情報を別の肉体に移すとか。

 そういう真似をやるにしても、この身体を再現するにはクローン技術でわざわざ用意でもしない限りは実現できない。そこまで人間に手の混んだイタズラを仕込むやつは、やはり『定まらぬ肉体を持った、白痴の神の使者』ぐらいしかいない。

 

 それら既知の神々ではありえない、第三者ならぬ第三の神がいるのだろうか。

 

「・・・・・・いやいや、フィクション的にアウトだろ!

 だったら『遊戯王らしい超展開』で説明がつきそうな気がするな、うん!」

 

 さすがに遊戯王の世界で、遊戯王と関係のない何者かのチカラで転生しましたというのは、もはやそれ自体が原作にありえざる第三勢力となりうる要素だ。

 同じ遊戯王の世界でも、公式設定によって転生する手段によっては原作主人公から見た敵勢力に所属することになりうる。それにすら該当しない第三勢力なんて、絶対にややこしい事態になる予感しかしない。

 

 公式設定や公式の歴史に関係する何かが原因で、この世界に転生した。

 

 そっちのほうが「なにを目的に転生させたのかもはっきりしない転生者が所属する第三勢力」なんていう、まだるっこしい勢力も生まれないし。

 そっちだと信じよう。そっちだと思いたい。そっちでいいよね。

 

「OK、もうこの話題は次の機会にしよう。

 推理パートに入る以前の材料もない段階で悩むことじゃない、OK?」

 

 まずは自分に言い聞かせる。それから、ゆっくり深呼吸。

 

「改めて、デッキを確認しなきゃ・・・・・・」

 

 とりあえずポケットに入れておいたカードの束を取り出してみる。

 一枚一枚めくる。《ヴェルズ・ヘリオロープ》、《ヴェルズ・サンダーバード》、《ジュラゲド》、《激流葬》、《スキル・プリズナー》。

 どれもが馴染み深い、自分の【ヴェルズ】デッキのカードだ。

 目に穴が空くどころか、カードにも穴が空きそうなくらい見直した我がデッキ。

 初手札がクソすぎないかと思わなくはないが、序盤のジャブとしては十分な《激流葬》と《ヴェルズ・サンダーバード》の組み合わせはあるので、まあタイミングを間違えなければ最初のターンから押され負けはしないだろう、という程度か。

 

「・・・・・・ここがハートランドなのは、いい。いいんだけども」

 

 だとしたら、次の問題はこれだ。

 ここは、どっちの世界のハートランドか。

 ハートランドと呼ばれる街は二種類ある。遊戯王ZEXALでの主要都市ハートランド。遊戯王ARC-Vでの舞台のひとつ、エクシーズ次元のハートランド。

 エクシーズ・モンスターであるナンバーズ関連の騒動があれば、間違いなく前者。

 逆にナンバーズ関連の騒動がなく、代わりに榊遊勝と呼ばれるエンターテイナーがハートランドを賑わせ、その後にある敵対勢力に因る侵略活動を街が受けることになるものが後者。

 どちらの世界であっても、遊園地のハートランドは存在しているため、街の外観だけでは区別がつかない。どちらの場合でも、登場人物の有無だけでは区別がつかない。

 

 そもそもの後者が前者のパラレルワールド設定に近いので、誰がいて誰がいなくて、というような判断材料が実質ないに等しいのだから。同じような判断基準で考えようものならば、さらに遊戯王ZEXALの漫画版世界というハートランドがある世界でも『一番危ない世界』も考慮に踏まえる必要がある。

 

 破滅の女神に洗脳されたり、蜘蛛使いのやべーやつに洗脳されたりするからね。

 バリアンの民として欲望の神に従うっていう選択肢すらないからね。やべーよ?

 

「いや、どっちの世界でもやばいんだけどな、遊戯王の世界って」

 

 ナンバーズはナンバーズでしか倒せない。(※効果でも倒せない場合あり)

 高いレベルを並べるときは魔法カードでレベル4以下を調整します。

 ズタボロにされてもオリジナルカードで大量にドローして立て直します。

 もうそれやられたら、ヴェルズデッキで封殺するとか無理。

 これが遊戯王ZEXAL。

 

 融合モンスターを出しながらバーン効果で追い詰めます。

 突破されても高い火力で上から殴るので困りません。

 魔法罠の発動をバトルフェイズ中に限り封じるので、魔法罠怖くありません。

 主人公側のペンデュラムは墓地に行かないので何度でも蘇ります。

 とにかくヴェルズでの対処が難しい展開手段と突破手段が多い。

 それが遊戯王ARC-V。

 

「・・・・・・さては、ヴェルズ使いに生き残れる要素ないのでは?」

 

 ヴェルズと言えば先行封殺。とにかく相手に何もさせない。

 突破される前に魔法罠で動きを封じるか、カウンター罠でライフを削ってでも動きを封じるというものが肝だ。とにかく固く、硬く、難い盤面で相手を押しつぶす。

 石臼のように。確実にゆっくりと。

 

 逆に言えば、先行制圧されきってしまうと非常に突破に困るのだ。

 魔法罠を使って妨害に専念しても、それらを受けてなお動けるようなタフな相手には特に何もできなくなってくる。持久力があるわけでもない。

 そのうえで魔法罠を封じられようものならば、もはや目も当てられまい。

 

「うーん、これはどう考えてもナンバーズ要りますわ・・・・・・」

 

 ZEXALの世界ならナンバーズが手に入る可能性はあるだけ、ナンバーズを狙うものから魂ごと狙われる可能性もある一方で、ナンバーズがなければ困るような事件が起こったときには対処に困らないという側面がある。

 ARC-Vの世界なら、もうできることは何もない。

 カード化されるまで頑張って、踏ん張って、ギリギリまで妨害に徹して仲間に助けてもらう以外の決定打となりうる勝ち目がない。

 

「どっちなんだろうな、これ。

 どっちの世界でもヴェルズはともかく、インヴェルズの立場はないんだけどね・・・・・・ははっ、ナンバーズの耐性を無視して倒せるスペックなのに展開手段が手札事故しやすくて安定した速攻性はないとかいう悲しみを背負った悪魔族とか・・・・・・泣けるで・・・・・・」

 

 なお、インヴェルズはレベル4悪魔族・闇属性軸に特化させて《同胞の絆》から大量展開しつつ、《深淵の結界像》で闇属性以外の特殊召喚を封じながらアドバンス召喚で攻めていったほうが強いのだが。

 どちらの世界線でも闇属性デッキの使い手がこぞって強いので、完全に環境ありきの封殺力しか得られない。インヴェルズの天下はいつ来るんですかね、リンクス以外で。

 

「・・・・・・考えるのや~めた。

 学校行こう、学校。今日もカイトがイキイキとしてるんだろうし。

 アークライト家関連がどーなってんのか知らんけど、ZEXALのアニメカードがないってだけでも疑惑あるしなぁ・・・・・・ほんと、どっちの世界なんだろ、ここって・・・・・・」

 

 訂正しよう。

 悪い気はしないが疲れる。原作を先読みする手間がめんどう。

 前世の知識なんて、「むしろないほうがマシなのでは?」と思われる。

 

 

 がんばるぞい。(※ 歯を磨きながら)

 




 こういうところでややこしくなるのが、『ハートランド』の厄介さである。


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二次創作家が【遊戯王ARCーV】の世界に行ったら。⑤

 よーし、この調子でもう一発投げますぞ~。

 昨日の夜に投げたものが前回のものなので、そちらを読んでからこちらを読んでください・・・・・・的なめんどくさい作品ではありませんから、別にこっちから読んであとから前回のものを読んでも全然問題なんかありません。



 いやー、やっと出せたよこれ。
 アイデアだけがあっても、地の文が解説と考察まみれになりやすいから、キャラの立ち回りを宣言させる方式に近いとは言え、キャラの掛け合いが難しくなるんだよなー。

 みんなは同じような書き方を無理して真似ようなんてしないでね。


 赤いマフラーが、こちらの視界に煩わしくはためく。

 

「――――なぜだ、君も私の話を聞いていたのだろう!?」

 

 こちらを見る多くの視線が、まるで正気を疑うかのように突き刺さってくる。

 あるものは幼馴染や故郷を案じるがゆえの良心を求める目で、あるものはエンターテイナーとしての栄光にも繋がると察しているからこその野心ある志を持ち、だからこその無欲にも見える相手を疑うような目で。

 あるものは義を重んじるからこその外道を見るような目で、あるものは戦おうとしない臆病者だと相手を解釈して見くびるような目で。

 また、あるものは「ま、そりゃそうだよね」と納得して、仕方ないかという諦めを示したボディランゲージを演じた上での、道化らしからぬ目で。

 

 そのうちで最も低い位置にある目は、なにかに安心したような目つきで。

 

「いずれ、この街でさえもアカデミアの戦場となる。

 融合次元の者たちの目的こそわからないが、それが我々の世界の危機に繋がるのであれば戦うべきだ! 君も使えるのだろう、複数の召喚法の力を!!」

 

 しかし、誰よりも高い位置にある二人の目は、どちらも訴えるような目つきで。

 

「気持ちはわかるんですけど、ボクはねぇ?

 そもそも舞網チャンピオンシップになんて参戦してないし、興味もないし。

 そのうえでランサーズがどうこうって言われてもね。公表するんなら筋違いでしょう?」

 

 しかと伝わってくる感情がどのようなものかは、あえて語るべきではない。

 

「無理やり引っ張るつもりだろうと、そもそもが目的が違うんですって。

 デュエルモンスターズをエンタメデュエルなんかのためには使わないし、デュエルモンスターズを戦争のためになんて使いたくもない。

 ボクは、ボクの好きなデュエルのために一緒にデュエルがしたい」

 

 ただ、はっきり言って。

 遊戯王作品の各シリーズを追い続けたものとしては、正直不愉快だ。

 

「デュエルモンスターズに肉体を与えて、一緒に暮らす。

 そのための研究の都合にしたって、じゃあ融合次元のアカデミアってのをやっつければ解決なんて、いやいやありえないでしょう! 戦争ですよ、戦争!」

 

 そう、彼らの闘いは。

 それぞれが個々のプライドをかけて、運命を賭けて戦う『デュエル』ではない。

 あくまでも戦争であり、個々の勝利に意味などなく、最終的に相手を負けさせることができればなんだっていい。だからこそオベリスク・フォースたちに足元を掬われる。

 

「融合次元にだって社会や国があるんでしょうし!

 仮に軍ですらない、その、アカデミア? なにやら軍学校らしきものを一個潰したところで、融合次元の国の方針が最初から侵略戦争だったらどうなりますって話ですよ!

 ほかの軍学校から増援が来るのか、あるいは軍本部から直接叩きに来るのか?

 どっちにせよ笑わせないでくださいって・・・・・・藪をつついて蛇を出すなら、あなたが独りでやってくださいよ、ねぇ?」

 

 実際は蛇ではなくドラゴンが出るのだが、それはそれとして。

 何も知らない一般人の体裁で物を言うのであれば、「今のボクの解釈がまだ真っ当」であることは伝わっているのか、道化然とした青年が少し驚いたように口笛を吹く。

 仮に赤馬零王の計画が独断によるものだとしても、あんな大規模な計画は最初から軍部に根回ししておくか、資本家に話を通して政治的圧力で軍部を動かすかでもしない限りは通りはしないはずだ。

 そこを無視してアカデミアだけで実行するには、いくらなんでも表向きの計画であるアークエリア・プロジェクト自体が胡散臭いと踏んだ資本家や権力者に、スパイを送られてしまいうる「解釈の余地」が広すぎる。

 

 洗脳可能なデュエルモンスターズの虫を開発してしまった点も、融合次元の暗部に関わるものからの不信を煽るには十分すぎる。

 

 そういった裏事情を推察せずとも、軍部は基本的には政治家の意向を汲むものだ。

 軍事政権に成り果ててさえいなければ、立憲君主制であれ王政であれ、ある種の偏った民意とも言える軍部の暴走を未然に防ぐことは可能ではある。

 赤馬零王が経営者である以前に政治家としての立ち回りもできないまま、アカデミアを私物化し続けているのだとしたら、我々がなにかせずとも融合次元側の事情で暗殺されてしまったっておかしくはない。

 私物化しておらず、アークエリア・プロジェクトのための侵略戦争こそが立派な公務として成立しているのであれば、もはや余計な迎撃や先制攻撃は戦争を激化させるだけに過ぎず、次元統合はもちろんのこと、エクシーズ次元の人々の犠牲をも素直に受け入れたほうがマシであると言えよう。

 

 ようするに、赤馬零児の出番なんて、元からないのである。

 

 その出番は本来、裏事情を深読みするのであれば、融合次元の人々が解決するべきもの。

 もしも彼に出番があるとすれば、隣の国同士の戦争に本国が横から顔を出して銃を構えるような真似を企業でやることではなく、次元統合が終わってからの世界で正しくデュエルの在り方をアカデミアと論じ合う方向性での「デュエル」だったのかもしれない。

 

「とにかく、ボクは次元戦争なんて行きませんから!」

 

 以上のどれが真実であろうと、なかろうと。

 

「ボクは、エクシーズ次元と融合次元の戦争を、舞網市と融合次元の戦争にしたくないだけなんですって! 本当に攻めてきたならともかく、今は話が違うでしょう!?」

 

 専守防衛が、攻めてきた相手に対して「お前が攻めてきたから、お前が悪い」と言える最善手だ。間違っても先手必勝は戦争の定石なんかじゃない。

 むしろ逆、「戦争せざるを得なくさせる」のが定石なのだ。先手必勝なんて考えて動かされた側こそが、すでに国力を弱められて攻めるしかなくなった状態なのだから。

 そこんところの解釈を間違えた大企業のお坊ちゃま相手に言える、お世辞なんて無い。

 

 

 

 そうして、ボクらは。

 舞網スタジアムから離れるように、赤馬零児に背を向けて去った。

 

 

 

 

 

【マスター、本当にいいんですか?

 ランサーズへの勧誘を蹴っちゃって。将来考えたら上司ですよね、赤馬零児って?】

 

「いいんだよ、さっきので。スタジアムに入ったところで、得るものなんてないし。

 レオ・コーポレーションの社長サマに恩を売るってだけなら既に終わってるし、恩義を得て就職先を確保するって話なら、今回のを槍玉に挙げて不採用ですは馬鹿すぎるよ」

 

 舞網スタジアム周辺から、第三回戦のデュエルフィールドに設定されていた範囲の外にある、おそらくかつてはデュエルフィールド内で営業していたのであろうカフェテリアへ。

 そこで買ってあげたタピオカらしきものを持ってすする、テーブルを挟んで座る少女に話しかけながら、ボクはケータイを持ったまま「電話で話している」体裁を保つ。

 

「だって、戦争だよ、戦争。

 たかが一企業のトップが、自分の徴兵令に従わなかったから技術職に就かせませんっていうのは頭がおかしすぎるって。やらんとしたことが元から私設軍隊なんだからさ。

 そこんとこ私怨持ってどーのこーのする玉の小さいやつなら、なおさら・・・・・・性別どっちだったかわからないけども、弟分らしき子を助けたってことを忘れないだろうし?」

 

 デュエルモンスターズの精霊と会話できるものは、どんな遊戯王作品の世界の住民であれ少数派だ。そのようなものと会話しているのだとバレないように立ち回るのであれば、やはりエル・プサイ・コングルゥってわけではないが、電話をしている「ふり」でごまかすしかあるまい。

 その程度で済ませれば、「なんか電波な危ない人」扱いされずにもすむ。

 

「そもそも舞網市を誰が守るんだってハナシを最初から考えてないっぽいし? 論外論外、まともに相手するわけ無いじゃん!」

 

 ぶっちゃけ、あのままスタジアム周辺にいても大した収穫はない。

 情報集めこそ簡単にできそうだが、メタ視点での推理と調査を続けるには立ち回りが胡散臭くなりすぎて、あのアカデミアのスパイを相手に出し抜けきれる気がしない。

 なにがどう胡散臭くなるのかと言うと・・・・・・全然見ず知らずの赤の他人でしかないはずの女の子の行方を調べるためにという真意を隠すためにせよ、いちいち参加者全員の安否や状況を確認し続ける、スタジアムにいた観客ですらない外部の人間が。

 

『チャンピオンシップ第三回戦の真っ最中に、わざわざ外出してデュエルフィールド付近にいたという言い逃れできないアリバイ』

 

 は、あったにも関わらず、テレビで視聴して見たわけでもない連中を心配する。

 あるいはテレビや情報端末で見ただけにせよ、いちいち全員の安否を心配する。

 そういう人間は「人がいい」を通り越して、なにを動機にそこまで他人に親身になれるのかが「理解されない」ものだ。ヒーロー気質だろうがなんだろうが、問題はそこ。

 どこかの少女漫画風格闘ゲームの桃色主人公みたいに「やっぱり、愛だよねっ!」と言いきってみせるほどの大胆さがあるのならば別だろう。

 

 だが残念、ボクは男だ。

 

 ああいうことを言い切れる情熱的な人間を気取るようなゲスさ。

 そこまで外道に走れるのならば、未来を知るからこそ身の程をわきまえんとしている自分のあり方なんて最初から投げ捨てたほうが、あそこまで原作崩壊しきった展開になんてさせようともしなかっただろうし。

 そんな展開になってしまうような理不尽な「もしも」の実現が、自分とは関係のない理由から始まったなんて知ったら、わりと容易く心を折られていたことだろう。

 

 つまるところ。ボクは、

「今くらいが丁度よい身の振り方で、身の程を知った行動を取れている」

 と、いった具合なのだろう。

 

 さて、ここでARC-Vの物語に焦点を戻す。

 重要な問題は、柊柚子が脱落しているか、死亡しているか否かだ。

 

 彼女が本当にオベリスク・フォースに拐われたか否かで、ここからの方針は大きく変わる。アークエリア・プロジェクトを邪魔しないまま早めに『赤馬レイ』の復活を実現してもらう場合、むしろ「柊柚子も拐われてしまった」ほうが都合はいい。

 赤馬零王の目線だけで考えれば、あとは次元統合のためのエネルギー、カード化された人間の魂さえ充分にあれば問題なく計画の完遂は可能になるからだ。原作においてはそちらが不十分なままに計画を実行していることもあり、結果として失敗に終わっているが。

 逆に言えば、ランサーズの活躍やカイトの抵抗さえなければ、赤馬レイ本人の意志はともかく赤馬零王の願望が達成できていた可能性はあったということ。柊柚子やセレナという楔さえ取り払われれば、もっと早い段階で計画が最終段階に入っていたということでもある。

 

 そう、エクシーズ次元のハートランドに生きていた住民、その全員分相当のエネルギーさえ回収しきれれば、赤馬レイ復活のための条件はクリアできる。

 

 むしろ今ここで何らかの妨害をランサーズに実行して、そのままズァークの因子を潰してしまったほうが、ズァークに関しては後先に腐れ縁もなくなるというものだ。

 しかし、柊柚子が拐われていないのであれば。

 柊柚子を見つけてアカデミアに拐わせるか、ランサーズに参戦させてアカデミアまで連れて行って意図的か必然的に負けさせる状況に追い込んでしまうか、あるいはギリギリまで柊柚子を安全な場所に確保するか守り続けるかでいい。

 それだけで赤馬零王の動向を好きなように誘導できるし、ズァークの復活に対して対策を考えるのであれば、むしろ彼女をランサーズから離すことで・・・・・・ズァークの因子を暴走させるだけ暴走させて、統合前に誰かにデュエルで殺されてしまうような状況にまで「盛っていく」ことも視野に入る。

 柊柚子は、榊遊矢だけでなくユートやユーゴに対してもストッパー足りうるのだから。

 彼女がいる、いないの違いでは、彼らの正気度さえも自由にコントロールできる。

 もちろん、ズァークがそもそも復活可能な条件を満たすのかでさえも、だ。

 

 その点においては、『柊柚子の状況』を確認するために参戦するのもありだろう。

 

 

 

 まぁ、全部めんどくさいからやらないけど。

 

【めちゃくちゃ邪悪なこと考えておいて「めんどくさい」って・・・・・・】

 

 ここまでの小さな独り言を聞いていた《ブラック・マジシャン・ガール》の精霊は、呆れたような、疲れたような、安心したかのような、なんとも表現に困る苦笑いをしていた。

 そりゃあそうだろうなぁ、とは思う。

 今の今まで、自分の保身と願望を周りの未来と天秤にかけて、仲間や友人ですらない赤の他人のことは切り捨てて助けもしないという選択をとってきて、重要人物と言える赤馬零羅だけは助けて、融合次元との戦争に関してはサボタージュを決めると言ってのけ。

 誰のために戦うとか、見ず知らずの誰かの身を案じて熱い正義の心で悪に立ち向かうわけでもなく、口にする言葉が「重要人物のひとりが死んでたらやばいよね、攫われてくれていたほうがありがたいけど。どうせならズァークの分身が死んでくれたら御の字だよね!」といったエグいもの。

 

 そこまで言い続けた挙げ句、最後に言う言葉が「めんどくさいからやらない」。

 邪悪も過ぎれば、結局は怠惰に行き着くってことでもある。

 具体的には、次のような感じに。

 

「やだもん、ヘイト買いながらで損得勘定しながら生き残るの、面倒だし。

 ヘイト買わないように動き回るにしてもさ、そこまで腹芸うまくないよボク?

 全部成功すれば、たぶん一番簡単で楽なんだろうけどさぁ、別にあそこの生徒じゃないから報酬もらえそうもないし、その資金や待遇で君に肉体与えることこそガングロハゲ(※赤馬零王のことです。)が嫌がることだろうし?

 最初から裏切るって選択肢なんかは、デュエルモンスターズの受肉がボクらの願望って時点で失敗確定なの。だったらさぁ、いっそ関わらないほうがよくない?

 どう計算しても、こっちの労力とリスクが受肉成功まで繋がらないと思うし・・・・・・」

 

【どう転んでも恋心優先なんですね、マスター・・・・・・】

 

「え、なんか文句あったの? あるなら変えるよ?」

 

【いえ。あの、むしろ、マスターは「そのまま」でいてください。ねっ?】

 

 なんだか不本意な評価を受けたような気がする。

 具体的にはそう、どこかの世界線の日本人みたいな命名法でつけた名前を引っさげて「転校生です」と言いのけて、そのまま仕事上の関係で保護対象になった高校生男子を相手にスクールライフとめくるめくラヴコメディをクラフトして楽しもうとする公務員扱いかのような。

 あれが与えた同姓同名の者たちへの風評被害というか、二次創作関係での影響力はすさまじいもので、とりあえず元ネタが同じなら同人格闘ゲームの二次創作でも似たようなキャラ付けにされてしまうなどの同人界隈での社会現象にもなっていた。

 

 自分が同じ名前の同種の存在だったら、絶対アレと一緒にはされたくないと思う。

 

 なんかそういう感じの嫌な直感がしたのだ。気のせい・・・・・・だろうか?

 どうせなら水着とか、マントon水着とかを着てる紫色のほうのやつ呼ばわりがいいと思うのだが。白黒の私服を着た銀髪のアホ毛なほうのやつ呼ばわりだったら困る。色々と。

 

 恋に生きて自重しないならともかく、愛に生きて自重するとか。ないない。

 

「とにかく、どうせ赤髪ツインテール(※赤馬レイのことです。)が全部解決するならね。

 手っ取り早く、柑橘類なの(※柊柚子のことです。)を明け渡したほうが楽っちゃ楽なんだけど。

 その状況にまで持っていていく以前に、もう終わってるかもしれないし勝手に終わるかもしれないクリア条件のためだけに、デリバリー・サービスや榊遊矢とかのフリー対戦お願いしますドラゴン(※ズァークのことです。)の因子へのリップ・サービスを頑張るくらいなら、いっそランサーズに関わらないほうが、ね?

 サイテーだとは思うけど、そもそもが彼女の命の保証さえできればいいわけで・・・・・・もし無理矢理に手伝えって言われても、そこだけ手伝う体裁で舞網市でぷらぷらと散歩(サボり)するくらいに抑えたほうが、ねっ?」

 

 自分自身の発言を弁明するかのような言い方になってしまったが、ニュアンスは正しく伝わったのだろうか。なんか言えば言うほど、彼女の呆れた笑みが深くなってる気がするんだけど。

 え、まさか、本当にそっちの意味で解釈されたのだろうか。スゴイ嫌だ。

 

 それにしても、隠語と言い回しで原作知識誤魔化しながら話すの疲れるなぁ。

 

【あー・・・・・・どっちみち、向こう(アカデミア)が確保終わればいいですもんね。

 それを邪魔しまくるランサーズに加わったところで、余計に生き残れるかは怪しいままですし、ね・・・・・・どうせ合流したらしたで、なんやかんやで「アカデミアを倒す」とか。

 なんか「幼馴染が心配だ」とか、そんな感じの適当なふわっとした現実見てなさそうな理由で、こう、ほいほいと榊遊矢に従いて行っちゃいそうですし・・・・・・】

 

 納得したように彼女は相槌を返す。そう、特にそういうところだよ。

 忘れていた。そういった点でも、彼女らに関わるのは厄ネタなんてものじゃない!

 遊戯王作品の女性陣と言えば、わりと向こう見ずな行動力が特徴だ。

 いざという時に、自分がどういう目にあってしまうのか。

 それを具体的にイメージして立ち止まる、その素振りをするかすら珍しい。

 そこをあえて示されてなお「かっとビング」や「失った超能力なしに行動しようとする勇気」で解決するという、シリーズでも最硬のメンタルを持つヒロインたちもいることはいるのだが、そういう個々の違いは置いておいて。

 ある意味では特に勇敢で、ある意味では向こう見ずで、身の程もなにもない。

 そういった愚の骨頂を自分からやらかすという点においては、赤馬レイの因子たちは一番タチが悪いという共通点がある。

 

 ある因子は世界が違うということの意味を深く考えずに「相手を思いやり」油断をしてしまい、ある因子は戦うことの意味を履き違えたまま「戦士として認められるべく」相手をカード化しようと行動に移し、ある因子は戦うことの意味こそ正しく認識していても「兄の束縛を拒絶して」周りの心配をまともに受け止めず捕まってしまう。

 最後の一人に関しては・・・・・・特筆できる物語もないので、語らないものとして。

 

 彼女たち赤馬レイの因子たちの中でも、特に良心を動機として無謀な真似をやってのける「柊柚子」に関しては、下手に干渉するだけ危険だ。

 道徳としては間違ってもいない、道理としては悪くもない良心からの行動力で、その後にどうなってしまうのかを考えずに同じ顔の少女の身代わりを演じて逃げ続けようとするほどの、正直に言って正気を疑えるほどに危険な無謀さだ。

 自己犠牲と言えば聞こえはいいが、セレナが置かれている私的な環境について具体的に知りもせず理解しようともしていない段階で、アカデミアの方針や悪行だけから解釈して身代わりになってでも現実を伝えようとする・・・・・・というのは。

 セレナが軟禁生活に近い孤島での土地も社会も視野も狭い日常を送っていたのだと知ってさえいれば、そういう背景が会ってこその軍人らしくもある動機なのだと知ってさえいれば、まず捕まって同じ目に遭う危険の方を先に考えて躊躇するはずのものを、そこから勇気を持って決断するべきだったものを。

 

 それら一切をすっ飛ばして、何も考えずに行動することと何も変わらない。

 

 そんな女の子の隣に立って、勝手に行動されたら困る。

 仕事の上での付き合いだろうと、絶対に気絶させて運んだほうが話は早い。

 もちろん、いちいち気絶させたり黙らせて運ぶ手間すらも面倒だ。

 

「うん、そういうわけで蹴ったんだ。ためにならない仕事だからね。

 赤髪ツインテールなあれの復活には、あの子の安否が最優先なんだけど、あの次元跳躍にはフリー対戦お願いしますドラゴンの因子同士が近くにいる状態で、同じ因子の誰かにひっついてなきゃいけないし。

 黒茄子と遊矢と、バナナ野郎がいるって時点で腕輪での移動はありえない。

 どっちみち向こうにいるか、まだ舞網市にいるかのどっちかだよ」

 

 ましてや。

 正義の味方ごっこのために戦場ですらない、全員復活しうるカード化ありきの茶番じみた遊技場に行くなんて、それこそ目の前の相手も現実も見ていないクソガキの戯言だ。

 独り善がりの茶番劇なんてもんじゃないだろう。

 

 

 

 そうは思うのだが。

 遠くから駆け寄ってくる、緑と赤のツートンカラーの少年だけは、そこまで冷徹に物事を考えることはできなかったらしい。

 

「・・・・・・チッ。ちゃんと赤馬零児は諦められたのに」

 

【マスター、顔が怖いですよ・・・・・・!】

 

 ごめん。ちょっと限界が来た。

 その独り善がりの茶番劇の舞台に立つ主演男優が自分からこっちに関わってくるだなんて、さすがに正気を疑うというか、腹が立ったんだよ。

 

 

 

 デュエルで従えようってんなら、我慢できなくなるかもしれないな。

 




 この主人公から見た「榊遊矢」の印象は②を前提としたものです。

 端的に言えば、「いてもいなくても死んでてもいいけど、ズァークとエンタメデュエル関係で巻き込むんじゃねぇ。むしろ来るな!」。

 まあ、デートに凸されたら男子はそうもなるよねってのも含めてなので。
 単純に「この短編シリーズでの榊遊矢」は間が悪すぎたのだ、程度に留めてください。
 さすがにデートの最中じゃなかったらそうはならんやろコイツとボクは思う。言ってることがゲスの極みではあるものの、ズァークや逆鱗遊矢があんなんだって知ってたら、絶対隣に立ちたいなんてひとは真性の遊矢ファンしかいないでしょうし。

 少なくとも、この短編シリーズでの主人公は榊遊矢のファンではないので。
 BMGが隣にいればそれでいいタイプのキャラなんで。むしろ隣からBMG消したらキレそうなタイプなので。今回のキャラはそういう路線で行くのです。



※(カードの精霊とのデートとか、まず気づかれるわけないじゃないですかやだー!!)


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二次創作家が【遊戯王ARCーV】の世界に行ったら。⑥(完)

 お久しぶりです、ウェットルです。
 完結させないのも(頭の中で妄想が残って)気持ち悪いので、思い切って書き切ることにしました。今に書ける最高のビターエンドでしょう、ごゆっくりどうぞ。


 ボクは、今以上に。

 こんなデュエル、受けるんじゃなかった。

 なんていう思いにかられたことは、昨日までは一度だってなかっただろう。

 

 

「お前の話は、ヒーローごっこじみてるんだよ・・・・・・」

 

 

 覇王龍の眷属、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》。

 その戦闘能力は単騎ではどうということもない。あくまで、複数のカード効果による攻撃力のコントロールから爆発的な戦闘ダメージを叩き出す稀有なドラゴンだ。

 似たような特性を持つドラゴン族モンスターであれば、別にペンデュラムモンスターでなくとも《ダークブレイズドラゴン》という先駆者がいるのだが。

 そんなことは、どうだっていい。

 

 もっとも重要なこととは、覇王龍の眷属がまだ健在であるということ。

 

「エンタメデュエルがどうのこうのと語りたいなら、勝手に語れ。

 それが自分の思想ってもんだろう? なんでわざわざボクに押し付ける?

 お前は、お前と同じ人間だけがほしいのかな。」

 

 それだけで腹立たしいのに、当の使い手が退屈すぎて話にならない。

 デュエルは面白い。発想は悪くない。目覚めた力の使い方は、古今東西のどんなペンデュラムモンスターの使い手よりも、間違いなくエンターテイメント性がある。

 

 ――――ただし、そこまで。

 

 【遊戯王】の看板を背負う主人公としては、あまりにも安直。

 他人を楽しませたいのであれば、ただそれだけを考えて精進すればいい。

 他人に勝ちたいのであれば、それなりの場数を踏んで負けを受け入れればいい。

 他人を傷つけられたくないのであれば、自分で盾と槍になればいい。

 

 そこに。あるべき愚直さに。

 『他人の脛をかじる必要性』なんて、どこにもあるわけがない。

 『他人の戦いのロードを引きずって、自分の道に連れ込む必要』だなんて、そんなものはあるべきではないのだ。そんなものは、遊戯王の主人公でなくとも邪道がすぎる。

 

 誰かと、ともに歩むこと。

 叶うとすれば、『仲間や好敵手の肩を借りる弱さ』があってこそのもの。

 主義主張が異なるライバルを相手にしようと、「まずは行動に移そう」と、素直に頼み込めるだけの正しい愚直さが必要なのだ。相手が海馬瀬人だろうと、万丈目準だろうと、ジャック・アトラスだろうと、神代凌牙や天城カイトだろうと。

 例外なく、「自分の頼みを聞いてくれなくて、当然なのだ」と、ライバルだからこそと尊重できて、初めてデュエリストは・・・・・・いや。

 

 すべての戦うものは、対等になれるのだ。

 

 それなのに、それをデュエルで押し通そうとして。

 その挙げ句に口にした言葉が、大事な幼馴染の話かと思えば。エンタメデュエルの話に絡めてきて、挙げ句に他人のプレイスタイルをふざけていると綴りだしてきた。

 最後に付け加えるかのように、蛇足かのようにスタンダード次元の平和まで。

 

 気が散っている、なんてものではない!

 

「揃いも揃ってピエロばっかりのサーカスってか?

 アルレッキーノはどうした、コロンビーヌはいないのか、パンタローネの役は誰がやるんだ、そもそもどんな劇を挟む気だ、猛獣使いは誰がやって演奏は誰がやるってんだ!?

 サーカス以外のエンタメは全部消えろってか、純粋な将棋や囲碁や舞台劇はどうなる、誰だってサーカス以外なにもないなんて退屈だろう?

 お前がやってることなんか、結局は最後の最後まで『そんなこと』の繰り返しなんじゃないのか。お前が言いたいことなんか、結局は『そういうこと』なんじゃないのか!」

 

 榊遊矢の求めるエンタメデュエルに、そんな役者の椅子はどこにもない。

 いつだって自分の椅子が一番上で、いつだって他人の椅子は下か、自分より悪い椅子か、自分より上にあることを誤魔化すように泥をつけることから始まる。

 ジャック・アトラスを相手にデュエルをして、ようやくそこを自覚するようになってきては行くのだが、そんなものは原作通りに物語が進んだらの話だ。

 どこかで相手の方が悪い、相手の方がエンタメでは下だという余裕がなければ。

 自分から罪を犯した犯罪者が他人や自分の手のせいにするような、あるいは自分の弱さを他人が強いせいだとわめく子供じみた相撲取りのような卑劣さがなければ。

 自分の決断の誤ちや、自分の実力の無さを受け止めきれない愚かさがなければ。

 彼の物語は、いつだって正当性を保てはしなかった。

 そこを彼が卒業するまで、いちいち面倒をみる挙げ句の果てに、戦場でまで構ってくたばる気狂いじみた酔狂は、こちらにはない。

 

 ・・・・・・それこそ脚本(運命)の問題かもしれないが、早くに出会うべきだったのだ。

 

 後の沢渡シンゴのような、対等に立てる。

 真っ白な、なんの非の打ち所もない本物のライバルが。

 

 そんなものがいなければ、対等にエンタメし合うことも。

 あえてエンタメをせずに向かい合うことも、紫雲院素良を相手にエンタメをすることで訴えかけるようなこともできない。常にエンタメを続けて、いざ受け入れない相手が現れたら文句を言うだけか、無理やりにでも楽しませようとする。

 ああ、そう。彼というやつは。

 

「空っぽなんだよ、『お前のサーカスは空っぽなんだ!』

 何でもかんでも自分一人。お客さんなんて見ちゃいないだろ、お前。

 ボクみたいに誰かへの憧憬があるくせに、その誰かを追いかけてばかりで、結局は別の道や新しい道を見ようともしない。

 そうやってオヤジの二番煎じをやってるくせに、たとえばストロング石島みたいな大人のプロデュエリストに何度も挑もうなんてして、自分のエンターテイナーとしての実力を試させてもらったことなんて、一度でもあるのかよ?

 誰かへのむかつきを正直に言うような道化っぷりもない。テメェへの恨みつらみを正直に吐けるようなライバルだの仲間だのなんて、そもそもお前にいるのかよ!?」

 

 もしもボクの隣に、彼女がいなかったら。

 この想いを思う存分にぶつけに行って、それでオシマイだろう。

 同じような失望や憐憫や諦めや、怒りや憎しみをもって嬲れるだけ嬲り、彼を取り巻く運命というものに復讐し、彼そのものすら焼き尽くして。

 

 そこまで。終わりだ。

 それがハッピーエンドで、ビターエンドで、バットエンド。

 【遊戯王の物語】が続けられるような余地なんてない。後はダラダラと腐っていくか、下卑た笑みでも浮かべながら考えを切り替えて別の幸せを得ようとするのか。

 せいぜいが程度のしれた、善人ぶった回顧とともに家族に囲まれた天寿の全うなんていう、誰が見ても、どう考えても胸くその悪い死に方か。

 あるいは、この世界の住人に復讐されるという、ある意味で一番マシな終わり方くらいのものだろう。私情で相手を嬲るやつは、他人の私情で嬲られるものだ。

 

 結局の所、ボクと彼の間に正義なんてどこにもない。

 どこまで語っても私情と我儘と理不尽ばかり、どっちもどっちだ。

 

 本当に、彼女がいてくれてよかったと思う。

 

 だからこそ。

 

「誰だって死にたくないだろ、誰だって自由を奪われたくないだろ。

 そうなる戦いに出て、いざとなったら彼女と死に別れて、『ああ、こいつはいいやつだったな』なんてテメーの自己満足に最後まで付き合えってのか、ボクたちに!?」

 

「ち、違う、俺はそんなつもりじゃ、」

 

 彼には、彼の甘ったるい言葉なんて届かせない。

 

「そうだろうな。でも、お前の望み通りにすれば、そうなる!

 いずれは、誰だって、お前の慰みものにされるんだよ!」

 

 オッドアイズの攻撃をマジシャンガールたちが躱し、《ブラック・マジシャン・ガール》が手札から現れて迎撃する。

 誰か1人だけを強くするような戦い方など、その1人を極限まで弱くさせれば同じこと。周りにいる連中など直接倒すまでもない、これが榊遊矢の戦い方の・・・・・・ズァークの戦い方の限界でもある。

 それゆえに、同じだけの強さを持った者が隣にいないと抗えない。

 バーン戦法、メタビート、あるいは自分よりも制圧力に特化した相手。

 アカデミアにいる連中全員に、彼は単独では勝利し得ない。

 

 本来であれば、それこそ他人の力に依らず戦わねばならぬというのに。

 そうであっても「自分自身が仲間の糧になる」可能性や手段さえ受け入れなければ、本当の意味で戦線を切り開けはしないというのに。

 

 残念ながら、彼にできた試しがない。

 

 だからこそ。

 

「結果、この盤面はどうした?

 オッドアイズのために利用されきったエンタメイトたちは?

 エンタメ仲間が聞いて呆れるよ、結局はこれがお前の本性だってことか?!」

 

 残された《EMモグモール》、《EMパートナーガ》、《EMソード・フィッシュ》。

 ペンデュラムゾーンには、相手ターンには何の効果もないも同然になる魔術師たち。せっっかくの広いペンデュラムスケールも、エンタメントたちの幅広いバリエーションあるカードプールも活かせてはいない。

 同じだけのサーチ手段があるならば、せめて相手ターンでの柔軟な防御に回せるエンタメントを優先して、それらをあえてデッキから手札に加えるべきだった。そうすれば少なくとも、こちらからの攻撃を凌ぎきって大逆転、なんてエンタメにだって出来たはず。

 それを急ぎに急いで、たかが1ターン限りのド派手な演出のために使い潰して、デュエルという演目を最後までギリギリまで演じきる根性もないままに、結局はこのざま。

 仲間という名前の、ただの肉の壁しか残っていない。

 

「そんでもって最後に頼るのが、オヤジの遺産も同然のアクションカードか?!」

 

 逃げるように走り回る榊遊矢。

 それはそうだろう、盤面にいる連中だけじゃ迎撃なんてできやしない。

 ペンデュラムスケールを乱されようものならば、盤面にいる殆どのエンタメイトが再召喚など狙えなくなるレベルばかり。次の次のボクのターンで猛攻をかけられたら、あっさりとなんの面白みもなく、エンターテイナーとしてもデュエリストとしても、完膚なきまでに負けきってしまう。

 

 だからこそ、ボクは。

 

「1ターン。1ターンだけ、何もしないでいてやる」

 

 届かせる。彼我の実力差も、タクティクスだけで。

 悪魔のような提案を、悪魔のような迎撃を終えてから。

 

「お前の仲間になったやつがくれる、乱入した場合の猶予ターン。

 その予行演習だよ、1ターン何もしないなら流石に逆転できるだろ?」

 

 舐めきっているとでも誤解しているのか、怒号を吐いてドローを始める榊遊矢。

 気のせいか、ドローに黒い瘴気がまとわれているような。いいや、おそらくはズァークの意思が介入を始めてきたのだろう、そんなんだから眷属を増長させるというのに。

 

 ・・・・・・逆だ、ボクは舐めてなんていない。

 今のが榊遊矢の限界だからこそ、その先を行ってもらわないと困る。

 シンクロ次元編にわざわざ付き合う暇があるなら、誰かが月影や黒咲、セレナの代わりを務めなければならない。エクシーズ次元編にまで付き合う気があるなら、黒咲の代わりにレジスタンスたちや天城カイトを鎮めなければならない。

 

 そんなこと、たかが1人の人間にできるわけがあってたまるか。

 

「来いよ、榊遊矢。」

 

 墓地の《仁王立ち》、《光の護封霊剣》、《電磁タートル》を確認しながら、手札の《バトルフェーダー》の向こう側に現れた赫焉の魔竜に目を細める。

 

「ちょっとでもボクが約束を破ったら。

 ――――『そこからが本番だ』って教えてやるよォ!」

 

 だからこそ、彼には示さなくてはならない。

 今はいない彼らに頼らなくても、正しく覇を示せるように。

 

 ペンデュラムのカードパワーがなんだ、こちらの原作知識が何だ。

 そんなもの、わざとイレギュラーを起こさせれば何度でも塗り替えられる。わざとでなくとも、相手方が勝手に動けば勝手に変わる。デュエルだって常にそうだ。

 未来なんて不確定で、今の積み重ねでしか敗北はありえなくて。

 それでも、彼我へどうしようもないほどに物を伝えるのが。

 

 

 

 

 

 

 カードとの絆。

 本物のデュエルタクティクスなんだと。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・まけ、た。」

 

 オレは、負けた。

 

 

 榊遊矢、そう呼ばれるズァークの化身は。

 仰向けになったまま、皮膚が焦げてしまいそうなアスファルトの熱を背中に受けながら。煌々と燃え盛る真夏の日差しをも受けていた。

 デュエルの熱狂が収まらなかった舞網チャンピオンシップ。その盛りが今もなお続いているかのような錯覚をさせているはずの、今日が。

 

 今の彼には、ただの熱にしか感じられなかった。

 

 

 柚子のために、舞網市のために。

 ひとりのデュエリストとして、ランサーズなんてものに選ばれたデュエリストとして。エンタメデュエリストとしても、エンタメデュエルは根こそぎ翻弄されてひっくり返され、エンタメを捨てても「防御手段は山のようにあった」と勝てないことを宣告されて。

 

 《覇王烈竜オッドアイズ・レイジング・ドラゴン》。

 オレのすべてを吐き出したような、真っ赤なドラゴンが。

 

『い、いえーい、私ったら大勝利ぃ~・・・・・・。

 って、言ってる場合じゃないですよね、コレ?』

 

 なんか、《瑚之龍》に乗った《ブラック・マジシャン・ガール》に。

 アクションマジックを捨てて発動した効果で、あっさりと負けた。

 

「融合、シンクロだけ使って、盤面だけでも仮想敵を演じたから、かぁ?

 真面目にブチ切れといてなんだけど、シュールすぎないかな?」

 

『むしろ、あの、どこがシリアスなんですかね・・・・・・?』

 

 強いカードを出して勝てるかと思ったら、いつの間にか墓地にいたカードを使って防がれて、次のターンにとどめを刺そうとしたら、たった一度のドローで逆転される。

 

 そこに、オレの望んだエンタメの形なんてない。

 

 貪欲に勝利を掴もうとしたひとりのデュエリストと、それに応えたカードたちのコンボが、アクションマジックを手札コストとして雑に扱いながら、《覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン》以上の禍々しいなにかを打ち砕いた・・・・・・という、結末だけ。

 

 こちらの盤面を突破する、強力なシンクロモンスターも飛んできた。

 こちらの動きを封じる、厄介な融合モンスターだって出てきた。

 

 それなのに、とどめを刺したのは。

 ただあいつが好き好んで使っていた、《ブラック・マジシャン・ガール》とかいう女の子のモンスターの進化した、《竜騎士ブラック・マジシャン・ガール》っていう融合モンスターのようで。

 

 同時に、あいつの手札を増やしたも同然の。

 カード効果のために捨てられた、アクションマジックのようでもあった。

 

「・・・・・・約束は約束だぞ、ボクはランサーズなんて入らないからな?」

 

 そう吐き捨てて、あいつは退屈そうに帰っていく。

 リアルソリッドビジョンが解除されて、《竜騎士ブラック・マジシャン・ガール》がぼやけて見えにくくなる。申し訳無さそうに頭を下げながら、朧気な影に変わっていく。

 

 オレは、デュエルに勝てなかった。

 柚子のためなんて先に言いながら、結局はオレのために怒った。

 

 そっちのほうが一番つらいはずなのに、あいつらの背中を見ていると、もっと胸を引き裂くような痛みを感じるのはなんでなんだろう。

 

 あいつを退屈にさせたからか。

 いいや、あいつは勝手に楽しそうにデュエルしていて、勝手に《ブラック・マジシャン・ガール》と盛り上がりながら、オレをどうやって倒すかの方を楽しむかのようにオッドアイズたちを眺めていただけだったんだ。

 ふざけているのかと思って、一気に殴り倒そうとしたら。

 

 お前のほうがふざけてる。

 そう叫ぶかのように、一瞬で盤面をひっくり返されて。その一瞬の合間に血反吐を吐くような声で怒られた。どうして怒られたのかはわからない。理不尽だとも思う。

 でも、それはきっと。

 

「・・・・・・オレが、さきにやったから。だよな」

 

 アカデミアの連中だったら、わかる。

 黒咲たちを苦しめてきたのだから、黒咲が怒るのはわかる。

 でも、オレはそんなことをしていない。しているつもりじゃなかった。

 これから先に、あいつが彼女と苦しむようなことを頼み込んで。断り続けたら怒って、柚子のためなんて言いながら、途中で「お前のそれもエンタメデュエルじゃないか」「なんで同じものが好きな、おまえが他人を泣かせる奴らと戦わないんだ」になんてくっちゃべって。

 

 自分の願いが。誰かのためなんて思って吐いた言葉が。

 結局は、「オレと同じ想いをさせるだけ」なんて、いまさら気が付かされて。

 

 それって、話に聞いたアカデミアの連中と、どこがどう違ったんだ。

 

 あいつの好きなデュエルを、ふざけていると言ったのは。

 あいつが、オレのデュエルをふざけていると言ったのは。

 きっと平行線だ、交われるはずもない理由なのかもしれない。でも、実際に強かったのはオレじゃなくて、あいつの方だった。

 カードが強かっただけなら、攻撃力で言えばオッドアイズのほうが上だった。

 

 オレは、デュエリストとして。

 デュエルタクティクスだけで、エンタメする暇もなく倒された。

 

 そもそも。

 

「・・・・・・柚子の話をしてるのに、エンタメしてる暇ってあったのか?」

 

 オレは。

 

「オレ、なにがしたかったんだよっ・・・・・・?!」

 

 デュエルだけに、あいつみたいに一途になれたことなんて。

 一生懸命になれたことなんて、一度でもあったのかな。

 

 

 

 彼らの物語が交わる機会も、いつかの昔にはあったのだろう。

 今は叶うはずもない。スタンダード次元に迷い込んだ彼がそう決断したから。榊遊矢が彼のデュエルを軽んじ、自分の要求を押し通そうとしたから。

 どちらが真に間違っている、ということはない。

 どちらも最初から正しくもあったが、決定的にわかりあうことをしなかった。

 いいや、わかりあえないなりに、距離をとって絆を得ることはなかった。

 

 お互いを違うものである、と受け入れたうえで。

 お互いの望む道を、お互いの望むように歩むことに寛容であればよかった。

 最初にそれを叶えなかったものが、どちらかが先に絆を得ることを諦めても、残ったものが諦めずに向かい合っていれば叶ったのか。

 相手のすべてを受け入れていれば、少なくとも何かは変わっていただろう。

 

 ・・・・・・なんにしても、この物語での榊遊矢は。

 この物語での《ブラック・マジシャン・ガール》のマスターに認められる。

 そんな未来は、永遠に実現しない。

 

 

 

 

 

『そろそろ、彼らがシンクロ次元に向かった頃でしょうかね』

 

「さあね。誰かがドタキャンとか、トラブルでも起こさない限りは」

 

 あらかじめ赤馬零児から聞かされていた、ランサーズ入隊の期限の当日。

 この日まで、未だに誰もボクたちを訪ねに来たやつはいなかった。どこかで見たようなパーカーを着た長髪の子が家に近づいてきたのは見えたけれども。その長髪の子が、黒服の人たちに説得されて帰ってしまったことも見届けた。

 

 ボクの決断に納得したのか、あるいは侮蔑から忘れられたのか。

 あの子以外に近づいてくるランサーズのメンバーはいなかったし、柊柚子の姿を見つけることも、その訃報をテレビ、ラジオのニュースなり新聞記事なりで知ることもなかった。

 

 そろそろ、なのかもしれない。

 

『・・・・・・やっぱり、ですよね』

 

「うん、やっぱりだったね」

 

 青空が歪んで、見えるはずもないものが見えるのは。

 

 

 

 天地がひっくり返ったような蜃気楼にも見えるもの。

 先端部分が欠けている塔。高速道路にも似た摩訶不思議な橋じみた道路。

 時代錯誤かと世界に突っ込みたくなるような、イタリアの文化的都市を思わせる街並みを持った空の浮き島に、生命の息吹を感じられない監獄島じみた軍事施設。

 

 すべてだ。ようやく、すべてが終わる。

 

 

 リバイバル・ゼロ。

 

 すべての次元が融合する。

 赤馬零王の計画は、ようやく始まった。

 

 

 

『マスター、私、実体化してきてますよね』

 

「・・・・・・そうだね、でも、これがなくとも実体化できるようにしないと。

 厳密には受肉だけども、どっちみち足りないものは足りないんだ。次元統合で何が起きるのかは分からないけれど、ここからが彼らの戦いになる」

 

『いえ、あの、そっちじゃなくてですね、』

 

「覇王龍は復活できていない。

 ユーリはユーゴを取り込めていない。ユーリたちに削られる戦力のほとんどは健在だし、そもそも遊矢たちがまとまって動いてさえいれば3対1の構図が出来上がる。

 よほどのことがない限り、ユーリに統合される危険性はないだろうし」

 

『ですから、あの、そういうことではなく、』

 

「問題は赤馬零王、あいつがどう動くかで――――」

 

 

 

 

 

 

『その、手をつないでくれませんか?」

 




 気が変わったら、IFの彼らを描くかもしれません。
 読了ありがとうございました。


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たったひとつの、

 これ思いついた時はともかく、数年たってからさ。

 「風邪になってよかった」と思う作品として完成した、とは思わなかったぞ。


 べつに複雑な話ではない。

 彼は至極単純な、もっとも最適な答えを導き出しただけだ。

 ある世界から迷い込んだ人間たちにとっての、とっても冴えた、冷めきった答えを。

 

「ボクが破壊した。」

 

 ただ一言。

 その程度の言葉でしか、表現できないほど。

 彼は迷い続けた。彼は選び続けた。彼は諦め続けた、彼は諦めなかった。

 自分の命のため。できれば、死んでほしくない子供たちのため。

 死んでも構わない人間が巻き込まれても、死んでほしくない人間が巻き込まれても、確実に死ななければならない相手を殺すために。

 殺人にデュエルの力が必要ならば、デュエルの力を帯びた武器を使えばいい。

 殺すべき誰かを殺すために、それが実現しうるカードの力を利用すればいい。

 ただ、それだけのために。

 

「融合次元のアカデミアは、ボクが・・・・・・爆破した。」

 

 少年は少年期を費やし。二度目の人生だからと腹を括り。

 彼らが望んだ通りの『戦士』として、為すべきことを成し遂げた。

 

「ちょうどいい、『莫大なエネルギー』の貯蔵庫があったからね。

 そこを軽く爆破して、制御不能にさせた。あとはガスホルダーが爆発事故を起こすのと同じ要領だと思ってくれていい。アカデミアはもう、存在しない。」

 

「・・・・・・は?」

 

 デュエルを介さず、デュエルの異能を使用して、物語の結末をつける。

 それだけであれば、彼らの物語にも何度か繰り返されるはずの未来だった。

 だが、そうはならない。そうはなれなかった。

 外套を纏った少年のようには、コートを纏う少年、”黒咲隼”も、また。

 

「どういう意味だ、説明しろ!」

 

「説明したとおりだ。ボクが、アカデミアを破壊した。

 車のガソリンタンクに向かって、遠隔から火種を放り込んだのと同じだ。

 あれはもう、誰も助からないよ。彼らは今頃、アカデミアとは別の軍部で『昇進』が認められている頃のはずだ。」

 

「そんなことを、聞きたいのではない」

 

 少年に掴みかかる黒咲。

 ああ、少年とて、彼の言わんとする望みは理解できる。

 理解できるが、そこまで、でしかなかった。そこまでにするしかなかった。

 憐れむべき事情があるわけでも、共感から許しを請える事情があるわけでもない。

 

「瑠璃は・・・・・・瑠璃はどうなった? 俺の妹を、どうしたと言った!?」

 

「ああ、噂の彼女か。

 殺したよ。事故に巻き込まれていれば。」

 

「ふざけるなぁ!」

 

 肉が、鈍器でも当たったかような音を響かせる。

 静まり返ったリアル・ソリッド・ビジョンの世界。

 デュエルの観客が大勢でなかっただけ、彼らにとっては幸いか。

 奇しくも彼の暴挙によって、彼らが戦う場所、その世界において、誰も異世界からの脅威などという未知に脅かされることも、思い悩むこともないのだから。

 

「だったら、カードにされた、ハートランドの皆は!?」

 

()()が彼らの求めていた、『燃料』だったからな。

 アカデミアを自爆させた際に、1枚も残さず燃え尽きたはずだ。」

 

「・・・・・・そんな・・・・・・ことが、」

 

 膝を折る黒咲は、握った拳を地面に叩きつける。

 脳裏に浮かぶ思い出も、笑顔も、すべてが灰になった。

 

「認められるわけがない!

 そんな方法で、こんな形で、アカデミアが滅びただと・・・・・・!?」

 

 吐き出されるべき、突き出されるべき憎悪の拳も。

 今となっては、風に吹かれて舞いそうなほどに、拳の内に隙間風を吹かせている。

 

 この瞬間、彼らの世界に、デュエルが答えを導き出すことはなくなった。

 ある男はつぶやいた。ならば彼女も死んだのかと。

 ある少年はつぶやいた。もう、あそこに戻らなくていいんだと。

 ある道化師は天を仰いだ。どうして、今さらになって、こんな形で。

 こちらの世界では、いまだ、誰もカードへと封印されていない。誰も犠牲にならず、しかし、誰もが犠牲になってしまっている真実のうえで。

 

 もう、踏み込まなくていいはずなのに。

 榊遊矢と呼ばれた少年は、外套が伸ばす影に向かって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 口を、開いた。

 

 

 

 

 

 何も知らないからこそ。

 それを知る誰かでは、決して届かぬ居場所から。

 

 ぬくもりが届くこともある。

 




 前々から構想にあったものを、病み上がりで書く気になれました。

 続きを書くかは、明日からの自分に投げます。
 いろいろと「いそがしい」ので、長期間の計画立てた執筆は現状厳しくなっています。また会えたら幸いです。


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たったひとつの、 ②

 病み上がりの心地悪さが抜けないので、続きをどうぞ。


 彼は、罪に問えないことをした。

 彼は、あるべき世界では、罪に問われるはずの悪を成し遂げた。

 

 彼を連れ帰り、受けるべき裁きを受けさせるべき。

 そう訴えるものが現れても、おかしな話ではなかったのだが。

 残念ながら、彼が罪を告白した場では、彼の生まれた世界そのものを憎む者、その世界の生まれでありながら帰りたいとも思わなかった者、そして「彼を連れ帰る」という手柄を得たところで、彼の罪を立証できないどころか、自らの特殊任務の内容すら証明できないことを気づいている者しかいなかった。

 

 結局、彼の生まれた世界では、同じ故郷を持つ者達の薄情な理由と動機によって。

 誰がアカデミアを爆発させたのか、という真相を知る機会はなくなった。

 

 そう、誰も。

 融合次元での彼に、罪を問える人間はいない。

 スタンダード次元で暮らすようになった彼に向かっては、「カードに封印する」という手段で怒りをぶつけられたはずの男もいた。

 それでも、その男は憎むべき相手も、愛する者も奪われたのだ。

 

 がらんどうの復讐心のまま、機械仕掛けの神よろしく、「エクシーズ次元への侵攻は続かなくなる」可能性を示されれば、勝てる相手にも勝てなくなる。

 それを信じるか、信じないかは自由だ。

 アカデミアの戦士である紫雲院素良に頼み込み、二人で融合次元に転移するもよし。

 あえてエクシーズ次元へと乗り込み、最前線で何が起きつつあるのかを知ってもよし。

 少なくとも、今の黒咲隼には、鉄の意志も鋼の強さも、復讐心という鋼鉄を錆びつかせてしまい、慌てふためくばかりで見る影もない。

 

 そもそも。

 紫雲院素良に頭を下げてよいのか。

 当分は、そこから悩むことになるわけだが。

 彼らの結論は、自ら臨んだ未来での、決意ができた彼らだけの物語としよう。

 

 とにかく、今の彼らには、外套の少年を責めるだけの余裕がない。

 いいや、外套の少年などという盤外の駒を眼前にして、伝えられた真実を受け入れろと言われた側のなにがしでさえ、黙って帰って戻ってくる程度には。

 

 外套の少年、彼個人に興味を持った「次元戦争の関係者」などいなかった。

 

 

 

 ・・・・・・当然だ。そのくらい、彼は予想だにしない結論を叩きつけたのだから。

 

 いかに転生者なる存在が、特別な力を望むがままにふるったところで、それが評価される場所など、物語の本筋に関わる「イベント」の範疇でしか叶わない。

 遊戯王の世界ならば、デュエルで語るべき物語であり。

 これといった言葉がなく、ただの黒白だけが残ったとしても、それはそれで評価されるはずのものなのだ。彼の実行した行為など、デュエルと関係なく、突然、横からスタンガンを叩き込むようなもの。

 

 彼の場合は、核燃料を搭載した空母の搭乗員として、内部から自爆するよう工作し、そのまま自分だけ生きて帰ってきたと異国で公言したも同然だ。

 そんな意味不明な手段を実行し、生還しただのと言われても、どう冷静に考えても嘘八百としか思われない。真実だとしても、実行する動機がわからない。

 動機を知ったとしても、それを偉業と捉えるような者など種類がしれている。

 背後関係などないと聞かされれば、なおさら狂人としか思われまい。

 

 だが、その狂人の凶行とて、この世界では確かな救いではあった。

 四天の竜は支柱をひとつ失い、失われた世界と娘に狂った研究者など盤上から落とされ、覇王龍なるものを倒すための手段すら消失したが、覇王龍を脅かす娘の面影を持った少女たちすら、その存在を唯一に減らすことで――――統合という救いを齎さない。

 

 アークエリア・プロジェクトは実現不可能となり。

 リバイバル・ゼロ計画は、実行しようと思う者すらいなくなった。

 ここから先の物語は、赤馬零王なる男がいない世界。

 ユーリと呼ばれた男が凶行を続けることも、オベリスク・フォースの兵士たちが戦果を上げ続けることも、永遠にない。

 

 

 

 罪を問う気力が誰にもなく、狂人への執着すら誰にもなく。

 誰も知らぬ未来の物語から、誰もが背負わされるものを取り払いながらも。

 誰からも受けいれられることのない作戦を実行し、誰からも評価されることのない大量殺戮を終わらせた外套の少年に向かって、誰が労ることもなく。

 

 

 彼の物語は、彼自身の手によって、終わることができていれば。

 まだ、彼らにとっての罪償いが終われたかもしれないだろうに。

 

 目覚ましの音が鳴り響く。

 彼にとっては死にも似た、許されてはならないはずの、甘いぬくもりの底から。

 もう一度、まだ終わってはならないのだと。

 誰かに、引き上げられていく。

 

「・・・・・・遊矢か。」

 

「そうだよ! ったく、本当に死んでるみたいに寝るんだな」

 

 自らの身体を揺すった少年の手を払い、外套を着ていた少年は起き上がる。

 

「・・・・・・約束は、確かに果たすさ。

 だとしてもだ、どうして衣食住を保証する気になった?」

 

 かつては立体感を欠いた、立体感を描かれた絵としてしか認識しなかった姿。

 それが、ふにゃりと曲がって頬を掻く。

 

「いや、だって、素良と同じなんだろ?

 だったら、ほんのちょっとの間でもさ・・・・・・ダメだった?」

 

「あっちは忠義者で、こっちは裏切り者だろうに。

 ああ、だから紫雲院素良からは都合よく見えたんだろうが、なるほどな。」

 

 榊遊矢を避けて布団から立ち上がり、布団をたたみ始める。

 

「悪意と敵意に晒されてきた側にとっては、甘すぎる毒にも見える。

 君のそういう態度が、恐ろしいほどに紫雲院素良を迷わせたらしい。

 こっちも毒気が薄れるというか、約束を違えないにせよ、罪の意識を持っていかれそうになるというか・・・・・・さも、許されていいかのように思えるな・・・・・・」

 

「なあ、アカデミアにも、こういう布団ってあったのか?」

 

 

 畳む手が止まる。

 

 

「なんか、すごい手慣れてるし。実は、けっこう家事が好きとか――――」

 

「気のせいだ。なんとなく、そういうものに見えただけさ。」

 

 誤魔化しながらも、結局、折り目よく畳み終える。

 見る者が見れば、彼の育ちに違和感を覚える者もいただろう。

 しかし、紫雲院素良は彼に近寄らなかった。元より榊洋子がこしらえたパンケーキに夢中になる少年であり、そうであることに必至になっていた。

 牢獄のような場所であれ、自分が長年過ごしていた居場所では、裏で上層部どころか生徒もろとも海の藻屑にしようと思いついて、実行に移した馬鹿がいた。

 そんな現実から目を背けるように。そんなやつが、よりにもよって気に入った友人の家で、共に同じ屋根の下で暮らしている恐怖感。それを思い出したくもないからだ。

 

 だから、彼がアカデミア育ちの兵士にしては。

 あまりにも育ちがいい、スタンダード次元への理解がある、ということは。

 誰も気づけなかった。

 

「しかし、本当に乗り込む気なのか?

 アカデミアを爆破したのは、あの大会があった数日前とはいえだ。

 君と同じ顔の少年がどうの、こうのという話が事実なら、確かに融合次元ではありえないどころか、エクシーズ次元でもありえないのだろうが。」

 

「ああ。それさえ終われば、もう、次元戦争なんてなくなるんだろ?」

 

 だとしても、榊遊矢は目をそらさない。

 その双眸に呑まれ、一瞬、息をつまらせながらも。

 鼻で深呼吸をすると、少年は続けるように首を振る。

 

「保証はできない。

 次にどこの次元が、どのような動機で思い至るか。

 それにかぎって言えば、今回ほどの一方的な戦争になりえないだろうが、確実に起こらないなどとは言えない。だが、シンクロ次元が火種になりえることは、ボクは認める。」

「簡単に言えば、そこに追放されたはずの、アカデミアの技術者がいるからだ。

 異次元で同じ技術体系で、同じ規格の道具が存在していること、それはありえない。

 だとすれば、その原因は間違いなく、こちら側の世界がやらかしたことだろう。事実、そちら側の世界にあったリアル・ソリッド・ビジョンと同じものが、赤馬零王という技術者を介して、こちら側にも存在していたのだからね。」

 

「だから、赤馬零児にも言ったんだな。

 融合次元のスパイが、独断でなにをやらかすかは読めない。

 ランサーズを結成することは、やめるべきじゃない・・・・・・って」

 

 嘘をつけ。

 本当は原作知識なるもので、おおまかな事情は把握しているくせに。

 

「ああ。」

 

 だとしても、自らの所業を正確に把握しているからこそ。

 その愚行がシンクロ次元に何をもたらすのかなど、理解していた。

 自分の罪の告白を正しく聞いていれば、なおさら、「柊柚子だけは無事である」という事実を、自分というイレギュラーがなくとも誰かが導き出せる。

 そこからシンクロ次元へと旅立った結果、アカデミアの伏兵など想定する必要もなく、結果的にアカデミアから追放された男によって全滅しうることなど、想定は難しくもない。

 

 すべてのきっかけは、目の前の榊遊矢だ。

 彼が、少年に語りかけなければ。彼はランサーズの結成を勧めることなく、ただ、適当な人員で捜索隊を組んだほうがいいとだけ告げて、選ばれた者達が毒牙にかかることをよしとしながら。

 

 彼の守ろうと思ったものだけは傷つかぬままに。

 最善手を掴み取った彼自らの手で、彼の命は終わっていたのだから。

 

「しかし、何度も聞いて悪いんだがね。

 ・・・・・・本当に、どうして世話になっていいのか、わからないんだが。」

 

「困った時には、お互い様だろ?」

 

 そうだったのだから。

 いまさらになって、荷物が増えたことだけは。

 

「慣れないな。君のそういう目は。」

 

 どうしようもない屑だな、としか、自らを思えないままに。

 最善の犠牲者になることなどなくなった、一人の少年の頭を軽くなでた。

 

 

 

 




 どのくらい弩級の屑なのかは。
 四天の竜なるものを、誰と誰と誰と誰が持っていて、その四人が合体したらどうなるかは明白で、そのうちの二人が合体しただけでエグいものが呼び出された経緯を思い返したうえで。

 どうすれば「覇王もどき」が生まれないのか。

 ・・・・・・を、考えていただければ、手っ取り早いかなぁと。




 続きは「書けたらいいな。」です。


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