血界戦線 ~Documentary hypothesis~ (完全怠惰宣言)
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異界都市の茶屋店主

初めて書きました。
今までいろいろな方の作品を読ませていただいているので似ている書き方をしているかもしれませんが、海よりも広い心でよろしくお願いいたします。


今から3年前、「NY大崩落」と呼ばれる未曾有の大災害によってニューヨークが崩壊、その後再構成され、異界(ビヨンド)と現世が交わる異形の都市ヘルサレムズ・ロット(略称HL)が誕生した。

人類と異界存在が共存して暮らす奇怪生物・神秘現象・魔導科学・超常現象、その他etc...混沌が溢れているこの街の片隅で一人の男が目を覚ました。

 

HLには珍しい畳張りの日本建築の部屋で畳ベットで寝ていたその男は突然現れた人肌の温かさと女性特有の甘い香りで目を覚ました。

覚醒させられた頭を動かし、昨晩眠りについた時にはなかったはずの腕の中のぬくもりと、抱き合う形になったせいで潰れさせてしまったその豊満な胸部に意識の大半を持ってかれかけるが、その存在に意識を集中させる。

黒髪のボブカットが目に入り、本当に色々とギリギリだったのだろういつも仕事着で愛用しているシンプルなダークスーツのまま、碌に着替えずにベッドに潜り込んできた彼女のその柔らかい髪を一撫でして声をかける。

 

「お帰り”チェイン”」

 

「・・・・・ただいま、”悠月(ゆづき)”」

 

”チェイン・皇”

「不可視の人狼」と呼ばれる存在であり、交際及び同棲1年半になる愛しい彼女へと。

 

 

意識が(無理矢理)覚醒したためベッドのヘッドボードに背中をくっつけて彼女を抱きかかえる形で態勢を作り替える。

室内の昭明が薄暗いためよく見えないが、普段通りに見える彼女の顔は疲れきっており、目元にはうっすらと隈がみえた。

一方でその顔は欲しかったおもちゃを与えられた無邪気な子供のようにも見えた。

 

「人狼局の仕事、お疲れ様」

 

「・・・うん、・・・疲れ・・・・・た」

 

「でも、せめて上着は脱ごうよシワになっちゃうし寝にくいだろ」

 

「・・・んーーーん・・・」

 

子供が親に甘えるようにぐずる彼女の髪を手櫛でほぐしながら着替えを促すが、どうやら本当に疲れすぎてて甘えん坊モードになってる。

 

「チェイン、もう少しだけだから」

 

「・・・・・・脱ーがーしーてー」

 

そういうと対面になるように座り直し、両腕を振り上げバンザイ状態になる彼女。

 

「はいはい」

 

既に眠りの縁に佇みまともに動こうとしない彼女のジャケットを脱がしていく。

シワにならないようにサイドテーブルにゆっくりと置き彼女に意識をもう一度向けるとズボンを脱ぎさりワイシャツ一枚になった彼女が目の前にいた。

ワイシャツ一枚になったことでより強調された胸元(ご丁寧にボタンも上3つ外されていた)とワイシャツからすらりとのびた脚。

悲しいかなこういう時、彼女から漂う女の色気に大敗している自分はやはり後輩の女関係に強く言えない悲しい男だと再認識させられる。

 

「ゆ・・・づ」

 

「ん?」

 

「おや・・・す・・・・・・・・み」

 

気が付けば再び抱き枕宜しく抱きつかれ深い眠りについた彼女を愛しく思う自分は既に末期だと考えさせられるが、この時間もまた自分にとって大切な時間なのだと思える。

そんな自分「楠守悠月(くすがみゆづき)」に呆れると共に自分のもとに帰ってきてくれた彼女と共に再び眠りについた。

 

午前7時、体に染みついた習慣で目が覚める。

熟睡中の彼女をベッドに残し、洗面台で顔を洗う。

その際、ひと悶着あたのだが互いのために伏せておこう。

顔を洗い、歯を磨き、髭を剃り終え朝食の準備のためにキッチンへと向かう。

朝は比較的に弱い、だからこそ食べないと始まらない。

そして、純日本人の自分はやはりご飯とお味噌汁が嬉しい。

おかずは白菜の漬物とベーコンエッグ。

そして、一番のこだわりは仕事にも直結してくる”これ”だ。

 

 

まずは急須に茶葉を入れる、目安はティースプーンで2杯。

鉄瓶で沸かしたお湯を直接急須へ注ぐ(この時お湯の温度の目安は95℃くらいがいい)。

その後、30秒ほど待つ(味が濃いのが好きな人はもう少し長めにまってもいいと思う)。

その後、少しずつ均等に注ぎ分け、最後の1滴までしぼりきる。

 

 

これで、朝食の時に飲んでもらいたい”玄米茶”の完成である。

お茶の香りが広がっていく。

鼻から思いっきり吸い込み、香りを楽しんでいると、足音が聞こえてきた。

 

「・・・・・・・・・・・・おはよう」

 

まだ少し眠いのかふらふらした足取りのままチェインが寝室から出てくる。

そして、その勢いのまま抱き着いてきた。

 

「はい、おはよう」

 

そういって抱きしめ返すと少しうれしそうに頬ずりしてくる彼女は”狼”というよりも”猫”らしいと思ってしまう。

 

「朝食、出来てるから座って」

 

「・・・・うん」

 

少しだけ名残惜しそうにしながら離れて互いに対面になるように座った。

 

「「いただきます」」

 

男の手料理で昔は悪いと思っていたが、食べ始めると次第に機嫌がよくなっていく彼女を見れるのは少し嬉しく、自分の秘密の一つでもある。

 

「今日の予定は?」

 

チェインがベーコンに嚙り付きながら聞いてくる。

 

「昼からライブラ、そのまま待機・・・・だろ?」

 

「あー、そうだった、悠月は?午前中予定あるの?」

 

「オフィス行くまではお店にいるよ、今日は予約もないし」

 

茶寮(さりょう) 翡翠庵(ひすいあん)

 

それが表向き経営している和風喫茶の名前だ。

HLの片隅にある小さな店には壁一面に茶葉を保管する桐箱が並んでいて、中には世界各国の茶葉が存在している。

完全予約制の茶葉販売店ではあるが常連客ともなると試飲も兼ねてお茶を楽しんでいくスタイルをとるので必然的に様々な茶器も揃っていった。

最近では異界側の客も増えてきており、時折一昔前の間違った日本を信仰する外国人のような反応をされるのが最近の悩みでもある。

 

「・・・・なら、私もお店の整理手伝うわ」

 

「ありがとう、あと今日はレオも手伝いに来るらしいからそんなに忙しくならないはずだよ」

 

そういうと若干不機嫌そうな顔になるチェインだったが、たぶん二人だけの空間にレオという(比較的まともな)異物が入り込むのが嫌なのだろう。

最近、互いに忙しくて二人だけの時間が無かったせいでもあるかな。

朝食を終えて、後片付けをし店の整理を始めて10時を過ぎたごろ。

 

「おはようございます」

 

「ウキャ」

 

話題になっていた少年。

ボッサボサの天然パーマにほぼ閉じているんじゃないかと思ってしまう糸目、ゴーグルを首にかけた少年レオナルド・ウォッチがその頭に相棒の音速猿ソニックを乗せて現れた。

 

「やぁ、レオ、ソニックおはよう」

 

「やぁ」

 

「どーもっす、お二人とも。相変わらずいい匂いのする店ですね」

 

「ウーキャー」

 

そう言うとソニックと共にわかりやすく鼻の穴を広げて音がする程に周囲の香りを嗅ぎ始める。

 

「血生臭いよりは良いだろ、あと”匂い”じゃなくて”香り”といったほうがカッコいいぞ」

 

そう言って注意してやると「まじっすか」と言いたそうな顔をしたレオ。

 

「ま、確かにあのクソモンキーみたいな人類にも到達できていない下等生物に成り下がりたいならいいけど、女の身とすればそういった言い方の違いに心動かせられるものよ」

 

「いや、マジっすか気を付けますわ」

 

「そうね、その方が彼女も喜ぶでしょうに」

 

そういった他愛無い話をしながら在庫チェックを行い予定よりも早めに済んだので一息入れていくことにした。

 

「それじゃ、行こうか」

 

そう言って席を立ったオレに続くように着替え終わったチェインがベッドルームから出て来て、レオも後に続いた。

 

「よくよく考えると悠月さんの店ってちゃんと客来てるんですか」

 

「おやおや、先週20食も人の家にたかりに来ていたとは思えない発言だなレオ」

 

店の心配をされたので意趣返しに少し意地悪をしてやった。

 

「いや、だからこそなんすけどオレ達にあんなにメシ奢ってくれてその上、チェインさんの酒代まで稼ぐなんてすごくないっすか」

 

本当に尊敬している目で見られると少し心が痛む。

 

「色々とやりようはあるのさ、それにチェインの酒代は自分で稼いできてくれるから大丈夫だよ」

 

術式加工された店のシャッターを閉めカギをかける。

 

「さってと、それじゃ行こうか。チェイン夕飯どうする?」

 

「全然、決めてないのよね。でも久しぶりに悠月の料理が食べたいなぁ」

 

「僕はメアリとウィルと一緒に行こうって約束してるので二人を迎えに行ってきます」

 

アジトに行く前の相談をしながら店を出る。 

一歩外に出ればそこはいつものヘルサレムズ・ロッドの大通り

いつものように人間と異界人となんかよく解らない連中が道を練り歩き、奇々怪々、混沌極まった二年前から見慣れた光景が広がっていた。

視界の片隅で殴り合ったり殺し合ったりしている連中がいるけどこれも日常だ。

 

そして、

 

店を出て、歩道に出て、立ち止まって。

空から巨大なロボットが降ってくる。

 

「って、うぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?!?!?!?」

 

これも、日常だ。

 

 

突如目の前に落下してきたのは全長25メートルくらい、4本腕に其々アホみたいな巨大チェーンソーとガトリング銃を持った巨大な戦闘用サイボーグスーツを着用した男性。

大通りのコンクリートを爆砕し、車が大量に潰され、数十人がトマトみたいな染みになっている。

 

「ちょ、って、うぇ、な、なんだこれぇ!?」

 

「うっさいわよ、レオ。こんなの日常茶飯事でしょう」

 

「そうだね、でも見たことない奴だね。どっかのモグリが作った戦闘スーツかな?強そうだね」

 

三者三様の感想を素直に言ったところでチェインのポケットから携帯が鳴った。

 

「はい。あぁ、スターフェイズさん?えぇ、それなら今目の前に。えぇ、えぇ・・・・了解」

 

「スターフェイズさん?何だって?」

 

「ヴァルハラ・ダイナミクスの大規模戦闘用サイボーグ補助スーツ。製作途中でクビになった開発者に強奪されたらしいけど、現在暴走中」

 

「まじっすか」

 

「レオそれ今日何回目」 

 

呆れて物も言えないが、ヘルサレムズ・ロッド的には結構普通だ。

 

「社名に傷がつく前にどうにかして欲しいってロウ警部補経由であの子から依頼だそうよ」

 

「破壊許可は?」

 

「出来るならどうぞだって」

 

「あのー、喋ってる場合ですか?」

 

件の物体は現在進行系で暴れまわってる。

とりあえず通りの車はほとんど消えて2桁くらい死んでいるはずなんだけど、ここくらいまでは日常だけど、

 

「家と店壊されるわけにはいかないね。二人は下がっていて、直ぐに破壊するから」

 

「りょーかい」

 

「うぃっす」

 

そそくさと店の中に隠れる。

オレとLHOSによって構築された結界で守られているうえにオレが守ろうとしているだから、確かにこの場では店内が一番安全だ。

 

「さてと、丁度良い距離だし、やりますか」

 

左手の拳を強く握り込む。

その瞬間、左手に今まで握られていなかった白銀の弓のような物体が出現した。

 

吼漸百罫血仙兵装弓式(くぜんひゃっけいけっせんへいそうゆみしき)

 

弦を引き分ける動作をとった一瞬の間に光の矢が形成されていた。

 

花天ノ法(かてんのほう)

 

鏃が鋭く研ぎ澄まされていき、ついには両刃のナイフのような形となった。

 

鳳扇花(ほうせんか)

 

放たれた矢は操縦者の男性が搭乗している中心部に突き刺さるのと同時に、その巨大な全体を包み込むように蕾の形となり、数秒とたたずに弾け飛んだ。

蕾に包まれたはずの補助スーツはなんの痕跡もなくなくなっていた。

ただ、この光景を目撃した者の目には、さながら光の花のようだった。

 

「それじゃ、行こうか」

 

そこには、戦闘後とは思えない暖かな笑みを浮かべた楠守悠月(一人の男)が佇んでいた。




初めて、自分の作品を表に出しました。
いつも、一定のスピードで投稿していらっしゃる先人の皆様に尊敬の念を抱きました。
今後ともよろしくお願いいたします。


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異界都市の店主と常連

何故か筆が進んだので短めですが投稿させていただきます。
今回登場した桃色の物体は「ライツ、カメラ・アクション」にてレオの頭に浮いていた物体です。
あれの登場した瞬間の可愛さに騙されたクチです。


HLにて異界人界問わず話題になっている店がある。

それが、「茶寮 翡翠庵」。

HLにおいて空前の「日本ブーム」の火付け役となってしまったこの店は異界人界問わず”万人”が飲める茶葉を取り扱っており、しかも購入するためには30分間隔でとれる予約を必ずしなければならないという変わったシステムではあるが、故郷が懐かしい異界存在やかねてから日本茶を好んでいた元ニューヨーカーたちから絶大な支持を受けており、店主の人柄も手伝ってかかなりの黒字を出しているとの噂もある。

また、HL一の極上のサービスと美食を提供する「モルツォグァッツァ」総支配人が店主の類稀なる味覚にほれ込み態々本人が来店して茶葉の仕入れを行うこともあるらしい。

そんな噂の店には今日も常連が来ており、店主はにこやかに応対していた。

 

「・・・・・というわけで、ご注文いただいておりました京宇治抹茶と金沢ほうじ茶それぞれ1000g、ヴァンニュマフォルカッツア産緑茶200gのお買い上げでよろしいでしょうか”フェムト”さん」

 

「ふむ、実に素晴らしい。注文通りだよ悠月」

 

そう、その常連が例えHLで知られる人類の領域をはるかに超えたとりわけはた迷惑で厄介な13人の1人であっても。

 

 

異界都市の店主と(厄介ではた迷惑だけどある程度節度を保った)常連

 

 

「しっかし、いつ来ても代り映えの無い店だね」

 

今日も今日とてマイペースを貫く堕落王フェムトは新作として出されたほうじ茶ラテを楽しんでいた。

店外で会えば殺し合いに発展しかねない関係であっても店の中では互いを尊重しあう間柄である二人は今日も代り映えの無いやり取りを行っていた。

 

「代り映えがないと言っても商品は定期的に交換していますからそうとも言えないはずですよ。それに、この前アリギュラさんをお連れになったせいで6週間入店禁止になったことお忘れですか」

 

そんな超絶自己中なフェムトも悠月の品物に対する姿勢と客を選ばないスタンスを気に入り周囲に気を使うという彼では珍しい行いをしてまで態々自分で買いに来るほどには気に入っている。

 

「しかし、暇だね。何故に世界はこうも暇なのかボクは検討もつかないよ」

 

そう言ってグラスに僅かに残っていたラテを飲み干すフェムト。

 

「なぁ、店主・・・いや××××、いい加減にボクら側に来る気は無いかい?術師として、こと時空間に作用する術式を使役する事においてボクですら敗けを認めざるを得ない腕を持っていながら君は未だに“そちら側”に居続けられるんだい?」

 

空になったグラスで遊びながら身体中の力を抜ききってだらけるフェムトは本当に解らないと言う雰囲気を出しながら問いかける。

暫しの間、二人の間に静寂が訪れる。

フェムトにしても答えを得られないのは解っているし、何より予想はついている。

だからこそ、今の関係性が堪らなく面白いし、こうして世間話がしたいがために自ら店に赴くことを辞めない理由となっていることを理解している。

 

「・・・・・ま、君の気が向いたらボクらはいつでも歓迎するから、その時は、好きに声をかけてくれたまえ」

 

返答がないこともフェムトには解っている、でもやはり誘ってしまうのは、フェムトを含めた多くの13王がこの店主を気に入っているからだろう。

そして、彼の答えは変わらずNOであることも解っている。

そんな、高貴で気高い魂の持ち主の集団に属する彼だからこそ自分たちは気に入り仲間に引きずり込もうと画策するのだろうから。

 

「そういえば、今度のディスカバリーチャンネルは・・・・・」

 

今日も今日とて彼らの当たり障りない日常会話は時間の許す限り続くことになる。

 

 

数日後、人狼局

本日のチェイン・皇は誰がどう見てもご機嫌だった。

ここ最近目障りな銀髪の糞猿は女遊びが祟り2カ月半の重傷で入院中だし(と言ってもあと数日もすれば退院させられるだろう)

溜まりに溜まった書類整理は全て片付いたし(決してやり終えたとは言ってない)

朝から一切の諜報任務もないし(2日後から泊まり込みの諜報任務が待っているが)

飲み屋の数十万に及ぶツケは全て払い終えたし(その間恋人が他人行儀に接してきたため何回か自殺を考えた)

何より仲直りのお詫びに彼氏の特製弁当が今日はあるのだから(職場の皆さんでどうぞと言われたが一人で食べてはダメとは言われていない)

無意識にスキップしながら鼻歌を歌い正午5分前にはデスクに座り渡された5段御重を蓋は開けずに机に並べた。

そして、ふと気が付いた。

一番上の蓋を除きすべての蓋に丸い穴が開いていた。

そして無事な蓋が乗せられた御重は先ほどからガサゴソと動いていることに。

ものすごく嫌な予感がして正午を告げる鐘が鳴るのと同時に蓋を全て開けると楽しみにしていた彼氏特性のお弁当は全て食べつくされ無事だった蓋が乗っていた御重には以前見たことがある桃色の物体が入っていた。

 

「クキュ~」

 

その桃色の物体はチェインに気が付くとどこからともなく手紙を取り出し彼女に手渡した。

 

 

 

拝啓 つまらない君へ

 

君の彼氏がペットが欲しいと言っていたのを思い出して以前作った魔獣を改造してそのサイズのまま成長しない魔獣を作ったよ。お礼なんかいらないから彼の手製弁当をこの魔獣と一緒に全て頂いといたよ。

いや、彼の手料理も中々美味じゃないか。

アリギュラも卵焼きが気に入ってたし今度リクエストしてみようかな。

 

―(以下100行近く全く意味のない文が続く)-

 

その魔獣には彼に対する絶対服従と彼の近しいものに対する攻撃性減退を刷り込んであるから愛玩動物として飼ってくれたまえ。

最後に弁当のお礼に君が行く予定だった任務をボクらで片づけておいた。

あぁ礼には及ばないから今度はもっと唐揚げの量を増やすように彼に伝えといてくれ。

 

つまらない君たちの愉快な隣人 堕落王フェムト

 

追伸

―(以下1000行近く全く意味のない文が続く)-

 

 

 

律儀に読み終えるとチェイン全身から怒りのオーラを吹き上がらせながら魔獣を睨み付けようとした。

すると件の魔獣の姿が無く新たにメモが御重の中に貼ってあった。

 

「ご主人のところ一人で行くます」

 

この時チェインは冷静にあることを考えていた。

 

「あ、意思の疎通はできるんだ」と

 

その数秒後、彼女の意識を失うのと同時にフェムトがクシャミをしてHLに大量破壊術式を展開してしまうのと、それを留めるために件の魔獣が活躍して悠月とクラウスに気に入られてしまう未来はこの時誰も予想しなかった未来である。




今後も不定期になりますが完成次第上げてくスタイルで進めていきたいと考えていますので気長によろしくお願いします。


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拳闘師と弓兵

書いておいてなんですが第一回捏造万歳回です。
嫌いな方は読まれなくても話が分かるようには作っていくつもりですのでご容赦ください。



限られた存在にしか明かしていない術式的に隠匿された場所。

一月に一度、彼らの約定に従い行われる殺し合い一歩手前の一対一の訓練。

互いに思うところがあるし納得もしていないがこれが人類が”かの存在”に対して行える悪あがきの一つであることは互いに承知していた。

だが、頭で理解することができても心が納得することはなかった。

だからこそ、一月に一回と決めてこの馬鹿げた”訓練”を執り行うことを渋々承諾した。

 

 

拳闘師と弓兵

 

 

「クミュ?」

 

朝、顔をペチペチと叩かれる感触で目を覚ました。

先週から我が家にきた桃色の魔獣、名前は「モジュ」である。

うちの後輩が「こんなの桃饅頭で十分ですわ」といってジャグリングよろしく投げていたら頭にきたらしく口の部分に魔法陣を展開し後輩を原子分解しようとした事件があったが、それ以来なぜかうちの彼女と意気投合してしまい、家で飼うことを許可された。

普段は水槽に入れているのだが朝目が覚めるとよじ登って自分とチェインを起こしに来てくれるようになった。

余談だが原子分解されかけた後輩”ザップ”を玩具として認識してしまい、出会い頭に原子分解するふりをしてビビる姿を見て楽しむようになってしまった。

そんなモジュに起こされ、いつも通りに3人分の朝食を準備する。

準備が終わると頭にモジュを乗せたチェインがフラフラとした足取りで現れた。

そして、お決まりの如く抱き着いて顔をこすりつけてくる。

その際、モジュもオレの頭に飛び移り頬ずりしてくるようになった。

 

「今日は用事で帰りが遅くなるから、悪いけどモジュと一緒に夕食は済ましちゃってよ」

 

そう言うといつもは気だるげにしているチェインの目に嫌な光が宿る。

それもほんの数秒で消え去り、嫌々ながらも納得しましたというような雰囲気を漂わせ始める。

 

「別に気にしないで、今日は人狼局の女子会だからモジュも連れて行ってあげるわ」

 

そう言って自分の体の数倍はある厚切りベーコンに嚙り付いているモジュの頭を撫でるチェイン。

なんだかんだでモジュのことを気に入ってくれているようでモジュもチェインとクラウスの頭の上で昼寝をするらしい。

そしてモジュもチェインに撫でられているのを意識すると嬉しそうにその手に体を擦り付けてた。

モジュも一緒に本日は出勤することとなり朝食の跡片付けを終えるといつもの準備に取り掛かる。

 

「それじゃ、いきますか」

 

いつもはあまり着ない紫のワイシャツにダークスーツを身に纏いスティーブンから貰った靴を履き目的の場所へと”繋げる”。

 

「遅くなったかな”クラウス”」

「いや、時間通りだよ”悠月”」

 

今日二人は血闘を執り行う。

 

 

 

「何度も何度も何度でも言わせてもらうけど、あたしは、あ・た・しは納得してないんだからね」

 

そう言って目を釣りあげて隣に座る存在を威嚇しているのは我らが姐御カッコイイ女の代表である“K・K”だった。

そんな彼女の迫力に押されているのか苦笑いをしながらも応対するスカーフェイス。

 

「だから、何度も言うけどボクらも納得している訳じゃないからね。“奴ら”に対抗するためにはクラウスに今以上に経験を積んでもらわなくちゃならない。その相手として最適なのが悠月だったんだ。だから、この事は最小人数しか知らないし、後に引きそうな怪我はルシアナ先生を5人も派遣してもらって治療する手はずになっったんだから君もいい加減に落としどころを見つけてくれよ」

 

「「「「「即死以外なら必ず生かすから安心して死にかけてね」」」」」

 

10歳児ほどの女子サイズとなった緊急対応特化の”ルシアナ・エステヴェス”が今回から参加するとあり、当人たちは「多少の無茶は許される」と判断してしまい今まで以上に闘争心が溢れ出している。

戦闘の素人である者が多いこの場においてクラウスと悠月が放つ闘気は心身ともに影響させてしまっうようで、この場をセットしてくれたLHOSきっての実力者たちも疲労を軽減させるのに必死だった。

 

「いつもすまない悠月、君には迷惑ばかりかけてしまう」

 

そう言うとクラウスは片腕を「盾」に、もう片腕を「槍」に見立てた、スパルタの重装歩兵ような構えを取る。

 

「気にしなさんなって、それなりに高い金貰ってるんだから」

 

悠月もまた、笑顔のまま左手に弓を出現させ瞬時に弦を引き分ける。

 

「ブレングリード流血闘術」

 

ここから先は言葉は不要。

 

「吼漸百罫血仙兵装弓式」

 

ただ互いに死力を尽くしあい

 

「推して参る」「穿ち貫く」

 

互いを鍛え上げるのみ。

 

障害物・遮蔽物を巧みに利用して悠月に近づくため高速で駆け抜けるクラウス。

その様は重戦車を思わせる。

片や障害物・遮蔽物を巧みに利用して矢を放ち続ける悠月。

絶え間なく放たれる矢はまるで嵐の中に吹き荒れる豪雨のようにクラウスを狙い撃つ。

 

「・・・・いつ見ても嫌になるわ、この二人の戦闘はもう私たち”人類”の範疇を超えちゃってるんだもの」

 

順当にボロボロになっていく二人から目を離そうとせず、かといってその様を辛そうに見守るK・K。

 

「だが、”奴ら”を確実に滅殺することのできない我々にとってクラウスは希望の光なんだ。そして、現状クラウスに食らいつける技術と力を持っているのは悠月だけというのもまた事実なんだ」

 

二人の会話が続く中、クラウスの両腕に数本の矢が突き刺さり彼を足止めするが、その顔には野獣を思わせる凶悪な笑みが浮かんでいた。

その射線上を追うと攻撃手段である両腕が真面に機能しそうにないほどのダメージが見て取れるが、戦場ではありえない人を馬鹿にしたような顔をした悠月が立っていた。

互いの目が合うのと同時に二人は駆け出し互いの腕がぶつかり合うその瞬間だった。

二人の眉間にK・Kが発射した超絶麻酔弾がヒットしたのは。

 

 

牙狩りの戦闘員は”血”を用いた戦闘方法を習得している者が少なからず存在する。

この戦闘方法は現在確認されている中で唯一”奴ら”にダメージを与えられる手段として多くの戦闘員に習得が望まれている。

一方でこの”血”を用いた戦闘方法には重大な欠点が存在する。

それは長時間の戦闘を行った場合、高確率で”血”に酔ってしまうことだ。

この場合の「”血”に酔う」とは戦闘にのめりこみ、戦闘行為を最適化していき、戦闘にしか思考が割けなくなる状態を示すらしい。

我がライブラにおいて顕著なのがオレとクラウスなのだが、それに比例して戦闘力と普段の人間性の優れかたが高いらしい。

クラウスは人類の切り札だ、そんな彼が戦闘マシーンのようになってしまわないようにこの訓練を提案したのは実はオレだったりする。

最初こそ反対されたが、”口”でオレにクラウスが勝てるはずもなく丸め込んだ。

仮にその現場にスティーブンがいたら結果は違っただろうが、”奴ら”に対抗するためには必要なことだ。

そして、オレは自分が血に酔い墜ちることはないと確信している。

 

 

「ただいま」

 

あの血闘から数日後、あの日が嘘であるかのように悠月は日常を謳歌していた。

おいしいタルトが食べたいと駄々をこね始めた一人と一匹(最近ますます似てきた)のために悠月は買い出しに行かされていた。

両腕はルシアナ医師により治療をされたが二日後の再診療まで戦闘行為禁止令が出されているため大人しく茶屋の店主を営んでいた。

一方でクラウスは治療された当日から戦闘許可が出されていたので悠月は格の違いを見せつけられた気分であった。

そんな昼下がり、悠月の帰宅を感知するとものすごい速さで玄関に現れるチェインとモジュが今日はお出迎えが無かった。

不思議そうに居間に向かうとベランダに干してあった悠月の布団に一緒に包まってお昼寝をしていた。

そんな光景を見てこの当たり前の景色を守るために今の自分を受け入れたことを誇らしげに思いながら近づいていく。

そして、寝ているのを確認して悠月はある行動に出た。

眠っているモジュを愛おしそうに抱え上げると眠っているチェインへと近寄り。

その額へキスをした。

 

「いつも、ありがとうチェイン」

 

そう言うとキッチンへとモジュを抱えたまま向かった。

愛しい彼女のために飛び切り美味しいタルトを焼き上げるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「起きてるっつーのバカ」

 

彼女の狸寝入りに気付かぬまま。




なんだか自分でも難解なモノが出来上がってしまいましたが、私の中でライブラ最強はクラウスさんであることは揺るぎませんので悪しからず。


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そんな彼女の一日

今回は“彼女”の視点で見た世界です。
一様、こんな感じで過ごしていると解っていただけるとありがたいです。


彼女の朝は早い。

日の上らぬ前に目覚めると準備運動を始める。念入りに行われるそれを怠ってしまうと目の前にある壁を上りきれぬからだ。

最早日課となっているクライミングを終えるとお次はパルクールの時間だ。足もすくみそうな高さから飛び降りると体をうまく回転しそのまま走るための助走へとつなげる。

目的地の前にある重厚な扉を開け、自分が上りやすいようにと設置してくれた階段をかけ上がる。

そして、目の前にいる彼の顔を優しく叩いて起こすのだ。

 

 

 

 

「クミュウ~(ご主人朝だ、お腹すいた~)」

 

 

 

 

 

そんな彼女(モジュ)の一日

 

 

彼女の名前はモジュ。

堕落王フェムトの気まぐれから生まれた存在だ。

人語を話すことはできないがこの世に存在するありとあらゆる“文字”を理解しているので意思の疎通は可能である。

遺伝子レベルで刷り込まれた主人への服従は今やなりを潜め懐いているという愛らしい表現がとても似合う状況にある。

 

「・・・・・・んむ、くふぁ~、あぁ、モジュかおはよう」

 

モジュによって起こされた青年は”楠守悠月”。

スラリとしていながらも絞り込まれた肉食獣を思わせる筋肉をシーツから覗かせる彼がモジュの飼い主だ。

彼が起き上がると顔の上にいたモジュは滑り台を転がるように彼の腹の上に着地する。

そして、そこから隣をみるとシーツが膨らんでいるのがわかる。

再びシーツを駆け上がりその膨らみへと潜り込むモジュ。

そこには悠月から送られたであろう浴衣と呼ばれる寝間着を豪快に寝崩した7割ほど肌色が見えている女性が眠っていた。

 

「モジュ、悪いけど30分たったら起こしてあげて」

 

そう言うと悠月はキッチンへと歩いて行った。

モジュは悠月に言われたことを実行するためベッドのわきに最近追加された観葉植物へとよじ登り始める。

今日の感じだと彼女を起こすためには少々手荒い衝撃が必要になると考えたからである。

モジュが乗っても折れない枝の根本に到着し、時計を確認すると悠月が言っていた時間にちょうどなっていた。

そのまま、魔獣特有の突進力を生かして枝から彼女の腹部めがけて跳躍した。

 

「グボ」

 

決して女性が朝からだして良いような声ではない声を聴いて威力をつけすぎたとモジュは反省する。

そして、目の座った彼女にかなり強めに頭を撫でられるが、自分の失敗なので甘んじて受け入れる。

モジュは出来るメスなのだ。

 

「・・・・お・・・h・・・・よ・・・・次は・・・・・・潰す・・・・よ」

 

モジュは出来るメスなのだ、だからといって失敗もする。

反省を生かすことを決意し器用に口と手を使って彼女の寝間着を直していく。

その豊満な胸部が邪魔で仕方ないが綺麗に整えると頭によじ登り少々強めに叩く。

こうしないと再び彼女は眠りについてしまうからだ。

彼女の頭から見る景色は主人である悠月より低いがこれはこれでモジュは気に入っている。

そして、キッチンにたどり着くと決まって彼女は悠月に甘える。

その瞬間、器用にジャンプして自分も悠月の頭に飛び乗り甘える。

 

「おはよう、チェイン」

「おはよう、悠月」

 

モジュによって盛大にダメージを負った彼女”チェイン・皇”が完全に起きたことを確認しつつモジュは朝の貴重な一時を享受するのだった。

 

 

今日は午前中から”ライブラ”なる組織のアジトへと赴く予定になっているようでいつもより慌ただしく朝食の後片付けをし、着替えた二人は玄関に集合していた。

一足先に玄関に到着していたモジュは悠月の頭へと移動し全員がそろったのを確認すると出かけて行った。

一歩外に出ればそこはいつものヘルサレムズ・ロッドの大通り。

いつものように人間と異界人となんかよく解らない連中が道を練り歩き、奇々怪々、混沌極まった光景が広がっており、モジュの日常に組み込まれた初めての世界でもあった。

例え彼女の視界の片隅で殴り合ったり殺し合ったりしている連中がいようとも、例え道中でカツアゲしてきた異界人が悠月とチェインの逆襲に会い逆に金目の物全てをはぎ取られていようとも、モジュにとってそれが当たり前の光景だった。

いつもと違う場所からエレベーターに乗りアジトに到着した。

目の前のソファーにはおそらく五徹目であろう副官”スティーブン・A・スターフェイズ”が凄まじい笑顔で座っていたが悠月と目が合った瞬間に逃亡を図るも、モジュの全体重の乗った突進を受けて悶絶し気絶。そのまま強制仮眠となった。

一仕事終えたモジュは所定の位置となりつつあるアンティークドールハウスのソファーに座る。

すると目の前に何も知らない子供が見たら確実に泣き出すであろう強面が現れた。

 

「いつも済まないモジュ、私ではどうも丸め込まれてしまって」

 

この組織のボスである”クラウス・V・ラインヘルツ”だった。

そして彼の巨体の後ろから見たことがある箱が現れた。

 

「今日のお礼だ、受け取ってくれたまえ」

 

それは、モジュが最近知った”ドーナツ”なる食べ物が入っている箱だった。

 

「クキュ」

 

モジュの体には大きすぎるその箱を受け取ると自身のソファーの隣に置きクラウスの頭へと飛び乗る。

こうすると、なぜかクラウスから幸せオーラが発生するのだがモジュは理由を知ろうともしない。

そのまま、器用にクラウスの頭の上で微睡でしまうのだから。

 

 

10時きっかりに目を覚ますモジュ。

何故ならおやつの時間なのだ。最初の一週間はそれこそ、サイズと愛敬に騙されたライブラ関係者がことあるごとに食べ物をあげていたが飼い主からのおやつ禁止令が出されることになった。

しかし、クラウスを筆頭にした甘やかし隊の面々による涙にくれた交渉の末、良いことをしたご褒美であれば10時と3時のおやつ分はあげてよしと許可が降りた。

魔獣である彼女は大変良く食べるし、食べることが趣味なので問題なかった。

何より今日の10時のおやつはまだ3回しか食べたことのない“ドーナツ”なのだ。主人を真似て前足を洗い(その際、洗面台に落ちてしまうが“たまたま”近くを通ったソニックに救出された)ソファーへと赴く。

心なしか歩く速度がいつもより早いのはご愛敬と言える。

そして、ソファーの隣においてある愛しのドーナツの箱に視線を向けると。

 

「あぁ、うんめ。たまにはドーナツも良いもんだな、グェップ」

 

彼女の楽しみにしていたドーナツ(50個)を全て食い荒らしている“銀髪の糞猿”がいた。

 

 

 

 

さて、時間は少し戻り事件の数分前に遡る

モジュが頭から降りたことで10時になったと認識したクラウスは自慢の温室へ水やりに、スティーブンは未だに仮眠室にて爆睡中、悠月とチェインはスティーブンから(無理矢理)引き継いだ仕事の資料を探しにと其々がオフィスからいなくなっていた。

 

「ちわーっす、腹減った」

 

挨拶もそこそこに現れたザップ・レンフロ。

この男、昨日付き合っている全ての女性の怒りを買ったことで一時的な宿無し状態な上にギャンブルで有り金全て使い果たし、更にいつもなら絡んでくるチンピラも昨日から誰もよってこない。その上、(自分は)可愛がっている(と思っている)後輩のレオは生意気にも彼女と泊まりでデートなので珍しく気を使ったことにより、昨日からまともに何も食べていないのだ。

そして珍しく午前に自発的にアジトに来たのも誰かしら居るのではないか、あわよくばメシにありつきたいという考えからだったりする。

そんな仲間にさえ「度し難い人間のクズ」、「ダメ男のロイヤルストレートフラッシュ」と評される男の目の前に念願の食べ物が置いてあった場合どのようなことが起きるだろうか、推察はし易かった。

 

「・・・・・イ~ヤ~、誰だよこんなところにドーナツを”忘れていった”のは、イケませんな~食べ物を粗末にしては。イヤハヤ本当にイケませんな。ここはワタクシメが責任を持って食べて差し上げないといけませんな、イヤハヤ仕方ないな、本当に仕方ないな」

 

誰もいないのを念入りに確認し、誰に聞かせるでもない言い訳をして目を光らせたその瞬間、ザップはドーナツへと飛び掛かった。

そして、先程モジュの目撃した状況へと至った。

 

 

 

 

「あぁ、うんめかった。しっかし、本当にいけませんな食べ物を粗末にしては、これは犯人を見つけ次第オレが責任を持って「グルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル」

 

ドーナツを全て腹に納めた上に図々しくもタカル計画を立てていたザップの後ろから獣の唸り声が聞こえてきた。

その唸り声に聞き覚えのあったザップは恐る恐る後ろを振り向くとそこにはとても文字に起こすことすら忌避される形相をした桃色の怒れる魔獣が存在していた。

その怒りを一身で受けたザップはまず言い訳を考えた。

しかし、彼の残念な脳では何も思いつかなかった。

次に逃走を試みる。

しかし、腹が重い上に座り込んだ態勢から足が地についていないため自慢の脚力も死んだ。

彼が悪あがきを考えたり実行に移そうともがいているその時、モジュの射程に入ってしまった。

 

 

 

 

 

「ウギョァィエェェェェェェェェェェェェ」

 

とても人間から発声されているとは思えない奇妙な悲鳴を聞いたのはクラウスが温室の扉をゆっくりと閉めて、スティーブンが久方ぶりにスッキリとした目覚めを覚え、悠月とチェインが資料室でイチャつき終わったのと同時だった。

 

「何事だ」

「どうした」

「モジュ!!」

「大丈夫」

 

4人が同時に目にした光景はなんとも凄惨な物だった。

 

 

 

オフィスの一番丈夫な柱に血法を用いて自分を括りつけて原子分解と強力吸引から逃れようとしている下半身丸出しのザップ。

その余波を受けてスティーブンが五徹してやっと纏め終わった資料が砂のように分解されモジュに吸収されており。

そして、滝のような涙を流しながらザップを原子分解しようと徐々に近づいているモジュの姿だった。

 

「「「「いったい何をしでかしたんだザップ(クソモンキー)」」」」

「キュエェェェェェン」

 

 

 

 

 

事の顛末を綴ると悠月がモジュを抱かかえることで原子分解と吸引の術式は停止。

それでも泣き止まないモジュが両前足の指で器用に空になったドーナツの箱とザップの腹を指さすことで全員が事態を察知。

悠月とチェインがモジュを宥めながら悠月が”引っ張りだした”抹茶ジェラート(10Kg)を与えつつ全身全霊で泣き止ませた。

一方のザップはというとクラウスの無言の圧力に屈して土下座、そしてとんでもなく爽やかな笑顔を顔に張り付けたスティーブンに雑に扱われながらエレベーターへと消えていき数分後、大量のドーナツとケーキを背負った状態で現れ半泣きのモジュへと地面が抉れる勢いで再び土下座。

再度スティーブンに捕獲されどこかへと連れていかれた。

その後3週間ザップの姿を見た者はいなかったが、4週間後目に生気を失い「スイマセン」を連呼し続ける状態でツェッドに保護され、更に1週間周囲が引くほどの真人間として生活をしていた。

ちなみに、泣き止みザップからの献上品を完食したモジュがゲップをするのと同時にスティーブンの五徹の結晶である資料は何事もなく復元された。

 

 

お昼は飼い主の責任を感じた悠月のおごりでギルベルトも同伴する形で翡翠庵で悠月の手料理が振舞われたのだが何故か運よく近所を散歩していたツェッドとお泊りデートを満喫したレオとメアリも合流しならばついでにとザップを除く手の空いているライブラメンバー全員で「とり卵天ぶっかけうどん」なる日本料理をいただくこととなった。

オフィスの掃除はギルベルトがいつの間にか終わらせてしまい、各員自宅待機となった。

久しぶりに全力で暴れれた上にお腹も心も満ち足りたモジュはお昼を食べ終えるのと同時に自分のベットで眠りにつき、翌朝まで目を覚ますことはなかった。

ただ、その寝顔はとても幸せそうだった。




はい、モジュの微妙な一日でした。
ザップって度し難いクズではあるんですがそれにもまして空気を読まない上にいちいちタイミングが悪いのもあるかもしれませんがオチには便利だなと感じました。
こんな感じではありますが今後もよろしくお願いします。

追伸
自分ごとではありますが、本日葦原大介先生のワールドトリガー再開及びSQへの移籍が発表されました。大変待ち望んでいたので喜びもひとしおではありますが、だからと言ってあまり無理なさらず仕事を進めていただければと切に願っております。


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どんな始まりであっても

中途半端に力尽きた結果です。
やっぱり先人たちはすごい。


-あの日握ることのできた君の手を忘れない-

-あの日握ってくれた血だらけの手を忘れない-

-あの日見た傷だらけの唖然とした君の顔を忘れない-

-あの日見れた血だらけの笑顔を忘れたくない-

-あの日、不意に出た言葉に嘘はない-

-あの日、あなたに言われた言葉が嘘でも構わない-

--今こうしていられることが私たちにとっての”真実”なのだから--

 

 

どんな始まりであっても

 

 

 

「チェインさんと悠月さんって、いつも仲イイよね」

 

ある日のライブラでの昼下がり。

アジトには暇を持て余したメアリとバイト明けで疲労困憊のレオ、ゲームに夢中のクラウスと銃の手入れを行うK・Kが何もない一日を過ごしていた。

そんな中、メアリが突然思いついたかのように突拍子もないことを言い始めた。

 

「いや、いきなりどうしたのさホワ・・・メアリ・・・さん」

 

今までの習慣でふとした瞬間に彼女の”彼女”の”カノジョ”の(もういいですかメアリさん・・・・あOKですか)名前を間違えてしまうダメな彼氏レオナルド・ウォッチ。

それを睨み付ける事で言い直しさせるようにしつけたメアリ・マクベスは最近とてつもなく良くしてくれる恩人である男性と、ああなりたいと理想に掲げる(主に肉体的に)女性の仲睦まじさにため息をついて感心している。

それは、ついさっきまで同じソファーに座りながらその間にペットとなった魔獣を座らせ一緒に昼寝をしていた光景を見てそう思ったのか。

もしくは、どちらかが不在の時でもついつい相手を探して周りを見渡してしまう癖を最近知ったからだからだろうか。

はたまた、この前2人で遊びにいった時に聞いた彼氏自慢惚気大会でレオと違い撃沈せずにやり返した悠月の強かさを知ったからだろうか。

兎に角、メアリが現在恋人としての関係の目標と定めている悠月とチェインは人狼局に呼ばれアジトから出かけて行ったのである。

 

「だってさ、いっつも気が付くと二人寄り添うように一緒に居るし、だからって前のホワイトとブラック(あたしとお兄ちゃん)みたいな依存しあう関係でもなく、本当に自然体でいれるってさ理想じゃない」

 

そう言ってソファーに備え付けられたクッションを抱え込みレオにもたれ掛る。

 

「それ、解るわぁ、”お姉さん”その気持ちすっごく解るわぁ。あの二人ってさ、あの関係が当たり前すぎて「いや普通に喧嘩しますから」って言われても逆に嘘だって思って信じられないわよね」

 

目をキラキラさせながら銃をケースへと戻し会話に参加してきたK・K。

ライブラメンバーとしては古参に近い彼女ですら彼らの馴れ初めは知らず、気が付いたら今の関係になっていたらしい。

女3人寄れば姦しいなどと言われているが、性別に関係なく人の恋路というものは古より受け継がれてきた話のタネである。

 

「メアっちが憧れるのも何となく納得しちゃうのよね、なんていうかさもう完全に”夫婦”なのよ。”恋人”ていう関係性ではあるんだろうけど雰囲気が完全に”夫婦”なのよ。この間もたまたま公園であったんだけどさ、あたしの旦那が、そうあたしの愛する旦那が二人を夫婦と勘違いしてたんだから。そういえばあの時もらったお茶は美味しかったわね、今度茶葉貰えないか聞いてみましょ」

 

話が脱線しかけるが悠月とチェイン、二人の関係の深さは確かに周りから見ればすでに結婚して子供も受けているレベルの親密さである。

一方で”束縛する”わけでなくあくまで”他人”であることを理解した上で互いに尊重しあっているような間柄に近所の奥様方も人間・異界人問わず憧れているらしい。

そんな風に3人で話し合っているとエレベーターの到着音がしたので振り返る。

 

「ただいま、戻りました・・・・・って何凝視してるんですか?」

 

そこには、件の中心人物の片割れである楠守悠月が立っていたのである。

 

「気にしないでください」

「お気になさらず」

「うっふふふふふ」

 

三者三様の反応に首をかしげながらクラウスの前に移動する悠月。

クラウスも彼の気配を察知して顔を上げる。

 

「人狼局からですがつい先ほど”奴”がHLに戻ってきたと情報が上がったそうです。私のほうも”伝”を頼って確認したところ”彼女”から情報が回ってきたと日本支部から連絡をもらいました」

「そうか、君たちからしたら因縁の相手だろう。我々も十二分にバックアップさせてもらうから頑張りたまえ」

 

その後も少しの間二人だけで話し終えると悠月はエレベーターへとクラウスはゲームを終了させギルベルトを伴いどこかへ消えていった。

 

 

 

 

「本日付で我々に協力してくれることになった”不可視の人狼”のチェイン・皇君だ」

 

そういわれて紹介された女性は明らかにクタクタの革ジャンを羽織り、インナーもヨレヨレのタンクトップで髪もボサボサだった。

明らかに年上と判断されるK・Kや組織のボスとしてすでに面識のあるクラウス、胡散臭い笑顔を張り付けているが一様年上としてたてられているスティーブンとは明らかに違いこちらに向ける視線は敵意と疑心に満ちており人の姿をしていながら醸し出される雰囲気は手負いの獣のようであった。

あいさつも御座なりに済ませるように会釈とも取れない首だけであった。

 

「早速で悪いが、今回の事件から彼女たちの力が大いに期待されてくる。そのため、能力の相性もよさそうな悠月と組んで捜査に当たってもらいたい」

 

そうクラウスが言った瞬間、彼女の瞳の奥に再び黒い何かがうごめいたように感じた。

ライブラとして活動を始めたばかりの我々に来た依頼は当初からきな臭いものであった。

まず、依頼主が不明であること。

ある程度探ろうとすると様々な筋から圧力がかけられてしまい、検索ができなかった。そのうえ、依頼されるまでに少なくとも40人近い仲介を経て依頼されていることからも想像できる通り人界でもかなりの上流階級の存在からの依頼であると考えられた。

次に、依頼内容が具体的過ぎるのだ。

今回の依頼内容は「アブラシィジオテクノロジスティ社から盗まれた薬を一月以内に全て回収し犯人を捕らえること」とされていた。

普通、こういった依頼は「目的」のみが伝えられ、ここまで詳細に期限までつけて依頼されることはまずはない。

最後に、今後発足する「人狼局」が協力体制を敷いてくれている点、これが最も怪しい。

政府関係機関でしかも発足予定(・・・・)とされている暗躍機関を協力させるということはよっぽど一般に知られたくないか急を有する事態なのだろうと推測された。

そんなこともあり、一時的に相棒となるこの女性との捜査が幕を開けたのだった。

捜査は(・・・)実にスムーズにいっていた。

彼女たち”不可視の人狼”の極めて高度な隠密能力によりいつも以上に情報がこちらに入ってくる。

誰が見ても狂喜乱舞しているスティーブンをしり目にどのような時でも自分が触れることはできない位置に立っている彼女を観察する。

彼女は誰に対しても心を許していない。

それは、食事を一緒にするようになったK・Kの姐御に対してもそうだ。

彼女は姐御が食べたものしか口にしない。

自分に出されたものは何かと理由をつけて相手に食べさせる。

酒を飲みに行った時もアルコール分だけ希釈して体外に排出しているのを見た。

クラウスと話している時もそうだ。

クラウスは気づいていてはいないが、彼女は常に視線をクラウスの利き腕から外さない。

目を合わせて話している時も注意は利き腕に向けられている。

そして、クラウスの間合いギリギリに立っている。

スティーブンとの報告にしてもそうだ。

オレと報告に行く際は、オレを盾にしてスティーブンの間合いから外れ常に窓や壁などの逃げ場を意識している。

オレ(悠月)と行動している時などその警戒心が顕著に表れている。

一緒に行動しているようで常に逃げ場を探している。

ある時、密室にて取引をしていた際にも最も薄い壁に背を預けて何かあってもすぐに逃げ出せるようにしていた。

ストレスで頭がどうにかなってしまいそうな時、彼女の同胞である人狼からそれとなく聞かされた彼女の過去は壮絶だった。

異界と人界が交わる前、幼い彼女は同胞にかどわかされ興味本位で人間の前に現れてしまった。

そして、捕まり、ありとあらゆる方法でその体を調べられ、泣いて喚こうとも彼女を捕らえた人間たちは彼女をモルモットを扱うように、丁寧に実験し続けた。

そんな地獄のある日、彼女は交配実験と称して乱暴に扱われようとしていた。

その相手とはオレの因縁の相手でもある糞野郎であったことと、なんの因果か双子に間違われるほどに似ているオレを見ると当時を思い出してしまい、恐怖と殺意が心から溢れてきてしまうらしい。

幸いにもオレの旧友と師匠によって救出された彼女は以降、誰も同胞すら信じられず今まで生きてきたとのことだった。

それを聞いてしまっていこう、彼女に対する興味が薄れていき、あの日ついに彼女を見失ってしまった。

 

「くっそ、どこ行きやがったあの狗女」

 

その日は朝から彼女の様子がおかしかった。

いつもはオレが近づけば誰にも気づかれないように離れていくのに、今日に限っては周りが見ても分かるぐらいに怯えた目でオレを見るまで気づかず、逃げるように離れていった。

そして、人込みの中を歩く際も普段なら離れて歩くのに今日はやけに近くにいた。

そんな彼女が行方をくらませたのはほんの数分前だった。

いやその予兆は前日、アジトに戻る途中に現れていた。

裏路地を歩いてアジトへと向かっていたその時、彼女がフェンスへともたれ掛かる様に背を預けて視線の先に存在する何かから逃げ出そうとしていた。

自身の存在を希釈することにすら頭が回らないほどに混乱している彼女をほっておけず力づくで自分に引き寄せ周りが見えないように抱きしめると彼女はまるで悪夢を見た幼子のように怯えていることが分かった。

その後、数分彼女が落ち着くまで時間を有した上にアジトにつくまで彼女がオレの服から手を離すことはなかった。

そんな彼女が今日はいつも通りだったこともあり油断していた。

 

「(落ち着け、落ち着けよオレ。ここじゃ”あれ”が出来ないから一先ずどこか一人になれる場所へ・・・・って駄目だ。あの狗女にマーキングつけてないから”あれ”使えない)」

 

自分の抜け具合に腹が立つ一方で頭の片隅では冷静に現状使える方法を模索していた。

そして・・・・・・・・。




というわけで続きます。
こう書きたいというモノはあるのですが上手く文章にできない哀れな作者をお許しください。


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恋は独善的な物、では愛は?

待ってる人などいないだろうけど、一度上げさせていただきます。


遠い遠い昔の記憶。

”恋”は一人でする者、相手を想い、相手の事を考え、相手に気に入られたいと願い、相手を自分のものにしたいという欲求を満たすための行為。

では、”愛”とは何を示す言葉なのだろうか。

相手を気軽に縛り付けることができる魔法の言葉?

原子の頃から受け継がれてきた生命のプログラム?

僕はそんな物信じて生きてこなかったよ。

所詮、僕らは生まれた時から死ぬために生きてきたんだから。

だけど、”僕”はそんな言葉に縛られたくないのさ。

どうせ死ぬなら、もう一度”僕”を生ませればいいんだ。

目の前にある優秀な母体を使ってね。

験体No.2549(チェイン・皇)”僕を産み落とす名誉を君に挙げよう。

 

そういって目の前の狂人は禍々しく歪んだ笑みを私に見せつけてきた。

 

 

恋は独善的な物、では愛は?

 

 

久しぶりに見た夢は幼いころの追体験だった。

幼いころ私は興味本位で人間の前に姿をあらわしてしまった。

そして、目の前の化け物に見つかり地獄が始まった。

不可視の人狼の機能限界を調べる実験と称して行われた数々の拷問とも呼べる行為に私は次第に疲弊し、目の前の化け物に服従することで楽になろうとしていた。

そんなある日、地獄の象徴だった日々が突然終わりを告げた。

傷だらけでいたるところから血を流した青年が私を救い出してくれた。

自分の血を弓に質量変換させ悪夢の象徴ともいえる化け物に次々と矢を打ち込んでいくその姿はおとぎ話に出てくる狩人のようであった。

 

「**************************」

「**************************」

 

二人の戦いと言い合いが激化していく中で私を救いに来てくれた人が悪夢を終わらせてくれた。

怯える私を抱きしめて人のぬくもりを思い出させてくれた。

凍てついた心に再び火をともしてくれた。

 

「それじゃ、いつかまた」

 

その一言を聞いて私は意識を失った。

その後、少ない情報から恩人を探し続けた私だったが一向に成果を上げられず、そして日に日に悪夢にさいなまれるようになっていき再び心が凍り付いてしまった。

そして、今再び私は地獄に戻ってきてしまった。

 

「いやぁ、君を探すのに苦労したよチェイン・皇(僕の花嫁)君たちの種族(不可視の人狼)が本気で隠れるとどのような手段をもってしても見つけられないからね」

「だけど、いまこの混沌があふれる場所なら君たちを誘い出すことができる。あの時できなかったことがやっと実現できる」

 

そう言ってまるで喜劇俳優のように縛り付けられた私の周りをクルクルまわる忌まわしき存在。

身体の半分が機械で覆われ降りあのころに比べてだいぶ年老いているがその濁り切った目はいまだに変わらなかった。

 

「そう、すべては今日という日のためにあった前奏曲のようなものだったのさ。さてさて不可視の人狼(チェイン・皇)僕の花嫁(チェイン・皇)僕の新たな母胎(チェイン・皇)。今日は、今日こそは君を僕のモノにしてあげるからね」

 

そういうと狂ったように笑い出した目の前の狂人、私の悪夢の象徴。

だけど、不思議と不安は無かった。

いつかまたこの化け物が私の前に現れて私のこのくそったれな生涯が終わるのではないかと考えていたからだからなのか。

思考が絶望に塗りつぶされていく感覚を身に覚えながら目の前が暗くなりかけたその時、右耳の柘榴石のピアスの感覚だけがなぜか鮮明に私を現実へつなぎ留めていた。

その時だった、突如として目の前の化け物の背後の壁が真紅の十字架により突如として破壊されたのは。

 

「吼漸百罫血仙兵装弓式」

 

壊れた壁の向こうに最初に見えたのは。

 

「花天ノ法」

 

この数週間、行動を共にした。

 

黒縄棘茨(こくじょうきょくし)

 

恩人に似ても似つかないはずの馬鹿野郎だった。

 

 

昔話をしようじゃないか

昔々、あるところにそれはそれは愛らしい狼の姫君がおったそうな

彼女は一族の掟を破り、人の前に姿を見せたことで長く続く地獄を味わうことになったわけだ

そんな、御姫様を助け出したのは一人の狩人だったんだ

彼は、御姫様を閉じ込めた悪い王様を懲らしめるとお姫様を元居た世界へと帰してあげたんだ

でもさ、世の中そんなご都合主義なんて溢れているわけじゃないじゃん

だから、僕は僕の持てるすべての権限を持って僕との契約を破ったあの糞野郎を破滅させるために狩人を”送り込んだのさ”

その時のことはもちろんきれいさっぱり”忘れさせた”はずなのにあの二人は感覚的に覚えていたのかな

ま、とにかくハッピーエンド至上主義な僕からすればこの糞契約者をどうにかしてご退場願いたかったわけですよ

だから、選んでやったのさ

どうせ将来、結ばれるって解ってたんだから

そう、君たちも解っているだろうけど、幼いチェイン・皇を助け出したのは彼女を失い世界に絶望した「××××」となった「楠守悠月」の功績だよ

彼が自分へと至る歴史全てを巻き込んでこの時点で彼女を助ける力を僕から引き出したのさ

後は知ってのとおり、どこにでもあるハッピーエンド、ラブラブな二人が出来上がった訳なのさ

全くもって人間は面白いね。

ん、僕がだれかって?

僕はね「〈§¶ΓΘΛΠΨ/*=~//***-」っと僕の名前って人語に翻訳できないんだった

そうだねありていに言って僕はね「ハッピーエンド至上主義の時神」さ

 

 

 

 

 

 

 




言い訳できませんがスランプな上に浮気して別作品書いた結果です。
いつか必ず手直しします。


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The times that we spend together are irreplaceable to me

生存報告


ほんの数か月前まで、私の世界は狭い狭い窓から見える景色と歩いていけるあの場所で構築されていたの。

あの日、貴方に会えてお兄ちゃんと一緒に私も救ってくれて。

貴方は、否定するけど私は貴方に救われた。

貴方がワタシを私に戻してくれた。

だから、私は貴方と共にありたい。

貴方の願いがかなった後も貴方に寄り添いたい。

だからね・・・・・・。

 

 

 

初めて会ったのは、常連になったあいつと一緒だったな。

それで、いつものごとく壊された店の原因からあたしを守って自分が逃げ損なって。

そこから、あんたも常連になったんだったな。

最初は解らなかったあんたの表情、何気無い仕草。

告白されたのはあんたからだったけど、あたしの方が先に落とされていた気がする。

あたしは、あいつらみたいにあんたの仕事の手助けは出来ないけれども、あんたが守る日常を守ってやれる。

だからな・・・・・・。

 

 

 

出会いは最悪。

でも今は、貴方がいない世界を考えることが怖い。

貴方がワタシのまえから消えるなら、私は世界に溶け込んで貴方の傍に居続けたい。

化け物の本能が貴方を逃すなと叫び続ける。

女の本能が貴方の傍で安らぎを求めている。

家族が増えて、構う対象も増えて、正直嫉妬してしまう。

“あの事件”を知ってる奴等には未だに不思議がられるけど、今なら大声で叫んでやれる。

だからね・・・・・。

 

 

「「「愛してるぜ、My Darling(レオ・ツェッド・悠月)」」」

 

 

 

 

墓地で出会った君は何処か虚ろげで。

いつの間にか君に会いに行くのが日課になっていった。

君が誰かと喋って、笑って、そんな姿に嫉妬した。

はじめてだった、妹以外でこんなに考えてきた女の子は。

君に会えない日は、何時もより調子が悪いような気がする。

みんなに助けられ、君を“ヒト”に戻せたあの時。

僕はきっと本当の意味で君に恋をしたんだ。

だから、・・・・・。

 

 

 

はじめてお会いしたのは友人と兄弟子と一緒にランチに伺った時でした。

人類種(ヒューマン)でない僕にたいしても気さくで、暖かいその笑顔は僕の心何故残っていた。

日増しに通う機会が増えていき、気がつけば貴女に会いに行くのが楽しみになっていった。

兄弟子に嵌められて告白してしまったあの日。

貴女に涙を流させてしまい、それが嬉し涙と知らされるまでのあの時間は僕が生まれたなかで最悪の時間でした。

でも、今、僕の日常に貴女がいてくれるこの無情な喜びは何物にも変えがたいものだと知りました。

だから、・・・・・。

 

 

 

出会い頭の印象は手負いの野良犬だった。

そんな貴女とバディを組んで、お世話して、恋に落ちて、一緒に住んで。

こんな関係になるなんてあの時は思いもしなかった。

クールを気取っているけれど、誰よりも仲間思いで、寂しがり。

何かあると抱き着いて離れない狼というより猫のような貴女。

気がつけばそんな貴女に溺れていた。

だから、・・・・・。

 

 

 

 

 

 

「「「愛しています、My Honey(メアリ・ビビアン・チェイン)」」」




皆様よいお年を


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