フェイト / グランド なりきり オーダー (影鴉)
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プロローグ -その男、なりきり師-
なりきり師、カルデアに立つ


この物語には以下の成分が含まれております。

・この物語は「Fate/Grand Order」×「他版権作品」のクロスオーバーです。
・この物語はタグにもある通り、遣りたい放題(・・・・・・)です(これ重要)
・転生者である主人公は独特な話し方をします。
・主人公はFate作品についての知識が有りません。
・Fate作品の知識が無い事によるツッコミ、原作キャラへのアンチが発生する可能性があります。
・能力上、パワーバランスの崩壊が生じる可能性があります。
・原作に他版権作品(能力、道具、設定、用語)が多重クロスオーバーします。
・クロスオーバー作品及びその作品から生じた2次設定等の知識が無い場合、理解が難しい描写や表現が生じる可能性があります。
・装備、話の都合上によるご都合展開が起きる可能性があります。
・話の展開上、残酷な描写や流血表現が生じる可能性があります。
・原作キャラとのカップリング要素が含まれる可能性があります。
・原作キャラの魔改造が発生する可能性があります。
・原作にて死亡するキャラが生存します。
・独自解釈、オリジナル設定が発生します。
・括弧は以下のように使用します。
  「」:発声による発言、会話
  【】:無線等の機械音声、通信機での会話
  『』:施設・物、技等の名称
  ():思考、心の声
  《》:多人数が同じ発言をした時

・目指すは完全無欠のハッピーエンド!!
・以上の成分をご理解上、スコップが爆☆砕しても当方は責任を取れません


「え? 先輩、海外に行くんですか?」

「そうそう、羽振りが良いバイトを紹介されてさ」

 

 

 とあるアパートの一室、ドレスを着飾った少女がポーズを取りながら問い掛け、その姿をカメラで撮影している青年が答える。

 

 

「海外まで出て何の仕事するんですか? ボランティア?」

「ボランティアじゃ、あんまお給料出ないじゃん…。何でも国連で行う事業に一般代表で参加するらしいよ」

「国連!? 凄くないですかっ?」

「せやろ? 何するかは現地で聞くらしいけど」

 

 

 海外に出てバイトを行うと聞いた少女、藤村 立香(ふじむら りっか)。大学1年生である彼女が現代では中々見れない様なドレス姿であるのは彼に頼まれた為であったりする。

 そしてそんな立香を撮影している青年は彼女の先輩だったりする。

 

 

「でも今年の夏コミは如何するんです?」

「そりゃ、サークルメンバーに任せるしか無いっしょ。写真集売るだけだしモーマンタイ」

「だからこんなに着る衣装が多かったんですね……ん? それじゃあ、打ち上げの際に先輩の特製パフェ出ないんですよね?」

「……今回ぐらい無くたって良いじゃないか?」

「駄目ですっ!! 先輩の『通称:おいしおいし』があるから手伝ってるんですよ!?」

「パフェ位で大袈裟な…」

「と・に・か・く! 撮影終わったら作って下さい!!」

「帰って来てからで良えやろ?」

「駄・目・で・す! 夏休み中に終わる保障無いでしょ、そのバイト!」

「えぇ…(困惑)」

 

 

 この後、滅茶苦茶撮影してパフェ作ってあげた。

 

 

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 Hellow everyone おいちゃんの名前は十 優作(つなし ゆうさく)

 

 ごく普通の大学2年生で、強いて言うならコスプレに興味があるってところかな?

 

 嘘です。

 

 あ、嘘ってのは“ごく普通の”ってとこのワードでコスプレは大好きよ? 衣装作って着せる方だけどな!

 

 何を隠そう、おいちゃんは昨今ラノベ業界を賑わせてる“転生者”って奴なんです。

 

 前世は30代前の社会人、この時からコスプレ(衣装を作る方)は大好きだな。

 

 死んでは無かったと思う、気付いたらこの世界にいた。

 

 というのも、仕事を終えて一杯引っ掛けた帰り、誰かから声を掛けられたんだよね。

 

 「貴方が成りたいモノはありますか?」って…

 

 それでこう答えたのさ。

 

 「“なりきり”能力引っ提げて強くてニューゲームしたい」

 

 「分かりました、それでは良き人生を」

 

 おいちゃんの答えに対してそんな返答があって、気付けば3歳児位に戻っていた。

 

 転生させた存在が何者かは皆目着かぬが、転生特典と思われる”なりきり能力”は貰っていた。

 

 どんな能力か説明しろだって?

 

 「なりきり」も解らないの? そんなんじゃ甘いよ。

 

 つまりだな……いや今は教えない。

 

 今後、説明する機会があるだろうし、気になったらググるっしょ?

 

 って事で自己紹介終わり、閉廷!

 

 

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それからどうした

 

 

「バイト人員に長旅させた挙句、南極の雪山登山をさせるとかおp…おっぱげた」

 

 

 ブツブツ愚痴りながら優作は雪降る雪山を登っていく。

 撮影したあの日から数日後、彼の元に仕事場所までの案内地図及び移動の為の飛行機や電車のチケット、仕事着と思われる衣服等が送られて来た。

 バイトだから街中の施設にて行うかと思ってたが、都心部から離れた僻地処かなんと南極にある標高6000mの雪山に建てられている施設まで来いとの事。

 飛行機で某国の空港へ向かい、そこから列車やらバスやらを乗り継いで着いた港町から船に乗り、途中からヘリに乗って南極へと渡った後、山道前のベースキャンプで降ろされてそこから登山するという一応は一般人でもない優作でも中々ハードに感じる移動であった。

 

 

「おまけに雪風が強いし、すっごい寒い」

 

 

 岩陰で風を凌ぎながら、懐から魔法瓶を取り出して暖かいコーヒーを啜る。

 

 

「コーヒーだけじゃ暖まりもしねぇや。ジャックランタン、寒いから発火してくれ」

「ヒ―ホー、任せるホー!」

 

 

 コーヒーをある程度飲むが其れだけでは体が温まらなかったので指示を飛ばすと何もいなかった筈の優作の背後から南瓜頭の奇妙なモノが現れた。

 ジャックランタンと呼ばれた南瓜頭は手に持つランタンの炎を燃え上がらせると薄い炎が優作の周囲を包み込んだ。

 

 

「よっしゃ! これでまだ進めるどー!!」

「サマナー、無茶しちゃダメだホー?」

「無茶して無ぇーし!!」

 

 

 自身の周囲温度が温まった優作は掛け声を挙げると雪山をずんずんと登り出す。その後をジャックランタンは慌てて追いかけた。

 

 

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カルデア入口前

 

 

「はぇ~、すっごいおっきい…」

 

 

 目の前に建つ巨大な施設に優作はポツリと呟く。

 象牙か真珠の様な白亜の施設は『人理保障機関 フィニス・カルデア』

 

 

「寒いし、ちゃっちゃと入るか。ご苦労だったなジャックランタン、戻ってくれ」

「ヒホー、また呼んでホー!」

 

 

 懐から黒い管のようなものを取り出してジャックランタンを入れて戻す。

 入口前に建つと扉上部にあるスピーカーらしき物体からアナウンスが流れた。

 

 

【――塩基配列……ヒトゲノムと確認

 ――霊器属性……善性・中立と確認

 ようこそ、人類の未来を語る資料館へ

 ここは人理継続保障機関カルデア

 指紋認証、声帯認証、遺伝子認証クリア

 魔術回路の測定……完了しました

 登録名と一致します

 あなたを霊長類の一員として認めます】

 

 

 アナウンスの後に扉が開き、その先は白い広間が広がっていた。

 広間には何も無く、先には扉が有るが開く様子が無い。

 

 

【入館手続きには後180秒ほど必要です

 その間、模擬戦闘をお楽しみください】

 

 

 如何やら先に進むには手続きが終わらないといけないらしい。しかし、模擬戦で時間を潰せとはどういう事なのだろうか? 詳しいバイト内容は此処で聞く事になっていたのだが、荒事関連のバイトなのだろうか? 国連関係としてはあるまじき内容だし、そんな人員を日本で探すなと言いたい。

 

 

【 ―――――レギュレーション:シニア

 契約サーヴァント、セイバー、ランサー、アーチャー

 今回の戦闘は記録に残すようなことは一切致しません

 どうぞ、ご自由に戦闘をお楽しみください

 ――――――召喚システム・フェイト起動

 この180秒間、マスターとしての善き経験ができますよう】

 

 

 アナウンスの後、白い広間が突如青のヴァーチャル空間へと変わる。

 驚く優作の前に三体のマネキンの様なヒト型が現れる。それぞれの手に剣、槍、弓が握られていた。

 そして少し離れた先に同じくヒト型が立っていた。数は3体、持っている獲物は剣で統一されていたが…

 

 

「こいつら操ってあの3体を倒せってか? サマナーと変わらんなこりゃ」

 

 

 正直、自身が暴れても何とかなりそうだが自身の能力を下手に曝す訳にもいかないので目の前の人型に任せる事にした。

 

 

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【登録手続きが完了しました

 初めまして、貴方は本日最後の来館者です

 どうぞ善き時間をお過ごしください】

 

「さぁて、登録は終わったっぽいけどこの後はどうすりゃ良いのかね?」

 

 

 模擬戦をしている途中で手続きが終了し、広間の扉を抜けて広い通路に出た優作は周辺を見回す。通路には案内掲示もなければ案内人の姿も無い。

 

 

「バイト相手とはいえ、遅刻してる訳ではないのに迎えが無いとか如何いう事なの?」

 

 

 仕方が無いので施設の職員でも探して案内でも頼もうと通路を歩いて行く。

 

 

「しかし…なんか頭がクラクラすんな…」

 

 

 先程の模擬戦のせいなのか、妙に視界がボヤけてふらついてしまう。このまま横になれば直ぐ様寝てしまいそうだ。

 魔法瓶に残ったコーヒーを飲み干し、通路を歩いて行く。

 歩き回る事数分、何かの影を見つけた。

 

 

「お、第一職員発見で……」

フォウ()?」

「誰だお前は!?」

ファッ(何だお前)!!?」

 

 

 漸く職員を見つけたかと思ったが、いたのは謎のモフモフであった。

 白を基調として所々に翠色の毛が混ざった生物。ハッキリ言って現実離れした感じがしたので思わず問いかけてしまったら相手のモフモフも驚愕混じりの困惑の鳴き声を上げてしまった。

 

 

「う~む…怪生物相手に道案内を頼めるものか…」

フォウ、フォーウ(初対面相手に失礼ですね、君)!」

 

 

 モフモフを抱えて唸る優作。

 

 

「しかし、このモフモフ感…その手のマニアに売ったらすっげえ高くで売れそう…」

フォア(売る気か貴様)!?」

「いや、それよりも動物モデルとして是非とも衣装を…」

フォウ、フォウフォーウ(ヤーメロお前、何処触ってんでぃ)!!」

 

 

 弄繰り回す優作に対し、抗議の鳴き声を上げながらもがくモフモフ。

 

 

「あ、あの~お楽しみの所申し訳ありませんが、そろそろ所長の挨拶が始まりますよ、せ…先輩?」

「ん?」

 

 

 そんな遣り取りをしていると後ろから声を掛けられる。振り向くと学生服に似た制服にパーカーを羽織った少女が立っていた。片目を隠せるほどの長さの桃色に近い紫髪はショートカットにされており、眼鏡を掛けているその姿は文学少女を想像させる。そして、なにより優作としてはコスプレモデルをお願いしたい逸材であると感じた。

 

 

「あ~…おいちゃんを先輩呼びした事は置いておいて…ここの職員さん?」

「(おいちゃん?)いえ、私はカルデアのスタッフではなくマスター適性者の一人になります」

「マスター適性者…? あぁ、入館手続きが終わるまでやってた模擬戦で使ってた契約サーヴァントとやらを使役するの?」

「そうです。そして入館の際に霊子ダイブシミュレーターをしたのなら多分先輩もそのマスター適正者…の筈です?」

「先輩呼びも気になるんだけど、何故さっきから疑問形が混じっているの?」

「あぁ、済みません。先輩の格好がカルデア支給の制服で無かったので」

 

 

 因みに優作は手続きが終わった際に防寒着は脱いでおり、今は黒の学生服に黒い外套を纏った恰好に変わっていた。

 

 

「支給された制服はバックパックに入ってるよ。あのほとんど白の制服でしょ?」

「はい。マスター候補ならその制服を着ているのですが」

「此処に来るまで長旅だったからさ、汚れたら困るからまだ着てなかったのさ」

「成程、合点がいきました」

 

 

 優作の衣装に関しての疑問が解けた後、優作は目の前の少女の名を聞いていない事に気付く。

 

 

「ところで君の名前は?」

「いきなり難しい質問なので、返答に困りますが……そうですね、名乗るほどの者ではない…とか?」

「自身の名を渋るとかエージェントか何か? しかし、『ナノルホドノモノデハナイ』ちゃんか…流石海外、凄い名前の人がいるものだ」

「ふぇっ!!? い、いや違いますっ!! 今のは名前ではなくって、その…今まで自分の名前を言う機会がなかったもので、如何したら印象的な自己紹介が出来るかなと思って言っただけで…」

「うん、知ってた」

「………先輩っていぢわるさんですか?」

「時折言われる」

 

 

 弄られている事を理解し、若干ジト目になる少女に優作は苦笑いで返す。

 

 

「コホン、では…「フォウ、キューウ(おい待てぃ、ボクの事忘れてるゾ)」……失念していました。あなたの紹介がまだでしたね。フォウさん」

 

 

 少女の自己紹介が始まるかと思いきや、モフモフが異議らしい鳴き声を上げてきた。如何やら少女はこのモフモフの言いたい事が解かるようで、モフモフの紹介を始めた。

 

 

「こちらのリスっぽいのがフォウ。カルデアを自由に散歩する特権生物です。私はフォウさんにここまで誘導され、先行していたフォウさんと先輩を発見したんです」

「成程ね~」

キュー、フォーウ(ってか、いい加減放せやオルルァン)!」

「おりょ?」

 

 

 もがき続けていたフォウは漸く優作の腕から飛び出し、通路の向こうへと去って行った。

 

 

「またフォウさんが行ってしまいました…。あのように法則性も無しに散歩してるんです」

「特権生物の呼び名通りってか?」

「そうですね。正体不明なフォウさんですが、あまり私以外には近寄らないのですよ? おめでとうございます。先輩はどうやらフォウさんに気に入られたようです。2代目お世話係の誕生ですね」

「おいちゃんが揉みくちゃにしてただけだった気もするんだが…まぁ、お世話序に衣装姿撮らせてもらえば良いかな?」

 

 

 突然の世話係通告!! しかし、それよりも彼女の名前を未だ聞けていない事に優作は気づいた。

 

 

「では改めて私の名前は…「あぁ、そこにいたのかマシュ。駄目だぞ? 断り無しで移動するのは良く無いと……」…レフ教授」

 

 

 フォウに続き2度までも妨害されるとは…しかも彼女の名前が判ってしまった。

 少女、マシュに声を掛けてきたのは全身を緑の衣装で固め、癖毛混じりの髪を長く伸ばした男性だった。因みにもみあげが凄い(小並感)

 

 

「おや、君は今日来館する48人目のマスターだったかな?」

「俺を知ってるんで?」

「そりゃあ、此処のスタッフの1人だからね、今回要になるマスター適性者達の顔は一通り目を通しているよ。確か一般採用の十 優作君だったかな? 私はレフ・ライノール、此処カルデアでは技師として働いているよ」

 

 

 レフと名乗った糸目男爵は柔らかい表情で優作の名を確認すると共に自己紹介してきた。

 見た目は良い人そうなのだが、なんだろうか近年の糸目キャラ黒幕フラグ的なイメージから良ろしくないサムシングを感じた。

 

 

「それはそうと先輩、間も無く所長の説明会が始まります」

「そういえばそうだな、君もマスター適性者なら中央管制室で所長が行う説明会に参加しないといけない。私も参加するから付いて来たまえ」

「それじゃあ、お願いします。此処案内図も無いし、案内人もいなかったからマシュに会うまで迷ってたんすよ」

「ははは…準備で忙しかったからね、申し訳ない。しかし急ごう、所長は時間にシビアだからね、目を付けられたら大変だ」

 

 

:::::

 

 

 レフ教授の案内で中央管制室に訪れた優作達、部屋の中央には地球儀の様な丸い球体が枠に覆われて宙に飾られている。

 部屋には既に人が集まっていたようだった。

 

 

「先輩の番号は…一桁台、最前列ですね。一番前の空いてるところにどうぞ」

「おいちゃん、最後に選ばれた適性者だったよね? なんで前の席なの?」

「その疑問については最もだが、多分今回の件について詳しく知らない一般候補を配慮してるのではないかな? 前の方が説明も聞き取りやすいし、解りやすいだろう?」

「なるへそ」

 

 

 そんな会話を交わしたが、自分達が最後であったらしく、所長と思われる女性が睨んでいたのでさっさと着席するのだった。

 

 

「…時間通りとはいきませんでしたが、全員揃ったようですね? 特務機関カルデアにようこそ、私は所長のオルガマリー・アムニスフィア」

 

 

 長い銀髪が所々撥ねている癖毛の女性、オルガマリーが挨拶をする。

 

 

「そして貴方達は各国から集められた稀有な才能を持つ人材です。とはいえ特別なのはあくまでも才能であって貴方達ではない。貴方たちは人類史を守る為の道具にしか過ぎない事を自覚するように!」

 

 

 いきなり上から目線を超えた畜生発言に対する反応は困惑や嫌悪が混じったモノであった。ざわざわと騒ぎ出すマスター適性者達に対してオルガマリー所長はピシャリと言い放つ。

 

 

「静粛に! 納得がいかないと言うのなら今すぐカルデアを去りなさい! ただしカルデアの外は吹雪の襲う極寒地獄ですが」

「何このブラック企業…国連提携の事業じゃなかったん?」

 

 

 思わず口から零れてしまったが、誰がそれを攻めれようか。

 それから説明が始まりメモを取りつつ聞き続けているのだが、良く解からない専門用語を多用されているので中々理解が進まない。しかし、魔術やらサーヴァントといった説明を聞く限り、自分の能力を隠す必要が無いのではないかと思いつつ、解からない事は後で周りのマスター適性適性者かマシュに聞けば良いので問題は無いと結論に達した。

 一番問題なのは…

 

 

「(やっべ…眠気がぶり返してきた)くぁ…」

 

 

 どうも霊子シミュレーターの影響がまだ残っているらしく、ぼんやりした感覚と眠気で欠伸が止まらない。噛み殺そうとするもそれでは止まらなく、口元に手を当てて誤魔化しているものの既に10回を超えていた。

 

 

「ちょっと貴方!!」

 

 

 結果的に16回目の欠伸が出た時、オルガマリー所長が遂にキレた。

 

 

「さっきから欠伸ばかりしてやる気あるの!?」

「やる気はあるし、欠伸に関しては申し訳ないが、しょうがないでしょ? さっき此処に着いて、それまで長旅+山登りしてたんだから疲れが無い筈が無いでしょうに」

 

 

 旅の間の睡眠は飛行機やら列車、船内での睡眠だったが、時差やら揺れやらで安定した眠りは取れてない。それでも多少は大丈夫である筈だったのだが、登山の疲れと霊子シミュレーターの影響がデカ過ぎた。

 

 

「それにその服は何!? 支給された制服は?」

「制服は鞄の中ですよ。此処に来て着替える暇も無かったのだからしゃあなしやで」

 

 

 オルガマリー所長に指摘された優作の黒マントを纏った黒い学生服に黒の学帽の姿は他の者が白を基調としたカルデアの制服なのでとても目立っていた。

 

 

「つぅか、吹雪いている山を登山経験の無いド素人に登らせるとか遭難不可避だったんだけど? 雪上車で迎えぐらい出来んかったの?」

 

 

 遭難してそのまま死んだ時はどうするつもりだったのだろうか? 金云々で揉み消すつもりだったのか、だとしたら怖い。

 

 

「!? …そ、それは…」

「予想してなかったんかい…(呆れ)それにさ、遅れたのも入口に案内図やら迎えがいなかったから迷ってたせいなんだよね? マシュやレフ教授に会わなかったら多分今も館内彷徨ってましたよ?」

 

 

 彼女的には遭難といったケースを予想できてなかったらしい。まぁ、レフ教授曰く忙しくて人員が足りていなかったらしいから迎えの人員も用意できてなさそうだが…

 説明会に遅れた原因も説明し、対応が杜撰であると追及してしまった。正直先程のブラック発言でそのままクビ宣告で帰ってしまっても良いと思い始めていた。マシュやフォウという逸材のコスプレモデルとお別れしてしまうのは残念であるが…そういえば帰りのヘリやらはちゃんと手配してくれるのだろうか?

 

 

「まぁまぁ、優作君。それぐらいにしてくれないか? 此処に来る前にも言ったが、今回ファーストオーダーの準備が予想以上に忙しくて人手が足りてなかったんだ」

「レフ…」

 

 

 そこへレフ教授が割り込んできた。レフの言葉にオルガマリー所長が大人しくなった事から彼を信頼している事が分かった。

 

 

「ん、俺もバイト風情で言い過ぎた感があったんで。すみません」

「何、君の言ってることも間違ってないからね。しかし、長旅の疲れがとれないままファーストオーダーに参加するのは些か拙いだろう。今回は参加せずにしっかり休養をとってくれ」

「参加しなくて大丈夫なんで?」

「なに、ミッションはファーストオーダーだけじゃないからね」

「ならお言葉に甘えさせて貰います」

「オルガもそれで良いね?」

「え、えぇ。構わないわ」

 

 

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「悪いね、マシュ。説明が終わってないのに…」

「気にしないでください先輩、したくてしている事ですから」

「でもこれからミッションを行うAチームメンバーなんでしょ? 説明を聞いてなくて大丈夫なん?」

「実は前もって聞いていまして、問題無いのです」

「なら安心…なのかな?」

 

 

 ファーストオーダーの参加メンバーから外れる事になった優作は立候補してくれたマシュの案内の元マスター適正者達の居住区にある部屋へと向かっていた。

 

 

「しかし、先輩は凄いです。所長相手にあそこまで言えるなんて、カルデアの職員でも中々いませんよ?」

「事実を言っただけだけどね…「フォーウ(かくごー)!」…おろ?」

 

 

 マシュと会話を交わしつつ通路を歩いていると、前からフォウが飛び付いてきたので難なくキャッチする。

 

 

「おやモフモフことフォウさんではありませんか、モデルになりに来たんか?」

フォフォウ、キュー(だから揉みくちゃにするの、止めーや)!」

「あの…初めて出会った時もフォウさんを揉みくちゃにしてましたが、それにモデルとは?」

「あぁ、おいちゃんコスプレ衣装を作るのが趣味でさ? だからフォウも動物モデルとして色々着せてみたいから寸法を測ってるのさ」

「こす…ぷれ衣装ですか?」

「おぅ、コスプレを知らないか。まぁ簡単に説明するなら色んな職業やキャラクターの衣装を着て楽しむ事、おいちゃんは衣装を作って撮影を楽しむ側だけどね」

「キャラクターですか…それじゃあ、歴史上の偉人や英雄なんかも?」

「うん、そういった衣装もあるよ」

 

 

 他愛ない会話をしながら通路を歩いて行くのだがカルデア内部は扉がどれも同じデザインである為、上部にあるパネルを確認しないと判別が付かない。下手するとまた迷ってしまいそうだった。

 優作に充てられた部屋の前に着き、マシュと別れの言葉を告げる。

 

 

「では私は戻ります。先輩、戻ったらまた色々お話してくださいね?」

「うん、マシュも気を付けてな」

フォーウ…(仕事頑張ってね)

 

 

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カルデア マイルーム

 

 

「此処が暫く自分の城ってわ……誰?」

 

 

 マイルームに入った優作の目の前にはベッドに座ってパソコンを弄りながらケーキを頬張っている、橙髪をポニーテールにした男性がいた。

 

 

「っ!? き、君こそ誰だい! ここは空き部屋だぞ、僕のサボり場だぞ!? 誰の断りがあって入って来るんだい!?」

「サボり場とか知らんがな、因みにおいちゃんは一般採用のマスター適性者で、此処はおいちゃんに充てられたマイルームです」

「あ、君が今日来館すると言われてた48人目のマスター適正者の十 優作君かい?」

 

 

 どうやら彼も職員の1人らしい。パソコンとケーキの載った皿を脇に置いて自己紹介を始める。

 

 

「いやぁ、初めまして優作君。予期せぬ出会いになってしまったけど改めて自己紹介をしよう。僕は医療部門トップ、ロマニ・アーキマン。何故か皆からは Dr.ロマンと略されていてね。理由は解らないけど言いやすいし、君も遠慮なくロマンと呼んでくれて良いよ?」

「ロマン…良い響きじゃない。おいちゃん、そういった渾名好きやで? 宜しく Dr.ロマンティック。でも人員不足とか聞いたのにサボってて良いんですかい?」

「あはは、実は所長に僕が現場にいると空気が緩むとか言われて説明会から追い出されてね。そう云う優作君こそ今説明会の最中の筈なのになぜ部屋に?」

「此処までずっと長旅だったんで疲れが取れてないからって配慮で今回は休みっす。雪山登山とか生まれて初めての体験だった…」

「成程、それなら仕方ないさ。今日はゆっくりと休むと良い」

「有難うっす。でも歩いてたら眠気も吹っ飛んじまいましたし、宜しければ此処カルデアについてご教授してくれませんか Dr.ロマンティック?」

「良いとも、序に暇人同士交流を深めようじゃないか♪」

 

 

 それから暫くロマニからカルデアの説明を受けていたが、途中から何気ない日常会話へと変わっていく。

 

 

「へぇ、ロマンはその『マギ☆マリ』が好きなんだ?」

「そうさ! ライブのDVDやファングッズは全部揃えてるんだ!!」

「ふぅ~む…どの衣装も中々のデザインだ、参考になる」

「優作君は衣装に興味があるのかい?」

「コスプレ用の衣装製作が趣味なんで、アイドル衣装関係も色々作ってるから色々観てるんだよね」

 

 

 互いの趣味の話(尚、マギ☆マリの映像を見せて貰った際、一緒に観ていたフォウの顔が虫唾ダッシュになっていた)で盛り上がり、

 

 

「…とまぁ、そんな訳で所長に怒られちゃってね」

「まぁ、初見で気難しそうって感じたけどまんまなんだなぁ…しかし、しょうもない事で怒るのな?」

「そうなんだよ! もう少しゆとりを持っても良い気がするんだけどね。…でも仕方ないかな? 彼女、前所長である父親が亡くなってから全ての責務を背負っている訳だから」

「…責任感が強いヒトなんすね? でもあれだと何時か潰れてしまいそうだな…」

「そうだね。彼女はもう少し他人に頼っても良いと思うんだけどね」

 

 

 カルデアの所長であるオルガマリーについて話題が変わり、彼女の人となりが何となく理解できたところでロマニの腕に着いてる端末から連絡が入る。

 

 

【ロマニ、あと少しでレイシフト開始だ。万が一に備えてこちらに来てくれないか? Aチームの状態は万全だが、Bチーム以下、慣れてない者に若干の変調が見られる。これは不安から来るものだろうな。コフィンの中はコックピット同然だから】

「やあレフ、それは気の毒だ。ちょっと麻酔を掛けに行こうか?」

【あぁ、急いでくれ。今医務室だろ? そこからなら2分で到着できる筈だ】

 

 

 レフ教授からの連絡が切れると、ロマニは何か焦っている様だった。

 

 

「あわわ、ヤバいぞ。此処からだといくら頑張っても5分は掛かってしまう…」

「サボりのツケが回って来たってヤツ?」

「うぐっ、そう言われると辛いなぁ…。でも急がなきゃ」

 

 

 ロマニは立ち上がり、パソコンを畳んで空になった皿を載せて抱える。

 

 

「お喋りに付き合ってくれてありがとう、優作君。落ち着いたら医務室に来てくれ。今度美味しいケーキでも食べながらまた色々話そ…っ!?」

 

 

 ロマニの言葉が終わらない内に轟音と大きな揺れが部屋を襲った。

 更に部屋の電気が切れて真っ暗になる。

 

 

「何だ、襲撃か!? テロか!?」

【緊急事態発生

 緊急事態発生

 中央発電所、および中央管制室で火災が発生しました

 中央区画の隔壁は九十秒後に閉鎖されます

 職員は速やかに第2ゲートから退避してください

 繰り返します、中央発電所、及び…】

「今の放送は!? モニター、管制室を映してくれ!!」

 

 

 慌てる2人だったが、ロマニは端末に呼び掛けて現状を確認する。そしてモニターに映し出されたのは凄惨な光景であった。

 

 

「これは酷い…」

 

 

 中央管制室は炎に包まれていており、壁には罅が生え、瓦礫が彼方此方に散乱している。

 

 

「…ロマン、これって爆破テロってヤツか?」

「事故と思いたいが、これは明らかに人為的である可能性が高い…。優作君、僕は管制室に行くけど君は急いで避難してくれ。もうじき隔壁が閉鎖してしまうからその隙に君だけでも外へ逃げるんだ「いや、付いてくよ」…な、何を言ってるんだ君は!?」

「もし生存者がいるなら人手があった方が良いっしょ? それにこういった時の対処はそれなりに出来るから」

「……解った、言い争いをする時間も惜しい。後、これを渡しておく」

「これは?」

「連絡用の通信機だ。もしもの時の為に持っていてくれ」

 

 

 優作の真剣な表情を前に説得しきれないと察したロマニは通信端末が備えられた腕輪を渡し、彼を連れて中央管制室へと走り出した。

 

 

:::::

 

 

 中央管制室に着いた優作とロマニ。部屋はモニターに映っていた光景と同じく炎がそこら中で燃え上がっており、酷い有様だった。

 

 

「生存者はいない、無事なのはカルデアスだけだ。此処が爆発の基点だろう。しかも、これは本当に人為的に引き起こされたものだ」

【動力部の停止を確認

 発電量が不足しています

 予備電源への切り替えに…異常…があります

 職員…は手動で……替えてください】

「拙いなぁ…。優作君、僕は発電所に行く。カルデアの火を止める訳にはいかない。君は急いで来た道に戻るんだ。今ならまだ間に合う。いいな? 寄り道はするんじゃないぞ? 外に出て、外部からの助けを待つんだ!」

 

 

 言うだけ言ってロマニは管制室から飛び出して行った。彼の言葉通りにしたかったが、やはりマシュや他マスター適正者達が心配だった。もし生きているのなら救助しなければ…

 

 

「取り敢えずは、来い! ジャックフロスト!!」

「ヒホー!!」

 

 

 懐から管を取り出して青いフードを被った雪だるまの様な妖精を呼び出す。

 

 

「冷却で炎を鎮火してくれ」

「お安い御用ホー!」

 

 

 優作の指示と共にジャックフロストが全身から冷気を噴き出して炎を消していく。

 炎が収まった管制室内で優作は瓦礫を退けながら生存者を探した。

 

 

フォウ、フォーウ(こっちだ、優作)!」

「フォウ?」

 

 

 ふとフォウが優作の肩から降りて駆け出す。その後を追うと、瓦礫の下敷きになったマシュの姿があった。

 

 

「マシュ!?」

「せ…先…ぱ、い?」

 

 

 駆け寄った優作はマシュの容態を視る。彼女は頭から血を流している上に瓦礫で体を潰されたのであろう、おびただしい量の血が周囲に流れており、非常に弱っていた。

 

 

「くそ、急いで治療しないと…」

「無駄です。先輩、この傷ではとても助かりません…逃げて下さ…い」

「そんな言葉は聞きたくない! 来い、オニ、ピクシー!!」

 

 

 優作がジャックフロストを戻し、別の2本の管から鬼と妖精を呼び出した。

 

 

「オニはマシュの上の瓦礫を退けろ。ピクシーは彼女にディアラハンを」

「ヘイヘイへイ! 凄ェ事になってんじゃねぇか?」

「まっかせて~♪」

 

 

 優作の言葉に従いオニはマシュを下敷きにした瓦礫をあっさりと退ける。全身が露わになったマシュの容態は酷いモノであったが、ピクシーの回復呪文によって見る見るうちに治癒していく。

 

 

「痛みが…無い…? それに先輩、それは一体…?」

「話は後! 兎に角此処から出ない…【観測スタッフに警告】…んな!?」

 

 

 マシュに肩を貸して管制室から出ようとした時、室内にある巨大な球体、カルデアスが突如赤く輝き出したのだ。

 

 

【カルデアスの状態に変化が起こりました

 シバによる近未来観測データを書き換えます

 近未来100年までの地球において、人類の痕跡は 発見 できません】

 

 

 アナウンスで流れるは人類の滅亡という啓示だった。

 

 

【人類の生存は 確認 できません

 人類の未来は 保障 できません】

「カルデアスが真っ赤になっちゃいました…。いえ、そんな事より……」

【中央隔壁封鎖します

 館内洗浄開始まであと180秒です】

 

 

 カルデアスの異変やアナウンスに気を取られている内に管制室から外へ出る為の扉が隔壁で完全に閉まってしまった。

 

 

「隔壁…閉まっちゃいましたね…」

「…まぁ、炎は消したしロマニに連絡して開けてくれるまで待つしか無いかな? いやそれよりも他の生存者を探すのが先か」

 

 

 周囲の瓦礫を退けるようオニに指示しようとした時、再びアナウンスが流れて来た。

 

 

【システムレイシフト最終段階に移行します

 座標、”西暦2004年1月30日 日本 冬木”

 ラプラスによる転移保護成立

 特異点への因子追加枠確保

 アンサモンプログラムセット

 マスターは最終調整に入ってください

 …コフィン内マスターのバイタルが基準値に達していません

 レイシフト定員に達していません

 該当マスターを検索中……発見しました】

「ん? レイシフトって確かタイムスリップするヤツだったっけ?」

「そうですね、そして発見というのは多分…」

【適応番号48、十 優作をマスターとして再設定します

 アンサモンプログラムスタート

 霊子変換を開始します】

「おぉう…やっぱりおいちゃんなのか…ってかいきなりレイシフトするってどうすんべ…」

 

 

 付いて行けない展開に優作が呻く中、周辺に光の粒子が浮かんでフワフワ漂っていく。これがレイシフトする際に発生する現象なのだろうか?

 

 

「…先輩」

「何?」

「その…手を握って貰っても良いですか?」

「喜んで!」

「な、何ですかその満面の笑みは!?」

「そりゃあ、マシュみたいな美少女にそんなお願いされたら笑顔になるって♪」

「び、美少女!?」

キュウ、フォーウ(マシュ、赤くなってるよ)?」

 

 

 マシュのお願いに笑顔になりながら優作が答えると、聞き慣れていないのかマシュは頬を赤く染めた。

 そうこうしている内にレイシフト開始のカウントダウンが始まった。

 

 

【3】

「しっかし、さっきまで電力不足とか言ってた癖にどうやってレイシフトしてんだろ?」

「そうなんですか?」

 

 

【2】

「…無事帰って来れれば良いね?」

「そうですね。その時は先輩、コスプレとか色々教えてくださいね?」

「喜んで♪」

 

 

【1】

「無事帰ってきたらさ…」

「何です?」

「コスプレのモデルになってくれる?」

「…はい!」

 

 

【全行程完了

 ファーストオーダー、実証を開始します】

 

 

 カウントダウンを終えたアナウンスの言葉を最後に、優作とマシュの意識は途絶えた。




人物紹介的なナニカ
十 優作
本作の主人公君。
前世は30代に入ろうとしていたサラリーマンでコスプレ製作及び撮影が趣味。
神かすらも判らない謎の存在に問われた質問に答えたら型月世界に転生してしまった。
手に入れたなりきりで順風満帆な日々を送り、現在は大学生でコスプレサークルにて青春を謳歌している。
尚、彼は前世で型月作品にミリ単位も触れてなく、カルデアに来るまでは魔術といった超常現象が存在しない前世と同じ世界だと思っていた。

藤村 立香
ぐだ子。
本作では大学生で優作の後輩であり、コスプレサークルには入ってないが、優作のお願いでモデルとしてお手伝いしている。
優作との関係は友人以上、恋人以下で親しい異性の友達といった感覚である(但し、優作本人の感想)。
優作と買い物に出ていた際に献血を模した適性検査が行われていたのだが、優作の影響で衣装趣味が出来た彼女は近くの洋服店へと行ってしまった為、代わりに優作が受ける事となった。


Q,何でこんな話書いたの?
A,プリズマ観た時「サーヴァントの衣装を着て戦う→どっかで見た事ある描写だな→なりダンやん!!」の結果


次話は9月8日投稿
感想コメント、意見・質問お待ちしております。


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特異点『F』 炎上汚染都市『冬木』編 -加わる者、変わる運命-
冬木は燃えているか?


「せ……い、お…て……さい!」

「フォ………キュ……」

 

 

 誰かが呼んでいる声がする。しかし、どうも頭がぼんやりとする。

 

 

「先輩、先輩!!」

キュウ、フォーウ(起きなよ、優作)

 

 

 頬を舐められる感覚も加わり、徐々に意識が覚醒していく。

 目を開けるとマシュとフォウが心配そうに覗き込んでいた。

 

 

「あ…マシュ?」

「良かった、目が覚めたんですね?」

キュウ~(心配したんだからね)

 

 

 優作が体を起こし、無事である事を確認するや心から安堵する様子のマシュ。

 

 

「此処って…レイシフト先?」

「はい、私達は無事にレイシフトに成功したようです」

 

 

 立ち上がって周囲を見てみると、まるで空爆でもされたかの様に瓦礫が溢れ、燃える街が広がっていた。

 

 

「核爆弾でも落ちたのか? ……っていうか…マシュ、その恰好…?」

「あ、これですか?」

 

 

 マシュの格好はカルデアで出会った時の制服とパーカーの姿ではなくなっていた。

 所々プロテクターが付いたインナーのような衣装に常人ではとても持てないような十字型の盾を携えていた。

 その姿を見た途端、優作は硬直してプルプルと震えだした。

 

 

「あ、あ…」

「あ?」

「アウトォォォ!!」

「えぇぇっ!?」

 

 

 ビシリッ! とマシュを指さしアウト宣言を叫ぶ優作。

 

 

「何だその、R-18PCゲーにありそうな“くっ殺姫騎士”ルックはぁぁ!!?」

「はいぃ? え? くっころ…ですか?」

「ボディラインはくっきりでおへそは丸見え、戦闘の風圧でパンチラ不可避なミニスカ……おいちゃん、そんな恰好は撮影以外じゃ許しません事よ!!」

キュー(たまらん格好だよね)

「え…いや、確かに言われてみると戦闘を行うには恥ずかしい衣装かもしれませんが…」

「兎に角、別の服に着替えよう! 話はそれからだ!!」

「ま、待ってください先輩。それよりも周りを見て下さい!!」

「へ?」

 

 

 マシュの言葉に改めて周囲を見ると、何時の間に沸いたのか武器を携えた骸骨が優作達の周りを囲んでいた。

 骸骨達は武器を構え、じりじりと優作達へ近づいて来る。

 

 

「…何、あのチェルノボグのなりそこないみたいなモンスター?」

「言語による意思の疎通は不可能、敵性生物と判断します。任せてください、私が戦い…「駄目です」…っえ!? 先輩!!?」

 

 

 盾を構えるマシュの言葉を遮りながら優作は彼女の前に立つ。

 その手には4本の管が掴まれていた。

 

 

「取り敢えず近接戦闘NGな衣装のマシュは別の服に着替えましょう」

「いや、今それどころじゃないですよ先輩!?」

「モーマンタイ、こいつらに任せりゃ大丈夫…って事で」

 

 

 管を前に出し、叫んだ。

 

 

「叩き潰してやれ、お前達!!」

「「ヒーホー!!」」

「よっしゃぁ! ロックにいくぜぇ!!」

「わーい、皆殺しだー♪」

 

 

 管から飛び出すはジャックフロストにジャックランタンのジャックブラザーズ、オニ、そしてピクシーだった。

 呼び出された4体の悪魔は囲んでいた骸骨達を蹂躙していく。

 

 

「ヒホー、絶対零度!!」

 

 

 ジャックフロストが絶対零度で凍らせ、

 

 

「丸焼けだホー!」

 

 

 ジャックランタンがアギダインで消し炭にし、

 

 

「オラオラ、どうしたぁっ!?」

 

 

 オニが金棒片手に大暴れして粉砕し、

 

 

「えーいっ!」

 

 

 ピクシーが大放電で跡形もなく消し飛ばしていた。

 

 

「あ…あの先輩? あれって管制室にいた…」

「詳しい話は後ね、えぇっとどの服が良いかな?」

フォーウ(マイペースだなぁ)…」

 

 

 4体の悪魔達の蹂躙劇を唖然とした様子で眺めるマシュに対し、優作は何処からともなく出した衣装ケースを開いて中身を物色している。そんな彼の姿にフォウは呆れた鳴き声を上げた。

 

 

「盾持ちなら近接戦闘メインだろうしなぁ…盾だけで戦うなんてキャプテンアメリカか冒険王ビィトぐらいしか知らんぞ。でも、遠距離攻撃も出来た方が良いし……いっそパニッシャーでも…ん? マシュ“重ね掛け”出来そうじゃん! なら」

 

 

 衣装を取り出してマシュに似合うか見比べる事数分、よくよく見ると彼女に“とある才能”が有る事に気付いた優作は彼女に着せる衣装を決める。

 

 

「これに決めた」

 

 

 優作が取り出したのは緑を基調とし黄色のボーダーが入ったジャージ上とスカート&スパッツ、そして至って普通の女子高制服だった。

 

 

「あ、あの…そのどちらかを着るのですか?」

「まぁ、見てて」

 

 

 優作の言葉と共に2着の衣装が光の球体へと変わる。

 

 

「なりきりインストール、『メイン:里中(さとなか) 千枝(ちえ)、サブ:津村(つむら) 斗貴子(ときこ)』」

 

 

 そう唱えると共に優作は光をマシュに押し当てた。光はマシュの身体に吸い込まれ彼女の身体が輝き出す。やがて光が止むと、先程の衣装の1着、ジャージとスカート衣装に変わっていた。

 

 

「服が変わった…? 先輩、一体何をしたのですか?」

「うんうん、千枝ちゃんの衣装も似合うね♪ それにこれならどんなに暴れてもスパッツがあるから見えないし」

キュウフォウキュー(でもスパッツ越しのヒップラインがセクシー)フォーウ(エロい)

 

 

 マシュの姿に満足した様子で頷く優作。そんな彼らの元に呼び出した悪魔達が戻って来た。

 

 

「「サマナー、終わったホー」」

「周囲にはもういないみたいよ?」

「よし、ご苦労さん皆。それじゃあ、ジャックブラザーズは待機、オニとピクシーは一旦戻ってくれ」

「おう、また頼むぜ?」

「じゃあね♪」

 

 

 オニとピクシーを戻し、別の管を出す。

 管からはモンゴルの民族衣装に身を包んだ、長い髪の毛を羽の様に広げ宙を飛ぶ少女が現れる。

 

 

「モーショボー、周辺を偵察してきてくれるかい? 襲撃や狙撃には気を付けて」

「解ったわ」

 

 

 モーショボーと呼ばれた悪魔は優作の指示に頷き、空高く舞い上がっていく。

 モーショボーが偵察している間にマシュの疑問を答えようと口を開こうとした時、腕輪から電子音が響いた。

 

 

「……何か事有る毎に何かに遮られるな…。でもこれってロマンから渡された通信機って事は…」

 

 

 腕輪にはボタンがあり、その1つが光り続けている。優作はそのボタンを押してみるとホログラフが映し出され、ホログラフにはロマニの姿があった。

 

 

【ああ、やっと繋がった! もしもし、此方カルデア管制室だ、聞こえるかい?】

「あぁ、感度良好だよロマン」

「ドクター!」

【マシュ!? マシュなのかい!? それに優作君、僕は避難しろと言ったじゃないか!!】

「済まん、ロマン。どうしてもマシュの事が心配だったから約束を破っちまった。でもこうして彼女は助けられたよ?」

【マシュを? ……そうか、それならこれ以上言わないよ。君は彼女を助けてくれた恩人だ。ところで其処にいるのは君とマシュだけなのかい?】

「こちらAチーム、マシュ・キリエライトです。特異点『F』にシフト完了しました。同伴者は十 優作先輩1名だけで心身共に問題ありません。レイシフト適応及びマスター適応、共に良好。先輩を正式な調査員として登録してください」

【分かったよ…ところでマシュ、その恰好は何だい? いつもの制服とパーカーじゃないし…その盾は…うわっ!? その横にいる変なのはなんなんだ!!?】

 

 

 ロマニに返事をしつつ優作は詫びを入れ、マシュが現状を報告する。そんな彼女の服装についてロマニが質問をしようとした時、彼女の横に現れたジャックブラザーズの姿を見て驚きの声を上げた。

 

 

「ヒホー! 変なのとは失礼なヤツだホー!!」

「そうだホー! オイラ達は『ジャックブラザーズ』、しっかり覚えとけホー!!」

【じゃ、ジャックブラザーズ…? 魔物とは違う構成反応だし…一体何なんだい彼等は?】

「取り敢えずおいちゃんの使い魔と思って構わんよ。因みにマシュの格好はおいちゃんが持ってる衣装を着せたから」

【優作君の持っている服を着せた? それにしては女性物の服…もしかしてコスプレ衣装を着せたのかい?】

「まぁ、かねがね合ってるさね。なんせ、さっきまで余りにもアカン服だったから」

【へ? 制服姿で無かったのかい?】

「こんなのだった」

 

 

 ロマニの変なの発言に異議を申し立てるジャックブラザーズだったが、そんな彼らとマシュの格好に簡単に説明し、レイシフト直後の彼女の格好を取り出したスケッチブックで描き上げてロマニに見せ付ける。

 

 

【描くの早っ!? ……って何だいその衣装は!? ハレンチすぎる! 僕はそんな子に育てた覚えはないぞ!?】

「まぁ、おいちゃんも何でこんな格好だったのか疑問なんだけど…説明してくれる?」

「分かりました。レイシフトの際、私は”デミ・サーヴァント”に変身しました」

「デミ・サーヴァント? 普通のサーヴァントとは違うん?」

【英霊と人間の融合……デミ・サーヴァント。カルデアの6つ目の実験だ……。確かに身体能力、魔力回路、総てが人間のスペックを超えている。しかもエクストラクラスのシールダーだって!?】

「え!? マシュ、英霊と融合しちゃったの!!? フュージョンしたの?!」

「はい。今回の特異点Fの調査と解決の為にカルデアでは事前にサーヴァントを用意していました。そのサーヴァントも先程の爆破でマスターを失い、消滅する運命にありましたが、彼は私に契約を持ちかけて英霊としての能力と宝具を譲り渡す代わりにこの特異点の原因を排除して欲しいと……」

「……で、あの成人向けゲーム宜しくな恰好にされたと? とんだ変態趣味な英霊がいたもんだ」

「ええ!?」

【そうだ、そうだ! いたいけな年頃の女の子にそんなハレンチは服を着せるなんて、許せないぞ!!】

フォウフォーウ(でも可愛さとエロさが際立ってたので)キュウッ(星3つです)

 

 

 デミ・サーヴァントとなったマシュの説明から彼女をあられもない格好にさせた英霊へ2人の非難が浴びせられる。2人に続いて鳴いているフォウは全く関係ない事を言っている気がするが…

 

 

「あ、あの…力を貸してくれた方なのですから余り悪く言わないで欲しい…かな? と」

「いやだってさぁ…女性だったら痴女だし、男だったらとんでもない変態野郎じゃん?」

【優作君の言うとおりだよ、ところでマシュはその力を貸してくれた英霊の正体は知ってるのかい?】

「いえ、力は託してくれたのですが英霊の自我は融合したと同時に消滅してしまい、名前は教えてくれませんでした。ですので、能力や宝具の力も解からずじまいです」

【うぅむ…マシュをハレンチな姿にした挙句、名前も名乗らなかった時点で怪しいとしか言えないなぁ…ザ、ザァ…あれ? 急に通信が乱れ……ザァッ……電力がまだ安定……してないから……】

「おい、大丈夫かロマン?」

【こ…れは、いつ切れるか分か…ザザァ……い…優作君、マ…シュ、そこから2キロ先に霊脈が確認出来た…ザ……君達は其処へ向……て貰いたい。其処なら…ザザ…通信も安定…今座標を送……ザッ…此方も出来るだけ急いで電力を…ブツッ】

 

 

 ロマニが言い切らない内に通信は切れ、ホログラフも消えてしまった。

 

 

「消えちまった…」

「幸いにも座標のデータは無事に送られてきました。霊脈のポイントへ向かいましょう?」

「そうだ…「サマナー!」…お帰りモーショボー」

 

 

 マシュの意見に従い移動を始めようとした時、偵察に出ていたモーショボーが帰って来た。

 

 

「何か見つけたかい?」

「あのね、此処から東の方で骸骨の群れに追われてる女の人を見つけたわ」

「何と!? この焼け野原に生存者が?」

「助けに行きましょう先輩! 丁度霊脈のポイントと同じ方向ですし、情報が得られるかもしれません」

「合点了解さね、ならさっさと移動するゾイ…って事でカモン! 『メタルスラッグ』!!」

 

 

 優作の呼び出す声と共に、戦車が空から降って来た。

 

 

「せ、戦車!? 先輩これは?」

「話は後! ……おいちゃんも話すべき事を後回しにしてるけど、兎に角乗って! ジャックブラザーズは管に戻ってモーショボーは先導してくれ」

「「また呼んでホー」」

「任せて、こっちよ!」

 

 

 戦車の出現に目を丸くするマシュを車内に乗せて、優作はエンジンを起動する。

 

 

「エンジンフルスロットル、さぁ行くぞ!」

フォフォーウ!(パンツァーフォー!)

 

 

:::::::

:::::

::

 

 

「はぁ、はぁ……何なの、何なのコイツら!? 何だって私ばっかりこんな目に遭わなくちゃいけないの!?」

 

 

 燃え盛る街の中、瓦礫散らばる台地をカルデア所長ことオルガマリーは息を切らしながら必死に骸骨の群れから逃げ回っていた。

 カルデアの中央管制室にてファーストオーダーが開始された時、突如の爆発に巻き込まれたかと思えば目を覚ますと燃える街中に1人。途方に暮れていたところに追い討ちを掛けるように骸骨が襲いかかってきた。

 初めこそガンドで撃退していたが、余りにも数が多く撃退しきれず逃げる事に専念したのだが、幾ら逃げても相手は追跡を辞めてくれなかった。

 

 

「もうイヤ、来て、助けてよレフ! 何時だって貴方だけが助けてくれたじゃない! どうして…どうしてなのよ!? どうして…… 何で誰もいないのよ……」

 

 

 オルガマリー・アムニスフィアは常に1人であった。

 先代である父、マリスビリーが亡くなってからは父の遺志を継ぎ懸命に1人努力してきた。

 そんな彼女にとって、レフ・ライノールは特別な存在だった。

 彼女には何時だって彼が側にいてくれて助けてくれた。それは彼に依存してしまう程に…

 しかし、今ここに彼はいない。

 

 

「あうっ!?」

 

 

 彼女は優秀な魔術師ではあったが、肉体的な鍛練など微塵もしていなかった。徐々に走る速度は落ちてきており、更に履いている履物がヒールであったのが拙かった。瓦礫の一部に足を取られて扱けてしまい、立ち上がる前に遂に追い付かれてしまった。

 

 

「い、嫌…死にたくない…」

 

 

 怯えるオルガマリーに骸骨の1体は容赦無く其の手に持った剣を振り被る。が、

 

 

「轢き逃げアタァーック!!」

 

 

 オルガマリーの目の前を戦車が通り過ぎ、剣を振り被っていた骸骨は木っ端微塵に轢き潰された。

 

 

「……へ?」

「くたばれオルルァ!!」

「喰らえ~!」

 

 

 彼女の目の前を通り過ぎた戦車が旋回すると車体横にあるバルカン砲が火を噴いて骸骨達を粉微塵にしていく。更には鳥人らしき魔物が竜巻を巻き起こしてバラバラに吹き飛ばしていくのだ。

 突然の事態にオルガマリーは呆けた声を零してしまった。

 あっと言う間に群れていた骸骨達は消え去り、残るは静寂。焼けたバルカン砲が煙を微かに上げる中、戦車のキューポラが開いて搭乗員が姿を現した。

 

 

「何だ、所長さんじゃないか」

「あ、貴方は…」

 

 

 戦車から降りて駆け寄って来る黒いマントを纏った学生服の青年、管制室でマスター候補達へ行った説明会にて自分の目の前の席で欠伸を十数回もしてみせた男だった。

 しかし、彼に続いて戦車から降りて来た人物が衝撃的だった。

 

 

「マシュ…?」

「オルガマリー所長、ご無事で何よりです」

 

 

 青年に続いて駆け寄って来るのはファーストオーダーに挑むAチームのメンバー、マシュ・キリエライトだった。何故か何時もの制服にパーカー姿で無く、緑を基調としたジャージにスパッツとスカートという姿であったが…

 

 

「な、何でマシュがこの男と一緒にいるの?」

「何でと言われても、マシュと一緒にレイシフトしたからとしか言えないんすけど」

「レイシフトって…貴方はあの時居なかったでしょう?」

「所長、あの時レイシフトの直前に謎の爆発が発生、私は瀕死の重傷を負ったのですが駆け付けた先輩が助けてくれたのです」

「そのまま行き成りレイシフトしちゃってさ、結局マシュ以外の生存者を確認出来なかったさね。所長さんも管制室に居たんだっけ、よく無事だったね?」

「え…」

 

 

 優作の疑問にオルガマリーはふと気付く。自分はあの時どうなったのか…

 

 

「言われてみれば、怪我をしている様子も無いですし所長の服は綺麗なままですね?」

「あの……えぇと…」

 

 

 2人の疑問にオルガマリーは思い返す、“自分はあの時どうなったのか?”

 ファーストオーダー開始の声でレイシフトする為にコフィンに乗り込むマスター候補達。人類を救う為に集められた彼等は、人類を救う為に2004年の地方都市冬木へレイシフトする筈であった。その様子を自分は眺めており、いざレイシフトが開始されようとした瞬間、轟音と共に視界は炎混じりの閃光に潰された。

 最後に感じたのは自身が焼かれ、骨は砕かれ、全身を粉々になっていく瞬間。

 あの時自分は……

 

 

「―――――っ!?」

「所長、大丈夫ですか?」

 

 

 悪夢のような情景を思い出し、オルガマリーは頭を振る。

 アレはきっとレイシフトの影響で起きた記憶障害だ、自分は此処にいて生きている。

 

 

「え? えぇ、大丈夫よ。…残念だけど、如何やって自分がレイシフトしたかは分からないわ」

「ふ~ん、まぁ無事だったしそれで良いんじゃない? それじゃあ、所長さんも連れて霊脈に行くがてらおいちゃんの事とマシュに着せた服について説明していこうかね。盾で殴るだけの戦闘方法なんて危険極まりないし」

「そう言えば、マシュの持っている盾は何なの?」

 

 

 優作の言葉にオルガマリーは改めてマシュが巨大な十字盾を持っている事に気付く。

 

 

「所長。信じがたい事だと思いますが、私はサーヴァントと融合し、デミ・サーヴァントになってしまいました」

「なんですって!?」

「見た目では分からないと思いますが、融合した際に着ていた衣装は…ちょっと露出が多かったので先輩が持っていたモノを貸して頂きました」

「そうなのね……ま、まぁ分かってたわ。サーヴァントとの融合、デミ・サーヴァント。見れば直ぐに判るわ!」

キュウ、フォウフォーウ(嘘付け、絶対分かって無かったゾ)

「言われて気付いたって、ハッキリ分かんだね」

「煩いわね! 大体貴方、何でマスターになっているのよ!? マスターは選ばれた優秀な魔術師しかなれないモノなのよ!! 一体この子に何したの!!?」

「何でって知らんがな、それに優秀な魔術師しかなれないなら所長さんはなれるんか?(返す刃)」

「うぐっ…そ、それは…」

「つーかおいちゃん、マシュのマスターになってんのな?」

「はい、先輩とパスが繋がってます。多分、手の甲に令呪がある筈ですよ?」

「おぉ、本当だ」

 

 

 オルガマリーが詰め寄って来るのを軽く返し、右手の手袋を外して確認すると模様が刻まれていた。

 

 

「そういや、サーヴァントの説明は説明会で聞いたけど、令呪ってどんなモノなの?」

「令呪は契約したサーヴァントへの絶対命令権で3回まで使用可能よ」

「サーヴァントに魔法に近い奇跡の力を発揮させたり、サーヴァント自身の力を高めるブーストスキルなどにも使用出来ます。また、言う事を聞かないサーヴァントに対しては強制的に命令を聞かせる事も可能です」

「強化や奇跡の発動は兎も角…命令を強制させるって……ヤバくない?」

「しょうがないわよ、中にはマスターを裏切ったり殺そうとする反英霊もいるのだから保険が無いと危険よ」

「…世知辛いなぁ」

 

 

 令呪についての説明を終え、優作達はメタルスラッグに乗り込み霊脈のあるポイントへと移動を開始した。途中、骸骨こと竜牙兵と遭遇するがバルカンで粉々にしていく。

 

 

「…こんな戦車如何やって用意したのよ?」

「手持ちから召喚しました。魔術師ってこういう事出来ないの?」

「使い魔の召喚なら兎も角、近代戦車なんて……いえ、ゴーレム召喚をアレンジすれば出来なくない、のかしら…?」

「少なくともこれまで戦車を召喚した魔術師は存在しません」

「そっかー」

「それより先輩、そろそろ先輩の事や私の着ている服について説明をお願いします」

「そうね。この戦車と云い、先導している使い魔といい貴方は一般採用だった筈よ? 何者なの?」

 

 

 マシュの質問にオルガマリーも同意する。近代戦車を召喚するといい、悪魔を使役するといい一般人とはとても言えない。

 

 

「一応は一般ピーポーよ? とある特殊能力持ちだけど」

「特殊能力?」

「“なりきり”とおいちゃんは呼んでる。簡単に説明すると着た服の役職に完全になりきる事が出来るさね」

「なりきる、ですか?」

「例えば医者の服を着たらあらゆる医療行為が出来る様になるし、軍服を着たら兵器を使いこなせる様になるとかね」

「む、無茶苦茶だわ…服を着ただけでその職業にカテゴリーするあらゆる技術を行使出来るというの!?」

「“ある条件”を満たした服でないとなりきる事は出来んけどね。因みにおいちゃんが今着ているのは『デビルサマナー:葛葉 ライドウ』の服」

「デビルサマナー…つまり、その服のお陰で悪魔を使役出来るのですね?」

「そういう事」

 

 

 優作の能力の凄まじさにありえないとブツブツ呟くオルガマリー。条件を満たした服でしかなりきる事は出来ないとは言ったが、もしも魔法行使者が着ていた服を着たのなら魔法すらも行使出来るという事になる。魔術協会に知られたら封印指定待った無しであろう。

 メタルスラッグを走らせる事数分、ロマニが指定した霊脈が存在するポイントに到着しようとしていた。

 

 

「あそこが目的の場所か」

「でも竜牙兵がたむろしてます」

「丁度良いや、マシュの訓練相手としてサンドバックになって貰いましょ。所長さんは戦車の中で待っててね」

「ちょっと!?」

「モーショボー、周囲を警戒しながら所長さんの御守を頼むよ」

「任せて」

 

 

 ポイント手前でメタルスラッグを止め、外からのに出る優作とマシュ。竜牙兵も彼らに気付いたらしく、此方に向かって来ていた。

 

 

「マシュ、用意は良いかい?」

「はい! 頑張ります!!」

「マシュに着せた服は『ペルソナ使い:里中 千枝』と『錬金の戦士:津村 斗貴子』。なりきりはその服の人物の力を発揮する事が出来る」

「でも先輩、私はその2人の事について何も知りません」

「なぁに、力を宿すと頭に情報が流れるからモーマンタイ。まずはメインでインストールした千枝ちゃんの戦い方をイメージしてみて」

「はい」

 

 

 マシュは目を閉じてイメージする、するとローファーだったマシュの履物が重厚な具足へと変化した。

 

 

「先輩、履物が変わりました!」

「千絵ちゃんの戦闘スタイルは蹴り。でもペルソナ使いである彼女の一番の特徴はペルソナ召喚が出来る事だ」

「ペルソナ…ですか?」

「ペルソナとは心の底に潜む”もう1人の自分”が実体化したモノであり、”困難に立ち向かうための人格の鎧”。今回は千枝ちゃんのペルソナではあるけど、マシュはなりきりによって彼女のペルソナを問題無く使えるから試してみて」

「分かりました…」

 

 

 再び意識を集中して里中 千枝のペルソナをイメージする。

 

 

「来てっ、『トモエ』!!」

 

 

 目の前に現れた青いカードを回し蹴りで砕いた瞬間、マシュの背後にペルソナが顕現する。

 トモエと呼ばれたペルソナは黄色いトラックスーツで身を固め、烏帽子を模した白いフルフェイスヘルメットから長く黒い髪が零れている。そしてその手には薙刀が得物として握られていた。

 トモエが薙刀を前に突き出すと、近寄って来ていた竜牙兵達を氷漬けにした。

 

 

「や、やった…やりました先輩っ!!」

「お見事! 後は慣れだ、やったれマシュ!」

「はいっ!! マシュ・キリエライト、突貫します!!」

 

 

 サムズアップする優作に見送られながらマシュ氷漬けになり動けなくなった竜牙兵達に突撃する。走った勢いを使い、目の前の1体を飛び蹴りで砕く。

 

 

「やあっ!!」

 

 

 十字盾を横に構えて切り裂く形で固まっていた3体を引き裂き、それにより発生した遠心力で更に別の1体を回し蹴りで砕く。

 

 

「もう一度お願いします、トモエ!!」

 

 

 離れていた為に氷漬けにならなかった数体の竜牙兵がマシュへ近付いていたが、トモエを呼び出し薙刀の一閃でバラバラに吹き飛ばす。

 

 

「これで最後です!!」

 

 

 最後の1体を前にマシュは高く跳躍し、その頭上に踵落としをお見舞いした。落下速度に手持ちの十字盾の重さも加わった一撃は竜牙兵の頭蓋骨を木っ端微塵に粉砕し、そのまま真っ二つに切り裂いた。

 

 

「敵性生物の全滅を確認、戦闘終了です♪」

 

 

 最後にバク宙を華麗に決めてみせたマシュに優作は拍手を送った。




登場人物
マシュ・キリエライト
本作ヒロイン? 兼魔改造候補。
出自及び設定は原作と変わらず、優作というカルデア内に居なかった存在に興味を抱く。
中央管制室の爆破に巻き込まれて瀕死の重傷を負うが、優作の手によって完治。レイシフト時にデミ・サーヴァント化し、彼をマスターにした。
なりきり能力を持つ優作の強さに驚きながらも彼を守れる様に奮闘する。
多分本作では彼女が一番魔改造されると思う。


元ネタ
>ジャックフロスト ジャックランタン オニ ピクシー モーショボー
アトラス作品の『女神転生シリーズ』、『デビルサマナーシリーズ』、『ペルソナシリーズ』に登場する悪魔。
この作品における悪魔は一神教のそれでは無く、超自然的な存在の総称であり、その分類は精霊や妖精、英雄や神など多岐に渡っている。

>里中 千枝(出典:ペルソナ4)
アトラスのRPGゲーム『ペルソナ4』に登場するペルソナ使い兼主人公の彼女候補。
靴や具足を用いた蹴りが武器であり、扱うペルソナ『トモエ』は攻撃と速度に特化している。
肉が大好物でカンフーマニアだったりと女らしく無い事を悩んでいるが、作者的にはめっちゃ可愛いと思う。
尚、この作品では敵がダウンすると仲間が追撃をするシステムがあり、彼女の場合ダウンした敵を蹴っ飛ばして星にする。つまり相手は死ぬ(強い)

>津村 斗貴子
次話で紹介

>メタルスラッグ(出典:メタルスラッグシリーズ)
SNK(旧社)の横スクロール型アクションシューティングゲームの『メタルスラッグシリーズ』に登場する1人乗りの高性能小型戦車。
武器はキャノン砲と2門のバルカン砲で、高性能と言われるだけあってジャンプや砲塔部分の下降も可能。また、険しい地形に対しての踏破性も高く、崖の縁であっても登ることが出来る。
本作では優作の空間拡張の魔改造により大きさは変わらないものの、最大3人まで乗れる内装になっている。

>葛葉ライドウ(出典:葛葉ライドウシリーズ)
アトラスのRPGゲーム『デビルサマナー葛葉ライドウシリーズ』の主人公。
「大正20年」という架空の時代の帝都・東京を舞台にし、悪魔召喚師・14代目の彼が帝都守護の任を請け負い、表向きは探偵見習いの学生として暮らしつつ、裏の顔はデビルサマナーとして悪魔の関わる怪事件を解決していく。
因みに彼は刀で巨大戦艦をぶった斬ります(強い)
本作では魔改造によって使役する仲魔が他アトラス作品登場の悪魔も含まれている。


Q、本作で主人公君とロマニが某騎士を非難しまくってるけど、作者は嫌いなの?
A、知り合いの女の子がいきなりあんな衣装にされたら鼻を伸ばす前にドン引くやろ?

Q、何でマシュに千枝ちゃんとつむりんの服を着せたの?
A、似合うと思ったから(だから誰か千枝ちゃんコスのマシュを描いてください)

Q、何で主人公君はライドウの服を着てるのにメタスラ出してんの?
A、重ね掛けでライドウの服以外にメタスラキャラの力を宿してるから。

Q、“重ね掛け”って何?
A、本作のオリジナル要素。基本1着の服しかなりきる事が出来ないが、重ね掛け出来る者はメインの服に更に別の服の力を宿す事が出来る。FFTシリーズのメインアビリティとサブアビリティみたいな感じ。


次話は執筆が捗ったので明日9月9日投稿
感想コメント、意見・質問お待ちしております。


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襲撃! シャドウサーヴァント

 竜牙兵を全滅させ、周辺の安全を確認した優作達は霊脈のポイントへと到達した。

 オルガマリーから此処でベースキャンプを設営する事を指示され、マシュの盾を触媒にして召喚サークルを設置する。すると、周辺の空間が霊子ダイブした際の様なヴァーチャル空間へと変化していった。

 

 

「はぇ~、すっごい。マシュの盾でこんな事が出来るんだ?」

「聖晶石が無いから英霊召喚は出来ないけど、これでカルデアからの補助を受ける事が出来るわ」

 

 

 説明を受けていた優作だったが、電子音と共に腕輪からホログラフが浮かび上がった。

 

 

【シーキュー、シーキュー。もしもーし!? 良し、通信が戻ったぞ!】

「はあ!? 何で貴方が仕切っているの、ロマニ! レフは? レフは何処!? レフを出しなさい!」

【うひゃああっ!? しょ、所長、生きていらしたんですか!? あの爆発の中で!? しかも無傷!? どんだけ!?】

「どういう意味よっ!? いいからレフは何処!? 医療セクションのトップが何故その席にいるの!?」

【…所長……その…言い辛いのですが、レフ教授はあの爆発の中心部に居たので……生存は絶望的かと……】

「そ、そんな…」

 

 

 ロマニの返事にオルガマリーはペタリと座り込んでしまった。一番信頼していた存在が居なくなったかも知れないのだ。

 更に凶報は続く。

 

 

【現在生き残ったカルデアの正規スタッフは僕を入れて20人も満たないです。僕が作戦指揮を任されているのは自分より上の階級の生存者がいないためです】

「ちょっと待ちなさい! 20人にも満たないって…それじゃあ、マスター適正者達は如何なったのよ!?」

【全員が危篤状態です。医療器具も足りませんので全員を助け出すのは……】

「ふざけないで! 直ぐに凍結保存に移行しなさい。蘇生方法は後回し、死なせないのが最優先よ!!」

【!? ああ、そうか! コフィンにはその機能がありました! 至急手配します!!】

 

 

 オルガマリーの指示にロマニは生き残りのスタッフ達に彼女からの命令を伝え、冷凍保存の準備に移った。

 

 

「……宜しいのですか? 凍結保存を本人の許可無く行う事は犯罪行為に当たりますが?」

「死んでさえいなければ後で幾らでも弁明できるわ。47人の命を私1人で背負いきれる訳無いじゃない……!」

 

 

 マシュの問いにオルガマリーは座ったままで返す。威厳を保とうとしているが、その声は微かに震えていた。

 

 

「ま、所長さんの言う通り生きていれば何とかなるさね。もしもの時はおいちゃんも力を貸すからさ? そんでロマン、カルデアは大丈夫なん?」

【現在カルデアはその機能の八割を失っている。残されたスタッフでは出来る事に限りがあるから大丈夫とは言えないな。現在は此方の判断でレイシフトの修理、カルデアス、シバの現状維持に割いています。外務との通信が回復次第、補給を要請してカルデア全体の立て直しを優先すべきかと……】

「結構よ。その方針で行くわ……。はぁ…ロマニ・アーキマン、納得はいかないけど、私が戻るまでカルデアを任せます」

【了解です。ところで優作君、あの雪だるまと南瓜頭の使い魔がいなくて、代わりに女の子と戦車が後ろに見えるけど何なんだい?】

「女の子は別の使い魔で、戦車は移動用に召喚しますた」

【…へ? 戦車を召喚?】

「おいちゃんの能力です」

 

 

 優作はロマニにも自身の能力について簡単に説明した。

 

 

【つ、つまり優作君は…た、例えばだよ? 条件を満たした英霊の服があったらその力や宝具を使えるって事かい?】

「サーヴァントの服はまだ着た事無いから判らんけど、ヒトガタなら理論上は可能さね」

【…服を着るだけでデミ・サーヴァントと同じ能力を持つ…無茶苦茶じゃないですか所長!!】

「言われなくても解ってるわ、封印指定モノのとんでもない能力よ。しかもこの能力、他人にも分け与える事が出来るみたいね」

「人に因っちゃ無理だったり、マシュみたいに2つの力を与える事も有るさな」

「…貴方の力に関してはこれ位にしましょう。レイシフトの修理が終わるまで戻れない以上、先ずはこの現状を打破する事が先決。これより十 優作とマシュ・キリエライトを探索員として特異点『F』の調査を開始します。とはいえ、現場のスタッフが未熟なのでミッションはこの異常事態の原因、その発見に留めます」

 

 

 話を優作の能力から今後の行動方針に移す事にし、都市『冬木(F)』が特異点になった原因を調べる事となった。

 

 

「しかし、発見だけで良いのですか?」

「解析・排除はカルデア復興後、第2陣を送り込んでからの話よ。それで良いでしょ?」

「まぁ、現メンバーだけで解決ってのは困難そうだし構わないさね。それで、此処が特異点になった原因て予想ついてんの?」

「先輩、この冬木と云う都市では嘗て『聖杯戦争』と呼ばれる戦いが行われていたそうです」

「は? 街中で戦争やってたの!?」

「戦争と呼ばれてるけど、実際は7人のマスターと7騎の英霊によるバトルロワイヤルよ。聖杯とは所有者の願いを叶える万能の力であり、あらゆる魔術の根底にあるとされる魔法の釜なの。その起動の為に7騎の英霊を召喚して戦わせて最後に残った者が聖杯を手にする訳」

 

 

 因みにカルデアが利用している英霊召喚システム・フェイトはこの聖杯戦争での儀式を原型としてる、とオルガマリーが付け加える。

 

 

「血生臭いドラゴンボールって事は良く解かったさね。しかし、その聖杯って本当に願いを叶える品物なん?」

「どういう事ですか、先輩?」

「だってさ、たかが6騎の英霊を生贄にしただけで何でも願いを叶えるって無理臭いし…。つぅか、過去に願いを叶えたヤツっていたの?」

【…過去の記録には残されてないよ】

「つまり、実際に願いが叶うかすらも判らない…それどころか生贄を突っ込んだら如何なるかすらも判らないモノを求めて殺し合いをしてたって事か…案外聖杯の暴走とかあるんじゃね?」

「……有り得るわね。令呪の説明でも言ったけど反英霊が呼び出されて好き勝手に暴れた可能性も考えられるわ。兎に角、調べない事には何が原因かは分からないし、捜索を開始するわよ?」

「了解です」

「そんじゃメタスラに乗っちゃって頂戴。モーショボーは周囲の警戒を宜しく」

「は~い」

 

 

:::::

 

 

 燃え盛るビル郡を抜けてメタルスラッグは火の少ない道のりである河川敷前を走っていた。途中、港のコンテナ街や教会へと足を向けたが手掛かりは見付からなかった。

 

 

「中々、見付からんね」

「生存者もいないし、出会うのは竜牙兵ばかり…でも大分戦闘に慣れてきたわね、これならもう怖いモノ無しなんじゃないのマシュ?」

 

 

 道中では時折竜牙兵と接敵し、マシュの経験値獲得の為のサンドバックとなった。

 

 

「それは流石に言い過ぎです。己のスペックは理解してきましたが、この活躍は大半が先輩の服の御蔭ですし…」

「でもその実力はマシュがしっかりと力を使いこなしてるからさね。マシュが力を付ければ服も成長するからもっと自信を持ちんしゃい?」

「先輩…有難う御座います。でもデミ・サーヴァントとして宝具は使えるようになりたいですね」

 

 

 現状、マシュは英霊の切り札たる宝具が使えないことが判明した。力は貸してくれた英霊が肝心の名前を教えてくれなかったので仕方ないのではあるのだが…

 カルデアではロマニが復旧作業の合間に盾で有名な英霊を探してくれているらしいのだが、中々見付からないとの事だ。

 そんなロマニからの通信が届く。浮かぶホログラフに移る彼の表情は何か切羽詰まっていた。

 

 

【3人共、今すぐその場を離れてくれ!】

「如何したロマン?」

【近くに反応があるんだ、しかもこれは…】

「きゃーっ!?」

 

 

 ロマニの言葉が終わる前に周辺を警戒していたモーショボーの悲鳴が響く。

 

 

【遅かったか!? サーヴァントの反応が優作君の使い魔のいる位置に急接近してたんだ!!】

「マジか!? マシュ、出るぞ!!」

「はいっ!」

「所長さんは車内で待機」

「き、気を付けなさいよ?」

 

 

 オルガマリーを車内に残し、優作達は飛び出していく。

 悲鳴が聞こえた場所へ向かうとモーショボーが怪我をしたのであろう、左肩を抑えながらも竜巻を巻き起こして素早く動き回る影を牽制していた。

 

 

「召し寄せ!」

 

 

 まだモーショボーとは距離が離れていたが、優作が印を結ぶと一瞬で彼の元に呼び出された。

 

 

「助かったわ、サマナー」

「後は任せろ、後ろに下がって所長さんを守っててくれ」

 

 

 回復用の金丹を渡し、モーショボーを下がらせた優作はマシュと共に影と相対する。

 影は見た目は人型だったが全身に黒い霧のような靄を纏わせており、詳しい容姿は確認出来ないが細身で長身の女性である事は判った。

 

 

「…サーヴァントってこんな正体不明な見た目なん?」

「本来は姿が見える筈なんですが…私と同じイレギュラーな様です」

【影の様に姿が判らないサーヴァント…一応、シャドウ・サーヴァントと命名しておこうか】

 

 

 目の前のシャドウ・サーヴァントはジャラリと鎖付きの短剣を構えた。

 

 

「フフ、先程ノ使イ魔モ可愛ラシカッタデスガ…知ラナイサーヴァントトマスター…ドチラモ初々シイ」

「さぁて…初となる対サーヴァント戦だけどいけるね、マシュ?」

「はい、任せて下さい!!」

「相手は1体、数の有利と云うのを見せちゃる…来いっ!! モコイさん! ツチグモ!」

「やあ、サマナーくん。こりゃ、どうも」

「っしゃあ、暴れてやるぜ!!」

 

 

 2本の封魔管を取り出して優作が呼び出したのはブーメランを持った緑色の人形のようなモコイと巨大な蜘蛛であるツチグモ。

 

 

「ナッ、別ノ使イ魔召喚!? シカモカナリノ力ヲ…「先ずは挨拶代わりだ、喰らいやがれ!!」…ッチ!!」

 

 

 仲魔の姿に驚くシャドウ・サーヴァントに向けてツチグモが口を開いてショックウェーブを放つ。それに対し、彼女は横に跳躍して避けるが、そこへ…

 

 

「避け方がダメダメだネ、チミ」

「行きます、トモエ!!」

「グッ!? グガァアアアアアアアッ!!」

 

 

 モコイが放ったブーメランが直撃し、バランスが崩れた所へマシュがトモエを呼び出して脳天落としを叩き込む。

 サーヴァントの弱点は頭と心臓部にある霊核である。シャドウ・サーヴァントは咄嗟に首を振って頭を潰されるのを回避するが、胴体に叩きつけられた一撃は彼女の身体を何度もバウンドさせながら吹き飛ばした。

 腰から刀を抜刀し、優作が追撃に掛る。瓦礫を巻き上げながら転がっていたシャドウ・サーヴァントだったが、態勢を立て直して鎖付きの短剣を投げ付けて来た。刀で弾くが、彼女は鎖を巧みに操り刀に絡みつかせる。

 

 

「おいちゃんの武器が刀だけと思ったか!! ブギウギを喰らえぃ!!」

 

 

 奪い取られようとしている刀を右手で掴んで抵抗し、左手で抜いたコルトライトニングカスタムでシャドウ・サーヴァントに発砲する。しかし、彼女は短剣を自分の手元に素早く戻しながらひらりひらりと弾丸を回避していく。

 

 

「初メコソ驚キマシタガ、マスターガ前ニ出タノハ失策デシタネ」

「っ! 召し寄せ兼隠し身!! マシュは防御!!」

「!? っはい!」

 

 

 攻撃を避けながらシャドウ・サーヴァントは顔に手を掛け薄っすらと見える眼帯を剥がそうとする。何かしらの攻撃と読んだ優作は仲魔を呼び寄せて隠れさせ、マシュに防御を指示する。

 

 

「喰ライナサイッ!!」

 

 

 眼帯を剥がし、目と思われる個所から怪しい輝きが放たれる。シャドウ・サーヴァントの魔眼は優作達を捉えていたが、変わった様子無く再び切り掛かって来る姿に驚愕する。

 

 

「ナ!? サーヴァントデナイ生身ノ人間ガ何故石ニナラナイノデス!?」

「ヴァカめ! 荒事確定の現環境で状態異常対策をしていないと思ったか!!」

 

 

 振り下ろされる斬撃を短剣で受け止める。

 

 

「そして受け止めた隙が命取りよ!!」

「!?」

「さっきは外しちまったが、これならどうだっ!!」

「ウガァアアアアア!!」

 

 

 いつの間にかシャドウ・サーヴァントの背後を取っていたツチグモがジオダインを放ち、彼女は雷撃に呑まれた。

 

 

「これも喰らってみてヨ。行きたいね、イスタンブール」

 

 

 痺れて動けないシャドウ・サーヴァントにモコイが追撃でブーメランを叩きつけ、遂にダウンを奪い。

 

 

「追撃続けます! はぁあああああっ!!」

 

 

 そこへ続いてマシュがシャドウ・サーヴァントの元まで駆け寄り、右脚を上げて身体ごと捻る。

 

 

「どーんっ!!」

 

 

 全力を込めた必殺の蹴りが直撃し、シャドウ・サーヴァントは星となった。

 

 

【サーヴァントの反応が消失…優作君と使い魔達の攻撃があったとはいえ、蹴り一発で消し飛ばすなんて…】

「まぁ、それが千枝ちゃんの追撃能力だし? 追撃が決まれば相手は星になって死ぬ」

【…その千枝ちゃんって何者なんだい?】

「地方都市の女学生、但し“伊邪那美大神を撃破したペルソナ使いの1人”って注釈が付くけど」

【…今、凄まじい単語が出なかったかい?】

 

 

 優作の言葉に頬を引き攣らせるロマニ、そこへマシュと仲魔達が戻って来た。

 

 

「先輩! 見事追撃が決まりましたっ♪」

「花丸モノの追撃だったネ。この娘スゴイ」

「中々頼りがいがある嬢ちゃんじゃねぇか」

 

 

 マシュの活躍に仲魔達も褒め称える。

 周辺に敵性反応が無い事を確認し、オルガマリーが待つメタルスラッグへ戻る優作達。取り敢えずモコイとツチグモを封魔管に戻そうとした時、モコイがナニカを手渡してきた。

 

 

「モコイさん、これは?」

「星になったお姉さんが居た所に落ちてたヨ。ミステリアスな力を秘めてそう」

 

 

 そう言葉を残して封魔管に戻るモコイ。

 手渡されたモノは虹色に輝く妙にイガイガした結晶であった。

 

 

「所長さん、この結晶物知ってる?」

「聖晶石じゃない、3つあれば召喚を行う事が出来るわ」

「ほぅ…あと2個あれば戦力を増やせると?」

 

 

 メタルスラッグに乗り込み再び走らせる中、優作はモコイから貰った結晶についてオルガマリーに尋ねる。新たな戦力補充の可能性に期待する彼に対し、サーヴァントが出るか、概念礼装が出るかは完全に運に頼るしかないので期待を持ち過ぎない方が良いとオルガマリーは補足した。

 

 

【盛り上がってるとこ悪いけど、さっきと同じ反応がそっちに向かってるんだ! 早くその場から離れてくれ!】

 

 

 ロマニから新たなサーヴァントの反応を知らされた優作は出来るだけ平坦で障害物が無い戦いやすい場所を探しながらメタルスラッグを走らせた。

 そして着いたのは『冬木大橋』と朽ち掛けた看板に書かれた橋の上。再びオルガマリーを車内に残し、念の為にモーショボーの他モコイを留守番させて、優作はマシュを率いて追跡してくるサーヴァントを迎え撃つ事にした。

 

 

「…しっかし、サーヴァントって基本魔力タンク代わりのマスターが同伴しないと現界出来んのよね? 何でどいつもこいつも単体でいんの?」

【特異点である以上、其処はもう“何かが狂った状態”なんだ。マスターのいないサーヴァントがいても不思議じゃない】

 

 

 程無くして優作達の前に現れたのは、河川敷で戦ったサーヴァント同様、黒い靄に包まれておりシャドウ・サーヴァントの様だ。

 見て判るのは片手が禍々しく、顔に髑髏の仮面を着けている事ぐらいだった。

 

 

「見ツケタゾ。新シイ獲物。聖杯ヲ、我ガ手ニ!」

【サーヴァント反応、確認! そいつはアサシンのサーヴァントだ!】

「新しい得物って…此奴シリアルキラーか何か?」

【サーヴァントの敵はサーヴァントだ、多分マシュの気配を追って来たんだろうさ】

「そんな……!? もしかして、私がいる限り狙われ続ける事に…「は~い、ネガティブ禁止~」…ふぇ!? しぇ、しぇんぱい!?」

 

 

 ロマニの言葉に自信が悪い影響を与えてると考えたマシュに対し、優作は彼女の頬を軽く引っ張った。

 

 

「襲って来るなら叩き潰せば良いだけの事。おいちゃんもマシュもそれが出来る力は持っているからモーマンタイ。後、ロマン! 戦闘初心者であるマシュのテンション下げる様な事言ってんじゃないの!!」

【も、申し訳ない…。御免よ、マシュ?】

「気にしないでください、ドクター。それと先輩、有難う御座います」

「おうさ。そんじゃあ、パパッとやっつけますかね?」

「舐メラレタモノダ、ナラバマスターカラ先ニ葬ッテヤル!!」

「殺れるものなら、な!!」

 

 

 敵を目の前にして会話を続ける処か挑発染みた発言をやってのける優作に対し、アサシンのシャドウ・サーヴァントは短剣を彼の心臓や頭目掛け投擲するが刀で全て打ち落とされる。

 

 

「我ガ攻撃ヲ防グカ、面白イ」

「余裕ぶっこく暇があると思ってんの?」

「何…「ヒホー!!」…ッグワアアアアアァ!?」

 

 

 前もって召喚していたジャックフロストの絶対零度を死角から撃ち込まれたアサシンは身体を凍てつかせながら吹き飛ばされる。7騎の中では対魔力が低いアサシンにとって凍った身体は中々溶けず、動けないでいた。

 

 

「マシュ、やっちゃって!!」

「はい! もう一度星にしてみせますっ!!」

 

 

 ダウンしているアサシンに向かって追撃を仕掛けるべく、マシュが走る。

 

 

「ググ…油断シタ。ダガ、念ノ為ニモウ1人呼ンデイテ正解ダッタナ」

 

 

 マシュがアサシンに辿り着く寸前、間を挟む様に新たな影が現れマシュに対して攻撃を仕掛けようとする。

 

 

「マシュ、下がって! ジャックランタン!!」

「分かりました!」

「焼きつくすホー!!」

「ッチィ!!」

 

 

 そこへ別で待機させていたジャックランタンが新たな影に向けてアギダインを放つ。影はマシュへの攻撃を中断し、アサシンを抱えて距離を取った。

 

 

【橋に着く迄にあった2体目の反応だ、クラスはランサー】

 

 

 ロマニの言葉通り、巨体の影はその手に槍を持っていた。

 

 

「大丈夫カ、アサシン?」

「済マナイナ、ランサー。ダガ、モウ動ケル」

 

 

 ランサーから離れたアサシンが立ち上がる。

 

 

「仕切り直しか…」

「先輩、ここは2手に分かれるべきかと」

「せやね、ジャックブラザーズはマシュを援護してやって」

「「任せるホー!!」」

「動ける様になったとはいえ、アサシンはダメージがデカい筈。マシュ、頼める?」

「良いのですか? ここは無傷のランサーを私が相手した方が…」

「なぁに、おいちゃんにはとっておきがあるから心配無用だべ」

「…分かりました、マシュ・キリエライトいきますっ!!」

 

 

 短剣を構え、再び此方へ駆け出したアサシンをマシュ達が迎え撃つ。

 一方のランサーの前には優作が対峙していた。 

 

 

「英霊デモ無イ貴様ガ、俺ノ相手ヲスルト?」

「試してみるかい? 代償はアンタの命やで?」

「ッ身ノ程ヲ知ルガ良イ!!」

 

 

 ランサーの売り言葉に買い言葉で返す優作。普通の人間と思っているランサーはその言葉に怒り、槍を構えて襲って来た。

 突っ込んで来るランサーに対し、優作は手元に金属製の大きな箱を召喚した。箱には大きく『H』と書かれている。

 

 

「折角メタスラ使ってるんだから武器の方も使ってあげないとね~?」

「!?」

「ヘヴィーマシンガン、取り敢えず喰らっとけぃ」

「グッ!? グオオオオオォォ!!?」

 

 

 箱が開くと中には大型の機関銃が現れる。

 優作はそのままヘビーマシンガンを構え、ランサーに向けて容赦無い弾幕を張った。ランサーは槍で防御しようとするがとても防げる数で無く、何発もその体に喰らっていく。

 

 

「ナ、何故只ノ銃器ガ効クノダ!?」

「普通の兵器だと思った? 残念、特別製でした!! 序にグレネードも貰っとけ!!」

 

 

 優作から離れ、懸命に回避するランサー。

 しかし、銃弾と爆弾の雨霰を避け切る事など無理がある。霊核こそ傷ついていないが、身体の彼方此方に銃弾を受け、どんどんダメージが蓄積していく。

 一方のアサシンもマシュ達に対し、攻めあぐねていた。

 

 

「ヒホーッ」

「必殺の炎を喰らうホー!」

「クゥッ…チョコマカト…」

「其処ですっ!!」

「グハッ」

 

 

 ジャックブラザーズの連係プレーに翻弄されるアサシンにマシュが的確にダメージを与えていた。

 先程からマシュを狙おうと動くのだが、ジャックブラザースが何処からともなく自身の近くに現れて強力な魔術攻撃を仕掛けてくる。更にはマシュもペルソナを使って攻撃を加えて来るので実質1対4の戦いになっていた。

 しかし、アサシンは耐えた。一撃でも喰らえば消滅しかねない攻撃を紙一重で躱しながら、確実に敵サーヴァント(マシュ)を仕留めるチャンスを待った。

 そしてその時が来た。

 ジャックブラザーズが放つ冷気や火炎、切り掛かるトモエの猛攻をギリギリで掻い潜り、アサシンはマシュへと殺到する。

 迎え撃つべく構えるマシュにアサシンは短剣を投げ付け、マシュがそれを盾で弾くがその一瞬でアサシンはマシュが自身を視認出来ない位置へ跳躍、黒い短剣を構えて彼女の首へと突き掛かった。大きく振ってしまった盾では防御が間に合いそうもない。

 

 

「貰ッタゾ、小娘!!」

「しま…「マシュ! 今こそもう1つの服の力を使う時だっ!!」…先輩!!」

 

 

 優作の言葉にマシュは自身に与えられたもう1人の力、津村 斗貴子の戦いをイメージする。

 そして空いている手に現れるは中心に『XLIV』と書かれた六角形の金属塊、マシュはそれが彼女(斗貴子)の武器である核鉄(かくがね)であると分かった。

 

 

「いきます、武装錬金ッ!!」

 

 

 決着は一瞬であった。アサシンの短剣がマシュに届く前に彼女の太ももに装着されたパーツから延びる4本の可動肢の先端に付いたブレードがアサシンの両腕と心臓部の霊核を貫いていたのだ。

 

 

「バ、馬鹿ナ…」

処刑鎌(デスサイズ)の武装錬金、バルキリースカート! ハラワ…いえ、霊核をぶち撒けなさいっ!!」

「ガハァアッ!!」

 

 

 マシュの言葉と共に霊核を切り刻まれ、アサシンは消滅した。

 

 

「ナ!? アサシンガ…「隙有ぃ!!」…グホォッ!!」

 

 

 金の粒子となって消滅するアサシンの姿に動揺したランサーに対し、優作は新たに取り出したロケットランチャーを容赦無く叩き込んで吹き飛ばす。

 

 

「ジャックフロスト、合体技いくぞ!!」

「ヒホー! 任せるホー!!」

 

 

 優作の呼び掛けにジャックフロストが己の力を彼の刀へと送り込む。凍気を宿した刀を構え、優作はダウンしたランサーを一閃した。

 

 

「カ…体ガ…凍ル……」

「奥義、極銀氷忠義斬…ってね?」

「ム…無念…」

 

 

 斬られた個所から全身が見る見るうちに凍り付いて行き、遂にはランサーは氷像となる。その氷像も徐々に罅が広がっていき、遂には細かい氷の破片となり散っていく。

 

 

【敵サーヴァント反応消滅…能力で優作君も只者じゃないと分かってたけど、サーヴァントを倒す程なんて】

「ま、人生何が起こるか判らんからね。もしもの為に鍛錬していた御蔭ってヤツ?」

 

 

 目を丸くしながら消えていくランサーの姿を眺めていたロマニが零す言葉に優作はニヤリと笑って返す。

 2体のシャドウ・サーヴァントが消えた後には聖晶石が転がっていた。これで召喚を行えると期待に胸を膨らませながら所長達が待つメタルスラッグへと戻って行く。

 

 

「モーショボー、モコイさん、何も無かったかい?」

此処(・・)には何も来なかったから詰まんなかった~」

此処(・・)に異常は無かったヨ」

「……な~る」

 

 

 仲魔達の言葉を聞いた優作は彼等が向いている方向へ視線を向ける。

 

 

「ロマン、近くに新しいサーヴァント反応有るんじゃない?」

【…御名答。丁度君達が見ている瓦礫の裏に反応がある。クラスはキャスターだ】

「キャスターか…」

「ちょ、ちょっと新たな敵なの!? 如何するのよ!?」

 

 

 キューポラから頭を覗かせたオルガマリーが焦った様子で尋ねて来る。自身は兎も角、マシュは連戦が続き疲れが見えるので何処かで休みたいところだ。

 優作は新たに金属製の箱を召喚する。箱には「G」と書かれていた。

 

 

「此処にあるのはスーパーグレネード、グレネード弾がカッ飛ぶ素敵な武器。因みに今まで戦ったサーヴァント程度なら1発でもモロに喰らえば木端みじ…「分かった、分かったからその物騒なモノをしまってくれ。出てくるからよ」…覗き見とは感心しませんな?」

 

 

 箱からグレネードランチャーを取り出し、キャスターが隠れている瓦礫に向けながらわざとらしく説明していると、観念したようにキャスターが出て来た。

 

 

「悪かったな。劣勢になったら助太刀しようと思ってたんだが…必要無かったし、お前さんの戦いっぷりが興味深かったもんでな? ついつい見入ってしまった」

「ロマン、こ奴くっきり見えるぞ?」

【どうやら彼はシャドウ・サーヴァントでは無いみたいだね】

 

 

 黒い靄に包まれる事無く立っているキャスターは杖を持ち、蒼いフード付きのローブを纏った正に魔術師といった風貌の男であり、フードの中からは青い髪と深紅の瞳が覗かせていた。

 

 

「改めて、俺はキャスターのクラスでこの地獄で唯一正気を保っているサーヴァントだ。お前さん達は余所者みたいだし、ここは一つ情報交換といかねぇか?」

 

 

 そう言ってキャスターはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。




登場人物
オルガマリー・アムニスフィア
解説・ツッコミ役兼魔改造候補。
出自及び設定は原作と変わらず、原作において再登場を期待している人も多いと思われるが本作では…?

ロマニ・アーキマン
ナビゲート・ツッコミ役のゆるふわ系ドクター。
オルガマリーと同じく出自及び設定は原作と変わらず。
優作とはマギ☆マリの衣装御関連で話が盛り上がり親しい間になる。


元ネタ紹介
>モコイ ツチグモ(出典:デビルサマナーシリーズ、ペルソナシリーズ)
アトラス作品に登場する悪魔。
モコイは『ガインくん』と呼ばれる変わった話し方をするので有名。

>津村 斗貴子(出典:武装錬金)
少年ジャンプの漫画『武装錬金』のヒロイン。錬金戦団所属の錬金の戦士で、任務中に主人公に庇われた事から物語が始まる。
過去にホムンクルスに襲撃され壊滅した小学校の生き残りで、ホムンクルスに対して激しい敵意と憎悪を抱いており、戦士として一般人と一定の距離をおいていたが、主人公や友人達との触れ合いの中で日常の世界にも居場所を見つけ、表情も刺々しさが取れて少女らしい柔らかなものになる。
扱う武器はナンバーXLIV(44)の核鉄を使った処刑鎌の武装錬金『バルキリースカート』で、生体電流で作動する四本の可動肢による精密高速機動が特徴。
戦闘時の口癖は「臓物(ハラワタ)をブチ撒けろ!」

>ヘビーマシンガン(出典:メタルスラッグシリーズ)
SNK(旧社)の横スクロール型アクションシューティングゲームの『メタルスラッグシリーズ』に登場するパワーアップアイテム。
連射力の高い細長い弾を斜めにも撃てるので、1番汎用性が高い武器。
アイテムアイコンは「H」で、コンティニュー時に必ず降ってくる。

>ロケットランチャー(出典:メタルスラッグシリーズ)
『メタルスラッグシリーズ』に登場するパワーアップアイテム。
軽い誘導性を持つロケット弾を発射し、敵や障害物に当たると爆風が発生する。
アイテムアイコンは「R」。

>極銀氷忠義斬(出典:葛葉ライドウシリーズ)
『葛葉ライドウシリーズ』にて仲魔と協力して発動する合体技。
太刀を持っているときに発動可能で、氷結系の合体技の中で最強の技。

>スーパーグレネード(出典:メタルスラッグシリーズ)
『メタルスラッグシリーズ』に登場するパワーアップアイテム。
メタルスラッグの主砲と同威力の弾を発射し、着弾すると巨大な爆風を巻き上げる。
アイテムアイコンは「G」。


Q、メタスラ兵器で英霊ブッ殺せるの?
A、邪神やエイリアンにダメージ与える兵器なのに殺せない筈無いだろ!


次回は9月16日投稿。
感想コメント、意見・質問お待ちしております。


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キャスターへの挑戦!

 元新都の一角、朽ちて並ぶビル群の中で辛うじて崩れ落ちていないで形を保っているビルの屋上から優作達を観察していた男はポツリと困惑の言葉を漏らした。

 

 

「…一体何なんだアレは?」

 

 

 聞こえた戦闘音が気になって来てみれば、其処には黒マントの青年とサーヴァントの気配がする十字盾を持った少女の姿。見た事の無い連中であった事から異邦人であると推理し、現在自身が従っている“彼女”に仇名す相手であるか確かめるべく観察を続けていた。

 すると如何だ? マスターと思われる青年は良く解からぬ戦車を駆り、様々な使い魔を操り、果てはサーヴァントにダメージを与える近代兵器を扱ってランサーを完封する。

 サーヴァントの少女も危ない所は有ったが、使い魔の援護や見た事の無い力を使ってアサシン相手にダメージ無く撃破してみせた。

 

 

「キャスターと合流したのは些か拙いな…」

 

 

 キャスターと会った以上、彼等の敵意が此方に向くのはほぼ確実であろう。となると始末しなければならないのだが、あの青年に対し得体の知れない不気味さを感じた。

 

 

「早い内に始末した方が良さそうだ…ならば“奴”を利用するとしよう。セイバーに因って“回数が軽く”削られているとは云え、十分役に立ってくれるだろう」

 

 

 色素の抜けた白髪、それとは対照的な褐色の肌、そしてそれらを覆い隠すように纏わり付いている黒い靄。シャドウ・サーヴァント、アーチャーの視線は街から遥か離れた森林地帯にポツリと建つ、焼け堕ちた城跡へと向けられていた。

 

 

:::::::

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::

 

 

 折角だし、話し合うのに良い場所が有るとキャスターに提案され、案内された場所は『穂群原高校』と云う名の学校校舎だった。

 優作達は校舎内の教室の1つに腰を落ち着かせ、キャスターが早速情報交換に移ろうとしたのだが…

 

 

「取り敢えず飯食ってからにしない?」

フォキュー(マイペース過ぎィ)!!?」

 

 

 そう言いながら何処からともなくバッグを出して中から調理器具やら食材を取り出す優作。呆気に取られる面々の中で唯一フォウだけがツッコミの鳴き声を挙げていた。

 

 

「ちょっと!? 今は食事なんてしてる場合じゃ無いでしょう?」

「偉い人は言いました、“腹が減っては戦は出来ぬ”と。それに美味いモノで腹を満たせば気分もプラスになるさね」

「まぁ、坊主の言う通りだけどよ…?」

「マシュも疲れてるし、所長さんも精神的に参ってるっしょ? 美味くて元気の出るヤツをパパッと作るから待ってんしゃい」

 

 

 オルガマリーも遅れてツッコむがなんのその、鼻歌混じりに素早く調理を進めていく優作。

 流れる様な手際の良さは見ている面々が感嘆の声を漏らす程だった。

 

 

「先輩、凄いですね。これも服の力なんですか?」

「うんにゃ、これは自前さね。“効果付け”でなりきったりはするけど、おいちゃんは元々料理得意だから」

 

 

 あっと言う間に切ってみせた根菜と鶏肉を寸動鍋に入れ、煮込んでいく優作にマシュは尋ねた。元々多趣味だった優作は料理もそれなりに出来たのだが、なりきりの力を得てからは店限定の味付けや隠しメニューを再現したりと更に色々と手を延ばし、作れないモノは粗無くなっていた。

 

 

「そういや、キャスターの名前聞いてないや。何処の英雄さんなの?」

 

 

 バターを溶かしたパエリア鍋にライスとみじん切りにした玉ねぎ、角切りのトマトを入れて炒めながら優作はキャスターに尋ねる。

 

 

「おっと、それはまだ言えねぇな」

「名前バレしたら弱点が判るから…ってヤツ?」

「それもあるが、情報交換こそするが坊主達と協力関係を結ぶかはまだ決める訳にいかねぇからな」

「つまり、おいちゃん達が戦力として役に立つか見定めてから結びたい…的な?」

「分かってるじゃねぇか」

「じゃあ、しゃあなしやね。それじゃあ、おいちゃんはキャスターの兄貴、略して『キャスニキ』と呼ばせて貰うゾイ」

「きゃ…キャスニキ…」

キュウ~(良いセンスだ)

 

 

 炒め終えたパエリア鍋にサフランを混ぜたスープを注ぎ、海老や貝類を載せて炊きつつ、寸動鍋にミルクと粉チーズを入れてトロミが出るまで煮込んでいく。

 美味しそうな臭いが部屋内に広がる中、料理が完成した。

 

 

「ヘイお待ち! パエリアとクリームシチューの完成じゃい」

「わぁ、とても美味しそうです!」

 

 

 それぞれ皿に盛り分けて配り、食事が始まった。

 

 

「すっごい美味しいです先輩!!」

「御代わりは有るから沢山食べんさい」

「…美味しい」

 

 

 調理中から目を輝かせていたマシュだったが、料理を口に含めばその輝きが更に増していた。オルガマリーもモクモクと料理を口に運んでいく。

 

 

「コレ美味ぇな。こうなると酒が欲しくなるが…坊主、持ってねぇか?」

「戦場だから、酒ぐらい我慢しんしゃい……と言いつつ1杯位はええやろ」

「お、話が分かるじゃねぇか♪」

 

 

 キャスターの頼みにバッグからワインボトルを取り出して手渡したグラスに注ぐ。

 

 

「綺麗だな…だが何だこりゃ?」

「初心者でも飲み易いようにと開発されたスペイン産の青ワインさね。キャスニキの髪の色ともマッチしとるやろ?」

 

 

 透き通る様なコバルトブルーのワインはスペイン・バスク地方の若手クリエイター6名が“過去を打破して未来を創造する”をテーマに、2年近い歳月を掛けて生まれた。これを製作するにあたって面白い話があり、“製作した6名の中で誰も酒造経験が無かった”というのだ。

 ノンカロリーの甘味料を配合しているので、酸味よりも甘みが強くさっぱりとした口当たりであり、アルコール度数も低めな事からワインが苦手でも大丈夫……かもしれない。

 

 ※このワインは実際に存在します。名前は『Gik(ジック)』なので20歳以上の方は飲んでみてね。

 

 

「おぉ、これは美味い美酒だ」

「気に入って貰えて何より」

【うぅ…見ているこっちはお預けかぁ…。優作君、帰って来たら僕にも作ってくれないかい?】

「構わんよ、楽しみにしてんしゃい」

 

 

 現場に居ないロマニはお預けを喰らってしまい、ホログラフ越しから羨ましそうに食事を続ける優作達を眺めていた。

 

 

「あ~、食った食った。美味かったぜ、坊主?」

「御馳走様でした、先輩!」

「こんな所でこういうモノが食べれるとは思わなかったわ…」

 

 

 食事を終え、腹を満たしたメンバーの表情は緊張感が和らいでいた。

 

 

「それじゃあ、腹も満たした事だし情報交換といこうか?」

 

 

 片づけを終え、まずは此処の状況説明から、と表情を真剣なモノに切り替えたキャスターは話し始めた。

 

 

「オレ達が争っていた聖杯戦争は何時の間にか“違うモノ”にすり替わっていた」

「違うモノ?」

「始まりは一瞬だった。突如現れた聖杯から“泥”が溢れ出して街は炎に焼かれ人間はいなくなり、残ったのはサーヴァントだけだった。まぁ、彼方此方に化け物共が湧き出したがな? マスター含めた人間が消えた時点で俺達サーヴァントも消えてしまう…筈が、如何してだかサーヴァントは残り聖杯戦争は続けられた」

「如何考えても聖杯戦争が特異点の原因である件について」

「…予想通りだった訳ね」

 

 

 これまで予想の範囲内でしかなかった特異点発生の原因が聖杯戦争である事が確定した。

 

 

「それで、残ったサーヴァント同士で争った訳ですか?」

「いや、突然の事態に戸惑っていたんだがな…ある1人のサーヴァント以外」

【そのサーヴァントは?】

「セイバーだ。奴さん、水を得た魚みてぇに暴れだしてよぉ。いきなり襲い掛かって来たのもあって、セイバーの手で俺以外の連中は倒された。そして倒されたサーヴァントはお前さん達が戦ったアサシン、ランサーよろしく真っ黒な影に覆われてサーヴァントとしての自我を失った」

「5体のサーヴァントを倒してしまうなんてどれだけ規格外なのよ…」

 

 

 たった1人でキャスター以外のサーヴァントを撃破したと云う、規格外の実力を持つセイバーにオルガマリーは戦慄する。

 

 

「因みにアーチャーかライダーで女性はどっち?」

「女はライダーだが…もしかして倒したのか?」

「うむ。移動中に襲って来たからマシュが星にしたさね」

「そうなのか? なら残りは3人になるが、バーサーカーは無視して良いぜ。奴はこっちから仕掛けない限り襲っては来ねぇ。だが、アーチャーはセイバーの先兵として動き回ってやがる」

【セイバーに挑む為にはアーチャーとの戦闘は避けれない訳か…】

「キャスターさんはセイバーの正体についてご存知なんですか?」

「直接戦えば直ぐにでも判るぜ。なんせ、余りに有名な奴だからな」

「今此処で教えてはくれないの?」

「それに関しては条件がある。坊主にも言ったが、お前さん達の力を俺に示して見せろ。俺を認めさせる事が出来れば真名だって教えてやるし、仲間にもなってやるぜ?」

 

 

 不敵な笑みを浮かべながらそう答えるキャスター。内心、優作達と戦ってみたいという願望が混じっている様に見えた。

 

 

「な、何でよ!? 橋での戦いで私達の力を認めたから姿を現したんじゃないの!? ……私は何もしてないけど…」

「あの戦いだけじゃ足りねぇな。あれだけじゃあ駄目だ、最低限の力が無いとセイバーには絶対勝てねぇ」

「なら、キャスニキにおいちゃん達の実力を見せ付けてセイバー討伐に行くって事が今後の目標かな? ならじゅ…「あの、先輩」…どうしたん、マシュ?」

「私が宝具を使える様にする事は出来ますか?」

 

 

 キャスターの自分達の実力を見せる為の準備に入ろうと優作が腰を上げた時、マシュから自身の宝具に関する提案が挙がった。

 

 

【マシュは責任感強いから気にしてたんだね。でもそこは一朝一夕でいく話じゃないと思うよ? だって宝具だし。英霊の奥の手を1日、2日で使えちゃったら、それこそサーヴァント達の面目が立たないと言うか】

「何だ、嬢ちゃん宝具が使えてないのか? …ん? だったらアサシンと殺り合っていた時に使ってた精霊みたいなのと蜘蛛の足みたいな武器は何だったんだ?」

「それは服の力さね」

「服?」

 

 

 優作はキャスターに己の能力について説明した。

 

 

「…つまり、今オレが着ている服を着たら坊主はオレの力が使えるって事か!?」

「理論上は可能らしいわよ?」

「……坊主、本当はサーヴァントじゃねぇのか?」

「おいちゃん、まだ死んでないから。能力持ちなだけの一般人だから」

キュウ、キュー(“逸”般人ですね、分かります)

 

 

 キャスターが優作の能力に驚愕しながら疑惑の目を向けるのに対し、優作は肩を竦めてみせた。

 

 

「兎に角、宝具が使えない。このままでは私は只の欠陥サーヴァントです」

「正直言って名前を教えてくれなかった英霊が悪いと思うんだけど」

【僕も調べてはいるのだけど、中々見付からないよ。御免よ、マシュ】

「先輩、ドクター…有難う御座います。ですが、やはり宝具が使えないというのは心許無いです」

 

 

 現状マシュの戦い方は優作から与えられた服の力頼りになっている。宝具の内容が如何あれ、自身に宿った力を使いこなせる様にしたかった。

 

 

「つぅかよ、宝具なんて直ぐに使えるに決まってんじゃねぇか。英霊と宝具は同じもんなんだから。お嬢ちゃんがサーヴァントとして戦えるのなら、もうその時点で宝具は使えるんだよ。なのに使えないって事ぁ、単に魔力が詰まってるだけだ。何つーの? …やる気っつぅか…いや弾け具合? 兎に角、大声を挙げる練習をしてないだけだぞ?」

「意外とあっさりしてんのな? でもキャスニキ、マシュの場合契約を求められたとは云え、正体が判らん奴の力をいきなり宿す事になってんやで? 運転免許持ってない人に特殊な操作方法の車をマニュアル無しでいきなり運転してみろって言ってるようなもんだと思うんだけど?」

「そう言われてもなぁ…」

 

 

 優作の意見にキャスターは頭を掻きながら困った表情になっていた。

 

 

「良いか? 宝具ってのは本能だ、本能が呼び起こされる様な事が起これば自ずと目覚める」

「つまり、命の危機に陥れば目覚めると?」

「ま、そんなとこだな。若しくはマスターが危機に瀕すればだ。オレに実力を見せる際が丁度良いだろ? 但し、使えなきゃ御陀仏だがな」

「う~む…マシュの宝具って盾に関したモノで合ってるのかね?」

「多分そうじゃねぇか? さもなきゃ盾だけ装備してねぇだろ?」

「盾…防御系………うぅむ…」

 

 

 御陀仏と云う言葉にマシュの表情が強張っていくのを横目で見ながら優作は考える。キャスターはセイバー打倒の為の戦力として生半可な者は連れて行く気が無い。となれば彼が示す試練を乗り越えなければならない訳だ。その際にマシュが宝具を使えるようになるのが最適なのだが、失敗すれば待っているのは死だ。命を賭けた殺し合いをしている状況下で甘い事と言われるだろうが、余りマシュに無茶をさせたくなかった。

 

 

「ちょいと実験してみたい事があるから良いかな?」

 

 

:::::

 

 

 校庭に出た優作達。衣装ケースをから中世の騎士が着ていそうな鎧を取り出し、光の玉にする。

 

 

「なりきりチェンジ『イニシエダンジョンの冒険者:戦士(ファイター)』」

 

 

 光の玉をマシュに入れると共に別の光の玉が2つ出て来た。それを優作が掴むと、レイシフト後にマシュに与えた里中 千枝と津村 斗貴子の服に戻り、マシュの衣装は優作が取り出した鎧姿へと変わった。

 

 

「さて、今マシュに与えた服は伝説の秘宝『不老不死の水』を手に入れる為にダンジョンを探索した冒険者の中で戦士の職業を持った者の力。他にも職業はあるけど、どれにも共通した能力を持っている」

「共通した能力ですか?」

「彼等は武具を装備した際、“自身の魔力を消費して装備した武器の力を引き出す”事が出来た」

「力を引き出す…」

「例えば炎の剣なら火柱を巻き起こし、雷の杖なら雷を落とすといった感じさね。そんな中で戦士職は仲間を守る為に巨大な盾を装備する場合があった」

「盾でも力を引き出せるんですか?」

「そう。そしてその盾がこれだ」

 

 

 そう言って優作が出したのはマシュが持つ十字盾よりも大きい2つの盾だった。

 

 

「フォートレスとギガントシールド。盾から引き出せる力には2種類あるんだけど、今回参考になるのはこっちのフォートレスかな?」

 

 

 優作からフォートレスと呼ばれた大楯を受け取るマシュ。自身が持っている十字盾より2回りほど大きい盾を掴んだ瞬間、この盾から引き出せる力の使い方が脳内に流れて来た。

 

 

「…分かります、力の名は『ストロングホールド』」

「うむ、分かったなら後は実践あるのみ。マシュ、使ってみて?」

「はいっ! いきます、ストロングホールドッ!!」

 

 

 意識を集中し、力を引き出す工程をイメージする。己の体内を巡っている魔力が持っている盾へと流れていく事が分かる。

 技の掛け声と共にマシュの周りを守る様に防壁が立ち昇った。

 

 

「やった、出来ました先輩!!」

「うむ、力を引き出す際に自身の魔力の流れはちゃんと感じれたかな?」

「はい!」

「英霊についてはド素人なおいちゃんだけど、話を聞く限りこの力を引き出す事と宝具の使用は同じ気がするんよ? だからこの力の使い方を参考にしてマシュに宿った宝具の力を引き出してみんしゃい」

「解かりました。やってみます」

 

 

 フォートレスから十字盾に持ち替え、マシュは再び意識を集中する。自身の魔力を十字盾へと巡らし、守りの奥義をイメージする。

 

 

(先輩は強い、それでも私は先輩の足手纏いになりたくありません…)

 

 

 初めてあった時、マシュは優作を不思議な人だと思った。

 カルデアで生まれ、一度も外に出た事の無いマシュにとって、カルデアの中だけが全てであった。家族と言えるのは自分を気に掛けてくれるドクターとフォウだけ。他は時折、実験動物を見るかの様な視線を向けて来た。そんな限られた変わらない日々だった中、今迄会った事の無い性格である優作との出会いはマシュにとって初めてであり、新鮮なモノであった。

 そして中央管制室の爆発で重傷を負ったマシュは優作に助けられた。炎を消し、重傷だった自分の容態を瞬く間に治して見せた悪魔達を操る彼の姿は、何時ぞや読んだ英雄譚の英雄そのものだった。

 だからこそ、レイシフト時に英霊の力を譲り受けてデミ・サーヴァントになった時、これで先輩の役に立てる、助けて貰った恩を返す事が出来ると思っていた。

 ところが如何だろう? 彼は悪魔を使役するだけじゃ無く、自身でサーヴァントと渡り合えていた。

 確かにライダーやアサシンを倒したのは自分だ。だがそれは、優作がくれた服の力が殆どだ。自分一人の力では無い。自分が居なくてもきっと彼は仲魔達と共に撃破出来たであろう。

 宝具が使えず落ち込んでも労わって励ましてくれた。

 そして今の状況も死にかねない危険な状況での覚醒を心配した上で考えてくれたのだ。

 自分はこれ以上、先輩の手を煩わせたくなかった。

 

 

「(守られるだけなのは、御免ですっ)守れるだけの力を! はあああぁぁああああ―――――っ!!」

 

 

 先輩(優作)を守れる力を、マシュの叫び声と共に十字盾を起点に十字架を模した魔法陣の様なモノが展開されていき、遂には巨大な光の盾が聳え立った。

 

 

「パーフェクト! 見事、己の宝具を使えた訳だ♪」

「はぁ、はぁ…先輩、やりました! 私、宝具を使える様になりましたっ!!」

「しかし凄かったよ、マシュ! メギドラオンクラスはまだキツそうだけど、あれだけの防御技はそうそう無い」

 

 

 効果時間が終わったのか徐々に消えていく光の盾を眺めながら、優作は興奮した様子で笑顔を浮かべている。そんな彼の表情を見ながら、マシュも笑みを浮かべる。

 

 

【驚いたな……こんなに早く宝具を解放出来るなんて】

「優作の補助の御蔭と云うのも有るのでしょうけど…、“ただマスターを守る”その想いで宝具を発動させたのね、マシュ」

「ドクター、所長。私はまだ宝具の真名も英霊の真名も解かりません。でも、先輩を、皆を守れる様になりたかったから無我夢中でした」

「純粋な想いだからこそ、宝具が応えたのかもしれないわね…。兎に角、宝具を使える様になったのは喜ばしいわ。でも真名が無いのは不便でしょう? 良い名前を考えてあげるわ」

 

 

 オルガマリーは一旦、コホンと咳払いし、

 

 

「宝具の疑似展開なんだから……そうね、『疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)』と名付けなさい」

「ロード・カルデアス……」

「カルデアは貴女にも意味のある名前よ。霊基を起動させるには通りの良い名前でしょう?」

「はいっ! 所長、有難う御座います!!」

「ロード・カルデアス、良い名前じゃない」

フォーウ(ナウい)!」

 

 

 マシュの宝具の現状名をオルガマリーに付けて貰い、マシュの服を外した服へと戻した。

 

 

「さぁて、嬢ちゃんの宝具は使える様になった訳だ。なら今度はオレにお前らの力を示してみろ」

「おいちゃんは構わんのだけど、宝具が使えるだけじゃ駄目なん?」

「足手纏いにならない事を見せてくれねぇとな、それに仲間になる相手とは実際に手合わせして仲間足り得るか実力を測る。それが“ケルト流”だ」

「ケルト…?」

「…あ」

 

 

 話の中でキャスターはうっかり自身の出身を漏らしてしまった。

 

 

「ケルトって云えばもしかして…クーフーリン?」

「…………」

「その表情且つ沈黙は肯定と受け取るべ?」

「バレちまったか」

「え? マジでクーフーリン? 何でランサーじゃなくってキャスターなん?」

「仕方ねえだろ、オレを呼んだ奴がこの姿で呼んだんだからよ?」

 

 

 自身の失態に不貞腐れた様子のキャスターもといクーフーリン。話を聞く限り彼自身はランサーとして呼んで欲しかったらしい…

 

 

【太陽神ルーの息子でクランの猛犬だって!? “ケルトのヘラクレス”と呼ばれる程の大英雄じゃないか!!】

「アイルランドの光の御子だったのね…。必中の突きであるゲイボルグが有名だから本来はランサーで呼ぶべき英霊なのだけど…」

 

 

 キャスターの正体が判った事で各々のコメントを零すロマニとオルガマリー。

 

 

「そんじゃあ、真名知っちゃった詫びとして彼等でも呼びますかね」

「彼等?」

「あ、おいちゃん今デビルサマナーだから仲魔呼んで良いよね?」

「そりゃ構わねぇけどよ、彼等って何だ?」

「見てのお楽しみって事で…」

 

 

 そう言ってニヤニヤしつつ2本の封魔管を取り出す優作。

 

 

「来い! クー・フーリン、スカアハ!!」

「はぁ!?」

 

 

 優作の言葉に目を丸くするクーフーリン。

 封魔管が輝き飛び出してきたのは白銀の鎧を纏い、槍を携えた黒髪ストレートの美男子と大きなツバの黒い帽子を被り、真っ白な肌を際どい漆黒の装束と帽子と繋がっている黒マントで隠してる絶世の美女。

 

 

「と云う事で別世界のクー・フーリンとスカアハです」

「ちょっと待てぇ!! え? 別世界のオレと師匠!?」

 

 

 あんぐり開いた口を塞ぐ事無く、クーフーリンは目の前の仲魔を見比べている。

 

 

「これはサマナー、如何いう事ですか? 目の前の男、姿形こそ違いますが紛れも無く私自身だ…」

「面白いサマナーだと思っていましたが、まさか別世界の弟子と会わせくれるなんて…ふふっ」

 

 

 一方の仲魔であるクー・フーリンとスカアハもキャスターのクーフーリンを珍しそうに眺めていた。

 

 

「目の前の兄貴はこの世界のクーフーリン。訳有って、魔術メインのキャスターとして呼ばれてるから槍は使えないっぽい?」

「槍は有れば使えるぜ? …宝具は使えねぇがな」

「なら後で貸そうか?」

「それは有り難ぇが…あぁ、別世界のオレと師匠を使い魔にしてたり、その別世界云々聞きたい事が沢山出来ちまったが…それらは後に置くとして…」

 

 

 クーフーリンは杖を構える、困惑していた表情は綺麗に切り替わり獰猛なモノになっていた。

 

 

「兎に角、始めようや?」

 

 

 構える優作達、最初に仕掛けたのは仲魔達だった。

 

 

「いきますよっ、マハザンダイン!!」

「弟子なら耐えてみなさい。コンセントレイト、そしてマハブフダイン」

「うっ、うをおおおおぉおっ!?」

 

 

 クー・フーリンが巻き起こす竜巻とスカアハが放つ極冷の氷塊が互いに混じり合い、極寒の吹雪となってクーフーリンを襲う。真面に喰らえば大橋でのランサーの様に氷像と化すだろう。

 比較的吹雪の弱い所を見定め、そこへ炎の魔術を自身の周囲に展開しながら突っ込んで切り抜ける。それでも身体は風の刃と氷塊の礫で少なくないダメージを受けた。

 

 

「テメェ、槍持ってんのに魔術を使うのかよ!?」

「これは異な事を、戦士ならば武器と魔術両方使ってこそでしょう?」

 

 

 持っている杖で突いてくるクーフーリンにクー・フーリンは槍で応戦する。

 

 

「槍も無く、剣も無い。これじゃあドルイドの魔術師ね…戦士の矜持は如何したのかしら?」

「キャスターで呼ばれたんだからしょうがねぇだろ!! オレだって、槍が欲しかったわ!!」

 

 

 スカアハが呆れた言葉を言いつつ放つ魔術を避けながら噛みつく様に言葉を返すクーフーリン。この世界のクーフーリンは余程前線で暴れたがる性格らしい。

 

 

「せいやぁ!!」

「いきますっ! トモエ!!」

 

 

 クーフーリン同士が打ち合う中、横から優作とマシュが躍り掛かる。優作の斬撃をクー・フーリンの槍を弾いた杖で受け流し、トモエの突きを飛んで避ける。が、宙に飛んだ所をマシュが蹴り込み、クーフーリンは敢えてそれを受ける事で彼等から距離を離した。

 

 

「初めこそ驚いたが、中々面白いじゃねぇか。ならこれは如何だ?」

 

 

 瞬間、クーフーリンの振るった杖の軌道から燃え盛る火の玉が出現し、それが徐々に巨大化していく。

 

 

「アンサズ!」

 

 

 ジャックランタンのアギダインクラスの大火球が優作達へと飛んで来る。真面に喰らえば消し炭に成り兼ねない攻撃だが、優作には仲魔とマシュがいる。

 

 

「スカアハ、ブフダイン。マシュは防御を」

「任せて頂戴」

「分かりました!!」

 

 

 優作の指示でスカアハが火球へ冷気を叩き込んで勢いを殺し、相殺しきれなかった残り火をマシュが盾で弾く。

 

 

「アンサズを防いだが…「チェストォォ!!」…うおっと」

 

 

 防いで見せた事に感心するクーフーリンに優作が再び切り掛かる。斬撃を避けるが優作も流れる様に斬撃と突きを繰り出していく。

 仲魔とマシュも援護をする中、出来た隙を突いた優作の回し蹴りがクーフーリンの胴体に叩き込まれた。

 

 

「けほっ……坊主も中々やるじゃねぇか!」

「おいちゃんを舐めたらアカンぜよ!!」

「…本当、キャスターの枠で呼ばれたのがもったいねぇな」

 

 

 しみじみと呟きながらクーフーリンは再び優作達と距離を取った。

 

 

「お前らの力は良く解かった。だから、これで最後だ。受けてみろ」

 

 

 そう言いながらクーフーリンは杖を前に向けて魔力を集中していく。これまで使っていた火球の魔術とは一線を遥かに越える魔力の奔流が感じ取れる。つまり、英霊の切り札である宝具を使うつもりなのだ。

 

 

「我が魔術は炎の檻、茨の如き緑の巨人。因果応報、人事の厄を清める社……倒壊するはウィッカーマン! オラ、善悪問わず土に還りな――!」

 

 

 クーフーリンの詠唱と共に無数の木の枝を組み合わせた集合体が轟々と燃え盛る、炎の巨人が召喚される。

 

 

「こ、これは!!」

「あら、向こうの弟子は面白い魔術を使うのね?」

「先輩!」

「あれがクー兄の宝具か、かっけぇな!」

 

 

 炎の巨人に対し各々の感想を零す優作達。

 

 

「とっておきをくれてやる。焼き尽くせ、木々の巨人! 『灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)』!」

 

 

 ウィッカーマンはズンズン地響きを立てながら優作達へと向かって来る。

 

 

「どうします、サマナー?」

「同キャラ同士の技のぶつかり合いとか胸アツだけど、ここはマシュにお願いするさな」

「私ですか?」

「この戦いの目的はおいちゃんとマシュの実力を見せつける事。折角、宝具使える様になったんだ、あの巨人を打ち負かしてマシュの実力をしっかりと見せつけたれ!!」

「…解かりました。マシュ・キリエライト、全力でいきます!!」

 

 

 仲魔達を一旦下がらせ、マシュが前に出る。

 ウィッカーマンは既に優作達の目の前まで迫っていた。

 

 

「真名、偽装登録。宝具、展開します!」

 

 

 優作達を叩き潰そうと腕を振り上げるウィッカーマン。

 

 

「仮想宝具、『疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)』ッ!!」

 

 

 ウィッカーマンの燃え盛る拳とマシュの光の盾がぶつかり合う。一撃では打ち破れないと悟ったウィッカーマンは両腕を使って2発、3発と何度も殴り続けるが打ち負けたのはウィッカーマンの方だった。

 木の枝を組み合わせた腕がボロボロと崩れ落ちると共に現界時間が過ぎたのだろう、その姿が薄れていき消滅していく。

 

 

「はぁ、はぁ…」

「やったな、マシュ!」

「はぁ…先輩……やれました…」

「これを食べんしゃい。魔力が回復するから」

「有難う御座います…あ、美味しい♪」

 

 

 短い期間での宝具展開で魔力を多く消費したマシュは疲労が大きい様だった。

 優作は彼女にチャクラドロップを渡して魔力を回復させた。

 

 

「まさか、あの攻撃を無傷で耐え凌ぐとはなぁ…」

「これで合格かいな?」

「あぁ、認めてやるよ。セイバーを倒すのにしっかり協力してやる」

「先輩っ!」

「やったぜ」

 

 

 クーフーリンから認められ、喜び合うマシュと優作。

 

 

「ハハッ、しかし良い女じゃねえか?」

「ひゃんっ!?」

「おぅ、良い身体してるじゃねえか♪ 役得役得っと……ん? 如何した坊主?」

 

 

 マシュのお尻を撫で回しニヤニヤ顔のクーフーリン。逆にセクハラを受けたマシュは顔を真っ赤にしながら慌てて彼から離れた。

 そんな様子を眺めながら優作はニッコリ顔でクーフーリンの肩に手を置く。顔はニッコリ笑っているのに目は全く笑って無く、むしろ威圧感を感じる程だった。

 

 

「セクハラ禁止ィッ!!」

「へぶらっ!!?」

フォウ~(やりますねぇ)!!」

 

 

 優作の怒号と共にブチ噛まされたビンタを喰らい、錐揉みしながら宙を舞うクーフーリン。

 何とも締まらない空気になってしまった…




元ネタ
戦士(ファイター)(出典:イニシエダンジョン)
miya_omaru氏製作のブラウザゲーム『イニシエダンジョン』で登場する職業の一つ。
戦士は剣や斧をメイン装備とし、HPや攻撃力が高いので斬り込み役や壁役として有能。

>フォートレス(出典:イニシエダンジョン)
『イニシエダンジョン』で登場するユニーク両手盾。
低階層でも手に入れる事が出来る。
使える技は『ストロングホールド』で、使用者の周囲に使用者のHPと同値の体力を持つ防御壁を設置する。
因みに“ユニーク”とはレアドロップアイテムの事を表す。

>ギガントシールド(出典:イニシエダンジョン)
『イニシエダンジョン』で登場する両手盾。
ダンジョン最奥層で入手可能で、最高クラスの防御性能を誇る。
使える技は『ギガプレス』で、指定の方向に短射程ながら幅広のノックバック兼スタン効果を持った衝撃波を放つ。

>メギドラオン(出典:女神転生シリーズ他)
アトラス作品に登場する万能属性の魔法スキルで下位互換にメギド、メギドラがある。
MP消費は激しいが、あらゆる防御相性を貫いて大ダメージを与える。
しかし、作品によっては反射出来たり、上位互換の存在があったり、属性を突いた方がお得だったりと不遇だったりする。

>クー・フーリン スカアハ(出典:女神転生シリーズ他)
アトラス作品に登場する悪魔。
作者はこの作品の2人を先に知っていたのでタイツケルトを観た時はひったまげた。

>チャクラドロップ(出典:女神転生シリーズ他)
女神転生シリーズに登場するMP回復アイテム。


Q、青ワインを宣伝したのは何故?
A、美味しかったから(批判は認める)

Q、主人公君が作った料理のメニューは何か意味が有るの?
A、実はテイルズシリーズ由来の効果持ち(テイルズシリーズではMPではなくTPで表示)。
  ・クリームシチュー(HP30%、MP63%回復)
  ・パエリア(食事したメンバー全員のステータス一時上昇)

Q、何故キャスター戦にクー・フーリンとスカサハを呼んだの?
A、別世界の同一人物バトルって燃えるやろ?


おまけ

【挿絵表示】

描いてくださった maya 様にひたすら感謝!


次回は9月23日投稿。
感想コメント、意見・質問お待ちしております。


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召喚と準備、そして出撃

気付けばお気に入り100越え。
こんな遣りたい放題の作品を読んで頂き、感謝感謝。


「それじゃあ、約束通りセイバーの正体を教えてやるぜ?」

 

 

 クーフーリンに実力を示した優作達は約束通り彼から協力を得る事に成功し、セイバーの正体を教えて貰う事となった。

 そんな彼の顔は右頬に赤い紅葉が綺麗に残っていた。

 

 

「先輩、有難う御座います」

「痴漢、セクハラは犯罪やさかい。おいちゃんが居ない時にもしされたらちゃんと報告するんやで? 今度やったら股間のブツをロケット花火にする呪いでも掛けてやるから」

「はい、分かりました♪」

「怖ぇえよ!!? 嬢ちゃんも笑顔で答えねぇでくれ!?」

 

 

 中々にバイオレンスな対応法をマシュに対して言う優作にクーフーリンは悲鳴染みたツッコミをする。

 そして改めてクーフーリンはセイバーについて語りだした。

 

 

「…ぶっちゃけ、宝具を使えば誰でも直ぐに気が付く。それくらい有名で強力な宝具だからな。今回の参加者も、大体はそれでやられた」

「異変で戸惑ってたところを宝具ブッパされたって事?」

「そういうこった」

「強力な宝具ですか…それは如何いう?」

「王を選定する岩の剣のふた振り目。この時代において、もっとも有名な聖剣。その名は約束された勝利の剣(エクスカリバー)、騎士の王と言われている、アーサー王の持つ剣だ」

【なっ!? アーサー王だって!?】

「わーお、神話・伝承モノのビッグネームキタコレ」

 

 

 ブリテン島、今のイギリスを治めた騎士王であり、誰もが知る聖剣の持ち主である。

 セイバーとしては最強と呼ぶに相応しい存在であり、一同は息を呑んだ。

 

 

「現状セイバーは聖杯の大元である『大聖杯』を独占してやがる。お陰様で奴は聖杯のバックアップの下、馬鹿みてぇな力を発揮しやがる。何とかしてぇが、キャスターのオレじゃあ対魔力が高いセイバーに決定打を与える事が出来ない上に他のシャドウ・サーヴァント共に狙われる始末でな? 撤退してほとぼりが冷めた後に各個撃破していこうと思ってた訳よ」

「つー事は、おいちゃん達はセイバーにとってホームグラウンドになる場所へ殴り込み掛けんといかん訳ね?」

「そうだ。アレは何度も避けれるモノじゃないし、防御系宝具持ちの嬢ちゃんでも2、3発も喰らえば耐えきれ無ぇだろ? 1発目を耐えた後か使わせない内に、複数人で一気に叩き潰すのが最善だ。だから悪魔使いの坊主は都合が実に良い」

【大聖杯を独占しているセイバーを倒せば…】

「ああ。聖杯戦争は終わる」

「成る程ね……恐らくこの時代、この時間において大きな出来事である聖杯戦争を終わらせる事が出来れば、この特異点『F』の異常も治まる可能性が高いわね。でも居場所は判ってるの?」

「あぁ、この土地の心臓に当たるあの山の洞窟に奴は居る」

 

 

 クーフーリンの視線は都市部から離れた山に向けられていた。ロマニが調べたところ、この土地で一番大きな霊脈に当たるらしい。

 

 

「それじゃあ、セイバーについては是位にして俺から質問良いか?」

「おいちゃんのクー・フーリンとスカアハの事さね?」

「それと別世界云々だな。つーか、師匠はスカ()ハだろ?」

「スカ()ハやで?」

「いや、スカ()ハだ」

「スカ()ハだって、本人から聞いたもん」

「いいや、違うね。スカ()ハだ、オレだって師匠から聞いてる」

「ちょっと貴方達止めなさいよ! 土地によって発音が違う場合が有るんだから、別世界なら尚更でしょう!?」

「それもそうさね」

「だな」

フォキュウキュー(別所では『スカタ』って呼ばれてるしね)

 

 

 軽い発音に関する言い争いがあったがオルガマリーに止められ、優作は改めて説明を始めた。

 

 

「おいちゃんが召喚してる面々はデビルサマナーの服の主である『葛葉 ライドウ』が使役していた悪魔達さね。まぁ、+αが含まれてるけんど」

「おい、オレや師匠が悪魔扱いなのは何でだ?」

「ライドウの世界じゃ悪魔は一神教のそれでは無くって超自然的な存在の総称を呼んでる訳。だからその分類は精霊や妖精、英雄や神など多岐に渡っているべ」

「纏めて悪魔呼びしてんのか…」

「…ちょっと待ちなさい。精霊や神ですって!?」

【つまり、優作君は神霊すらも呼び出せるのかい?】

 

 

 新たに飛び出した『精霊』や『神』の単語にオルガマリーとロマニは驚く。

 

 

「可能やで?」

「例えば、どの様な神様を呼べるんですか?」

「色々呼べるからなぁ…例えば『ヒノカグツチ』とか『トール』とか」

「日本神話の火の神に北欧神話の雷神…どれも有名じゃないの!?」

【その神すらも優作君はあの妖精達みたいに使役出来るのかい?】

「悪魔との契約は単純さね、実力で屈服させるか宝石や魔力を挙げる事で仲魔に出来る訳。話が脱線したけど、おいちゃんが召喚した2人はそんな世界出身さね」

「それで、そんな世界を何で坊主が知ってんだ?」

「創作物だから」

「…は?」

 

 

 優作の回答に呆気に取られる面々。それに対し、優作は実物を見せた方が早いとバッグからゲームソフトが入ったパッケージケースを取り出す。

 

 

「『葛葉ライドウシリーズ』、架空の時代、大正20年を舞台にしたデビルサマナーである葛葉ライドウの冒険活劇。まぁ、詳しくは実際にプレイしてみて、どうぞ」

キュウフォウ(ダイマ凄いですね)

【その服はゲームのキャラクターだったのかい?】

「せやで? 因みにおいちゃん達が移動に使ってる戦車も他のゲームが出典で、マシュに着せてるのもメインがゲームでサブの方は漫画になる」

「…架空の人物までなりきる事が出来るなんて…」

「戦闘向けは殆どサブカル由来よ? 元々一般人だったんだから現実系の服は基本、日常生活でしか殆ど使えんさね」

「……ゲームじゃ俺達ってあんな姿なんだな…」

 

 

 優作がなりきる事が出来る範囲の広さを知り、オルガマリーとロマニは改めて驚愕し、クーフーリンは別世界の自身と師匠の姿に納得するのだった。

 

 

「ところでロマン、此処も霊脈に当たる土地なん?」

【そうだね、この土地は彼方此方に霊脈が点在していて此処もその一つだよ】

「なら、アーサー王討伐の為に戦力確保として召喚しようずぇ?」

 

 

 優作の手元には聖晶石が3つある。これを使って英霊を召喚しようと提案した。

 

 

「召喚するにはマシュの盾と聖晶石の他に、何が必要なの?」

【本来の英霊召喚には召喚の為の詠唱が必要なんだけど、カルデアでは召喚サークルに必要数の聖晶石を置くだけで召喚を行えるんだ】

「但し、その弊害か概念礼装が召喚される場合もあるから余り期待しない方が良いわ」

「簡単で良いね。う~む…やっぱ、召喚するならアーチャーかアサシンのクラスでシモ・ヘイヘかな? いや、ライダーでルーデルも強いだろうし…あぁ~、迷うんじゃ~」

「言っておくけど、呼びたい英霊の媒体が無ければ狙って召喚するのは無理よ。貴方と性質が合っている英霊が一番召喚され易いわ」

「そうなん? ならコスプレ趣味の英霊が呼び出されるんか…」

 

 

 召喚サークルに聖晶石を置くと、魔力の奔流が渦巻いてゆき、眩い光が放たれる。

 目を閉じないければならない程に輝いていた光は次第に収まってゆき、光があった場所にはフードを纏った妙齢の女性が立っていた。

 

 

「あら、随分と可愛らしいマスター…可愛くは無いわね…」

「20歳迎えたおっさんに可愛いと言われても困るんすけど?」

「ま、まぁ良いわ。キャスター、魔女メディア。宜しくお願いするわ。でも20歳でおっさん?」

「自分、“20歳超えたらおっさん”って考え方なんで」

「まだ若々しいのだから卑下するのは止めなさい」

「美人さんがそう言ってくれると嬉しいですな。ところで…コスプレが趣味だったりします?」

「コスプレ? …そうね…趣味と云えば趣味ね。但し、女の子に可愛らしい服を着せて楽しむ方だけど」

「おぉ~。所長さん、確かにおいちゃんと性質が合ってる人が出たで?」

「コルキスの魔女がコスプレ趣味…」

【キャスターか…、でも優作君とマシュが前衛寄りだから実に頼りがいがある後衛役が来てくれたね】

 

 

 召喚されたキャスターことメディアが優作と同じくコスプレ趣味という事実にオルガマリーは唖然とする。

 

 

「それにしても…」

 

 

 一方、メディアはオルガマリーの横に立っていたクーフーリンの姿を物珍しそうに眺めた。

 

 

「まさか貴方がキャスターのクラスでいるなんて、何の冗談かしら?」

「うっせ。オレが望んでこんなクラスで呼ばれるかよ魔女」

 

 

 メディアの言葉に噛みつく様に答えるクーフーリン。

 

 

「お2人さん、知り合いなん?」

「知り合いっつぅか…」

「此処、冬木の聖杯戦争で争った元敵同士よ」

「過去に呼ばれて争った訳?」

「いや、なんつぅか…何故か並行世界での記憶が残っててよ、何度か召喚されてるのを覚えてんだわ。そん時はランサーだったが、マスターに恵まれなくて勝つどころか死にまくってたぜ。…主に自害で」

「その時は私がキャスターで呼ばれてたのよ」

 

 

 並行世界の話がクーフーリン達が出て、ジョジョのD4Cが使えるんやなと内心納得する優作。

 上手くいけば前世と思っていた自分が元居た世界へも渡る事が出来るかもしれない。前世にて優作は母親こそ病気で先に亡くなってしまったが、父親は未だ健在だった。この転生で自分が前世にて消滅したのか、コピーでも残っているのかは確かではないが、もし消滅したのなら別の世界で無事にいる事を報告したい。まぁ、それをするのは現在の問題を解決してからになるだろうが…

 

 

「そういや、クー兄に槍をプレゼントしようと思うのですが…」

 

 

 平衡世界での自身の末路に遠い目になっていたクーフーリンへ優作が新たな話題をあげる。

 

 

「何だよ、勿体ぶって」

「その前にクー兄もなりきってもらいます」

「俺に服の力を与えるって事か?」

「然様、今のクー兄は魔術メインで武器を使った技らしい技を使えないっしょ?」

「まぁな」

「なんで、色々術を使えながら剣と槍の技も使える服を与えようと思います」

「ほぅ…」

 

 

 そう言って衣装ケースから取り出したのは首回りと袖口にファーが付いた茶色のジャケットに灰色のアンダーシャツ、柚葉色のズボンは皮で出来た大きめのベルトで留められていた。

 

 

「なりきりインストール『ディガー:リチャード・ナイツ』」

 

 

 服を光の玉へと変えてクーフーリンの身体へと押し当てると、ローブ姿だったクーフーリンはジャケットとズボンの姿に変わっていた。

 

 

「おぉ! こういう服は初めてだが、中々良いじゃねぇか!!」

「なりきった以上、クー兄はリチャードの力を使いこなせるべ。取り敢えずイメージしてみ」

「どれどれ…」

 

 

 優作の言葉に従い、クーフーリンはイメージすると彼の手には戦斧に似た槍が具現した。

 

 

「『ビーストランス』か、お目が高い」

「何となくで選んだが凄い槍なのか、これ?」

「ビーストランスは『クヴェル』……簡単に説明すると“壊れない道具”さね。これより強い槍はあるけど、壊れる可能性が有ったり、壊れないけど魔術関係の技能にペナルティが入る場合があるから、術を併用するならそこを考えた方が良いぜよ?」

「お、おう。良い事ばかりじゃ無ぇんだな…」

 

 

 優作の説明の後、脳内に浮かぶ武器や技・術の特徴を確認しながら、クーフーリンは自身にあった戦闘方法を構築していく。

 

 

「次はメディ姉ですな」

「服が変わった瞬間に霊基が変わったけど何をしたの?(私はメディ姉呼びなのね…)」

「メディ姉にも説明せんといかんかったな」

 

 

 今後は自身の能力について簡単に纏めた冊子でも作って渡そうと思いながら、優作はメディアになりきりについて説明する。

 

 

「…やろうと思えば神にすらなりきる事が出来るのね、無茶苦茶だわ…」

「なろうとは思わんけどね。そんで、希望とか有る?」

「いきなり言われても困るわ?」

「そうかいな? メディ姉ってまんま魔術師って感じやから近接戦闘は出来んとちゃう?」

「そうね。まぁ、近接戦闘が出来たならキャスターとして呼ばれないわ」

「そこで魔法剣士とか魔法闘士なんかになりきれば魔法は使えるし、敵が接近しても近接戦でボコれるで?」

「う~ん…」

 

 

 優作の勧めにメディアは考える。嘗て冬木で行われた聖杯戦争の中で自身より劣る魔術師の赤いあくま(・・・・・)に近接戦でボコられて敗れた過去を思い浮かべてしまう。結局アレが原因で、マスターである愛しき人を失う結果となってしまった。

 

 

「なら、お願いするわ。でも素人でもちゃんと動けるのよね?」

「モーマンタイ。なりきった後は脳内イメージで動きは解かるさかい、後は思い切りが大事さね」

 

 

 メディアの了承を貰い、優作が取り出したのは赤いとんがり帽子に赤い衣装、そして黒のロングブーツ。帽子とブーツは兎も角、衣装の下は腰まで届くスリットになっていた。

 

 

「ちょ、ちょっとマスター? この衣装は恥ずかしいのだけど…」

「ちゃんと対処はしてるから安心しぃ。なりきりインストール『ヴィエラ族:赤魔道士』」

「えぇ!?」

 

 

 取り出した衣服を光の玉へと変え、メディアに押し当てる。メディアの姿は顔を隠したローブ姿からとんがり帽子に赤い衣装そして、黒いブーツ姿になった。因みに、腰から下の太ももが見えてしまうスリット部分はスパッツで隠されていた。

 尚、フードで隠されていた顔は帽子となった事で見えており、綺麗な銀髪を靡かせた美しい顔が露わとなっていた。(因みに耳はエルフ耳だった)

 

 

「ちゃんと隠してくれているのね…(それでもスパッツとブーツの間の肌が見えるのは恥ずかしいけど…)」

「撮影オンリーなら兎も角、戦闘で動きまくる以上は丸見えは許しまへんで」

「それで、この服の特徴は?」

「赤魔道士は攻撃と補助の魔法を兼ね備える魔法使いさね。使える魔法は基礎系統ばかりだけど何よりの強みが『連続魔法』。因みに今の会話に於いては魔法=魔術と捉えて頂戴」

「……連続魔法ね…えぇっと……っ!? え? 2つの魔法を同時発動!?」

「尚、メディ姉が着ている服はヴィエラ族の服さかい、他に白魔法、緑魔法、精霊魔法、召喚魔法も連続魔法の対象さね。勿論、メディ姉自身の魔術も含めて」

「…む、無茶苦茶ね…」

「但し、魔力消費は2回分になるから注意……と言いつつこれをプレゼント」

 

 

 そう言ってメディアに3つ星がキラキラと浮かぶ飾りを手渡す。

 

 

「これは?」

「これは『スリースターズ』つって、魔法行使の際に消費する魔力を1にするアクセサリーやで」

「……1?」

「数字的な表現と捉えて頂戴。個人の魔力量を数字にした際に、誰でも消費量を1にする素敵道具と思ってくれれば良し」

「良しじゃないわよ! とんでもない道具じゃない!?」

【優作君…つまり、それを装備すると素人の魔術師でも大魔術を何発も使えるって事かい?】

「詠唱出来て発動できるなら可能ですな」

【あぁ~、僕たちの常識がガラガラと崩れ去っていく…】

 

 

 メディアに手渡したアクセサリーの性能に手渡された彼女は驚き、ロマニは遂に天を仰いだ。

 

 

「ま、スリースターズは置いといて。メディ姉に与えた服も覚えること沢山だから自分に適したスタイルを確立して下しぃ」

「イメージすれば浮かんでくるのね? ……って、多いわね…!?」

「その服は特殊さかい、他のジョブのアビリティも使えるかんね。その分複雑で情報も多いさな。自分に適したカスタムをして下さいな。あ、後これも渡しとく」

 

 

 忘れていた事を思い出したかの様に優作は新たに紋章の装飾品を取り出し、メディアに手渡した。

 

 

「……これは?」

「『ミスティシンボル』。装備すると魔術詠唱時間を半分に短縮出来るべ。魔法使いなら魔力消費と魔術詠唱時間は減らすのが鉄板やね」

「…もう何でもござれね」

 

 

 強力な効果のアクセサリーを両手に持ちながらメディアは遠い目になっていた。

 

 

:::::

 

 

「さて……この山の洞窟に大聖杯があって、セイバーの奴もこの奥に居る」

 

 

 学校跡地で準備を整えた優作達はメタルスラッグを走らせてクーフーリンの案内の元、目的の山へと向かっていた。途中残っていた案内掲示板に『柳洞寺』と書かれていた為、寺が山頂にあるのであろう。

 因みにメディアが加わった現在、車内には操縦者として優作、その後ろの2人席にオルガマリーとメディアが座っており、キューポラ部に防御要因としてマシュが掴まっている。クーフーリンはメタルスラッグの前方を走りながら索敵役を担っていた。

 間も無く洞窟の入口へと差し掛かろうとした時、上空から無数の赤い閃光が降り注いで来た。

 

 

「! っち、早速来やがったか!!」

「先輩、上ですっ!?」

「マシュ、盾を上に向けて! 迎撃は任せろ!!」

 

 

 クーフーリンとマシュがいち早く反応し、優作はキューポラ部分をマシュに防御させる様指示しながらバルカン砲が弾幕を張って降り注ぐ閃光を迎え撃つ。バルカン砲から放たれる弾丸と閃光がぶつかり合い爆発が起きるが、全て迎撃した為にメタルスラッグ自体に傷らしい傷は出来なかった。

 

 

「やれやれ、まさか全て撃ち落とされるとは…」

「っちぃ、言ってる側から信奉者の登場だ」

「……私は彼女の信奉者になった覚えはないがね」

 

 

 声の方を向くと男が立っていた。色素の抜けた白髪と褐色の筋肉質な腕が特徴的な男は今まで戦ったシャドウサーヴァントと同じく、黒い靄に包まれてはいるのだが、自我がちゃんと有るようで話し方はしっかりしていた。

 

 

「あら、彼も呼ばれてたのね?」

「メディ姉も知り合い?」

「彼も並行世界の聖杯戦争で争ったサーヴァントよ。話を聞く限り、ランサーとアサシン以外は面識が有るわ」

「な~る、最早同窓会やね?」

「こんな物騒な同窓会は結構よ…」

 

 

 メタルスラッグの車内にてメディアから知り合いである事を聞いた優作の同窓会発言にオルガマリーはげんなりした様子で意見した。

 

 

「ハッ、テメェは相変わらず聖剣使いを護ってんのか?」

「ふん、つまらん来客を追い返す程度の仕事はするさ」

「要は門番役じゃねぇか」

 

 

 噛みつく様な言い方のクーフーリンに対し、アーチャーは捻くれた返しをしてみせる。皮肉の応酬を見る限り、あの2人の関係は中々悪そうだ。

 

 

「まぁ、良いさ。テメェとの因縁にもそろそろ終止符を打ちたかったトコだしよ」

「望むところだが…その槍や服装はその戦車にいるであろうマスターのお陰かね?」

「良いだろ、これ? 貰った時点じゃ色々情報が多くて戸惑ったが、中々俺向きな力だ」

「サーヴァントに力を与えるか…やはり普通のマスターとは何処か違う様だ」

 

 

 ビーストランスをアーチャーに向けるクーフーリン、その横に戦車から降りた優作とマシュも並び構える。

 

 

「クー兄、悪いけどセイバーは皆で袋叩きにする予定やし、おいちゃん達も参加するで?」

「援護と防御は任せて下さい!」

「やはり全員で来るか……なら」

「あん?」

 

 

 優作達を前にして未だ構える様子の無いアーチャーは何かを待っている様に見えた。

 

 

「保険を掛けていて正解と云う訳だ」

「保険だと…?」

「■■■■■■■■■■――――!」

 

 

 天を割く様な咆哮が聞こえ、音の方を向くと建物を薙ぎ倒しながら、ナニカが轟音と共に此方に突っ込んで来るのが見えた。それに気付いたクーフーリンが、慌てた様子で警告の声を上げる。

 

 

「ヤべぇ、奴が来た・・・!?」

「奴って…」

「バーサーカーだ! 真名はヘラクレス、この聖杯戦争で最も厄介な奴だ!!」

 

 

 大英雄ヘラクレス、その名を知らない者はこの場に存在しない。それ程迄に有名にして強力な英霊が狂った状態で暴走列車の如く此方に向かって来ている。

 

 

「な、何で!? バーサーカーはこっちから仕掛けない限り襲ってこないんじゃなかったの!?」

「テメェ、バーサーカーを近くまで誘き寄せてたな?」

「フッ、流石に多勢に無勢だから利用させて貰っただけだ」

 

 

 オルガマリーがヒステリー染みた悲鳴を上げる中、クーフーリンはアーチャーを睨み付ける。睨まれたアーチャーは肩を竦めるだけだった。

 バーサーカーが此方に向かっている理由は至極簡単、アーチャーが遠距離からバーサーカーがいた廃城へと狙撃。そのままバーサーカーの近くに矢を着弾させ続け、その跡を追わせたのだ。

 

 

「おぉう…2方面作戦かいな」

「慌てた様子で無い様だけどマスター、勝算は有るの?」

「ちょっと、如何するのよ!? ヘラクレス相手なんて流石に無茶でしょ!?」

 

 

 対するはシャドウサーヴァントのアーチャーとバーサーカー。冬木大橋でのアサシン&ランサー戦を思い出すが、今回の相手は中々手強そうだ。

 

 

「マシュとクー兄でアーチャーを相手してくれる? 御供は付けるさかい」

「坊主と魔女だけでバーサーカー相手するのか? 幾等なんでも無茶じゃねぇか?」

「おいちゃんにはこのメタルスラッグがあるし、とっておきもまだ有るべ」

「そうかい、なら後で泣き言無しだぜ?」

「先輩、無茶しないでくださいね?」

「モーマンタイ。って事でマシュ達の援護宜しく頼むヨシツネ、ドゥン!!」

 

 

 2本の封魔管を取り出して呼び出すは2体の仲魔。

 召喚の光が消えた後には烏帽子を被った鎧武者姿のヨシツネと燃え盛る虎の様な獣であるドゥンが立っていた。

 

 

「っしゃあ! いくぜ!!」

「アオーン、任せろサマナー!」

「っく…どれだけ使い魔を持っているのだ君は!!?」

 

 

 召喚と同時にヨシツネがアーチャーへ抜いた2振りの刀で切り掛かり、アーチャーが中華剣で受け止める。しかし、そこへドゥンがファイアブレスを放ち、アーチャーは素早く下がりながら弓へ持ち替えて迎撃を開始する。放たれる矢を撃ち落としながらヨシツネとドゥンが追跡し、その後をマシュとクーフーリンも続いた。

 

 

「マシュ達は戦闘開始した訳だし、そいじゃあ此方も…」

 

 

 メタルスラッグに戻った優作は車体を転進させて向かって来るバーサーカーを確認する。身長2メートルを超える筋骨隆々の巨体で瓦礫を吹き飛ばしながら向かって来るバーサーカーはまるで人間戦車の様であった。

 

 

「おっぱじめようかねぇっ!!」

 

 

 バーサーカーに向けてバルカン砲を向け、戦いが始まった。




元ネタ
>シモ・ヘイヘ(出典:リアル)
言わずと知れたフィンランドの白い死神。
リアルチートの一人であり、アンサイクロペディアも真実しか書けないレベル。

>ルーデル(出典:リアル)
正確な名前は『ハンス・ウルリッヒ・ルーデル』。
第2次世界大戦で活躍したドイツ空軍パイロットで人類史上最も多くの機甲戦力を破壊したと思われる戦車撃破王。
シモ・ヘイヘと並ぶリアルチートの一人であり、アンサイクロペディアも真実しか書けないレベル。

>D4C(出典:ジョジョの奇妙な冒険 Part7 スティール・ボール・ラン)
少年ジャンプの漫画『ジョジョの奇妙な冒険 Part7 スティール・ボール・ラン』の登場人物である、ファニー・ヴァレンタイン大統領の持つスタンド能力。
何かの間(ガラス片や水滴のような液状物でも可)に挟まる事でそっくりそのままの少しだけ違う世界を行き来できる能力を持つ。

>リチャード・ナイツ(出典:サガフロンティア2)
スクウェア・エニックスのRPGゲーム『サガフロンティア2』の登場人物。
原作の主人公の一人であるウィル・ナイツの息子であり、偉業を成し遂げた父と比較されることを嫌い、何物にも捕らわれず自由奔放に生きる生活を選んだディガー。
卓越した剣と槍の腕を持ち、術の資質は父を超える。
一族の宿敵であるエッグの行方を追っていた際に意識を支配され掛け、自ら命を絶った。

>ビーストランス(出典:サガフロンティア2)
『サガフロンティア2』に登場する槍武器。
クヴェルである為に壊れる事が無い。

>クヴェル(出典:サガフロンティア2)
『サガフロンティア2』に登場するある物体の総称。
人類が繁栄する前の先史文明が作り出したオーパーツであり、一部地域を除いて貴重な品として扱われている。


>赤魔道士(出典:FFシリーズ)
スクウェア・エニックスのRPGゲーム『ファイナルファンタジー(FF)シリーズ』に登場する職業。
基本武器は剣やレイピアであり、黒魔法、白魔法の初級術他、バフ・デバフ魔法が集まった赤魔法を使うが、何よりの特徴が連続して魔法を発動する「連続魔法」である。

>ヴィエラ族(出典:FFシリーズ)
『FFシリーズ』に登場する種族。
ウサギのような長い耳を持ち、女性しかいない種族で俊敏で集中力に長け、生まれながらにハンターの資質を持っている。また、精霊と交信する事が出来る為この種族しか成れないジョブが有る。


>スリースターズ(出典:FFシリーズ)
『FFシリーズ』に登場するアクセサリー。
装備するとどんな魔法を行使してもMP消費量を1固定にする。

>ミスティシンボル(出典:テイルズオブシリーズ)
バンダイナムコのRPGゲーム『テイルズオブシリーズ』に登場するアクセサリー。
装備すると魔術系詠唱時間を半分にする。


>ヨシツネ ドゥン(出典:デビルサマナーシリーズ他)
アトラス作品に登場する悪魔。
本作のヨシツネは他シリーズ要素が加わっている事から…あっ(察し)


Q、クーフーリンとメディアに着せた服の理由は?
A、似合ってると思った作者の趣味やで。(だからそれぞれの衣装を着たイラスト誰か描いて下さい)←要求乞食

Q、スリースターズとミスティシンボルを装備したメディアって無敵過ぎない?
A、仲間を強化して何が悪い?


次回は9月30日投稿予定。
感想コメント、意見・質問お待ちしております。


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2方面戦闘

台風ヤバイ。


「おら、こっちだデカブツ!!」

「■■■■■■――ッ!!」

 

 

 バルカンを向かって来るバーサーカーへと集中砲火しながら優作はマシュ達から離れる様にメタルスラッグを走らせる。攻撃を受けたバーサーカーはメタルスラッグの方へと足を向け、追い掛けだした。

 弾丸はバーサーカーに命中しているのだが、若干怯みこそするがダメージを受けている様子が無かった。

 

 

「バルカンがまるで効いてないんすけど…」

「ヘラクレスは常時発動型宝具の御陰で“一定ランク以上の攻撃”をしないとダメージを受けないわ」

「マジすか…」

「更にその超えるランクの攻撃で撃破しても“11回は復活”するの。しかも同じ攻撃では以降ダメージを受けないから注意なさい」

「防御系チート乙」

キュ~ウ(クソゲー確定ですね)フォウ(これは)…」

 

 

 メタルスラッグのバルカン砲が効かないとなるとヘビーマシンガンやレーザーガンは無力。ロケットランチャーやアイアンリザードも怪しい所だ。

 ある程度マシュ達が戦っている場所から距離を離したところで優作は反撃を開始した。

 

 

「おらぁ、吹っ飛べ!!」

 

 

 メタルスラッグの主砲から放たれた砲弾はそのままバーサーカーに直撃した。爆発によってバーサーカーの上半身は吹き飛び、残った下半身は吹き飛びながら瓦礫の上に倒れ伏した。

 

 

「先ずは1回!」

「身体が再生してるわよ!!」

「早いな…だが御代わりのグレネードだ、貰ってけぃ」

 

 

 吹き飛んだ上半身が徐々に再生し、立ち上がろうとしたバーサーカーにキューポラからグレネードを投げ付ける。グレネードの爆発に因ってバーサーカーは粉々になった。

 

 

「これで2回っと」

 

 

 主砲の装填部に先が鋭い砲弾を装填し、再び再生し始めるバーサーカーから距離を取りながら照準を頭部へと合わせる。

 

 

アーマーピアサー(A.P.)発射ぁ!!」

 

 

 全身が再生し、立ち上がるバーサーカーの頭部を徹甲弾が消し飛ばす。

 

 

「メタスラで効果有る兵器はこれで終わりだべ」

「ちょっとぉ!? まだ3回しか殺せてないわよ!!?」

「バーサーカーを3回殺した時点で凄いのだけど…」

 

 

 各々のコメントを聞きつつ、優作は一人メタルスラッグから出てスーパーグレネードを取り出す。

 

 

「メディ姉はバーサーカーが戦車まで来れないように防御陣の構築宜しく。余裕が有ったら攻撃用の魔法も準備しててね?」

「1人で行く気?」

「心配しなさんな。此処で倒れる気なんてこれっぽっちも無いさね」

「そう、ならせめて補助魔法だけでも掛けておくわよ?」

 

 

 メディアに赤魔法のバリアを掛けて貰い、メタルスラッグから降りた優作は再び立ち上がったバーサーカーをグレネード弾で吹き飛ばす。木っ端微塵になったバーサーカーを尻目に、一発撃っただけのスーパーグレネードを捨てて新たに『S』と書かれた箱を取り出す。

 

 

「ショットガンの前にストーン、これで5回」

 

 

 箱からショットガンを取り出すが、先にバーサーカーの顔面に岩をブン投げて頭を叩き潰して殺す。

 

 

「そんで6回」

 

 

 頭だけを再生するだけで済んだからか、再生させながら優作に殴り掛かろうとするバーサーカー。しかし、ショットガンをぶっ放して迫りくる拳ごとバーサーカーの上半身をまた吹き飛ばしつつ、ショットガンを捨てて『Z』と書かれた箱から刀を取り出す。

 再生したバーサーカーは近くの瓦礫を持ち上げて優作へと投げ付けてきたが、優作はそのまま刀を一振りする。

 

 

「ザンテツソードに斬れぬモノなど無い(多分、こんにゃくは斬れないんだろうけど…)」

 

 

 優作が斬り裂いた後には彼の横を真っ二つになった瓦礫が通り過ぎ、投げたバーサーカーも頭から一刀両断されて崩れ落ちた。

 

 

「これで7回になるが…まだ立ち上がるか。12回再生の能力持ちとか (´・ω・`)ウラヤマシス」

 

 

 真っ二つになった身体を再生させながら尚、立ち上がってくるバーサーカーに優作は驚きの声を漏らした。

 しかし、それでも彼は慌てる様子が無い。

 

 

「おいちゃんには似合わないんやけど…しょうがない。メインチェンジ、『ワンマンアーミー:ラルフ・ジョーンズ』」

 

 

 優作の言葉と共に学生服から赤いバンダナとコンバットスーツ姿へと変わる。

 

 

「ラルフの超必殺技3連発いってみようかぁっ!! ファイヤーッ!!」

「■■■■■!?」

 

 

 一瞬ポーズを決めた優作はそのままバーサーカーへ突っ込みながらフックを打ち込み、身体をくの字に曲げさせると振り向きざまの裏拳を下がった顔へと叩き込む。

 いままで兵器を使って攻撃していた本人がまさか直接殴りかかって来るとは思わなかったのであろう、更に自身にダメージを与えている攻撃で有る事にバーサーカー且つシャドウ化によって殆どの理性を削られていた彼も困惑の声を零してしまった。

 しかし、優作の攻撃は是で終わらない。無数の拳の連撃をバーサーカーに叩き込んでいく。

 

 

「破壊力ゥッ~!!」

 

 

 止めとばかりに爆発混じりのアッパーがブチ噛まされ、バーサーカーは顔面を吹き飛ばされながら宙を舞った。

 宙を舞いながら頭を再生させていくバーサーカー。地面に落ちる前には再生が終わり、両足で着地するがそんな彼の目の前には優作の姿があった。

 

 

「とっておきだぜ!!」

「■■ッ!?」

 

 

 突進してきた優作は着地したばかりで態勢が整っていないバーサーカーを押し倒してマウントポジションを獲る。

 

 

「タイマンはったらぁっ!!」

 

 

 馬乗りになった状態で両腕で交互にバーサーカーの顔面を連続して殴打していく。

 

 

「もういっちょう!!」

 

 

 バーサーカーの顔面をボコボコにしながら、優作は止めとばかりに右腕を大きく振りかぶり、渾身のパンチを打ち込む。拳が叩き込まれると同時に再び爆発してバーサーカーは地面に頭を擦り付ける様にして吹き飛ばされた。因みに頭は原形を留めていない。

 

 

「ヘラクレスを拳で2回殺してるんだけど…?」

「私は見てない、何も見てないわ…」

キューフォーウ、フォキュウ(これは人間辞めてますね、間違いない)

 

 

 メタルスラッグの車内で一部始終を見ていたメディアは呆然としながら声を漏らし、オルガマリーに至っては現実逃避をしていた。

 

 

「最後にキツイのぶちかましてやるかぁ!!」

「っ!? ……■■■」

 

 

 頭を再生させて立ち上がるバーサーカーを前に優作は体を後ろに大きく捻る。彼の周囲は闘気で空間が歪んでいる様に見えた。

 彼の構えにバーサーカーは攻撃よりも防御を取った。彼の攻撃を腕を犠牲にしてでも受け止め、そこから反撃に移ろうという考えであったのだが、それは大きな間違いだった。

 

 

「ギャラクティカファントム!」

 

 

 自身の力を最大限に込めた後、大きく振りかぶったラリアットの様なパンチを腕を前にして構えるバーサーカーへと叩き込む。優作の拳がぶつかるや、丸太の様に太いバーサーカーの腕をブチ破り、そのまま彼の胴体へと打ち込まれた。

 

 

「どっか~ん!!」

 

 

 優作の叫びと共に大爆発が起こり、バーサーカーは吹き飛んでいく。瓦礫に叩きつけられた彼は腕が消し飛んで無くなっており、胴体に大きな穴がポッカリと空いていた。

 

 

「まだ来るかい?」

 

 

 構える優作を前に尚も立ち上がろうとするバーサーカーであったが、遂に崩れ落ちて金色の粒子となって散っていった。

 彼が消えた後には聖晶石が3個落ちていた。

 

 

「合計10回か、残りはセイバーにでも殺られてたかね?」

「結局私の出番は無かったわね?」

「済まんね、メディ姉。まぁ、セイバー戦で頼りにしてるさかい」

「正直マスターだけでなんとかなる気がするわ…サーヴァントで無いのにヘラクレスを倒すなんて(全力出して戦っている様子で無かったし、多分これでも本気では無いのでしょうね…底が知れなさ過ぎるわ…)」

 

 

 呆れた様子のメディアから意見を貰いつつ、聖晶石を拾う優作。

 離れた場所で戦闘音が響いている事から、まだマシュ達は戦っている様だった。

 

 

:::::

 

 

「テメェも永遠に終わらないゲームなんざ、退屈だろう? 何からセイバーを守っているかは知ら無ぇが……ここらでケリ、着けようやぁっ!!」

「その口ぶりでは事のあらましは理解済みか。大局を知りながらも自らの欲望にのみ熱中する……魔術師になってもその性根は変わらないと見えるなっ!!」

「生憎坊主の御陰で今のオレは剣も槍も使えんだ、何時もと同じだと思うなよ!!」

 

 

 ビーストランスで無数の突きを繰り出すクーフーリンに対し、アーチャーは2振りの中華剣である『干将・莫耶』でいなしながら互いに皮肉交じりの言葉をぶつけ合う。

 

 

「そらっ、余所見してて良いのかぁ!!」

「む…」

 

 

 そこへヨシツネが横薙ぎに斬り掛かり、それをアーチャーはしゃがんで避ける。クーフーリンがしゃがんだ彼へ突き掛かるが、曲げた脚をバネに後方へ素早く跳躍した。

 

 

「オレサマオマエマルカジリ!!」

「喰われる気は無いのでね!!」

 

 

 真横から突然現れたドゥンがアーチャーの喉笛へ喰い付こうとするが、彼は前に飛び込む様に前転して避けた。

 

 

「はぁあっ!!」

「盾と蹴りで攻めるか…中々変わっているが甘い」

 

 

 アーチャーが立ち上がる処にマシュが十字盾を横薙ぎに打ち掛かるが受け流され、続ける回し蹴りも避けられてしまった。

 

 

「だが4対1では流石にキツイものがある、ならば…」

 

 

 手元の干将・莫耶を“2振り共”ドゥンに向けて投擲した。

 ドゥンを斬り裂くべく飛んで来る剣に対し、ドゥンは横に跳躍して避ける。

 

 

「武器ヲ投ゲルトハ変ワッタ奴」

「まだ終わりではないぞ」

 

 

 アーチャーの手元には投げた筈の干将・莫耶が有り、それをまた投擲してきたのだ。

 再び避けようとした時…

 

 

「グガァッ!?」

 

 

 ドゥンの背中をナニカが斬り裂く。

 痛みと共に回転しながら飛んでいく中華剣の一振りが見えた。

 

 

「まだ来るぞ、ドゥン!!」

 

 

 ドゥンの背後でヨシツネが何かを刀で弾いた。見ると避けた筈の干将・莫耶の片割れがブーメランのように回転しながら飛来していた所だったのだ。そして前からもアーチャーが投げて来たモノとドゥンの背を斬った片割れの3振りが向かって来ている。

 

 

「助カッタゾ、ヨシツネ」

「気を付けろ、また来るぞ!!」

 

 

 ドゥンとヨシツネを囲む様に4振りの干将・莫耶達は回転しながら飛び回り、時折2体に向けて飛来してくる。

 

 

「このまま鶴翼三連で潰したいところだが、使い魔の動きを抑えただけで良しとしよう。次は…」

 

 

 新たに手元へ干将・莫耶を投影した所へ詠唱を終えたクーフーリンの魔術が襲い掛かる。

 

 

「水・水・樹・音で天雷ってなぁ!!」

「くっ…、厄介だなその力は!!」

 

 

 アーチャーの真上に雷光が輝き、雷鳴が轟き出す。そして幾つもの雷が集まり、彼一人に纏まって降り注ぐ。

 堪らずその場から離れて回避するし、降り注ぐ雷はアーチャーが立っていた辺り一帯の瓦礫ごと吹き飛ばした。

 

 

「此方も行きますっ、武装錬金!!」

「冬木大橋で使っていた武器か…」

 

 

 飛び散る瓦礫の中からへバルキリースカートを展開したマシュが急襲する。4本の処刑鎌から繰り出される連斬を防御と合わせて避けていくアーチャーだったが、マシュは周辺の大きな瓦礫を飛び回りながら3次元機動を駆使して何度も斬り掛かっていく。

 

 

「中々素早い様だが、その程度で惑わされると思うな!」

 

 

 マシュの斬撃を避けながらアーチャーは投影した剣を弓につがえ、彼女へ放っていく。アーチャーから放たれるやを時には避け、当たりそうな矢はバルキリースカートで弾いていく。

 しかし、アーチャーはバルキリースカートが可動肢で動かしている事からその部分が脆い事を見抜いていた。

 

 

「そこだ」

 

 

 マシュには当たらない射線での連射。アーチャーの狙いが自身で無く、可動肢であると気付く頃には4本の可動肢を全て破壊されていた。

 

 

「バルキリースカートが!?」

「貰ったぞ」

 

 

 動揺した一瞬の隙を見逃す事無く、アーチャーはマシュへと矢を幾つも放っていく。

 すかさずマシュは十字盾で防ぐが、それは囮であった。

 

 

赤原猟犬(フルンディング)

 

 

 放つ矢の中に赤い魔剣を混ぜて彼女の後方へと放つ。マシュの横を通り過ぎた赤い矢は反転して彼女の背中目掛けて迫って来る。

 

 

「嬢ちゃん、後ろだ!」

「お願いします、トモエ!!」

「っく、その力があったな。厄介な…」

 

 

 クーフーリンの呼びか掛けで後ろ攻撃が来る事を察したマシュはトモエを召喚し、その薙刀でアーチャーの放った赤い矢を破壊した。

 

 

「やたら嬢ちゃんを狙ってるが、何か恨みでもあんのか?」

「別に。只、妙な技を使う相手を先に潰したいだけだ」

「オレにはそうは見え無ぇな。お前さんがそうまでして熱心に狙うって事ぁ、嬢ちゃんは“セイバーにとってよっぽど都合の悪い敵”。つまりオレ達にとっちゃ、“切り札”って事で良いんだよな?」

「……!」

「その顔と沈黙は肯定と受け取るぜぇ!!」

 

 

 クーフーリンの言葉にアーチャーは眉を寄せながらも彼の槍を新たに投影した干将・莫耶で弾く。

 

 

「クーフーリンさん、それは一体?」

「セイバーを守る此奴が必死になって嬢ちゃんを狙ってんだ。て、事は嬢ちゃん本人、若しくは嬢ちゃんが持つ盾に何か有ると思うのは当然だろ?」

「アーサー王に所縁が有るのでしょうか?」

「かもな。それかどっかでやった聖杯戦争で苦い思い出が有るのか…どっちにしろ」

 

 

 槍に闘気を込めるクーフーリン。ビーストランスの矛先に闘気が渦を巻いていく。

 

 

「此奴を倒して実際会ってみれば判るぜ!!」

「むぅっ!?」

「喰らいやがれっ、活殺獣閃衝!!」

 

 

 クーフーリンが槍を突き出すと共に渦巻いていた闘気が激流となってアーチャーへと襲い掛かる。

 

 

熾天覆う七つの円環(ローアイアス)!!」

 

 

 干将・莫耶では防げないと判断したアーチャーは自身の前に7枚の花弁が集った様な盾を投影する。闘気の激流が盾へとぶつかり、1枚づつ盾の花弁を砕いていく。

 

 

「くぅ…」

「流石に全て砕けるとは思ってはないぜ。だがな…」

「クーフーリンさん、続きますっ!」

 

 

 クーフーリンの背後からマシュが現れ、アーチャーへと飛び掛かる。

 

 

「トモエ!!」

 

 

 マシュが呼びだしたトモエが黒点撃を残り4枚となった花弁の盾へと叩き込む。砕けたのは2枚だったが、残った2枚の内1枚には全体に罅が生えていた。

 

 

「良くやった嬢ちゃん、残りは任せな!!」

 

 

 マシュが下がったのを確認しながら、自身の前に魔力を編み込んでいくクーフーリン。繰り出すは響き渡る轟音波。それを魔力で纏め上げ、集った音のエネルギーは徐々に高熱を帯びていく。

 

 

「ソニックバーナー!!」

 

 

 高熱の音波砲が放たれ、残った2枚の盾を破壊し尽くす。

 熾天覆う七つの円環(ローアイアス)が無くなったアーチャーへマシュが蹴りを突き出して攻撃するが受け止められてしまった。

 

 

「君自らが突っ込んで来るのは愚策だったな!!」

「いえ、まだ終わりませんっ! バルキリースカートッ!!」

「なっ!? それは破壊した筈…ぐあっ!!」

 

 

 攻撃を受け止められた事に因り隙が出来たマシュへ干将・莫耶を構え、斬り掛かろうとするアーチャー。しかし、破壊した筈のバルキリースカートが展開された事によって逆に斬り裂かれてしまう。

 

 

「くぅ…何故直っている…?」

「残念ですが、武装錬金には自動修復機能があります。完全に破壊するのは不可能です」

「成程…甘く見ていた様だ…」

 

 

 斬り裂かれた肩を抑えるアーチャー、それでも霊核といった致命的な個所へのダメージを受けていない当たりかなりの強者である事が解かる。

 

 

「済マン、空飛ブ剣ニ手間取ッタ」

「まぁ、全部ぶっ壊してやったけどな?」

 

 

 アーチャーへ対峙するマシュ達の元へドゥンとヨシツネが駆け付ける。

 

 

「これでまた4対1か…切り札を切りたい所だが…」

「ハッ、そんな時間を与えると思ってんのか?」

「だろうな……だが」

 

 

 アーチャーは干将・莫耶を構え直す。

 

 

「私は負ける訳にはいかんのだ」

「そうかよ、だがこれで終わりだ。デルタペトラ!!」

「!?」

 

 

 クーフーリンの前方を起点に光の粒子がアーチャーに向けて放出される。直ぐ様その場を離れようとしたアーチャーだったが、脚部に光の粒子を浴びてしまい、受けた部位が石化していく。

 

 

「足が…石に!?」

「これで逃げれ無ぇぞ!!」

「くぅ…石化呪文だと!? 石化はライダーの十八番であろう!!」

「知らねぇな、兎に角テメェを倒すチャンスだから覚悟しな!!」

「くそっ、熾天覆う七つの円環(ローアイアス)

「ちぃっ。またそれか…嬢ちゃん、また援護をたの…「槍の兄ちゃん、俺に任せな!」ヨシツネ!?」

 

 

 再び熾天覆う七つの円環(ローアイアス)を展開したアーチャーに対し、ヨシツネが前に出た。

 

 

「ヒートライザにチャージ、そして…」

 

 

 自身に2種類のバフを掛け、2振りの刀を構えるヨシツネ。

 

 

「奥義、八艘飛び! 耐えれるもんなら耐えてみなぁっ!!」

 

 

 放つは後世でも語られる自身が行った妙技。高速跳躍しながら行う8回連続斬撃は自身に掛けたバフの効果も加わり斬撃が振るわれる度に盾が砕け散っていく。

 

 

「な!? ……どれだけの力を…っぐがあぁ!!?」

 

 

 ヨシツネは8回の斬撃を放った、1回の斬撃毎に1枚の盾が砕け散る。

 つまり、残った1回はアーチャーの身体を斬り裂いた。

 

 

「っしゃあ! 後は決めてやれ、槍の兄ちゃん達!」

「やるじゃねぇか! 行くぜ、嬢ちゃん!!」

「はい! 行きます!!」

「オレサマモイクゾ!」

 

 

 熾天覆う七つの円環(ローアイアス)を破ったヨシツネの合図に2人と1体が駆ける。

 

 

「バルキリースカートッ!!」

「防ぎきれん…っぐぅ!?」

 

 

 4本の可動肢を巧みに操りアーチャーに斬り掛かる。脚を動かせないアーチャーは干将・莫耶で防御せざるを得ないが、それがマシュの狙いだった。そのまま武器ごと彼の両腕を封じたマシュは十字盾で胴体を殴り付ける。

 

 

「アオォオ~ン、斬ラレタオ返シダ!!」

 

 

 続くドゥンが吹き飛ぶアーチャーに猛突進を仕掛け、よろめく彼を追撃する。その巨体から繰り出される突進に轢き飛ばされたアーチャーは宙を舞う。

 

 

「最後、決めさせてもらうぜぇっ!!」

「くそ…」

「無双三段ッ!!」

 

 

 アーチャーは武器で防御するが、クーフーリンの薙ぎ払いを無理な体制で受けた為に干将・莫耶の全体に罅が生える。そして続く薙ぎ払いによって完全に砕け散ってしまった。

 新たに投影する暇無く、止めとばかりに繰り出された突きがアーチャーの霊核を貫く。

 

 

「こふっ…ここまでか…」

 

 

 連携『八艘バルキリー猛突三段』が決まり、崩れ落ちるアーチャー。

 

 

「オレの勝ちだな」

「その様だ。やれやれ…自慢の槍よりその槍の方が強いのではないかね?」

「言ってろ…まぁ、クラスを無視した力を得れる訳だからな。使おうと思えば剣も使えるしよ」

「剣も…? つくづく規格外の様だな君達のマスターは…やれやれ、これから相手するであろう彼女も災難だ」

 

 

 消滅が始まり、アーチャーの身体の端が金の粒子となって散り始める。

 

 

「結局、何からセイバーを守ってんだ?」

「それは彼女に勝ってから聞くと良い」

 

 

 アーチャーの脚から腰、そして胴体が消えていく。この地に現界する時間も僅かの様だ。

 

 

「次会えるなら君達のマスターに召喚されたいものだな…彼ならもしかしたら…」

 

 

 そう言い残して完全に消滅するアーチャー。

 彼が倒れていた場所には3個の聖晶石が落ちていた。

 

 

「ちっ、言うだけ言って消えやがったか」

 

 

 聖晶石を回収する頃、優作達が乗ったメタルスラッグが近くまで来ていた。

 

 

:::::

 

 

「洞窟内にも敵が出るとか勘弁して欲しいわ~」

「そう言っている割には余裕で処理してるんだけど?」

「まぁ、所詮ザコやし」

 

 

 クーフーリンの案内で柳洞寺の裏にある洞窟へと入った優作達だったが、洞窟内でも竜牙兵や悪霊に遭遇した……のだが、優作は落ち着いた様子で手元の刀で尽く斬り捨てていく。

 洞窟内はそれなりに広かったが、キャノン砲などで崩れる事を恐れメタルスラッグは回収し、全員徒歩で進んでいた。

 

 

「そろそろ大聖杯に辿り着くぜ?」

「なら軽く休憩すんべ。所長さんとメディ姉は兎も角、マシュとクー兄はアーチャーをブッ倒して疲れてるっしょ?」

【そうだね、この特異点の元凶に挑む訳だ。万全の状態にしてなきゃ】

「疲れている時は甘味が一番さね」

 

 

 簡易コンロで湯を沸かしつつ、袋から小箱を取り出す優作。小箱には陶器製の小さなカップが幾つか入っている。

 

 

「出来立て熱々でも冷やしても美味しいフルーツグラタンやで~」

「お菓子まで用意してるのね、持って無いモノは無いのかしら?」

【あぁ~、また食べれない生殺し状態か…優作君、これもお願いして良いかい?】

「あいあい。取り置きはあるさかい、待ってんしゃい」

 

 

 スプーンを添えて各自に手渡す中、メディアが呆れ、おあずけ状態のロマニは再び悲観の声を漏らした。

 

 

「これも美味しいです、先輩」

「美味ぇ美味ぇ」

「料理まで上手なのね?」

キュウキュ、フォウ(う~ん、甘露甘露)♪」

 

 

 各々がフルーツグラタンに舌鼓を打つ。

 優作が淹れたお茶もフルーツグラタンに良く合った。

 

 

「優作、ちょっと良いかしら?」

「なんじゃい、所長さん?」

「その……そう、カルデア所長として伝えたい事があって…それに、部下である貴方とコミュニケーションは取るべきでしょう?」

 

 

 茶を啜りながら先にいるアーサー王はどんな人物なのだろうと考えていた優作にオルガマリーが声を掛けて来た。

 

 

「貴方には今回、色々助けられたわ。竜牙兵から救って貰ったし、貴方の戦車が無ければ調査は更に時間が掛かっていたでしょうし…」

 

 

 オルガマリーの感謝の言葉に優作は少し驚いた。プライドの高い彼女だからそう云った事は言わないだろうと思っていたからだ。

 

 

「やれる事をやっただけっすけどね。でも所長さんも頑張ってるっしょ?」

「…え?」

「おいちゃんより若いのにカルデアなんてでっけぇ組織の長を務めてんだからさ? 常日頃からプレッシャーやらと戦う日々やろ? 普通に尊敬するで?」

「……でも私、貴方に騒いでばかりで…」

「いきなりこんな世紀末世界に飛ばされて冷静なままな奴なんてそうそういないっしょ? 所長さんは慌てながらも決して自暴自棄にならずに己のやるべき事をしてたやん。上に立つ者としての責務をしっかり果たしてると思うで?」

「………」

「おいちゃんが思うに所長さんは無駄に張り詰めてるさね。だから肩の力をもっと抜いて部下やらおいちゃん達を頼りんしゃい」

 

 

 今度はオルガマリーが驚く番であった。若くして当主を引き継いだ彼女はこれまで何度もプレッシャーや責任感に押し潰されそうになった。それでも耐えてここまで来たが、誰も褒めてくれる事は無かった。

 聞こえるのはお飾りだの親の七光りだのそんな影口ばかり、それでも前に進み続けたのは一族の意志を貫きたい為か、己が何かを成し遂げたい為か…

 

 

「あ、有難う…」

 

 

 唯、彼女は誰かに認められたかったからだ。

 

 

「正直、一般採用だったから何も出来ないだろうと思ってたけど…そんな思いもこの道中で消え去ったわ。……でも本当に英霊じゃ無いのよね?」

「だから能力持ちなだけの一般人です~」

「……一般人かどうかは兎も角、貴方をカルデアのマスターとして認めます。このミッション、最後までお願いするわ」

「一般人である事も認めてくれませんかね?」

 

 

 若干頬を赤くしたオルガマリーがそっぽを向きながら言うが、照れている様子が良く分かった。

 しかし、マスターとして認めてくれたが、一般人扱いしてくれないオルガマリーに優作は抗議の声を挙げるのだが…

 

 

「無理よ」

【無理だね】

「ヘラクレスを葬れる人間を一般人とは呼ばないわ」

「エクストラクラス『なりきり師』のサーヴァントってなら納得するぜ?」

「御免なさい先輩、流石に擁護出来ません…」

キュウフォウフォウ(テメェは一般人じゃねぇ)!!」

「やだ…おいちゃん四面楚歌?」

 

 

 全員一致の意見に優作は肩を竦めるしかなかった。




元ネタ
>レーザーガン(出典:メタルスラッグシリーズ)
『メタルスラッグシリーズ』に登場するパワーアップアイテム。
攻撃範囲は極端に狭いながらも歩兵程度なら貫通するレーザーを撃つ。
アイテムアイコンは『L』。

>アイアンリザード(出典:メタルスラッグシリーズ)
『メタルスラッグシリーズ』に登場するパワーアップアイテム。
モデルは『ルパン三世』に出てきた鉄トカゲで、地形に沿って疾走するミサイルを撃てる。
アイテムアイコンは『I』。

アーマーピアサー(A.P.)(出典:メタルスラッグシリーズ)
「メタルスラッグシリーズ」に登場するキャノン系パワーアップアイテム。
放物線を描くキャノンに対し、直線状に飛んでいく。
また、威力は通常のキャノンより2倍ある。

>バリア(出典:FFシリーズ)
『FFシリーズ』に登場する補助魔法。
対象にした1体の武器・魔法防御力を上昇させる。

>ショットガン(出典:メタルスラッグシリーズ)
『メタルスラッグシリーズ』に登場するパワーアップアイテム。
射程が短く連射は出来ないが、単発では抜群の攻撃力を誇る。
アイテムアイコンは『S』。

>ストーン(出典:メタルスラッグシリーズ)
『メタルスラッグシリーズ』に登場するグレネード系パワーアップアイテム。
良くバウンドするが爆発しない。

>ザンテツソード(出典:メタルスラッグシリーズ)
『メタルスラッグシリーズ』に登場するパワーアップアイテム。
ショットガンよりも攻撃範囲は狭いが、高火力且つ敵弾を消す斬撃波を放つ。
モデルは『ルパン三世』に登場する『斬鉄剣』か同会社の格闘ゲーム『月下の剣士』に登場するキャラ『斬鉄』の技が由来と思われる。
アイテムアイコンは『Z』。

>ラルフ・ジョーンズ(出典:KOFシリーズ他)
SNK(現・SNKプレイモア)の対戦型格闘ゲーム『ザ・キング・オブ・ファイターズ(KOF)』シリーズ等に登場するキャラ。
ハイデルンの率いる傭兵部隊に所属する傭兵で、階級は大佐。
とにかく細かい事を嫌う豪快な性格で常にマイペースな熱血漢。事務仕事は相棒に押し付けたりと大佐なのか疑ってしまうほどいい加減さがあったりするが、与えられた任務は確実に熟し、部下の為なら上司にも食って掛かる熱い男である。
性能面に関しては打撃技に特化したキャラであり、堅実に相手を抑え込みつつ、隙あらば大ダメージを叩き込む戦法は中毒性が高く、性能の良い通常技を的確に振り回すだけでも意外と勝てるので初心者から上級者まで使い手を選ばない強キャラである。

>バリバリバルカンパンチ(出典:KOFシリーズ他)
ラルフ・ジョーンズが使用する必殺技の一つ。
突進しながら打ち込んだ後、火の粉を散らしながらマシンガンの如く超高速のパンチを繰り出し、最後に爆発混じりのアッパーで決める。
尚、『メタルスラッグシリーズ』では特殊格闘攻撃として使用でき、戦車や壁などといった兵器や障害物も高速で粉砕でき、中にはこれだけでボスを倒せてしまったりする(強い)

>馬乗りバルカンパンチ(出典:KOFシリーズ)
ラルフ・ジョーンズが使用する必殺技の一つ。
相手を押し倒してマウントポジションを奪い、そこからバルカンパンチを喰らわす。
相手をロックするため、基本的にはバリバリバルカンパンチよりも使い易い。
尚、シリーズによってフィニッシュ時におけるボイスが異なっており、本作にて主人公君が言った台詞はお気に入りの台詞を組み合わせている。

>ギャラクティカファントム(出典:KOFシリーズ)
ラルフ・ジョーンズが使用する必殺技の一つ。
体を後ろに捻ってから、大きく振りかぶったラリアットのようなパンチを繰り出す突進技。
ロマン技ではあるが、ガード不能な上に威力が異常に高く、MAX版がカウンターヒットすると相手がボスでも即死させてしまう(強い)

>天雷(出典:サガフロンティア2)
『サガフロンティア2』に登場する水術。
『水』+『水』+『音』+『樹』の組み合わせで発動し、敵単体に雷を落とす。
一定確率でLPブレイクを起こす。

>活殺獣閃衝(出典:サガフロンティア2)
『サガフロンティア2』に登場する槍を使った派生技。
『構える』+『集中』+『払う』+『突く』の組み合わせで発動し、術防御低下の追加効果がある。

>ソニックバーナー(出典:サガフロンティア2)
『サガフロンティア2』に登場する音術。
術者の正面を起点とした熱及び光属性の音波を扇状に放出する。

>デルタペトラ(出典:サガフロンティア2)
『サガフロンティア2』に登場する石術。
『石』+『樹』の組み合わせで発動し、術者の正面を起点とした石化効果の追加効果がある斬撃属性の光線? を扇状に放出する。

>ヒートライザ(出典:ペルソナシリーズ)
アトラスのRPGゲーム『ペルソナシリーズ』に登場する補助魔法スキル。
対象にした味方一人の全ステータスを上昇させる。

>チャージ(出典:ペルソナシリーズ)
アトラスのRPGゲーム『ペルソナシリーズ』に登場する補助魔法スキル。
使用者の物理攻撃の威力を1度だけ2倍以上にする。

>八艘飛び(出典:ペルソナシリーズ)
アトラス作品に登場するヨシツネの専用物理攻撃スキル。
敵全体に8回連続攻撃を行う。
作品によって単体物理攻撃スキルに匹敵する威力を備えていたり、弱体化されていたりするが『ペルソナ4』においてヨシツネ自身が上記のヒートライザやチャージを覚える為、過去作をはるかに凌駕するバランスブレイカーと化した。

>無双三段(出典:サガフロンティア2)
『サガフロンティア2』に登場する槍を使った派生技。
『牽制』+『払う』+『払う』+『突く』の組み合わせで発動する。
術技を除いた場合の槍技最強技。

>連携(出典:サガシリーズ)
『サガシリーズ』に登場する戦闘システム。
確率で格闘ゲームのコンボの様に連携して技を発動する。
単体で技を全て使うよりもダメージが増え、更に使った技を組み合わせた技名になる。従って、思いっ切りネタな名前になったりする。

>フルーツグラタン(出典:テイルズオブイノセンス)
『テイルズオブイノセンス』に登場する料理。
お菓子に分類される料理で食べると戦闘中において食事したメンバーの幸運80%、技熟練度30%、上昇する絆値を1上げる。


Q、幾等なんでもバサクレス弱すぎひん?
A、シャドウ化による弱体化があった上で再生直後に起き攻めしたらこんなもんやろ?

Q、バサクレスに通用したメタスラ兵器の基準は?
A、公式設定で単発ダメージが10以上の武器で殺せる事にしますた。なんでメタスラアタックも加えればバサクレスがミンチより酷ぇ事になりまする。

Q、何でラルフがバサクレスを殴り殺せるの?
A、地球意思(型月で云うガイア?)であるオロチを殴り殺せるKOFキャラが殺せない筈無いだろ!!


次回は10月7日投稿予定。
感想コメント、意見・質問お待ちしております。


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Q、当時の王が女性だったことについて A、絶叫

UAが5000越え。
読んで頂いた皆様に感謝感謝。

今回、キャラ崩壊注意。


「あれが大聖杯…」

「これって超抜級の魔術炉心じゃない!! 何でこんな島国にこれ程の代物があるのよ!?」

【資料によると、制作はアインツベルンという錬金術の大家だそうです。魔術協会に属さない人造人間ホムンクルスだけで構成された一族の様で彼等はある目的を果たす為に他の一族と共にこの大聖杯を作りあげたそうですが…】

 

 

 呆然と呟くオルガマリーに、調べたロマニが答える。

 

 

「わざわざこんなとこまで来て作ったん?」

【都合の付く霊脈が此処だけだったのだろうね。過去の記録では聖杯戦争は第2次世界大戦中に行われたらしい。アインツベルンはドイツ所属だから当時の情勢的に他の国に行って準備するのは難しかっただろうし】

「な~る」

 

 

 一方、優作はそんな凄い魔具がこんな地方都市の洞窟で作られたことに対して疑問を持つが、それについてもロマニが当時の状況を考察して説明してくれた。

 

 

「おっと、おしゃべりはそこまでだ。奴さんがこっちに気付いた様だぜ?」

 

 

 クーフーリンの視線の先には色素が抜けた薄い金髪に病的なまでに白い肌を持ち、その白い肌の色とは真逆の黒い鎧を首元まで纏った女性…否、少女が立っていた。だが、そんな人形の様な少女の姿にはあるまじき重圧を距離が離れているにも関わらず感じ取れる。流石至高の騎士と云うべきか、滅びゆく国を立て直すために現れたと言われる英雄アーサー王に相応しき風格が感じられた。

 

 

「……凄い威圧と魔力放出です。あれが、アーサー王……ってあれ? 女性だったのですか?」

【あぁ、こっちでも確認したよ。間違いない。何か変質している様だけど、彼女はブリテンの王、聖剣の担い手アーサーだ。伝説とは性別が違うけど…】

「あらあら、何時もの姿の方が可愛らしいのに…やさぐれちゃって…」

「アーサー王が女性ね…歴史も当てにならないわ」

「見た目は華奢だが甘く見るなよ? アレは筋肉じゃなく魔力放出でカッ飛ぶ化け物だからな。一撃一撃がバカみてぇに重い。気を抜くと上半身ごとぶっ飛ばされるぞ…ん? どうした、坊主?」

 

 

 並行世界で知り合っていたメディアとクーフーリン以外が、アーサー王が女性であった事に各々の感想を漏らす中、優作は黙ったままセイバーの姿を凝視していた。

 

 

「女? ……アーサー王が女? おんな? 女? 女おんなオンナ……」

「お、おい大丈夫か坊主?」

 

 

 プルプル震えながらブツブツ呟く優作へクーフーリンが心配げに声を掛ける。

 

 

「有り得無ぇだろ、このヤルルォオオ―――――ッ!!」

 

 

 洞窟内に優作の悲鳴染みた声が響き渡った。

 尚、優作が叫んだ瞬間、セイバーが一瞬だがビクッとしたのをフォウは見逃さなかった。

 

 

「せ、先輩!?」

「何でアーサー王が女なんだよ、おかしいだろぉおおお!?」

 

 

 優作の豹変に一同が唖然する中、アーサー王もといセイバーを指さしながら彼は捲し立てる。

 

 

「当時の常識的に考えて、女性が王様に成れる訳無いだろ!! 好い加減にしろ!!」

【それは…何か事情があってキャメロットでは男装をしていたんだろう。ほら、男性じゃないと王座には着けないだろ? お家事情で男のフリをさせられてたんだよ、きっと。宮廷魔術師の悪知恵だろうね。伝承にもあるけど、アーサー王の近くには宮廷魔術師のマーリンがいる。彼が伝承にある通り、趣味の悪い人物だったらその可能性もゼロじゃない】

「馬鹿じゃないの!? バッカじゃないの!? マーリン頭狂ってるんじゃないの!!? いや、絶対狂ってるだろ!!」

フォキュウ、キュッキュ(良いぞ優作、もっとディスれ)

「あんな娘を男装させたところで直ぐボロが出るにき…「男装はせずにこの姿のままでいたぞ」…嘘だぁああああ!!?」

 

 

 余りの豹変っぷりに何か思ったのか、それまで黙っていたセイバーが当時の事を口にし、優作は更に悲鳴を上げた。

 

 

「なぬ!? テメェ、喋れたのか!? 今までだんまり決め込んでやがったのか!?」

「…あぁ、何を語っても見られている。だから案山子に徹していたのだが……そこの青年の豹変ぶりに思わず口を挟んでしまった」

(見られてる? 私達以外に第三者が潜んでいるというの…?)

 

 

 クーフーリンの問いに先程まで冷徹な眼でこちらを見ていたセイバーも困惑と驚きが入り混じった表情で答える。

 そんなセイバーの言葉に引っ掛かる単語が有った事にオルガマリーが気付く。セイバーに対し、問い質そうとするが優作が口を開く方が早かった。

 

 

「ちょっと待てぇ!! その恰好まんまで男扱い!? バレるに決まってんだろ!? 嘘だと言ってくれ!!」

「いや…その……兄やマーリンが男と言い廻ってたら普通に男として見られていた」

「ブリテン住民の眼は皆節穴かぁあああああ―――――っ!!!?」

 

 

 セイバーの回答に転げ回りだす優作。

 暫くゴロゴロと転げ回りながら悶絶していたが、ふとある事を思い出し、ガバリと立ち上がる。

 

 

「いや、待て。じゃあ、ギネヴィア妃は本当は男なんだな? アーサー本人であるアンタが女性なら、な!?」

「い、いや…その…その必死な表情に対して申し訳ないのだが…ギネヴィアは女性だ…」

「ブリテン崩壊不可避ィィイイイ―――――――っ!!!」

 

 

 頭を抱えながらブリッジを決めて叫ぶ優作のあんまりな姿に、真実を答えているだけのセイバーもだんだんと申し訳なくなってきていた。

 

 

「テメェ、ふざけんじゃねぇぞゴルァ!! 当時の王妃が子供作れないで只のお飾り扱いとかブチ切れるに決まってんだろ!!? そりゃ、ランスロットと浮気するわ!!」

「いや、ギネヴィアも私の事を男だと思っていたのだぞ?」

「節穴ブリテン民の感想なんざいらないんだよ!! 男と思っていようが、子供産めない時点で当時じゃ王妃だとしても周りから畜生以下の見られ方すんだぞ!! 本人がどれだけ苦しんだと思ってんだ!!? …ん? じゃあモードレッドはどうやって生まれたんだ?」

「……モードレットは私の肉体情報を元にモルガンに依って生み出されたホムンクルスだった」

「■■■■■■■■■―――――ッ!!?」

「あぁ!? 先輩がバーサーカーにっ!!?」

 

 

 次々と明かされるとんでもない事実に優作は解読不明の雄叫びを響かせた。

 

 

「肉体情報を元に生み出されたホムンクルス!? モードレッドはクローンだった!!? 分かんねぇ、この世界の歴史がさっぱり分かんねぇよぉ……」

「その…なんだか済まないな…」

 

 

 叫びながら崩れ落ちた優作の姿にセイバーは申し訳なさそうな表情をしていた。

 

 

「先輩、気持ちは分かりますが相手は敵です。気を引き締めて下さい」

「んんっ、そうだな。元々は私と剣を交える為に来たのだろう?」

 

 

 マシュが慰めの言葉を掛けながら優作を立ち上がらせる。それと同時にセイバーも気を引き締め直し、手元の黒い剣を構えた。

 

 

「締まらない対面となってしまったが…今の私は“人理の防人”と云う名の暴力装置に過ぎない。相対するのなら斬るのみ。…それに、面白いサーヴァントもいる様だしな」

「わ、私ですか?」

 

 

 金色でありながらも奥底に深淵の闇を思わせる怪しげな瞳でマシュを値踏みするかのように見据えるセイバー。

 

 

「盾、か。名も知れぬ娘に余りにも不可解なマスター。娘の方は些か力不足ではあるが、その能力は未知数…… 成る程、知っている顔もいる様だし此処まで辿り着く事が出来たのにも納得がいく」

「あら、貴女も記憶が有るのね?」

「…しかし、その恰好は何なのだ?」

 

 

 訝しげな表情になりマシュからクーフーリンとメディアへと視線を先を変える。

 

 

「これか? 坊主から借りた服でな…と言うか坊主の能力でこの槍とか使える様にして貰ってんのさ」

「右に同じく、補足するなら霊基も変化してるけどね」

「霊基を? ……そこのマスターはかなりの変わり種の様だな?」

 

 

 ローブ姿であった筈のクーフーリンはジャケットにズボン姿で槍を肩に担いでおり、召喚されたと思われるメディアも赤を基調とした衣装で何時もはフードで隠している素顔を晒している。

 

 

「変わり種も変わり種だ。なんせバーサーカーを一人で屠ったんだからな」

「な…んだと…?」

「ここで言う!?」

 

 

 クーフーリンの発言にセイバーの表情が驚愕に染まる。並行世界にて彼女は“本来の姿”でバーサーカーと戦ったが、その宝具の力を含め、かなりの苦戦を強いられた。

 

 

「…俄かに信じられないが、予想していた以上にイレギュラーの様だ。最初から全力でいかせて貰うぞ」

「ちょっと、クー兄! 警戒度最初からマックスにしてどうするんさ!?」

「ぶっちゃけ、坊主にとっちゃ問題無ぇだろ?」

「……まぁ、それはそうなんやけど…」

「そう言うと思ったわ。騎士王相手にそんな発言してる時点で一般人と呼ばれる事は無いモノと思いなさい」

「先輩、頼りにしてます!」

「あぁ、もう…如何なっても知らんからなっ!!」

 

 

 セイバーの警戒心が上がった事に対し優作がクーフーリンへ抗議の声を漏らすが、その顔に焦った様子が無い。各々が構える中、彼らの遣り取りにセイバーは顔を顰めた。

 

 

「…随分と余裕ぶっている様だが、そう簡単に倒せると思わない事だ。そして名も知らぬ娘よ、その守りが真実かどうか私が確かめてやろう!!」

 

 

 宣言にも近い言葉と共にセイバーは魔力を足元から放出し、マシュ目掛けて突っ込んで来た……が、

 

 

「いらっしゃ~い♪」

「っ!?」

 

 

 セイバーの前には優作が立ちふさがっていた。

 尚、その手には先程まで持っていた刀は無く、マシンガンを2丁構えている。

 

 

「真正面から突っ込んで来てくれてありがとさん、このまま蜂の巣になっちまいなぁ!!」

「くそっ」

 

 

 そのままセイバーに向けて弾幕をばら撒く優作。

 サーヴァントに現代兵器は通用しない。が、彼女の持つスキル『直感』が避けろと警告を響かせている。直ぐ様セイバーは自身の横へ魔力を放出し、真横に飛んで弾幕を避けるが、避ける彼女のいる方向へと撃ち続けていく。

 

 

「マシュとクー兄、弾切れたらこのまま攻め込むべ。メディ姉は所長さんを守ってて頂戴な」

「はいはい、補助魔法は掛けとくわよ?」

「ならオレも」

 

 

 メディアがバリアを、クーフーリンが魂の歌をそれぞれに掛けていく。

 優作の持つダブルマシンガンの弾が切れた瞬間、クーフーリンが真っ先にセイバーへ攻めかかった。

 

 

「くぅ…鎧にかすった箇所が抉れてるとは、何なんだあの銃は!? 」

「坊主の特別製だってよ。因みにランサーはあれで完封されてたぜ?」

「あのマスター、本当はサーヴァントでないのか!?」

「残念ながら“自称一般人”なんだなコレが」

「ちょっと、聞こえてるんですけどぉ!!?」

 

 

 剣と槍がぶつかり合う中、言葉を交わす2人。そこへ優作とマシュも加わり、1対3の戦況となるが流石は最優のセイバーと呼ばれるアーサー王、その華奢な体に似合わぬ剣捌きと動きによって優作たちの攻撃を防ぎ、受け流していく。

 

 

「そういや、ダーク♀アーサーに聞きたい事があるんだけどっ!!」

「今更何を話…ちょっと待て、“ダーク♀アーサー”とは何だ!?」

「ロマンが変質してるって言ってたし、真っ黒でダークなアーサー王やからダーク♀アーサーさね」

「その呼び方は変なイメージを付けられそうだから止めろっ!! 私にはアルトリアという名前が有る!!」

「じゃあ、ダーク♀アルで」

「ダークを付けるなぁっ!!」

 

 

 優作の渾名にキレるセイバー。

 攻撃がより激しくなって彼に集中するが、優作は臆する事無く刀で受け流していく。

 

 

「す、凄いです。あのアーサー王を揶揄いながら戦ってます!!」

「あんな事すっから一般人扱いされ無ぇんだよ…」

 

 

 そんな二人の様子にマシュが関心するのに対し、クーフーリンは呆れ果てる。

 

 

「此処って聖杯戦争が行われてたんっしょ? そんで既に聖杯を手にしてるアルは願いの一つ叶えられる筈やん。態々この場で引き篭もってる意味は無いやろ? 何で籠ってるん?」

「…聖杯戦争について知っているなら流石に気付くか……まぁ、所詮どう運命が変わろうと私一人ではどうにもならないというだけだ(アル呼びなのか…)」

「あん? 如何云う意味だそりゃ?」

 

 

 優作の問いに対し、分かり難い答えを返すセイバー。

 それにクーフーリンが問い質そうとするが…

 

 

「そこから先を知りたければ私に勝つ事だっ!!」

「ぐおっ!?」

「きゃっ」

「のわっ!? リアルバーストかいな?」

 

 

 セイバーは全身から魔力を放出して囲んでいた優作達を吹き飛ばす。

 態勢を整える優作達から離れたセイバーは漆黒の剣を高々と構えた。

 

 

「耐えて見せろ、盾の娘! 『卑王鉄槌』、極光は反転する……光を呑め―――――」

【この馬鹿げた数値の魔力反応…宝具が来るぞ!!】

 

 

 ロマニの報告通り、セイバーの持つ聖剣の刀身がより闇に染まってゆき、莫大な魔力が集束していく。その様子はまるで深淵の闇を集めているかの様だった。

 

 

「マシュ、頼む」

「任せて下さいっ! 真名、偽装登録。宝具、展開します」

 

 

 優作の言葉にマシュは皆の前に立ち、盾を前に構えた。

 

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)――!!」

 

 

 セイバーは高く構えた聖剣を大きく振り下ろし、その闇の様な魔力を解き放つ。

 放たれた深淵の闇は津波の如く洞窟の地面を抉り取り、空気を引き裂きながら押し寄せて来る。

 

 

「仮想宝具、疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)ッ!!」

 

 

 対するマシュも優作達の前に立ち、盾を構えて白亜の結界を展開。迫り来る闇の津波を迎え撃った。

 

 

「くぅ……」

「ヨシツネ、ヒートライザ」

「あいよ」

「! 力が湧いてきます、これなら…!!」

 

 

 漆黒の津波と白亜の盾がぶつかり合う中、マシュは徐々に押され始める。しかし、優作が呼びだしたヨシツネから更なるバフを受けた事に依って完全に防ぎ切る。

 

 

「ようやったマシュ! これ食べて少し休んどき!!」

「ふう…先輩、有難う御座います」

「十分な働きだぜ、嬢ちゃん……いや待て! 次が来るっ!」

 

 

 マシュに魔力回復用のパイングミを渡し、セイバーへ攻勢を図ろうとするがクーフーリンが焦った声を挙げる・彼の言葉に視線を向けると、セイバーが第二射の準備に入っていた。

 

 

「嘘っ!? あの宝具をまだ撃てるというの!?」

「な~る、聖杯から魔力を無尽蔵に供給されてるから出来る荒業な訳な」

【半永久的に魔力切れは起こさないし、消耗もしない……こんなの無茶苦茶だ!!】

 

 

 オルガマリーやロマニが驚愕の声を挙げる中、セイバーは再び漆黒の剣を高々と構える。しかし、

 

 

「私を忘れちゃ、駄目よ? 行きなさい、イフリート」

 

 

 オルガマリーの傍にいたメディアが召喚したイフリートをセイバーへと嗾ける。炎の様に真っ赤な魔人であるイフリートは燃え盛る拳をセイバーへと振り下ろした。

 

 

「ぐぅ…」

「メディ姉、ナイスゥ!!」

 

 

 構えを解いて避けるセイバーに向けて優作はコルトライトニングカスタムをぶっ放して牽制する。

 

 

「一転攻勢のチャンスじゃあ!!」

「よっしゃあ、いくぜ!!」

「ロックにいくぜぇっ!!」

 

 

 刀を構え、優作はクーフーリン、ヨシツネと共にセイバーへと躍り掛かる。

 宝具を使う暇が無いと悟ったセイバーは剣を構え直し、優作が振るう刀と打ち合う。

 

 

「星が打ったこの剣と打ち合えるとは…一体その剣は何だ?」

「『秘剣ヒノカグツチ』、おいちゃんの持つ刀じゃあ(ライドウ作品限定で)最強の業物だべ」

「ヒノカグツチ……成程、この国の神の名を冠する剣ならばその頑強さも納得出来る…」

 

 

 激しい剣戟を繰り返し、鍔迫り合いをする中セイバーの問いに優作が答える。実際は他にもヤバイ武器が山ほど有るのだが黙っている事にした。

 

 

「オレがいる事も忘れるなよ! 」

「お待たせしました。いきますっ、バルキリースカートッ!!」

 

 

 ヨシツネも加わり1対4の戦況になる中、それでもセイバーは各々の攻撃を捌いていく。数で押し切ろうにも魔力放出で距離を取られ、中々決定打を打てないでいた。

 一進一退の攻防が続く中、突如クーフーリンの脳内に電流が走る。

 

 

「お!? 来たきたキタきたぁっ!!」

「ひゃっ!? ど、どうしたのですかクーフーリンさん?」

「閃いたぜ! オレがランサーで呼ばれた時に使える宝具を!!」

 

 

 この状況でクーフーリンが新たな技を閃いたらしい。しかも、自身がランサーのサーヴァントとして呼ばれた際に持ち合わせている彼の代名詞とも呼べる宝具を…

 

 

「着ている服の力に因るものやね。槍の資質がある御陰でキャスターで呼ばれたクー兄も槍技を閃いて使える訳さな」

「はっはぁ! 最高だぜこの服!! こうなったら絶対にセイバーを貫いてやる!!」

「なら確実にブチ込める様にサポートしましょ。つぅ事で…」

 

 

 ご機嫌なクーフーリンにトリを飾らせると決めた優作は『C』と書かれた箱からミサイルランチャーを取り出す。

 

 

「エネミーチェイサー全弾発射ぁ!!」

「っな!? 追って来る弾だと!?」

 

 

 優作が放ったミサイルは時折変な軌道を描きつつも逃げるセイバーを追っていく。四方八方からセイバーを目指して飛んで来るミサイルに対し、逃げ切る事は出来ないと悟ったセイバーは魔力放出でミサイルを吹き飛ばした。

 吹き飛ばされたミサイルは洞窟の壁や地面にぶつかり爆発していく。しかし、これに因って出来た隙を優作達が見逃す筈が無い。

 

 

「隙有りぃ、磁霊虚空斬!!」

「しまっ…うぐぅ!?」

 

 

 セイバーは近付いて来た優作を魔力放出で吹き飛ばそうとするが、間に合わず。構えた優作が放つ乱れ斬りをまともに喰らってしまう。

 相手のマグネタイト(魔力)を斬撃と共に奪う剣技を放たれたセイバーは霊核にこそダメージは無かったが、自身の魔力に変調をきたし、これが新たな隙となる。

 

 

「次じゃい、ヨシツネ!!」

「任せろっ! 八艘飛びを喰らいなぁっ!!」

「ぐああああっ!!?」

 

 

 斬撃の終わりと同時に続いてヨシツネが八艘飛びを叩き込む。

 アーチャーの時とは違い、防御する術が無いセイバーは既にバフを掛けていたヨシツネの8連斬撃を全て受ける事となった。

 

 

「令呪ブーストで命ずる。“マシュ、トモエの奥義を叩き込め”!!」

「了解しました。トモエ、ゴッドハンドッ!!」

「っ!?」

 

 

 マシュの技量ではまだ引き出せない里中 千枝の奥義を優作が令呪に拠ってブーストし、マシュはセイバーに放つ。

 召喚されたトモエが構えると同時にセイバーの真上に巨大な拳が現れ、彼女を殴り潰そうと拳が振り下ろされる。

 

 

「舐めるなぁ!!」

 

 

 しかし、相手はアーサー王。聖剣に魔力を込め、振り下ろされる拳へと放って対抗する。しかし、それは新たに隙を作る事と同義であり…

 

 

「動けない今がチャンスね。仕掛けるわよ、マディン」

「なっ…あぐぅっ!!」

 

 

 そこへ新たにメディアが召喚した角を生やし、獣染みた巨人がエネルギー弾をセイバーへと放つ。エネルギー弾を受けた事で彼女は体勢を崩し、抑えていた拳はそのまま振り降ろされた。

 振り下ろされた拳が消えた場所には、セイバーが剣を杖にしながら辛うじて立っていた。

 

 

「チャンスやでクー兄。バッチリ決めんしゃい」

「おう、決めさせて貰うぜ!」

 

 

 優作達の攻撃でセイバーが釘付けになっている中、クーフーリンは槍を“構える”、そして意識を構えた槍に“集中”する。

 

 

「その心臓、貰い受ける」

 

 

 己が繰り出す一撃の為に力を“溜める”。

 そして必中の“突き”をセイバーに向けて放った。

 

 

「――刺し穿つ死棘の槍(ゲイボルグ)!!」

「貴様ッ! ―――ガアッ!?」

 

 

 クーフーリンの突き放った槍はセイバーの霊核を見事貫いた。

 

 

「ごふっ……フフ、フ……まさかこの突きを喰らう事となるとは、中々やってくれる。…見事だ」

 

 

 がくりと膝を折り、聖剣を落とすセイバー。

 その身体は徐々に薄れながら、金の粒子となっていく。

 

 

「おいちゃん達の勝ちやし、籠ってた理由を教えてくれる?」

「そうだったな……ふっ、己が執着に傾いた挙句に敗北してしまった。結局、どう運命が変わろうと、私一人では同じ末路を迎えるという事か…まぁ、お前達もいずれ知る事になる。“グランドオーダー”、――――聖杯を巡る戦いは、まだ始まったばかりだという事をな…」

冠位指定(グランドオーダー)!? セイバー、どうして貴女がその呼称を知っているの!」

 

 

 セイバーの言葉に対し、血相を変えたオルガマリーが問いかける。しかし、彼女の身体の殆どが金の粒子となって消えかかっていた。

 

 

「残念だが、もう時間の様だ。……次会う時が有るならば…もう敵対したくないな…全く…」

 

 

 言葉を言い切らぬ内にセイバーは消滅する。

 彼女が消えた場所には黄金に輝く物体と聖晶石が残されていた。




元ネタ
>ツーマシンガン(出典:メタルスラッグシリーズ)
『メタルスラッグシリーズ』に登場するパワーアップアイテム。
弾数、攻撃力が2倍になったヘビーマシンガン。
連射力も凄まじく、レーザーを除けばトップクラスだが、斜めには撃てない弱点がある。
アイテムアイコンは『2H』。

>魂の歌(出典:サガフロンティア2)
『サガフロンティア2』に登場する炎術。
味方全員の攻撃力を上げ、再生効果も付与する。

>バースト(出典:ギルティギアシリーズ)
アークシステムワークスの格闘ゲーム『ギルティギアシリーズ』に登場するシステム『サイクバースト』の略称。
ゲージを消費する事で発動する切り返し用のシステムで、発動すると打撃無敵となり、ダメージの無い攻撃判定を発生させて相手を吹っ飛ばす。
通常の攻撃と違いガード中や喰らいモーション中にも発動させることが可能。

>パイングミ(出典:テイルズシリーズ)
『テイルズシリーズ』に登場するTP回復アイテム。
下位互換にオレンジグミがあり、食べると最大TP60%分回復する。

>イフリート(出典:FFシリーズ)
『FFシリーズ』に登場する召喚獣。
敵全体に火炎属性の魔法攻撃を行う召喚獣で大抵角を生やした巨人の姿で描かれる。

>秘剣ヒノカグツチ(出典:葛葉ライドウシリーズ)
『葛葉ライドウシリーズ』に登場する刀。
輝煌星剣を錬剣術に拠って強化する事で手に入り、作品内に於いて最強の刀。

>閃き(出典:サガシリーズ)
『サガシリーズ』に登場する術・技習得システム。
戦闘中に於いて一定条件を満たした際に新たな術・技を発動し、そのまま習得する。

>エネミーチェイサー(出典:メタルスラッグシリーズ)
『メタルスラッグシリーズ』に登場するパワーアップアイテム。
追尾性のあるミサイルを放つ。
アイテムアイコンは『C』。

>磁霊虚空斬(出典:葛葉ライドウシリーズ)
『葛葉ライドウシリーズ』に登場する技。
太刀を持っているときに発動可能で、自身の周囲に連続の斬撃を放つ。
攻撃範囲、ヒット数、威力に優れている。

>ゴッドハンド(出典:ペルソナシリーズ)
『ペルソナシリーズ』に登場する物理スキル。
敵単体に超大ダメージを与える。

>マディン(出典:FFシリーズ)
『FFシリーズ』に登場する召喚獣。
敵全体に無属性の魔法攻撃を行う召喚獣で、作品によって巨人であったり獣の様な姿だったりする。


Q、何で何時もより30分遅れて投稿したん?
A、元ネタ書くの忘れてたから、済まぬ。

Q、マシュに手渡したMP回復アイテムがチャクラドロップじゃなくてグミだった理由は?
A、次回の伏線

次回は10月14日投稿予定。
感想コメント、意見・質問お待ちしております。


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優作は鬱展開が大嫌い

遣りたい放題の猛威が某節穴さんを襲う!!


 セイバーが消滅し、残ったのは黄金に輝く水晶体の様な聖杯と4個の聖晶石のみ。

 残されたそれらはマシュによって回収された。

 

 

「セイバーに私の事について聞く事が出来ませんでした…」

「結局、詳しい事は解からず仕舞いかよ………おっと、どうやらオレもお役御免らしい」

「クーフーリンさん!?」

 

 

 セイバーを倒し、聖杯を回収した以上、聖杯に招かれた英霊であるクーフーリンもマスター無しでの現界が出来なくなっていた。そんな彼の体もこれまで倒してきたサーヴァント達の様に、光の粒子となって散り始めていた。

 

 

「今回の戦いは中々良かったぜ、坊主。次にオレを呼ぶ機会があれば、ランサーとして呼んでくれ!」

「そうはいかんざき」

「へ? おぁ!? 管に吸い込まれていく!?」

 

 

 そのまま消えていこうとしていたクーフーリンであったが、優作が封魔管を1本取り出してクーフーリンに向ける。すると、上部の軽く開いた隙間部分へとクーフーリンから散っていく粒子が吸い込まれていく。

 

 

「折角なんやからこの場で仲魔にします」

「へぁ!? いや、まぁ召喚で呼ぶよりかは確実だけどよ、オレとしてはランサーの方が…」

「ゲイボルグ習得出来たし、モーマンタイやろ? むしろそっちの方がランサーで呼ばれるよりも更に強くなれるべ」

「お、おぅ…だろうな…。なら坊主、この件が終わったらあのヨシツネって奴と戦わせろ! 後、坊主もだ!!」

「了解さな。つぅ事でクー兄、ゲットだぜ!!」

 

 

 優作と約束を交わし、クーフーリンは封魔管へと入っていく。

 

 

【お疲れ様、マシュ、優作君。どうやら君達は聖杯を手にした様だね? こちらでも空間の歪みの解消を確認した。そこは映像が繋がらないみたいでね、君達の活躍が確認出来なかったのが残念だよ】

「これでファーストオーダーは終わりでしょうか? 所長?」

 

 

 ロマニが労いの言葉を掛ける中、マシュが今後の行動をどうするかオルガマリーへと指示を問い掛けるが、彼女は腕を組みながら何やら考え事に浸っていた。

 

 

冠位指定(グランドオーダー)・・・何故その単語を英霊が・・・・・・」

「所長?」

「え? そ、そうね。良くやってくれたわ、優作、マシュ、そしてキャスター。不明な点は多いけど、これでファーストオーダーは終了とします。もうここに長居する意味は無いし、さっさとカルデアに帰りましょう。ロマニ、すぐにレイシフトの準備を…「いや、まだ終わらんみたいやで?」…優作?」

「あら、マスターも気付いていたの?」

「そりゃ、アルも見られてるつってたし。戦っている時に何も仕掛けてこなかった以上、今ここで漁夫の利狙って襲ってくるんじゃないかと、な?」

(悲鳴を上げて転げまわっていた割にちゃんと話は聞いていたのね…)

 

 

パチ パチ パチ パチ パチ

 

 

 洞窟内に拍手が響き渡る。しかし、妙な、何処か人を小馬鹿にしている様な皮肉の込められた嫌味な拍手な気がした。

 

 

「いや、まさか君達がここまでやるとはね。計画の想定外にして、私の寛容さの許容外だ」

「レ……フ?」

「あの男は何?」

「レフ教授です。カルデアの魔術技師であり、所長に次ぐ重鎮になります」

 

 

 拍手及び声の主はセイバーが初めに立っていた場所に何時の間にか立っていた。

 モスグリーンのタキシードにシルクハット、そして赤みのかかった癖毛の長髪と常時細目で微笑む姿が特徴的な男。オルガマリーが呟いた通り、中央管制室爆発の際に死亡したと思われていたカルデアの顧問魔術師、レフ・ライノール本人であった。

 メディアは初めて見る顔だったので、マシュが説明をした。

 

 

【レフ!? レフ教授だって!? 彼も爆発に巻き込まれた筈……本当に彼がそこにいるのか!?】

「うん? その声はロマニ君かな? 君も生き残ってしまったのか。すぐに管制室に来て欲しいと言ったのに、私の指示を聞かなかったんだね。全く…………どいつもこいつも統率の取れていないクズばかりで吐き気が止まらないな。人間というものはどうしてこう、定められた運命からズレたがるんだい?」

 

 

 優作の着けている腕輪からロマニの声が響くとレフの笑みが醜悪なモノへと変わり、優作達を見下す様な視線を向けるレフに、優作は改めてカルデアで感じた黒幕・悪人フラグが当たりだと理解する。優作と同じく悪意を感じたマシュは前に出て盾を構え、メディアも何時でも魔術を行使出来る様に構えていた。

 しかし、現状を理解出来ず彼に駆け寄ろうとする者が一人いた。

 

 

「レフ……あぁ、レフ、レフ、生きていたのねレフ! 良かった、貴方が居なくなったら私、この先どうやってカルデアを守れば良いか分からなかった!」

 

 

 若くして所長となり彼に頼りきりだった少女、オルガマリーである。彼女が近づこうとするのを見るや否や、再び温厚な笑みを浮かべるレフ。しかし、オルガマリー以外の面々にはその笑みがまるで苛立ちを隠す為の仮面の様な不気味さを感じた。

 

 

「やあ、オルガ。元気そうで何よりだ。君も大変だったようだね?」

「ええ、ええ、そうなのレフ! 管制室は爆発するし、この街は廃墟そのものだし、優作に助けられたけどあと少しで竜牙兵に殺される所だったし、予想外の事ばかりで頭がどうにかなりそうだった!! ・・・でも良いの、貴方がいれば何とかなるわよね? だって、今迄そうだったもの。今回だって私を助けてくれるんでしょう?」

「ああ、勿論だとも。まず、君達が手に入れた聖杯を渡してくれ」

「分かったわ……ねぇ何で私の腕を掴むのマシュ? 放してよ!」

 

 

 レフの元へ駆け寄ろうとするオルガマリーだったが、彼女の腕を掴むマシュの顔は険しい。

 

 

「所長、下がって…下がってください! あの人は危険です……あれは、私達の知っているレフ教授ではありません!」

「何を馬鹿な事を言ってるの!? 放しなさい、放してっ!!」

 

 

ズドン

 

 

 オルガマリーが引き留めるマシュを振り払い、レフの元へと駆け寄ろうとした瞬間、銃声が洞窟内に響き渡り、それと同時にレフは後ろへと倒れた。彼女が銃声の方を向くと、優作が硝煙を上げるコルトライトニングカスタムを構えていた。

 

 

「ゆ…優作何でっ!? …「立てよ。撃ったのは只の鉛玉だ、これくらいじゃ死な無ぇだろ?」…死な無い…? 何を言って…」

「クックック…」

「…嘘…?」

 

 

 優作の暴挙と思われる行動にオルガマリーが唖然とする中、嘲笑うかのような声を挙げながらレフがゆらりと立ち上がる。

 その額には銃弾が貫通した穴が空いていたが、血は流れて無く、徐々に塞がっていく。その様子を見たオルガマリーも流石に彼が異常である事を理解し、後退った。

 

 

「…まさか容赦無く撃ってくるとは思わなかったよ。障壁を展開する暇すら無かったよ」

「隠す気も無い人外の気をプンプン出してる時点でそんな事言われてもねぇ?」

「ほぅ、解かるのか…48人目のマスター適性者。全く見込みの無い奴であろうと、善意で見逃してあげた私の失態の様だ」

「知らんがな。どっちにしろ、今回の事件の黒幕はアンタな訳だ? なら叩きのめして捕らえるだけだし」

「捕らえる? この私を? ククッ、ハハハハハッ!」

 

 

 愉快だと言わんばかりに高らかに笑うレフ、しかしそれは優作達を滑稽だと馬鹿にした笑いだった。

 

 

「愚かだ、実に愚かすぎる。サーヴァントと渡り合えようが君も所詮、他の愚かな人間達と変わらない。そして君もだよ、オルガ。爆弾は君の足下に設置したのに、まさか生きているなんて」

「………え?」

 

 

 レフの言葉にオルガマリーは唖然とする。

 

 

「……レ、レフ? あの、それ、どういう、意味?」

「いや…“生きている”とは違うな。君は“もう死んでいる”。肉体はとっくにね?」

「う、そ…?」

 

 

 悪鬼の様な笑みを浮かべるレフの言葉にペタリと崩れ落ちるオルガマリー。この冬木の街にレイシフトする直前に体験したあの痛みは記憶障害等では無かったのだ。

 呆然とする彼女を余所にレフの言葉は続く。

 

 

「トリスメギストスはご丁寧にも、残留思念になった君をこの土地に転移させてしまったんだ。レイシフト適正のない君は肉体があったままでは転移出来ないからね。分かるかな? 君は死んだ事で初めて、あれほど切望した適性を手に入れたんだ。だから、カルデアにも戻れない。だって、カルデアに戻った時点で、君のその意識は消滅するんだから」

(成程ね、今の所長さんの姿は彼女自身がイメージした姿。だから怪我処か服に汚れすら無かった訳だ)

 

 

 優作が内心で納得する中、オルガマリーだけを見詰めながらニコリと笑うレフ。しかしその表情とは裏腹に彼の目付きは冷たく、あらゆる全てを蔑んだ笑みである事は明らかであった。

 

 

「え……え? 消滅って、私が……? ちょっと待ってよ……カルデアに、戻れない?」

「そうだとも。だがそれではあまりにも哀れだ……そこで、生涯をカルデアに捧げ、ましてや精神だけになってまで人類のために尽くした君に、最後の手向けとして今のカルデアがどうなっているかを見せてあげよう」

「あ、聖杯が!?」

 

 

 レフが手を掲げるとマシュが持っていた聖杯が彼女の手元から離れ、一瞬の内に彼の手に収まった。そして空間を指でなぞる様な動作をすると、レフの背後の空間が歪み、真っ赤な巨大地球儀、カルデアスの姿が現れた。

 

 

「な……何よあれ? カルデアスが真っ赤になってる……? 嘘・・・よね? あれ、ただの虚像でしょう、レフ?」

「酷いなオルガ、これは本物だよ。態々、君の為に時空を繋げてあげたんだ。聖杯があればこんな事も出来るからね。そしてこれこそ人理が焼却した証であり、もはやこの結末は変えられない!!」

【なっ…人理の焼却だって!? それじゃあ、2016年以降を観測出来ないのは…】

 

 

 驚愕するロマニの言葉にレフは醜悪な笑みを浮かべながら頷く。

 

 

「もう既に気づいているのではないかね、ロマニ? 人類はこの時点で滅んでいる。貴様達は未来が観測できない事に対し、未来が消滅したなどとほざいていたが、そんなのは希望的観測だ。未来は消滅したのではない。焼却されたのだ。既に結末は確定した。貴様達の時代はもう存在しない今現在、カルデアが無事なのはカルデアスの磁場で守られているからだ。だが、カルデアの外はこの冬木と同じ末路になっているだろう」

【外部と通信が取れないのは故障では無く、受け取る相手が既に存在していないからか……!】

「ふん、やはり貴様は賢しいな。オルガよりも君を優先して殺すべきだったよ。まぁ、それも虚しい抵抗だ。カルデア内の時間が2015年を過ぎれば、そこもこの宇宙から消滅するだろうさ」

 

 

 吐き捨てる様に言葉を零しながら、レフは改めてオルカマリーを見据えた。

 

 

「さあ、よく見たまえアニムスフィアの末裔。あれがお前達の愚行の末路だ。人類の生存を示す青色は一片もない。有るのは燃え盛る赤色だけ。あれが今回のミッションが引き起こした結果だよ。良かったねぇマリー? 今回もまた、君の至らなさが悲劇を呼び起こしたワケだ!!」

「ふざ──ふざけないで! 私の責任じゃない! 私は失敗していない! 私は死んでなんかいない……! アンタなんか、レフじゃない!! アンタ、どこの誰なのよ!? 私のカルデアスに何をしたっていうのよぉ……!」

「アレは“君の”、では無い。“私が作った物”、だ。全く……最期まで耳障りな小娘だったなぁ、君は」

 

 

 鬱陶しそうな表情でレフが再び空間を指でなぞるとオルガマリーの身体がふわりと宙に浮かび上がった。彼女の身体はそのまま引き寄せられる様にカルデアスへと向かっていく。

 

 

「きゃあっ!? な、何をするの!?」

「だから言っただろう、君への最後の手向けだよ……そこまでカルデアスに執心なのだから、君の宝物とやらに是非全身で体験してみたまえ」

「な…何を言ってるの!? 止めてよレフ! だってカルデアスよ!? 高密度の情報体よ? 次元が異なる領域なのよっ!?」

「ああそうだね、ブラックホールと何も変わらない、まぁ太陽かもしれないが…まぁどうせカルデアに戻る事無く君は消滅するんだ。それなら、君の宝物に触れさせてあげようじゃないか。何にせよ、触れるモノは全て分子レベルで分解される。残留思念に過ぎない君もそうなるって訳さ」

 

 

 言葉を交わしてる内にオルガマリーはどんどんカルデアスへ引き寄せられていく。このまま呑み込まれるのも時間の問題だった。

 

 

「さぁ、生きたまま無限の死を味わいたまえ」

「嫌…嫌ぁっ!! 私はまだ死にたくない!! 助けてよぉ!!? マシュ、優作助けてぇ!!」

【不味い、このままじゃ所長が…!】

「所長っ!!」

「如何するの、マスター?」

 

 

 オルガマリーのピンチであるが下手に近付けば彼女と共にカルデアスに呑み込まれてしまうだろう。

 如何する事も出来ない状況に焦るマシュに対し、優作は顔を顰めながら黙っていた。

 今現在、優作はキレていた。

 

 

「ロマン、確認すっけど所長さんは“死んで魂だけの状態”なんだな?」

【…あぁ。おそらく所長は……魂だけがレイシフトしてそこにいるんだと思う】

「なら…」

 

 

 優作が懐から取り出したのは一本の封魔管。仲魔を呼んで助けるのかと思いきや、優作は蓋を軽く開けてカルデアスに引き寄せられているオルガマリーへと向けた。

 

 

「嫌ぁ! 死にたくないっ! やっと認めてくれたのっ! “頑張ってる”って、初めて誉めてくれたのよ!!? 今迄、誰も私を評価してくれなかった! 皆、私を嫌って嘲笑っていた! 漸くなの! なのに、あんまりよ!!」

 

 

 これまで所長として、カルデアを維持する者として振舞い、責任を背負いつづけていた。だが、それを誰も認め、褒めてはくれなかった。それどころか誰もが自分を嫌い、疎ましい存在と思われ続けていた。

 “自分はずっと一人ぼっち、”そう思っていた。

 しかし優作は、まだ知り合って間もないのに認めてくれた。

 宙に浮かびながらも必死でもがくオルガマリー。しかし、彼女の抵抗も虚しくその身体はどんどんカルデアスへと引っ張られていく。

 

 

「最後までみっともない姿だな、オルガ。まぁ、醜い人間の最後などこんなモノか…精々無駄な足掻きで楽しませてくれ。そして、君は永遠の死を味わいながらずっと生き続けるんだ!!」

「やだ…死にたくないの…、いや…イヤアァァァァァァァァァァァアァァッ!!!」

 

 

 オルガマリーの抵抗を滑稽だと嘲笑うレフ。

 そのままオルガマリーはカルデアスに呑み込まれ………無かった。

 

 

「何?……何が起きている? 何故動かない!?」

 

 

 カルデアスに呑み込まれる寸前、宙に浮く彼女はその手前で止まった。それどころか徐々に離れていく。

 突如の事態に笑みを浮かべていたレフの表情も困惑へ変わる

 

 

「おいちゃん、嫌いなんだよねぇ…。正しい方向に努力してるのに何も報われる事無く、死ぬって展開…全く…」

 

 

 オルガマリーが改めて引き寄せられていく方向の先には封魔管を持つ優作の姿があった。

 

 

「そんな展開、認め無ぇから」

「先輩…!」

「カルデアスから離れていく? 一体何をした!?」

「現状、所長さんは死んだ事に因って霊体になっている。つまり“幽霊”って訳だ。だから…」

 

 

 優作の元へどんどん引き寄せられていくオルガマリー。

 そして遂には優作の持つ封魔管へ吸い込まれていった。

 

 

「クー兄達、英霊宜しく、封魔管に宿らせる事が出来る訳だ」

 

 

 彼女を吸い込んだ封魔管を翳し、優作は改めて現界させた。

 

 

「私…助かったの?」

「死なせんよ。おいちゃん達には所長さんが必要なんだから、死ぬ事は許さん(何より所長さんもモデルとして逸材だし…)」

「先輩の言う通りです。私達は所長の頑張りを確かに知ってます! 所長はカルデアに必要なんです!」

「優作、マシュ…」

 

 

 自分が必要だと言われた事で照れて顔が赤くなるオルガマリー。彼女の無事な姿にマシュも安堵の表情を浮かべた。

 

 

「おのれ…一思いに楽になれたものを…」

「無限ループで死にまくるのが楽とか頭湧いてんのか、お前? 人間の屑がこの野郎…」

「ふん、君達の様な人間と同類に扱って欲しくないな。私は最早全く、別の生き物なのだよ。改めて自己紹介をしようじゃないか。私はレフ・ライノール・フラウロス。人類を処理するために遣わされた2015年担当者だ!!」

【フラウロス…?】

(フラウロスっていや、ソロモン王が使役してた悪魔の一柱だったな…なら此奴は下っ端で黒幕はソロモン王か? ………あり、フラロウスでなかったけ?)

 

 

 芝居がかった動きでレフは白熱した様子で声を荒げ始める。彼の言葉にロマニと優作がナニカに気付く。

 

 

「解かるかね、最後のマスター適性者よ? お前達は進化の行き止まりで衰退するのでも、異種族との交戦の末に滅びるのでは無い。自らの無意味さに! 自らの無能さ故に! 我が王の寵愛を失ったが故に! 何の価値もない紙屑の様に、跡形も無く燃え尽きるのさ!!」

「話が長いわ、クソ野郎」

 

 

 優作はうんざりした様子で再びコルトライトニングカスタムを抜いてレフに向けて撃ち続けていく。しかし、レフは透明な障壁を展開し弾丸は障壁によって拒まれた。

 

 

「クハハハハハハハッ! 無駄、無駄、無駄だぁ!! 王の寵愛を受けし私に、そんな攻撃が通じるものか!!」

「…まぁ、だろうな。だから遊びは終わりだ(・・・・・・・)、メインチェンジ『時を駆ける魔王:ダオス』」

 

 

 コルトライトニングカスタムを懐に戻した優作は掌をレフへと翳す。

 瞬間、閃光がレフを貫き左半身を消し飛ばした。

 

 

「…は?」

 

 

 腰あたりから左肩までを失い身体を支えきれなくなったレフはグシャリと生々しい音を立てながら崩れ落ちる。

 

 

「障壁、が突き…破られた…? それにその姿…一体何…何を、何をしたんだ貴様ぁ?!」

「知る必要があるか?」

 

 

 再びレフへと掌を翳して閃光を放ち、肉体を修復途中だった彼を消し飛ばした。

 レフの言葉通り、優作は学生服姿から全身をオレンジを基調としたマントに包まれた姿に変わっていた。

 残ったのは閃光に呑まれなかった右手だけだったが、それなりの力を持っているのであろう、残った右手から再び修復を始めていた。

 

 

「ヘラクレスの宝具をパクってんのコイツ?」

「人外の肉体に変質してるのもあるけどこの男、神代の魔術師並みの魔力を持っているわ。王の寵愛とやらの影響なのでしょうね」

「グギギ……き、貴様ぁ…」

 

 

 修復を終え、立ち上がったレフは憎悪を滾らせながら優作を睨み付ける。そんな睨まれた本人は肉体どころか着ていた衣服まで戻っている辺り器用だなと思っていたのだが…

 

 

「塵屑と何ら変わらない存在如きがぁ!! 王の寵愛を受けたこの…「噛ませ発言乙」……グピッ!?」

 

 

 一瞬でレフとの距離を詰めた優作は拳と蹴りによる連撃を叩き込む。

 

 

「ここまでド三流悪役発言噛ましてくれるたぁ……有り難くって涙が出らぁっ!!」

「ガバッ、ボゲェッ、ゴブラァ!?」

 

 

 止めに踵落としを顔面に振り下ろし、そのまま地面へと叩き潰した。

 

 

「そういや、世界を焼却したんだよな? つまり、家で帰りを待ってるおいちゃんの両親やら土産を楽しみにしてる後輩達も燃やした訳だ?」

「燃やされた塵屑がどうし…「クー兄、焼き殺したって」…ッグギャアアァァアアアア!!?」

 

 

 優作の言葉と同時にレフの足元に魔方陣が展開される。瞬間巨大な火柱が立ち昇り、彼は業火に飲み込まれた。

 

 

「やっぱ…『焼殺』は最高やな」

「腐れ外道相手だし良く燃えるだろ。それよりほらよ」

「ん、聖杯回収あんがと」

 

 

 レフが現れた時点で優作はクーフーリンが入った封魔管をこっそりと開放。念話でレフの死角に回る様に指示しつつ、奪われた聖杯を奪い返すチャンスを待たせていた。

 

 

「貴様ぁああああ────!! 私の邪魔どころか聖杯までも…「エクスプロード」…ギャバッ!!?」

 

 

 優作の詠唱と同時に小さな火の粉がレフへと付着し、大爆発を起こす。消し炭から元に戻ったばかりの彼は爆炎に飲み込まれ再び消し炭と化した。

 尚、爆風は洞窟内に広がったがメディアが障壁を張っている事でマシュ達が呑み込まれる事は無かった。

 

 

「カルデアの職員達を爆殺して所長さん焼こうとしたんだからさ、自分も燃やされる覚悟あんだろ?」

「ガハ…な…何ィ…?」

「あぁ、マシュも殺しかけてたな……ほんと、有り難いわ…テメェみたいなゲス野郎、倫理観ガン無視で叩き潰しても罪悪感を感じる必要が無いんだからなぁ! テトラスペル!!」

 

 

 新たな詠唱で4属性の魔力が展開される。先ずクーフーリンのアンサズと同等の巨大な火球が幾つもレフへ降り注ぐ。レフは障壁で抵抗するが1つ目の火球が障壁を焼き尽くし、残りが彼に命中する。

 

 

「グガアァアアアアッ!!?」

「熱いか? なら冷やさなきゃな?」

「ゲピィッ!?」

 

 

 続いて突撃槍の様に鋭く太い氷が幾つもレフの身体を貫いてゆく。

 

 

「如何した? どっかの王の寵愛を受けたんだろ? 抵抗してみろよ、オラァ!!」

「ギャアアアアァア!!?」

 

 

 新たに雷が降り注ぎ、再びレフの身体を焼き焦がしていく。

 

 

「ここまでくるといっそ哀れだな、止め無ぇけど」

「家族や友人を実質殺した犯人の一人なのだから当然ね」

「はわわっ、敵とは云え遣り過ぎな気がします」

フォウフォウ、キュウ(本当に人間なんですかねぇ、彼)?」

「………(家族が焼却されてのが大半なのでしょうけど、私達の事で怒ってくれるのね…)」

 

 

 地面から槍の様な岩が突き上がり、レフを串刺しにする様を見ながら優作の後ろで待機していた面々が呆けた様子で言葉を零す。

 

 

「何だ、なんだなんだ、何なんだお前はぁ!!?」

「絶賛ブチギレ中の“不思議な力を持った一般人”じゃあ!! ゴッドブレス!!」

「ひでぶっ!?」

《まだ一般人を名乗るんだ…》

キュウキュフォーウ(意地でも一般人を言い貫くスタイル、)フォーウ(嫌いじゃないわ)

 

 

 何度も殺され続ける現状に遂には怯えを含んだ表情で喚くレフに優作は容赦無く魔術を叩き込む。レフの真上で大気が纏まり、高密度に圧縮された空気がそのまま彼を押し潰した。

 高圧縮の風圧を叩き込まれた事により、地面深く迄めり込んだレフ。しかし、地面から現れたのはヒトガタで無かった。

 

 

「ふざけるなああああぁぁあアアアアア──────ッ!!!」

「うんわ…きっしょ」

「な、何なのアレ!?」

「成程ね。力を得た代償…と言うのか、アレがあの男の正体な訳ね。醜いこと」

 

 

 現れたのは肉塊で構成された塔の様なバケモノだった。

 ビクビクと蠢く肉塊の彼方此方に目玉が生えたその姿は正に醜悪の一言で纏められる。

 

 

「絶対に許さんぞ、貴様ァ!! この特異点も間もなく消える以上、空間ごと貴様達も消えるのだろうが知った事かっ!! 今この手で葬ってくれ…「それはこっちの台詞だ」…る!!?」

「死ぬが良い、ダオスコレダーッ!!」

「ぐ、オォォオオオオオォオオオオオオッ!!?」

 

 

 怒鳴り散らしながら攻撃に移ろうとするレフだったが、そんな時間を優作が与える筈が無く。何時の間にか肉柱の根元にいた優作が地面に向けてエネルギーを込めた拳を振り下ろした。

 優作が振り下ろした拳の位置を起点に大爆発が起こり、エネルギーの奔流がレフを呑み込んだ。洞窟の天井を突き抜ける程の巨体が消滅していく。修復しようにも消滅のスピードが速すぎて間に合わない。

 

 

(このままでは本当に消滅…、私が、死ぬ?)

「とっととくたばれ、クソ野郎」

「おのれ、おのれ、オノレ、オノレェエエエエエエ─────ッ!!?」

 

 

 レフの怨嗟の声と共にエネルギーの奔流が止む頃、巨大なクレーターだけが残っていた。

 

 

「ちっ、ギリギリで逃げたか」

「ちょっと、マスター! 高威力の技を使うなら先に言いなさい!! 余波だけでも、もう少しで障壁を突き破る所だったわっ!!」

「メディ姉、御免。威力は加減したつもりやったのけど、キレてたから加減が甘かったみたい。後で詫びはするさかい」

 

 

 レフが逃げた事に舌打ちする優作にメディアが叱り付ける。キレた優作が暴れた余波に因る二次被害を防いでいた彼女はこの戦闘におけるMVPであるだろう。

 しかし、事態は急を要していた。レフが言っていた様に特異点の問題を解決した事に依り、この空間は崩壊を始めていた。

 特異点が崩れていく中、マシュが慌てて要請する。

 

 

「地下空洞が崩れます……! いえ、それ以前に空間が安定してません! ドクター、至急レイシフトを実行してください!!」

【解かってる! もう実行しているんだけど…そっちの崩壊が早いかもだ!】

「時間を稼げば良い訳だ?」

「言うと思ったわ。それで如何するの、マスター?」

「俺も何か策があんだろうとは思ってたけどよ、どうすんだ?」

 

 

 一方の優作は落ち着いた様子。短いながらも是迄の付き合いで彼の遣りたい放題っぷりを見て来たメディアとクーフーリンは現状の策を聞いてみる。

 

 

「タイムストップ」

 

 

 優作の言葉と同時に、周囲の風景が灰色に染まった。崩れだして洞窟上部から降ってきていた瓦礫が縫い付けられた様にピタリと動かなくなる。

 

 

「これって…時間を止めたの!?」

「然様。でも止められる時間は少ないからさっさとやっちゃってな、ロマン」

【…君の無茶苦茶振りには開いた口が塞がらないよ。でも、もう少しでレイシフト完了だ】

「そんじゃあ、クー兄と所長さんは封魔管に戻ってね。えぇと…メディ姉はどうすれば良いん?」

【彼女はカルデアを介した召喚サーヴァントだから一緒にレイシフト出来るから問題無いよ】

「ならモーマンタイやね、それじゃあお二人さんは宜しく」

「はいよ。それじゃあ坊主、約束忘れんなよ?」

 

 

 約束の確認をしながら、先ずクーフーリンが封魔管へと戻った。

 

 

「んじゃ最後に所長さん」

「あの…大丈夫なのよね?」

「心配しなさんな、カルデアに戻ったら新しいボディも用意するさかい」

「!? 元に戻れるの!?」

「言ったやろ? おいちゃん、正しい方向に努力してるのに何も報われないのが嫌いなの」

 

 

 封魔管をオルガマリーへと向けながら、優作はニヤリと笑った。

 

 

マリー(・・・)は報われるべき」

「優作…有難う」

 

 

 感謝の言葉を残し、オルガマリーも封魔管へと戻る。

 同時にレイシフトが開始され、周囲が光に包まれていく。

 

 

「そんじゃ、帰りますか。フォウ、おいちゃんの肩に」

フォウ(あいあい)

「えぇと、此処に来る時みたいに手を繋ぐべきかね?」

「そうですね、その方が良いです」

「なら…メディ姉も」

「分かったわ…って、何赤くなってるの?」

「おいちゃん、マシュやメディ姉みたいな美人さんに触れられるの慣れてないさかい。勘弁してな」

「あらあら(意外と年相応な所もあるのね?)」

 

 

 衣装をライドウの服に戻し、優作はマシュ達と互いの手を握る。

 止まった時も動き出し、洞窟内が崩れ往く中、優作達はレイシフトの光に呑まれていった。




元ネタ
>ダオス(出典:テイルズオブファンタジア他)
『テイルズオブファンタジア』の登場人物で本作のラスボス。
異星デリス・カーラーンの最大国家“エリュシオン”の王であり、魔科学兵器によって滅びの道をたどり始めた母星を救うため、世界樹ユグドラシルが生み出すマナの結晶体 “大いなる実り”を求めて本作の舞台となる“アセリア”を訪れた。
しかし、アセリアのマナは魔科学によって徐々に枯渇しており、大樹ユグドラシルも枯渇の危機に陥っていた。そのためマナを浪費する人間(特に魔科学に関係する勢力や人間)に対し、魔物を率いて大規模な戦争を仕掛け始めた事から物語は始まる。
他シリーズにもゲスト出演している他、『テイルズオブエターニア』では彼を模したと思われる時を司る大晶霊『ゼクンドゥス』がいる。
作品によって強さがまちまちだが、ラスボスの強さとしてもテイルズオブシリーズで3指に入ると言われている。

>ダオスレーザー(出典:テイルズオブファンタジア他)
ダオスが使用する特技で両手にエネルギーを収束して強力なレーザーを放つ。
攻撃範囲は直線状であるが射程無限な上、回避、防御無視と凶悪な性能でまともに喰らうと即死クラスのダメージとなる。
作品によって光属性だったり属性無しだったりするので耐性装備を怠らなければ即死する事は無い。

>テトラアサルト(出典:テイルズオブファンタジア他)
ダオスが使用する特技で打撃技を4連続行う。
作品によってパンチだけであったり、締めにアッパーを使ったり、両手の払いから蹴り上げ、踵落としと繋げたりと様々。

>焼殺(出典:サガフロンティア2)
『サガフロンティア2』に登場する炎術。
『炎』+『炎』+『石』+『樹』の組み合わせで発動し、対象は単体ながらも即死の追加効果が有る。

>エクスプロード(出典:テイルズシリーズ)
『テイルズシリーズ』に登場する火炎属性上級魔術で敵の間近で大爆発を発生させてダメージを与える。
ダメージは大きいがヒット数が基本1と少な目。

>テトラスペル(出典:テイルズオブファンタジア他)
ダオスが使用する魔術で4種の術を無詠唱で連続使用する。
元々はファイアーボール、アイスニードル、グレイブ、ライトニングといった基礎魔術を連続使用したのだが、作品によって使用する術が異なったりする。

>ゴッドブレス(出典:テイルズシリーズ)
『テイルズシリーズ』に登場する風属性上級魔術で、風圧で敵を押し潰しダメージを与える。
威力は高いが、攻撃範囲がもの凄く狭いという欠点もある。

>ダオスコレダー(出典:テイルズオブファンタジア他)
ダオスが使用する特技で地面に高圧エネルギーを叩きつけて半球状の爆発を起こす。
技を使用するダオスから約一画面程の射程があり、回避、防御無視とダオスレーザーと同じく凶悪性能。
真面に喰らうと即死クラスの技だが、作品によって光属性だったり属性無しだったりするので耐性装備を怠らなければ簡単に即死する事は無い。

>タイムストップ(出典:テイルズシリーズ)
テイルズシリーズに登場する法術で場合によっては秘奥義扱いになる。
一定時間味方以外の時間を止めるが、敵が放った手裏剣や矢などの飛び道具、一部の敵は止める事が出来なかったりする。


Q、オルガマリー助かってるやん!!
A、ハッピーエンド目指してるんだから助けない訳無いよなぁ?

Q、何時まで一般人ネタを続けるん?
A、優作が諦める日まで。

Q、どんだけレフをボコるん?
A、ぶっちゃけ、全然ボコり足りないけど文章にしたらグダグダになるので是位で許してあげました。


次回のエピローグで特異点F編は終了。
以降は2、3話幕間を挟んで第1特異点へ殴り込む予定。

次回は、10月21日投稿予定。
感想コメント、意見・質問お待ちしております。


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グランドオーダー、開始

特異点『F』エピローグである

夜間当直が辛み…


 目を焼く様な眩い輝きが徐々に治まってゆき、目を開けると優作は中央管制室に立っていた。火はあの時に消したものの、瓦礫が其処等中に散乱して酷い有様であり、唯一無事なのは中央に鎮座するカルデアスぐらいだ。

 ふと共にレイシフトしたマシュとメディアの事を思い出し、周囲を見回すと近くにマシュが倒れていた。

 

 

「マシュ!?」

 

 

 倒れているマシュの姿に慌てて近づいて彼女の脈を計る。脈はしっかりしており、どうやらレイシフトの影響で気絶してしまったが、無事な様だ。

 

 

「メディ姉、いる?」

「ここにいるわ」

 

 

 続いてメディアがいるか声を掛けると、目の前に姿を現した。どうやら霊体化していたらしい。

 

 

「メディ姉も無事だった?」

「えぇ、問題無いわ」

フォウ、キュー(ボクを忘れるなよ)!」

「おぅ、フォウも無事かいな?」

フォウ(もち)!」

 

 

 フォウの無事も確認し、レイシフトしたメンバー全員の無事を確認できた優作は気絶しているマシュを如何しようか考えていた処、管制室の扉が開いて慌てた様子のロマニと妙な恰好の美女が入って来た。

 

 

「あぁ、良かった。無事に戻って来れたんだね!」

「ん、ロマンがちゃんとレイシフトを成功させた御蔭さね」

 

 

 心から安堵した様子のロマニに優作は感謝の言葉を告げる。今回のファーストオーダーは彼の助力があちこちで役に立った。

 

 

「礼として、特異点で作った料理はしっかり御馳走するべ。ところで、そっちはどちら様?」

「ん? 私が誰か気になるかい? 宜しい、教えて差し上げよう。私はダ・ヴィンチ、レオナルド・ダ・ヴィンチと言った方が良いかな? 人類史に燦然と輝くダ・ヴィンチその人であり、カルデアの協力者となった召喚英霊第三号さ。気軽にダ・ヴィンチちゃんと呼んでくれたまえよ」

「は?(威圧混じり)」

 

 

 自己紹介を受けた優作の顔が軽く歪む。

 艶やかな黒髪に青い水晶の様な双眼、おして豊満な身体付きは多く男性の目線を自然と引き寄せてしまうだろう。

 絶世の美女と言う以外に表現する言葉が無い程に美しい……筈なのだが、右手に握られたバカデカイ杖と肩に乗った金色の変な鳥が残念な美女と言うイメージを加速してさせる。

 そもそも何でレオナルド・ダ・ヴィンチが女なのか?

 

 

「おっと、その表情は私が何故女なのかって顔だね? まぁ、世間一般では私は男だって言われてたのだから当然だ」

「…性別を偽っていた以外の理由があると?」

「ふっ、この万能の天才ダ・ヴィンチちゃんをそこらへんの女体化英霊と一緒にしてもらっちゃあ困るよ。私はね、自分でこの体を作ったんだ。私の生涯の中で最も美しいと思った女性の形にね!」

「何だ、只の変態か。天才と変態は紙一重とは良く言ったもんさな(そこらへんの女体化英霊って…他にも沢山いるのか、壊れるなぁ…)」

「むむむ……堂々と言ってくれるじゃあないか…。君も女体化願望を抱いた事は無いのかい?」

「生理やら大変そうだからなりたいなんて思った事無いです(真顔)」

「…まぁ、天才の考えは理解されないモノさ」

 

 

 優作の容赦ない意見に若干拗ねるダヴィンチ。

 

 

「取り敢えずロマン、マシュは医務室に連れてけば良いんけ?」

「そうだね。ストレッチャーを持って来れば良かったな…」

「心配ご無用、サブチェンジ『偉大なる魔法使い:アルバス・ダンブルドア』」

 

 

 そう言って杖を取り出した優作はその杖を一振りするとマシュの身体がふわりと浮き上がった。

 

 

「このまま連れて行くべ。ロマン、案内よろ」

「…今、魔法使いって言わなかったかい?」

「この世界の魔法使いと同じ扱いせんどいてな? ま、詳しくは『ハリー・ポッターシリーズ』を読んで、どうぞ」

「ハリポタ!? あれ確か魔法と同類のモノが多数有ったよね!?」

 

 

 ハリポタについて多少知識が有ったロマニが驚く中、優作はそのままマシュを運んでいく。

 

 

「おっと、此処も直しとくか」

 

 

 管制室を出る間際、優作が部屋に向けて杖を振ると瓦礫や壊れた機械のパーツ等が浮き出し、崩れた壁や天井に次々と戻って行き、あっという間に中央管制室は元の姿に戻った。

 

 

「そんじゃ、行きましょ」

「うわぁ…一瞬で元通りなんて…」

「流石に私でもここまで早く直せないわ…」

「ヒューウ♪」

 

 

 一瞬で荒れ果てた管制室を元に戻して見せた優作に絶句するロマニとメディア。一方のダヴィンチは驚かないものの、口笛を吹いてみせた。

 

 

「いやぁしかし、初のレイシフト、初の実戦でもオーダーを完了させるとは流石主人公君だ」

 

 

 医務室へ向かう中、ダヴィンチが優作へと問い掛ける。特異点『F』を攻略していた優作達の様子は彼女も当然見ていた。依って彼女は優作について非常に興味を抱いていたのだ。

 

 

「おいちゃんは出来る事をやっただけさね」

「だとしても、君が出来る事をどれだけの者が出来る事か…」

「君は所長をも救ってみせたんだ、それは他の者じゃ出来ない事だよ?」

「せやね…おっと所長さん達も呼ばなきゃ」

 

 

 そう言って2本の封魔管を取り出した優作はオルガマリーとクーフーリンを呼び出す。

 

 

「お2人さんは何か問題無いかね?」

「おう、大丈夫だぜ」

「私も問題無いわ」

 

 

 呼んだ2人に異常が無いか確認した優作はクーフーリンとメディアに指示を出した。

 

 

「そんじゃあ、メディ姉とクー兄は早速で悪いんやけど、即席で良いから此処カルデア内に外部からの干渉を防ぐ結界を設置して来てくれるかな?」

「何だよ、唐突だな?」

「あの裏切りもんのド腐レフが何時、此処を襲撃してくるか分かったもんじゃないしさ? 迎撃が出来ても後手に回って施設内に被害を喰らうのも癪だし、頼んます」

「まぁ、当然の考えだし、マスターの頼みだから構わないわ」

「それもそうだわ。それじゃあ、オレも行って来るぜ?」

 

 

 納得した2人は霊体化し、其々施設内へと散って行く。

 

 

「後、ダヴィちゃんはコレ用意してくれる?」

「ダヴィちゃんっ!? ……えぇと、どれどれ?」

 

 

 クーフーリン達と別れた優作はダヴィンチにメモを渡す。彼女がメモの内容に目を通し、メモにはこう書かれていた。

 

 

・水:35ℓ

・炭素:20㎏

・アンモニア:4ℓ

・石灰:1.5㎏

・リン:800g

・塩分:250g

・硝石:100g

・イオウ:80g

・フッ素:7.5g

・鉄:5g

・ケイ素:3g

・その他少量の15の元素 etc…

・オルガマリーの遺伝子情報を含むモノ

 

 

「これって…人体を構成する物質だよね?」

「然様。まぁ、最後の欄を読めば何したいか解かるさね?」

「オルガマリーの肉体を造る訳だ?」

「そういう事。つぅ事で宜しくっす」

「これなら私の工房に有るだろう。オルガマリーの遺伝子については…彼女の部屋に落ちてるであろう髪の毛で良いかな? それじゃあ、早速用意して来るとしよう」

 

 

 メモ内の素材を用意する為にダヴィンチも優作達と別れた。

 

 

「あの時の言葉、本当なのね?」

「おいちゃん、約束は守る男さね」

 

 

 残った3人と1匹はマシュを連れて医務室へと向かった。

 

 

:::::

 

 

「ロマン、マシュは大丈夫なん?」

「あぁ、体内や脳波も特に問題無いよ」

「そっか…」

 

 

 医務室に着き、マシュをベッドに寝かせた優作達。ロマニが検査機器で彼女の健康状態を調べたが特に問題は見付からなかった。

 

 

「心配だったかい?」

「そりゃあね。レイシフト自体初めてだし、マシュはデミ・サーヴァントとして初めて成功したんしょ? …何か異常が有るかもしれないと思うとさ?」

 

 

 ベッドで眠るマシュの頭を優しく撫でながら優作は安堵する。

 

 

「むにゃ…先輩、このスペシャル肉丼は流石に食べ切れません…」

「……幸せそうな夢を見ている様で」

 

 

 マシュの寝言を聞き、本当に大丈夫だと理解して微笑む中、オルガマリーがどうも心非ずといった感じである事が気になった。

 

 

「所長さん、大丈夫け?」

「え? あぁ、御免なさい。肉体が無くなっているのにこうして実体を持って歩き回れる事にちょっと違和感を感じているだけよ」

「…あの裏切り野郎のド腐レフが気になってるっしょ?」

「!? ……そうね(う、裏切り野郎のド腐レフ…)」

「それはしょうがないですよ。これまで信頼してきた人物だったのだから、踏ん切りが着くには時間が掛かるでしょう(裏切り野郎のド腐レフ…ぷふっ)」

「心の傷は時間が直す…か。でもアイツはきっとこの先再び現れるさね」

「でしょうね、その時私は心の決着を着ける事が出来るのかしら…」

 

 

 不安そうに胸を抑えるオルガマリー。その時が来た時に彼女は向き合う事が出来るのか…

 

 

「心配しなさんな」

「優作…」

 

 

 そんな彼女の肩に手を置き、優作は笑い掛ける。

 

 

「所長さんにはおいちゃん達がいるんだからさ? 辛いんならしっかり支えるさね」

「そうだね。今迄ちゃんと伝えられなかったけど、僕も…いや、此処の職員達は皆が所長の頑張りは知ってます、だから辛い事が有ったら無理に溜めたりしないで話してください。僕でもお菓子食べながら聞き役位にはなれますから」

「2人共…」

 

 

 優作とロマニの言葉にオルガマリーの目頭が熱くなる。

 嗚呼、自分の“理解者”はちゃんと居てくれたんだ、ど。

 

 

「有難う…」

「う、うぅん…、先輩?」

「おう、起きたかマシュ。おはようさん」

 

 

 そんな中、マシュが目を覚ました。

 

 

「此処は…カルデアに戻って来れたんですね?」

「せやで。マシュは気絶したままだったさかい、医務室に運んでバイタルチェックしてたさね。体調は大丈夫?」

「そうですね、ちょっと倦怠感が有るかも知れません」

「まぁ、ずっと戦闘してた訳やから精神的疲労も残ってるっしょ」

「先輩は大丈夫なんですか?」

「おいちゃんはこれでも鍛えとるから、今夜ぐっすり寝たらモーマンタイさね」

「……デミ・サーヴァントの私より丈夫な時点で先輩は一般人で無いと思います…」

「マシュッ!!?」

 

 

 本人から特に異常が無い事に安心しながらも、突然の非一般人発言にショックを受ける優作。尚、他の面々はうんうんと頷いていた。(当然の結果)

 

 

「やぁやぁ、待たせたね。用意する素材は揃えたよ。おや、マシュも目覚めたんだね?」

 

 

 落ち込む優作だったが、そこへ頼まれたモノを集め終えたダ・ヴィンチが訪れたので気を取り直す。

 

 

「そんじゃあ、用意すべきモンは揃った様だし所長さんのボディを復活させますかね?」

 

 

:::::

 

多目的ホール

 

 

 広めのホールの様な空き部屋にて優作とオルガマリーが向かい合っていた。彼女の足元には魔方陣の様なモノが描かれており、優作の後ろにはマシュとロマニ、ダヴィンチの3名が立っていた。

 

 

「所長さん、心の準備は良いっすか?」

「えぇ、でも立っているだけで良いのね?」

「そうっす、錬成陣の中心からズレない様気を付ける位っすね」

 

 

 優作が描いた錬成陣の中央にオルガマリーが立っており、彼女の周りにダ・ヴィンチが用意した人体構成の為の素材が置かれている。

 

 

「なりきりメインチェンジ『鋼の錬金術師:エドワード・エルリック』」

 

 

 学生服姿だった優作の衣装が黒を基調とした上下に『フラメルの十字架』が描かれた赤いコートを羽織った姿へと変わる。

 

 

「そんじゃあ、これより所長さんの人体錬成を始めます、と」

「ふむふむ。この天才ダ・ヴィンチちゃんでも未知の世界である人体錬成…非常に興味深い」

 

 

 ダ・ヴィンチが興味深々な目で眺める中、優作はポケットから赤紫色の球体を足元に置き、両手を正面に合わせた。

 

 

「いざっ!」

 

 

 両手を合わせた後、床に両手を当てると電流が錬成陣へと流れてゆき、オルガマリーを光が包み込んでいく。このまま錬成が終わればオルガマリーは肉体を持った姿になるのだが…

 さて、この時点で優作はある事(・・・)を忘れていた。

 錬成に用意したのは人体を構成する物質と肉体に宿るオルガマリーの魂及び彼女の遺伝子情報が入っている髪の毛、それだけである。

 この時、錬成後どんな姿で現れるのだろうか?

 『鋼の錬金術師』の最終話にてエドワード・エルリックが弟のアルフォンス・エルリックの肉体を人体錬成して復活させた時、弟はどんな姿で現れただろうか?

 読者の中で読んだ事がある者ならこの後の展開が判る筈だ。

 

 

「けほけほっ…上手くいったの…?」

 

 

 錬成の輝きが消え、白い煙が薄れていくと共に一人の人影が見え始める。オルガマリーの声が聞こえる事から錬成が成功したと判断した優作は煙が晴れた後の彼女の姿を見て目が釘付けになってしまった。

 白いシルクの様な綺麗な肌にマシュ程では無いながらもぽよよんと主張する2つの果実、何処がとは言わないが彼女の髪の毛と同じ銀色をした毛は綺麗に生え揃っていた。

 つまりオルガマリーは生まれたままの姿…ぶっちゃけ、全裸であった。

 

 

「せ、せ…」

「え?」

「セクシー…ダイナマイッ……ブバァアッ!!」

「先輩っ!?」

 

 

 そう笑顔で言い残し、優作は鼻血をブチ撒けながら大の字にぶっ倒れた。

 

 

「ちょっと優作っ!? ……って…な、何で裸っ!? い、イヤアアァアアアアアアッ!?」

 

 

 倒れた優作に驚いて立ち上がるマリーだったが、全身がやたらスースーしている事から自分が全裸である事に漸く気付く。

 そのまま彼女も大事な個所を手で隠しながらペタリと座り込み、顔を真っ赤にしながら黄色い悲鳴を上げるのだった。

 

 

フォ~ウ、キュウフォウ(所長さぁん、良い乳してますねぇ)キュウキュ(何か芸術的)

 

 

 倒れた優作と全裸のオルガマリーに残された面々が大騒ぎになる中、フォウはポツリと鳴いた。

 

 

:::::

 

それからどうした

 

 

「はぅあ!?」

「先輩!」

「あら、起きたのねマスター?」

 

 

 優作が目覚めたのは自分に充てられたマイルームであった。

 優作が寝ているベッドの横には心配そうな表情のマシュと呆れた顔のメディアがいた。

 

 

「あり? 何でマイルームに戻ってんの…いや、何で寝てる?」

「お、覚えてないのですか?」

 

 

 優作のボヤキに驚くマシュ。

 何故自分はマイルームで寝ていたのであろうか? 確かオルガマリーの肉体を錬成して完全に復活させていた筈なのだが…

 

 

「所長さんの肉体を錬成して……その後の記憶が無いゾ…」

「あらあら…」

「何があったか教えてくれる?」

「えぇと…その…」

「如何したん?」

 

 

 マシュは悩んだ。オルガマリーの裸体を見て鼻血を噴きながらぶっ倒れた事をそのまま伝えて良いモノか、もしかしたら再びその光景を思い出し、また鼻血を噴きながら倒れるかもしれない。

 尚、優作が倒れた後に作業を終えたメディアが現れたので、マシュは彼女に頼んで彼をマイルーム迄運んだのだった。

 

 

「マシュ?」

「実はレフが起こした爆発の影響であのホールの天井に罅が出来ており、先輩が所長の肉体を錬成後、瓦礫が崩れてきたんです。瓦礫の破片はそのまま先輩の頭に直撃、気絶した為に此処迄運んだ次第です」

「そうなん? にしては頭は痛くないんだけど…」

「そ、それはメディアさんが治癒魔術で治療したからです! ですよね? メディアさんっ!?」

「へ!? え、あ~…そうね。ケアルを掛けたから痛みが無いのよ?」

「そっか~」

 

 

 説明に納得する優作に内心安堵するマシュ。突然のつじつま合わせを上手く合わせてくれたメディアに視線で感謝を告げた。

 

 

「兎に角、所長が待ってます。肉体を取り戻したので今は管制室で職員の指示をしている筈です」

「ん、了解。それじゃあ行きますかね」

 

 

 肉体を得たオルガマリーの調子を確認する為に優作達はマイルームを出た。

 

 

「ところで、クー兄は?」

「まだ施設内を回っているわ。珍しいものだから細かく見回っているみたいよ」

 

 

:::::

 

中央管制室

 

 

「コフィンの点検は終わった? ならレイシフトの為のデータ復旧と修復を急ぎなさい!」

 

 

 途中でクーフーリンと合流した優作達が管制室へ向かうと、オルガマリーがキビキビと指示を出しており、職員達が慌ただしく働いていた。

 尚、マイルームに居なかったフォウは彼女の足元にいた。

 

 

「所長さん」

「っ!? 優作…目が覚めたのね?」

「済まんね、所長さんの肉体を戻した途端に頭打って気絶するなんて」

「頭を打って気絶っ!? 貴方、あの時の事を覚えてないの!?」

 

 

 優作が声を掛けると何やら驚いた様子でオルガマリーは反応する。何やら顔が赤い上、優作がマシュから自分が気絶した事を聞いたと伝えると今知ったかの様な反応みせながらまた驚いた様子だった。

 

 

「? 何か爆発の影響で天井に罅が出来てて、所長さんの肉体を錬成し終えた途端、其処の瓦礫が崩れ落ちておいちゃんの頭に直撃して気絶したってマシュから聞いたんやけど?」

「…え? ……え、えぇ、そうよ。…仕方ないわ、部屋が崩れてないかチェックしてなかったのだからっ!」

「そうかいな、所で体に変なとこは無い?」

「大丈夫よ、寧ろ調子が良い位ね」

「なら良かったさ」

「本当に覚えてないのね…良かった」

「何か言った?」

「い、いえ! 何も言ってないわ!!」

 

 

 体調についての確認を頬を赤く染めながらも答えるオルガマリー。優作には何故顔が赤いのか見当付かなかったが…

 

 

「あぁ、優作君。目覚めたんだね」

「おぉ、ロマン……如何したん、その頬?」

 

 

 そんな優作達の元へロマニがダ・ヴィンチを連れて来るが、彼の右頬には赤い紅葉が出来ていた。

 

 

「いや、これは…「蚊が止まっていたから叩いたのよ」…は!? 所長何を言…「蚊よ」…な…「蚊よ」…蚊が止まっていたから叩かれたんだよ…(理不尽だ…)」

「そっかー(輸送物資に紛れ込んでたんか?)」

 

 

 優作の問いにロマニが答えようとしたが、オルガマリーに遮られる。実際は優作と同じく彼女の全裸を見てしまったからビンタされたのが原因だった。

 

 

「優作、先ずは礼を言わせて貰うわ。有難う、私にもう一度生きるチャンスを与えてくれて」

「やれる事をやっただけさね。それに言ったやろ? 所長さんは報われるべきだって」

「…そうね(あの時みたいに“マリー”って呼んでくれないのね…)」

「?」

 

 

 何故か少し不満そうなオルガマリーの表情を不思議に思う優作。しかし、それも僅かな間で、彼女は現状報告をすべく口を開いた。

 

 

「取り敢えず現状を説明するわ。ロマニ、頼める?」

「はい、所長。それじゃあ、これを見てくれ」

 

 

 オルガマリーの指示にロマニが頷きながら端末を操作する。管制室のモニターに拡大された未だ赤く染まったカルデアスが映し出され、状況が説明される。

 

 

「まず、特異点『F』だけど、優作君達の活躍に依って見事に消失したよ。本来ならこれで事件解決! …って言いたかったんだけどね……残念ながら人類の未来は焼却されたままだ」

「まぁ、セイバーがこれから始まる的な事言ってたしね。あのクソ野郎も逃げたまんまだし」

「そこで僕らは過去に原因が有ると考えて、人類史を一から遡ってみたよ。すると、この2015年迄で、合計7つの特異点『F』よりも大きな歪みが発見されたんだ」

 

 

 新たに端末を操作すると赤いカルデアスが青に変わる。しかし、カルデアスに浮かぶ世界地図はノイズが掛かったテレビ画像の様に歪んでおり、その中に7つの赤い点が点滅していたが、歪んだ画像の為に何処を位置しているのか判らなかった。

 

 

「詳しい場所はまだ割り出せてないけど、この7つは人類史にとってのターニングポイントであると分かってる」

「ターニングポイント?」

「例えば、“革新的な発明”や“画期的な興国”または“決定的な訣別”といった人類史の土台となった人類が人類足るがゆえに必要な事柄の事さ」

「あぁ、イギリスの産業革命みたいなヤツね」

 

 

 7つの特異点の正体は人類史で起きたターニングポイント、それは発明、戦争、発見等様々だ。その人類にとって大事な事が起きた時期に異常が割り込み特異点と化した。

 

 

「この特異点も聖杯やらが関係してるんか?」

「お、頭の回転が速いじゃないか。その通り、この特異点の原因は聖杯と考えられる」

「そういや、裏切り野郎が聖杯を使って空間を繋げてみせてたな。つまり黒幕が聖杯をばら撒いたって事?」

「そう推測しているよ。時間移動、空間転移には聖杯が無いととても無理なんだ。…まぁ、優作君は単独で出来そうだけどね、現に時間を止めてみせたし」

「まぁ、可能な服は有るさな」

「あるんだ…」

 

 

 特異点となった原因は聖杯。特異点で発生した問題を解決しても原因となった聖杯を何とかしないと完全な解決とならず新たな異常を起こす事になる。従って、優作特異点にて聖杯の“回収”若しくは“破壊”をする事が特異点解決の為のクリア条件となる。

 

 

「我々はこの7つの特異点を正して人類の未来を通り戻さないといけない」

 

 

 この先、特異点の解決の為には聖杯を探し出す必要があるようだ。更に、その探索の旅の途中で必ず妨害をしてくるであろう裏切者及びその主を相手し、撃破する必要が有るだろう。

 

 

「カルデアスの磁場に依って此処だけは人理焼却の影響を受けていない。でもレフが言っていた様に2015年を超えた場合、7つの特異点の歪みがカルデアそのものを呑み込み共に消滅してしまうだろう」

「詳しいタイムリミットは判らんの?」

「難しいね、でも長く持って1年と計算には出ている」

「1年ですか…その期限内に7つの特異点攻略を…」

 

 

 ロマニから言われた約1年のタイムリミット、長そうで短い期限にマシュの表情が強張る。

 

 

「カルデアのスタッフも8割近くやられた現状、今も特異点の捜索・特定を行ってる。おそらく7つの特異点を特定するのはこの期限内で十分だと思う。只、7つの特異点を解消するのに1年で終わるかは判らない」

「ロマンの説明に付け加えるなら、これから君が相手にするのは歴史そのものだ……君に人類の未来を背負う覚悟はあるかい?」

 

 

 ロマニとダヴィンチに言われるカルデアの現状とこれから迎える事になる戦い。

 特異点を解決出来るのはマスター適性を持ち、レイシフトが可能である十 優作唯一人である。

 青年一人が背負うには余りにも大き過ぎる案件、例え英雄でも一人では重過ぎる事態であろう。

 

 

「この状況で狡いと思うけど、それでも言わせて貰うわ。恨んでも構わない」

 

 

 ロマニの説明の後、オルガマリーは真剣な表情で優作に問い掛ける。横のロマニも何時もの緩い雰囲気を消し、表情を引き締めていた。

 

 

「カルデア48人目のマスター適性者にして、最後のマスター十 優作。人類の未来の為に戦ってくれますか?」

「答えは“はい”か“YES”しか無いって言わんの?」

「もうっ、揶揄わないで。こっちは真剣なのよ?」

「分かってるさね。そんじゃあ答えさせて貰うわ、“任せろ”」

 

 

 時代を遡り歴史そのものを修復する、出来なければ人類は焼却され滅亡する旅路。そんな壮大過ぎる事案を優作は戸惑う事無く引き受けた。

 

 

「…良いのね? 人類史上最大の試練になるわよ?」

「断る理由が無いさね。こちとら親や後輩なんかを焼かれたんべ、解決すれば戻るとしても犯人を顔の原型が無くなるまでボコってやりゃな気が済まないさ」

「…有難う」

 

 

 不敵に笑って見せた優作にオルガマリーは微笑みながら感謝の言葉を告げる。

 

 

「人類を救う為の戦い…良いじゃん、男なら誰だって燃え上がるシチュエーションだ。敗北は許されない? 違うね、おいちゃん達は負けない! おいちゃんはハッピーエンド主義者だ、これ以上誰も死なせはしない!! 全ての特異点を修復し、黒幕共もぶっとばして完全勝利をもぎ取った時、最後に全員で笑ってやるさ!!!」

 

 

 優作は高らかに宣言した、“犠牲無く完全勝利を獲る”と。

 余りに根拠のない宣言、だがそれでも彼の言葉は此処に居る多くの人間の心を救ってみせた。

 

 

「ぷっ、あははは! やっぱり君は主人公力が有るねぇ!! でもそれだけの力を持っているんだ、私達には最高のマスターが残った! レフどころか人理焼却の黒幕だって予想してなかったさ!!」

「本来なら希望を持たせるだけの言葉なんだろうけど、優作君なら出来るんだろうな。特異点『F』だけで散々みせられたのだから、だからこそ君の言葉は信じられる」

「そうね。優作がいるなら最後、皆で笑い合えるわ。きっと…」

「先輩……私は先輩がいてくれて良かったと心から思います。改めてサーヴァントとして、先輩の為に全力を尽くす事をここで誓います!」

 

 

 ダヴィンチが笑い、ロマニとオルガマリーは優作の宣言を信じ、そしてマシュは彼の盾として共に行く事を誓う。

 

 

「ハハ! 今回のマスターは当たりと思ってたが、最高じゃねぇか!! 面白い戦いになりそうだ、最後まで付き合ってやるぜ、坊主!!」

「何とも凄まじい坊やがマスターになったものね…私も最後皆で笑い合う時まで付き合うわ。貴方なら私の願いも叶えてくれるのでしょうし」

 

 

 クーフーリンとメディアも優作と共に最後まで戦う事を約束する。

 

 

「もう一度礼を言うわ。有難う、優作。貴方には大き過ぎる重荷を背負わせる事になるけど、私達カルデアが全力で支えるから」

 

 

 改めて礼を言ったオルガマリーは最後の人類となるカルデア職員達に発令する。

 

 

「では、これより全カルデア職員に通達します。ファーストオーダーは終了、これよりカルデアの最後にして原初の任務、人理守護指定『冠位指定(グランドオーダー)』を発令します!! 魔術世界における最高位の任務を以て、私達は人類と未来を救済します!!」

《はいっ!!》

 

 

 彼女の言葉に職員達は声を揃え力強く応えてみせた。

 

 

「優作、私の事はあの時みたいにマリーと呼んでちょうだい?」

 

 

 職員達がまた作業に戻る様子を眺めているとふとオルガマリーにそんなお願いをされる。

 

 

「はぇ? 上司なのに良いん?」

「貴方とは対等でいたいから…駄目かしら?」

 

 

 そう言われながら上目遣いでお願いされる優作、普段のオルガマリーの様子とのギャップ差は中々クるモノがあった。

 

 

「美人さんにそんな顔されたら断れんよ。宜しく、マリー」

「えぇ、宜しく!」

「……むぅ」

「フォウ…(これは三角関係の始まりですねぇ、間違いない)」

 

 

 優作のマリー呼びにオルガマリーは笑顔になる。そんな様子を見ていたマシュは何故か胸がモヤモヤした。

 

 

―――――是より始まるは人類史を巡る戦いの旅。人類最後のマスターとなった十 優作に立ち塞がるは人類が今まで歩んできた歴史そのもの。

 しかし、彼は止まらないだろう。どんな壁でもブチ壊し、仲間達率いて完全無欠のハッピーエンド目指しひたすら進み続けるのみ。

 その胸に未来の奪還と自身の仄かな野望(・・・・・・・・)を抱いて…

 

 

「さぁて、歴史を巡る戦い。どんな英雄と出会って、戦う事になるのか…ま、立ち塞がるのが稀代の英雄だろうが、魔王やら神だろうが二度と逆らえなくなる迄叩きのめしてやるさな」

(有言実行出来そうなとこがなぁ…坊主が師匠と出会ったらヤベェ事になりそうだ…)

(もし、あの神が現れたらマスターに頼んでボッコボコにして貰おうかしら…)

キュウ(もしも)キュウフォーウフォウ(あの屑野郎が現れたら優作にボコって貰おう)フォウキュウ(うんそうしよう)




元ネタ
>アルバス・ダンブルドア(出典:ハリー・ポッターシリーズ)
J・K・ローリング著『ハリー・ポッターシリーズ』の登場人物で、イギリスの魔法学校『ホグワーツ』の校長。
魔法学校の校長で有る事もあり、本人自身が同校にて“ホグワーツ始まって以来の秀才”と評価される程の神童であった。その優秀さは終生変わらず、魔法に関しては原作中でもトップクラスの技量の持ち主である。
常に茶目っ気たっぷりな好々爺で、普段は周囲の人間に穏やかに接している。基本的に、他人に情けやチャンスを与える考えをスタンスとしている。
一方で、非常に冷徹に作戦を立てる策略家の面もあり、本作の敵であるヴォルデモートを滅ぼすためには原作主人公であるハリーの死が必要だと判断すると、冷徹にハリーを死に導く計画を立てたりもしている。これに関して原作者は「マキャベリ的な策謀家」と発言した。
趣味は室内楽とボウリングでお菓子が大好物。

>浮遊呪文『ウィンガーディアム・レヴィオーサ(浮遊せよ)』(出典:ハリー・ポッターシリーズ)
『ハリー・ポッターシリーズ』に登場する呪文で掛けた対象を浮かび上がらせる。
ホグワーツでは1年生の「呪文学」で習うが、発音がやや難しい。

>修復呪文『レパロ(直れ)』(出典:ハリー・ポッターシリーズ)
『ハリー・ポッターシリーズ』に登場する呪文で壊れた物を直す。但し、中に液体が入っていた場合、液体は戻らない。

>エドワード・エルリック(出典:鋼の錬金術師)
荒川弘氏作『鋼の錬金術師』の登場人物で主人公の一人。
史上最年少で国家錬金術師の資格を得た錬金術師で、『鋼』の二つ名を持つ。
幼いころに失くした母親を蘇らせる為に人体錬成を行うが失敗。結果、自身の左脚と弟を失くしてしまう。その後、自身の右腕を代償に弟の魂を取り戻した。その後、国家錬金術師となり、自身の手足と弟の肉体を取り戻すために『賢者の石』を探し旅に出る事から物語が始まる。
一般常識は弁えているが性格は粗暴でがさつ。悪知恵に長けており、他人には容赦無い一方、勉学に対する姿勢は非常に真摯な努力家且つ人情家で正義感が強く、思いやりもあり、総じて繊細で感受性の強い人物でもある。
失った手足の代わりに機械鎧(オートメイル)を着けている影響か身長は低め。但し、それを指摘されるとキレる。

>人体錬成(出典:鋼の錬金術師)
人間(人体)またはその一部を錬成する錬金術。特に死者の復活を目的として、人体を構成する元素や物質を基に錬成を行うことを指すが、未だ成功例が無いと言われる錬金術であり、錬成そのものが禁忌として扱われている。
錬金術において、人間は肉体・魂・精神の3つから成るとされており、これらを錬成できれば母胎に頼らず人間を生み出せると考えられた。しかし、実際には構築式が複雑になるために研究自体が非常に高度であり、仮に一定の成果を得て人体錬成を行っても確実にリバウンドが起こる。リバウンドが起こると『真理の扉』に飛ばされ、“通行料”として術者の身体の一部ないし全部を奪われてしまう。
存在しない物を錬成することは原理上不可能であり、その為、既に存在しない死者や身体の一部を錬成する事は初めから不可能である。よって、人体錬成はどのような構築式を持ってしても錬金術の範囲をオーバーして必ずリバウンドが発生してしまう。
逆に既存の物体を錬成することは可能であり、原作ではエドワードが自らを代価として、一度分解・再構築して人体錬成を成功させた。

>賢者の石(出典:リアル他)
中世ヨーロッパの錬金術師が、鉛などの卑金属を金に変える際の触媒となると考えた霊薬で、人間に不老不死の永遠の生命を与えるエリクサーと混同される事もある。
小説や漫画作品にも度々登場し、上記の『鋼の錬金術師』世界では人間の魂を素材としていたりするが、“等価交換”の原則等を無視した錬成が可能になる。
尚、本作で優作が使った賢者の石はマインクラフト産であり、素材はダイヤモンドとレッド及びグロウストーンパウダーと安心素材。

>ケアル(出典:FFシリーズ)
『FFシリーズ』に登場する初級回復魔法で対象単体の体力を回復する。
上位互換にケアルラ、ケアルガ、ケアルジャがある。


Q、主人公君、初心過ぎない?
A、この主人公、心の準備が出来ていない状態で極度のエロに遭遇すると鼻血噴いて失神するぞ。しかも前後の記憶も吹っ飛ぶから裸を見られた女の子も安心だ!

Q、人体錬成後のオルガマリーの様子についてkwsk
A、ぺたん座りだったが、両手共に横にやっていたので大事なところが丸見え。

Q、人体錬成のシーン、表現大丈夫け?
A、ハーメルン内にゃ、もっとヤバい表現してるのに全年齢対象な作品があるからヘーキヘーキ。

Q、恋愛トライアングルが出来てないか?
A、まだ出来てないから…(震え声)


今回でファーストオーダー完全終了。
次回より幕間開始。

次回は10月28日投稿。
感想コメント、意見・質問お待ちしております。


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幕間 其の壱
カルデアでの召喚、麻婆豆腐を添えて


日刊ランキングに入ってしまったのは…何かの間違いでは無いでしょうか?
まぁ、一瞬だったけどね(ハーメルンあるある)

兎に角、一瞬でもランキングに載った事とUA10000越え且つお気に入り300突破及び高評価を入れて下さった読者の皆々様に感謝、感謝。

今回より幕間開始。


 オルガマリーに依る“冠位指定(グランドオーダー)”発令後、優作はロマニからカルデアの詳しい被害情報を聞いていた。

 

 優作の手によって爆破された中央管制室は元の姿へと戻っていたが、同じく爆破された中央発電所はカルデアを維持及び最低限の機能を行使する程度の発電しか出来ない状況になっているらしい。

 また、大きな爆発が起きた場所は管制室及び発電所であったが、他の場所でも小規模ながらも爆弾が仕掛けられていたらしく、備品倉庫や警備員や厨房職員の詰所を爆破されたらしい。

 結果、生活必需品の予備や食料、保存していた聖晶石といった魔術素材等の多くが灰になってしまった。また、生き残っている職員が魔術系統の技術士のみな上に誰も料理を作る事が出来ないとの事。ロマニ、ダヴィンチは同じ技術・研究者である為に論外。オルガマリーは良いとこのお嬢様なので経験無し、マシュも料理は興味があったが、今迄厨房を借りる事が出来なかったらしい。

 

 爆破された個所は優作が直せば済むだけなので他、カルデアで解決すべき問題は…

 

1、食料や生活必需品等の資材確保

 

2、料理人の確保

 

3、カルデア職員の仕事補助及び効率改善

 

4、裏切者のレフや黒幕等によるカルデア侵攻の際の防衛機構構築

 

5、特異点攻略の為の戦力補充

 

 簡単に纏めると以上の5項目が挙がる。

 

 

 1に関してはあそこ(・・・)から自分が持って来れば良い。

 2についてはコックになりきらせる手もあるが、暫くは自分がやれば良いだけの事。メディアは料理が出来るらしいし、クーフーリンも野外料理が得意との事なのでサーヴァント達にも手伝って貰える。あと料理に興味があるマシュも参加してくれるとの事。

 3については手伝える人員確保及び働いてる職員が休憩に入る際、如何にリラックスして休息を取って貰えるかが大事だろう。

 4に関しては神代の魔術師であるメディアや戦闘のプロであるクーフーリンと相談しながら3におけるリラクゼーション施設を設営する事を加えてカルデアを大改造する必要がある。黒幕を倒しても今後、別の勢力が攻めて来る可能性も捨てきれないのだから。

 最後となる5については英霊召喚で事済むので一番先に行う事にした。戦力として呼ぶのは当然であるが、料理と言った他技能を持った英霊が現れてくれるかもしれないし、自身が抱いている野望も叶ってしまうと一石三鳥になる訳だ。

 

 以上の事から他の爆破された個所を直した後、英霊召喚を行う事に決めた。

 

 

:::::

 

 

「倉庫で無事だった聖晶石は2個だけだったよ。本来ならまだ沢山有ったんだけどね…」

「バーサーカーとアーチャーでそれぞれ3個、セイバーで4個、そして倉庫の2個で合計12個。なら4回召喚出来るやん! モーマンタイ、モーマンタイ」

 

 

 英霊召喚システム『システム・フェイト』、その施設がある部屋にて優作はロマニからカルデアに残っていた聖晶石を受け取る。現在、この場にはこの2人の他、マシュとオルガマリー、クーフーリンとメディア、そしてダ・ヴィンチがいた。

 

 ここでもう一度英霊召喚について説明しよう、

 

 特異点『F』にてオルガマリーが説明した様に、カルデアでの英霊召喚には電力と聖晶石と呼ばれる石で魔力を精製するだけで良い。

 本来の聖杯戦争での召喚は聖杯からの魔力供給がある為、魔法陣を描き令呪が刻まれたマスターが決まった召喚の詠唱をする事で召喚される。この時マスターは召喚の為に自身の魔力を消費する必要が無いが、召喚したサーヴァントを維持させる魔力を供給する為にパスを作るので、それなりの魔力消費が発生する事からマスターには一応の負担が発生する。

 だが此処カルデアでは、マスター自身は一切の魔力消費が発生しない。

 召喚は勿論の事、サーヴァントを現界維持やサーヴァントの真骨頂とも言える宝具を発動する時に必要とする魔力すらカルデアの電力によって賄う事が出来るのだ。

 流石に聖杯のような無限供給みたく、宝具の連続開放は負担が大きい為に令呪を切らない限り無理だが、それでもマスター自身の資質に関係なくサーヴァントを運用する事を可能にしている。

 一般人である優作がカルデアに呼ばれたのも、魔術師で無くともマスター適性者としてレイシフトが可能であれば誰でも良かった、と言う召喚システムの優秀さも理由として入っていた。

 

 また、本来の英霊召喚では召喚した英霊の全盛期の姿で召喚されるのだが、前当主のマリスビリー・アムニスフィアは召喚に応じた英霊の反逆を恐れ、安全対策としてサーヴァントの霊基をある程度弱体化させて召喚するシステムを採用し製作した為、呼び出しただけの英霊は本来の実力を引き出す事が出来ない。但し召喚後、霊基を強化する事で本来の力を取り戻す事が出来らしいのだが、種火といった素材が無いといけないらしい。英霊の育成に関しては考えが有るので優作は特に気にしていなかった。

 

 

「そんじゃあ、始めますかね」

「礼装が現れる可能性も考えると何人呼べるか不安だけど…」

「見ているだけですが、緊張します…」

「なぁに、気楽にいきましょうや。そ~れ!」

 

 

 媒体さえあれば狙った英霊を召喚する事が出来るのだが、人理焼却された現状では用意する事が出来ない。結果的にマスターとなる優作との相性や縁といったモノから繋がりがある英霊を呼び出す事になる。

 心配そうなオルガマリーと緊張しながらも目を輝かせながら英霊召喚の様子を見ているマシュに言葉を掛けながら優作は3個の聖晶石を召喚サークルに設置した。

 置いた聖晶石が召喚サークルの中心で輝き出し、やがて光の柱が現れる。さらに同じ様に光の輪が現れて光の柱を包み込み徐々にヒトガタへと変わっていく。

 

 

「おぉ、一発目から当たりじゃないか!」

「やりましたね、先輩!」

 

 

 優作とマシュの歓喜の声と共に光が消え、現れたのは紅い外套に黒い軽鎧を身に着けた、鍛え抜かれた長身の青年だった。銀髪に鉄灰色の瞳、そして褐色の肌。年齢は20代半ば程と思われるが、人種を特定しかねる容貌だった。

 

 

「サーヴァント・アーチャー。召喚に応じ参上した」

「おや、この声は冬木で会ったアーチャーやん」

「うげっ、テメェが呼ばれたのかよ…」

 

 

 声と気配から冬木にて戦ったアーチャーであると優作は気付き、クーフーリンは嫌そうな声を上げる。余程犬猿の仲なのだろう。

 

 

「ふむ、まさかこうも早く呼ばれるとは…取り敢えず簡単に自己紹介させて貰う。私はアーチャーのサーヴァントのエミヤだ、アーチャーともエミヤとも呼んでくれて構わない」

 

 

 召喚されたアーチャーことエミヤはクーフーリンの方を見て一瞬顔を顰めた後、優作に対し丁寧な挨拶をする。

 

 

「エミヤ? 日系の人なん?」

「こんな見た目でも日本人だ。しかし、そこの青タイツ男は先に呼んだのかね? 今はあの時の服を着ているようだが…」

「おい、青タイツ呼び止めろや」

「クー兄はあの冬木でそのままゲットしまんた。ところで青タイツって?」

「この男がランサーで呼び出されて時の姿だ」

 

 

 エミヤの青タイツ男呼びに歯を剥き出して槍を構えようとするクーフーリン。傍にいたマシュに止められて、構えを解いたが、相変わらずエミヤを睨んでいた。

 

 

「(青タイツって…ケルトらしさ0なんだけど…)宜しく、エミヤん。ところでエミヤんの趣味って何なの?」

「(エミヤん…)趣味か…料理は得意だぞ」

「やったぜ、マリー。また趣味が合った英霊を呼べたゾイ」

「えぇと…料理できる人員が増えた事を喜ぶべきなのよね?」

「まぁ、現状優作君とサーヴァント達しか料理出来ないからね」

 

 

 エミヤの趣味を確認した優作は料理仲間が増えた事を喜ぶ。

 

 

「これから宜しくエミヤん。人類の歴史奪還の為に料理含めたその力、貸してくださいな」

「ふっ、君は中々面白そうだな。まぁ、任せたまえ。戦いでも厨房でも、な」

 

 

 そう言って2人はしっかりと握手を交わした。

 

 

「そんじゃ、次いっきま~す」

 

 

 改めて3個の聖晶石を設置し、召喚を開始する。

 エミヤはマシュ達と同じく後ろに控えている…クーフーリンから離れてはいたが…

 新たに召喚サークルから光が溢れ、ヒトガタを形成していく。

 

 

「物好きな方々ですね。生け贄がお望みですか?」

 

 

 召喚されたのは長身で女性美の極致のような肢体の持つ美女だった。白く陶磁器の様な美しい肌に豊満な胸、細くくびれた腰に手足も細くそして滑らかな肉付きだった。

 髪の毛も美しい。膝どころか踵近くまで伸びるストレートの長髪は紫水晶の様に室内の光で輝いて見える。

 正に理想的なモデル体型であり、男性は魅了され、女性は羨望の眼差しで見つめる事だろう。優作にとってもクリティカルヒットなモデル候補だった。

 

 着ている衣装について目を瞑ればだが…

 

 

「うわぁ…」

 

 

 彼女が着ているのはボディラインがくっきりと分かる黒と紫を基調としたベアトップのワンピースであり、上下とも実に際どい位置迄しか布地が無かった。そして腿迄のブーツと、上腕迄あるレザーグローブを身に着けている。色はいずれも黒で、双方に紫のベルトがあしらわれている。首にも紫のチョーカーを着けており、更にウロコ模様の顔面を覆う眼帯が着けられていた。

 正直、キャバクラかR-18指定待った無しな怪しい夜のお店の店員さんな衣装である。

 そんな恰好を前にして後ろでロマニが思わず呻き声を零していた。

 

 

「…キャバクラの英霊ですかね?」

「きゃば…くらですか? 何を……ヒィッ!?」

 

 

 優作のあんまりな問いに首を傾げる女性だったが、マシュの姿を見た途端怯えの声を上げて後退った。

 

 

「いきなり怯えだしたわよ!?」

「マシュに顔を向けた途端怯えだしたけど、アレで見えるのかい?」

「わ、私ですか?」

「嬢ちゃんを見て怯える……あ」

 

 

 突然怯えだした女性に困惑の声が出る中、クーフーリンが気付いた様に声を上げた。

 

 

「何か分かったん、クー兄?」

「コイツあそこ(冬木)でライダーで出ていた奴だ。嬢ちゃんが星にしたんだろ?」

「あ…あぁ~、だからね」

 

 

 彼女は特異点『F』にて最初に襲って来て、マシュに依って星にされたシャドウ・サーヴァントらしい。

 納得する優作に彼女は怒った様子で大声を上げた。

 

 

「そんなアッサリと納得しないでもらえますかっ!!?」

「あ、キレた」

「貴方に分かりますか!? 摩擦熱で全身を焼かれる痛みを味わいながら徐々に消滅していく様を!!?」

「うんわ…知りたくなかった真実…まぁ、よくよく考えたらそうなると分かるんけど…」

 

 

 事実、大気圏離脱して星になってしまう速度で蹴っ飛ばされたら摩擦熱で焼き尽くされるだろう。それ以前に本来なら蹴られた直後に木っ端微塵になるだろうが…

 

 

「まぁ、その件に関しては“嫌な事件だったね?” としか言えんべ」

「そ、そんな…」

「事実、シャドウ化してモーショボーやおいちゃん達に襲って来たんやから、しゃあなしやろ?」

「それは…そうですが…」

「こうして呼んだ以上、仲間なんだから星にする事は無いよ。但し、裏切らない限りはって条件が付くけど…」

「…あんな思いをまたするのはもう御免です。裏切ろうなんて思いませんよ…」

 

 

 げんなりとした様子の女性に優作は苦笑しながら手を差し伸べた。

 

 

「兎に角、宜しく。名前は?」

「メデューサです、宜しく。クラスはライダー」

「へ? メデューサ? その姿でって事はアテナの呪いで魔物に変えられる前なん?」

 

 

 クラスをライダーと名乗った女性、メデューサの自己紹介に優作は目を丸くする。

 『メデューサ』と聞いてイメージするのは髪の毛が蛇へと転じ、その姿を見ただけで石になってしまう醜い怪物であろう。しかし、彼女は眼帯やら怪しい衣装ではあるが、見た目は絶世の美女である。作品によっては彼女が見つめたモノが石になったりするので眼帯をしているのは納得出来るが、それでも髪の毛が蛇で無い事に疑問が浮かんだ。

 

 

「確かにこの姿はアテナに因って魔物に変えられる前の姿です。唯、魔物に変えられた後に得た力が混ざっていますが」

「混ぜ込ぜのごっちゃになってる訳か、大変やな?」

「いえ、慣れましたので」

「何か不便な事があったら、おいちゃんに言うんやで? 可能な限り叶えるさかい。ところで趣味は?」

「…有難う御座います。私の趣味ですか…?」

 

 

 優作の問いに対し、メデューサは優作の後ろに立つマシュとオルガマリーをチラリと見やった。眼帯をしていて見えているのかは分からないが…

 

 

「…可愛らしい()と戯れる事でしょうか?」

「…メーちゃん、レズなん?」

「め、メーちゃん!?」

「メデューサだから“メーちゃん”さね。嫌やった?」

「い、いえ…可愛い呼び方だから構いませんけど…後、レズではありません。可愛い娘が好きなだけです(真顔)」

「そっか~、兎に角宜しく」

「はい、宜しくお願いします。ここは働き甲斐がありそうですし、頑張らせて頂きます」

 

 

 優作はメデューサと握手を交わし、彼女はマシュ達のいる場所へと向かう。マシュとオルガマリー両者の間に陣取ったのが少し気になるが…

 

 

「3回目いくど~」

「次も英霊が出ますかね?」

「流石に連続は無いんじゃないかしら…」

 

 

 3度目の召喚を開始し、光が溢れていく。輝きは徐々に収まっていくが、ヒトガタは現れなかった。

 

 

「礼装か、残念」

「まぁ、連続で英霊を引き当てた方が凄い事だからね。さて、どんな概念礼装が出るのかな?」

 

 

 残念がるロマニと笑いながら答えるダ・ヴィンチ。

 光が収まり、召喚サークルの中にあったのは麻婆豆腐であった。

 

 

「………ナニコレ?」

「げ、アレって…」

「まさか……アレか!?」

 

 

 目が点になりながら、召喚サークルに入り麻婆豆腐が入った皿を持ち上げる優作。親切にも皿にはレンゲも置かれていた。

 一方で後ろのクーフーリンとエミヤがナニカ焦った様子である。

 レンゲを手に取り、一口麻婆豆腐を掬ってみる。香料の良い香りが鼻腔を擽った。

 

 

「ヤベェ!? 坊主、食うな!!」

「止めたまえマスター! それは最早食べ物では無いっ!!」

 

 

 慌てていた2人が優作に食べる事を止めるよう声を挙げるが、時すでに遅し。レンゲで掬った麻婆豆腐は彼の口の中に入っていた。

 

 

「「ああああぁぁ―――っ!?」」

 

 

 モグモグと咀嚼する優作に悲鳴染みた声を挙げる2人。メディアとメデューサも何故か気の毒そうな表情をしていたが、他の面々は何が変なのか解からないでいた。

 

 

「…………辛い」

「「なん……だ、と?」」

「アレを食べてそれだけですかっ!?」

「味覚すら規格外だというの!?」

 

 

 顔を顰めながら呟く優作の様子にサーヴァント4名が驚愕する。顔を顰めたまま優作は麻婆豆腐が入った皿を置き、道具袋を呼び出して中からヨーグルトドリンクを取り出し一気飲みした。

 

 

「風味良し、味も良しなのになんだコレ? くっそ辛い…寧ろ痛い」

「大丈夫なのか、坊主?」

「口の中がヤバい。山椒でビリビリ痺れてるし唐辛子でめっちゃ熱痛い。何だコレ、罰ゲーム用に作られたヤツ?」

「それはとある頭のおかしい神父が好んで食べていたモノだ」

「その神父、マゾか何か? おいちゃん、辛党だけどコレは無いわ。あ~、舌が痛い…」

 

 

 新たにアイスキャンデーを取り出して舐めながら舌を冷やす優作。この麻婆豆腐の二口目以降はとてもではないが食べれたもんじゃない。かといって、廃棄するのは勿体無い、さてどうしたものか…

 

 

「……ティン、ときた」

 

 

 ふと良い案を思い付き、優作は麻婆豆腐を取り出したタッパーに入れて道具袋の中へ入れる。

 

 

「この麻婆豆腐は後で再利用させて貰うとして、ラストいってみよう」

「何事も無かった様に始めるのね…(再利用?)」

「あの外道麻婆豆腐を食べて冷静でいられるとは…」

 

 

 メディアとメデューサの呆れと驚く声を聴きながら優作は最後の聖晶石を召喚サークルに置いた。

 召喚サークルから溢れる光は一つに纏まってゆき、ヒトガタを形成した。

 

 

「よっしゃぁ、ラストは英霊だぜぃ!」

「こうもポンポンと呼び出すなんて…」

「アーチャー、ライダーと続いて次は何のクラスかな?」

 

 

 光が収まった召喚サークルには藍色を基調とした羽織と着物を纏い、刀身が非常に長い刀を手にした美丈夫が立っていた。

 

 

「アサシンのサーヴァント、佐々木小次郎。ここに参上つかまつった」

 

 

 後ろで束ねた衣装と同じ藍色の髪を揺らしながら、アサシンこと佐々木 小次郎はうっすらと笑みを浮かべる。

 

 

「ふむ、2人程衣装が異なるが見た事がある顔が多々いるな。して、其方が私のマスターか?」

「ん、どうも宜しくっす、小次郎さん。しかし、宮本 武蔵と同じく本当にいたんだ?」

「何、剣を只管に振っていた農民の亡霊に過ぎんよ」

「ほむ。ところで、いきなりになるけどご趣味は?」

「趣味か? ふぅむ…剣を振う事しか能が無い故な。何、私の事は一振りの刀と思ってくれれば良い」

「剣一筋ってな訳な? そんじゃあ改めて…マスターになる十 優作っす、宜しく」

「優作か、宜しく頼むよ主殿。しかし…」

 

 

 優作と握手を交わした小次郎はメディアをチラリと見やる。

 

 

「まさか、また女狐めに会う事になるとはな。しかし、その派手な衣装は如何したのだ?」

「マスターから与えられた服よ。しかし、聖杯戦争での顔見知りが良くもまぁ揃ったわね…」

「これでセイバーとバーサーカーが揃えば完璧ですね…」

 

 

 小次郎の若干驚いた様子の言葉にメディアは肩を竦める中、メデューサは集まった英霊の面々を見て顔見知りの揃いっぷりに驚いた様子であった。

 

 

「これで召喚は終わりやね」

「まさか、4回の内に3体も英霊を召喚するなんて…」

「あはは、やっぱり君には主人公力が有るよ♪」

 

 

 4回の召喚の内、3人の英霊を召喚し、1回だけ礼装が出る結果となった。しかし、それでも現状でシールダー、ランサー、キャスター、アーチャー、ライダー、アサシンとバランスの取れた面々が揃う事が出来た。状況に応じての不足分は優作が補える事もあり、戦力的には問題無いであろう。

 今回の召喚の結果にオルガマリーは驚き、ダ・ヴィンチは笑った。

 

 

:::::

 

それからどうした

 

 

「マシュ、そっちの大皿持って来てくれい!」

「はい!」

 

 

 厨房にて忙しく動き回りながら優作はマシュに的確な指示を出していく。

 現在、これから冠位指定(グランドオーダー)に挑むという決起及び召喚した英霊たちの歓迎を兼ねた食事会を提案した優作と料理が出来るサーヴァント達及びお手伝いでマシュが厨房で料理を行っていた。

 

 

「マスター、良い海老があるからペスカトーレを作りたいのだが、他の材料は有るかね?」

「あいよ、イカとアサリに『ふゆトマト』、色々持ってけ!!」

「…どれも新鮮なままか、凄いなこのケースは…」

「なはは、道具袋と『グルメケース』様様さね」

 

 

 優作と同じ様に忙しく動きながら料理を作ってエミヤは時折、優作に必要とする食材を要求し、優作は調理しているその場から離れる事無く、指を振って求められた食材が入ったケースを呼び出していく。

 厨房の中央には様々な食材が入ったケースが山と並んでいた。どれもが高品質、且つ新鮮そのままであり、まさに料理するに相応しい状態であった。

 

 

「メディ姉、オーブンのピザはどんな様子?」

「えぇっと…上のチーズが沸々としているわね」

「なら後5、6分で焼き上がりだから設定どおりやね。そんじゃあ、ゆで卵が出来たらパウンド型にミンチタネと一緒に詰めて別のオーブンで30分程焼いて頂戴な」

「分かったわ」

「クー兄、食材は切り終えた?」

「おう、一口大に切れば良いんだよな?」

「せやで。それをコンロの土鍋に入れて煮て頂戴。但し、火が通り難い根菜を先に入れてな?」

「あいよ」

 

 

 メディアとクーフーリンもそれぞれ頼まれた料理を調理している。レシピは優作が手渡している為、時々確認の声が掛けられた。

 

 

「マスター、盛り付けはこれで良いかね?」

「おほっ、すっごい綺麗やん! 花丸モノっすよ!!」

「優作、チーズとドライフルーツを混ぜ終えました」

「有難う、メーちゃん。それじゃあ、そこのラップで包んでから棒状に丸めて冷蔵庫で冷やしといて?」

「分かりました」

 

 

 新たに加わった小次郎とメデューサもただ待つだけは忍びないと優作達の手伝いを申し出てくれた。両人共料理はそれなりに出来るとの事だったので、小次郎に船盛、メデューサにフルーツチーズを作ってもらうべくレシピと材料を渡して調理を頼んだ。

 因みに英霊の面々は他の面々は厨房で料理するに相応しい衣装で無い為に厨房にあった、司厨服を着て貰っている。

 各々が料理を作っていく中、優作は大きな中華鍋で麻婆豆腐を炒めながら横の寸動鍋で小さく切った野菜だけが入ったカレーを煮込んでいた。

 暫く炒めていた麻婆豆腐をなんとカレー鍋へ入れ混ぜると道具袋を出してタッパーを取り出した。

 

 

「この鍋に例のアレを入れて、と」

「な!?」

 

 

 優作の様子をチラリと見ていたエミヤがギョッとした様子で驚いていた。優作が鍋へ入れたのは召喚の際に出た概念礼装の超々激辛麻婆豆腐だったからだ。

 

 

「ま、マスター…今入れたのはアレではないのかね?」

「せやで? あぁ、心配しなさんな。おいちゃんが作った麻婆豆腐は辛さをとことん控えてるし、カレーの方も風味程度で辛味のスパイスはそこまで入れていないさかい」

「……大丈夫なのかね?」

「おいちゃんの舌を信じるならこれくらい延ばせば程好い辛味になるよ。何なら味見してみぃ?」

 

 

 そう言って優作は鍋から掬ったルーを小皿に入れてエミヤに手渡す。手渡されたエミヤは暫く小皿と睨めっこしていたが、意を決して味見した……どれだけヤバい代物扱いだったのだろうか…?

 

 

「…た、食べれるだと!!?」

「…うん、その表情でどんな扱いだったか良く解かったわ」

「辛さが丁度良くなっている…それにカレーのスパイスと喧嘩する事無く見事調和していて実に美味い」

「気に入って貰えて何より」

 

 

 調理の手際の良さからエミヤが如何に料理が旨いか理解した優作は彼から褒めて貰えた事に素直に喜ぶ。彼が問題無いならだれでも食べれるだろう。

 

 

「おいちゃん特性のマーボーカレーを楽しみにしとき♪」

 

 

:::::

 

 

 カルデアにある食堂にて、カルデアの住人達が集まっていた。

 

 

「それじゃあ、マリー。音頭を宜しく」

「んんっ、長く話して折角の料理を冷ましてしまうのもなんだから短く終わらせます。…これから私達は約1年間苦しい戦いをしていくでしょうけど、今はそれも忘れて飲んで、食べて騒ぎましょう。では、乾杯っ!」

 

《乾杯っ!!》

 

 

 オルガマリーの音頭と共にカルデアの住人達がグラスを掲げる。

 

 

 食堂のテーブルには優作達が作った料理が所狭しと並べられていた。和洋中様々な料理は、各々が好きに取って食べるバイキング方式になっており、また壁際にはお酒を含むドリンクバーが設けられていた。

 

 

「先輩! マーボーカレー、とっても美味しいです♪」

「麻婆豆腐とカレーなんて意外な組み合わせだけど、こんなに美味しいのね?」

「そう言って貰えると嬉しいさね。今後、食堂のメニューにでも入れようかな?」

キュウッキュ(うまうま)

 

 

 優作特性マーボーカレーの感想を述べるマシュとオルガマリーに優作は笑顔で喜ぶ。

 

 

「あぁ~、甘味があれもこれも選り取り見取り…スイーツパラダイスは此処にあったんだ!」

 

 

 食事は程々に済ませた幾つものスイーツが並んだデザートコーナーにて皿に盛ったデザートを堪能するロマニ。

 

 

「っかぁ~、美味い料理に美味い酒。テイル・ナ・ノーグの馳走を超えてるな、こりゃ」

「私の時代にもあった料理もあるけど、ここまで味が変わるなんてね…美味しい意味で」

 

 

 ジョッキのビールを豪快に呷るクーフーリンとサラダやパスタを食べながらその味に驚くメディア。

 

 

「ふむ、マスターに貰ったふゆトマトを使うとここまで違うとは…」

 

 

 それぞれの料理を味わいながらその材料等を確認しているエミヤ。

 

 

「ふむ、この“みいとろおふ”とやらは酒に実に合う」

「美味しいです」

 

 

 小次郎とメデューサも各々料理に舌鼓を打ち、皆が皆料理を楽しんでいた。

 

 

「坊主、何か一曲歌えや!」

「また唐突やね、だが宴を盛り上げるのに歌は一番! っつー事で…」

 

 

 宴もたけなわとなる中、酔いが回り上機嫌なクーフーリンからのリクエストに優作が指をパチンとスナップすると、食堂の隅にカラオケマシーンが現れた。

 

 

「では歌う前に一言」

 

 

 優作はマイクを片手にカラオケマシーンへと向かった。

 

 

「自分達は今人類の存亡に立たされています」

 

 

 選曲しながら優作が放つ言葉に一同はどよめく。

 取り敢えずは現状を忘れて楽しむ事にした食事会であった中、突如現状について話し始めたからだ。

 

 

「残された人類は此処、カルデアにいる住人のみ。勝たなければ人類の滅亡は必至…謂うならば地獄なのかも知れない………だが、それがどうした!」

 

 

 地獄とも例えれる現状を優作は“それがどうした”と切り捨てる。

 

 

「どんなに辛くても、おいちゃんは前に進みます。進んだ先に明日があるのだから!」

 

 

 優作の言葉と共にスピーカーから賑やかなイントロが流れだし、優作はマイクを構えなおす。

 

 

「これから歌うのはある病気で倒れ、3分の1しか助からない状況で助かり、更にその3分の1しか社会復帰出来ないと云う可能性を超え、人々に感動を届けた方が歌った歌ですっ! それでは聞いてくださいっ、『地獄でなぜ悪い』!!」

 

 

 声高らかに優作は歌い始め、こうして決起兼歓迎会は進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そうだ(唐突) エミヤん、『バレンタイン・キッス』か『魔法使いサリー』歌って?」

「ファッ!!?」

フォウフォーウ、キューウ(『魔女っ子諏訪部』ですね、分かります)




元ネタ(料理関連は一部除いて省略)
>ふゆトマト(出典:テイルズオブエターニア)
『テイルズオブエターニア』に登場する野菜。
寒い地方で育つと言われている幻のトマトだが、氷晶霊セルシウスが雪山の山頂にて育てていたりする。
料理イベント用のキーアイテムだが、回復アイテムとしても利用出来、使用するとTPが20%回復する。

>グルメケース(出典:トリコ)
島袋 光年作、週刊少年ジャンプの漫画『トリコ』に登場する保存道具。
保温・保冷はもちろん真空パックなど、最大数万種類のグルメ食材の最良保存データが入ったケースで、食材を入れるだけで最も適した保存状態を保ってくれる。

>マーボーカレー(出典:テイルズオブシリーズ)
『テイルズオブシリーズ』に登場する料理。
麻婆豆腐とカレーが合わさった料理であり、そのまま混ぜ合わせたものを食べても美味いが、カレーの野菜は小さめに切った方が作者的には美味しいと思った。
効果はシリーズによって様々。


Q、召喚した英霊のチョイスは?
A、“第5次聖杯戦争3点セット”…的な

Q、外道麻婆豆腐食った優作はよく無事でしたね…?
A、優作はけっこうな辛党……と云うのが1割の理由で、残りは常時効果付与している耐性バフのお陰だったりする。

Q、星野源の歌を歌っとるやん!
A、作者が辛い時に良く聴いている歌。MVがアニメであったり、この歌を主題歌にした同タイトルの映画が有ったりと歌以外も面白いので興味が有ったら是非聴いてみて欲しい。

Q、『魔女っ子諏訪部』って何ぞ?
A、検索してみ、そして目を閉じてエミヤが歌っている姿を想像しながら聴くのです。


一身上の都合で次回は11月11日投稿でカルデア魔改造回になります。
感想コメント、意見・質問お待ちしております。


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優作の楽しいカルデア大改造

ライダー助けて! 仕事に殺されちゃ~う(マジ話)
休み無しで連続航海とか殺す気満々やろ…

先週は投稿出来ずに申し訳ない、待っていてくれた読者様にはひたすら感謝。


 決起兼歓迎会の宴を終えた、翌日。

 人理が焼却された現状で朝昼夜といった時間の概念が有るのか不明であるが、早朝に目を覚ました優作は顔を洗い、素早く寝間着から私服へと着替えて身嗜みを整えると朝食を作るべく食堂へと向かった。

 尚、ベッドにはフォウが寝ていたが起こすのも忍びなかったのでそのまま寝かせる事にした。

 

 

「おはようマスター、もう起きたのかね?」

「うん、おはよう。しかしエミヤん、早いっすね…」

「なに、昔の習慣は英霊になった今でも抜け切れないという事だよ」

「ふ~ん(執事か家政夫さんだったのかな?)」

 

 

 厨房に着いた優作だったが、既にエミヤがおり、朝食の下拵えを行っていた。

 

 

「しかし、マスターは大丈夫なのかね? 昨夜は大分飲んでいたが…」

「おいちゃん、お酒は強い方だからモーマンタイ」

「そうか…だが、余り飲み過ぎない様にな?」

「ん、有難」

 

 

 エミヤの気遣いに感謝しつつ、優作も朝食の準備を始めた。

 

 

:::::

 

 

カルデア 食堂

 

 

「~♪」

「マリー、カルデアの見取り図とカルデアスの磁場の有効範囲が書かれたデータを貸してくれる?」

 

 

 朝食時、職員達が集まり食堂内が賑やかになる中、鼻歌を歌いながらサンドイッチセットを持って席に着いたオルガマリーに優作が頼み込む。

 

 

「構わないけど、何に使うの?」

「劇的ビフォーアフターを行うのです」

「ビフォーアフター?」

 

 

 優作の言葉に首を傾げるオルガマリー、流石に日本のリフォーム番組を知っている筈が無いので当然の反応だろう。

 

 

「これから約1年という期間だけど、カルデアを運営する職員さん達にゃ、心身共に常に万全でいて欲しいさね。でも現状のカルデアは住む事に関しては最低限の設備しか揃ってないじゃん?」

 

 

 優作の指摘は的を得ていた。カルデアの生活スペースにおける設備は寝られれば、休めれば良いと云った必要最低限のモノしか揃っていなかった。まぁ、カルデアスやらシバといった魔科学設備がカルデア建築における経費の大半を占めているからであろうが…

 しかし、最低限の職員だけしか居なく、人類滅亡のリミットが約1年となった現状、この様な環境ではストレスが溜まり続ける一方であろう。これでは何時か倒れる処か過労死が起きてもおかしくない。

 

 

「それはそうだけど…」

「やぁやぁ、お早う。優作君」

「先輩、お早う御座います」

 

 

 そんな中、優作達の座る席にダ・ヴィンチとマシュが同じく朝食が載ったプレートを持って現れる。ダ・ヴィンチは焼き魚定食でマシュはチーズ小倉トーストとサラダのセットだった。

 

 

「お早う。マシュ、ダヴィちゃん」

「設備云々の話をしていた様だけど、今日何かするのかい?」

「せやで。カルデア内の生活スペースをグレードアップしようと思ってさ?」

「グレードアップですか?」

 

 

 優作とオルガマリーの会話を聞いていたらしいダ・ヴィンチの問いに答える中、彼の言葉にマシュが興味を持つ。

 

 

「現在のカルデアの居住スペースをもっと住み心地の良い場所に改築しようと思ってさ? プラスで色々増やす予定だけど…それは出来てからのお楽しみってとこかな?」

「そうですか…楽しみにしてますね?」

「ほうほう、改築かぁ。君がどんなリフォームをするか実に興味深いし、同行しても良いかい?」

 

 

 未だ底を知る事が出来ない優作が何をするのか気になるダ・ヴィンチは彼の増改築が気になる様で、動向を求めた。

 

 

「構わんよ。ところでマリー、その歌ハマったん?」

「え? えぇ、気に入ったからかつい口ずさんでしまうわね。でもそうでしょ? “唯、地獄を進む者が悲しい記憶に勝つ”なんて今のカルデアにピッタリでしょう?」

 

 

 昨夜に優作が歌った『地獄でなぜ悪い』が気に入ったオルガマリーだった。

 

 

:::::

 

 

「そんじゃあ、始めましょ。なりきりインストール、メイン『クラフター:スティーブ』、サブ『艦隊指揮官:提督』、『偉大なる魔法使い:アルバス・ダンブルドア』」

 

 

 優作の言葉と共に私服が水色のシャツと紺色のジーンズへと変わる。そして片手に杖を取り出して一振りすると、幾つものチェストボックスが現れて優作の周りにフワフワと浮き出す。

 

 

「そして…来て頂戴、妖精さん達!」

「お、うおおぉ!? これは小人? 幻想種かい!? 」

 

 

 優作の呼び声と共に彼と一緒にいたダ・ヴィンチの周りに小人達がズラリと現れる。少女を2頭身にデフォルメした姿の妖精さん達は皆が皆作業服を着ており、各々の手に工具を持っていた。

 

 

「この子達は『妖精さん』。提督の服を着た際に呼べる頼もしい助っ人達さね」

「助っ人かい? う~む…妖精って事はレプラコーンの仲間なのかな…?」

「では是より、“カルデア大改造:生活スペースの部”を開始する!! これが終わった暁にはスイーツバイキングを皆に進呈する故、頑張ってくれい!!」

 

 

 宣言する優作に対し、妖精さん達は工具を上に掲げてやる気満々の様子を見せる。

 斯くして、優作は妖精さん達を引き連れ、カルデア大改造は開始された。

 

 

:::::

 

12時頃 カルデア 食堂

 

 

「むぅ…」

 

 

 昼時、食堂のテーブルにてマシュは悩んだ声を零していた。彼女の横に置かれているマーボーカレーは殆ど手を付けられて無く、現在彼女はその手に持ったプリント用紙と睨めっこしていた。

 

 

「おう、どうした嬢ちゃん? そんなに唸って」

 

 

 そんなマシュの元に昼食の1ポンドビフテキセット(青ワイン付き)をプレートに載せたクーフーリンが現れる。

 

 

「クーフーリンさん…」

「なんだ、まだそれ(・・)に悩んでいたのかよ?」

 

 

 マシュの向かい側の席にドカリと座り、ステーキを頬張りながら彼女へ問い掛ける。

 

 

「はい。自分の好きな様にリクエストを書けとは書かれているのですが、今迄こういった事をした事が無かったので如何書けば良いか分からないんです…」

 

 

 現在、マシュを悩ませているプリント用紙は朝方、カルデアの職員達及びサーヴァント達に優作から配られたアンケート用紙であった。

 内容に関しては至極簡単であり、カルデアをリフォームする際、マイルームで各々が希望する部屋の壁紙の色やら寝具の種類、好みのインテリアを記入しておく様にとの事らしい。

 書き終えたアンケート用紙は食堂の隅に置かれている回収ボックスに入れ、後日希望したモノに部屋をリフォームしてくれるらしい。

 尚、クーフーリンは真っ先に書き上げて回収ボックスに入れており、内容は単純に部屋を故郷のケルト風にするだけで良いとの事だった。

 

 

「そこ迄悩む程の事か? 坊主の事だからよ、余程無茶な願いでも無い限り用意してくれるだろ?」

「それはそうですが…」

「やぁ、マシュ。アンケートにまだ悩んでいるのかい?」

 

 

 クーフーリンの言葉に頷きながらも未だに頭を悩ませるマシュ。そんな彼女の元にロマニが現れた。彼の持っているプレートにはプリンカレーと巨大なパフェが載せられていた。

 

 

「ドクタ……何ですか…それ?」

 

 

 ロマニの声に本人の方を向くマシュだったが、彼が持るプレートに上に鎮座するプリンカレーと巨大なパフェの姿に目を丸くする。

 

 

「あ、これかい? 優作君が用意したスペシャルメニューらしくってね。本来の名前は長いらしいから『通称:おいしおいし』と呼んでいるらしいよ?」

「い、いえ…その巨大なパフェでは無く…そのプリンらしき物体が乗っているカレーライスについて聞いているのですが…」

「あ、これかい?」

 

 

 嬉しそうにパフェについて説明するロマニであったが、違うとのマシュの言葉に彼は改めて説明する。

 

 

「これは優作君曰く、カレーの隠しメニューらしくってね。気になって頼んだんだよ」

「その…カレーに甘いプリンは合うんですか?」

「日本の国民食である美味しいカレーとあの美味しいプリンだよ? 合うに決まっているじゃあないか!! それにこの2つを組み合わせると海の高級食材であるウニに近い触感を楽しめるらしいんだよ? 試してみなきゃ!!」

 

 

 そう言ってクーフーリンが座る席の横に座りながらプリンカレーを頬張るロマニ。笑顔で咀嚼し続けている事から味云々は問題無いのであろう……彼にとっては(・・・・・・)だが…

 

 

「う~ん、美味しい♪ これぞ、エキゾチックジャパンだね!!」

「そ、そうですか…」

「しかし、優作君は凄いね。廊下を歩いていた時にマイルームを改築している様子を覗いたんだけど、質素だった部屋が高級ホテルの一室になっていたもの」

 

 

 プリンカレーの味を絶賛したロマニに若干引いた様子のマシュであったが、現在行っている優作の作業状況に興味を抱く。

 

 

「そんなに凄いんですか?」

「そりゃあ、もう嘗てのヤツと比べたら天と地の差になってしまうさ。基本の部屋で先ずベッドが羊毛で出来たフカフカでありながら体に負担が掛からない特別仕様。床は靴音が響かない様にカーペットで、テレビとオーディオどころか大きな冷蔵庫やドレッサールームすらも完備。しかもシャワー室がバスルームになってるんだよ?」

「そ、そんなに変わっているんですか!? でもシャワーだけだった所をバスルームに変えるどころかドレッサールームすら用意するなんて、あの部屋の広さじゃ足りないのでは?」

「なんでもハリポタ魔法で空間を弄って広げてるんだってさ。まぁ、2人用テントなのに中が10人規模のコテージレベルの部屋を用意出来るモノを作れる作品なんだから出来ておかしくないよね?」

「そ、そうですか…」

 

 

 ロマニの言葉に自身のマイルームに戻った後、部屋の様子に驚いてしまう事を覚悟しないといけないかもしれないと思ったマシュであった。

 

 

「あら、居たのね貴方達」

「相席宜しいでしょうか?」

 

 

 そこへ新たにオルガマリーとメデューサが現れる。持っているプレートにはオルガマリーがバゲットと地上最強オムレツ、そしてヘルシーサラダが載ったオムレツセット、メデューサが月草(ソーマ)バーガーセットを載せていた。

 

 

「所長…」

「あ、所長もお昼ですか?」

「えぇ、仕事が丁度良い位に終わったから休憩を兼ねてね」

「私は途中で彼女と会ったので一緒に来ました」

 

 

 マシュとロマニの言葉に答えながらオルガマリーがマシュの横に、メデューサが更にその横に座る。

 

 

「いやぁ、優作君がカルデア内を改築している事で色々話をしていた処ですよ」

「あぁ、まだ作業しているのでしょう? 朝食を食べた後、休憩無しでずっとやっている様だけど…」

「へ? そうなんですか!!?」

 

 

 オルガマリーの心配そうな言葉に驚きの声を挙げるマシュ。カルデア内に置かれている時計で6時頃に朝食が始まっていたが、優作はその時間前からエミヤと共に朝食の準備をしていた。職員達の朝食が終わり一通り落ち着いてから彼は自身の朝食を取り、片づけや昼食の準備はエミヤに任せていたが、朝食の準備時に昼食の下拵え等は一緒に済ませていたらしい。となると、此処ずっと作業を続けている事になる。

 

 

「その、先輩は大丈夫でしょうか?」

「なんでも“コミケ締め切り前の追い込み作業と比べたら楽”だって事よ?(コミケが何の事かさっぱり判らないけど…)」

「“皆の喜ぶ顔が何よりの御褒美だ”とも言ってました。優しいヒトですね、マスターは」

「先輩…」

 

 

 現状も絶賛作業中であろう優作にマシュは心配の声を零す。今回のカルデア改築に関しては自身は全くの無力だ。優作に頼めば建築や改造関連の服を貸してはくれそうであるが…現在彼は他のサーヴァントに手伝って貰う事無く自身で作業を続けている事から例えそういった技能を持っていても足手纏いになってしまうのであろう…

 唯、そんな事実が情けなく感じた。

 

 

「ちぃ~す。お疲れさん」

「ふむ、皆まだ昼餉を食べ終えていなかったか」

 

 

 そんなマシュ達の元に沢山の妖精さん達と小次郎を引き連れた優作が現れた。2人が持っているプレートには其々、スタミナ定食と月草(ソーマ)ラーメンを載せてられたいた。

 

 

「せ、先輩! 作業をずっと続けていて大丈夫なんですか!?」

「あり? 心配してくれてたん?」

「休憩無しでは流石に心配すると思うぞ、主殿?」

「…んあ~、コミケの締め切りに慣れたおいちゃんと一般ピーポーだと感覚が違うか…。心配かけて済まんね」

 

 

 小次郎の言葉にマシュへ謝りながら優作は彼女の横に座り、小次郎はクーフーリンの横に座った。

 

 

「心配無用やで、マシュ? コミケ前の修羅場と比べたら今回の作業は余裕のよっっちゃんさかい」

「でも休憩無しなんて無茶は止めて下さい」

「…これ位問題無いと思ったんだけどなぁ…。まぁ、今後は2時間に1回は休憩入れるから許して亭ゆるして?」

 

 

 心配げな表情を止めないマシュに更に謝罪の言葉を述べながら優作達も席に着く。

 

 

「改築は終わったのですか?」

「うんにゃ。地下の追加施設がまだ終わっていないさね」

「追加施設?」

 

 

 メデューサの言葉を返す優作から出た単語に疑問を浮かべるマシュ。カルデアに地下施設は無かったと記憶していたのだが…

 

 

「おいちゃんが増設した区画になるからマシュも知らないさね。衣食住と仕事をする基本スペースが此処、1階層なら地下は疲れを癒したり自由時間を楽しむ為のスペースになるんべ」

「どんな施設を造ってんだ?」

 

 

 マシュの疑問の言葉に優作が答える中、自身の昼食を殆ど空にしたクーフーリンが更に質問する。

 

 

「先ず浴場やろ、そしてリラクゼーションルームに自然公園エリア、暇潰し用の本とかCD・DVDの貸出ルームとそれに伴った多目的ホールってところかね。あぁ、後は食料生産用プラントも」

「また、凄い施設を増設するものね…」

「ふむ、私が厨房で料理をしている間に随分と増改築をしていたものだ」

 

 

 説明する優作の所へメディアと休憩に入ったエミヤが現れた。其々、タンシチューとバゲット、海鮮サラダのセットと牡丹鍋定食が載せられたプレートを持っていた。

 

 

「おぉ、メディ姉。魔術工房はどうだった?」

「道具も素材も文句無しよ。なんで現代の人間である坊やが此処迄揃えられるかが不思議だわ?」

「にゃはは、飽く迄も用意出来るモノを揃えだけに過ぎんべ?」

「そう簡単に答えられるのが逆に怖いわ…」

 

 

 優作の返事に肩を竦めながらタンシチューを口にするメディア。魔術工房の増改築には彼女も付き合っており、マジックポーション作成の為の醸造台やらエンチャント付与のスペース等、彼女も初めて知る事になる技術情報の説明を色々受けていた。

 

 

「そういえば、マスター。厨房も幾等か改造すると言っていたな?」

「せやで。まぁ、今は稼働してるから夕食が終わって後片付け後にする予定だけどね。今日いっぱいはエミヤんに料理を頼みっぱなしだけど良いんけ?」

「何、気にする必要は無いよ。それに心強い味方もいる事だしね」

 

 

 優作の言葉にエミヤは傍でクッキーを齧っていた妖精さんの頭を優しく撫でた。今回の増改築に於いて自身が厨房に居なくなる事を踏まえた優作は料理が得意な妖精さんをエミヤの補佐に廻していた。

 厨房以外でも妖精さん達は働いている。優作が行っている増改築の手伝いは勿論の事、発電施設やカルデアスの運営補助を行っており、職員達の負担を大きく減らしていた。

 

 

「今日、カルデア中を走り回ってるのを見かけてるけど、これも服の力かい?」

「せやで。敵は違えど、人類を守る為に現れた妖精さんさかい、今回も力を貸してくれる頼もしい存在やで」

「やぁやぁ、皆集まっているねぇ?」

「おや、ダヴィちゃんではありませんか」

 

 

 妖精さんについて説明していた優作の元へ新たに表れたのはカツ丼を載せたプレートを持ったダ・ヴィンチ。

 

 

「いやはや…増改築にずっと付いて回ったけど、あの発電施設には驚いたよ」

「まぁ、『ネザースター』はおいちゃんでなきゃ用意出来ない代物やし…」

 

 

 優作の隣に座ったダ・ヴィンチは今日感じた感想を色々と彼へと告げる。

 今日の朝食後、彼女は優作の増改築にずっと付き合っていたのだが彼の作業は彼女の理解を超える者であった。

 杖を振うだけでチェストからその容量を遥かに超えるブロックやら機材が飛び出しては隙間無く設置されていき、ツルハシやスコップを振うと、振り下ろされた個所から周辺数メートルが削られて消えていく。

 ワークベンチで資材を弄っているかと思ったら何時の間にか別の道具が出来上がっていた。

 最終的には是をやれば解かると『マインクラフト』のソフトを渡されたのだが…

 そんな優作がカルデアの発電施設に対して更に予備を設けておこうと用意した発電機が凄まじい発電力と蓄電量を秘めていた為に電力の問題が無くなってしまったのだ。

 

 

「まぁ、今日の夕方前には生活スペースの分は終わるさね」

「ふむ? その言い方だと他にも改装を行うのかね?」

「改装と言って良いのか分からないけど、カルデアの防衛機構案をマリーとかメディ姉達に確認して貰いたいさね。後で資料を纏めて渡すから感想を頼むべ」

 

 

:::::

 

それからどうした

 

 

「あ~~、生き返るわぁ…」

 

 

 広い湯船に肩まで浸かり、優作が感嘆の声を漏らす。

 大理石で作られた大浴場は広い湯船の他、水風呂、サウナは勿論。電気風呂や炭酸風呂、ジェットバスに檜風呂。更には中庭風のフロアに桜の木々が並んだ、露天風呂風にした離れ風呂まで揃っていた。

 夕食後に開放された大浴場は珍しさもあり、仕事を終えた職員達が挙って湯を楽しんでいた。

 

 

「ふぅ…こう風呂で一杯というのも中々に悪くない…」

 

 

 檜風呂に浸かり、浮かべたお盆に載せた酒をちびちびと引っ掛けながら小次郎がご満悦な表情でいる。

 

 

「くは~、こうたっぷりの湯に浸かれるってのは最高だな。しかし、よくもまぁこれだけの水を良く用意出来たものだな坊主?」

「『温泉ユニット』を下向きで設置してるから安心さね。まぁ、『無限水源』もあるし水に関してはモーマンタイ」

「温泉ユニット…無限…?」

 

 

 この浴場は一応は温泉である。優作が作成した『温泉ユニット』を設置し、それから湧き出るお湯に薬草やらポーションによる効能を加えてる為に温泉モドキになるのかもしれないが、水源である温泉ユニットからは滾々と止まる事無く湯が沸き続けている。

 尚、優作が言った『無限水源』は飲料用及び日常生活用に使われており、分けられてはいるが何れも飲料として利用しても問題無い清水である。

 クーフーリンの質問に答えた優作だったが、答えられた本人は良く解かっていない様だった。

 

 

「そういえばマスター、カルデアの防衛機構について書かれた資料を読んだのだが…」

 

 

 電気風呂にて全身を電気マッサージしているエミヤが昼食後に手渡された資料について話題を挙げた。

 

 

「おん? どうだった?」

「その……サーヴァントとして様々な並行世界で戦った身ではあるが、“絶対に挑みたくない”の一言に尽きるな」

 

 

 期待を込めた表情で問い掛ける優作に驚愕やら呆れやら入り混じった複雑な表情で答えるエミヤ。

 

 

「まぁ…だろうな」

「主殿の容赦無さには感極まったでござるよ」

 

 

 エミヤの言葉にクーフーリンと小次郎も同意の言葉を苦笑いで告げながら頷く。

 昼食後に優作はオルガマリー他、基本戦闘のプロであるサーヴァント達に彼自身が考えたカルデアの防衛機構案を纏めた書類を渡したのだが、その内容が凄まじかった。

 

簡単に纏めると…

 

・カルデアに侵入(転移含む)及び、施設内で敵対行動を取った敵性対象は優作謹製の特殊ダンジョンに強制転移される。

 

・ダンジョン構造はイニシエダンジョンをベースにした不思議なダンジョン形式の999階層。

 

・ダンジョン内を徘徊するモンスターは様々な作品から投入、最早闇鍋モンスターハウス。

 

・出て来るモンスターはサーヴァントでも余裕でブチ殺しかねない高レベルだよ、やったね!

 

・尚、ボス級モンスターも普通に徘徊している模様、嬉しいだろ? 笑えよ(ゲス顔)

 

・アイテム? 無ぇよそんなもん、着の身一つで踏破してみろや。

 

・侵入者が掛けるバフ効果は無効化。頼りになるのは己の肉体だけって、はっきりわかんだね。

 

・トラップも満載。尚、モンスターは決して引っ掛からず、侵入者のみ引っ掛かる安心設計。

 

・トラップ性能の凶悪化、地雷を踏んだら即死するのは当たり前だよなぁ?

 

・モンスター達は侵入者に対して連携して襲う様に教育済み。リンチされてくたばって下さい♪

 

・『風来のシレン』産の土偶を配置。尚、影響を受けるのは侵入者のみで階層全体に効果有。

 

・ダンジョン内では空腹速度や魔力消費量が倍になる(防御不可)。大丈夫、君ならできるよ(笑)

 

・サーヴァントが霊体化すると魔力消費量が更に倍ドン! 嬉しいダルルォ?

 

・同じ階層に一定時間留まると強制的に1階層目からやり直し。

 

・脱出? 喜べ、出来る訳無ぇだろ。

 

・壁堀、壁抜け? 甘えるな。

 

・尚、999階層を突破出来た方はもれなくもう一回遊べるドン!(以下ループ)

 

・助けて? 敵対したお前が悪い。だから、死ぬがよい(笑顔)

 

・このダンジョンのコンセプトは『いらっしゃい、死ね』です♥

 

 

「最後に書かれたコンセプトが全てを語っていたよ」

「モンスターやら罠の説明を読まないでも敵対した奴は絶対に抹殺するって良く解かったわ」

「いやぁ…サーチ&デストロイ(見敵必殺)を体現したと言っても過言では無いでござるなぁ…」

 

 

 ハハハと乾いた笑いを零す男性英霊3人。尚、女湯にてオルガマリー含む女性英霊達も似た様な感想を零していた事を此処に追記しておく。

 

 

「こんなダンジョン、何時どうやって用意したんだよ?」

「酔った勢いでデジョン空間に造った黒歴史にテコ入れしたヤツです。再利用出来て良かった」

「今後、攻めて来た侵入者は酔った勢いで造られた黒歴史に殺されるのか…(困惑)」

 

 

 優作が用意したこのダンジョン。自身のなりきり能力ついて色々と試していた時に魔が差して造った代物であった。

 

 

「ところで、施設外から攻撃された場合は如何するのかね?」

「施設外から攻撃すると、なんと…」

「なんと?」

「施設の外壁に施した呪術式に依って攻撃が倍になって反射します。因みにその場で攻撃した奴に即直撃するので避けれません(無慈悲)」

「…そうか」

 

 

 施設外の攻撃すら容赦無い対策を取っていて優作に質問したエミヤ含め他メンバーは遠い目をしていた。

 

 

 尚、この防衛機構は遠くない未来で実際に使われる事となる。

 カルデアに敵対した未来の大馬鹿共は泣いて良い(次、生まれ変わるなら真面な生き物になる事をお勧めします)

 

 

「クー兄、試しに挑戦しない?」

「しねぇよ!!?」

 

 

:::::

 

それからどうした

 

 

「やっぱ…自然がある環境ってのは、最高やな」

 

 

 風呂上り。優作はエミヤ達と別れた後、自然公園エリアにて芝生の上に寝転んで草の匂いを堪能していた。地下の中心部に位置する自然公園は様々な木々が並び、小さな小川や池すらあるので一瞬外にいるのかと錯覚する程である。

 今も遊歩道を自由時間の職員が歩いていたり、ベンチで休んでいたりしていた。

 

 

「浴場も皆が満足してくれていたし。万々歳さね」

「先輩」

 

 

 増改築の成功に満足していた優作へ声が掛けられる。体を起こし声の主へと首を向けると、浴場にて湯上り様に置いている浴衣を着たマシュが立っていた。

 

 

「ほぉ…ほわぁあ…」

「? どうしたんですか?」

「いやぁ…湯上り美人を目の前にしている訳だからつい感嘆の声が、ね?」

「び、美人ですか!?」

 

 

 優作の言葉に頬を赤くするマシュは風呂上りらしく、肌はまだ火照っていて赤みを帯びており、まだ湿り気を残している髪の毛は艶が際立っていた。

 そんな彼女の姿に優作は軽くときめいてしまった。

 

 

「浴衣姿、すっごく似合ってるよ?」

「そうですか? 有難う御座います…えへへ」

 

 

 褒める優作にマシュも嬉しそうな表情を浮かべる。

 

 

「散歩中においちゃんを見かけて声を掛けた系?」

「それもありますが、実はマイルームの装飾アンケートがまだ決められ無いから相談したくて…」

「あぁ、まだ決めれ無いでいたのか」

 

 

 昼食時の会話後、結局マシュはアンケートに自身の要望が浮かばず仕舞いでいた。

 此処カルデアで生まれて育ったマシュは変化する事の無い同じ環境でずっと過ごしてきた。この環境が普通であり、異なる環境をその身で体験する等、辛うじて体験VRや書物と云った資料で部屋のインテリアといった情報で知る事は出来ても“自身にとってコレ!”と云った部屋の様相を考える、求めるといった事をしてこなかった事もあり、案が浮かんでこなかった。

 

 

「配ったおいちゃんが言うのもなんだけど、別に直ぐ決める事じゃあ無いんじゃないかな?」

「え?」

 

 

 申し訳無さそうなマシュに対し、優作が返した言葉がそれだった。彼自身、カルデアを訪れた当日、中央管制室からマイルームへと彼女に案内された時、マシュの境遇について軽く聞いていた。

 

 

「マシュは年齢に対して圧倒的に経験が足りないもの。でもそれは今後増やしていけば良い」

「先輩…」

「これからもっと好きなモノや趣味を増やしていけば良いんだよ」

「………」

 

 

 そう言ってマシュの頭を優しく撫でる優作。一瞬、ほんの一瞬だけ彼女の目が泣きそうになったのは気のせいだろうか…

 

 

「さぁてと…メーちゃんに頼まれたヤツを持って行って、今日は寝ますかね」

「? メデューサさんに何を頼まれたのですか?」

「いやね、メーちゃん可愛いモノも好きらしいからさ。インテリアで縫いぐるみは如何かと聞いたら是非との事だったから」

 

 

 頼まれた用事を済ませようと立ち上がる優作にマシュがその用事の内容を聞く。

 作ってあるから渡すだけさ、と縫いぐるみを取り出す優作。片手サイズの可愛らしい動物の縫いぐるみであった。

 

 

「わぁ…可愛いです。これも手作りなんですか?」

「服を作っている以上、裁縫は得意だからね。縫いぐるみもお手の物さね。なんならマシュもいる?」

「良いのですか?」

「遠慮する必要は無いべ。どんなのが良い? 動物でも良いし、人物でも良いよ……まぁ、人物なら本人の許可がいるけど」

「人物……」

 

 

 優作からリクエストはあるかと問われ考えるマシュ。

 

 

「それじゃあ…」

 

 

:::::

 

 

翌日

 

 

「ん…ふわぁあ……」

 

 

 眠りから覚めたマシュは体を起こす。顔を洗い、寝間着から制服に着替えて身嗜みを整えると朝食を摂るべく食堂へと向かう。

 

 

「……」

 

 

 マイルームの扉が開き、廊下へ出ようとしたところでふと足を止めて部屋へ目を向ける。彼女の視線の先にあるベッドの上の棚にはあるモノ(・・・・)が並んでいた。

 

 

「…ふふっ、行ってきます♪」

 

 

 そう言ってマシュはマイルームを後にした。

 棚の上にはオルガマリーとロマニにダ・ヴィンチ、フォウとマシュ、そして優作のデフォルメされた縫いぐるみが並んでいた。




元ネタ(一部料理は省略)
>チーズ小倉トースト(出典:リアル)
作者が名古屋出張の際に食べた小倉トーストの一種。
チーズと粒餡がホットサンド風に挟まれており、餡子の甘さとチーズの塩っ気が実にマッチした。

>スティーブ(出典:Minecraft)
Notch氏及び彼の会社にて製作されたサンドボックスゲーム『Minecraft』にてユーザーが制御するキャラクターの事。
基本的に焦茶色の髪の毛に茶色がかった肌、青い瞳をしていて、水色のシャツと紺色のジーンズに、暗い灰色の靴を身に着けた姿である。
一般的に呼ばれているこの名前だが、原作の製作者であるNotch氏がジョークとしてほめのかしたものとのこと。

>提督(出典:艦隊これくしょん他)
ブラウザゲーム『艦隊これくしょん』にて艦娘達からなる艦隊を指揮するプレイヤーの分身的立場であり、ゲーム内における事実上の主人公とも言える存在。
尚、ちなみに『提督』とは将官以上の階級の海軍軍人が就任する艦隊司令官・艦隊司令長官・艦隊総司令官の敬称だが、ゲーム内では佐官として階級を割り振られているプレイヤーも普通に司令官として在籍しており、纏めて『提督』と呼ばれている。
プレイヤーの分身的立場もあってか、性別や出身地等明確な設定描写はされていないが、2次創作に於いては老若男女問わず、果ては人外までが提督になっている。
本作に於いては下記の妖精さんを視認出来、意思疎通が出来る特性を持った者を『提督』という立場にしている。

>妖精さん(出典:艦隊これくしょん)
ブラウザゲーム『艦隊これくしょん』にて登場する妖精。
軍艦を擬人化した艦娘達は史実を元した砲や艦載機、機銃、電探を装備するのだが、その装備イラストに共に描かれており、其の為ファンからは『装備妖精』と呼ばれている。
総じて少女の姿をしており、2頭身程にデフォルメされている為に小人のような印象も受け、似た様な見た目である羅針盤娘やエラー娘、図鑑やアイテム画面にいる妖精、工廠で艦娘の建造をしてくれる工廠娘と同類の存在であると推測される。
詳しい設定は無く、メディアミックスによっても様々である。

>プリンカレー(出典:九龍妖魔學園紀)
アトラスのジュブナイルRPG『九龍妖魔學園紀』に登場する料理。
カレーライスにプリンを合成する事で作れ、限りなくウニに近い食感を楽しむ事が出来るらしい。食べると加護効果が付与される。

>通称:おいしおいし(出典:テイルズオブデスティニー他)
『テイルズオブデスティニー』及び『イノセンス』に登場する料理で正式名称は『フィリア特製フルーツパフェ・ウィズ・チョコレートバナ~ヌおいしおいし』。
名前通りたっぷりのフルーツとチョコバナナ及びアイスクリームが盛られたフルーツパフェで、『イノセンス』では食べると取得経験値が+80%増える。

月草(ソーマ)バーガー、ラーメン(出典:九龍妖魔學園紀)
『九龍妖魔學園紀』に登場する料理。
月草にそれぞれハンバーガーとカップ麺を合成性する事で造れ、食べるとそれぞれ知性、敏捷が上がる。

>ネザースター(出典:Minecraft)
『Minecraft』で登場するアイテム。
ボスモンスターである『ウィザー』がドロップするアイテムで、ビーコン他様々な道具の材料となる。
本作に於いて、ネザースター発電機設置の為に利用された。

>温泉ユニット(出典:マインクラフト)
『マインクラフト』で登場する装置。
温泉が湧き出すユニットで横や下に向けて設置してお湯を放出すると塞き止める敷居を設置しない限り際限無くお湯が広がって行く。
温泉に浸かると体力が徐々に回復するが、染料を入れる事で他のバフ効果に変える事が出来る。但し、入れ過ぎると毒の温泉と化す。

>無限水源(出典:Minecraft)
『Minecraft』で登場するテクニック。
バケツなどで水を掬っても直ぐに水が再生され、無限に水を掬う事が出来る水源の事で、原作に於いて海や川は天然の無限水源状態になっている。

>土偶(出典:風来のシレン2)
チュンソフトのローグライクゲーム『風来のシレン2』に登場するギミック。
ダンジョン内に置かれており、種類によって様々な効果を置かれている部屋内限定で発揮する。
攻撃する事で破壊可能なので自分が不利になる効果の土偶は即破壊するのが吉。

>君ならできるよ(笑)(出典:虫姫さま)
CAVE社の弾幕シューティングゲーム『虫姫さま』の最終ボス、『アキ&アッカ』の台詞。
ゲームの主人公であるレコに試練を与えるアキ(と、彼が乗るアッカ)が、「君ならこの試練もきっと乗り越えられる!」というニュアンスで放った言葉であり、当然(笑)などついていないのだが、余りにも鬼畜難易度の弾幕をばら撒きながら応援してくる事にプレイヤーが悪意を感じた事から末尾に(笑)が付けられるようになった。

>死ぬがよい(出典:怒首領蜂シリーズ)
CAVE社の弾幕シューティングゲーム『怒首領蜂シリーズ』の最終ボス登場時のメッセージの一部。
最終ボスや真ボス画面を埋め尽くす圧倒的な弾幕量と共に、 シューター達の間で伝説として今なお語り継がれている言葉になっている。

>デジョン(出典:FFシリーズ)
『FFシリーズ』に登場する魔法で異次元や別の階層に対象を飛ばす効果が有る。
その特性から大半のシリーズ作品では即死魔法に分類される。
他即死魔法に対し、敵を異次元に消し飛ばすのでファイナルアタックを使われずに済む利点がある。

>湯上り美人(出典:リアル)
“そもそも湯上がりの時美しき女はまことの美人なり”と云う山東京伝の『賢愚湊銭湯新話』の中の一節から絵師達がその魅力に想像力を掻き立てられて書いた女性画の総称。
大体の作品が浴衣を開けさせたセミヌードが多い。
本作ではそう云ったエロさを例えた訳では無い。


Q、主人公君、遣りたい放題やね?
A、タグに遣りたい放題って有るダルルォ?

Q、ネザースター発電機ってヤバくない?
A、ネザーⅢ効果による周辺の被害は消してます、魔改造万歳!!

Q、優作の造ったダンジョンってクリアさせる気が有るの?
A、有る訳無いじゃん(当然といった表情)

Q、ダンジョン内にはどんなモンスターがいるの?
A、グランドセンチピード、女王グモ、オメガ、ダイアモンドドレイクなんかが1階層目からうようよしてるよ。

次回は11月18日投稿予定で英霊メンバー+α強化回。
感想コメント、意見・質問お待ちしております。


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優作は問題無けりゃ、序盤でレベルカンストさせて俺 tuee する派

|ω・`) コソ

|・ω・)っ[最新話] サッ

|彡 ヒュッ!






何があったかは後書きにて…
現メンバーの強化回ですが、主人公君の能力説明等色々込みなので読み難く、正直出来が宜しくないかもしれないです…


「ど、如何いう事なの!!? 私にマスター適性が出来たなんてっ!!」

 

 

 医務室にて大声を上げたのは人理保証機関カルデアの所長であるオルガマリー。

 特異点『F』を攻略して2日目の今日、優作の手に依って肉体を取り戻した彼女はカルデアの復旧作業や優作に因るカルデア増改築等のレポート整理に尽力していた為に遅れながらも自身の肉体に異常が無いか検査を受けていた。

 すると如何だろうか、これまで彼女に無かったマスター適性が確認されたと云うのだ。つまり今後、彼女はサーヴァント召喚やレイシフトを行う事が出来る訳である。

 

 

「如何考えても優作君に依る人体錬成が影響していると思います」

「まぁ、それか肉体が滅びながらも霊体でレイシフトをしたからだとも考えられるね」

 

 

 オルガマリーの言葉にロマニとダ・ヴィンチが答える。

 

 

「この診断結果を踏まえて僕とダ・ヴィンチは所長も優作君達と一緒に特異点攻略に参加して貰おうと考えてます」

「カルデアの代表としてレイシフト先の現地の面々に交渉をしろって事?」

「特異点先が明らかになっていない以上、何処へ行くのかはまだ判らないけどこの先、国の王様や皇帝とかに会う可能性は非常に高い。優作君は規格外の存在だけど、まだ20迎えたばかりだし、変に無礼を働く可能性も捨てきれないだろう? …まぁ、ネゴシエーターになりきる事は出来そうだから交渉も問題無さそうなんだけどね」

「…私が行く必要があるの? それに優作が聖晶石を使い切った以上、マスター適性を持っていても私のサーヴァントがいないわ」

「最もな意見だけど、優作君だけでなく君の視点でも物事を見極めて欲しいと云う考えがあるんだ。カルデアからの通信が常に出来る保証も無いしね。後、君の戦力については優作君に頼めば良いんじゃないかな? 彼の事だ、伝説の勇者の装備だって貸してくれるさ。それに…」

「それに?」

 

 

 一旦言葉を止めたダ・ヴィンチはオルガマリーの傍へ近寄り、耳元で囁いた。

 

 

彼と一緒に行ける事を嬉しく思ったのではないのかい?

「────ッ!!?」

 

 

 頬を赤く染めながらバッと離れたオルガマリーの目の前にはニヤニヤした表情を浮かべるダ・ヴィンチの姿。思わず怒鳴りつけたい衝動に駆られたが、余計に揶揄われてしまいそうだったのでぐっと堪えた。

 

 

「……はぁ、分かったわ。取り敢えず優作にマスター適性を持った事を含めて相談してみる事にするわ。ロマニ・アーキマン、私がレイシフトしている間は特異点『F』の時の様に貴方とダ・ヴィンチにカルデアの指揮を任せるから」

 

 

 そのまま逃げる様にオルガマリーは医務室を後にしようとしたが、そこへダ・ヴィンチが同行すると声を掛けて来た。

 

 

「おっと、私も付いて行こうじゃないか」

「…貴女も優作に用があるの?」

「なんでもサーヴァント達を彼なりに強化するらしいからね、カルデア改築の時みたいに凄い事をしそうだから是非とも見に行かなくちゃ♪」

 

 

:::::

 

トレーニングルーム

 

 

「ロックにいくぜぇっ!!」

「っしゃあ、掛かってきやがれ!!」

 

 

 トレーニングルームの模擬戦フロアにて、クーフーリンは優作と交わした約束通り、ヨシツネと模擬戦を行っていた。

 

 

「そらそらそらぁっ!!」

「甘ぇっ! 風車っ!!」

 

 

 ヨシツネの連続した斬撃をクーフーリンは槍を風車の様に回しながら防ぐ。

 斬撃を弾かれたヨシツネだったが、横や足元、背後へと素早く動き回りながら斬り掛かって攻撃を続けていく。

 互いに模擬戦用の武器を使っているのだが、一撃一撃が岩を簡単に砕く程の威力で打ち合っており、互いに本気である事が伺える。

 

 

「かれこれ1時間以上もあのペースで続けているのか…よくやる」

「それでいて疲れている様子が無いのだから、流石よな?」

 

 

 クーフーリンとヨシツネが模擬戦をしている場所から離れた位置でエミヤと小次郎は2人を観戦していた。

 

 

「いくぜぇっ! 八艘飛びぃっ!!」

「くっ、ガードビースト!!」

 

 

 ヨシツネが奥義『ハ艘飛び』を繰り出したのに対し、クーフーリンは獣術である『ガードビースト』を展開する。高速の8連斬撃を獣を模した闘気が何回か防ぐが、全てを捌き切る事が出来ず、幾らか受ける結果となった。

 

 

「俺の勝ちだな?」

「くそっ、防ぎきれなかったか…」

 

 

 一撃でも入れたら勝ちというルールでの模擬戦であった事からヨシツネの勝利となり、ニヤニヤ顔の彼の前でクーフーリンは悔しそうに唸り声を挙げていた。

 

 

「ところで、主殿は何処に?」

「マスターは女性陣と一緒に魔術工房へ向かった筈だ」

 

 

:::::

 

魔術工房

 

 

「それじゃあ、マシュ。盾を呼び出してくれるかな?」

「分かりました」

 

 

 クーフーリン達が模擬戦をしている間、魔術工房にて優作とマシュ、女性サーヴァント達が集まっていた。

 優作はマシュに十字盾を取り出させ作業台に置かせた。

 

 

「マシュ自身のパワーアップもそうだけど、装備している盾も鍛えられるだけ鍛えておかないとね。でもその前にその盾について調べておこうか」

 

 

 そう言いながら優作は巻物を取り出した。

 

 

「先輩、それは?」

「これは『識別の巻物』と言って、未識別のアイテムを識別する事が出来るんだ」

「便利なマジックアイテムが有ったものね?」

 

 

 メディアが感心する中、優作は十字盾を対象に巻物に書かれた呪文を唱える。広げた巻物は輝き出し、巻物内に盾の名前が表示された。

 

 

「さぁて……盾の正体が判ればマシュに力を貸した英霊の正体もわか……ありゃ?」

「如何したのですか?」

「何か不具合でもあったの?」

 

 

 巻物に目を通している優作の呆けた様な声にマシュ達は巻物を覗き込む。

 優作の視線の先にはこう書かれていた…

 

 

『□%#◆@*の盾』

 

 

「…? 如何読むのですか?」

「名前が文字化けしてるな、こりゃ…」

「失敗したのですか?」

「いや、失敗は決して無い筈なんだけどな…う~ん」

 

 

 十字盾を識別出来なかった事に困った声を零す優作。英霊の正体が明らかに出来なかった以上、マシュの育成に関してはオリジナルで進めていくしかなくなった。

 

 

「御免ね、マシュ。これで正体を明かせると思ったんだが…」

「そんな、先輩が謝る必要はありません」

「まぁ、名前が判明しなかっただけで性能に関しては解かったから良しとするかな?」

 

 

 レッツポジティブシンキングと呟きながら十字盾の横に優作は様々な盾やら道具を並べていく。その中には冬木にて見せたフォートレスやギガントシールドの姿もあった。

 マシュの十字盾は状態異常に対してそれなりの耐性能を持っている事が分かったが、もっと強化したいところだ。よって…

 

 

「取り敢えず可能な限りパワーアップさせましょ」

「…この盾やら道具の山を如何するの?」

「こうするのだぁ!!」

「「「ええぇっ!!?」」」

 

 

 優作は作業台横にある大鍋に十字盾をブチ込み、そのまま横に置いていた道具を次々と入れていくと、鍋が載っている竈に火をかけた。鍋の容量を遥かに超える量のモノを入れたというのに鍋は溢れる様子無く、元から入っていた液体の水面しか確認できなかった。

 

 

「せ、先輩、盾を煮込んで如何するのですか!?」

「この鍋は『合成鍋』つって、武具の合成に使うさね。つまりはマシュの盾にあらゆる盾や道具を合成する事で様々な性能を付与するのだ!」

 

 

 女性陣が驚く中、火に掛けられた鍋が次第に沸騰していき最後は大量の蒸気を吹きあげる。

 蒸気が消えた後には十字盾だけが鍋の中に残っていた。

 

 

「合成完了です」

「えぇ…(困惑)」

「凄いのか適当なのかコメントに困るわね…」

 

 

 あっけない程に早く終わってしまった合成にメデューサとメディアは困惑の声を漏らす。只、合成したいモノ同士を鍋に入れて煮込むだけで終わるのだから当然であろう。

 取り出した十字盾を眺めていた優作は竈横のパソコンに何かを打ち込んでいき、プリンターで用紙を印刷した。

 

 

「これが合成結果だから読んでね」

 

 

________________________

 

 

『□%#◆@*の盾+99』+16

 

ブロック率  25%

ブロック範囲 40

重さ     9

 

印兼プレミアム

山:敵の魔法を跳ね返す

返:とんできたアイテムを跳ね返す

ト:盗まれなくなる

カ:罠に掛からなくなる

祓:呪われなくなる

金:サビなくなる

爆:爆発に因るダメージが減る

・ブロック範囲 +100

・ブロック硬直 -100%

・HP自動回復 XX/秒

・MP回復速度 +200%

・状態異常耐性 +100%

・属性耐性   +100%

・物理耐性   +100%

・HP     +100%

・MP     +100%

 

スキル

・ストロングホールド

 自身の周囲に使用者の体力分の壁を展開する。

・ギガプレス

 使用者の前方に衝撃波を放つ

 

 

________________________

 

 

 

「……何というか、色々凄いわね…(神々でもこれ程の性能の盾は持っていないでしょうね…)」

 

 

 十字盾の性能が書かれた用紙を読んだメディアがぼそりと呟く。

 

 

「これはもう、無敵なのでは?」

「耐性+100%と書かれているけど、完全に無効化する訳じゃ無いからね。それに、盾を装備していないと意味無いし」

 

 

 盾の性能に呆れるメデューサの問いに答えながら優作は十字盾をマシュに手渡す。

 

 

「マシュの宝具と効果が被るけど、ストロングホールドは長時間、壁を展開出来るし、力や数で押し切られそうな時はギガプレスで吹き飛ばす事も出来る。これから状況に沿って使える様にしてね」

「分かりました。有難う御座います、先輩」

 

 

 盾と一緒に合成後の性能が書かれたプリント用紙を渡されたマシュが用紙の内容を確認する中、工房の扉が開きオルガマリーとダ・ヴィンチが入って来た。

 

 

「優作、ちょっと聞きたい事があるのだけど?」

「どうしたん、マリー?」

「私の身体を錬成した時に何かしたかしら?」

 

 

 オルガマリーの質問に優作は首を傾げた。彼女の人体錬成で用意したのは彼女の肉体を構成する為の素材及び彼女の遺伝子情報を含む毛髪だけだ。人体改造は可能ではあるが、あの時は彼女の肉体を戻すだけの目的だったので

そもそもしていない。

 それとも彼女の身体に何か不具合が…?

 

 

「まさか身体に不調が!?」

「え!? …いや、優作っ!?」

 

 

 オルガマリーの肩を掴み、真剣な表情で尋ねだす優作。彼は顔をグイっと近づけてくる上に瞳をじっと見詰められているので自身の顔が熱くなっていくのを感じていた。

 

 

「消化器官に異常か? それとも免疫系等に不調でも…」

「ま、待って優作…」

「兎に角、調べなきゃ…医務室に…「私の話を聞いてっ!!」…うおっ!?」

 

 

 これ以上顔を近付けられたら堪らない(恥ずかしさ的な意味で)のでオルガマリーは大声を上げながら優作を押しのけ、自身にマスター適性が出来た事を話す。

 

 

「マスター適性が出来ただけで、身体に問題は無いんだね?」

「えぇ。体は至って健康よ」

「そっか…問題無いか、良かった」

「っ…御免なさい、勘違いする様な言い方をしてしまって」

 

 

 オルガマリーが無事である事に安堵した笑みを浮かべる優作。そんな彼の様子が嬉しくて結局、彼女は顔を赤くしてしまった。

 

 

「あの時は人体錬成以外は何もしてないよ」

「なら理由は解らないのね?」

「初めての人体錬成だった訳だし、錬成された人物肉体を取り戻す以外に如何なるかは予想付か無いからね。敢えて言うならば、マリーは生まれ変わったとも言える。だから適性を得た肉体になったとも……あら?」

 

 

 適性を得た事に対し覚えが無い優作は首を傾げながらもオルガマリーを見ていたのだが、ふとある(・・)事に気付き変な声を零した。

 

 

「何?」

「…マリー、“なりきり”出来る様になっとる…」

「へ?」

 

 

 安堵した様子の表情を驚きに変える優作。彼は能力の影響なのか、他者を見る事で相手がなりきりを可能か見分ける事が出来る。カルデアに来た時に施設の面々を見分けていたが、マシュ以外いなかった筈……だった。

 

 

「如何云う事だ? マリーには無かった筈なんだけど…これも人体錬成の影響なのかな?」

「…取り敢えず私も優作やマシュの様になりきりが出来る様になっているのね?」

「せやね」

「……なら丁度良かったわ」

「へ?」

「これからの特異点攻略には私も行くから、私にも服を貸して貰えるかしら?」

「マリーも?」

 

 

 オルガマリーの言葉に優作は軽く驚く。彼女はカルデアの方で司令塔として活躍していくと思ったからだ。

 

 

「現場での交渉や司令塔としていこうと思うの」

「その…大丈夫?」

「大丈夫よ、覚悟は出来てる。それに…」

「それに?」

「いざとなったら優作(貴方)が守ってくれるでしょう?」

「む…そりゃあ……守るけど…」

 

 

 微笑みながら問い掛けるオルガマリーを前に優作は答えながらも照れくささで後頭部を掻きながら横を向いてしまった。

 

 

「あらあら(可愛らしい反応だ事)」

「ほぅ…(意外ですね、堂々と返すモノかと思っていたのですが)」

「むぅ…」

フォキュウフォーウ(所長さん完全に意識してますねぇ)キュウキュウ(間違いない)

 

 

 普段の飄々とした態度の優作が照れている事に他女性メンツの反応は様々であった。

 

 

「おーい、坊主。言われて時間だから来たぜ?」

「お、クー兄達が来たか。それじゃあ、始めますかね」

「サーヴァントを集めて何をするの?」

 

 

 そこへクーフーリン達、男性サーヴァントが工房へと訪れる。どうやら彼等サーヴァント達と何かをする様だが、知らないオルガマリーは優作へと尋ねた。

 

 

「英霊強化計画さね」

 

 

:::::

 

魔術工房隠しエリア 業魔殿

 

 

「ようこそ『業魔殿』へ」

 

 

 優作に案内され、集まったのは魔術工房の地下フロア。工房床の中央部にて彼が靴を数回叩くと床が開き、階段が現れたのだ。

 地下には機械が並んでおり、部屋の中央には複数の檻が天井から釣り下げられた鎖でぶら下がっていた。

 

 

「こんな部屋が有ったのね…気付かなかったわ」

「で、此処で何をするんだ?」

「この業魔殿は本来、デビルサマナーが自身の使い魔にした悪魔達の強化や合体を行う為に使う施設さね。しかし、これまでの体験でサーヴァントも此処を利用出来ると気付いた訳」

「強化は兎も角、合体って単語が気になるのだけど…」

 

 

 優作が言った『合体』と云う単語にメディアが不安そうな声を挙げる。サーヴァント同士を合体させるのかと思えば当然であろう。

 

 

「悪魔は異なる種族を合体させる事に依って更に強力な悪魔を生み出す事が出来るさね。まぁ、合体はどんな結果になるか解からないし、行う気は無いべ?」

「ならば強化を行うという事かね?」

「然様。エミヤん達を召喚した時にマリーから召喚したサーヴァントを元の強さ迄強化する場合に種火やら素材が必要と言われたからね。倉庫を破壊されたカルデアには無いし、集めるにしても時間が掛かる。ならおいちゃんが出来る方法でとっとと強化しようって寸法さな。っつー事で…」

 

 

 優作が横にあるレバーを引くと天井近くに吊り下げられていた複数の檻が降りて来た。

 

 

「クー兄、強化トップバッター宜しく」

「お、オレか!?」

「冬木で召喚されたクー兄は他の面々と比べて強化回数が少なくて済むだろうから、ちゃちゃっと済ませたいさね。あ、中央の檻に入るだけで良いから」

「お、おう…入るだけで良いんだな?」

 

 

 クーフーリンが降りに入ると優作は辞典を取り出してページを捲る。

 

 

「そんじゃ…来い、アラミタマ、ニギミタマ、クシミタマ、サキミタマ」

 

 

 優作の言葉と共に辞典が輝き、4つの悪魔が複数体召喚された。

 彼が召喚した悪魔達は冬木で召喚した悪魔らしい姿で無く、いづれも勾玉に喜怒哀楽の表情を浮かべた姿をしていたが数が其々異なっていた。

 

 

「クー兄は運が低いのでサキミタマを多めにして、と」

 

 

 優作が指示を出すと悪魔達はクーフーリンが入った別の檻へと入って行く。

 

 

「それでは『御魂合体』を開始する」

「…今“合体”って言わなかったかね?」

「合体って言ってるけど、厳密には強化みたいなもんだからモーマンタイ」

「される側は不安しかないんだが…アババババッ!?」

 

 

 檻が天井近くまで吊り上げられた後、それぞれの檻から電流が流れ始め、御魂達が入った檻がクーフーリンの檻へと近づいていく。

 隣接した檻は遂には一つになり、檻は床へと降りて来た。

 

 

「し、死ぬかと思った…」

 

 

 白い煙が晴れ、檻の入り口が開くとクーフーリンがフラフラと出て来た。

 

 

「お疲れ、クー兄。そんじゃあ、次はエミヤん入っちゃって」

「……拒否権は?」

「(拒否権なんて)ないです」

「そうか…」

「あ、英霊メンバーは全員やるからダヴィちゃんも入ってね?」

「ファッ!?」

 

 

 その後、男女の悲鳴が5回続いた。

 

 

「マシュは今日からこれを飲んでね」

 

 

 英霊メンバーの御魂合体を終えてぐったりしている中、優作はマシュに赤色の液体が入った瓶を手渡した。

 

 

「これは?」

「ステータスを上昇させる魔法のハーブを濃縮して作ったハーブジュース。原液だと不味過ぎて飲めたものじゃないからシロップやら混ぜてるけど、効果は確かだよ」

「…いただきます」

 

 

 テイルズ産のレッドハーブシリーズをミキサーでしこたま凝縮したハーブジュースであり、効果は折り紙付きである。

 優作からハーブジュースを受け取ったマシュは蓋を開け、こくこくと飲んでいく。

 

 

「さっぱりしてて美味しいです」

「これをマリー含めた他の面々も飲んでね。御魂合体1回やっただけじゃステはカンストしないし」

「あの…合体しなくてもこれ飲んどけば良かったのでは?」

「ノンノン。マシュは英霊の力を得たとは言え、生身の人間だからこの強化含め合体は不可能さね。それに御魂合体はステータス向上もあるけど、一番の目的はスキル追加だからね」

「スキルの追加?」

 

 

 ハーブジュース入りの瓶が入った瓶ケースを取り出して他メンバーに渡す中、メデューサが質問するが優作は指を振りながら本当の目的を答える。

 

 

「悪魔達には“思い出特技”なるモノを持っていてね。サーヴァントのスキルと似たモノと考えてくれれば良いさね」

「…それで、どんなスキルを付与したのかねマスター?」

 

 

 サーヴァントのスキルを追加するという前代未聞の悪魔合体をしてみせた優作にエミヤは自身にどんなスキルを付与されたのか尋ねる。

 

 

「まぁ、それぞれ付与した内容が異なったりするので用紙を用意しました」

 

 

 そう言って優作は用紙をサーヴァント達に手渡した。

 

 

________________________

 

 

クーフーリン

付着高揚     物理半減

吸魔       報復の狼煙

帝都の逆鱗    破壊神のゆえつ

 

メディア

付着高揚     回復高揚

ファイの時報   報復の狼煙

気まぐれカポーテ 破壊神のゆえつ

 

エミヤ

付着高揚     物理半減

吸魔       報復の狼煙

帝都の逆鱗    破壊神のゆえつ

 

メデューサ

付着高揚     物理半減

ファイの時報   報復の狼煙

帝都の逆鱗    破壊神のゆえつ

 

佐々木 小次郎

物理半減     吸魔

報復の狼煙    帝都の逆鱗

豪傑の転心    破壊神のゆえつ

 

ダ・ヴィンチ

報復の狼煙    帝都の逆鱗

気まぐれ医術   気まぐれカポーテ

魔弾の射手    破壊神のゆえつ

 

________________________

 

 

 

「一部は何となく解かるが、スキルの名前だけでは解らないのだが?」

「もち、説明はちゃんとするべ」

 

 

 エミヤのツッコミに優作は頷きながらそれぞれのスキルについて説明していく。

 

 

「……その、戦いには疎いのですが効果が凄過ぎませんか?」

「そう? これだけじゃあ、まだ足りないと思うけど?」

「死亡しても復活する『報復の狼煙』…かなり凶悪なスキルだな…これに確率で発動するとはいえ、受けたダメージを全て相手に返す『帝都の逆鱗』が加われば大抵の強敵は自滅する形で撃破出来るぞ…」

「自身の運の確率で受けたダメージを無効化出来る…判り切っていた事だけど無茶苦茶ね?」

「本当なら他にも加えたかったけど、一人最大6つ迄だからね。後は装備でカバーするさな」

「まだ強化するのか!?」

「主殿はいささか過保護では御座らぬか?」

「何故? この先死地に行くことになるかもしれない仲間を心配して悪いかいな?」

 

 

 優作の説明から自分達に与えられたスキル性能の強力っぷりに困惑混じりの驚きを表す英霊達。しかし更に強化を施す事に疑問の声を挙げるが、彼は不思議そうな声を出した。

 

 

カルデア(此処)にいる面々は皆が仲間だ。英霊のコピーであろうと、死んでも座に変えるだけだろうと、おいちゃんには関係無い。死ぬのは嫌だ、そしてそれは仲間であろうとも同じ事」

「優作…」

「だからおいちゃんは可能な限り死ぬ可能性を無くす。この先、命の取り合いは避けられないだろうし、それならば死ぬのは敵だけで充分だから…」

 

 

 聖杯戦争に於いて英霊は基本的には戦う為の駒でしか無く、並行世界の聖杯戦争ではクーフーリンやメディアは尊厳を無視した扱いを受けていた。聖杯戦争に参加する魔術師の多くがそういった考えを持っているのだから、優作にとっては理解出来ない事例であった。

 

 

「だからコレだけは守って欲しいさな、“この先の戦いでピンチに陥っても可能な限り、生き残る事を一番にして欲しい”」

「おい、坊主。それは…」

「甘ったるい考えなのは解かっているさね。だとしても、無茶はしないで欲しい。これ以上、身内や仲間が亡くなるのはまっぴら御免だし…」

 

 

 おいちゃん、これでもメンタルは弱いさかい、とクーフーリンの指摘に優作は弱々しい笑みで答えた。

 

 

「さ、話は此れ位にして、トレーニングルームに行きましょ」

 

 

:::::

 

 

「そんじゃあ、新たな仲間であるエミヤん達とマリーに服を進呈したいと思います」

「質問良いかい、優作君?」

「なんぞい、ダヴィちゃん?」

「なりきりについて詳しい説明をして欲しいな」

「ほむ。エミヤん達にも詳しく説明してなかったし、折角だからするかな」

 

 

 優作は杖を取り出して一振りすると彼の横にホワイトボードが現れた。もう一振りすると付属のペンが動き出し、ホワイトボードに説明文を書いていく。

 

 

「簡単に説明したけど、おいちゃんの持つ力は“なりきり”。“着た服の職業や人物になりきる事が出来る”」

「服が有ればその力が使えるのかい? 今私が来ている服をそのまま着た場合は?」

「なりきりのルールは5つ」

 

 

 ダ・ヴィンチの質問に優作は再び杖を振るい、新たな説明文を書き加えていく。

 

 

「1つ目、“なりきりが出来るのはおいちゃんが作った服である事”」

「あの服は優作が縫っていたの?」

「そういえば、先輩はコスプレ衣装を作って撮影するのが趣味って言っていましたね」

 

 

 優作がなりきりで着ていた服が彼自身が作っていた事にオルガマリーが驚く一方、彼の趣味を聞いていたマシュは納得する。

 

 

「せやで。そして2つ目、“作る服の職業乃至人物についておいちゃんが大体理解している事”」

「理解ですか?」

「おいちゃんがなりきる対象について理解していればいる程に完全になりきる事が出来る。例えばクー兄ならケルト神話なんかで知っている分、服を作ればなりきる事は出来るけど、エミヤんの事は全く知らない。だからエミヤんの服を作ってもエミヤんになりきる事は碌に出来ない」

「成程な、逆を言えば知っている存在ならば神にすらなりきる事が可能な訳だ」

「そういう事、例えば…」

 

 

 優作が白衣から私服姿に戻った後、衣装を次々と変えていった。

 

 

「バチカン最強の神父」

 

 

 丸眼鏡を掛け、両手にバイヨネット(銃剣)を持った神父姿。

 

 

「その気になれば星を消し飛ばす事が出来る地球育ちの宇宙人」

 

 

 背に亀と書かれた山吹色の道着姿。

 

 

「前世が死神のスナイパー」

 

 

 ライフル銃を担いだ黒コート姿。

 

 

「地球意志を封印した高校留年生」

 

 

 白のジャケットに黒のシャツとズボン姿になった後、優作は元の私服姿に戻った。

 

 

「こんな感じさね。因みに今着た服はどれもサーヴァントに匹敵したり超える実力を持つ人物達だったりする」

「マジかよ…」

「但し、理解していても度が過ぎる力を持った人物の服を使うとおいちゃんに負担が掛かる欠点があるのよね…」

「ま、マスター、2番目に着た服はまさか…」

 

 

 なりきる服にも欠点がある事を教える優作に、ある(・・)服を見たエミヤが声を震わせながら尋ねた。

 

 

「エミヤんは日本人だし知っとるやろ? あの(・・)スーパーサイヤ人やで」

「お、おぉ……マスター、後で彼になりきりたいのだが構わないかね?」

「やっぱ、知ってる人はやりたいよね~。かめはめ波出したいんやろ?」

「う、うむ。そうか、かめはめ波が撃てるか…」

 

 

 優作が2番目に着た服にの人物になりきれる事に興奮した様子のエミヤ。現状、此処にいるメンバーの中で優作とエミヤにしか解からない約束に他の面々が首を傾げたが、改めて優作は説明を続ける。

 

 

「3つ目が“ヒトガタ且つ肉体構造が人間と粗同じである事”」

「…つまり、如何云う事だ?」

「ヒトガタでも全身が機械だったり、する人物にはなりきる事は出来ないって事」

「ならサイボーグ等にはなりきる事が出来ない訳だね?」

「そういう事。あ、フォウ君なら犬猫系のキャラになりきれるよ」

フォウ(ダニィ)!?」

「では早速、なりきりインストール『遺伝子組み換え犬:ポチ』」

 

 

 そう言って犬用のボディアーマーみたいなモノを光の玉に変えてフォウに与えると、光が消えた後には小さな戦車に乗ったフォウの姿が現れた。フォウの身体はボディアーマーに包まれており、背部には大きな大砲を背負っている。

 

 

「これでフォウ君もドラゴン程度一捻りさね」

キュー(凄ぇ)フォフォウフォーウ(これであの屑野郎も蜂の巣だぜぇ)!!」

 

 

 歓喜の鳴き声を上げながら、ポチタンクで奔り回るフォウ。

 

 

「4つ目は当然だけど“服を着ている人物である事”」

「そりゃあ、そうだな」

「最後に“おいちゃん以外がなりきるには適性が必要”さね」

「マスター適性みたいなモノで良いのかしら?」

「せやね。後は“重ね掛け”出来るかってのもあるんべ」

「えぇと、私は重ね掛け出来るのでしたよね?」

「うん。他の皆は1着しかなりきれないけど、マシュだけは2着分なりきる事が出来るさな。それじゃ、前回のマイルーム装飾のアンケート時に一緒に渡した別紙に各々の戦闘スタイルについて書いて貰ったのでそれを兼ねて吟味してみました。先ずはマシュからね」

「私ですか?」

 

 

 そう言って優作が取り出すは白とピンクを基調とし、スカートの裾が花弁を模したデザインのドレスとチョコレート色のズボン及び縁を金糸であしらった白のブーツだった。

 

 

「わぁ、可愛いです」

「マシュのサブで渡したつむりんの服なんだけど、バルキリースカートがやたら破壊されてたから他の服に変えようと思ってね」

 

 

 取り出された衣装のデザインに目を輝かせるマシュに優作はサブ衣装の変更を提案する。

 冬木での戦いで、バルキリースカートは何度か破壊されてしまった。特にアルトリアことセイバー戦に於いて、彼女のエクスカリバーと鎌がぶつかる度に鎌の刃が大きく欠けてしまっていた。修復機能で元に戻るとはいえ、今後の戦いで修復される前に追撃を受ける可能性を考えれば別の壊れない武器を持った衣装が良いだろうと優作は判断した。

 

 

「気に入っている様だし、こっちをメインにして良いかな?」

「はいっ! お願いします♪」

「了解、メインチェンジ『満月の子:エステリーゼ・シデス・ヒュラッセイン』」

 

 

 笑顔で答えるマシュにやはり女の子なんだな、と優作は思いながら衣装を光の玉に変えて彼女へと与える。

 エステリーゼことエステルの服へと衣装が変わったマシュは髪型が似ている事もあり、とても似合っていた。

 

 

「如何ですか、先輩?」

「うんうん、とても可愛いよ。お伽噺の御姫様が飛び出して来たみたいだ♪」

「本当ですか! 嬉しいですっ♪」

 

 

 優作の前でくるりと回って見せたマシュに彼は笑顔で彼女を誉める。誉められた彼女も嬉しそうだ。

 

 

「……」

(嫉妬してるわね、可愛らしい事)

「可愛い…(私もあんな衣装が着たいです…)」

 

 

 そんな優作とマシュの様子をオルガマリーが見ているのだが、見るからに面白く無さそうな表情であった。

 そんな三角関係を面白そうに眺めているはメディア。そんな彼女の横ではメデューサがマシュの衣装に見惚れていた。

 

 

「マシュはこれくらいにして……次にエミヤんですが…」

「どうしたのかね?」

「先にコレ着てくれません?」

 

 

 そう言って優作が取り出したのは肩周りに大きなファーが付いた黒のロングコートだった。

 

 

「これは?」

「エミヤんにクリソツな格ゲーキャラの服。因みにボスキャラだから普通に強い」

「別に構わないが…」

「なりきりインストール『ネスツの中間管理職:クリザリッド』」

「二つ名が酷くないかね!?」

 

 

 服を光の玉に変えてエミヤへと押し当てると、エミヤの姿が黒のロングコート姿となった。

 

 

「くはーっ! マジまんまクリザリッド!! では、早速『テュホンレイジ』をアレに向かって放ってくださいな」

「てゅほん…? ……あぁ、この服の持ち主の技か…待ちたまえ」

 

 

 クリザリッドの衣装となったエミヤの姿に優作は歓喜しながら何処からか取り出したカメラで彼の姿を撮影し始める。更に杖を振って離れた所に的となる案山子を呼び出しながら指示を出す中、彼の指示の意味を服の記憶から理解する。

 

 

「テュホン・レイジ!!」

 

 

 エミヤが内回し蹴りを放つと同時に巨大な竜巻が水平に巻き起こり、離れた案山子を呑み込んで粉々に砕け散った。

 

 

「フォー!! 生のテュホン・レイジだぁーっ!!」

 

 

 優作が大喜びしながらエミヤの挙動一つ一つを撮影していく。

 

 

「いやぁ~、良いモノ撮らせていただきました」

「喜んで貰えたなら何よりだが…、私に着せる服は何なのだね?」

「ん、エミヤんにまず着て貰う服はこちらでする」

 

 

 ご満悦な表情の優作にエミヤが問い掛けると新たに服を取り出す。彼が取り出したのは鍔が大きめのテンガロンハットに茶のコート及びシャツとズボン、ブーツと云った西部劇で登場しそうな衣装だった。

 

 

「なりきりインストール『イニシエダンジョンの冒険者:狩人(ハンター)』。名前の通り、弓矢による射撃をメインとした職業やね」

 

 

 そのままエミヤに着せたクリザリッドの服と入れ替え、彼の衣装が変わる。

 

 

「ふむ…イメージすれば扱う装備や戦い方が分かるのだったな……多いな!?」

「弓の種類は多いけど、ハンターのメイン装備は弓と短剣さね。でも、エミヤんにはそれ以外の武器の扱い方も熟知して欲しいさね」

「メインの武器以外もかね?」

「エミヤん一番の特徴は武器の解析及び投影の魔術っしょ? だからあらゆる状況に対応出来る様、様々な武器を投影して使える様にして貰いたいべ」

「…成程」

「まぁ、先ずは着ているハンターのメイン装備から覚えて問題無いからね」

「分かった」

 

 

 様々な武器を取り出しながら解析していくエミヤ。武器を矢としても扱える彼の性質上、イニシエシリーズの武器は戦略が広がるだろうと優作は考えていた。

 

 

「メーちゃんは色々悩んだけど、これにしました」

「こ、これは……!?」

 

 

 次のメデューサに優作が取り出したのは上下別れた赤を基調としたドレスなのだが、胸元が大きく開いており、下のスカートも腰近くまで大きく開いたスリットになっている。

 

 

「ず、随分と煽情的な衣装ですね…」

「まぁ、キャラがキャラだし。あ、でも心配せんどいてな? スパッツは付けるし、胸元も開かんように調整するさかい」

「はぁ…、でも何故その衣装なのですか?」

「メーちゃんの特徴はなによりもその石化魔眼。だからその石化効果を更に強化したモノがこの服でね、ぶっちゃけ魔眼を使わずとも触れるだけで相手を石化出来る様になります。後、格闘戦も得意な人物だから相手に触れるのは楽だろうし、懐に近付かれても能力込みで対処が楽だと思うよ」

「そ、それは強いですね…」

 

 

 触れるだけで石化出来るならば霊体化して潜み、隙を見て触れるだけで敵を無力化出来るという事になる。簡単な説明しかされていないが、自身にとってはかなり使い易そうな服とメデューサは感じた。

 

 

「出来ればもう少し露出を抑えた衣装にしたかったんだけど、御免ね?」

「優作が私の事を考えて選んだのですから構いません。これでお願いします」

「分かった。なりきりインストール『海賊女帝:ボア・ハンコック』」

 

 

 メデューサの了承を得た優作はハンコックの服をメデューサに与える。ハンコック自身がモデル体型である事から同じくモデル体型でスタイルの良いメデューサが着ても違和感が無かった。

 

 

「ど、どうですか?」

フォウフォキュウ(へそ周りがセクシー)フォーウ(エロい)

「やっぱ、美人さんが着るとすっげぇ映えるなぁ…あ、『見下し過ぎのポーズ』とって?」

「へ? えぇと……こうですか?」

「ひゃっふー! 最高やでメーちゃん!!」

 

 

 優作の指示に従い、メデューサは服からくるイメージに従い、見下し過ぎのポーズをとる。相手を見下し過ぎて上を向くポーズを取るメデューサに優作は歓喜の声を挙げながら撮影を行う。

 

 

「有難ね、メーちゃん♪ そんじゃあ、では次は小次郎さんですな」

「主殿は撮影時に豹変するので御座るな…して、私にはどんな服を着せるつもりか?」

「これです」

 

 

 ハンコックの衣装を着たメデューサの撮影が終わり、次の小次郎に優作が出した服は肩に白のショルダープレートが施された黒を基調としたコート及び上下黒のレザースーツの衣装だった。

 

 

「ふむ…そこまで変わった服では無さそうではあるが、その衣装を着せる理由は?」

「小次郎さんをモデルにしたキャラで、小次郎さんと同じく長刀使いながらも遠距離戦も熟せる人物です」

「ほぅ…私をモデルにした人物とな…」

 

 

 小次郎をモデルにした人物の衣装である事からモデル本人である彼も興味が沸いたらしかった。

 

 

「それではなりきりインストール『片翼の天使:セフィロス』」

 

 

 早速、優作は衣装を光の玉に変えて小次郎へと与えた。

 

 

「取り敢えず武器を取り出してみてくださいな?」

「ふむ……正宗か。どれどれ…」

 

 

 優作に言われて手元に呼び出した正宗は自身が使う物干し竿と同じく、小次郎の身の丈を上回る刀身があった。

 小次郎は正宗を構えながら素振りを数回繰り返して得物の使い勝手を確認する。

 

 

「中々悪くない、気に入ったで御座るよ主殿」

「詳しい戦闘スタイルについてはイメージすりゃ浮かんでくるから、後々確認してみてくださいな」

「分かった」

 

 

 優作の言葉に頷く小次郎。

 

 

「最後はマリーだね」

「私にはどんな服を貸してくれるのかしら?」

「マリーはこれです」

 

 

 最後にオルガマリー用に取り出したのは白のシャツに緑のジャケット、下はチノパンにブーツと云った衣装だった。

 

 

「その…思ったより普通ね?(マシュの服みたいに可愛く無い…)」

「せやけど、おいちゃんが着ていたライドウと同じくデビルサマナーの衣装やで?」

「優作と同じ?」

 

 

 衣装を見た時にあまり嬉しくなさそうな表情をしていたオルガマリーだったが、彼の使っていたライドウの服と同じくデビルサマナーである事を聞き、表情が和らぐ。

 

 

「マリーは指揮能力が優れているから、デビルサマナー系統のサモン系衣装は合っていると思うさね。それプラスで自身が戦闘出来る系統ならこれが一番ベストだからね」

「そうなの?」

「服を着れば戦闘時の動きなんかはイメージで理解出来るけど、慣れは必要だからね。マリーも今後トレーニング参加して貰うから」

「分かったわ」

「それじゃあ、なりきりインストール『18代目葛葉ゲイリン:凪』」

 

 

 オルガマリーに光の玉を押し当て、彼女の衣服が凪の衣装へと変わる。

 

 

「どうかしら?」

「ん、マリーの雰囲気と良く合ってるよ。…写真撮って良い?」

「え? えぇ、構わないわ」

 

 

 生真面目なオルガマリーには凪の衣装が良く似合っていた。

 彼女の了承を得つつ、カメラを構える優作だったが…

 

 

「先輩! 私はまだ撮って貰えてません!!」

「うおっ!?」

 

 

 そこへ写真を撮って貰えていなかったマシュが割り込んで来た。

 

 

「ちょっと、マシュ! 邪魔しないで!!」

「私は撮って貰えていないんですよ!? 所長は後で良いじゃないですか!」

「喧嘩しないでくれませんかね…最後に皆で撮った後にマシュは撮る予定だったのに…」

 

 

 言い争いを始めたマシュとオルガマリーに優作は困惑顔で仲裁に入り出す。しかし、2人は中々争いを止めてくれなかった。




おまけ(マシュの盾強化後の読み方)

『盾の名前 + 強化数』+ 印及びプレミアム数


元ネタ(名前で解るスキルは除外)
>風車(出典:サガフロンティア2)
『サガフロンティア2』に登場する防御技。
槍を装備時に発動し、敵の攻撃を防ぐ。

>ガードビースト(出典:サガフロンティア2)
『サガフロンティア2』に登場する石術。
『石』+『石』+『獣』の組み合わせで発動し、味方1人に攻撃を回避する守護獣を付ける。

>識別の巻物(出典:風来のシレンシリーズ)
『風来のシレンシリーズ』に登場するアイテムで、使用すると対象の未識別アイテムを識別する。
時々全てのアイテムが識別されるが、壺の中に入ってる物は識別されない。
ダンジョンではアイテムをどれだけ識別できるかがクリアに直結する為に重要なアイテムである。

>合成鍋(出典:チョコボの不思議なダンジョンシリーズ)
スクウェア・エニックスのローグライクRPG『チョコボと不思議なダンジョンシリーズ』に登場する仕掛けで、武器や防具を合成出来る。
使用するには竈着火用の魔法本が必要。

>印(出典:風来のシレンシリーズ)
『風来のシレンシリーズ』に登場するシステムで、合成によって、武器や盾に付加する事が出来る特殊能力。
合成によって得られた特殊能力は、一文字の印で表される。

>プレミアム(出典:イニシエダンジョン)
『イニシエダンジョン』に登場するシステムで、装備アイテムに付与されている特殊能力。
プレミアムは最大5つ付き、同じアイテムでも様々な能力が付くので自身の望むプレミアムが付いたアイテムを探すのが原作での醍醐味でもある。

>業魔殿(出典:デビルサマナーシリーズ)
『デビルサマナーシリーズ』に登場する施設。
『ヴィクトル』を主とした施設で、悪魔の合体や武器の強化などを行う事が出来る。

>アラミタマ(出典:女神転生シリーズ他)
アトラス作品に登場する悪魔。
神道の一霊四魂説にある一魂で、荒ぶり、猛々しい力をもたらすもの。
『勇・進・果』の働きがあるとする説や、物事をマイナスする力であるとする説も唱えられる。

>ニギミタマ(出典:女神転生シリーズ他)
アトラス作品に登場する悪魔。
神道の一霊四魂説にある一魂で、穏やかに働き、平常の状態を保つもの。
『親・平・交』の働きがあるとする説や、物事をプラスする力であるとする説も唱えられる。

>クシミタマ(出典:女神転生シリーズ他)
アトラス作品に登場する悪魔。
神道の一霊四魂説にある一魂で、超自然的な力で奇端をもたらすもの。
『智・巧・察』の働きがあるとする説や、分裂した物事が神の摂理で結合する力とする説も唱えられる。

>サキミタマ(出典:女神転生シリーズ他)
アトラス作品に登場する悪魔。
神道の一霊四魂説にある一魂で、狩猟などによる獲物()をもたらすもの。
『愛・益・育』の働きがあるとする説や、物事が神の摂理に従って分裂する力だとする説も唱えられる。

>御魂合体(出典:女神転生シリーズ)
『デビルサマナーシリーズ』に登場するシステム。
御魂属と任意の悪魔を合体させる事で素体悪魔のステータスを上昇させる事が出来る。

>レッドハーブ(出典:テイルズシリーズ)
テイルズシリーズに登場するステータス上昇アイテムで下位互換に普通のハーブがある。
レアアイテムで、作品によっては数個しか入手できない場合がある。

>吸魔(出典:女神転生シリーズ他)
『女神転生シリーズ』に登場するスキル。
敵からマグネタイトを吸収する量が増える。

>報復の狼煙(出典:女神転生シリーズ他)
『女神転生シリーズ』に登場するスキル。
死亡を一度だけ防ぎ、HP50%の状態で復活する。

>帝都の逆鱗(出典:女神転生シリーズ他)
『女神転生シリーズ』に登場するスキル。
高確率で受けたダメージを全て敵に与える。

>破壊神のゆえつ(出典:女神転生シリーズ他)
『女神転生シリーズ』に登場するスキル。
全攻撃の威力が増加する。

>ファイの時報(出典:女神転生シリーズ他)
『女神転生シリーズ』に登場するスキル。
特技の効果時間が長くなり、付与効果の特技に有効。

>気まぐれカポーテ(出典:女神転生シリーズ他)
『女神転生シリーズ』に登場するスキル。
運%の確率で受けたダメージを無効化する。

>豪傑の転心(出典:女神転生シリーズ他)
『女神転生シリーズ』に登場するスキル。
一定の確率で物理攻撃の威力が増加する。

>気まぐれ医術(出典:女神転生シリーズ他)
『女神転生シリーズ』に登場するスキル。
戦闘終了後、自身のHPを運%分回復する。

>魔弾の射手(出典:女神転生シリーズ他)
『女神転生シリーズ』に登場するスキル。
一定の確率で魔法攻撃の威力が増加する。

>ポチ(出典:メタルマックスシリーズ)
データイーストのRPG『メタルマックスシリーズ』の登場人物。
戦闘用のバイオニック犬であり、仲間として戦ってくれる。

>ポチタンク(出典:メタルマックスシリーズ)
『メタルックスシリーズ』に登場する犬用の装備。
戦車に乗れない犬用のアクセサリーであり、あらゆる属性のダメージ耐性が上がる。

>エステリーゼ・シデス・ヒュラッセイン(出典:テイルズオブヴェスペリア)
『テイルズ オブ ヴェスペリア』の登場人物で、ヒロイン。
原作内で主人公ユーリが帝都ザーフィアスの城内で出会う。互いに知り合いであるフレンに危機が迫っていると云う理由で彼と同行する事になり、共に帝都を飛び出してフレンを追う旅に出る。
人生の殆どを城の中で生活していた為に世間の事に疎いが、読書が趣味であった事から歴史や伝承等の知識は豊富。
おっとりした優しい性格で非常に献身的な一方で何事にも一生懸命でもあり、その上頑固で意志が強い。仲間に対しての思いやりが強く、誰にでも平等に礼儀正しく接する。
世間知らず故に旅の当初はあれこれと手をつけては仲間を振り回してしまうことが多かったが、様々なトラブルに巻き込まれるなかで本には書かれていない世界の情勢を目の当たりにし、世界の事をもっと知る為に旅を続けたいと願う様になり、次第に“今為すべき事は何なのか?”、”その為に自分に出来る事は何なのか?”を考える様になっていき、皇帝家の秘密と自身の宿命を知る事になる。
旅の道中では困っている民の立場に常に寄り添い、悪さをする人間や、各地の街で圧政を敷き、私利私欲に塗れた帝国直属の執政官には物怖じせず厳しい言葉を投げかけている。その際、相手にまっすぐ指をさすポーズをとる事が多い。
武器は剣と杖でサブウェポンは盾を扱う。
多くの治癒術・補助術を習得し、近接技・攻撃術もそれなりの数を覚える為、どんな立ち位置でも自在に戦えるオールラウンダー。
打たれ強い一方、HPや素早さが低い為に強化しない限り前線は厳しかったりする。

>クリザリッド(出典:KOFシリーズ)
SNK格闘ゲーム『KOF』の登場人物で『KOF’99』のラスボス。
秘密組織『ネスツ』の幹部であり、ネスツを通常の企業に例えるならば課長相当の地位にある。
身に着けているバトルスーツに戦闘データ(主に技)を取り込み、さらにそのデータを元に、他の様々な格闘技の長所も取り入れた新たな技を編み出し、実戦でそれらを自在に使いこなしている。
彼の正体はネスツによって行われたクローン体への記憶移植プロジェクト「プロジェクトクリザリッド」の実験体であり、99~2001の主人公である『K’』のクローンであったが、彼自身はその事実を知らず、移植された記憶を自分自身の記憶だと錯覚して、K'が自分のクローンだと思っていた。
原作におけるボス戦ではまずはコートを着た姿の変身前として登場し、これを倒すとコートを脱いで(自身の炎で燃やして)本気になり、使用技全般が大きく変化した変身後として戦う。
性能面では変身前は弱いが、変身後は密着していれば全ての技が小技から繋がり、代名詞的な技といえる飛び道具の『テュホン・レイジ』に加え、高速な突進技とそれを利用したノーゲージの永久連続技、強力な無敵対空技が揃っており、さらに他のネスツボスと同じく全地上通常技がキャンセルおよび空キャンセル可能で、ゲージ回収率が異常に高い。また、地上および空中ふっとばし攻撃の発生が非常に早く、リーチも長い。
これらの性能から、総合的に使用キャラクターとしてはかなり強い部類に入る。

>テュホン・レイジ(出典:KOFシリーズ)
『KOF』で登場するクリザリッドが使用する技。
内回し蹴りのようなモーションと同時に巨大な竜巻を水平に放つ飛び道具。
強弱によって放つ竜巻の性能が変わるが、攻撃判定が広く、避けるのは困難且つ牽制、対空、連続技、ジャンプ防止と多方面で使える強力な技。
ガードされても有利でガードキャンセルは足の部分と竜巻の終わり際しかできないのでガードキャンセルふっとばし以外では反撃されることも少ない。

狩人(ハンター)(出典:イニシエダンジョン)
『イニシエダンジョン』に登場する職業の一つ。
狩人は弓と短剣をメイン装備とし、命中率と回避が高い事からアタッカーからサポート役両役務める事が出来る。

>ボア・ハンコック(出典:ONE PIECE)
集英社出版、尾田栄一郎作の漫画『ONE PIECE(ワンピース)』に登場人物。
『海賊女帝』の異名を持つ女海賊で王下七武海の紅一点。絶世の美女であり、女ヶ島『アマゾン・リリー』の皇帝にして、九蛇海賊団船長である。
自分の美しさに絶対的な自信を持っており、自分は何をしても許されると思っている為、 傲慢で超が付くほどわがままで高飛車、更に威圧的且つ自己中心的で相手を見下す様な言動が目立つ。 これらの尊大な性格から『見下しすぎのポーズ』が彼女の代名詞となっている。
この様な我儘な性格、態度は、過去に彼女が妹達共々奴隷として売り飛ばされ、天竜人の奴隷にされた事に起因しており、“もう誰にも支配されたくない”という思いが影響している。またそういった経験から大の男嫌い且つ世界政府嫌いで知られている。
悪魔の実である『メロメロの実』の能力者であり、能力を帯びさせた打撃や放ったハート形の弾丸や弓矢等に石化効果や殺傷効果を持つ。

>セフィロス(出典:FF7)
『FF7』の登場人物にして原作のラスボス。名前の由来はカバラの生命の樹『SHEFIROTH(生命の誕生・生力、神性の流出)』を由来としている。
原作世界を牛耳る『森羅カンパニー』の私設エリート兵士『ソルジャー』の一員でソルジャー最上級の『クラス1s』に属し、多くの武勲を上げた事から「英雄」と称されていた。
彼の正体は『ジェノバ・プロジェクト』の実験体として、『女科学者ルクレツィア』の胎内に居る時に『宝条博士』に因って『宇宙生物ジェノバ』の細胞を埋め込まれた人造人間という、割と悲劇的な出生の持ち主。
しかし、そういった経緯を知る事無く、色々と拗らせてしまった彼は街の住民を虐殺したり、星を滅ぼす隕石を呼び寄せたりするようになる(説明不足)。
原作主人公であるクラウドと彼は宮本武蔵と佐々木小次郎のライバル関係をモデルにしたらしい。

>凪(出典:葛葉ライドウ対アバドン王)
『葛葉ライドウシリーズ』の登場人物。
十七代目葛葉ゲイリン の弟子となった日露ハーフの少女。
ゲイリンを師として慕っており、原作主人公であるライドウに対しては最初は対抗心からやや挑発的であったが、彼の事を認めてからは先輩と呼び素直に接するようになる。
師匠譲りの独特の口調を使う。
相棒はハイピクシー。


Q、何で予定より2週間も遅れたの?
A、仕事場で契約期限が過ぎて下船した方の代理で乗船して来た奴がとんだブーメラン老害野郎で地獄を見たから(精神的に死にかけていて、休暇中も何もしたくなくなった)

Q、識別の巻物でマシュの盾を識別出来ないの?
A、御都合主義です(真顔)

Q、強化したマシュの盾ヤバくない?
A、仲間兼ヒロインを強化して何が悪い?

Q、優作が能力説明でなりきりした衣装の元ネタは書かないの?
A、名前を出していないので省略(本格的に登場したら書きます)

Q、フォウがなりきりしてるのですが…
A、四足歩行系キャラはフォウ君が担当してくれます。

Q、メデューサに着せるを悩んだと主人公君が言っていたけど…
A、他の候補に…
  ・名前繋がりで『メデューサ』(ソウルイーター)
  ・魔眼繋がりで『塞』(アカツキ電光戦記)
  ・鎖使い繋がりで『アクセル』(ギルティギア)
  が有りました。

Q、ダ・ヴィンチになりきりはさせないの?
A、主人公君的にダ・ヴィンチはハロルドに似た危険なイメージを感じたのでまだ渡す決心が付けていないでいます。

Q、完全にマシュとオルガマリーの2人、フラグ建ってません?
A、色々悩んで拗らせた結果こうなりました…(白目)


次回は12月9日投稿予定。
感想コメント、意見・質問お待ちしております。


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鳥籠の少女に素敵な世界を…

“次回は12月9日投稿予定”と宣った前話から1年2か月21日経ってしまいましたが私は元気です。

長かった、本当に長かった…(白目)


今回はコミュ回ですが…

長いだけで読み辛い気がして仕方ないが許し亭許して?


「先輩、まだですか?」

「もうちょっとだよ」

 

 

 現在、目隠しされた状態であるマシュは手を繋いだ優作に連れられて暗い廊下と思われる道を歩いていた。マシュ自身は目隠しされている為に歩いている道がどうなっているかは皆目つかないのだが、時折豚の鳴き声や良く解からない声が聞こえていた。

 傍から見たら変な処か通報必至な光景であるが、事の始まりは数時間前から始まる。

 

 

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数時間前

 

カルデア 多目的ホール

 

 

「マリー、腕を前で組んで! マシュは……そうだな、盾を斜め前に構えてくれる?」

「こ、こうかしら?」

「こんな感じで良いですか?」

「っしゃあっ! ナイスポーズッ!!」

 

 

 優作の指示を受けてポーズをとるオルガマリーとマシュに彼は歓喜の声を挙げながらカメラのシャッターボタンを押しまくる。

 そんな優作がカメラを向けて撮影している2人の姿はオルガマリーは何時もカルデアで着ている制服であるのに対し、マシュはシールダーとして謎のサーヴァントから与えられたロマニ曰く破廉恥な衣装になっている。

 因みに離れた所ではクーフーリンやメディア他、ダ・ヴィンチ含む呼ばれたサーヴァント達が呼ばれた際の衣装を着て立っていた。

 

 

「ようしっ! マリーの撮影分は終わり、マシュは今から出す置物に腰かけてね」

 

 

 オルガマリーが撮影場所から下がるのを確認した優作が指をスナップさせるとマシュの周囲が古城跡地の様な石積みの柱が並んだ景色へと様変わりした。

 

 

「よぅし、片膝を抱えたポーズを取ってくれるかな?」

「こうですか?」

「う~ん、バッチリ! それじゃあ撮るよ~♪」

 

 

 現在、優作が増築した撮影ルームにて英霊+αの面々の撮影会が行われていた。

 優作がカルデアにて英霊を召喚するという説明を受けた時に如何してもやりたい事が出来たからと言う。

 と、いうのも…

 

 

“古今東西の英霊達のサイン付き写真集を作りたい”

 

 

 優作の一番の趣味はコスプレ衣装作成及び撮影である。座からのコピーとは云え、神話や過去にいた英霊達本人を撮影し、写真集を作る機会など万が一処か億が一も無いだろう。しかも英霊をサーヴァントとして幾人も召喚出来るカルデアならばまさにうってつけである。

 そんな訳で優作の願いで始まった撮影会。因みにサインは用意した色紙に既に書いて貰っており、受け取った優作は暫くの間小躍りして喜んだ。

 

 

「英霊達の生サインゲットォ―――ッ!! 未来永劫、一族の家宝にしたるぅっ!!」

「あんなに喜ぶもんなのか?」

「色紙に名前を書いただけなのですが…」

「我々は英霊なんだぞ? 私のは兎も角、世界遺産級の宝になるのだから当然だ」

「主殿の喜び方は見ていて面白いで御座るな?」

「喜んで貰えて何よりね」

「ま、ダ・ヴィンチちゃんの直筆サインなんだから喜んで当然だよねっ♪」

 

 

 仕舞いにはアクロバティックな踊りを始める優作に対し、サインを書いた英霊達は様々な反応を示していた。

 その後、撮影も終わって皆が解散する中、優作はマシュへ声を掛けた。

 

 

「マシュ、ちょっと良いかな?」

「どうしましたか、先輩?」

「この後時間は有るかい?」

「はい、問題無いですけど?」

「それじゃあ、さ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいちゃんとデートに行こうぜ?」

「ふぇっ!?」

 

 

 

 

 

 勇作の突然のデートの誘いにマシュが素っ頓狂な声を挙げるのも無理は無かった。

 

 

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それからどうした

 

 

「とうちゃ~く♪」

 

 

 デートと云う名目で優作のマイルームで落ち合った2人。初めてするデートに期待半分、緊張半分だったマシュは彼に目隠しされて連れられる事、数分後。周りから聞こえていた変な声が聞こえなくなり、代わりにそよそよと吹く風がマシュの頬を撫で、風に揺られる草木の音が優しく耳を打った。

 そう、風や草木の揺れる音が聞こえたのだ。

 

 

「…え? 先輩、今私達は何処にいるんですか?」

「それは自分の目で確かめてね? それでは……」

 

 

 優作の気配がマシュの後ろへ移り、彼が彼女の目隠しを外す。

 

 

「御開帳~♪」

「…あ」

 

 

 マシュの視界に映った景色……風で揺れる草と木々、そして青い空に流れる雲と燦々と輝く太陽。

 本来ならありふれた自然の景色が広がっていた。

 

 

「ようこそ、秘密の箱庭へ…ってね?」

「は…ふぇ? えぇ!?」

 

 

 演技染みた仕草で歓迎のポーズをとる優作。しかし、そんな彼の姿をマシュは見る事無く、唯々視界に広がる景色に釘付けになっていた。

 マシュは軽く歩き回りながら周辺を見渡す。嘗ては VR でしか体験できなかった自然、優作がカルデアの地下に造ってくれた事で生まれて初めて生の草木に触れたのだが、それが見渡す限り果て無く存在している。

 また、心地よい風に草木の香りが鼻腔を刺激した。自然公園で芝生の上で横になった時に嗅いだ香りよりも濃ゆい香りだった。

 何より、自身が見たくて堪らなかった青空が視界いっぱいに広がっていた。

 

 

「す、凄いです先輩っ!! でも此処はカルデアの外なんですか?」

「うんにゃ、外は焼却されているから流石に連れていけないよ。別の世界さ」

「別? 如何いう事ですか?」

「カルデアの外…地球とは違う世界でね、おいちゃんもたまたま見つけたと言うか…試したらあったというか…」

「?」

 

 

 現在、優作がマシュを連れて来たこの世界は優作がスティーブの服を着た際にどれだけ原作再現が可能であるか試していた際に発見したモノだ。

 原作に於いて、プレイヤーがスタート時に活動する世界である『オーバーワールド』にて黒曜石ブロックでフレームを作り、フレーム内に火を灯す事で『ネザーポータル』が生成されてネザーに行く事が出来る。

 このネザー内にて別の場所にポータルを作成して通過するとオーバーワールドの別の場所に新たなポータルが生成され、其処へと繋がるのだが、優作が試しに新たなポータルを作って通過すると地球で無い世界へと繋がった。周辺を探索した結果、『Mine craft』のオーバーワールドへと繋がった事が分かった。

 初めて訪れた時、歓喜した彼は色々と遣りたい放題しまくったのだが、それは置いておく。尚、カルデア施設の修復や改造に使用した資材は凡て此処で用意したモノである。

 

 

「ま、何はともあれ別世界と思ってくれれば良いよ」

「別世界…本当に先輩は何でも出来るんですね?」

「この世界に関しては偶然発見しただけなんだけどね? そんな事よりも今日はマシュとデートで来ているのだから、この世界を色々堪能して貰いたいと思ってね」

 

 

 優作がマシュをこの世界に連れて来た理由、それは“彼女がカルデア以外の世界を知らなかったから”。

 カルデアに来たあの時、中央管制室にてオルガマリーと軽い言い争いをした後にマシュの案内の元、優作へ充てられたマイルーム向かいながら彼女と色々話をしていたのだが、優作がカルデアまでの旅道中を話していた時に彼女がこう言ってきた。

 

 

“外を自由に出歩く事が出来るなんて羨ましいです”

 

 

 マシュはカルデアで生まれてカルデアで育った。その間一度も外へ出た事が無く、許される事も無かった。

 窓の外は何時も吹雪いており、一面が雪景色。偶に吹雪が止んでもどんよりと厚い雲に覆われて青空などちっとも拝める事が出来なかった。

 “一度で良いから太陽が輝く青空と外の世界をこの目で見てみたい”、短い会話であったが、マシュの心からの望みを優作は会話の中から感じた。だから別世界とは云え、此処へ連れて行こうと決心していたのだ。

 

 

「ピカ!」

「はい?」

 

 

 マシュを案内しようとした時、近くの草むらから鳴き声が聞こえた。暫くすると鳴き声がした方から草むらを掻き分け、不思議な生き物が現れた。

 

 

「おぉ! ピーさん、ゲートの番をしてたんか?」

「ピカピ」

 

 

 近寄って来たので優作が抱き上げた『ピーさん』と呼ばれた生き物は毛が黄色く、背には茶色の縞模様、とんがり耳の先は黒くて両頬は赤い。そして何より雷を模したような尻尾が特徴的だった。

 彼の頬を舐めてきたピーさんに優作は優しくその頭を撫でる。

 

 

「さぁ、ピーさん。お客様を連れてきたぞ、挨拶して?」

「ピカチュウ」

「は、初めまして。マシュ・キリエライトです」

「ピカ!」

 

 

 ピカチュウの両脇を掴みマシュと面と向かわせる。挨拶するマシュに対し、ピカチュウは片手を上げて挨拶を返した。

 

 

「見た事の無い生き物ですけど、先輩の使い魔か何かなんでしょうか?」

「ん~、使い魔のジャンルに入るっちゃ入るけど、言うならパートナー的な関係だよ」

 

 

 そのまま手を延ばして握手を求めたピカチュウに応えながら問い掛けるマシュに対し、優作はピカチュウ及び『ポケットモンスター』達について説明をする。

 

 

「ポケモン達はあくまでもトレーナーと呼ばれる立場に付き合っているだけでそこには上とか下は無いよ」

「ピカピ!」

「どんなに大きくてもポケットみたいな小さいものに入り込める生き物だからポケモン…不思議な生き物です…」

「皆賢いし良い子ばかりだからマシュも直ぐに仲良くなれるよ」

「この世界の彼方此方で暮らしているんですか?」

「そう。森に海に空に色んな処で暮らしているから其の内会えるよ」

 

 

 マシュに撫でられて気持ち良さそうな鳴き声を挙げるピカチュウを肩車し、改めて声を掛ける。

 

 

「じゃあ、行こうか?」

「は、はいっ!」

 

 

 優作に案内されながら、マシュは周りの景色を眺めていく。小道の横を流れる川や離れた先にある山から落ちる滝、滝の下にある湖では時折魚が撥ねている。何もかもが新鮮で、彼女にとって初めて生身で体験するモノであった。

 

 

「ほら、マシュ」

 

 

 軽く整備された小道を歩きながら、優作は横に生えている林檎の木から林檎を2つ捥ぎ取って片方をマシュへと手渡す。

 

 

「あ、リンゴ…ですか?」

「美味しいよ?」

「かぷ……あ、甘い♪」

「ピカピカ」

「はいはい、ピーさんも」

「チャ~♪」

 

 

 カルデアではカットされたモノしか食べた事の無い林檎をシャクリと齧るマシュ、スッキリした甘酸っぱさが口中に広がった。彼女の顔が綻ぶのを見た優作は微笑みながら自身も己の手にある林檎を齧る。

 小道の両脇は木々が街路樹の様に並び、枝葉の間から差し込む木漏れ日が心地良い。

 

 

「歩いているだけなのにとっても気持ちが良いです…」

「森林浴は疲労回復やリラックス効果があるからね」

「そうなんですね…ドクターや所長にもお勧めしたいです」

「特異点の特定で今忙しいからね…特にマリーは凪の服の力を使いこなせる様にならないといけないし…」

 

 

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「それじゃあ、これからマリーにはデビルサマナーの力を使いこなせる様になって貰います」

「お願いするわ」

 

 

 肉体を取り戻した際になりきりの適性を得たオルガマリーに優作はデビルサマナーの服を与えた。なりきる事で当然、悪魔召喚の技術や服の主の戦闘方法等は脳内でイメージ出来るのだが、荒事経験が0であった彼女はしっかりと使いこなせる様に慣熟する必要が有った。

 

 

「マリーの服ははおいちゃんが冬木で使っていたライドウの服と同じく、悪魔を使役して戦った人物の服。此処カルデアで所長を務めているマリーなら指揮する事に慣れているだろうから、適していると思って渡しましたんだけど、先ずは戦況を判断しながら悪魔達に的確な指示を出せる様にする事と自身が行う戦闘に慣れる事が大事だね。手渡したマニュアルは読んでくれた?」

「えぇ。悪魔の種族や特性等は一通り目を通したし、衣装の戦闘スタイルも大体理解しているわ」

「じゃあ、先ずは悪魔召喚をしてみようか? ピクシーを呼び出してみて」

「任せて」

 

 

 優作の指示でオルガマリーは腰の封魔管を1本取り出して構えた。

 

 

「来なさい、ピクシー!」

「はぁい、サマナーさん?」

 

 

 オルガマリーの呼び声と共に封魔管から光が溢れ、ピクシーが現れる。

 彼女が召喚したピクシーは優作が使役していたピクシーに対してレベルは低く、扱う特技も低級から中級のモノのみが揃えられていた。

 

 

「悪魔はサマナーの魔力であるマグネタイトを消費する事で呪文や攻撃補助と云った特技を使用出来る。特技は何れも強力だけど、ちゃんと指示をしないと悪魔達は容赦無く特技を使用していくから自身の魔力量を常に意識して上手く運用していって欲しい」

「メディアに渡したスリースターズは使えないの?」

「スリースターズは自身が使う魔術に効果があるんだけど、悪魔達が引き出す分には効果を与えないさね」

「そう、万能な訳では無いのね」

「後は慣れなんだけど、丁度良いコーチがいるから何度か模擬戦を繰り返して?」

「優作がしてくれないの?」

「おいちゃんの悪魔達は強過ぎるさかい、殴るだけでマリーの悪魔はダウンしちゃうさね」

「そう…」

 

 

 何故か残念そうなオルガマリー。彼女の努力を彼女主観ではあるが、最初に認めてくれた優作は彼女にとって特別な存在になっていた。彼の持つ規格外な能力を含め、彼に信頼を抱くのは当然であろう。

 

 

「まぁまぁ、剣や銃の詳しい扱い方はおいちゃんが教えるからさ? 取り敢えず…来い。ライホー君!!」

「ヒーホー!!」

 

 

 気を取り直して優作が召喚したのは冬木で呼んでいたジャックフロストに似た悪魔だった。只、着ているモノが優作がライドウの服を着ている時と同じ黒色の学生服衣装であったが…

 

 

「ライホー君、彼女はオルガマリー。新人のデビルサマナーになるから先輩のサマナーとして指導をして欲しい」

「え、えぇっと…オルガマリーよ。宜しく…」

「ヒホー! 遂にオイラにも後輩が出来たホー!!」

 

 

 優作の頼みに大喜びで飛び跳ねるライホー君。その後、ライホー君に依る詳しい悪魔の使役方法や指導付きの模擬戦を行い、その後優作から剣術及び銃の扱いをレクチャーして貰った。

 尚、優作からレクチャーをして貰う際に彼と密着状態で刀や銃の持ち方を教えて貰っていた時、彼女は顔を赤くしながらも嬉しそうだった事を明記しておく。

 

 

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「まぁ、マリーも連れて来たかったけど鍛錬やら復旧作業で忙しいからまた今度だね」

「でも所長が今後、特異点に同行すると言った時は驚きました」

「だよね? てっきりカルデアで指揮を執ると思っていたのだけど」

「所長も先輩と一緒に居たいからなのでしょうけど…」

「?」

 

 

 マシュが何か小声で呟いた気がしたが、追及せず歩みを進めていく。木々が並ぶ景色はやがて開いてゆき、沢山の花が咲き誇る平原が広がっていた。

 

 

「綺麗…です」

 

 

 花の蜜を吸おうと色とりどりな蝶達が飛び回る様子をマシュは感嘆の声を零しながら眺める。そよそよと吹く風にのせられた花々の香りが鼻腔を楽しませてくれた。

 そんなマシュの様子を横目で見ながら優作は連れて来て良かったと思っていた。多くの者がありふれた景色と言うであろう周りの景色に目を輝かせて喜ぶ彼女に自身も嬉しくなる。

 

 

「あの…先輩、アレは何でしょうか?」

「ん?」

 

 

 何かに気付いたマシュは優作に尋ねる。彼女は後ろを向いており、数歩先には緑色の変なモノが立っていた。尚、「シュー」と音を立てながら点滅している。

 

 

「やばたにえんっ!!」

「せんぱ……ひゃあ!?」

 

 

 変な悲鳴を上げながらも優作はマシュを抱き上げると思いっ切りジャンプした。直後、緑色のモノは膨れ上がり自爆した。

 

 

「せ、先輩!?」

「あ、危なかった…」

 

 

 緑のモノが自爆した事に因って周辺は吹き飛び、黒焦げたクレーターが出来上がっていた。そんな小道へマシュを抱えながら降り立った優作は焦った表情を安堵に変える。

 

 

「ったく…油断も隙も無い」

「あ、あの…今のは何だったのでしょうか?」

「あれは匠こと『クリーパー』つって、リフォーム対象を見つけると接近して自爆する緑の悪魔さね」

「悪魔ですか?」

「音も無く接近して自爆する時に漸く“シュー”と音を立てるから、奴に消し飛ばされる被害者は後を絶たないべ(おいちゃんも何度建築中に爆殺されたり、リフォームされた事か…)」

「ピカ~」

 

 

 優作が遠い目になりながらマシュへ説明し、取り出した杖を一振りすると吹き飛んだ周囲の木々や花が元の姿へと戻っていった。

 

 

「ま、この世界はモンスターが沸くから完全に安全な世界と云う訳では無いさね」

「はぁ…モンスターが存在するんですか。クーフーリンさんが喜びそうですね?」

「ははっ、確かに」

 

 

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カルデア トレーニングルーム

 

 

「さて、約束の模擬戦ですが…」

「おう、楽しみにしてたぜ?」

 

 

 トレーニングルームにて優作とクーフーリンの2人は対峙していた。

 冬木にてクーフーリンは優作に模擬戦を行う様に約束していた。

 

 

「しっかし、クー兄と小次郎さんが叶えたい願いが“強者との戦闘”って…バトルジャンキー過ぎない?」

「良いじゃねぇか。ゲッシュのせいで全力を尽くした戦いをする事無く死んじまったんだからよ」

「私の場合は剣を極めたいに尽きる故な。折角、古今東西の剣豪達と剣を交える機会を得られたのだ。況してや主殿なら御伽草子の剣豪とも立ち会わせて貰えるのだからな」

 

 

 現在カルデアに在籍する英霊メンバーに対し、優作は各々が望んでいる願いを聞いていた。

 本来、英霊は何でも願いをかなえる聖杯に願いを託して聖杯戦争へ参戦する。つまりは死んだ際に未練を残していた為に成仏する事無く、英霊の座に居座って願いが叶う聖杯戦争へ呼び出されるのだ。

 そんな英霊の中で、クーフーリンと佐々木小次郎は特殊な例で、聖杯自体には願う事は無く、“聖杯戦争に召喚される強者と全力尽くした戦いをしたい”と云う願いから英霊となっていた。

 

 

「それで、クー兄的に何か戦いたい相手のリクエストはある?」

「オレは強いヤツと戦えるなら誰でも良いぜ?」

「ほむ、それなら…」

 

 

 クーフーリンの言葉に優作は杖を振ってルーレット台を呼び出した。

 

 

「バトルルーレット(凶悪版)でーすっ!!」

「る、ルーレット?」

 

 

 回転式のルーレットには様々な名前が書かれていたが、クーフーリンには知らない人物の名前ばかりであった。

 

 

「クー兄と対戦する相手の衣装はこのルーレットから選ばれます」

「お、おう…」

「それではルーレット……スタァートゥッ!!!」

 

 

 遊作の掛け声と共に回されるルーレット。暫く回転し続けた後、ルーレット表の決定矢印が指す箇所で止まった名前は…

 

 

「クー兄の対戦相手は……あ…」

「おい、如何したよ? “あ”って…?」

 

 

 決定したキャラの名前を見た優作が一瞬、硬直する。ルーレットの矢印が指した先には『ジェネラル(出典:カイザーナックル)』と書かれていた。

 

 

「っこ、こほんっ。クー兄の対戦相手は『ジェネラル』ですっ!!」

「おい、“あ”って何だ!? ヤバいヤツなのか!?」

「それではメインチェンジ『最強の尖兵:ジェネラル』」

「聞けよっ!?」

 

 

 クーフーリンの問いを流しつつ、優作の言葉と共に私服姿だった彼の姿は緑を基調とした軍服へと変わった。

 

 

「大丈夫、大丈夫。スカサハの弟子なら大丈夫だって!(充てにならない確信)」

「そ、そうか…?(誰でも良いと言ったのは間違いだったか…?)」

「それじゃあ、始めましょ」

「お、おう。来いや」

 

 

 こうして始まった模擬戦だが……結果は散々なモノ(クーフーリンにとって)となった。

 

 

「I'm a perfect soldier!」

「か…勝てる訳無ぇだろ…コレ…」

 

 

 勝利ポーズを決める優作の後ろではボロボロのクーフーリンが倒れていた。

 倒れている彼がこうボヤくのも無理も無い。

 模擬戦が開始した途端に優作は自身を模した気の塊をクーフーリンへ向けて乱射しながら、それを避けた彼をスライディングで足元を崩ししてからのコンボでボコボコにするわ。

 クーフーリンが攻撃を仕掛けても高速の瞬間移動で片っ端から避けられ、後ろから掴まれて投げられたら彼の落下先へと瞬間移動して気の塊やらスライディングでボコボコにしてくるわで一転攻勢する暇など全く無かったのだ。

 

 

「因みにこのキャラの攻略を担当した雑誌編集者がおりまして…」

「おう、何て書いてたんだ?」

「“はっきり言って打つ手がない”とか“気合いで何とか……”で攻略を放棄しました」

「えぇ…(困惑)」

 

 

 優作のコメントに倒れているクーフーリンも困惑の声を漏らした。

 

 

「で、次は小次郎さんですが…」

「…拙者の相手は程々のモノにして欲しいで御座るよ主殿」

 

 

 クーフーリンとの模擬戦を終え、続いて小次郎との模擬戦を行うのだが、引き気味だった小次郎本人の希望により剣客ルーレットは(マイルド版)となった。

 

 

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「小次郎さんとの模擬戦は隙を突かれた際に武器を弾かれて負けちゃったけどね」

「クーフーリンさんを圧勝できる時点で先輩は規格外と思います」

 

 

 小次郎の頼みでマイルド版となった剣客ルーレットとなり、優作は選ばれた『不律(出典:アカツキ電光戦記)』の衣装で彼と模擬戦を行った。まぁ、小次郎が放つメテオや燕返しを無敵移動技である『前駆』で避け続けながら少しずつ彼を追い込んでいたのだが、手持ち武器である刀を鍔迫り合いの末に弾き飛ばされ、無手になった隙を付かれて負けてしまった。

 

 

「マシュはその時はエミヤんと鍛錬していたんだっけ?」

「はい。剣の使い方や様々な武器の対処法等、色々ご指導して貰いました」

 

 

 優作がクーフーリンと模擬戦をしている間、新しくエステルの服の力にある剣技を使いこなすべく、マシュはエミヤを指導者として鍛錬を行っていた。

 イメージする事で戦い方は理解出来るが、実際に扱うとなると齟齬が出てしまう。実戦でその様な事態になるのは非常に危険なので、こうして模擬戦で使いこなせる様にしていた。

 

 

「ところで先輩?」

「何?」

「そろそろ下ろして貰えると嬉しいのですが…」

「おっと!? 御免ね?」

「い、いえ…」

 

 

 クリーパーの自爆を避ける為にマシュを抱えていたままであった優作は所謂お姫様抱っこで彼女を抱えていた。お姫様抱っこ状態のマシュは心なしか頬が赤い。

 

 

「お、そろそろ見えるかな?」

「見える、ですか?」

「ほら、あそこ」

 

 

 彼女を下ろし、会話しながら歩く事数十分。丘を越えた先に海が広がっており、更に優作が指差した先には港町があった。

 

 

「あれが……海…」

「海にも後で行くけど、まずは街へ行こうか?」

「え、えぇっと…先輩、この世界には人が住んでいるんですか?」

「勿論! この世界でも村や街が有って、各々が暮らしているさね。と、いう事で港町があるから行きましょ」

 

 

:::::

 

 

「わぁ…」

 

 

 また暫く歩く事数分、2人は港町の入り口前に立っていた。石畳の大きな通りの両側を様々な店や家屋が並んでおり、通りには多くの人やポケモン等のモンスターが歩いている。

 

 

「こんなに人がいっぱい…」

「この港町はおいちゃんがとことん拘って造った街だからね。人口も多いし」

「先輩がこの街を造ったんですか!?」

「この海岸付近には元々誰も住んでいなかったんだ。おいちゃんが丈夫で住みやすい家だったり、仕事場を紹介したりして敵性モンスターに襲撃喰らって家を無くしたり、辺境で住んでいた村人達を集めたさね」

 

 

 オーバーワールドでは住みづらい場所でも村が生成されたりする。優作はそういった村の住人達を勧誘して自作した街の住人にしていた。

 

 

「お昼時だし、街の散策は後にしてお昼ご飯食べよっか?」

「そうですね。何を食べますか?」

「マシュは屋台のハンバーガーとか初めてじゃないかな?」

「屋台のハンバーガーッ! 気になりますっ!!」

 

 

 通りの先に立つハンバーガー屋台を指さした優作にマシュは目を輝かせる。

 

 

「レギュラーサイズのバーガーセット2つとポテトMサイズをくださいな?」

「は~い、いらっしゃ…って提督じゃん!?」

 

 

 フードトラック屋台の中で働いている店員へと注文をする優作に対し、返事をしながら振り向いた店員は驚いた様子で目を大きく見開いた。

 

 

「鈴やんおひさ~」

「ホント久々じゃん! 何してた訳!?」

「リアルで充実してたのも有るんだけどさ、今おいちゃんのとこが世界規模の一大事になってさ? ぶっちゃけ、救世主ポジになっちゃったから世界を救う戦いで忙しいとこです」

「世界規模? 宇宙人でも攻めて来たワケ?」

 

 

 優作へと質問をしながらも“鈴やん”と呼ばれた少女は彼が注文したメニュー内容を準備兼調理をしている当たり、ハンバーガー屋店員としての作業をしっかりしている事が解かる。先にお冷とピクルスの小鉢を手渡しながらも翠色ストレートロングの彼女は空いているテーブルに座った優作とマシュに視線を向けていた。

 

 

「宇宙人では無くて、オカルト方面の魔術結社かな? 何でも過去のあちこちにちょっかい出して未来を滅茶苦茶にして破壊してるっぽい」

「どっちにしても一大事じゃん!? 私達の助けが要るんじゃない!?」

「今のところはモーマンタイかな? 今務めている処が過去の英雄なんか召喚出来るから戦力は足りてる感じ? まぁ……何時かは力を貸して貰うかもしれないけどね…」

「…提督がウチ等『艦娘』を戦わせたくないってのは解かってるけどさ~? 必要になったらちゃんと呼んでよね? 戦う事関係無くさ? こうして好きな事だけして生活するのは良いけど、元は戦艦なんだし?」

「にゃはは、解かってるさね。…必要になったら、大艦隊で運用させてもらうさな」

 

 

 驚き顔から軽い会話を転じて若干ジト目を向ける店員に、笑い顔を向けながら答えている優作の様子を眺めていたマシュは2人が知り合いである事を知る。2人の応対を聞く限り、店員をしている彼女は戦う立場であった筈だが、自身と同じどころか荒事には自身以上に詳しいと思われる。

 

 

「先輩、此処の店員さんと随分な知り合いの様ですけど?」

「くはは……んまぁ、見てて解かるだろうけど、とある(・・・)服を着た時の部下だった娘さね」

「“だった(・・・)”って酷くない? まだ部下だし」

 

 

 関係を説明する優作に店員はジト目を向けるが、マシュへと視線を向けた。

 

 

「で? 先輩とか言ってるけど、その娘は誰?」

「今のバイト先の後輩ちゃん。マシュ、自己紹介よろ」

「マシュ・キリエライトです、宜しくお願いします」

「提督の後輩? ふ~ん…パッと見、浜風かと思ったけど」

「それはおいちゃんも初見で思った」

「ま、髪の色違うか…最上型重巡洋艦の鈴谷よ、シクヨロ~」

「最上型重巡洋艦…ですか?」

「あ~、艦娘を知らないか。まぁ、戦艦の付喪神と思ってくれたら良いっしょ」

「付喪神ですか…確か長い年月を経た道具などに神や精霊が宿った存在でしたよね?」

「そうそう、それで合ってる」

 

 

 自己紹介するマシュに店員も鈴谷と名乗りながら、二カッと笑った。

 その後、出されたハンバーガーセットをマシュは目を輝かせながら堪能するのだった。

 

 

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 昼食を済ませた優作達は服屋へと足を運んでいた。

 

 

「先輩、如何でしょう? 似合ってますか?」

「うん、とっても可愛いよ」

 

 

 マシュにとって始めて来た事になる服屋であるが、ずらりと並んだ服の数々に目を丸くしてしまった。取り敢えずは気になった服を選べば良いよ、と謂う優作の言葉に選んだ服を試着室で着替えたマシュがカーテンを開けて優作にその姿を魅せる。そんな彼女を優作はサムズアップしながら誉めた。

 シンプルな紺色のワンピースに白のコクーンカーディガンを合わせ、下は白のソックスに黒のブーツという出で立ちだ。

 

 

「ピカピ~!」

「おう、ピーさんも似合ってるんべ」

「可愛いですよ」

「チャ~♪」

 

 

 そんな2人にピカチュウも自身が選んだ帽子を被りながら「どうだ?」と尋ねてくる。互いに褒めながら優作が顎を撫でると心地良さ気な鳴き声を上げた。

 

 

「あ、司令官よ!」

「本当なのです」

 

 

 マシュが服を選んでいる様子を眺めていた優作だったが、店内にいたお客の少女達が声を掛けて来た。

 お揃いのセーラー服を着た4人の少女達は優作へと駆け寄って来る。

 

 

「司令官! レディをずっと放っておくなんて失礼よ!」

「姉さん、司令官はこの世界の住人じゃあ無いのだから何時でも来れる訳では無いんだよ?」

 

 

 黒髪ロングの少女がぷりぷりしながら優作に迫るが隣の銀髪ロングの少女が窘める。

 

 

「御免御免、今忙しくてね? 此処にいるって事は服を探していたのかな? それならお詫びに買ったげるけど?」

「「やったぁ♪」」

「司令官有難う!」

「はわわ、有難う御座います」

 

 

 優作の言葉に少女達はそれぞれ気になっている服のコーナーへと駆けていく。

 

 

「あの、先輩。この娘達も付喪神だったりするのですか?」

「せやで、第6駆逐艦隊のメンバーさね」

「はぁ、メディアさんやメデューサさんが喜びそうですね」

「ほむ、確かに…」

 

 

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 メディアに充てられたマイルームにてメディアと優作、そしてメデューサの3人でお茶を飲みながら衣装談義を交わしていた。

 

 

「これが『魔法少女 まどか☆マギカ』の衣装で…こっちが『リリカルなのは』さね」

「可愛い…(でもフェイトって娘の衣装は露出が多い気がします)」

「時代が変われば魔術師の衣装も変わるってヤツかしら? でもどれも可愛らしくて良いわね」

 

 

 優作が今迄制作した様々なコスプレ衣装を2人に見せて感想を聞いている。

 

 

「私もこんな可愛い衣装を着たいです…」

「メーちゃんはモデル体型だからね~、可愛いよりも格好良い系が一番似合うべ。ぶっちゃけパリコレに通用するレベル」

「パリコレですか…嬉しい…嬉しいのですが、やっぱり可愛い系が…」

 

 

 優作の言葉に対し、納得いかずに落ち込んでゆくメデューサ、その様子に優作は慌てて言葉を続ける。

 

 

「まぁまぁ、あくまでも格好良い系が一番なだけであってメーちゃんに似合う可愛い系はちゃんとあるさな」

「本当ですかっ!?」

「おぉう…、心配しなさんな。それにいざという時は肉体年齢操作すりゃ良い訳だし」

「肉体年齢操作!!? 幼くなれるんですかっ!?」

「ぬおおぉっ!? 近い近いっ! 顔が近いってぇ!!?」

 

 

 身体を小さく出来る事を聞いたメデューサが興奮しながら優作に詰め寄って来る。テーブル越しの状況で且つ驚いた優作が身体を後ろに退いてもお互いの鼻が接触する具合なのだから凄い喰いつきである。

 

 

「お願いします、肉体を幼くしてください! 何でもしますからっ!!」

「ん? 今何でm…アバァー!? 脳が震えるっ!!?」

「ちょっと落ち着きなさい、メデューサ!!」

 

 

 遂には優作の肩を掴み、ゆっさゆっさと揺らしながら問い詰め出したメデューサにメディアが止めに入った。

 

 

~数分後~

 

 

「済みません、我を失っていました…」

「視界のクラクラが治まらないんですが、それは…しっかし、小さい身体になる事に随分食い付くのな? “姉ちゃん達と静かに暮らす”のが望みだったんちゃうの?」

「確かに“誰にも侵害されずに静かに暮らす”事が望みです。ですが、私は末っ子なのに姉様達よりも身体が無駄に育ってしまったせいもあり、姉様達の御下がりを着ても召喚された時の衣装の様になってしまって…」

「どれだけ体格差があるのっ!?」

「アレ、姉ちゃん達の御下がりだったんか…」

 

 

 宥められたメデューサが落ち着きを取り戻し、謝罪する中、頭を押さえながら問い掛ける優作。そんな彼等へ彼女は生前の悩みを打ち明け、各々が驚きを含めた反応を示した。

 

 

「まぁ、静かに暮らすのも体形変化も別に問題無いけどもさ? そういや、メディ姉は“故郷に帰る”以外に有ったりするん?」

「私? そうね…」

 

 

 優作がメディアへ話の先を変え問い掛けると、彼女は考え込む。

 

 

「“あの方と添い遂げる”事かしら…?」

「ほう? そこんとこ詳しく」

「や、やけに食い付くわね…?」

 

 

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「お待たせ、司令官!」

「似合っているだろうか?」

「可愛いですか?」

「これでますますレディになれたわよね?」

 

 

 服を選び終えた第6駆逐隊の面々が優作の元へ駆け寄って来る。

 そんな面々に笑顔で応える優作にマシュは笑みを浮かべるのだった。

 

 

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「あ~ん、はむっ……ん~っ♪」

 

 

 店を彼方此方廻った優作達は休憩がてら彼お勧めの喫茶店へと訪れていた。

 優作お勧めのパンケーキを頬張ったマシュはその美味しさに舌鼓を打つ。喜ぶ彼女の様子に優作は微笑みながらコーヒーを啜っていた。

 

 

「ふわっふわでとっても美味しいですぅ…」

「ふんわりパンケーキを気に入って貰えて何よりさね」

 

 

 ほんわりとふやけた笑みを浮かべるマシュ、生クリームとシロップをかけたパンケーキを頬張る度に口福が招かれていた。

 

 

「このパンケーキは先輩が考えたんですか?」

「料理好きにおいちゃんが覚えたメニューを色々教えてたらそれぞれ店を出すようになった感じさね」

 

 

 オーバーワールドの料理事情はMOD効果もあって焼いた肉や果実、パン、シチューのみといった悲惨な状況は避ける事が出来ていた。しかし、現実世界の全ての料理を網羅している訳では無い。

 なので優作は気に入ったお店の料理等のレシピを持ち込んで料理好きな村人や艦娘に教えてきた。レストランから居酒屋、果てはファーストフードチェーン店の隠しスパイス等々……結果、村が発展していくにつれて店を持つようになり、他の村や町への支店拡大まで至っていた。

 

 

「先輩の料理好きは元々からなんですよね? お店の料理まで再現するなんて凄いです」

「でもエミヤん程でない気もするけどね、世界回って色々覚えてたってのにコックのサーヴァントじゃないってどういう事なん?」

「確かに…不思議な人ですけど、あの時のエミヤさんは何時もの雰囲気と違って驚きました」

「あぁ、アレはしゃあないね。憧れのヒーローになれたんだし」

 

 

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カルデア トレーニングルーム

 

 

「え~、それではエミヤん待望の例のアレをなりきってもらいます」

「ふふふ、遂にこの日が来るとは…年甲斐も無く興奮するな」

 

 

 トレーニングルームの仮想空間エリアにて優作とエミヤが向かい合う。

 尚、興味を持った面々がスタッフ含めて見に来ており、彼等の周りに多くのオーディエンスが集っていた。

 

 

「それで、一応聞くけどご希望は?」

「当然、カカロットこと孫悟空だ」

「了解~。それではなりきりインストール『最強のサイヤ人:孫悟空』」

 

 

 取り出した道着を光の玉に変え、エミヤに与える。

 

 

「おぉ…これで孫悟空の力を得たのか…」

「早速、何かやってみたら?」

「そうだな、それでは……」

 

 

 悟空の服を着ている事に感動しているエミヤに優作が提案すると彼は額に指を当てて目を閉じる。すると彼の姿が瞬時に消えると同時に優作の後ろに現れたので周囲の外野がどよめく。

 

 

「お、瞬間移動したん?」

「うむ、悟空の特技の一つで攻撃以外だとこれが浮かんでな」

「令呪を切って漸く行使できる魔術がこうも簡単に…」

「まぁ、DB世界じゃ魔術では無く技術に近い超能力らしいから問題無いと言えるけど、それでも実際行う様子を見ると凄いなぁ…」

 

 

 エミヤの行った瞬間移動にオルガマリーが驚愕の声を漏らし、ロマニも納得しながらも感嘆の言葉を述べた。

 

 

「後はスーパーサイヤ人とかかめはめ波もしたいっしょ?」

「そうだな。だが流石に屋内でかめはめ波は…」

「モーマンタイ。デジョン」

 

 

 優作が呪文を唱えると共に2人の前に異空間へ通じる穴が生じる。

 

 

「この穴に向けてぶっ放せば問題無いさね」

「…そうだな、君が対策を考えてない筈が無いか。では…」

「おっと、ちょいと待ってぇな? 折角なんだし、雰囲気を整えましょ?」

 

 

 早速かめはめ波を放とうと構えたエミヤに優作が待ったを掛ける。

 仮想空間を巨大な湖に点在する岩場にし、取り出した杖を振るうとデジョンの穴の前に白いマネキンが現れた。

 そのマネキンの正体は…

 

 

「ふ、フリーザだと?」

「それと…あー、あー……いいだろう! 今度は木端微塵にしてやる! あの地球人のように!

「!?」

 

 

 エミヤがギョッとしながら優作の方を向く。先程の優作の声はまんまフリーザ本人であった。

 周辺景色及び優作の台詞から分かる事……それは惑星ナメックにて悟空がスーパーサイヤ人に覚醒した時のシチュエーションだった。

 ならば遣る事は一つ。

 

 

「あの地球人の様に? …クリリンのことか…」

 

 

 嘗て読んだ漫画の展開を思い返しながらイメージする。サイヤ人、悟空のスーパー化を…

 

 

「クリリンのことか―――――っ!!!」

 

 

 金色のオーラがエミヤの全身から溢れ出すと共に白い髪も金色になり逆立つ。漫画やアニメで見たシーンを彼は見事再現してみせたのだ。

 尚、ドラゴンボールを知らない者にとっては優作の声真似もエミヤが言ったクリリンの事も解からないのだが、エミヤは気にする事無く構えて気を溜めだす。

 

 

「か~め~」

 

「は~め~」

 

「破ァアアアア――――――っ!!!」

 

 

 突き出した両の掌から気の奔流が放たれそのままフリーザマネキンを呑み込んでデジョンの彼方へ消え去った。

 見事遣り遂げたエミヤの顔はとても満足した笑みであった。

 

 

:::::

 

 

「なりきった感想はどうだった?」

「感無量だな」

 

 

 野次馬達が解散し、片づけをしながら優作はエミヤに問い掛けると彼は未だに笑みを浮かべていた。

 

 

「やはり、孫悟空は良い。純粋でひたすら真っ直ぐなヒーローだ」

「男は何時だってヒーローに憧れるもんだし?」

「そうだな。世界を転々としながら正義の味方ごっこをしていた大馬鹿者とは大違いだ」

 

 

 浮かべていた笑みを消し、エミヤは自嘲的な笑みを浮かべた。

 

 

「マスターは我々サーヴァントの願いを聞いて回っていたのだったな?」

「まぁね。あの胡散臭いブツに頼って迄叶えたい事が何なのか気になるし、可能な範囲で叶えてあげたいしね?」

「なら私の過去を改変してくれと頼んだら叶えてくれるかね?」

「?」

 

 

 そう言ってエミヤは己の生前について語りだす。

 

 幼い頃に起きた大災害で家族を失い、自身も死に掛けの所を養父となる男性に助けられたのが全ての始まり。

 

 養父の願いを叶えるべく己を摩耗し続けた奔走した人生。

 

 最後は裏切りに因って処刑され、その死の間際に世界と契約して『アラヤの尖兵』となる。

 

 そして人類史を歪める存在を殺すだけの存在へとなり果ててしまった事を…

 

 

「…死に間際だったからしょうがないにしてもどう考えても詐欺られてるよね?」

「うむ、思い返す度に騙されたと後悔ばかりだ」

「…エミヤんの行いで救われたヒトは当然いただろうさ。でもなんだかんだで大事な人達を泣かせたんじゃない?」

「あぁ、義姉や大事な人達を散々泣かせただろうな」

 

 

 どこか遠い目をするエミヤ。嘗ての知人達を思い出しているのだろうか…

 

 

「でもエミヤん、クー兄なんかが並行世界の記憶を持っている以上。エミヤんの過去を改変しても別のパラレルワールドが出来るだけなオチだと思うんやけど?」

「あぁ、そのようだ。結局別の世界でしてきた自分殺しも無駄であった事が分かったがね」

「う~ん…結局のところ、エミヤん的にはアラヤの奴隷から解放されるのが願いで良いのかいな?」

「そうだな」

「ならアレ(・・)を使いますかね」

 

 

 改めてエミヤの望みを聞く優作は懐から鋏を取り出す。

 

 

「その鋏は?」

「おいちゃんが考えて作った最強の縁切り鋏。効果は折り紙付きやで~?」

 

 

 そう言って優作は開いた鋏で空を切る。

 

 

「はい、ちょっきん」

「……それで終わったのかね?」

「せやで、これで此処にいるエミヤんはアラヤとの契約は無くなったさね。後は英霊の座に登録されているデータを木っ端微塵にすれば終わりさね」

「そんな事も出来るのか!?」

「アカシックレコードに接続したら出来るんじゃない? 面倒だけどね」

 

 

 とんでもない事を面倒だけで済ます優作に流石のエミヤも呆気に取られるのだった。

 

 

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「先輩、今日は有難う御座います」

「今日は楽しめた?」

「はいっ! どれも初めての体験で、とっても楽しかったです♪」

 

 

 日が傾き、夕焼けが海をオレンジに染める頃。砂浜を歩きながらマシュが優作へ感謝の言葉を告げる。因みにピカチュウは街を出る時に仲間のポケモン達に呼ばれたので別れた。

 

 

「今はオーバーワールド位しか連れて行けないけど、この事件を解決したら外の世界へ連れてってあげるさね」

「外の世界ですか?」

「世界を回るのも良いけど、おいちゃんの故郷に連れて行ってあげたいから」

「先輩の故郷…」

「他の国と比べたら小さな島国かもしれんけど、観光地とか沢山あるし…後おいちゃんのダチとかにも紹介したいさね」

 

 

 カルデアから出た事の無い彼女には経験が圧倒的に足りない。だから優作は色々な所へと彼女を連れて行きたかった。序に友人達に可愛い後輩が出来たと自慢したかったりする(スネ夫並感)。

 

 

「…私、先輩の故郷に行きたいです」

「そっか、ならさっさと人理を修復しなきゃね。人生短し、全力で楽しまなきゃ?」

「………」

 

 

 マシュの言葉に優作は笑顔で返しながら歩みを進めていく。歩くこと十数分、行きとは違うルートでポータルへと帰り着く。

 

 

「じゃ、帰ろうか?」

「あの、先輩…」

「何?」

 

 

 マシュの声に優作は振り返る。

 何か言いたそうな表情をしているマシュだったが、口を開く様子が無い。

 言いたいのに言い辛い、そういった複雑な感情を受けた。

 

 

「……今日行った鈴谷さんのお店にまた行きたいです」

「…そっか、また行こう?」

 

 

 “マシュは言いたかった事を言ってない”、そう優作は直感した。

 しかし、追及はしない。彼女が言える時まで待った方が良い、そう判断して彼は彼女の偽りの言葉に頷きながらポータルゲートを抜けた。

 

 

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::

 

 

「たらいま~」

フォウフォウ(お帰り、優作)

 

 

 マイルームに戻るとフォウの鳴き声が出迎える。肝心のフォウは壁に備え付けられた大型テレビモニターで映画『ピラニア3D』を観ており、画面向こうで騒ぐ役者達と同調して「キュッ、キュッ、キュッ、キュッ(ボイン、ボイン、ボイン、ボイン)!」と鳴いていた。

 

 

「セクシーおバカパニック映画なんて観ちゃって…」

 

 

 盛り上がっているフォウを尻目に優作は外着から着替えて一息吐く。

 あの時は敢えて尋ねなかったが、彼女が本当に言いたかった事が気になった。

 何か打ち明けたいのに、それが怖くて言い出せない、そんなマシュの苦しそうな表情。彼女は何を秘めているのだろうか?

 

 

「ま。デミ・サーヴァント関連だろうな…」

 

 

 首をゴキゴキと廻しながらソファーへと深く座る。

 魔術師の施設で生まれ育ったサーヴァントの力を得た存在であるマシュ。

 つまり彼女はオカルト混じりのデザイナーズベイビーだろうと想像が着く。創作物の世界じゃそういった存在は大抵が…

 

 

「肉体の異常劣化とか寿命かねぇ…」

 

 

 優作の呟きに映画へ夢中になっている筈のフォウがピクリと動いた気がした。

 

 もしそうだとしたらタイムリミットは何時なのか?

 

 期限までに彼女が語ってくれるのか?

 

 彼女は如何したいのか?

 

 

「…ハッピーエンドで終われたらなぁ…」

 

 

:::::

 

 

「…結局、先輩に言えませんでした」

 

 

 自身の部屋に戻ったマシュは溜息と共にそう零す。

 オーバーワールドで購入した物は既に片付けた。

 

 同じ制服ばかりだった衣装棚には色とりどりの衣装が並んだ。

 

 日記を書く机には可愛らしい小物が置かれた。

 

 本しか無かった壁の棚には新しい縫いぐるみが並べられている。

 

 嘗て無機質に近かった部屋が見る見るうちに彩られていく。

 

 部屋に物が増えただけなのに心が豊かになったようだ。

 

 

「先輩…」

 

 

 カルデアで生まれ育った自分

 

 このカルデアが全ての世界だった自分

 

 そんな自分が過ごす日々は

 

 変化が無い日々だった

 

 朝起きて

 

 食堂の同じ場所で一人食事して

 

 身体検査や実験を受けて

 

 一人で食事して

 

 本を読んで

 

 一人で食事して

 

 部屋に戻ってシャワーを浴びたら寝る

 

 毎日毎日変わる事無く同じ事の繰り返し

 

 そんな変わらぬ日々を最初変えてくれたのはロマニ(ドクター)だった。

 

 ドクターは仕事の合間に色々な事を教えてくれた

 

 それまで透明で何もなかった世界に色が染まった

 

 “青い空を見たい”と云う願いが出来た

 

 そして優作(先輩)が来てからまた大きく変わった

 

 毎日が驚きと感動の連続で毎日を過ごすのが楽しくなっていた

 

 青い空を見る事が出来た

 

 「何時かカルデアの外へ連れて行く」と彼は約束してくれた

 

 世界が色んな色で輝き出した

 

 

「私は……何時か外の世界へ行けるのでしょうか…?」

 

 

 カルデアと云う鳥籠の中で生きる少女は自分しかいない部屋で不安げに呟いた。




元ネタ
>オーバーワールド(出典:Mine craft)
『Mine craft』にてプレイヤーがスタート時にいる世界。
スタート時にプレイヤーが入力したシード値に依って生成される地形が変わる。

>ネザーポータル(出典:Mine craft)
『Mine craft』に登場する構造物。
オーバーワールドとネザーを繋げるゲートであり、最低10ブロックの黒曜石で囲んだ空間に明かりを灯すと生成される。

>ネザー(出典:Mine craft)
『Mine craft』にて登場する世界。
オーバーワールドで作成したネザーポータルを抜けると辿り着ける。
火や溶岩に囲まれ、危険なモンスターが跋扈するがこの世界でしか入手出来ない素材やアイテムも多い。

>ピカチュウ(出典:ポケットモンスターシリーズ)
『ポケットモンスターシリーズ』に登場するポケモン。
でんきタイプのねずみポケモンで両方のほっぺに小さな電気袋を持ち、戦闘時等には放電する。
ゲーム開始時に選ぶ3種類のポケモンではないが、アニメでは主人公のパートナーとなる等、その愛らしいルックスから人気が出て、日本国内外問わずポケモンを象徴する存在である。
本作に登場したピカチュウは優作の手持ちポケモンであり、某スーパーマサラ人の相棒をリスペクトしているのでクッソ強い。

>ライホー君(出典:葛葉ライドウシリーズ)
『葛葉ライドウシリーズ』に登場する悪魔。
ジャックフロストが風間刑事から譲り受けた無頼漢の証と合体して誕生した突然変異態。
クールなボディにホットなハートを兼ね備えた彼(?)の野望は十五代目葛葉ライホー襲名…らしい。
他の悪魔と違い、複数の仲魔を使役している。

>クリーパー(出典:Mine craft)
『Mine craft』に登場するモンスターで、通称『緑の悪魔』、『匠』。
オーバーワールドにてスポーンし、プレイヤーを感知すると無音で接近する。ある程度接近するとシューッと音を上げながら体が膨張且つ白く点滅し、最後には爆発する。
難易度が『Normal』以上だと即死クラスの爆発になり、作業中の奇襲で死亡且つ、建築物の破壊やアイテム消滅等嫌らしい存在である。
因みに猫が苦手で、猫や山猫が居た場合プレイヤーを感知していても逃げる。

>ジェネラル(出典:カイザーナックル)
タイトーの格闘ゲーム『カイザーナックル』の登場人物でノーコンテニューでクリアする事で対戦出来る隠しボス。
とある秘密組織に所属する軍人で、目の辺りにある傷が特徴的な白人男性。原作において格闘大会を開催した主催者である。
どんな戦場からも仲間を連れて帰って来て、その目で見られたら誰一人として生きている者はいないと、傭兵達は尊敬と崇拝と恐れを込めて『エビルアイズジェネラル』呼んでいる。
紳士的な性格で人間になる為に大会に参加した生体兵器のサンプルの望みを叶える等、良識人。
性能に関しては格闘ゲーム史上最強のラスボス として名を挙げられる事が多い。
3方向に飛び、相手の飛び道具を打ち消す溜め無しの飛び道具に、反撃不可の3ヒットスライディング、隙が皆無・超高速・移動後動くまで無敵な瞬間移動、即死コンボ、凶悪なCPUアルゴリズムといった勝たせる気皆無な強さで、某ゲーム雑誌が「気合いで何とか……」、「今後の格ゲーにこんなラスボスが出ませんように」と書いて攻略を放棄してしまった。

>不律(出典:アカツキ電光戦記、エアヌイン)
同人サークルSUBTLESTYLE制作の格闘ゲーム『アカツキ電光戦記』及び『エヌアイン完全世界』の登場人物でキャッチコピーは『彼岸の剣客』。
元軍医の老人で嘗てクローン技術を研究しており、その技術が悪用された為にその始末を着けるべく、軍刀と旧式電光被服を装備して独り立ち上がった。
軍刀を使った一撃必殺の剣術で戦い、回転こそ悪いものの一撃で他キャラの基礎コンほどの火力を出す事が可能な為にプレイヤーからは『一人サムライスピリッツ』と呼ばれたりする。
必殺技が前方、または後方移動技のみ且つゲージ技にも無敵移動技があるといった特徴がある。

>艦娘(出典:艦隊これくしょん)
『艦隊これくしょん』でプレイヤーが集めるユニット達の通称。
嘗て実在した第二次世界大戦の艦船をモチーフにした擬人化少女達であり、『艤装』と呼ばれる軍艦の装備をモチーフにした兵装を装着して戦う。
原作に登場する敵『深海棲艦』と唯一戦える存在であり、プレイヤーは建造や任務報酬、戦闘勝利等で集めていく。
外見年齢は10~20代であり、身体的特徴は人間と類似しているが公式で詳しい設定は明らかになっておらず、メディアミックスによって様々である。

>鈴谷(出典:艦隊これくしょん)
『艦隊これくしょん』の登場人物。
横須賀海軍工廠にて1934年(昭和9年)11月20日進水し、1937年(昭和12年)10月31日就役した最上型重巡洋艦の3番艦で艦名の由来は樺太南部の豊原市を流れる鈴谷川。
JKギャルな性格をしており、スタイルは良い。

>第6駆逐隊(出典:艦隊これくしょん)
『艦隊これくしょん』の登場人物、『暁』『響』『雷』『電』のチームの呼び名。

>孫悟空(出典:ドラゴンボール)
鳥山明作、週刊少年ジャンプの漫画『ドラゴンボール』の主人公。
惑星ベジータ生まれの戦闘民族サイヤ人で、本来の名前は『カカロット』。地球を商品にする為に、「地球の人類を絶滅させる」という命令を施された上で生まれてまもなく宇宙船で単身地球へ送り込まれたが、頭に強い衝撃を受けた事に依り命令を忘れ、サイヤ人特有の狂暴性も失われた。
性格は元気で明るく、朗らかで細かい事は気にしない能天気。非情になり切れない事から悪人であっても殺さずに見逃そうとするがそれが原因でピンチに陥った事もある。
サイヤ人である為に強い相手と戦う事を生き甲斐としており、超大食い。

>瞬間移動(出典:ドラゴンボール他)
瞬時に移動する技術であり、様々な作品で使われているが『ドラゴンボール』においては知っている者の気を感じ取って瞬時にその場所まで移動する技であり、ヤードラット星人が使用し悟空は彼等に教わる事で習得した。
気を感じる事が出来ない場所へは移動不可能だが、気を感じ取る事さえ出来れば別の星や異なる次元、原則上死者と神しか立ち入る事が出来ないあの世にまで移動可能。

>フリーザ(出典:ドラゴンボール)
『ドラゴンボール』の悪役であり、ナメック星編のボス。
宇宙最強の存在として登場した“宇宙の帝王”と恐れられている宇宙人。数多くの部下を従えて環境の良い惑星の生命体を絶滅させ、自らのコレクションとしたり他の異星人に売り飛ばす星の地上げ行為等の悪事を行っていた。
自分の実力に絶対の自信を持っており、余裕のある落ち着いた物腰を取っている。その為、自らの部下に対しても丁寧語を使う。
しかしその本性は他者の生命を奪う事を何ら躊躇しない、残忍で冷酷な性格の持ち主である。自分こそが全宇宙最強であるということにこだわり、どんな手段を使ってでも自分より強い者を排除しようとする。
原作の人気投票では上位に入り、残忍な性格ながらも部下に理不尽を働かずに大事にする事から理想の上司キャラに挙げられたりする。

>クリリン(出典:ドラゴンボール)
『ドラゴンボール』の登場人物。
悟空の兄弟弟子であり一番の親友。話が進むにつれて悟空達の強さに追いつけなくなるが、地球人最強の存在である。
原作に於いてフリーザに因って爆殺された。

>かめはめ波(出典:ドラゴンボール)
『ドラゴンボール』に登場する技。
原作の登用人物である『亀仙人』が編み出した、体内の潜在エネルギーを凝縮させて一気に放出させる技でその威力は山どころか月や星すら破壊出来る。
孫悟空の得意技であり、作品を代表する技の一つである。
名前の由来はハワイ王国の『カメハメハ大王』。

>縁切り鋏(出典:リアル)
静岡県の神場山神社に奉納されている厄災や悪縁を断ち切ると言われている鋏。
優作が持っているのは彼自身が持ち得る技術、素材全てをつぎ込んで製作された特別製である。
つまりヤバい。


Q、デートって事はマシュ√確定!?
A、デートとは男女が日時を決めて会う事を意味し、恋人同士で無くてもデートと言うからモーマンタイ。

Q、何でオーバーワールドにピカチュウがいるの?
A、ポケモントレーナーになりきった際に開放したから。

Q、何でオーバーワールドに艦娘がいるの?
A、深海MOD及び提督になりきった際にPOPしたから。

Q、オーバーワールドってヤバい事になってない?
A、優作のなりきり能力の実験で闇鍋化しているので…まぁ、お察しで…

Q、フォウが観ていた『ピラニア3D』って?
A、『ピラニア』のリメイク作品でセクシーパニック映画。日本語吹き替えだと『釘宮理恵』、『出川哲朗』、『坂本真綾』、『田村ゆかり』が出演しているゾ。


次回は3月8日投稿でオルレアン編に突入。
感想コメント、意見・質問お待ちしております。
尚、活動報告に於いてアンケート実施中。


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第1特異点 邪竜百年戦争『オルレアン』編 -人形聖女は何を見る-
空からワイバーン? EDFを呼んで来い!!


新鮮な最新話を出荷よ~
お気に入り600件超えに感謝、感謝
って事でオルレアン編開始


 夢を見た。

 

 辺り一面が炎に包まれており、その中で何本かの大きな火柱が立っている。

 

 火柱の正体は十字架に縛り付けられた人だった。

 

 殆どが炭化していたが、教会の僧衣らしいものを着ている事から教会関係者と推測できた。

 

 そんな燃える男達を一人の女性が高らかに笑いながら眺めている。

 

 ざまぁみろと言わんばかりのその笑いは、嘲りと憎しみが込められた笑いだった。

 

 しかし何故だろう?

 

 その笑いは何か空っぽに感じた…

 

 

  ・

 

  ・

 

  ・

 

 

「何じゃい、今の夢は…」

 

 

 奇妙な夢から覚めた優作はベッドから体を起こした。

 

 

「前回のクー兄の記憶はスカアハんとこに弟子入りしたトコだったが、全く関係無い内容だったな…」

 

 

 サーヴァントを召喚し、契約を結ぶとマスターはサーヴァント達の生前の生き様を夢として観る事が有るという。

 ここの所クーフーリンの人生を見続けていたのだが、全く関係の無い夢であった為に拍子抜け染みた感想が漏れてしまった。

 

 

「ま、いいや(適当)。そろそろ時間だし朝ごはん作りに行きますか」

 

 

 掛け布団の上で寝ているフォウを起こさない様にベッドを出た優作は着替えて食堂へ向かう。

 

 

「……しっかし、ぴっちりタイツが標準装備とか…TDN退魔忍じゃねぇか」

 

 

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 冬木の特異点を解決して約1週間。

 カルデアの復興や戦力の強化、サーヴァントメンバー達との交流と短い間ながらも濃厚な日々を過ごしていた優作達に集合が掛かった。

 

 

「遂に特異点の一つが明らかになったわ」

 

 

 中央管制室に集まった優作達へオルガマリーがそう告げる。改装、増築によってカルデアがリゾート化した事で士気が向上した職員達の頑張りで特異点の1つが判明したのだ。

 

 

「それで、発見された特異点は何時の何処なん?」

「見つかった特異点は西暦1431年、フランスのオルレアン」

 

 

 モニターに映るカルデアスが回転しながらヨーロッパを映し出し、フランスが拡大表示される。

 

 

「1431年のフランスで起きてた事と言ったら…イギリスとの間で行われた『100年戦争』だっけ?」

「そうだね、そして救国の聖女として名高い“『ジャンヌ・ダルク』が処刑された年”でもある。…正確には処刑後ちょっと経った時期だけど」

「100年戦争ね…『純潔のマリア』の舞台やん、原作漫画、アニメ版共に名作だったなぁ~」

「『純潔のマリア』ですか?」

 

 

 これから向かう場所及び時代が所持している漫画及びアニメの舞台である事に優作が軽い感動を覚え、作品自体知らない事から首を傾げるマシュに後で貸すと言葉を続けた。

 

 

『100年戦争』

イギリス(当時名:イングランド)とフランスの間で王位継承権を巡った争いから始まった戦争である。複雑化した結果、領土問題にまで発展したこの戦争は間に休戦が何度か挟まれながらも世紀を跨ぐ長い戦乱となり、両国を疲弊させるだけの結果となった。

 

『ジャンヌ・ダルク』

100年戦争にて登場する救国基、オルレアンの聖女。

農村に暮らす村娘であったが、ある日“神のお告げを受けた”と国の為に立ち上がり、戦場にて勝利の旗を掲げてフランスを何度も勝利へと導いた。

当時劣勢であったフランスはこれにより勢いを取り戻し、国内へと侵攻していたイギリス軍を追い出す事に成功。講和へと漕ぎ付く事が出来たのだ。

しかし、ジャンヌ本人はイギリス軍に捕らわれ、村娘に有るまじき戦果を立てた事から異端審問を受けた後、魔女として火炙りに掛けられ処刑されたのだった。

 

 

「ふ~む…場所がオルレアンとなると、特異点発生の原因はジャンヌ関連の可能性が高い訳だ?」

「そうね。魔女として処刑されたジャンヌ・ダルクを助ける為か、彼女の為に報復をしようとした信望者…あるいは戦争の結末に納得がいかなかった誰かが起こしたのかもしれないわ」

 

 

 芸術の国として名高いフランスだが、実は民主主義始まりの地でもあったりする。この地で生まれた法典は改正されながらも現代社会の基礎となっており、もしも法典が生まれなかったら大規模な改変が未来で起こるだろう。

 

 

「それじゃあ、改めて優作君達に特異点でやって貰いたい事を説明するよ?」

 

 

 特異点の確認を終え、ダヴィンチがそう言って2本指を立てながら説明を始める。

 

 

「やって貰う事は大きく2つ。1つ目は特異点の調査及び修正だね。特異点先の時代に於ける決定的なターニングポイントを調査・解明してこれを修正する事」

 

 

 ダ・ヴィンチはそう言って2本指の内の1本を指さす。

 レフ・ライノールとそのバックに存在しているであろう黒幕は人類史に於いて人理の礎となった事柄を聖杯をばら撒く事で改変し、その影響でカルデア以外に存在する人類は焼却されてしまった。

 故に優作達は特異点へと赴いて原因を解明し、異常を潰さなければならない。

 今回のレイシフト先であるフランスは“100年戦争”及び“ジャンヌ・ダルク処刑”といったキーワードがある為に調査は比較的楽であろう。

 

 

「2つ目は特異点の原因になったであろう聖杯を発見し、回収する事」

「えぇっと…聖杯はどんな願いを叶える事が出来るド級の魔導器で、それでないと時を渡ったり歴史を改変出来ないんだったっけ?」

「そう。若しくは“自力でそんな事象を起こせる術式を操れる存在”かなんだけど、冬木のケースを見る限りは聖杯かそれに類似する魔道具が原因の可能性は高いよ」

「正しい歴史に戻したところで聖杯が残っていたら、新たな特異点になってしまう。そうなったら元の木阿弥なの。だから聖杯を回収、或いは破壊しなければならないわ」

 

 

 立てていたもう一本の指をさしながら説明するダ・ヴィンチにオルガマリーが詳しい理由を付け加える。

 

 

「正直、胡散臭さが凄いから使うにしても魔力炉の電池にでも改造した方が良いと思う」

「まぁ、実際に願い叶うのか判らないならその方が良いだろうけどね? でも魔力は優作君が造ったネザー発電所から変換するだけで十二分だからね」

「ま、特異点解決の記念トロフィーとして回収してくるさな」

「……聖杯をトロフィー扱い出来るのは優作君位だよ…」

 

 

 実際に効果が有るのか判らない処かレイシフトした冬木での異常事態を引き起こした聖杯に対して優作は信用の『し』の字も持ち合わせていなかったので発見次第、素材として回収するか破壊しようと考えていた。

 

 

「そんじゃあ、出撃編成ですが…」

 

 

 レイシフト先で行うべき事を改めて確認した優作は連れて行くサーヴァントメンバーを選出する。

 特異点へレイシフトしている間、優作はカルデアにいないのでもしもの襲撃に備えて留守番役と分ける必要がある訳だ(充分過ぎる防衛機構を構築しているので問題無いと言ってはいけない)

 

 

「暴れたいオーラマキシマムなクー兄と小次郎さんは確定、後は後方支援担当でエミヤんを連れて行こうと思います」

「おう! そうこなくっちゃな、坊主!!」

「ふらんすか…100年もの間、戦をし続けたならばそれなりの強者に出会えそうだ」

「何が起こるかわからないからな、偵察や野営含めた支援等は任せたまえ」

 

 

 優作がレイシフト同行に選んだのはクー兄、佐々木小次郎、エミヤの男性陣。選ばれた3人の意気揚々とした様子で応える。

 

 

「メディ姉とメーちゃんは状況次第で入れ替わる形で基本、カルデアでサポート兼いざという時の防衛をお願いしますわ」

「解かったわ。…正直防衛に手を回す必要は無い気もするけど…」

「ダンジョンだけじゃ飽き足らず施設内にもモリモリ仕掛けを施していますからね…」

 

 

 優作の魔改造に依って敵対者は強制的に『難易度:Must Die』なダンジョンへ転移するようになっているカルデア。バトルジャンキーのクーフーリンすらも内容を読めば挑戦する気などミクロン単位も湧かない鬼畜難易度であるのだから当然だろう(自殺志願者なら挑戦するかもしれない)。優作は更に施設内を巡回警備する使い魔や戦闘用ドローン、多数のトラップを配置し、蟻一匹の狼藉すら許さない防衛機構を構築していた。

 

 

「後はおいちゃんとマシュ、そしてマリーの計6名。マシュとマリーは衣装はおk?」

「はい、大丈夫です! 」

「問題無いわ」

 

 

 エステルの衣装を着たマシュ(サブは千枝ちゃん)と凪の衣装を着たオルガマリー。2人も若干の緊張はあるものの不安な様子は感じられなかった。

 

 

「おいちゃんの衣装は…そうさな、行き先が中世のフランスなら…メインチェンジ、『剣聖:シドルファス・オルランドゥ』」

 

 

 私服を着ていた優作の姿は言葉と共に変わり、黒い光沢を放つ甲冑にフード付きの茶色いマントを羽織った正に騎士と呼ぶべき姿へと変わった。

 

 

「格好良いですね、有名な騎士の衣装なんですか?」

「雷神の異名を持つ騎士団長の衣装でね。彼の振う剣技はドラゴンだろうが魔神だろうが一撃で屠ったさな」

「その衣装の人物も規格外なのかしら?」

「まぁ、サーヴァントを余裕で消し飛ばせる力はあるさね」

(……剣聖と聞いて是非とも剣を交えたかったが、あの尖兵と同じ理不尽枠であったか…。いや、それでも…)

 

 

 なりきりした衣装の軽い説明を2人にする中、小次郎が戦いたそうにウズウズしていた。バトルジャンキーここに極まれりである。

 

 

「そういやダヴィちゃん、例のモノは?」

「勿論、完成してるとも♪」

「ッ!? そ、それは!!?」

 

 

 優作の問いに笑みを浮かべなら答えたダ・ヴィンチは懐からバイザーを3つ取り出す。それを見たエミヤが驚いた表情になっていた。

 

 

「優作君のくれたスペクタクルズを素材に作った『スカウター』だよ」

「名前も同じだとっ!?」

「エミヤさんが驚いていますけど、これは何なんですか?」

「DBのスカウターまんまやからね。これを装着して対象を見ると、対象の詳細なデータを知る事が出来るべ」

 

 

 マシュの疑問に答えながら優作はダヴィンチからスカウターを一つ受け取り装着、そしてロマニに視線を向けた。

 

 

「戦闘力36…普通だな!!」

「36!?」

「ロマニの戦闘力はどうでもいいとして、詳細なデータと云う事は相手がサーヴァントだった場合はクラスや真名を看破出来るって事?」

「そうさ! 素材のスペクタクルズは対象1体に使用する度に壊れる消耗品だけど、これは何度も使えるからね。これがあればサーヴァント戦を有利に進めていく事が出来るさ。序に此処カルデアのチェック機器にもこの機能を付与してるよ」

「…また相当な代物を作ったわね? 有り難いから使わせて貰うけど」

 

 

 計られた戦闘力の微妙な数値にショックを受けるロマニを尻目にオルガマリーが性能について問い掛けると、ダ・ヴィンチが放つ自慢げな答えに対し、彼女は呆れ混じりに驚いた。

 

 

「それじゃあ、準備は良いかな?」

 

 

 準備が整い、レイシフトの用意が完了した。

 クーフーリン達サーヴァントを封魔管に収めた優作とマシュ、オルガマリーの3人はコフィンの中に入り、レイシフトが開始される。

 

 

「コフィン起動」

「アンサモンプログラム、スタート」

 

 

 職員達の確認の声と共に自身の身体から光る粒子が浮かびだし、全身を包んでいく。

 

 

「レイシフト、開始!」

 

 

 身体が浮かびながら何処かへ引っ張られていく感覚と共に優作達はフランスへと跳んだ。

 

 

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「と、云う訳で到着したのですが…」

「のどかですね、オーバーワールドに連れて行ってもらった時みたいです」

 

 

 レイシフトが完了し、視界が明らかになった優作達から見えた光景は所々木々が生えている草原地帯だった。

 

 

「でも明らかに特異点になっているわね、上を見てみなさい」

 

 

 オルガマリーの指摘に上空を見る優作達。空には巨大な光の帯が輝きながら広がっていた。

 

 

「なんじゃい、ありゃ?」

「ロマニ、調べられる?」

【既に解析を開始しています。簡単な解析結果ですが、衛星軌道上に展開された何らかの魔術式である様です。範囲は北米大陸に匹敵します】

【光帯自体が非常に高い熱を帯びているようね】

「高い熱って…熱量はどれ程?」

【地球上では存在しえない熱量です】

「な~る、高熱の魔術で世界を焼き尽くす訳ね」

「人理焼却の正体がアレなのね…ロマニ、調査班にデータを回して詳しく調べて頂戴」

【了解です】

フォウ、キャーウ(やっはろ~)

 

 

 オルガマリーが光帯の詳しい調査をカルデアスタッフに命じ、移動を始めようとした時、優作のマントからフォウが出て来た。

 

 

「フォウさん!? 何時の間に?」

「何だ、付いてきたんか?」

【優作君のコフィンに入り込んでいたみたいだね。レイシフト対象が君と固定されている状態だから帰還する時に一緒にレイシフトして帰って来れるよ】

「ならモーマンタイさな。一緒に来たんやし、手伝って貰うさね」

キュウ(任せて)

 

 

 優作の言葉にフォウは返事をしながら彼の外していたフードへと潜り込んだ。

 

 

「それじゃあ、移動手段を用意しましょ」

「またあの戦車を呼ぶのか?」

「メタルスラッグは流石に現地人に怪しまれるさな。代わりに…」

 

 

 クーフーリンの言葉に優作は首を横に振りながら答え、指笛をピィーッと吹いた。

 

 すると…

 

 

「クェーッ」

「クェッ、クェ!」

「何か来るわよ!?」

「馬の様なモノが近づいて来ているが、君が呼んだのかね?」

「せやで、今回利用する移動手段は…」

 

 

 鳴き声と共に向こうから何かが数体駆けて来る。初めこそ赤い毛玉の様にしか見えなかったが、近づいて来るにつれてその輪郭がハッキリと認識出来る様になり、ダチョウよりも2回り程大きな鳥だと解かった。

 

 

「『赤チョコボ』です」

「クェエエエ」

 

 

 優作達の元に着いたチョコボ達は優作に擦り寄って来る。優作は彼らを優しく撫でながら懐から蕪の様な野菜を取り出すとチョコボ達に与える。

 野菜を受け取ったチョコボ達は嬉しそうにバリバリと食べ始める。

 

 

「この鳥達もポケモンなんですか?」

「モンスターの分類ではあるけど、違うべ」

「クェッ」

キュー、フォウ…(う~ん、このチョコボ臭…)

 

 

 一羽の赤チョコボが擦り寄って来たので撫でるマシュ。そのチョコボの頭にフォウが攀じ登って顔を突っ込んでチョコボの体臭を嗅いでいた。

 

 

「坊主の事だからこいつらもただのデカい鳥って訳じゃねぇんだろ?」

「せやで。赤チョコボはチョコボ種の中でも上位種で、一羽でサーヴァントと同等の戦闘力を持ってるさな」

「そんな存在が4羽も…」

 

 

 クーフーリンの質問に答え、エミヤがチョコボの戦闘力に対して困惑する中、新たに大きな幌馬車を取り出す。

 

 

「おいちゃん達は遠くの国から来た行商人という設定でチョコボにこの幌馬車を引かせて移動するべ。さぁ、乗った乗った」

 

 

 マシュ達を馬車の中に乗せた優作は御者台に座り、チョコボ達を奔らせる。

 暫く進み続けていたが、幌の上で周囲を警戒していたエミヤから声を掛けられる。

 

 

「マスター、暫く進んだ先に現地民を思われる兵士が見える」

【こちらでも反応を確認したよ。接触してみるかい?】

「もち。此処、オルレアンが今どうなっているのか詳しく聞きたいさな」

 

 

 優作は手綱を操ってチョコボに指示を出し、現地民がいる場所へと馬車を向かわせた。

 

 

「すみませ~ん」

「んおっ!? デカい鳥が馬車を曳いている!!?」

 

 

 隊列を組んで移動していた兵士達の元へ優作が声を掛けながら馬車を近づけると、兵士の一人が馬車を曳いている赤チョコボを見てギョッとした様子の声を挙げた。

 

 

「遠い東の方から旅をしながら行商をしている者です。この鳥達は地元で馬の代わりに使っているんですよ」

「お、おぉ…そうなのか?」

「この国に来て日が浅いので色々教えて欲しいのですが。勿論、お礼に欲しいモノを安くでお譲りしますよ?」

「それは有難いが、俺達は斥候部隊でな? 今、拠点にしている砦に帰る途中だったんだ。詳しくは砦に戻ってからで良いか?」

「分かりました」

 

 

 斥候部隊に案内され、優作達は砦へと向かう。

 到着した砦はボロボロであり、疲弊した様子の兵士達が集まっていた。

 

 

「戦の後ですか?」

「あぁ。俺達は元々“竜の魔女”の襲撃から街を守っていたんだが、多勢に無勢で敗走してな? 嘗ての戦で放棄されたこの砦迄撤退していたんだ」

「竜の魔女?」

「お前さん達も災難だな、こんな時にフランスに訪れるなんて。まさか蘇った聖z…「て、敵襲――――――ッ!!」…なっ!?」

 

 

 “竜の魔女”の単語が気になり尋ねようとすると砦の見張り台から慌てた様子の声が響き渡る。それと同時に空から甲高い雄叫びが響き渡った。

 

 

「ドラゴンが来たぞ―――ッ!!」

「弓兵は武器を取って迎撃しろぉっ!」

 

 

 砦にて兵士達が慌ただしく動く中、離れた上空では黒い点に見えていた翼竜達が徐々に迫って来ていた。その数は50はくだらないだろう。

 

 

「敵性生物確認! 竜種……外見的特徴から飛竜(ワイバーン)と思われますっ!」

「な、何で!? この時代に竜種がいたなんて聞いた事が無いわよっ!!」

【下級とはいえ幻想種の頂点の大群だなんて!? 流石は特異点、何でも有りだっ!】

「漸く暴れられるな、腕が鳴るぜ!」

「飛竜は初めて見るが…燕よりも斬り甲斐がありそうだ」

 

 

 マシュが冷静に観察し、オルガマリーとロマニが驚く中、クーフーリンと小次郎の2人は嬉々として得物を構え、戦闘態勢に入っていた。

 

 

「クー兄と小次郎さんは前衛、無理ない程度に突っ込んで暴れてちょ」

「おうよ」

「任された」

 

 

 優作の指示と共にクーフーリン達はワイバーンの群れへと突撃していく。

 

 

「マシュとマリーはお互いサポートをしながら2人に続いて」

「了解です、サポートはお任せくださいっ!」

「初の実戦ね…でも負けないわ」

 

 

 続いての指示にマシュとオルガマリーは気を引き締めた表情でクーフーリン達の後に続く。

 

 

「エミヤんは砦から兵隊さん達と遠距離サポートよろ」

「君のお陰で攻撃のバリエーションも増えた。援護射撃は任せたまえ」

 

 

 エミヤは頷き砦の一番高い場所へと跳躍し弓を構えた。

 

 

「フォウ君も離れ過ぎない程度に暴れてちょ」

フォーウ、キャーウ(よっしゃ、派手に暴れたる)!!」

 

 

 腰に下げた剣を抜きながら優作がフォウに声を掛けると、フォウは鳴き声を挙げながらポチタンクならぬフォウタンクを駆り、背中のバルカン砲(ポチバルカン)を撃ちまくりながら突き進んでいく。上空のワイバーン数匹がハチの巣にされて墜ちていく様を見ながら、優作も駆け出した。

 

 

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「す、凄い……」

 

 

 砦から少し離れた森にて、木陰から優作達が戦う様子を眺めていた少女がポツリと呟いた。

 50匹を超えるワイバーンの群れが砦へ向かう様子を目撃し、例え魔女と蔑まれ様とも故郷の民を守る為に現場へと向かおうとしていた少女。

 しかし、砦から飛び出した優作達が苦戦する様子無く撃破していく様を見て、取り敢えずは様子見に興じる事にしたのだった。

 

 

「もしも彼らが力を貸してくれるのならば、きっと…」

 

 

 自身が呼ばれた理由は未だ良く解かっていない。しかし、魔女と呼ばれているもう一人の自分が故郷で起こしている戦乱が繋がっている事は確かな筈だ。

 道中で魔女と蔑まれ、襲われた様な事態にまたなるかも知れない、それでもと少女は意を決した。

 

 

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「凄ぇ…」

「50以上いたドラゴン共があっさりと…」

「俺達全然、必要無いな…」

 

 

 森の木陰から様子見している少女が決意を抱くと同時刻、砦の兵士達も少女と同じ感想を抱いていた。

 

 

「オラオラ! ドラゴンの癖に弱ぇぞ!!」

「ふむ…図体が大きい分、斬り応えはあるが燕よりは遅いな」

 

 

 クーフーリンが縦横無尽に駆け巡りながら突く、斬る、払うと戦斧であるビーストランスで蹴散らしていき、一方の小次郎も咬み付こうと急降下してきたワイバーン達を一瞬にして切り刻んでいた。

 

 

「せいっ! はあっ! フォトン!!」

「来なさい、アークエンジェル!」

 

 

 近寄るワイバーンを抜いた剣で斬り裂きながらマシュは離れた場所から火炎を吐こうとしたワイバーンへ光の爆発を起こして吹き飛ばす中、オルガマリーも臆する事無くコルトライトニングで頭を正確に撃ち抜きながら封魔管から天使の悪魔を呼び出して嗾ける。

 

 

キューウ(ヒャッハー)フォウキュー(汚物は消毒だー)!!」

 

 

 バルカン砲から火炎放射器(ポチバーナー)に装備を切り替えたフォウが自身の周囲を飛んでいたワイバーンをウェルダンに焼き上げていく。

 

 

「流石に幾等かは抜けて来るか…ならば…」

 

 

 エミヤが青色のアーチェリー弓『アイスシューター』取り出し、戦線から抜けて砦へ向かおうとしている個体を射抜いて氷漬けにし、次々と墜としていく。

 そしてなにより…

 

 

鬼神の居りて乱るる心、されば人かくも小さき者なり 乱命割殺打!

 

 

 傍から見ても名剣と判る剣を構え、近づくワイバーンを斬り裂きながら詠唱と共に光の柱や巨大な剣を形成して消し飛ばしていく優作の姿に一騎当千の英雄の姿を幻視していた。

 かくして、ワイバーンの出現から30分足らずで事態は収束した。

 

 

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「有難うなぁ! 商人さんよ~!」

「何か困ったら力を貸すからな~!!」

 

 

 砦の兵士達に盛大に見送られる優作達。

 ワイバーンを全滅させた優作達は砦の兵士達の為に炊き出しを行い、食事以外にも薬品や必要な物資を用意し、配っていく内にオルレアンの現状を兵士達から聞いた。

 

 ジャンヌ・ダルクが処刑された事でイギリスとの戦争が終結しようとしていたが、突如黒き衣を纏った姿で復活。フランス王シャルル七世やピエール・コーション司教といった教会関係者を殺し、無数のワイバーンと一騎当千の超人達を率いてオルレアンを初め、各地で虐殺を始めたという。

 

 

「どう考えてもオルレアンが特異点になった原因ですね…」

「聖杯の力でワイバーン及び、サーヴァントを召喚して私兵にしてる訳ね」

 

 

 砦から近くの街へと出発し、走る馬車内でマシュとオルガマリーが特異点の元凶について話していた。

 食事処か不足していた物資を格安で販売して貰えた事に感激した兵士達の感謝の声が後ろから未だに聞こえており、後ろを向けば兵士達が手を振って見送っていた。

 

 

「予想が正解した訳だし、後は復活したジャンヌをとっちめて黒幕が何かを突き止めれば良いさね」

「後は何処にいるかだが…マスター?」

「解ってるべ。ワイバーン襲撃時からおいちゃん達を伺っている奴がいるさな」

 

 

 エミヤからの警告に頷きつつ、優作はチョコボ達を奔らせる。砦にてワイバーンとの戦闘を開始してから離れた位置で自分達を見ている気配を感じていた。視線に敵意を全く感じなかったのでエミヤ達や悪魔を嗾ける事無く放置していたのだが、自分達に接触したいのか、その気配は動く事無く自分達の進行方向先で来るのを待っている様であった。

 

 

「お待ちください、旅の人」

 

 

 砦を出て数分、見送っていた兵士たちの姿が見えなくなった頃、行き先に立ちはだかる者が現れる。

 意を決した表情で立っていた少女。白銀の軽鎧に白と青のスリットスカートといった衣装で、その両手には大きな旗を掲げていた。

 

 

「貴方方にお願いがあります。どうか…私に力を貸して下さい…!」

 

 

 真剣な面持ちで願い出る少女であるが、優作達の表情はすぐれない。

 何故なら着けているスカウターに依って少女の名前が目的の人物である『ジャンヌ・ダルク』と表記されていたからだ。

 

 

「取り敢えず、乗ってくださいな」

 

 

 警戒を緩める事は無いながらも、優作はジャンヌに馬車に乗るよう指示した。

 

 

【マスター、良いのか?】

【復活したジャンヌは黒い衣を纏って暴れ回っているんやろ? この娘は白と青だし、ステータスが貧弱過ぎて抵抗されてもマリーだけで制圧可能だべ】

【ステータスは低くても宝具がえげつない可能性があるだろ?】

【いざという時はおいちゃんが時間でも止めれば良いだけさね】

【時間を止めるとかホント何でも有りだよな坊主…】

 

 

 エミヤやクーフーリンと念話で会話しつつ、ジャンヌが馬車に乗るのを確認すると再びチョコボ達を奔らせる。

 

 

「それで、力を貸して欲しいとは如何いった理由なのかな? オルレアンの聖女、ジャンヌ・ダルク?」




元ネタ
>スカウター(出典:ドラゴンボール)
『ドラゴンボール』に登場する道具。
見た相手の戦闘力を調べる装置だが、可能測定値以上の戦闘力を持つ者を見るとスカウターが壊れる。

>スペクタクルズ(出典:テイルズシリーズ)
テイルズシリーズにて登場するアイテム。
戦闘中に使用する事で対象に選んだ敵1体のステータスを調べる。
モンスター図鑑を完成するにはこれが無いといけないのでコンプを目指すには基本欠かせないアイテム。

>シドルファス・オルランドゥ(出典:ファイナルファンタジータクティクス(FFT)
FFTの登場人物。
FFT世界のシドであり、ゴルターナ公が擁する南天騎士団団長で『雷神シド』の異名を持つ。
『剣聖』と云う専用ジョブが凡庸ジョブ形無しの基本性能と成長率の高さを持っている上にアクションアビリティ『全剣技』の強力無比っぷりからバランスブレイカー扱いされており、FFシリーズ最強のシドとプレイヤーからは呼ばれている。

>赤チョコボ(出典:FFシリーズ)
FFシリーズに登場するマスコット的立場なモンスター。
FFTではチョコボ種の上位種で敵モンスターとしても登場し、圧倒的な機動力と強力な遠距離攻撃である『チョコメテオ』は驚異。
複数出現したらガチな編成でも壊滅しかねないヤバさ。

>ポチバルカン(出典:メタルマックスシリーズ)
メタルマックスシリーズに登場する武器。
犬専用の装備で通常属性範囲攻撃を行う。

>フォトン(出典:テイルズシリーズ)
テイルズシリーズに登場する魔術。
光属性の初級魔術で敵単体を対象に光を収束させた爆発を起こしてダメージを与える。

>アークエンジェル(出典:女神転生シリーズ他)
アトラス作品に登場する悪魔。
天使九階級で第8位とされる「大天使」で神の意志を人間に伝えるという役目を担っている。
彼らは天界の戦士でもあり、闇の軍勢との戦いでは天の軍勢を率いるという。

>ポチバーナー(出典:メタルマックスシリーズ)
メタルマックスシリーズに登場する武器。
犬専用の火炎属性範囲攻撃を行う。
人間用装備の火炎放射器より攻撃範囲が広い。

>アイスシューター(出典:イニシエダンジョン)
『イニシエダンジョン』に登場するユニーク弓武器。
低階層で入手出来るショートボウをベースにした弓。
使える技は『フロックアロー』で、複数の矢を一度に放つ。
固定プレミアムの『冷気ダメージ+32』及び『貫通+4』に依る妨害及び縦深攻撃力が優秀で序盤での殲滅力と支援力は優秀。

>乱命割殺打(出典:FFT)
FFTに登場する技。
『ホーリーナイト』、『ホワイトナイト』、『剣聖』が使用出来、対象1体にダメージと死の宣告を与える。


Q、シドになりきった時点で全特異点で勝ったも当然では…?
A、設定上、『暗の剣』を使うだけでサーヴァントは皆死ぬので事実そうだから困る。

Q、赤チョコボって強いの?
A、強い(確信)。

Q、フォウが戦っているのですが…?
A、なりきり動物枠のフォウ君が戦わない訳無いよなぁ?


次回は3月15日投稿。
感想コメント、意見・質問お待ちしております。
活動報告にてアンケートを行っていますので宜しく。


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相手のペースには乗らないで常に俺のターン、それが十流

遂に彼女が登場

そして遣りたい放題の魔の手が…


「クエー!」

「クエッ、クエー」

 

 

 優作達は次の目的地、『ラ・シャリテ』へと向かっていた。

 チョコボが牽引する馬車の中で少女、ジャンヌ・ダルクは居心地の悪さを感じていた。

 車内の乗り心地が悪い訳では無い。当時の舗装されていない街道を4羽の赤チョコボに依ってスポーツカー並みの高速で牽引されているにもかかわらず、揺れは全く無く、座席もフカフカのクッションが敷かれており快適だ。

 そんな彼女の居心地の悪さの原因は周りからの視線にあった。

 魔女の烙印を押され火炙りに依って死んだ筈の自分が何故か蘇り、立っていた故郷は空飛ぶ竜と黒き衣を纏った“もう一人の自分”が戦果の火を撒き散らしていた。騒乱の故郷を救う為に協力を要請した優作達に了承して貰い、馬車に乗ったのは良かったが、御者台でチョコボ達を駆っている優作以外の面々が警戒した様子を隠す事無く視線を向け続けているのだ。

 

 

「あ、あの…何か気に障る事をしましたか? …大体の想像は付くのですが」

「済まんね、ジャンヌちゃん。でも今フランス(此処)にてホットな話題になっている人物が誰か知ってるなら納得するんじゃない?」

「……フランスを再び戦乱の渦に落としたもう一人の私ですね?」

 

 

 困惑していたジャンヌの問いに優作が返し、ジャンヌが再び質問する。

 

 

「ジャンヌちゃんも見てたであろう砦で軍人の人達にフランスの現状を聞いたからさ?」

「はい。私も応援に向かおうと思っていたのですが、皆さんがあっという間に片づけてしまったので、様子見に徹していました」

「話の人物の衣装と違って青を基調とした衣装だし、敵意を感じなかったからね(ステを見る限り驚異じゃ無いと判断した訳でもあるけど…)」

「有難う御座います。召喚された後、何処へ行っても魔女と呼ばれて追い回されるか逃げられてばかりだったので…」

 

 

 ジャンヌは自身だけでもこの異変の解決を行う気でいたが、情報収集も碌に出来ない状況であった為に、実力も兼ね揃えた優作達が協力してくれるのは渡りに船だった。

 

 

「ごめんなさい、ジャンヌ・ダルク。砦で話を聞いたばかりでいきなり話題の本人が現れたものだから警戒してしまったわ」

「いえ、お気になさらないでください。もう一人の私がいる以上、見分ける事はほぼ不可能でしょう」

 

 

 代表でオルガマリーが謝罪するが、ジャンヌは気にしない様子で返す。

 

 

「しかし、ジャンヌさんは竜の魔女と呼ばれている方を“もう一人の私”と呼んでますけど、只の偽物だとは思わなかったんですか?」

「説明をするのは難しいですが、召喚されてから感じるんです。私にとても近しい存在がいるという確信が」

【ふぅむ…冬木で遭遇した別存在のアーサー王みたいなジャンヌ・ダルクが竜の魔女である可能性が高い訳だ】

「!? えぇっと…これは一体…?」

 

 

 マシュの問いにジャンヌが答え、もう一人のジャンヌに関してロマニが独自の解釈を述べる。

 そんなホログラムに浮かぶロマニの顔にジャンヌが驚く。

 

 

【あぁ、いきなり現れて申し訳ない。僕はロマニ・アーキマン、此処から離れたカルデアという場所からこうしてサポートしています】

「遠見の魔術ですか…?」

「これは技術さね。まぁ、ジャンヌちゃんにとっちゃ魔法みたいだろうけどね」

 

 

 ロマニが自己紹介した事から優作達もジャンヌへ自己紹介やフランスへ来た目的を話していく。

 

 

「未来で世界が焼却される原因が今のフランスにある為に来た訳ですね?」

「そう。ジャンヌちゃんが召喚された原因も同じである筈だから同行していれば目的は達成出来るべ」

「有難う御座います。ですが、オルレアン奪還だけでは未来が危ういというならばその先も是非協力させてください」

「それは有難いのだけれけど、良いの?」

「罪の無い人々が焼き尽くされるなど見過ごせません。フランスを救う為に立ち上がった村娘ですが、お役に立ててください」

「そりゃ有り難いっさ。マリー、契約したって」

「解かったわ。これから宜しくお願いするわね、ジャンヌ」

「はい、こちらこそ宜しくお願いします」

 

 

 人理修復を目的としている事を伝えた優作達にジャンヌはこの特異点以降の協力も願い出てくれた上に新たなマスター候補となったオルガマリーがまだサーヴァントを契約していなかったので彼女のサーヴァントとして契約を結んでくれた。

 

 

「ところで、ジャンヌちゃんは戦える訳? ステが異様に低い様だけど?」

「…その件なのですが、私が死んで間も無いからなのか本来得られる筈の聖杯からのバックアップが殆ど使えない上にステータスも大幅に弱体化しています」

 

 

 サーヴァントは本来、聖杯戦争での英霊召喚された際に聖杯からの様々な情報の他、時間軸の概念の無い英霊の座からサーヴァントとして現界した際の記録を得て召喚される。

 しかしジャンヌは生前の記憶はあるが、サーヴァント(・・・・・・)としての記憶を一切持っていない状態であった。

 

 

「そんな状態なのに一人で偽物に挑むつもりだったのか? 十中八九死ぬぞ?」

「それでも私は行かなければなりません。もう一人の私の真意を聞かなければ…」

【流石に無謀だと思うなぁ…】

 

 

 スカウターでの解析ではジャンヌはルーラーのサーヴァントでステータスが軒並み最底辺である事が分かっていた。しかし、彼女の話でルーラー特有のスキルすらも一部使えない状態である事が判明し、これではもう一人のジャンヌが召喚しているであろうワイバーンの群れだけで嬲り殺しになってしまう。

 クーフーリンの指摘に対して強い意志を示す彼女であったが、ロマンすらもツッコミを入れる始末だ。

 

 

「取り敢えずそんなステじゃあワンパンでアウトさかい、強化せんといかんべ。こっちに来んしゃい」

「? 失礼します」

 

 

 優作が御者台へジャンヌを招き、彼女が彼の横に座る。

 

 

「なりきりインストール『英雄の孫娘:ヴァージニア・ナイツ』」

 

 

 取り出した衣装を光の玉に変え、ジャンヌに与える。彼女は白と銀を基調とした軽鎧とスカートの姿から新緑色のコルセットと黒ストッキングにポシェットを付けた濃茶色のホットパンツを履いた姿へと変わった。

 

 

「あ、あの…これは?」

「別世界の英雄さんの服さね。因みにクー兄が着ている服の人物の娘さん」

「お! 俺の服を着ていた奴の娘なのか?」

「リッチが剣と槍が得意武器なのに対し、ジニーの得意武器は剣と杖だべ。力の使い方はイメージしてみてな?」

「は、はい。有難う御座います。でも優作さん、貴方は一体…?」

 

 

 イメージすると脳内に流れて来る服の主の戦い方、話の流れからサーヴァントであるクーフーリンも彼から服の力を与えられているらしい。しかしこのサーヴァントに匹敵するどころか超えかねない力を得る能力を操る彼は一体何者なのだろうか? ジャンヌには疑問が浮かび上がった。

 

 

「説明したいところだけど、到着するさな。続きは街でやる事をやってからだべ」

「え、もうですか!? 馬でもそれなりに掛かる距離の筈なのに…」

「赤チョコボの脚力を舐めてはいかんぜよ」

 

 

 優作の視線の先にはラ・シャリテの街並みが広がっていた。

 この早い到着が正史に於いての悲劇を覆すのだが、それを知る者は此処にはいなかった。

 

 

:::::

 

 

 ラ・シャリテに到着した優作達。チョコボ馬車を入口に停めてこれからの行動を決める事にした。

 

 

「先ずは街で聞き込み調査を行う形で良いかな?」

「そうね。もう一人のジャンヌについての詳しい情報や彼女が持っている戦力を可能な限り調べましょう」

「そんじゃあマリーはマシュと小次郎さんの3人で組んで街中で聞き込み、ジャンヌちゃんはおいちゃんと一緒にこの街の商会の人に情報収集序の商売。クー兄とエミヤんは街の周囲を警戒を頼みます」

 

 

 各々行う事が決まり、散開して行動を開始した。

 

 

:::::

 

 

「うおっ、何だありゃ鳥か!?」

 

「あんな馬みたいに大きい鳥、初めて見たぞ!!」

 

「乗っているは騎士か?」

 

「隣の娘、胸が大きくてい…「アンタ、どこ見てんだいっ!」…あでででっ!?」

 

「あの娘、見た事ないか? 復活した竜の魔女に顔が似ている気がするんだが…」

 

「馬鹿! 魔女が街中をのうのうと入って来るかよ。鳥が曳いてる荷車を見るに商人の娘と護衛の騎士かなんかだろ」

 

「そりゃそうか、魔女だったら竜を嗾けて火の海にするもんな」

 

「でも確かに聖女様の顔に似てるよな?」

 

「外から来たのかねぇ? 何にしろ、此処じゃあ勘違いされたりして苦労しそうだ」

 

 

 街の大通りを進むチョコボ馬車に街の人々は視線を向けていく。馬で無く馬並みの大きさの鳥が曳いてるのに加え、優作とジャンヌの姿も中々特徴的なのだから仕方ないだろう。

 

 

「み…見られてますね…」

「まぁ、チョコボはこの国じゃいないしね~」

 

 

 視線を集めている事に優作は平然としているのに対し、ジャンヌは少しぎこちなさそうである。

 

 

「後は“ジニーちゃん”のスタイルもグンバツだから男性陣の視線を集めちゃうわな? ま、ちょいと大胆な衣装のお陰で聖女に繋がらないだろうからモーマンタイ」

「はうぅ…ちょっと恥ずかしいです…」

 

 

 コルセットの上から主張する大きな果実の北半球を片腕で隠しながらジャンヌは恥ずかしそうに顔を赤くする。因みに街中において住人達に勘違いされない様、ジャンヌは着ている服の主であるヴァージニアの愛称であるジニーを偽名として名乗らせている。

 

 

「でも、元の衣装のスリットスカートも大分大胆だったんちゃう?」

「そうですか?」

「馬に跨ったら御美足丸出しだから目に毒よ? 敵味方問わず釘付けになるべよ」

「与えられた衣装だったので気にした事無かったです…戦時は戦闘に夢中だったのでそういった視線には気付かなかったので」

「肖像画だと薄めのプレートメイルで全身覆っていたけどなぁ…髪も短めだったし」

 

 

 更に彼女は本来の衣装に指摘される。街までの移動中に戦闘は腰に下げていた剣よりも旗を使った打撃だと聞いて優作は頭を抱えていた。旗という空気抵抗を大きくする物を付けた長物を振り回すなどゲームで無いのだから、どう考えても非効率極まりない。

 また彼女の髪も非常に長く、綺麗な金髪を後ろに束ねて大きな三つ編みにされていた。乱戦時に敵に引っ張られそうである。

 

 

「ところでその衣装の力の使い方は理解できた?」

「はい。でも剣と杖とでどれを使えば良いか迷っています」

「ジニーちゃんは旗で戦っていたなら杖系が一番合うと思うよ。『プリムスラーブス』がお薦めかな?」

「分かりました」

 

 

 会話している内に商会に到着した優作とジャンヌ。外国から旅をしながら商売している行商人と自己紹介し、商談を交わしながら竜の魔女について聞き込みを行っていく。

 因みに扱った商品は瓶詰の食料に医薬品、そして武器として大型連射弓『アルバレスト』。瓶詰自体はナポレオンが活躍した19世紀の発明だが、特異点が解消されれば元に戻る為に問題無いと判断して用意した。

 商品の代わりにお金や美術品を購入した優作達。尚、聞き込み調査の結果、竜の魔女が率いる超人の様に強い人物が幾つかの街に点在して守護している事を知り、特異点に対するカウンターサーヴァントがジャンヌ以外にも存在している事が判明した。

 

 

【マスター、招かざる客が来たようだ】

【皆、複数のサーヴァントの反応がこの街に向かっている!】

 

 

 会話を続けている内に町の周りを警戒していたエミヤから念話が入ると同時にロマニからも連絡が来る。

 

 

【ロマン、規模はどんな感じ?】

【無数のワイバーンと5騎のサーヴァント反応がある。これだけの戦力だと優作君達がいる街をあっという間に灰塵に出来るよ】

【マスター、ワイバーンに乗るサーヴァントにジャンヌと酷似した者がいる。十中八九、竜の魔女だろう】

 

 

 ロマニに接近中の敵勢力の規模を確認するとエミヤから新たな情報を得る。どうやら目的の人物も敵勢力に加わっている様だ。

 

 

【おっけ、敵さんと街の間に平原はある?】

【ある。我々が暴れる分には十分な広さだ】

【ならそこで迎え撃つべ、この街には一歩も踏み込ませないさな。ロマン、マシュ達に指定の位置へ行くよう連絡よろ】

【分かった。本来なら逃げろと言うべきなのだろうけど、優作君なら問題無いから安心できるよ。でも無茶はしないでくれよ?】

【エミヤん、連中を平原手前で足止め頼める? ワイバーン共を混乱させれば良いっさ】

【混乱かね? ………成程、『パニックメーカー(あの弓)』を使えば良い訳か、任せたまえ】

 

 

 ロマンの通信及びエミヤとの念話を終える頃、建物の外が騒がしくなっていた。

 

 

「竜の魔女が来たぞ――――――ッ!!」

 

 

 慌てた様子で馬に乗った見張りの兵士が街道を駆けていく。どうやら街からも見える距離まで近づいて来ているようだ。

 街中がパニックに陥り我先に街から脱出しようと住民達が持てる物を持って街道を走って行く。

 

 

「ところで最後の商談なんですが、会長さん?」

「あ、あんた、さっきの声を聞いてなかったのか!? 早く逃げないといかんのだぞ!?」

 

 

 当然、商会も蜂の巣を突いた様な騒ぎになり道具を纏めて逃げ出す準備を始めるのだが、優作は平然とした様子で会長へと声を掛ける。

 

 

「飛び切りの傭兵はいらんかね?」

 

 

:::::

 

 

「お、来たか?」

「クーフーリンさん、敵は?」

「あそこだ」

 

 

 聞き込みを行っていたマシュ達が指定した場所へ辿り着いた時、クーフーリンが既に立っていた。マシュの問いにクーフーリンが指を向けた先にはワイバーンの群れが暗雲の如く広がっていた。

 

 

「…凄い数です」

「砦で戦った数の倍以上はいるわね…」

「まぁ、暴れ甲斐はあるだろ?」

「それに今度はサーヴァントもいるのだろう? 挑み甲斐もあるものよ」

 

 

 ワイバーンの大群を前に緊張を隠せないマシュとオルガマリー。一方のクーフーリンと小次郎は近づく戦いを非常に楽しみにしている。

 ワイバーンの群れは待ち構えるマシュ達へとどんどん近づいて来るが、そこへ幾本かの矢が天へと飛んでいく。矢が放たれた方を向くと、高い建物の屋根にエミヤがピンク色の弓を構えて矢を放っていた。

 放たれた矢は一本一本が無数の矢へと増殖し、ワイバーンの群れへと降り注いだ。

 正に豪雨の如く降り注ぐ矢はワイバーン達を貫いていく。ワイバーンに乗っていたサーヴァント達は其々武器で矢を防いでいたが、それだけで多くのワイバーンが墜ちていく。しかし、それだけでは終わらなかった。

 絶命しないまでも矢を受けたワイバーン達は突如、他のワイバーンやサーヴァント達を襲い始めたのだ。

 突如始まったワイバーン達の同士討ちにマシュ達はポカンと呆けた表情になってしまう。

 

 

「い…一体何が起きてるの?」

「エミヤんの弓の御蔭さね」

 

 

 オルガマリーの疑問の声に答えながらチョコボに乗った優作とジャンヌが遅れながら合流した。

 

 

「先輩!」

「エミヤんが使っている弓は射抜いた相手を混乱させる効果があるさね。おまけに一本の矢で広範囲を攻撃出来るから集団相手にはクッソ強いんよ」

「宝具クラスの武器をああもポンポンと…」

 

 

 優作の説明にオルガマリーが驚愕の声を漏らす。

 斯くして、ワイバーンは同士討ちで全滅した為にサーヴァント達は街に辿り着く事無く、地上に降りるのを否応無くされた。

 

 

「っく…、ワイバーン達が同士討ちを始めるなんて」

 

 

 現れた5体のサーヴァント達、一人は黒い貴族服を纏った男、一人は刺々しいドレスを纏い仮面をつけている淑女、一人は随分と露出度が高い修道服を着た女、一人は羽帽子を被った中世的な顔立ちの剣士、そして最後に中央に立つ少女。手に持つ旗こそ竜が描かれていて異なっているが、その姿は最初であった時のジャンヌの衣装を黒く反転した衣装そのものであり、髪が白く、肌が若干青白い事を除けば顔も鑑写しの様にそっくりであった。

 

 

「あのカラー的見た目、冬木のアルと似てね?」

【予想通り、ジャンヌ・ダルクの“IF”な姿なのかもね。ジャンヌ・オルタと仮称しておこう】

 

 

 冬木で戦ったアーサー王はメディア達の話からオルタナティブ(もしもの存在)な立場で呼ばれた姿と知った優作達。目の前の黒き衣を纏ったジャンヌ・ダルクも似た見た目と雰囲気であった為に同じ存在ではないかと推測していた訳だがどうやら当たりの様だった。

 

 

「…成程、貴方達の仕業だったのね。マスターと思われる天使使いと謎の騎士、そしてデミ・サーヴァントとサーヴァント達。ジルが教えてくれた忌々しい異邦人共…でもそれよりも…」

 

 

 優作達を忌々しげに睨むジャンヌ・オルタ。しかし、その視線がジャンヌを映すと侮蔑に満ちた笑みを浮かべた。

 そしてけらけらと笑いだす。 

 

 

「くすっ、あはははは! ねぇ、誰か私の頭に水を掛けて頂戴! 拙いの、ヤバいの、本気でおかしくなりそうなの。だってそれぐらいしないと滑稽で笑い死んでしまいそう! 何、アレ? ネズミ? ミミズ? ムシケラ? あははははははっ! あまりにもちっぽけで笑っち…「欲しけりゃくれてやるよ」…ヘブゥッ!?」

 

 

 ジャンヌに対して蔑む様に笑っていたジャンヌ・オルタだったが突如、水の塊が彼女の顔面を直撃して吹き飛んでいった。

 吹っ飛ばされたジャンヌ・オルタはひっくり返り、ゴロゴロと転がりながら倒れ、スカートは捲れているわ、脚は大きく広げてしまっているわ、おかげでショーツが丸見えだわで酷い絵面になっている。彼女の近くにいた2人のサーヴァントが慌てて介抱する為に駆け寄っていた。

 

 

「Foo~、気持ち良ぇ~♪」

「あ、あの…先輩、何を?」

「水を欲しがっていたからついやっちゃったZE☆」

 

 

 ジャンヌ・オルタを吹き飛ばした犯人は片手に大型水鉄砲『インパルス』を笑顔で構えた優作だった。余りに突然の出来事だったので、マシュ達は目を丸くしている。

 

 

「皮肉だと解っててやっただろう、坊主?」

「うん」

キャウフォーウ、キュ~(黒地のレースぱんていとは、セクスィ~)

 

 

 クーフーリンのツッコミに笑顔で応える優作。一方、フォウは現在進行形で御開帳になっているジャンヌ・オルタのショーツをガン視していた。

 

 

「い、いきなり何すんのよアンタはぁっ!!?」

 

 

 起き上がったジャンヌ・オルタがプルプル震えながら怒鳴り散らす。優作を睨み付けているが、髪は乱れ、叩きつけられた水で顔は赤く、痛さからか涙目になっているのであまり怖くない。後、地味に素が出ていた。

 

 

「何って、水を掛けて欲しいって言ってただルルォ!?」

「だからって本当にかける訳!? 馬ッ鹿じゃないの!!?」

「え、何? もう一発喰らいたいって?(難聴)」

「ヒィッ!? そんな事、一言も言ってないわよぉっ!!」

 

 

 ゲス顔で再びインパルスをジャンヌ・オルタへと構える優作に対し、彼女は怯えた様子で修道服を着たサーヴァントの後ろにそそくさと隠れる。そんな姿に相手サーヴァント達が彼女へ向ける視線が何か可哀そうなモノを見る目になったのは気のせいだろうか?

 

 

「あ、あの~優作さん、そろそろ話をさせて欲しいのですが…?」

「あいあい、ペースはこっちのもんだし会話フェイズどうぞ」

 

 

 ペースを完全に奪われたジャンヌ・オルタ陣営にニヤニヤ顔の優作。そんな彼にジャンヌ・オルタと対話をしたい為におずおずと声を掛けるジャンヌ。そんな彼女に優作はインパルスをしまうと彼女の後ろに下がった。

 

 

「…貴方は何者なのですか、竜の魔女?」

「ふ、ふんっ! この期に及んでまだそんな問いを投げるというの? ……ですがそうですね、そちらより上に立つ者として答えてあげましょう。ワタシはジャンヌ・ダルク。この地で処刑され、蘇った救国の聖女ですよ、もう一人のワタシ?」

「今更取り繕っても手遅れだぞ~?」

「うっさい! アンタだけは絶対に焼き殺してやるっ!!」

「…優作さん、話が進みませんので…」

「サーセン」

 

 

 鎧とドレスに付いた砂埃を落とし、乱れた髪を直しながら忌々しそうにジャンヌの問いに答えるジャンヌ・オルタ。しかし出してしまった地を隠そうとしている様子を優作に指摘されて再び喚きだし、これに対してジャンヌが優作を叱る。

 

 

「貴女は聖女ではありません。私がそうであるように…それにもう過ぎた呼び名です」

「そうね、確かにワタシは聖女じゃない。何故ならジャンヌ・ダルクなのに奇跡を信じていないのだから!」

 

 

 竜が描かれた旗を高々と掲げ、ジャンヌ・オルタは名乗る。

 

 

「今のワタシは竜の魔女。ドラゴンと幾万のワイバーン、そしてサーヴァント達を率いれ、フランスを焼き尽くすために復活した存在です!」

「何を馬鹿気た事を……いえ、それよりも私が知りたいのはただ一つ。何故祖国を戦乱の炎に包むのです?」

「何故? 何故ですって? 逆に聞きますけど、態々貴女が既に理解している事をワタシに言わせようとするのです?」

 

 

 そんな事も解からないのかと呆れを交えた嘲笑を浮かべるジャンヌ・オルタ、そんな彼女にジャンヌは声を荒げた。

 

 

「解る訳無いでしょうっ!? 何故罪の無い国の民を襲っているのです?」

「……あぁ、白々しい。それとも属性が変転しているとここまで鈍くなるのでしょうか? そんなもの、単にフランスを滅ぼす為に決まってるでしょう。ワタシはサーヴァントなのですから政治的に、経済的に、そんな回りくどい事をせずとも物理的に潰して行くだけでこの国を滅ぼせるもの。当然でしょ?」

「馬鹿な事を―――!」

「ジャンヌ・ダルク、お綺麗な心をお持ちの聖女様? 馬鹿なのは、愚かなのはワタシ達でしょう? 何故、こんな国を救おうと思ったのです? 何故、こんな愚者達を救おうと思ったのです?」

「それこそ決まっているでしょう!私は人々の為に…「人々!それはただ裏切り、唾を吐いたニンゲンと言う名の屑共でしょう!?」…っそれは――!」

 

 

 ジャンヌの答えにジャンヌ・オルタは怒りの言葉で遮った、そして憎悪を滾らせながら宣言する。

 

 

「ワタシはもう騙されない! 裏切りを許さないっ!! ……そもそも、もう主の声も聞こえない。“主の声が聞こえない”と言う事は“主はこの国に愛想を尽かした”と同じ事でしょう? ならワタシがこの私が滅ぼします、主の嘆きをワタシが代行します」

「なっ!? それのどこが代行なのです!!?」

 

 

 無茶苦茶な話だ、しかしジャンヌ・オルタの目が本気だと語っている。

 

 

「主に愛想を尽かされ見放されたこの価値の無い国を死者とドラゴンの国へと作り変える。それが死んで新しいワタシになったジャンヌ・ダルクの救済方法です。……まぁ貴女には理解できないでしょうね! 何時迄も聖人気取りで憎しみも喜びも見ないフリをして人間的成長を全くしなかったお綺麗な聖処女さまには!! ワタシは違う! ワタシは成長した!! だからこそ死に依って救済するっ!!!」

【…サーヴァントに人間的成長ってアリなのか? いやでも優作君のサーヴァントになった彼等は成長出来るんだったな…】

 

 

 ジャンヌ・オルタの言葉に対し、ロマニが思わずホログラム越しに何かブツブツ呟いていたが誰も聞いていなかった。

 

 

「………貴女は本当に“私”なのですか?」

「……呆れた。ここまで言っても理解出来ないなんて、なんて醜い正義心なのでしょう? この憤怒を理解する気がそもそも無いのね? ですがワタシは貴女を理解しました。今の貴女の姿でワタシと謂う英霊の全てを思い知った。所詮貴女はルーラーでもなければジャンヌ・ダルクですら無い、ワタシが捨てた単なる残り滓よ!」

「………」

「ええそうよ、貴女は単なる田舎娘。何の価値もない、唯過ちを犯す為に歴史を再現しようとする亡霊に過ぎないわ! バーサーク・ランサー、バーサーク・アサシン、その田舎娘を始末しなさい。他は残りのサーヴァントを相手なさい。あぁ、そこの男は絶対に逃がさないで頂戴。ワタシの手で灰も残らず焼き尽くしてくれる」

「っ先輩、来ます!」

 

 

 ジャンヌ・オルタの命令と共に向こうのサーヴァント達が得物を構え殺気を放ち始める。マシュが迎え撃つべく盾と剣を構え、他の面々も構える。

 

 

…が、

 

 

「あ~、ちょいと良いかね?」

 

 

 いざ開戦と言える空気の中で優作が待ったを掛けた、今回3回目の空気ブレイクである。

 

 

「なんです、今更命乞いですか? 許す気など更々ありませんが」

「まさか。唯、おいちゃんもちょいとダーク♀ジャンヌに聞きたい事があるだけさね」

「ワタシに? ……って“ダーク♀ジャンヌ”って何よっ!?」

「黒くて反転した属性になっているジャンヌだからダーク♀ジャンヌさね」

「ものすごく侮辱された気がするから止めなさいっ! 今直ぐ燃やすわよっ!!」

「この会話、どっかで聞いた事がある気がするのだけど…」

「奇遇ですね所長、私も数週間以内に聞いた事が有る気がします」

フォウキュウ―キュ(容赦無くペースを奪い返す優作)キャーウ(嫌いじゃないわ)!!」

 

 

 鬱陶しそうに答えるジャンヌ・オルタに対して渾名を付ける優作。それにキレて地が再び出ている彼女の姿にオルガマリーとマシュ他がデジャブを感じていた。

 

 

「ジャンヌ・ダルクの送った人生を知っている身としては復讐に奔るのは理解出来るんよ? 神の啓示に従って奮闘していたのに最後には国家間の政治的理由で殺された訳だし」

「先輩!?」

「優作さん!?」

 

 

 優作の復讐肯定にジャンヌ・オルタは目を丸くし、マシュとジャンヌは驚きの声を上げた。

 ジャンヌがイングランドに捕らえられた当時、フランスとイングランドは両国とも疲弊し切っていた。何か手を打って講和なり休戦をしたかったのだが、それにはジャンヌ・ダルクの存在が邪魔になっていた。

 神の啓示でイングランドとの戦いに参加したジャンヌ。つまりこの形だと、イングランドは神に敵と見なされている事になる訳である。宗教の力が強いこの時代、神の敵となった国は針の筵処で無い扱いになるのは必定であり、イングランドはこのままでは滅ぼされるか戦い続けるしか道が無いのである。

 一方のフランスも疲弊している現状、イングランドと戦い続ければ国自体が崩壊しかねない。そこでジャンヌ・ダルクを魔女とすれば神の啓示も嘘となり、休戦をすんなり結んで互いに国力の回復に力を注げる様になる。

 結果、ジャンヌ・ダルクは国の安寧の為の生贄にされたのだ。

 

 

「少なくともおまいさんは政治取引した連中とか認めた王様や教会連中を奥歯ガタガタ言わせる権利はあるさな」

「………まさかアンタみたいなヤツが理解してくれる事に驚いてるわ。それで? 理解者であるアンタは何が言いたい訳?」

「ジャンヌ処刑の原因になった王族や教会連中を殺したまでは良かったけどね、民を殺すのは駄目でしょ?」

「話を聞いていなかったの? ワタシを裏切って唾を吐いた連中なのよ?」

「全ての国民がそうだった訳じゃないっしょ?」

 

 

 国民すべてがジャンヌ・ダルクを裏切った訳でないのでは? と優作は問い掛ける。

 

 

「おまいさんの傍に仕えて護っていた騎士や兵士達は?」

 

「魔女という報告に嘘だと唱えた人々は?」

 

「おまいさんの処刑を止めようと奔走した人々は?」

 

「そして何よりおまいさんの家族は?」

 

 

 優作の最後の問いに対し、ジャンヌ・オルタの目が大きく開かれた。

 

 

「か、ぞく……?」

「おまいさんの両親は魔女と蔑んだんか? 兄弟は唾を吐きかけて“死ね”と言ったんか?」

「両親…兄弟……あ、れ?」

「魔女の烙印を押された事にそんなの嘘だと怒らないんか? 火炙りされた事に泣かないんか?」

「な…んで? おか…し、い……」

 

 

 先程迄の雰囲気は何処かへと消え、ジャンヌ・オルタは頭を抱えだす。優作の問いかけに答えられない、いやそれ以前に自身の家族を思い返そうとしているのに何故(・・)か浮かんでこないのだ。

 遂には黙りこくって俯いてしまった。

 突然の事態に4体のサーヴァント達も動揺している様だ。

 しかし、その静寂も終わりを告げる。

 

 

「……うるさい」

「んあ?」

「うるさい、五月蠅い、煩い、五月蝿い、ウルサイ――――――ッ!! アンタなんかに何が解かるのよ!? 何も知らない癖に、あの熱さも、痛みも、苦しみも!!」

 

 

 ガバリと顔を上げて喚き立てるジャンヌ・オルタ。それは何か(・・)を考えない様にしようと必死になっている様に見えて痛々しかった。

 

 

「もういいわ。バーサーク・サーヴァント達、此奴らを殺しなさいっ!! そして街の連中も皆殺しよ!!」

 

 

 ジャンヌ・オルタの新たな命令に再び得物を構えるサーヴァント達。

 今度こそ戦いは避けられない。




元ネタ
>ヴァージニア・ナイツ(出典:サガフロンティア2)
『サガフロンティア2』の登場人物。
原作の主人公の一人でウィル・ナイツの孫娘にしてリチャード・ナイツの娘。
祖父のウィルに育てられ自身もディガーとなる事を望み、家を出た祖父を追って家出同然で旅に出るお爺ちゃん子で2人譲りの豊富な行動力は確実に受け継がれている。
技と術両方バランスよく使いこなすオールラウンダー。
尚、初登場時は14歳である…若い。

>プリムスラーブス(出典:サガフロンティア2)
『サガフロンティア2』に登場する杖武器。
杖武器の中で唯一のクヴェルで星の術『メガボルト』が使用出来るようになる。

>アルバレスト(出典:イニシエダンジョン)
『イニシエダンジョン』に登場する弓武器でクロスボウの上位互換的武器。
使える技は魔力が続く限り矢を連続で放ち続ける事が出来る『マシンガンアロー』。
プレミアムで『かず』、『かんつう』、『スタン』、『ノックバック』が付くと妨害を含めた強力な殲滅兵器になる。

>パニックメーカー(出典:イニシエダンジョン)
『イニシエダンジョン』に登場する弓武器。
ロングボウをベースにしたユニーク弓で序盤から手に入る。
使える技は狙った場所周辺へ矢の雨を降らす『レインアロー』。
プレミアムの『こうげきりょく+80%』、『こんらん+20%』、『かず+12』によって密集している敵に対して強力な殲滅力を誇る。

>インパルス(出典:九龍妖魔學園紀)
アトラスのジュブナイルアドベンチャーシミュレーションRPG『九龍妖魔學園紀』に登場するショットガン・ランチャー系武器。
圧縮した水を放つ水鉄砲で射程は2mと短めだが弾数無限且つ命中時にノックバックを発生させる。また、聖水でも使っているのか破邪属性である。
作者は壁際まで追い込んだ敵に何度も撃ちまくって遊んでいる。


Q、ジャンヌは旗で戦えるでしょ?
A、優作はあくまで一般的知識から考えてるから仕方ない。

Q、ジャンヌ・オルタの一人称、原作と違くね?
A、ジャンヌと差分したい為に変えてます。


次回は3月22日投稿。
感想コメント、意見・質問お待ちしております。
活動報告でアンケートを行っていますので是非。


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技名を叫んでから殴るって素敵じゃない?

とあるキャラへのアンチ表現及びフォント芸に注意


 ジャンヌオルタ率いる4体のサーヴァントと相対する優作達。

 尚、彼らが現れた際にスカウターに依ってその真名及びステータス等はバレてしまっていた。

 

 ランサー

 ルーマニア、ワラキア公国の君主にして祖国を守る為に苛烈に戦い続け、敵国から“串刺し公”、“悪魔”と恐れられた吸血鬼ドラキュラのモデル『ヴラド三世』

 

 アサシン

 ハンガリーにて永遠の若さを求め幾多の少女達を拷問の果てに殺し、血を浴び続けた血の伯爵夫人『エリザベート・バートリー』またの名を吸血鬼『カーミラ』

 

 ライダー

 リヴァイアサンとオナクスの子供である邪竜タラスクを祈りにて鎮めたジャンヌ・ダルクよりも古き聖女『マルタ』

 

 セイバー

 フランスに忠誠を誓い、王宮を守護せし白百合の騎士『シュバリエ・デオン・ド・ボーモン』

 

 

「しっかしねぇ…」

 

 

 何時でも戦いを始められる濃厚な殺気が混じり合う中で優作がポツリと呟く。

 

 

「そこのトゲトゲSM婦人を除いて、人を、民を守る為に行動していた偉人達が虐殺に手を染めるとか悲劇か何か?」

 

 

 優作の言葉にピクリと反応するランサーとライダー、セイバーの3人。因みにアサシンも優作の“トゲトゲSM婦人”呼びに対し、仮面の奥で顔を引き攣らせていた。

 

 

【彼等の霊基には狂化が埋め込まれている。これによって理性を極限に迄薄められているんだろう】

「カーミラは兎も角、他の3人が虐殺に手を貸す筈が無いものね?」

「ジャンヌ・オルタが言っていた様に全員がバーサーカーと化しているのですね…」

 

 

 カルデアにてステータス諸々を詳しく解析していたダ・ヴィンチから原因を聞かされ納得するオルガマリーとマシュ。中々えげつないがもしも狂化を解除されたら復讐に来る事をジャンヌ・オルタは理解しているのだろうかと優作は思った。

 

 

「ま、敵として立ちはだかるなら倒すだけだけどな」

「英霊ならそれなりに戦えるだろう」

「……」

 

 

 クーフーリンと小次郎は何時でも戦えると武器を構え好戦的な笑みを浮かべ、ジャンヌも気を引き締めて杖を構えている。

 

 

「ふんっ! サーヴァントだけに集中できると思ったら大間違いよ、来なさいワイバーン達!!」

 

 

 ジャンヌ・オルタが旗を掲げると無数のワイバーンが召喚される。しかし、空から再び矢が降り注いで召喚されるワイバーン達を悉く射抜いて行く。

 

 

「くぅっ、またなの!?」

「ワイバーンの掃討はエミヤんに任せとるかんね、おいちゃん達はサーヴァント戦に力を注げるべ」

 

 

 ワイバーンに依る混戦化や街への攻撃は避けたいところなのでエミヤのポジションは非常に重要だった。この戦いでのMVPは彼が相応しいだろう。

 

 

「さて、それじゃあ始めますか。メインチェンジ『滅嶽の血:クラウス・(フォン)・ラインヘルツ』」

 

 

 優作の格好が騎士の姿から白のワイシャツにネクタイとウェストコートといった衣装へと変わる。拳には十字架を象ったナックルガードが装着されており、彼はそのまま拳を構えた。

 

 

「ブレングリード流血闘術、押して参る」

 

 

 

 

 

 

 

ブレングリード流血闘術 3 9 式

 

 

血 楔 防 壁 陣(ケイルバリケイド)

 

 

 

 

 

 

 

 優作が技名を叫ぶと共に拳を地面に叩きつけると無数の血の十字架が彼とバーサーク・ランサー、バーサーク・アサシンを囲むように出現した。

 

 

「ランサーとアサシンはおいちゃんが相手するから、マリー達は残りをお願い!」

「っな!? 坊主狡ぃぞ!」

「主殿っ! 2人相手とか贅沢で御座るよ!!」

「済まんね、クー兄と小次郎さん。でもあの2人は是が非でもゲットしたいんよ~」

 

 

 十字架の壁の向こうから聞こえる優作の指示に対し、クーフーリンと小次郎が抗議の声を挙げる中、それに謝罪しながら彼は同じく閉じ込められたサーヴァント達へと突貫する。

 

 

【優作君、ゲットするって…?】

【あの2人、吸血鬼属性も加わってるっしょ? ならおいちゃんの着ているクラウスの服の力で捕まえられるさね! そして、ヴラド三世は狂化やら契約を解除してこっちに引き込む!!】

【戦力は増えて敵は減る、良いアイデアだけどカーミラの方は?】

【元々悪人だし、仲間にするメリットは無いべな。今後、吸血鬼が敵として現れた際に即殺出来る様、実験サンプルとしてダヴィちゃんやメディ姉と色々弄繰り回したる(ゲス顔)】

【うわぁ…(戦慄)】

「完全に逃げられない様、駄目押ししときましょ。サブチェンジ『天使の塵(エンジェルダスト):アレクサンド・アンデルセン』」

 

 

 優作が片手に聖書を取り出すと開かれたページが何十枚も宙を舞い、紙吹雪となり彼等3人の周りを舞う。

 

 

 

 

 

 

 

ブレングリード流血闘術 0 2 式

 

 

散 弾 式 連 突(シュロートフィッシャー)

 

 

 

 

 

 

 

「ぶるぁあああああっ!!」

 

 

 雄叫びと共に優作が幾つもの十字架を形成し、正面へと放つ。紅蓮の閃光を描きながら飛来する十字架をランサーは槍で、アサシンは鎖に繋がれたアイアンメイデンで弾いていく。しかし、攻撃が彼等に集中されたもので無い事に気付く。

 

 

「な、に…?」

「紙? いえ、この書かれた文章は……あづっ!!?」

 

 

 彼等の周囲に舞っていた聖書のページに十字架が刺さり、そのままランサー達の周囲へ縫い付けられていく。確認しようとアサシンが手を延ばすが、バチリと紫電が奔って弾かれた。

 

 

「それは吸血鬼の移動を制限する専用の結界! 結界を超える事は転移でも不可能、つまり逃げる事は最早出来んぞ!!」

「猪口才な…ならば貴様を殺せば済む事!!」

「さっさと済ませましょう。そして聖女の血肉を戴くとするわっ」

 

 

 ランサーが槍を構えて突貫し、アサシンはアイアンメイデンをモーニングスターの様に振り回しながら打ち込んでくる。

 槍の連突を、飛んでくるアイアンメイデンを優作は臆する事無く拳で逸らし、弾いていく。其の度に火花が散り、その中で優作は攻撃を受け流しながら殴り返していく。

 

 

「舐めるなよ、小僧っ!!」

 

 

 互いに打ち合う中、ランサーが優作から距離を取って己の魔力を高める。

 

 

「血に塗れた我が人生をここに捧げようぞ、血濡れ王鬼(カズィクル・ベイ)っ!!」

 

 

 空間から、地面から無数の杭が突き出て優作へと殺到していく。このままでは串刺し一直線だが、優作は慌てる様子無く拳を背後へ引き絞った。

 

 

 

 

 

 

ブレングリード流血闘術 1 1 1 式

 

 

十 字 型 殲 滅 槍(クロイツヴェルニクトランツェ)

 

 

 

 

 

 

 

 引き絞った拳を突き出すと共にこれまで出してきたモノに比べ遥かに巨大な十字架が現れ、破城槌の如くランサーへと放たれる。宝具の杭を粉々に打ち砕きながら迫る十字架を前に避ける事が出来ないと判断した彼は槍で防御をする選択をした。

 

 

……が

 

 

「ぐぅ!? うぐぉおおおおおおおおおっ――――!!?」

 

 

 槍は圧し折れ、そのまま彼等を囲む十字架へと叩き付けられた。

 構えを解く優作、そんな彼の背後にアイアンメイデンを振り被るアサシンが立っていた。

 

 

「貰ったわ――「得物を狩る前に声を出すのはド三流がする事だぜ?」―っ!!?」

 

 

 

 

 

ブレングリード流血闘術 3 2 式

 

 

電 速 (ブリッツウィンディ)刺 尖 撃(ヒカイトドゥシュテェヒェン)

 

 

 

 

 

 

 振り返りながら優作はレイピアの様な十字架を形成し、アサシンの腹を貫いた。

 

 

「ガッ!? ああぁぁあああああっ!!?」

「暫く縫い付けられとけ」

 

 

 追撃とばかりに両腕と両脚も串刺しにして背後の十字架に縫い付ける。

 アサシンが行動不能になった事を確認した優作はそのままランサーの元へと向かう。

 砂埃が未だ舞う先でランサーはへしゃげた槍を杖代わりにして辛うじて立っていた。

 

 

「ぐ……ぬぅ…」

「終わりにしようか?」

 

 

 満身創痍で動けないランサーへ優作は拳を構える。

 

 

「ヴラド三世、汝を密封す」

 

 

 

 

 

 

ブレングリード流血闘術 9 9 9 式

 

 

久 遠 棺 封 縛 獄(エーヴィヒカイトゲフェングニス)

 

 

 

 

 

 

 

 優作の拳がランサーの胸を打ち抜く。それと同時に赤い文様に拘束され、打ち抜かれた胸部から彼の身体が渦を描く様に収縮し始めた。

 

 

「グ、ギィ!? ぐぉおおおおおああああああああ―――――――っ!!」

 

 

 ランサーが悲鳴に近い叫び声を挙げる。

 肉体をそのまま圧縮されているのだ、筋肉も、骨も内蔵すらも…

 激痛で本来ならショック死する状況で容赦なく密封されていく。

 

 

「憎みたまえ、許したまえ、諦めたまえ、人界を守る為に行う我が蛮行を…」

 

 

 優作の言葉と共にランサーが居た場所には掌サイズの十字架が落ちていた。優作はそれを拾い、次のターゲットであるアサシンへと脚を向ける。

 尚、彼女は目の前で行われた封印を自分もされる事を理解し、青白い顔を更に真っ白にして震えていた。

 

 

「い、嫌…来ないでっ――――!!」

「………」

「た、助け…「……其の台詞、生前拉致った少女達から何回も聞いてるだろ?」――!?」

「泣き叫ぶ相手に拷問の手を緩めたか? 命乞いしても笑いながら殺したんだろ? ましてやこうして蘇って何人もの血を啜ってきた?」

「…………」

「殺してきたんだ、殺されもするだろ? ま、このまま殺しても意味が無いから…」

 

 

 ゆっくりと拳を振り上げながら優作はニッコリと笑みを浮かべる。その目は全く笑っていなかったが…

 

 

「せめて、人類の発展の為のモルモットになれよ」

「や、やだ…」

「エリザベート・バートリー、汝を密封す」

 

 

 優作の拳は容赦無く、アサシンの胸元へ打ち込まれた。

 

 

:::::

 

 

 優作が十字架の壁でランサーとアサシンを隔離した後、オルガマリー達もジャンヌ・オルタとの戦いを始めていた。

 

 

「くそっ、坊主の奴…ランサーとは俺が戦いたかったってのに…」

「まぁ、目的が有るのなら仕方あるまいよ。取り敢えずは目の前の敵に集中しようぞ」

 

 

 クーフーリンが愚痴を零す中、小次郎が窘めつつ向かって来るバーサーク・セイバーとバーサーク・ライダーを迎え撃つ。

 ぶつかり合う彼等を抜けてジャンヌもジャンヌ・オルタへと向かう。

 

 

「えぇっと…先輩が向こうにいるので所長、指示をお願いします」

「仕方ないわね、ジャンヌはまだステータスが低いからマシュは彼女のカバーをしてちょうだい。但し、相手はワイバーンを召喚出来るわ。援護射撃があるとはいえ、全て倒せる訳では無いから無茶をしない様に!」

「了解しました! マシュ・キリエライト、対サーヴァント戦に移行しますっ!」

「私もいくわよ…」

 

 

 マシュをジャンヌの援護に向かわせ、オルガマリーは封魔管を取り出す。

 

 

「来なさいっ! アークエンジェル!!」

 

 

 封魔管から光が溢れ、鎖帷子を巻いた鎧を纏った天使が召喚される。

 

 

「お呼びですかサマナー?」

「ジャンヌとマシュの援護をお願い」

「分かりました」

 

 

 オルガマリーの指示にアークエンジェルは頷きながら羽搏いていく。

 ジャンヌ達とジャンヌ・オルタは既に戦闘を始めていた。

 

 

「はああああぁぁっ!!」

「おおおぉぉおおっ!!」

 

 

 お互いの杖と旗がぶつかり合う。旗という邪魔なモノが付いているのに難なく振り回し乱れ打ってくるジャンヌ・オルタの攻撃をジャンヌは時に受け止め、受け流す。

 

 

「さっきから気になっていたけど何よその服?」

「生憎あの頃の衣装では国の人々に勘違いされます。そもそも、最早聖女で無い私にはあの衣装は必要ありません」

「あはははっ! そうよね、奴らは今やワタシ達を目の敵にしているものね。怯えてコソコソするしか出来ない聖女サマ?」

「っく!?」

 

 

 初めこそ拮抗していたが、憤怒と憎悪の化身と化したジャンヌ・オルタの容赦無い攻撃に未だ万全で無いジャンヌは徐々に押されていく。

 遂には杖を大きく弾かれて隙が生まれた。

 

 

「消し炭になれっ!!」

「ジャンヌさん!」

 

 

 ジャンヌ・オルタはジャンヌを焼き殺そうと炎を放つがそこへ盾を構えたマシュが割り込んで防ぐ。

 

 

「邪魔するなデミ・サーヴァントッ! 纏めて燃えてしまえっ!!」

「マシュさんっ!!」

「心配ありません、先輩に強化合成して貰ったこの盾は如何なる炎も通しません!」

 

 

 火炎耐性を限界まで上げたマシュの盾はジャンヌ・オルタの炎を防ぎ切る。それと同時にジャンヌは盾から飛び出し、振り被った杖をスイングする。

 

 

「はぁああぁ、回し打ち!!」

 

 

 ジャンヌの攻撃をジャンヌ・オルタは旗で防ぐがそこへマシュの追撃が続く。

 

 

「行って下さい、トモエ!!」

「精霊っ!? くあぁっ!!?」

 

 

 マシュが呼び出したトモエがアサルトダイブをジャンヌ・オルタへと放ち、彼女を大きく吹き飛ばした。

 

 

「こうなったら…」

 

 

 体勢を立て直しながらジャンヌ・オルタが己の魔力を高めていく、宝具を放つ準備をしている様だ。

 

 

「これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮……! 吼え立てよ、我が…「させませんよ!」…っ!?」

 

 

 マシュとジャンヌへ宝具を放とうとした刹那、突き出された剣が彼女を貫かんと迫る。

 即座に宝具発動を中断して旗で防ぐと目の前には剣を構えた天使、アークエンジェルが飛んでいた。

 

 

「! ジルが言っていた天使ね…忌々しい」

「……あぁ、何という事だ。嘗て神の啓示で戦った聖女からこの様な憎悪に染められた人形を作ってしまうとは…」

 

 

 アークエンジェルを睨み付けるジャンヌ・オルタ、一方のアークエンジェルは悲しそうに首を振った。

 そんな姿にジャンヌ・オルタの表情が憤怒に染める。

 

 

「人形ですって…?」

「成程、気付いていないのですね? いや、無意識に気付かない振りをしているだけでしょうか?」

 

 

 憐れむ様に問い掛けるアークエンジェルに対し、ジャンヌ・オルタはキレた。

 

 

「殺す、殺す! ワイバーンで生きたまま喰い殺してやるっ!!」

 

 

 ジャンヌ・オルタが再び大量のワイバーンを召喚する。しかし、再び空から矢が降り注ぎワイバーン達が次々と射ち墜とされていく。

 

 

「っく、一々と…でも射抜き切れない数を召喚すれば良いだけ!!」

 

 

 射抜かれる数よりも多く、ひたすら多くと召喚していくジャンヌ・オルタ。マシュ達が近くにいる為に範囲攻撃になるパニックメーカーをエミヤが使えない事も加わり、射撃を抜けたワイバーンが彼女達へと襲い掛かる。

 

 

「ここは私に任せて下さい!」

 

 

 迎え撃つべく構えるジャンヌの前にマシュが立ち、盾をワイバーンの群れへと向ける。

 

 

「ギガプレスッ!!」

 

 

 マシュの掛け声と共に盾から衝撃波が放たれ、目の前にいたワイバーン達が吹き飛ばされていく。

 

 

「隙が出来ました。ジャンヌさん、アークエンジェルさん、合わせて下さい!」

「分かりました!」

「良いでしょう」

 

 

 吹き飛ばされて距離が出来た事に依りマシュが連携の呼び掛けをする。頷いたジャンヌとアークエンジェルが共に術を発動する。

 

 

「エンジェルリング!」

「ブッシュファイア!」

「マハ・ザン!」

 

 

 マシュの中級魔術が敵を集め、そこにジャンヌが枝葉を高速で回転させて大火を起こし、更にアークエンジェルの衝撃術で火力を増大させる。彼女たちの連係で形成した業火はワイバーン達の殆どを消し炭に変えた。

 

 

「いけ、ワイバーン! あの天使使いを喰い殺しなさいっ!!」

 

 

 ジャンヌ・オルタの指示で生き残ったワイバーン数匹がオルガマリーへと殺到する。

 しかし…

 

 

「召喚しているのはアークエンジェルだけでは無いわ……やってちょうだい、モコイ」

「う~ん…ナイスな判断だね、チミ」

 

 

 迫るワイバーン達をブーメランが叩き落していく。首が圧し折れて墜ちていくワイバーンを見つめるオルガマリーの足元には冬木にて優作も召喚していたモコイが立っていた。

 このモコイ、ラ・シャリテに到着した時点で調査の為に召喚しており、隠し身をさせて傍に連れていたのだ。

 

 

「それに守られているだけじゃない、のよっ!」

 

 

 ブーメランが掠った程度で健在だったワイバーンを抜いた刀『霧氷月影』で斬り捨てた。

 再びワイバーンが全滅し、ジャンヌ・オルタは歯噛みする。

 

 

「くっ…一度ならず二度迄も全滅させるなんて…「ジャンヌ」…バーサーク・セイバー!?」

 

 

 新たに召喚すべきか思考を巡らせていた処にバーサーク・セイバーが現れる。後ろにはバーサーク・ライダーもおり、共に満身創痍に近い状態だった。

 

 

「なっ!? やられたというの!?」

「済まない、防戦一方だった…」

「あいつら強過ぎるのよ、少なくとも1対1じゃあ勝てないわ」

 

 

 彼女達の言葉も当然の事だ。優作に依って強力な装備にステータスアップ、そして模擬戦闘を何度も続けてきたバトルジャンキー達が強くなっていない筈が無いのだから。

 余裕そうな表情でクーフーリンと小次郎がマシュ達と合流する。

 

 

「うむ、中々楽しめた」

「後は坊主だけk…「いよっしゃあぁぁっ!! ヴラド三世とカーミラゲットだぜぇっ!!」…終わったみてぇだな」

 

 

 優作の大声と共に十字架の壁が消える。十字架が囲んでいた場所にはランサーとアサシンの姿は無く、彼の手に2つの小さな十字架が握られている、つまりはそういう事だった。

 

 

「ジャンヌ、ここは引きましょう」

「サーヴァントでないのにランサーとアサシンを相手して、しかも捕らえるなんて只者じゃないわよ」

「……仕方ありませんね、ここは撤退します」

 

 

 セイバーとライダーの進言にジャンヌ・オルタは悔しそうに歯噛みしながらも頷く。

 

 

「逃がすと思ってるのか?」

 

 

 クーフーリンの言葉に頷きながら構えるマシュ達。マシュのペルソナ、オルガマリーの仲魔を含めれば9対3の状況且つ、ジャンヌ・オルタ陣営の生き残りであるセイバーとライダーはボロボロであり今此処で決着を着けない訳が無かった。

 しかし、ジャンヌ・オルタが諦めた様子は無い。彼女はライダーに命令を下す。

 

 

「バーサーク・ライダー、時間を稼ぎなさいっ!!」

愛知らぬ哀しき竜よ(タラスク)っ!!」

「!? 仮想宝具 、疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)!!」

 

 

 ライダーの呼び声と共に優作達へ巨大な物体が突っ込んできた。

 すかさずマシュが前に出て宝具を展開する。白亜の盾に回転しながらぶつかるその物体は巨大な甲羅の様だった。

 

 

「何だこりゃ? 亀か?」

「聖女マルタが呼び出したって事は邪龍タラスクね」

「見た目は亀なのに竜とは面妖な…」

 

 

 タラスクの突進をマシュが防ぐ中、向こう側からジャンヌ・オルタの声が聞こえた。

 

 

「この借りは絶対に返してやる……絶対に殺してやるから!!」

 

 

 マシュの光の盾が消えると共にタラスクも消える。

 目の前には既にジャンヌ・オルタ達はいなくなっていた。

 

 

【済まないマスター、ジャンヌ・オルタには逃げられた】

【あ~、ワイバーンを片っ端から召喚して盾にした系?】

【あぁ】

【なら仕方ないさ。こっちに合流してちょ】

【了解した】

 

 

 エミヤからの念話でジャンヌ・オルタ達が完全に撤退した事を知る。ロマンにも確認して貰ったところ、2つのサーヴァント反応が突如として消滅した事からジャンヌ・オルタが令呪を使って転移させ、自身はワイバーンで逃げたとの事。

 目的の対象には逃げられたが、此方に被害は無し。街は守れて敵サーヴァント2体を手中に入れたので文句無しの勝利である。

 エミヤに合流するよう指示して彼がいる街の方を向くと、逃げずに観ていたのであろう街の住民達が大きな歓声を挙げていた。

 

 

「見ろ! 竜の魔女が逃げたぞ!! 彼等が勝ったんだ!!」

 

「ほ、本当に勝っちまった…」

 

「傭兵達が魔女を追い払ってくれたわ!」

 

「うおおおお! 俺達、助かったんだ!」

 

「街は救われた! 彼等は英雄だ!!」

 

 

 歓喜の声が優作達を包む。

 それを受けた彼等の反応は嬉しそうだったり、恥ずかしそうだったりと様々だ。

 

 

【皆、お疲れ様。被害無く、無事に終えれて良かったよ】

「ロマニ、敵は逃げたという事で良いのかしら?」

【はい、所長。ライダーの宝具で出来た隙を使ってジャンヌ・オルタはワイバーンを呼び出し逃走。ライダーとセイバーは令呪に依って転移したようです】

「また攻めて来る可能性は無いわけ?」

【今回の戦闘で大量のワイバーンを召喚していましたし、ライダー達の転移に令呪を切った以上、大分魔力を消耗している筈です。早々には動けないと思います】

「分かったわ。落ち着き次第、また連絡するから」

 

 

 ロマニから労いの通信が入り、オルガマリーは今後の敵の動きを相談する。情報収集を済ませたらラ・シャリテに長居する必要が無くなる。次の街へ移動して新たな情報やはぐれのカウンターサーヴァントを見つけたい。

 

 

「取り敢えずは、街に戻って聞き込み調査の続きをしましょう?」

「せやね。おいちゃんも商会に戻って街の防衛賃を戴くとしましょ」

 

 

 未だに歓声が響き渡るラ・シャリテに戻る優作達。

 そんな彼等を遠くから眺めていた人影が2つ。

 

 

「凄い、凄いわ! まるで英雄譚の一節が目の前で起きたみたい!!」

「結局、僕達が援護する必要無かったね?」

「それにあの女の人が呼び出した天使様も素敵! 天使様を呼び出すなんて、彼女は聖女様なのかしら?」

 

 

 紅のドレスを着た少女が目をキラキラと輝かせ、興奮した様子で優作達の活躍を隣の青年に語る。

 

 

「…それでマリア、彼等に会いに行くのかい?」

「勿論よ!色々お話が聞きたいわ♪ それに…」

 

 

 青年にマリアと呼ばれた少女は華の様に可憐な笑みを浮かべる。

 

 

「私の大事な、大好きなモノを護ってくれたのだもの、お礼も言わなくっちゃ♪」




元ネタ
>クラウス・(フォン)・ラインヘルツ(出典:血界戦線)
内藤泰弘作『ジャンプスクエア』他で連載している漫画『血界戦線』の登場人物。
異界と融合したニューヨーク『ヘルサレムズロット』にて活動する秘密結社『ライブラ』のリーダーにして貴族ラインヘルツ家の三男坊。超人揃いのライブラメンバーの中に於いても更に圧倒的な戦闘力と精神力を以て人界を護っている。
十字架を象ったナックルガードを用い、『滅嶽の血』を武器に転化し破壊、封印する『ブレングリード流血闘術』の使い手。
性格は穏やかで紳士的な良識人だが、巨体に加えて鋭い三白眼と口を閉じても目立つ下顎の犬歯が特徴で、顔が怖い為に勘違いや誤解で損をしている。
ライブラのメンバーを家族同様に大切に思っており、彼らが傷ついたり誘拐などされたりすると、胃に穴が空くほどに酷く思い悩んだり、強烈な怒りを敵にぶつけたりする。

>ブレングリード流血闘術(出典:血界戦線)
『血界戦線』に登場する流派。
クラウスが用いる格闘技であり、ナックルガードをつけた拳打が基本戦術で、更に血で巨大な剣や盾を作り、攻撃や防御に用いる。
血界の眷属を“密封”する事が出来る唯一の技を持ち、『滅獄の血』とも呼ばれている。
能力の性質は不明だが、“燃やしたり凍らせたりするのとは『段階』が違う”とされ、原作にて時間の流れを操る人物からは“時に手をかける”能力と分析されていた。

>39式 血楔防壁陣(ケイルバリケイド)
ブレングリード流血闘術の技の一つ。
複数の血の十字架で壁を作ったり相手を拘束する。

>02式 散弾式連突(シュロートフィッシャー)
ブレングリード流血闘術の技の一つ。
前方に無数の小型の十字架を発射する。

>111式 十字型殲滅槍(クロイツヴェルニクトランツェ)
ブレングリード流血闘術の技の一つ。
巨大な血の十字架を作り出して相手に叩きつける。

>32式 電速(ブリッツウィンディ)刺尖撃(ヒカイトドゥシュテェヒェン)
ブレングリード流血闘術の技の一つ。
十字架型の細剣で串刺しにする。

>999式 久遠棺封縛獄(エーヴィヒカイトゲフェングニス)
ブレングリード流血闘術の技の一つ。
血の十字架によって『血界の眷属(吸血鬼)』を“密封”し無力化・封印を行う。
『血界の眷属』への唯一の対抗手段となっており、発動するには対象の諱名を呼び、対象の“存在”を捉えるプロセスを必要とする

>アレクサンド・アンデルセン(出典:HELLSING)
ヤングキングアワーズで連載されていた平野耕太作の漫画『HELLSING』の登場人物。
ヴァチカンの法王庁特務局第13課、通称『特務機関イスカリオテ』に所属する神父で人間ながら圧倒的な戦闘力を持ち、数々の異名を持つ。
普段は温厚な性格で孤児院に勤めているが、その本性は筋金入りの狂信者であり、反カトリック的な存在には容赦が無い。

>回し打ち(出典:サガフロンティア2)
『サガフロンティア2』に登場する杖を使った派生技。
『振る』+『振る』の組み合わせで発動し、対象に回避不可能の攻撃後、使用者の術攻撃力を上昇させる。

>アサルトダイブ(出典:女神転生シリーズ他)
アトラス作品に登場する物理スキル。
現HP10%を消費しながら敵1体に物理属性の中ダメージを与える。

>エンジェルリング(出典:テイルズシリーズ)
『テイルズシリーズ』に登場する中級魔術。
光属性の輪を展開し、範囲内の敵を中央へと集める。

>ブッシュファイア(出典:サガフロンティア2)
『サガフロンティア2』に登場する樹術。
『樹』+『炎』の組み合わせで発動し、大きな円の範囲内の敵にダメージを与える。

>マハ・ザン(出典:女神転生シリーズ他)
アトラス作品に登場する衝撃属性の魔法スキルで上位互換にマハ・ザンダインがある。
周囲に範囲中の衝撃中ダメージを与える。

>霧氷月影(出典:葛葉ライドウシリーズ)
『葛葉ライドウシリーズ』に登場する槍属性の刀。
ピナーカを錬剣術に拠って強化する事で手に入り、『大いなる吸魔』を特殊能力に持つ。


Q、型月産の吸血鬼を密封出来るの?
A、対象の存在を捉えれれば吸血鬼で無くても密封出来るからモーマンタイ。

Q、優作、カーミラに対して容赦無くね?
A、世間的にカーミラ(エリザベート・バートリー)はTDN猟奇殺人鬼だから彼が容赦する訳が無い。

Q、クーフーリン達の活躍は?
A、グダりそうだったのでカット(無慈悲)

Q、フォウ君はサーヴァント戦に不参加?
A、フォウ君は街に近づくワイバーンの迎撃役として離れた位置で待機してますた。


次回は3月29日投稿。
感想コメント、意見・質問お待ちしております。
活動報告でのアンケートはまだまだ募集してるので是非。


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堕ちた男が決意をし、優作達は新たな出会いをする

休暇が終わってしまった…(絶望)

今回は会話回。
独自解釈注意


「あぁ、イラつくイラつくイラつくっ! 苛立たしい、腹立たしいっ!!」

「おぉ…お労しや、ジャンヌ」

 

 

 ラ・シャリテ近くの平原にて優作達と交戦し、撤退したジャンヌ・オルタは拠点としているオルレアンの居城『監獄城』へと戻ると辺り構わずに当たり散らし、怒り狂っていた。

 そんな彼女の傍にはローブを纏った痩せぎすのギョロ目男が立っており、彼女の剣幕にホロリと涙を流す。

 

 

「あの男にあの天使っ! ワタシの事を解かった様に偉そうな事を言って…あぁ、怒りで腸が煮えくり返りそう!」

「えぇ、えぇ、そうでしょうとも。ですが所詮、匹夫と貴女様を見捨てた者が送った使いの言葉です。そのようなモノは頭の隅に置いておく価値すらありますまい」

「だとしてもこの怒りを如何にかしないと気が済まないわっ! ジル、如何したら良いの!?」

 

 

 ジルと呼ばれた男、嘗てフランス軍の元帥を務め、ジャンヌが処刑された後に絶望から猟奇殺人鬼と化し『青髭』と呼ばれたジル・ド・レェは荒れるジャンヌ・オルタをあやす様に声を掛けるが、そう簡単に怒りが鎮まる筈が無い。

 

 

「あぁ、ジャンヌ。漆黒の意思を宿して復活した麗しき竜の魔女よ。今はその怒りを力にするのです」

「力に…?」

「そうです。竜の魔女として蘇った貴女は怒りと憎しみを力に出来る。その力を憤怒の炎に変えてこのフランスと邪魔立てする者共を焼き尽くすのです」

 

 

 両手を高々と上げながらジルは演説をする様に語り掛ける。

 

 

「焦る必要はありませぬ。ジャンヌが受けた屈辱は怒りの火種となり、貴女が持つ力と謂う名の薪を燃え上がらせて憎む全てを焼き尽くします。その力に依って万物が焼き尽くされる運命である以上、貴女は火種の原因を気にする必要は全く無いのです」

「気にする必要が無い…」

「えぇ、そうです。戯言を宣う塵芥からは火種のみを貰い、それを集める事で力を蓄え、焼き尽くす事だけを考えるのです。あ奴らはそれだけが存在価値。ジャンヌ、貴女を陥れた愚か者共は火種になるだけが生きる価値であり、その過程は貴女が考える必要は無いのです」

 

 

 ジルは未だ荒く呼吸するジャンヌ・オルタの肩に手を置き、慰める様に語り掛ける。荒れていた彼女は彼の言葉を聞く内に落ち着きを取り戻していく。

 

 

「…えぇ。えぇ、そうねジル。ワタシは魔女、奴らの言葉に意味は無く、唯ワタシの力になる為に存在するだけ。ワタシはその力を以って全てを焼き尽くすだけ…」

「その調子ですぞ、ジャンヌ。ですが敵はあの異邦人達だけではありませぬ。未だ抵抗を続けているフランス軍に我々の進軍を邪魔するはぐれサーヴァント達と敵は多いのです。ランサーとアサシンがいなくなった今、力を蓄えながら無策な行動は控える時なのです」

「力を蓄える…」

「そうですとも。ジャンヌは此度の戦いで幾等か消耗してしまいました。だからこそ次の戦に備えてお休みなさい。我々にはとっておき(・・・・・)があるのですから…」

「そうね…そうよ。ワタシはまだ負けていない。()を出せばあんな奴ら烏合の衆に成り果てる…」

 

 

 落ち着きを取り戻したジャンヌ・オルタにジルはニッコリと笑みを浮かべる。

 

 

「さぁ、ジャンヌ。復讐の旅路は始まったばかりですぞ! 旅の始まりから闇雲に力を込めていては終点まで身は持ちませぬ。力を抜き、今は唯々お休みなされ」

「解かったわ。お休みなさい、ジル…」

「お休みなさい、ジャンヌ。良き夢を…」

 

 

 ジルの言葉にジャンヌ・オルタは頷き、自室へと向かう。

 彼女の部屋へ続く扉が閉まるまで、彼は深々と頭を下げ続けていた。

 

 

「……さて、何用ですかな、バーサーク・ライダー?」

「あら、気付いていたのね?」

「これでも嘗ては元帥だった身です。暗殺される可能性を常に気にしていなくては務められませぬ」

「それもそうね」

 

 

 ジルが頭を上げながら彼しかいない筈の空間へと問い掛ける。すると、彼の後ろで霊体状態で立っていたライダーが姿を現した。

 

 

「それで、ご用件は?」

「連中の襲撃を任せて欲しいの。良いかしら?」

「ほう?」

 

 

 ライダーの用件は優作達へ襲撃する為の依頼だった。

 

 

「しかし、あの異邦人のマスターはランサーとアサシンを無力化して捕らえられる程の実力者。勝算はあるのですか?」

「それに関してはワイバーンとモンスターを幾等か貸して欲しいわ。そいつらを率いて深夜頃に夜襲を掛けるつもりよ」

「成程、深夜帯なら幾等かは警戒も緩んでいるでしょう。ですが、周辺に罠を仕掛けている可能性があるのでは?」

「だからこそのワイバーンよ。モンスター達が暴れている間に敵の真上から私が襲撃を仕掛けるわ」

「成程、理が叶っています。ですが、貴女も幾等か消耗しているでしょう? 万全と行かずとも休まれてくだされ。現状、残りは貴女とセイバー、そして監獄城に待機させていたアーチャーと自由行動中のアサシンだけなのですから」

「………」

「今回で多くのワイバーンを損耗してしまいました。補充するにも魔力が必要ですので、今暫くは待ちなされ」

「……分かったわ」

 

 

 ジルの言葉にライダーは頷き、再び霊体化して去って行く。彼女がこの場から完全に去って行った事を確認するとジルは溜息を吐いた。

 

 

「…狂化を掛けているとは云え、流石は聖女。その理性を完全に奪われる事無く抵抗していらっしゃる。此度の襲撃も我々に可能な限り牙を剥きたいからなのでしょうな…」

 

 

 ライダーが去って行った後を睨みながらジルは呟く。

 聖女の意志の強さは自身も痛い程に理解している。イングランドから自国の領土を取り戻す為に聖女(ジャンヌ)と共に駆け巡ったあの日々。彼女の破天荒さに驚き、振り回されながらも戦い続けた。彼女は如何なる時も決して諦めずに鋼の意思の如く進み続けたのだ。

 たかが田舎の村娘な筈なのに、貴族の自分が惹かれてしまうようになった。聖女とはここまで強いのか、気高く美しいのか、と…

 

 

「ですが、我々は…いえ、私は止まる事は出来ない…」

 

 

 国の為に戦い続けた彼女をあっさりと裏切った国。彼女を救う為に尽力したが教会の手が加わっていては如何し様も無かった。国と教会の言葉に流され暴言を垂れ流す民衆達に囲まれて焼かれる彼女の姿を自身は血の涙を零しながら見送るしか出来なかった。

 国の未来の為……彼女を殺した理由を調べて行った内に彼女を犠牲にした理由が明らかになったがそんな事で納得できる筈が無かった。

 

 

「ラ・ピュセル*1は天に召される事無く、地獄に墜とされた。何の罪も犯していないというのに…」

 

 

 国の為なら犠牲にして良いのか?

 

 純粋無垢だった彼女を汚して良かったのか?

 

 国の為に戦った彼女を生贄にして迄、生き残りたいのか?

 

 少女一人救えぬ国に未来など有るのか?

 

 

「…そんな国などいっそ、滅んでしまえば良いっ!」

 

 

 ジルの言葉に荒々しさが混じり、大きな声が零れる。

 

 

「フランスも、世界も、彼女を救わなかった者共は皆、死に絶えてしまえば良いっ!!」

 

 

 怒号に近い声が部屋に響き渡る。

 

 

「私は決して認めぬぞ、彼女を救わなかった世界の未来なんぞ…」

 

 

 嘆き、憎悪、憤怒、あらゆる負の感情を混ぜ合わせた怨嗟の声。自身のこの声をヤツ(・・)が拾ってくれた。どこの馬の骨かも知れぬが、力は確か。ならば利用するまで……たとえ自身が利用されていようとも…

 

 

「私は地獄の深淵へと堕ちる事でしょう、それは構わない。ラ・ピュセルがいる地獄に行くのならそれが本望なのだから。しかし、我らがラ・ピュセルは清き儘でこの地に再び現れた。貴女はまだこのような国を救おうと云うのですか?」

 

 

 一瞬、脳裏に笑顔を自身に向けるジャンヌの姿が映った。あの時の、裏切られる前の彼女が今の自分を見たら何と言うのだろう? “こんな事は止めろ”と叱責するのだろうか? 犠牲になった者達を想い、嘆くのだろうか?

 

 

「あぁ、お許しください聖処女よ。貴女が何を言おうとも私はもう止まれないのです…」

 

 

 窓から見える青い青い空へ、ジルは懺悔する様に呟いた。

 

 

::::::::

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::

 

 

 時間はジャンヌ・オルタがオルレアンへと戻る少し前。

 ラ・シャリテに戻った優作達は住民達から熱い歓迎を受けているところだった。

 今迄、竜の魔女が現れた村や街は如何な抵抗も空しく徹底的に滅ぼされており、その姿を見たら即座に逃げなければ命が無かったのだ。

 そんな連中を撃退したのだから街を救った英雄と称えない筈が無い。

 街の人達に揉みくちゃにされながら優作は商会から街防衛の報酬を貰い、話し合いが出来る場所を求めた。

 そんな訳で優作達は酒場を貸し切り状態にして貰い、一同が集っていた。

 

 

「エミヤん、援護射撃有難うね?」

「なに、ただ狙って矢を射るだけの仕事だ」

「それでもマシュ達に被害が無かったのはエミヤんのお陰さね。後、フォウ君も見張り有難うな?」

フォウキャウ(エミヤ氏のお陰で)キャーウキュ~(ボクの出番は無かったけどね)

 

 

 建物の上から遠距離サポートしてくれたエミヤと同じくラ・シャリテに向かって来るワイバーン迎撃用に残していたフォウに感謝の言葉を告げ、今後の予定を相談する。

 

 

「次の目的地はディジョンで決まりね?」

「ラ・シャリテから近い街が其処らしいしな」

 

 

 街の住民達の話からこのラ・シャリテから近い街はディジョンであるらしい。オルレアンから離れるが取り敢えずは次の目的地を其処にする事にした。

 

 

「結局、この街では新しい情報は得られませんでした…」

「次の場所で期待しましょう?」

 

 

 情報収集でめぼしい情報が得られずしょんぼりするマシュをジャンヌが慰める。ディジョンはこの街より栄えているという、ならば新たな情報を得る事も可能だろう。

 

 

【次の場所ではぐれサーヴァントについて詳しい情報が得られれば良いけどね?】

「それに関しては運に任せる形になるかもしれんけど、行く価値はあるかんね」

「そういえばロマニ、ジャンヌ・オルタに聖杯の反応があったのですって?」

【はい。彼女が率いるサーヴァント達と比較しても彼女からは聖杯の反応が強くありました】

 

 

 移動先で求める情報ははぐれサーヴァントについてが割合が大きいが、聖杯の居場所に関しても調べなければならない。今回の戦闘でカルデアの調査班からジャンヌ・オルタには聖杯の反応が大きくあったと結果が出た。

 

 

「つまりはジャンヌ・オルタが聖杯を持ってるって事でおk?」

「それも考えられるのだけど、第三者が聖杯で願って彼女が生み出された場合、その人物が持っている可能性もあるわ」

「その場合はジャンヌ・オルタの後ろにいる黒幕を調べる必要がありますが、誰なのでしょうか? ジャンヌさんは判りますか?」

「…そうですね、私を魔女とした裁判を不服と思った方々は多くいると思います。ですが、一番に動こうとするのは…」

「ジル・ド・レェ元帥…かしら?」

「…でしょうね」

 

 

 この時代がジャンヌが処刑された後である以上、何者かに因ってジャンヌ・オルタは召喚された事になる。調査の結果から他のサーヴァントと違い、聖杯の反応が高い事から聖杯に依って生み出された可能性が濃厚である。

 となるとジャンヌ処刑を不服とするものか停戦を望まない者に因る事になるが、後者だとフランスだけ荒れてイングランドに動きが無いのはおかしい。となると、前者になるのだがジャンヌは自身を支えてくれたジル・ド・レェを可能性の人物に挙げた。

 

 

【可能性は高いんじゃないかな? ジャンヌが処刑されてから黒魔術に傾倒して『青髭』って後世で恐れられる程、猟奇殺人を起こしたんだし】

「そんな…ジル…どうして…」

 

 

 ダ・ヴィンチの言葉にジャンヌが悲痛な声を漏らす。神の啓示に従って立ち上がったものの、所詮は田舎の村娘。右も左も分からない戦場で、または様々な場所で支えてくれた人物がこの様な惨劇を招いたと信じたくはなかった。

 

 

「まぁ、フランス王家や教会連中に対しての復讐だろうね。一般市民を襲わせてる時点でアウトやけど」

「でも私はそんな復讐など望んでいませんっ!!」

 

 

 優作の予想にジャンヌが否定の声を挙げる。

 そんな彼女に優作は思っていたことを問い掛けた。

 

 

「……ジャンヌちゃんは後悔とか無かった訳?」

「後悔、ですか?」

「恨み云々を抱かないってのは納得は出来なくても理解は出来る。ジャンヌちゃんは敬虔なキリスト信者だし、信仰の果てにある己の役割が囚われた時迄だったと考えているなら理解出来るさね。でも…」

 

 

 一旦、間を置いて優作は再び問い掛けた。

 

 

「家族に会いたいとか、護ったフランスの姿を見たいと思わなかった?」

「それは…」

 

 

 優作の問いにジャンヌは言い淀む。最後が自身の破滅だったとしてもそれを含めて己が選び望んだ人生であり、後悔は無いと思っていた。

 しかし、彼の言葉で家族の顔を思い浮かべた時、その思いは違うと理解する。

 

 

「…そうですね。確かに家族の顔を見たかったですし、別れの言葉を告げれなかった事は後悔しています」

「その後悔の原因はジャンヌちゃんを裏切った連中のせいだよ?」

「だとしても…私は恨みません。フランスと一緒に家族も護れたのだから…後悔はあっても、それだけです」

「そっか」

 

 

 偽り無いジャンヌの言葉に優作は頷く。

 彼女は復讐心を抱いてない。自身より遥かに年下なのに清き意思を通せるその姿に対し、これが聖女なのかと敬意を抱いた。

 

 

【お話し中に悪いのだけど、サーヴァント反応が2つ此処に向かっているよ】

「それって、ジャンヌ・オルタと戦闘中に遠くで見ていた反応と同じ?」

【そうだね。街中に平気でいるって事は敵じゃ無いと思うけど…】

「なら招きましょ。流石にあの戦闘を見て殴り込みを掛けようと思う命知らずはいないっしょ?」

「…アサシンならやりそうだけどな。坊主が捕まえちまったが」

【反応はライダーとキャスターだからその心配はいらないよ。もうそろそろ入って来る】

 

 

 ロマニからサーヴァント反応があるとの通信が入り、彼の言葉が終わるや否や店の扉が開いた。

 

 

「ごめんなさい、お話し中に失礼するけど宜しいかしら?」

「はい、何用で…す……」

「先輩?」

 

 

 入って来たのは紅く派手なドレスを着た少女と黒い服を着た青年。

 人懐っこい笑みを浮かべる彼女に用件を聞こうと優作が席を立ったのだが、彼女の姿を見た途端その目が釘付けになった。

 

 

「あら、そんなにまじまじと見られちゃうと恥ずかしいわ? 私の顔に何か付いていて?」

 

 

 銀糸の様な美しい髪をツインテールにし、オルガマリーと同じくシルクの様に綺麗な肌、幼さを残す可愛らしい顔にぷっくりと瑞々しい唇は綺麗なピンク色。優作がじっと見ている事を不思議そうに首を傾げる仕草も愛らしく嫌味になってない。

 優作のモデルセンサーにクリティカルヒットした瞬間であった。

 

 

「ティン! と来た」

「へ?」

 

 

 ポツリとそう呟くと優作はツカツカと彼女の前まで歩き出し、跪くと彼女の手を掴んで言った。

 

 

「是非とも我々カルデアの専属モデルになって頂けないでしょうか!」

「ちょっと、優作っ!!?」

「先輩!?」

キャウ、キューフォウ(う~ん、これは一目惚れですね)フォ~ウ(間違いない)

 

 

 突然のスカウトに一同が驚く中、スカウトされた彼女は興奮した面持ちで隣の青年に語り掛ける。

 

 

「まぁ、凄いわ! 聞いた、アマデウス? モデルのスカウトよ! しかも専属なんて素敵♪」

「ちゃんと聞いてるよマリア。君ならモデルもしっかり熟せるだろうさ」

「うふふ、嬉しいわ。モデルのお仕事なんて初めてだけど頑張るわ、是非任せて頂戴♪ 私はマリー。アントワネットの方を名乗った方が解かるかしら?」

 

 

 可憐な笑顔で自己紹介するマリーに優作達は目を丸くする。スカウターを外していたから判らなかったのもあるが、まさか目の前の少女がかの有名な『マリー・アントワネット王妃』とは思ってもみなかった。

 更に言うなら優作が受けた衝撃は更に大きかった。教科書等で見た肖像画やマリーが登場する少女漫画『ベルサイユの薔薇』でイメージしていた姿と大きく違っていたのだから…

 

 

「な、ん、だと……?」

「アントワネット!? 貴女はかの有名なマリー・アントワネット王妃なのですか!?」

【フランス王家の象徴とこんな所で出会えるなんて! そんな彼女をスカウトしてOKを貰える優作君も凄いけど…】

キャーウ、キュウフォウ(う~ん、サーヴァントは全盛期の姿で)フォーウキャウ(召喚される筈なんだけど、)キュ~ウフォウ(胸が全盛期じゃないぞぅ)*2

 

 

 マシュやロマニも驚く中、優作はマリーの隣に立つ青年へと視線を向ける。王妃である彼女に付いている彼は一体何者なのか…?

 

 

「それで…隣の方は? アマデウスと聞こえたけどもしかして…」

「君がどのアマデウスを知っているのかは判らないけど、僕はヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。魔術を少し齧っていた音楽家だよ」

「も、モーツァルト…? あ、あの『俺の尻を舐めろ』を作曲したあの…?」

「うん、そのモーツァルトだよ。良く知ってるね?」

 

 

 優作、本日3度目の衝撃。音楽室に必ず肖像画が飾られているであろう有名な音楽家本人が目の前にいる。掴んでいたマリーの手を放し、アマデウスの傍へと赴くと彼の肩に手を置いた。

 

 

「カルデアで専属の音楽家として働きませんか!? 音楽云々についても色々お話が聞きたいし、好待遇をお約束しますよ?」

「おぉう…まさか僕もスカウトされるなんて思わなかったよ…。マリアが了承したし、僕も構わないよ」

「マジすか!? キャッホーイッ♪ 王妃様と伝説の音楽家に出会えた上に仲間に出来るなんて今日は最高や! ヤフー!!」

 

 

 マリーとアマデウスからカルデアに来る事を約束され、優作は歓喜で飛び跳ねる。

 

 

「こんなに喜んでくれるなんて…、こうも喜ばれると私も嬉しくなっちゃう♪」

「ははは、僕も有名人になったものだな。ところでマリア、そろそろ本題に入らないかい?」

「あらいけない。私ったらうっかりね! ちょっと宜しくて、不思議な騎士様?」

 

 

 嬉しさの余りブレイクダンスを始めていた優作にマリーが声を掛ける。

 

 

「いやはや、申し訳ありません。余りの嬉しさでフィーバーしとりました…」

「うふふ、気にしないで? そんなに喜んでくれてこちらも嬉しいもの」

「それで、此度我々に会いに来てくださった理由は?」

「そうね、先ずはお礼を言わせて頂戴? 私の愛した国の人々を守ってくれたのだもの、この街と砦の人々を!」

 

 

 フィーバー状態から戻った優作の問いにマリーはニコニコしながら彼等へ感謝の言葉を捧げてくれた。

 

 

「? 砦の事を知っているのですか?」

「えぇ、知っているわ。私達はマスターがいないサーヴァント、呼ばれてからふらふらと彷徨っていて砦へと辿り着いたの。そこの兵隊さん達に話を聞いてみたら、商人なのに御伽噺の勇者の様に竜を倒していったと言うじゃない。行き先がこの街だと聞いたから追ってみたら、貴方達はまた街を守る為に戦っていたわ」

「援護するつもりだったのだけど、その必要も無かったからね。落ち着いたところでこうして来た訳さ」

 

 

 王妃からの感謝の言葉に驚きながら問い掛けるオルガマリーに答えるマリーとアマデウス。

 

 

「とても凄かったわ。まるで勇者の英雄譚、沢山の竜を率いた魔女に恐れる事無く立ち向かい、追い払ったのだもの!」

「有難う御座います。えぇと…私の名前はオルガマリー・アムニスフィア。一応、この此処の責任者とマスターをしてます」

「おいち…コホン、自分は十 優作。言うなら特攻隊長兼マスターって感じです」

「私はマシュ・キリエライトです。デミ・サーヴァントで先輩をマスターにしています」

「クーフーリン、そこの坊主がマスターだ」

「私は佐々木 小次郎。隣の槍使いと同じく彼をマスターにしている」

「エミヤだ。マスターは右に同じく」

「…ジャンヌ・ダルクです。竜の魔女とは別に召喚された身で、オルガマリーさんをマスターにしています」

 

 

 今迄の優作達の戦いに感動しているマリーへと自己紹介していくカルデアメンバー達。最後にジャンヌが自己紹介するが、マリーが嬉しそうに彼女へ駆け寄った。

 

 

「まぁ! 貴女がそうなのね? オルレアンを、フランスを救い戦った旗の聖女、ジャンヌ・ダルク!」

「…私は最早聖女ではありません。今此処にいるのは、唯の田舎娘であるジャンヌです」

 

 

 そんな彼女にジャンヌは少し悲しそうに首を横に振る。しかし、マリーは気にする様子無くニコニコ笑顔で問い掛ける。

 

 

「あらあら、だから鎧を纏っていないのね? でもその衣装も素敵だわ。そうだ! 聖女でないのなら、ジャンヌと呼んで構わないかしら?」

「え? は、はい、構いませんけど…」

「有難う、ジャンヌ♪ 私の事もマリーと呼んで頂戴!」

「ふぇ!? い、いや…そんな恐れ多いですよ、マリー王妃っ!!」

「もう、王妃なんて付けちゃ駄目よ? マリーよ? マ・リー?」

「あ、あの…せめて“マリーさん(・・・・・)”で許してください…」

「マリーさん? まぁ、素敵♪ そんな風に呼ばれた事は今迄無いから新鮮だわ!」

 

 

 呼び方で呼び捨てして欲しいが恐れ多くて出来ないと一悶着あったが、ジャンヌの“マリーさん”呼びに満足するマリー。他の面々にもそう呼んで欲しいと願う中、優作が手を挙げる。

 

 

「あ~、申し訳ないんですがね。自分はオルガマリーをマリー呼びしてるからややこしくなるんですよ」

「あらそうなの? なら彼女はマリー、私はマリーさんで良いのよ?」

「いやいや、流石にこの先戦闘時なんかに勘違いする事が有ったら拙いですよ。ですので“姫さん”で勘弁してくれませんか?」

「姫さん……?」

「あ~、やっぱ拙かった…すか?」

 

 

 優作の“姫さん”呼びにきょとんとするマリー。流石に不敬だったかと内心冷や汗をかく優作であったが、彼女の顔が咲き誇る花の様に綻んだ。

 

 

「姫さん…、いいえ、良いわその呼び方! だって姫と付いているのにとっても親しみ易い響きだもの! 姫さん、うふふ、素敵な呼び方を有難う、ユーサク♪」

 

 

 クルクルと踊る様に回りながら喜ぶマリーの姿に優作は安堵する。王妃なのにとても人懐っこく、惹かれてしまう程に親しみ易い女性だ。しかし、だからこそ国民に愛されたのであろうと納得する。

 

 

(こういった娘を本当のアイドルというのだろうな…)

「それじゃあ、仲間になってくれるという事なので姫さんとアマさんはマリーと契約してくださいな?」

「僕の呼び方はアマさんかい? 呼びやすいから構わないけどね」

「良いじゃない、アマデウス? 貴方の呼ばれ方も親しみ易いわ」

 

 

 マリーとアマデウスがオルガマリーと契約した事に依り、彼女の契約サーヴァントがジャンヌを合わせて3名となった。3名とも本来は戦闘向きではないが、優作の力を加えればバランスが整ったチームになれるだろう。

 

 

「宜しくお願いするわね、素敵な天使使いさん? 砦の人達からお話を聞いた時、聖女様かと思ったわ」

「そ、そんな…私が聖女なんて烏滸がましいですよ…」

 

 

 契約を結んでマスターとなるオルガマリーへとマリーが微笑む。そんな彼女達の会話を聞いて優作がある案を思い浮かべるのだが、それはまた別の話。

 

 

「私達、お礼もあるのだけど貴方方の御話が聞きたくて会いに来たの。このフランスまで旅してきたのでしょう?」

「え? あぁ…その、私達は実は…「説明しよう!」……っ優作!?」

 

 

 マリーの質問になんて説明しようかと言葉を選ぶオルガマリーだったが、唐突に優作が口を挟んできた。

 

 

「実は行商人とは仮の姿! そしてその実態は…」

「そ、その実態は…!?」

 

 

 優作のやたら芝居がかった発言に一同が唖然とする中、唯一マリーが息を呑みながらも尋ねる。

 

 

「時代のピンチに其の姿有り! 時間(とき)を駆け巡って、悪を裁く! 人理保証機関、カルデアたぁ、我々の事よっ!!」

 

 

 声高らかにポーズを決める優作。これが漫画ならオノマトペが「ババーン!!」とでっかく描かれているだろう。

 そんな彼に一同は未だに呆気に取とられている中……

 

 

「…素敵!!」

《はぁ!?》

「マリア!?」

 

 

 目を輝かせながらそんな感想を零すマリーに他のメンバーが同時に声を挙げる。

 

 

「なんて素敵な自己紹介かしらっ! まるで演劇か御伽噺に出て来る様な勇ましく優雅な挨拶だわ!!」

 

 

 挙句には拍手までするマリーの姿に一同は王妃の意外な好みを知ったのだった。

 何はともあれ、今後の目的も決まり、新たな仲間が加わった。

 優作達は次の目的地、ディジョンへとチョコボを奔らせる。

*1
フランス語で『乙女』や『使用人』を意味する単語でジャンヌ・ダルクの異称の1つ

*2
アントワネット王妃のバストは残されたドレスを調べたところ、当時の女性では珍しくボインであったらしい




元ネタ
>ティンときた(出典:アイドルマスター)
ナムコ(現・バンダイナムコ)の育成ゲーム『アイドルマスター』にて登場する台詞。
アイドルマスターのデモ画面にて765プロの高木社長が発言する台詞で本来は「ほう、何と良い面構えだ。ピーンときた! 君の様な人材を求めていたんだ!」と発言しているのだが、如何来ても「ピーン」が「ティン」としか聞こえない為に「ティンときた」と扱われており、公式でもそう扱われる様になった。


Q、ジルがなんかしっかりしてる…
A、独自解釈の結果こうなりまんた。


次回は4月5日投稿。
感想コメント、意見・質問お待ちしております。
まだまだ活動報告にてアンケートを行っていますので宜しく。


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キャンプに会話イベントはRPGの醍醐味

前回の投稿で日刊ランキングに再び本作が載る事が出来ました(尚、一瞬にして消滅した模様)
読者様及びお気に入り、高評価してくださった方々に感謝感謝!!

賛否両論ありそうな問答があるので注意。

後、今回はお風呂シーンがあるぞ! 喜べっ!!


「凄い、凄い! この鳥さん達、馬よりもずっと早いわっ!」

 

 

 次の目的地であるディジョンへ向け、ラ・シャリテを出発した優作達。

 優作がチョコボを操っている御者台の隣でマリーが目を輝かせながら大はしゃぎしている。

 

 

「喜んで戴き、なにより。今回は時代が時代やから荷車曳かせて走らせてるけど、緊急時はお空の旅になりますのでその時をお楽しみに」

「まぁ! お空も飛べちゃうの? 素敵♪ 今度お空に連れてってくれるかしら?」

「えぇ、喜んで」

 

 

 新たにマリーとアマデウスを乗せてチョコボ馬車は進む。荷台の中が若干広くなった気がするが、多分乗客が増えるごとに広くなるのか、優作が広げたのだろう。

 

 

「本当、魔法みたい! ねぇ、ユーサク。私、もっと貴方やカルデアの人達の事を知りたいわ! それに貴方の作ったいろんなお洋服も見てみたいの!!」

「あはは、姫さんにお願いされちゃあ、断れないっすね。まぁ、そろそろ夕暮れ近いので積もる話はキャンプを準備して休める様にしてからって事で宜しいでしょうか?」

「分かったわ。キャンプも初めてだからとっても楽しみ♪」

 

 

:::::

 

 

「此処をキャンプ地とする」

 

 

 夕暮れ時。ディジョン迄は後少しだがジャンヌ・オルタ陣営の襲撃を考え、少し離れた場所にてキャンプを行う事にした。

 幌付き荷台から面々が降り、優作は指をスナップさせるとテントが2つあっという間に張られていく。

 因みに到着時に優作が放った台詞に反応出来たのはエミヤだけだった。

 

 

「おっしゃー。テントは右が男性陣、左が女性陣やから間違えないでな?」

「あ、あの…男女分けてもこのテントには入りきらないのでは…?」

「ホントにそうかは入ってのお楽しみ~♪ 部屋確認したら晩御飯食べるから、出てきてね」

 

 

 どう見ても2人用程のサイズしかないテントなのでジャンヌが困った表情をしているが、オルガマリーとマシュが気にする事無く入って行き、優作も中を見る様に促すのでおずおずと女子用テントへ入って行く。

 

 

 すると…

 

 

「はぇ…? ふぇ!? え、ええぇぇええええっ!!!?」

「まぁっ、凄い、凄いわ! すっごい広くて素敵!! 外で見たテントはあんなに小さかったのに不思議だわ~♪」

 

 

 カーテン式の入口を抜けると、目の前には洒落たロッジの屋内の様な景観が広がっていた。内装は木製で中央にはテーブルとイスが鎮座しており、その周りを個室やバスルーム等へ繋がる扉が並んでいた。

 想像等していなかった光景にジャンヌは驚きの余り大きな声を上げ、マリーは目を輝かせながら再びはしゃぎだす。

 

 

「これも先輩の魔法なのでしょうか?」

「こうも空間拡張を扱えるなんて凄い術式ね…それに」

 

 

 部屋を見まわりながら零すマシュの言葉にオルガマリーは改めて優作の規格外さに溜息を吐く。

 個室に続く扉の横には各自用の衣装箪笥が置かれていた。箪笥の上にはペンと記入用の用紙があり、

 

“名前を記入するとその者のサイズに合った寝間着等が用意されます”

 

“カルデアに登録された住人の場合は必要な衣服がマイルームから送られます”

 

 と書かれていた。

 

 

「契約魔術を応用したモノだろうけど、ちょっと怖いわね…」

「あはは…」

 

 

 名前を書くだけでサイズを合った衣服が用意されるという乙女としては少し恥ずかしい機能にマシュも苦笑いしている。

 

 

 女性メンバーがテントから出て来ると男性陣は既に夕食の準備を始めていた。

 優作が一口大にカットした野菜を薄い衣で包んで油で揚げており、エミヤは塩で包まれた大きな魚を竈に入れ、クーフーリンが肉や野菜が刺さった串をバーベキューコンロで転がしている。

 尚、クーフーリンは調理しながら片手に持ったビール缶を煽っており、小次郎とアマデウスは用意された椅子に座って酒を酌み交わしながら、焚火の上に吊るされた鍋を時々混ぜていた。

 

 

「おかえり~、部屋の確認は終わった?」

「は、はい。その…とんでもないテントですね…?」

「なはは、中は快適で便利やろ?」

 

 

 上手い感想を返せないジャンヌに優作は笑う。

 

 

「それじゃあエミヤん、後は任せるね?」

「あぁ、任された」

 

 

 調理の手を止めた優作は後の作業をエミヤに任せて少し離れた場所へと歩いていく。

 

 

「何かするんですか?」

「する事はただ一つ」

 

 

 後を付いて来たマシュの問いに優作は懐から赤い十字架を一つ取り出した。

 

 

「新たな戦力のスカウトさね。メディ姉、出番っさ」

【了解よ】

 

 

 優作の言葉と共にメディアがカルデアから召喚される。彼女の手には稲妻の様な形をした短刀が握られていた。

 クラウスの服に切り替えた優作は十字架を置いて新たに青い薬が入った瓶を取り出した。

 

 

「密封解除と同時にこの『デスペルの薬』を掛けて、か~ら~の~」

「任せなさい、破戒せる全ての符(ルールブレイカー)!!」

 

 

 十字架が赤い光を放ちだし、輝きの中から人影が現れる。その人影に向けて優作が瓶の中の薬を掛け、メディアは胸元へ短刀を突き刺した。

 

 

「ぐ……ぬぅ…」

 

 

 密封状態から解放された貴族服の男、ヴラド三世は暫く意識が混濁していたが、次第に視界もハッキリしその目に優作達の姿が映った。

 

 

「目覚めた気分は如何ですか?」

「…最悪、だな」

「でしょうね、密封されていた訳ですし」

「だが、それをされるだけの事をしてきた。関係の無い国の、何の罪も無い民をこの手で…」

 

 

 己の掌を眺めながらブラド3世は自嘲気味に呟く。

 彼の目には自身の手が血で汚れて見えるのだろう。

 

 

「…して、封じていた我を解放した理由は?」

「単刀直入に言います、我々カルデアにそのお力を御貸し頂きたいのです」

 

 

 顔を俯けたまま尋ねるブラド三世にオルガマリーが前に出て願い出る。

 

 

「それを見越しての契約と狂化の解除か?」

「そうですね。後、協力してくださるならばスキルとして埋め込まれている吸血鬼の解除も行います」

「何!?」

 

 

 オルガマリーの言葉に目を大きく見開きながら顔を挙げるブラド三世。彼の逸話は吸血鬼のモデルとなり、召喚された彼はその怪物性を埋め込まれている。

 望まぬスキルを与えられている彼にとってスキル解除の提案は堪らなく欲するモノだった。

 

 

「我々には戦力が必要なのです。戦場はこのフランスだけでないのだから…」

「如何云う事だ?」

 

 

 オルガマリー達はフランスに来た目的を話す。

 

 

「…そうか、この国だけでなく世界が焼かれたのか」

「はい。そして、その炎は貴殿の祖国も含めて焼き尽くしました」

「…成程、成程な。ならば此処で俯いたままではいられぬな」

「! では…」

「護ったワラキアの未来を奪われる訳にはいかぬ。我が槍、汝達に預けよう」

「あ、有難う御座います!!」

 

 

 仲間になる事の了承をブラド三世から貰い、頭を下げながら感謝の言葉を告げるオルガマリー。そんな彼女に続き、優作とマシュも頭を下げて感謝の述べる。

 こうしてヴラド三世はオルガマリーの新たなサーヴァントとして契約を行った。

 因みに彼に付いていた吸血鬼スキルは優作の用意した聖水によって完全消滅したのだった。

 

 

:::::

 

 

「はふぅ~、気持ち良いです…」

「まさか、キャンプなのにお風呂に入れるなんて…」

 

 

 大理石で出来た大きな湯舟に浸かり、マシュが心地良さそうな声を漏らす。湯舟はテント内に入れる10人が全員浸かれる大きさであり、バスルームと云うよりは最早浴場と言って差し支えなかった。

 夕食後、女性メンバーはテント内のバスルームにて今日一日の疲れを癒していた。

 

 

「うふふ、お風呂も素敵ね。でもお夕食もとっても美味しくて素敵だったわ、ヴィヴ・ラ・ディネ♪」

「そうですね、とても美味しかったです」

 

 

 湯舟の横で洗いっこしているマリーとジャンヌ。

 因みにバスルームにメディアはいない。ブラド三世とジャンヌ・オルタの間で結ばれていた契約を解除し、夕食を食べたらそのままカルデアへと帰っていった。なんでもマイルームにてやる事があるとか。

 野外での食事は冬木でもあったが、テントを張ったアウトドア形式のものは初めてであったし、優作達の用意した料理は何れも絶品であった(マシュとオルガマリーは解かっていた事だが)。

 

 

 軽い衣がサクサクの野菜フリット

 

 見ていて楽しい魚の塩釜焼

 

 スパイスを効かせた挽肉が食欲を進ませるシシカバブ

 

 山と海の希少な幸が詰まった山海珍味スープ

 

 食後に紅茶と共に出されたレモンパイ

 

 

 新たに加わったジャンヌ、マリーとアマデウス、そしてブラド三世の歓迎を兼ねて酒も多めに出された夕食は皆が大満足した。

 

 

「明日も忙しいわ。ジャンヌ・オルタを追い返したとはいえ、何時反撃に出られるか分からないし、上がったらもう休みましょう?」

「そうですね、でも見張りは本当に良かったのでしょうか…」

「気にするだけ無駄よ。優作はそう云った対策は徹底してるし、心配要らないわ」

「あれだけの使い魔を見張りにして罠を張り巡らせていますから問題無いと思いますよ?」

 

 

 ジャンヌの心配そうな言葉に短い間ながらも優作の行動を理解しつつあるオルガマリーとマシュは問題無いと言ってのける。

 敵はジャンヌ・オルタ陣営だけでなく、野盗やコボルトといったモンスターもいる為に誰か見張りに立たないといけないのではないのかとジャンヌは考えていたのだが、優作は問題無いと言って懐から何冊もの本を取り出して使い魔の軍勢を召喚してのけた。

 

 

 毒矢を操り集団で得物を狩る『ナイトクラン』

 

 倒されても宿った魂が諦めない限り甦る『ボーンナイト』

 

 離れた位置から一撃必殺の矢を放つ『ボーンスナイパー』

 

 闇に堕ち、殺戮の戦士となった『ダークナイト』

 

 羽で素早く飛び回りながら矢を放つ『エンジェル』

 

 

 負の雰囲気を醸すモンスター達の中でエンジェルだけが場違いな感じを受けるが、それぞれの軍勢が優作の前に綺麗に並んでいた。

 使い魔達は優作の指示でキャンプ地周辺と上空の警備を任され、周囲に散って行った。その後、駄目押しとばかりに転移や霊体で侵入出来ない罠やら警報装置をしこたま仕掛け、一晩過ごすだけの為には過剰極まりない防衛構築をした彼は笑顔で「これで皆休めるね?」と言ったのだった。

 

 

「ユーサクの使い魔さん達は凄かったけど、お洋服はとっても素敵だったわ♪」

 

 

 身体の泡を流して、湯舟に浸かりながらマリーが笑顔で新たな話題を挙げる。

 新しく加入したメンバーにも当然、優作は衣装の力を与えた。

 

 

 マリーには心の怪盗団メンバー『ノワール』こと『奥村 春』の服

 

 アマデウスにはアクアヴェイル公国・シデン領当主の三男坊『ジョニー・シデン』の服

 

 ヴラド三世にはフィガロ王国の国王『エドガー・ロニ・フィガロ』の服

 

 

 インストール後、マリーはペルソナの『ミラディ』とクルクルと踊り出し、アマデウスは基本装備であるリュートの調子を確認しながら彼女に合わせて演奏を初め、ヴラド三世は機械を取り出して細かい使い方を確認していた。

 

 寛ぎながら談笑を楽しんでいた面々だったが、ふとジャンヌがマシュの表情が暗くなっていた事に気付く。

 

 

「マシュさん、どうかしましたか?」

「あぁ、済みません。ラ・シャリテでの戦いの前に先輩が言っていた事を思い出してしまって」

「もう一人の私の復讐を肯定した事ですか?」

「はい」

 

 

 ジャンヌの言葉にマシュは頷く。

 ジャンヌ・オルタ達と遭遇時、優作は彼女の復讐を肯定した。彼女の様にフランス全てに復讐すべきでないと言ったが、マシュは彼が復讐自体は肯定している事が気になっていた。

 

 

「気になるなら後で会いに行きませんか? 私も気になっていたので」

「そうですね、お風呂から上がったら会いに行きましょう」

 

 

 何かあったら尋ねて来いと優作自身にも言われていたので丁度良い機会だと、マシュはジャンヌの提案に頷く。

 

 

「そういえばマシュ、聞きたい事があるのだけど?」

「何ですか所長?」

 

 

 ふとある事を思い出したオルガマリーがマシュに問い掛ける。

 

 

「此処にレイシフトした時に貴女が言ってたオーバーワールドって何かしら?」

「あぁ、先輩がデートに誘ってくれてその時に連れて行って貰ったば……所長?」

 

 

 マシュの言葉は最後まで続かなかった。

 オルガマリーがマシュへ迫り、顔をずいっと近づけてきたからだ。

 その顔は笑顔なのに何故か怖い。

 

 

「ふ~ん……その話、詳しく教えてくれないかしら?」

「は、はひ…」

 

 

 笑顔とは嘗て威圧する為に使われていたらしい。

 オルガマリーの問いにマシュは唯々答えるしかなかった。

 

 

:::::

 

 

 月が夜空で輝き、皆がテントに入り寝静まる頃。

 虫の声位しか聞こえぬ静かな森の中にて優作はフォウを連れて一人立っていた。着ている衣装はライドウの服になっており、懐から10本を超える封魔管を取り出した。

 

 

「さ~てっと…来い!」

 

 

 優作が取り出した全ての封魔管が浮かび上がり、緑の閃光を放っていく。光が消える頃には何体もの天使達が彼の前に浮かんでいた。

 キリスト教の天使であり、オルガマリーも呼んでいたアークエンジェルを初め『ヴァーチャー』や『プリンシパリティ』、ユダヤ教天使の『ウリエル』や『ガブリエル』といった有名な天使達が勢揃いしている。

 此処に教会関係者がいれば失禁・気絶しかねない光景だった。

 

 

フォ~、フォ~ウ(ヴォ~、すっげ)…」

「お呼びですかサマナー?」

 

 

 フォウが感嘆の鳴き声を上げる中、鈍い輝きを放つ、鋼の肉体を持った大天使『メタトロン』が天使達を代表して優作へ挨拶する。

 

 

「現在フランスが竜と狂わされた英雄達を操る魔女に因って侵略されている。無事な村や街へ散開し、襲撃の阻止、難民の保護をして欲しい」

「分かりました」

「では行けっ!!」

 

 

 優作の指示で飛び立っていく天使達。

 夜空に写っていた影達が見えなくなる迄見送っていた優作の後ろから声が掛けられた。

 

 

「先輩…」

「マシュ…とジャンヌちゃんか、眠れないんか?」

「えっと…それもあるのですが…」

 

 

 声の正体はマシュであった。

 彼女の隣にはジャンヌも立っていたので優作は内心冷や汗を掻いていた。もう少し早く彼女達がこの場に来ていたら天使達の姿を見てジャンヌは失神していただろう。

 マシュは何か思い詰めた様な表情であり、軽く話をする雰囲気で無い。

 

 

「まぁ、座って」

 

 

 そう言って優作は椅子とテーブルを用意する。マシュとジャンヌの2人を椅子に座らせるとホカホカと湯気が立つマグカップが彼女達の前に出される。ふぅふぅと冷ましながら飲んでみると、その正体は蜂蜜を混ぜたホットミルクだった。

 

 

「美味しい?」

「はい、とっても落ち着きます」

「優作さんは何をしていたのですか?」

「ちょっち、月見をしようかとね。それで、おいちゃんに話があるのかな?」

「はい…ラ・シャリテで先輩は復讐を肯定していたので」

「な~る」

 

 

 ジャンヌの質問を誤魔化しながら自身も椅子に座り、マシュに尋ねるとジャンヌ・オルタとの戦いにて優作が彼女の復讐に対して肯定した事が気になっていた事を知る。

 

 

「マシュは復讐否定派かな?」

「はい、復讐の先にあるのは新たな復讐です。そうなれば復讐は連鎖し続けます」

「そうだね。復讐モノの作品でもよくある展開だし、大体の人ならそう考える。おいちゃんもその考えは否定はしないさね」

「? それでは何故あの時に肯定の言葉をもう一人の私に告げたのですか?」

「今回、オルタの言葉を肯定したのはちょっと特殊(・・)さね」

「特殊…ですか?」

「その事についても話すけんど、マシュの質問に答えたいから先ずはおいちゃんの復讐に対する考えを聞いて欲しい。良いかな?」

 

 

 復讐を肯定しながらマシュの否定する思いにも同意する優作にジャンヌが疑問を投げかけるが、彼から更なる意味深な言葉が出る。しかし、先ずは復讐を肯定する理由を答えたいと謂う優作の言葉にマシュとジャンヌの2人は頷く。

 

 

「復讐を行う事に対して意見を言いたいなら“被害者側の立場”に実際ならない限り、口出しする権利は無いとおいちゃんは考えてるんよ」

「“被害者側の立場”ですか」

「だって、何もされていない他者が被害者の思いを理解するなんて不可能っしょ? 被害者が相手を“許す”のか、それとも“許さない”で復讐するのかは結局本人次第だしね。でもマシュが言った通り、復讐先からまた復讐される可能性を、復讐した先に何が起こるかを理解した上でやるべきだとは思うさね」

「でも先輩、それでは終わりがありません」

「せやね。まぁ、それでも相手を許す事が出来ない場合が絶対にあると思うんよ?」

「許す事が出来ない場合?」

「例えるなら…マシュやジャンヌちゃんにとって大事な人が殺されたとしようか?」

 

 

 優作は復讐に対する持論を述べつつ、2人に例を挙げる。

 

 

「家族や知人、まぁ大事な人を殺されてしまった」

 

「犯人は捕まり、理由を聞いた」

 

「すると犯人はこう言った」

 

「“理由なんて無い”、と」

 

 

「「…え?」」

 

 

 優作の言葉に2人は呆けた様な言葉しか零せなかった。理由が無いのに殺人を犯す、そんな事があるのか? と頭が理解出来ていなかった。

 

 

「苛立っていたから殺した」

 

「目に入ったから殺した」

 

「殺せるなら誰でも良かった」

 

「死刑にして欲しいから殺した」

 

「そんな理由で人を殺しておいて、おいちゃんの時代でも大量殺人犯でも無い限り、実行犯に死刑が言い渡される事は無い」

 

「大事な人は死んでいるのに殺した本人は何時かは釈放されてのうのうと生きる…そんな理不尽な状況になった時、その相手を“許す”事は出来る? おいちゃんには無理だよ」

 

 

 優作の問い掛けにマシュとジャンヌは答えられない。

 彼の例え話は余りにも理不尽で救いが無かった。

 

 

「まぁ、話したのは極端な例だけどね? 運が良い事においちゃんはそんなケースに遭遇してないけんど」

「…優作さんの時代ではそんな事が起きてるのですか?」

「起きてるよ。それも何人どころか十数人をも平気で殺すケースだってある」

「そんな…」

 

 

 実際起きた事件のケースを優作から聞き、ジャンヌは口を押え、マシュに至っては言葉を無くしている様だった。

 

 

「…復讐に関したおいちゃんの考えはこんなもんやね。話を変えて、ジャンヌ・オルタの件が特殊だと言った事を話そうか?」

「…そうですね、お願いします」

 

 

 新たな話題をして良いか問い掛ける優作。

 顔色が優れない様子で頷く2人に例えが悪かったかと優作は内心後悔していた。 

 

 

「おいちゃんが特殊と言ったのはジャンヌ・オルタ達を撃退した後にジャンヌちゃんが復讐心を抱いていないと聞いたからさね」

「私ですか?」

「ジャンヌちゃんが処刑されて抱いた感情は第3者視点から考えた結果での事柄でしか理解出来ない立場だかんね。だから最初はジャンヌ・オルタの言葉は本心かと思ってた」

「でもラ・シャリテでジャンヌさんが恨んでいないと言った事でオルタの発言はおかしいと先輩は思った訳ですね?」

「そう。更においちゃんがジャンヌ・オルタに問い掛けた時の反応に違和感を感じたべ」

「反応?」

 

 

 フランス全てに復讐すると言ったジャンヌ・オルタに優作は“家族や親しい者達も裏切ったのか?”と問い掛けたが、その時彼女は答える事無く頭を抱えて黙りこくってしまった。

 

 

「あの時の反応はおいちゃん的に思い出そうと必死になってる様に見えた。ジャンヌちゃんは家族の顔をすぐさま思い出せるっしょ?」

「当然です、忘れた事などありません」

「仮説になるけど、ジャンヌ・オルタは生前の記憶を持っていないんじゃないかと思うんよ」

「それは…私がサーヴァントの記憶が無い様にもう一人の私も何か異常があるという事ですか?」

「その可能性も無きにしもあらずやけど、ラ・シャリテでおいちゃん達が“今回の黒幕が誰なのか?”と話したやん?」

「可能性の高い人物はジル・ド・レェ元帥でした」

「彼が聖杯でジャンヌ・オルタを生み出した場合、色々と推理出来るんよ」

 

 

 優作が推理した内容はこうだ、

 

・ジャンヌ・オルタはジル・ド・レェが生み出したジャンヌと姿形が同じだけの全く新しい存在である。

 

・ジャンヌ・オルタが持つ憎悪と云った感情はジル・ド・レェ本人が抱いた感情そのままである。

 

・ジル・ド・レェが生み出した存在なのでジャンヌ本人の記憶や想いを持っていない。

 

 

「ジル・ド・レェ自身は親しかったジャンヌちゃんを処刑し、見殺しにしたフランス全てを憎んでいてもおかしくない。その感情がまんまコピペされたんやと思う」

「先輩、それではジャンヌ・オルタの正体は…」

「ジル・ド・レェに生み出されたジャンヌちゃんクリソツの人形、レプリカってとこさね」

「そんな…」

「答え合わせは本人達に聞かんと分からないけどね?」

 

 

 ジャンヌ・オルタの正体の予想に息を呑むジャンヌとマシュ。もし、この予想が本当ならば、ジャンヌ・オルタ本人は自身の正体を解かっているのだろうか? もし知らないのならば彼女は…

 

 

「止め止め。これ以上考えても仕方ないし、復讐とか暗い話で気分も暗くなるばかりだべ。全く、こういう空気はおいちゃん嫌いじゃ」

 

 

 空気が重くなる中、優作が話を打ち切る。

 本気で嫌な顔をしている事から嫌いなのだろう。

 

 

「ったく、りっちゃん(・・・・・)みたいな性格の人ばっかだったら世界も平和になるだろうに、世知辛いね」

「りっちゃん?」

「おいちゃんの後輩ちゃんさね、ほれ」

 

 

 優作がポケットからスマホを取り出してマシュ達に画面を見せる。画面には橙色の髪をサイドテールにした女の子が優作とポーズを取りながら写っていた。

 

 

「この人が先輩の後輩…」

「名前は立香。コミュ力の化身って感じでさ、誰とでも仲良くなれる凄い娘なんよ」

「誰とでも、ですか?」

「人間誰しも“この人とは合わない”っていった感じの人がいるっしょ? でもりっちゃんはそんな事、気にしないで誰とでも関わって仲良くなれる」

「凄い人なんですね?」

「そ、この事件が解決したら是非紹介したいさね。マシュ達と良い友達になってくれるさ」

 

 

 画面をスライドして次々と撮影画像を見ていく。どの画像に写っている彼女も笑顔で写っており、周りの人達も笑みを浮かべている。彼女の笑顔を見ているだけでこちらも心が明るくなりそうだ。

 暫く撮影画像を眺めていたところ、新たな客が現れた。

 

 

「今晩は、ユーサク。お邪魔だったかしら?」

「おや、姫さん。姫さんも眠れないん?」

「ふふ、お星さまを見ようと外に出たら声が聞こえたものだから来ちゃったの」

 

 

 現れたのはマリーで愛らしい笑顔を浮かべている。

 優作はもう一つ椅子を用意して彼女に座る様、促した。

 

 

「マシュ達は何を見ていたのかしら? 私、とっても気になるわ!」

「優作さんの後輩である立香さんを見せて貰っていました」

「ユーサクの後輩?」

 

 

 マシュからスマホを受け取り、画像を眺めるマリー。

 

 

「まぁ、可愛い。この娘がユーサクの後輩なのね?」

「せやで、姫さんみたいに明るく元気な娘さね」

「そうなの? なら何時か会いたいわ!」

「姫さんと気が合うだろうから、きっとマブダチになれるさな」

「うふふ。また友達が増えるのね、嬉しいわ♪ ねぇ、ユーサク。リツカの事、教えて欲しいわ?」

「えぇよ。りっちゃんはおいちゃんが6歳位の時に知り合った娘で…」

 

 

 マリーにもホットミルクを用意し、マグカップ片手に優作はカルデアに来る以前の日々を語っていく。

 優作にとっては何気ない日常の話であったが、マシュにとってはカルデアの外の世界、ジャンヌとマリーにとっては未来の世界の話であり、3人共目を輝かせて彼の話を聞いていた。

 

 しかし、そんな楽しい時間は唐突に終わりを告げる。

 

 突如、優作からアラームの音が響く。懐から音の原因である小さい端末を取り出すとアラームを切って席を立った。

 

 

「ほむ、無粋なお客さんが来たみたいだ」

「敵襲ですか!?」

「マシュと姫さんでテントで休んでいるメンバーを呼んで来てくれるかな?」

「分かりました!」

「任せて♪」

 

 

 優作の指示にマシュとマリーが頷き、テントへと駆けて行く。

 木々の向こうや夜空からモンスターの悲鳴が聞こえる。見張りの使い魔達と既に交戦を始めている様だった。

 

 

「敵は複数のモンスターとワイバーン、そして……サーヴァント1体か」

「如何しますか?」

「モンスターやワイバーンは問題無いさね。でも…」

 

 

 ジャンヌの問いに返す優作の言葉が終わらぬ内に彼らの前へ人影が降りて来た。

 

 

「迎撃を切り抜けたお客さんが来たようやね」

 

 

 長い紫色の髪を靡かせ、十字杖を手に持ったバーサーク・ライダー、マルタが優作達の前に現れた。




元ネタ
>デスペルの薬(出典:チョコボの不思議なダンジョンシリーズ)
チョコボと不思議なダンジョンシリーズに登場する薬。
魔法反射(リフレク)狂化(バーサク)といったバフ効果を解除する『デスペル』の効果がある薬で飲むと呪われた装備を装備していた場合に呪いが解呪される。
飲むと美味しいらしい。

>聖水(出典:FFシリーズ)
FFシリーズに登場する回復アイテム。
ゾンビ、吸血鬼状態を治療し、作品によってはアンデット属性の敵に使うと一撃死させる。

>野菜フリット(出典:テイルズオブイノセンス)
『テイルズオブイノセンス』に登場する料理。
野菜に分類する料理で食べると戦闘中において食事したメンバーの使用する術の詠唱時間を40%カットする。

>魚の塩釜焼(出典:テイルズオブイノセンス)
『テイルズオブイノセンス』に登場する料理。
魚に分類される料理で食べると戦闘中において食事したメンバーの被術ダメージと消費する魔力量を20%減少させる。

>シシカバブ(出典:テイルズオブイノセンス)
『テイルズオブイノセンス』に登場する料理。
肉に分類される料理で戦闘中において食事したメンバーの物理攻撃力を30%上昇し、被術ダメージを30%減少させる。

>山海珍味スープ(出典:テイルズオブイノセンス)
『テイルズオブイノセンス』に登場する料理。
その他に分類される料理で食べると戦闘中において食事したメンバーの敏捷と前ステップ距離を30%上昇させる。

>レモンパイ(出典:テイルズオブイノセンス)
『テイルズオブイノセンス』に登場する料理。
お菓子に分類される料理で食べると戦闘中において食事したメンバーの技と術熟練度を40%上昇させる。

>ナイトクラン(出典:イニシエダンジョン)
『イニシエダンジョン』に登場するモンスター。
高威力且つ毒属性のガスをばら撒く『ポイズンアロー』を放てる弓『レンジャーボウ』を装備しており、集団で現れた時は体力を一気に削られるので驚異。

>ボーンナイト(出典:イニシエダンジョン)
『イニシエダンジョン』に登場するモンスター。
強烈な真空刃『ハイスラッシュ』を放てる『グラディウス』と『エルダーシールド』を装備しており、接近戦を挑むとレベル99ユニットでも倒されかねない。
スケルトン系モンスターの為に倒しても一定確率で復活する。

>ボーンスナイパー(出典:イニシエダンジョン)
『イニシエダンジョン』に登場するモンスター。
4段階の溜めにより、規格外の単発ダメージを実現する『スナイプショット』が使える『キラーボウ』を装備しており、強力なダメージを回避率が高いハンター以外はほぼ当てられてしまう為に厄介。
スケルトン系モンスターの為に倒しても一定確率で復活する。

>ダークナイト(出典:イニシエダンジョン)
『イニシエダンジョン』に登場するモンスター。
原作での死因堂々のトップと言っても過言では無いモンスター。
集団で武器を振り回し使用者の周囲をなぎ払う『スピニングチャージ』を使用して迫って来る為に盾で防御していても削り殺され、連れているメンバーを押し込みながら複数人巻き込んで葬っていく。

>エンジェル(出典:イニシエダンジョン)
『イニシエダンジョン』に登場するモンスター。
電気属性のユニーク弓であるエンゼルボウを装備し、ヒット&アウェイ戦法で攻撃してくる。
集団で出没するので出現階層での死亡原因のNo.1だったりする。

>奥村 春(出典:ペルソナ5)
アトラスのRPGゲーム『ペルソナ5』の登場人物で心の怪盗団のコードネームは『ノワール』。
大手外食メーカーの社長令嬢で原作主人公が通う秀尽学園の3年生、園芸が趣味で部員としても活動している。
使う近接武器は斧で遠隔武器はグレネードランチャー。

>ジョニー・シデン(出典:テイルズオブデスティニー)
『テイルズオブデスティニー』の登場人物。
アクアヴェイル公国・シデン領当主の三男で吟遊詩人として弦楽器を片手に世界を旅している。飄々とした性格だが、過去の出来事からある人物を心の底から憎んでいる。
戦闘で使える技は何れも音属性であり、攻撃から回復、補助と色々出来る。

>エドガー・ロ二・フィガロ(出典:FF6)
『FF6』の登場人物。
機械王国フィガロの国王で敵組織であるガストラ帝国と同盟を組んでいるが、裏では反帝国組織『リターナー』を支援している。
女性を見ると老若関係なく口説かずにいられない軟派な性格であるが、頭が切れる人物であり、誰にでも冷静に接するなど王族に相応しい器量を持つ。
機械に対する造詣がかなり深く、オリジナルコマンド『きかい(機械)』で専用の機械アイテムを使って攻撃出来る。

>ミラディ(出典:ペルソナ5)
『ペルソナ5』に登場するペルソナで奥村 春の専用ペルソナ。
女帝のアルカナのペルソナでモデルはデュマ著『三銃士』に登場する謎多き女性。
銃撃と念動属性の攻撃スキル、テトラカーンやマカラカーン等の補助スキルをバランスよく習得するので攻撃かサポートどちらに特化させるかはプレイヤー次第となる。

>ヴァーチャー(出典:女神転生シリーズ他)
アトラス作品に登場する悪魔。
神学に基づく天使のヒエラルキーに於いて、第5位の『力天使』に数えられる中級天使で名は『高潔』の意を持つ。
実現象としての奇跡を司り、それをもって人間に勇気を授けるとされている。

>プリンシパリティ(出典:女神転生シリーズ他)
アトラス作品に登場する悪魔。
神学に基づく天使のヒエラルキーに於いて、第7位の『権天使』に数えられる下級天使。
国や都市といった人間の居住地域や教皇等の社会的指導者を守護する役目を担い、人々の信仰を擁護したという。

>ウリエル(出典:女神転生シリーズ他)
アトラス作品に登場する悪魔。
聖書に記される偉大な四大天使の一柱で名は『神の炎』の意を持つ。
神罰の執行が役目の一つとされ、最後の審判の日に復活と裁きを執行をするのもこの天使とされる。また、天の星の運びを管理する役割も担う。

>ガブリエル(出典:女神転生シリーズ他)
アトラス作品に登場する悪魔。
聖書に記される偉大な四大天使の一柱で名は『神の英雄』の意を持つ。
神の重要な予言を人々に伝える役割を担い、聖母となる乙女マリアに受胎を告知した聖告天使として良く知られている。

>メタトロン(出典:女神転生シリーズ他)
アトラス作品に登場する悪魔。
最も偉大と言われるユダヤ伝承の天使。
神の代理として天使の最高位に就き、世界を維持する務めを担っている。
この天使には凶暴な面もあり、神に背く人間達を残虐な大量殺戮に処する事もあるという。


Q、赤チョコボって飛べない筈では?
A、魔改造大好きな優作が飛べないままにしていると思ったか?

Q、ヴラド3世が解放されたけど、如何云う事だってばよ?
A、デスペルの薬で狂化を、メディアの宝具でパスを、聖水で吸血鬼スキル解除しまんた。

Q、てめぇっ、お風呂シーンって会話してるだけじゃねぇかっ!!(半ギレ)
A、だったら妄想すれば良いだろっ!!(コ並感)

Q、お風呂シーンでマリーが言った「ディネ」って?
A、フランス語で「夕食」の意味。

Q、キャンプの警備ヤバくない?
A、仲間の安全の為なら遣り過ぎるのが優作である。

Q、新規加入メンバーにチョイスした服は?
A、アマデウス以外はフィーリングで決めました。でも誰かそれぞれの服を着たイラストを描いてくれたら嬉しいなぁ…(挿絵乞食並感)

Q、天使軍団解放とか遣り過ぎでは…?
A、こうしないとほんへの裏で多くのモブが死ぬからね、しょうがないね。

Q、復讐論で主人公君が言いたかった事って?
A、“復讐はその立場にならないと理解出来ない”及び“大事な人を理不尽に殺された時、許せるのか?”って事。


次回は4月12日投稿。
感想コメント、意見・質問お待ちしております。
活動報告にてアンケートを行っていますので宜しく。


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聖女のイメージ壊れる

地元のコロナ感染者が3名以上現れて、帰省する時が心配な影鴉です。
皆様も手洗いや消毒は欠かさない様にしましょう。
後、総合評価900達成に感謝感謝。

今回は VS マルタ戦

それだけなのにまさかの1万字越えに作者もおっぱげた。



「あぁ、もうっ! やってくれるじゃないっ!!」

 

 

 四方八方から射られる矢を時に躱し、時に手に持った十字杖で弾きながらバーサーク・ライダーは悪態を吐いて声を荒げる。

 空中ではエンジェルの矢が、地上からはボーンスナイパーの狙撃がライダー達に襲い掛かり、ワイバーン達が次々と撃ち墜とされていく。

 

 

「天使を使い魔にして迎え撃つとか私に対する皮肉かってのっ!!?」

 

 

 杖から光弾を放つがエンジェル達はヒラリと交わして再び矢を射掛けてくる。周りのワイバーン達も火炎を吐くが当たる様子が無く、逆に矢に因ってハリネズミにされて撃墜される始末だ。

 

 

「このままじゃジリ貧ね……」

 

 

 矢が頬を掠り、口元へと流れる血を舐めとりながらライダーは地上を眺める。

 ジル・ド・レェから優作達が野営している場所を探して貰い、その場所が疎らに木々が並ぶ森林地帯であったと聞いていたのだが、近付いた途端に上空と木々の葉や枝に依って隠された死角から次々と矢を射られた。

 地上から攻めて行ったモンスター達は森に近付いただけでナイトクランの毒矢を雨の様に射られてバタバタと倒れており、生き残りも動けなくなった所をボーンナイトとダークナイトが止めとばかりに襲い掛かっていた。

 地上の戦力は頼りになれないと確信したライダーはせめて自身の目的を果たすべく、目的の人物達がいるであろう場所を探していく。

 すると、木々を抜けて若干明るい場所を発見する。

 

 

「見つけた…」

 

 

 ライダーは生き残っているワイバーン達に自身を守護するよう命令すると共に目的地へと飛び降りた。

 

 

:::::

 

 

 空がワイバーンの悲鳴で騒がしい中、一つの人影が優作とジャンヌの前に落ちて来た。

 

 

「…今晩は、寂しい夜…「親方、空から痴女がっ!!」…って、誰が痴女よっ!!?」

 

 

 上空でエンジェル達に迎撃されていくワイバーン達を抜けて降りて来たのはラ・シャリテ前の草原で戦ったバーサーク・ライダーだった。着地と同時に声を掛けてきたが優作の台詞に声を荒げる。

 

 

「いや、そんな恰好してる時点で痴女以外無いっての。何さね、その露出度の高さは? 本当に聖女かっ!?」

「聖女よっ! 当時はこれが普通だっての!」

「嘘付けぇっ!! ジャンヌちゃんだって露出は御美脚だけだったんやぞ! そんな恰好してたら“聖女(Saint)”じゃなくって“性女(Sexual)”と呼ばれるやろがっ!!

フォウキュ~フォウ(なんていやらしい聖女なのだ)…」

「な、な、な……」

 

 

 優作の容赦無い衣装の指摘にライダーも口をパクパクさせている。

 

 

「っつぅか、マルタっていえっさ(・・・・)本人からその杖を受け取ったと聞いてるけど、そんな恰好じゃあ、いえっさドン引きだろうが! 本当に貰ったんか!?」

「本当にイエス様に戴いたっつぅの!! っていうか“いえっさ”って何よ!? 渾名呼びなんて罰当たり過ぎるわっ!!」

「あの…優作さん、私も流石にその呼び方は失礼過ぎると思います…」

 

 

 優作の指摘にライダーが言い返し、ジャンヌも自身の信仰している者への言い方に問題があると流石に指摘するのだが、優作は何食わぬ顔で言い返した。

 

 

「え? 本人がそう名乗ってブログしてんのに?」

「はぁ!?」

「へ?」

 

 

 優作の言葉に聖女2人が間抜けた声を漏らす。

 

 

「いえっさは世紀末まで働いたご褒美としてブッダと一緒に立川でバカンスしとるんやで?」

「は? えぇ!? 何それ、聞いてないんだけど!?」

「優作さん、それは本当なんですか!?」

「プライベートで休みたいんだから、聖職者達に教える訳無いやろ! 群がられて休む暇が無くなるわっ!!」

キュウ、フォーウフォウ(う~ん、この誤魔化し方よ)

 

 

 目を丸くする聖女2人。しかし、優作の話は漫画『聖☆おにいさん』での話である。

 

 

「それで? 自称痴女で無い聖女さんが何用じゃい?」

「痴女じゃ無いし、自称って何よ!? 好い加減しないと殴るわよ!!」

 

 

 優作の言葉にプルプルと拳を震わせながら怒鳴るライダー、片手に持つ杖の柄の部分がピシリと罅が出来た様な音が聞こえたのは気のせいだと思いたい。

 完全に優作のペースである。

 

 

「…私は壊れた聖女。竜の魔女が掛けた狂化に因って理性が極限まで薄められている。今だって、衝動を必死に抑えている」

「つまり、一人だけで来たのは捨て身の特攻かい? だとしたら無駄・無理・無謀の三段活用やで?」

「無謀か……えぇ、そうね。連れて来たモンスターやワイバーンは全滅して残りは私だけ。でも此処に来たのは破れかぶれになったからじゃないわ……まぁ、好い加減この狂った生き地獄から解放されたいってのもあるけど…」

 

 

 自嘲気味に溜息を吐くライダーだったが、その顔を真剣なモノに変えて杖を構えた。

 

 

「私は如何してもアンタ達を試さなければならない」

「聖マルタ、それは一体…?」

「ラ・シャリテ前の戦いでアンタ達が普通じゃない事は解かったわ。でもあの邪悪な竜に太刀打ち出来るかは別」

「邪悪な竜? ワイバーン以外にいるのですか?」

「アイツは竜の魔女よ。竜殺しの力が無くば、アンタ達は勝つ事が出来ない」

「ふ~ん…竜殺しに拘っているようだけど、ジャンヌ・オルタはとっておきの隠し玉を持っている訳か?」

 

 

 ライダーの話を信じるならばジャンヌ・オルタはワイバーンを遥かに超えるドラゴンを切り札として保有しているらしい。それに打ち勝てるかどうか試す為、彼女は残った理性で以って優作達の元へ来たようだ。

 

 

「そう云う事。私如きを倒せなければ、邪竜とアイツを倒す事は不可能よ。だから、私が全霊を以ってアンタ達を試す!! 愛知らぬ哀しき竜よ(タラスク)っ!!」

 

 

 杖を高く掲げると共に巨大な竜が召喚される。

 巨大な甲羅に6本の太い脚、鋭い爪と牙を持つその竜は大鉄竜タラスク。

 

 

「行きなさい、星の様にっ! タラスク!!」

 

 

 地面を抉り、土煙を上げながら飛びあがったタラスクが回転しながら流星の如く優作達へと突き進む。

 迎え撃つべく杖を構えたジャンヌだったが、そんな彼女の前に優作が立つ。その手には一本の封魔管が握られていた。

 

 

「Let`s、同キャラ対決タイムじゃあっ!! いけぇっ、タラスク!!」

「へ?」

「なぁっ!? 嘘でしょっ!!?」

 

 

 優作の叫んだ言葉にジャンヌは困惑し、ライダーは驚愕の声を漏らす。

 封魔管から緑の閃光が放たれ、優作達の前に巨大な影が現れる。閃光が止むとそこには巨大な甲羅に6本の脚、長い尾を持ったタラスクが立っていた。

 

 

「ふぉっふぉっふぉ、久々に呼ばれたと思ったら面白い事になっておるのぅ?」

「敵は別世界のタラスクさかい、その強さを教えてたって!」

「ほぅ、見るにヤングな頃の儂ぢゃの。どれ、年の功と云うモノを教えてやるわい!!」

 

 

 回転しながら迫るライダーのタラスクに優作のタラスクはその尾を大きく振るった。尾に打ち据えられたライダーのタラスクは弾き飛ばされ、そのまま吹き飛んでいく。

 

 

「タラスクっ!?」

「このままあっちのヤツ(タラスク)を抑えといてぇな。なんなら倒して構わんから」

「了解ぢゃ、若いモンには負けんゾイ!!」

 

 

 優作の指示に頷きながらタラスクはライダーのタラスクが落下した場所へと突き進んでいく。

 

 

「な、何でアンタがタラスクを呼べるのよっ!!?」

「今から対決する相手に言うと思ってんの? 教えて欲しけりゃ、さっさと降参するこったな!」

「い、一々癇に障る言い方をしてくれるじゃない…」

 

 

 ニヤニヤ顔で抜いた刀を構える優作を前に歯噛みするライダー、タラスクを抑えられた以上、ライダー一人で優作達と戦わなければならない。

 

 

「マシュ達も間も無く来るだろうが、それでもやるんか?」

「……それでもやるわ。例え無辜の民を殺戮し、全身に血を浴びて汚れてしまっても…意地があるのよ、聖女にはね」

「…そうかい」

 

 

 ライダーの返答に刀を構える優作だったが、そんな彼の前にジャンヌが立つ。

 

 

「優作さん、ここは私にやらせてもらえませんか?」

「ジャンヌちゃん?」

 

 

 ジャンヌの提案に優作は目を丸くする。まさか、1対1の決闘を望むとは思ってもみなかった。

 

 

「既に聖女ではない身ではありますが、嘗て聖女だった者として私が戦わなくてはいけません」

「…君はまだ万全と言えない状況だよ?」

「そうですね。でも彼女の試練を乗り越えなくては、私はもう一人の私に届きません。それに…」

 

 

 優作の方へ振り返りながら彼女は微笑んだ後、顔を引き締めてライダーへと杖を構えた。

 

 

「彼女が言った通り、意地が有るのです。元聖女だとしても―――っ!!」

「やだ…かっこいい…」

フォウキャウキュッキュ!!(惚れてまうやろ――!!)

 

 

 ジャンヌの力強い言葉にムネキュンする優作とフォウを余所に彼女はライダーと相対する。

 

 

「私はジャンヌ・ダルク、嘗て聖女だった小娘ですが貴女の試練に挑みますっ!!」

「我が名はマルタ! 来なさい、清き聖女よ。私を超えてみなさい――っ!」

 

 

 杖を構えたジャンヌがライダーへと駆けて行く。ライダーが十字杖を掲げて光弾を次々と放つが、横や斜めにステップして回避しながら進んでいく。

 やがてジャンヌの攻撃が届く距離へと近づかれたライダーは十字杖を構え直し、彼女の振り下ろす杖を受け止めた。

 

 

「動きは悪くないわね、ならこれはどうかしらっ!?」

「っ!?」

 

 

 暫しの間杖同士で鍔ぜり合っていた2人だったが、狂化に依って力が増しているライダーに対し、未だステータスが万全でないジャンヌは押し負けて突き飛ばされる。

 距離が空き、ライダーは十字杖から光弾をマシンガンの如く連射していく。

 

 

「アクアバイパーッ!!」

 

 

 目の前に迫る光弾に対し、ジャンヌは空気中の水分を集めて巨大な蛇を形成し、嗾ける。巨大な水の蛇は光弾を飲み込みながらライダーを噛みつかんと口を大きく開いた。

 

 

「っちぃ――!」

 

 

 ライダーは噛み付かれる直前に横へと跳躍して避けるが、そこへ杖を振りかぶったジャンヌが突っ込んで来る。

 

 

「はぁああああ、かめごうら割りっ!!」

「くぅ――っ、なぁ!?」

 

 

 力を溜め、集中に集中を重ねた一撃は防御する為に構えたライダーの十字杖を見事叩き折った。これにはライダーも驚愕の声を挙げる。

 

 

「あの方から授かった杖を折った事は謝ります。ですが、これで私の勝ち…「舐めんじゃないわよ、後輩っ!!」―――なっ!?」

 

 

 武器を破壊した事からこれ以上戦えないと思い、杖を下げたジャンヌだったがライダーは折れた杖を地面に落とすとそのまま彼女へと殴り掛かった。

 咄嗟に杖で防ぐジャンヌだったが、余りに重い一撃に吹き飛ばされて後ろの木に叩き付けられた。

 

 

「あがぁっ!?」

「はぁっ!? 拳ぃ!!?」

 

 

 倒れないまでも全身に走った衝撃で膝を付き、杖で身体を支えて漸く立ち上がった。目の前には拳を構え、ファイティングポーズを取るライダーの姿、彼女は未だ戦意を喪失していないどころかやる気に満ち溢れていた。

 これには優作も驚く。祈りで邪竜を鎮めたという聖女がまさかステゴロで向かって来るとは思ってもみなかった。

 

 

「タラスクと杖が無くなったところでこのマルタが降参すると思ったら大間違いよっ! この程度の逆境に見舞われた位で聖女なんてやってられっかぁ!!」

「!!」

 

 

 姿勢を低くしながらライダーが拳を前にしてジャンヌへと駆ける。

 

 

「そらそらそらぁっ!!」

「く、くぅ……」

 

 

 杖を構えたジャンヌに対し、接近したライダーは拳の連打を浴びせる。一撃一撃が先程受けたストレートに匹敵する威力に、正直に受けるのは拙いと判断したジャンヌは必死に受け流していく。

 しかし、左からのフックを受け流そうと杖を向けた時、拳を解いたライダーはそのままジャンヌの杖を掴んで振り回せない様に封じ、同時に彼女の腹へと右の拳でブローを叩き込んだ。

 

 

「ハレルヤァ!!」

「ぐふぅっ!!?」

 

 

 そのまま拳を持ち上げてジャンヌを上空へと殴り飛ばす。彼女は空中を舞いながら受け身を取る事無く、地面に叩き付けられる。

 

 

「かはっ!? けほ、こほっ…」

「ジャンヌちゃんっ!!」

 

 

 強烈な一撃に大きく咳き込むジャンヌ。大きなダメージを受けたと判断し、流石に見過ごせないと判断した優作は彼女へ駆け寄ろうとするが、蹲りながらも彼女は手でそれを制した。

 

 

「だ…だいじょう…ぶ…です…」

「ダメージが大き過ぎる。これ以上は――!」

「はぁ、はぁっ……生命の水」

 

 

 ジャンヌは水術で身体を癒し、立ち上がる。彼女の前に立つライダーは拳を構えてこそ、彼女が立つのを待ってくれていた。

 

 

「待って戴き、有難う御座います。聖マルタ」

「別に良いわ、続きをやるわよっ!!」

 

 

 ジャンヌの感謝の言葉に軽く返しながらライダーは再び彼女へ肉薄する。拳の連打を的確にブロックしながらジャンヌも負けじと技を放つ。

 

 

「回し打ちっ!」

「甘いっ!!」

「まだまだっ! 更に海老殺し!!」

「うぐぅっ! 中々やるじゃないっ!!」

 

 

 拳と杖、互いの武器は違いながらも激しく打ち合う様子を優作とフォウが観戦する中、テントへ向かっていたマシュ達が戻って来た。

 

 

「先輩っ!!」

「! マシュ…皆も来たんか」

「ロマニを叩き起こして確認させたら周りの敵性反応は消えてるっていうからまだ残ってる此処へ来たのよ」

【優作君が呼んだ使い魔達の御陰で全滅していて、残りはラ・シャリテで戦ったバーサーク・ライダーだけだったからね】

「それで、如何云う状況なんだ、これ?」

 

 

 オルガマリーとロマニから敵モンスターの全滅を聞く中、クーフーリンからこの場の状況説明を尋ねられる。

 

 

「ジャンヌちゃんがライダーとデュエル中」

「助けなくて良いのかね?」

「ジャンヌちゃんが望んだ以上、彼女が戦闘不能にならない限り無理だよ」

「そんな悠長にしてて良いの?」

「分かっているさね。でも彼女の意志を尊重したい」

 

 

 優作の表情は優れない。ジャンヌはライダーの攻めに必死に喰らい付いているが、徐々に後れを取り始めている。このままでは手痛い攻撃で再び倒れかねない。

 

 

「ほらほら! 動きが遅くなってるわよ!!」

「くっ…うぅ……(つ、強い…狂わされても尚、こんなに…)」

 

 

 疲れた様子の無いライダーの攻撃は更に激しさを増していく一方、ジャンヌは反撃に移る回数が減り、受け流すタイミングも徐庶にズレ始めていた。

 

 

「私に遠慮している訳? 戦っている最中なのに随分と余裕ねっ!!」

「がぁっ!? くぅううっ!!」

 

 

 遂に杖を抜けてライダーの拳がジャンヌの頬を捉える。一瞬たたらを踏みそうになるが、歯を食いしばりながら反撃に出る。

 

 

「私の試練に挑むと言っておきながら、アンタの覚悟はその程度かぁ!!」

「うぐぅ……わ、私は…」

 

 

 再び腹部へ一撃を受けて、よろけるジャンヌにライダーは拳を大きく振りかぶる。

 

 

「アンタの聖女の意地ってのは堕ちた聖女に折られる程度のモノなのかぁ!!!」

「ぐぶぅ―――っ」

「ジャンヌさんっ!!?」

 

 

 渾身の右ストレートがジャンヌの顔面を捉え、血を飛び散らせながら彼女は吹き飛ばされる。

 杖も手放してしまいながら殴り飛ばされたジャンヌをマシュが受け止める。ジャンヌはぐったりしており、顔はマルタに殴られた事に因って痣と鼻血で酷い見た目になっていた。

 

 

「ジャンヌさん、しっかりしてくださいっ!」

「こりゃ、良いの入っちまったぞ…」

 

 

 マシュがジャンヌへ呼び掛けるが反応が無い。

 

 

「……これまでやね。後はおいちゃんがやる」

 

 

 ジャンヌが戦闘不能だと認識した優作はクラウスの衣装へ切り替え、ライダーの元へ向かおうとする。

 

 しかし…

 

 

「待って……くださ…い」

「ジャンヌさん!」

 

 

 小さいながらも聞こえたジャンヌの声に優作は足を止める。

 驚いて振り向くと、気絶していた筈の彼女の目が薄っすらと開いている。

 

 

「ま、だ…やれ……ます」

 

 

 マシュの腕の中でジャンヌはゆっくりと体を起こしていく。

 

 

「ジャンヌさん、これ以上は無理です」

「今の貴女じゃ力量差が大きすぎるわ。ここは優作に…」

「お願い、です……やらせ…てくださ…い」

 

 

 マシュの肩を借りて立ち上がるジャンヌ。マシュとオルガマリーの制止の言葉を聞きながらも彼女はそれでも、と願い出る。

 

 

「私、が…私がやらない…といけません…皆さんとこれから戦って…いくと決めた以上、ここで負ける訳には…いか、ないんです…」

「………それも、聖女の意地ってヤツかい?」

「はい…お願いします…」

「………はぁ」

 

 

 ジャンヌの願いに優作は溜息を吐く。彼女の真剣な眼差しに改めて聖女の強さを再確認し、封魔管を2本取り出した。

 

 

「せめてこれだけはさせて? ティターニア、ジャンヌちゃんを回復して。ヨシツネはヒートライザを」

「うふふ、任せて♪」

「おうよ」

 

 

 呼び出された妖精女王『ティターニア』がディアラマを掛けてジャンヌの傷をある程度癒し、ヨシツネが彼女の力量をライダーと並べる様に強化する。

 

 

「優作さん…有難う御座います」

「本当は止めたいけど……負けないで?」

「――! はいっ!!」

 

 

 優作の言葉にジャンヌは笑顔で返し、ライダーの元へ向かう。

 

 

「お待たせしました」

「……まだやれる訳?」

「はい。みっともない姿を見せてしまい申し訳ありません、聖マルタ」

 

 

 ジャンヌの雰囲気が変わった事にライダーは気付く。

 

 

「…私は気後れしていました。あの方から杖を授かり、邪竜をも鎮めた聖女に田舎娘だった私などが、と……でもそんな事は関係無かった」

 

 

 そう言ってジャンヌは真剣な面持ちで構える。

 

 

「聖女だからとか以前に私はこの国を救いたいっ!! だから私は貴女に勝ちますっ!!」

「…っふ、良い面になったじゃない。さっきまでとは大違いだわ」

「有難う御座います、聖マルタ。貴女のお陰で気付く事が出来ました」

「貴女は立派な聖女よ。過去にやった偉業なんて関係無い、大事なのはその意志。だから…」

 

 

 ジャンヌの決意に薄っすらと笑みを浮かべた拳を構えたライダーは彼女へと再び駆けて行く。

 

 

「その意志を、貴女の聖女の意地を見せてみなさいっ!!」

 

 

 ジャンヌへと迫るライダー。ジャンヌは杖を構え、そして…

 

 

 その杖を横へと投げ捨てて拳を構えた。

 

 

「ハートブレイクッ!!」

「なっ!? ……があぁっ――っ!!?」

 

 

 突如己の武器を投げ捨てジャンヌに流石のライダーも仰天する。その一瞬に生じた隙にジャンヌは己の拳を彼女の胸元へと叩き込んだ。

 

 

「ゴホッ……こ、拳ですって?」

「優作さん! この服の、ジニーさんの力を、本当の意味でお借りしますっ!!」

「!? 身体が痺れる…――うぐぅっ!!?」

「せいっ、はぁっ! 熊掌打ぁ!!」

 

 

 ジャンヌの放った拳技『ハートブレイク』に因って麻痺の追加効果を受けたライダーは身体を上手く動かす事が出来なくなる。そこへ彼女は更なる追撃を加えていく。

 

 

「くうぅぅっ、この程度でぇっ!!」

「うぶぅっ!!」

 

 

 暫く殴られ続けていたライダーだったが、不可能を成し遂げるスキル『奇蹟』を発動し、痺れる身体を無理矢理動かしてジャンヌへ殴り返す。

 再び顔面を殴られたジャンヌだったが、飛び散る鼻血を気にする事無くライダーへ殴り掛かる。

 

 

「はあぁあああああっ!!」

「でりゃぁああああああ!!」

 

 

 最早、防御や避ける事無く互いに殴り、時に蹴りも混ざってぶつかり合っている状況。美女、美少女同士で行うにはあるまじき、漢臭い景色が優作達の目の前で繰り広げられていた。

 

 

【聖女って清らかなイメージだったけど、随分男らしいんだね…】

「あぁ…拳が肌や骨にぶつかる音はグチャグチャと生々しいから好きじゃないんだよなぁ…」

 

 

 夕焼けの砂浜は土手の下でやるべき光景が続く中、ロマニとアマデウスがポツリと呟く。

 

 

「……もしかしてタラスクは祈りじゃなくて、拳で沈められた(・・・・・)のかしら…?」

「はわぁ…聖マルタはモンク僧でもあったんですね…」

 

 

 オルガマリーとマシュが語られていなかった歴史の真実にしみじみと呟いた。

 

 

「……おいちゃんの中にあった聖女のイメージがガラガラ崩れていくわ~、HAHAHA …」

フォウキュー(でも見て下さい)キャーウフォウキュウ(見事におっぱいぷるんぷるん)

 

 

 ジャンヌを心配そうに見守っていた優作も遠い目になっており、足元のフォウはしっぽを振りながら殴り合う2人のある部位をしっかり眺めていた。

 

 

「三角蹴りぃ!」

「ごぶっ…良い蹴りじゃないっ!!」

「まだまだぁ! あびせ倒しっ、せいやぁ!!」

「うぐおぅっ」

 

 

 近くの木々を利用した三角蹴りをライダーの顔面に叩き込むジャンヌ。よろめく相手へ組みかかり、全身の体重を乗せて圧し掛かる様に地面へと叩き付けた。

 しかし、ライダーから何度も殴られているジャンヌも限界に近い。視界は霞んで視えており、身体もフラフラとよろめいていて何時倒れてもおかしくない。

 

 

「はぁ、はぁ…」

「ぺっ! げほっ、ごほっ……こっちもそろそろ限界ね…」

 

 

 肩で息をするジャンヌにフラフラと立ち上がりながら口の中に溜まった血を吐いてライダーは震える拳を構える。

 

 

「聖マルタ、私は…」

「その意志を忘れないで、聖女ジャンヌ。さぁ、これが最後よ。歯ぁ、食い縛りなさい!」

 

 

 両者共に満身創痍。

 目元が大きく腫れて見え難い視界の中、お互い拳を構えて駆けだす。

 

 

「うおりゃぁあああああああああああ!!」

「はあぁああああああああああああっ!! 」

 

 

 互いの拳が交差し、それぞれの頬を打ち抜く。

 

 暫しの静寂の後、倒れたのはカウンターを決められたライダーだった。

 

 

「ゴフッ…良い拳だったわ、やるじゃないの…」

「聖マルタ!」

「私の負けよ…、タラスクもお疲れ様…」

 

 

 倒れたライダーを抱えるジャンヌ。互いに顔は見ていられないぐらいに血と痣だらけになっている。ライダーの視線の先には離れた場所で戦っていた優作のタラスクが戻って来る姿が映っていた。

 

 

「ヤングな分、勢いはあったが数と質を熟している儂には勝てんぞ?」

「グルルルゥ…(姐さん、済みません…)」

 

 

 勝ち誇る優作のタラスクの後ろで、ぐったり倒れているライダーのタラスク。ライダーへ申し訳なさそうな唸り声を零しながら金の粒子になって散っていった。

 

 

「私も限界ね…一つ伝えておくわ」

「聖マルタ…」

「リヨンに向かいなさい。竜の魔女が使役している邪竜に今の貴女達では勝てない。竜を倒すのは騎士でも聖女でも無い、古来から竜殺し(ドラゴンスレイヤー)と決まっている。リヨンと呼ばれる都市に向かえば邪竜を打倒できる手段が待っているから…」

「そんなに強い竜を従えているのですか?」

「えぇ、私のタラスクを遥かに超越する竜と言う幻想種の頂点。使い魔や只のサーヴァントを幾ら率いようとも勝てる相手では無いわ」

 

 

 ライダーの言葉にジャンヌと新規加入した3人こそ息を呑んでいるが、他のメンバーはというと…

 

 

(竜の頂点ねぇ…坊主なら同等以上の存在をアホみたいに使役してそうだけどな)

(聖女マルタには申し訳ないけど、幻想種の頂点くらいで優作が負ける姿が想像できないわ)

(そもそも主殿が竜殺しになりきれば問題無い話でござるからなぁ…)

(…邪竜にも様々な存在がいるけど、優作君ならどれも笑いながら蹴散らしそうなんだよなぁ…)

(そういえばこの服ならドラゴンキラーも扱えたな…この服でそうならマスターなら…考えるのはよしておこう、頭が痛くなりそうだ)

(竜種の頂点…緊張しない訳では無いのですが、先輩がいるので全く怖くないです…)

 

 

 全く緊張らしい緊張をしていなかった。寧ろ、この先で現れた際に如何様に倒されるか予想する始末だ。

 

 

「私の言いたい事はそれだけ、全く…聖女に虐殺なんてさせるんじゃないっての…」

 

 

 ライダーの身体が徐々に薄れてゆき、金の粒子が舞っていく。タラスクに続き、彼女も間も無く消滅するだろう。

 

 

「貴女達が勝利する事を祈っているわ…次はマシな奴に召喚され…「そのまま消滅しようなどと、その気になっていたお前の姿はお笑いだったぜ?」…は? ――モガっ!!?」

 

 

 薄っすらと微笑みながら消滅しようとするライダーの口に優作は容赦無く薬瓶を突っ込む。突然の事な上にジャンヌとの殴り合いのダメージで動けないライダーはそのまま瓶の中身を飲んでいく。

 

 

「ゆ、優作さん…?」

「ジャンヌちゃんもエリクシールを飲んでね。メディ姉、夜勤出動ですがお願いします」

【はいはい、また捕まえたのね?】

 

 

 ジャンヌに同じ薬瓶を手渡しながら優作が端末越しに連絡すると、応答に従って再びメディアがカルデアから召喚されてライダーへ破戒せる全ての符(ルールブレイカー)を使用する。これにてライダーはジャンヌ・オルタとのパスが無くなり、優作の飲ませた薬で傷は癒され、狂化も解除された。

 

 

「よっしゃ! これで聖女マルタ、ゲットだぜ!!」

「ゲホ、ケホッ…な、何で狂化やパスが切れてるの…?」

「優作さんの用意した薬とそちらのメディアさんが持つ宝具のお陰です」

「……………」

 

 

 困惑しているライダーことマルタに自身もエリクシールを飲んで完全回復したジャンヌが説明する。

 ヴラド三世を捕まえて仲間にしたので彼女も戦った後に仲間にするのだろうとジャンヌも薄々理解していたのだが、優作の容赦無い空気ブレイカーっぷりにジャンヌも顔が若干引き攣っていた。

 

 

「近~中距離戦が出来る彼女はマリーがマスターになって貰いましょ、マリー契約よろ!」

「わ、解かったわ。それじゃあ聖女マルタ、宜しいかしら…?」

「………」

 

 

 上機嫌の優作に勧められオルガマリーがマルタへと契約を依頼する。すっかり回復したマルタは立ち上がっており、顔を俯かせてプルプル震えていた。

 

 

「あの…聖女マルタ?」

「アンタ…優作って言ったかしら?」

「なんじゃらほい?」

「一発殴らせなさい」

「ファッ!?」

 

 

 掲げた右拳を震わせてマルタが優作を睨み付ける。

 その顔は真っ赤になっており、若干涙目だった。

 

 

「竜の魔女から解放してくれたのは感謝してる。御陰でお礼参り出来るし、そっちの天使使いのサーヴァントになるのも構わない…でも!!」

 

 

 そのまま優作に殴り掛かるマルタだったが、彼がそう簡単に殴らせてくれる訳無く、ヒョイと簡単に避けられる。

 

 

「散々揶揄ってくれた挙句にこの仕打ち!! 魔女から解放するのにも、もうちょっと良いタイミングがあったでしょうがっ!!」

「んなもん知らんがな、倒れた瞬間に解除しろってか!?」

「えぇ、そうよ! 後輩に先輩面した状況で消えようとしてたのに、消える事無くこの状況って…如何いう面すれば良いのよっ!!」

「笑えば良いと思うよ?(シンジ並感)」

「んな訳あるかぁっ!!!(全ギレ)」

 

 

 拳を避けながら逃げる優作を追い回すマルタ。先程までの空気は何処へやら、シリアルな空間がそこに出来ていた。

 

 

「こらぁ、待てぇ! 一発殴らせろぉっ!!」

「だが断る!!」

 

 

 この逃走劇はオルガマリーがまだ契約していなかった事からマルタ本人の魔力不足で倒れる直前まで続く事になるのだが、如何でも良い事なので割愛する。




元ネタ
>いえっさ(出典:聖☆おにいさん)
講談社の漫画雑誌『モーニング・ツー』で連載している中村光作の漫画『聖☆おにいさん』の登場人物。
皆様ご存知、神の子であるあの方。
天界でもブログをしていたが、地上でも『いえっさ』のHNでアニメの感想等をレビューしたブログを立てている。

>タラスク(出典:女神転生シリーズ他)
アトラス作品に登場する悪魔。
フランス中部にあるローヌ河に住んでいたとされる邪龍で6本の足を持ち、巨大な口と長い牙で人間をひと呑みにしたという。

>アクアバイパー(出典:サガフロンティア2)
『サガフロンティア2』に登場する水術。
『水』+『獣』の組み合わせで発動し、術者の正面を起点としたカエルモンスター特攻の蛟を放つ。

>かめごうら割り(出典:サガシリーズ)
『サガフロンティア2』に登場する杖を使った派生技。
『ためる』+『集中』+『集中』+『叩く』の組み合わせで発動し、防具に依る回避不能且つ防御力低下の追加効果を与える。

>生命の水(出典:サガフロンティア2)
『サガフロンティア2』に登場する樹術。
『樹』+『水』の組み合わせで発動し、対象となる味方1人のHPを回復し、能力値変化もリセットする。

>海老殺し(出典:サガフロンティア2)
『サガフロンティア2』に登場する杖を使った派生技。
『振り回す』+『けん制』+『振り回す』の組み合わせで発動し、エビ・カニモンスター特攻のダメージを与える。

>ティターニア(出典:女神転生シリーズ他)
アトラス作品に登場する悪魔。
妖精の女王で、イングランドの妖精王『オベロン』の妻。
ローマ神話の女神ダイアナに由来すると謂われる。
花の妖精達をお供に付け、月明かりから魔法を紡ぎだすという。

>ディアラマ(出典:女神転生シリーズ他)
アトラス作品に登場する回復魔法スキル。
下位互換にディア、上位互換にディアラハンがある。

>ハートブレイク(出典:サガフロンティア2)
『サガフロンティア2』に登場する体術を使った派生技。
『集中』+『つかみ』+『パンチ』の組み合わせで発動し、攻撃対象にマヒの追加効果を与える。

>熊掌打(出典:サガフロンティア2)
『サガフロンティア2』に登場する体術を使った派生技。
『ためる』+『つかみ』の組み合わせで発動する。

>三角蹴り(出典:サガシリーズ)
『サガフロンティア2』に登場する体術を使った派生技。
『けん制』+『キック』+『キック』の組み合わせで発動し、攻撃対象に回避不能の攻撃を行う。

>あびせ倒し(出典:サガシリーズ)
『サガフロンティア2』に登場する体術を使った派生技。
『パンチ』+『つかみ』+『キック』の組み合わせで発動し、攻撃対象にスタンの追加効果を与える。

>カウンター(出典:サガフロンティア2他)
『サガフロンティア2』に登場する体術系反撃技。
攻撃してきた対象に防御力無視の反撃を行う。

>エリクシール(出典:リアル他)
人間に不老不死の永遠の生命を与える霊薬であり、エリクサー、エリクシア等とも呼ばれる。
大体のゲームでは体力と魔力を全回復するアイテム扱いである。
実は「通例、甘味及び芳香のあるエタノールを含む澄明な液状の内用剤である」、エリクシル剤やリキュールのエリクサーと云ったリアルでもこの名前の液体が存在していたりする。


Q、何故に殴り合いへと810(発展)してんの?
A、これもステゴロ聖女だの殴ルーラーだのそんな設定にした公式と他SSが悪い(責任転嫁)

Q、ジャンヌ単身でマルタに勝てるの?
A、タラスク離脱+杖で戦っていた時に溜めたダメージ+優作のサポート+麻痺状態付与でギリギリ勝利した感じ。

Q、邪竜に対するカルデアメンバーの反応が軽過ぎない?
A、既に優作の遣りたい放題に汚染されているからね、しょうがないね。


次回は4月19日投稿。
感想コメント、意見・質問お待ちしております。
活動報告でのアンケートは今週を以って終了しますので宜しく。


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竜殺しを探してえんやこら

『U-オルガマリー』…一体何者なんだ…(すっとぼけ)

後、UA50000突破に感謝感謝!

今回は会話兼移動回

独自設定に注意

後、今回からアンケート機能を使い始めました。


「お早う御座います、ジャンヌ。休む事は出来ましたか?」

 

 

 オルレアンの監獄城にて休息を取り終えて自室から現れたジャンヌ・オルタに礼をしながらジルは挨拶をする。

 

 

「えぇ、ジル。取り敢えず疲れは取れたわ。でもバーサーク・ライダーとのパスが切れているのだけど、如何云う事かしら?」

「はっ、バーサーク・ライダーは昨夜モンスター達を率いて異邦人達のキャンプ地へと攻め入りました」

「そう…。パスが切れた以上、捕らえられたか若しくは…」

「敗れたのでしょうな」

 

 

 ジャンヌ・オルタは歯噛みする。

 ランサーとアサシンを奪われ、更にライダーすらも捕らえられたか倒されたのだ。また強力な駒を一つ失ってしまった。

 

 

「…まぁ、良いわ。聖女だった彼女は狂化しても理性を残し続けていた。それが不安だったけど、魔力の消費を見るに全力で戦ったのでしょう…良しとします。それでジル、今回は“彼”を出陣させるわよ?」

「畏まりました。ジャンヌがお休みの間に新たな戦力を用意して御座います、どうぞお連れ下さい」

 

 

 ジャンヌ・オルタに深々とお辞儀をするジルの横に2体のサーヴァントが現れる。漆黒のフルプレートアーマーを身に纏った騎士とその手にギロチンの刃を持った黒コートの男が彼女の前に並ぶ。

 

 

「バーサーカーの湖の騎士、ランスロットとアサシンの処刑人、シャルル=アンリ・サンソンです。バーサーカーは中々面白い力を持っておりますし、異邦人達の中にかのマリー・アントワネット王妃がいる事が確認出来ましたのでアサシンは正に適任でしょう」

「あら素敵じゃない。それでは付いて来なさい、ワイバーンに乗り出陣します。向かう先に居る者はすべて皆殺しよ」

「………gurrrrraaaaar……」

「お任せをマスター。あぁ…もう一度王妃の首をこの手で落とせるなんて…」

 

 

 旗を掲げ、ワイバーン達が待つバルコニーへと足を向けるジャンヌ・オルタ。彼女の後を狂気に満ちたバーサーカーとアサシンが続く。

 ワイバーンに騎乗したジャンヌ・オルタ達をジルが見送る。ワイバーン達が次々と飛び立つ中、ジャンヌ・オルタがふと思い出した事をジルへと問い掛ける。

 

 

「ねぇ、ジル」

「なんですかな、ジャンヌ?」

「私は“人形”?」

「っ!?」

 

 

 ジャンヌ・オルタはの問いに笑みを浮かべていたジルの表情が凍り付く。

 

 

「? ジル?」

「はっ!? あ、あぁ、申し訳ありませんジャンヌっ!」

 

 

 ジャンヌ・オルタの呼び声で我に返るジル。

 一瞬の事であったが彼にとっては1時間もの時間が経過したかのように長く感じた。

 困惑が混じった表情のジャンヌ・オルタに対し、ジルは慌てた様子で謝罪する。

 

 

「どうしたのかしら?」

「いえ、その言葉は匹夫めに言われたのですかな?」

「違うわ、あの忌々しい天使よ」

「おぉ…なんと忌々しい神の使いでしょう? ジャンヌを見捨てるどころか戯言で貴女様を惑わそうとするとは…」

「そう、そうよね…戯言よね? 私は人形では無いでしょう?」

 

 

 声に不安が混ざるジャンヌ・オルタ。そんな彼女にジルはその不安を消し去るか如く捲し立てる。

 

 

「その通りで御座います。貴女様はジャンヌ・ダルクに他なりません。裏切ったこのフランスを、世界を、神すらにも報復すべく甦った麗しき竜の魔女なのです!!」

「私は魔女、そう…このフランスに復讐する為に甦った魔女…」

「恐れる事はありませぬ、ジャンヌ。貴女様は思うが侭にその力を振るえば宜しいのです」

「えぇ、そうね。私は竜達を率いて蹂躙すれば良いのだから…」

 

 

 ジルの言葉にジャンヌ・オルタは頷きながらワイバーンを駆り、飛び立つ。

 

 

「有難う、ジル。貴方の御陰で不安は晴れたわ」

「それは宜しゅう御座いました。それではジャンヌ、在るがままに」

「えぇ、行ってくるわ」

 

 

 高らかに飛び立っていくワイバーン。

 ジャンヌ・オルタの乗るワイバーンの周りを無数のワイバーン達が飛んでいる。

 

 そしてその先には…

 

 巨大な竜の姿があった。

 

 ジャンヌ・オルタはワイバーンから巨大な竜へと飛び移り、旗を掲げると竜は彼女の示した先へと飛翔を始めた。

 竜の魔女の出陣である。

 

 竜の姿が小さくなっていくのを見送りながら、ジルはポツリと呟いた。

 

 

「神めは…異邦人共は彼女の正体に気付いているとでもいうのか…? いや、まさかそんな…」

 

 

::::::::

:::::

::

 

 

「お早う御座います先輩、エミヤさん」

「お早うマシュ、早いね?」

「お早う」

 

 

 マルタとの闘いを終えた夜も終わり、朝がきた。

 まだ日が余り昇っていない早朝の中、朝食の準備をしていた優作とエミヤにテントから出て来たマシュが挨拶をする。

 優作は大きなバゲットを薄くスライスしており、エミヤは鍋で野菜や豆を煮こんでいた。

 

 

「はい、先輩達が朝食を作る為に起きているだろうと思って、私もお手伝いしたくて早起きしました」

「それは嬉しいさな」

「何かお手伝い出来ますか?」

「それじゃあ、そこのブロックハムや野菜を薄くスライスしてくれるかな?」

「はい、任せてください♪」

 

 

 優作の指示に従い食材をサクサクとスライスしていくマシュ、カルデアにて彼やエミヤ達から料理を習っている為にこの程度なら朝飯前だ。

 

 

「人数分切り終えたら、このスライスしたバケットの片面にバターを塗ってマシュが切った食材を挟んでいってくれるかな?」

「はい!」

 

 

 3人での楽しい調理が暫く続いたが、オルガマリーの登場で小さな波乱が起こる。

 

 

「お早う御座います、所長」

「お早う、マリー」

「……お早う」

 

 

 調理している優作達の元にオルガマリーが現れる。彼女に優作達は挨拶を交わしたのだが何か不機嫌だった。

 

 

「マリー、如何したん?」

「なんでもないわ」

「!?」

 

 

 問い掛ける優作にオルガマリーがプイとそっぽを向く。「私、不機嫌です」のオーラを隠す事無く、優作をジト目で見ている。

 優作にとって彼女がそんな態度を取ってしまう様な事をした記憶は無い。首を傾げる中、マシュが彼に耳打ちする。

 

 

「申し訳ありません、先輩。実はオーバーワールドで先輩とデートした事をうっかり洩らしてしまって…」

「…把握」

 

 

 つまり、“自身は凪の服の力を使いこなせるように頑張っていたのに遊び回っていた事が許せない”のであろう(合っている様で合っていない)…と、マシュの話から理解した優作(The 勘違い)。取り敢えずは彼女の機嫌を良くする為に行動を開始する。

 

 

「マリ~?」

「…………何?」

 

 

 優作の呼び声にそっけない返事をするオルガマリー。それでも優作が気になっているから彼をチラチラ見ている様子はなんだか微笑ましい。

 

 

「マリーが忙しかった中でマシュと2人で遊びに行ったのは申し訳ないと思ってるさ?」

「…別に怒ってなんかないわ」

「むむむ…」

 

 

 優作の謝罪に対して再びそっぽを向くオルガマリー。そんな彼女の様子を見て、これは相当根に持ってるなと優作は苦笑いする…が、この程度でへこたる彼ではない。

 

 

「いや~、この特異点を解決したら連れて行こうと思ってたんだけどな~?」

「……?」

 

 

 思わせぶりな台詞を放ちながら、優作は懐からナニカを取り出す。

 オルガマリーが彼へ視線を向けるとその手には2枚のチケットがあった。

 

 

「オーバーワールドで人気の海中レストランの招待チケットが丁~度2枚(・・)あるから、マリーへ日頃の感謝と労いを兼ねてお誘いしたかったんだけどな~?」

「…!?」

 

 

 残念そうな声でチケットをヒラヒラと揺らす優作にオルガマリーは目を丸くする。オーバーワールドについては昨日のバスルームの中でマシュから説明して貰っている。何でも優作が偶々発見した別世界で、彼自身が街の建築や店舗設立に関わっており、正にもう一つの地球と言える場所であるとの事。

 彼が建築に携わった街の建物はどれも素晴らしかったとはマシュの評だが、カルデアの増築された地下エリアのデザインを見る限り、彼の建築センスは相当なモノである事は解かっている。海中レストラン自体は現実にも存在してはいるのだが、行った事が無い上に彼がどのような感じのレストランを建てたのかが非常に興味があった。

 

 

「でも誘えそうに無いな~、しょうがないからマシュかダヴィちゃんでも誘うかな~?」

「ま、待って!!」

 

 

 わざとらしい言い方ながらも優作がマシュへチケットを渡そうとしているので思わず制止の声を出してしまったオルガマリー。

 してやったりと言いたそうなしたり顔の優作を前に単純な自分に呆れつつ、オルガマリーは顔が徐々に熱くなっていくのを感じていた。

 

 

「一緒に行く?」

「……………行く」

 

 

 恥ずかしさでまたもやそっぽを向きながらも優作の問いに頷く。そんな彼女に優作は笑みを浮かべてチケットから手を放す。すると2枚のチケットは蝶の様に羽搏きながらオルガマリーの手元へと飛んでいく。

 

 

「それじゃ、楽しみにしてるから。それまで預かっていてね?」

「……うん」

 

 

 笑顔の優作にオルガマリーは受け取ったチケットを大事に握りながら頷く。先程までの不機嫌は何処へやら、嬉しそうなオーラを撒き散らしながら笑みを浮かべている。

 そんな様子を料理しながら見ていたマシュは頬を膨らます。自身が事の発端ながらも優作とオルガマリーが自分がまだ知らない場所へ2人で行く事に胸が何故がモヤモヤした。

 

 

(他人事の様に言える立場では無いのは解かっているだが……苦労しそうだなマスターも…)

フォウキャウキュウ~フォウ(恋愛トライアングルが完全に形成してるね)

 

 

 笑顔のオルガマリーと頬っぺたを膨らませているマシュの様子を見て、エミヤとフォウは呆れ顔になっていた。

 

 

:::::

 

 

「…き……さい、聖……タ」

「……う~ん…」

「朝……が出…ま…た…」

「……んあ~?」

「聖マルタ、起きて下さい」

「へ?」

 

 

 マルタが目を覚ますと目の前にはジャンヌの顔があった。

 

 

「お早う御座います、聖マルタ」

「はい? …へ?」

「優作さん達が朝御飯を準備しています、皆集まっていますので行きましょう?」

「………あ~、そうだったわね」

 

 

 笑顔で挨拶するジャンヌにマルタは未だぼんやりしている頭を回転させて現状を思い出させる。

 昨夜、ジャンヌとの戦いに負けた後、優作達に依ってジャンヌ・オルタとの契約パス及び狂化を解除して貰い、優作を殴るべく追い回した挙句、魔力切れで倒れたのだった。

 

 

「体調は大丈夫ですか? 倒れる直前にオルガマリーさんが契約を結びましたが、魔力は如何ですか?」

「大丈夫よ、寧ろ力に満ち溢れているわ」

 

 

 首を捻ってボキボキと関節から音を鳴らしながらベットから出るマルタ。中々にワイルドな様子だが、元々が下町育ちの彼女にとって、これが素の姿である。

 

 

「それじゃあ、行きましょう? 後、私の事は只のマルタで良いわ」

「宜しいのですか?」

 

 

 マルタの頼みにきょとんとするジャンヌ。

 

 

「構わないわ。立場上仕方なかったとは云え、周りから敬われてばかりって肩が凝っちゃうし…貴女も周りから“聖女ジャンヌ”とか“ジャンヌ様”とかずっと呼ばれっぱなしは嫌でしょ?」

「クスッ、そうですね。分かりました♪」

 

 

 ジャンヌと共にテントを出ると既に他のメンバーは揃っていた。

 

 

「ら、ランサー…」

「ふむ、起きたかライダー…否、聖女マルタ」

 

 

 ヴラド三世とマルタ。嘗てジャンヌ・オルタに召喚され、狂化に因って望まぬ虐殺を行っていた者同士である為に少々気拙い雰囲気が流れる。

 

 

「まぁ、座れ。彼らの作る食事は美味い」

「え、えぇ…」

 

 

 ヴラド三世に促され、マルタも席に着く。

 全員が席に着いた処で優作達が出来立ての料理を運んで来た。

 

 

「へ~い、朝のメニューはササミとハムのサンドウィッチとキカトリーク・サラダ、満腹やわらか豆スープで~すっ!」

「まぁ、美味しそう♪」

「ドリンクとしてミルクとオレンジジュース、紅茶がある。好きな方を飲んでくれ」

 

 

 優作とマシュがサンドウィッチとサラダが載ったプレートとスープが入った御椀を各々の前に配膳していく。テーブルの真ん中にはピッチャーに入ったジュースとミルクそして紅茶が入ったポットが置かれている。

 

 

「一日の元気は朝御飯に有り! さぁ、食べようっ!!」

 

 

 優作の言葉と共に食事を始める面々。

 

 

「…美味しい」

「うむ、美味い」

「どんどん食べたってな? スープはお代わりあるさかい」

「優作さん、お代わり宜しいですか?」

「ういうい、お腹いっぱい食べんしゃい」

 

 

 スープを啜りながらマルタとヴラド三世がその美味しさに感想を零し、ジャンヌがお代わりを要求する。

 マリーは目を輝かせながらサンドウィッチを頬張っており、アマデウスは黙々と食べている。

 

 

「ところでマル姐、ジャンヌ・オルタが使役しているすんごい邪竜って何なん?」

 

 

 朝食後の一服で皆がのんびりしていた時、ふと優作がマルタに問い掛けた。

 優作の問いに嘗て竜の魔女の駒となっていたマルタとヴラド三世が同時に答える。

 

 

「「ファヴニールよ(だ)」」

 

 

 ジャンヌ・オルタが操る竜の正体に息を呑む……のは一部だけで他は「そっか~」な軽い感覚で受け止めていた。

 そして、肝心の優作はと云うと…

 

 

「ほ~ん、ファヴニール…ファフニールね~?」

 

 

 全く緊張していなかった。そんな優作の反応に新規以外のメンバーは「あぁ、やっぱり…」といった顔になっている。

 

 

「…アンタねぇ…相手は邪竜の中の邪竜なのよ!? 分かってる訳!!?」

「だってにゃ~? 確かにファヴニールは強いけんど、"バハムート"程じゃ無いし~?」

「ば、バハムート…?」

「そもそも仲魔にいるし~?」

「は? 仲間? ……へぁ?」

「…優作よ、それは本当なのか?」

 

 

 優作の反応に対して額に青筋を浮かべたマルタが声を荒げるのだが、彼の返答に困惑の声を漏らし、ヴラド三世も信じられない様子で問い掛ける。

 優作はニヤリ顔で封魔管を一本取り出した。

 

 

「出て来い、ファフニール」

「何用カ、さまなー?」

 

 

 封魔管から緑の閃光が放たれ、開けた場所へと延びていく。

 光が消えた後の場所には漆黒と白銀で鈍く輝く鋼の身体を持った巨大な竜が立っていた。

 

 

「嘘…でしょ…!?」

「大きさも、姿もまるで違うが気配は同じ…否、力の格が全然違うっ!!」

 

 

 優作の呼びだしたファフニールはマルタ達が監獄城で視たファヴニールとはその見た目も大きさも異なっていた。しかし、目の前のファフニールが放つ力強さはジャンヌ・オルタが持つファヴニールが放っていたモノより遥かに濃く、強大だった。

 マルタはポカンと口を開いて呆けており、ヴラド三世はその顔を驚愕に染めていた。

 

 

「おいちゃんが手塩を掛けて育てたこのファフニールにジャンヌ・オルタのファヴニールがどれだけ戦えるか楽しみさね?」

「ホウ…別世界ノ我ガ存在スルカ…面白イ…」

「……そうね、そうよね。タラスクすら使役しているアンタが持っていない訳無いわよね…」

「…優作の力については説明されたが、本当に規格外であるな…」

 

 

 ゲス顔になりながら「ゲゲゲ」と笑う優作に遠い目になったマルタがしみじみと呟き、ヴラド三世も呆気に取られていた。

 

 

「…邪竜を使役しているならばドラゴンスレイヤーも連れていたりするのか?」

「もち、このファフニールを屠ったジークフリートもいるさね」

「……私の忠告って無駄だった…?」

「ノンノン、おいちゃん達ははぐれサーヴァントを仲間にする予定だったさかいな。マル姐の話は有難いっさ」

 

 

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 キャンプ地から出発して十分足らずでディジョンに着いた優作達は早速、情報収取を開始した。

 ラ・シャリテと同じく、優作とジャンヌが2人は商会商売を兼ねた情報収取を、マシュとオルガマリー、小次郎は3人が町の人々へ聞き込み調査、エミヤとクーフーリンが街の外で見張りの任に就く。

 これに新たなメンバーであるマリーとアマデウスが情報収集班に加わる。ヴラド三世とマルタの2名は流石にジャンヌ・オルタ一派とそっくりな顔(同一人物であるのだが)が増えるのは勘違いを招かねないとの事から霊体化して見張りの任に回った。

 街への襲撃も無く、円滑に情報収集を終えた優作一行は移動しながら結果を報告する事にし、そのままディジョンを出発してリヨンへとチョコボを走らせた。

 

 

「リヨンには大剣を使う剣士がいるそうです」

【大剣を扱うならセイバーのサーヴァントか、現状のメンバーにセイバーはいないから助かるね】

「マル姐が言ってたサーヴァントで合っているの?」

「そうね、リヨンにはワイバーンの大群を向かわせてたの。でも帰ってくる事無く全滅してた。だからラ・シャリテ襲撃後にリヨンも攻める予定だった訳」

 

 

 ディジョンにてマシュが聞いた噂話とマルタの話を摺り合わせる。リヨンにいるセイバーと思われるサーヴァントはジャンヌ・オルタが操るファヴニールへの切り札になれる人物である。

 なによりはぐれサーヴァントなのだ。可能な限り仲間に引き入れていきたい。

 

 

「他には角を生やした少女がいるらしい」

「角…ですか?」

「うむ。変わった身なりらしいが、ワイバーンを撃退していたらしい故、竜の魔女の配下では無かろうて」

「僕は聖人がいる話を聞いたよ」

「聖人?」

「名前こそ判らなかったけど、守護している街では大分慕われているらしいよ?」

 

 

 小次郎とアマデウスからリヨンにいるドラゴンスレイヤーに続き、新たなはぐれサーヴァントが存在する情報を得る。

 

 

「後、ワイバーンに街や村を追われた人々を天使様が助けているらしいわ」

「天使?」

「なんでも襲撃で村を追われた人々を避難先の街まで護衛してるらしいの。この街に逃げて来た村人も助けて貰ったらしいわ」

「天使の噂は私も聞いたわ。襲撃を受けていない村や街を守護しているらしいわね」

 

 

 マリーも街から聞いた情報を報告し、同じ情報を聞いたオルガマリーも説明を加えていく。新たな天使というワードに一同が首を傾げる中、優作だけが内心で状況は上手く動いている事を喜んでいた。

 

 

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 リヨンに到着した優作達。

 ワイバーンの襲撃を受けていた為に避難で住民が離れていると思っていたのだが、街は人で賑わっていた。

 

 

【街を守護しているサーヴァントが相当な信頼を受けているのだろうね】

「手分けして探しますか?」

「いや。街を守っている以上、街のお偉いさんとかに話を着けた方が良いと思うさ。ま、おいちゃんに任せて?」

 

 

 この街に来た一番の目的は街を守護しているはぐれサーヴァントを仲間にするか協力態勢を結ぶ事である。街を一人で守護している以上、守られている街の住民からは大きな信頼を受けているであろう。ならば、街の長といった上の立場の者と繋がりが出来ている筈だ。

 優作は商売を兼ねてサーヴァントと出会う方法を考えていた。

 

 

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 リヨンの商会にて会長と商談を進めつつ、街を護っている剣士へと伝言を頼む事に成功した優作達。ラ・シャリテとディジョンにて販売した瓶詰の食料と医薬品、そしてアルバレストだったが、何れも好評な様子で購入して貰った。

 商談を終え、世間話を混ぜながら噂話を聞いている中、商談をしていた執務室へ一人の男が訪れた。

 

 

「すまない、視回りで遅くなった」

 

 

 執務室の扉を開き、黒を基調とした鎧を身に纏い、銀髪を長く伸ばした青年が現れた。

 

 

「貴方が、この街を守護している…?」

「あぁ、マスターがいない儘で召喚され、彷徨っていたところをワイバーンに襲われていたこの街を見掛けてな。守護し、そのまま居座っている身だ」

「ところで、お名前は?」

「む、すまない。俺の名はジークフリート」

【なんと、ファヴニール打倒に正にうってつけな人物だった!!?】

「まさかのご本人かいな…」

 

 

 黒き騎士、ジークフリートの自己紹介にロマニが驚愕の声を漏らし、優作達も驚く。

 ドイツの有名な英雄叙事詩『ニーベルンゲンの歌』にて登場するジークフリートはネーデルラントの王子にして不死身の肉体を持った英雄であり、伝説の英雄シグルズがモデルであるとされる人物だ。

 聖剣バルムンクを振るって邪竜ファヴニールを討伐した際、その全身にファブニールの血を浴びた為に不死の肉体を得たとされているが、その時背中に張り付いていた一枚の木の葉に因って一部分だけが不死身ではなくなった為、彼を疎ましく思っていた王国の重臣ハゲネが騙し討ちでその急所を貫いた事で殺害されたと伝えられている。

 

 

「街の好意で部屋が用意されている、話は其処で良いだろうか?」

「えぇ、構いません」

 

 

 ジークフリートの提案にオルガマリーが了承し、優作達は商会を後にした。彼の話では見張り塔の一角を仮住まいにしているとの事。見張り塔へと向かう一向だったが、行く道で街の住民達がジークフリートへと声を掛けていく。

 

 

「騎士様、お仕事お疲れ様!」

「あぁ」

 

「騎士様! 何時も街を護ってくれて有難う」

「それが俺の仕事だ」

 

「これ持っていってくれよ! 収穫したての野菜だ」

「すまない、有難く受け取ろう」

 

「きしさまぁ、これあげるぅ♪」

「有難う」

 

 

 老若男女問わず、様々な人達から労いの言葉と共に様々なモノを受け取るジークフリート。彼の人柄が垣間見えた。

 

 

「随分と慕われているんですね?」

「サーヴァントの身である以上、食事は必要無いからと断ってはいるのだがな…気にするなと言って聞き入れてくれない」

「良い人達ですね」

「あぁ、俺には勿体無い位の良い人々だ」

(謙虚な人だなぁ…)

 

 

 控え目な態度を取るジークフリートに勇ましい英雄のイメージがあった優作は、マルタの様に実際合ってみないと、人物か判らないのは本当なのだと改めて感じていた。

 ジークフリートに案内され、見張り塔の詰め所に着いた。部屋はそれなりに広く、嘗て使われていた椅子も複数あった為に座る様、促される。

 

 

「ところで、そこの少女は魔女と顔が瓜二つの様だが…?」

「それも含めて説明します」

 

 

 商会にて見た時から気になっていたらしく、ジャンヌの顔を見ながら問い掛けるジークフリートにオルガマリーがフランスへ来た理由含めて説明する。

 

 

「世界は焼かれ、人類は殆どが死に絶えた、か…」

「その原因の一つがこのフランスで起きている竜の魔女が起こした争乱なんです」

「ジャンヌ・ダルクは聖女と竜の魔女の2人に分かれているという事で良いのだな?」

「はい。英雄ジークフリート、どうか力を貸して頂けませんか?」

 

 

 オルガマリーの説明を聞いていたジークフリートだったが、彼女の依頼に対し申し訳無さそうにその首を横に振った。

 

 

「すまない、手を貸してやりたいのは山々だが…俺以外にこの街を護れる者がいない以上、俺はこの街を離れる訳にはいかない」

「それは…そうですね」

「竜の魔女、ジャンヌ・オルタを討伐せねばならない事は先程の話から理解している。だが、オルレアンに攻め入った時、敵の別動隊がいた場合に街を襲われる可能性を見逃す事は出来ない」

 

 

 彼の言葉は尤もだ。ジャンヌ・オルタは聖杯の力でワイバーンや英霊を召喚出来る。下手に攻め入って別動隊を召喚されれば、そちらへ戦力を向けなければ街やフランス国民達が危ない。

 

 

「加えるならヴラド三世とカーミラ、私が捕らえられている以上、新しいサーヴァントを向こうは召喚している筈よ」

 

 

 リヨンに入る前からしていた霊体化を解除してマルタが別の問題を提起する。

 彼女が生き残ったら戦力は回復されてしまう危険性がある。その上、聖杯の所持者が彼女でなくジル・ド・レェである場合、ジャンヌ・オルタを倒しても改めて召喚させかねない。

 この戦いに勝つにはジャンヌ・オルタとジル・ド・レェ又は聖杯の持ち主の2人が確実にいる状況で電撃的に倒した上で聖杯を回収しなければならない。

 

 

「!? 彼女は…?」

「済みません、彼女はジャンヌ・オルタに召喚されたサーヴァントだったのですが、契約を解除して此方に引き込んだんです」

「流石にジャンヌ・オルタ陣営にいたメンツが更に2人いたら街が大騒ぎになるでしょう? だから霊体化して隠れていたの」

「2人? ……成程な」

 

 

 マルタの“2人”と云う言葉にジークフリートは首を傾げるが、ヴラド三世も溜息を吐きながら姿を現したので納得する。

 

 

「戦力は必要ですが、街の守護は外せません。ジークフリートさんにはこの街に残って貰うべきでしょうか…?」

「それに関してはおいちゃんにお任せ」

 

 

 マシュが現状の問題を再提起するが、その懸念は優作の言葉で払拭される。

 

 

「要は街の防衛戦力が存在した状況でジャンヌ・オルタと聖杯の持ち主を確実に倒さないといけない訳だ」

「キャンプで見張りに出していた使い魔達を戦力として使うの?」

「それも良いけど、既に手は打っているよ」

「既に…?」

「と言うのもね……っ!?」

「っ!? この気配は奴かっ!!」

 

 

 優作が説明しようとした時、この街に近付く大きな気配を感じて窓の外へ向く。

 同じく、ジークフリートも気配を感じたらしく、席から立ちあがった。

 

 

【優作君! サーヴァントを上回る、超極大の生命反応が向かって来ているっ!!】

「! ジャンヌ・オルタが来たんか!?」

【サーヴァント反応はジャンヌ・オルタを含めて6体! ワイバーンの数もラ・シャリテの時を超えている上に他エネミーを含んだてんこ盛りだっ!!】

 

 

 ジャンヌ・オルタ陣営との第2ラウンド開始のゴングが鳴る時が刻一刻と近付いていた。




元ネタ
>ササミとハムのサンドウィッチ(出典:FF15)
『FF15』に登場する料理。
食べると攻撃力が100、獲得経験値が20%上昇する。

>キカトリーク・サラダ(出典:FF15)
『FF15』に登場する料理。
食べると最大HPが500、HP回復力が25%、獲得経験値が20%上昇する。

>満腹やわらか豆スープ(出典:FF15)
『FF15』に登場する料理。
食べると最大HPが600、HP回復力が50%上昇し、コマンドゲージ加速効果が付与される。

>ファフニール(出典:女神転生シリーズ他)
アトラス作品に登場する悪魔。
北欧の古い伝説に登場する邪悪なドラゴンで英雄ジークフリートによって倒された。
12世紀頃に書かれたとされる『ヴァルスンガサガ』では、大地を震わせ、大蛇に足が生えているような姿をし、身体は硬い鱗で覆われ、強い尾と鋭い牙を持ち、毒を吐く怪物であったとされる。


Q、何でリヨンが無事なの?
A、原作ストーリーを読んでも「嘗てリヨンだった街」や「少し前に滅んだ」しか書いていない為、ラ・シャリテでの遭遇後、邪ンヌ達はリヨンを攻めたと作者は解釈。本作ではラ・シャリテでの戦闘で敗走し、オルレアンにそのまま帰ったのでリヨンは無事という設定。
 へ? 無理がある? そんな時こその御都合展開だ!(開き直り)

Q、マルタは衣装を貰っていないの?
A、次回明らかになります。


次回は4月26日投稿。
感想コメント、意見・質問お待ちしております。


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リヨン防衛大決戦 西の陣!

誤字報告してくださる皆様に感謝感謝。

リヨン戦闘回 其の壱

リヨン防衛戦の文量が3万字越えしたので分割!

しかし、仕事に入ったから執筆速度がガガガ…


「ロマン、敵は後どれくらいで街に着くかな?」

【ファヴニールの飛行速度から計算では後1時間程だよ。サーヴァントのクラスはセイバーとアーチャーにバーサーカー、そして何故かアサシンが2体】

「新たに召喚したようやね…。しかし、アサシン2体は厄介だな…時間も余り無いし」

「兎に角、街の人達を避難させましょう?」

「そうね、ラ・シャリテの時の様に出来るだけ街から離れた場所で迎撃ましょう。ロマニ、敵の侵攻ルートは常時報告してちょうだい?」

【了解です! 敵が本腰を入れている以上、無茶はしないでください!!】

 

 

 オルガマリーの指示にロマニは頷くとホログラムが消える。敵戦力とその動きをスタッフ総出で調べ出したのだろう。

 

 

「さぁて、説明をする前にファヴニール含めた敵さんの軍勢からこの街を守らなきゃね?」

「ファヴニール!? やはりこの気配は奴かっ!!」

 

 

 優作の言葉にジークフリートも拳を握る。既知であった強大な気配にもしやと思ったが、まさか嘗ての宿敵も甦っていたとは、と…

 街の外で迎え撃つべく、移動を始めようとした時、再びホログラムが現れてロマニの焦った表情が映し出された。

 

 

【所長、優作君! 拙いぞ、敵は3手に分かれてリヨンに向かっている。我々の戦力を分散させるつもりだ!!】

「ほむ…そう簡単に迎え撃たせてはくれないか…」

「如何するの、ユーサク?」

 

 

 ロマニの顔が消えて、敵の侵攻ルートが映し出される。

 ホログラムの侵攻ルートには、ジャンヌ・オルタとファヴニール、そしてバーサーカーのサーヴァントがリヨンの北側から、東側からは先行してアサシンとアーチャーが、逆の西側からはセイバーとアサシンがワイバーンとモンスターを率いて進軍して来ている。

 マリーの問いに優作は顎に手を当てながら考える。迎え撃つのは街の外が一番だが、今回のジャンヌ・オルタ陣営はワイバーンに加えてモンスターの軍勢を率いている。一騎当千のサーヴァントといえど、一人で対応出来る数には限度がある。対応策があるとはいえ、今回は3手に別れる以上、優作が直ぐに対応出来ない場所が2か所出来る訳だ。

 

 

「ラ・シャリテの時の様にエミヤんとフォウ君は街へ来るワイバーンの迎撃、これにヴラドさんも加わって下さい」

「む、我か?」

 

 

 優作の指示にヴラド三世が意外そうな声を漏らす。

 

 

「ヴラドさんに渡したエドガーの服は機械を特技として使えます。キャンプの時に確認して貰いましたが、対多数の敵に効果を発揮するモノが多いです。なので3手に別れた敵に対しての足りない迎撃役をどうか…」

「ふむ…与えられた力を試す良い機会だな」

「! では…」

「竜の群れ相手は初めてではあるが、これでもワラキアを守護した身。この街には一歩も踏み入らせぬ」

 

 

 そう言ってブラド三世はオートボウガンを取り出しながら不敵な笑みを浮かべる。

 

 

「有難う御座います。エミヤんは西側、フォウ君は北、ヴラドさんは東側をお願いします。街の外に出て迎え撃つメンバーは先ず、北側はおいちゃんとマシュ、ジャンヌちゃんとファヴニール打倒の為にジークさんの4名で行きます」

「任せて下さい!」

「分かりましたっ!」

「うむ、任せろ」

 

 

 リヨンの外壁にて街へと進行しようとするワイバーン達の迎撃メンバーと北側から攻めてくるジャンヌ・オルタとバーサーカー、そしてファヴニールを迎え撃つメンバーを選ぶ。

 選ばれたマシュとジャンヌは気を引き締めながらも強く返事をし、ジークフリートも頷く。

 

 

「西側はクー兄と小次郎さん、そしてマル姐。東側はマリー、姫さんとアマさんで迎え撃って欲しい」

「おぅ、任せな」

「今回も楽しめそうよな。なに、敵は一人も通さぬよ」

「竜の魔女を一発殴れないのは残念だけど、そうも言ってられないわね。任せなさい」

「解かったわ」

「うふふ、任せて♪」

「君のくれた力なら僕でも何とか出来そうだ、可能な限りは頑張るよ」

 

 

 各々が優作の指示に頷き、移動を開始する。途中、ジークフリートが別の詰め所の見張り兵に敵が迫って来ている事を告げ、住民の避難を促すよう指示する。

 兵士達の避難勧告に慌ただしくなる住民達を避けながら各々が迎撃場所へと散って行った。

 

 

 新たな戦いがもう間もなく始まる…

 

 

:::::

 

 

 北、東、西の外壁では可能な限り敵の侵攻を抑えようと街の弓兵達が集まっていた。目の前には無数のワイバーン達が広く展開しており、その中央にはワイバーンを遥かに超える巨大な竜の姿が徐々に露わとなっていた。

 

 

「あんな化物にこんな弓矢が効くのかよ…」

 

「そもそもあの数のワイバーン共を抑え切るにはこの矢の数では…」

 

「それでも、住民の避難が終わってないんだ…俺達がやらなければ…」

 

「大丈夫だ、ジークフリート殿が来てくれる」

 

「でも騎士様でもあんなバカでかい竜を相手に勝てるのか…?」

 

 

 優作が商会に売ったアルバレストは既に兵士達に行き渡っていたが、圧倒的な敵の数に兵士達の士気は低い。自分達は死兵だ、住民達を一人でも逃がす為の…

 震える身体を腕で押さえつけ、覚悟を決める兵士達の頭上を赤い影が通り過ぎる。何事かと視線を向けると大きな赤い鳥に騎乗した騎士と少女達が城壁を越えて外へと降り立つ。

 

 

「フォウ君、城壁の防衛を頼んだよ?」

「フォウさん、頑張ってください!」

キュウフォウキャウ(このフォウさんにまっかせなさい)!!」

 

 

 城壁を越える際に優作の肩にいたフォウが城壁へと飛び降りてフォウタンクを展開すると不敵な鳴き声を上げる。

 城壁に降り立つは赤チョコボに乗った優作とマシュにジャンヌ。そして霊体化して後に続いていたジークフリートも姿を現した。

 

 

「おぉっ、騎士様だ!」

 

「騎士殿が来てくれたぞっ!!」

 

「ジークフリート様っ!!」

 

「騎士様ぁっ!!」

 

 

 ジークフリートの姿に落ち気味であった兵士達が湧き上がる。

 流石、この街を守護して来た英雄である。その姿を見せただけで下がっていた士気が高くなっていく。だが、士気向上にもう一手欲しい。

 

 

【メタトロン、手隙の天使はどれ程いるかな?】

【む、サマナーですか? 住民の避難は粗方完了してますから街の防衛の分を考えれば半分は抜けて問題無いと思います】

【分かった、召し寄せで呼びたいから手隙のメンバーを伝えてくれ】

【畏まりました】

 

 

 フランスの民を護らせる為に放った仲魔達のリーダーとしていたメタトロンへ念話を送る。リヨンまでの移動中、状況報告を念話で受けており、手隙になった戦力をリヨンの防衛に宛てようと考えていた。優作の育成した仲魔は低級の天使であるエンジェルといえど、その実力はサーヴァントクラスに匹敵する。これにイニシエダンジョン産の使い魔を加えれば、戦力は十分足りるだろう。

 ジャンヌ・オルタは優作達が立つ城壁下の100メートル程手前で軍勢を止めた。

 ワイバーンを直ぐに嗾ける事はせず、ジャンヌ・オルタはファヴニールの頭上から優作達を見下ろしながら声を上げた。

 

 

「ハハッ、反吐が出る位の感動的な再開……と云っても一日ぶりね。残りカスの聖女様と忌々しい異邦人共?」

「ジャンヌ・オルタ…」

 

 

 優作達を眺めながら見下した笑みを浮かべるジャンヌ・オルタ。

 

 

「はぐれサーヴァントがこの街の侵略を邪魔しているとジルから聞いたから来てみたら、まさかアンタ達までいるなんて…実に好都合ね、アンタが仲間にした異邦人共も含めて纏めて殺してあげるわ! ファヴニール、この愚かな奴らを灰にしてやりなさいっ!!」

 

 

 ジャンヌ・オルタは改めて残酷な笑みを浮かべながら旗を掲げるとファヴニールが大気を震わせる咆哮を放つ。

 その咆哮に士気を上げていた兵士達は忽ち縮み上がってしまう。

 恐れを抱きながらもチョコボから降りたマシュとジャンヌが武器を構え、ジークフリートも仇敵の姿にバルムンクを抜く中、優作は外壁の方へ向いて大きく息を吸い込んだ。

 

 

「聴けぇ! リヨンを護る兵士達よっ!!」

 

 

 突然、優作が高らかに大声を挙げる。

 

 

「目の前には竜の魔女が率いる巨大な邪竜にワイバーンとモンスターの軍勢がいる……だがこんなもの恐るるに足らずっ!」

【召し寄せっ!!】

 

 

 優作が印を書くと共に城壁の上に召し寄せされた天使達が続々と出現していく。優作は更にエンジェルの契約書を取り出して追加戦力として召喚していき、忽ちの内に天使の軍勢が形成されていった。

 

 

「なっ! はぁああああ!?」

「我々には天より来た使者が味方しているっ!」

 

 

 姿形は違えど、何れもが翼を広げて神々しいオーラを放っている。城壁の兵士の中には膝を曲げて祈り出す者も現れ出し、ジャンヌも立ちながらではあるが祈る為に両手を重ねていた。

 

 

「ふ、ふんっ! 幾ら天使を集めた所でその程度の数でこのファヴニールとモンスターの軍勢を抑えるなんて…」

「そしてぇ!! 邪竜が人を襲うならば、人を護る竜も当然いるっ!!」

 

 

 現れた天使達を前に驚きながらも強気で迫るジャンヌ・オルタに優作は更に声を高くし、宣言する。

 今回、ファヴニール相手にファフニールを出そうと思っていたが、ジークフリート本人がいる為に彼のテンションを下げる様な真似はしたくないので止める事にした。

 なので竜の王を呼ぶ事にした。

 

 

「ファフニール、御免。今回は流石に出せないや」

【ソレハ無イゾ、さまなー?】

「埋め合わせはする。キャンプでいた青髪の槍兵との模擬戦は如何かな?」

【フム…奴ナラ我モ楽シメソウダナ……乗ッタ】

「有難うね」

 

 

 今回、戦いに出せない事をファフニールに謝罪しつつ、優作は改めてファヴニールに乗るジャンヌ・オルタへ身体を向けて高らかに声を響かせた。

 

 

「兵士達よ、特と御覧じろ! 竜の魔女は邪竜と共に恐れるが良いっ!! これが邪竜を超える竜の王だっ!!」

 

 

 優作の詠唱と共に魔力が自身の周囲で渦を描きながら吹き荒れていく。

 

 

夜闇の翼の竜よ、怒れしば我と共に 胸中に眠る星の火を! バハムートォ!!

 

 

 晴れている筈の空が一瞬暗くなる。

 

 何事かと各々が空を見上げたその先には…

 

 ファヴニールと並ぶ大きさの黒龍が翼を広げて浮かんでいた。

 

 

「う…嘘でしょう…?」

 

 

 優作に依って召喚された竜の王、バハムートは天高く咆哮を響かせた。

 その圧倒的な存在感と咆哮にワイバーンとモンスター達は怯えだして慌ただしくなる。

 だが、怯えたのはモンスター達だけではなかった…

 

 

「ど、如何してっ!? ファブニールッ!!? 貴方までが怯えるというの!?」

 

 

 ファヴニールが震えていたのだ。

 バハムートの放つ威圧に恐れ、その巨体を退けようとしていた。

 

 

「さぁて、第2ラウンドの始まりだっ!!」

 

 

:::::

 

 

リヨン 街壁西側

 

 

「しくじるなよ、弓兵!!」

「ふん、貴様に言われるまでもない」

「背後は任せた」

「あ~、アンタについてはまだ良く分かってない身だけど、頼むわね」

 

 

 街の外壁を1、2回の跳躍で飛び越えるクーフーリン達。クーフーリンと小次郎、マルタはそのまま街壁の上に残るエミヤに声を掛けながら外へと飛び降りて迫り来るモンスター達へと進んでいく。

 

 

「あ、アンタ達は…?」

「傭兵だ」

 

 

 突然現れたエミヤ達に兵士達が困惑しながらも尋ねてくるが、エミヤは軽く返事をしながらサーモンピンク色の弓を取り出して矢を放っていく。先端に電光を纏わせた矢はワイバーンを射抜くと共に閃光と電撃を炸裂させ、周囲の他個体をも巻き込んで墜としていく。

 

 

「…まだあんなに離れているというのに…」

「なんという腕だ…」

 

 

 未だ、弓兵の射程範囲に入っていないにも関わらず、矢を届かせた上で確実に当てているエミヤに周りの兵士達が驚愕の声を漏らしていく。

 しかし、驚く対象はエミヤだけに当て嵌まらない。

 

 

「流石に多いな…」

「なら、先ずは派手に決めっぞ!! ファイアストームッ!!」

 

 

 目の前に広がる軍勢に小次郎がその多さを零すと、クーフーリンが広範囲対象の炎術を放つ。

 火炎の嵐が巻き起こり、地上のモンスターを含む軍勢の前列が瞬く間に焼き尽くされる。

 

 

「えぇと…これが良さそうね、ブリザードッ!!」

 

 

 クーフーリンに続き、マルタがイメージ内に浮かんだ氷の上級晶霊術を唱えると猛吹雪が吹きすさび、残る敵軍勢を凍てつかせた。

 リヨンに着く迄にマルタも優作から衣装を貰っていた。

 彼女が得た服は氷の晶霊『セルシウス』の衣装であり、白いノースリーブのニットに水色のスリットスカートを纏った上で、下には長めのスパッツ、顔には顔半分を覆う仮面を着けている。

 因みに彼女が着けている仮面は優作が顔バレしてややこしい事にならない様にと彼女とヴラド三世へ渡したモノであった。

 

 

「うむ、敵の動きが止まったな。ならば…サンダガ!」

 

 

 動きを止めた敵の軍勢に向けて小次郎が雷の嵐を放つ。

 凍て付き氷の氷像になったモノは砕かれ、雷に呑まれたモノは消し炭になっていく。

 3人の放った魔術に依ってモンスターの軍勢は大幅に減少した。これに外壁の兵士達の士気が高まり盛り上がる。

 

 

「喜ぶのは早いぞ、敵はまだ残っている」

 

 

 エミヤの言葉に兵士達は慌てて武器を構え直す。敵の軍勢は大幅に減ったが、まだ残っている。クーフーリン達はモンスター達と接敵しており、接近戦へ切り替えている為に僅かながらも彼らを抜けたモンスターやワイバーンが街壁へと向かって来ていた。

 エミヤが矢を次々と放つ中、兵士達もアルバレストを構えて向かって来るモンスター達へと矢を放っていく。連射式のボウガンであるアルバレストから放たれる矢の雨のを前にワイバーンやモンスター達はハリネズミと化してバタバタと倒れていく。

 戦況は良い流れであった。クーフーリン達3人が前線で敵を蹴散らし、彼らを抜けた少数を街壁の兵士達とエミヤが撃ち抜いていく。

 クーフーリン達が暴れる中、新たな刺客が現れた。

 

 

「我が名はファントム・オブ・ジ・オペラ(オペラ座の怪人)。無念を詠い、悲哀を唄い、絶望を歌うサーヴァント…」

「また辛気臭ぇ奴が来たな…」

 

 

 現れたのは襤褸切れの様な黒い布を纏い、顔の半分を覆う髑髏の仮面を着けた仮面の男。その両手は皮を剥いだ様に不気味であり、巨大な異形の爪を着けていた。

 

 

「悲哀は失せぬ、怨嗟は潰えぬ、絶望は消えぬ。故に歌う、歌う、私は歌う。望みのままに。願いのままに」

「そうかよ、勝手に歌って、くたばってろ」

「そうはいかぬ。マスターである竜の魔女よりこの街を死の街にせよと命じられている」

「ほぅ、3対1の状況で私達に勝てると?」

「それはこれを受けてから考えるが良い、唄え、唄え、我が天使……地獄にこそ響け我が愛の唄(クリスティーヌ・クリスティーヌ)

 

 

 ファントム・オブ・ジ・オペラが演劇染みた仕草で両手を広げると、彼の背後に巨大なパイプオルガンが出現する。現れたパイプオルガンは無数の死骸で形成された禍々しいモノであった。

 

 

「さぁ、聴くが良いっ! クリスティーヌ、あぁ、クリスティーヌッ!!」

「ぐおっ!!? 耳が潰れるっ!!」

「これは…耳もだが頭が割れそうだ――――――!?」

 

 

 パイプオルガンの演奏と共にファントム・オブ・ジ・オペラが歌い始めると呪怨に満ちた音響が響き渡り、クーフーリン達にダメージを与えていく。

 

 

「おい、ステゴロ聖女! アイツを知っているか?」

「ステゴロは余計だってのっ!! 奴は前から呼ばれていたんだけど、扱いが難しいって事で自由行動させてたのよ」

「成程、既にアサシンは多く呼んでいた訳か……むっ!?」

 

 

 ファントム・オブ・ジ・オペラの宝具に因って動きを抑えられる中、突如クーフーリン達へ矢が降り注ぐ。

 クーフーリン達は直ぐ様、矢を撃ち落とすがどの矢も急所を狙っており、相手の技量の高さが伺えた。

 

 

「この矢はアーチャーか?」

「真名はアタランテよ。監獄城で見張りとして待機していた筈だけど…どうやら連れて来られたみたいね…」

「敵も総力戦を挑んできたか…どちらも早い内に仕留めた方が良さそうだな」

 

 

 敵軍勢の背後にある木の上で新緑色の髪を伸ばし、その髪から獣の耳が生えた女性が弓を構えていた。その表情は今迄出会ったバーサーク・サーヴァントと違い狂気に満ちていた。

 

 

「今迄会った連中より顔が大分ヤバくないか?」

「狂化に一番抵抗したのが彼女なのよ。だから他メンバーに比べて埋め込まれた狂化が大きいわ」

「なんと…狂気の沼に呑まれているのか…」

 

 

 アタランテは再び矢をつがえると次々にクーフーリン達へと放っていく。複数相手の乱戦の中で襲って来る正確無比な狙撃は非常に厄介だ。

 しかし、アーチャーはこちらにもいる。兵士達だけで壁へ迫るモンスターの対処は充分と判断したエミヤは弓をパニックメーカーに切り換えてアタランテの頭上へと矢を放つ。彼の放った矢は無数に分裂してアタランテに矢の雨をお見舞いした。

 慌ててアタランテは立っていた木から離れるが、ハンターボウへ切り換え直したエミヤが彼女へ矢を次々と放っていく。

 『ホーミング』プレミアが付いているハンターボウに依って放たれた矢はアタランテの後を追い迫っていき、堪らず彼女もクーフーリン達への攻撃を取り止めて迫る矢を迎撃する事に切り替えた。

 

 

「ふむ、アーチャーの攻撃は封じる事が出来たか。しかし、アサシンの攻撃は如何する?」

「…ちぃっ! 俺には似合わねぇが、やるしかねぇな…」

 

 

 少し嫌そうな顔をしながらクーフーリンはアニマを自身に集中させる。

 

 

「『音』と『獣』そして『樹』…これぞ音術の奥義、清歌!!」

 

 

 アニマを開放しながらクーフーリンが歌いだす。アンデットを鎮め大ダメージを与える清歌はファントム・ジ・オペラの宝具である屍のパイプオルガンを破壊し、周辺のアンデットモンスター達も纏めて成仏させていく。

 

 

「なぁっ!? 私のクリスティーヌがぁ……」

「今だ、いけっ!!」

「参る」

 

 

 クーフーリンの声と共に小次郎が駆け出しファントム・ジ・オペラへと迫る。自身の宝具の崩壊に気を取られた彼は接近を許してしまい、小次郎の刀をマトモに受けることとなった。

 

 

「一陣っ!!」

「ぐはぁっ!?」

 

 

 突進と共に放たれる斬り払いにファントム・ジ・オペラは胴体を真っ二つにされる。しかし、それだけで終わらない。

 

 

「これにて仕舞い」

「あぁ…クリスティーヌ…」

 

 

 縦に回転する様に身体を捻りながら振り下ろされた斬撃で肩から股にかけて幹竹割りされるファントム・ジ・オペラ。4分割された彼は最後に無念の言葉を漏らしながら、金の粒子となり消滅した。

 

 

「フリーズランサーッ!!」

 

 

 マルタが無数の氷の槍を正面へと放ち、ワイバーンやモンスター達が氷槍に貫かれて消し飛んでいく。彼女の正面にぽっかりと邪魔者のいない一本道が出来上がる。その道の先にはエミヤの放つ矢に追われるアタランテの姿があった。

 アタランテへ駆け出すマルタ。

 迫る彼女の姿にアタランテは矢を放つのだが…

 

 

「飛葉翻歩」

「なぁっ!?」

 

 

 アタランテの放った矢はマルタを擦り抜ける様に外れる、そして彼女の背後にマルタは立っていた。

 

 

「飛燕連脚!」

「うぐぅ!?」

 

 

 距離を離そうとするも遅く、3連続の回し蹴りをお見舞いしてアタランテを吹き飛ばすマルタ。吹き飛ばされながらも距離を離せたと態勢を立て直し、着地しようとしたアタランテだったが、目の前にはマルタが迫っていた。

 

 

「なぁ!?」

「まだまだぁっ! 無狼拳!!」

「がぁあっ!!」

 

 

 瞬時に距離を詰められた事に驚くアタランテにマルタは掌底を放った後、氷狼の気弾を放つ。冷気を纏う気弾に曝されて凍てつくアタランテの身体はその場から離脱し様にも出来ないでいた。

 

 

「これでトドメ! 凍刃十連撃っ!!」

「あぐっ!? ウがあぁぁあアアアッ!!」

 

 

 大きな隙を見逃す筈も無く、マルタの拳と蹴りがアタランテを襲う。9連続の連撃を放った後に両手に気を込めたマルタが獅子の姿を模した闘気を放ち、アタランテを吹き飛ばした。

 

 

「ガハァッ」

 

 

 地面に叩きつけらる様に倒れたアタランテは武器である弓をも手放し、動けないでいた。

 

 

「…アーチャー」

「はぁ、はぁ…あぁ…ライダーだったのか…パスが切れたと聞いていたが、無事だったか…」

 

 

 ボロボロのアタランテの元にマルタが近づく。ダメージの影響なのか狂化が薄まっていた彼女は理性が戻っており、衣装が異なりながらも近寄ってきた人物がマルタである事に気付き、話しかけてきた。

 

 

「いいえ、負けたわ。…負けたんだけど、その後パスやら狂化を解除されて契約を結んだのよ」

「そう、か…こうして私を倒したんだ…この国を護る者をマスターにしたのだな?」

「そうよ。契約した方のマスターは普通なんだけど、もう一人のマスターがねぇ…」

「ははっ……何だそれは…」

 

 

 困ったような呆れた様な言い方をするマルタにアタランテはクスリと笑う。そんな彼女の身体は徐々に薄れ始めており、金の粒子が散り始めていた。

 

 

「あぁ…これで漸く解放される…」

「アーチャー、アンタ…」

「これで良い…これで良いんだ…無辜の民の血でこの手どころか全身が真っ赤に染まってしまった。…全く、厄介でどうしようもなく…損な役回りだった…」

 

 

 今にも泣きそうな表情で笑うアタランテ。

 

 

「民を、子供達を私が殺したんだ、何もしていない者達を…だから、このまま消えるのが私には相応しい…」

「…あ~…気持ちは分かるし、このまま消えようと思っている所悪いのだけど、多分無理よ?」

「? ………それは如何いう…「失礼する」……へ? むぐぅっ!?」

 

 

 遂には涙をポロポロと零しだすアタランテを前に申し訳なさそうにマルタの言葉を告げる。そんなマルタの言葉に呆けた声を漏らすアタランテの元に突如エミヤが現れて彼女の口にエリクサーとデスペルの薬が入った瓶を突っ込むと同時に投影した破戒せる全ての符(ルールブレイカー)を彼女に突き刺した。

 

 

「あぁ、やっぱりね……ところでアンタも其れを使えたのね?」

「解析した武具を投影し、具現化するのが私の十八番でね」

「宝具すらも使える訳? アンタも大概ね」

「見た目はそっくりでも所詮は劣化コピーだ。完全に本物の性能を引き出せる訳では無い」

 

 

 マルタの指摘にエミヤが自身の能力について説明する中、薬を飲み終えたアタランテが咳き込みながらも倒れていた身体を起こす。マルタにボコボコにされた筈の体には傷一つ無くなっていた。

 

 

「ケホケホッ……怒りも憎しみも感じない…狂化が消えている…? それにパスすらも…どういうことだ!?」

「君に刺した宝具でパスを破棄した。そして飲ませた薬には回復に加えて狂化を解除する効果がある」

「そう、か……しかし、何故私を助けた?」

「マスターからの指示でね。そこのマルタと同じく“竜の魔女被害者の会”の一人だろうから可能なら仲間にしてくれと言われたのさ」

「「りゅ…竜の魔女被害者の会…」」

 

 

 カルデアから各々が戦っている敵性サーヴァントの正体等について教えられていた為、優作からエミヤへ念話で仲間にするよう頼まれた事を語る。

 “竜の魔女被害者の会”というワードにマルタと共に顔を引きつらせるアタランテであったが、続いてエミヤから自分達がジャンヌ・オルタ陣営と戦っている理由を説明され、その顔が真剣なモノに変わる。

 

 

「フランスどころか世界中が焼き尽くされたと云うのか!?」

「そうだ。此処で竜の魔女が起こした戦乱はその原因の一つに過ぎない」

「人は……幼子や子供達は…どうなったのだ?」

「世界が焼かれたのだぞ? 我々が属しているカルデア以外の人類は全て焼却されてしまった」

「何という事だ…」

 

 

 エミヤの言葉で悲痛な表情へ変わるアタランテ。彼女が聖杯に望む願いの対象である子供達すらが未来で焼き尽くされた事に衝撃を受けていた。

 

 

「敵の正体は未だ解からず、持っている戦力も未知だ。だが、複数の聖杯をばら撒いて異変を起こしている以上は神に匹敵するかそれ以上の力を有していておかしくない」

「だから戦力が沢山必要だそうよ?」

「そうか…」

 

 

 自身を仲間に引き入れたい理由は解かった。子供達が焼き尽くされる未来を放って置くなど出来ない上、アタランテが望む事を叶える為には彼等に就く事が最適解である事は理解していた。

 

 

「血で汚れきった身ではあるが…そんな私でも良いのだろうか…?」

「此処の特異点が解決されればこの時代で起きた異変は修復されて元に戻る。殺された者達も殺された事自体が無かった事になるからそう気にする必要も無い」

「…そうか、此処の異変を解決すれば皆助かるのか」

「それでも気に掛けるならば、人理修復に励めば良い」

「そうか、そうだな。まだまだ異変が起きている国がある訳だ、ならば落ち込んでいる暇は無い」

 

 

 アタランテは暗かった表情を引き締め立ち上がる。彼女の瞳に濁りと悲しみは一切無くなり、凛々しく真剣なモノへと変わっていた。

 

 

「改めて、アタランテだ。純潔の狩人にしてアルゴノーツに乗って旅をした。人理修復の為にこの弓、存分に使ってくれ」

「アルゴノーツの船員ならば、メディアとも知り合いだったな。宜しく頼む」

「メディアを知っているのか?」

「彼女もマスターのサーヴァントになっている。詳しくはマスターと落ち合ってからだが、先ずは此処にいる残りを狩るぞ」

「! そうだな、援護は任せてくれっ!!」

 

 

 クーフーリンや小次郎、そして優作が送って来たのであろうエンジェル達によって周囲に残る敵勢力はもう僅かだ。

 エミヤ達は武器を構え、残党の殲滅を開始した。




元ネタ
>バハムート(出典:FFシリーズ)
『FFシリーズ』に登場する召喚獣。
元々は中世イスラムの世界構造の概念における世界魚(鯨)であり、最古の文献によれば本名は『ルティーヤー』でバハムートは渾名であったとされている。
サブカルチャーの世界ではドラゴンとして描かれており、FFシリーズに於いては竜の王という立ち位置で最上級クラスの召喚獣になっている。
使用する技は『メガフレア』で敵全体に防御無視の無属性ブレスを放つ。
上位種に『バハムート改』、『バハムート零式』が存在する。

>ハンターボウ(出典:イニシエダンジョン)
『イニシエダンジョン』に登場する弓武器。
使える技は命中した相手をスタンさせる矢を放つ『スタンアロー』。
スタンアローはモンスターや障害物などに着弾すると炸裂攻撃が発生し、多段ヒット及びスタン効果を発揮させる。
低階層から入手出来るにも関わらず、『かず+』と『かんつう+』が付くと深層でも敵の足止めに使える非常に優秀な武器となる。

>ファイアストーム(出典:サガフロンティア2)
『サガフロンティア2』登場する炎術。
『炎』+『獣』の組み合わせで発動し、敵全体に炎属性のダメージを与える。

>ブリザード(出典:テイルズシリーズ)
『テイルズシリーズ』に登場する氷系魔術。
氷属性の上級魔術で、指定した対象の周囲か、画面全体に吹雪を発生させてダメージを与える。
シリーズによってヒット数は異なり、凍結や睡眠の追加効果を与える。

>セルシウス(出典:テイルズシリーズ)
『テイルズシリーズ』の登場人物で氷の大晶霊(又は精霊)。
クールで誇り高い性格で他者に厳しく、それ以上に己に厳しい。大晶霊としての責任を生真面目に全うしようとする態度は、健気ですらある。
戦闘スタイルは氷の魔術と己の肉体を使った肉弾戦を好む。
相対する属性である炎の大晶霊『イフリート』とは仲が悪かったりそうでなかったりする。
因みに作者はシンフォニアのショートカットver.が好み。

>サンダガ(出典:FFシリーズ)
『FFシリーズ』に登場する雷系魔法。
下位互換に『サンダー』、『サンダラ』。上位互換に『サンダジャ』がある。

>清歌(出典:サガフロンティア2)
『サガフロンティア2』に登場する音術。
『音』+『樹』+『獣』の組み合わせで発動し、敵全体の音属性且つアンデット特攻のダメージを与える。

>一陣(出典:ディシディアファイナルファンタジー)
『ディシディアファイナルファンタジー』に登場するセフィロスの持ち技。
前に突進しながら2連続の斬撃を加える。

>フリーズランサー(出典:テイルズシリーズ)
『テイルズシリーズ』に登場する氷系魔術。
氷属性の中級魔術であり、発動者の正面に向けて幾つもの氷の槍を発射する。
氷の槍は貫通する上に2D時代のシリーズでは1画面半を射程にしていた為、非常に強力だった。

>飛葉翻歩(出典:テイルズシリーズ)
『テイルズシリーズ』に登場する技。
移動技であり、滑る様に前方へ移動しながら相手の背後を取る。
移動中は無敵である為、攻撃の回避にも使える。

>飛燕連脚(出典:テイルズシリーズ)
『テイルズシリーズ』に登場する技。
特技に部類する技で、宙へ向けて連続して回し蹴りをおこなう。
シリーズによって回し蹴りの回数や締めの技が異なる。

>無狼拳(出典:テイルズオブレイズ)
モバイルゲーム『テイルズオブレイズ』に登場するセルシウスの使用する技。
氷の上を滑る様に高速で移動して敵との距離を詰め、掌底を放った後、氷狼の気弾を放つ。

>凍刃十連撃(出典:テイルズシリーズ)
『テイルズシリーズ』に登場する技。
奥義に部類する技で、相手に拳と蹴りによる9連撃を加えた後、獅子戦吼を放って吹き飛ばす。
元ネタは同社の格闘ゲーム『鉄拳』に登場する三島平八が使用する『雷神十連撃』


Q、天使軍団+バハムートって容赦無さ過ぎィ!!
A、街の防衛戦なのに容赦する訳なんてないよなぁ? 因みに上位天使は他街の守護に当たっているのでいませぬ。

Q、マルタの衣装はセルシウス?
A、彼女も他に格闘系で候補があったり…(正直かなり迷った)
  ・新島 真(ペルソナ5)
  ・ティファ・ロックハート(FF7)
  ・紅 美鈴(東方project)
  ・レイ(LIVEALIVE)

Q、ファントム・ジ・オペラは仲間にしないの?
A、なんでTDN悪人を仲間にする必要があるんですか?


次回は5月3日投稿。
感想コメント、意見・質問お待ちしております。


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リヨン防衛大決戦 東の陣!

先週より目次ページを読まれた方は気付かれているかとは思いますが、此度友人の maya 様より素敵なイラストを戴きました!!

冬木編表紙イラスト

【挿絵表示】

冬木編おまけ 「Wクーフーリン」

【挿絵表示】

冬木編おまけ2 「遣りたい放題を前に敵はこうなる」

【挿絵表示】


すんばらしいイラストを描いて頂けた事に感謝感激雨霰!
作者は猛烈に感動している!
そして感想100&お気に入り800突破出来た事に感謝感謝!


今回はリヨン戦闘回 其の弐


リヨン 外壁東側

 

 

「やっぱり多いわね…」

 

 

 赤チョコボに騎乗し、外壁を越えたオルガマリーは自分達がいる街壁へと向かって来ている軍勢を眺めながら呟く。

 

 

「ふふっ♪ 短い間だったけど、素敵なお空の旅だったわ。ヴィヴ・ラ・チョコボ♪」

「クエ~♪」

 

 

 同じく赤チョコボに騎乗していたマリーが乗っていたチョコボに感謝しながら撫でると、チョコボは嬉しそうな鳴き声を上げながら彼女に擦り寄ってくる。

 そんな彼女の横に霊体化して追っていたアマデウスが実体化し、軍勢の様子を眺めながら困惑顔で呟いた。

 

 

「う~ん、只の音楽家である僕と王妃のマリーには軍勢を抑えるなんて無理難題と言いたい所なんだけど…」

「あら、アマデウスってばユーサクになりきりの力を貰ったのにまだ不満なの?」

「いやいや、マリア。今言ったのはあくまでも嘗ての僕達の場合さ。優作に貰ったこの力は僕にとってはあの時にあればどれだけ良かったかと羨む程さ」

 

 

 マリーの言葉にアマデウスは苦笑しながらも彼女達の前に出る。

 嘗て抱いた後悔がある。彼女を救えなかったあの時は後悔に押し潰されそうであった、でも今は違う。サーヴァントになっても最底辺のキャスターと自負しており、圧倒的に足りなかった力を(優作)が補ってくれた。

 

 

「彼には感謝してるよ。だから、可能な限り僕は頑張るさ♪」

 

 

 そう言ってアマデウスはリュートを奏でながら自身の肺いっぱいに息を吸い込んで喉に力を入れた。

 

 

「ゥワアァァァァァオゥ!」

 

 

 アマデウスが放つは『ミラクルボイス』。

 彼の放った声がそのまま響き渡る音撃と共に声の言葉が実体化した『ワーオッ!』がモンスターの軍勢に叩き付けられる。音撃で吹き飛ばされるだけならまだ幸せだろう。効果範囲にて吹き飛ばされなかったモンスター達は実体化した彼の言葉に押し潰されてぺしゃんこになっていく。

 そもそも音に依る攻撃である以上、潰されなかったモンスター達も激しい音響に依って鼓膜は潰され、脳すらも揺すられているので動く事すら儘ならない状態に陥っていた。

 

 

「う~ん…凄い。楽師が己を極めればここまでの力を得れるのか…」

「まぁ、凄い! アマデウスの言葉が形になって飛び出したわっ♪」

 

 

 自身の与えられた力に驚くアマデウスにマリーが興奮した様子で飛び跳ねている。彼の攻撃に依って敵の軍勢に大きな乱れが出来た。そこを見逃すオルガマリーではない。

 

 

「一気に攻め立てなさい! アークエンジェル、ヨミクグツ・乙!!」

「無垢な信徒を護る為に参りましょう!」

「っすわ! サマナーの言う通りにっ!!」

 

 

 オルガマリーに召喚されたアークエンジェルとヨミクグツ・乙が進撃して行く。アークエンジェルが衝撃術で複数のモンスター達を吹き飛ばしながら接近した敵を手に持つ剣で斬り裂き、ヨミクグツ・乙は肩に下げた機関銃を構えてワイバーン達を撃ち落していく。

 

 

「まぁ、オルガマリーも凄いわ! でも私も負けてはいないわよ♪」

 

 

 オルガマリーの呼びだした仲魔達の活躍にマリーが喜びながらも彼女も武器であるグレネードランチャー『極・ヤグルシ』を構えながら高らかに叫ぶ。

 

 

「さぁ、一緒に踊りましょう♪ ミラディ!!」

 

 

 マリーの呼び声と共に彼女の背後にピンク色に近い紫色のドレスを纏い、頭が無いながらも顔を隠す仮面を構える貴婦人が現れる。

 ミラディはマリーが極・ヤグルシの砲口を向けている、未だ残る敵の軍勢へ向いて纏っているドレスを捲り上げる。すると捲り上げた個所から幾つもの重火器が姿を現した。

 

 

「今の私は美少女怪盗、ノワール! さぁ、蹴散らしてあげる♪」

 

 

 可憐なポーズを決めながらマリーがグレネードランチャーを放つと共にミラディがガトリングに依る一斉射撃を開始する。

 着弾したグレネード弾が爆発してモンスター達を吹き飛ばし、ミラディの射撃が他モンスターやワイバーン達をハチの巣にしていく。

 

 

「クェー!!」

「クエッ、クェ!!」

 

 

 オルガマリーとマリーが騎乗していた赤チョコボ達もチョコメテオでモンスター達を消し飛ばしながら、近づく敵を嘴や蹴りで叩きのめしていく。

 

 

「ふむ…前線の3人が奮闘している中で我が何もしないのは不名誉極まるな」

 

 

 前線で暴れる3人を見ていたヴラド三世は顎を擦りながら、とある機械を取り出す。

 

 

「あ、あのそれは…?」

「周りの兵士達に目を塞げと伝えておけ」

 

 

 横の兵士が不思議そうに尋ねてきたので忠告し、周りが目を塞いだのを確認するとその手に持った機械『サンビーム』から高照明の光線を放つ。ヴラド三世側へと向いていた敵はサンビームの光線を直視してしまい、視力は潰れて混乱の極みに陥り、宙を飛んでいたワイバーン達は尽く堕ちていく。

 混乱する敵に向けてヴラド三世は新たに機械仕掛けのボウガンである『オートボウガン』取り出して矢の雨を降らした。

 

 

「ふむ…機械とはここまで強力か、我の時代にもあったら焦土作戦などせずに済んだものを…」

「うおぉ、凄ぇ…」

「呆けている暇は無いぞ。大分減ったとは云え、敵は未だ健在だ」

 

 

 ヴラド三世に諭され、感嘆の声を挙げていた兵士達も混乱しているモンスターの迎撃に掛かる。戦況は良好、敵勢力はオルガマリー達に依って蹴散らされ、それをすり抜けた僅かな数も外壁に辿り着く事無く矢を射られて倒れていく。

 前線で戦うオルガマリー達、そんな彼女達の前へ2体のサーヴァントが姿を現した。

 

 

「……御機嫌よう、王妃。本当ならこんな形で会いたくはありませんでした…」

「そうね、シュバリエ・デオン。凛々しくて綺麗だった瞳がそんなに濁ってしまって…。それに、懐かしい顔がもう一人」

「あぁ…マリー、マリー、マリーィイイイ!! 漸く会えたよっ!! 君の首を再び斬り落とせるとどんなに待ち望んでいたかぁ!!」

 

 

 セイバー、シュバリエ・デオン・ド・ボーモンとアサシン、シャルル=アンリ・サンソン。共にマリーとは良くも悪くも深い関係を持つ者達だ。

 

 

「うげぇ…まさかあの変態も呼ばれてたなんて…最悪だ…」

「シャルル=アンリ・サンソン…成程ね、ギロチンを開発した一族にして、マリーの首を落とした処刑人。アマデウスが嫌う訳ね」

 

 

 アマデウスが心底嫌そうな声を零し、そんな彼の反応にスカウターで正体を確認したオルガマリーが納得する。

 対峙した面々だが、そこへヴラド三世が現れる。

 

 

「敵サーヴァントはこの2人だけか?」

「ヴラド三世、敵の掃討は?」

「うむ、其方達が大暴れした御蔭で大分減ってな。壁の兵士達だけで対処出来ると言われて降りてきた。それに見よ」

 

 

 ヴラド三世が指差した外壁ではエンジェル達が兵士達に交じってモンスターやワイバーンへと矢を射かけていた。

 

 

「優作が使い魔を応援に寄越したようだ」

「これなら心配いらなそうね」

 

 

 後はサーヴァント2体と後続のモンスター達を相手すれば良い状況な上、オルガマリーの仲魔と赤チョコボ達も大暴れしているのでモンスターの群れはその数をどんどん減らしていた。

 と、ここでマリーがある提案をする。

 

 

「ねぇ、皆様。ここは私達に任せて下さる?」

「マリーさん?」

「良いのか?」

「えぇ、オルガマリーとヴラド様は竜達をお願いしますわ」

 

 

 マリーとアマデウスの2人で敵サーヴァントを相手するという。優作から服の力を与えられたとはいえ、流石に不安を感じるオルガマリーにマリーは笑顔を向ける。

 

 

「うふふ、心配しないで? アマデウスもいるし…何より私にはこんな素敵なパートナーがいるのだから!」

 

 

 マリーの横にミラディが現れ、可憐にお辞儀をしてみせた。

 

 

「それに…アマデウスはユーサクからとっておき(・・・・・)を貰ったのでしょう?」

「なぁっ!? み、見てたのかいマリア!?」

 

 

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夜 ディジョン手前のキャンプ地にて

 

 

「アマさん、これを渡しとくべ」

「これは?」

 

 

 夕食を終えて皆がテントに戻る時、アマデウスが優作から手渡されたのは小さな縫いぐるみだった。

 灰色に近い銀髪を垂直に逆立てられた柱の様に整えた髪型の男性の人形が宝玉を抱えている不思議な縫いぐるみであった。

 

 

「これはおいちゃんが開発したなりきり人形でね、縫いぐるみの人物になりきる事が出来るっさ」

「へぇ、つまり優作がいなくてもこの人形を持っていればその人物にはなりきり出来る訳かい?」

「そういう事」

 

 

 縫いぐるみをまじまじと眺めるアマデウスだったが、縫いぐるみが持つ宝玉こそ綺麗に輝いていたが特別な力を持っている様には見えなかった。

 

 

「それで、この縫いぐるみのモデルである人物の特徴は何なんだい?」

「彼はスタンド使いでね。まぁ、姫さんに着せたペルソナ使いと同じ様なもんだと思えば良いべ」

「へぇ、マリアと同じなのかい?」

「アマさんに着せたジョニーの服は攻撃手段が全て音属性やからね。この先、音を無効化する敵とか現れる可能性も無きしも非ずだし、念の為に物理特化の服も持っていて欲しいっさ」

 

 

 優作の言葉に縫いぐるみに対して興味を抱くアマデウス。

 

 

「まぁ、姫さんのペルソナと比べると特徴は細かく違いがあるけどね? 因みにスタンド名は『銀の戦車(シルバー・チャリオッツ)』。銀の鎧に身を包んだ騎士の姿をしたスタンドさね。姫さんを護るアマさんにぴったりやろ?」

「き、騎士かい? クズの僕には流石に似合わないと思うけど…?」

「ちょいと待ってなお兄さん、姫を護るのは騎士って相場が決まっとるやろ?」

「それはそうだけど…」

「男は何時でも騎士(ヒーロー)に憧れるもの。格好良いところ見せたりなさいな? それと、スタンドは使い手の精神で強くも弱くもなる。姫さんを想うラヴパワー全開で無双乱舞したれ!」

「ぶっ!? ら、ラヴパワーって何だいっ!?」

「何だよ~? アマさん、姫さんの事お慕いしとるんやろ~?」

「い、いや…それは…その…」

 

 

 ニヤニヤ顔で迫る優作にアマデウスはしどろもどろになる。

 幼い頃にマリーと出会い、そのままプロポーズしたという逸話を持っている彼である。調べ物をしている際に知ったトリビアであったが、実に微笑ましいと優作は思ったものだ。

 

 

「幼い頃からの想いを抱き続けてるって素敵やん? おいちゃん、そういうの大好きやで?」

「!? お、幼い頃ってまさか…知っているのかい…?」

「それじゃあ、話は是くらいにしてテントに戻りましょ? 姫さんとの馴れ初めとか本人から詳しく聞きたいし」

「(流された!?)……お酒は出るかい?」

「もち! 酒の肴に色々聞かせて下さいな?」

 

 

 目を輝かせる優作に照れの混じった困った表情のアマデウス。そのままテントに戻っていき、周りが静かになった頃、隣の女性用テントの少し開いていた窓部が大きく開き、中からマリーが顔を出した。

 

 

「思わず聞き耳を立てちゃった…私ったらいけない娘ね!」

 

 

 ぺろりと小さく舌を出しながらマリーはそんな事を呟いた。

 

 

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「ふふふ、頼りにしているわ♪ 私の騎士様?」

「ま、参ったな…聞かれていたなんて…」

 

 

 あの時の会話を聞かれていた事に顔を赤くしながらアマデウスは頬を掻く。

 恥ずかしいのでジョニーの服のままで戦おうかと一瞬脳裏を過るが、「大事な人(マリア)を守りたい時に使え」、「彼女の前で格好良く決めてやれ」、と優作に言われた事を思い出し、なりきり人形を取り出して構えた。

 

 音楽に身を捧げたクズな自分だが、騎士に憧れた時もあった。

 

 なら今回だけでも騎士になってやろうじゃないか…

 

 

「なりきりチェンジ『銀の戦車:ジャン=ピエール・ポルナレフ』」

 

 

 人形を手にしたアマデウスの言葉と共に楽師の衣装姿が元の黒い衣装へと変わる。

 

 

「あら、服が元に戻っているわ?」

「僕のモヤシな身体には似合わない衣装だったからね、力だけ宿らせて貰ったよ。ま、それでも心は騎士のつもりさ?」

「まぁ、残念…」

 

 

 ポルナレフの衣装は自身には似合わないと判断したアマデウス。着ている衣装は彼がサーヴァントとして召喚された時の衣装と同じであった。

 

 

「今更だけど…正直、君には戦って欲しくなかったよ、マリア」

「あらあら、本当に今更ねアマデウス? でも心配しないで。私にはミラディがいるし、ユーサクと衣装モデルをする約束もしているのだもの、此処で倒れる訳にはいかないわ♪」

「…君の頑固っぷりは良く理解しているよ。それに、僕も君が着飾った色んな姿を見てみたいし、だから…」

 

 

 マリーとサンソンの間を塞ぐ様にアマデウスは立つ。

 

 

「君の元へあのストーカー野郎は絶対近づけさせないよ」

 

 

 サンソンと対峙するアマデウス。

 

 

「やぁ、変態野郎。生前だけじゃ飽き足らず、またマリアを付け回すなんて本当に気色悪い奴だ…」

「そこを退け、クズが。ボクは忙しいんだ、もう一度彼女を死の旅路へ見送らなければならないのだから」

 

 

 小馬鹿にしたような表情のアマデウスと嫌悪感溢れる表情で睨み付けているサンソン。

 開幕早々、悪口の飛ばし合いで始めている事から互いに毛嫌いしている事が解かる。

 

 

「マスターである竜の魔女には感謝しているんだ。まさか再びこうして彼女と相まみえる事が叶ったんだから」

 

 

 構えたギロチンの刃を愛おしそうに撫でながらサンソンは語る。

 

 

「もう一度だ! 同じ人間を再び処刑出来るんだ!! それも尊き白百合の姫君の首を落とせるんだ!!」

 

 

 両手を広げ、高らかに歓喜の声を叫ぶサンソンに苦虫を噛み潰したような表情を隠す事無くアマデウスは呟く。

 

 

「狂化に因って狂いっぷりに磨きが掛かった様だな、シャルル=アンリ・サンソン? 流石の僕もドン引きだよ」

「お前の意見なんて聞いてない。人間を醜いと言った最低品位のお前なんかに理解されてたまるか、人間は美しく、尊い。だからボクら処刑人は敬意を表して相手の首を落とす」

「あぁ、理解出来なくて結構。それに今の貴様は唯々、首を斬りたくてしょうがないだけの変態ストーカー野郎じゃないか。マリア以外の女性はこう言うだろうさ、“おととい来やがれこの変態野郎”ってね?」

「―――黙れっ!!」

 

 

 嫌悪に満ちた表情でサンソンが斬り掛かり、アマデウスは手に持つ指揮棒で受け止めながら、音を介した魔術弾を展開して彼に放つ。

 サンソンは後ろに飛び下がりながら、迫る魔弾を斬り払っていく。

 両者の距離が開く中、アマデウスは指揮棒をレイピアの如く構え、声高らかに叫んだ。

 

 

「改めて名乗ってやる! 我が名はヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。あの時の無念を払拭する為に! そしてマリアの輝きを失わせない為に………この僕が貴様を打ち倒すっ!!」

「人間を愛せないクズの癖して、王妃の傍に立つなぁぁああああっ――!!」

 

 

 怒りの形相でギロチンを振り下ろすサンソン。しかし、アマデウスが自身の指揮棒で受け止める事無く、その刃は彼の手前でその動きを止める。

 

 

「な、一体何が…!?」

「シルバー・チャリオッツッ!!」

 

 

 戸惑うサンソンの前に銀の鎧に身を包む騎士が現れる。騎士が持つレイピアの刃によってギロチンは防がれていた。

 アマデウスが呼び出したスタンド、シルバー・チャリオッツはサンソンのギロチンを大きく弾くと、そのまま彼へ無数の刺突と斬撃を放った。

 

 

「ぐっ、ぐあああぁああああっ――――!?」

「マリアの元へは決して行かせはしないっ!!」

 

 

 全身の至る個所を貫かれ、斬り裂かれたサンソンはそのまま吹き飛ばされる。マリーとデオンの一騎打ちを邪魔しない様、距離を稼ごうとその後をアマデウスが追う。

 

 

「ふふっ、アマデウスったら張り切ってるわね。それじゃあ、私達も踊りましょうっ♪」

「なっ!?」

 

 

 アマデウスの背中をしばらく眺めていたマリーだったが、デオンへ向き直り、彼女へと駆け出す。

 まさかの行動にデオンは驚愕する。王妃である彼女が自身へと向かって来るのもそうだが、何より彼女の手には斧が握られていたのだ。

 

 

「え~いっ!!」

 

 

 マリーが構えた斧『フルールドマルR』をデオンに振り下ろし、彼女は剣で受け止める。が、マリーの一撃は勢いを付けて振り下ろされた事もあって重く、受け止めた自身の両足が地面に陥没する程であった。

 

 

「うっ…重いっ!?」

「まだ終わらないわよ? それーっ!!」

「っ!? くっ…」

 

 

 クルリと舞うように回転し横からスイングする様に斬り掛かる。デオンは斬撃を受け流し、マリーへと斬り返すが、彼女は可憐に避けてみせる。

 デオンの振るう刃をまるで蝶の様にヒラリ、ヒラリと躱していく。

 

 

「さぁ、キラキラと輝きましょう? ミラディ♪」

 

 

 マリーの呼び声と共にミラディが現れ、銃身をデオンへと向けた。

 

 

「これは…うわっ!?」

「はい、プレゼント♪」

 

 

 ガトリングの斉射にデオンは堪らず回避に専念する中、彼女の目の前にグレネード弾が迫る。慌てて避けるが、グレネード弾の爆発まで避け切る事は叶わず、爆風に呑まれて吹き飛ばされた。

 

 

「あああぁああっ!?」

「えぇと…ユーサクの国ではこういう時に“たまや~!”って言うのだったかしら?」

 

 

 ズレた事を言いながら吹き飛ぶデオンへ向かって駆け出すマリー。

 空中で態勢を整えたデオンは難なく着地し、マリーへと再び斬り掛かる。デオンの斬撃をフルールドマルRで受け止め、自身も斬り返していく。

 

 

「私の剣技をこうも受け流せるとは…これも異邦人の力ですか?」

「えぇ♪ ユーサクが身を守れる様にって、この服をくれたの。素敵でしょう?」

 

 

 激しくも美しい剣戟を繰り返す両者。

 剣と斧がぶつかり合う度に火花が散り、まるで星の様に瞬いている。その中を踊る様に斬り合う2人はまるで星々の中を踊る舞姫の様にも見える。

 

 

「デオン、今の貴女は苦しそう。本当の貴女はとっても素敵なのに」

「くっ―――、王妃…」

「貴女はもっと輝けるわ。だから一緒に、ね?」

「……無理です。今の私は竜の魔女の駒に過ぎないのだからっ!」

 

 

 マリーの言葉に苦しそうに顔を歪めながらデオンは凶刃を振う。それを時に受け止め、弾き、ヒラリと躱しながら彼女は言葉を続ける。

 

 

「大丈夫、ユーサクが救ってくれるわ。ヴラド様やマルタの様に、貴女はまた輝ける!」

「っ――、もう無理なんですっ!!」

 

 

 マリーの斧を弾き返しながらデオンは血を吐く様な叫びを挙げる。

 

 

「私はフランスの民を殺した! 宮廷の騎士であろうものが、守るべき者をこの手に掛けたんだ!! 今の私は狂気で動いているだけの殺戮人形っ! こんな私が救われて良い筈が無いっ!!」

「デオン…」

「だから、だからお願いです王妃! 私を殺してくださいっ!!」

 

 

 デオンの濁った瞳から一筋の涙が零れている。

 

 叫んでいるのは彼女の本心…

 

 これ以上殺したくない

 

 血に染まりたくない

 

 私を止めて欲しい

 

 泣きながらもデオンは剣を止めない。

 

 そんな彼女を前にマリーは…

 

 

「そんなの、お断りよ」

「そんな!?」

 

 

 拒否の言葉を告げる。

 

 

「言ったでしょう、貴女を救うって? それに今の私は美少女怪盗ノワールなの、だから…」

 

 

 華麗な宙返りでデオンの剣を避け、マリーはミラディを呼び出す。

 

 

「貴女の苦しみ含めて、全部盗んじゃうから♪ ご覧あそばせ、ミラディ!!」

 

 

 ミラディがクルリと舞うと突如、デオンが宙に浮かびだす。

 

 

「な、これは…!?」

「大人しくしていて! えーいっ!!」

「う、うわあああぁああぁぁっ!!?」

 

 

 ミラディの念動スキル『サイオ』で宙に浮かされたデオンはジタバタと暴れるも空しく、そのまま遠くへと投げ飛ばされる。

 彼女が飛ばされた先にはアマデウスとサンソンの姿があった。

 

 

「何なんだ…何なんだよ、お前のそれはぁ!!?」

「これはマリアを守れる様にと優作が与えてくれた力。今の僕は彼女を守る騎士、貴様の狂気染みた刃なんぞ、絶対に彼女へは届かせない!!」

「人間のクズが、マリーの騎士を名乗るなぁっ!!」

 

 

 立ち上がったサンソンは怒りに身を任せて再び刃を振う。が、シルバー・チャリオッツのレイピアに阻まれてアマデウスに届かない。お返しとばかりに放たれる刺突の連撃を幾つか受けながらも刃で防御する。

 

 

「スタンドの強さは心の強さ! 今の僕は貴様に負ける気が全くしない!!」

「く、くっそおぉおおおおお!」

 

 

 防御に専念しても徐々に追い詰められていく。シルバー・チャリオッツの精密な攻撃を完全に防ぎ切るのは不可能に近かった。

 

 

「そろそろ終わらせ…「アマデウス~、合わせて頂戴っ!!」…マリアっ!?」

 

 

 マリーの声に振り向くと、錐揉みしながらデオンが此方に飛んできており、その後を彼女が追い掛けていた。

 この状況、そしてマリーの言葉から彼女が如何したいか理解する。

 

 

「マリアの頼みだし、一気に決めようか? シルバー・チャリオッツ、キャストオフ!!」

 

 

 アマデウスの言葉と共にシルバー・チャリオッツの鎧が弾け飛ぶ。鎧が無くなった事に依り防御力が下がったが、代わりに更なる機動力を得た。

 

 

「さぁ、変態野郎。これでフィナーレだっ!!」

「なっ!? うぐあああぁぁああっ!!?」

「ブラボー! おお…ブラボー!!」

 

 

 シルバー・チャリオッツがサンソンの周りを残像を残す速度で駆け巡ってレイピアを振う。目で追う事が叶わない高速の斬撃を防ぐ事は叶わず、サンソンは止めの一撃と共に大きく吹き飛ばされた。

 彼が吹き飛んだ先はマリー達がいる方向。つまりサンソンとデオンは空中でぶつかる形となった。

 

 

「うぐっ」

「ぐっ…サンソン、君もやられたのか!?」

 

 

 そのまま地に落ちる2人。デオンこそダメージは少ない身であったが、アマデウスの攻撃で動けない程のダメージを受けていたサンソンが彼女の上にのしかかる様に倒れている為に身動きが取れないでいた。

 

 

「チャンスを逃さない! 決めるわよ、アマデウス!!」

「了解だ、マリア。今回だけの騎士、最後まで格好良く決めてやるさ!」

 

 

 ダウンを奪い、動けないデオン達にマリー達は総攻撃を行う。ダウンするデオンとサンソンの2人にマリーとアマデウスが黒い影となって飛び掛かり、縦横無尽に攻撃していく。

 

 

「Adieu♪」

 

 

 何処からか現れた椅子に座り、マリーが紅茶を啜りながら決め台詞を言うと、2人は力無く倒れ伏した。

 

 

「終わったみたいね、2人共」

 

 

 ポーズを決めるマリー達の元へオルガマリーとヴラド三世が駆け寄る。

 

 

「あら、オルガマリー。そちらも終わったの?」

「えぇ、ヴラド三世が使う機械の力もあって手早く済んだわ」

「うむ、此度の戦いで機械の凄さをつくづく実感した」

 

 

 オルガマリーが仲魔達と敵を蹴散らしている中、ヴラド三世は音響兵器である『ブラストボイス』で敵の群れを攻撃していた。音響に因って脳を揺さぶられたモンスターとワイバーン達は混乱し、同士討ちを始めた事で一気に総崩れに至ったのだ。

 敵軍が全滅し、外壁の兵士達は歓喜に沸いていた。

 

 

「それで、優作から彼等を仲間にしたいと連絡があったのだけどロマニ?」

【はい、メディアをそちらに送ります】

 

 

 ロマニとの連絡の後、メディアが召喚される。

 

 

「来たわよ。この2人で良いのね?」

「えぇ。お願いするわ、メディア」

「任せなさい、破戒せる全ての符(ルールブレイカー)!」

 

 

 カルデアから呼び出されたメディアが倒れている2人に宝具を振って、パスを解除する。

 昨夜のキャンプ時に知り合った2人であったが、互いに王族であった立場もあって夕食を囲んで話している内に仲良くなっていた。

 優作のモデルセンサーにクリティカルヒットした彼女である。当然、メディアもマリーの容姿を前にモデラー魂に火が着いたのだった。

 

 

「これでパスは解除されたわ」

「有難う、メディア! 貴女の作った衣装を着るのを楽しみにしているわ♪」

「ふふっ、私も楽しみにしているわ。カルデアでまた会いましょう?」

 

 

 軽い挨拶を交わしながらメディアはカルデアへと戻る。戻った後はマリー用の衣装をまた製作するのであろう。

 パスの切れたデオンとサンソンにオルガマリーとアマデウスがエリクサーとデスペルの薬を飲ませる(但し、サンソンは顔にぶっかけられていたが…)

 

 

 

「うぅ…傷が…いや、狂化とパスも消えている…?」

「うぐぅ…」

 

 

 ダメージで気絶していたデオンとサンソンの目が覚める。

 

 

「悪い夢から覚めたかしら?」

「王妃…」

 

 

 起き上がったデオンにマリーが手を差し伸べた。

 

 

「うふふ、暗かった瞳が綺麗になってる。もう大丈夫ね?」

「………」

 

 

 彼女の手を取って立ち上がるデオンだったが、その表情は優れなかった。

 

 

「何故…助けたのですか?」

「?」

「私は…フランスの民をこの手で殺めました。最早貴女みたいに輝く事なんて…「もうっ、デオン!」…あたっ!?」

 

 

 顔を俯かせる彼女にマリーがデコピンを喰らわせた。

 

 

「お、王妃…?」

「確かに貴女がした事は悲しい事よ? でも、私達はサーヴァント。今此処で消えても何時か呼ばれる時が来るわ。貴女はその時も呼んだマスターに死を懇願するの?」

「そ、それは…」

 

 

 マリーの言葉にデオンは言い淀む。今、自分が望んでいる事は一種の逃げだ。例えここで消えたとしてもこれまでの行いが消える訳では無い。

 

 

「オルガマリーが言ったわ。このフランスの異変を解決すれば元に戻るって、だから亡くなった人達はまた戻るの。でもそれだけじゃフランスは救われないわ」

「何故です? 竜の魔女を討ち取れば元に戻るのでしょう?」

「それに関しては私が説明するわ」

 

 

 マリーの話に首を傾げたデオンであったが、そこへオルガマリーが詳しい説明をする。

 

 

「…つまり、竜の魔女の争乱は飽く迄も世界を焼き尽くした原因の一つでしかないのですね?」

「えぇ。犯人は様々な時代に異変を起こし、世界を焼き尽くす程の実力者。神代の魔術師でも難しい所業なの。それだけの存在を相手取る以上、味方は多い程良い」

「私はフランスを本当の意味で救いたいわ。デオン、貴女もフランスを救いたい想いは一緒でしょう?」

「………」

「シュバリエ・デオン! そのまま俯いて、危機に曝されているフランスの民を見捨てるの?」

 

 

 思い悩むデオンにマリーは一括する。

 ハッとした表情をした後に、デオンは表情を引き締めた。その表情にはもう悲哀が見られない。

 

 

「申し訳ありません王妃、貴女の言うとおりだ。此処でウジウジと悩んで助けを求める民衆に手を差し伸べない等、騎士の名折れです」

「ふふ、漸く何時もの貴女に戻ったわね? それでこそ貴女よ?」

「これまでの罪深き非礼、お許し下さい。もしお許し下さるならば…」

「気にしちゃ駄目よ? 貴女は悪い夢を見ていただけ…目が覚めたのだからあなたの意思を以って其の剣を振って?」

「っ! ―――は、はいっ!!」

 

 

 デオンにニッコリと微笑むマリーに力強く返すデオン。これならもう大丈夫だろう、なら次は…と、彼女はもう一人の方を向く。

 

 

「何時迄塞ぎ込んでいるの?」

「マリー…」

 

 

 デオンと話している間もずっと俯き続けていたサンソンにマリーが話しかけると彼は顔を上げた。

 

 

「貴方はいっつもそう、辛そうに下を向いてばかり…。前を向いて歩けば素敵な事が見えて来るわ?」

「…でもマリー、ボクは…」

「真面目なのは貴方の美点よ? でも何もかもを自身で背負い続けるのは良くないわ?」

「だとしても僕は処刑人…誰にも疎まれる立場…「駄目っ!」…うぁ…ま、マリー!?」

 

 

 マリーの言葉に尚、消極的な言葉を漏らすサンソンに彼女はその両頬を両手で挟み込む。突然の、そして思いもよらない彼女の行動に彼は頬を赤くさせた。

 因みにマリーの傍に立つアマデウスは苦虫を何ダースも噛み潰した様な表情になっていた。

 

 

「ポジティブシンキングよっ!!」

「ぽ、ぽじてぶ…?」

「ユーサクに教えて貰ったの! “辛い事が有ろうともプラスに物事を考えていけば良い事がきっとある”って!!」

 

 

 キャンプ時の夜、マシュとジャンヌ、そしてマリーが優作と語り合った夜に教えて貰った言葉。彼の後輩である立香が何時でも前向きな性格をしていた事に彼が付けた言葉らしいが、素晴らしい言葉だとマリーは感じていたのだ。

 

 

「サンソン! サーヴァントとして、こうして呼び出されて尚もウジウジしてるの? そんなんじゃ駄目よ?」

「で、でも…」

「ユーサクはこうも言ったわ。“サーヴァントとして呼ばれたならば生前に出来なかった事をしたって良いじゃないか”って」

「生前に…出来なかった事…?」

「貴方を呼んだ竜の魔女は悪い事をさせる為に呼んだわ? でも貴方はもう自由よ? …悪い事以外の事になるけど、貴方が何をしたって良いのよ!」

 

 

 顔をグイっと近づけてマリーが語る。顔が近づいた事でサンソンは顔が真っ赤になっており、その様子を見ているアマデウスは虫唾ダッシュな表情で地面に唾を吐いていた。

 

 

「貴方はもう自由なの!」

「ぼ…ボクが…自由?」

「ユーサク達はこれから戦いに身を投じていくわ。だから貴方も何時か加わるでしょう…でも、これだけは覚えていて!」

 

 

 近づけていた顔を更に近づけるマリー。既に互いの鼻が触れ合っており、サンソンは赤い顔を茹蛸の様に蒸気を噴き上げており、アマデウスはシルバー・チャリオッツを構えさせて何時でも彼の脳天をレイピアで貫ける様にスタンバっていた。

 

 

「ユーサク達は貴方に理不尽な処刑は決してさせないわ、辛いならちゃんと応えてくれる。だから付いて来て、サンソン!」

「あぁ、マリー…マリー、マリー、マリィィイイイイイッ……ぶげらぁっ!?」

 

 

 マリーの言葉に感極まったサンソンが彼女へと飛び付こうとする一瞬、彼の右頬に蹴りが叩き込まれて蹴り飛ばされる。

 数メートル砂埃を巻き上げながら転がっていくサンソンを見送っていたのは虫唾ダッシュを超えたブッ殺レベルマキシマムに達していたアマデウスであった。

 

 

「好い加減にしろよ、変態野郎? マリアにおでこを突かれただけじゃ飽き足らず、頬を両手で挟んで貰った上で鼻同士を接触させて貰った癖に…剰え彼女に抱き着こうとするとか…マジで殺すぞクソ野郎が…?

「お、お前!? ……いや、嫉妬だな? 嫉妬だろう? だろうね、マリーとこうして顔を近づけられた男なんてルイ・オーギュスト*1しかいなかっただろうしね!」

「きっ…貴様ぁぁあああああああああっ!!」

「あははははっ! 掛かって来い、クズ野郎!! 今のボクは負ける気がしないぞぉっ!!」

 

 

 殴り掛かるアマデウスに同じく飛び付いて殴り返すサンソン。そのまま取っ組み合いながら殴り合う2人の様子を周りの面々は呆れた表情で観戦する。

 リヨン東側の戦いは何とも締まらない形で終結した。

*1
マリーの夫になったのは後のルイ16世であるルイ・オーギュストである




元ネタ
>ミラクルボイス(出典:テイルズオブデスティニー)
『テイルズオブデスティニー』に登場するジョニーの技。
音属性の技で究極の肺活量で脳に響くシャウトをかまし、固まった声で攻撃する。

>ヨミクグツ・乙(葛葉ライドウシリーズ)
『葛葉ライドウシリーズ』に登場する悪魔。
ヒルコを利用し作り出された不死身兵で帝国陸軍に依って秘密裏に開発され、超力兵団計画に投入された。
特殊な器具で、赤マントにある様な情緒不安も解消された、恐るべき兵士である。
格闘戦オンリーのヨミクグツ・甲に対して機関銃を装備している為、遠距離攻撃も可能。

>極・ヤグルシ(出典:ペルソナ5)
『ペルソナ5』に登場するグレネード系銃器。
奥村 春の専用装備にして最強銃器。弾数は1発だが、攻撃対象に高確率で感電状態を付与する。

>サンビーム(出典:FF6)
『FF6』に登場するアイテム。
エドガーのオリジナルコマンド『きかい(機械)』を使う際に必要で、敵全体にダメージと暗闇状態を付与する。

>オートボウガン(出典:FF6)
『FF6』に登場するアイテム。
エドガーのオリジナルコマンド『きかい(機械)』を使う際に必要で、敵全体にダメージを与える。

>なりきり人形(出典:リメイク版テイルズオブデスティニー)
『リメイク版テイルズオブデスティニー』に登場するアクセサリー。
宝石類に分類され、装備するとその人形のモデルの人物になれる。

>スタンド(出典:ジョジョの奇妙な冒険)
荒木飛呂彦の漫画作品『ジョジョの奇妙な冒険』の第3部以降に登場する超能力。
「パワーを持った像(ヴィジョン)」であり、持ち主の傍に出現してさまざまな超常的能力を発揮し、他人を攻撃したり持ち主を守ったりする守護霊のような存在である。その姿は人間に似たものから動物や怪物のようなもの、果ては無機物まで千差万別である。

>ジャン=ピエール・ポルナレフ(出典:ジョジョの奇妙な冒険 第3、5部)
『ジョジョの奇妙な冒険』の第3及び5部に登場する人物。
フランス出身で生まれつきスタンド能力を有している。
妹を惨殺した犯人を追っている内に第3部のボスである『DIO』に肉の芽を植え付けられて主人公である『空条承太郎』一行を襲うが、敗北して洗脳を解かれた後は彼等の旅に加わった。
性格は単純・直情的・女好きで、自信に溢れた明るい人間性をしている。トラブル被害担当のコメディリリーフ的な役回りを担っており、特にトイレ関係の災難によく遭っている。しかし、仲間の危機に直面すると、打って変わって誇り高き騎士の一面を覗かせる。

>シルバー・チャリオッツ(出典:ジョジョの奇妙な冒険 第3、5部)
『ジョジョの奇妙な冒険』の第3及び5部に登場するスタンド。
中世騎士のような甲冑を身に纏い、レイピアを武器として携えた人型のスタンド。スタンド本体のパワーは低いがスピードに優れ、また厳しい訓練を積んできた為に動作の精密性も高い。その実力と剣技は光の速度で移動する敵スタンドを切り裂いたほど。
レイピアと甲冑が破損しても、本体はダメージを受けない。また、甲冑を脱ぐと、防御力が落ちるかわりに俊敏性がさらに上がり、残像を発生させる程高速で動けるようになる。またハイリスクな切り札・裏技として、レイピアの刀身を飛び道具として射出することも出来る。
一方で、いかにも「超能力」といった特殊能力は持たず、基本的な攻撃方法が剣撃に限られるため、霧や水など物理的な攻撃が通じないスタンドとの相性が極めて悪い。

>フルールドマルR(出典:ペルソナ5)
『ペルソナ5』に登場する斧系武器。
奥村 春の専用装備にして最強近接武器。攻撃した対象に高確率で目眩状態を付与する。

>サイオ(出典:ペルソナ5)
『ペルソナ5』に登場する魔法スキル。
念動属性の攻撃スキルで攻撃対象が状態異常に掛かっている場合、ダメージが増加する。
下位互換に『サイ』がある。

>ブラストボイス(出典:FF6)
『FF6』に登場するアイテム。
エドガーのオリジナルコマンド『きかい(機械)』を使う際に必要で、敵全体に混乱状態を付与する。


Q、アマデウスにポルナレフをなりきりさせたのは何故?
A、同じフランス出身だし、レクイエム繋がり。後、ポルナレフの名乗りをさせたかったから。

Q、デオンの二人称が貴女?
A、世間じゃデオンくんちゃんなんだから好きにして良いだろ!(逆切れ)

Q、マリー達の総攻撃のシーンって?
A、ペルソナ5の総攻撃シーンを文章化したもの……なのだが、正直解かり辛い…orz

Q、サンソンも仲間にするの?
A、彼は変態だけど悪いヤツじゃあないし…後、着せたい服があったし…


次回は5月10日投稿。
感想コメント、意見・質問お待ちしております。


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リヨン防衛大決戦 北の陣!

リヨン戦闘回 其の参

シーン転換が多くて読みづらいぞ、気をつけろ!

ランスロットが五月蝿いぞ、気を付けろ!

独自設定があるぞ、気を付けろ!

そして書き溜めが尽きたぞ、気を付けろ…orz


 リヨンへ向けて馬を駆り奔り行く集団がいた。

 巨大な竜がワイバーンやモンスターの群れを引き連れてリヨンへと向かっていると斥候の兵士が報告した為にリヨンの民を救う為にフランス軍が向かっていたのだ。

 

 

「元帥、大変ですっ!」

「如何した!?」

 

 

 軍の遥か前を奔って周辺の状況を確認していた斥候の騎兵が後続の集団へと戻って来た。護衛の兵士達に囲まれていたフランス軍元帥、ジル・ド・レェへと駆け付けた騎兵は慌てた様子で彼へと報告する。

 

 

「リヨンに巨大な黒い竜の姿を二体確認しました!」

「何だと! 強大な竜は一体だけでは無かったのか!?」

「それなのですが…一方の竜はリヨンを背にしてもう一体と対峙している様に見えまして…」

「何…?」

 

 

 斥候の報告に驚愕する中、詳しい報告に疑問の声を挙げる。

 

 

「後、街周辺に煙は上がってはいますが…街自体が炎上している様子は見られません」

「…つまり、街の中までは攻められていないという事か?」

「詳しく見た所、リヨン西側の外壁にて兵士達が矢で竜達に応戦している姿が見られました」

「リヨンの兵士達はまだ頑張っているようだな…」

 

 

 続く報告に安堵をするジル。

 救援に駆け付けた街や村は殆どが辿り着く前に滅ぼされた後であった。そんな状況に遭遇し続けて何度も歯噛みした事か…

 そんなジルの元に新たな斥候が新たに駆け付け、報告が入る。

 

 

「報告! リヨンにて天使の姿を確認、街を護る様に竜と魔物の軍勢へ攻撃をしているようです!」

「何っ!? 天使だと?」

 

 

 斥候よりもたらされた“天使”の言葉にジルは驚愕する。

 昨夜より、野営中の兵士達数名が空を飛ぶ天使を目撃したという報告が挙がっていた。当初は寝ぼけていたか酔っぱらっていたからと思われていたが、その後の移動中に寄った村や遭遇した旅人や商人から天使の存在を確認されたのだ。

 なんでも昨夜から夜明け前に村や街に現れてその土地を守護しているらしい。攻めてきた竜の群れを撃退する様子を見た者もおり、戦乱のフランスに神が遣わした救いの使者であると称えられ、敬われているそうだ。

 また、ラ・シャリテを襲撃した竜の魔女の一団を撃退した商人兼傭兵達の中に天使を呼び出して戦う女性がいたと云う。

 

 

(話では遠い東から旅をしながら行商をしている一団らしいが…遠い国の聖女なのだろうか…?)

 

 

 天使使いの正体について気になるが、先ずはリヨンへ辿り着き街を護る事が優先だとジルは思考を切り替える。

 

 

「全員、速度を上げろ! 一人でも多くの民を救うのだっ!!」

《応っ!!》

 

 

 ジルの号令に周囲の兵士達が力強く返事をするのを聞きながら、彼は馬を更に走らせた。

 

 

:::::

 

 

リヨン 外壁北側

 

 

「何なのよ……何なのよアンタはぁ!!?」

「商人を兼ねた傭兵じゃい」

「アンタみたいな商人兼傭兵が居て堪るかぁっ!!」

 

 

 質問に答えた優作に対し、ジャンヌ・オルタが大声で否定する。事実、天使を呼び出す上にファヴニールを怯えさせるドラゴンを召喚してのける商人兼傭兵は古今東西に存在しないだろう。

 

 

「失礼な、おいちゃん達は馬鹿な事をする阿呆が居ない限り、至って普通の商人やぞ!!」

「あ、あの…先輩。それだと馬鹿な事をする者の前では普通じゃ無い事になりますが…?」

「……まぁ、天使とか竜を召喚する商人なんてそうそういないし…」

((認めた!?))

「そんな事はどうでも宜し! ……先ずは…」

 

 

 ジャンヌ・オルタに反論しつつもマシュの言葉に自分達が一般的な商人では無い事を認めた事にマシュとジャンヌの2人が驚く中、優作はメガホンを取り出してジャンヌ・オルタへと声を掛ける。

 

 

「おまいさん達のやっている事はフランスのみならず世界を転覆させる行為である。聖杯を此方に渡して大人しく投降しろ!」

「な、投降ですって!?」

「ファヴニールがバハムートに怯えている時点でおまいさんのとっておきは最早使えん状況だ。それでもこの街の侵略を続けようとするならば頭がどうかしてると思われても仕方が無いぞ?」

「ば、馬鹿にするなぁ! 今回はバーサーク・サーヴァント達に別の場所からも攻めて貰う様に指示をした! 投降するのはアンタ達の方だ!!」

「前回のメンバーが此処に揃っていないのを見ていて、その程度の対策を取っていないなんて思っては無いやろ?」

「っ!? ……」

「解かっているなら、さっさと降参した方が良いぞ?」

「う…うっさいっ!!」

 

 

 突然の降伏勧告に驚きながらもそれを拒否するジャンヌ・オルタ。

 

 

「強がるのは結構だが、ファブニールから離れた方が良いぞ?」

「…?」

「さもないと……御供連なって死ぬぞ?」

「っ!?」

 

 

 優作の忠告に彼が本気だと感じたジャンヌ・オルタはバーサーク・バーサーカーを伴ってファヴニールから離れる為に指示を下す。

 

 

「わ、ワイバーン! 私とバーサーカーを乗せて退避してっ!!」

「目標、ファヴニールッ! メガフレアをぶっ放せ、バハムートォ!!」

「グオォォオオオオオオオオオッ!!」

「キャアアアアァァァアアッ!?」

 

 

 ジャンヌオルタは即座に近くのワイバーンを呼び出してバーサーカーと共にファフニールの背から離れるが、バハムートが咆哮と共に滅びのブレスを放ち、その威力と共に放たれる衝撃波にワイバーン共々吹き飛ばされた。

 ジャンヌ・オルタが離れた影響でバハムートから逃げ様とした事も幸運であったのであろう。バハムートから背を向けたファフニールは優作の命令から威力を抑えられたとは云え、バハムートのブレスをモロに喰らい、遥か遠くへと吹き飛ばされながら地面に叩きつけられる。

 当然、周辺にいたワイバーンやモンスター達はバハムートのブレスによって消し飛ばされていた。

 

 衝撃波で錐揉み回転するワイバーンに必死に掴まるジャンヌ・オルタ。何とか地面に墜落する事無く済んだ状況で、彼女の目の前に地面に墜ちたファヴニールの姿を目撃する。

 

 

「嘘でしょ…ファヴニール…?」

 

 

 目の前の有り得ない現状に声を漏らすジャンヌ・オルタ。バハムートのブレスによって全身が焼かれており、鱗こそ焦げながらも無事であったが、羽はボロボロになっていてとてもではないが飛べそうにない。

 

 

「ふむ…周辺の影響を考えて出力を抑えて貰ったからこの程度か…」

「な…!?」

 

 

 優作の言葉に絶句するジャンヌ・オルタ。

 

 今のが本気で無い?

 

 ならば本気でしていれば自身共々消し飛ばされていた?

 

 舐められている…

 

 彼女の内心に沸々と怒りが込み上げていた。

 

 

「まぁ、良いさね。邪竜討伐はジークさんの役目、お願いします」

「…正直、この黒龍だけで事が済みそうな気もするが…任せろ」

「格好良く決めて貰いますよ?」

「何…? 「失礼します」…ぬっ!?」

 

 

 優作の言葉と共に背中から抱えられて宙へ浮かび上がるジークフリート。後ろを向けば、主天使である『ドミニオン』が彼を抱えて宙へ浮かび上がる。

 

 

「サマナーからの命で貴方をバハムートへと運ぶように言われております」

「そ、そうか…すまない」

「お気になさらず」

 

 

 ドミニオンに運ばれてジークフリートはバハムートの頭上に降り立つ。

 

 

「竜の王…だったな、我が宿敵を倒す為に宜しく頼む」

 

 

 ジークフリートの言葉にバハムートは再び咆哮を上げるとファヴニールへ向けて飛翔を始めた。

 吹き飛ばされたファヴニールへと飛んでいくジークフリート達を見送りながら、優作は剣を構えた。

 

 

「それじゃあ、こっちも始めますかね?」

「ふ…ふざけるな…」

「?」

「ふざけるのも大概にしろぉっ!!」

 

 

 優作達を前にジャンヌ・オルタが喚き立てる。

 

 

「ワタシ達をファヴニール諸共殺せた癖に忠告をした挙句に、攻撃を弱めた? 馬鹿にしているのかっ!?」

「別にぃ? おまいさんには聞かないといけない事があるから忠告しただけさね」

「聞きたい事ですって…?」

「おいちゃんが聞いてもいいけんど…一番、聞くべき立場なのは彼女さね」

「優作さん…」

 

 

 怒鳴るジャンヌ・オルタに優作は軽く返しつつ、ジャンヌに前に出る様に促した。

 

 

「これはジャンヌちゃんが問い質すのが一番っさ。だから全力で行きんさい」

「…良いのですか?」

「ジャンヌちゃんの頑固さはマル姐との戦いで良く理解したべ。そもそもジャンヌちゃんもそれを望んでいるっしょ?」

「はい」

「…だよねぇ(諦め)。但し! 無茶して危なくなったらおいちゃんが手を出させて貰うかんね、良い?」

「! …ふふっ、大丈夫です。無理はしませんから」

 

 

 心配しながらも彼女の意思を尊重したい優作の言葉にジャンヌは嬉しさで笑いながらも答えを返す。

 

 

「何時でも万全で行くのがおいちゃんの信条。なので…来い、マリア!!」

 

 

 封魔管を取り出した優作に呼び出されたのは黄銅色の複数の円盤を伴い、周囲を様々な生き物達の彫刻が彫られた女性の石像であった。

 

 

「せ、聖母マリア様…!?」

「あら、サマナー…姿は違うけど清き乙女を連れているのね? それに向こうには…彼女と同じ様で同じじゃない…不思議な娘だわ?」

「色々細かい説明は省くけんど、ジャンヌちゃんとあっちのジャンヌ・オルタが決闘するさかい。補助を頼みます」

「解かったわ…全ての子に慈しみを…」

 

 

 ジャンヌとジャンヌ・オルタの姿を見ながらも優作に指示にマリアが両手を広げる。彼女に与えられた特性『松の生命力』に依ってピンチ時以外でも発動出来る様になった『テルモピュライ』でジャンヌとマシュ他仲間全員の攻撃・防御力と命中・回避率が上昇する。更に所持スキル『マハタルカオート』、『マハラクカオート』、『マハスクカオート』に依って更に仲間全員の攻撃・防御力と命中・回避率が上昇した。

 

 

「これで準備万態さね。行きんしゃい、ジャンヌちゃん!」

「はい、行きますっ!!」

 

 

 自身の身体から力が溢れてくるのを感じたジャンヌは優作とマリアに感謝を捧げながら杖を構えてジャンヌ・オルタへと駆け出す。

 

 

「聖母を呼び出した…? ふ、ふざけるなぁっ! 行きなさいっ、バーサーカー!! 奴らを殺せぇっ!!」

「………Guruaaaaaa、Raaaaa! Arrrrrrthurrrrrrrrr ――――!!」

 

 

 ジャンヌ・オルタの怒号に近い指示にバーサーカーが雄叫びを上げながら駆けだす。

 拳を振り上げてジャンヌへと迫るが2人の間に紫と桃色の影が塞がった。

 

 

「マシュさん!」

「ジャンヌさん、行ってください! バーサーカーは私が抑えますっ!!」

「Arrrrrrrthurrrrrrrrr ――――――ッ!!」

 

 

 バーサーカーの拳を巨大化させた十字盾で防ぎながらマシュが前に進む様に叫ぶ。バーサーカーは容赦無くマシュの盾を連打し、彼女は徐々に押されて地面の両脚の跡が線となって延び出していた。

 

 

「Guaaaaaaaaaa ――――! Arrrrrrrthurrrrrr ――――――!!」

「くぅ…先輩に強化して貰ったのに、重い…これが狂化を強めたバーサーカーの力…」

「いけないっ! 毒音波っ!!」

 

 

 押され気味だと判断したジャンヌが水術『毒音波』でバーサーカーへと音波攻撃を仕掛ける。効果は絶大だったらしく、バーサーカーは攻撃を中断して頭を抱えながら苦しみだした。

 

 

「ジャンヌさん、有難う御座います」

「これを掛けておきます、ロックアーマー!」

「なら私もジャンヌさんに、堅牢なる守護を、バリアー!

 

 

 マシュが感謝の述べる中、ジャンヌは石術『ロックアーマー』をマシュに掛けて防御力をさらに上げてジャンヌ・オルタへと再び駆け出す。そんな彼女にマシュも防御力上昇の補助魔術『バリアー』を掛ける。

 ジャンヌが通り過ぎた時、バーサーカーは漸く毒音波の効果から振り切れたらしく、ジャンヌの姿を探して周囲を探そうとするが…

 

 

「Arrrthurrr……? Gurua―――!?」

「ジャンヌさんには手を出させませんっ! ピアズクラスター!!」

 

 

 バーサーカーにジャンヌの方を向かせる暇を与えずマシュは突貫し、構えた剣『霊剣メリクリウス』での連続突きと共に十字盾でタックルを喰らわせて吹き飛ばす。

 

 

「Gugaaaa……Gala……had……?」

「続いていきますっ。邪悪なる魂魄、光の禊にて滅さん! グランシャリオッ!!

「Aguooooooooaaa――――!?」

 

 

 距離を離したバーサーカー相手にマシュは続いて7つの小さな星を展開する。何故か戸惑って隙を見せていたバーサーカーへ星々は襲い掛かり、7連続の爆発をお見舞いする。

 爆発で宙へと吹き飛ばされるバーサーカーだったが、モンスターの迎撃で近くを飛んでいたエンジェルとすれ違いざまに持っていたエンゼルボウを奪い取った。

 奪い取ったエンゼルボウは金色に輝いていた弓身が忽ちの内に黒く染まり、赤い脈動を浮かび上がらせる。

 

 

「先輩の使い魔の武器を奪った!?」

「Galaaaahadooaaaaaaa―――――ッ!!」

「くぅっ!?」

 

 

 引き絞ったエンゼルボウから矢を連射してマシュへと放つバーサーカー。放たれた矢は砲弾でも着弾したかの様な爆発と共に赤黒い電気を纏う輪っかを周辺に撒き散らしていく。

 これには堪らずマシュも盾での防御を選ぶ。盾に命中した矢こそバーサーカーへと跳ね返されているが、器用にも改めて放つ矢で射ち落としている。

 乱れ放つバーサーカーの矢に防戦一方になっていたが、そんな状態の彼女を彼が放っておく筈も無く…

 

 

地獄の鬼の首折る刃の空に舞う 無限地獄の百万由旬… 冥界恐叫打!

 

 

 優作の言葉と共にバーサーカーを衝撃波が襲い、エンゼルボウを破壊した。

 

 

「可愛い後輩に舐めた真似してんじゃねぇぞ、黒騎士野郎がっ!!」

「先輩!」

 

 

 優作がマシュの前に立ち、バーサーカーへと剣を向ける。

 吹き飛ばされたバーサーカーは立ち上がっており、近くの倒木を両手で抱えだす。すると破壊したエンゼルボウの様に倒木も黒く染まり、赤い脈が浮かび上がった。

 

 

「持ったモノを自身の武器にするんか…中々羨ましい能力やね」

「でも危険です。先輩や私の武器を万が一奪われでもしたら…」

「マシュはその盾を装備している限り装備を奪われる事は無いから安心しぃ。しっかし…」

 

 

 倒木を構えるバーサーカーをスカウター越しに眺める優作は表情を歪める。

 スカウターのレンズ越しの表示されるバーサーカーのデータがどれも文字化けして詳しい正体が判らないでいたのだ。

 

 

「コイツ、自身のステータスを隠すスキルも持ってんのか…初見殺しにピッタリやな」

「如何しましょうか?」

「能力的にはスカウトしたいとこやけど、バーサーカーだしな…勿体無いが倒させて貰う」

「Arrthurr…?」

 

 

 此方の様子を伺っているのか、バーサーカーが動く様子は無い。しかし、フルフェイスヘルメットから覗かせる視線は優作の剣に向かっている様に感じる。

 尚、今更であるが優作の装備している剣は『エクスカリバー(イヴァリース産)』である。

 

 

「Ex…cal……ibur………ッ!? Arrrrrrthurrrrrrrrr ――――!!」

「何か、興奮しだしとるけど…その鎧引っぺがして、その面拝ませて貰う!」

「Arrrrrrrthurrrrrr ――――――!!」

 

 

 エクスカリバー(イヴァリース産)を構える優作に向かって倒木を振り下ろすバーサーカー。重い一撃を優作は敢えて受けて大きく弾き返す。質量が有る分、大きく仰け反るバーサーカーに優作は再び『剛剣』を放った。

 

 

我に合見えし不幸を呪うがよい 星よ降れ! 星天爆撃打!!

「Arrrrrrr…Guugaaaaaa ―――!?」

 

 

 優作の振るう剣と共に放たれる衝撃波に吹き飛ばされながら、バーサーカーのフルフェイスヘルメットが破壊される。兜の破片を飛び散らせながら、長い濃紫髪を振り乱す偉丈夫の顔が現れた。

 

 

「Arrrrrrrthurrrr…」

「ふぅむ…狂ってなければ中々のイケメンであろうに…勿体無い」

「むぅ~」

「! 如何したん、マシュ?」

 

 

 露わになったバーサーカーの顔に残念そうにコメントを零す優作だったが、マシュの表情が何故か不機嫌そうにしかめっ面になっているのに気付く。

 

 

「先輩…何故だか解からないのですが、あのバーサーカーの顔を見るとなんかムカムカしてきました…」

「顔で? 過去に嫌な事をしてきた奴と似た顔だったりする?」

「いえ、カルデアの人達で似た顔の人はいませんでした」

「ほむ…となるとマシュとフュージョンした騎士さんと縁があるんじゃろな?」

「敵同士だったのでしょうか…?」

「さてね、正体が判れば良いんやけどスカウターでは見破れないプロテクトしてるっぽいし…兎に角」

 

 

 倒木を振り回しながら再び攻めて来るバーサーカーに優作は剣を構えながらマシュに指示を飛ばす。

 

 

「マシュのストレスの原因になるなら尚更倒すのみ! マシュ、防御しながらブッ飛ばせっ!!」

「分かりました! ギガプレスッ!!」

「Arrrrrrrthurrr…Galahad…Bugeruaaaa――ッ!?」

 

 

 倒木を振り下ろすバーサーカーにマシュが立ち塞がり盾で防御しながら放った衝撃波で吹き飛ばす。続いて彼女の後ろから優作が飛び出して剣を振り下ろした。

 

 

「もういっちょ、喰らいなぁ! 冥界恐叫打ぁっ!!

「Gaaahuaaaaaaa ――ッ!?」

 

 

 再び衝撃波と共に武器にしていた倒木を破壊されるバーサーカー。連続で受け続けたダメージに因って受け身を取る事無く地面に叩きつけて転がっていく。

 

 

「マシュ、一気に決めるよ!!」

「了解ですっ!」

 

 

 優作の言葉にマシュが頷き、共にバーサーカーへ駆けて行く。バーサーカーはよろめきながら立ち上がったものの態勢は整っておらず、追撃のチャンスであった。

 

 

命脈は無常にして惜しむるべからず… 葬る! 不動無明剣!!

「Gurrrr…gaaaaaa ――――ッ!」

 

 

 優作が聖剣技『不動無明剣』を放ち、バーサーカーの動きを完全に止める。そこへマシュが霊剣メリクリウスを構えながら懐へ飛び込んだ。

 

 

「これで終わりですっ! 奥義、トライスラッシュ!!」

「Galaha……」

 

 

 高速の3連斬りが決まり、崩れ落ちるバーサーカー。

 金の粒子を散らしながら薄れゆく彼の表情は穏やかなモノになっていた…

 

 

「あぁ…愛しき息子よ…ゆる……」

 

 

 悲しげな表情で何か言い残したかった様だが、言い切る前に消滅してしまった。

 彼がいた場所には聖晶石が3つ転がっていた。

 

 

:::::

 

 

「はぁあああっ、回し打ち!!」

「っぐうぅうう!?」

 

 

 距離を一瞬で詰めたジャンヌが体を捻りながら構えた杖をスイングする。ジャンヌ・オルタは旗で防ぐがその衝撃に驚愕の表情を浮かべた。

 

 

「重いっ!? 昨日の今日なのに、如何して!!?」

「これは私の皆を護りたいと云う覚悟、そして成長の証です!」

「くぅう…舐めるなぁっ!!」

 

 

 ジャンヌの打ち込みに合わせて態と吹き飛ばされる事で距離を離すジャンヌ・オルタ。周辺のモンスター達はバハムートに因って恐慌状態であり、そこへ赤チョコボや天使達、そして外壁のフォウと弓兵達が容赦なく攻め立ててその数をどんどん減らしていた。

 

 

「燃え尽きろっ!」

「アクアバイパー!」

 

 

 ジャンヌ・オルタの放つ業火とジャンヌが操る水の大蛇がぶつかり合う。互いに相殺されて大量の蒸気が発生する中、ジャンヌは臆する事無く彼女の元へ突き進んでいく。

 

 

「やあっ!」

「ウザったい…好い加減倒れろっ!!」

 

 

 旗を振り回して乱れ打ってくるジャンヌ・オルタに対し、ジャンヌは的確にブロックしてその攻撃を防いでいく。

 

 

「潰れろ、潰れてしまえ残りカスッ!!」

「ふっ、はぁっ!!」

 

 

 攻撃を悉く防がれる事に焦りだすジャンヌ・オルタ。昨日のラ・シャリテ前では攻撃を防ぐ度に押されていたのに、押される様子がまるで無い。

 焦りが隙を生み、ジャンヌの渾身の振り上げでジャンヌ・オルタの旗が大きく弾かれた。

 

 

「っ!? し、しまっ…」

「脳天直撃っ!!」

「おぐぅおっ!?」

 

 

 無防備になったジャンヌ・オルタの頭上目掛けてジャンヌが思いっ切り杖を振り下ろす。キツイ一撃に脳を揺さぶられてふらつく彼女にジャンヌは更に追撃を加えた。

 

 

「必殺、疾風打ちっ!!」

「あぐっ? うぐあああぁああああっ!?」

 

 

 ジャンヌが杖を振りぬくと共に小さな竜巻がジャンヌ・オルタを巻き上げる。

 風圧の打撃が彼女を襲い、全身を打ちのめされて吹き飛ばされるが、態勢を立て直してなんとか着地してのけた。

 

 

「おのれ、おのれおのれおのれぇえええええ!! 残りカスの癖にぃっ!!」

 

 

 優作に因る恥辱とジャンヌに与えられたダメージは彼女を怒り狂わせるのに充分だった。ジャンヌ・オルタは魔力を高めだし、宝具を発動する。

 

 

「これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮……特にこの残りカスへ向けた憎悪の炎っ!」

 

 

 宝具発動の詠唱と共にジャンヌ・オルタの全身へと魔力が溢れていく。自身と周囲の怨念と怒りを力とし、敵対するモノを灰塵へと焼き尽くす憤怒の炎を纏いし無数の槍が形成されていく。

 

 

「全ての邪悪を此処に! 今こそ、報復の時は来た! ―――吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・へイン)!!」

「っ! いけない――「ここは任せて…ランダマイザ」…マリア様!?」

 

 

 無数の槍が矛先をジャンヌに向ける中、構えた彼女の横にマリアが現れ、デバフスキルである『ランダマイザ』発動する。放たれたデバフスキルがジャンヌ・オルタのあらゆるステータスを下げていき、彼女の宝具の威力をも弱めていく。

 

 

「う……力が抜けていく……?」

「今がチャンスね、決めなさい?」

「はいっ! 風と樹の歌っ!!」

 

 

 マリアの言葉にジャンヌは強く返事をしながら樹と音のアニマを開放し、歌いだす。

 

 

「!? …何よ…これ…は…心が乱れる!?」

 

 

 優しい声色の歌が響く中、敵であるジャンヌ・オルタや周辺のモンスター達にはその音色の魔力に精神を犯されて混乱していく。遂には展開していた宝具の槍達も魔力に依る実体化の維持を保ち切れずに消滅していった。

 

 

「さぁ、行きなさい清き聖女」

「マリア様…私は…」

「サマナーが任せたのなら貴女は勝てるわ。大丈夫、私は何時でも貴女達を見守っているから…」

「――はいっ! 行ってきますっ!!」

 

 

 ジャンヌの頬を優しく撫でながらマリアは彼女を促す。聖母の言葉に勇気づけられたジャンヌは再びジャンヌ・オルタの元へと駆け出していく。

 

 

「はぁああああああっ!!」

「うぅ…ぐ…こんな事で…」

 

 

 旗を杖代わりにしてよろめく身体を支えているジャンヌ・オルタへ杖を構えたジャンヌが迫る。意識を集中し、其の手に握る杖を彼女へと叩き付けた。

 

 

「ハートビートッ!」

「あぐぅっ!?」

 

 

 ジャンヌ・オルタの胸を杖が強打し、ダウンを奪った。

 

 

「か、身体が痺れて動けない…?」

「これで貴女は暫く動けない筈です」

 

 

 麻痺状態を付与されて動けないジャンヌ・オルタを前にジャンヌは杖を降ろした。

 

 

「これで漸く話が出来ます」

 

 

:::::

 

 

「まさかこうして再び相まみえる事になるとは思ってもみなかった…」

 

 

 ファヴニールは怯えていた。

 目の前には黒龍とその頭に乗る大剣を構えた青年の姿、嘗て自身を討ち取った竜殺しに自身を遥かに超える竜の王を前にしているのだ、そもそも怯えない存在がいるだろうか?

 

 

「決着を着けるぞ、ファヴニールッ!!」

「グォオオォオオオオォォオオオっ!!」

「グ……グガアアァアァアアアアアアッ!!」

 

 

 ジークフリートの宣言と共にバハムートも咆哮を上げる。未だ怯え続けていたファヴニールだったが、羽を潰されて最早逃げる事は叶わないと悟り、抵抗すべく必死の咆哮を上げた。

 

 ジークフリートを乗せたバハムートがファヴニールに向けて急降下する。

 

 ファヴニールも迎え撃つべくブレスを放とうとするが…

 

 

「グオォウ!!」

「ガァアアァッ!?」

 

 

 バハムートがその尾でファヴニールの顔を打ち据えて怯ませた事でブレスは不発に終わる。

 

 

「すまない、竜の王。だが後は…」

 

 

 ジークフリートはバハムートに感謝を零し、頭から飛び降りた。

 

 

「俺の役目だ―――!!」

「グォ…」

 

 

 「行ってこい…」、そんな意味を込められた様な鳴き声に見送られながら着地したジークフリートは大剣『バルムンク』を構えて駆け出す。

 因みに今のジークフリートは鎧姿ではない。移動中に優作から服の力を与えられており、彼はノースリーブのハイネックシャツと肩当を付けた紫紺の服にブーツを履いた『ソルジャー:クラウド・ストライフ』の衣装姿になっている。

 

 

「いくぞ、ファヴニール!」

「ガァアアアァァアァアァアァッ!!」

 

 

 始まるは『ニーベルンゲンの歌』に綴られなかった邪竜と竜殺しの死闘。この叙事詩はジークフリートが妻にするクリームヒルトへ求婚する処から始まっており、それ以前に彼が行ったファヴニールとの戦いについては詳しく書かれていない。

 つまり、後世に於いて誰も知らぬ戦いが始まろうとしているのだ。

 

 

「ずぇあっ!」

「ガァアッ!?」

 

 

 先制を取ったのはジークフリートだった。丸太の様に太く、鋭い爪を振りかざしたファヴニールの前足を斬り裂いて指の一本を斬り飛ばした。

 鋭い痛みに吠えながらもファブニールはもう片方の前足を振り下ろす。地面を抉る一撃に土埃が舞って周辺を覆い尽くすが…

 

 

「はぁあっ!」

「ガ…ゴアアアガアアアァアァアァアァ!?」

 

 

 土煙を斬り裂いて飛び込んだジークフリートがファヴニールの顔と首を振り下ろしの一閃で切り裂いた。

 痛みに仰け反るファヴニールの前で、飛び散る邪竜の鮮血のシャワーに濡れながらもバルムンクを構えるジークフリートが立っていた。

 宿敵であるジークフリートへの呪怨、そして蘇って尚も同じ展開を迎えようとしている自身への憤怒を含めた感情の力をファヴニールは自身に蓄えてのけた。

 

 

「グ、ガァアアアァァアアアァアァアァアァッ!!」

「ぐぅっ!? 貴様も無様に消えるのは不本意と言いたいかっ!!」

 

 

 両前足を地面に叩きつけた事で発生させた衝撃波でジークフリートを吹き飛ばして僅かでも距離を離す。そこへ集まるは受けた理不尽の憤怒とを溜めた怒りのブレス、バルムンクを構えているジークフリートへ怒りの炎を放った。

 業火のブレスがジークフリートに迫る中、彼は腕を突き出すと、突き出した方の腕に装備している腕輪『インペリアルガード』に填められたビー玉の様な結晶体『マテリア』が輝き出す。

 

 

「シールドッ!!」

 

 

 ジークフリートの周囲を光の壁が包み、ブレスを無効化する。己の全力で放ったブレスが効かなかった事に驚いているのであろう、無傷な儘の彼にファヴニールは動揺している様だった。

 

 

「マテリア…凄いなこの宝珠は…」

 

 

 与えられた服の力の一つであるマテリアの性能に感心しながらジークフリートは再びファブニールへと突貫する。

 対するファヴニールは脚と尾を振り回してジークフリートを迎撃する。どれもが致命傷を超える一撃を時に避け、時に受け流し、時に防御して吹き飛ばされる。

 

 

「うおおおおおおっ、画竜点睛っ!!」

「グゥァアアアアオオオオオオオオッ!?」

 

 

 バルムンクを振り被り、横に放った一閃は巨大な竜巻を巻き起こす。

 最早小さな村程度なら全てを呑み込みそうな竜巻はファブニールの全身を巻き込んでその巨体を高く宙へと吹き飛ばした。

 

 

「俺がフランスに呼ばれたのはこの為だったのだろうな…」

 

 

 宙を舞い、無防備となったファヴニールを前に、改めてバルムンクを構えたジークフリートは己に巡る魔力を高めていく。

 

 

「ファブニールよ、これで終わりだ! この国と民の為、貴様は此処で討つ!!」

 

 

 掲げたバルムンクが輝き出し、眩い蒼の光を放つ。

 

 

「黄金の夢から覚め、揺籃から解き放たれよ……邪竜、滅ぶべし! 幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!」

「ガァッ!? グガアァアァアァアァ」

 

 

 振り下ろされたバルムンクから放たれるは邪竜を滅ぼした黄昏の剣気。蒼き剣気の波動は津波の如く、ファヴニールを呑み込んだ。

 

 

「グォオオ……」

「さらばだ、我が宿敵よ」

 

 

 放たれた剣気が消えた後には落下して地面に叩きつけられたファヴニールの姿が有った。最後に弱々しい鳴き声を挙げた後、金の粒子となって舞い散りながら消滅した。

 

 

:::::

 

 

「ワタシに話ですって…?」

 

 

 身体が痺れて動けない状態の中、ジャンヌ・オルタは怪訝な表情でジャンヌを睨む。

 

 

「はい。どうしても貴女に聞かなければならない事があります」

「今更何を聞くというのですか? 貴女は唯の残りカスだと、ラ・シャリテでそう言った筈」

「いえ、貴女がジャンヌ・ダルクであると云うのなら先ず答えて貰わなければならない事があります」

「な…に?」

「貴女は自身の家族を思い出せますか?」

「っ!?」

 

 

 ジャンヌが放った問いにジャンヌ・オルタは目を大きく見開いた。先程迄の崩そうとしなかった威圧的な態度が打って変わり、まるで恐れていた事が遂にやって来たかの様に怯えだし、身体が震えだしていた。

 

 

「答えて下さいっ! 貴女がもう一人の私であるならば、直ぐ応えられる事なんです!!」

「あ……うぐぅ……!?」

「私の家族の顔は? 寝る時に感じた藁の感触は? 母が御馳走と言って作ってくれた料理は?」

「う…あぁ……や、やめ…」

 

 

 苦しそうに頭を抱えるジャンヌ・オルタは答えられない、ラ・シャリテで優作に問われた内容と同じ。だが答えられなかった彼女は逃げた後、答えられなかった理由を考える事無く忘れる選択を選んだ。

 

 

「やはり、答えられないのですね…?」

「あ……あぁ…」

 

 

 選んでしまったのだ…

 

 

「貴女は私の過去を忘れているのでは無く…」

 

 

 何故ならそれは…

 

 

「元々知らなかった」

「う…うわぁあぁあぁあぁあああああああっ!!?」

 

 

 ジャンヌの言葉にジャンヌ・オルタは悲鳴に近い絶叫を挙げた。

 

 

「何で? 何で何でなんでなんでなんでナンデナンデナンデ!?」

 

 

 怯えた様に自身に問い続けるジャンヌ・オルタ。

 そこにはジャンヌが問い掛ける前までの憎悪に溢れた姿は無い。大事なモノを失ったかのような、家族と離れ離れになってしまったかのような、怯える少女の姿があった。

 

 

「貴女がジャンヌ・ダルク本人と云うのならば…両親や兄、家族の名前を答えられないのは何故ですか!? フランスを救う為に戦った身だとしても、村娘として暮らしてきた日々の方が圧倒的に長いのに!」

「如何して!? 何で思い出せないのっ!? ワタシは誰なのっ!? 解からない、思い出せない…あ、あぁあ……うぁあぁあぁあぁあああアアアア―――ッ!!」

 

 

 遂には痺れる身体を支える為に抱えていた旗を取り落とし、座り込んで喚き叫ぶジャンヌ・オルタの姿をジャンヌは痛ましそうに見つめる。

 向こうではファヴニールがジークフリートに依って打倒されており、周辺のモンスター達もバーサーカーを倒した優作とマシュが天使達共に殲滅作業に移ったので僅かな数しかいない。

 最早彼女は戦える状態では無い、どちらにせよジャンヌ・オルタを確保すべきと判断したジャンヌは彼女へと近づこうとするが…

 

 

「聖処女には触れさせませぬぞっ!!」

「!?」

 

 

 男の声と共に突如、ジャンヌの前に複数体の魔物が現れる。イソギンチャクをこれでもかとグロテスクにデザインしたかのようなモンスター達は複数の触手をジャンヌへと伸ばしてくる。

 咄嗟にバックステップして回避するジャンヌに対し、モンスター達は彼女へ襲う事無くジャンヌ・オルタを守護するかのように展開していく。

 そして、モンスター達の背後…ジャンヌ・オルタの横に現れた男は…

 

 

「貴方は…」

「危ない所でしたな、ジャンヌ」

「ジ…ル……」

 

 

 ジャンヌ・オルタの手を取って立たせようとしながらジルは片方の手に持つ魔導書を掲げる。すると、ジャンヌ達の間を塞ぐモンスター達が更に増えていく。

 

 

「これは…貴方の仕業ですか、ジル?」

「お久しぶり…否、この姿では初めましてとなりますか、ラ・ピュセルよ。まさかファヴニール含め、集めに集めた軍勢をこうも破るとは、このジルの目をもってしても読めませんでした…」

 

 

 立ちあがりながらも足元がおぼつかない様子のジャンヌ・オルタを支えながらジルはジャンヌへと軽く会釈し、挨拶する。

 

 

「味方は全滅、此方の戦力はジャンヌと私だけである以上、態勢を立て直す為に此処は引かせて貰いますぞ」

「逃がすと思ってんの?」

 

 

 ジャンヌ・オルタに肩を貸しながら去ろうとするジル。そこへモンスター達を全滅させた優作とマシュが現れる。更にはジル達の周辺を天使達が囲み、ワイバーンを召喚しても逃げられない包囲網が形成された。

 

 

「異邦人の騎士か…天使どころかあのような竜をも操るとは…全く以って忌々しい」

「そっちの感想なんて如何でも良いさね。黒幕であるアンタとアンタが生み出したジャンヌ・オルタを確保できるチャンスなんだ。大人しくすれば痛い目に遭わずに済むべ?」

「成程……気付いていた訳ですか…」

「会話した時に疑問を抱いたのもあるけんど、マリーのアークエンジェルとおいちゃんのマリアが違和感を感じた事が決定打になったさね」

 

 

 さて、突然だがここでサーヴァントの特徴を一つ説明しておこう。

 召喚されたサーヴァントはその肉体を魔力によって構成しており、魔力が無くなれば当然消滅する。通常の聖杯戦争では聖杯から与えられた魔力に依って一時期迄は単独でも顕現を維持出来るが、以降はマスターからの供給、又は魂喰らい等の外から魔力を得なければならない。

 

 次に、優作やオルガマリーが使役している仲魔ことアトラス作品に登場する悪魔達について話題を変えるのだが、彼等は本来肉体を持たない生物であるので人間界(物質界)で自らの肉体の実体化を維持し、活動する為には『生体マグネタイト(MAG)』と呼ばれるエネルギー体を必要とする。生体マグネタイトは激しい感情の変動を起こし得る生物が多く持つモノとされ、特に人間と悪魔が多く保有する。

 MAGが枯渇した悪魔は徐々に肉体が崩壊してゆき、最終的には死亡に至る為、悪魔は人間を捕食したり、信仰を集めたりしてMAGを吸収する必要がある。

 

 前述の2つの事例だが、優作はカルデアにてサーヴァントの説明を聞いた際、この世界の魔力と生体マグネタイトは近しいモノだと考えた。

 悪魔は認識した対象が生体マグネタイトを保持している存在だった場合、その特徴を個別に認識出来、細かい違いはあるらしいのだが、様々な感情が色となって混じり合った感じに全て見えるらしい。

 当然、サーヴァントである英霊達も同じ様に見えるそうだが、此処フランスにて出会ったジャンヌ・オルタは他の英霊達とは大きく異なっていたと云う。

 

 曰く、

 

「憎しみと云った黒い負の感情を表す生体マグネタイトのみで構成されている」

 

「肉体を構成する生体マグネタイトは肉体の表面を膜か殻の様に覆う形で構成されている」 

 

「偏った感情のみ且つこの様に構成されている存在は見た事が無い」

 

「まるで空っぽの人形の様に見えた」

 

 

 この様な仲魔からの発言もあり、ジャンヌ・オルタが正規のサーヴァントでは無い存在であると優作は確信したのだ。

 

 

「色々聞きたい事は沢山あるが、大人しくしろや?」

「ふむ…確かに逃げる事は不可能な状況ですな………ですが…」

 

 

 片手に持つ魔導書を消したジルは懐に手を入れて叫んだ。

 

 

「聖杯よ、我らをオルレアンの監獄城へ!」

「っな!?」

「! そうきたか…」

 

 

 ジルの言葉と共に彼の懐が輝き出し、ジャンヌ・オルタと共に消え去る。聖杯の力で彼らの拠点へと転移して逃げた様だ。

 2人が消えると残っていた海魔達が襲い掛かって来たが、天使達の集中砲火で敢え無く全滅した。

 

 

「ジル…」

「逃げられてしまいました…如何しますか、先輩?」

「だが、スカウターで連中のデータは登録された。何処へ逃げ様とも追い掛ける事が出来る。ロマン、2人はオルレアンへ?」

【その様だね。オルレアンの城がある場所に登録された2つの反応が確認されているよ】

「そっか、なら取り敢えずは…」

 

 

 敵の足取りを捉えている事に何度した優作はリヨンの外壁へと顔を向ける。壁の上では兵士達が勝利の歓声を挙げており、彼らの中にフォウも高らかに吠えていた。

 

 

「リヨン防衛成功を喜びましょ?」




元ネタ
>ドミニオン(出典:女神転生他)
アトラス作品に登場する悪魔。
神学による天使9階級で第4位に位置する中級天使で『主天使』と云い現わされる。
『統治』を意味する天使達で、人間の住む世界で神の意向を知らしめる為の働きを担うとされている。

>マリア(出典:女神転生他)
アトラス作品に登場する悪魔。
イエス・キリストの母であり、『神の母』等の称号を持り、天使『ガブリエル』に受胎告知を受け、聖霊によりキリストを身籠ったとされる。
教会に於いて崇敬を受ける聖母であるが、教派によっては崇敬の対象と認められていなかったりする。

>松の生命力(出典:ペルソナ5)
『ペルソナ5』に登場する特性。
敵に包囲されていない時でも包囲された時用のスキルが使える様になる。

>テルモピュライ(出典:ペルソナ5)
『ペルソナ5』に登場するスキル。
敵に包囲された時に発動可能なスキルで、3ターンの間、味方全体の攻撃・防御力と命中・回避率が上昇させる。

>マハタルカオート(出典:女神転生他)
アトラス作品に登場するサポートスキル。
戦闘開始時に『マハタルカジャ』を発動し、3ターンの間、味方全体の攻撃力を上昇させる。

>マハラクカオート(出典:女神転生他)
アトラス作品に登場するサポートスキル。
戦闘開始時に『マハラクカジャ』を発動し、3ターンの間、味方全体の防御力を上昇させる。

>マハスクカオート(出典:女神転生他)
アトラス作品に登場するサポートスキル。
戦闘開始時に『マハスクカジャ』を発動し、3ターンの間、味方全体の命中・回避率を上昇させる。

>毒音波(出典:サガフロンティア2)
『サガフロンティア2』に登場する水術。
『水』+『音』の組み合わせで発動し、敵全体に光と音波属性のダメージを与えると共に毒状態を付与する。

>ロックアーマー(出典:サガフロンティア2)
『サガフロンティア2』に登場する石術。
『石』+『石』+『石』の組み合わせで発動し、味方単体の防御力を上昇させる。

>バリアー(出典:テイルズシリーズ)
『テイルズシリーズ』に登場する法術及び下級魔術。
対象となる味方一人の物理防御力を一定時間上昇させる。

>ピアズクラスター(出典:テイルズオブヴェスペリア)
『テイルズオブヴェスペリア』に登場するエステルが使用する特技。
敵を連続突きで切り刻んだ後、盾で吹き飛ばす。
メイン武装に剣を装備しているとヒット数が増え、攻撃速度が上がる上に30回使用しているとガードブレイク効果も付く。

>霊剣メリクリウス(出典:テイルズオブヴェスペリア)
『テイルズオブヴェスペリア』に登場する武器。
剣に該当するメイン武器であり、エステル専用の最強武器。
持ち手に依り自在にその姿を変える水銀の剣。冷徹なる刃が望むのは誰の命か…

>グランシャリオ(出典:テイルズオブヴェスペリア)
『テイルズオブヴェスペリア』に登場するエステルが使用するスキル変化術。
スキル『連撃』をセットしてフォトンを使用した際に発動し、光属性の爆発する7つの星で、対象となる敵を7連続で攻撃する。

>エンゼルボウ(出典:イニシエダンジョン)
『イニシエダンジョン』に登場するユニーク弓武器。
使える技は着弾した周囲に電撃属性の輪っかを炸裂させる『ライトアロー』。
登場回層で猛威を振るうエンジェルの使用する武器であり、エンジェルのみが落とすユニーク武器なのだが、固定プレミアムに手数を増やせるものが無い為、火力面での不安がある上に、回避率上昇やHP自動回復の効果プレミアムは装備していない限り効果が無いのでプレイヤー達の期待を裏切ってきた一品。

>冥界恐叫打(出典:FFT)
『FFT』に登場する技。
『剛剣』に分類される技で、対象の武器装備破壊と同時にダメージを与える。

>エクスカリバー(出典:FFT他)
『FFT』処かあらゆる創作物に登場する聖剣。
『アーサー王伝説』に登場する湖の精霊である『ヴィヴィアン』が授けたとされる聖剣がモデルであり、殆どの作品で最強かそれに匹敵する高性能な剣として扱われている。

>星天爆撃打(出典:FFT)
『FFT』に登場する技。
『剛剣』に分類される技で、対象の頭部装備破壊と同時にダメージを与える。

>不動無明剣(出典:FFT)
『FFT』に登場する技。
『聖剣技』に分類される技で、対象とその周囲にダメージと共にストップの追加効果を与える。

>トライスラッシュ(出典:テイルズオブヴェスペリア)
『テイルズオブヴェスペリア』に登場するエステルが使用する奥義。
高速の三連斬りで敵を攻撃する。

>ブロック(出典:サガフロンティア2)
『サガフロンティア2』に登場する杖技。
防御技であり、ダメージを無効化する。

>脳天直撃(出典:サガフロンティア2)
『サガフロンティア2』に登場する杖技。
『集中』+『集中』+『叩く』の組み合わせで発動し、打撃属性のダメージと共に魔法攻撃力を低下させる。

>疾風打ち(出典:サガフロンティア2)
『サガフロンティア2』に登場する杖術技。
『樹』+『振り回す』+『振り回す』+『振り回す』の組み合わせで発動し、打撃と射撃の複合ダメージを与える。

>ランダマイザ(出典:女神転生他)
アトラス作品に登場するデバフスキル。
3ターンの間、対象1体の攻撃・防御力と命中・回避率を低下させる。

>風と樹の歌(出典:サガフロンティア2)
『サガフロンティア2』に登場する樹術。
『樹』+『音』の組み合わせで発動し、敵全体に精神攻撃を仕掛け、恐怖、混乱状態を付与する。

>ハートビート(出典:サガフロンティア2)
『サガフロンティア2』に登場する杖技。
『集中』+『叩く』の組み合わせで発動し、打撃属性のダメージと共に麻痺状態を付与する。

>クラウド・ストライフ(出典:FF7シリーズ他)
『FF7』の登場人物にして主人公。
なんでも屋を営んでおり、かつて神羅カンパニーの私設エリート部隊『ソルジャー』に所属いた頃は、最高位であるクラス1stであったと自称(実際は一般兵士止まり)していた。
興味の対象外である会話には積極的に参加しないばかりか突き放す物言いをする為、他者に対し冷ややかな性格であると受け取られる。自身の利益にしか関心がない態度で接するので、雇い主の受けが悪い等、人間関係の構築を積極的に行う性格ではない。
しかし、この性格は彼の本質が引っ込み思案な上、人付き合いが苦手で、責任感が強く内気である事が影響しており、意地を張ってそれを隠している為である。
また、原作開始の5年前に人体実験を受けた影響で本来の記憶を失い、他者の意識や記憶、自身の願望等が混じり合った偽の人格・記憶を持つようになってしまう。原作では彼の記憶を旅を進めると共に取り戻していく。
使用する武器は身の丈程もある大剣。戦闘終了後は片手で振り回している様子からかなりの怪力を持っている事が解かる。
世界各国のメディアでのシリーズ歴代人気キャラクターランキングでも1位に選ばれる等、シリーズ屈指の人気キャラクター。

>インペリアルガード(出典:FF7)
『FF7』に登場する防具。
特殊効果こそないものの、物理と魔法防御を大きく上げ、連結マテリア穴が3組ある為に便利。

>マテリア(出典:FF7シリーズ)
『FF7シリーズ』に登場するサポート装備アイテム。
原作に於いて、星の記憶が結晶体となったアイテムであり、武器と防具にあるマテリア穴
に装着する事で魔法や特殊技能を発動する事が出来る様になる。
大きさはビー玉からテニスボールサイズまでまちまちであるが、テニスボールサイズの場合、防具が腕輪である原作では装着出来るのか疑問が浮かぶ為、本作ではビー玉サイズに統一している。

>シールド(出典:FF7)
『FF7』に登場する補助魔法。
魔法マテリアである『シールド』を装備する事で使用可能になり、対象1体に一定時間物理攻撃のダメージを無効化し、属性魔法攻撃のダメージを吸収するのバフを掛ける。
一見強力だが、回復魔法の効果すら無効化されるデメリットがあり、無属性魔法のダメージは受ける。

>画竜点睛(出典:FF7他)
『FF7』に登場するクラウドが使用する奥義リミットブレイクで発動出来る技。
巨大な竜巻を発生させて敵全体にダメージを与えると共に一定確率で一撃死を付与する。
本来は「事を完成するために最後に加える大切な仕上げ」と云う意味の四字熟語である。


Q、天使どころかマリアまで召喚とかジャンヌ達がヤバくない?
A、まぁ、何とかなるでしょ(適当)

Q、何でランスロットがアーサーと喚いているの?
A、アルトリア顔に近いジャンヌ→アーサー王だ!
 優作の持つ武器がエクスカリバー→アーサー王だ!
 ほらこんなもん(ガバガバ推理)

Q、ジークフリートにクラウドの服?
A、FF7リメイク発売記念(大遅刻)

Q、魔力と生体マグネタイトの関係云々って?
A、独自設定


次回は5月17日投稿予定(・・)
感想コメント、意見・質問お待ちしております。


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テコ入れがアップし始めました

FGO…というか型月が色々やらかしている様なので初投稿です(大嘘)

書く時間が碌に出来ないから本当に進みませんでした…orz
ガスタンカー船の装備妖精(機関部)になるとホント忙しいんやな…(隙自語)

今回は会話とテコ入れ回、地獄の釜の蓋が開くかな?

後、総合評価1000突破出来ました。
読者の皆様に感謝感謝!

因みに、次回投稿迄のアンケートを行いますので回答お願いします。


 聖杯の力によってオルレアンへ転移して逃げたジャンヌ・オルタとジル・ド・レェの2人。

 ジルが召喚した海魔を殲滅した後には敵影は無く、リヨン外壁から聞こえる兵士達が叫ぶ勝利の雄叫びが響いていた。

 

 

「決着はオルレアンってとこかな? でもおいちゃん達も直ぐ動ける訳では無いし…パワー!」

「何でしょうか、サマナー?」

 

 

 優作は近くにいた能天使『パワー』に声を掛ける。

 

 

「リヨンの防衛に2体程残して、他天使達と共にオルレアンの包囲網を形成して欲しい。敵に動きが無いか常に監視して、連絡も頼む」

「畏まりました」

 

 

 優作の指示にパワーは頷いて周りの天使達に伝達すると天使達はオルレアンへと飛び去って行く。その姿を歓声を挙げていた外壁の兵達やジャンヌは祈りながら見送っていく。

 

 

「取り敢えずは皆と合流しよう?」

「「はい」」

 

 

 通信機や念話で連絡を取りつつ、リヨンの兵士や住民達に熱烈な歓迎を受けながら街中で合流した優作達だったが、南口から現れたフランス軍の面々が彼等に会いに来た。

 

 

「君達がリヨンを守護した傭兵達か?」

「はい、そうですが……貴方は?」

「うむ、私はフランス軍元帥のジル・ド・レェと云う」

 

 

 彼の言葉に優作とマシュは目を丸くする。サーヴァントで無い、この時代で生きているジル・ド・レェなのだろうが、ジャンヌ・オルタを連れて逃げたキャスターのジルの姿を先に記憶している為にその姿や他の異なりっぷりに驚く。

 

 

(顔変わり過ぎだろ…)

「君達の御蔭でリヨンは救われた。我々も全速力で向かっていたが、あの竜相手では間に合わなかっただろう…」

「我々は商売目的で偶々訪れただけですので…」

「それでも、感謝を告げたい。それと、君達と話をしたいのだが、良いだろうか?」

「はい。それは構いませんが、他の場所で防衛を任せた面々がいますので、その後で構いませんか?」

「ふむ、そうだな。君達が今迄リヨンを護ってくれたのだ、今後の見張りは我々に任せて…まぁ、私が話を聞きに来るのだが…今日はゆっくり休んで欲しい」

「あぁ…それはお願いします」

「ところで…」

 

 

 ジルからの感謝の言葉に飽く迄も偶々であると答える優作。詳しい話は仲間達が集まってからと話を付ける中、ジルがジャンヌへと視線を向ける。

 

 

「そこの彼女は…失礼だが竜の魔女と顔が似ている様だが…?」

「っ!」

「彼女は商人の娘でして、扱っている商品の管理責任者として同行しています」

「そうなのか?」

「この国に来るまでで旅人等から聖女と顔が似ていると聞いて訪れる事を楽しみにしていたのですが、竜の魔女の争乱で悪い意味で勘違いされる次第でして…」

「……そうか、時期が悪かったと云えど、大変な様だな?」

「いえ、慣れましたので」

 

 

 ジルの問いに対し、若干顔をこわばらせるジャンヌだったが、優作が素早く説明をした為に怪しまれる事無く済んだ。

 

 

「ふむ…彼女の立場もあるだろうが…それでも少し時間を置いてからで訪れよう。色々と聞きたい事が有るが、其方だけで遂げた訳では無い様だしな? それでは失礼する…」

 

 

 何を考えていたのか、ジルは少し間をおいてから優作達に再び会いに来ると伝えて部下と共に去って行った。

 既に夕日が沈み始める時間帯であり、優作達は街の好意で用意してくれた宿に一泊する事にした…のだが…合流しようとした矢先、オルガマリーの元に多くの街の住民や兵士達が押し寄せる事となった。

 理由は当然の事、彼女が天使使いとして名を知らしめてしまったからである。

 結果、リヨンに戻ったオルガマリー達、東側防衛のチームは住民と兵士達に聖女の再来だと称えられるどころか祈られる始末であり、優作達とに合流にとてつもない時間を掛ける事となった。

 

 

:::::

 

 

「皆お疲れ様…と、言うよりも各々を守ってくれて有難うと言うべきかな?」

「それなりに暴れる事が出来たから、良かったぜ」

「うむ、剣を交えた死合こそ出来なかったが戦の昂ぶりを楽しめた」

「アンタ達…」

「止めておけ、聖女マルタ。その2人は戦いを望んで英霊の座に残っている身だ。説教をした所で馬耳東風だ」

 

 

 宿屋の一階は酒場となっており、ラ・シャリテの時の様に貸し切りになっている為にそこで優作達は集まっていた。

 労いと感謝の言葉を述べる優作にクーフーリンと小次郎はそれなりに楽しめたと発言をし、其の事にマルタが眉間に皺を寄せるが、エミヤが宥める。

 

 

「ふふっ♪ 有難う、優作。本来なら私は碌に戦えないサーヴァントだけど、貴方のお陰でデオンを救う事が出来たわ」

「僕も改めて礼を言うよ、こんなクズな僕を騎士にしてくれたんだ」

「なりきりと云う力の強さ、此度の戦いで良く実感できた。我が祖国と世界の未来を救う為に改めて手を貸すと誓おう」

「……敵サーヴァントを3名も味方に引き入れる事が出来た…防衛も成功して犠牲 も無しなら今回の戦いも大成功ね」

 

 

 マリーとアマデウスが優作に感謝を告げ、ヴラド三世が優作の能力の凄さを実感し、オルガマリーも今回の防衛戦は大成功であると告げる…何故か彼女の表情は不機嫌そのものだったが…

 

 

「オルレアンで相まみえた時が最後の戦いになると思います」

「次が最終決戦になるんですね…緊張こそしますが、負けません!」

 

 

 ジャンヌは次の戦いがこの特異点での決戦になるだろうと己の予感を語り、マシュは気を引き締める。

 

 

「それで…なんでマリーはそんなにふくれっ面になってるん?」

「あぁ、それはね…」

 

 

 オルガマリーに問い掛ける優作に対し、彼女でなくアマデウスが説明する。

 

 

「あぁ、だから集まるのが遅かった訳ね」

「ところで先輩、いつの間に天使の仲魔をあれ程呼び出していたのですか?」

「昨夜のマシュとジャンヌちゃんがおいちゃんに尋ねて来る前さね。あん時は街の守護を任せる為にミカエルなんかの上級天使もいたさかい、ジャンヌちゃんが早く来ていたら失神してたかも」

「み、ミカエル様ですか!?」

「あ、アンタ本当に規格外ね…」

 

 

 マシュの問いに答える優作は昨夜に於いて、フランスの村や街を護る為に天使の仲魔達を呼び出して守護の任に就かせていた事を告げる。その時に彼の言葉に出た『ミカエル』の名前にジャンヌが驚愕の声を上げ、マルタは顔を引き攣らせている。主の使いである天使を従える優作に思う所があるのだが、邪龍を使役しているわ、その邪龍を超える竜の王を呼び出すわと余りにもぶっ飛んだ事を仕出かしている優作なので、何だかんだで納得してしまっていた。

 

 

「あれが襲撃前に言っていた案なのか?」

「そういう事です。ジークさんの代わりに天使達がこの街を守護しますので、安心してください」

 

 

 ジークの問いに答える優作。低級天使もサーヴァント並以上の実力に育てている以上、彼の代理に足る戦力であるのは明らかだ。

 

 

「でもユーサク、オルガマリーが天使使いの聖女と噂されていたと聞いていたならこうなる事は解っていたんじゃないの?」

「え? まぁ、うん。ラ・シャリテで姫さんが言った時にピーンと来てね、結果はこの通りさね」

 

 

 マリーの言葉に頷いた後、優作はオルガマリーへと向いて謝罪をする。

 

 

「あ~、マリー? 黙っていた事は謝るさかい、許して~な?」

「凄く…恥ずかしかったんだけど?」

「状況的にマリーが適任と思ったんよ。だから、ね?」

「………」

 

 

 謝る優作に対し、未だ真っ赤な顔でプイッとそっぽを向くオルガマリー。そんな彼女にそれでも頭を下げる優作に彼女は小さく呟いた。

 

 

「デート…」

「へ?」

「食事以外にデートも付けて? そうしてくれないと許さないから」

「で、デート…それで良いん?」

 

 

 オルガマリーの提案に少し不思議そうに問い掛ける優作。しかし哀しきかな、優作とオルガマリーとの間で「デート」の意味が食い違っているのだが、それを解かって指摘出来る者が此処にはいなかった。

 

 

「デートしてくれなきゃ、嫌」

「…別に良いんやけど…「本当っ!?」…ぬおっ!? いや、構わないんよ? でも、マリーはそれで良いん?」

「私は優作とデートしたいの!」

 

 

 ふくれっ面で要求するオルガマリーのお願いに優作が頷くと不機嫌だった筈の彼女は忽ち御機嫌になる。余りの変わりようの速さに驚きながらも再確認する彼に彼女は笑顔で答えた。

 

 

「……なら夕食前にする事になるけんど…時間は良い訳?」

「問題無いわ、スケジュールは整えておくから♪」

「なら問題無いさね」

 

 

 今朝方の再現であるのだが、当然ながら同じ事を再現する人物がもう一人いる訳で…

 

 

「むぅ…」

 

 

 再び頬っぺたをぷっくりと膨らませるマシュ。レストランでの食事にデートも約束して貰ったオルガマリーに何故か嫉妬心を抱いてしまっている自分を疑問に思いながらも不機嫌になっている自身を止められない状況。

 が、無駄に気配り上手な優作。朝方は敢えて気にしなかったが、オルガマリーばかりに構うのも良くないと解かっている訳で…

 

 

「えぇっと…マリーにゃ今迄の労いを兼ねているから当然なんやけど…マシュも、ね?」

「…え?」

 

 

 そう言ってマシュにチケットを2枚手渡す優作。手渡されたチケットには『水族館 無料入場チケット』と書かれていた。

 

 

「前回浜辺を歩いたけど、マシュは海とかも実際に見た事が無いっしょ? だからお誘いしようと思っていたさね」

「先輩……有難う御座いますっ!!」

「ぬふふ~、おいちゃん謹製の水族館さかい、楽しみにしときや?」

 

 

 優作から貰ったチケットを同じく大事そうに握るマシュは嬉しさを込めた感謝の言葉を優作に告げながら、オルガマリーへと視線を向けていた。

 

 

(先輩と水族館で2回目のデートです、これで一歩リードです!)

(そんなっ、マシュともデートするの!? これで並んだと思ったのに!)

 

 

 優越感を感じる自分を疑問に思いながらもどうだ? と言わんばかりの表情のマシュにオルガマリーは悔しそうに唇を噛む。

 そんな視線で火花を散らしている2人の様子を眺めていたマリーが声を掛ける。

 

 

「うふふ♪ オルガマリーとマシュはユーサクに愛されているのね?」

「ふぇ!?」

「マ、マリーさんっ!?」

 

 

 笑顔で問い掛けるマリーに頬を赤く染めてしまうオルガマリーとマシュ、一方で優作が意外そうな表情を浮かべる。

 

 

「よしてぇな、姫さん。愛するとか愛されるとかそんな深い関係じゃあ無いさね」

 

 

 顔を赤くしている2人に対し、有り得ないと言いたいそうな表情で優作が否定の言葉を漏らす。

 

 

「そもそも出会って、2週間も経っていないのに愛もへったくれも無いべ?」

「あら? ユーサクは私とアマデウスが出会った時の事を知っているのでしょう?」

「ま、マリア…」

 

 

 優作の否定の言葉に対してマリーが意見を述べる中、巻き込まれたアマデウスが顔を赤くする。

 

 

「そりゃ、そうだけど恋愛ってのは時間を掛けながら相手の善し悪しを理解し、認め合いながら育むもんだどおいちゃんは考えてるさかいな?」

「あら? ユーサクは一目惚れとかは信じていないの?」

「う~ん、信じていない訳じゃあ無いけんど、付き合っていく内に良く解かっていなかったから後々で“このヒト駄目だわ”って別れるのは悲しいっしょ?」

「ユーサクは優しいのね?」

「優しいって言うのかなぁ? おいちゃんは唯の心配性なだけの気もするけんど…」

 

 

 マリーと優作の会話を聞きながら顔を見合わせるオルガマリーとマシュ、恋愛方面を意識していない優作に何故か不満を抱きながらも彼の恋愛観を知る事が出来たのが嬉しかった。

 

 

(互いを理解し合って恋愛を育んでいく…今の状況は絶好の機会なのでは…?)

(これから一緒に人理修復をしていくのだもの、丁度良いわね)

 

 

 そんな2人の様子にマリーが羨ましそうに…本当に羨ましそうな表情を一瞬だけ浮かべた後に微笑みながら語り掛ける。

 

 

「ふふっ、とっても素敵ね? 私は婚約相手は自分で決められなかったし、その後の私の人生を決める事は出来なかったから、羨ましいわ?」

「マリア…」

「アマデウス、貴方に告白された時に断って良かったの。あの時…私は恋に夢中だったのだから…だからこそ貴方は皆に愛される音楽家になって、私は愚かな王妃としてあぁなったわ…」

 

 

 寂しそうな、悲しそうな笑みを浮かべながらマリーは言葉を続ける。

 

 

「私は恋に夢中だったんですもの……私はフランスという国に恋していた。国に恋していたばかりに、そんな思い上がりな小娘であったばかりに民へ愛を向ける事が無かった………だから私は、あぁなったのよ?」

 

 

 彼女は告げる。自身が処刑された、フランス革命の中であった彼女の処刑は国だけを恋した故での結末であったと…しかし、その独白にアマデウスが言葉を挟む。

 

 

「…馬鹿だよ、君は」

「あら酷い、馬鹿なの私は?」

「あぁ、馬鹿だよ本当に。国に…フランスに君が恋した? それはとんでもない勘違いだよマリア、本当はね? 国が…フランスが、君に恋していたんだ」

「あら? だとしたら、私は愛してくれた国に…民に殺されたの?」

「…そうだね、人間は…ヒトはそういう生き物だから…時として愛情は憎しみに切り替わってしまう。君は愛されたからこそ、人々に憎まれたんだよ」

 

 

 マリーとアマデウスの会話、愛情が憎悪へと変貌するという事例を聞いたマシュはその胸に複雑な感情を抱いていた。自身が優作に抱いた感情が何なのかは良く解かっていない。しかし、オルガマリーと競う様に感じている事から彼女と同じであるとは分かっている。

 オルガマリーが優作に抱いている感情は自身が知る限り愛情なのではないかとマシュは考えていた。ならば、自身も優作に対して感じている感情は同じ、愛情だとしたらマリーとアマデウスが語った様に憎悪へと変わり果てる時が来るのだろうか?

 だとしたらなんて悲しい事なのだろう…

 

 

「おいちゃんの国の諺で“可愛さ余って憎さ百倍”ってあるんよ」

「可愛さ余って…」

「憎さ百倍…?」

 

 

 突如、優作がポツリと零した言葉にマシュとマリーが首を傾げながら彼の言葉を続ける。

 

 

「可愛いとか愛しいとか云う思いが強ければ強い程に一旦、憎しみの感情が沸いてしまえば、その憎しみは度も甚だしくなるモノだって云う意味なんやけど、姫さんの話を聞いていると正にそうだったんやなぁって思うんよ」

「…そっか、私は愛されていたからこそ、憎まれたのね…」

 

 

 優作が語った話にマリーがアマデウスと交わした会話の要点が語られる。マリーがアマデウスと優作の話から理解した想いを理解しつつも、優作は言葉を続けた。

 

 

「正直、おいちゃんは嫌だな…」

「優作?」

「好きだった…愛した存在が…“あるきっかけ”で反転して憎み尽くすなんて…」

 

 

 優作は笑みを浮かべていた。

 しかし、その笑みは周りからは余りにも薄っぺらく見えた。

 

 

「……なんて悲しい事なんだろうって、思うっさ」

「先輩(優作)…」

 

 

 薄っぺらい笑みの奥で今にも泣き出しそうな、苦しそうな表情を一瞬浮かべた様な気がした。悲しみや恐れ、怯えといった負の感情を含んでいたが、マシュ達の視線に気づいたか、すぐさまにその気配は消えてしまった。

 

 

「それで、おいちゃん達の陣営に引き込めたのが…」

「え? えぇ、こっちのアタランテ、デオン、サンソンの3名よ」

 

 

 先程までの会話を気にする様子が無い優作の問いに、オルガマリーの紹介で傍にいた3人が優作の前に出る。

 

 

「メディ姉と共にアルゴノート号で冒険した狩人さんにフランスの宮廷騎士、そしてギロチンを生み出した処刑人…」

 

 

 並ぶ三人を眺めながら優作も前に出て、3人に頭を下げた。

 

 

「話は聞いているとは思いますが、焼却された人類史を取り戻る為にどうか力を貸して頂けないでしょうか?」

 

 

 頭を下げる優作の姿に3人は戸惑いながらもそれぞれ自己紹介を始めた。

 

 

「う、うむ。君が言った通り、アルゴノート号に乗船したアタランテだ。人理を、世界を救いたいのは私も同じ。宜しく頼む」

「王妃から話は聞いているが、改めて君に感謝したい。宮廷騎士のデオンだ、王妃含めて君を守護しよう」

「…処刑人であるのは知っているようだね、こんなボクを招いてくれたのは良く解からないけど…マリーの言葉を信じているよ」

 

 

 各々の紹介を受ける中、店の外からノックと共に声が聞こえた。

 

 

「そろそろ宜しいだろうか?」

「! 来たか…それじゃあ、3人は暫く霊体化して待っていてくれるかな?」

「「「分かった」」」

 

 

 3人が霊体化して消えた後、優作が了承の声を掛けると扉を開けてジルと連れの騎士達が入って来た。

 

 

「先ずは改めてお礼を言いたい。君達の御蔭でリヨンを護る事が出来た」

「この街は元々ジークさんがいたさかい、気にしないでください」

「済まない、俺だけではあの軍勢相手にしてこの街を護り切る事は出来なかった」

「だそうだが…?」

「じ…ジークさん…?」

「済まない…だが、嘘を吐ける性格でないから如何しようもない」

 

 

 ジルの改めた感謝の言葉に謙遜の返事をした優作だったが、ジークフリートが告げた言葉にジルが突っ込まれて顔を引き攣らせるが、ジークフリートは謝るだけだった。

 

 

「それで…君達は旅を続けながら商業をしている傭兵と聞いているが?」

「はい、数日前にフランスに訪れたのですがこの通り竜の魔女の争乱に巻き込まれた立場です」

「それは申し訳無いと思っている。それで、だ…君達は今後如何するのだね?」

 

 

 ジルの問いかけはシンプルだった。“このまま竜の魔女が起こした国内の争乱に関わる気なのか?”と、言いたいのだ。

 

 

「此処まで関わった身ですので、最後まで付き合おうと思っています」

「……他国から来ただけの君達が参加する必要は無いと思うのだが?」

「でしょうね。ですが、この騒ぎで苦しんでいる人がいる。そんな人々を助けたいのは間違っていますか?」

「…ふむ、間違っている筈が無いな。いや、下手に言葉を重ねる必要が無いか…」

 

 

 優作の言葉に対し、ジルは改めて問い掛けるが彼の言葉に嘘偽りは無いと理解する。

 

 

「少し、席を外してくれ」

 

 

 御付きの兵士達に退出を促し、彼らの気配が消えた事を確認したジルは優作達に深く頭を下げた。

 

 

「どうか、フランスを救う事に手を貸して欲しい」

「ジル…さん?」

 

 

 突然、頭を下げてきた事から困惑の表情を上げる優作達。

 

 

「我々では戦力、移動力含めてフランスを護る事は不可能だ。だが、君達が力を貸してくれるならこの戦況はひっくり返る」

「それは構いません。元よりそのつもりですから」

「…有難う」

 

 

 優作の返答にジルは改めて礼を告げる。

 

 

「ところで、竜の魔女はオルレアンへ逃げたと云う事で合っているのかね?」

「はい、今は仲魔達を使って包囲網を敷いて逃げない様に監視に当たらせています」

「ならば君達はオルレアンへ向かうのだな?」

「そうですね。村や街を守護している者がいると噂で聞いているので戦力として途中、スカウトに寄ろうとは思っていますが、決着を着ける為にオルレアンに向かいます」

「そうか…途中で街等に寄るとは云え、我々の馬では追いつく事が出来ないだろう…」

「貴方方もオルレアンの戦いに参加するつもりで?」

「当然だ。オルレアンの戦いはフランスの存続に関わる戦になるだろう。我々フランス軍が立ち上がらなくては意味が無い」

「ふむ…」

 

 

 ジルの言葉に優作は考える。

 自分達だけでオルレアンの攻略は可能であろう。しかし、それではこの国を護るジル達騎士の面子を汚す事に繋がる。

 

 

(ほむ…明日の移動は赤チョコボとバハムートを使った空の旅を予定していたけど、敵さんに時間を与えるのも駄目だしな…パパッといっちゃいますか)

「移動手段に関しては自分に任せて下さい」

「? 何か方法が有るのか?」

「言葉よりも実践ですな、メインチェンジ『Dr.ストレンジ:スティーヴン・ヴィンセント・ストレンジ』」

 

 

 ジルの問い掛けに対し、優作が一言言葉を告げると彼の着ていた鎧姿が青の道着に赤いマントを羽織った姿へと変わる。

 

 

「!? それは…?」

「取り敢えずは実演を…せいっ!」

 

 

 困惑するジルを余所に優作は両手で大きな円を描く様に振るうとオレンジの閃光と共に描かれた円の中に見知らぬ景色が映し出された。

 

 

「これは…?」

「簡単なデモンストレーションの為にこの酒場の2階にある宿泊室の一部屋に繋げました。本当かどうか通ってみて、どうぞ」

「う、うむ…」

 

 

 優作に促される儘、ジルは彼が開いたゲートウェイを潜り抜けていく。彼がゲートウェイへ消えた数秒後、2階の一室の扉が開いてジルが現れた。

 

 

「これは…」

「この通り、自分は距離や位置に関係無く空間を繋げる事が出来ます」

「!? な、なら…我々の軍も…?」

「えぇ、大所帯だとしても即座にオルレアンへと繋げる事が可能です」

「なんと…」

 

 

 2階に繋がる階段から降りながらジルが優作に問い掛け、彼は問題無いと答える。

 何の事無く優作はやってのけているが、ジルは勿論の事、オルガマリー達も彼がやってのけた空間を繋ぐ術を見て改めてその規格外さを理解する。彼がやった行動は円を描く様な一動作のみ、それだけで何処へでも繋がるゲートを開く事が出来るのだ。令呪に依る転移でも移動には少し時間が掛かる上に、細かい指定をしない限りは目的の場所へは転移出来ない。しかも、軍勢レベルの大所帯をも移動させられるときた。

 

 

「凄い力だな…だがこれで我々も明日までにオルレアンへと向かえる。攻撃は君達が来てから行うとして、我々を先に送っては貰えないだろうか?」

「分かりました。では明日の朝、移動するとしましょう」

「そうだな、改めて宜しく頼む」

 

 

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オルレアン 監獄城

 

 

「異邦人の力があれ程とは思ってもいませんでした…」

「………」

「サーヴァントも、ワイバーンとモンスターの軍勢も、そして虎の子であったファヴニールすらも歯牙にもかけなかった…忌々しい…実に忌々しい」

 

 

 聖杯の力で監獄城へと転移したジルとジャンヌ・オルタ。予想をはるかに超える敵の力を前に対策を考える彼に対し、彼女はずっと黙った儘であった。

 

 

「どちらにせよ、明日か明後日には攻めて来るでしょう…ジャンヌ、新たなサーヴァントの配備を…」

「…如何して?」

「ジャンヌ?」

 

 

 先ずは戦力の補充であるとジャンヌ・オルタへと声を掛けたジルであったが、彼女は是迄で溜まっていた疑問が噴き出しかけていた。

 

 

「如何してワタシは戦う必要があるの?」

「何を言っているのです? 貴女様は国に、民に裏切られて殺されたのです。だからこそ復讐の為に蘇り、この国を竜と騒乱の国へと変えると決めたのではないですか!?」

 

 

 ジャンヌ・オルタの問いにジルは慌てながらも答えて改めて目的を問い掛ける。

 しかし、彼女の表情は晴れる事無く…

 そして、その想いは爆発する。

 

 

「じゃあ何で!? ワタシがジャンヌ・ダルクなら如何して家族の顔を思い出せないの!?」

「!?」

 

 

 悲痛そうな叫びと共に上げる疑問にジルの顔が歪む。

 

 

「私の記憶はジルと出会った時からしか浮かんでこない。それ以前の事が思い出せない…いいえ、朧気にすらも浮かんでこないの!!」

「ジ…ジャンヌ…」

 

 

 血を吐く様な苦しそうに、辛く己の事を語っていくジャンヌ・オルタ。彼女の姿にジルは掛けられる言葉が浮かばなかった。

 

 

「ねぇ、ワタシは何なの? ジャンヌ・ダルクで無いのならワタシは誰なの!?」

 

 

 最早自身にある記憶の何もかもが怪しく薄っぺらいモノに感じる。自身が感じていた筈の火炙りの苦痛や暑さが非現実的に思えていた。

 

 

「ワタシにある記憶は本物なの? ワタシの中にワタシの意志は存在しているの!?」

「…………」

 

 

 ジャンヌ・オルタの問いかけにジルは答えられない。

 当然だ、彼女は彼が聖杯に願って生み出したジャンヌ・ダルク(代用品)なのだから…

 

 

「空っぽ…何も無い…あの天使が言った通り…ワタシはがらんどうの人形…」

 

 

 答える事が出来ないジルを前にジャンヌ・オルタは言葉を続けていく。

 

 

「ワタシが唯の人形なら……」

 

 

 ジャンヌ・オルタがジルを真っ直ぐ見つめる。

 

 

「如何してワタシは生きているの?」

「っ!? あぁ……嗚呼ァアァアァアアアアアアッ!!!」

 

 

 ジャンヌ・オルタの問いにジルが悲鳴染みた叫びを上げる。

 

 思い出すのは呼び出された時の自身の現状…

 

 ジル自身は飽く迄もこの時代のフランスにて処刑されたジャンヌを呼びたいが為に聖杯に願った。

 

 しかし、その願いは叶えられる事は無かった。

 

 願っても彼女は現れる事無く、聖杯が浮かぶのみ…

 

 なればと彼が願った…願ってしまったのは…

 

 “我が復讐を共にしてくれる聖女(理解者)を!”

 

 つまり、己の願いを肯定する存在(人形)であった…

 

 

 互いが事実を無視するか、知らないでいた事が明らかになる。

 今此処にいるのは恨みで動いていたくたばり損ない(死人)願った存在(生み出された人形)である。

 

 

「そ、そんな…そんな事が……あってたまるものか…」

「ジル…?」

 

 

 一瞬、修羅に染まる声を上げるジルにジャンヌ・オルタが怪訝な表情で声を掛ける。しかし、彼女の声を彼は聞いていなかった。彼にとっては己の願いが叶う事無く、追い詰められてしまった現状を打破する手段を見つける事が最優先だったのだから…

 

 

「これで終わるなど、救いが無いではないか!」

 

「彼女は戦った! なのに、称えられる事無く魔女と蔑まれて殺されるなど許されて堪るかぁ!!」

 

「力が足りないなら持ってくれば良い! 私には聖杯があるっ!!」

 

「聖杯の力を以って我が願いを叶えてくれるっ!!」

 

 

 懐に入れていた聖杯を高く掲げながらジルは声を上げる。

 

 

「聖杯よ! “異邦人達に打ち勝てる力を”っ!! 奴らを滅ぼせる力をっ!!」

 

 

 ジルの願いを受けて聖杯は輝き出す。

 

 聖杯は考えた

 

 彼の願いである“異邦人達に打ち勝てる力”とは何か?

 

 初めは英霊を召喚しようと考えた

 

 しかし、ジルの記憶から簡単に倒される英霊達の様子を読み取り意味がないと却下

 

 次に幻想種を呼び出そうとした

 

 だが、同じくそれ以上の存在に打倒されるだろうと却下

 

 ジルの記憶からそれ以上の存在を探すが見付からなかった

 

 新たに考えたのが…

 

 異邦人(十 優作)の記憶から力を持つ存在を見つける事だった

 

 しかし、その目論見は失敗に終わる

 

 荒事確定な現状に於いて優作が対策を取っていない筈が無く、彼自身があらゆる手段を以って精神や魂、果ては運命等の干渉を出来ない様にしていた。

 

 如何したモノかと他を探そうとした聖杯は干渉出来る丁度良いモノを見つけた。

 

 それは優作が着ていた衣装だった。

 

 こうして聖杯は優作が着ていた衣装(シドルファス・オルランドゥ)から記憶を読み取った…

 

 

 聖杯の輝きは更に増しジルの願いを叶えるべく魔力を集めていく、果ては霊脈や遥か上空に展開する術式に迄干渉して魔力を集める。

 眩い光が収まった時、聖杯の姿は無く、代わりに7つの石が置かれていた。

 

 

「………これが…異邦人を倒せる力…?」

 

 

 聖杯が消えて代わりに現れた石にジルは困惑しながらもその一つを手に取る。どの石も聖杯に匹敵する魔力を持っている事は判るが、如何使えば良いのかが全く分からなかった。

 

 

「これは…蛇遣座(サーペンタリウス)の印?」

 

 

 自身の手に持つ石に⛎のマークが印されている事に気付く。よくよく見ると他の石にも星座を現すマークが印されていた。

 

 

白羊(アリエス)双子(ジェミニ)獅子(レオ)処女(ヴァルゴ)天蝎(スコーピオ)、そして磨羯(カプリコーン)か…」

 

 

 何故7つだけなのか、これらから分かるのは13星座が関係している事だが、残りの星座が無いのが気になる。

 思考を深めていく内にジルの持っていた蛇遣の石が輝き出した。

 

 

「なっ……(我を呼んだのは汝か?)…っ!?」

 

 

 驚くジルの脳内に響いた問い掛けてくる声。

 困惑する彼に謎の声は言葉を続ける。

 

 

我が名は悪魔王『■■■■■■■■■』、汝は何を望む?

「の、ぞみ…?」

 

 

 再び問い掛けてくる聞き取れない言語で自身の名を名乗る声、しかも自身を『悪魔王』と名乗ってみせた。

 

 

「望み…だと? 貴様は…私の望みを叶えるとでもいうのか!?」

 

我は異界の存在、汝の住む世界の理は大きく異なる。故に対価と共に望みを叶えてやろう

 

「…な、ならば、我が肉体や魂を捧げても良い。力を……敵を屠れる力が欲しいっ!!」

 

…良いだろう、ククク…我だけでなく他の者達もいるのだ、聖石の力を以って存分に暴れるが良い

 

「聖石…? これが…う…グゥウオオオオォッ!?」

 

 

 石から翠の輝きが放たれると共に周囲から怨霊の様な翠の影がジルへと集まっていく。輝きが強まり、ジルの絶叫と共にその姿が見えなくなるが、やがてその光が消えてジルが姿を現した時、其の手に握っていた石は無くなっていた。

 

 

「ジ…ジル……?」

「く、ククク、クハハハハハハハハハッ!!」

 

 

 ジャンヌ・オルタが声を掛けるが、ジルは高らかに笑いだした。

 

 

「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」

 

 

 まるで狂ったかの様に大きく笑い続けるジルにジャンヌ・オルタは恐怖を感じる。

 

 

「す、素晴らしいっ! 何だこの力はっ!! 圧倒的、圧倒的ではないか!!」

「ジル…? ねぇ、如何したっていうの!?」

 

 

 狂気染みた笑い声と共にジルから禍々しい魔力が溢れ出す。凍てつく様な、恐ろしい気配と共にその魔力を受けたジャンヌ・オルタの身体は震えだす。

 

 

「この力が有ればどんなサーヴァントも…否、幻想種が群れで押し寄せようとも負けない、負ける事など…まるで無いぞぉおおおおっ!! ハハハハハハハハハッ!!」

 

 

 ジルの笑い声と共に5つの聖石が宙へと浮かび上がり、魔力を浴びて禍々しく輝き出していく。

 ジルは床に残って置かれていた聖石を手に取った。

 

 

「ひぃっ!?」

「さぁ、聖処女よ…貴女様も使うのです!」

 

 

 処女(ヴァルゴ)の聖石を手に取り、ジルは笑みを浮かべながらジャンヌ・オルタへと差し出してくる。その異質な姿にジャンヌ・オルタは怯えた表情を浮かべた。

 

 

「い、嫌…」

「貴女様も生まれ変わりましょう、聖処女から万物をも超越し、真理から解き放たれた存在…聖天使へと!!」

 

 

 ジルの言葉と共に彼の手から処女(ヴァルゴ)の聖石は浮かびだし、蒼い光を放ちながらジャンヌ・オルタへと迫っていく。

 逃げようとするも何故か身体が動かない。処女(ヴァルゴ)の聖石はその光で徐々に彼女を包み込んでいく。

 

 

「や…止めて…嫌…嫌ぁあああああああああああっ!!」

「アハハハハハハハハハッ! これで良いっ!! これで救われるぅぅうううううううううううっ!!!」

 

 

 ジャンヌ・オルタが拒絶の悲鳴を上げるも聖石から放たれる光は尚も輝きを増して彼女を完全に呑み込んでしまった。

 彼女の悲鳴とジルの笑い声だけが監獄城に響き渡っていた。




元ネタ(監獄城で登場した用語は次々回以降紹介)
>パワー(出典:女神転生シリーズ)
女神転生シリーズに登場する悪魔。
神学による天使9階級で第6位に数えられる中級天使。
『能天使』と表される。
名は『神の力』の意で、展開への悪魔の侵入を防ぐために常に前線に立ち、天の回廊を巡るとされている。

>ミカエル(出典:女神転生シリーズ)
女神転生シリーズに登場する悪魔。
聖書に記される偉大な四大天使の1柱。
『神の如き者』を意味する名を持つ最高位の天使で、キリスト教徒を守護する者として古くから崇敬を集めた。
軍勢を率いて魔王サタンを打ち倒したとされるのも彼とされる。

>スティーヴン・ヴィンセント・ストレンジ(出典:Dr.ストレンジ他)
『マーベル・コミック』の『ドクター・ストレンジ』シリーズに登場する主人公。
元、ニューヨークの病院で働く天才外科医であり、交通事故に遭った事で外科医としては致命的な、両手に麻痺が残る怪我をしてしまい、治療法を探した末にカトマンズの修行場『カマー・タージ』に辿り着き、魔術の存在を知る事になる。
魔術の道を究めようと修行に励んでいくうちに、闇の勢力から世界を救うために、魔術師として立ち上がる。


Q、キャスジルが聖杯に願って出て来た物体って…
A、解かる人には解かる。

Q、コレがテコ入れ…?
A、正直、メンタルボロボロの邪ンヌは戦闘なんか出来ないし、キャスジルが如何頑張っても即オチ2コマレベルの展開で消し飛ぶ運命しか考えられなかったので…


次回は6月7日投稿予定(低確率で5月31日)。
感想コメント、意見・質問お待ちしております。


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願いを知る

決戦前のスカウト回ですが、字数が15000字突破したので分割。

今回はリヨン防衛後の夜会話及び、ドラ娘スカウト(エリちゃん回)
そして捕らえていた彼女を…?

後、独自解釈注意。


「オルレアンで妙な反応があった?」

【うん、強大な魔力反応と共にジル・ド・レェとジャンヌ・オルタからは霊基の反応が一瞬変質したのが観測されたんだ】

「強大って事は…ファヴニールクラスの奴でも召喚したん?」

【サーヴァントやワイバーンを召喚する時の反応に近かかったんだけど、測定された魔力値が数倍以上のモノだった。優作君の言う通り、ファヴニールクラスと考えておかしくないよ】

「ほむ…そりゃあ、戦力をゴッソリ削ってやったんだし、補充はするだろうさな。それに…霊基の変質か…ロマン、反応とやらが起きた時間は?」

【ジャンヌ・オルタ達がオルレアンへ撤退後、1時間位の頃だよ】

「うぅむ…」

 

 

 夜、ジル達と明日オルレアンへ攻め込む計画を立てた後で優作はロマニにモニタリングしているオルレアンの様子や明日の予定を話し合おうと思っていたのだが、そこへ街の住人達が料理やら酒を持って挙って集まってきた。

 当然ながら、ラ・シャリテの時と同じ様に優作達は街を救ってくれた英雄である。況してや前回と比べて敵はファヴニールやモンスターの軍勢を引き攣れた総力戦を挑んできており、それを打ち負かしたのだ。

 街の住人達にとっては正に救世主である。

 酒を酌み交わしながら料理を楽しみ、歌って、踊って、笑い合う。皆で盛り上がり、解散となったのが夜の10時頃である。

 

 

「オルレアンからリヨンに向けてなんか変な反応とか無かった?」

【う~ん、調べた限りじゃ反応は確認はされなかったけど、何かあったのかい?】

「おいちゃん自身が何かに集中して見られた様な感覚があったんべ」

 

 

 優作の言葉通り、リヨン防衛に成功後住民達から感謝の言葉と共に迎えられていた時に自身の全身を舐め回すような嫌な気配を感じた。

 が、そこは優作。バトルモノのサブカルチャーに於いて洗脳や魂干渉と云ったネタは是迄多くの作品で扱われている為にそういった対策を取っていない筈が無い。

 

 

【見られた? …監視されたって事かい?】

「正直視線的な感覚だったんけど、若しかしたらおいちゃんに干渉しようとしてたかもしれぬ」

【優作君はそういった対策は取っているんだったよね?】

「せやで。だけんど、飽く迄も干渉を防ぐだけでそういった干渉の内容を調べる術式は設定していなかったさね…」

 

 

 前もって干渉等の攻撃を防ぐ対策は取っていたが、攻撃の内容を知る手段を用意していなかった。更に追加するなら今回、優作が着ている衣装自体には干渉対策を施して無く、優作本人が着ている状態で干渉された為に詳しい干渉対象を確認出来なかったのである。

 そのツケは明日に理解するのであるが…

 

 

「何にせよ、おいちゃんの準備不足さね。でも、もしもカルデアの方で何か分かった事があったら改めて報告してな?」

【解かった。新たな事が分かり次第、また連絡するよ】

 

 

 優作の謝罪にロマニが返事をして連絡は切れた。

 通信が終わり、一息吐く優作の元にジャンヌが現れた。

 

 

「優作さん」

「お~、ジャンヌちゃん。如何したん?」

「いえ、一人で夜空を眺めていたので気になって」

「ん、ロマンと話をしてたとこっさ」

「ロマニさんとですか?」

 

 

 ジャンヌの問いに通信機である腕輪を指さしながら答える優作。

 

 

「明日は最終決戦になるだろうしさ、色々打ち合わせをね?」

「なんだかんだで優作さんはしっかりしているんですね?」

「なんじゃそりゃ? おいちゃん、頼りなく見えるん?」

「くすっ、先程迄の宴会で一番騒いでいたのは優作さんですよ?」

「ん~、これでもおいちゃんはやる時はやる男だべよ?」

 

 

 明日への備えをしていた事にジャンヌが意外そうな言葉を告げたので優作が抗議の声を挙げるが、彼女は笑いながら一番ハメを外していたのが彼だったと告げる。それを受けて優作は困った様子ながらも反論してみせる。

 実際、優作は街の人々と関わりながらも一番酒を飲んでいた人物だった。

 

 

「皆が笑顔で笑っていました、私ではあんな事は出来ません…」

「なんじゃい、おいちゃんを揶揄った後で褒めるんか?」

「ふふっ、優作さんの歌はとても素敵でしたよ?」

「そりゃあね。歌う事はおいちゃんの趣味の一つさかい、人前で恥ずかしくないレベルで鍛えた練習してるさかいな」

 

 

 テンションアゲアゲだった優作は大いに飲み、笑い、騒ぎ、歌って周りを盛り上がらせ、挙句にはアマデウスとセッションしながら歌ってみせ、周囲を大いに沸かせた。

 彼の周りは…否、集まった人々は笑顔で笑い、喜び、同じく騒いだのだった。

 

 

「…優作さん、有難う御座います」

「うん?」

「優作さん達の御蔭で多くの人を護る事が出来ました……私だけでは如何する事も出来なかった…」

 

 

 ジャンヌが優作へと頭を下げながら礼を言う。頭を上げた彼女の表情は少し悔しそうな、悲しそうな表情が浮かんでいた。

 

 

「あの時にクーフーリンさんやロマニさんが言った通り、無謀でした。私一人で立ち向かったところでワイバーンに喰い殺されるか、住民達に因って火炙りの二の舞…「は~い、ネガティブ禁止~」…ふぇ…ゆうひゃくひゃん!?」

 

 

 ジャンヌの言葉を遮って彼女の両頬を詰まんで引っ張り上げる優作。

 

 

「“もしも”の事なんて考えても良い事無いっしょ? こうしてジャンヌちゃんはおいちゃん達と共に街を護れたんだし、ね?」

「優作さん…」

「そもそも、自分の偽物が暴れているせいで味方がいない上に不完全召喚でステが底辺な状態で国を救えとか無理ゲーにも程があんべ。こんなのが神の試練とか宣ったら、おいちゃんはその神を殴りに行かにゃならん」

「優作さん…それは流石に不敬ですよ?」

「別においちゃん、いえっさは尊敬するけんど唯一神は信じてないもんよ~」

「もう…ふふっ」

 

 

 優作の言葉にジャンヌが少し怒った様に咎めるが彼は何処の吹く風。そんな彼の仕草に彼女は軽い怒りは消え失せて笑い出した。

 

 

「んお、漸く笑った」

「え?」

「ジャンヌちゃん、宴の席でもそこまで笑ってなかったっしょ?」

「そう…でしょうか?」

「出会った時から思ってたけんど、ジャンヌちゃんは気を張り詰め過ぎやで?」

 

 

 ジャンヌの笑みに優作も笑みを浮かべる。

 

 

「気楽にいこうなんてそうそう言えたモノじゃないけどさ? 此処の異変を解決してもまだまだ異変が起きた国があるんだし、先は長いっさ。締める時は締める、緩めれる時は緩めるでいかにゃ疲れちゃうよ?」

「気を張り詰め過ぎてますか?」

「英霊としてだけど、こうして蘇ったんだ。云わば第2の人生を送れる訳なんだし、今迄やれなかった事をしたり新しい事とかしていこうや?」

「やれなかった事…ですか…」

 

 

 英雄は大半が寿命を迎える事無く亡くなっている者が多い。況してや、戦時の英雄はその人生の大半を戦いに使い、真面な青春など送る事は出来ていないだろう。

 当時無かった事を体験したり、過ごす事が出来なかった日々を送って欲しいと優作は考えていた。

 

 

「人生楽しまなきゃつまらんよ? まぁ、ジャンヌちゃんやマル姐みたいな敬虔な信徒は信仰が全てかもしれんけど…」

「そうでもありませんよ? 確かに主様を信仰する事を大事にしていますが、羊を追い掛けて遊んだり、訪れた街や村の方々と笑い話をしたりしてました」

「そう? でもおいちゃんの時代、もっと色々出来る事が増えているさかい、遣りたい事を見付ければ良いさね」

 

 

 暫くは雑談を続けていた優作達。

 優作が主体で話していたのだが、ジャンヌが意を決した表情で優作に問い掛けてきた。

 

 

「優作さん…」

「何?」

「もう一人の私を…救う事は出来ないでしょうか?」

「ほぅ?」

 

 

 ジャンヌがジャンヌ・オルタを救いたいと云う言葉に優作は意外そうな声で返事する。

 

 

「あの時、ジルから彼女を生み出した理由は聞けませんでした。でも、もしも彼の復讐の…復讐の為だけに生み出されたのならば…余りにも救いが無い」

「………」

「私は…彼女を救いたい」

(救うか…ジャンヌちゃんのレプリカとして生み出れた存在…漫画やゲームだけで十分だっての、そんな展開は…)

 

 

 ジルによって生み出されたジャンヌ・オルタ。ジル本人から理由を聞いていない以上、彼女がどんな理由で生み出されたかは不明だが、彼の復讐を賛同してくれる神輿として生み出された可能性は高い。

 

 

「…敵のボスと思われた人物が幹部に因って生み出された存在で主人公達が助けるってのは創作物じゃあ見かけるネタさね…良いんじゃない?」

「! じゃあっ」

「ジャンヌちゃんの妹みたいなもんだし、助けない選択は無いさね」

「優作さん…有難う御座います」

「礼は助けてからやで?」

 

 

:::::::

:::::

::

 

 

翌朝

 

 

「それでは、ジルさん。先に送ります」

「うむ、任せたまえ」

「先に仕掛けないでくださいよ?」

「安心したまえ、一番の戦力が君達なのだ。無茶はしないよ」

 

 

 優作が巨大なゲートウェイを開き、ジルが率いる軍勢がゲートを潜ってオルレアンへと向かっていく。リヨンの住民達に見送られながら軍勢がオルレアンへと向かった事を確認すると共に優作は新たなゲートウェイを開く。

 

 

「それじゃあ、おいちゃん達も行きますか」

「先ずは何方に?」

「ティエールやね。角を生やした少女が滞在している街なんやけど、何かゴタゴタが起きているって連絡が来たから先にいくべ」

 

 

:::::

 

 

 ティエールを訪れた優作達が目にしたのは街の中央から立ち昇る火柱であった。

 

 

「な、何事!?」

「おぉ、サマナー。丁度良かった…」

 

 

 すわ、襲撃かと驚く優作達の元にティエールを守護していた白のマネキンに羽と天使の輪を付けた様な大天使『クシエル』が困った様子で現れた。

 

 

「クシエル、アレ何なん?」

「この街に滞在しているサーヴァント達なのですが、喧嘩を続けていまして…」

「は?」

 

 

 困惑した声を漏らす優作達一同にクシエルが説明をする。

 何でもこの街は元々1名だけいたのだが、竜の魔女が率いていたあるサーヴァントを追って、村や街を転々としていたもうサーヴァントが訪れてからずっと喧嘩を続けているのだという。

 クシエルがこの街に着いた時からこの状況は続いており、街の住民にとってはワイバーンを撃退してくれるので有難いながらも、喧嘩を続けているので迷惑な存在として参っていたという。

 クシエル自身も説得を試みたのだが、糠に釘な結果に終わっており、ほとほと困っていた。

 

 

「街に被害は?」

「住民達へ飛び火は無いのですが…喧嘩をしている中央の広場は酷い有様で…」

「な~る、取り敢えずはその面を拝みに行きますか」

 

 

 クシエルに案内され街の中央広場へと向かう優作一行。

 そこで待ち受けていたのは…

 

 

「このっ! このこのこのこのぉ―――っ!! 好い加減目障りなのよ、アンタはぁ!!」

「うふふ、目障りなのは一体どちらでしょう? 貴女の様な駄竜如きが真の竜たる私に勝てるとお思いで? ねぇ、エリザベートさん?」

 

 

 コケティッシュなフリルドレスで着飾った桃色ツインテールの少女が無数の連突を手に持つ槍から放ち、それを長い銀髪の和服少女が扇子で軽くいなしながら火炎で反撃している。

 罵倒と挑発を互いに繰り返しながらぶつかり合っている2人だが、特徴的なのは2人共頭から角を生やしている事だった。尚、ドレス姿の少女はスカートから尻尾らしきモノも伸びている。

 

 

「うぅぅう――――っ、極東のド田舎リスの癖してムカつくったらありゃしないっ!! カーミラの前にアンタを叩き潰してやるぅ、このドロッドロのド変態ストーカーッ!!」

「ストーカーではありません、言うならば“献身的ながらも精密性を持った、隠密的な後方警備”です。この清姫、愛に生きてます故にこの程度出来て当たり前なのです」

「はっ! 何が献身的な後方警備よ!? 人様の領域にズカズカと勝手に足を踏み入れている人権侵害の蛇女!」

「拷問の挙句に血を浴びていた傾倒性癖で精神異常者の変態には言われたくありませんね、この拷問フェチ?」

 

 

 売り言葉に買い言葉、挑発、罵倒を口から放ちながら2人は暴れ続けている。お陰様で石畳の床は砕け、近くで生えていたであろう木々は根元から圧し折れているか炭となっており、中央の噴水こそ、無事ではあるが、所々罅が生えていて何時砕けてもおかしくなかった。

 

 

「…なぁにこれぇ?」

「この通り、朝から日暮れまでずっとこの調子です」

「い、一日中喧嘩しているんですか…?」

 

 

 困惑を超えた声を漏らす優作にクシエルも肩をすくめて目の前の様子を説明する。暴言と共に武器のぶつかり合う音や火炎が炸裂する音、ドレス衣装の少女からは何故か鼓膜を突き破りかねないキンキンな金切り声のデスボイスが放たれている。

 この地獄絵図が朝から夕暮れ迄行われている事にジャンヌが呆れた様子の言葉を零す。

 

 

「キィ―――――ッ!! 拷問フェチですってぇ!? このアオダイショウ!!」

「おやおや、図星を指されて悔しいですかぁ? このエリマキトカゲッ!」

「ヤマカガシの癖にぃっ! アンタは絶対に串刺しにして、ホルマリンの中に漬け込んでやるから―――!!」

「はっ、小娘が! ならこの化生の火焔が、ヤモリ娘を返り討ちにた末に焼き滅ぼしてあげましょうっ!!」

「何ですってぇ――――っ!?」

 

 

 互いに沸点やら煽り耐性が無いのか暴言のドッジボールと攻撃を繰り返す両者に皆が呆れ顔になる中、アマデウスが両耳を押えながら苦しそうに優作へ助けを求めた。

 

 

「う~ん、凄い様に見えてしょうもねぇ争いだ…」

「ゆ、優作…そろそろ何とかしてくれないかい? あの槍娘の声で耳が腐る処か爆発四散しそうだ…」

「せやね、取り敢えずあの騒音槍娘にゃ聴かにゃならん事があるし…っつうか、何で同一人物が異なる年齢でいるの? コレアリ?」

 

 

 音楽の才能に溢れるアマデウスの耳では常人でも長居したくないこの騒音現場は拷問レベル苦痛であり、その耳を抑えても尚辛い様子だ。

 和服の少女も言ったが、スカウター越しに表示されたドレスを着た少女の真名は『エリザベート・バートリー』。ラ・シャリテにて密封した筈のカーミラが若い姿? で目の前にいるのだ、疑問を浮かべない筈が無い。

 

 

【多分だけど、ラ・シャリテで遭遇したエリザベート・バートリーはカーミラとして識別されていた事から彼女の所業から吸血鬼扱いを受けた存在だったんだろう。彼女のスキルに吸血鬼が埋め込まれていたのが関係していると思うよ?】

「って事は目の前の奴は吸血鬼化してない存在かいな?」

【そうだと思うよ?】

「潰す! ゼッタイに潰してやるっ! ナンバーワンはアタシだぁっ!!」

「ふふふふふ…消し炭にして差し上げましょう、シャアアアアァァァアッ!!」

 

 

 ロマニから説明を受けて納得する優作。しかし、話を聞く為にはこの馬鹿馬鹿しい喧嘩を止めなければならない。因みに、和服少女の方は和歌山伝承の『安珍清姫伝説』で有名な清姫本人であった。

 優作は懐から2丁のランチャーを取り出した。ラ・シャリテにてジャンヌ・オルタの顔面にぶっ放して彼女を泣かせた水鉄砲、インパルスだ。

 

 

「ヒャッハー! ダイナミックエントリィィィィィィイイイイイイッ!!」

 

 

 ゲス顔ダブルインパルスな状態で優作は高く飛びあがり、無駄に綺麗に回転を決めながら喧嘩する両者の横に着地した。

 

 

「なぁっ!?」

「はぇっ?!」

 

 

 突然の乱入者に手を止める両者。

 しかし、優作は既に彼女達の顔面へインパルスの咆哮を向けていた。

 

 

「喧嘩両成敗っ!!」

「はぶぅっ!?」

「ほぶしっ!?」

 

 

 インパルスから放たれる高圧縮の水鉄砲は少女達の顔面を直撃。ラ・シャリテにてジャンヌ・オルタを吹き飛ばした様をまんま再現し、2人共回転しながら宙を舞う。

 クルクル回りながら2人の少女達は噴水の溜池へと綺麗にダイブした。

 

 

「ナイスショットォ!」

 

 

 2丁のインパルスを構えながら器用にガッツポーズを決める優作。暫く犬神家状態で頭から池に突っ込んでいた2人であったが、溜池の水面から気泡がブクブクと溢れ出し、顔を水面から出すと叫び声を挙げた。

 

 

「「いきなり何すんのよぉ(するんですか)!?」」

「え? 街で喧嘩を続けて住民に迷惑かけてる輩がいると聞いたんで頭を冷やしてやろうかと」

「余計なお世話よ、子ジカ! ってか顔がヒリヒリして痛いんだけど!?」

「喧嘩を売ってるのですか? 隣のイグアナ娘より先に燃やしますよ?」

 

 

 溜池から上がって来るも、びしょ濡れ状態の2人。

 

 

「誰がイグアナよ!? この白蛇女っ! でもアンタの考えには賛成ね…びしょ濡れにしてくれたお礼はしてやらないと」

「貴女の事ですよ、赤トカゲ? しかし、理解して貰えるとは喜ばしいですね」

 

 

 互いに槍と扇子を構えて優作へと敵意を飛ばす2人。

 

 

「ほむ、おにゃのこを濡れ鼠の儘にしているのはアカンか…それっ」

「「はぇ!?」」

 

 

 2人の姿に優作は指をスナップさせると濡れていた筈の衣服や髪の毛が忽ち乾いてしまった。

 

 

「服があっという間に…」

「こ、こんなので許してもらえると思ってないでしょうね?」

「別にバトルしても良いんやけど、こっちは時間が無いさかいな。それに…」

 

 

 優作の行動に困惑する2人だったが、彼が自身の背後に立つメンバーに指を向けながら問い掛ける。

 その数15名とフォウ1匹及びチョコボ4羽と天使1体、2人が武器を構えたので応戦すべく皆が構えている。

 

 

「喧嘩売るなら、おいちゃんの連れ全員纏めて相手する事になるべ?」

「「……………迷惑掛けて御免なさい」」

「理解が速い子は好感持てるで?」

 

 

 絶望的な戦力差に頭が冷えた2人は素直に謝り、優作は笑みを浮かべる。

 

 

「まぁ、遣り過ぎた事に関してにゃ謝るべ。こっちはおまいさん達をスカウトに来たのが目的さかい」

「え? スカウト!? アタシのアイドルデビューの第一歩目到来っ!?」

「あ、アイドル…?」

 

 

 優作のスカウト発言に目を輝かせる槍娘こと、エリザベート・バートリーに優の顔が引き攣る。演技でも無い本心を現した表情に困惑の声が漏れた。

 

 

「え、何? オタク、アイドル志望なん?」

「アタシはサーヴァントきってのトップアイドルよ! ……デビューした訳じゃ無いけど」

「ふふふ。それでよくもまぁ、トップアイドルなんて堂々と言えますね?」

「うるさいわね! こうしてスカウトが来たのだから一気に駆け上がるわよっ!!」

 

 

 清姫の言葉に噛みつくエリザだったが、優作は困惑した表情を浮かべたままであった。

 彼にとってエリザベート・バートリーは格下の者を甚振る事に快感を覚え、果ては若さを保つ為に拷問の果てに数多くの命を奪った異常者であると認識している。

 サーヴァントは全盛期の姿で召喚されるので若かい姿であるのが殆どらしいが、それでもその命を終える迄の人生を記憶しており、その性格や本性も変わっている訳では無い。

 クシエルの話ではエリザベートの方も街にワイバーンが襲撃して来た際に迎撃を行っていたと言う。カーミラとして敵対した存在と同存在である彼女がそのような事をするのが不思議であった。

 

 

「スカウト目的で来たが、おまいさんには一つ聞きたい事がある」

「あら、何かしら? 3サイズは教えないわよ?」

「んなもん、如何でも良いわ! おまいさんが如何してフランスの民を護る側にいる?」

「………」

「おいちゃんが知る限り、エリザベート・バートリーと云う人物は拷問で他者を甚振って殺す快楽殺人鬼さね。ならば、おまいさんは竜の魔女の陣営に就いて、殺戮の限りを尽くすと思ったんやけどね?」

「……ぐうの音も無いわね、確かにアタシの生前の所業はアンタの言った通りよ。…理由の一つはもう一人のアタシが竜の魔女側にいるから。アイツはアタシが倒さなきゃ気が済まない」

 

 

 未来の姿であるカーミラを倒す為にジャンヌ・オルタ陣営と敵対していると答えるエリザベート。確かに、ワイバーンと共に村や街を襲撃していた彼女達に会いたいならば、敵対していれば何時か会えるであろう。

 

 

「カーミラを探して転々としてたんか?」

「アンタ、カーミラを知っているの!?」

「知ってるも何も、おいちゃんが密封したわ」

「へ? みっぷう?」

「ほれ」

 

 

 カーミラの単語に食い付いたエリザベートに優作が彼女の末路を説明しながら封じた十字架を見せる。

 

 

「…そ、それにカーミラが?」

「せやで。つぅか、倒したいのは何故や?」

「…コイツはアタシの罪の象徴、幾人もの人々を拷問の果てに殺し、その血を浴び続けた逸話から吸血鬼として名を遺した。『血の伯爵夫人』としてね…」

 

 

 カーミラが封じられた十字架を前にして複雑そうな表情を浮かべながらもエリザベートは説明を続ける。

 

 

「コイツは変わり果てたアタシ、そして罪の結晶。目を背けてはならない真実であり、向き合わないといけない存在なの。だからアタシはコイツの不始末を止める為に動いてた」

 

 

 エリザベートの言葉に優作は目を見開く。

 自身の思っていた人物像とまるで違うのだ、彼女は自身の行いを理解、後悔し、そして向き合おうとしている。

 

 

「…それで、他の理由は?」

「……信じないかもしれないけど、アタシは別の時代で行われた聖杯戦争に召喚された事があるの。まぁ、その時に色々あってね? その時に思う事があったし、こうして覚えているから竜の魔女達…未来のアタシみたいな事はしたくないだけよ」

【マスター、彼女の言葉は本当だ。私もその聖杯戦争に呼ばれて彼女を見て、話を聞いている】

「………」

 

 

 彼女の言葉に嘘は見られない。クーフーリン達が並行世界での聖杯戦争を覚えているのだから彼女もまた別の聖杯戦争に呼ばれたのだろうし、エミヤから彼女の言葉を肯定する念話が届く。その時の体験が彼女に影響を与えたのだとしたら、彼女の過去の所業とカーミラの言動でしか彼女の人物像を掴めていない自分では彼女の本質は解からない。

 

 

「…アイドルはスキャンダル一つでも致命的だが、おまいさんは自身が行った所業を理解しながらもアイドルを目指すんか?」

「目指すわ。どんなに後ろ指を指されて罵倒されても、自らの罪を背負いながらでもアタシはアイドルになりたい。だってアタシは他の誰かにアタシ自身の歌を届けたいと決めたから…」

「……こりゃ参ったね、確認せにゃならん」

「確認?」

 

 

 エリザベートの言葉に優作はカーミラの本心を聞きださなければならないと理解する。

 元が人格破綻者ならば狂化が付与されても大して変わらないかと思っていたが、彼女達が同一人物ならば本質に大きな違いは無い筈である。

 

 

「メディ姉、聞こえる?」

【聞こえているわ、私の力が必要?】

「カーミラのパスを解除して欲しいっさ」

【あら? 特異点攻略後に吸血鬼対策のサンプルにするつもりだったのではなかったの?】

「若い姿の彼女の話を聞いたら、如何しても問い質さんといかん事が出来たさね。サンプルにするかは答えを聞いてからだべ」

【分かったわ、今向かうから】

 

 

 カルデアで待機しているメディアに連絡し、狂化解除と回復用のデスペルの薬とエリクサーを用意する優作。そこへエリザベートがおずおずと尋ねてきた。

 

 

「ねぇ、サンプルって聞こえたんだけど…未来のアタシを如何するつもりだったの…?」

「今後、吸血鬼が敵として現れた際に確殺出来る様に血やら細胞片やら採取して色々調べようと考えていたさね」

「解剖する訳では無いのね…」

「そこまでスプラッタな事はせんわ…と、来た来た」

 

 

 優作の答えに安堵した様子のエリザベート。

 そこへカルデアからメディアが召喚されて現れる。

 

 

「そんじゃメディ姉、頼んます」

「はいはい、破戒せる全ての符(ルールブレイカー)!」

 

 

 優作が密封状態を解除すると同時にデスペルの薬とエリクサーを掛け、姿を現したカーミラの胸元へとメディアが短剣を突き立てる。

 密封解除で放たれた赤い輝きが消えると、呆けた様子で座るカーミラの姿があった。

 

 

「うぐぅっ……こ、ここは…?」

「よぅ、2日ぶり」

「ヒィッ!?」

 

 

 何が起きたのか判らない様子のカーミラに優作が声を掛けると怯えた声で後退ろうとするが、周りを皆が囲んでいる為にそれは叶わない。

 優作に対する恐怖や囲まれている焦りで頭が一杯になっていたカーミラであったが、ふと自身の様子に気付く。

 

 

「…? パスと狂化が消えている?」

「おまいさんの密封を解除すると共にそれらも消した」

「…どう…して?」

「聞きたい事があるさね」

「聞きたい…事?」

 

 

 困惑した声を漏らすカーミラに優作が答えながら尋ねる。

 

 

「おまいさんの望みって何なん?」

「望みですって…?」

「おまいさんが何を望んで英霊の座に居ついたか、それが知りたい」

「……そんな事を知るが為に態々開放した上でパス云々を解除したというの…?」

 

 

 優作の質問に怪訝そうな声を零すカーミラ。

 

 

「…私は反英霊よ。ヒトを、血を、何もかもを呑み込む存在、ラ・シャリテで貴方が言って通り、私の…そこの過去の姿をした私を含めて行ってきた所業を知っているのでしょう?」

「まぁね。血塗られた所業が吸血鬼のスキルとなり、カーミラとしておまいさんの姿を作ったんやろ?」

「そう…私の望みは若さを保ち続ける為に血を啜り続ける事。其の為なら万物すら呑み込んでいくわ」

「………」

「殺しなさい、異邦人のマスター。私は血を啜るバケモノ、その望みも人間には受け入れられる事の無い存在なのだから…」

 

 

 仮面を着けている事からその表情を伺う事は出来ないが、何もかもを諦めている…そう感じる声と言葉。

 確かに吸血鬼らしい願いではある……が、聞きたい事はそれ(・・)では無い。

 

 

「はぁ…おいちゃんは望みを聞いたんやけどな?」

「何を言っているの? 今言った…「これ邪魔」…っな!?」

 

 

 優作が彼女が着けていた仮面を奪い取る。仮面を外されカーミラの素顔が露わとなった。

 

 

「如何なったらあっちの若い頃の姿からこうなるんか疑問でしかないけんど…綺麗な顔やね。モデルするのにピッタリだわさ」

「か、返してっ!」

「やなこった」

 

 

 奪われた仮面を取り戻そうと腕を伸ばすが、届かない高さに仮面を掴む手を上げる優作。最後には仮面を放り投げて、仮面は噴水の溜池へと落ちていった。

 

 

「もう一度聞くべ、おまいさんの望みは?」

「さっき言ったでしょう!? 私は全てを…「おまいさん、エリザベート・バートリー自身が心から望んでいる事は何だ!!?」…っ!?」

 

 

 優作の問い掛けに答えは変わらないと返そうとするカーミラの言葉に声を荒げながら遮る。

 

 

「女性なら永遠の若さを求めるのは解かる、でもそうじゃない! おまいさんが、その命終える時に抱いていた、後悔の先にあった願いを聞いている!!」

「私の…後悔……そんなの…願いなんて変わらない…「あぁ~っ!! じれったいっ!!」…ヒッ!?」

 

 

 優作の荒げた問い掛けに動揺しながらも尚、同じ返事をしようとするカーミラに優作は自身の衣装をクラウスの服へと切り替えながら拳を振り上げた。

 ラ・シャリテでのトラウマが蘇り、小さな悲鳴を上げるカーミラ。優作はそのまま拳を彼女の目の前の床へと叩き付けてから言葉を続ける。

 

 

「ならおまいさんは! 化物として最後は再び閉じ込めらて死ぬ事を望んでいるんか!?」

「!? …い、嫌…」

 

 

 若干、脅しが混ぜた優作の言葉にカーミラは怯えた声を漏らす。

 カーミラこと、エリザベート・バートリーの最後は扉と窓を漆喰で塗り塞いだチェイテ城の自身の寝室での孤独死であった。彼女自身が高貴な家系であった為に死刑に出来ないゆえの処置であったが、本来は死刑に処せられるべき重罪人である事を示す為に城の屋上には絞首台が設置されたという。

 1日1回食物を差し入れる為の僅かな小窓だけを残し、扉も窓もすべて厳重に塗り塞がれた暗黒の寝室の中で彼女は過ごし、1614年8月21日に食物の差し入れ用の小窓から寝室を覗いた監視係の兵士に依って彼女がひっそりと死亡している事が確認された。

 3年半もの間、暗闇の中で生きていた彼女の心境は本人しか分からない。だが、他者との触れ合いや刺激すら無い漆黒の闇の中で3年半も生き続けたその軌跡は普通に発狂しかねない状況であるのは確かだ。

 そして暗闇の中で願った事は…

 

 

「もう、嫌なの…光が届かない暗闇の中で独りぼっちなのは…独り孤独に朽ち果てるのは…嫌…嫌なの…」

「………」

「どんなに蔑まれても良い、それだけの事をしてしまったのだから……でも、それでも私はもう独りでいるのは嫌…」

「アンタ…」

「…何だよ、ちゃんとあるじゃん」

 

 

 カーミラが零していく本音に同存在であるエリザベートは複雑そうな表情をしている。

 2人共本質は同じ、エリザベートとして召喚された方は新たな願いを抱き、その罪を背負いながらも進もうとし、カーミラはその罪にを受け入れながらも救われる事を半場諦めていた。

 

 

「おいちゃんは裁定者じゃないし、多くの命を奪った事に関してどうすれば償えるかは分からない…でも、罪を背負って、償って生きていく意思があるのならそれで良いんじゃないかとは思う。そっちの、アイドル希望はそのつもりなんやろ?」

「えぇ、許されるなんて思っていない。それでも、アタシは罪を背負いながらでも歌い続けたい。これからね」

「だってさ、おまいさんは?」

「私は…」

 

 

 優作の問い掛けにエリザベートは強く頷く。

 そしてカーミラは…

 

 

「光の下で生きたい。どんなに忌み嫌われようとも…暗闇の孤独でなく、光の中で生きて死にたい…」

「そうかい」

 

 

 カーミラ…エリザベートの本心を聞いた優作はクラウスの服からシドの衣装へと戻す。

 

 

「何を如何すれば償い切れるかは判らんが…おまいさん達の被害者遺族の子孫達がおいちゃんの時代まで生きているのなら…彼等を救う事が幾等かの償いになるとは思う」

 

 

 そう言いながら優作は2人に右手を差し出す。

 

 

「おいちゃん達に協力してくれるならアイドルのプロデュースやら日の元での一生を送るくらいの事はサポートして叶えるさね」

「アタシは構わないわ、アイドルデビューの第一歩が叶うのだもの。宜しくプロデューサー♪」

「ん、しくよろ♪ で、そっちは?」

「好きになさい……奥底に秘めていた願いを言ったのだもの、約束は守ってもらうわよ」

「任せんさい、おいちゃんは約束は守る男さかい」

 

 

 笑顔で答えながら握手を交わすエリザベートに対して、本心を語った恥ずかしさからかそっぽを向きながらも応じるカーミラ。

 何はともあれ、新たな仲間が2人増えた。




元ネタ
>クシエル(出典:女神転生シリーズ他)
アトラス作品に登場する悪魔。
“厳しき神”の名を持つ処罰の7天使の一人。
燃え上がる炎の鞭に依って、神に背いた国家を罰する役目を担う。


Q、カーミラも仲間にするの?
A、本作に於いて数少ない同一人物で仲間にする枠。

Q、カーミラに対して脅し入っていない?
A、そう簡単に本音を吐かないと優作は判断したので、仕方なく。

Q、そういや、リヨンでの加入組はなりきりしているの?
A、次回新規加入メンバーと纏めてなりきりさせる予定。


次回は6月21日投稿予定(五割の確率で6月14日)
感想コメント、意見・質問お待ちしております。


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ヤンデレ娘と聖人と・・・そして悪魔

前回「次回は6月21日投稿予定(五割の確率で6月14日)」

大嘘ぶっこいて申し訳ありませぬorz

仕事が辛い、つらたん…


 2人のエリザベートから仲魔になる了承を貰った優作は、残った清姫の方へと向く。話をしていた間、ずっと聞いていただけの彼女であったが口を挟む事無く、優作の方を眺め続けていた。

 

 

「えぇと、大分待たせてしまったね?」

「全くですね…でも、そちらの赤トカゲ達の意外な一面が見れたので構いません」

「彼女達との話を聞いてるから分かっていると思うけんど、力を貸して欲しいさね」

「此処、フランスだけでなく世界の各地で発生している異変の解決を手伝って欲しい訳ですね?」

「そういう事。あの2人にも言ったけど、協力してくれるなら可能な限りの願いは叶えるっさ」

 

 

 優作の言葉に対して思案顔の清姫…何故かその視線は優作の顔に向けられている。

 

 

「可能な限りの願い…ですか?」

「付け加えるなら周りの他人に迷惑を掛けない範囲での願いってなるけどね?」

「…嘘を吐いてはいないようですね。私も周りに迷惑をかける様な事は望んで無いので、それで構いません」

 

 

 優作の提案に嘘では無いからとあっさり了承する清姫だが、その返事は上の空の様で且つ彼女は優作の顔をずっと見詰めたままだ。

 

 

「さっきから気になってるんやけど、なんでおいちゃんの顔をずっと見ているん?」

「…よくよく見たら…まさか、安珍様だったのですかぁ?」

「……は?」

 

 

 突如の安珍呼びに困惑した声を漏らす優作。安珍といえば『安珍清姫伝説』に於いて清姫が恋した僧であり、彼女に対して嘘の婚約をした上で逃げた為にその恨みで竜と化した清姫に追われた挙句、寺の鐘の中に隠れていたらその鐘ごと焼き尽くされて死んだ哀れな男である。

 “嘘を吐いてはいけない”、“女の恨みは怖い”と云った教訓を現した伝説なのだろうが、嘘を吐いた結果、焼き殺された安珍には聊か同情の念は浮かぶ。まぁ、伝わっていないだけで、本当は現代における結婚詐欺云々みたいな常習犯だったのならギルティであるが…

 

 

「何てことでしょう…この清姫、安珍様と気が付かずに赤トカゲと一緒に襲い掛かろうなどと思ったなんて…」

「おいちゃんは十 優作なんやけど…」

 

 

 両頬に手を当てながらオロオロしだす清姫。

 何故か安珍と同一視している様なので訂正する優作、先程から顔をガン視し続けているのだがそんなに似ているのだろうか?

 

 

「あぁ、申し訳ありません安珍様ぁ。まさかこの清姫が今の今迄気が付かないとは…」

「だから優作だっつぅの」

「おいたわしや、安珍様…転生されて私の事をお忘れになるなんて…」

(転生した身? ではあるけんど、前世から同じだっつぅの…)

 

 

 訂正しても一向に安珍呼びする清姫に口元を引き攣らせる優作。安珍の転生体と思っているようだが、前世含めて生まれも育ちも先祖代々、九州である。

 

 

「ヘイ、お嬢ちゃん。おいちゃんの名前は十 優作と言っとるやろ?」

「安珍様は本当に覚えていらっしゃらないのですね…大丈夫です。この清姫、今度こそお傍を離れません」

「人の話を聞かんかい(この娘病みが入ってにぃか?)」

 

 

 遂には優作に抱き着いてくる清姫。その様子に何故かマシュとオルガマリーの視線が厳しくなった気がするが、先ずはこの娘を何とかしなければならない。

 クラスがバーサーカーだからなのかヤンデレ染みた様子の清姫に如何したものかと考える。自身を安珍扱いしている事以外、リヨンで戦ったバーサーカーとは違って会話はそれなりに通じているので何とか仲魔にしたい処だ(モデルセンサーにヒットしたからというのが理由の半分以上を占めていたが…)

 

 

「良ぇか、きよひー? おいちゃんの名前は優作や」

「安珍様ぁ」

 

「優作」

「安珍様」

 

「優作や」

「安珍様です」

 

「優作だっつぅの」

「安珍様で間違いありません」

 

(妄信っつぅのか…ヤンデレ確定やわコレ…こうなったら思考誘導して意地でも呼び方を変えたる。メンヘラ、ヤンデレ滅ぶべし)

 

 

 “ヤンデレ”と云うワードを有名にした某アニメや某CDシリーズの如くNice boat展開が真っ平御免な優作は清姫の思考誘導を開始する。

 因みに優作はメンヘラやヤンデレは大嫌いで自分好みに調教してしまいたい主義である(クッソ如何でも良い情報)

 

 

「優作」

「安珍様」

 

「優作~」

「安珍~」

 

「優☆作」

「安☆珍」

 

「優~作」

「安~珍」

 

「ゆうさく(デケデケデケデケ)」

「あんちん(デケデケデケデケ)」

 

「ゆ~う~さ~く~」

「あ~ん~ち~ん~」

 

 

「おい、遊び始めたぞ?」

キュウフォウキャ~ウ(ヤンデレ相手にやりますねぇ)!」

 

 

 優作・安珍の問答を繰り返しつつ、仲魔直伝の洗脳スピーチを混ぜて誘導を行う様子をクーフーリンやフォウ達が呆れた様子で眺めている。

 

 

「ゆ・う・さ・く」

「あ・ん・ち・ん」

 

「優作」

「安珍」

 

「安珍」

「優作」

 

「おいちゃんの名前は?」

「優作様ぁ……あれ?」

「はい、良く出来ました♪」

「あ、あの……はふぅ…」

 

 

 遂には誘導に因って自身の呼び方を“優作”呼びにさせた優作。当然、言い間違いに気づいた清姫だったが、優作が喜びながら彼女の頬や頭を優しく撫で回す為に清姫は蕩けた表情でされるがままとなり、こうして貰えるならそのままで良いかと脳裏に浮かびだしていた。

 異性からのスキンシップ耐性が皆無な清姫にとってこの思考誘導は効果覿面であった。

 

 

「それじゃあ、もう一度。おいちゃんの名前は?」

「あ…ゆ、優作様」

「良い子やぁ~!」

「ふにゅう~♪」

 

 

 改めて優作呼びを続けた清姫に優作はムツ〇ロウ氏が動物を可愛がる時の様に彼女を抱きしめながら撫で回す。清姫は完全にトロ顔になっており、優作にされるがままとなっている。

 

 

「リピートプリーズ、おいちゃんの名前は?」

「優作様ですぅ~」

「良お~しよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよし」

「はにゃ~ん♪」

 

 

 どこぞのキチガイ医者のナデナデラッシュを仕掛ける優作に清姫はトロ顔を越えたどこぞの“感度3000倍”世界で在りがちなヤベー面に成り果てていた。これにて洗脳完了である(ゲス顔)

 

 

「むぅ~(初対面の相手にあんなに…ずるいです)」

「………(何よ、あんなに抱き締めて撫で回して…)」

 

 

 そんな2人の遣り取りを面白く無さそうに見ているマシュとオルガマリー。2人から黒いオーラがユラユラリと浮かび上がっている様が幻視され、近くにいたアマデウスとジャンヌが彼女達から離れて行く。

 

 

「おいちゃん、今世じゃ“十 優作”さかい、今後は気を付けてな?」

「はぁい♥」

「それじゃあ…と、契約対象に関してはエリザベート2人はマリーについて貰って、きよひーはおいちゃんね?」

「「分かったわ」」

「分かりました、優作様ぁ♥」

 

 

 優作の言葉の後に各々が契約を結び終え、この街ですべきことが終える。

 

 

「そんじゃ、最後はボルドーやね」

「確か、聖人がその街にいるんでしたっけ?」

「せやで、おいちゃんの仲魔が来てからは街の人々と一緒に拝んでいるらしい」

「因みにボルドーに向かった天使って?」

「サンダルフォンやね」

「さ、サンダルフォン様…」

 

 

 ボルドーへ繋がるゲートウェイへ向かう優作達。ふと気になった事を優作へ尋ねるマルタに答える彼だったが、またしても天使のビッグネームが出たのでジャンヌが顔を引き攣らせる。

 

 

「それじゃあ、イクゾー!」

キュッキュッキュキュキュキュ(デッデッデデデデ)フォ~ウ(カーン)

 

 

 ゲートウェイを抜けた優作達はボルドーの入口へと立っていたた。

 そして入口には鎧を纏う長髪の男性とサンダルフォンが並んで待っていた。

 

 

「お待ちしておりました、天使使いと御供の方々」

 

 

 鎧姿の男性が深々と頭を下げる。

 

 

「貴方がゲオルギウス?」

「えぇ、この街を守護しておりましたゲオルギウスと申します。この国ならばジョルジュ*1と名乗った方が良いかもしれませんね」

 

 

 オルガマリーの問いに笑顔で答えるゲオルギウス。

 ゲオルギウスはキリスト教の聖人伝説を纏めた『黄金伝説』に於いてドラゴン退治の物語の一つとして彼の逸話が挙げられている。

 3世紀後半にパレスチナのリュッダでギリシャ系貴族且つキリスト教徒の家庭に生まれ、彼の父親はローマ軍人だった為に彼も小アジア(現在のトルコ)のニコメディアで軍人となったという。

 カッパドキアを治めるセルビオス王の首府ラシア付近にて現れた毒を撒き散らす巨大な竜を、当時異教徒であった地元の民達がキリスト教へ改宗する事を条件に聖剣アスカロンを以って退治した逸話を持つ。

 そんな彼は西暦302年に当時のローマ皇帝であるディオクレティアヌス帝がローマ軍所属のキリスト教徒を逮捕してローマの神々に捧げなければならないという政令を発した為に捕まり、拷問の果てに棄教を強要されるが、棄教せずに最後は斬首されて殉教したといわれている。

 

 

「話はサンダルフォン様から聞いております。天使様方が街を守護してくださるならば心配はありません、私も竜の魔女を倒す為に力を貸しましょう」

「有難う御座います」

 

 

 先にサンダルフォンから事情を聴いていたゲオルギウスは快く優作達に協力すると答える。

 ゲオルギウスはオルガマリーと契約し、これでフランスの異変で召喚されたカウンターサーヴァント達が全て出揃い、仲魔となった。

 

 

「さて、これで召喚されたカウンターサーヴァントのスカウトが全て終わった訳だしオルレアンへと向かいましょ」

 

 

 住民達に見送られながら優作達は開いたゲートウェイ先のオルレアンへと向かった。

 

 

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「む、来たか」

「ジルさん、敵に動きは?」

「ドラゴン1匹姿を現していない、城も不気味な程に静かだ」

 

 

 ゲートウェイを抜けた先ではジル率いるフランス軍がジャンヌ・オルタ達が逃げた監獄城を包囲展開していた。

 囲まれた城は城壁や見張り台に人影は無く、ワイバーンすら一匹も見当たらなかった。

 

 

「布陣は整えている。君達の準備が整ったら何時でも言ってくれ」

「有難う御座います」

 

 

 天幕の一つを借してもらい、決戦前の準備を行う事にした優作は監獄城を包囲している天使達やモニタリングしているロマニへと状況の説明を聞いた。

 

 

【ドミニオン、城や周囲に怪しい動きは無かったかな?】

【そうですね…動きは逆に怪しむ程無いですが、城の中では悍ましいマグネタイトが蠢いています】

「城の中か…ロマン、城内はヤバい感じ?」

【そうだね、サーヴァント数体分の魔力が集中している点が幾つか確認出来てるよ。それ以外でも幻想種ランクの高い魔力で溢れかえっているね】

「うぅむ…戦力を城から一気に解き放つつもりか…開幕ブッパで一気に敵戦力を削がないといかんな」

 

 

 最終決戦の戦略を考えつつ、敵に動きが無い今が好機と考えた優作は新規加入のメンバーへなりきりの力を与えるべく英霊メンバーへ振り向いた。

 

 

「それでは最終決戦前に新規メンバー達はお着換えタイム…基、なりきりして頂きます」

「なりきり?」

「簡単に説明するとですな…」

 

 

 リヨンで仲魔となった3名も昨夜は宴会の後は詳しい話はせずにさっさと休ませたので服を渡していなかった。

 なので此処で纏めて力を与える事にしたのだが、改めて新規メンバー達に説明すると各々の反応は様々であった。

 

 

「着た服の職業や人物の力を使える様になる…?」

 

「は、ハハ…無茶苦茶だな…君の力は…」

 

 

 デオンとサンソンは引き攣った笑みを浮かべ…

 

 

「着た服の職業や人物になりきれる…? な、ならば神にすらなれるのか!?」

 

「ん~まぁ、一応は可能。でも神なんぞになろうなんてこれっぽっちも思わないけどね~」

 

「そもそも勝てる相手じゃなかったのね…」

 

 

 アタランテが驚愕の表情になる一方でカーミラが優作の規格外っぷりを理解しながら敵に回っていた時の自分達の約束された負け戦っぷりを理解した。

 

 

「…ならば貴方はその力を以って何を成そうと云うのです?」

「特に無いです」

「えぇ…?(困惑)」

 

 

 最後に質問を投げかけたのはゲオルギウスだったが、優作の返答に困惑した声を零した。

 

 

「俺は普通の幸せを甘受しながら普通に生きて、普通に死ぬのが望み。過ぎた栄光も地獄の苦しみも本来は望む気は有りません」

「普通って…何でも出来る聖杯みたいな力を持っているなら世界征服みたいな事は思わない訳?」

「世界征服なんて、征服した後を考えれば面倒極まりないさね。一般的に幸せな日々を過ごすのがヒトにとって一番、だからそんな願いは不必要だってハッキリわかんだね」

「…気になっていたんだが、坊主は英雄願望は無ぇのか?」

「それは私も気になっていた。万人がそうでないとは分かるが、何でも出来る力を持っていながら人以上の事を為そうとは思わないのかね?」

「はっ! 自分が遣りたい放題の力を持ったとしても、そんな事を続けて何の意味有るさね?」

 

 

 エリザベートの問いに対して答える優作に更にクーフーリンとエミヤが問い掛けて来るが、その問いに優作が馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに答える。

 

 

「おいちゃんは普通に生きて普通に死ぬつもりさね。周りに迷惑が掛からない範囲で力を使い、余裕があるなら他者を助ける。周りから妬まれない程度に稼いで楽しく生きたい、そんな人生が望み」

「余り目立たない様に生きていくのが望みなのかい?」

「もち! なりきりのぶっ飛びっぷりは理解しているかんね、下手に知られたらおいちゃんVS全人類な展開も起こり得るさかい、目立つ気は更っ々無いべ」

「…優作の力が知られたら確実に聖堂教会が封印指定するわ。それどころか力量差を理解出来ない魔術師も狙うでしょうね」

【そんな事になったら間違いなく滅びますね……聖堂教会や魔術師が】

 

 

 優作の能力が世間に知られた時に起こるだろう未来を軽く想像したオルガマリーとロマニが顔を引き攣らせる。冬木にて優作がレフに対してキレて彼を地獄絵図にしていたが、それが再び起こる様子が簡単に想像出来た。

 

 

「おいちゃんの話は此れ迄にして、最終決戦に向けてのなりきりに依る強化を行いましょ?」

 

 

 一方の優作は新メンバー達になりきりをさせるべく、話を切り上げる。

 

 

「しっかし…揃いも揃ったり美男美女。これは着せ甲斐がありますわぁ…」

 

 

 新たに仲魔となったメンバーを見渡しにがら優作は目を輝かせる。目の前にいるのはギリシャ神話の『アルゴノゥト号伝説』にて登場したアタランテとフランス革命の最中にて王宮のスパイと云う立場で動いていたデオン、そして革命末期にてマリーを処刑したサンソンに『安珍清姫伝説』の清姫。

 吸血鬼伝説へと成り果てたエリザベート・バートリー、ヨーロッパ界隈にてジークフリートと並ぶ竜殺しの逸話を持つゲオルギウス。

 

 

「ではトップバッターは…アタラさん!」

「わ、私か!?」

 

 

 第一号に指名されたアタランテが緊張気味で返事を返す。

 

 

「なりきりチェンジ『狩人の戦士:ナナリー・フレッチ』」

 

 

 取り出した衣装が光の玉と変わり、アタランテへと押し当てる。

 彼女の全身が光に包まれ、輝きが止むと黒のインナースーツの上にプレートメイルを装備した上半身に黒のスパッツとスリットスカート、そしてブーツといった姿となった。

 

 

「ふむ…動き易い衣装だし、悪くない」

「本来なら上はインナースーツ無しなんやけど、それじゃあ防御に心許ないし、恥ずかしいっしょ?」

「そ、そうだったのか? 確かに胸元等が丸見えなのは流石に恥ずかしいから助かる」

 

 

 ナナリーの衣装になったアタランテが身体をくねらせながら動き易さを確認する中、優作がモデルの衣装にインナーを追加した事を説明する。

 

 

「んじゃ次は、デオさんです」

「わ、解った」

 

 

 優作の言葉にデオンが緊張した面持ちで前に出る。

 

 

「なりきりチェンジ『心の怪盗団・ヴァイオレット:芳澤 かすみ』」

 

 

 アタランテに続きなりきりの光を受けたデオンは腰に銀の薔薇を施されたチェーンを付けた黒のレオタードと女性用ロングコートを纏ってロングブーツを履き、顔に黒のドミノマスクを着けた姿へと変わる。

 

 

「こ、これは…少し恥ずかしい、な…」

 

 

 ユニセックス染みた見た目だった騎士衣装から、女性らしいボディラインが強調された衣装へと変わった為かデオンは少々恥ずかしそうだ。

 

 

「あら? とても素敵よデオン。それに心の怪盗団って事は…」

「姫さんと同じ怪盗団メンバーの服さね。デオさんと姫さんとでW美少女怪盗やね」

「まぁ、素敵♪ デオン、2人で頑張るわよ!」

「お、王妃…」

「もう、今の私達は美少女怪盗なんだからコードネームで呼び合わないと! 私の事はノワールと呼んでね、良いヴァイオレット?」

「お……分かりました、ノワール」

 

 

 戸惑うデオンにマリーが呼び方を指摘し、困った表情をしながらも応える。そんな彼女にマリーは笑顔を浮かべながら抱き着いた。

 

 

「次は~、シャルさんですな」

「ボクには何を着せるんだい?」

「シャルさんをモデルにしたネアポリスの法務官さね」

「ボクがモデル…」

「なりきりチェンジ『ボールブレイカー:ジャイロ・ツェペリ』」

 

 

 自身がモデルの人物という言葉に惹かれながら光に包まれたサンソンはゴーグルを着けたテンガロンハットに、鉄球をモチーフにしたアクセサリが施されたカウボーイルックに変わる。彼の肩から下げられているガンホルダーには鉄球が入れられていた。

 

 

「こ…これが、ボクをモデルにした人物の服…?」

「アメリカでの大陸横断レースに参加していた時に着ていた衣装さかい、勘弁な。でも似合ってるで?」

「う、う~ん…?」

 

 

 貴族服だろうと思っていたサンソンは思いもよらない衣装になった事に困惑している。更にアメリカの大陸横断レースに参加していたという情報に自身がモデルとなる情報が浮かばないのでますます困惑の声が出た。

 

 

「武器はこの鉄球……っうわぁ!?」

「脳内イメージでしっかり再現してな? ミスるとちょいとエライ事になるから」

「お、おぉ…中々難しいな…」

 

 

 ガンホルダーから取り出した鉄球を弄くっていたサンソンだったが、突然の高速回転に驚きの声を挙げる。優作の言葉に戸惑いながらもイメージ内の指導を参考にしながら鉄球の回転を上手く使いこなしていく。

 

 

「そんじゃ次はダブルバートリーですが…」

(槍装備でアイドル希望…真っ先に浮かぶのはシンフォギアの奏ちゃんだけど、エミヤん曰く歌声がジャイアンクラスの音響兵器らしいさかい、歌いながら戦ったら味方が真っ先に全滅するだろうしな…槍と他は……吸血鬼ネタで行くか)

「先ずはエリちゃんから~、なりきりチェンジ『永遠に紅い幼き月:レミリア・スカーレット』」

 

 

 所々に赤いリボンをあしらい、フリルが飾られた桃色のドレスにナイトキャップに似た特徴的な帽子を被った姿へと変わる…が、俗に“ZUN帽”と呼ばれるその帽子はエリザベートの片方の角に引っ掛かっていた。

 

 

「…子供っぽくない?」

「まぁ、その服の本人は500歳やけど肉体年齢はローティーン未満さかいな」

「500年生きてて肉体は子供のままなの?」

「吸血鬼の肉体成長なんて作品に依って様々やからね」

 

 

 クルリと回りながら自身が着たレミリアの衣装の感想を言うエリザベート。

 

 

「可愛いし、悪くない衣装だけど…私には合わないかも…他は無いの?」

「なら儚月抄で着ていたドレスは如何かな?」

 

 

 その言葉と共に白のネクタイを結んだ、両袖が短くふっくらと膨らんだ黒のシャツに上部に赤いレースがあしらわれた黒のフリルスカートへと変わる。

 可愛らしい事には変わらないが、大人びた印象を与える衣装であり、アイドル衣装と言っても違和感ないドレスであった。

 

 

「あ、こっちはもっと好み。気に入ったわ♪」

「ほむ、確かに悪くないべな…良く似合っているべ」

「あら、そう? 流石私をプロデュースするプロデューサーなだけあって見る眼があるわね」

 

 

 レミリアの別の衣装を着て改めてその衣装を気に入るエリザベートが満足した表情を浮かべるのを確認する優作。だが、それだけではモデルが満足しないのは理解している彼である。

 他のアイドル系衣装を彼女の周囲へ浮かべ、他にも魅力的な衣装が有る事をアピールする。

 

 

「フランスでの動乱が解決次第、エリちゃんにはアイドル活動を本格的に行って貰うさかい。衣装や歌の準備は完璧さね」

「わぁっ! こんなに衣装があるの!? ならさっさとこの国の異変を解決してアイドルデビューしなくっちゃ!」

 

 

 目を輝かせながらやる気を燃え上がらせる彼女は単純染みてはいながらもその言葉は本心から出ている事が解る。彼女を仲魔にしたのは間違いないことを確信し、優作はもう一人のエリザベート事、カーミラへと視線を向ける。

 

 

「エリさんの方はこっちで『闇の福音:エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル』」

 

 

 ドレス姿だったカーミラは襟無しシャツにタイトスカート、そしてコートを羽織った姿へと変わる。大人の魅力を纏う彼女にとても似合っていた。

 

 

「……普通ね?」

「でもドレスよか動きやすいだろうし、良く似合っているべ?」

「…そう?」

 

 

 コートを外して髪をアップにし、眼鏡でも掛ければキャリアウーマンに見えなくない衣装となったカーミラであるが、彼女が着た衣装は原作の『ネギま!』、『UQHOLDER』世界でも上位ランクに値する実力者である。

 

 

「エリさんの衣装は接近戦も可能やけど、一番は魔法に依る遠距離攻撃さかい。良く考えて利用してくれぃ」

「…幼い時に吸血鬼に変えられた少女なのね…私に対する当て付け?」

「スタイルが合ってると思って着せただけさかい、そのつもりは無いんやけど…不快に感じたなら謝るし、別の衣装に変えるべ?」

「……貴方が私の事を考えて選んだなら別に構わないわ」

「そっかいな? なら取り敢えずは出来る事を確認しくよろ」

 

 

 共にモデルが吸血鬼である。若い方のエリザベートは気にしていないが吸血鬼カーミラと謂う扱いで召喚された方は若干の不満が見えた。

 

 

「次はきよひーやね」

「うふふ、ますたぁのお手製の衣装を戴けるなんて清姫、感謝感激ですぅ…」

 

 

 次の清姫へと向く優作にうっとりした表情でいる彼女。

 

 

「なりきりチェンジ、『難攻不落の“黒”雪姫:天城 雪子』」

 

 

 光と共に着物姿だった清姫は赤のブレザーが特徴的な女学生服へと変わる。

 自身の衣装が変わった事に驚きながらも先ずは変えた本人に変えた意見を聞き出す言葉が出る様な中、衣装が変わった清姫はクルリと回って見せる。

 

 

「如何ですか、優作様?」

「ん…、黒要素は無いが悪くない。綺麗系で良く似合っているべ」

「本当ですか!」

「JKスタイルも悪くないさね、可愛い」

「はにゃ~ん♥」

 

 

 誉めながら頭を撫でる優作に清姫は再び蕩ける様な声を漏らした。

 そんな様子にオルガマリーとマシュが再び顔を顰めだしたので、優作は慌ててゲオルギウスへと顔を向ける。

 

 

「最後はゲオさんですね、此れをどうぞ」

「これは…騎士か貴族が着る普通の衣装に見えますが…」

 

 

 最後となったゲオルギウスへと優作が取り出したのは騎士の衣装。

 

 

「なりきりチェンジ、『アークナイト:ザルバック・ベオルブ』」

 

 

 そのまま騎士衣装となったゲオルギウスだが、元々鎧姿であった為に問題無く着こなしていた。

 

 

「ほむ、イケメンは何を着ても似合うさね~、うらやますぃ…

「特別な衣装には見えませんが…ふむ、『破壊魔剣』ですか…名前こそ禍々しいですが、中々強力ですね」

「使用するには詠唱が必要ですが、範囲攻撃で対象の周囲も巻き込みます。更にサブで様々なアビリティを使えるので、上手く組み合わせて使ってください」

「分かりました」

 

 

 自身に着せられた衣装の力を素早く理解するゲオルギウス。優作からの指示があったのもあるが、早速サブアビリティ等の編制を考え始め、そんな彼に満足しつつあった中、天幕外から声が響いたのだった。

 

 

「城門が開き出したぞぉー!」

「む、遂に敵が動いたか……は?」

 

 

 知らせを聞いて城門が開きながら現れた異形の群れの姿を見た時、優作が大きく目を見開いた。

 

 

「っ!? な、な、なんで………」

「先輩?」

 

 

 口をあんぐりと開く優作。

 城門より来るは牛の様な角を生やした異形の怪物と正に悪魔と呼ぶべき魔物達。何より優作にとっては見覚えがあるその姿に驚きを隠せ無いでいた。

 

 

「あ、アパンダにアルケオデーモン…そしてアルテマデーモンだと……は?」

 

 

 魔物達の軍勢の後ろから新たに現れる5体の異形達。

 各々が異なる姿であるが嫌悪、威圧感を放つ化物達である。

 

 

愚かな人間どもよ、我らルガヴィとその眷属達、そして我らが聖天使にその血肉と魂を寄越すが良いっ!!

 

 

 獅子の姿をした異形の宣言が響き渡る。

 そして目の前の現実に限界に達した優作は悲鳴に似たツッコミを響かせた。

 

 

「アイエエエ!? ルガヴィ!? ルガヴィナンデ!?」

*1
ゲオルギウスは古代ギリシア語での呼び名であり、他にジョージ(英語)、ジョルジョ(イタリア)、ゲオルク(ドイツ)等呼ばれる




元ネタ
>サンダルフォン(出典:女神転生シリーズ他)
アトラス作品に登場する悪魔。
ユダヤ伝承の偉大な天使でメタトロンの双子の兄弟とされる。
彼は天界の書記官であり、人々の祈りを神へと届ける役目を持つ。
ヘブライ語の祈りを神の頭に載せる花飾りにする事も彼の役目とされている。

>ナナリー・フレッチ(出典:テイルズオブデスティニー2)
『テイルズオブデスティニー2』の登場人物でパーティーメンバー。
原作主人公達が暮らす世界の10年後の未来で仲間に加わるキャラクターで狩猟をして生計を立てている女戦士。弓に関しては百発百中の技量を持ち、姉御肌で面倒見が良く、パーティー内ではその腕前から料理を担当する事が多い。
過去に弟を亡くしているが、2人で一生懸命生きたから後悔は無いと明るく振舞っている。しかし、実際は救える命を救えなかった自分を責め続ける後悔の念があり、旅の途中で過去と向き合う事になる。

>芳澤 かすみ(出典:ペルソナ5ロイヤル)
『ペルソナ5ロイヤル』のペルソナ使いで心の怪盗団のコードネームは『ヴァイオレット』。
主人公の転入と同じ春に秀尽学園へ入学した1年生で中学時代から新体操選手として優秀な成績を収めており、その将来性を見越し秀尽学園からも期待されている。
とある重大な秘密を抱えており…
使う武器は近接武器はレイピアで遠隔武器はウィンチェスター銃。

>ジャイロ・ツェペリ(出典:ジョジョの奇妙な冒険 スティールボールラン)
『ジョジョの奇妙な冒険』のpart7、『スティールボールラン』の主人公の一人。
法治国家ネアポリス王国の医師・法務官。伝統ある死刑執行人の家系でもあるツェペリ家の長男(5人兄弟)に生まれる。高い才能を持ち、安定した人格で順風満帆な人生を送っていた。しかし、父グレゴリオの後継ぎとしての最初の任務は、無実だが法で死罪判決が下った『靴磨きの少年マルコ』の処刑であった。その事にどうしても納得がいかず日々不満を募らせていたところ、SBRレースと優勝による“国王の恩赦”を知り、マルコを救うためにレース参加を決意する。
戦闘のスタイルは自衛で正々堂々と打ち倒す。理不尽な暴力と殺人には否定的。優秀で強いが、甘さという欠点がある事は、作中でも指摘されており、極限の状況での黒さや飢えが他の物へと及ばず、ならばどう克服するかを己の課題としている。

>レミリア・スカーレット(出典:東方シリーズ)
ZUN作の弾幕シューティングゲーム『東方Project』の登場人物にして『東方紅魔郷』6面ボスで二つ名は『永遠に紅い幼き月』。
『東方紅魔郷』の舞台である紅魔館の主で、約500年以上の歳月を生きてきた吸血鬼の少女。
吸血鬼としては少食で人間から多量の血が吸えず、吸い切れない血液をこぼして服を真っ赤に染めるため『スカーレットデビル(紅い悪魔)』と呼ばれている。
初登場時こそその赤い月をバックにしたステージ演出と魅力的な台詞回しで高い人気を獲得したのだが、それ以降は再登場する度に幼い性格を露見してしまうことがあり、そのカリスマ性の急暴落ぶりは俗に“カリスマブレイク”とている。
彼女の本質は尊大且つ我儘で、非常に飽きっぽいという見た目通り少し幼い思考。
常日頃から退屈しており、気紛れで突拍子も無い事を思いついては周りを振り回している。
吸血鬼である為に幼い容姿に反してかなり強く、眼にも止まらぬスピード、岩をも砕くパワー、思い通り悪魔を操る魔法力と言った反則的な身体能力を持ち、小手先のテクニックを無視する。しかし、パワーファイターという訳では無く、武器としては矢と蝙蝠を扱い、蝙蝠は無尽蔵に湧く。

>エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル(出典:ネギま!、UQ HOLDER!)
赤松健作の漫画『魔法先生ネギま!』及び続編『UQ HOLDER!』の登場人物。
原作の主な舞台である、『麻帆良学園本校女子中等学校』の2年A組生徒であるが、その正体は中世生まれの吸血鬼の真祖であり二つ名は『闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)』。
闇・氷系の魔法を使い熟し、魔法を使った固有技能として多くの人形を魔法ワイヤーで操作する『人形遣い(ドール・マスター)』を持つ。また、来日した際に攻撃を受け流し、倒すという“後の先”に感銘を受け、合気柔術、合気鉄扇術を修得している。
『悪い魔法使い』を自称する最強クラスの化け物であったが、原作主人公の父によって『登校地獄の呪い』を掛けられた上に魔力を極限まで封じられ、生徒兼警備員として麻帆良学園に留められている。
日本文化や日本の景色を愛好しているらしく、囲碁部と茶道部に所属し、自宅には茶室を構えていたりする。

>天城 雪子(出典:ペルソナ4)
『ペルソナ4』のペルソナ使い兼主人公の彼女候補。
原作主人公のクラスメートで千枝の親友。全国的に有名な老舗高級旅館『天城屋旅館』の一人娘であり、次期女将である。
千枝から“似合う”と言われた赤色の衣装を好み、作中ではカチューシャやカーディガンなどを愛用している。
旅館の跡取りという縛られた人生に息苦しさを感じており、周囲の期待を振り切る勇気が無い自分に代わって誰かに連れ出して欲しいという他力本願な願望に陥っていた。
学内外を問わず男性から高い支持を得る程の美貌を持ち、はっきりものを言うタイプだが実際はかなりのマイペース且つ天然ボケである。後メシマズ。
使用する武器は扇。

>ザルバック・ベオルブ(出典:FFT)
『FFT』の登場人物。
ベオルブ家次男で『聖騎士』の称号を持つ北天騎士団の現団長である。
ベオルブの名に誇りを持っており、正義感が強い。厳格な性格で、良くも悪くも命令に忠実に行動するが、原作主人公であるラムザや妹のアルマには家族思いの良き兄の一面も見せる。
ラムザが家を出奔した際でも信頼していた人物であるが、あくまで違いの分かる特権階級出身故の高慢さと崇高さを持つ人物としても描写されていた。


Q、おめー、大分遅かったじゃねえか?
A、仕事が辛くて書く意欲が湧きませんでした…

Q、清姫を扱い熟しているだと…?
A、伝達力『言霊使い』+トークスキル『洗脳スピーチ』の賜物


次回は不明

感想コメント、意見・質問お待ちしております。


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ルガヴィ

漸く投稿出来ました……(精神ボロ雑巾)
お仕事を覚える事に余裕が出来たと思ったら人間関係で面倒な事に……

あ、後別に一つ

利用規約違反していないのに感想投稿者諸兄達のコメントを通報しやがった奴とそれを消したUNEI絶対許さないからなぁ?


「ウ~ン…」

「先輩っ!?」

 

 

 目の前に広がる信じたく無い光景に絶叫を上げた優作は脳内での処理が間に合わなくなり、瞬間意識を飛ばしてしまって後ろに倒れようとしたが…

 

 

「ふんぬぅ!」

「お、戻った」

キュウキュ(復帰早いっすね)…」

 

 

 マシュの悲鳴と共にすぐさま覚醒、倒れかけた体を真っ直ぐと立ってみせた。

 

 

「いやぁ、メンゴ。予想の斜め上処か思いもよらぬ状況に気絶しそうになったべ」

「原因は…アレよね?」

「まぁ、遠くから見るだけで悍ましい存在であるのは解かるが…」

「そうさね、先ずは奴らについて説明しますか」

 

 

 マルタとエミヤの問いに優作が監獄城周辺に展開した悪魔達について説明をする。

 

 

ルガヴィ

『FFT』の舞台であるイヴァリースに古くから伝わる伝説『ゾディアックブレイブストーリー』に登場する不死身の魔物であり、黄道十三宮の星座を司る計13体のルカヴィが存在している。

 異界から召喚されるが、聖石を媒体にして魂と肉体の波長が合う人物へとその魂を宿す事でも君臨出来る。

 原作に於いては主人公が聖石を先に回収していたり、魂が宿るのに相応しくない人物が聖石を所持していた等の理由で隠しボス含む7体のルガヴィしか登場していない。

 ルガヴィ本人達が凶悪な状態異常範囲攻撃や強力な魔法を使う他、眷属のデーモンやアパンダを呼び出す為、対策を取らずに真正面から挑むと地獄絵図を生み出す事となる。

 

 

「えぇと…取り敢えず英雄譚に出てくる悪魔達なのね?」

「どれ位の強さなのかな?」

「先ず、イヴァリースの民は鍛えれば英霊と同等以上の戦力を持つ事が出来るさね」

「神話時代の人間と同じって事で良いのか?」

「そう考えて良いべ。そんな世界で城に勤めていた騎士達をルガヴィはたった一体で虐殺してみせたんよ」

「ちょっと!? 英霊クラスの力を持っている騎士達を僅か一体で皆殺しに出来る力を持つのか!?」

「そう云う事。だから、この時代の兵士さん達は眷属相手でも鎧袖一触になりかねんし、ルガヴィ相手では短期間ながらもカルデアで鍛えたクー兄達なら兎も角、現地入りしたジャンヌちゃん達では正直不安しか無くてねぇ…」

 

 

 現状で取るべき戦術を優作は考える。

 ワイバーンやリヨンで攻めて来たモンスターの群れだったならフランス軍と仲魔達で十分対処できた。だが、相手がルガヴィとその眷属達となると話は別だ。

 FFTのボス且つその取り巻きである奴らは力だけでなく多彩な魔法と状態異常攻撃を持ち、行動選択を間違えれば戦線が即座に崩壊する危険性がある。

 優作自身、原作を初見プレイ中にメンバーを十分に育てていない状態で挑んだルガヴィ戦で何度も全滅しゲームオーバーとなった経験を持っている。

 

 

「ロマン、城四方に展開したルガヴィの映像を送ってちょ」

【了解……あの不気味な見た目は正に悪魔だね】

 

 

 ロマニの感想を聞きながらホログラムに映し出される映像から展開しているルガヴィを確認する。城四方に展開する過去のトラウマ達。更に正面城門の上に1体、そして魔力の反応から城内にも潜んでいる。

 彼の言葉通り悍ましい姿である5体のルガヴィにオルガマリー達もその醜悪さに顔を顰める者、息を呑む者が出ている。

 優作は脳をフル回転させて監獄城攻略の戦略を立てていく。正直カルデアに待機しているメディアとメデューサも呼び出してフルメンバーで臨みたいが、今回のイレギュラーがカルデアにも影響する場合を考えると決戦メンバーに加える事を躊躇わせていた。

 現メンバーは現地にて仲魔になった者が大半だ。契約後、ハーブジュースによるステ強化こそしているが、僅か2,3日程度で圧倒的な成長を遂げれる訳では無いのだ。

 

 

(あぁ~、いやだいやだ。これ編制を間違えたら確実に誰か死ぬわ)

 

 

 選択ミスしたらやり直し不可能の即アウトと云うストレスマッハな現状に辟易しながらも優作は監獄城突入及び四方に展開されたルガヴィの相手をするメンバーの組み合わせを考える。

 リアルになったファンタジー、何が起こるか予想もつかない。それでも優作はベターで無く、限りなくベストに近いハッピーエンドを掴みたい。

 

 

「…今から編制を言うべ」

 

 

 ルガヴィの厄介さと現メンバーの能力を照らし合わせながらそれぞれの対応するメンバーを選抜する。

 

 

「城内突入班と城四方のルガヴィとその眷属達を相手して貰う班に分けます」

「正面はルガヴィが2体いるが、どうするんだ?」

「突入班は門前のルガヴィはすり抜ける…つぅか、ゲートウェイで城壁の上にいるヤツを抹殺がてら突入すんべ」

「厄介と言った悪魔の1体を突入ついでで殺るのか…(困惑)」

 

 

 クーフーリンの問いに答える優作のルガヴィの扱いに、ヴラド3世が困惑した声を漏らした。

 

 

「正面門から城内突入するんはおいちゃんとマシュ、マリーにフォウ君、そしてジャンヌちゃんときよひーの5名+αで一気に突入します」

 

 

 場外と城壁のメンツを見る限り城内にラスボスと隠しボスが待っている事になる。ならば、上位ボス相手でもメタが張れる優作自身とジャンヌオルタを救う為に参戦したジャンヌ本人が出撃するのは確定として、防御技能が高いマシュと仲魔を召喚する事でオールラウンダーに戦う事が出来るオルガマリー、更に保険でオルガマリーと同じくオールラウンダースタイルになり得る清姫をメンバーにした。

 

 

「正面南側は小次郎さんとマル姐にエリちゃん、そしてアタラさん」

 

「西側は姫さんとアマさんにデオさんとシャルさん」

 

「北側はクー兄とブラドさんにエリさん」

 

「東側はエミヤん、ジークさんとゲオさんでお願いします」

 

 

 監獄城四方に布陣したルガヴィとその眷属の軍勢。それぞれの特性を踏まえて対応出来るだろうサーヴァント達を編成した。

 了解を得て各々が指定された場所へ移動するのを見送る中、優作は悪魔の軍勢の出現に動揺しているフランス軍の中枢へ赴いた。

 

 

「ジルさん」

「おぉ、優作殿か。あの悪魔の軍勢は一体…?」

 

 

 陣幕内では突然の事態に若干の混乱が有った様だった。

 落ち着かせるように指示を出していたジルの元に優作が訪れた際、彼は安堵の表情が見て取れた。

 

 

「世界を滅ぼせる大悪魔達を隠し玉にしていたようです。連中が率いている眷属の軍勢はワイバーンを歯牙にもかけません」

「なんと…それ程の化物が軍勢規模でいるのか…」

「大変心苦しいとは思うのですが、可能な限り大砲や弓に依る遠距離攻撃を主体にして下さい。連中の拳の前では鎧は紙切れも同然です」

「……我々では足手纏いか?」

 

 

 優作の言葉に血を吐く様に問い掛けるジル。

 目の前に展開している悪魔の軍勢の威圧がチリチリと届いていた。現に騎士達にも恐慌状態迄いかないまでも浮足立ちそうになっている者がいた。

 

 

「4方に展開している軍勢に其々指揮官役の悪魔がいます、それを倒せば大勢は崩れる筈です。我々が討ち取りますのでそれまで突撃するのはどうか…」

「…分かった。それ迄は矢と火砲で攻撃する様、指示しよう」

「済みません…」

「気にするな。君が我々の意を解かりながらも犠牲を増やしたくない事は解っている」

 

 

 申し訳無く謝罪する優作にジルはその意を酌み、幕僚達に指示を下していく。

 フランス軍の陣幕を出た優作は念話で仲魔達が各々の位置に着いた事を確認する。

 

 

「オルレアンの最終決戦、派手にいくぞぉっ!!」

 

 

 優作が自身の周囲に複数の魔導書を展開し、使い魔達を次々と召喚していく。

 

 森での警備やリヨン防衛戦でも活躍したエンジェル

 

 漆黒の羽で飛びながら魔力を奪う矢を放つレイヴン

 

 天使達を指揮するカマエル

 

 土塊から岩石、溶岩に氷塊、果ては黄金でその身体が構成されている巨大なゴーレム達

 

 様々な色の尖がり帽子を被り、杖を持つ小人達とドワーフ

 

 1000は優に超える使い魔の大軍勢がルガヴィとその眷属達を包囲する形で展開された。

 

 

「更には追加の強化バフ!!」

 

 

 魔導書から複数のサーバントベルへと切り替え、清らかな音色を鳴らしていく。

 使い魔達をレベルアップさせその能力を上昇させるベルの音が監獄城周辺へと響き渡り召された使い魔達が強化されていく。

 それに続き、小人達が杖を掲げて他の使い魔達へとバフ魔法を掛けていく。

 

 水色帽子の『コロボックル』が攻撃力を上げる『ブースト』を

 

 緑の帽子の『レプラコーン』が移動速度を上げる『ヘイスト』を

 

 黄色帽子の『ノーム』が受けたダメージを反射させる結界を覆わせる『リフレクト』を

 

 止めとばかりにマリアを召喚してからの強化コンボに依って優作達にはこれでもかと強化バフが掛けられた。

 

 

「敵を本陣に近づけさせるな! 掛かれぇーっ!!」

「砲撃始めぇ!!」

 

 

 そして優作の号令が響き渡ると共に使い魔と仲魔達が敵軍勢へと突撃していき、それと同時にジルも砲兵達に砲撃の指示を下す。当然、ルガヴィの軍勢達も向かって来る敵を返り討ちにすべく進撃してきた。

 

 

 飛び交う矢や砲弾、そして岩石と氷塊。

 

 更には衝撃波で土埃が舞い、火炎の津波が突き進む。

 

 様々な術が飛び交い、敵味方が吹き飛んでいく。

 

 矢の雨を喰らい全身をハリネズミの様な姿になって事切れるデーモン。

 

 毒魔法バイオに因って毒に苦しみながら墜落していくエンジェル達。

 

 ゴールデンゴーレムが放った衝撃波で宙を舞うと同時に飛来してきた砲弾に頭を吹き飛ばされるアパンダ。

 

 複数で掛かられ四肢を砕かれて粉々にされるゴーレム。

 

 油断していたアルケオデーモンの脳天に斧を叩き込むドワーフ。

 

 アルテマデーモンが操る闇魔術のナノフレアに因って塵一つ残らず消し飛ぶ使い魔達。

 

 

 激突した両軍は入り乱れながら激しい戦いを繰り広げていた。

 使い魔と仲魔達がバフを掛ける中、優作とオルガマリーが右手を掲げて大声で更なる言葉を告げる。

 

 

「令呪を以って我が仲魔達に告げる、全力を以って勝利へ繋げっ!!」

「オルガマリー・アムニスフィアが我がサーヴァント達へ告げます。同じく此度の戦いに勝利出来る様、全力を尽くしなさいっ!!」

 

 

 カルデアに於ける令呪のシステムは本来の聖杯戦争とは些か特殊であり、マスターが得る令呪は3画ではあるのは同じなのだが、一日過ぎると令呪が補填されるのだ。

 優作はそのシステムに改良を加え、余った令呪を自身に繰り越し補填する設定を施した。

 特異点Fにて初めてマスターになった際に使用した令呪は1画。以降一週間の新たな特異点の探索中は使用せず、オルレアン発見以降も使っていないでいた。

 結果、優作は令呪を29画もの令呪を保持していた。(尚、オルガマリーは人体錬成された後に令呪を得た為、優作より少し少ない27画を保持している)

 令呪ブーストすら受けたサーヴァント達は本来の倍以上の実力を発揮できる様になった。これにて準備は完了した。後は聳える敵を叩き潰すのみ。

 

 

「用意は完了した、行くぞ皆! ルガヴィを打倒し、聖杯を確保するっ!!」

《応っ!!》

 

 

 優作の言葉に仲間達各々が応え、敵軍勢へと掛けて行く。それと同時に各々の場所から上級魔法や晶術、スキルに因る爆発音が響き渡り敵軍勢を吹き飛ばしていく。

 

 

「主殿、武運をっ!」

「私の分も打ん殴ってやりなさい!!」

「アイドルデビューの約束守りなさいよ、プロデューサー!」

「宜しく頼む、マスター!」

 

 

 小次郎達が正面に広がる敵軍勢を自身に釘付けにする為に攻撃を開始する。

 小次郎のコメテオ、マルタのフリーズランサー、エリザベートの魔力弾幕、アタランテの放つ矢が城門前に広がる敵軍勢を削り取っていく。

 消し飛びながらも監獄城の城門迄の道中には未だ悪魔達の軍勢は犇めいている状況であるが、監獄城正門に陣する敵軍勢は小次郎達を補足して意識が集中しており、この隙に優作が両腕を回すように動かすと監獄城の城門上に陣取るルガヴィの元へと繋がるゲートウェイが開いた。

 優作達突撃班はゲートウェイが開くとそのままゲートへと飛び込んでいき、敵軍勢へと攻撃すべく次元魔法を詠唱していた獅子姿のルガヴィ、“統制者”ハシュマリムへと殺到する。

 

 

なぁ!?

な、何ぃっ!? そ、そんな馬鹿なぁっ!?

 

 

 城門前に立つ羊の様な姿をした魔人、べリアスが拳を構えて待ち構えたいたのだが、まさか自身処か既に突撃していた眷属達の妨害も無視してハシュマリムの元へと辿り着くなど思いもしていなかった。

 

 

「こんにちわ、そして死ね」

 

 

 ゲートウェイを抜けた優作達はそのまま詠唱準備していたハシュマリムの正面へと武器を構えながら殺到し、優作が詠唱中のハシュマリムの喉元へ剣を突き刺した。

 

 

な…うぐぅっ!?

 

 

 喉を貫かれた事に因り、ハシュマリムは詠唱を中断せざるを得ず、そのまま喉を抑え大きな隙を作る。

 

 

「次元魔法なんぞ使わせんよ」

ごふ…はぁ…

 

 

 喉を潰されて詠唱出来なくなったハシュマリムへ優作の後を続く突入班メンバーが各々の技を叩き込んでいく。

 

 

聖なる槍よ、敵を貫け ホーリーランス!!

「決めさせてもらうわよ? 磁霊龍牙突っ!!」

「続いて行きます! 回避不可能の奥義、無拍子!!」

「いきなさい、コノハナサクヤ!」

キャーウ、フォウフォーウ(ヒャッハー、悪い悪魔はハチの巣だぜぇ)!!」

大気満たす力震え、我が腕をして閃光とならん! 無双稲妻突きぃ!!

グギャアアアアアァァッ!?

 

 

 マシュ達の容赦無い袋叩きを喰らうと同時に優作が剣を振り下ろすと遥か下にある閉じられていた城門すら巻き込んで木っ端微塵に粉砕しながら紫に輝く雷撃の剣が天へと昇っていく。袋叩きに依って虫の息状態のハシュマリムは突き昇る稲妻に呑み込まれ、悲鳴と共に消し炭となりながら消滅した。

 原作に於いても連戦の1戦目で御供無しに主人公陣営へ挑んで来る為に術技を発動する暇無く、リンチを喰らって死亡するという“統制者”の二つ名が泣く様な扱いなのだが、まさに原作再現というべく即オチ2コマなやられ方をしてしまった彼は泣いて良い。

 だが相手は敵であるので容赦する必要が無いし、優作はその気がミクロン程も湧いていないのでモーマンタイであった。

 

 

「ハイ終了~、このまま城内突入すんべ」

「あの…優作さん曰く、サーヴァント複数人を皆殺しに出来る化物なんですよね?」

「術技使われる前に速攻でフクロにすればこんなもんよ? 後、城門跡の防衛宜しこ!」

 

 

 ハシュマリムが消滅し、剣を収めて城内へ進む優作にジャンヌが若干顔を引き攣らせながら問い掛けたが、彼は涼しい顔で答える。

 優作に因って城門が崩れて瓦礫の山になったので城門前に配置されいたデーモン達が異変に気付いて監獄城に戻ろうとしたが、優作が城門跡に使い魔を召喚。召喚されたダークナイト達がスピニングチャージを容赦無く叩き込んでいくのでデーモンのミンチが量産する状況で碌に妨害できない中、優作達は城内へあっさりと侵入を成功したのだった。

 

 

「これで背後からの襲撃は心配無し、さっさと親玉を仕留めてこの異変を解決するど!」

《はいっ!》

 

 

 優作が妨害用として新たに召喚したサーペント達の集団が放つブレスの雨で向かって来るデーモン達が消し炭となっていく為に妨害が入る事無く城内侵入を成功した優作達は背後からの襲撃を心配する事無く監獄城内部へと脚を進める。

 

 

「さっさと聖杯を奪取してフランスの特異点を解決すんべ?」

「はい、一気に解決しましょう!」

「敵の本拠地…流石に緊張を隠せ無いわね…」

「ジルを止めて、もう一人の私を助けますっ!」

「この清姫にお任せください~」

 

 

 城内にもデーモン達が待ち構えていたが、剣を抜いた優作が先陣を切って敵を蹴散らしながら進んでいく。現れた矢先に無双稲妻突きで周囲の者共纏めて消し飛ばされる様は正に鎧袖一触であった。

 城門の広間を越えて、幾つかの廊下を進み続けていく内に新たな広間へと辿り着く。

 

 

「ここまでよくぞ辿り着きました、聖処女とその仲間達よ」

「ジル…」

 

 

 広間に入った優作達を待ち受けていたのはジル・ド・レェであった。彼の後ろには祭壇の様なモノの上に寝ているジャンヌオルタの姿があった。

 

 

「我らが城へと攻めて来るだろうと思っておりましたが、まさかこんなに早く辿り着くとは思いもしませんでした。…そこの異邦人は常に予想の斜め上を突き抜けてくるようですな」

「ジル! 此度の争乱は無駄です。私は祖国を恨んでいません、悪魔達を消して聖杯を渡してください」

「いいえ…それは出来ぬ相談です、我がラ・ピュセルよ」

 

 

 ジャンヌが前に出てジル・ド・レェへ説得を試みるも彼は拒否の意を示すべく、首を横に振った。

 

 

「確かに貴女は恨んでいないのでしょう。神の啓示に従い、己の人生として生き抜いた…生き抜いたと思っているからこそ、裏切った王族と司教達…そして罵倒する者共にすら慈悲の顔を向けれる…その想いにケチをつけるつもりは在りませぬ…ですが」

 

 

 顔を俯かせるジル・ド・レェだったが、

 

 

「幾等貴女が満足しようとも、残された者達も納得する訳では無いっ!!」

「っ!!?」

「貴女は啓示に従えれたのなら満足だったのでしょう! 確かにフランスは長き戦乱の炎から逃れる事は出来た! 数多くの民や仲間達と貴女の犠牲に因って!! 貴女はそれで満足なのでしょう、でも私は、残された者達は違うっ!!」

 

 

 慟哭に近い、訴える様な叫びを受けてジャンヌはその身を押される感覚を受けた。実際、ジル・ド・レェはその眼から血の涙を溢れさせながら叫んでいた。

 

 

「残された者達の事を考えていないっ! 貴女が殺された悲しみを、穢された怒りを、侮辱を正せない悔しさを!!」

 

 

 ジル・ド・レェ、の顔から零れていく血涙が彼の足元に池を作っていく。

 困惑、怒り、悲観、後悔…あらゆる想いが詰め込まれた怨嗟の言葉が彼の口から吐き出されていく。

 

 

「貴女が死んだ後に伸う伸うと生きている王族共に、救われたのに誰かもが考えずに罵詈雑言をまき散らす愚民共にどれだけ憤りを抱いたかを!!」

 

 

 ジャンヌ本人が取った行動は歴史的には良かったのかもしれない、だがそれは残された者達にとっては地獄以上に残酷な結果となっていた。

 

 

「私は許せない。貴女を駒としてしか扱わなかった者共を、戯言を疑う事無く信じて唾を吐いた愚者達を! そして何よりも貴女を盤上の駒の如く使い捨てた神を!!」

 

 

 そして、その結果に納得出来る筈が無いのだ。況してや、ジャンヌ本人と行動を共にし、彼女の行動全てを知っていた者達にとって、歴史に定められた結果は到底許せることで無かった。

 

 

「…だとしても……だからと言って…関係無い民を、他国の人々をも巻き込むのはおかしいでしょう!?」

「えぇ、そうでしょう。貴女の云う通り関係無い民はいますでしょう! …ですが、もう止められない。もう賽は投げられました、私の怒りは…あの時納得できなかった者達から受け取った怒りは止められないっ!!」

 

 

 ジル・ド・レェが懐から聖石を掲げると翠色の輝きが広間を包み込む。光が止むと目の前にはデーモン達が広間へと集合して優作達へ立ち塞がり、彼自身の姿もその顔に眼帯を覆い、その身体に大蛇をまとわりつかせ、細身だった上半身が筋骨隆々となった肉体を曝しだした姿へと変わる。

 

 

「ジル…その姿は…?」

「フフフ、我が声に応えてくれた力ですよ、聖処女よ。この力はジルとの具合が実に良い…それに彼方もお目覚めの様です」

 

 

 ルガヴィ化したジル・ド・レェの背後で倒れていたジャンヌオルタが紫色の眩い光に包まれる。

 

 

「こ、これはっ!?」

「えぇい…このタイミングで目覚めたか」

【膨大な魔力反応がっ!?】

 

 

 輝きが止むと、ジャンヌオルタがいた場所には天使が浮かんでいた。

 顔や体型こそジャンヌオルタと変わりなかったが、髪は腰まで伸び、その身を赤色のハイレグボディスーツと横に剣を添えたニーソックスで包み、背と頭部に白い翼を生やしていた。

 

 

(え、えぇ…)

(こ、これは無いわ…)

(あ、アウトです。あんなはしたない衣装、センパイが許す筈が有りませんっ…)

(なんて破廉恥な衣装なのでしょう…旦那様が見惚れる前に排除しなくては…!)

キュ~ウ、キュウ(なんだこれは、たまげたなぁ)…)

 

 

 ルガヴィ化したジャンヌオルタの姿に優作の後ろで女性陣が声を出さずとも各々の意見を脳裏に浮かべる。

 当の優作はというと…

 

 

(あぁ、やっぱりケツ出しハイレグか…)

 

 

 予想可能回避不可能な展開だった為に諦めが混ざった真顔になっていた。

 

 

「…さーぺんたりうすカ」

「おぉ、聖天使よ。目覚められましたか、御気分は如何でょう?」

「フム…悪ク無イ」

 

 

 片手を握ったり開いたりしながら己の体調を確認する聖天使アルテマ。

 

 

「コノ器ハ我ニ実ニ馴染ム」

「ふふ、そうでしょう。貴女様の器となった肉体は聖処女なのですから」

「成程ナ。シテ…ソコニイルノハ何ダ?」

 

 

 聖天使アルテマとなったジャンヌ・オルタが優作達へと視線を向ける。その刺す様な視線に身構えるオルガマリー達だったが、ジル・ド・レェは片腕で制しながら答える。

 

 

「お気になされず、不埒な侵入者共ですが私が片付けます故に」

「ソウカ、ナラバ任セタゾ」

 

 

 ジル・ド・レェの言葉に頷きながらアルテマは転移してその場から消える。

 

 

「……マリー、ジャンヌちゃん他を連れて先へ行ってくれぃ」

「「「先輩((優作さん・様))?」」」

「良いの?」

「ダーク♀ジャンヌはラスボス、コイツは裏ボスの力を得てる。強さ的にはこっちが厄介だけんど向こうもデーモンを呼べる以上は数が大事、そもそもジャンヌちゃんが救いたいのはこの先の娘でしょ?」

「優作さん…」

「此処はおいちゃんに任せんさい…」

 

 

 優作は不敵な笑みを浮かべながら剣を構えて促す。

 

 

「さっさと片付けて合流するっさ? 気にせず進んでくれぃ…行け!」

 

 

 優作の言葉に納得出来ない思いがありながらも理由を言われた上で彼からの強い言葉にオルガマリー達は先の扉へと駆けて行く。

 当然、先へ向かおうとする者達をジル・ド・レェが許す筈も無く。

 

 

「聖天使の元へは行かせませんぞっ!!」

「ところがぎっちょん」

 

 

 ジル・ド・レェがデーモンは海魔達を召喚するが、即座に優作が聖剣技を振って消し飛ばす。

 新たに召喚しようとするジル・ド・レェに優作が斬り掛かる事で増援で壁を増やす時間を作らせない。その間にオルガマリー達は奥へ続く扉へと駆け込んでいった。

 

 

「異邦人…最後まで邪魔立てするか…」

「はっ、復讐でそっくりさんなだけの偽物を暴れさせてこれ以上ジャンヌちゃんを困らせたくないかんな!」

「……知っていたのか…いや、聖処女と行動を共にしていれば気付くか」

 

 

 優作の斬撃を躱して距離を取ったジル・ド・レェと優作は睨み合う。

 

 

「ジャンヌちゃんの想いを汚し続けて良いのかよ?」

「言った筈だ。賽は投げられた、と」

「で、何も無い焼け野原に残るは乗っ取られて化物になったそっくりさんと悪魔だけで満足か?」

「………」

「アンタのやってる事、ジャンヌちゃんを売った王族やら教会連中を大差無いべ?」

「………だとしても、だとしてもだっ!!」

 

 

 言葉の応酬の中、ジル・ド・レェが新たにデーモン達の群れを召喚していく。

 

 

「私は許さないっ!! 裏切った王族、教会共を! 真実を知ろうともしないフランスの愚民共を! 見捨てた神を、世界全てをっ!!」

「坊主憎けりゃ袈裟まで憎いってか……ま、だろうさ」

 

 

 迫りくるデーモンの大群を捌きながら聞いたジル・ド・レェの慟哭に優作は苦笑いを浮かべる。その表情には自嘲が濃く浮かんでいた。

 

 

「ならばお互いの想いを、決意を押し通し合うだけのぶつかり合いをするだけさね」

「来るがいい、異邦人」

 

 

 ジル・ド・レェが減ったデーモン達を新たに召喚して優作を取り囲む様に陣形を整える中、優作は改めて剣を構える。

 

 

「来いよ、青髭。それがお前さんの正義だというならば()を倒してみろやっ!!」




元ネタ
>ルガヴィ(出典:FFシリーズ)
『FFT』を初出とする用語。
シリーズ内で統合性は異なるが12星座と蛇使い座を加えた13星座に由来(したりしなかったり)する悪魔達であるのだが、どの作品においても没設定集以外で総登場した事が無い悲しい存在だったりする。

>レイヴン(出典:イニシエダンジョン)
『イニシエダンジョン』に登場するモンスター。
登場回層で多くのプレイヤーを屠ってきた要注意モンスターの一体。
クリティカルヒット10%・防御無視20%・HP/MP吸収という単発でも痛い攻撃を単体で一度に4発連続で放ってくる危険モンスター。
集団で現れる事も多々ある為に高いHPを持つタンク役すらも耐性を怠れば一瞬で蒸発する。

>カマエル(出典:イニシエダンジョン)
『イニシエダンジョン』に登場するレアモンスターの一体。
多数のエンジェルを引き連れており、性能はエンジェルの上位互換に加えてMP吸収付きの『エルブンボウ』を使った『サテライト』も使用する。

>ゴーレム(出典:イニシエダンジョン)
『イニシエダンジョン』に登場するぶっしつ種族のモンスターで、上位種に『ストーンゴーレム』、『マグマゴーレム』、『アイスゴーレム』、『ゴールデンゴーレム』、『ブラッドゴーレム』が存在する。
基本POP地点周囲を徘徊しているが、攻撃対象を発見すると衝撃波や岩、や氷塊といった各々の特技を放って攻撃する。

>コロボックル(出典:イニシエダンジョン)
『イニシエダンジョン』に登場するにんげん種族のモンスターで、上位種に『レプラコーン』、『ノーム』、『ドワーフ』が存在する。
ドワーフ以外は本編に書いてある通りのバフ魔法を自身と周囲のモンスターに掛けるバッファーで、ドワーフは地形無視+貫通効果の衝撃波を放つ『アースインパクト』放ってくる。
単体では何れも特に問題無いのだが、複数存在且つ他モンスターが多数存在すると脅威が増すので注意。

>サーバントベル(出典:イニシエダンジョン)
『イニシエダンジョン』に登場するサモナー用の装備。
使える技は召喚しているしもべのレベルを上げる事が出来る『ライジングサウンド』。
尚、しもべの上がるレベルは使用者のレベルと攻撃力で変化する。
付いているプレミアに依ってサモナーの能力値を上げる事が出来る数少ない装備品の一つ。

>バイオ(出典:FFシリーズ)
『FFシリーズ』に登場する攻撃魔法で上位互換にバイオラ、バイオガが存在する。
対象に毒属性のダメージと毒の追加効果を与えるのだがFFTでは同名でも複数有り、様々な状態異常を付与する効果がある。

>アパンダ(出典:FFシリーズ)
『FFシリーズ』に登場するモンスター。
大型の魔獣タイプのモンスターで作品によってはベヒーモスと同種だったりする。
FFTではルガヴィの眷属として登場し、モンスターでありながら密漁や勧誘が出来ない。
アクションアビリティとして『バイオ』を持ち、バイオ系の魔法に依って様々な状態異常を引き起こす。

>アルケオデーモン(出典:FFシリーズ)
『FFシリーズ』に登場するモンスターで、名前の“アルケオ”は“古代の”と云う意味である。つまりは“古代の悪魔”
FFTではルガヴィの眷属として登場して『暗魔術』を扱う。ノンチャージで発動する『ギガフレア』が驚異。
アパンダと同じく勧誘出来ないが、とあるデータディスクを使うと仲間に出来る…が、ノンチャージのギガフレアも実際はヘイト差で当たらなかったりするのでそこまで使えないユニットだったりする(哀れ)

>アルテマデーモン(出典:FFT)
『FFシリーズ』に登場するモンスター。
ルガヴィの眷属として現れ、強力な『闇魔術』を使って来るが、アルケオデーモンよりもHPが低かったりする。
尚、『アルテマ』を使用してくる数少ない敵である為にラーニングする為にプレイヤーによっては生かされる場合がある。

>ナノフレア(出典:FFT)
『FFT』に登場するフレア系の攻撃魔法。
フレアより威力は低いが範囲攻撃となっている上、を無効する為に注意が必要。

>コメテオ(出典:FFシリーズ)
『FFシリーズに』登場する無属性の攻撃魔法。
初出は『FF7』であり、6つ小さい隕石を落として何故か4回分のダメージを与える。
他シリーズでは範囲攻撃だったり単発ダメージだったりする。

>ホーリーランス(出典:テイルズシリーズ)
『テイルズシリーズ』に登場する聖属性の上級魔術で海外だと“ロンギヌスの槍”の異称である。
複数の光の槍を飛ばして攻撃するのだが、作品に依って単発ダメージであったり一定ヒットしないと止めを刺せなかったりとダメージ効果は様々。
本作でマシュが使用したヴェスペリアverだと取得レベルに対して威力範囲とも小さく、スキル変化術用でしか用途が無い(哀れ)。

>磁霊竜牙突(出典:葛葉ライドウ対アバドン王)
『葛葉ライドウ対アバドン王』に登場するライドウの使用技。
槍属性の刀を装備時に使用出来、マグネタイトを消費する事で発動する。
多段ヒットし、刀に属性を付与する特技と併用すると効果的。

>無拍子(出典:サガフロンティア2)
『サガフロンティア2』に登場する剣技
『構える』+『構える』+『構える』+『斬る』の組み合わせで発動し、対象に回避不能のダメージを与える。

>無双稲妻突き(出典:FFT他)
『FFT』及び以降に登場する技。
『聖剣技』分類される技で、対象とその周囲にダメージと共に沈黙の追加効果を与える。
聖剣技の中でも威力が高め且つ、他聖剣技よりも高低差を無視して多数の敵を巻き込めるのでダメージ源として非常に優秀。

>ハシュマリム(出典:FFT他)
『FFT』及び以降作品に登場する人物兼モンスター。
『統制者』を二つ名に持つ筋骨隆々の獅子の姿をした獣人であり、暗黒司祭の役割を持つ。
ラストバトル3連戦の初戦にて対峙し、範囲・威力共に強力な『次元魔法』と対象をストップorスロウ状態にする『恐怖』を使用してくるのだが、高い物理攻撃力や作中トップレベルの行動速度を無駄にする長詠唱時間の魔法攻撃を優先する思考持ちな上に御供無しで挑んで来る為にプレイヤーに袋叩きにされてあっさりと倒される場合が多い不遇枠。

>サーペント(出典:イニシエダンジョン)
『イニシエダンジョン』に登場するドラゴン属のモンスターで上位種に『シードラゴン』、『エビルウィード』、『ドラゴンワーム』が存在する。
基本水中に潜んでいて気づき難いが敵対象が近づくと出現し、鈍足効果の冷気属性のブレスを放ってくる。
サーペントのブレスは壁貫通且つ遠距離まで届く為に乱戦時には非常に厄介で、サーペント自体も本体の頭部と胴体のHPが異なっている為に中々倒し難く厄介。

>聖天使アルテマ(出典:FFシリーズ)
『FFT』及び以降作品に登場する人物兼モンスター。
『FFT』でのラスボスであり、主人公ラムザの妹に宿っていた聖アジョラが分離した姿。両お美足に下げた剣での斬撃やその名を冠した魔法『アルテマ』、様々な状態異常を引き起こす『グランドクロス』を使用してくる。
何と言っても衝撃的なのがこれまでの(裏ボス含む)ルガヴィ達がクリーチャー的姿だったのに対して赤のハイレグレオタードという随分と叡智な姿である事であり、一部では“食い込み天使”と呼ばれていたりする。(手慣れたプレイヤーは戦闘を長引かせてその桃尻を堪能する輩もいるとか…)
本人の強さは、戦闘時にゲスト参戦する主人公の妹を優先的に攻撃する思考の為にぶっちゃけ弱い。(妹を戦闘不能にして『グランドクロス』を連発させるとキツイのだが…)
しかも他ルガヴィと違い、行動不能になる状態異常『ドンアク』が効く為に更に拍車をかけている。


Q、遅い、遅すぎない…?(半ギレ)
Å、しょうがねぇだろ、仕事してストレス溜めまくりングな状況なんやぞ!?(逆切れ)

Q、ストレス解消に何してたん?
A、(コロナ的に)安全な店での食べ歩きと「Rim world」してまんた(小声)。尚、今後Rim world要素が加わる模様…(スケベェ…)

Q、結局遅れた原因は?
A、ハーメルンの荒らし…不毛なのは解ってるねん、でもUNEI対策してくれぃ…

Q、優作はハシュマリムがリフォネス城で一騎当千的な事してたと言ってるけど実際違くない?
A、一説では他ルガヴィが2体且つ御付きがいた可能性が大ですが、優作はヴォルマルフ(ハシュマリムの依り代)のみがリフォネス城の皆殺しを行ったと思っています。

Q、ルガヴィって一部除き楽勝じゃね?
A、ルガヴィの眷属軍団+本気モードやで?(例の天使は使えなかった魔法解禁)


次回はやっぱり不明(尚、知り合いに11月迄にオルレアン編終わらせろと脅されている模様)

それでも感想コメント、意見・質問お待ちしております。


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