夢幻の魔女がゆく! (風里)
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ゲームの始まり

何番煎じかも分からないオーバーロード二次創作。
※捏造過多

5/26
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DMMO-RPG『ユグドラシル』。

一世を風靡したゲームも12年という歳月で過疎化が進み、ついに今日サービス終了を迎えようとしていた。

 

そんなユグドラシルだが、12年経った今でも実しやかに囁かれているある噂(・・・)があった。

 

悪名高き異形種ギルド、アインズ・ウール・ゴウン。

幻の42人目のプレイヤー。

彼女(・・)が初めて公の場にその姿を見せたのは1500人の侵攻があった時だといわれている。

当初その噂を聞いたプレイヤーたちは傭兵型NPCだと言う者もいれば、アインズ・ウール・ゴウンが他のプレイヤーを惑わすためについた嘘であり、また存在しないか、したとしてもギルドで作成したNPCだと言う者もいたが、最もその言はメンバーの言葉によって否定されている。

 

曰く、アインズ・ウール・ゴウンに相応しい異形種、そして悪の名に相応しく、何より美しい。

曰く、とんでもない額の課金による装備チート。

曰く、流れ星の指輪(シューティングスター)を使用して運営に遠隔操作の許可を願い出た。

曰く、ナザリックの引きこもり。

曰く、曰く、曰く。

 

数えだせばキリがないその証言も、ギルドメンバーの知り合いである数人のプレイヤーのみが知るものであり、他の有象無象……特に人間種を選択したプレーヤーで知る者は皆無であった。

ギルドの参謀的存在のぷにっと萌えによる情報統制、情報の撹乱で異形種狩りをするプレイヤーにとって存在するのかしないのか、またそれはプレイヤーなのかそうではないのかと物議を醸す事態となった。

 

本人の言を借りるならばただ一言。

現実世界(リアル)だろうと遊び(ゲーム)だろうと外に出たくない』

 

それは人としてどうなのか?と疑問に感じる者もいるだろう。

だがしかし、今の時代。外に出るにもガスマスクが必要であり、いつテロに巻き込まれるかもわからない。

そんな時代に生きる者にとって、出来るならば外に出たくないと思うのも当たり前のことであっただろう。

だが、ユグドラシルではゲームとはいえ、その自由さが売りであり、また、現実世界(リアル)では見れなくなった自然と言うものが電脳世界で再現されている。

触覚、味覚、は電脳法に違反するためさすがに風や食事などは無理ではあったが、それこそ今ではスモッグに覆われた空の遥か上、宇宙にある太陽や夜空に浮かぶ星などは一見の価値ありと判断できるものであった。

だが、彼女はひたすらナザリックに引きこもる。

怠惰を極めた彼女は己の努力を知られることを厭い、ユーザーが減る深夜から明け方にかけての時間にナザリックの外に出て狩りをしていた。

 

ギルドメンバーに頼まれれば狩りに付き合うしPKKにも率先して動く。が、それ以外では確実にナザリックから出ようとはしなかった。

ナザリックでの行動範囲は第九階層のメンバーのプライベートルーム、会議をする際の円卓の間、そしてRPに必須の玉座の間。そして手に入れた宝を保管するための宝物庫。

それ以外には決して出ようとせず、出たとしても用件を済ませるとすぐに自分の部屋へと戻ってしまうのだ。

 

そしてそんな彼女がユグドラシルが終わろうとしている今、どこで何をしているのかと言うと……―――。

 

 

 

ユグドラシルサービス終了日

ナザリック大墳墓 ギルド「アインズ・ウール・ゴウン」

第九階層 ギルドメンバー プライベートルームのある一室

 

ギルドメンバーのために作られた第九階層、プライベートルームの最奥にある一室。

黒を基調にワンポイントで白を使われた部屋に置かれた天蓋付きのベッドに一人のPCがいた。

 

肩より少し上で切り揃えられた白灰の髪から覗く山羊の角。

 

ナイトブルーのゴシックドレスに身を包んだ少女は、見るからにふかふかで柔らかいベッドで服に皺が付くことも気にせず、幸せそうな表情を浮かべて眠っていた。

 

部屋の片隅には彼女が創造したNPC「失われた白昼夢(ロスト・デイ・ドリーム)」がいる。

こちらもやはりナイトブルーの執事服で、ウルフカットの青年はNPCであることを差し引いてもイケメンと言えるだろう。

天蓋付きの寝具のそばにある小さな椅子にはセレスティアが創ったNPC、「堕落する悪夢(フォール・イン・ナイトメア)」が眠っている主と同じゴシックドレスを身にまとい佇んでいた。

 

「んぅ……」

 

いささか気の抜けた唸り声を上げて、少女の意識はようやく覚醒する。

本来であれば強制的にログアウトされるはずの電脳世界で、彼女はある裏技(・・)を使って強制ログアウトから逃れていた。

 

 

「今何時だっけ……」

 

体をほぐすように腕を伸ばし、目の前にあるコンソールを選択する。

《ユグドラシル時間 23:50:21》

 

「……ふぁっ?!もうこんな時間?!《伝言》!《あ、モモンガさん!ごめん、寝てた!》」

 

「《―――――――――》」

 

「《ほんとごめんなさい!すぐ行くから!》」

 

そう言って山羊角の少女は指輪の力を使って転移する。

少女のいた場所から数羽の光の蝶が飛び回り、砕けるように散っていく。

 

アインズ・ウール・ゴウン、幻の42人目と噂され、悪夢を彷徨う者(ナイトメア・ウォーカー)と呼ばれたそんな彼女の物語が今、始まる―――。

 



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幕間的な何か

書きたいところだけ書いてく所存。
合間合間は想像力で補完宜しくお願いします。


「ごめんモモンガさん!!」

 

少女―――名はセレスティア・オルドローズ。

幻の42人目と謳われたアインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーその人である。

 

幻の、と言われ続けた実在しており、更にはかなりの出不精である上にかなりのドジっ子であった。

ゲーム内だと言うのに廊下を歩いて移動すればなぜか転び。

リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを使用してナザリック内を転移で移動すれば、なぜか見当違いな場所に飛び。

他にも「お前……わざとか?!それとも別の人間が操作してんのか?!」と怒られるような逸話がいくつもあるが、それらドジっ子属性(一部ギルメンからは「ドジっ子萌え」との評価有り)はナザリックの外に一歩出ればピタリと治まった。

故に何人かのギルメンは彼女を外に出そうと奮闘するのだが、結果だけ述べるとその努力は実を結ぶことはなかったとだけ言っておこう。

 

そして、そんな彼女がナザリック内で慌てた状態で転移を行えば……。

 

 

「あっるぇ?!」

 

確かに玉座の間を選択したはずなのに?!!!

 

――――彼女は現在、宝物庫に転移していた。

 

「なんで?!」

 

泣き声交じりに声を上げて、セレスティアはその場に座り込む。

 

「うぅ……もう1回……」

 

ちらりと視界の片隅に表示されている時刻を見つつ慎重に転移先の【玉座の間】を選ぶ。

そして、視界が切り替わり、ギルドメンバーの旗が飾られた玉座の間の最奥に置かれた正しく魔王に相応しく作られた玉座に腰掛けるギルド長、モモンガへと頭を下げた。

 

「モモンガさん、ごめんなさい!」

 

「構いませんよ、セレスティアさん。で、今度はどこに間違って転移してたんですか?」

 

「宝物庫に行っちゃいました……。でも相変わらずパンドラは格好良かったです!!」

 

「グハッ!(吐血)」

 

「モモンガさん!?大丈夫!?」

 

FF(フレンドリィ・ファイア)は禁止されてるはずなのに……。ハッ!これがリアル精神攻撃?!」

 

「モモンガさん?」

 

「あ、いえちょっと(精神的な)ダメージが」

 

「えー!ドイツ語とか軍服格好いいと思うんだけどなぁ」

 

「ゴホン、セレスティアさん、そういえば最後の最後になにやらやたらと買い込んでましたけど、良かったんですか?」

 

「だって大切な場所だからね!最後になるだろうけど良い物を持っておきたかったし、それにぶっちゃけると私、現実世界(リアル)だともう死ぬ寸前だったんだよね。よくある気管支系の病気」

 

「え、……そんな、」

 

「だから最後に必要な分だけ残して、持ってた個人資産全部ユグドラシルにぶっこんじゃった!」

 

「…………確かセレスティアさんの個人資産って」

 

「うん、3億くらいあったかな多分?モモンガさん。私、モモンガさんがいてくれて良かった。最後までナザリックに、アインズ・ウール・ゴウンにいれて良かった。ありがとう、悟くん(・・・)

 

「……」

 

静寂が支配する。明るく振る舞うセレスティア……否、鈴奈に悟は何も言えなかった。

 

「さて、暗い話は終わり!そんなことより、ぎりぎりで手に入れた世界級(ワールド)アイテムがやばいの!!」

 

セレスティアは嬉しそうにモモンガに手に入れたアイテムたちを一個ずつアイテムボックスから取り出して見せている。

 

なんで、とモモンガは心の中で呟く。

幼い頃に死んだ両親、友人と言える存在はユグドラシルだけだった自分にとって唯一と言って良いほど近しい関係だったセレスティア(かのじょ)さえ、失うことになってしまうのか。

 

すぐに次のゲームとは思ってはいなかった。けれどいつかまた、と考えていたのに。

セレスティア(かのじょ)とはもう遊べない?よくある気管支系の病気だといった。確かに、外に出る時はガスマスクが必要なこの世界で気管支系の病気なんてそれこそ吐いて棄てるほどある。でも、彼女はユグドラシルの中でもかなりの重課金者といえるほどの金を持っていた。その気になれば治療だって受けられた。それなのに、死ぬ、なんて。

なんでそんなに笑っていられるんだ。なんで、なんで、なんで。

 

「モモンガさん。大丈夫、最後じゃないから!」

 

「それってどういう」

 

 

――――その瞬間、世界が変わった。

 

 

 

 



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魔女は思考する

守護者たちとの邂逅は無事に終わり、最後に「我らをどう思っているか」という質問に対する各守護者の答えが好評か過ぎてモモンガが無いはずの胃を痛めていると。

 

「カッカッカッ、随分な評価じゃな」

 

「ティアさん、勘弁してくださいよ……。端倪すべからざるとか初めて聞きましたよ」

 

「良いではないか。坊にぴったりの評価じゃて」

 

「まったく……。あ、そうだ、これから遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)で周辺に人がいないか見ようと思うんですがティアさんもどうですか?」

 

「いや、己は他にやりたいことがあるからのぅ。緊急時ではあるがこのナザリックが現実のものとなった今!あそこに行かぬ道理は無い」

 

「あそこ?…………あ、」

 

「うむ。スパ ナザリック!Barナザリック!!そして……タブラ特製ホラーギミック、アルベドの姉であるニグレド!!」

 

「あー……ティアさん、かなりのホラーマニアでしたもんね。スパとBarは俺も気になるけど……」

 

モモンガは言葉を切ると自身を見下ろすと骨の体に肩を落とした。

 

「こうなるって分かってたら生身の体にしたのになぁ……」

 

「……ふむ。坊よ、これをやろう」

 

セレスティアはインベントリからなにやら取り出すと、ぽいとモモンガへ投げる。

受け取ったモモンガはそれを首を傾げる。

 

「指輪?」

 

「人化の指輪じゃ。人化するとレベル的には50くらいに抑えられてしまうが、異形種が唯一人間種へと変化できるアイテム。だが、しばらくはそれの存在は隠しておいた方が良かろう」

 

「確実に、ここが安全だと言い切れるまで、ですね」

 

「うむ。食事はそうじゃな、己の部屋に来ると良い。さきほどメイドの一人に茶の用意を頼んだしの」

 

「本当ですか!さすがティアさん!!ありがとうございます!!必ず行きます!!それではのちほど!」

 

骨が嬉しそうに声を弾ませてルンルン気分で部屋へ入っていく。

それを見送ると、廊下の向こうからセバスがやって来た。

 

「セバスか」

 

「セレスティア様。こちらにおられましたか。モモンガ様とご一緒かと思ったのですが」

 

「ああ、坊からばこの先におる。なにやらお前たちに任せた範囲外で人間を探すようじゃ」

 

「然様でございましたか。ですが、セレスティア様、側付きのロストとナイトメア連れずにお一人で出歩くのは」

 

「あー、良い良い。己はこのあと部屋に戻るからの。セバスは坊についておれ。あれも一人で黙々と作業するのは嫌いではないだろうが。あぁ、それから二時間後、坊を己の部屋に来るように伝えてもらえるかの。坊にも言ってあるが、夢中になって忘れそうじゃ」

 

「承知致しました。二時間後、モモンガ様にその旨お伝えいたします」

 

「セバス。主に一つ聞きたいのじゃが」

 

「何なりと」

 

「階層守護者並びに領域守護者、守護者統括らが叛意を持つ可能性は?」

 

その瞬間、セバスはセレスティアの足元に跪き、頭を垂れた。

その様子は現実世界(リアル)においてセレスティア、否鈴奈が会社でよく見た、解雇通告(リアルにおいて解雇通告は死刑宣告に等しい)を受けた社員のような。

 

「!! セレスティア様、そのような可能性は万に一つ、億に一つもございません!この地に残られた慈悲深いモモンガ様とセレスティア様にそのような、叛意など……!」

 

「……そうか。良い、頭を上げよ」

 

「セレスティア様……どうか、どうか」

 

「セバス。主の気持ちは良く分かった。お前たちシモベはそうではないかも知れんが、今このナザリックは未曾有の危機に晒されている。モモンガとてそれを理解し動いている。だが、だがな。その未曾有の危機故にお前たちが叛意を抱かない可能性が皆無ではないのだ」

 

「確かに、そうではございますが……」

 

「たとえば……そうじゃな。洗脳などのスキルやアイテムがあればどうじゃ?ただのスキルであれば対策の立てようもあろう。モモンガやシャルティアのようにアンデッドであれば洗脳は効かないかもしれんが、それがワールドアイテムであれば?主もたっち・みーに連れられていたならば理解できるじゃろう。ワールドアイテムの効果はワールドアイテムでしかキャンセルできぬ」

 

「セレスティア様はこの世界にもワールドアイテムが存在するとお考えなのでしょうか」

 

「可能性の話じゃ。ナザリックが転移した以上、ありとあらゆる可能性を考慮せねば生き残れぬ。セバス、ナザリックいる総てのシモベに伝えろ―――“思考せよ。己が主が何を求め、何を成したいのか、良く考えよ。我らの命令だけを聞き、ただ付き従うだけの木偶はいらぬ”」

 

「御意!」

 

(わたし)は部屋に戻る。セバス、モモンガを一人にするなよ」

 

セレスティアはセバスの返事を待たずにリングを使って転移をした。

部屋には咲きに戻っていたロストと待機をさせていたナイトメアが待っていた。

 

「待たせたのう」

 

「……さっき、シクスス、来た。時間、変わりない?」

 

「うむ。二時間後、モモンガも来るから追加を用意してもらわねば」

 

「……了解」

 

「お嬢、モモンガ様は骨だろ?」

 

食えんの?と聞きたいのだろう。

セレスティアは事も無げに応える。

 

「人化の指輪を渡しておいた」

 

「さっすが~」

 

「それにしてもシモベたちの忠誠心はどうにかならんもんかのう。あれではモモンガの精神が擦り切れかねん」

 

「そうあれ、と創られてっからなぁ。多分無理だと思う」

 

「そう言う主らはどうなんじゃ」

 

「多分、ナザリック所属か個人所属かの違いだと思うぜ?」

 

「そういうことか……めんどうじゃな」

 

「ま、我慢するしかないだろ」

 

「めんどうじゃのう……」

 

セレスティアはそっとため息をついた。

 

 



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スパ・ナザリックとデミウルゴス

セレスティア・オルドローズ。

アインズ・ウール・ゴウン一のドジっ子であり、ユグドラシルのプレイヤーからは存在自体が疑われていた人である。

 

「セレスティア様、お加減の方はいかがでしょうか?」

 

「うん……ちょうど良い。あ、もう少し上の方」

 

「こちらでしょうか?」

 

「んむぅ……最高……」

 

「ありがとうございます!」

 

そんな彼女がナザリックにあるスパ・ナザリックで最高の待遇を受けていた。

蕩けきった表情でマッサージを受けるセレスティアと、その体を包み汚れを吸収するスライム、そしてスパで働く異形の者。

 

「はぁ~~~~~……」

 

「至高の御方にお喜び頂けて何よりで御座います」

 

「ずっとここにいたい……でもモモンガさんに怒られるぅ……ん?」

 

「《セレスティアさん?!今どこにいるんですか!!》」

 

「《スパ・ナザリック!超気持ち良いよ!!モモンガさんも来なよ!!》」

 

スタッフは至高の御方々の会話を聞いてはいけないだろうと気を利かせて退出する。

セレスティアは体を起こして現実世界(リアル)より確実に、格段に動かしやすくなった体に満足しながらモモンガと《伝言》で会話をしている。

 

「《いや揉んで貰う体が無いし……じゃなくて!!つーかアンタこんな非常事態に何くつろいでんだ!!!》」

 

「《こんな時だからこそ、よ。余裕がないと何事も冷静に考えられないわ(キリッ)》」

 

「《はぁ……とりあえず俺はこれから遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)で人間がいないか探してみます》」

 

「《私はどうしたらいい?っていうか、そうだ!モモンガさん!!暇つぶしに外行こう外。飛行(フライ)なら大丈夫でしょ!地上歩くんじゃ何がいるかわかんないから危ないけど、飛んでれば逃げるのもすぐだし!》」

 

「《それセレスティアさんが行きたいだけなんじゃ……》」

 

「《固いこと言わずに!ね!》」

 

セレスティアはモモンガを説得しつつ、すでにスパを出る準備をしていた。

指輪に登録してあった外出用の防具に切り替え、側付きのメイドに勘付かれる前に、とLv.100の素早さを活かして迅速かつ確実に、そして無駄に気配を消してスパを出たのであった。

そして普段ならば発揮するドジもこの時だけはユグドラシルでプレイして外に出ていた時同様に何故かミスをすることなく無事に脱出できたのである。

 

「《よし、脱出成功!》」

 

「《何やってんだ》」

 

スキルの無駄使いだな、と小さく呟いたモモンガの言葉を無視してセレスティアは歩を進める。

指輪で転移しないのは偏に何となく緊張感を味わいたいからというなんともしょうもない理由であった。

《伝言》を繋いだままの状態でこっそり会話をしながらセレスティアは順調にモモンガのいる私室へと向かっていたのだが……。

 

「セレスティア様ではありませんか!このような場所で供も連れずに一体何を……?」

 

モモンガの執務室から出てきたデミウルゴスに呆気なく見つかってしまったのである。

自身のほうへ向かって来る悪魔にセレスティアは慌てつつも支配者としてのロールを崩さないよう気をつけながら聞き返した。

 

「デミウルゴス!ごほん……、むしろ何故お主が此処に?」

 

「アルベドと一緒にモモンガ様へ奏上させていただくナザリックの防衛に関しての相談をしておりました。セレスティア様は……そういうことでしたか!」

 

え、どういうこと?

思わず飛び出しそうになってしまった言葉を飲み込み、セレスティアは鷹揚に頷く。

とんでもない誤解が生まれていそうな予感、というか確信できるがどうしようもないため諦めて口を開いた。

 

「モモンガの部屋に行く途中じゃ。供は不要」

 

「ですが……」

 

(わたし)が不要と言ったのじゃ。良いな?」

 

「……承知致しました」

 

「デミウルゴス、現在第一階層は誰が守護しておる?」

 

「はっ。第一階層から第三階層までは各階層守護者の配下が順番に見回りをしておりますが、現在は私の配下である三魔将が詰めております」

 

「そうか、相分かった。お主も持ち場に戻るが良い」

 

デミウルゴスの返答に内心面倒だな、と思いながらセレスティアは跪いたままのデミウルゴスを通り越してモモンガのいる私室へと向かった

 

 

 

 



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星空の下での世界征服宣言と指輪

この世界は美しい。

リアルとは違うスモッグに覆われていない大空、大地に茂る草、虫の鳴き声、ガスマスクを必要としない清純な空気。

 

 

「ああ……なんて、美しい―――!」

 

「宝石箱みたいだ……」

 

「モモンガ様とセレスティア様がお望みならばナザリック全軍を用いてこの世界を手に入れてみせます」

 

二人だけで外に出ようとした際、供を連れて欲しいと懇願してきたデミウルゴスが喜色いっぱいの声で言った。

 

「ふふ、この世界にどれだけの強者がいるかもわからないのにか?でもまぁ……世界征服、なんてのも面白いかもしれないな」

 

「《そんなこと言ってるとNPCはマジに取るよ》」

 

「《まっさか~~。……いやでもあの忠誠心の高さと謎の深読みの方向性ではあり得るのか……?》」

 

罵声を交わしつつモモンガはむむむ、と考え込む。

その近くに控えているデミウルゴスにいたってはモモンガが最高の知者であり、智謀遠謀に長けていると信じて疑っていない。

そして同じく至高の御方の一柱でもあるセレスティアも違わないと思っている節すらある。

事実先ほど第六階層で守護者と対面した際も「端倪すべからざる」と日常ではまず聞かないであろう言葉が飛び出してきたのだし。

 

「……デミウルゴス、今からモモンガさんと内密の話をする。このことは他言無用であり、破ったら厳罰に処する」

 

「ハッ、かしこまりました!」

 

「セレスティアさん?」

 

デミウルゴスが了承したのを確認するとセレスティアはモモンガに向き直った。モモンガとセレスティアの身長差は結構あるが、今は《飛行》で飛んでおり、この時ばかりは二人の目線の高さは同じである。

 

そんな少女がモモンガに胡乱な目を向ける。

 

「ねぇ、モモンガさん」

 

「な、なんでしょうか」

 

「アルベドの設定、書き換えたでしょ?」

 

「―――! ……すみません、書き換えました」

 

「まぁそんなことはたいした問題じゃないんだけどね。ギャップ魔のタブラさんならむしろNTRだ!って喜びそうだし。私も処女の女の子にビッチはねぇだろと思うしさ。ただね、一個引っかかることがあってね」

 

「ですよねビッチはあんまりですよね!? って引っかかること?」

 

「うん。忠誠の儀でNPCたちはこう言ったよね。私たちにこの地に残られた(・・・・・・・・)、もしくは見捨てずに(・・・・・)だとか慈悲深いとかね。彼らは創造主が去ったと思っている。それは間違いでもあり、正しくもある。そして、これはさっき気付いたのだけれど、恐らくNPCは創造主のであるメンバーの性格を引き継いでいる。もっと的確に言うなら設定として書き込まれていない部分は創造主の性格が反映されている、ということかな。特にセバスなんかは顕著だと思うよ」

 

「セバス、ってことはたっち・みーさんか。確かに何となく面影を感じるような感じないような……?ん?え、ってことはアルベドのあの肉食的な一面も実はタブラさんの隠れた一面ってこと?意外……」

 

「まぁタブラさんだから。それと、モモンガさん」

 

「まさかあの薀蓄ブレインイーターが……。はい?」

 

「パンドラズ・アクターに会いに行ってね」

 

「カハッ(精神的ダメージ)」

 

「モモンガさんのことだから後回しにしそうだから言っておくけども。宝物庫から出れるようにしてあげてよ」

 

「で、でもあいつは宝物庫の領域守護者ですし」

 

「指輪あげて緊急時には戻るように厳命すれば問題ないでしょ?それにさ、話し相手もなく一人きりって寂しいじゃん」

 

「……そう、ですね。このあと、少しだけ会いに行ってきます。指輪も……」

 

ギルドメンバーもいなくなり、セレスティアがいたが生活環境の違いから顔を合わせること自体少なく、ナザリックを維持するためにただひたすら維持費を稼ぐだけだった日々がふと思い浮かぶ。

 

「うん。そしたら遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)で人を探そう」

 

「……はい!」

 

「デミウルゴス、良いぞ。さて、そろそろ戻るかの」

 

「あぁ。―――ん?あれは、マーレか」

 

森司祭(ドルイド)のマーレが土魔法を使用し、ナザリックの隠蔽作業を行っていた。

 

「デミウルゴス、マーレに褒美を与えようと思うのだが、何がいいと思う?」

 

餅は餅屋、ならばNPCが欲しい物はNPCに聞こうとモモンガがそう尋ねるが、忠誠心高いNPCには「モモンガ様からお言葉をかけていただけるだけで十分でございます!」と言われてしまい、思案する。

 

「《モモンガさん、マーレには私から指輪を渡すから、モモンガさんはアルベドに渡してね》」

 

「《え“っ》」

 

「《当たり前でしょ。モモンガさんがアルベドより先にマーレに渡したとなったら陰でマーレが縊り殺されかねないよ。それにNPCが動き出した以上、緊急時に移動に時間がかかったら困るのは私たちでしょ?》」

 

「《……わかりました。となると、デミウルゴスにも渡したほうが》」

 

「《デミウルゴスは次の機会にした方がいいと思う。特にアルベドの前では》」

 

「《了解です。じゃあマーレの方はお願いします》」

 

「《おっけー》」

 

 

その後、指輪を受け取ったマーレが左手の薬指に嵌めたことに内心驚きながらも取り繕った二人の支配者に、マーレは素朴な疑問を投げかける。

漆黒の鎧のモモンガと純白のローブを目深く被ったセレスティアに「何故そのような格好を?」と無邪気な様子で聞かれてしまい、「息抜き」とは答えられずにいた支配者二人に代わって答えたのは先ほどからちょくちょく話題に上がる守護者統括、アルベドだった。

 

「《ごめんなさいただの息抜きです、とは言えない雰囲気だよねぇ》」

 

「《そうですね。……ヒィ!》」

 

マーレの左手の薬指に嵌ったリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを見つけたアルベドの表情が一瞬恐ろしい形相に変わる瞬間を目撃したモモンガは思わず悲鳴を上げる。幸い《伝言》を繋いでいたセレスティアにしか聞こえなかったようで、ようやくセレスティアが言っていたことを理解し、自分がマーレに指輪をあげていたらこれの比ではなかったことに思い至りそっとセレスティアに礼を言った。

 

そしてモモンガから指輪を受け取ったアルベドの喜びようはすさまじく、転移で二人が移動した瞬間雄叫びが聞こえた気がしたが、無駄に虎の尾を踏みたくない二人は転移先のモモンガの私室で目を合わせた後ため息をついた。

 

 




ナザリックが転移したことによってNPCたちが動き出し、セレスティアさんの中で「家にいる」=「安心できる場所」という心境に至っていないためドジ封印中。


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モモンガさんがカルネ村救ったらしいよ

短め。



 

 

「いい湯じゃ……」

 

「とても、いい」

 

第九階層にあるスパ・ナザリックと併設する湯気が立ち込める温泉施設にいるセレスティアの呟きに同意したのはセレスティアが創造したNPC「堕落する悪夢(フォール・イン・ナイトメア)」だ。

 

モモンガと供にマーレを激励し、セレスティアからマーレへ、モモンガからアルベドへと無事に指輪を渡し終えた後。

それぞれ自らのNPCへ会いに行き、困惑したり、沈静化されたり、困惑したりしながらなんとか乗り切り折角だからと人造人間(ホムンクルス)のメイドに準備をさせて二人で温泉へとやってきたのである。

 

「(ナザリックが現実になると知っていた(・・・・・)から率先して関わってはいたけどまさかここまですごいとは……)」

 

かつて共に冒険した仲間たちを思い浮かべてほう、と息を吐く。

現実世界(リアル)では富裕層ですら滅多にお目にかかれない芸術性に富み、計算しつくされたこの場を仲間が作り出したと思うと喜びがこみ上げてくる。

 

あぁ、このまま溶けてしまいたい……。

そう思うが、これから先訪れる出来事、将来のナザリックを思えばそんなこと言っていられないのも事実。

 

「さて、ナイトメアよ。(わたし)はもう行くがお前はどうする?」

 

「……一緒に行く」

 

言葉少なにそう言うナイトメアはセレスティアに良く似ており、その瞳だけがセレスティアとナイトメアを見分ける差異でもあった。……ナザリックに所属するシモベには何故か通用しないのだが。

 

「セレスティア様、こちらをどうぞ」

 

ナザリックの一般メイド、本日のセレスティア担当のフォアイルがタオルを差し出す。

惜しみなく晒された裸体。風呂であるが故のことではあるが、フォアイルは思わずその美しい肢体に見惚れてしまう。

 

バランスの取れた手足、不健康にも思えるほど白く傷のない柔肌。

程よい大きさのそれと引き締まったウエスト、そして小ぶりながらも弾力を備えたヒップ。

女であれば誰もが――創造主にそうあれと創られて尚――憧れてしまうほどの容姿。

 

白灰の髪から覗く大きく曲がった山羊の角が唯一彼女が人外であることを示しているのだが、その角も今は無くなっており見た目だけ言えばどこにでもいる――美しさという意味では唯一無二であるが――人間の少女であった。

 

「モモンガはどうしておる?」

 

「はい。モモンガ様は休憩室の方にいらっしゃいます」

 

「ふむ、そうか。今は何時じゃ?」

 

「現在7時52分でございます」

 

「そろそろか。まぁもうしばらくはのんびりできそうじゃな」

 

「「?」」

 

セレスティアの言葉に首を傾げる二人を見て、にやりと笑う。

 

この後、モモンガは名をアインズ・ウール・ゴウンに変えてシモベたちへ一つの命令を下す。

 

 

「アインズ・ウール・ゴウンを不変の伝説とせよ」

 

 

セレスティアという本来であれば存在しなかった(・・・・・・・)者を巻き込んだ命令。

後の世に生きる者にとって幸福なのか、不幸となるのか。

 

 

それはまたいずれ語るとしよう。

 

 

 



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