Lyrical×Darkness (R0)
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プロローグ1

始まりました、最新作!亀更新になるかもしれませんが、よろしくお願いします!


「………ここは、どこだ?」

 

黒いコート、黒いズボン、黒いネクタイ、真っ赤なワイシャツを身につけた黒髪黒目の青年、光城輝夜は周りを見て、そう呟いた。そこは、豊かな草原と澄みきった青空が広がっていた。

 

「俺は確か……、ロヴィーノの奴が仕掛けた隕石を破壊するために突っ込んで、それから隕石の爆発に巻き込まれて死んだはずなのだが……」

 

輝夜はここに来る前のことを思い出そうとしたが、そのときにふと気がついた。

 

「リングが無い……」

 

輝夜は自分の右手を見て、そう呟いた。ロヴィーノの対決のときに中指にはめていた自分の闇のリングと人差し指にはめていた自分の名付け親である聖輝と明夜の形見である光のリングが無くなっていたのである。

 

「…………」

 

そこで、輝夜は改めて、自分の状態を確認した。

 

(今の俺の手持ちは元々、予備で持っていたAランクの闇のリングとドレイクの匣とガンブレードが入っている保存用匣か………。それにこのコート……、俺がリボーンたちに相手に“(アルマ)(トゥー)(ラ・ド)(ラゴー)(ネ・ネ)(ーロ・)(コルヴ)(ィーノ)”を使ったときに脱ぎ捨てたやつだよな?いったい、どうなっているんだ……?)

 

輝夜は今の状況に頭を抱えた。さらに付け加えるならば、“漆黒ドラゴン(ドラゴーネ・ネーロ・コルヴィーノ)”のドレイクも共に爆発に巻き込まれたのだ。それが余計に輝夜の混乱を招いたのだった。

 

「ん?」

 

そんなときに輝夜は何かに気づいた。輝夜は目を細めて、遠くを見た。

 

「……何か、いるな」

 

そこには誰かの人影があった。しかし、そこからでははっきりとした姿が見えなかった。

 

「………仕方ない。今はあいつに聞いてみるか……」

 

輝夜は他にすることが無いと思い、人影のほうに歩いて行った。

 

 

 

 

 

輝夜が近づくと、人影もはっきりと見えてきた。その人影は………

 

(…………女?)

 

膝裏までありそうな長い銀髪に青目のきれいな女性が立っていた。彼女の側には白い2脚の椅子と小さなテーブルがあった。さらにテーブルの上にティーセットと付け合わせの菓子が置いてあった。それは、まるで来客の準備をしているかのようだった。すると、女性は輝夜に声をかけた。

 

「待っていました。光城輝夜さん」

 

「!?………あんたは誰だ?それと、なぜ、俺の名前を知っている?(………いや、俺の名前に関しては、野暮か……)」

 

いきなり、自分の名前を言われて、輝夜は女性に尋ねた。しかし、輝夜は自分の名前を知られている理由は予想がついているみたいだ。

 

「申し遅れました。私はクレアッツィオーネと言います。呼びにくいならば、クレアで大丈夫ですよ?」

 

輝夜に言われて女性、クレアは自己紹介をした。

 

「あえて、クレアッツィオーネと呼ばせてもらう」

 

輝夜の言い分にクレアは思わず、苦笑した。

 

「警戒心の強いお方ですね。………でも、仕方ありませんね。それと、なぜ私があなたの名前を知っている理由ですが………」

 

クレアはそこで一泊、間を入れると、答えた。

 

「あなたのご想像通り、私が神だからです」

 

「………やはりな。種族としての雰囲気がなんとなく、あいつに似ていたからな。ロヴィーノのな」

 

クレアの正体は神だった。そして、輝夜もそのことに気づいていた。遠くからでは、わからなかったがクレアに近づいたことで、気づいたのだ。クレアの雰囲気が《神々至上サイキョウ(最強・最恐・最凶)の邪神》と呼ばれているのロヴィーノに。

 

「………。さぁ、立ち話も何ですし、良かったら、こちらにおかけください」

 

輝夜の言葉にクレアは一瞬、悲しそうな顔をしたが、すぐに切り替えて、輝夜を椅子のほうに案内した。輝夜も大人しく椅子のほうに移動して、腰掛けた。それを見ると、クレアも空いているもう1つの椅子に腰掛けた。

 

「紅茶かコーヒー、どちらがいいですか?緑茶が良ければ、そちらを用意しますが?」

 

「………コーヒー」

 

「わかりました。ミルクと砂糖は?」

 

「いらない。ブラックでいい」

 

「わかりました」

 

そう言うと、クレアはコーヒーの準備を始めた。クレアがコーヒーの準備をしている間、輝夜はクレアの観察しながら、考え事をしていた。

 

(こいつ、いったい、どういうつもりなんだ?俺にこんな、ご丁寧なもてなしして………。それに、俺が『雰囲気がロヴィーノと似ている』って言ったことに対しての一瞬のこいつの顔……。あんな奴と似ているって、言われたことに傷ついたっていうわけでもなさそうだ………)

 

輝夜はそんなことを考えていたが、答えは出なかった。

 

「どうしたのですか?」

 

そこで、コーヒーの準備をしているクレアがじっと見ていた輝夜に尋ねた。

 

「ん?あぁ、あんたが美しいからな。見とれていた」

 

ととっさに輝夜は考えていたことと全く別のことを答えた。

 

「!?うふふ。本当は、違うことを考えていたでしょ?でもお世辞でも嬉しいわ」

 

クレアは一瞬、驚きながらも輝夜が考えていたことが違うことに気づいていたみたいだった。しかし、輝夜は動揺した様子もなく、こう言った。

 

「フン。まぁな。だが、あんたが美しいという感想は別に世辞じゃないけどな」

 

「え?」

 

輝夜の言葉にクレアは思わず、目を丸くした。

 

「あなたって、そんな性格だったかしら?」

 

「あんたが俺のことをどう思っているのか知らないが、俺は綺麗なものは綺麗と美しいものは美しいって正直に言うぞ」

 

クレアの疑問に輝夜はあっけらかんと答えた。実際、輝夜の言うとおり、クレアの容姿はこの世とは思えないほど、美しいものだった。長い銀髪も風に靡いて、キラキラと輝いていて、顔のパーツもそれぞれバランス良く整っている。そして、スタイルもいい。今、椅子に座っている姿もまるで1枚の絵画のようだった。

 

「そ、それは、ありがとうございます///……………そういうところ、()()()()()()()

 

「?」

 

輝夜の感想にクレアは顔を赤らめて、そう言った。最後にボソリと何か呟いたが輝夜には聞こえなかった。しかし、輝夜は興味がなかったのか、話を進めようとした。

 

「それよりも、そろそろ話を進めないか?」

 

「はっ!?そ、そうですね!!」

 

輝夜にそう言われて、クレアは慌てて、ちょうどできたコーヒーを2つのカップに入れて、自分と輝夜に差し出した。そして、落ち着いたところで、クレアは話を切り出した。

 

「まず、気がついていると思いますが、ここは死後の世界になります」

 

「……そうか。………ということは、俺はやはり死んだのか」

 

「えぇ………。おそらく、あなたが気になっていた3つのリングは現世に取り残されています」

 

「………そうか」

 

そう言って、輝夜は差し出されたコーヒーを飲んだ。

 

「!?……うまいな」

 

「ありがとうございます」

 

輝夜のコーヒーの感想にクレアは礼を言った。

 

「ってか、茶菓子を出された時点で予想はついていたが、死後の世界でも飲み食いはできるんだな」

 

「ふふ。栄養は取ることは残念ながらできないけど、今、こうして私の姿が見えて、私の言葉が聞こえるように味覚を残しているのよ」

 

「そうか。それで、話を戻すし、いきなり本題に入るが、なぜ、あんたはこうして、俺をもてなしてくれるんだ?」

 

と輝夜は今、自分が言ったように、いきなり本題に入った。それを聞いて、クレアは顔を暗くした。

 

「それは………謝罪とお礼ですね……」

 

「謝罪と礼?」

 

輝夜は一瞬、何のことだと思ったがすぐに心当たりが思いついた。

 

「…………ロヴィーノのことか」

 

「はい……。《神々至上サイキョウ(最強・最恐・最凶)の邪神》、ロヴィーノ。いくつもの世界を滅ぼした大罪人……。神々のなかでも、彼は嫌われ者でした」

 

(他の神様の言葉だと説得力があるな)

 

「あなたがた、ベネスタンテ星の住人はロヴィーノのせいで苦しみ、本来は我々、神々が片付けるべき案件をあなたがたが肩代わりしてくれました。そのことに神々を代表して、私から本当に申し訳ございませんでした。そして、ありがとうございました」

 

クレアは立ち上がって、深々と頭を下げた。輝夜はそんな彼女をただ、黙って見ていた。

 

「…………別にあんたが謝ったところで、別に元に戻るわけじゃないし、それに礼も沢田綱吉に言ってくれ。ロヴィーノを倒したのはあいつなんだからな」

 

そう言うと、クレアは頭を上げて、こう言った。

 

「もちろん、彼にも謝罪とお礼を言うつもりです。しかし、最終的にロヴィーノの計画を阻止してくれて、その結果、亡くなってしまったあなたにも言わなければなりません」

 

「………そうか。まぁ、気持ちだけ受け取っておくよ」

 

「ありがとうございます………」

 

そう言うと、クレアはもう一度、頭を下げて、椅子に座った。そこで、輝夜はふと思ったことをクレアに尋ねた。

 

「そういえば、あいつと一緒に死んだ俺がここにいるが、ロヴィーノそのものはどうなったんだ?」

 

輝夜の疑問にクレアはしんけんな顔つきでこう答えた。

 

「………あなたの魂を回収したときには、ロヴィーノの魂は見当たりませんでした」

 

「!?ってことは、あいつはまだ、魂として生きている可能性があるのか!?」

 

輝夜は思わず、立ち上がって、そう叫んだ。クレアの言い方だとロヴィーノは肉体を失ったみたいだが、ロヴィーノは魂だけの状態でも恐ろしいことを輝夜は身に染みている。なんたって、ロヴィーノは魂の状態で輝夜たちの故郷であるベネスタンテ星を半壊にさせたのだから。

 

「落ち着いてください。話には続きがあります」

 

「っ!?………すまない」

 

クレアに言われて、輝夜は落ち着き、椅子に座ったのだった。

 

「いえ、あなたの気持ちもわからなくもないので大丈夫です。それと、ロヴィーノに関してはひとまずは大丈夫です」

 

「?どういうことだ?」

 

クレアの言葉に輝夜は首を傾げた。

 

「あの戦いでロヴィーノの魂自体にも、かなりダメージがあります。仮に生き延びたとしても、再び彼が活動を再開するまで回復するのに数億年はかかります。その間に今度こそ我々が責任を持って、彼を捕縛して、断罪を行います」

 

「………そうか、わかった」

 

輝夜は完全に納得したわけでは、なさそうだったが、これ以上自分にできることは無いだろうと思い、そう言った。

 

「それで、俺はこれから、どうなるのだ?地獄に行くのか?」

 

話に一区切りつくと、輝夜はクレアにそう尋ねた。輝夜は自分が生きていた間、していたことを考えて、そうなるのでは無いかと思った。しかし、クレアは首を振った。

 

「いいえ。あなたには、別世界に転生をしてもらうつもりです」

 

「………転生?」

 

クレアの言葉に輝夜は首を傾げた。

 

「はい。ロヴィーノの一件のお詫びにあなたには新たな生を謳歌してほしいのです」

 

「………そうか。それで、その世界はどんな世界だ?」

 

「はい、その世界は『魔法少女リリカルなのは』の世界です」

 

「………はっ?『魔法少女リリカルなのは』……?」

 

輝夜の呆然とした様子にクレアは苦笑いした。

 

「そうですよね。そんな反応してしますよね。『魔法少女リリカルなのは』は簡単に言えば、とある世界での物語の名前であり、その物語が現実となった世界に転生してもらうつもりです」

 

「物語が現実となった世界ねぇ………」

 

「さらに付け加えるならば、あなたのいた世界も物語が現実となった世界であります」

 

「………はっ?」

 

クレアが語った真実に輝夜は間抜けな声が出た。そこで、クレアから詳しい詳細を聞いた。それを聞いて、輝夜は驚いた。

 

「………沢田綱吉を主人公とした物語が他の世界にあるというのか………。さすがに、驚いたぞ……」

 

「はい。しかし、残念ながら、虹の代理戦争までしか描かれていませんので、あなたやあなたのお仲間たちのことは知られていません」

 

「いや、別に構わねぇよ。それにしても、沢田綱吉にとって、それって、プライバシーの侵害にならねぇか?」

 

「アハハ………。さすが同じ世界の住人となると、考え方が違いますね………。しかし、あまり、否定もできませんね……」

 

輝夜の言葉にクレアは顔を引きつらせて、そう言った。

 

「それで、話を戻しますけど…。転生してもうのですが、実はあなた以外にも6人の転生者がいるのです」

 

「はっ?6人の転生者って、なぜ、そんなことになっているんだ?」

 

輝夜がそう聞くと、クレアはどこか言いにくそうししながら、しぶしぶと説明した。

 

「実は、彼らのいた世界を管理していた者がうっかりと彼らを殺してしまって……」

 

「おい、ちょっと待て」

 

そこで輝夜は聞き捨てられないと言わんばかりに呆れた表情で言った。

 

「うっかりで殺した?なんだ、その馬鹿な話は?俺は、自分で選んで死んだから、文句を言う気はないが死ぬつもりも無いのに殺されたそいつらはふざけるなって、話だろ」

 

「返す言葉がございません……」

 

輝夜の言葉にクレアは頭を項垂れた。

 

「ハァ……。まぁ、あんたが犯した失態じゃないみたいだから、これ以上は文句は言わないが、それで他に転生者がいる。だから、なんだ?」

 

「あっ、はい。実は彼らのいた世界には『魔法少女リリカルなのは』も『家庭教師ヒットマンREBORN!』の物語も知っているのです。だから、あなたにはこれから行く世界に関する知識を――――」

 

「いらない」

 

「……えっ?」

 

輝夜の拒否にクレアは戸惑った。

 

「だから、いらないって言っている」

 

「いいのですか?あなたなら、情報のアドバンテージの重要さを知っているはずですよね?」

 

「そんなものは現地で回収する。それにその物語の道筋を知って、その通りに進める必要があるのか?」

 

「!?」

 

輝夜の言葉にクレアは驚いたが、すぐに顔を引き締めて、輝夜に言った。

 

「いいえ。どうするつもりなのか。それは全て、あなたの自由です」

 

「そうか、それなら、勝手にやらせてもらうぞ」

 

「はい。………それならば、特典のほうはどうしますか?」

 

「特典だと?」

 

「はい。実は他の転生者は皆さん、あなたと違い、戦いの経験が無いのです。だから、それを補うためにご希望の3つの特典を得て転生してもらうのです。簡単に言えば願い事ですね」

 

「ふぅん。願い事ねぇ……。まぁ、それなら、受け取ろうか」

 

「!?本当ですか!!」

 

「あぁ。それで、特典っていうか、願い事の内容だが――――」

 

そこで輝夜は3つの特典の内容を言った。それを聞いたクレアは驚愕した。

 

「えっ!?そ、そんな内容でいいのですか……?」

 

「何だ?できないのか?」

 

「い、いいえ……。できる、できないで言われたら、できますが………。今までの転生者でそんなお願いしてもらう人はいませんでしたので……。特に3つ目は………」

 

「悪いがその3つ目は俺にとっては最も重要なことだ。それに俺は他の連中とは違う。俺は俺だ。考え方が違うのは当然だ」

 

「それはそうですが………。わかりました。それでは、その3つを特典としますがよろしいですか?」

 

「あぁ」

 

クレアの問いに輝夜は頷いた。輝夜が望んだ3つの特典。その内容を知るのはもう少し先になる。

 

「話もこれまでです。それでは、光城輝夜さん」

 

すると、クレアはそう言いながら、にっこりと輝夜に向かって、笑った。

 

「いきなりですが、いってらっしゃい♪」

 

そう言うと、輝夜の真下に巨大な穴ができた。

 

「はっ?」

 

輝夜はいきなりのことに間抜けな声が出た。しかし、重力に逆らえず、輝夜はそのまま椅子ごと穴へ落ちていった。

 

「………」

 

クレアは立ち上がって、穴に近づき、少しおかしそうに笑いながら、呟いた。

 

「うふふ♪ごめんなさい♪少し悪戯心が出てきて♪1度、やってみたかったのよね♪」

 

「やられたほうはたまったもんじゃないがな」

 

「そうね♪でも、別にこれ以上、害があるわけじゃなし、大…丈……夫………よ………。(あれ…?今、私、誰と話しているの…?)」

 

クレアは背後から言葉が聞こえて、次第に言葉が詰まった。そして、嫌な感じがして、恐る恐る後ろを振り返った。そこには…………

 

「…………よくも、やってくれたな」

 

「て、輝夜さん!?」

 

たった今、穴へと落ちていったはずの輝夜がクレアにガンブレードを突きつけていた。輝夜は無愛想な顔がいつにもまして、厳しくなっていた。

 

「ど、ど、どうやって、ここに!?」

 

「あ?そんなの、これを使ったに決まっているだろ」

 

クレアの疑問に輝夜は右手の中指にはめていた闇のリングを見せた。それを見て、クレアは気づいたようだった。

 

「!?そうだったのね!!闇夜のショートワープ!!」

 

「そうだ。そして、それよりも何か言うことはないのか?」

 

輝夜はそう言うと、ガンブレードの刃先に闇夜の炎を纏わせた。それを見て、クレアは青ざめて…………

 

「ごめんなさい!!出来心で本当にすみませんでした!!」

 

輝夜に土下座をした。その姿は何とも情けない姿だった。

 

「…………まぁ、いい」

 

すると、輝夜はガンブレードの炎を治めて、ガンブレードも直した。

 

「えっ…?許してくれるのですか……?」

 

クレアも驚いた様子で顔を上げた。

 

「本当は首から下を生き埋めにすることを考えていたりしたんだが……」

 

(怖っ!?)

 

「そんなことしようとしても、()()()()()()()と思ったからやめた」

 

そう言うと、輝夜はクレアのほうをジッと見た。

 

「あんたは俺よりも強い。下手すれば、俺たちが戦ったあの()()()()()()()()()()よりもな」

 

「……………」

 

「でも、だからこそ、納得ができないところもある。…………クレアッツィオーネ。なぜ、お前はあの戦いに参加しなかったんだ?」

 

輝夜は有無を言わせない口調でクレアにそう言った。



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プロローグ2

今回は短めです。


「あんたは俺よりも強い。下手すれば、俺たちが戦ったあの()()()()()()()()()()よりもな」

 

「……………」

 

「でも、だからこそ、納得ができないところもある。…………クレアッツィオーネ。なぜ、お前はあの戦いに参加しなかったんだ?」

 

「……………」

 

輝夜の有無を言わせない言葉にクレアは少し黙っていたが、意を決して口を開いた。

 

「………別にあなた方を見捨てようとしたわけでは、ありません」

 

そう言うと、クレアは立ち上がって、自分の胸に手を置いた。

 

「私は『創造』を司る女神。『破滅』を司るロヴィーノとは対極の存在であります」

 

(創造と破滅……)

 

「確かにあなたの言うとおり、あの弱体化した状態のロヴィーノなら私でも倒せたかもしれません。しかし、ロヴィーノは私が介入できないように()()()をしていました」

 

「小細工……?」

 

クレアの言葉に輝夜は眉をひそめた。

 

「あなたはまだ、《神々至上サイキョウ(最強・最恐・最凶)の邪神》と呼ばれているロヴィーノのことを甘く見ています」

 

「なに……?」

 

「私とロヴィーノは神々の中でも、最高峰の力があります。それこそ、()()()()()()()()()()()()()の力を。そして、それは弱体化していても同じでした」

 

「!?」

 

クレアの言葉に輝夜は驚愕した。そして、輝夜はなぜ、クレアが戦いに参加できなかったのか、その理由を察した。

 

「あんたはその破壊を防いでいたというのか……。その司っているという『創造』の力で……」

 

「理解が早くて助かります。本来、私たちが世界の中で存在するには、ある程度、力を抑える必要があります。しかし、ロヴィーノはそんなことお構い無しに力を世界を破滅に追い込むぐらい出してきました。私もそれを抑えるために全力を出しました。そのため、私にはロヴィーノと戦う余力が残っていませんでしたし、他の神々では、ロヴィーノに太刀打ちすることなんてできません。だから、あなた方人間に任せることにしたのです。……しかし、こんなのはただの言い訳です。すみませんでした……」

 

そう言って、クレアは頭を下げた。

 

「………いや、俺も責めるような言い方して、悪かった」

 

そう言って、輝夜も謝罪した。

 

「……他に聞きたいことはありますか?」

 

そこでクレアは輝夜に尋ねた。

 

「………最後に1つだけ」

 

「なんでしょうか?」

 

クレアがそう尋ねると、輝夜は真剣な眼差しでこう言った。

 

「9年前に死んだ光城聖輝とその妻、光城明夜。それから、元の世界で生きている光城明聖はどうなっている?」

 

輝夜が訊いたのは、このことだった。輝夜にとって、大事なこの3人の現状はどうしても気になることであったのだった。それに対して、クレアは優しく微笑んで、こう言った。

 

「大丈夫です。前者のお二人は新たな人生を謳歌していますし、光城明聖ちゃんは、最初はあなたが亡くなったことにショックを受けていましたが、沢田綱吉さんたちの励ましにより、幸せに過ごしています」

 

「………そうか」

 

クレアの言葉に輝夜は無愛想な顔から嬉しそうに微笑んでいた。

 

「それじゃあ、そろそろ行くよ」

 

そう言って、輝夜は穴のほうへ近づいた。

 

「あれ?穴から飛び降りるつもりですか?」

 

「は?何、言っているんだ?」

 

「いえ、先程、あんなに怒っていらっしゃったので……」

 

「それは、無理矢理、俺を落とそうとしたからだろ。それに他に移動する手段があったとしても、今度はどんな悪戯をされるか、たまったもんじゃないからな」

 

「あはは……」

 

輝夜にそう言われて、クレアは顔が引きつって、苦笑いした。そして、輝夜が穴の手前で止まると、クレアに声をかけた。

 

「クレアッツィオーネ」

 

「はい、なんでしょうか?」

 

「聞きたいことはあれで終わりだが、最後に言いたいことがある」

 

「それはいったい?」

 

そう言うと、輝夜は顔だけクレアのほうに向いて、こう言った。

 

「あんたが転生した先での世界で俺の何を()()()()()()()()のか知らないが…」

 

「!?」

 

「俺は誰かの操り人形になる気もないし、自由にさせてもらう。……それだけだ」

 

そう言うと、輝夜はクレアの言葉を待たずに穴へと飛び降りた。

 

 

 

 

輝夜が飛び降りた後、クレアはジッと穴のほうを見ていた。そこでポツリと呟いた。

 

「行っちゃったわね……」

 

そう言うと、クレアはクスリと笑った。

 

「私にあんな啖呵を言うなんて、とても、おもしろそうな子ね。せっかくだから、彼の1つ目の特典にオマケを入れようかしら?………そうね。入れましょう!特に的外れというわけでもないからね♪」

 

クレアは楽しそうにそう言っていた。今、クレアの口調が変わっていたがそれを指摘するものはこの場にいなかった。しかし、次の瞬間、楽しそうな顔をしていたクレアの表情が変わった。

 

「……それにしても、気づいていたのね。私があなたのことを試そうとしていることに……」

 

輝夜の言うとおり、クレアは輝夜に何かを試そうとしているようだった。

 

「それにこの私が背後を取られていることに気づけなかったなんて……。さすが、《人類至上サイキョウ(最強・最恐・最凶)の人間》と呼ばれていることだけはあるね。このことを言ったら、彼、怒りそうだけど………」

 

クレアは先程の出来事を思い出しながら、そう呟いた。

 

「光城輝夜……。あの時、あなたが言っていた、あなたが認めた人間……。そうなのよね?()()()()()?」

 

クレアはどこか、悲しそうな顔をしながら、()()()のことを思い出していた。

 

「ロヴィーノ……。あなたは、あの時こう言ったわよね?」

 

『あいつ、光城輝夜(ダークネス)()()()()()()()()()()()()()()さ』

 

「あの言葉が本当なら、私も()()()けど………。これ以上、私たちの問題を彼に関わらせるわけにはいかないわ。それに悪いけど、あなたの言葉も鵜呑みにはできないわ………。だから――――」

 

そう区切ると、クレアは意を決した顔つきをして、こう言った。

 

「最終的にどうするかは、光城輝夜()に任せるわ。でも、まず、その資格があるか、私が試すわ!」

 

クレアの言葉は澄みきった青空に響いた。

 

そして、輝夜の新たな人生が今、始まる。




次回から、いよいよ本編、始まります!


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原作開始前
最初の事件


今回から1人称視点でやってみましたが、意外と難しいです。


【Side 輝夜】

 

あれから、8年以上が経った。俺は、今、8歳児だ。………言ってるだけで何だか馬鹿馬鹿しくなってきた。聞いてのとおり、俺は今はガキの状態だ。8歳児となると、前世では、リヴォルッツィオーネという軍での訓練兵をやっていたな。まぁ、そんなことはどうでもいいか。この8年の間に関して知りたいという奴はいると思うが、悪いが詳しい話はまた、いずれするとして、今はこれからのことについて、考えるか………。

 

「輝夜」

 

そう考えていると、俺に話しかけてきたのは、赤目のウルフヘアーの黒髪を持った長身の20代の男だ。

 

「あぁ、龍か」

 

こいつは、光城龍。血の繋がりはあるような、無いような……、まぁ、戸籍上では、俺の叔父に当たる、俺がこの世界で最も、信頼できる男だ。俺が転生者ということも前世のことも知っている。俺は、こいつと今、住んでいる家に2人で暮らしている。は?この世界の親?知らない。そんなことはどうでもいいだろ。

 

「何か、考えていたみたいだが?」

 

「そんなの、もちろん今後のことについて、決まっているだろ」

 

「……それも、そうか。『魔法少女リリカルなのは』。この世界を舞台とした物語か……。それにしても、魔法……。そんなものがあるとはな……」

 

龍の言うとおり、俺もその存在には、驚いた。この8年の間にいろいろと調べてわかったことだが、その1つが魔法だ。リンカーコアと呼ばれる器官が魔法の元を作り出すみたいだな。だが………

 

「だが、その魔法っていうのは、おとぎ話に出てくるような生活に役立たせるものじゃなくて、ただの兵器としての使い方しか無いみたいだがな。それに、万人に使えるわけじゃない」

 

「リンカーコアが無ければ、魔法は使えないからな」

 

「あぁ。まぁ、今はそこはどうでもいい。それよりも、魔法少女って言うからには、争いの道具である魔法を使うってことだろ?ってことは、必ず、争いごとが起きる」

 

「輝夜はその争いごとに関わる気は?」

 

「……さあな。場合によるとしか、答えられない。それに俺たちはその争いごとがいつ、どこで起きるのかわからないからな」

 

クレアッツィオーネには、その物語に関する情報はいらないって、言った。そのことに関しては、別に後悔する気は無い。それよりも、問題なのは………。

 

「俺以外にいる6人の転生者についてだ」

 

問題は、ここだな。その6人はこれから起きることについて、知っている。そいつらが、その争いごとに関わるかは知らないが、ひとまず、そいつらの情報は知っておく必要はある。

 

「そいつらが、どう動くかは知らないが、今後のために警戒する必要はある」

 

「確かに……だが、その6人に関しての手掛かりは無いんだろ?」

 

「……あぁ」

 

そうなんだ。その6人には、関しては年齢、性別ともに不明だ。ほんの少しでも手掛かりがあれば、助かるのだが………。

 

「………まぁ、地道に探すしかないんじゃない?」

 

「それもそうだな……」

 

龍の言うとおりだ。焦ってもしかたない。転生者たちの情報もできれば欲しいという程度のものだしな。

 

「ところで、輝夜……」

 

「ん?どうした?」

 

「実は、醤油を切らしてしまってな。買ってきてくれないか?」

 

「………それは、今、必要なのか?」

 

「あぁ。今日の晩飯は肉じゃがだからな。無いと困る」

 

「………仕方ない」

 

面倒くさいが、晩飯ができないのはもっと困る。俺は財布を持って、玄関に向かった。

 

「それじゃあ、行ってくる」

 

「いってらっしゃい」

 

 

 

 

 

「さて、醤油も買ったことだし、帰るか」

 

スーパーで醤油を買った帰り、俺は路地を歩いていた。その路地は夕方という時間のこともあり、人通りが少なかった。俺が十字路の手前にさしかかると………

 

ビュウン!!

 

黒いワゴン車がもの凄いスピードで目の前を通り過ぎていった。………普通に危ないだろ。俺がそう思って、十字路を通り過ぎようとしたが……

 

バッ!!

 

俺は思わず、壁の裏に隠れた。その理由は………

 

「ちょっと、何よ!?離しなさい!!」

 

「うるせぇ!!おい!!こいつら、詰め込め!!」

 

「キャー!?」

 

黒服の男たちが今の俺と同年代の少女2人をさっきのワゴン車に詰め込んでいたのだ。そして、詰め終えると男たちはそのまま、ワゴン車に乗って、どこかに行った。

 

「誘拐か……。周りには誰もいないし、見かけた以上、放っておくわけにもいかないな」

 

俺はそう考えるととりあえず、携帯でこのことを龍にメールを送って、俺は自分の左手首につけていたブレスレットに言葉を発した。

 

「起動しろ。『S(エス).C(シー).F(エフ)00(ダブルゼロ)』」

 

 

 

 

【Side ???】

 

私、月村すずかは何が起きたのか、わからなかった。友達のアリサちゃんとお稽古の帰りのときに、もの凄いスピードで車が走ってきて、私たちのすぐ近くで止まったら、男の人が降りてきて、私たちを無理矢理、乗せられて、どこかに連れて来られちゃった。私たちは、今、ロープで縛られて、知らない部屋の端っこに放ったらかしにされている。私たちの前にあるドアの近くでは、私たちを車に乗せた人とその仲間の人たちが何か、話している……。

 

「すずか、大丈夫?」

 

「う、うん……。アリサちゃんは……?」

 

「私もよ。それよりも、これって……」

 

「うん……、たぶん、誘拐だと思うよ」

 

私のお家もアリサちゃんのお家も家が裕福だから、身代金目当てでこういうことが起きる可能性があることはわかっていたけど……。すると、前にいる男の人たちのうちの1人が近づいてきた。

 

「ちょっとアンタ達!どうせ身代金目的の誘拐でしょ!?だったら私1人いれば十分の筈よ!すずかは解放して!」

 

「ア、アリサちゃん……」

 

アリサちゃんがその男の人に大きな声で叫んだ。だけど、その男の人もアリサちゃんの声が聞こえた仲間の人は、何がおかしいのか笑い出した。

 

「ハハハハッ!!確かに俺たちは金欲しさにてめぇらを攫ったが!!俺たちの雇い主の目的は、そこの紫髪のお嬢ちゃんだからな!!」

 

「!?」

 

今の男の人の言葉で、私はわかっちゃった。私のお家も裕福だけど、アリサちゃんのお家程じゃない…………。だから、私が目的ということは、もしかして…………。

 

「ちょっと、すずか!!顔色悪いけど、大丈夫!?」

 

「ア、アリサちゃん………、ごめんね………」

 

「何、謝ってるのよ!!確かに、私は巻き込まれたみたいだけど……逆に私があんたを巻き込んじゃうこともあるかもしれないから、気にしないでよ!!」

 

「ア、アリサちゃん……!!う、うん………!!」

 

アリサちゃんの言葉に私は嬉しくて、泣きそうだった。

 

「な、なぁ……。せ、せっかくだしよぉ~。こいつらで()()()いいか?」

 

すると、1人の男の人が周りの人に訊いていた。その人の目がおかしくて、もの凄く嫌な予感がする…………。

 

「なんだ?テメー、ロリコンかよ?まぁ、時間はまだあるし、いいか。だが、金髪のお嬢ちゃんだけだぞ。紫髪のお嬢ちゃんは無傷にしろって話だからな。あと、あまり犯り過ぎるなよ」

 

「へへ、あざ~っす♪それじゃあ、お嬢ちゃん♪お兄さんといいことをしようかぁ~♪」

 

そう言うと、男の人が私たち………というよりも、アリサちゃんに近づいた。

 

「いや!!来ないで!!変態!!」

 

「やめて!!アリサちゃんに何もしないで!!代わりに私が!!」

 

「ちょっと、すずか!?何、言ってるのよ!?」

 

隣でアリサちゃんが叫んでいるけど……、お友達のアリサちゃんが無事なら…………。

 

「残念だが、さっき言ったとおり、お前は雇い主から無傷で連れて来いって言われているのさ」

 

「そ、そんな………」

 

男の人の変な動きをしている手がアリサちゃんに近づいている。このままじゃ、アリサちゃんが…………

 

「へへへ~♪」

 

「い、いや……」

 

そんなの………嫌だ!!

 

「誰か………誰か、助けて!!」

 

ドカーーーーン!!!

 

「「「「「ガッ!!?」」」」」

 

「「「「「「「!?」」」」」」」

 

すると、いきなり、ドアが飛んできた。ドアの近くにいた人たちはそれに巻き込まれて、気を失ったみたいだった。私もアリサちゃんもアリサちゃんに近づいていた男の人もその男の人の巻き込まれなかった仲間たちもポカンとして、出入り口のほうを向いた。すると、誰かが入ってきた。

 

「誰だ!?」

 

男の人たちは部屋に入ってきた人に拳銃を突きつけた。そして、入ってきた人は薄暗い部屋だともの凄く見えにくいぐらい黒いローブを身に纏っていて頭に同じように黒いマスクを被った()()()()だった。そして、その人は静かに答えた。

 

「通りすがりの目撃者とだけ言っておこう」

 

 

 

 

 

【Side 輝夜】

 

大声で助けを呼ぶ声が聞こえたから、聞こえた部屋の扉を蹴破ったが、見た感じギリギリだったな。危ない危ない。………なぜ、俺が大人の姿しているのか、気になっている人がいるみたいだな。………はぁ。時間が無いから簡単に説明するけど、俺には実はリンカーコアがあってだな、S.C.F00は俺のデバイスという魔法を使うための道具だ。ちなみに今はローブに隠れて見えないが俺の左腕のダイヤル付きの大きめの籠手として装備されている。その変身魔法を使っている。ガキの体だと戦うのにいろいろと不便だからな。格好に関しては、訳あって、正体を隠しているからだ。悪いがその訳やデバイスを手に入れた経緯は言えない。

 

さてと、それよりも今はこの状況をどうするかだな。この部屋にいる誘拐犯は10人だったみたいだが、半分は俺が蹴破った扉の下敷きになって伸びているな。まぁ、手間が省けたからいいか。

 

「テメー!!見張りの奴らはどうした!?」

 

「あぁ。入口にいた奴らなら、今頃、全員、夢の中だ」

 

「何だと!?」

 

本当に入口にいた奴ら、たいしたことなかったな。逆に弱い者いじめしている気分だった。こいつら、裏の連中なのは間違いないが、俺が調べた限りだと、この世界には死ぬ気の炎の存在は知られていないみたいだからな。それにボンゴレやアルコバレーノ、復讐者(ヴィンディチェ)とかもいないみたいだ。もちろん、(トゥリニセッテ)も……。って、今は関係ないことだったな。それよりも、誘拐の現場に遭遇したときは遠くにいたから()()()()()()()()が………。

 

「チッ!!こいつを撃ち殺せ!!」

 

人が考え事しているときにこいつら、発砲してきやがった。まぁ、別にかわせるから問題ないが。

 

「くそ、なぜ、当たらない!!?」

 

「こいつ、何なんだ!!?」

 

なんか、言っているみたいだが長時間かける必要ないからな。

 

「ガハッ!!?」

 

まずは近づいて、1人腹に膝蹴りかました。この時点でこいつは気絶した。次にその状態から体を回転させて、回し蹴りでこいつの背中を蹴って、こいつの仲間の固まっていた2人のほうへ飛ばした。

 

「「うぉっ!?」」

 

「くそっ!!邪魔だ!!」

 

2人組はそいつを受け止めたが、邪魔だと思って、横へと捨てた。そこへすかさず、俺が2人組の頭を掴んで、床へ叩き付けた。

 

「「ガッ!!?」」

 

2人はそれで気絶したが、俺はまだ手を止めない。隙だらけの男へ移動して、腹を殴りつけた。

 

「ガハッ!!?」

 

そいつはそれで気絶して、倒れた。そこで俺は最後の1人のほうへ向いた。

 

「あとは、お前だけだな」

 

「ま、待て!!そ、そうだ!!良いことを教えようじゃないか!!」

 

「良いことだと?」

 

どうせ、ろくでもないことだろと俺がそう思っていると、そいつはべらべらと勝手に話し始めた。

 

「そこのガキ共を助けに来たみたいだが、金髪の嬢ちゃんはともかく、紫髪の嬢ちゃんは助ける価値なんてねぇぞ!!なんたって、そいつは――――」

 

「!?やめて!!」

 

「夜の一族っていう、吸血鬼の化け物だからな!!」

 

「いやーーーーーー!!!!」

 

男の言葉で紫髪の小娘が叫んだ。そして、金髪の小娘は信じられないという顔をして、紫髪の小娘の顔を見ていた。

 

「嘘よね……すずか……?あいつの言っていること………?」

 

「………………」

 

金髪の小娘が紫髪の小娘、すずかと言うのか、まぁ、そいつに尋ねたが青ざめた顔で黙っていた。それは言外に肯定しているようなものだが、まぁ、それよりも………

 

「それが、良いことか?」

 

「あぁ!!そうさ!!そいつを助けたところで何の価値も無いんだ!!金髪の嬢ちゃんは返すから、見逃してくれ!!」

 

要は命乞いかよ。まぁ、それよりも、すずかという小娘は吸血鬼ね………。

 

「………確かにいいことだな」

 

「「!?」」

 

「ハハッ!!そうだろ!!そいつは……「ただ……」……な、何だよ………」

 

「いいことはいいことでも、どうでも()()()()だがな」

 

「なっ!!?」

 

「「えっ!!?」」

 

俺の発言に何だか、全員、驚いているみたいだが、無視しよう。

 

「そこの小娘が人間じゃない?そんなこと、この部屋に入って、()()()()()()()さ」

 

「なっ!!?」

 

「「えっ!!?」」

 

俺の発言でまた、驚いているみたいだな。ロヴィーノやクレアッツィオーネっていう、人間とそっくりの人外を見たんだ。人間か人外の見分けぐらいつく。まぁ、吸血鬼だということはさすがにわからなかったが、そこは言う必要性ないな。

 

「俺は種族差別はしない主義なんだ。だから、吸血鬼だからっていうくだらない理由で助けないということはしない。だが、そこの吸血鬼の小娘が人を襲うなら、助ける気も起こらないが………」

 

俺は、そこですずかという小娘のほうを見た。小娘は不安そうな顔をして、こっちを見ていた。そして、俺は確信した。

 

「こいつの目を見る限り、そんなことは無さそうだからな。だから、こいつも助ける」

 

俺がそう言うと、すずかという小娘の目からポロポロと涙がこぼれていた。俺にとってはどうでもいいことだが、こいつにとっては本当に不安なことだったんだな。そこら辺は同情するよ。

 

「ふざけんな!!!そんな理由で――――!!!」

 

「黙れ」

 

俺がそう考えているときに誘拐犯がいきなり叫びやがった。やかましかったから、殺気を込めて、一言だけ言った。すると、面白いくらいピタリと止まった。まぁ、そんなことはどうでもいいとして、そろそろ終わらせるか。俺はそう思って、誘拐犯に近づいた。

 

「くっ!!?こうなったら―――」

 

バンッ!!!

 

「ギャーッ!!?」

 

本当、こういう小物の人間は読みやすくて、ある意味いいな。どうせ、そこの小娘2人を人質に取ろうとするだろうから、この誘拐犯の拳銃を持っている手をさっき、気絶したこいつの仲間からくすねた拳銃で撃った。誘拐犯はあまりの痛みに拳銃を落とした。

 

「く、来るな!!!」

 

誘拐犯は撃たれた手を押さえながら、後ろへと下がって行ったが、残念ながら、すぐに壁にぶつかるんだよな。

 

「もう終わりか?」

 

「く、くそっ!!!」

 

誘拐犯は壁と背中を合わせて、悔しそうにしていたが、そんなことはどうでも良かったから、俺は右拳を握りしめて、殴りかかった。

 

ドガンッ!!!

 

「「「………えっ?」」」

 

今の光景を見て、小娘2人と誘拐犯は驚いているみたいだな。まぁ、そうだろうな。顔面を殴ると思ったら、()()()()()()()()()()()のだからな。別にたいした意味は無いが、最後に言いたいことがあったしな。

 

「1つ、言い忘れていたが……」

 

「な、なんだよ………」

 

「世の中には()()()()()()()()()()()ぞ?」

 

これが言いたかったんだよな。人外は化け物で人間はそうじゃないという考えは本当にくだらない。世の中には、化け物染みた人間など五万といる。俺の前世の仲間たちやそいつらを倒した沢田綱吉とその仲間たち、そして………

 

「俺とかな?」

 

ピキッ……ピキピキッ……ドガンッ!!!

 

「「「!!?」」」

 

俺がそう言うのと同時に俺が殴ったところを中心にヒビが入って、壁が崩れた。その壁は外に面していて、開放感に満ち溢れていた。

 

「わっ……わっ!!」

 

「おっと!」

 

危ない危ない。誘拐犯の奴、壁にもたれかかっていたのか知らないが、俺がとっさに左手でそいつの胸元を掴んだからよかったものの危うく外に落ちそうだったぞ。

 

「お前にはまだ、死んでもらう訳にはいかない。お前が知っている情報を吐くまではな?」

 

俺は小声で誘拐犯に言った。『夜の一族』っていう吸血鬼の一族の普通じゃおそらく知られることのないことを知っているところを見ると、こいつらは身代金目的の誘拐じゃなくて、どこかの誰かの依頼からの誘拐だな。

 

「だ、誰が、言うもんか!!!」

 

誘拐犯は、もう強情に叫んでいたが、ぶっちゃけ俺も別に興味は無いんだよな。ただの親切心からなんだよな。どうせ、そこの金髪のほうはともかく、吸血鬼の小娘の関係者は情報、欲しいだろうしな。だが、言う気無さそうだな。まぁ、別に予想外じゃないし、少しでも情報を吐きやすくするためとついでに()()()()()()()になってもらうか。

 

「S.C.F00」

 

俺はS.C.F00についているダイヤルを少しいじった。すると…………

 

「ひぃっ!!?や、やめろ!!化け物!!!」

 

誘拐犯はいきなり、顔を青ざめて、悲鳴を上げた。小娘2人は何が起きているのか、わからないという顔をしていた。まぁ、これ以上、怖がらせる訳にもいかないし、今回の実験も十分だし…………

 

「ガハッ!!?」

 

腹を殴って気絶させた。これで、終わりだな。………だが、まだ帰ることはできなさそうだな。俺は穴が空いた壁から下を見て、そう思った。そこには、同じようにこちらを見ている人物がいた。



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秘密の共有

今回は少し、長くなりました。


【Side 輝夜】

 

誘拐犯を全員、気絶させた後、俺はとりあえず小娘2人のロープを解いた。2人は俺に対して、何て言えば良いのか、わからないという顔をしていた。まぁ、無理も無いだろうな。今の俺の格好は怪しいという自覚もあるし。

 

「すずか!!アリサちゃん!!」

 

そう考えていると、扉の外れた入口から吸血鬼の小娘似の女と黒髪黒目の男と紫髪のそれぞれ短髪と長髪のメイドが2人、入ってきた。窓の外から俺を見ていた連中だな。……前者2人はともかく、最後メイドかよ。ってか、吸血鬼似の女も人外だな。おそらく、件の夜の一族の吸血鬼だろ。それにメイド2人も人間じゃないな。それ以前に生物なのかどうか。男は人間だが、かなりできるな。あっ。そう言えば、そこの金髪の小娘はアリサというのか。まぁ、どうでもいいか。

 

「「お姉ちゃん(忍さん)!!恭也さん!!ノエル(さん)!!ファリン(さん)!!」」

 

次々に来た連中の名前を知ることができたな。小娘2人は、安心して、今来た連中のほうへ走って行った。

 

「貴様、何者だ」

 

「ッ!?」

 

すると、恭也っていう男が俺のほうを睨み付けながら、声をかけてきた。別に、如何にも怪しい格好した奴がこの場にいれば、そんな態度を取ってしまうのは当然だから、気にしていないが……。こいつの声……。……いや、今はそんなことはどうでもいいか。

 

「そこに転がっている誘拐犯共にも言ったが、通りすがりの目撃者だ」

 

「ふざけているのか!?」

 

俺が問いに答えると、恭也っていう男は怒鳴りやがった。

 

「別にふざけてなどいないさ。事実、俺がここに来た理由はそこの小娘たちが誘拐されている現場を見たからな」

 

俺がそう言っても、納得できないという顔をしているな。別に気にしていないからいいんだけど。めんどくさいことになったな……。どうしようか……。最悪、そこの穴空いた壁から飛び降りて逃げるっていう手段も取れるが……。

 

「落ち着きなさいって、恭也。彼はすずかとアリサちゃんを助けてくれたんだから」

 

俺がそう考えていると、確か、すずかという小娘の姉の忍っていう女が間に入ってきて、恭也っていう男を宥めていた。そして、次に俺のほうを向いた。

 

「私は月村忍。妹とその友達を助けてくれて、ありがとうね」

 

俺のほうを向くと女、月村忍は微笑みながら自己紹介してきたが……。……ハァ。顔は笑っているが、目は笑っていないぞ。大方、夜の一族のことで警戒しているんだろうな。さて、相手が自己紹介してきたし、俺も名前、言うべきか……。だが、とある事情で正体を隠している俺が本名を明かす訳にもいかないし……。

 

「俺は『ダークネス』。そう、呼んでくれ」

 

……………………ハァ~~~~。…………我ながら、長いため息だな。…………いや、それよりも、本名を明かす訳にはいかないから偽名を名乗るしかないとはいえ、なぜとっさに思い付いた偽名が最も嫌いな呼ばれ方のこれなんだ?あれか?最も嫌いな故に、印象に残っているからか?…………まぁ、もう言ったものは仕方ないからこの格好のときはダークネスっていうことにしておこうか。だいぶ、憂鬱だが………。

 

「そう。ダークネスさん。悪いけど、少し私たちとお話できないかしら?」

 

俺が内心でそう考えていると、月村忍がそう言った。

 

「話か……。はっきり、言ったらどうだ?『夜の一族のことを知った俺を放っとくことができない』と」

 

『ッ!?』

 

今の俺の言葉で小娘以外の警戒心を高めたようだな。だが、俺は薄く笑って、こいつらにこう言った。

 

「安心しろ。別に話ぐらいしてやるさ。だが、場所の移動ぐらいしたら、どうだ?被害者のその小娘共をいつまでも現場に置いておく訳にはいかないだろ?」

 

「…………そうね。それじゃ、私たちと一緒に家に来てもらうわ。アリサちゃんも悪いけど、一緒に来てくれないかな?」

 

「は、はい。わかりました………」

 

そう言って、誘拐犯たちはおそらく、夜の一族に関係のある人たちに任せて、俺たちは月村忍の家に向かった。

 

 

 

 

さっきのノエルと言ったメイドの運転する車に乗って、俺たちは月村邸について、客間に案内された。かなり、でかい家だな………。今の日本には、貴族という文化が無いのは理解しているが……貴族嫌いの俺にとっては、どうにも居心地が悪いな……。

 

「――――――という訳なのよ」

 

どうやら、俺がそう感じている間に、月村忍の夜の一族についての話は終わったみたいだな。といっても、別に俺にとっては、だから何だっていう話だがな。生まれ持った力が強い?そんなの、さっきの誘拐犯にも言ったが、人間にもそんなの五万といるし。不思議な力も以下同様。定期的に血を飲まなくてはいけないといういかにも吸血鬼っぽいのも、輸血パックの血で十分みたいだし、本当にたいした話じゃない。

 

「それで私達、夜の一族にはある決まりがあるの」

 

「決まりですか?」

 

俺が知りたかったのは、ここからだな。俺にとってはどうでも良くても、こいつらにとっては重大なこと。秘密を知った俺とアリサ・バニングスをこのまま放置しておくということは無いからな。……あぁ。ちなみにこの客間に到着してから、全員の自己紹介をしているから、アリサ・バニングスや他のメンツの本名や月村忍と高町恭也が恋人などの簡単な関係性を知っている。

 

「ええ、私達一族の秘密を知ってしまった人には、今まで知った一族の秘密を知ったまま、一族と共に秘密を共有して生きていくか……秘密を()()()過ごすかを選択してもらわなくてはならないの……」

 

要するに、誰にも言わないと約束するか記憶自体を無くすか…か……。問答無用で口封じをするというのが、無いところを見ると、かなり優しいことだな。さて、俺はどうするか…………。

 

「…………私は、………忘れたくありません」

 

「アリサちゃん…………」

 

俺がどうするか、考えているとアリサ・バニングスがそう言った。

 

「すずか………。あなたが何者であろうとね、あなたは私の親友なのよ。だから、絶対に忘れたくない!」

 

「アリサちゃん………。ありがとう………」

 

アリサ・バニングスがそう言うと、月村すずかは涙を流して、アリサ・バニングスに礼を言った。

 

「アリサちゃん。私からもお礼を言わせて、ありがとうね。これからもすずかをよろしくね」

 

「はい!」

 

「ふふ。それで、ダークネスさんはどうしますか?」

 

月村忍がそう言うと全員が俺のほうを向いた。さて、どうしようか……。

 

「………仮に秘密を共有して、生きていくほうを選んだとして、お前らは俺のことを信用できるのか?」

 

俺がそこで1度区切ると、自分のマスクに手を当てて、説明した。

 

「俺は訳あって、他人に正体を知られたくない。このマスクとかの格好も他人に素顔どころか、髪の毛1本も知られたくないからだ。気づいていると思うが当然、ダークネスも偽名だ。そんな得体の知れない人物に自分たちの秘密を任せることができるのか?」

 

「それは………すみませんがさすがにどこの誰かがわからないというのは………」

 

だろうな。俺がその立場でも同じことを言う。

 

「となると、その秘密を忘れるってことになるが、それには問題点が2つある」

 

「問題点ですか……?」

 

「しかも、2つも?」

 

俺の言葉に月村忍と高町恭也が聞き返した。

 

「あぁ。1つ目は忘れたところで()()()()()()()()からだ」

 

「い、意味がない……?それは、どういうことかしら?」

 

俺の言葉に全員、どういうことかわからず、月村忍が聞き返した。

 

「月村すずかから聞いていないのか?俺は、一目見ただけで人間か人外ぐらいわかることを」

 

「「あっ!?」」

 

俺の言葉に月村すずかとアリサ・バニングスが思い出したように声を上げた。どうやら、その様子だと伝えていないみたいだな。

 

「それはつまり………あなたは、最初にすずかを見た時点で普通の人間じゃないことに気づいていたって訳ですか……」

 

「あぁ。もちろん、月村忍、お前が部屋に入ってきたときにも気づいたし、付け加えるならば一緒に入ってきたそこのメイド2人も人間じゃないよな?…いや、それ以前に血肉を持った生物ですらないよな?」

 

「ええーーー!?そんなことまでわかっていたのですか!?」

 

俺がそう言うと、ずっと黙っていたファリン・K・エーアリヒカイトが驚いた声を上げていた。無表情だったノエル・K・エーアリヒカイトも少し驚いた表情をしているな。他のメンツも驚いているみたいだ。

 

「えっ?えっ?どういうことなの!?」

 

ただ1人、アリサ・バニングスを除いて。まぁ、ついさっきまで夜の一族のことを知らなかった奴が知っているわけ無いな。

 

「…………ノエル。見せてあげて」

 

「わかりました。忍お嬢様」

 

月村忍がノエル・K………長いし、言いにくいな………。メイド姉でいいや。妹のほうはメイド妹でいいや。それでメイド姉に何か一言言うと、メイド姉は自分の手で反対側の腕を持つと………

 

スポッ……

 

引き抜いた。

 

「えっ……えぇーーーーー!!?ノエルさん!!腕!!腕が!!」

 

それを見たアリサ・バニングスはめちゃくちゃ驚いているな。

 

「アリサちゃん……。実はね、ダークネスさんの言うとおり、ノエルとファリンは人間じゃないの。夜の一族の失われた技術で作り上げたロボットなのよ………」

 

「ロボット………。ノエルさんとファリンさんが………」

 

アリサ・バニングスは今の話を聞いて、信じられないような顔をしていた。まぁ、ぶっちゃけ俺も驚いているよ。人間じゃないことには気づいていたが、それを差し引いてもこいつらはロボットの筈なのに、まるで人間のように振る舞っているからな。そんなの前世でも見たことも無い。豪の作る改造死体や地球のモスカというロボットもいたが、あれらは当然、今のこのメイド姉妹のようなことはできない。それに………

 

()()()()()()……か……」ボソッ

 

「ん?何か言ったか?」

 

俺の呟きが聞こえたのか、高町恭也が訊いてきた。良い耳してやがるな……。

 

「いや、なんでもない。それよりも話を戻すが、俺が言いたいのは仮に夜の一族に関する記憶を失ったとしても、再びお前らに相まみえたら、俺はすぐにお前らのことを人外だと気づく」

 

「だから、意味が無い……ということですか……」

 

俺の言葉に月村忍が顔をしかめて、そう言った。

 

「そして、もう1つの理由だが、根本的な話、『()()()()()()()()()()()?』ということだな」

 

「そ、それはどういうことですか………?」

 

俺の言葉に月村忍が今度は訳わからないという顔をしているな。まぁ、それは他のメンツにも言えることだが。

 

「質問に質問で返すようで悪いがそもそも、どうやって記憶を忘れさせるんだ?」

 

「そ、それは、私たちの魔眼で………」

 

「なるほど。一種の催眠術みたいなものか。…………それなら、悪いが俺にはそういうのには耐性があるから効かないぞ」

 

「えっ!?それは本当ですか!?」

 

「嘘だと思うなら、何か試せばいいだろ」

 

「そ、それじゃ……『そのマスクを外しなさい』!!」

 

「……断る」

 

「「「「「!?」」」」」

 

月村忍の魔眼を使った命令を断ったことにまだ夜の一族について、完璧に理解している訳ではないアリサ・バニングス以外が驚いていた。この記憶を忘れさせる方法が人為的に脳をいじくらせるとかならともかく、そういう催眠術や洗脳系は前世で受けたロヴィーノと同等かそれ以上のものじゃなきゃ効かないんだよな。

 

「…まぁ、そういうわけで俺は忘れることができないから秘密の共有しかない。だが、俺は正体を明かすことはできない。さて、どうしたものか………」

 

「そ、それは………」

 

月村忍たちは困った表情をしているな。まぁ、秘密を共有するしかないとはいえ、相手がどこの誰かはわからないときたものだ。………仕方ない。俺としては、このまま諦めてもらってほしかったが、こいつらとは()()()()()()()()()()()()()()()

 

「………仕方ない。素顔とかの個人情報以外の俺の秘密を明かす。それで手を打とうではないか」

 

俺のいきなりの言葉に月村忍が驚きながらも考えた。

 

「………わかりました。それで手を打ちましょう」

 

「いいのか、忍?」

 

「仕方ないわ。他に手がない以上、こうするしかないわ」

 

「賢明な判断だな。それで明かす秘密だが、お前らもあの時外から空いた穴を通して見た誘拐犯の発狂した種明かしだ」

 

「あれか……。……確かに俺たちも気になっていたが………」

 

「あれはこいつの特性だ」

 

俺はそう言って、S.C.F00を腕から取り外して目の前のテーブルの上に置いた。

 

「この機械が…………」

 

「あぁ。この機械についているダイヤルを操作して、あの誘拐犯に幻覚を見せた。それだけさ」

 

「そんなことが………す、すごい……」

 

…………気のせいか?心なしか月村忍の目が輝いて見えるのは?

 

「ね、ねぇ……」

 

「何だ?」

 

「この機械、調べてもいい!?」

 

「…………は?」

 

月村忍の言葉に俺はあっけにとられた。いや、言葉の内容自体は別にそこまでおかしいものではなかったが、こいつのこの態度。まるで……

 

「あぁ……。すまない。忍はメカオタクなんだ」

 

「そうだったのか。どうりでどこぞの変態マッドのような態度だと思った」

 

俺が思っていたことを察したのか、高町恭也が説明した。それに俺も納得して、そう言うと………

 

グサッ!!

 

「へ、変態……マ、マッド………」

 

俺の言葉の何かが月村忍に突き刺さったみたいだ。さっきの目を輝かせていたときとは打って変わって、ショックを受けたようだった。

 

「し、忍さん!!私たちはそんなことを思っていませんから!!そうよね、みんな!?」

 

「「「「…………」」」」

 

アリサ・バニングスが何とか励まそうとしていたが、妹、恋人、メイド姉妹という月村忍の身近な関係者が目をそらしていた。俺の言葉に否定できないということか。その事実に余計に月村忍はへこんだ。ハァ……。このままだと、話が進まないな。

 

「ハァ…調べられるものなら、別に調べても構わないが――――」

 

「ほ、本当!?それじゃあ、さっそく!!」

 

俺の言葉を聞くと同時に月村忍は再び目を輝かせて、S.C.F00を手にとって調べようとしたが、人の話は最後まで聞けよ。それは―――

 

ビリリッ!!

 

「キャアァーーー!!?」

 

『忍(さん/お嬢様)/お姉ちゃん!!?』

 

「それは静脈認証システム付きで登録者以外がばらそうとすると、象が気絶する程の電流が流れるから調べるのは無理だと思うぞ」

 

ついでにその静脈認証システムを登録しているのは俺と龍、それからこのS.C.F00の制作者とその助手の4人だけだ。制作者とその助手が誰なのかはまた今度だ。それよりも当然、登録していない月村忍は電流を浴びて、1人掛けのソファごと後ろに倒れた。それを見て、高町恭也たちは心配して月村忍に駆け寄った。一応、俺も倒れた月村忍に近づいて、覗いてみると……

 

「………そ、そう言うことは………先に……言って………」ガクッ

 

目を渦巻き状に回しながら、月村忍が気絶した。いや、そう言うことは先に言えって、言われてもな……。

 

「人の話を最後まで聞かなかったのはお前だろ」

 

俺の言葉に今度はアリサ・バニングスを含めた全員が頷いた。

 

 

 

 

10分後

 

 

 

 

10分経つと、月村忍が目を覚ました。早いな。象でも数時間は目を覚まさないはずだが………。俺がそのことを言うとどうやら夜の一族は回復も早いらしい。

 

「………それで、それがあなたが明かしてくれる秘密ですか?」

 

回復しても、まだ若干焦げている月村忍がそう訊いてきた。

 

「いや、これだけじゃ、お前らも納得しないだろうから、もう少し言ってやる」

 

「!?良いのですか……?」

 

「別に構わない。それでついでに明かす秘密だが、俺は他の人間と違うところがある」

 

「えっ!?」

 

「それはなんですか?」

 

俺の言葉に月村姉妹が妙に食いついた。まぁ、自分たちも夜の一族という周りと違うということを考えれば当然か。

 

「俺は魔導師。言い換えると魔法使いだ」

 

『えっ?』

 

俺の言葉に全員が呆気に取られていた。まぁ、当然の反応だな。

 

「魔法使いなんて……そんなの……」

 

「いるはずがないと言いたいのか?それなら聞くがアリサ・バニングス。お前はつい先程まで吸血鬼がいると信じていたか?」

 

「そ、それは………」

 

「俺たちは全知全能の神じゃないんだ。この限りなく広い世界には、まだ俺たちの知らないことが数え切れないほどある。幽霊や宇宙人とかもいないと完全に否定することはできない」

 

アリサ・バニングスが否定しようとしてきたが、俺の反論に言葉を失った。それは他のメンツもそうだった。

 

「まぁ、百聞は一見にしかず。証拠を見せるさ」

 

俺はそう言って、掌に黒い魔力光の魔力弾を作った。それを見て、全員が驚いていた。それを確認すると、俺は魔力弾を消して話しかけた。

 

「これで納得してくれたか?」

 

「…え、えぇ……」

 

「そうか。それは良かった。それで話を戻すがこのS.C.F00(機械)もデバイスと呼ばれる魔法の杖みたいなものだ」

 

俺がS.C.F00を示しながら説明した。全員、まさかS.C.F00が魔法の道具だと思っていなかったらしく、さらに驚いていた。

 

「まぁ、魔法と言っても、お伽話に出てくるようなファンタジーなものではない。プログラムなどの科学の延長線上に生まれたものだし、使用用途の大半も戦闘用のものだ」

 

「科学の延長線上………それなら、私たちも使えるというのは―――」

 

「残念ながらそれはない」

 

「……えっ」

 

月村すずかが自分たちも魔法が使えるのではないのかと思ったみたいだが、残念ながらそれはできない。

 

「魔法はリンカーコアと呼ばれる特殊な器官が魔法の元を作り出す。その器官は生まれつきのもので全ての人が持っている訳ではない。むしろ、持っているほうが少ない。少なくともこの場にいる者で俺以外にリンカーコアを持っているものはいない。それは持つ者なら感覚でわかるものだ」

 

「そうですか………」

 

そう言うと、月村すずかとアリサ・バニングスが残念そうにしていた。ファンタジーなものではないと言ったはずなんだが、それでも魔法に対する妙な憧れでもあるのか?まぁ、それはどうでもいい。

 

「これが俺の話せる秘密だ。どうだ?これで十分か?」

 

「はい、大丈夫です。わざわざ、2つも秘密を言ってくださって、ありがとうございます」

 

「さっきも言ったが別に構わない。それよりもこれでお互いの秘密を共有するということでいいな?」

 

「えぇ」

 

「そうか。………あぁ、それと俺のことは他言無用で頼めるか?」

 

「大丈夫です。妹とその友達の恩人に仇で返す真似はしません」

 

「俺も約束しよう」

 

「私も言いません!」

 

「私もです!」

 

「もちろん、私たち姉妹もダークネス様のことについては言いふらしません。ファリンもいいですね?」

 

「はい!もちろんです!」

 

「そうか、それは助かる。それでは、帰らせてもらってもいいか?」

 

「えぇ、もちろん。あっ!見送りましょうか?」

 

「いや、いい。玄関までの道も覚えている」

 

「そうですか」

 

そこで会話が終わると俺は帰ろうと扉のほうに向かった。

 

「「ダークネスさん!!」」

 

扉の前まで来ると、後ろから月村すずかとアリサ・バニングスが声をかけてきた。

 

「なんだ?」

 

「その私たち……まだ、ダークネスさんにお礼を言っていなくて……」

 

「私もすずかもダークネスさんのおかげで今、こうやって無事にいることができています。本当にありがとうございました!」

 

「ありがとうございました!」

 

そう言って、2人は頭を下げた。

 

「気にするな。それじゃあな」

 

そう言って、俺は今度こそ部屋を出た。

 

 

 

 

【Side 3人称】

 

輝夜が出て行った扉のほうを見て、アリサとすずかが話していた。

 

「行っちゃったね………、アリサちゃん」

 

「そうね……」

 

「………また会えるかな?」

 

「それは、どうかしら…?あの人、正体隠しているし」

 

「そうだよね……。でも、また会えるといいね」

 

「そうね……」

 

そう話し合う2人の頬は赤かった。そんな2人の後ろではそれを見て、忍はにやついていて、そんな忍を恭也とノエルが呆れた顔をしていて、ファリンは苦笑いしていた。

 

 

 

 

 

ところ変わって、月村邸から出た輝夜は人気のない路地に移動した。そこに入ると、輝夜は両手を被っていたマスクに当てた。

 

「ハァ……。やっと、終わった。それにしても、まさかあんなメンツと出会うことになるとはな………。一応、()()()()()()か」

 

そう言って、輝夜は被っていたマスクを脱いだ。マスクを脱いだ後に見せた素顔は8歳児のものではなく、18年成長させた前世の26歳の時の顔だった。




次回から原作に入る予定です。


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無印編
転生者、集合


【Side 輝夜】

 

帰ってから、龍には誘拐事件の顛末について、話した。まぁ、夜の一族のことは約束のことがあったために話していない。だが、龍は俺が連中に魔法のことを教えたことから、話せない連中の秘密があることを察して、深くは聞いてこなかった。だが、連中に関しては警戒する必要があることだけは伝えた。

 

「警戒する必要がある……か……。その内容に関しては教えてくれないんだな?」

 

「あぁ。悪いが口約束とはいえ、破る訳にはいかないからな」

 

「いや、いい。それで警戒するとは言ったがどうするつもりなんだ?」

 

龍がそう尋ねてきたが、俺も答えは思いつかなかった。

 

「わからない……。ただ、連中がどう動くのかわからないから。とりあえず、今は下準備するしかない」

 

「そうか……。まぁ、そうするしかないか…」

 

これがその日に話した会話だ。そして、あの誘拐事件から数日経ったある日の晩のことだった。

 

(………誰か……僕の声を聞いて……力を貸して………魔法の………力を…)

 

寝ていた俺は、起きて、こう呟いた。

 

「………念話。魔法技術のない、この地球でか……。チッ!面倒ごとが起きそうな予感がする…」

 

 

 

 

 

その念話が聞こえた翌朝、俺はさっそく、龍と朝飯を食いながら、そのことについて話をした。

 

「念話…。しかも、助けを求めるものとなると確かに面倒ごとが起きることだろうな」

 

「あぁ。だから、悪いが龍…」

 

「言わなくても、わかっているさ。俺が調べてみるよ」

 

「あぁ、頼む。………ハァ。俺も一緒に調べたら、良いんだが……」

 

俺がため息つきながら、そう言うと龍はニヤニヤとムカつく笑顔でこう言った。

 

「いやいや~。確かに変身魔法を使えば問題ないけど、輝夜は今は小学生なんだからちゃんと学校に行かなきゃ~♪」

 

「ムカつく笑顔でムカつく言い方するな。………ハァ。とりあえず、そっちは頼んだ。ごちそうさま」

 

「あぁ、任せた。あっ、片付けは俺がやっておくよ。そろそろ、時間だろ?」

 

龍に言われて、俺は時計を見た。確かに時間はギリギリではないが、そろそろ出たほうがいいな。俺はそう思うと、学校へ行く準備をして、玄関に向かった。

 

「それじゃあ、行ってくる」

 

「あぁ。いってらっしゃい」

 

お互いに挨拶をすると、俺は玄関を出た。ハァ……。憂鬱だ。だが、仕方ないか。とりあえず、向かうとするか、俺が通っている()()()()()に。

 

 

 

 

 

【Side 龍】

 

俺は光城龍。戸籍上の輝夜の叔父をやらせてもらっている。職業は私立探偵だ。他にも俺のことについて、気になる奴もいると思うが、それはまた今度な。それよりも、俺は輝夜に頼まれた昨晩の念話のことについて、調べに向かっている。あぁ、実を言うと、俺も魔法が使えるのだが、それもまた今度な。

 

「ん?」

 

俺が輝夜からあらかじめ聞いていた怪しい場所に車で向かっている途中、公園に人だかりやパトカーが止まっているのを見つけた。ただの事故なら無視したが、件の場所に近かったし、俺は近くの駐車場に車を停めて、徒歩で近づいた。

 

「あの、いったい何があったのでしょうか?」

 

「ん?あぁ、どうやら、この公園が酷く荒らされていたみたいでな。それで大騒ぎなんだ」

 

「そうなんですか」

 

俺は人だかりの中にいる通行人の1人は事情を聞くとそう答えた。うん。十中八九、何か関係があるな。だが、警察が見張っているし、調べようがないな。どうしたもんか……。

 

「あれ?もしかして、龍くんじゃないのか?」

 

俺がそう考えていると立ち入り禁止のテープの中にいた水色がかった銀髪のショートヘアの女性が近づいてきて、俺に声をかけてきた。

 

「リスティ刑事。お久しぶりですね」

 

「まったくだよ。ここ最近、会ってないからな」

 

女性の正体はリスティ・槙原。彼女は刑事をやっている。俺と彼女はお互いの仕事の都合で何度か会ったことがある。輝夜も彼女のことは知っている。

 

「龍くんがいるならちょうどいい。ちょっと、来てくれないか?」

 

「……いいのですか?俺は一応、一般人ですが?」

 

「あぁ。構わないさ。龍くんは私が最も信用できる名探偵だからな。それに、君は……いや、ここで言うのはやめておこうか。とにかく、入っていいぞ」

 

少し持ち上げている気がするが、調べることができるなら、ちょうどいい。俺は彼女の厚意に甘えて、現場に入った。……それはそうと、リスティ刑事、後半に言おうとしたことですが、言わないでくれて本当に助かります。

 

「そういえば、輝夜くんは元気か?」

 

すると、リスティ刑事が尋ねてきた。

 

「えぇ、まぁ」

 

「そうかそうか。あの子も頭が良いから是非とも意見を聞きたかったな」

 

「あいつは今、学校ですよ」

 

「そんなことはわかっているさ。たらればが漏れただけだ。……おっと、そう言っている間に着いたな」

 

リスティ刑事と会話していると、どうやら着いたみたいだった。その現場を見て、俺は驚いた。木はなぎ倒されていたり、ベンチは壊されていたり、電柱は折れ曲がっていたりした。

 

「これは酷いですね」

 

「あぁ。こんな惨状は僕たちも初めてだ。それで、これを龍くんはどう思う?」

 

どう思う…ね………。

 

「昨日までは何とも無かったのですよね?」

 

「あぁ。昨日までは至って平和だった」

 

「ってことは、たった一晩でこの惨状……。どう考えても、普通の一般人には無理ですね」

 

「まぁ、そうだな。重火器を使われた形跡も無いしな」

 

「えぇ。実はリスティ刑事。これから俺の言うことはオフレコでお願いしたいのですが………」

 

そこで、俺は昨晩、ここ辺りで魔法の反応があったことを伝えた。実を言うとリスティ刑事は魔法のことを知っている。彼女は読心術が使えて、それで知られたのだ。そのときの輝夜は珍しく失敗したという顔をしていた。

 

「ほう。魔法が関係しているのか………。よし、できれば、もっと教えてくれないか?」

 

「もちろんです」

 

俺はリスティ刑事の頼みに二つ返事で返して、お互いにこの惨劇に関して、話し合った。それは夕方までかかった。

 

 

 

 

【Side 輝夜】

 

「なるほどな。確かにその公園での惨劇は例の念話と関わっているだろうな」

 

俺は晩飯を食いながら、龍の調査結果を聞いていた。公園の被害はどれも普通の人間にできることだとは思えない。

 

「あの被害の状況を考えると、3メ-トル以上ある奴が暴れたと推測できる」

 

「聞こえた念話の内容から察すると、その怪物を押さえたいということだな」

 

「そうだな。だが、リスティ刑事の話だとそんな怪物の目撃証言は無かったし、公園以外に破壊された場所は無いみたいだ」

 

「ってことは、念話の主が対処した可能性が高いがまだ油断はできない」

 

「あぁ。リスティ刑事たち警察も近辺の警備を強化するらしい」

 

「そうか……」

 

リスティ・槙原か………。あの女は油断できない。悪い奴では無いと思うが、まさか読心術を使えるとは思わなかった。前世の裏社会では、別に珍しくなかったが、今世の表の刑事が持っていたことに驚きを隠せない。俺が転生者だということはばれていないからいいが、その時からリスティ・槙原と会ったときは閉心術を使って、悟られないようにしている。そのおかげで向こうからはおもしろい子供(ガキ)認定されているが………。まぁ、それはどうでもいい。とりあえず、今は何が起きても迅速に対応できるように用心しておこう。

 

 

 

 

そして、数時間後…………

 

 

 

 

(だれか!この声が聞こえている方!力を貸してください!)

 

 

 

 

昨晩、聞こえたものと同じ声の念話が聞こえた。

 

「………来たか。起動しろ。S.C.F00」

 

俺はそう言って、ダークネスの姿に変えた。

 

「それじゃあ、行ってくる」

 

「あぁ。気をつけろよ」

 

「あぁ」

 

俺は龍にそう返して、念話が聞こえた場所に向かった。

 

 

 

 

 

【Side ???】

 

私、高町なのははとてもピンチなの!今日の放課後に学校の友達と一緒に怪我だらけのフェレットを見つけたの。そのフェレットは動物病院に預けたんだけど……、さっき、フェレットを見つけたときのと同じ声が聞こえて、その声に呼ばれるまま動物病院に向かったの。すると、そこには逃げ回るフェレットと追いかけている黒いドロドロしたお化けのようなものがいたの。そのフェレットは喋るし、私はもう訳がわからなかったの。とりあえず、私はフェレットを抱えて逃げてるけど、お化けも追いかけてくるの!

 

「いったい何が起きているの!?」

 

私はこの状況に訳がわからず思わず、叫んだ。

 

「君には資質があります!お願い、僕に少しだけ力を貸して!」

 

すると、フェレットが私にそう話しかけてきた。

 

「資質!?」

 

それに対して、私は思わず聞き返した。

 

「はい、この魔法の力を!」

 

「えっ?ま、魔法?」

 

フェレットの言葉に私は思わず、呆気に取られたの。魔法……?童話だけだと思っていたけど、もしかして私、使えるの!?

 

「どうしたらいいの!?」

 

「こ、これを…」

 

私は勢いよくフェレットにその方法を聞いた。それを聞いて、フェレットは自分の首にぶら下がっている赤いブレスレットを差し出した。私はそれを受け取った。

 

「温かい………」

 

「それを手に、目を閉じて、心を澄ませて、僕の言葉を繰り返して」

 

受け取った宝石にフェレットがそう言った。そう言われて私は目を閉じた。そして、フェレットの言葉を繰り返した。

 

「我、使命を受けし者なり」

 

「我、使命を受けし者なり」

 

「契約のもと、その力を解き放て」

 

「契約のもと、その力を解き放て」

 

「風は空に、星は天に、そして不屈の心はこの胸に」

 

「風は空に、星は天に、そして「GYAAAAAーーーー!!!」……えっ?キャアー!!?」

 

「しまった!?」

 

だけど、お化けはそれを最後まで待ってくれずに私に襲いかかってきたの。もう、間に合わないの!!私は思わず、目を瞑った。

 

「なのはちゃん!!“セウシル”!!」

 

ドカーーん!!

 

「………えっ?」

 

「これは………?」

 

お化けの攻撃が当たってこないことにおかしいと思った私はおそるおそる目を開けると、私の周りにドーム状のバリアが張られていて、お化けの攻撃を防いでくれていた。

 

「“X()()()()”!!」

 

ドカン!!

 

「GYAAAAAーーー!!?」

 

すると、今度は後ろからオレンジ色の炎が飛んできて、お化けに当たった。お化けは悲鳴を上げて、吹き飛ばされた。

 

「なのはちゃん!!」

 

「なのは!!」

 

「大丈夫か!!」

 

「えっ?」

 

誰かが私を呼ぶ声がして、振り返った。

 

「あっ!?花音(かのん)ちゃん!!(あおい)ちゃん!!(つばさ)くん!!」

 

それは、私の幼馴染みの赤松(あかまつ)花音ちゃんと二宮(にのみや)葵ちゃん。それから、小学校に入って、アリサちゃんとすずかちゃんと一緒に仲良くなった男の子、潮田(しおた)翼くんだった。だけど、3人の格好が少しおかしかったの。花音ちゃんは赤い服とピンクのスカートを着ていてそこまでおかしい格好はしていなかったけど、5つの円が直線で結ばれた模様が入った朱色の本を持っていた。葵ちゃんは大きな槍と盾を持っていて白い騎士の格好していたの。そして、翼くんはスーツを着ていて、赤いグローブと右太ももに同じように赤い足輪があって、いつも黒い目がオレンジ色になっていて、額にオレンジ色の炎が灯っていた。

 

「3人とも、どうしてここに……?それにその格好は………?」

 

私はいろいろと気になって、思わず訊いたの。

 

「今は、そんなこと気にしている場合じゃないわ!!」

 

だけど、葵ちゃんに怒られちゃったの……。

 

「なのはちゃん。葵ちゃんの言うとおりだよ。今はあの化け物を何とかしなくちゃ」

 

「そうだ。俺と葵があいつ押さえとく。その間にお前は――――「「「おい!!モブーーー!!!何、なのはたちに近づいてんだーーーー!!?」」」……チッ。()()()()、あいつらも来たか……」

 

翼くんの言葉を遮って、誰かの声が聞こえた。私たちはその声が誰のものなのか、すぐにわかったので、フェレット以外私たちは顔をしかめた。だけど、声が聞こえたほうを向くと、私は再び、驚いたの。

 

降魔(ごうま)神代(かみしろ)(すめらぎ)。お前ら、何しに来たんだ?」

 

やってきたのは、降魔彪牙(ひょうが)くんと神代大翔(ひろと)くん、皇翔琉(かける)くんだった。この3人はなのはたちのことを『俺の嫁』って言って、頭を撫でてきたり、近づいてきたり、翼くんたち他の男子を『モブ』とか言って、なのはたちに近づけようとしてくれないの。特に降魔くんは小学生になる前から言い寄ってきたから良い迷惑なの…。しかも、『嫌だ』って言っても、『照れ隠し』と勘違いして、全然直してくれないの……。だけど、そんな3人もおかしい格好していたの。降魔くんは赤いコートを着ていて、神代くんは黄金の鎧を着ていて、皇くんは赤いドラゴンを思わせるような鎧を着ていたの。皇くんの場合、顔も被っていたマスクで隠されていたので、翼くんに言われるまで気がつかなかったの。

 

「高ランクの魔導師がこんなに…!?ここは魔法文明が0の筈なのに………」

 

フェレットは何か別のことに驚いていたみたいだけど、私にはそれを気にしている余裕がなかったの。

 

「あぁ!?そんなもん、決まっているだろうが、モブ!!俺の嫁たちを助けに来たに決まっているだろ!!」

 

「おい!!ふざけんな、降魔!!なのはたちは俺の嫁だ!!」

 

「あぁ!?てめぇこそ、何言ってやがんだ!?神代!!なのはたちは全員、俺の嫁に決まっているだろ!!」

 

「てめぇら、2人ともふざけんな!!」

 

「あんたたち全員、ふざけないでよ!!今はそんなことしている場合じゃないのよ!!ほら!!あいつも今、起き上がろうとしているわよ!!」

 

降魔くんたちの喧嘩に葵ちゃんが大きな声で遮って、お化けのほうを槍で指して言った。その方を見ると確かにお化けが起き上がっていたの。

 

「はっ!!あんなの、俺がすぐに片付けるさ!!だから、安心しろよ、お前ら」

 

「てめぇじゃ、無理だ!!あいつは俺が瞬殺だ!!」

 

「いーや!!俺が倒す!!」

 

そう言って、3人はお化けのほうに突撃して行ったけど………

 

「GYAAAーーーー!!!」

 

「「「ギャッ!!?」」」

 

お化けが振るった触手で瞬殺だったの………。

 

「彼らはいったい、何をしたかったのでしょうか……?」

 

「「「「……さぁ?」」」」

 

呆れたようにフェレットが呟くと、私たちも呆れたように返したの。

 

「GYAAAーーーー!!!」

 

「ッ!?こんなことしている場合じゃない!!」

 

「そうね!!そこのフェレット!!早くなのはに起動パスワードを教えなさい!!」

 

「わ、わかりました!!君!もう一度、僕の後に続いて言って!!」

 

「わ、わかったの!!」

 

そう言うと、私はさっきと同じように目を閉じて、フェレットの言葉を繰り返したの。

 

「我、使命を受けし者なり」

 

「我、使命を受けし者なり」

 

「契約のもと、その力を解き放て」

 

「契約のもと、―――「S.C.F00」S.C.F00……ってあれ?」

 

「それは起動パスワードじゃない!!って、今の声は……?」

 

フェレットの言葉を続けているときに聞こえた声に不思議に思っていると、

 

「!?皆、上!!誰か、落ちてくるよ!!」

 

花音ちゃんが上を指して、教えてくれたの。それに釣られて全員、上を向くと、黒いローブと黒いマスクを身につけた男の人が落ちてきていたの。落ちてくる男の人の先には、お化けがいたの。男の人は左手を前に突き出すと……

 

ドーーーーン!!

 

「GYAAAーー……!?」

 

パーーーンッ!!

 

『!?』

 

お化けを押さえつけたの。しかも、押さえつけられたお化けは弾け飛んで居なくなってしまったの!!私たち、それを見て驚いたの!!

 

「………これが、今回の元凶であるロストロギアか」

 

男の人が立ち上がると、そう呟いていたの。そして、お化けを押さえつけた男の人の左手には、青い菱形の石を持っていたの。



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第1、第2の特典

【Side 輝夜】

 

念話が聞こえた俺は、その場所に向かった。すると、そこには、茶髪のツインテールの小娘とフェレットが黒い変な奴から逃げていた。俺は、ひとまず屋根の上で観察をすることにした。

 

「……あのフェレットはおそらく、俺と同じように変身魔法で姿を変えているんだな。それとあの黒いのは、ロストロギアの思念体か……」

 

俺は、そう推察した。おそらく、龍が見つけた公園の惨劇もこいつか、こいつと同じ個体の仕業だろ。そう考えていると、小娘がフェレットから渡された宝石、おそらくデバイスの起動パスワードを唱え始めた。だがな……。普通に考えて、相手のパワーアップの邪魔をしない理由は無いな。ほら、思念体も小娘に襲い掛かった。さすがに、助けに行ったほうがいいと思ったが、こちらに近づいてくる奴の気配を感じたから、まだ、俺は身を潜めた。そして、案の定、小娘とフェレットの周りにドーム状のバリアが張られて、思念体の攻撃を防ぎ、次に飛んできた炎の弾丸が思念体を吹き飛ばした。

 

「なのは………たしか、この世界を元にした物語の名前は『魔法少女リリカルなのは』だったな………。リリカルの意味はわからないが、おそらく、これは物語と関係あるな」

 

俺がそう考えていると、続々と小娘と同い年ぐらいガキ共がやって来た。しかも、全員、俺が探していた転生者6人だった。ん?なぜ、あいつらが転生者だというのがわかったかって?それは、読心術で全員の心を読んだからだ。まさか、ここで転生者が全員、集合するとはな…。

 

《あいつらもやっぱり来たな》

 

《それはそうでしょ。今日が原作のスタートなんだから》

 

《でも、神様の話だと、あともう1人私たちと同じ転生者がいるんだよね?》

 

《あぁ。だが、それらしい人物は見当たらないな……》

 

《まだ、来ていないのか。それとも、原作に関わる気が無いかのどっちかじゃない?》

 

葵、花音という小娘と翼という小僧の念話を読心術で読み取ったが、どうやら転生者が7人いることを知っているみたいだな。クレアッツィオーネとは別の自分たちを転生させた神から聞いたのだろう。そう考えていると、降魔、神代、皇と言った小僧共が思念体の突撃しに行った。………一応、あの3人の心も読んだが、いろいろと気になることがあったんだが………『オリ主』ってなんだ?そして、突撃しに行った小僧共は思念体に瞬殺されていた。………見事な噛ませっぷりだな。………さて、本当に気になることばかりだが、転生者に関して、現時点で1番気になるのは、あの翼という小僧だな。あいつの容姿に武器……多少の誤差はあるが、まるで………。いや、今はそれよりも優先すべきことがあるな。俺はそう考えて、S.C.F00のダイヤルをいじって、思念体の真上に跳んだ。

 

「S.C.F00」

 

俺がそう言うのと同時に左の掌に()()()()()()()()()、落下の勢いを利用して思念体を押さえつけた。

 

「GYAAAーー……!?」

 

すると、思念体は霧散して散った。まぁ、当然だろう。俺の掌には“闇夜の炎”を纏わせているんだからな。

 

 

 

 

『1つ目は、俺の闇夜の炎と武器と匣を来世でも使えるようにしてくれ』

 

 

 

 

この世界に転生する前にクレアッツィオーネに頼んだ1つ目の特典だ。俺はこの世界でも、死ぬ気の炎を、闇夜の炎が使える。S.C.F00には、闇のリングと同じ材質のものが組み込まれているから、掌や武器などに炎を纏わすこともできる。そして、闇夜の性質の1つは“無効化”。それにより、ロストロギアの思念体を鎮めることなど容易い。俺は、思念体を押さえつけたときに触れたものを掴んで、立ち上がった。そして、青い菱形の『XXI』と刻まれた宝石を見て、呟いた。

 

「………これが、今回の元凶であるロストロギアか」

 

XXI……ローマ数字の21か。これがこいつの番号だとすると、あと最低でも20個あるということになるな。まぁ、こんな危険物、放置しておく訳にもいかないからな。俺は、このロストロギアをS.C.F00に収納した。

 

「っ!?ま、待て!!ジュエルシードをどうする心算なんだ!?それは、とても危険なんだぞ!!」

 

それを見て、フェレットがハッとして、叫びやがった。なのはという小娘は何がなんだか、わからない顔をしているな。そして、転生者トリオは、俺を警戒しているな。大方、俺が転生者なのかどうか、疑っているんだろ。

 

《あいつ、いったい何者?ジュエルシードの思念体を押さえつけただけで封印したし……》

 

《もしかして、7人目の転生者?》

 

《否定はできないな。だが、ジュエルシードをなのはに渡さず、自分のデバイスに収納した以上、何を考えているのか、わからない》

 

現にこいつら、念話でその事について話しているし。あと小僧、なのはに渡さないって、なぜこの危険物を現状を理解していない小娘に渡さなければいけないんだ。まぁ、それは置いといて……

 

「ほう……。こいつは、ジュエルシードというのか……」

 

「「「!?」」」

 

《ジュエルシードのことを知らないの!?》

 

《なぜだ!?あいつが転生者なら、ジュエルシードのことは知っているはずだぞ!!》

 

《えっ!?転生者じゃないの!?》

 

俺の言葉に転生者トリオは混乱しているな。こいつら、『転生者=物語を知っている』といった先入観を抱いているな。あいにく、俺はこの物語に関して、知らないんだよ。現に、このロストロギアがジュエルシードという名前も本当に今、知ったしな。

 

《いや、ちょっと待って!もしかしたら、原作知識が無いだけかもしれないわ!まだ、転生者じゃないって、決めつけるのは、早計よ!!》

 

おっ?葵っていう小娘は察しがいいみたいだな。まぁ、どっちでもいい。できれば、俺が転生者であるということはばれたくないが、今はそれよりも……

 

「このジュエルシードという石が危険?そんなの、後ろの惨劇を見れば百の承知だ」

 

そう言って、後ろを指差した。コンクリートの道路や塀はひびが入って、かなり滅茶苦茶な状態だった。

 

「今朝、この近くの公園も今のこれと同じような状態になっていたが、それもこのジュエルシードの仕業なのか?」

 

「そ、それは………」

 

俺が公園の惨劇のことを尋ねると、フェレットは口ごもった。どうやら、俺の考えは正しかったみたいだな。

 

「それと、どうする心算かって、言われたら。こんな危険なもの、誰の手にも渡らないように厳重に保管するだけだが?」

 

「ふざけるな!!お前みたいな奴、信じられるか!!」

 

翼っていう小僧が噛みついてきたな。まぁ、何度も言っているが、この格好だとそう思うのは、無理ないな。だが、まぁ、そんなことは関係ない。

 

「それよりもいいのか?ほら、お前らの後ろ」

 

『えっ?』

 

俺がガキ共の後ろのほうを差すと、ガキ共は全員、釣られるように後ろのほうを向いた。

 

 

 

 

【Side なのは】

 

なんか、ずっと空気だったなのはなの。どうやら、あのお化けの正体はあの青い石、ジュエルシード?みたいだったの。しかも、今日、学校の先生から言われた公園の事故もそのジュエルシードせいみたいだったの。マスクの人はそのジュエルシードを自分が保管するって言っているみたいだけど、翼くんはマスクの人が信用できないみたいで大きな声で叫んでいたの。すると、マスクの人が後ろを指差したので、私たちは後ろを振り向いたの。そこには、何も無かったけど………

 

「何か……聞こえます……」

 

「これって……パトカーのサイレン……?」

 

「まぁ、これだけの騒ぎを起こせば、パトカーの1台や2台は来るわね……」

 

「早く、ここから離れないと、私たち補導されちゃうよ!!」

 

「だが、マスクの男(あいつ)を放っておく訳にもいかない」

 

フェレット、私、葵ちゃん、花音ちゃん、翼くんの順にそう言って、もう一度、マスクの人のほうを向いたの。でも………

 

『……って、いない!?』

 

マスクの人はいつの間にか、いなくなっていたの。たぶん、なのはたちがパトカーのサイレンに気を取られていた間にどっかに行ったと思うけど、全く気づかなかったの………。

 

「くそっ!!逃げられた!!」

 

「転移の反応は感じなかった……。いったい、どうやって……」

 

「そこのフェレット!!今はそんなこと考えてる場合じゃない!!翼も悔しがっている場合じゃないわ!!私たちも早くここから逃げるのよ!!」

 

「そうだね!!なのはちゃんも行こ!!」

 

「う、うん!!ご、ごめんなさい~~~!!」

 

そして、私たちはその場から急いで、走って逃げたの………。

 

 

 

 

【Side 輝夜】

 

「……今、戻った」

 

「おぉ、おかえり」

 

俺は自宅に戻っていった。ガキ共がパトカーのサイレンに気を取られている間にジャンプで道路から塀、屋根へと跳んで、屋根から屋根へと跳んで離れたのだった。

 

「それで、どうだったんだ?」

 

「……あぁ、悪い。その前にやっておきたいことができたから。さっきにそっちを済ませてからでいいか?」

 

「ん?まぁ、別に構わないが」

 

「助かる」

 

俺はそう言って、ダークネスの姿を解き、S.C.F00のダイヤルをいじった。すると、S.C.F00から空間にディスプレイが浮かんできた。その中には女性が映っていた。

 

『久しぶりですね。輝夜さん』

 

「あぁ、久しぶりだな。()()()()()()()()()

 

その女性はクレアッツィオーネだ。

 

 

 

 

 

『2つ目は、クレアッツィオーネ。お前との連絡の手段が欲しい』

 

 

 

 

死ぬ気の炎と同じように、特典でクレアッツィオーネに頼んだものだ。まぁ、何かの保険になるだろうと思って、頼んだのさ。龍はいきなり、俺がクレアッツィオーネと連絡を取ったことに驚いていたが、何か理由があるのだろうと思ってくれたのか、黙っていた。

 

『お互いに久しぶりなので、少し世間話をしようかと思っていましたが、どうやら、あなたはそんな気分じゃないみたいですし。単刀直入に聞きます。いったい、どのようなご用件で?』

 

「あんたに訊きたいことがある」

 

『………そうですか。わかりました。ですが、私たち神にもルールがあり、話せるものと話せないものがあります。もしかしたら、あなたの知りたいことが話せないものかもしれません。それでも良いでしょうか?』

 

「構わない」

 

『わかりました。それで、訊きたいこととは、何でしょうか?』

 

クレアッツィオーネの言葉に俺は、息を吐いて、答えた。

 

「翼っていうガキのことだが」

 

『潮田翼さんのことですね。(ガキって……今のあなたも子供なんですが……。でも、子供の輝夜さん、かわいらしいですね♪)』

 

「なんか、変なこと考えていないか?」

 

『い、いえ。別にそんなことはありませんよ………。(す、鋭い……。)それよりも、やはり、あなたは彼が気になりますか……。それもそうですね。なんたって、彼は………』

 

次にクレアッツィオーネが言う言葉を俺は予想できた。

 

()()()()()()()()()()ですから』

 

「…………」

 

………あぁ、そうだよ。あの潮田翼っていうガキは髪の色や5歳ほどの年の差などの違いはあるが、()姿()()()に関して言えば、沢田綱吉と瓜二つだった。

 

『それで、厳密には彼の何を知りたいのですか?特典でしたら、残念ながら、他の方のも含めて、私からは教えることはできません』

 

「そんなことはどうでもいい。俺が知りたいのは、あいつが着けていたVG(ボンゴレギア)のことだ」

 

VG(ボンゴレギア)についてですか?』

 

「あのVG(ボンゴレギア)は俺の知っている(トゥリニセッテ)の一部なのか?」

 

俺が知りたかったのは、そこだ。潮田翼の指には沢田綱吉のと同じ“ボンゴレギア 大空のリングVer.X”を身につけていた。以前、(トゥリニセッテ)が無いみたいな言い方をしたが、あれはボンゴレリング、マーレリング、アルコバレーノのおしゃぶりに分かれていないという意味だ。(トゥリニセッテ)の元である7つの石はどこかにあるはずだ。仮にその7つの石が無くても、それと同等の力を持つ何かがこの地球に必ず、あるはずだ。だから、俺は潮田翼のVG(ボンゴレギア)(トゥリニセッテ)なのかどうかを知りたい。

 

『そういえば、あなたの目的は………。なるほど、なぜ、あなたがその質問をするのか、わかりました。正直、かなりグレーの質問ですが、結論だけならお答えできます。あれは(トゥリニセッテ)とは、何の関係もありません』

 

クレアッツィオーネはあっさりと否定した。

 

『あれは潮田翼さんのデバイスのモデルとなったのです。だから、あれには(トゥリニセッテ)ではありませんし、(トゥリニセッテ)の力もありません。しかし、あなたも予想していたのではないでしょうか?その予想を確信に変えたいから、私に訊いた……いえ、確認したのではないでしょうか?』

 

「………まぁな」

 

気づいていたか。まぁ、前世で(トゥリニセッテ)の力の無いVG(ボンゴレギア)を見ているからな。だから、薄々は気づいていた。

 

『話はそれぐらいですか?』

 

「あぁ。俺の訊きたいことはそれだけだ」

 

『わかりました。それでは、もう切りますね』

 

「それは別に構わないが珍しいな。いつもなら、世間話をしようとしてくるくせに」

 

ちなみに、すでに何回か連絡は取り合っている。

 

『えぇ。今回は止めておくことにしたの』

 

「そうか。それじゃ、またな」

 

『えぇ。さようなら』

 

そう言うと、ディスプレイは消えた。それを確認すると、俺はずっと黙って待ってくれていた龍のほうを向いた。

 

「悪い。待たせたな。それじゃ、さっき、あったことを話す」

 

「……それはいいが、輝夜」

 

「なんだ?」

 

「苛ついているみたいだが、大丈夫か?」

 

龍の言ったことに俺は一瞬、理解できなかった。

 

「苛ついている?俺がか?」

 

「どうやら、その様子だと自覚していないみたいだな。お前、帰ってから様子が少しおかしかったぞ」

 

まじか……。自分だと、全然、気づいていなかったな。だが、言われてみると確かに、何だか心のどこかでムカムカとしているな。

 

「そんなに、わかりやすいほど苛ついていたのか、俺は……」

 

「いや、パッと見た感じは普通だった。俺だから、気づいたって感じだな。あと、クレアッツィオーネもあの様子だと、気づいていたと思うぞ。だから、今回は気を使って、世間話をしなかったんだと思うぞ」

 

「そうか……」

 

俺はいったい、何に苛ついていたんだ?それを考えて、俺はすぐにわかった。なぜ、それに苛ついているのかは、まだわからない。だが、その事について考えると、俺は心が嫌な意味でざわついた。俺は……

 

 

 

 

 

潮田翼に苛ついているんだ。




第3の特典はまた、別の話で。


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敵対

【Side 輝夜】

 

あの後、俺はあの場であったことを龍に全て話した。物語が始まったこと、転生者6人、なのはという小娘、変身魔法を使っていたフェレット、ジュエルシードというロストロギア、公園の惨劇もジュエルシードによるものだということを。ジュエルシードは回収した実物を実際に見せた。しっかりと封印しているため暴走することは無い。そのジュエルシードに“XXI”って書かれていることから、他にも最低、20個あることももちろん、話した。

 

「その6人の転生者は全員、デバイスを持っているんだよな?」

 

「あぁ。全員、バリアジャケットを身に纏っていた。しかも、2名は普通の服やスーツの格好だったが、他の4人は鎧とか、『お前らコスプレの趣味でもあるのか?』って言った格好だった」

 

「うん。格好に関しては、ダークネスのあの格好で人のことは言えないと思うのだが?」

 

「安心しろ。自覚はしている。だが、マスクとローブを除けば、普通の服だからな」

 

正体を隠すためには、どうしてもあんな格好になってしまう。すなわち、不可抗力だ。

 

「………まぁ、いいや。それよりも、全員、デバイスを持っているってのは、早めに何とかしておかないと、()()()()()()()()()()ぞ?」

 

「………お前の言いたいことはわかっている。だが、今、()()を持ち出しても、あいつらは誰1人絶対に納得しない。だから、しばらく放置しておく。あれは最も効力があるときに使う」

 

「やれやれ、また、遠回しなことするな。まぁ、お前がそう言うなら、俺も特に何も言わないさ」

 

「そうか」

 

そんな感じで、その日の夜の話し合いは終わった。そして、今、俺が何をしているのかと言うと……

 

《輸送中に事故が起きて、この世界にジュエルシードをばらまいてしまったんだ》

 

《そうなんだ……》

 

学校で授業を受けながら、サーチャーと読心術で昨日のガキ共の念話を盗聴中だ。実は、昨日、帰る前にサーチャーだけは置いて、あいつらのことを監視していた。しかも、闇夜の炎で気配を無効化したサーチャーをな。だから、沢田綱吉の超直感が無ければ、絶対に気づかないようにしている。現に誰も気づいた様子は無い。こういうのは、リリスとスロウスの得意分野だが、まぁ、なんとかなるものだな。それにしても、潮田翼は容姿と武器が沢田綱吉とそっくりなくせに、超直感は持っていないってことになるな。もしくは、持ってはいるが、そこまでレベルが高くないということだろうか?まぁ、どっちでもいいか。それよりも、昨日は時間が遅かったこともあって、詳しい話をしていなかった。だから、引き続き、今日も監視していた。おかげでかなりの情報が手に入った。

 

・フェレットの名前はユーノ・スクライアと言って、ジュエルシードは自分が掘り起こしたものである。

 

・そのジュエルシードを輸送中に事故が起きて、ジュエルシードを海鳴市(この町)にばらまいてしまった。

 

・ジュエルシードは全てで21個、そのうちの1つは既にユーノ・スクライアが回収した。

 

・俺以外の転生者やなのはという小娘は聖祥大学付属小学校に通っていること。

 

とまぁ、大雑把にまとめれば、こんな感じか。それにしても聖祥に通っていたのか……。海鳴小に通っている俺と会わない訳だ。近い、学費が安いという理由で海小を選んだが、ある意味正解だったかもな。あいつらは、物語に関わるために聖祥に行ったに違いない。だから、まさか同じ転生者である俺が海小に通っているとは思わないだろう。もちろん、用心はしておくがな。それと他にも驚くことがあったが、まさか、以前会ったアリサ・バニングスと月村すずかがあいつらと同じ学校の同じクラスのしかも、友人だったとはな……。それになのはと言う小娘のフルネームは高町なのは。高町恭也の妹だったとはな……。世界って、案外狭いんだなって、思ったぞ。

 

そういえば、向こうの朝のホームルーム前に連中、くだらない茶番していたな。高町なのはとアリサ・バニングスと月村すずか、二宮葵、赤松花音が降魔彪牙、神代大翔、皇翔琉に『俺の嫁』とか言い寄って、それを潮田翼が庇って、それにさっきの3人が難癖をつけるって言ったものだ。これを見て、俺は呆れた。あれを毎日やっているのか?それなら、さすがの俺も同情するぞ。まぁ、同情するだけで、それ以上のことは悪いができないが。

 

ちなみに、それぞれの転生者の容姿だが、潮田翼は黒髪黒目だ。(ハイパー)死ぬ気モードのときに目の色が変わるのは、沢田綱吉と同じだな。二宮葵は青髪青目のポニーテイルで、赤松花音は茶髪茶目のセミロングだ。あとは、降魔彪牙は銀髪に赤と青のオッドアイ、神代大翔は金髪赤目、皇翔琉はあの時は全身装甲の鎧でわからなかったが、茶髪茶目だった。

 

ホームルームというと、こっちのホームルームで昨日のことについて、話していたな。槙原動物病院の壁などが大破したというものだった。動物病院が破壊されたのは初めて知ったな。俺が見たのは、道中だしな。ってか、槙原動物病院って、たしか、リスティ・槙原刑事の義母の勤める病院じゃなかったか?……ご愁傷様としか言えないな。

 

とにかく、いろいろと情報が集まったし、これからの方向性もだいたい決まったな。多少は面倒なところもあるがこれが1番確実だ。俺は、マルチタスクで授業を聞きながら、そんなこと考えた。

 

 

 

 

【Side ?】

 

初めまして、私は二宮葵よ。実は、私、転生者なのよ。前世で大きな交通事故が起きて、私を含めて6人が死んだのよ。そして、気がつくと神様を名乗るお爺さんがいて、その神様の話だと、本来、起きるはずの無かった事故だったんだけど、自分のミスで起きてしまったみたい。神様はその事について、謝っていたけど、正直に言ってあまり気にしていなかった。もちろん、家族と別れることとかは、悲しかったけど、前世の私は体が弱くて、寝たきりの生活が多かったから、特に生きる意味を見出だせなかったわ。それに、いくら神様でもミスの1つぐらいあるし、ちゃんと謝ってくれたからね。だから、私は許したわ。

 

それで神様は私たちにお詫びとして、よく二次小説とかでもある転生させてくれるみたいだったの。まさか、自分がそうなるとは思わなかったわ。しかも、転生先は『魔法少女リリカルなのは』の世界だった。ベッドでの生活でやることが無かった私が見ていた好きなアニメの1つだったわ。私はすぐにそれに了承した。その際に特典を何するのか訊かれたけど、1つは健康な体にしたわ。もう、ベッドで寝たきりの生活は嫌だったから。あとの2つは、『ダンボール戦機』の『アキレス』の力と『戦記絶唱シンフォギア』の『ガングニール』の力にしたわ。なぜ、それにしたかというと、まぁ、この2つも好きなアニメだからというところもあるけど、実は私、自他に認める槍マニアなのよね。長い棒を振り回して、敵を倒す。小さい頃、そんなシーンを見て、感激したのよね。だから、響の『手を取り合うために武器を必要としない』っていう考えも嫌いじゃないけど、それでも槍を使っている奏のガングニールにしたの。アキレスに関しては1番好きなLBXだからってのもあるけどね。そして、私は転生したわ。

 

転生した先で、すぐに驚いたわ。なぜなら、なのはの家と私の家がご近所で幼馴染みという立場にいたからよ。しかも、私と同じ転生者の花音もいたのよ。私たちはすぐに仲良くなったわ。なのはのお父さん、士郎さんが原作通り、大怪我を負って入院したときは花音と一緒になのはを寂しがらせないように励ましたわ。だけど、他人に迷惑をかけないようにいい子であろうというところは変えられなかったわ。あっ、それでちょっと嫌なことを思い出したわ。まぁ、今も続いているけど、士郎さんが入院中のときになのはの気分転換にと花音と一緒に公園に遊びに行ったけど、そこで、私と花音にとって2人目の転生者の降魔と会ったわ。あいつの姿を見て、すぐに転生者だと思ったわ。『銀髪オッドアイなんて踏み台転生者みたいな姿にする奴なんて本当にいるのね』って、私が思ったぐらいだからね。だけど、あいつ、なのはの気持ちも考えずに好き勝手なことを言ってきたのよ。だから、私は文句を言ったけど、あいつ何をどう勘違いしたのか知らないけど、私や花音にも言い寄ってきたわ!ときどき、私たちの頭を撫でようとしてくるし、本当にあのときはムカついたわ!!

 

それから、小学校に入ったわ。小学校はもちろん、聖祥よ。ついでに降魔もそこに入ったわ………。入学して、すぐに私たちはアリサがすずかのカチューシャを取って、苛めていたところを見たわ。なのははそれを見た途端、飛び出してアリサを殴り飛ばしたわ。原作で知っていたとはいえ、生で見て、さすがに私も花音も顔を引きつらせたわ………。その後、いろいろとありながらも、アリサとすずかと仲良くなったわ。………これだけを聞くと、どこの熱血漫画なのかしら?…まぁ、話を戻すけど、入学して知り合ったのは、アリサとすずかだけじゃないわ。花音と降魔以外の3人の転生者と出会ったわ。この3人は降魔とは違う意味で転生者だと思ったわ。翼は髪と目の色は違ったけど『家庭教師(かてきょー)ヒットマンREBORN!』の『ツナ』と、神代は『Fate/stay night』の『ギルガメッシュ』と、皇は『ハイスクールD×D』の『イッセー』と同じ姿だったからね。翼は良い奴ですぐに仲良くなれたけど、神代と皇は降魔と同じタイプの人間だったみたいで、降魔と同じように言い寄ってきたわ。ギルガメッシュはあの傲慢な態度が嫌いだったからともかく、イッセーに関してはスケベでも、熱血で芯のあるところが好きだったからなんだか穢された気分になったわ。それで、あの3人に関してはいつも翼が庇ってくれているけど、おかげで翼以外の男友達はいないのよね…。本当にあいつら、迷惑だわ!!

 

………まぁ、それは少し置いといて、転生者6人集まったことで転生する際に神様が言っていたことを思い出したのよ。この世界には私たち6人以外にも、あともう1人、一緒に転生するみたいだったのよ。詳しい話は聞けなかったけど、あのときの私は『原作に関わる気は無いのかな?』とか考えて、特に気にしていなかったわ。……でも、今では、ちょっと後悔しているけどね……。

 

それは何故かというとね、昨日のことが原因なのよ……。昨日、原作が始まった。私も花音も翼もついでにあの馬鹿3人も、ジュエルシードの反応を確認したわ。急いで、反応がしたほうに行くと、なのはがジュエルシードの暴走体に襲われているところだったわ。花音と翼のおかげで、ひとまずどうにかなったけど、問題はそのあとよ。なのはがレイジングハートを起動させようとしたときに、全身黒づくめの男がジュエルシードの暴走体を押さえつけて、さらにジュエルシードを封印したのよ。そのジュエルシードをユーノかなのはに渡してくれるなら良かったけど、彼、私たちがパトカーのサイレンに気を取られている間に持ち去ったのよ。原作には登場しなかったキャラだから、転生者の可能性が高いけど、何を考えているのかわからなかったわ。それに、あの人、ジュエルシードのことを知らなかったみたいし、転生者なのかどうかですら、正直わからないわ…。

 

《昨日の黒づくめの人のデバイスは、あんたたちみたいな、神様特性のデバイスじゃないのよね?バン、カナデ》

 

私は、自分のデバイスであるバンとカナデに念話で声をかけた。ちなみに私のデバイスには、2つの人格があって、アキレスを使っていた山野バンとガングニールを使って天羽奏の人格があるわ。待機状態はシンフォギアのあのペンダントよ。

 

《あぁ。昨日の黒づくめの男が使っていたデバイス、S.C.F00だっけか?あれは、あたしたちのような、神様のじいさんが用意したデバイスじゃないぜ》

 

《葵を含めた6人の転生者が持っているデバイスは皆、神様が用意した特別なインテリジェントデバイスだけど、あのデバイスはおそらくストレージデバイスだったはずだよ。作りからしても、全然違っていたよ》

 

《そう……》

 

あの黒づくめの人のデバイスが私たちと違うってだけで、決めつける訳にはいかないけど、違う点があるだけに、あの人が転生者なのかどうか、わからないわね……。……ってか、カナデの声で『黒づくめの男』って言うと、某バーローの名探偵を思い出したわ……。

 

《なぁ、それより良いのか?たしか、葵の前世の記憶通りだと、そろそろジュエルシードがーーーー》

 

キーーーーン!

 

カナデが、そう言うのと同時にジュエルシードの反応がしたわ。

 

「今のって!?」

 

《ジュエルシードの反応だよ!!》

 

同じように、ジュエルシードの反応を感じたのか、なのはとユーノがそう言った。ちなみに、今は下校中のために、近くになのはと花音、翼がいる。

 

「とにかく、急いで行くぞ!!」

 

「「「えぇ/うん!!」」」

 

翼の言葉に私たちは頷き、ジュエルシードの反応がしたほうに走った。

 

 

 

 

 

原作通り、神社のほうからジュエルシードの反応がした。石段の前で合流して、私たちは駆け上った。

 

「バン!」

 

「ティオ!」

 

「ジョット!」

 

「「「セットアップ!!」」」

 

私たちは、それぞれ自分のデバイスを掲げて、バリアジャケットを身に纏った。ちなみに私はアキレスをモチーフにしたバリアジャケットを着ているわ。武器もアキレスランスとアキレスシールドよ。デバイスはシンフォギアのように胸元にあるわ。花音も『金色のガッシュベル』のティオの魔本のような色と模様がしたカードを掲げて、ティオのような格好になったわ。デバイスもティオの魔本そのものになったわ。翼もツナのVG(ボンゴレギア)をモチーフにしたデバイスを掲げて、チョイスのときのようなスーツの姿になって、さらに(ハイパー)死ぬ気モードになったわ。

 

「起動パスワード無しで起動させた!?」

 

それを見て、ユーノが驚いていた。だけど、私たちはそれを気にしている余裕は無いため、急いで上へと駆け上った。

 

「グルルルルルッ!!」

 

石段を上り終えると、境内に4つの目を持った黒く大きい犬が鋭い牙を向いて、唸っていた。

 

「原住生物を取り込んでる!」

 

それを見て、ユーノが焦った声で言った。

 

「ど、どうなるの?」

 

そんなユーノになのはが尋ねた。

 

「実体がある分、手強くなってる!」

 

「大丈夫だよ…」

 

そう言って、なのはは一歩、踏み出した。

 

「なのは!レイジングハートの起動を!!」

 

「へっ?起動って何だっけ?」

 

続いて戦闘の準備をするようにユーノはなのはに声をかけたけど、なのはの言葉にユーノは呆気に取られた。原作で知っていたけど、実際にその立場になると焦るわね……。

 

「えっ!?『我は使命を』から始まる、起動パスワードをだよ!」

 

「ええっ!あんな長いの覚えてないよ!それに、あれ最後まで言えてないよ!!」

 

そういえば、昨日は馬鹿3人とマスクの人に起動パスワードを唱えるのに中断されていたっけ……?

 

「グオォォォォーーーー!!」

 

そんなことを考えていると、ジュエルシードの暴走体が私たちに飛びかかった。

 

「キャーーッ!?」

 

「私に任せて!!第3の術ーーーー」

 

花音が暴走体の攻撃を防ごうと、魔本を開き、呪文を唱えようとした。そんなときだった。

 

「“ダークベルト”」

 

シュルルッ!!

 

「「「「「!?」」」」」

 

「グオォッ!?」

 

突如、暴走体の背後から黒い帯状のようなものが暴走体に巻き付き、動きを封じたわ。私たちがそれに驚いて、黒い帯状のようなものが飛んできた方向を見た。そこには………

 

「まったく、何しているんだ?」

 

昨日のマスクの男が、左手のデバイスから暴走体の動きを封じている黒い帯状のようなものを出しながら、呆れたような感じで、そう言った。

 

 

 

 

 

【Side 輝夜】

 

昨日と同じジュエルシードの反応がしたから、とりあえず人目のつかないところでダークネスの格好になってから、反応がしたほうに向かった。そこには、既に昨日の連中がいたが、目の前に暴走体がいるにも関わらず、高町なのははバリアジャケットを身に纏っていなかった。まったく、なぜ戦闘の準備をしていないんだ。他の連中も連中だ。そういうことを指摘しとけって話だ。そう考えていると暴走体が連中に襲いかかった。はぁ……。とりあえず……

 

「“ダークベルト”」

 

俺はS.C.F00から闇の炎を織り混ぜた帯を出して、暴走体に巻き付きた。

 

「まったく、何しているんだ?」

 

俺は、向こうの緊張感の無さに呆れながら、そう言った。さてと、連中が俺に話をしたがりそうな感じを出しているが、先に……

 

「グオォォォォ!!」

 

暴走体を何とかするか。暴走体はダークベルトを引きちぎろうとしているが、無駄だ。そのベルトは、闇の炎の無効の力で、お前の力は極限に下がっている。犬っころには、首輪がお似合いだな。違うだろというツッコミは受け付けない。

 

グイッ

 

「グオォッ!?」

 

俺は、空いていた右手でベルトを掴み、思いっきり引っ張った。暴走体は引っ張られて、俺のほうに向かってきた。俺は昨日と同じように、掌に闇の炎を纏わせて、暴走体に当てた。

 

パンッ!!

 

暴走体はジュエルシードと暴走体の面影も無い子犬になった。左手はジュエルシードを掴み、右手は子犬を抱えた。

 

「ジュエルシード、封印」

 

俺は、ジュエルシードをS.C.F00に収納した。

 

「待て!!また、お前か!!」

 

そんな俺の行動を見て、潮田翼が噛みついてきた。

 

「またとは何だ?この危険物を放置しておくわけにもいかないだろ?」

 

「あの……。それ、こちらに渡してくれないでしょうか?」

 

すると、赤松花音が恐る恐ると俺に訊いてきた。それに対して、俺は即答した。

 

「断る」

 

「そんな!?それはユーノくんの大切なものなの!!」

 

高町なのはが何か言っているな。だが……

 

「この危険物が大切なもの?いったい、どういうことなんだ?そのユーノくんは、ジュエルシードを集めて、何する気なんだ?世界の破滅でも考えているのかな?」

 

俺は思いっきり馬鹿にしたように、そう言った。普段、君づけしない奴が君づけしたら、滅茶苦茶馬鹿にされている気分になるからな。案の定、ユーノ・スクライアは憤慨した。

 

「なっ!?ふざけるな!!僕はそんなことなんかしない!!ジュエルシードを回収したら、預けるべき場所に預けるだけだ!!」

 

「……ふぅん。その預けるべき場所がなんのことだか、知らないが……。それなら、別にそいつの大切なものでも、何でもないということじゃないのか?」

 

「そ、それは……」

 

「それに、茶髪ツインテ」

 

「茶髪ツインテ!?それもしかして、なのはのこと!?」

 

「他に誰がいる?」

 

「にゃっ!?私は高町なのはなの!!」

 

高町なのはが何か叫んでいるが、本名を言ったら、『なぜ知っているんだ?』ってなって、めんどくさいことになりそうだからな。あと、そう易々と自分の名前言うんじゃねぇよ。既に知っていたとはいえ、もし知らなかったら今ので情報が手に入って、いろいろと不利になっていたかもしれないぞ。ついでに『にゃっ』って、猫か。

 

「そんなことはどうでもいい。それよりも、なぜお前はバリアジャケットを身に纏っていないんだ?これから、危険なところに行くにも関わらずだ」

 

「うっ!?そ、それは……」

 

「他の連中もそうだ。なぜその事を指摘しなかったのだ?自分たちはバリアジャケットを身に纏っていたのだから、茶髪ツインテの準備不足には気づいていた筈だろ?」

 

「うっ……」

 

「そ、それは……」

 

「その……」

 

「お、お前たちが昨日、なのはの変身の邪魔をしなければ、良かったんだ!!それがあったから、なのはは起動パスワードを全部、覚えきれていなかったんだ!!」

 

ユーノ・スクライア、二宮葵、赤松花音が言葉に詰まって顔を反らしたが、潮田翼がよくわからないことを言い出したな。あぁ……、何か苛つくな。

 

「とんだ言いがかりだな。俺が昨日、邪魔したからデバイスの起動パスワードを覚えていない?そんなこと知るか。だいたい、いくら邪魔されたとはいえ、後でそれを確認する時間ぐらいいくらでも、あっただろ?」

 

「そ、それは……」

 

「それなのに、この様……。お前たちが楽観的に考えていたからこうなったと認めることだな」

 

「くっ……!!」

 

そう言うと、潮田翼は悔しそうにしながらも、黙ってしまった。そんなときだった。

 

「「「ヒャッハー!!」」」

 

上空からアホな声が聞こえてきた。降魔彪牙、神代大翔、皇翔琉の3人だった。

 

「テメー!!変なマスク着けて、何俺の嫁たちを困らせているんだーーー!?」

 

「とっとと、ジュエルシードを渡しやがれ!!(ここで、ジュエルシードを奪い返せば、なのはたちはますます、俺様に惚れるな♪)」

 

「待ってろよ!!必ず、俺様が奪い返してみせるからな!!(こんなの、俺様の力があれば、簡単なことだぜ!!)」

 

頭の中がお花畑のこいつらは、俺に噛みついてきた。高町なのはたちもこいつらが出てきて、嫌な顔をしているな。特に降魔彪牙の『俺の嫁』発言で。

 

「行くぞ!!エミヤ!!」

 

俺がそう考えていると、降魔彪牙が何も無いところから剣が出てきて、それらを両手に持ち、俺に斬りかかった。まぁ、余裕でかわせるけどな。

 

「くそっ!!当たりやがれ!!」

 

降魔彪牙が何か言っているが、知るか。

 

「ハッハッハッ!!やっぱり、テメーじゃ無理だな!!これでも、喰らいやがれ!!“王の財宝(ゲートオブバビロン)”!!」

 

すると、今度は神代大翔の後ろの空間がいくつも歪んで、そこから剣などが射出された。

 

「なっ!?いったい、あれらは何のレアスキルだ!?」

 

ユーノ・スクライアが先程の降魔彪牙と神代大翔の攻撃を見て、驚いていた。まぁ、おそらく転生の際の特典だろうな。俺も詳しくは知らないが。それと、飛んできた剣は降魔彪牙の後ろから飛んできたものだった。だから、それに気がついて、代わりに剣を弾いてくれた。

 

「おいっ!!神代!!テメー!!このマスク野郎じゃなくて、俺に当たりそうだったじゃねぇか!!ちゃんと狙えやがれ!!」

 

「ふんっ!貴様がそこにいるのが悪いだろう。それに、俺はちゃんとそこのマスク野郎を狙っていたぞ?」

 

「嘘つけ!!違うところに行っていたぞ!!このノーコン野郎が!!」

 

なんだか、仲間割れしているみたいだが、降魔彪牙の言う通りだな。神代大翔の剣は別に俺がかわす必要がないほど、違うほうに行っていたからな。

 

「よそ見している場合かーーーー!!」

 

すると、俺の死角から皇翔琉が殴りかかってきた。ってか、皇翔琉って、どこぞの俺の知り合いの傲慢野郎と声が似ているな。まぁ、声だけで、実力は天と地ぐらい違いがあるがな。俺は、皇翔琉の攻撃をかわした。もう、この茶番も飽きたから、終わらせるか。

 

ゲシッ!!

 

「がっ!?」

 

俺はかわしたのと同時に皇翔琉をまだ、喧嘩している降魔彪牙のほうへ蹴飛ばした。

 

「「ぐっ!?」」

 

当然、2人は衝突した。だけど、それで終わりじゃない。俺は、2人に近づいて、神代大翔に向けて、さらに蹴飛ばした。

 

「「「ガハッ!?」」」

 

神代大翔はかわすことができず、3人は衝突した。そして、とどめに、俺はそこまで飛んで蹴落とした。

 

ドカーーーーンッ!!

 

3人は木にぶら下がっていたり、地面に上半身埋まっていたりなど、なっていたが、まぁ、戦闘不能の状態にした。

 

「「「「「………」」」」」

 

高町なのはたちは、今の戦いを見て、呆然としていた。だが、俺はとりあえず、そいつらに声をかけた。

 

「邪魔が入ったが、ジュエルシードは俺らが回収しておく。お前らは、おとなしく勉強でもしてろ。もし、邪魔するなら……」

 

俺はそこで、声を一段階低くして、言った。

 

「容赦しないぞ」

 

「「「「「!?」」」」」

 

俺の声を聞いて、連中はビクッと震えていたが、俺は気にせず、帰ろうと背を向けた。

 

「ま、待って!あなたのお名前は!?」

 

そこで高町なのはが訊ねてきた。別に答える理由も無いが、いつまでもマスクの男とかめんどくさいからな。俺は顔だけ、後ろに向けて答えた。

 

「ダークネス。俺のことはそう呼べ」

 

俺はそれだけ言うと今度こそ、その場から離れた。高町なのはたちは、呆然としていて、追いかけようとはしてこなかった。




ちなみに、作者が1番好きなLBXはオーディーンMk-2です。


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輝夜VS翼

長いこと、更新を待たせてすみませんでした!これからも更新が遅れますが、どうかご了承ください。


【Side 輝夜】

 

「サッカーの助っ人?」

 

あれから、数日。ジュエルシード集めもそれなりに行いながら過ごしていたある日のことだった。俺が通っている小学校の休み時間にクラスメイトの田中に『今度の休み、サッカーの試合があるんだけど、助っ人に来てくれ!』って、頼まれた。

 

「そうなんだ!その日に試合があるんだが、その日に限って、用事があって、行けない奴が多くて、11人しか、いないんだ!」

 

「ぎりぎり足りているじゃないか」

 

サッカーは11人対11人でやるスポーツだろうが。11人いるなら十分だろ。

 

「いやぁ、何かあったとき用の控えの選手が欲しくてさ」

 

なんだそれ。

 

「だいたい、なぜ俺なんだ?悪いけど俺、サッカーとかほとんど、やったことないぞ。もっとましな奴がいたんじゃないのか?」

 

前世とかだと、戦いばかりでスポーツなんか、今世の小学校の体育の授業でしか、やったことないぞ。それに俺は目立つのを避けるために勉強も運動もだいたい平均の位置になるようにしているはずなんだが、なぜ俺なんだ?

 

「いやぁ、他の奴にも頼んだけどみんな、用事があったみたいで見事に断られてな」

 

…………そういうことか。本音を言えば、俺もジュエルシード探しのために断りたいんだが…………。

 

「…………まぁ、いい。助っ人やってやるよ」

 

「本当か!?」

 

俺が了承すると、田中の奴、喜び始めた。

 

「いやぁ、助かるよ!本当に!このお礼は必ずするからな!」

 

「はいはい」

 

俺と田中の会話が終わると、ちょうどチャイムが鳴ったから、俺たちは席に着いた。はぁ……。俺も多少はお人好しになったな……。

 

 

 

 

 

「サッカーの試合?それはまた、急だな」

 

あの後、何事も無く、学校が終わり、家に帰ると龍に休み時間にあったことを話した。

 

「そうだ。だから、悪いがその日のジュエルシード探しはお前に任せても構わないか?」

 

「それは別にいいが、珍しいな。お前がこう言った頼みに乗るとはな」

 

龍が珍しそうな目をしながら、そう言った。まぁ、そうだな。俺自身、当初はする気などなかったが……。

 

「別にたいした理由じゃねぇよ。今回、頼んできた田中って奴は困った奴を見かけると放っておけない世話好きな奴で、俺も些細なことだが、あいつには何度か助けてくれたことがある。その借りを返すだけだ」

 

田中はまじでお人好しなところがある。体育とかで怪我した奴がいれば、一緒に保健室に行ってあげているし、重いものを運んでいる奴がいれば、一緒に運んだりなどしている。なんとなく読心術であいつの心を読んだが下心とか、そういうものは無かった。そのおかげか、あいつはクラス1の人気者だ。おそらく、あいつの頼みを断った連中も申し訳なかっただろうな。

 

「なるなどな。妙に律儀なお前らしい理由だな」

 

「ふん」

 

龍が納得したことでその話は終わった。その後は、特に変わりのない日常は過ごした。サッカーも少なくともルールだけは把握しておけば、特に問題ないだろう。

 

 

 

 

 

 

………………と思っていたんだがな。

 

「皆!今日の試合、勝つぞ!」

 

『オー!』

 

俺が助っ人として入ったチーム、『海小JFC』の監督がそう言った後で田中を含めたチームメイトが気合い入れて叫んていたが、俺は憂鬱な気分だ。いや、別にこのチームに問題があるわけじゃない。問題は相手チームだ……。俺が相手チームのベンチのほうをチラリと見た。

 

「皆、頑張って!」

 

「負けたら承知しないわよ!」

 

「ア、アリサちゃん……。お、落ち着いて……」

 

「あんたも落ち着きなさいよ、花音」

 

「にゃははは……」

 

なぜ小娘たち(あいつら)がいるんだ?しかも、潮田翼とユーノ・スクライアもいるし……。この姿だと、初対面だな。なんとか、自分がダークネスだということをばれないようにしなくてはな。そう言えば、相手のチームの名前は『翠屋JFC』だったか?翠屋は高町なのはの実家が経営している喫茶店だったはずだ。よく見れば、相手チームの監督は高町恭也の面影がある。たしか、高町士郎って名前だったな。昔、ボディーガードの仕事をしていて、裏にも多少は関わっているみたいだ。ハァ……、動きに気を付けねぇと俺がただのガキじゃないってばれるな。

 

……とまぁ、そう考えているうちに試合が始まるみたいだ。あぁ。俺はベンチだ。もともと、何かあったときの保険のために頼まれたわけだし、当日になって病欠や遅刻になった奴もいないみたいだしな。味方チームも相手チームもそれぞれポジションについて行った。………………ちょっと待て。なぜ、相手チームのフォワードに降魔彪牙、神代大翔、皇翔琉(あの馬鹿3人)がいるんだ?まさか、あいつら、あのチームに入っていたのか?……いや、高町士郎が頭痛があったかのように、頭を押さえているところを見ると、違うみたいだな。本来の選手はどこに行ったんだ?

 

「嫁たち!!俺様の勇士っぶりをしっかり見てくれよ!!」

 

「いや!!俺の勇士っぶりを見てくれ!!」

 

「おい!!モブ!!俺たちが試合に出ているからって、嫁たちに近づくんじゃねぇぞ!!」

 

とまぁ、3馬鹿はいつもと同じようなことを自分のチームのベンチに言っていた。

 

「うぅ~……///」

 

「あの馬鹿たち……!///」

 

「こんなところまで……!///」

 

「海小の子たちもいるのに……///」

 

「は、恥ずかしい……///」

 

「ハァー……」

 

《アハハ……。ドンマイ、皆》

 

…………完全に晒し者だな。小娘たちは恥ずかしそうに顔を赤くしている。潮田翼は呆れたようにため息をつき、ユーノ・スクライアは苦笑いしながら、小娘たちを励ましていた。小娘たちの態度を照れていると勘違いしているのか、3馬鹿は満足そうにしている。

 

「……あんな奴らになのはは渡さんぞ……」

 

高町士郎がそんなことを呟いているのを読唇術で読み取った。どうやら、高町士郎は親バカみたいだな。だが、わからなくもないな、その気持ち。もし、あの3馬鹿が明聖に嫁とか訳がわからない発言をするなら………………

 

「光城?どうしたんだ?何か、怒っているみたいだが?」

 

「いえ、そんなことはありません。監督の気のせいですよ」

 

「そうか」

 

ふぅ。どうやら、想像してわずかに殺気が漏れてしまったみたいだな。監督が気になっていたが、誤魔化せたみたいだ。さて、それよりも試合が始まるな。今、審判がホイッスルを鳴らした。

 

 

 

 

 

………………とまぁ、試合は始まったのは良いのだが、いろいろと酷いことになっているな。言うまでもなく、あの3馬鹿が原因だ。あいつら、ホイッスルが鳴ってすぐに自分が目立ちたいのか、ボールを味方同士で奪い始めている。しかも、身体能力強化の魔法を使ってプレイしていやがる。

 

はぁ……。手段を選ばないな、あいつら。俺も人のことはあまり言えないが、少なくともやっていいこととそうではないことの区別ぐらいしているし。これはルール無用の戦いではなく、しっかりとルールが定めているスポーツだ。そんなことばかりしていると…………

 

…………やはりな。あいつら、反則を連続に行って、退場になりやがった。だが、あいつら、自分たちが退場であることを納得できないらしく、審判に喰いかかった。まぁ、その前に高町士郎が無理矢理、下がらせたが。あいつらは望み通り、この試合で目立ったな。……悪目立ちだが。

 

そして、このあとだが、向こうはいきなり3人も減ったんだ。数の差による攻めで得点を入れて、2対0になった。まぁ、人数が有利だということもあるが、なぜか知らんが向こうのゴールキーパー、なんだか集中しきれていないな。おかげでこちらのチームの点が入っている。

 

ピピーッ!

 

ここで審判がホイッスルを鳴らした。どうやら、前半が終わったみたいだな。ここでハーフタイムに入って、監督との作戦会議をしているのを聞きながら、マルチタスクを使って相手のチームはいったいどうする気だろうと俺は考えていた。3馬鹿のせいでコートに出られる選手は8人になったし、そのせいでずっと出ていた選手も疲れが見え始めている。

 

どうやら、向こうのチームがメンバー交代させるみたいだな。………………って、潮田翼かよ。潮田翼がMFとして、入った。先程まで私服だったあいつがユニフォームを着ているってことは、急造の助っ人か……。もう、何でもありだな。

 

ピーッ!

 

そんなこんなで後半戦が始まった。こちらのボールで始まったが、潮田翼がカットした。そして、そのまま、ドリブルで選手をかわして、シュートを決めた。いきなり、1点決められたか……。こっちの選手も前半、ずっと出ていて、向こうほどじゃなくても、疲れはあるからな。

 

「いいわよ!翼!」

 

「そのまま、逆転しなさい!」

 

「かっこいいよ!」

 

「がんばって!」

 

「皆もがんばって!」

 

小娘たちは潮田翼を褒め称えているな。まぁ、いきなり1点決めて、反撃の狼煙をあげたのだから、気持ちはわからなくもないが、あいつがやったことって、あの3馬鹿と大差ないワンマンプレーだったぞ?それと、今の応援で敵味方問わずに、潮田翼に嫉妬の視線を送っているな。……そう言えば、ものすごくどうでもいい話だが、あの小娘たち、聖小で『聖小五大天使』って、呼ばれているんだっけ?あいつらのことを調べていたときに知ったのだが…………、うん。やっぱり、俺にとってはどうでもいいことだな。

 

と俺がそう考えている間に、また、潮田翼にボールを取られて、今度はパスを回しながら攻めて、またあいつがシュートを決めやがった。これで同点になった。味方チームは少し慌て始めて、相手チームは『この試合、勝てるんじゃないのか?』という期待を持ち始めたな。そして、それぞれの考えを後押しするかのように、潮田翼が逆転のシュートを決めた。

 

向こうは勝利を確信したかのように、歓声をあげているな。まだ、時間はそれなりにあるんだがな。だが、まぁ、8人っていう厳しい状況で逆転したのだから無理もないか。さてと、それよりも逆転されたこっちのチームは、意気消沈しているな。

 

ピピーッ!

 

「田中!?」

 

そんなこと考えていると、ホイッスルが鳴った。どうやら、田中がドリブルをしていると、ボールを奪おうとした相手チームのスライディングによる接触事故が起きたみたいだ。相手チームはすぐに立ち上がったが、田中は足を押さえたまま苦痛の顔を浮かべて、起き上がろうとしなかった。それを見て、監督を含めた全員が田中に駆け寄った。当然、俺も一緒だ。

 

「……うーん。この状態だと、もう下げたほうがいいな」

 

監督が田中の足を見て、そう言った。俺から見ても、監督と同じ意見だな。靴下を脱いだ田中の足は紫色になっていて酷く腫れていた。骨折の可能性も否定できないな。田中も自分の現状を理解しているのか、悔しそうにしているが、反論する気は無いみたいだ。

 

「すまないが、光城。出てくれないか?」

 

「わかりました」

 

まぁ、そうなるよな。とりあえず、田中に肩を貸して、ベンチへ連れていった。すると、田中が俺に話しかけてきた。

 

「ごめんな……。こんな形で試合に入ってもらって……」

 

「……もともと、こういうことを想定して、俺を誘ったんだろうが。……まぁ、ベストは尽くすさ」

 

「はははっ……。それじゃあ、頼むよ……」

 

力の無い言葉で言った田中をベンチに送ると、俺はコートに入った。たしか、田中も潮田翼と同じMFだったな。向こうにいる潮田翼や小娘たちは俺に対して、特にこれと言った興味は無さそうだな。おそらく、代わりの選手としか、思っていないだろうな。まぁ、この姿で相まみえるのは、初めてだしな。さてと、そんなことよりもサッカーに関しては、ルールなどの知識はあっても、細かい技術なんて持ってないからな……。とりあえず、チームメイトの迷惑にならないように………………

 

 

 

 

 

()()()()()()()()をやらせてもらうか。

 

 

 

 

 

ピーッ!!

 

試合再開のホイッスルが鳴った。こちらのボールで攻めて行ったが、潮田翼に奪われた。ボールはそのまま、潮田翼がドリブルでブロックに行った選手をかわしていった。…………本当にワンマンプレーだな。飛び入り参加だから、細かいチームプレーができないとしても、今、普通にフリーだった奴がいたぞ。そいつとかにパスできただろ。……まぁ、いいか。ワンマンプレーに走るなら、それでいい。

 

ゲシッ!!

 

「なっ!?」

 

手っ取り早く、確実にボールを蹴り飛ばすことができるからな。今、俺がやったことは潮田翼に近づき、タイミングよくボールを蹴って弾いただけだ。案外、役に立つものだな、視線誘導(ミスディレクション)。前世の仲間、スロウスが使っていた戦闘スタイルの1つだ。何かに、使えると思って、特訓していたのだ。あのめんどくさがり屋が、他人に教えるわけないから、完全に独学だけどな。それでも、潮田翼の意識の範囲外にいることができたし、そこからボールを蹴り飛ばすことができた。サッカー初心者の俺がボールの維持なんかできるわけないから、ボールを蹴り飛ばしたが、それでもフリーの味方のほうに飛ばしたからすぐに攻撃に移った。

 

「くそっ!?」

 

潮田翼がすぐにボールを取り返そうと戻ろうとしたが、そうはいかない。

 

「なっ!?」

 

俺は潮田翼が自陣に戻られないように、マークして邪魔をした。さっきから、こいつがボールを奪っているし、行かせなければ、大丈夫だろう。

 

「くそっ!邪魔だ!」

 

潮田翼が何か言っているが、邪魔しているから、当然だろ。そんなことを考えていると、チームメイトが得点を決めた。…………やはり、向こうのゴールキーパー、集中しきれていないな。心ここにあらずって、感じだな。まぁ、俺には関係無いし、どうでもいいことだな。それよりもこれで同点になった。元の位置に戻る際に潮田翼に睨まれたが俺は無視した。

 

「山田、小泉」

 

そんなことよりも、俺は2人に話しかけて、頼みを言った。2人は戸惑いながらも了承してくれた。そして、プレーが再開した。俺は、今度はぴったりと潮田翼のマークをした。

 

「また、お前か!」

 

潮田翼は忌々しそうに言っていたが、俺はまた無視した。そんなことよりも、潮田翼にボールを渡されないようにしなくてはいけないからな。さっきまでのプレーを見て、動きは、把握しているから次の動きを予想して、隙を作らないようにするぐらい、造作もない。

 

「くそっ!全然、引き離せない!…………っ!?」

 

潮田翼は焦りの顔を出しながらも、何かに気づいたみたいだ。俺は、潮田翼の視線の先を見て、何に気づいたのか、理解した。ゴール前ががら空きにになっていたのだ。

 

「!?今だ!!」

 

「あっ!?」

 

そして、それと同時に俺に隙ができた。その隙を見逃さず、潮田翼は俺のマークを突破して、ゴール前に向かった。それを見たボールを持っていた相手チームの選手が潮田翼にパスを出した。

 

「よし!今だ!」

 

パスを受け取った潮田翼はそこからシュートを撃とうとした。…………これは、ミスったな。

 

 

 

 

…………俺が張った罠だとも知らずに。

 

ピピーッ!

 

「なっ!?」

 

シュートを撃とうとしたところでホイッスルが鳴り、潮田翼はシュートを中断して、審判のほうを見た。

 

「オフサイド!」

 

「なっ!?」

 

オフサイド、攻撃側選手がゴールキーパーを除く、一番後ろにいる選手よりゴールラインに近い位置にいて、その選手にパスが回されたときに起きる反則。さっき、D()F()()()()山田と小泉に頼んだのは、いつもより少し前に出て守備をしてもらうことだった。初心者の奇策だから、成功するかどうか、五分五分だったが何とかなったな。自分をオフサイドトラップに嵌めたことに気づいた潮田翼がまた睨んでいたが、当然、無視した。それにしても、潮田翼の奴、沢田綱吉と瓜二つな癖に気が短いな。

 

「光城!よくこんな作戦思い付いたな!」

 

「ん?あぁ、まぁな」

 

チームメイトの称賛にまぁ、素直に受け止めた。そして、今度はこちらの攻撃で再開した。

 

「くっ!?またかよ!!」

 

潮田翼が忌々しそうに吐き捨てた。まぁ、こいつの言うとおり、俺はまた、潮田翼にマークしているのさ。しかも、今度はもう1人、チームメイトのオマケ付きさ。

 

「邪魔だ!!」

 

潮田翼は怒鳴ったが、知るかという話だな。それよりも、連続でボールを奪取できたことで勢いがついたのか、チームメイトは連携をとって、点を取ってくれた。これで逆転したな。

 

「くそっ!」

 

潮田翼は悔しそうにしながら、そう言った。…………これは、思ったより楽勝ですみそうだな。

 

このあとは、そう考えた俺の予想通りにことは進んだ。プレー再開したときに潮田翼に俺を含めた4人で集中マークして、ボールを渡されないようにしたし、こいつ以外の相手選手は焦りが出始めて、ボールを奪取して、また点を取った。その時に相手の監督は集中できていなかったゴールキーパーを交代させたから次からはそう簡単に点は入らなさそうだが、もう遅い。このあともいろいろ作戦を変えたり、視線誘導(ミスディレクション)でボールを奪ったりして、守備を徹底的にした。最後のほうは潮田翼も冷静さを完全に失ったのか、俺じゃなくても、ボールを奪うことができていた。そして…………

 

ピッピーッ!

 

「試合終了!」

 

5対3で俺たちのチームが勝った。味方チームは喜び歓声を上げ、相手チームは悔しそうに項垂れていた。

 

「嘘……負けちゃった……」

 

「そんな……」

 

「翼くん……皆……」

 

「あぁ、もう!これもあいつらが最初に好き勝手したからよ!」

 

「ア、アリサちゃん、落ち着いて」

 

小娘たちも残念そうな顔をしているが、二宮葵と赤松花音は残念というよりも、信じられないという顔をしているな。

 

「おい」

 

「ん?」

 

誰かに呼ばれて、俺は振り返った。そこには、潮田翼が睨んできていた。ハア……。めんどくさいことが起きそうだな。

 

「お前、名前は?」

 

「……は?」

 

「名前は何だって聞いているんだ!」

 

まじで、いきなりなんなんだよ。まぁ、別に名前を教えるぐらい、良いのだがな。

 

「…光城輝夜だけど」

 

「光城輝夜だな。今日のことは絶対に忘れないからな!」

 

「はぁ……」

 

そう言うと、潮田翼は自分のチームのベンチへ向かった。さんざん、邪魔したからか、まるでどこかで見たスポーツ系の青春物語のワンシーンのようなことを言っているが、俺もお前も助っ人だから、再びサッカーで対決することは無いと思うのだが……。……まぁ、どうでもいいか。俺も、自分のベンチに戻るか。

 

 

 

 

その後はチームの祝勝会に俺も参加した。途中で病院に寄って田中が足の検診を受けたみたいだが軽い捻挫みたいですぐに治るみたいだ。それからは()()()()()()()、その日は終わった。



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忠告と警告

【Side 花音】

 

初めまして、私は赤松花音と言います。いきなりですが、私、困っています。前世で事故にあって死んじゃって、よく二次小説で見る神様転生みたいに『リリカルなのは』の世界に転生したのです。なのはちゃんたちと仲良くなれて、今はジュエルシード事件の真っ只中だけど、肝心のジュエルシードがもともとユーノ君が持っていたものを除いて、1個も回収できていないのです。いえ、それ以前に神社での一件以来、()()()()()()()()()()()()()のです。

 

《この前のサッカーの時もそうだったけど、なんでジュエルシードの反応が無いの?》

 

葵ちゃんが念話で私と翼君にそう言いました。実は今、葵ちゃんと翼君との転生者の3人だけで話しています。近くにはなのはちゃんとユーノ君もいるけど原作関連のために2人には内緒で話しています。

 

《……おそらく、転生者が発動する前に回収しているんだろ》

 

この前のサッカーの試合で負けたことを気にしているのか、顔をしかめて、そう言いました。ジュエルシードが発動する前に回収………確かにそれなら、私たちの疑問も解決するけど………。

 

《転生者って言うと、あの馬鹿たち?》

 

《いや、それは無いだろうな》

 

《えっ、どうして?》

 

葵ちゃんが降魔君たちが回収している可能性を提示したけど、翼君がそれを否定しました。

 

《あいつらは、なのはやお前らに良い格好を見せたいんだ。それには、ジュエルシードの暴走を押さえるというのは、ちょうどいいんだ》

 

《そ、そうなんだ……》

 

《まったく……、私たちに良い格好を見せたいなら、まずは自分たちの普段の行いを改めなさいっての》

 

《それに、一度ジュエルシードの反応が無いことを不審に思って、1度ジュエルシードが反応するはずだった場所に向かったが、そこには俺と同じ考えだったのか、あいつらも調べていたんだ》

 

《調べていたって……あいつら、そんな利口そうなことできたの?》

 

《あ、葵ちゃん……》

 

《……まぁ、だから、あいつらが先にジュエルシードを回収しているということはない》

 

翼君の話に私と葵ちゃんは納得しました。

 

《それじゃあ、他に誰がいるのよ?》

 

《いるだろ?少なくとも、そいつは俺たちの前でジュエルシードを回収していたんだからな》

 

《それって、もしかして……》

 

《あぁ、ダークネスだ》

 

……ダークネス…さん。神社での一件でなのはちゃんに名前を訊かれて、そう名乗ったマスクを被った黒ずくめの人………。

 

《翼はあの男が7人目の転生者だと思っているの?》

 

《あぁ。あいつ以外に考えられない》

 

………確かに、あの人は原作とか関係無しにジュエルシードを回収しそうだけど、たしかあの人はジュエルシードのことについて知らなさそうだった気がするけど……。それって、原作の知識が無いから、発動する前に回収するのは難しいと思うけど………。

 

「すずかちゃん家でのお茶会、楽しみだね♪」

 

そんなことを考えていると、隣に座っていたなのはちゃんが私を含めた全員に言いました。そう、今日はすずかちゃんのお家でお茶会で原作で言う、なのはちゃんとフェイトちゃんとの出会いのイベントなのです。今は私と葵ちゃん、翼君、なのはちゃん、フェレット状態のユーノ君、恭也さんでバスに乗ってすずかちゃんのお家に向かっています。

 

「そうね。《今日がフェイトと初めて会うイベントだけど、月村邸にあるジュエルシードも回収されていたら、フェイトに出会うことができないのじゃないかしら?》」

 

なのはちゃんの言葉に頷きながら葵ちゃんが念話で私と翼君に話しかけました。確かに神社のときから今まで、ジュエルシードの反応が無いから、葵ちゃんの言った可能性は否定できない……。私たちは、そのまま、翼君と葵ちゃんと念話で話しながら、すずかちゃんのお家に向かった。

 

 

 

 

「恭也様、なのはお嬢様、翼様、葵お嬢様、花音お嬢様、いらっしゃいませ」

 

そして、私たちはすずかちゃんのお家に着きました。すずかちゃんのお家は何度来ても、大きいと思います。すずかちゃんのお家に着くと、なのはちゃんが呼び鈴を押して、それからノエルさんが出迎えてくれました。そして、ノエルさんに案内されて、そこに着いた部屋では、すでにアリサちゃん、すずかちゃん、すずかちゃんのお姉さんの忍さんが優雅にお茶を飲んでいました。忍さんはともかく、アリサちゃんとすずかちゃん。さすが、お嬢様……。小学3年生なのに、お茶を飲む姿が様になっている……。

 

「なのはちゃん!翼君!葵ちゃん!花音ちゃん!恭也さん!」

 

すると、私たちに気づいたすずかちゃんが声をかけてきました。

 

「すずかちゃん!」

 

「おはよう、すずか」

 

「おはよう」

 

「おはよう、すずかちゃん」

 

それに対して、私たちも挨拶を返しました。

 

「恭也、いらっしゃい」

 

そう言って忍さんが恭也さんに近付いていきました。

 

「あぁ……」

 

恭也さんは、短くそう返しましたが2人の周りには甘い空間が広がっていました。…………なんだか、私まで胸焼けが起きそうでした。そんなことをしていると、恭也さんと忍さんは別の部屋に行き、私たちはお茶を飲むことになりました。

 

「相変わらず、忍さんと恭也さんはラブラブだよね~」

 

アリサちゃんがそう言うと、すずかちゃんが微笑み、

 

「うん!お姉ちゃん、恭也さんと知り合ってから、ずっと幸せそうだよ」

 

そう言いました。

 

「お兄ちゃんも忍さんと会ってから、雰囲気が優しくなったの!」

 

なのはちゃんも嬉しそうに言いました。

 

「ということは、近い将来、なのはとすずかがおばちゃんになる可能性があるって事よね?」

 

「「うっ……!」」

 

葵ちゃんの言葉になのはちゃんとすずかちゃんが胸を押さえました。確かに、恭也さんと忍さんが結婚して子供が産まれたら、2人は叔母になるけど…………

 

《おばさんやおじさんに関しては、俺らは人のこと言えなくないか?》

 

《…………あっ。確かに……》

 

《あ、葵ちゃん……》

 

翼君に念話で指摘されて、葵ちゃんが少し凹んじゃいました。私も改めて考えてみると、前世から数えるともう30代だという事実に凹んじゃっています……。

 

「ちょっと、葵に花音、何であなたたちが凹んでいるのよ?」

 

そんな私たちの態度に私たちが転生者だということを知らないアリサちゃんが訝しげに聞いてきました。

 

「ううん、何でも無いよ」

 

それに対して、私はそう返しました。

 

「キュ―――――!!?」

 

すると、急に悲鳴が聞こえた。悲鳴が聞こえたほうへ向くと、ユーノ君がすずかちゃん家の猫たちに追いかけられていた。

 

「皆ダメだよ!追いかけちゃダメ!」

 

すずかちゃんが注意していたけど、止まらず……

 

「皆さん、お待たせしました……って、あうっ!?」

 

ユーノ君と猫たちがちょうど部屋に入ってきた、紅茶とケーキを持ったファリンさんの足元でぐるぐると回った。そのおかげで、ファリンさんは目を回した。

 

「あう~~」

 

目を回したファリンさんがふらついて倒れそうになって、危ないと思ったけど、

 

「危ないですよ」

 

いつの間にか、ファリンさんに近づいていた翼君がファリンさんを支えていました。紅茶とケーキも一切、こぼれていません。さすが、翼君。翼君は私たちの中で、1()()()()からね。

 

 

 

 

【Side アリサ】

 

びっくりしたわ。ファリンさんが倒れそうになったと思ったら、翼がファリンさんを支えていたのだから。まぁ、何事も無くてよかったけど。それよりも、さっきの恭也さんと忍さんのラブラブっぷりを見たら思わず、想像しちゃったわ。さっき、チラッと見たときの顔を見たら、おそらく、すずかも……

 

自分たちとダークネスさんがあんな風になれたらいいなと……。

 

あぁ、また、会いたいなぁ……。

 

 

 

 

 

【Side 輝夜】

 

「クシュン!」

 

……あぁ。さっきから、くしゃみが出てくるな。まぁ、大方、あの転生者+α共が俺のことを話しているな。(←半分、当たりで半分、外れ)

 

「あの……さっきから、くしゃみしていますが、大丈夫ですか?」

 

と、そんなことを考えていると、目の前にいる人物が俺を心配そうに声をかけてきた。

 

「あぁ、大丈夫だ。それよりも、今回は俺の話に付き合ってくれて感謝する。()()()()()()()()殿()

 

そう、俺の目の前にいるのは、月村忍と高町恭也だ。2人の後ろでは、メイド姉が控えている。そして、俺がいる場所は月村邸の応接間だ。ちなみに、こことは別の部屋でガキ共がいることも承知済みだ。

 

「いえ、どうやら、私たちにとっても重要な話みたいなので」

 

「俺も昨日の夜に忍から電話を聞いて、驚いたが、遠慮なくお願いする」

 

と、2人は気にしていないと言った。だが、まぁ、せっかくの恋人の時間を邪魔してしまったんだ。とっとと、話をするか。

 

「感謝する。それでは、さっそく話を進めるが、まずは、この間の公園と動物病院の半壊の事件についてだ」

 

「えっ!?待ってください!今、その事件が関係しているのですか!?」

 

俺の言葉に月村忍が驚いたように待ったをかけた。まぁ、ある意味、当然の反応だな。あの事件、自分たちとは無関係だと思っていたのだからな。実際、無関係だが……。

 

「あぁ、あの事件の犯人、いや犯物と言うべきか?まぁ、どっちでもいいか。とにかく、原因は()()()()()()()()()()()()()()()()()()ものと同じ石だ」

 

そう言って、俺はS.C.F00からジュエルシードを取り出して、3人に見せた。それを見て、月村忍とメイド姉が驚いていた。

 

「それは、たしか、昨日、ダークネスさんが落としたって、言っていた……」

 

「ちょっと待て、忍。この石について、何か知っているのか?」

 

事情を知らない高町恭也が月村忍に尋ねていた。

 

「えぇ。昨日の夕方頃にダークネスさんがドアベルを鳴らして、訪問してきたの。………その格好で」

 

「その格好でか!?」

 

そう言って、高町恭也が俺の方を見た。

 

「この格好でだが、何か?」

 

「い、いや……何でもない……」

 

そう言っている割に顔が引きつっているぞ。月村忍もメイド姉も昨日、似たような表情していたし、今も遠い目をしていやがる。ハァ……確かに、俺の格好は周りから見れば、おかしいということは自覚している。昨日も周りに人がいないタイミングを見計らって、行ったからな。その時は月村すずかが習い事でいなかったな。

 

「その時のダークネス様のご用件がこの石がカラスに取られて、追いかけたら我が家の庭に落ちたから拾わせて欲しいというものでした」

 

そんなことを考えていると、メイド姉が説明してくれた。だが、まぁ……

 

「悪いが、カラスの下りは嘘だ。実際には、結構前から隕石のように降っただけだ」

 

「「えっ!?」」

 

俺の言葉に月村忍とメイド姉が驚いたようだ。あれを信じていたのか……。まぁ、いい。

 

「それよりも話を戻すが、この石はただの石じゃない」

 

そこで、俺は3人にジュエルシードについて説明した。まぁ、主にこいつの危険性をだな。それを説明すると3人はどうやら、ジュエルシードの危険性を理解してくれたみたいだ。

 

「それで、俺たちにこのことを話したのは、このジュエルシードの回収を手伝うためか?」

 

「昨日、その石を拾ってから恭也を含めて大事な話がしたいと言ったのはそういうことね?」

 

俺がそこまで、月村忍と高町恭也がそう言った。だが………

 

「いや、ジュエルシードの回収自体はこちらで十分だ。こちらには()()があるからな」

 

俺は、そう言うと、懐からある機械を取り出した。その機械には1つの()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「この機械は、ジュエルシードを発見するためのレーダーだ。ジュエルシードには微弱だが、魔力の波長をながしていてな、ジュエルシード同士が近づくと共鳴する。この機械はその共鳴反応から逆探知して居場所を割り出すのさ」

 

俺が、これに気がついたのは、神社での一件から帰って、2つのジュエルシードを調べたときだ。この事実に俺は使えると思って、レーダーを作った。そして、それを使って、いくつかのジュエルシードを回収した。

 

「す、すごい……。そんなものが………」

 

おい。月村忍(変態マッド)、目を輝かせているんじゃねぇぞ。それに気づいた高町恭也とメイド姉が呆れているぞ。

 

「だが、今も言ったが波長が微弱なため、遠距離には反応しない。だから、同じものを見かけたら、俺に連絡を入れて欲しい。言っておくが、勝手に触れる真似は止めてくれよ」

 

「あぁ、わかっている」

 

「かしこまりました」

 

「そうね。迂闊に触って、発動したら溜まったものじゃないし、そこは専門家に任せるべきね」

 

と、3人は納得してくれたようだ。さて、ならば次に話すことは……

 

「実は、このジュエルシードを狙う者が俺以外にもいる。それがこいつらだ」

 

そう言って、俺は1()0()()の写真を取り出して見せた。すると、それを見た3人が驚愕の表情をした。

 

「なのは!?それに……ユーノ?」

 

「翼君に葵ちゃん、花音ちゃんも…」

 

「それにすずかお嬢様たちを困らせている3人もいます」

 

そうその内の8枚はあのガキ共が写っている写真だ。3人は自分たちの知り合い、特に高町恭也にとっては妹がいることがショックみたいだな。

 

「こいつらは全員、前に俺が説明したリンカーコアを持っていて、魔法が使える。そのフェレットの正体は人間で魔法を使って、姿を変えている。それと、もともとジュエルシードはそいつが発掘したものらしく、それを何かしらの事故でこの地球にばらまかれたものだ」

 

「そう……なのか……」

 

「ねぇ、この金髪の子とさくらのような獣耳をつけている女性は?」

 

月村忍が残りの2枚に写っている奴らについて、訊いてきた。ってか、さくらって誰だよ。話から察すると獣耳がついているみたいだが、夜の一族の知り合いにそんな奴がいるのか?

 

「こいつらに関しては、俺も詳しくは知らない。ある日、ジュエルシードを回収していたら、デバイスを突きつけて、自分たちに渡すように脅してきた。まぁ、当然断ったし、奴らの強硬手段も返り討ちにした」

 

「返り討ちって……あなた相手にその子たちは大丈夫なの?」

 

「心配するな。ちゃんと、手加減している」

 

「……それで、彼女たちがそれを集める目的は何だ?」

 

すると、ショックから立ち直った高町恭也が訊いてきた。奴らの目的か……。

 

「悪いが、金髪と獣耳(この2人)に関してはわからない。3馬鹿(この3人)は、他の女子に良いところを見せたいだけだろ。他の連中はおそらく俺と同じ危険物だからこその回収だろう」

 

そう言うと、3人は何か考えるような素振りを見せた。ってか、あの3馬鹿の話したら、3人共、顔をしかめたぞ。どれだけ嫌われているんだ?俺がそんなことを考えていると月村忍が口を開いた。

 

「あの……、なのはちゃんと協力することはできないのですか?だって、お互いにこの石が危険だから回収しているのですよね?」

 

ふーん。そう来たか。まぁ、予想通りだな。

 

「残念だが、それはできない」

 

「っ!?なぜだ!?」

 

俺がそう言うと高町恭也が声を荒げた。まぁ、自分の妹と俺がぶつかることを望んでいないから、そういう反応になってしまうのは当然だな。

 

「理由としては、あいつらがジュエルシードを全て回収した際にそれらを()()()()()()()()()に問題があるんだ」

 

「組織……ですか?」

 

「あぁ、そして、その組織に関してこそ、俺が最もあんたらに話したかったことだ」

 

俺がそう言うと、3人は顔を引き締めた。

 

「その組織の名前は『時空管理局』」

 

「時空管理局……それは、いったい、どんな組織ですか?」

 

「簡単に言えば、次元世界…まぁ、宇宙を管理という名の支配をおく警察と裁判所と軍隊を一纏めにした三権分立を無視した自称司法組織だ」

 

「三権分立を無視した組織……」

 

「それは、不味いな……。無罪の人間が有罪に、有罪の人間が無罪になってしまう……」

 

どうやら、これだけの説明で管理局の危険性を理解してくれたみたいだな。だが、まだ、話は終わっていない。

 

「時空管理局は地球では拳銃などの質量兵器の代わりに魔法を使って、争いごとを鎮圧したりする。そして、質量兵器の使用を禁止している。だが、前にも言ったが、魔法は全ての人間が使える訳じゃない。それなのに広大な次元世界を活動しているから、人員不足が絶えない状況だ。それを少しでも補うために魔法が使えるならば、あんたらの妹のような年齢の子供でも戦場に出させる」

 

「なっ!?」

 

俺の言葉に3人は信じられないという感じで驚いていた。まぁ、俺の前世でもガキを戦場に出させていた組織はあったから人のことは言えないが、あれらは裏社会の組織だし、特例ということもあったから、割り切っていたところはあったな。だが、仮にも司法組織がやっていいことではない。しかも、特例でもなく何でも無く、普通に戦場を出させているのは論外だ。

 

「………だが、そんな組織、全く耳に入ったことは無いのだが……?」

 

何とか絞り出した高町恭也の言葉に他の2人も頷いていた。

 

「あぁ…。それは、この地球が管理外世界だからだ」

 

「管理外世界……?」

 

「あぁ。一般的に魔法を使える世界を管理世界。逆に使えない世界を管理外世界と言われている。管理局では、管理外世界に管理局や魔法のことを教えてはいけないという決まりがある」

 

「えっ!?それじゃあ、あなたが捕まってしまうのじゃ…!?」

 

俺の説明に月村忍がハッとした様子で叫んだ。

 

「いや、大丈夫だ。この世界の住人である俺が管理局の定めた法律をどうこう言われる謂われが無い。治外法権みたいなものだな」

 

「そ、そうですか」

 

俺の言葉に月村忍と他2人が安心したようにほっと息をついた。お優しいことで……。

 

「だから、基本的に連中がこの世界に関わることはないが、残念ながら、もうすぐそんなこと言えなくなる」

 

「どういうことですか?」

 

「……管理局の仕事の1つにロストロギアの回収ってものがある」

 

「ロストロギア……?」

 

「とてつもないエネルギーを持っていたり、未知の力を持つ物、失われた技術をロストロギアと呼ばれている。そのジュエルシードとかがそうだ」

 

俺がそう言ってジュエルシードを指すと3人はそれを見た。

 

「管理局は末端はともかく、上層部が腐っている。己を正義だと信じて、平気で悪を行う。ジュエルシードも回収して、悪用される可能性が否定できない」

 

「だから、管理局に渡す可能性があるなのはたちと協力できない…ということか…」

 

「そういうことだ。それと、管理局の定めるロストロギアの定義に当てはまる物がもう1つこの場にある。それは……」

 

俺が、そう言って、1度区切ると、メイド姉を見た。

 

「ノエル・K・エーアリヒカイト、ファリン・K・エーアリヒカイト。あんたら、自動人形だよ」

 

「!?私とファリンがですか!?」

 

メイド姉が驚いたように言った。本当はメイド妹にも言ったほうが良いのかもしれないが、彼女はガキ共のところにいるから、下手すれば俺がここにいることがばれるかもしれない。だから、メイド妹には後で月村忍に伝えてもらうか。

 

「………確かに自動人形は失われた技術で作られた物だわ」

 

「そう。だから、あんたらの存在が管理局にばれたら、回収という名の強奪をするかもしれない。こちらの言い分なんか、まるっきり無視してな」

 

そう言うと、3人は沈黙した。まぁ、いきなり衝撃なことばかり聞かされたから、当然だな。

 

「………ノエルとファリンが狙われるかもしれない。それがあなたが1番私たちに言いたかったことですか?」

 

「そうだ。以前、自動人形の話を聞いてから、いつか話さなければならないと思っていいたことだ。これは警告でもある。時空管理局には気をつけろ」

 

「……ノエルとファリンのためにありがとうございます」

 

そう言うと、月村忍が立ち上がって頭を下げた。高町恭也もメイド姉も同じように頭を下げた。

 

「気にするな。それよりも、何かあったらここに連絡しろ。あぁ、一応言っておくが、この連絡先からは俺の正体を掴むことはできないからな」

 

そう言って、俺は机の上に連絡先を書いた紙を置いて、帰ろうとした。

 

「待ってください!!」

 

そこで、月村忍に呼び止められた。

 

「……最後に1つだけ、教えてください。なぜ、あなたは時空管理局について、そこまで詳しく知っているのですか?上層部が腐っているとか、普通、わかりませんよ?」

 

……月村忍の疑問はもっともだな。俺は管理局に関して、全て断言したような言い方だったからな。だが……

 

「悪いが、企業秘密だ。………ただ、1つ言えることは、俺が……」

 

そこで区切ると、俺は3人に顔を向けた。3人は俺の持つ闇夜の独特な雰囲気に気圧されている感じがした。

 

 

 

 

「時空管理局の闇と因縁があるってことだけだな」

 

 

 

 

そう言うと、今度こそ俺は部屋から出た。

 

ジュエルシードの件やあの金髪と獣耳の件、時空管理局の件など、やることがたくさんあるな。

 

俺はそう考えて、ガキ共と鉢合わせにならないように気をつけながら帰った。

 

結局、その日、起きるはずだったジュエルシードの反応が無かったことに完全に不審に思った他の転生者のことは知らずにな。




残念ながら、フェイトは名前すら出てきませんでした。次の温泉では、出てくる……はずです。

それと、輝夜は管理局に対して、良い感情を持っていません。


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三つ巴、集結

輝夜と龍の関係を弟と兄から甥と叔父に変更しました。

理由としては、設定年齢からこちらのほうが自然だと思ったからです。


【Side 輝夜】

 

「大当たり~!」

 

目の前の福引きの親父がカランカランとベルを鳴らしながら、大声で言っていた。俺は食料の買い物のために商店街に来ていたんだが、そこで福引きの券を何枚かもらった。興味はなかったのだが、まぁ、せっかくだし、やろうかと思って、ガラポンを回したのだが、そのうちの1回の結果がこの通りだ。

 

「はい。特賞の温泉旅館のペアチケットだよ、僕」

 

「ありがとう」

 

そう言って、『特賞』と書かれた白い封筒を渡された。温泉か……。………………興味ないな。前世でも今世でも、行ったことが無いが、特に魅力は感じないんだよな。そもそも、前世に関してはベネスタンテ星に温泉という文化は無かったな。地球に来て、初めて知ったし。まぁ、それはおいといて、今はジュエルシード探しのほうが大事だ。これは誰かにやろう。うん、そうしよう。

 

「あれ?あなたは?」

 

俺がそう考えていると、誰かに声をかけられた。俺は声のしたほうに向くと、内心、顔をしかめた。なぜなら………。

 

「やっぱり!あなた、サッカーの試合で途中参加した子よね?」

 

「翼君の話だと、たしか……光城輝夜君…だっけ?」

 

それは、二宮葵と赤松花音だったのだ。2人の腕には鞄があって、その中に食材があったから、おそらく俺と同じ理由でこの商店街に来ているんだろうな。いや、それよりも、まさか、ここで会うことになるとはな……。光城輝夜=ダークネスだってことがばれないように会話するか……。

 

「えっと、君たちはたしか、サッカーの試合で翠屋JFCのベンチにいた……」

 

「えぇ、そうよ。私は二宮葵」

 

「うん。私は赤松花音」

 

「二宮さんと赤松さんだね。試合始まってすぐ、好き勝手やって退場になった子たちのお嫁さんだよね?」

 

「「違う(わ)よ!?」」

 

おぉ、息ぴったりだな。

 

「ちょっと!!なんで、私たちがあいつらのお嫁さんになっているのよ!?」

 

「えっ?だって、前の試合のときに彼ら、『俺の嫁』とか言っていて、君たち否定していなかったし」

 

「否定する気力が起きなかったのよ!!あんな大勢の前であんなこと言われて恥ずかしかったのよ!!」

 

二宮葵が必死に否定しているな……。まぁ、わかっているんだが。

 

「ね、ねぇ……。もしかして……、君のチームの他の子たちにも……同じことを思われていたりする……?///」

 

恥ずかしそうに俯いていた赤松花音が恐る恐る訊いてきた。

 

「うーん。半々かな?彼らが好き勝手に言っているだけだって、思っている子もいたし、『いや、普通、あんなことは言わない!それなら、本気なんだ!』っていう子もいたよ」

 

「あぁ~~~~っ……!!///」

 

「うぅ~~~~っ……!!///」

 

俺がそう言うと、こいつら頭を抱えて蹲ったぞ。顔を赤くするというおまけ付きで。かなり小さい声だが、『あいつら~、会ったら、絶対に許さないんだから~!!』や『うぅ~~っ……。変な誤解されちゃったよ~~!!』とか言っている。まぁ、ドンマイだな。ちなみに今、俺の言ったことは事実だ。あの後の祝勝会でそんな話したしな。

 

「そんなことより!!あなた、今、福引きで何か当てたわよね!?///」

 

二宮葵め……。露骨に話を変えたな………。別に構わないのだが……。赤松花音も興味があるのかチラチラと見てくるな……。

 

「うん。温泉旅館のペアチケットだよ。ほら、これ」

 

俺は、封筒からチケットを見せた。すると、それを見た2人は驚いていた。

 

「この旅館!?」

 

「今度のゴールデンウィークでなのはちゃんたちと行く場所だよ!?」

 

おいおい。マジか……。そんな偶然があるのかよ……。しかも、今の言い方だと高町家も来るみたいだし、おそらく潮田翼とかの前の月村邸の茶会で来ていたメンツも来るだろうな………。

 

《まさか、このタイミングで私たちと同じ旅館に行く人といるなんてね……》

 

《でも、葵ちゃん。これは偶然じゃないの?だって、この子、今、福引きで引き当てたのよ?》

 

《…それもそうね。オマケに彼から魔力は()()()()()()()し》

 

毎度、お馴染みの読心術でこいつらの会話を聞いていたが、どうやら、俺のことをダークネスか、転生者だと疑っていたみたいだな。同じ旅館に行くってだけで疑われたらたまらないな…。だが、こいつらがそれで疑うってことはそこにジュエルシードがある可能性が高いな。あぁ、ちなみに魔力に関してだが、リミッターをつけているからだ。

 

《でも、その旅館でフェイトちゃんは来るかな?》

 

《………わからないわ。前のすずかの家じゃ、フェイトどころか、ジュエルシードの反応も無かったし。あの後、どこを調べてもジュエルシードは落ちていなかったし……》

 

こいつら……。あの家にジュエルシードがあったことを知っていたのか……。だとしたら、不審に思われているかもしれないな……。ジュエルシードを裏でダークネス()が回収していることを。まぁ、それは別にばれても構わないのだが。それとフェイト………あぁ、あの金髪ツインテか。一緒にいた獣耳の女がそいつのことをそう呼んでいたからな。あいつらのこともこいつら転生者組は知っているのか……。それなら……。

 

「あの~。そろそろ、帰っても良いかな?」

 

「えっ!?あっ、ああ!!ごめんなさい!!」

 

「呼び止めて、悪かったね。それじゃあ、またね。あっ、そういえば、翼……前のサッカーであなたに名前を訊いた子がリベンジするって、言っていたわよ」

 

「アハハ…。俺(と潮田翼(あいつ))はあの時は助っ人として入ったから次がいつかはわからないけどね。それに俺、素人だし…。それじゃあ、またね」

 

俺はそう言って、帰路に向かった。二宮葵と赤松花音が今の俺の言葉に驚いているみたいだが無視だ、無視。潮田翼が助っ人として入ったことを言えば、『なぜそのことを知っているのだ?』とか言われて、俺が転生者だってことがばれるかもしれない。まぁ、最初はユニフォーム着ていなかったからって言えば大丈夫だと思うがめんどくさい。素人に関しては嘘じゃないしな。トラップやドリブルとか、俺はやってないし、ボールを奪うときは適当に蹴っただけしな。俺はそんなことを考えて、家に向かった。

 

…………それにしても、我ながら年相応の喋り方、似合わなかったな。

 

 

 

~その日の夜~

 

「それで、誰かにあげるつもりだったチケットの旅館に行こうということか?」

 

俺が龍に先程のことを伝えたら、龍はそう尋ねてきた。

 

「そういうことだ。だから、依頼は入っていないか?」

 

「ゴールデンウィークの間なら大丈夫だ。でも、それなら、いつものように先回りして、ジュエルシードを回収すればいいだけじゃないのか?」

 

龍がそう思うのは、当然か。俺が言っていることは光城輝夜として直接、あいつらと接触するって言っているようなものだ。そうすれば、光城輝夜=ダークネスということがばれるかもしれないからな。だが……

 

「いや、どうやら今回は前に話したフェイトっていう金髪ツインテ娘も来るらしい。そいつに関してはなぜジュエルシードを狙っているのかわかっていない」

 

「だから、あえて先回りしないってことか」

 

「そういうことだ」

 

「……よし、わかった!それなら、俺らも準備するか」

 

「そうだな」

 

さて、旅館ではいったい、どうなることやら。

 

 

 

 

 

~旅行当日~

 

旅行当日、龍の運転する車で旅館に来た俺たちだった。

 

「着いたな」

 

「そうだな。それであいつらはいるのか?」

 

「それはまだわからない。ゴールデンウィークの間に行くことまでは聞いたが、それ以上のことは聞けなかったからな。だが、事前に調べたら、ジュエルシード(例のもの)が確かにこの旅館にあったからな」

 

「そうか。それでその例のものはどうしたんだ?」

 

「軽めの封印はかけておいた。いくら、あいつらをおびき寄せるためとはいえ、暴走されたら敵わないからな」

 

「なるほどな。とりあえず、チェックインだけでも済ませておくか」

 

「あぁ」

 

そう話して、俺たちは旅館の中に入った。

 

 

 

 

【Side 葵】

 

さて、今日は原作の温泉の日よ。参加するメンバーは高町家一同と私と花音、翼、アリサ、すずか、忍さん、ノエルさんとファリンさん。それから、フェレット状態のユーノよ。

 

旅館に着いて、チェックインして私たちはさっそく、温泉に入ろうとしたんだけど………

 

「キュッ!?キューーーーーーーッ!!」

 

「こら、ユーノ!暴れんじゃないわよ!」

 

まぁ、原作通りにユーノが女湯に連れて行かれそうになっているわね……。さて、どうしたものか………。なのはとすずかは暴れるユーノを押さえているアリサの味方だし……。そういえば、なのははユーノが人間だということ、まだ知らないのかしら?……絶対にそうよね。そうじゃなきゃ、アリサの味方にならない………あれ?でも、Strikersでの銭湯回では、今のユーノよりも年上のエリオを女湯に拉致っていたし、積極的に誘っていたキャロにも特に何も言わなかったし………、実は本当に気にしていないのかしら?私は…前世のことがあるから、別に子供のユーノに見られても平気だけど、ここの温泉も9歳以下までなら男の子が女湯に入っても問題ないみたいだしね。あっ、でも、翼やあの3馬鹿たちはダメよ!見た目はともかく、中身はとっくに成人しているんだから。あっ、それと花音は私と違って、考えが肉体のほうに引っ張られているのか、恥ずかしそうにしているわね。仕方ないわね。ユーノを翼に押しつけるか……。

 

「あれ?君たち……」

 

そんなことを考えていると私たちに呼び掛ける声が聞こえて、私たちはそちらのほうを向いた。

 

「あっ。光城君」

 

そこにいたのは、この前、商店街で会った光城ともう一人、知らないお兄さんだった。光城のお兄さんかしら?彼がここのチケットを福引きで当てていたことは知っていたから、もしかしたら、会うかもしれないと思っていたけど、まさか、さっそく会うことになるとはね……。

 

「何?花音、知り合いなの?」

 

「えっと、ほら、この前は翼君たちの試合の相手チームで途中参加した子だよ。私と葵ちゃん、この前、商店街の福引きでここのチケットを引き当てていたところを見て、それでちょっとお話をしたの」

 

アリサの質問に花音が答えて、それでなのはたちは『あぁ、彼か』といった感じで納得していたわ。

 

「……俺のこと、覚えているか?」

 

すると、翼が光城にそう尋ねたわ。翼には、前の商店街で会った後で、彼が福引きでここのチケットを手に入れたことを話したから特に驚いた様子は無さそうね。それよりも、前の試合で負かされたことを気にしているのか、敵意が剥き出しになっているわよ。

 

「あぁ、うん。前のサッカーの試合で俺に名前を訊いてきた……えっと……名前は……」

 

「……そう言えば、言ってなかったな。潮田翼だ」

 

「あぁ、そうだったね。潮田君ね」

 

「あっ!私、高町なのはって言うの!」

 

「私はアリサ・バニングスよ」

 

「月村すずかって言うの、よろしくね」

 

翼が名乗ると、次々になのはたちが名乗り出したわ。……妙になのはが積極的な気がするわね……。……あっ、そうか!あの3馬鹿たちのせいで翼以外の男友達がいないから、この期に仲良くなろうとしているのね。ここならば、あいつらの邪魔は無いし、他校の生徒だから大丈夫ね。

 

「高町さんとバニングスさんと月村さんだね。俺は光城輝夜」

 

「む~っ。できれば、なのはって、呼んで欲しいの!」

 

それに対して、光城も自己紹介を返したけど、名字呼びがお気に召さなかったなのはが自分のことを名前で呼ぶように頼んでいたわ。

 

「んー……。でもな……」

 

「悪いな。お嬢ちゃんたち、こいつ、少し人見知りな性格だから、女の子の名前を呼ぶのが照れ臭いんだよな。(本当は、馴れ合う気が無いだけだろうけど)」

 

光城が困ったように言っていると隣にいたお兄さんがそう言ったわ。

 

「えっと……、あなたは……?」

 

「あぁ。ごめんごめん。俺は輝夜の叔父の光城龍だ。普段は私立探偵をやっているんだが、今日はこいつが当てた福引きで一緒に来たのさ」

 

とお兄さん、龍さんがそう言ったわ。

 

「探偵!?すごいです!!」

 

「アハハ。ありがとうな。でも、たぶん、俺は君たちが思っているような探偵じゃないんだよな」

 

「えっ?そうなんですか?」

 

なのはが探偵に関して、疑問符を浮かんでいるけど、実際、その通りなのよね。現実の探偵は人探しや素行調査はあるけど、殺人事件の解決はしないのよね…。……とそんなこと考えている間に龍さんが説明していて、なのはたちは納得していたわ。

 

「ところで、さっきから何を騒いでいたの?」

 

「えっと、それはユーノ君、……このフェレットを女湯に連れて行こうとしていたんだけど。暴れちゃっていて……」

 

すると、光城が質問してきて、それを花音がそう答えた。

 

「えっ?ここの温泉って、ペット同伴OKだっけ?」

 

「それは問題ないわ。ほら、そこの注意書きにも書いてあるわ」

 

光城が突然、そんなことを聞いて、アリサが大丈夫だと言って、注意書きが書かれている看板を指さしたわ。

 

「本当だ。ん~。でも、やっぱり、ペットを温泉に連れ込むのはやめたほうがいいと思うよ」

 

「えー!?どうしてなの!!」

 

光城がそう言うと、なのはは納得いかないという声を出したわ。かく言う私も少し戸惑っているわ。なんで、連れ込むのをやめたほうがいいのかしら?はっ!まさか!!こいつが実は転生者でユーノの正体を知っているから……。

 

「いや、だって、ここには他のお客さんもいるし、その中には動物がダメな人もいるかもしれないじゃん」

 

と、私が警戒していたけど、今の光城の言葉で的外れだったというのが理解したわ……。っていうか、全くもっての正論ね……。いくら、ここの温泉がペット同伴OKって言っても、ここは私たちの貸し切りって訳じゃないし、動物アレルギーを持っている人からすれば、良い迷惑ね……。

 

《ユーノ。彼の言い分は正しいから、悪いけど温泉に連れて行くことはできないわ》

 

《い、いえ。温泉に入れないのは少し残念だけど、確かに彼の言っていることに間違いないので……》

 

《あら?残念なのは、私たちの裸を見られないことじゃないの?》

 

《なっ!?ち、違いますよ!!からかわないでよ、葵!!///》

 

《アハハ。ごめんごめん。冗談よ》

 

念話で少しユーノをからかっていたところで、周りの様子がどうなっていたかというと、彼の言い分が正しいのは、わかったけど、いまだに不満があったなのはたちだったけど、ずっといた士郎さんや桃子さんの説得によって、ユーノを女湯どころか温泉に連れ込むことはやめたみたい。

 

「どうやら、話はついたみたいですね」

 

「えぇ。お騒がせしてすみません……」

 

「いえいえ。それでは、自分はこの子と一緒にお土産を見に行きますので、これで失礼を」

 

「えぇ、こちらこそ」

 

龍さんと士郎さんがそんな会話をして、光城一家は離れていったわ。………そう言えば、たしか、彼の福引きで当てたチケットって、ペアチケットよね?別にそこまで、おかしい話じゃないけど、お父さんやお母さんとは無理だったのかしら……?……やめましょう、余所の家庭事情を詮索するのは無粋だわ。

 

「「……………」」

 

「恭也さん。忍さん。彼らをジッと見て、どうしたのですか?」

 

すると、翼が恭也さんと忍さんに話しかけていたわ。2人の視線の先は確かにさっきの2人が歩いて行ったほうをジッと見つめていたわ。

 

「いや………。あの輝夜って子、初めて会った気がしなくてな……」

 

「恭也も?私もなのよ」

 

えっ?2人の言葉に私は耳を疑ったわ。

 

「えっと、それって、すれ違って見かけたとかじゃなくて?」

 

「あぁ。どこかで会ったはずなんだ。しかも、割と最近にな……」

 

「そうなのよね……」

 

恭也さんと忍さんがそう言って、首を傾げていたわ。翼も花音も気になったみたいで私と目があったわ。光城輝夜……、いったい、何者かしら……?

 

 

 

 

 

その後、私たちはユーノを部屋に待機していたノエルさんとファリンさんに任せて、私たちは温泉に入ったわ。温泉から上がった後は、すずかの家でのフェイトとの接触が無かったからなのか、アルフとの接触も無かったわ。そして、豪華なご飯を食べて、皆が寝静まったときだったわ。

 

 

 

 

キーーーーーーン!!

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

「今のは……!?」

 

「ジュエルシードだ……」

 

私たちにとって、久々のジュエルシードの反応がしたわ。私たちは寝ているアリサとすずかを起こさないように静かに部屋を出て、ジュエルシードの反応がしたほうに向かったわ。もちろん、神社のことを教訓に全員、バリアジャケットに着替えてね。

 

 

 

 

「ジュエルシード、封印」

 

ジュエルシードの反応があった河原に来ると、そこには、フェイトがバルディッシュでジュエルシードを封印していたわ。側にはアルフもいたわ。

 

「ん?なんだい、あんたら?」

 

アルフが私たちに気がついて、尋ねてきたわ。本当に原作と変わったわね。これがフェイトたちとの初邂逅なんだから……。

 

「なぜ、ここに僕と同じ魔導師がいるんだ!?」

 

2人を見て、ユーノが驚いたように叫んだわ。

 

「私たち以外のジュエルシードの探索者……?」

 

「……まさか、あんたら!!あの()()()()()()()()()の仲間かい!?」

 

一方で向こうも訝しげに私たちを見てきたけど、それよりも今のアルフの言葉よ!!

 

「へんてこマスクの男って………」

 

「まさか、ダークネスのことか!?」

 

そうよ。私たちの知る限り、マスクの男は1人しかいないわ。まさか、すでにフェイトたちと接触していたとはね……。しかも、アルフの様子から煮え湯を飲まされたみたいね……。

 

「俺のこと、呼んだか?」

 

『!!?』

 

すると、急に男の声が聞こえたわ。私たちはこの声を知っている……。よく、考えれば、この人物も久しぶりに会うわね。私たちもフェイトたちも声のしたほうに顔を向けたわ。

 

「あんたは!!」

 

「あの時の……!!」

 

「「「「「ダークネス(さん)!!」」」」」

 

そこには、ダークネスが静かに佇んでいたわ………。




次回は、三つ巴の戦いです。


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もう1人の魔法少女と漆黒のドラゴン

すみません!!前話の後書きで三つ巴の戦いが始まると書きましたが、そこまで至ることができませんでした!!


【Side ????】

 

私、フェイト・テスタロッサは彼と初めて、会ったことを思い出した。

 

私は私の使い魔のアルフと一緒にジュエルシードを探していた。母さんが必要としていたから。なぜ母さんがそれを必要としているのかわからないけど、私は母さんが喜んでくれるならそれでいい。だから、それを必ず手に入れる。

 

だけど、それはなかなか見つからなかった。ジュエルシードの反応が全くない。このままじゃ、母さんが悲しむ。

 

そんなある日だった。やっと、ジュエルシードの在処に目処がついて、そこに向かうと黒いローブに黒いマスクをしていた人がジュエルシードを持っていた。私は慌てた。あの黒い人は魔力を感じたし、格好から一般人だとは思えなかった。おそらく、私と同じジュエルシードの探索者だと思う。今までジュエルシードが見つからなかったのも、きっと、あの人が先に回収していたからだ。

 

私はあの人がジュエルシードを持ち去る前に背後に立って、私のデバイス、バルディッシュを突きつけた。

 

「それをこちらに渡してください」

 

 

 

 

 

【Side 輝夜】

 

きっかけは別にたいしたことじゃない。最近、この海鳴市で知らない魔力がうろちょろしているのを感じたからだ。だから、基本的に誰にも見つからないようにジュエルシードを回収していた俺だが、その日だけはその謎の魔力の正体を掴むためにあえて、目立つダークネスの格好で回収に向かった。もちろん、一般人に知られないようにしている。

 

そして、見事に釣れたな。俺がそのジュエルシードを見つけた辺りから近くにいて、俺がそれを手に取った瞬間、そいつらは俺の背後に立って、鎌形のデバイスを突きつけてきた。

 

俺がそちらに振り返るとそこにいたのは、金髪ツインテールの小娘とオレンジ髪の獣耳と尻尾が生えた女だった。デバイスを突きつけているのは、金髪ツインテのほうだった。それと、オレンジ髪の女は使い魔か?初めて見たな……、()()()()の使い魔に………。

 

「もう一度、言います。それをこちらに渡してください」

 

俺がずっと、黙っているのを痺れ切らしたのか、金髪ツインテはもう一度、同じことを言い出した。やはり、狙いはジュエルシードか。だがな………。

 

「なぜ、お前に渡さなければならない?何のためにジュエルシードを回収しようとしているのだ?」

 

「あなたが知る必要はありません」

 

にべもなく、断られた。まぁ、俺も期待はしていなかったがな。

 

「なら、俺も渡す理由が無いな。そんな物騒なものを人に突きつけるような奴にはなおさらな。子供だから何でも許されると思わないことだな」

 

金髪ツインテのジュエルシードの引き渡しに俺は拒否した。最初から渡すつもりは無かったがな。

 

「あぁ、もう!うっさいね!いいから、それを渡しな!」

 

俺が拒否すると、獣耳の女が殴りかかってきた。

 

「ガッ!?」

 

だが、そんな攻撃を易々、受ける俺じゃない。女の拳をかわして、それと同時に俺はカウンターを女の腹に打ち込んだ。女はそれにより吹き飛ばされた。

 

「アルフ!?」

 

それを見て、金髪ツインテは獣耳の女、アルフというのか、まぁ、そいつに駆け寄った。ハァ……。隙がありまくりだな。こいつらもまた、戦いを知らないガキだって、考えるべきだな。俺は別にそんなつもりは無いが、これがもし、女子供に容赦ない腕の立つ奴とかだったら、今の間に2人は死んでいるな。

 

「……そこの獣耳の女、お前、その金髪ツインテの使い魔だろ?お前、かなり短気な性格だな。お前がそんな感じだと、主の器のたかが知れているな」

 

「ッ!?フェイトを馬鹿にするんじゃないよ!!」

 

俺が馬鹿にしたような口調でそう言うと、アルフという使い魔はキッと俺を睨み付けて、そう言った。ハァ…。やはり、迂闊だな。俺がそうなるように誘導尋問したとはいえ、ここまで簡単に引っかかるとはな。おかげで、そこの金髪ツインテの名がフェイトだということも知れた。まぁ、とりあえず、いつまでも手に持ったままにする訳にもいかないし、俺は今回、回収したジュエルシードをS.C.F00に収納した。

 

「あっ!?」

 

「あ、あんた!今、直したものをこっちに寄こしな!」

 

俺の今の行動を見て、2人は慌てたように、そう言った。

 

「言った筈だ。渡す理由が無いとな」

 

「……なら、力ずくでいただきます」

 

そう言うと、フェイトという小娘は改めて、自分のデバイスを握りしめて、俺に突きつけた。……やり合うしかないか。だが、面倒だな……。とりあえず、結界だけは張っておくか……。

 

「行きます」

 

フェイトという小娘は自分の周りに黄色い魔力弾を展開した。魔力弾の周りには雷が迸っている。こいつ、魔力変換資質持ちか……。

 

「シュート」

 

小娘は魔力弾を放ってきた。なるほどな。レベルはそれなりに高いな。だが………

 

バシッ!!

 

ドカンッ!!

 

「「なっ!?」」

 

俺は左腕のS.C.F00を振るって、小娘の魔力弾を全て弾いた。それを見て、2人は驚いていた。だが、それが隙となる。

 

シュンッ!

 

ドガッ!!

 

「グッ!?」

 

バキッ!!

 

「キャッ!?」

 

その隙を突いて、2人に近づいて、アルフという使い魔を殴り飛ばして、小娘に腕を振るった。その腕は小娘のデバイスに直撃して、デバイスは折れて、外装にも罅が入った。そして、小娘自身も少し吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

 

【Side フェイト】

 

私の魔力弾をあの人が全て、左腕についているデバイスを使って弾いたと思ったら、その人は消えた。そして、アルフと私は吹き飛ばされていた。しかも、バルディッシュが真っ二つに折れて、外装に罅が入った。コアは無事なのが幸いだったと思う。

 

「それじゃあ、俺はこれで失礼するよ」

 

「待ちな!!逃がすと思っているの!?」

 

黒いマスクの人がそう言うと、アルフが起き上がって、あの人を逃がさないように動こうとしたけど……。

 

「待って!!アルフ!!」

 

「ちょっ!?なんで、止めるんだい………なっ!?」

 

私が呼び止めるとアルフは納得いかない顔をしていたけど、私の持っているバルディッシュの状態を見て、驚いていた。

 

「バルディッシュがこんな状態じゃ、あの人からジュエルシードは取れない。今回は退くしかない……」

 

「くっ!!あんた、覚えておきな!!次に会ったときはけちょんけちょんにしてやるからね!!」

 

私がアルフを説得すると、アルフは黒いマスクの人にそう言った。すると、その人は肩をすくめて、こう言った。

 

「ふん。それならば、こちらからも言わせて貰うよ。これは俺たちの領域(テリトリー)だ。お前らのようなガキとその飼い犬はお家で大人しくしておくことだ」

 

「あたしは狼だ!!」

 

違うアルフ。ツッコむところはそこじゃない。

 

シュンッ!!

 

「ッ!?」

 

「消えた!?」

 

すると、黒いマスクの人は急にその場から消えた。

 

「バルディッシュ。あの人の魔力反応は?」

 

『すみません、サー……。反応が消失しました……』

 

バルディッシュにあの人の魔力反応を尋ねたけど、どうやら既に範囲外にいるみたい……。転移魔法を使ったのかな?でも、そんな反応は全く、感じなかった。……ううん。今はそんなことを気にしている場合じゃない。早くバルディッシュを直さなくちゃ。今のままじゃ、ジュエルシードが回収できない。あの人は私たちに大人しくするように言ったけど、そんなことはできない。母さんのために必ず、あの人が持っている物も含めて、ジュエルシードは回収する。悔しそうに唸っているアルフの横で私はバルディッシュを握りしめて、そう決心した。

 

 

 

 

 

そして、それからしばらく経った今、私たちは知らない白い魔導師の子たちと一緒にあの人と会った。

 

 

 

 

 

【Side 輝夜】

 

さて、久々にダークネスとして、こいつらと会ったな。今回、ジュエルシードは金髪ツインテが回収したか。前に会ったときに壊したデバイスも直っているみたいだな。……ふむ、茶髪ツインテたちじゃないだけ、良かったかもな。まぁ、とりあえず………。

 

「久しぶりだな。金髪ツインテとその飼い犬。あの時、俺、こう言わなかった?『これは俺たちの領域(テリトリー)だ。お前らのようなガキとその飼い犬はお家で大人しくしておくことだ』とな」

 

俺がそう言うと、高町なのはたちが驚いた様子だった。大方、この金髪ツインテたちと面識があることに驚いているんだろうな。

 

「うるさいね!あんたにそんなこと言われる謂れは無いね!それと、私は狼だ!!」

 

そう言うと、アルフという使い魔は人の姿から狼の姿に変わった。それを見て、ユーノ・スクライアが高町なのはたちに説明していたが、俺にとってはどうでもいいことだな。

 

「すみませんが、あなたの言うとおりにするつもりはありません。私はジュエルシードが必要ですから」

 

「………まぁ、俺も大人しく言うことを聞いてくれるとは思ってなかったさ。あぁ、それと、お前らも久しぶりだな」

 

「ダークネス……」

 

俺がそう言って、高町なのはたちのほうに顔を向けた。高町なのははともかく、それ以外のメンツは俺に警戒していた。

 

「ダークネス!!お前!!あの時の2個のジュエルシード以外に回収しているのか!?」

 

潮田翼が俺を睨み付けながら、そう叫んだ。……やはり、俺が裏でジュエルシードを回収していることに疑念を持っていた。だが……。

 

「さぁな。何のことだか」

 

それを素直に言うはずもなく、肩をすくめながらそう言った。

 

「ふざけるな!!お前以外に――――」

 

「「「ヒャッハー!!」」」

 

潮田翼が俺を問い詰めようと叫ぼうとしたが、それを遮るように声が聞こえた。あぁ、こいつらも久々だな。高町なのはたちは顔をしかめて、金髪ツインテたちは何事だという顔をしていた。そして、そいつらの声が空から聞こえてきた。

 

「おい!!モブにマスク野郎!!俺の嫁たちを困らせてんじゃねぇ!!」

 

「なのは、葵、花音。俺が来たからには安心しな」

 

「フェイトにアルフ。会えて、嬉しいぜ」

 

ハァ……。もう……。あれだな……。こいつら、3馬鹿の行動には呆れて言葉が出ないな………。

 

「な、なんだい……。あいつら……」

 

「ど、どうして……、私たちの名前を……」

 

おい。金髪ツインテとその飼い犬と3馬鹿たちは初対面かよ。それじゃあ、知らない奴(降魔彪牙)から、自分たちの名前を呼ばれたら、それは驚くし警戒するな。大雑把に言えば、変質者だな。それにしても…………まぁ、いいか。とりあえず、こいつらは別の意味で邪魔だし………。

 

「出てこい。()()()()」ボソッ

 

「グオォォォーーーー!!!!」

 

『!!?』

 

俺の呟きと共に辺りの空気を震わすような咆哮が響き渡った。いきなりの咆哮に茶髪ツインテたちも金髪ツインテたちも3馬鹿たちも驚いたみたいだ。

 

バサッ…バサッ…

 

『なっ!!?』

 

聞こえてきた翼の音に全員がそちらに振り向くと再び、いや今度はかなり、驚いたようだ。それと、どうやら来たようだな。俺の相棒………。

 

「グオォォォーーーー!!!!」

 

漆黒ドラゴン(ドラゴーネ・ネーロ・コルヴィーノ)”、ドレイク。

 

 

 

 

 

【Side なのは】

 

ジュエルシードの反応がして、今日こそは回収しようと思ったの。だけど、反応があった場所に行くとダークネスさんとは違う私たちと同い年ぐらいの子がジュエルシードを回収していた。一緒にいたお姉さんは狼さんになって、ユーノくんの話だと使い魔だとか…。そしたら、ダークネスさんも出てきて……。ダークネスさんとあの子は知り合いみたいだったし……。今度は降魔くんたちが出てきて、降魔くんたちはなぜか、あの子、えっと……フェイトちゃんと…アルフさん……?の名前を知っていたの。でも、フェイトちゃんたちは会ったことが無いみたいで怯えていたの……。そしたら、いきなり大きな声が聞こえてきて、翼の音が聞こえてきたの。その方を見たら驚いたの……。

 

夜の空と同じ真っ黒な、でもお目々だけは真っ赤な、なのはたちの3,4倍の大きさはあるドラゴンだったの……。

 

「あれは……ドラゴン……か……?」

 

「どうして、この世界にあの生物が……?」

 

「な、なんだい……あれは……?」

 

皆、ドラゴンさんを見て、驚いていたの。……そういう私もびっくりしたけど……。だって、ドラゴンなんて、空想上の生き物だし……。

 

「グルル……グオォォォーーーー!!!!」

 

「なっ!?がっ!?」

 

「こいつ!?いきなり!!ぐっ!?」

 

「くそっ!!このヤロ…ガハッ!?」

 

すると、いきなり、ドラゴンさんが降魔くんたちに襲いかかったの!降魔くんたちはドラゴンさんにあっさりと吹き飛ばされたの!降魔くんたちはもともと、そこまで強くないけど、ドラゴンさんがどうやって吹き飛ばしたのか、まったく見えなかったの!

 

「ご苦労だったな。ドレイク」

 

「グルル」

 

ドラゴンさんは、ダークネスさんの元にいたの!しかも、ダークネスさんがドラゴンさんのことをドレイクと呼んで、ドラゴンさんの顎を撫でていたし、ドラゴンさんも気持ちよさそうにしていたの。

 

「そのドラゴンはお前の使い魔なのか。ダークネス」

 

「使い魔…まぁ、似たようなものだな…。そうだ。こいつは俺の相棒のドレイクだ」

 

翼くんの質問にダークネスがそう言ったの…。どうしよう……。ただでさえ、ダークネスさんは強いのに、使い魔のドラゴンさんまでいるなんて……。

 

「さてと、そんなことよりもジュエルシードだな」

 

「ッ!フェイトには近づかせないよ!!」

 

ダークネスさんがそう呟くと、アルフさんがダークネスさんに向かって、突撃したの。

 

「ドレイク」

 

「グオォ!!」

 

だけど、ドラゴンさんがダークネスさんの前に立ちはだかって、自分の腕でアルフさんの攻撃を防ぎました。

 

「グオォ!!」

 

「キャイン!?」

 

すると、ドラゴンさんは自分の腕をなぎ払って、アルフさんを()()()()()()()()に吹き飛ばしたの。…………って、にゃあぁぁ!!!?アルフさんがこっちに来るの!!?ぶつかるの!!?

 

「!?第3の術!!“マ・セシルド”!!」

 

ドンッ!!

 

「キャイン!?」

 

そんなときに花音ちゃんが自分の持っていた本を開いて、そう唱えました。すると、なのはたちとアルフさんの間に真ん中に羽の紋章が刻まれた円形の大きな盾が出てきたの!?アルフさんはその盾にぶつかって、悲鳴を上げていたの。

 

「グオォーーー!!!」

 

『!!?』

 

すると、ドラゴンさんこっちのほうに飛んできたの!!?しかも、ものすごいスピードで!!

 

「くっ!?」

 

ドンッ!!

 

アルフさんはその場から横にかわして、ドラゴンさんの爪が花音ちゃんの盾にぶつかったの!!

 

「ッ!?」

 

「花音!!大丈夫!?」

 

「う、うん……。で、でも、……すごい威力だよ……」

 

「こうなったら……なのは!翼!使い魔たちは僕と葵と花音が何とかするから、あの子とダークネスをお願い!」

 

「そうね…。そのほうがいいわ」

 

「うん。なのはちゃん。翼君。お願い!」

 

「わ、わかったの!」

 

「あぁ」

 

私たちはユーノくんの言うとおりに動くことにしたの。

 

「させると思っているのかい!?」

 

「させてみせるさ!!」

 

すると、ユーノくんたちとアルフさんとドラゴンさんを覆うように魔法陣が敷かれたの。

 

「強制転移魔法!?まずい……!?」

 

「ふっ!!」

 

すると、緑色の光が皆を包んだの。だけど………

 

シュルルッ!

 

「なっ!?こいつ!?」

 

「翼くん!?」

 

ドラゴンさんの尻尾が翼くんに巻き付いたの!!そして、翼くんはドラゴンさんに引っ張られて、緑色の光の中に入っていたの。そして、皆、消えてしまったの……。

 

 

 

 

 

【Side 輝夜】

 

あいつらはユーノ・スクライアの強制転移魔法で別の場所に飛んだか。それにしても、ドレイクの奴、潮田翼を巻き込んでくれたか。相変わらず、良い動きしてくれる。おかげで、お互いの陣営から1人ずつという状況になった。

 

「……結界に強制転移魔法……いい使い魔を持っている」

 

「ユーノくんは使い魔ってやつじゃないよ。私の大切な友達だよ。えっと……フェイトちゃん……であっている?」

 

「うん。私はフェイト・テスタロッサ」

 

何だか、俺を蚊帳の外でツインテール同士で何か、話しているな。それと金髪ツインテのフルネームはフェイト・テスタロッサか。……テスタロッサね……。

 

「そうか。私は高町なのは」

 

「そう。で?どうするの?」

 

「話し合いで何とかできるってこと……ない?」

 

……高町なのは、それは本気で言っているのか?

 

「私はジュエルシードを集めなければいけない……そして、あなたも同じ目的なら、私たちはジュエルシードを賭けて戦う敵同士ってことになる」

 

「だから!?そういうことを簡単に決めつけないために、話し合いって必要なんだと――――」

 

「まぁ、それはそうだな」

 

「ダ、ダークネスさん……」

 

「確かに話し合いで済ませられるなら平和的に解決できるだろうな。だが、少なくとも今回はそんなの無意味でしかない。俺はフェイト・テスタロッサ(お前)がジュエルシードを集める理由は知らないが少なくとも、俺の『あんな危険物を回収して、誰の手にも触れられないように保管する』という理由と相反することは絶対に間違いない。俺とお前の目的の理由が異なり、尚且つ、お互いに自分の目的に本気で取り掛かっているなら、口先だけの話し合いなど時間の無駄だ」

 

「それでも、私は――――」

 

「その人の言う通り。話し合うだけじゃ、言葉だけじゃきっと何も変わらない……伝わらない」

 

「……そんな!?」

 

高町なのはが置いていかれている中、俺とフェイト・テスタロッサは戦闘態勢に入った。ってか、この状況でまだ話し合いを望むのか……。戦いを知らない小娘の発言だと言ってしまえば、それはそうなのだが、俺からしたら現実を見ていない甘ちゃんとしか思えないな。同じような甘ちゃんの沢田綱吉でも、このような状況は戦うしかないと現実を見ているぞ。

 

「賭けて。お互いのジュエルシードを1つずつ」

 

「でも!だからって!!」

 

「あぁ、いいぞ。あと、お前らは1つで良いが、俺は特別に3つやるよ」

 

「ダークネスさんも!!」

 

「……嘗めているのですか?」

 

「大人の配慮ってやつだ。まぁ、負ける気も毛頭も無いがな」

 

「……前の私と同じと思わないでください」

 

「それは怖いな」

 

「お願いだから、話を聞いてよ!!!」

 

そうして、俺たちの戦いの火蓋は切られた。




次回こそ、三つ巴の戦いです!!


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三つ巴の戦い

投稿が約1ヶ月、遅れてすみません……。

なんだか、やる気があまり起きずに時間だけがただ進んでしまいました……。

今回の話も戦いらしい戦いは起きていません……。

本当にすみませんでした……。


【Side 輝夜】

 

あれから、どれくらい経ったのだろうな?俺たちのいる河原では魔力弾が飛び交っていた。さっきまで話し合いを求めていた高町なのはも今では魔力弾を放ってきている。いや、今でも、フェイト・テスタロッサと俺にジュエルシードを集める理由を聞きたがっているか……。ってか、フェイト・テスタロッサはともかく、なぜ俺もなんだ?俺は一応、『危険だから回収する』っていう理由を伝えている筈だが?……おそらく、潮田翼辺りに『何か、企んでいるに違いない』でも言われたのだろうな。まぁ、信じる信じないは向こうの自由だから構わないが。

 

「っ!!“ディバインシューター”!!」

 

「“フォトンランサー”!!」

 

高町なのはとフェイト・テスタロッサがそれぞれ、魔力弾を自分以外に向けて、放ってきた。

 

「…………」

 

俺は黙って、次々と襲いかかってくる桜色と黄色の魔力弾をかわした。小娘たちもお互い、かわしていた。

 

「………どういうつもりですか?」

 

すると、フェイト・テスタロッサが魔力弾を放つのをやめて、俺を訝しげに見ていた。高町なのはも訳がわからず、手を止めていた。まったく……、そこで止めるなよ……。

 

「何がだ?」

 

「とぼけないでください。あなたは今まで、かわしているだけで1回も攻撃してこないじゃないですか」

 

「えっ!?そういえば!!」

 

……まぁ、気づくよな。高町なのはは気づいていなかったみたいだが………。俺は戦いが始まってから、回避だけで攻撃は一切、していない。まぁ、理由としては………

 

「別に。俺がその気になれば、お前ら程度、すぐに倒せるしな。少し、遊んでいるだけだ」

 

「……ふざけているのですか?」

 

「端的に言えば、そうだな」

 

俺が即答すると、フェイト・テスタロッサはこちらを余計に睨んできたし、高町なのはも同じように睨んできた。…負けず嫌いなのか?それにしても、『少し、遊んでいるだけだ』って、俺はルシフェルかっつーの。あいつも相手のレベルに合わせて戦うしな……。まぁ、俺とあいつとでは、理由は根本的に違うのだが、それはいいか……。

 

「なめないでください!“アークセイバー”!」

 

「負けないの!“ディバインバスター”!!」

 

フェイト・テスタロッサは魔力刃を高町なのはは砲撃魔法を放ってきた。9歳児にしては、なかなかの威力だな。当たれば、一溜まりも無いな。

 

「まぁ、当たればの話だが」

 

「嘘!?」

 

「いつの間に!?」

 

俺は、高町なのはとフェイト・テスタロッサを軸に元いた場所とは反対側に移動した。別に闇夜のショートワープを使ったわけじゃない。これくらい、素で動ける。まぁ、元の世界の連中ならばっちり視認されているだろうがな。………と、ん?この気配……。

 

「グオォォォォォーーー!!!」

 

「「えっ!?」」

 

「………来たか。()()()()

 

けたたましい咆哮………、聞き間違える筈がない。咆哮が聞こえた方にはドレイクがと羽ばたいていた。

 

「あれは、ダークネスさんの……はっ!?翼くんやユーノくんたちは!?」

 

「ッ!!アルフは!?」

 

高町なのはとフェイト・テスタロッサが必死な形相でこちらを見て、叫んできたな。まぁ、それは当然だろうな。あいつらの連れはドレイクと一緒に飛ばされたのだからな。それがドレイクだけ戻ってきたら、安否は気になるだろうな。

 

「グルルッ……」

 

そう考えているとドレイクは俺の側に降りて、俺に何かを伝えようと鳴いてきた。

 

「…………ふっ。そうか。全員、倒したのか」

 

こいつとの付き合いは長い。こいつの言いたいことぐらい、前世のときからわかる。……だが、こいつ、機嫌が悪そうだな。なにがあったんだ?

 

「「なっ!?」」

 

「グルルッ」

 

「……あぁ。心配するな。お前らの仲間たちは死んでいない。気を失っているだけだとよ」

 

「グルルッ」

 

「ただ……、たいしたことない雑魚ばかりでつまらなかっただとよ」

 

「っ!?お前ー!!」

 

ドレイクの言葉を翻訳すると仲間の悪口を入れたことでキレたのか、フェイト・テスタロッサが口調を悪くして、突っ込んできた。なかなかのスピードだな。……ふむ。ドレイクが戻ってきたことだし、もう()()()()もいいか。

 

「“ダークベルト”」

 

シュルルッ

 

「っ!?」

 

「フェイトちゃん!?」

 

俺はS.C.F00からダークベルトを伸ばして、フェイト・テスタロッサに何重も巻き付けた。確かに速いが、沢田綱吉や他の連中の速さと比べたら、大したことのない。捕まえるなど造作もない。

 

「くっ!?外れない!!」

 

フェイト・テスタロッサがダークベルトを外そうともがいているみたいだが、あいにく、それはその程度で破れるものじゃないからな。

 

「ふっ!」

 

「キャッ!?」

 

俺はそのまま、左腕を振るった。当然、ダークベルトと繋がっているフェイト・テスタロッサも一緒に振るわれた。そして、そのフェイト・テスタロッサの先には……。

 

「えっ!?キャアァァーー!!?」

 

ドガーーン!!!

 

ドレイクが来てから空中でじっとしていた高町なのはと衝突した。まぁ、俺がそうなるように振るったんだが。そして、2人はそのまま地面に衝突した。バリアジャケットを身に纏っているなら、そこまで酷いダメージは無いだろうが、衝撃ですぐには起きられないはずだ。それなら、と俺はダークベルトを解除して、倒れているあいつらのすぐ側まで一瞬で近づいた。

 

「……S.C.F00。“ブレードモード”」

 

俺はそれと同時にS.C.F00の手首側から黒い魔力でできた剣を出した。……初めて、出したときから思っていたがまるでスクアーロの剣みたいだな。まぁ、それはともかく……

 

チャキッ

 

「お前らの負けだ」

 

「「くっ……!!」」

 

剣の切っ先を重ねて倒れている小娘2人に向けて、俺はそう言った。2人とも悔しそうに顔を歪めていたが現実は変わらない。

 

『『プットアウト』』

 

「レイジングハート!?」

 

「バルデイッシュ!?何を!?」

 

すると、2人の持っているデバイスからジュエルシードが出てきた。

 

「……ほぅ。どうやら、お前らのデバイスは現状を理解しているみたいだな」

 

デバイスたちは自分たちの負けを認めて、使用者の安全のために自ら、ジュエルシードを差し出したか。確かに、こいつらの目を見た感じ、この状況でも戦いだしそうだな。俺はそんなことを考えながら、2つのジュエルシードを回収した。

 

「そんな……、ユーノくんが持っていた……。最後のジュエルシードなのに……」

 

「やっと……やっと……1個……手に入れたのに……」

 

ハァ……。こいつら、この世の終わりみたいな顔をしやがって。別に命を奪うつもりなど端からなかったが、自分たちのデバイスのおかげで助かったんだろ。やれやれ、負けず嫌いなのやら、意地汚いのやら……。それにしても……

 

「……主思いの良いデバイスだな」

 

「「……えっ?」」

 

俺のいきなりの言葉に2人は目を丸くしていたが、俺はそれを無視した。2人のデバイスを観察した。………インテリジェントデバイス、意思を持ったデバイスか。はっきり言って、俺にとっては人工知能は無用の長物だと思っていた。S.C.F00の()()()()から言って、そちらのほうが都合が良いし、何より俺との相性が最悪だってことが1番の理由だ。インテリジェントデバイスでは俺の戦闘スピードに追いつかずにすぐにオーバーヒートを起こす。だから、処理速度の速さからストレージデバイスにした。他にも細かい理由はあるが、そういうことで俺にはストレージデバイスのほうが肌に合っていた。

 

まぁ、インテリジェントデバイスにはインテリジェントデバイスの利点はあるのだろうがな。例えば、今のように小娘たちの命を守るためにしっかりと状況を判断して、ジュエルシードを俺に差し出した。そのことに気づいたのか、当初は勝手にジュエルシードを差し出したことに不満だった小娘たちも俺の言葉を聞いたことで口には出していないが内心では、感謝しているみたいだ。顔にそう出ているしな。使用者とデバイスに絆や信頼関係があるみたいだな。そう言った相性が最悪なら戦いでは早死にするだけだ。だから、それは純粋に感心だな。

 

………だが

 

「それが、お前らの()()に繋がると思うと少し哀れに思うな……」

 

「「えっ………?」」

 

俺の言葉に2人は訳がわからないという顔をしていた。

 

「ダークネスさん……、それはいったい、どういうことですか……?」

 

「その内、わかるさ」

 

高町なのはの疑問には答えず、俺は2人に左手を向けた。

 

「“ダークバインド”」

 

「「!?」」

 

俺がそう呟くと、2人を黒い魔力のロープみたいなもので縛った。2人は抜け出そうともがいているが無駄だ。それはダークベルトと同様に闇夜の炎の力が混ざっている。だから、バインドブレイクをしたくても魔力が無効化されるから無意味だ。

 

「安心しろ。そいつは5分経てば、勝手に消えるようにしている」

 

俺はそう言うと、踵を返して、2人に背を向けた。

 

「ま、待って!!」

 

高町なのははそんな俺を呼び止めようとしていた。

 

「……言っても無駄な気がするが、一応、言っておく。今回は見逃すが、もうこれ以上、俺たちやジュエルシードに関わるな。次も手加減してもらえると思ったら大間違いだぞ」

 

俺はそう言うと、後ろに視線を向き、少し殺気を込めて、2人のほうを見た。

 

「「っ!?」」

 

2人は殺気を受けたことで顔を強張らせた。大人気ないとか思われているかもしれないが、悪いけど知るかって話だ。前世のガキの頃から戦いを経験した俺からすれば、この程度で泣き言を言うぐらいなら最初から戦いに参加するなと思うし、中途半端な覚悟は己や周りの寿命を縮めるだけだ。

 

「……」

 

2人の様子に興味を失せた俺は、今度こそ前のほうを向いて、ドレイクのほうに歩いた。

 

「行くぞ、ドレイク」

 

「グルルッ」

 

俺はそのまま、ドレイクの背中に乗って、ドレイクは羽ばたいて空へ飛び、俺たちはその場を離れた。小娘たちが何か言いたそうな顔をしているのを、背中で感じていたが当然、無視してな。

 

 

 

 

 

 

 

バサッ……バサッ……

 

スタッ……

 

あの河原から少し離れた誰もいないところで、俺たちは降りた。ドレイクの背中から降りた俺は改めて、辺りを見渡した。

 

「……ここなら誰もいないし、誰かに見られているってこともないな。……よし、いいぞ。ドレイク」

 

「グルァァ」

 

俺がそう言うと、ドレイクは自らの炎に包まれた。その炎はだんだん、形を変えて、最終的に()()となった。そして、その炎は弾けとんだ。

 

「ふぅ……。久々の本来の姿は少し疲れたな」

 

「……ただ、弛んでいるだけじゃないのか?()

 

弾けとんだ炎の中から現れたのは、俺の叔父ということになっている光城龍だった。




『匣兵器擬人化』というタグを追加します。


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漆黒の龍人

長らくお待たせして、すみませんでした。


【Side 輝夜】

 

光城龍、俺の戸籍上の叔父としていた、こいつの正体は俺の匣アニマル、“漆黒ドラゴン(ドラゴーネ・ネーロ・コルヴィーノ)”のドレイクだ。前に言った俺が最も信頼しているのも当然だ。こいつは俺の半身みたいなものだからな。

 

こいつがこの世界にいるのは、クレアッツィオーネに頼んだからだが、こいつが人間の姿に変えられることや長時間、匣の外にいることができることは、クレアッツィオーネとは関係ない。俺のデバイス、S.C.F00を作った奴が匣の中にいたドレイクをさっきのアルフっていうオレンジ狼のような使い魔の技術を応用して、改造したのだ。

 

通常の使い魔とは異なり、俺の場合は死ぬ気の炎と僅かに魔力をドレイクに供給している。これは、前の匣アニマルのときの性質が残っているのかもな。それと異なる点といえば、俺の炎が切れそうなときは、前に使っていた匣に戻るらしい。特に不便な点は見当たらないし、本人いや本龍?も気に入っているみたいだから、あいつには感謝だな。………あいつが俺の許可も無しに勝手に弄くりやがったから半殺しにしたことは知らん。

 

「それで?あの小娘たちはどうだったんだ?輝夜」

 

なんとなく、そのときのことを思い出していると、龍がツインテール2人組について尋ねてきた。

 

「あいつらか……。はっきり言って大したことなかったな。高町なのはは最近、魔法を知ったみたいだし、戦闘経験も他の連中との訓練はあったとしても実践経験は俺たちがジュエルシードを発動する前から回収しているからほとんど無いだろう。フェイト・テスタロッサのほうはどこか手慣れている感じはあったがそれでもあの動きから見た感じ実践はほとんど無いだろうな」

 

「そうか。……ん?フェイト・テスタロッサ?」

 

龍もそこが気になったか。だが、それは帰ってからだ。

 

「龍。そっちのほうはどうだったんだ?例の転生者3人と戦ったんだろ?」

 

「あぁ。その3人と草食動物2匹と戦ったんだがーー」

 

雲雀恭弥かよ、その表現の仕方。フェレットも狼も一応肉食動物だろ。と頭の隅で考えながら、俺は龍の話を聞いた。

 

 

 

 

 

【Side 龍】

 

シュンッ!!

 

ユーノ・スクライアの強制転移魔法で飛ばされた俺たちは輝夜たちがいる場所から離れた場所にいた。まぁ、離れているとは言っても輝夜の炎の位置から把握するとその気になれば、すぐに駆け寄れる程の距離だな。おそらく、高町なのはの救援にすぐに行けるようにするためだな。どうやら、ちゃんと考えているみたいだな。だが、それは俺やアルフにもすぐに救援に行けることを示唆している。

 

まぁ、輝夜に救援はいらないか。どんな格下相手でも輝夜は舐めた真似をすることがあっても慢心は取らないからな。あんな小娘たちに負けるとしたら、輝夜の運が相当悪く、逆に小娘たちの運が相当良くなければ起きないな。

 

ブンッ!!

 

「ぐっ!?」

 

とりあえず、俺の尻尾で巻き付けていた潮田翼をお仲間のところに投げ飛ばした。

 

「翼!!」

 

「大丈夫!?」

 

「あ、あぁ……。だが、なのはと引き離されてしまった」

 

「う、うん。これはまずいよ……。なのは一人であの2人、特にダークネスを相手するには、荷が重すぎるよ……」

 

「ふん!!こっちもあんたたちに構っている暇はないんだよ!!早くフェイトのところに戻らなくちゃ……」

 

空中であいつらはそう話していた。どうやら、連中はことの深刻さを理解しているみたいだな。意外にもあのアルフっていう馬鹿そうな犬っころも。

 

「ムッ。今、あんた、あたしのこと馬鹿にしたかい?」

 

「グルッ」

 

ほぅ。獣だけあって、勘が良いな。それと、アルフの問いに関しては即答で頷いた。別に隠すことじゃないしな。それが原因か知らないが、アルフの額に青筋が浮かび上がった。

 

「馬鹿にすんじゃないよ!!」

 

そう言うと、アルフは狼の姿から獣人の姿に変わって、俺に殴りかかってきた。別に挑発したつもりは無いのだが、まぁ、この状況を利用しない手は無いか。俺は殴りかかってきたアルフの拳をかわして、懐に入った。

 

シュルルッ!

 

そして、俺は自分の尻尾をアルフの腹に巻き付けた。

 

「ッ!?離せ!!」

 

アルフがそう叫んでいたが、安心しろ。すぐにお望み通り離してやるよ。俺はそう考えて、アルフを巻き付けたまま、地面に向けて急降下した。

 

「なっ!?ま、まさか!?ま、待ってくれ!!」

 

アルフが何か言っていたが知らん。俺は地面の近くまで行くと……

 

「グオォォーーーー!!!」

 

「キャイン!?」

 

ズボッ!!

 

そのまま、前転してアルフを地面に叩きつけた。アルフは上半身が地面に埋まって、地面から下半身が出ているという無様な格好になった。うむ。意図した訳じゃないんだが犬っころには相応しい姿になっているな。たしか、『犬何とか』という作品ではこの態勢が有名らしいし。

 

「な、何ていうか……」

 

「その……」

 

「惨い……」

 

「う、うん……そうだね……」

 

潮田翼たちが何か引いていたが知らんな。これは一応、戦いなんだから惨くなるのは、仕方ないことだろ。

 

「ん……!ん……ブハッ!?くっ……何をするんだい、あんた!!」

 

……驚いた。思ったより頑丈だな。足をばたつかせたと思ったら、アルフの奴、地面から抜け出しやがった。……まぁ、いいや。俺は俺で本来やるべきことをやるだけだな。

 

「スゥーー。グオォォォォォーーーーーーーー!!!!」

 

『ッ!!?』

 

俺は息を吸うと、思いっきり咆哮を上げた。その咆哮の大きさに周りは思わず耳を塞いだ。

 

ブオォォンッ!!

 

『!?』

 

そして、それと同時に俺たちを取り囲むように周りに黒い結界が張られた。まぁ、俺が張ったんだがな。

 

「これは結界魔法か!?」

 

「私たちを閉じ込める気!?」

 

「……ッ!?ダメだ!この結界の中だと転移魔法が使えないみたいだ!」

 

「そんな!?それじゃ、なのはちゃんのところに行けないの!?」

 

潮田翼たちが慌てていた。この結界には輝夜(俺の主)の闇夜の炎の力が混じっている。力業で抜け出すにも攻撃が無効化されるから無意味だし、転移魔法でここから抜け出すのも不可能だ。

 

「ふん。なら、あんたを倒せば、この結界も解けるって訳だね」

 

ほぅ。やっぱり、思ったよりも頭が回るなあの犬っころ。いや、脳筋ゆえの短絡的思考か?でも、的を得ているんだよな。この結界は俺が倒されたら解けるようにできている。

 

「……やっぱり、あんた、あたしのこと馬鹿にしてるね?」

 

「グルッ」

 

「ブチッ! この蜥蜴がーーーー!!!」

 

また、俺の考えを読み取ったらしいな。それで、また俺が即答で頷くと今度は獣人型で青筋を浮かばせてキレたと……。だが、今度は突っ込んでは来なかった。潮田翼たちもアルフの言葉を聞き、狙いは俺に定めたようだな。……ふっ。予定通りだな。じっくりとお前らの戦力を分析させてもらうよ。

 

シュンッ!!

 

すると、潮田翼が俺の背後に回っていた。沢田綱吉と同じ大空の炎の推進力の高速移動か……。そして、潮田翼は拳を引いて、殴る態勢を取っていた。

 

「ハァアッ!!」

 

ドガッ!!

 

「ぐっ!?硬い!」

 

潮田翼の拳は俺に直撃したが生憎、その程度の拳じゃ、龍の鱗には通じない。

 

「グオォォ!!」

 

俺はそのまま振り返って、潮田翼を爪で攻撃しようとした。

 

「“マ・セシルド”!!」

 

ガキンッ!!

 

「大丈夫!?翼君!!」

 

「あぁ。助かったよ、花音」

 

だが、赤松花音が張った盾のせいで防がれてしまったな。

 

「“チェーンバインド”!!」

 

すると、今度はユーノ・スクライアが緑色の鎖のようなものを俺に絡ませた。

 

「はぁー!」

 

「これでも喰らいな!」

 

そして、それを見た途端、二宮葵とアルフが両側からそれぞれ槍と拳で攻撃してきた。どうやら、共闘を選んだみたいだな。

 

「グオォォォーーーー!!!」

 

ブチッ!!ブチッ!!

 

別に受け止めることはできるが、素直に受け止める気は無い。俺は体を捻って、バインドを引きちぎった。

 

「そんな!?」

 

ユーノ・スクライアが驚いている中、俺はバインドがちぎれたのを確認すると、二宮葵とアルフの攻撃が当たる直前で体を移動させてかわした。そして、そのまま俺は尻尾を振るって攻撃を仕掛けた。

 

「どいて!」

 

それを見て、二宮葵が前に出て自分が持っていた盾を構えた。

 

ドガンッ!!!

 

バキッ!!!

 

「キャーッ!?」

 

「ぐっ!?」

 

だが、盾はあっさりと砕けて、俺の尻尾は2人に当たって飛ばされた。……それにしても、何故二宮葵はあそこでアルフを庇ったんだ?共闘しているとはいえ、一応敵だろ?理解ができない。

 

「2人とも!大丈夫!?今、治すね!“サイフォジオ”!!」

 

赤松花音が2人に駆け寄るとそう言った。すると、羽と水晶を持った剣が出現した。そして、その剣は赤松花音の手の動きに合わせて……

 

グサッ!!

 

「「「!?」」」

 

2人をまとめて突き刺した。これには俺も驚いた。ユーノ・スクライアとアルフも驚愕の表情を浮かべていた。だが、転生者の2人は表情に変化は無かった。いったい、あの剣に何の効果があるんだ?さっきの赤松花音の言葉通りなら………。俺がそう考えていると……

 

「!?き、傷が治っていく!?」

 

「な、何なんだ!あの力は!?」

 

剣に突き刺された二宮葵とアルフが負った傷がみるみる回復していく。やはり治癒能力を持つ剣だったか……。そんな魔法は聞いたこと無いし、ユーノ・スクライアの驚き様からも十中八九、クレアッツィオーネとは別の神から貰った特典というやつだな。だが、赤松花音も敵であるはずのアルフを助けたな……。原作知識というやつから、恩を残しておくと後々に良いことでもあるのか?アルフも怪訝そうな顔をしているし……。そこだけは本当にわからない……。

 

「ありがとう、花音。でも、あのドラゴン、強いわ。アキレスシールドを一撃で破壊されるなんて…」

 

「うん。それで翼くんから伝言を預かっているけど……。アルフさんも聞いて……」

 

………赤松花音が二宮葵とアルフに何か、話しているな。潮田翼とユーノ・スクライアは何もせず、こちらを警戒しているな。

 

「………わかったわ。その手で行きましょう。アルフもいい?」

 

「………仕方ないね。フェイトの元に戻るためにはその方が早そうだね。だけど、それで大丈夫なんだろうね?」

 

「大丈夫!それは安心していいよ!」

 

「うん」

 

3人は話を終えたみたいで、潮田翼たちのほうを向いた。そしたら、お互いに頷いていた。そして、二宮葵が槍を掲げた。

 

「いくよ、カナデ!」

 

『わかったぜ!』

 

「『Croitzal ronzell Gungnir zizzl』」

 

二宮葵がデバイスとそう言うとそいつが光に包まれた。そして、光が晴れるとバリアジャケットが白い騎士のようなものからオレンジを基調としたボディースーツにどこかメカメカしい装甲を身に纏っていた。そして、側に巨大な槍があった。……なんだか、色々とツッコミたいところがあるんだが、そう考える暇もなく、二宮葵が攻撃を仕掛けてきた。

 

「♪~」

 

……はっ?仕掛けてきたのと同時にいきなり歌い出したんだが何でなんだ?そのバリアジャケットの能力か?どういう訳か、動きもかなりいいものになっているし……。

 

「はぁーーー!!」

 

そう考えているとアルフも攻撃を仕掛けてきた。どうやら、2人がかりでの攻撃みたいだな。二宮葵は巨大な槍を自由自在に操って、俺に攻撃してきて、アルフが拳や魔力彈で攻撃をしてきた。そんなのが続き、何発か俺の体に当たっているみたいだが、生憎、俺には効いてない。

 

「グオォォォーーーー!!!」

 

「「ぐっ!?」」

 

俺は翼と尻尾を用いて、2人を吹き飛ばした。

 

「くっ!やるわね……!でも!バン!」

 

『あぁ!必殺ファンクション!』

 

「“ライトニングランス”!!」

 

そう叫ぶと二宮葵は槍を片手で回転させた。すると、槍が光に包まれて、その光の槍を投擲してきた。なるほど、確かに強力だ。だが、俺も受け止めてやるつもりはない。

 

「グオァァァーーーー!!!」

 

俺は口から漆黒の炎、闇夜の炎を吐き出した。

 

ドカーーーンッ!!!

 

光の槍と闇夜の炎がぶつかると大爆発を起こした。だが、俺の炎のほうが1枚上手のようだったな。光の槍を飲み込んで、闇夜の炎が二宮葵に向かった。

 

「“マ・セシルド”!!」

 

チッ!どうやら、また赤松花音の盾のおかげで防がれたみたいだ。

 

「“チェーンバインド”!!」

 

シュルルッ!

 

すると、ユーノ・スクライアがまた、俺にバインドをかけたみたいだ。だが、無駄だ。この程度のバインド、いくらでも破れる。

 

「今だよ!翼!」

 

「あぁ!」

 

ユーノ・スクライアの言葉を聞いて、俺は潮田翼のほうを向いて、驚いた。潮田翼は右手を後方に回して、膨大な炎を出して、左手を俺のほうに向けていた。

 

「な、なんだい……!あれは……!」

 

アルフが信じられないものを見たかのように口を開いていたが、俺は知っている。あの構えは……

 

「“X(イクス) BURNER(バーナー)”!!」

 

輝夜の認めた男、沢田綱吉の代名詞とも言える技、“X(イクス) BURNER(バーナー)”。潮田翼の左手から膨大な炎が俺に向かって来た。なるほどな。二宮葵とアルフの怒涛の攻撃は“X(イクス) BURNER(バーナー)”の溜めを稼ぐための時間稼ぎ。ユーノ・スクライアのバインドも一時的でも逃げられないようにするためのものか。

 

ゴオォォォ!!!

 

俺がそう考えている間に炎が迫ってきて、そしてそのまま俺を飲み込んだ……。

 

 

 

 

 

【Side 翼】

 

よし!“X(イクス) BURNER(バーナー)”が直撃したぞ!葵に花音、アルフが時間稼ぎをしてくれて、ユーノが一瞬でも、あいつの動きを封じてくれたおかげだ!………だが………

 

「「「翼(くん)!!」」」

 

そう考えていると、葵たちがやってきた。アルフもブスッとしながらも俺に近づいてきた。今の段階ならば本来、俺たちは敵対しているはずだから、そうなるのも仕方ないな。

 

「これが翼の奥の手………。凄い、威力だよ………」

 

「たぶん、翼くん。あれ本気じゃないと思うよ」

 

「あぁ。あれで3割だ」

 

「!?あれで3割かい!?」

 

俺の言葉にアルフとユーノが驚いているみたいだ。俺が本気を出してしまえば、ここら一帯を更地に変えてしまうからな。皆を巻き込まないためには手加減はどうしても必要になるな。

 

「でも、まだ安心しちゃダメよ。()()()()()()()()()()()()ってことは……」

 

「「「!?」」」

 

葵の言うとおりだ。あのドラゴンが炎に呑まれたのに、周りの結界が解かれる気配ないってことは………。

 

「まだ、倒していないってことだ」

 

「グォオオオオオオーーーーー!!!!」

 

『!!?』

 

俺がそう言うと同時に、爆煙の中からドラゴンの咆哮が聞こえてきた。皆、それを聞いて、改めて気を引き締めた。

 

ブォンッ!!

 

すると、爆煙が吹き飛んだ。俺たちは爆煙から姿を現したドラゴンの姿見て驚いた。

 

「なっ!?無傷!?」

 

「そんな……。翼くんの“X(イクス) BURNER(バーナー)”は、なのはちゃんの砲撃よりも上なのに……」

 

そうだ……。全力じゃなかったから、倒せているとは思えていなかったが、それでも無傷は予想外だ……!!しかも………

 

「それに、あいつ燃えているよ!!」

 

あぁ。あいつの体が黒い炎で燃えているのだ。俺たちはあの炎が何なのか、わからない。だが、超直感があの炎がレアスキルや魔力変換のものでは無いって教えてくれる。いったい、何なんだ………。

 

「グルルッ……!!」

 

「ッ!?“武装色硬化”!!」

 

俺は超直感と神様からいただいた特典の1つである『ONE PIECE』の“三種の覇気”の見聞色の覇気でドラゴンが何かしてくるのがわかって、咄嗟にXグローブごと腕に武装色の覇気を纏わせて、構えた。そして、次の瞬間………

 

シュンッ!!

 

ガキンッ!!

 

『なっ!!?』

 

遠くに居たはずのドラゴンが俺の目の前にいきなり現れて、例の黒い炎を纏わせた爪で攻撃をしてきた。爪は覇気を纏わせた腕に衝突した。一瞬のぶつかり合いが終わると俺たちは1度、離れた。

 

「ッ!?」

 

危なかった………。今の攻撃、もし覇気を纏ってなかったら、俺はやられていた。だが……、覇気を纏っていても、あの攻撃は俺の腕を痺れさせた。そう何度も持たないぞ。

 

「グル……」

 

ドラゴンも今の攻撃の感触に違和感を感じているのか自分の爪を見ていた。違和感を感じるのは当然だ。覇気はこの世界には無い力だ。使えるのも俺だけだ。

 

「グルッ」

 

そう考えていると、ドラゴンが爪から俺たちのほうに顔を向けた。……って、不味い!!

 

「皆、防御だ!!」

 

あいつが何をするのがわかった俺は皆にそう呼び掛けた。だが…、遅かった。

 

シュンッ!!シュンッ!!シュンッ!!シュンッ!!

 

ドガンッ!!ドガンッ!!ドガンッ!!ドガンッ!!

 

「「キャアッ!!?」」

 

「「ガッ!!?」」

 

「葵!!花音!!ユーノ!!アルフ!!」

 

あのドラゴンが一瞬で皆のそばに何連続も移動して、それぞれ防御も回避もする暇もなく、攻撃を与えたのだ。しかも、その攻撃がどれも威力が高く、皆、一撃でやられてしまって気を失ってしまった。それを見て、俺は呆然とした。

 

…………そして、それがいけなかった。

 

「グオォッ!!」

 

「ッ!?」

 

俺が呆然とした一瞬の間にドラゴンが俺の背後に瞬間移動してきたのだ。そして……

 

ドガッ!!

 

「ガハッ!!?」

 

ドカンッ!!!

 

そのまま、防ぐ間もなく、俺は強烈な攻撃を受けてしまった。…………くそっ……!!……結局、……あのドラゴンに……傷1つ付けることができなかった……。なのは……、フェイト……、すまない……。どうか……、無事でいてくれ……。

 

そして、俺はそのまま、気を失った。

 

 

 

 

 

【Side 輝夜】

 

「…………で、全員、倒したのを確認して、お前は戻ってきた訳か」

 

「そう言うことだ」

 

「あっそ」

 

龍の話を聞いて、俺はあっちで何があったのか、だいたい理解した。ユーノ・スクライアやアルフに関してはこの世界の魔法の知識とあまり大差が無いからともかく、問題はやはり転生者か。龍の話を聞いただけでも、連中には気になるところが山ほどある。奴らの力の大半はおそらく、特典によるものだろう。それは俺たちの持つ常識に当てはまらない。……だが転生者たちだけなら、おそらく、このままでも問題は無かっただろうな。俺たちの持つ()()()。これを使えば、転生者たちや高町なのはを大人しくさせることは間違いない。前に月村忍も言っていたが一応、ジュエルシードを集める目的はある程度、同じだからな。……あまり、このやり方は好きでは無いが、つまらないプライドを守って失敗するぐらいなら、そんなものゴミ箱に捨てるな、俺は。

 

だが、フェイト・テスタロッサ。あいつは違う。あいつのジュエルシードは集める姿勢はまるで、任務を実行する者と同じものだ。それはつまり、あいつの背後に黒幕がいるってことだ。その黒幕が何のためにジュエルシードを集めているのか、それによっては切り札は逆効果でしかない。龍の話だと転生者たちがあいつの使い魔に対して、気にかけていたみたいだ。原作知識とやらであいつらの目的を知っているのか?だとしても、だから大丈夫だという楽観視は俺にはできない。遅かれ早かれ、時空管理局も関わってくるだろうし、やることは山積みだな。

 

「龍。帰ったら、ジュエルシードの回収と並行して、情報を集めるぞ。これは如何に先手を取ることが重要だ。少しでも出遅れたら、おしまいだと思え」

 

「Si,boss」

 

そう言って、俺たちは旅館で借りている自分の部屋へと戻った。

 

次の日、高町なのはたちが外で一夜過ごしていたことに、親たちから説教を受けていたみたいだ。連中は俺たちがダークネスとドレイクだと気づいた素振りを見せていなかったから、俺と龍は知らないふりをした。

 

フェイト・テスタロッサとアルフはどうやら、さっさとチェックアウトしたみたいだ。

 

3馬鹿?さぁ、知らん。興味もないしな。

 

あの後、特に大したことも起きず、こうして、温泉旅館での出来事は終わった。




ジュエルシード、所持数

輝夜サイド:?個(少なくとも6個以上)

なのはサイド:0個

フェイトサイド:0個


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