僕のヒーローアカデミア:Battlefront of Blood (マーベルチョコ)
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Profile

Character

Name:血界・V・ラインヘルツ

Birthday:1/1

Height:176cm

Ability:滅獄血ー破壊の力が宿った血を操作できる。

Appearance:真紅の髪色で、目は爆豪ほどではないがつり上がっている。全体的に筋肉質で体型はガッチリしている。髪型はゴットイーターアニメの主人公のを少し短くした感じ。

Details:ブレングリード流血闘術の継承者。現在は親戚ではないが叔父として慕っている緑川 血糸とともに住んでいる。紳士に憧れているため紳士的な行動を目指しているが短気な性格と少し抜けているせいでエセ紳士と呼ばれたりしている。中学の時から目つきの悪さから不良に絡まれたりと苦労した。

 

ブレングリード流血闘術 : 血界が使う古武術。血を武器にして闘う。元々は人に使うものではなかった。

 

11式 旋回式連突 : 血で小型の十字架を作り出して周囲の敵に攻撃する。

32式 電速刺尖撃 : 敵に高速接近して血の十字架型の細剣で串刺しにする。

39式 血楔防壁陣 : 複数の血の十字架で相手を拘束する。

111式 十字型殲滅槍 : 巨大な血の十字架を作り出して相手に突き刺す。

117式 絶対不破血十字盾 : 巨大な血の十字架の盾を作り出す。

121式 貫通式血爆拳 : 拳に溜めた血のエネルギーを相手に貫通させて衝撃を与える。鎧壊しの技でもある。

211式 単発式紅蓮血獄撃 : 血のエネルギーを拳に集めて放つ。現在血界が使える技の中で最も強い。

321式 十字血棺掩壕 : 巨大な血の十字架の棺桶を作りだし、その中に入ることで盾では防げない全方位攻撃などを防ぐ。

 

BOXスタイル:血界の新しい戦い方。ボクシングを基本スタイルに戦うため、以前より攻撃後の隙が少なくなった。

 

 

Name:氷麗・A・スターフェイズ

Birthday:9/6

Height:148cm

Ability:?

Appearance:氷を思わせる水色の瞳と髪を持つクールロリ巨乳。

Details:血界、耳郎と同じ中学に通い、渋谷凛、クロと4人で中学で仲良くしていた。血界を抜いた3人には基本的には友好的に接しており、特に耳郎と渋谷凛には甘えることができるほど仲が良い。血界には毒を吐く。それ以外には最低限にしか接しておらず、友人と言える人は少ない。実家は八百万の家と並ぶほどの金持ちで、その縁があって八百万 百とも仲が良い。実力は雄英の推薦に受かるほど高い。

 

エスメルダ式血凍道 : 血を氷に変換させて戦う。氷麗は主に足技に乗せて戦う。

 

絶対零度の棘脚 : 脚にいくつもの氷柱を生やす技。

絶対零度の巨剣 : 巨大な氷の剣を作り出し、放つ。

 

 

Name:クロ

Birthday:?

Height:168cm

Ability:?

Appearance:金髪碧眼の外国人男子。メガネをかけて、ひ弱だが優しい雰囲気がある。

Details:血界、耳郎、氷麗と中学が同じ同級生。渋谷凛を加えた5人と仲良くしていた。高校に進学したはずだがどこの高校かわからない。

 

Name:緑川 血糸

Birthday:2月14日

Height:178cm

Ability:?

Appearance:緑の整った髪に眼鏡。できるサラリーマン風の男。冷たい印象がある。

Details:血界の保護者。現在は本職を休業しており、副業のあるプロダクションの部長をしている。かなりのやり手で複数のアイドルをトップまでプロデュースし、その功績で現在はアイドル課の課長に就いている。複数のアイドルから慕われており、いつか間違いが起こるのではと噂されている。

 

 

Name:ライト・ボルトストーン

Hero Name:ライトニング

Birthday:6月16日

Height:181cm

Ability:?

Appearance : 金髪のオールバック。どこか野性味な雰囲気がある。

Details:日本のNo.6ヒーロー。外国人で元は故郷であるアメリカで活動していたが十数年前に日本に移籍した。子供はアイドルである美嘉・ボルトストーンと莉嘉・ボルトストーン。妻は数年前に病気で亡くなっている。娘を溺愛しており、娘の前だとキャラが変わる。最近長女に嫌われて割と凹んでいる。

 

 

Name:犬飼 まこ

Birthday:2月22日

Height:148cm

Ability:ドッグパーツ

犬っぽいことはできる。(小型犬)

Appearance:小柄でアイドルの年少組とよく間違えられる。垂れた犬耳と尻尾が生えている。

Details:346プロの新人プロデューサー。血糸がスカウトした。それ以前は引きこもりだった。ウサミン星人と同じ歳だがよく年下に『ワンちゃん』と呼ばれて親しまれている。

 

 

Name:音鳴 カレン

Hero Name:ジャズ

Birthday:5月19日

Height:169cm

Ability:サウンドメタルー音を用いて金属に蓄積させたり、反響させたりと様々なことができる。

Appearance :青の長髪を後ろでまとめたクールな女性。

Details:ライトニングと同じく346プロヒーロー事務所に所属している若手の女性ヒーロー。シンリンカムイとほぼ同時期にデビューをした人気は拮抗している。副業としてジャズの演奏者としても人気がある。武器は有名な技術者に作ってもらったトランペット型の銃『ルイ』。

 

 

Name:ノーチ・スミノルフ

Hero Name:ナイトクラブ

Birthday:4月21日

Height:172cm

Ability:シャドウダイブ ー影の中に潜むことができ、高速移動もできる。

Appearance :ショートカットで目つきが鋭い。

Details:346プロヒーロー事務所に所属の女性ヒーロー。古参のメンバーで皆からよく頼られる。主な活動は諜報で事件性が高い案件では重宝されている。アングラ系のヒーローであるためメディアの露出がなく、世間にはほぼ知られていない。戦い方は格闘と銃器を用いる。

 

 

Name:蜂谷田 震矢

Hero Name:バンブルビー

Birthday:8月8日

Height:160cm

Ability:震針 ー腕に生えている針を振動させることができる。

Appearance :短髪で小柄な青年。

Details:346プロヒーロー事務所に所属している。アメリカである事件に巻き込まれてヒーローになったため、他の者達より長くヒーロー活動をしている。声帯をヴィランにやられ、話すことができないがジェスチャーで感情を表現している。またなんでもノリに乗ってくれるとても陽気な人柄。

 

 

Name:千川 まひろ

Hero Name:メディス

Birthday:10月12日

Height:175cm

Ability:千薬箱 ー体内で様々な薬を分泌することができる。

Appearance :茶髪のオカッパ頭。真面目そうな青年。

Details:346プロヒーロー事務所に所属している。346プロのアイドル課で事務員をしている姉を持つ。主な活動は救助に他のヒーローのサポートで表には出ずに裏方に徹している。また、事務所でも他のヒーロー達に指示を出している。

 

アイドル(個性)

 

渋谷凛

個性:凛光

自分の意思で凛とした光を出し、相手の注意を引くことができる。

そのおかげでモテる。

 

本田未央

個性:ポジティブパッション

周りに活力を与えることができる。彼女の周りはいつも賑やか。

 

島村卯月

個性:無し

笑顔が素敵で頑張り屋さん。だけど無個性なのを密かに気にしている。

 

新田美波

個性:S○Xアピール

ふとした動作が相手の興奮を誘う。男女問わず。普段個性を紹介するときは『アピール』と言っている。

 

アナスタシア

個性:スタースポット

星の位置がわかる。それで趣味が天体観測。

 

緒方智絵里

個性:クローバー

頭から四つ葉のクローバーが生えている。クローバーを渡すことができる。持つ者に幸運があるが、その幸運が発動するのはとても確率が低い。

 

三村かな子

個性:スナックポケット

ポケットに無限にお菓子を入れられる。型崩れ無し、保存もできる。

 

前田みく

個性:ネコ

ネコっぽいことはだいたいできる。だけど魚が苦手。

 

莉嘉・ボルトストーン

個性:パッションサンダー

電気が出せる。元気になるとより大きな電気が出せる。パパ大好き。

 

美嘉・ボルトストーン

個性:イルミネイトライト

イルミネーションのような光を自分の意思でデザイン、量を出せる。

父親のことを嫌っている。

 

Ward

ウィップ:脱獄したヴィラン。現在は再投獄されている。人を嬲るのが好きなサイコパス。個性は指を鉄製の鞭に変える『指鞭』

 

346プロダクション:大手のプロダクション、色々な分野に手掛けており、最近できたアイドルプロダクションが業績を伸ばしている。

 

346プロヒーロー事務所:346プロによって作られたヒーロー事務所。ほぼ無名のヒーローから始まり、今では多くの有名なヒーローが所属している。また、6年前のある事件で活躍した。

 

コキュートス:ヨーロッパの何処かに存在している刑務所。日本の重犯罪者を収容するタルタロスと同様に厳重な警備体制がひかれているが、ついこの間、正面から脱獄され多くの犠牲者を出した。

 

スーパーヴィラン:ヴィランの中でも特に重大な犯罪を犯したヴィランに付けられた称号。この称号を付けられた者は生死を問わずに処理される。




物語が進んでいくたびに新しい情報を記入していきます。
アイマスキャラはそのままで個性を書いていきます。


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1st STEP
File.1 Begining of Blood


ヒロアカが好きなのと血界戦線見て思いついたので書いちゃいました。
楽しんでいただければ嬉しいです。


現在の人口の内、約8割が『個性』という超常の力を持つ世界。

超常が日常となった世界である職業が脚光を浴びていた。

その職業とは『ヒーロー』。

悪を打ち倒し、人々を救う皆が憧れる仕事だ。

 

しかし、『悪』と言ってもそれには様々な形がある。

その中にはこの世の人知を超えた『悪』……いや、『闇』が存在する。

 

 

これは世界の均衡を守るため、そして大切な人を守るために戦う者達の記録である。

 

 

桜が舞い散る4月………季節は春。

多くの者が新たなスタートをきり、胸に期待と不安を抱えて歩き出す季節だった。

そんな素晴らしい日に物騒な光景が広がっている。

多くの不良たちがバット、鉄棒など武器となる物を持ち、1人の学生を囲んでいた。

 

「おうおうおうっ!!!今日こそはテメーの首貰うぜ!!!」

 

不良の1人が前に出て、囲んでいた学生に啖呵をきる。

囲まれた学生は少しため息を吐いてから、啖呵をきった不良のほうを向いた。

 

「いや、このまま何もせずに学校に行きたいんだけどな」

 

「『真紅の鬼』であるテメーを倒せば俺たち、普羅血(ふらち)高校は株が上がるってもんだぜ!!!」

 

「………中坊を寄ってかかって倒して株が上がる?」

 

「殺れ!テメーらァァァ!!!」

 

一切に不良たちは襲いかかり、殴る鈍い音が響いた。

 

 

学生が多く歩いている通学路の中で、スマホに耳たぶから伸びるコードを指している女子中学生は学校に向かっている途中だった。

彼女は耳郎 響香。

辺須瓶(べすびん)中学校に通っている今年から3年生の女子中学生だ。

スマホでニュースや音楽のことを調べていると彼女の前に慌てた同じ制服の女子2人がやってきた。

 

「耳郎さん!!」

 

「大変なの!!」

 

「ど、どうしたの?」

 

2人の慌てように響香は耳たぶのイヤホンを外し、取り敢えず聞く姿勢になる。

 

「私たちが不良の人たちに絡まれているところにラインヘルツ君が助けてくれたんだけど、不良の人たちに連れていかれちゃって……!」

 

「先生呼ぼうか迷ったんだけど、ラインヘルツ君が呼ばなくていいって言っちゃったの……」

 

それを聞いた響香は呆れた表情になり、ため息をついた。

 

「あンのバカ……わかった。あとはウチがなんとかしとくから2人は学校に行っていいよ」

 

「い、いいの?」

 

「先生とか呼ばなくていい?」

 

「うん……逆に呼んだらややこしくなりそうだし……」

 

耳郎は2人に教えられた場所に行くとそこには………不良が全員のびており、その中心で先程袋叩きにされそうだった学生が立っている。

それを見た耳郎はまたため息をつく。

 

「はあ、もう………血界(ちかい)!!!」

 

耳郎が学生の名前を呼ぶと彼は振り返った。

彼の名前は血界・V・ラインヘルツ。

耳郎と同じく、辺須瓶中学校に通う男子中学生で3年生だ。

 

「よお、耳郎」

 

「よお……じゃないよ!!アンタまた喧嘩して……」

 

「喧嘩じゃないって、ちゃんと全員から一発貰って一発ずつ返したから正当防衛だ」

 

「正当防衛ってねぇ……」

 

耳郎が倒れている不良に目を向けると全員が目を白くして気絶しているか、うめき声を上げている。

明らかにやり過ぎだ。

 

「これじゃあアンタが悪いことになるよ」

 

「なに!?」

 

するとそこにカメラのシャッター音が聞こえた。

2人がシャッター音の方を向くと、そこには氷のような水色の髪をツーサイドアップにした、小柄だが中学生3年生しては豊かな胸を持つ女子学生がスマフォを向けていた。

 

「みーちゃった。衝撃的証拠」

 

「おい!氷麗!!何撮ってんだ!!」

 

彼女は氷麗・A・スターフェイズ。

2人とは友人だが、何かと血界とぶつかり合う。

 

「おはよー響香」

 

「ぐへっ」

 

「おはよう、氷麗」

 

氷麗が倒れている不良を踏みながら耳郎に抱きついた。

何気にひどい。

氷麗の豊かな胸が耳郎に押し当てられ、若干耳郎のこめかみが僅かにヒクついた。

 

「くっ………!」

 

「どーしたの?」

 

「おい。俺を無視すんな。写真今すぐ消せよ」

 

「ヤーだよー。これはアンタを脅すために使うんだから」

 

「なに!?スマホかせ!」

 

血界が氷麗を捕まえようとするが、氷麗はスルスルと逃げていく。

 

「待て!コラ!!」

 

「捕まえてみなさーい」

 

「氷麗。その写真ウチも写ってるから消してほしんだけど……」

 

「………響香が言うなら消す」

 

耳郎が頼むと氷麗は素直に写真を消す。

 

「なんで俺の頼みは聞いてくれないんだ」

 

「血界だからイジメて楽しい」

 

「なんだと!?」

 

「ほら、2人とも学校に行くよ。このままじゃ遅刻しちゃう」

 

響香が2人を促し、学校に行こうとすると血界の頬に傷があることに気づいた。

 

「ちょっと血界、傷があるじゃん」

 

「マジか。まあ、このくらいならすぐに治る」

 

「動かないで。拭いたげる」

 

耳郎はポケットからハンカチを取り出し、傷の汚れを拭ってくれた。

それを見ていた氷麗は2人を茶化してきた。

 

「お二人さんアツアツだねーまるで夫婦みたい」

 

「ハアッ!!?な、何言って………!!」

 

「んなわけないだろうが。耳郎と俺なんて似合わない」

 

「ふんっ!」

 

「なんで!?」

 

氷麗の茶化しに耳郎は顔を真っ赤にさせて慌てるが血界はそれを冷静に返すと、耳郎は突然自身の個性である『イヤホンジャック』を血界に突き刺し、内部に衝撃波を放って血界を痺れさせた。

 

「うっさいバカ……」

 

「響香も苦労するね」

 

「氷麗も!!そんなんじゃないって……」

 

少し拗ねた様子の耳郎に慰める氷麗だが、氷麗のそばに倒れていた不良が立ち上がり、氷麗を捕まえた。

 

「氷麗!!」

 

「わー」

 

「動くんじゃねえぞ!!こいつがどうなってもいいのか!!」

 

不良は指をナイフのように尖らせて氷麗の顔に近づける。

 

「おい、お前やめとけって」

 

「うるせえ!!中坊に負けたとか面目丸潰れなんだよ!!!引き下がれっか!!!」

 

どうやら不良は自暴自棄になっているようだが、それは命取りだ。

 

「違う。お前のためにだな……」

 

「……せ」

 

「あ?」

 

血界が説得を試みようとした瞬間、氷麗からか細い声で何か言い、不良が目を向ける。

 

「離せ」

 

「おごっ!!?」

 

その瞬間、絶対零度の目を向けた氷麗が足を振り上げ、不良の首にその小柄な体からは到底出せると思えないほどの強烈な蹴りを放ち、不良は吹き飛んでいった。

 

「あれはいいのか?」

 

「いや、ダメでしょ」

 

「響香ー怖かったー」

 

「う、うん。ウチはアンタが怖いわ」

 

蹴られた不良を指差した血界は呆れ顔で耳郎に聞くと、耳郎は苦笑いしながら答えた。

すると3人の耳にパトカーのサイレン音が聞こえてきた。

 

「やばっ!警察来ちゃったじゃん!どうしよう!?」

 

「氷麗走れるか?」

 

「よゆー」

 

「よし。耳郎ちょっと失礼するぞ」

 

「え?なに?……きゃっ!」

 

血界は耳郎の後ろにまわり、突然お姫様抱っこをした。

 

「ちょっ……ちょっと!何やって……!!」

 

突然のことに顔が赤くなる耳郎だが、2人はそれを気にしなかった。

 

「このまま走って逃げるぞ」

 

「りょーかい」

 

「逃げるって……うわっ!」

 

耳郎を抱えた血界と氷麗はその場から信じられないスピードで離れていった。

 

 

学校にたどり着いた3人はなんとか遅刻せずに済んだ。

 

「はあ……なんとか間に合った」

 

「ため息ばっかりだと幸せが逃げちゃうよ?」

 

「主にアンタら2人のせいなんだけどね」

 

なんとかたどり着いた3人はさっさと教室に入ると3人以外の生徒が来ていた。

耳郎が席に着くと前に座っていた女子が振り向いて話しかけて来た。

 

「遅かったね、響香。今朝も真紅のお世話してたの?」

 

この話しかけて来たロングヘアーにピアスをつけたどこかクールな感じがする女子は渋谷凛。

凛も血界たちと仲がいい。

 

「そっ。今日も喧嘩してた」

 

「喧嘩じゃねえよ。襲われたからやり返しただけだ」

 

「血界はやり過ぎなの」

 

「お前に言われたくはねえよ」

 

氷麗に言われ、血界が言い返すとそこにもう1人現れた。

メガネをかけたひ弱そうな男子だ。

 

「おはよう、みんな」

 

「おはようクロ。聞いてくれよ、今朝さ……」

 

血界はクロと呼ばれた男子に今朝の経緯を話すとクロは苦笑いをした。

 

「うーん……血界は力が強いからね。ただ反撃するだけでも相手にとっては致命傷になるんじゃない?」

 

「クロもか……」

 

「でも血界はその女子2人を助けるためにやったことなんだよね。ヒーローみたいだ」

 

「まぁ、そりゃヒーロー志望だからな。人助けは当たり前だ」

 

「氷麗もだっけ?」

 

「うん、凛は?」

 

「私は2人みたいなヒーロー向けの個性じゃないから普通の高校にする予定。クロは?」

 

「僕も普通の高校だよ」

 

「響香はどうするの?響香の個性ならヒーロー向けじゃん。それともやっぱり音楽系?」

 

「ウチもヒーロー科志望だよ」

 

 

この5人は1年の頃から知り合い、それからよく一緒にいる仲良し5人組だった。

 

(進路か……昔のウチなら音楽系とヒーロー科で悩んでただろうな)

 

耳郎は親の影響で音楽、特にロックが大好きだった、いくつもの楽器を使いこなせるほど練習もしたし、それが楽しかった。

それで昔は音楽系に進もうかと考えていたが、血界との出会いが彼女の進路を変えた。

 

「隣町で指名手配中の敵(ヴィラン)が出没したというニュースがありました。皆さん登下校中には十分に気をつけましょう。それと皆さんそろそろ進路について考えなければいけません。今週中にとりあえずの進路を提出したくださいね」

 

「響香!」

 

「え!?」

 

「プリント回ってきたよ。どうしたの?」

 

「ごめん、何でもない」

 

耳郎は回ってきた進路希望の用紙を見つめ、用紙に自分の進路を書き込んだ。

 

 

血界に倒された普羅血高校の生徒たちは警察のお世話になり、全員が不貞腐れながらいつもの溜まり場に集まり、今日のことの不満を言い合おうとして溜まり場に行くと知らない誰かがいた。

 

「あ?誰だテメェ!!?」

 

「お前ら朝見かけたよ?中学生にボロボロにされていたよね!?アハハハハッ!!!」

 

男は突然笑い出し、不良たちが怒り出した。

 

「テメェ!ふざけんなよコラァッ!!!」

 

不良たちが朝のストレスをぶつけるかのように殴りかかるが、男が指を鉄の鞭に変えると不良たちに高速に振るって全員を叩きのめす。

 

「そんなんだからやられちゃうんだよ?」

 

「な、何なんだよお前!?」

 

「あれ?知らない?今ニュースで有名なんだけど?指名手配中の敵『アイアンウィップ』って呼ばれてる?やっすい名前だけどねー」

 

自分が敵と言った瞬間、不良たちは顔が強張る。

 

「ヴィ、ヴィランってマジかよ……」

 

「ヤベーって……」

 

ウィップは立ち上がり、不気味な笑みを浮かべて不良たちに近づいていく。

 

「君たちにはリベンジのチャンス、あげようか?」

 

 

翌日の下校時間、耳郎、凛、氷麗は3人で行きつけのCDショップに寄って行こうという話になり向かっていると、普羅血高校の生徒が耳郎たちを取り囲んだ。

 

「またアンタら?いい加減懲りない訳?」

 

耳郎が呆れたように聞くと、不良たちの顔が昨日と違い、何か怯えていることに氷麗は気づいた。

 

「響香、凛……何かおかしい」

 

「え?」

 

「どういうこと?」

 

警戒する氷麗に彼女たちもおかしいことに気づく。

 

「頼むから黙ってついて来てくれ!」

 

「仲間が危ねぇんだよ!!」

 

言っていることがわからない耳郎たちは警戒していいですよ、とは言わない。

 

「いや、なんで付いて行かないといけない訳?」

 

耳郎がそう言うと不良たちは苦虫を潰したような表情になってポケットからナイフを取り出した。

 

「痛い目にあいたくなかったらついてこい」

 

「ベタだなー」

 

氷麗があきれたように言うが、耳郎と凛は緊張した表情で固まり、取り囲まれて下手に動けない。

 

「わかったわ。付いて行くから手荒なことはしないで」

 

2人の様子を察した氷麗は3人で逃げるのは難しいと判断し、ため息を付いて不良達について行くことにした。

 

 

その頃血界とクロは2人でハンバーガーショップで駄弁っていた。

 

「今日も耳郎にイヤホンジャックされた……」

 

「あれはね〜……明らかに氷麗が何か仕掛けていたもんね」

 

「やっぱりか!」

 

「でもそのあとイヤホンジャックされたのは血界が悪いと思うよ。あれは誰でも恥ずかしいと思うし」

 

「何でだ?耳郎が転びそうになったのを俺が抱きとめただけだ」

 

「その後言った言葉覚えてる?」

 

「確か『綺麗な顔に傷がつくと俺も悲しい』だったな。……何か今思うとスッゲェ恥ずかしいこと言ってるな俺」

 

「そんな事がしょっちゅうだからね。そりゃ耳郎だって恥ずかしくなってイヤホンジャックしたくなるよ」

 

「マジでか、気をつけよ」

 

「……多分焼石に水だね」

 

呆れたように言うクロに訳がわからない血界は首を傾げていると、血界のスマホにメッセージが届き、それに目を向けると血界の目が一気に険しくなった。

 

「クロ……悪いけど、この後の約束、また今度にしてもいいか?」

 

「どうかしたのかい?」

 

「急用が入った」

 

「……そっか、なら仕方ないね」

 

「また後日埋め合わせするから。じゃあ、またな」

 

血界は口数を少なく、そのまま店を出て行ってしまい、クロはそれをコーラを飲みながら見ていた。

血界が店を出て、すぐにスマホを確認するとそこには写真付きでこうメッセージがあった。

 

『友達を傷つけて欲しくなかったら、誰にも知らせず昨日の場所まで来い』

 

そして写真には拘束された耳郎たちの姿があった。

 



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File.2 彼/彼女が目指すヒーロー

メールで呼び出された場所は先日不良に絡まれた人が立ち寄らない場所だ。

血界が立つ周りには不良たちが大なり小なり怪我を負っており、アイアンウィップがドラム缶の上に座ってニヤニヤと血界を見ていた。

血界が周りを観察していると腕を後ろで手錠をかけられた耳郎たちが連れてこられた。

 

「血界!」

 

「約束通り来たぞ。耳郎たちを解放してくれ」

 

「いやいや本当に来てくれるとは思ってなかったよ!いい子だね!」

 

アイアンウィップがその場の緊張した空気とは真逆の声色で楽しそうに話しでした。

 

「君が来たからってこの子達を解放するとは言ってないしね」

 

「………」

 

血界はアイアンウィップを睨む。

 

「それじゃチャンス&リベンジタ〜イム!!」

 

アイアンウィップはドラム缶の上に立ち上がり、大げさな身振りで声を上げる。

 

「今から君はここにいる不良たちにリベンジとして殴られる!君が耐えればこの子達は返すし、逃してあげるゲームさ!!」

 

突然のことに不良たちも困惑する。

 

「何でだ?」

 

「何がだい?」

 

「お前に何のメリットがある?」

 

耐えれば血界たちを逃すといい、不良たちにリベンジさせる機会を与えるとアイアンウィップに何のメリットがない。

アイアンウィップは笑みを深める。

 

「僕はね。人が嬲られるところを見るのが好きなんだ」

 

その目には狂気が渦巻いているのが誰の目に見えてわかった。

 

「狂ってるな」

 

「ヴィランだからね」

 

耳郎と凛は初めて垣間見る狂気に冷汗が流れてしまう。

 

「それじゃあ始めようか!!」

 

アイアンウィップが促すが不良たちはどうすればいいか、分からず立ち往生してしまう。

 

「ちっ……」

 

するとアイアンウィップは指を鞭に変え、側にいた不良を殴り飛ばす。

 

「ひぃぃっ!」

 

「早くしろよ!」

 

「う……うああぁっ!!」

 

1人の不良が鉄棒を持って血界の頭を思いっきり殴る。

 

「血界!」

 

耳郎の悲痛な叫びが響く。

殴られた際に頭を切ったのか血が流れるが、血界は顔色1つ変えない。

それを見た不良はたじろぐ。

 

「何やってんの?もっとやりなよ!!みんなもさ!!」

 

アイアンウィップがそう言うと他の不良たちも血界を殴りかかり、鈍い音が響く。

 

「もうやめて!血界が死んじゃう!!」

 

たまらなく凛が涙目を浮かべながら、アイアンウィップに言う。

 

「辞めるわけないよ!こんな楽しい事をさ!!」

 

アイアンウィップはそれを嘲笑って断るがその表情は狂気の笑みからだんだんと困惑したものになっていく。

不良たちが何度も殴っても血界はその場から一切動かず、立ち続けている。

10分もすると不良たちのほうが息が上がり、疲れて手が止まってしまう。

血界の顔は血で濡れているがその眼光はアイアンウィップを睨み続けていた。

アイアンウィップはそれを面白くなさそうにし、顔が歪む。

 

「約束だ。耳郎たちを解放してくれ」

 

血界はウィップに一歩近づくと、ウィップは立ち上がり血界に近づき、『個性』の鞭を血界に向かって振るった。

 

「次は僕の番だ!!ボーナスステージだよ!!」

 

ウィップの鞭は縦横無尽に血界を襲い、血を撒き散らせる。

しかし、血界はそれでも何もせずにウィップを睨み続ける。

 

「ムカつくんだよ!その眼ェッ!!」

 

ウィップが叫ぶと一際大きくうねった鞭が血界に当たり、不良たちが固まって動けなかったところまで押し戻される。

 

「お前らもあんだけ殴っといて1人くらい殺せねぇんだよ!!!」

 

不良たちが目に入ったウィップは突如として、鞭を不良たちに向ける。

そこに血界が間に入り、不良たちを守った。

 

「な、なんで……」

 

「傷つけられそうな奴がいるなら助けるだろーが」

 

困惑する不良たちに血界は当たり前だと答え、ウィップはそれに更に苛立ちを募らせる。

 

「ハッ!ヒーロー気取りかよ!!」

 

「そうだ。俺はヒーローになりたいんだ」

 

ウィップの煽りにも一切の揺らぎがない眼にウィップはほんの僅かだがたじろぐ。

すると、背後から声がかけられた。

 

「血界!ウチらはもう大丈夫だよ!!」

 

ウィップが血界に釘付けにされている間に耳郎のイヤホンジャックで鍵を開け、安全なところまで逃げていた。

 

「あ、アイツらぁ……!!」

 

ウィップは耳郎たちに鞭を向けようとするが鞭が何かに引っ張られ動かせなかった。

鞭が伸びている先を見ると5本の指の鞭全てが血界に掴まれていた。

 

「今度はこっちの番、だっ!」

 

血界は鞭を一気に引っ張りウィップの体を自分のほうに引き寄せ、重いパンチを1発浴びせた。

 

「ゲボォ……!」

 

ウィップは吹き飛び、転がり落ちる。

腹を抑え、苦しそうにしながらもなんとか立ち上がり血界を睨む。

 

「お前ぇぇ……」

 

「そういえばまだ名乗っていなかったな」

 

血界は吹き飛ばされたウィップにゆっくり歩きながら近づき、右手首をスナップさせて十字架を象ったナックルガードを装着する。

 

「血界・V・ラインヘルツ。ヒーローを志ざす者だ」

 

血界は右拳を顔の前に構える。

 

「ブレングリード流血闘術、推して参る!」

 

「シネェェェェエエエッ!!!!!」

 

ウィップは両手の鞭を螺旋状にまとめて一本の太い鞭にして、血界を貫こうと迫ってくる。

血界は迫ってくる鞭に構える。

 

「ブレングリード流血闘術………!!」

 

 

111式 十字型殲滅槍

 

 

ナックルガードから巨大な十字架型の槍が作り出され、血界の拳の動きと共に打ち出さる。

鞭を破壊しながらウィップの体に迫り、その体にぶつかると壁に衝突した。

 

「…………っ!!!!」

 

あまりの威力に壁に衝突したウィップを中心にクレーターが出来上がり、ウィップはその衝撃で気絶した。

こうして血界達を襲ったヴィラン ウィップは撃退され、事件は幕を閉じた。

 

 

その後、耳郎達は警察を呼びウィップは逮捕され、血界は救急車で治療されているが救急隊員が不思議そうにしていた。

 

「そんなに血が出ているのに擦り傷ぐらいしかないなんて不思議だね?君の個性かな?」

 

「まぁ……そんなもんっすね」

 

応急処置が終わり、念のために人質となった耳郎たちと共に病院に運ばれることになった。

事情聴取されていた耳郎たちが戻って来て、共に病院に向かいながら血界が質問する。

 

「警察には何て言ったんだ?」

 

「泣き真似しながら、仕方なく個性を使いましたって言ったら、血界のこと何も罪には問わないってさ」

 

「氷麗の泣く演技、迫真の演技だったよ。私も騙されちゃったし」

 

「女には必要なスキルよ」

 

血界、氷麗、凛がそんなことを話していると、ずっと黙っていた耳郎が思いつめた顔で血界に話しかけた。

 

「ねぇ血界。なんであの不良たちを助けたの?」

 

耳郎には血界の行動がよくわからなかった。

確かにヒーローなら人を助けるのは当然のことだが、今回のはあの不良達のせいで血界が傷付いた。

 

「アイツらも被害者だけど元を正せばアイツら昨日襲って来なきゃ、血界もあのヴィランに襲われることなかったじゃん」

 

「そうかもしれないがアイツらもやりたくて俺を殴ったわけじゃない。だったら助けるのがヒーローだろ?」

 

「……血界のなりたいヒーローって?」

 

血界は少し考える素ぶりを見せて、答えた。

 

「誰かを助けられるヒーロー、とか?」

 

「………プッ!カッコつけすぎ」

 

「なんだとぉ!?」

 

からかわれた血界が氷麗を追いかけ、それを見ていた凛たちは呆れるなか、耳郎はどこか嬉しそうだった。

 

「そっか……、やっぱり昔から変わらないね。アンタは」

 

 

そして月日が経ち、雄英の受験日がやってきた。

 



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File.3 為せば成る

数多くの有名ヒーローを生み出してきた有名校、雄英高校。

毎年倍率300倍を超す化け物校だ。

そこに血界、耳郎が受験に来ていた。

 

「来たね……うわー、緊張する」

 

耳郎が自分の両肩を抱きしめるようにして緊張を間際らそうとする。

 

「耳郎……俺も緊張しているんだ。緊張している奴が一緒にいるだけで気が楽になるだろ?」

 

「血界……そうだね」

 

血界が耳郎にそう言うと耳郎は幾分か安心した表情になる。

 

「まぁ、血界は実技は大丈夫だろうけど筆記の方がヤバイだろうしねー」

 

「氷麗!?それに凛とクロ!」

 

「応援しにきた」

 

「緊張してると思ってね」

 

「お前なんでここにいるんだ?」

 

氷麗、凛、クロがやってきたことに驚く2人。

氷麗は推薦で雄英に受かっており、一般の試験を受けるはずがないのだが、何故か一般受験日の雄英に来ていた。

 

「今日は雄英の一般受験の日だから、響香の激励と血界をからかいに来たの」

 

「私とクロは単純に応援だよ」

 

「俺のからかいはいらないだろうが……」

 

「血界は勉強できないんだからヤバイでしょ。だからバカとか言われるんだよ」

 

「誰がバカだ!!?」

 

「ウルセェ!!!ブッ殺すぞ!!!」

 

「なんだと……あふぅんっ!?」

 

血界が怒鳴った瞬間、すぐ隣を通っていた爆発したようなベージュ髪でツリ目で赤目の少年が怒鳴り返して来た。

血界が言い返そうとすると耳郎がすぐさまイヤホンジャックで血界を黙らせた。

 

「ゴメン。試験前でピリピリしててさ」

 

「ケッ!!」

 

耳郎が謝ると、その少年は学校に入っていった。

 

「何アイツ?あんな人も雄英受けるんだ」

 

「色んな人がいるね」

 

「あそこで言い返そうとするからバカなんだよ」

 

「テメェ……」

 

「アハハッ、試験前なのに2人は変わんないね。なんか楽になった」

 

「そうよかった、頑張ってね。特に血界」

 

「頑張ってね」

 

「2人なら受かるよ。絶対に」

 

「うん」

 

「おう、行ってくる」

 

 

無事に(血界はギリギリ)筆記試験が終わり、プロヒーローであり、雄英高校の教師でもあるプロヒーローあるプレゼント・マイクが実技試験の説明を行ってくれていた。

 

『今日は俺のライブにようこそー!!エヴィバディセイヘイ!!」

 

プレゼント・マイクは陽気な口調で受験生をリスナーと呼びながら説明をするが、誰も反応しないので少し可哀想に見えてしまう。

 

「何か反応したほうがいいのか……」

 

「何言ってんのさ。それより試験会場が違うぽっいよ」

「協力させないためだろな。てことは採点されるのは個人の戦闘力か?」

 

血界と耳郎がそんなことを話しながら説明を聞いているとプレゼント・マイクは最後に激励を送ってくれた。

 

『俺からは以上だ!最後にリスナーへ我が校『校訓』をプレゼントしよう。かの英雄ナポレオン・ボナパルトは言った!「真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者」と!“Plus Ultra”!それでは皆、良い受難を!』

 

血界はマイクが送ってくれた“Plus Ultra”の言葉で拳に力が入り、その眼にさらにやる気を灯す。

 

(“Plus Ultra”か……やってやる!!)

 

耳郎と別れて自分が割り振られた試験会場の前で動きやすい服装で準備運動を行なっていた。

 

(試験会場っていうより、街1つ分じゃないか……流石雄英)

 

血界は試験会場の規模から、雄英の規模に内心驚いている。

 

『ハイ、スタートー!』

 

突然プレゼント・マイクの合図がかけられた。

 

『どうしたぁ!?実戦じゃカウントなんざねえんだよ!走れ走れぇ!賽は投げられているぞ!』

 

突然のスタートに全員が慌てながらも一斉に飛び出す。

血界もその中の1人で一斉にスタートをきった。

血界は持ち前の身体能力で皆より少し先に目標のロボットを発見し、ナックルガードを装着する。

 

「いた!1点ロボット!」

 

『目標発見!ブッコロース!』

 

ロボットも血界を発見すると攻撃をしてこようと迫ってきて、アームを振るってくるが血界はそれを難なく避け、顔部分にパンチをぶつけると粉々に破壊した。

 

「なんだ、思った以上に脆いじゃないか。これなら技を使わなくてもいけるな」

 

血界はその後も点数ロボットを千切っては投げ、千切っては投げを繰り返して点数を伸ばしていった。

 

「これで50点目……もう少し稼ぎたいんだけどな……」

 

血界が周りを見渡し、点数ロボットを探していると突然地響きが伝わってくる。

 

「なんだ!?」

 

「おい!あれ!!」

 

他の受験者も動揺していると1人の受験者が指差すほうから、ビルを破壊して現れたビル並みの大きさのロボットが現れた。

 

「なんだよアレ!?」

 

「アレがお邪魔虫の0点ロボットか!?勝てるわけねぇよ!!」

 

あまりの大きさにほとんどの受験生は逃げていく。

血界も流石にあの大きさは無理だと思い、逃げ惑う生徒に釣られて逃げようとするがその時逆に0点ロボットに向かって行く女子が1人目に入り、足を止めた。

 

「………ああっ!くそ!」

 

血界はその女子を追ってロボットがいる方向へと向かった。

 

 

「ケロ……すぐそこまで来てるわね」

 

どこかカエルぽっい女子は0点ロボットが現れた際に瓦礫で挟まってしまった男子を助けようとしていたが瓦礫が重く、持ち上がらない。

 

「も、もう俺のことはいいから行ってくれ……」

 

「バカなこと言わないで。ヒーローを目指しているのに助けないなんてあり得ないわ」

 

そう言って瓦礫を動かすが、ビクともしない。

そこに血界がやってきた。

 

「大丈夫か?手伝うぞ」

 

「ありがとう。助かるわ」

 

血界が瓦礫を持ち上げ、女子が男子を引っ張り出した。

 

「あ、ありがとう!助かったよ!」

 

「お礼なら後にしてちょうだい!もう、そこまで来てるわ!」

 

女子が向く先には0点ロボットがもうそこまで来ていた。

 

「先に行ってくれ。一か八かあれをぶっ壊す」

 

「何を言ってるの!あんなに大きいのに絶対に勝てるわけないわ!」

 

「この世に絶対なんてあり得ない。諦めなければ人はなんだってできる」

 

血界はナックルガードを構え、『個性』を発動し、十字架が赤く輝く。

 

「ブレングリード流血闘術、推して参る!」

 

0点ロボットが血界の放つ光に気づき、巨大なアーム向けてくる。

 

「ブレングリード流血闘術 ……!! 」

 

 

117式 絶対不破血十字盾

 

 

ナックルガードから巨大な紅い十字架の盾が現れ、雄叫びと共に拳を振るって盾をロボットにぶつける。

 

「オオォォォッ!!!」

 

ぶつかった盾は壊れる事なく、ロボットの体に十字状の大穴を開けて突き抜けた。

大穴が開いたロボットは火花とスパークを繰り返し、爆発して動かなくなった。

 

「な、なんとかなった……」

 

血界は肩で息をしながら呟いた。

 

その後すぐに試験終了の合図が鳴り、血界は怪我をした男子をカエル少女と共に救護室まで運んでいた。

 

「それにしても貴方すごいわね。あの巨大ロボットを倒してしまうなんて」

 

「そうか?俺はそれより君がすぐに助けに入ったことの方がすごいと思うけどな」

 

「梅雨ちゃんと呼んでちょうだい。貴方なら合格は確実ね」

 

「う、うん……まぁな」

 

血界はカエル少女、蛙吹梅雨の言葉に筆記の方が心配だということを言えずに、曖昧に答えた。

救護室に着くとそこには雄英の看護教員であるリカバリーガールが各会場で怪我をしていた者たちの治癒を行なっていた。

 

「チユ〜〜〜!ふう……こんなものかね。おや?新しい子が来たのかい。こっちに寝かしておくれ」

 

リカバリーガールが言った通りに血界が背負っていた男子を指示されたベットに寝かせた。

 

「さてと早速……うん?アンタ………」

 

リカバリーガールが治癒をしようとしたら、血界の顔が目に留まり、顔を近づけてくる。

 

「どうかしたんですか?」

 

「いや、なんでもない。それより早く行きな。もうそろそろ最後の説明があるはずだよ」

 

「あっ、はい。失礼します」

 

血界が出て行くと、リカバリーガールはどこか懐かしそうにした。

 

「そうかい。あんたの子も雄英を受けたのかい……」

 

 

血界たち受験生の試験が終わり、実技試験を見ていたモニター室では今回の試験の感想を教師たちが話し合っていた。

 

「実技総合成績が出ました」

 

前方の大画面に受験生の名前と成績が上位からズラリと並ぶ。それを見た教師陣から感嘆の声が複数上がった。

それぞれの感想言っていくと0点ロボットを倒した合格者の話になった。

 

「0点ロボットに立ち向かったのは過去にも居たけど…ブッ飛ばしちゃったのは久しく見てないね」

 

ワイワイと騒ぎながら講評を行う教師陣。

そして次の合格者の話に移る。

 

「倒したのはこの子もですね」

 

『オレはこっちのヤツの方が好きだな!!技を叫びながらぶっ倒すのもカッコ良かったしな』

 

「この子は……そうか彼の子か、ならあのスタイルも納得だね。それに特待生には彼女……これは将来が楽しみだね!!」

 

皆がワイワイしている中、今回合格した者たちを受け持つ教師は受け持つ生徒たちのプロフィールを見ていた。

 

「今年は異例の21人か」

 

「根津校長が政府からヒーロー数を増やすこと指示されたらしい。このヒーロー飽和社会にな」

 

「まぁ、何にせよ……見込みがなければ切り捨てるだけだ」

 

少し小汚い男は名簿に目を移した。

 

 

血界の住まいは住宅街にある高級マンションの最上階。

そこに保護者と2人で暮らしている。

家に着くと明かりがついていなかった。

 

「ただいまー、まだ仕事か……」

 

リビングに入るとテーブルに書き置きがあった。

 

『現場で少しトラブルがあったから出掛ける。夕ご飯は冷蔵庫の中に

 

P.S試験お疲れ様』

 

それを見た血界は肩の荷が下りたのか、ソファに寝転び音楽を聴きながら、試験の疲れが出たのかすぐに夢の中へと意識が落ちて行った。

 



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File.4 入学と体力テスト

お久しぶりです。
他のものと合間合間に作っているので遅くなりました。
ここら辺はどう変化を加えるのか全くわからなかったのでまんまです。


試験から数日が経ったが今だに試験結果が来ず、特にすることがなく趣味の紅茶を淹れたり体を鍛える、おじの仕事の手伝いをしたりして時間を過ごしていた。

 

ピンポーン

 

インターホンがなり、テレビ電話を見ると血界のおじが帰ってきたので出迎える。

 

「おかえり」

 

「ああ、ただいま」

 

緑の整った髪に眼鏡、できる男の雰囲気が見てわかる男性。

この人が血界の保護者である緑川 血糸(みどりかわ けいと)。

血の繋がりはない血界を養いないながら、仕事をこなすバリバリのエリートだ。

血糸の仕事は大手のプロダクションである346プロダクションアイドル部門のチーフプロデューサー。

プロデューサーは副業であり、本職はヒーローなのだが今は諸事情でがあるらしく、プロデューサー業に専念している。

そして血糸が背負っている女性に血界は目を向ける。

 

「楓姉さんも」

 

「ただいま〜チーくん」

 

「お前はここに住んでいないだろう」

 

彼女は高垣 楓。

346プロのトップアイドルであり、おじさんが初めてプロデュースした人だ。

大学からの知り合いらしいが2人ともそのことについては血糸はあまり詳しく教えてくれない。

 

「今日はどうして楓姉さんを連れて来たんだ?」

 

「他の奴らと飲んでいたんだが、他の奴らは明日仕事があって早く帰った。それで明日仕事がない楓が飲み足りないと言って無理矢理付いて来た」

 

「そうなの〜」

 

楓は酒豪だ。

だが、酔いの時間が長くなるから、付き合いが長い血糸がいつも世話をして、血界にも何回か酔い潰れた楓の世話をしており、慣れてしまった。

 

「今日は寝るのが遅くなるな……」

 

「もうチーくんそんなこと言うなんて!お姉ちゃんの心チクチクしちゃう」

 

くだらないダジャレを聞き流し、血界はツマミと酒の準備をする。

 

「さっさと降りろ」

 

「きゃっ!もうひどいですよ」

 

血糸は楓を無理矢理ソファに下ろして、血界に封筒を差し出した。

 

「何だそれ?」

 

「雄英からの合否通知だ」

 

「なんで早く渡してくれないんだよ!」

 

血界は血糸から封筒をとり、開くと中には小さなデバイスが入っていた。

 

「何かしら?」

 

「血界、それをテーブルに置け」

 

血糸にそう言われ、テーブルに置くと突然デバイスが起動した。

 

『私が投影された!!』

 

投影されたのはNo.1ヒーロー、オールマイトだった。

 

「オールマイト!!」

 

「あら、オールマイトさん」

 

「楓はトーク番組で何回か一緒になったな」

 

『HAHAHAHA!何故私が雄英の合否通知を伝えるかって?実は私は今度から雄英の教師として勤めることになってね! それで合否通知を知らせる役が私になったってわけさ!!』

 

「おお……!凄い!」

 

血界はオールマイトが教師になって、授業をしてもらえることに驚く。

No.1ヒーローに教わるなんて中々してもらえることじゃない。

 

『それでは結果発表!!!血界・V・ラインヘルツ 敵ポイント50P!!これだけでも合格点だが試験官が見ていたのはそれだけであらず!!どんな状況でも助けてこそのヒーローさ!! 偽善上等!我々が見ていたもう一つのポイントこそ救助活動ポイントだ!!君の救助ポイントは27P!!合計77Pで同立1位だ!!合格さ!!!』

 

オールマイトからの合格の言葉に血界は呆然としてしまう。

 

『それでは雄英で待っているぞ!!』

 

映像が終わり、楓が血界に話しかける。

 

「おめでとう、チーくん」

 

「よかったな」

 

楓は微笑みながら、血糸は表情を変えずにお祝いの言葉を言ってくれて、合格で呆然としていた意識がやっと戻ってきた。

 

「あ、ありがとう!耳郎たちに連絡してくる!」

 

血界は慌てて自分の部屋に戻り、耳郎達に合格したことを伝えた。

 

 

血界が部屋に入るのを見届けて、血糸は自分が集めたレア物の酒が入っている棚から酒を取り出し、楓と自分の分のグラスに注いでいく。

 

「飲み直しだな」

 

「………ふふっ」

 

すると突然楓が笑った。

 

「どうした?」

 

「だって血糸さん。とっても嬉しそうなんだもの」

 

血糸は表情を変えていないが、付き合いが長い楓だからわかるものがあったらしい。

 

「そうか……」

 

血糸はそれ以上何も言わないし、聞かなかったがその日飲んだ酒は格別に美味しかった。

 

 

雄英合格通知から数日が経ち、血界は雄英の真新しい制服に身を包んでいた。

 

「忘れ物は無いな……よしっ!」

 

血界が玄関で靴を履いていると、後ろから血糸が話しかけた。

 

「忘れ物は無いな?」

 

「ああ、無いよ」

 

「そうか……血界」

 

「うん?」

 

「がんばれよ」

 

「おう!」

 

血糸の滅多にしない激励に血界は笑顔で答え、家を出る。

途中で耳郎と合流し、雄英へ登校する。

 

「2人とも受かってよかったな」

 

「そうだね。凛とクロも志望したところに行けたらしいし」

 

雄英に着き、クラスが同じなのでそのまま教室に着いた。

 

「でかいな……」

 

「でかいね……」

 

現代の『個性』社会ではその個性によって色々な人がいる。

個性を自分の意思で扱うことができる発動型。

個性が体に現れて、通常の人とは異なる姿をした異形型。

この2つに大きく分かれている。

そして色々な公共施設では多様な個性のために色々なバリアフリーがされてある。

雄英でもそれは当たり前だ。

血界と耳郎は共に扉を通ると入試の時に言い合いになりそうになった金髪の男子が机に足を乗せて、血界たちを睨んできた。

 

「あぁ?」

 

「あ?」

 

血界も反射的に睨んでしまう。

2人の間に見えない火花のようなものがぶつかる。

 

「ちょっと!やめなよ!」

 

耳郎が血界の腕を引っ張って、その場を離れるが血界ともう一方は睨んだままだ。

 

「いい加減にしろ」

 

「あがっ!?」

 

耳郎がしびれを切らしてイヤホン=ジャックで血界に心音を流して、ダウンさせる。

 

「まったく……」

 

「朝から元気ね」

 

耳郎が呆れていると実技の入試試験で血界と一緒だった蛙水 梅雨が2人に話しかけた。

 

「私は蛙水 梅雨。梅雨ちゃんと呼んで」

 

「ウチは耳郎 響香。よろしく」

 

「ところで血界ちゃんは大丈夫かしら?」

 

「いつものことだから大丈夫だよ」

 

そのあと血界と耳郎、そして新しく友人になった蛙水と色々と話をしていると新しくクラスメイトとなる人たちも入ってきた。

そして、緑のもじゃもじゃ頭のそばかす男子と茶髪の丸っぽい顔の女子が入口で何か話しているの見かけると、その後ろで黄色の何かが動くのが見えた。

 

「なんだアレ?」

 

「巨大な芋虫かしら?」

 

「えっ!?」

 

するとその黄色の何かは寝袋を着た小汚い男性でノソノソと教壇に近づく。

 

「お友達ごっこがしたいなら余所の学校へ行け。ここはヒーロー科だぞ」

 

その男は教壇に立って改めて自己紹介を始めた。

 

「皆さんの担任の相澤です」

 

『担任!?』

 

まさかの一言に全員が驚くが、担任の相澤はそれを無視して寝袋から雄英の体操服を取り出した。

 

「早速だが全員これ着てグラウンドに出ろ」

 

相澤にそう言われて全員が体操服に着替えて、グラウンドに出るとそこにはもう相澤が待っていた。

 

「これから体力テストを行う」

 

「いきなりテスト!?」

 

「入学式は!?ガイダンスは!?」

 

初日から体力テストを行うということに全員が戸惑いを隠せない。

 

「ヒーローになるならそんな悠長な行事なんて時間の無駄だ。雄英は自由な校風が売り文句だ。当然、それは先生側にも適用される。覚えておく事だな」

 

体力テストの内容は一般的な内容と同じで、8種類だがヒーロー科に入ったのだから勿論内容が違う。

 

「じゃあ試しに首席合格だった爆豪、やってみろ」

 

相澤は血界と何かといざこざを起こす爆豪に計測用のボールを投げ渡す。

 

「爆豪。中学の時のボール投げの記録は幾つだった?」

 

「72m」

 

「それは個性無しでだろ。じゃあ個性ありきでやってみな」

 

「んじゃぁ……死ねぇっ!!!!!」

 

相澤の言葉にどう猛な笑みを浮かべた爆豪はボールを投げた瞬間、手から爆発を放ち、ボールを飛ばした。

 

「なんてゆーか……」

 

「ケロ」

 

「ヴィランみてーだな」

 

「んだとツリ目野郎!!!」

 

「テメーもツリ目だろうが!!!」

 

「おい静かにしろ!……中学の頃は公正を期すために個性無しで行うがヒーロー科に入ったなら、まずは自分の限界を知らないといけない」

 

相澤がそう説明しながら見せた個性ありきの結果に全員が楽しそうだと色めき立つが相澤はそれを見て、全員にそんなものではヒーロー科ではやっていけないと注告し、体力テストの結果で最下位の者は除籍となると言ったのだ。

勿論そのことに対して生徒たちは不満を上げるが、相澤は淡々と話す。

 

「理不尽無茶振り、そういうピンチを打ち破り覆す者が「ヒーロー」。これから三年間、苦難が与え続けられるのが君達のこれからだ。"Plus Ultra"さ。全力で乗り越えてみろ」

 

いい笑顔でそう言われては血界達も覚悟を決めてやるしかない。

 

1.50メートル走

血界と一緒に走るのは尻尾を生やした地味目の男子、尾白 猿夫だ。

2人は位置について、ロボットの合図を待つ。

 

『スタート』

 

尾白は尻尾をバネにして跳ねるように飛び出し、一気に距離を縮め、血界は普通に走っているがその速さが異常だった。

飛び出したと同時に踏み込んだ地面にはヒビが入る。

 

『5秒31』

『5秒55』

 

結果は血界の方が僅かに早かった。

 

「早いな。まだ俺の方が分があるとあったけど、身体強化系の個性か?」

 

50メートル走が終わり、尾白が話しかけてきた。

 

「どうなんだろうな?強化系では無いと思うけど……」

 

「自分でも分からないのか?」

 

「ああ、まあな……」

 

それからの競技では血界は大体において好成績を出してきた。

もともと個性の影響か、身体能力は常人のそれとはかけ離れたものを持っており、握力などはゴリラ並みの記録を出していた。

 

「すごいわね、血界ちゃん。異形系でも無いし、身体強化系でも無いのにこんな成績だなんて」

 

「中学の時から運動は得意だったもんね。個性使ってんじゃないか何回も疑われてたし」

 

「そのせいで喧嘩が絶えなかったけどな」

 

3人で話していると血界が呼ばれ、ボールを渡される。

 

「二回投げて成績が良い方をとる。早く終わらせろよ。あといい加減に個性を使え。今のところ個性を使ってないのはお前と緑谷だけだ」

 

相澤が血界を軽く睨みながらそう忠告する。

 

「血界の奴、何か忠告されてるじゃん」

 

「どうしたのかしら?」

 

「ハッ!舐めプしてるからだろうが!」

 

周りの皆もそれ聞こえており、注目してくる。

血界は皆が注目してくることに少し緊張を覚えながら、ボール投げの円に入る。

 

「なぁ、先生。このボールってどんぐらい硬いんだ?」

 

「そう簡単に壊れないようには作られてはいる」

 

「了解っす」

 

それを聞いた血界は笑みを浮かべて、ボールを高く上に投げた。

 

「ほぼ真上に投げた?」

 

「何やってんだ?」

 

全員が不思議に思うなか、血界はナックルガードを装着して構える。

 

「ブレングリード流血闘術推して参る!」

 

拳から真紅の光が放たれ、落ちてくるボールに合わせて拳を振りかぶる。

 

「ブレングリード流血闘術………!!」

 

 

117式 絶対不破血十字盾

 

 

現れた盾にボールをぶつけて、そのまま空高くへと打ち上げた。

その結果は『2715m』。

だがその結果より、血界が出した技に皆は驚き騒いだ。

 

「スゲえ!なんだ今の!?」

 

「カッコいい!!」

 

「静かにしろお前ら」

 

皆が血界に質問しようとするが相澤が静止して、テストを続行することになった。

結果は全員合格で退学者おらず、退学を心配していた

相澤先生の合理的虚偽だ。

皆がホッとしながら帰り支度をし、耳郎と帰ろうとしていると1人の女子が話しかけてきた。

 

「あの……少しよろしいでしょうか?」

 

「ん?誰だ?」

 

「私、八百万 百と申します。よろしくお願いしますわ」

 

話しかけてきたのは血界たちと同じクラスの女子、八百万 百だった。

 

「お二人は氷麗さんとお友達なのでしょうか?」

 

「氷麗?氷麗となら同じ中学で友達だけど……」

 

「まあ!やっぱりそうですのね!私も氷麗さんとはパーティで知り合ってからお友達なのです!お二人のことはよく聞いてますわ!」

 

八百万はテンションが高くなって話しかけてくる。

 

「パーティって……」

 

「そういや氷麗ってどっかのお嬢様だったな。俺たちのことなんて聞いているんだ?」

 

「はい!耳郎さんは音楽が得意でカッコいいけど乙女なところがある可愛い女の子と聞いてますわ」

 

「は、恥ずかしいなぁ……」

 

「俺はどうなんだ?」

 

八百万の言葉に耳郎は恥ずかしそうにはにかむ。

すると、血界が自分のことが何と言われているか気になりだし、ソワソワとしながら聞くと八百万は言いにくそうにしていた。

 

「ち、血界さんはその……」

 

「教えてくれよ」

 

「………喧嘩っ早くて、短気、ヘマをやらかすゴリラだと……」

 

「……あの野郎!!」

 

八百万は申し訳なさそうに言い、それを聞いた血界は目を吊り上げ怒りを露わにした。

 

「も、申し訳ありません!私が言わなければ……」

 

「大丈夫だよ。八百万さん。こいつら、いつもこんなものなんだから」

 

「そうなんですか?」

 

「うん。いざとなったらウチが沈めるし」

 

耳郎はそう言いながら自分のプラグを揺らす。

 

「ほら血界!いつまでも怒ってないで帰るよ」

 

「あ、ああ。わかった」

 

「あの私もご一緒してもいいですか?」

 

「もちろん。色々とアイツのことも聞きたいしな」

 

「一緒に帰ろうよ」

 

「はい!」

 

3人は一緒に帰ることになり、ヒーロー科という険しい道を進みながらも高校生らしい時間を過ごした。

 



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File.5 Battle Training

午前中の授業が終わり、いつも通りの血界と耳郎の中に蛙水と八百万が加わって、談笑している。

 

「3人とも午前中の授業どうだったかしら」

 

「うーん…….」

 

「何というか……」

 

「「普通」」

 

蛙水の質問に血界と耳郎が揃って答える。

ヒーロー科と言っても雄英自体は高校であるため、他のことは学ばないといけない。

そのため現役のプロヒーローが授業をしてくれるのだが、ヒーローが授業をしてくれると言っても内容は至って普通だった。

 

「お二人とも何を言っているんですか!プロヒーローの方々が私たちにご教授なさってくれているのです!ヒーローになるために何か意味があるはずです!」

 

「そ、そうか?」

 

「ヤオモモは真面目だなぁ」

 

八百万がぷりぷりと力説する姿に血界は少し驚き、耳郎は微笑ましく見ていた。

 

「まあでも、何たって楽しみなのは次のヒーロー基礎学だよな。ヒーロー科に入ったんだからやる気が入る」

 

「血界は座学が苦手だからでしょ。勉強嫌いな小学生と同じじゃん。普段の授業が苦手で体育だけ得意とか」

 

「うぐっ」

 

耳郎の鋭いツッコミに血界は図星を突かれた。

 

「オールマイトが授業してくれるのだもの。やる気が入るわね」

 

「No.1ヒーローからご教授してくださるなんて雄英に入学できたから実現したことですわ。一回一回の授業を大切しないと」

 

「オールマイトかぁ……」

 

オールマイトの話になると少し上の空になった血界に耳郎が声をかける。

 

「どうしたの?オールマイトに授業してもらえるのが楽しみな理由じゃないの?」

 

「いや、そういうわけでもないんだよな……」

 

血界は曖昧な返事をしてしまう。

血界はNo.1ヒーローであるオールマイトは凄いと思っているが、憧れていると言う訳ではない。

血界にとって憧れの存在は別にいる。

そんな話をしている血界をクラスメイトである峰田 実は下唇を噛んで羨ましがっていた。

 

昼休みも終わり、いよいよヒーロー基礎学の時間がやってきた。

1-Aの皆は今か今かとソワソワして待っている。

 

「わぁあたぁあしぃぃがっ!!!普通にドアから来た!!!」

 

独特な言い回しとともに扉が開かれて現れたのは筋骨隆々の肉体を持ち、平和の象徴と言われるNo.1ヒーロー『オールマイト』だ。

オールマイトが現れた瞬間、生徒たちはテンションが上がり色めき立つ。

 

「本当にオールマイトだ!!マジで教師やってるんだぁ!!」

 

「銀時代のコスチュームね」

 

それは血界もそうだった。

オールマイトにそこまで憧れがないと言っても世界から平和の象徴と認められ、いくつもの伝説的な記録を残してきたヒーロー。

テレビで見るのと実際に見るのとでは全く違う。

 

「あれがNo.1ヒーロー……」

 

テンションが上がりまくりな生徒たちを一旦落ち着け、オールマイトは教壇に立つ。

 

「さて、では早速行こうか!!午後の授業は私が受け持つ。そしてそれはヒーロー基礎学!!「ヒーロー」として土台、素地を作る為に様々な訓練を行う科目だ!!正に「ヒーロー」になる為には必須とも言える!!単位数も多いから気を付けたまえ!!そぉして、早速今日はこれ、『戦闘訓練』!!!」

 

オールマイトの手には『BATTLE』と書かれたプレートを見せる。

それを見た生徒たちはやる気が燃え上がる。

 

「そして戦闘訓練を行う際に着るのがぁ、これだ!!」

 

オールマイトの合図とともに壁が動き出し現れたのは、それぞれ全員の戦闘服が入ったケースだ。

いよいよヒーローとしての一歩を進み始める。

 

 

耳郎の戦闘服は黒基調の服に足には攻撃用のスピーカーが付いており、彼女の個性が活用できる自分が考えたコスチュームだ。

 

「似合ってるじゃないか」

 

後ろから声をかけられ振り向くと戦闘服を着た血界が立っていた。

血界のコスチュームは白のシャツとネクタイ、その上に自分の体にピッタリの紅の革のパーカー、下は軍人が履くような機能性重視の黒のズボンとブーツ。

 

「血界も似合ってるじゃん」

 

「そうか?そう言われると嬉しいな。ありがとう」

 

戦闘服を褒められて素直に喜ぶ血界の後ろから声が掛けられる。

 

「2人ともカッコいいわね」

 

「お二人とも似合っていますわ」

 

その2人に蛙水と八百万が声をかける。

 

「あ、血界!振り向くな!」

 

「なんでだよ?2人のはどんな……はぁっ!?」

 

慌てて止める耳郎に不思議がる血界は2人の方を向くと目を剥いた。

蛙水の戦闘服は緑のピッチリとしたもので、彼女の中々発育のいい体のラインが鮮明に浮き彫りになっている。

血界とて十代の高校生。

反応してしまうが、これはなんとか耐えられる。

問題は八百万、一言で言えば、胸元が出ているハイレグ。

しかも八百万は1-Aで最も発育のいい女子。

そんな娘がエロい格好しているのだ。

しょうがない。

だって男の子なんだもの。

 

「血界さん?どうしました?……私の戦闘服おかしいでしょうか?」

 

「いや!そういうわけじゃなくて……!え、ええっと……!」

 

血界が少し落ち込む八百万に弁解しようとするがどうしても目がご立派なお山に行ってしまい、うまくできない。

 

「………」

 

それを見ていた耳郎は面白くなさそうな表情になり無言でイヤホンジャックを血界に刺した。

 

「痛っ!?なにすんだよ!?」

 

「別に……」

 

なんで怒っているかわからない血界は耳郎に聞くが、耳郎は無視してしまう。

 

「あ、あのお二人とも喧嘩は……」

 

「ケロ、ヤオモモちゃん大丈夫よ。あれは仲がいい証拠だから」

 

「そうなのですか?」

 

「そうよ」

 

血界は結局耳郎の機嫌を直すことができずにそのまま授業が始まってしまった。

授業の内容は2人一組を作り、計10チームのうち2チームを選抜してヒーローチーム、ヴィランチーム役となり、核爆弾の模型を奪い守るというアメリカンチックなものだった。

 

「オールマイト先生!!発言をよろしいでしょうか!!」

 

「はい!飯田少年!」

 

勢いよく挙手したのはロボロボしい戦闘服を着た飯田 天哉だった。

 

「我がクラスは全員で21名!2人1組では1人余ってしまいます!」

 

「余った1人はクジでどこかのチームに入ってもらう予定さ!」

 

「それではチームバランスが崩れると思われますが!」

 

「ヒーローになったら有利な場合も不利な場合もある。今のうちに経験しておくことも必要なことだよ!」

 

「なるほど……!ありがとうございました!!」

 

飯田の質問が終わり、早速くじ引きによるチーム決めとなり、血界は桃色肌の女子、芦戸 三奈と組むことになった。

 

「よろしくねー!あたし芦戸 三奈!えーっとライヘルツ君?ブイ君?」

 

「血界でいい。あとブイじゃなくてV(フォン)だからな」

 

「わかった!」

 

互いに挨拶を交わしていると、3人チームになった耳郎がまだ機嫌が直らないのか血界を睨むが、血界自身が気づかない。

それに気づいた同じチームの左右の髪色が違い、顔に火傷の跡がある轟 焦凍が耳郎に話しかける。

 

「なあ……」

 

「何?」

 

「……いや、なんでもねえ」

 

(諦めた!)

 

耳郎の静かな怒りが篭った声色に面倒だと思った轟はそれ以上話しかけず、また同じチームの醤油顔の瀬呂 範太はそれに少し驚いた。

 

 

一回戦目はオドオドして気弱そうな印象がある緑谷 出久と茶髪の女子麗日 お茶子のヒーローチーム。

そして先ほどオールマイトに質問していた飯田 天哉と昨日の体力テストで緑谷が好成績を残した時から怒りが収まらない様子の爆豪のヴィランチームとの戦闘訓練だ。

他の皆は別の場所で彼らの様子をモニターで見ていた。

戦闘が始まり、爆豪がいきなり緑谷に奇襲を仕掛けたが、それを緑谷はうまく捌いていくなか、血界は喧嘩やらで鍛えられた観察眼で緑谷の

 

「おお、アイツ中々やるな。あれは見て判断したっていうより、知ってたっていう動きだな」

 

「だよな。体力テストの時とは打って変わって動きがいい」

 

隣にいた尾白が血界の呟きに答える。

尾白は武術をやっており、普通の人よりそう言った動きがわかるため、血界の言葉に同意した。

そして戦闘が進んでいくと、さっきまで優勢だった緑谷が押され始めていた。

 

「あの爆発野郎……言動の割にはだいぶとクレバーだな。もう緑谷の動きを予測してやがる」

 

「うん。あと反射神経が恐ろしく早い」

 

そして、とうとう決着はついたが緑谷は自分の腕を犠牲にして勝利をもぎ取ったが、負けたはずの爆豪は無傷で緑谷は重傷を負っている結果に皆は呆然としてしまう。

 

「緑谷だっけか、あの重症になったやつ」

 

「ええ確かそうだけど、どうかしたのかしら?」

 

「いや、なんか個性に体が合ってないなと思ってさ」

 

講評が行われている中、血界は体力テスト、先の戦闘訓練で緑谷の個性が体に合っていないと思っており、気になっていた。

 

 

爆豪の大火力によりビルが半壊したため、別のビルに移り、次の戦闘訓練を行うこととなった。

次は血界・芦戸チーム対轟・瀬呂・耳郎チームとの戦闘だ。

ヒーローチームは血界・芦戸チーム、ヴィランチームは轟・瀬呂・耳郎チームだ。

血界と芦戸はビルの正面玄関で開始時間まで作戦を立てていた。

 

「2対3かぁ。不利な状況だね」

 

「それにあっちには耳郎がいるからな。こっちの動きが丸わかりだ」

 

「耳郎ってあの女の子でしょ?あの子の個性知ってるの?」

 

「ああ、互いに個性は知ってるな」

 

「へー……ねえねえ!どんな関係なの!?」

 

「なんでそんなにテンションが高いんだよ?ただ同じ中学の友達だよ」

 

「本当かなぁ〜?」

 

恋バナなど色めきだった話が好きな芦戸は血界と耳郎の関係に敏感に感じ取っており、根掘り葉掘り聞きたくて仕方な日、ニヤニヤしながら血界を見ていた?

血界は芦戸が何を聞きたいのか分からず、首を傾げた。

 

「とりあえず耳郎がいるってことは不意打ちは難しい。作戦を立てなきゃな」

 

「あ!逃げたな〜。あとで聞かせてもらうからね!」

 

芦戸ははぐらかされたと思い声を上げるがそれは後の楽しみにして、今は訓練に集中することにし作戦を立てることにした。

同じ頃、ビル内で核爆弾を隠し終えた耳郎たちも作戦を立てていた。

 

「血界の個性は血液を武器みたいに使う個性で、威力は物凄いけど室内じゃ強すぎて核がある場所では制限されるはず」

 

「じゃあ、ここに誘き寄せれば行動が制限されるってことか」

 

「うん。ここに入ってきたら遠距離から一斉に攻撃して最初に倒す。近接戦になると血界はマジで強いから」

 

耳郎が自分が知っている血界の限りの情報を出して、作戦を立てるがそれを轟が遮る。

 

「関係ねえ」

 

「え?」

 

「どういうことだよ?」

 

今まで黙っていた轟の言葉に2人は一瞬固まる。

 

「耳郎、アイツらがビルに入ってきたら教えてくれ。一瞬で片をつける」

 

その目には強い執念のようなものを感じ、耳郎も瀬呂も何も言えず、それに従った。

 

 

『スタートッ!!!』

 

インカムからオールマイトの合図で、血界たちはビルに入っていく。

 

「じゃあ作戦通り一緒に行動するぞ。どのみち耳郎のイヤホンジャックじゃ俺たちの行動は丸わかりだ」

 

「りょーかい!」

 

2人は警戒しながら廊下を進んでいく。

そしてその足音は下の階に音を聞き取るのに集中していた耳郎には聞こえていた。

 

「来た!入ってきたよ!」

 

「後ろに下がってろ。巻き込まれるぞ」

 

轟はそう言って核を置いた部屋の入口に向かって歩き出る寸前のところで止まる。

そして一瞬息を吸って、個性を発動する。

轟の足元から氷が一気に広がり、ビル全体を凍らせていく。

そしてそれは下の階を探索していた血界たちにも迫ってきた。

 

「ええ!?何あれ!!」

 

迫る氷に気付いた芦戸は慌てて、声を上げる。

血界は芦戸の腕を掴み、引き寄せるとナックルガードを装着した拳を構える。

 

「俺の背中に捕まっていろ!」

 

そして血界たちが氷に包まれそうになった瞬間、拳が紅く輝いた。

 

 

ビル全体を凍らせた轟は一息つき、周りを見る。

核が置いてあった部屋には氷が届かないようにしていたが、冷気はその部屋に届いており耳郎と瀬呂は寒そうにしている。

 

「す、スゴすぎ……」

 

「さびぃ……!」

 

「わりぃ」

 

そしてその冷たさと轟の実力の高さは地下でモニターをしていたオールマイト含め、全員が戦慄していた。

 

「なんだアイツ凄え!」

 

「あと寒い!」

 

「瞬殺じゃねぇか!」

 

「クソゥ!やっぱりイケメンは強いのかよ!赤いほうも女とチヤホヤしてて凍らせたのはザマァッだけどよ!」

 

腐れ葡萄が何か言ったが全員が轟の実力に驚きを隠せない。

もちろんそれはオールマイトもだ。

 

(エンデヴァーの息子さんと聞いていたがここまでの実力か!これではラインヘルツ少年も……)

 

オールマイトがモニターを凝視しているとあることに気づき、笑みを浮かべる。

 

「やはりそう簡単には倒れないか、ラインヘルツ少年!」

 

そしてそれは他の生徒たちも気づき始めた。

 

「あれ何かしら?」

 

蛙水が指差す方を全員が見る。

そこは先ほどまで血界たちが立っていた場所だが、そこには凍らされた血界たちはおらず代わりに人1人は余裕に越えるほどの大きさの十字架に形取られた棺桶が凍っていた。

そして次第に棺桶を覆っていた氷はひび割れ、砕け散る。

棺桶は水が落ちるように崩壊していき、その中から血界と背中にしがみつく芦戸の姿があった。

 

「ブレングリード流血闘術………」

 

 

321式 十字血棺掩壕

 

 

全方位からの防御により氷の攻撃を防いだ血界は周りを見る。

 

「はー凄いね。一瞬であんなの防いじゃうなんて……ってなにしてんの?」

 

芦戸が血界のこせいに驚くなか、血界は凍らされた壁に備え付けられている消化ホースを取り出していた。

 

「芦戸、作戦変更だ!勝ちに行くぞ!」

 

血界のその顔には自信に満ち溢れていた。

 



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File.6 勝利への自信

轟たちは核が置いてある部屋で冷えた体を温めたようとしている時にふと、瀬呂が気づいた。

 

「なあ……訓練が終わればオールマイトが知らせてくれるんだよな?」

 

「……まだ終わっていない?」

 

「っ!耳郎、奴らがどうなったか教えてくれ」

 

瀬呂と耳郎の呟きに轟は慌てて耳郎に指示を出し、耳郎はイヤホンジャックを地面に刺すが苦い表情になり、瀬呂が聞き出す。

 

「どした?」

 

「ごめん!氷で反響してうまく聞き取れない……」

 

「いや、こっちのミスだ」

 

轟も苦い表情になり、地面に手を着くと一気に気温が上がり、ビルを覆っていた氷が溶けていく。

 

「熱も使えんのかよ!どんだけ強ーんだ」

 

「これでどうだ?」

 

「うん……1人だけ動いてる!ここを探しているみたい」

 

「てことは1人動けない状態ってことでいいんだよな?」

 

「うん。このビルには外付けの非常階段なんてないし、上に行くなら絶対に下の階を登ってこないといけないからウチがわかるし、上も調べたけど誰もいなかった」

 

「じゃあ来るのは耳郎が言っていた奴か、もう1人ってことか」

 

「とりあえず轟がもう一度凍らせてくれれば」

 

「一回防がれたんだ。何回やっても変わらない」

 

轟はそう言いながら苦虫を潰された表情になる。

 

「じゃあとりあえず今からでも守りを固めようよ」

 

耳郎の提案で瀬呂が核を中心に自身の個性である『セロテープ』で守りを固め、轟が核に触れれないように氷で包む。

 

 

その頃、寒くて血界のコスチュームを借りていた芦戸は1人でビルを探索していた。

するとインカムから血界の声が聞こえてくる。

 

『芦戸!聞こえているかどうかわからないけど返事しないで聞いてくれ!』

 

血界の声と共に風の吹く音が激しく混ざって聞こえてくる。

 

『核の部屋にヴィランチームは固まっているはずだ!轟の全体攻撃を防がれたから警戒して迎撃してこない!あと、部屋がわかったら教えてくれ!』

 

それにうなづいた芦戸は探索を続ける。

そしてその様子をモニターで見ていた他の生徒達は血界はどこに行ったのかと不思議に思う。

オールマイトはモニターを操作し、ビルの外壁を写すとそこにはビルの壁を紅い針のようなもので登っている消火ホースを担いだ血界の姿があった。

 

「あんな所で何してんだ?」

 

「屋上に行く気ですわね」

 

屋上に到着した血界は一息つき、消火ホースを下ろした。

 

「芦戸こっちは登りきった。あとは頼む」

 

そして屋内の芦戸はとうとう核が置いてある部屋がある階に着いた。

それは耳郎にも聞こえている。

 

「来た!もうこの階に来てる」

 

耳郎の言葉に轟と瀬呂も構える。

耳郎、轟、瀬呂は核を守るように部屋の中心に固まって守りを固めている。

芦戸が廊下の隅から部屋を眺めて、核があることを確認する。

 

(あった!)

 

「もうそこにいるのはわかってるよ!!出てきたら!?」

 

(バレてたー!)

 

芦戸は隠れてても意味がないと思い、入口に立って姿を現わす。

 

「見つけたよ!やっぱり上からも下から距離のある3階の一番奥の部屋だったね!」

 

「もう1人はどうした?」

 

「氷で固まって来れなくなっちゃったから、アタシ1人で来たよ」

 

轟は素直に教えてくれるとは思わないが、耳郎の索敵のおかげで芦戸だけが来たと信じ、芦戸が部屋を見渡し、部屋の至る所に瀬呂のセロハンテープが張り巡らされ、核は氷に覆われて直接タッチができない。

 

「あっちこっちにセロテープあるし、核爆弾は氷に覆われてるけどアタシの酸で全部溶かしちゃうから関係ないね!」

 

そう言って芦戸が腕を振るうと彼女の個性である『酸』が出され、一部のテープを溶かす。

 

「だから抜け出れたのか。だったら何回も氷漬けにしちまえばいい」

 

そう言った轟はすぐさま氷を芦戸に向けて放つ。

咄嗟に芦戸は避けようとするが立っていたの部屋の入口で前にはテープの檻、後ろに避けても氷は迫ってくる。

結局氷は避けれず、芦戸は氷漬けにされてしまった。

 

「あとはこいつと下にいるやつに確保テープを巻けば終わりだ」

 

(もうこれ以上は無理だよ〜)

 

確保テープを持ってゆっくり近づいてくる轟に芦戸は心の声で焦りの言葉を出す。

その時、耳郎が芦戸の着ている上着に気づいた。

 

「ねえ、そのパーカーって血界のじゃん。なんで着てんの?」

 

「へ?これ?……………これさ。血界が寒いだろうからって着させてくれたんだよね〜」

 

少し機嫌が悪そうに聞く耳郎に少し考えた芦戸は嬉しそうに血界が服を着させてくれたことを話す。

それを聞いた耳郎はこめかみがヒクついていた。

 

「へ、へぇ〜そうなんだ」

 

「優しいよね〜彼って」

 

「か、彼!?ちょっとそれってどういう……!」

 

「おい、話は後にして、先に捕まえようぜ」

 

若干嫌な雰囲気が漂う2人に轟はどうするかわからず、巻き込まれるのも面倒くさいため静観し、瀬呂が注意した瞬間、彼らの背後の窓を割って血界が飛び入ってきた。

 

 

芦戸がヴィランチームの三人の前に姿を現した瞬間、血界は屋上で待機して、インカムの声に集中していた。

 

『見つけたよ!やっぱり上からも下から距離のある3階の一番奥の部屋だったね』

 

「やっぱりか……あー3階ね。オーケー、オーケー」

 

血界は屋上の手すりから身を乗り出し、その場所を確認するとこれからする事に顔が引き攣ってしまう。

 

「なんでこんな作戦言っちゃったかなぁ……普通考えないだろ」

 

そう言いながら手すりに消火ホースを巻いて結ぶ。

 

『あっちこっちにセロテープあるし、核爆弾は氷に覆われてるけどアタシの酸で全部溶かしちゃうから関係ないね!』

 

「頼むぞ……少し時間を稼いでくれ」

 

しっかり手すりに巻きつけ解けないか確認し、自分の体に巻きつけ、巻きつけた手すりから離れ助走できるようにし、深呼吸してこれからすることの緊張を和らげる。

 

「ふー……行ける、俺なら行ける。ブレングリード流血闘術、推して参る……!」

 

そう言って血界は勢いよく走り出し、手すりに足をかけてビルから身を投げ出した。

そして巻きつけたホースが手すりに引っ掛かりその反動で核が置いてある部屋の窓を割って飛び入る。

アクション映画のように登場の仕方で突然現れた血界にヴィランチームの三人は驚く。

その隙に血界はナックルガードを装着した右拳を床に殴りつける。

 

「ブレングリード流血闘術……!」

 

 

39式 血楔防壁陣

 

 

床から複数の血の十字架を出現させテープ、氷を破壊し尽くす。

 

「これで形勢逆転だ」

 

ホースを解いた血界は笑みを浮かべながら、ヴィランチームを見る。

 

「まずっ……!」

 

「まずあっちを止めろ!」

 

轟たちが慌てて血界に向かおうとするが血の十字架が邪魔でたどり着けない。

 

「チッ!」

 

歯痒くなった轟が血界に向かって氷を放つが、血界は十字架に隠れて氷を防ぐ。

 

「このやろっ!」

 

瀬呂がテープを放つがそれも十字架に隠れてやり過ごす。

その隙に核に近づこうとすると目の先に轟が現れ、氷を放つ。

迫る氷に血界は向かって走り、直前で体を横に避けて氷を避ける。

 

(っ!!十字架が邪魔で氷に幅ができねぇ!)

 

轟が驚いている間に血界は目の前に来ており、拳を体目掛けて振るう。

轟も負けじ、腕をクロスして防ぐがまるで車に轢かれたかのような衝撃が体を襲い、十字架に叩きつけられる。

 

「ぐ……!!」(なんつう力だ……!)

 

「轟!」

 

瀬呂が轟を助けようとテープを血界に目掛けて伸ばすが、血界はそれを横目で見て自分に張り付く前に掴む。

 

「よし掴んだ!っ!?」

 

瀬呂がセロテープを引っ張りテープと絡めようとするが引っ張っても微動だにしない。

 

「ふっ!」

 

隙ができた血界に轟はもう一度氷を放つ。

今度は一段と早くなっていた。

 

「フン!」

 

それを見た血界はテープを思いっきり引っ張り瀬呂を逆にこちら側に引っ張ってきて、迫ってくる氷に向かって投げる。

 

「おわぁっ!?」

 

「チッ!!」

 

瀬呂を巻き込むわけにもいかず、氷を途中で止まるがそれでも瀬呂は半身が氷に包まれてしまった。

 

「大丈夫か!?」

 

「轟!上!」

 

瀬呂がそう叫んだ瞬間、血界は轟の頭上に飛び出していた。

 

(間に合わ……!)

 

轟が気づいき氷を放とうとしようとするが、それより早く血界に捕まり、地面に押し倒され、左手で首を掴まれ、右拳を構える。

 

「これで2人目だな」

 

「くっ……!」

 

得意気に笑う血界だが、突然大音量の音波が背後から血界に向かって放たれ苦しそうにする。

 

「こっちもやっと捕まえた!」

 

「耳郎……!」

 

血界が音波で痛む頭に耐えながら耳郎の方を見る。

 

「血界には近接戦じゃ絶対に勝てないのはわかっていたから、隙をずっと待ってた」

 

得意気に笑う耳郎に血界は苦い表情になるがすぐに苦しそうにしながらも笑みを浮かべる。

 

「いいのか……?俺ばっかに構ってて……?」

 

「え?」

 

血界のその言葉に一瞬何を言っているかわからなかった耳郎だが、その瞬間インカムからオールマイトの声が響く。

 

『核爆弾を確保!!勝者ヒーローチーム』

 

「はぁ!?」

 

オールマイトの突然の放送に耳郎は驚き核爆弾の方を見ると、いつのまにか轟の氷から抜け出した芦戸が核爆弾を覆っていた氷を溶かして、核にタッチしていた。

 

「イエーイッ!!作戦成功だね!!」

 

「おう!やったぜ!」

 

血界と芦戸がハイタッチを交わし、勝利を喜ぶ。

 

「作戦って……」

 

「最初から俺が囮だったんだ。絶対に俺を警戒してくるって思ったからさ。まっ、今回は俺の作戦勝ちってことだ」

 

耳郎はいつものクール顔を少し悔しそうに歪めた。

 

「あ、あとゴメン!パーカー溶かしちゃった!」

 

「えっ!マジでか!?ま、まあ新しく作ってもらえればいいさ」

 

そう言って芦戸が出したパーカーはボロボロになって着られたものではなかった。

緑谷に続き、血界も初日から戦闘服を壊した。

 

 

訓練を終えた血界たちは地下のモニター室に行き、講評を聞くことになった。

 

「はい、講評の時間だ!って言っても今戦のベストは皆が思うようにラインヘルツ少年だ!!!状況の判断!作戦の立案!パートナーの個性の有用!そして個人の行動力!それらがどれも今回はピカイチだった!だが、まだダメなところもある!わかる人!?」

 

「はい!オールマイト先生」

 

手を挙げたのは先ほど緑谷たちの講評でほぼ全部言ってしまった優等生の八百万だ。

 

「血界さんは最後単騎で轟さんたちと戦っていましたが、最後は耳郎さんに背後をとられてしまいました。ヒーローになるということは人を守るということ。まずは自分を守れるようにならないといけませんわ。いくら単騎で強いと言っても個性の相性もありますから形勢逆転など容易に考えられますわ」

 

痛いところを突かれたと血界は思った。

 

「(またほとんど言われちゃった……)ま、まぁそうだよね!ヒーローになってヴィランと対峙するとき個性の相性は重要だ!そのことを頭に常に入れておくように!」

 

『はい!』

 

そして、他のチームとの戦闘訓練を行い、この日のヒーロー基礎学は終わった。

 

 

男子更衣室で今回の訓練の感想を話し合ってる男子たちは血界を中心に集まっていた。

 

「しっかしお前ビルから飛び降りるなんて度胸あるよな!俺、切島鋭児郎。よろしくな!」

 

「俺は尾白。体力テストの時にも少し話したよな?ラインヘルツの使ってる武術って何なんだ?」

 

「オイラは峰田!どうしてお前は何であんなに女を囲ってるんだよォッ!!」

 

皆から話しかけられ、驚く血界。

中学の時は目つきが怖いと避けられ、終いには不良に喧嘩を売られたのだ。

それを思い出すと少し泣けてきた。

 

「どうして涙目になるんだ?」

 

「いや、なんでも無い……」

 

カラスのような頭の男子、常闇が不思議そうに聞いてくるが血界はなんでも無いと言う。

するとそこに先ほど戦った轟が血界のそばにやってきた。

 

「ラインヘルツ……」

 

「血界でいい。今日はありがとな」

 

血界が今日の戦闘訓練での戦ってくれたことを礼をいい、握手をしようと手を差し出すが轟は手を取らず、相変わらずの冷たい目で血界を見据える。

 

「次は負けねえ」

 

それだけ言って轟は更衣室を出た。

突然のことに周りはどうしたものかと固まり、血界は引き攣った笑みを浮かべるしか無かった。

 

 

その頃女子更衣室では人数が少ない女子同士が仲良くしていたが、耳郎は会話の輪に入らず、1人で着替えていた。

するとそこに戦闘相手だった芦戸が話しかけてきた。

 

「耳郎さん!ちょっといいかな?」

 

「なに?」

 

戦闘中の会話のこともあり、耳郎は少し冷たい態度をとってしまう。

 

「訓練中の話なんだけどアレって嘘なんだよね。本当はアタシがパーカーを貸してって言ったんだ」

 

「え?そうなの?」

 

「うん!そっちの方が耳郎さんの気を引けるかなって思ってさ」

 

「そ、そうなんだ……」

 

耳郎はどこか安心した表情になった。

それを見た芦戸はニヤニヤと笑みを浮かべる。

 

「いや〜耳郎さんって血界に愛されてるよねぇ」

 

「な、なんのこと!?」

 

「だって訓練中の時だって……」

 

 

轟の全体攻撃を防いだ血界は近くにあった消火ホースを取り外しながら芦戸に作戦を伝えていた。

 

「俺がビルの外壁を登って屋上から飛び降りて奇襲をかける。そうしたら耳郎たちは俺を真っ先に狙ってくるはずだ。だから芦戸は俺を囮にして核にタッチしてくれ」

 

「でも耳郎さんが血界のことを警戒してなかったらどうするの?」

 

「それは無いな。耳郎は絶対に俺のことを伝えて、警戒するように伝えてる」

 

「何でそう思うの?」

 

ホースを担いだ血界は笑顔で自信を持って答えた。

 

「耳郎のことを信じてるからな」

 

そう言って血界は窓から外に出た。

 

 

芦戸から伝えられた血界の言葉に自分の顔が赤くなってることに気づき、敵だったのにそんなことを言われて嬉しくなる自分に単純だなと少し自己嫌悪しながらも嬉しさのほうが上だった。

 

「顔が赤くなってる!やっぱり血界と耳郎さんってそういう関係!?」

 

「はぁ!?な、なんでそうなんの!?」

 

「何々?何の話?」

 

そこに透明で姿が見えない個性の葉隠が参加してくる。

 

「耳郎さんと血界が恋人なんじゃないかって話!」

 

「やっぱり!?2人とも仲がいいもんね!」

 

「恋バナや!」

 

そこに緑谷とペアを組んでいた麗日も参加してくる。

 

「皆さん、響香さんも困っていますわ」

 

「ケロ、そうね。でも今日は私も芦戸ちゃんの方に参加しようかしら♪」

 

「梅雨ちゃんまで!?」

 

まさかの蛙水の裏切りに驚く耳郎だが、八百万も少し言いにくそうにしていた。

 

「で、では私もそちらに……ずっと気になっていましたので」

 

「ヤオモモまで!?」

 

結局女子更衣室では訓練の話ではなく、恋バナという耳郎への質問責めの時間が過ぎていった。

 

 

下校の時間、血界と耳郎はいつも通り一緒に帰っているが会話はなかった。

と、言うのも血界はまだ耳郎が機嫌が悪いと思っており、耳郎はさっきの質問責めから少し血界のことを意識してしまい話しかけることができなくなっているだけだった。

 

「いやーそのさ……えーっと……」

 

血界が少し先回りして耳郎の前に立って、申し訳なさそうにしている。

 

「ごめん!耳郎が何で機嫌が悪くなったのかわからないけど俺のせいなのはわかってるんだ。だからとりあえず、ごめん!」

 

謝る血界を見て、耳郎は少し固まるが少し笑みを浮かべる。

 

「だからバカゴリラとか言われてるんだよ。もう少し女心を学んだほうがいいよ」

 

そう言って笑ういつもの感じに戻った耳郎を見て、安心する血界の隣を通り過ぎていく耳郎に血界も横に並んで、今日の訓練について話し合いながら帰る。

いつも通りの光景だった。

 



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File.7 Everyday 1st

ただ血界キャラとデレマスキャラを出したかった。


『魅惑の事務員と個性練習』

 

戦闘訓練の次の日、放課後血界は1人で事務室前に立ててあるテーブルであるものに記入していた。

そしてそれを事務室の窓口に提出しようとすると同じく出そうとしていた人と鉢合わせしてしまう。

 

「「あっ」」

 

鉢合わせしたのは緑谷だった。

 

「あ、緑谷だ」

 

「え、えーっとラインヘルツ君、だよね?」

 

昨日少し訓練のあとに話した程度のため、少し緊張した様子の緑谷だった。

 

「血界でいい。緑谷も申請しに来たのか?訓練所の使用許可書」

 

血界が書いていたのは訓練所の使用許可書。

雄英にはヒーローになるために多くの訓練施設がある。

血界は昨日話しかけてきて仲良くなった切島と尾白で今日訓練をする約束をし、そのために訓練所を借りにきたのだ。

 

「だったら一緒にやらないか?俺少し緑谷の個性に興味があったんだ」

 

「え?いいの?」

 

「1人でやるより複数でやった方がいいだろ?」

 

「あ、ありがとう。じゃあ申請は僕がやっておくよ」

 

「いいって、ここは俺がやっておく」

 

血界は申請書を窓口に出すと受け付けたのは黒目黒髪の美女で胸がスーツの上からでも分かるくらい大きいのが特徴だった。

そしてその胸には『チェイン・皇』と記された名札が着けてあった。

 

(す、すごい美人……!)

 

色恋に疎い緑谷でもアジア系美人であるチェインに一瞬見とれてしまい顔が赤くなり、さらに彼女の巨乳に目が行ってしまい更に赤くなる。

 

「すいません。訓練所の使用許可が欲しいんですけど」

 

「はいはーい。申請書見せてねー」

 

チェインは申請書を見て何か書き込み、判子を押して血界に返す。

 

「あとは担任の先生に判子をもらったらそれで使えるわよ」

 

「ありがとうございます」

 

血界は淡々と礼を言ってクールに受け取る。

 

(すごいな、血界君はこれくらいじゃ動揺しないのか。僕もしっかりしないと)

 

緑谷は心の中でそう思っているとチェインが話を続ける。

 

「あと君と後ろのモジャモジャ君も女性と話す時は胸を見ないこと。そーゆうの案外わかっちゃうもんだから」

 

「「!!」」

 

2人ともチェインの胸を見ていたことに気づかれ、顔を真っ赤にして慌てて事務室を後にした。

それを見送ったチェインはいじめっ子が笑うように笑みを浮かべた。

 

使用許可が取れた訓練所で体操服に着替えた血界、緑谷、切島、尾白が準備運動をしながら今日する訓練の話をする。

 

「それでどうすんだ?」

 

「俺は血界が格闘家だから少し戦ってみたいと思ったんだ」

 

「俺もだ!それに鍛えるなんて男らしいしな!」

 

「僕は個性がうまく使えないからその練習がしたいな」

 

「じゃあ最初に俺ら3人で模擬戦ぽく戦うか。緑谷はその間に個性の練習しといてくれ。こっちが終わったら手伝う」

 

血界と対峙する尾白と切島。

2対1でいいのか、それじゃ男らしくないと言ったが血界はそれでいい、それでも負けないと言った。

流石にそれを言われた2人は少々カチンときて2対1で戦うことになったが結果は血界の圧勝。

2人の攻撃は血界に完全に見切られ、防がれてしまい、カウンターで攻撃が当たってしまう。

 

「いたた……武術には少し自信があったんだけど血界には敵わないな」

 

「俺もだわ。なんつーか全部見切られてる?」

 

「今回は個性無しでやったからこうだったけど、個性ありだとどうなるかわからないけどな」

 

三人はその後少し話し合い、それぞれ鍛えることになり別れ、血界は緑谷のほうに行くと緑谷は1人ブツブツと何か呟いていた。

 

「何やってんだ?」

 

「え?わっ!ち、血界君?もう終わったの?」

 

「おう。そっちは何か掴めたか?」

 

「ううん。まだ……」

 

緑谷は少し気落ちした表情で答える。

 

「今の緑谷を見てると昔の俺を見てるようだ」

 

「昔の血界君?」

 

「俺さ。個性が発現したのが11歳の頃だったんだ」

 

「遅咲きだったんだ……」

 

「うん、まあな……」

 

血界はその時少し言葉を濁すようにうなづく。

緑谷はその血界の態度に少し引っかかった。

 

「まあ、それで遅く発現したものだからどう扱えばいいかわからなくて、最初はベタ踏みの状態だったんだよ」

 

「確か血界の個性って血液を凝固して武器みたいに使う個性だよね」

 

「本来はもっと違うらしいけど俺自身わかってないからな。で、俺の個性でベタ踏みするとどうなると思う?」

 

「どうなる……?」

 

緑谷は元々観察眼に優れているため、血界の個性のベタ踏みがどうなるかは容易に想像つき、顔が少し青ざめる。

 

「血が無制限に凝固しちゃうとか……」

 

「当たり!よくわかったな!実際は無制限に武器を作ろうとして血が吹き出るのが止まらなかった。いやー、あん時は死ぬかと思った」

 

軽く言う血界だが、小学生の頃に血が溢れ出続けるなんてトラウマものだ。

緑谷もそれを想像してしまい、顔を少し青くする。

 

「そ、それでどうしたの?」

 

「俺が無制限に血を流し続けるのと、緑谷の超パワーの全力使用が似てるなって思って。緑谷は感覚が掴めないからあんな危なかっしい使い方してるんだろ?」

 

「うん。僕も最近発現したばかりで全然感覚が掴めないんだ」

 

緑谷の個性『ワン・フォー・オール』はオールマイトから受け継いだものだ。

元々無個性だったためか、使う調整ができていない。

 

「だから俺がやってた個性の練習法を教えようと思うんだ。緑谷は体の一部に個性を使っているだろ?」

 

「うん」

 

「それって言わば俺のブレングリード流血闘術と同じだ。だけど俺だって最初から使えたわけじゃない。最初は少しずつ体が個性になれるように全体に慣らしていったんだ」

 

「全体に慣らす……はっ!」

 

全体に慣らす、という血界の言葉に緑谷の頭の中で何かが閃く。

 

「ワン・フォー・オールを特別なものだと考えていたけどこれだって同じ個性なんだ。個性は身体能力、筋繊維と同じだから、使い続ければ体が慣れると思っていたけど、いきなりの負荷は今までみたいに傷が増えるだけ……なら、少しずつ全体に使うことで体に慣らすことが………」

 

突然俯きブツブツ言い出した緑谷に血界は若干引いてしまう。

 

「お、おい。どうした緑谷?」

 

「血界君!」

 

「はい!?」

 

「少し練習付き合ってくれないかな!?」

 

そしてその後、切島と尾白を加えた3人で緑谷の訓練に付き合い、緑谷はその日新しいスタイルを手に入れた。

 

 

『idol』

 

血界たちが訓練している頃、耳郎たち1Aの女子たちは女子だけで集まって親睦会を開いていた。

と、言っても近くのショッピングセンターで簡単なショッピングしたり、お茶したりなどするだけのものだが。

 

「ここがショッピングセンターなのですね!」

 

その中でも八百万は目をキラキラさせていた。

 

「ヤオモモってショッピングセンターって初めてなの?」

 

「はい……今まで必要な物は専門店に執事かメイドが行くか、あちらから来ていただいていましたから」

 

「金持ちや!」

 

八百万のブルジュア発言に目を剥く麗日。

 

「それじゃあ、まずどこ行こうかしら?」

 

「アタシ服見に行きたーい!」

 

「わたしもー!」

 

芦戸と葉隠の提案により、ショッピングセンターの中でも一際目立つピンク色の店にやってきた。

この店はファッション服からスポーツ服まで幅広いジャンルの服や小物を可愛くした物を売っており10代の女子に大変人気があり、店の中には多くの女子で溢れていた。

 

「すごく奇抜なお店ですのね」

 

「うちの地元にもあったなぁ。少し派手で中々買わなかったけど」

 

「あー!」

 

八百万と麗日がそう感想を言っていると芦戸が指差し、驚いている。

 

「城ヶ崎美嘉ちゃんの新作の服が出てる!」

 

「どれどれ?」

 

芦戸が指差した先にはマネキンに着せられてある服があった。

素人目から見てもお洒落だとわかる服だった。

 

「城ヶ崎美嘉って誰だったかしら?」

 

「今カリスマギャルとして人気なアイドルだよ!アタシ好きなんだぁ」

 

「私は同じ事務所の輿水幸子ちゃんが好き!だって面白いもん!」

 

蛙水の質問に興奮したように話す芦戸と葉隠はよっぽど好きなようだ。

 

「私も知ってる!最近アイドルブームだよね。私は違う事務所だけど天海春香ちゃんが好きやな」

 

「ウチは好きって程でもないけど興味があるのは木村夏樹かな。ギターが得意でバンドに入ってたって言うし」

 

それを聞いた蛙水は後日、弟たちにアイドルを知っているかと聞いたら、知っていると言われて自分だけが知らないということに衝撃を受けた。

 

「皆さん詳しいのですね」

 

「今じゃアイドルってヒーローの次に人気のある職業だよ!」

 

八百万も知らなかったらしく、物珍しそうにマネキンの側に置いてあったその服の紹介ページを見ており、そのモデルとなったのがピンク髪の城ヶ崎美嘉でポーズを取っている。

周りをよく見るとその服を買っている人は多くいる。

皆がそれぞれ服を見るということになり、耳郎は八百万と共にランジェリーコーナーに来ていた。

 

「耳郎さんは何かお探しですの?」

 

「動きやすいスポーツブラをね。これから戦闘訓練ってなると必要になると思うし。ヤオモモはどうなの?」

 

耳郎は興味で聞いてみると八百万は恥ずかしそうに胸を押さえた。

 

「わ、私の場合は専門店に行かないとないので、ここでは……その……」

 

八百万の胸は大きいので下着となると数が限られてしまい困っているのだ。

耳郎からしてみれば羨ましい悩みだ。

耳郎は自分の慎ましい胸と八百万の自己主張の激しい胸を見比べてしまう。

 

「くっ……!」

 

「耳郎さん?」

 

突然悔しそうにする耳郎に首を傾ける八百万。

すると耳郎の横に人が現れた。

ランジェリーコーナーのため女性かと思われたが、立っていたのは背が高く細身だが筋肉質だとわかるほど鍛えられている金髪の外国人の男性だった。

男性は悩んだ表情で小中学生用のスポブラを見比べている。

女性専門店でそんなことをしていると嫌にでも注目を集めてしまう。

そしてその男性は耳郎の視線に気づき、耳郎と目が合ってしまった。

 

「いや、違うんだ。これはそうじゃなくてだな……」

 

突然男は何も言われてないのに弁解を始めてしまう。

それが余計に不審者っぽく見えてしまう。

耳郎と八百万が不審な目を向けていると男の背後から中学生くらいの金髪のツインテールの女の子が男に抱きついてきた。

 

「パパー!何してるの?」

 

「あ、莉嘉。なんでもないよ〜」

 

莉嘉と呼ばれた少女が来た瞬間、男はだらしない顔になり、猫撫で声が話し始める。

 

「次はトレーニングウェアを見るんだから早く来てよね☆」

 

「わかったわかった」

 

莉嘉は父親を連れてその場から離れて行った。

 

「よかった。不審者じゃなくて……」

 

耳郎はそっとそう呟いた。

不審者だったらどうすればいいかわからなかったのだ。

その後それぞれ買い物を済ませ、ショッピングセンター内のカフェでお茶をして帰ろうとしていた。

すると前から突然悲鳴が上がる。

 

「やめてー!」

 

「ウルセェ!騒ぐな!!こ、このガキが悪いんだ!俺がゲームしてたら突然割り込んできてよォオ!!」

 

「ママー!」

 

泣き叫ぶ母親の近くに異形型の個性持ちの男が持腕で5歳くらいの子供を捕まえて、鋭い爪を向けている。

 

「ヴィラン!?」

 

「いや、というより只のトラブルのように思われますが……」

 

突然のことに驚く女子たちだが、八百万は落ち着いて状況を判断する。

 

「ど、どうしよう?」

 

「とりあえず近場のヒーローを呼びに行きましょう。相手が逆上しないように気づかれないように……」

 

八百万が言葉を続けようとした瞬間、人の間を縫っていく人の姿が耳郎の目に入る。

 

「あの人……」

 

その人物は子供を捕まえている男の前に姿を現わす。

 

「よう兄ちゃん。どうした大声なんか上げて?」

 

「だ、誰だ!?」

 

男に話しかけたのはさっきの服屋で耳郎に不審な目を向けられていた男性だった。

男性は気楽にフレンドリーに話しかけ、男は突然のことに警戒を強くし、だんせきは両手を上げて何も持っていないことを示す。

 

「まぁヒーローだよ」

 

「お、俺を捕まえにきたのか!!」

 

「捕まえる?それはお前がしたことによるな。いったい何があってこんなことをしたんだ?」

 

男性は努めて落ち着かせるように話しかける。

 

「こ、このガキが俺のやっていたゲームを途中から割り込んできやがって……やめるように何度言ってもバケモノのことなんて知らないって言いやがってよ……親に苦情を言ったら『そんな姿だから仕方がないでしょう?』とか言いやがって!!ふざけんな!!俺だって好きでこんな姿じゃねえんだよ!!」

 

「なるほど……」

 

個性に対する差別発言。

今や個性社会となってからそう言った発言は少なくなったが、なくなったわけではなかった。

 

「そちらの親子に非があることはわかった。だが、今もしここで暴行を働けば言われた通りお前はバケモノになっちまうぞ」

 

「………」

 

それを言われた男は少し捕まえていた腕の力を緩める。

 

「わかったらゆっくりと離しな」

 

男性に言われた男はゆっくりと子供を下ろそうとした瞬間、母親が叫んだ。

 

「早く離してよ!バケモノ!!」

 

「……っ!!テメェエエ!!!」

 

その一言に再び逆上した男はその鋭い爪を子供に突き刺そうとしたが、それより早く一発の銃声が響いた。

すると男は白目を向き、子供を捕まえていた腕の力は緩み、後ろに倒れてしまう。

男性は素早く近づき、落ちてくる子供を受け止めた。

 

「何が起こったの?」

 

「今さっきすごい音が響いたんだけど……」

 

すると周りにいた野次馬は男性が持っていたある物に気づいた。

 

「な、なああの銃って……」

 

「もしかしてNo.6ヒーローのライトニング!?」

 

男性が持つ銃口に髑髏の装飾がされているリボルバーを見てらその1人の呟きに周りから一気に歓声が上がる。

 

「No.6ヒーロー、ライトニング!?」

 

「スゲェ!初めて生で見た!」

 

「コスチュームじゃないよね?オフなのかな?」

 

一気に騒がしくなる周りにライトニングは帽子を少し深く被り直す。

 

「はぁ……今日はオフなんだけどなぁ」

 

「どいて!どいて!通るぞ!!」

 

ライトニングが少し気怠げにそう呟くと人の間を割いて、現れたヒーローがいた。

 

「ライトニングさん!?」

 

「ようデステゴロ。悪いけどあと任せてもいいか?」

 

驚くデステゴロにライトニングはことの詳細を説明し、倒した男が気絶していることを確認して現場の後片付けを任せた。

どこかに行こうとしたがふと足を止めて被害者である親子の前に腰を下ろす。

 

「ちょっといいか?」

 

「はい?」

 

「今の社会、個性への差別発言は良くない」

 

「だ、だけどあんな姿怖いでしょ!!」

 

ライトニングは自分の注意に開き直って反抗する母親に困ったが、子供に目を向ける。

 

「息子さんの個性は?」

 

「いえ。まだ発現してませんけど……」

 

「だったら、もしかすると異形型の個性かも知れないな」

 

「そんなはずは……!」

 

「突然変異だってあり得るんだ。絶対なんてない。アンタ自分の息子に化け物とか言えるのかい?」

 

それを言われた母親はバツが悪そうになり、俯いてしまった。

ライトニングはそれを見て、群衆の方に向かっていく。

 

「ライトニング!握手して!」

 

「サインください!」

 

周りの野次馬は一気にライトニングに詰め寄るがその瞬間ライトニングは一条の雷となり、その場から消えてしまった。

 

耳郎たちは騒動を見届けてから流石にお茶はやめとこうとなり、帰ろうとすると耳郎は莉嘉と呼ばれた女の子と歩くライトニングの姿が見えた。

 

「ごめん!先行ってて!」

 

「耳郎さん?」

 

耳郎はライトニングに向かって走って行き、声をかけた。

 

「あの!すいません!」

 

「ん?誰だ?」

 

「パパのファンの人?」

 

振り返るライトニングに耳郎は頭を下げた。

 

「さっきはすいませんでした!勝手に不審者だと思ってあんな目を向けちゃって」

 

「ああ、さっきの……それは仕方ない。あれは誰だって怪しいと思っちゃうものだよ。だけどなるべく広い目を向けて世間を見てくれ。ヒーローを目指すなら視野の狭い見解は命取りになる」

 

「はい!ありが……ヒーロー科っていいましたっけ?」

 

「制服を見ればわかるさ」

 

そう言ってライトニングはクールな笑みを浮かべる。

すると莉嘉が耳郎に笑顔を浮かべて近づく。

 

「オネーさん。ヒーローを目指してるの!?すごーい!」

 

「い、いや。それほどでも……」

 

素直に褒められ、耳郎は照れてしまう。

 

「私、莉嘉・ボルトストーン!あっ、でも芸名だと城ヶ崎莉嘉!よろしくね☆」

 

「芸名?って、城ヶ崎ってもしかして……」

 

「そう!私のオネーちゃん、カリスマギャルの城ヶ崎美嘉なんだ♪私の将来の夢はオネーちゃんみたいなカリスマギャルみたいになることで、今度アイドルになるんだ☆」

 

「莉嘉、もう行くぞ」

 

「はーい♪じゃあねオネーさん!」

 

そう言って莉嘉は手を振りながらライトニングに駆け寄った。

耳郎はライトニングの教えを心の中で何回も思い返しながら、八百万たちが待つところまで走って戻った。

 

 

『少女の決意』

 

その日血界と耳郎、氷麗は夜とある公園で一緒にいた。

男女の密会、とかではなくメールで凛に相談したいことがあると言われ、公園で集まっていたのだ。

 

「クロはいつ来るんだ?」

 

「もうそろそろじゃない?」

 

「もうここにいるよ」

 

血界が声のする方を向くとそこには久しぶりに会うクロの姿があった。

 

「おおー!久しぶりだなクロ!」

 

「久しぶりって…ラインではしょっちゅう話してるんだけどね。耳郎と氷麗も久しぶり」

 

「うん。久しぶり」

 

「そっちはどうなの?」

 

久々に会う級友と話に花を咲かせていると凛が愛犬の『ハナコ』を散歩させながらやってきた。

 

「4人とも久しぶり。今日は来てくれてありがとう」

 

「別にいいよ。ラインでは話づらいことなんでしょ?」

 

「うん。その前に血界、そんなに離れてちゃ話なんてできないよ」

 

「わかってるけど……」

 

凛が来たとき、血界は4人より少し離れたところ立っていた。

そして血界の視線は凛が連れているハナコに向けられる。

 

「ワン!」

 

「うっ…!」

 

ハナコが可愛く吠えると血界は体をビクつかせる。

そして凛がリードを首輪から外すとハナコは勢いよく血界に向かって走って行き、血界は慌てて逃げ出した。

 

「なんで放してんだよォォッーーー!!!」

 

「ハナコが遊びたそうにしてたから」

 

「ワンワン!」

 

凛は最初の真剣そうな表情からいじめっ子が浮かべる笑みを浮かべていた。

とりあえずハナコを抱き止め、血界の逃走を止めて凛の話を聞くことになった。

 

「私さ、もしかしたらアイドルになるかも知れない」

 

「マジか。どこの事務所だ?」

 

「346プロダクション」

 

「大手だね」

 

「応募したの?」

 

「ううん、スカウトされた」

 

「凛かわいいもんね。スカウトされて当然だよ」

 

「あ、ありがとう…」

 

褒められて凛は少し照れる。

 

「それで相談したいことって?」

 

「うん……私どうしようかなって思ってさ。クロは違うけど血界たちはヒーローを目指して雄英に行ったけど、私には目指したいこともないし、やりたいこともない……だけどアイドルならなんか変われるかなって、それを見せてくれた娘もいたんだよね。でもやっぱり怖いんだよ。アイドルなんて軽い気持ちでやっていいもんじゃないと思うしさ」

 

凛の思い悩む表情に耳郎たちはどう声をかけてあげればいいか、わからなかった。

そこで血界にある言葉が浮かんだ。

 

「なあ凛。今凛はスタートラインに立つ権利が与えられてるんだ。そこからどうするかは凛次第だ。俺たちが何言っても決めるのは凛だ。凛がやるって言うなら俺たちは応援する。そんな凛に雄英の校訓を送ろう」

 

血界はわざとらしく咳き込む。

 

「『かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った!「真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者」と!!“更に向こうへPlus Ultra”!!」

 

それを聞いた凛は思い悩んだ表情から笑い顔になった。

 

「はははっ!何それ。私は英雄になるんじゃなくてアイドルになるのに……でもPlus Ultraか……」

 

“更に向こうへ”。

その言葉が凛の背中を押す。

 

「ありがとう。私アイドル、やってみるよ」

 

決心した凛の表情はとても晴れやかだった。

 

「ウチ、凛が曲を出したら必ず買うよ」

 

「僕もだよ」

 

「なら私は家の力使って凛が売れるように頑張る」

 

「何をする気だよ……てか、凛がアイドルになるなら俺たちがファン第1号か。何か感慨深いな」

 

「ちょっとまだ売れるって決まったわけじゃないよ」

 

5人はそのまま久しぶりの談笑を楽しんだ。

 



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Assaulted USJ
File.8 悪意の胎動


朝いつものように耳郎と登校していると校門前に人だかりができていた。

どうやらマスコミのようだ。

 

「マスコミみたいだね。オールマイトの取材かな」

 

「マスコミは嫌いだ」

 

血界がマスコミの群れを軽く睨みながらそう呟く。

2人は真っ直ぐに校門まで進んでいくと、マスコミが気づき2人に詰め寄る。

 

「オールマイトの授業はどんな感じなんですか!?」

 

「“平和の象徴”が教壇に立っているということで様子など聞かせて!」

 

血眼になって詰め寄ってくるマスコミに耳郎は驚く。

 

「えっ、あのちょっと……!」

 

突然押し寄せるマスコミに耳郎は慌て、四方八方から詰め寄られる。

困り果ててると突然血界が耳郎の肩を抱き寄せ、自分の体に密着させる。

 

「きゃっ!」

 

「行くぞ」

 

可愛らしい声を上げて驚く耳郎を他所に血界はマスコミをかき分けて進んでいく。

それでもマスコミは諦めずに血界たちにインタビューをしようとする。

 

「少しだけでもいいからオールマイトの授業風景を……」

 

「どけ」

 

血界は明らかに敵意を込めた目でマスコミたちを睨む。

睨まれたマスコミたちはその眼光に後ずさりしてしまう。

マスコミが開けた道を進み、校門を通ると血界は耳郎の肩を放した。

 

「悪い。突然肩を抱いてしまった。あそこを抜けるのに一緒に行ったほうがよかったから」

 

血界が謝るが今の耳郎の耳には届いておらず、あんなに密着して乙女の耳郎が平気なわけなかった。

 

「おい!耳郎!」

 

「ひゃっ!えっ、何!?」

 

「どうしたんだ?もう行くぞ」

 

「う、うん」

 

耳郎はしばらく顔が赤くなったのと熱が取れなくて、それに気づいた芦戸たちに何かあったのかしつこく聞かれ、誤魔化すのに大変だった。

 

 

朝のホームルームに相澤は神妙な顔で話し始める。

 

「さて今日のホームルームの本題だが、急で悪いが今日は君らに……」

 

相澤の突然の重苦しい雰囲気に全員がまた臨時テストかと身構える。

 

「学級委員長を決めてもらう」

 

「「「「「学校っぽいの来たー!!!」」」」」

 

突然の学校の恒例行事である委員長決めに全員がホッとしながらもツッコミのように叫ぶ。

 

「委員長!!俺やりたいです!!」

 

「あたしもー!!」

皆が一斉に手を挙げ、委員長に立候補していく。

一般的に学級委員長は厄介ごとを任せられる嫌な仕事だが雄英ではリーダーシップを培われるとして誰もがやりたがる役職なのだ。

しかし皆が手を挙げる中血界は手を挙げずにいた。

 

「血界さん?手を挙げないのですか?」

 

「ん?まぁな」

 

手を挙げない血界に気づいた前の席の八百万は不思議にしていた。

そして結果は皆が自分に入れる中、緑谷と八百万が3票ずつの同票だった。

 

「僕に3票!?」

 

「当然ですわ。ですが同票だとすると委員長はどう決めましょう?」

 

「ジャンケンでいいんじゃね?」

 

上鳴の言葉で2人はジャンケンし、結果委員長は緑谷になった。

 

「ぼ、僕が委員長!?」

 

「自分から立候補したのでしょう?それにしても悔しいですわ……」

 

委員長は緑谷、副委員長は八百万に決まった。

 

 

昼休みに血界たちはクックヒーロー:ランチラッシュが営む食堂で昼食を取ろうとして、席を探していると緑谷、麗日、飯田が一緒に食事をとっており、その横の席が空いていた。

 

「緑谷!隣いいか?」

 

「うん!どうぞ」

 

「耳郎ちゃんも横に座りなよ」

 

「ありがと」

 

2人は座り、食事を取るが緑谷たちは血界の食事の量を見て驚く。

プレートに所狭しと置かれた料理の品々は明らかに一人で食えるものじゃなかった。

 

「す、すごい量だね」

 

「俺の個性上どうしても血が必要なんだよ。使いすぎると貧血になるし。お陰で食費がかかる」

 

そう言いながらモリモリと食べる血界に緑谷は乾いた笑いを出す。

 

「大変そうだな」

 

「もう慣れたよ。そういやこうやって飯田と麗日と話すのは初めてだな。俺は血界・V・ラインヘルツ」

 

「ウチは耳郎 響香。よろしく」

 

「麗日 お茶子です!よろしくね血界君!」

 

「俺は飯田 天哉。よろしく頼む」

 

それぞれが挨拶を済ますとホームルームでの委員長決めの話になった。

 

「そういや飯田は自分に票入れなかったな」

 

「俺より緑谷君が相応しいと思ったからだ。そういう血界君も自分に入れてなかったじゃないか」

 

「俺は委員長に向いてないんだよ。俺より絶対に向いてる八百万に入れた」

 

血界がかっこつけて言うが耳郎が割って入る。

 

「中学の時、委員長になろうとして暴動が起きたからトラウマでなろうとしなかったんじゃん」

 

「ちょっ、おま…!それは言うなよ」

 

結局カッコつけても、オチがついてしまいカッコつかない。

その時、突然けたたましいサイレンが鳴り響く。

 

「何だ!?」

 

「どうしたん?」

 

突然のことに驚く血界たち。

それと同時にセキュリティレベル3という放送も流れる。

飯田がすぐ横を通った上級生にセキュリティレベル3とは何か聞くと学校の敷地内に侵入した者がいるとのことだった。

皆が一様に逃げようとして出入口に向かうが人数が多すぎて、すし詰めのような状態になってしまう。

それは咄嗟に立ってしまった血界たちもだった。

人に流され、バラバラに逸れてしまう。

 

(いった……人多すぎでしょ!?)

 

耳郎は流されてしまい、小柄なせいか人に押しつぶされそうになる。

なんとか抜け出すと誰かにぶつかってしまう。

 

「あ!ごめん……って血界」

 

「耳郎か。離れると危ないから離れるなよ」

 

「うん」

 

2人は近寄ってどうするか考えていると、さらに人混みが増して、2人は互いに押されてしまい、耳郎が血界に抱きつくような態勢になってしまう。

 

「ご、ごめん!」

 

「気にすんな。俺は平気だから」

 

(ウチが平気じゃない!)

 

耳郎は心の中でそう叫ぶが血界は気にした様子がなく、どうしようかと考えていた。

耳郎は下から血界の顔を見上げて、恥ずかしくなり、顔を俯かせるがそれでも血界の胸に顔を埋める形になってしまい、血界の匂いが一気に広がる。

恥ずかしさと幸福感で頭の中がおかしくなりそうになる。

その時、飯田の声が食堂中に響き渡る。

 

「皆さん!!大丈ーー夫!!!」

 

飯田からマスコミが雄英バリアを超えて敷地内に侵入してきたことを伝えて、皆が安心して人混みが緩和された。

 

「もう大丈夫か……」

 

「あっ……」

 

「どうした?」

 

「う、ううん。なんでもない」

 

血界から離れる時、少し残念そうな声を出してしまった耳郎は慌てて誤魔化した。

 

 

どこか薄暗いバーで顔が黒い霧で包まれている男と、顔と体に手をくっつけた男が座っていた。

その目には言いようのない悪意が見えている。

 

「先生……こっちの準備はできた。そっちはどうだ?せっかく証拠を残したのに準備ができてなきゃ意味がない」

 

今回のマスコミの侵入はこの手だらけ男が手引きしたのだ。

 

『こっちの準備もできたよ』

 

手だらけ男が話しかけてテレビから男の声が聞こえてくる。

しかし、その声を聞くだけで背筋が凍るほどの恐怖感が出てくる。

 

『協力者からいい素材を手に入れてね。予定より良いものができたよ』

 

静かに悪意が動き出していた。

 




ラブコメってムズ


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File.9 敵連合

マスコミ騒動の翌日、今回のヒーロ基礎学について相澤から説明が始まった。

 

「今回は特別に俺とオールマイトともう1人で授業することになった」

 

「特別……?」

 

「先生!今日の授業は何ですか!?」

 

相澤は懐から『RESCUE』と書かれたプレートを出して、全員に見せる。

 

「今回は災害水害なんでもござれの人命救助訓練だ」

 

救助に不向きな個性があるだろうが憧れのヒーローになるために皆気合を入れる。

全員が戦闘服に着替えてバスに乗り込もうとすると、新しく委員長になった飯田が張り切って仕切る。

 

「バスの席順はスムーズにいくよう番号順に二列で並ぼう!!」

 

「飯田張り切ってんな」

 

頑張る飯田を見てそう思う血界たちだが、いざバスに乗り込むと市営バス形式の席順で、飯田落ち込むだろうなと思いながら空いている席に座ろうとすると耳郎がパーカーは芦戸に溶かされたため新しい物が届くまでシャツ姿の血界の袖を引っ張る。

 

「どうした?」

 

「ちょっと席変わって欲しくてさ」

 

「? 別にいいが……」

 

耳郎と席を代わり、耳郎が座るはずだった席に向かうとその隣には爆豪が座っていた。

 

「あっ」

 

「あ"あ"っ?」

 

互いに気づく2人だがだんだんと睨み合いになっていく。

 

「んだコラ。睨んでんじゃねぇぞツリ目野郎」

 

「睨んでねぇ。テメェこそツリ目だろうが爆発野郎」

 

「あ"あ"!?誰が爆発野郎だ殺すぞコラァ!!?」

 

「テメェの見た目性格全部が爆発野郎って言ってんだよ!!」

 

「君たち!喧嘩はよして早く座りたまえ!」

 

(あ、あのかっちゃんと言い合ってる!?流石雄英!!)

 

ただ目があっただけで喧嘩を始めてしまう2人に飯田が止めに入り、緑谷は自身の幼馴染である爆豪と言い合いしている光景に戦慄していた。

結局2人は隣同士の席に座り、顔を合わせないようにそっぽを向いている。

血界は通路を挟んで隣にいる耳郎を嵌めたなと、少し睨むと耳郎も少し申し訳なさそうに手を合わせた。

 

「派手で強えっつったらやっぱ轟、爆豪、血界だよな。特に血界!技名を叫ぶなんて漫画みたいでカッコいいしな!」

 

突然名前を呼ばれて前を向くと前の席ではそれぞれの個性の話をしており、その中で血界も呼ばれた。

 

「そういやなんで血界は技を叫ぶんだ?叫ばないほうが楽じゃね?」

 

上鳴がそう質問すると血界は少し考えこむ。

 

「うーん?癖?カッコいいから、か?」

 

「あれって癖なんだ……」

 

血界の答えに少し呆れた声が聞こえてくる。

 

「爆豪ちゃんはキレてばっかりだから人気でなさそ」

 

「んだとコラ出すわ!!」

 

「ホラ」

 

突然の蛙水に言葉に爆豪はいつものようにキレてしまう。

それを見た血界はさっきので怒りが中々収まらないのか、便乗してしまう。

 

「この短期間でお前の悪印象が強いってことだろうが」

 

「なんだとコラ!!殺すぞ!!」

 

「やってみろや!!」

 

また口喧嘩を始めてしまう2人に相澤が威圧感を込めた声で注意する。

 

「お前らうるさいぞ!バスの外に放り出してもいいんだからな……」

 

「「……はい」」

 

(((((怖い……!!)))))

 

注意をされていないにも関わらず、恐怖に震えてしまった。

 

 

1-Aの生徒たちがたどり着いたドームにはあっちこっちに水難事故、土砂災害、火事などのあらゆる事故や災害を想定し作られた演習場があり、『ウソの災害や事故ルーム』略して『USJ』と呼ばれる訓練施設だ。

 

「ようこそ!USJへ!今回担当しますスペースヒーロー13号です!」

 

「13号、オールマイトは?ここで待ち合わせるはずだが……」

 

「先輩それが通勤時に制限ギリギリまで活動してしまったみたいで休憩室で休んでいます」

 

「不合理の極みだなオイ……仕方ない始めるか」

 

相澤は呆れたようにため息をつき、13号が説明を始める。

彼が説明を始めたのは個性の危険性についてだ。

今では個性の使用は法律により厳しく取り締まられているが、ヒーローが人を助けるには個性が重要になってくる。

しかし、その反面強力な個性は容易に人を殺せてしまう。

 

「今回の救助訓練では皆さんそれぞれの個性をどうやって人を救うために生かすのかを考え、それを行う事を体験して欲しいと思っています。個性は誰かを傷つけるのではなく、誰かを救い上げる為の物であるという事を学んで帰って行って下さいね。長々とした説明でしたが、私からは以上です」

 

13号の説明に皆が感激してる中、血界は自分の拳を見る。

血界の個性は強力極まりない。

少しの油断で簡単に人を殺せてしまう個性だ。

自分の個性は戦う場合にしか活躍するときがないと思っていたが13号の説明を聞いて、自分の新たな可能性を見つけようと気合を入れなおす。

 

「それではまず……」

 

相澤は授業の説明をしようとすると目の端に映るUSJ中央にある噴水の近くに黒い点を見つける。

 

(何だ……?)

 

そう思った瞬間、黒い点は縦にも横にも広がりその中から1人の男が現れ、相澤と目が合う。

その目は何度も見たことがある悪意に満ちた目、ヴィランの目である。

 

「13号!!生徒たちを下げさせろ!!」

 

突然の相澤の叫びに、全員が突如現れたヴィランに気づく。

 

「何だあれ?またもう始まっているパターンだったりする?」

 

「動くな!!あれはーーーヴィランだ!!」

 

相澤が自身の武器を構えて言うと、生徒たちも緊急事態ということに気づく。

 

「やはりあのマスコミ共はクソ共の仕業だったか……!!13号、お前は生徒達を連れて避難させろッ!!上鳴は個性を使って通信を試みろ、俺はあいつらを食い止める」

 

「ッス!」

 

「でも先生!!幾ら個性を消せても「イレイザー・ヘッド」の戦闘スタイルじゃ正面戦闘は危険すぎます!!」

 

緑谷が心配する声を上げるが、相澤はゴーグルを装着しながらヴィランを見据える。

 

「一芸だけではヒーローは務まらんッ!!」

 

相澤は下にいるヴィランたちに飛び出していく、ヴィランたちは真正面から攻めてくる相澤を間抜けだと罵り、正面から個性で迎撃しようとするが相澤の個性『抹消』により個性を使えなくする。

その隙に武器である縛布で相手を翻弄し、撃退していく。

相澤の戦いぶりに驚く生徒達を連れて13号は避難しようとする。

 

「逃がしませんよ」

 

しかし彼らの行く手を阻むかのように黒い霧が広がる。

この黒い霧のヴィランは紳士的な口調だが、その目からは悪意が感じられた。

13号は前に出て、生徒たちを守るように立つ。

 

「はじめまして我々は『敵連合』。この度、雄英高校へとお邪魔致しましたのは目的があるからです。我々の目的、それは平和の象徴と謳われております「オールマイト」に息絶えて頂く為でございます」

 

「オールマイトを殺す?」

 

「冗談だろ!?」

 

「生憎我々は本気でして。しかし、この場にオールマイトにいないのは計算外。何か授業に変更でも……まあ良いでしょう、それならば―――」

 

一瞬の隙を見て13号が自身の個性である『ブラックホール』で捕らえようとした瞬間、爆豪と切島が黒い霧に飛びかかり攻撃を繰り出す。

 

「死ねェッ!!」

 

「俺たちに倒されることを考えてなかったかァッ!!」

 

「いけない!どきなさい2人とも!!」

 

13号が2人に退けるように言うがそれより早く黒い霧が生徒全員を囲む。

 

「危ない、危ない。ヒーローの卵と言えど優秀な雄英生。侮ってはいけない。だが所詮は卵……私の目的は、貴方達を散らしてっ!嬲り殺すっ!!」

 

その瞬間血界の視界は暗闇に捕らわれ、気づくと炎が燃え盛るビル街にいた。

 

「ここは……みんなはっ!?」

 

周りを見るが燃え盛る火しか見えず、誰一人としていない。

 

(落ち着けよ……今できることは全員の安全を確認してここから出ること)

 

血界は焦りそうになる心を落ち着けて、状況を判断し、どうするべきか考える。

とりあえず散り散りになった者を探そうとすると血界の前に複数の人が立ちはだかった。

 

「なんだぁ?1人だけだぞ?」

 

「女はいねェのかよ?」

 

「嬲り殺しにしてやろーぜ。相手は優秀な雄英生なんだからよ!」

 

下衆た笑みを浮かべて、血界ににじり寄って行くヴィランたち。

血界はそれを見て怯えることなく、右拳にナックルガードを装着して構える。

 

「まずはこいつらか……ブレングリード流血闘術、推して参る!!」

 

 

尾白は血界と同じく火事エリアに飛ばされており、隠れながら闇討ちしてヴィランを退けていたがヴィランの数が多く、捌き切れなくなり、逃げていた。

 

「いたぞー!!」

 

「追えェッ!!」

 

「たくっ……しつこいな!」

 

尻尾を器用に使ってビルの間を跳ぶように逃げて行くが、ジャンプした瞬間、下から羽を生やした異形系のヴィランが迫ってきていた。

 

「捕まえたー!!」

 

「しまっ……!」

 

尾白が捕まりそうになった次の瞬間、そのヴィランに紅蓮の十字架がぶつかり吹き飛ばした。

 

「ぎょえエエェェェェ!!?」

 

「今のは血界!!」

 

「無事か?」

 

振り向くと血界が立っており、尾白の安否を確認する。

 

「ああ、怪我はないよ。ありがとう」

 

尾白と血界は共に怪我はないが火事エリアにいるせいか、服が所々煤で黒くなっている。

 

「そういえば他のヴィランは…!」

 

「こっちに来ていたヴィランは全員倒した」

 

「流石……」

 

最低でも10人以上いたはずなのに軽く倒した血界の実力に改めて感服していると、血界は倒したヴィランの1人に近づき、無理やり起こした。

 

「おい。お前らの目的はオールマイトを倒すことらしいな。どうやって倒すんだ?」

 

「だ、誰が言うか…」

 

血界は悪態をつくヴィラン少しイラッとし、紅く輝く拳を脅すように近づける。

 

「またブン殴られたいのか!!アァン!!?」

 

「血界!爆豪みたいになってるって!!」

 

しかしそれが効いたのか脅されたヴィランはビビリながら説明してくれた。

 

「黒い大男が切り札?」

 

「黒いのってあの霧のことじゃないよな?」

 

「転移系の個性って強力なのは確かだけど、オールマイトがあれぐらいでやられるとは思えないしな………」

 

血界はしばらく考えて、尾白に指示を出す。

 

「尾白。お前はUSJから出て先生たちに助けを呼んできてくれ。もしまだ助けを呼べない状態だったら不味い」

 

「わかった。血界はどうするんだ?」

 

「俺は中央の噴水のところまで行く。できれば相澤先生の助けに入りたいけど邪魔になっちゃいそうだしな。できなければそこにいる奴らを迎えに行く」

 

「わかった」

 

2人はそれぞれの行動を起こしに分かれた。

 

 

中央の噴水付近ではイレイザーヘッドがヴィランを次々と行動不能にしている。

そして首謀者と思わしき、手をあっちこっちにつけた男はそれを少し離れたところで脳が露出している黒い大男とともに見ていた。

 

「流石プロヒーロー……有象無象の雑魚じゃ話にならないな」

 

男はそう言って首を少し掻くとイレイザーヘッドに向かっていく。

イレイザーヘッドは次の標的をその男に定め、縛布で攻撃するが男はそれを避け、相澤の殴打も避けていく。

 

「20秒……18秒……どんどん短くなっていくなァ」

 

「くっ……!」

 

(こいつ気づいているのか?)

 

イレイザーヘッドの個性『抹消』は相手の個性を消すという、強力な個性だが相澤自身がドライアイのため、連続使用し続けると個性の使用時間が長くなっていく。

長期戦は不利だと考えたイレイザーヘッドは一気に決着をつけるべく、フェイントを交えて男の胸に強烈な肘打ちを放つが、男はそれを簡単に掴み受ける。

 

「焦ったか?」

 

「ぐうっ……!」

 

男は薄ら笑いを浮かべると、相澤の掴まれた肘が崩れるように皮膚が剥がれていき、強烈な痛みが走る。

イレイザーヘッドは慌てて距離を取るが男はそれを見てポツリと呟いた。

 

「脳無、やれ」

 

次の瞬間イレイザーヘッドの背後に黒い大男が立ち、その腕を振るった。

 

 

緑谷は水難エリアに飛ばされそこにいた敵達に襲われたが、新しい技「フルカウル」を駆使しながら蛙水、峰田と協力して敵達を撃退し、無事に水難エリアから脱出した。

 

「お、おい緑谷やめとこーぜ?相澤先生だってプロだし大丈夫だって!」

 

峰田が涙目になりながら、相澤の様子を見に行こうとする緑谷を止めるが、緑谷は止まらない。

 

「少しだけ……様子を見るだけだから……様子を見たら脱出するから」

 

緑谷はさっきの戦いで敵達を一網打尽にする為に100%の力を使ってしまい、人差し指が折れてしまっていて、その痛みに耐えながら様子を見にいこうとする。

そこには信じられない光景が広がっていた。

相澤が黒い大男の敵『脳無』に組み伏せられていた。

 

「ぐぅう……」

 

「………」

 

「ぐああぁぁっ!!」

 

黒い男、脳無は相澤の片腕を握ると枝を折るように簡単に折れてしまう。

さっきまで敵たちを圧倒していたイレイザーヘッドが簡単に倒されてしまっていることに緑谷たちは戦慄してしまう。

現実ではないと思ってしまいたいが、相澤が嬲られる音がそれをさせてくれくれない。

恐怖で固まっていると首謀者の男の背後に黒い霧の男、『黒霧』が現れた。

 

「黒霧……そっちはどうだった?」

 

「はい、生徒は散り散りになり13号は行動不能にしました。ワープし損ねた生徒たちが助けを呼ぼうとして脱出を試みましたが、間一髪のところで阻止できましたよ」

 

それを聞いた首謀者の男、『死柄木 弔』は無邪気な子供ようで残虐な笑みを浮かべた。

 

「よくやった……あとはオールマイトを殺すだけだが、ここにはいないし帰るか…」

 

その呟きは恐怖で固まっていた緑谷たちにも聞こえていた。

 

「い、今帰るって言ったか!?よかったぁ!」

 

「ケロ……何もせずに帰ってくれるといいのだけれど」

 

「………」

 

峰田は帰ってくれることに喜び、蛙水と緑谷は何が起こるのではないかと警戒する。

次の瞬間死柄木は蛙水に一瞬で近づき、彼女の顔に向かって手を伸ばす。

 

「平和の象徴の心を少しでも傷つけてから帰ろう!」

 

緑谷はこの時、死柄木の個性『崩壊』で崩れていく蛙水を幻視してしまうが、死柄木が触れても蛙水は崩壊することはなかった。

 

「……ったく、カッコいいぜ。イレイザーヘッド」

 

相澤は傷つけられながらも自身の生徒を守るため、血みどろの顔を上げて死柄木を睨み、個性を抹消した。

しかし、すぐさま脳無に顔面を地面に叩きつけられてしまうが緑谷は相澤が作った隙に、死柄木に殴りかかる。

 

「手ぇ放せえぇぇッ!!!SMASH!!!!」

 

緑谷はほぼ100%の力で殴る。

彼が新しく覚えたワン・フォー・オールフルカウルは常時5%の力を全身に使用し続ける技だが、死柄木に殴りかかる瞬間咄嗟に力が入ってしまった。

殴った瞬間、拳から凄まじい衝撃が放たれ、突風のような風が巻き起こる。

 

(5%以上なのに腕が折れていない!?だけどこれならヴィランも……!!)

 

煙が止むとそこには緑谷の拳を手で受け止める脳無の姿があった。

 

(なんで!?さっきまで相澤先生の側に……!!)

 

「SMASHってオールマイトのフォロワーさんかな?まぁいいや……脳無、殺れ」

 

脳無が緑谷に腕を伸ばし、蛙水が助けようと舌を伸ばすが間に合わない。

緑谷が死を覚悟した瞬間、脳無の体に紅蓮の十字架の槍が刺さり、水難エリアの池に吹き飛ばす。

 

「えっ!?」

 

「なんだぁ!?」

 

「死柄木弔!危ない!!」

 

驚く死柄木の背後から黒霧が現れ、ワープさせるとそこに十字架の槍が突き刺さる。

やりが飛んできた方向くとそこには拳を突き出した血界が相澤の側に立っていた。

 

「ブレングリード流血闘術……!」

 

111式 十字型殲滅槍

 

 



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File.10 続く絶望

時間は少し遡り、耳郎、八百万、上鳴は山岳エリアに飛ばされて敵たちに囲まれていた。

耳郎は八百万の個性『創造』で創造してもらった棒を構え、八百万も鉄の棒を創造し構え、襲ってくるヴィランたちを倒していく。

対して上鳴は武器が貰えず、なんとか攻撃を避けて凌いでいる。

 

「ウヒィッ!危ねえ!!」

 

「上鳴さん!大丈夫ですか!?」

 

「背中がガラ空きだぜェッ!!」

 

八百万が目を離した瞬間、背後からヴィランが襲いかかる。

しかし耳郎が飛び蹴りをヴィランの顔に浴びせて倒す。

 

「ヤオモモ大丈夫!?」

 

「ありがとうございます!」

 

耳郎はすかさず足につけられているスピーカーにイヤホンジャックを刺して、大音量の心音をヴィランたちに浴びせ、苦しませる。

 

「ラアァァッ!!」

 

ヴィランが横から耳郎に襲いかかるが、耳郎はそれをギリギリで避けて相手の顔に掌底を浴びせる。

 

「耳郎!お前スゲェな!!近接戦そんなに得意だったっけ!?」

 

「血界や氷麗とよく一緒にいるから教えて貰った!」

 

近中距離でヴィランを倒していく耳郎に上鳴は褒める。

 

「じゃあ俺にその武器くれよ!俺今丸腰!!」

 

「それは無理!頑張れ!」

 

「じゃあ助けてくれよ〜!!俺の個性じゃお前たちを巻き込んじまうし!!」

 

「じゃあ人間スタンガンとして頑張れ!」

 

耳郎は上鳴を蹴飛ばし、ヴィランに突撃させる。

 

「おまっ!?まじか!」

 

突き飛ばされた上鳴はヴィランに抱きつき、咄嗟に彼の個性『帯電』を使い、ヴィランを痺れさせる。

 

「あれ?効いてる?2人とも俺を頼れ!」

 

「調子いいなぁ……」

 

さっきまで弱気だったくせに、強気になった上鳴を見て呆れる耳郎の耳に爆発したような音が聞こえてきた。

八百万や上鳴だけでなくヴィランたちも突然の爆音に驚きそっちを見ると水難エリアで高い水飛沫が上がっていた。

 

「何があったの……?」

 

それを見た耳郎に不安がよぎった。

 

 

血界は緑谷たちから死柄木が離れたことを確認して、傷ついた相澤を横抱きにして持ち上げると緑谷たちに向かって叫ぶ。

 

「早く水から上がれ!!逃げるぞ!!」

 

その言葉に気づいた緑谷たちは慌てて水から出て、血界たちと合流する。

 

「血界君!ありがとう!助かったよ!!」

 

「ありがとう血界ちゃん」

 

「助かったぜぇ!血界!!」

 

皆が血界にお礼を言うが血界はずっと死柄木たちを見据えている。

 

「今は逃げることが先だ。さっさと行くぞ!」

 

「何でそんなに焦ってんだよ?確かにまだヴィランはいるけどよ」

 

峰田が呑気なことを言っているのは血界が脳無と死柄木を退けたからか余裕ができたからだ。

しかしさっきの光景を見ていた血界には嫌な未来しか見えなかった。

 

「緑谷、お前あの脳みそが出てる奴をフルパワーで殴ったんだよな?」

 

「うん……僕の腕怪我しないほどの威力だったけど、ほぼ100%の感覚だった」

 

「てことはさっきので倒されていないはずだ。今はとにかくここから離れるぞ!!」

 

血界の言葉に素直に従って、走り始める。

それ見ていた死柄木はイラ立つのか首を激しく掻き毟る。

 

「なんなんだよあのガキはァ……!!あとちょっとのとこで邪魔しやがって……!!」

 

「死柄木どうしますか?」

 

「そんなの決まってる……!脳無ゥッ!!!!」

 

死柄木が脳無の名を叫ぶと水場から水しぶきが上がり、脳無が死柄木の側に飛び降りてくる。

 

「やっぱり倒されてなかったか!」

 

「脳無!あの赤髪のガキを殺せ!!」

 

脳無は生気のない目を血界に向けると勢いよく駆け出す。

 

「うわあぁっ!!来たぁっ!!」

 

「緑谷!!相澤先生を頼む!!」

 

「血界君!?」

 

峰田の恐怖の叫びを上げると血界は緑谷に相澤を渡し、自分から脳無に向かっていく。

 

「ブレングリード流血闘術!推して参る!!」

 

拳で地面を殴りつけ、技を叫ぶ。

 

「ブレングリード流血闘術……!」

 

39式 血楔防壁陣

 

地面から血の十字架が複数現れ脳無を拘束する。

 

「やったわ!」

 

「やっちまえェェッ!!血界!!」

 

「ブレングリード流血闘術……!」

 

 

111式 十字型殲滅槍

 

 

槍を出し脳無に向かって振るうが、脳無は拘束していた十字架を破壊し、その槍を掴んで動きを止める。

 

「オオオォォォォッ!!!」

 

血界は負けじと槍を押し出すが、脳無の力は圧倒的でビクともしない。

脳無が勢いよく槍を押し返すと血界は簡単に吹き飛んでしまう。

 

「血界君!」

 

「血界ちゃん!」

 

緑谷と蛙水が心配し、血界の名前を叫ぶと吹き飛ばされた血界は吹き飛ばされながらも受け身を取って立ち上がる。

しかし槍を押し出していた右腕はぷらんと垂れており、どうやら肩が外れてしまったようだ。

 

(押し返されただけでこれかよ……!)

 

ただ押し返されただけで肩を外すほどの力に血界は戦慄する。

咄嗟に受け流したかと思ったが肩が外れしまったのだ。

 

「ふんっ!」

 

血界は外れた右肩に左手を添えて一気に肩を戻す。

 

「な、なあ今血界自分で肩戻したよな?どんな体してんだよ」

 

峰田が少し外れたことを言っているが緑谷はそれどころじゃなかった。

自身のフルパワーに近い力を出したのに無傷、血界の攻撃にも無傷、さらにはたった押しただけで肩を外すほどの力を持っているのだ。

緑谷は冷や汗が止まらない。

 

「蛙水さん!峰田くん!相澤先生お願い!」

 

「緑谷ちゃん!?どこに行くの!?」

 

「血界くんを助けに行く!」

 

「危ねぇって!」

 

3人が言い合っているのを死柄木が見つけ、指をさす。

 

「脳無、先にあの煩い奴らを殺せ」

 

「っ!!」

 

その指示に気づいた血界はゆっくりと緑谷たちを見据える脳無に向かって、再び構える。

このままでは友達が死んでしまう。

この化け物の実力は信じられないものだ。

緑谷たちのところに行ってしまえば4人は一瞬で死んでしまう。

 

そんなことはさせない!

 

二度と自分の前で大切な人たちを死なせない!!

 

血界はそれだけを考え、脳無ではなく別の恐怖に震える拳に力を込める。

 

(やりたくなかったけどやるしかない……!守るんだろうが!!覚悟を決めろ!)

 

血界の中で渦巻くのは相手を殺す恐怖と罪悪感。

本気でやらなければ自分も緑谷たちも殺されてしまう。

ヴィランに襲われる前の13号の言葉が頭の中で何度も反復されるが、血界は覚悟を決め、ナックルガードから今までにない程の輝きが放たれる。

それに気づいた脳無は血界の方を向く。

 

「殺す気で使う本気のブレングリード流血闘術……!見せてやる!!ブレングリード流血闘術………!!!」

 

 

111式 十字型殲滅槍

 

 

凄まじい赫色のスパークを放ち、さっきよりも大きく確実に刺し倒すように作られた十字架の槍。

血界の拳とともに放たれる槍は脳無なら胴体を貫き、まるでジェット機が飛び立つ時のような音を出し、吹き飛ばされ建物に打ち付けられるように止まった。

 

「ハアッ……!!ハアッ……!!」

 

血界は技を使い終わるとその場に膝から崩れ落ちるように座り込み、荒くなる息を整えようとし、震える拳を抑えるように包む。

 

「やったぜ!血界のやつ今度こそ倒したんじゃねぇか!!」

 

「ケロ……」

 

(血界君、殺す気って言ってた……相当ショックだったんだろうな)

 

脳無を倒したことに再び安心した3人だが、緑谷は人を殺してしまったかもしれないという恐怖を感じている血界の身を案じ、蛙水はその責任で辛そうにしている血界を心配した。

 

「はっ…ハア……」

 

とりあえず息と気持ちを落ち着け、立ち上がる血界だが立ち上がった瞬間、軽い立ちくらみが起こった。

 

(ヤバい……血が足りない……)

 

血界の個性は自身の血を利用して戦う。

使い続ければ血がなくなり貧血、最悪失血死してしまう可能性だってあるのだ。

さらには本気のブレングリード流血闘術は人を倒す時の血の消費量とは比べものにならない。

とりあえず立ちくらみは収まり、残った死柄木と黒霧をいつでも反応できるように見据える。

 

「あの少年やりますね。まさか一撃であそこまでの威力があるとは……名のあるヴィランとてあれは危険です」

 

「まぁな……でもそれは普通の奴らだったらの場合だァ」

 

死柄木はまた嫌な笑みを浮かべ、口をゆっくりと動かす。

 

「脳無……」

 

壁に張り付けにされていた脳無は顔を上げ、槍を引き抜く。

槍には脳無の血液らしきものが滴り、脳無の胸にはぽっかりと空いた穴が吐き気を催す。

 

「まだ動くのかよ……」

 

「そんな……」

 

普通なら動けるはずのない怪我を負っても顔色を一切変えることなく動く脳無を見て峰田、蛙水は恐怖を感じる。

 

「今度こそ殺せ」

 

死柄木の命令を聞いた脳無は血界に向かって走り出し、一瞬で血界の目の前に現れる。

 

(間に合わ………!)

 

構えていた血界がそう思った瞬間、脳無の剛腕が血界に突き刺さり吹き飛ばした。

 

「お、おい血界のやつどこに行っちまったんだよ……?」

 

「そんな……血界ちゃん………」

 

「………」

 

峰田は血界が消えたことを聞くが、蛙水は血界が死んでしまったと考えてしまい涙をポロポロと流す。

緑谷は目の前で起こっていることが現実なのかと疑問に思ったが血界が立っていたところに血が落ちていることが現実に引き戻された。

 

「ハハハッ!!やったぞ脳無!!生徒を1人殺せた!!あとはあそこにいる奴ら。脳無……」

 

血界を殺せたと喜ぶ死柄木が緑谷たちを見据え、脳無に指示を出す。

 

「ッ!蛙水さん!峰田くん!早く逃げよう!!」

 

それに聞いた緑谷は落ち込む2人に喝を入れ、逃げようとする。

するとその時、違う方向から脳無に向かって爆炎が放たれた。

 

「これってかっちゃん!?」

 

緑谷が爆発が放たれた方を向くと、自身の戦闘服の武器である手榴弾の形をした籠手を構えた爆豪とその後ろからやってくる切島がいた。煙が晴れると少し傷がついた脳無が爆豪たちに気がつくと、今度は氷が地面を走りながら脳無の下半身を氷漬けにする。

 

「平和の象徴はやらせねえぞ」

 

「轟くん!」

 

血界を抜いたクラス屈指の実力者たちが集まった。

絶望していた緑谷に希望の光が差し込む。

しかし、それを見ていた死柄木は苛立つ。

 

「なんだよ……また湧いてきやがった……脳無」

 

死柄木が脳無に向かって指示を出そうと呼びかけるが反応しない。

 

「おい!脳無!どうした?」

 

「死柄木の声に反応するはずですが……」

 

脳無は死柄木の声に反応せず殴った時に拳についた血界の血をジッと見つめ、舐めとった。

体内に入った瞬間脳無の体は激しく揺れ始め、捕らえていた轟の氷も破壊してしまう。

 

「なんだ!?」

 

「まだ何かあるのかよ!?」

 

脳無の突然のことに驚く緑谷たちは信じられないものを目にする。

脳無の体はさらに大きくなり、筋骨隆々だった筋肉はより肥大化し、皮膚が裂けるほどだ。

爪と牙は人を殺すためにより鋭利になり、無機質だった目は血走り獣のような目つきになる。

露出した脳には血のようなものが纏わりつきグロテスクさをより強める。

 

「GUOOOOOOooooo!!!!!」

 

絶望はまだ終わらない。

 



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File.11 Changed fear

耳郎のオールラウンダーの戦闘、八百万の知識を活かした創造、上鳴の帯電による一撃必殺で周りにいたヴィランは倒したと思った。

しかし、地中に隠れていたヴィランは耳郎たちの隙を伺い、個性の使いすぎによりアホになった上鳴を人質に取られてしまった。

 

(しまった!隠れていることなんて頭に入ってなかった!)

 

喧嘩早い血界と一緒にいてよく不良に絡まれることがあり、最低限自分の身は守れるようにと凛と共に血界や氷麗に格闘技を学んだのだ。

それにより近接戦も常人よりはこなせるほどになった。

しかし今まで相手にしてきたのは不良やチンピラ、さっきまで戦っていたのだってチンピラ同然の者たちだった。

本当のヴィランとは戦ったことがない。

真なる敵は闇に潜む。

オールマイトが初めての講義の時に言った言葉はまさしくその通りだった。

ヴィランは耳郎たちの隙を黙々と狙っていた。

 

「動くなよ。できれば同じ電気系の個性は殺したくないんだ」

 

「ウェ〜イ」

 

ヴィランはそう言いながらアホになった上鳴を捕まえている腕とは逆の帯電している手を上鳴に向ける。

耳郎たちは手に持っていた武器を捨て両手をあげる。

 

(どうすれば……そうだ!)

 

「ねぇ、なんでヴィランなんてやってんの?」

 

「耳郎さん?何を言ってますの?」

 

「だって電気系の個性なんて生まれながらの勝ち組じゃん。なんでヴィランなんてやってるのか気になってさ」

 

突然耳郎はヴィランに話しかける。

疑問に思った八百万だが、耳郎のイヤホンジャックが足元のスピーカーに伸びているのが見えた。

耳郎のスピーカー攻撃ならノーモーションで攻撃でき、一気にヴィランを無力化できる。

 

「ねぇ、教えてよ」

 

耳郎は気づかれないように話して意識をそらすが、ヴィランには通用しなかった。

 

「動くなって言っているよな?」

 

ヴィランは帯電した手を上鳴に近づけ、耳郎を睨む。

 

「うっ…!」

 

「浅はかな考えだな。そんなことに気づかないと思ったのか?」

 

作戦が失敗した耳郎たちに冷や汗が流れる。

 

「本当のヴィランを怒らせたらどうなるか教えてやる……まずはお前からだ」

 

「耳郎さん!」

 

迫るヴィランの手に耳郎は恐怖し、目を閉じてをしまう。

その時、耳郎たちのすぐ近くにあった山に何かがぶつかり、岩が砕ける音が響いた。

 

「「!!」」

 

「ウェイ!?」

 

「なんだ?死柄木さんたちがやったのか?」

 

突然の轟音に驚く耳郎たちだが、ヴィランは横目で確認するだけ驚きはしない。

何かがぶつかったところは煙が上がるだけで何も起こらない。

ヴィランは再び耳郎に手を向ける。

 

「じゃあな」

 

ヴィランが耳郎に触れようとしたその瞬間、背後で紅い光が輝く。

 

「ブレングリード流血闘術……!!」

 

「なっ!?」

 

ヴィランが振り返るが血界はもう目の前に来ていた。

 

 

32式電速刺尖撃

 

 

拳から血の十字型の細剣を出しヴィランを刺し貫く。

 

「がはっ…!」

 

「血界!」

 

「血界さん!」

 

「ウェーイ(ちかーい)!!」

 

ヴィランは白目を剥き、倒れ動かなくなった。

 

「ぐっ……!」

 

「血界!!?」

 

ヴィランを倒した血界は突然膝をつき、苦しそうに呻く。

耳郎が心配し、血界の容態を見ると体の至る所に打撲、擦り傷があり一番酷いのは左脇腹で白いシャツを赤く染めている。

 

「これってヤバいじゃん……!ヤオモモ!包帯創って!」

 

「はい!」

 

八百万が包帯を作り、耳郎が脇腹を中心に包帯を巻いていく。

 

「なんでこんな風になったの?」

 

「化け物が……いる。お前らは先に外に…出て、先生たちを呼んできてくれ」

 

「……血界はどうすんの?」

 

「俺は……俺をぶっ飛ばした化け物を引きつける」

 

血界は苦しそうにしながらも自分が飛んできた方角を見る。

 

「なんで!?逃げればいいじゃん!!」

 

耳郎は血界を非難するように叫ぶ。

彼女は血界の強さを知っている何度傷つけられても立ち上がるほどのタフネス、敵を一撃で倒すほどの力をを持っている。

耳郎はその姿に心配もしたが、何にも負けず、屈しないヒーローのようで憧れだった。

しかし、今の血界はそれを微塵に見られないほど弱っている。

今までにない弱っている血界の姿が耳郎の不安を大きく駆り立てる。

このまま行けば死んでしまうかもしれない。

そんなことあって欲しくない。

 

「逃げようよ!このままじゃ死んじゃう!」

 

「まだあそこに緑谷たちがいるんだ。1人でも行かないと危険だ」

 

「そんなの血界じゃなくても大丈夫じゃん!ウチやヤオモモが行くから!……………ウチ、嫌だよ。血界のそんな姿見るの」

 

「耳郎さん……」

 

「ウェイ(耳郎)………」

 

耳郎から本音が出て悲しそうに呟くが、血界は首を振らない。

 

「俺がやらなくちゃいけないんだ……」

 

そう呟く血界は自分に戒めるように呟くしかなかった

その時中央広場から獣の叫び声のようなものがUSJ全体に響く。

 

『GUOOOOOOooooo!!!!!』

 

「ウェヘイッ!?」

 

「なんですの……?この叫び声……」

 

「獣……?」

 

血界は見据えていた広場を睨みつける。

 

 

 

「GUUUuuuu………」

 

豹変した脳無を見て、緑谷たちは戦慄する。

只でさえ強い脳無がさらに凶悪になったのだ。

 

「ヤベェ……ヤベェよぉ……あれは本当にヤバいって!!」

 

峰田は豹変した脳無に恐怖し、泣きわめく。

 

「ケロ……」

 

「うぅ……」

 

蛙水と緑谷も同様だが泣きわめくのではなく、恐怖で足が動かない。

 

「うおぉぅ……!!」

 

「………」

 

「………」

 

切島はその異形の姿に言いようのない悪寒を感じ、轟と爆豪は額に汗を流しながら焦りながらも一切の警戒を怠らない。

 

「どうなってんだ…?脳無にあんな個性はないはずだぞ」

 

「先生が意図的に教えなかったのでしょうか?」

 

死柄木と黒霧は緑谷たちでは無いにしても、警戒した目で脳無を見る。

やがて脳無は鼻をヒクヒクと動かし、顔をあっちこっちに向け匂いを嗅ぐ。

 

「な、何をしてるんだ?」

 

「関係あるか。ぶっ殺す」

 

緑谷は突然の行動に怖がりながらも分析しようとし、爆豪は冷や汗を流しながらも好戦的な笑みを浮かべ、手に小さな爆発を起こす。

やがて脳無はある方向を嗅ぐとそっちの方に跳んで行ってしまった。

 

「おい!脳無!!〜〜ッなんだよ!勝手にしやがって!!」

 

「落ち着いてください!死柄木弔!」

 

突然跳んでいった脳無に死柄木は苛つきながら首を激しく掻く。

 

「お、おいどうする?」

 

「逃げようぜ!今あの化け物がいないんだからよ!」

 

「お前だけでも逃げてろクソ葡萄。俺はアイツらをぶっ倒す」

 

脳無が消えてしまったため、どうするか聞く切島に峰田は逃げるように言うが爆豪はそれを却下して戦うと言う。

 

「そんなこと言うなよ爆豪!今は生き残ることが優先だろ!?」

 

「どのみちあのワープ野郎がいる限り逃げられないだろうがクソッ!!ここから生き残るならアイツらをぶっ殺さないといけないんだよっ!!!」

 

「うん、僕もそう思う。あの黒霧っていう男を倒さないとまた散り散りになってしまう」

 

「俺の真似してんじゃねえぞクソデク!!!」

 

「えぇぇっ!?ご、ごめん!」

 

爆豪と緑谷の言葉に納得した面々は戦おうとする意思が現れる。

それを見た死柄木は緑谷たちを睨む。

 

「雑魚がわらわらと現れやがって……まぁいいや、ラスボスが現れる前の経験値稼ぎだ」

 

「死柄木、彼らは卵と言えヒーローを目指す者。油断は禁物です」

 

「そんなのわかってる!」

 

死柄木は脳無が勝手な動きをしたことに苛立ちを隠せず、緑谷たちと戦って憂さ晴らししようとし、黒霧は苦労が絶えないとため息を吐いた。

両者が睨み合う中、突然脳無が跳んでいった方角にある山岳エリアから爆音が響いた。

 

 

 

「いいから!ほら立って!」

 

「ま、待ってて……耳郎!」

 

「きゃっ!」

 

耳郎がまだ戦いに行こうとする血界を無理やり引っ張り起こして、引っ張っていこうとすると血界が突然耳郎を押した。

その直後豹変した脳無が血界の前に降り立ち、命を一瞬で刈り取るように伸びた爪が血界に向けて振るわれる。

 

「ブレングリード流血闘術……!!」

 

 

117式 絶対不破十字盾

 

 

爪が当たる前に血の十字架状の盾を作り防ぐが、受け止めた衝撃だけ血界の体は悲鳴を上げる。

 

「っ〜〜〜!!」

 

「GUOOoッ!!」

 

受け止めた血界に向かって蹴りを放ち、岩に叩きつける。

叩きつけられた衝撃で口から血が吐き出る。

 

「がはっ!!!」

 

「血界!!」

 

「血界さん!」

 

「ウェイッ!?」

 

皆が血界の名を呼び心配するが、脳無はそれにまったく興味を示さず

獣のような息遣いをしながら、血界を睨む。

 

「GUOOッ!!!」

 

脳無は四つん這いになって血界に襲いかかる。

だが、血界もやられているばかりでは無い。

叩きつけられた態勢からすぐさま拳を脳無に向かって放つ。

 

「ブレングリード流血闘術……!!」

 

 

111式十字型殲滅槍

 

 

放たれた槍は砲撃のようにはなたれ脳無の肩に深々と突き刺さるが、脳無はそれを気にもせず血界に迫っていく。

 

「GUAO!!!」

 

「くっ!!」

 

脳無が腕振るうが槍が邪魔をしてスピードが遅くなり、その隙に血界は避けて脳無の後ろに転がる。

 

「お前らは逃げろっ!!!」

 

血界はそのまま走り出し、崖から飛び降りて下に広がる小さな森に逃げた。

脳無もそのあとをすぐさま追いかける。

 

「血界!!」

 

「ど、どうしましょう!?」

 

「どうしようって逃げるのが得策だろ!?あんな化け物勝てるわけねぇよ!!」

 

突然の事態に戸惑う八百万に脳無の凶悪さ、血界が一瞬で圧倒されてしまった光景に怖気付いてしまった上鳴は逃げるように言う。

耳郎は血界が降りていったほうに走り出す。

 

「耳郎さん!?」

 

「どこ行くんだよ!?」

 

「ヤオモモたちは先に外に行って先生たちを呼んできて!上鳴も!今なら通信機使えるかもしれないでしょ!!ウチは血界を追いかけるから!!!」

 

そう言い残し、耳郎は山の斜面を滑り降りて行ってしまった。

 

「耳郎さん……」

 

「耳郎度胸ありすぎだろ……とりあえずオレたちはオレたちがやれることをやろうぜ!」

 

「は、はい!」

 

 

轟音が何度も響く森の中を耳郎はイヤホンジャックを地面に刺しながら音が鳴る方へと走っていく。

 

「無茶苦茶だな……!」

 

耳郎は周りの木が鋭利なもので引き裂かれたり、圧し倒されたのを見てそう呟くきながら、脳無に対しての恐怖を感じてしまう。

今まで血界は何度も危険な目にあってきた。

それこそヴィランにだって襲われた。

しかしさっき見た化け物は今まで見てきた危険とはまったくの別格だった。

まるで自分の人間としての本能が心の底から怖がっているようにも感じた。

 

『アレ』には触れてはいけない、『アレ』には関わってはいけない。

 

本能の奥底でそう叫んでいても、耳郎は心で感じたことに体は従って動いている。

 

「待っててよ!血界!今助けるから!」

 

大切な人を助けたい、ただそれだけを思って。

 



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File.12 A ray of light

戦闘描写がおかしいかもしれません。
間違いがあれば教えてほしいです。


緑谷たちと死柄木が睨み合う中、轟が話しかける。

 

「それでどうする?相手は2人って言ってもワープさせる個性だ。下手に動けばさっきの二の舞いだ」

 

「関係あるか!ブッ殺す!!」

 

「あの死柄木って奴は触れたものを崩壊させる個性だから、遠距離系のかっちゃんか轟くんがベストなんだけど……」

 

「オレに指図してんじゃねェカス!殺すぞ!!」

 

「えぇっ!?」

 

「オレはあの霧野郎をやる。お前らは勝手にしろ!!」

 

「おい!爆豪勝手なことは……!」

 

作戦を立てようとすると爆豪が勝手に飛び出そうとするが蛙水が呼び止める。

 

「爆豪ちゃん。貴方あの黒霧っていう男の倒し方わかるの?」

 

「そう言ってんだろうが蛙女!」

 

「なら、かっちゃんは黒霧を相手に!僕たちはあの死柄木とかっちゃんのサポートだ!」

 

「だから指図してんじゃねぇッ!!クソデク!!」

 

作戦が決まり、両者が飛び出しそうになった瞬間、中央広場に繋がる森の入口が爆発のように弾け飛んだ。

 

「今度はなんだよォッ!!」

 

突然のことが起こりすぎて嫌になった峰田の叫びが木霊すが、全員が爆発したところに注目する。

すると煙の中から、十字架の盾を構えた血界が大砲が打ち出されたかのような勢いで飛ばされてきた。

その体には新しい切り傷のようなものが増えている。

 

『血界(くん)(ちゃん)!!』

 

生きていたことに喜ぶ緑谷たち3人は嬉しそうな表情になるが次に煙から現れたものにその表情は凍りつく。

煙から現れたのは脳無だった。

脳無は飛ばされたため地面に転がるように滑る血界に向かって飛びかかり、拳を振るうが盾で受け止める。

受け止めた盾は破壊されなかったが支えた血界の体は悲鳴を上げる。

 

「ぐうぅぅ……!!」

 

苦しそうに呻き声を上げ耐える血界だが、口から血が滴り落ちるほど食いしばる。

するとすぐさま巨大な氷塊が脳無を襲い、全体を包み込み脳無を氷の中に閉じ込めた。

血界の体に蛙水の舌が巻きつき、緑谷たちのところまで引き戻される。

 

「血界ちゃん!大丈夫!?」

 

「大丈夫かよ血界!?」

 

「酷い怪我だ……早く手当てしないと……!」

 

さっきとは怪我の多さが見るだけでわかるほどに増えており、緑谷たちは顔を青くする。

 

「だ、大丈夫だ……」

 

「大丈夫なわけねぇだろ!」

 

無理矢理立ち上がろうとする血界に切島が肩をかして支える。

 

(全体が傷ついて、出血が多い……特に脇腹は酷え。目も焦点が合ってない)

 

「ラインヘルツ、お前は休んどけ。俺たちがアイツらを倒したら終わりだ」

「雑魚は雑魚らしく、くたばっとけ」

 

轟は血界の状態を見て休むように言い、爆豪は相変わらずの悪態を吐く。

 

「なんだと……うっ…!」

 

「無茶すんなって!爆豪もだ!今煽ることないだろ!!」

 

ニヤニヤしながら血界の様子を見る爆豪に切島が注意する。

ヴィランを前にしているというのに少し余裕が生まれる血界たちに死柄木は苛立ちが増していく。

 

「ああぁぁあ……!!なんであの餓鬼が生きてんだよ!!オールマイト並みのパワーを持つ脳無に吹き飛ばされたんだろうがぁ!!!」

 

「まさかあの攻撃を受けて生きているとは……信じられません」

 

黒霧が驚いているが血界は豹変する前の脳無に殴られる瞬間盾を出し、防いだだけだがそれでもあの重傷を負ったのだ。

 

「脳無も勝手に動きやがって……!餓鬼1人殺せないなら弱体化したのか!?」

 

「……!どうやらそうでもないみたいですよ」

 

黒霧が閉じ込められた脳無に目を向ける。

愉快そうに死柄木に話しかける。

 

「じゃあ後はあの2人だけだ!さっさと終わらせて帰ろうぜ!!」

 

「あの化け物はもう動けないんだ!やるだけやってやる!!」

 

切島の言葉に峰田もやる気になって声を上げるがその直後、氷が割れる音のようなものが聞こえた。

恐る恐る音が鳴ったほうを向くと氷に閉じ込められた脳無が僅かに動き氷にヒビが入っている。

 

「GUOOOO!!!!」

 

そして脳無は雄叫びを上げながら氷を破壊した。

 

「嘘だろ……」

 

「まだ動くのか……!」

 

脳無が切島に支えられている血界を見つけると進もうとするが右腕が氷に包まれて動けないことに気づく。

引っ張って引き剥がそうとするが、そこだけが特別硬いのか剥がれる様子はない。

すると脳無へ自ら覆われていない部分の腕にかぶり付き、噛み砕いていく。

 

「ヒッ…!」

 

「何を……やってるんだ?」

 

血を撒き散らしながら噛みちぎろうとする脳無に蛙水は短い悲鳴を上げ、緑谷たちもその光景に戦慄する。

やがて肉は無くなり骨だけでくっついている状態にまでくると脳無は自ら骨を折り、凍った腕を捨てた。

自分の腕を簡単に捨てるその異常性に緑谷たちは改めて今対峙しているモノが化け物であることを再認識し、恐怖で体が動かなくなる。

脳無は血がドバドバと溢れ出てくる無残な右腕の残り部分を血界たちに向けるとそこから急速に血が腕の形を作り、先端に不揃いな刃がついた触手状になって血界たちに迫る。

 

「チッ……!」

 

即座に反応した轟は氷の壁を作るがその触手は氷を切り裂いて勢いが止まらずに進んでいく。

血界は切島の肩から離れ、ナックルガードを握る。

 

「切島!緑谷!俺を支えてくれ!」

 

「おう!」

 

「う、うん!」

 

血界に言われ、切島は個性である『硬化』により腕と足を固めて、緑谷はフルカウルを使い力を上げて支える。

 

「ブレングリード流血闘術……!!」

 

 

117式 絶対不破十字盾

 

 

触手は血界に真っ直ぐ向かっていき、盾と激突する。

血界も力を込めて盾を支え、切島は地面を削りながら、緑谷も必死に支える。

しかしそれでも触手は血界を切り裂こうと盾を押し続ける。

 

「ぐあっ!!」

 

「うわっ!」

 

切島と緑谷は耐えきれなくなり、血界から離れ倒れてしまう。

血界は最後まで耐えるが緑谷たちが離れた瞬間、触手は枝分かれし、盾を掻い潜って、血界の体を切り裂く。

咄嗟に体を逸らして刃を避けるがそれでも軽くない怪我を負ってしまう。

 

「なんだよ……やるじゃないか」

 

「力は前より劣っていますがあの獰猛さは目を見張るものがありますね。それにあの回復速度……予定のものより数段早い」

 

黒霧がそう呟く。

腕や足から血を流す血界に向かって、触手を再びしならせて横に振るうと動けない血界はモロに受けてしまう。

 

「がはっ……!」

 

車に跳ねられたような衝撃で転がる血界に近づこうとした瞬間、いつのまにか脳無のすぐ横に来ていた爆豪は至近距離で顔を爆破した。

 

「死ねや!!脳ミソ野郎!!!」

 

しかし脳無の顔は僅かに火傷を負うだけで終わり、すぐさま治ってしまう。

左腕で爆豪の首を掴む脳無に、爆豪は両手で何度も叩きつけるように爆発を起こす。

 

「オラオラオラオラオラ!!!」

 

連続の爆発に普通の者なら、ひとたまりもないが脳無は平然としている。

 

「チィッ……!がっ……!?」

 

舌打ちをしさらに攻撃しようとするが腕に込める力が強まり、爆豪のの首を絞め、顔を覗き込む。

 

「かっちゃん!!」

 

「こ、の……やろ………!」

 

爆豪は諦めずに手を向けるがそれより先に脳無は首を放し、血界の方を向く。

 

「は……?」

 

(こいつ……俺を敵として見なかった!!?)

 

「ふざけんなアァァッ!!!!」

 

脅威にならないなら放っておけばいい。

脳無にそこまで考えることができるかわからないが、爆豪はプライドを傷つけられさらに激昂し、爆発を起こしながら飛びかかるが右腕の触手に叩き飛ばされてしまう。

 

「なるほど……」

 

「どうした?」

 

その光景を見ていた黒霧は納得したようにうなづき、死柄木が聞く。

 

「私はあの脳無は彼らを楽しみながら殺しているように見えるのです」

 

「楽しみながら…?先生が今の脳無は考えることができないって言ってたろうが」

 

「ですがあの脳無は一向に誰も殺さない。あの傷だらけの少年だって生きている。いつでも殺せるのに殺さないのは楽しんでいるのでしょう。まるで狩りをするかのように……」

 

轟が氷を出して攻撃をするが血の右腕が氷を切り裂き、その氷を轟に投げて攻撃できないようにし、真正面から攻撃する切島とフルカウル状態の緑谷、さらに蛙水も舌を伸ばし体に巻きつけることで動きを止めようとするが全く気にせず、血界に向かって進んでいく。

脳無は巻き付いていた蛙水の舌を引っ張り蛙水を緑谷たちにぶつけ、緑谷たちを吹き飛ばして退かす。

峰田は恐怖で体が動かない。

それを見た獣のような顔の脳無だが、その口は笑っているようにも見えた。

 

「ふーん……なんだよ。だいぶと愉快な奴じゃないか」

 

それを聞いた死柄木はさっきまでのイラついていた表情とは打って変わって愉快そうに笑みを浮かべる。

今の脳無は獲物に恐怖を与えて耐えきれなくなったところを殺そうとしている。

最も残酷な殺し方だ。

今の脳無はこの場にいる誰よりも『悪』だった。

 

 

触手によって吹き飛ばされた血界は視界が定まらないなか、なんとか立ち上がろうとするが力が入らず起き上がれない。

 

(体が……血を使い過ぎた……)

 

技の連続使用、それに加えて脳無の攻撃による流血により血界はもう限界だった。

そこに見下ろすかのように脳無がそばに立ち、流動している血の右腕を刃に変えて、ゆっくり振り上げる。

 

「GLULULU……」

 

(やばい……!)

 

逃げようとするが力が入らず逃げ出せない。

 

「血界くん!」

 

だれもが脳無の攻撃により動けない中、いち早く復活した緑谷はフルカウルを発動し、血界に向かって走るが距離がありすぎる。

脳無が振り下ろそうとした瞬間、脳無に向かって強烈な音波が放たれた。

 

「GLAAAAAaaaaa!!!!?」

 

その音波に当てられた脳無は激しく苦しみだし、右腕を形成していた血は元の液体に戻ってしまった。

 

「血界!大丈夫!?」

 

音波が放たれている先には耳郎が足のスピーカーにイヤホンを挿し、大音量の音波を流していた。

 

「耳郎さん!?」

 

「緑谷!ウチがアイツを抑えとくから血界をお願い!!」

 

「わ、わかった!」

 

緑谷はすぐさま血界を背負い、脳無から離れる。

 

「血界のやつ…!さっきよりボロボロになってるじゃん!!」

 

耳郎が一瞬目を離した隙に脳無は地面をえぐり、土塊を耳郎に向けて投げた。

 

「危なっ!?」

 

耳郎は間一髪で避けるが音波攻撃が止まってしまった。

脳無は頭を振り、耳郎に目を向ける。

 

「GUAOOOOO!!!」

 

脳無は牙をむき出しにして耳郎を睨む。

 

「やばっ…!」

 

耳郎は自分が狙われていることに気づき、逃げようとするが脳無はそれより早く耳郎に迫っていく。

 

「来んなって!!」

 

耳郎が音波攻撃をするが脳無は食らいながらも左右に避けて耳郎に近づいていく。

 

「まずい…!今度は耳郎さんが標的に……!」

 

「みど…りや……俺を…」

 

「血界くん!?」

 

どんどん距離を詰めてくる脳無に逃げることができない耳郎は焦り始める。

 

「耳郎ちゃん!逃げて!!」

 

「ちっぱい!逃げろォ!!」

 

蛙水と峰田が叫ぶが音波攻撃をやめたら一瞬で殺されてしまう。

他の皆も助けに行こうとするがさっきのたった一撃でまだ動くことが

できない。

耳郎と脳無の距離が10mも無いほどになり、耳郎が再び音波攻撃をすると脳無は大きくジャンプし、耳郎の背後に降り立つ。

 

「あっ……」

 

耳郎が振り返った瞬間には脳無は鋭利な爪を振り下ろそうとし、耳郎にはその光景がスローモーションに見えた。

自分はここで死んでしまうと思った瞬間横から誰かが飛び込んでくる姿が見えた。

 

(血界……!?)

 

血界は飛びつく形で耳郎押し倒し、脳無の爪を避ける。

転がるように避けた血界は痛む体に鞭を打ち、耳郎を腕の中に抱いて拳を握る。

 

「ブレングリード流血闘術……!!」

 

避けた2人に迫り来る脳無に向かって拳を振るうのではなく、アッパーのように下から上に向かって拳を振るう。

 

 

36式 串刺十字剣

 

 

地面から血の十字状の剣が現れ、脳無を串刺しにして拘束する。

明らかに致命傷のところに当たっているが脳無は傷が広がろうが御構い無しに血界たちに腕を伸ばす。

 

「轟ィッ!!」

 

血界が轟の名を叫ぶと横から脳無を覆うように氷が放たれ、また脳無を閉じ込めた。

 

 

脳無を閉じ込めた様子を見ていた死柄木はただ何もせずに脳無たちとの戦いを見ていた。

 

「死柄木……今回は何もしなくていいのですか?」

 

「何もってなぁ。今あのガキどもに近づけば俺たちだってどうなるかわかんねぇ。ここで大人しくあのガキどもが殺されるところを見とくのが一番さ」

 

「死柄木……」

 

少しは成長したのか、無鉄砲な考えをしないことに黒霧は少し感動してしまう。

 

「それに……」

 

「それに?

 

死柄木はさっきより笑みを深くし脳無を見つめる。

 

「俺は楽しみなんだよ。あの脳無が人を殺すのを見れるのが」

 

 

脳無を閉じ込めたからといって全く状況は好転していない。

すぐに脳無は氷を破壊して、また襲ってくる。

血界は耳郎に肩を貸してもらい、皆が一旦集まったところに集まる。

 

「早く逃げようぜ!このままじゃ皆んな死んじまう!!」

 

「だからお前だけ逃げとけって言ってんだろうが!クソ葡萄!!」

 

「お前も簡単にあしらわれただろうが!!挑むより逃げたほうがまだ助かる可能性だってあるだろ!?」

 

峰田の言葉に爆豪は言い返せない。

簡単にあしらわれたのは事実だ。

だが、この場から逃げるのはハッキリ言って不可能だ。

重傷者が2人もいて、皆も少なからず怪我をしている。

怪我がないのは耳郎と峰田だけだ。

そうこう話しているうちに氷が割れる音が響く。

戦っても死、逃げても死……

何人かの心の中ではもはや諦めの2文字が出始める。

その時重傷の血界が口を開く。

 

「『光に向かって一歩でも進もうとしている限り人間の魂が真に敗北する事など断じて無い』……俺の父さんの言葉だ」

 

突然の言葉に全員が何も言えない。

 

「まだあの化け物を倒す手はある」

 

血界は自信有り気にそう言うが、峰田は否定的な態度で言い返す。

 

「お前の技は効いてないだろ!何度やっても!全然効いてねぇじゃんか!!」

 

確かに今まで血界の攻撃は傷はつけるがそれだけ。

ダメージにはなっていない。

全員の攻撃もそうだ。

唯一効いているの耳郎の音波攻撃くらいだ。

 

「頼む。俺を信じてくれ」

 

それでも血界の目にはは一切の曇りがない。

峰田もその目を見て、泣きそうになりながらも何も言わなくなった。

 

「考えがある」

 

一筋の光が見えた。



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File.13 卵たちの必勝作戦

一軒家のリビングで髪の色が血のように紅い親子が一緒に古びた皮用紙の分厚い本を見ていた。

 

「これはわかるかい?」

 

父親は本に書いてある言葉を指す。

 

「わかるよ!111しき くろいつべるにくとらんちぇでしょ!」

 

「少し発音が違うが合ってはいる」

 

「だってむずかしいし……」

 

子供は少し拗ねたような表情をすると父親は子供の頭を撫でる。

 

「いつか言えるようになるさ」

 

父親は優しい表情で撫でるが、真剣な顔になって子供に話しかける。

 

「この数々の技は本来人に使ってはいけない技なんだ」

 

「でも父さんはつかってるじゃん」

 

「あれは人に使っても大丈夫なように抑えているんだ。本来コレは『人以外』に使うものだからね」

 

「ヒトいがい?」

 

「いずれ分かる」

 

父親は本の最後のページを開く。

 

「だが力を抑えたとしても使ってはいけない技がいくつかある。これはその一つ」

 

父親は子供に見せると子供はまじまじとそのページを見る。

まるでその一瞬で覚えようとしているかのように。

 

「しかし、もし大切な人を守ろうとした時は自分の心に従えばいい。私も……そうした」

 

父親は懐かしむようにリビングに飾ってあった自分と赤ん坊を抱いて幸せそうに笑う女性との写真を見る。

 

「そのわざのなまえは?」

 

「その技の名は………」

 

 

血界から作戦を伝えられた全員は配置につき準備をする。

準備が終わったのと同時に脳無は氷から抜け出し、真っ直ぐに血界と耳郎に向かって四つん這いで走ってくる。

 

「頼むぞ轟!」

 

「フッ……!」

 

最初は氷塊を投げられ足を怪我した轟が切島に支えられながら、斜めから最大限の氷を脳無に向かって放つ。

脳無は迫ってくる氷を殴り、引っ掻き、壊していく。

 

「いくよ……!」

 

そして耳郎が大音量のスピーカーで脳無を動きを麻痺させるが、さっきの二の舞いにならないように音波をかわしながら移動し、直撃を避けている。

耳郎の後ろには片腕が青く腫れ上がっている爆豪と緑谷、峰田、さらにその後ろには血界、蛙水と気絶している相澤が待機している。

 

「大丈夫なのかよこの作戦……」

 

「今は少しでも可能性がある方に賭けるしかないよ。かっちゃん準備は?」

 

「うるせェ!もうできとるわ!!」

 

不安そうにしている峰田に緑谷がフォローし、爆豪に確認するが爆豪は他人の作戦に使われるのが嫌なのかイライラしていた。

 

「でも驚きだよ。かっちゃんが血界くんの作戦になってくれるなんて……」

 

「ハンッ!今はあの化け物をブッ殺すのが先だろうが。そのあとあのツリ目野郎もブッ殺す!」

 

「ハハ……かっちゃんらしい」

 

緑谷は乾いた笑いを出すが、爆豪自身もあの化け物に単身で勝つのは無理だとわかっていたのだ。

それが彼自身苛立ちの要因の一つである。

 

「血界ちゃん……うまく行くかしら?」

 

「うまく行くかじゃない……上手くやるしかないんだ」

 

「それでも失敗したら血界ちゃんが真っ先に死んじゃうわ!」

 

蛙水が普段あまり表情が変わらないのに今は不安だと分かるほど眉を潜めている。

 

「俺だって死ぬのは怖い……だけどそれ以上に怖いのは耳郎や梅雨ちゃんや緑谷たちや俺の大切な人が死ぬのを見ることなんだ。俺は大切な人を守るためなら何だってできる。だから必ず成功させる…………大丈夫!俺を信じてくれ」

 

血界の曇りのない目を見て蛙水は少し不安が和らぐ。

 

「ええ、わかったわ。血界ちゃんを信じるわ………だけどなんでもって言ったけど死なないでね。私も耳郎ちゃんも、もちろん緑谷ちゃんたちも悲しむわ」

 

「ははっ、爆豪もか?」

 

「それは……どうかしら?」

 

少し冗談を言えるくらいまで不安が消えた蛙水を見て、血界も安心する。

 

「わかった、死なないよ。だから耳郎のこと頼む」

 

「ええ」

 

真剣な表情で頼む血界に蛙水も気を引き締める。

それと同時に氷が砕ける音が響く。

 

「始めるか」

 

血界は拳を顔の前に持ってきて左手でナックルガードを持つ右腕を支える。

 

「憎しみ給え……」

 

脳無が辺りに氷の破片を撒き散らし轟の邪魔をするが切島が氷塊を砕く。

しかしその隙に脳無は耳郎に近づいていく。

 

「させねぇ!!」

 

轟は今日一番のスピードで氷を放ち、脳無の足を捕らえる。

 

「許し給え……」

 

血界の全身から拳に血が集まっていく。

脳無は凍った足を自ら破壊し、片足で耳郎に近づく。

 

「梅雨ちゃん!」

 

「ケロォッ!!」

 

耳郎が蛙水を呼び、蛙水は舌を伸ばし耳郎に巻きつけ渾身の力で自分のところに引っ張る。

 

「諦め給え……」

 

耳郎は蛙水に抱き受け止められ、その後ろに立っていた爆豪が籠手付いている腕を脳無に向け、ピンを抜き溜めに溜めた最大火力を脳無に浴びせる。

 

「人界を守るがために行う……」

 

片足がなくなった脳無は態勢を崩れながら爆発を受け態勢が崩れこける。

 

「うらああぁぁぁぁッ!!!喰らいやがれェ!!!」

 

すぐさま峰田が自分の個性である『もぎもぎ』である粘着性の髪を頭から血が出るまで脳無に向かって投げる。

 

「我が蛮行を……!」

 

血界の詠唱が終わるのと同時にナックルガードは一つの星のように紅い輝きを放つ。

緑谷は爆豪と峰田を抱え、後ろに走る。

それと交代するかのように血界は前に出て、拳を振りかぶる。

脳無が攻撃しようと動こうとするが、峰田のもぎもぎが体のあっちこっちにくっついて四つん這いの状態で動けない。

 

「これで……!っ!?」

 

血界が終わりだと言おうとした瞬間、横から脳無の刃のついた血の触手が迫ってきていた。

なくなった足から生えてきたのだ

 

(まずっ……!)

 

回避するのが間に合わない、当たると思った瞬間触手は元の液体状に戻った。

 

「!?」

 

驚く脳無が目にしたのは横になり苦しそうにしながらもこちらを睨む相澤の姿だった。

 

「いけぇっ!」

 

「頼む!」

 

「やっちまえぇ!」

 

「血界くん!」

 

「ぶちかませ!」

 

「血界ちゃん!」

 

「血界!」

 

全員が血界に声をかけ、血界は拳を脳無の額にぶつける。

 

「ブレングリード流血闘術……!!!」

 

ナックルガードから血が脳無に打ち込まれる。

 

 

999式 久遠封縛獄

 

 

脳無の体から血が溢れ出て体を覆っていき、体を十字架に磔にするように拘束されその体を圧縮されていく。

 

「GLUAAAAAA!!?」

 

「汝を……封縛する!」

 

凄まじい衝撃とともに脳無は圧縮され、手のひらサイズの十字架になり地面に落ちた。

一瞬の静寂が広まるが、峰田が次第に震え出し歓喜の声を上げた。

 

「やったあああぁぁぁぁッ!!!倒したぞぉぉぉ!!!」

 

その言葉に全員がやりきった顔になる。

全員が安心した顔になり、互いを労わりあう。

爆豪は相変わらず、ツンケンしていたが……。

耳郎も脳無を封縛した後、棒立ちになっている血界に近づく。

 

「何やってんのさ。今日一番の功績者でしょ」

 

耳郎が血界の肩を軽く叩くと体がフラつき倒れてしまった。

 

「え……ちょっ…血界!?」

 

倒れた血界に慌てた耳郎は側にしゃがみこみ、容態を見る。

気絶しているようだが、顔が死人のように青くなっている。

 

「耳郎ちゃん!どうしたの?」

 

「わからない!肩を軽く叩いたら倒れちゃって……!」

 

慌てる耳郎と倒れた血界に集まる面々が心配そうに血界を見る中、爆豪と轟はまだ警戒を解いてなかった。

2人の目の先には苛立ちを爆発させている死柄木の姿があった。

 

「なんで倒されたんだよ!!ただの餓鬼どもだろうが!!まだオールマイトにすら会ってないんだぞ!!」

 

「あの技はまさか……!!」

 

死柄木は首を激しく掻きその苛立ちを露わにし、黒霧はさっきの血界の技を見て何かを思い出した様子だ。

 

「どうする?今なら逃げられるぞ」

 

「ハッ!逃げたきゃお前らでけでも逃げてろ雑魚が。俺はアイツらをブッ殺す!!」

 

怪我をしている2人だがその闘志はまだ消えておらず、いつでも戦えるようだ。

 

「黒霧ィッ!あの餓鬼どもを殺すぞ!!」

 

「はい!あの少年は生かしておいては我々の計画に邪魔です!」

 

黒霧が一気に広がり血界たちを囲い、逃げ場がないようにする。

 

「!!」

 

すると血界から一番近い黒霧から死柄木の半身だけが飛び出し、血界に触れようとする。

突然のことに反応が遅れてしまい、誰も血界を守れない。

死柄木が触れそうになったその瞬間……

 

「SMASH!!!!!」

 

その声とともに凄まじい風が巻き起こり、黒霧を押し戻し死柄木も吹き飛ばされてしまう。

 

「お、お……」

 

「オールマイトォォッ!!!」

 

その風を巻き起こしたのは平和の象徴、オールマイト。

彼は怒りの表情で死柄木たちを睨む。

 

「遅くなってすまない。皆んな!!」

 

オールマイトは傷ついた生徒たち、倒れている血界と相澤を見て更に怒りが溢れ出る。

 

「よくもやってくれたなヴィランども……!!覚悟しろ!!!」

 

オールマイトが死柄木たちを睨むとそれだけで死柄木は後ずさりしてしまう。

 

「おおっ……!?これがNo.1ヒーローの……」

 

「何という気迫……!」

 

「黒霧逃げるぞ……今回は想定外のことが起きすぎた。武器もねぇのにラスボスと戦うなんて自殺行為だ」

 

黒霧は死柄木を包み込むように広がる。

 

「逃げるのか!?」

 

「ああ、逃げるよオールマイト。今度はもっと強い武器を持ってくるよ。…………それと赤髪の餓鬼……!お前は忘れないからな……!」

 

死柄木は倒れている血界に向かって睨むが耳郎がそれから守るように血界を庇う。

やがて死柄木と黒霧は消えていった。

 

 

その後、尾白となんとか外に出れた飯田は先生方を連れて、ヴィランの残党を倒し、生徒たちの安全を確保した。

 

「なんてこった……これだけ派手に侵入されて逃げられちまうとは……」

 

「完全に虚をつかれたね……それより今は生徒らの安否さ」

 

校長の根津が先生たちに指示を出す。

やがて警察と救急が来て重傷の相澤、13号、血界は運ばれていったが

その時皆は不安そうな顔をしていた。

USJにいたヴィランは全て捕まり、とりあえずは事態は収まった。

その後、オールマイトは指を骨折したがリカバリーガールによって治療してもらった緑谷を応接室に呼んだ。

 

「失礼します」

 

「来たか。今日は大変だったな」

 

オールマイトはトゥルーフォームの状態で緑谷を労わる。

 

「いえ……あの血界君たちは?」

 

「轟少年、爆豪少年はリカバリーガールに治療してもらってもう安心だ。相澤君は顔に後遺症が残るそうだが今までと変わらず活動ができるらしい。13号君も相澤君ほどでもないが2人とも入院している。ラインヘルツ少年だが……」

 

オールマイトが言いにくそうにしているが正直に話す。

 

「全身の骨が骨折またはヒビが入っていて、複数箇所の裂傷も激しい。そして極め付けは全身の血が失血死寸前までなかったらしい。すぐに集中治療室に運ばれたよ」

 

「そんな……!」

 

「もし回復したとしてもこれから普通の生活を送れるかどうか……」

 

オールマイトが悲痛な顔でそう告げる。

緑谷も悲痛な顔になって俯く。

重い空気の中応接室に誰かが入ってきた。

 

「オールマイト、ここにいたのか。なんだか重い空気だが……」

 

「塚内くん!来てくれたのか」

 

「お、オールマイト!いいんですか!?姿が!!」

 

「ああ!大丈夫さ!彼は警察の中で最も仲が良い友人の塚内直正くんだ。もちろん私のことも知っている」

 

塚内は緑谷を見つけると話しかけた。

 

「ちょうどよかった。生徒に事情を聞きたかったんだ。君は……」

 

「緑谷です。緑谷出久」

 

「緑谷くん。これについて少し教えて欲しくてね」

 

塚内は懐から写真を一枚取り出し、緑谷に見せる。

それは血界が脳無を封じ込めた十字架が写されていた。

 

「これは……血界くんが技を使って脳無を封じ込めた物です。確か技名は……え、えーびひ?」

 

「久遠棺封縛獄(エーヴィヒカイトゲフェングニス)」

 

緑谷が思い出そうとするとオールマイトが横から答える。

 

「あ、それです。あれ?なんでオールマイトが……」

 

「やはりか……名前を見てまさかと思ったが彼の血縁者か」

 

「息子だよ。昔赤ん坊のラインヘルツ少年を抱っこしたことがある」

 

塚内とオールマイトが2人で話を進めていくが緑谷が待ったをかける。

 

「まっ、待ってください!オールマイトと塚内さんは血界くんのことを知っているんですか!?」

 

「ああ。彼の父親は元プロヒーロー……昔私と共に仕事もしたことがある友人だった」

 

オールマイトは懐かしむようにそう言った。

 

 

どこかの暗いバーに黒霧の渦が広がり、そこから死柄木が現れる。

2人はほぼ無傷だが兵隊を失い、最大の戦力だった脳無を失った。

事実上の敗北だった。

死柄木は黒霧から出ると椅子を蹴飛ばし、苛つきをぶつけた。

 

『どうやら失敗に終わったようだね』

 

テレビから音声だけが流れ、闇のそこから聞こえてくる邪悪な声が聞こえる。

 

「先生……なんだあの脳無は?途中で暴走しやがって……予定が全部オジャンだ。オールマイトとすら戦えなかった」

 

『暴走?どう暴走したんじゃ?』

 

テレビからもう1人、少し年老いた声が流れる。

 

「赤髪の餓鬼の血を舐めた途端姿が変わりやがった」

 

「意思みたいなものもあるように見えました。まるで殺しを楽しんでいるかのような」

 

それを聞いた先生と呼ばれた人物は突然笑い声を上げた。

 

『ハハハッ!そうか!暴走したのか!!』

 

「何が可笑しい……?」

 

死柄木はテレビの声に苛立ち、睨む。

 

『いや、すまない弔……失敗したことに笑ったのではなく、暴走したことに嬉しくてね』

 

「同じことだろうが……!!不良品なんて使わせやがって……」

 

『弔、今回の失敗は決して無駄じゃなかった。次は精鋭を集めよう!時間をかけて!死柄木弔!次こそは君という恐怖を世に知らしめよう!!』

 

テレビの回線はそれだけを言うと切れてしまった。

そのテレビの回線先では声の主である男が身体中にチューブを繋げている異様な姿だが楽しそうに笑っていた。

 

「クククッ……あの脳無が暴走したか……それは良いことを聞いた。彼に知らせないとな」

 

「嬉しそうじゃな」

 

「そりゃそうさドクター!久しぶりに友人に朗報を知らせることができるんだからね!」

 

男は口を三日月のように歪め嗤う。

 

「さぁオールマイト……『闇』が動き出すぞ」

 



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File.14 少女の決意

敵連合の襲撃の翌日は臨時休校となり、その翌日に通常の授業が開かれた。

皆が気が休まらないなか朝のホームルームの時間となる。

 

「皆ーー!!朝のホームルームが始まる!席につけーー!!」

 

「ついてるよ。ついてねーのおめーだけだ」

 

いつものように委員長として振る舞う飯田に瀬呂がツッコむ。

いつものような光景だが耳郎は後ろを振り向き、八百万の後ろの席が空いているのを見て不安そうな表情になる。

 

「お早う」

 

「相澤先生復帰早えーー!!」

 

チャイムと同時に現れたのは包帯をグルグル巻きになった相澤だ。

 

「動けるのね。よかったわ」

 

「あんだけボロボロにされて動けるとか……」

 

「てか、包帯の量やばくね?」

 

相澤の状態を生徒たちは見て口々に感想を言うと、相澤は少し鬱陶しそうにする。

 

「バァさんが大袈裟すぎなんだ……俺のことはどうでもいい。まだ戦いは終わっていない」

 

突然の相澤の雰囲気の変わりように全員が背筋を伸ばす。

 

「戦いが終わってないって……」

 

「まだヴィランがー!!?」

 

峰田が恐れた声でそう叫び、全員に緊張が走る。

相澤は一呼吸置き真剣な目で告げる。

 

「雄英体育祭が迫ってる!」

 

『クソ学校っぽいの来たあああ!!』

 

 

相澤から雄英体育祭の重要性、体育祭では全国のプロヒーローが見ており、それによってスカウトされたりするのだ。

有名なヒーローにアピールできる場であり、まさにヒーローを志すなら絶対に外せないイベントなのだ。

そして相澤の連絡事項が終わり1限目に入ろうとする前に耳郎が教室から出て行く相澤に話しかけた。

 

「あの先生、少しいいですか?」

 

「どうした?」

 

「血界……容態どうなんですか?」

 

「ラインヘルツは今ブラッドベリ総合病院に入院している。アイツは俺より重傷だったらしい」

 

それを聞いた耳郎は不安そうな顔をし、相澤は包帯の間から見える目から生徒を守れなかった自分に悔しそうだとわかった。

 

「見舞いに行ってもいいが行くなら少数にしておけ、他の迷惑になる」

 

相澤の話を聞いていた他の生徒たちに聞こえるように注意し、教室を出ていった。

 

「響香さん。大丈夫ですか?」

 

「ヤオモモ……うん、大丈夫」

 

八百万が心配して耳郎に声をかけ、耳郎は大丈夫だと言うが声のトーンは低く、落ち込んでいる様子だった。

 

「でも血界のやつ本当に大丈夫なのかよ?あんなにボロボロになってたしよう」

 

「峰田ちゃん。空気読みましょ」

 

峰田がさらに不安になるようなことを言ったので蛙水が舌で殴って黙らせる。

皆が血界が入院していることに黙ってしまい暗い雰囲気が流れる。

特に血界と一緒に戦った者たちはそれが顕著で、爆豪でさえも面白くなさそうにしていた。

そこで委員長である飯田が皆に呼びかける。

 

「皆!入院している血界くんにお見舞いの品を送るのはどうだろうか!?」

 

大きな声で皆に聞こえるように提案する。

皆もそれに賛成し1人500円程度のお金を集め(爆豪も知らないうちに出した)、耳郎に渡した。

 

「飯田。これって……」

 

「本当はクラスの皆で行くのが一番いいのだが相澤先生の言う通り病院の方々に迷惑になってしまう。本来は委員長である俺が行くべきだが、気心知れている耳郎くんが行った方がいいと思う。だから代表として行ってきてくれまいか?」

 

「……ありがとう」

 

「クラスメイトが入院しているんだ。当然さ!」

 

飯田は耳郎を気遣っての提案に耳郎は皆に礼を言った。

 

 

放課後、耳郎は足早に血界が入院している病院に向かい皆が帰り支度しながら体育祭の話をしているとふと朝の出来事を思い出した。

 

「でも耳郎って意外だよなぁ」

 

「何がだ?」

 

上鳴がそう呟くと切島が尋ねる。

 

「いやさ、耳郎って結構さばさばしてるっていうかクールっていうか……そんな感じだったからさ。血界が入院したってなってアイツあんな落ち込むとは思わなかった」

 

上鳴は耳郎と隣の席なのでそれなりに話す仲だったので耳郎のあの一面は意外だったのだろう。

 

「この前、響香ちゃんと話すことがあったのだけど耳郎ちゃんがヒーローを目指す理由が血界ちゃんらしいのよ」

 

蛙水はこの前の女子だけのお茶会で耳郎と話していたことを思い出していた。

 

『ウチさ、中学の時に血界に何度も助けられているんだよね。こんな性格だから敵も作りやすかったし。そんなウチを助けてくれた血界の姿を見てきたからウチもヒーローになろうと思ったんだ』

 

それを聞いていた緑谷も耳郎の不安になる気持ちがわかった。

 

(僕にとってオールマイトがそうだったように、耳郎さんにとっては血界くんがヒーローだったんだ)

 

自分ももし自分をヒーローになれると信じてくれたオールマイトが重傷になったりすると心配になるのがわかった。

 

(血界くん元気だといいな……)

 

緑谷は夕焼けになった空を見ながら血界の無事を祈った。

 

 

耳郎はスマホの地図を見ながら血界が入院している病院の前に着いた。

 

「ここがブラッドベリ総合病院……」

 

耳郎は都心からだいぶと離れた所に来ており、彼女の目の先には大きな病院が建っているが草木が生い茂り、夕暮れ時で薄暗くどこかホラーに出てくる心霊病院を思い起こさせた。

 

「………」

 

ホラー系が全般的に苦手な耳郎にとっては出来るだけ踏み込みたくない場所だが血界に会うために病院の敷地内に一歩踏み込むと同時にカラスが数匹鳴き声を上げながら飛び立った。

 

「ひいっ!」

 

普段の彼女からは想像もつかないほど女の子らしい悲鳴をあげてその場にしゃがみ込んでしまう。

すると彼女の後ろから手が伸び彼女の肩を叩いた。

 

「あの……」

 

「うわああぁっ!」

 

また驚いた耳郎が若干涙目になりながら後ろを向くとそこには高垣 楓がキョトンとした表情で立っていた。

 

「あ、ごめんない!」

 

「いえ、大丈夫ですよ」

 

恥ずかしいところを見られた耳郎は顔を赤くして楓に謝る。

楓は怒っておらず耳郎の様子を見て微笑ましいそうにしている。

互いに自己紹介をするが耳郎は一方的にテレビでは見ない日がないくらいの日本のトップアイドルである高垣を知っている。

 

(この人、高垣 楓さんだ……綺麗……)

 

どこか現実離れしたその美しさに耳郎は息を飲む。

 

「耳郎さんは誰かのお見舞いに来たの?」

 

「は、はい……高垣さんもですか?」

 

「ええ、手のかかる弟みたいな子なの」

 

そういう彼女は楽しそうに微笑むが、少し悲しそうに眉をひそめる。

 

「だけど、ときどき無茶をしすぎる時があるから見てて心配になるの……大丈夫って言うけどいっつも傷ついてくる。私が何を言っても走って行ってしまう」

 

楓の言葉を聞いていると自分も血界のことをそういう風に思っているためよくわかった。

 

「ごめんなさいね。愚痴みたいになってしまって」

 

「いえ、ウチ…私の友達もそうですから」

 

「フフッ、お互い大変ね」

 

「はい」

 

会ってすぐなのに何故か耳郎は楓に心を許しており、自分の不安なことを話していた。

 

「ウチの友達も強いんですけどいつもボロボロになって戻ってきて、心配なんです。どこか手の届かないところに行きそうで」

 

「耳郎さんはその子のことが大切なのね」

 

「………はい」

 

耳郎は少し照れながらそう答える。

 

「私なら大切な人がどこか手の届かないところに行きそうなら、走って追いかけて、手を掴むわ。ダッシュして奪取する……フフッ」

 

「へ?いや、物理的なことじゃなくて」

 

突然ダジャレを混ぜてきた楓に一瞬呆然としてしまう。

 

「変わらないわ。遠いところに行くなら迎えにいけばいいの。こっちから行ってあげないと無茶する人ってわからないものなのよ」

 

楓にそう言われ耳郎は何故かストンと納得できた。

するとさっきまで血界のことなどがあって苦しかった心が楽になっている。

耳郎自身、自分の実力が血界に追いついていないことなど百も承知だが、どうせればいいのかわからなかった。

それを大人である楓が指し示してくれたお陰でそれがはっきりと見えたり

 

「そう……ですね。ありがとうございま。ウチやってみます」

 

「うん。よかったわ」

 

耳郎のやる気に満ちた顔でそう告げ、楓も嬉しそうだった。

 

 

病院に入ると待合室には多くの人がおり、入院患者なのか怪我をして包帯など巻いている人たちも多くいた。

 

「それじゃあ、私は先に先生に用があるから、これで」

 

「はい……あの、今日はありがとうございました!」

 

楓のは笑顔で手を振って耳郎と別れ、やたらとガタイが良い看護婦に血界が入院している部屋の前に立つ。

 

(今の血界がどんな状態でもウチはウチが目指すべきところが見えた。今はそれを血界に伝えよう!)

 

耳郎が扉を開けるとそこには多くのチューブに繋がれた昏睡状態の痛々しい血界の姿が……ではなく、上半身ハダカで丁度下を着替えようとして、半ケツ状態の血界が後ろで扉が開くのに気づき振り向いていた姿だった。

しばし2人の間に沈黙が流れ、耳郎の顔が段々と赤くなっていく。

 

「きゃああああぁぁぁぁっ!!!?」

 

「うおおぅっ!?」

 

「うるさいですよ!!病院では静かに!!」

 

 

その後、ガタイの良い看護婦さんにこってり絞られた血界と耳郎は、血界がベットに座り、耳郎がすぐ横で丸イスに座っていた。

 

「いやー見舞いに来てくれるなら連絡してくれればよかったのに……

あの看護婦さんめっちゃ怖いんだよ」

 

「う、うん……そう……」

 

血界はいつもの調子で話しかけるが耳郎はさっきの光景を思い出して、顔を赤くしていた。

熱くなった顔を元に戻し、血界に真剣な顔で話しかける。

 

「ね、血界。聞きたいことがあるんだ」

 

「なんだ?」

 

「なんで血界はいっつも無茶すんの?」

 

それを聞かれた血界は少し困った表情になる。

 

「中学の時も、USJの時も血界は自分から向かって行って、ボロボロになって帰ってきた」

 

「それは……「男にはやらなきゃいけないときがある」……」

 

「でしょ?中学の時も言ってたし」

 

耳郎が出会う切っ掛けとなった時に言われた言葉を耳郎は忘れてはいなかった。

 

「だけどウチは傷だらけになってくる血界を見るのはイヤ。心配になるし」

 

「………悪い」

 

血界はバツが悪そうにする。

 

「謝っても血界は多分止まらないよね?」

 

「………」

 

血界は何も答えないがそれは肯定とじろうは捉えた。

そして今回最も言いたいことを言う。

 

「だから!……ウチが血界を守る」

 

「は……?」

 

「血界が傷つかないように、血界を守れるようにウチが強くなる」

 

大切な人に憧れて、ヒーローを目指した。

次は大切な人を守れるようなヒーローになるために強くなる。

 

「ウチ決めたから」

 

「え?は?訳がわからないだけど……」

 

「そういうこと…ってだけ言いたかったの」

 

「は、はぁ……そうか」

 

耳郎が血界を守りたいと思う理由は自分でも理解している。

しかし、血界はその理由に気づくことがないと耳郎も理解している。

いつかは気づいて欲しいとも思うが、今はこれだけ言えればよかった。

 

「それより何であんなにボロボロだったのにもう治ったの?リカバリーガールのおかげ?」

 

「ここの医者のおかげだ。めちゃくちゃ腕かいいんだぜ」

 

耳郎は話を変えると、それと同時に病室の扉が開かれた。

 

「検診の時間ですよー」

 

現れたのはガタイの良い看護婦と小学生くらいの黒髪短髪のメガネをかけた女の子だった。

 

「え?女の子?」

 

「む?アナタ、私のこと馬鹿にしたでしょ?」

 

「え、いや、ちょっと驚いちゃって……」

 

「耳郎、その人が俺が言ってた腕のいい医者」

 

「ええ!?」

 

どう見ても子供にしか見えないのに医者だということに驚く。

 

「やっぱり馬鹿にしてるじゃない!」

 

「先生、ここは病院です。お静かに……」

 

「わかってるわ。それじゃお薬を打ちますね」

 

「なあ、先生。俺もどこも痛くないから退院してもいいだろ?体が鈍って仕方ないよ」

 

「何言ってるのよ!アナタ血が失血死寸前までなくなっていたのよ!?逆に何でそんなに回復が早いのよ……」

 

先生が呆れたように言うのを聞いた耳郎はやはりあの時血界は死ぬ寸前だったのかと、思い出す背筋が冷たくなった。

そうならないように強くなろうと改めて気合を入れると横で看護婦が準備が終わり、用具を先生に渡した。

 

「それじゃお注射しますねー」

 

そう言って先生が構えたのは抱えるほどの大きさもある巨大な注射器だった。

 

「はぁっ!?そんな打たれたら死んじまう!!」

 

「大丈夫よー、最初だけブスッとするだけだから」

 

「擬音が違う!!」

 

血界が慌てて逃げようとするとその手を掴んだのは2人に増えた先生だった。

 

「2人に増えた!?」

 

「こら!逃げないの!」

 

それでも逃げようとする血界に更に先生の数は1人2人と増えていく。

彼女、ルシアナ・エステヴェスの個性は『幻界剥離』、自身を幻の世界に追いやり自分自身が幻のような存在になる個性だ。

これはそれの応用で幻で複数人に増えているのだ。

ルシアナが7〜8人になっても逃げようとする。

 

「メジェナ!手伝って!」

 

ルシアナの1人がガタイの良い看護婦メジェナに言うとため息を吐いた。

 

「先生……相手は患者なんですよ。あまり乱暴にしてはいけません。優しく……フンッ!!」

 

突然メジェナの腕部分の服が膨張した筋肉によって弾け飛び、体がふた回りも大きくなった。

 

「包み込んであげないと……」

 

メジェナ・パーキンソンの個性『ラブマッスル』は相手に愛おしさを抱くとその相手に対して筋肉が膨張する個性である。

 

「いや、包み込んでるっていうか鯖折りィィッ!!」

 

「ナイスだわメジェナ!そのままにして!お尻に刺すから!」

 

「ちょっと!どこに刺そうとしてるんですか!!」

 

流石の耳郎も助けに入り、てんやわんやになってしまう。

すると病室の扉がまた開かれた。

 

「チーくん〜お見舞いに来ましたよー……ってあら?耳郎さん?」

 

「えぇっ!?楓さん!?ってことは弟みたいな子って血界のこと!?」

 

「耳郎さんが言ってた大切な人って……あらあら?」

 

「今はそんなこと良いから助けてくれェェ!!アッーーー!!!」

 

その時ブラッドベリ総合病院中に血界の叫び声が響いた。

 



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File.15 Everyday 2nd

明けましておめでとうございます。
今後とも他の2作とともによろしくお願いします。


『戦後報告』

 

雄英の会議室では雄英の教師でありプロヒーローでもある先生たちがUSJ襲撃について、警察から送られた塚内と話し合っていた。

 

「捕まえられたヴィランたちは殆どがチンピラ同然の奴ら、力を持て余した者たちだった」

 

「あの死柄木とか言う奴らは?」

 

「20〜30代の個性登録者で『崩壊』、『ワープ』を調べてみたが該当する者はいなかった」

 

「個性の無登録者?」

 

「ワープなんて個性はレア中のレアなのにな」

 

全員が唸るような声を出す。

 

「死柄木については?」

 

「生徒たちからの証言で人を殺す時もゲームだなんだと言う傾向があり、思う通りにいかないと癇癪したように暴言を吐く。簡単に言えば子供のまま大きくなった子供大人だな」

 

「子供大人か………」

 

「小学生の時に個性カウンセリング受けてないのかしら?」

 

皆が色々言う中、トゥルーフォームのオールマイトが真剣な表情で話し出す。

 

「子供のように純粋であるならばその純粋さは悪により磨きをかけ、周りの悪意を引きつける。今回のようなチンピラだけだったから良かったものの、もし更に強大な悪を引きつけるようになったら……」

 

オールマイトの言葉に全員が真剣な表情なってその話を聞く。

 

「そうならないようにも今後は更に警備を固める。体育祭にも全国からヒーローを呼んでガードしてもらう予定さ」

 

根津の提案に誰も否定はしない。

そうしなければいけないと全員がわかっているのだ。

 

「それとあの脳無のことだが……」

 

「ああ、血界・V・ラインヘルツが施した拘束は24時間後には消え、脳無は元の状態だった。ただ……生徒たちが言っていた凶暴性は全く見られず何を話しかけても反応がない。まるで人形のようだ」

 

血界が脳無に施した技 久遠棺封縛獄はきっかり24時間で解けてしまい、今は刑務所で身柄を拘束されている。

塚内がそれを見届けている時、一緒に見届けていた彼の先輩はこう言った。

 

『アレ本来の使い方をしていないから途中で拘束が解けた。アレは本来人間に使うもんじゃない。まぁ、アレが人間かどうかわからないけどな!!』

 

そう言って豪快に笑う先輩の言葉を塚内は思い返していた。

 

「ともかく雄英がヴィランに襲撃されたことは覆しようがない事実だ。それを重く受け止め、次がないように行動することがボク達ができる最善の手さ。みんなも気を引き締めて欲しい」

 

『はい!』

 

根津の言葉に教師一同は次こそは守ってみせるという気概で返事をした。

会議が終わり、根津が校長室に戻ろうと廊下を歩いていると誰もいないのに突然話し出した。

 

「今回は生徒が数名傷つき、プロヒーローでもある教師も無事でなかった。更に脳無という化け物……あの特徴は『アレ』らと同じだ。君にも動いてもらうことがあるかもしれない。その時は頼むよ。皇君」

 

根津そう言うとまるで霧が現れるかのように半透明のチェイン・皇の姿が現れ、うなづくと最初からそこにいなかったかのように消えていった。

 

 

『お見舞いpart2』

 

耳郎が1人で血界のお見舞いに行った次の日、今度は複数人でお見舞いに来ることになり、普段からよく話す蛙水、八百万、血界のおかげで個性の使用に幅が増えヴィラン襲撃の際に何度も助けてもらい何かと恩を感じている緑谷、そして共に戦った切島と峰田も来てくれた。

 

「ありがとうな、来てくれて」

 

「よかったですわ。酷い怪我とお聞きしてましたがもう全快してますのね」

 

「本当によかったわ。あの時死んじゃったのかと思って響香ちゃんすごく取り乱していたもの」

 

「ちょっ……!梅雨ちゃん!それは言わないで……!」

 

「無事でよかったぜ血界!!」

 

「なあ、エロい看護士いたか?」

 

「怪我が治ってよかったよ。これなら体育祭にも間に合いそうだね」

 

緑谷が何気に話した言葉に血界が反応した。

 

「体育祭……?」

 

「あれ?知らないの?耳郎さんから聞いていると思ったけど……」

 

「あっ……」

 

耳郎は失敗したといった顔をして冷や汗を流す。

 

「おい……」

 

「いや、今日言おうと思ってたんだって」

 

「体育祭って重要なことだろうが!!いつあるんだ!?」

 

「えっと……あと6日?」

 

「すぐじゃねぇか!こうしちゃいられねえ!」

 

血界は慌てて外に出ようとする。

 

「血界くん!どこに行くの!?」

 

「身体動かしに行くんだよ!ここに入院してからろくに動いていないせいだ訛っちまった!」

 

「やめときなよ!まだ安静にしとかなきゃいけないんでしょ!」

 

耳郎たちが慌てて止めようとするが、血界はそれでも止まらず扉を開けると目の前に立派な胸筋が飛び込んできた。

 

「ラインヘルツさん、どこに行くんですか?」

 

「め、メジェナさん……」

 

扉の前に佇んでいたのは先日血界を鯖折りにしたメジェナで、血界は顔を青くして数歩下がる。

 

「い、いや外に出て体を動かそうかなと……」

 

「それはいけません。貴方はあと5日安静にしておかないと」

 

「5日!?体育祭ギリギリじゃねえか!!やっぱり外に出る!!」

 

「いけません!」

 

そして血界は一瞬で布団と縄で簀巻きにされベットの上で寝かされた。

 

「ゔっーーーー!!!」

 

「安静にしてください。そういえばお見舞いの方々が来てますよ」

 

あまりの早業に全員が呆然としているが、メジェナがそう言うと扉から凛があと2人を連れて入ってきた。

 

「酷い怪我をしたって聞いたから来てみたけど……やっぱり平気だったね」

 

凛は少し呆れながらも安心した表情だった。

 

「凛!凛も見舞いに来たんだ」

 

「久しぶり響香。チーフさんから聞いて来たんだ。こっちの2人は私と同じプロジェクトのアイドル」

 

凛について来た2人は促され、全員に挨拶する。

 

「はじめまして!島村卯月です!」

 

「本田未央です!で、誰がしぶりんの彼氏さんなの!?」

 

「し、しぶりん?」

 

「ちょっと未央!!」

 

凛が少し怒ったように未央に怒鳴るが未央は興味津々で血界たちを見渡す。

すると峰田が血の涙を流しそうな勢いで激昂しながら縛られてる血界に詰め寄った。

 

「テメェッ!!血界この野郎ォッ!!なんでテメェだけモテてんだ!!?」

 

「ん"うーーーっ!?」

 

「君が血界君なの?中々のイケメンさんだね!」

 

「峰田さん!怪我に障ってしまいますから暴れないでください!!」

 

「スゲーな!アイドルやってんのか!!」

 

「はい!まだまだアイドルの卵ですけど、島村卯月頑張ります!」

 

「私はあまりテレビを見ないからアイドルは知らないけど、すごく笑顔が可愛いわ。頑張ってね」

 

「お、おお、応援してますすす!」

 

「ねえ、凛。どういうこと?」

 

「ち、違うって!未央が勝手に勘違いしてるだけだって!」

 

「病院では静かにしなさい!!!」

 

騒ぐ血界たちにメジェナがキレてしまい、何故か制裁が血界の方にだけ向き危うく入院の期間が延びそうになってしまった。

 



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Burning sports festival
File.16 雄英体育祭


体育祭当日、1-Aの皆は控え室でそれぞれ気持ちを落ち着けたり、準備運動をしたりして大会に備えている中、1人だけとても焦っている者がいた。

 

(結局何も準備できてねぇー!!)

 

用意されたテーブルで頭を抱えるように座っていた血界は心の中で絶叫した。

血界は大会前日に退院したが、たった1日で準備できるわけなかった。

皆は将来のヒーローからのスカウトを大きな目標として、この大会で活躍できるように準備をしてきた。

しかし血界は何も準備ができず、さらにまた退院したばかりで体は本調子ではない。

この状態で優勝を目指すのは難しいのは血界にはわかっており、更に頭を悩ませた。

その時、轟が緑谷に宣戦布告していたのが耳に入った。

 

「お前には勝つぞ」

 

轟はオールマイトに目をかけられている緑谷に勝つと宣言し、緑谷もオールマイトに託された思いに応えるべく、真剣な眼差しで轟に応える。

 

「僕も本気で獲りに行く!」

 

それを見ていた血界は改めて心を引き締める。

 

(準備なんてどうでもいい。今俺ができることで優勝を目指す!)

 

「ラインヘルツ、お前もだ」

 

「俺か?」

 

「この前の実戦訓練の借りは返す。今度は俺が勝つ。だから全力でこいよ」

 

轟は血界にも宣戦布告するが、血界はニヒルに笑って轟の宣告を受け止める。

 

「今回も勝つのは俺だ」

 

血界と轟、それを見ていた全員にも緊張した空気が張り詰める。

そしていよいよ

全員が踏み出す、戦いの舞台へ。

 

 

大手プロダクションである346プロダクションの新設されたアイドル部門にあるチーフプロデューサーの部屋は他の部署の部屋と同じく、広くそして洗練された家具が置かれており、高級だと一目でわかる。

そこでは大型のテレビの前で血界の保護者である緑川 血糸が間も無く始まる雄英体育祭を見ていた。

 

「やっぱり体育祭を見ていたんですね」

 

部屋に入ってきたのは346プロダクションに所属し、346を代表するトップアイドルである高垣 楓だ。

 

「楓か…仕事はどうした?」

 

「今日は血糸さんと同じで1日オフです。チーくんが出るんですもの、応援しなくちゃ」

 

普段の仕事中は血糸のことを『チーフさん』と呼ぶが、オフの日は名前呼びになる。

笑顔を浮かべる楓は血糸の隣に座る。

 

「優勝できると思いますか?チーくん、昨日退院できたんですよね。まだ本調子じゃないと思うんですが」

 

それを聞いた血糸は画面を見ながら、静かに口を開く。

 

「アイツにはあまり関係ないと思うけどな」

 

プレゼントマイクのアナウンスと共に現れた1-Aの面々の中にやる気に満ちた血界を見て、血糸は普段変わらない表情が少し笑ったように見えた。

 

 

それと同じ時、同じビル内に新設されたプロジェクト『シンデレラプロジェクト』に用意された部屋では新たなアイドルとして採用された14人の少女たちが血糸と同じく、テレビで体育祭の様子を見ていた。

 

「始まったよー!!」

 

「わーい!」

 

シンデレラプロジェクトの一同が最年少組である赤城 みりあと城ヶ崎 莉嘉の声に反応してテレビに食い入るように見る。

 

「しぶりんの彼氏さんが出るから応援しないとね!」

 

「もう…やめてよね。響香に誤解を解くのにすごく大変だったんだから」

 

「血界くん。大きな怪我をしたのに大丈夫なんですか?」

 

「『心配ですね』……どの人、なんですか?」

 

「この赤毛の人かしら」

 

凛、未央、卯月の横からロシア語を話す銀髪ハーフの少女とどことなく色気のようなものが溢れる少女、アナスタシアと新田 美波も会話に加わる。

 

「これが血界・V・ラインヘルツで、こっちが耳郎 響香。それとB組にいるのが氷麗・A・スターフェイズ」

 

「B組にもいるの!?」

 

「す、少し怖いね……」

 

「んぐ、目つきが鋭いもんね」

 

「英雄の卵たちが己が魂を削り合い、更なる高みを目指す!その姿はまさに理想に輝く姿である!(ヒーロー科のみなさんがお互いにライバルなんですね!カッコいいです!)」

 

頭に四つ葉のクローバーがいくつか乗っていて、オドオドとした様子で保護欲が駆り立てられる緒方 智絵里が血界を見て少し怖がり、その隣に座っている少しふくよかな三村かな子がお菓子をポケットから取り出し食べながら答える。

そして少し暗い銀髪で言っていることがちょっとよくわからない女の子、神崎 蘭子がそれぞれ感想を言いながらテレビを見ている。

 

「なかなかロックじゃん」

 

「みんなカッコいいにぃ〜!」

 

「莉嘉ちゃんのパパもヒーローなんだよね?」

 

「そうだよー♪あの時のオネーさんいるかなぁ?」

 

同じくテレビに食いついているヘッドホンを首にかけた多田 李衣奈と背が高い諸星 きらり、黒髪のツーサイドアップで元気で可愛いらしい赤城 みりあと耳郎たちと出会った莉嘉・ボルトストーン。

 

「凛ちゃんたちはライブのバックダンサーの仕事があるのに……練習しなくていいのかにゃ?」

 

「まぁ、根詰めてやるより少し休憩しながらやった方がいいんじゃない?にしてもよくやるよねー」

 

語尾に『にゃ』とつけた猫耳と猫の尻尾が生えている少女、前川 みく、そして『働いたら負け』という独特なセリフが書かれたシャツを着てソファで寝ている小柄な少女、双葉 杏はそう零した。

みくは杏が言ったことが気になり、聞き返した。

 

「どういうことにゃ?」

 

「だって今出てるA組の人たちってヴィランに襲われたんでしょ?普通怖いじゃん」

 

杏は寝そべった状態でそう返した。

確かに常人からしてみればヴィランに襲われることなんて恐怖以外の何物でもない。

杏はヴィランに襲われ、恐怖を感じて以前のようにヒーローを目指すことなどできないかもしれない。

だが、A組の皆はそれを糧にしてさらに進もうとしているのだ。

 

「だからこそだと思う。恐怖を感じたから更に向こうへ進まなきゃって思ったんだと思う」

 

「しぶりんがこの前言ってた''Plus Ultra''だっけ?」

 

「うん、雄英の校訓なんだって。血界たちは絶対にそんなの乗り越えていくよ」

 

普段はクールな凛だが、この時は何か熱いものを感じた。

 

「凛ちゃんは血界くんたちのこと、とても信頼してるんですね!」

 

「……うん」

 

卯月の言葉に凛は少し恥ずかしそうに返事をした。

 

 

会場に出たA組の面々は一斉に浴びせられる歓声におっかなびっくりしつつも、列に並んでいく。

 

「うおぉぅ……めちゃくちゃスゲーな……」

 

「ニュースになってたから、そりゃ注目されるわな」

 

「どうしよう!私赤くなってないかな!?」

 

「うん…大丈夫だよ」

 

切島と上鳴が驚きを通り過ぎて現実味が無いような会話をし、葉隠がボケなのかよくわからないが尾白が優しくツッコむ。

 

『選手宣誓よ!!』

 

1年の部の主審は18禁ヒーロー『ミッドナイト』が行なっており、彼女の大胆なコスチュームに皆が顔を赤くしていた。

 

「18禁ヒーローがいてもいいのか?」

 

「いい!」

 

「相変わらずスゲーコスチュームだな……目のやり場に困る」

 

「だけど良いよなぁ!血界!」

 

「ま、まぁそうだな」

 

カラスの頭をしている常闇の呟きに峰田が親指を立て、血界に同意を求め、血界もそれに同意した。

 

「やっぱお前は俺と同じくらいにエロスがあるぜ。一目見た時からそうだと思ってた」

 

「それはだいぶと不本意なんだが……死にたくなる」

 

「なんだとォ!?お前もミッドナイト先生のコスチュームには興奮してんだろうが!!」

 

「よく大声でそんなこと言えるな……まぁでも……」

 

血界は叫ぶ峰田に呆れながらも壇上に立つミッドナイトに目を向け、体のラインが丸わかりなコスチュームを見て、少し頬が緩む。

 

「わからなくもないなぁ……」

 

「集中しろ」

 

「いでぇっ!?」

 

『そこ!静かにしなさい!!』

 

だらしない顔になった血界に側で話を聞いていた耳郎は不機嫌になり、血界にイヤホンジャックを刺して八つ当たりしてしまい、ミッドナイトに注意されてしまった。

なおそれも全国放送されているため、それを見ていた凛は恥ずかしそうにし、楓は可笑しそうに笑って、血糸は少し眉間に皺がより、帰ったら仕置きだと決めた。

 

『んんっ、では取り直して……選手宣誓!1-A組爆豪 勝己君!!』

 

ミッドナイトの合図で爆豪が大胆不敵に集団の中を歩いていく。

 

「爆豪が選手宣誓かよ!?」

 

「大丈夫なのか?」

 

他のクラスは爆豪のことを知らないが彼の性格を知っている1-Aの面々はこの後どうなるかなんとなくわかっていた。

 

『センセー…………俺が一位になる』

 

不敵、あまりにも不敵な宣誓に選手全員から大ブーイングが上がる。

 

「なんだとこの野郎!!」

 

「調子に乗ってんじゃねェぞ!!」

 

「せいぜい俺の踏み台になりやがれ」

 

ブーイングを言ってくるほかの人にも爆豪は不敵な態度で相手にせす、壇上から降りてくる。

 

「やっぱりやると思った!!」

 

「なんてことしやがるんだ!?俺ら目の敵にされちまったぞ!?」

 

「うるせー!!上に上がりゃ良いだけだ」

 

耳郎も爆豪の態度にため息を吐きたくなった。

 

「やっちゃったよ。爆豪の奴……」

 

「珍しいな。あいつがあんな風に言うなんて」

 

「そう?いつも通りの爆豪じゃん」

 

「いつものあいつなら嘲笑って挑発してたのに今は笑わずに戦いを見据えている。アイツとは短い付き合いだし、睨み合ってばっかりだけど今のアイツが本気だってことはよくわかる」

 

黙って前を見据えて歩く爆豪に勝ち上がるという気持ちしかないのがよくわかった。

 

「面白くなってきやがった……!」

 

血界も笑みを浮かべ、やる気をさらに燃え上がらせた。

 

 

ミッドナイトが壇上で鞭を振って全員の視線を集め、声高らかに説明を始める。

 

『さーて、さっそく第一種目に行きましょう!いわゆる予選よ!毎年ここで多くの者が涙を飲むわ!さて運命の第一種目!今年は……障害物競走!!』

 

背後にある大型ビジョンに大きく『障害物競走』と映し出される。

 

『計11クラスでの総当たりレースよ!コースはこのスタジアムの外周、約4km!我が校は自由さが売り文句!コースさえ守れば何をしたって構わないわ!さあさあ、位置につきまくりなさい!』

 

選手の背後にある壁が開きゲートが現れ、全員が位置に着く。

血界も出来るだけ前に行こうとした時、隣にいた耳郎が話しかけた。

 

「血界」

 

「なんだ?」

 

「轟が血界に挑戦してたようにウチもアンタに挑戦する。今はアンタが断然強いけど病院で言った時みたいに、ウチは強くなる。だから今回はそう言うことだから」

 

耳郎は決心した目でそう言い血界から離れて行った。

初めは呆けていた血界だが、だんだんと笑みを浮かべる。

 

「なんだよ。みんなやる気満々じゃねえか……!」

 

轟、耳郎と自分の周りで挑んで来るものがいると血界自身も闘争心が燃えてしまう。

皆がゲートの位置につき、真剣な目でただゴール見据える。

そして皆がそれぞれの思いを胸に込めて挑む体育祭第一種目が今始まった。

 

『スタート!!!』

 

 

 



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File.17 障害物競走

『スタート!!』

 

スタートの合図とともに皆が走り出そうとするが、それより早く先頭を陣取っていた轟がゲートの地面を凍らせ、後続のスタートを邪魔した。

 

『さあ!ここからはこの俺!プレゼントマイクとミイラマンで実況していくぜ!!盛り上がって行こうぜェ!!!』

 

『誰がミイラマンだ……無理やり連れてきやがって』

 

アリーナの実況席でプレゼントマイクと相澤が座っており、競技の実況を始めたが相澤は心底面倒くさそうだった。

 

『さっそく轟が地面を凍らせて後続のスタートダッシュを妨害!』

 

『あの狭さのスタートが最初の関門だ。轟は上手いことほかの奴らを足止めしたな』

 

「悪いな。あと5分もすれば氷は溶ける」

 

轟が後ろを振り向いてそう言い残し走っていくが、その後ろをすぐさま追う姿もあった。

 

「待てやゴラァッ!!!」

 

「甘いですわよ!轟さん!」

 

A組の面々が轟の氷を避け、轟の後を追う。

轟は思った以上にA組が氷を避けるのに驚いたが、気にせず進んでいく。

その姿を見た爆豪は相変わらずのキレやすさが爆発し、手のひらから爆発を断続的に発生させて飛んで加速する爆速ターボで追いかけるがその爆豪を追い越す影が横切った。

 

「お先に!」

 

「っ!何勝手に追い越してんだツリ目野郎!!!」

 

一瞬驚いた爆豪が負けじと爆発の威力を強めるが血界の脚力のほうが強く、徐々に距離が開いていく。

 

『うおおぅっ!?速えぇ!!まるでモンスターエンジンを積んだ車

みてぇだ!!』

 

『ラインヘルツはスタートと同時に前に飛び出して氷を避けたな。それに踏み出す力を氷を砕く程の力で踏み込んだために氷の地面をものともしなかった。身体能力がずば抜けて高いラインヘルツだからできるもことだな』

 

血界が走ってきた道は全て足型の穴が氷にできていた。

実際に血界より早いはずの飯田や他の皆はは氷は避けたものの氷に足を取られて、思うように進めていないのが見えるら、

 

(すごい……!血界君もうあんなところまで!)

 

フルカウルを使いながら轟たちを追う緑谷だが力が強くなったと言ってもバランスは違い四苦八苦しながらも氷の道を進んでいた。

緑谷は爆発によるターボが圧倒的に有利な爆豪を追い越すほどの身体能力に改めて驚愕しながらもオールマイトとの約束『新たな平和の象徴が来たと、自分が来たと知らしめる』ことを心に刻み、負けじと追いつこうとする。

 

「ラインヘルツ……!もう追ってきたのか!」

 

後ろを振り向いた轟が追ってくる血界を確認すると目の前に巨大な影が差した。

 

『さあ!第一の関門ロボインフェルノ!!仮想ヴィランロボットがお相手だ!!』

 

目の前に巨大な0点ヴィランロボットが数体立ちふさがるが轟はそれを見て、何かを思いつきすぐに下からすくい上げるように手を動かしながら、冷気を0点ロボに浴びせ、何体も凍らせた。

 

『瞬殺!!ロボインフェルノの意味がナッシング!!!』

 

「あともうちょっと……!」

 

プレゼントマイクが轟の攻撃を驚いた時、轟との距離があと100mほどとなったいた。

しかし、轟は凍らせた瞬間にロボットの下を通っていた。

血界もそれに追いつこうロボットの下を通ろうとしたが、轟が走りながら顔だけを少し後ろに振り向き、血界に聞こえるように話しかけた。

 

「やめとけ。不安定な状態で凍らせたからすぐに倒れるぞ」

 

轟がそう言った瞬間血界の頭上で固まっていたロボットたちの氷はひび割れ落ちていき、ロボットもそれに合わせて崩れ落ちていき、それに血界も気づく。

 

「っ!!」

 

「巻き込まれたくなかったら戻るんだな」

 

血界の位置は崩れ落ちるロボットたちの最初辺りなので、戻れば巻き込まれずに済むが轟との距離は開く。

逆に崩れ落ちるロボットたちの中を進んでいけば轟との距離は縮められるかもしれないがロボットに巻き込まれる可能性が大いにある。

轟はこれを狙ってわざとロボットを不安定な体勢で凍らせたのだ。

 

『流石にラインヘルツの怒涛の追い上げもここまでかー……っておいおい!進むのかよ!アブねぇって!!』

 

マイクの放送が耳に届いた轟は慌てて後ろを振り向くと、まっすぐとこちらに向かってくる血界の姿があった。

迫ら落ちてくる氷、ロボットを気にせずまっすぐ走ってくる血界に轟は一瞬呆然としてしまい、氷を出すなりして血界も助けることができたはずだが、間に合わず血界の姿はロボットに埋もれてしまった。

ロボットが倒れたことで土煙が巻き起こり、轟も包まれてしまったが自分のせいで血界がロボットに巻き込まれてしまったということに未だに頭が追いつかない轟はただ立っているだけだった。

しかし、その轟の横を血界が転がるように横切った。

 

「っぶねー……ギリギリだなっと!」

 

立ち上がり、一息ついた血界は再び走り出した。

これで一位は轟から血界に変わった。

 

『生きてたー!!あのロボットの中を潜り抜けてきたァッ!!お前のところ生徒だいぶとクレイジーだな!!そしてこれで一位はラインヘルツになったァァァッ!!!』

 

 

『あの馬鹿……病み上がりなんだから自重しろと言っただろうが』

 

まさかの崩れ落ちてくるロボの中を掻い潜ってきた血界にマイクは興奮気味に相澤に声をかけ、相澤は少し怒ったような声色になりながら血界を見た。

 

「……っ!待てっ!」

 

そしてようやく頭が追いついた轟は先を走る血界に向かって氷を放ち、血界の片足を凍らせた。

 

「うおっ!?……くそ!抜けねぇ!!」

 

「先には行かさねえ……一位になるのは俺だ……!なって…アイツの顔を曇らせてやる……」

 

轟の目には先を走る血界ではなく、別の何かに敵意を向けていた。

轟が追い越された血界を追い抜き返すと、血界は足に力を込める。

 

「何言ってるかわかんねぇけど……俺も負けるわけにはいかねぇんだよ……!!オラァッ!!」

 

足に張り付いた氷を足を振り上げることで無理やり剥がし、轟のあとを追う。

 

『他の生徒は頭を使い上からまた攻略しながら進んでいるなか、アイツだけパワーでクリアー!!なんか見てて清々しいぜ!!』

 

『ただの脳筋だろうが』

 

「相澤先生さっきから俺にキツくないか!?」

 

アナウンスに少しツッコミを入れていると轟は次の関門にたどり着いた。

そこは底が見えない程の巨大な穴ができており、そこにいくつか足場があるだけだった。

 

『一位は既に第二の関門にぶつかったぞ!!第二関門は落ちればアウト!それが嫌なら這いずりな!ザ・フォーール!!』

 

轟は冷静に考え、足場にかかっている縄を軸にして氷の橋を作ればいいと思いつき、さっそく綱のほうに向かおうとすると血界が走ってくるのが見えた。

 

(アイツの個性じゃこの谷を早く渡ることはできねえ……落ち着いて行けばいい)

 

轟は焦らず、慎重に綱を渡り始めた。

しかし、轟の考えとは裏腹に血界は谷に向かって止まるどころかスピードを速めている。

 

『ラインヘルツのやつ、フォールに向かってまっすぐ向かっているが……まさか……やっぱり跳んだァッー!!』

 

「何!?」

 

プレゼントマイクのアナウンスで気づいた轟は横を見ると足場に向かってジャンプした血界の姿があった。

血界は手を伸ばし、足場に捕まろうとしたが手は空振り、そのまま下に落ちてしまう。

 

「やべっ……!」

 

『そして落ちたァー!!おいおい大丈夫なのかよ!?』

 

『流石のアイツでも考えも無しに崖に飛び込むはずがないだろ』

 

慌てるプレゼントマイクとは対照的に相澤は落ち着いた様子で崖の様子を見ると落ちた血界は足場の壁に血の十字架状の短剣を刺してしがみついていた。

 

「チクショー、ちょっと使っちまった」

 

血界は悔しそうにそう言いながらも短剣を器用に使い、壁を登っていき足場にたどり着くとまたジャンプして短剣を壁にさしてよじ登る。

それを繰り返すことで血界は轟の先を行った。

 

『ここでまたラインヘルツが1位に躍り出たァー!!激しく変わるトップの座!!勝利の女神はどちらに微笑むかぁ!!?』

 

「くそっ……!」

 

轟のあまり変わることのない表情が悔しそうに苦虫を潰した顔に変わる。

血界はザ・フォールをクリアし、次の関門に進むがその後ろを轟が氷を繰り出しながら追う。

 

「あぶねっ!」

 

「先には行かさねぇ!!」

 

背後から轟の妨害とかわしながら進む血界の様子を見ていた観客として会場にいるプロヒーローたちは2人のことを話していた。

 

「最初はエンデヴァーの息子が断然1位だと思ってたが、こりゃ番狂わせだな」

 

「しかもあのラインヘルツって奴、個性らしい個性まだ使ってないだろ?素の身体能力で身体強化の個性並みの力なんだ。轟も合わせて今年は当たり年だな」

 

「サイドキック争いが起こるわね……」

 

「だけどまだライヘルツの個性をちゃんと見れていない。それによって評価も変わるかもな。何故個性を使わないんだ?」

 

それぞれが血界、轟や他の生徒たちの評価を下していると血界が次の関門に差し掛かったが、動きを止めた。

 

『トップ陣は1位と2位を争う骨肉の戦い!下はダンゴ状態でひしめき合ってるぜ!!そしてトップ陣は早くも最終関門!!かくしてその実態は……一面地雷原!!!『怒りのアフガン』だ!!地雷の位置はよく見りゃわかる仕様になってんぞ!!目と足を酷使しろ!!』

 

「マジかよ……」

 

血界の目の前に広がる地雷原に顔が引きつる。

それでも後ろから迫る轟に追いつかれないように前に進み出す。

 

『ちなみに地雷の威力は大したことねぇが音と見た目は派手だから失禁必至だぜ!』

 

「嫌な情報だな……!」

 

血界は地雷を踏まないように地面を見ながら進んでいくが、背後から冷気を感じ振り向くと地面を凍らせてこちらに走らせてくる轟の姿があった。

 

「追いついたぞ…!」

 

轟は後続に足場を作ってしまうことになってしまうが今は血界に追いつくためになりふり構わず追いつこうとする。

 

「轟!!」

 

「俺を忘れてんじゃねぇぞォ!!!」

 

「くっ!

 

「爆豪もか!!」

 

爆速ターボで追いかけてきた爆豪も血界の後ろに追いつく。

血界はそれに焦るが、踏み外せば漏れ無く地雷の爆発に巻き込まれるため、慎重に血界は出来るだけ早く足を出して、前に進む。

だが、それでも地面を凍らせ安全に走る轟、空を飛ぶ爆豪に追いつかれ、追い抜かされる。

 

『三つ巴!!ここに来ての三つ巴の戦いだー!!!喜べマスメディア!!お前らが欲しがる絵はまだまだあるぞー!!!』

 

爆豪が先を行こうとするが血界が腕を掴み逃さず、轟は前に行こうとする血界の腕を掴み凍らせる。

三人は揉みあいながらも必死に我先にと進もうとする。

後続もトップ三人に追いつこうとする中、後方で大爆発が起こった。

 

『後方大爆発!!?何だ、あの威力!?偶然か故意かーーーーA組 緑谷爆風で猛追ーーー!!!?っつーか!!抜いたぁぁぁあああー!!!』

 

ロボの鉄板に乗った緑谷が血界たちの上を通り、追い抜かしていく。

 

「緑谷!!?行かさねぇ!!ブレングリード流血闘術……!!」

 

 

58式 紅血衝撃砲

 

 

血界は拳を下に這うように振るうと地面を抉るような紅い衝撃波が放たれ、血界が走る前の地面の地雷を吹き飛ばした。

地雷は真上からの力のみに反応するように作られていたからか、爆発が起きずに少し前に落ちていった。

 

「デクぁ!!!!俺の前を行くんじゃねえ!!!」

 

「……っ!」

 

血界に続き、爆豪は爆速ターボをもう一度使い、轟も氷を張って緑谷を追う。

 

『元先頭の3人、足の引っ張り合いを止め緑谷を追う!!共通の敵が現れれば人は争いを止める!!争いは無くならないがな!!』

 

『何言ってんだお前』

 

一瞬で追い抜いた緑谷だがすぐに失速してしまう。

 

(やばい!失速……!ここからフルカウルで逃げ切れるか……!?ダメだ!まだアフガンは続いているし、かっちゃんや血界君のスピードに追いつけない!!くっそ!ダメだ!放すな!この3人の前に出られた一瞬のチャンス!!掴んで放すな!!!)

 

その時緑谷の頭に血界が積み上げた地雷が過った。

 

「うぅ…!ああぁっ!!」

 

飛んだ勢いを使って鉄板についたケーブルを持って、鉄板を積み上げられた地雷に向かって振り下ろす。

しかし、その前に血界が立っており血界に鉄板をぶつけ倒してしまった。

 

「いでっ!!」

 

カチッ

 

咄嗟のことに血界は前のめりに積み上げられた地雷の上に倒れてしまい、大爆発に巻き込まれた。

 

「あああぁぁぁっ!!」

 

緑谷は更に前に進むことができたが巻き込まれた血界はアフガンの横に転がり倒れてしまった。

 

「うぅ……あっ……」

 

血界は立ち上がろうとするが耳鳴りがひどく、目が昏み、自分が何をしていたかも思い出せない。

自分の目の前を何人かの影が通り過ぎ、漸く状況を掴めた血界はふらつく体に鞭を打って前に進む。

 

『ここで漸くラインヘルツがゴール!!!序盤から1位を争っていたが緑谷の妨害により、大幅に順位がダウン!!結果10位だー!!』

 

「クソ……」

 

血界は悔しそうに荒い息を吐きながら順位を見る。

続々と他の者がゴールする中、血界は次はこうはいかないと悔しさを胸に押し込めて気合を入れ直した。

 



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File.18 騎馬戦チーム決め

全員がゴールし、いよいよ予選通過者が発表される。

 

『予選通過者は上位42名!!残念ながら落ちちゃった人も安心しなさい!まだ見せ場用意されているわ!!そして次からいよいよ本戦よ!!ここからは取材陣も白熱してくるよ!気張りなさい!!!さーて第二種目の発表よ!!次は騎馬戦よ!!!』

 

騎馬戦は2人から4人のチームを自由に組んで、上位42名に割り振られたポイントがチームを組んだ者たちの合計の点数となる。

そして最終的に持ち点が多い上位4チームが最後の種目に進める。

 

『そして1位に与えられるポイントは1000万!!!』

 

全員が一斉に緑谷に振り向き、緑谷は固まってしまう。

 

『上位の奴ほど狙われちゃう下克上サバイバルよ!!!!』

 

 

障害物競走が終わった頃、346プロのシンデレラプロジェクトの部屋では障害物競走の興奮が収まらない勢いだった。

 

「ライライ惜しかったねー!あともうちょっとで1位だったのに!」

 

「最後の爆発大丈夫だったんでしょうか?結構フラついていましたけど……」

 

「『すごいですね』…皆さんとても必死でした」

 

「夢に直接繋がるイベントだからね。みんな死に物狂いで1番を目指すだろうし……」

 

「2位の赤白の髪のおにーさん。カッコよかったね!」

 

「私は凛ちゃんの彼氏さんがカッコいいと思ったかも!なんとなく抜けてるところとかパパに似てるし☆」

 

「だからあの人は凛ちゃんの彼氏さんじゃないにゃ……第一まだデビューもしていないのに恋人がいたら問題にゃ」

 

「あの爆発する人怖かった……」

 

「なんかヒーローっていうよりヴィランぽかったよね」

 

皆がそれぞれ感想を言って騒いでいる中、凛だけが黙っていたので未央が声をかけた。

 

「しぶりーん?どうしたの?」

 

未央が声をかけるが凛はテレビを見たまま固まってしまっていた。

 

「凛ちゃんどうしたんですか!?」

 

「まさか……友たちが爆発に巻き込まれるのを見て衝撃が強すぎたとか?」

 

「そう言えばさっきから心配そうに見てました!」

 

「しぶりん……案外心配性なんだね……」

 

未央と卯月が凛の意外な一面に驚いているとプロジェクトルームに割り振られたプロデューサーの部屋から背が高く、人を1人2人殺してそうな迫力がある男性、武内が出てきた。

彼はそんな顔だが、シンデレラプロジェクトを取り仕切る優秀なプロデューサーである。

 

「本田さん、島村さん、渋谷さん。そろそろレッスンのお時間です。移動をお願いします」

 

「あ、はーい!ほらしぶりん!レッスンに行くよ!」

 

「凛ちゃーん!起きてくださーい!」

 

「はっ…!えっ、どうしたの?」

 

「レッスンに行く時間だよ!」

 

「え、あ、うん。みんな体育祭の録画しといてね!」

 

漸く戻ってきた凛が慌てて準備しながらそう言い残し、部屋から出て行った。

 

「凛ちゃんって結構クールな人だと思ってたけど……」

 

「案外『可愛い』……可愛いところありますね」

 

みくとアーニャの呟きにその場にいた全員がうなづいた。

 

 

2人から4人のチームになり、チームになった人たちの合計のポイントを各チーム同士が奪い合う騎馬戦。

この競技はチーム決めがとても重要になる。

自分の個性との相性、チームワークなど決める理由は様々だが、適当に決めてしまえば勝ち目は少ない。

そして1位になりポイントを1000万与えられた緑谷には誰も近づかない。

 

(やっぱり誰もチームになってくれない……!)

 

始まれば複数のチームから狙われるのは必至。

そうと決まれば誰もチーム組んでくれないのも分かりきってたことだ。

 

(どうしよう……早く決めないと!)

 

焦る緑谷は尾白や他の人に声をかけるが避けられてしまう。

精神的にもキツくなって来た時、緑谷に話しかける者が現れた。

 

「おい、緑谷」

 

「あっ、血界君……さっきはその……鉄板を叩きつけてごめん!」

 

話しかけて来た血界の服が土で汚れているのを見て、緑谷はまだ血界に鉄板を叩きつけたことを謝っていなかったことを思い出し謝ったが、血界は別に気にした様子はなかった。

 

「別にいいって、競走なんだし仕方がない。それより頼みがあるんだ。俺とチームを組んでくれ」

 

「…………………本当に?」

 

「本当だ。俺の順位は10位で確実に勝ち上がれないかもしれないから出来るだけ点数が高い奴と組みたいんだ」

 

「で、でも僕と組んだら確実に狙われちゃうよ!?」

 

「そっちの方が楽しいだろ?逆境から勝ち上がるなんてまさしくヒーローじゃねえか。それに俺は頭が悪いから作戦をしっかりと建てられる緑谷がいいんだ」

 

だんだんと涙目になっていく緑谷はとうとう滝のように涙を流し始めた。

 

「どうした!?」

 

「あ"り"がどゔ!!ぢがい"ぐん"!!」

 

「デクくーん!私とチームを……血界君がデクくんを泣かしとる!?」

 

「麗日!?違う!これは緑谷が勝手に!」

 

一先ず緑谷は泣き止み、麗日もチームに加わった。

 

「攻撃と防御ができる血界君に、軽くすることができる麗日さん。後は速さ……!なら最後に欲しいのは、飯田くん!君だ!!」

 

「!!……そうか、チームに勧誘して来てくれたのは嬉しいが今回は断らせてもらう」

 

緑谷は飯田にチームに入って欲しいと言われたが、飯田は断った。

いつも一緒にいる緑谷と麗日は少なからずともショックを受けた。

飯田なら快く引き受けてくれると思っていたからだ。

 

「入試の時から君には負けてばかり、君についていくばかりでは未熟者のままだ……俺は君に……挑戦する!」

 

飯田は緑谷に背を向け轟の方に向かっていく。

友人だと思っていても夢に向かっていくからには全員が敵。

その時背後から緑谷に声をかけられる。

 

「フフフフ……やはりイイですね。目立ちますもん!私と組みましょ!!1位の人!!」

 

「わあぁぁ!!誰!?」

 

ゴーグルとあっちこっちメカを装備した女子、発目 明。

 

「私はサポート科の発目 明!あなたの事は知りませんが立場を利用させて下さい!!」

 

「あっ、すけすけだ!」

 

「いっそ清々しいな」

 

麗日と血界も驚きながらも、唖然としていた。

 

「サポート科はヒーローの個性をより扱いやすくする装備を開発します!私、ベイビーがたくさんいますのできっとあなたに見合うものあると思うんですよ!これなんかお気に入りでしてとあるヒーローのバックパックを参考に独自解釈を加え……」

 

「ひょっとしてバスターヒーロー“エアジェット”!?僕も好きだよ!事務所が近所で昔ね……」

 

「本当ですか!ちなみに私の“個性”は……」

 

話が盛り上がる2人に血界と麗日は蚊帳の外だった。

 

「さっそく気が合ってんな」

 

「………」

 

「どうした麗日?」

 

こうして緑谷を中心としたチームが出来上がった。

 

「麗日さんの個性で僕たちを軽くして、発目さんのメカでサポート、血界くんの個性で防御と攻撃………あとは機動力のあるフィジカルだけどこれは僕も血界くんもできる……だけど攻撃と防御に徹して貰うんだったら血界君が騎手の方が………だけど背も高く体重も重い血界君では馬役のみんなが辛いはず……そこは僕が頑張ればいいのか?いやでも麗日さんの『ゼログラビティ』で……」

 

(改めて近くで見ると怖えー)

 

緑谷のお家芸であるブツブツを見て若干引いてしまった血界だが勇気を出して話しかける。

 

「な、なぁ緑谷。その防御に関して少し相談があるんだ」

 

「え、うん……」

 

 

血界と緑谷がチームを組んでいる頃、耳郎は少し離れているところでその様子を耳郎は見ていた。

 

(血界は緑谷と組むんだ……ウチも早くチームを決めないと)

 

耳郎は自分に足りないフィジカル面を補うべく、飯田を誘おうと思ったが轟に取られてしまっていた。

 

(轟たちももう組んじゃってるし、爆豪も組んでる。ヤバイな、強い人がいなくなっちゃう!)

 

順位が上位でクラスでトップクラスの実力を持つ轟、爆豪にはチーム決め早々に組んでくれと頼む者が多く、もう決まってしまった。

耳郎も頼みに言ったが運悪く、組むことができなかった。

血界に勝つと言った手前、生半可なチームで勝負に挑みたくない。

どうするかと悩んでいると声をかけられた。

 

「響香ー、一緒にチーム組もう?」

 

「氷麗……」

 

声をかけて来たのはB組の氷麗・A・スターフェイズ。

 

「氷麗なら組んでもいいけど……大丈夫なの?A組のウチと組んでも?」

 

「別にいいよ。物間の言うことを聞くなんて嫌だし、気も合うし、私の考えに合わせてくれる響香がいいの」

 

「え?物間?」

 

「こっちの話。それに響香あの技完成してるんでしょ?」

 

「……うん。なんとか物にはできた」

 

「なお良しだね。じゃあ組もう」

 

「強引だなー」

 

氷麗の強引な勧誘だが、耳郎は氷麗のフィジカル面、実力を知っている。

はっきり言ってA組のトップ組と変わらない実力で、気心も知れている。

これを断る理由はない。

 

「わかった。氷麗のチームに入るよ」

 

「やった♪」

 

嬉しそうに笑い、飛び跳ねる氷麗は背と童顔の合わさって可愛らしいが胸についている大きなボールが大きく揺れ、周りの男は赤くしたり、耳郎は顔をしかめる。

 

「くっ……!……それで氷麗は騎手やるの?馬やるの?」

 

「私が馬やるとかありえないから」

 

喜んだ顔からスッと真顔に戻った氷麗に耳郎は顔を引きつかせる。

 

「相変わらずだなー……」

 

「響香には馬をやって欲しいの。それにあと2人はもう決まってるんだ。こっちよー!」

 

氷麗が耳郎の後ろに目を向け、手を振るので耳郎は後ろを向く。

 

「アンタらは……」

 

15分のチーム決めの時間が終わり、いよいよ騎馬戦が始まる。

 

『15分経ったわ。それじゃあいよいよ始まるわよ!』

 

一気に沸き立つ会場の中、それぞれが目指すべきところを見据えて気合いを入れる。

 

『さぁ起きろイレイザー!15分のチーム決め兼作戦タイムを経てフィールドに12組の騎馬が並び立った!!』

 

『……なかなか面白ぇ組みが揃ったな』

 

相澤はそれぞれのチームに目を向ける。

 

爆豪チーム

 

「狙いは1つだ……!!いいなお前らァ!!」

 

「オウ!」

 

「わかってるって!」

 

「任せて!」

 

爆豪200P、切島170P、瀬呂175P、芦戸115P。

合計660P

 

轟チーム

 

「俺は戦闘において熱は絶対に使わない……だがそれでも狙っていくぞ」

 

「ああ!」

 

「了解ですわ!」

 

「オッシャァ!」

 

轟205P、飯田185P、八百万125P、上鳴90P。

合計605P

 

氷麗チーム

 

「いくよ。響香、鳥、根暗」

 

「うん!」

 

「鳥……」

 

「根暗……」

 

氷麗195P、耳郎110P、常闇180P、心操80P。

合計570P

 

『さァ上げてけ鬨の声!!血で血を洗う雄英の合戦が今!!狼煙を上げる!!!!』

 

「さぁ、気張って行くか!!みんな!!!」

 

「うん!」

 

「フフフ!!ベイビーの見せ所ですね!!」

 

「頑張ろう!血界君!!」

 

血界チーム

血界165P、麗日130P、発目5P、緑谷1000万P。

合計10000300P

 

『スタート!』

 



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File.19 Cavalry battle

『スタート!』

 

プレゼントマイクの合図と共に一斉に多くのチームは血界のチームに向かって行く。

 

「実質それ(1000万P)の奪り合いだァ!!」

 

B組の鉄哲がそう叫ぶ通り、1000万Pを取ってしまえばこの騎馬戦は勝ちも同然だ。

多くのチームがそれを狙っている。

 

「俺たちも向かうべきか!?」

 

一斉に動く他チームを見て、氷麗チームの常闇がそう言いながら前に進もうとすると後ろで騎手をしていた氷麗に頭を引っ張られる。

 

「待ちなさい。鳥」

 

「ぐおっ!?ひ、引っ張るな!」

 

『テメー!フミカゲ二何スンダ!』

 

常闇の個性である『ダークシャドウ』が怒るが氷麗は気にした様子はなく、話す。

 

「今血界に近づくのは自殺行為、ナックルガードを付けていない状態での血界の個性は危険なのよ」

 

「……どういうことだよ」

 

根暗と呼ばれた心操が聞くと氷麗は前を向く。

 

「見てたらわかるわよ」

 

迫り来る他チームに血界は焦ることなく、前を見据えながら緑谷の肩に乗る。

 

「緑谷!踏ん張れよ!!」

 

「うん!」

 

緑谷はフルカウルを発動し、腰を少し落として踏ん張る姿勢になる。

 

「ブレングリード流血闘術……!」

 

『11式 旋回式連突』

 

本来この技は小型の血の十字架を複数作り出し、回転させながら周りの敵を倒す技だが作られた十字架は人2人分はある巨大なものだった。

それが複数血界たちの前に並ぶ。

 

「オオオオォォォォォオオッ!!!」

 

雄叫びを上げて血界は構えた右腕を横殴りにするように振るうと、それと同時に十字架が回転しながら地面を抉り、血界たちを囲むように広がる。

 

「うおおおぉぉぉっ!?」

 

「危ねぇっ!!」

 

「ぐっ!!」

 

「きゃあ!?」

 

「めちゃくちゃするな!もう!!」

 

血界たちに向かってきていたチームは攻撃の余波に巻き込まれ、崩れそうになった。

 

「何だあれは……」

 

「だから言ったでしょ?血界のナックルガードは技を出しやすく、扱いやすくするためだけの物じゃないの。力の制御、血液の量の調整するための物。それがなかったらあんな風に滅茶苦茶な威力、範囲になってしまうの」

 

「じゃあ、もうあのチームには近づけないってことか?」

 

心操がそう聞くが氷麗は首を横に振る。

 

「血の量を調整するって言ったでしょ根暗」

 

「根暗言うな」

 

「血界の個性は血に直結する個性。技を使い過ぎれば失血して行動不能になる。狙うならその時よ」

 

「じゃあそれまではどうする?他のチーム狙うの?」

 

「うん。それまでは他のチームからPを取って安全圏まで行く。血界たちを狙うのは安全圏まで行けなかった時の保険」

 

「保険?狙わないのか?」

 

『ビビチマッタカ!?』

 

「黙れカラス。蹴るわよ」

 

『ヒデェ!』

 

「血界も自分の個性の癖くらい知ってる。絶対に奥の手を隠してるし、追い込まれた時のアイツはケダモノ同然よ」

 

そう言いながら氷麗は他チームに囲まれながらも笑みを絶えさない血界を見る。

しかし、氷麗はうっすらと笑みを浮かべる。

 

「だけど最後に勝つのは私よ」

 

 

 

『いきなりのド派手な攻撃ィ!!1対他で不利かと思われたが、それを覆すほどの攻撃を繰り出す血界チーム!こりゃわからなくなってきたぞ!!』

 

『いきなりの波状攻撃で牽制。これで他チームは血界チームに迂闊に近づくことができなくなったな』

 

「凄いよ血界君!」

 

「ハァ……だろ?ハァ…ハァ…緑谷も反動キツかったのによく保ったな」

 

緑谷は周りを囲む十字架とその外からこちらを伺ってくる他チームを見て、血界を褒める。

血界も肩で息をしながら足役をしてくれた緑谷を労わる。

 

(くそ……いきなり血を使いすぎた。調整が上手くいかなかったか……左腕の方はまだ大丈夫)

 

「緑谷、次は?」

 

「今はこの状態で時間を稼ごう。今の血界君の攻撃を見て他チームは迂闊に動けないはず」

 

血界と緑谷は離れた麗日と発目のところまで戻り再び騎馬になった。

 

「すごいね!血界くん!こんな派手な攻撃!」

 

「うーん……私としてはベイビーの見せ場がなくなるのですが……それはそれとしてさっきの貴方の個性の話の時に個性を調整するナックルガードがあるって言ってましたね!?後で見せてください!!」

 

「あ、あとでな……」

 

発目のぐいぐい来る態度に若干引いてしまうが、周りを見るとやはり他チームは攻めるかどうか悩んでいるようだ。

 

「やっぱり血界くんの攻撃が効いてる」

 

「最初に派手な攻撃しようって言ったのは緑谷だろ。お前の作戦勝ちだ」

 

血界たちのチームが勝つには試合時間15分まで1000万Pを持っていればいいのと、他チームを倒し尽くせばいい。

だが、他チームを倒し尽くすのはハッキリ言って無理だ。

しかし、他チームは血界の初っ端の攻撃を見て、騎馬が簡単に崩される可能性が考えついてしまい、攻められない。

これで時間を稼げる。

そう思っていた血界たちが周りを警戒していると突然騎馬となっている緑谷、麗日、発目がぐらついた。

 

「うわっ!」

 

「どうした!?」

 

「地面が!!」

 

緑谷たちの足は地面に泥に沈むように落ちていく。

 

「アイツの個性か!」

 

血界が向く先にはB組の骨抜が地面を柔らかくしていた。

 

「麗日さん軽くして!血界君!」

 

「おう!麗日!発目!顔避けろよ!」

 

「うん!」

 

「はい!」

 

血界は背負っているバックパックから伸びているスイッチを押すとバックパックから勢いよく空気が噴出し、血界たちは空に飛んだ。

 

『飛んだー!!?』

 

『サポート科のアイテムだな。相変わらず奇抜な物を作りやがる』

 

「フフフ!もっと見てください!私のベイビーを!」

 

「発目さん!索敵をお願い!」

 

「はい!見ててください!私のドッ可愛いベイビー8号を!!」

 

発目は付けているゴーグルを外し、ゴツいゴーグルをつける。

ゴーグルからケーブルが背中のバックパックにつながっており、バックパックから複数のカメラが展開された。

 

「フフフ!このゴーグルとカメラは連動しており、即座にヴィランの反応を『ピピピピ』ああもうっ!最後まで喋らせてください!4時の方向から何か来ましたよ!」

 

発目の言う通り、4時の方向を向くと爆豪が爆発を利用して飛びながらこちらに向かって来ていた。

 

「調子に乗ってんじゃねえぞツリ目野郎!!」

 

「緑谷!来たぞ!!」

 

「うん!」

 

血界はブースターを切り、緑谷は大きなグローブを装着した右手で血界の体を握って爆豪に向かって投げた。

麗日の個性『ゼログラビティ』、そして緑谷の超パワーにより投げ出された血界は弾丸のように爆豪に迫る。

 

「!!」

 

「勝負だ!爆豪!!」

 

『襲いかかってきた爆豪にまさかの迎え撃ちに行ったァッ!!』

 

血界は爆豪に迫りながらもチーム決めの時に話していた緑谷の作戦を思い出していた。

 

『僕たちは必ず狙われる側だ。空に逃げたとしても策を講じておいた方がいい。それに絶対にかっちゃんは僕たちに迫ってくる』

 

『じゃあどうする?逃げるか?』

 

『いや、開始早々に血界君の個性は使えなくなる可能性あるなら逃げるのではなく、迎え撃とう』

 

『でも、そっちの方が危険なんじゃ……』

 

『そうかもしれないけど、血界君なら大丈夫だと信じてる。いっつも放課後の練習に付き合ってくれるからわかったんだけど血界君の近接戦においてはおそらく右に出る者はいない。かっちゃんがこちらに挑んでくるなら血界君が迎え撃ちに行って、自分の領域(レンジ)に誘い込むんだ』

 

(本当に緑谷の言う通りになったな!)

 

「オオオォォォッ!!」

 

「ッ!クソが!!」

 

爆豪は右の大振りを振ってくるが血界はそれを左手で手首を掴み、受け止め、右手を爆豪の頭に向けた。

 

「チィッ!!」

 

爆豪は頭を左に振って避けるが少し掠れる。

爆豪は一旦爆破して、血界から距離を取り態勢が崩れた血界に再び迫る。

 

(そこだッ!)

 

しかし、血界は目だけ爆豪に向けており、体を捻り無理やり爆豪の方を向いて、再び伸びてきた爆豪の腕を掴んだ。

 

「取らせるかよ!」

 

「舐めてんじゃねえぞクソが!!」

 

その時2人の背後からそれぞれワイヤーとテープが飛んできて2人を捕まえ、自分の騎馬に戻した。

 

「血界君!取られていない!?」

 

「大丈夫だ!」

 

地上の騎馬に戻った爆豪は悔しそうに叫んだ。

 

「なんで戻しやがった!!?」

 

「あのままやってても取れるかわかんねぇだろうが!!一旦距離を取り直してもう一度再チャレンジだ!!」

 

「……チッ!」

 

切島の言葉に理解は出来ても、納得はできなかったらしく大きな舌打ちをした。

 

 

上空に浮かび続ける血界たちは下を警戒しながらも落ち着いていた。

 

「このままいけば時間いっぱいまで行ける。注意するのはかっちゃんだけだ」

 

「そうだといいけどな」

 

「うーん……このままではベイビーの見せ場がないですねぇ。一旦降りませんか?」

 

「何言っとんの!?」

 

競技中だと言うのにどこか朗らかした空気になっている時に突然下からいくつもの氷柱が下から襲ってきた。

 

「うわっ!!」

 

「きゃあっ!!」

 

「氷!?……轟君!?」

 

「いや、これは氷麗か!!」

 

下を向くとダークシャドウの頭部分に乗った氷麗がこっちを見ていた。

 

「楽して勝つなんてつまんないでしょ?」

 

氷麗が血界たちに向かって足を振るうとそこから氷柱が飛ばされ、再び血界たちを襲う。

 

「危ない!」

 

「緑谷一旦降りたほうがいい!このままじゃ崩されて終わりだ!」

 

「わ、わかった!」

 

麗日のゼログラビティを解除し、地面に降りる。

降りる際も発目のベイビーにより安全に降りれた。

 

「どうですかベイビーたちは!!可愛いでしょう!?可愛いは作れるんですよ!!」

 

「すごいよ!思いっきり血界くんを投げれたよ!!」

 

「でしょう!」

 

緑谷の右腕に装着しているグローブは大きな物を掴むことができ、またグローブに付いているアタッチメントには血界を引き戻すための鉤爪が付いている。

 

『さ〜〜〜〜まだ5分も経ってねぇが早くも混戦混戦!!各所でハチマキ奪い合い!!1000万を狙わずに2位〜4位を狙うのも悪くねぇ!!』

 

その時、血界たちに影が迫ってきた。

 

「アハハハ!奪い合い…?違うぜこれは……一方的な略奪よお!!」

 

それは複製腕を背中でシェルターのように閉じている障子だった。

 

「障子!?1人か!?騎馬戦だぞ!?」

 

まさかの1人に血界は驚く。

 

「とりあえず一旦距離を取ろう!立ち止まっちゃダメだ!!」

 

迫る障子から逃げようとするが麗日は足に違和感を感じ、足元を見ると峰田の個性『もぎもぎ』を踏んでいた。

 

「何!?取れへん!」

 

「峰田くんの!!一体どこから……」

 

「ここだよォ血界ィ……」

 

「峰田!?お前そんなとこにいたのか!!?」

 

『まさかの1人騎馬!!これはアリなのか!?主審のミッドナイトどうなのよ!!』

 

『基本的に騎手が地面に着かなければオーケーよ!!』

 

すると、峰田が覗いていた障子の複製腕の間から鞭状の何かが血界に飛んできた。

 

「うおっ!?」

 

「避けられちゃったわね。流石血界ちゃん……!」

 

「梅雨ちゃんもいたのか!」

 

「とりあえず離れよう!血界くん!!」

 

緑谷の合図で血界はブースターを起動して上空に逃げた。

 

「ああ!!ベイビーが!!」

 

「悪い!」

 

また氷麗に狙われては不味いと思い、すぐに着地する。

すると血界たちの前にある者達が立ち塞がった。

 

「やっぱ来るよな……お前は」

 

「そろそろ奪るぞ」

 

轟のチームとの戦いが始まる。

 



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File.20 ライン際での執念

多くのチームが血界達を狙い、それから血界達は逃げている頃、氷麗達のチームは他のチームたちを狙って動いていた。

 

「先ずはあのチームから狙うよ」

 

「葉隠のチームか。奴らには悪いがここで討たせてもらう」

 

氷麗たちは葉隠、砂藤、口田、青山のチームに近づく。

 

「耳郎ちゃんが相手かー!負けないよー!」

 

「常闇もいやがる。青山!レーザーで攻撃だ!」

 

「ウイ!任せてよ」

 

青山の個性『ネビルレーザー』が腹に装着している機械からレーザーが発射される。

 

「鳥、カラスで防御」

 

「ダークシャドウだと言っているだろう!」

 

ダークシャドウでネビルレーザーを防ぐが、ダークシャドウは涙を流しそうになっていた。

 

「眩シイ!!」

 

「カラスの頭の上って乗れるの?」

 

「…….試したことはないが恐らく可能だろう」

 

「じゃあ乗せてね」

 

氷麗は騎馬からジャンプしてダークシャドウの頭に乗る。

 

「頼むわ」

 

「ツカマッテロヨ!」

 

ダークシャドウは葉隠たちに迫る。

 

「来たよ!」

 

青山がネビルレーザーで牽制するがダークシャドウはそれを巧みに躱していく。

そして近づいていくとダークシャドウの頭に乗っていた氷麗が葉隠にたちに飛びかかった。

 

「飛んできた!?」

 

「自殺行為だろ!!」

 

『鳥たちよ!彼のものを襲いなさい!』

 

口田の個性『生き物ボイス』で会場近くにいた鳥に指示を出し、空中にいる氷麗を狙わせる。

しかし鳥が近づくと氷麗は体をよじり、回転しながら鳥を蹴った。

 

「容赦ねぇな……」

 

蹴り落とされた鳥を見て、何も思っていなさそうな氷麗を見て心操は少しゾッとしながらそう呟く。

 

「イタッ!」

 

「とうちゃーく」

 

青山の頭の上に立った氷麗は上半身の服を脱いで、ハチマキだけが浮かんでいるように見える葉隠を見下ろす。

 

「あわわわ……」

 

「それって裸なの?恥ずかしくない?」

 

氷のように冷たい目で見下ろされた葉隠は恐怖なようなものを感じとり、怯えてしまうが氷麗は普段のように話しかける。

 

「フンッ!離れろォ!!」

 

砂藤の個性『シュガードープ』により、氷麗の足首を掴んで空中に投げ飛ばすがダークシャドウが氷麗を回収する。

 

「助かったわ。そっちの首尾はどう?」

 

「上手くいったよ」

 

氷麗の猛攻から解放された葉隠は一息ついた。

 

「ハァ〜…怖かったぁ〜」

 

「アイツ、単身で乗り込んでくるなんて滅茶苦茶やるな……っておい!葉隠!お前ハチマキどうした!!?」

 

「え!?あれ!?どこにいったの〜!!?」

 

「おい!口田!何かしらないか!?」

 

「………」

 

「口田!?どうした!?」

 

突然喋らなくなり、反応もしなくなった口田に慌てる葉隠たち、それを見ていた氷麗は耳郎から葉隠がつけていたハチマキをもらった。

 

「作戦上手くいったね。氷麗が目立つことをして囮になっている間にウチと心操がハチマキを奪う作戦」

 

「根暗の個性がなかったら上手くいかなかったわね」

 

氷麗のその言葉に心操はどこか悲しそうに見える笑みを浮かべる。

 

「こんな個性、アンタらみたいなヒーロー向きな個性に比べたら嫌なもんだろ」

 

心操の個性は『洗脳』、話しかけた相手が返事をすれば相手は洗脳状態になり、心操の言うことを聞いてしまう。

その個性に故に心操はヒーローを目指していても、ヴィランみたいだと言われ傷ついてきた。

 

「何言ってんのよアンタ?そんなの自分が決めるもんでしょ。誰が何て言おうが関係ないわ」

 

前を向き続ける氷麗を心操は見上げる。

 

「自分の力をどう使おうが自分の勝手よ。少なくとも私たちはその個性はいい個性と思っているわ」

 

「ハチマキ取りやすかったし、助かったよ」

 

「味方であれば強力なものだ」

 

心操は今まで素直に褒められたことがなく、3人の言葉は嬉しかった。

 

「そうかよ……変な奴らだな」

 

そう毒吐くが心操は少し照れたような様子だった。

 

「さあ、次は鉄哲のチームに行くわよ」

 

氷麗たちの密かな猛攻は続いていた。

 

 

視点は氷麗たちから、血界たちに戻る。

最大の敵であろう轟チームとの対峙に緊張が走る。

そして狙ってくるのは轟チームだけじゃない、氷麗にハチマキを取られた葉隠、鉄哲、峰田やその他のチームが高得点を狙おうとしていた。

ちなみに峰田からハチマキを取ろうとした時、氷麗を初めて見た峰田はあわよくばエロい事を狙っていたが、容赦なしに蹴られていた。

そのため今は頬が腫れ鼻血を垂らしながら迫ってきている。

 

「終盤らへんで挑んでくると思ったけど、予想より早い!」

 

「挑んだ奴が2人もいるんだ。そりゃ狙われるな。だけども時間もあと半分だ!足止めるなよ、みんな!!来るのは1組だけじゃねぇぞ!」

 

轟の後ろから多くのチームが迫ってくる。

それと同時に轟は八百万たちに指示を出す。

 

 

「飯田は前進、八百万はガードと伝導を準備」

 

「ああ!」

 

「ええ!」

 

「上鳴は……」

 

「いいよわかってる!!しっかり防げよ……!!」

 

八百万が絶縁シートを創り出し、八百万、飯田、轟を包むと辺り一面に上鳴から電撃が放たれた。

 

「ブレングリード流血闘術…!」

 

 

117式 絶対不破血十字盾

 

 

咄嗟に血界が左腕で盾を創り出し電撃を防ぐ。

 

「くっ……!」

 

盾で防いでも電光の激しさに血界は顔をしかめる。

 

(左腕も使っちまった……まだ右腕に血が溜まっていない)

 

血界の個性を使用するにはある一定の血液量が必要なのだが、ナックルガードをつけていない状態だとその量の調整が上手くいかない。

よって装着していない状態で使用すると使われる血液量が多かったり、少なくなってしまう。

血液量が少なくなり、技が小さくなるのを避けるために血界は血液を両腕に溜めているが、それも使い切ってしまった。

 

「追い込まれた!血界くん飛ぼう!!」

 

「ダメだ。さっきの電撃でバックパックがイカれた」

 

「オウ!ベイビー!改良の余地ありですね!!直しておきます!」

 

そして轟は上鳴の電撃で動けなくなった他チームからハチマキを奪い、ライン際に追い詰めた血界たちと自分たちを囲むように氷のフィールドを作り上げる。

 

「追い詰めたぞ」

 

「こいよ」

 

血界チームと轟チームの攻防は激しさが苛烈を極めた。

轟が氷で攻めると緑谷が超パワーで砕き、なるべく轟の左側に寄っていた。

轟は頑なに左を使いたがらない。

それを突いた作戦は轟たちに攻撃させなかった。

 

「突かれてんじゃないか……阿保め」

 

それを見ていた轟の父親であり、No.2に輝くヒーローエンデヴァーがその様子を見て吐き捨てるかのように言った。

そして攻防が続き、残り時間は1分となった。

 

『残り時間約1分!!轟がサシでやり合うためにフィールドを氷で囲ったが5分間!!血界はなんと狭い空間を逃げ切っている!!』

 

(この野郎……俺の氷結が当たらないように動いてやがる。上鳴の放電も血界に防がれちまうし、迂闊に近づけば攻撃をモロに食らっちまう)

 

轟が残り1分でどう攻めればいいか分からず、焦り始める。

その時騎馬になっている飯田が口を開いた。

 

「みんな、残り1分弱……この後俺は使えなくなる。頼んだぞ」

 

「飯田?」

 

「奪れよ!轟君!!……トルクオーバー!レシプロバースト!!」

 

その瞬間、飯田の脹脛から生えているマフラーから炎が巻き上がり、一瞬のうちに血界たちの横を通り過ぎ、血界のハチマキを奪取していた。

 

「なっ……!!」

 

突然のことに血界も呆然としてしまう。

 

『なーー!!?何が起きた!!?速っ速ーーー!!飯田、そんな超加速があるんなら予選で見せろよーー!!!そしてこれで逆転!!轟が1000万!!血界、急転直下の0Pーー!!』

 

プレゼントマイクの実況とともに観客の興奮が最高潮に昇った。

 

「飯田!何だ今の……」

 

「トルクと回転数を無理矢理上げ爆発力を生んだのだ。反動でしばらくするとエンストするがな。クラスメートにはまだ教えていない裏技さ……言ったろ緑谷くん。……君に挑戦すると!!」

 

飯田は好戦的な目で、初めて緑谷にしてやった、勝ったと思った。

その目で緑谷を見たが、その目に信じられないものが写った。

 

「ハチマキ!返せぇーー!!」

 

麗日の個性で無重力状態の血界がこちらに向かって飛び込んで来たのだ。

 

『血界!まさかの轟に飛び込んだーー!!』

 

「っ!!轟くん!!」

 

飯田が轟の名を呼んだ時にはもう血界は轟の腕を掴んでいた。

 

「離せ!!」

 

「無理だ!」

 

騎馬の上で揉め合う2人に飯田たちも戸惑ってしまう。

 

「どうする!?」

 

「電気ブッパなすか!?」

 

「ダメですわ!こちらも巻き込まれてしまいます!」

 

そしてそれは緑谷たちも同じだった。

突然血界が緑谷の背中を蹴って、轟たちの方に飛びかかったのだ。

どうするべきか、足を止めてしまう。

その時轟と揉め合う血界が叫んだ。

 

「緑谷!!足を止めるな!!」

 

「……ハッ!2人とも!別々に分かれて!」

 

「えっ、うん!」

 

「わかりました!」

 

血界の声で正気に戻った緑谷たちは騎馬の形を崩し、轟たちの方に走る。

そして揉めあってる2人に動きがあった。

血界が右腕を上げ、拳を作るとその拳に紅い稲妻のようなものが走る。

 

「オオオォォォ!!」

 

「くっ!?」

 

明らかに個性を帯びた拳に当たればタダでは済まない。

さらに鬼気迫る血界の雰囲気に轟は気圧され、左の熱で防ごうとしてしまった。

 

「アツっ……!」

 

「っ!!?」

 

炎が僅かに溢れでるほどの熱に血界は僅かに顔をしかめる。

防いだ当の本人が驚き、動きが止まってしまう。

 

(左……俺は何を…!)

 

すぐに消したが左の熱を使おうとしたことに動揺が隠せない。

 

「轟さん!!」

 

八百万が腕から鉄棒を血界に向かって創造し、勢いよく出す。

 

「ぐっ……!」

 

血界はそれを体を後ろに仰け反って躱すが、元々不安定な騎馬の上に2人も乗っていたのだ。

血界は重力に従って落ちてしまいそうになる。

 

「まずっ……!」

 

「血界くん!!」

 

落ちそうになった時に緑谷がジャンプして、血界を捕まえて轟たちから一回離れる。

 

「緑谷!助かった!!もう一度俺を投げろ!!」

 

『残り20秒!!』

 

「待ってください!ベイビーを直しておきました!急なんで一回が限界です!!」

 

「充分!!」

 

「轟くん!しっかりしたまえ!!来るぞ!!」

 

「移動しましょう!」

 

緑谷は血界の体をグローブで掴み、力を込めて投げる。

 

「いっけえぇっ!!」

 

弾丸のように飛んでくる血界に轟たちは騎馬を移動して避けようとする。

 

(急な方向転換が……!)

 

「麗日!解除だ!!」

 

「はい!」

 

「ブレングリード流血闘術……!」

 

 

111式 十字型殲滅槍

 

 

ゼログラビティが切れた血界は地面に向かって拳を振るう。

現れた槍を地面に突き刺し、槍を足場にして轟たちの方を向き、飛びかかる。

 

『残り10秒!!』

 

しかし未だ距離があるが、血界はバックパックのボタンを押してロケットのように飛び出す。

 

「来たぞ!」

 

「上鳴!!」

 

「ウェェェイッ!!!」

 

絶縁シートで身を包んだ轟が合図し、上鳴から電撃が放たれる。

まっすぐ突っ込んでくる血界はもれなく電撃を浴びてしまう。

 

「ガアアアァァァッ!!?」

 

(これでお終いだ……)

 

血界の叫び声を聞いたそう思った轟だが、突然絶縁シートを剥がされ

目に飛び込んできたのは電撃を浴びながらもこちらに手を伸ばす血界だった。

 

(こいつ…怖くないのか!!?)

 

血界の電撃を浴びても容赦せずに攻めてくる姿にに轟は戦慄する。

 

「オラァァッ!!」

 

電撃を浴びながらも血界はハチマキを奪い取り、轟たちから離脱する。

 

「どっちが持ってやがる!?」

 

その時、空中から爆豪も参戦するがどちらが1000万Pを持っているかわからない。

 

「血界くん!」

 

血界が地面に落ちそうになった瞬間、麗日がギリギリで血界にタッチし、アウトを免れた。

 

『タイムアープッ!!!』

 

それと同時に競技が終わった。

緑谷たちと轟たちは血界がどっちのハチマキの持っているか緊張が走る。

 

『さあ!1位から見ていくか!!激戦の1000万Pの取り合いに勝利したのは………血界チーーーム!!!』

 

血界が掴んだハチマキを高く掲げて、1000万の数字を周りに見せつけた。

 

「血界くん!!やったね!!」

 

「お、おう……」

 

喜ぶ麗日に体が痺れる血界も引きつりながらも笑みを返した。

 

「やった!勝ったんだ!」

 

「これでベイビーたちを見せれます!!」

 

緑谷と発目も喜ぶが、それを見ていた飯田たちは悔しそうにしていた。

 

「くそっ……!緑谷くんだけとは思っていなかったが、やるな!血界くん!!」

 

「まさかあそこまでやるなんて……予想を超えてきましたわ」

 

「ウェ〜〜〜イ………」

 

「………ちくしょうが……親父の思う通りじゃねえか……」

 

轟だけが1000万を取られたことではなく左手を見て、そう呟いた。

 

「クソがああぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

「落ち着けって爆豪!」

 

1000万の奪りあいにすら参加できなかった怒りの叫び声を上げる爆豪とそれを落ち着ける切島の姿も見られた。

 

 

 

『2位轟チーム!3位爆豪チーム!4位氷麗チーム!以上4組が最終種目へ…進出だああーーーー!!』

 

「すげぇな……あそこまですんのか」

 

「鬼神の如し攻めだな」

 

「あれが血界の強みよ」

 

血界たちとは離れたところでモニターで最後の戦いをダイジェストを見ていた氷麗たちがそう呟いた。

 

「アイツの強みは驚異的な身体能力、血の技もあるけど一番はその執念。何がアイツをそうさせるか知らないけど、あの執念さは異常よ。まあ、それがアイツを強くさせてるのは明確だけどね」

 

「血界……」

 

耳郎は1人、自分が追いかけている背中が改めて遠いことを感じとり、少し悲しそうに呟いた。

 



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File.21 インターバル

騎馬戦が終わり、昼休みとなった。

皆がそれぞれ疲れた体を休めようと食事を取りに行こうとするなか血界も使用した血を補おうとさっそく食堂に向かおうとしていたが、アリーナのとある通路の入り口に差し掛かったとき、轟の話しが聞こえてきた。

 

「お前、オールマイトの隠し子か何かか?」

 

(おおっと……なんか修羅場な雰囲気だな)

 

普通なら気まずい雰囲気に去っていくものだが、『オールマイトの隠し子』という気になる言葉を聞いてしまい、気になって足を止めて聞いてしまう。

案外野次馬精神を持つ血界だった。

 

「え、ええっと……!」

 

「まあ、そんなことはどうでもいい。お前がオールマイトに気にかけてもらってるだろ、つまりオールマイトと何か関係があるってことだ。……俺の親父を知っているだろ。お前がNo.1ヒーローの何かを持っているなら、俺は尚更勝たなきゃいけねぇ」

 

どこか恨みが込められている言葉に緑谷は息を飲む。

同じく聞いていた血界のところに爆豪がやってきた。

 

「あっ」

 

「なんだツリ目…むぐっー!」

 

「しっー!」

 

血界は爆豪の口を押さえ、静かにするようにジェスチャーで伝え、緑谷たちを指差す。

轟の口から語られたのは彼の壮絶な過去だった。

オールマイトを超えられなかった父、エンデヴァーが個性婚を行い、母の個性を無理矢理手に入れ、両親の個性を受け継いで生まれてきた自分をオールマイト以上のヒーローに育て上げることで己の欲求を満たそうとしていた。

辛い訓練で泣く轟と、エンデヴァーからのキツイ当たりで母は心を病み、涙を流していた。

そして、心を病んだ母に『お前の左側が醜い』と、煮え湯を浴びせられたしまった。

 

「クソ親父の個性を使わず、一番になる事で奴を全否定する」

 

 轟は静かに憎しみを滾らせる。その両目には父への憎悪しか宿っていなかった。

 

「それだけだ……悪いな時間を取らせて」

 

それだけを言って去っていく轟に緑谷は待ったを掛けた。

 

「僕はずうっと助けられてきた。…僕は誰かに救たすけられてここにいる」

 

轟が振り返って緑谷を見る。彼は自身の両手を見つめ、自分の想いを声に出していた。

 

「オールマイトのようになりたい。その為には1番になるくらい強くなきゃいけない。君に比べたら些細な動機かもしれないけど、僕だって負けらんない。僕を救けてくれた人たちに応える為にも…!だから、さっき受けた宣戦布告。改めて…僕も君に勝つ!」

 

緑谷は拳を握り締めて言い放つ。

轟は一瞥して去っていくが、その目に彼が写っていたかはわからない。

それを聞いていた血界たちも轟の過去に驚いていた。

 

「なんか凄いの聞いちまったなぁ」

 

「……関係あるか。デクも轟も、お前も倒して1位になるのは俺だ」

 

静かにそれだけ言って去っていく爆豪に血界は疑問に思ったことを聞いた。

 

「なあ爆豪、お前がヒーローになりたい理由って何だ?」

 

「ああ?……テメーには関係ねえだろうが」

 

今度こそ去っていく爆豪の後ろ姿を見た血界は快晴な空を見上げて、一息つく。

 

「スゲーな。みんな」

 

憧れを持つ者、憎しみを持つ者。

皆それぞれ何かを思いながらも目標に向かって進んでいる。

血界にはそのことが少し羨ましく思えた。

自分には明確な目標がないわけではないが、憧れとは全く違い、どちらかというと轟に近いものだ。

耳郎たちには自分は憧れのヒーローを目指していると言っていたが、確かにそれもあるが本質はそれじゃない。

 

「あっ、いた。血界!昼ご飯食べに行こうよ」

 

そこに耳郎が八百万と蛙水を連れて現れた。

 

「……ああ」

 

耳郎が自分に挑戦した時、素直にこいつには勝ちたいと思った。

今はそれでいいと心に押し込め、耳郎たちの方に進んでいく。

いつかは自分も人に胸を張って、なぜヒーローを目指したのかを言えるようになりたいと思いながら。

 

 

346プロのチーフの部屋では雄英体育祭の午前の部を見終わり、楓が一息ついた。

 

「ふぅ……チーくん。なんとか勝ち残れましたね」

 

「無茶なことばかりして醜態を晒していたがな」

 

「フフッ、そう言いながら心配していましたよね?さっきからずっと握り拳を作ってましたよ」

 

血糸は自分が拳を握っていたことに今更気づき、手を離す。

 

「へーあれがチーフくんの甥っ子さんなのね。噂で聞いたのよりよっぽど厳ついわね〜」

 

そう呟いたのは同じく346プロのアイドル、川島瑞樹。

テレビアナウンサーからアイドルになった女性だ。

 

「血がいっぱい……綺麗だったなー……」

 

幽霊のように呟か色白の少女も同じくアイドルである白坂小梅。

ここにいるアイドルたちの他にもいるが、血糸がチーフになる前にスカウトし、一人前のアイドルに育て上げた人たちである。

今は役職に就いた血糸が個人のアイドルの世話を見ることができないので、後輩のプロデューサーに任せてはいるが、よくこうやってチーフの部屋に入り浸っていることがある。

 

「プロデューサー。ちょっと仕事のことで聞きたいことがあるんだけど」

 

「チーフだ。お前のプロデューサーは犬飼だろうが」

 

「あっ、そうだった。ごめんごめん☆」

 

部屋に入ってきたのはカリスマギャルとして最近人気が急上昇している、城ヶ崎美嘉だ。

彼女も血糸がプロデュースしたアイドルだ。

 

「犬飼に聞けばいいだろう」

 

「ワンちゃんは今、KBYDに同行しているからここにいないの。それでチーフが今日はもう仕事が終わったって聞いたからここにきたんだ♪」

 

ワンちゃんは犬飼のアダ名である。

ちなみに女性で小柄で中学生くらいにしか見えないが、れっきとした成人の女性である。

しかし、その小柄な体と彼女の個性である『ドッグパーツ』、体に犬の部分が現れている異形型の個性で小型犬のペットのように可愛がられてしまっている。

ちなみに前川みくとは猫派、犬派で争っている。

 

「で、何してたの?」

 

「雄英の体育祭を見てたのよ」

 

楓がそう教えてくれて、テレビに目を向ける美嘉だがどこかつまらなそうだった。

 

「ふーん……」

 

「興味、ないの……?」

 

「別に……そういうわけじゃないけど」

 

美嘉はどこか不機嫌そうにしているのは訳があるが、今はそれを語らない。

不機嫌になった美嘉を川島や白坂が宥めているのを他所に楓は血糸に話しかける。

 

「ここから本番ですよね。チーくん勝てると思いますか?」

 

「さあな。今年はいい奴が揃ってはいるから血界でも厳しいだろう。だが、アイツもただでは負けないさ」

 

 

血界は耳郎たち、さらに緑谷と麗日、飯田を加えて食堂にやってきていた。

血界の目の前にはテーブルを埋めつかさんばかりの料理が並んでいる。

 

「相変わらずよく食べるな……」

 

「騎馬戦の時に血を使い過ぎた!んぐっ、なくなった分は取り戻さないと」

 

料理をかき込んでいく姿を見て耳郎は少し呆れた様子だった。

 

「ケロ、それにしてもここにいる私以外が勝つなんて凄いわ。みんな頑張ってね」

 

「ありがとう。でも、血界くんがいなかったら僕たちは負けてたよ」

 

「しかし血界くんのあの勝利への執念というべきものなのか……あれは凄まじいものだった」

 

「上鳴さんの電撃にも怯えませんでしたものね」

 

「あー、あん時は必死だったからな」

 

そんな会話をしていると峰田と上鳴が八百万の元にやって来た。

 

「なぁ、八百万。ちょっといいか?」

 

「何か御用ですか?」

 

八百万は峰田たちと何かを話し始めた。

昼食を食べ終え、昼休みが終わるといよいよ午後の部が始まる。

 

『最終種目発表の前に予選落ちの皆は朗報だ!!あくまで体育祭!ちゃんと全員参加のレクリエーション種目も用意してんのさ!』

 

続々と会場に戻ってくる生徒たちだが、その目は怪訝なものを見る目だった。

その目は1-Aの女子生徒たちに向いていた。

 

『ん?アリャ?どーしたA組!!?』

 

『なーにやってんだ……?』

 

1-Aの女子全員が目が死んだ状態でチア服を着て、ポンポンを持って並んでいた。

 

「峰田さん!!上鳴さん!!騙しましたわね!?」

 

峰田と上鳴はアメリカから来日したチアガールたちを見かけ、そのエロ頭脳から八百万たちに着せたいと思い、上鳴と一芝居うち、相澤から応援合戦をしないといけないと伝えたのだ。

相澤から言伝だと言えば、素直で真面目な八百万は信じてしまい、服も作って全員に配ったのだ。

 

「何故こうも峰田さんの策略にハマってしまうの私……」

 

「おい峰田!上鳴!これはどういうこと!?」

 

「うるせー!ちっぱい!!見たいもん見て何が悪い!!」

 

「そーだ!そーだ!」

 

「ヴィランみたいなこと言ってるわ」

 

「うん」

 

耳郎も恥ずかしそうにして峰田と上鳴に怒鳴る。

サバサバした性格の彼女だが結構な乙女な所があり、氷麗から借りた少女漫画に顔を赤くするほどだ。

そんな彼女からしてみればこの格好は大分と恥ずかしいだろう。

 

「血界も見たいよな!!?」

 

峰田は耳郎たちのチア姿を見ていた血界に同意を求めると、耳郎は血界の視線に気づき、より恥ずかしそうにする。

 

「なっ、血界!?み、見るな!!」

 

「まぁ、そう言われたら見ないけど……」

 

恥ずかしくなりポンポンで体を隠す耳郎だが、それがまた可愛さに拍車をかける。

しかし、上鳴が肩を組んで来て、イヤらしい笑みを浮かべる。

 

「でもイイだろ?」

 

「イイ!」

 

「……ッバカーー!!」

 

上鳴の言葉にサムズアップして答え、再び耳郎に目を向けてしまい、普段大声を上げない耳郎が恥ずかしさが頂点に達し、大声を上げてしまった。

 

「イイよ、イイよ響香。もうちょい視線を頂戴」

 

「氷麗も撮るな!」

 

氷麗がどこからか携帯を取り出し、チア姿の耳郎を連写していた。

そして後日、その写真を血界に売りつけている氷麗の姿があったとかなかったとか……。

 

『少し変なことがあったが、皆楽しく競えよレクリエーション!それが終われば最終種目、進出4チーム総勢16名からなるトーナメント形式!!1対1のガチバトルだ!!!』

 

 

凛はレッスンが終わり、テレビが置いてあるプロジェクトルームに急いでいた。

早く体育祭を見たかったのだ。

 

「私先に行くね」

 

「凛ちゃ〜ん。少し待ってくださ〜い……」

 

「いやー、あんな早歩きするしぶりん始めて見るね」

 

プロジェクトルームに着くと何人かは仕事に行っているが大体のメンバーがいた。

 

「体育祭!どうなったの!?」

 

凛が慌てた様子で聞くと、みりあが答えた。

 

「えっ〜〜とね?血界くんが電気に飛び込んで、氷麗ちゃんがぴょんぴょん飛び跳ねてて、響香ちゃんはチアガールになってたよ」

 

「何があったの!?」

 

 



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File.22 一回戦

レクリエーションが全て終わり、いよいよ最終種目のトーナメント形式のガチバトルが始まる。

事前にミッドナイトからの説明を聞き、くじ引きで組み合わせを決めた。

その結果、

第一試合 緑谷 対 心操

第ニ試合 轟 対 瀬呂

第三試合 氷麗 対 上鳴

第四試合 血界 対 切島

第五試合 芦戸 対 常闇

第六試合 飯田 対 発目

第七試合 耳郎 対 八百万

第ハ試合 麗日 対 爆豪

となった。

 

(切島の次は氷麗か……激戦になるな)

 

もし勝ち進んで当たる氷麗との戦いを予測し、武者震いを起こした。

奇妙な幼なじみ相手とのガチバトルにやる気が立ち込める。

 

(血界と決着をつけるわ)

 

氷麗は初戦の相手ではなく、次の血界との戦いに気合いを入れる。

 

(ヤオモモと……勝たせてもらうよ)

 

耳郎も普段から仲がいい八百万だが自分の目標のため、勝つ意気込みが高まる。

それぞれが思いを込め、いよいよ戦いに挑む。

 

『ヘイガイズ!!アァユゥレディ!?色々やってきましたが!!結局これだぜ、ガチンコ勝負!!頼れるのは己のみ!ヒーローでなくともそんな場面ばっかりだ!わかるよな!!心・技・体に知恵知識!!総動員して駆け上がれ!!』

 

雄英教師の1人、セメントスが自身の個性『セメント』でアリーナの中心に正方形のリングを作る。

それと同時にプレゼントマイクの言葉と共に観客のボルテージも上がっていく。

一回戦は緑谷 対 心操との戦いだ。

 

「緑谷と普通科の心操か……普通に考えたらフルカウルを使える緑谷が有利だけど、心操の個性知らないからなぁ」

 

「心操の個性は結構凄いよ」

 

1-Aに用意された観客席で緑谷の試合を見守る血界がそう呟くと隣の耳郎がそう付け足した。

 

「騎馬戦で耳郎は心操と同じチームだったんだよな。どんな個性なんだ?」

 

「それは言えないけど、見てたらわかるよ。まぁ緑谷に悪いけどこの勝負は心操が勝っちゃうかもね」

 

耳郎はどこか得意気に言った。

 

『レディィィィイイイスタート!!!』

 

始まったと同時に緑谷は心操に向かって何かを怒鳴ると動きが止まってしまった。

 

「緑谷!?どうした!?」

 

「勝った」

 

突然完全停止した緑谷は心操に何か言われ、心操に背を向けて場外に向かっていこうとする。

 

「おいおい。どうしたんだよ?」

 

心操の個性『洗脳』は彼の問いかけに答えた者を洗脳してしまう個性だ。

従順に従ってしまう緑谷だが、寸前の所で突然緑谷の個性が暴発したように発動し、指を折って洗脳を解き、フルカウルで心操を場外に押し出し、勝利した。

 

「あー負けちゃったかぁ」

 

(今の個性の発動おかしくないか?)

 

耳郎が残念そうに呟くだが、血界は緑谷の様子がおかしいことが気になった。

 

「轟の次が俺だから、そろそろ控え室行くわ」

 

轟の次の試合に出る上鳴が立ち上がり、控え室に行こうとするが血界が止めた。

 

「待て上鳴、お前の対戦相手氷麗だろ?」

 

「おう!大丈夫だって!優しく倒すさ」

 

調子よくそう言ってのける上鳴だが、血界は真剣な顔で話す。

 

「いや、アイツと戦うなら注告しとこうって思ってよ」

 

「注告?」

 

「アイツと戦うなら速攻で倒せ。でなきゃ負けるぞ」

 

「お、おう」

 

上鳴は真剣な表情の血界に戸惑いながら控え室に向かって行った。

 

「血界ちゃん、上鳴ちゃんにアドバイスしても良かったの?氷麗ちゃんに不利になってしまうんじゃないかしら?」

 

上鳴の個性『帯電』は強力な個性だ。

一度発動ししてしまえば狭い競技場じゃひとたまりもない。

蛙水はそう思い、血界に言うが血界はそう思っていない。

 

「アドバイスしてあげてやっと互角だよ」

 

「どういうことだよ?」

 

切島も気になり、質問した。

 

「氷麗は強いんだよ。もしかしたら俺よりも」

 

血界のその言葉に爆豪も一瞬だが目を向けた。

その後、轟と瀬呂との試合だったが轟の巨大な氷塊に瀬呂は半身を凍らせられ、圧倒的な敗北だった。

あまりの圧倒さに『ドンマイ』コールがしばらく鳴り響いた。

 

「ヤバイな轟……圧倒的じゃん」

 

「そうだな……瀬呂、ドンマイ」

 

血界は轟の圧倒さより、どこか悲しそうな轟の表情が気になった。

 

「じゃあ俺控え室に行くわ」

 

「うん。が、頑張って!」

 

「おう!」

 

耳郎が少し恥ずかしがりながらも応援して血界はそれを受け止め控え室に向かった。

 

「血界!ダチだからって遠慮なくやらせてもらうぜ!!」

 

「当たり前だ。俺も本気でやらせてもらう」

 

別れるところで対戦相手である切島にそう言われ、拳を突き合わせた。

割り当てられた控え室に向かっていると指の治療を終えた緑谷と鉢合わせた。

 

「よお緑谷。試合勝ててよかったな、おめでとう」

 

「ありがとう血界くん。今から控え室に向かうところ?」

 

「ああ、上鳴と氷麗の試合の次だからな」

 

「上鳴くんとスターフェイズさんの試合か……スターフェイズさんの個性は轟くんと同じ、氷系の個性だと思うけど上鳴くんの個性は強力だからな……上手く氷を使って上鳴くんの個性を防げるかどうかで勝負が決まるのかな?いや、それとも……」

 

「ブツブツ言ってないで見たほうがいいぞ。もう始まる」

 

「そ、そうだね。試合頑張って!」

 

そう言って緑谷が血界から離れようとしたが、血界が何かを思い出したように緑谷を呼び止めた。

 

「あ、緑谷。さっき氷麗の個性がどうとか言ってたけどあんまり見れないかもしれないぞ?」

 

「どういうこと?」

 

「見たらわかる」

 

血界は少し笑って控え室に向かった。

 

 

『お待たせしました!!続きましては〜こいつらだ!!』

 

「間に合った!」

 

「お疲れデクくん!」

 

「隣空けてあるぞ」

 

「ありがとう!」

 

氷麗と上鳴の試合に何とか間に合った緑谷は飯田が空けておいた席に座った。

 

「轟くんの試合は見たかい?」

 

「うん……救護室のモニターで見たけどすごかった」

 

しかし緑谷は轟の圧倒的な強さに戦慄しながらも、氷を溶かす轟の姿が血界同様に悲しそうに見えた。

 

『B組からの刺客!!可愛い見た目の裏腹にその実力は本物!氷麗・A・スターフェイズ!対、スパーキングキリングボーイ!上鳴 電気!!』

 

「刺客って何よ?私が格下みたいじゃない」

 

氷麗は放送室にいるマイクをジロリと睨むと、マイクの背中に冷たいものが走った。

 

『ごっごめん!!あれ!?なんか覚えがあるぞ!?この緊張感!!?』

 

『アホだろ』

 

「結構キツめな娘なのね」

 

上鳴はジッと氷麗の容姿を見る。

背は小さいながらも女子高生のプロポーションとは思えないほど整っており、さらにA組の一番の胸の大きさを持つ八百万に劣らないほどの巨乳を持ち、瞳は氷のような冷たさを思い起こさせるが可愛らしい顔つきを持つ美少女だ。

 

(血界が注告するってことは相当な実力だよな……ここはもう全力で放電行くしかなくね!?つーかだいぶカワイイよな!?今までで一番カワイイぞ!!よし今度お茶するしかなくね!?よーし!!)

 

「体育祭終わったら飯とかどうよ?」

 

「はあ?」

 

突然の誘いに氷麗は怪訝な顔になる。

 

「俺でよけりゃ慰めるよ」

 

氷麗は一瞬つまらなさそうな顔になるが、すぐに笑みを浮かべる。

 

「……いいわよ。私に勝てたらね?」

 

「よっしゃ!……多分この勝負一瞬で終わっから」

 

『スタート!!』

 

上鳴は開始の合図と共に体に電気を帯電させ最大規模の電気を放とうとしたが、その瞬間氷麗は上鳴の前に移動しており足を上鳴の首に目掛けて足をふりかぶっていた。

 

「はい、お終い」

 

その一言と共に氷麗の蹴りは上鳴の首を打ち抜き、上鳴は崩れるように倒れた。

 

『しゅ、瞬殺!!目にも止まらぬ速さで瞬殺!!!つーか何が起こった!?』

 

『一瞬で近づき首を蹴り抜いたな。ありゃ脳震盪起こしてるぞ』

 

上鳴はロボットに担架で救護室に連れて行かれるのをつまらなそうに見届け、競技場から離れた。

 

「今の見えたか?」

 

「いいや。速さ関係の個性か?」

 

「いや、でもさっきあの子氷出してただろう?」

 

「もうちょっと長く試合を見たかったなぁ」

 

「上鳴の個性も良かったんだかなぁ……スターフェイズがそれをさせなかったな」

 

「スターフェイズってどっかで聞いたことがあるんだけど、どこだっけ?」

 

観客のヒーローたちも2人の試合を評価するが、ほぼ氷麗のことばかりだ。

そしてそれは生徒も同じだった。

 

「血界くんの言う通りスターフェイズさんの個性は一切わからなかった。騎馬戦では氷を出してたけど、あの身体能力は一体何なんだ?ブツブツ……」

 

「で、デクくん?」

 

「はっ!」

 

「終わってすぐなのに先見越して対策考えてんだ?」

 

「ああ!?いや!?これはもう趣味って言うか!!」

 

麗日が改めて、緑谷の凄さを感じ取っていると隣のB組の観客席からイラつく笑い声が響いた。

 

「アレアレェ!?一瞬で決めるんじゃなかったっけェ!?彼、一瞬でやられちゃったよォ?おっかしいなァッ!!?ハッハハハハハ!!!」

 

爆豪を挑発し、彼の逆鱗に触れてしまい敗れた物間はここぞとばかりに煽りに煽ってくる。

 

「ハハハハハハガハッ!?」

 

すると突然物間の首に手刀が当てられ、気絶してしまい、オレンジ髪のポニーテールの女子、拳藤が顔を出した。

 

「ゴメンなー」

 

(((何だ今の……?)))

 

A組全員に苛立ちよりも突然の物間の奇行に困惑が広まった。

 

『さァーーーどんどん行くぞ!頂点目指して突っ走れ!!騎馬戦ではド派手な技と凄まじい執念でどん底から1位に返り咲いた男!A組、血界・V・ラインヘルツ!! 対、男気一筋ど根性!!硬化!!切島 鋭児郎!!』

 

「いよいよね。耳郎ちゃん」

 

「うん……がんばれ血界」

 

耳郎は真剣な表情でステージで準備運動をしている血界に向かって周りには聞こえないがしっかりと応援をする。

 

「始まりますよ。血糸さん」

 

「ああ」

 

346プロの血糸たちも血界の戦いを見守る。

 

「いよいよですね……」

 

「うー……自分が出るわけじゃないのに緊張しちゃうなー」

 

「………」

 

シンデレラプロジェクトにいる凛は黙って、テレビに釘付けになる。

 

「しゃあっ!!行くぞ!!血界ィ!!」

 

「おう!かかってこい!」

 

『スタート!!』

 

開始と同時に切島は全身を硬化して血界に殴りかかってくる。

 

「ウオオオォォォッ!!!」

 

「フッ!」

 

大振りの右ストレートを血界は躱し、その右腕を掴んで切島の勢いを利用して、背負い投げの要領で投げとばそうとするが、

 

 

「ぐっ…!(重っ!)」

 

「離せェッ!」

 

「危なっ!……やっぱり個性で重くなるのか」

 

切島の『硬化』は皮膚を鋼鉄のように硬化する個性だが、硬化すると皮膚そのものの質量も重くなるらしい。

 

「オラオラオラオラァッ!!」

 

「くっ……!」

 

切島の猛攻に血界は避け続けるしかない。

 

『どうしたァ!?血界は防戦一方だそ!?』

 

「どうした血界!攻撃してこいよ!!」

 

「できるならやってるつー、のっ!」

 

切島が挑発しながら血界の顎に向かってのフックを躱すが、硬化によりできたトゲで顎を少し切ってしまう。

 

「ラインヘルツは何で個性を使わないんだ?」

 

「使えないとかか?騎馬戦での疲労が出てるとか?」

 

「でもレクリエーションにも出ていないじゃない。休憩は十分にできたはずよ」

 

「切島の勢いはいいな。士気があがる」

 

「サイドキックにはああいうの欲しいねー」

 

観客のヒーローたちはそう話しながら、戦いを見続ける。

今のところ切島の評価が高いようだ。

 

「血界くん、個性が使えないんじゃなくて使わないんだ」

 

「どういうこと?」

 

緑谷の呟きに隣の麗日が聞き返すが、周りもその言葉に気になったのか耳を傾ける。

 

「血界くんが勝てばだけど次の対戦相手は上鳴くんを瞬殺したスターフェイズさん、そして僕か轟くん、決勝と戦いがあるんだ。血界くんは次の戦いを見据えてるんだ」

 

「だが、それだと切島くんに失礼ではないか?全力で戦ってくれているのに」

 

「そうかもしれないけど血界くんの個性を考えるとこれがベストなんだと思う」

 

緑谷がそう言い続ける間にも切島の猛攻は続いていた。

切島の攻撃は血界の体操服擦り、所々ほつれや擦り傷ができていた。

それに対して切島は怪我はいっさいないが、ずっと攻め続けていたからか少し疲れが見えていた。

 

「血界ィッ!!逃げるばかりじゃなくて男らしく戦え!!」

 

「……わかったよ」

 

血界はそう言って体操服の上着を脱ぎ、上着を右拳と右腕に巻きつけた。

 

「いくぞ」

 

「おっしゃあぁぁぁぁっ!!!」

 

切島が雄叫びを上げて血界に突進するのと同時に血界も切島に向かって走る。

切島が大振りのパンチをするが血界はそれを避けて、切島の顎にアッパーを放つ。

切島の顎は打ち上げられたが、血界が殴った瞬間鈍い音が響いた。

 

「ぐっ……!!」

 

「うおぉうっ……!」

 

殴った血界は切島の硬化が思った以上に固く、殴った拳に痛みが走り、顔を顰める。

切島も突然顎を打ち上げられ意識が飛ぶほどではないが、後ろに数歩ほど退がる。

 

「まだまだいくぞォッ!!」

 

切島が再び突進し、血界も腕に巻きつけていた上着を外し、向かっていく。

 

「馬鹿が、罠だろうが」

 

それを見た爆豪がそう呟いた。

切島が腕を振りかぶった瞬間、血界は上着を切島に向かって投げた。

 

「うおっ!?」

 

突然視界をつぶされた切島慌てながらも上着を取ると、目の前にいた血界が居なくなっていた。

 

「どこだ!!」

 

切島が周りを見るがどこにもおらず、辺りをキョロキョロしていると突然首に腕がかけられ、締められる。

 

「がぁっ……!ち、血界!」

 

「これで終わりだ」

 

切島の視界を潰した瞬間、背後に回り、気配を殺して背後から首を絞めたのだ。

血界は後ろから切島の膝を蹴り、膝を地面につかせる。

 

「全身を固めていたらいつかは綻ぶと思って待ってたんだよ」

 

「て、テメェ……!」

 

「言っただろ?全力で勝ちに行くって」

 

血界は疲れで硬化が解けた首に力を込め、締め落とそうとするが切島も負けじ、抵抗する。

腕を振りほどこうとし、血界の腕は傷つき、頭を硬化させている切島の髪が血界の顔に刺さり血が流れる。

 

「ぐ、うぅ……」

 

「堕ちろ」

 

最後に力を込めると切島の腕はダランと下がり、全身から力が抜け血界に体を預ける形になってしまった。

 

「ラインヘルツくん、下がって」

 

審判であるミッドナイトが血界に寝かされた切島の様子を見て、腕を上げて高らかに宣言した。

 

『切島くん!行動不能により、勝者!血界・V・ラインヘルツくん!!』

 

一斉に歓声が上がる客席。

 

『スマート!!相手を倒すのは力だけではない!血界!技と知恵を駆使して一回戦勝利!!』

 

『ラインヘルツの奴、最初からこれを狙ってやがったな。序盤で切島を疲れさせ、個性が解けるの待ってやがった』

 

担架で運ばれる切島を見届け、血界も戻っていった。

 

「いやー、ラインヘルツのことだから派手な技で倒すと思っていたがあんなにスマートに倒すとはな」

 

「派手な技だけじゃなくて、相手によって戦い方を切り替えられる。あの器用さは重宝するぞ」

 

「救助面ではどうなんだろうな?」

 

「切島も良かったんだがなー、ありゃ経験の差なのかね?」

 

ヒーローたちの評価も一転し、ほぼ血界のことだけを話していた。

ともあれ血界は一回戦を危なげなく勝利した。

 



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File.23 Heart Beat

切島との戦いを終え、血界と切島は救護室でリカバリーガールの治療を受けていた。

 

「これで良し……っと、さあ、できたよ」

 

「イテッ!もう少し優しく貼ってくれよ」

 

切島は首を絞められ、意識がなくなっただけなので休ませておけば目を覚ますらしく、救護室のベッドに寝かされていた。

血界の怪我には切島の硬化で傷ついた顔に絆創膏が貼られた。

貼られたところをさする血界にリカバリーガールは呆れたように言った。

 

「男なんだからそのくらい我慢しな!ふぅ……アンタの個性は治癒力も高めているみたいだからね。わたしゃの個性じゃどんな作用が出るかわからないから使えないよ」

 

「マジか……まぁそれなら仕方ないなぁ。こんくらいならすぐ治るしな」

 

「全くUSJの怪我といい、今回の怪我といい……医者泣かせの個性だね。アンタら親子は……」

 

リカバリーガールのその言葉に血界は目を剥いた。

 

「父さんを知ってるのか!?」

 

「ヴァンはここに留学生として来ていたからね。いい意味でも悪い意味でも記憶に残っとるよ。聞いてないのかい?」

 

「え…ま、まぁ……」

 

言葉を濁す血界にリカバリガールは不思議に思ったが、深くは聞かないことにした。

 

「まぁ、詳しく知りたかったらまた聞きに来なさい。時間が合えば教えてやるさね。今は他の試合を見に行ったほうがいいんじゃないかい?」

 

「そうだった。ありがとうリカバリガール!」

 

血界は礼を言って救護室から出て行った。

 

「ヴァン、アンタの息子にしては些か落ち着きがないみたいだけど、勝負に勝つための執念は瓜二つだね」

 

リカバリガールの懐かしむ独り言が救護室に響いた。

 

 

芦戸と常闇の試合は常闇のダークシャドウによって一方的なものになるかと思いきや、ダークシャドウの攻撃を酸で足元を滑りやすくして掻い潜り、意外にも善戦をしたがやはり敵を寄せ付けない常闇のダークシャドウに負けてしまった。

発目と飯田の試合は始終、発目自身の作品の企業へのアピールに利用されてしまい、結果的に飯田が勝ったがなんとも言えない試合だった。

そして次は耳郎と八百万の試合となり、準備が整うまで控え室で待機していたが緊張していた。

 

(やばい……緊張してきた)

 

元来少し乙女な所がある耳郎にとってはこんな大きい大会に少し緊張しやすかった。

相手は気心知っている友達の八百万と言えど、訓練ではない実戦だ。USJで本当の実戦を経験したが、やはり緊張してしまう。

耳郎は落ち着かないのか執拗にイヤホンジャックを手で弄っていた。

そんな時に声がかけられる。

 

「耳郎入るぞ」

 

「血界!怪我は大丈夫なの?」

 

「こんなのかすり傷だ。それよりお前のことだから緊張してるって思ってさ」

 

「う…そ、そんなわけないじゃん」

 

「目が泳いでるぞ」

 

耳郎は恥ずかしくなり視線を血界から外す。

すると血界が耳郎の肩に手を置いた。

 

「俺はあんまり気の利いたことなんて言えないけどさ。あんまり気を張るな。いつも通りのお前でベストを目指せばいいんだ」

 

ありきたりな言葉だが肩に置かれた血界の手とその言葉が不思議ととても安心できた。

 

「うん、ありがと。血界」

 

耳郎の強張った表情が柔らぎ、笑顔を見せた。

 

「でも、最初に言った通りウチはアンタに勝つ気でいるんだからね」

 

「わかってるよ。ぶつかるとしたら決勝でだ」

 

2人は笑みを見せて互いを見る。

2人とも勝負には一切遠慮はしないと言葉を交わさずともわかった。

 

『それじゃあ次の対戦者はそろそろ準備をしてくれ!』

 

プレゼントマイクのアナウンスが響き、血界は控え室を出る。

 

「じゃっ、俺は観客席に行くわ」

 

「うん、血界!」

 

「ん?」

 

「ウチ、勝つよ」

 

「おう!」

 

血界はサムズアップを見せて、控え室から出て行った。

 

 

『次の試合は聡明な頭脳には万物の知識が!A組 八百万 百!!対 クールな見た目に反してその心にはロックなビートが刻まれているぞ!A組 耳郎 響香!!A組女子同士の戦いだァ!!』

 

対峙する2人はお互いを見据える。

耳郎は先程の血界の激励で覚悟が決まり、落ち着いているが八百万は些か緊張しているのか強張っている。

 

「ヤオモモ」

 

「は、はい!なんですか?」

 

「ウチが勝つから」

 

好戦的な笑みを浮かべる耳郎に八百万は一瞬足がすくみそうになるが負けじと耳郎を睨む。

 

「ま、負けませんわ!」

 

『スタート!!』

 

合図とともに耳郎は八百万に向かって走り出す。

 

(突進!?耳郎さんのことだから遠距離の攻撃だと思ってましたが……!!)

 

耳郎の意表を突いた行動に八百万は行動が遅れてしまう。

 

(とりあえず防ぐための盾を!)

 

八百万は個性で特別性の盾を作り出す。

 

(耳郎さんの個性では普通の盾は簡単に壊されて、逆にこっちが危険!なら……)

 

硬い物質、例えば鉄ならば耳郎のイヤホンジャックからの心音で簡単に破壊され、その破片が自分にぶつかってしまう。

そこで八百万が創った盾は警察などで使われているゴム製の盾で音なども吸収してしまうものだ。

 

「いくよ!」

 

耳郎がイヤホンジャックを八百万に伸ばす。

八百万はそれに対して盾で防ぎ、盾にイヤホンジャックが突き刺さる。

 

(ここからスタングレネードで耳郎さんの動きを……!)

 

スタングレネードを作ろうとした瞬間、特大の衝撃が八百万を襲った。

 

「きゃあっ!!」

 

吹き飛ばされた八百万は地面に倒れ、痛む身体で前を見ると胸を抑え、息を荒くした耳郎が苦しそうにしながらも笑っていた。

 

「上手くいった……!」

 

『おおっと!いきなり八百万が吹き飛んだぞ!?何があった!!?』

 

『音に関してはお前の方が詳しいだろうが……耳郎の個性なら盾を壊すのは簡単だろうが八百万はそれを即座に理解して音を吸収する盾を創った。耳郎の心音ならあの盾は壊せないはずなんだがな……』

 

スピーカーを通さずに盾を破壊し、更には八百万を十数メートルをも吹き飛ばすほどの衝撃を放つことができたのには理由があった。

 

(氷麗との特訓が生きた!)

 

 

体育祭の知らせを聞いて、血界に自分の目標を宣言した次の日に耳郎は氷麗とトレーニング室に来ていた。

 

「それで特訓したいことって?」

 

「とりあえずはフィジカル面なんだけど、あと個性の強化かな?」

 

「個性か……響香の個性って耳から伸びているイヤホンジャックから音を聞いたり、心音を飛ばしたりするんだよね?ならその心音を操作できないの?」

 

「心音?」

 

「音を大きくしたりとかさ」

 

「音をか……」

 

そして体育祭の間、耳郎は音の操作を練習し、できた技が……

 

 

「これがウチの新しい技『H・R・B』(ハート・ラウド・ビート)、心臓とイヤホンジャックで心音を反響させて一気に放つ技だよ」

 

「いつのまに新技を……」

 

「一気に決めさて貰うよ!!」

 

耳郎が再びイヤホンジャックを伸ばし、行動不能に追い込もうとする。

 

「は、早く動かないと……!」

 

避けようとするが特大の音の衝撃で身体痺れて動けない。

迫るイヤホンジャックに八百万は手から鉄棒を創造し、地面に刺すことで自分の体を横に移動させた。

 

「甘いよ!っ……!」

 

耳郎は再び、苦しそうに胸を抑えるとイヤホンジャックからH・R・Bが発射され少し離れた八百万にまで届いた。

 

「ああっ!!」

 

離れたと言ってもスタングレネード以上の音波を二回ももろに浴びた八百万は悲鳴を上げて、動かなくなってしまった。

 

「………八百万さん行動不能!勝者耳郎さん!」

 

ミッドナイトの宣言とともに歓声を上げる観客たち。

耳郎は緊張と疲れでその場に座り込んでしまった。

 

「勝てた〜…」

 

観客のヒーロー達が早速意見を交わしている。

 

「耳郎の個性は幅が広くていいな。索敵、攻撃にも使える」

 

「手数が多いのは人気が出るな。あれも注目株かも?」

 

「結構可愛いから、そっち路線もありかもね」

 

観客たちの評価もまあまあ良いらしい。

 

『いやー贔屓になっちまうが音系の個性だからつい応援しちまったぜ!』

 

『八百万も手が悪いんじゃないんだがな、耳郎の新技に対応が遅れたのが痛かったな』

 

こうして戦いは新技により耳郎の勝利に終わり、耳郎はそれを聞きながら勝利を噛み締めた。

 



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File.24 氷の女王

耳郎と八百万の試合を終え、麗日と爆豪の試合となった。

誰であろうと容赦しない爆豪に果敢にも麗日が攻めていくが、爆豪の実力の前に手も足も出ない。

何度も立ち向かうがどうやっても届かない。

あまりにも圧倒的な差の試合に観客のプロヒーローたちは爆豪に非難を浴びせるが相澤がそれを止め、爆豪が麗日の実力を認めていることを話した。

結果は爆豪の勝ちだったが、麗日の裏を突いた作戦に爆豪は麗日を認めていた。

 

 

二回戦となり、次は緑谷と何かと因縁がある轟との試合になった。

NO1の弟子とNO2の息子、緑谷は憧れの人から任された想いを果たすために、轟は恨む父親を否定するためにそれぞれが想いを込めて戦う。

轟の全方位氷結に対して緑谷はフルカウルの足を使って避けていくがすぐに足場がなくなり、フルパワーでの氷の破壊に移った。

デコピンでの破壊だがそれだけでも風圧がアリーナの観客を襲うほどだ。

徐々に氷結を連発する轟の体が震えて、行動が遅くなってきた。

そして緑谷が轟の心に叫んだ。

自分の左側、父親エンデヴァーから受け継いだ個性を否定したい。

父親は自分にNO.1を超えさせるために幼少期から厳しい訓練させた。

友達とも兄姉とも遊べず、いつも泣いていた。

そんな自分を慰めてくれたのは母親だったが、父の厳しさに母は心を病み、自分に煮え湯を浴びせてきた。

そして母は病院に入院してしまい、家庭も母親も壊れてしまった。

その恨みをぶつけるために父を否定する。

だが、緑谷の叫びが轟の昔を思い出させた。

辛い訓練で泣いていた時に母が自分に慰めてくれた時に言ってくれたことを。

血に囚われずなりたい自分になっていい、と。

その言葉を思い出した轟は左の熱を使った。

左右で異なる姿を見せる轟の姿は生まれ変わったように見えた。

全力でぶつかる勝負の結果は轟の勝利に終わった。

 

 

「デクくん……」

 

「凄まじい戦いだったな」

 

「緑谷ちゃん大丈夫かしら?」

 

皆が緑谷と轟の戦いに驚き、緑谷の怪我を心配していると、血界が立ち上がった。

 

「俺控え室に行くわ」

 

「緑谷ちゃんのところには行かないの?」

 

「すぐに試合なんだ。あんな戦いを見た後に生半可なことをできない。準備をしないとな。緑谷にはよろしく言っといてくれ」

 

血界はそう言って控え室に向かった。

控え室に着くと落ち着くために深呼吸をした。

緑谷轟との戦いでもちろん自分も興奮した。

その熱が冷めぬまま次の試合に挑む。

やる気が入って当然だった。

 

「怖い顔してるよ」

 

後ろから声をかけられ振り向くと耳郎が立っていた。

 

「怖い顔って……笑ってただけなんだけどな」

 

「昔の喧嘩してた時の血界みたいだった。好戦的な顔って言うか……」

 

「好戦的な顔か……そうかもな。次の氷麗との試合に緊張より、楽しみの方がデカい」

 

血界はそう言って拳を握る。

それを見て耳郎は少し不安になった。

 

「氷麗との……怖くないの?だってあの子……」

 

「大丈夫だって、お互い本気でぶつかるだけだ」

 

そう言う血界の顔は覚悟が決まったものだ。

最早何を言っても変わらないと思い、耳郎はまだ心配は拭えないが、諦めるしかなかった。

 

「わかった。がんばれ」

 

「おう」

 

今は自分の想い人を応援しよう、無事に終わるように。

 

 

修復されたステージで対峙する2人は見据えるどころか睨み合っていて、緊張した空気が周りの観客にも伝わっており、観客もその緊張を感じていた。

 

「な、なあ?ヤバくないかあの2人……めちゃくちゃ睨み合ってんじゃねえか」

 

意識が戻った切島が血界と氷麗の様子を見てそう呟く。

 

「俺と戦った時より殺気に満ちてね?」

 

「アンタとやった時はほぼお遊び感覚だったと思うよ。瞬殺だったじゃん」

 

「………」

 

上鳴がそう言って冷や汗を流すが、耳郎が横やりを入れてなんとも言えない顔になった。

 

「だけど血界は近接戦強いし、大丈夫だろ!相手が女の子だし、そこまで本気でやらないだろうし……」

 

「それはないと思う。2人とも勝負ごとには容赦しないから……」

 

「氷麗さんと血界さんは中学からの知り合いなのでしょう?仲が良いのでは?」

 

「あの2人はウチが2人と知り合う前からあんな感じだったよ。普段は犬と猫みたいな仲の悪さだけど、認めて入るんだと思う。だけど……あんなに敵意を向けてるのは初めて見た」

 

耳郎は心配そうに血界と氷麗を見る。

普段から仲がいい彼女がそう言うのだからよっぽどのことなんだろう。

するとまたB組のほうから挑発してくる声が高らかに聞こえてきた。

 

「ハハハハハッ!!!アレがUSJの時に活躍したって言うラインヘルツかい!!?目つきが悪いねェ!!まるでそこの彼みたいにヴィランみたいじゃないかァ!!!」

 

「あ"あ"!?」

 

「また出た……」

 

何かとA組を敵視している物間がまたもや挑発してきたのだ。

しかも血界を嘲けりながら爆豪も挑発してくる器用さ。

全員がウンザリしながらも物間の言葉は続く。

 

「彼がどれだけ強いか知らないけど我らが女王の前じゃ一溜まりもないさ!彼が泣いて帰ってくるの慰める準備でもしといたほうがいいかもねェ!!ハハハハハゔっ!?」

 

「ごめんなー」

 

高笑いする物間に手刀が落とされ、拳藤が回収しに来た。

 

「なんだったんだ?」

 

「気が触れてやがる……」

 

「氷の女王だって……キザ過ぎじゃない?」

 

A組の面々がやはり物間の煽りに少しイラついていたのか、そう口に出すと拳藤がまた顔を出した。

 

「あのさ、物間みたいに言うわけじゃないけど、ウチらの氷麗をあんまり甘く見ない方がいいよ」

 

「どう言うことかしら?」

 

「だってあの娘、私らB組で一番強いから」

 

 

『ド派手な試合が終わり、次の試合は!!一試合目は一瞬でケリをつけたロリッ娘クールビューティ!!B組!氷麗・A・スターフェイズ!!対 力だけじゃないぞ。その体は技も習得した!!A組!血界・V・ラインヘルツ!!同中の戦いだァッ!!』

 

マイクのアナウンスが響くが、対峙している2人には何も話さない時間が流れるが氷麗が口を開いた。

 

「ねえ血界。私ははっきり言ってアンタに勝ってると思う」

 

「あ?」

 

「金、地位、勉強、あとその他にも勝っていると思う」

 

「はっきり言うな。ムカつくぜ」

 

「だけど昔からアンタに勝ってると思えないものがあるの」

 

そう言って氷麗は氷のような瞳を向けるが、その瞳には上鳴と戦った時のような冷たいものではなく、闘志がありありと出ているものだった。

 

「強さよ。純粋な強さ。私はそれでアンタに勝ってるとは思わない。だからここで証明する。私がアンタより強いってことを」

 

「なんでそこまでするんだよ?」

 

「気が済まないからよ。私は誰よりも上に立ちたいの」

 

氷麗はそう言って構え、血界も構える。

 

「だから私が勝つわ」

 

「……そうか。なら悪いな」

 

『2人とも準備はいいか!?レディィィ………』

 

「勝つのは俺だ」

 

『スタート!!!!』

 

開始の合図とともに血界は走り出し、氷麗に向かっていくが、その氷麗の姿が消えた。

 

「……っ!」

 

それに気づいた瞬間には氷麗は血界の目の前に現れ、足を振りかぶっていた。

 

「ぐっ!」

 

氷麗の蹴りを寸前のところで腕でガードするが、氷麗の脚力が凄まじく、強靭な体を持つ血界でも吹き飛ばされそうになる。

氷麗はなんとか持ちこたえた血界に体をひねって、踵落としを食らわす。

それも腕で防ぎ、がら空きになった氷麗を捕まえよう腕を伸ばすが氷麗は腕を蹴って空中に逃げる。

再び距離が空いた氷麗と血界だが、すぐさま氷麗が追撃する。

近づく氷麗に向かって血界は拳を振るうが、また寸前で消え、血界の腹に凄まじい衝撃が走る。

 

「うぐっ!?」

 

血界の鳩尾に蹴りが突き刺さる。

その小柄な体からは考えられない力が血界の体を突き抜けた。

 

「フッ!」

 

血界に突き刺さった足を軸にして氷麗は上に飛び上がり、回転を加えた蹴りを血界の頭にぶつけた。

 

「がっ!?」

 

容赦なく地面にヒビが入るほどの威力で叩きつけられた血界は呻き声を上げ、動かなくなってしまった。

 

『えっ……しゅ、瞬殺ーー!!またもや瞬殺!!容赦ない攻撃に血界が倒れたァ!!』

 

あまりの攻防の速さにマイクも一瞬呆気に取られるが、実況を続ける。

動かない血界にミッドナイトが審判をつけようと近づくが、その時氷麗が足を上げ、血界の頭を踏み潰そうとする。

 

「スターフェイズさん!?何を……!!」

 

「こんなもんじゃないでしょ?」

 

氷麗は無慈悲に足を振り下ろすが、その足を止められた。

 

「当たり前だ……!」

 

頭から血を流しながらも体を起こし、腕で防いだ血界はその腕を振るい氷麗を話した。

 

「ラインヘルツ君、試合は続けられる?」

 

「うっす。やれます」

 

ミッドナイトが血界の目を見て、まだやれると判断し、マイクに合図を送って試合を続ける。

 

『まだまだ試合は続くぞーー!!!』

 

 

まだ数分しか経っていない試合だが、A組の面々は氷麗に対して戦慄していた。

 

「アイツヤバくね?」

 

「倒れていたのに追い討ちかけるって……」

 

「血界が起きなかったらアウトだったぞ」

 

上鳴、芦戸、砂藤が続けて冷や汗を流しながらそう呟く。

その他の皆も言葉には出さないが今の氷麗に少し恐怖心が沸いている。

 

「氷麗さん……」

 

「………」

 

家の繋がりで仲が良かった八百万は心配そうに名前を呟き、耳郎も心配そうに血界たちを見ていたが、口を開いた。

 

「ウチの地元ってさ……まぁまぁ治安が悪かったんだよ。常駐のヒーローがいるくらいにさ」

 

「耳郎ちゃん?」

 

突然話し始めた耳郎に蛙水が不思議に思う。

それに構わず耳郎が話を続ける。

 

「それでも治安の悪さはなかなか治らなかった。ウチもよく絡まれたりしたよ。……そこで氷麗ってさ、容姿は可愛いからよく暴漢とか不良に狙われたりしていたの。年に10人くらい」

 

「10人!?多ない!?」

 

「まあ、あの巨乳なら狙われるわな」

 

「うるさいわ峰田ちゃん」

 

麗日が驚くなか耳郎は話を続ける。

 

「でも氷麗はそんな奴らを返り討ちにしてきた。返り討ちにされた奴は骨折は当たり前、中には半身不随になった奴もいるって噂だった」

 

「それって……」

 

「そう氷麗は自分に敵対する奴には一切容赦がない。それのせいで氷麗は中学の時に『氷の女王』って呼ばれて恐れられてたんだ。………ウチがこの中で戦いたくないのは誰って聞かれたら間違いなく氷麗だって言うよ」

 

中学時代に複数の男たちが倒れている真ん中には返り血を浴びた氷麗の姿を思い出した。

 

「血界くん……大丈夫なのか?」

 

緑谷の心配する呟きが静かに響いた。

 

 

起き上がった血界は視界を潰す血を拭う。

 

「チッ…血が邪魔だ」

 

「やっぱりあれくらいじゃ倒れないか」

 

そう言いながら笑う氷麗だがその目は未だに氷のように冷たい。

 

「じゃあ、そろそろ本番いこうか」

 

そう言った氷麗の足から冷気が出始め、氷が包んでいく。

そして足に複数の氷柱が生える。

 

「本気でいくよ」

 

「………来いよ」

 

氷の女王の蹂躙が始まる。

 



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File.25 Reversal

突如氷麗の足から冷気が溢れ、スパイク状の氷柱が形成された。

 

「エスメルダ式血凍道……」

 

 

絶対零度の棘脚

 

 

血を媒介に万物を凍らせる血の技……エスメルダ式血凍道。

それが氷麗をB組最強に押し上げた要因の一つだ。

 

「いくよ?」

 

そう言った瞬間、氷麗の姿はまたも消え、血界が周りを警戒した瞬間には氷麗の蹴りが血界の顔の側面を蹴っていた。

 

「があっ!?」

 

突然襲う衝撃に血界は吹き飛ばされるが、何とか体勢を整え立ち上がろうとし氷柱が刺さり、側面からも血を流れている顔を上げる。

しかし血界が気づいた時には顎に向かって振り上げる脚が迫ってきていた。

そして顎を打ち上げられた血界は後ろに仰け反りながら、口から血が吹き出る。

 

「がふっ!!」

 

『血界!氷麗の猛攻になす術がなーーい!!てか攻撃がエゲツないな!!』

 

マイクの実況の中にも血界を心配する台詞が入るほど、一方的な状況だ。

 

「なんて速さなんだ……俺のレシプロバーストといい勝負じゃないか」

 

「うん。それもあるけど氷麗さんのあの的確な攻撃は恐ろしいよ」

 

飯田は自分とほぼ同じスピードを出す氷麗に驚き、緑谷は的確に人間の弱点を狙ってきている氷麗に戦慄した。

しばらく氷麗の猛攻が続き、アリーナには蹴りの鈍い音が響き、その地面には血が撒き散らされた。

 

「ハァ…ハァ…ハァ……」

 

開始から10分、体操服は擦り切れが多く血が滲んでいた。

擦り切れているところから見える傷は痛々しく、立ってるのがやっとなように見える。

 

「まだ倒れない、相変わらずタフね」

 

「チクショー……攻撃できねぇ……!!」

 

疲れた様子を見せない氷麗は冷静にそう呟き、血界は苦しそうにしながらも笑みを見せて自分を奮い立たせる。

 

「倒れるまで蹴り続ける」

 

「ッ!」

 

またも氷麗の姿が消え、血界は咄嗟に腕で顔をガードするとそこに蹴りが当たる。

 

「ぐうぅっ、おおぉ!!」

 

受け止めた足を掴み、投げようとするがその瞬間手が凍りつく、

 

「い"っ!」

 

「フッ!」

 

「ぐあっ!」

 

掴まれた足を軸に血界の頭を蹴り落とす。

倒れる血界に氷麗はさらに攻撃を加えていく。

血界も防御姿勢になるが氷麗の容赦ない攻撃にダメージだけが溜まっていき、ステージが血で赤く染まっていく。

それを見ていた観客たちは堪らず、声を上げた。

 

「もういいだろう!ミッドナイト!試合止めろよ!」

 

「これ以上やったら死んじゃうわ!」

 

『うーん……爆豪のときみたいな感じじゃないけど、流石に止めたほうがよくないか?』

 

『ミッドナイトが主審をしてるんだ。あの人の采配に任せるしかない』

 

相澤もそうは言い、ミッドナイトに采配を任せた。

とうのミッドナイトは防御姿勢の血界の目に注目する。

血界はどれほどの傷つけられようと、その目には一切の諦めが見えない。

ミッドナイトは止めず、試合を続行した。

しかし、やはり観客はそんなこともわからないので血界が氷麗にただ嬲られているようにしか見えない。

 

「あの氷麗ってやつヤベーって!ただの嬲り殺しじゃねえか!!」

 

「もう見てらんない……!」

 

切島が立ち上がながらそう叫び、葉隠は見てるのが辛いのか顔を手で覆う。

また氷麗の蹴りが血界の顔に突き刺さり、口から血が吹き出すのを見た切島は堪らず、試合を止めるようにミッドナイトに言おうとするが、それを隣で何も話さず試合を見守っていた耳郎が止めた。

 

「なんだよ耳郎!このままでいいのかよ!」

 

「待ってよ……まだ試合は終わっていないから」

 

「試合ってこんなの一方的なモン、試合じゃねえよ!」

 

上鳴が耳郎に堪らず叫ぶが耳郎はステージ上の2人から目を離さない。

 

「まだ終わってない」

 

切島も言い返そうとするが自分の腕を掴んでいる耳郎の手が震えていることに気づいた。

 

「切島ちゃん、みんな心配なのは同じよ。だけど血界ちゃんを信じて待ちましょ?血界ちゃんが何もせず終わるはずがないわ」

 

蛙水のその言葉に切島は何もできない、してはいけない自分に歯痒さを感じながらも座った。

耳郎も2人を見守ってはいるが本当ならすぐにでも駆けつけて2人の試合を止めたい。

血界が傷つくの見たくないからだ。

だが、2人の試合を止めるのはそれよりもしたくない。

友人であり、憧れである2人の試合を止めるのできない。

耳郎は心の中で、無事に試合が終わるように祈るのと2人を応援することしかできなかった。

 

 

「ハァー、ハァー、ハァー……!」

 

「ハッ…ハッ…ハッ……」

 

血界は身体中から血を流し、息遣いも先程よりも荒くなっており満身創痍なのは目に見えていた。

しかし氷麗もずっと一方的に蹴り続けてきたからか、疲労が見えていた。

 

「タフなのも大概にしときなさいよ……!死ぬわよ、アンタ」

 

「まだ……ハァッ……まだ……ぐっ!」

 

ふらつく体を止めようとするが膝から崩れ落ちる。

なんとか立ち上がるがもはや虫の息だった。

 

「もう終わりにしましょう。私が勝って終わりよ!」

 

またも高速移動で姿が消えた氷麗に意識が朦朧としている血界は気づくのが遅れ、ガードできていない。

 

「フッ!」

 

「ぐあぁあっ!!?」

 

氷麗の蹴りが血界の左脇腹に当たり、血界は堪らず叫んだ。

 

(?、USJの時の怪我か!)

 

苦しそうに呻く姿を見て、血界の最も弱いところ、USJ事件の際に最も大きな怪我を負った脇腹がわかった氷麗は今度は顔に蹴りを放つ。

 

「くっ!」

 

しかし氷麗の蹴りは血界のガードをすり抜け、蹴りの反動を使ってガラ空きになっている左脇腹に再び重い一撃を放った。

 

「………っぁ!!!」

 

もはや言葉にならない叫び声をあげる。

そこにすかさず氷麗は胴体に蹴りを入れ、血界が上空に高く上がるように蹴った。

身長が180近くある血界が上空約8mも蹴り上げられた。

それだけで氷麗の脚力が凄まじいものだとわかる。

 

『血界が上空に吹き飛ばされたーッ!!』

 

上空に蹴り上げられた血界よりも高く、そして追いつくように氷麗も飛び上がり、足を大きく振りかぶる。

 

「エスメルダ式血凍道、」

 

 

絶対零度の巨剣

 

 

足から放たれた巨大な氷の激流は一本の剣のように伸び、血界の腹に当たり、まるで串刺しのように血界を通り抜け地面を凍らせた。

それはさながら公開処刑のような光景で、観客も声が出ない。

 

「はぁ……はぁ……、これで……終わりよ」

 

『氷麗!決めの大技で血界を氷漬けにしたァ!!』

 

氷麗は氷を伝って、腹の部分だけが氷で凍らされた血界の前まで近づき、そう宣言した。

ミッドナイトも流石の血界も動かないだろうと思い、勝敗を宣言しようとすると、突然血界の腕が動き氷麗の足を掴み取った。

 

「うそっ…!まだ動けるの!?」

 

「やっと……捕まえた!」

 

氷麗が掴まれた逆の足で血界を蹴るがその手は絶対に離れない。

掴んできた手も足からの冷気で氷が張ってきているが離さない。

余裕があった氷麗の顔がだんだんと無くなってきた。

 

「離せ!」

 

「お前のスピードに俺がついていけないのはわかってたんだ……だから待ってたんだよ!お前が大技を使ってくるのをなぁ!!」

 

血界では氷麗のレシプロバースト並みの速さに追いつくのは無理、それに反応するのだって難しい。

だから待っていた。

氷麗が自分にトドメを刺す時に繰り出す大技を。

血界が叫び、空いている手で氷を殴ると個性で氷を破壊し、重力に従って2人とも落ちる。

 

「この勝負!俺の我慢勝ちだな!」

 

「くぅっ……!」

 

地面に落ちながらも血界は腕を構える。

 

「ブレングリード流血闘術……!」

 

 

121式 貫通式血十字撃

 

 

氷麗を下にして地面にぶつかる前に拳を氷麗の腹にぶつけ、血の衝撃が貫通し、ステージにの大きな十字架のクレーターを作った。

 

「かはっ……!」

 

氷麗の体にも凄まじい衝撃が伝わった。

血界は痛みと疲れでフラつく体を抑え、立ち上がり、降りてきたミッドナイトが氷麗の様子を見た。

氷麗は血界の強烈な一撃で気絶しており、動かなくなっていた。

 

「………スターフェイズさん行動不能!勝者!血界・V・ラインヘルツ君!!」

 

ミッドナイトの宣言と同時に観客から歓声が上がった。

 

『一方的な蹂躙劇からの大・逆・転!!!たった一撃で仕留めたー!!』

 

『ラインヘルツのやつ……ずっとこの時を待ってやがったな』

 

『どういうこったよ?』

 

『アイツなら色々な技でスターフェイズの動きを止めることだってできただろう。なのにアイツはそれをせずガチンコで戦ってやがった。確実に倒すためなのか、それとも手心を加えたのかはわからないが、作戦だったんだろうな』

 

相澤の解説が聞こえてくるが今の血界にそれを聞く余裕がなく、頭がボーっとするが倒れている氷麗に近づく。

 

「ラインヘルツ君、すぐに医務室に行きましょう。ひどい怪我よ」

 

「すいません……ちょっと待ってもらってもいいですか?」

 

血界は倒れている氷麗の側に立つ。

 

「ほら、医務室行くぞ」

 

血界がそう言うと仰向けに倒れていた氷麗は寝返りを打って顔を血界とは逆の方に向けた。

どうやらもう目が覚めいるようだが体がうまく動かないらしい。

血界がため息を吐くと氷麗を肩に担ぎ、医務室に向かった。

 

「ラインヘルツ君怪我大丈夫なの!?担架に乗りなさい!」

 

「大丈夫っす。ほっとけば治るので」

 

片足を引きずりながら歩く姿はどう見ても大丈夫なようには見えないがそれでも氷麗を担いで医務室に向かう。

すると担がれている氷麗が話しかけてきた。

 

「……ねえ、アンタ手加減したの?」

 

どうやら相澤の放送を聞いていたらしく、『手心』の言葉に引っかかりができたようだ。

 

「そんなことできる余裕があるかよ。全力でお前を倒したかったから、あんな戦い方しかできなかった。……あと一発貰ってたらヤバかったな」

 

実際に氷麗のスピードは目の前にしたら全く反応できなかった。

だから血界は一撃で倒せるようにあんな作戦とは言えない、無茶な作戦を立てたのだ。

 

「……次は私が勝つわ」

 

少し拗ねたように言う氷麗に血界は痛みで少し顔が引きつるが笑った。

 

「残念、次も俺が勝つ」

 

「………………次の試合、頑張りなさいよ」

 

「おうよ」

 

 

耳郎、八百万は医務室に急いでいた。

 

「血界!大丈夫!?」

 

耳郎が扉を開けるとリカバリーガールに包帯を巻いてもらっている血界の姿があった。

 

「おう、俺は元気だぞ」

 

そう言って笑う血界だが、体の至る所が切り傷、擦り傷、打撲傷で埋め尽くされており、見てるだけで顔が青くなる。

 

「馬鹿……心配したんだから」

 

耳郎はとりあえず笑って返事をしてくれた血界を見て安心した。

 

「どこが元気だい。骨折、骨の罅、それに凍傷……見ただけじゃわからない傷がいっぱいあるって言うのに」

 

リカバリーガールはため息を吐いた。

 

「そんなに酷いなんて……次の試合には出れますの?」

 

「私としては出したくないんだけどね……そう言っても聞かんだろうさ。この子は……」

 

「わかってんじゃん。リカバリーガール」

 

そう言って笑う血界に少し苛つきを覚えたのかリカバリーガールは傷口をペシッと叩き、叱咤した。

 

「イダッ!?」

 

「生意気なことを言うんじゃないよ!本来なら病院送りなんだからね!!」

 

「ちょっ、ちょっと!そんな状態なのに出て大丈夫なの?」

 

リカバリーガールの言葉に流石に耳郎も不安になってくるが、血界は大丈夫だと言う。

 

「それより今、飯田と常闇の試合なんだろう?次は耳郎と爆豪の試合じゃねえか。頑張れよ、爆豪は強いけどお前なら勝てるって俺は信じてる」

 

耳郎は傷ついている血界が心配だが、彼の応援の言葉に次の試合に意識を向けることにした。

女子であろうと容赦無しに攻撃してくる爆豪に苦戦は必至だ。

血界と決勝で戦うために、自分が目指すヒーローになるためには超えなければいけない。

血界は血みどろになりながらも勝利を掴み取ったのだ。

自分も負けていられない。

 

「う〜ん……うるさい」

 

すると血界の後ろのベットから氷麗の眠そうな声が聞こえてきた。

 

「氷麗!ここにいたんだ」

 

「氷麗さん、お腹は大丈夫ですか?」

 

驚く耳郎たちだが、氷麗も労わる。

 

「響香がんばってね。あんなヴィラン顔に負けないで」

 

「私も応援してますわ。頑張ってくださいね!」

 

友人たちの応援に耳郎は覚悟を決めた目で3人を見た。

 

「うん……頑張るよ」

 

その応援に耳郎は自信を込めて返事をした。

 



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File.26 ロックガールと血闘少年の意地と覚悟

飯田と常闇の試合は一見、スピードがダントツの飯田に軍配が上がるかと思ったが一瞬大きな雲が太陽を遮り、光がなくなった。

その瞬間、ダークシャドウの機動が素早く、そして大きさが倍近くなり飯田を襲った。

結果として常闇は勝ったが、どこか釈然とした表情ではなかった。

 

 

そして耳郎と爆豪の試合となり、両者は睨み合う。

だが、耳郎は緊張しており口は固く結び、冷や汗を流している。

その逆に爆豪は笑ってはいないがひどく落ち着いており耳郎を殺さんばかりの眼で睨みつけている。

 

『次はあんまり見たくねー……まさかの新技で相手を撃破!そのままクールに決めるか!?ロッキンガール!耳郎響香!! 対………女だろうが容赦無し!その様はまさに悪逆非道!!爆発ボーイ!爆豪勝己!!……いやー素直に耳郎に勝って欲しいわー』

 

『だから偏見放送すんなって』

 

『イダッ!?』

 

スピーカーから相澤がマイクを殴る音が響いたがステージの2人には聞こえていない。

 

「おい、耳たぶ女」

 

「耳たぶ…!? なに?」

 

爆豪のあまりの名前のつけ方に耳郎は少しショックを受けるがすぐに立て直す。

 

「さっきの俺と麗日の試合を見てただろ。俺は誰だろうと容赦しねぇ。ツリ目野郎のツレだろうがテメェなんざ眼中にねぇ、さっさと終わらせるぞ」

 

爆豪のあまりに不遜な挑発にまた観客からブーイングが飛ぶ。

 

「爆豪君!?君って奴は……!!」

 

「アイツ、また敵を作りやがって……」

 

それはA組も同じで委員長である飯田としては爆豪の発言には怒りを覚え、切島はそんな爆豪を少し心配した。

彼らのように爆豪を非難する者、耳郎を心配する者と多くいたが緑谷は違った。

 

「かっちゃん……真剣だ」

 

「え?どういうこと?」

 

緑谷の呟きに隣に座っていた麗日が反応した。

 

「かっちゃんなら笑ってさっきの言葉を言うのに、さっきは全く笑ってなかった……もしかしてだけど、麗日さんとの試合で一切の余裕を無くしたのかも」

 

「じゃあ、今の爆豪くんには私がしたみたいな不意打ちはできんってこと?」

 

「それはわからないけど……あまり効かないと思った方がいい」

 

人の分析に長けている緑谷がそう言うのならそうだろうと麗日は思った。

実際に爆豪はさきの麗日との試合で警戒心が強くなっており、さらには次の試合、決勝と先のことを見ていた。

しかし、その言葉に耳郎は怒るわけでもなく真剣な目で爆豪を見る。

 

「悪いけど、アンタが思った通りになんてさせないから」

 

「やってみろ耳たぶ女」

 

両者が構え、スタートの合図を待つ。

 

『両者準備はいいな!?……スタート!!!』

 

マイクの合図と同時に耳郎はイヤホンジャックを爆豪に伸ばすが、爆豪は空中に飛ぶ事でそれをかわし、爆発の勢いを使って耳郎に迫る。

 

(やっぱりそう来るか!)

 

すかさず耳郎はイヤホンジャックを戻し、爆豪に向ける。

しかしそれを待っていたと言わんばかりに爆豪は笑みを浮かべ手を前に出し、拍手するかのように合わせようとする。

 

(やばっ!何か来る!)

 

そう感じ取った耳郎は即座にイヤホンジャックを戻そうとし、それと同時に爆豪は拍手をした。

 

「サウンドグレネード!」

 

拍手したのと同時に爆発させ、音を劇的に高くさせた音爆弾が炸裂した。

 

「うああぁっ!!?」

 

咄嗟にイヤホンジャックを戻したと言えど、爆豪のサウンドグレネードの射程圏内に僅かに入っており、僅かにイヤホンジャックが強烈な音を感じ取ってしまった。

音を敏感に感じ取ることができる耳郎にとって僅かと言えどサウンドグレネードは強烈で耳鳴りが酷い。

 

「うう……」

 

その場に膝をついてしまう耳郎だが爆豪は容赦なく耳郎に襲い掛かる。

 

「響香ちゃん!!」

 

「響香さん!立ってください!!」

 

蛙水と八百万が叫ぶと聞こえたのか、耳郎が顔を上げると目の前に腕を振りかぶった爆豪が来ていた。

 

「オラアァァァッ!!!」

 

「うあっ!?」

 

咄嗟に横に避けることで直撃を免れたが爆発の余波に巻き込まれ、少しの火傷と傷を負ってしまう。

 

「くぅぅぅっ……!」

 

痛みに悶えてしまう耳郎だが、そんなことしている場合ではないと立ち上がり爆豪と向き合う。

しかし、その時にはもう爆豪は迫ってきていた。

 

「くっ!」

 

爆豪に向かってイヤホンジャックを伸ばすが爆豪はそれを横に避けて、耳郎の腹に爆発をお見舞いする。

 

「ああぁぁぁっ!?」

 

『直撃ーーー!!』

 

爆発が直撃した耳郎は吹き飛ばされ、ステージ際まで追い込まれてしまう。

 

「まだ……まだ……!!」

 

それでも立ち上がる耳郎は爆豪に向かってイヤホンジャックを伸ばす。

しかし驚異的な反射神経を持つ爆豪はかわしていく。

何度もイヤホンジャックを向けるが全てかわされる。

 

『耳郎!果敢に攻めるが爆豪にはカスリもしなーい!!つーか一回くらい当たれよ爆豪!!』

 

『偏見放送だな。爆豪はもうスピードを上げてきやがったな。体が温まってきてる』

 

マイクの放送の間に爆豪はまた耳郎に手を伸ばす。

 

「終わりだ!耳たぶ女!!」

 

「この……!!」

 

しかし耳郎は氷麗に教えられた護身術で伸ばしてきた腕を掴み、背負い投げで場外に向かって投げ飛ばした。

 

『まさかの爆豪、場外負けかー!!?』

 

「チィッ!!」

 

すかさず掌から大爆発を起こし、無理矢理ステージの中に戻った。

そして腕を掴んでいた耳郎も連れられて、中に戻る。

 

「邪魔だ!!」

 

「ああっ!?」

 

中に戻った爆豪はすかさず払いのけるように爆発を起こし、耳郎を吹き飛ばす。

 

「はぁ……はぁ……」(遠くからでもすぐに近づかれてH・R・Bが使えない!近くじゃ負けちゃう!もうさっきみたいな不意打ちは効かないと思うし……)

 

体にダメージが蓄積し、息が荒く、最早満身創痍だ。

 

「一か八か……」

 

「終わりにしてやるよ!耳たぶ女!!」

 

爆豪が近づいてこようと手を後ろに回す動作をした瞬間、耳郎はまたもイヤホンジャックを伸ばすのではなく爆豪に向かって走り出した。

 

「近づいた!?自殺行為だぞ!!」

 

耳郎の行動に切島が驚きの声を上げる。

広範囲の爆豪の攻撃に近づくのは危険だが、耳郎には何か秘策があるのか突進していく。

 

「ラアァァァッ!!」

 

「今だ!」

 

間近に迫った瞬間、爆豪の手が向けられる前にイヤホンジャックからH・R・Bを発動させた。

 

「ガアアァァァッ!!?」

 

「ああぁぁぁっ!!」

 

2人が悲鳴を上げて、音波により吹き飛ばされる。

 

『耳郎の技が炸裂!爆豪にようやくダメージが!!』

 

「……のォ、クソ女ァ……!」

 

間近でのH・R・Bを喰らって流石の爆豪も辛そうで立ち上がれない。

耳郎はまだ音に耐性があり、しかも自分から出した音だからか辛そうにしながらもすぐに立ち上がる。

 

「ハァ…ハァ…舐めないでよね」

 

少し目がくらむ中、イヤホンジャックを爆豪に向け、刺そうとする。

 

「ぐっ…くっ!まだ終わりじゃねぇぞ!!」

 

しかし爆豪は爆発を起こし、体を飛ばすことで耳郎に体当たりした。

 

「うわっ!?」

 

再び倒れる2人だが、爆豪は体の痺れが若干取れたのか耳郎に飛んで向かっていく。

 

「くっ……!」

 

耳郎はH・R・Bの反作用で鼓動が早くなっている胸に手を置き、苦しそうにしながらもまたイヤホンジャックを向ける。

 

「ワンパターンなんだよ!!」

 

しかし爆豪はそれがわかっていたかのように手を前に向け、イヤホンジャックに向かって爆炎を放った。

 

「いたっ!?」

 

イヤホンジャックに熱さと痛みを感じ、急いで戻すと両耳のイヤホンジャックは火傷して赤くなっていた。

 

「これでもう音の攻撃はできねぇな!!」

 

さらに爆破の攻撃で耳郎を追い詰める。

しかし、耳郎は襲ってくる熱と風に負けじと耐える。

 

(血界も血みどろになりながら、立ち続けたんだ……!!ウチだって……負けていられない!!)

 

憧れた人の戦う姿を自分も情けない姿は見せられない、見せたくない。

決勝で戦おうと約束したのだ。

その意思が耳郎に力を与える。

 

「終わりだァ!!」

 

この試合一番の爆破を耳郎にお見舞いし、爆風が耳郎を包み込み、姿が見えなくなる。

 

『特大の爆風をお見舞いしたァ!!容赦ねえな、オイ!!』

 

『耳郎のあの技を脅威に感じたんだろう。攻撃させる隙を与えていなかった』

 

痛む両腕を気にしながらも、爆豪は煙で姿が見えない耳郎を警戒する。

すると煙の中から体操服の上着が見えた。

 

「っ!!同じ手を喰らうかよッ!!」

 

しかし爆豪はそれを無視し、背後に迫っていた耳郎に振り返り至近距離で爆発を浴びせた。

 

「きゃあっ!!!」

 

全身に傷を負った耳郎は爆破で勢いよく飛ばされ、地面に叩きつけられるがその瞬間、僅かだが笑みを見せた。

耳郎の片方のイヤホンジャックが上着から伸びて爆豪の後ろに迫る。

 

(あと……使えるのは…一回だけ……)

 

朦朧とする意識をなんとか繋ぎ止め、イヤホンジャックを動かす。

 

「くらえ……」

 

か細く呟いたその言葉と同時にイヤホンジャックから血がふきだし、爆豪の至近距離でH・R・Bが炸裂した。

 

「があっ!?」

 

不意打ちの音の衝撃により、爆豪は上空に高く飛ばされ地面に落ちる。

 

『こ、これは両者ダウンー!!』

 

倒れ伏せる2人だが、その瞬間爆豪が腕を地面に立て、立ち上がろうとする。

 

「くっそぉぉぉ……テメェ……!!」

 

息を荒くし、もう目の焦点が合ってない耳郎を睨む爆豪だがその口は笑っていた。

 

「うぅ……」(立たなきゃ……!)

 

耳郎も立ち上がろうと体を動かす。

なんとか立ち上がる2人だが、2人ともダメージが蓄積し、疲労困憊だ。

しかし、爆豪は手から小さな爆発を起こし、やる気を見せる。

 

「行くぞ!耳郎!!」

 

麗日同様に名前呼びになり、耳郎に向かってフラつきながらも走って行く。

耳郎も爆豪を睨みつける。

 

(勝って……ウチは血界に……!)

 

しかし、その瞬間耳郎は膝から崩れ落ちた。

 

「爆豪君、待って!」

 

ミッドナイトが待ったをかけ、倒れた耳郎の様子を見た。

 

「かた、ないと……」

 

小さく途切れそうな声で呟く耳郎を見て、高らかに宣言した。

 

「耳郎さん行動不能!勝者!爆豪君!!」

 

喚き立つ観客だが爆豪は痛む体を抑えながら、倒れた耳郎に一瞥して、戻って行った。

 

「耳郎さん……」

 

「………」

 

担架で運ばれる耳郎を何も言えずに見送る八百万たちの後ろで血界は試合を見ていた。

 

「耳郎……」

 

『10分間の休憩の後、準決勝を始めるぜ!!』

 

マイクのアナウンスを聞いた血界は何も言わず、その場から離れて控え室に向かった。

 

 

医務室では爆豪と気絶している耳郎がリカバリーガールの治療を受けていた。

 

「チユ〜〜〜!とりあえずこの子の治療はこれでいいかね。全く女の子相手にメチャクチャやるねアンタは」

 

包帯で複数箇所を包まれ、ベットで寝ている耳郎を見て、リカバリーガールは呆れたように言う。

 

「知るか。敵ならぶっ倒すだけだ。それより俺の怪我を治せや」

 

「全く、それが人に物を頼む態度かい……」

 

不遜な態度で頼む爆豪にリカバリーガールが呆れながら診断をするが少し眉を顰める。

 

「うーん……外観の怪我なら治せるけど、内側のダメージは少し残るね」

 

「あ?」

 

「あの子の攻撃は外側より、内側にダメージを残すようだね。恐ろしい技だよ」

 

「治せねぇのかよ?」

 

「わたしゃには無理だね。怪我は治せても、ダメージまでは消せないよ」

 

首を横に振るリカバリーガールに爆豪は麗日と耳郎との戦いを思い出す。

弱いと思っていたが自分を追い込んだのだ。

必死に食らいついてきた2人が爆豪には緑谷を思い起こさせ、少し気に入らなかった。

 

「チッ!」

 

「ちょいと!舌打ちしてんじゃないよ!!」

 

「アンタにはしてねぇよ!!」

 

その後、耳郎を心配した八百万たちが爆豪と会い、なんとも言えない空気になったが、それは置いておく。

 

 

次に強敵轟との戦いを控えた血界だが、次の試合に集中しておらず、耳郎と爆豪の戦いを思い出していた。

血界は勿論耳郎のことを本気で応援していたが、勝つのはやはり爆豪で圧倒されると思っていた。

しかし、耳郎は自分の予想に反して耳郎は爆豪に善戦し、引き分け寸前まで持ち込んだのだ。

予想していた自分が少し恥ずかしかった。

 

「あんなに強かったんだな……」

 

中学から知り合い、今では大切な友人の耳郎、今まではどちらかというと自分が守る側の立ち位置だったが、USJの時もそして今回も耳郎は自分を助け、強敵と戦えるようになったことにショックと嬉しさを感じた。

 

「こりゃ、下手な試合は見せられないな」

 

『さあ!そろそろ準決勝を始めるぜ!!』

 

「っし!行くか!!」

 

全力で轟と戦って勝つ、それが負けた耳郎に自分ができる唯一のことだと信じ、入場口に力強く踏み出した。

 




血界の父親の名前を変更しました。


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File.27 次に進むには?

血界と氷麗との試合の時に346プロのシンデレラガールズのオフィスでは、氷麗の猛攻に顔を青くする者が多くいた。

ちなみに年少組には見せられないと新田美波がいち早く勘づき、外に連れ出した。

 

「いやー…これはちょっと見てられないなぁ……」

 

「スターフェイズさん、怖いです……」

 

「………」

 

普段は明るい本田未央と島村卯月だが、飛び散る血に顔を青くしているが凛はその試合を真剣な表情で見つめていた。

そして血界の逆転で試合が終わると、疲れたのか一息ついた。

 

「凛ちゃん大丈夫ですか?」

 

「卯月……うん、ちょっと疲れちゃったけど大丈夫」

 

「いやーライライ、すごいね。私ならすぐ降参しちゃうよ」

 

「それだけ氷麗に勝ちたかったんだろうね」

 

凛はそう言いながら、無事に終わったことに安心した。

 

「いやー……本当によくやるよね。下手したら一生もんの怪我しちゃうじゃん」

 

「うぅ……戦士の勲章として……でも痛そう」

 

双葉杏が驚きながらも少し呆れたように血界たちの試合の感想を言い、神崎蘭子はいつもの厨二病が陰りを見せるほどだ。

 

「次は響香の試合……」

 

「対戦相手はあの爆豪勝己……絶対に危ないニャ!」

 

「私は断然耳郎さんに勝ってほしいな」

 

全員が耳郎の安否を気にするが、試合は始まった。

容赦ない爆豪の攻めに全員が目を背きたくなるが、耳郎の健闘を見守った。

試合が終わった。

 

「負けちゃったね」

 

「でも!耳郎さん頑張っていました!」

 

「技がカッコよかったよね。ロックでさ」

 

「うぅ……グス……」

 

「智絵里ちゃん大丈夫?」

 

皆が耳郎の健闘を讃えたり、爆豪に怖がったりした。

その中凛は、

 

「…………」

 

「しぶりん?また固まってる」

 

「色々とショックだったんですね」

 

 

同じ頃血糸のチーフオフィスでも血界たちの試合を見ていた。

 

「チーくん、大丈夫でしょうか?このまま試合を続けたら……」

 

「それでもアイツは続けるだろうな。それにしてもスターフェイズさんのところのお嬢さんか。母親に似て容赦がない」

 

 

そして時は戻り、現在。

観客たちは次の試合をウズウズと待ちわびていた。

日本のヒーローNo.2のエンデヴァーの息子で全てを持って生まれた男の子、轟 焦凍。

この体育祭で勝利への執念を見せ、何度も逆境に立たされたが逆転し勝利を収めた血界・V・ラインヘルツ。

まさに1年の体育祭で最も目立っている者たちの試合が今始まろうとしている。

 

「血界くんと轟くん……轟くんは熱も使えるようになったから左側に回る戦法は使えない。近接戦主体の血界くんは不利だ」

 

冷静に分析する緑谷に飯田が声をかける。

 

「ではやはり勝つのは轟君だと思うのかい?」

 

「……わからない。血界くんが簡単に負けるはずがない」

 

過去のことを聞き、助けたいと思った轟。

自分に新たな強さを見せてくれた血界。

緑谷はどちらか選ぶことができなかった。

 

「……頑張れ」

 

静かに緑谷は応援した。

 

 

対峙する2人だがその様子は対照的だった。

轟は緑谷との対戦でダメージがあるはずだが、それはリカバリーガールにある程度治療してもらった。

しかも緑谷戦で使っていなかった熱を使ったのだ。

これで轟の左側が安全圏内という弱点は使えなくなった。

もはや死角がないと言ってもいい。

しかし血界はリカバリーガールの治療がしてもらうことができないため、体操服から覗く包帯が痛々しく見え、少し辛そうに見えるが血界は気にした様子はない。

 

「お前の挑戦通り、全力でいかせてもらうぜ」

 

「ああ……」

 

血界が轟に向かってそう言うが、当の挑戦してきた本人は軽い返事をするだけだった。

それに少し気になった血界だが、とりあえず構える。

 

『スタート!!!』

 

合図とともに轟は最大出力で血界を覆った。

 

『また開始早々のブッパだー!!』

 

ステージの半分を覆う氷山に何度見ても観客は度肝を抜かれる。

 

『血界!早々にリタイアかー!?』

 

しかし、その瞬間十字架の槍が現れ、氷塊を粉々に破壊した。

 

「こんなので倒せると思ったかよ?」

 

「……」

 

轟は血界の問いかけに答えず、今度は小規模の氷を血界に向けるが、それを避けて轟に向かっていく。

それを数回続けると、今度は大きな氷をぶつけてきた。

 

「っ!」

 

咄嗟に轟の左側に避けてしまい、熱側の射程範囲に入ってしまった。

 

「しまっ……!!」

 

「熱側に立った!」

 

「使え……!!」

 

血界はやってしまったと思い、エンデヴァーはまた熱側を使う機会だとニヤリと笑う。

しかし、轟は熱側を使わず血界に向き直り、また氷を放つ。

血界はそれを見て苛つき、向かってくる氷を包帯で包まれた拳で殴って受け止めた。

 

「舐めてんのか轟………」

 

「なんだと?」

 

氷に包まれた右腕だが、個性を発動し粉々に破壊する。

 

「何で緑谷に使った左側を使ってこない?」

 

「………」

 

「まだ父親のことを吹っ切れていないのか?」

 

「っ!お前、何でそれを?」

 

「悪いな。盗み聞きするつもりなんてなかったんだけど、つい聞いちまってな。緑谷のときは熱を使ってたからもう吹っ切れたと思ってたぜ」

 

「………あの時は親父のことを忘れていた。それが悪いかどうか今考えているところだ」

 

2人は試合中だと言うのに世間話をしている。

側から見ると会話は聞こえてこないので、観客たちは不思議に思った。

 

「何を話してるんだ?」

 

「轟くん……」

 

轟と戦った緑谷はまた熱を使わなくなった轟に不安を覚えた。

 

「なるほどな……お前は自分の左側が嫌いなんだろう?」

 

「ああ、だけど緑谷と戦ってわからなくなっちまった」

 

左手を見つめて、自分の中でぐちゃぐちゃになっていることを思い返す。

父を許したわけじゃないが、左を使う自分をどうすればいいのかわからない。

母に言われた「なりたい自分」とは「なりたいヒーロー」とはどんなものだったのか、忘れてしまった。

 

「左を使う俺は、どうなんだろうな……」

 

1人呟く轟は悲しそうだった。

血界は腕を組み、頭を傾けて悩んで轟に話す。

 

「とりあえず許せばいいんじゃねえか?」

 

「親父をかよ?そんなの……」

 

「ちげーよ。自分を許して、自分を受け入れろ。お前だってヒーロー目指してここにいるんだろ?じゃなきゃ父親に復讐するためにここにいるなんて考えられないしな」

 

「それは……」

 

「お前がどんなヒーローになりたいか知らねぇけど、まずは自分を許さないとお前は先に進めないんじゃないのか?」

 

それを聞いた轟は思いつめた表情になる。

復讐だけが今までの目標だった……でも、緑谷が母が憎いと言った左側は父親のものじゃなく自分の力だと教えてくれた。

なら、今度は受け入れなきゃいけない。

その力を持って、自分がなりたいヒーロー………それは、

 

「俺は……母さんがなっていいと言ってくれた、俺のヒーローになりたいと思う。とりあえずはな」

 

「いいんじゃねぇか?俺もまだどんなヒーローになりたいかはちゃんと決めてねぇ。だけど……ここでお前を全力で倒すってことは変わりはない」

 

血界は氷で凍らされ、傷ができている右腕を構える。

 

「そうか……なら、俺もお前を全力で倒す!」

 

轟の体から炎が立ち上り、右側を覆っていた霜が消えていく。

 

「熱だ!轟くん!」

 

「いいぞ焦凍!使え!!」

 

観客席から喜ぶ緑谷とエンデヴァーの声が聞こえてくる。

 

「スゲぇな、やっぱ」

 

立ち上る炎を見て、そう呟く血界に轟が話しかける。

 

「血界」

 

「何だよ?」

 

「ありがとうな」

 

「……おう!」

 

血界に向かって炎が襲ってくるが、血界はそれをかわす。

まだ緻密な操作ができない轟は腕を横に払うことで炎をかわした血界に向ける。

 

「ブレングリード流血闘術……!」

 

『117式 絶対不破血十字盾』

 

迫る炎を盾で防ぐが、熱は防げず血界の身を焦がす。

 

「うぅっ…!」

 

叫ぶ血界に今度は氷が迫る。

 

「あぶっ……!」

 

かわそうとする血界だが氷は血界の片足を凍らせる。

 

「終わりだ!」

 

また炎を向けられるが血界は凍らされた足を無理矢理氷から足を引っ張り出した。

 

「ぐうぅっ!?」

 

凍らされたことでできた凍傷と無理矢理引っ張り出したことで皮膚が一部剥がれ、血が流れる。

轟の炎が血界を包み込んだが、血界は地面を個性を発動した拳で殴りつけ空高く舞い上がった。

 

「ブレングリード流血闘術、推して参る!!」

 

「来い!血界!!」

 

空に舞い上がった血界は多少火傷をおってしまった。

しかし血が染み付いた包帯を巻いた右拳を轟に構え、轟もより炎を滾らせる。

左腕を向け、今出せる最高出力の炎を血界に向ける。

 

「ブレングリード流血闘術……!!」

 

『111式 十字型殲滅槍』

 

今までで最も大きな槍が出現し、血界の腕の動きと合わせて轟に向かっていく。

 

「これは……!?」

 

「ちょっと!シャレにならないわよ!!」

 

審判であるセメントスとミッドナイトも血界の槍の大きさに焦りを見せる。

 

「オオオォォォッ!!!」

 

打ち出された槍は轟の炎を物ともせずに突き進み、ステージに突き刺さり激しい爆発を起こした。

 

『血界の技が炸裂ー!!煙でステージが見えねぇ!!てか、轟、セメントスとミッドナイト無事か!?』

 

「ケホッ、ケホッ……!無事よ」

 

「こっちも」

 

煙が徐々に晴れてくると少し土埃晴れてくる。

ステージは粉々に砕けた散り、その瓦礫の間にできた地面に轟は気絶して倒れていた。

血界は辛うじて残ったステージに降り立った。

 

『轟くん行動不能!勝者血界・V・ラインヘルツくん!!』

 

ミッドナイトのアナウンスとともに沸き立つ観客たちは勝者の血界に歓声をあげた。

 

「やっ……た……」

 

血界は視界がグラつき、地面に膝をついた。

 

「はぁ…はぁ……力が……」

 

「血界くんをすぐに医務室へ!酷い怪我だわ」

 

『ガッテン!』

 

担架ロボットは血界と轟を医務室へと運んだ。

 

 

医務室のモニターで血界と轟の試合を見ていた耳郎は血の気が引く思いだった。

氷麗戦でも怪我はしたが今回はその度合いが酷すぎる。

見ていた時、布団のシーツを握っていた手は震えぱっなしだった。

リカバリーガールは椅子から立ち上がり、急いで治療の準備をする。

 

「急いで準備をしないとね。ありゃ重傷だよ。あんたは早く観客席に帰りな」

 

「り、リカバリーガール、血界は大丈夫なんですか?」

 

「……なんとも言えないね」

 

リカバリーガールから考えられない弱気な声で話し出した。

 

「あの子の個性は自身の身体能力全てに発動しているみたいだからね。怪我なんかも普通じゃありえない速度で治っていく。だけどそれは体力が残っている状態での話さね。あんな状態じゃ治るのかどうかも……」

 

「それならリカバリーガールの個性で……」

 

しかしリカバリーガールは首を横に振って否定する。

 

「わたしゃの個性じゃどんな影響が出るかわからない。迂闊に手を出せないよ」

 

「そんな……」

 

耳郎の落胆する声の直後医務室の扉が開かれ、担架に乗った血界と轟が運ばれてきた。

 

「血界!」

 

「さて!やるとするかね!」

 

「まずは轟から……ふむ、打撲と打ち身だね。あの攻撃をうまく受けたかい。なら……チユ〜〜〜〜!」

 

轟をさっそく治療し、次に血界を診察する。

 

「血界!しっかりして!」

 

「あんた気はしっかりあるかい?」

 

「うぅ……いってぇ……」

 

「まだ痛みを感じているならいいよ。しかしこりゃ酷いね……」

 

裂傷、打撲、凍傷、特に左足の怪我が酷い。

 

(だけど、もう止血している……それに傷が塞がり始めている部分もある。こりゃ少し異常じゃないか?)

 

「アンタ、回復系の個性を他に持ってたりしないかい?」

 

「それだったら今頃アンタの世話になってないよ……」

 

「それもそうだね」

 

顔色を悪くしながらもしっかりと答えることができる血界に少しリカバリーガールは安心する。

 

「リカバリーガール!ウチも治療手伝うから早く!」

 

「ふー……今は猫の手も借りたいからね。他の救護員は2、3年の方に出向いているし、頼むよ」

 

「はい!」

 

リカバリーガールの指示の下、耳郎は血界の治療を手伝いながら、血界にに話しかける。

 

「ねぇ、血界。もうここまで来たらウチが何言っても聞かないだろうから、もう戦わないでとか怪我しないでとかは言わないよ」

 

「おう」

 

「だから、無事に勝ってきて」

 

「……任せろ」

 

そう言って血界の顔をまっすぐ見てくる耳郎の目から心配しているということがわかるが、それを言わず、血界を応援した。

それに血界もまっすぐに受け止め、答えた。

 

(青春だね〜………)

 

それを見ていたリカバリーガールはしみじみと思いながら、血界が次の試合に出られるように全力で治療を施す。

 



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File.28 覚悟を持って

次の準決勝、爆豪対常闇との試合が行われるステージは血界に破壊されたためセメントスが直していた。

 

「こうも何度もステージを破壊されるなんて、初めてだよ」

 

『セメントス何度もステージの修繕ありがとうな!!しっかしお前のとこの生徒、どいつもこいつも攻撃力ありすぎだろ!?』

 

『バンバンステージ壊しやがって……ヒーローなら周りの被害無しで活動するのが合理的で当然のことだ。終わったらみっちり指導だな』

 

『シビィーーーッ!!』

 

相澤の言葉に若干の笑いが起きるなか、A組では血界の容態を安否していた。

 

「血界くん…大丈夫かな?」

 

「あの酷い怪我ではもう試合を続けない方がいいだろう」

 

「でも、血界くんなら包帯ぐるぐる巻きになってもやりそうやけど……」

 

緑谷、飯田、麗日がそう話すが他の皆も一様に心配しており、口数が少なくなっていた。

 

「今は血界君のことも心配だが爆豪君、常闇君を応援しよう!」

 

飯田が委員長らしく、皆にそう伝えると皆は心を新たにし、応援を始めた。

 

(流石飯田くん!委員長やってるな……それにしても、かっちゃんか常闇くんのどちらが勝っても血界くんにとっては激戦になるだろうな)

 

次の試合、どうなっても血界にとっては苦しい状況となることは必至だった。

 

 

ステージの修繕が終わり、爆豪と常闇の試合が始まっているころ、医務室では血界の治療が終わった。

終わったと言っても、傷に包帯とガーゼを巻き、出来るだけ傷が外に出ないようにしているだけだが。

 

「とりあえずはこれが限界だよ。後は治癒力に任せるしかないね。本当ならドクターストップで止めるとこだが、辞めないんだね?」

 

「当たり前だ!ここまで来たんだからやめるわけがねえ!!」

 

血界は造血作用がある栄養食品をを食べながら、そう言ってのけた。

 

「まったくこの子は……そういうところは本当にヴァンに似ているよ」

 

リカバリーガールの呆れた様子に血界は気になり、父親のことを聞こうとした。

 

「なぁ、リカバリーガール。父さんのことなんだけど……」

 

「血界!とりあえず鉄分が取れるもの片っ端から買ってきたよ!」

 

そこに急いだ様子の耳郎が入ってきたため、血界の声は遮られた。

 

「さあ、とりあえず今は体をできるだけ休めて血を作ることだよ。アンタの武器である血は今はもうすっからかんなんだからね」

 

「大丈夫だって!もうこの通り……おぉ?」

 

血界は立ち上がって見せるが視界がグラつき、ちゃんと立てなかった。

 

「ちょっと何してんのさ!今は休んどきなよ。次もあるんだから……」

 

「ありがとうな。耳郎」

 

耳郎は倒れかけた血界に肩を貸し、ベットに寝かせ、食べ物を血界の口に向けてあげた。

 

「ほら、あーん」

 

「い、いや、そんなことまでしなくて良いって」

 

「何言ってんの。今は体を休めて、食べて血を造るのが一番優先することでしょ?いいから口開けて」

 

「恥ずかしいって」

 

耳郎は血界の看病に集中しているのか、自分が恥ずかしいことをしているのに気づかず、手に持った栄養バーを血界の口に近づける。

それに赤面する血界とどこか幸せそうな耳郎を見て、リカバリーガールがふと2人に呟いた。

 

「アンタら2人は付き合っているのかい?」

 

「へ?」

 

「ハアッ!!?」

 

突然の言葉に血界は一瞬呆け、耳郎は一気に赤面し残像が見えるくらいのスピードでリカバリーガールの方を振りまいた。

 

「そそそそんなわけ、ななないじゃなでですか!!」

 

「わかりやすいね」

 

「そうだって俺と耳郎がそんな関係なわけないだろ」

 

「………」

 

わかりやすいくらい照れる耳郎に対して血界が至極当然と言った態度で否定する。

すると、耳郎がまたわかりやすく不機嫌になると、血界の口に栄養バーを突っ込んだ。

 

「アンタは黙ってサッサと食え!!」

 

「おごっ!?」

 

「ったく……バカ」

 

突然口に突っ込まれた血界は軽く目を回し、耳郎は血界に背中を見せて、ボソッと少しも慌ててくれなかった血界に対して残念そうに呟いた。

 

(こりゃあの子が自覚してないね……まったくこれだから男は……)

 

リカバリーガールも血界に対して呆れていた。

すると医務室に備え付けられているモニターから歓声が上がる。

モニターに目を向けると爆豪が常闇に馬乗りになって小さな爆発を起こす手を構えて、脅していた。

すると常闇から降参の言葉が出て、爆豪の勝利となった。

 

「そんな、まだあんまり休めていないのに……」

 

「思った以上に早かったね。こりゃ出れるかどうか……」

 

リカバリーガールは当初、試合は15分程度かかり、選手の休憩も兼ねて30分ほど休憩時間があると考えていたが爆豪は耳郎戦で思った以上に体が温まっていた。

そのため試合は5分もかかっておらず、血界を休める時間がまったく少ない。

しかし血界はそんなことを気にしない。

 

「別にいいじゃねえか。体が温かいうちに戦える」

 

「ちょっと!爆豪はアンタの怪我なんて御構い無しに本気でやってくるんだよ!?そしたらまた怪我が……!」

 

「だからこそだよ。本気でやんなきゃ意味がない!」

 

血界の本気の目に耳郎は何も言えなくなった。

 

「……わかったよ。なら今はできるだけ休むことだね」

 

「ああ」

 

血界はそのままベットに倒れ、寝てしまった。

 

「リカバリーガール、血界は大丈夫なんですか?」

 

「はっきり言ってしまうと今すぐ病院に連れて行きたいけどね。この子はそれを止めるだろうさ」

 

「……そうですね」

 

もう寝息を出している血界を見て、耳郎は仕方がないと言った表情になる。

 

「でも流石に次の試合は私もステージ近くで見るよ。良くも悪くもこいつらは手加減ができないからね。アンタもさっさと観客席に行きな」

 

「はい……頑張って、血界」

 

耳郎は寝ている血界を起こさないように静かに応援した。

 

 

その頃346プロでも血界の応援の準備をしていた。

 

「次が決勝だね!」

 

「あのオニーサン勝てるかな?」

 

「そんなに怪我しているのに試合に出れるの?」

 

「『大怪我』……もしかしたら出られない、かもしれません」

 

「うぅ……」

 

「智絵里ちゃん大丈夫?」

 

「今、命の水を!(お水飲みますか?)」

 

「学校のイベントであそこまで傷だらけになるなんて中々ないにゃ。プロ意識を感じるにゃ」

 

「いや、ロックでしょ。傷を負っても立ち続けるなんて超ロックじゃん」

 

「心配だにぃ〜……」

 

「私たちが心配してもしょうがないでしょ?力抜いて見てようよ。あったみたいになっちゃうよ?」

 

杏がそう言って見た先にはガチガチに固まった凛がいた。

 

「しぶりん!しっかり!」

 

「ダイジョウブ、ワタシハヘイキ」

 

「凛ちゃ〜〜〜ん!」

 

凛は友達の色々とショッキングなところを見て、少しおかしくなっていた。

そしてチーフルームでも緊張した空気が流れていた。

 

「………」

 

楓がテレビを心配そうにジッと見ていた

 

「ほら、お前が固まってどうする?」

 

血糸がコーヒーを持ってきて、楓に渡す。

 

「血糸さん……そうは言っても心配です。チーくん、つい最近まで大怪我していたんですよ?それなのにまたあんな大怪我を……」

 

「アイツも覚悟の上でやっているんだろう。なら俺たちは見守るだけだ」

 

そう言って血糸もテレビの方を見た。

表情が変わってないように見えたが、つき合いが長い楓には血糸が心配しているのが僅かにわかった。

しかしそれは言わず、テレビに集中する。

 

「そうですね」

 

楓も自分の弟のような子に心の中で応援した。

 

 

観客席でもいよいよ決勝となり、その興奮度は高まってきている。

 

「やっぱり勝つのは怪我が少ない爆豪か?」

 

「でも、血界のどんでん返しもあるかもしれないし!」

 

「だけど腕と足も怪我しているのに満足に勝てるのかよ?」

 

数人がどちらが勝つか予測していたりなどしていた。

 

「てか、そもそもあの怪我で決勝出られるのかよ?」

 

峰田のその言葉に全員が黙った。

いくらタフな血界と言えどあの怪我では出られない可能性が高い。

 

「血界くん……」

 

「……」

 

それを聞いていた緑谷は心配し、準決勝で戦った轟は黙ったままだ。

そこに看病を終えた耳郎が戻ってきた。

 

「耳郎さん!」

 

「耳郎!」

 

「血界は無事なのか!?」

 

「怪我はどうだった!?」

 

「試合には出れるの?」

 

「何か進展は!?」

 

一気に詰め寄られる耳郎は少し圧倒されてしまう。

 

「ちょ、ちょっと落ち着いてよ。あと最後関係ないでしょ?」

 

少し落ち着かせてから皆に説明した。

 

「とりあえず血界は決勝に出るよ。怪我は酷いけどリカバリーガールの監視の下でやるって」

 

それを聞いて、皆はとりあえず安心する。

 

「でもリカバリーガールの監視の下って、そこまで酷い怪我なのね。出しても大丈夫なのかしら?」

 

今だに不安そうな蛙水が質問する。

 

「うん、ウチも不安だけどアイツが一度決めたら聞かないし、見守るしかないよ」

 

そう言う耳郎が一番血界の傷つくところを見たくないはずだが、その耳郎が見守ると言ってのだ。

それから蛙水は何も言わなかった。

 

 

そして決勝の時間となり、マイクのアナウンスが響く。

 

『待たせたなお前ら!!ついに雄英1年の頂点がここで決まるっ!!!圧倒的な戦闘センスと無慈悲な猛攻で圧倒してきた爆豪!!片や逆境に晒され、血みどろになろうとも勝利をもぎ取ってきた血界!!この2人のどちらかが頂点になるぞ!!!個人的には血界に勝って欲しい!!!』

 

『偏見実況をするな』

 

『イデっ!?』

 

血界と爆豪がステージ上に立ち、対峙する。

 

「おい、ツリ目野郎」

 

「あ?なんだ?」

 

「テメェがどんな怪我をしていようが関係ねえ。勝って1位になんのはこのオレだ!!」

 

爆豪は睨みながら血界に向かって、叫ぶ。

それに対して血界はいつものように怒らず、笑って爆豪を睨む。

 

「何言ってんだ?逆に怪我してるからって手加減したら承知しねぇぞ。それとな……勝つのはこのオレだ」

 

それを聞いた爆豪も笑みを見せて、血界を睨む。

 

『2人ともいいなァ!?この勝負が最後だ!正々堂々やれよォ!!』

 

血界は左腕を前に出し右腕を体に引きつけ拳を構えて、爆豪は体を低くし腕を体に引きつけ、いつでも飛び出せるように構える。

 

『決勝戦!!スタートォオッ!!!』

 

今、皆がしのぎを削った体育祭の決勝が始まった。



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File.29 FIGHT!

『決勝戦!!スタートォオッ!!!』

 

合図と共に爆豪は手を後ろに向け、爆発させ一気に血界に近づき血界に向かって爆破をお見舞いする。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!!」

 

『爆豪!怒涛の攻めだァー!!』

 

間髪入れず爆破を浴びせる爆豪。

しかも血界と距離がある中距離からの攻撃だ。

 

「爆豪の奴、血界と距離取ってやがる!正々堂々と真正面から戦えよ!」

 

切島が少し怒ったように言うが緑谷は否定する。

 

「いや、かっちゃんは警戒してるんだ。怪我していて体力も無くなっているはずの血界くんでも近づくのは危ないと思って距離を取って攻撃してるんだ」

 

爆豪は連射を一旦止め、爆煙で見えなくなっている前方を警戒する。

すると煙の中から血界が飛び出して、右拳を振るった。

 

「ォラァッ!」

 

「チィッ!!」

 

爆豪は寸前で血界の拳に反応してかわし、顎に掠れる。

仰け反った態勢のまま爆発で距離を取りつつ、また連射しようとするが一旦それを辞めて血界に近づく。

血界も構えて、迎え撃つ。

 

「攻撃を辞めたぞ!?」

 

「なんで止めたんだ?」

 

全員が爆豪の動きに疑問に持った。

爆豪は血界の拳がギリギリ届かない距離を保ちながら攻撃していくが、血界はそれを左腕で爆豪の手を払い、爆発を受け止めてから一歩踏み出すことで爆豪に当てようとし、結果接近戦になっていた。

 

『なるほどな、わかりやすい攻撃の姿勢だ』

 

『え?どういことだよ?』

 

『ラインヘルツだ。左は爆豪の攻撃を払い、防ぐ盾。右はその隙を突いて攻撃する槍。スパルタの槍兵みたいな態勢だ』

 

『はー、なるほど』

 

『わかりやすい態勢ゆえに弱点が少ない。爆豪がどうやって攻略するか見ものだな』

 

(んなこたぁ、わかってんだよ!だが……隙がねえ!)

 

攻防を続けている爆豪にも放送は聞こえていたが、実際に前にすると隙が全くと言ってない。

遠中距離からの攻撃では血界を倒すほどのダメージを与えれず、攻めれば相澤の言う通り防がれ、逆に攻撃される隙を与えてしまう。

攻めようにも逆に攻められ、焦り始める爆豪は相澤の言葉もあってか血界の姿がスパルタの兵士に見えてしまう。

それほどまでに血界の攻めには鬼気迫るものがあった。

そして一瞬血界の姿に目を奪われた瞬間を血界は逃さず、爆豪の腹にボディをぶつけた。

 

「うっ!?」

 

『入ったー!!ど真ん中にボディ!!』

 

吹き飛ばされる爆豪は地面に倒れ、血界を睨む。

 

『不利かと思われた血界だが立場逆転!!血界が押してるぞ!!』

 

「ちっ、くしょうが……!!」

 

痛む腹を抑えながら爆豪は立ち上がり、構えて待つ血界に向かって飛び出すと、手を合わせて血界に向ける。

 

「スタングレネード!!」

 

「ぐっ!?くそっ!」

 

爆豪の光を放ち、相手を怯ませる技を放つ。

血界は突然の光で目が見えなくなる。

そして爆豪はその隙に特大の爆発をお見舞いしようと一気に詰め寄る。

 

「死ねェッ!!」

 

「ブレングリード流血闘術……!!」

 

『117式 絶対不破血十字盾』

 

爆豪との間に左腕で盾を作り、爆豪を近づけさせない。

 

「チッ!」

 

「ぐっ……!くっ……」

 

一旦距離を取る爆豪だが、血界が後ろに下がろうとした一瞬、足がもつれるのを見た。

 

(なんだ?)

 

目が少し戻ってきた血界は爆豪に歩いて近づいていく。

 

「余裕見せてんじゃねぇぞコラァ……!」

 

堂々と歩いてくる血界に苛立ちを隠せない爆豪は空高く舞い上がり、爆発の勢いを使って急降下してくる。

 

「スタンプブラストォッ!!」

 

急降下の勢いを利用した爆発を血界にぶつけようとするが、またもそのうでを左腕で弾かれ逆に頬にカウンターパンチを食らってしまう。

 

「がっ!?」

 

「ぐっ!」

 

爆豪は殴り飛ばされ、爆発は放たれたが直撃しておらず、血界は多少食らって吹き飛ばされる。

 

『また入ったー!!』

 

『爆豪の奴焦ったな。攻撃がだんだん荒くなってきやがった』

 

「あのかっちゃんが焦ってる?」

 

自身の最も身近な憧れであった爆豪の焦る姿なんかを見たことがなく、衝撃を受ける。

 

「ぐっ、くそぉっ……!」

 

「はぁっ、まだまだ……うっ!?」

 

血界が立ち上がろうとすると左足が上手く立てず、転んでしまう。

その瞬間を爆豪は見逃さなかった。

 

「まさか……」

 

爆豪はもしやと思い、また血界に近づいていく。

 

『爆豪!諦めずに突撃だぁー!!だがこのままじゃジリ貧なのは見え見えだぞ!!』

 

『……どうかな?』

 

向かってくる爆豪になんとか立ち上がり、爆豪を迎え撃つ。

 

「オォッ!」

 

真っ直ぐ向かってくる爆豪に向かって血界はストレートを放つが爆豪はそれを下に滑り込むことでかわし、血界の左足に向かって爆破を浴びせた。

 

「っ!? があぁぁっ!!?」

 

血界は叫び声を上げて左足を抑えて倒れそうになるのを爆豪が背中を掴み、爆発の勢いを使って投げ飛ばす。

 

「ガハッ!!」

 

『どうした!?一撃で血界が倒れたぞ!?』

 

「どうしたのでしょうか?」

 

「……左足の怪我まだ治っていないんだ。そこを爆豪に突かれた」

 

耳郎が悔しそうにそう呟く。

自分が看病していてもすぐには怪我は治らないのはわかっていたが、歯痒い気持ちだった。

 

「ハッ!やっとお前に膝をつかせれたぜ」

 

「一回だけかよ……俺は何度だってお前に膝をつかせてやるよ」

 

「やってみろやァッ!!」

 

未だに立ち上がれない血界に向かって飛び、爆発の勢いを使ったかかと落としをぶつけようとする。

しかし血界は足を掴み、防ぐが爆豪は小さな爆発を回転するように放ち、体を回転させて顔に向かって爆破を浴びせる。

 

「ガッ!?」

 

「まだだ!」

 

横に吹き飛ばされる血界に爆豪は空に飛びあがり、空中から爆破の連射を浴びせて来た。

 

「オラオラオラオラァッ!!!」

 

「がっ!?うっ!ぐぁっ!!」

 

防ぐこともできずに浴びる爆発に血界の悲鳴が響く。

 

「おい!やり過ぎだろこれは!」

 

「審判止めろよ!」

 

観客もあまりの一方的な状況に試合を止めるように言い、ミッドナイトもそうするべきかと、リカバリーガールのほうを見る。

 

「止めますか?リカバリーガール」

 

「……もう限界かね」

 

リカバリーガールがそう言った瞬間、立ち込める爆煙の中から爆豪の腹に向かって血の十字架が伸び、ぶつかる。

 

「ぐはっ!」

 

「ブレングリード流血闘術……!『111式 十字型殲滅槍』!」

 

痛みで態勢が整えられない爆豪は落ちて来て、血界はなんとか立ち上がり爆豪に向かって拳を振るった。

 

「オラァッ!!」

 

「クソがァッ!!」

 

しかし負けじと爆豪も血界に爆発をぶつけ、互いに吹き飛ばされた。

 

「ハッ…ハッ…ぐっ!…うぅ」

 

「がはっ…はぁ…はぁ……ぺっ!」

 

血界は体力の限界が近く、体のあっちこっちから激痛を訴えている。

爆豪も一撃が重い血界の拳を何度もくらい、立ち上がるのが辛くなって来ていて、口の中の血を吐き出す。

2人は痛みを我慢して立ち上がり、互いを睨み、そして笑う。

 

「まだだぞ爆豪!!」

 

「当たり前だ血界!!ブッ殺す!!」

 

また爆豪が近づき、血界は左腕で防ぐが今度は爆豪が血界の胸ぐらを掴んで至近距離で殴るように爆発をぶつける。

 

「がっ!?……ラァッ!!」

 

しかし負けじと血界も爆豪を殴ってやり返す。

 

「ぐあっ!……死ねェッ!!」

 

殴り、殴り返す。

防御を捨てた殴り合いの音が響く。

 

『防御を捨てた殴り合いが展開ィッ!!熱過ぎるぜお前らァ!!』

 

血界は火傷と傷を負い、殴られる爆豪は血を流す。

小手先の技を捨てた力と力のぶつかり合いに血界を応援する声だけじゃなく、爆豪を非難していた者たちも爆豪を応援する声が響いて来た。

しかし、やはり力は血界が強いのか爆豪は体が仰け反る。

 

(くそがぁっ……!このままじゃ……)

 

力が血界よりも劣っているのは悔しいがわかっていた爆豪は自分を掴んでいる左腕を掴んで爆発を浴びせる。

 

「あづっ!?」

 

ゼロ距離からの爆発に左腕ははね上げられ、爆豪と距離が離れる。

爆豪と距離が離れた血界は爆豪が掴んでいた体操服の部分が濡れていることに気づいた。

 

「なんだ、これ……!?」

 

「俺のあぜはにどろ……グリセリン、みたいなもんだ」

 

顔が腫れて血を流す爆豪は引きつった笑みを見せながら、手を前に向け、パチパチと火花を散らす。

 

「散れや!!」

 

遠距離から特大の爆発を放ち、血界が包み込まれると体操服に染み付いた汗も連鎖爆破し、血界を襲う。

 

「あああぁぁぁっ!!?」

 

悲鳴が爆発にかき消されるほどの大爆発が起こる。

またも爆煙で見えなくなり、爆豪は警戒しようとするが足に力が入らず、顔が酷く痛む。

立てなくなり、膝をつくと地面に自分の血が滴り落ちる。

 

「クソが……」

 

脳震盪を起こしかけている頭でも悪態をつく爆豪が終わったか、と一息つこうとした瞬間、煙の中から砂利を踏む音が聞こえる。

痛みで霞む目を前に向けると体操服が半分、焼け落ち、傷を負った血界が立っていた。

 

「まだ……まだ……!」

 

「タフなのも、大概にしとけよ……血界!」

 

そう言いながらも笑う爆豪は震える足で立ち上がり、手に汗をたぎらせ、バチバチと火花を散らす。

血界は血で滲む包帯で包まれた右腕を腰にためて個性の特徴である赤雷を巡らせる。

観客、審判も2人の状態から次が最後だと確信し、固唾を飲んで見守る。

 

「お互いに……次が最後っぽいな……勝つのは……」

 

「次で終わりにしてやんよ……勝つのは……」

 

「「俺だ」」

 

 



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File.30 雄英体育祭、決着

満身創痍の体に鞭を打ち、立ち上がる両者。

緊張が走る会場。

 

「ブレングリード流血闘術、推して参る!」

 

「いくぞォ!!」

 

爆豪が爆発で空高く飛び上がり血界に向かって落ちていくが、体を捻り手からの爆発を加えて高速で回転していく。

血界は今出せる力の限りを右拳に集め、右腕が紅蓮の血に包まれる。

 

「ブレングリード流血闘術……!」

 

「榴弾砲《ハウザー》……!」

 

落ちてくる爆豪に迎え撃つ血界がぶつかる瞬間に2人の技が炸裂した。

「『211式 単発式紅蓮血獄撃』!!!」

 

着弾(インパクト)ッ!!!」

 

二つの衝撃がぶつかり合い、紅蓮の波動と爆炎がステージ一面に広がる。

 

「うおおっ!?」

 

「キャアアアッ!?」

 

「ヤバイって!」

 

「アイツら無事かよ!?」

 

「……血界ぃッ!」

 

その衝撃はステージだけでなく、観客席にも及んだ。

煙が晴れてくるとステージ上には二つの影が倒れていた。

 

『両者ダウンー!!』

 

爆公と血界は倒れており、起きる気配がない。

 

「ミッドナイト、審判を」

 

「ちょっと待って」

 

セメントスがミッドナイトに審判を促すが待ったをかける。

倒れた爆豪の体が僅かに動き、目が開く。

 

「ゲホッ…!うぅ……」

 

起き上がろうとすると全身に走る激痛のせいでできない。

するとマイクのアナウンスが響いた。

 

『先に動いたのは血界だ!』

 

「なん…だと…?」

 

顔を血界の方に向けると、血界は血で濡れた拳を地面に立て起き上がろうとしていた。

 

「ここで、負けられる…かよ……!」

 

爆豪も歯を食いしばって立ち上がろうとする血界に負けじと立ち上がろうとする。

 

「ちっくしょうが……!」

 

立ち上がろうとするが震える手足で立つことが出来ず、倒れる。

 

「はっ…!はっ…!くそがぁっ!!」

 

大声を上げて自分を奮い立たせようとするが全く体に力が入らない。

無理に体を起こそうとして、また地面に倒れる。

 

『立ったー!!血界が立ったー!!』

 

「ふっー…!ふっー…!」

 

血界は息を荒くし目の焦点もあっておらず、フラついてはいるが立ち上がった。

それを見た爆豪はここまで来て負けられないと力を込めるが体は言うことを聞かず、地面に伏せてしまう。

 

「はぁっ!はぁっ!クソォォォッ!!!」

 

全員の前で1位になると言った。

血界に向かって勝つと言った。

なのに、起き上がれず負けてしまう自分にとてつもなく悔しさがこみ上げ、叫んだ。

そしてミッドナイトが審判を下す。

 

『雄英体育祭、優勝者!!………………爆豪勝己君!!』

 

「………………は?」

 

一瞬ミッドナイトの言っていることが分からず、呆けてしまう。

爆豪は血界の方に目を向けるとそこには立ったまま気絶している血界の姿があった。

 

『……立ったまま気絶してんのか?』

 

『最後は意地だったんだろう』

 

あまりの最後の姿に全員が息を飲んだ。

爆豪は血界のその姿を見届けると途端に意識が遠のいていく。

 

「………クソ」

 

最後に誰に向かっていったのかはわからないがそう言って、爆豪も意識を手放した。

 

 

救護室で血界は全身に湿布、包帯、ガーゼを巻いた姿で寝ていた。

僅かに指が動き、次第に目が開いていく。

 

「ぅ……ぁ……こ…こ、は?」

 

「血界!?目、覚ました!?大丈夫!?」

 

朦朧とする意識で周りを見る血界の目の前に心配する耳郎の顔が飛び込んできた。

 

「じ、ろ……ぅ」

 

「うん!ウチだよ!しっかりして!」

 

「ちょっと落ち着きな!別に死にはしないよ!」

 

呂律が回らない血界を心配して詰め寄る耳郎をリカバリーガールが注意して下がらせ、血界の容態を見る。

 

「リカバリー……ガール」

 

「もう呂律が戻ってきたのかい。相変わらずとんでもない回復速度だね」

 

「ここは……?」

 

「救護室だよ。爆豪との試合が終わって一緒に運ばれてきたの」

 

耳郎が血界の疑問に答えると、次第に頭が整理できてきた。

 

「試合……?試合!そうだ!試合はどうなっ…!?」

 

試合の結果がどうなったか聞こうとし、起き上がろうとするが平衡感覚がなくなり視界がグラつく。

倒れそうになるところを耳郎が受け止めた。

 

「ちょっと何やってんのさ!今治療が終わったところなのに無理に起き上がろうとしないでよ」

 

「いや、でも…結果が」

 

「アンタ、いま血が限りなく少ない状態なんだよ。普通なら起き上がれるどころか意識がまだ戻らないはずなんだけどね。怪我も何もしなくても勝手に治っていくし、全くアンタは医者泣かせだよ」

 

リカバリーガールのどこか呆れた様子に血界はなんとも言えない空気だった。

同じくリカバリーガールの言い方に顔を引きつらせる耳郎に結果を聞いた。

 

「試合はどうなったんだ?」

 

血界が聞くと耳郎は言いにくそうにしたが、ゆっくりと口を開いた。

 

「……爆豪が勝ったよ」

 

「………そうか」

 

それを聞いた血界は体をベットに沈めた。

 

「悔しいなぁ……」

 

顔を顰め、そう小さく呟いた。

拳を握って悔しさを耐えたいが、感覚がない手に力が入らず、余計悔しさを感じる。

 

「チクショウ……手も握れねぇのかよ」

 

「血界……」

 

「アンタはハンデを背負いながら戦って、ギリギリのところで負けたんだ。悔しがるなとは言わないけど、アンタはよくやったよ」

 

リカバリーガールが血界を慰めるが、血界はそうは思わない。

 

「それでも負けは負けだ」

 

「まっ、あの子も勝ったとは思っていないみたいだけどね」

 

「あの子?」

 

「後でわかるさ。爆豪はもう目を覚まして表彰式の準備に向かったよ。あと30分後に始まるから、その前にもう一回診察して動けるならアンタも式に参加するんだよ」

 

リカバリーガールはそれだけを言って救護室から出て行き、部屋には血界と耳郎だけになった。

二人っきりになったが悔しむ血界に何と言えばいいかわからないが、とりあえず話しかけた。

 

「……惜しかったね、爆豪との試合。あともうちょいだったのに」

 

「でも負けたんだ。それは受け入れる。でも……」

 

悔しそうだった血界の顔に不敵な笑みを浮かべた。

 

「次は勝つ」

 

いつもの血界に戻り、耳郎も安心した。

 

「うん……ウチもだよ」

 

耳郎は包帯に巻かれた右手をそっと握って呟いた。

 

 

そして少し時が経ち、表彰式となり雄英1年生が全員集められ、観客席にいたメディアも集まってきていた。

 

「あっ!耳郎ちゃん戻ってきた!」

 

戻ってきた耳郎に麗日が気づいた。

 

「結構ギリギリになっちゃったね」

 

「血界ちゃんはどうかしら、とりあえずは表彰式には出れるけど……ねえ?」

 

「どうかしましたの?」

 

何か言いにくそうな耳郎が気になり、八百万が聞くが耳郎は言葉を流す。

 

「まぁ、見てたらわかるよ。……飯田がいないじゃん?いつもなら整列するようにとか言ってみんなを並ばせるのに」

 

「なんか電話があってでれなくなっちまったんだと、やけに焦ってたな」

 

切島がそう呟くと、耳郎の視界にニヤニヤと笑う芦戸と恐らく芦戸と同じように笑っているであろう葉隠が映った。

 

「どうしたの?」

 

「いやーねぇー?」

 

「あーんないい空気の後なのに何にもないのかなー?」

 

「あんないい空気?」

 

「すいません耳郎さん……覗く気は無かったのですが」

 

耳郎は分からなかったが芦戸のニヤケ顔と八百万の覗くの言葉に合点がいってしまった。

救護室で血界と2人でいたところを見られたのだ。

途端に耳郎は顔が赤くなり、わかりやすく動揺した。

 

「ちょっ!?なっ!へっ!?な、なんで……!?」

 

「いやーわかりやすいですなー」

 

「耳郎ちゃんかーわぅいー」

 

「ごめんなさい耳郎さん」

 

芦戸と葉隠(見えない)はニヤニヤして、八百万はペコリと頭を下げた。

 

『静かにしなさい!……それではこれより表彰式に移ります!』

 

全員の目がミッドナイトの方に集まった。

 

 

時は遡りまだ爆豪と常闇が試合を始める前のころ、某県の保須市の路地裏では凄惨な光景が広がっていた。

 

「が…ぁっ……」

 

飯田の兄であり彼が尊敬するヒーロー『インゲニウム』が体から血を流し、血溜まりの中に倒れていた。

そしてその側に立つ幽鬼のような男は体の至る所に刃物を装備し、手には刃こぼれが目立つ刀を持っていた。

 

「ハァァッ……紛い物め。お前は正しい世界への供物となれ………」

 

男は刀を振り上げ、インゲニウムにトドメを刺そうと振り下ろす。

しかし、その瞬間一発の銃声が響き、男が持つ刀が弾き飛ばされた

 

「ぐっ!?」

 

「おいおい、昼間っから物騒だな」

 

インゲニウムの窮地を救ったのはたまたま保須市に仕事に来ていたライトニングだった。

ライトニングは髑髏の装飾がされているマグナムをインゲニウムを襲った男に向ける。

 

「また紛い物か……」

 

「紛い物って……ヴィランがヒーローを評価すんなよ。ステイン」

 

インゲニウムを襲ったのは『ヒーロー殺し』の二つ名を持つヴィラン、ステイン。

 

「俺はヴィランではない……ヒーローを正す者だッ!!」

 

ステインはライトニングに向かって4本のナイフを投げるがライトニングはそれを全て撃ち落とす。

 

「シャアァァッ!!」

 

しかし、ステインは投げたと同時にライトニングに近づき、もう一本の刀を振るい、切り裂こうとする。

その瞬間、ライトニングは呟く。

 

「BBA(ブラッドバレットアーツ)、Thunder Ricochets .44」

 

次の瞬間、4発の弾丸が雷を纏い、ステインの手足を掠るように四方八方から襲った。

 

「ぐあぁっ!?」

 

「俺がそう簡単にやられると思ったか?」

 

手足に軽くない傷を負ったステインは傷口を抑えるようにして膝をついた。

 

「あとはお前を警察に渡せば終わりだな」

 

「…………そう簡単にやられると思ったか?」

 

「あ?」

 

ステインから流れる血が突然火を吹き、ライトニングを襲った。

 

「チッ!」

 

ライトニングは雷を纏った弾丸を撃ち、炎を霧散させた。

しかし、ステインの姿はもう既になかった。

 

「……逃げたか」

 

「うぅ……」

 

「おお、悪い。待たせたな」

 

ライトニングは応援と救急を呼び、インゲニウムを手当てに移った。

すぐに応援のヒーローと救急車が来て、インゲニウム乗せられた。

 

「すいま……せん。ライトニングさん……俺のせいでステインを……」

 

「気にすんな。後はオッサンに任せといて、傷を治すのに集中しな」

 

インゲニウムは悔しそうにそう言って、病院に運ばれていった。

 

「さて……」

 

他のヒーローたちはステインが近くにいないか捜索に出たが、ライトニングはステインがインゲニウムを襲った路地裏にできた炎の跡と流れ落ちていたはずのステインの血の跡を見たが、血は一滴も落ちていなかった。

 

「まさかな……」

 

ライトニングはそう呟いて、タバコに火をつけて自分の頭の中でできた不安を吐き出すかのように煙を吐いた。

 

 



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File.31 表彰式

『それでは表彰式を始めます!』

 

ミッドナイトの合図で表彰台が地面から上がってくる。

表彰台に乗っているのは1位から4位までの健闘したものたちだが、その中で一際目を引くものがいた。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

顔色がすこぶる悪く、点滴を吊るしてある器具に寄りかかっている血界だった。

体調が優れないのかプルプルと体は震えて、顔はやつれていた。

全員がその状態の血界に軽く引いた。

 

『うわぁ……』

 

「アレ、大丈夫なの?」

 

「寝てたら普通だったんだけど、立った瞬間にあんな風になっちゃって……無理するなって言っても聞かないし」

 

「だから点滴してんのか」

 

耳郎の説明に納得した皆だが、それでも血界の姿が気の毒すぎる。

 

『んんっ!なんか変な空気になっちゃってるけど……続けます!』

 

「続けるのね」

 

『それではメダル授与式を行います。当然授与するのはもちろんこの人!』

 

するとどこからともなく、高笑いが響き、オールマイトが飛び降りながらやって来た。

 

「私がメダルを持ってやってき『我らがヒーロー、オールマイトォ!!』……」

 

いつもの決め台詞が被ってしまい、なんとも言えない空気になったが仕切り直した。

オールマイトは咳ばらいをしながらも、メダルを持ちまずは常闇へと渡していく。

 

「常闇少年、おめでとう! 君は強いな」

 

「勿体ないお言葉……」

 

「だが、個性に頼り切りな場面が多かった。これからはもっと地力を鍛えていきなさい。そうすればもっとうまく立ち回ることが出来るだろう」

 

「御意……」

 

次に轟にメダルを渡す。

 

「轟少年、おめでとう」

 

「ありがとうございます」

 

「今回のことで左の熱を使う良いきっかけになったのかな?」

 

「……緑谷にきっかけをもらって、血界のおかげで先に進もうと思いました。今はこれがいいかどうかはわかりませんけど、進んで行こうと思います」

 

そう言った轟の目には恨みなどがなく、表情もどこか晴れやかなものだった。

 

「顔が以前と全然違う。深くは聞くまいよ。今の君ならきっともっと自分が目指すものに進むことができると思うよ」

 

そして次は件の血界だ。

 

「さて、決勝は惜しかったが、とにかくおめでとう!血界少年!」

 

「…………え?」

 

「聞いてないのね……まぁ、とにかく!今日君は何度も逆境に立たされながらも立ち向かい、勝ち続けた。君の勇姿はお父さんであるヴァンも喜んでいるだろう!……君とは一度ゆっくりと話がしたい。お父さんのことでね」

 

「…………ぅえ?」

 

「とにかく、おめでとう!」

 

オールマイトは締まらない血界をさっさと済ませ、次は1位になったのにも関わらず不機嫌な顔の爆豪にメダルを渡そうとする。

 

「優勝おめでとう!爆豪少年!」

 

「……あぁ」

 

「見事に選手宣誓での伏線を回収したな!その調子でヒーローへの道を進んでくれ」

 

オールマイトからの激励だと言うのに爆豪は不機嫌なままだ。

 

「……俺は1位になったとは思わねぇ」

 

「何故だい?」

 

「本来なら、決勝じゃ俺は負けていた」

 

爆豪が言うことにオールマイトも少しわかる。

血界は本来ドクターストップがかかるほどの怪我をしていたが無理を通して出場していた。

爆豪もダメージを負っていたが、血界に比べて明らかに軽い。

そして最期の場面でも爆豪は立ち上がれなかったが、血界は立ち上がったのだ。

爆豪はそのことを言っているのだ。

 

「俺が言ったのは完膚無きまでの1位だ!あんなギリギリでの勝ちなんていらねぇ!!」

 

「勝ったというのに素晴らしい向上心だ。君なら更に上に行けるだろう」

 

「だから血界!また戦うぞコラァッ!!」

 

「…………はぃ?」

 

「待って爆豪少年。今の血界少年にそれは酷だぞ!」

 

血界に食ってかかる爆豪だが、当の血界は頭がボーっとしていて話にならない。

とりあえず爆豪と血界を離したオールマイトは手を広げ、観客たちのほうを見る。

 

「さぁ!! 今回は彼らだったわけだ!! だが皆さん! この場の誰にもこの場に立つ可能性があった! ご覧いただいた通りだ! 競い! 高め合い! さらに先へと登っていくその姿! 次世代のヒーローの卵達は確実にその芽を伸ばして成長をして前へと進んでいる!」

 

オールマイトのその言葉に勝ち進めなかった生徒たちはやる気を見せる。

また来年、次こそ勝ち上がると闘志が燃える。

オールマイトもそんな生徒たちを見て満足そうにうなづいた。

 

「てな感じで最後に一言!皆さんご唱和ください! せーの!!」

 

締めの一言を皆が揃える。

 

『プルス「お疲れ様でしたッ!!!」ウル……!?』

 

「ちょっとオールマイトー!」

 

「そりゃないよー!!」

 

「えっ、いや、疲れていると思ったから……」

 

こうして激動の体育祭は終わった。

 

 

教室で相澤の短めのホームルームが終わり、血界は速攻でブラッドベリ総合病院に連れて行かれたが、治療するところもなく、体を休めらように言われたが、その時エステヴェス女医が血界を怪訝な目で見ていた。

 

『リカバリーガールから簡単な診察書貰ったけど……あんた本当に人間?』

 

『医者が言うことにじゃねぇ』

 

冗談抜きで言われたので、少しショックを受けた血界だった。

家に戻り、スマホを確認すると体育祭が終わった時間帯から凛から尋常じゃない数の着信とラインが来ていた。

このままだと心配したとか、やり過ぎだとか説教されるのはわかった血界は、

 

「………明日でいいや!」

 

血界はスマホをポーンと投げて、面倒なことは全て明日の自分に任せることにした。

血界がベットに倒れるとまたラインの着信がきた。

 

「また凛か……?」

 

画面を見ると耳郎からラインが来た。

 

『怪我大丈夫?』

 

自分を心配してくれる耳郎に嬉しくなった血界は痛みと傷で上手く動かない手で大丈夫、と返信した。

ふとその時血界は包帯を巻かれた手を見た。

 

(あん時……握ってくれたんだよな)

 

爆豪に負けた時、悔しかった自分に寄り添ってくれた耳郎。

その時感覚はなかったが握ってくれていたのは確かだと感じた。

 

「………〜っ!」

 

何故かわからないが途端に恥ずかしくなった。

血界が耳郎の気持ちに気づきのは案外近い……かもしれない。

 

 

雄英体育祭を見ていたのはヒーロー、世間の人だけではない。

闇に潜む者、ヴィランたちも見ていた。

そしてその中には1-Aを襲った張本人である死柄木もいた。

 

「なんだよこれ……クソつまんねぇ」

 

薄暗く、モニターの光しかない部屋で死柄木は吐き捨てるかのように呟いた。

モニターには1-Aの様子が映し出されていた。

 

「こんなのが意味あるのかよ……?先生……」

 

死柄木がもう一つあるモニターの方を向くと『SOUND ONLY』と表示されていたモニターから声が響く。

 

『意味ならあるさ!ここから倒すべき者たちを学べばいいんだらね』

 

底冷えするかのような声が響く。

死柄木に話かける時の声色は教師が教え子に教える時のように温和な感じだが、常人が聞いてしまえば失神してしまうかもしれない威圧感が発さられている。

 

『それじゃあ僕は少し用事があるから、切らせて貰うよ』

 

「ああ……」

 

弔との通信が切れると部屋中に医療器具が備え付けられた場所で至る所にチューブが繋げられた男が一息ついた。

 

「フフ……今回は中々良さそうな子たちがいるじゃないか。オールマイト」

 

不気味に笑う男はふと何かを思い出した。

 

「そろそろ手紙が届くころかな?」

 

男はどこか楽しそうに嗤った。

 

 

某国の切り立った山が連なる場所では人を一切寄せ付けようとはしない猛烈な吹雪が吹いていた。

その中で最も大きい山の中は岩ではなく、綺麗に整備された機械的な建物があった。

そしてその最も奥の部屋には1人の男が拘留されていた。

部屋は全てが白で埋め尽くされており、無機質なものだった。

クラシック音楽がかけられている部屋のベットの上でグレーの髪と髭が伸びきった男が使い古された本を読んでいると、突然本の文字が動き出し、一つの文章になった。

それを読んでいくと男の体はだんだんと震え、笑いだした。

 

「フフフ……ハッハッハッハハハッ!!!」

 

すると白一色だった部屋は透明になり壁の向こうにいくつもの機関銃が男に向けられた。

しかも男がいる部屋は巨大な空間に宙ぶらりんにされており、その下は剣山がひしめいていた。

 

『囚人番号66893番!何を笑っている!?』

 

「いや、すまない。少し昔を思い出してね」

 

男はよっぽど可笑しいのか、嗤いが止まらない。

 

「そろそろ出るかな?」

 

伸びきった髪の間から覗く目には怪しい眼光を纏っていた。




プロフィールに追記しました。


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File.32 Every day 3rd

『凛ちゃんご立腹』

 

体育祭の次の日は休日となっており、血界は酷使した体を休めていた。

すると一通のラインが来た。

 

『Kyoka:いつもの公園に来てくれない?』

 

「耳郎からか」

 

耳郎からのラインに少し嬉しそうな血界は中学の時からたまり場として使っている公園に向かった。

 

「着いたけど、どこにいるんだ?」

 

「血界……」

 

名前が呼ばれた方を向くと耳郎が申し訳なさそうに立っていた。

 

「よぉ、耳郎!」

 

「先に謝っとく、ごめん」

 

「は?何言って……」

 

その瞬間、血界の肩に手が置かれメキメキと嫌な音を立てながら肩を握られた。

 

「血界、元気そうでよかったよ」

 

「り、凛?」

 

首をゆっくりと後ろに向けると、ある意味いい笑顔を浮かべた凛が立っていた。

 

「とりあえず正座」

 

「え?いや、でも……」

 

「正座」

 

「…………はい」

 

凛のものを言わせぬ空気に血界は昼間の公園で正座させられた。

 

「……なんで連絡してこなかったの!?心配したじゃん!試合中でも連絡できればして欲しかったのにっ!!あとあの試合は何!?もうちょっと自分を大切にしなよ!!」

 

「い、いや、あの無茶は必要なことであって………」

 

「今は私が喋ってるから黙ってて!!」

 

「ハイ……」

 

凛の気迫に血界もうなづいてしまう。

そこから約一時間くらい凛からの説教が続いた。

凛はトレーニングの合間に血界たちの怪我が心配で何度もラインしていた。

耳郎は凛に返事をしていたが、血界はそれを後回しにし、サボっていた。

親友たちがボロボロになっていく姿を見て、友達思いの彼女は気が気じゃなく、何度もラインを送っていたがラインを返さない血界を心配して耳郎に確認を取ってもらったりしていた。

体育祭中は仕方ないと思ったから終わった直後に連絡を何度も取ってみたが返事もなく、今日に至る。

彼女がこんなにも怒るのは心配の裏返しなのだ。

 

「……はぁ、色々言ったけど心配したんだから」

 

「そ、そうか。そろそろ正座崩してもいいか?足が痺れてきて……」

 

「それはダメ」

 

「そんなぁ……」

 

「そう言えば2人にこれを渡そうと思っていたの」

 

取り出したのは2枚のチケット。

それをずっと説教を見ていた耳郎に渡す。

 

「何これ?」

 

「私の初ステージかな?バックダンサーとしてだけど」

 

「それってすごいじゃん!私たちが貰っていいの?」

 

「マジか!ちょっ、ちょっと見せて……」

 

「血界は正座」

 

「アッ、ハイ」

 

立ち上がろうとする血界を凛は正座させる。

 

「応援してくれた響香たちに来て欲しいんだ。私がアイドルとして立つところをね」

 

以前よりも凛々しい顔になった凛に耳郎は自分の娘が成長したような感動を覚えた。

 

「凛……うん、絶対に見にいく」

 

「氷麗とクロにはもう渡したから。2回席だけどよく見れる場所だよ」

 

「ありがとう。これから暇?どこか食べに行かない?」

 

「レッスンまで時間あるからいいよ。どこに行こうか?」

 

2人は公園を出ようとするが、血界が待ったをかけた。

 

「ちょっ!?待てって!俺を置いていくのかよ!?」

 

「一緒に行きたかったら立てばいいでしょ?」

 

凛がいたずらっ子のように意地悪い笑みを見せ、血界が立ち上がろうとするが足が生まれたての子鹿のように震え、こけてしまう。

 

「た、頼む。助けてくれ……」

 

「血界には罰として今日はそのままでいて貰おうかな?」

 

「なぁ!?」

 

「早く来ないとこのチケット、ヤオモモにあげちゃうよ?」

 

「耳郎!お前もか!」

 

まさかの耳郎も血界弄りに参加し始めた。

耳郎と凛は楽しそうにして、血界は痺れる足に悶絶していた。

 

 

『不器用な親』

 

凛からの折檻が終わり、家に帰ってきた血界は疲れたようにため息を吐いた。

 

「はぁ…酷い目にあった」

 

そうボヤきながら、まだ痺れが残る足をさすった。

するとまたラインの通知が届いた。

 

「また凛じゃないだろうな……」

 

スマホを見ると表示されているのは『緑川 血糸』の名前だった。

 

「おじさんからだ」

 

『今日の夜は飯を作らずに待っておけ』

 

そう簡単な文しか載っておらず、意図が全く分からなかったがとりあえず指示どおり待つことにした。

そして夕方になり、血糸が帰ってきた。

 

「あ、お帰り」

 

「支度しろ。出かけるぞ」

 

「へ?」

 

血糸に言われるがままとりあえずはドレスコードがしっかりした服に着替え、車に乗せられあるホテルにやってきた。

各界の著名人たちがお忍びとして使う高級ホテルだ。

 

「ここって……」

 

「こっちだ」

 

血糸に連れて行かれるとホテルの最上階にある展望レストランの個室だった。

 

「すげぇ」

 

個室の内装、そしてなにより部屋から臨む東京の夜景が素晴らしく、そういうのに疎い血界も感動するほどだ。

 

「チーくん。こっちよ」

 

「楓姉ちゃん!」

 

既にテーブルには楓が座っており、笑顔で手を振っていた。

 

「なんでここに?てか、今日って何の日?こんな高級そうなところで」

 

「何って、チーくんのお疲れ様会よ。体育祭あんなに頑張ったんだから」

 

「俺からしてみれば反省会だ。お前には色々と言いたいことがある」

 

それから絶品のフルコースが運ばれてきて、舌鼓を打つが血糸の説教と楓の褒めが交互に血界に浴びせられ、なんとも言えない感じで血界は聞いていた。

そろそろゲンナリしてきた血界にまだ説教することがあるのか、血糸が口を開こうとすると彼のスマホが鳴った。

 

「すまない……仕事場からだ。少し席を外す」

 

そう言って席を外した血糸を見送って血界はホッとした。

 

「はぁ…まさかこんなところで説教されるとは思わなかった。おじさん怒るとき静かに怒るから神経すり減るんだよなぁ」

 

「ふふっ」

 

疲れた様子の血界を見て、楓はクスリと笑った。

 

「何がおかしいんだよ?」

 

「ううん、今回のこの食事ね。やろうって言ったの誰だと思う?」

 

「楓姉ちゃんじゃないのか?おじさん、あんまり店で食べるの好きじゃないし」

 

そう言うと楓はまた可笑しそうに笑う。

 

「なんだよ?」

 

「実はね……血糸さんがやろうって言ったの」

 

「おじさんが?」

 

血界は信じられないと言った表情になる。

血糸は相澤みたいな合理主義者で、あそこまで酷くないがそういったことはしないように見えた。

 

「血糸さん。チーくんが戦っている時も心配そうだったのよ?」

 

「……全然想像できない」

 

「表情は変わってなかったから、でも血糸さんはチーくんのこと内心では褒めてるわ」

 

「そっか……」

 

血糸のことを自分よりもよく知っている楓がそう言ってるのだ。

血界は信じることができ、滅多に褒めることがない血糸がそう思ってくれていることに嬉しくなった。

 

「すまないな、席を外してしまった。……なんで笑っている?」

 

「いや、別に」

 

その後も血糸の説教じみた小言は続いたが血界は始終嬉しそうだった。

 

 

イギリスのとある寂れた町にある地下バーに2人の人物が話していた。

1人は細身だが筋肉質だとわかるアジア系の男、もう1人は古い型のライフルを背負った緑髪の可憐な少女だ。

 

「それで?ボスを向かいに行くのはいつになったの?」

 

「あー、2週間後ぐらいじゃねぇか?」

 

「ぐらいって何よ?」

 

「しゃーねぇーだろ。あの人気まぐれなんだからよ」

 

「はぁ、まぁいいわ。今はそれよりメンバーよ。殆どのメンバーはヴァンに殺されたか、投獄された。補充が必要だわ」

 

「補充たってな。そうそう見つかるか?マフィアに媚びでも売って人材貰うか?」

 

男は酒を飲みながらそう吐き捨てるかのように言った。

 

「マフィアに借りを作りたくないわ。どうにかしてフリーの強者を手に入れたいけど……」

 

少女がそう言うと背後にある扉に目を向ける。

扉の奥からゆっくりと階段を降りてくる音がしてくる。

少女はライフルを扉に構え、男はグラスを置きいつでも動けるようにする。

足音が扉の前で止まり、ゆっくり開けられる。

扉の奥に立っていたのは紫髪で目に傷がある男が立っていた。

立っているだけだというのに男からは気迫のようなものを感じ、少女は冷汗を流す。

 

「アンタ、誰?」

 

少女はライフルの照準を男から外さずに質問すると男はゆっくりと口を開いた。

 

「俺は、ローグ」

 

 




プロフィールに加筆しました。


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Person who purges the hero
File.33 HERO name


雄英体育祭が終わり、休日も終わった。

登校している血界と耳郎だが、体育祭を見ていた人たちから声をかけられまくっていた。

 

「なあ!君、血界・V・ラインヘルツ君だろ!?」

 

「そうっすけど……」

 

「テレビで見たよ!いやー、血まみれになりながらも立ち上がる姿は痺れたね!」

 

「なんか昔ヒーローを目指していたのを思い出しちまったな」

 

「大丈夫?あれから体はちゃんと動くのかい?」

 

「ねえねえ!技使って使って!」

 

「あの……サイン貰ってもいいですか?」

 

「君も女の子なのにガッツがあるねぇ」

 

「テレビより見るよりずっとカワイイー!」

 

「え、ちょっ、ちょっと!」

 

老若男女が構わず2人に声をかけ、褒めてくれるのはありがたいが人だかりができてしまい進むことができない。

声をかけられる血界と耳郎はなんとか群衆を抜け出したが雄英にたどり着いた。

 

「やっと着いた……」

 

「もう疲れた……」

 

校門前で疲れた様子の2人の後ろに黒塗りのリムジンが止まり、そこから八百万と氷麗が降りてきた。

 

「耳郎さん、血界さん。おはようございます」

 

「おはよ」

 

「お、おはよう2人とも……よかったね、車で登校とか」

 

耳郎が2人を羨むように言った。

 

「氷麗さんが一緒に登校しようと言ってくれたんです」

 

「母様が絶対声をかけられて疲れちゃうから車で行けって」

 

「そうなんだ……確かに車で登校した方が正解だね」

 

「マジで疲れた……」

 

疲れた様子の2人だが実際は満更でもなかった。

こんなに知らない人に褒められることなんてそうそうない。

さらに血界は地元では怖がられていたために耳郎たち以外の友人がいなかったために嬉しかった。

 

「まっ、そんな苦労もヒーローになったら経験することなんじゃない?いいじゃん練習になったんだから、それに嬉しかったでしょ?」

 

「そうかもな」

 

氷麗の質問に血界は笑ってそう答えた。

 

 

教室に続々と登校してくる1-Aの面々だが話す話題は雄英体育祭を見ていた人たちから声をかけられたことだ。

 

「超話しかけられたよ、来る途中!」

 

「私もジロジロ見られて、何か恥ずかしかった!」

 

「俺も!」

 

 芦戸と葉隠が楽しげにそう言うと、他の生徒たちも同じ状況だったようで、同意の声が上がる。

しかし、一方でスッキリしない表情を浮かべている者も居た。

 

「俺なんか小学生にいきなりドンマイコールされたぜ」

 

「ドンマイ」

 

そこに相澤が入ってくると皆、一斉に席に座り静かにしていた。

皆、相澤が怒ると怖いことはもうよくわかっていた。

 

「おはよう、皆んな」

 

『おはようございます』

 

「相澤先生、包帯がとれたのね。良かったわ」

 

「婆さんの処置が大袈裟なんだよ。んなもんより、今日の一限目のヒーロー情報学はちょっと特別だぞ」

 

 数日前まで相澤はUSJ襲撃の際に受けた怪我の処置で包帯を巻いていたのだが、ようやく完治したようで、普段と変わらい姿でホームルームを始めた。

一限目から特別な授業だと言われた生徒たちは小テストなどを警戒する。

しかし、それは良い意味で裏切られた。

 

「『コードネーム』。ヒーロー名の考案だ」

 

『夢ふくらむヤツきたあああ!!』

 

皆が一斉に沸き立ち喜ぶ。

ヒーローネーム、それはヒーローの第一印象と言ってもいいものだ。

それを決めるなどヒーロー科の生徒からしてみれば盛り上がらないはずがない。

しかし、相澤がひと睨み効かせると嘘のように静まり返った。

やっぱり怖いものは怖いのだ。

 

「というのも、先日話した『プロからのドラフト指名』に関係してくる。指名が本格化するのは経験を積み、即戦力と判断される2年や3年から…。つまり今回来た指名は将来性に対する興味に近い。卒業までにその興味が削がれたら、一方的にキャンセルなんてことはよくある」

 

「頂いた指名がそんまま自身へのハードルになるんですね!」

 

葉隠が言うと相澤は頷く。

つまり体育祭は単なる前座だ。

本来の目的はここにあった。

 

「そうだ。で、その指名結果がこれだ」

 

 相澤が手元のタブレットを操作すると、黒板の前に白いスクリーンが降りてくる。そして、雄英に送られてきた各生徒の指名件数がそのスクリーンに映し出された。

 

血界 3,483

轟 3,461

爆豪 2.264

常闇 332

飯田 328

耳郎 245 ………

 

だいたいだがこのように出た。

 

「1位と2位が逆転してるっていうか、轟にも負けてんじゃねえか!」

 

「なんでだァッ!!」

 

「まぁ、2回連続女子をメッタ打ちにしたらそうなるわな」

 

「……チッ!」

 

「俺は親ありきだからこうなったんだろ」

 

不機嫌そうな爆豪とあまり納得いっていない轟を他所に血界は驚いていた。

まさか指名数が一番になると思わなかったのだ。

 

「やりましたわね。血界さんが一番多いですわ」

 

「お、おお……なんか実感がわかないな

 

「まぁ、あんなガッツ見せられたら指名したくなる気持ちもわかるな」

 

前の席である八百万と峰田がそう褒めてくれて、血界はむず痒くなる。

 

「これを踏まえ、指名の有無に関係なく職場体験に行ってもらう。プロの活動を実際に体験して、より実りある訓練にしようってこった。職場体験っつってもヒーロー社会に出ることには違いない。つまり、お前らにもヒーロー名が必要になってくる。まぁ、仮ではあるが適当なもんを付けたら――」

 

「地獄を見ちゃうよ!この時の名が世に認知されてそのままプロ名になってる人は多いからね!」

 

「ミッドナイト先生!!」

 

ミッドナイトガッツポーズを決めながら教室に入ってきた。

彼女はそのまま相澤と入れ替わるように教壇に立ち、相澤は寝袋に入り始めた。

 

「その辺のセンスはミッドナイトさんに査定してもらう。俺はそういうの出来んからな。将来、自分がどうなるのか。名を付けることでイメージが固まり、そこに近づいていく。それが“名は体を表す”ってことだ。よく考えてヒーロー名を付けろよ」

 

(ヒーロー名……)

 

血界は配られたホワイトボードを前にして固まる。

実は血界はこういった名前をつけるのが苦手なのだ。

一時期、猫を飼いたいと思い、名付けるなら『ゴリエ』がいいと言ったほど壊滅的なのだ。

 

「ヤバ……思いつかねぇ」

 

「どうしたのですか?」

 

「ヒーローネームが思いつかねえんだ」

 

「ご自身の特徴や、個性を名前にしてみれば如何でしょうか?私もそのようにしましたし」

 

「個性かぁ……俺自分の個性の名前すら知らないんだよな」

 

血界の個性は血を武器のように使う個性だが、名前がわからなかった。

血界の個性は色々と不明な部分が多く、ブラッドベリ中央病院に入院した際に聞いてみたがわからないと言われたのだ。

今度、自分の個性のことを知っているであろう血糸に聞いてみようと血界は思った。

 

「じゃあ、そろそろ出来た人から前に出て来て発表してね」

 

まさかの発表形式に全員が固まる。

下手なヒーローを発表して恥をかきたくないと尻込みしていると芦戸が真っ先に手を上げた。

 

「はーい!アタシ出来ました!リドリーヒーロー、エイリアンクイーン!」

 

『2かよ!?』

 

「血が強酸性のアレを目指してるの!?やめときな!」

 

「ちぇー」

 

明らかにヒーローというよりヴィラン側の名前にミッドナイトが注意し、不貞腐れる芦戸だった。

若干変な空気になったが芦戸の次は青山が発表した。

 

「フッ! 僕は輝きヒーロー、I can not stop twinklingさ!」

 

『短文だろ!?』

 

「……そこはIをとってCan’tに省略しなさい」

 

「それね!マドワーゼル」

 

『いいのかよ!?』

 

まさかの合格に全員が驚く。

それと同時に英語なのかフランス語なのか、キャラが定まらない青山と芦戸に全員が怒りを覚えた。

2人のせいで大喜利の空気になってしまったのだ。

全員がこの空気を続けるように面白いヒーロー名を出すのか、それともぶった切って真面目なモノを出すのか悩む。

 

「うーん……もうちょっと増やそう」

 

血界は1人、ホワイトボードに書き込んでいる。

するとそこに優等生の梅雨ちゃんが手を挙げた。

 

「実はずっと考えてあったの、梅雨入りヒーロー『フロッピー』!」

 

「うん!皆んなから覚えやすい可愛らしい名前ね。オッケーよ!」

 

初めてミッドナイトからの合格をもらったのと同時に全員から心の中でこの空気を壊してくれてありがとう、と感謝された瞬間でもあった。

そして続いて麗日が『ウラビティ』、切島が『烈怒頼雄斗(レッドライオット)』、耳郎が『イヤホン=ジャック』と皆それぞれが似合うヒーロー名を付けていった。

そして次に発表するのは爆豪で、

 

「爆殺王」

 

彼らしい名前なのだから不思議でしょうがい。

 

「違う。そうじゃない」

 

「ああっ!?」

 

が、ヒーロー名なので「殺」やら、そんな言葉は使ってはいけないとミッドナイトに注意される。

 

「爆発散太郎にしとけよ!」

 

「それかボンバ○マンとかな」

 

「黙ってろやテメェラァッ!!」

 

「それじゃあ、後は血界君、緑谷君、轟君、飯田君ね」

 

次に緑谷が手を挙げ、『デク』と発表した。

聞いただけでは蔑称に聞こえるかもしれないが緑谷は「がんばれ」って感じの『デク』だと言ってのけた。

 

「もうあんまり時間がないから……血界君考えてる途中でもいいから発表しちゃって!」

 

「ええ!?んな横暴な……」

 

「ヒーロー名はまた変えることができるから、とりあえずでいいわよ」

 

「じゃあ……」

 

血界は教壇に立ちホワイトボードを見せた。

 

「えーっと、スーパーヒーロー『ウルトラギャラクシーメテオハイスペックターボパワードオメガゴッドエクストリーム……』」

 

『寿限無か!!』

 

ホワイトボードいっぱいの文字を見せられ、全員が一切に突っ込んだ。

 

「長過ぎよ!ボードいっぱいじゃない」

 

「もう一枚あるんだけど……」

 

「どこから持ってきたの!?」

 

とりあえず血界のヒーロー名は保留となり、『チカイ』と仮決定された。

その後、轟と飯田も血界と同じで名前の『ショウト』、『テンヤ』となった。

 

「爆殺卿!!」

 

「だから違う」

 

ついでに爆豪も『カツキ』になった。

 



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File.34 346プロヒーロー事務所

とりあえすのヒーロー名は決まり、相澤が再び教壇に立つ。

 

「職場体験は一週間。肝心の職場だが、指名のあった者は個別にリストを渡すから、その中から自分で選択しろ。指名のなかった者は予めこちらからオファーした全国の受け入れ可のヒーロー事務所40件。この中から選んでもらう。それぞれ活動地域や得意なジャンルが異なるから良く考えてから選べよ」

 

そう言って1げんめは終わり、個別のリストを渡されたが、血界に渡されたリストは厚さが凄いことになっていた。

 

「うわーリスト、ヤバイじゃん」

 

血界の席にやってきた耳郎がリストを見て、呟いた。

 

「ホントだよ。ヒーロー名も考えないといけないのに」

 

ため息を吐く血界を耳郎はからかう。

 

「相変わらずセンスないよね」

 

「うるせー」

 

「血界さんの意外な一面を知りましたわ」

 

「ヤオモモ、こいつ実際凄いのは体動かすことだけだから」

 

「んなことねぇよ!」

 

堪らず血界は怒るが耳郎にとってはどこ吹く風だ。

 

「なあなあ!どこからスカウト来てるか見せてくれよ!」

 

「アタシもー!」

 

「いいぞ」

 

上鳴と芦戸、葉隠がやって来て、リストを見せた。

 

「うわっ!ミルコにエッジショット……ホークスやエンデヴァーもスカウトにあんじゃん!!」

 

用紙の山から有名どころの名前を探すとほとんどあった。

 

「上位のヒーローはほとんどある!いいなー」

 

「上鳴くんも三奈ちゃんもスカウトあったんでしょ?」

 

「あったけどあんまり知らないヒーローからだからなぁ」

 

そう上鳴はボヤく。

スカウトが来るのは嬉しいがあまり有名なところじゃないとその嬉しさも半減してしまうらしい。

 

「耳郎ちゃんも結構な数来てたよね?どうだった?」

 

葉隠が耳郎に質問する。

 

「うん。音系のヒーローから結構スカウト来てたんだけど、ウチが一番行きたいところからは来てなかったんだよね」

 

少し残念そうな耳郎に八百万が続いて質問した。

 

「どのヒーローですの?」

 

「サウンドヒーロー『ジャズ』っていう若手のヒーローなんだ」

 

「知ってる!若い女性のヒーローで武器が楽器なんだよね。スタイリッシュでカッコいいよねー」

 

芦戸も耳郎たちの会話に参加する。

 

「うん。ウチ、音楽好きだからさ。結構お気に入りで、あったらなぁって思ってたンだけど無くてさ」

 

「そっかぁ、残念だね」

 

「なぁ!血界はどこのヒーローのところに行くんだよ?」

 

「うーん……俺あんまりヒーローに詳しくないからな……どこに行けばいいかわかんねぇンだよ」

 

「好きなヒーローとかいねぇの?」

 

「特には……いないな」

 

「へー」

 

今のご時世、誰にでもお気に入りのヒーローが1人くらいいるものだが、それがいない血界を珍しいと思った。

血界ふと一枚目の用紙に目を向けると普通ア行から始まるはずだがその上に一つ事務所の名前があった。

 

「『346プロヒーロー事務所』?346って……」

 

「城ヶ崎美嘉ちゃんがいる事務所だ!なんであるの!?」

 

城ヶ崎美嘉のファンである芦戸が興奮したように声を上げる。

 

「あぁ、おじさんの仕事場だ。なんであるんだ?」

 

「おじさんの仕事場!?血界のおじさんて346で働いているの!?」

 

「あぁ、確かアイドル部門の役職に就いてるって言ってたような……」

 

「「「ナンデスト!?」」」

 

血界のその発言に芦戸、葉隠、上鳴が驚きの声を上げる。

 

「なんでなんで!?それを教えてくれなかったンだよー!!」

 

「え?だってあんまり関係なくねーか?」

 

「アイドルって今女の子の間じゃヒーローの次になりたい職業なんだよ!」

 

興奮する芦戸と葉隠に詰め寄られる。

 

「マジか…知らなかった」

 

「も、もしかしてだけどアイドルに会ったことは……」

 

何故か上鳴は恐る恐る聞くと血界はあっさりと答えた。

 

「結構会ったことあるぞ」

 

「テメー!このやろー!」

 

「羨ましいんだよ!」

 

「うおっ!どうした上鳴!?あと峰田も!?」

 

突然上鳴と峰田が血界に襲いかかったが、あっさりと血界にいなされる。

しかし突然襲いかかれ、血界は驚いてしまった。

 

「なんでテメーだけいい思いしてんだよ!?病院のときも可愛い子と友達だったじゃねえか!?お前は俺と同じ匂いがするからいい奴だと思ってたのによー!!こんなの不公平じゃねぇか!!」

 

「そーだそーだ!」

 

峰田の叫びに上鳴も便乗するが血界は困った表情になる。

 

「って言ってもなぁー」

 

「とにかく!今すぐお前が知ってるアイドルの電話番号かラインをギャアッ!!?」

 

「アアッ!?」

 

「そんなの教えられるわけないでしょーが」

 

暴走する峰田と上鳴に耳郎のイヤホンジャックが炸裂し、2人とも倒れた。

イヤホンジャックを血界に向ける。

 

「血界も!簡単に教えたらダメだから。凛たちに迷惑かけちゃうでしょ」

 

「う、悪い」

 

血界はバツが悪そうに謝った。

 

「でも346プロヒーロー事務所か。あそこにヒーロー事務所があるなんて聞いたことがない」

 

「うん。ウチも聞いたことががない。あとウチにも346からスカウト来てた」

 

耳郎がスカウトの用紙を見せると一番上に346の名前があった。

 

「えーいいなぁ。そこに行ったらアイドルの誰かに会う可能性があるんだもん」

 

芦戸が少し拗ねたような態度になるが八百万が戒める。

 

「芦戸さん、そんなこと言ってはいけませんわ。アイドルに会うためではなく、ヒーローから学ぶために行くのですから」

 

「はーい」

 

「でも346プロのヒーローって誰だろ?私聞いたことないよ?」

 

葉隠のその言葉に皆も知らないと答える。

 

「こういう時は……緑谷ー!」

 

「どうしたの血界くん?」

 

血界が呼んだの歩くヒーロー辞典、緑谷だ。

 

「ちょっとヒーローについて聞きたいんだけどよ」

 

「いいよ!任せて!血界くんはどんなヒーローの事務所に職業体験に行くか、実は気になってたんだ!個人的なおススメは拳で戦うリュウってヒーローなんだけど、拳だけじゃなくて色々な技を……」

 

「お、おう。一回止まろうか」

 

「あっ、ごめん」

 

また緑谷の暴走仕掛けたがなんとか止めて、本題に入った。

 

「346ヒーロー事務所からも来てたの!?すごいね!!」

 

「そうなのか?」

 

「そんなに凄いヒーロー事務所なの?ウチにも来ててさ」

 

「耳郎さんも!?」

 

驚く緑谷は興奮しそうになる自分を落ち着けて、説明した。

 

「まず346プロヒーロー事務所は他にはない特徴を持つ事務所なんだ。多くのヒーロー事務所は1人のヒーローに複数のサイドキックがつく形の事務所と、複数のヒーローがチームを組んで一つの事務所になっているところがほとんどなんだ。でも346ヒーロー事務所は複数のヒーローがそれぞれ独立しているにも関わらず、一つの事務所として機能しているんだ」

 

「へー」

 

「どんなヒーローがいンの?」

 

耳郎がそう質問すると緑谷は嬉しそうに答える。

 

「まず!何と言ってもエンデヴァーと同期で何年もトップ10入りをし続けている雷撃ヒーロー『ライトニング』がいるんだ!」

 

「そんなトップヒーローが所属してたのか。スゲーな」

 

「他には?」

 

「あと最近シンリンカムイと同じように若手の中でメキメキと頭角を現しているサウンドヒーロー『ジャズ』がいるよ!」

 

「ウソッ!?」

 

耳郎は信じられないと言った顔をした。

 

「やったじゃん耳郎ちゃん!もしかしたらその346プロのスカウト、ジャズからかもしれないよ!」

 

「……うん!」

 

葉隠が嬉しそうに言うと耳郎もだんだんと実感できてきたのか嬉しそうだった。

 

「他にも有名なヒーローがいて何人かいて総勢7人のヒーローが所属してるんだ」

 

「7名もですの?多すぎはしませんか?」

 

「多分346プロダクションだからそんなに抱え込めれるんじゃないかな?」

 

「ありがとうな、緑谷。参考にさせてもらうよ」

 

「うん、よかったよ」

 

その後、血界はどのヒーローにするか悩むがどのヒーローにすれば良いか決まらなかった。

 

 

結局、その日はヒーロー名も体験先も決まらずに終わり、家に帰っても血界は頭を悩ませていた。

 

「どんな名前にするか……どこにするか………」

 

すると血糸が帰ってきた。

 

「お帰りー、今日は早かったんだ」

 

「ああ、仕事が早く進んでな」

 

血糸はスーツを脱いで血界に渡していき、血界はそれをまとめていく。

側から見れば血界が主婦に見えてしまうほどテキパキしていた。

すると血界はふと八百万がヒーロー名をつけるときのアドバイスを思い出した。

 

「なぁ、おじさん」

 

「どうした?」

 

服を脱ぎながら血糸は答える。

 

「俺の個性って何だ?」

 

その一言を聞いた血糸の手が止まった。

 

「何で聞くんだ?」

 

「いや、今日学校でヒーロー名を決める授業があってさ。それで中々俺のヒーロー名が決まらなくて、個性を参考にしようと思ったけど名前も知らないしさ」

 

そう言う血界に血糸は背中を向けたまま黙り込んでしまう。

不思議に思った血界が声をかけようとすると血糸は自分の部屋に入ってしまった。

 

「えっ、ちょっとおじさん?」

 

「悪いが俺は知らない。名前もな」

 

扉越しからそう言われ、血界は少し怪しく思ったがあんな態度の血糸を見たことがないためどうすればいいかも分からなかったので何も聞かず、夕食の支度を始めた。

 

「………」

 

自室に入った血糸は部屋の明かりもつけずにただ黙っていた。

そして棚の上に置いてある一枚の写真立てを手に取って見つめた。

 

「俺があの力のことを伝えてもいいのか?姉さん」

 

その写真には今より少し若い血糸がいつもの無愛想な顔で立っており、その隣には朗らかに笑う優しそうな女性が立っていた。

そしてその写真立てなら隣にもう一枚の写真立てがあり、そこには幼い血界、先ほどの女性、そして血界と同じ紅の髪を持つ男性が写っていた。

 



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File.35 職業体験スタート!

職業体験先の期日まで残り2日となったが血界はヒーロー名と職業体験先を決めていなかった。

昼食の時間となり、血界たちは学食に向かっていたが血界はずっと悩んでいた。

 

「戦闘系でもいいけど、救助も捨てがたいんだよな……でもトップヒーローからも来てるしそれを蹴るってのも……」

 

「未だ決まってなかったんだ。早く決めなよ、ヒーロー名も決まってないンだからさ。まっ、決まったとしてもまた酷いもんだと思うけど」

 

「じゃあ耳郎が決めてくれよ」

 

考えすぎているせいか、いつもより短気になっていた血界少しムッと、顔を顰め耳郎に言う。

 

「なんで?」

 

「俺がつけたら酷いもんになるんだろ?だったら耳郎がいい名前をつけてくれよ」

 

耳郎は血界が変な名前をつけて大変な思いをするなら自分が名前をつけたほうがいいと思い了承した。

最早母親のようだ。

食堂に向かっていると緑谷とオールマイトが歩いているの見つけた。

その時血界はオールマイトが体育祭の表彰式で血界の父について話していたことを朧気に思い出した。

 

「悪い耳郎、先に学食に行っといてくれ」

 

「どこ行くの?」

 

「ちょっと用事だ」

 

2人を探しているとあまり人がいない廊下の隅で

震えながら話しているオールマイトと緑谷がいた。

 

「オールマイト」

 

「血界くん!」

 

「む!ち、血界少年か!どうした!?」

 

「ちょっと話があって……何で震えているんですか?」

 

「ハハハッ!ちょっと風邪気味かな!?」

 

(オールマイト……)

 

実は昔のトラウマで震えているとは言えなかった。

それを必死に隠そうとするオールマイトに少し複雑な気分になった緑谷だった。

 

「そうすっか……で、話なんですけど。俺の父親のことで」

 

「ヴァンのことか……彼の話となると少し時間が足りないな……また今度時間を作るからその時でもいいかな?」

 

「あっ、それじゃあ一つだけ!父さんの個性って何ですか?」

「ヴァンの個性?聞いてないのか?」

 

その質問に血界は少し焦りを見せた。

 

「と、父さん秘密主義で……」

 

緑谷は自分の父親のことなのに言い淀む血界を見て不思議に思った。

 

「ムゥ……まぁ、確かに彼はあまり自分のことは話さなかったな……実を言うと私も彼の個性には詳しくなくてね。すまない、力にはなれそうにないよ」

 

「そっすか……」

 

少し気落ちした血界だが、オールマイトが持ち前の笑顔を向ける。

 

「しかしっ!彼のことをよく知っている人なら教えれることができる!彼なら恐らくヴァンの個性のことも知っているだろう」

 

「誰ですか?」

 

「雷撃ヒーロー『ライトニング』だよ。ヴァンも昔は346プロヒーロー事務所に所属していたからね」

 

「346プロヒーロー事務所……」

 

「あそこの事務所はいいぞ!学べることが沢山ある!それぞれの分野のヒーローが揃っているからね!例えば……」

 

「例えば!ライトニングなら市街地戦で人を守りながらの戦いだって得意だし、ほとんど無名だけどシャドウヒーロー『ナイトクラブ』は潜入・調査が得意なんだ!」

 

「緑谷少年!今私が話してる」

 

「あっ、すいません!」

 

血界の職業体験先が決まった。

 

 

窓一つないオフィスで緑のスーツをきた男性、『千川マヒロ』が作業しているとパソコンにメールが来た。

メールを開くとそこには雄英からの職業体験に関することが書かれてあった。

 

「なんのメール?」

 

「あっ、ジャズ先輩、お疲れ様です。ドリンク如何ですか?」

 

その後ろからメールを覗いてきた眼鏡をかけた高身長の女性が話しかけてきた。

彼女が耳郎が気にしていたヒーロー、『ジャズ』だ。

彼女にマヒロは挨拶しながらすかさず星の柄が描かれた瓶をだす。

 

「結構よ。それでメールは?」

 

「はい、雄英からの職業体験受理のメールです。こちらがスカウトとした2人が両方とも来るらしいです」

 

「そうなの。こっちの耳郎さんは私が受け持つと思うけど、この血界くんはどうしようかしら?」

 

「そうですねー。ナイトクラブさんだとあまり仕事に付き添うことできませんし、ビーさんだとお話しができませんもんね」

 

「後の2人は出張で日本にいないし、ライトニングさんは忙しすぎて体験できることが難しいじゃないかしら?」

 

すると2人の背後から声をかけられた。

 

「血界は俺が受け持つ」

 

「「ライトニングさん!」」

 

タバコを吸いながらやってきたライトニングはキメた顔で言った。

 

「ここ禁煙ですよー」

 

「あ、悪い」

 

「………」

 

慌ててタバコを消すライニングを見て、何故かいつも締まらない自分の上司に呆れながらもジャズは話しかける。

 

「大丈夫なんですか?ライトニングさん、ステインの事件も請け負いながら他の仕事もしないといけないのに」

 

「元々忙しいんだ。子供1人の面倒見ながらなんて、二児のパパにしてみたら楽勝だ」

 

「その1人に嫌われてますけどねー」

 

「……さりげなく毒吐くな、お前」

 

顔を引攣らせるライトニングだが、平静を取り直す。

 

「とにかく、血界は俺が受け持つ。…アイツの息子なんだしな」

 

 

そして職業体験が始まる日、1-Aの生徒達は東京駅に集まっていた。

皆がそれぞれのヒーロースーツが入ったケースを持ち、並んでいた。

 

「くれぐれも先方に迷惑をかけない様にしろよ」

 

『はい!』

 

「血界と耳郎は少し待て」

 

相澤は血界と耳郎を呼び出した。

 

「いいか?特にお前ら2人は先方に絶対迷惑をかけるな。絶対にだぞ……!」

 

相澤はいつもの気怠けな雰囲気ではなく、どこか鬼気迫るもので、冷汗をかいている

 

「どうしたんすか?」

 

「冷汗かいてますよ?」

 

「いや、なんでもない。さっさと行ってこい」

 

最後の2人を見送った相澤は一息をついた。

 

「何事も無ければいいが……後で先輩に何か言われると困る……」

 

いつもの相澤らしくなく、ため息を吐いた。

 

 

2人が電車に揺らされること数分、ビルが建ち並ぶ地区に一際目立つ建物の前に立っていた。

その建物は物語に出てくる城のようなビルだった。

 

「ここか……お城みたい」

 

「よし!行くぞ!」

 

血界の合図で2人は足を進めた。

ここから血みどろの職業体験が始まった。

 



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File.36 電撃ーLightningー

2人は内装も城のような豪華なエントラスで受付を済ませ、仮社員カードをもらい、案内された場所に移動し、たどり着いたがそこは地下にある物置部屋の近くある部屋だった。

 

「ここだよな?」

 

「うん、看板もあるし」

 

耳郎が上を指すと埃と蜘蛛の巣がかかった『346プロヒーロー事務所』の看板があった。

薄暗く人がいる気配がないがどうやらここが目的の場所らしい。

 

「開けるぞ?」

 

「うん」

 

少し不安になるが血界は耳郎に確認を取り、ドアを開けると目の前に千川マヒロが立っていた。

 

「ようこそ!346プロヒーロー事務所へ!」

 

明るい笑顔で言うマヒロに血界と耳郎は面を喰らった。

 

「私、346プロヒーロー事務所の事務員兼ヒーローの千川マヒロと申します。お近づきの印にスタミナドリンクです!」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「ありがとう、ございます」

 

マヒロからスタミナドリンクを渡され、戸惑う2人だがとりあえずは自己紹介をする。

 

「俺は雄英高校の血界・V・ラインヘルツです」

 

「ウチは、あ、いや私も雄英高校の耳郎響香です」

 

「血界さんに耳郎さんですね、確認しました。どうぞこちらに来てください」

 

マヒロに案内されたのは一番奥の部屋だった。

 

「お入りください」

 

マヒロに促され、入るとそこにはディスクと血界達が立っているところにしが光が当たっておらず、そのディスクに座ったライトニングが険しい表情をして、2人を見ていた。

 

「「え?」」

 

突然の重苦しい空気とライトニングの視線に2人は固まる。

 

「それではごゆっくり」

 

「「えっ!?」」

 

ドアを閉められ部屋に閉じ込められた2人は突然訳がわからない状況とライトニングの鋭い視線に焦り始める。

 

「………」

 

「「………」」

 

ライトニングは喋らず、2人も何を話せばいいか分からず黙ってしまう。

すると耳郎が血界に聞こえる範囲で話し出した。

 

(ちょっと!どういう状況!?)

 

(知らねーよ!何だよこの重苦しい空気!)

 

(アンタ何かしたんじゃないの!?)

 

(何もしてねーよ!)

 

(前会ったときはあんな雰囲気出してる人じゃなかったのに、何で……!)

 

もう耳郎は泣きたい気持ちだった。

2人がコソコソと話していると長い沈黙を貫いていたライトニングが口を開いた。

 

「一つ……質問がある」

 

「「はい!」」

 

言葉に重みがあり、対峙しているだけで威圧感を感じ取ってしまう。

ライトニングからの質問に緊張している2人にその内容が聞かれる。

 

「2人の好きなアイドルは誰だ?」

 

「「………はい?」」

 

身構えたにも関わらず、訳のわからない質問に今度は呆けてしまう。

 

「だから、好きなアイドルは誰だと聞いている?」

 

「え、えーっとウチは好きって程じゃないかもしれませんけど、気に入っているのは木村夏樹です」

 

「お、俺は高垣楓です。あと個人的に及川雫です」

 

「……そうか」

 

2人の答えを聞くとライトニングは俯いた、と思ったら顔を上げ、険しい表情が取れた。

 

「いやー!ごめんな!」

 

2つの照明しか照らされていなかった部屋の全体が電灯で照らされる。

部屋の一面には城ヶ崎美嘉のポスターやフィギィア、彼女の特集が載っている新聞や雑誌の切り抜きなどが部屋一面に飾られていた。

 

「え、何これ」

 

「さあ……」

 

突然のライトニングの変わり様と部屋に一面にある城ヶ崎美嘉グッズに戸惑う2人だがライトニングが近づいてくる。

 

「2人の好きなアイドルが気になってな。ほら、一応ここアイドル部署があるだろう?もし何かの間違いで美嘉に危険があるといけないから」

 

笑いながら耳郎の肩をポンポンと叩くライトニングだが、血界の肩に手を乗せたとき、顔は真顔になった。

 

「だけどもしお前が美嘉のことを愛してるとか言った瞬間に脳天に風穴が空いていたな」

 

肩に乗せた手に力を込め、ライトニングは平坦な声でそう言った。

 

「ハハ……面白い冗談だね」

 

(いや!あれはマジだった!)

 

耳郎は冗談だと思ったようだが、目の前に立たれた血界は確かにライトニングの殺気を感じ取ってしまった。

 

(なんてっこった……まさかのNo.6ヒーローは親バカかよ!?)

 

血界は少しここに来たことを後悔し始めた。

 

「じゃあ、早速職業体験を始めようと思うがその前に説明だけはしておこうか。もう入ってきていいぞ」

 

ライトニングが扉に向かって言うとジャズとマヒロ、黄色と黒のどこか蜂を思わせるヒーロースーツを着た小柄な男性と全身黒一色で統一し、口元を布で隠した女性が入ってきた。

 

「全員じゃないがここのヒーローを紹介しよう。まずは君たちも知っているかもしれないが今、注目の若手『ジャズ』だ」

 

「よろしくね2人とも」

 

「わっ、よ、よろしくお願いします!」

 

「よろしくお願いします」

 

耳郎は緊張したようにジャズと握手した。

 

「そしてウチの事務員兼ヒーローの千川マヒロ、ヒーローネームは『メディス』だ」

 

「これから1週間よろしくお願いします」

 

マヒロ改め、メディスは丁寧に頭を下げる。

次に前に出てきたのは一見中学生と見間違うほどの低身長の男性だ。

 

「そしてそこのチッコイのが遊撃ヒーロー『バンブルビー』。もうウチじゃ中堅ってとこだな」

 

「………っ!」

 

「よ、よろしくお願いします」

 

バンブルビーは人懐こっい笑顔を見せて2人の手を握って上下に振る。

 

「ちなみにソイツ話すことができないから何かと不便かもしれないが了承してくれ」

 

「はぁ……」

 

「ただノリはいいぞ」

 

バンブルビーは突然ブレイクダンスを始め、バク転などアクロバティックな動きを見せる。

 

「「おー!」」

 

ビーのダンスに拍手する血界と耳郎は拍手を送る。

 

「ビー、踊ってもいいが美嘉のグッズに傷つけたら容赦しないぞ」

 

「………っ!?」

 

声が低くなったライトニングの声にビーは慌てて立ち上がり、姿勢を正した。

 

「何やってるのよ」

 

ビーに呆れながら2人の前に出てきたのは黒一色で統一した女性だった。

 

「彼女は諜報ヒーロー『ナイトクラブ』、俺と同じく古株だ」

 

「やめてください。歳をとっているみたいに聞こえるじゃないですか。これから1週間よろしく」

 

「「よろしくお願いします」」

 

「あと2人いるんだが、今出張で日本にいないんだ。もしかしたら最終日に会えるかもしれないけどな。と、まぁこんな感じのヒーローがいるのが俺たち346プロヒーロー事務所だ。これから1週間俺たちが教えられることは全て教えていく。よろしく頼むぞ」

 

ライトニングが手を差し出し、血界が握手した。

 

「よろしくお願いします!」

 

 

その後血界と耳郎はヒーロースーツに着替えて、血界はライトニング、耳郎はジャズと共に行動することが決まり、それぞれの職場体験を始めた。

血界はライトニングに指示され、346の大型駐車場で待っていた。

 

「ここで待てって言われたけど……」

 

待っているとどこからかエンジンの重低音が響いてきて振り向くとシルバーのスポーツカーがやってきて血界の横で止まった。

普通の乗用車と違いどこかメカメカしい作りになっており、素人目から見てもただの車ではないことがわかる。

車の窓が下がり、運転席からライトニングが顔を出した。

 

「乗りな。これからパトロールだ」

 

「は、はい!」

 

血界が助手席に乗り込み、車は走り出した。

 

「パトロールしながらヒーローの仕事を説明するけど、その前にお前のヒーローネームはなんだ?」

 

「俺のですか?えーと『チカイ』です」

 

「名前か?自分で考えたンじゃないのか?」

 

「それが却下されました……」

 

少し気落ちする血界を見て、ライトニングは合点がいった。

 

「なるほど、よっぽど変な名前だったんだろ?じゃなきゃ滅多に却下なんかされない」

 

「うぐっ!」

 

「図星か!ハハハ!」

 

もはや親戚のおじさんと話している感じが血界はした。

 

「さてとパトロールって言ったが俺は他のヒーローとは違うんだ。何かわかるか?」

 

「車を使ってること、とか?」

 

「正解だ。パトロールってのは街中を歩くことでヴィランの抑止力にもなるが俺はそれをしない。俺の場合は……」

 

ライトニングが言葉を続けようとした瞬間、車に備え付けられたモニターから電子音が鳴った。

 

「どうした?」

 

ライトニングが話すとモニターにメディスが映る。

 

『応援要請です。新宿に行ってください』

 

「新宿?シンリンカムイがいるだろ?アイツ1人で間に合うはずだ」

 

『それがヴィランが炎熱系らしくて、消火できるヒーローも応援には行っているらしいんですが、まさに焼け石に水で』

 

「了解、しっかり捕まっとけよ」

 

モニターを切り、ライトニングはハンドルを急に左に切り、アクセルを全開で踏む。

 

「うおおぅっ!?は、速っ!!」

 

「俺の主な仕事は広域活動だ。市街地戦が得意で東京全域を任されている。だからこうやって車を使ってるんだ。そら、もう着くぞ」

 

目の前には煙が立ち込める建物が連なっており、その真ん中で炎を全身から滾らせており、顔も判別できない3mほどの大男と何人かのヒーローが対峙していた。

 

「シンリンカムイにMt.レディ、他にもいるな。チカイ、降りたら周りにいる野次馬を避難させろ」

 

「りょ、了解です」

 

いきなりの大事件に血界も緊張してしまう。

車から降り、ライトニングと血界は人混みを分け、前に進んでいく。

 

「オラオラどうした!?ヒーローってのはそんなものかよ!!」

 

「ぐう…炎のせいで近づけない!」

 

「アッツ!」

 

挑発するヴィランだがヒーローたちは火の勢いが強すぎて近づくことすらままならない。

 

「これならどうだ!」

 

消防士の格好をしたヒーロー、バックドラフトが水を浴びせるが浴びせたところは水が蒸発するだけで炎の勢いは衰えない。

 

「ハハハハハハッ!!俺ってもしかしたらエンデヴァーより強いんじゃねえの!?」

 

ヒーローたちの無力さにヴィランはより調子に乗ってしまう。

そこにライトニングと血界が到着した。

 

「待たせたな」

 

「ライトニングさん!申し訳ありません!何もできずに……!」

 

何もできずにただ押されただけのシンリンカムイは悔しがる。

 

「個性の相性もあるんだ、気にしなさんな。それよりアイツ、俺のとこに来た職業体験の子でさ。他の奴らと一緒に避難誘導してやってくれ」

 

そんなシンリンカムイにライトニングは落ち着いて宥め、指示を出していく。

そしてヴィランと対峙した。

 

「次はライトニングかよ!いいねェッ!アンタを倒して次はエンデヴァーだ!俺がエンデヴァーより強い炎だって証明する練習台にしてやるよ!!」

 

「エンデヴァーより強い?おいおい、何言ってんだよ?」

 

ライトニングは呆れたよう息を吐く。

 

「アイツの火と比べもんになるはずがないだろ。お前は良くてマッチの火だ」

 

「テメェェェェッ!!!」

 

ライトニングの挑発に怒ったヴィランは迫ってくるが、ライトニングは腰のホルスターからマグナムを抜き、一発相手の腹に放つ。

しかし、その弾丸は跳ね返された。

 

「?」

 

「ハハハッ!俺に弾丸は効かねえぞ!!」

 

ヴィランは炎に包まれた腕をライトニングに振るう。

ライトニングは体を晒すことで避けるがその熱は無慈悲にライトニングを襲う。

しかし、ライトニングほそれを顔をしかめるだけだが、一方的に攻撃されてしまっている。

 

「ライトニングさん!」

 

「落ち着け少年!あれくらいでライトニングさんはやられはしない」

 

シンリンカムイがそう言った瞬間、事態は動いた。

ライトニングはバク宙する事でヴィランと距離を取り、もう一度マグナムを向ける。

 

「だからそれは効かないって言ってんだろうがァ!!」

 

「どうだろうな?」

 

ライトニングはニヒルな笑みを見せて、個性を発動する。

マグナムを握る右腕に雷が纏わりつく。

 

「BBA Electric laser.44」

 

マグナムから放たれた44口径の弾丸は雷を纏い、一筋のレーザーとなりヴィランの腹を貫き、向こう側の景色が見えていた。

ヴィランは前に倒れ、動かなくなった。

 

「やった!」

 

「なっ……!?」

 

それと同時に沸き立つ野次馬たちだが、ヒーローたちは焦り始めた。

急いでライトニングの所に集まる。

 

「ライトニングさん!何をやっているんですか!!」

 

「殺しちゃったら不味いですよ!」

 

シンリンカムイとMt.レディが慌てた様子で言うが、ライトニングは平気な様子で倒れたヴィランに近寄り、軽く蹴る。

 

「ライトニングさん!聞いているんですか!?」

 

「これ見てみろよ」

 

ライトニングが顎で指す方を見るとヴィランの体はそこら辺のガラクタでできていた。

 

「これは……!?」

 

「黒幕は別にいるな」

 

ヒーローたちが集まる中、野次馬の1人に焦りを見せる男がいた。

 

(俺の自信作があんな簡単にたおされるなんてェッ〜〜〜!!)

 

彼、火本 発生(ひもと はつせい)の個性は『火炎人形』、炎を元にして人形のように操る。

骨組みとなるものがなければ小さなものしか作れない。

今回の事件の黒幕である。

建設の鳶職で働いていたが建設中の建物が火事になり、自分のせいではないのに不当な解雇されてしまった。

その不満をぶつけるために自分が建てた建物を襲っていたのだ。

 

(とにかく今は逃げなきゃ……)

 

「あのー大丈夫ですか?」

 

逃げようとする火本だが血界が様子がおかしいと思い、声をかけた。

すると火本は急に走り出し、すぐそばに居た女性を捕まえた。

 

「動くなー!!動いたらこの女に火をつけるぞ!!」

 

「はぁっ!?こいつ、ヴィランか!」

 

血界は漸く理解が追いついたが、人質がいるため動くことができない。

周りの野次馬も突然のことに驚き、蜘蛛の子を散らすように避けていく。

男は指先から火を出し、女性の顔に近づける。

 

「ヒィッ!」

 

「クソッ!」

 

「いいか!逃走用の車を…」

 

火本が要求を言おうとした瞬間、発砲音と共に火本の頭に何かがぶつかり、倒れてしまった。

 

「え?何が……」

 

血界が突然のことに頭が追いつかないが群衆を超えたその先でライトニングがマグナムを構えていた。

 

「それじゃあタバコの火にもならないぜ」

 



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File.37 ヒーローであり、パパである。

火炎人形事件と名付けられた出来事はライトニングの活躍により解決した。

事件の後始末をするだけだが、ヴィランを倒したライトニングは詳しい情報を警察と照らし合わせるため、血界とは離れていた。

血界は1人何をするわけでもなく、警察とライトニングから少し離れたところからその様子を見ていた。

しかし、頭の中では先ほどのことを思い返していた。

火本に人質が捕まった時に何もできなかったのだ。

まだ学生の自分が何ができると言うわけでもないが、しかしあ状況で血界は何もできないことが改めて認識した。

 

(俺は戦うのは得意だけどそれだけだ……それ以外だと本当に何もできないな)

 

自分の手を見て、そう振り返る血界に2人の影が近づく。

 

「よお!血界!」

 

「峰田!」

 

話しかけてきたのMt.レディの下に職業体験をしに行った峰田と、

 

「初めまして『塩崎 茨』と申します」

 

髪が茨のような物になっている女子、塩崎 茨だった。

 

「初めまして。えーっと、どっかで会ったことありましたっけ?」

 

「いえ、同じクラスの氷麗さんと旧知の仲だと聞きましたのでご挨拶をと思いまして」

 

「はぁ……、こりゃ丁寧にどうも」

 

頭を下げる塩崎に血界も自然と頭を下げてしまう。

 

「血界さんは流石ですね。邪悪なる者にいち早く気づき、対処するとは」

 

「邪悪なる者?」

 

「ヴィランのことじゃねーか?」

 

「ああ、なるほど。気づけたのは良かったけどその後がダメだったけどな」

 

「そうか?学生なんだから何もできなくてしょうがなくないか?」

 

「それでもだよ……」

 

峰田がフォローするが血界は納得がいかないみたいだ。

 

「それよりだ!お前346プロにいんだろ!?誰かアイドルと知り合わなかったのかよ!例えば及川 雫とか片桐 早苗とか!!」

 

「邪悪な……!」

 

突然打って変わったかのように興奮し始めた峰田を見て、塩崎は嫌悪感MAXでそう呟いた。

するとそんな峰田のヒーロースーツについてあるマントを掴む者がいた。

 

「事件処理も終わったわ。戻って掃除よグレープジュース」

 

「えっ!?またかよ!?嫌だ!行きたくない!」

 

「諦めなさい」

 

Mt.レディが峰田を捕まえ、引きずって行ってしまった。

 

「ヴァイン、私たちも戻るぞ」

 

「はい、シンリンカムイさん。それでは血界さん、また」

 

塩崎は頭を下げて、職業体験先のシンリンカムイの下へ行った。

警察との話し合いが終わったライトニングも戻ってきた。

 

「次の現場行くぞ。早くしないと『アイツ』が来る」

 

「次の現場?アイツって?」

 

「アイツってのは……」

 

ライトニングが言葉を続けようとした瞬間、現場に何かが落ちてきた。

その衝撃で辺りに突風が吹き荒れる。

 

「何だ!?」

 

「あー、来たか」

 

突然のことに慌てる血界だが、ライトニングはどこか疲れた様子だ。

 

「広域活動できるヒーローは限られていてな。車がある俺、空を飛べるホークス、そして……」

 

「ハッハッハッ!!私が来たぞ!!蹴っ飛ばしてやる!!」

 

褐色の肌にウサギをモチーフにしたヒーロースーツを着た乱暴な女性、現在ヒーロービルボードNo.7のラビットヒーロー『ミルコ』だ。

 

「飛んで跳ねるウサギちゃんだ」

 

「すげぇ、ミルコだ」

 

流石の血界も連年トップ10入りをしているミルコは知っているのか驚く。

ミルコは周りの様子を見てヴィランを探している。

 

「あ?どこで暴れてんだ?」

 

「もう終わったぞ、ウサギちゃん」

 

「あっ!!ライトニング!!またテメェか!!」

 

ライトニングを見つけるとミルコは迫ってくる。

 

「テメェ!オレの邪魔してんじゃねェよ!!」

 

「邪魔なんかしていない。ウサギちゃんが来るのが遅かったんだろ?」

 

「ウサギちゃんって言うな!!オレは『ミルコ』だ!!」

 

食ってかかってくるミルコにライトニングは慣れたようにあしらう。

 

「せっかくお前より早く解決してやろうと思ったのによ〜……」

 

悔しそうにするミルコを見て、ライトニングは少し笑みを見せる。

 

「なんでそんなにオレに突っかかってくるんだか……アレか?オレのこと好きなのか?」

 

ライトニングは揶揄うように言うと、ミルコの顔は真っ赤になった。

 

「バッ、な、何言ってんだよ!!バッカじゃねぇーの!?」

 

(あ、この人わかりやすい)

 

わかりやすく反応するミルコに血界はそう思った。

するとライトニングの車のモニターがつき、メディスが映る。

 

『応援要請、応援要請、代々木でヴィランが暴れてる模様。至急応援をお願いします』

 

その一言にライトニングもミルコも顔を真剣なものにする。

 

「じゃあ勝負だライトニング!」

 

「何がじゃあだよ」

 

「このヴィランを最初に蹴っ飛ばしたら勝ちだ!いいな!?それじゃあスタート!!」

 

ミルコはライトニングの返事を聞かず、天高く跳んでいってしまった。

すると、ライトニングはモニターのほうを向き、メディスに向かって話しかける。

 

「助かったぜ。メディス」

 

『いえ、気にしないでください。応援要請は本当にありましたから』

 

「もう一つ、応援要請があるだろ。オレはそっちに行く」

 

『了解です。場所は五反田です』

 

車に乗り込んだライトニングたちは五反田に向かった。

その途中で血界がライトニングに話しかけた。

 

「あの一ついいですか?」

 

「何だ?」

 

「こんなにも応援要請ってかかるもんなんですか?なんか多すぎる気がします。各地にヒーローは複数いるわけですし手が困ることなんてそうそう無いと思うんですよ」

 

確かにさっきから応援要請がひっきりなしに来ている。

今はヒーロー飽和社会だと言うのに、まるでヒーローが足りていないみたいに見える。

 

「まぁ、地方のほうはヒーローが足りてるが東京近辺はそうじゃなくなった。6年前にな」

 

「6年前?何かあったんですか?」

 

「…………」

 

血界が質問するがライトニングは黙ってしまう。

すると黙ったと思ったライトニングが口を開いた。

 

「ただで教えるのは面白味がねェ。今日の終わりに課題を出す。それをクリアできたらチカイが知りたいことなんでも教えてやるよ」

 

「はい!」

 

ライトニングの課題に血界はやる気を見せる。

父親のこと、個性のこと、その他にもライトニングには聞きたいことがあるのだ。

 

 

五反田の現場に近づいたライトニングたちは車を止めた。

 

「チカイ、ここはお前1人でやってみろ」

 

「それが課題ですか?」

 

「いいや、その前フリさ。お前なら個性を使わなくてもいいところまで行けるはずだ。ただし個性の使用は牽制程度なら許す」

 

「わかりました」

 

「ほら、このインカム付けていけ。指示はこっちから出す」

 

ライトニングは血界にそう言いながら、小型の通信機を渡し、車を発進させた。

 

「1人でか……やってやる」

 

血界はインカムを装着し、現場に向かった。

 

 

事件の現場では2、3人のヒーローがヴィランを追いかけていた。

 

「待て!トランポリン!」

 

「やーだよー!」

 

ヒーローが追いかけているのは連続強盗犯『トランポリン』という名の女性ヴィランだ。

 

「5年かけて追い詰めたんだ!ここで逃すな!」

 

「そんなこと言ってアチキについて来れてないじゃーん!」

 

ヒーローの追跡を嘲笑うかのように逃げるトランポリンにヒーローの1人が攻撃する。

しかしトランポリンが踏んだ地面が波打ち、彼女は空高く飛び上がった。

ゆうにビルを超えていくトランポリンにヒーローはしまったと言った顔をする。

 

「じゃーねー!」

 

「待てよ!」

 

「!!」

 

去っていこうとするトランポリンに血界がビルの屋上から飛び出し、捕まえる。

 

「ちょっ!新手のヒーロー!?」

 

「…の卵だよ!」

 

もがくトランポリンは血界に向けて個性を発動する。

彼女の個性はその名の通り『トランポリン』、自分が認識した物質がトランポリンのように波打ち、弾力のあるものになる。

しかし、彼女しかその効果はなく、他の人には硬い物質のままだ。

トランポリンは血界の服に触れると服が波打つ。

 

「じゃーね♪」

 

「がはっ!?」

 

ドロップキックの要領で血界の服を蹴ると血界は跳ね飛ばされ、トランポリンと距離ができる。

 

「〜〜っイッテェ!?」

 

(離れた!ここで逃したら……!?)

 

また被害が広がり、悲しむ人が増える。

そんなことはさせない。

 

「盾をぶつけて、落としてやる!ブレングリード流血闘術…!」

 

「『117式 絶対不破血十字盾』!!」

 

「ナニソレ!?」

 

盾を作り、放とうとするがあることに気づいてしまった。

 

(周り建物しかねえじゃねえか)

 

血界の眼下に広がるのは密集するビル群、ここで技を放ったら建物が崩れ被害が広がる。

 

「……くそっ!」

 

血界は腕をふるって盾を消す。

 

「なんだかよくわからないけどラッキー!」

 

トランポリンは地面に着地したらまた個性を発動しようと考える。

しかし、そうはいかない。

 

「やっぱり個性が使えなかったか……まぁ、いい囮にはなったな」

 

500mほど離れたビルからライトニングがライフルのスコープを覗きながら呟き、個性を発動する。

 

「BBA STRAFINGVOLT 2000」

 

雷を押し込めたライフル弾が放たれ、トランポリンに向かっていく。

 

「え?」

 

弾丸はトランポリンも当たり、事件は終わった。

 

 

事件が終わり、次の現場に向かいながらライトニングは血界に話しかける。

 

「どうだった?」

 

「また何もできませんでした」

 

血界は落ち込むながらそう言う。

 

「最初からアイツを捕まえられるとは思っていない。が、自分の課題は見えたんじゃないか?」

 

「え?」

 

「さあ、あと何件かこなしたら事務所に戻るぞ」

 

ライトニングはそう言ってアクセルを強く踏み込んだ。

 

 

1日で大小10件近くの事件を解決したライトニングに血界は驚嘆した。

即座にヴィランの動き、個性を把握する洞察力。

一撃で相手を倒す力。

警察との連携。

人命救助の手際の良さ。

他にも学ぶところは多々あり、当初の親バカの印象はもうなくなりかけていた。

そんな彼らはスーパーに来ており、スポーツドリンクやお菓子などを大量に買っていた。

 

「あのライトニングさん、これは?」

 

「差し入れだ」

 

そう言ってスーパーから出た2人は346プロに戻り、敷地内にいくつもある建物の中で少し離れている建物に向かった。

 

「ここは?」

 

「346プロってのは芸能界でとても大きな会社でな。様々な対応ができるように色々な建物があるんだ。ここはその中で撮影、レッスンなどを行う場所だ」

 

エレベーターに乗った2人は地下5階まで降りていく。

降りた先には扉があり、そこから音楽が流れていた。

 

「ここもレッスンをするとこですか?」

 

「ああ、しかもここはステージでの臨場感を味わいながら踊りもできる大型の運動場だ」

 

扉を開けるとそこには有名なアイドルが全体曲を踊っていた。

しかもステージのセットもあり、観客もいる。

 

「セット!?観客もいるし!?」

 

「スゲーだろ。あれ全部ホログラムだ」

 

血界が驚くと曲が終わり、ダンスの合わせも終わったようで、観客もセットも消えていった。

 

「今のは中々良かったわね」

 

「はい!全力で!踊れました!」

 

踊り終えた彼女たちが休憩しようとすると、その中に向かっていく城ヶ崎莉嘉が見えた。

 

「おねーちゃーん!」

 

「莉嘉!どうだった?」

 

「すごかったよ!イケてた☆」

 

どうやら彼女たちのレッスンを見学していたようだ。

ライトニングはその彼女たちに近づいていく。

 

「お疲れ」

 

「あら、ライトさん。お疲れ様」

 

『お疲れ様です!』

 

「パパだー!」

 

「………」

 

莉嘉と美嘉以外は挨拶をするが、莉嘉はライトニングに抱きつき、美嘉はそっぽを向いてライトニングと顔を合わせない。

 

「美嘉、莉嘉……大丈夫かい!?怪我とかしてない!?疲れとかは!?あっ、ほらスポドリとかお菓子買ってきたよ!!」

 

「もう!そんな簡単に怪我なんかしないよ!」

 

「………」

 

(えー……)

 

突然猫撫で声になり、心配そうに美嘉と莉嘉に話しかける。

さっきまでのクールなライトニングはいなくなり、今朝の親バカに戻っていた。

 

「美嘉!美嘉は疲れてないかい!?」

 

「レッスンしたんだから疲れてるに決まってんじゃん」

 

「そうなのかい!?じゃあ今すぐ休もう!」

 

「もう!鬱陶しいって!」

 

「美嘉〜……」

 

美嘉はライトニングに邪険に扱い、1人離れていく。

皆はそれがいつものことのようで苦笑いする。

すると最初にライトニングに挨拶した川島瑞樹が血界に気づいた。

 

「あら?貴方は……?」

 

「あ、どうも初めまして。雄英から職業体験に来ました血界・V・ラインヘルツです」

 

「あっ!貴方ケイトさんの甥っ子さんね!私は川島瑞樹。ケイトさんとは昔から仲良くさせてもらってるわ。この前の体育祭見たわよ。凄かったわね」

 

「瑞樹さん知り合いなんですか?」

 

「まゆちゃん、ほら雄英生よ。チーフさんの甥っ子さん」

 

「チーフさんの!……初めまして、佐久間まゆと申します。『今後』ともよろしくお願いします」

 

「あ、はい。よろしくお願いします」

 

何故か含みがある言葉に血界は首を傾けるが深くは聞いてはいけない気がした。

他にもいたアイドルたちに挨拶と質問責めされるが、血界はライトニングと美嘉の関係が気になった。

 

「あの、あれ大丈夫なんですか?」

 

「あれ?ああ、美嘉ちゃんね。あれはライトさん限定の反抗期だから大丈夫よ。普段はとってもいい子だから」

 

その一言にとりあえずは納得するがライトニングのギャップを見てしまって、複雑な心境だ。

 

「とにかく!私もう帰るから!」

 

「じゃあ車で送るよ!夜道は危ないから!」

 

「茜たちと一緒に帰るからいらない!行こ!」

 

「それじゃあ!皆さん!お疲れ様でした!!」

 

「お疲れ様です。血界さん、また今度チーフさんのこと教えてくださいね」

 

「お疲れ様でした」

 

美嘉は茜、まゆ、小日向美穂とともにレッスン場を出て行った。

 

「美嘉〜……」

 

「パパ大丈夫?」

 

「うん、ありがとう。莉嘉もお姉ちゃんと一緒に帰りな。パパはもう少し仕事してから帰るから」

 

「……わかった!先に帰ってるね!じゃあね瑞樹さん、ヒーローのお兄さん!」

 

莉嘉は手を振って美嘉たちを追いかけて行った。

 

「よし、さっそく訓練をするぞ」

 

「切り替えはやっ」

 

「ハハ……私も帰るわ。この後楓ちゃんたちと呑みに行くけどライトさんはどうする?血界くんも一緒に?」

 

「いや、少しだけ教えたら俺も帰るから、今回は遠慮しとく」

 

「そう、じゃあまた今度ね。それじゃあ、血界くんも頑張ってね」

 

「はい!ありがとうございます」

 

瑞樹は血界に笑顔を向けて、レッスン場を出た。

 

「じゃあ訓練内容だ」

 

「あっ、進めるんだ。あ、いやすいません、なんでもないっす」

 

一瞬ライトニングの眉尻が上がり、血界は慌てて謝る。

ライトニングは血界から離れ、マグナムを抜く。

 

「今日で自分の弱点が浮き彫りになっているはずだが、もう一度確認する。そのためにこれから15分間……」

 

マグナムの弾丸を入れ替え、スナップしてシリンダーを戻す。

 

「俺と戦え」

 

日本で6番目の実力を持つ男と戦うことになった。

 



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File.38 New Style

突然のライトニングの発案に血界は驚いてしまう。

 

「え、いきなりですか?」

 

「そうだ。パトリック!場所を作ってくれ」

 

ライトニングが天井に向かって叫ぶとスピーカーもないのに声が響く。

 

『オウよ!条件はあるかい?』

 

「え?だれ?」

 

「市街地だ。周りはビルで路地裏での戦闘だ」

 

『了解、こんな感じかい?』

 

すると血界たちの足元がせり上がり建物を形成していく。

それだけでなく、ゴミ箱、看板などあらゆる障害物も現れる。

さらに車の走る音、人の声などの本当に市街地にある光景になる。

 

「スゲー…」

 

「サンキューな」

 

『いいってことよ』

 

血界はすぐに作られた路地裏の光景に驚いてしまう。

 

「すごいだろ。ウチのメカニックが作ったんだ」

 

「今の声ですか?」

 

「ああ、パトリックって言うんだ。あとで会ってやってくれ」

 

ライトニングは銃を持ち、血界を見据える。

 

「今から15分、俺と戦ってもらう。お前の勝利条件は一つ、俺に一撃でも当てればいい」

 

「舐めすぎじゃないですか?」

 

流石の血界もその条件に血界は怒りを覚える。

そこらのヴィランと1対1でも勝つと自負している。

USJ、体育祭での経験がより自分を育てたと思っている。

 

「流石になんの条件も無しだと俺も一筋縄ではいかないからな。今回は条件付きだ。周りの建物を壊すな。ある一定の破壊なら許すが倒壊させるようなものだとお前の反則負けだ。いいな」

 

「……うっす」

 

「それじゃあ、かかってきな」

 

そう言ったライトニングは構えることもせずに片手に銃を持ったままの自然体だ。

 

(とりあえずは近づく!)

 

殴るのが主体の血界に距離が空いていることは致命的だ。

そう思い、いつでも防御ができるように力は込めて置きながらライトニングに向かって走るがライトニングは銃を構えず、タバコに火をつけ始めた。

 

(舐めてるのか!)

 

ライトニングに向かって拳を振るうが、体を少しズラすだけで全ての攻撃が交わされてしまう。

 

「一撃で倒そうと考えすぎだ」

 

攻撃をかわしたのを利用し、血界の腹に回し蹴りを放つと吹っ飛んでしまう。

 

「がっ!?」

 

「また距離が空いたぞ。どうする?」

 

「なら!ブレングリード流血闘術……!」

 

「お、それか」

 

「『32式 電速刺尖撃』!!」

 

高速移動に乗せた血の槍での攻撃、しかしそれもライトニングは体をズラすことでかわす。

しかも血界が向かってくる場所がわかっていたのか、足を置いており、血界はその足に引っかかって転んでしまう。

 

「うわっ!?」

 

高速移動も相まって盛大に転んで、ゴミ箱に突っ込む。

 

「どうした?バナナの皮でも踏んだか?」

 

「クッソ……!」

 

揶揄うように笑うライトニングに血界は苛立ちを隠せない。

 

(強い攻撃を使いたいけど、周りの建物も壊しちまうかもしれない。迂闊に使えねえ)

 

「強い攻撃を使いたいが建物が邪魔だとか考えてるだろ?」

 

ライトニングに今まさに考えていたことを言われ、ドキッとしてしまう。

 

「攻撃がワンパターンなんだよ。そろそろいくぞ」

 

ライトニングはタバコの吸い殻を捨て、血界にマグナムを向ける。

血界は今は距離が空いているため、身を隠そうと動こうとするが横道に入ろうとした瞬間、そのことがわかっていたのか血界の目の前を弾丸がかすり通る。

 

「アブネッ!」

 

「そら、どんどん追い込んでいくぞ」

 

連続で3発打ち込むがそれのどれもが血界が動こうとして箇所に向かっての攻撃だ。

 

(動きが読まれてる!?)

 

徐々に追い込まれていく血界は打って出ることにした。

 

「ブレングリード流血闘術……!」

 

血の盾を出来るだけ最小限の大きさにし、ライトニングに向かって振るう。

 

「『117式 絶対不破血十字盾』!!」

 

血の盾はライトニングに向かっていくが、またかわされる。

しかし、そのすぐ後ろを血界は走って、ライトニングに近づく。

右拳に力を込め、ライトニングの顔面に向かって振るう。

しかし、

 

「大振りだな」

 

拳はかわされ、懐に入ってきたライトニングに顎に銃を突きつけられ、動けなくなったのと同時に勝負もついた。

 

「俺の勝ちだ」

 

「……参りました」

 

ライトニングのその言葉に血界は悔しそうにしながら負けを認めた。

 

 

市街地から普通のレッスン場に戻ったが、血界の気分は晴れない。

 

(もっと広いところなら……)

 

そんな負け惜しみみたいなことを考えていると、ライトニングに話しかけられる。

 

「今、広いところで戦ったらもっと上手くやれたとか考えてただろ」

 

「えっ」

 

(なんで考えがわかるんだよ?)

 

ライトニングはタバコに火をつける。

 

「広いところで戦ったとしても俺は勝つ自信がある。さっきのはお前が自分の弱点に気づいてもらうためにステージの条件をつけたがな」

 

一回煙を吐いてから話を続ける。

 

「体育祭でも見させてもらったが、確かにお前は強い。同世代ではダントツでだろう。決勝だって怪我がなければ優勝していた。だけどそれは同世代での話だ。格上、未知との戦いとなったら今のスタイルじゃ負けるぞ」

 

「今のスタイルって……」

 

「右の大振りでの一撃必殺。それがだいぶ目立った。格闘技は誰にも習ってないんだろ?殴り方が喧嘩スタイルだ」

 

「はい……」

 

血界は喧嘩していたことが知られて少し恥ずかしそうだ。

 

「そう恥ずかしそうにするな。逆に喧嘩スタイルでよくあそこまで強くなったと思うけどな。さっきも言ったが大技狙いの喧嘩スタイルじゃこれから行き詰まる。だからこれからの課題は『ボクシング』だ」

 

「ぼ、ボクシング?」

 

「左の牽制と右の必殺、言ってしまえば体育祭の決勝で見せたそれに攻撃を加えるんだ。それだけでも劇的に変わるぞ。ニュースタイルを手に入れたお前はもっと強くなれる」

 

ライトニングの絶対的な自信を見せるその一言に血界は身震いする。

これほどまで強くなれると言ってくれる人なんて今までいなかった。

その感動が血界に走る。

 

「とりあえず基本的な構えと打ち方を教えてやる」

 

「わかるんですか?」

 

「これでもガキの頃はボクシングやってたんだ。体に染み付いている」

 

基本的なボクシングの構えとジャブ、ストレートの打ち方を教える。

 

「まっ、こんなとこだな。パトリック!ヴィランドローンを数体出してくれ」

 

するとレッスン場の小穴からソフトボールほどの大きさのドローンが出てきた。

 

「これはヴィランドローンって言ってな。的打ちには丁度いい。これが縦横無尽に飛び続けるから、まずはジャブだけでやってみろ」

 

「うっす!」

 

ドローンは一斉に血界に向かっていき、彼の周りを飛び続ける。

 

「最初はなかなか当たらないもんだ。焦らず、しっかりと感覚を掴むことが……」

 

ライトニングが言葉を続けようとするが彼の横を殴り飛ばされたドローンが通り過ぎた。

 

「当たった!」

 

「もうかよ」

 

血界は嬉しそうにするがそのひまを与えようとせず、ドローンは血界に向かっていく。

しかし、その全てが血界に殴り潰される。

血界のフォームはデタラメなものではなく、しっかりとしたものだった。

 

(元々体は出来上がっているから、飲み込みは早いと思ったがここまで早いか。喧嘩で殴るのは慣れているとしても異常だぞ)

 

血界のフォームを見て、ライトニングはそう考えた。

 

「もういい。思った以上に飲み込みが早いな。これなら次に行ける」

 

「次?」

 

「ワンツーコンボのストレートの時、個性を使ってみろ」

 

「技ってことですか?」

 

「いや、ただ発動させるだけでいい」

 

血界はワンツーコンボに個性を発動させると血のように赤いエネルギーを纏った両腕はさっきよりもスピードは速くなり、拳圧だけでも風が巻き起こるほど力強い。

 

「おお!さっきより強い」

 

「技が個性だと思い込んでいたみたいだからな。実はそうじゃない。あくまで技は技。それがお前の個性だ」

 

「これが……あの俺の個性の名前って知ってますか?」

 

「なんだ知らないのか?ケイトから聞いてると思ってたが」

 

「おじさんから?」

 

血糸は知らないと言っていたがライトニングは知っていると言うことに首を傾げる。

 

「まぁ、いい。じゃあお前が課題にクリアできたらそれも含めて教えてやるよ」

 

「そういや課題ってなんですか?」

 

「1週間後、つまり職業体験最終日に俺ともう一度戦ってもらう。それが課題だ。そん時にさっきの条件で勝てたら教えてやるよ。たった1週間で俺を驚かせてみやがれ」

 

「上等ッ!」

 

1週間後また挑戦ができる。

今回は何もできなかったが、1週間後は勝ってやるとヤル気が高ぶる。

ここから血界のニュースタイルへの特訓が始まった。

 



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File.39 少年にとって

職業体験の初日がもう終わろうとしている時間帯に血界は346プロの敷地内に社宅寮の、客室に向かっていた。

 

「あー、フラフラする……」

 

あの後血界は1人でニュースタイルを確立するべく、何時間も特訓していた。

その際個性を使っていたため、貧血気味になっており足元が覚束ない状態だった。

なぜ深夜の時間になってもまだ346プロにいるのは血界と耳郎の職業体験は泊りがけだからだ。

わざわざそのために346プロは部屋を用意し、食堂も使わせてくれたのだ。

血界は346プロの施設内にある大浴場で身を清め、割り当てられた部屋に向かっていた。

 

「しっかし、おじさん家帰ってこない時はこんなところに泊まっていたのか、羨ましくなってきたな」

 

そう愚痴を零す血界の目の前に部屋着姿の耳郎がフラフラとこっちに向かって歩いてくるのが見えた。

 

「耳郎?アイツも今終わったのか。おーい」

 

手を振って耳郎を呼ぶが返事がなく、フラフラとこっちにゆっくりとやって来る。

血界は耳郎も初日で疲れたのかと思ったが、耳郎は血界の前で止まらず、そのまま抱きついた。

突然抱きつかれた血界は慌ててしまう。

 

「うおっ!?じ、耳郎?」

 

「う〜ん……あっ、ちかいらー!えへへ♪」

 

顔が赤い耳郎は満面の笑みを浮かべ、血界の胸元に頬ずりをし始めた。

 

「じ、耳郎さん?」

 

いつもと違う耳郎に血界は動揺が隠せない。

 

「もう!さんづけなんてイヤ!いつもみらいに呼んで!それかキョウカでもいいよ?」

 

「じゃ、じゃあ耳郎で」

 

「うーん……まぁ、いいや。えい!」

 

「うおっ!?」

 

少し残念そうにした耳郎だが、取り敢えず良いらしかったが、突然血界の首に飛びつき、腕を回した。

そのせいでより体を密着してしまい、血界は胸に当たる僅かな柔らかさに気づいてしまう。

 

「じ、耳郎!?当たってるって!」

 

「なにがー?」

 

「何がって……うっ、酒クサッ!お前酒飲んだのか?」

 

顔が近づいたことで耳郎から僅かに香るアルコールの匂いに気づいた。

 

「誰がお前に飲ませたんだよ?」

 

「飲ませたっていうか……楓しゃんたちといっしょにいたら楽しくなっひゃったの!」

 

「楓姉ちゃん……」

 

血界はここにはいない楓に呆れた。

しかし彼女とて飲兵衛ではあるが未成年に飲ませるような人ではないことはわかっているので恐らく間違えて耳郎が飲んでしまったのではないかと思った。

すると耳郎が頬を膨らませて、怒りはじめた。

 

「ムー……!今ちがうおんにゃのこと考えたれしょ!」

 

「考えてないって」

 

「考えら!ちかいはウチのなの!」

 

そう言って首に回す腕の力が強まり、より2人は密着してしまう。

胸に感じる耳郎の体温と2つの柔らかいものに血界は恥ずかしくなり、慌てて耳郎を引き剥がそうとする。

 

「耳郎!離れろ!」

 

「やっ!」

 

しかし、耳郎は頑なに離れたくないらしくより密着して来る。

血界も耳郎の匂いとか柔らかさに興奮して頭に血が上って来る。

 

「やば……頭が……」

 

貧血に加えて、興奮して頭に血が上ってしまい思考がぼやけてきてしまう。

とにかく今の耳郎を誰かに見られるのは不味いと思い、耳郎を抱き上げ自室に向かう。

 

「きゃ!ちかいってだいた〜ん♡」

 

血界との距離がより近くなった耳郎は今度は猫のように頭を血界に擦り寄せてきた。

幸いにも誰にも見つからず、自室に入れた血界は耳郎を抱えたままベッドに座る。

 

「はぁー……疲れた」

 

「おつかれ♪」

 

「誰のせいだと思ってんだか……ほら、とにかく離れろって。いろいろと不味いから」

 

「………」

 

血界は部屋に入って安心したのか、落ち着いた様子で耳郎に離れるように言うがさっきまでの喧しさと打って変わって黙ってしまった。

 

「耳郎?」

 

様子が変わった耳郎を心配して耳郎の顔を覗き込もうとした瞬間、ベッドに押し倒された。

仰向けになった血界に耳郎は四つん這いになってにじり寄ってくる。

 

「うおっ!?耳郎どうした!?」

 

「血界にとってさ……ウチってなに?」

 

目を潤ませ、見つめて来る耳郎。

酔っているせいか若干の汗をかいており、色気が出ていた。

いつもと違う耳郎に血界は固まってしまう。

耳郎な顔が赤いのは酒のせいなのか、それとも……

 

「ねえ、どうなの?」

 

「どうって……」

 

耳郎の部屋着は大きめのサイズなのか血界から少し視線を下げるだけで胸元が見えてしまい、耳郎の柔肌が血界の目に入ってくる。

それだけで胸が高鳴ってしまう。

 

(やば……)

 

血界は見ないようにと視線をズラそうと顔を上に向けるが耳郎がそれを許さず、血界の頭を掴んで自分のほうを任せる。

 

「どう思ってるの?」

 

目を潤ませながらも真剣なことはわかった血界は答える。

 

「大切な……友達だと思っているさ」

 

「友達……そっか。ウチはさ、血界のこと……」

 

友達と聞いて、残念そうな耳郎は徐々に血界の顔に自分の顔を近づけていく。

 

「じ、耳郎……?」

 

「血界のこと……」

 

近づく耳郎の顔に胸の鼓動が止まらない血界も顔が赤くなる。

耳郎は目を閉じ、唇を血界の唇に近づけていく。

あと数cmで互いの唇が合わさる。

 

 

しかしその寸前で耳郎は血界の胸に倒れてしまった。

 

「……耳郎?」

 

血界は耳郎を揺さぶると穏やかな寝息しか聞こえてこない。

とりあえずの事態は回避できたが、血界にとっては安心したような残念な気持ちだった。

 

(ん?残念?)

 

血界の気持ちに僅かな変化があったかもしれない。

 

 

翌朝、血界は事務所でライトニングと待ち合わせていた。

 

「おはよー……ってどうした?顔が腫れてるぞ?」

 

ライトニングが部屋に入ると顔に紅葉状の腫れができた血界が待っていた。

 

「いや、昨日の特訓でちょっと怪我しただけっス」

 

血界の表情から哀愁漂わせている。

 

「………まぁ、深くは聞かねえよ」

 

ライトニングは空気を呼んで血界に何も聞かなかった。

その優しさが血界にとって、嬉しく涙が少し出そうになった。

 

「ジャズたちはもう行ったのか。メディス、今日の仕事は?」

 

「今日は午前から昼まで地方まで護衛ですね。その後、保須市で例の件です」

 

「了解」

 

聞き慣れない言葉を並べられ、血界は疑問を持ったがとりあえずは出発となった。

現場に向かう途中でライトニングが説明してくれる。

 

「今日の仕事は特殊だ。俺たちみたいなアイドル業界と隣接している会社の事務所しかない仕事になる」

 

「護衛でしたよね。どんな仕事なんですか?」

 

「言っちまえばアイドルたちの護衛だ。変な輩が近づかないようにガードマンをする仕事なんだよ」

 

昨今のアイドルブームはますます大きくなり、熱狂を呼んでいる。

そのためアイドル愛が行き過ぎる者も現れ、このような仕事が増えた。

今ではアイドル事務所は2〜3個のヒーロー事務所と契約して護衛してもらうのが定番になっている。

 

「普段はビーが行っているんだが、ビーが別の現場に行ってしまって手が足りないから今日は俺が行くことになったんだ。昨日と比べて楽な仕事だが気は抜くなよ」

 

「ウッス!」

 

車は現場に進んでいった。

 

 

その後は何事もなく、ロケも終わったが、その日の護衛対象が高垣楓で、昨夜の耳郎について少しオハナシをしたり、そのロケの見学とお手伝いとして来ていたシンデレラプロジェクトのメンバーと交流した。

前川みくとは、

 

「私、前川みくニャ!猫ちゃんアイドル目指してるの!」

 

「猫いいよね。俺も好きだわ」

 

「! ぜひ猫ちゃん会に登録して、猫の可愛さを布教してほしいニャ。

ちなみに犬は……」

 

「嫌いです」

 

「良い人ニャ!」

 

「みくちゃん、チョロすぎだって」

 

緒方智絵里とは、

 

「あの、これ……どうぞ」

 

「ん?四つ葉のクローバー?」

 

「私の個性です……その、お守りになれば良いなって思って」

 

「(ええ子や……)ありがとう。大切にするよ」

 

智絵里から四つ葉のクローバーを貰い、胸ポケットに入れた。

その後、初対面のメンバーと挨拶したり、凛との関係を聞かれたり、神崎蘭子の厨二精神がくすぐられたのか技のことを聞かれ、技を出して欲しいと頼まれたり、うっかり発動してしまった新田美波の個性にかかり不味いことになりそうになった。

ついでに、たまたま見回りが重なった耳郎にその現場を見られ、折檻をくらってしまった。

その現場の仕事が終わり、今度は保須に向かっていた。

 

「保須ってことはステインの件ですか?」

 

「ああ、俺が一度ステインと交戦しているからな。調査するように頼まれた。調査には同行してもらうが、もしステインと交戦するってなったらすぐに逃げて近くのヒーローのところまで行け。今のお前じゃ相手にならない」

 

ライトニングのその言葉に少しムッとしたが、素直に聞くことにした。

その表情をライトニングは見逃さなかった。

 

(こいつ少し自分の力に自信を持ちすぎだ。ない奴より全然良いが、今後のことを考えると危ういな)

 

ある程度、実力があるためそこらのヴィランと戦っても勝ってしまうので危機感というのが薄れてるのかもしれない。

今後、ヒーロー活動をしていく中で危機感というのは大事だと考えているライトニングは血界の将来を少し心配した。

その時、今日アイドルにデレデレしていた血界に折檻を加えた耳郎を思い出し、その話を振った。

 

「そういや耳郎とはどんな関係なんだ?」

 

「耳郎ですか?耳郎とは……」

 

血界は昨夜のことを思い出し、少し顔を赤くしてそっぽを向く。

 

「俺なんかとなんでもないですよ。ただの友達です」

 

(ん?こいつ……)

 

そう言い切る血界の言葉にライトニングは少し違和感を覚える。

すると保須までの道を指していたモニターに突然メディスが映った。

その様子は慌てている。

 

「どうした?」

 

『緊急です!保須で正体不明のヴィランが5体暴れている模様!すぐに急行したください!被害が酷いです!』

 

「了解。チカイ、捕まってろ。飛ばすぞ!」

 

「ウッス!」

 

ライトニングはアクセルを踏み込み、保須へと急いだ。

 



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File.40 ヒーローの仕事

保須に着いた血界たちの目に映ったのは、辺りで煙と炎が立ち上る街だった。

 

「酷いな……」

 

「ここまでだったか、派手にやってくれるな」

 

血界はその光景に呟き、ライトニングは眉を潜めた。

すると路地裏から数人の民間人が飛び出してきて、その後ろからUSJを襲った脳無に似たヴィランが追いかけてきた。

 

「脳無!?」

 

驚く血界だが、ライトニングは脳無が現れた瞬間マグナムを抜き、胴体に2発当て脳無の動きを止めた。

 

「チカイ!市民を逃せ!俺がアイツらの相手をする!」

 

「はい!でも、アイツらって……」

 

今いる脳無は一体だけのはずだが、と思っているとその路地から十数体の脳無が溢れるように出てきた。

 

「分身か、分裂の個性か?」

 

分身体脳無は一斉にライトニングに飛びかかる。

 

「ライトニングさん!」

 

しかし、その直後十数回の発砲音が鳴り響き、脳無は倒れた。

 

「は?一瞬で?」

 

ライトニングは目にも止まらぬ速さで引金を引き、リロードを行い、全ての脳無を鎮圧してみせたのだ。

 

「いつ抜いたかも分からなかった」

 

ライトニングの早業に驚く血界の背後から分身体の一体が襲いかかってきた。

 

「ちっ!」

 

振り返り、迎撃しようとする血界だがすぐにライトニングの弾丸が脳無に命中する。

 

「気を抜くな。まだ本体を倒していない」

 

ライトニングが倒した脳無たちは泡となり消えていった。

しかし、それでも周りからは爆発音や悲鳴が絶えない。

 

「思った以上に被害が酷いな。チカイ!お前は避難誘導が終わったら一緒に避難しとけ!」

 

「そんな!俺も戦えます!」

 

追って来ようとする血界のほうを振り向き、悟すように叱る。

 

「………血界、お前は戦士になりたいのか?違うだろう。ヒーローになりたいんだろうが。周りを見ろ」

 

周りには助けを求める人が多くいる。

 

「自分が何になりたいかよく考えて行動しろ」

 

血界にインカムを渡し、ライトニングは被害が酷いほうに走って行った。

 

「……たく、こういうのは慣れないな」

 

「ライトニングさん!」

 

血界がライトニングを呼ぶがライトニングは無視して行ってしまった。

 

「なりたい自分が何か……」

 

ここまで被害が広がっているのに何もせずに避難するのに、血界は歯痒い思いだった。

自分も戦える、奴らに勝てるとさっきまでは頭の中ではその考えで埋め尽くされていた。

しかし、ライトニングの言葉に頭が一気に晴れた血界はさっきまでの自分に反省する。

轟にも言ったことなのに自分がそれを言われ恥ずかしくなる。

 

「今は俺ができることを……」

 

ライトニングの言葉を思い出し、血界が周りを見て、逃げ遅れた人がいないか確認していると血界の後ろで女の子の泣き声が聞こえた。

 

「ママ〜…どこ〜……」

 

泣いている女の子を放っておいてヒーローを名乗れるはずがない。

すぐさま血界は女の子の元に行き、膝を下ろして目線を合わせる。

 

「大丈夫か?お母さんと離れたのか?」

 

「グスッ……うん」

 

「たぶん避難所にいるはずだから一緒に行こう」

 

血界は女の子を連れて、避難所に向かった。

避難所は近くの学校で、多くの人が避難していた。

周りを警護していたのは警察官だが、現場が混乱しているのかその数は少なかった。

避難した皆が一様に不安そうな顔をしている。

血界が女の子の母親を探していると女の子が指をさし、声を上げた。

 

「ママだ!」

 

「美咲ぃ!!」

 

涙を流しながら駆け寄る母親は娘に抱きついて、血界にお礼を言った。

 

「ありがとうございます!ありがとうございます!」

 

「ありがとうお兄ちゃん!お兄ちゃんってヒーローなの?」

 

美咲という名の女の子が質問すると血界は笑顔で答えた。

 

「おう!って言ってもまだ卵なんだけどな」

 

すると突然悲鳴が上がった。

 

「ヴィランだー!!」

 

「キャー!!」

 

悲鳴の方から分身体と同じ形の脳無が血界のほうに向かってきていた。

避難所を守っていた警察官はすでに行動不能になっていた。

血界がそれに気づいた瞬間、脳無が血界に突撃した。

母親は娘を抱きしめ、脳無に背を向けるようにし、娘だけでも守ろうとするが、いつまで経っても痛みが来ない。

恐る恐る後ろを向くと血界が脳無を抑えていた。

 

「お兄ちゃん!」

 

「ぐぐ……!早く逃げろ!」

 

「ァー?」

 

脳無と組み合う形で動きを封じたが、徐々に押され始める。

 

(こいつ…!USJのときほどじゃないけど力が強え!このままじゃ……)

 

「ァっ!」

 

「うわっ!?」

 

次の瞬間、脳無は血界と手を組んだまま、持ち上げ地面に叩きつけ、放り投げた。

 

「がっ……!」

 

倒れた血界を見た脳無は怯える市民を見て嗤った。

 

「ぁー」

 

その嗤う姿を見て、市民はもうダメだと思った瞬間、脳無の後ろから紅い光が輝く。

 

「ブレングリード流血闘術……!」

 

一瞬で脳無の頭上に移動した血界はナックルガードを装着した右拳を振り下ろす。

 

「『32式 電速刺尖撃』!!」

 

「ァッー!!」

 

血の槍が脳無に突き刺さり、動かなくなった。

 

「やっちまった……」

 

ヴィランとは言え、未だに免許を持っていない血界が個性で倒してしまった。

失敗したと思ったが、次の瞬間歓声が上がった。

 

「ありがとう!」

 

「助かったよ!」

 

「君って体育祭の決勝で戦っていた子だろ?やっぱり強いな!」

 

皆が一様に喜んでくれて、血界はこれが守る、ヒーローの仕事なんだと初めて実感できた。

 

 

脳無は動かなくなり、応援に来た警察に連行されて行った。

血界は警察から少しお小言をいただいたが、最後はよくやったと褒められた。

引き続き、避難所で避難の誘導をしていると緑谷からクラス全体のグループにラインが来た。

そこは保須のどこかの位置情報だった。

 

「緑谷?アイツも保須に来てたのか」

 

血界は訳が分からなかったが、保須の現状を知っている血界は只事ではないと直感した。

 

「すいません、メディスさん。……メディスさん?」

 

とりあえずメディスからライトニングに取り次いでもらおうとインカムで連絡を取るが応答がない。

インカムを外すと壊れていた。

どうやら脳無に地面に叩きつけられた時に壊れてしまったようだ。

 

「仕方ない、ラインで連絡だけ入れてこう」

 

血界はラインでライトニングに連絡を入れておき、位置情報の場所に向かった。



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File.41 BOX!!!

時間は遡り、血界が避難所に向かっているころ。

ライトニングは分身する個性を持つ脳無の鎮圧を続けていた。

 

(一体一体は雑魚だが数が多い……ゲーセンにあるゾンビゲームみたいだな)

 

そんな能天気なことを考えながらも四方八方から襲ってくる脳無に、ライトニングが撃った弾は全て急所付近に命中しており、倒していく。

するとライトニングの背後から景色から突然現れたように脳無が現れる。

ライトニングを襲おうとするが、顔面にマグナムを突きつけられる。

 

「気づいてるよ」

 

引き金を引こうとした瞬間、その脳無は横からの炎に包まれた。

 

「アッチ!」

 

ライトニングは慌てて離れると炎が出てきた方向から声が聞こえてくる。

 

「チッ、蚊トンボみたいに沢山いるな。だが、安心しろ。この『エンデヴァー』がいる」

 

現れたのは体から炎を滾らせる男、エンデヴァー。

轟の父親であり、日本ヒーロー界でNo.2の男である。

 

「何カッコつけてんだよ!炎司!危うくコッチに火がつくところだったわ!」

 

「むっ、ライトニングか……助けて損をしたわ。それとヒーロー活動中はヒーロー名で呼べとあれほど言っただろう。言ったことすら守れんのかお前は」

 

「あー、そういうこと言うんだ。全くお硬い奴なことで。だから息子に嫌われるンだよ」

 

その一言にエンデヴァーの火がついた。

 

「嫌われておらんわ!あれは一時的な反抗期だ!!」

 

「いいや、嫌われてるね。バリバリ嫌われてるね」

 

「それを言うなら貴様も娘に嫌われとるではないか!!」

 

「嫌われてねーし!あれこそ反抗期だし!!」

 

「フン、娘が彼氏を連れてきたら絶対に反対するタイプだなお前は」

 

「許しませンー、美嘉と莉嘉はずっと俺の娘として生きますー。そういうお前だって息子さんが彼女連れてきたらどうすンだよ?」

 

「焦凍の嫁は俺が決める!!」

 

「そういうところが嫌われるンだよ!!」

 

やいやいと言い合う2人を後から駆けつけたエンデヴァーのところのサイドキックたちがどうするか話し合っている。

 

「あれ、どうする?」

 

「止めに入ったらコッチに被害が来るって、触らぬ神に祟りなしだな」

 

「でも、まだヴィランが……」

 

すると言い合っている2人の横から倒れていたステルスの個性を持つ脳無が起き上がり、2人を襲おうとする。

 

「危な……!!」

 

「「邪魔だ!」」

 

2人に呼びかけようとした瞬間、ライトニングとエンデヴァーは脳無に向かって雷の弾丸と炎を浴びせ、再起不能にした。

 

「よーし、じゃあどっちがこの事態を早く治められるか勝負と行こうぜ。それで美嘉の可愛さを証明してやるよ!」

 

「馬鹿を言うな!………焦凍のほうが優秀に決まっておろうが!」

 

何故かわからないが自分の娘、息子がどちらが良いか勝負することになった。

 

「もー、なんでいっつもライトニングさんと関わるとこうなるんですかー」

 

「仕方ない諦めよう……これで事態が早く治るわけだし」

 

ライトニングとエンデヴァーは同世代であり、何かと衝突するが息のあった優秀なコンビでもあった。

一時期はチームを組むのではないかと言われたほどだ。

いつもは会えば口喧嘩するほどだが、2人に1つだけ共通していることがある。

それは『親バカ』だ。

 

「美嘉のほうが可愛い!」

 

「焦凍のほうが優秀だ!」

 

この時サイドキックたちは息子さんがこの場にいなくてよかったと思った。

 

 

保須市でヒーロー活動をしている『マニュアル』の下に職業体験に来ていた飯田にはある一つの目的があった。

それは彼の兄、ステインに襲われたターボヒーロー『インゲニウム』である飯田 天晴の仇だ。

インゲニウムはステインによって重傷を負わされてしまった。

ライトニングが助けたため、命は助かり、足の後遺症も下半身不随のところまではいかなかったが、もういつものヒーロー活動はできない状態で、実質引退だ。

飯田にとって兄は緑谷がオールマイトに憧れるのと同じで憧れの存在である。

それを穢された飯田はステインを許すことができなかった。

そして脳無が暴れ回っている中、ヒーローを襲うステインを見つけ、対峙したが飯田は倒され、怨敵であるステインにヒーローとはなんたるかを説法された。

仇であるステインに自分が目指しているヒーローがなんたるかを言われるのは悔しさがこみ上げてくる。

それに激昂した飯田はステインが掲げるヒーロー像にそぐわず、粛清の対象であり、殺さなければいけないらしい。

刃を飯田に振り下ろそうとした瞬間、飯田と仲が良く、彼の動向がいつもと違っておかしいことに気づいた緑谷が駆けつけたのだ。

その後も轟が加勢したがステインの実力が高く、個性によって動けるのは轟だけになってしまった。

 

「チッ!こいつ強え!」

 

「終わりだ。お前とお前は見込みがある。ここでは殺しはしない。だがお前たちは粛清対象だ!」

 

ステインは飯田とその奥にいるヒーローを睨む。

 

「動けよ……!」

 

緑谷が立ち上がろうとするがステインの個性『凝血』により身動きが一切取れない。

轟が氷をステインに向けて、氷の壁を作ろうとするがステインはそれを切り捨て、轟に刀を向ける。

 

「まずはお前だ」

 

「しまっ……!」

 

あまりの速さ、身のこなしに轟は反応が遅れてしまう。

斬られると思った瞬間、ステインと轟の間に人が割って入ってきて、ステインの斬撃を防いだ。

 

「あっぶねー」

 

2人の間に割り込んできた血界はナックルガードを盾にしてステインの斬撃を防いだ。

 

「また子供か」

 

「テメェ誰だ?」

 

「血界!そいつがステインだ!」

 

轟がその言葉に血界は驚く。

 

「こいつがか!」

 

「実力は見ての通りだ。俺たちより全然強い。逃げたいところだが後ろの3人が動けねぇ」

 

「つまり、コイツを倒さなきゃ無理ってことだな」

 

血界は笑みを浮かべ、拳を構える。

 

「お前はなぜここに来た?」

 

「は?」

 

ステインが血界に向けて、そう質問し、血界は少し考える。

 

「俺ここに来る前にさ。担当のヒーローからヒーローになるなら、それを考えて行動しろって叱られたんだよ。俺がなりたいヒーローは助ける奴がいるなら何があったって助けるヒーローなんだ。だから、助ける!理由なんかそんなもんだ!」

 

血界はステインを睨むが、睨まれた本人は笑みを浮かべた。

 

「お前もいいな!」

 

刀を構え、獣のように姿勢を低くしたステインは笑みを浮かべながらもその獰猛な目を血界たちに向ける。

 

「お前たち3人は合格だ!生かす価値がある!だが、後ろのメガネとヒーローはダメだ。ここで消す!」

 

ステインが飛び出すのと同時に血界もステインに向かって駆け出し、右腕を後ろに引く。

 

(右の大振り……まだまだ実力はないな……)

 

ステインは冷静に分析し、右の攻撃を避けてから斬ると考えた瞬間、左からの攻撃がステインの頬を捉えた。

 

「っ!?」

 

一瞬何が起きたかわからなかったが、血界から伸びる左腕が見えた。

 

(当たった!)

 

血界は自分の拳が当たったことに驚いた。

なんせ左の攻撃は力を捨てた拳なのだ。

 

 

ライトニングが修行に付き合ってくれた時に教えてくれた。

 

「ボクシングで重要とされているのはなんだと思う?」

 

「素人だからなんとも言えないですけど……やっぱり必殺のストレート?」

 

「そうか、俺は違うな」

 

あっさりと否定するライトニングに血界は怪訝な顔になる。

 

「じゃあ何なんですか?」

 

「力を捨て、ただ速さを追い求めた拳……『ジャブ』だ」

 

「ジャブ?」

 

「格闘技において、わかっていても必ず当たってしまう技だ。なんでだと思う?ただ『速い』からだ」

 

ライトニングが拳を構え、血界の顔に向かって放つ。

風を切る音が鳴り、血界の髪が拳圧で揺れる。

しかし、血界はただ見てるだけ防ぐことができなかった。

 

「こんな風にな」

 

「………」

 

改めてされてみると実感できた。

 

「右のストレートは必殺に温存しておけ、一気に決めようとせず、まずはジャブで自分の流れを作れ。そうすればお前は劇的に強くなる」

 

 

血界はこのニュースタイルを師であるライトニングが使う道具で例えた。

 

(左のマシンガンに、右のマグナム……これが俺のニュースタイル!)

 

 

『BOXスタイル』!!!

 

 

左を前に、右を自分の顎に置いた基本的なボクシングのスタイルを構える。

しかし血界がそれをするだけで堅牢な守りと強烈な攻撃を放つ要塞のようだ。

しかもこの要塞は、動く。

ジャブを受け、体を仰け反らせるステインに血界はステップで近づき、連続のジャブを放ち、ステインを追い込む。

 

(近い!剣が振れん!)

 

ステインは一旦後ろに大きく跳び、距離を取ろうとするがすぐに血界はステインに詰め寄る。

 

「チッ!」

 

「ラァッ!」

 

ステインが舌打ちした瞬間、右のストレートがステインに向かって放たれた。

ステインは腕を立て防ぐが、吹き飛ばされ、に痺れが残る。

 

「すごい……!ステインを追い込んでいる!」

 

「緑谷、無事か?」

 

「轟くん。うん、体は動かないけど……」

 

「そうか。……血界の奴、戦い方が綺麗になってるな」

 

「うん、前みたいな危なっかしい戦い方じゃない」

 

緑谷は前々から血界の戦い方は自分の体を犠牲にする戦い方だと分析していた。

なんせ前まで自分も同じような戦闘スタイルだったからだ。

しかし、その認識も変わった。

2人は自分たちが一方的にやられていたステインを追い込む血界を見て、感嘆する。

 

「シャアッ!!」

 

ステインを吹き飛ばし、血界はガッツポーズを取る。

吹き飛ばされたステインはゆっくりと起き上がり、いつの間にか持っていたナイフを口元に持っていく。

 

「調子に乗るなよ……」

 

まだ、ステインの脅威は去っていない。

 



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File.42 血染めの男・ステイン

ステインはいつの間にか手にしていたナイフを口元に持っていき、ナイフに付着していた僅かな血を舐めとる。

その瞬間、血界は体の自由が効かなくなり、倒れる。

 

「なっ……!?」

 

「いい強さだ。口だけでないことはわかった。しかし、俺は止められん」

 

ステインの個性『凝血』はステインが口に含んだ血の人物を動けなくする個性だ。

血界に殴り飛ばされたときに一瞬、ナイフで顔を少し切っていたのだ。

ステインはゆっくりと血界に近づき、倒れた血界を見下ろす形でそう言い放った。

 

「安心しろ、お前を含めて3人は命を取らん。用があるのは後ろの2人だ」

 

ステインは倒れる血界を通り過ぎ、轟たちに近づく。

 

「チッ……!」

 

「不味い!」

 

ステインの個性で倒れてしまった血界を見て、不味いと思った轟はいつでも氷を放つ準備をするが、ステインはそれを見越して言った。

 

「いいのか?後ろの奴にも当たるぞ?」

 

「くそっ!」

 

ステインは丁度血界の後ろを歩いており、攻撃すれば血界に当たってしまう。

同じくステインの個性で動けなくなっている緑谷もなす術がないと焦り、始める。

どうにかこの状況を突破しないと、と思考を巡らせようとした瞬間、目の前の光景に驚く。

それは緑谷だけでなく轟もだ。

 

「?、 なんだ?」

 

それに気づいたステインも後ろを振り向くと血界が立ち上がっていた。

 

「なんだと!?」

 

「ぐっ……くっ……待てよ……!」

 

まだ体の自由が効かないのか苦しそうにする血界だが、ゆっくり一歩、一歩ステインに近づく。

ステインはもう一度、血界の血を舐めとると血界の体は自由を奪われるが、今度は倒れはしない。

 

「俺のダチに手を出すな!!」

 

そう叫んだ瞬間、目は紅く輝き、紅のエネルギーが体中に回り、ステインの個性を破壊した。

 

「なんだと?」

 

「ハァ……ハァ……いくぞ!」

 

血界は息を荒くしながらもステインに向かって走る。

ステインは剣を構え、血界を迎え討とうとした時、背後からの緑谷の奇襲に気づくのが遅れた。

 

「チッ!」

 

緑谷の攻撃を剣の腹で受け止めるが、フルカウル状態のパンチに剣はあっさりと折れる。

向かってきた血界を緑谷にぶつけ、距離をとる。

 

「悪りぃ、緑谷」

 

「ううん、大丈夫だよ。それより血界くんなんであんなに早く動けたの?僕より早くステインの個性で動けなくなった飯田くんたちはまだ動けないのに……ステインの個性は血液型に関係しているのか?血液を含んで相手を動かなくする個性?」

 

「分かンねぇけど、俺にはアイツの個性は効かないってことは体でわかった」

 

轟が血界たちのところまで下がり、話に参加する。

 

「今はここから逃げたほうがいい。2人とも動けるなら飯田たちを担いで逃げるぞ。俺たちじゃステインに勝てない」

 

轟の作戦を聞いた2人はうなづくが、それに飯田は反対した。

 

「みんな……俺のことは放っておいてくれ!」

 

「は!?」

 

「何言ってるんだよ!飯田くん!」

 

「俺は奴の言う通りだ。……人命を蔑ろにして、私欲を優先した!兄さんが託してくれた『インゲニウム』を穢してしまった!俺はヒーローとして失格だ!!俺のことは置いて行ってくれ!!君たちがここで命を落とす必要なんて無いんだ!」

 

飯田は涙を流し、自分を悔いる。

 

「ヤだね!」

 

しかし、血界はバッサリと断った。

 

「なっ!?」

 

「お前が何て言おうが俺はお前を助けるからな。仲間が殺されそうなのに放っておけるかよ。放って逃げたら俺のヒーローはそこで死ぬんだよ」

 

ステインから目を離さず、自分の信条を語る。

絶対に助ける。

その覚悟が血界にはあった。

 

「僕もだよ!飯田くんを置いていくなんてできないよ!」

 

「俺もだ。クラスメイトを置いていくなんてできねえ」

 

緑谷、轟も飯田を置いていくなんて選択はなかった。

 

「素晴らしい友情だな……だが!」

 

ステインは血界たちが逃げようとするよりも早く動き、一気に血界たちに詰め寄る。

轟が氷で迎撃するが、全て切り捨てられる。

 

「俺の粛清は止まらない!」

 

血界が近づき、BOXスタイルで攻めるが全て見切られ、距離を取られ、腕が届かない。

隙をついて血界の肩を切り裂く。

 

「イッテ……!」

 

「血界くん!」

 

「より良い世界にするために!」

 

向かってきた緑谷の攻撃をかわし、鳩尾にエルボーをぶつけ、血界に向かって投げる。

 

「オールマイトのような真の英雄が……!」

 

轟が炎を放つがかわし、ナイフを投げ、轟の腕に刺さる。

 

「ぐっ!?」

 

「存在し続ける世界を作るために!!」

 

ステインから威圧感が放たれる。

それは殺気か、それとも執念か。

それに当てられた血界たちは一瞬動きを止めてしまう。

ステインはそれを見過ごさず、血界に向かって刀を振るう。

 

「ガラ空きだぞ」

 

「……っ!」

 

刀が血界を切り裂こうとした瞬間、飯田が刀を蹴り折った。

 

「レシプロバースト!!」

 

「飯田!」

 

「チッ(早い……!)」

 

ステインの個性から解放された飯田が加速して、血界の窮地を救った。

 

「みんな、関係のないことですまない……」

 

「また、そんなことを言って……」

 

「だからもう、3人には血を流して欲しくないんだ……!」

 

ステインの言う通り、自分は3人にしてみれば未熟だ。

だが、それでも兄が言っていた言葉を思い出し、自分の原点(オリジン)を思い出した。

憧れたヒーローになるために、兄との約束のために、自分を助けてくれた友人達のために立ち上がらなくてはいけない。

その思いが飯田を奮い立たせた。

 

「感化され取り繕おうとも無駄だ。人の本質はそう易々と変わらない……お前は私欲を優先させた贋物だ……!ヒーローを歪ませるガンだ……!誰かが正さなければいけない!!」

 

ステインは飯田の志を自分の執念をもって否定する。

 

「貴様の言う通りだ。僕にヒーローを名乗る資格は……ない。それでも……ここで折れてしまったら、インゲニウムは本当の意味で死んでしまう!」

 

「論外」

 

飯田がステインの言葉を認めながらも自分の在り処を示す。

しかし、ステインにとって飯田はもう粛清対象以外の何物でもなかった。

轟が炎と氷で攻めるがまたもステインに避けられてしまうが、奴も焦り始め、攻撃が単調になり始めている。

轟と血界がここにいることはプロヒーロー達も知っているはずだ。

大勢との戦闘を苦手とするステインは一刻もここから離脱したいが、そうしないのは飯田ともう1人のプロヒーローを殺すという『イかれた執着心』があるからだ。

そんな奴が逃してくれはずもない。

なら、倒すしかない。

今動ける中で最も有力な力を持っているのは……

 

「血界!個性使えねぇのか!?」

 

「使いたくても使えないんだよ!ここは狭すぎて周りに被害が出る!」

 

氷で飯田のエンジンを冷やしながら、轟が一撃で倒せるはずの血界に聞くが、血界は個性が使えないと言った。

すると緑谷が上空を指す。

 

「上ならどう!?何も障害物はない!」

 

「いける!だけど、隙を作ってくれ!じゃないと技が出せねえ!」

 

技を使おうにもステインの異様な速さに発動が遅すぎる。

 

「任せろ!」

 

轟が炎で牽制するとステインは上空に飛び上がり、ナイフを轟に向かって投げる。

 

「させるか!」

 

飯田が轟を庇って腕でナイフを受ける。

轟に向かって飛んでくるステインを見据えて、飯田は痛む腕を無視し、足に力を込める。

 

(今は友を助けるためにッ!!)

 

今までで一番の加速を見せる。

そしてそれと同時に緑谷もフルカウルで上空に飛び、壁を蹴ってステインに向かっていく。

 

「レシプロエクステンド!!!」

 

「8%デトロイトスマッシュ!!!」

 

上空で防ぎようがないステインは身体を捻ることです二人の力を受け流すが、頭と腹付近に食らってしまい、落ちていく。

 

「グッ……!?」

 

「「血界君/くん!!」」

 

「いけ!血界!!」

 

ステインが落ちてくる方向に血界が拳を構えて立つ。

 

「ブレングリード流血闘術……!!」

 

ナックルガードから紅蓮の光が輝く。

ステインはその光、そして血界の言葉に目を見開く。

 

「貴様、それは……!!」

 

「『119式 血十字式打上槍』!!!」

 

アッパーと共にに放たれた血の十字槍がステインの腹に直撃し、空高く打ち上げた。

ステインは落ちて地面に激突し、動かなくなった。

 

「流石に気絶してるっぽい……?」

 

動かなくなったステインを見て、全員が安心した表情を浮かべる。

 

「とりあえず、拘束しちまおうぜ」

 

「縄なんかあるだろう。ゴミ箱がある」

 

「武器も全部外しておこうよ」

 

「僕も手伝おう……っ!」

 

「飯田、腕大丈夫か?めっちゃ血出てるぞ」

 

「ああ……」

 

全員が戦闘が終わったと安心していた。

しかし、そこにステインに襲われたプロヒーローが声を上げる。

 

「お前たち!まだ終わってないぞ!!!」

 

絶望にも聞こえたその声で全員が振り向くと動かなくなっていたはずステインが起き上がっていた。

左腕は地面に落ちた際に折れたのか不自然な腫れ上がっている。

 

「ブレングリード流血闘術……貴様、あの家系の者か?」

 

ステインは血界に飯田に向けた先とは段違いの殺気が篭った目を向ける。

 

「……っ!?(なんだ、これ!?殺気!?)」

 

濃密な殺気を向けられた血界は身体がすくみ、動かなくなる。

 

「名前は?」

 

「ち、血界・V・ラインヘルツ……」

 

血界は身体が震えそうになるのを我慢して、答える。

緑谷たちは突然のステインの殺気に身体が震えている。

 

「ラインヘルツ………やはりか………」

 

ステインは納得したという表情をし、再び視線を血界に向ける。

 

「貴様はここで殺す。必ずだ」

 

その目には殺気とともに覚悟したものもあった。

ステインは痛む自分の左腕に目をやる。

右手人差し指を向けると血のような紅い糸が出て、折れた箇所を補強する。

そして、ステインはナイフを取り出し、自分の右腕を傷つけ血を流し、その名を口にした。

 

 

「斗流血法・カグツチ」

 

 

 



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File.43 斗流血法・カグツチ

ステインの様子が血界の技を見てから豹変し、再び血界たちの前に立ち塞がる。

そしてステインはその名を口にした。

 

「『斗流血法・カグツチ』……『刃身ノ壱・焔丸』」

 

その言葉とともにステインから流れ出る血が動き出し、太刀の形になった。

 

「なあ、緑谷。お前ステインの個性は血を固めて相手の動きを止めるって言ってなかったっけ?」

 

「う、うん……」

 

「どう見ても別物だろ」

 

ステインが握る太刀を見て血界は引きつった笑みを浮かべてそう言う。

 

「とにかく今は逃げるぞ。これだけ距離が空いてるなら逃げれる!」

 

轟はステインに向かって氷の壁を作り、ステインの進行を妨げる。

しかし、ステインは落ち着いて、太刀を左手に持ち替え、血が流れる手を振るう。

 

「『斗流血法・カグツチ』、『刃身ノ参・蛍短冊』」

 

振るった手から血が数滴飛び散り、それが短剣状になって轟の氷に突き刺さり、溶かしながら進んで、血界たちが進もうとしている道に突き刺さる。

するとその短剣から炎が立ち上り、血界たちの行く手を塞いだ。

 

「アツッ!?」

 

「道が!?」

 

「任せろ!」

 

轟が氷を放ち、消火しようとするが炎は衰えるどころか近づくだけで、氷が溶けていく。

 

「なんだと?」

 

「無駄だ。その炎はただの炎ではない」

 

背後からステインの言葉が響き、振り向く。

轟の氷が一刀両断され、溶けていく。

 

「ブレングリード……破壊者の血脈。お前だけはこの世から抹消しなくてはいけない」

 

刀を構えてステインは血界を睨む。

全員がどうする、と考えていると血界は隣の壁に目を向けた。

 

「仕方ない!あとで怒られるけど!!」

 

血界は緑谷に背負っていたヒーローを預け、壁に向かって拳を構え、

血の槍で壁を破壊して、店の中に逃げた。

 

「こっちだ!」

 

血界に続いて緑谷たちも店の中に続く。

ステインはゆっくりとした様子でそれを見ている。

血界たちは店から大通りに逃げた。

 

「これで少しは動きやすいだろ」

 

そう言った瞬間、凄まじい音と共に通ってきた店は爆炎に包まれた。

 

「逃がさん」

 

その炎の中からステインが悠然と歩いてくる。

次の瞬間、ステインの姿が消え、気づけば血界の目の前に来て、太刀を振りかざしていた。

 

「!!」

 

「消えろ」

 

血界は後ろに倒れることでギリギリでかわすがステインの向かいにあった店に斬られた跡が残る。

ただ太刀を振っただけなのにあの威力なのを見た、血界たちは肝を冷やす。

血界は慌てて、ステインを距離を取る。

しかし、その時ステインは標的にしていた飯田とプロヒーローの側にいた。

慌てる緑谷たちだがステインはそれを気にしていない。

 

「お前たちは後だ。殺してやるから待っていろ」

 

飯田のほうを見て、冷たく呟くステインに飯田は喉元に刀を添えられたイメージが鮮明に頭の中で思い浮かび、冷汗がドッと流れる。

ステインは血界のほうを向き、姿勢を低くして突撃する。

血界はギリギリのところで急所を避けてみせるが、切り傷が体に出来ていく。

攻撃に転じたいが、ステインの怒涛の攻撃にそれが出来ない。

さらに斬撃と同時に駆り出される太刀からの熱風に体力が奪われる。

 

「くっそ……!」

 

悪態をついた瞬間、熱風に足を取られたのか、もつれて転んでしまう。

ステインがそれを見逃すはずがなく、太刀を血界に向かって突き刺す。

しかし、血界はまたギリギリのところで転がってかわし、腕に掠っただけだった。

 

「『炎獄脈』」

 

呟いた瞬間、地面に刺さった太刀から炎が発生し、地面を抉りながら向かっていき、血界を炎で包む。

 

「ぐああぁっ!?」

 

「血界!」

 

轟が氷で消火しようとするが氷は近づくだけで溶かされてしまう。

 

「何でだ!?」

 

「言っただろう、ただの炎ではないと。対人間の力が対化け物の力に敵うはずがない」

 

炎に包まれた血界を見ながら、ステインはそう言った。

 

「血界くんに手を出すな!!」

 

緑谷と飯田がステインに向かって飛び出す。

しかしステインは太刀から手を離し、手を2人に向ける。

 

「『斗流血法・カグツチ』、『刃身ノ弐・空斬糸』」

 

血の糸が2人に向かって放たれる。

 

「『赫棺縛』」

 

空斬糸が2人に絡みつき、身動きを取れなくする。

 

「焦るな。順番に殺してやる」

 

動けなくなった飯田を見下ろしながら言った。

すると立ち上る炎の中から血界が転がり出てきて、蹲りながら呻き声を漏らす。

全身に火傷を負っていた。

 

「ぐ……うぅ……」

 

ステインはその血界に近づき、太刀を振り上げる。

 

「ブレングリード流血闘術……」

 

その瞬間、血界は蹲った状態からステインに奇襲をした。

わざと動けない演技をし、誘い出したのだ。

 

「『211式 単発式紅蓮血獄撃』!!!」

 

血界が現時点で出せる最強の技を放つが、ステインに当たる寸前で拳が止まってしまった。

いや、拳だけでなく血界の全身が止まっている。

体のあらゆる関節に『空斬糸』が絡み、血界の動きを止めたのだ。

 

「『斗流血法・カグツチ』、『刃身ノ弐・空斬糸』」

 

「……くっそ!!」

 

「気づかないと思ったのか?ラインヘルツの人間にしては小賢しい真似をするな」

 

ステインは太刀を振り下ろした。

左肩からの袈裟斬りで血界の体から鮮血が舞い、地面に倒れる。

 

「血界/くん/君!!!」

 

3人が悲痛な叫びを上げる。

倒れた血界から血の池が出来始めるが、それを見たステインは怪訝そうにする。

 

「当たる直前で体を後ろにズラしたか……」

 

斬ったステインが忌々しそうに呟いた。

倒れた血界の身体が動き、痛みにより震える手で斬られた部分を掴み止血しようとしている。

痛みで歪む顔をステインに向けて睨み、必死で逃げようとしている。

 

「ぐっ…!うぅっ……!!」

 

「見苦しいぞ。戦士なら戦士らしく潔く死ね」

 

ステインは血界を踏みつけ、動けないようにし心臓の位置に太刀を添える。

 

「これなら外さん」

 

「やめろォォォッ!!」

 

緑谷の悲痛な叫びが響くがステインはそれを気にせず太刀を持ち上げ、心臓に突き刺した。

しかし、まるでガラスが砕けるような音が響き、ステインの太刀は切っ先が粉々に破壊されていた。

 

「何……?」

 

怪訝な表情をしながら太刀の切っ先を見るステイン。

血界は自分の胸ポケットが光っていることに気づいた。

 

「これって……」

 

ポケットを弄ると出てきたのは自分の血で濡れた四つ葉のクローバーだった。

昼に智絵里から貰ったクローバーが血界を守った。

 

「運がいいな」

 

「まったくだ」

 

ステインの言葉に答えるように聞こえた血界たち以外の声にステインは警戒するが、その瞬間持っていた太刀が弾丸で弾き飛ばされた。

ステインが弾丸が飛んで来た方を睨むと暗闇の中から電光を纏った男がゆっくりと姿を現わす。

 

「そいつらに手を出さないでもらおうか」

 

怒りを浮かべたライトニングが登場した。

 

 



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File.44 『B』lood 『B』u llet 『A』rts

時間は少し遡り、エンデヴァーとライトニングは脳無の殲滅を続けていた。

脳無の殲滅を続けていると今度は細身の脳無がヒーロースーツを着た老人と戦っているのを発見した。

 

「ライトニング!先に攻撃して、俺の援護をしろ!!」

 

「命令するな!」

 

ライトニングは6発の弾丸を撃ち、脳無の動きを封じる。

 

「ァァッ!?」

 

「っ!?」

 

「ほら行けよ」

 

「言われなくても!」

 

エンデヴァーは炎を纏った拳で脳無を殴り、肩からの炎ブーストで吹き飛ばす。

 

「大丈夫か、ご老人?」

 

「エンデヴァーか!」

 

「あれ?グラントリノじゃないか。生きてたのか」

 

ヒーロースーツを着た小柄な老人はグラントリノ、緑谷の職業体験先のヒーローだ。

 

「ライトニングもか!それと生きていたかとはどういうことだ!?」

 

「音信不通だったンだから、そう思っても仕方ないだろう?用意した香典が無駄になったぜ」

 

「貴様ァ……!」

 

額に筋を浮かべるグラントリノとライトニングを見て、エンデヴァーは呆れたように一息つく。

 

「お前ら遊んでないで……」

 

エンデヴァーが2人に注意しようとした瞬間、エンデヴァーの背後から吹き飛ばされた脳無が飛びかかってきた。

 

「エンデヴァー!!」

 

「チィッ!」

 

グラントリノ、エンデヴァーが迎撃しようとするが、それより早くライトニングが動く。

 

「『BBA Electric laser.44』」

 

雷のレーザーが脳無に当たり、吹き飛ばした。

 

「遅いな」

 

「チッ、相変わらず手が早い奴だ」

 

エンデヴァーはまだ騒ぎ治らない方を見る。

 

「埒が開かないな。ここからは別々に動くぞ」

 

「了解」

 

「ご老人、貴方もヒーローであるならばここに行って欲しい」

 

エンデヴァーはスマホを取り出し、位置情報を見せる。

 

「なんだ、これは?」

 

「俺の息子がそこに行った。何かあったらしく、応援を呼んでくれと言っていた」

 

「わかった。行こう」

 

グラントリノがうなづくがライトニングが待ったをかけた。

 

「待ってくれ。俺が行く」

 

「お前は脳無殲滅の方がいいじゃろう」

 

「俺のところの雄英生もそこに向かったんだと、今さっき連絡が来た」

 

グラントリノがそう言うがライトニングは譲らない。

そして、グラントリノの側により、彼にしか聞こえない声で言った。

 

「もしそこにステインがいたら不味い。奴は『血の力』を持っている。戦うなら同じ『力』じゃないとダメだ」

 

「なんだと…!わかった、任せたぞ」

 

ライトニングの言葉に驚くグラントリノは承諾した。

 

「何をしている!行くぞ!」

 

「炎司!俺が息子くんのところに行く」

 

「何!?貴様!脳無はどうする!?」

 

怒鳴るエンデヴァーだが、ライトニングはどこ吹く風だ。

 

「大丈夫だって、グラントリノもいるし俺の代わりだ」

 

「……わかった。焦凍のことは任せるぞ」

 

付き合いが長い2人だから、ライトニングが自分から進んで行動しようとしていると言うことは何か考えがあるからだ。

エンデヴァーはその理由を聞かないでライトニングに任せる。

それはライトニングを信じているからだ。

 

 

血界たちの窮地に現れたライトニングはステインを睨み、ステインも邪魔をしたライトニングを睨む。

 

「邪魔をするな、傭兵」

 

「いつの話してんだよ。その子から離れろ」

 

ライトニングは銃を抜き、ステインに向かって3発弾丸を放った。

 

「チッ」

 

ステインは大きくその場から跳び、回避する。

ライトニングは血界に近づき起こす。

 

「チカイ、大丈夫か?」

 

「血がめっちゃ出てて、痛いです……」

 

「それだけ口が聞けるならまだ大丈夫だ。君、炎司……エンデヴァーの息子さんだろ?チカイと安全なところに行ってな」

 

「はい」

 

「君たちもだ」

 

緑谷と飯田を拘束していた空斬糸を弾丸で千切り、自由にする。

 

「あっ、ありがとうございます!ライトニング!ステインの個性なんですけど、特殊と言うか……まるで個性が2つあるみたいで、1つは血を摂取して相手の自由を奪うものと、あとはひ、ひきつ?」

 

「斗流血法・カグツチだろ?よく知ってる……たくっ、あのジジイ…才能があるなら誰彼構わず教えやがってよォ。だから、あのクズやこういう奴が出てくんだろうが」

 

ステインの情報を教えようとする緑谷だが、ライトニングは最初から知っていたのか、遮り、呆れた表情を浮かべる。

 

「あの人は俺に力を与えてくれた。馬鹿にすることは許さん!」

 

ライトニングの言葉に怒ったのか睨んでくる。

 

「馬鹿にしてねぇよ。ただ弟子の管理ぐらいしろって言ってんだ、よっ!!」

 

ライトニングが撃つ。

しかし、ステインは新しく造形した焔丸で弾く。

 

「やっぱり普通の弾丸じゃダメか」

 

「『斗流血法・カグツチ』、『刃身ノ伍・火羅棘』!」

 

ステインの手にはレイピアの柄が握られているが、その刃は10cm程しかない棘だった。

ステインは火羅棘を勢いよく突き出すと短い棘が目にも止まらぬ速さで伸びて、ライトニングを襲う。

しかし、ライトニングはそれを体を少しズラすことで回避するが、その時自分の後ろに迫る紅い糸が目に入った。

 

「『斗流血法・カグツチ』、『刃身ノ弐・空斬糸』!」

 

火羅棘を囮にした作戦は上手くいき、空斬糸はライトニングを囲うように広がり、一気にライトニングに巻きつこうとする。

 

「『七獄』!」

 

焔丸を地面に向かって擦るように振り下ろすと、火花が散って空斬糸に火がつき、一気に燃え広がる。

焼き殺そうとするが、ライトニングは空斬糸の包囲網をジャンプして跳び越えて弾丸を数発放つ。

ステインはそれに対して焔丸を振るい、火炎の斬撃を放つ。

 

「『飛炎』!」

 

飛んでいく火炎の斬撃は弾丸を溶かし、ライトニングに命中して爆発を起こした。

 

「ライトニングさん……!」

 

「そんな…!!」

 

トップヒーローのライトニングさえも圧倒されている状況に血界たちは絶望の感情を抱いてしまう。

ライトニングは弾き飛ばされ、ゴロゴロと転がっていく。

 

「ッテェ〜……久しぶりにもろに食らったぜ」

 

ライトニングは攻撃を食らったというのに呑気な口調でそう言った。

 

「貴様も粛清対象だ。ヒーローを偽る贋物が……ラインヘルツを殺したら次は貴様だ……!」

 

ステインは目を血走らせて睨む。

 

「全く、なんでそんなにチカイたちを睨むのやら……そんなことはさせねぇよ。俺はヒーローだからな」

 

銃を構えて宣言するライトニングにステインは怒鳴る。

 

「お前がヒーローを語るなァッ!!」

 

ステインは焔丸を構え、ライトニングを襲う。

ライトニングは銃に雷を纏わせ、ステインを狙う。

 

「『BBA Thunder bend.44』」

 

6発放った雷を纏った弾丸はステインに向かっていく。

ステインはそれを弾き、かわす。

しかし、かわされた弾丸が曲線を描き、ステインを背後から襲った。

 

「グアァッ!?」

 

「『BBA……』!」

 

痛みで苦しむステインに近づき、間髪入れずライトニングは攻め続ける。

全身に雷を纏い、神速で移動する。

 

「『Electric party.44』!!」

 

独特のステップでステインの周囲を跳び回りながら弾丸を撃ちまくる。

雷を纏った体と弾丸の動きはまさに『電撃』。

ステインはさっきまでの優勢が嘘のように、一方的に攻撃されていく。

 

「が…ハ……ァ……」

 

ステインの体から雷に焼かれたのか煙が立ち上り、目の焦点は合っておらず、倒れた。

 

「すごい……」

 

「これがトップヒーローの実力……!」

 

形勢を一瞬で覆し、ものの数秒で強敵ステインを倒したライトニングの実力に血界たちは驚いて声も出ない。

ライトニングは煙草に火をつけて、一仕事を終えた体を労わるようにゆっくりと吸う。

 

「一仕事した後の煙草は格別だな」

 

ライトニングから吐かれた煙は空に消えていった。

 



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File.45 血染めの意思

ステインを撃破したライトニングは縄をゴミ箱から見つけ出し、縛って動けなくした。

 

「色々と勝手な行動して言いたいことはあるが、とりあえずは生きててよかった」

 

苦言を呈しながらもライトニングの言葉に漸く血界たちは安心した。

 

「すいません。ライトニングさん……プロの俺がしっかりしていないといけなかったのに……ずっと足を引っ張ってしまって」

 

「いえ、ステインとの1対1は分が悪すぎます。強すぎる……それにステインの個性はよくわからないことが多過ぎです。まるで2つの個性を持っているような……」

 

緑谷の鋭い分析が始まろうとしたが、ライトニングが無理矢理止めた。

 

「ほら、とりあえず応急手当だ。それから他のヒーローたちと合流して、ステインを警察に引き渡すぞ」

 

ライトニングがそう言った直後、エンデヴァーのサイドキック含む他のヒーローたちも駆けつけた。

 

「応援に来ました!ってステイン!?まさか、ライトニングさんが!?」

 

「まぁな」

 

「凄いわ……ずっと捕まえられなかったステインを」

 

「流石です!」

 

駆けつけたヒーローがライトニングを褒める。

 

「敵わないよな……俺たちがしたことって言えばステインから時間稼ぎしたくらいだもんな……」

 

「そうだね……」

 

血界の言葉に緑谷は少し悔しそうにする。

もしステインが最初からあの炎の個性を使っていたら、とうの昔に自分たちは殺されていた。

かつてオールマイトの師匠でもあったグラントリノの元で戦闘訓練を行い、僅かでも強くなった感覚はあり、戦えるようになったと思ったが、結果は自分どころか友達も重傷を負ってしまった。

オールマイトのようなヒーローを目指しているのにもかかわらず、この体たらくであることに緑谷は悔しかった。

悔しいのは緑谷だけでなく、血界たちもだった。

そこにライトニングが話しかけてきた。

 

「お前たち、よくやったな」

 

「え?でも俺たち……」

 

結局はライトニングに助けられたと言おうとしたが、ライトニングが遮る。

 

「お前たちがいなかったらネイティブは死んでいた。お前らは命を救ったんだ。立派なヒーローとしての活動さ」

 

ライトニングにそう褒められ、血界たちは喜んだ。

トップヒーローに認められたのだ。

 

「まっ、この後全員叱られると思うから今のうちに褒めておこうと思ったんだけどな」

 

その一言に血界は喜んでいたが固まった。

ライトニングも完全に気を抜いてしまった。

そのため後ろからやってくる脳無に気づくのが遅れてしまった。

 

「っ!チカイ!」

 

「うわっ!?」

 

ライトニングが血界を捕まえ、羽根が生えた脳無の攻撃をかわすことはできたが、緑谷は捕まってしまった。

 

「えっ、ちょ、わああぁぁ!!」

 

「しまった!」

 

「早く、助けないと!」

 

「バカ!攻撃が当たるぞ!」

 

ライトニングはすぐに銃を抜き、弾丸を脳無の頭に命中させようとしたがその時、ステインの口が開いた。

 

「『斗流血法・カグツチ』……」

 

「っ!ステインを抑えろ!!」

 

ライトニングの指示が届く前にステインは縛っていた縄を切り裂き、脳無に向かって走り出していた。

 

「『刃身ノ弐・空斬糸』!!」

 

空斬糸を脳無に伸ばして捕まえる。

 

「オオオォォォッ!!!」

 

あらんばかりの力で脳無を引っ張り、地面に叩き落とした。

 

「わっ!?」

 

緑谷も落ちるが脳無が良いクッションになってくれた。

ステインは脳無に飛び乗り、焔丸で緑谷を掴んでいた腕を切断し、緑谷を捕まえて放り投げ、脳無の頭に焔丸を突き刺した。

 

「ァッ!!」

 

「『七獄』!」

 

突き刺した焔丸から炎が発生し、燃え移る脳無。

炎に悲鳴を上げて苦しむがステインは逃さんとばかりに足で抑えつける。

 

「偽者が蔓延るこの社会も、いたずらに力を振りまく犯罪者も…粛清対象だ…。はぁ…全ては正しき社会の為に…!」

 

その目には異常と言える執着心が近くにいた緑谷にはありありと見えた。

やがて動かなくなった脳無を見て、ステインは足をどける。

 

「子どもを助けた…?」

 

「馬鹿、人質を取ったんだ!」

 

「脳無を躊躇なく殺しやがった…どういう事だ?仲間じゃ無かったのか…?」

 

「いいから戦闘態勢をとれ!とりあえず!」

 

エンデヴァーのサイドキックたちが困惑しながらも戦闘態勢をとる。

ライトニングは負傷している血界たちを背に守る態勢になる。

 

「こっちだぞ!エンデヴァー!って小僧!?ここで何しとる!?」

 

「お前たち何をひと塊りになって呆けている!!……むっ?ステイン!!」

 

グラントリノとエンデヴァーが現れ、ステインに気づいた。

そしてステインはエンデヴァーが目に入るとその目を大きく開いた。

 

「エンデヴァー……!!」

 

その時、歴戦の戦士であるグラントリノ、数々の修羅場をくぐってきたライトニングはいち早くステインから発せられる威圧感に気づいた。

 

「何をしておる!捕縛から抜け出しているではないか!!ふん、まぁ良かろう。次は俺が相手に――」

 

「待て!炎司!!」

 

ステインと戦うべく、威勢良く一歩前に踏み出そうとしたエンデヴァーだが、ライトニングが止めた。

人質がいるから気をつけろと注意するためではなく、ステインから発せられる異様なオーラからだ。

 

「エンデヴァー…!贋物…!正さねば――…誰かが血に染まらねば…!『英雄』を取り戻さねば!」

 

ステインの言葉と共に燃えていた脳無の炎が大きく燃え上がる。

 

「この世界は『闇』に染まる!させてたまるか!『奴ら』にさせてたまるか!」

 

その炎はまるで自分の怒りを、意思を表すかのように大きくなる。

 

「来い、来てみろ贋物ども!俺を殺していいのは『本物の英雄』たちだけだ!!」

 

殺気とともにエンデヴァーたちに乗せて口に出す。

その余りの気迫に女性ヒーローは尻もちをついてしまう。

ライトニングたちも冷や汗を流し、動けなくなる。

相手は重傷でとうに動ける状態ではないはずなのに、こちらの方が数も戦力も多いはずなのに追い込まれている自分たちだ。

それほどまでにステインの気迫は強く、大きい。

そして、その意識は倒れてライトニングに守られている血界に向く。

 

「お前は……!お前だけは……!ここで殺す!必ずコロス!!」

 

焔丸を向けて、一歩ずつ血界に向かって進めていく。

 

「破壊者の系譜!お前はこの世界を破壊する……『闇』そのものだ!!」

 

痛みと貧血で朧気な意識の中、殺意だけは血界に向ける。

血界は向けられた殺意に冷や汗が止まらなくなる。

滅茶苦茶な言い分だと頭ではわかるのに、向けられる殺意に体と心が完全に怯えている。

ステインの気迫に当てられても動けるライトニング、エンデヴァー、グラントリノは即座に血界を守るようにステインに立ち塞がる。

対峙する両者だが、ステインは焔丸をこっちに向けて動く気配がない。

 

「………気絶してる?」

 

誰かが言った通り、ステインは立ったまま気絶してしまった。

 

「確保だ!」

 

エンデヴァーの指示で漸く動き出したサイドキックたちだが、先のステインの気迫に当てられ気絶したステインを確保するの手間を取っていた。

こうして後に『保須事件』と名付けられた事件は幕を下ろした。

 

 



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File.46 保須事件処理

保須事件から一夜経ち、血界たちは保須市の病院に入院していた。

その中で血界は医者から診断されていたが、医者は困惑していた。

 

「えーとね……単刀直入に言わせてもらうけど、君、本当に人間?」

 

「先生、俺、医者って患者の心もケアするもんだと思うすよ。今のは傷ついたわー」

 

「だってね〜……」

 

医者は血界のカルテを見ながら頭を抱える。

 

「君の個性、攻撃系のものでしょ?なのにこんなに治りが早いなんて異常だよ。もう斬られたところが完治しているし、過去に自己再生の個性持ちもいたらしいけどそれとは異なるからね」

 

医者は血界のカルテを見て、そうぼやいた。

血界の個性は色々と不明なことが多い個性だ。

攻撃に特化したものなのか、自身の体に影響するものなのか、それすらわからない。

 

「あ、あとちゃんと個性欄のところに名前は書いといてね。役所にはある程度どんなものか書けばオッケーかもしれないけど、他の所じゃ名前書かないといけないから」

 

そう言われて個性の登録書を渡され、診察室を出て行った。

 

「ンなこと言われてもなぁ……」

 

頭を掻きながら、自分の個性のことを考えた。

ふと、その時ステインが自分に叫んでいたことを思い出した。

 

『破壊者の系譜!お前はこの世界を破壊する……『闇』そのものだ!!』

 

恨みと殺意を込めた叫びに血界は恐怖を感じた。

あそこまでの気迫を血界どころか日常で受けることなんてない。

それにステインはどうやら血界のことを知っていたような口調だった。

自分が知らない自分のことを知っているステインが気に入らず、それに加えて勝手に殺されかけるのは気に入らなかった。

 

「なんだよ。たくっ……」

 

血界に暗い気持ちが募っていく。

すると血界のスマホに着信があった。

表示を見ると耳郎だった。

 

「耳郎か?」

 

『あっ、出てくれた!ちょっと大丈夫!?ライトニングさんから聞いたんだけど斬られたって!』

 

「ああ、まあな……」

 

血界は耳郎の言葉にも曖昧に答える。

ステインのことで頭がいっぱいだからだ。

 

『怪我はどうなの!?痛みとかは!?』

 

「もう傷も塞がってる。痛みは少しだけあるかな?」

 

『そう……もう、心配したんだから……』

 

耳郎の言葉には心配する声色が明らかにあった。

 

『アンタさ、よく1人でなんでもやろうとして抱え込むんだから。今回のことも何か考えてるんじゃないの?』

 

耳郎の言葉通りで、図星だなと思いながら血界は苦笑いを浮かべてしまう。

 

『何かあったんだったら相談してよ。頼ってよ。……血界はウチにとって、その……し、親友なんだから』

 

耳郎の自分を心配してくれる言葉に心に暖かいものが広がる。

「相談して」、「頼って」など言われたのは初めてだった。

 

「ありがとうな。わかった、何かあったら頼るよ」

 

『うん……じゃあ、ウチこれから職業体験の続きだから』

 

「おう、頑張れよ」

 

電話を切った血界の顔には先までの険しさが消え、笑みを浮かべていた。

最近は耳郎と話していると前向きな気分になれる。

血界にとって良いことだった。

緑谷たちと同じ病室に戻るとそこには同じく入院していた緑谷たちとは別の人物達がいた。

 

「む?君が血界・V・ラインヘルツ君だワンね?」

 

「い、犬!?」

 

顔が完全に犬の男性が血界に話しかけたが、血界は後ずさる。

 

「私は保須警察署署長の面構犬嗣だワン」

 

「ちょっ……まっ、近づかなで!?」

 

「どうしたんだ?ラインヘルツの小僧は?」

 

「あの……血界くん、犬が苦手なんです」

 

「なんだ。そんなことか情けない」

 

血界の様子がおかしいことに不思議に思ったグラントリノに緑谷が付け加えた。

 

「んんっ!さっそく今回のことについて話したいワン」

 

署長から説明されたのは血界たちの今回の処分だ。

ステインは骨折、裂傷と重傷で相手がヴィランとは言え危害を加えた血界たちは資格なしなので、立派な規則違反だ。

血界たち4名と彼らを教育していたライトニング、エンデヴァー、マニュアル、グラントリノには厳正な処分を下さらなければいけない。

それに血界と轟が食ってかかる。

自分たちがステインと戦わなきゃ今ごろ、飯田たちは死んでいた。

それなのに規則を守って見殺しにするべきだったのか、と。

人を救けるのがヒーローの仕事だ、署長に向かって抗議した。

しかし、それでも署長は違反だと言うが、ここまでは警察としての建前だ。

公表すれば血界たちは世間から褒め称えられるが、処罰されなければいけないが、公表しなければライトニングたちが功労者として擁立できる。

しかし血界たちの英断と功績も誰にも知られない。

つまり、血界たちには何もお咎めは無しだということだ。

血界たちはこれを承諾した。

 

「大人のズルで君たちが受けていたのであろう賞賛の声はなくなってしまうが……せめてともに平和を守る人間として……ありがとう!」

 

署長は頭を下げ、血界たちに礼を言った。

血界たちにはそれだけで報われた気がした。

 

 

入院から2日後には血界だけは退院した。

緑谷たちは血界の回復速度に驚き、医者は驚き呆れていた。

一部の医者は是非細胞の一部をと、動き出そうとしていたが血界は慌てて逃げた。

その後はライトニングから説教と注意をされたが、最後には心配したと労ってくれた。

そして残りの期間、ライトニングは血界にヒーロー業のことを教えてくれた。

やはりトップ10入りしてるからにはプロらしく、流石の手腕だった。

そして最終日、血界とライトニングは346プロの地下トレーニング室にて、対峙していた。

 

「もう一度確認だ。俺からの課題は自分の弱点を見つけて新しいスタイルを確立すること。そして最終日に俺と戦って1発でも当てればいい」

 

ライトニングはタバコを吸いながら、マグナムに弾を込めていく。

 

「クリアすれば俺が知りたいことを教えてくれる。職業体験で知りたいことが増えすぎだ」

 

血界はナックルガードを装着して、ライトニングを見据える。

 

「期待してるぜ。俺はお前の新スタイルを見てないんだからな」

 

「度肝抜かしてやりますよ」

 

血界の挑戦にライトニングは笑みを浮かべ、血界もそれにつられて笑みを浮かべた。

血界はBOXスタイルを構え、ライトニングもマグナムを構える。

 

「スタートだ」

 

 



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File.47 個性の名は

先に動き出したのは血界だ。

血界はまっすぐ走ってライトニングに向かっていき、最初はジャブを繰り出す。

 

「速いな」

 

ライトニングはそうは言いながらも全ての攻撃をかわしていく。

懐に入り込み、銃口を血界の腹に押し付け、引き金を引く。

 

「ぐあっ!?」

 

凄まじい衝撃と痛みが腹に走り、吹き飛ばされる。

ライトニングの強みは強力な個性、銃の技術もあるが最も大きいのはその観察眼だ。

瞬時に相手の動きを読み、攻撃をかわし反撃に転じる。

銃を持つ者の弱点とされている近接戦にもこの観察眼で不利になることはない。

 

「どうした?変わったのは動きだけか?」

 

「まだまだ……!」

 

血界は再び、突撃するが今度はライトニングは血界に銃を向ける。

 

(さぁ、どうかわす?)

 

数発の弾丸が放たれ、血界を襲う。

 

「『ブレングリード流血闘術 117式 絶対不破血十字盾』!!」

 

盾を出し、銃弾を防ぐが数発は体を掠ってしまう。

血界は痛みで顔をしかめながらもライトニングに向かっていき、拳を振るう。

 

「何度やっても同じだぞ」

 

ライトニングにまたかわされ、さっきとと同じ光景だ。

またライトニングは銃を構え、撃とうとした瞬間を見計らって血界は動いた。

マグナムに向かってストレートを放つ。

 

「オラァ!!」

 

放たれた弾丸とナックルガードがぶつかり、火花が散る。

 

「っ!」

 

「フッ!」

 

一瞬動きを止めたライトニングに血界は弾丸との反動を利用したジャブを放つが、これをライトニングは避ける。

 

(普通弾丸に向かってストレートなんか放つかね?)

 

常人ではまずやろうとは思わないことを挑んでくる血界に冷や汗を流す。

ライトニングが一旦距離を取ろうとするが、血界はそれを追って接近戦をやめない。

しかし、接近戦になってもライトニングにとっては関係なく、弾丸を撃ち続ける。

だが、血界も向かってくる弾丸をギリギリのところでかわし、体に擦り傷ができていく。

 

(少しは怯えろよ…!)

 

掠れているとはいえ、至近距離で撃たれているにもかかわらず血界の攻めは勢いが衰える様子はない。

 

(あともうちょっと……!)

 

血界はあと少しで当たりそうだが、なかなか攻撃が通じないことに焦り始める。

するとライトニングは突然しゃがみ、血界の足を払った。

 

「うわっ」

 

「『BBA Electric laser.44』」

 

雷のレーザーが血界に放たれる。

血界は寸前で腕をクロスして体に直撃するのを防ぐが、遠くまで倒し飛ばされた。

 

「さぁ、振り出しに戻ったぞ。どうする?」

 

「そんなの……攻撃あるのみ!」

 

血界は再び突撃する。

 

「ワンパターンだ、『BBA Thunder Ricochets .44』」

 

四方八方に跳弾する弾丸が血界の前に立ち塞がる。

 

「どうする?突っ込めば弾丸の嵐をくらうぞ?」

 

血界は銃弾の壁を前に深呼吸をして、その先にいるライトニングを見据えた。

 

「ンなの関係あるか!」

 

血界は再び腕をクロスして弾丸の嵐の中を駆け抜ける。

数多の弾丸が血界を襲うが、血界は構わず走り続ける。

跳弾の嵐から抜け出した血界は体と頭を守った腕から血を流して、体がフラついて、倒れそうになる。

 

(ここまでか?)

 

倒れそうになる血界を見たライトニングがそう思った瞬間、血界は倒れる体を足で踏ん張り、ジャブを放った。

 

「『ブレングリード流血闘術 5式 単式血十字小銃』!」

 

ジャブと同時に小型の尖った十字架が放たれ、ライトニングに向かっていく。

意表を突かれたライトニングは寸前のところで避けるが、その瞬間ライトニングの注意は血界から逸れてしまった。

それを見逃さなかった血界はライトニングの懐に入り込み、右拳に力を込める。

 

「『ブレングリード流血闘術 211式 単発式紅蓮血獄撃』!!」

 

至近距離から技に完全に血界は当たる、と思った。

 

「『BBA Thunder Motion』」

 

しかし、その瞬間ライトニングの動きは雷のように急速に早くなり、血界の拳を避けた。

 

「なっ!?」

 

驚く血界に背後に回ったライトニングは背中に1発放ち、血界を吹き飛ばした。

 

「うあぁっ!?」

 

ゴミ箱に吹き飛ばされた血界はゴミに埋もれるてしまう。

 

「ってぇ、もう一回……!」

 

「もう終了だ」

 

ライトニングは銃をしまい、戦闘を終了した。

血界に背を向け、出口に向かっていく。

 

「は!?なんで!?俺はまだやれます!」

 

血界は慌てて立ち上がり、引き止める。

 

「そうじゃない。お前の勝ちだ」

 

「はあ!?」

 

ライトニングが振り返ると彼のコートの右肩部分に燃えたような傷ができていた。

 

「ったく、結構気に入っていたんだがなぁ……また、新しく作らせるか」

 

コートを脱ぎ、そう呟いた。

 

「この傷はお前がつけた。お前の勝ちだ」

 

血界の最後の攻撃がライトニングに掠ったのだ。

掠ったとしても攻撃は当たっている。

血界は掠ってしかいない攻撃に納得がいっていないのか頭を悩ませていた。

 

 

ライトニングはヒーロースーツから私服に着替えようとすると右肩に鈍痛が響いた。

 

「っつぅ……」

 

右肩を見ると青黒く腫れており、折れている可能性もあった。

 

(掠っただけでこれか、老いたな)

 

若い頃なら、あれくらいの攻撃をくらっても自然に回復していたが今では色々と頼らなくてはいけない。

自分の老いを感じながら、血界の力について考えていた。

 

(僅かに触れていたとはいえ、破壊の力がここまで出るか。『血の力』はもしかしたらヴァン以上かもな)

 

ライトニングはその時、血界が自分の父親について知りたがっていたこととと、勝負に勝ったらなんでも話すと約束したのを思い出した。

 

「さて、何を説明されるのやら」

 

ライトニングは少し疲れた表情で言った。

 

 

ライトニングとの勝負が終わり、制服に着替えた血界は346プロ内にあるカフェでライトニングと待ち合わせをしていた。

するとそこにメイド服を着たウサ耳が生えた女性が注文を聞きに来た。

 

「あのー、注文は……」

 

「まだ連れが来てないんで」

 

「菜々ちゃん、俺にはコーヒーをこいつにはオレンジジュースを」

 

「「ライトニングさん!」」

 

私服でやってきたライトニングは血界と同じ席に着く。

 

「じゃあ、お前が知りたいことを話そうか」

 

「えっーと、聞きたいことは……父親のこと、父親の個性のことです」

 

「お前の父親か……」

 

ライトニングは少し思い悩む。

 

「どうしたんですか?」

 

「いや……逆に聞くがお前は自分の父親のことをどこまで知ってるんだ?」

 

ライトニングが血界に質問すると血界は少し言いにくそうにする。

 

「実はその……俺、5年前からの記憶が無くて家族のことは何も知らないんです。気づいたら父さんの葬式でした」

 

血界には5年前の父親が死んだ時から前の記憶が一切なかった。

目を覚ましたら自分の父親と思わしき人の葬式が始まっていたのだ。

自分のことも周りも全く知らない状況で当時の血界は過ごしていた。

その時、出会ったのが血糸と出会い、親戚だと言ってくれて一緒に生活するようになったのだ。

血界がヒーローを目指す理由は自分の父親のことを知りたいという願いが多少あった。

血糸から父親はヒーローだったと教えられたからだ。

 

「そうか……俺が知ってるのは仕事面のことがほとんどだ。プライベートのことはアイツはほとんど話さなかったからな」

 

「父さんの仕事振りってどうだったんですか?」

 

「あー……一言で言っちまえば淡々と敵を倒すターミネーターみたいな奴だったな」

 

「え?」

 

自分が想像していたイメージと違って驚く。

 

「ヴィランを過剰に攻撃してよく警察に注意されてたなぁ」

 

「そ、そっすか……」

 

懐かしむように話すライトニングに血界は衝撃を隠せずにいた。

自分のイメージではオールマイトのような人から好かれるヒーローだと思っていた。

それがまさかの厳つい殺人マシーンみたいだったと言われてしまったのだ。

 

「でも、家族のことはとても大切にしていた。よくお前とお母さんの写真を眺めていたよ」

 

ライトニングが思い起こすのは普段は表情を変えないヴァンが写真を見て微笑んでいる姿だった。

 

「そうなんですか……なんか、意外でしたけどそれを聞けて安心しました」

 

血界はそれを聞いて少し嬉しそうだった。

 

「あと個性のことだったな。お前の個性はヴァンとよく似ているよ。というよりヴァンの個性そのもの見たいだったな」

 

「父さんの個性ってなんだったんですか?」

 

「アイツの個性は『滅獄血』。破壊の力が宿った血の個性だ」

 

「『滅獄血』……」

 

血界は自分の手を見て、確かめるように呟く。

 

「お前まだ個性に名前をつけてないんだろ?ヴ親父さんの名前貰っちまえよ」

 

「はい、そうします」

 

血界は顔しか知らない父親との繋がりを感じ、嬉しかった。

 

 

そして、職業体験が終わり、別れの挨拶となった。

 

「これからも大変だろうけど頑張れよ。お前ならいいヒーローになれるよ」

 

「ありがとうございます!」

 

「次会うときはヒーロー名を決めとけよ」

 

「うっ……はい。でも、次会うってそんなのいつになるか……」

 

「そんなに遅くないと思うぞ」

 

「?」

 

血界が346プロから出ていくのを眺めながら、ライトニングは後ろに話しかける。

 

「あんな感じで良かったのか?」

 

「はい、ありがとうございます」

 

ライトニングの背後にある柱から現れたのは血糸だった。

 

「いいのか?本当のことを話さなくて?」

 

「……真実を話すのはまだ早いと思います。アイツが耐えられるとは思えない」

 

血糸は辛そうにそう言う。

 

「俺が話してもいいんだぞ?」

 

それを見たライトニングがそう提案するが血糸は首を横に振る。

 

「それはアイツの家族として、ヴァンさんの最後の頼みを任された俺の役目です」

 

血糸の目には覚悟が宿っていた。

 

「そうかい……まっ、頑張れよ」

 

ライトニングはそう言って、自分の仕事に戻った。

彼らが言っていた真実とは一体何なのか。

それを血界が知るのはもう少し先だ。

しかし、今言えることは、それを知った時に血界には大きな運命が待ち受けているということだ。

 



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Origin:耳郎 響香
File.48 Jazz


ここから少し耳郎の話になります。
自分的に耳郎が凄く好きなので、彼女が強くなるところを書きたいと思います。


職業体験で耳郎は血界と同じ職場、346プロヒーロー事務所を訪れた。

そこで彼女の担当は自身が憧れているジャズになり、共に行動することになった。

耳郎は現在ジャズとともにヒーロー業がどういったものなのか教えてもらいながらパトロールをしていたが、彼女のファンが押し掛け、人の波に飲み込まれそうになっていた。

 

「キャー!ジャズー!!」

 

「サインください!」

 

「握手してください!」

 

「あの…ファンです!この前出したCD買いました!がんばってください!」

 

多くの人がジャズに詰め寄っていた。

 

「ありがとう。これからも頑張るよ。はい、これサインね」

 

ジャズは多くの人に詰め寄られながらも笑顔で接しており、次々と人を捌いていっている。

それを少し離れていたところから耳郎は呆気にとられていた。

 

「ジャズさんってここまで人気だったんだ」

 

最近人気の若手だとは知っていたがここまで人気だとは知らなかった。

すると耳郎に話しかける者もいた。

 

「君って、この前の雄英体育祭の子だろ?」

 

「何々?もうヒーロー活動してるの?」

 

「ヒーロー名は!?」

 

質問攻めされる耳郎はたじろぐ。

 

「えっ、ちょっと待って!」

 

段々と追い詰められる耳郎をジャズが助け出した。

 

「その子は職業体験で来てくれたの。あまり困らせないであげて」

 

ジャズが耳郎の腕を引っ張り、自分の方に寄せて彼女を守りながら、群衆の中から出た。

 

「助けてくれてありがとうございました」

 

「いいのよ。人に知られてくるとこう言ったことなんてザラにあるから、どうやって上手く切り抜けるのかも知っておいたほうがいいわ。私は10分間だけファンにサービスするって決めてるしね」

 

そう言いながらも応援してくれるファンには手を振ったりとちゃんと答えている。

 

「さて、大まかなヒーロー活動については説明したから今度は私独自のことを話すわ」

 

「はい!」

 

「そんなに固くならなくていいのよ?緊張しすぎると見えるものも見逃しちゃうわ」

 

途中で飲み物を買ったジャズは耳郎にも飲み物を渡し、その場で話す。

 

「主に私たちは市街地での活動が多いわ。特に人が多い歓楽街とかね」

 

「ここら辺も歓楽街ですよね」

 

「そうね。歓楽街だと昼夜問わず犯罪が多くなるわ。特に夜が多いけど、それはまた今度ね」

 

そう言った瞬間に、後ろの方が騒がしくなる。

 

「なんだろ?」

 

「イヤホン=ジャック!行くわよ!」

 

「え?は、はい!」

 

突然走り出したジャズを追いかける耳郎。

彼女たちが向かう先では2人のチンピラが喧嘩をしていた。

 

「なんだ、テメー!!」

 

「お前が俺の女とったんだろうが!!」

 

1人はゴミ箱からゴミを吸い上げて口の中に貯める。

もう1人は異形型なのか身体が2m近くある。

ジャズは群衆を掻き分け、2人の前に出る。

 

「やめなさい!往来で喧嘩なんて何考えているの!」

 

「なんだ。このアマァ!?」

 

「邪魔すんな!!」

 

「私はヒーローよ。もし手を出したら貴方達を無理矢理でも止めないといけなくなる」

 

ゴミを吸い上げた男はヒーローと聞いて、一瞬たじろぐが異形型の男は怒りが収まらないのか拳を振り上げた。

 

「うるせえェェッ!!」

 

「仕方ないわね」

 

相手がこっちに危害をくわえるとわかった瞬間、ジャズの動きは速かった。

持っていた空き缶を男に目掛けて投げ、顔面に命中させ目を閉じた瞬間にジャズは伸びてきた腕を利用して男の頭まで飛び上がり顎を蹴った。

 

「がはっ!?」

 

男は頭を揺らされ、動けなくなった。

 

「貴方もやる?」

 

「い、イエ!結構です!!」

 

ゴミを貯めていた男は姿勢を正し、ジャズに敬礼した。

 

「すご……」

 

事件解決の手際の良さに耳郎は舌を巻いていた。

するとすぐ近くでジャズのファンが少し残念そうに話していた。

 

「あー、やっぱり個性は使わなかったかー。俺、ジャズの演奏が聴けるの楽しみでほぼ毎日ここにいるのになー」

 

「CDで聴けばいいんじゃないの?」

 

「バカッ!オメー、生で聴くとマジで痺れるからな!CDとは全く違うんだよ!」

 

「ふーん、そんなに違うんだ。彼女って確か元々ジャズ演奏者なんだよね。どうしてヒーローになったんだろ?」

 

その話を聞いていた耳郎はその話を初耳だった。

 

(ジャズさんって元々楽器やってたんだ……)

 

両親が音楽関係の仕事をしているからか耳郎も音楽には並々ならない情熱がある。

ジャズとの不思議な繋がりがあることに少し嬉しくなる耳郎だった。

 

 

その後、喧嘩をしようとしていた2人には厳重注意と警察に引き継ぎをした。

そしてまたパトロールを始めると耳郎がジャズに質問した。

 

「あの…ジャズさんって元々ジャズ演奏者なんですよね?」

 

「そうよ。よく知ってるわね?」

 

「さっき話を聞きまして……それで、ジャズ演奏者だったのになんでヒーローになろうって思ったんですか?」

 

「そうね……」

 

ジャズは少し考えるそぶりを見せて、口を開いた。

 

「私ね。元々人が喜ぶ姿を見るのが好きだったの。勿論ジャズを演奏するのも好きだったのもあるわ。私の演奏を聞いてくれて喜んでくれる人を見て嬉しかった」

 

笑顔で話してくれるジャズを見て、それが本心だということは耳郎にもよくわかった。

しかし、笑顔から一転顔が曇る。

 

「だけど昔ある事件でそれが少し変わったの。私がヴィランに捕まってヒーローに助けて貰えたんだけど、その時の人を助けるヒーローたちの姿に憧れてね。音楽学校に行く予定だったけどヒーロー科の学校に変えたわ。『人を幸せにしたい』、それが私の原点(オリジン)かしら」

 

「原点(オリジン………」

 

耳郎は確かめるように呟く。

 

「それに自分の好きなことで人を助けれるなんて素敵じゃない?」

 

ジャズのその言葉に耳郎はハッと何かに気づく。

耳郎は今回の職業体験で自分の成長に繋がる何かを見つけたいと思っていた。

それに気づけそうになった耳郎はジャズに話そうとしたが、その時2人が装着していたインカムから連絡が入る。

 

『ジャズさん、近くでヴィランが暴れているみたいです。向かってください。場所は○○○です』

 

「了解。行くわよ、イヤホン=ジャック!」

 

「は、はい!」

 

ヴィランが暴れている現場に到着すると人だかりの先に1人のヴィランと複数のヒーローが対峙していたが、ヒーロー達はヴィランと対峙するだけで動いていない。

人混みを抜け、ジャズが現場に来ていたデステゴロに話しかける。

 

「デステゴロさん。どういう状況ですか?」

 

「ジャズか!どうやら薬物をやっていたみたいでな……生半可な攻撃じゃ効きそうにもない。下手に攻撃を加えて暴れられたら状況が悪化する」

 

周りの建物を見ると破壊された跡があり、酷い状況だ。

 

「……わかりました。私がやります。デステゴロさん達は市民を安全なところまで下がらせてください」

 

「頼むぞ!」

 

ジャズが皆の前に出てヴィランと対峙する。

ヴィランは腕から刃物を伸ばして、まるで翼のようになっている。

 

「ジャズさん!」

 

「イヤホン=ジャックはデステゴロさん達と協力しながら、後ろで見てなさい」

 

耳郎はジャズに言われた通りにデステゴロたちと共に市民を安全なところまで下げる。

ジャズはゆっくりヴィランに近づいていく。

 

「俺オレオレ?俺はあはは!ううゔっ!!」

 

ヴィランは薬物のせいで何を言っているかわからず、さらに自身を抱きしめるようにしているせいか体に傷付いている。

 

「ねぇ。ちょっと私の声聞こえる?少しお話ししない?」

 

ジャズは優しくヴィランに話しかける。

するとヴィランはジャズを見ると一瞬動きが止まる。

動きが止まったと思った瞬間、ヴィランは腕を振るいジャズに刃物を投げた。

ジャズは向かってくる刃物に対し、腰から金色に装飾された管のようなものが付いた少し大きめの銃を抜き、弾丸で弾いた。

 

「フッ…!」

 

続けてヴィランに向かって撃とうとするが、それより早くヴィランが薬の影響か凄まじい跳躍力でジャズに襲いかかる。

ジャズは寸前のところで避けるが態勢を崩してしまい倒れてしまう。

ヴィランは倒れたジャズに刃物を振り下ろすが、ジャズは転がって避け、銃を向け発砲する。

全弾命中するがヴィランは痛がる様子はなく、血走った目でジャズを睨みつける。

 

「効いてない!?」

 

「薬の影響で痛覚が麻痺してるんだろう。撃たれても平然としているなんて強力な薬だ」

 

ヴィランは再びジャズに襲いかかり、斬りかかるがジャズは銃を盾にして吹き飛ばされた。

 

「キャアッ!」

 

「ジャズさん!」

 

「待て嬢ちゃん!もう仕込みは終わった!」

 

「仕込み……?」

 

耳郎がその言葉に不思議に思うとジャズは立ち上がり、ベルトのホルスターに下げてある手の平サイズの円盤を取り、銃口に装着して前に伸ばすと銃からトランペットに変形した。

 

「トランペット?」

 

その瞬間、戦いを見守っていた人たちが沸き立った。

 

「待ってましたー!!」

 

「素敵な曲、お願いします!」

 

さっきまでの不安な表情とは打って変わって全員が色めき立つ。

 

「曲って…まさか!」

 

耳郎はジャズがお気に入りのヒーローであるため、勿論彼女の活躍を見たことはある。

そしてその中で最も印象が残っていたのがヴィランを倒すところだ。

ジャズはトランペットを演奏すると攻撃してこようとしていたヴィランの動きが止まり苦しみだす。

 

「ガッ……アァッ!?」

 

ジャズの演奏は力強く、そしてどこか上品さがある。

聞いている人たちはやがて戦いを見守るのではなく、ジャズの演奏に耳を傾け始める。

演奏がクライマックスに差し掛かるとヴィランの苦しみ様も激しくなる。

そして徐々にだがヴィランの体から波動のようなものが目に見えてくる。

 

「アアアァァァァァッ!!?」

 

最後に高くトランペットを吹くとヴィランは叫び声を上げて倒れた。

そして周りからは拍手と歓声が上がる。

その時、野次馬はジャズの演奏を聴きに来た観客となっていた。

耳郎は拍手を送られてお辞儀して答えるジャズを見て、自分の中で思う。

自分もあんな風になりたいと、自分の好きなもので人を助けるジャズに憧れた。

 



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File.49 オリジン:耳郎響香 1

ヴィランとの一戦を終えたジャズに耳郎はどうしても聞きたいことがあった。

そのため彼女は事務所に戻ったあと相談したいと言い、喫茶店に移動していた。

 

「それで?相談ごとって?」

 

「その…ジャズさんの戦い方に感激したんです。それで、できればその戦い方を教えて欲しいって思ったんですけど……」

 

「私の?」

 

「楽器を使った戦い方です」

 

その言葉にジャズは納得がいった。

 

「でも、貴女の使う楽器ってギターでしょ?」

 

「え、なんで知ってるんですか?」

 

「握手した時に指にタコができていたの気づいたから」

 

ギターをやっている人の特徴にジャズは気づいていた。

 

「私、そんなにギターが得意じゃないから教えることはできないと思うけど……なんで私みたいに戦いたいと思ったのかしら?」

 

「……そのウチの両親は音楽関係の仕事をしていて、その影響か音楽は凄く好きです。小学生の頃まではヒーローよりそっちの方が興味がありました。でも、中学の時にそれが変わって……」

 

耳郎は出会った当初の血界の姿を思い出し、嬉しそうにして少し顔を赤く染める。

 

「そっか……それが貴女の原点なのね」

 

「そう……ですかね」

 

「別に教えるのは構わないわ。でも、これって特別な武器ありきの戦い方だから中々難しいわよ?」

 

「それでも!やってみたいんです!ジャズさんが言っていた『好きなもので人を助ける』のをウチもやってみたいんです!」

 

耳郎の本気の目にジャズは真っ直ぐと見つめて、彼女の本気を確かめる。

 

「わかったわ。私が何を教えることができるかわからないけど、できる限りのことは教える」

 

「ありがとうこざいます!」

 

頭を下げる耳郎を見て、私もこんな時があったなぁ、と昔の自分と重ねて懐かしんでいるとジャズのケータイに通知が入った。

それは呑みの誘いだった。

 

「ねぇ、耳郎さん。この後って何か予定とか入ってる?」

 

「いえ、特にはないですけど……」

 

「それなら一緒に食事はどう?他の人もいるんだけど、耳郎さんに会ってみたいって言ってるの」

 

「ウチはいいですけど迷惑じゃないですか?」

 

「全然よ!むしろあっちが会いたがっているみたいだし」

 

「あっち?」

 

それを聞いて耳郎は了承し、ヒーロースーツから私服に着替え、目的のお店にやってきた。

住宅街の中にひっそりと佇んである純和風な居酒屋で横にかけられてある大きな赤提灯には『しんでれら』と書かれてあった。

 

「ここよ」

 

「なんか意外ですね。もっと人が大勢いるところかと思っていました」

 

「まぁ、人気者だと色々と面倒があるからね」

 

店に入ると質素な作りの居酒屋で落ち着く感じだった。

ジャズは奥の座敷に進んでいくとそこにはもう飲んでいる人たちの姿があった。

 

「あ、来ましたね」

 

「楓さん!?」

 

そこにいたのは高垣 楓と川島 瑞樹、そして私服姿のナイトクラブだった。

 

「耳郎さんお久しぶり」

 

「お久しぶりです」

 

楓が耳郎に挨拶すると川島が間に入ってきた。

 

「貴女が耳郎さんね。私は川島 瑞樹です」

 

「よろしくお願いします」

 

「ノーチさん、今日は夜番じゃないんですか?」

 

「今日はビーが当番よ。久しぶりにゆっくり呑めるわ」

 

「今日は寝かせないからねー!勿論カレンちゃんもね!」

 

「あはは……お手柔らかに」

 

テンションが上がっている川島にジャズこと本名、青木 カレンは苦笑いをする。

和気藹々とする楓たちに耳郎は参加していいのか、不安になる。

 

「あの…ウチも参加していいんですか?お酒なんて飲めないし」

 

「いいんですよ。私がゆっくりお話ししたかったんです」

 

楓が耳郎に優しく、そう説明する。

そうして楓たちと耳郎との親交会が始まった。

主に楓たちが耳郎に質問しており、耳郎は質問攻めされていた。

するとお酒が入って顔が赤くなってきたジャズが爆弾発言をした。

 

「それで〜…響香ちゃんは血界くんと恋人関係なの?」

 

「へっ!?」

 

「カレン……貴女酔ってる?」

 

ナイトクラブが呆れたようにジャズを見る。

 

「いいじゃないれすか!ヒーロー業って色恋沙汰と無縁なんですから!」

 

「じゃ、ジャズさん?」

 

「カレンちゃん。お酒弱いのに今日はハイペースだったもんね」

 

「初めて後輩を相手しているから、テンションが上がったんでしょうね」

 

耳郎の中にあったクールな印象が崩れていった。

 

「それ、私も聞きたかったんです」

 

「楓さんも!?」

 

「私も気にならないって言ったら嘘になるわね」

 

「今時の若い子ってそこら辺はどうなのかしら?」

 

それに便乗して楓、川島、ナイトクラブも質問しだした。

 

「それでどうなの?」

 

楓が優しく聞くと耳郎は顔を赤くして、恥ずかしそうにしながらしぶしぶと答えた。

 

「べ、別にウチと血界はそんな関係じゃありませんよ」

 

「でも、貴女達ここに来るとき仲が良さそうだったじゃない」

 

「それにチーくんのこと大切な人って言ってましたよねー?」

 

「あら?楓ちゃんもう酔っちゃった?」

 

楓が酔っ払ってしまい、爆弾発言をしてしまい耳郎の顔は一気に熱くなる。

 

「そ、それは……!と、とにかく!血界とは何にもありません!!」

 

耳郎は誤魔化すように大声を出し、隣に座っていたジャズのそばに置いてあった飲み物を一気に飲み干した。

 

「ふふっ、若いっていいわねぇ。じゃあ血界君との出会いとか聞いてみたいわね」

 

「いいれすねー!私も聞きたいです!」

 

「私もです」

 

「アンタたち……」

 

川島は少し悪戯心で耳郎にさらに質問する。

それに便乗するジャズたちにナイトクラブは呆れる。

ここで耳郎が嫌がったら止めようと思っていたが、それはならなかった。

 

「はーい!わかりましたー♪」

 

『!?』

 

さっきまでの様子とは打って変わって快活に話し出す耳郎に一同面を喰らう。

 

「じ、耳郎さん?」

 

「あっ、アンタそれ!?」

 

「え?」

 

耳郎が持っているグラスはジャズが頼んだアルコール数が高めの酒だった。

流石の事態にジャズも酔いが一気に覚めた。

 

「あっ……やっちゃった」

 

「もう、何やってるのよ」

 

「とにかく水を飲ませましょう!耳郎さん、お水飲んで」

 

川島から水を渡されるが耳郎はそれをジッと見る。

 

「それでですねー!血界との出会いわ〜」

 

「ダメだ。言うことを聞かないわ」

 

どうやら耳郎は酒にはめっぽう弱いようで、キャラが壊れていた。

無理矢理飲ませるのも気が引けるので、どうするべきかと悩んでいると楓が切り出した。

 

「いいじゃないですか。このまま耳郎さんのお話しを聞きましょうよ」

 

楓は飲みながらそう言った。

 

「楓ちゃん、もしかして酔ってない?」

 

「はい、こうでもしないと耳郎さん話してくれなさそうだったので少し演技を。チーくん、自分のことあまり話さないから聞きたかったんですよ」

 

悪戯っ子ぽく微笑む楓を見て、ナイトクラブたちは仕方がないなといった表情になる。

 

「それではー!ウチと血界の出会いを話したいと思いまーす!」

 

とりあえず迎えの車を呼んでおいて、それまで耳郎の始まりの話に耳を傾けた。

 

 

小学校から中学校に上がり、彼女は自宅から一番近い中学校に入学した。

彼女の両親は成績もいいのだから進学校を勧めたが、友人達と別れるのが嫌で多くの友人が通う学校にしたのだ。

しかし、耳郎の地元である東京の少し郊外は中々有名な治安の悪さだった。

素行の悪い若者が多くおり、ヴィランがよく目撃されており、親としてはそんなところにある学校より、もっと治安のいいところに進学させたいが娘の意思を尊重して、入学を許した。

耳郎の性格は元々クールなところがあるが、悪いことは見逃さない熱いところがあった。

小学校ではそんな性格でよく周りに頼られていた。

中学に入ってもその性格で周りとは良好な関係を築いていた。

 

そんな生活も慣れ始めたころ、いつも通りの通学路を通っていると路地に差し掛かったとき、誰かの悲鳴が僅かに聞こえた。

気になった耳郎はスマホを取り出し、いつでも警察に通報できるようにして、路地裏に入り覗き込んだ。

覗き込んだ先には1人の男子学生が立っており、その周りには多くの学生が倒れていた。

路地裏は陽が当たらず、立っている学生の顔はよく見えない。

しかも、その立っている学生は耳郎が通っている辺須瓶中学校の制服を着ていた。

 

(あれってうちの学校の制服だ……マジかよ……)

 

通っている中学校の生徒が暴力事件を起こしたことに驚いた耳郎は足元の空き缶に気づかず、蹴り倒してしまう。

 

「誰だ!」

 

「やばっ……!」

 

逃げようとするがつまずいてしまう。

転びそうになるが、耳郎の手を男子学生が掴んで助けた。

その時、男子学生の顔がはっきりと見えた。

真紅の髪と吊り上がった目。

それだけなら、恐怖の対象だけだったがその目はどこか優しさが見えた。

 

「大丈夫か?」

 

「え、うん」

 

起こされた耳郎はさっきまでの緊迫した様子の少年とは打って変わって優しげな雰囲気に、戸惑う耳郎は立たせてもらうと少年と対面する。

 

「あ、アンタ、ウチと同じ学校だよね?」

 

「あぁ、そうだな。俺は血界・V・ラインヘルツだ」

 

「え、あっ、ウチは耳郎響香……」

 

普通に挨拶してきた血界に戸惑う耳郎は詰まりながらも自己紹介をした。

これが耳郎と血界の出会いだった。

 



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File.50 オリジン:耳郎響香2

令和最初の投稿


血界との出会い。

それは路地裏で僅かに血の匂いが醸し出している殺伐とした場所でだった。

耳郎は黙っていても仕方がないので話しかけてみることにした。

 

「名前さ、どっちで呼べばいい?」

 

「血界でいい」

 

「血界ね、オッケー。ウチのことは好きに呼んでくれていいから」

 

この時耳郎は人を殴り倒すような奴だが不思議と血界からは恐怖心を感じなかった。

その時、倒れていた学生の1人がゆっくりと立ち上がり持っていた鉄パイプを気づいていない血界に振り下ろした。

 

「ウォリャァァッ!!」

 

「危ない!」

 

「チッ!」

 

血界は避けずに耳郎を庇って、腕で鉄パイプを受け止めた。

 

「ラァッ!」

 

「グヘッ!?」

 

血界は相手の鼻っ面な目掛けて殴り倒し、それと同時に遠くからサイレンの音が響いてきた。

 

「やべっ!警察だ!行くぞ!!」

 

「えっ、ちょっと!」

 

血界は耳郎の手を取って逃げ出した。

2人は少し離れた公園に着き、やっと一息ついた。

 

「ふぅ…、なんとかバレずに済んだな」

 

「ハァ…ハァ…早すぎだって…!」

 

血界の速さに耳郎は手を引っ張られていても、着いて行くのに精一杯だった。

そして漸く血界に手を握られていることに耳郎は気づいた。

 

「ちょ、ちょっと!離してよ!」

 

「おっ、悪い」

 

血界は何ともないようだが、耳郎は少し恥ずかしそうにしていた。

まだ中学生になったばかりで色恋の感情はこれから育っていくが、それでも男子と手を繋ぐのは恥ずかしいらしい。

その時、耳郎は血界の手が傷ついていることに気づいた。

 

「手、怪我してるじゃん!」

 

「あ、本当だ。まぁこんくらいならいつか止まるよ」

 

「そんなこと言ってないで!ほら!」

 

耳郎は血界の手を取って、水で傷を流し持っていたハンカチで覆った。

 

「これでよし」

 

「ありがとうな、ハンカチ洗って返すよ」

 

「いいよ。気にしなくて」

 

2人は遅刻確定だが、とりあえず学校に行くことにした。

 

「じゃあ血界はここに2年前に引っ越してきたんだ」

 

「ああ、叔父さんの家で暮らしてるんだ」

 

2人は学校に着き、それぞれのクラスに別れた。

 

「じゃあな」

 

「うん、今日はありがと」

 

耳郎が教室に入ると友人たちが慌てて駆け寄ってきた。

 

「キョウカ!大丈夫だった!?」

 

「何もされてない!?」

 

「ちょ、ちょっと何?どうしたの?」

 

「だって、『あの』ラインヘルツと一緒だったじゃん!」

 

友人のその言葉が気になり、問いただす。

 

「『あの』?ねぇ、それってどういうこと?」

 

「知らないの?ラインヘルツってこの学校じゃ有名な不良だよ」

 

「何人も病院送りしたり、先生も殴ったって聞いたし」

 

「そうなんだ……」

 

それを聞いた耳郎はさっきの血界の目を思い出し、何故かそんなことをするような奴には思えなかった。

その後も血界の噂を聞いて回ったが、どれも暴力沙汰なものばかりで、皆口々に血界のことを危険な奴だと言うが、耳郎はどうしても皆言うような人間には思えなかった。

 

 

その日の放課後、耳郎が下校している前を同じ学校の男子生徒が慌てた様子で走り抜けた。

気になり通ってきた道を覗くと血界が不良たちに囲まれていた。

 

(また!?今朝喧嘩したばっかりなのに!?)

 

とりあえず身を隠し、気づかれないように様子を伺う。

 

「どーしてくれんだよ。アイツが俺たちに金を恵んでくれるってのによー」

 

「人の善意を無下にしちゃいけないだろー?」

 

血界を囲っている不良はニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべていた。

血界は苛立っているようで目つきが鋭くなっている。

 

「恵んでもらう?中学生に金を恵んでもらうとか情けねぇな」

 

「あぁっ!?」

 

不良たちは一気に怒りを露わにする。

すると不良の1人が持っていたバットを血界に振り下ろした。

 

「調子乗ってんじゃねぇぞ!!」

 

「うぐっ!?」

 

殴られた血界はフラつくが踏みとどまり、殴った相手に振り向く。

 

「1発は1発だよな?」

 

頭から血を流しながらも、拳を握る。

勢い良く打ち出された拳は真っ直ぐに不良にぶつかり、壁に叩きつけられた。

殴られた不良は鼻から血を流し、気絶していた。

 

「テメェッ!!」

 

不良たちは突然のことに驚きながらも血界に殴りかかろうとするがその時、パトカーのサイレンが鳴り響いた。

 

「ヤベッ!警察だ!」

 

「逃げるぞ!」

 

不良たちは慌てて逃げ出し、血界を置いて行った。

 

「サイレンの音聞いたら犬みたいに逃げ出すとか、ダサいよね」

 

「耳郎……」

 

そう言いながら出て来たのはスマホを持った耳郎だった。

スマホからパトカーのサイレンを鳴らしたようだ。

2人は公園に移動し、血を流す血界の治療をすることにした。

 

「本当は病院に行った方がいいんだけどね」

 

「病院に行ったらおじさんにバレちまう。それだけは勘弁だ」

 

「そう、とりあえず血を拭おうよ。……今ハンカチないから手のハンカチ貸して」

 

「ああ、ほらよ」

 

血界がハンカチを解き、渡すときに手の甲が見えたがそこには傷が一切なかった。

 

「今朝、傷ができたのにもう治ってる。アンタの個性?」

 

「なのかもな。俺も詳しいことはわからないんだ。多分頭の傷ももう治ってるはずだ」

 

「さっきのが?そんなわけ……」

 

無いと言おうとしたが頭を覗くと確かに傷は無かった。

とりあえず耳郎は顔に付いている血を拭ってあげた。

その作業をしながら耳郎は何故喧嘩をしていたのか聞くことにした。

 

「なんで喧嘩してたの?」

 

「喧嘩なんかしてねえよ。アイツらがカツアゲしてたから止めただけだ」

 

それを聞いて耳郎は感心した。

正義感を持って行動できる者なんて中々いないが暴力に手を出したのはいけなかった。

 

「凄いじゃん。でも殴ったのはマズイでしょ」

 

「なんかイライラして殴っちまったんだよ」

 

「イライラしたって……」

 

「先に殴ってきたのはあっちだ」

 

「アンタ学校でなんて言われてるか知ってる?『真紅の鬼』って言われてるよ」

 

「なんだ?そのクソダサいの」

 

「学校の中でも外でも暴れ回ってるヤバイ奴だって」

 

それを聞いた血界は気まずそうにする。

 

「このままじゃ学校で孤立するよ」

 

「いいよ、別に。友達もそんなにいねぇし」

 

そう呟く血界はどこか寂しそうに見えた。

そんな彼を見放すことなんて耳郎はできなかった。

 

「じゃあウチが手伝ってあげるよ。血界の変なアダ名を消すの」

 

「ハァ?いらねぇよ、そんなの」

 

「いいじゃん。今朝のお礼だよ」

 

「ハンカチで充分だ」

 

「ウチはそれじゃ足りないの」

 

血界がどれだけ断ろうが耳郎は譲る気が無いらしく、とうとう血界が折れた。

 

「わかった!……じゃあ好きにしろ」

 

「うん、好きにさせてもらう」

 

耳郎は笑みを浮かべて血界を見る。

 

「ウチが血界を救ってあげるよ」

 

「なんだそりゃ」

 

血界は可笑しそうに笑うが、どこか嬉しそうだった。

こうして血界の汚名返上の活動が始まった。

 

 

翌日から血界たちは一緒に登下校をし、狙われやすいのを防ごうとしたが、

 

「なんでこうなるの……」

 

呆れた表情で呟く耳郎たちの前には不良たちが待ち構えていた。

 

「ガキコラァッ!!!昨日のお返しだァッ!!」

 

そう叫ぶ不良たちは昨日血界に倒された者たちだった。

 

「しぶてーなぁ、お前らに構ってるほど暇じゃねぇんだよ」

 

「なんだとォッ!?女の前だからってカッコつけてんじゃねェゾ!」

 

「そんなんじゃねーって……」

 

困ったように血界は頭を掻いた。

 

「それかあれか?女の前でボコされるのが恥ずかしいかぁ?」

 

「あぁ?なんだと……?」

 

血界は不良たちを睨みつけ、拳を握る。

不良たちはそれぞれ持っていたバットや木の棒を構える。

血界もそれに合わせて拳を構えるが、耳郎が止めた。

 

「ストップ!喧嘩しちゃいけないって!血界は苛立ちを抑えて……!」

 

「だけどよ…!」

 

血界を止めた耳郎は不良たちにスマホを見せる。

 

「アンタたちも!喧嘩しても意味ないでしょ!」

 

「うるせー!まな板女!ガキは黙ってろ!」

 

「まな……!?」

 

耳郎は不良の罵倒に衝撃を受けて、自分の胸辺りを触って悲しそうな顔になる。

 

「おい、耳郎?」

 

血界は耳郎に話しかけるが、耳郎は答えない。

すると今度は怒りの表情でスマホを掲げる。

 

「アンタたち!さっき警察に通報したから!もうすぐ来るよ!」

 

「テメ!勝手なことを!」

 

「ホラ!どうするの!?このままじゃアンタたちブタ箱行きだよ!」

 

「お、落ち着けって」

 

今度は血界が耳郎を抑えようとして、そこに自転車に乗った警察官が現れた。

 

「お前たちここで何してる!」

 

「ヤベッ!逃げるぞ!」

 

「こら!待ちなさい!」

 

警察官が追い掛けるが散り散りになって追い掛けるのは無理だった。

警官は一端こっちに戻ってきて、血界を見ると訝しげな表情になる。

 

「君たちが通報したのかい?」

 

「はい、アイツらに因縁をつけられて」

 

「君が何かしたってことは?」

 

警官は血界を睨みつける。

 

「は?」

 

「ちょっと、いきなり何ですか?」

 

突然訳のわからないことを質問され、不機嫌になる血界と怪訝な表情になる。

 

「君、この前補導されていたよね?君が喧嘩をふっかけてそれが問題になったんじゃないのか?」

 

「何だと…!」

 

「血界!落ち着いて!」

 

血界は怒りで警官に詰め寄ろうとするが、耳郎が体を押して止める。

しかし、耳郎も怒りを感じて警官に不信な目を向けた。

 

 

結局、他の警官からは疑いを持たれなかったのですぐに解放されたがあの警官どころか他の警官も血界に疑いの目を向けていた。

学校への道を進んでいるが血界は怒りが収まらず、電柱を蹴る。

 

「チクショウ!何なんだよアイツ!」

 

「アレは酷いね……完全にこっちが悪いって決めつけてたじゃん」

 

「こんなことやっても無駄だって!周りの奴らも俺が危険な奴だって思って近づきやしねぇよ!」

 

自暴自棄になる血界だが、耳郎は落ち着くように話しかける。

 

「そんなこと言わない。ここから変わっていけばいいじゃん」

 

「はぁ……ホントお節介だな。お前……」

 

呆れたようにため息を吐く血界だが、自分のために動こうとしてくれる耳郎に少し嬉しくなる。

 

「じゃあ、まずは学校から印象を変えるよ」

 

「学校ってどうするんだよ?」

 

「最初は挨拶から!通り過ぎる人たちに笑顔で挨拶して」

 

それを聞いた血界は不安になる。

あまり人相が良くない血界が挨拶しても効果はあるのだろうか。

 

「大丈夫かそれ?」

 

「大丈夫だって!……多分」

 

最後の言葉に不安を覚えるがとにかくやってみるしかなかった。

すると前に耳郎の友人たちが前を歩いていた。

 

「それじゃあ、やるよ」

 

「腹括るか」

 

2人は友人たちに近づく。

 

「おはよー」

 

「あ、キョウカだ!おはよー!」

 

「おはよ……」

 

友人の2人は挨拶をするが耳郎の背後にいた血界に気づき、顔を青くする。

 

「ら、ラインヘルツ!?」

 

「あわわわ……」

 

明らかに怖がっており、血界はやはり辞めようとするが耳郎が血界を抑える。

仕方なく、血界は引攣らせながらも自分ができる限りの笑顔を見せる。

 

「えーっと、おはようございます!」

 

「「きゃあぁぁぁあっ!!」」

 

友人たちは血界の不自然な笑顔を見て、恐怖心がピークに達して走って逃げてしまった。

置いてけぼりにされた2人はなんとも言えない心境だった。

 

「はぁ……」

 

「前途多難だね……」

 

先行きはとても不安なものだった。

 



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File.51 オリジン:耳郎 響香3

血界とともにイメージアップの活動をし始めてから数日が経った。

あれから色々なことをしたがことごとく失敗している。

例えば挨拶をしては普通の人たちは怖がり、そうでない者たちは喧嘩を売っているのかと詰め寄ってくる。

ボランティアに参加しては何か裏があるのではないかと疑われ、木に引っかかった風船を取ってやれば顔を見た子供が泣いてしまう始末だ。

 

「はぁ〜……」

 

学校の屋上で血界は深いため息をついた。

最近の耳郎とのイメージアップ作戦の空振りで疲れていた。

そこに扉を開けて耳郎が入ってきた。

 

「あっ、いた」

 

「耳郎か……」

 

「何しょげた顔してんのさ」

 

「しょげた顔もしたくなるって、やってもやっても俺の印象変わらねえだろ」

 

「そんなことないって!少しは改善……」

 

血界は耳郎をジッと見てきて、耳郎は気まずくなる。

 

「ごめん……」

 

「はぁ」

 

2人の間に気まずい空気が流れるなか、耳郎が話しかけた。

 

「そういえばさ、血界って何であんな風に……その……人のために動けんの?普通怖いじゃん。あんな状況」

 

普通の人ならば見て見ぬフリをしてしまう。

その中に飛び込んで行けるのはよっぽど正義感が溢れる者か、考えずに介入する馬鹿だ。

 

「……父親の影響だろうな」

 

「父親?血界のお父さんって何やってんの?」

 

「ヒーロー……」

 

「凄いじゃん!親がヒーローなんて…!」

 

「……だった」

 

「あっ……」

 

少し表情を暗くして言う血界に察した耳郎はより気まずそうにする。

つまり、血界の父親は死んでしまったということだ。

 

「そんな暗い顔すんなよ。俺だって父親がヒーローだったっていうのは聞いただけだからな」

 

「どういうこと?」

 

「俺、記憶が無いんだ。12歳から前のがな。それで父親のことも覚えていないんだよ。それでも父親のことを知りたくてヒーロー気取りのことしてるけど、これだからなぁ……」

 

あっけらかんに答える血界だが、耳郎にはどこか寂しそうに見えた。

 

「それでも凄いよ。人のために自分から進んで動けるなんてそうはいないよ」

 

耳郎がそう褒めるが血界は複雑そうな顔になる。

 

「どうだかなぁ……」

 

「何が?」

 

「……最近は分からなくなってきたんだ。人のためにっていうより俺が苛立ったから動いていたかもしれねぇ」

 

「そんなこと……」

 

「警官が俺を疑うのは仕方ないよな。これじゃあ、そこらの格下ヴィランと同じだ」

 

今までの活動が功を奏さないからか、自分を卑下するように血界は言った。

すると、耳郎が立ち上がり血界の前に立つ。

 

「なにそれ?」

 

「どうした?」

 

「血界がそんなこと言うなんてガッカリした」

 

耳郎はどこか残念そうにして、血界の下から去って行った。

 

 

(はぁ……やっちゃったなぁ……)

 

耳郎は教室の机に頬杖をつきながら、外を眺めながら心の中でため息を吐く。

自分でも何故あんなことを言ってしまったかわからなかったが、自分を卑下する血界が何故か許せなかったのだ。

1人落ち込む耳郎に友人たちがやって来た。

 

「キョウカー、今日スタバ行かない?」

 

「新作出たんだって」

 

「うーん…今日はあんまり気乗りしないから、ウチはパスするよ」

 

耳郎はそう言って荷物をまとめて下校した。

 

「なんか今日元気無かったよね」

 

「もしかしてラインヘルツに何かされたとか?」

 

「えー、マジー!?」

 

耳郎が下校しているとまた路地裏から微かな物音が聞こえて来た。

 

(また?聞こえすぎるのも問題だな)

 

耳郎は僅かな音も拾ってしまう自分の個性をそう思いながらも、一応物音がした方を覗き込む。

するとそこには耳郎と同じ制服の女子たちが1人の女子を囲っているのが見えた。

どうやらかこまれているのは耳郎と同じ学年らしいが、囲っているのは上級生だ。

 

「今週の分は持って来たよな?」

 

「そ、その……もうお小遣いの前借りができなくてお金の用意は……」

 

「あぁっ!?」

 

上級生の中でも最も背が高く、染めているであろう金色の長髪の女子生徒は大声を上げて威嚇する。

カツアゲされている女子は怖くなり、しゃがみこんでしまう。

 

「ひぃっ!で、でも……用意できないものはどうしようも……」

 

「お前調子乗ってんじゃねえぞ!!」

 

金髪の女子は下級生の顔面の横スレスレの壁を思いっきり踏みつける。

するとその壁から焼けるような音が音が鳴り、熱を発する。

 

「熱い!?」

 

下級生が頭を退かすと壁には焼けた跡が残っていた。

彼女の個性のようだが、それを顔に向けるのはとても危険だ。

金髪の女子は歪んだ笑みを浮かべながら次は下級生の顔面に靴底を向けて、見せる。

 

「これ凄いだろ?私の個性、『溶解』を武器に使うために靴底に鉄仕込んだんだよ。顔に当たったら皮膚が捲れるかもよ?」

 

「ヒィィッ!」

 

「流石にそれはヤバイって……!」

 

不味いと思った耳郎は女子たちの前に姿を現わす。

 

「ちょっと!アンタたち!やめなよ!」

 

「あ?誰だお前?」

 

耳郎は囲っている女子たちに睨まれるが臆せず、前に立つ。

 

「カツアゲなんてやめなって、そんなダサいこと」

 

「あぁ?なんだお前?」

 

「ヒーロー気取りかよ」

 

「ヒーロー気取り……」

 

(血界も言われていたな……それでも血界は気にせず助けてたっけ。そっかウチは血界のその姿に憧れてたんだ)

 

自分を投げ打ってでも人を助ける姿に、耳郎は憧れていたのだ。

だから、そんな自分を卑下する血界を許せなかったのだ。

 

(ダサいのはウチもか)

 

血界に向かって酷いことを言った自分を思い出しながらも、そんな自分も血界と同じようにしていることに笑みが零れてしまう。

 

「おい!何笑ってんだよ!」

 

「何でもない。ただちょっと可笑しかったからさ」

 

「ハア?頭でもおかしいのか?」

 

「そうかもね」

 

睨んでくる上級生たちに耳郎は一歩も臆さず、対峙する。

 

「おい、どうする?」

 

「ボコって金盗ろうぜ」

 

笑みを浮かべて不埒な話をしてくると耳郎はすかさず携帯を向ける。

 

「何かしたらすぐ警察呼ぶよ」

 

「あ?何してんだ!ビビリが!」

 

「何でも言えばいいよ。ウチは正しいと思うことをするだけだし」

 

煽ってくる上級生だが耳郎は一切引かない。

すると金髪の女子が煽った仲間の肩を引く。

 

「……行くぞ」

 

「チッ!」

 

上級生たちはどこかに行き、耳郎たちは解放された。

その後、囲まれた同級生からは感謝されながら、耳郎は血界のことを考えていた。

 

(血界もこんな風に感謝されたら考え方も変わるかも……とりあえず明日謝ろう)

 

 

そして翌日、耳郎は血界と連絡を取ろうとしたが血界から返事が来ないまま登校していると昨日遊びに誘ってくれた友人2人が怯えた様子で耳郎の前を通り過ぎようとしていた。

 

「あっ、おはよー。どうしたの?」

 

「キョウカ!」

 

「じ、実はさっき不良に絡まれたんだけどラインヘルツ 君が助けてくれて……」

 

「血界が!?」

 

耳郎は慌てて、友人が出てきた所に向かうと血界が1人の不良を殴っているところだった。

 

「血界!」

 

「っ!耳郎か」

 

振り向いた血界の顔には返り血が飛び散っていた。

 

「喧嘩しちゃダメってあれほど言ったじゃん!」

 

「………」

 

怒鳴る耳郎に血界は気まずそうに目を背ける。

 

「このままじゃまた振り出しに戻るよ!?」

 

「……うるせーなぁ、別に頼んでねぇだろ」

 

「え……?」

 

突然、血界は不貞腐れながら耳郎に反論する。

それを聞いた耳郎も顔が険しくなるが、血界も心のうちに溜まっていた苛立ちが爆発してしまった。

 

「お前は俺の母親か?違うだろうが。頼んでもいないのに余計なことしてくれなくてもいいんだよ」

 

「……わかった。もう、アンタのことなんか知らない」

 

耳郎は血界に背を向けて、その場から離れて行った。

 

「じゃあね」

 

 

学校に着いた耳郎は机に突っ伏しながら今朝のことを考えていた。

 

(何だよ、血界のやつ……)

 

血界に苛立ってもいたが、少し悲しくもあった。

そんなことないと頭を振って切り替えようと、授業の準備をしていると周りがヒソヒソと話しながらこっちを見ていることに気づいた。

嫌な視線を送られ、気分が悪いが気のせいだと思うことにした。

 




1話、2話を少し変更しました。


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File.52 オリジン:耳郎響香4

血界と喧嘩別れしてから数日が経ち、未だ耳郎は血界との関係に悩んでいたが他にも悩みがあった。

最近クラスだけでなく、学校中から奇異な視線を送られるのだ。

友人たちに聞こうとしても気まずそうにしながら、何もないと言い、慌ててどこかに行ってしまい、孤立してしまっている。

そんなことが数日続き、耳郎にもストレスが溜まってきていた。

 

「なんなんだよ、もう……」

 

ここ最近、ため息が多いなと思いながらふと血界のことを考えた。

 

(アイツもこんな感じだったのかな……)

 

遠くから奇異な視線を送られ、孤立している状況は血界と同じだ。

 

(こんなのストレスがめっちゃ溜まるじゃん……そりゃ苛立つよね)

 

経験して初めて血界の状況が理解できた。

こんな状況でも血界は人を助けていたのだ。

改めて凄いと思い、済まないことをしたと思った。

 

(今度会ったら謝らなきゃな……)

 

そう思いながら、下校しようと教室を出るとこの前襲われていたところを血界に助けられた友人2人と出くわした。

 

「あっ、キョウカ……」

 

「早く行こ……」

 

急いでその場から離れようとする友人たちを耳郎は呼び止める。

 

「ちょっと待ってよ!どうして皆んなウチを避けるの?ウチがなんかした?」

 

いい加減、何故避けられるのかを問いただしたくなった耳郎は少しキツめに問いただすと友人はおずおずと答えた。

 

「そ、その……キョウカがラインヘルツを使って人を傷つけたり、カツアゲしてるって噂があって……」

 

「他にも気に入らない奴がいたらラインヘルツを使ってボコボコにしてるって噂もある……」

 

「そんな……ウチがそんなことするわけないじゃん!」

 

耳郎は必死に誤解を解こうとするが、友人が遮る。

 

「だって!最近キョウカ、ラインヘルツと仲良かったじゃん!それに証拠写真だってあるんだし!」

 

「写真?」

 

友人が見せた携帯のディスプレイには血界と喧嘩別れした日の2人が並んでいるところを撮られていた。

それは2人が加害者と言われてもおかしくない写真だ。

 

「なに…これ……」

 

「今のキョウカとはあんまり一緒にいたくない……」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

 

耳郎は2人を呼び止めるが、それを聞かず耳郎を置いて行ってしまった。

耳郎の胸には疑惑が残る。

誰があんな写真を撮ったのだろうか。

すると、耳郎の背後から声をかける者がいた。

 

「おい」

 

「アンタは……」

 

声をかけてきたのは先日、耳郎がカツアゲを止めた金髪の女子の取り巻きの1人だった。

 

「ちょっと面貸せよ」

 

 

連れてこられたのは人目がつかない校舎裏で、そこには煙草を吸っている金髪女子が待っていた。

睨んでくる不良たちに若干緊張しながらも、それを悟られないようにする。

 

「で、何?こんなお約束の場所に連れてきて」

 

「あぁん!?お前口には気をつけろよ!?」

 

「お前は黙ってろ」

 

耳郎は毅然とした態度で金髪女子に話す。

取り巻きが怒鳴るが、金髪女子はそれを遮って吸っていた煙草の吸殻を捨て、耳郎に近づく。

金髪女子は背が高いため耳郎を見下ろす形になる。

 

「足浦 灼焼(あしうら しゃくや)だ。名前くらい聞いたことあんだろ?」

 

金髪女子、足浦 灼焼の名前を耳郎は確かに聞いたことがある。

友人たちと気をつけるべき不良について話していたとき出てきた名前だ。

曰く、不良の溜まり場である普羅血(ふらち)高校に彼氏がいて自由に不良たちを使える、警察と裏で繋がっていて多少の犯罪は見逃してもらえるなど、悪い噂が絶えない人物だ。

耳郎もそんな人物だとは知らなかったため、顔に僅かに緊張が見られた。

 

「……それでウチに何か用ですか?足浦先輩」

 

「お前、最近寂しそうだよなー。可哀想って思ってさー」

 

わざとらしい口調で話してくる足浦に耳郎はコイツが噂を流した張本人だとわかったが、証拠がないために責めることはできない。

 

「そこで名誉挽回のチャンスをあげようと思って」

 

「チャンス?」

 

耳郎が聞き返すと足浦は嫌らしい笑みを浮かべる。

 

「ラインヘルツを差し出せ。そうしたら噂を無くしてやる」

 

まさかの引き合いに血界が出てきたことに耳郎が驚く。

 

「なんで……血界は関係ないでしょ」

 

「彼氏の後輩がめちゃくちゃアイツにヤられてるんだよ。中坊に負けて彼氏の顔、丸潰れなわけ。わかる?」

 

血界は今まで自分から喧嘩を売ったことはないと言っていた。

つまり彼らの勝手な逆恨みだ。

喧嘩別れしたと言っても血界をこんな下らないことに巻き込むわけにはいかない。

 

「そんなことしないよ」

 

耳郎は強気で断るが足浦が耳郎の胸ぐらを掴んで、僅かに持ち上げられ、顔を近づけられる。

ヤニ臭さと僅かに甘い匂いがし、顔をしかめる。

 

「お前の意見なんかどうでもいいんだよ。お前が逆らえば、お前だけじゃなく周りの奴がどうなるかわかんねぇぞ?」

 

足浦の目は本気で冗談ではないことがわかった。

言い返そうとしたが、足浦の凄みと本気の脅しに足がすくみあがってしまい、言い返すことができなかった。

 

「明日の17時に廃工場に連れて来いよ。連れて来なかったらどうなるかわかるよな?」

 

突き放された耳郎は地面に座り落ちてしまい、足浦はその場から離れる。

 

「輪姦すのもいいかもしれませんねー!動画で撮って売りましょうよ!」

 

「その後は売春でもさせますか?あんな貧相な身体でもオヤジなら高値で買いますよ」

 

好き勝手言いながら足浦に続いてどこかに行く奴らに、耳郎は言い返すことができず、拳を握る。

ただ悔しく、涙を零さないようにするだけで精一杯だった。

 

 

教室に戻った耳郎はどうすればいいか、わからなかった。

教師に相談しようにも教師陣は足浦が怖く、なぁなぁで誤魔化そうとするし、親には迷惑をかけたくないため話すことができない。

とにかく帰って整理しようと鞄を持って教室を出ると血界と鉢合わせした。

 

「あっ……」

 

「おっ……」

 

少し気まずそうにする血界だが、すぐに頭を下げた。

 

「その……この前は、ごめん」

 

「え……」

 

「イライラしてたからってお前に当たるのは間違っていた。ごめん」

 

素直に頭を下げるのを見て、血界を差し出すなんてできるはずがないと思った。

元からその選択肢はないが、改めてそんなことはしないと心に決めた。

だから、辛いが言うしかない。

 

「そんなことどうでもいいって」

 

「は?」

 

「ウチはもうアンタのことなんて知らないし、アンタがどれだけ嫌われても知らない」

 

わざとキツイことを言って、自分から遠ざける。

乱暴者だが、不器用な優しさを持つ血界は自分の状況を知ったら、わざと乗り込んで喧嘩を始めてしまうかもしれない。

そうしたら、いくら強い血界だろうと無事で済むはずがない。

奴らの思う壺だ、そんなことはさせない。

 

「なんだよ!そんなこと言わなくていいだろうが!」

 

「だから何?謝ったて、アンタの印象は変わらないよ。乱暴者が良いことしても結局何も印象が変わんなかったし、無駄骨だったね。あーあ、貴重な時間無駄にした!」

 

「…………わかったよ」

 

血界は悔しそうにして、耳郎に背を向けた。

 

(ごめん……)

 

耳郎は血界の姿が見えなくなると俯き、下唇を噛んで泣きそうになるのを我慢しながら、心の中で謝った。

人を助けるために傷ついてきた血界を助けるって言ったんだ。

約束は守る、絶対に。

 

 

翌日、耳郎は1人で指定された場所に赴く気だった。

ただでは終わらせない、奴らの悪事を暴露するためにどうするか考えていると教室に足浦の取り巻きが入ってきた。

 

「よぉー耳郎。今日の約束忘れてないだろうな?」

 

「17時に廃工場に連れて来いよ?ビビって来なかったらどうなるかわかるよな?」

 

ニヤつきながら言ってくる取り巻きに周りは不安そうな表情になる。

耳郎も怖いがそれを悟られないように拳を握りしめ、取り巻きたちに挑発的な笑みを浮かべた。

 

「アンタたちも血界にビビって廃工場にいないとか、やめてよね」

 

「あぁ!?何だと!?」

 

「ここでボコしてもいいんだぞ!?」

 

怒鳴る取り巻きに大勢がビクつく。

するとそこに教師がやって来て、注意する。

 

「お、お前たち!何している!」

 

教師が足浦たちに怖がっているというのは本当らしい。

怯えながら注意している。

取り巻きたちは舌打ちしながら、教室を出て行った。

 

「じ、耳郎も教室で騒ぐのはやめなさい!」

 

「はい……」

 

自分は騒いでいないのに、体裁を保つために注意している教師に嫌になりながらも返事をする。

教師も足浦が関わってる分かれば耳郎を助けてくれない。

完全に孤立しているが、それでも血界を巻き込むわけにはいかない。

耳郎は決心して約束の場所に乗り込む。

 

 



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File.53 オリジン:耳郎響香5

廃工場には多くの不良たちが武器を持って待ち構えていた。

その奥ではソファが置かれており、そこにはガタイが良く、肌が赤黒く、額に僅かに角が生えている男が座っており、足浦がしだれもたれていた。

 

「来るんだろうな。最近調子に乗っているガキは?」

 

「来るはずさ。徹底的に脅したからね」

 

「そうか。おい、まだ来てないのか?」

 

「目印になるように外で待たせている奴らがここまで連れてくるようになっていますから、時期に来ますって。焦らず待ちましょうよ〜」

 

ヘラヘラと答える仲間の1人に男は顔を顰め、立ち上がって近づく。

 

「な、なんすか?」

 

「お前調子に乗ってるな?」

 

「へ?い、いや、そんなわけ……」

 

仲間が答える前に男は側にあった鉄パイプで頭を殴った。

 

「ぐぁあっ!?」

 

「調子に乗ってるなァッ!?」

 

突然の凶行に全員が驚く。

男はそれを気にせず、鉄パイプを振り下ろし続ける。

 

「お、鬼瓦(おにがわら)さん!そこまでにしときましょうって!死んじゃいます!」

 

仲間の1人が止めるとやった振り下ろすの止めて、傷つけた相手を見下ろして、その場にいる全員を見渡す。

 

「いいか!俺に調子に乗ってる奴は誰だろうとぶっ飛ばす!例え女だろうとなぁ……」

 

その言葉に全員が緊張した表情になる。

突然の凶行に走った男の名前は鬼瓦 凶児(おにがわら きょうじ)。

普羅血高校の元締めであり、足浦の彼氏だ。

先の通り、自分の少しでも気に入らないことがあると暴力に走るイカれた男だ。

 

廃工場に緊張した空気が流れていると工場の大きな扉が僅かに開かれ、外で待機していた部下の1人が顔を覗かせた。

 

「あの……鬼瓦さん。例の奴来たんですけど……その……」

 

「なんだ?サッサっと入れろよ」

 

気まずそうに報告する部下に催促し、連れて来させる。

 

「オラ!サッサっと入れ!」

 

「ちょっと!痛いって!」

 

連れて来られたのは耳郎、たった1人だった。

 

「あ?おい、男はどうした?」

 

「それが来たのはコイツだけで、男の姿はなかったっす」

 

「ふーん……」

 

すると足浦が激昂して耳郎に詰め寄る。

 

「おい!ラインヘルツはどうした!?」

 

「……呼ぶわけないしでしょ?バッカじゃない」

 

「〜っ!!てめェッ!!」

 

足浦が耳郎を踏み倒そうとし、耳郎は目を瞑るが、鬼瓦が止めた。

 

「凶児!なんで止めるんだよ!」

 

「ちょっと待てよ。……俺の言うことが聞けないのか?」

 

不服そうな足浦だが鬼瓦に睨まれて、目を伏せて後ろに下がった。

耳郎はあの足浦が言うことを聞くことに驚くが、目の前に立つ鬼瓦から視線を外すことができない。

下から上へとじっくりと耳郎を見た鬼瓦は連れてきた部下の1人を呼んだ。

 

「おい、ケータイは取り上げたのか?」

 

「はい、サツにバレると厄介なので」

 

「ふーん………」

 

鬼瓦は耳郎の首元に目が止まり、セーラー服の襟口に手をかける。

 

「ちょっ!?何すん……!!」

 

「静かにさせろ」

 

「はい!」

 

「んー!」

 

暴れる耳郎を部下に抑えさせ、服を思いっきり引っ張ると首元が曝け出され、その首に紐が掛かっていた。

その紐を手繰り寄せると小型のマイクレコーダーが付いていた。

 

「うっ……」

 

「ガキの浅知恵だな。こんなんでどうにかなると思ったのか?なぁっ!!」

 

鬼瓦が皆に見せびらかすようにレコーダーを掲げると耳郎を馬鹿にする笑いが起こる。

悔しそうにする耳郎に鬼瓦が顔を近づける。

 

「まぁ、証拠を持っていても無駄だけどな」

 

「は?」

 

「灼焼の親父さんはこの街の警察署長、兄貴は警官だ。犯罪なんていくらでも揉み消せる」

 

「嘘……あの噂本当だったんだ……」

 

警察が頼みの綱だったが警察もグルでは、全てが無駄になってしまった。

呆然とする耳郎に腹部から突然衝撃をくらい、吹き飛ばされる。

 

「かはっ……!」

 

吹き飛ばされた耳郎は息が吸えず、咳き込みながら凄まじい痛みが走る腹を抑え、苦しそうにする。

 

「ヒヒッ!」

 

蹴り上げた本人の鬼瓦はそれを見て歪んだ笑みを浮かべていた。

鬼瓦は倒れた耳郎に馬乗りになり、手を抑える。

 

「ラインヘルツの野郎はお前のせいで来なかったんだ。責任取れよ……俺が楽しんだらお前らにもヤラせてやるよ!」

 

鬼瓦がそう大声を上げると一気に部下たちが湧き立つ。

 

「ゴホッゴホッ!ちょっ…ェホッ!……止めてよ!」

 

嫌な予感がよぎり、耳郎は暴れるが両腕を部下に抑えられ、馬乗りされているため振り解こうにも身動き取れない。

 

「お前のレイプ映像、街中に広めてやるよ!そうしたら愛しのラインヘルツもここに来るだろうよ!」

 

血界を巻き込まないために身を呈して、乗り込んだのに結局血界を追い込む羽目になってしまった。

これからされることの恐怖、血界への申し訳ない気持ちで目元から涙が流れる。

 

(ごめん……血界……)

 

最後に心の中で謝った瞬間、工場の扉が大きく開かれた。

全員が扉の方に注目し、耳郎も扉の方を向く。

そこには息を切らせている血界が立っていた。

 

「ハァ、ハァ……ここか……探し回ったぞ」

 

「血界、なんで……」

 

呆然と呟く耳郎を足浦に任せ、鬼瓦は血界と対面する。

 

「お前がラインヘルツか?」

 

「ああ、そうだ。耳郎を返してくれ」

 

鬼瓦がリーダーだと、瞬間的に悟った血界は睨みながら話す。

その目つきが気に食わなかったのか、鬼瓦はこめかみをピクリとヒクつかせた。

 

「俺はこれからコイツとお楽しみなんだよ。お前は俺の部下と遊んでろ。……ヤレ」

 

耳郎を血界の彼女だと思っている鬼瓦は傷つけながら、目の前で陵辱すれば生意気なあのガキを悲しみのどん底に落とせるとほくそ笑みながら、背を向ける。

血界を倒すのは部下に任せればいいと思い、自分はどのように耳郎を鳴かせてやろうかと考える。

この場には百を超える自分の部下がいる。

いくら喧嘩が強いからって百を超える相手に勝てるはずがない。

そう思い、耳郎に近づこうとするとすぐ横を人影が砲丸のように飛んでいき、耳郎たちのすぐ横に落ちた。

 

「あ?」

 

鬼瓦が倒れた部下を見ると前歯がなく、口と鼻から血を流し、白目を剥く姿だった。

振り向くと血界が拳を突き出しており、殴ったのは明らかだ。

 

「耳郎に手を出すな」

 

静かに怒りが篭った目で鬼瓦を睨む。

それに更に苛ついた鬼瓦は部下たちに怒鳴る。

 

「オラァッ!お前ら!中坊に舐められてるんだぞ!!?サッサっとやっちまえぇっ!!」

 

「かかって来いっ!!」

 

怒鳴られた部下たちは一斉に武器を掲げ、血界に襲いかかる。

血界は迫り来る攻撃をかわし、受け止め、一人一人倒していく。

数が多いため何度も殴られるが、血界は止まらず倒していく。

頭からも血を流しながら戦う血界を見て、耳郎は堪らず叫ぶ。

 

「なんで……なんでここに来たんだよ!」

 

「あぁっ!?耳郎の友達に教えてもらったんだよ!!ウッ!?耳郎が大変な目にあってるってな!!ぐっ!」

 

「そうじゃなくて!なんでウチを助けるために来たのって聞いてるの!!だってウチ……あんな非道いこと……」

 

悲しそうに目を伏せる耳郎。

あの時言ったことは絶交されても仕方がないと思っている。

しかし、血界はそれでも助けに来てくれた。

 

「なんでって……!友達だったら助けるのは当然…!いってぇなぁ!!……だろうが!それに……!!」

 

「ヒーローだったら人のために動くんだろ?」

 

それは耳郎が言ったヒーローらしいことだ。

血界はそれを覚えていた。

 

「ヒーローってお前はヒーローなのか!?えぇっ、おい!?」

 

それを聞いていた鬼瓦が煽るように言うが、血界は笑みを浮かべて答える。

 

「ああ、そうだ!今は耳郎だけのヒーローだ!!」

 

それを聞いた耳郎は一気に顔が熱くなり、赤くなる。

告白のような言葉に耳郎は恥ずかしくなってしまった。

そうしている内に次々と部下を倒していき、遂には最後の部下も倒した。

 

「ハァ…ハァ……後は、ハァ……お前だけだぞ」

 

頭から血を流し、傷だらけの血界は鬼瓦を睨み、片足を引きずりながら近づいてくる。

鬼瓦は血界のその様子に一歩後退りしてしまったことに気づき、怒りが頂点に逹する。

 

「ゥゥウルァアアアアッ!!!!」

 

「っ!」

 

服をはちきるほど体が膨張し、角がより発達した姿になった鬼瓦はその巨大な拳を血界にぶつけた。

踏ん張る血界だが鬼瓦の力に負け、吹き飛ばされ、捨てられていたドラム缶にぶつかり崩れ倒した。

 

「血界!」

 

「動くな!」

 

飛び出そうとした耳郎を足浦が止める。

 

「ぐっ……くそ……!」

 

ドラム缶の山から抜け出そうと血界は身動きするがダメージが積み重なって思うように動けない。

そこに凶暴化した鬼瓦が拳を振って突撃してくる。

 

「ウラァアァァッ!!!」

 

「うあぁっ!!」

 

血界はドラム缶とともに吹き飛ばされ、地面に倒れる。

立ち上がろうとするが体に力が入らず、立ち上がれない。

傷だらけの体に鞭を打ち、立ち上がろうとする血界を見て耳郎は叫ぶ。

 

「血界!もういいって!このままじゃ死んじゃう!!」

 

「おい!黙ってろ!」

 

足浦が止めるが耳郎は構わず叫び続ける。

 

「ウチ、アンタに非道いことを言った!だから…!もういいから…!逃げてよ……!!」

 

涙を零しながら叫ぶ耳郎に血界は倒れながら笑みを浮かべる。

 

「嘘が、下手だな……お前……俺を……ハァ、巻き込まないために……ハァ…ハァ、あんなこと言ったんだろ?」

 

血界はフラつきながら立ち上がり、耳郎に笑みを浮かべ、自信のある目で見る。

 

「絶対にお前を助ける」

 

その一言には絶対の自信が溢れていた。

圧倒的逆境だというのに血界のその表情には不安が一切見られない。

 

「絶対ニ助ケルダトォ……?調子ニ乗ッテンジャネェゾッ!!!」

 

更に激昂した鬼瓦はより腕を肥大化させる。

それに対して血界は初めて構えを取った。

 

「ブレングリード流血闘術……推して参るっ!!!」

 

肥大化した腕を振り上げたと同時に飛び上がり血界を潰さんと振り下ろす。

しかし、それと同時に血界の腕は紅く輝き、技を発動する。

 

「ブレングリード流血闘術……!!」

 

『111式 十字型殲滅槍!!』

 

飛び上がってガラ空きになった鬼瓦の体に血の槍を突き刺す。

 

「ガハッ……!!」

 

「オオォォォッ!!!」

 

腕を振るって槍ごと鬼瓦を吹き飛ばし、工場の壁を突き破り、鬼瓦は地面に叩きつけられ気絶した。

 

「ハァ…ハァ…勝ったぞ」

 

「倒した……」

 

鬼瓦が倒された足浦は不味い状況だとわかり、焦ってポケットからカッターナイフを取り出し、耳郎の顔に向ける。

 

「こっちに来んなァ!!来たらコイツの顔ズタズタにすんぞ!!」

 

「………1人でどうすんだよ?」

 

「へ?」

 

足浦が呆けた瞬間、血界は拳を突き出すのと同時に小型の十字槍を発射し、足浦の額に命中させた。

足浦は後ろに仰け反って倒れた。

自由になった耳郎は傷だらけの血界に駆け寄った。

 

「血界!大丈夫!?」

 

「お、おう。なんとか……」

 

若干フラつく血界を支えて、工場を出る。

 

「終わったな……」

 

「うん、ありがとう……助けに来てくれて」

 

「気にすんな」

 

「でも、どうなるかな……コイツら警察と繋がっているみたいだし……もみ消されちゃうかもしれない……」

 

事件が終わっても鬼瓦たちが終わるわけではない。

今後も血界たちを狙う可能性はある。

だが、血界は笑って答えた。

 

「何度来ても倒してやるよ。俺はヒーローだからな」

 

能天気に答える血界に耳郎も不思議と笑顔になる。

 

「そうだね」

 

 

後日、学校の昼休みに血界は屋上で弁当を食べていた。

そこに弁当箱を持った耳郎もやってきた。

 

「よぉ、耳郎」

 

「よっ、ここにいたんだ」

 

耳郎は血界の隣に座り、一緒に昼食を取り始めた。

 

「結局、アイツらの報復もないな。なんか拍子抜けだ」

 

「それなんだけど、噂だとね。今回関わった奴、ウチらを除いて全員補導されたらしいよ。足浦の家族は色んな不正がバレて捕まったんだって」

 

「ふーん……まっ、平和になるならそれに越したことはないな」

 

能天気に答える血界に耳郎は少しため息を吐いた。

 

「はぁ……あのね、ウチらもあの事件に関わったんだから補導されるかもしれないだよ?そうしたらマズイじゃん」

 

鬼瓦たちは捕まっているのに何故自分たちだけが何もないのが不思議だが不安は残る。

 

「何も心配することなんかねぇよ」

 

「どうして?」

 

「俺は耳郎を助けようと戦っただけだし、耳郎も俺を助けようと1人でアイツらと立ち向かったんだろ?何にも悪くねぇよ」

 

自信を持って答える血界に耳郎は呆れながら、笑った。

 

「なんか、アンタらしいね」

 

「どういうことだよ?」

 

「後先考えず、とにかく人を助けようとして動くとこ」

 

「む……」

 

そう言われると何も言い返せない血界は少し恥ずかしそうにする。

 

「でも、それって最高にヒーローっぽいよね」

 

いい顔でそう言う耳郎に血界も笑顔でうなづく。

 

「ウチもアンタみたいなヒーローを目指そうかな?」

 

「おっ、耳郎もヒーロー志望か!じゃあ、先ずは悪口を言われてもキレないようにしないとな!」

 

「アンタに言われたくないんだけど……」

 

「例えば……貧乳とかまな板とか」

 

「ふん!」

 

「たわばっ!?」

 

 

顔を真っ赤にした耳郎はテーブルに突っ伏しながら顔をダラけさせながら、ニヘヘと笑い話を締めくくる。

 

「これが〜ウチと血界の出会いなんですよー。えへへ……」

 

「若いっていいわねー。キュンキュンしちゃったわ」

 

「瑞樹さん……それって死語じゃ……」

 

「カレンちゃん。何か言った?」

 

「ナンデモナイデス。ハイ」

 

昔を懐かしむようにする川島に、顔を青くするジャズ。

すると楓が安心したように息を吐いた。

 

「大丈夫?」

 

「はい……安心しました。チーくん、学校でも楽しそうで。初めて会った時は空っぽの子でしたから」

 

昔の血界を思い出し、少し悲しそうにする楓にナイトクラブが労わるように肩を置いた。

するとナイトクラブの携帯に連絡が入り、確認するとビーが迎えに来たようだ。

 

「カレン、ビーが来たわ。耳郎さんを運びましょう」

 

「はい!耳郎さん!行くわよ!」

 

「それでは皆さん!お休みなさい!!ビシッ!!」

 

酔ってる耳郎は川島と楓に敬礼してからナイトクラブとジャズに引きつられて店から出て行った。

 

「お疲れ様ー」

 

「おやすみなさい」

 

3人が出て行ったから川島は楓に話しかけた。

 

「それで〜?将来のお義姉さん候補としては耳郎さんはどうだったのかしら?」

 

揶揄うように話しかけた川島は楓を見る。

楓は少し悩むフリをして、箸を正解棒のように持ち、笑顔で答えた。

 

「合格です!少し素直になれない所があるみたいですけど、可愛いから全然ありです」

 

2人はその後も耳郎を酒の肴にして、飲み続けた。

 

 



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File.54 イヤホン=ジャックの職業体験

居酒屋で少し面倒事が起きた翌日、耳郎は1人で346プロ内にある庭園で待機していたが、顔は赤く、それを隠すように手で覆っていた。

 

(う、ウチ……!昨日、血界に……!)

 

「あああぁぁっ〜〜!!!」

 

1人で顔を隠しながら足をバタバタさせて奇声をあげる姿は他の人が見ればヤバイ奴だが、そうなるのは訳がある。

昨夜、酔っ払ってしまった耳郎は用意された部屋に運ばれたが、抜け出して血界に会いに行き、普段では絶対言わないことや大胆なことをしでかしてしまったのだ。

しかも、バッチリと記憶に残っていた。

 

(ど、どうしよう…!?次、血界に会った時にどんなふうに話しかければいいか……!?)

 

耳郎はその後、今日の担当だったバンブルビーが呼びに来るまでずっと悩んでいた。

その後、たまたま見回りで通りかかった所で血界と会うのだが、女の子に囲まれてチヤホヤされている血界を見ていきなり暴力を振るってしまい、結局話すことができなかった。

 

 

3日目はメディスからヒーロー事務所の事務仕事や、事務所からのサポートなどを教えてもらっており、突然無線に受け答えしていたメディスが焦り出し、急遽教育を中断された。

そして、その後テレビで保須事件のことを知った。

 

そして4日目はジャズに連れられ、346プロのある場所に連れて来てもらっていたが血界達のこと気になっていた。

 

「やっぱり心配?血界くんのこと」

 

「えっ、あ、すいません」

 

「いいのよ。心配するのは仕方ないわ。昨日あまり寝てないでしょ?少し顔色が悪いわよ」

 

「すいません……」

 

少し恥ずかしそうにする耳郎だが、やはり保須事件で重傷を負った血界が心配なようで浮かない表情をしている。

 

「ライトニングさんから聞いたのだけど、重傷だけど命の危険は無いみたいよ」

 

「本当ですか!よかった……」

 

血界の状態を聞いて安心した表情になる耳郎を見て、ジャズも一安心する。

 

「じゃあ、今日は気分転換も兼ねていい所に連れて行ってあげる」

 

そう言われて連れて来られたのは様々な楽器を使うことができる演奏部屋だ。

 

「さあ、入って」

 

ジャズに促され中に入ると防音の壁で囲まれた部屋に様々な楽器が置かれていた。

管楽器、弦楽器、打楽器などが置かれている中心で1人の女性が音響機械をいじって音を調節していた。

 

「夏樹、お待たせ」

 

「カレンさん。とりあえずは準備をしといたよ」

 

立ち上がった前髪が特徴的な女性は木村 夏樹、346プロのアイドルの1人だ。

ジャズとは音楽関係で親交があり、異なる音楽だが時折セッションしている。

 

「これは……」

 

「耳郎さん、私の戦い方を真似したいって言ってたでしょう。なら、最初はどの楽器がいいか選ばないと」

 

そう言われた耳郎は並べられてある楽器を一つ一つ見て、その中でギターを手に取った。

 

「弾いて見せて」

 

ジャズに促され耳郎はチューニングをしてから、ゆっくりと弾き始める。

すると段々とペースが早くなって、激し目のロックを奏で出す。

それに合わせてジャズと木村夏樹がセッションを始める。

即興の演奏だというのに3人はとても息が合った音を奏でる。

それと同時に耳郎のさっきまでの暗い顔が笑顔になっていく。

やがて弾き終わると耳郎は満面のの笑みを浮かべていた。

 

「はぁ…はぁ……」

 

「どうだった?」

 

「最っ高でした!」

 

明るい表情になった耳郎を見て、ジャズも嬉しそうにする。

 

「これで貴女の武器は決まりね」

 

耳郎は手に取ったギターを見て、自分でもそう思った。

これで人を助けれるなら素敵なことだと思うからだ。

 

「後の細かいところは後で決めましょう。とりあえず今日は思う存分演奏しましょう」

 

「はい!」

 

「そうこなくっちゃ!私は木村夏樹。アンタのギター最高だったよ」

 

「ウチは耳郎響香。そっちこそ」

 

2人は早速意気投合し、ロックについて熱く語り始める。

それを横目にジャズは部屋から出て、スマホを取り出し、ある所に電話をかける。

 

『はい、こちらI・アイランド総合受付センターです。ご用件は何でしょうか?』

 

「アーク博士に繋いでもらってもいいですか?」

 

好きなもので人を救う。

耳郎の新たな成長が始まった。

 



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File.55 Every day 4th

『クローバーの少女』

 

保須事件から2、3日経つがニュース番組では今でもそのことを取り上げている。

 

「まーた、やってるよ。保須事件」

 

オフィス備え付けのテレビを見て、本田未央がそう零す。

彼女的に暗いニュースは苦手のようだ。

 

「仕方ありませんよ。大きな事件なんですから」

 

「そうだけどさー、もっと明るいニュースが欲しいの!だって……」

 

「そうですね……」

 

島村卯月が本田未央を宥めるが横を見ると、ピリピリした空気を出している凛がおり、周りも怖がって近づこうとしない。

彼女は人伝てに血界が保須事件で怪我をしたと知らされ、血界の安否が気になって仕方なかったのだ。

 

「凛ちゃん、まるでお母さんみたいですね」

 

「こりゃー、ライライにたっぷりと説明してもらわないとね!」

 

島村卯月たちが頑張って場を盛り上げようとするが、凛は反応を示さない。

するとオフィスの扉が開き、血界が入ってきた。

 

「よっ!」

 

「血界くん/ライライ/血のお兄ちゃん/血を司る者!?」

 

突然現れた件の血界に全員が驚く。

すると凛がすっ飛んできた。

 

「血界!アンタ怪我したって聞いたけど大丈夫なの!?」

 

血界の体を確かめるようにペタペタと触る凛に血界はあっけらかんと答える。

 

「おう。肩からバッサリ斬られたけど、もう治った」

 

「バッサリ!?」

 

驚く凛を避け、緒方智絵里に近づく。

 

「この前はありがとうな。アンタのおかげで助かった」

 

礼を言われた智絵里は気づき、安心した表情になる。

 

「私の個性、ちゃんと発動したみたいでよかったです」

 

「智絵里ちゃんの個性?」

 

隣に座っていた三村かな子が聞き返す

 

「私の個性、『ラッキークローバー』はね。…私の頭のクローバーが幸運をもたらしてくれるの」

 

「そのおかげで助かった。なかったら死んでたな」

 

「死んでたって、大丈夫なの!?」

 

物騒な言葉に凛は血界に詰め寄るが血界は大丈夫だと言う。

 

「すごーい!智絵里ちゃんの個性って幸運にしてくれるの!?」

 

「いいなー!私も欲しいー!」

 

赤城みりあと城ヶ崎莉嘉は純粋に凄い、羨ましいと思い、智絵里に強請るが当の本人は困った表情になる。

 

「えっと……ごめんね。私の個性、発動する確率が物凄く低いの。よくて100本中1本かな?」

 

「「えー……」」

 

残念そうにするみりあ達に智絵里は申し訳なさそうにするが、血界が彼女たちが喜ぶ物を出す。

 

「そう残念がるなよ。その代わりって言っちゃなんだが、緒方さんのお礼に持ってきたケーキがある。みんなで食べてくれ」

 

「「ケーキだー!!」」

 

血界は持っていた袋を掲げて皆んなに見せる。

皆がどのケーキをするか選ぶ中、血界は改めて智絵里にお礼を言った。

 

「緒方さんの個性がなかったら死んでいた。本当にありがとう」

 

「そんな私なんか……お姉ちゃんと比べたら、全然……」

 

自信なさげにする智絵里を気になった血界だが肩に手を置かれ、そちらを振り返るとイイ笑顔の凛が立っていた。

 

「血界、ちょっと向こうで話そう?」

 

「い、いや、俺この後職業体験もあるし……」

 

手が置かれた肩からメリメリと嫌な音を立てながら血界は引きつった笑顔で凛を見る。

凛は事情なんか知らないと言わんばかりに血界を引きずってオフィスを出る。

 

「大丈夫、1時間で終わるから」

 

「いや!それ大丈夫じゃなっ……アッー!!」

 

血界の悲鳴が部屋の外から響き、オフィスにいた全員が血界に向かって合掌した。

 

 

 

『Dark Side』

 

極寒の山中内部に作られた刑務所。

ここは世界各地にある重犯罪者を収容する刑務所の1つである。

日本だとタルタロスがある。

名は『コキュートス』と名付けられ、厳重すぎる刑務所から出られても何百キロと続く、極寒の山中で生き絶えるために付けられた。

その中でも一際厳重に収容されており、他の犯罪者達と隔離されている者がいた。

天井から伸びる1本のワイヤーで吊り下げられた透明の正方形の部屋で本を読み続ける男がそうだ。

男は髪と髭が伸びきって目元がよく見えないが、その男からは異様な雰囲気が漂っていた。

男は使い古した本を閉じ、背伸びをすると周りから一斉にその空間に備え付けられた大型の銃が向けられる。

それを見た男は嘲笑を浮かべた。

そして、男はその男を監視するためだけに作られた監視室の方に向かって歩き出す。

と言っても、その部屋と監視室には距離が空いており、食事などを運ぶためのケーブル道は閉まってあるため、その男が監視室にたどり着くことはないが、男は監視室をジッと見つめる。

 

『何をしている!66893番!』

 

監視室から監視官が無線を通じて、男に怒鳴る。

しかし、男は気にした様子もなく、まるで友人に語りかけるように話す。

 

「いや、ここに来て約5年か4年経ったと思ってね。中々感慨深い」

 

「……あいつ、何言ってるんだ?」

 

「とうとう頭がおかしくなったか」

 

通信している監視官は同じく監視していた同僚に男が何を言っているか聞くと同僚はふざけたように答えた。

 

「ここから離れるのは少々寂しいよ」

 

男が『離れる』と言った瞬間、監視官たちは神妙な顔つきになる。

 

『66893番。今すぐ壁から離れろ』

 

監視官は静かに男に告げる。

その声には緊張が含まれていた。

額から冷や汗が流れる。

あっちからはこちらの様子がわからないようにマジックミラーのはずだが、監視官はさっきから男と視線が交わっている気がしてならない。

 

「どうした?……冷や汗なんか流して」

 

その瞬間、監視官は手元にあった赤いボタンを押し、ワイヤーと部屋を切り離した。

男が入っていた部屋は重力に従って真っ逆さまに落ちていった。

 

「おい!何してるんだよ!?勝手に殺すのは違反だぞ!!」

 

「だっ、だってアイツ……こっちの様子が……」

 

責める同僚だが、監視官の顔は恐怖に染まっていた。

 

『酷いなぁ、いきなり落とすなんて』

 

スピーカーからあり得ない声が響く。

窓に目を向けると落ちたはずの男が空中に立っていた。

 

「は、はあっ!?」

 

「ひぃっ!」

 

監視官たちは引きつった声を出しながらも、慌てて赤いボタンの隣のボタンを押す。

備え付けられていた数多の銃火器が向けられ、その銃口から火が吹く。

凄まじい轟音と共に衝撃が監視室にも響き、監視室の強化ガラスにも弾が当たりヒビが入る。

大口径の弾丸と小型ミサイルの攻撃が終わり、監視官たちはゆっくりと立ち上がって窓ガラスを覗き込む。

収容室には煙が立ち込め、中を伺うことはできない。

 

「やったか?」

 

「流石にこれじゃあ奴も」

 

監視官が言葉を続けようとしたが、突然壁が爆発し、巻き込まれ遮られた。

監視官たちは火傷を負いながら壁に叩きつけられ、その体には破片が突き刺さり痛々しい。

 

「うぅ……」

 

監視官は朦朧とする意識の中、目を開けて周りを見る。

周りは炎と煙に囲まれ、同僚は頭に破片が突き刺さって絶命していた。

自分も足が激しい火傷と破片が突き刺さって動くことができない。

目の前の燃え盛る炎の中から男がゆっくりと歩いて出てくる。

監視官は顔を恐怖に染め、逃げようとするが体は恐怖で動くことができない。

男は監視官の前に立ち、しゃがんで頬に手を添え、口を開く。

 

「さようなら」

 

笑顔でそう言った男に呆然としながら、立ち去るの黙って見送る。

扉から出て行った男を見送ると安心し、一息つく。

しかし、監視室の機械が火花を散らせる。

 

「そん……」

 

監視官は再び起こった爆発に包まれた。

 

 

男は悠然と歩きながら出口を目指す。

その彼は今から外に出られるからか笑顔で歩いているが、彼が通ってきた道には血みどろの光景が広がっていた。

収容所の監視官、警備員が男を止めようとしたのだが全員が命を失い、その血は床、天井、壁に広がっている。

しかし、男には一切の血がついていない。

男は搬入口である大きなゲートの前に着くとゲートはゆっくりと左右に開いていく。

外は天気がいいのか珍しく陽の光が見えている。

久しく浴びる陽の光に男は眩しそうにしながら、足を進める。

すると、目の前に広がるのは真っ白な雪原ではなく、武装した男たちがこちらに銃口、戦車の砲門を向ける物騒な光景だった。

 

「出所祝いにしては盛大だな」

 

見れば慄くものだが、男は薄ら笑いを浮かべるだけだ。

快晴な空に雲が現れ、陽の光を遮る。

 

『66893番!手を頭の上に乗せて、その場に跪け!!』

 

隊長らしき人物がスピーカーを使って、男に命令する。

隊長も隊員たちも兵力は圧倒的なはずなのに、男とは絶対的な差があるように感じ、恐怖心を押し殺して毅然と立ち向かう。

命令を聞いた男は薄ら笑いから笑い声に変わる。

 

「ハハハッ、いいね。まるで怯える子供が虚勢を張っているようだ」

 

「舐めるなよ!ヴィラン!!」

 

笑ったのと同時に後ろからヒーローが数人前に出てくる。

どうやら応援としてヒーローを呼んだらしい。

 

「ヒーローまで来てくれるとは豪勢だな」

 

「かかれぇっ!!」

 

 

山の天気は変わりやすいというが先までの快晴が嘘のように雪が吹き荒れる。

その中をスノーモービルで山を登る一行がいた。

 

「雪が酷いわね。前がほぼ見えないわ」

 

「おい、運転変われよ。そろそろ疲れたわ」

 

「もうそろそろ目的地だと思うのだけれど」

 

「無視かよ」

 

「………」

 

緑髪の少女とアジア系の男がスノーモービル内で話しながら目的地を目指す。

後部座席では紫髪をオールバックに固め、左目に傷を持つ男、ローグが目を瞑って座っていた。

するとローグが僅かに目を開き、呟いた。

 

「着いたぞ」

 

ローグの言葉で前に注目すると煙が立ち込めるのが見えた。

スノーモービルから降り、煙の方に向かって歩いていく。

進んでいく先には血を流す隊員たちが数多く倒れて、戦闘車両が破壊し尽くされており、激闘の様子が伺える。

その先に男がヒーローの首を絞め、持ち上げていた。

 

「賑やかな出所祝いだった。楽しかったよ」

 

「ぐ…がっ……!あっ…!?や、やめて……!」

 

「さようなら」

 

男がそう呟いたのと同時に締め上げられていたヒーローの目、鼻、口から光を放ち、塵となって消えていった。

 

「ボス」

 

緑髪の少女が声をかけると男は少女の顔を見て、嬉しそうにする。

 

「フェアリー!久々だね。少し身長が伸びたかい?」

 

「伸びてないわよ」

 

「よぉ、ボス。元気そうだな」

 

「ホッパーか、君も元気そうで何よりだよ」

 

2人、フェアリーとホッパーが再会を祝っているとローグが近づいてくる。

 

「君がローグか。彼女のことは残念だった」

 

突然名前と自分しか知り得るはずがないことを言われ、目を見開く。

咄嗟に構えを取ろうとするがそれより早く、男の手がローグの肩に置かれる。

 

「っ!」

 

「我々は同志だ。仲良くやろう」

 

余裕の笑みを浮かべる男にローグは黙って一歩下がる。

それを見た男は手を広げ、3人に高らかに宣言する。

 

「ここに『サージュ』は復活した!今再び!世界があるべき姿に戻そう!れ

 

雲が晴れ、男、サージュに光が射す。

まるでサージュの復活を祝うかのように、世界がそれを望むかのように。

 

「で、ボス。行き先は?」

 

サージュは行先を見据え、3人に伝える。

 

「日本だ。そこでオール・フォー・ワンと会おう」

 

サージュは日本を目指す。

闇が動き出す、血界が彼らと対峙するのはそう遠くない。

 

 



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Hero's youth
File.56 イレイザーの先輩


職業体験が終わり、通常の学校生活が戻ってきた。

朝のLHR前に皆がそれぞれの体験先はどうだったか話している。

 

「みんなどうだったー!?」

 

「あんまりヒーローっぽい事はさせてくれなかったなー」

 

「私もそんな感じだったよ」

 

葉隠が皆に職業体験がどうだったか聞くが芦戸と上鳴は似たような感じで、あまり何もさせて貰えなかったらしい。

 

「そういや峰田はMt.ガールのところ行ったんだろ?どうだった?」

 

上鳴は近くにいた峰田に聞くと峰田は目の光を失い、自分の親指の爪を齧り、ブツブツと呟き始めた。

 

「女ってのは裏があるんだよぉ……」

 

「……何があったんだよ」

 

「爪囓るのやめろって……」

 

峰田の豹変に上鳴と瀬呂が怯える。

峰田のことがどうでもよかった葉隠は他の女子に話を振った。

 

「梅雨ちゃん達はどうだったの?」

 

「私は密入国者を捕まえたりしただけね」

 

「何ソレスゴ!」

 

何気なく言う蛙水に驚く葉隠達。

 

「ウチはジャズさんだけじゃなく、色んなヒーローに付いて回ったよ」

 

「へー、いいなー。ねぇねぇ、346プロだからさ、アイドルと会ったりした?」

 

芦戸が少し緊張した様子で聞いてくる。

 

「うん、一緒に食事をしたりした」

 

「いいな!いいな!血界も一緒だったんだから、会ったんでしょ!?」

 

「血界も……」

 

そこで思い出したのが自分が酔っ払って血界に迫った時のことだ。

途端に耳郎は顔が熱くなり、悟られないように顔を伏せて隠した。

 

「あれ、どうしたの?」

 

「耳郎ー、何かあった?」

 

葉隠と芦戸が聞いてくるが耳郎はとにかく何もないと言い、話題を自分から晒すためにまだ聞かれていない麗日に振った。

 

「そ、そういえば麗日はどうだったの?」

 

「有意義だったよ……とってもね」

 

武術の構えを取る麗日はどこかの達人の雰囲気を醸し出している。

 

「皆んな、色々凄かったんだね」

 

「いや、凄いって言えば緑谷たちだろ!」

 

上鳴が興奮したように談笑していた血界、緑谷、飯田、轟のほうを見て言った。

血界たちがステインの事件に関わっていたのは皆が知っていた。

皆が心配するなか、上鳴はステインのいきさまがカッコいいのではないかと言った。

ステインが緑谷を脳無から助けた姿は何者かに撮影され、動画をネットに投稿されていた。

巷ではその動画を見た者はステインの生き方に共感、感心する者が現れた。

 

「ステインがカッコいいって声も結構あるなー」

 

「ちょっと!やめなって!飯田のこと忘れたの!?」

 

「あっ、悪りぃ……」

 

飯田の兄は足に後遺症が残り、下半身不随とまではいかないが長時間の運動が不可能になり、今はヒーローを引退し、後輩たちを育てるのに力を入れている。

飯田がステインに復習しようとしていたことは血界たち以外に知られていないがステインを憎んでいるのは知っていた。

上鳴は申し訳なさそうに頭を下げる。

 

「いや、気にしないでくれ。ステインを恨んでいないと言えば嘘になるが、それよりも僕は兄を意志を受け継いで兄のような『エンゲニウム』を目指して邁進していく!!」

 

飯田は自分の目標を掲げ、宣言する。

皆がいつもの飯田に戻ったことに安心した。

 

 

そして朝のLHRでいつもの無愛想な相澤の挨拶が始まった。

 

「おはよう。職業体験ご苦労だった。レポートを3日後に提出してもらうから、そのつもりで。ついさっきまでイベントがあったが早速次のイベントだ」

 

「またイベントかー」

 

「次は何だろうね!」

 

「時期的に……うっ、期末……」

 

「テスト!?」

 

皆が各々予測を立てているなか、相澤が黙らせる。

 

「静かに!……次の催し事だが……『授業参観』だ」

 

『学校っぽーーい!!』

 

テストじゃなく一気に色めき立つ生徒たちに相澤が前から原稿用紙を渡していく。

 

「原稿用紙1人4枚で親御さんたちへの感謝の気持ちを書いてくるように、参観日は来月の頭を予定している。詳しいことは後日知らせるが早めに書いてくるように。それでは解散」

 

皆がどんなことを書こうか、どんな授業参観になるのかと話し合っているなか、教室を出ようとする相澤が思い出したように付け加えた。

 

「そうそう、授業参観が終わったらすぐに期末試験が始まる。その準備もしておけよ」

 

その一言に何人かの生徒が固まった。

 

 

昼休みになり、血界は食堂に向かっているなか悩んでいた。

 

「どうしたものか……」

 

「どうしたの?」

 

「感謝の気持ちを誰に書けばいいのかなって思ってさ」

 

「保護者のおじさんでいいんじゃないの?」

 

耳郎がそう答えるが血界は頭を悩ませる。

 

「おじさんはそういうの嫌がるんだよな……どうしたものか」

 

「いいじゃん、書いちゃえば」

 

「おじさん、こういう催しものとか嫌いなんだよ」

 

血糸はあまり人付き合いが好きな方ではなく、仕事でも必要最低限の会話しかしない。

 

 

「じゃあ、授業参観も参加しないんた?」

 

「多分な。おじさん、仕事忙しいから。耳郎のところは?」

 

「多分母さんが来ると思う。いやだなー、あの人授業参観とかはしゃいじゃう人だし……」

 

耳郎は小学、中学の授業参観でやたらテンションが高めの母親を思い出して、恥ずかしくなる。

 

「「前途多難だ……」」

 

血界と耳郎は同時にため息を吐いた。

 

 

翌日の放課後、授業参観の日程と内容を決めた相澤は各生徒の親に授業参観の連絡をしていた。

大体の親は生徒から知らされており、行けると答えた。

1人のの生徒を残し、報告は終わったが、その最後の前に手が止まってしまっている。

 

「とうとう来たか……」

 

名簿を見て、相澤は嫌そうに呟いた。

名簿のページには血界のものであり、彼の保護者の電話番号が書かれている。

合理的主義の相澤にしては、嫌だからと言って手を止めるのは珍しい。

それほどまでに嫌なのだろう。

 

「ん?どうしたイレイザー!いつものシケタ面がいつも以上にシケてんぞ!」

 

いつも喧しいプレゼント・マイクが困っている相澤を揶揄いに近づき、何の作業をしているか覗く。

 

「うるさいぞマイク。邪魔するならどっか行け」

 

「おいおい!せっかく手伝ってやろうと思ったのによ!そりゃねーぜ!」

 

マイクの「手伝い」の言葉に相澤は即座に反応し、名簿を渡す。

 

「そうか。ならラインヘルツの保護者に授業参観の連絡を頼む」

 

「授業参観?そんなのちゃっちゃとやればいいじゃ……」

 

「ラインヘルツの保護者は緑川先輩だ」

 

それを聞いたマイクは回れ右してどこかに行こうとするが、相澤は肩を掴んで止めた。

 

「どこに行く?」

 

「いや、ちょっと腹痛が……」

 

「その前にちゃっちゃとやってくれ」

 

「無理だって!あの人に電話するとかマジ無理!イレイザー担任だろ!?じゃあお前がやらなきゃいけないだろ!?」

 

「規則にそんなことは書かれていない。つまりお前でもいいってことだ」

 

逃げるマイクを逃がさない相澤。

いつもの相澤らしくない様子によっぽど血糸に電話するのが嫌らしい。

騒がしいため、ミッドナイトが様子を見に来た。

 

「何騒いでいるの?いつものイレイザーらしくないわね」

 

ミッドナイトは血界の名簿の保護者欄の名前を見て、それに見覚えがあるため懐かしむ。

 

「緑川って……あ!もしかして『ストリング』かしら?」

 

「……そうです。ここの卒業生で俺たちの先輩だった」

 

「へー、今ラインヘルツ君の保護者をしているのね」

 

ミッドナイトが意外そうに話す。

ミッドナイトが雄英高校の教師をする前の現役のヒーローの頃、血糸は少し有名だったからだ。

通常はヒーローのサイドキックを経験してから独立してヒーローになるが、血糸はミッドナイトが独立したばかりの頃に突然ヒーローとして現れ、活躍していたからだ。

数々のヴィランを容赦なく倒す姿は今でも思い出せる。

その時の血糸は『捕縛ヒーロー ストリング』と名乗っており、誰も寄せ付けない抜き身の刀のような雰囲気を出していた。

 

「それで?何で連絡をしたくないのよ?同じ雄英高出身なら電話もしやすいでしょ」

 

「いや…俺たち、先輩には訓練とか付き合ってもらってたんだけどよ……それがキツくてキツくて……」

 

「………」

 

マイクは当時のことを思い出して体が震え出し、相澤は黙ってしまった。

マイクはともかく合理主義の相澤がここまでなるのだから相当だな、とミッドナイトは察した。

 

「でも、相澤くんは担任なんだから連絡はしっかりとしないといけないでしょう。さぁ、早く早く!」

 

「この女……」

 

それでもサドなミッドナイトは滅多に見れない相澤の困り様に興奮し、もっと見たいと促す。

それを察したマイクはミッドナイトに呆れた。

 

「……」

 

相澤もここで手を止めても仕方がないと、覚悟を決めて電話をかける。

名簿に記された番号は仕事用らしく、繋がったの346プロの受け付けだった。

そこから要件と血糸に繋げて欲しいと頼み、待っていると血糸に繋がった。

 

『はい、346プロダクションアイドル課、課長の緑川 血糸です』

 

「……っ!私、雄英高校で血界・V・ラインヘルツ君の担任をしております。相澤 消太と申します」

 

血糸の声を聞いた瞬間、相澤は背筋を伸ばし、緊張した様子になる。

それを見ていたマイクとミッドナイトは笑いを堪えており、相澤が睨む。

 

『相澤か、久しぶりだな』

 

「お久しぶりです、先輩。今回はラインヘルツ君の授業参観について連絡をさせていただきました」

 

『授業参観?なるほど、だからアイツ挙動不審だったのか』

 

どうやら血界は血糸に授業参観のことを伝えるかどうか迷っていたらしい。

 

『それでいつあるんだ?なるべく参加しようと思う』

 

「え?参加するんですか?」

 

あの人付き合いを全くしようとしなかった人が親らしいことをしようとしていることに驚く。

 

『なんだ?悪いのか?』

 

「あ、いえ、別に」

 

声が少し低くなったのを気づいた相澤は慌てて訂正する。

 

「先輩にはその授業参観で頼みがあるんです」

 

『頼み?』

 

 

 



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File.57 ブラッド・フィスト

授業参観までほぼ1ヶ月余っており、血界たちは親たちへの感謝の手紙の内容を考えながらヒーローへの勉学に励んでいた。

そんな中、血界と耳郎は凛がバックダンサーとして大きなステージに立つため、それを見るためにライブ会場近くの駅で待ち合わせをしていた。

耳郎は先に着いたようで待っているが、ソワソワと落ち着かない様子だった。

 

(思えば、2人っきりで出かけるなんて初めてだな……)

 

今回は氷麗、クロと待ち合わせをしてから会場に向かう予定だったが気を利かせた氷麗が土壇場で用事が入ったと嘘をついてクロも説得し、血界と2人っきりで待ち合わせするようにした。

2人っきりで待ち合わせするなど今までにないことだったので耳郎は緊張してソワソワとしてしまう。

凛の初舞台がメインだとわかっているのにどうしても血界とのデート紛いなことに意識してしまう。

 

(氷麗め……わざとだな)

 

自分が血界のことを気にしているのを知っている氷麗に恨めしく思いながら、本心は良くやった礼を言いたい耳郎だった。

服と髪をいじっておかしくないかと耳郎はさっきから忙しなく確認する。

 

(大丈夫だよね?)

 

服はお気に入りのものを選んできたし、身だしなみもいつも以上に気をつけ、軽く化粧もしてきた。

意識しないようにしてもどうしても意識してしまう乙女だった。

 

「悪い悪い!ちょっと遅れた」

 

そこに走って血界もやって来た。

血界の格好はシックな白のシャツに黒のジャケットと大人びた感じだが、血界は背が高く、よく似合っていた。

 

「う、うん」

 

「じゃあ、行くか」

 

耳郎は気になる男子と2人っきりと過ごすことにいつものように振る舞うべく、気をつけていた。

しかしそれは血界も同じだった。

 

(まずい……いつもは氷麗がいたからそんなに意識しなかったけど、なんか……なんか、恥ずかしいな)

 

いつもなら氷麗、耳郎、血界、凛、クロと5人で遊ぶことが多く、こうして2人っきりで遊ぶなんてことはすることがなかった。

そのため変に意識してしまい血界も緊張していた。

 

「それでさ、まずどこ行く?」

 

「うぇっ!?な、何?」

 

「いや、どこ行こうかなって……」

 

「あ、あぁ……どこ行くかの話か。ちょっと気になる店があるからそこ行ってもいいか?」

 

「オッケー」

 

血界はいつも通りにするぞ、と心の中で決心するが目的の場所に向かう途中一切話さなかった。

 

((気まずいっ!!))

 

2人は変に意識してしまい、何を話せば良いかわからなくなってしまっていた。

そしてそのまま何も話すことがなく、2人は目的の店に着いてしまった。

 

「ここだ」

 

「店ってCDショップじゃん」

 

やってきたのは全国にチェーン店があるCDショップだった。

 

(ここなら話題が作れるかも)

 

自他ともに音楽好きと認められている。

ここなら話題が見つかると思いながら、ふと目に入ったCDを手にとって血界に見せる。

 

「ね、ねぇ血界。このバンド知って……」

 

「見ろよ耳郎!限定版のアルバムだぞ!欲しかったんだよ!」

 

勇気を持って話しかけたが、当の本人は欲しかったCDを手に取って子供のようにはしゃいでいた。

それを見た耳郎はさっきまで緊張していたのが馬鹿らしく思い、笑ってしまった。

 

「はぁ〜……」

 

「どうした?ため息なんかついて」

 

「いや、何か緊張してた自分が馬鹿らしく思えちゃって」

 

疲れた表情を見せる耳郎に血界も同じだと答えた。

 

「俺もだ。2人っきりって中々ないから変に緊張しちまったけど、やっぱりいつも通りが1番だよな」

 

血界のその言葉に耳郎は血界も自分に意識してくれたのか?、と考えた。

 

「それって……」

 

「あー、なんか緊張が解けたら腹が減ったな。飯行かないか?」

 

「う、うん」

 

結局血界が自分のことをどう思っているのかは気になったが、とにかく変な緊張もなくなりいつも通りの関係に戻った。

しかし、血界も緊張してたということは少なくとも自分のを意識していたということではないかと思い、耳郎は嬉しく思っていた。

 

 

入場まで残り1時間となった時、会場に向かう途中涙目で周りを見渡している子供がいた。

周りの大人は忙しなく動いているためか、気づかない。

 

「あれって迷子?って、あれ血界?」

 

子供に気づいた耳郎は血界にどうするか話しかけるが、気づいた時にはもう血界は子供に話し掛けていた。

 

「大丈夫か?親はどうした?」

 

目線を子供に合わせて話しかける血界だが、血界の目つきが怖く子供は血界を怖がってしまう。

 

「ひっ……!」

 

「心配しなくて大丈夫だぞ。お兄ちゃんが親を探してやるからな」

 

なるべく笑顔で話しかける血界だが、その笑顔が人相の悪さで凶悪に見えて、子供が余計怖がってしまう。

 

「アンタに怖がってるんだよ」

 

「うっ」

 

見てられなくなった耳郎は血界の頭をプラグで叩いて、代わって子供に話しかける。

 

「大丈夫?迷子?」

 

「……うん。ママとはぐれちゃった」

 

「じゃあ、ウチと一緒に迷子センターに行こうか?」

 

「うん」

 

血界たちは迷子センターに向かうと丁度迷子センターに探しに来ていた母親と出会った。

 

「ありがとうございました」

 

「ありがとう!お姉ちゃん!お兄ちゃん!」

 

「うん、良かったね」

 

「もう、逸れるなよー」

女の子が親と出会えて、嬉しく思いながら2人は今度こそ会場に向かうが、その途中で耳郎が血界に話しかけてきた。

 

「血界ってさ、昔から考えなしに突っ走るよね」

 

「なんだよ急に?」

 

「保須やさっきのだって、体が動いていたって感じでしょ?」

 

そう言われると確かにと思う。

いつも考えるより体が衝動的に動いてしまう。

 

「何か見ててヒヤヒヤするんだよね。いつかとんでもないことになるんじゃないかって」

 

「大丈夫だって!俺怪我してもすぐ治るし」

 

「そういうことじゃないっての」

 

笑って答える血界に真剣な表情でそう言った耳郎に血界は気まずそうにする。

USJ、体育祭、保須と大きな戦いで傷つく血界に毎回心配で仕方なかった。

耳郎は気まずそうな血界を見て少しため息を吐いてから言葉を続ける。

 

「だけど、そんな姿をカッコいいと思ってるウチも相当なんだろうなぁ……」

 

耳郎も困ったように呟く。

血にまみれても挑み続ける姿に心配する気持ちもあるが、憧れる気持ちもあった。

 

「血まみれになっても誰かのために戦う姿はかっこいいと思う」

 

「お、おう……」

 

手放しで褒められ嬉しいが、照れてしまう。

いつも心配したと小言を言われるが今回は褒められてしまった。

 

「だからヒーロー名さ、血にまみれた拳で戦うのとそんな風に戦うなって戒めを込めて、『ブラッド・フィスト』ってのはどう?」

 

「『ブラッド・フィスト』かぁ……いいな!カッコよくて覚えやすいし」

 

「だからって本当に血まみれにならないでよ」

 

「わかってるって!」

 

血界のヒーロー名を考えていた耳郎は血界の技、戦う姿に想いを馳せてこの名前を思いついた。

自分のヒーロー名が決まってテンションが上がっている血界を見て、名前を喜んでくれてよかったと思った。

 

 

その後、2人はライブ会場に着き用意された二回席に行くとクロと氷麗が座っていた。

 

「来たわね」

 

「久しぶり2人とも」

 

血界たちが来たことに気づいた2人が話しかけてくる。

 

「クロか!久しぶりだな!連絡よこさないからどうしたか気になったぞ」

 

血界は久しぶり会うクロの肩を叩き、テンションが上がっていた。

血界とクロは中学時代から耳郎たちのグループで特に仲が良く、まさに親友同士だった。

やはり男同士だから仲が良いんだろうなと思った耳郎に氷麗が血界とクロち聞こえないように話しかけてくる。

 

「それで?デートはどうだったの?」

 

デートと言われた耳郎はドキッとしながら平静を装った。

 

「デートって……ただ2人でショッピングしてご飯食べに行っただけじゃん」

 

「それを世間ではデートって言うんだよ」

 

それを言われた耳郎は頬を染めて、そっぽを向いた。

 

「ねぇねぇ、どうだったの?」

 

ニヤニヤした顔で見てくる氷麗にイラッとしたが、今日は楽しかったのは事実でデートを思い出し、自然と笑顔になる。

 

「あっ、ニヤついてる。そんなに良かったんだ」

 

「ちょっ…!ニヤついてないって」

 

 



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File.58 衝撃の授業参観

時間が経ち、とうとう参観日となった。

 

「今日参観日だなー」

 

「なんだか緊張しちゃうね!」

 

ほとんどの者ががどこか緊張した表情をしていた。

 

「みんなのところは誰が来るんだ?」

 

切島がそう聞くと多くの人が母親か父親と答えた。

 

「俺のところは姉さんだ。仕事を早抜けしてきてくれるらしい」

 

「いい姉ちゃんだなー」

 

轟の母親は未だ病院で治療しており、外出できる状態ではない。

その代わりに小学校で教師をしている姉が来てくれるらしい。

 

「耳郎のところは母親が来るんだろう?」

 

血界がそう聞くと耳郎はどこか疲れた表情をしながら答えた。

 

「そうだよ。はぁ……お願いだからはしゃがないで欲しい」

 

耳郎は緊張よりも親が来て、はしゃがないかどうかが心配みたいだ。

 

「血界のところは誰が来るんだ?」

 

切島が聞くと血界は首を捻った。

 

「あー、おじさんはこんなイベント事には参加しないし、今回は不参加かもな」

 

あのクールな叔父がこのような学校行事に参加するとは思えず、そう答えると芦戸が文句を言ってきた。

 

「えー、つまんないー」

 

「つまんないって、俺に言われてもな」

 

血界が困った顔をするかどうしようもない。

すると葉隠と上鳴が勝手に血界の叔父について話し出す。

 

「血界くんのおじさんってどんな人か気になるんだよね!」

 

「多分筋肉モリモリの厳つい人だと思うぜ!」

 

葉隠と上鳴の頭の中では血管が浮き上がるほどの筋肉を持った黒光りする男が思い浮かんでいた。

 

「そんな人じゃねぇよ」

 

血界が呆れたように言った。

しかし、血界はせっかくおじさんについて感謝の文を用意したのに来れないの少し残念だと思った。

飯田がそろそろ授業が始まる時間だから全員着席するように言ったが、5分、10分と経っても保護者どころか先生も現れなかった。

 

「可笑しいな。もう親たちが来てもいいはずなのに」

 

「先生も必ず時間ぴったりに来ますのに来ていませんわ」

 

委員長である飯田と副委員長である八百万か困惑したような表情になると周りの皆もざわめき出す。

 

「職員室に行って教員から指示を貰ってくる!皆は着席しているように!」

 

飯田がそう行って席を立とうとした瞬間、全員のスマホに相澤からメールが入った。

 

『1年A組の生徒達は全員ヒーロースーツを着用して運動場γに来るように』

 

そのメールに全員が疑問を持ったが、あの相澤のことだからヒーロー実習をその場でやるのだろうと思った。

そして体育館γに着いた。

体育館γは崩壊した市街地での戦いを想定されたのか、彼方此方に倒壊したビル、瓦礫が落ちていた。

そして、その中央の瓦礫が避けられたところで信じられないものを目にした。

 

「お母さん!?」

 

「母さん!」

 

「父ちゃん!?」

 

「出久〜!」

 

「助けて!天哉!」

 

「すまん!お茶子!捕まってもうた!」

 

なんと生徒達の親が全員捕まえられて、檻の中に閉じ込められていたのだ。

しかもその檻の周りは何メートルも掘られて、その中に何かの液体が張り巡らされていた。

突然の事態に慌てる1-Aの皆だが、その中で血界はある1人を凝視していた。

 

(な、なんで楓姉ちゃんがここにいるんだ!!)

 

「チーく〜ん!助けてー!」

 

眼鏡をかけ、帽子を被って変装した高垣 楓がどこか楽しそうに血界に助けを求めていた。

なんでここにいるのか、なんで捕まったのかと頭の中が混乱してくる。

 

「ちょ、これどう言うことだよ!?」

 

「なんで捕まってるの!?」

 

全員が慌てるなか血界を含めた何人かが檻に向かって走り出した。

 

「とりあえず助けに行くぞ!」

 

「ああ!」

 

「チッ!世話かけやがって!」

 

血界、轟、爆豪が向かおうとした瞬間檻の中で座っていた保護者の中から1人立ち上がった。

それを見て3人は動きを止める。

全身を黒ローブで包み仮面を嵌めた人で、明らかに捕まっている保護者の中で異質な存在だった。

 

「来テモイイガ、ソウシタラ君タチ3人ノ親ヲ殺ソウ」

 

ボイスチェンジャーで声を変えているのか、機械的な声が響く。

その言葉に動き出そうとした3人は動きを止めた。

 

「逃ゲテ助ケヲ呼ビニ行ク者ガイレバ、ソノ親モ殺ス」

 

「相澤先生はどうした!?」

 

緑谷が叫ぶとその人物はボイスチェンジャーのせいもあるが、それ以上に冷徹な声で説明する。

 

「教師ハ邪魔ダッタ。ダカラ始末シタ」

 

「しっ……!?」

 

その言葉に全員が青ざめる。

雄英教師である相澤が倒されたとなると相当な実力者だと思われる。

今、保護者達を救えるのは自分たちだけなのだ。

しかし、自分の親が捕まっているとなりほぼ全員が動揺している。

 

「なんでこんなことをするんだ!!」

 

「僕ハ雄英二落チタ。雄英二入ッテヒーロー二ノルノガ僕ノ全テダッタノニ。優秀ナ僕ガ落チルナンテ、世ノ中間違ッテイル。世間デハ僕ハ落チコボレ、ナノニ君タチハ明ルイ未来ガ待ッテイル。ダカラ………」

 

「だから八つ当たりか!このクソマント!!」

 

敵の動機は完全に八つ当たりだ。

短気な爆豪でなくても憤りを感じた。

 

「面倒くせえ!!さっさとぶっ倒してやるよ!!」

 

「待てって爆豪!」

 

「うおっ!?」

 

飛び出そうとした爆豪の襟を掴み血界は引っ張る。

 

「周りにあるのは匂いからしてガソリンだ。もし引火したら不味いだろうが!」

 

「しねぇよにするってーの!!離せクソが!!」

 

暴れる爆豪を必死に血界は止める。

 

「お前の個性めちゃくちゃ引火しやすいだろうが!それに相手は保護者を盾に使ってる!下手に近づけば殺されるのがオチだ!」

 

「チッ!」

 

爆豪も状況を理解しているためか、暴れるのをやめた。

そして頭の回転が速い緑谷、八百万は救出するための作戦を考える。

 

「助けようにも敵との距離が空きすぎてる」

 

「それに周りに張り巡らされているのはガソリンですわね。火をつけられたら厄介ですわ」

 

「速く移動できて、速攻出来る人は……血界くん!」

 

緑谷はどうするかと敵を睨んでいた血界を呼んだ。

 

「どうした?」

 

「血界くん、高速移動が出来る技を持ってたよね?あれで敵を抑えることはできないかな?」

 

「……無理だ、距離がありすぎる。せめて少し気をそらしてくれれば近づいてできるかもしれないんだがな」

 

「気をそらす………」

 

緑谷は周りにいる皆を見て、敵に何もさせずに親達を救い出す作戦を閃く。

 

「みんな!話があるんだ!気づかれないように近づいて」

 

 

敵は生徒達がどうこの状況を対処するかを観察していた。

 

(人質はすぐ側にいて、敵は自分のことを顧みない。さぁ、一見詰みなこの状況をどうする?)

 

ネタバラシになってしまうが、この事件は全てやらせなのだ。

雄英の授業は教師の自由。

故に相澤はお子さんの成長を見せるために保護者達に協力してもらい、この様な茶番を始めたのだ。

 

「全く、あのバカ息子は……!後先考えず、突っ込もうとして!」

 

犯人のすぐ側で爆豪の母である光己が周りだけに聞こえるように声を出しながら、怒る。

 

「まぁまぁ、でも誰も動こうとしなかった中で1番最初に動こうととしたじゃありませんか。行動力があるのはヒーローとしてとても重要なことだと思いますし、お子さんも素晴らしいと思いますよ」

 

「そ、そうでしょうかね?」

 

隣にいた楓が光己を宥めるために爆豪を褒めると光己は少し照れながら答えた。

なんやかんや文句は言うけれど自分の子供を褒められて嬉しかったのだろう。

ちなみに楓の正体はバレておらず、騒ぎにもなっていない。

 

「おたくのお子さんはどの子ですかな?」

 

今度はお茶子の父が楓に話しかけてくる。

 

「はい、あの爆豪さんのお子さんを止めた子です」

 

「まぁ!冷静な判断ができているのは素晴らしいことですわ」

 

すると恐らく八百万の母であろう人が褒める。

 

「はい。よく爆豪くんを止める時に手が出ませんでした。褒めてあげたいですね」

 

綺麗な笑顔で一瞬見とれてしまいそうになるが、全員の頭の中では『そっち?』と突っ込んでいた。

その後、だんだんと互いの子供のことを褒めて、話し合うような空気になり始める。

 

(……そろそろ止めておくか)

 

あまり大声だとバレてしまうため、脅迫めいた演技で止めようとした時に血界達が動き出すのが見えた。

 

「ドウ出ル?」

 

敵役の人は表情を全く見せないマスクの下で笑みを浮かべた。

 



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File.59 一瞬の救出劇

血界達の方では緑谷が作戦を伝えていたが騒がしくなっていた。

 

「なんで俺がデクの作戦に乗らなきゃいけねんだよ!!」

 

「それが一番確実だろうが!今はくだらない意地より、助けるのが優先だろ!!」

 

「ウルセェ!!俺に指図すんな!!」

 

爆豪と血界が言い争っていた。

それを見た爆豪の母親と楓は不安そうにした。

 

「ったく……!あのバカは!」

 

「チーくん……」

 

そして、それを同じく見ていた監督役の敵も不審に思った。

 

(何故争っている?……あぁ、そういうことか)

 

敵は相手からは目が見えないマスクから血界達の様子を伺い、何かに気づいた。

なおも言い争いを続ける血界達に敵は無機質な声をかけた。

 

「茶番ハソレクライ二シテオケ」

 

その一言に血界達の動きが止まり、敵は血界達から少し離れた地面を指差す。

 

「ソコニ隠レテイルダロウ。ワザト目立ツヨウニシテ隠レタ奴ガ本命カ」

 

そう言われた血界達は顔には出さないが失敗したと言った空気を出した。

 

「バレちゃった……」

 

麗日の個性で宙に浮き、八百万特製の地面の色にカモフラージュされた強力なスタンガンを持った葉隠が悔しそうに呟いた。

 

「浅ハカナ考エダ。ヴィランヲ退ケタト言ッテモ所詮子供ダ。本当ノ悪ノ前デハ何モデキナイ」

 

敵はそう言いながら懐からライターを取り出し、火を点ける。

それに気づいた緑谷たちが止めるように叫ぶ。

 

「やめろ!!」

 

「ソウ叫ブダケデ君タチ二何ガデキル?ヒーローデモナイ君タチガ」

 

「ヒーローであろうとなかろうと困っている人がいれば助け出すのは当たり前だろうが!!」

 

血界がそう叫ぶが、敵の心には届かない。

 

「ソレハ君ノ傲慢ダ。勝手二助ケテ貰ッテ嬉シイカ?自分ノ欲デ助ケル事ガ本当二ヒーロー足リエルノカ?ソレハ暴走シタ欲デ動クヴィラント何ラ変ワリガナイ」

 

敵の勝手な言い分に腹がたつ血界たちだが、敵は続けて飯田に話しかけた。

 

「君ハドウナンダイ?家族デアル『インゲニウム』ヲ傷ツケラレ、腹ガ立ッタロウ、憎ンダダロウ。ソシテ君ハドウシタイト思ッタ?許セナイ、殺シテヤリタイト思ッタダロウ?」

 

それを言われた飯田は口を固く結び、拳に力を込める。

それを敵目敏く見ていた。

 

「図星カ。私情デ敵ヲ倒ソウト思ッタ瞬間二ソコニハ正義ハナイ、君ハヒーロー失格ダナ」

 

まるで全てを見据えているかのような口調に誰も言い返せない。

それだけではなくマスクから見据える視線がまるでこちらを拘束しているかのように感じたのだ。

しかし、この男は違った。

 

「けっ!結局はそれもお前の考えだろうがァ。誰が何と言おうが俺を突き通すだけだ!!この雑魚が!!」

 

手から爆発を起こしながらいつでも動き出せるような体勢をとる爆豪が不敵な笑みを浮かべながらそう言ってのけた。

彼は悪い意味でも良い意味でも自分に絶対の自信がある。

故に敵の言葉で揺らいだりなどしない。

それに続けて言われた当の本人である飯田が一歩前に出て、決意を込めた目で敵を見る。

 

「確かに僕は私情に走って傷つけようとした。それは相手がヴィランであっても許されないことだ。だが!それを間違っていると教えてくれた友がいる!そしてそんな僕を応援してくれる家族がいる!その人たちのために僕は間違いを糧にして兄のような立派なヒーローになると決めたんだ!!」

 

そう力強く宣言した飯田に事件に関わった緑谷と血界は笑顔になる。

 

「天哉……!」

 

それを聞いた飯田母も息子の成長に感動して、口を押さえ目から一筋の涙が溢れる。

 

「ソウカ、立派ナコトダ。ダガコレダケハ変ワラナイ。オ前タチガ親ヲ殺シタンダ」

 

檻からライターをガソリンに投げ入れる。

その瞬間、火の海が広がるかと思われたがライターが何か硬いものに落ちる音が響いた。

 

「何……!?」

 

敵がガソリンの方に目を向けると何と辺り一面が凍っていた。

 

「何とか間に合ったか……」

 

敵の背後から声が聞こえ、振り向くと轟が離れた所から氷を走らせ、ガソリンを凍らせたのだ。

ガソリンの凝固点は90度以上、それを気付かれずに行うのは至難の技だったが血界達の喧嘩と飯田の宣言により上手く意識を持っていかれた敵は気づくことがなかった。

 

(二段構えか……よくやるな)

 

素直に感心していると、血界が叫ぶ。

 

「麗日!緑谷!」

 

「はい!」

 

「うん!」

 

血界が合図を出すと麗日が血界に触れ体を軽くし、緑谷が血界の体を掴み、自身の個性で血界を檻に向かって投げた。

 

「行くぜオラァッ!!」

 

「もう間違わないために僕は走り続ける!レシプロ……バーストッ!!!」

 

それと同時に爆豪が空中から飯田がレシプロバーストで檻に向かっていく。

 

「麗日!解除!」

 

「解除!」

 

麗日に向かって合図を出し、個性が解除されると重力に従って地面に落ちるがだいぶと檻に近づいた。

転がりながら態勢を整え、技を放つ。

 

「ブレングリード流血闘術……!『32式 電速刺尖撃』!!」

 

堀を飛び越え、檻から血の槍を敵に向かって打ち出す。

高速で打ち出された槍は敵の肩に突き刺さり、端の方に追いやった。

そして空中から爆豪が敵の服を引っ張り上げ押さえつける。

 

「動くなよ?動いたら火傷じゃ済まねェぞ!!」

 

もはやヴィランの台詞だが、これで敵は迂闊に動けなくなった。

さらにそこに飯田がレシプロバーストで檻が立つ地面に到着する。

 

「母さん!」

 

「天哉!!」

 

飯田はまず自身の母親に近づき、安否を確認して安心した。

 

「怪我がなくて良かった……」

 

「おいメガネ!さっさとしろや!!」

 

「飯田!早く指示を出してくれ!」

 

両方向から敵を押さえつけている2人が催促されると、すぐに意識を全員を救出するための方に向ける。

 

「ここから脱出します!落ち着いて!僕の指示に従ってください!!」

 

持ち前のセンスで保護者を統率して檻から脱出を試みる。

堀の向こう側にいる緑谷たちに飯田は合図を出すと皆が救出しようと動き出す。

しかし、それと同時に沈黙していた敵も僅かに身動きをした。

 

「動くなって言ってんだろうが!!」

 

爆豪が怒鳴るがそれを全く意に返さない声色で周りに聞こえるように話し出す。

 

「二段構エナノハ君タチダケダト思ウカ?」

 

その言葉と同時に敵から何かスイッチを押す音が聞こえ、堀から爆発が起こった。

 

「なっ!?」

 

爆発の炎は幸いにも檻には届かなかったが周りは火の海となった。

 

「しまった!退路が!」

 

「テメェッ!!」

 

爆豪が怒りで爆破をお見舞いしてやろうとしたが突然檻がガクンと衝撃が走る。

下を見ると爆発の余波で檻があった地面に罅が入り、崩れ落ちていく。

 

「まずい!」

 

「チィッ!!」

 

血界は敵を押さえつけていた槍を消し、火の海に落ちていく。

 

「チーくん!?」

 

「ブレングリード流血闘術!!『39式 血楔防壁陣』!!」

 

地面に向かって血の十字架を打ち出し、足場を作る。

血界はそこに立ち、滑り落ちてくる檻を待ち構える。

 

「皆さん!しっかりと檻に捕まってください!!」

 

血界のやろうとしたことがわかった飯田は保護者にそう伝え、自分も檻に捕まる。

檻は重力に従って砕けた地面を滑り落ちてくる。

血界はそれをしっかりと受け止めた。

 

「うぐっ!?」

 

なんとか持ちこたえる血界だが、大人数十人分と檻の重さを1人で支えるのは、いくら驚異的な身体能力を持つ血界でも厳しい。

さらに背後から炎が迫ってきて、その熱さが血界の身を焦がす。

 

「あっち……!」

 

「血界!!」

 

轟が氷結で炎を消火しようと試みるがガソリンに引火した炎の勢いが強く、消すことが難しい。

さらには血界達も炎の中にいるため大規模な氷結を行うことができない。

まさに万事休すの状態だった。

この状況の中、血界達は切り抜けることができるのか?



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File.60 激熱の脱出劇

炎に囲まれ、一瞬でも力を抜けば全員が炎の海に飛び込んでしまう危機的状況の中、血界は体を焦がす熱に耐えながら檻を必死に支える。

 

「アッヂィ!!」

 

「血界くん!無事か!?」

 

「無事なように見えるか!?ピンチだ!」

 

檻の中で捕まりながら、血界を心配するが血界は歯を食いしばりながら必死に耐える。

爆豪も檻を何とかしないといけないが敵を自由にした瞬間、何をするかわからないため動こうにも動けない。

するとそこに緑谷がやって来た。

 

「かっちゃん!」

 

「クソデク!何しに来やがった!?」

 

「助けに来たんだ!」

 

緑谷はそう言いながら、檻を引っ張る。

しかし、崩れた足場と斜面になっているせいで引っ張り上げることができない。

 

「テメェの助けなんかいらねぇんだよ!!消えろ!!」

 

「カツキ!アンタまたそんなこと言って!!」

 

「ウッセェババァ!!人質は大人しくしてろや!!」

 

口が悪い我が子に親らしく注意するが、いつものごとく口喧嘩になってしまった。

それを見かねた緑谷が一喝する。

 

「今は親たちのことが第一優先だろ!?喧嘩なんてしている場合じゃないって!!」

 

「出久……」

 

息子は昔から幼馴染に苦手意識っぽいものがあるのは知っていたが、ハッキリと言ったことに驚いた。

するとまた地面にヒビが広がり、檻が滑って落ちていく。

 

「キャアアアァァァッ!!」

 

保護者たちの悲鳴を聞いて、より力を入れる血界たち。

 

「クッソ……!」

 

「ぐぐぐぐ………!」

 

しかし、それでも檻は滑り落ちるのを止まることはなかった。

ふと、その時血界は不安そうにする楓と目が合い、安心させよう笑顔を見せる。

 

「大、丈夫…!姉ちゃんは……俺が守るから……!」

 

熱さに耐えながらそう言うが血界のすぐ後ろまで炎が迫って来ており、堪らず楓は『叫んだ』。

 

「チーくん!『頑張って』!」

 

その途端に血界は体の底から力が溢れ出してくる感覚に襲われた。

今なら何でもできるという全能感さえ感じてしまう。

そして血界は檻を押し上げ、緑谷は下から檻が押し上げられているのを感じた。

 

「血界くん!?」

 

さっきまでビクともしなかった檻を突然押し返している血界に驚いていると妙にハイテンションな血界が答えた。

 

「なんだァ!?どうした緑谷!!」

 

「す、すごいね!このままなら押し返すことができるよ!」

 

「ハハッ!今ならなんだってできる気がするぜ!!」

 

徐々に檻が上に押し返されるが緑谷の背後の道が完全に崩れ落ち、崖になってしまった。

 

「血界くん!ストップ!!ストップ!!」

 

「あぁ?どうした!?」

 

「退路がもうない……」

 

当初の予定では檻を元あった場所まで押し返し、そこから瀬呂のテープと八百万の創造で骨組みを作り、橋か滑り台で救出する作戦だった。

しかし、高さが足りずこのままでは火の中を渡ることになってしまう。

 

「どうする……!」

 

その時、緑谷は崩れた足場の部分が滑り台状になっていることに気づいた。

 

「この形ならアレができる…だけど、受け止めるにはどうすれば?それなら八百万さんやみんなの個性を合わせて作れば………」

 

ブツブツと何かを呟き出す緑谷に爆豪が怒鳴る。

 

「何ブツブツ言っとんじゃ!!」

 

緑谷は怒鳴られたことを無視して、腰に下げてあった八百万特製のトランシーバーで連絡を取る。

 

「八百万さん!作戦変更だ!」

 

 

緑谷が作戦を伝えてから少し経ち、敵はどう出るか見守っていた。

 

(流石に追い込みすぎたか?)

 

未だに状況が動かないことを見て、そろそろ止めるかと考えていた時に耳に装着した小型のイヤホンから連絡が入った。

 

『どうですか様子は?』

 

敵はマスクに備え付けられてあるマイクで周りには聞こえないように話す。

 

「そろそろ止めてもいいかもしれない。少し追い込みすぎた」

 

『そうですか……貴方がそう判断して止めるのであれば俺は何も言いませんが、まだ奴らは諦めたわけではありませんよ』

 

そう言われて敵は血界達を見る。

確かにまだ絶望したわけでもないし、諦めた目をしていない。

 

「もう少し見守る」

 

『了解です』

 

 

 

「血界くん!さっき何でもできるって言ったよね!?」

 

「おうよ!任せろ!!」

 

今だにハイテンションなのかサムズアップしてくる血界に緑谷は頼もしく思えてくる。

 

「じゃあ、十字架を坂にして滑り台みたいに並べることってできる!?」

 

「あ?……モチロンできるぞ!!」

 

その言葉に緑谷は心の中でガッツポーズをとる。

 

「緑谷君!一体何を……?」

 

「今から檻ごと下に落ちる!」

 

「なっ!?それは危険ではないか!?」

 

落ちると言うことは炎の中に突っ込むと言うことだ。

炎の中に突っ込むのは危険すぎる。

 

「大丈夫!そのことも八百万さんが考えてくれている!」

 

すると空から何かが檻の上に落ちて来た。

その反動で檻の足場が少しグラつく。

 

「それは……」

 

落ちて来たのは包まれた防火シートと3人分の防火服、それに拘束バンドと人1人分の厚いマットだった。

檻を優に包み込めるほどの大きさだ。

これで炎の中に檻が突っ込んでもしばらくは安全だ。

 

「かっちゃん!この防火服に着替えて!」

 

「ああ!?」

 

「この作戦はかっちゃんが要なんだ!」

 

 

その頃、防火シート等を打ち上げた八百万は多くの物を創造した疲れにより、座り込んでしまっていた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「大丈夫ヤオモモ!?」

 

葉隠が心配そうに声をかけるが八百万は苦しそうにしながらもしっかりと答えた。

 

「このくらい何ともありませんわ……お母様達の命がかかっているのですもの」

 

それでも立ち上がろうとする八百万を見て、耳郎は他の皆に声をかける。

 

「血界達があんなに頑張ってるんだ。ウチらもやるよ!」

 

『おう!』

 

まず耳郎が掘り近くにイヤホンジャックを刺し、技を使う。

 

「H・R・B!!」

 

ドクンと衝撃とともに掘り近くの地面に大きな罅が入る。

 

「よっしゃあ!みんな掘るぞ!!」

 

残った生徒達は耳郎が壊していく地面の瓦礫を取り除いていき、やがて堀と薄い壁を隔てた檻が軽く入るくらいの大きな穴ができた。

 

「後はあっち次第だな」

 

そう言って泥を拭いながら轟は呟いた。

 

 

防火服に着替えて、檻を防火シートで包んだ緑谷たちにトランシーバーからの合図が出た。

 

『デクくん!こっちはオッケーだよ!』

 

「うん!かっちゃん!血界くん!飯田くん!準備はいい!?」

 

「たりめぇだ!!ハヨしろや!!」

 

「オウよ!力が漲って仕方がねえ!!」

 

「ああ!皆さん!しっかりと檻に捕まっていてください!」

 

拘束バンドで敵を拘束した飯田は保護者にまた檻に捕まるように伝えた。

 

「血界くん!」

 

「オウ!ブレングリード流血闘術!『34式 段差型十字撃』!!」

 

ナックルガードから放たれた血の十字架は階段状に並んでいき、穴のところまで届く。

 

「轟!届いた!」

 

耳郎がイヤホンジャックで炎の中の状況を伝えると轟は堀のすぐ近くに立ち氷を走らせる。

伝った氷は血界の十字架を凍らせ、氷結の滑り台ができた。

 

「後はここを真っ直ぐに滑れれば……」

 

「やるしかねぇだろ!安心しろ!もし危なくなったら俺が何とかしてやる!」

 

緑谷は檻の後ろから押し出そうとするが、こんな巨大な物が真っ直ぐに滑れると思えず、土壇場で不安になってしまう。

しかし、檻の上で姿勢を低くして待機する血界の強気な発言に緑谷は大きくうなづく。

 

「うん……行くよ!!」

 

緑谷が檻を大きく押し出すと檻は滑り始める。

やがて、檻の重さに従って徐々にその動きを早めていき、滑走していく。

やがて炎の中突っ込み、血界達は熱に襲われる。

だが、やはり重さに偏りがあるのか横にそれ始める。

それに気づいた後ろでしがみついている緑谷は血界を呼ぶ。

 

「血界くん!」

 

血界は檻のそれてる方向の方にしがみつき、拳を構える。

 

「ブレングリード流血闘術!『117式 絶対不破血十字盾』!!」

 

打ち出した盾に足を置き、押しのけることで方向を修正する。

 

「オオオォォォッ!!!」

 

「よし!方向は戻った!後は……かっちゃん!頼んだ!!」

 

緑谷は方向が戻ったことを確認して、前方で準備をしていた爆豪に声をかける。

 

「クソデクに言われなくても、こちとらいつでもできんだよ……!!」

 

同じく防火服を着て、檻の上で待機していた爆豪がニヒルな笑みを浮かべる。

檻の前方にはマットとその面に固定された爆豪の手榴弾型の籠手が備え付けられており、それを使うためのピンには糸が巻きつけられ、爆豪の手に握られていた。

すると、前方に壁が見え始め爆豪は一気に糸を引っ張り、特大の爆発をお見舞いする。

 

「ぶっ壊れろ!!」

 

爆発は優に壁を打ち壊し、さらに爆発の反動で檻のスピードが緩くなる。

 

「今だよ!瀬呂!峰田!」

 

「オウよ!」

 

「オラオラ!出血大サービスだぁ!!」

 

芦戸の合図で瀬呂がテープを限界まで檻が進む先に張り巡らせ、峰田は檻がぶつかる先の地面にもぎもぎを投げつけていく。

檻は爆発で舞い上がった煙を切って、穴の中に入り、テープともぎもぎの中に突っ込んでいく。

 

「緑谷!」

 

「血界くん!」

 

しかしそれでも勢いが止まるとは思えず、緑谷と血界が檻の後ろで止めようと地面に足をつき、引っ張る。

 

「「止まれェェェェッ!!!」」

 

2人はあらん限りの力で引っ張るとやがて檻は穴の壁ギリギリで、前方が僅かに浮き、その動きを止めた。

 

「と、止まった?」

 

「止まったぞ……」

 

『………ヤッタアァァァッ!!!』

 

止まったことを確認した1-Aの生徒達は歓声を上げた。

 

「やったな!緑谷!」

 

「う、うん………」

 

「もっと元気出せよ!お前の作戦で成功したんだからよ!」

 

「喜びより、安心しちゃって……」

 

血界はヘルメットを脱ぎ、煤だらけの顔を満面の笑顔で緑谷の肩を叩きながら、褒める。

 

「爆豪も良かったぞ!!」

 

「ウルセー!!まだ終わってねえだろうが!!」

 

「そうだぞ君達!次は保護者の方々を檻から出すんだ!!」

 

檻の中から聞こえる飯田の声に血界達はハッとして、保護者たちを上に上げることに移った。

檻に入った血界たちは保護者を上に上げないといけないが、まずは自分たちの親の安否を確認する。

 

「楓姉ちゃん!」

 

「母さん!」

 

「チーくん」

 

「出久ゥゥ!!」

 

血界は楓に近づき、肩に手を置いて安否を確認する。

 

「大丈夫か!?どこか怪我とか、あっ!暑さでやられたりしてないか!?」

 

慌てる血界に楓は成長した義弟の煤だらけになった頬に手を当て、慈愛の表情で労わる。

 

「チーくん、とっても格好良かったわ。お姉ちゃん、チーくんの成長が見れてとても嬉しかった。私ももう大丈夫、だから……『落ち着いて』」

 

楓の言葉を聞いた血界にはその言葉が反復するように染み渡り、やがて体に巡っていた力が徐々に治り、興奮も治る。

 

「………あれ?俺……?」

 

「さあ、チーくん。皆さんを上に引き上げましょう」

 

「お、おう……」

 

自分に何が起こったがわからなかったが、今は保護者を上に上げることに専念する。

 

 

保護者のことは緑谷と飯田に任せ、血界と爆豪は檻に拘束された敵をどうするか話し合っていた。

 

「どうする?先生が来るまで待つか?」

 

「ンな必要あるか。ぶっ飛ばしてから上でぶっ飛ばせば良い」

 

「二回ぶっ飛ばすのか……」

 

爆豪の物騒な物言いに呆れながら、血界はどうするかを話し合うがその時敵のマスクから鋭い眼光が輝いた。

 

 



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File.61 親心

保護者たちが次々と上げられて、漸く全員が引き上げられた。

そして生徒たちは自らの親に駆け寄る。

 

「お母さん!」

 

「響香!」

 

耳郎も自身の母親に駆け寄り、安否を確認する。

 

「怪我はしてない!?」

 

「大丈夫よ。貴女達が助けてくれたんだから」

 

普段のクールな感じからはあまり想像ができない慌てように耳郎の母は少し驚きながらも嬉しくなり、労りの言葉をかける。

その一言に耳郎も安心し、ふと母親の顔を見ると首に白い何かを貼っていたのが見えた。

 

「ねぇ、それ何?」

 

「あっ、やだ……!」

 

母親は慌てて隠すように手を首に当て、目を耳郎から離す。

その態度に不審に思う耳郎がふと周りを見ると保護者全員の首や額に白い湿布なようなものが貼ってあった。

 

「何あれ?」

 

耳郎はどういう状況なのか混乱し始めるが、切島が皆に声をかける。

 

「まだ爆豪達が下に残ってる!早く上げてやろうぜ!」

 

「でも、犯人もいるわ。どうしようかしら?」

 

蛙水がそう呟くと全員がどうするかと悩んでいると穴から絶叫めいた叫びが聞こえてきた。

 

『ゎぁぁあああっ!!』

 

それと同時に穴から影が上に打ち上げられ、地面に叩きつけられた。

 

「ぐおっ!?」

 

「っでぇ……!」

 

「イタタ……」

 

「うぐっ」

 

落ちてきたのは血界達で、一様に痛がっていた。

 

「おい、お前らどうした!?」

 

突然のことに全員が驚き、上鳴が驚きの声を上げると、また穴から黒い影が飛び出してくる。

それは今回の混乱を起こした張本人である犯人だった。

 

「アイツ、捕まえてたんじゃねぇのかよ!?」

 

「逃げ出したのか?」

 

全員が狼狽しながらも身構え、親を守るように前に立つ。

 

「ヨクヤッタ。困難ナ状況ノ中デヨク保護者ノ方々ヲ救出デキタ」

 

犯人は先程の狂気染みた話し方ではなく、生徒たちを評価する者としての言葉だった。

その言葉にほとんどの生徒が頭の中で疑問符が思い浮かぶが、血界と爆豪は違った。

 

「こんなことしておいて何言ってやがんだ……!」

 

「上から言ってんじゃねェぞ!クソが!!」

 

2人は直情的に犯人が許さず、攻撃しようと向かっていく。

しかし、犯人が僅かに手を動かすと血界と爆豪に赤い糸のような物が巻きつき、2人を拘束する。

 

「んだ、これ!?」

 

「これは

ジーニストの……!!」

 

血界は何が起こったか分からず、爆豪は職業体験先のNo.3ヒーロー『ベストジーニスト』が同じ個性を使っていたため、頭の中で思い浮かんだが、あの頭が固そうなヒーローにこんなことをしでかすはずがないと、その考えを捨てる。

すると、皆の後ろから手を叩く音が聴こえてきた。

 

「はい、皆さん。お疲れ様」

 

出てきたのは始末されたと聞いていた相澤だった。

 

『相澤先生!?』

 

「保護者の皆様もお疲れ様でした。今回の授業に協力していただき誠に有難うございました」

 

いつもの相澤からは想像ができない程の直角な礼と敬語に目を見開く生徒たちだが、保護者たちは「気にしないでくれ」、「子供たちの成長が見れて良かった」、「むしろ楽しかった」などと言っている。

 

「ちょっと待ってよ。最初から知ってたの!?」

 

「そうなのよ。ごめんね?」

 

詰め寄る耳郎に母親は申し訳なさそうにするが、耳郎は肩の力が抜けた。

 

「じゃ、じゃあ、あの犯人は……」

 

緑谷が血界と爆豪を拘束している犯人のことを聞く。

 

「彼は今回の授業に協力してくれた現役ヒーローだ。お前たちの講評も行ってくれる。先輩、もう大丈夫です」

 

相澤がそう犯人に告げると、血界と爆豪を拘束していた糸は解かれた。

仮面を外すとその素顔が現れる。

 

「おじさん!?」

 

今回の協力者として犯人役をしてくれたのは血界の保護者、血糸だった。

血界は真っ先に驚き、血界のおじだということに周りは驚く。

 

「例の血界のおじさんか!」

 

「ムキムキじゃなかったけど、イケメンだー!」

 

「現役ヒーローって凄くね!?」

 

突然のサプライズに周りは驚くが、血界は色々と衝撃が多くて馬鹿みたいに口を開いている。

 

「それより!今回のこの一連の出来事は学校側の仕業なのでしょうか!?」

 

飯田が相澤に詰め寄るが、相澤はいつもの様子で答えた。

 

「今回は保護者の方々にお前たちの成長を見てもらうのが目的だった。そのために今回は親御さん達の協力でこの様な演習をさせてもらった」

 

淡々と答える相澤に肩の力が抜けるA組の面々に相澤は喝を入れ直す。

 

「シャッキとしろお前ら。これからプロヒーローから講評をいただく」

 

相澤の言葉で生徒たちは背筋を伸ばし、血糸の方を見る。

血糸は全員を見渡し、講評を行なった。

 

「今回の全体の評価で言えば、不合格だ」

 

厳しい評価に生徒達は少し落ち込んだ表情を見せる。

 

「敵の二重三重の罠を考えずに強行して行おうとした救助活動。突然のアクシデントへの対策の時間。怪我人が多く出るであろう無茶な作戦。駄目な点を挙げるならキリがない」

 

プロヒーローの観点から見ればA組の行動はまだまだヒーローから遠いものだ。

それを改めて自覚した生徒達は更に落ち込む。

 

「このままではヒーローどころかサイドキックなんて夢のまた夢だ」

 

雄英で学び、ヴィランと対峙して自分たちは他のヒーローを志ざす者たちに比べれば一歩進んでいると思っていたが、そうではなかった。

親の前でダメ出しされて更に打ちひしがれているA組を見て、血糸一息つき話を続けた。

 

「…………まぁ、悪いところばかりでもなかった」

 

その一言に生徒たちは顔を上げる。

 

「まず緑谷 出久は救出のために様々な角度から作戦を考えた。これは行動を起こす時に重要なことだ」

 

「………っ!」

 

血糸の評価に緑谷はわかりやすく喜ぶ。

 

「次に爆豪 勝己、最も早く行動を起こした。この思い切りは評価に値する」

 

「ケッ……!」

 

爆豪は顔を背けて悪態をつくが少し笑みが溢れていた。

その後もそれぞれの行動を細かく見ていた血糸は皆を褒めていき、皆は喜んでいく。

そして最後に残ったのは血界だ。

 

「最後に血界」

 

「………」

 

血界はここまで皆が褒められてきているので、自分も褒められると思った。

しかも身内で、滅多に褒めない血糸から褒められるとなると少し照れた様子を見せる。

 

「お前は後先考えずに突撃し過ぎだ。無茶な行動は自分にも周りにも被害を与える。それにいつもお前は考えなしに動こうとする。今回は緑谷 出久が作戦を考えたがそれが無ければ大怪我は免れなかった。それと……」

 

「あ、あのおじさん?もうそれくらいに……」

 

まさかの駄目出しの連続にみるみる落ち込んでいく血界に周りは苦笑いをする。

血糸は一つ咳払いをして、話を切り替える。

 

「んんっ!……まだまだ至らない所はあるがめげずに頑張ってくれ」

 

『はいっ!』

 

プロヒーローからの激励にA組は元気よく返事をして、激動の授業参観は終わった。

 

 

教室で帰り支度をしているA組達は各々に今日の授業について感想を言い合っていた。

 

「今日の授業参観、いつにも増してやばかったな!」

 

「前はオールマイトが敵役だったけど、今回はなんか妙に迫力があったよね」

 

砂藤と葉隠がそんな話をしていると近くにいた瀬呂が血界に向かって話しかけてきた。

 

「血界のおじさんってヒーローなんだろ?なんてヒーローネームなの?」

 

「あー……?」

 

血界は皆の前で親代わりの人に説教されたことがショックだったのか机に突っ伏していた。

力なく返事をした血界は顔を上げた。

 

「確か……『ストリング』だったかな?」

 

「ストリング?聞いたことないな……」

 

「緑谷ー!」

 

葉隠は歩くヒーロー図鑑の緑谷を呼んだ。

 

「どうしたの?」

 

「ストリングってヒーロー知ってる?」

 

緑谷ならいつも通りマシンガントークが始まると思ったが首を傾げた。

 

「ストリング?聞いたことないなぁ」

 

「緑谷でも知らないんだ」

 

血界の近くにいた耳郎が珍しいと思った。

 

「うん、僕も気になって帰って調べようと思うんだけど情報が少なくて……血界くん、他に何か知らないかな?」

 

「うーん……確か活動してたのは5年前で今は活動を休止してるって言ってたかな」

 

その時血界は自分が記憶を無くしたのと同じ時期だな、と漠然に思った。

 

「なぁなぁ!これからどっかで飯食わね?クラス全員でさ!」

 

「親たちが食事会に行ってるから私たちも行こうよ!」

 

上鳴と芦戸が皆に声をかける。

 

「そういやクラスでどこか行くのは初めてだな。いいぜ楽しそうだしな!」

 

「血界くんの慰め会も兼ねて行こー!!」

 

「うぐっ……」

 

葉隠の親切な言葉に血界は胸を押さえて落ち込む。

切島を筆頭に爆豪以外の全員が手を挙げていき、こうしてクラス初の食事会が決まった。

 

親達は居酒屋に集まって親睦会を行なっていたが異様な雰囲気に包まれていた。

原因は轟の親であるエンデヴァーと血界の保護者である血糸だ。

今回の授業参観で轟の保護者として来たのは姉の冬美だった。

何故エンデヴァーがここにいるかというと、偶然にも授業参観の連絡書を見つけ、息子の成長を見ようと参加することに決めたがいざ行こうとすると気まずさからどう行けばいいかわからなかった。

学校の前まで来たのはいいがどうするべきかと悩んでいると授業参観を終えた親たちが出てきた。

その場に流れ、付いて来てこのような状況になった。

 

2人の殺伐とした空気、というよりエンデヴァーが一方的に血糸に苛立ちを募らせていた。

そのせいで他の親たちも気まずそうな顔をしていた。

何故、エンデヴァーが苛立っているかと言うと自分は轟の授業参観に呼ばれなかったのに血糸が呼ばれたからだ。

多忙であるエンデヴァーのことも考え、呼ばなかったと考えられるが一番は親子関係が不仲だからだろう。

息子に呼ばれなかったことと同じヒーローである血糸が呼ばれたのかご納得いかなかった。

 

「何故お前は呼ばれたんだ……!」

 

「まだ休職中でしたので手が空いていたんですよ。多忙である貴方の手を煩わせる訳にはいかないという理由で私が選ばれただけです。それに……貴方の個性じゃ御子息にすぐにバレて険悪な空気になるだけですよ」

 

「何だと!?」

 

事実を述べているだけだが喧嘩を売るような言葉にエンデヴァーの炎が爆発してしまう。

 

「まぁまぁ!!こんな所で喧嘩なんてやめにしませんか?」

 

「………」

 

「む……」

 

麗日の父が2人の間に割って入り、エンデヴァーを宥めた。

それによりエンデヴァーも怒りを抑え、自分の酒を飲み干す。

 

「いやー!それにしても轟さんの息子さんすごい個性ですね!」

 

「当然だ」

 

エンデヴァーは当然だと言わんばかりに胸を張って答える。

見てないくせに。

 

「緑川さんの甥っ子さんもすばらしい活躍でしたよ」

 

耳郎の母が褒めると血糸は頭を下げ、感謝する。

 

「ありがとうございます。しかし、まだまだです。危なっかし過ぎる。……今日最も活躍したのは緑谷さん、爆豪さん、飯田さんのご子息でしょう」

 

「えっ!?」

 

「いやいやウチのなんて……」

 

緑谷の母、引子は突然息子が名指しされ驚き、爆豪の母、光己が謙遜する。

しかし、周りの親たちは緑谷と爆豪を褒め、そこから子供達を褒め合ったり、自慢話になってきた。

その中で緑川は一言も話さず、酒を飲んでいると隣に座っていた楓に話しかけた。

 

「楓、今日『個性』を使っただろう?」

 

血糸の質問に楓は少し申し訳なさそうな表情になる。

 

「ごめんなさい……」

 

「お前の気持ちはわかるが気をつけるんだぞ」

 

「はい……」

 

楓は酒を空けると今度は血糸に話しかける。

 

「今日チーくん頑張っていましたね」

 

そう言われた血糸はグラスを止め、今日の血界の活躍を思い出した。

 

「……そうだな」

 

そして、グラスに入った酒を一気に飲み干した。

 



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Final exam
File.62 近づく期末試験!


授業参観が終わり、いよいよ期末試験が近づいてきた。

皆が1学期の総まとめなど色々と準備をしている中、血界も準備をしていた。

 

「お願いします。勉強を教えてください」

 

「………」

 

血界は後世に語り継がれるくらいに綺麗な土下座をして耳郎に頼み込んでいた。

しかも場所は朝の教室だ。

まだ全員が来てないとは言え人目があり、何事かと目を向けてくる。

一方で頼まれた耳郎は周りの視線が集まって来たのを感じて、慌てて血界を立ち上がらせる。

 

「いいから立ちなって!………はぁ、またなの?」

 

『また』と言うのは中学時代からテストがある度に勉強を教えてほしいと頼まれたのだ。

中学時代は喧嘩のせいで勉強が疎かになっていたが、高校生になってからは予習、復習をちゃんとすると約束したが結局ダメだったようだ。

 

「せめて1学期は頑張ると思ったんだけどね」

 

「……色々とイベント事があって手付かずになってしまいました」

 

「言い訳は言わない」

 

「ハイ………」

 

項垂れる血界を見て耳郎は仕方ない、とため息を吐いた。

 

「勉強を教えるのは良いけどウチだってわからないところはあるからね?」

 

「ありがとう!耳郎!!」

 

なんやかんやで勉強を教える自分も血界に甘いな、と思う耳郎だった。

所詮惚れた弱みと言ったものだろう。

すると血界が耳郎の手を握り、感謝した。

突然手を握られた耳郎は血界の体温を感じとり、徐々に顔を赤らめていく。

手を握っただけで顔を赤くするとはどんだけ乙女なんだ。

 

「わっ、わかったから!手離して……」

 

声をしぼめてしまい、血界には何を言っているか分からず手を握ったままの状態になる。

そこに恋の予感をした芦戸と面白そうだからと上鳴が寄ってきた。

 

「ヒューヒュー!お熱いねお二人さん!」

 

「なんの話してんのー?」

 

茶化す芦戸と呑気に聞いてくる上鳴に血界が答えた。

 

「期末試験の勉強を教えて貰おうって思ってよ」

 

それを聞いた瞬間、2人はわかりやすく落ち込んだ。

 

「その話すんなよ……」

 

「せっかく忘れてたのに……」

 

上鳴 電気 、A組成績ランキング第21位。

芦戸 三奈、同じく第20位。

クラスでも最下層の成績を持つ2人はうなだれてしまう。

 

「そんな落ち込むなよ。どうせやらなきゃいけないんだ。頑張っていこうぜ」

 

血界が励ますが2人は血界を睨む。

 

「何上から言ってんだ!お前も同じなんだからな!!」

 

血界・V・ラインヘルツ、成績ランキング第19位。

 

「血界も私たちと同じ最下層なんだからね!」

 

「という訳で!俺たちも教えてください!」

 

耳郎に向かって綺麗なお辞儀をする上鳴と芦戸に耳郎はまたため息を吐いた。

 

「別にいいけど……ウチだってわからないところが多いからそんなに教えられないかも」

 

少し困った様子を見せる耳郎に八百万が声をかけてきた。

 

「あの……よろしければ私が教えましょうか?」

 

八百万 百、成績ランキング第1位。

 

「マジで!ありがとー!」

 

「いえ、勉強はできても実力は無いでしょうから……」

 

八百万が落ち込んだ様子で呟いた。

 

「どうした?」

 

「大丈夫ヤオモモ?」

 

血界と耳郎が心配して声をかけたが、八百万は気にしないでと返した。

 

 

その日のヒーロー基礎学を終え、それぞれの更衣室で着替えていると峰田が血界に声をかけた。

 

「おい!血界!こっち来い!」

 

「なんだよ?」

 

峰田が手招きして見せたのは壁に空いた小さな穴だった。

 

「見ろよこの穴!女子更衣室に繋がってる違いねぇぜ!」

 

「そうだな………ん?」

 

峰田の言っていることが少しわからなかった血界は首を傾けるが峰田は力説する。

 

「だから!ここからなら女子更衣室が覗けるだろうが!!」

 

「な、なるほど……!」

 

峰田の剣幕に少し圧される血界は頷く。

 

「お前も一緒に覗こうぜ!」

 

「……いいぜ!」

 

すかさず無駄にいい笑顔で了承した血界は親指を立てる。

2人は早速覗こうとするがそこに委員長の飯田が2人を注意する。

 

「やめないか君達!女性を貶める言動は慎みたまえ!!」

 

委員長としてその行為は許されることではなく、怒りの様相で詰め寄るが血界はまるで悟ったかのような顔つきになり、飯田の肩に手を置く。

 

「飯田……、お前のことは本当に凄いと思ってるよ。委員長なんて面倒くさい仕事をやってクラスの規律を守っている。そんなことは誰でもできることじゃない。お前は正しくヒーローだよ」

 

「血界君……!」

 

血界の言葉に感動してしまう飯田。

わかってくれたのかと安心したが、血界は言葉を続ける。

 

「だけどな……こういうのも青春だと思うんだ!というわけで覗こうぜ!峰田!」

 

「おうよ!」

 

「血界くーーーーん!!」

 

飯田の言葉は虚しくも、馬鹿な血界の本能には勝てなかった。

飯田の悲痛な叫びを無視して2人は穴に顔を近づける。

 

「さぁさぁ!行こうぜ!桃源郷へ!!八百万のヤオヨロッパイ!麗日の麗らかボディ!蛙水の意外っパイ!」

 

「普段から馬鹿にしやがって!耳郎のスレンダーボディを見尽くしてやるよ!!」

 

「はっ、あんな貧相な体見ても何も興奮しないね」

 

峰田がそう言うと血界は峰田を見た。

 

「何言ってんだよ。あーゆー身体こそそそるもんだろ?」

 

「何言ってんだよ?おんなはやっぱり胸だぜ!」

 

すると血界はわかりやすくため息を吐いた。

 

「はぁー、お前何もわかってないな。胸はよぉ誰にでもあるだろうが、身体全体のバランスが取れてないと気持ち悪いぞ」

 

その言葉にカチンと来た峰田は血界を睨む。

 

「わかってないのはお前だろうがよ。多少体系が崩れてたとしても胸が大きけりゃそれは豊満ボディとして許容できるだろうが。オッパイは全てを救うんだよ」

 

「俺も胸を否定するわけじゃないけどさ。あんまり胸にそそられないのよ。やっぱりプロポーションだろ」

 

「それこそオッパイが重要になってくるだろうが!!いいか?オッパイってのはな……」

 

2人の性的趣向の会話は白熱していき、周りの男子たちはそれを遠目で見ていた。

 

「なんて……酷い会話だ」

 

「こんなにも熱弁してんのに全然男らしくねぇ……」

 

緑谷と切島が引きながらそう呟き、全員が頷く。

 

「見損なったぜ!血界!お前は同士だと思ってたのによぉ!!やっぱり彼女持ちは彼女しか見えなくなくなるんだな!!」

 

「彼女?誰が?」

 

峰田の言葉にまたも首を傾げる血界にいよいよ苛立ちが溜まった峰田が爆発した。

 

「耳郎のことだろうがよおぉぉぉぉっ!!!あんなにイチャイチャしてたらそら思うだろうが!!!」

 

その言葉に血界は不思議そうにしていた。

 

「俺と耳郎かが?上鳴、そんな風に見えてたか?」

 

「うぇ?俺に聞くの?うーん、まぁ仲良くは見えるわな」

 

上鳴の意見を聞いて初めて血界は自分と耳郎の関係がどう見えているか理解した。

 

「そうか……そんな風に見えていたのか。だけど俺と耳郎は付き合っていないぞ」

 

「ンなわけねぇだろうが!!じゃあ何か?お前はちっぱいに興奮しねぇのか!!?」

 

もはや血涙を流す勢いの峰田に血界は平然と答えた。

 

「いや、普通に興奮する。めちゃくちゃタイプだし」

 

「おぉぅ……普通に答えるんだな」

 

あっさりと答える血界に上鳴は驚いた。

 

「じゃあ付き合わねーの?」

 

切島が質問すると血界は有り得ないと言わんばかりに笑う。

 

「耳郎と俺じゃ釣り合わねーよ。アイツも俺なんかじゃ嫌だろ?」

 

その言葉に全員がため息を吐き、上鳴が可哀想な奴を見るような目で血界を見て肩にそっと手を置いた。

 

「血界……今時、鈍感系は流行んねーぞ」

 

「は?」

 

訳がわからんと言った顔をする血界だった。

因みに血界が話している隙に覗こうとした峰田は穴から出てきた少し()()なっていたイヤホンジャックに勢い良く刺され、粛清されていた。

 

 

その頃女子更衣室ではと言うと、

 

「最低だね!」

 

「まったく、抜け目が有りませんわ」

 

「塞がないとね!」

 

女子達に僅かながら血界達の会話が聞こえてたらしく憤っていた。

 

「ありがとうね、耳郎ちゃん………耳郎ちゃん?」

 

蛙水が耳郎にお礼を言うが耳郎は答えず、何かブツブツと呟いていた。

 

「血界がウチに興奮してる……?ってことはウチのこと女として見てるってことだよね?」

 

「どうしたの?」

 

「わっ!顔真っ赤だ!」

 

その日は耳郎は血界のことをまともに見ることができなかったそうだ。



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File.63 大きな壁の期末試験

期末試験に向けて血界達は八百万の家に訪れて、その豪邸に驚いたり、頭から煙を出すほど勉強したりと備えていた。

そして期末試験まで近くなったある日の昼休み、血界達は緑谷たちと食堂で食事を取っていた。

 

「血界くん、勉強の方はどうなの?」

 

「なんとかいけそうだなぁ……赤点は免れないと林間合宿が無くなっちまう」

 

先日ホームルームで相澤が夏休みに行なう林間合宿を知らせてくれた。

青春の1ページを刻む林間合宿に生徒達は大いに楽しみにしていた。

しかし、期末試験で赤点を取った者には林間合宿中、学校に居残りとして補修を受けなくてはいけなくなってしまい、皆必死になった。

 

「血界さんは先日の模試テストで赤点を回避しましたし、このまま行けば林間合宿に行けますわね」

 

「赤点ギリギリだったけどな……」

 

肩を落とす血界を見かねた耳郎からフォローを入れた。

 

「まぁ、アンタは実技の方は大丈夫でしょ」

 

「そうだけど具体的な内容がわからないから何とも言えないんだよなぁ」

 

テスト勉強続きで少々ネガティブな思考になっていた血界は昼飯の超大盛りカレーのスプーンを咥えながら椅子にもたれ、そうボヤく。

そうしていると突然頭に何かがぶつかった。

 

「いてっ」

 

「ああ、ごめん。派手な頭なのに気づけなかったよ」

 

ぶつかってきたのはB組の物間だった。

 

「何だテメェ?」

 

「B組の物間くん!」

 

面識がない血界は嫌みたらしく謝ってくる物間を睨み、緑谷は突然のことに驚く。

そんなことを気にしない物間はさらに血界達を煽ってくる。

 

「君らヒーロー殺しに遭遇したんだってね。体育祭に続いて注目を浴びる要素ばかり増えてくよね、A組って。ただその注目って決して期待値とかじゃなくてトラブルを引きつける的なものだよね」

 

確かにA組はトラブル続きだがそれは偶然としか言いようがない。

物間の言葉に全員が怒りを覚えたが、ここで言い争いをする程馬鹿ではない。

しかし、1人その馬鹿がいた。

 

「もう一回言ってみろ」

 

(あぁ!やっぱり!)

 

血界は椅子から立ち上がり、物間に詰め寄る。

耳郎は短気な血界が物間にキレてしまうのではないかとヒヤヒヤしていたがやはりキレてしまった。

 

「おぉ!怖い!やっぱりA組はトラブルの種だね!いつか君達が呼ぶトラブルに巻き込まれて僕らにまで被害が及ぶかもしれないなあ!ああ怖……」

 

物間がさらに煽り、血界の眉間に皺がより増してくると、物間の太ももに鋭い蹴りが打ち込まれた。

 

「あ"ーーっ!!?」

 

とてもかん高い音と共に絶叫しながら崩れ落ちる物間に突然何が起こったと驚く血界達。

崩れ落ちた物間の背後には足を振り抜いた氷麗が立っており、痛みに悶える物間を見下ろしていた。

 

「このバカは何を言っているのかしら?」

 

「す、スターフェイズ……」

 

「飯田のこと知らないの?洒落にならん」

 

「拳藤もか……」

 

氷麗の横には物間の昼食をいつのまにか持っていた拳藤が立っていた。

 

「ごめんな。こいつ心がちょっとあれなんだ」

 

(心がアレ?)

 

すかさず物間のフォローを入れる拳藤に血界は怒りを抑える。

流石はB組の姉御である。

 

「響香ー」

 

「ぐえっ!?」

 

氷麗は物間の頭を踏んで、耳郎に駆け寄り頭に抱きついた。

その時、耳郎の顔に氷麗のメロンが押し付けられ嫌でもその大きさと感触を感じ取ってしまう。

それを見た血界以外の男子は顔を赤くして顔を晒す。

 

「くっ……!」

 

耳郎は悔しそうにしながら顔を晒すがそれでも顔に纏わりついてくる柔らかさは消えず、怒りが増す。

それを見ていた拳藤は苦笑いしながら血界達に話しかける。

 

「ハハハッ……お詫びって訳じゃないんだけどさ。さっきの話ちょっと聞いたんだけど期末の実技試験の内容、ロボット実戦らしいよ」

 

拳藤は知り合いに先輩がいるらしく、その先輩から聞いた期末試験は毎年ロボット実戦だったらしい。

それを聞いた血界達は少し肩の荷が降りた。

 

「拳藤、何故A組の連中に話したんだ……!せっかく差がついたのに……!」

 

「差とかどうでもいいだろ」

 

拳藤が物間に手刀を叩き込んで黙らせてから引きずってその場を後にした。

それについて行く氷麗に血界が声をかける。

 

「おい、その話って本当なんだよな?」

 

「………」

 

確認のために声をかけた血界だが氷麗は少し血界の方を見るとプイッとそっぽを向いて拳藤達に付いて行った。

いつもなら憎まれ口を叩いてきてもおかしくない氷麗だが、今日は少しおかしかった。

 

「よかったじゃん。実技の方は楽そうでさ」

 

「まぁな……」

 

耳郎が血界に声をかけるが氷麗のあの態度が気になり、空返事を返すだけだった。

 

 

その後、A組の皆に実技試験のことは伝えられ、幾分か試験のプレッシャーが和らぎ、筆記試験に集中することができた。

そして試験当日、筆記試験では最底辺の3人は何とか乗り切ることができ、八百万に感謝した。

そして実技試験当日となり、全員がヒーロースーツを着てバスが置いてある駐車場にやってくるとそこにはA組担任の相澤だけではなく、多くの教師達が待っていた。

 

「何であんなに先生達が……?」

 

緑谷が不思議そうに呟くと相澤が説明を行なう。

 

「これから期末試験の実技を行なう。内容は……」

 

「ロボット実戦だろ!やってやるぜー!!」

 

「キャンプー!カレー!肝試ー!」

 

相澤が説明を行おうとすると一番の山場を超えた上鳴と芦戸が意気揚々と答えるがそこに待ったをかけられた。

 

「残念!今年から内容は変わるのさ!」

 

相澤のマフラーから現れた校長の根津が宣言し、2人のテンションの急上昇が止められた。

 

「変わる?一体どのような内容に……」

 

八百万が質問すると根津は相澤の肩から降りて説明を始める。

 

「昨今のヴィランの組織化からヒーロー個人の戦闘力が重視されてね。ロボット実戦の試験では適さないとのことになったのさ。そこで……」

 

先まで静観していた教師陣が一斉に前に出て、生徒達の前に並ぶ。

 

「ここにいる教師達で対人戦闘・活動を見据えた、より実戦に近い教えを重視するのさ!というわけで、諸君にはこれから2人一組で、ここにいる教師一人と戦闘を行ってもらう!」

 

その言葉に生徒達は驚きを隠せない。

根津に続き、相澤が説明する。

 

「尚、ペアの組と対戦する教師は、既に決定済み。動きの傾向や成績、親密度……諸々を踏まえて独断で組ませてもらったから発表してくぞ。……まず轟と八百万がチームで俺とだ」

 

相澤は名指しした2人を不敵な笑みを浮かべて見る。

 

「そして緑谷と爆豪がチーム」

 

相澤の次のチームの発表に呼ばれた2人は驚愕する。

つい先日、険悪な仲か更に悪くなった2人がチームを組むのは皆も驚いていた。

 

「で、相手は……」

 

「私が、する!」

 

緑谷と爆豪の前に立ちはだかったのはNo.1ヒーロー、オールマイト。

その威圧感に2人に緊張が走る。

 

そして各々のチームが決まり、対戦する教師が決まると血界が手を挙げた。

 

「あの、俺まだチームも対戦する教師も決まってないです」

 

A組は21人の奇数だ。

1人あぶれるのはわかっていた。

 

「ラインヘルツのチームと対戦相手も決まっている。こっちに来てくれ」

 

相澤が合図をすると1人やってきた。

 

「今回お前とチームを組むB組の氷麗・A・スターフェイズだ」

 

現れたのは青色のバトルスーツにスパッツとスカート、そして純白で十字架があしらわれたブーツを履いた氷麗だった。

 

「氷麗が!?」

 

「………」

 

(氷麗?)

 

驚く血界を他所に氷麗は冷たい表情で血界を見つめる。

その様子に耳郎はいつもの氷麗とは違った雰囲気に気づいた。

 

「そして、お前たちの対戦相手はこの私だ」

 

氷麗の背後から現れたのは大柄な影だ。

髪を逆立て、吸血鬼のような犬歯を持ち、筋骨隆々な男、B組担任のヴラドだった。

 

「今回は人数の都合により、ラインヘルツにはスターフェイズと組んでもらう。よろしく頼むぞ」

 

「は、はい……」

 

自分の担任とは明らかに異なる態度の担任教師のヴラドに血界は自分の教師はやっぱりおかしいと思い、戸惑いながら返事をする。

 

「全員のチーム、対戦相手が決まったな。速やかにそれぞれの試験場に向かって試験を行え。詳しい説明は試験場で担当教師がしてくれる。移動は学内バスだ。時間がもったいない、速やかに乗れ」

 

こうして1年最初の期末試験が始まった。



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File.64 期末試験 対ヴラドキング

今日からヒロアカの映画が始まりますね。
早速見てきます。


血界と氷麗はヴラドに引率され、試験会場に向かっていた。

血界は一番後ろの席に座りながら、前に座る氷麗を見て、それぞれの試験場に向かう際に耳郎が血界に話しかけてきたことを思い出した。

 

ヴラドの引率でバスに乗り込もうとした血界に耳郎が声をかける。

 

「血界!」

 

「どうした?」

 

血界を引っ張り氷麗に聞こえないように顔を近づける。

 

「氷麗のこと気にして欲しいんだ」

 

「何でだ?」

 

「あの子、少し様子がおかしくてさ」

 

血界は既にバスに乗り込んでいる氷麗に目を向けるが特に変わった様子はない。

 

「そうか?いつもと変わらないように見えるけど」

 

「ラインでも話さなくなったし……なんかいつもと違うよ」

 

心配そうにする耳郎を見て、ただ事ではないと思った血界は耳郎の頼みを聞き入れた。

 

「わかった。なるべく気にかけるようにする」

 

「頼んだよ」

 

 

耳郎との会話を思い出し、氷麗を改めて見ると確かにいつもと様子が違うのがわかった。

氷麗は試験の前だろうと緊張を見せるようなタイプではない。

どちらかと言うと爆豪のような自信家タイプだ。

爆豪よりは好感触を持てる性格なはずだが、今は凍てついた氷のような雰囲気を醸し出している。

いつもなら一緒にいるとからかってくるのだが、その様子はない。

思えばこの前の昼休みの時も様子がおかしかった。

 

考えても埒があかないと思った血界は立ち上がり、氷麗の隣に座り、話しかけた。

 

「なぁ、何があったんだよ?」

 

「………」

 

「黙ってないで何か言えよ」

 

「………」

 

血界から話しかけても黙ったままの氷麗に血界は困ってしまった。

 

「お前たち、そろそろ試験場に着くぞ。準備をしておけよ」

 

ヴラドが2人に声をかけ、血界は仕方なく氷麗から離れ準備を始めた。

腑に落ちない血界と無表情の氷麗を見て、ヴラドは前を向くと少しため息を吐き、先日の職員会議での事を思い出した。

 

 

相澤がA組の実技試験の担当教師を発表していると血界のパートナーと実技試験の担当を発表した。

 

「ラインヘルツ、スターフェイズの担当はヴラドにお願いします」

 

「俺か、片方はウチの生徒だが俺は他の生徒の監督もしなければいけないんだがな」

 

相澤の采配に苦言を呈するが相澤は譲らなかった。

 

「分かっています。ですが、この2人の個性については貴方が最も相性がいい。それに、スターフェイズについては頭を悩ませているでしょう?」

 

「ムゥ……」

 

そう言われると図星で何も言えなくなるヴラドは了承した。

 

 

(あの時は流されるままに了承してしまったが結果的にはこれで良かったのかもしれんな………)

 

自分が受け持つ生徒の中で最も実力を持つが最もヒーローに()()少女の本心がわかるかもしれないと密かに期待したヴラドだった。

 

それぞれの思惑を持ちながら、バスは試験会場に着いた。

 

 

血界たちに用意された試験会場はショッピングモールを模して造られたらしく巨大なU字型の建物だった。

その先端のところにはポップなアーチが掛けられており、そこには校長のイラストもかけられていた。

 

「制限時間は30分!お前たちの目的は「このハンドカフスを俺に掛ける」か「どちらか1人がこのステージから脱出」だ!」

 

「逃げてもいいんですか?」

 

「ああ、なにしろ戦闘訓練とは訳が違う。相手は格上だからな」

 

現役ヒーローが相手、確かに逃げに徹しなかければ勝てないかもしれない。

 

「今回は極めて実戦に近い状況での試験だ。俺たちを敵そのものだと考えろ。会敵したと仮定し、そこで戦いに勝てるならそれで良いが、実力差が大きすぎる場合は逃げて応援を呼んだ方が賢明だ。……ラインヘルツ 、お前たちはよく分かっているハズだな」

 

「………」

 

血界は先日のステイン戦を思い出す。

確かにあのまま戦い続ければ殺されていた。

その時のことを思い出し、冷や汗を流す。

その様子を氷麗は少し視線を向けた。

 

「だが、この状況では実力差が大きすぎて逃げの一択になってしまうと思う。そこで俺たちにはハンデが課せられた」

 

ヴラドが取り出したのは何かの重りだった。

 

「サポート科に作らせた『超圧縮重り』だ。これで俺たちは体重の半分の重さをつける」

 

「戦闘を視野に入れるためか……」

 

「それでは所定の場所に移動しろ!そこから開始の合図で試験は始まるぞ!」

 

 

血界たち2人はモールの中間地点で開始の合図を待っていた。

その間、血界は氷麗に何度も話しかけたが悉く無視された。

 

「はぁ……一体どうしたんだよ?」

 

「………」

 

困った表情の血界と無表情の氷麗にアナウンスが流れる。

 

『皆、位置に着いたね。それじゃあ今から雄英高1年、期末テストを始めるよ!』

 

一先ず氷麗のことは一旦頭の隅に追いやり、試験に集中する。

 

『レディイイー………ゴォ!!!

 

血界と氷麗は合図もせずにヴラドがいるゲート近くに向かって走り出す。

 

「とにかく合格するには先生を倒すか、ゲートを通るしかない。こんなステージだ。先生はゲート近くで待っているからこっちから向かって行くしかないないな」

 

「………指図しないでよ

 

「は?」

 

か細い声でボソっと呟き、血界は聞き取れなかった。

聞き返そうとしたがゲート付近に立つヴラドが目に入った。

 

「いたな。俺が大技で先行するからお前は隙をついてー…」

 

即席の作戦を伝えようとすると氷麗は一気にスピードを上げ、ヴラドに向かって行く。

 

「あっ、おい!…………くそっ!」

 

血界が悪態をつくが氷麗は構わず、向かっていく。

 

「来たか」

 

腕を組んで待つヴラドまで残り10m程となったところで氷麗の姿が消え、ヴラドの頭上に現れ、脚を振り上げる。

 

エスメルダ式血凍道 絶対零度の鎌

 

脚から氷の鎌が生成され、ヴラドをなぎ払おうと振るわれる。

 

「それは悪手だ!スターフェイズ!」

 

ヴラドはあらかじめ来るのが分かっていたかのように氷の鎌を手で受け止めた。

 

「ウソッ!?」

 

素手で受け止められるとは思っていなかった氷麗は驚いた表情になる。

ヴラドが氷麗を投げとばそうとすると血界がヴラドの目の前で拳を握る。

 

ブレングリード流血闘術 111式 十字型殲滅槍

 

技を発動させようとした血界にヴラドは掴んでいた氷を氷麗ごと振り回し、血界にぶつけた。

 

「ぐっ!?」

 

「うわっ」

 

吹き飛ばされた2人は近くの店舗にぶつかった。

 

「いてて……無事か?」

 

血界が氷麗に声を掛けるが返事はなく、問題なさそうに立ち上がっていた。

返事を返さない氷麗に腑に落ちなかったが、血界は立ち上がりながら話しかける。

 

「先生も現役ヒーローだ。真っ向から勝負しても勝てるかわからねぇぞ。協力して攻撃を仕掛ければ……」

 

「関係ない……!」

 

「あっ、氷麗!」

 

またも勝手に先行してヴラドに攻撃を仕掛ける氷麗。

華麗な足捌きでキックを連続で打ち込んでいくがヴラドは全てを捌いていく。

 

「スピードは申し分ない!個性を使わずにこのスピードは驚異的だ!だが……!」

 

ヴラドはコメカミに向かってのハイキックを片手で受け止めた。

 

「パワーが足りないから簡単に掴まれる」

 

「くっ……!」

 

受け止められた氷麗は悔しそうに脚を下げようとするがヴラドの力が強く引き剥がせない。

ヴラドは腕を振って氷麗を背後の壁に向かって投げると右手から血液を飛ばす。

 

「束縛血!」

 

ヴラドキングの個性『操血』により、氷麗は壁に貼り付けにされた。

 

「次はラインヘルツか!」

 

走って向かってくる血界は右拳に力を込め技を放とうとするがヴラドの背後に氷麗が捕まっていることに気づいて力を抜き、左腕を構え、ジャブを放つ。

 

「お前の技は一つ一つが必殺の威力を持つが団体戦では動きが制限される!故に新しいスタイルを確立したのは褒めてやる!だが……!」

 

血界のジャブかヴラドの顎を捉えようとした瞬間、その腕を掴まれた。

 

「っ!?」

 

「動きが率直すぎてわかりやすい!」

 

「ぐあぁっ!」

 

ヴラドは掴んだ腕を握りしめ、血界は締められた痛みで膝をつく。

右拳で殴りかかるが左腕を掴んでいる腕から血が溢れて血界の体にまとわりつき、動きを制限する。

 

「う、動け……!」

 

「技が出せる場所が限られているならそこを抑えれば制圧は容易い!」

 

ヴラドは渾身のボディパンチを血界の鳩尾にぶつけ、殴り飛ばす。

 

「ごほぉっ!!」

 

地面に倒れる血界だが、何とか起き上がり拳を構える。

 

「さあ、何度でもかかってこい!」

 

ヴラドが腕を広げ、待ち構えると血界は駆け出し、ヴラドに攻撃を繰り返す。

しかし、ヴラドは体捌きと個性で血界の攻撃を全て無効化する。

その間に氷麗は自分を拘束していた血を徐々に凍らせていた。

やがて全てが凍り、壁に足をついて体を押し出すと簡単に出ることができた。

 

戦っているヴラドと血界を見て、次にゲートを見る。

今ヴラドは血界との戦いに集中してこっちに意識を向けていない。

今ならゲートを通ることができる。

そう思った氷麗は迷わずゲートに向かって走る。

横目でその様子を見ていたヴラドは呟いた。

 

「それは悪手だと言っただろう」

 

ゲートを通過しようとした瞬間、ゲートの柱から血が溢れ、氷麗の行く手を防ぐ。

 

「っ!?チッ……!」

 

氷麗は血の壁に蹴りを入れようと脚を振りかぶるが血の壁から何本も槍状の血液が伸び、氷麗を攻撃する。

 

「キャアっ!」

 

「氷麗!」

 

氷麗の悲鳴を聞こえ、そちらに目を向けるとヴラドが背後に立つ。

 

「余所見とは余裕だな」

 

「しまっ……!」

 

「ヴラッドナックル!!」

 

血液で固めた拳で血界を殴り倒し、地面に叩きつける。

 

「があっ!?」

 

地面にヒビが入る程の威力に血界は一瞬意識が飛んでしまった。

 

「どうした?もう終わりなのか?」

 

ヴラドは睨むように2人を見下ろし、その威圧感を2人にぶつける。

2人は早くも窮地に立たされた。



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File.65 Vol.Max!!!

映画見てきました。

めちゃくちゃ良かったです!
まだ見てない人も是非見てくださいね。


耳郎は口田とチームを組み、対戦相手は同じ音系のプレゼント・マイクだった。

最初はいつもお調子者のマイクが格上と言われてもピンっと来なかったが試験が始まればその考えはすぐに改められた。

 

「ハァ…ハァ…くそっ!どこに逃げてもマイク先生の攻撃から逃げれない!」

 

『どぉこですかぁーー!!!』

 

とんでもない大声量が耳郎目掛けて放たれる。

堪らず耳郎は蹲ってしまう。

 

「うぅっ……うるさっ…!」

 

音が止んだ瞬間に耳郎はイヤホンジャックを足のスピーカーに刺してマイクに向かって反撃をするがその音はマイクのと比べると余りにもか細い。

 

「ダメだ!マイク先生の個性は格上だとわかってたけど、全然違った!完全に上位互換!このままじゃやられる!……どうにか近づけば勝機はあるかもしれないけど……!」

 

耳郎は木の陰に隠れていた口田に声を掛ける。

 

「口田!アンタって動物以外の生き物も操れる!?」

 

耳郎の質問に口田は首を縦に振る。

口田の個性『動物ボイス』は動物を意のままに操る個性だが、マイクの声量のせいで動物たちが逃げてしまい、個性が使えない状態だ。

 

「じゃあ虫とかもいけるよね!?」

 

耳郎はすぐ側にあった岩にイヤホンジャックを刺し、音波で破壊してその下にいたムカデやら団子虫を指した。

 

「ヒャアァァァッ!!!」

 

虫たちを見た瞬間、普段無口な口田からは考えられない感高い悲鳴を上げて木の裏に隠れてしまった。

 

「……えっ、えっと口田?もしかして虫苦手?」

 

耳郎の質問に涙目で首を振る口田。

まさかの弱点に耳郎が驚き、油断しているとマイクの大声量が耳郎を襲う。

 

『そこかああぁぁぁ!!!!』

 

「痛っ……!!」

 

背後からモロの直撃に耳に激痛が走る。

 

「とにかく……!反撃しないと……!」

 

耳郎は深呼吸を繰り返し、心音を高めていく。

 

「スピーカー1個犠牲にする大技くらえ……!!」

 

L・B・S《ラウド・ビート・サウンド》

 

耳郎の脚に装着されてあるスピーカーにイヤホンジャックを挿し込み、H・R・Bを流し込んでさっきとは段違いの音が流れる。

 

『うおっ!?中々いい音流すじゃねぇか!』

 

先の攻撃とは段違いなのに気づいたマイクは少したじろぎながらも余裕の笑みを浮かべる。

 

耳郎は胸を抑え、息を荒くしながら跪く。

音を流したスピーカーからは煙と火花が散り、壊れたのは明らかだ。

 

「ハァ…ハァ……これで…少しは泡を吹かせられたでしょ?」

 

(じ、耳郎さん……!)

 

満身創痍の耳郎を見て、口田は自分が情けなくなる。

雄英に入学できたが勇気を出して前に進むことはあまりなかった。

憧れの雄英に入学したからには心はいつも“更に前へ”の気持ちで進み続けるしかない。

覚悟を決めた口田は震えながら虫の大群に近づく。

 

「口田?」

 

「じ、耳郎さん、僕やるよ。ど、どんな作戦なの?」

 

覚悟を決めた口田の顔を見て、耳郎は笑みを浮かべ、作戦を伝えた。

 

 

マイクはゲート前で待ち構え、声を調整しながら耳郎達の行動を待っていた。

 

『反撃してきたから何か考えがあるのかと思ったが、ただの当てずっぽかー?』

 

少しがっかりしながら、また攻撃しようかと考えた瞬間地面が盛り上がる音が聞こえた。

 

『何だぁ?』

 

目を向けると地面から大量の虫が現れ、マイクの足を登ってきた。

 

『うおぉぉっ!?マジかぁ!?』

 

大量の虫が体を駆け上ってくるのは誰でも卒倒ものだが、マイクは過去の過酷な血糸の訓練を思い出し、何とか耐える。

 

(あ、あの時の訓練に比べればァ……!!)

 

思い出すのは虫が苦手だと知られた時は体を拘束され、身体中に虫を張り巡らせられ、走るのが遅いと言われた時は倒れるまで走らされた。

その時のに比べればこんなもの軽いものだ。

マイクは正気を取り戻し、自身のサポートアイテムである首に装着してあるマイクを指向性から拡散性に切り替え自身の周りに音を出すように瞬時に調整する。

 

『離れろおおぉぉ!!!』

 

拡散された音はマイクの体から虫を引き離した。

 

『な、なんつー悪趣味な攻撃……』

 

体から虫が離れたマイクは膝に手をついて疲れた表情を見せる。

その瞬間、横の草むらが揺れた。

咄嗟にその方向を向いたマイクに向かって口田が飛び出した。

 

(虫を囮に特攻かよ!………いや、待てよ?わざわざ囮にして特攻する理由が……)

 

「本命はウチだよ!」

 

マイクの背後から耳郎の声が聞こえる。

耳郎はマイクに向かってイヤホンジャックを向けていた。

 

『俺と音勝負すンのかぁ!?いいぜ!カモン!ロッキンガァール!!』

 

今のマイクは拡散性、2人ごと巻き込める。

更に先の攻撃でマイクは耳郎の音の威力は大体わかり、自分が勝つのがわかっている。

故にマイクはあえて相手の挑発に乗ってあげた。

 

(これ使ったらウチは動けなくなる……!)

 

 

「口田にはマイク先生の気をそらして欲しいんだ。もしそれで倒せたらそれで良いんだけど先生もそこまで甘くないだろうし……だから、ウチはそこで勝負を仕掛ける」

 

耳郎の作戦に口田は少し不安そうな表情になる。

それに気づいた耳郎は質問する。

 

「どうしたの?」

 

「しょ、勝負する必要あるかな?耳郎さんも怪我をしてるし……」

 

口田が指差すのは血が流れている耳郎の耳だ。

マイクの攻撃で鼓膜が破れてしまっていた。

 

「無理に攻撃せず、逃げ切れるならそうするべきじゃないかな?」

 

口田の言い分は正しい。

何もヒーローは必ずしも戦わなくてはいけないわけではない。

しかし、口田の言い分は理解できても耳郎の心は挑みたいという気持ちが強かった。

 

「口田の言い分もわかるよ。でもウチは血界みたいに立ち向かいたいんだ……!」

 

憧れた彼と並ぶには更に力をつけないといけない、その想いが耳郎を戦いに導く。

耳郎の本気度に口田は感銘を受ける。

 

(耳郎さん、そこまで……)

 

「わかったよ。じゃあ二段構えで行こう?」

 

「二段構え?」

 

今度は口田から作戦を伝えられた。

 

 

『カモン!ロッキンガァール!!』

 

マイクの挑発に耳郎はあえて立ち向かう。

先から隠れていた茂みで心音は極限まで高め、後はそれを放つだけだ。

 

(マイク先生は音には必ず耐性がある!だから、出来るだけ至近距離で……!)

 

走る耳郎に向かってマイクは即座に指向性スピーカーに切り替え、大声量を耳郎に向かって放つ。

耳郎はそれ目掛けて心音を放つ。

 

(今、ウチが出せる最高峰の音を……!)

 

L・B・S Vol.Max(ボリュームマックス)!!!

 

耳郎とマイクの音がぶつかり、激しい拮抗が起きる。

周りの木々と地面は揺れ、更にはその余波で地面にヒビが入る。

 

「アアアァァァッ!!!」

 

耳郎は叫んで更に力を入れる。

音波の余波で鼻血が垂れるが、今の耳郎に気にする余裕はない。

少しでも気を抜けば押し負けてしまう。

 

(こいつ!さっきまでのは本気じゃなかったのか!?)

 

今まで鍛えてきたプロヒーローと拮抗するほどの実力を持つ少女に戦慄しながらも、笑みを浮かべて喜びを露わにする。

 

『楽しくなってきたじゃねェか!!』

 

マイクも更に力を入れて、音を出し続ける。

やがて拮抗していた状況が動き出す。

耳郎の音が押され始めた。

やがて耳郎の音はマイクの音に飲み込まれ、霧散した。

 

「あっ……」

 

負けた耳郎は体から力が抜け、その場に膝から崩れ落ちた。

 

『ハァ…ハァ……やるじゃねェか、ロッキンガール』

 

「うぅ……」

 

悔しそうに顔を歪める耳郎だが無理をした反動で一切体に力が入らない。

 

『さぁて、後もう1人……』

 

マイクが残る口田を捕まえようと振り返った瞬間、

 

『耳郎・口田ペア、試験クリア』

 

『…………ワッツ!!?』

 

突然の試験クリアのアナウンスにマイクは驚く。

ゲートを見ると口田は息を切らせてゲートを通り抜けていた。

 

『自分を囮に使ったのか。一瞬で負けたら全部おじゃんだったろうに』

 

「勝つ……自信が……あったから………」

 

『大したガッツだぜ』

 

マイクは参った表情でそう呟き、倒れた耳郎を抱えて自分もゲートを出た。

 

 

一方血界達はヴラドキングと戦っているが未だに不利な状況だった。

氷麗は大きな怪我は無いものの息が荒くなっており、白い息を吐いている。

一方の血界は傷は多くあるがまだ動ける様子だ。

 

「どうした?先までの勢いが無いぞ」

 

「まだまだ行ける」

 

ヴラドの言葉に血界はファイティングポーズで答える。

一方の氷麗は肩で息をするほど疲労が重なっており、よく見れば体が僅かに震えている。

 

「スターフェイズの方はもうギブアップか?」

 

「………」

 

ヴラドの言葉に氷麗は答えることができない。

血界はそれを訝しげに見たが、教師を前に油断はできない。

 

「氷麗、ヴラド先生はもう何回も個性を使っている。もうそんなに血が無いはずだ。俺が突っ込むから氷麗はトドメを刺してくれ」

 

ヴラドキングの個性『操血』は自身の血を使う。

同じ血を使う個性だからわかることなのか、相手の総血量を体格を見てわかる。

そしてヴラドキングは血界と氷麗の戦いで多くの血を使っていた。

勘だともうそろそろ失血で戦えなくなる。

しかし、氷麗は返事をしてくれない。

 

「………」

 

「氷麗?」

 

先から様子がおかしい氷麗に何が起こったと考える血界にヴラドが声をかける。

 

「俺の失血を狙っているなら辞めておいた方がいい。対策をしっかりとしているからな」

 

ヴラドは腰のホルスターからケースを取り出し、赤い錠剤を3粒取り出して、噛み砕いて飲み込んだ。

 

「造血剤だ」

 

「うわっ!ずりぃ!!」

 

「狡いとは何だ!?弱点を補うのは当然のことだ」

 

当然だと言わんばかりに腕を組むヴラドキングに血界は不満そうにする。

 

「真に賢しいヴィランは当然のようにこのようなことを対策している!それを乗り越えて行くのがヒーローだ」

 

ヴラドの言うことは正しいと血界にもわかる。

気合いを入れ直して、再び構える。

 

「行くぞ氷麗!氷麗……?」

 

氷麗の意識は朦朧としており、視界がぼやけている。

血界の言葉も上手く頭に入ってこない。

 

「氷麗!しっかりしろ!」

 

「ヴラッドナックル!!!」

 

2人目掛けてヴラドキングの必殺が炸裂し、会場を大きく揺らした。



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File.66 氷の原点

今年最後のギリギリ投稿。

来年もボチボチやっていくのでよろしくお願いします。

良いお年を


ヴラドキングの必殺技が炸裂しショッピングモール内は大きく揺れ、土煙に包まれた。

その土煙の中から氷麗を抱えた血界が転がり出てきて、壁にぶつかった。

 

「イデッ!?……大丈夫か、って……氷麗?」

 

血界の質問に氷麗は答えることが出来ず、震えるだけだった。

氷麗の体に触れると氷のように冷たく、触れた血界は驚いた。

 

(氷のように冷たい!……今はとにかく距離を取るしかない!)

 

血界は氷麗を抱えたままヴラドから離れた。

ヴラドは血界達が離れたことに気づいていたがあえて追わずに見逃した。

 

 

ゲートから最も離れた店舗の影に隠れた血界は寒さで凍える氷麗にジャケットを着させて体を暖める。

できる限りのことをやった血界は氷麗の隣に座り込み、一息つく。

 

「どうするか……」

 

残り時間も少なく、このままでは不合格となってしまう。

しかし、1人は戦闘不能の状態で、ヴラドの弱点である血の量も無しにされた。

真っ正面から力で圧倒しようにも彼方が実力は上で、打てる手がなくなった。

絶望的な状況だが、血界の心は一切折れない。

 

「諦めてたまるかよ……!」

 

絶対に諦めない意思を見せる血界を見て、今まで黙っていた氷麗が口を開いた。

 

「アンタはすごいよね」

 

突然話し出した氷麗に血界は驚き、振り返ると震える氷麗が血界を見ていた。

 

「なんでって……」

 

「私はそこまでヒーローになりたいって思ったことはなかった」

 

血界が氷麗の質問の意味がわからず、聞き返すと氷麗から衝撃的な言葉が出た。

ヒーローを目指すなら誰もが憧れる雄英に推薦で入学したのにも関わらず、ヒーローになりたいと思わなかったと告げられたのだ。

余りのことに血界は頭が追いつかない。

そこから氷麗の過去の話をされた。

 

 

日本でも有数な大手企業であるスターフェイズ社は主に様々な衣服、デザインを取り扱う会社で個性が出現した際にはいち早く、個性に合わせた服を取り扱い、更に大きくなった。

その創業者であり、代表取締役でもあるスターフェイズ家の娘として生まれたのが氷麗だった。

一人娘であるためか、親たちは必要以上に甘やかしたが、その反面令嬢として恥ずかしくないように厳しくも育てた。

更に氷麗自身に才能が恵まれており、教えられたことは何でも習得した。

 

裕福すぎる家庭、溢れる才能。

それらに釣られた汚い大人たちは自身の子供を使って氷麗に近づいた。

子供ならば簡単に言い包められると思っていた大人たちだが、そうはいかなかった。

聡い氷麗は大人たちの考えなど見通し、その子供たちとは必要最低限の関わりしか持たなかった。

更に自分を持ち上げるばかりの大人と同年代の子供に嫌気もさしており、親以外の人間を完全に見下していた。

 

やがて小学校に入学し、由緒ある学校だったがそこでも同じだった。

必要以上に持ち上げてくる同級生、上級生、教師を同様に見下していた。

その時の同級生たちがヒーローに憧れを持っていたが、国から金をもらい、賞賛の声を浴びているヒーローを見て自分に集ってくる大人と変わりないと思った。

栄光のために活動する人間、それが氷麗がヒーローに抱いたヒーローの第一印象だった。

そんな印象を抱いてしまったために氷麗は周りの子供たちとは違い、ヒーローに憧れることはなく、冷めた目でヒーローの夢を語る子供たちを見ていた。

 

そんな時に親の紹介である子供と出会った。

それが血界だった。

 

血界の親と氷麗の親は旧知の仲で今回初めて自分の子供たちを顔合わせしたのだ。

人を見下していた氷麗は最低限の挨拶をするだけで終わらせようとしていたが、それに反して血界は氷麗に何回も話しかけた。

 

「なぁなぁ!つららはどのヒーローがすきなんだ!?」

 

「………」

 

ウザいくらいに話しかけてくる幼い血界に氷麗は無視をしていたが、何度無視しても関わろうとしてくる血界に折れた。

 

「特に好きなヒーローはいないわ。あんなの目立ちたがりがすることよ」

 

「むっ!そんなことないぞ!ヒーローってカッコいいんだぞ!」

 

ヒーローを否定する氷麗に血界は負けじと反論するが頭のいい氷麗に毎回言い負けていた。

それでもヒーローの素晴らしさ、カッコよさを訴えるのを血界は諦めなかった。

そんなある日、氷麗は血界の父ヴァンがヒーローだと知り、子供の前では良いところしか話していないと考えた氷麗は血界にとって言ってはいけないことを言ってしまった。

 

「アンタの父親だって同じよ。なんでお母様たちと仲が良いか知らないけど、利益目的で動く汚い大人よ」

 

「ちがう!!」

 

「っ!」

 

氷麗は自分の言い分に今までにないくらい食い気味に否定する血界に驚いた。

 

「お父さんはそんな大人じゃない!人をたすけるためにヒーローをやっているんだ!!お父さんはカッコイイ!オレの大好きなヒーローなんだ!!」

 

「………っ!何よ!!社会のことなんて何も知らないガキが上から言ってるんじゃないわよ!!」

 

 

「おまえもそうだろ!!」

 

やがて2人は言い合いから喧嘩になったが、英才教育として格闘技を習っていた氷麗に圧倒されて終わった。

しかし血界は何度負けようとも何度泣かされようとも氷麗の言葉を撤回させようとした。

何度でも挑んでくる血界に何故か苛立ちを覚えた氷麗は容赦なく倒した。

流石に見兼ねた親たちが試合形式にして、何度も血界と氷麗の喧嘩は起こった。

 

何度も戦っているうちに氷麗は何故血界がここまで自分に向かってくるのかわからなくなっていた。

しかし、苛立ちだけは毎回喧嘩するたびに募っていった。

そんなある日、とうとう氷麗は血界に負けてしまった。

 

「やった!勝った!!」

 

「………」

 

氷麗は悔しいというより呆気にとられていた。

まさか負けるとは思っていなかったのもあるがそれ以外に思うところがあるらしい。

 

「お父さんにあやまってもらうからな!」

 

勝ち誇った顔で氷麗を指差して言う血界に氷麗は不思議そうに質問する。

 

「何でそこまでやるの?そんなにボロボロになってまで」

 

「そんなの好きだからに決まってるだろ!」

 

傷だらけの顔に笑顔を浮かべて、断言する血界を見て気づいた。

何故血界に苛立ちを覚えていたのか、それは好きなことに一途になれている血界が羨ましかったのだ。

自分が信じたものを最後まで信じられるのは自分にはない感覚だ。

いや、自分から捨ててしまったのだ。

周りの人間に絶望して、夢、希望と言った綺麗事を捨ててしまった。

だから、血界の在り方が羨ましかった。

例え、無知であっても無謀であっても決して諦めない血界が羨ましかった。

冷めきった自分の心とは違い、光に満ち溢れ熱い心を持っている。

 

それから氷麗は血界の父親に謝り、不器用ながらも血界と交友を続けた。

自分の地位、能力を度外視して接してくれる血界と一緒にいるのは気が楽だった。

 

しかし、ある時血界は家族を失い、記憶を無くした。

それも自分に関する記憶全てだ。

勿論氷麗のことも忘れた。

次に会った時にあの希望に満ちた血界がいなかったらと思うと怖かった。

しかし、記憶を無くしても血界は人のために傷つきながらも自分が信じる正義を貫いていた。

だから、それを追いかけてヒーローを目指した。

 

つまり氷麗の原点(オリジン)は血界のように希望を抱いて人を助けられるヒーローになって、氷の心を溶かしたいのだ。

 

 

「だけど体育祭で負けて、職場体験でステインに襲われたと聞いてだんだんと血界が遠くなっちゃった。焦ってこの試験で巻き返そうとしたんだけど、ダメだった」

 

氷麗は自分の手を見て呟く。

 

「私の体は個性に合ってない。『氷血』を使うと体温が一気に下がって戦えなくなっちゃう……これじゃあヒーローは無理だよ」

 

自傷的な笑みを浮かべて更に言葉を続ける。

 

「それに私は血界を咄嗟に見捨てようとした」

 

氷麗はヴラドと戦っていた血界を見捨てて、ゲートを通ろうとしたことを言っていた。

 

「結局私は冷たい心を持った氷の女王ってことね」

 

「………」

 

血界は何も言わずに氷麗を見る。

 

「何よ?呆れた?」

 

「いや……お前がヒーローを目指す理由が俺だったなんてちょっと恥ずかしいって思ってさ」

 

その言葉と照れた様子に氷麗も少し笑みを浮かべた。

 

「俺もそんなに褒められたようなもんじゃないよ。この前の授業参観でおじさんに言われた。『自分わ大切にしろ』ってな。自分も大切にできないような奴はヒーローになるなって言われたけどその通りかもな。………だけどこれは俺のヒーロー像だ。自分が傷ついても人を助けたい。氷麗はまだ自分のヒーロー像が掴めてないんだろ?誰を助けたいとか何のために戦うとか」

 

血界は立ち上がり、手を差し伸べる。

 

「だからよ………今は取り敢えず俺を助けてくれよ」

 

氷麗は呆気にとられたが笑みを浮かべて手を掴んだ。

 

「しようがないわね……今はそれで我慢してあげる」

 

ここから2人の逆襲が始まる。



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File.67 氷麗:ライジング

お久しぶりです。



ヴラドは腕を組み、相手の出方を待っていた。

ふと時間を確かめると残り時間は10分を切っていた。

 

(このまま何もしてこないわけではないと思うが……)

 

気配を感じ、前に目を向けると血界が立っていた。

 

「1人で来たのか?無謀だな」

 

「無謀かどうかはやってみなきゃわかんねぇだろ!!」

 

絋輝はナックルガードを装着して勢い良くヴラドに向かって突っ込む。

 

「さっきの戦いで実力差はハッキリした。パワーはお前の方が上だろうが、技術がない」

 

ヴラドは拳の連打を全て捌き、血界の脇腹に強烈な一撃をぶつける。

 

「ぅご……!?」

 

「多少のフェイントを混ぜようが付け焼き刃では実力者には効かん」

 

倒れそうになる体を踏ん張って、再び攻撃しようとするがヴラドは腕に血を凝結させ、金槌のような形にし血界に振り下ろした。

 

「何度立ち上がろうが無駄だ!」

 

「がっ…!」

 

振り下ろした拳は血界を地面に叩き潰した。

血界が戦闘不能になったと感じたヴラドは腕を上げようとすると、血界はその腕に脚をかけて締め固めた。

 

「ヌッ!?」

 

「ヘヘッ、やっと捕まえた」

 

血界は血塗れになった顔をニヤリと歪ませながら、腕を締め付ける力を強める。

すると、建物の死角から氷麗が走り出て来て、真っ直ぐにヴラドに向かって行く。

迎撃しようとするが更に力を込めた血界のせいで腕が動かしづらい。

ヴラドはそれに慌てることなく、血を腕に集結させ、特性のガントレットから血が溢れる。

溢れた血は血界を飲み込み、氷麗に迫ろうとする。

氷麗は一旦脚を止めようとしたが、血界の向かって行く姿を思い出し、更に踏み込む。

 

(前へッ!!)

 

(突っ込んでくるか!?……いいぞ!受けて立ってやる!!)

 

氷麗らしからぬ行動に驚きはするものの、すぐに教え子の成長を喜んだ。

 

(今までにない行動を見せたな!いいぞ!困難に立ち向かってこい!)

 

迫り来る操血に氷麗は臆すことなく向かって行く。

衝突する寸前にしゃがみこんで、滑り込んだ。

 

(滑り込んだ?狙うのは……ゲートか!?)

 

背後に立つゲートに向かって来てると考えたヴラドは血を操作し、背後に待機させる。

その瞬間、拘束していた血が薄くなり、身動きが取れらようになった血界は技を発動する。

 

ブレングリード流血闘術……!」

 

「甘い!」

 

すぐ足元に迫っていた氷麗に向かって拘束していた血界をぶつける。

 

「ぐあっ!」

 

「きゃあ!」

 

2人は巻き込まれて吹き飛ばされ、ヴラドは失った血を補給しようと腰のホルスターに手を伸ばし、造血剤が無くなっていることに気づいた。

 

「やったわよ」

 

「ナイスだ!」

 

氷麗の手にはヴラドが使用していた造血剤のケースが握られていた。

氷麗が蓋を開けると血界に差し出す。

 

「やっぱりアンタが使って。私より血界の方がいい」

 

「……」

 

血界は錠剤と氷麗を見るとニッと笑い、ケースを氷麗に押し戻した。

 

「俺とヴラドキングじゃ相性が悪い。氷麗がやるんだ」

 

「でも、私の個性じゃ……」

 

「“Plus Ultra”だろ?超えていこうぜ」

 

血界は立ち上がり、自信の篭った目でヴラドを見据える。

氷麗は造血剤を見て、何かを考え込む。

 

「そうみすみすと攻撃させると思うか!!」

 

初めてヴラドは前に出て血界達を攻撃しようとし、血界は構えて迎え撃とうとすると氷麗が声をかけた。

 

「血界。少しだけ時間を稼いで、そして私が合図したら後ろに下がるのよ」

 

「どのくらい稼げばいい?」

 

「出来るだけ」

 

「任せろ!」

 

血界は走りだし、ヴラドと激突する。

ヴラドの一撃は血で強化されており、超人的な身体能力を持つ血界であっても重い一撃だった。

 

(ぐっ……!一撃が重い。それに動きが速い!技を使う暇がねえ……!)

 

「どうした?お前の便りはあの技だけなのか!?」

 

ヴラドに挑発された血界は一旦距離を取ると構える。

 

「そんなわけないですよ!!」

 

ジャブ、ストレート、フック、アッパー、ボディと様々なコンビネーションを個性を纏わせてヴラドに攻撃するが全て防がれてしまう。

2人の攻防は拮抗しているように見えたが血界にはいくつか攻撃をもらってしまっている。

 

(やべぇ……手数出してるのに押し切られる!)

 

やはりプロヒーローの壁は高く、血界といえど苦戦してしまう。

 

「血界!下がって!」

 

声と共に氷麗はヴラドに勢いを付けた飛び蹴りを放ち、ゲート近くまで押し通すがヴラドは力で受け止めた。

 

「思い切りはいいがそれだけでは押し通すことなどできん!」

 

ヴラドが氷麗の足を掴んだ瞬間、氷麗は全身の血を掴まれている足に集中させ一気に解き放つ。

 

エスメルダ式血凍道 絶対零度の銀世界

 

静かな呟きと共に足から解き放たれた冷気はヴラドの腕を瞬時に凍らせる。

 

「ヌウッ!?(一点集中型の技ではなく、広範囲型の技で動き封じる気か!)」

 

血界や氷麗が今まで使ってきた技ではヴラドの技術によって防がれてしまうため、氷麗は防ぐことが難しい技を使った。

ヴラドは慌てて手を放し、氷麗と距離を取るがヴラドを覆う氷の勢いは止まらず、全身を覆っていく。

 

「だが!この程度の練度じゃ意味がないぞ!」

 

しただでやられるヴラドではなく血を全身に回すと体が一回り膨れ上がり、氷を剥がした。

 

「っ!?」

 

自分が使える技の中で最も強力な技だが過去に使ったのは一度だけで、ぶっつけ本番の技だった。

操作が甘く、ヴラドを凍死させないようにと手加減したのが裏目に出てしまった。

驚いて動きが遅れた氷麗にヴラドは再び攻撃しようとする。

 

「しまっ……!」

 

「止まるな!突き進め!」

 

氷麗の横から血界は飛び出して、ヴラドに突撃する。

ナックルガードを構えて技を発動しようとするのをヴラドは血で防ごうとするが、その瞬間血界は技を出さずヴラドの体に抱き着き、身動きを取れなくした。

 

「俺ごとやれ!氷麗!ヒーローになれ!」

 

血界は氷麗に向かって叫ぶと氷麗はハッとし立ち上がって2人に向かって駆け出す。

 

「自己犠牲も大概にしておけよ、ラインヘルツ!」

 

ヴラドが手を組んで血を纏わせ、血界に振り下ろして背中にぶつけるも血界に凄まじい衝撃が走るが血界は歯を食いしばって耐える。

 

「俺がやらなきゃ……!いけないんだっ!」

 

「む?」

 

身動きを取れない2人に氷麗は脚を振りかぶる。

 

(本当にパートナーごと攻撃するつもりか?それをしたらお前にヒーローになる資格はなくなるぞ!スターフェイズ!)

 

危惧していた氷麗の行動が試される場面でヴラドは血を操作して氷麗を封じ込めようとするが、氷麗はそれを分かっていたかのように直前で足の向きを変えた

 

エスメルダ式血凍道 絶対零度の戟槍

 

足から放たれた巨大な氷の槍はヴラドだけを捉えてテナントに押し潰した。

 

「はぁ…!はぁ…!はあぁ……」

 

大きく息を吐いた氷麗に血界はポカンとした顔で見ていた。

 

「何よ?」

 

「いや……俺ごと倒すと思ったから」

 

それを聞いた氷麗は少し照れくさそうにそっぽを向いて呟いた。

 

「だって……ヒーローになるなら仲間を大切にしなきゃいけないでしょ」

 

それを聞いた血界は一瞬驚いた表情になるが嬉しそうに笑う。

 

「そうだよな!仲間は大切にしないとな」

 

「さっ、ゲートを通って試験を終わらせましょう」

 

氷麗はゲートに向かおうとするが大技を2回連続で使用して疲労が溜まってしまったのかバランスを崩してコケそうになったところを血界が抱きとめる。

 

「手伝ってやる」

 

「…………ありがと

 

小さく呟いた言葉だが血界にはしっかりと聞こえており、血界は嬉しそうにしながら共にゲートを通った。

 

『ラインヘルツ・スターフェイズチーム 試験クリア』

 

アナウンスと共に試験終了の合図が鳴り、血界達の期末試験は終わった。

 

 

ヴラドが突っ込んだテナントでは巨大な血の塊が壁にめり込んでおり、崩壊すると中からヴラドが現れた。

 

「ふう……何とか合格したか」

 

『ヴラドキング、無事かい?」

 

「ええ、無事です」

 

モニター室から試験の様子を監視していたリカバリーガールから通信が入り、応える。

 

『アンタが懸念していたことがなくて良かったじゃないか』

 

「はい、全くです」

 

ヴラドは氷麗がもしクリア条件を達成してもその行動が独り善がりの行動だったならば不合格にするつもりだった。

しかし、氷麗はヒーローらしく、人らしく血界のことを思いやり行動ができた。

ヴラドはそれが満足で、笑みを零す。

 

『ラインヘルツの方はイレイザーが言っていた通りに自己犠牲に走ってしまったようだけどね』

 

「ムゥ……」

 

ヴラドはそのことに唸りながら、職員会議後の相澤との会話を思い出す。

 

『ヴラド、ラインヘルツについてなんだが少し話がある』

 

『どうした?』

 

『アイツは自分を犠牲にして助けようとするきらいが強い。USJ、体育祭、保須でそれは確かだ。今回はそこを見てくれると助かる。アイツの何がそうさせているのか、試験中に探って欲しい』

 

『それは担任であるお前が調べることだろう?』

 

『俺は俺で調べる。できればでいい頼む』

 

そう言って頭を下げた相澤に頼まれて了承したが中々探るのは難しかったが、気になる言葉を聞いた。

 

『俺がやらなきゃ……!いけないんだっ!』

 

「何がお前をそうさせる?」

 

ヴラドの疑問は頭の中に残っており、相澤に報告しようと決めた。



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File.68 会合する闇と闇

雄英で期末試験が執り行われている頃、ヴィラン連合のアジトであるとあるバーでは、保須での一件で新たにヴィラン連合に参加したい者達が闇ブローカーである義蘭を伝手に死柄木達と接触していた。

新たに参加したいと言ってきた者達は連続失血死事件の容疑者として追われているトガ ヒミコ。

そして目立った事件は起こしていないが継ぎ接ぎの皮膚が不気味な荼毘。

2人ともステイン本人な彼の思想に傾倒している。

しかし、癖が強い者達でUSJ、ステインの一件以来苛立ちが治らない死柄木と一触即発の雰囲気を醸し出していた。

 

「良くないな……気分が、良くない」

 

「いけない、死柄木!」

 

そして等々我慢の限界が来た死柄木は始末しようと動き出す。

 

「駄目だ、お前ら」

 

五指で触れたものを崩壊させる個性を持つ死柄木は殺そうと2人に向かって手を伸ばす。

殺気を感じ取った2人も殺そうと武器や個性を発動する。

3人がぶつかりそうになった瞬間、3人の体は不自然な形で止まった。

 

「なんだ……?」

 

「これは……」

 

「動けないです!」

 

死柄木の世話役でも黒霧は何もしていない。

義欄もタバコを吸ったままで動いていない。

 

「すまない。危ない雰囲気だったから手を出してしまった」

 

バーの扉から入って来たのは、ヨーロッパの刑務所『コキュートス』を壊滅して脱獄した男だった。

 

「誰だお前……?」

 

死柄木は動けない体で男を睨み付ける。

 

「私の名前はサージュ。君が先生としたうAFOとは友人なんだ」

 

「知らん、聞いたこともない。さっさと自由にしろ」

 

死柄木は睨み付ける力を強め、何とか動こうとするがピクリとも動けない。

 

「オイオイ、嘘だろ……アンタが何でここにいるんだ?」

 

闇ブローカーである義欄はサージュを見て、冷や汗を流しながら驚いた表情になる。

サージュのことを知っているらしい義欄に荼毘は質問する。

 

「義欄。誰だそいつは?」

 

「『サージュ』。かつて世界中で名を轟かせた伝説のヴィランだ。日本では目立った活動していなかったが昔から闇世界で生きていた奴らなら絶対に知っている。死んだと思っていたが生きていたとはな……」

 

「そんなのいいから早く動けるようにしてくださいよ!」

 

サージュはトガの要求を聞くと首を少し傾けて、死柄木達の体を自由にする。

 

「死柄木君。僕も君に協力しよう。必要ならば資金、場所、兵士を用意する」

 

「………」

 

サージュが死柄木に手を伸ばすと死柄木はサージュの手を弾き、勢いよく首を掴む。

 

「いらん、死ね……!」

 

「死柄木!?」

 

死柄木の突然の凶行に黒霧は慌てる。

自分たちのボスであるAFOの友人に手をかけてしまったことに慌てるが、サージュは余裕の笑みを浮かべたままだ。

崩壊が始まり、血肉の屑になる筈だがサージュには何も起こらない。

 

「……はぁ?」

 

「死柄木君、確かに君は失敗を繰り返したがそんなの当たり前だ。最初から上手くやれる者なんていない。これからさ、君のその苛立ちを世界にぶつけ、破壊し尽くすのは」

 

サージュは死柄木の手をしっかりと()()()、語り掛ける。

立ち上がって死柄木、黒霧、荼毘、トガを見て話す。

 

「手始めに雄英から始めるのがいいな。ヒーロー達の信頼を奪う。……そうだなぁ、雄英生がヴィラン連合に参加したら面白くなると思わないかい?」

 

「知るか……!」

 

「死柄木!!」

 

死柄木はサージュにコケにされたと思い、バーから出て行ってしまう。

黒霧は止めるが死柄木は無視して出て行ってしまった。

 

「まだ自分の目標を理解しきれていないか」

 

サージュは出て行った死柄木に向かってそう呟き、荼毘とトガに振り向く。

 

「すまなかったね。突然止めてしまって」

 

「「………」」

 

荼毘とトガはサージュに不気味な雰囲気を感じ取っていた。

いや、感じ取っているし目の前にいるのはわかるが何故か()()()()()()()

 

「何だお前は?」

 

「気持ち悪いです」

 

「ハハハ、酷いなぁ」

 

サージュは気にした様子もなく、次に黒霧の方を向く。

 

「黒霧君、AFOと会いたいんだ。案内してくれないかな?」

 

「は?いや、いきなりは……」

 

戸惑いを見せる黒霧に後ろのモニターが勝手に起動し、声が響く。

 

『やぁ、サージュ。久しぶりだね』

 

「久しぶりだ、AFO。手紙ありがとう。あの手紙で脱獄しようと決めたんだ」

 

『積もる話は会ってからにしよう。黒霧、彼を案内してくれ』

 

「はい」

 

黒霧はワープを展開してAFOがいる場所にサージュを案内した。

サージュが消え、義欄はホッと一息つく。

 

「生きた心地がしなかったぜ……あんな大物がヴィラン連合と協力するとはな」

 

「返答はまた後日でよろしいでしょうか?少しごたついてしまって……」

 

「別にいいさ。サージュに会えただけでも儲けもんだ。黒霧さんよぉ、絶対にサージュとは手を組んだ方がいいぜ。それだけで世界中に隠れている巨悪達が動き出して、手を貸してくれるはずだ。こりゃ、俺も忙しくなるかもねぇ」

 

義欄は面白くなりそうだとほくそ笑み、それを聞いた黒霧はそれ程の影響を持つサージュに驚きを隠しきれなかった。

 

 

試験が終わり、明日には短い夏休みと林間合宿が始まるため、その説明をホームルームで行われる。

皆、それぞれの表情を思い浮かべており、やり遂げた者、課題を見つけた者、林間合宿を楽しみにしている者、皆様々だがその中でも4名が深い悲しみの底にいた。

 

「み"ん"な"ぁ〜!!林間合宿楽しんでねぇぇ……!!」

 

泣き叫ぶ芦戸とまるで人生の終わりのような表情を浮かべる上鳴、切島、砂藤。

彼らは実技試験でクリアできなかった。

よって林間合宿にも行くことが出来ず落ち込んでしまっている。

 

「そう気落ちすんなよ。林間合宿行けなくても何か別にあるかもしれないんだからよ」

 

「そうそう、俺なんて峰田のおかげ合格できたんだ。お前たちと大差ねえって」

 

辛うじて合格できた血界とミッドナイトの個性でほぼ寝ていた瀬呂が4人を慰める。

 

「お前らは合格できたから良かっただろうが!!慰めになるかぁ!!」

 

「やさぐれてやがる……」

 

「やめときな血界。今は何言っても無駄」

 

上鳴の叫びに血界は戸惑いの表情を浮かべてどうするべきか悩むが耳郎が無駄だと止めた。

爆豪を除く他の者達は1-A全員で林間合宿に臨めないのを残念に思っていると、相澤が教室に入ってきて皆即座に席に着く。

 

「皆さん、試験お疲れ様。まぁ、中には合格できなかった奴もいるが……」

 

相澤の言葉に4名は俯いてしまう。

 

「そこで林間合宿だが…………全員で行きます!」

 

『大どんでん返しだぁっ!!!』

 

まさかの大どんでん返しに芦戸達は叫び出す。

 

「君たちのやる気を出させる合理的虚偽ってやつだ」

 

『ゴウリテキキョギー!!』

 

「またかよ……相澤先生が何しでかすかわからなくなってきた……」

 

「まぁ、ウチらのことを思ってやってるんじゃない?」

 

相澤の合理的主義に振り回されて慣れてきてしまっている1-Aだが、やはり心臓に悪い。

 

「だが、不合格者にはペナルティを受けて貰う。芦戸、上鳴、切島、砂糖、瀬呂は林間合宿中に補習を行なう。相当キツイから覚悟しておくように」

 

「ゔっ…!そりゃ何かしらあるよな……」

 

「やるしかないよな」

 

「全然いいよ!みんなと林間合宿にいけるならさぁ!」

 

「カレー!キャンプ!肝試しー!」

 

「俺もか!?そりゃそうだよな……俺、特に何もしてないし」

 

5人はそれぞれ補習に思うことはあるそうだが、皆と林間合宿行けることに嬉しそうだ。

ホームルームが終わり、皆で林間合宿のことで話が盛り上がろうとした時だった。

 

「ラインヘルツ、少し話がある。一緒に来い」

 

相澤に呼び出され、共に小会議室に入ると席に座るように言われて相澤と向き合うように座った。

 

「ラインヘルツ、今回の試験はどうだった?」

 

「どうだったって、言われても……まぁ、色々と課題が見つかりました。俺は力押しは強いかもしれないけど格上相手だと手玉に取られやすい。力だけじゃなくてもっと器用に戦えるようにしないと」

 

「それも大事なことだが……はぁ、合理的に行こう。単刀直入に聞く。お前は死にたがりか?」

 

「は?」

 

相澤が何を言っているか分からず、目が点になってしまう。

 

「USJ、体育祭、保須事件、そして今回の期末試験。お前はそれらのどこでも自分の命より、他者の命を優先した」

 

「そんな……そんなのヒーローを目指す者としてとして当たり前じゃないですか」

 

「あぁ、当たり前のことだろうな。だがな、自分の命を守れないような奴が他人の命を助けられると思うか?それで助けられた人間、残された人間の気持ちを考えたことはあるか?」

 

「………」

 

相澤の言葉に自分のヒーロー観が否定されたような気持ちになるが相澤の言葉に納得できる血界は黙ってしまう。

 

「お前がこのままの状態でヒーローを目指すというなら、俺はお前に()()()()を下さなければいけなくなる」

 

「はぁっ!?」

 

まさかの言葉に血界は立ち上がって驚く。

 

「お前の行動は立派だと思うが、今後ヒーローを目指すなら駄目だ。自己犠牲の先にあるのは破滅のみ。お前だけではなく周りにも悲しみを与える。それはお前が目指したいヒーローか?」

 

相澤はそう言いながら過去のことを思い出し、悲しそうに目を伏せるがすぐに血界の目を見る。

 

「何がお前をそうさせる?」

 

相澤は血界の行動は異常だと思っていた。

憧れや理想なんかではなくもっと負の感情からだと勘付いており、遠回りに探ろうとしていたが最近ではその傾向が強く、このままでは破滅してしまうと思い。

思い切って質問することにしたのだ。

血界は相澤の言葉に動揺しながらも一体自分の何がそうさせるているのか考える。

 

「何がって……」

 

血界はこれまでの事件のこと思い出し、守ろうとして傷ついた時は確かだが、その時に別の感情も湧いていた。

 

(俺は……怖かったのか?)

 

大切な人達が傷つく、何も罪がない人が傷つく。

血界はその時に必ず恐怖と怒りを感じていたことに気づく。

 

「俺は何で……?」

 

頭を抱えて悩む血界を見て、相澤は違和感を覚える。

 

(こいつ……自分でも気づいていないのか?)

 

「俺…わっ……!?」

 

何かを思い出そうとした瞬間、頭に凄まじい痛みが走り、苦しみだしてしまう。

それと同時に血界の体から血のように紅い雷が迸る。

 

「どうした!?」

 

血界の突然の急変に相澤は驚いたがすぐ様冷静になり、個性が原因だと判断し抹消する。

個性が抹消される瞬間、血界の脳裏にある光景が浮かんだ。

炎が辺りを覆うよつに立ち込める場所で倒れている子供の側に座り込む大人がいる光景だ。

そんな光景を血界は見たことがない。

相澤のお陰で暴走が止まった。

 

「はぁっ……!はぁっ……!」

 

「ラインヘルツ、大丈夫か?」

 

激しく動揺している血界の肩に手を置いて安否を確かめる。

頭が痛むようだが無事なようだ。

 

「(これ以上は無理か……)悪かったラインヘルツ。今日は帰っていいぞ」

 

「え?いや、俺の除籍の話とかは?」

 

「取り敢えず今は無しだ。だが、今後は自分を大切にすることを頭に入れておけ」

 

血界は釈然としないが会議室から出て行き、相澤はさっきの様子の急変に悩む。

 

(ラインヘルツの過去に何かあったのか?あの様子は異常だ……調べてみるか)

 

相澤はそう決心して会議室を出た。

 

 

薄暗いどこかの一室でサージュとAFOはコーヒーを片手に談笑していた。

2人とも楽しそうなのだが、2人から溢れ出る不気味な何かが恐怖心を駆り立てる。

 

「あの死柄木とかいう子。いい子を見つけたね、AFO。アレは()()()

 

笑みを浮かべるサージュにAFOはサージュに向かって忠告する。

 

「おいおい、あの子には手を出さないでくれよ?あの子は次の()になる子なんだから」

 

「わかっているさ」

 

コーヒーを啜るサージュにAFOは気になっていたことを質問する。

 

「何故日本に来たんだ?君は世界とやり合っていただろう?」

 

「いきなりだな。まぁ…そうだね。今まで世界とやり合っていて手広くやり過ぎた。はっきり言って手が回ってなかったんだ。だから今回は的を絞って一つ一つやっていこうと思ってね」

 

「………」

 

相変わらず軽薄な笑みを浮かべるサージュにAFOは黙り込み、真意を図ろうとする。

 

「私の邪魔をするのか?」

 

「まさか!友人である君の邪魔をするなんてとんでもない!」

 

驚いた様子を見せるサージュにAFOは無言の威圧感をぶつけて聞き出そうとする。

常人ならば死んだと錯覚してしまうほどの威圧感だがサージュは気にした様子もない。

するとサージュはだが、と付け加える。

 

「君たちの協力はしよう。その方が僕の目的に近づく」

 

サージュはそう言って立ち上がり、出口に向かう。

 

「何処に行くんだ?」

 

「ちょっと昔馴染みに会いにね」

 

そう言ってサージュの姿は消えてしまい、AFOは自分以上の化け物かもしれないサージュに警戒心を強めた。



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File69. 平和の礎

血界達は林間合宿のための買い出しと試験のお疲れ様会を兼ねて県内最多店舗数を誇るナウでヤングな最先端(芦戸談)のショッピングモール、木椰区ショッピングモールに轟と爆豪を抜いた1-A組で訪れた。

 

「やってきました!木椰区ショッピングモール!!」

「いえーい!」

 

芦戸と葉隠を筆頭に皆盛り上がりながら、何が必要なのか考える。

 

「俺は旅行用の日用品がなかったなぁ」

 

「じゃあウチらと一緒に来なよ。スーツケースと一緒に新しくしようと思ってたしさ」

 

血界が必要な物を確認していると八百万と店を回ろうとしていた耳郎が声を掛けてくる。

 

「いいのか?」

 

「ヤオモモはどう?」

 

「構いませんわ。一緒に行きましょう」

 

血界は耳郎と八百万と共に店を巡ることになったがそれを見ていた峰田は血涙を流しそうな表情で血界を睨んだ。

 

「ちくしょう……!オイラと同じはずなのに何が違って両手に花の状態なんだよ……!」

 

「お前みたいにオープンじゃねぇからだよ。それと周りが変な目で見てきたからやめとけって」

 

上鳴が峰田の肩に手を置いて落ち着かせた。

更に周りの人達が峰田を見て、怪しんでいたが何とか誤解を解いた。

皆がそれぞれの目的の物を買いにばらけて行動し、15時に集まることになった。

血界は耳郎達と行動することになったが、完全に荷物持ちになっていた。

 

「なぁ、何で俺荷物持ちになってるんだ?」

 

「いいでしょ?適材適所だって」

 

「すいません、血界さん。私の分も持って貰って」

 

八百万は申し訳なさそうにするが耳郎は気にした様子はない。

 

「気にすることないよヤオモモ。血界だって両手に花の状態でいい気分してるんだし」

 

「うーん……両手に花って八百万はわかるが耳郎はなぁ」

 

「何?なんか文句でもある?」

 

血界の含みのある言葉に耳郎は少しムッとしてしまう。

地雷を踏んだと思った血界は少し顔を引攣らせながら、正直に言わないと嘘をついたとバレて制裁を食らうと思い、正直に思ったことを話す。

 

「あー……、時々何故か暴力振るう凶暴少女?」

 

「ふんっ!」

 

正直に話した途端、耳郎のイヤホンジャックが血界のコメカミに突き刺さった。

 

「たわばっ!?」

 

持っていた荷物を落としそうになるが持ち前の身体能力で何とか持ち堪える。

 

「行くよ!ヤオモモ!」

 

「じ、耳郎さん!?」

 

耳郎は八百万の手を引っ張って次の店に向かっていく。

 

「ま、待てよ……俺を置いていくのか?」

 

「次行く店はランジェリーショップ!付いて来る気!?」

 

それを言われた血界は固まってしまい、その隙に耳郎達は言ってしまった。

 

「はぁ……何で耳郎は俺に暴力を振るうんだ?」

 

訳がわからないと言った様子で荷物を持ち直す血界は2人を待つ間どうしようかと考えているとCDショップの広告ポスターが目に入った。

そこには多くのアイドルポスターが貼ってあり、その中に凛のユニットである『ニュージェネレーションズ』のポスターがあり、血界はそれを見て嬉しそうになる。

 

「凛達も頑張ってるんだな」

 

一時期、凛達の方でもトラブルがあり、血界達も関わったことがあった。

その話はまた次の機会にするとして、凛達はそのトラブルを乗り越えてアイドルとして頑張っている。

血界はその事を思い出し、相澤との件を気にしていたが迷って立ち止まっている場合ではないとやる気を出す。

 

「俺の必要な物はもう買ったし、フードコートで待ってようかな」

 

血界は耳郎に何と言って謝ろうか考えながら、フードコートに向かった。

 

 

ランジェリーショップに着いた耳郎達であったが耳郎はとても落ち込んでいる様子だった。

 

「はぁ、またやっちゃった……」

 

血界に悪口を言われて、ついカッとなって暴力を振るってしまったことと、こんな風に暴力を振るってしまうからあんな印象が付いてしまうんだ、のジレンマに陥っていた。

 

「何であんなことしちゃうんだろ……」

 

「フフ…」

 

落ち込む耳郎を見て、八百万は少し笑ってしまった。

 

「どうしたの?」

 

「だって耳郎さん。とても可愛らしいですもの」

 

恐らく血界のことで悩む自分を見て、言われているとわかると耳郎はわかりやすく顔を赤くした。

 

「う……」

 

「耳郎さんが手を出したのは悪いことですが、血界さんも悪いですわ。耳郎さんの気持ちをちっともわかっていないですし」

 

「まぁ、あれはアイツがただ単に鈍いだけだから」

 

自分の代わりにプリプリと怒ってくれる八百万にホッコリしながら礼を言うと、スマホにメッセージが入り、見ると笑みを浮かべた。

 

「ヤオモモ、フードコートでお茶でもしようか」

 

「フードコート!前回お買い物した時は行けなかった場所ですわね!確かシェフ達が並んで料理を振舞ってくれる所と氷麗さんから教えてもらいましたわ!」

 

「う、うん。合ってはいるけど………氷麗、純粋なヤオモモを揶揄ってるな」

 

八百万は初めてのフードコートを楽しみにしながら、耳郎は血界をどうやったら許してやろうか、と好きな相手を揶揄ってしまう悪戯心を持ちながら血界が待つフードコートへと向かう。

 

 

相澤は346プロの高級なインテリアで固められた応接室である人物を待っていた。

急な約束を取り付けることができたのは相澤自身も驚いたが聞くことがあるため気にしないことにした。

扉が開き、血界の育ての親であり話の用があった人物、緑川 血糸が入ってきた。

 

「お待たせしました」

 

「いえ、お忙しい中お時間をいただき、ありがとうございます」

 

相澤は社会人らしく頭を下げて礼を言う。

普段ならば昔の可愛がり(という名の地獄の特訓)を思い出し、震えているころだが今回は雄英の血界の担任として血糸に会っていた。

血糸もそれを理解しており、後輩としてではなく血界の保護者として相澤の前に座る。

 

「それで話とは?」

 

「貴方のお子様である血界・V・ラインヘルツ君についてです。失礼だとは承知しておりますが彼の過去を調べさせていただきました。5年前、彼はヴィランに襲われ、重傷を負い記憶を無くしている。その後は貴方が引き取り、育ててきましたね」

 

「そうです」

 

「……ラインヘルツ君は授業中に自己犠牲の精神が顕著に見られます。先日、個人面談を行いましたがその原因となることはわかりませんでした。育ての親である貴方なら何か知っているのではないかと思い、本日訪問させていただきました」

 

「…………」

 

「何か知っているんですね」

 

質問に黙ってしまった血糸を見て、相澤は血界について何か知っていると確信し、血糸を見る。

 

「………」

 

「………」

 

相澤は血界のことを聞くまで動く気は無いだろうと思った血糸は悩む。

血界の過去は他人どころか本人にすら話せない。

どうするべきかと悩んでいるとスマホに着信が入る。

 

「失礼します」

 

血糸が相澤に断りを入れてから席を立ち、スマホを手に取る。

着信は346プロヒーロー事務所のメディスこと千川 マヒロだった。

 

「どうした?」

 

『血糸さん!血界君がショッピングモールであるヴィランと交戦したと通報が!!』

 

「!!」

 

血糸の顔は驚愕に染められ、慌てて部屋を出ようとすると相澤が呼び止めた。

 

「先輩!何かあったんですか?」

 

「相澤、血界のことは後日詳しく話す。今はあの子の下に行かないといけないんだ」

 

いつも冷静沈着な性格の血糸が目に見えて焦っていること只事ではないとわかった相澤は大人しく引き下がる。

 

「………わかりました」

 

「助かる」

 

血糸は血界の下へ急いだ。

 

 

血界は耳郎に謝罪のメッセージを送信して、一先ず安心だと思いながらコーヒーを飲んで落ち着いていた。

 

(そういやこうやって雄英のみんなと出掛けるなんて初めてだな。耳郎達とは何度もあるけど……)

 

血界はそんなことを考えながら、ふと前の席で食事を楽しんでいる父親と母親、男の子1人の家族が目に入った。

皆が笑顔で微笑ましか見ていると突然頭に鋭い痛みとノイズがかかった光景が頭をよぎった。

 

「い"っ…!?なんだ今の?」

 

よぎった光景は相澤との面談で見えた光景。

何故今になって再び見たのか訳がわからなかった。

頭が疑問で一杯になりそうな時に血界に声をかける者が現れた。

 

「相席してもいいかな?」

 

「え?」

 

血界に声を掛けたのは生気の抜けた老人のような白髪を持つ男だった。

血界は男を見た瞬間、何も感じなかった。

目立つ外見にも関わらず、凄くあやふやな感覚でしか目の前の男を認識できなかった。

 

「相席しても?」

 

「えっ、あっ、はい。どうぞ……」

 

再度声を掛けられ、意識を戻した血界が了承すると男は血界の前に座る。

男は人気フードチェーン店のコーヒーを飲むと苦虫を潰したような顔になる。

 

「うーん……やっぱりコーヒーは高くても本物を飲んだ方がいいね」

 

「………」

 

男に何故か不気味な印象を持ってしまった血界は男の独り言に黙って、男の様子を見る。

コーヒーを置くと男は血界に話しかける。

 

「今日はいい日だ。大切に想う者同士が平和を謳歌している。そうは思わないかい?雄英高校1年A組血界・V・ラインヘルツ君」

 

「(体育祭で知ったのか?)……そうですね」

 

男は周りの家族連れを見渡して更に話を続ける。

 

「だが、彼らはその平和は何を礎にして作られたか知らない。誰が血を流し、幾多の亡骸によって作られたか知らない!……無知は罪だ。平和を謳歌している人間達は今一度改めて自分達が犯してきた罪を認識するべきだ」

 

「………何が言いたい?」

 

気味の悪いことを話す男に血界は語尾を強くして、睨む。

 

「君はどうなんだろうねぇ、血界君。君は自分が犯した罪を理解できているのかな?いや、できているはずがない。だって君は………5()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

男は自分と親しい者しか知らないことを言われて驚愕する血界を見て、怪しい笑みを浮かべた。



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File.70最悪の事態

自分と親しい者だけしか知らない秘密を言われ、驚く血界を見て男は笑みを浮かべる。

血界は立ち上がると見下ろすようにして男を睨む。

 

「怖いなぁ、そんなに睨まないで欲しいね」

 

「誰だ、お前は?」

 

「君は自分の罪を理解しているのかい?」

 

血界の質問に答えず、質問で返してくる男に血界は目つきを更に鋭くする。

 

「質問に答えろ。お前は誰なんだ」

 

「君も周りの人間と同じだ。何も考えずただ平和を貪っている罪人だ」

 

血界は我慢の限界が来て男の襟を掴んで持ち上げる。

男の態度と今を平和に生きている人達を罪人と決めつけていることに腹を立て、何よりこの男と話していること自体が怒りを募らせた。

突然の出来事に周りの客は騒めき出し、血界達を取り囲む野次馬が出来始め、中にはスマホを取り出す人も現れる。

 

「ヒーローを目指す者の目つきじゃない」

 

「………」

 

血界の今にも殺さんとばかりの視線で男を睨む。

すると人混みの中から耳郎と八百万が現れ、血界に声をかけた。

 

「ちょっと血界!何やってんの!?早く放して!」

 

「血界さん!相手は一般の方ですわ!」

 

耳郎達にそう言われて躊躇いを見せた瞬間、男は血界の手からいなくなっていた。

一瞬で消えたことに血界達が驚いていると、横から声を掛けられる。

 

「君もまた罪を理解していない罪人だ」

 

「お前は一体誰なんだ!?」

 

男は飲み掛けのコーヒーを手にとって、揶揄うように笑みを浮かべて答える。

 

「君の両親を殺した犯人と言ったら?」

 

その瞬間、血界は全身の血が燃え上がるように熱くなるのと同時に殺意が剥き出しになり、ナックルガードを装着した。

 

「お前えぇぇぇっ!!!!」

 

「血界、ダメッ!!」

 

耳郎の静止が聞こえず、赫い雷を纏った拳を男の顔面目掛けて振るうが、男は余裕の笑みを浮かべたまま血界の拳を眺める。

当たる直前に血界の拳に人差し指を当てると拳は動きを止めた。

歯を食いしばって更に力を込めて押し込もうとするがビクともしない。

 

(まるで巨大な岩を殴っている感覚だ……!)

 

「ふむ、まだこの程度か。君には強くなって貰わないと」

 

男が指先に少し力を込めるとナックルガードは綺麗にパーツごとに分解され、地面に落ちる。

破壊されたナックルガードを見つめることしかできない血界を一瞥して男は去っていく。

それに気づいた血界は慌てて呼び止める。

 

「待て!お前の名前は何だ!?」

 

両親を殺した犯人の情報を少しでも得ようと無駄だとわかりつつも質問する。

すると男は立ち止まり、顔だけを血界に向けて笑みを浮かべた。

 

「僕の名前はサージュ、世界に罰を与える者だ」

 

男、サージュはそう言い残し人混みに消えていった。

 

 

木椰区ショッピングモールに多くのヒーローと警察が駆けつけていた。

事件が同時に2つ起こり、一方は緑谷が指名手配中の敵 死柄木 弔と接触し襲われた。

幸いにも緑谷と周りには何も被害がなかったが雄英生が立て続けに襲われること自体が問題となり大事となった。

もう一方では血界が一般人に手を挙げ、傷害事件となり血界が警察に連行されてしまった。

これには周りの人達も目撃しており、血界も大人しく連行された。

連行される時に耳郎達は心配そうにしていたが血界は何も言わず別れた。

警察署で事情聴取を行なうことになったが、それまでの間血界はサージュのことばかり考えていた。

本当にサージュが両親を殺したのか、サージュの正体は、何故自分に声を掛けてきたのか。

様々な疑問が頭の中を巡り、思考がぐちゃぐちゃになってくると部屋の扉が開き、1人の男が入ってくる。

 

「いやー!すまん!ウンコしてたら遅れてしまった!」

 

突然のウンコ宣言しながら入ってきたのは大柄で少し野暮ったさを感じる男だった。

 

「はぁ……」

 

「何だ!?若いのに元気がないぞ!」

 

そう言って豪快に笑いながら近いの肩を叩く。

 

「おっと、名前を言い忘れていたな。私は在郷 隆(さいごう たけし)。特殊犯罪を主に扱っている警部だ。USJ事件も少し関わったんだぞ」

 

「特殊犯罪?でも俺が起こしたのって傷害事件じゃ……」

 

「うむ。そうなのだが……ぶっちゃっけ暇で知っている名前を見つけたから事情聴取を代わりに名乗り出た!」

 

「そっ、そうですか……」

 

何だが警察らしくない言動に血界は引き気味だった。

 

「それじゃあ、元気よく事情聴取やっていこうか!」

 

「いや元気よくって……」

 

「何で人を殴ったんだ!?」

 

「殴ってませんよ!」

 

まるでコントのようなやり取りに困惑しながら血界は自身に起こったことを話した。

 

「突然話しかけられて、妙な事を言われて段々と怒りが湧いてきて……それで掴みかかってしまって」

 

「妙な事とは?」

 

「なんか……今生きてる人間は全員罪人だ、とか」

 

「ふむ……危険な思想を持った人間か。だからと言って掴みかかって言い訳じゃないぞ」

 

「分かってます。ただあの男と話していると怒りが我慢できなくて」

 

自分でも訳がわからないと言った表情をする血界の肩に在郷は手を置く。

 

「……10代にはよくある事だ。感情が我慢できずに体が動く事はな」

 

「…………」

 

慰めの言葉に血界は少し複雑そうな顔になる。

怒りに任せて動いたのは中学以来で最近は大人しかったのに何故また感情で動いてしまったのか、わからなかった。

 

「それで相手の男性は誰か分かっているのか?」

 

「いえ、俺は知らないんですけどアッチは知っているようでした」

 

「む?男性の名前はわかるか?」

 

相手の男性が一方的に血界のことを知っている事に疑問を覚えた在郷が名前を聞くと血界はしっかりと答えた。

 

「サージュです。確かにそう言ってました」

 

「っ!!」

 

血界からその名前を聞いた瞬間、在郷から血の気が引く感覚が襲った。

 

「容姿は!?どんな見た目だった!!?」

 

「え、ちょ、ちょっといきなりどうしたんですか?」

 

突然の在郷の様子の変わり様に動揺する血界に在郷は肩を掴んで更に詰め寄る。

 

「答えろ!」

 

「は、白髪で背丈は平均男性と変わらないくらい。顔は……あれ?」

 

サージュの顔を思い出そうとして首を傾げる。

 

「どうした?」

 

「顔が思い出せない。何で……」

 

「顔に印象が残らない。あやふやな男だったが?」

 

「はい、確かに印象に残ってません」

 

「やはりか!」

 

在郷は立ち上がってスマホを取り出し、扉に向かう。

 

「君はここで待機しておいてくれ!時期に迎えが来る!」

 

在郷はそう言い残して部屋を出て行き、血界は取り残され訳が分からなかった。

 

「何なんだ?」

 

その後、事情聴取をされることもなく部屋で待たされていると警察官がやって来て出入口に案内された。

出入口に向かうとそこには別件で事情聴取されていた緑谷と迎えに来ていたトゥルーフォームのオールマイトと敵連合の捜査を行なっている塚内、そして心配で迎えに来ていた緑谷の母がいた。

 

「あっ、緑谷だ」

 

「血界くん!何で血界くんもここに?」

 

「うーん……俺も事件に巻き込まれたというか、起こしたというか……」

 

「へ?」

 

言い淀む血界に疑問が浮かぶ緑谷だが、そこに血糸を連れた在郷がやって来た。

血糸は血界を見つけると駆け足で近づく。

 

「血界。怪我はないか?」

 

「え、ああ、怪我はないよ」

 

「そうか……」

 

どこか焦っている様な血糸を見たことが無い血界は戸惑ってしまう。

血糸は安心し、一息つくと緑谷親子の方を向く。

 

「お久しぶりです、緑谷さん」

 

「あ、は、はい。お久しぶりです。授業参観ぶりですね」

 

「ええ、本日は私どもでお家までお送りします。警察、学校からは許可を頂いております」

 

「ええ!?そんな……ご迷惑をおかけ出来ません!」

 

「いえ、本日お子さんに起きた事件と血界との一件が繋がっているかもしれませんので念のために。八木さんと塚内警部もよろしいですね?」

 

「ああ、よろしく頼むよ」

 

「お願いします」

 

オールマイトは頷き、塚内も頭を下げてお願いする。

緑谷は血糸がオールマイトの本名、八木 俊典を知っていることに驚いた。

 

(オールマイトの本名を知っている!?何で……!?)

 

「そ、それじゃあ……お願いします」

 

「では、此方へ。車と護衛は外で待たせてあります」

 

驚く間も無く、血糸は緑谷達と血界を連れて外に出る。

すると外には黒いSUVとその周りで守りを固める346プロのヒーロー、ライトニング、ジャズ、バンブルビー、ナイトクラブがいた。

 

「No.6ヒーローライトニング!?若手実力派のジャズに346プロヒーロー事務所のベテランのバンブルビーとナイトクラブ!?何で346プロヒーロー事務所のヒーロー達が!?」

 

「何でみんなが?」

 

緑谷は大勢のヒーロー達が一同に現れたことに興奮し、血界も驚いていた。

 

「君たちを家まで護衛する。ライトニング、後はよろしくお願いします」

 

「おう」

 

血糸は血界達をライトニングに任せると警察署に戻ろうとし、血界が慌てて呼び止める。

 

「叔父さんは一緒に帰らないのか?」

 

「俺は警察と話すことがある。帰りは明日になりそうだ」

 

「………帰ってきたら話したいことがあるんだ。俺の両親について」

 

「…………」

 

血界の言葉に血糸は表情を変えることはなかったがすぐに返事ができなかった。

不思議に思った血界は再び声をかける。

 

「叔父さん?」

 

「……わかった。帰ったら話そう」

 

そう約束し、警察署から出て行く血界を心配そうに血糸は見ていた。

 

 

その後、緑谷親子を家に送り届け、血界も自宅に到着し、ライトニング達は今晩は家の周りでパトロールを行なうと言って出て行った。

自室に入ってベットに寝転び、今日起きたことを思い返していた。

突然訳も分からない男に話しかけられ、感情が我慢できずに暴走し、殴りかかったが何もお咎めなしで更にはVIPのような護衛も付けて貰った。

何か知っているであろう血糸は警察署に残り、ライトニング達も話をする前に去ってしまった。

モヤモヤとした気持ちが募るが今日は疲れで目が閉じそうになる。

 

(あっ……耳郎達に連絡しないと。あとナックルガードもなお、さなきゃ……)

 

血界はそのまま眠りについてしまった。

 

 

警察署の会議室ではオールマイト、塚内、血糸、在郷が今日起きたことについて話し合っていた。

 

「緑谷少年に続き、血界少年も敵に襲われるとは……」

 

「敵は一律で危険なものだが今回は別格だ」

 

塚内は古い白黒の写真を取り出して、皆に見せる。

 

「『サージュ』。特一級指定犯罪者、通称スーパーヴィランと区別された伝説級の敵。AFOと同格の凶悪犯罪者だ」

 

「AFOと同格……」

 

オールマイトはその名を聞くだけで拳に力が入る。

 

「しかし、何故コイツは日本に現れた?今は確か……」

 

「欧州の監獄に収容されているはずだ。特別厳戒体制でな」

 

在郷はコキュートスの資料を見ながら答える。

 

「まっ、あの国は隠し事が多い。大方、他の国に知られるのが嫌で秘密裏に処理しようとしたんだろ」

 

「そのせいで奴は日本に現れ、血界と接触した」

 

血糸の底冷えするような声色に全員に緊張が走る。

オールマイトは落ち着くように声をかける。

 

「緑川くん。落ち着くんだ」

 

「……すいません、取り乱しました。今は対策についてですね。此方では関東圏を中心にパトロールを強める予定です」

 

「我々警察も警戒を強める。塚内、敵連合捜査班から何人か借りられるか?人手が足りなくなりそうだ」

 

「先輩、そのことで相談が……」

 

塚内はオールマイトの方を向き、オールマイトは言いにくそうにしながらも自分の考えを述べる。

 

「……緑谷少年と血界少年の事件は別々で起きたとは思えない」

 

「どういうことだ?」

 

在郷はわからない様子だが血糸はその言葉の意図がわかった。

 

「敵連合とサージュが協力関係にあると言いたいんですか?」

 

「ああ、正しくその通りだ」

 

オールマイトが言いたいのは敵連合とサージュが協力関係であるということだ。

確かに死柄木は危険な人物だが、USJ、保須での件ではそこまで脅威となる存在ではなかったが敵連合の裏で手を引いているであろうAFOとサージュが手を組むのは不味すぎる事態だ。

全員が最悪の事態を考え、思い詰める。

 

「緑川、公安は動かないのか?」

 

「公安は動きますが『奴ら』は事態が動いた時しか動かない。憶測だけでは駄目です」

 

「そうか……」

 

在郷がもう一つの頼みの綱である公安の特殊部隊を動かせないか血糸に聞くが首を横に振られる。

 

「どの道、最悪の事態を想定して動かないといけない。明日は雄英と会議を行なう。それまでに話を詰めなければ」

 

「警察でも情報を根回ししておきます。更に厳戒体制にしないといけないですし」

 

「公安の方からは俺が言っておく。サージュの名前を出せば『奴ら』も動くかもしれない」

 

「346でも準備をしておきます」

 

オールマイト、塚内、在郷、血糸はそれぞれやるべきことを頭に入れて立ち上がり、仕事に取り掛かる。

346プロに連絡しようとした緑川に在郷が話しかける。

 

「緑川、ちょっといいか?」

 

「何ですか?」

 

「サージュが血界に接触したということは奴らの目的は……」

 

在郷が言おうとしていること理解できている血糸は覚悟を決めた目で答える。

 

「わかっています。必ず血界は守ります」

 

「そうか……なら、いいんだ」

 

そう言って去って行く在郷を見送り、握っていたスマホに力を入れる。

 

「今度こそ守ってみせる」

 

血糸の決意の言葉が警察署に静かに響いた。



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