東方極楽伝 (一向一揆)
しおりを挟む

簡単な人物紹介

簡単な人物紹介。(ネタバレもあるかもね!)

 

 

藤原信孝

 

主人公。

転生時に気とか魔力とか貰っているのに半ば忘れている上に、最近不比等や宇合、麻呂のせいで出番や出世を食われがち。

 

史実では不比等の直系以外の中臣氏は藤原姓を名乗らず、全員中臣姓(後に大中臣等別の姓へ変更)だったりするのに藤原姓を名乗っているが誰も気にしない。

駄神という高位の神格を持つ神自ら行った転生の影響で神気を宿しているが、そんなことは知る由もない。

 

以前、八雲紫に文珠を渡したせいで文珠使いと疑われているが、実はその辺で拾った石をプレゼントしただけであり文珠だったとは本人も知らない。

知ってたら確実に大事に持っていただろう。

 

 

 

藤原不比等

 

史実では壬申の乱発生時幼少故に関与せず功績を上げられなかったため下級役人からの叩き上げで出世し、後に律令制度完成へと導いた屈指の内政官にして藤原氏興隆の祖。

なのにこの小説では、己の筋肉であらゆる障害を力技で解決するハイスペック脳筋に。

 

輝夜から『竹取物語』の原作通り五つの難題のうち車持皇子に課された「蓬莱の玉の枝」を持ってくるよう要求された際、そのへんの石を集めて中央に「蓬莱」と大きな文字を書き、それを拾った枝に括りつけて輝夜に渡したため、ブチ切れた輝夜の神宝「蓬莱の玉の枝-夢色の郷-」を喰らうというエピソードもあったのは余談である。(勿論不比等は無傷)

 

このとき渡した蓬莱の玉の枝(仮)が後々重要になって来る…かもしれない。

 

 

 

藤原武智麻呂

 

史実では大学制度の確立や聖武天皇の家庭教師に選ばれるほどの教養人として多くの人物から期待されていた。

しかし、この小説ではシリーズ屈指のピサデブ+ニートの希望の星に。

 

月人の地上攻撃の障害として藤原一族が選ばれている中で、武智麻呂だけピサニートなせいで存在がスルーされる程度の能力。

転生してもピサニートは不変(断定)

 

 

藤原房前

 

史実では兄武智麻呂よりも先に出世し、元明天皇から首皇子(後の聖武天皇)の後見役の一人として内臣に任じられ、藤原四兄弟の中心人物として辣腕を振るった四兄弟随一の才覚の持ち主。

 

この小説では、藤原一族最後の良心として信孝のみならず、高市皇子・文武天皇・持統上皇など、王朝の重鎮の心の清涼剤として重用され、彼らや父親の後押しにより史上最年少で殿上人になる。

 

 

 

藤原宇合

 

史実では遣唐副使になったり蝦夷討伐をしたり西海道節度使になったりと東西あちこち動き回り、難波宮造営に携わったりと文武に活躍した。

 

そのせいか、この小説ではあらゆる地の情報を網羅する諜報員、謀略家として大活躍する。

東方風に言えば「八雲紫をもっとあくどい性格にし、情報・謀略に特化した存在」になる。 それ何てチート?

さらに、宇合の血筋のみならず藤原家全体が彼の残した書物のせいで悪影響を受けてゆく…

 

 

藤原麻呂

 

史実では兵部卿兼山陽道鎮撫使になり、出羽国では道路開削工事を行なった。

本来の藤原四兄弟では、武智麻呂と房前及び宇合と麻呂は1歳差で、房前と宇合は13歳離れているが、この小説は全員1歳差の年子4兄弟となっている。

 

この小説では兵部卿兼山陽道鎮撫使という役職から、四兄弟で最も軍事的才能を持った人物として扱われ、最終的には戦略家兼暗殺者という厄介極まりない人物となった。

 

 

 

藤原妹紅

 

原作では父親が輝夜に大恥をかかされて輝夜を恨むようになったのだが、この小説では寧ろ暴走に拍車がかかる父親(藤原不比等)の存在を藤原一族の恥として思っている。 但し親子仲は良好。

 

輝夜の屋敷に侵入したことから輝夜との交流が始まり、今では慧音も加えて家族ぐるみの付き合いとなった。

しかし、信孝の死により輝夜を恨むようになる。

 

戦闘力はCだが、蓬莱人になったのに成長中という輝夜が聴いたら永遠亭を崩壊させそうな事実を抱えているが、本人は気づいていない。

絶賛放浪中。

 

 

 

上白沢慧音

 

天武天皇の長男高市皇子の庶子として誕生。 まだ人間です。

天武天皇の孫娘という血筋から召し出され、内裏で暮らすようになった。

街に散策へ出たときに信孝の姿を見て何故か一目惚れし、その思いと戦闘力Gを駆使し信孝を篭絡して関係を結んだら息子(織田信等)まで誕生しちゃったある意味一番の勝ち組。

ついでに、藤原不比等のせいで常時胃痛持ちとなった父親(高市皇子)に孫を見せると何故か胃痛が一時的にだが治るらしい。 孫馬鹿万歳。

 

 原作で出てくる『終符「幻想天皇」』や『産霊「ファーストピラミッド」』は慧音自身が天皇家の血筋だから誕生したという独自設定があったりなかったり。

 

妹紅や信孝を探しつつ私塾で子供たちに教育をしている。

教え子に空海とか菅原道真とかいる時点でレベルはお察しください。

 

 

 

蓬莱山輝夜

 

 

なよ竹のかぐや姫本人。

この話だと求婚してきた5人の皇子うちの1人の求婚があまりにぶっ飛んでいたので、他の皇子の存在は忘れてしまった。

そもそも不比等は皇子ですらないけどな!

 

妹紅に恨まれていることを自覚しており、何時か誤り和解したいと考えている。

戦闘力Aで今後も成長はない。

現在日本へ戻って隠れて暮らすために永琳と準備中。

 

 

 

 

八雲紫

 

初代幻想郷縁起にものっている彼女はこの時すでに重鎮クラス。 つまりバb(ピチューン

原作よりもはるかに早い時期で第一次月面戦争や幻想郷誕生が起きているが気にしてはいけない。

 

信孝を文珠使いと疑うも、故人(と思っている)ため、貴重な文珠を壊さないように細心の注意を払いながら研究しつつ幻想郷発展のために力を尽くしている(同時に数々の問題に頭を抱えている)。

だが忘れてはいけない、信孝は文珠使いではないことを。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第一話 テンプレの如く現れる神は大概ロクでもない奴らばかり

若干就職活動が落ち着いたためこちらで連載を再開します。
と言っても改訂しながらなのでやっぱり更新は遅め。

それに就活も終わってないしね!!



 皆さんはじめまして。 何処にでもいるような見た目をした大学生の織田信孝です。

 

 苗字から連想できるだろうが、俺の実家は第六天魔王という「どう考えても厨二病的です本当に(ry」という異名を自称した織田信長の息子に遡る事の出来る由緒正しい家系だ。

 まぁ嫡流というわけでもなく某フィギュアスケート選手のように有名ではない傍系中の傍系、大っぴらには言えないけどな…。 

 

 そんな家系に生まれたからか、俺は物心ついた時からウチのボケ爺の「信長公のような覇王となれ!」とかいう訳の分からない教育方針の下、武術の修行から経済学・帝王学・政略・軍略に至るまであらゆるものと叩き込まれることとなった。

 最も、一般家庭出身且つやや残念な頭の出来だったため政略と軍略は半分理解できれば御の字で、帝王学に至っては「何それ食べ物?」レベルだったのでよく爺から殴られ、殴られる度に折角覚えた知識が吹っ飛ぶという日々を繰り返した。

 

 

 ただ、武術関係には素質はあったみたいで、剣道・薙刀・弓では全国大会上位レベルとなった。

 ・・・刀槍より銃の扱い方を覚えたほうが実用的だと何度思ったことか・・・。

 

 

 もっと言えば武術の修行も普通なら道場とか使うのだが、家には母屋以外の建物がないため仕方なく近所の河原でやっていたら、実はその瓦が近所の小学生共の遊び場だったため乱入が凄まじく、まともに修行できた覚えがないというのが大問題だと思う…。

 

 

 その結果、次の日の新聞の地域社会面に「摩訶不思議!? 河原で遊ぶ小学生に混じり人外じみた動きで乱取りをする老人と青年!」という誰得な記事を発見し公衆環境で吹いてしまったことで、無駄に注目を浴びることとなってしまった。

 

 

 あのせいで「人類を超越した存在になりたい!」などとほざいた連中が大挙として現れるようになり、毎日漢(男に非ず)共に追われる毎日となってしまった。

 

 

 しかも、もう一方の当事者であるボケ爺は、「ワシはこれから世界一周道場破り巡りをしてくる。 国内の漢共の相手は任せた」と書いた上で国外に高飛びしやがったため、爺を目標としていた連中も俺のところに流れてくるようになった。

 

 因みに、先程から話の中に登場する家のボケ爺とは、かつて東北の方で大名をしていた織田信孝(俺と同姓同名だから面倒臭い)の息子で、御年何と155歳(家系図的には俺の6代前の先祖にあたる)というギネス記録に真っ向から喧嘩を売るような存在のクソ爺である。

 しかも何をトチ狂ったか「ワシゃ注目されるのは好かん!」等とほざいて色々と改竄した結果、戸籍上は89歳となっているという清々しいほどの徹底ぶり。

 

 

 

 さらに、戊辰戦争に僅か13歳で初陣を果たし、官軍5000を無双乱舞で蹴散らしたという色んな意味で規格外の爺である。

 まぁ、あのボケ爺の話はまたいつか離すことにして、俺の話に戻そう。

 

 そもそも、俺が何でこんな説明口調になってるのかというと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで俺の体が目の前にあるんだよ・・・?」

 

 何故か幽体離脱っぽいことになっている事態から現実逃避したかったからである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしてこうなった・・・!? 寝て起きたらジャングルだったり砂漠だったり流氷だったりしたことはあったけど、流石に自分の身体が目の前にあるなんて事態は初めてだぞ!」

「…むしろそっちの体験をするお主の方が貴重だと思うがのぅ」

「っ! 誰だっ!?」

 

 

 

 

 訳の分からない事態で錯乱していたところにいきなり後ろから声をかけられたので、すぐさま振り返って迎撃態勢を取った。

 

 

 そこには、どこからどう見てもホームレスにしか見えない格好をしたジジイが空中に浮かんでいた。

 

 

 高さ10cmの位置で空中静止とは無駄に器用なことをするジジイだな。

 

 

 

 

「で、アンタは誰だ?」

「私か? 私は神d「〇ンスター〇ンジンネタはもう古いぞ」・・・・・・わしは本物の神様じゃぞ?」

 

 モン〇ターエン〇ンネタを振ってくるあたり本物の神なのかはかなり疑わしい(仮に本物だったとしてもかなり俗物な野郎だろうが・・・)が、とりあえずこいつなら今の事態を何とかしてくれると思い俺は神(仮)に質問した。

 

 

「んで神(仮)とやら、今俺はどうしてこんな状況になってるんだ?」

「(仮)はやめてくれんかの…。 まぁ簡単にいえばワシらの手違いのせいでお主は本来の寿命より早く死んでしまったんじゃよ」

「何だよ手違いって? 先に言っとくがアホみたいな理由だったら問答無用でシメるから」

「いきなり暴行予告!? 仮にもわしは神じゃよ!」

「うるさい。《ゴスッ》 いいから理由を言え」

「まだ何も言っとらんぞ!? しかも今の結構痛いんじゃが…」

「痛くするように殴ったから当たり前だろ。 んで、理由はなんだ?」

 

 

 どうせこういった二次創作小説にありがちな「俺の人生のことを記した書類間違えてシュレッダーに掛けちゃった♪」とかだろうがな…。

 だが、奴の言った真実はそんな俺の予想の遥か斜め上だった。

 

 

 

「やっと本題に移れたわい。 実はの、ワシがK〇NONの栞ルートでバッドエンドになったからキレてしもうてコントローラーをブン投げたら、儂の上司に当たってしもうてな・・・。 それにキレた上司が儂に攻撃してきたから咄嗟に近くにあったお主の人生を記す本を盾にしたせいでお主の寿命が尽きてしまったのじゃyって痛い痛い痛い!!! 本気でローキック連続だけは勘弁してくれぃ!」

 

 

「何だよその理由は!? たしかに〇ANONは名作でバットエンドになると悔しいという気持ちは

十分にわかるが、何だよそれ!?」

 

 

 よりによって人の人生を記した本を盾代わりにするとかどういうことだよ!? そもそも何でゲーム部屋なんかに俺の人生の書が平然と置いてあるんだよ!?

 

 

 

「お主も大概ゲーマーじゃの。 じゃから幾らなんでもこんな人生の終わり方はマズいと思ったワシの上司がお主を別の世界に転生させることにしたのじゃ」

 

 駄神(俺命名)はそう言っていくつか転生先のプランを取り出し、そのパンフレットを俺は1つ1つ見回した。

 

 

 …明らかにおかしい奴混ざってるだろ。

「ネ○ま1週間の旅!」とか「日帰り○木市観光ツアー!」とかそんな短時間で何をしろと言ってるんだ?

 

 

 

 

「まぁ、今回は事態が事態じゃし特例として人生リセットボt・・・もとい転生の許可が出たのじゃ」

「ふんっ、それくらいの役得はあって当然だな。 勿論俺の要望は通すよな?」

「・・・まぁ、わしのせいじゃから反論できんのじゃが、目上相手にその態度はどうかと思うぞぃ?」

「なに言ってんだよ駄神(笑)。 俺は敬意を払うべき相手にはちゃんと敬意を払うぞ?」

「敬う気無いよなお主!?」

 

 だって、こんな神(笑)的な存在を見せつけられたら・・・・・・なぁ?

 

 

「・・・・・・まあ良い。 それよりお主の要望w「決まったぞ」早くないかの!?」

「だってなんか即効で決まったし」

「・・・・もう突っ込まんわい。 それで願いはなんじゃ?」

「俺の転移先のことについてだが、東方の世界にしてほしい」

「ほう、何でまた? てっきりお主が大好きな〇ANONの世界かと思ったんじゃが…」

「・・・・・・この選択肢でそれ以外選べると思ってるのかお前は?」

 

 そう言って俺は駄神に転生用のパンフレットを押し付けた。 その内容は・・・・・・、

 

 

 

 

①東方転生ツアー:ファンタジーと微妙に現代が織り交ざった幻想郷において、原作では語られる

         ことのなかった時代背景や隠された真実を探せ!

         転生時代→飛鳥時代末期

 

 

 

②○つばと転生ツアー:とーちゃんと共に失われた秘宝「ダ○ボー」を発掘せよ!

           隊員ミウラとふーかを引き連れ、よつばの妨害を避けることが攻略の鍵!

           転生時代→超現代

 

 

 

③○書転生ツアー:某不幸高校生のフラグの全てを死亡フラグに状態で転生!

         胎児から連鎖発生する死亡フラグを如何に回避し、人生を謳歌できるかが鍵!

         転生時代→近未来

 

 

 

 

 

「・・・どこが悪いんじゃ?」

「お前の目は節穴か!? 2番は転生後10分で攻略出来るし、3番に至っては胎児状態でどうやって死亡フラグを回避しろって言うんだよ!?」

「そこは根気じゃろ(キリッ」

「殺してえこのジジイ・・・!」

 

 

 この場でこのジジイを抹殺したい衝動に駆られながらも、何とか耐えて俺は言葉を紡いだ。

 

 

「・・・この話を続けると(俺の胃的にも)マズイから次の要望に移るぞ」

「そうじゃな。 では、2つ目は何じゃ?」

 

 

 

「俺自身の能力として、魔力や気を東方キャラの中でも上位に準ずるものにしてほしい」

「ほう? てっきり最強にしてくれとでも言うと思ったのじゃが、その心は?」

「…バランスブレイカーはそれだけで幻想郷から弾き出される要因になりかねないからな」

 

 これは、転生先を東方とした瞬間から思い描いていたことだ。

「幻想郷はすべてを受け入れる」という謳い文句はあっても、バランスブレイカーは八雲紫の警戒を買ってしまい、幻想郷と敵対関係になりかねないからな。

 

「…まぁワシと上司の不手際で起こった事態じゃから仕方あるまい。 ワシが適当に見繕ったある程度使い勝手の良い能力を付加しておこう。 して、最後の願いは?」

 

「俺を不老にしてほしい」

「ほう、不老不死ではなく不老か。 何でまたそのような要望を?」

「・・・永遠の刻を生きるという死よりも辛い思いを味わいたくないしな」

「ふむ・・・。 許可すると言いたいとこじゃが、残念ながらすぐに不老には出来んぞ」

 

「? 何でだ?」

 

 いくらこいつが駄神と言っても力自体は最高神レベルだから、人間1人を不老にする程度なら造作もないことだと思ったんだがな・・・。

 

「人間の体を無理やり不老にするとすぐにガタが来てしまうからの。 じゃからワシの親友の神産巣日神(カミムスビ)の魂の欠片を借り受け、それを時間をかけてお主の魂と融合させるのじゃ。 そうすればお主は神産巣日神の魂を継ぐ現人神に近い存在となる故、修行次第で不老になることもそのまま人としての人生を送ることも可能じゃ。 それに、あいつは面白いことがあれば自ら率先して突っ込む性格じゃから二つ返事で了承してくれるじゃろうし…」

 

 

 って神産巣日神って日本神話の最初に現れた三柱のうちの一柱じゃないか!

 第六天魔王を自称して後にリアル魔王になった男(織田信長)の子孫が言うのも何だけどさ…。

 

 

「まぁ、それでいいか。 気持ちの持ち用は俺次第なら、最悪直前の変更もできるしな」

「言っておくが、自分が不老か不老不死になったら将来共に歩みたいものを不老にする秘術を習得することができるようになるのじゃ。 じゃが、この術はお主の身体にかなりの影響を及ぼすからあまり使わないようにの」

 

 駄神のその発言を聞いた俺は思わず目を見開いた。

 今まで読んだ小説では不老や不老不死の術を平気でポンポン使っているケースが多かったから、デメリットの存在なんぞ今の今まで知らなかったな・・・。

 

 

 

 

「・・・そいつは初耳だな。 具体的にはどんな影響を?」

「お主が不老不死であっても死にたくなるほどの筋肉痛に一月以上悩まされることになる」

「誰がそんな術使うかこの駄神!! ただの拷問じゃねえか!!」

「じゃが、これを使わないと霊夢や魔理沙、咲夜といった人間の原作キャラはすぐに生き別れてしまうぞい「・・・と思ったが使いどころを考えて使うことにする」・・・・・・現金な奴じゃの」

「五月蝿ぇ! 人間誰しも欲望に満ち溢れてんだよ!!」

「ドヤ顔で言うことじゃないじゃろ・・・」

 

 

 

 駄神が「もうヤダこいつ」と言いたげな態度で溜息を吐いた。

「ダメ具合なら俺もお前も同レベルだろ」と言いたいが、流石にそれを言ったら問答無用で消されるような気がするので黙っておくことにした。

 

 

 

 

「それで、願い事はこの3つでええかの?」

「なら俺の愛用の武器達を一緒に送ってくれるか? やっぱ慣れ親しんだものがないと落ち着かないからな」

「その程度ならワシの裁量で何とかなるのぅ。 よし、許可しよう」

「恩に着るぜ。 ならあとはもういいからさっさと始めてくれ」

「よし、では始めるぞい。 ・・・と言いたいところじゃが、最後にお主に聞きたいことがある」

「何だ?」

 

 

 俺が問いかけると、駄神は今までに見せなかったくらいの真剣な態度で俺の顔を見つめた。

 今までの顔が(´・ω・`)だったのが(`・ω・´)になるくらいの変化だ。

 

 

 

「お主の希望通り東方世界へ旅立ち、その世界で何を目指す?」

「・・・俺は知りたいんだよ、原作では語られなかった真相がな。 『博麗』の根源、スカーレット家の根源、妹紅と輝夜の確執の真相、そして何よりも八雲紫が目指す楽園としての幻想郷創設の発端とその行き着く先がな・・・」

 

 聞く人が聞けば「脳内妄想乙www」とか「厨二病痛すぎワロタwww」と言われるだろうが、どうやら駄神は納得したようだ。 どうやらコイツはとことん俺と(ダメな方向で)波長が合うようだ。

 

「・・・そうか。 なればわしが言い残すことはないわい。 それでは世界転移を行おう」

 

 こうして俺は神(昇格)に感謝しつつ旅立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうそう言い忘れとったんじゃが、転移した時代はワシが面白くなるようにワシがいろいろと設定を弄ったからの。

 それに特典としてお主自身も上〇当麻並のフラグメイカーにしといたからの」

「ちょっ、それ死亡フラグも乱立するからぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・もうやだこの駄神(泣) 折角シリアスに締めようとしたのに最後の最後でぶち壊すとかさぁ!!

 

「まぁ、本場レベルに恋愛フラグも成立するからの。 お主の活躍、ワシらがしかと見守ってようぞ(ボソッ)」




かつてにじファンに連載していた頃は黒歴史レベルだったからいてもたってもいられずかなり改訂したけど、やっぱりダメだったよ兄者!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二話 藤原家の愉快な仲間たち

正直こうやって実際に書いてみて、初めて投稿作家の方々の偉大さが身にしみて感じました。こんな駄作ですがこれからもよろしくお願いいたします。
しばらくは日常的なことが続くのでバトル系の設定の出番はまだまだ先です。
どうしてこうなった・・・



  Side 信孝

 あの日、俺が転生してから今日でちょうど16年が経った。

 

 駄神の話を聞いた限り輝夜や妹紅の時代よりも前に生まれることは予想していたが、まさか同時代に生まれるとは思っていなかった。

今回の転生の結果、俺は古代日本最強の貴族である藤原氏の第2代当主藤原不比等《ふじわらのふひと》の弟にあたる藤原晴信《ふじわらのはるのぶ》の嫡男・藤原信孝《ふじわらののぶたか》として生を受けることとなった。

 

 しかし、俺が3歳の誕生日を迎えた時、父と母が当時流行していた天然痘を患って死亡してしまったため、母方の祖父で当時右大臣という要職にいた織田信葛《おだののぶかつ》という爺さんに引き取られ、織田氏の後継として育てられ始めることとなった。

しかし、その爺さんも俺が4歳の時に病により急逝してしまったのだ。

 

 その後、仲の良かった弟の遺児である俺の現状を見かねた不比等のおっちゃんが、養子として俺を引き取り、藤原一門として不比等邸で暮らすようになり今に至るというわけだ。

 

 

 しかし、俺の知識では藤原不比等に「晴信」という弟はいない上に、織田氏の祖が歴史上に登場したのは鎌倉時代なのでこの時代に「織田」という苗字は存在しないという突っ込みどころ満載な状況なのだが、そこは「ここは異世界だから仕方ない」ということで無理やり納得しておいた。

 

 ・・・・・・女体化した関羽とか織田信長が出てくるような「外史」だって存在するんだから、これくらいは誤差の範囲内でいいだろう?

 

 だが、細かい点はいくつか変化しているため、歴史や礼儀といった貴族社会を生き抜く上で必須の知識や文字は重点的に勉強するようにした。

 何せ、この時代の文字は漢文そのままか万葉仮名のように無理やり日本語に当てはめたものばかりであり、元現代人の俺にとってはかなり苦戦を強いられることは予測済みだったので、物覚えの良い幼少期に文字の勉強を重点的にブチ込むことにしたのだ。

 

 その結果、ただの文字の羅列にしか見えなかった文章が普通に読めるレベルにまで達し、「文盲貴族」という恥を晒さずに済んだ。

 ・・・・・・ありがとう子供脳!

 

 それでも、この時代は遣唐使により新たな学問が次々と導入されることで日々の学問が欠かせない存在となっており、今日もまた1人離れに篭って唐で作られた貞観政要(唐の第2代皇帝李世民の言行録)を読み耽っていた。

 最も、文字が読めても内容は儒教の教えが根幹となっているため、半分も理解出来ず中々勉強が捗らなかったが・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

「相変わらず何言ってるのか全く分かんねーなこの人・・・・・・。 今から儒教の教えとか覚えれねーよ!」

 

 そして、今日もまた何時もの如く途中で投げ出して休憩をとろうと思ったところ、離れに近づいてくる人影が現れた。

 

 

 

「信孝〜、東市に遊びに行こうぜ〜」

 

 手を振りながらこちらに近づいてくる女性は、藤原不比等の長女である藤原妹紅《ふじわらのもこう》。 年は俺と同じく16歳、黒髪短髪の美少女だ。 

 

 この妹紅という少女は、「慎ましい」や「貞淑」という比較的ありがちな女性のイメージとはまるで対極の存在であり、馬に乗って朝堂院に殴り込んだ挙句、その理由が政務を放り出して自分の部屋で決闘を行なった父親と今上陛下に対する制裁」という即刻反逆罪で処刑されてもおかしくない事を仕出かした経験もある。

 

 最も、今上陛下や不比等のおっちゃんには様々な前科があったらしい。

 今回は妹紅を始めとする都の美人たちの湯浴み中の姿を2人で覗きを敢行した挙句、その姿絵を書き写した本を西市の露天で売り捌いたことに対する制裁だったらしく、「またお前らか」という貴族達の冷めた目線を向けられ、多くの貴族や皇族の方々から同情された妹紅はお咎め無しとなったらしい。

 ・・・・・・まだ奈良時代にもなってないけど、もうこの国ダメかもしれん。 間違った意味で未来突っ走ってるよこの国・・・。

 

 

 

「妹紅姉さんも落ち着いてください。 兄さんが怖がってますよ?」

 

 そして、妹紅を窘めているまだ幼いといえる容姿の少年は、妹紅の弟で不比等の次男藤原房前《ふじわらのふささき》。 こいつは俺や妹紅の1歳下で15歳だ。

 

 藤原房前という人物は藤原道長や藤原鎌足といった有名所と比べたら地味な印象だが、房前の系統から藤原道長や奥州藤原氏、西行法師といった後世に多大な影響を与える人物が多数誕生しているので、房前が無事に生き残らないと俺が持つ歴史の知識が全く通用しない恐れがある。

 

 さらに原作キャラである西行寺幽々子に関する情報を見た限り、幽々子は西行法師の娘である可能性が非常に高い。 そのため、西行法師の先祖に当たる房前の早世は、「東方妖々夢終了のお知らせ」と同意義になりかねないという懸念もある。

 そんな事情を差し引いても、個人的に房前には可能な限り長生きして欲しいと願うばかりだ。

 

 

 え? なんで個人的に房前の生存を願っているかって?

 それはな、房前以外の兄弟共及びおっちゃんは揃いも揃ってロクでもない連中ばかりだからさ! いくつか例を挙げると、

 

・長男の藤原武智麻呂《ふじわらのむちまろ》:メ○ボなんて目じゃないレベルで肥満体の藤原家随一のお荷物と呼び声高いダメ人間。 17歳という若さでありながら仕事や運動よりも一日六度の食事と趣味に情熱を傾けるニートの先駆け的存在。 但し、食事に関してはかなり五月蝿く、料理の腕に関しては当代一として尊敬されている。 最も、その絶品料理はほぼ全てが自身の胃袋の中に収まってしまうのが難点だが・・・。

 

・三男の藤原宇合《ふじわらのうまかい》:人を罠にかけることを趣味とするサディストであり、自身の喜びのためならば天皇相手でも平気で罠を仕掛ける危険人物。 いつの間にか作ったのか独自の情報網を持ち、日本国内あらゆる情報のみならず、新羅や琉球、唐帝国、果てはイスラム圏のウマイヤ朝の情報すら何故か保有しており、敵に回したら確実に社会的に抹殺されるであろう末恐ろしい14歳。

 

・四男の藤原麻呂《ふじわらのまろ》:隣にいてもなかなか気づかないレベルで影が薄く、いつの間にか隣にいていつの間にか消え去っている掴みどころの無さ過ぎる野郎。 何気に個人戦闘力では四兄弟トップを誇り、「最早貴族ではなく暗殺者や猛将である」他の貴族や皇族から揶揄されていることに思わず納得してしまう生まれた場所を間違えた13歳。

 

・藤原不比等:大臣としての仕事よりも、自らの筋肉を鍛えることに情熱を向けている貴族のトップとして方向性が間違っているおっちゃん。 日の本各地にいる剛の者達や、完全武装した天皇家の親衛隊を全て己の肉体のみで薙ぎ倒したという謎の伝説が残っている。 さらに、実年齢39歳といういい年のくせに、10代の女子のみを欲望の対象としている生粋のロリコンでもある。

 

 

 ・・・・・・な? 正直房前以外はロクでもない奴ばっかだろう?。 

 

 

 特に宇合の奴はその傾向が顕著で、不比等のおっちゃんを自作の落とし穴にはめた後、「今度は帝・親王専用の落とし穴作ってみるのもありですね」という皇族が聞いたら処刑されそうなことを堂々と公共の場で言いやがったのがつい2日前のことだ。

 勿論、宇合とはその後しっかりと(肉体言語で)説教をしておいたので、恐らく3日間ほどは自重してくれるだろう。

 

 いくら今上帝が残念な人間とはいえ、帝を落とし穴にはめたせいで藤原氏断絶なんてオチは幾らなんでも洒落にならなすぎる。

どうか房前だけはそのまま純真でいてくれよ・・・・・・

 

 

  〜閑話休題〜

 

 

「それで、今日は何を見に行くつもりなんだ?」

 

 妹紅に腕を引っ張られた状態で、俺は妹紅にそう訪ねた。

 

 以前、「西市に掘り出し物があるらしいから、行くぞ信孝!」と言って西市に連行された末、新羅からの渡来品らしい巨大な壺等重さ約250kg分の荷物持ちをさせられた経験があるのだ。

 それ以来何かと理由をつけて逃げ回っていたが、今回は逃げられそうにもないようだ。

 

連行されることが間違いない以上、「今回は自重してくれるか?」という期待を込めつつ妹紅の返事を待っていると、妹紅にしては珍しく言い出しにくそうにしながら口を開いた。

 

 

「最近父上が執心の輝夜姫っていう名前の姫を見に行くんだよ。 どうやら輝夜姫の従者がよく東市に買い出しに来ているらしいから、従者を尾行すれば輝夜姫の屋敷まで案内してくれるだろ?」

「んなっ!?」

 

 妹紅の発言に俺は驚きを隠すことが出来なかった。

 妹紅と輝夜はこの時点では出会わず、およそ1000年後にようやく出会うことになる筈なのだが、既に原作との齟齬が発生しているとはな・・・。 しかし、どうして妹紅はあんなに言い出しにくそうにしていたんだ・・・?

 

(ってどう考えてもおっちゃんのせいだな。 原作では妹紅の父親が輝夜に恥をかかされたことを恨んでいたが、この世界の不比等のおっちゃんでは違う意味で恥をかかされかねないな。 間違いなくストーカー的な意味で)

 

 

「妹紅。 一つ聞くが、おっちゃんがその輝夜姫に求婚をするようになってから今日で何日目だ?」

「・・・確か、今日で26日目だ。 輝夜姫の噂が流れた当日に求婚し始めて、母上に折檻されていたから間違いない」

「そんなに前からか。 おっちゃんよく諦めないな・・・」

「信孝だって知ってるだろ? 私ぐらいの歳の女に対する父上の飽くなき情熱を」

「ですよねー ・・・・・・・・・・・・はぁ」

 

 妹紅の言葉があまりにも予想通り過ぎて俺は思わず天を仰いだ。

 輝夜の噂を一ヶ月以上気づいていないことも、あのおっちゃんがこれから輝夜に対して行うであろう求婚の風景を思い浮かべただけでやる気が削られる。 正直行きたくないと思うのは仕方がないと思う。

 

 だが、ここで断ったら間違いなく妹紅の十八番であるパワーボムが炸裂するだろうから、嫌が応にも引き受けなければならないという現実に目を背けたくなるが、目線を逸らした先にいた房前の姿を見て、一つの名案が浮かんだ。

 

 房前は、その場に居てくれるだけで何故かおっちゃんや宇合の暴走を高い確率で予防することが出来、「歩く心の清涼剤」という異名が他の貴族達の間で呼ばれている(但し本人はそのことを知らない)ため、房前が同行してくれるだけでおっちゃんに対する最強のストッパーとしても、俺の心の安定にも活躍してくれるだろう。

 

「・・・わかった。 折角だし房前も一緒に来ないか?」

「いえ、私はまだ仕事が残っています。 なので二人で行ってはどうでしょう?」

 

 ・・・│心の清涼剤《房前》ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!

 

 

「房前も一緒に来てくれ!! お前が来ないと誰がおっちゃんを止めるんだよ!?」

「・・・流石に公務を放り出して私情を優先するわけにもいかないですから」

「その言葉を│大納言《だいなごん》(大臣とともに政務を議し、大臣不在時はその職務を代行するかなりの重役)のおっちゃんや、他の馬鹿兄弟共に言ってやれよこんちくしょう!!」

 

 くっ! おっちゃんやあの馬鹿兄弟共と血が繋がってるのか本気で疑いたくなるくらいの生真面目だな房前は!! その言葉を大納言のおっちゃんや弟に先を越された武智麻呂、おっちゃんと一緒に政務から逃げ出す今上陛下にも聞かせてやりたいわ!!

 

「そういえばお前、俺よりも年下のくせに既に従五位下│民部少輔《みんぶしょうゆ》(古代律令制において、租税・財政・戸籍を取り扱う役所である民部省の三等官に当たる役職)になってたな。 いいよなお前は順調に昇進してて・・・。

 俺なんて今年の除目で漸く正六位下│左近衛将監《さこのえのしょうげん》(天皇家の警護を司る近衛府のうち、左近衛府の四等官に当たる役職。 主に現場指揮官で護衛、警護の体制を組み立てを任務とした)になったばかりなのに、この義弟と来たら妬ましい限りだ・・・。 ああ妬ましい・・・」

「妬んでどうするんですか・・・」

 

 房前が何か言ってるみたいだが、パルパルオーラに包まれた俺の耳には届かなかった。

 だから、房前と妹紅の会話も聞き逃してしまった。

 

「それに姉上も義兄上と二人の方がいいでしょう? 信孝兄さんと妹紅姉さんは従兄妹なんですから婚儀だって出来ますし、父上もその気ですよ?」

「ばっ!? 何言ってんだよお前!?」

「照れなくてもいいですよ姉上。 姉上が義兄のことを気になっているのは家中の誰もが知ってますから。 (最も、それが恋心であると自覚しているかどうかは分かりませんが・・・)」

「んな!? 私と信孝は兄妹だ! それ以上でもそれ以下でもない!!」

「(・・・やはりまだ恋心と自覚してませんか。 どこかに恋敵がいれば、姉上も素直になれそうなのですが・・・)」

 

 待てよ、原作では輝夜と妹紅は相当険悪な間柄だったが、ここではまだ面識はない。 それなら、しつこく言い寄る変質者・・・・・・もとい、おっちゃんを妹紅が撃退すれば二人の初迎合は好印象になるかもしれないな。

 親友同士の妹紅と輝夜による永夜抄6面でのまさかのタッグ対決・・・、この展開はありかもな。

 

 

 そうと決まれば、妹紅と一緒n「さっさと行くぞ信孝!!!」「ちょっ!! 一緒に行くから! だから右腕を握りつぶしながら引っ張るのはやめろぉぉ!!」

 

「頑張ってください義兄上ー。 姉上も良い報告を期待してます」

「うっさい房前! お前はさっさと公務に戻れ!!」

「俺を見捨てる気か房前ー! 妹紅も早く俺の腕を離してくれぇぇぇ・・・・・・!!」

 

 

 ・・・・・・輝夜と会う前に俺の右腕が天寿を全うしそうです。

 誰かこの怪力暴走少女を止めてください(泣)




作者は基本的にプロットは作らず、思いつくままに直接文章を書き込んでゆくタイプです。
なので、最後の見直しというのをすることはほぼ無いので、表記の間違いや誤字が所々見つかるかもしれません。

可能な限り正確に書き込みをしますが、発見した場合は情報を是非ともお願いいたします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三話 現実逃避したくなることだってある

原作キャラの口調全然分かんねー!!!
たとえ原作と違ってても、そこは生温かい目で見守っていてください。


  Side 信孝

 

 妹紅の力業による強制連行・・・もとい同行した俺だが、東市において輝夜姫の従者らしき男の姿をすぐに見つけることが出来た。

 その従者を背後から尾行した結果、都からやや離れた郊外ある輝夜姫の屋敷にたどり着いたのだが、そこには既に先客がいた。

 

 

 

「今日こそ輝夜姫に会わせろ!! 今日の俺は昨日までの俺とは違う! 今回は、この俺がこれ以上のものは出来ないというほどの会心の出来の和歌が出来たのだ! これを姫に渡すまで俺は決して此処をどかぬわぁ!!!」

「何度も言っているでしょうが大納言様!! 姫様への贈物は我々が責任をもってお渡ししますから、返歌は後日ということで今日のところはお引き取りくだされ!!」

「黙れぃ!! 俺の贈物をお主らは処分する腹積もりであろう! そのようなことは俺が決して認めぬわ!!」

「くっ・・・!  者共、出会え、出会えー! この変人・・・もとい大納言様を屋敷の外に丁重に送り届け・・・いや、藤原邸へ叩き返せぃ!!」

『応っ! 皆の者、今日こそこの変質者を叩き返すぞ!!』×多数

「無駄だぁ!!! その程度の人数で、この藤原不比等が引き下がると思うたかぁ!!!」

 

 

 

 

「・・・・・・なぁ妹紅? さっきの従者が入った屋敷はここで合ってたよな?」

「非常に残念だが、間違いなくこの屋敷だ。 最近位の高い貴族が何度もこの屋敷に出入りしてると都中の民達が噂していたからな」

「そうか…。 それなら、あそこで無駄に熱い闘気を出しながら輝夜姫に会おうとしている俺たちがよく知っている顔をしたおっさんは誰だ?」

「………人違いだ!」

 

 

 その先客は、〇岡〇造並に熱いオーラを出しながら屋敷の警護兵相手に睨み合いをしている変態・・・もとい不比等のおっちゃんだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        第三話 現実逃避したくなることだってある

 

 

 

 

 

 

 

 

「者共、決して一人で当たるな!  半数は門の守備を! もう半数はこの変質者を二重に囲み一気に畳み掛けるぞ!!」

「ぬぅ…、あくまで俺の邪魔をする気か!! ならば実力行使よ!!」

 

 

 警備兵のうち半数にあたる20名が不比等のおっちゃんを囲み、一斉にかかろうとした瞬間、おっちゃんの背後にどこかで見たことのある吸血鬼とそのス○ンドが現れた。

 そして・・・・・・、

 

 

 

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァっ!!!!」

『バッ・・・・・・馬鹿なっ・・・・・・!?』×多数

 

 

 

 そのまま、これもまたどこかで見たことのある拳の連打により、周囲を取り囲んでいた警備兵を纏めて蹴散らした。

 

 

 

「・・・なぁ妹紅、今のおっちゃんの攻撃見えたか?」

「・・・私には全ての拳が同時に現れて、20人の警備兵が一瞬にして倒されたようにしか見えなかった」

「相変わらずあのおっちゃん何者だよ・・・? 何で20人の精強な警護兵相手に瞬殺なんて真似ができるんだ・・・?」

「きっとあの無駄に鍛え上げた筋肉のおかげじゃないのか?」

「そうか…」

 

 

 確かに、おっちゃんは見た目からは決して想像できない程の筋力の持ち主だ。 見た目は軽自動車なのに、ジェット機のエンジンを積んでいるかのような性能を誇り、それが正常通りに稼働していると言えば、どれだけアンバランスな状況かは想像出来るだろう。

 

 

 

「甘い甘い甘い!! その程度ではこの不比等の熱く燃え滾った魂は止められぬわぁ!!!」

「くそっ! やはりこの程度の人数では抑えることは叶わぬか!! 屋敷にいる全警備兵を呼べ! 総員でこの変態を取り押さえるぞ!」

『応っ!!』×多数

「クハハハハハハハ!! 貴様らを蹴散らすことにも最早飽きた! 今日こそ姫のご尊顔を拝謁出来るとは、実に気分が良い!! これこそ将に、最高に『ハイ!』ってやつだアアアアア! アハハハハハハハハハーッ!!」

 

 

 

 

 …変人だと常々思っていたが、ついに未来からの怪電波でも受信したのかあのおっちゃんは?

 今の台詞は、どう考えても例の吸血鬼(第3部VER.)のものです本当に(ry

 

 

 

 

 その後、おっちゃんは増援も併せて60人の警護兵相手に暴れまわったが、騒動を聞きつけた今上陛下(輝夜姫騒動のせいでおっちゃんと対立中)によって派遣された麻呂の手によって取り押さえられ、そのまま牢獄へと連行されていった。

仮にも父親なのに、そんな扱いをして良いのだろうか麻呂よ・・・?

 

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・さて、今なら警備兵に見つからずに屋敷に潜入出来るだろう。 裏口から回って行くぞ妹紅」

「あっ、待てよ信孝!」

 

 

 

 

  信孝 side out

 

 

 

 

 

  side 輝夜

 

 

 

 

「やっといなくなったわね・・・」

 

 

 

 またあの暑苦しい人(……確か藤原不比等って名前だったかしら?)がやってきた。

 

 もう1ヶ月近く毎日来ているのに、よく飽きないわね。 これも私の魅力のなせる業かしら?

 でも、幾ら何でもあれは無しだわ。

 確かに、あそこまで一途に思われるのは女としては嬉しいものだし、身分も相当高い上、彼の雰囲気から察するに悪人ではないと思うわ。

 

 

 でも、あの暑苦しさのせいで全てを台無しにしているわね。

 あれさえ無ければもっと言い寄る女だっているでしょうし、私も興味を持てたかもしれないのに・・・ 尽く残念な男ね。

 

 

 

 

「あーもう! 何で私に求婚してくる連中は俗物か変人しかいないのよ!! 私だってもっと普通の恋愛をしたいのに、どうしてそれが分かってくれないのよ!!

 それに、噂の姫だからという理由で、簾の中から一歩も出ずに、誰もが見惚れるような絶世の姫のように振舞うのは退屈だし疲れるのよ! 誰か私を外に出しなさいよー!!!」

 

 

 

 

 今、誰もこの近くにいないのをいいことに、仰向けに寝転がりながら思いの限りを叫んでみた。

 大声出すことは気分がすっきりするとよく言われているけど、確かにそのとおりね。

 

 

 

 だけど、今回に限ってはそれは失敗だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「多分、ここが輝夜姫のいる場所だった筈だ。 こう言う姫っていうのは、一番奥まった大きな建物の中にいるってのが相場d・・・」

「どうしたんだよ信孝。 中に何があt・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……見知らぬ同い年くらいの男の子と女の子が目の前にいた。

 しかも仰向けになって叫んでいたから、彼等の目には私の下半身が丸見えというわけで…

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・み」

「「み?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見られたぁぁぁぁぁ!!!?」

 

 

 

 

 

 まさか私のイメージを崩されるどころか、大事な場所まで異性に見られるなんて!!

 何としても口封じしないと・・・! 特に男の方は念入りに!!

 

 

 

 

 

「イイ!? 今見たものに関しては決して口外しないこと!! 黙ってないと承知しないわよ!?」

「うごっ!? ・・・・・・分かっ・・・た! 分ったから・・・首を・・・絞める・・・の・・・だけは・・・やめて・・・くれ・・・・・・!」

「え……!? あっ! ご、ごめんなさい!」

 

 

 私は慌てて手を離した。 危うく殺人犯になるところだったわ・・・。

 見たところ、この二人組は何処かの貴族の子息だろう。 流石に貴族を相手に殺人を犯したら、処刑されることは免れられないでしょうね。

 首切られた程度では私死なないけど・・・

 

 

 

「・・・」

「・・・」

「・・・(氏―ん)」

「・・・(きっ、気まずい)」

 

 

 

 少年の方を絞め上げたせいで、何とも言えない空気が部屋の中を覆った。

 

 この状況を打開しようにも、そこで気を失っている少年の意識が戻ってくるのにまだ時間がかかるとだろうから、その隣にいた少女に事情を聞こうと思い彼女の方へ顔を向けた。

 

 

 

「それで、勝手に人の部屋に入ってきたあなたたちはいったい何者かしら?」

「・・・私は、藤原大納言不比等の長女で藤原妹紅だ。 そこで転がっているのは、私の従兄の藤原左近衛将監信孝だ。 私達のことは呼び捨てで読んでくれても構わないぞ」

「そう、藤原妹紅と藤原信孝と言うのね。 既に知っているだろうけど、私がこの屋敷の主の蓬莱山輝夜よ。 私のことは輝夜と呼びなさい。 それにしても、貴女達があの暑苦しい藤原不比等の長女と甥t・・・・・・・・・・・・え?」

 

 

 

 

 

 ―・・・ポトッ・・・―

 

 

 

 

 

 

 

 お互い自己紹介を済ませたところで、聞き逃せない言葉が聞こえ、思わず手に持っていた扇を取り落としてしまった。

 

 ・・・いや、万が一にも私が勘違いしたかもしれない。 もし間違いだとしたら、あんな暑苦しいおっさんと同類扱いするという、妹紅たちに対してかなり無礼なことを言ったことになるわ。

 

 

 どうか間違いであって欲しいと願い、私はもう一度妹紅に問いかけた

 

 

 

 

「・・・・・・不比等の一族? 貴女達が・・・?」

「・・・・・・言いたいことはよーーーーーく分かる。 だけど、私のと信孝は間違いなく父上・・・不比等の血縁者だ」

 

 

 

 ・・・どうやら私の聞き間違いではなく、本当に不比等の一族のようね。

 しかし、あの変人とあなたたちでは全く共通点が見えないんだけど?

 2人ともどこか温和な気を纏っていて、不比等みたいな暑苦しい熱気を纏っていないみたいだし…

 

 

 

 

「まぁ、その気持ちは俺もよーーーーく分かるが本当だ。 因みに、藤原家はおっちゃんの二男の房前以外はどいつもこいつもロクでもない奴ばっかだぞ」

「あら、いつの間に目が覚めたのかしら?」

「俺の首を絞め上げた本人がそれを言うか・・・? 実はずっと二人の会話は聞こえていたさ。 ただ、起き上がるだけの力が入らなかったから気絶したふりを続けてただけさ」

 

 

 さっきまで伸びていた少年・・・いや、信孝が起き上がり、私達の間に割り込んだ。

 別にさっきの会話は聞かれて不味いものではないけど、貴方の発言のせいで、隣にいる妹紅から危険な雰囲気が漂っていることに気づいているのかしら・・・?

 

 

 

 

「ちょっと待て信孝、その話だと、ロクでもない奴らの中に私も入ってるってことだよな?」

「待て妹紅、お前はロクでもない奴じゃねぇ。 ただ筋肉と絞め技が人外染みているだけのごく普通な女性だ」

「それ絶対私のこと蔑んでいるよな!?」

「蔑んでなんかいない! 俺達皆(房前を除く)が、女子格闘技御前大会にお前を推薦しようと思える位の才能ある闘士だと褒め称えているnって痛い痛い!! 妹紅、その関節はそっちに曲がらな…!」

 

 

 

 信孝のさらに墓穴を掘る発言により、この部屋で妹紅による一方的な蹂躙が展開された。

 しかし、アレの血を色濃く受け継いだ子供・・・、どう考えてもロクでもない奴しか想像できないわね。

 それに、この場で繰り広げられる虐殺劇場を見る限り、貴方たちも立派に│あの変態《藤原不比等》の血を色濃く受け継いでいるわよ。

 

 それ以前に、この部屋をあまり血で汚さないで欲しいのだけど・・・。

 

 

 

 

 それでも、この二人なら他の俗物達と比べてもまだ(?)まともそうだし、上手く交渉すれば、私の遊び相手になってくれるかもしれないわね。

 彼らの話を聞く限り、他の藤原家の人は揃いもそろって変人ばかりだから、他に選択肢がなかったとも言うけど、少なくとも退屈な日常からは解放されることは間違いないわね。

 

 

 

 

「・・・そろそろいいかしら?」

「ああ、済まないね輝夜。 なんとかこの馬鹿を黙らせたから」

「(全身に返り血を浴びた状態で笑顔で来られても困るのだけど・・・)いえ、その件はまた後でいいわ。それより、貴女達に一つ頼みたいことがあるのだけど、聞いてくれるかしら?」

「ん? 何だ? 私にできる程度なら別に構わないぞ」

「・・・私の遊び相手になってくれないかしら? 今までずっと求婚の相手ばっかしてて退屈だったのよ。 それに、お爺様もお婆様も私を外に出してくれないせいで、外の世界というものを何も知らないの。 貴女達に是非案内してもらいたいわ」

 

 私の話を聞いた2人は、互いに顔を見合わせて相談を始めた。

 ・・・何時の間に復活したのかしら信孝は? さっきまでとてもじゃないけど直視出来るような姿じゃなかったのに・・・。

 

「ん~、どうするよ妹紅? 俺は仕事がない限りは引き受けても構わないと思うが・・・」

「私? 別にいいんじゃないか?」

「そっか。 いいぜ姫さん、俺達が姫さんの友人になろうじゃないか」

「え・・・、友人?」

 

 友人・・・・・・今までの長い生の中で、私は顔見知りと呼べる者は数多いたけど、「友」と呼べる者など1人もいなかった。

私の周りにいたのは、従者と親族と教師のみであり、その中でも私と対等の立場で付き合えたのは教育係であった永琳だけ・・・。

 その永琳も表向きは教育係であり、完全に友と呼べるような関係ではなかった。

 

 

 

 そんな私にとって、「友」になろうなんて言われたのは初めてのことであり、どう反応すればいいのか分からなかった。

 

 

「本当にいいのかしら? 私と友達になって? 私は今まで『友』と呼べる人がいなかったから、どうやって付き合っていけばいいのか分からないのよ?」

「その程度障害にもならねえよ。 こんな美人な姫様と友達になれるなら、俺としては嬉しい限りだからな。 分からないなら、これから手探りで『友達との付き合い方』を実地で学べばいいじゃないか。 まだまだ先の長い人生、死ぬその時まで友達でいてくれる奴がいることは幸せだぜ?」

「そう・・・かしら?」

「そうそう、信孝の言う通りだって。 輝夜なら友達なんてその気になれば直ぐに出来るって。 私が保証するからさ(にぱー☆)」

「なっ・・・//」

 

 

 

 

 な、なんて笑顔するのかしら妹紅って・・・!?

 この私がここまで動揺するなんて、こんな気持ちになるのは初めてだわ。 この思わず守りたくなるような笑顔・・・・・・

 

 

 

 

 これが・・・、これが「保護欲をそそる笑顔」というものなのね永琳!!

 

 

 

 それに、信孝の方もさっきのスプラッタからは想像できない程の爽やかな雰囲気を纏っているわ。

 きっと、この2人なら「まだ知らない私」を知ることが出来るわね。

 

 

 

「(…流石だな妹紅! 梨花ちゃんスマイルは輝夜には効果抜群だったのか! 幼女の笑顔は何者にも勝るとここで証明されたな。 妹紅は幼女じゃないけど・・・)」

「・・・・・・信孝」

「ん? どうした妹・・・紅!? な、なんでそんな怖い笑顔してるんデショウカ?」

「そろそろ日も暮れるから、いい加減帰るぞ。 ほら、さっさと逝くぞ?」

「ちょっ、それ字が絶対違うってイタイイタイ!!! さっき握り潰されそうになった右腕を握るのはやめてえぇぇぇぇ!!!! 大体妹紅が怒るような出来事なんてあったk「五月蝿い」・・・ハイ」

「・・・(何で輝夜は信孝に向けてあんなに穏やかな笑みを浮かべてたんだよ! 輝夜自体は良い奴だけど、何となくあの笑顔は気に入らない!!)」

「あ・・・」

 

 

 

 行っちゃったわね。 出来れば、もう少し2人と色々な話をしたかったのだけど・・・。

 

 

 

「ま、その内またやってくるわよね」

次に会うのを期待ってことにしておこうかしら。

その時にはもっと彼と親密になってみようかしら♪ 妹紅をちょっと揶揄ってみるのも一興ね。

 

 

 

 

 ・・・・・・処で、この血まみれになった部屋の片付けどうしようかしら? 請求書くらい藤原家宛に書いておくべきかしらね・・・。

 

 

  輝夜 side out

 

 

 

 

 

 

  Side 信孝

 

 

  ~藤原邸にて~

 

「信孝ぁ、あれほど私のことを脚色するなって言っただろうが!!」

「分かった! 分かったから右腕ばっかり狙って変な方向に曲げるのはやめてくれ!!」

 

 妹紅の怒りが何時もよりちょっぴり多めにブレンドされた折檻は、思ったよりも体にダメージが残り、俺は右腕を骨折(全治1ヶ月)し、しばらく屋敷の中に引き篭ることとなった。

 あれだけ筋力があれば、妖力なんかに頼らず、己の肉体だけで幻想郷の妖怪を圧倒したり、1人で異変を起こすことも出来るんじゃないかと思わずにはいられない。

 

 

 ・・・誰かこの暴走する従妹を止めてください。 それだけが、俺の願いです。

 

 

「・・・まだ変なこと考えているみたいだな信孝?」

「滅相もございまs「問答無用!!」ぎにゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 ・・・どうやら右腕の怪我の完治がさらに遅くなりそうです。




卒論も書かないといけないのに、こんなことしていて大丈夫か?
<大丈夫じゃない、問題だ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四話 決して信用ならない男。 その名は藤原宇合

最近血圧が上がりすぎて戦々恐々している日々です。
まだ20代なのに高血圧寸前はマズイと思いました。

・・・三食マクドナルド生活が響いたのだろうか?




※追記

今更な感じがしなくもないですが、この小説には史実部分にもいくつか変更点や独自設定が含まれています。

いくつか例を挙げますと、

①藤原4兄弟および不比等の年齢の変更

 本来、不比等の次男房前と三男宇合の間は13歳、武智麻呂と房前・宇合と麻呂は其々1歳離れています。
 ですが、この小説においては、武智麻呂・妹紅・房前・宇合・麻呂が其々1歳差となっています。
 そして妹紅も、一番情報不足で扱いやすい不比等の五女をそのまま武智麻呂と房前の間に移動し、史実では不比等の長女であった藤原宮子より年上として扱っています。



②官位の変更

この第一部にあたる時代においては、天武天皇が定めた「飛鳥浄御原令」に基づいた官位なのですが、浄御原令の官位は専門的に勉強していない自分にはよく分からない内容だったので、代わりに別のものを持ってきました。
具体的には、不比等やその孫の藤原仲麻呂が編纂・施行した「養老令」をベースとして、10世紀の「延喜式」に記載されているいくつかの令外官(当初の令には定められておらず、後世新たに作られた官位)を採用しています。
 ついでに、第一部の舞台である695年頃の史実の藤原不比等はまだ中級役人であり、697年の文武天皇擁立の功績と藤原宮子入内によって公卿への道を歩み始めますが、この小説では701年に任官される大納言にすでになっています。



これからも、辻褄を合わせるために史実をいくつか変更することも大いにありえますので、そこは留意していただきたいです。


  Side 信孝

「さて信孝、覚悟はいいか?」

「ゴメンナサイゴメンナサイ申し訳ありません妹紅様。 だからそのお怒りを鎮めてください・・・」

「ゆ・る・せ・る・わ・け・無いだろうがこの馬鹿野郎がーー!!!!!」

「ぶへらっ!?!?」

 

 妹紅の強烈なアッパーを食らった俺は、その一撃で意識を刈り取られた。

 そもそも、どうしてこんな状況になってしまったのかと言うと、今からおよそ1年近く前の話に遡る。

 

 

  ~約1年前 藤原京~

 

 その日、俺は宇合に連れられて東市に買い物へやって来ていた。

 

「今回は思っていたよりも掘り出し物が多かったな宇合。 まさか50年前の乙巳の変(645年に蘇我入鹿・蘇我蝦夷等が暗殺された事件。 大化の改新として有名)の際に失われたと言われていた『天皇記』と『国記』の写本が現存しているとは思わなかったな。 後でおっちゃん経由で帝に献上するように言っとかないとな・・・」

「ほぅ、兄上はそんなものを見つけたのですか。 私も目的であった『親魏倭王』の印の発掘成功と、『魏武注孫子(三国志に登場する曹操がそれまで様々な種類が存在した『孫子』の本編十三篇をまとめ上げたもの)の原本』を露天で手に入れたので満足ですが」

「へぇ~・・・、ってそんなのまであったのかよ!? と言うかお前、いつの間に発掘なんてしてきたんだよ!?」

「・・・知りたいですか?」

「いいです」

 

 

 コイツの話に乗ったら、対価としてとんでもない事を要求されることは間違いないだろう。

 こいつの話に乗って痛い目にあうことは幼い頃だけで十分すぎるほど体感したから、今更もう一度味わうなんて真似はしたくない。

 

「しかし、毎度のことながら、藤原京の市のハイスペックぶりには毎回驚かされるな」

「確かにそうですね。 この│倭《ヤマト》のものではないものも頻繁に見かけますし・・・」

 

 

 

 前回、房前・麻呂・妹紅と一緒に西市へ来た時には、キ〇ストの処刑の際に使われたらしい釘・・・つまり『聖釘』なんて物まで売られていた。

 もしこれが最初のキリスト教伝来なら、一気に日本史の教科書が改訂されること間違いなしだろう。

 

 

 

 

 

 そして藤原京以上に驚かされることが、宇合の異常なまでの才能の高さだ。

 

 コイツは以前、何と御年10歳で遣唐使として唐へ行ったことがあるのだが、その時に「史記」「三国志」「晋書」「漢書」「孫子」「呉子」「論語」等、凡ゆる書物を読破し、それを翻訳するという作業を僅か2年でやり遂げるというハイスペックぶりだ。

 

 

 そのせいなのか古物収集や遺跡発掘に興味があるらしく、現在はは古の王国である「邪馬台国」の発掘作業を主導しているらしい。

 今回は、どこから発掘してきたのかは知らないが、「親魏倭王」の印綬を発掘して持ち帰ってきたらしい。

 

 

 ・・・こいつの手で日本古代史が解明されても、後世の人からしたら「また宇合か」で済まされそうだな。

 

 

 

 

 最も、一番の興味が「他人に罠を仕掛けること」にあるせいで、今上陛下からは「史上最高の『才能の無駄遣い』」という全く嬉しくない二つ名を貰っているがな。 どこまでも残念な野郎だよ本当にコイツは・・・

 

 

 

 

 

 ・・・話を戻そう。 宇合の武勇伝の話に入ると1話で収まりきらないからな。

 買い物の中身以外は平穏に終わり、屋敷への帰路へつこうとした時、唐突に宇合が俺を呼び止めた。

 

「兄上、少々よろしいですか?」

「・・・何だ宇合?」

「・・・兄上は今夜予定は空いてらっしゃいますか?」

「ん? 今夜は特に用事は無かった筈だが?」

「それなら、今夜共に藤原宮の内裏行きませんか?」

「はい!? 内裏!?」

 

 

 

 こいついったい何考えてるんだ!?

 

 藤原宮とは、藤原京の中心部にある役所や天皇の住居の総称であり、その中でも内裏は天皇家の居住地のことを指している。

 

 

 そんな最重要地区に無断で行くなんざ、いくら俺が近衛府の役人だからといっても、おっちゃんみたいに今上陛下と殴り合いするのが日課となっているような限られた異端児でもない限り、不敬罪で即刻処刑されてもおかしくないことなのだ。

 

 

 だが、ここで一つ重大な疑問があることに俺は気がついた。

それは、宇合が俺に対し単に「時間が空いているか?」と聞くこと自体、今までに一度も無かったにも関わらず、今回何故そのように話を切り出したかについてだ。

 

 普段のこいつだったら、「今上陛下を落とし穴に落とすため、朝堂院の何箇所かを掘りたいので今夜手伝ってください」と、さも当然のように言い出すので、何故理由を言い出さないのかを図りかねていたのだ。

 それとも、あの宇合が迷うような事柄なのか? だとしたらそれこそ大問題だ。

 

 

 だが、黙っていては何も分からないので、せめて理由だけでも宇合に聞き出さなければならないと思い、俺は疑問をぶつけることにした。

 

「何故だ? お前が理由を語らないということは、それほど重要な案件なのか? それとも内密にするよう誰かに頼まれでもしたか?」

「・・・ご明察です。 実は兄上に会いたいという者がおり、今夜引き合わせることが出来ないかと考えた次第でございます」

「・・・ちょっと待て、内裏にか?」

「左様にございます」

 

 ちょっと待てよ・・・、内裏にいる人物の中で、こんな時間帯に俺と会いたいと思うような人物はいないはずだ。

 

 

 そもそも俺は殿上人ではないので、一番諸侯と顔を合わせる機会の多い今上陛下とすら、おっちゃんの暴走時以外で語り合う機会はそれほど多くないのだ。 まして、それ以外の人物に至っては顔を合わせる機会すらあったかどうかといったところだ。

 

 

 まぁ、誘ってきたのが宇合の時点で怪しいことこの上なく、俺の脳内では「これは宇合の罠だ!!」と最大級の警報が鳴らしっぱなしであり、出来ることならこのまま屋敷に帰ってすぐに寝たいところだ。

 だが、ここでこいつの誘いを断ると次はどんな脅迫で承諾させようとしてくるか分からないから、下手な返事が出来ない。

 つまり、罠である可能性が高いが、それでもこの誘いに乗らなければならないという歯痒い状況なのだ。

 

 

「・・・はぁ、分かった。 今夜行かせてもらうぞ」

「ありがとうございます兄上。 これで、あの方も喜ばれましょう」

 

 

 だが、後々のことを考えた場合、ここで俺の脳内警告に従っていたら、今後東方世界に深く関わることなく一生を終えていたかもしれない可能性が高く、そう思うと承諾してよかったかもしれない・・・。

 

 

 ~深夜 藤原宮内部 内裏~

 

 

 夜警の衛兵たちの監視の目を潜り抜け、内裏の入口近くまでやってきた俺は、茂みの裏に隠れていた宇合と合流を果たした。

 

 

「よくいらっしゃいました兄上」

「あの監視の目を逃れながらここに来ることは流石に骨が折れたがな・・・。 それで、態々こんな時間帯に会いたいなんて言ってきた奇特な人物は何処にいるんだ?」

 

 何故か宇合は、この件に関してだけは「それは当日までのお楽しみですよ」とはぐらかし続けていたが、来たからにはその人物の正体を聞かなければならないだろう。

 

 唯でさえ内裏に無断で潜入したことがバレたら、俺の死罪は免れられないのだ。 まして、「宇合の案内」ということまでバレたら「藤原家絶家」という最悪のシナリオになりかねない。

 

 

 宇合に乗せられてここに来た俺も大概だが、理由もなくここに来させられた上死刑になることだけは勘弁願いたい。

 

 

 

 

 さて、一体何処に連れて行かれるのy「麗景殿《れいけいでん》です」・・・・・・へ?

 

 

 

 

‥‥‥‥‥‥‥・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・!?

 

「はあ!? 麗景殿だと!?」

 

 今こいつなんて言いやがった!?

「・・・もう一回言ってくれ宇合! どこに潜入すると言った!?」

「ぶっちゃけて言いますと、天皇家の一族や女御が住まう屋敷です」

「何でよりによってそこなんだよ! 一番行ってはならない一角じゃないか!!」

 

 当然俺は宇合に詰め寄った。

 

 麗景殿とは、天皇家の親王や内親王、女御や皇后といった天皇に非常に近い人物が住まう屋敷の一つである。 平安時代には「七殿五舎《しちでんごしゃ》」の「七殿」の一つとされ、承香殿《じょうきょうでん》と共に最高位の弘徽殿《こきでん》に次ぐとされる非常に格式が高い屋敷なのだ

 

 そんなところに侵入し、大逆罪で捕まった上斬首は勘弁だぞ!?

 

 

 

 

「実は、その屋敷にいるある方から『兄上を今日の晩自分のところに連れてきてほしい』と頼まれたのです」

「・・・待て、そもそも何でお前がその謎の人物と知り合いになっているんだよ?」

「私が帝や公達用の罠制作のために藤原宮に潜入した際、偶然出会った侍女を通じてその方と知り合いとなったのです。 さらに言えば、私が何回か衛士に気付かれぬように、彼女や他の侍女を市まで連れて行ったこともあります。 恐らく、その際に兄上のことを見かけたのでございましょう」

「お前まだそんなこと続けてたのかよ!?」

「それが私に課せられた宿命だからです(キリリッ」

「だめだこいつ、早く何とかしないと・・・」

 

 

 俺は改めて、こいつを野放しにすることの危険性を今一度再確認した。

 

 出会った経緯もそうだが、そんな宮廷の最奥に仕えているような身分の高い女性を、都の端で治安もあまり良くない地域に連れ回すとかどうかしている。

 

 やはり藤原家滅亡の引き金を引くのはコイツか!!

 

 

 

 

 だが、ここまで来た以上ここで引き返した場合、藤原家滅亡の前に俺の命が潰えることは間違いないだろう。

 

 そのためにも、一刻も早く顔合わせを終わらせ、直ぐ様ここから立ち去らなければならない。

 

 

 

「・・・ここまで来たら帰るわけにもいかないだろう? さっさと用事を済ませるぞ」

「分かりました(計画通り・・・・・・!)」

 

 

 

 

 

 何だろう、なんか背中が寒い・・・・・・。 やっぱりここに来なければよかったか・・・?

 

 

 

 

 

  ~少年達移動中~

 

 

 

 

 

 

 

 

「此処が彼女の寝室です」

「ここか・・・」

「では、私は主に取り次いでまいりますので、兄上はここで少々お待ちを・・・」

 

 そう言い残し、宇合は屋敷の中へと消えていった。

 

 

 宇合の姿が消えたことを確認した俺は、改めて連れられて来た麗景殿の姿を確認した。

 

 

 

 そこは、流石に内裏の中でも弘徽殿に次いで格式高い屋敷と呼称されるに恥じない大きさの寝所だった。

 

 現代の大豪邸と比較しても劣らないほどの大きさと、彼方此方に点在する金銀で出来た飾り物や唐や新羅、西域からの渡来品の数々がこの屋敷の価値を高めているのだろう。

 

 ここに居るということは、この屋敷の主か主人に仕える女官か使用人のどれかだろう。 今の麗景殿の主が誰だか覚えていないから、今一正体が掴めない。

 

 ・・・近衛府の役人として内裏の屋敷の主を覚えていないのは致命的だと感じた奴、出来れば黙っていてほしい。 俺もヤバいと自覚しているんだ・・・。

 

 

 ・・・・・・・・・次の試験落ちるかも・・・

 

 

 

 それから10分程経ち、漸く宇合が姿を現した。

 

「お待たせしました。 用意が整ったので、どうぞお入りください」

「・・・お前、これだけ見ていると貴族じゃなくて使用人にしか見えないぞ?」

「このような場所に平然と入り込むことも、我々の業界では求められる技能の一つですぞ兄上?」

「何の業界だよ・・・」

 

 相変わらず、宇合の発言は訳が分からないことが多いな。 「気にしたら負け」とは、おそらくコイツの発言のことが一番良い見本となるだろうな・・・

 

 そして、宇合に案内された俺が用意された部屋に入ると、そこには俺と同じくらいの年齢と思われる1人の少女が座して待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「藤原信孝様、本日はよくぞいらっしゃいました」

 

 

 美しい、それが三つ指を立てて俺を出迎えた彼女に対する第一印象だった。 前世でもここまでの美少女はまず見ることはなかった。

 やや薄い色素の肌と艶やかな腰近くまである黒髪、そして俺とほぼ同じ年齢とは思えない起伏に富んだ体格は素晴らしいと思えた。

 

 ただ、彼女の顔はどこかで見たことがある気がする。 それが何処なのかが思い出せないのが歯痒い・・・

 

 

 

 

「君が俺を呼んだ女性なのか?」

「はい。 私は天武天皇《てんむてんのう》が長子、高市皇子《たけちのおうじ》の庶子、上白沢慧音と申します。 どうぞお見知りおきを・・・」

「なっ・・・!?」

 

 

 

 俺は辛うじて驚きの声を最小限に抑えることが出来た。

 

 高市皇子と言えば、20年程昔の壬申の乱《じんしんのらん》で天武天皇と共に戦った皇子だ。

 

 

 

 現在は、不比等のおっちゃんよりも上の官位である太政大臣に任命され、自身の義母である今上陛下を補佐する天皇に次ぐ権力者だったはずだ。

 現に、朝議の度に殴り合いを展開する今上陛下と不比等のおっちゃんの仲裁を行うことが出来る数少ない人材なのだ。

 

 しかも、その娘が慧音とは・・・。 歴史が変わりすぎて、最早ご都合主義すぎるだろこの展開・・・。

 

 

 

 

 これは後に聞いた話となるのだが、今から20年近く前に高市皇子が視察でとある豪族の視察に訪れた際、偶然襲った嵐を避難するためにその地の豪族であった上白沢家の屋敷に泊まることになったらしい。

 

 

 その際に世話を焼いていた一人娘と一夜を過ごした結果、その娘は一回で見事に妊娠し、慧音を産んだそうだ。

 そして、娘が自身の子を生んだと知った高市皇子は、その娘を自らの娘と認めたうえで彼女を引き取り、他に子がいなかった上白沢家に養子として送ることとなったらしい。

 

 

 それ以来、高市皇子の娘という手札を手に入れた上白沢家の家運は急激に上昇し、かつては役人の端くれしかなかった上白沢家が、現在では正四位上参議という高い官位を賜る家となるまで発展したそうだ。

 

 

 そして慧音は、「花嫁修業」という名目で宮中に送り込まれたのだが、どういう訳か今上陛下(持統天皇)と皇太子殿下(後の文武天皇)に大層気に入られることとなり、2名の駄々っ子(1人はもう老婆と言ってもおかしくない年だが・・・)が「慧音とすぐ会えるようにしたい!」とごねた結果、天皇の妻でも内親王でもない臣籍の人間にも関わらず、「麗景殿」を与えられることとなったらしい。

 

 

 

 

 ・・・慧音が可愛いことは認めるが、酷い職権乱用だ。

 

 前にも言ったが、もうこの国ダメかもしれん・・・

 

 

 

 

 

「? どうしました?」

「っ! ああ済まない、ちょっと考え事をね。 しかし、どうして君は俺をこんな場所へ呼んだのだ? 確か君と俺は正式に対面したことはなかったはずだが・・・?」

「はい、実は以前宇合様に連れられて市へ行った際に貴方様を見かけましたことはございますが、このような立場となって以降の正式な対面は今回が初めてでございます」

「・・・そう言えば、宇合の奴もそんなこと言ってたな。 だとすると、尚更俺を呼んだ理由が分からないのだが?」

 

 

 俺がそう言うと、彼女は一呼吸おいて、

 

 

 

「単刀直入に言います。 私はあなたのことをお慕いしております」

 

 

 

 

‥‥‥‥‥‥‥・

‥‥‥‥‥‥

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

what!?

 

 

 

 

 

「はいぃぃぃぃ!?」

 

 

 

 

 

 ちょ、まさかの告白!?

 

 ・・・落ち着け、こういう不測の事態のときは素数を数えるんだ。 ○ッチ神父の教えにもそうせよと載っていた筈だ!

 

 

 1,2,3,5,7,11,・・・・・・・・・って1は素数じゃねぇぇ!!

 

 

 

「あの・・・・・・、信孝様?」

「ははははい!? なんでせうか!?」

 

 

 

 

 混乱している俺をよそに、彼女の告白は止まらない。

 

 

 

 

「・・・・・・私は、今まで誰かに対して恋といったものを感じたことはありませんでした。 無論、恋愛による結婚など、家柄や思惑に縛られるこの時勢では厳しいことであるということは百も承知です。 ですが、私はこの思いを否定したくはないのです! それに・・・」

「それに・・・?」

 

 

 

 そこで、慧音は何故か一呼吸を置いた。 涙目となったその姿は、まるで何かを堪えているかのような悲しい雰囲気を漂わせていた。

 そして意を決したのか、閉ざされた口が再び開いた。

 

 

 

 

「・・・・・・父上はもう長くはありません。 父上の最後の望みでとして、初孫の顔を見せてから逝ってほしいのです・・・」

 

「なっ・・・!? 高市皇子様が・・・!?」

 

 

 

 

 

 俺の記憶が正しかったら、高市皇子はまだ40歳を少し超えたくらいの年齢のはずだ。

 史実でも数え年で43歳という若さで薨御しているが、もう死期が近いなんて幾らなんでも早すぎる。

 

 

 

 

 ・・・あれか? 今上陛下と不比等のおっちゃんが巻き起こす騒動で心労でも溜まったのか!?

 だとしたら、詫びを入れた上でおっちゃんの寿命を切り崩してでも長生きしてもらわなければならない!!

 あのおっちゃんはどう考えても史実以上に長生きしそうだから、寿命を10年か20年くらい分けても普通に生き残りそうだからな・・・

 

 

 だが、高市皇子様の願いを叶えたいという慧音の想いも分からなくはない。

 

 しがない豪族でしかなかった実家を支援し続けたばかりか、身分差など関係なく嫡流の長屋王等他の子供達と対等に接し、ここまで育て上げてくれた大恩ある存在なのだから、その恩返しをしたいというのは至極当然の発想だからな。

 

 かく言う俺にとっても、壬申の乱の経験や過去の中華の戦の講義を行ってくれた軍学の師匠なのだ。

 

 師匠の願いを叶えたいという思いは俺にも勿論ある。

 だが、こんな願いを持っていたということは初耳だがな。

 

 

 

 

「事情は分かった。 しかし、お父上・・・高市皇子様はこのことを認めていらっしゃるのか?」

「はい! 父上も『初孫の顔も見なければ死んでも死にきれぬ。 お前の決意がそこまで固いのならば、喜んで援助しよう』と仰ってくださいました!」

 

 

 

 高市皇子、あんたもグルかァァァァ!!!

 

 

「では姫様、全ての準備は私が整えておきましたので、ごゆるりと」

「ありがとうございます宇合。 もう下がってよろしいですよ」

「はっ、では失礼いたします。 ・・・・・・・・・兄上、頑張ってください」

 

 まだいたのか宇合・・・、ってやはり貴様もグルか・・・・・・!

 

 

「てめぇ宇合! お前こうなること知っていただろ!?」

「ええ勿論。 それにしても、ここまで慌てる兄上を見るのもまた一興ですな」

「貴様やっぱそれが目的かぁぁぁぁぁぁ!!」

「では、私はこれで失礼いたしします」

 

 そう言って宇合は屋敷へと帰って行った。

 やっぱりあいつの誘いに乗ったのが間違いだったか・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、言い忘れておりました。 私から兄上へ一言助言があります」

 

 

 

 

 すると、帰ったと思っていた宇合が隙間から顔だけこちらへ覗き込んできた。

 ・・・まだ何か罠でもあるのか?

 

 

 

 

「・・・何だ?」

「昔の人はよく言ったものです。 『据え膳食はぬは男の恥』と・・・。 それでは、今度こそこれで失礼いたす」

「・・・アンニャロォォォォォォ!! イツカコロォォォォォォォォス!!!」

 

 

 

 

 やりやがってあの野郎!! 慧音を使ったハニートラップとは恐れ入ったわ!!

 次に会った日が貴様の命日だぁぁぁぁぁ!!!!!

 

 

 

 

「信孝様」

「はっ、はい!?」

「今夜は宜しくお願いいたします///」

「い、いやしかし・・・ 慧音姫はなぜ私のことを慕うようになられたのかまだ聞いておりませぬゆえ・・・。 それに、まだ初対面の男女が・・・その・・・・・・いきなり閨を共にすることは如何なものかと・・・」

「・・・信孝様は覚えていらっしゃるか分かりませぬが、私達は以前顔を合わせたこともありますよ?」

「・・・・・・へ?」

 

 

 

 俺と慧音が顔見知り? いやいやそんなことはないだろ。

 慧音なんてこの時代では特に珍しい名前とこの容姿は嫌でも忘れられないだろ常考。

 

 

 

「先程言いましたよね? 『このような立場となって以降』と。 それ以前、つまり上白沢家にいた頃・・・もう10年以上も昔の話ですが、武智麻呂殿や妹紅君、房前殿、宇合殿、麻呂殿、そして不比等様と共に野を駆け回っていたのですよ?」

 

 

 

 ・・・そう言われてみれば、そんなことをした覚えもあるような無いような感じもするが・・・・・・。 ダメだ、うまく思い出せない。

 

 それよりもおっちゃん、何幼児と一緒に野原を駆け回っているんだよ? あんたこの頃既に重職に就いていただろ?

 

 

 

 

 

「その頃には既に初恋として信孝様のことをお慕いしておりました。 ですから、単なる一目惚れのような軽い気持ちではございません」

 

 

 そう言って、慧音は真っ直ぐな瞳で俺の方を見つめた。

 

 

 

 

 ・・・もう、ゴールしてもいいよね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 慧音みたいな容姿端麗、スタイルも並外れた少女から告白される機会なんてそうある事でもない。

 まして慧音は、曲がりなりにも今上陛下の従姉というれっきとした皇族なのだ。

 これ以上の良縁をどうやって望もうというのか、いやない(反語)。

 

 

 ・・・え? 妹紅はどうすんだって?

 妹紅の場合、容姿端麗・スタイル抜群に加えて「猪突猛進」が付くだろ?

 そこさえ直してくれればかなりの優良物件なんだがな・・・。 勿体無い少女だよ。

 

「・・・真によろしいのですか、慧音姫?」

「・・・この時を待ち望んでいたのです。 なぜ後悔などしましょうか。 そして、これから私のことは『慧音』とお呼びください、旦那様」

 

 ・・・グハッ!? 恥らいながら『旦那様』って呼ぶなんて反則だろ!?

 あー・・・ヤバい。 顔が真っ赤になるのが止まらない・・・。

 

「いえ・・・ 自分もこのようなことは初めてなもので、上手く出来るかどうか分かりません。 ですが、私なりに精一杯姫様・・・いいえ、慧音のことを愛そうと思います」

「・・・・・・はい!」

 

 

 

 くっ! 頬を赤らめた慧音の顔が無茶綺麗だ・・・・・・。 これで俺は飯があと三杯はいけそうだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ~えっちなのはいk(ry  そして翌朝~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ・・・・・・ん・・・」

「どうしよう・・・・・・、ヤリすぎちまった」

 

 

 慧音も初めてだから、何とか共に《検閲により削除》しようと加減したつもりだったんだが、そんな相手に一晩中《規制中》するってのは自分のことながらどーよって思っちまったよ・・・。

 

 しかし、こんな形で俺が階段を上ることになるとは、昨日までの俺からでは全く予想がつかなかっただろう。

 

「ん・・・・・・あっ信孝様、おはようございます」

「あっああ、おはよう・・・」

 

 う~む、何て声をかければいいか全くわかんねぇ・・・

 こういう時に、女性に対してうまく声を掛けることが出来ない自分がなんと情けないことか・・・

 

 

「その、昨日はありがとうございました///」

「ああ、こちらこそありがとう」

 

 

 とまぁ、何処までも初々しいというか恥ずかしがり合っているような反応をお互いし、身支度を整えた俺は麗景殿を離れ屋敷へと帰っていった。

 

 今回ばかりは、宇合にちょっと感謝すべきかもな。

 慧音が幼馴染だったらしいという、俺自身も覚えていなかった記憶を思い出すという嬉しい誤算を生み出したのだから・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とまあこんな話が今から10ヶ月ほど前にあり、話は漸く現在(冒頭)に戻る。

 

 

 

 俺と妹紅が輝夜の屋敷から帰ってきてから4日後、突然彼女・・・慧音が共の侍従を連れ屋敷へやってきた。

 

 

「お久しぶりです信孝様」

「慧音じゃないか! 態々こんな所にまで来るなんて、一体何があったんだ?」

「はい。 実はお伝えしたい儀がありまして・・・」

「何だ? 態々本人がここまで来なければならない程の要件なんて思い浮かばないんだが・・・」

「ええ。 これを伝えることはどうしても私の口から申し上げたかったので・・・。 初、あの子をここへ」

「はいっ、ただいま!」

 

 

 慧音に初と呼ばれた侍女は、彼女の乗ってきた牛車から何かを持ってこちらへとやって来た。

 

 

 

 大きさで言えば大凡一小尺七寸(約50cm)程だろうか・・・。

 

 何故だろう、脳内警報がしきりに「逃げろ! 早くここ・・・もとい妹紅から離れろ!!」としきりに鳴っているんだけど?

 

 

 そして、侍女がからその何かを預かった慧音は、それを俺たちに見せつけた。

 その瞬間、俺を含め、その場にいた宇合を除く藤原一家全員が固まってしまった。

 最も、この時の俺は後ろに藤原一家が勢揃いしていたことには気づいていなかったが・・・。

 

「こちらをご覧ください」

 

 

 彼女の腕の中には、スヤスヤと心地良さそうに眠っている赤ん坊がいた。

 これは、もしかしなくてもアレか?

 

 

 

 辛うじて口を開いた俺は、この赤子の正体を慧音に訪ねた。

 と言っても、慧音の様子から大凡察しはついているが・・・

 

「・・・・・・この子は?」

「・・・あなたと私の息子です」

 

 

「・・・・・・・・・はい!?」

 

 改めて言われると、「やっぱりか」という気持ちと「本当に俺の子なのか?」という疑問が浮かび上がってくる。

 まさか、あの一回だけの閨で本当に妊娠してしまったのか!?

 

 

「その通りです」

「心読むなよ慧音・・・・・・」

 

 この時代の人間は、皆読心術を心得ているのだろうか・・・・・・?

 だが、俺はここで最も警戒すべき人物の存在を忘れてしまっていた。

 

 

 

 

 

「信孝!!!」

 

 

 

 

 

その声を聞いた瞬間、俺は思わず心の中で「俺\(^○^)/」と呟いた。

そうだよ、確実に激昂しそうな妹紅から離れることを忘れてた・・・・・・

 

「どういうことだ! いつの間に慧音との間に子供なんて作っているんだよ!?」

 

 恐怖に怯えつつ後ろを振り向くと、そこには怒りで顔を真っ赤にした夜叉・・・もとい我が麗しの従妹こと藤原妹紅がそこにいた。

 

 

 

「妹紅!? どうしてここに!?」

「何だか『今、信孝のところに行かないと大変なことになる』ってあたしの直感が囁いていたから、仕事を止めて急いで来てみたんだよ。

 そうしたら、お前が慧音との間に子供が既にいるなんて話になってたことを聞いたんだ。 さて、説明も済んだことだし、覚悟はいいか?」

 

 

 ヤバい! 誰かに助けを呼ばないと俺が死ぬ!

 慧音に頼るのは流石にダメだろうし・・・。 あっ、ちょうどいいところに良い楯・・・もとい人間がいた!

 

 

 

 

「武智麻呂! お前傍観してないで俺を助けろ!」

「何でお前を助けなきゃならんのだよこのボケ。 そんなことよりもこの光景を見ている方が楽しいんd「見世物じゃねぇぇぇ!!!」ぶるあぁぁぁぁ!!?」「武智麻呂ぉぉ!!?」

 

 俺は、妹紅のコークスクリューをまともに食らい、屋敷の壁を破壊しても尚吹き飛ばされてゆく武智麻呂をただ見ていることしか出来なかった。

 まぁ、あいつなら無駄に多い贅肉のおかげで衝撃はいくらか緩和しているだろうし、あの程度で死にはしないだろう。

 

 

 

 

「さて、邪魔ものも消えたし、改めて覚悟はいいか信孝?」

「お許しください妹紅様」

「許せるかぁぁぁぁぁ!!!!!」

「ぎにゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 妹紅のアッパーカットは綺麗に俺の下顎に決まり、一瞬のうちに俺の意識を刈り取った。

 

 

 

 

「・・・・・・あれ、信孝様?」

 

 

 目まぐるしく変化する話の流れについて行けなかった慧音は、その間放置されたままだった。

 

 

 

 

 

 

 

   ~追記~

 

 どうやら、その後妹紅と慧音は和解したらしく、次の日に俺の意識が回復したときには仲良さそうにしていた。

 幼馴染同士ってのもあってか仲直りが早いな。 やっぱり2人は仲良くしてないとしっくりこないな。

 

 あと高市皇子が、「初孫誕生記念!」とか言って、俺の官位を独断で引き上げ、「従五位下・式部少輔」に新任となった。 ・・・流石に私的な事情が入りすぎです高市皇子様。

 

 確かに、「貴族」として正式に呼ばれる官位である従五位下になれたことは嬉しいのだが、武智麻呂(現在、弟房前よりも官位が下の正六位上・中務大丞)から「妬ましい・・・・・・。 俺よりも先に出世する房前と信孝が妬ましい・・・」とずっと枕元で囁きを繰り返され、最近寝不足気味だ。

 

 しかし、翌朝きっちりと粛清したのにも関わらず、その日の昼には完全復活してるんだよなあいつ・・・。

 

 やっぱり、あの無駄に厚い脂肪のせいだろうか・・・・・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ~追記その2~

 

 

 

 俺との間に生まれた子供はとりあえず俺の母方の姓である織田を名乗らせ、元服するまでは新九郎《しんくろう》と名乗らせ、元服後は不比等のおっちゃんから一字貰って織田信等《おだののぶとし》と名乗らせることに合意した。

 

 順当にいけば藤原姓か上白沢姓を名乗らせるべきなのだが、高市皇子が「かつての名家である織田家を絶やすのは実に惜しい」と発言したため、俺たちはそれに従うこととなった。

 

 

 

 ・・・ひょっとして、この子の子孫が第六天魔王じゃないよな?

 

 

 

 

 

   ~追記その3~

 

 

 あれ以来妹紅が夜に俺の寝所に入り込もうとするようになった。

 何でこんなことをするのか妹紅に聞いてみたら、「慧音には負けてられないんだ!」とかなり決意を込めた目で言っていたので、俺は一言「がんばれよ!」と応援したら問答無用で右腕の関節をを外された。

 

 ・・・・・・そろそろヤバいんじゃないか俺の右腕?

 

 因みに、俺と妹紅はまだ関係を結んでないから。(ここ重要)

 

 流石に妹紅の想いには気づいているのだが、対抗意識で妹紅と関係を持ちたくはないなぁ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・そう言えば、あれ以来輝夜のところに行ってないな。

 明日あたり行ってみようかな?



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五話 危険人物に留守番させるべからず

改訂作業に予想以上に時間がかかる・・・


  Side 慧音

 

 今日は信孝さん(様付けはやめてほしいと言われました。 不比等殿以外の方々も同様)、妹紅(呼び捨てで良いと言われたので)、輝夜姫、房前さん、宇合さん、麻呂さん、私、そして保護者として不比等殿の9名で近江国(現在の滋賀県)の淡海の湖(琵琶湖のこと。 以後、琵琶湖と表記)へ水遊びに来ました。

 

 折角なので新九郎も連れてこようかと思いましたが、母上が「孫の面倒を見るのが私の夢だったんだよ!!」と言い張り新九郎を手放さなかったので、母上に預けて一人でこちらに来ることとなりました。

 

 

 

 態々大和国から近江国の琵琶湖まで遠出することとなったことには、先日不比等殿の邸宅で行われた「第3回 藤原一家大身体検査」のことに遡ります。

 

 その日、偶々妹紅に呼ばれて藤原家を訪ねていた私と輝夜姫の姿を見た不比等殿が、突然「よし! 今日は皆が揃っていることだし、2年ぶりに身体検査を行うこととする!」と言い出し、どこからか取り出した謎の器具を大量に姿を現しました。

 

 その結果、武智麻呂さんがあまりにも肥満の度が過ぎることと、最近一族の方々が体を動かす機会がなかったため、両者を一気に解決するために今回の企画が誕生しました。

 

 ・・・身体検査の方ですか?

 身体検査の詳細は記録係の信孝さんが保管していましたが、小さな声で、

「慧音がGで妹紅がCだと・・・!? 慧音のデカさは体験しているし、出産後更にデカくなったのは知っている。 だが、妹紅ってこんなに大きかったのか・・・。 まぁ、輝夜の辛うじてBは納得だが」

 と呟いていました。 “じー”やら“びー”とは一体何のことなのでしょうか・・・?

 

 そして、この計画を打ち出した時、輝夜姫はとても嫌そうな顔をしながら「ぜっっっっったいに嫌!!」といきり立ち、そのままや都の外れにある屋敷へと帰って行きました。

しかし、│あの《・・》不比等殿がこの程度で諦めるわけがなく、「姫が行かねばこの計画は無しだ!!」と断言し、信孝さんと妹紅に「今すぐ姫を誘って連れてこい。 もし連れてこなければ、父上(藤原鎌足)から授けられた中臣家秘伝の拷問術の餌食となるだろう・・・」と脅して強制的に連れてこられたらしいです。

 ・・・中臣家秘伝の拷問術も気になりますが、それ以前に不比等殿、あなた既に妻が6人いるのにまだ増やすつもりですか?

 

 そんなこんなで、不比等殿、房前さん、宇合さん、麻呂さん、信孝さん、私、妹紅、そして輝夜姫の総勢7名で琵琶湖へ向かうこととなりました。

 

え? どうして武智麻呂さんがいないのかって?

あのお方、「日に当たるのは嫌じゃ!! 俺は父上や弟達、信孝が不在となって手薄な屋敷を守るという大切な使命があるのだ!」と言って部屋から出てこなかったので、置いていくことになったそうです。

 

今回来るべき人物の片割れである武智麻呂殿が行かないと意味がないのではと思い、「武智麻呂さんを連れて行くべきでは?」と提案したのですが・・・、

 

信孝さん:「アイツのことは放っておけ。 奴の姿を目の当たりにしたら目が腐る(醜い脂肪的な意味で)」

妹紅:「そうだぞ、あんな太った豚を見ても幻滅するだけだ」

房前さん:「ああなった兄上は決して来ませんよ」

宇合さん:「それ以前に女性の前にあの体を見せるのは相当無礼ですからね。 いない方がマシです」

麻呂さん:「・・・・・・・・・肉達磨」

不比等殿:「太った醜い豚が水着姿で水辺を遊び回る・・・。 それだけで寒気がするだろう?」

輝夜姫:「ちょっと不比等! おぞましいこと言わないでよ! 確かにあんたの意見には賛成だけど」

 

 

 と言われてしまいました。

 

 

 

 武智麻呂さん、貴方どれだけ嫌われているのですか?

 

 それに不比等様、自分の息子を豚扱いはさすがにどうかと思います。

 

 

 

 

 

~同刻 藤原京 藤原不比等邸~

 

 

「へくしっ! 風邪か?」

 

「武智麻呂様、お食事をお持ちしました」

 

「ああ、ありがとう」

 

「(1人で9人前食べるのはどうかと思います武智麻呂様。 それだから皆様に豚扱いされるのですよ)」

 

「いや、もっと持って来い」

 

「はい!?」

 

「今日は俺以外誰もいないからな。 俺が満足するまで食べる」

 

「(あれでまだ足りなかったのですかー!!)」

 

 

 

 

 

 

 ・・・何やら武智麻呂さんが洒落にならないことを仕出かしているような気もしますが、気のせい・・・・・・ですよね?

 

「よし、到着だ」

 

「うおっしゃあーー!! 麻呂、行くぞ!!」

 

「・・・・・・(コクリ)」

 

「待てよ信孝!! 私も行くぞ!」

 

 着くや否や、信孝さんと麻呂さんと妹紅が真っ先に湖へ飛び込んで行きました。

 

 

 

 

 

「あいつらは相変わらずだな」

 

「そう思うなら止めなさいよ!」

 

「何を言うのだ輝夜姫! そんなこと言ったら俺は麻呂に殺される!」

 

「・・・あんたの子供たちってホントに何者なの?」

 

「分からぬ・・・。 ただ1つ言えるのは、房前を除いて全員キチガイなのだ」

 

「(あんたがキチガイ筆頭格でしょうが・・・・・・・・・)」

 

「どうした?」

 

「いえ、何も?」

 

そう言って、輝夜姫は不比等様から視線を外しました。

 不比等様、貴方がその諸悪の根源だというのを自覚しているのでしょうか? ・・・自覚してないでしょうね。

 

 

 父上がいつも「不比等の野郎・・・、朝議の前に必ず帝の御前で延々と筋トレしやがって!

  おかげで朝議は毎回汗臭いにおいの中でやらなければならないのだぞ!?

 それに、朝議が終わって不比等が帰ると俺は必ず帝に呼び出されて、「不比等を止めなさい。 あの暑苦しい空気のせいで妾や朝臣がどれだけの被害を被っているかそなたも存じておろう?」何て命令してくるんだぞ!?

 俺があの筋肉バカを実力で止めれるわけないだろうがあのババア!!」

 と毎日呟いていたのですから。

 

 

 

 

 但し父上、貴方も自重してください。

 

 今上帝であられる持統陛下に向かって「ババア」というのは、いくら父上が先代陛下であられる天武帝の長子とは言え即刻死刑にされてもおかしくないのですよ?

 

 

「さて房前兄上、私たちはどうしましょうか?」

 

「そうですね・・・、2人で釣りでもしますか」

 

「分かりました。 では行きましょう」

 

 そして、打って変わって平和な雰囲気を出しているのは房前さんと宇合さんの2人。 どうやら、お2人で船釣りを楽しむようです。

 

 正直宇合さんが絶対なんかロクでもないことをすると思ってたのですが、どうやらその心配は稀有のようですね。

 

 

 ただ宇合さん、その釣り道具どこから出したのですか?

 さっきまで貴方何も持ってませんでしたよね?

 

それに、その左手に持っている謎の道具は何なのですか?

先程からその謎の道具をしきりに覗き込んで全く釣竿に目をくれません。

すると突然、謎の道具が音を発し、表面に大量の光る点が現れました。

よく見ると、その道具は上から「壱」「弐」「参」と書かれた横線が10本程入っており、その光る点は一番下の線の上下に集中して現れていました。

 

「・・・ム? 魚群がこの船の真下にいるな。 兄上、魚はこの船の真下の湖底付近に大量にいます」

「そうか・・・。 なら糸を限界まで伸ばせば魚が釣れそうですね」

 

その報告を聞いた房前さんと宇合さんが釣竿を持つと、次々と魚を釣り上げ始めました。

・・・やはり、宇合さんには不思議なことがまだまだ沢山ありそうです父上。

 

 

 

 

 

「慧音ーーー! おまえも一緒に来いよ!」

 

 次々と魚を釣り上げる房前さんと宇合さんの姿を唖然として見ていたところ、いつの間にか戻ってきていた妹紅からお誘いがありました。

 

「慧音姫、行ってきなさい。 今日は思いっきり楽しむためにこれを計画したのだから」

「わかりました。 では私も行ってまいります」

 

 あの3方と比べると体力には自信がありませんが、こうして思いっきり羽を伸ばして遊ぶまたとない機会なので、私は不比等殿の後押しを受けて信孝さんたちの下へ走り出しました。

 

 

  慧音 side out

 

 

 

 

 

  Side 信孝

 

 

 俺たちはそれからおよそ半日、琵琶湖で遊び倒した。

 

 具体的には、麻呂と竹生島まで往復遠泳をしたり、妹紅や慧音たちとビーチバレー(ボールはなぜかあったゴム製のもの。 ボールに貼ってあった「神からの粋な贈り物」と書かれていた紙はとりあえず破いておいた)をしたり等、やれることは全てやったという感じだった。

 

 正直琵琶湖往復を2時間というありえないスピードでやれた俺も大概チートだが、それにずっとついてきた麻呂や、大分遅れて「俺も負けてられぬわ!」と叫んで参加し、俺や麻呂と同着だった不比等のおっちゃんはさらにチートだと思う。

 

 

 

 

 

 

 しかし、そんなことをやったにもかかわらず体力的にはまだまだ大丈夫なんだが、一部分とてもまずい状態となっている。

具体的には精神面、特に俺の股間が限界なんだ。

 

 慧音の水着姿:何故あるのか分からないが、ビキニタイプ。 正直慧音の胸のサイズがデカくて(G)直視できません。 直視したら俺が出血多量で死ぬかも・・・。

 

 妹紅の水着姿:こちらもビキニタイプ。 胸こそあまり大きくないが、最近第二次性徴期が来たのか、再び膨らみだして希望が出てきた。(俺目測では以前Aだったのがいつの間にかDに近いCだ!) さらに、全体的にすらっとしていながら付くべきところにしっかりと肉が付いている理想的なプロモーションなのだ。

 

 輝夜の水着姿:こちらはワンピースタイプ。 はっきり言って妹紅よりも胸は小さい。(A)   だが妹紅と同じく全体のプロモーションは素晴らしく、体のしなやかさ妹紅を上回っている。

 

 しかも3人揃って自身の格好に無頓着なものだから、ホントどうすればいいんだよ!

 

 

「ねぇ信孝・・・、私の水着どうかしら?(私の水着姿を見て顔が赤くなっちゃって、かわいいんだから♪)」

 

 輝夜が俺の左腕にくっつきながらそう問いかけてくる。

 起伏は少ないながら、それを補って余りある柔らかい肌や、すらっとした足を擦り付けてくるのは最早反則だと思う。

 

 後は、そのいかにも何か企んでいますみたいな顔をしていなければ確実に俺は危険水域だっただろう。

 

 

「信孝・・・・・・・・・、どうだ? 私の水着?(輝夜や慧音にもこれに関しては負けるわけにはいかないんだよ!)」

 

 妹紅は逆に俺の右腕にくっついてきた。

 最近発育著しい胸や、輝夜ほどではないがあれだけ運動しているにしてはあり得ないくらい柔らかい肌は・・・いいですとも!!

 

ただ、こっちは顔を赤らめながら腕に抱きついている点は素晴らしいが、腕を締め付ける力が半端じゃない。 よく見たら肘のあたりが内出血起こして若干青黒くなってるし・・・。

出来ればもう少し力加減というものを学んでほしかった・・・

 

 

 

「の・・・、信孝さん。 あの・・・どうですか? 私の水着?(恥ずかしいです・・・)」

 

 両腕に向かうことの出来なかった慧音は、あろうことか俺の胸に飛び込んできた。

 言葉の割りに行動はかなり大胆だな慧音・・・。

 

 慧音の胸はもはや反則的で、新九郎を生んだからか前よりもさらに大きくなったと思う。

 子供を1人生んだというのにそのプロモーションを維持しているのは・・・・・・大変結構!!!

 

 

「(胸に飛び込むなんて意外と慧音って大胆なのね。 それにその胸!! 反則よ反則!! 私なんて蓬莱の薬飲んで以来全然大きくなったりしないのに・・・」

「(子供を生んでいるのに、そんな体型を維持している慧音が正直うらやましいよ。 私もそうなれるかな・・・・・・?」

 

 

 

 

 声駄々漏れだぞ輝夜に妹紅。 妹紅は未来はあるどころかすでに十分だが、輝夜は・・・なぁ?

 永琳にでも豊胸薬でも作ってもらうよう頼んどけ。

 それでもダメだったら、俺もそのうち胸を本当に大きくさせる術覚えてやるから泣くな輝夜・・・。

 

  

 

 あと、そろそろ俺のあそこが限界に近い。

 水着姿で俺にくっついている3人を直視して我慢できる漢がいるだろうか、いやない(反語)。

 (股間的に)限界が来た俺は、一足先に切り上げて帰宅準備を整え、なるべく3人に顔を合わせないようにしながら帰っていった。

 

 

 

 

 

 

  ~藤原不比等邸前~

 

 

「今日は皆思いっきり楽しめたと思う。 だが、これだけは忘れるな。 自室に入るまでが旅行だ! 以上、解散!!」

 

 

おっちゃんが小学生の修学旅行の時の先生みたいな一言を告げ、慧音と輝夜は迎えの牛車に乗り帰っていった。

 

しかし、改めて自分たちの姿を見るとすごい状態だな・・・。

 麻呂はあれだけ遠泳したにもかかわらず全く肌が焼けず、房前と宇合はあり得ない量の魚を釣り上げたせいでかなり魚臭くなっている。 極めつけに、おっちゃんは唯でさえ焼けている肌がさらに黒光りするくらい焼けていた。

 

 妹紅と慧音と輝夜もそれぞれ楽しめたみたいだから、今回は大成功だな。

 お互い和気藹々と談笑しながら屋敷内に入ったとき、事件は起こった。

 

 

 

 

 

 

「ああ、やっと帰ってきたのか。 遅かったな」

 

 

 

 武智麻呂が屋敷にあった食料をわずか1日でほぼ食いつくし、どこから調達してきたのか分からないほど大量の魚を焼いていた。

 いや、武智麻呂一人を残したら何かしら騒動を起こすことは分かっていたが、一人で食料庫にあった食料全部食い尽くすとか、本当にコイツは人類か・・・?

 

 

だが、一つだけ分かることは、俺を含め武智麻呂以外の全員がコイツに対して例えようのない怒りを感じていることだ。

 

 

「「「「「「「「武智麻呂ぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」」」」」」」」

 

「どうした皆? そんなキレて?」

 

 ・・・・・・取り合えずこいつは制裁しよう。 話はそれからだ。

 

 

 

 その後、武智麻呂(ゴミ)への制裁を終えた俺たちは、奴の給料を9割5分食料の買出しに割り当て、それが終わるまで武智麻呂の食事は毎食その辺で取ってきたどじょう1匹と粟大さじ3杯という罰則を制定した。

 

 

 結局それは1ヶ月かかり、武智麻呂の体重は60kg痩せて55kgとなったが、罰則が終了して再びどか食いをした結果、リバウンドして5kg増の120kgとなった。

 

 

 

 だめだこのメタボ野郎・・・・・・。 早く何とかしないと(藤原家の食料的な意味で)危険な存在になる。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六話 ババアとの出会い=近いうちに悪い事が起こるフラグ

漸く内定がデター!!
これで安心して色々とできるぜー!!


  Side 信孝

 

 

 今日は久しぶりにやることが無いので、偶然出会った宇合と一緒に藤原京食べ歩きをしに行くこととなった。

コイツは藤原家の諜報を一手に引き受けているから、藤原京の何処にどのような店があるのか程度は全て把握しているだろうと予測し、案内役を宇合に一任することにした。

 

 

 

「なぁ宇合?」

「どうしました兄上?」

「お前が知ってるお勧めの店ってあるか? 諜報を担当しているお前の方がよく知ってるだろ? 意外な穴場の店とか・・・」

「ならそこの脇道を左に曲がり真っ直ぐ伍町(約550m)程進んだ先にある団子屋がお勧めですよ。 あそこの店は様々な公達の方々や帝さえもお忍びでやって来ているという噂ですから」

 

 

 

 そう言い、宇合は路地裏を進んだ先の遠くに見える団子屋を指差した。

 幟には「団子屋」という文字と「饅頭、始めました」と書かれている。

 ・・・団子屋で饅頭を取り扱っているのはおかしいと突っ込んだら負けなんだろうな。

 

 

 

 

 

「う゛・・・、饅頭か・・・・・・」

「そう言えば、兄上は先日妹紅姉と武智麻呂兄上の作った饅頭を食べてお倒れになったそうですね?」

「・・・・・・何でお前が知っている?」

「この藤原京のことなら私が知らないことなどありませんよ。

 例えば3日前に太政大臣様(高市皇子)が孫をあやしているときに誤って落としてしまい泣かせてしまったので、母親である慧音姫様に正座させられ一晩中説教されたそうな・・・。

 しかも、大臣様が眠りそうになると、頭突きして無理矢理起こして再び説教を始めたのです」

「お前の情報網はどうなってるんだ!?」

 

 

 

 

 コイツ本当に13歳か!? 

 

 俺はこいつのトンデモっぷりに思わず引いた。 ・・・やはりこいつは(思考と行動が)危険だ。

 

 ・・・というか、こいつを見ている限り、藤原氏の対抗馬であった長屋王《ながやのおう》(高市皇子の子)に謀反の疑いをかけてその一族の多くを誅殺した所謂「長屋王の変」は、間違いなくこいつの謀略から出たものだと確信しているんだがどう思うよ皆さん?

 

 

 正直、こいつが正史のように天然痘かかって死ぬことなく、まかり間違って長生きしようものなら、間違いなく橘諸兄《たちばなのもろえ》とか吉備真備《きびのまきび》、弓削道鏡《ゆげのどうきょう》といった奈良時代に出た権力者が政界に進出する機会はなくなりそうで怖い。

 

 それが実現した場合、きっと藤原氏の主流は北家じゃなくて式家になり、「藤原道長? ああ藤原の傍流の隅のほうにいるやつね」って扱いになりかねん。

そうなったらもう歴史改変っていうレベルの事態になるんだろうなぁ・・・。

 

 

 

 いや待てよ、だからこそこいつは天然痘で死んだのか?

 こいつを生き残らせるのはあまりに危険だから死なせるよう、神(駄神ではない)が差し向けたのか?

 

 

 

 

 

 だがそうなら他の3人まで死ぬのはどうしてだ?

 

 たとえ藤原氏が失脚しても、武人としても指揮官としても暗殺者としても生きていけそうな麻呂や、メタボ野郎且つ残念な性格のせいで友達が少なく、最近八割方引きこもり化してる武智麻呂はともかく、四兄弟の良心兼兄弟中随一の政治手腕を誇る房前も共に死ぬってのは納得出来ない。

 

 まぁ、多分そうなるように運命が定められているんだろうな・・・。

 

 

「・・・・・・上、兄上?」

「んあ? ああ、済まない。 どうした宇合?」

「突然考え込んで一体どうしたのですか?」

「ん? ちょっと、な・・・・・・」

 

流石に本人の前で「お前は早死すべき人物だ」なんて言えないしなぁ・・・。 相手が宇合でも

 

「・・・まぁ良いですけど。 それにあの団子屋に今妹紅姉もいますよ?」

「へ・・・? あ、本当だ」

 

俺が視線を団子屋の方に向けると、丁度妹紅が団子を注文し終えたところだった。

 あいつ一人でこんなところに来るとは意外だな?

 

 

 

「おーい妹紅、何やってるんだこんな裏路地にまで?」

「ああ、信孝に宇合か。 ここは私の行きつけの店だしな」

「へぇ、そいつは初耳だな」

「私は知ってましたよ?」

「お前はもう黙れ宇合」

 

寧ろお前知ってて態とここに案内しただろ。 ご丁寧に妹紅が来るであろう時間帯に合わせてまで・・・。

 

 

 

「まぁいいからお前らも座って一緒に食おうな!」

「元よりそのつもりだ。 おっちゃん団子四つと茶を二杯!」

「あいよお坊ちゃん!」

 

 

 

 

 

 

  ~30分後~

 

 

 

 

 

「あー食った食った」

「妹紅・・・、お前食いすぎ」

「え? そうか?」

「・・・流石に饅頭10個はどうかと思うぞ?」

「・・・明日になったら確実に体重が増えますね妹紅姉」

「・・・ちょっと走ってくる!」

「おい待て妹紅! ・・・行っちまったよ」

 

 

 自分の体重を気にするあたり妹紅も一端の女の子なんだな・・・。

 たとえそれが、着物やら化粧やらよりも火遊びやら暗殺術を好む危険少女として有名を馳せ、「妹紅姫と息子の婚約!? ・・・此度の婚約は遠慮いたしたく」と及び腰になる貴族や皇族の方々も多いと専らの噂となり、未だに良縁が無かったとしても、だ。

 

最も、饅頭10個は食い過ぎだがな!!

 

 

 

 

 

  信孝 side out

 

 

 

 

 

 

 

 Side ??? 

 

「はぁ、暇ね~。 京って言ってもあんま楽しそうなのはないものね・・・」

 

 ホントやることがなくて困るわ。 

 折角の休みなのだからゆっくり寝ようと思ったのに、藍ったら「偶には動いてください紫さま。 そうしないとより一層太りますよ」なんて言って家から私のこと追いだしたのよ?

 

 

 

 勿論、藍は問答無用でスキマ送りにしたけどね。 

 

 

 大体私は全然太ってないわよ! 寧ろ細身よ!! なのに「より一層」って何よ「より一層」って!!

 でも、藍ったら転生してまだ間もないのにもう反抗期かしら・・・?

九尾の狐にも反抗期って存在していたのね・・・。

 

 

 

「でも、ホント楽しそうなものは・・・、あら?」

 

 

 

 私が京の外れにある団子屋でふと見かけたもの、それは・・・、

 

 

 

「・・・ちょっと走ってくる!」

「おい待て妹紅!」

 

 突然饅頭屋から走り出していった女の子を引きとめようとして振り切られた男の子と、その様子をずっと傍観していながらこちらを見ている男の子だった。

 

 

 

 

 ・・・気になるわねあの2人。

 

 さっきの少女に振り切られて呆然としている男の子は何らかの力が僅かながら漏れているし、もう1人の男の子は気配を隠している私の存在を完全に見抜いている。

 

 力の見極めも兼ねて、相席してみようかしら?

 そう思い、彼らに近づくために一歩踏み出した瞬間、凄まじい気の波動が顕現した。

 

 

 

「・・・っ!? この力・・・まさか!?」

 

 

 

 

 思わず後ずさり、もう一度確認のために歩を進めると、再びあの波動が吹きつけてきた。

 

 ・・・間違いない。 この気の性質は神、それもかなり高位の神のものね。

 でも、いくら観察しても彼の肉体は人間のものに違いない。 そこは断言出来る。

 高位の神の気質と人間の肉体・・・、ただの現人神として括るにはあまりに力が強すぎ、神として括るには肉体が弱い・・・。

 

 一体彼は何者なの・・・!?

 

 

 

「・・・兎も角、彼の正体を掴まないといけないわね」

 

 彼が将来味方になるか敵になるかは分からないけど、私の計画に大きな影響を与えることはまず間違いない。

 早いうちに接点を持ち、出来るだけ味方に引き込むことがここでは最善策かしら・・・。

 

 

 そう判断した私は、彼らのもとへ向かうことにした。

 

 

「ちょっと相席してもよろしいかしら?」

「どうぞ・・・んなっ!?」

 

 

 

 すると、さっきまで呆然としていた男の子が私の顔を見た瞬間顔が驚愕の表情に変わった。

 えと・・・、以前会ったことあるかしら?   

 

 

 

 

 

 

  ??? side out

 

 

 

 

 

  Side 信孝

 

 

 

 

 

「ちょっと相席よろしいかしら?」

 

 

 

 ん? 相席? 他にも席はまだ空いてるのに此処に相席しようって言うのはどんな人だ?

 俺はそう思いながら顔を見上げた。

 

 

 

「んなっ!?」

 

 そこには、胡散臭そうなオーラを常に醸し出しているババa・・・もとい八雲紫がいました。

 

 

 

 

「・・・そこの貴方、今変なこと思わなかったかしら?」

「・・・別に変なことなんて思ってませんが何か?」

 

 

 

 危ねぇ・・・・・・。 危うくスキマ送りされるところだった。

 

 あんな空間に取り残されるなんて、一度であっても体験したくないというのが常人の考えだろう。 最も、一部の訓練された連中はご褒美になるんだろうが・・・

 

 

 それにしても、どうしてこんなところに紫がいるんだ?

 初代幻想郷縁起にも描かれているからこの時代に生きているのは別に不思議なことではないが、こんな人の多い地域に堂々と入り込んでくるような危険を犯す性格では無かった筈だが・・・?

 

 

 

 

「あんた誰だ?」

 

「自己紹介するならまず自分からでしょ? まぁいいけど。 私は信州からやってきた八雲紫《やくもゆかり》よ。 紫でいいわ」

 

「はじめまして紫さん。 藤原大納言不比等が三男、藤原左兵衛大尉宇合です」

「どうも初めましてバ・・・紫さん。 藤原大納言不比等が甥、藤原左近衛将監信孝です」

 

「あら、別に呼び捨てで構わないわよ。 それにしても、貴方達が今評判の藤原亜相(大納言の唐名)の息子と甥なのね。 『藤原一族は傑物多し』と専らの評判だけど、強ち嘘ではないようね」

 

「そんな噂が流れていたのか。 確かに、今の藤原家は(一名を除き)粒揃いと言えなくはないがな。 しかし、紫はどうして相席にしたんだ? 他にも空いてる席あっただろ?」

 

 

 

 

「あら、それは貴方達に聞きたいことがあったからよ」

「俺と宇合に・・・?」

「ええ。 ちょっと来てくれるかしら?」

 

 

「・・・・・・まあいいが、宇合はどうするよ?」

「私も同行いたしましょう。 何やら面白そうな予感がしますし」

「何だろう、急に行きたくなくなった・・・」

 

 

 

 宇合の一言に猛烈な不安を感じながら、俺達は紫の後をついていった。

 

 

 

 

 

 

  ~少年少女(?)移動中~

 

 

 

 

 

 

 紫についていった先は、京の中心部に近い地域にある一件の長屋だった。

 ・・・こんな京のど真ん中に屋敷を持つとか、剛胆なのか馬鹿なのか判断しづらいな。

 

 

 

 

「それで、話とは何ですか?」

「単刀直入に聞くわ。 あなたは一体何者かしら?」

 

 

「!? どういうことだ?」

 

 

 

「これでも人を見る目はあるのよ。 貴方の体にある力、これは明らかに人の限界量を突破している。

 いいえ、最早神と同等と言ってもいいでしょうね。

 それに、貴方自身からもわずかに神気が漏れているにもかかわらず貴方は神ではなく、現人神として括るには説明できない点が多すぎる。 そうなるとあなたの正体が全く分からなくなるのよ。

私が見た限り寿命は人間とほぼ同等くらいなのに、そこに内包する力は神と同等。 この矛盾」

 

 流石だな。 まさかそこまで分かってるとは・・・。

 でも流石に本当のことを言うわけにはいかないから、ある程度は本当のこと言うか。

 

 

 

 

「確かに貴女がおっしゃったとおり、私の霊力は人を遥かに超えたものです。 ですがそれ以上のことは『今は』お答えできません。 ただ、私はれっきとした「ヒト」である、と言っておきましょう。

 そして、一つだけ確かなことは私が藤原亜相の実の甥である、という事実です」

「今は・・・?」

「ええ。 生きていればいつか会うこともあるでしょう。 あなたみたいな美しい女性なら大歓迎です」

 

 

 これがネタだったら「また会おうぜババア!」とか言っていたかもしれないが、流石に今それを言うと、俺がスプラッタになりそうだからやめておこう。

 

 

 

 ・・・・・・宇合ならきっと本人の前でも堂々と言えただろうな。

 

 

 

「年r『黙らっしゃいこのボケナスが!!』ぐっ・・・!」

 

 

 

 やっぱり言おうとしやがったよコイツ!! 問答無用に黙らせて正解だった!!

 

 

 

 

「・・・彼は放っておいていいのかしら?」

「いいんです。 あいつは居るだけで録な事を仕出かさないんです。 まだ気絶していたほうが新たな騒動を起こさないだけマシです」

「そ・・・、そうかしら? なら、私は何も見ていなかったとすることがここでは賢明なようね」

「賢い女の人はそれだけで魅力的ですよ」

「・・・あら、褒めても何も出ないわよ? なんか褒められてる気はしないけど・・・」

「いえ、これは純粋に思ったことです。 そうだ、また会えるおまじないとしてこれを差し上げます。」

 

 

 

 俺は文字の入っていない文珠(駄神との賭け麻雀で奪い取った戦利品)を紫に手渡した。

 

 

 

「これは何かしら? なんかすごい霊力を感じるのだけど?」

「これは・・・まぁお守りのようなものです。 『また、貴方と会えるように』という願いを込めて」

「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない」

「いえ。 ではコイツを担いで帰らないといけないんで、そろそろお暇いたします」

「ええ、さようなら信孝。 ・・・と言いたいけれど、さっきの子もういないわよ?」

「え・・・?」

 

 

 

 紫に言われ、宇合を転がしていた場所に視線を向けたが・・・、

 

 

「・・・ってホントにいねえよあの野郎!!」

「・・・彼、何者かしら? 何時いなくなったのか私にも分からなかったのよ?」

「あいつはそう言う人間なんです! それじゃあいつを探さないといけないんでこれでっ!!」

 

 

 

 俺はそれだけ紫に告げ、屋敷を後にした。

 紫が何か言いたそうだったけど、今はあの馬鹿が問題を起こす前に見つける方が先決だ!!

 

 

  信孝 side out

 

 

 

  Side 紫

 

 藤原信孝・・・・・・か。

 なかなかいい男だったわね。 あの力といい、その精神といい、彼なら私の計画に賛同してくれるかもしれないわね。

 

 

 

 でも、惜しいことに彼は人間、しかもかなり身分の高い人物なのよね。

 もし彼が私たちのように長命で、それほど高い身分でないのならすぐに私の家へ連れて帰ったのだけど・・・。

 流石に藤原家の一族に手を出したら面倒臭いことになりかねないわね・・・

 

 

 それにしても、彼から貰ったこの珠・・・、

 

「これ、どこかで見たことがあるような気がするのよね。 どこだったかしら・・・?」

 

 

 そう考えているうちに私は家へ着いた。

 

 

 

 

「ただいま、藍。 ・・・そう言えば、ずっとスキマに入れっぱなしだったわね」

 

 私はスキマを開け、藍を外へ出した。

 

「ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイモウシマセンモウシマセンモウシマセンモウシマセン・・・・・・・・・」

 

 ・・・・・・ちょっとやりすぎたかしら?

 

 

「藍? そろそろ正気に戻りなさい」

「ゴメンナサイゴメンナサイg・・・はっ!? ゆゆゆゆゆ紫さま!? ごごごごごごごご機嫌麗しゅう!?!!」

「もう怒ってないから、そんなに動揺しなくていいわよ・・・」

「本当ですか!?」

「本当よ。 そうだ藍、あなたこの珠何か知っているかしら?」

 

 

 藍も九尾ですしね。 ひょっとしたらこれのこと知っているかもしれないわ。

 ・・・時々抜けてるから期待は薄いけど。

 

 

 

 

「これは・・・・・・・・・っ!? 紫さま、これをどこで!?」

「え? 藍はこれを知っているのかしら?」

 

 

 転生したばかりとはいえ、九尾である藍が驚愕するほどの品物なの・・・!?

 

 

「ええ。 これは『文珠』といって、この珠に例えば漢字一文字を入れると、その現象が発生するという霊具です。 例えば「炎」と入れれば炎が発生し、「凍」と入れれば対象物を凍らせたりできます。

 さらに、この文珠を生成できる者は、複数の文珠を同時に操って例えば「雷」・「槍」と使えば、雷を纏った槍を生みだしたりすることができます。

 しかし、この文珠を生みだした者は神などを含めても歴史上数名しかおらず、人間ではまだ誰も生み出していないものです」

「も、文珠ですって!?」

「その通りです。 やはりご存知でしたか・・・。 紫さまはこれをどこで手に入れられたのですか?」

「・・・今日出会った人間からもらったのよ。 『お守りだ』ってね」

「な・・・!? まさか人間で文珠を生み出せる者が現れたのですか!?」

「恐らくそうだわ。 こうなったら信孝には是が非でも、もう一度会わなきゃいけなくなったわね」

 

 

 

 

 

 人間で初めて生まれた文珠使いの可能性・・・。

 仮に違っても、文珠を手に入れた経緯を知ることが出来るだけでその価値は計り知れないわ。

 そのことに気付いた私は、信孝確保に向けた計画を練り始めることにした。

 

 

 

 

 

  紫 side out

 

 

 

 

 

 

 

  Side 信孝

 

 

 

 

 

「信孝! さっきの女と何をしていたんだ!?」

 

 突然ですが、屋敷戻ってきたら夜叉が光臨していました。

 

 

「いつの間に戻って来てたんだ妹紅?」

「そんなことはどうでもいい! こうなったらとことん話させてもらうぞ!」

 

 ちょっ、それなんて理不尽!?

 

「こうなったら取れる手段は一つしかないな・・・」

「・・・何する気だよ?」

「フフフフ・・・逃げるんだよォォォー!」

 

 

 

 

 今こそあんたの名台詞使わせてもらうぜ、ジョ○フ・ジョー○ー!!

 

「あっ、逃げるな! 何分け分かんないこと言ってんだよ!」

 

 

 こうして俺と夜叉・・・もとい妹紅のある意味命がけの鬼ごっこが始まろうとしていた。

 妹紅のリバーブローが放たれ、その迎撃のために俺が左フックを使おうとした、その時、

 

 

 

 

 

「兄さんに姉さん。 これは私が独自で調べて判明したものなんですが、今夜噂の輝夜姫の下に迎えの使者が参り、姫がこの地を去ることになるそうです」

 

「「そういう大事な話は先に言えこの馬鹿野郎!!」」

 

 

 

 あんまりなタイミングで現れた宇合にキレた俺と妹紅は、今まさに放とうとしていた一撃の標的を宇合に変更した。

 その動きに対応できなかった宇合は、俺と妹紅の一撃をモロに受け、その場に崩れ落ちた。

 

 

 

 

「こうしちゃいれねえ! 急いで輝夜の屋敷に向かうぞ妹紅!!」

「分かった!」

「(・・・くそっ! よりによって輝夜の月への期間が今夜なのかよ!! こっちの対策はまだ万全じゃねえが、やれる手はやっておくしかねえか・・・!)」

 しかし、宇合の情報の正確性を知っている俺達は、今夜輝夜が帰ってしまうことを確信し、急いで輝夜の屋敷へ向かった。

 

 

 

 

 この時の俺は、走りながらあるひとつの考えが浮かんでいた。

 

「輝夜帰還のイベントで何かが起こる。 原作には記されてはいないが、かなり悪いイベントが起こる」

 

 どうしてそんな考えが過ったのかは分からないが、絶対に起こると俺は確信していた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第七話 主人公はログアウトしました

  Side 信孝

 

 

 

 輝夜が今夜月へ帰ると宇合から聞いた俺と妹紅は、急ぎ輝夜の屋敷へ向かっていた。

 

 

「くそっ! 宇合の馬鹿野郎、そういう大事なことは早く言えっての!」

 

 

 

 

 よりによって今日の夜が帰還する日だとはな・・・。 

 何故それをあいつが知っていたのかは疑問に残るが、・・・・・・まぁ宇合だからで納得できるな。

 

 

 

「どうする信孝!?」

「もう満月が上り始めているから、そろそろ輝夜は発つと見ていいだろう。 俺たちに無断で故郷に帰りやがるあいつが発つ前に、嫌味の一つでも言っておかないと俺の気が済まない」

「それは私もだ。 クソッ輝夜の奴、家族ぐるみで仲が良かった私達にまで黙っていることはないだろ!?」

 

 妹紅も黙って帰ろうとする輝夜に対して怒っているな。 まぁ、無理もないことだが・・・

 

 

 

 

 待ってろよ輝夜、勝手に帰るんじゃねえぞ!

 

 

 

 

  信孝 side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  Side 輝夜

 

 

 

 

 今夜が私の月に帰る日・・・・・・か。

 蓬莱の薬を飲むという禁忌を犯しながら、地上への流罪期間が2年足らずとは、一体月夜見様は何を考えていらっしゃるのかしら・・・?

 

 

 でも、かつてあれほど望んでいた月への帰還なのに、今の私の心は冷え切ったままだ。

 

 月から追放されて地上に降り立ち、途方に暮れていたの頃の私ならひょっとしたら喜んでいたかもしれない。

 けど今は・・・、

 

 

「信孝、妹紅、藤原家の皆・・・・・・」

 

 

 世話になったおじいさんやおばあさんとの思い出に浸っていた中で、ふと地上で仲が良かった藤原一族の皆の顔が思い浮かんだ。

 

 彼らは私のことを「一人の少女、蓬莱山輝夜」として見ていてくれた。

それに、(武智麻呂を除く)彼らの案内であちこちを歩き回り、自分の足で冒険する楽しさも初めて知った。

 

 正直に言うと、月での変わり映えのしなかった永い時と比べ、こちらでの2年にも満たない短い期間ながらも、日々新しい発見と楽しい一時に満ち溢れていた地上での生活の方が遥かに価値のあるものだった。

 願わくばこの地で終生過ごしたいと思える程にまで、私はこの土地と人々のことが気に入っていたのだ。

 

 

 勿論、彼らは蓬莱人とは異なり唯の人間だから、数十年でいなくなってしまうだろう。

 しかし、だからこそ限られた短い時間を懸命に生きようとする彼らの姿は眩しく、そして魅力的なのだと思う。

 

(もし仮に、月の使者のトップが私の家庭教師でもあった八意永琳│《やごころえいりん》ならば、永琳を説得して私が此処に残ることを提案してみることもいいかもしれない。

 たとえそれが無理だとしても、藤原一家が生きている間だけでもこの地に留まることが出来るよう説得してみよう。)

 

 しかし、この私の考えが悲しい出来事の引き金となってしまい、長きにわたって続く妹紅との対立の切欠になるとは、この時の私は予想だにしていなかった。

 

 

 

 

 

 それからいくらかの時間が経ち、私が月へ帰るという噂が広まったことで貴族や皇族、さらには天皇や側近の藤原不比等までこの屋敷にやってきて、周囲が人で溢れかえるようになったその時、夜空に輝いていた満月の光が一際明るくなり、月から一筋の光が道となって私の目の前へと連なった。

 そして、いつの間にか現れた牛車がその光の道の上を進み、しばらくの後私の目の前へと降り立った。

 

 

「・・・来たようね」

 

 

 

 周りの群衆が呆然と光の道と降り立った牛車を見守る中、目の前に降り立った牛車の戸が開き、中から北斗七星を模した柄と赤と青の2色を用いた特徴的な服を着込んだ女性が降り立ち、私の元へと歩を進めた。

 

 

 やはり貴女が来たのね・・・八意永琳。

 

 

 

「永琳、迎えの使者はやはり貴女だったわね」

「ええ姫様。 お久しぶりでございます。 お迎えにあがりました」

 

 折角の再会にも拘らず、あくまで事務的に私に応対する永琳。

 仕事中の永琳は私情を持ち込まない人間だとは知っていたけど、ここまで事務的に対応されると上手くあの話を切り出すことが出来ない。

 そんな永琳の瞳を見る限り、私が説得しても受け入れてくれる可能性は低いわね。

 

 

 それでも、この程度で諦めるわけにはいk「おい永琳、さっさとこの姫さんを連れて帰るぞ! 全く、地上の空気は穢れているわ! このような穢れた土地なんぞ居るだけで害悪でしかないわ!」・・・・・・喧しいわね。 一体誰かしらこんな品のない暴言を履き散らす奴なんて?

 

 

 そう思い、私は大声で喚き散らしている男の方を向いた。

 

 

 ・・・確かこいつは月の最高幹部の一人の息子ね。 永琳がこの一団の長だと思っていたけれど、どうやらこいつが団長のようね。

 月にいた頃から親の権力を使って問題行動を頻発させていた憎たらしいと思ってたけど、久しぶりに会うと前以上に憎たらしくなっているわね。

 

 

 

 だけど、こいつが団長ならばいくら永琳を説得してもこいつが決して受け入れないでしょう。

 

 

 

 

「あなたに指図される云われはないわ。 姫様、こちらへ」

 

 

 

 そう言って永琳は私を牛車の方へ導いた。

 

 ・・・思ったより権限あったのね永琳。 あの団長の意見をバッサリと切り捨てることができるなんて恐らくこの場では貴女だけよ。

 

 

(でも、永琳に大きな権限があるならばさっきの計画にも希望が出てくる。 要は永琳さえ味方にすればあとは永琳がうまく丸め込んでくれるでしょうし・・・。 そうと決まれば、永琳に早いところ話をしておかないといけないわね)

 

 そう思い立ち、永琳に話を持ちかけるために近づいた時、それは起こってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「輝夜っ!」」

「えっ!?」

 

 

 

 私が声のした方を向くと、信孝と妹紅がそこにいた。

 ・・・何で「これから」ってところで現れるのよアンタ達!? 計画が狂いっぱなしじゃない!!

 

 

  輝夜 side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  Side 信孝

 

 

 

「「輝夜っ!!」」

 

 ・・・何とか間に合ったみたいだな。

 宇合からの情報が無かったら、間違いなく気付かなかっただろう。

 

 

「輝夜、幾らなんでも俺たちに一言も告げずにさよならってのはひどくないか?」

「輝夜、わたしとお前の仲はそんなに安っぽいものなのか?」

「私だって今朝来た文で知ったのよ!? 寧ろ何であなたたちが来れたのか分からないわ!?」

「こっちには宇k・・・もとい優秀な情報屋がいるからな。 そのおかげで今日お前が帰るって知ったんだ」

「・・・情報屋だと?」

 

 輝夜に事の真相を話したところ、輝夜含め従者らしき変な格好の女・・・もとい永琳や迎えに来た一団の連中も唖然としていた。

 

 納得いかない話だと思っても無理はないことだと思う。 あいつの情報量はあり得ないほど多いからな・・・。

 正直なところ、アイツがキリスト神話の真実や邪馬台国の正確な位置と卑弥呼の墓所の在処を知っていたとしても俺は決して驚かない。

 

 

 

 世界と時代が違ったら藤原一家は全員封印指定されていただろうが、その中でも宇合は最上級に危険人物扱いされていただろう。

 それほどまでに扱いが難しい野郎だからこそ、輝夜の月への帰還という情報を鵜呑みにすることが出来たくらいだ。

 

 

 

 

 ・・・話を戻そう。

 

 それでも輝夜がまだ何か反論してきそうな雰囲気を出しているのが若干気に食わない。

 ここで一気に畳み掛けて輝夜を封じ込めた上で、おっちゃん達と一緒に月の一団相手に無双乱舞すれば

 

 

 ・・・それと、先程から妹紅が輝夜に対し言いたい事があるような雰囲気でウズウズしているな。

 

 折角だしちょっとバトンタッチでもしてみるか。

 

 

 

 

 

 信孝 Side out

 

 

 

 

 

 

 

  Side 妹紅

 

 

 

(・・・ってこの状況で私視点に移るのか!? もうちょっと場の空気読めよ!!)

 

「・・・何慌てているんだ妹紅?」

「(誰のせいだ誰の!)・・・何でもない」

 

 全く・・・、信孝は普段は良い奴なんだけど時たまこうやって無茶振りするから怖いんだよな・・・。 其れさえなければ私も安心していられるのに、勿体無い奴だ。

 

 

 

 ・・・いっ、言っておくが別に変な意味で言っているんじゃないからな!?

 

 

 

 

 

「・・・話が逸れちまったな。 改めて聞くが、いくら連絡が急だったからとはいえ、一言もなく帰るってのは幾ら何でも酷過ぎやしないか?」

「・・・信孝の言う通りだ。 それに輝夜お前、本当に私たちに黙って帰るつもりだったのか・・・?」

 

 私が輝夜にそう尋ねると、輝夜はどこか諦めたような笑みを浮かべて言葉を紡いだ。

 

「・・・・・・私が今日帰るのは既に決定されたことであり、もう覆らないわ。 何も言わずに帰ろうとしたことについては申し訳なく思っているけど、こうして最後に貴方たちに会って話が出来て良かったわ。 それと、最後に貴方たちにこれを渡すわ」

 

 

 輝夜は袖の中から小壺を取り出し、それを私に手渡した。

 

「何だこれは? 見たことがない文様みたいだけど・・・?」

「・・・骨壷か? 輝夜、お前って中々洒落たもの妹紅に渡すんだな」

 

「骨壷じゃないわよ!! ・・・それは蓬莱の薬と呼ばれ、3錠飲めば不老不死となれる薬よ。 それを飲むか処分するかは貴方たちに委ねるわ」

 

 そう言い残し、輝夜は牛車の方へ歩いて行った。

 ・・・あいつ、このまま帰る気か!?

 

 

 

「待てよ輝夜! こんな餞別だけ渡して『ハイさよなら』で済ます気かよ!?」

「・・・今の私に出来ることは此れくらいしかないもの。 元々罪人としてこの地に流されたのだから、私に出来ることはあまりに少ない。 それは私が出来る精一杯の感謝の証よ」

「輝夜・・・」

 

 

 

 

 一度だけこちらを振り返り、潤んだ目で語りかける輝夜の姿を見たらこれ以上反論が出来ない。

 あいつの雰囲気だけで、これがあいつが出来る精一杯の誠意の証だと気付いてしまったのだから・・・

 

 事ここに至っては、私達は輝夜が月へ帰るのを笑って見送るしか出来そうもない。

 だから、私は涙でくしゃくしゃになった顔からなんとか笑顔にして輝夜を見送ろうと思った。 それが今の私に出来る精一杯のことなのだから・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・でも、そんな私の願いは、一人の男の手で壊されてしまうこととなってしまった。

 

 

 

 

 

「おっと待てよ、姫さん」

 

 

 突然、使者団の上役と思われる男が、今まさに牛車に乗ろうとしている輝夜を止めた。

 

 

 

「・・・何よ?」

「今回の任務は、姫さんを月に連れて帰ることだけじゃねぇんだよ」

「・・・・・・え?」

「それはな‥‥‥‥‥‥、これだよ!!」

 

 

 

 そう叫んで、男は私の方に何かを向けた。

 ・・・あの黒く光るモノは何だ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――パシュッ!!――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「・・・え?」

 

 

 ・・・何かが炸裂したかのような音がした後、いつの間にか私を覆い隠すようにいた信孝が胸から、大量の血を流して私の前で倒れ込んだ・・・。

 

 

 

  妹紅 side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  Side 信孝

 

 

 

 

 

「それはな・・・・・・・・・」

 

 そう言って、あの男は懐から何かを取り出した。

 あれは・・・・・・、まさか銃剣か!?

 

 

 ※銃剣:17世紀のフランスで発明された、銃身の先端に刃を取り付け、銃としても短槍としても扱える遠近両用の銃。

 

 

 

 何であんな物がここにあるんだ!? 月の科学力ってのはそこまで凄いものなのか・・・・・・!?

 それ以前にあんなデカイ代物どうやって懐から出した!? あの服の懐は四次元○ケットか何かか!?

 

 様々な考えが頭の中を過ぎり、冷静になろうとしても中々落ち着くことが出来ない。

 そんな俺をよそに、男は銃剣を躊躇いもなく妹紅の頭の方に向けた。

 

 ・・・・・・マズイ! この時代に銃がどんな物か理解している奴は皆無に等しい! 現に妹紅もあれが何か全く分かってないし、このままだと妹紅がヘッドショットをくらって即死する・・・!!

 

 

 

 俺は反射的に妹紅を庇うように妹紅の前に出たのと、男が銃剣の引き金を引いたのはほぼ同時だった。

 

 

 

 

――――――――――――――――パシュッ!!――――――――――――――

 

 

「・・・・・・え?」

 

 

 

 

 

 

 

 発砲音が聞こえたのと同時に、俺の左胸から焼けるような猛烈な痛みが広まった。

 

 ・・・・・・どうやらあの男の銃の腕前はそんなに高くはなかったみたいだな。

 それと、俺の心臓が普通の人間と違い右胸にあるおかげで何とか心臓は外せたが・・・。 それが唯一の救いってやつかな・・・。

 

 

 ・・・そう言えば・・・俺、折角・・・・・・気とか魔力を付けてもらったんだから・・・それで防げば良かったのか。

 

 

 

 ・・・・・・ははっ、今更思いついても時すでに遅しってやつか・・・?

 

 

 傷を・・・治そうにも、血が・・・抜けすぎたのか・・・意識が朦朧として・・・力が・・・全然入らねぇ・・・。

 

 

 

 此処・・・で・・・・・・俺は・・・・・・、死ぬ・・・・・・の・・・か・・・・・・・・・

 

 

 

 

  信孝 side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  Side 輝夜

 

 

 

「信孝!? おいしっかりしろ信孝!!」

 

 妹紅が血に濡れていることなどお構いなしに、銃弾で貫かれ倒れた信孝に必死で呼びかけている。 でも信孝は幾ら呼びかけても全く反応しない・・・。

 

 

 

 私は逆上して銃弾を放った男に喰ってかかった。

 

 

「ちょっとあんた! 何で信孝を刺したのよ!」

 

 

 しかし、男はさも当然といった風体で私に向けて話し始めた。

 

 

「今回はあんたを連れて帰ることの他に、近いうちに我々が地上へ進行するための情報収集や拠点となる地の確保も兼ねているのだ。

 そして情報を集めた結果、藤原不比等、藤原房前、藤原宇合、藤原麻呂、藤原信孝、藤原妹紅、高市皇子、以上の7名は我々の計画の障害になる可能性があるとして抹消対象と定められた。

 そして、ここに来たら対象人物である藤原信孝と藤原妹紅がいたので殺した。 ただそれだけだ。

分かったのなら其処を退け。 もう一人の抹殺対象である藤原妹紅を殺さなければならないんでな」

 

 

 

「な・・・!? なんでそんなことになったのよ!」

 

 

 

「・・・分かってねえな。 原因はあんたにもあるんだよ姫さん」

「え?」

 

 ・・・私に原因ってどういうこと・・・?

 

 

「あんたは追放された身だ。

 それなのにこいつらと仲良く遊ぶとは、罪人としての自覚があるのか? ・・・ないだろうな。

 そのため、本来はもう少し後に実行する予定だったこの計画を前倒しして、見せしめとしてあんたの目の前で対象を殺すことを上の方々は決定されたんだよ」

 

 そんな・・・! わたしのせいで信孝に妹紅達藤原家の皆が・・・!?

 

 

 

 

 

 

 

「・・・す・・・・・・」

 

 

 

「ん?」

 

 

 

「殺す! 輝夜も貴様らも殺す!!」

「妹紅!? 今の貴女じゃ無理よ!」

 

 

 

 幾らなんでも、銃剣を操る相手に生身の人間は勝てないわ!!

 この時代の日の本に銃なんて代物存在しないから、対処方法も分からないでしょうし・・・。

 

 

 

 ・・・それならどうして信孝は銃剣が危険な物だと分かったのかしら? 引き金を引いた時には既に妹紅を庇うように立っていたことを考えると、もしかして信孝は銃剣の存在を知っていたとでも言うの・・・・・・?

 

 

 

 

 

 

「五月蝿い! 信孝の仇だぁぁぁぁx!!」

「ぐがあっぁぁぁぁぁ!?!?」

 

 妹紅があの男に向かって拳を振りろうとしたその時、妹紅の拳が突然炎を纏った。

 突然のことで対処できなかった男は、妹紅の拳を顔面に受けて大きく後ずさった。

 

 

 

「まさか、能力の発現か!? くそっ!! 藤原妹紅、能力が発現した以上貴様はここで確実に抹殺せねばならぬ! 我ら月の地上侵略計画に仇なす可能性が少しでもあるものは此処で殺す!!」

 

 

 

 

 そう告げて、男は妹紅の頭部に向けて銃弾を発射した。

 

 

 

「妹紅っ!」

 

 銃弾が額に直撃し、崩れ落ちる妹紅に私は急いで駆け寄った。 すると・・・・・・、

 

 

「・・・・・・私は死ねない。 あいつの・・・信孝の仇を取るまで死ねないんだよぉ!!」

 

 

 頭を銃弾で撃たれた筈の妹紅が再び立ち上がり、身に纏った炎で男の右腕を焼き尽くした。

 

 

「があぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 貴様ァッ!!?」

「まさか妹紅、貴女蓬莱の薬を・・・!」

「ああ、飲んだよ。 貴様らを殺すという私の目的のためになぁ!」

 

 

 そう妹紅が言った通り、彼女の足元には蓬莱の薬が入っていた壺が空となって転がっていた。

 

 

 

 

「くそっ! 高貴なる俺の右腕を焼くとはいい度胸だァ!! 者共っっ、この身の程知らずの女を殺し尽くせぇ!!!」

「「「「はっ!!」」」」

 

 

 男の号令を受け、武装していた団員が一斉に妹紅へ向けて銃を構えた。 しかし、

 

 

 

「邪魔を・・・するなぁっ!!」

「「「「ぐわぁぁぁっ!?」」」」

 

 

 

 

 妹紅の炎が銃弾を発射するよりも早く彼らを襲い、炎に包まれた彼らは炎を消すことに手一杯となってしまった。

 

「・・・くそっ! 対炎装備を持ってこなかったことが失策か! 者共っ、ここは一旦引くぞ!」

「「「「ははっ!」」」」

 

 

 

 男の号令を受け、使者団は私や永琳を牛車に押し込み、屋敷から飛び立った。

 

 

「待てお前ら! そのまま逃げるつもりか!?」

 

 

 妹紅も当然私達を追いかけてくるものの、流石に空を飛ぶことは出来ないらしく、屋敷の入り口で立ち止まり、私たちのことを睨んでいる。

 

 

 

 

「勘違いするな! 俺の目的はあくまで貴様らの抹殺と姫さんの連行だ!! 態々貴様に有利な場で戦うなど愚の骨頂よ!! 藤原信孝の死体ごと貴様を此処で消し炭にしてやるわぁ! 火遁『紅蓮の劫火』!」

 

 そう言い残し、男は火術で私の屋敷ごと周囲の人間を焼き尽くした。

 突然の炎に屋敷の周囲にいた人間はパニックを起こし、多くの者がその炎に身を焼かれていった。

 

 後から知ったことだけど、最終的にこの惨劇を生き残ったのは、「この程度の炎、我が筋肉の前には無力なり!!」と叫びながら棍棒を振り回し、どういう理屈かその風圧で炎を消している藤原不比等と、彼に守られている天皇や皇族、一部の貴族・庶民のみであった。

 

 

 

 

 

「信孝ァァァァ!!! 輝夜ァ! 貴様もそいつらと共に殺してやる!!」

 

 

 そして、炎の能力を発現した事と蓬莱人となった故この炎に身を焼かれても死なない生き残りの一人である妹紅は、私を含めた月の一団に対し、持てる限りの恨みを込めた叫びを上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 妹紅、ごめんなさい・・・・・・。 私のことを恨んでくれても構わないわ。 

 

 こんなこと言う資格はないけれど、あなたに幸あらんことを・・・。




改訂作業が思った以上に進まない・・・。
其のくせこんな残念な出来に絶望した!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 その1 彼に何があったのかは(駄)神のみぞ知る

意外と早く改訂できたので上げてみました。
藤原京編が終了すると、徐々に東方原作キャラが増え始めてゆきます。


  Side 信孝

 

 

「ここは・・・?」

 

 

 

 俺は、あの野郎が撃ってきた銃弾から妹紅を庇って・・・・・・、あれ? それからどうなった?

 

 俺が必死に何があったか思い出そうとしていると、

 

 

 

 

 

「ここでは初めましてですかね、信孝さん」

 

「よう信孝! 元気か?」

 

 

 ・・・駄神と見たことがない神様らしき男が現れた。

 

 

 

 

「なんだ駄神か。 何でお前がここにいる?」

 

「お主が死んだと聞いたから様子を見に来ましんじゃ。 それよりも儂の表記が「駄」ってどういうことじゃ? 私は神じゃと前々から言うておろう?」

 

「お前は駄神だからそれでいいんだよ。 それで、そちらさんは誰だ?」

 

「申し遅れました。 私は高御産巣日神(たかみむすびのかみ)と申します・・・」

 

 

 

 

 ・・・ちょっと待て、今、高御産巣日神(たかみむすびのかみ)とか言ったよな?

 

 俺の記憶(wiki知識)が正しければ日本の創造神の三柱の一柱だったはず・・・。

 

 

 

 

 

 

「・・・えーと、本物で?」

 

「本物ですよ」

 

「・・・何でそんなお偉いさんがここに?」

 

「今回の突発的な出来事の説明役として、私が招かれたのですよ」

 

「成程・・・」

 

 

 

 高御産巣日神(たかみむすびのかみ)は生産、生成を司る神だったはず。

 

 それに造化三神の力があれば蘇りも容易い・・・ってことか。

 

 

 

 

 

 

 

「それで駄神、ここは何処だ?」

 

「此処は人間界と黄泉の国の境目じゃ」

 

「・・・・・・そうか。 やっぱり俺は死んだのか」

 

 

 

 

 

 まぁ、無防備であんなところに銃弾を受けて死なない方が凄いことだしな。

 

 

 

 

 

 

 

「正確にはまだ死んでおらんよ。 お主が撃たれてから魂が活発化し、仮死状態に近い状態で安定しておるからの。

 恐らく神産巣日神(カミムスビ)の奴が何かしたんじゃろうな」

 

「神産巣日神だと・・・? まさかの造化三神揃い踏みかよ」

 

「そうじゃ。 そして、本来の予定よりはいくらか早いが、お主をこれより不老の体といたす」

 

 

 

 

「・・・・・・!? えらく急な話だな。 そんなに急ぐ予定でもあったか ?」

 

「いくらカミちゃん・・・もとい神産巣日神が仮死状態で保存したとはいえ、それも限度がある。

 長時間放置すれば、仮死状態が解け、意識は戻らぬまま肉体は腐敗してゆくだろう。 そうなる前にお主を少なくとも不老の状態まで持ってゆかねばなるまい。

 ・・・最も、不死も合わせたほうが効果は高いのじゃが、それはお主が嫌うであろう?」

 

「・・・・・・よく覚えてたな。 確かに俺も原作前に死ぬのは嫌だが、妹紅や輝夜の姿を見る限り不老不死にメリットは感じないからな」

 

「じゃが、それではお主も大変じゃと思うたから簡単には死なぬように強靭な身体を再構成しておいた。 具体的には、十字切りで切腹しても処置が早ければ完治するレベルで死ににくい体じゃ」

 

「」

 

 

 

 

 

 

 

 駄神の言い分も最もだと思った俺は、駄神の提案に乗ることにした。

 

 

 

「さて、これからが本題だ」

 

「って今までのが前振りかよ!?」

 

「もちろんさぁ☆ そもそも、あと一人揃わなければ儀式は始められぬしの」

 

「ド〇ルドネタはやめろ。 唯でさえキモいのにテメェみたいな駄神がやると心の底から殺したくなる」

 

「・・・・・・まぁそれは置いといて、今回の本題は「本編で語られなかった真実を此処で一挙に話そう!」だ。」

 

 

「要はお前の力量不足が原因だろ」

 

「ワシ最初以来出てないしのぅ・・・」

 

「私もです。 さて、それでは始めましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~信孝の修行風景~

 

 

 

 

「ふぅ・・・・・・」

 

 俺は転生して以来、毎日修行を欠かさず行っている。

 

 使用する武器は、勿論俺が転生してきたときに一緒に持ってきてもらった愛用の武器だ。

 

 刀は織田家の家宝の刀である宗三左文字《そうさんさもんじ》と三日月宗近《みかづきむねちか》の二振り。

 

 槍は何故か実家に置いてあった蜻蛉切《とんぼきり》に来国俊《らいくにとし》の二槍。

 

 弓は俺が作った黒鉄《くろがね》。

 

 

 

 

 

 これらを一刻も早く再び使いこなすために、俺は血反吐を吐くほどの修行をした。

 

 そのおかげで16で前世の俺(享年19)とほぼ同等の力を手に入れた。

 

 

 

 

 前は俺の周りに修行相手などおらず(クソ爺? あんなのは修行相手じゃなくて一方的にリンチしてくる厄介者だ)、一人で黙々とやっていただけであったが、今回はちょうどいい修行相手がいる。

 

 

 それは・・・、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おう麻呂、よく来たな。 んじゃやるか?」

 

「・・・・・・(コクッ)」

 

 

 

 

 

 

 そう、おっちゃんの四男である藤原麻呂だ。

 

 

 こいつは若干12歳ながら、気配遮断・小太刀・柔術等何でもござれというチートであり、且つ、何処で学んできたのか全く気配を感じさせない素早い歩行術も会得していることもあって、修行相手としては将にうってつけの存在なのだ。

 

 

 

 

 

 実力だけなら不比等のおっちゃんも強いのだが、あのおっちゃんよりによって俺の刀や槍を腹筋で受け止めた上に、筋肉で斬鉄やらかすから怖くて刀槍が使えない。

 

 最早あれは人間じゃないと考えたほうが身のためだ・・・。

 

 

 

 

 

 宇合は正直強さはよく分からない。

 

 あいつはその化け物じみた頭脳に目が行くことが多いから、武術の腕についてはあまり聞かないんだよな。

 

 ただ、全国各地を動き回っているようだから隠れた技を会得していても何ら驚かない。

 

 

 

 

 

 

 房前は根っからの文官なので、辛うじて護身術程度にしか武芸を嗜んでいる程度で、とてもじゃないが相手として頼めない。

 

 まぁ、そもそも文官に武芸はいらないから護身術程度で十分なんだけどな。

 

 

 

 

 

 

 武智麻呂は論外。 あのメタボが自分から動くなんてありえない(断言)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・話を戻そう。

 

 俺と麻呂の戦いは一進一退だ。

 

 

 

 

「織田神景流剣術奥義、桜華狂咲《おうかきょうえい》!」

 

 この技はF○Tのク〇ウドの技の名前を、そのまま俺流にアレンジして使わせてもらったものだ。

 

 決して技名を考えるのが面倒だったとかそういうわけじゃない。

 

 どんな技か分からないという人は後で調べてくれ。

 

 正直説明はめんどくさいので、分かる人はB〇EA〇Hの朽〇白〇の〇解である「千〇桜景〇」に近い技みたいなものだと思ってくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・本当はだいぶ違うけど気にしない。 悪いのはあの腐れ作者だからな。

 

 

 

 

 

 

 

 だが、その技によって放たれた数多の刃を、麻呂は持っていた小刀で全て切り落とし俺に接近してくる。

 

 やっぱり未完成なこの技じゃ麻呂は倒せないか。

 

 完成したらとんでもない大技になるのに・・・・・・。 どれだけチャージ時間いると思ってるんだよこの技に!

 

 

 

 俺も次の技を繰り出す。 そして・・・・・・、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「織田神景流奥義、唯円《ゆいえん》!」

 

「・・・破竹一閃!」

 

 

 

 

 互の技がぶつかり合い、周囲に大きな砂塵が吹き荒れた。

 

 その砂塵が晴れた時、俺の宗三左文字が麻呂の首に、麻呂の小刀が俺の左胸の位置で寸止めしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・また引き分けか」

 

「・・・・・・(コクリ)」

 

 

 

 

 これで468戦50勝50敗368引き分けだ。

 

 

 

「相変わらず強いな麻呂は」

 

「・・・そんなことはない。 兄上も強い」

 

「なかなかいいこと言ってくれるじゃねぇか。 よし、修行も終わったし一緒に飯でも食いにに行くか」

 

「・・・(コクリ)」

 

「・・・・・・偶には返事の時くらい喋れよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして俺の1日は過ぎていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、本編以外ではこんな感じで修行しているんだな」

 

「それにしても麻呂は強いの」

 

「ああ。 正直俺はあいつと敵対してなくてよかったと本気で思ってる」

 

「なら宇合は?」

 

「・・・・・・あいつは別格だ。 武術とかそういった次元じゃなくあいつとは敵対したくない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そして、続いてはこれです」

 

「まだあるのか?」

 

「ああこれはワシが頼んだ事じゃよ」

 

「貴様のせいか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ~宇合の情報網~

 

 

 -なぜ輝夜の月の帰還を知っていたのか?-

 

 

 

 

 

 

 

 

      ~輝夜姫帰還の日の朝~

 

 

 

「姫様、姫様宛に文が届いております」

 

「また求婚の文でしょ? 今度は誰、また不比等?」

 

「いえ、今度は求婚の文ではありません。 差出人も不明です」

 

「・・・ちょっとその文持って来てくれる?」

 

「かしこまりました」

 

 

 いつも通り部屋の中でのんびりしていると、侍女が私宛という文を渡してきた。

 

 普段であれば求婚の文(差出人名記載)か不比等のトンデモ献上品なので、差出人も誰が届けたのすら分からない文に興味を覚え、手にとった。

 

 

 

 

 

 

「こちらです姫さま」

 

「ありがとう。 下がっていいわよ」

 

「はいっ」

 

「・・・・・・あんな顔の娘いたかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 恐らくお爺様が新たに迎え入れた侍女だと思い、私は彼女に手渡された文を読んだ。

 

 そこには、「今宵、満月の夜にお迎えに上がります」とだけ書かれていた。

 

 

 

 

 

「・・・この筆跡はおそらく永琳ね。 そっか、今日帰らければならないのね・・・」

 

 

 

 私は信孝や妹紅、慧音、藤原一家の皆のことを思い浮かべて暗い気分になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・その様子を見ていた侍女が一人。 いや・・・、

 

 

 

 

 

「成程、輝夜姫は今日この地を去るのですか。 これは父上や信孝兄、妹紅姉に伝えなければなりませんね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつの間にか侍女に変装して入り込んでいたのか、宇合がしっかりと聞いていた。

 

 そして、何故か他の侍女や衛士にもバレることなく、宇合は屋敷を出て藤原家の屋敷を目指して去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とまぁ、これが真相みたいです」

 

「あいつ何やってんだよ・・・。 堂々とやるなとあれほど言ったというのに・・・」

 

「しかし・・・よくバレなかったのぅ」

 

「あいつは変装の名手としての側面も持っているからな。 女装程度朝飯前だ」

 

「因みに、藤原京に忍び込んだ時は父親に変装して侍女のところへ遊びに言った上、次の日の朝誰にもバレずに朝議に参加したりもしていたという記録があります」

 

「もうやだこの朝廷・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて次は・・・」

 

「まだまだあるぞぃ」

 

「どんだけ持ってるんだよ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ―――不比等の求婚方法―――

 

 

 

  Side 輝夜

 

 

 

 

「どうだ輝夜姫! 俺自ら鍛えたこの日本刀は!! 素晴らしい作品であろう!?」

 

「ハァ・・・」

 

 

 

 相も変わらず、来る日も来る日も屋敷へと押しかけて私に求婚してくる筋肉バカ・・・もとい藤原不比等の姿を見て、私は思わず溜息を吐いた。

 

 これで唯の馬鹿だったら適当にあしらえばいいのだけど、今回持ってきた日本刀を始め、彼が持参する献上品はどれも一級品・・・いや、時には月でも滅多に手に入らない代物もあるからそれ以上かもしれない。

 

 

 そんな作品を己の手腕のみで生み出す彼には本当に驚嘆するし、少し心動かされたことも事実だ。

 

 

 

 

 

 でも・・・・・・、

 

 

 

 

(・・・この暑苦しさだけはどうにかして欲しいわ。 其れさえなければ彼に恋心を抱いたかもしれないというのに、この暑苦しさで全てを台無しにしているわ。 本当に勿体無い逸材ね・・・)

 

 

 

 これまた相変わらずの暑苦しさのせいで思わず顔を顰めてしまう。

 

 ・・・本当、これがなければいい男なのに・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・そこまで言うのなら、一つ難題を出しましょう。 この難題を解き明かしたのならば、私が貴殿の妻となりましょう」

 

「・・・真か?」

 

「女に偽りの言葉はありませn「よし乗ったぁ!!」・・・左様ですか」

 

 

 

 

 

 私の質問に即答する馬k・・・もとい不比等。

 

 こうも分かりやすい思考だと、簡単に物事が運んで便利ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは難題をお伝え致しましょう。 この地のどこかにある『蓬莱の玉の枝』という根が銀、茎が金、実が真珠の木の枝で出来た大変珍しい宝物があるとか・・・。

 この『蓬莱の玉の枝』を手に入れること、これを難題といたしましょう。 期限は2ヶ月後の満月の夜とでいかが?」

 

「・・・蓬莱の玉の枝だな。 必ずや期限までに手に入れて見せよう!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう言うや否や、不比等は全速力で屋敷の外へと駆け出していった。

 

 

 

 ・・・最も、手に入れることは不可能なんだけどね。 何せ、私が実物を持っているのだし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ~2ヶ月後~

 

 

 

 

「ふぅ・・・今宵も良い月n「輝夜姫! ようやく手に入れましたぞ!!」・・・また貴方ですか不比等」

 

 

 

 

 折角月を肴に深酒を楽しもうとしたのに、その全てをかき消す暑苦しさを持つ漢なんて、彼以外いないわね。

 

 

 

 

「2ヶ月前、姫が申していた『蓬莱の玉の枝』を漸く手に入れましたので、その献上に参りました次第でございます。 どうぞ、お納めくだされ」

 

 

 

 

 そう言って、不比等は持っていた桐箱を私の手元へと差し出した。

 

 

 

 ・・・随分小さな桐箱ね。 大きさは私の持つ本物の半分もないかしら・・・?

 

 

 

 

 

 

 

 本来なら、箱の大きさが違うことを理由に門前払いしても良いのだけど、不比等の場合は他の求婚者と異なり、献上品の中身が尽く私の予想斜め上や斜め下の品物ばかりであったので、下手に門前払いした時に、とんでもなく珍しい品物をみすみす手放してしまうことに直結してしまうかもしれない。

 

 

 

 

 

 そのため、私は不比等の献上した品物を受け取り、恐る恐る桐箱を開けた。

 

 そして中に入っていたものは・・・・・・、

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・何かしら・・・コレ(ヒクッ」

 

「・・・蓬莱の玉の枝ですが何か?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・成程、今回は「予想の遥か斜め下」の品物ってことね!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・こんな品物は流石に始めてよ不比等。 ま・さ・か、私への献上品に石ころと木の枝を繋ぎ合わせた即興品を送ってくるなんてねぇ!!!!」

 

「何を言うのですか姫様! これは私が厳選して手に入れた質の良い河原の石と紀伊国に流れ着いた珍しい流木を枝を拝借して制作した世界に一つだけの代物ですぞ!?」

 

 

「心外なのは私の方よ!! 寄りにも寄って、こんな有り合わせの廃棄物を渡してくるとはいい度胸じゃない藤原不比等!!! 貴方にはやっぱり徹底した教育が必要なようね!! 表へ出なさい!!!」

 

「ゴミ扱いとは真に心外でござる!! 折角国一番の鍛冶師に頼んで繋ぎ合わせたというのに、彼の努力を無駄にするつもり「そんなことに国一番の鍛冶師を使うなぁぁぁ!!! 神宝『蓬莱の玉の枝-夢色の郷-』」・・・ぎゃぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

 

 

 

 こうして不比等は吹き飛ばされ、事なきを得ることとなった。

 

 

 

 

 

 その後、私が永琳と身を隠している頃にふとその存在を思い出し、永琳に鑑定されてみた。

 

 その結果、何と玉の部分はくすんでいて当時は全く分からなかったのだが、永琳の持っていた特殊な器具を用いて丹念に磨き上げたところ、全て魔力の篭った古い琥珀で出来ていることが判明した。

 

 さらに枝の部分に至っては、伝説の木とに認知され、その葉は全てを癒すとまで言われた世界樹と呼ばれる巨大樹の枝から出来ていることが判明したのだった。

 

 

 

 

 

 

 この鑑定結果を見た永琳は、「・・・この宝物を何処で手に入れたの輝夜!? これだけの伝説の品物ばかりを集めた枝なんて、下手したら貴女の持つ『蓬莱の玉の枝』以上の価値を持っているのよ!? 是非とも製作者に話を聞かないと!!」と、興奮した状態で私に詰め寄ってきたのだった。

 

 

 

 制作した人間も指示した人間も故人のため、製法や入手先は分からないと伝えたら、永琳が目に見えて落ち込んでしまったのは余談である。

 

 ・・・数百年経てからのどんでん返しをしてくるとは、本当にあの男は私の予想を大きく上回る人間だったわね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・以上で、過去の記録映像は終了です」

 

「おっちゃんそんな事までしていたのか・・・・・・。 相変わらずやってくれるな」

 

「流石にあのような事はわしらにとっても予想外じゃったわぃ。 世界樹なんて葉ですら人間界ではまず手に入らない代物じゃのに、ましてや枝付きが見つかること自体史上初といっても良い事態じゃ」

 

「・・・そんな困難を、悪運とか筋力で強引に突破するのがおっちゃんなんだよ」

 

「うむ。 これを見て改めて痛感したわい」

 

 

 俺と駄神がおっちゃんの仕出かした所業を諦めの境地に入りながら見ていたせいか、周囲の気配に対して疎かになってしまい、後ろに迫った人物の存在に全く気付かなかった。

 

 

 

 

「ちょっといいかい?」

 

「おおカミちゃんか。 元気かの?」

 

「っ!? ・・・今度は誰だ?」

 

 

 

 

 

 

 

 慌てて後ずさり、近づいてきた人物を確認すると、そこにはどこか雰囲気が永琳に似ている女性がいた。

 

 

 

「おっ、お前が私の転生体か。 私は神産巣日神だ。 カミちゃんって呼んでくれ! 宜しくな!!」

 

「なっ・・・、神産巣日神・・・だと? 本物の神じゃねえか!?」

 

「本物ってそれじゃワシが偽物みたいじゃないか? それにしてもカミちゃん一体どうしたのかの?」

 

「さっきやっと〇ateがクリアできたからこっちに来た」

 

「ダメだこの神共。 早く何とかしないと・・・」

 

「失礼ね高ちゃん! 折角クリアした記念に力をいくらか貸し与えようとしたのに・・・」

 

 

 

 ・・・少しでも期待した俺が馬鹿だったよ!!

 

 

 

 

「急に掌返したな。 まあそう言うのも悪くはないけど・・・・・・」

 

「それで何をあげるつもりなのじゃカミちゃん?」

 

「F〇teクリア記念に、お前に王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)をやろうかなと思って」

 

「・・・いいのか? 唯でさえ色々便宜謀ってもらったのに、そんな反則技保有して?」

 

「所詮この世界は並行世界(パラレルワールド)だからいいのよ。 ただ、今のところこの中には何も入っていないから、何を入れるかは君次第になるけどね」

 

「それ何てご都合主義・・・。  っていうかそんな力持ってたんだなアンタも」

 

 

 

 

 

 

 あまりに軽い登場だったせいか、どうしても強いイメージが湧かないのは俺だけじゃないと信じたい。

 

 

 

 

 

「私を誰だと思っているの? 日本の創世神の三柱のうちの一人よ? 天照より上の立場なのよ?」

 

「まぁ、あんたくらい位の高い神ならそれくらいできて当たり前だろうな」

 

「当たり前じゃろ。 それとこれは儂からの要望だが、ラ〇ひなとか〇ギまとか好きだからそれらの技もどんどん使ってほしい」

 

「・・・それは流石に勘弁して欲しい。 そもそも俺ギリシャ語分からねーから呪文詠唱出来ないし、あんな退魔の剣技を幻想郷で乱発したら、幻想郷に俺が入れなくなるだろ? だから、王の財宝もいらん」

 

「・・・それもそうじゃな。 ならばこれは次回作に期待しておこうかの。 それに、そろそろ時間じゃしな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう駄神が言うと、俺の周りに突然光の柱が現れた。

 

 そして、俺の体が少しずつその光に吸い込まれてゆく感覚を感じた。

 

 

 

「時間ってなn・・・って俺の体透けてね!?」

 

「それは現世へ復帰する前に起こる現象じゃよ。

 お主が目覚めたとき、事件から1年後、あの場所から少し離れた山の中でお主は目覚めるからの」

 

 

「おうよ。 んじゃ行ってくるわ!」

 

 

「またね信孝♪」

 

「次会ったときは一緒に酒でも飲みましょう」

 

「なら次会ったらワシと一緒に女風呂覗きに行こうかの?」

 

 

「てめぇは黙れこの駄神が!!」

 

「エンデバアァァァァァァァァァァァァァ!!!?!?!?」

 

 

 

 

 

 

 

 高ちゃんの声援には笑顔で答え、俺を性犯罪者に仕立て上げようとした駄神は得意の右フックで物理的に沈めた。

 

 

 

 

 

 

「なら私の風呂でも覗きに来る?」

 

「あんたも自重しろカミちゃん!!!」

 

「パウロォォォォォォ!!??」

 

 

 

 

 さらに、悪乗りしてきたカミちゃんからの温かい(?)声援を背中に受け、それに左リバーで答えながら現世へ復帰した。

 

 こんなのが創造神で、大丈夫かこの世界・・・・・・?



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第八話 別れの夜と旅立ち

遅れに遅れてしまい申し訳ない!
久しぶりすぎで文章拙くて申し訳ない!
何があったかは後書きで


  Side 信孝

 

 

「ん・・・」

 

俺が目を覚ますと、そこは竹取の翁こと讃岐造(さぬきのみやつこ)邸の裏手にある森の外れであった。

 

「あの場所の近くとは言ってたが、幾ら何でも近すぎるだろ・・・・・・」

 

俺は崖を見下ろした先にある讃岐造邸を見ながらそう嘆息した。

確かに山の中に転移させるとは言ってたが、ここまで近いと誰かが山に入った時に昏睡した俺を見つけることだって大いにあり得るだろうが・・・。

 

 

 

「とりあえず、一旦都に行っておっちゃん達に生存報告でもしておくか。 それに下手したら妹紅の奴既に蓬莱の薬飲んで家飛び出してるかもしれないから、宇合に情報提供でもしてもらわないとな」

 

 そう思い立ち、俺は遥か遠くに見える藤原京へ向けて歩を進めた。

 

 

 

 

 

 それから1日後に都へ到着し、身分や顔を隠しながら丸1日費やして情報収集を行って集めた情報を纏める為、俺は藤原京の北五条大路の西端(藤原京の北西端)付近にある茶店で一服することにした。

 

 

 今回の情報収集の調査結果は以下の内容だった。

 

・あの事件の後、輝夜は月の連中と共に月へと帰って行った(複数の目撃証言あり)。

・妹紅はあの事件後屋敷で治療を受けていたものの半年前に突如家を飛び出して以来行方不明。 輝夜の後を追ったと思われる。

・俺は遺体こそ発見されていないものの状況的に考えて死んだことになっている。

・慧音は俺の死を知って沈んでいたところに追い打ちをかけるかのように父親の高市皇子が病によって亡くなり、弟の長屋王たちの説得にも耳を傾けず塞ぎ込んでいるらしい。

・不比等のおっちゃんや四兄弟も本調子とは言えない状態らしい。 ・・・これが一番信じられないが。

 

 

 

 

「こりゃまずいな・・・」

 俺は今の情勢に頭を抱えた。 妹紅が飛び出したのが半年前ならば既に蓬莱の薬は飲んでいるだろうし、足跡を追うとしても何処へ向かったのか分からない以上無駄足となる可能性が高い。

仮に海を渡って唐や渤海、新羅(何れも7世紀に実在した王朝)方向に行ったのならそれこそ絶望的だ。

 さらに高市皇子が既に故人となっているならば、朝廷にとって皇族の大黒柱を失ったにも等しい状況であり、その穴を埋めるべくおっちゃん達も相当切羽詰った状況なのは容易に想像できる。

 

 

「先ずは不比等のおっちゃんのとこから行くか。 おっちゃん達に色々相談やら情報収集しないと現状把握すら難しいからな。

それから慧音のところに顔を見せに行くってのが妥当なところか・・・。 塞ぎ込み過ぎた結果自害なんて結末になったら洒落にならないしな。

・・・でも俺は公式では故人だから、あんまり他人・・・というより知り合いに顔を見せない方が良さそうだな。 幸いもう直ぐ日没だし、明るいところと人や兵士が居る所を避ければなんとかなるだろ」

 

 

 そう考えた俺は、裏道を駆使しながら中央の藤原宮方向にあるおっちゃんの屋敷へと向かうことにした。

 

 

 

 

 ~2時間後 藤原京 藤原不比等邸~

 

 

「・・・あっさり潜入出来た件について」

 

 俺は、おっちゃんの屋敷の塀の隙間から屋敷内への潜入を果たした。

・・・人が1人分余裕で入れるくらいの隙間を放置すんなよおっちゃん・・・。

 

「・・・この時間ならまだおっちゃんは部屋ん中で筋肉鍛えてる筈だから、まずはおっちゃんの部屋から行くか」

 

丑三つ時に軽く100kgはありそうな重石を背中に乗せて指立て伏せをしていたおっちゃんの姿を思い出しながら、俺はおっちゃんの部屋へと向かった。

 

 

 

「2999ゥ! 3000ッ! 3001ィ! 3002ィ!!」

「うわぁ・・・」

 

 おっちゃんの部屋の前に着いた俺が隙間から覗いた光景は、あまりにも予想通りであり、予想外な光景であった。

 重石を載せて指立て伏せをしていることはそのままだが、重石が昔見たものの3倍の重量がありそうなものに進化しているのだ。

 ・・・このおっちゃんが何処へ向かっているのか本気で分からなくなってきた。

 

 正直親族でなければ関わりたくないところだが、「話しかけないと話が先に進まないだろゴルァ(#゚Д゚)」という謎電波を受信したので、内心電波を送信した相手に毒づきながらおっちゃんの部屋へ入った。

 

 

 

「・・・相変わらずだなおっちゃん」

「ん・・・? なんだ信孝か。 漸く蘇ったのか」

「・・・随分あっさりした態度だなおい。 しかも漸くってどう言う意味だ?」

「あの程度で死ぬような奴ではないことは俺が一番よく知っているからな。 それに、お前が人あらざる者達と交友関係にあることを宇合から聞き及んでおる。 恐らくその者たちの何れかがお前を匿い、これまで治療を施しておったのであろう?」

「・・・宇合もおっちゃんも何でそんなに察しがいいんだよ」

「それは俺が藤原不比等であり、あいつが藤原宇合だからだ」

「何だろう・・・ 理不尽なはずなのに異常なまでに納得できるこの理由・・・」

 

 忘れてた・・・。 筋肉のことばっかり目がいっていたけど、他の分野でもおっちゃんはリアルチートだったんだ。

 ならばと考え、俺はおっちゃんにこれまでの経緯を話し、これからの方策を相談することにした。

 

 

 

 

 ~少年経緯説明中~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか、まさか造化三神とまで結びついていたのか。 それはさすがの俺も予想してなかった」

「ああ、それで気がついたら輝夜の屋敷の裏の山の中にいて、とりあえずここに向かったってわけ。 ・・・ところで、妹紅はあの後どうなったかおっちゃんは知ってるか?」

「・・・あいつは蓬莱の薬を飲んだそうだ。 あの事件の最中、複数の侍女が飲む瞬間を目撃したと証言した。 恐らく不老不死になり、お前の仇を取るため輝夜姫の後を追ったのだろう」

「そうか・・・」

 

妹紅、やっぱりお前は不老不死になっちまったか。

原作と経緯はまるで違うが、これが歴史の修正力って奴なのか?

だとしたら、俺もこれからの行動計画を抜本的に見直さないと何時足元が掬われるか分かったものじゃねえな。

 

 

 

「さて、この話は置いておくとして、もう一つの相談はお前の今後の身の振り方だったな?」

「ああ。 おっちゃんなら何かいい案が出るかと思ってな」

「ふむ・・・ とりあえずお前は公式では死んだことになっている故、下手にお前の姿が見られたら化物と判断され手討ちとされるやもしれぬな。 故にお前は早急にこの地を去らねば災いを引き起こす恐れがある。

 なあに、いくらか融通を効かせてやるから心配するな」

「やっぱりそうか・・・」

 

 

 覚悟はしていたが、今まで住んでいた地を去らなければならないってのは寂しいもんだな。

 だが、俺もこうして不老となってしまった以上、一箇所に留まることがどれだけ大きなリスクを背負っているかくらいは既に理解していたため、割とあっさり受け入れることが出来た。

 

「当座の資金くらいは俺が出そう。 あと慧音姫のことについてだが、お前と妹紅がいなくなり皇子が世を去って以来塞ぎ込むようになり、現在では実家の上白沢家に帰省し療養に努めているそうだ。

折角だ、宇合に案内してもらってお前が元気づけてこい」

「宇合にか!? あいつ俺が生きてここに来ていること知らないだろ?」

 

そう、いくら宇合が俺の交友関係まで知っており、生きている可能性が高いと踏んでいたとしても蘇ったのは一昨日のことであり、出世街道を驀進し既にかつての俺の官位を越えた結果、独立した屋敷を貰いそこに住んでいる多忙な宇合がおいそれと来れるわけなd「知っていますよ信孝兄上?」

 

「へ・・・?《ガタン!》ってどわぁっ!?」

 

 

 俺が宇合のことについて考えていると、突然何者か(・・・・・・と言っても声からして間違いなく宇合だが)の声が聞こえたので辺りを見渡したものの、周囲に俺とおっちゃん以外の気配は全く感じなかったため、気のせいかと思いおっちゃんに話しかけようとしたその時、目の前に突如天井板が落ち、天井裏から宇合が降り立った。

 

「な・・・!? 何でお前がここにいるー!? そもそもどうしてそんなところから入ってきやがったお前!?」

「それは勿論私だからですよ兄上。 それに、知っている者は何も私だけではないですから・・・」

「あん? そりゃどう言う意味d『ガラッ』」

 

宇合が部屋の入口にある障子に目配せをすると、そこには俺の見知った顔達、

 

「おい信孝、何でお前生きているんだよ!」

「兄上、御無事でよかった・・・!」

「・・・元気でなにより」

 

 ・・・もとい、愉快な四兄弟が勢揃いしていた。

 

 

「今の話、我々にも教えていただけませんか兄上?」

「・・・しゃーねえな。 もう一回説明するぞ」

 

 房前や麻呂は兎も角、武智麻呂の野郎に説明をするのは非常に癪(宇合はどうせ全て把握しているだろうから論外)だが、とりあえずおっちゃんと同様の説明を再度することにした。

 

 

 

「そうですか。 兄上は不老に・・・」

「正確にはちょっと違うが、房前の認識で大体合ってる」

 

 房前は俺の説明に納得してくれたみたいだ。

 俺の言ったことを無条件で信じてくれるのは嬉しいんだが、「人を疑う」ってことを身につけて欲しい。 俺にとってお前の純真な目は眩しすぎるんだよ・・・。

 

 

「・・・これから大変」

 

 麻呂・・・、確かにお前の言うことは間違ってないんだがざっくり言いすぎだお前。

あとせめてもう少し言葉を増やすことをお兄さんは希望する。

 

 

「慧音姫は、現在母方の実家である上白沢家の自室で塞ぎ込んでおります。 姫の寝所への誘導は私にお任せください」

 

 宇合、宮城ほどではないにしろ、皇族の系累の屋敷へ忍び込むって行為は自殺行為ものだぞ?

なのに、お前が言うと「誰にも見つからずに絶対に行ける」って断言できるのは何でだろうな・・・?

 

 

「信孝が生きていたとは・・・。 別にお前が生き返っても俺にとっては嬉しくないぞ!」

 

 こっち向いて言えや武智麻呂。 それにメタボ野郎にツンデられても悪寒がするだけだ!!

 その台詞は今この場ではお前が一番似合わないんだよ!

 

 

 

「後のことは俺に任せておけ。 そこんなことを言えた義理ではないが、妹紅のことを頼むぞ」

 

 おっちゃん・・・

 感動的な台詞は素晴らしいが、マッスルポーズをした状態で言って欲しくなかった。

こんなオチ誰も望んでないわ!!

 

 

 

「ああ、任された。 それじゃあ行ってくる。

房前、麻呂、お前らなら藤原家を良い方向へと導けるだろう。 それを彼方から見守ることにするさ。

・・・おっちゃんは筋肉以外のことをもっと考えるようにしてくれ。 今上陛下(持統天皇)がいい加減キレすぎて脳梗塞で倒れかねない。

武智麻呂、お前はさっさと痩せろ」

 

 

「では兄上、行きましょうか」

「・・・ああ」

 

 後ろで何か喚いているおっちゃんとピザデブ・・・もとい武智麻呂は華麗に無視し、俺は宇合と共に部屋の外へと向かった。

 

 

 

 

「兄上、本当にこれが最後の別れとなってしまうのですか・・・?」

「・・・済まないな房前。 だが、俺は不老となった。 輪廻転生があれば来世でまた会えるだろうさ」

「・・・いつかまた会える?」

「ああ。 それに、お前らが生きている間に少なくとも一回は帰ってくる。 ・・・成長した我が子の姿も見たいしな。 新九郎のこと、頼んだぞ」

「ならその時までに私の罠にも磨きをかけておきましょう」

「テメェは何もするな宇合! お前が何かすると洒落にならないことが起きるだろ!」

「帰ってくんな」

「よしいい度胸だ武智麻呂、ちょっと表出ろ。 O☆HA☆NA☆SHI(修正)してやる」

 

 

 とりあえず巫山戯たことを言い放った武智麻呂をボコってから、俺は宇合の先導で慧音の屋敷へ向かった。

 

 

  信孝 side out

 

 

 

 

 

 

 

 

  Side 慧音

 

 

「はぁ・・・・・・」

 

 この一年、私にとって大切な人を失いすぎた。

 信孝が死んだときには私は目の前が真っ暗になり、その後半年くらい私はずっと塞ぎ込み続けていた。

 

 その時は父上や新九郎のおかげで何とか持ち直し始めたんだけど、4日前、その父上が亡くなってしまった。

 父上は最期に、「孫の顔を見れて、わが生涯、一片の悔いなし!」って突然立ち上がってそのまま亡くなった。

 

 ・・・・・・私のことは?

 

 

 

 

 

 そして、心の支えの一つだった父上までも喪い、もう私には信孝の忘れ形見の新九郎しかいなかった。

 

 新九郎だけは絶対に失うわけにはいかない・・・!

 そんな気持ちが心の中の大部分を占めていた。

 

 

 

 

 

「姫様、宇合様がお越しです」

 

 私が心の中でそんな事を思っていると、侍女から声がかかった。

 

「宇合殿が・・・?」

 

 信孝様の一件以来、こちらには来なくなっていた宇合さんがどうして此処に・・・?

 

「分かりました。 すぐそちらへ向かいます」

 

 

 

 

 

 

 

 

「待たせましたね宇合さん」

「いえ。 姫様のためにこちらへ来たのですから少々待つことなど苦にもなりませぬ」

「私のために・・・?」

「はっ。 夜半遅くで申し訳ございませぬが、姫様に会わせたき者がおりますゆえ、こちらにまかり越しました次第で」

 

 私に会わせたい者・・・? 一体誰・・・?

 

「では、お入りくだされ兄上」

「ああ」

「・・・・・・・・・え?」

 

 

 

 

 そこには、私が亡くなったと思っていた最愛の人である信孝がそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「信孝様・・・?」

「やっほー。 久しぶりだね、慧音」

「信孝様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

 私は思わず彼に抱きついた。

 この匂い、この温かみ・・・、間違いなく本当の信孝だ!

 

「信孝様! 生きていらしたのですね!」

「ああ。 来るのが遅れてしまってすまない。 それと前にも言ったけど様付けはやめてくれないか? こそばゆくてさ・・・」

「す、すいません! それでも、こうして再び会えるだけで私は幸せです!」

 

 

 

「では、私はこれで失礼いたします。 兄上、またいつか会いましょう」

「ああ。 ありがとう宇合」

 

 

 そう言い残し、宇合殿は部屋を後にした。

 また・・・、いつか?

 

「あの信孝さん? 『またいつか』とはどう意味で?」

「慧音」

 

 急に信孝様が真剣な顔になった。

凛々しさが感じられるけど、その奥に潜む悲壮な決意のような何かが垣間見えたせいで、私の心には一抹の不安が過った。

 

「は・・・、はい」

「細かい経緯は省くが、単刀直入に言うと俺は不老の体となった。 公式では故人となっている上に、年月を経ても姿形が変わらない俺はこの地から去らないといけない。 だからお別れに来たんだよ」

 

 

 

 ・・・・え?

 

 

「そ、それはどういうことですか!?」

「俺は既に公式には故人となっているのに、不老になったの知られれば、不老を望む馬鹿共・・・特に持統のおばはんが俺のみならずおっちゃん達や慧音、新九郎にも危害を加える可能性が高い。

 だから俺は此処で消えなければならないんだよ」

 

「そ・・・、そんな」

 

 折角また会えたのに、またお別れなんて・・・

 

 

「おっと、もうすぐ夜が明けてしまう。 俺はお暇するよ」

「お待ちください信孝さん! 私も連れて行ってください!」

「・・・ダメだ。 慧音がいなくなったら上白沢家の方々はどう思う? それに新九郎を親無しにする気か?」

「・・・ッ! それでも!」

「すまない。 こんなこと言えた義理じゃないが、新九郎のことは任せた。 あいつは俺の見た限り天賦の才を持っている」

 

 

 そう言って、信孝さんは徐々に体が薄れていく。

まるで信孝さんは元々其処にいなかったかのような感覚に陥ってしまう。

 

「それは・・・!」

「これは俺の術で、とある場所へ一瞬で移動するものだ。

 日の出とともにこの術が発動するようにしておいた。

 俺はこれから永い旅になるだろうから、出来るだけ此処から離れなければならないんだ」

「信孝さん!」

「さようなら慧音。 願わくは君に幸あらんことを・・・」

「信孝様ぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 

 そう言い残し、信孝さんは霞のように消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうした慧音!?」

 

 私の声が聞こえたのか、お爺様とお母様が私の部屋へやってきた。

 

「今、私は信孝さんに会いました」

 

 私がそう言うとお爺様とお母様は驚愕の表情を浮かべた。

 

「何!? 彼は昨年亡くなったはずでは・・・!?

 いや待て、先程藤原家の宇合殿が男を連れてやって来ていたな。

 まさか彼が・・・!?」

「恐らく。 信孝さんは不老の身となったためこの地を去ったのです。 私も同行を願ったのですが・・・・・・」

「不老の自分と人間である慧音では互いに不幸にしかならず、私たちや新九郎のことを思って彼は断ったのですね」

「はい・・・」

 

 今考えればそうだ。 

 仮に私が同行出来たとしよう。

だが、将来必ずおいて死にゆく私と、いつまでも若いままでそれを見届けなければならない信孝様。 それは確かに辛いこと。

 それに、まだ幼い新九郎は勿論、年老いた祖父母や母上を其の儘には出来ない。

 

「・・・慧音」

「・・・何でしょう爺様?」

「お前は人としての生を捨てる覚悟はあるか?」

「え・・・?」

「お前が信孝殿と添い遂げることが可能かもしれぬ」

 

 

 

 

 ・・・え?

 

「ほ、本当ですか!?」

「ああ。 お前は白沢《はくたく》いう妖怪を知っているか?」

「・・・いえ、存じておりません」

「白沢とは唐の地であらゆる知識を持つと言われている聖獣でな、我が上白沢家はその白沢の血を引くと言われているのだ」

「そうなのですか!?」

 

 

 

 上白沢家にこんな伝承があったなんて・・・。

 そんな伝説、今まで聞いたこともなかった・・・。

 

 

「そして、我が家に伝わる秘術を使えばお前は人間と白沢の混血となり、極めて長寿の種族となる」

「真ですか!?」

「だが、これをすればお前は妖怪となり、もはやこの地では暮らせず、新九郎とも離れなければならない」

「それは・・・」

 

 

 

 私はお爺様の仰ったことを反芻した。

 信孝さんの後を追うことは可能。 でも、それをすると、お爺様やお母様、藤原家の方々や新九郎とも離れなければならない。 それは信孝さんとの約束を破ることになる上に、幼い息子を捨てた悪女として名を残すことになるかもしれない。

 私がここに残れば、その人たちと暮らすことは可能。 でも、信孝さんの後を追うのはほぼ不可能となる。

 

 私は・・・・、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「決めました。 お爺様、その術を使ってください」

「・・・いいのだな?」

「はい!」

「あいわかった。 では術を行う」

 

 そう言って、お爺様は呪文を唱え始めた。

まるでお経のような呪文を唱えてから10分ほど経ち、突然私の中から得体の知れない感覚が一瞬だけ襲った。

 

 

「ふぅ、完成じゃ。 これでお主は半人半妖となった」

 

 あの一瞬だけ起こった感覚以外、体に何か変化は今のところないが、お爺様がそう言うのならば成功したのだろう。

 

「今はまだ分からぬだろうが、満月の夜に外に出れば一気に覚醒する。 それまでは無理をせぬようにな」

「お爺様、ありがとうございました!」

「うむ。 孫の思いを叶えるのも祖父の役目じゃからの。 新九郎のことはワシに任せよ。 上白沢家の跡取りとして名を残すほどの偉人として見せよう」

 

「ありがとうございます! では、行ってまいります!」

「達者での! 婿殿を必ずや見つけよ」

「慧音、後悔だけはしてはなりませんよ」

「はい!」

 

 

 こうして私は信孝さんの後を追って旅立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 信孝さん、私は貴方のことを諦めません!

 




前回の投稿から今日までの経緯

・去年11月:そろそろ次話の修正始めるか(目標1月末)
   ↓
・12月:データ入れたUSBどこいった・・・
   ↓
・今年1月:卒論にテストががが・・・
   ↓
・2月~3月:USB無いぃぃぃぃぃ!! 何て書いたか覚えてねぇぇぇ!!
   ↓
・4月~5月:仕事始まって時間がががが・・・
   ↓
・6月20日:久しぶりに大学遊びに行くか。
       部室の奥で転がっているUSB発見
   ↓
・6月29日:っしゃあ完成!←今ここ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第九話 駄神の置き土産

定期更新(笑)
仕方なかったんや! 朝おきて仕事行って帰って艦これしたら終わる一日の短さがいけないんや!


  Side 信孝

 

 

 ~738年 平城京郊外~

 

 あの日、俺が都を離れてから既に40年以上が経過していた。

俺は、諸国を巡りながら妹紅を探す傍ら、各地で暴れ回る妖怪たちの討伐を請け負ったり、時には不審者として追い掛け回されたりする日々を送っていた。

 

 しかし、肝心の妹紅の足取りは全くと言っていいほど掴めない状態となってしまった。

流石にあれから40年以上経ってしまっては、妹紅のことを知る人間も少なくなっており、都で昔馴染みの情報屋の手を借りようにもその多くが鬼籍に入ったこともあって、暗中模索の状態に陥ってしまった。

それに、妹紅も人目を避けて行動しているらしく、かつては僅かに入っていた手がかりすら掴めない有様となっていた。

 

 

・・・今、この場に宇合がいれば3日で妹紅の居場所を特定出来ただろうが、歳をとってさらに厄介な存在となったあいつに助けを求めるのは危険な気しかしない。

あいつの場合、自分の死後でも俺をからかうために全力で工作してきそうだからな。

 

 

さらに、妹紅の捜索中にもう一つ悲しい事実を知ってしまった。

30年ほど前に知人の情報屋から仕入れた噂によると、俺が旅に出た直後に慧音も上白沢家秘伝の術によってワーハクタクとなり、俺の後を追って旅に出たとのことだった。

 ・・・原作通り半妖になったという面だけ見れば喜ばしいことだが、俺があいつの人としての人生を狂わしてしまった元凶となったことに対して罪悪感が生まれてしまった。

 

 

 慧音の情報は現在も僅かではあるが俺の耳にも入ってきているが、今はまだあいつと会うわけにはいかない。

 

俺のために人の道を捨ててでも追ってきてくれることは嬉しいのだが、片手間にやっている妖怪討伐に巻き込みたくないし、何よりどんな顔でアイツに会えばいいか分からないのだ。

 

 ・・・そこ、「ヘタレかこの野郎」とか言うな。

 これでも俺は真剣に悩んでいるんだ!!

 

 

 

 

話を戻そう。

 

 

 歴史は今のところ大体俺の知る史実通りに進んでいる。

 

 平城京へ遷都し、藤原氏の勢力基盤が整ってきた723年、史実より3年遅いが不比等のおっちゃんが病によって亡くなった。

 

 おいそれと姿を見せるわけにはいかない俺は、誰にも姿を見られないよう細心の注意を払いながら不比等のおっちゃんの寝床に行った。

 

 おっちゃんは長年姿を見せなかった俺が現れたことに驚いていたが、最期に俺の顔を見れて安心していたみたいだった。

でも、その出会った場面が最悪だった。

 

 25年ぶりの再会と言う感動の場面のはずだったにも関わらず、あのおっちゃん、体を動かすことも不可能に近いような死の淵にいる重病人のくせに、よりにもよって真冬の真夜中に褌一丁で寒風摩擦していやがったんだよ・・・。

 

 その場面に出会ってしまった俺は、おっちゃんにどう声をかければいいか分からず、無言の時間が過ぎちまったよ。

 勿論、死の淵にいる人間がそんなことをしていて無事なわけがなく、そのままおっちゃんはぶっ倒れやがった。

 

 

 その後俺が必死に看病したおかげかどうにか持ち直して、容態が落ち着いたところで今までのことを報告したら、まるでタイミングを見計らってたかのように武智麻呂達もやってきて宴会になっちまった。

 

 その宴会で一発芸をしたり、高さ30㎝のリンボーダンスに挑んでいるおっちゃんを強制的に休ませ、翌朝俺は皆に見送られながら屋敷を去った。

 

 

 

 余談だが、そのリンボーダンスに成功したのはおっちゃんと麻呂と宇合らしい。

 身体能力が人外なおっちゃんと麻呂はともかく、宇合が出来る理由が全く分からない。

 

「宇合だから」と言ったらそれまでなんだが、それでも納得できることが恐ろしいんだが・・・・・・。

 

 

 

 ただ武智麻呂よ、貴様には無理だ。

 腹周りがメートル単位の奴が30㎝のリンボーダンスなんて潜れるわけないだろ!!

 当然潜ることは出来ず、それどころか1メートルですら1人だけ潜れずいじけていたのは余談だ。

 

 

 

 

 そしてその3日後、おっちゃんは満足した顔でこの世を去ったらしい。

 

 満足した顔の理由が、「リンボーダンスが成功したから」とかだったら本気でぶん殴りたかったが・・・、まぁ、今となっては知る術もないな。

 

 

 

 

だが、この時俺は知らなかった。

この後、おっちゃんと愉快な息子たちとは時を越えてまるで腐れ縁のように関わってゆくことになるとは・・・

そして、(房前以外の)愉快な奴らのせいで俺やその他諸々の幻想郷の住人や史実の偉人達の胃腸や頭に深刻な痛みを残す羽目になるとはな・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 話を戻そう。

 その後の歴史は史実と大凡は変わらず、おっちゃんの臨終から5年後の728年、史実通り長屋王の変が起き、長屋王直系はほぼ全て自害した。

この結果、藤原氏の政敵の多くが失脚し、藤原氏は最初の黄金期を迎えることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 だが、ここから歴史は史実とは離れ始めていった。

 

 737年、史実通り畿内を中心に天然痘が大流行した。

 

 史実では天然痘によって藤原四兄弟が短期間で相次いで死亡し、有力者を失った藤原氏は一時的に権力の中枢から追いやられ、橘諸兄・吉備真備・玄昉が政権を握るのだが、この世界では四兄弟全員が天然痘を患ったのは史実通りだが、武智麻呂こそ天然痘の後遺症によって左目が失明したものの生き残り、他の三人は後遺症も残らず完治したため、彼らが政権を握る事はなかったらしい。

尤も、橘諸兄や吉備真備は史実でも政治家や外交家として成功を収めていたおかげか、普通に出世していったらしいが・・・。

 

 俺がその理由を探ると、宇合が牛が天然痘に感染した際に発生する牛痘を自分に打ってみたら天然痘が治ったので、他の兄弟達にもに同じようにしたら治ってしまったそうだ。 

 

 ただ、武智麻呂は他の3人と違い、メタボだったせいか免疫力が弱く左目は完全に失明となったそうだ。

 

 ・・・だからあれほど痩せろと言ったのに。

 

 まぁ結果としてそれ以来武智麻呂は痩せるよう努力をし始めたようだが、それを出来れば40年早く実践してほしかった。

 

 

 だが、ここで一つの疑問が生じた。

 本来、牛痘は18世紀になってやっとその効果が立証されたことである。

それまでの天然痘は、文字通り「死の病」と言っても過言ではないほど致死率は高かったのだ。

 

それをなんであいつは1000年以上先んじてその知識を得たんだ?

幾ら何でも「宇合だから」ではいい加減済まなくなってきている。

ひょっとしたら、あいつも俺と同様未来若しくは平行世界からやってきた人間なのかもしれないと疑い始めた。

 

 

 

 「・・・あいつの家に忍び込むなんて死亡フラグそのものだが、それでも確かめないとな・・・」

 

俺は真相を探るために、危険を承知で宇合の屋敷へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ~宇合邸~

 

 

 俺はかつて麻呂に学んだ隠行術を駆使しながら宇合の屋敷に潜入した。

 

 この術地味に使い勝手いいんだよなぁ。 ・・・あいつどこでこんな技覚えたんだろうか?

 いつの間にか平気で使っていた麻呂の姿(当時5歳)があったからさらっと流してたが、よくよく考えたら5歳の時点で完璧に使いこなしていることに対して疑問を覚えろよ俺・・・。

 

 

 まぁ、麻呂の新たな謎について今は置いておくとして、本題である宇合の姿を探していると・・・、

 

 

 

 

 

 

「兄上・・・?」

 

「おまえ・・・、まさか房前か!?」

 

 年相応に老けているものの、少年のころの面影を十分に残している房前がまさかの藤原宇合邸での第一発見者となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「兄上、お久しゅうございます!」

 

「大体15年ぶりくらいか? お前も元気そうで何よりだよ房前」

 

「兄上もお変わりなく。 それより、兄上はどうしてこちらに?」

 

「・・・・・・宇合に聞きたいことがあってな。 あいつに借りを作るのは怖いが、今じゃ奴くらいしか頼れそうな人間がいないんだよ」

 

「そうですか。 宇合ならちょうど武智麻呂兄や麻呂、織田信等(信孝と慧音の息子)と一緒に興福寺参拝から帰ってきたところです」

 

「おっ、あいつらもいるのか? なら折角だし他の奴らにも顔出しておくか」

 

「その方が麻呂や信等も喜びます。 では案内します兄上」

 

 俺は房前の先導で宇合の部屋へ向かった。

 ・・・さらっと武智麻呂のことをスルーするとは、成長したな房前。

 

 

 

 

 

 ~移動中~

 

 

 

 

 

「こちらです」

 

 房前の案内で、俺は宇合の部屋までやってきた。

 途中、唐突に降り注いできた矢の雨やら廊下のど真ん中に隠された落とし穴やらと忍者屋敷もビックリな仕掛けが大量にあったが、近くの部屋の障子やらそのへんに置いてあった焼き物を盾にしながら何とか突破出来た。

 

 ・・・ここで勤めている使用人の皆さん、運が悪かったと思って頑張って逝きて下さい。

 

 

 

「では、邪魔するぞ宇合」

 

 さっきの罠の数々を思い出したせいか、障子が壁にめり込むほどの勢いで俺は宇合の部屋の障子を開けた。

 

 

「ん・・・・・・!? げっ!? 信孝!?」

 

「おや兄上、お久しぶりですね」

 

「・・・・・・久しぶり」

 

「・・・・・・・・・・・・誰です?」

 

 武智麻呂は俺の登場に驚いたが、宇合と麻呂はいつも通り、信等は俺の顔は覚えていないので誰か分からないようだ。  

 

 偶にはもっと違った反応を見せてほしいな、特に麻呂。

 

 ただし武智麻呂、てめぇ人の顔を見て「げっ!?」はないだろ?

 

 信等は困惑しているようだが、宇合が説明してくれた。

 

 

 

 

 

「信等、お前が生まれたばかりのころだから知らないだろうが、この人はお前の父親である藤原信孝だ」

 

「な・・・!? 父上は私が生まれたばかりのころに亡くなったと御婆様から聞いておったのですが!?」

 

「実際には生きていたんだよ。

 ただ、それが分かったのが死んだとされた時から1年経っていた時だったんだよ。

公には既に死んでいることになっている上に、不老がバレたら厄介だから身を隠すためにこの地を去ったんだ。

 そしてお前の母親の慧音姫も、そのあとを追いたいと懇願して行ってしまったというわけだ」

 

「そんな・・・・・・・・・」

 

「だが、本来ここに来てはならない信孝が、危険を冒してまでこうしてお前の前に再び現れた。 それで充分だろ?」

 

「・・・・・」

 

「まぁ、納得できないこともあるだろう。 それにしても兄上、今日はどうしてこちらに?」

 

「今回はちょっと宇合に聞きたいことがあってな」

 

「私にですか?」

 

「ああ。 お前は牛痘を用いて天然痘を治したが、それをどこで知った? 少なくともこのこと誰も知らないはずだが?」

 

「・・・わかりました。 武智麻呂兄、房前兄、麻呂、信等は少し席をはずしていたたけますか?」

 

 

「・・・・・・・・・わかった」

 

「わかりました・・・」

 

「・・・・・・(コクッ)」

 

「・・・・・・・・・・・・分かりました」

 

 そう言って4人は部屋から出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、何故私がそのような情報を知っているかですが、その前に一つよろしいですか?」

 

「? 何だ?」

 

「兄上もなぜこのことを存じておったのですか?」

 

「う・・・・・・」

 

 しまった・・・、そう返されるとはな。

 

「それは・・・・・・」

 

「まぁ兄上にも言いづらいことがあるのでしょう」

 

「・・・まぁ、そうしておいてくれ」

 

「それで、私が知っていた理由ですが、その理由はこれです」

 

「何だ・・・? この書物?」

 

「これは父上が亡くなって1年ほど経たある日、夢の中で突然神を名乗る老人が現れ、この書物を渡され、『お主はこれを読み、万物の命を助けよ』と言って渡したのです」

 

「何だその嘘くさい話は・・・・・・」

 

 こいつがそんなことを信じるタマじゃないだろうが・・・。

 

「最初は私も嘘だと思ってました。 しかし、これには豌豆瘡(わんずかさ)(天然痘の別称)の治療法が載っており、自らに試したところ治癒したためこれが本物であると信じるようになったのです」

 

「なっ・・・!?」

 

 そんな書物聞いたこともないぞ!? 

 

 しかし俺がその書に書かれた天然痘の治療法を見てみても、それは正しい治療法であるため。俺も信じざるを得なくなった。

 

「しかし、その書を渡した神とは一体どんな奴だ?」

 

「はい、神と名乗る者は2名おり、1人は長い白髪でおよそ70歳ほどの老人のようでしたが、身のこなしは若い者と同等かそれ以上のものでした。

 もう1人は20歳前後の見た目麗しい女性で、こちらは黒髪でした。 それに2名とも兄上のことも知ってるようでした」

 

「何?」

 

 俺のことを知っているだと?

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まさか、

 

 

「なぁ、その2人のうちの1人は自らのことを神産巣日神と名乗ってなかったか?」

 

「ええ。 最も信じられませんが。 その話を聞く限り兄上と知り合いと言うのは真なのですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・あ」

「あ?」

「あの駄神共ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!! 貴様等が歴史を改変してどうすんじゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?!?!」

 

 

 

 

 

 

 何勝手に現世と関わり持ってんのアンタ等!?

 

 しかもその相手がよりによって宇合とか・・・、さらにチートにしてどうすんだよ!!

 

  お前らはこの日本をどこに持っていきたいんだよ・・・!?

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えば兄上、昨夜夢の中でその神2名が再びやって来て、『近いうちに藤原信孝がこの屋敷にやってくるだろうから、その時にこの文を渡してほしい』と頼まれたのですが・・・」

 

 

 そう言って宇合は1通の手紙を差し出した。

 

 

 

「夢の中で現実の物を平気で渡すとか何気にすげー事してるなあの駄神・・・」

 

 宇合から渡された手紙にはこう記されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『信孝へ

 

 今回、藤原宇合に渡した書によって、歴史は大きく変わるであろう。

 なぜなら宇合に渡した書物は簡易版のアカシックレコードじゃからの。

 

        ワシってばお茶目☆

 

                                   神産巣日神より』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 

 

 

 俺は手紙を思いっきり破いた。

 

「何だこの内容!? 何そんな簡単にアカシックレコードの機密人に渡してるの!? 馬鹿なの!? それにお茶目じゃねぇぇぇ!!!」

 

「いやいや兄上、神にだって其れくらいの茶目気は必要ですよ」

 

 何でそんな冷静なんだよお前・・・。

 

「ちょっと待て、これはおっちゃんが死んでから貰ったってお前言ったよな? なら、昔のあの尋常じゃない規模を誇ったお前の情報網は一体何だったんだ?」

 

「あれは私が幼い頃からコツコツと積み上げてきた努力の結晶です」

 

「・・・忘れてた。 こいつ最初からチートだったんだ!」

 

 ・・・リアルチートって理不尽だ。

 

 俺が暴走している傍らで、宇合は冷静に俺をからかう算段を立てていた。

 

 ・・・傍から見たらカオスな状況だよな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 まぁ、そんな感じでいい具合にカオスになっている状況の中で、痺れを切らした武智麻呂達も乱入してきてさらにカオスになったのは余談だ。

 

 

 

 

 

 

 閑話休題

 

 

 

 

 そして翌朝、俺は出立の時を迎えた。

 

「さて、俺はそろそろ出立するからな」

 

「兄上、行ってしまわれるのですか?」

 

「すまないな房前。 ホントはもっと居たいんだが、この地にはまだお前たち以外にも昔の俺を知っている奴等もまだ生きている。 だから長居は出来ないんだよ」

 

 

 

 房前、コイツとも此処でお別れかと思うと悲しくなるな・・・。

 

 

「・・・・・・今生の別れ?」

 

「・・・・・・恐らくそうなるな」

 

 

 

 麻呂、お前との修行の日々は俺にとっては大切なものだったよ。

 

 

「では、来世があったらその時は再び我ら5人、転生して兄上と共に歩みますか」

 

「そうなれたらいいな・・・・・・」

 

 

 宇合、お前が言うとホントに5人とも転生してきそうだから恐いぞ・・・。

 

 

「次に会えたら俺はさらに痩せた体でお前と会うぞ!」

 

「・・・そうか」

 

 

 

 武智麻呂、確かにお前は痩せてきているのは認めよう。 正直20kg痩せたのはすごい。

 でもな、お前は例外なんだよ。

 

 140kgが120kgになったところでメタボなのには変わりはないんだよ・・・。

 

 

 

「父上、たった一度とはいえ私に会いに来て下さって嬉しかった。」

 

「信等・・・。 お前にこれをやろう。」

 

「これは?」

 

「これは俺の愛刀、『宗三左文字』だ。 これを織田家家督の証としてお前に譲ろう!」

 

 実はこの刀、数年ほど前偶々良い鉄を手に入れたから本気出して鍛冶しに精を出した結果誕生した業物である。

名前はもちろん信長の愛刀からパクった。

 

 

 

「父上・・・、この刀、わが家宝といたします! そして、子々孫々代々受け継ぐことを誓います!」

 

「ありがとう、信等。 俺には過ぎた息子だよ」

 

 信等、ホントは俺ももっと構ってあげたかったんだが、父親らしいことが何も出来なくてすまない・・・。 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、さらばだ4人とも。 またいつか、会えたらいいな」

 

 

「はい、兄上もお元気で」

 

「・・・・・・またいつか」

 

「転生したらよろしくお願いします」

 

「痩せて生まれ変わった俺を見せてやる!」

 

「父上もお達者で!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ホント、あいつらは昔のままだな。 

 

 だけどこれであいつらともお別れか。やっぱ辛いな・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、彼らの足跡を辿ろう。

 

 

武智麻呂は天然痘によって高官の多くが死亡した朝廷を立て直し、朝廷の権威を持ち直すことに成功した。 そして8年後の746年、食生活の不摂生が祟って脳梗塞を起こし世を去った。 享年67歳。

 

 麻呂は蝦夷討伐に参戦し後の坂上田村麻呂並の活躍によって討伐を完了させ、陸奥の奥地まで朝廷の勢力を広げたものの、その際に負った傷が元で、753年、破傷風によって世を去った。 享年71歳。

 

 房前は聖武天皇の奈良の大仏建築の総責任者となり、天皇の信任を得て、親友の間柄となった吉備真備等と朝廷支配の強化に努めた。 そして757年、病を得て世を去った。 享年77歳。

 

 宇合は、朝廷のみならず、唐や新羅、渤海など周辺諸国との外交でも大いに活躍し、他の3人が死去した後、不比等の最後の息子として藤原氏を支えた。 当時としてはかなりの長寿で、763年、老衰により世を去った。 享年82歳。

 

 織田信等は、4兄弟亡きあと、藤原仲麻呂の乱で一旦勢力を大きく減らした藤原家を、4人の遺児たちと共に立て直し、桓武朝においての藤原氏の隆盛の土台を作り上げ、4人の遺児たちや自らの息子や孫に看取られ、783年、89歳という高齢で世を去った。 彼の子孫のうち、分家の一つは後に神官となり、その子孫から、かの第六天魔王・織田信長が誕生することは有名な話である。

 

 

 そして、史実にはない藤原4兄弟や史実にすら存在しない織田信等の活躍によって、藤原氏一族は南・北・式・京・織田の全五家全てが力を合わせ繁栄し、藤原五家として、長期にわたり朝廷で栄華を極め、そして中には武士として繁栄してゆく者も誕生する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして宇合が言ったように、彼らが来世において再び会えるかどうかは神(駄神にあらず)のみぞ知る。

・・・と言いたいところだが、どうせ宇合のことだ。 間違いなく他の兄弟や父親、そして甥と共に現れるであろう。

勿論信孝をからかう為だけに・・・。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第九・五話 其々の動き

約半年ぶりの投稿です。
色々とすいませんでした。

今回は今後の展開へのつなぎ程度なので短めです。

毎度の如く修正が入ると思いますが…(諦めの境地)


  Side 信孝

 

 

 美濃国(現在の岐阜県南部)東部 某所にて

 

 

 房前たちと再会してから既に100年近く経過し、武智麻呂・房前・宇合・麻呂や息子の信等も50年以上前に鬼籍に入り、俺のことを記憶している人間は既にいないも同然となったことで漸く俺は人目をあまり気にせず行動できるようになった。

 これまではあまり人に会わないよう山奥で自分の力を確かめるための修行ばかりしていたから、そろそろ人肌も恋しくなってきたというのもあるが・・・。

 

 

 ・・・そう言えば信等の臨終の際、俺があいつに対し「最後に父親らしいことをしたいから何でも願い事を言ってくれ」と言ってみたら、あいつは、「先日母上も来てくださり、父上もこの場に来ていただけただけで私は幸せ者です。」と言ってくれた。

 相変わらずいいこと言ってくれる奴で、本当に俺にはもったいないくらいの息子だった。

 

 

 しかし、慧音もやっぱり息子の最期は看取りに来ていたんだな…。

 

 

 

信等の死後、俺は本格的に妹紅や慧音についての情報収集のため、現在の都である平安京に出入りし、宇合行きつけの情報屋の子孫(やっぱり代々情報屋を営んでいた)から情報を仕入れていた。

 

 その中でも最大の収穫は、「長い銀髪の若い女性が、村々に悪さをする妖怪を討ち滅ぼしながら『蓬莱山輝夜』という名前の女性を探して諸国を放浪している。」ということだろう。

俺があの事件に巻き込まれたから約150年の旅の中で、初めてとなる妹紅の情報であった。

 

 この情報は、今から2ヶ月前の下野国《しもつけのくに》(現在の栃木県)の那須の地から発信された噂であり、時間が経っていることから既に妹紅はそこにはいないだろうが、それでも貴重な情報だ。

 

 もしかしたら何か痕跡でも残っているかもしれないと思い、俺は一路下野国へと歩を進めた。

・・・目の前に立ちはだかるアルプスの山々という現実から目を背けながら。

 

 

 

 

 そう言えば、さっき結界っぽいのを破ったような感触があったんだが…、一体あれは何だったんだ?

 

 

 

  信孝 side out 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  Side 妹紅

 

 

 

 越後国(現在の新潟県)北部 某所にて

 

 

 

 

「これで止めっ!」

 

「ギャァァァァァァァ!!!」

 

 私の妖術で作った炎によって、目の前の妖怪は断末魔をあげて焼け死んだ。

 

 

 

 

 私が妖怪によって撒かれた妖気や瘴気を処理すると、村の村長がやってきた。

 

「ありがとうございます旅のお方! これで村の若者たちが死ぬことはなくなります!」

 

「いやいいんだよ。 私が好きでやっていることなんだから」

 

 

 力の弱い人たちが傷つけられるのを何よりも嫌った信孝だって、生きていたらきっと似たようなことをしていただろう。

 

「村長、あんたに聞きたいことがあるんだが、「輝夜」って名前の女知らないか?」

 

「? いいえ、存じておりませんが、あなた様の探し人ですか?」

 

「…まぁ、そんなもんだ」

 

 やっぱり…か。 輝夜の奴、ホントに月に行っちまったのか?

 

 今の私では空を飛ぶことは出来ても、月まで行くことは出来ない。

 

 だからこうして各地を地道に渡り歩いて行くしかないな…。

 

「では、私はそろそろお暇するよ」

 

「待ってください! せめてお礼くらいさせてください!」

 

「いいよ、そんなことするくらいなら村のみんなで宴会した方がいい」

 

 そう言い残して私はこの村を去った。

 

 都に向かうという選択肢もあったが、父上、信孝、武智麻呂、房前、宇合、麻呂、慧音、信等達がいない場所に行ってもあまり楽しくないだろう。

 

 だから私は都には寄らず、各地を放浪しているのだ。

 

 

 

 

 

 ホントに輝夜の奴、どこにいるんだか…。

 

 

  妹紅 side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  Side 輝夜

 

 

  唐の国北部 某所にて

 

 

 

 私は今、従者の永琳と一緒にこの山奥の地でひっそりと暮らしている。

 

 何故月に帰らず、この地にいるのかというと・・・

 

 

 

 

 

 ~回想~

 

 

 信孝達と別れることとなったあの事件の後、月の従者のリーダー格である男の腕の治療がなかなか進まなかったため、妹紅のいる日本を離れ、唐の国の山奥に身を隠して治療することになった。

本当は永琳が治療すればもっと早く治るのだけれど、何故か永琳は治療にはあまり関わっていない。

そのことが、あの男の苛立ちに拍車を掛けているようだ。

 

「くそっ、あの女め! 次会ったら嬲り殺してくれる!!」

 

 どうやら妹紅のことをかなり恨んでいるようだ。 自業自得のくせに・・・。

 

 とりあえず、私は永琳に今後について相談することにした。

 

「永琳…」

 

「どうしました姫様?」

 

「私…、月には帰りたくはない」

 

「…姫様!?」

 

 やっぱり永琳も驚くわよね。

 

「私は、あの場所で出会った信孝、妹紅、慧音達がいたあの場所が好き。 出来ることならあの地で暮らしたい」

 

「…」

 

「そのためにはあの男が邪魔になるわ。 もしそのままあの男が月へ帰ったら月は地上へ進行し、妹紅の家族や、信孝の忘れ形見は殺されてしまう。 そんなのは嫌なの・・・!」

 

「…それが姫様のお考えですか?」

 

「ええ。 これが私の本当の想い」

 

「…分かりました。 後は私にお任せください」

 

 そう言って永琳は男のいる屋敷へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は気になって永琳の後を追いかけた。

 

「お、永琳か。 ちょうどいい、お前早く俺の腕を治せ! お前なら出来るだろう!」

 

「…残念ながらそれは出来ません」

 

「何…?」

 

 -ザシュッ-

 

「がっ・・・!?」

 

「貴方は此処で死ぬのですから」

 

 永琳が隠し持っていた短刀で男の心臓を突き刺した。

 

「永琳…貴様、我々を裏切る…気か!? それに…他の……奴等は?」

 

「彼らはすでに私の手によって冥府へ旅立ちました。 私は姫様の家臣。 姫様が月に帰りたくないと仰ったのならば、私はそれに従うまで…」

 

 そして永琳は短刀を抜いた。

 

「がっ…!? 貴様ら……を…月は……決して…許さぬ…ぞ……!!」

 

 そう言い残して、男は事切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「永琳・・・・」

 

「姫様、申し訳ありません。 ですが、こうするしか私には思い浮かばなかったもので」

 

「いえ、私のためを思ってくれたのならばいいわ」

 

「・・・ありがたき幸せにございます」

 

 

 

 

 

 

 

 ~回想 終~

 

 

「ねぇ、永琳? 私、もう少し各地を回ったらまたあの国、日本に行こうと思うの」

 

「…姫様にとって思い出深い地だからですか?」

 

「ええ、もうあれから150年くらい経ってしまったけど、信孝の墓前にすら行ってないもの。 それに、彼の一人息子の子孫がどうなったのかも知りたいし」

 

「…分かりました」

 

「ありがとう、永琳」

 

 そう言い残して私は永琳の部屋から退出した。

 

 

 

 

 

 永琳は輝夜の想い人であった藤原信孝について、一人思案していた。

 

(あの藤原信孝という人物、私は少し見ただけなのだけど、遥か昔どこかで見たことがあるような気がするのよね。 一体何処だったかしら…?)

 

 

  輝夜 side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  Side 慧音

 

 

 大和国(現在の奈良県)南部 某所にて

 

 

 私が都を離れてからもう150年ほど経ってしまった。

 

 既に武智麻呂さま方藤原4兄弟や、私の愛した息子織田信等も既に亡く、1人信孝(この150年の間に、なぜか呼び捨てで呼んでしまうことに慣れてしまった)の後を追っていた。

 

 ただ、どういうわけか信孝とはどうも会う機会に恵まれていないような気がする。

 

 

 不比等さまの臨終の際にも、私はこっそり見舞いに行ったものの、私が去ってから3日後に信孝が見舞いに来たと宇合殿から聞いた時には私は自分の間の悪さに軽く絶望した。

 

 さらに、天然痘が大流行した際にも気になって都に来たら、久しぶりに再会した信等から「一昨日初めて父上に会い、私にこの刀を授けていただきました!」などと言って、かつて私に見せてくれた信孝の愛刀「宗三左文字」を誇らしげに持っていた。

 

 後で武智麻呂殿方4兄弟の皆さんに確認したところ、4名とも信孝にあったと仰られ、私はまたも信孝に会う機会を逃してしまった。

 

 さらに、信等の今際の際にも、私が来た翌日に信孝が来るという始末。

 

 …運命の女神というのは私のことが嫌いなのだろうか?

 

 

 

 しかもここ最近は、妹紅の情報は偶に入ってくるようになったものの、信孝の情報はここ50年一切ない。

 

 やっぱりあの人たちが亡くなって、最大の情報源を失ってしまったのが痛かったな。

 

 

 

 今私は、この地で私塾を開き、子供たちに勉学や歌について教える傍ら、暇を見つけては信孝を探す旅に出ている。

 

 この塾はかつての私の教え子である空海が開いたものだが、彼が亡くなった際、私にこの塾を残していてほしいと頼まれ、こうして私が講師としている。

 

 だが、いずれ見た目が変わらない私に対して疑問を持つものが出てくるだろう。

 

 持ってあと5年から10年だろうか…?

 

 そうなったらこの塾は教え子の誰かに譲って、私は再び旅に出るとしよう。

 

 それに、妹紅は今も信孝は死んでいると勘違いしたままだ。

 

 彼女に会えたらその誤解も解かないといけない。

 

 

 

 早く会いたいな、信孝…。

 

 

  慧音  side out

 

 

 

 

  Side 紫

 

「はぁ~、厄介な奴等を間引けたと思ったらここまで深刻な戦力不足になるなんてね…」

 

 あの月面出兵から既に50年が経とうとしているのにも拘らず、失った戦力を取り戻せていない現状に私は思わず溜息を吐いてしまった。

 

 漸く私の理想の地である幻想郷が完成したは良いが、そこには力は上級の癖に矢鱈と反逆心が強い連中がわんさかいたため、そいつ等を間引くため50年前に月面戦争を仕掛けたのだ。

 

 月の連中の強さを考えれば間違いなくそいつ等は全滅すると考え、事実そうなったのだが、50年経ってもその戦力をまるで取り戻せていないとは予測すら出来なかった。

 

 勿論私も戦力低下は織り込み済みであり、戦争終結後は天魔や鬼等の不参加組と共に才能はあるが若い妖怪たちを鍛え上げて50年ほどで4割程度の戦力は戻せると見込んでいた。

 

 しかし、彼らは才能はあったが揃いも揃ってヘタレか自由人ばかりであり中々成長が見られず、50年経った今で1割程度しか戦力が戻っていないのだった。

 

 

 特に鴉天狗の射命丸文は、若手の中でも特に才能はある癖にこの地にいるのが稀な状態なのでここ50年まるで成長していないのが珠に傷だ。

 

 彼女が天狗の幹部になれば戦力の大幅増強が見込めるのに、何でこうも上手くいかないのよ…!!

 

 

 そしてもう一つ、私の頭を悩ます種がある。

 

「この文珠…、相変わらず解析不能なのよね…」

 

 

 そう、100年前にある少年からもらった貴重な霊具であるこの文珠をどうにかして劣化版でも量産できないか河童たちと共に研究を重ねているのだが、まるで構造が解析できないのだ。

 

 下手に分解して破損や使用でもしたら、もう二度と手に入らない可能性が高いので、おいそれと刺激を与えれないのだ。

 

 

「…やっぱりあの時、彼に詳しい話を聞けばよかったわね」

 

 思わず私はかつて一度だけ出会った彼…藤原信孝の姿を思い出し、後悔の念に苛まれた。

 

 

 

 まさか彼が20歳にも満たない年齢で世を去るとは思わなかったし、彼の子孫である現在の織田氏や、親族である藤原四家にも文珠に記録については全く伝わっていない。

 それに、過去の文珠使いの記録も文書に残っていないので全く分からないという手詰まり。

 

 

「はぁ、こうも成果が無いt…!?」

 

 

 

 問題山積みな現状に溜息を再びつきかけた時、何者かが幻想郷外縁部の結界を破った感覚が伝わった。

 

(莫迦な…、あれは急拵えとはいえ簡単に破れるようなものじゃないわ。 それに、人間一人分だけ器用に破いて他のところは影響が全くないなんてあり得ないわ!!)

 

 私が作ったあの結界は、強度に不安は残るがそれでもかなりの強さでないと破れないし、何処かが破れたら急造故に他の部分にも確実に影響が出るような状態なのだ。

 それをこんな綺麗に破くなんて…、確実に危険な相手ね!!

 

 状況的に藍では荷が重いと判断した私は、直々にその結界破壊地点へ急行した。

 

 

 しかし、そこには結界を破った存在は何処にもおらず、徐々に修復されてゆく結界があるだけで周囲にも特に異常は発生していなかった。

 

 こうして、私の頭を悩ませる案件がまた一つ増えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やばいやばい。 なんか変な結界無意識で破っちまったよ。 バレる前にさっさと逃げよ」

 

 その結界を破った当事者が私の頭を悩ませる案件に関わる重要な人物だったと知るのは、それからはるか未来の話であった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十話 最低な親父と原作キャラな娘

奇跡の二話連続投稿
次は遅れる(確信)


  Side 信孝

 

保延6年(西暦1140年) 山城国 京郊外

 

 俺は、あれ以来知り合いとも会うこともなく1人で旅を続けていた。

 

 この300年間で、俺の知る歴史とはかけ離れてしまった。

 

  

 

 

 

 朝廷では、藤原氏が史実通り全盛期を迎えていたが、南北式京織田の五家で政権を交代しながら統治していた。

 

 ただ、史実と違い橘氏や菅原氏などの藤原氏以外の家も排斥されることなく朝廷の中枢にいるのだ。

 

 後で知ったことだが、かつて房前が「我ら藤原の者以外でも、才あるものは積極的に登用すべし。」と家訓を残したことでこんな感じになっているとのことだった。

 

 

 房前、お前は立派だよ! どっかのメタボ野郎とは大違いだよ本当!!

 

 

 外交面では、史実通り新たに出来た宋と友好関係を結んで積極的に銅銭を輸入しつつ、こっちも陶芸品や刀などを輸出して、巨額の利益を出したりしている。

 

 

 

 

 

 そして軍事面では、北は陸奥の奥地まで征服して俘囚と呼ばれた人々を服属させ、南では王国成立前の琉球地域を制圧しているという手の速さっぷり。

 

 

 西では史実通り1019年に満州方面にいた女真族が対馬方面に攻め込んできたが、当時既に摂政を辞めて楽隠居の身として対馬守となって任地にいた藤原道長(何で貴様がここにいる!)が、甥の藤原隆家と共に兵を率いて撃退してしまった。

 

 さらにその勢いにのって、当時兵部卿(軍部のトップ)であった織田信勝(俺の11代後の子孫)が、藤原氏、源氏、平氏、織田氏などの軍を合わせて何と5万5000もの兵を率い、報復として満州方面に兵を差し向けてしまったのだ。

 

 これに、当時朝鮮を支配していた高麗が便乗して、なんと満州方面一帯を日本の支配下にしてしまったのだ。

 

 

 

 

 

  …なんか、まだ11世紀なのに「こいつら大日本帝国作るんじゃね?」みたいな状況になっててワロス。

 

 まぁ、その後当時満州から華北地域で力を持っていた遼王朝が失地奪還のため攻め込んできた結果、軍はあっさり満州を放棄して日本に帰って来てたけどな。

 

 しかも、その際に当時式家の当主だった藤原明衡《ふじわらのあきひら》が、

 

 

 

「たとえ遼が攻めてきても、共に攻め込んだから後に引けない高麗が盾になってくれますからね。

 そのために高麗を誘ったのですから、せいぜい彼らには頑張ってもらいましょうか。

 少しくらいなら援助してあげてもいいでしょうし・・・ね?」

 

 

 なんて真っ黒なことをほざいてたとかいなかったとか。

 

 明衡、あんた立派な宇合の子孫だよ(褒め言葉)。

 

 

 

 

 とまぁこんな感じで日本が愉快なことになってたりするが、そんなことは俺には関係なく各地を旅しながら修業したり、たまたま知り合った平将門と勝負したり、藤原秀郷の百足退治に参加したり、安倍晴明に陰陽術を教わったり、最近全く情報が入らなくなった妹紅や慧音の情報を探したり、他に東方キャラがいないか探してみたりして見事に見つからず絶望したりしていたが、それよりも歴史上の人物の暴走振りに俺は目を疑うこととなる。

 

 

 平将門は重さ1トンはありそうな岩を100mもぶん投げ、討伐軍を圧死させた上、槍を咽仏で受け止めるっていうどこの鉄人?みたいなことしていたくせに何で流れ矢が額に当たると死ぬという弱点持ち。

 

 俺にはお前の体のスペックがよく分からねぇよ…。

 

 

 

 

 そして藤原秀郷。 奴が討伐したあの百足はもう見るのも勘弁だ。 体長が100m単位の百足がいるのも謎だが、それを弓だけで倒すとかどんだけチートだよ? 

 

 しかも幾ら弓を当てても効いてなかったのに、最後の一本にお前の唾をつけて当てたら一撃で倒すとか、お前の唾には即効且つ致死性の毒でも混じっているのか?

 

 

 

 

 極めつけは安倍晴明。 超一流の陰陽師で「俺は鬼すらも使役できるのだ!」なんて言ってたから、その使役しているという鬼を呼んでみてもらったら、

 

「ん~~? あれ晴明じゃんか?」

「何だ晴明か、どうした? それにこれは誰だ?」

 

 …なんかロリッ子鬼(伊吹萃香)とブルマ鬼(星熊勇儀)が現れた。

 

 

 何で貴様等がここにいる!!

 

 晴明に事情を聞いたら真顔で、

 

「小っさくて可愛らしくて愛らしいじゃん。 それにあの格好、妙に興奮するし」

 

 とか言いやがった。

 

 

 コイツ…ロリコン要素もあったのか!

 また一つ、偉人の残念な面を垣間見てしまった。

 

 

 その後、萃香との飲み比べに勝って2人に妙に気に入られたりしたが、そのまま連れ去られそうで怖かったから逃げることにした。

 

 

 

 

  閑話休題

 

  

 

 

 そんな感じで俺は過ごしていたが、ここ最近は藤原俊成や佐藤義清達といった和歌仲間と和歌をすることを趣味としている。

 

 藤原俊成は、藤原定家の親父で新古今和歌集の選者としても有名な人物だ。このとき(保延6年、西暦1140年)27歳。 

 

 それに、まだ若いのに一歩引いた態度で相手を持ち上げたりすることのできるかなりの人格者だ。

 

 どこか房前に通じるところがあるんだよなこの人。

 

 

 

 佐藤義清は秀郷の野郎の子孫で、上皇の護衛である北面の武士をしているが和歌の腕もかなりのものと貴族の間で評判の人物である。 このとき23歳。

 

 ただ、こいつはどういうわけか尊敬するって気持ちが全然湧かない。 なんというか、不比等のおっちゃんを相手にしているみたいな感じがするのだ。

こう、才能があって位もあるのにどこか残念な面があって帳消しにしている感覚が…

 

 

 

 

 そして、俺は主にこの面子や他の奴らも集めて度々和歌会をやったりしている。 

 

 流石に本名を名乗ったらまずいので、〇長の野望最弱スキル所有者の1人から名前をあやかって「藤原兼定」と名乗っているが、この2人には俺の正体については既に話している。

 

 というより、この名前を名乗った時に即答で「偽名だろ(ですね)?」って言われ、そのまま気づいたら俺の身の上まで話してしまった。

 

 こんな突飛もない話を何の抵抗もなく受け入れるってのは正直どうかと思うが…。

 

 

 

 

 

 

「しかし、信孝殿もまだお若いのになかなかのものですな…」

 

 いえ、本当は貴方たちのはるか年上です。 というか貴方俺が不比等の甥ってこと知ってるでしょうが?

 

「そうだぞ。 万葉集から引用し、それを今風にした和歌は素晴らしいものだからな」

 

 

(そりゃその時代を生きて、教養として歌は学んでいたんだから、似たようなのが出来て当り前だろうが)

 そう俺は心の中で呟いた。

 

 

 

 

「それほどでもありませぬ。 俊成殿や義清の方が素晴らしいものでございましょう」

 

「ご謙遜なさらずともようございます」

 

「そうだぞ信孝。 それよりも俊成には「殿」付けで何で俺は呼び捨てなんだ?」

 

「それが貴方の仁徳だからです」

 

「そんな仁徳いらねぇよ……」

 

 こんな風に軽口をたたける仲間ってのもいいもんだよな。

 

 

 

 

 

 

「そうだ信孝、よかったら明日我が家へいらっしゃいませぬか?」

 

「ちょっと待て義清、お前敬語で話したいのか普通に話したいのかどっちなんだ?」

 

「此処は敬語でいくべきかと思ったんだが、やっぱ俺には無理だったわ」

 

「なら最初っから普通に話せ!」

 

 

 それはともかく、義清の家か…。 こいつの家庭環境も気になるし、行ってみようかな?

 

 

 

「折角誘ってくれたんだし、行こう」

 

「おお! 来てれるか! なら明日待ってるぞ!」

 

 

 そう言い残し、義清はハイテンションで家へ帰って行った。

 

 

 

「俊成殿、すみませぬが私もこれでお暇いたします」

 

「ああ、今回も素晴らしい和歌をありがとう」

 

 俺は俊成殿に挨拶をして帰宅した。

 

 

 

 

  ~翌日~

 

 

 

 

 俺は義清の屋敷へやってきた。

 

 すると、屋敷の入り口で何故か義清が槍を構えて待っていた。

 

 

 

「よく来たな信孝。 お前を歓迎しよがぼぁ!!」

 

 

 

 突然目の前にいた義清が遥か彼方へ吹き飛ばされた。

 

 そして、そこに女性とその女性に抱っこされた女の子がいた。

 

 

 

「あらあらすいません信孝様。 うちの亭主がとんだご迷惑を。 申し遅れましたが、私義清の妻の沙織と申します。 そしてこちらは私たちの娘の幽々子と申します。 ほら幽々子、ご挨拶を」

 

「は、はじめまして信孝おにいちゃん! 佐藤幽々子です」

 

「!? こ、こちらこそよろしく」

 

 

 

 俺はなぜこの2人が「兼定」ではなく、「信孝」と言ったかにも驚いたが、それよりも義清の娘の名前が幽々子だと!?

 

 そう言えば今まですっかり忘れてたけど、西行法師って俗名佐藤義清だった!

 

 …たとえ覚えていても、あれが将来の歌聖だとは誰も信じないだろうけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと待て沙織、俺を置いて話を進めるな!」

 

「黙りなさいあなた」

 

「ハイ…モウシワケアリマセンサオリサン……」

 

 

 

 

 怖ぇ…。 なんか夜叉と化した妹紅を見てるみたいだ。

 

 

 

 

「では信孝様、ご案内いたします」

 

「おにいちゃん行こう!」

 

「ああ。 行こうか幽々子ちゃん」

 

「ちょっと待て俺を置いてくな!」

 

 

 

 

 

 

「それでは此処でおくつろぎください」

 

「はい、わざわざありがとうございます」

 

 そう言って沙織さんは部屋から出て行った。

 

 

 

「それで、俺を呼んだ理由は何で義清?」

 

「実は俺、出家しようと思うんだ」

 

「はぁ!? お前まだ23だろ!? それに北面の武士っていう立派な役職持ちな上に殿上人にまで上り詰めた癖にあえてそれを捨てるなんて…、それほどまで歌道を極めたいのか?」

 

「ああ。 それでお前に沙織と幽々子のことを頼みたいんだ」

 

「ちょっお前…何言ってんだ?」

 

「何も言うな信孝。 俺の意思は変わらない」

 

 

 

 

 俺が何かを言う前に、義清は自らの意志の強さを示した。

 だが、史実ではこいつ泣いて引き留めようとする娘(ここでは幽々子)を蹴り飛ばして強引に出家したんだよな。

 

 ロリ幽々子を足蹴にするなんてやり方は俺の正義(ジャスティス)が許さない。

こいつには相応の報いがあってしかるべきだよな。

 

 

「なぁ義清、沙織さんと幽々子ちゃんの説得とかちゃんとしたのか?」

 

「そんなの決まってるだろ? お前に任せた!」

 

「よし表出ろ義清。 俺が直々に修正してやろう」

 

「ま、待て信孝! 俺が悪かったから落ち着ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 

 俺は泣き叫ぶ義清(ゴミ)を無視して裏庭へ連行した。

 

 

 

 

 

 

  ~義清(バカ)粛清後~

 

 

 

「さて義清、しっかりと沙織さんと幽々子ちゃんの説得をして来い」

 

「ぐはっ!! あ、ああ…」

 

 俺はボロクズと化した義清を蹴り飛ばして無理矢理行かせることにした。

 

「さて、ああは言ったがどうなるかねぇ。 沙織さんならいけるかもしれないが、幽々子はまだ4歳だからきついだろうなぁ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ~翌朝~

 

 

「さてと、どうなったんd「お父さまいっちゃやだぁ!」「すまない幽々子! 俺はどうしても行かなければならないんだ!」って…、聞かなくても結果が分かるな」

 

 おいおい、結局幽々子の説得には失敗したのかよ…。

 

 

「どうして!?」

 

「っ! すまない幽々子!」

 

「あうっ!《バタッ》」

 

 ちょっ! 足蹴にはしなかったが、自分の娘に手刀入れて気絶させるなんて何やったんだよ義清!!

 

 

「さらばだ幽々子。 縁があればまた会おう」

 

 

 

 

 そして義清はそのままどこかへ行ってしまった。

 

 あの野郎…、まだ修正が足りなかったみたいだな。

 次会ったときには、もっと念入りに調教…もとい教育してやる必要があるな。

 

 それよりも今は幽々子の方を優先しないといけないな。

 

 

 

 

「ん…」

 

「おっ、やっと目覚めたか幽々子ちゃん」

 

「信孝おにいちゃん…?」

 

「すまない…。 義清を止めれなかった」

 

「……」

 

「次に義清にあったらしっかりと言い聞かせて(修正して)こっちに来させるから」

 

「…いいもん」

 

「え?」

 

「お父さまなんかもうしらないもん! お母さまと信孝おにいちゃんがいればいいもん!」

 

「義清、お前とうとう実の娘から全否定されたな…。 ウッ…」

 

「?」

 

「幽々子ちゃんは知らなくていいことだよ。 さて、沙織さんのとこに行くか!」

 

「うんっ!!」

 

 

 

 ~義清邸前~

 

 

 

「あら、信孝様」

 

「どうも沙織さん。 あの、ひとつ聞きたいことがあるのですが…」

 

「…わかりました。 幽々子、ちょっと向こうの部屋で遊んでなさい」

 

「はぁ~い!」

 

 

 

 そう言って幽々子は部屋を出て行った。

 立ち直り早いな幽々子…

 

 

 

「さて、お尋ねしたいことは大体わかっています。 貴方の正体のことでしょう?」

 

「…そうです。 何故俺の正体を知っているのですか? 義清には余人には知らせないようにと念を押したのですが…」

 

「…あの人が以前酔っぱらって帰ってきたときの話です。

 あの人、『俺の親友の藤原兼定なんだがよ、実際は偽名で本当は藤原信孝というそうだ。 これがどれだけすごいことか分かるか?

 あの藤原不比等公の甥で、今の朝廷の中枢にいる織田家の祖に当たる人物だぞ!

 理由は知らないがあいつは不老不死の身になって、450年前に行方不明になった不比等公の娘で、同じく不老不死となった藤原妹紅姫の行方を追っているそうだ』 

 と言っておりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「義清ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!! 次会ったらぶっ殺す!!」

 

 

 

 あいつにお話(物理)することが増えたな。

 人の隠したいことを簡単に漏らしやがって…!

 

 

 

「ならその際はこれを使ってください」

 

 

 そう言って沙織さんが懐から取り出した者は、俺にとっての黒歴史の1つでもある宇合特製自白剤入り柏餅があった。

 

 

 

 

 

 

「…何故貴女がこのようなものを持っているのか聞いてもよろしいでしょうか?

 これは、この世に存在してはならないものですが…?」

 

「私の実家に伝わっていた書物に書かれていたものです」

 

「誰が書いたんだそんなもの!?」

 

「言い伝えでは、私の実家の祖であられる藤原宇合公が書かれたものとされております」

 

「またあいつか…」

 

 

 

 

 俺は目の前の柏餅を見下ろし思わず身震いした。

 死んでからもう400年も経ってなお、俺に対する嫌がらせを続ける気なのかあいつは…。

 

 

 

「それで、折り入って信孝様にお願いしたき儀があります」

 

「何だ? 俺が出来ることならいいぞ」

 

「しばらくの間、幽々子の相手をしていただけないでしょうか?」

 

「へ…? 俺が、ですか?」

 

「はい。 どうやら幽々子も貴方様に懐いているようなのでちょうどいいかと…」

 

「…分かりました。 引き受けましょう」

 

 

 

 

 

 

 断ったらあの柏餅を食べる未来しか見えなかった俺は、頷くしか道はなかった。

 

 

 こうして俺と幽々子の共同生活が始まった。

 よく考えたら、俺がうまく誘導したら妖々夢フラグ壊れるのか?

 




前書いた簡単な人物紹介も修正します。
色々矛盾が出てきそうなので…

そして此処1年ほど感想返信出来ず誠に申し訳ないです…
一件一件感謝の念を込めながら読んでいることは此処に誓わせてもらいます。
次回以降はなるべく感想返信するよう勤めますので今後ともよろしくお願い致します


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十一話 後の親友の最初の出会いは醜い()

約一年ぶりの投稿です。
エタってはないので、これからもゾウリムシレベル以下の更新速度で執筆します(白目)



  Side 信孝

 

 

 俺が義清の屋敷で生活し始めて10年が経った。

 幼女だった幽々子も今年で14歳とこの時代では結婚適齢期を迎え、貴族のみならず皇族からも縁組の要望が来たりしていたが、幽々子はあらゆる縁組を拒否し続けていた

 

 そのことについて本人に尋ねてみたところ、「私が好きなのはただ1人だけですわ、お兄様。 その方以外とは結婚なんてする気はありません。」と思わず魅了されそうな笑みを浮かべた。

そこまで思われる幸せ者を羨みつつ「お幸せに。」と幽々子に告げたら、何故か問答無用で沙織さん直伝リバーブローを見舞い、怒りながら去って行った。

 

あまりの痛みにのた打ち回っていたせいで、去り際に幽々子が「…お兄様の鈍感」と呟いたことには気づかなかった。

 

そのことを沙織さんに相談すると、「…孝嗣? あんた幽々子相手に光源氏さながらのこと10年間やっておいてその言葉をあの子の母である私に向かって言えるの? 死にたいの?」

と、眼光だけで人を殺せそうな目つきで凝視されてしまった。

 

出会った頃は幼女だったし、10年間育ての親替わりだったせいでそういった目で見てこなかったが、よくよく考えたら父親は北面の武士で有名な歌人で、本人はロリ巨乳の美少女ときたら縁談の嵐が来てもおかしくはないわな。

 

 そして、今日もまた沙織さんが流れ作業的に幽々子の縁組要望の使者を追い返している姿を、俺と幽々子は縁側で茶を飲みながら眺めていた。

 

 

 

 

 

「沙織さん、今日もまたですか・・・」

「あら信孝さん、おはようございます。 流石に鬱陶しくなりましたね」

「だからってやってきた相手を思いっきり屋敷の外に蹴り飛ばさないでくださいよ・・・・・・。」

「あら、そうですか? 何か菊の紋章入りの法衣を纏った老人が「ワシの嫁に差し出せ!」何て妄言を吐いたものですから」

 

 

・・・・・・・・・!?

 

 

「ってそれ鳥羽法皇ご本人ですから!! あんた朝敵に成りたいんですか!?」

「あらそうなのですか? ですがどの道幽々子に群がる害虫を排除するのと、義清を修正するのは私の役目なので」

「やっぱ駄目だわこの人早く何とかしないと・・・」

 

 正直時の最高権力者を問答無用で蹴り飛ばすとか、家名断絶どころか九族郎党丸ごと処刑とかされてもおかしくないのに・・・。

 

 

 

 

「それに、信孝さんも私に言いたいことがあるのでしょう? そろそろこの屋敷を出るとか?」

「!? 何時からお気づきで・・・?」

 

 何でこの人知ってるんだ!? なるべく悟られないようにしていたのだが…

 

「分かりますよ。 貴方の姿が変わらなければ周りの人たちは不審に思いますからね。 ですから、私たちに迷惑がかかる前に此処を出ていこうとしているのでしょう?」

「・・・・その通りです。 明日、此処を立つつもりです」

「私は貴方が決めたことにとやかく言う資格はありません。 ですが幽々子がどう言うか・・・。

 貴方も幽々子が貴方に並々ならぬ好意を抱いているのに気付いているのでしょう?」

「そこが難問ですよね・・・」

 

 

 正直このことを幽々子に言ったら絶対泣きつかれて止めようとすると思う。

 

 そして俺がその顔を見て、それでも屋敷を去ることができるか出来るかといったら、かなり厳しいと思う。

 ただ、幽々子には未だ能力の発現もないので、出来ればこのまま誰か素敵な相手でも見つけて、人として幸せになってもらいたいと思う。

 そうなったら東方の世界に幽々子が出てこないことになるが、それでもいいとさえ俺は思っていた。

 

 

 

 

「幽々子には私からも言っておきますよ。 泣きついて引き留めたりしたらきっと貴方は断れないでしょうし」

「・・・さっきからそうなんですが、沙織さんって俺の心読めたりします?」

「いえ? 私の勘です」

「勘でそこまで正確に読まれたら困るんですけど・・・・」

 

 ただ、俺が言うよりも沙織さんに任せた方が大丈夫だと思うので、幽々子に関しては沙織さんに任せることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ~翌朝~

 

「さて、準備も終えたしそろそろ行くか」

 

 荷物の確認も終わり、そろそろ行こうかと思ったら、突然幽々子が部屋に入ってきた。

 

「お兄様・・・、行かれるのですか?」

 

「すまない幽々子。 だが、不老不死である俺はこれ以上一か所に留まることは出来ないんだ」

 

「行っちゃだめですお兄様!」

 

 そう言って俺に抱きつく幽々子。 周りを飛んでいる蝶もまるで同調するかのようにせわしなく飛んでいる。 って・・・!!

 

「幽々子、この蝶は一体何だ?」

 

「これですか? 先日、突然私の目の前に現れたんです。 一体どうしてここにいるのかは全く分からないのですが・・・。」

 

 ちょwww 何で幽々子能力発現してるの!?

 これじゃあ幽々子自害ルートフラグ思いっきり立っちゃったじゃんか!?

 

 

 

 こうなった以上、優しい幽々子のことだから、この蝶の正体を知って、「鬱だ、氏のう。」とかになる可能性が高い。

 

 だから俺は幽々子に、将来自殺なんてしないように言い含めておいた。

 

 

 

 

 

「幽々子、俺からの最後の伝言だ。 これから色々と嫌なこととかもあるだろう。 だからって自分で命を断つなんて馬鹿な真似だけはしないでくれよ。」

「・・・分かりました。 ですが、またここに来てくださいね?」

「・・・努力しよう」

「努力じゃ駄目です! 絶対ですよお兄様!?」

「分かった! 分かったから関節技をきわめようとするのやめてくれ!!」

 なんでだろう・・・。 幽々子が妹紅と行動が似てきた。

 

 特に、俺に対して手を出すときとか・・・。

 

「では、またな幽々子」

 

「お兄様、最後に忘れ物ですよ?」

 

「へ?」

 

 

《チュッ》

 

 

「これは再会の約束です!」

 

「な!?」

 

「ではお兄様、また会いましょう!」

 

 

 そう言って幽々子は屋敷の中へ消えていった。

 

 まさか人生2人目のキスが幽々子とはね・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ~2時間後~

 

 

 

 俺はあれからしばらく都をぶらついていたんだが、ふとどこかで見たことがある後ろ姿を見つけ、そのあとを追ってみた。 するとそこには、

 

 

 

 

「さて義清、いや今は西行と名乗っていたか? 覚悟はいいか?」

 

 俺をこの状況に追いやった西行(怨敵)がいた。

 

 

 

 

 

「・・・・・・どちらさまでしょう?」

 

「ほぉ~~? あくまで白を切るか? ならばお前の骨、頭蓋骨から一つずつ丁寧に上から折ってこうじゃないか?」

 

「ちょっと待て! それ最初の時点で俺が死ぬだろ!? 悪かったからそれだけはやめろ信孝っ!!」

 

「やっと白状したか。 なら、その心意気に免じて、お前の下半身の関節全部はずすだけで許してやる」

 

「ちょっと待てそれも確実に死刑ものだぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 こうして俺の西行(怨敵)は天へと還って逝った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いきなりひどいじゃないか信孝」

 

「テメェのせいだろ西行!! それにお前何であっさり復活してるんだよ!?」

「…日ごろから沙織の折檻を受けていた俺の体を舐めないでもらいたい(キリリッ)」

「…自慢できることじゃないが激しく納得した。 つまり慣れか貴様」

「Exactly」

「待て貴様、なぜ英語が発音できる?」

「知り合いに教えてもらった」

 

 

 …ちょっと待て、何でこいつに英語圏の知り合いがいる?

 この時代西洋人が日本には来る気配どころかその存在すら知ってるかどうかの状態だぞ?

 

「待て、誰だその知り合いは?」

「俺も名前はよく分からんが、以前夢の中で出会った、頭にいばらの冠をして、白い布を纏った男からだ。」

「いいのかキー○ん!? あんた最高指導者だろ!? しかも版権作品から勝手に出張すんな!!」

 

 

 

 

 

 

《いいのですよ。 私が楽しめれば》

《そうやで信孝。 それにこれは神産巣日神の知り合いのあのお方からも許可をもらってるから心配いらへんわ》

 

 

 

 

「やっぱテメェの仕業かあの駄神ぃぃぃぃぃ!!!」

 

 どうして神にはダメな奴ばっか集まるんだろう・・・。

 さり気にサッ○ゃんまでいたことはもうスルーしておこう。 これ以上は俺も持たない…

 

 

 

  閑話休題

 

 

 

 

「さて西行、お前はとりあえず自分の屋敷に戻れ。 そして沙織さんから制裁を受けてこい」

「嫌だっ! 確実に死ぬと分かっているところに行く気はない!!」

「その気持ちはよく分かるがいいのかそんなこと言って? 日頃から受けていると先ほど言ったばかりだろう?」

 

「だからこそだ!! 何であんな『冥府佐藤邸支部』みたいなところに行かなきゃならないんだよ!?」

 

 

 自分の妻に対してひどい言いようをする西行だが、後ろにいるどう見ても○王色の○気を纏ってそうな沙織さんと怯えながら西行を包囲しつつある西行家の家人郎党の存在に気づかないのは幸せなのか不幸なのか……不幸だな間違いなく。

 

 

「あらあなた? 冥府とは人聞き悪いわね」

「さっ、ささささささささささ沙織ぃ!? 何でここに!?」

「私の勘が告げたのよ。 『貴方近くにいる』ってね」

「くそっ!! だが俺は此処で捕まるわけにはいk《ズンッ!》ぐべらっ!?」

「とりあえず屋敷に逝くわよあなた? 積もる話はそこで・・・ね?」

 

 恐えぇ・・・。 まさか踵落としで震度3レベルの揺れを発生させるとは・・・。

 

「では信孝さん、また会いましょう」

 

 そう言って、沙織さんは西行を引きずって屋敷へ帰って行った。

 俺は何も見なかった・・・!!

 

 

 

  信孝 side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  Side 紫

 

 

 

「ホント信孝どこにいるのかしら?」

 

 私はあれ以来、信孝の足取りを追って各地を回っている。

 だが、私がつく少し前にその地を離れたり、私が去ってからほんの数日後にその地に訪れたりと何故か機会に恵まれない。

 少し前に、信孝は「藤原兼定」という偽名を使って生活しているという情報を手に入れ、稗田家の娘にも協力してもらって探しているのだけど、それでも足取りが掴めない。

 特にここ10年ほどは、全くと言っていいほど音沙汰が途絶えているのだ。

 

 

 そんな状況の中、私は信孝が最近和歌で有名な西行の屋敷にかなりの長期で滞在しているという情報を手に入れ、早速京へ向かった。

 

(西行邸に長期滞在ということは、そろそろ信孝の見た目の変化がないことに疑いの目を持っている人物が出てきてもおかしくはないわね。 そこをうまくついて、さらに文珠の存在を匂わせて引きずり込めないかしら…?)

 

 

 文珠の存在があれば近いうちに実施する月面侵攻でより効率的な間引きができるから出来れば引き込みたいのよね。

いざとなれば色仕掛けでもして籠絡してみようかしら・・・?

 

 そう考えつつ、私は西行邸へと向かった。

 

 

 

 

 

 

~西行邸前~

 

「さてと、ここね」

 

 私はスキマを使って移動し、京の西行邸に着いた。

 だが、不思議なことに屋敷の中には西行やその家族どころか使用人の気配すらなかった。 

 ……一族郎党揃って出払うって怪しいわね。 何か事件かしら?

 

 でも、いないものは仕方ないわね。

 今日は一旦引き揚げて、明日また来ようかしらと考えていると、

 

 

 

 

「あら? お客様ですか?」

 

 

 突然後ろから声をかけられ驚いて振り返ると、15歳ほどと思われる少女が郎党と思われる武士を二人連れて立っていた。

 

 

「えっ、ええ。 私は八雲紫と言うわ。 ここに藤原兼定という人がいると聞いてやってきたのよ。」

「兼定・・・、信孝お兄様のこと・・・ですか?」

 

そう言って彼女は表情は暗くなった。 お兄様って・・・?

それに今この子、兼定ではなく「信孝」と言ったわね。 ということはこの子信孝の正体を知っている・・・?

少し探りを入れてみる必要があるわね…。

 

 

「ええ。 信孝がこの屋敷にいると聞いたのだけれど、今は出払っているのかしら?」

「……お兄様は昨日この屋敷を出ていきました」

「……………えぇぇぇぇぇ!?」

 

 またすれ違い!? 運命の神はそんなに私のことが嫌いなの!?

 

 

 

《いやむしろ好きやであんたのこと》

《だけど何故かあなたはもっといぢめてみたいのですよ》

《そうじゃ。 じゃからもうちょい頑張ってワシたちのことを楽しませてくれぃ》

 

《私の神の加護によって(私が面白く感じるような展開をしてから)必ずあなたは彼と再会できますから頑張ってください》

 

 

 …何だろう、神よりも魔王の方が私のことをしっかり見守ってくれてる気が・・・。

 それに今の気配、私が足元にも及ばないほど強大な力を持っていたような…。

……気にしたら負けね。

 

 

 

 

「所で紫さんはお兄様の何なのですか?」

「そうねぇ・・・、古い友人よ(ホントは顔見知りかどうかってところだけど、それじゃこの子は口を割ってくれないわね)」

「そうですか。 申し遅れましたが、私佐藤幽々子と申します。 何もないところですが、どうぞ上がってください(この女性は何か油断してはいけないです! 私の勘がそう告げています! 何だかだらしない贅肉でお兄様を籠絡しようとしている雰囲気…!)」

「ええ、ありがとう(この子は油断できないわね。 それに何か聞き捨てならないこと考えてた気が・・・)」

 

 

 

 

 これが、後に私と親友となる西行寺幽々子との最初の出会いだったわ。

 最も、最初はお互い醜い心を隠し続けていたけどね。




次回?
近いうちに上げたいです(震え声)


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。