人理定礎者が逝く(仮) (茶々猫®︎)
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オリ至高 ペーパーテキスト

 後悔はしてない。エタル可能性大。

見切り発車上等!……((;´Д`)っ·( ポチットナ)


 

 

 

【騎座】魔術師

【真名】リディ・エモット(藤丸 一香)

【性別】男性♂

【体格】176cm/75kg

【属性】中立・中庸・人・男

【能力】筋力C 耐久E 敏捷A 魔力A 幸運EX 宝具E〜EX

【コマンド】Q A A A B Q(2) A(3) B(1) EX(5) 宝具(5)

【騎座別技能】陣地作成:A/道具作成:A+/聖杯:EX

【保有技能】魔術:A++/対毒:EX/救済者:A+

 

 

【宝具】

 『英霊召喚(サモン・サーヴァント)』EX 対軍宝具

 『人理の救世主(メサイア)』E ~ A+ 対人(自分)宝具

 『厄災の獣(キャスパリーグ)』? 対人類

 『貴き幻想(ノウブル・ファンタズム)』A 〜 EX 借用宝具

 

 

【フレーバーテキスト】

 

 とある大規模オンラインゲームのPCデータの一人に過ぎないが、彼自身であり、別人である。

 元はただの人間だったが、聖杯の所持者で自身も異形の仲間と数々の偉業を成し遂げた紛う事なき大英雄である。

 突出して語られるその魔術、天上の意思に届きし力を持つ。神代の大魔術師が認める実力の他に仲間の英霊から手解きを受け、罠抜け身代り丸太戦法逃走中ルチャの受け身などなど様々な特殊技能の持ち主。

 要約すると人理の救世主である。

 

 

 絆レベル1

 体格:176cm/75kg

 属性:中立・中庸・人・男

 「えぇ〜、ほんとでござるかぁ?」

 

 

 絆レベル2

 基本的に誰とでもそれこそ男女問わず仲良くなれるギャルゲーの主人公みたいな人物。彼の所属する異形の仲間とのコミュニケーションも難なく取れる。

 その所為で様々な珍事に巻き込まれるが、危機察知能力は原作の主人公と同じくある為、回避できるものは回避している。

 

 

 絆レベル3

 魔術:A++

 魔術王ソロモンを初めとする魔術の師を持つ彼は魔法こそ使えないが様々な魔術を使い熟す。その実力は英霊達にも太鼓判を押される程。

 一家に一人欲しい万能支援型の魔術師だが、単独で戦闘出来ない訳ではない。それでも支援特化で魔法職Lv90台と同等というハンデがあるが、当たれば対象を確実に止める〈ガント〉や無敵や回避を付与するスキルに魔術が存在するので生存能力はケルトやギリシャの大英雄も舌を巻くレベル。

 

 

 絆レベル4

 聖杯:EX

 この聖杯は魔術礼装の願望機ではなく、正史にある神の子が最後の晩餐に用いた真水をワインに変えるあれ。

 その使用方法は〈永劫の蛇の指輪(ウルボロス)〉と酷似しているが全くの別物。使用したPCのデータを改竄するのに限定されそのPCが削除されなければ所有者は移らず、現所有者の藤丸は前世のFGOに登場した聖杯に見立て座を設定し、そこに自分の分身である英霊達を作成・登録した。

 そのお陰で、現実となった後元のPCデータも登録され藤丸はレベル差を埋める為に自分自身を降霊しスキルと魔法を使えるようにして他の英霊達も召喚、または宝具を借用するようになる。

 

 

 絆レベル5

 『英霊召喚(サモン・サーヴァント)』EX バスター

 Lv100が数体:弓ギル、オジマン、タニキ、頼光ママ、Wジャンヌ、お師匠、バサクレ、夢魔、キス魔他。

 ☆1Lv60 ☆2Lv65 ☆3Lv70 ☆4Lv80 ☆5Lv90

 対軍宝具。移動範囲は意外と広い。同時に7人までの英霊を召喚可能。範囲は龍脈が通る場所なら無限。そうでない場所でも召喚時のMP消費量に比例して伸びる。

 ゲーム内では2日間何もなければ消えないが、現実となってからは同じく2日間、宝具の使用でMPを消費し時間が縮まる。基本的にレベルの低い英霊はMP消費が少なく、MPの多いPCならLv100を複数召喚しても問題ない。

 

 『人理の救世主(メサイア)』E ~ A+ アーツ

 対人(自分)宝具。文字通り人理を救済した証明。ビーストや人以外の属性に対して真の効果を発揮する。

 人類の敵に対して防御力⤵︎&攻撃力⤵︎&クリティカル率⤵︎&宝具封印⤵︎(3ターン)&スタン効果付与(OC)。

 自分を含む味方に対し攻撃力⤴︎&NP効率⤴︎&HP自動回復付与(5ターン)&HP大回復(OCで⤴︎)。

 

 『貴き幻想(ノウブル・ファンタズム)』A 〜 EX アーツ

 借用宝具。仲間の宝具を借りる。ギルなら王律鍵、ジャンヌなら旗、お師匠なら真紅の槍など武器を扱うことが多く、事象や逸話を再現した宝具は滅多にない。(FGO版)

 

 

 幕間 ~偽りの人理~

 それは彼が見た幻想、いや理想の物語。憧憬は焦ることなく彼はその物語の登場人物を完璧に創り上げた。作者としては三流もいいとこのハッピーエンドとはいかないが、登場人物としては一流。

 故に彼は決して諦めない。あの主人公はもっと上手くやれる。もっと良くできる。向上心は尽きることなく彼の背中を押し続ける。全て遠き理想郷を目指して。

 

 

 絆礼装☆4

 『ただの英霊』

 彼が所属する異形の者が集まるギルド、AUGにて彼はレイス系の異形種、英霊として参加しているが過激な仲間のように人類を殲滅したり、鉱山を独占したり悪虐の限りを尽くした──こともある。

 ぶっちゃけゲームだが彼にとって人間も異形も関係ない。気の置けない仲間とその仲間を傷付ける敵で別けられているので要は自分が正しいと思う方を優先する。

 

 



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序章 〜舞台は新天地へ〜
とある劇作家「──いざ、開演の刻!」


 
 
 記念すべき第1話。

えーい、読んでいけー!


 

 

 青年は目の前の光景に涙した。これが幻覚や夢ではないことを心より感謝して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【YGGDRASIL】。

 21世紀後半の荒廃した世界で新たに発明されたフルダイブシステム。とんで22世紀初頭にそれを採用したDMMO、つまり体験型と呼ばれるRPGの一つだ。そして、十数年続いたこの楽園ももうすぐ終わる。

 

 「リンク・スタート……なんちゃって」

 

 21世紀初頭に愛された同じフルダイブシステムが登場する“古典作品”のセリフを彼は毎回使っていた。

 

 視界が切り替わり、左上端に仲間全員で考えたギルドの紋章、自身のPC名、HPとMP、レベルと種族など。反対の右下と中央少し上に現在地であるナザリック地下大墳墓地下9階層にある円卓の間を示している。

 何であれギルドに属する者は最初のログイン地点が拠点内に定められている。それ以外はログアウトした場所や泊まった宿になる。

 あとは、右上の現在時刻と左下に共通ログ欄がある。

 

 今日がサービス最終日というのに、いつも通りだ。

 彼は何かしらのサプライズを期待していた分落胆も大きかった。だがサービス終了するのにそんな予算を確保できるかと言われれば納得してしまうのも事実。

 

 他にギルドメンバーがいないか仮想現実の首を振って辺りを見渡す。

 重厚で、豪華な装飾が施された扉を正面とするならこの部屋の最奥に位置する席に、彼が座っている。

 

 「おはようございます!モモンガさん!」

 「おはようございます、藤丸さん」

 

 背後の壁に飾られている黄金の九蛇がそれぞれ色違いの宝石を加えて絡みついている魔法詠唱者の武器。それもこのギルドを象徴とするギルド武器、〈スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン〉の真下に座っている彼は視線をこちらに向けて挨拶を返した。

 

 「メッセありがとうございます。他の方達は?」

 「まだですね。藤丸さんが一番でしたよ」

 「そう、ですか。……じゃあ俺はこれから裏市に行って〈世界級(ワールド)〉が売ってないか見て来ますね」

 「俺は今日一日ここで皆さんを待ちますね。お気をつけて」

 

 「はい!行って来ます!」

 「ふふっ、いってらっしゃい」

 

 藤丸から見て、漠然とした雰囲気だが弱っていると感じたモモンガも少し元気を取り戻したようで、最後に笑顔のスタンプと共に思わず失笑していた。

 

 藤丸は転移阻害や様々なギミックがあるギルド内で安全に転移できる指輪装備を掲げてナザリックの外へ飛び出して行った。

 

 

 ──十数時間後。

 ナザリックが存在する。ヘルヘイムのみでなく、人間種が支配する他世界にまで足を伸ばしていた藤丸は、グレンデラ沼地の樹海をホクホク顔で歩いていた。

 ここは毒沼でフィールド全域に最上級の解毒ポーションを使わなければ忽ち状態異常を起こす凶悪エリアなのだが、そんなことは関係ないとばかりに悠々と歩いている。

 彼の持つ完全な対毒スキルは、名前に毒と付くモノは〈世界級〉でなければ貫通できない程強力なものだった。

 

 そんな彼は時折、歩く速度を緩めてはコマンドのアイテム欄を開き、ゲームなので表情は動かないが、現実なら絶対にニマニマと頰が緩んでいるだろう喜色満面の声を漏らしていた。

 

 何を隠そう、彼が見つけた今回の戦利品にはこのゲームで最上級、いや規格外と呼ばれる〈世界級〉アイテムを複数見つけ、手に入れたからだ。

 一つでも戦況、いやゲームシステムを改変する力を有する存在を複数。プレイヤーなら誰しも一度は思いつく僕の考えた最強の武器が手に入ったのだから彼も例に漏れず嬉しさを全身で表現していた。

 

 

 それはそうと、画面右上の時刻があと数分しかないことに気付くのは少し後。

 「っ!やっば!遅刻だ!」

 

 運良く気付いた彼はスキルや魔法で速度を上げて沼地を駆け抜ける。

 

 「〈伝言(メッセージ)〉!……モモンガさん!今どこですかっ!?」

 

 走りながらフレンドと遠隔通信が可能になる〈伝言〉を使う。正確には魔法ではない為PCなら誰でもできる。

 繋がったと同時に相手の居場所を尋ねると円卓の間から移動して玉座で最期を迎えるらしい。

 

 マズい、と藤丸はかかないはずの汗が吹き出るのを感じた。システムの都合上、元ダンジョンだったナザリック地下大墳墓を改築したこの拠点の最奥、地下10階の玉座の間にはあの指輪でも転移できない仕様になっていた。

 最短で円卓の間か同階層の自室に転移し、走って移動するしかないのだ。

 

 毒の沼地を抜けて地表部分、今は無きパルテノン神殿の様な外装の地下聖堂から侵入しすぐ指輪を使って自室に転移する。

 円卓の間よりは近いと判断したのだ。それでも長いレッドカーペットが敷かれた廊下を走らなければならないのは変わらない。スタミナやステータス的に疲れることがないはずなのに、心臓が痛い。息が上がる。まるで現実の世界では全力で走ってるかの様な感覚に陥っていた。

 

 嫌でも目に入る時間の数字に内心舌打ちしながら漸く玉座の間に繋がる扉が見えて来た。

 

 時間にして残り20秒。

 

 彼の手がその扉に触れた瞬間、彼は意識を失った。

 

 いや、はっきり言おう。現実世界で心臓が止まり、この世から永遠に帰らぬ人となり、その数秒後に時計の数字は日を跨ぎ、全てが0となった。

 

 だが、物語は終わらない。どんな小説の中で話が終わろうとも彼らには後日談があり、死ぬまでの歴史がある。

 

 このユグドラシルというゲームも、運営からサービス終了を告げられたが、異世界と繋がることで永らえることとなる。

 

 ゲーム内で最期の時を迎え、新天地に旅立った者……ではなく、ゲーム最中に現実で死を迎えた不幸な彼の魂はそのコンテンツに囚われ、データごと異世界へと旅立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は不明、真っ暗な中突如複数のスポットライトが舞台に立つ奇天烈なポーズを取る男に当てられた。

 その男がバッと両手を広げ、舞台の上を歩きながら叫ぶように口を開く。

 

 「さぁ!開幕です!席に座れ!煙草は止めろ!写真撮影お断り!野卑な罵声は真っ平御免!」

 「異形の存在でありながら世界を救う贋作者は新たなる地で何を見!何を感じ!何を思うのかっ!今回は吾輩も出演者として彼と共にこのクソッタレな『現実(物語)』を紡ぎましょうぞ!」

 「紳士淑女の皆さま、ご笑覧あれ!これは異形の物語でもなく、人類の物語でもない!人が!彼が!何度も焦がれた願いを叶える物語である!それでは──共に旅立ちましょう、『開演の刻は来たれり、此処に万雷の喝采を!』……はじまり、はじまり」

 

 ジィィイイイ!とベルが鳴り響き、ライトの明かりも消え、止まっていた時も動き出した。

 

 ──今宵の舞台はもう止まらない。

 

 




 
 
 2000文字オーバー。
初回からぶっ飛ばした感はありますが、次回はもう少しお待ちを。

 あ!誤字脱字、誤用などの修正箇所は遠慮なく教えてください!では!

 ミスターサー様、あびゃく様、ユウイチ様、ネクソン様、veria様、リョウ23様、黒江碧様、瓊瓊杵響様、龍眞0316様、久遠 愛様、テロ様、ハマノン様、一般人A様、マッチメン様、ふとー様
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死の超越者「〈心臓しょ(グラスプ・ハ)──〉」

 
 
 前回もそうなんですが、サブタイは
人物〇〇「〜〜〜(セリフ)〜〜〜」に統一したいと思います。
 なるべく被らないようにしたいですね。

今回ちょっぴり長いです。


 

 

 住んでいた村が襲撃され、罠に嵌めて捕縛できたのは大きな収穫だ。彼はこれから拷問に関しては他の誰よりも信頼できる方達にお願いしたところで、突然村から少し離れた森の方に強大な力の波動を感じた。

 

 トブの森にある噂の〈破滅の竜王〉とも邪推するが、それが一体ではなく同等の力を持つ複数体ということに気づき、自分が生まれてからは形ばかりの村長に村の皆を屋内に避難させる様伝えて青年は襲撃者が来た方向とは逆の森に猛スピードで走って行った。

 

 

 そこで彼は、運命と再会する。

 

 力の正体と相対した瞬間、青年は脱力し崩れ落ちる様に膝を折った。

 

 「モモンガさん!」

 「危ない下がって!」

 

 中央にいた黒いローブを纏い、死の魔王と形容しても謙遜ない恐怖と絶望を感じさせる骸骨の白い顔。

 

 そんな彼と飛び出して来た青年の間に入り防御系のスキルを発動させるグネグネと嫌悪感を誘うピンクの肉棒。

 

 そして最後の一体、いや一人。この世界では青年も見たことがない人間の四肢と全身を覆う羽毛、そして顔の大部分を占める鳥の嘴と背中から生える二対の翼。

 

 未だ三人は警戒しているが、青年にとってそんなことは些細なことだ。何せ生まれてからずっと望んでいた夢が今現実となって叶ったのだから。

 

 やがて防御スキルを発動したにも関わらず動きを見せない。寧ろ彼女達が少し前に見た守護者達と同じく跪いている様に見える青年にその首と思しき部分を傾げるピンク色のスライム。名を〈ぶくぶく茶釜〉と言う。

 彼ら三人はユグドラシルというVR世界のゲームのキャラや設定を引き継いでこの世界に集団転移して来たプレイヤーであり、その中でも悪逆として名を馳せたDQNギルド〈アインズ・ウール・ゴウン〉の仲間だった。

 

 構成員全員が社会人かつ異形種で構成され、人間種であるが故に参加できなかったプレイヤーもいる。

 悪い噂しかない彼らだが、今この場にいる青年には彼らこそ願いであり、癒しだった。

 

 遂にボロボロと泣き出した村人だろう金髪赤目の人間にギョッとする三人。

 お互いが無言で顔を合わして何もしてないと首を横に振る。スライムだけはわかりづらいが。

 

 とりあえず事情を聞く為、この世界についての情報を得る為に偶然見つけた何やらやたら強固に要塞化された異様な村の近くまで転移したのだが、三人は困り果てていた。

 

 「ねえ君」

 

 ぶくぶく茶釜の幼い少女のような声が聞こえると、さっきまで泣いていた青年がバッと顔を上げてその赤い目でジッと見つめてくる。

 

 「茶釜さんっ俺だ!〈藤丸一香〉だ!」

 

 青年が叫んだその瞬間、三人の内二人は人が変わった様に怒気を顕にした。勿論最後の一人にとってもその名前は代え難い大切なものだ。それをどこで知ったかは知らないが、それを口にし、剰え騙るなど万死に値する。

 

 真ん中の骸骨の手が動き得意な魔法を発動する為に魔力が溜まっていく最中、また青年の口が動いた。

 

 「モモンガさん、ぶくぶく茶釜さん、ペロロンチーノさん、また会えて良かった……もう悔いはない」

 

 「待ってモモンガさん!」

 

 「お、おう!?どうしました茶釜さん」

 「いいからここは私に任せて下さい」

 

 ずりずりと音を立てて草木の上を這う様にして近づくぶくぶく茶釜。

 

 「こちらの質問に全て答えなさい。いいわね?」

 

 青年はモモンガが次にする魔法を見破っていた。第9位階の即死魔法〈心臓掌握(グラスプ・ハート)〉だ。幻覚だが実体のある相手の心臓を手の中に作り出し握り潰す魔法。

 これにアンデットであるモモンガは様々なスキルで強化を施しており、例え即死に対し抵抗できたとしても朦朧状態になる追加効果もある。

 

 それを見て、自分が人間になってしまったから、もうギルドにはいられないと納得し死を受け入れた、はずなのに。

 青年の生き死には隣にいたぶくぶく茶釜によって少し延長された。その彼女が命令口調で発した言葉に呆気に取られつつもこくんと小さく頷く。

 

 「素直でいいわね。さっきの名前はどこで知ったの?嘘はわかるわよ」

 

 シュルシュルと粘体から触手が数本伸びて青年に巻き付けて脈を図る複数箇所に配置した。

 彼女に嘘を看破するスキルも魔法もないが、ゲームでは存在しなかった脈や触覚、味覚がある今ならば、彼女がしたように脈の変調で嘘を見抜くことも可能だった。

 

 「知ったも何も、大昔のゲームの主人公の名前を捩ったものです。それは茶釜さんも知ってるでしょ?」

 「余計なことは喋らないで……次、そのゲームの名前は?正式名称で」

 「Fate/GrandOrder」

 

 「……次、その中のキャラで最も好きなキャラは?」

 「うえっ……言わなきゃダメ、ですか?」

 「一気に心拍数が上がったわね。言えない理由でもあるのかしら?」

 

 バクバクとなる心音に茶釜がここだと確信を突く問いを投げかけるも、今まで無反応だったにも関わらず冷や汗に目が泳ぎ、挙句カタカタと小刻みに震えている。はっきり言って異常だ。

 

 茶釜が先程続けていた問いは後の二人もよく本人から聞いていた話だ。仲間の異形種プレイヤーだった彼は見た目こそ人間種だが、〈ウォースピリット〉──英霊と呼ばれる種族を獲得して現在のキャラを作る決心を固めたとか。

 

 最初の二つの答えは正しかった。だが、彼は異形種。こんなLv100にも満たない脆弱な人間種ではない。それにとある事情でオフ会に終ぞ参加しなかったが、実際にあったことのある三人は彼は普通の黒髪黒目のどこにでもいる様な、そんな人だった。

 だから金髪赤目の青年は件の彼の姿とどうやっても重ならなかったのだ。

 

 「理由というか、この世界に転生してから〈聖杯〉に登録した英霊全員が意思を持ちまして……中には設定故狂気的にヤンデレなのもいるので……勘弁してください!」

 「……ちょっと待って、そんな理由?」

 

 そんな、と軽い口調で言われた彼が先程とは打って変わって声を大にして叫ぶ。それはある種魂の叫びだった。

 

 「そんなって何!?こちとら死活問題だよ!下手したら斬り刻まれて雷撃たれて火炙りにされちゃうんだよ!今俺は人間なの!死んだら自分で蘇生できないんだよ!」

 「蘇生方法があるの?」

 「……ああ、あるよ。ただしユグドラシルの時と殆ど同じでデスペナの経験値が足りないと弱い奴はそのまま生き返らず灰になるけど」

 

 「モモンガさん」

 「わかりました。ここからは私が質問しよう。お前は先程〈聖杯〉と言ったな?今どこにある?」

 「どこって、ここだよ」

 

 青年は体が触手で拘束されているので指を指すことができず、頭を動かして顎で自分の心臓部分を指し示した。

 その意味を理解したモモンガは骨の手で顔を覆いあちゃーと空を仰ぐ。だが、何やら淡い緑色の光を発して再び青年に向き直った。

 

 「……わかった。では最後の質問だ。藤丸さんの──」

 「──」

 

 

 

 

 

 その後、どうやら最後の答えは彼らが望む答えだったらしく、触手はさらに体を締め付け肉棒の頭部分でまるで頬ずりする様にスリスリと身を寄せて来る茶釜。

 

 少し離れた場所でオイオイ泣くバードマンのペロロンチーノ。骨だから表情の変化は乏しいが雰囲気で何となく喜んでいるモモンガ。

 

 彼らの中心で漸く誤解が解けたと安堵する村の神童リディ・エモット、18歳。

 

 「お久しぶりです皆さん。また会えて本当に良かった」

 「こちらこそお元気そうで、っていうのは違うかな?」

 「そうね。結局ポックリ逝ってこっちの世界に転生した訳だし。でも本当に元気そうで何よりよ」

 「現実の藤丸さんヘロヘロさんより体ボロボロでしたもんね。ずっとベットの上だったし」

 

 改めて挨拶と青年には前世と言うべき現実世界での生活で場を和ませる。自虐ジョークは彼も受け入れており、転生についてもとうの昔に乗り越えた。

 だから笑って三人も彼の話に続く。

 

 「そうだ!藤丸さん、実は俺達ギルドごとこっちに転移したんですよ」

 「へ?マジですか?」

 「マジよ」

 「マジマジ、本気と書いてマジの方な」

 「で、藤丸さん元々レイス系の種族でしたからランダムに転生したら人間だったって設定でギルドに帰りましょうよ!守護者もきっと喜びますよ!」

 「三人だけじゃなくて守護者も全員来てるんですか!?……ハハハ、なんてこった」

 

 衝撃の事実が元藤丸、現リディ青年は何故か茶釜の触手の中で脱力し乾いた笑いを出していた。

 

 「どっ、どうしたんですか!?」

 「いえ、こっちの話です……俺のこの18年は何だったのか……Lv100の守護者や宝物庫のアイテム、それにモモンガさん達がいれば万事完結ですよ」

 「?どういうこと?」

 「まあ、ナザリックに戻ることは賛成です。ただ設定がある程度反映されてるみたいなので人間嫌いの守護者や僕もいましたから、少し心配ですが。今は村の襲撃の処理と周辺の探索に専念したいです」

 「もしかして、あの村の防壁や装備って」

 「ええ、仲間の英霊達と協力して作り上げました。流石に貴族やらに目を付けられた時は焦りましたが幻術でやり過ごしました」

 「その辺のお国事情についてもナザリックで聞くことにしましょう」

 「では」

 

 その時三人の後ろから黒い円形の闇が出現し、中から黒い全身鎧に二本の角を生やした女騎士が現れる。

 

 「遅れて申し訳ありません。至高の御方々。……で、そこにいる下等生物は如何なさいますか?お手を煩わせているのであればこのアルベド」

 

 チャキ、と持っていたハルバード──槍と斧が一体化した武器を人間に向けるナザリック最高幹部の一人守護者統括のアルベド。

 

 「この手で虫ケラの如く潰して」

 

 だが、彼女としてはそれは当然の行為であり、人間という下等な生き物が彼女達にとって神にも等しい、いや、神よりも尊い存在を前にして跪かないどころか、頭も垂れず許可なくご尊顔を拝するなどあってはならない大罪である。

 

 だが、彼女の手はその至高の御方によって止められた。

 

 「今、何と言った?アルベド」

 「ヒッ!?モ、モモンガ、さま?」

 

 「なあアルベドよもう一度言ってくれ。今彼を殺すと言ったのか?幾らお前でも許さんぞ?」

 

 〈絶望のオーラI〉。格下相手に様々なバッドステータスを与える効果があり、同レベルのアルベドには本来なら効果はないはずだが、今彼が手に持っているのはギルド武器の〈スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン〉の効果により耐性を貫通して周囲に恐怖をばら撒いている。

 

 この中でレベルの低い青年も当然その効果を受けていた。

 

 「お、お許しを!不肖アルベドモモンガ様が不快になられる言葉を発してしまい、死をもってお詫びを」

 「待て。やめよアルベド」

 「はっ」

 「ナザリックにおいて死とは慈悲だ。そして私にとっても死とは状態の一種に過ぎん。故に死は罰になり得ない。それとなアルベド。今私が怒ったのはそこの彼が私の大切な友だからだよ」

 

 「そ、それは……誠でしょうか?」

 「ああ、お前も聞いたことはあるだろう?我がギルド至高の42人の内の一人、〈藤丸一香〉さんだ」

 

 その名前を聞いて彼女は驚愕の表情を浮かべ、跪いていた状態のまま視線だけを人間に向けた。

 記憶にある容姿、力、風格、全てを当て嵌めてみても比較することすら烏滸がましい。彼女の思考は精神支配による洗脳か至高の御方の名を騙る不届き者としか思えなかった。

 

 「お言葉ですがモモンガさ、ま?」

 「フォウ!」

 

 動物らしき鳴き声が聞こえ、視界の端から白い物体が飛び出して青年に体当たりを仕掛ける。

 

 「ぐほっ……きゃ、キャスパリーグ。何度も言うけど昔みたいに強くないから君の体当たりは受け止められないよ?」

 「フォウ!フォフォウ!」

 

 まるで飼い犬と戯れる様に人類の敵となる厄災の獣を抱き上げ手櫛で毛並みを整える姿に、確かに、そう確かにアルベドは以前見た光景を思い出した。

 

 ──見てください皆さん!

 ──何ですか?人形?

 ──犬?でしょうか?

 ──違いますよ。キャスパリーグと言って今コラボガチャのシークレットキャラですよ!

 ──えぇぇぇ!?藤丸さんヤベェェ!

 

 「──藤丸一香、さま」

 

 「うん、アルベド、ただいま」

 「おかえり、なさいませ……よもや至高の御方を間違えるなどこの罪どうやって償えば」

 

 急に泣き崩れた彼女に先程まで冗談抜きに殺されかけていたはずの彼からただいまと何でもない様に返され、さらに自責の念を抱く。

 

 「間違えるのも無理はない。この三人だって最初は即死魔法とか後ろに下がって防壁のスキル使ったり捕まえて尋問までされて漸くって感じだし。多分ナザリックに今の俺を藤丸だと認識できるものはいないだろうからな」

 「「「すいませんでした」」」

 

 少し考えてみれば簡単なことだ。ペロロンチーノやぶくぶく茶釜はともかく、アンデットのモモンガに精神支配は効果がない。あるとすれば世界級アイテムか〈完全なる狂騒〉という一見パーティグッズにしか見えないネタアイテムぐらいしかない。

 

 「では私めが先に藤丸一香様の帰還を伝えておけば」

 「それには及ばんよアルベド」

 「モモンガ様」

 「私達三人が証明すればいいだけのこと。守護者統括のお前よりも私達の方が信憑性もあるだろう?」

 「申し訳ありません。出過ぎた真似を致しました」

 「よい」

 

 モモンガとアルベドの会話が終わった所で青年は一旦村に戻り、家族に出かけることを伝えて戻るという。

 

 「では〈異界門〉役に私が残ろう。アルベド気持ちはわかるが彼の帰還はサプライズだ。誰にも漏らすなよ」

 「ハッ」

 「じゃあ私達は先にナザリックに戻ってますね。おら行くぞ愚弟」

 「いやちょっとねーちゃん!?藤丸さんっ妹について詳しくギャー!」

 

 くるりとスキップでもしそうな程ルンルンな雰囲気のまま〈異界門〉を潜るアルベド。続いて重度なロリコンの弟を引き摺りながら潜る姉と弟。

 その変わらない姿に残ったモモンガとリディはどちらともなく笑い出した。

 

 

 

 

 リディは早速〈嫉妬マスク〉を被ったモモンガを連れて村へ戻った。マスクを被った理由はリディの提案なのだが、単純に村人を怖がらせない為だ。

 

 今、リディと英霊達によって魔改造、もとい訓練されて立派なカルネ人(某野菜人風)に進化した彼らでも、人間味のある英霊とは違い、モモンガの骨の体にまだ耐性がない。あったとしても訓練で召喚された竜牙兵や骸骨兵のみだ。魔法詠唱するリッチはまだ無理だった。

 

 それに気づいたリディが村に入る前に彼にそう提案した。幸い、仮面を被っていた英霊は何人もいた為そこまで怪しまれることはなかった。

 

 「これは……凄いですね」

 「ありがとうございます」

 

 リディは村の皆への挨拶をそこそこに自分の工房に訪れていた。

 ユグドラシルにあった拠点作成アイテムとは違い、英霊達の知識を借りて自分に合った工房を一から作り上げることができた。

 

 そうしてできた工房は例え村が超位魔法などで一瞬の内に滅んでも、ここだけは無傷というぐらい強固で、本人の許可なく入れば即死に至る難攻不落の城塞となっていた。

 

 ちなみにデザインはかの建設王であるファラオとアッシリアの女帝、賢王達である。皆嬉々として参加していた。

 なので、どことなく既視感が……。完成した時リディはまあいいかと諦めの境地に達していた。

 

 工房でこの世界で改めて自作した霊装を持ち出し最低限見てくれを整える。以前から持っていた神器級には程遠いが、大丈夫だろうと装備した直後、工房の前にリディの妹達の姿があった。

 彼女達が勝手に入る前に急いで外に出る。

 

 「お兄ちゃん!村長さんが呼んでる!」

 「おにいちゃ、はやく!」

 

 彼女達の様子に只事じゃないと察してリディはモモンガの方を振り返りアイコンタクトで肯き合う。

 

 「わかった。村長宅に行けばいいか?」

 「じゃなくて広場の方!」

 「……そうか。二人ともありがとう。一応皆に家から出ないよう言ってお父さん達のとこに帰りな」

 

 二人の目線に合わせて屈み、頭を少し乱暴に撫でる。エンリは恥ずかしそうに、ネムは擽ったそうにそれぞれ撫でられ村の方に走っていった。

 

 「すいませんモモンガさん。少し遅れそうです」

 「付き合いますよ。もう茶釜さん達に伝えてます」

 「流石社会人の鑑」

 「報連相は普通です。それより急ぎましょう。早く済ませればその分早く帰れます」

 「わかりました」

 

 エンリ達の言った広間の方に身体能力を上げて走り出した。

 

 

 




 
 
 やったね!6000文字オーバー!ヤッタ\( ‘ω’)/ヤッタ

 レニウム様、Cro-C様、マカロ二様、takataka様、霧の超弩級戦艦様、黒鉛羅様、フリーランス様、太刀川様、グラファ様、容疑者・山田健二様、アカナ様、まりもっこり様、賽銭刃庫様、カンラ様、idetachi様、終 真様、ヒロきち様、ロスト様、kamiyama様、白井クウ様、神夜0811様、K.O.様、Shnn yuuki様、龍祠様、ジャガ丸くん様、文月マリン様、クロスト様、血濡れの人形様、鳩本相汰様、黒猫アル様、タカヒコ様、夢霊姫様、ニャルるん様、はうはう様、ゆーー0819様、yabbee@様、Fullout 錬金パパ様、タトゥーミ様、夢兎之剣舞様、Gaia様、まちゃ様、shopei様、カビ胞子様、まめ猫様、鬼灯靭負様、パッパラー様、ヨカン様、Shiro2367990様、Tarakosupa様、ノモ様、椋鳥神父様、KAIITO034様

 
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王国最強の男「私はリ・エスティーゼ王国戦士長!」キリッ

 
 
 (タイトルに他意は)ないです。

 お久しぶりです。少し時間が空きましたが続きが書き上がりました。
急ピッチだったので誤字脱字の報告待ってます。
 
 中々英霊達の出番がありませんね……誰か感想にリクエストくれませんかね?壁|ω・`)チラッチラッ


 

 

 

 「村長!」

 「おお、今朝からすまないなリディ」

 

 広間に行けば村長と数人の男達が何やら話し合っていた。

 

 「どうしたの?」

 「ああ、それが──」

 

 村長達の話を聞けば、早朝の襲撃もあって村周辺の索敵に放っていた小動物などの使い魔が一個中隊程の騎馬集団がこっちに向かっていると言う。

 レンジャーのスキルを持つ村の男衆にも見てもらって間違いないそうだ。魔法詠唱者(マジックキャスター)の気配もなくそれくらいなら村人達だけでも問題なく対処できただろう。

 

 だが、その先頭を走る男の顔を確認するとこの国の王国戦士長だという。

 

 村の男手はリディの催眠によって戦争で戦死か負傷扱いになっており、村長と子供を除いて村の男達が対処する訳にもいかず、彼が呼ばれたという訳だ。

 

 「事情はわかりました。村全体に〈認識阻害〉をかけます。村長は俺と一緒に村の入口までお願いします」

 

 そう言うと味方に一度だけ即死を耐えるガッツ付与が出来る魔術礼装に早着替えをする。

 

 「あ、ああ、わかった。……ところで其方の御人は?」

 「俺の恩人だよ」

 「あの方々と同じ……わかった」

 

 『どういう事ですか?』

 

 村長の言葉に引っかかりを覚えたのかモモンガは態度に出すことなく〈伝言〉でこっそりリディに尋ねる。

 

 『聖杯を所持してる事は言いましたよね』

 『言いましたね』

 『この村の強化には英霊達の尽力もあります。村の皆に姿を見せて教導をしてもらいました。村の平均ですが子供でもLv10、俺を除く一番の戦士はLv25あります』

 『低っ!?』

 『この世界ではLv30以上で英雄、Lv40からは伝説の存在ですからね?尤も、目下仮想敵はLv90以上ですから俺と英霊達で袋にしないと勝てません。モモンガさん達が来てくれて本当助かりました』

 『まさかプ、プレイヤーですか!?』

 『いえ、どうやらその子孫ですね』

 

 リディは王国最強の戦士が到着するまでの間、魔術行使と並行して傍のモモンガを通してぶくぶく茶釜やペロロンチーノにも、この世界の伝説と確かな情報を説明することにした。

 

 『まず、モモンガさんと初めて会った時ですが、魔法が使えましたよね?』

 『はい。第9位階の〈心臓掌握〉ですね』

 『それです。皆さんのことでしょうからナザリックから出る前に一通り魔法やスキルは試していると思うので省きますが、この世界の住人もユグドラシルの魔法が使えます』

 『本当ですかっ!?』

 『まさか超位魔法も!?』

 『流石に超位魔法は見たことないですね。この国、隣の帝国と度々小競り合い程度の戦争を毎年しているのですが何度かそこに参加したことがあります。けど見たことないです』

 

 王国と帝国の関係性を簡単に説明されモモンガは少し考えてまた顔を上げた。

 

 『もしかして襲撃者って帝国の?』

 『違いますよ。今拷問で情報を吐かせてますが、俺の〈真名看破〉で簡単なステータスはわかりますから。帝国ではなくもう一つ法国という人類至上主義の国がありまして』

 『は?えっ何、人間が一番って国が他の国の村を襲ってるの?キチガイかよ』

 『信用できる方に潜入捜査を頼んでますし、情報は確かですね。それに前から準備していたんで今日こそ法国の息の根を止めるつもりです』

 『さっき言っていたプレイヤーの子孫ね』

 『そう。多分朝のは囮でこれから来る戦士長を殺す為に本隊が隠れてるはずです。数週間前に近隣の村を襲った報告がありますから』

 『流石藤丸さんですね。後方支援に加えてぷにっと萌えさんから手解きを受けただけある。俺はギルド長でも雑務が殆どでしたから』

 『適材適所ですよモモンガさん。寧ろモモンガさんのバックアップがあったから俺達も好きに暴れられたんですし』

 『藤丸さぁん……』

 

 感極まった様な声で〈伝言〉を飛ばしていたモモンガがポワァと淡緑の光が彼を包み、消えた。

 

 何だったのかとリディが聞こうと口を開きかけたが、舌がないはずのモモンガから盛大な舌打ちが聞こえてビクッと震える。

 

 「も、モモンガさん?」

 「いえ、嫌なことを思い出したので、気にしないでください」

 『実際は?』

 『アンデットの精神攻撃無効スキルが発動した様です。波の大きな感情は抑制される様でして』

 『なるほどぉ、お疲れ様です。ナザリックに戻ったら人化の指輪の余りがありましたからあげますね』

 

 『『人化!?そのアイテムを詳しくっ!』』

 

 深刻な人外化の影響に怯えていたモモンガと、異種姦もイケるが三度の飯より幼女が好きな変態が反応するが、リディの視界に騎士風の集団が見えたので話を切り上げる。

 

 「村長間違いない、王国戦士長だ。ここは俺とモモンガさんで対応するから顔見せが済んだら家に戻ってて。心配しないでいいよ。戦闘はしないから」

 

 『それぷにっと萌えさん的に“戦いにならないから”って意味ですからね?』

 『モモンガさんちょっと黙っててください』

 

 「うむ、どちらにしろ儂らにはどうすることもできん。リディ、頼んだぞ。モモンガ様もお願いします……!」

 

 村長は深く、二人に頭を下げた。リディが才覚を顕してからは英霊達の存在もあり、お飾りの立場を甘んじてきた彼だが、自分の無力さを受け入れていた。

 

 村長の態度にモモンガは少し思案した様子だったが、その内容は隣で見ていたリディもわからない。だが、直前に聞いた種族特性から、人間から変わった影響について考えてるのかと凡その予想はついていた。

 

 

 

 程なくして、村長達普通の人間にも多数の馬が巻き上げる砂埃が見えてきて、村の外壁より外に出ていたリディ、村長、モモンガの三人で迎える。

 王国戦士長はというと隊の先頭を走り、馬の手綱を引き横に向かせてから口を開いた。

 

 「私はリ・エスティーゼ王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ!周辺の村が何者かに襲われているのを知り調査に来た!村長殿と、そこの御人は?」

 

 彼が王国最強の戦士。先の小競り合いでも王国の秘宝である魔法剣などの武装を身に纏っていた様に覚えているが、リディに限らずモモンガもまた彼の装備が軽装であることに違和感を感じていた。

 

 いや、正確には王国最強が他の戦士と同じくらい弱い装備を付けていることに違和感を覚えていた。彼にとって最強の戦士とは嘗ての仲間のたっち・みーだ。強者の中でも別格だった彼は常に最強に相応しい白銀の鎧を身に纏っていた。

 まだナザリックから外に出たばかりのモモンガは転生し赤子から育ったリディの話を聞いても実感がなく、基準がユグドラシルのままなのだから、これは仕方がなかった。

 

 「リディ、モモンガ様頼みました」

 「はい。俺はカルネ村のリディです。会えて光栄ですストロノーフ様。こちらは村を襲った騎士達から通りかかったからと救ってくださった魔法詠唱者様です」

 「モモンガと言います。噂は予々」

 「なんと……!」

 

 仮面を付けた怪しさ満点なモモンガの方を注視していたガゼフだったが、傍にいるリディの紹介を聞いて目を見開いて驚き、急いで馬から飛び降りて先程の村長よりも深くまっすぐ腰を折って頭を下げていた。

 

 「村を救っていただき、感謝の言葉もない!……恩人に対してこんなことは言いたくないのだが、素顔を見せることはできないのか?」

 「魔法詠唱者様は魔法の実験で酷い火傷を負われたらしく、それを見て周囲が不快に感じるのも、彼自身見せたくないそうで俺達にも見せていません」

 「そ、そんな……それは不躾なことを、申し訳ない」

 「いえ、こちらこそ失礼を」

 

 リーマンによく見られるお互いに頭を下げては謝罪合戦に発展する前にリディが二人の間に入って話を変える。

 

 「ストロノーフ様、生き残った騎士達は捕らえています。どうされますか?」

 「む、そうか……では案内を頼めるだろうか?」

 「わかりました。魔法詠唱者様、俺は騎士様達を案内してきます。申し訳ありませんが」

 「ああ、日が落ちるまで私が周囲を警戒しておこう。何かあれば連絡する」

 「ありがとうございます。ではストロノーフ様、こちらへ」

 

 外壁は外から認識できないし、中に入った者を更に深い催眠状態に落とす効果を付けている。資格を持つ者は何の影響もないが、今カルネ村の実態を王国に察知される訳にはいかない。

 リディは中に入った途端視線が宙を漂い棒立ちになる男達を誘導して拷問小屋に案内した。

 捕らえた兵はまだ催眠が続いているし、拷問ではないが情報の抜き出しをしていた三人には戦士長達の聞き取りも行う。そしてリディが送り込んだアサシン達からの情報と相違ないか彼らに確認してもらおう。

 

 

 その間に彼らの背後から様子を窺っていた新たな敵への対策を練り始めた。

 

 

 

 

 




 
 ちょっと短いですかねー。
 中々英霊の皆を出せないので、既に召喚したことのある方を紹介したいと思います。
 
まず、村の教導役に諸葛孔明先生、ケイローン先生、レオニダス先生など。
 村人が筋肉信者になってそうですね……。ケルト民にしても良かったんですが、メイヴちゃんが乗っ取りそうなので。タイツ師匠も同じ理由。

次に各国に潜入しているアサシン(主にハサン達)。それぞれ国は違います。
 初代様、呪腕、百貌、静謐、新宿のアサシン、マタ・ハリなど。
最初は手探りでしたが、優先順位の高い順に初代様、百貌、新宿のアサシン、呪腕、静謐、マタ・ハリです。
気配遮断のスキルで高位の風魔は村の警備にパライソちゃんやジャックちゃんと交代で地上での護衛をしています。皆可愛いですよね!

後は、ンフィーレアの先生にパラケルスス。高名な錬金術師……なんですが、所謂問題児なので主人公くんもやむなしでした。

 以上の変更点から、ぽーしょん作成能力は最初から紫まで作れる。
 カルネ村の防衛力は主人公くんを除く自警団とゴブリン軍団で王国に勝てる。レベルに関係なくゴブリンの繁殖力と数の暴力は公式でもチート級なので、先生達に指導された彼らがこのくらいこなさないのは怠慢だと思う。
 ☆3の英霊を一人投入するだけで帝国の兵力を削ぎ、互角とはいかないまでもカッツェ平野の総戦力といい勝負かな?
 流石に龍王国辺りになると三騎士の何れかのクラスの☆5を追加で一人、それもあのメガンテ()の魔法を相殺できる……宝具が、トホホ。
 
 以上です。閲覧ありがとうございました。
 


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自称村人R「〈プレイヤー〉の世界の話をしようか」

 
 王の話を──。
 
 ガーデン・オブ・AUG!(相手は死ぬ)ブワッ


 

 

 

 正門に戻ったリディがモモンガに訊ねる。

 

 「向こうは?」

 「どうやら村を等間隔に囲ってますね。それにあれは……」

 「ご察しの通り〈炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)〉です。法国の後詰か、本隊と言ったところですかね」

 「この世界にはユグドラシルのモンスターがいるのですか」

 「惜しい。正確にはユグドラシルの“も”いる、です。あれは召喚魔法で呼び出した第3位階のモンスターですから」

 

 リディが訂正してモモンガが神妙な声を上げる。

 術者に従うあの程度のモンスターに対して、ではない。モモンガはギルドで散々懸念していたLv100以上の存在を恐れているのだ。

 確かにそれに匹敵する存在はいる。レイドボスと呼ばれるモンスターだ。プレイヤーがどんなに頑張っても一人では限りなく勝つのが厳しい存在。複数人でかかり漸く勝負になるかという存在。この世界で発見はされてないがトブの森にいる〈魔樹(イビルツリー)〉がそれだ。

 だが英霊達には大した脅威じゃないと言われていた木のモンスターだ。リディはその辺の情報も当然伝えるつもりだが、モモンガの場合下手な先入観を持たせない方が良さそうだと思いナザリックに戻った時に話すことにした。

 

 「どうします?」

 「どうもないです。悪意には悪意を、対話には対話です」

 

 向こうはそのつもりはなさそうですが、目視できる距離で佇む部隊長らしき男を見てそう呟くリディ。モモンガの様に種族で人間が死のうが構わない変化はないはずだが、こちらの世界での生活は彼を変えるには十分だった。

 

 「戦士長達にはこのことは伝えないで済むようにしましょうか」

 「……鏖殺ですか。藤丸さんが構わないなら俺もついて行きますよ」

 「違いますよモモンガさん、あの姉弟の二人もです」

 「あはは、そうでしたね」

 「「ハハハハハ──ぶっ◯す」」

 

 

 

 村を出て、二人はゆっくりと普通に歩いて陽光聖典の隊長、ニグンという男の前に対峙していた。

 

 「これはこれは。あの村の者、でいいのか?」

 

 人のいい笑みを貼り付けて男は尋ねた。

 

 「ああ、村人Rとでも呼んでくれ」

 「なら私は通りすがりの魔法詠唱者で」

 「……随分と舐めた自己紹介だな。自分の立場をわかって言っているのならとんだ道化ではないか!まあいい、どのみちあの村は滅ぼす。村にいるガゼフ・ストロノーフもなあ!」

 

 話す度に身振り手振りが大きくなり、興奮が高まってきたのか最後の方は両手を広げて笑い出した。

 それをリディは感情のない目で眺めているだけ、モモンガの方はそもそも仮面で表情が読めなかった。

 黙ったままの二人に不審に思うことなくニグンは部下を集め村を完膚なきまでに捻り潰す準備を整えていた。

 

 「──そうだ。わざわざ村の外に命乞いをしに来た足労に対してチャンスをやろう。村にいるガゼフ・ストロノーフを差し出せ!さすれば命だけは見逃してやる。さあ!」

 「いや、さあ!って言われてもね?」

 「ですね」

 「はぇ?」

 

 男の表情が笑って大きく口を開けた状態で固まった。先程まで圧倒的実力の差に慄き、身動きも取れなかったはずの二人が急に態度を軟化させ、まるでどうしようもない幼子にする様にやれやれと苦笑している。

 

 「何故だ?どういうことだ?貴様らは今まで何もできなかったはず!遂に恐怖で狂ったか!?こちらには天使や高位の神官がいるのだぞっ!?何故その様な態度が取れる!」

 「何もできなかったのではない、しなかったのだ」

 「あ、俺は君らのレベルとステータス、スキルを見てただけだから、何もしてなかった訳じゃないよ」

 「か、〈鑑定〉スキル持ちか!」

 

 似て非なるものだ。〈真名看破〉と〈鑑定系〉は範囲も効果も違いがある。前者はゲームでこそ英霊の宝具威力を下げるだけの効果になってしまったが、この世界はテキストを反映する様に変化している。

 

 つまり、アニメ版の効果も持つのだ!

 

 「ふじ……ゴホン、村人Rよ。誰に向かって説明しているのかわからないが、もう倒してしまっていいのだろう?」

 「通りすがりのって長いな。マジキャスさんでいいや。マジキャスさんのノリのいいとこ大好きですよ」

 

 「名前なんて即興なんですから勘弁してくださいよ。ほら、あんまりふざけると先方も拗ねて帰っちゃいますよ」

 「誰が拗ねて帰るか!この私を愚弄するとは本気で死にたいようだな?ただの村人と情けをかけて苦痛なく殺してやったというのに、愚かな。もう容赦せん。貴様らを殺して見せしめにし、村を焼き払ってやる!」

 「あそ。じゃあお願いします。殺しちゃダメだからね」

 「わかっている。情報は貴重だからな〈負の爆裂(ネガティブ・バースト)〉!」

 

 モモンガの声とほぼ同時に、天使達が一掃された。瞬きも許さない一瞬の出来事だった。

 

 「ば、ぶぅあかなぁぁあああ!?一撃だとっ!?ありえん!天使達はともかく私の強化された〈監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)〉がたった一度の魔法で滅ぼされるはずが!」

 

 〈監視の権天使〉は通常よりも高位の天使であり、同じ権天使達の中でも最も防御に優れた存在だ。

 更にニグンの持つ生まれながらの異能(タレント)は『召喚モンスターの強力化』であり、彼によって召喚された天使達の能力は他の天使と比べて高くなっていた。

 

 「残念だったな、これは現実だ」

 「た、隊長、我々はどうしたら!?」

 「……最高位天使を召喚する!全力で時間を稼げ!」

 

 つい先程まで驚愕に顔を歪め脂汗を流していた男は、部下の言葉で正気に戻り、いや、現実から目を背けて自身が持つ絶対の力を行使しようと懐から光り輝くクリスタルを取り出した。

 

 「あれは、〈魔封じの水晶〉!しかも最高位だと!?」

 「下がって!防御スキル全開で防ぎます!」

 

 今から英霊召喚を行なっている暇はない。モモンガの前に出てリディは防御スキルに魔術を重ね掛けしていく。

 

 「見よ!!最高位天使の尊き姿を!〈威光の主天使(ドミニオン=オーソリティ)〉!」

 

 もう夕暮れだったはずが、ある一箇所から辺り一面に光が満ちる。

 何対もの純白の翼を広げ、手には王権の象徴でもある錫杖を持ち、頭と足がない異形の天使が全身から神々しい光を放ちながら両者の間に顕現した。

 その神聖なオーラに召喚した法国の者達は放心し、無意識の内に祈りを捧げる。

 

 法国が伝える伝承の一つに、この〈主天使〉が存在する。嘗て六大神に仕えた従属神が変性した魔神──恐らくプレイヤーとナザリックの様なNPC──を単騎で撃破したという逸話が残っている。

 故に、人類が到達できていない第7位階の魔法が使える存在をこの世界の住人が最高位と間違えても仕方のないことだった。

 だが、モモンガ達からすれば第10位階の魔法を封じれるアイテムの無駄遣いにしか思えなかった。

 

 「これが……切り札、だと……」

 モモンガから溢れた言葉に気を良くしたニグンは調子を取り戻して笑う。

 「恐ろしくて声をも出ないか!この強大な力の存在を前に怯えるのも無理は──」

 

 「……下らん」

 

 「──は?何?」

 

 また、男が固まった。今日だけで常識が幾つもひっくり返されてもまだ慣れないらしい。汗が一筋たらりと流れ、笑みで釣り上がっていた口角はヒクヒクと強張っていた。

 

 「この程度の幼稚なお遊びに警戒していたとは……」

 「幼稚……?何を馬鹿な……いや、まさか……は、ハッタリだ!〈威光の主天使〉!あの愚か者どもを滅殺せよ!」

 

 異形の姿にも関わらず聖なる力の集合体は激昂した男の声に従い錫杖を天に掲げる。

 ほぼ同時に天より光の柱が二人に降り注ぐ。

 

 ……とはいえ、聖なる攻撃が彼らに齎したダメージは無いに等しく、カルマ値がマイナスに突入しているモモンガは、「ちょっと日が強くてヒリヒリする日焼けかな?」くらいのものである。

 だが、これは彼がこの世界に来て初めて負ったダメージだった。

 リディに至っては善悪はないが中立であった為にダメージは全くなく、少し眩しいくらいでほぼ何も感じなかった。

 

 「ハハハハ……これが、ダメージを負う感覚!痛みか!」

 「んー?ちょっと眩しくないですか?」

 「え?あぁ藤丸さんカルマ値が」

 「あ、そうだった」

 

 リディはともかくモモンガがちゃんとダメージが入っているのだが、光の中での会話は相手を煽っているとしか思えなかった。

 

 「ほい」

 

 いつまでも素直に雑魚の攻撃を受けている訳にもいかず、リディはどこから取り出したのか紅い槍を手に取りその穂先で眼前の異形をいとも簡単に斬り裂いた。

 まるで、朝食に塗るバターでも斬ったかの様な呆気なさに、光の粒子と化した天使。

 男が、ニグンが少年に感じていたのは凡人のそれだ。決して人類の脅威である魔神を単騎で屠る最高位天使(笑)を一撃で消滅させる埒外の存在ではなかった、はずだ。

 

 「な、う、あ……ばか、な」

 「こんなもんですかね」

 「……藤丸さん?聞きますけど、今のレベルは?」

 「?体感ですけど、80(第3再臨)くらいですかね?」

 「──は?」

 

 

 ビシィイイッ!

 

 

 光源で真昼の様に明るくなっていたが天使が消滅したことで元の夕暮れに戻っていた空に大きな亀裂が奔った。

 あれは情報系の魔法で遠距離から監視しようとしたが防壁か何かで阻害された時のエフェクトと同じものだった。

 リディは空の亀裂が風に溶けて消えていくのを無言で見上げていた。

 

 「い、一体何が?」

 「情報系の魔法によって、お前を監視しようとした者が居たみたいだな……」

 モモンガがそう告げるとニグンは既に悪かった顔色がサーッと更に青くなっていく。

 「本国が……俺を?」

 「私達の防壁が作動したから、大して覗かれてはいないはずだがね……どうした?藤丸さ──」

 

 リディはモモンガの〈攻性防壁〉で小悪魔やアンデットを送り込んでいる法国と繋がる亀裂目掛けて朱槍を投擲した。

 

 「その心臓、貰い受ける──!真名解放『突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルグ)』ッ!!」

 

 空の割れ目を貫通して亀裂を広げながら進む槍の行方にリディが手の向ける。手に魔力が集まった時の温もりを感じながら声高らかに叫んだ。

 

 「〈転移(テレポーテーション)〉!じゃあ行ってきますモモンガさん」

 「ちょっ藤丸さ──」

 

 モモンガの制止も止まない内にリディの視界が切り替わる。そこで最初に目にしたのは自分、ではなく、自分の顔が映った水面だった。

 

 

 

 そこは法国の首都、いや、神都と呼ばれる6大神殿。その土神殿にある神都最大聖域の1つ。

 周囲には円筒形の白亜の石柱が立ち並び、細かな装飾の入ったフリーズを持つエンタブラチュアを支えている。

 その神秘的で荘厳な雰囲気は神殿と判断して間違いが無いものがあった。

 床は磨かれた大理石で出来ており、途中から下に向かう数段の階段をえて、露出した岩肌となっていた。いうなら神殿内にある祭壇というところだろうか。10メートル四方程度だ。

 

 天井部分は無い為、夜空に浮かぶ月が祭壇まで碧い微光を放っているかのようだった。そして空から降り注ぐ月明かりが、壁や床で反射し、この場所自体が白い燐光に覆われているようだった。そのために、明かりが無くても眩しいほど良く見える。

 そんな神秘的な場所を僅かな風が、円柱の隙間を抜けて流れていく。

 

 リディは一瞬でも、その光景に見惚れていた。

 だが、それも不粋な者達の存在にその表情が歪んだ。

 岩場を越えた、石柱のもう一回りに全身鎧を纏い、剣を下げた者達の姿があったのだ。ただ、鎧も剣もどれもが充分な機能を持っているが、細かな装飾の施された観賞用じみたことろがある。

 そんな全身鎧の作りの為、確かに無粋ではあるが、神秘性を損なうまでには至っていなかった。いや、その為にそういった武装で全身を整えているのだろう。

 その全員が剣を取り構え、侵入者に警戒している。

 何せ、リディの真下には先程占術を行ったと思われる少女。恐らく巫女だろう。薄い布一枚で他は頭部のサークレットと目隠しの布だけというなんとも扇情的な姿だが、ここが敵陣のど真ん中で、一度敵を認識した彼は決して容赦しない。

 少女の他にも何人も神官らしき姿の女性が倒れていた。

 横になっている少女に突き刺さった朱槍を抜き、左手を前に突き出して魔術を行使する。

 

 「少し多いか……〈英霊召喚(サモン・サーヴァント)〉」

 「ふん、待ちわびたぞマスター」

 

 彼の中にある聖杯から光が溢れ、真っ白に覆い尽くされた視界が晴れるとこの世界に存在しないはずの赤い中華服、功夫映画でよく見る唐装で3mを超える大槍──六合大槍を持った赤毛の男が餌を前にした虎のような、獰猛な笑みを浮かべて立っていた。

 

 「魔術師共の計画とやらはいいのか?先程から撤退しろやらうるさくてかなわん」

 

 そうなのだ。聖杯に繋がる彼らは〈伝言〉をせずとも魔力で繋がっている限り〈念話〉で会話可能だ。

 

 『お前が死ねば我らも消えるのを理解しているのか!』

 『予定にない行動を取るなとあれほど!』

 『何故一人だけなのだ!いやそれはいい!早くそこから撤退しろ!戦闘狂は殿でも何でもいいから絶対に生きて帰せ!』

 

 軍師達やマスター、創造主であるリディの身を案じて撤退、または召喚限界最大人数の英霊を呼び足止めさせる声が二人の頭の中でけたたましく響いていた。

 

 「喧しい。生きていればいずれ死ぬ。ここで死ねばマスターもそこまでということだ」

 「手厳しいな。書文先生は……情報では槍の男と鎌の女がいる。男の方を頼むよ」

 「呵々!儂がどちらも倒してしまっても善かろうに……殺れるのか?」

 「ははは、ま、やるだけやってやるさ」

 

 ヒュンヒュン、朱槍を振り回して先生と呼んだ中国系の男に意思表示する。この槍の持ち主を知るが故に男もフッと笑って周囲を囲む儀仗兵などいないものと、唯一の扉の奥を見据えた。

 

 「来るぞ」

 

 李書文の声とほぼ同時に扉が轟音と共に押し開けられた。

 情報通り、黒髪の中性的な優男がその装備に不釣り合いな見窄らしい槍を持っていた。その隣にヨボヨボの干物みたいな老婆が金の龍の刺繍が入ったチャイナドレスを着ていて……。

 リディだけでなく横にいた李書文も見苦しく感じたのか視線を外す始末。誰もヨボヨボの婆さんの脚線美なんぞ見たくない、はずだ。

 リディは心底この場に幼女大好きな変態がいないことを感謝した。絶対シリアスな雰囲気をぶち壊して吐いた後くどくどとフェチや萌えについて語ったことだろう。

 これから戦うというのに、茶番はいらない。

 

 「なんだ?これだけか?鎌の女も、他の仲間もおらんのか?……つまらん」

 「あれでも人類の守り手らしいし、やり方は最悪だけど。仲間は違う任務でいないのかな?」

 「ふん、まあいい。あれは元々儂の獲物だ」

 「どうぞ」

 「……見たところ貴方達は人間種のようですが……何故このようなことを?」

 

 この世界の最高戦力の一角を自負している男が警戒したまま、しかし不思議そうに眉を顰めて尋ねる。

 闘争に茶々を入れられ一瞬、書文が顔を顰めたがその場に留まっていた。

 

 「確かに俺は人間種だ。だから?」

 「だ、から……?」

 「お前達も、同族を襲うだろ?いや、人間程同族を進んで襲う種族はいないな。ね、先生」

 「呵々々ッ!確かに、マスターの言う通りよ。我ら武に魅せられた愚か者は強者を求める故」

 

 リディが、〈藤丸一香〉だった、いやそれよりも更に昔から地球上で次点で人を殺している生物が人だ。ちなみに1位は蚊だ。

 

 「それに、さっき陽光聖典とかいう殺人鬼が俺の住む村を襲って来たからな。俺は大切な家族を守る為なら自称人類の守護者を滅ぼすくらいするさ」

 「「「!?」」」

 「お前もバカだよな。人間以外を滅ぼして、待っているのは滅亡なのに。──ある男、いや、〈プレイヤー〉の世界の話をしようか」

 

 リディの口から出て来た言葉にその場は戦慄する。自分達が神と崇拝する六大神と同じ存在が、目の前の少年だということに。

 〈プレイヤー〉の存在は秘匿される。最も尊き存在であり、中身が人間なので基本的に人間に対して友好的だった。

 その証拠に六大神の一柱、死の神スルシャーナも最期まで人間に対して慈愛の目を向けていたという。

 だから、彼ら残された人間は勘違いしていた。神は強大な力を持っていて無条件で人類の味方だと。彼らもただの人だというのに。

 

 「俺が最初に生まれたのは緑豊かな世界だった。多少の猛獣はいたが、絶望するような魔物の脅威もなく森や自然と人間が共存し、だけどお互いに深く踏み込まず平和的に暮らしていた」

 「一度目の生を終えて、また人間に生まれ変わり最初の時から丁度100年程経っていた。その頃、世界は地獄だった」

 「空は常に酸を含んだ雲に覆われ、その隙間から見える空や海は赤銅色で空気すら毒を含み、新鮮な空気を作る機械がないと屋内から出られないそんな荒廃した終末期の世界」

 「原因は人間が自然のバランスを崩したこと。人間の住む領分から外れて外界を侵し、数多の生物を殺し尽くした先の世界だ。そんな世界で必死に生きて来たのが俺達〈プレイヤー〉という存在だ。俺もこの世界で生まれた時は感動したよ。まだ世界は死んでない。最初の人生から懐かしさすら感じる大自然の美しさを感じた」

 「だが、俺達が犯した過ちをお前達が再び繰り返そうとしている。人類の未来を思うなら多種族を滅ぼすのはやめろ」

 「しかし!魔物は力無い人々を襲います!貴方様はそれを見て見ぬ振りをしろと!?」

 

 「俺はやり過ぎだと言ってるだけなんだけどな。災害から身を守るのは当然のこと。まあ、人間至上主義のお前達に何を言っても無駄でしょうね」

 

 多種族排他主義の彼らは生まれた時からそれが当然で正しいことだと常識として認識している。その根本をひっくり返すことは容易ではない。

 元々、リディも説得程度でどうにかなるとは露程にも思っていない。まあ、多少きつく叩けばマシになるかと考えていたが。

 ここに来た理由は宣戦布告して来た襲撃者に対する御礼参りだ。

 

 「長々とごめんね先生。お待たせしました」

 「待ち草臥れて欠伸が出そうだったぞ。だが、良かったな。マスターが躊躇なく敵対する程の輩だ。我らがマスターの怒り、身を以て知れ」

 「くっ……!」

 

 赤が動き、黒が防ぐ。

 槍を主力に持つ強者同士がぶつかった。

 

 

 

 




 
 戦闘シーンに入れませんでしたぁあああ!G-SHOCK!
 
 召喚したのは李書文先生(槍)でした!タイツ師匠でも良かったのですが一応聖杯転臨で完凸しているのでイジメにしかならないと思いまして却下。師匠の勇姿を期待した皆すまない……。
 その点先生は槍を投げるなどの遠距離攻撃はなく、魔術もなく純粋に槍同士の戦いになりますので、レベルも隊長は不明ですがこの時空では80台だとなってますのでいい勝負、になるかなぁ。あれぇ?急に不安になって来たぞぉ!
 
 厨二病エルフ娘こと絶死絶命ちゃんは100に近い90台なら隊長が手も足も出ない存在だと辻褄も合いますし、このまま突っ走ります!
 


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隊長「スルシャーナ様……」

 
 隊長の名前わからないんですよね……web版にあったっけ?
 
関係ないですが隊長って聞くとお風呂のヒヨコを思い出しますね。


 

 

 赤──李書文が飛びかかり長い槍を振り下ろす。

 黒──漆黒聖典の隊長はそれを受け止める為槍を両手で頭上に掲げた。

 

 ガッッギィッンンンン!!

 

 鉄よりも遥かに硬い物質同士がぶつかり合い火花が散る。振り下ろされ撓る槍はぶつかった反動で穂先が跳ね上がるとくるりと回転し今度は反対の石突で急所を狙う。

 これが常人なら反応する間もなく後に吹き飛ばされていただろう。だが、相手も槍の達人だ。

 槍が離れる瞬間から動き、半身横に跳んで槍を縦にし突きを太刀打ちの部分で受け流す。さらに反撃に槍を返して書文の腹を狙い薙ぐ。

 

 パシィッ!予知していたのか槍を使い熟知しているからかお互いに次に繰り出されるであろう攻撃を読んでいるのか、横薙ぎに迫る槍を掴み固定した。

 もう片方の腕で突き出した大槍を脇に挟むと隊長がしたのと同じ横薙ぎを繰り出した。

 

 隊長は槍が掴まれているので逃げることが叶わず、腰を落とし頭をギリギリまで後ろに逸らすことで凶刃をやり過ごし、両手に握る槍を上に力一杯振り上げた。

 その力は人外の存在を彷彿とさせる怪力で人一人の重さは簡単に浮き上がり、その力に合わせて書文は自らも跳び後方に下がる。

 また勝負は振り出しに戻った。かの様に見えるが、今の攻防で書文が2回、隊長が1回攻撃して防ぐまたは避けられている。その僅か一合でもお互いの実力を把握するには十分だった。

 

 隊長は侵入者の実力に驚き、冷や汗が頬をたらりと伝う。それでも構えは解かずに視線だけ動かして周囲の儀仗兵達に目配せを送る。

 

 「〈下級筋力増大(レッサー・ストレングス)〉!」

 「〈下級敏捷力増大(レッサー・デスタリティ)〉!」

 「〈盾壁(シールド・ウォール)〉!」

 「〈恐怖(フィアー)〉!」

 「〈混乱(コンフージョン)〉!」

 「〈善の波動(ホーリーオーラ)〉!」

 

 周囲を囲んでいた儀仗兵や一際服装が違う神官(女)達が一斉に魔法を放つ。その中には隊長を支援するものから書文達に向けた攻撃魔法もある。

 

 「させないよ。〈スケープゴート〉〈オシリスの塵〉。先生!」

 「恩にきる。ッ!マスター!」

 

 魔法が不発になり真剣勝負に横槍を入れさせない様ヘイトを集めたはいいが、書文の叫びにリディは目の前に迫る大鎌の存在に一瞬気付くのが遅れた。

 

 「ガッ!?」

 

 なんとか体を捻り朱槍を間に挟んだが、その特性上盾の横から攻撃できる鎌の先端がリディを吹き飛ばした。直前に防御を強化していなければ今ので致命傷を貰っていた。

 だが、役者は揃った。

 

 リディの前に立つのは法国の単体最高戦力。文字通りの切り札。漆黒聖典番外席次。〈絶死絶命〉。

 

 リディ達が仕入れた情報では〈森妖精(エルフ)〉の国王の血縁者でプレイヤーを親に持つ〈神人〉と呼ばれる力を覚醒させた人類最強の存在。普段は法国の至宝が眠る聖域を守護しているはずだが、この騒ぎを聞きつけて抜け出して来たらしい。だとしてもかなりの早さだ。

 だが、好都合だ。リディ達は軍師達と共に彼女もこの国を襲撃する上で障害になると考えて対策を練っていたのだ。

 

 「やっとおでましか。先生!そっちは任せました!」

 「貴方より、あっちの男の方が強そうだけど」

 「まだ〈スケープゴート〉の効果があるからな。ちょっと付き合ってもらうぞ」

 

 槍を杖代わりにして立ち上がり、一度振って感触を確かめながら構える。対して白黒のモノトーンカラーな人類の守り手は面倒臭そうに視線を向けるだけ、それもスキルの効果でしかなく、意識を強制的にリディの方へ向けられているだけで構えることはなかった。

 

 彼が構えてから数瞬、体勢を獣の様に低くしてドンッと飛び出す。

 脇目も振らず、小細工など通用しない。そのくらいの力量差があるとリディは〈真名看破〉で把握していた。そしてこの世界で培った恐怖の操作と気配を探る技術。

 それら全てを強化して思考を加速させる。彼の体が音速を超えた時、突き出した槍の穂先と無造作に置かれた鎌の峰部分がぶち当たり突進はそこで止められ──、

 

 筋力差は最初から把握していた。武器の等級もまともに打ち合えば自分が力負けすることも知っていた彼は突進の運動エネルギーを上に曲げた。

 少女が化け物じみた動体視力で完全に捉えた槍を止めたかに見えたが、僅かに接着点をずらされ槍はそのまま上に逸れて交差する。

 

 「ふんっ!」

 

 李書文が最初に行った上段からの叩き下ろし、少女の大鎌が足元の地面に少し落ちると始めてリディと少女の目が合った。

 

 「っりゃ!」

 

 この槍の持ち主に襲わったやり方で次々と同じ朱槍を呼び出し投擲する。因果も何も掛けていないただ投擲された槍が少女の動揺もなく鎌の振り回しで全て弾かれる。

 槍を弾き、さらにもう一度回転して来た刃先がリディの首を狙う。

 

 「くっ──〈固有時制御(タイムアルター)〉三倍速!」

 

 ユグドラシルにも〈時間停止(タイムストップ)〉や〈時間逆行〉など時間に関するスキルや魔法は存在する。リディのこれは自分自身のみを加速し、倍速を変更できる。

 通常、〈自己時間加速(タイム・アクセラレーター)〉と同一視されがちだが、アルターの方は1日の回数制限が存在しない利点がある。その分、最大HPを消費する欠点を除けば最初から全開で一度も姿を見せずに敵を殲滅することも可能だ。しかし、最大HPが減少する現象は少し時間を置けば元に戻るが、現実となった今体力の消耗が激しくなる。それもこれも時間対策をされていなければ、の話だが。

 ユグドラシルではその辺かなり重点的に防御されたのであまり活躍の場がなかったが、この世界の魔法文化を知るとおざなりにも程があった。

 

 「!」

 少女にとっては確実に獲ったと思った一瞬の間に獲物の少年は視界から消え失せ、次に少なくないダメージを全身に感じ、いつの間にか背後を取られていた。

 理解できないといった彼女の表情にリディは僅かに憐憫の目を向ける。

 

 「その強さ、独学か。誰かに師事したこともないだろうね」

 

 それに加速した時間で攻撃と共に彼女の全身を観察していた彼はちゃっかり彼女の耳を実際に見てハーフエルフだと再確認した。

 

 「さっきのは謝るわ。貴方、強い……!」

 「俺は強くなんかないよ。武器がいいだけ」

 

 それぞれ朱槍と大鎌を構える。

 

 「レベル差でガチンコじゃ勝てなさそうだし、戦場を変えようか」

 「っ〈転移(テレポーテーション)〉か!?」

 「残念外れだ。……影の国に連れて行こう──その魂まで俺の物だ!〈死溢るる魔境の門(ゲート・オブ・スカイ)〉!」

 「エッ」

 

 悪魔や死神が彫られた巨大な門が虚空より現れ、ゆっくりとその扉が開かれた。

 影の国の女主人スカサハが認めた者以外生きてその門をくぐること叶わず。効果範囲の生命体──隊長を除き儀仗兵や神官達を全て吸い上げていく。

 門を召喚したリディの前に立つ少女も例外ではない。

 

 変な声を出して一瞬惚けていたが、最初に儀仗兵が吸い込まれた瞬間、咄嗟に鎌を大地に突き刺して門の吸引力に耐えている。だが所詮悪足掻きに過ぎない。

 門の奥から吹き込む死の風が少女同様耐えていた儀仗兵を包むと、まるで糸が切れた人形の様に力尽き抵抗なく空へと吸い込まれていった。

 あれがこの宝具の即死効果だ。それに抵抗できたとしても影の国は世界の理から外れた魔界。門にMPを吸い取られ、様々な状態異常が継続して付与される。

 生命力を吸い取られ著しく衰弱した彼女はやがて力尽き、鎌からその手を離してしまった。

 

 「番外席次!」

 「余所見とは、余裕だな」

 「ぐぅっ!」

 

 唯一効果範囲から除外され、門の影響を受けていない隊長が連れ去られた少女に叫ぶも、それは致命的な隙でしかなく簡単に書文に吹き飛ばされる。

 

 「じゃあ先生。行ってきます」

 「おう」

 

 門を抜けた先、植物も生えない死の大地にて耐え切れずに即死した儀仗兵の魂が捕らえられていた。

 

 「ぐっ……」

 「おお、すごい。MPも少ないはずなのに、あ、純戦士職だからそんな負担がないのか」

 

 そんな死の世界の中で必死にもがく存在。モノトーンツーカラーの少女だ。

 彼女は今も片膝をついているが、その魂は健在で何重にも襲いかかるデバフで動けはしないが、それでも必死にフィールドダメージから耐えて倒れないよう踏ん張っていた。

 ユグドラシルとは違いこの世界でのMPの概念は曖昧だ。

 

 マジックポイントと呼ばれるそれは両世界で魔法を使う為のエネルギーに間違いない。だがこの世界ではMPを魔力と称し、生命の余剰エネルギーという側面もあった。

 つまりこの世界の住人はMPが減少するか0に近くなるにつれて倦怠感や疲労、最悪気絶して死に至る。ちなみにリディは容れ物こそこの世界の住人だが、中の魂(仮)はプレイヤーのものである為、多少の疲労はあるが元のMPに加えてこの世界の魔力を上乗せしている状態だった。

 

 対して、絶死絶命の少女は親こそプレイヤーだが彼女自身は完全にこの世界の住人だ。だから急激に魔力を吸い取られ疲労困憊に陥っている。

 何もしなければ体力が尽きるかリディにとどめを刺されて死ぬかの二択しかない。もう彼女に抵抗できる力など残っていないのだ。

 

 「さて、お前も辛そうだし、楽に死なせてやる。高レベルの人間は貴重だからナザリックに持ち帰って色々実験できるかもしれないな。モモンガさん達喜ぶかな?」

 「ぅ……ぐ」

 「もう喋れないか……もし生き返ったら、いや、完全にifの話だな」

 

 朱槍を構え、彼女の喉元に穂先を突き付ける。スッと刃がかすり首から赤い血が流れてきた。

 

 「じゃあな」

 

 ヒュッ!……ドサ。

 

 首のない躯をアイテムボックスに収納する。遺体であれば人間も動物も収納できることは知っていた。

 

 「戻ろう」

 異界の門が開き、吹き荒れる死の風をバックに法国へと戻って行った。

 

 

 

 

 「来たか。どうだ?」

 「ちゃんと殺して来たよ。ってこれが初めてじゃないんだから、そんな心配しないでって」

 

 門を抜け、元の場所に降り立ったリディに、隊長を壁に吹き飛ばした李書文が気軽に話しかけた。

 

 モモンガ達のように異形種ではなく人間となった彼はこの世界に生まれた当初こそ生前そのままの感性を持っていたが、20年近い時間やトブの大森林に近い過酷な村人生活が、それを粉々に粉砕し全く別のものに再形成されていた。

 普段の性格はそれほど変わりないかもしれないが異常なまでに敵に対して、相手が人間だったとしても容赦がなかった。

 

 「それにしてもあの強さで装備は〈伝説級(レジェンド)〉だったな。世界級持って来られても別に問題ないけど」

 「わーるどあいてむとは……もしやあれのことか?」

 

 書文が顎で示す方を見れば先程まで白亜の壁に埋まっていた隊長と、その隣に皺くちゃの老婆が腰近くまで際どいスリットが入ったチャイナドレスを着て立っていた。

 

 何度見ても嘔気を催す冒涜的な光景に二人して精神ダメージを受けていれば、隊長が老婆に指示を出す。

 

 「今だ!使え!」

 

 隊長の声に老婆が両腕をリディ達の方に向ける。ドレスに刺繍されていた金の龍が光り輝き天に昇る。リディはその現象、エフェクトに見覚えがあった。

 

 「あれはっ〈傾世傾国〉か!?」

 

 天に昇る龍が身を翻しリディ達に向かって降りて来る。その世界級アイテムの能力は洗脳、支配。何と言ってもアンデットの様な精神支配無効化特性を持つ種族にも効果があるという最悪のバランスブレイカー。

 

 

 だが、世界級唯一の欠点が発動した。

 

 

 リディは本来自分を守る為に召喚したはずの李書文を庇い、龍の前に出る。その直後光の龍は何もなかったかの様に霧散した。

 リディ自身は知っていたが、彼が洗脳された様子がないのを見ると周囲の人間が騒ぎ立てる。

 

 「カイレ!どうだ!?」

 「し、失敗じゃ!何の繋がりも感じん!?こんなことは初めてじゃ!」

 

 世界級アイテムの欠点。それは同じ世界級アイテムを持つプレイヤーには無効化されること。〈ワールド・チャンピオン〉などの特殊な職業にも効果を発揮しない。

 それはユグドラシルでは常識だったが、法国の彼らは知らないらしい。リディが前々から潜入させて情報を集めていたが、ユグドラシルのアイテムはあってもその用途や特性については失伝しているのを悟った。

 

 「なにが……」

 「お前達が知る必要はないな。お目当ての世界級アイテムも確認できたし……そろそろ終わらせよう」

 

 槍に魔力を通して老婆に狙いを付ける。同期する様にドクンッと朱槍から鼓動の音が聞こえた。早く殺せ!と言っているようだった。

 心臓に刺さるという因果が確定し、穂先から赤黒い魔力が漏れる。

 

 「させるか!〈流水加速〉〈疾風走破〉〈一点剛撃〉〈超回避〉〈能力向上〉〈能力超向上〉〈神速穿撃〉〈神威招来〉〈魔法上昇・上位全能力強化(オーバーマジック・グレーター・フルポテンシャル)〉」

 「真名解放ッ!刺し穿ち……突き穿つ!」

 

 隊長がありったけの〈武技〉を重ね掛けすれば、見窄らしかった槍も呼応する様に本来の姿を現した。金色に輝く流星の如くキラキラと光を纏い邪悪なるモノを消し去らんとする。

 その槍の真名は──〈聖者殺しの槍(ロンギヌス)〉。

 

 

 「オオオオオッ!!〈竜王滅槍〉オオオオッ!!!」

 「〈貫き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルグ・オルタナティブ)〉ッ!!」

 

 

 リディの手を離れた2本の槍が真っ直ぐ老婆の心臓目掛けて飛翔する。それと同時に男のあまりの速度に穂先が炎熱化した必殺の一撃が彼の懐に入る。

 

 「……バ……カな……」

 

 結果、〈傾世傾国〉同様、世界級アイテム同士で無効化され、強化されたとはいえ武技のみの攻撃では無敵状態の彼にダメージを与えることは叶わなかった。

 そして老婆を狙った朱槍は2本とも彼女の心臓を貫いている。即死だった。

 法国の秘宝がどちらも通じず、自分の最大の一撃も無傷で防がれてしまったショックで膝を折り、手から槍を取りこぼす。

 

 ……ゴーン、リン、ゴーン、リンゴーン。

 

 死を覚悟した隊長は脳裏に響く鐘の音を聞いた。絶望の淵で信心深い彼は断罪の剣を手にした死神を見た。

 

 「スルシャーナ様……」

 「信託は下った……聴くが良い、晩鐘は汝の名を指し示した。告死の羽──首を断つか!〈死告天使(アズライール)〉!」

 

 ザンッッ!

 

 その死に顔は、稀に見る穏やかなものだった。

 

 

 

 

 




 
 初代様がいいとこを持って行きました(笑)
 元々、初代様と絶死絶命を戦わせる予定だったのですが、FGOで初代様持ってないので処刑人(ガチ)で出てもらいました。
 
 設定の方で一度にパーティー、6人まで召喚可能と書きましたが、同時に召喚していられる英霊の数に修正しました。
 理由として常に自分のPCデータを降ろしてるので合計で7騎召喚しているということで。
 


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階層守護者一同「「「」」」

 
 
 今回、個人的な理由で内容の精査が終わらないまま予定していた投稿日になってしまいましたことをお詫びします。<(_ _)>
 
 英霊達を多数出せたので満足です。明記していないので読者の皆さんで自由に想像していただければ……
 あ、FGOですけどAUOお迎えしました。ありがとう10月の呼符!
 
誰か、デミえもんの自動翻訳機ください……...( = =) トオイメ


 

 

 法国の大幅な戦力低下を達成したリディ達はこのまま神都を滅ぼすことなくカルネ村に帰還することにした。

 もう数日後には他の国に法国が襲撃された噂が流れる。いや、潜伏するアサシン達に流させる。

 残る人間が幾ら連合を組んだところでアインズ・ウール・ゴウンに敵うはずもないが、評議会の竜王達だけが実力も情報も不透明だった為、神都襲撃に留める事にした。

 法国崩壊で評議会が出張って来たりすれば厄介どころの話では済まないからだ。

 世界級アイテムやさっきの巫女が持っていた〈叡者の額冠〉を回収し、置き土産に大量の海魔を放ったが、Lv30程度のもので増殖能力は控えめになっている。残りの漆黒聖典が出張れば大した被害は出ないだろうと踏んだ。

 

 「これで法国も終わり……あっけないものだな」

 『バックにギルドがあると安心感が違うだろうが、今回の様な』

 「はいはいわかってますよ先生」

 『わかってないから言っておるのだ!だのにお前という奴は!』

 

 カルネ村へ帰る途中、リディにとってもう恒例の様な各師匠からの批評タイムを味わっていた。実を言えば神都に来た時の様に転移の魔法で即帰還できたのだが、モモンガ達三名から〈伝言〉でお説教が待っているのが確定し、子供の様なせめてもの抵抗に地道を歩いて帰っていた。

 

 「あ、そういえば法国の陽光聖典って竜王国に支援してたっけ?獣人相手に」

 『む、そうだったか。どうするんだ?あそこの自爆魔法は強力なんだろう?』

 「一発で大都市を壊滅させる魔法は確かに脅威だけどさ……正直それを連発できるか不明だし……探りを入れるか」

 

 『ふん、悪い顔をする様になったな』

 『クハハハ!残酷なことだ』

 『フフ。我々の界隈に適応すれば自ずとそうなるサ。何せ人間の本質は悪だから、ネ?』

 『私が言うことでもないけれど、そこのアラフィフは黙ってなさい。私のマスターが闇堕ちとか……ごにょごにょ』

 

 突然、属性悪の英霊達が息を吹き返した。そんなに酷い顔をしていたか?と不安になるリディだが、頭に絶えず聞こえる英霊達の声に思考を止めた。

 

 『マスター』

 「ん?プニキどうしたの?」

 『さっきの獣がどうたらって話なんだが、俺のスキルに〈獣殺し〉があるだろ?役に立てると思ってな』

 

 プロトクー・フーリン。それが彼の霊基に刻まれた名だ。確かに彼なら獣人の大群も容易く蹂躙するだろう。冒険者として偶には表から堂々と入るのもいいかもしれない、などと考える思考力はなく、完全に思考停止状態の彼はプニキの提案に二つ返事で答えていた。

 

 

 

 普通なら法国の神都からカルネ村近くのエ・ランテルまで1週間はかかるが、この世界で他にいない高レベルな人間なリディは普通に移動するのも規格外だった。

 そもそものビルドで後方支援としてとにかく攻撃が当たらないのと支援が尽きない様MP量に気を使っていたから同じLv100でも上位に入る程だった。

 人間種になり種族の特性がなくなったとはいえ職業レベルは英霊達の協力もあり鍛え直されているので体の動かし方も矯正されより素早く感じる。

 何が言いたいかと言うと、思考停止した所為で重かった足は軽くなり半日で長い道のりを走破してしまったのだ。

 

 「あ、やば」

 

 気づいた時には夜は明け、カルネ村も起き出しては畑仕事や狩りに精を出していた。

 その周囲にはリディが知覚できる不可視の〈八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)〉が数体と、彼らに護衛されたピンクの肉棒の姿が……。

 

 「おかえり一香お兄ちゃん!」

 

 「チェンジで」

 「……藤丸さんくらいですよ、私の地声の方が好きだなんて言うのは。これでもロリ声担当では売れっ子だったんですからね?──それはそうと、何故あんな無茶を?」

 

 出迎えた時の渾身の演技はどうやらリディには不評だった様で、即行で却下されてしまい茶釜も一瞬惚けたがすぐに持ち直した。

 ユグドラシル時代にも似た様なことがあり、経験済みだったのがお互いに幸いした。前回はフレンドリーファイアが無効とはいえ視界いっぱいに広がる……これ以上は彼の名誉の為に伏せておこう。

 とは言え、演技の時よりもかなり、女性にしては低いくらいの声で凄まれ彼のトラウマが蘇り体が硬直する。

 

 「無茶って思わなかったから……ダメですね、はい。後顧の憂いを断っておきたかったからです」

 「なら、尚更私達全員でかかるべきでした。貴方ならメリットも全て理解してますよね?藤丸さん」

 

 それは彼女の言う通りで、リディは可能だったにも関わらず法国に配置していた山の翁を除く英霊を一人しか召喚しなかった。ただの慢心、何があってもアインズ・ウール・ゴウンが何とかしてくれるという安心からくるものだった。

 茶釜が言った時期や情報、双方の戦力など全てを考慮した上で油断なく確実に、神都を半壊させるぐらい徹底して叩くべきだったのだ。

 レベルがカンストしていない彼では単騎の戦力では絶対に法国最強、いや、人類最強の絶死絶命に勝てなかった。

 レベルに付随するステータスの低さを彼固有のスキル〈貴き幻想(ノウブル・ファンタズム)〉により英霊の宝具を借りることで彼の技量を錬鉄の英霊が如く憑依経験で限界まで上げることで何とか拮抗していたに過ぎない。

 

 ここで思い出してほしい。彼が持っていた朱槍は元々誰の物だったかを。そう、影の女王スカサハだ。アルスターに登場する女武芸者の一人だが、彼が弟子に教えたのは具体的に球の妙技、刃の妙技、平らに置いた盾の妙技、投げ槍の妙技、縄の妙技、胴の妙技、猫の妙技、大胆鮭跳躍の妙技、棒高跳びに障害物跳び、歴戦の戦車の御者だけに許された後退回転、必中必殺ゲイ・ボルグと真鍮の刃、車輪の妙技、八人の妙技、呼吸秘術、口唇憤怒、戦士咆哮、止め斬りの秘法、水切り失神突きの秘法、槍登りの妙技、槍のてっぺん棒立ちの妙技など多岐に渡る。

 FGO内でも最強の一角に数えられていた実力者だ。その実力を劣化再現できて彼女程度の格上に勝てないとなると、それは彼自身の怠慢だと容赦なく切り捨てられるだろう。

 

 さらに言えば、彼は彼女と対峙してから二度も必殺と呼べる宝具を開帳している。一度目は抑止力の暗殺者、もう一つは影の女王のもう一つの宝具である異界の門。

 そこまでしなくとも必中必殺の槍さえ投げれればとも思うが、そこは彼の慢心と油断が招いた結果だ。

 

 「は、い……」

 「なら、わかってますね?逃がさねえぞ」

 「「ヒッ!?」」

 

 どこからかエロ至高のバードマンの悲鳴も聞こえた気がしたが、恐らく幻聴だろう。

 

 

 

 あの後カルネ村でずっと待っていたモモンガは性懲りも無く顔を見せたリディに見敵〈火球(ファイヤーボール)〉をお見舞いした。

 予備動作なしに撃ち込まれた火球はリディを包み込み小さな爆発を起こす。

 

 「それで許したと思わないでください」

 「はい、ごめんなさい」

 

 魔法職最弱の〈火球(ファイヤーボール)〉では紙装甲のリディもあまりダメージを負わずに済み、今はギャグパートなのか金髪を爆発させてチリチリさせたまま謝った。

 

 「茶釜さんもお疲れ様でした。ペロロンチーノの方は」

 「ああ、あのバカなら大丈夫です。今頃メイド達に囲まれて幸せでしょうし……こちらこそすいませんウチの愚弟が、藤丸さんの広域捜索にニグレドと合わせて探していたと思えば藤丸さんの妹のとこに」

 「……あ?」

 「も、勿論!突撃する前に叩き落としていつもより厳しく折檻したんですが、アレの変態は死なないと治らないので……」

 

 リディにとって妹達は両親など比較にならない血を分けた家族だ。その二人が変態に狙われたと聞いてその場が凍り付いた。

 あくまで比喩だが、レベル差を物ともしないプレッシャーがアンデットのモモンガやピンクスライムの茶釜の耐性を上回ったのだ。

 恐るべしシスコン。

 

 「そうですか……茶釜さんありがとうございます。それから、本当にすいませんでした」

 「「わかってくれたらいいです」」

 

 落ち着きを取り戻し、素直に謝罪するリディに2人は手を振って許す。雰囲気が和らいだところでモモンガが〈転移門〉を出してナザリックに帰還する。

 

 「あ、村にしばらく帰らないって伝えといてくれる?」

 『わかったのじゃ。妾もそろそろお暇じゃからの。マスターの頼みごとを終えたら帰るとする。今回の召喚は実に有意義なものじゃった……次はマスターと一国を統治してみたいものじゃ』

 『女帝様の言う通り、久々に楽しめたわ。唯一不満があるとすれば、次はかわいい女の子がいいわね。フフ、冗談よ』

 

 王国騎士団に捕らえていた法国の騎士を引き渡すまで、捕虜で遊んでいた英霊きっての拷問技術を持つ彼らが座に帰還する。

 陽光聖典の生き残りは既にナザリックに送られて悪の組織に拘り抜いたメンバーによって作成された拷問官ニューロニストという〈脳喰い(ブレインイーター)〉の所に送られている。陽光聖典は六色聖典でも下位の部隊だ。そこまでいい情報はないだろう。

 

 

 

 「さあ、お帰りなさい。では早速行きますか」

 「あ、はい。あーやばい緊張するー!」

 「あはは。きっと大丈夫です。皆アルベドみたいに受け入れてくれますって」

 「うー、そうは言ってもですね。あ、おいでキャスパリーグ……よしよし、お前だけが癒しだよ」

 「グヌヌ、妬けますね」

 「素面で何言ってんですか。ほら!早く行きますよ!」

 「ですね。あ、その前にこれを」

 

 茶釜から渡されたのは指輪。決してそういう意味ではなくナザリック内で阻害される転移を問題なく行う重要アイテムだ。

 藤丸が死を悟った時にユグドラシルから離れる前にモモンガに当時の神器級装備と一緒に渡していたのだ。結局、サービス終了までしぶとく生き残ってしまったが。

 ゲートを抜けて景色がガラッと変わる。青年にとっては数年来の懐かしさすらあった。

 天井が物凄く高く、よく見ると〈八肢刀の暗殺蟲〉がいる。〈不可知化〉をかけている様だが〈聖杯〉を保有する彼は龍脈という大いなる力を感知する副作用で他人の生命力を感じ取れる為簡単に見つけてしまった。

 

 「改めて、おかえりなさい藤丸さん」

 「ただいまです、モモンガさん。さっ湿っぽいのはもう十分ですよ!この後守護者達に認めてもらえる様に頑張らないと……正念場だぞ、俺っ」

 「フフ」

 

 腕にキャスパリーグを抱えたまま片手でガッツポーズを取る彼を見て、以外に可愛いとこあるんだな、と小さく笑う。その仕草が精神年齢はともかく、今の若返った彼の姿ととても似合っていた。

 彼は余程緊張しているのか二人のそれに気付いた様子はなく、あっという間に10階層の玉座の間に着いてしまった。

 

 「ヤバい、震えが……」

 

 モモンガの隣でそんな声が聞こえるが、もう既にペロロンによって各階層守護者が集められているはずだ。

 予定ではまずモモンガと茶釜が先に入り、藤丸改めリディを呼んで入ってきてもらう、のだが、大丈夫だろうか?と心配になるレベルで目に見えてガタガタしていた。

 だが、彼には腹を括ってもらうしかない。

 モモンガは両手で玉座の間の大扉を押し開けてズンズン歩いて行く。それに茶釜も続く。床に敷かれたレッドカーペットの少し横に跪いている守護者達に目を向けることなく一直線に自分が座るべき玉座の前に立ち振り返った。彼の両隣には例の姉弟が挟む形で立っている。

 

 「それぞれ任務もあったろうが皆よく集まってくれた。感謝するぞ」

 「感謝ナドオヤメ下サイ」

 「そ、そうです」

 「私達は至高の御方々の忠実な僕」

 「いつ如何なる場合でも御身のご命令とあらば即座に」

 「我らの忠誠、確とお受け取りください」

 

 跪いたまままるで打ち合わせていたかすらすらと出て来る言葉にリディは戦慄していた。何あの忠誠心。何したのモモンガさん達……、といった具合に。

 

 「今日はとても良い日だ。何故かわかるか?」

 「「「……」」」

 

 モモンガの問いに守護者の誰も首を縦に振らない。

 

 「デミウルゴスもか?」

 「申し訳ありませんモモンガ様。私程度では至高の御方々の叡智に及ぶべくもありません。お恥ずかしながら無知な我々にご教授頂けないでしょうか?」

 

 場の空気が変わった。いつもならここでアルベドかデミウルゴスが、モモンガ達の深謀遠慮(笑)を読み解き、他の守護者に披露する流れなのだが、ナザリック屈指の頭脳を持つデミウルゴスもアルベドもわからないと言う。

 だが、その答えは他でもないモモンガの言葉によって明らかにされた。

 

 「そうかわからないか。よい、デミウルゴス。少し意地悪だったな。許せ」

 「滅相もございません」

 「では答えあわせだ。入って来て下さい!」

 

 至高の御方であるはずのモモンガが敬語を使ったことに全ての守護者が疑問を抱き、後方の扉に目を向けた。

 モモンガがギミックでギィィイ……と演出を凝らした扉の向こうに一人の青年が立っていた。

 

 「人間?このナザリックに?」

 

 一歩一歩確かめる様にレッドカーペットを歩く小さき人間。リディ・エモットその人である。

 彼には様々な視線が向けられている。嫉妬、猜疑、侮蔑、エトセトラ。殆どというか全て負の感情だった。異形種のパッシブスキルには威圧に似たものがある。現実になったことで改めてLv100との実力差を思い知らされたリディ。心なしか半ばからさらに一歩が短くなっている。

 やがて守護者達のさらに後ろの位置に自ら跪いた。

 

 「ナザリック地下大墳墓アインズ・ウール・ゴウンが末席、藤丸一香。無事、帰還しました」

 

 瞬間、リディの全身に寒気がして思い切り後ろに飛んだ。視線を向ければさっきまで自分がいた場所にシャルティアの拳があった。

 

 「ペロロンチーノ様の御友人であらせられるかのお方の名を騙るとは、さてはバカでありんすね?どうやって至高の御方に取り入ったか知りんせんが、もう少しましな嘘をつくべきだったでありんすえ」

 「シャルティア」

 「は、ハィッ!何でありんしょう?ペロロンチーノ様」

 「確かにお前を創造する時、吸血鬼のあらゆる知識を教えてくれたのは藤丸さんだ。それはつまりシャルティアの第二の創造主とも言える。お前が怒る理由もわかる」

 「は、はぁ……?」

 「だけどよ。もう少し周りをよく見ろ。彼の腕の中にいるあの獣に見覚えはないか?」

 

 創造主であるペロロンチーノに促され、もう一度シャルティアは人間を観察する。具体的に示された彼が抱き締めている白い獣。

 

 「ま、まさか……キャスパリーグ?」

 

 「そうだ。あれは偶然藤丸さんが捕まえ僕にした魔獣。あの魔獣が藤丸さん以外に抱かれてあんなに大人しくすると思うか?他の守護者もどう思う?」

 

 誰も声を上げることなく玉座の間に暫し静寂が訪れた。

 実は彼藤丸一香は現実のある理由からギルドでもかなりのお喋り好きで有名だった。

 例え自分がマシンガンの様に話すだけでも構わないらしく、キャスパリーグを当てた時も待機している各守護者の前に座って自慢したり色んな話をして回っていた。

 その時の影響が現実となった今ここで如実に現れていた。

 そんな、間一髪守護者の怒りの一撃を躱した彼はというと、もしかして初めからキャスパリーグを見せていれば三人も納得していたのかな?と呑気に考えていた。

 気を取り直し、モモンガが事前に考えたカバーストーリーを述べていく。

 

 「藤丸さん、彼は今人間に転生しリディ・エモットを名乗っているそうだ。彼は元々世界級アイテム〈聖杯〉を守護し英霊達を束ねる楔の役割を担っていた。その役目を終えたはずがユグドラシルとは違うこの世界に辿り着き、手放したはずの〈聖杯〉と同化した状態で転生してしまったらしい」

 

 「「「」」」

 

 「人間に転生してから彼はずっと我々の影を探していた。生き残る為に全てを使い、周辺国の情報も密かに手に入れ世界の知識を蓄えていった。そして今日、他国の兵士による襲撃を見事撃退したのを見ていた私達が、情報交換の為に村と接触を図ろうと〈異界門〉で現地に赴いたのだが。藤丸さんは一人、未知なる敵に立ち向かう為村を飛び出して来た」

 「そして私達は再会した。私達の姿を見た途端子供みたいに泣き出した姿を見せてあげたかったわ」

 「ちょ、それは勘弁」

 

 それを皮切りに至高の存在は周囲を忘れて楽しそうに談話し始める。転移直後で多少混乱があったのも含め、藤丸がいなかった時とは天と地の差だ。モモンガは唯一それを眺めており側から見れば魔王ロールのままだが、実際は昔を思い出し懐かしんでいた。

 

 「あ、ごめんな。話の腰折っちゃって」

 「……よい、実に良き時間だった。さて諸君。世界を変え名前を変え、種族を変えても帰還を果たした藤丸さんに反対の意を示す者は立ってその意を示せ」

 

 だが、暫くしても誰も立つ様子はない。

 

 「どうした?ここは異形種の支配するナザリック地下大墳墓。そして彼は今人間だぞ?本当にいいのだな?」

 「「「……」」」

 

 沈黙は是。この場にいる誰もが藤丸の帰還を喜んでいた。

 

 「よくわかった。藤丸さん、壇上へ」

 「あ、はい」

 

 モモンガの魔王ロールに未だ慣れない藤丸はおっかなびっくりといった風に守護者達の間を抜けて、卒業式の時の様な緊張感で階段を一歩一歩上がり壇上に上がった。

 諸事情で彼は今世では学校に行ったことないが。

 促されるまま玉座に座るモモンガの隣に立ち至高の存在四人が揃う。

 

 『藤丸さん、皆に約束してください。もう死なないと、どこにも行かないと。守護者も勿論俺達も貴方が心配なんです』

 『成程わかりました』

 

 〈伝言〉の魔法で視線を動かさず会話する。モモンガが骨なので眼球はないが。

 

 「藤丸一香だ。まず守護者の皆に最大の感謝を。こんな弱い人間になった俺を認めてくれてありがとう」

 

 デミウルゴスやコキュートス辺りが声を上げそうになるがモモンガが先制して手で抑えた。藤丸としてはさっきと態度が違い過ぎて吃驚している。

 

 「さっきモモンガさんが言った通り俺は転生した。それもユグドラシルとは違うこの世界に、〈聖杯〉と共に記憶やある程度の力を持ってな。で、この世界のことを調べ回った。周辺国の情勢や王族貴族の支配階級の事、何故ユグドラシルの魔法やスキルが使えるのか、他のプレイヤーの情報、世界級アイテムの脅威……そしてこのナザリックの事もな」

 「「「!?」」」

 「意外だったか?生憎だが俺はお前達を見捨てた覚えも置いて行くつもりもなかった!何度でも転生して帰って来てやる!今ここで藤丸一香改めリディ・エモットは宣言する!例えこの身が滅ぼうとも未来永劫何度でもお前達の前に蘇ろう!」

 

 「「「リディ様、万歳!」」」

 「「「至高の御方々、万歳!!」」」

 「「「ナザリック万歳!」」」

 「「「アインズ・ウール・ゴウン、万歳!!」」」

 

 暫く立ち上がった守護者達によるスタンディングオベーションが続いた。

 

 

 やがて拍手が疎らになる頃玉座のモモンガが片手を上げ再び静寂が訪れる。

 

 「リディは我らとは違い人間だ。人間は睡眠、食事、休養を必要とする種族。転生しレベルも落ちている彼は村の侵略者を撃退したのもあり疲れているだろう。プレアデス。交代で彼の世話を務めよ」

 「「「ハッ!」」」

 

 『あ、皆さん休むついでに俺の部屋でこれからのことを話し合いましょう』

 『わかった』『わかりました』『りょ』

 「そうだね。迷惑をかける」

 「ここに居らぬ者達にも藤丸一香さんの帰還を伝えよ!ご苦労だった諸君、持ち場に戻れ」

 「「「ハッ!」」」

 

 守護者の皆が玉座の間から出て行くがプレアデスの長女ユリがいる為リディは心の中でため息を吐く。

 

 『何ですかあの反応。忠誠心高過ぎて震えが止まらない』

 『これが現実だ』

 『藤丸さんはまだいいですよ。守護者達からすれば庇護対象なんですから。至高の存在としての魔王ロールは疲れるんですからね!』

 『それでも皆子供みたいなもんだし、俺はぶっちゃけ被介護者ですよ』

 『あー、なるほどそれは確かに』

 『いっそのこと人間辞めますか』

 『ゴースト化の転生アイテムありましたっけ?』

 『ゴミ倉庫になら、転生アイテムをコンプしたから記念に宝物殿に飾ってあるかも?』

 

 その時モモンガの全身が淡く光り、〈伝言〉でうんともすんとも言わなくなる。心配して〈伝言〉ではなく顔ごと向いて尋ねる。

 

 「モモンガさん?」

 「大丈夫だ」

 『え、俺なんか……ああ、なるほど。確か宝物殿にはアクターがいましたね。それでですか』

 『ギクゥ!』

 『モモンガさん、NPCは何よりも創造主を優先するみたいですよ?彼らにとって俺達は親も同然ですからね。俺の聖杯の英霊達も設定の通り振る舞いますが、奥底では俺達の影響を受けています。モモンガさんのギルドに対する愛情がそのまま創造主の貴方に向けられることだってあるんです。今度俺も付いて行きますから会いに行きましょ』

 『……はい、わかりました』

 『おお、流石藤丸さん。あのモモンガさんが即堕ち』

 『言葉に気を付けろよ?愚弟』

 

 「イタッ!?ちょ、フレンドリーファイア効くんだからね!手加減してよねーちゃん!」

 「黙れ愚弟。その羽根毟るぞ」

 

 

 「あ、ユリ。あれは姉弟のコミュニケーションみたいなものだから。別に止めなくていいしアウラ達に真似しないよう言っといて」

 「か、畏まりましたリディ様……」

 

 

 




 
 次回は少し投稿時間が遅れると思います。ご容赦を(今回の手直しと次回分)
 
 


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なすびちゃん「先輩は私が守りマシュ!」

 
 お久しぶりの更新です。
 
 また投稿できて嬉しいですが、早速エタりそうになり申し訳無い。
 やはり一話の投稿がフラグだったのか……


 

 

 

 「〈英霊召喚〉──!」

 「お久しぶりです!先輩!」

 

 飛び込んで来る身の丈はある盾を持った少女を両手を広げて受け止め、その場でくるくると衝撃を逃がしながら回る。

 いつも聖杯に接続された座から声は聞こえていたが、こうして実際に触れ合えた感動に転生して以来流したことのない涙が溢れ出しそうになる。

 リディがそれをぐっと堪えていると盾の少女は自分から体を離し居住まいを正した。

 

 「召喚に応じ参上しました。クラスはシールダー、デミサーヴァントのマシュ・キリエライト。この命にかけて先輩をお守りしますね」

 「ありがとうマシュ」

 「えへへ、一度でいいからやってみたかったんです」

 

 あどけない表情で笑みを浮かべる彼女に彼も思わず破顔する。自室にほんわかした空気が流れるが、照れ隠しに咳払いをして意識を切り替えた。

 

 「俺の可愛いマシュ、呼び出してすぐで悪いけどもうすぐ俺の仲間、友達が来るんだ。紅茶を用意してほしい」

 「わかりました。ですけど、私より上手な方が他に……」

 「確かにそうかもしれないけど、彼らにマシュを自慢したいんだ。それにマシュは特別だし、この〈マイルーム〉を守護って欲しいんだ。ダメかな?」

 「全力で頑張りますっ!」

 「うん、ありがとう。それじゃあお願い」

 「はいっ」

 

 マシュが部屋の奥に消えると同時に入口の扉から小気味いいノックの音が聞こえた。

 

 「リディ様、至高の御方々をお連れしました」

 

 タイミングよくユリがモモンガ達を連れて来たようだ。彼女への返事で扉越しに了承を伝えると扉が開く。他の部屋と合わないだろうがSF映画などに出てきそうなスライド式だ。

 これは〈ヴァルキュリアの失墜〉という大型アップデートで追加されたミリタリー系のデータクリスタルを使っている。スウィートルームやファンタジーの世界観から一線を画すが、〈マイルーム〉はこれでなくちゃいけない。

 

 「失礼します」

 「藤丸さん、さっきぶり」

 「お邪魔します」

 「おっ邪魔〜」

 「邪魔するなら帰ってー」

 「じゃあ帰るわ〜ってオイ」

 

 モモンガと茶釜が男二人の寸劇を見てふふっと失笑。ユリは……彼らのやりとりにかなり驚いていた。

 

 「あ、ユリしばらく人払いをお願い。何かあれば〈伝言〉で呼ぶから。あ、そっちで何かあった時も遠慮せず言うように」

 「かしこまりました。では失礼します」

 

 ユリが退出して少し〈マイルーム〉に静寂が戻るが、今度は奥からマシュがお盆を持って出てきた。

 

 「先輩、お待たせしました。人数は四人であってましたか?」

 「あれ?マシュは一緒に飲まないの?」

 「いえ、折角の再会ですし、私は……」

 「あっ!?思い出した!盾子ちゃんだ!うわぁかわええ!すげぇ!」

 「ペロロンチーノさんありがとうございます。それもこれも先輩がこの世界に連れて来てくれたお陰ですので」

 

 新たに置いたテーブルの上にカップを並べていくマシュに身を乗り出して興奮するバードマン。尤も性的な意味ではなくグラフィックが細かく洗練されているのと、今まで上司と部下の関係で少し心労が溜まっていた中に湧いて出た後輩属性というオアシスに反応しただけである。

 

 「ありがとう、だが私は」

 「モモンガさん、でしたか?私達にまで偽る必要はありません。私達英霊は先輩の〈聖杯〉を通じて皆さんの会話も聞いています」

 「「「!?」」」

 

 ぐるんと三人が一斉に首を回してリディへ射抜くくらいの鋭い視線を向けた。マシュもそれに合わせて片手に盾を召喚していた。

 

 「黙っていたのは謝る。でも皆支配者なんて疲れるでしょ?」

 「ですからせめて先輩の部屋だけでも寛いで行ってください。ね、先輩」

 「そういうこと」

 

 肉棒と骸骨の二人はわからないが、バードマンのペロロンチーノは涙を流さないよう上を向いたまま腕を組んでいた。

 マシュはそれを見てリディに良かったですねと微笑み、座っている彼の背後から恋人がするように抱きしめていた。

 しかし、そんな二人を見て感動していたはずの三人の雰囲気がガラリと変わり、ペロロンチーノの涙が心なしか赤く染まっているように見える。

 

 「藤丸さ〜ん?」

 「「裏切り者ぉ!!」」

 「先輩は私が守りマシュ!」

 

 肉棒の先っぽに怒り心頭の青筋マークを浮かべた茶釜、地獄の底から響いたような怨嗟の声を上げる童貞達。魔王にも勝る軍勢に活き活きとして果敢に立ち塞がるマシュ。

 質素で生活感のなかった〈マイルーム〉が少し騒がしくなり、リディはご満悦の様子で最終決戦を眺めていた。

 

 「茶が美味しい……」

 

 

 

 カンストプレイヤー三人の猛攻を見事防ぎきったマシュにご褒美のギュ〜、からのナデナデをして骨抜きになってしまったこと以外、先程と何ら変わりない光景がそこにあった。

 

 ※マシュは途中退場の為ベッドに寝かせています。

 

 散々騒いで落ち着いたのか、黙って席に座りなおす三人。姉弟はそれぞれ冷めてリディが入れ直した紅茶を飲むが、モモンガは飲む寸前でピタリと止まる。

 

 「あ、モモンガさん骸骨ですもんね」

 「すいませんモモンガさん〈人化の指輪〉渡すの忘れてました」

 

 何もない空間に穴が開き、そこに手を突っ込むリディ。すぐに取り出すと握った物をそのままモモンガに渡す。

 

 「こ、これが!」

 「〈人化の指輪〉!」

 「藤丸さん、私には?」

 

 「ちゃんと三人分ありますよ。ここには今までのガチャで当たった物を捨てずに保管してましたから」

 「ありがとう!まあ、この体にも愛着が湧いてきてるんだけどね」

 

 三人に指輪が行き渡り、一斉に空いてる指輪へ嵌める。茶釜だけは何故か指輪を飲み込んだようにしか見えないが、それはユグドラシル時代から仕様だったので今更疑問に思わない。

 

 「ぉお……」「これが……」「空気が美味しい……」

 

 「「「って現実の自分じゃん!?」」」

 

 そうなのだ。茶釜が手鏡といういつ使うかわからないようなアイテムを取り出して自身の顔を確かめては二人にも回した結果、そんな感想が三人の口から同時に飛び出した。

 

 「その指輪なんですが、ユグドラシル時代じゃ予め容姿を設定しておかないと現実の自分になっちゃうんです。だから俺はそれを複数持ち歩いて人間種の街に何度も潜入したりしましたね。逆に色んな姿を設定しておけば何処にでも忍び込めますから」

 

 今はその容姿データを〈聖杯〉に登録し直して英霊達の姿としているが、それを手に入れる前の変装道具(裏技)としてそれなりに重宝していたのだ。

 ギルドに内通者が出てからそれは止めたが。

 

 「あと、人化の影響でステータスは大幅に下がってますが、スキルなどはちゃんと機能するものとしないものがあるのでちゃんと確認してくださいね。モモンガさんは特に精神攻撃無効がなくなったらやばいんですから」

 「ゔっ、的確なアドバイスありがとうございます……確かにさっきまでなんか冷静でしたけどこの状況に緊張が……」

 「とまあ、こんな風に肉体に精神が引っ張られるのはもうテンプレートな話だから、二人も気をつけてください。じゃあ一回外しましょうか」

 

 リディに従って指輪を外す。

 

 「じゃあ紅茶も飲んで一息入れたんで、本題ですね。モモンガさん、ここに来る途中にユリから聞いたんですけどAUGが世界征服を計画してるってマジですか?」

 「は?え、はぃいい!?何ですかそれっ」

 「私初耳なんですけど?」

 「あ……あれかも」

 

 ボソッと気になる発言をしたペロロンチーノに視線が集中する。それにビクッと怯えるがおずおずと話し出した。

 

 「ほら、モモンガさんと二人で夜空を見に行ったあの時……確かモモンガさんが“世界征服なんて、悪くないかもしれないな”って……」

 「あ"……」

 「「……はぁ」」

 

 ナザリックが転移して丁度一日が経過した頃に、この二人は僕やぶくぶく茶釜に内緒で外に出ようとした挙句、地上で見張りをしていたデミウルゴスに見つかり、同行を許した上で今の不用意な発言をしてしまったらしい。

 

 その後茶釜が二人の外出を知って反省するまで殴り続けたらしいが、そんな発言をしていたなんてのは勿論知らず、二人もそのことがすっかり頭から抜けていたようだ。

 リディが聞いた話では、ナザリック指折りの知恵者であるデミウルゴスにその発言を聞かれ、最下級の配下に至るまでにその計画が行き渡っていると、ユリが話していた。

 

 ユリもナザリックやAUGの名が広まるならと賛成の色を示していた。属性が善寄りの彼女でさえその反応なら悪側が大多数を占めるナザリック全体のは想像に難くない。

 

 「てな訳で、少し軌道修正をしましょう」

 「どうやって?」

 「武力での支配、ではなく、恐怖での支配、でもない。人間と友好的な関係を築きつつ、貿易戦争で支配していくんです」

 

 「それ誰の発案?」

 「孔明と金儲けが好きな女王です」

 

 肉棒に戻った茶釜が体を捻って、恐らくあちゃーと空を仰いでいるのだろう。

 

 「でも考えてみるとこの方法が一番穏便なんですよね。建国までいくつか厄介な必要事項はありますけど、建国して、ナザリックのゴミアイテムをばら撒けば俺達の懐も潤って荷物の整理もできて周辺国に力の差を誇示することもできますよ」

 「その割に陰湿極まりないっすけどね」

 「ぷにっと萌えさんも似たようなことやってた気がしますが……確かに不用意に敵を作ることがなければこちらも安全でしょうし。よし、ギルドらしく多数決を取りましょう。賛成、反対はそれぞれ右手と左手をあげてください。どうぞ」

 

 反対、無し。賛成、四。満場一致で決まった。

 

 「ではそこまでの厄介事を纏めといてください」

 「わかりました。できたらアクターに確認して貰って彼に届けてもらいますね」

 「ヒギィイイイ!?」

 

 パァァァ。モモンガが発光し、絶叫が止んだ。

 

 「い、いきなり何を言うんですか貴方は……?」

 「これを任せるには適任かなって。アクターってギルメンの姿になれますからそのまま商人だった音改さんに化けてもらいましょう、との事です」

 

 孔明様々である。ナザリックが有事の際にユグドラシル金貨が必要になることは多い。例えばだがギルドの維持費やNPC消滅時の復活に大量の金貨が必要だ。そうならない為にもアイテムや物資をエクスチェンジ・ボックスでユグドラシル金貨に替えておく必要がある。これは商人スキルで換算額が跳ね上がるので当然の処置と言えた。

 

 「で、ですがアレが外に出るとなると宝物殿の警備が……」

 「そんなの俺達が指輪を奪われないようにすればいいだけです。元々あの場所には転移でしか行けませんし、毒無効のスキルか装備がないと数秒で死にます。ほら、問題ないですよ」

 

 う、とかぐっとかなおも抵抗を続けようとするモモンガにリディは呆れをため息で表現した。

 

 「モモンガさん、俺言いましたよね?彼らNPCは何よりもまず創造主を親のように敬い、そして影響されるって。タブラさんみたいにびっしりとテキストを埋めていれば別ですけど、実質モモンガさんの息子ですよ」

 「ならシャルティアは俺の娘か」

 「アウラとマーレは私の可愛い子供達ね」

 「はい。辛いことを言うかもしれないですけど、モモンガさん、ギルメンがAUGを去っていた時はどうでしたか?ペロロンさんや茶釜さんが残ってくれた時、どんな気持ちでした?貴方と同じくらいアクターもモモンガさんに会いたいと思っているはずなんです」

 「……」

 

 部屋の、誰も口を開かない。ペロロンチーノでさえ口を重く閉ざしている。彼は彼で今でこそこうしてナザリックに帰還したが、元は引退していた身。モモンガの気持ちを理解することは難しい。

 

 リディも二人に比べれば長いが、やはり一度は引退していた側の人間だった。それを言えば、モモンガは一蹴することもできたかもしれない。

 が、彼はそれをしなかった。彼自身が、守護者達に、友人達の子供のようなものと公言したからだ。ギルメンの子供なら、自分が作ったアクターは?勿論自分の子供ということになる。

 これがゲームなら作品や造物主と創造物の関係を保てたかもだが、現実に動いてなおかつ自意識を持っていたなら、もう認めるしかなかった。

 

 ユグドラシル内の時間は一分が一時間になり、一日で八万六千四百時間経過し、一年で三千万時間超えとなる。それより遥かに長い時間放置していて、自分に失望されていないか怖かったのだ。

 階層守護者達やプレアデス達の前で支配者として振舞っていた彼でも、息子と認めた相手に嫌われたり失望されたりするのが恐ろしくなってしまった。だからできるだけ違う理由で今の今まで遠ざけていた。

 

 「わかりました……それに、さっき玉座の間で約束しましたしね。この後、一度顔を見に行ってみようと思います」

 「俺も同行しましょう」

 「藤ま「リディ院」

 「ぶはっ……!」

 

 リディの台詞に耐えきれなかったのか、ネタを挟んできたペロロンチーノ。そのネタを知っている者は思わず吹き出してしまう。

 例外は言葉を遮られ、その作品を詳しく知らなかったモモンガくらいのものだ。他の連中は例外なく体を震わせて波が引くのを堪えて待つしかない。

 

 「す、すいま……ツボに……くはっ」

 「モ、モモンガさん、まって……今、むりぃ」

 「……」(プルプル)

 「はぁ……」

 

 モモンガは毒気を抜かれて思わずため息が出てしまう。

 そのため息でダムが決壊したロリコンに割りかし本気の制裁を加えて、リディに向き直った。

 

 「ちょっと真面目に向き合ってみます」

 「はい、それで充分です」

 

 

 

 モモンガの心象が少し軽くなったところで、次の議題に移る。

 ギルドの方針は世界征服でこの世界に転移してきたギルメンを探すこと。その過程は可能な限り穏便で血を見ない方法を持ち入り、周囲と敵対しないこと。

 そして、その為の足掛りとして何をすればいいのか。それが今回の議題だった。

 

 「では藤丸さん、これまでに得た情報を掻い摘んでお願いします」

 「はい。まずはカルネ村があったリ・エスティーゼ王国とその周辺諸国の地図です。王国首都はここ、今いるナザリックが多分この辺りですね」

 

 テーブルに自作の地図を広げてチェスの駒に似た置物で目印を作る。

 それを覗き込む三人は彼が何か言う度にフムフムと頷くのを繰り返した。茶釜やモモンガはともかく、ペロロンチーノはちゃんと聞いているのだろうか?そんな疑問が過った。

 この時代で防衛目的もあり正確な地図は作れないのだが、彼が作成したものは正確そのもの。流石は万能の天才、飛行艇を作るのもちょちょいのちょいだ。

 そして上空から撮影し、写し書きしたものがそれだ。

 各周辺諸国の位置関係を把握した後、国ごとにわかっていることを説明する。

 王国なら貴族派閥と王派閥が対立し貴族の腐敗が進んで空中分解寸前だとか、帝国は最近皇帝が代替わりして改革中、法国は海魔などの魔物に首都を襲撃され建て直しの真っ最中。ついでに主戦力の二人を失い他の竜王国などへの支援やエルフの国に対する戦力が足りてない最悪な状況。

 少ない説明の中でAUGが手を下さずとも勝手に自滅しそうな国が複数出て来るとは、流石のモモンガ達も絶句。

 異形種となって人間に対する意識が変わっても、これを知れば流石に哀れに思う。

 それから過去のこと。法国や各国が信仰する六大神、法国以外は四大神やその生き残りを殺した八欲王、更に民謡にもなっている昔話の口だけの賢者や十三英雄など、断続的に登場するプレイヤーの存在。

 上記に挙げた者全てではないが、高確率でプレイヤーだとリディは疑っていた。

 

 「周辺諸国については大体わかったわ。藤丸さんが一番警戒している評議会は今は置いておきましょう」

 「?じゃあどうするんだ?ぶくぶく姉」

 「次言ったらコロス……オホン。まずはナザリックの意識改革ね。守護者達の行動を把握する為にも何か役職に就かせて報告させるのが一番よ」

 「情報収集は今まで通り英霊達に任せて」

 「いえ、それに加えて暗殺者スキルを持ってる配下にもさせる。理由は人間に近い英霊と異形種の意識の差異で情報を多視点から吟味できるわ」

 「そ、それなら俺達の誰かも独自に情報収集を行った方が……」

 

 リディと茶釜がスラスラと目的とこれからの指針を定めていくと、モモンガがほんの少し勇気を出して願望増し増しな提案を言ってみる。

 

 「「それモモンガさんが外に行きたいだけでしょ」」

 「そ、そんなこと……はい、あります」

 

 だが、二人に息ピッタリで本心を指摘されて敢え無く撃沈。骸骨なのに声だけで消沈しているのがわかる。ここでの共通認識だが、モモンガは意外とわかりやすい。

 

 「何もダメとは言いませんよ。どこぞのバカみたいに単身で乗り込む訳でもなし、プレアデスから誰か一人くらい護衛をつけて欲しいですけどね」

 「護衛、ですか……」

 「当然です。というかアルベドやデミウルゴス辺りから言われるでしょうからこちらでさっさと決めておきましょう。そういうことです」

 「じゃあ俺も一旦カルネ村に戻って」

 「藤丸さんは当分ナザリックでお留守番ですよ。守護者達から要介護者として精々甲斐甲斐しく世話されててください」

 「酷ッ!?ていうか言い方!」

 「なら自力で説得してください。少なくともシャルティアに勝てないと多分外出なんて無理でしょうけど」

 

 リディが座ったまま崩れ落ちる。その様子にモモンガは慌てるがペロロンチーノは爆笑し、茶釜はいい薬だと言いたげな視線を向けていた。

 

 

 




 
 遅れて申し訳ありませんでしたぁあああ!!_○/|_
 
 それと今回のでストックが完全になくなったので不定期更新になることが避けられません。何卒、何卒ご容赦を……((((;゜Д゜)))ガクガクブルブル


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卵頭「Wenn es meines Gottes Wille.(我が神のお望みとあらば)」

 
 
 前回のあらすじ
 
 なす「マシュマシュ!」
 トリ「リディ院」キリッ
 肉「リディさんお留守番ね」 (´;ω;`)ソンナ~……


 

 

 

 楽しい茶会兼会議も終わり、解散となると全員が席を立つ。

 

 「じゃあ俺はこれから宝物殿に行ってきます」

 「俺も同伴で。毒無効スキルも持ってますから大丈夫ですよ」

 「じゃあ俺はシャルティア達の様子でも」

 「私は二人が戻ってくるまで自室の整理でもしてくるわね。部屋に双子を呼ぼうそうしよう」

 

 と言った風に解散し、各々が好きなように動き出した。

 

 転生してからはずっと取られないようストレージに仕舞いっぱなしだった〈リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン〉を指に嵌めてモモンガ同様宝物殿に跳ぶよう念じる。

 すると二人の見ていたスウィートルームの廊下から景色が変わり、空気に死に至る猛毒を含んだ金貨の山が視界に飛び込んでくる。圧巻の光景だった。

 その金色の山脈を越えて霊廟へと続く道を歩いていけば奥に明かりが見え、ソファーと長テーブルが置かれていた。

 

 「あれは……」

 

 そこに座っていた蛸の様な水死体の膨らんだ身体を持つ異形種。AUGの大錬金術師タブラ・スマラグディナがそこにいた。

 

 「パンドラズ・アクターよ。戯れはよせ」

 

 モモンガの言葉と同時に彼の姿が石を投げた水面の波紋の様に揺らぎ、その形を変える。足元から再構築されていくそれが全て形取ると、そこには黄土色のナチス軍服に身を包んだ卵頭の演者がいた。

 パンドラズ・アクター。その名の通り開けてはならない災厄の箱に準えてナザリックのギルメンの約八割の力を行使可能なAUGのチートの一つ。

 それでも特殊な職業であるたっち・みーなどの擬態はできないが、あらゆる状況に対応するほぼ万能なキャラメイクであることに間違いはない。

 モモンガは彼を創ってからずっとこの宝物殿に配置したまま閉じ込めていた。

 

 「ンンンン!我が麗しき造物主であるモモォンガ様!ご機嫌麗しゅう。息災の様で何よりです」

 「……あ、ああ。パンドラズ・アクター、お前も息災か?」

 「もぉぉぉちろん!でございます。私の敬愛するモモォンガ様ッ!」

 

 効果音が聞こえてきそうな程のオーバーアクションで応える彼の姿に同行していたリディも流石に絶句。以前に見たことはあったが、現実に動き出せばこうなるのかと。

 

 「モモンガさん」

 「言わないでくださ」

 「すっごくかっこいいじゃないですか!」

 「……は?」

 「オオ!貴方はもしや藤丸一香様!?随分と様変わりなされた様ですが……このパンドラズ・アクター、決して見逃しません」

 

 リディが更に驚く。このナザリックで階層守護者を含め名乗りもしない内に自分の正体を見破った者が皆無だったからだ。

 あまりの嬉しさに少し涙ぐんですらいた。

 

 「いっ如何されました藤丸一香様!?もしやお身体が?それとも私が何か粗相を……モモォンンガ様ァアア!?」

 「えぇい!二人とも落ち着けっ!藤丸さんはお前の忠義を喜んでいるのだ。決してお前が粗相をした訳でも異常があった訳でもない!」

 「ず、すみません……なんか最近涙腺が緩くて……ありがとうアクター。俺のことを覚えていてくれて」

 「感謝など!……いえ、滅相も無い。藤丸一香様は私めに造物主モモンガ様の様々なことを教え、この軍服やドイツ語の意味を教え頂いた恩がございます。忘れるなどナザリックに存在する守護者にあるまじきことでございます!」

 

 「「あー……そうだね」」

 

 「ん?如何なさいました?御二方。まさか……」

 「えーと、多分そのまさか、かな」

 「なんとも嘆かわしい。おいたわしや藤丸一香様……」

 

 同じ守護者でもここまで違うのか。二人の中のアクターの評価が反比例になる。

 人一倍ギルドに執着を持っていたモモンガが創造したこともあるだろうが、ギルメンに対する配慮が行き届いていた。初見で人間の彼を侮らず、更にその正体を見破ったのが最たる理由だ。

 

 「話は変わるがパンドラズ・アクター。藤丸さんの装備を取って来てくれないか?神器級のアレだ。それとここに来た目的をじっくり話そう」

 「ハッ!了解しましたモモォンガ様。ではこのパンドラズ・アクター、行って参ります。暫しお待ちを」

 「よろしく頼むよ」

 

 霊廟に向かったアクターを見送り、二人は先程彼が座っていたソファに座り、寛ぐことにした。

 サービス直前までナザリックにいた藤丸の装備が何故霊廟に保管されているのかというと、玉座の間の門前に脱げ殻のように落ちていたのだという。

 恐らくだが死亡したことで通信と転移が影響し分離したのでは?というのが四人の共通認識だ。魂は赤子に。服は聖遺物として墳墓に残ったと。

 

 服や装備を身に付けたまま生まれた英霊もいるにはいるが極めて特殊なケースだろう。

 寂れた農村で生まれた何の異常もない赤子にはそれが普通だった。

 

 「にしても良かったですね」

 「はい。〈ブラッド・オブ・ヨルムンガルド〉に対応できる毒無効装備は持ってなかったですし、キャスパリーグがいなくてもわかるって……流石アクター」

 

 リディの中でアクターへの尊敬の念が留まる所を知らない。優秀という意味ではナザリック最高の頭脳を持つ三賢者の一人であるので当然の評価だが。

 自分の黒歴史を褒められているモモンガとしては羞恥心やらで悶えたり複雑だが、自分の作品を純粋に評価してもらうのは嬉しいらしい。だが少しアクターに嫉妬していた。

 

 「お待たせしました。これが藤丸一香様の装備〈魔術礼装・カルデアス〉でございます」

 「おお!ありがとうアクター。おかえり俺の装備!」

 

 きちんと畳まれていたそれに早速着替える。この世界に来てからリディは何とかストレージに入っていた素材で魔術礼装のレプリカを作ることに成功していた。だが、この〈カルデアス〉は着替えることなく全ての魔術礼装にスキルを切り替えたりカスタマイズすることが可能になる。

 見た目は〈魔術礼装・カルデア〉と同じだが、変装や瞬時にマスタースキルを切り替えられる利便性、防御力も高く神器級としても申し分ない性能と自負している。

 

 「お似合いです藤丸さん。やっぱその白い服が落ち着きます」

 「そうですか?俺としてはアトラスの眼鏡も良かったと思いますが、まあこれでわざわざ着替える必要もなくなりましたね」

 「それにあれなんて言いましたっけ、防具なのになんで攻撃出来るんですか」

 「?ああ、戦闘服ですし、それに攻撃じゃないですよ。ガンドって言って生きてるなら神すら止める最強の足止め攻撃です。あ、でもテキスト通りなら人を簡単に殺せるから威力抑えなきゃな」

 「攻撃って言っちゃったよこの人……って予想より遥かに凶悪な麻痺攻撃ですね」

 

 北欧に伝わる魔術の一種であり西洋における「人に指をさすのは失礼である」というマナーの由来になった説もあり、指をさす事で相手を呪い、災いや病を引き起こす魔術というよりも呪術に近い。

 だが、精々が心臓麻痺かそこらで相手を即死させる程度。その効果から生きている相手にこそ有効なこの魔術は現代もノルウェーには魔術として残っており翻訳すると棒の意味を持つ。

 それも「フィンの一撃」と呼ばれる域に達したこれは心臓麻痺を待たずに無防備にな人なら一撃で殺せる物理的な威力を持っていた。

 

 「確かこんな事書いたはず」

 「麻痺攻撃どころか即死攻撃じゃないですか……」

 「元々ユグドラシルも北欧の世界樹がモデルですからねぇ、相性は良かったです」

 「さいですか」

 

 彼の装備についてはこれくらいにして律儀に創造主達の談話に混ざらず待機していたアクターを少し防具の攻撃という矛盾に頭を悩ませたモモンガが呼び掛ける。

 

 「ではここに来た目的だが……藤丸さん」

 「あー、はい。パンドラズ・アクター、今ナザリックは未曾有の大事故に巻き込まれています」

 「ォオ、やはりそうでしたか。私がここの守護を任されてから幾星霜。永遠にこの平和が続くと思っておりましたが……私めに役が回ってくるとは」

 「はい。今俺達でチームを編成している、何のチームかわかるかな?」

 「ズバリ情報収集ですかな?藤丸一香様」

 「その通り。俺のアサシン達、ナザリックの〈影の悪魔(シャドウ・デーモン)〉を始めとする隠密系の魔物、セバスとプレアデスのチーム、俺達の誰か、そしてアクターお前だ」

 「ふむ……それぞれの役割、かなり多方面に行われるのですね?」

 

 暗殺者集団の英霊がそれぞれの国に侵入し、魔物視点で強者を炙り出し、ナザリックの良心のセバス率いるプレアデスの誰かに市井や貴族とパイプを作らせ、モモンガ達と護衛が冒険者として名声を手にし、行商人のアクターがナザリックの維持費や各チームに金銭と情報を伝達する。

 それぞれに繋がりはあるが決してそれを悟られない為にこれだけの布石を敷いておく。国家でもこんな贅沢で優秀な人材はそういないだろう。

 

 「Wenn es meines Gottes Wille.(我が神のお望みとあらば)」

 「パ、パンドラ……」

 「はいちょーっと失礼しますねー」

 

 使命に燃えるアクターが敬礼と共にドイツ語を高らかに叫ぶと、モモンガが発光しながらも彼に掴みかかろうとする前に、リディが間に割って入り部屋の隅に連れて行く。

 モモンガは脱力した様に再びソファに崩れ落ち抜け殻の様に偶に発光しながら動かなくなってしまった。

 それを尻目に初日から色々と詰め込み過ぎたとリディは反省する。モモンガも精神的疲労が振り切った結果がこれだ。暫くは人化させてゆっくりするのがリラックスに有効だろう。

 

 さて、壁際まで連れて来られたアクターは不思議そうな……卵頭は埴輪みたいな子供が黒で塗り潰された絵の顔なので表情はわからないが雰囲気を醸し出す。

 

 「モモォンガ様もお疲れのご様子、如何されました?」

 「モモンガさんはアンデットだから体に疲労はないが心が病んでいる。こればかりは治癒魔法で治すことはできない」

 「な、なんと……我が造物主の御心が!それは!」

 「ああ、だからアクター、君にしか頼めない。いや、彼の息子である君だからこそできることがある」

 「何なりと、この身は造物主モモンガ様に創造された、如何なる命令も我が主の為ならば」

 「うん。でもその前に……その誓いは例え自分がこうあれかしと定められた事でも破れるものか?」

 

 「Indem ich zu Gott fluche(神に誓って)」

 

 膠もなく、いやこの場合は違う。彼の脅しなど歯牙にも掛けずに即答したアクターに、リディも演技を止めて破顔した。

 

 「うんうん。流石だよアクター。君ならそう言ってくれると思っていた」

 「期待に添えて何よりです」

 「では作戦の第一歩だ。アクターには──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あ、帰って来た」

 「お待たせしましたー」

 

 モモンガの所へ戻ると二人を少し不満げに迎える骸骨魔法使い。

 だが、その表情は読み取れない。

 

 「モモンガさん、アクターには一通りこれからの行動を伝えてます」

 「そうですか。ではパンドラズ・アクター」

 「はっ!」

 「お前に宝物殿の領域守護者から外し、外部の情報収集を命ずる。異論ないな?」

 「了解致しました。貴方様に創造されたこの身、全身全霊を以ってその使命!やり遂げて見せましょう!」

 

 『アクター』

 

 モモンガからの辞令に最初の方は冷静に反応できていたが、やはり造物主自らの命令は違うもので次第にテンションが普段と変わらないものに。

 それを窘めたのにと〈伝言〉でモモンガに悟られずアクターへ短く注意する。

 

 「おっと……失礼しました」

 「は?いや、よい。お前は私が自ら創造した謂わば息子だ」

 「そうですよアクター。では俺は先に失礼して自室に戻ってますね」

 

 これで親子の時間ができるだろう。リディが気を利かせたのか逃げるように宝物殿から指輪の転移で出て行った。

 

 

 「あ藤丸さ……行っちゃったな」

 「藤丸一香様はお優しい方ですね、ち、“父上”」

 「!……ああ、そうだな。“息子”よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 各造物主と守護者が仲を深めている時、リディはというと。

 

 「スイートルームは全部回ったと思っていたけど現実になると発想の勝利だよなぁ」

 

 ユグドラシル時代にはただのデータでしかない生活空間がそのまま使えるのは非常に助かる。その名に相応しく石油王、いやコロニーの富裕層でも体験できないような施設を生身で使用できるのはリディにとっても転移後最高峰の体験にカウントされるだろう。

 ギルメンにしか使用を許されないスパや贅沢を湯水の如く使う娯楽施設。子供禁制のBARに併設されたクラブのゲームコーナーでよくギルドの高年齢組とビリヤードで遊んだ思い出がリディの中に思い起こされる。

 

 「デミウルゴスとかああいうの強そうだなぁ。でも趣味が日曜大工かぁ……今度誘うか。他はアルベド、コキュートス、セバスにプレアデス達のケアも必要かな」

 

 レッドカーペットの上をぶつぶつと物思いに耽って歩いていた。

 挙げた各守護者達とそうでない者達には明確な違いがある。造物主が、生みの親のギルドメンバーの有無だ。

 闇妖精の双子や階層守護者最強格の吸血鬼、そして演者にはあの三人がいる為何かあれば造物主達に丸投げができる。

 

 だが他は違う。彼らは希望するだろう。いつか他の至高の御方も帰って来てくれると。既にコキュートスなどはそう思っていてもおかしくない。

 リディの懸念はそこだ。社会人としての経験から思いつきそうだが部下のケアも上司の務めだ。

 だが、彼はモモンガの様に各守護者のテキストを詳しく覚えていない。だから先ずは彼らと接触する回数を増やして為人を知っていくことにした。

 

 「これは藤丸一香様。おはようございます」

 「あ、セバス。うんおはよう」

 

 ナザリックが地下だからか、思考の海に沈んでいたからか既に外は朝の様だ。全く気が付かなかった。

 リディはそれを自覚すると途端欠伸が抑えきれない。

 

 「ふわぁぁ……あ、ごめん少し寝不足で」

 「それはいけません!」

 「は?ちょっ皆どうした!?」

 

 セバスの背後でお辞儀をしていたプレアデスの皆が凄い形相で詰め寄り彼の体を持ち上げる。そして何故か六人で神輿の様に担ぎ上げられ茫然とし無抵抗のリディ。

 えっほえっほと笑いを誘う掛け声の割に全く揺れがないのはメイドの嗜みなのか……。チラと下を見ると他に比べて身長が足りないシズとエントマが万歳状態なのを見て少しホッコリする。

 

 「って!どこに」

 「藤丸一香様の自室でございます」

 「はい?」

 

 あっという間に自室に運び込まれたリディを中にいたマシュが驚きの表情で迎える。その反応は正常だ。

 

 「せ、せせせ先輩っ!?」

 「これは失礼。藤丸一香様が寝不足だということでこうして自室まで運ばせて頂きました」

 「は、はぁ……確かに先輩は昨日帰って来ませんでしたし」

 

 それは一人第九階層を回っていたからだが、セバスが告げてマシュがそう補足する。するとセバスの目が怪しく光る。

 

 「ヒッ」

 

 厳つい顔の鋭い眼光で射抜かれたリディは短い悲鳴をあげる。そしてプレアデス達によって甲斐甲斐しく世話されふかふかのベッドに寝かされた。

 

 「……えっとぉ」

 「ご自愛ください。御身は脆弱な人間の体。もし体調不良や病で倒れられたら……食欲がお有りならプレアデスに朝食を運ばせますので。ではマシュ様。至高の御方の看病はお任せしても?」

 「はい!こういうイベントは後輩や異性の家族が一番だとペロロンチーノ様にご教授頂きましたので!バッチリです!」

 

 ペロロンチーノォ!!と心中絶叫するリディ。はてさて、その叫びは怒りによるものか感謝なのか。

 

 「それは、なるほど至高の御方が言われるのであれば。良い事を教えて頂きました。では私共はこれで」

 「はい、ありがとうございました」

 

 お辞儀をして退出する家令の姿を見送り手を振っていたマシュが振り返る。

 

 「調子はいかがですか?先輩」

 「いや、ただの寝不足なんだが……流石にこれは予想外だ。本気であいつら俺を要介護者だと思ってやがる」

 『ところでマシュ、先程の看病には後輩や異性の家族が重要と聞きましたがそれはほんと──ブッ』

 『ハイハイ呼ばれてないけど皆のアイドルマーリンだよ。夢の事なら御任せあ──ブッ』

 『マスター、眠るなら母の膝で──ブッ』

 

 『なんだマスター、眠気作用と栄養を両立した料理がご所望なら今から私が厨房に行って作ってこようか?』

 「エミヤママ──!」

 

 「やはり恐ろしい。危険ですねエミヤさんの料理スキル……ブツブツ」

 

 マシュが何か呟いているが務めて視界に入れないよう現実逃避するリディ。座にいるエミヤもヤレヤレと遠い目をしていた。何かあったのだろうか?

 

 「と、とにかく!ナザリックのNPC達の意識改革を早くしないと……あ、料理はお願い。久しぶりにエミヤのご飯が食べたい」

 『了解した』

 

 念話を切ればMPを消費して遠くでエミヤが現界したのがわかる。間違いなく厨房だろう。人造人間の特性で大食漢な一般メイド達の朝食を用意するに料理長達や何人かのメイドがいるはずだ。突然エミヤが現れて驚いてるだろうが彼なら敵対する事なく厨房の一角で病人食を作っているのが簡単に想像できる。スケコマシだし。

 

 『マスター!?何かとても不名誉な呼ばれ方をした気が──ブッ』

 「カット。もう、嬉しいけど皆心配し過ぎ。夜更かしなんかこの世界に来るまではしょっちゅうやってたし大丈夫なのに」

 「でも彼らのこともわかります。先輩──いえ、一香様。私達は貴方様にもしもの事があれば自害したくなるほど自身を叱咤するでしょう。特に座を共にする我らですらこうなのですから、主人の居ない者達は」

 

 「そこまでにしてマシュ。何度も言うけど俺はそんな器じゃない。敬われるなんて窮屈だ。それに俺は君の偽りのマスター。それ以上でもそれ以下でもない。だから、やめてくれ」

 

 「わ、かりました……ごめんなさい先輩」

 

 テキストでこうあれかしと定められた口調や態度を払拭した彼女だったが、それは同じく仮のマスターとしてではなく造物主としての心境を感情を押し殺した冷たい声で吐露する。

 その声にビクンと体を震わせて怯えるマシュ。そして俯いてなんとかそう返した。

 そんな後輩の姿を見て激しく後悔するリディ。髪をガシガシ掻き乱して短く彼女を呼ぶ。

 

 オドオドした態度で枕元に立ち、顔を寄せる彼女にそっと頭へ手を置き優しく撫でた。枕元のシーツに水滴が落ちて濡れるが見て見ぬフリをする。

 彼ならこういう場合どうするのだろうか?どうすればこの愛らしい後輩や仲間達を笑顔にできるのだろうか?リディの眼には夢想に浮かぶ白い背中が浮かんでは消えた。

 その服は今彼が着ている物と酷似していた。

 

 

 

 「うまうま」

 

 少ししてエミヤがメイド達を伴い運んで来たお粥を一心不乱に掻き込む少年の姿が見られ、その尊さにその場にいた全員が鼻を抑えて悶えていたとか?

 

 

 




 
 なんか、書くごとに藤丸のキャラが……
 アホの子化が……
 
 個人的にアクターは大好きなので出せて良かったです。
 


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