宇宙戦艦ヤマト 2221 ~悪魔との再戦~ (柱島低督)
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設定資料集 ※チマチマ追加していきます
登場艦艇~地球防衛軍編~


登場する各艦の性能諸元をつらつらと書いていくだけの、自己満足も多少含まれた内容です。


全艦共通の備考
・ブルーノアの魚雷・ミサイル兵装は適当に数を決めた。
・前衛武装航宙艦の『短魚雷発射管』は、『速射魚雷発射管』に一本化する。(短魚雷だとなんかイマイチ強そうに聞こえない)
・小型無人機は、コスモパルサー1機につき4機の搭載量となる(予備機分の搭載量を計上するかは場合による)


ー戦艦ズー

 ・ヤマト

 ・ブルーノア

 ・改ドレッドノート級

 ・スーパーアンドロメダ級

 ・アークツルス級

 ・エルナト級

ー空母ズー

 ・ドゥーベ級空母

 ・アークツルス級改装戦闘空母

 

 

ー戦艦ズー

 

・BBY-01

ヤマト型超弩級航宙戦艦 ヤマト

 

主機

2218式 六連装炉心 波動エンジン 改(2221式) x1

 

補機

2218式 分割単連装炉心 波動エンジン x1

ケルビンインパルスエンジン x2

 

兵装

艦首波動砲(収束・拡散変更可能型) x1

48cm三連装陽電子衝撃砲(南部重工製 実体弾射撃可能型) x3

20cm三連装陽電子衝撃砲(南部重工製 実体弾射撃可能型) x2

艦首 魚雷発射管(片舷3門) x2

艦尾 魚雷発射管(片舷3門) x2

舷側 ミサイル発射管(片舷8門) x2

艦底 ミサイル発射管(片舷8門) x2

煙突 八連装ミサイル発射塔 x1

マスト基部 多目的投射機(片舷4基) x2

他 対空兵装多数

 

砲弾

エネルギーカートリッジ弾

波動エネルギー弾

三式弾(2199年式)

甲種弾 対艦徹甲弾

乙弾 対空榴弾

丙弾 対艦榴弾

丁弾 対潜用多目的榴弾

戊弾 対要塞用高貫徹徹甲弾(噴進誘導機能付APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾))

 

艦載機

17式艦載空間戦闘攻撃機 コスモパルサー

 x55+予備 x8

零式宇宙艦上戦闘機21型 コスモゼロ21

 x2+予備 x1

空間汎用輸送機SC97(B) コスモシーガルII

 x2

他 多数

 

他 各種装備

ロケットアンカー(艦首両舷) x2

亜空間ソナー

特殊探照灯(片舷4基) x2

波動防壁(次元波動振幅防御壁)

06式波動コイル

21式波動コイル甲(波動砲発射口)

21式波動コイル乙(全体)

 

全長 345.00m

全幅 52.30m

全高 99.47m

 

同型艦

2番艦 波動実験艦ムサシ (装備に差異有り)

3番艦 航宙母艦シナノ (装備に差異有り)

 

備考

・魔改造の結果、法外な火力と異常な防御力を手に入れた。お陰で波動砲&航空隊を縛っても旧白色彗星&超巨大戦艦を一方的に屠れるという、最早なにがなんだか、と言わざるを得ないレベル。リメイク版相手でも多分全力で戦えば葬れると思う。

・魔改造で主砲副砲全部が実体弾を射撃可能。

・小型無人機の運用は考慮されていない。

・魚雷・ミサイル兵装は亜空間魚雷を運用可能。

・波動コイルをスプリッターとして使用することで拡散波動砲を発射可能。というか発射口をシールドして六連発一斉射も余裕でこなす。

 

 

・ブルーノア級航宙戦艦 ブルーノア(主力艦隊 旗艦)

(修復目標2221年08月)

 

主機

2218式 六連装炉心 波動エンジン x2

 

補機

ケルビンインパルスエンジン(起動用(但しメインノズルとの接続も可)) x2

 

武装

艦首波動砲(収束・拡散変更可能型) x1

ホーミング波動砲 x2

40.6cm三連装陽電子衝撃砲(実体弾射撃不可) x8

15.5cm三連装陽電子衝撃砲(実体弾射撃不可) x4

15.2cm二連装陽電子衝撃砲(実体弾射撃不可) x2

艦首 亜空間魚雷発射管(片舷4門) x2

舷側 多連装ミサイル発射機(片舷8門) x2

艦底 ミサイル発射管(片舷10門) x2

艦橋上部 魚雷発射管(片舷4門) x2

他 格納式対空兵装多数

 

艦載機

17式艦載空間戦闘攻撃機 コスモパルサー

 x320+予備 x40

(小型無人機の場合、定数1,440)

 

他 各種装備

波動防壁(次元波動振幅防御壁)

06式波動コイル

21式波動コイル甲(波動砲発射口)

21式波動コイル乙(全体)

 

全長 450.00m

全幅(主翼部含む) 145.50m

全高 72.30m

 

同型艦

2番艦 政府要人用移動艦ブルーアース (武装全廃)

3番艦 航宙戦艦ブルースカイ(第一艦隊 旗艦)

 

備考

・実際の設定で既にコスモパルサー搭載機数がインフレしてるが、この話では結局周りのインフレも凄いのであんまりパッとしない。てな訳でざっと3倍の搭載機数になった。(地球艦隊の総旗艦だしこれくらいはね?)

・お陰でヤマトレベルのチート・オブ・チートかもしれない。

・搭載量の全てを無人機で補った場合、桁が1つ繰り上がるぶっ飛び(素敵)仕様。

・修復時に亜空間航行用のケルビンインパルスエンジンを装備。いつか使うときが来るかもしれない。

・ついでに魚雷・ミサイルといった実弾兵装が(亜空間魚雷含め)大幅強化。潜宙艦運用の実用性が爆上がり。

・六連炉心の波動エンジンを2基積んでるので六連発一斉射を2連射とか、十二連発一斉射とか、最高にクール(クレイジー)なスペック。但し補機がショボいので再起動に時間がかかる。

 

 

・BBDa-0000

改ドレッドノート級宇宙戦艦

 

主機

2219式 単炉心 波動エンジン x1

 

補機

なし

 

武装

艦首波動砲(収束・拡散変更可能型) x1

35.6cm三連装陽電子衝撃砲(実体弾射撃不可) x3

他 格納式対空兵装多数

 

艦載機

なし

(小型無人機の場合、定数20)

 

全長 215.30m

船体幅 32.10m

全高 72.10m

 

同型艦

多数

 

 

・BBAa-0000

スーパーアンドロメダ級宇宙戦艦

 

主機

2219式 単炉心 波動エンジン x1

 

補機

なし

 

武装

艦首波動砲(収束・拡散変更可能型) x2

35.6cm三連装陽電子衝撃砲(実体弾射撃不可) x3

八連装汎用ミサイルポッド x1

12.7cm二連装陽電子衝撃砲(実体弾射撃不可) x2

他 格納式対空兵装多数

 

艦載機

20式宇宙艦上戦闘機(17式艦載空間戦闘攻撃機(ガンポッド装備)) 紫電

 x10

(小型無人機の場合、定数40)

 

 

・AAAa-01

アークツルス級(改アンドロメダ級)前衛武装航宙艦 アークツルス(第1戦隊 旗艦)

 

主機

2218式 六連装炉心 波動エンジン x1

 

補機

ケルビンインパルスエンジン x4

 

兵装

艦首波動砲(収束・拡散変更可能型) x2

40.6cm三連装収束圧縮型陽電子衝撃砲(実体弾射撃不可) x4

艦首 大型魚雷発射管(片舷2門) x2

艦首 亜空間魚雷発射管(片舷2門) x2

安定翼上下 多目的発射管(片舷4門) x2

前甲板 五連装汎用グレネード投射機 x2

両舷 速射魚雷発射管(片舷8門) x2

両舷 多連装ミサイル発射機(片舷8門) x2

艦底 ミサイル発射管(片舷6門) x2

司令塔前部・基部 司令塔防護ショックフィールド砲 x4

司令塔基部 近接戦闘用六連装側方光線投射砲(中距離戦闘対応ホーミング型) x2

艦尾 速射魚雷発射管(片舷4門) x2

他 対空兵装多数

 

他 各種装備

重力子スプレッド投射機 x4

波動防壁(次元波動振幅防御壁)

06式波動コイル

21式波動コイル乙

 

艦載機

17式艦載空間戦闘攻撃機 コスモパルサー

 x45+予備 x5

(小型無人機の場合、定数180)

空間汎用輸送機SC97(B) コスモシーガルII

 x2

 

全長 444.00m

全幅 70.00m

全高 112.50m

 

同型艦

2番艦 アケルナー(第2戦隊 旗艦)

3番艦 アクルクス(第二艦隊 旗艦)

4番艦 アルタイル(第三艦隊 旗艦)

5番艦 アダラ  (第四艦隊 旗艦)

6番艦 アルニラム(第五艦隊 旗艦)

※7番艦 アルナイル(第一機動艦隊 旗艦) (装備に差異有り)

※8番艦 アルニタク(第二機動艦隊 旗艦) (装備に差異有り)

※9番艦 アリオト (第三機動艦隊 旗艦) (装備に差異有り)

10番艦 アトリア (第一遊撃部隊 旗艦)

11番艦 アルヘナ (第二遊撃部隊 旗艦)

12番艦 アルギエバ(第三遊撃部隊 旗艦)

※……下記のアークツルス級改装戦闘空母に該当

 

備考

・艦隊数の増加に伴って、ブルーノア級のみでは不足することが予想された艦隊指揮艦を補完する為、アンドロメダ級の発展改良型として設計され、旧アンドロメダ級の船体形状を踏襲しつつ、各部武装は新型のものへ更新、増備されている。

・六章で無双したアンドロメダ改の(より強くなった)ゆかいな妹たちだからやっぱりチート級の強さ。前に演習で(航空隊ありの)ブルーノア相手に引き分けた事がある。単艦で。

※オリジナル艦艇です。

 

 

・BBE-2221-0000

量産型武装運用システムE1 エルナト級前衛武装航宙艦

 

主機

2219式 単炉心 波動エンジン x1

 

補機

ケルビンインパルスエンジン x2

 

兵装

艦首波動砲(収束・拡散変更可能型) x1

38.1cm三連装収束圧縮型陽電子衝撃砲(実体弾射撃不可) x3

艦橋頂部 六連装ショックフィールド砲 x1

前甲板中央 爆雷投射サイロ(30連装) x1

前甲板両舷 五連装汎用グレネード投射機 x2

艦首 亜空間魚雷発射管(片舷2門) x2

艦底 ミサイル発射管(片舷4門) x2

両舷 速射魚雷発射管(片舷8門) x2

両舷 多連装ミサイル発射機(片舷7門) x2

司令塔前部・基部 司令塔防護ショックフィールド砲 x3

司令塔基部 近接戦闘用六連装側方光線投射砲(中距離戦闘対応ホーミング型) x2

艦尾 速射魚雷発射管(片舷2門) x2

他 対空兵装多数

 

他 各種装備

波動防壁(次元波動振幅防御壁)

06式波動コイル

21式波動コイル乙

 

艦載機

17式艦載空間戦闘攻撃機 コスモパルサー

 x20

(小型無人機の場合、定数80)

空間汎用輸送機SC97(B) コスモシーガルII

 x1

 

全長 250.00m

全幅 62.30m

全高 99.00m

 

同型艦

多数

 

備考

・改ドレッドノート級やスーパーアンドロメダ級のように波動砲威力に頼った低性能艦では敵性国家艦艇に対して不利であると判断されて(SUS戦で)、旧ドレッドノート級をたたき台に強化。クラスD・Sとの交代が進んでおり、じきに艦隊の主力となる予定。

・先行量産部隊は少数ずつで各守備隊に配備されつつある。

※オリジナル艦艇です

 

 

 

 

ー空母ズー

 

・BBD-cv-000

ドゥーベ級空母

 

主機

2219式 単炉心 波動エンジン x1

 

補機

ケルビンインパルスエンジン x4

 

兵装

艦首波動砲(収束・拡散変更可能型) x1

38.1cm三連装収束圧縮型陽電子衝撃砲(実体弾射撃不可) x2

艦橋頂部 六連装ショックフィールド砲 x1

前甲板中央 爆雷投射サイロ(30連装) x1

前甲板両舷 五連装汎用グレネード投射機 x2

艦首 亜空間魚雷発射管(片舷2門) x2

艦底 ミサイル発射管(片舷4門) x2

両舷 速射魚雷発射管(片舷4門) x2

両舷 多連装ミサイル発射機(片舷7門) x2

司令塔前部・基部 司令塔防護ショックフィールド砲 x3

司令塔基部 近接戦闘用六連装側方光線投射砲(中距離戦闘対応ホーミング型) x2

艦尾 速射魚雷発射管(片舷2門) x2

他 対空兵装多数

 

他 各種装備

コスモパルサー用大型カタパルト(下部甲板装備) x4

コスモパルサー用強制回収装置(上部甲板装備) x4

波動防壁(次元波動振幅防御壁)

06式波動コイル

21式波動コイル乙

 

艦載機

17式艦載空間戦闘攻撃機 コスモパルサー

 x190+予備 x10

空間汎用輸送機SC97(B) コスモシーガルII

 x1

 

全長 270.50m

全幅 62.30m

全高 99.00m

 

同型艦

多数

 

備考

・BBDの識別名でドレッドノート系列の改装艦を名乗っているが、本質はエルナト級の系列艦。

・ぶっちゃけ予備機関係なく、実戦では200機をフルに使う。

・見た目「2」の空母そのまま(の予定)。上甲板が着艦用で、下の甲板が発艦用。

・すこしだけ艦尾(主に甲板部)が伸びてる。その分妙に搭載機数が多い。

・小型無人機の運用は考慮されていない。

※(念のため)オリジナル艦艇です。

 

 

 

・AAAa-cv-00

アークツルス級改装戦闘空母

 

主機

2218式 六連装炉心 波動エンジン x1

 

補機

ケルビンインパルスエンジン x4

 

兵装

艦首波動砲(収束・拡散変更可能型) x2

40.6cm三連装収束圧縮型陽電子衝撃砲(実体弾射撃不可) x4

艦首 大型魚雷発射管(片舷2門) x2

艦首 亜空間魚雷発射管(片舷2門) x2

安定翼上下 多目的発射管(片舷4門) x2

前甲板 五連装汎用グレネード投射機 x2

両舷 速射魚雷発射管(片舷6門) x2

両舷 多連装ミサイル発射機(片舷5門) x2

艦底 ミサイル発射管(片舷6門) x2

司令塔前部・基部 司令塔防護ショックフィールド砲 x4

司令塔基部 近接戦闘用六連装側方光線投射砲(中距離戦闘対応ホーミング型) x2

艦尾 速射魚雷発射管(片舷4門) x2

他 対空兵装多数

 

他 各種装備

重力子スプレッド投射機 x4

波動防壁(次元波動振幅防御壁)

06式波動コイル

21式波動コイル乙

 

艦載機

17式艦載空間戦闘攻撃機 コスモパルサー

 x130+予備 x10

空間汎用輸送機SC97(B) コスモシーガルII

 x2

 

全長 444.00m

全幅 70.00m

全高 112.50m

 

備考

・アークツルス級のうち3隻が、艦内余剰スペースを艦後部に集めたこの戦闘空母として建造されている。




2018/09/09 リンク機能を利用した目次を制作。
2018/10/13 エルナト級戦艦の欄を追加。
2019/02/08 ヤマト備考欄に追記・使用可能実体弾弾種を追加。
2019/03/04 ブルーノア級・アークツルス級備考欄に追記。
2019/03/09 エルナト級兵装欄を詳細化。
2019/03/18 エルナト級艦種を戦艦から前衛武装航宙艦へ変更。備考を追記。
2019/03/18 ドゥーベ級の内容を追記。
2019/03/26 各艦に、小型無人機の搭載機数を追記。
2019/03/26 ブルーノアの兵装欄を追記。
2019/03/26 前書き欄に『全艦共通の備考』を制作。
2019/07/29 アークツルス級・エルナト級・ドゥーベ級兵装欄を追記。
2019/09/13 アークツルス級改装戦闘空母の内容を追記。
2019/09/26 各艦の波動コイルを更新。一部備考を追記。
2019/11/27 ヤマト機関を最新情報に更新


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序章
地獄の前奏曲


カスケードブラックホールは破壊された際、逆転現象によりこれまで巻き込んだ惑星を元の場所に吐き出し消滅した。



「ヤマトは改装の結果として、06式波動コイルを搭載し、波動防壁を展開できる」

 

真田さんの声が会議室に響く。その場にはヤマト艦長の古代、地球防衛軍司令長官の西本、真田の補佐としてヤマト技術長の木下、戦闘班長の上条のほか、第一艦橋要員と、戦死した折原の代わりとしてレーダー担当に就いた西条 亜香里(あかり)が集まっていた。

 

西条亜香里

彼女は旧ヤマト航海時にレーダー交代要員を務めた西条 未来の娘で、高い情報処理能力を持っている。母親の往時を思い出させる長いストレートの黒髪に、青いカチューシャをつけ、母親と見紛う程よく似ている。

 

波動防壁は、船体に設置された波動コイルを介して波動エンジンの炉心内で開放される余剰次元を船体周囲に僅かずつ放出して次元震で外部からの接触を押し返す様にはじく。

 

ガミラス戦役時の99式波動コイルは陽電子ビームを多少は防御できるが稼働時間も20分程度で心もとなく、被弾経始厚も貧弱だった。

 

ガトランティス戦役時からディンギル戦役時までの艦艇に標準装備された01式波動コイルはより強靭な防御力を備えたが、ガトランティスのイーター、ディンギルのハイパー放射ミサイルを中心とした単分子切断刃を持つ実体兵器に有効な対抗方法を持たなかった。

 

後に開発された06式波動コイルは、次元波動振動による共鳴現象を利用し、高周波振動を敢えて波動防壁表面で発生させることで共振で振動を全体に伝え、接触した物体を分子レベルで粉砕する。

 

「なぜ今まで波動防壁を搭載していなかったんですか?」

 

手を挙げ質問する上条。たしかに。言われてみれば…と同意の声が上がる。

 

「再建と言っても、あの時は必要な時間を縮めるため、波動コイルの搭載は見送られていたんだ。ブルーノア級も波動コイルを搭載する前提で計画され、船体防御力自体は低めに設計されていたが、カスケードブラックホール発見に際して急遽建造工程が繰り上げられて搭載は中止された。ヤマトの場合は最初から波動コイルが搭載できないことが分かっていたから防御力を引き上げることになったがな」

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

「波動防壁継続展開状態におけるワープテストに入る」

 

改装の際、全長は延長されメインエンジンの六連波動炉心を搭載した波動エンジンの位置をずらすことで、補機ー改装で艦本式コスモタービン改8基2軸からケルビンインパルスエンジン2基2軸に換装されたーとの間に空いたスペースに新型の小型波動エンジンー六連装の物を1基のみに分割したーを搭載することで6連発トランジッション波動砲発射後の再起動がより迅速に行える。さらに波動防壁を展開しながらのワープや波動砲の発射、移動しながらの波動砲発射も可能になった。

 

「了解。ワープテストに入る」

 

小林の号令の下、船体が加速し、青い壁の向こうの星々が流れる。

 

「ワープ!」

 

ワープインから1ナノ秒足らずでワープから抜ける。

 

「ワープアウト。航法装置に支障なし。航行に問題なし」

 

「現在地点、地球から1万5300光年の地点。跳躍距離は1万5214.22光年。予想との誤差、11.87光年です」

 

小林、桜井の順で報告が上がる。

 

「各武装に問題なし」

 

「レーダー、正常に作動中。異常は認められません」

 

上条、西条が報告する。木下に視線を送る。

 

「波動防壁、展開状態良好。問題ありません」

 

「機関に異常なし。出力、安定」

 

徳川も報告する。

 

「艦内気密状態問題なし。各部異常なし」

 

大村の代わりに副長になった真田さんから状況が伝えられる。

 

「波動防壁、カット」

 

「了解。波動防壁、停止します」

 

船にまとわりついていた青い壁が消える。

 

「真田さん」

 

視線を送るとこちらを向いて真田さんが声を上げる。

 

「うむ」

 

「これより、2エンジン同時使用による全力超長々距離ワープ試験に入る。万が一に備え、総員、船外服を着用」

 

『了解!』

 

古代が丁度船外服を着こみ終わったくらいから、各部からの報告が第一艦橋に飛び込んでくる。300m超の船体が大きく首を振り、180°反転する。

 

《こちら掌帆部、各班船外服着用完了》

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

各部からの報告で全乗組員の着用が確認され、テストに入る。

 

「ワープ準備」

 

「機関、出力最大。メインエンジン、第二波動エンジン共に問題なし」

 

「ワープテストに入る」

 

艦内には警報が響き渡り、音階が不安を煽る。

 

「10、9、8、ワープ開始5秒前、3、2、1、ワープ!」

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

「ワープアウト。現在地点は地球よr

 

船体に衝撃が走る。

 

「機関室、状況を報告せよ」

 

真田さんが艦内通信をつなぎ、天馬兄弟に質問する。

 

《メインノズル用のエネルギー伝導管が破損。最大出力の72%以上は使えません!》

《第二波動エンジン、炉心内圧の急変によりコンプレッサストールが発生。完全に破壊され再起動不能!》

 

どちらかが翔で、もう一方が走だろうが今は関係ない。

 

「機関出力60%に」

 

古代の指示は爆音にかき消され、伝わることは無かった。

 

「被弾!右舷艦首に直撃!」

 

真田さんがダメコンの指示を飛ばす。

 

「右舷前方、2:32の方角に敵影!」

 

西条が叫ぶ。

 

「距離3200宇宙キロ。相対速度-17」

 

機関室に届くことのなかった指令を古代が再び伝える。

 

「機関出力90%、余剰の18%は波動防壁に回せ!上条、主砲発射用意」

 

再び青い楯をまとった船体が唸りを上げ、ノズルからタキオン粒子が煌く。黒く武骨な鉄の塊が右を向き今にも吠えんと言わんばかりに先端から光を漏らす。

 

「敵艦種識別、ガトランティスです!」

 

西条の悲鳴にも似た叫び声が上がったのはそれから間もなくだった。




・注意を払ってはおりますが、誤字脱字等発見された方は報告していただければ幸いです。


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再びの戦禍の中へ

宇宙戦艦ヤマト2199・2202で土方艦長を演じられた石塚運昇氏が8/13に死去されていたそうで……(つい最近知りました)
って事は第六章の特報の「総員、退艦!」を最後に彼の演じる土方艦長の声は聞けないわけですね……
ご冥福をお祈りしつつ、第二話です。


「主砲1番、2番撃ち方始め!」

 

「うちぃーかたぁーはじめッ!」

 

主砲から青白い筋が吐き出され、一直線に闇の中へ伸びていく。緑に妖しく光る場所からは僅かにそれる。緑の光が輝きを増し、その色の筋がヤマトを掠める。そして白い帯を引き摺りながら鉄と火薬の塊が飛び込んでくる。

 

「現在位置は地球より201.32光年、増援到着まで22分です」

 

桜井の情報と共に更なる被弾による爆音が耳に入る。

 

「小林!取り舵一杯、離脱開始!補機、出力最大!」

 

「了解!」

 

小林が操縦桿を左に大きく倒し、鉄の巨体を操る。

 

「上条!後部砲塔射撃開始。艦尾魚雷発射管開け」

 

「了解!」

 

敵の凶弾が飛来する方向を睨んだ砲が火を吹き、艦尾から白煙を引いて魚雷が飛び出す。一際大きなノズルの下から顔を覗かせる補助エンジンのノズルが強く光り、船体を押し出す。

 

「敵艦より小型戦艦と思われる物体が放出!パターン分析中…反応が消失しッ…後方220宇宙キロに再出現!ワープをしたものと推定されます!解析終了、イーターと断定!」

 

「問題ない。06式波動コイルで防ぐことが可能だ」

 

真田さんが冷静に言葉を発する。

 

「波動防壁、艦尾に集中展開!」

 

「了解!」

 

木下がキーボードに凄まじい速度で文字を入力していく。

補助エンジンが唸りをあげ、より強く輝く。

 

「イーター接近!30宇宙キロ!迎撃不可能域まで3秒!」

 

「艦尾発射管、迎撃ミサイル発射!」

 

上条が指示を飛ばし、艦尾から6発のミサイルが放たれる。

 

「上条!主砲は敵艦隊に照準を続けろ」

 

「主砲、照準誤差修正よし!一斉射!」

 

小刻みに震え、敵を睨んでいた主砲から再び青い暴力が吐き出される。遥か遠くで微かに光る緑色の点に向かって伸びるそれは、飛んでくる緑色のものより太く、明らかに勢いがあった。一発目の着弾を待たずに二発目が打ち出され凄まじい勢いで敵に迫る。

 

「イーター、艦尾波動防壁に接触!」

 

鋭い先端を持った鉄の塊がそれを阻む壁に突き刺さり、沈み込んでゆく。しかし内側に突き抜ける事はなく、溶けて行くように消えていく。最後尾まですんなりと消えようとした瞬間、動力部の持つエネルギーが弾け、爆煙があがる。2、3回()()が起こり、また何もなかったかのような静寂が訪れる。

 

刹那

緑の筋と青の筋がすれ違い、交わり、彼方と此方で緑でも青でもない、橙が黒の中に混じった光があがる。敵の砲撃は波動防壁に阻まれる。しかし此方の砲撃はしっかりと敵を捉えていた。ミサイルを満載した艦が撃ち抜かれ、巨大な爆発が起こる。その火柱は僚艦のところまで威力を持って達し、艦体中に備え付けられた火薬に引火。より大きな華を漆黒の闇の中へ咲かせる。

 

敵大戦艦4隻の艦橋砲の第12斉射目、ヤマトの主砲の第5斉射目が同時に相手を捉えた。副砲もすぐさま照準を連動させ、一列に陣を組んで追ってくる大戦艦の先頭に雨あられと砲撃を浴びせる。お互いの砲撃の密度はすぐさま跳ね上がり、彼方で再び爆炎が上がる。

再びミサイル艦を捉えた砲撃がミサイルを誘爆させ、炎の濁流が横に伸び、大戦艦の艦体を真横から貫く。すぐにへし折れ、爆発が大戦艦を跡形も無く消し去る。

 

「敵艦隊後方に重力振!敵増援のワープアウトと思われます!」

 

主砲が撃ち出された方向の、背景を彩る星が微かに歪む。景色を切り取ったかのように黒い円が現れ、中から緑色の物体が出現する。それが幾度か繰り返された後には、緑の砲撃が絶え間なく津波のように押し寄せて、着弾の衝撃がより多く艦を襲うようになっていた。

 

戦況は緊迫の一途を辿っている。此方がより不利になりつつある。

 

「イーター第二波が出現。後方、距離30宇宙キロ。急速接近中!」

 

波動防壁に接触した()()()が再び消え去る。即座に艦尾発射管から放たれたミサイルが、後方に大きな盾を作る。敵の攻撃が吸い込まれ、表面で爆ぜる。

 

「正面に重力振!複数艦艇がワープアウト!」

 

「艦首発射管用意!」

 

ガトランティスの増援を警戒し、発射管にバリアミサイルが装填される。しかし、杞憂だった。

 

「IFF反応。地球防衛軍 第二遊撃部隊 基幹第201(にひゃくいち)戦隊です!」

 

水色の光が消え去ると、其処には改ドレッドノート級20隻、スーパーアンドロメダ級15隻、そして旗艦のアークツルス級1隻の艦影があった。

 

「更に基幹第202、203戦隊並びに、打撃第211戦隊がワープアウト。140隻を超えました!」

 

改ドレッドノート級60隻、スーパーアンドロメダ級85隻、アークツルス級1隻の計146隻が現れる。60隻の改ドレッドノート級が波動防壁を展開しながら紡錘陣形を作り上げ、ヤマトの右舷側を敵に向かって速度を上げ突撃し、すれ違う。主砲を雨あられと放ち、凄まじい密度の弾幕が壁となって突き進んでいく。

後方に展開した残りの部隊は旗艦を中心に2列の厚みを持ってマルチ隊形を作り上げる。前列の艦隊の波動砲口が青く煌き、先行する改ドレッドノート級の隙間を縫うように波動砲が放たれる。

一方的な蹂躙が敵艦隊を捉え、全てを無に返す。着々と波動砲発射の準備をしていた後列部隊はカウントを中止し、散開する。

 

「助かったぁ……」

 

第一艦橋の空気が緩む。その刹那、レーダーが()()を捉え警告を発する。

 

「後方距離1200宇宙キロ、未識別目標探知!イーターの改良型と思われます!10宇宙キロの地点にワープアウト!」

 

「艦尾発射管開け!」

 

「間に合いません!目標、迎撃不可能域に侵入!」

 

()()の尖った先端が波動防壁に衝突し、備え付けられた()()()()()()()()()()()()が波動防壁を喰い破り、船体へと迫る。

 

「波動防壁、貫通されました!」

 

木下の声が艦橋に響く。




・アークツルス級は、アンドロメダ級(2202版)の拡大発展型(改良型)という設定で、また改めて設定資料集の方に追記します。
・戦隊番号ですが、第◯艦隊は第◯+1~9の二桁。第◯遊撃部隊は第◯+基幹は0、打撃は1、+1~9の三桁の数字の戦隊で構成されます。因みに第1から第9までの戦隊は一個戦隊あたりの艦艇数が多く設定され、「主力艦隊(固有名詞)」を編成しています。


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嵐の前の静けさ part 1

前回のあらすじ 完全な状態じゃないのに真っ正面から撃ち合った結果がこれだよ!


イーターIIが波動防壁を破り、艦体の、艦尾ノズル直前部に突き刺さる。

 

「艦尾、ノズル付近に直撃!」

 

これまでのものを大きく上回る激しい揺れが艦を襲う。続けて爆発。激しい衝撃に揺さぶられ、数名が席から崩れ落ちる。しかしその中で微動だにしない古代、真田、徳川は、臆することなくダメコンの指示を矢継ぎ早に飛ばす。

 

《艦尾右舷魚雷が誘爆!《衝撃によりエネルギー伝導管が大破!》後部主砲弾薬庫に火災発s《艦後部の気圧が低下!応急処置として隔壁を閉鎖してください!》…が第17予備倉庫近くで発生!》…デッキ、第2デッキで火災!》

 

次から次へと報告が飛び込み、パニックを伝える。

 

「木下君、艦内の隔壁を閉鎖。後部弾薬庫に消火剤注入、並びに真空消火を実行」

「後部魚雷の誘爆を食い止める!次発装填装置を破棄!各デッキの気圧、火災、温度の情報をメインパネルに出せ!」

「走!翔!すぐにエンジンの出力をカット!このままじゃ火事も起きてないのに吹っ飛ぶぞ!」

 

被弾部から爆発を繰り返しながら、推力を失ったヤマトは爆発の反動に流されて黒煙を引きながら漂流を始める。3つのノズルが輝きを失い、どんどんと艦隊から離れて行く。

 

「隔壁閉鎖。弾薬庫消火完了!」

「後部魚雷給弾路、非常用シャッター閉鎖!」

「メインエンジン停止を確認!コンデンサの運動エネルギー保存状態は良好。補助エンジンエネルギー伝導管の損傷状況は現在確認中!」

 

メインパネルがあの特徴的な音を立てながら光り、緑の中に白線でヤマトのシルエットが描かれる。各ブロックに表示された数字が、赤色のもの(火災発生箇所の温度)は上昇を続け、白色のもの(火災未発生箇所の温度)は減少。青色のもの(気圧)は減少を続ける。非気密状態を示す橙色の枠で囲まれた部分が、喪失を示す黒色の部分まで後退する。

 

《補助エンジンエネルギー伝導管は損傷なし!いつでも回せます!》

 

「補助エンジン始動、動力接続。重力アンカー作動!小林、姿勢制御システムを確認!終了し次第、第三戦速で艦隊と合流開始」

 

「了解!」

 

小林の席のモニターに大量の白い文字が流れる。時折1行ほど赤い文字も見える。

 

「重力アンカー、作動します。姿勢固定よし」

「姿勢制御システム、一部に故障がありますが航行には問題なし!機関第三戦速、面舵いっぱい!」

 

補助エンジンのノズルが輝きを取り戻し、流されていたヤマトは再び自力航行を開始する。

 

「メインエンジンのエネルギー伝導管の状況は」

 

《メインノズルのエネルギー伝導管は全損!修理に15時間ほど必要です》

 

「第二波動エンジンは修理にどれくらいかかる」

 

《問題はコンプレッサストールのみですから、問題箇所のユニット交換。あとは金属疲労、歪み(ひずみ)ゲージの確認が終了すれば、およそ3時間。ユニット交換に2時間、確認・点検に1時間です》

 

「すぐに取りかかれ。1700に小ワープで地球へ帰投、修理を行う」

 

『了解!』

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

小惑星の陰に回り込んだヤマトは、外舷装甲の応急修理と、第二波動エンジンの破損部分交換が行われる。

 

《第17予備倉庫内の各物資、点検終了。喪失は最大で22%前後です》

《第2デッキの火災発生箇所は清掃終了!》

《第15分隊より報告、後部弾薬庫内温度は正常値へ回復!》

 

「コスモパルサー偵察隊、佐々木小隊より報告。アステロイドベルト向こう側の偵察を終了。半径3,800宇宙キロに敵影は確認されず、です!」

 

すぐ近くのアステロイドベルトのせいでレーダーが遮られ、密度のせいで艦が抜けることは不可能。そのため、コスモパルサー隊を小隊ずつに分け、数次に渡って各方向へ偵察へ出していた。反対側の開けた方向は、アークツルス級11番艦 アルヘナを旗艦とする第二遊撃部隊の各戦隊が警戒に当たる。ヤマトの直掩には、打撃第211戦隊が就いている。

 

聞けば第二遊撃部隊は、木星軌道で演習中、ヤマトの超空間通信を捉え、中断して急遽援護に来たらしい。

重大な抗命行為に値すると突っついた地球防衛軍の参謀部の益根(えきね) 照葉(しょうよう)に、アルヘナに座乗する(あん) 縁利(えんり)司令は「融通が利かなかった結果、嘗ての戦役において何を失ったか!ある時は人民を失い、またある時は地球そのものさえ失いかけた!今動かなければヤマトを失う羽目になる。それでも構わないんですか!」と食って掛かったらしい。そうやって必要以上のタイムラグが発生してこの損害だ。のんびりと本来の増援なんて待っていたら本当に沈んでいたかもしれない。

 

《第二波動エンジン、コンプレッサの換装並びに各種最終点検終了。出発できます!》

 

おっと、今は帰投が優先だ。機関再始動。コスモパルサー隊を収容し微速で離脱を開始する。

 

《ヤマト、古代艦長、聞こえますか?》

 

「旗艦アルヘナより入電。艦隊司令の安 縁利司令です」

 

「こちらヤマト、古代だ。貴官の素早い対応に感謝する」

 

《こちらアルヘナ、安です。よくぞご無事で》

 

「いや、我々もあれ以上の継戦は不可能だった。助かったのは君のおかげだ」

 

《いえいえ。そんなものでは……帰投に先行してこちらの先遣隊をワープさせます!》

 

「こちらヤマト。了解」

 

打撃第211戦隊の艦が次々と五月雨式にワープインしてゆく。

 

「第二波動エンジン、出力上昇。炉心内圧に異常なし」

 

「ヤマト、ワープ1分前。万が一に備え、主砲三式弾装填」

 

『了解』

「主砲、副砲共に三式弾装填完了!」

「ワープシステムの最終点検……問題なし!」

「次元エナーシャルキャンセラ、出力最大!」

 

「ワープ開始、45秒前……40秒前」

 

艦橋を赤い光が包み込む。ワープ明け座標軸を固定させるため、真田さんが波動関数と、それを調整する方程式を叩き込んでゆく。レーダーパネルに目をやると、周辺を追随する艦が表示されている。ヤマトの後方には、アルヘナを示す赤い点が点滅しながらレーダーパネル上を蠢く。

 

「ワープ!」

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

漆黒の星海の中に、蒼白い点が出現し、歪に拡がる。()()はすぐさま舟の形へ変貌し、蒼白い輝きを失う。其処には濃い灰色と、濃い赤色の二色に塗り分けられた大きな(フネ)が姿を表していた。その後ろへ目をやると、同じようにして前者を上回る大きさの、より近代的なシルエットの()()、アルヘナが現れる。

 

「ワープアウト!アクエリアスの海、手前200宇宙キロです」

 

「第二波動エンジン、出力60%へ。このまま巡航」

 

地球との通信を終え、暫く進むと、巨大なダイヤモンドのような、キラキラと輝くものが浮かんでいる。中央付近から、激しい棘が筋のように並んでいる。

 

「アクエリアスの海の脇を抜けたら、補機へ切り替え」

 

「了解」

「第二波動エンジンを停止、ケルビンインパルスエンジン、始動」

 

「中央管制センターより入電。第11ドックへ入れと言ってきています」

 

日本の、太平洋に面した、嘗て「横須賀」と呼ばれた街に3つある、地球防衛軍直轄のドックの内、西側の乾ドックへ進入せよ、と指示され、誘導信号が送られてくる。アルヘナはすぐ隣の第12ドックへ入り、保守点検を行う手筈になっている。

 

「軸線、誘導信号に合わせます」

 

ビルトインテストシステムが、損傷状況をドックの管制コンピュータに伝える。

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

地球防衛軍 小会議室

許可を得た者しか入ることが出来ない地下施設最下層の、高い防諜性を持つ部屋で、真田さん、古代、地球防衛軍司令長官の西本、前長官の藤堂平九郎が集っていた。

 

「この補修には、恐らく1ヶ月ほどを要するだろう」

 

カタカタと音を立てながらキーボードに文字を打ち込んでいる真田さんが話す。

 

「しかし問題はそれよりも、だ」

 

文字を打つ手を止め、硬い声で一言話す。皆が緊張の眼差しで真田さんを見つめる。

 

この後暫くして、一時も休まらない地獄のような戦いへ引きずり込まれることになるのだが、この場にいるメンバーがそれを知る由は無かった。




・イーターIIは、2202でのイーターが、イーターIと呼称されていたところからの連想です(つまり、オリジナル兵器です。)


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嵐の前の静けさ part 2

前回のあらすじ 命からがら帰ってきた古代は、真田と共に会議に引っ張り出される。

え?艦これの方から逃げてるだろって?ハハハーナニイッテルンデスカー(震)


「今回受けた損害は、そのほとんどが敵のイーターIIによるものだ。波動防壁を突破した攻撃は最後のイーターII以外に確認されていない」

 

かつての01式波動コイルが対応出来なかった敵兵器に対応できた06式を破る、恐ろしい新兵器を投入してきた。15年の歳月は、革新技術を型遅れの旧式へと変貌させるに十分だった。

 

室内の空気が凍りつく。

 

「今回回収したイーターIIの仕組みを確認したところ、波動防壁の対応範囲の外の攻撃だった。イーターIIは、Iとはまるで違う原理で破砕効果を得ているようだ」

 

机の上のモニターには側面図が表示されている。先端の正方形がいくつも重なった様な、幾何学的な模様の縁取りが、橙色に点滅する。真田さんがその手に持つタブレットを操作すると、いくつかの波形を描くグラフが表示される。グラフは合計で4つ。1つは古代から見て左奥、波動防壁固定振動周波数帯域と表示され、振動の幅は全ての内で最も狭い。右奥のものには波動防壁周波数帯域方程式関数と表示されたグラフが、よりゆったりとした、歪みの小さい波を描いている。平たく言えば、左奥が波動防壁側の振動の実測値、右奥はその理論値である。

左手前のグラフは奥の2つよりも振動数が少なく、振幅も幾ばくか小さい。イーターI暫定線形と表示されていた。そして最後に右手前のそれは、イーターII暫定線形と表示され、左とほぼ同じグラフになっている。

 

「真田さん。回りくどく話してないで、結論から話していただけませんか」

 

古代は話の骨がイマイチ掴めず、僅かに苛立ちながら言葉を発する。

 

「まぁ焦るな。対策も目処は立っている。もう暫くかかるがな」

 

そう言いつつタブレット端末を操作すると、イーターIIがディスプレイから消え、グラフが拡大されて1つに重ねられる。そして続ける。

 

「この黄色の線が波動防壁の振動数の理論値で、水色の線が実測値、橙色の線はイーターの高周波振動だ。IもIIもほぼ違いがないので、IIのもので代表して表示している。と、まあこの通り、イーターの振動数の方が、遥かに少ない。そのため、波動防壁は接触したそれを粉砕できる。従って、イーターIIの装甲突破方式は、高周波振動による接触部の破砕ではないと推察できる」

 

その場にいる全員の口から思わず息が漏れる。その場に漂う絶望感に皆が押しつぶされそうになる。場を打開する言葉も思い浮かばない古代は、押し黙って真田さんの様子を窺うしかない。

 

「問題は目標の先端部だ」

 

そう言いつつ再び端末を操作する。イーターIIの側面図が再び表示され、特に前方部の、尖った部分が拡大される。

 

「ここが新型の新型たる所以だろう。この部分が、()()()()()()()()()()()()として作用し、分子同士の接続に関わる力を分断して、構造体として完全に崩壊させる事でこちらの波動防壁を突破したものと推察される。これへの対抗は並大抵の事ではない。事は、波動防壁の強度をただ強くすれば済むという問題ではないからだ」

 

更なる沈黙が、全員を押し潰す。

 

「ここからは、あくまで理論上の話になるのだが」

 

圧迫感を振り払う様に、真田さんが口を開く。ここからの話に不要だと言わんばかりに、モニターの電源を落とす。

 

「現在開発中の"甲種波動コイル"ならば、防げるかもしれない」

 

「甲種波動コイルとは、なんなんです」

 

その場に居る者の中で、古代のみが腑に落ちないという表情を浮かべ、問い質す。普段は落ち着いて居る真田さんが、しまった、という表情を浮かべる。次の一瞬には目を伏せ、その後机の向こうの西本長官に視線を送る。思わず古代が西本を見やると、彼は目に戸惑いの色を浮かべ、再び真田さんを向いて首を横に振る。しかし目には未だ戸惑いの色が垣間見える。

 

「ここからは私の一存で、一介の宇宙戦艦の艦長に……」しかしそれを遮る声が響く。

「いや、西本君。君に責任を負わせるには偲びない。君はこれからの地球を担っていくリーダーだ。ここで失う訳にはいかない。古代君、これは私の……いや、現役を退いた老いぼれの、独り言だ……」

 

ヤマトの嘗ての航海において、強力に支持して支えてくれた藤堂前長官が重い口を開いた。正にヤマトの航海を支えていた大黒柱で、彼の努力が無ければヤマトに勝利は無かっただろう。

この場に居る古代以外の全員が知っている、軍機に関わる重大な秘密が古代へ明かされる。

 

藤堂の話を纏めると以下のようになる。

開発プロジェクト自体は、2202年から開始されていたコ-022計画が発展したもので、余剰次元爆縮の発生状況下で展開状況を維持できる、強力な波動コイルの開発計画だった。

試作品は波動実験艦ムサシによりテストが行われていたが、2203年時点で実用に耐えうる性能が理論的にどう足掻いても無い事が判明。即座に別系統の、01式の拡大発展型の06式の開発がスタートした。

真田技師は06式に掛かりきりで設計終了まで手が付けられなかったが、終了を期に計画は再開。

現在実用に耐え得る試作品が、ムサシに搭載され、運用上支障が無い事が確認された。現在は量産化を進めるため、生産性向上の為の改設計が行われているという。

 

「ここまでの事は、その全てが軍機に関わる。口外は厳禁だ。しかし、詳細はすぐに伝わるはずだ」

 

一頻り語り終えた藤堂は、自分の椅子へ深く身を沈める。もう語る事は無いと言わんばかりに目を閉じる。

 

「と、まあ、この話には続きがあるが今話す事はできない。分かってくれ」

 

再び真田さんの目が悲しげに伏せられる。

 

「本来局所的に使う予定だったので、大量生産を前提としてはいなかったんだ。改設計に時間を取られてしまってね。今回イーターIIによって問題点が浮き彫りになった06式の代替として、大量配備が必要なんだ」

 

古代も疎い男では無い。今回の航海前に再開した時にも、僅かな異変は感じていた。今この場に至るまで、少しずつ目の下のクマが濃くなっている事には気付いていた。なるほどそういう事だったのか、と納得し、1つ頷く。

 

戦力の再建が進んでいる地球艦隊の実情を思い出した古代は、先の戦闘を意識に登らせ、この先の地球の行く末を心配せずにはいられなかった。




・もう1・2話程度、地球編が続きます。


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嵐の前の静けさ part 3

今話は短めです。

そして石塚さんの後任、楠見 尚己さんに決まったそうで。大事もなく、嬉しい限りです。


艦体の修理が進むヤマトを見上げた時感じたのは、どっしりとした安定感と威圧感だった。全幅が大幅に拡張され、より重厚感もあった。嘗ての幅が狭い船体は、軽やかな印象があったのだが、と思い返す古代。

 

ドックの観察窓を介して、今目の前には、1隻の戦艦が身を横たえていた。平面で構成された葉巻型の船体に、艦首部は潰れた六角形の、2つに分かれた大穴が空いている。砲口周辺は、外側が黄色く塗装され、上に張り出した部分は他の艦体色と同じ灰色。赤い窪みがあるその上には、薄い板が2枚、そそり立っている。

艦体には三連装主砲塔が3基、備え付けられ、船体の各所に U.N.C.F. D-0001-2202 DREADNAUT と表記されている。

 

そう、そこにあったのは嘗て地球防衛軍の主力を務めていたドレッドノート級前衛航宙艦だった。しかも1番艦のドレッドノートがその身を晒していた。幾多の海戦を潜り抜け、現存している唯一の初期型(先行量産型)である。隣には、やはりというべきか、真田さんが立っている。

 

「残ってたんですね……初期の先行量産型……」

 

「ああ、しかも1番艦だよ。そしてこれを見て欲しい」

 

そう言って古代を反対側の窓へ誘導する。真田さんが手元のキーボードを操作すると、調光フィルムが白濁して見えなかったアクリル板が、調光フィルムに電圧をかけられ透明になって反対側まではっきり見えるようになる。

 

「これは……?」

 

その目に映った()()に思わず息を呑む古代。そこには、スコードロンリーダー塗装という点が大きく違うが、先程見たドレッドノートと似た艦が存在していた。完成したのだろう、艤装用クレーンが既に取り払われている。

 

「旧ドレッドノート級を改設計、発展・拡大改良したエルナト級戦艦だ。主砲は38.1cm三連装砲に換装、他の武装も強力な新型に変更され、全体の設計では、無理のある設計がなされていた箇所を改善してある。順当な、ドレッドノート級の後継だ」

 

船体には、側面に一際大きく U.N.C.F. E-0001-2221 ELNATH と書き込まれ、主砲も意匠はほぼ変わらないが、砲径が増大しているのは明らかだ。旧ドレッドノートは、艦後部に搭載された主砲が艦尾ノズルギリギリまでせり出していたが、此方のその部分はやや余裕がある。

全体的に禍々しいイメージだった旧ドレッドノートから、ゆったりとした、優雅な印象に纏め上げられている。

 

少し向こうを見やれば、2番艦以降が続々と完成が近づいているらしく、一部艤装に不足がある艦や、あと主砲を載せるだけの艦もある。

 

普通、完成した艦は、進宙式で艦名を公表、そして宇宙へ出発する。嘗て各国海軍で行われた進水式に倣ったものだが、それとは決定的に異なる点がある。宇宙は真空である為、完全に完成した状態で引き渡されるのである。

嘗ての進水式とは、船体が完成した時点で行われる。艤装込みではドックの船台が重量に耐えられないこともあるため、船体が出来上がった時点で海の上に浮かべ、その後浮き桟橋を使って艤装工事を行うことになるのだ。

しかし、進宙式では、そのまま処女航海へ出発し、乗員の訓練も同時に行われる。技術的問題が解決されたためだ。

 

また、アンドロメダ級で行われたような式典的な、セレモニーじみた進宙式ではなく、ドックで行われる簡素な物が基本となっている。盛大に行うには就役艦が多すぎるためだ。

 

「進宙式は明日、行われる。2番艦以降も同時に就役させる」

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

進宙式では、エルナトの艦名が発表され、2番艦はエリス(ERIS)、3番艦エクリプス(ECLIPSE)、4番艦エクスマス(EXMOUTH)、5番艦エコー(ECHO)、6番艦エレクトラ(ELECTRA)、7番艦エンカウンター(ENCOUNTER)、8番艦エスカペード(ESCAPADE)、9番艦エスコート(ESCORT)、10番艦エスク(ESK)、11番艦エクスプレス(EXPRESS)、12番艦エジンバラ(EDINBURGH)、13番艦イーグル(EAGLE)、14番艦エンガディン(ENGADINE)、15番艦エンプレス(EMPRESS)、16番艦エドガー(EDGAR)、17番艦エンディミアン(ENDYMION)、18番艦エディストーン(EDDYSTONE)、19番艦エセックス(ESSEX)、20番艦ユーフレイティーズ(EUPHRATES)、21番艦エッフィンガム(EFFINGHAM)、22番艦ユーライアラス(EURYALUS)、23番艦エクセター(EXETER)、24番艦イレクトラ(ELECTRA)、25番艦アーン(ERNE)、26番艦エトリック(ETTRICK)、27番艦エクス(EXE)、28番艦エスキモー(ESKIMO)、29番艦イーストン(EASTON)、30番艦エッグスフォード(EGGESFORD)、31番艦エクスプローラー(EXPLORER)、32番艦エクスカリバー(EXCALIBUR)、33番艦エグザンプル(EXAMPLE)、34番艦エクスプロイト(EXPLOIT)、35番艦エンデュレンス(ENDURANCE)の計35隻がドックから次々と飛び出して、宇宙へ向けてグングンと飛び立ってゆく。

 

その中の1隻、エリスに古代は乗り込んでいた。ヤマトの修理が完了するまで、艦隊の訓練長官・外部顧問的な存在としてである。艦橋から流れる景色を見ているが、先行する1番艦エルナトには、元第二遊撃部隊司令の安 縁利が乗り組んでいる。

 

ヤマトの救難時に、上層部の指示に逆らった結果、新鋭エルナト級で構成された内惑星守備 第三艦隊の司令、教練隊という形で人事異動(左遷)がなされ、現在はそのポストで落ち着いていた。

 

《こちらエルナト、各艦は火星軌道上で訓練を行う。目標地点へ向け、紡錘陣形を構築し第一宇宙速度で航行》

 

地球では既にエルナト級の増産体制が築かれていたな、と思い返し、先を行くエルナトへ焦点を合わせる。他の艦は前方へ展開し、エリスは殿として後方に位置取っている。

 

艦隊は速度を上げ目標地点へ向かう。これから先、地獄のような、多くを失う戦いが待ち構えているとは、誰も予想しないままに。




・此方でも確認してはおりますが、誤字脱字等発見された方はお手数ですが、ご報告いただければ幸いです。

・ご意見、ご質問など、お気軽に感想欄までどうぞ。


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小競り合いの終局

今回はヤマトは登場しません(古代他のヤマトクルーも)
ご留意ください。


冥王星基地

 

《こちら、メ22号回航艦隊。これより衛星軌道上から第二衛星軌道へ移行。ドックの受け入れ願います》

 

通信施設が超空間通信のタキオン粒子を捉え、肉声の要請を通信波から音声に変換する。第四次増援艦隊がこれで出揃い、エルナト級10隻、改ドレッドノート級155隻、スーパーアンドロメダ級85隻により構成され、他にも30隻の外洋型巡洋艦(パトロール艦)を支隊として警戒線に派遣している。

 

2ヶ月前の宇宙戦艦ヤマトとガトランティス艦隊との戦闘で、地球は内惑星系準2級防衛体制・外惑星系第1級警戒体制が敷かれている。主力艦隊は月面基地を中心に待機。第一艦隊は土星軌道を絶対防衛線として哨戒中。早期警戒ラインとして冥王星・海王星軌道が設定され、冥王星防衛艦隊は遊撃支隊として (特設)第3002戦隊 が編成に加えられている。

 

他の第二〜第九までの艦隊と機動部隊、遊撃艦隊は木星と土星に分散し、木星に機動部隊と2〜5艦隊。土星軌道ガニメデ泊地に遊撃艦隊と6〜9艦隊が待機している。内惑星系守備艦隊は各惑星・衛星に戦隊単位で分散して居たものを掻き集め、エルナト級170隻、改ドレッドノート級480隻、スーパーアンドロメダ級300隻が集結。

 

特設戦隊である事を示す接頭ナンバーは3。つまり3000番台は特設である事を示す。3001戦隊は海王星。3002戦隊が冥王星。3003戦隊はエリス。マケマケに3004戦隊と、太陽系外縁天体(合計17個)に特設艦隊(エルナト級10、改ドレッドノート級85、スーパーアンドロメダ級50、巡洋艦10)が派遣されている。

 

現在、地球の総戦力はブルーノア級2、アークツルス級12、エルナト級500(増産中)、改ドレッドノート級6,600、スーパーアンドロメダ級5,400、コスモパルサー隊(艦載機)1,500、コスモパルサー隊(紫雲)55,000。他にもアークツルス級改装戦闘空母を旗艦とし、ドゥーベ級空母を中心とする機動部隊に、合計1,350隻、17,000機が編成。各艦隊の護衛艦として、巡洋艦級15,200隻が各所に散らばっている。

 

嘗てのガトランティス戦役時を大幅に上回る大艦隊が、太陽系という狭い空間に密集している。しかし個艦性能では改ドレッドノート級・スーパーアンドロメダ級は拡散波動砲以外の性能ではやや劣る。

 

ガトランティスの前衛と思われる艦隊は各所に現れ、幾度か戦闘を繰り返し、やがて去ってゆく。この1週間で戦闘回数は頻度を増しつつある。ガトランティスが地球侵攻を予定しているのは誰の目にも明らかだった。

 

「こちら冥王星基地。寄港を許可します。第三管区143ドック以降を使用せよ」

 

《了解》

 

ドック入口の、ハッチドアを掠めて大型の艦艇が降下してゆく。波動エンジンの輝きを引きながらドック内に進入し、その身を横たえる。そのエルナト級を見下げながら、冥王星基地司令のケビン・アレクシアは薄ら寒い何かを感じていた。

 

「保守点検は10時間位内を目標。いつ奴らが来てもおかしくないぞ!」

 

『イェッサー!』

 

()()と憎悪を込めて呼んでいるケビンは、ガトランティス戦役時からの生え抜きで、嘗ては波動防壁を利用して一気に距離を詰め、主砲の連射能力を生かして至近から滅多打ちにする激しい戦術を得意としていた。気性は荒いが、サバサバとした性格から部下からは慕われている。

 

「哨戒中の警戒艦より入電!2,000宇宙キロの地点に重力振を探知!探知数は増加中!20…25…34…敵艦隊は34隻!」

 

最近のものの中では平均的な数字だ。陽動とみて間違いないだろう。

 

「第二戦隊を向かわせろ!」

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

軌道上にいて、待機していた第二戦隊が敵を睨み、主砲を放つ。20隻並んだ艦から放たれる主砲の帯は壮観で、主砲の連射力を生かして次から次へと撃ち出す。

青い筋は虚空へ伸びてゆくが、そこでは緑の光や筋が飛び、幾度か爆発が発生している。時折青い線も見える。

そこで警戒艦が身を翻しながら遅滞戦闘を行っていた。

 

波動防壁があるとはいえ、敵の砲撃が直撃したらひとたまりもない程度の装甲はあてにできない。機動性を生かして躱して、時折主砲を放つ。短時間で連射可能な主砲から、一度に二斉射を放つ。しかしその威力では、カラクルム級の正面装甲を撃ち破るには至らない。

それでも、数発放たれた内の一発が、今まさにミサイルをパトロール艦へ向けて投げようとしていたミサイル艦に直撃し、爆散させる。

 

それでも単艦で相手取るには圧倒的な敵艦隊に追い込まれてゆく。万事休すかと思われたその時、青い矢が刺さり、カラクルム級をへし折る。

次の瞬間には何発もの()が敵艦隊を捉え、弾幕をパトロール艦へ投げつけていた艦艇を次々に爆散させてゆく。

カラクルム級は艦橋の、艦橋砲を左へ振って緑色の矢を放ちはじめる。その巨体に似合わぬ早さで船体を回頭させ、矢継ぎ早に主砲を撃ち出してゆく。

 

「射角修正…テェッ!」

 

第二戦隊も負けてはいない。初弾から命中を得ていた上に、次々と撃沈破のスコアを上げている。強力な()()の主砲がカラクルムの正面装甲を切り裂き、艦の内部深くへ致命的なダメージを与える。再びの全艦一斉射で、爆発が幾つか発生する。側面から強襲を受けた敵は混乱して、砲撃に精彩を欠いている。一方の第二戦隊は、被害を受けずに着々と損害を与えてゆく。

 

双方の砲撃戦が白熱して来たその時、こちらを見失ったかの様に砲撃が途端に止む。敵艦隊の全艦が踵を返して、一直線にワープで帰ってゆく。

 

「ふぅ……帰ったか」

 

そう呟くのは第二戦隊の司令。こんな戦闘がもう通算で120回以上繰り返されている。

 

全面戦闘はもう目の前まで迫っている。

それが冥王星の全要員が感じている現況だった。そして、この予感は的中する事となる。その現実が地球にのしかかるのに、そう時間は掛からなかった。




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冥王星沖海戦 -1-

ガトランティス 遂に侵攻開始です。
もうちょっとだけ冥王星で戦うんじゃ


「通信網に電波障害が発生!通信妨害です!本部との通信が途絶!」

 

モニターに映し出されていたレーダー画面が一部を除いてホワイトノイズが掛かった状態になる。レーダーサイトとの通信も遮られ、情報が入ってこなくなったのだ。

 

「レーダーに障害も発生!ジャミングです!」

 

「光学探知機に切り替え!敵が来るぞ!重力振受動探知機も作動させろ!各レーダーサイトからの情報は有線に切り替えろ!」

 

レーダー画面が一瞬ブラックアウトし、再び光が灯る。レーダー、光学探知機、重力振受動探知機の3種の情報が総合され、可視化されて表示されている。

 

「重力振を探知!数は200を超えて尚も増加中!3,500を超えました!」

 

重力振を表す白い波紋が大量にモニターに現れ、密集して真っ白になる。一部が敵味方不明を表す黄色い点に覆い隠され、直ぐにその黄色が雪面の様に白い部分を()()していく。直後に、光学探知機の識別によって敵と断定され、赤い点に置き換えられてゆく。

 

「第二戦隊・第三戦隊はすぐさま抜錨!全力迎撃!第一戦隊も出る!」

 

基地内の全域に退避命令が伝わる。基地要員を収容して離脱するのは巡洋艦隊の役目だ。離脱し、持てるだけのありったけの情報を司令部へ届ける事も立派な作戦行動だ。特に通信が途絶した現状では重要な役目で、地球の命運が掛かっているといっても過言ではない。先遣艦として1隻だけワープで離脱するよう命令は出している。あとは巡洋艦隊が基地要員を収容し、離脱するまで戦線を押さえ続けるのが我々の役目だ。

 

「思ったよりも早かったな……」

 

ケビンは、脳内で情報を整理しつつそう呟いたという。

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

「状況は!?」

 

地球連邦防衛軍の中央司令部、司令部区画1番地に建つ情報処理センターの地下にある中央作戦室では、突如として連絡が途絶えた冥王星基地に、混乱していた。西本が叫ぶが、恐慌状態に陥った基地要員のざわめきによって掻き消され、伝わったのはほんの一部だけだった。しかし、何とか聞き取ったオペレータが叫ぶ。

 

「冥王星基地との通信途絶!一番近い受動探知センターからの情報によると、重力振が冥王星沖にて同時多発的に発生!冥王星基地はアラートを発したまま沈黙している模様!」

 

『戦闘情報収集中』の文字が画面に点滅し、緊迫感が漂う。思わずざわめきは静まり返り、場には沈黙のみが残っている。

 

「第三遊撃艦隊に命令!打撃第317、318、319戦隊を急行させろ!情報収集を優先し、冥王星艦隊と合流した場合は、即座に後退の援護!離脱が不可能と判断した場合は迎撃戦に徹するよう発令!」

 

「はい!」

 

西本の指示で、オペレータがキーボードを叩く。再び活気を取り戻した司令部だったが、直後に伝わってきた1つの通信の内容によって、司令部にガトランティス兵が入ってきたかのような沈黙と混乱に襲われた。

 

離脱に成功した1隻の巡洋艦からの、『ワレ冥王星ヨリ撤退中。敵数ハ約4千。冥王星艦隊本隊ハ現在防戦中ナリ』の暗号通信である。戦時用標準暗号コードで送られてきた内容に、全員の思考が停止したように思われた。

 

《こちら第三遊撃艦隊、打撃第317戦隊。命令の変更を要請する。我々はこれより、撤退中の冥王星先遣艦の元へ向かい、援護しつつ帰投する。要請の受諾は可能か?》

 

打撃第317戦隊の司令からより現実的な案が示される。西本が応答した。

 

「こちら地球連邦防衛軍、中央司令部。貴官の要請を受諾する。冥王星先遣艦を援護し、地球圏への撤退を護衛せよ」

 

作戦計画が変更され、護衛隊となった強行偵察隊が移動を始める。即座に小ワープで帰投中の先遣艦へ向かう。想定よりも遥かに早い襲来に、パターンごとの完全な対応計画が策定されていない。即座に対応できなかったのがその証拠だ。

 

「機動艦隊より偵察機隊を送り込む。ワープブースターを利用しての強行偵察だ」

 

《こちら第一機動艦隊。命令を受け取った。これよりコスモパルサー偵察機隊を12機送り込む。それで構わないな》

 

「戦術計画は全て貴官の選択へ任せる。幸運を」

 

《了解した。これより実行に移す》

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

ワープブースターを備えたコスモパルサーが、橙色の炎を引きながら一直線に飛んでゆき、特徴的なワープ時の波紋を残しながら消えてゆく。それをアークツルス級改装戦闘空母のアルナイル艦橋から、ブリッジ要員が見つめていた。主翼の上側には自衛用にミサイル。下部の兵装搭載部分には偵察用のTARP(戦術偵察ポッド)システムが吊り下げられ、その機体の後ろには機体の3倍も大きなワープブースターが接続されている。

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

《こちら3番機。隊長、冥王星の右上!》

 

「あぁ、分かってる!TARPS作動!」

 

コスモパルサー隊から見て冥王星の右上で、激しく緑や青の光が飛び交い、時折遥かに太い、青い帯が濃緑の有象無象へ突き刺さり、拡散して死の彼岸花を咲かせている。その周りでは絶えず爆発が繰り返されて、弾幕の光が揺らぐ。

 

「艦隊損耗率22%を突破しました!D級3隻が後退を要請し《右舷第二デッキに被弾!応急処置に入ります!》…う防壁、被弾経始厚72%まで低下!」

 

被弾が艦を揺すり、幾度もの衝撃が艦橋を襲う。艦橋に橙の光が窓から飛び込み、直後に足元から大きな振動が身体の芯を崩そうと言わんばかりに突き上げながら左右に揺さぶる。波動防壁に直撃した何発もの砲弾が被弾経始厚を削ってゆく。

それでも尚主砲は敵を睨み、有象無象を焼き払わんと青い筋を吐き出す。カラクルム級に直撃した砲弾が正面装甲を叩き割り、一撃にして轟沈せしめる。さらに過貫通して後方の敵艦にもダメージを与える。しかしその出血を上回る早さで、ワープアウトしてきた艦が隊列を詰めて一瞬にしてその穴は塞がる。

 

「チィ!ラチが空かない!次から次へとまるでイタチごっこだ!しかもジリジリ増えてる!」

 

「総数は4,000を突破!平均で毎分42のペースで更に増加中!」

 

叫ぶケビンに、観測担当のクルーが返す。

 

「後列部隊、波動砲隊形に入ります!エネルギー充填開始!」

 

後列のスーパーアンドロメダ級がエネルギー充填を始め、乱れ撃ちしていた主砲が黙り込み、艦首の二連の砲口には微かに青白い粒が発生する。()はすぐに球に膨れ上がり、一瞬の後には眩い光を漏らし始める。

 

薄くなった弾幕に、カラクルム級が果敢に切り込んでくるが、艦橋に直撃弾を受け数隻が一度に爆沈する。後続を庇う様に主砲は更に連射速度を上げて動きまわる。

格納式対空兵装が唸りを上げ、赤い筋をありとあらゆる方向へ撒き散らす。

見渡す限りの宇宙(そら)を埋め尽くすカラクルム級の後方から、どこにそんな隙間があったのか白い煙を吐きながらミサイルが飛来する。パルスレーザーがそれらを捉え、一纏めにして墜としていく。

 

刹那、後方のスーパーアンドロメダ級の波動砲口から、耐えきれないとばかりに青い帯が弾け飛び、迫り来るカラクルム級に向けて一直線に突き進んでゆく。カラクルム級の群れの中で、死の彼岸花が幾つも花弁を開き、デスゾーンを広げて、爆発という赤い血で染め上げてゆく。

 

「しっかし、まだゴミみたいにうようよしていやがる!」

 

ケビンの叫びとタイミングを合わせる様に、主砲から再び砲弾が吐き出され始める。

 

ここまでの戦いで、冥王星艦隊は数を減らしながらギリギリで防衛線を保っている。当初策定されていた防衛線からは、幾度となく後退を繰り返し、第7防衛ラインまで後退している。基地要員の退避完了は20分後と予想。収容中で身動きの取れない巡洋艦隊を護らねばならない。

しかし、現在までおよそ3〜4分で1本ずつ防衛線を後退している。あとおおよそ5〜6本後退せねばならないが、残りは第8、第9と、絶対防衛ライン、最終防衛ラインの4本。そこから先は基地に直接砲撃が届く。

スーパーアンドロメダ級の拡散波動砲で3,200まで数は減らしたが、こちらの損耗も激しく戦線を押し返すだけの余力は無い。1〜2本分の不足を補うには至らない。

 

冥王星沖での()()は佳境を迎えつつあったが、地球の()()はここから本格的な序章を迎えることになる。




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冥王星沖海戦 -2-

大変お待たせ致しました、申し訳ありません。

テレビを眺めながらいよいよ第六章公開か、と思っていたのも束の間。もう2週間が経過して……未だに劇場に見に行っていないのですが、予定が潰れまくって……見たい……見たいです……


「右翼の第二小隊が崩壊!前線が瓦解し始めています!これ以上は……ッ!」

 

艦橋の席に座るクルーが声を絞り出す。

 

「これ以上ここに留まったとすれば、カラクルム級は大挙して雪崩れ込んでくるな……各艦は後退を開始!波動防壁の出力を最大に!ここで引きつける!」

 

それまで目一杯青い筋を撃っていた主砲が、ほとんど狙いもつけずに乱れ撃ちを始める。どこを狙おうが大して変わらない。それよりも相手を引きつけて時間を作るのが目的なのだ。何処も彼処も緑色のガトランティス艦で埋め尽くされ、全周囲から放たれる砲撃に、ジリジリと波動防壁が削られてゆく。

 

「実体弾の残弾数が32%を切りました!もうそろそろ補給が必要で

 

しかしその言葉は最後まで発されることは無かった。波動防壁を貫いた攻撃が船体へ突き刺さった。それまでの被弾を上回る衝撃が、艦橋を襲う。

 

「波動防壁貫通されました!第二デッキ、隔壁閉鎖します!」

 

ダメージコントロールで辛うじて体勢を維持しているが、機関の推力は限界を迎え、いつ墜ちてもおかしくは無い。ありったけのバリアミサイルを放ち、艦の周囲には壁が出来上がっている。

 

しかしカラクルム級は、好機とばかりに一気に雪崩れ込み、間髪いれずに凄まじい砲撃を放ってくる。壁のように押し寄せる緑の光は旗艦を襲うことはなく、後退中の改ドレッドノート級を蜂の巣状に焼き尽くさんと幾度となく直撃する。

 

繰り返されていた砲撃に限界を迎えた幾らかの改ドレッドノート級が、遂に弾け飛び、黒い華を咲かせる。

 

バリアミサイルが生み出した壁も、執拗に繰り返される攻撃に退き際を見兼ねているように、辛うじて耐えている。しかし、戦力差は絶大であった。轟沈した改ドレッドノート級の隙間を縫うように、砕けた防衛線をすり抜けて冥王星表面へ降下してゆく。

離脱艦隊の旗艦として1隻のみ回されたスーパーアンドロメダ級が、鎌首をもたげて拡散波動砲を発射する。一部のパトロール艦も、隙間を縫って縦長に、細く伸びた陣形で迫り来るカラクルム級を睨み、艦首の小波動砲を発射する。

 

大きく華を開いた死の彼岸花と、その脇を帯状に伸びてゆく心許無い筋は、幾らかのカラクルム級を粉砕し、襲来する敵を一瞬だが怯ませた。しかしその()()は、形勢を逆転するには余りにも短すぎた。既に負けは定められている。あとはいつ沈むか(死ぬか)、それが精々3分変わる程度でしかない。

 

 

 

 

ーしかし、その3分が、ごく稀に運命を捻じ曲げることがある。ー

 

「全艦、波動砲発射準備よし!」

 

何時の間にだろうか、離脱して体勢を整えていたスーパーアンドロメダ級と旗艦のエルナト級が、理想的な位置どりで波動砲の発射準備を終えていた。

艦橋内に通信士の声が響き、それに合わせるように全艦が左右に姿勢を微調整する。

 

「波動砲発射用意!照準、set 110、72!全艦連動!」

 

側面のエネルギー反応に気付いたカラクルム級が、一斉に回頭してくるが時既に遅し。発射口が輝き、今正に吠えようと躰を震えさせている。

 

「目標、敵カラクルム級。発射ァ!」

 

戦術長の掛け声と同時にトリガーが引かれ、撃鉄(強制注入機)が引き起こされる。

一瞬の後に、波動砲口が更に輝き、波動砲が発射される。後続が減速し、渋滞の要領でダマになって、偏って集中していた艦隊に、青い筋がこれでもかと突き刺さる。船体を側面から貫かれたある艦は、其処を境にへし折れて爆散し、不運にも艦橋に直撃を許した艦は、コントロールする主を喪って冥王星の重力に引かれてヨボヨボと沈んで(墜ちて)いった。

 

それ以外の大多数は、ありとあらゆる場所を焼かれ、溶かされて爆ぜてゆく。

 

蹂躙の中で奇跡的にも生き残り、動き出そうとしたカラクルム級は、防衛線を構築していた改ドレッドノート級に雨あられと砲撃されて爆発四散。

 

甚大かつ深刻な被害を受けながら、なんとか辛勝した冥王星艦隊が、基地要員を乗せた巡洋艦隊と共に()()()()()()()()()()()

 

 

 

旗艦の船体が揺れ、爆発が隣に並ぶスーパーアンドロメダ級を照らす。そしてその相手もまた、爆発に身を捩らせていた。

 

「被弾!舷側に敵小型対艦ミサイル複数!両翼のクラスSも多数被弾!轟沈複数!」

 

激しく揺さぶられる艦橋でレーダー手が叫ぶ。

 

「デブリに紛れて接近した模様!赤外線探知での分類不可能!」デブリが爆発直後で、熱を帯びていた為だ。

「ダメージコントロール!隔壁閉鎖!」

 

レーダー手が再び叫ぶ。

「……後衛の敵機動部隊を探知!ナスカ級10、前期ゴストーク級50、更に随伴として駆逐40!」

 

モニターに敵艦隊が映し出され、ミサイルを次々と放っている様子がここからでも見受けられる。

 

「バリアミサイル発射!残存するクラスSへの被害を抑えろ!全艦隊、対空戦闘開始!」

 

パルスレーザーが弾幕の壁を作りミサイルを次々と墜としてゆく。艦の周りで爆ぜるミサイルがあらゆる角度から舟を照らす。被弾によって黒焦げになった艦名表示部分や船体側面の引き裂かれたフレームなどが戦闘の激しさを如実に表している。

 

しかし、バリアミサイルを躱して、僅かなパルスレーザーの隙間を縫って接近したミサイル複数が船体に新たな傷を刻み込んでゆく。その一方で、遥か前方では波動防壁を展開可能な残存する改ドレッドノート級が敵駆逐艦と激しい砲撃戦を繰り広げている。

 

「敵本隊を撃破する!目標、敵ナスカ級中型航宙母艦!2隻だけ続け!残り3隻は駆逐を蹴散らして突入を援護せよ!」

 

改ドレッドノート級の艦橋で指揮を執る艦長が矢継ぎ早に指示を飛ばす。直後、3隻が脇目も振らず一直線に敵中へ突入し始める。

 

敵中深く潜り込み、主砲は正面のナスカ級を睨んでいる。

 

「主砲、1番・2番、撃ちィ方ァ始めッ!」

 

勇ましい命令が艦橋の空気を震わせ、主砲から青い筋が飛び出して行く。敵駆逐が味方の砲撃で爆沈する光が艦橋に背後から差し込む。

 

まだ僅かに遠かった場所から放たれた砲撃は躱され、回転式無砲身砲塔から撃ち出された敵の砲撃が波動防壁を掠める。後続艦も砲撃を始め、集中して砲撃を受けたナスカ級は耐えきれずに大破。3隻は次の獲物を探す間もなく敵陣を突き抜けてゆく。

 

少し離れて反転し、再び突進してゆく。目標は、艦載機(カブトガニ)を発艦させ始めた次のナスカ級だ。

 

 

 

冥王星艦隊の命運を賭けた戦いは、佳境を超えていよいよ決着に向かいつつあった。




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修正記録
2019/03/20 文中の「後期ゴストーク級」の表記を削除し、その分は元の前期ゴストーク級の数に追加しました。(後期ゴストーク級は七章に出てきた黒い破滅ミサイル積んでるっぽい奴になるのかなぁ……と)


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冥王星沖海戦 -3-

前回の言い回しで気付いていると思いますが、冥王星艦隊、全滅します。

それでは、冥王星沖海戦、終結です。(今回は短いです。ご容赦ください。)


「再突入、全艦主砲斉射!」

 

1番2番主砲が火を吹き、真正面のラスコー級へ突き刺さる。エンジンノズルを破壊されるのみならず、貫通されて爆発する。一直線に迫ってくる改ドレッドノート級に照準を合わせた他のラスコー級、ククルカン級が弾幕を張るが、波動防壁がそれを阻み、逆に改ドレッドノート級の砲撃は一撃で鉄屑に葬り去る。

 

そして、速度を上げながら敵艦隊へ突入した3隻は追い抜きざまに手近の敵から滅多打ちにする。正面からも砲撃を受けた敵艦隊は混乱を極め、砲撃に精彩を欠いている。

 

「主砲発射!」

 

再びの号令で3基の主砲が四方八方の敵艦へ向けてめまぐるしく火を吹く。

 

「艦首スラスター、全開!減速!」

 

艦首側面のスラスターが光り、大Gを掛けて急制動を始める。横に並んだ駆逐艦の狙いは外れ、その内に改ドレッドノート級の主砲によって船体を貫かれて爆発。

波動防壁に阻まれる攻撃も、至近からであればその衝撃を船体へ伝える。小刻みに揺れる船体からミサイルが放たれる。直撃を許した1隻の空母は甲板に並んでいたデスバテーターのミサイルに誘爆して爆沈。

 

前方で一際大きな光が発生し、前期ゴストーク級が爆ぜる。更に追い討ちを掛けんと言わんばかりに旗艦のエルナト級が砲撃を始める。デブリの中から大口径の主砲が飛び込み、青と緑が飛び交う。

 

完全に統制を失った敵艦隊が全滅する前に、それは起こった。

 

「後方に高次元エネルギー反応!対消滅ミサイルが接近!数は100以上!」

 

何処からともなく、破滅ミサイルが多数出現し、迎撃する間もなく懐へ入られる。

 

「前方の敵艦隊も対消滅ミサイルを発射!合計で150を超えました!……右舷に高エネルギー反応!カラクルム級が多数ワープアウト!」

「デスバテーター複数が接近!」

 

「対空戦闘!」

 

「対空砲群、全滅!迎撃不能!」

 

温存していたのだろう、更に破滅ミサイルが襲来し、既に前方で善戦していた改ドレッドノート級は全滅している。残りの味方艦は30を切っているので、一隻当たり最低でも5発の対消滅ミサイルが襲う。エルナト級にもデスバテーターが迫り、舷側に対艦ミサイルが何発も直撃する。衝撃に襲われる艦橋で、ふと気付いたようにケビンが叫ぶ。

 

「後方巡洋艦隊は!?」

 

「ッ!対消滅ミサイル多数が着弾!残りは4隻!……後衛残存部隊も残り2隻です!」

 

破滅ミサイルはもう着弾しているが、彼方ではカラクルム級が一列に陣を組み、雷撃旋回ビットが幾重にも輪を描いている。

 

刹那、緑色に輝き始め、極小の粒が寄り集まって極太の帯が出来上がる。蓄えられたエネルギーは膨れ上がり、弾け飛ぶ。

 

「エネルギー流が接近!」

 

そのインフェルノ・カノーネを止める力は、もうその舟には残されていなかった。

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

「エルナト級が沈んだぞ!」

「エネルギー流、尚も接近!」

「離脱急げ!」

「港湾施設並びに機関に不調!離脱困難です!」

「接触まで残り30秒、回避不能!」

 

後衛として残っていた改ドレッドノート級2隻が降下してきて、護衛しようと傷だらけのボロボロの船体を敵へ向ける。収容を終えながらも、対消滅ミサイルの至近部への着弾を受けて機関が完全に破壊された1隻はもうどうすることもできず身を横たえ、残りの3隻も、対消滅ミサイルの影響による空間湾曲の発生で、補機が停止。外部電源を失った波動エンジンも出力の安定が困難となり、ただ其処で消え去るのを待つ他無い。

 

 

 

 

 

 

 

冥王星基地と呼ばれる施設は結果として3回陥落することとなった。

1度目は、旧地球防衛軍冥王星基地監視ステーションが、ガミラスによる猛攻を受け壊滅。

2度目は、ガミラス地球侵攻拠点としてのガミラス冥王星基地が、ヤマトとの戦闘によって全滅。

そして、3度目はこの通り地球連邦防衛軍冥王星基地のガトランティス再侵攻による全滅。




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幕間
太陽圏外縁演習 -前篇-


今話から漸くヤマトの登場です。

……6章の感想が、なんというかヤマト以外の艦艇に艦隊戦させてみた、的な感じですね。これ以上はネタバレなので言えませんが。というかもう既に終わってる!?時の経つのは早いもんですねぇ……





今回、脚注機能を試験的に採用してみます。ご容赦下さい。


冥王星沖での死闘が繰り広げられたのはヤマト帰還から2ヶ月後。ヤマトの修理に要した時間はおよそ1ヶ月。空白の1ヶ月間、ヤマトは何をしていたのだろうか。

 

その答えを知る為に、舞台を1ヶ月巻き戻し、場所も太陽系外縁部、準惑星エリスへ変える事にする。

 

 

「ヘリオポーズを通過、太陽圏を離脱しました。これより、演習を開始します」

 

レーダー手席で西条が冷静に告げる。

 

「機関、第一戦速!」

 

「レーダー、左舷より接近するミサイル多数を捕捉!左75°、仰角20!距離300宇宙キロ、相対速度14!数は140以上!」

 

演習相手艦からミサイルが発射され、急速に接近してくる。

 

「左舷魚雷発射管、一斉射!船体傾斜、右ロール20度!下げ舵10!続けて主砲、乙弾装填して待機!波動防壁、展開!」

 

乙弾は、三式弾よりもより実戦的な対空砲弾として開発されている。正式名称『三式融合弾』の名が示す通り融合反応と呼ばれる化学反応((熱)核融合に非ず)を応用した爆発によって放出された焼夷断片で敵機にダメージを与えるのが三式弾である。しかし多目的榴弾として対艦砲撃戦(ただ、相当な貫徹力を持ち、徹甲榴弾的な側面も併せ持つのだが)に用いる際にも有効な打撃が与えられるよう、対空戦闘に完全にマッチしているとは言い辛い箇所も複数ある。

それを補う為、実体弾は目的ごとに別々の物を用いるのが後の主流となり、対空専用砲弾として乙弾が用意された。

 

「左舷発射管発射!郷田、主砲は照準させたまま待機、乙弾装填!」

「アイサー、増速黒15、右ロール20!下げ舵10、ヨーソロー!」

「主砲左75、照準よし。乙弾装填確認!」

 

古代が叫ぶや否や、上条、小林、そして上条に答えた郷田が声を上げる。西条の見ているレーダー画面には、目標へ一直線に飛んでゆく自艦のミサイル群が映し出されている。

 

「主砲斉射!撃ち方始めッ!」

「撃ちィ方ァ始めッ!」

「一斉射、テェッ!」

 

主砲が火を吹き、爆炎が砲身の先端部を覆い隠す。左の彼方、150宇宙キロの地点で弾けると、広範囲に子弾を撒き散らす。強力な電磁パルスがミサイルの誘導電子回路を襲い、既に迎撃ミサイルで数を減らした敵ミサイル群の勢いを更に削ぐ。

 

密集していたミサイルが大きく分けて上下に分散し、多数が上方向から襲来する。

 

「敵群が上下に分散!上方から小型高速誘導弾85、下方から大型対艦誘導弾30が接近!」

 

「上方敵群を撃ち落せ!左舷発射管、斉射!パルスレーザー、迎撃始め!煙突ミサイル発射!」

「対空戦闘!」

 

「艦底部発射管、迎撃開始」

「下方目標、敵大型ミサイル、迎撃開始」

 

古代と真田さんが同時に指示を出し、対空兵装が唸りをあげて敵弾を墜とそうをする。しかし小型かつ高速で迫る上方のミサイル群は、その数を保ったままいとも容易く迎撃不可能域に侵入する。

 

「直上に敵弾!下方の大型誘導弾も18発が迎撃不可能域に侵入!」

 

レーダー画面に覆い被さっていた西条が上体を起こし、悲鳴にも似た声を上げる。

 

「機関推力最大!続けて右ロールプラス16、敵大型ミサイルに対して艦を()()()!面舵20、ダウントリムプラス8!隙間に滑り込ませろ!」

 

「上方からのミサイル群に対して投影面積が大きくなります!」

 

「いいから急げ!構うなッ!」

 

古代の無謀(無茶とも言う)とも言える指示に、上条が危険性を叫び返す。しかし古代が無理やり押し込み、小林が操縦桿に力を込める。

 

「右ロール16、面舵20!艦首下げ舵更に8!機関出力120%!」

 

エンジンノズルが輝きを増し、300mを超える巨体を押し出す。艦首のスラスターが輝き、首を大きく横へ降る。それによって艦尾が大きく横に滑り、船体全体が大きく横滑りしながら右へ回ってゆく。そのほぼ真下からミサイル群が赤い尾を引きながらまっすぐに突っ込んでくる。

 

「面舵並びに上げ舵一杯!このままの勢いでバンク角を付けて一気に回り込め!」

 

急加速・ロール・急旋回による遠心力で大Gが掛かる中、古代が追って指示を出す。

 

急激な機動によって、ミサイル群は狙いを外し、艦尾側面を下から上へ突き抜けて行く。

 

「上げ舵一杯!面舵!」

 

右にロールした状態から上げ舵(航空機でいう機首上げ)を取れば、斜めに傾いた状態で宙返りする事になるそれを、面舵を組み合わせることで旋回した時にできる()を基準とした水平面から浮き上がろうとする艦首を右に振って押さえ込んでいる。

 

「敵大型ミサイル、反転しています!……ッ!敵小型ミサイル群に突っ込みました!誘爆複数!」

 

ヤマトの僅か後ろ上方で、軌道を修正しようとしていた大型誘導弾が、同じく急激に機動するヤマトめがけて軌道を修正していた小型高速誘導弾の群れに突っ込む。結果として、近接信管が作動した一部が爆発し、周りも巻き添えを喰らい誘爆。至近での爆発の爆圧がヤマトを揺する。

 

艦橋の窓から差し込んでいた爆発の光が弱まる中、西条が睨むレーダーが大型艦を探知する。

 

「敵艦隊、右舷後方、方位 右134 に敵艦隊を探知!大型艦5、もう15°の旋回で同航戦です!」

 

旋回し続ける中、レーダー画面に映る点も右下からほぼ真横へと移動している。

 

「主砲右舷へ旋回!小林、艦首上げ舵22によって進行軸を並行に!続けて高度プラス47、同一平面に並べ!」

 

左右に関しては並んでいたが、艦首が大きく下へ下がり、尚且つだいぶ低い位置に位置取っていたヤマトを、完全に並ぶように指示を出す。

 

「主砲ショックカノン、旋回右90!」

「艦首上げ舵一杯!進行軸を並行に合わせます!」

 

しかし、その時には既に演習相手艦の弾幕が此方を捉え、至近弾・夾叉弾の衝撃がヤマトを襲いながら飛び過ぎてゆく。

 

そして一際大きな衝撃が立て続けに2回、艦橋を襲う。遂に命中弾が出たのだ。

 

「一番砲塔二番砲塔どうした!?応答しろ!……一番二番主砲、沈黙!」

「波動防壁貫通されました!主砲塔、非常用隔壁緊急閉鎖!」

 

(ヤマト本編における)第一艦橋要員の影の薄さ通算ランキング*1それぞれ第1位・第2位の郷田と木下*2が叫ぶ。(木下のセリフは最終局面での『撃ち損じる恐れがあります(意訳)』のみで、郷田に至っては桜井負傷時の『分かった』のみである*3)

 

「副砲並びに三番砲塔、撃ち方始め!右舷発射管一斉射!絶対に一歩も退くな!」

 

「右舷指向可能全兵装、弾幕張れ!」

「副砲並びに稼働する主砲、目標は敵の先頭艦!撃ち方始め!」

 

レーダーが捉え続ける目標を睨み、主砲副砲が青い筋を吐き出す。一直線に飛び込んで行ったが、大きく逸れてしまう。しかし修正するや否や次発、次々発が発射されている。先手を取られた状態で尚、5隻を相手に対等に渡り合えるだけの火力という暴力が敵艦隊を襲う。

 

「右舷、第2第3デッキに直撃弾。隔壁閉鎖。空間湾曲による射角誤差を計測、並びに再計算。主砲に諸元入力。ミサイルの誘導信号妨害に対して使用チャンネルを変更します」

「相対距離1,900宇宙キロから1,700宇宙キロに接近!依然として同航戦を維持」

 

桜井*4と西条が上条と郷田の補助をしていく。

 

「機関最大戦速!敵艦隊を追い抜きながらT字戦に移行する!撃ち続けろ!」

 

「波動エンジンの出力は最大だ!回し続けろ!」

「最大戦速、黒25!ヨーソロー!」

 

ノズルが更に力強く輝き、9万tに達する巨体を亜光速まで加速させる。急激な加速により、一部の砲撃が艦尾を掠め、加速度が大きくなるとその差は更に開く。

その間にも3基の砲塔は相手を睨み、砲撃を放ち続ける。

 

「副砲弾1発が敵先頭艦に命中!射角修正の後、一斉射!」

 

副砲の第24斉射目が漸く相手を捉え、主砲もその諸元を元に砲撃を始めるように、上条が指示を出す。

*1
当方の主観、並びに偏見と独断によって構成されています

*2
ちなみに第3位は中西……なぜ復活篇が独占する……

*3
……というかここまで来ると桜井と中西の当小説における異様なほどの静かさ(尤も、中西は一言のみだがセリフはある。……桜井の方は察してくれ……と言おうと思ったが実は最初のワープテスト時にセリフがある)が逆に不気味である

*4
1回くらい喋らせなきゃ……という謎の責任感に襲われた結果




・こちらでも注意は払っておりますが、誤字脱字等発見された方は、お手数ですがご報告頂ければ幸いです。
・ご意見・ご質問などある方は、感想欄までお気軽にどうぞ。

思ったんですけど西条の一部のセリフ、桜井の仕事と被ってますね……(面倒なので過去投稿分に関しては書き換えませんが)


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太陽圏外縁演習 -後篇-

アレですね。6章見た人なら多分わかると思いますが多分ガトランティスこの年までは残ってないですね……(ゴレ……いやなんでもない)

一応ムリヤリ理由付けする目処は立ったのでこのまま行きますが(だいぶあとの方で公開する予定)、一部手直し必要そうですね……


「主砲弾、複数弾着確認!」

 

一方的なまでの火力が装甲を貫き、機関部に致命傷を負わせたとして1隻が撃沈判定。推力を失った船体は落伍してゆく。

しかし、既にヤマトは繰り返される着弾に揺すられ、被害が拡大。継戦能力も限界に近付きつつあった。

 

「右舷発射管、全弾斉射!」

 

「テェッ!」

 

バリアミサイルが立て続けに放たれ、相手との間の空間を二分する。砲撃が表面に突き刺さるが、そこで爆ぜる。行手を妨げられたミサイルも自爆し、何波にも渡り襲来していたミサイルが誘爆して、後列がその爆炎へ突っ込み更に誘爆を繰り返す。

 

「機関は依然として健在。出力85%から95%へ!」

 

「全艦に達する。これより、全力での反航戦に移行する。衝撃に備え!」

 

「最大戦速、ヨーソロー!」

 

波動エンジンが湛えていた溢れんばかりの光が、更に力強く輝き、ヤマトが加速する。

 

「主砲、直撃弾観測!1隻轟沈!更に1隻の波動防壁を突破し、機関部に直撃弾!損害を与えた模様です!」

「波動防壁の消失を確認。波動干渉波の不規則変動並びに波動境界面の揺らぎを探知!機関不調であることを確認しました!」

 

主砲が波動防壁を貫き、一撃にして撃沈まで持ち込む。しかしそれだけでは収まらず、後方にいたもう1隻に大打撃を与える。

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

「相対距離、2,000宇宙キロ。敵艦隊正面です」

 

「面舵一杯!反航戦用意!」

 

「右舷より接近するミサイル群を探知!」

 

「回頭やめ!この体勢で迎え撃つ!」

 

「当て舵10!直進!」

 

艦首の右に付いていたスラスターが大きな炎を吹き出し、小林の意思に忠実に、実際の動きに反映させる。

真横から迫るミサイル群を真正面に睨んだパルスレーザーが火を吹き、濃密な弾幕がミサイルを襲う。しかし、パルスレーザーが直撃弾を得る前に、ミサイルが起爆。

周囲に光を撒き散らしながら衝撃を広げてゆく。

 

「右舷、距離200でミサイル起爆!レーダー、機能停止!」

「レーダー受信機に過電流!」

「強力な電磁波を検知!電磁パルスです!」

 

西条が声を上げる。見下げているレーダー画面は砂嵐のように真っ白で何も写っていない。桜井、木下が立て続けに状況を報告する。残り4隻の内1隻はミサイル艦を想定して大量のミサイル兵装を発射できるよう設定されている。しかし未だ全力攻撃は行っておらず、電磁パルスミサイルという間接的な武装で攻撃している。

 

「レーダー、光学モードに切り替え。タキオン観測による補償を実行!」

「了解!光学モードで再起動!」

「タキオン観測の観測情報、送ります!」

 

桜井がタキオン観測の情報を西条へ送り、西条の光学モードの画面を補償している。使えないのは、あくまでレーダーのみなのだ。また、至近距離であればギリギリレーダー波吸収幕に遮られずに補足できる。至近すぎて迎撃は不可能だが。

 

「レーダー、至近にミサイル群を探知!数40!迎撃不可能域内です!」

 

「総員、衝撃に備え!」

 

言い終わるが早いか、複数のミサイルがほぼ同時に右の舷側を突き破り、立て続けに爆発を起こす。広範囲に渡ってミサイルの直撃を許した右側面は大損害を受けた。右舷の舷側発射管は8門中6門が破壊。パルスレーザー群も被弾による損壊43%と、熱による銃身の融解又は歪み・湾曲・褶曲から来る腔発回避のため使用不能が48%に達した。合計で、健在なのは僅か9%しか無い。

 

光学モードでは探知不可能なステルスミサイルが懐へ入るのを許し、一瞬にして被害は拡大する。その間にも敵の主砲弾は装甲に突き刺さり、新たに傷を刻み込んでゆく。

 

「ダメージコントロール!隔壁閉鎖!」

 

「被弾箇所各班、確認・応急修理急げ!」

 

矢継ぎ早に指示が飛ばされ、その間にも舟は進む。

 

「面舵一杯!予定通り反航戦に移行する!」

 

「了解!面舵一杯!」

 

艦首が大きく右へ首を振り、敵艦隊と正対して速力を上げ、バリアミサイルを放ちながら突っ込んでゆく。その間にも副砲は直撃弾を得て、波動防壁に傷を付けていく。

 

 

 

 

反航戦に相対距離は瞬く間に詰まり、僅かに艦首を右へ振っただけで後部の主砲、副砲の射線が通った。

 

「波動防壁、出力最大!左舷に集中展開!続けて左舷発射管、バリアミサイル一斉射!」

 

「波動防壁最大!右舷は30%未満です」

「主砲、撃ち方始め!」

「左舷発射管装填を確認、発射!」

 

メインノズルのみならず、補機のノズルも力強く輝き船体を押し出す。間髪いれずに主砲が火を吹き、至近距離からの一撃が先頭を行く1隻を貫き撃沈する。直後に左舷の舷側からミサイルが放たれ、壁を作り上げる。その壁に阻まれ、機関不調で波動防壁が展開できない艦の砲撃はヤマトへは届かない。

 

しかしその合間を縫って、正面に近い位置に陣取るミサイル艦が小型ミサイルを大量に放つ。その中には、また、電磁パルスミサイルが含まれていた。

 

「正面にミサイル群!数は200以上!小型高速誘導弾多数です!」

 

「艦首魚雷、一斉射!」

 

「発射管開けッ!……テェッ!」

 

艦首魚雷が濛々と煙を吐きながら、迫りくる敵ミサイルへ一直線に進んでゆく。そしてヤマトからある程度の距離で起爆し、バリアの壁を一気に広げてゆく。

 

しかし、隙間を潜り抜けた数発が艦首ギリギリまで迫る。

 

「7発、急速接近!迎撃不可能域です!」

 

刹那、眩い光を放ちながら強烈な電磁波を周囲に広げてゆく。それは、紛うことなく電磁パルスミサイルだった。

 

「レーダー、ダウンしました!光学モードに切り替えます!」

 

「対空戦闘用意!1番副砲乙弾装填して牽制射!」

 

再び、その砲へ乙弾(対空砲弾)が装填される。直後に砲身の先端から炎が噴き出して、鉄の塊を真空中へ押し出す。

 

「左舷の敵艦、射線通りました!」

 

「後部副砲、上条の指示にて牽制射!続けて後部主砲、一斉射!」

 

「副砲、テェッ!」

 

副砲から青い筋が吐き出され、今にも主砲を放とうとしていた敵艦へ突き刺さる。しかし1発のみで、撃沈には至らない。それでも続けざまに撃ち込まれた主砲弾がその威力を以って一撃で葬り去る。

古代は間髪いれずに指示を出す。

 

「小林!面舵一杯!上条、パルスレーザー周囲に牽制射!残る副砲も乙弾装填、対空戦闘!主砲は敵艦を狙え!」

 

パルスレーザーが赤い破線を虚空に撃ち出し続ける傍ら、副砲は実体弾を発射する。小林の操艦によって大きく右を向いた船体から、主砲が発射される。一直線に向かうが、バリアミサイルによって弾かれ、その一瞬の間にミサイル艦最後の攻撃が行われる。

 

 

 

 

 

ステルスミサイルによって。

 

光学モードで探知できない大量のミサイルが、二手に分かれてヤマトに降り注ぐ。迂闊にもパルスレーザーの射界に入った1発が爆発し、襲来をヤマトに感づかせたが、左舷から接近する一群のみしか気取られる事はなかった。

 

「主砲乙弾!左舷に公算射撃!撃ち方始め!」

 

()()()()()()()()()、最後に左舷から接近するミサイル群を最後の脅威として全火力が充てられた事により、右舷側に致命的な隙を残す事になった。

 

「レーダー回復!左舷ミサイル群を補ソ……ッ!右舷側に250以上のミサイル群!迎撃不能です!」

 

西条の叫びと同時に、先頭の直撃が、薄い波動防壁を突き破り後続の200以上のミサイルがヤマトに直撃する。

 

「こちらヤマト。被弾により機関破壊、戦闘続行不能。これを以って演習を終了する。各艦乗員は十分に休んで欲しい。解散!」

 

古代が艦隊へ通信を繋ぎ、演習の終了を告げる。(尤も、全艦が轟沈判定を受けているのだが)

 

 

 

ヤマトが戦闘のノウハウを仕込んだエリス艦隊は、冥王星とは違い盲点としてガトランティスから見落とされ、辛くも耐える事になる。結果として地球反撃の足掛かりとなるのだが、それはまだしばらく先の話である。




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第一章 外惑星防衛戦
海王星沖航空戦 -1-


ヤマトはまた暫くお休みです。ご容赦ください。

タイトルの元ネタは台湾沖航空戦です(展開は全く違いますが)。


「海王星基地への航空隊陸揚げ、進捗率75%!現在稼働機数3,000機を確保!」

 

「戦闘空母、20隻全艦に各200機のコスモパルサー搭載を完了。基地隊と合計で7,000機です!」

 

発令所の壇上に立つ副司令に各セクションから報告が飛び込む。正面のスクリーンは電源が落とされブラックアウト状態で、天井の照明も必要最低限で、各々顔を照らすのは手元のコンソールに埋め込まれたディスプレイの光のみだ。

 

そして、その場の全員の顔にも、疲労の色が浮かんでいる。司令を含む主要メンバーは現在作戦会議中で、この場には居ない。そしてその会議は丸2日に達し、交代のしようもない発令所の要員もほぼ無休で航空隊の陸揚げを敢行している。

 

陸揚げといってもガス・氷が主体の海王星には地表と呼べる物は存在しない。嘗て浮きドックという形で運用されていた物があったが、現在は風化により崩壊している。その代わりに、浮遊大陸を造成してそこに大規模な施設を確保している。

 

現在地球連邦防衛軍の航空戦力は、脆く高価でかつ運用機数の少ない空母・戦闘空母よりも、硬く安価で運用機数の多い基地航空隊を主力とする方向へと舵を切り始めていた。奇しくも太平洋戦争における日本海軍の戦略と殆ど同じである。

 

 

そもそも防衛戦に空母というのは些か過剰で、コストパフォーマンスでは恐らく最悪の部類に入るだろう。攻勢に出る気がなく、ただ耐え凌げば良いのであれば、複数の航空基地を用意すれば良いのであって、そちらに攻撃を誘引しつつ迎撃すればそれで何も問題は生じない。複数用意すれば修復中も別基地からの迎撃も可能で、修復の時間も稼げるだろう。

また、反抗戦で航空戦力が必要だとしても、近海まで寄ってきた敵部隊に打撃を与えるのがセオリーで、かつ高確率で反抗側の最初の一手になるので、空母といった洋上航空戦力は不要である。基地からの航続距離で十分だ。

 

こういった事はアメリカに対する防衛戦でも、太陽系に侵攻してくるガトランティスの邀撃でも大して変わらない。ただ1つ言うのなら、惑星・衛星(即ち航空基地)は黄道面に集中しているのに対し、ガトランティスは360°から侵攻する事ができるので、黄道面の上下方向に関しては穴が発生する事になる。その穴を埋めるのが機動艦隊なのだが、星間国家の用兵思想の問題なのか、天の上下方向から侵攻を受けることは未だに例がない。

 

 

「作戦会議はまだ終わらんのか……」

 

疲労の滲む声で、一言呟く副司令。発令所の空気を震わしたその声は、しかし誰にも届くこと無く消えてゆく。

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

「これがたった今第一機動艦隊から送られてきた、敵冥王星侵攻部隊の情報です」

 

海王星基地作戦指揮所

海王星基地の中でも最深部に位置し、電波遮断、完全防音など防諜性は最強クラスである。壁には往年のガトランティス戦役時の戦闘詳報が、壁紙を覆い隠そうと言わんばかりに貼り付けられている。狭い密室空間に、10名近い要員が丸2日も閉じ籠っているので、通常気温20℃・湿度30%に保たれているべき部屋は、気温29℃・湿度77%という蒸し暑い空間となっている。防諜のため、盗聴器を設置されても気付き辛い換気システムは存在せず、扉の隙間も完全に機密が維持されている。

 

「太陽系外縁天体の小規模施設攻略に4,000隻規模を投入か……惑星の大型基地に対しての攻撃なら万単位のそれを投入してくるだろうな……」

 

基地司令が睨むタブレットには、偵察機がカメラで捉えた画像と共に、離脱艦の情報、推定される敵艦隊規模、接触を続けた偵察機隊の画像情報が事細かに表示されている。

 

作戦指揮所に用意されているタブレットは、万が一不正な侵入を受けても問題ないように、カメラ・マイクは搭載されていない。

 

「恐らく、太陽系外周方向からの侵攻でしょうから、8,000機の内6,000機は制空用装備、1,200機は強襲用の準対艦特化装備、800機は重爆仕様で決定……ですか?」

 

「戦術作戦部長、君の立場からは何かあるか」

 

「敵の対空火力は相当です。動きの愚鈍な重爆機では接近前に撃破される恐れがあります。また、制空用装備でも、AAMを迎撃するだけの火力はデスバテーターにはありますから*1、空対空戦では機銃兵装を重視した方がよいかと……2,000機を紫雲仕様、4,500機を制空用装備、1,500機を準対艦特化装備でどうでしょう」

 

「意見具申!我が基地航空隊は、制空権を完全に掌握することのみに注力し、敵艦隊撃破は空母機動部隊による砲撃戦で遂行するべきと考えます!敵艦隊への積極的な攻撃はリスクが大きすぎます!」

 

基地航空隊の統括飛行班長が割って入る。

 

「現在展開中の部隊では、砲撃戦で1万の敵を撃破するには火力不足です。基地航空隊による漸減邀撃を要するものと判断します!」

 

その意見に食いつくのは、母艦20隻と、改ドレッドノート級40隻・スーパーアンドロメダ級50隻を預かる艦隊部部長。眉間に皺を寄せて睨むように、ここまで押し黙って聞き役に徹していたが、このタイミングで癇癪を起こしたように発言する。

 

その意見は水と油のように、混じり合うことはなく、最後まで妥協を許さなかった。

 

「戦術作戦部長、君の立場で最終的に決定してくれ」

 

基地司令は気力の限界と言わんばかりに決定を丸投げする。若干2名ほどから冷ややかな視線が寄せられている気もするが、完全にスルーして、タブレットに情報を入力していく。

 

「紫雲2,800機、制空装備3,500機、準対艦特化1,700機とします」

 

「しかし…」

「異論は認めない」

 

艦隊部の意見がほぼ全面的に通った形となり、対艦攻撃隊の定数が増加する。飛行班も食い下がるが、司令が鶴の一声で一蹴する。ここまで言われれば流石に退かざるを得ず、今度はそちらが押し黙ってしまう。

 

そんな中、室内にサイレンが鳴り響く。

 

《総員、第一種戦闘配置!繰り返す!総員、第一種戦闘配置!》

 

「海王星軌道、F23地点にて重力振を探知した模様!早く発令所に!」

 

声に反応して、弾かれたように全員が各々の持ち場へ散ってゆく。

 

「紫雲並びに制空装備隊、今すぐに全機上げろ!」

 

全速力で駆けながら、通信機に怒鳴り散らす。

 

《現在、カタパルト001番から220番まで開放!第一陣、全機発進中!》

 

発令所で指揮をとる副司令から無線が入る。カタパルトは001から900まで存在し、その1/4を使用して戦闘機隊が海王星の空を覆い尽くさんと飛び上がっていく。

 

「制空隊は編隊の構築を急げ!地対空ミサイル、用意!」

 

《制空隊展開率、第一陣は56%に到達。制空第二陣並びに第一次攻撃隊の準備作業、進捗率90%を突破!》

 

《敵艦隊をレーダーで捕捉!総数3,500を突破し、現在も急速に増加中!後衛空母群と思われる中型艦部隊より艦載機250機が展開!》

 

レーダー担当要員が叫ぶと同時に、扉が開く。

 

「間に合ったか」

 

「偵察機が間もなく前衛に接触します。制空隊第一陣は展開完了。敵艦載機隊への攻撃に向かっています。会敵まで10分も掛からない筈です」

 

航空隊を表す緑のグリッドが、一直線に赤い点群へ突き進んでいる。

 

戦いは始まったばかりだ。

*1
さすがにビビりすぎです。一瞬で直撃するのに対空砲火なんて当たるわけがないでしょう?




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海王星沖航空戦 -2-

第七章の60秒の映像、公開されましたね。

高次元微細レーダーとやらがガミラスの例の紋様っぽく光ってたり、波動砲口がなんか変色してたり、いつもの如く作画の安定しない古代とか、あと航空隊(雷撃型じゃないノーマルカラーの三座/二座型)が地味にカッコいいとか、気になるところはいろいろありましたが、取り敢えず漸く完結ですか。長かったですね……(場合によっちゃこっちも書き換えないかんかもしれんので戦々恐々)

なんだかんだ書きましたが、海王星沖航空戦、続きです。


前回のあらすじ
名前の無いモブキャラ回。めっちゃ死亡フラグなのは仕方ない。(白目)


《こちら偵察1番。敵前衛艦隊と接触。カラクルム級……現在確認されている数では2,000前後を主力に、一部にメダルーサ級20前後を含む長距離砲戦部隊と思われる。これより接触を開始する》

 

偵察機より送られてきた光学映像がモニターに映し出され、最前線を伝える。大量の砲が睨みを効かせている遥か上空を飛んでいるが、凄まじい密度の弾幕が打ち上げられ、緑色の光の壁の様に偵察ポットのカメラに映る。

 

しかし砲撃を行っているのは外周のカラクルム級のみで、壁には大きな隙間が空いている。そして偵察機とはいえ、軽快な戦闘機であるコスモパルサーをベースに複座化された機体であるから、それらの帯を避けるのは造作もない事だ。

 

「第一次攻撃隊は展開率100%に到達!攻撃誘導を開始します!」

 

「ガス圏下方からの攻撃を行う!ガス圏下高速飛行に移行!」

 

「了解!」

 

作戦宙域図に表示されたグリッドが、敵艦隊へまっすぐ伸びた点線を辿る様に動いて行く。こちらが第一次攻撃隊だ。その反対側では、制空隊が海王星の裏側から回り込もうと、全速力で進んでいる。

 

《こちら偵察2番!敵機動部隊に接触!敵機動部隊はナスカ級450、アポカリスク級10を確認!》

 

ガンカメラの映像が、ブラックアウトしていたモニターの最後の面を埋める。そちらの対空砲火はカラクルム級のそれよりも穏やかで、一つ一つの帯がくっきりと見える。

しかし一発の威力は大きく、隙間を擦り抜けなければならない。愚鈍になるワープブースターを切り離すと同時に急加速。

カメラの映像では残像のブレが凄まじい事になるが、偵察機用に専用に搭載されたカメラは高性能で、コンピュータの補正込みで安定した映像をモニターに表示する事ができる。

 

光学識別装置が、映像から敵の数をカウントして、即座に戦力に換算する。

 

「攻撃隊の奇襲効果を引き出す!無人小型機隊、上方から先制攻撃!」

 

「了解!A(アルファ)隊、突撃開始!」

B(ブラボー)隊、同調して攻撃に移行します!」

 

コスモパルサーよりも更に小さな無人機が、直上から飛び込む。攻撃開始地点は敵陣中央。

小型・数と高速性を生かして、敵の高い防空火力に飽和攻撃をかける。不意討ちに近い形で行われたこの部隊の突撃は成功し、90%以上が撃墜されることなく敵陣奥深くへ潜り込む。

嘗ての作戦、ブラックバードの焼き直しに近いが、AIの発達により完全無人化がされ、かつ、敵陣が密集しているため誤射を恐れた敵は迂闊に迎撃もできない。

 

ちょうど、「(まっ)ちゃん」こと、赤松貞明中尉が(格闘戦は不得手な筈の)雷電でP51の50機以上の編隊に突っ込み生還したのと同じ構図である。

 

機体の周囲を監視するカメラとセンサーで捉えた敵の砲撃を避けるように、AIはひらりひらりと機体を操り躱していく。そのうちに敵陣中枢に達した70%の機体は、目の前のメダルーサ級をはじめとして、見渡す限りの(そら)を埋め尽くすカラクルム級へありったけのミサイルを撃ち込む。550機あまりから、2200発以上の対艦ミサイルが周囲に撒き散らされる。

中枢に辿り着けなかった10%(およそ100機弱)は取り巻きへ攻撃を加え、もう10%は撃墜された。

 

「敵艦隊、陣形が崩れ始めてます!」

 

レーダー情報が表示されたメインスクリーンを見遣ると、対空砲火を加えるためか、外側の艦から、艦隊から剥がれ落ちている。それに気付いた司令は即座に指示を出す。

 

「対空に有利な密集陣形が崩れてる!無人機隊第二波、並びに第一次攻撃隊、全機急上昇!攻撃始め!」

 

「了解、C(チャーリー)D(デルタ)無人機隊、攻撃誘導開始。敵本隊から乖離した複数を撃沈する!」

O(Oscar)P(Papa)Q(Quebec)R(Romeo)各大隊、攻撃誘導開始」

「各大隊は指示した敵艦小集団への攻撃を開始せよ。対艦兵装の使用量は無制限」

 

作戦図のグリッドで表示された有人機隊が、踵を返して急上昇を始める。その先にあるのは、無人機隊のグリッドと混じってなにがなんだかさっぱりなほどに密集した敵艦隊。その(海王星に対して)下方では、密度を薄くしながらグリッドがばらけ始めている。

 

有人機隊がガス雲を抜けるのも時間の問題かと思われた瞬間、別のグリッドが有人機隊の()()より遥か前方に突如現れる。Gを考慮しなくてもよい無人機特有の、軽快な急加速をかけていた。ダッシュで一瞬にして、分散しつつある敵艦隊に肉薄して、半数はそちらへ攻撃したが、もう半数は脇を駆け抜けて再び中枢へ飛び込んでいく。

 

《こちら偵察1番。敵陣中枢のメダルーサ級30は全て撃沈。こちらで誘導管制を行ったアルファ隊・ブラボー隊の最終生還率は72.41% 。他の戦果は、カラクルム級1,100撃沈破、同300大破。中央部隊は損耗率80%を確認。外縁部隊は20%であることを確認した》

 

「こちら司令部、了解。これよりチャーリー・デルタ隊はこちらの管制で攻撃を行う。E(Echo)F(Foxtrot)隊を誘導せよ」

 

《了解。上空待機中の第三波の誘導を行う》

 

通信が途切れると同時に、偵察機のグリッドの真下に現れた大量の点群が急降下を始める。

 

緊迫の抵抗が続く中、更なる報告が発令所に飛び込む。

 

「第二次攻撃隊、展開終了!増援のため待機中の予備航空隊と合流して、敵機動部隊へ戦術誘導開始!」

「第三次攻撃隊展開を開始。展開終了は12分後の1450を予定」

 

オペレーターは、徹夜の疲労を感じさせずに報告を続ける。

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

「やるじゃねぇか、あのブリキ缶共」

 

《無人ですからね、運動性能ははっきり言ってキチ○イでしょ》

《負けてらんねぇなぁ!》

《何のことはねぇ、向こうは4発、こっちは30発ヨォ!》

《その分愚鈍なんだから上がってくんじゃねぇよばかぁ》

《第三波もう突っ込んでるのかよ!はえーなオイ》

 

通信機から聞こえる、気心知れた同僚たちの罵声とその他諸々に、安心感を感じながらジョイスティックを握り直す。

 

「おめーら、軽口叩いてないで敵叩けよ!?」

 

《当然でしょぉ!》

 

一喝して纏めると、異口同音に通信機から声が聞こえる。いつもの騒がしさを感じながら、それでも普段の訓練とは違う()()であると体に言い聞かせ、今度はスロットルレバーを掴み直し、正面のHUDを睨む。

 

ガス雲の下なので目視では捉えることはできないが、少しずつ薄くなり、緑の光や、爆炎が幽かに見える。

 

レーダーが捉えてHUDに表示している情報と合わせて、もうそろそろガス雲を抜けるか、と思った途端、コクピットを覆っていた青の沈黙が剥がれ、漆黒の宇宙(おおぞら)が視界の真っ正面に開ける。




・こちらでも注意は払っておりますが、誤字脱字等発見された方は、お手数ですがご報告頂ければ幸いです。
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海王星沖航空戦 -3-

大変長らくお待たせ致しました


雲海に覆われた視界が僅かに薄らいだ直後に開けた漆黒の宇宙を、緑の光や爆炎が彩る。濃緑の塊が黒を切り取り、その中で爆炎が周囲を襲っている。

 

先行する無人機隊を追いかけるように、隙を突いて敵艦隊へ接近したO(Oscar)P(Papa)Q(Quebec)R(Romeo)各有人機大隊は、各々の目標へと散っていく。

 

1機あたり30発の対艦ミサイルが、200機ずつの各大隊で6,000発。4個大隊で総計24,000発のミサイルが、ワープアウトを重ね尚も数が増加しているカラクルム級6,000隻に襲い掛かる。至近距離から放たれる一撃は、ほとんど迎撃を受けず船体中央部に直撃する。

 

《こちら司令部。R大隊 第2中隊 第6小隊、R(Romeo)26(two-six)に告ぐ。R大隊 第2中隊は、後方にワープアウト中の敵艦隊への攻撃を開始せよ。繰り返す。後方のカラクルム級を撃破せよ》

 

「こちらR26リーダー、了解。小隊各機に告ぐ、これより第2中隊で共同での、敵後方部隊への攻撃を行う」

 

《OK!》

 

統制の取れた動きで、密集した敵艦隊から数十機がどんどん離れていく。内部に浸透された敵艦隊の外部への対空砲火は乱れに乱れ、擦りもしない。

 

「後続を一気に叩く!」

 

《やってやろうじゃねぇか!》

 

一個中隊40機で、三個大隊から1中隊ずつなので120機。3,600発の対艦ミサイルを翼に積み、リングが回転するような模様を周囲に出しながら次々と現れるカラクルム級へ迫る。

 

炸薬の大幅改良によって、1発でカラクルム級1隻を仕留める事ができる。次々現れる敵に対し、出来るだけ長く抑え続けるため出来る限り節約してミサイルを放つ。

 

ワープアウト直後に張り付かれ、一瞬で葬り去られる。迎撃する時間はあっても、同士討ちを避けるため撃てないか、混乱して狙いは定まらない。

 

《こちらR大隊第2中隊。出現する増援のカラクルム級は減少中!》

《こちら偵察1番。出現速度が最大時の40%前後まで減少!》

 

果敢に弾幕の隙間を縫って、敵艦隊へ迫っていく各々から報告が上がり、それを裏付けるように偵察機からも同様の情報が入る。

 

「押し込め!第二次攻撃隊、全機突入準備!無人機隊第4波、並びに第6波繰り上げで攻撃開始!」

 

「了解。G隊H隊、突撃開始。後続隊の足止めを最優先!」

「K隊L隊、飽和攻撃開始。孤立中の敵本隊を漸減邀撃せよ!」

 

「第二次攻撃隊、軌道周回率55%に!」

「制空隊第一陣、敵艦載機隊と接触!空戦開始!現在は制空優勢!」

 

「敵アポカリスク級、デスバテーター発艦を開始!毎秒8のペースで増加しています!」

 

モニターに映し出された映像では、黒を、白と緑が染め上げている中、一際大きい白い塊がグルグルと回転しながら、点を周囲に撒き散らしている。

 

 

 

ーーー

 

紅いパルスが縦横無尽に飛び交う中、紫雲が速度を上げて舞う。

 

編隊を組んでデスバテーターが迫るが、ヒラリヒラリと躱していく。

敵の中で、はぐれて単独になっている敵機に狙いを定めると、スロットルレバーを更に深く押し込み、MILからmaxABの位置まで前進させて一気に迫る。

 

デスバテーターの背中に張り付いた回転機銃が、真上から迫るこちらを捉えて射撃し始めるが、バレルロールで回避。

機体を掠る程の至近距離を敵弾が掠めて、敵の狙いが安定してくる。それに気付くや否や、フォーポイントロールに移行し、時折上下移動と左右移動で射界から逃れる。

 

主翼下のガンポッドの機銃の有効射程に捉えると、スロットルレバーに付いている切り替えスイッチで機首機銃からガンポッドに切り替え、スティックに掛けた右手人差し指に意識を集中させる。

RDY GUN-II

表示が切り替わるのを確認し、HUDに映る敵機に照準を合わせ、トリガーを引く。

 

孤立した敵機にはガンポッド、集団はミサイルで数を減らしてから機首機銃で襲う。重武装・重装甲な代わりに、大柄で愚鈍なデスバテーターでは追いすがることはできない。

 

《制空隊第一陣に告ぐ。敵航空戦力の誘引並びに撃滅に務めよ。制空隊第二陣が間もなく合流する》

 

司令部からの通信が入ると同時に、「エンゲージ」と交戦宣言が次々通信機から飛び込む。

急増した紫雲は、圧倒的な火力でデスバテーターを次々撃破し、制空権を奪い去る。

 

「こちらアルファリーダー、制空権確保に成功!敵艦隊へ突撃する!」

 

《こちら司令部。艦隊から拡散波動砲で攻撃を行う。突入タイミングは追って指示するので、第一警戒線まで後退せよ》

 

「了解」

 

反転しながら海王星に目を遣ると、ガス雲の中の空母から飛び上がるコスモパルサー隊が小さな点になって見える。

操縦桿はそのまま、首を大きく捻って後ろを見ると、敵艦隊から次々と更なる敵機が上がってきている。

 

 

 

ーーー

 

「艦載機隊、発艦中」

「重力アンカー、セットよし!」

「波動砲、エネルギー充填開始!」

「マルチ隊形、相対距離2,000で展開!」

 

「前衛警戒隊、前方15宇宙キロで波動砲発射体勢!」

 

閃光防御のため、艦橋の窓が暗くなるが、室内は照明に照らされ、明るいままを保つ。

 

「エルナト級より入電!射角情報修正、set 24 -2!」

 

「姿勢修正!絶対に外すな!」

 

戦闘空母でそんな言葉が響いた瞬間、海王星艦隊が拡散波動砲を発射する。

 

まっすぐに伸びた幾つもの花茎。その先端の蕾は、獲物の僅かに手前で死の花弁を広げる。細い花弁を広げたものは、高い密度でばら撒かれ、(重装甲のアポカリスク級は不可能だったが)周囲の大量のナスカ級を滅多刺しにする。

直掩のデスバテーターは全て消し飛ばされ、ナスカ級は耐えきれずに轟沈する。

 

太い花弁を広げたものは、高い破壊力を保ったままアポカリスク級に次々に命中して飛行甲板を寸断する。10隻の内、2隻の艦橋に直撃して爆沈。他の艦は飛行甲板4本の内、2本を残して小破で耐える。

 

《残り8隻はまだ艦載機を上げられる!収束波動砲の発射を!》

 

エルナト級から飛び込んだ通信にすぐさま応答した。

 

「了解!拡散波動砲から収束波動砲へ!照準そのまま!耐ショック、耐閃光防御!」

 

「set 24 -2、拡散波動砲から収束波動砲へ!全艦連動!発射8秒前、6、5、4、3、2、1……」

 

復唱した副長の指示に従い、最後の射角修正が試みられる。そして発射口の光が限界を迎えると、弾け飛ぶように青い閃光が飛び出す。

 

「波動砲、発射ァ!」

 

 

 

 




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海王星沖航空戦 -4-

ちょっと挿絵を使ってみます。(クオリティはアレですが……)


収束波動砲が次々とアポカリスク級を貫き、あっさりと撃沈まで追い込む。

エルナト級の拡散波動砲は、改ドレッドノート級やスーパーアンドロメダ級のそれよりも一発の威力は大きいが、収束波動砲の威力はそれすらも容易く上回る。

 

艦隊相手に使うのなら兎も角、要塞攻略や大型で愚鈍な重装甲艦に精密狙撃を行うのであれば、破壊力は凶悪の一言に尽きる。

 

「敵艦隊殲滅、敵航空部隊撃破を確認。無力化に成功。砲戦部隊への攻撃に移行する」

 

「後方機動部隊より入電!『艦隊司令部カラノ命ニヨリ現場デ待機サレタシ』」

 

「そうか……借りもんのお姫様に傷をつけさせる訳にはいかねぇなぁ……全艦、後方機動部隊の護衛に入る!」

 

『了解!』

 

統制のとれた動きで、スラスターを吹かしながら各艦が反転する。

 

刹那、警報器けたたましいサイレンと早期警戒機からの通信が同時に艦橋内に反響する。

急な来訪であるが、ある程度の予期はでき得ていたので、混乱することなく即座に反応する。

 

「右舷77°、距離62,000宇宙キロ。重力振を探知!数は少なくとも2,000以上!」

《海王星沖、64,000宇宙キロにワープアウト反応!3,500を超え尚も増大中!》

 

「総員、第一種戦闘配置!」

 

重低音の警報が艦内中に響き渡り、警戒感を引き立たせる。

 

「面舵一杯!反転して後衛部隊の援護に入る!舷側発射管開け!」

 

「艦首左舷発射管、バリアミサイル装填」

「撃ち方始め!」

 

艦首の左舷発射管が発射口を開放し、排煙スリットからは、開くと同時に白煙が吐き出される。直後に、僅かな時間差でバリアミサイルが飛び出し、応戦のため回頭している機動部隊と敵艦隊との間に壁を築く。

 

「左砲戦用意!」

 

「主砲左舷へ!」

「波動防壁、左舷に集中展開!」

 

「左舷多目的発射管、対艦ミサイル装填!」

「射撃目標、先頭の前期ゴストーク級!」

 

「誘導管制、艦橋指示の目標!」

「SSM、salvo!」

 

いち早く反転したエルナト級が速度を上げて機動部隊の下へ急行する。左を向いた主砲は、遥か遠くの敵艦を睨み、火を吹く時を今か今かと待っている。

 

「クラスD各艦は拡散波動砲のエネルギー充填開始!クラスSは全艦、我に続け!」

 

改ドレッドノート級はその場に留まり、拡散波動砲で焼き尽くさんと充填開始。対するスーパーアンドロメダ級は速度を上げて、加速しつつあるエルナト級を追い抜き隊列の先頭に出る。

 

「左舷、ミサイル攻撃始め!」

 

「左舷発射管、1番から5番まで開け!」

 

エルナト級各艦が舷側から白煙を吐き出すと、一拍遅れてスーパーアンドロメダ級も、ミサイルランチャーから右弦側へバックブラストを吐きながらミサイルを撃ち出す。

 

僅かに白煙を残しながら進むミサイルは新型の高速ミサイルであり、僅かな時間で敵艦隊へ到達する。

 

いきなりのミサイルの襲来で敵艦隊は大混乱に陥り、機動部隊の空母が海王星裏へ退避する時間を稼ぐ事ができた。被弾したミサイル艦は誘爆して周囲に爆炎を撒き散らしながら消えて行く。しかし、発射したミサイルの数が少なく、1割の撃沈にも至らない。

 

「取舵一杯、敵艦隊を正面に捉える!波動防壁、艦首に集中展開!主砲撃ち方始め!」

 

「ヨーソロー!」

「撃ちィ方ァ始めッ!」

 

背後に太陽ーそして地球もーを抱え、逆光の中砲撃を始める海王星守備隊。

 

 

【挿絵表示】

 

 

38.1cm三連装収束圧縮型陽電子衝撃波砲に火がともり、真正面を睨んだ砲身から次々に砲撃が放たれる。

スーパーアンドロメダ級の35.6cm三連装陽電子衝撃砲も火を噴き、弾幕の密度は急激に高まる。

 

「艦首亜空間魚雷発射管、開け!」

 

「亜空間魚雷、一斉射!てぇっ!」

 

艦首の、左右で4本の切れ込みから、黒く細長い物体が飛び出したかと思うと、一瞬で周囲の景色を歪ませて、その波紋の中心へ消えてゆく。

 

「主砲、直撃弾を観測!」

 

「手を抜くな、まだ序の口だ!」

 

青の閃光が、ミサイル艦の艦首のゴーランドミサイル(大型ミサイル)に突き刺さり、白い被覆が赤い炎を吐きながらはち切れる。

 

《エネルギー充填120%に到達!波動砲発射10秒前!》

 

「全艦、隊列を維持しつつ射線上から退避!小ワープ準備!近接戦闘で撃破する!」

 

《2…1…波動砲、発射ァ!》

「カウント省略!強攻ワープ!」

 

「ワープ!」

 

後方から滔々と迫る余剰次元の爆縮放射。光に等しいスピードで後ろから近づかれるが、淡い青い光を周囲に残して消える。

 

改ドレッドノート級の拡散波動砲はデスゾーンを作り出し、幾重にも重なる子弾が何者もの侵入を拒む。ミサイル艦の被弾に気を取られ、誘爆被害局限のため散開しようとして動きが鈍っていた敵艦隊は食い尽くされる。

 

それでもワープで次々と出現する敵艦隊だが、ワープアウト直後に至近から襲われ爆散する。

 

「第一戦速!右砲戦用意!右舷速射魚雷、牽制射!」

「クラスS各艦、ロケットランチャー一斉射!」

 

エルナト級の船体側面の四角い枠が穴に変わると、白煙を吐きながら短魚雷が次々と発射される。同時にスーパーアンドロメダ級のロケットランチャーが後方に白煙を吐きながらミサイルを放つ。

 

「正面に重力振!」

 

「回避運動!ヨーソロー!」

「ブレイク・ポート!」

 

「取舵一杯!」

「敵艦ワープアウト2秒前!」

 

レーダー士が叫ぶと同時に、操舵手は即座に反応して、指示通り回避に入る。急激な機動で大きなGが掛かるものの、正面衝突は辛うじて回避する。

 

「近接戦闘!」

「パルスレーザー、速射魚雷、テェッ!」

 

回避機動に船体が反応した直後、激しい衝撃をまき散らしながらカラクルム級が右舷側に現れる。

 

一瞬の沈黙。

 

直後パルスレーザーが火を噴き、零距離で撃ち込まれた射撃が装甲に傷をつける。速射魚雷が放たれ、一瞬で直撃して撃沈する。

 

「敵艦隊ワープアウト、さらに続く!」

「左舷距離44!次が来ます!」

 

「左舷、雷撃一斉射!波動防壁出力40%から60%へ!左舷に集中展開!」

 

白煙が左に発生すると、すぐに魚雷が飛び出して、直後に現れたカラクルム級に直撃して吹き飛ばす。

 

渦中へと突入したのはエルナト級のみであったが、1対多数が複数個所で繰り広げられ、あろうことか少数の側が次々と敵を食い破っていく。

 

「正面に重力振!反応大きい!」

 

「回避運動!」

「近すぎます!回避不能!」

 

「波動防壁、艦首に集中展開!出力100%!」

「零距離砲撃!突撃する!総員、衝撃に備え!」

 

これはアマテラスではないんだぞ……っ!

 

激しく揺れる艦橋で、艦長は自身に言い聞かせるように、声を絞り出すように呟いた。

 

 




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海王星沖航空戦 -5-

七章見て来ましたけど、なんていうかアレですね。
ちょっと腑に落ちないというか……もうちょっと素直に殺すなら殺す、生かすなら生かすってシンプルに終わらせても良かったんじゃないかぁ、と。

おや、誰か来たようだ。


「主砲1番2番、撃ち方始め!」

「艦首魚雷一斉射!」

 

敵艦がワープアウトし、エルナト級の艦首が食い込む直前に、主砲・魚雷を次々発射する。被弾箇所が崩れ、接触時の衝撃を和らげるが、質量差で大きく揺さぶられる。

 

「艦底部発射管開け!」

 

「一斉射!」

 

艦底の隙間が開き、目の前の鉄板にミサイルを直撃させる。

 

「甲板、対艦グレネード一斉射!叩き込め!」

「撃ち方始め!」

 

「右舷に高エネルギー反応!距離200!目標識別、カラクルム級です!」

「インフェルノ・カノーネ、来ます!」

 

「旗艦のアポカリスク級を巻き込んでッ!」

 

冷酷な敵の戦術に、思わず戦術長が声を絞り出す。

 

「これがガトランティスの戦法だ!骨身に刻め!」

 

「応戦用意!右舷速射魚雷!」

 

「バリアミサイル一斉射!何段にも防御スクリーンを重ねた上で、波動防壁の出力を最大にすれば耐えられる筈だ!」

 

「右舷、バリアミサイル撃ち方始め!」

 

「波動防壁、右舷に集中展開!」

「機関出力、120%!全エネルギーを波動防壁に回せ!」

 

「波動防壁出力、320MPaを超え、尚も上昇中!」

 

モニターに表示された波動防壁出力のゲージが青から赤に変化し、表示の桁が変わった事を告げる。それでも足りず、ゲージの上限が更に開放され、そうして漸く満タンになって止まる。

 

「総員、耐ショック姿勢!」

 

「着弾まで3…2…1…今ッ!」

 

バリアミサイルが広げた壁に突き刺さったエネルギーの濁流は、辛うじて貫くものの、威力を大きく削がれる。何枚ものスクリーンを超えて波動防壁に直撃した時にはすでに、圧倒的な堅牢性の波動防壁に弾かれてしまう。

 

「波動防壁低下率、16,500!」

 

「対消滅ミサイルの倍、か……」

 

しかし、波動防壁が耐えたインフェルノ・カノーネをアポカリスク級は耐えることが出来ず、味方の攻撃で撃沈される羽目になる。そこに残ったのはエルナト級だけだった。

 

「補機、出力最大!波動防壁出力を70%まで戻して砲戦再開!移動開始!」

 

「ケルビンインパルスエンジン、出力最大!」

「移動開始、増速黒45!ヨーソロー!」

「主砲、右砲戦用意!照準距離微調整、目標カラクルム級!」

 

「撃ち方始め!」

 

号令の下、右を向いた主砲が火を噴き、彼方のカラクルム級を串刺しにしてへし折る。更に威力を保って貫通し、奥のもう1隻にも直撃し、爆沈させる。

 

「現在、波動防壁出力200MPa付近で安定!被弾経始圧、維持してます!」

 

もうそろそろか……各艦反転用意!60秒後に、陣形の外周方向へ向けて反転し、ワープで海王星まで後退する!」

 

「しかし、ここで退けば敵は一気に海王星基地に」

 

「戦術長、あれが見えて、その言葉を吐いているのか?」

 

司令の語る言葉に、艦橋内の全員の視線が窓の向こうへと向けられる。海王星を真後ろに、深宇宙を真っ直ぐ睨むように艦首を向けるエルナト級の前には、(そして艦橋クルーそれぞれの視線が一点に集まる焦点の位置には、)()()()()()その存在感を放っている。

 

「じきに先行部隊が来る。地球司令部から直送のBBB戦隊が」

 

『トリプルビー戦隊!?』

 

艦橋内にどよめきが奔る。それも当然。BBBーBlack Berserk Battalion(黒狂戦士大隊)ー戦隊といえば、嘗てのガトランティス戦役で、無人AI艦隊として白色彗星内部への奇襲作戦に使われた部隊の略称である。

 

「了解!離脱準備!面舵反転、ヨーソロー!」

 

「艦隊司令部より入電!『BBB戦隊突入に際し、敵艦隊の陽動を所定通り実行せよ』です」

 

「我々で敵を海王星付近まで引きずり出せ、という事ですか」

 

「全艦の反転を確認!」

 

「全艦、ショートワープ!海王星まで退避!」

 

「白色彗星内にワープアウト反応!識別(IFF)コード受信、トリプルビー戦隊です!」

 

その声が響いたのは、ワープインの直前だった。

 

 

 

ーーー

 

「接敵中の海王星艦隊への通達完了!BBB戦隊のワープアウト30秒前!」

 

「白色彗星、依然として進路を維持!AI予測、Bの1に符合!」

 

「なぜワープしない。ガミラスの壁も無いのに」

 

「不明です!受動的観測手段で分かる事は、白色彗星が保有する総エネルギー量が以前の3割ほどであることしか……」

 

オペレーターと西本が会話する。今回のガトランティスの、嘗てと違う点だ。艦艇はワープで出現するのに、白色彗星はワープを行わず、ゆっくりと前進するのみだったのだ。

 

「BBB戦隊!ワープアウトしました!」

「彗星中心付近で重力傾斜高まる!」

 

「全方位攻撃に晒されている模様!波動防壁出力、1.2MPaを突破し上昇中!波動防壁は間に合っています!」

 

「退避中の海王星守備隊より入電!『我、敵艦隊殲滅に移行する』です!」

 

艦隊戦そのものはやや有利に傾きつつあり、いきなり内部への奇襲を許した白色彗星は歩みを止める。敵艦隊も混乱に陥り、統制を失ったようにバラバラに突撃を始める。

 

「彗星内に高次元エネルギー反応!対消滅ミサイルと思われます!」

「BBB戦隊、回避運動を開始。砲撃中の前衛が被害拡大!」

 

詳細な戦況は分からないが、各艦から送られてくる被害情報からおおよその見立てはできる。

 

「彗星中心核の重力傾斜、BBB戦隊の移動限界に到達!尚も高まる!」

 

 

 

ーーー

 

白く、濃い霧に閉ざされた虚無の空間。光に満たされているが、あらゆる()()が存在しないのではないかと思える、()()()()ともいえる空間。

 

そしてその静寂を打ち破るように、緑色をした大きな、葉巻型をした、そしてトゲトゲした禍々しい鉄の塊が、数えきれないほど多数で、陣形を組んで霧を割いて進む。

 

その進む先の白が、僅かに歪む。その歪みは周囲に波紋を広げていき、直後、青白い光を放ちながら、また別の鉄の塊が姿を表す。こちらは、灰色を基調に、側面を赤い帯で染め、黄色い細い線が筋となって入っている。

 

現れるや否や、青い光の筋を周囲に撒き散らし、次々と緑を吹き飛ばしていく。

その戦闘は紛れもなく、ワープアウトした、無人改装されたスーパーアンドロメダ級からなるBBB戦隊と、ガトランティスのカラクルム級との戦闘だった。

 

銀河由来の、ワープから連続しての波動防壁展開で、急遽応戦しようと砲塔を向けたカラクルム級の砲撃を弾き、スーパーアンドロメダ級の砲撃はカラクルム級を串刺しにし始める。

 

ミサイルポッドから白煙を吐き出し、ミサイルが次々飛び出す。その前側と、直後の艦橋の更に後ろに有る合計3基の主砲も火を噴き、血祭りにあげる。

艦底部ポッドから、小型無人機が大量に飛び出し、砲撃に気を取られていたカラクルム級に肉薄する。

 

密集陣形をとっていたカラクルム級は、小口径対空砲で濃密な弾幕を虚空へ打ち上げる。熟成されたAIの判断で機敏に動く機体でも、完全に躱し切ることはできず、1機、また1機と火を吹いて、黒い尾を引きながら墜落していく。

 

肉薄するのは艦載機隊だけではない。一部のスーパーアンドロメダ級も、波動防壁のパワーにものを言わせて正面から突っ込み、敵陣内部に被害を蓄積させていく。無人機がその脇を固め、対艦ミサイルで着実に1隻ずつ仕留めていく。

 

そして、戦闘がBBB戦隊に有利に傾き始めた時、重力傾斜がどんどん高まり始める。




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海王星沖航空戦 -6-

キリのいい話の落し処を見いだせずに長くなりました……(汗)

そしてまさかの2202からさらに続編。
ヤメテ!筆者のライフはもうゼロよ!(主に設定がズレまくる点で)

平均の1.5倍程度ですが、お読みいただければ幸いです……(震)


「全艦、波動砲発射用意!」

 

「エルナト級並びにドゥーベ級空母は拡散波動砲、クラスD・Sは収束波動砲用意!」

 

海王星の淵ギリギリから顔をのぞかせ、波動砲口を輝かせながら発射に備える。

 

「波動砲での攻撃の後、艦載機隊突撃、用意!」

 

「波動砲、エネルギー充填90%!」

 

「カウント省略!充填120%に到達し次第各艦、各個に発射!」

 

「了解!通達します!」

 

その間にもエネルギー充填率は上昇を続け、旗艦のそれが115%を超えたあたりで一部の艦が発射し始める。

 

「エネルギー充填120%!」

「波動砲、発射ァ!」

 

引き金を引く動作から一拍も置かず、突入ボルトが薬室弁に接触する。

 

ドレッドノート級から引き継いだ、縦置き二段構えの2つ*1の薬室から直接吐き出された余剰次元が、エネルギー噴流として発射口内を駆け巡る。

 

右旋波と左旋波が混じった噴流は、砲口内のスプリッター(エネルギー噴流分割整流板)により分離され、再び撃ち出させる。

 

そして、多重ロックオンシステムにより、厳密な条件の下制御された噴流は、各々が直撃・貫通して更に直撃を繰り返して、1,000を優に超える敵艦隊を粉砕して焼き尽くす。

 

そして、クラスD・Sの収束波動砲も、真正面からオーバーキルで叩き潰すなど圧倒的な威力を見せつけ、カラクルム級の陣形に大きく穴を穿つ。

 

「敵艦隊、反転して撤退しています!」

 

「BBB戦隊からの戦闘情報を受信!消耗率1.21%。現在、直接戦闘圏に敵影無し。しかし、500隻規模の敵部隊が白色彗星内部に多数遊弋中」

 

《こちら海王星基地。敵艦隊の襲来に備え、第三次から第七次攻撃隊、並びに全制空隊を発進させた。偵察隊第一群が次元振を探知した宙域への攻撃に備え待機中》

 

「了解。該当宙域より、大規模な侵攻が行われる可能性大。警戒されたし」

 

通信を終えた刹那、白色彗星の輝きがふと増す。同時に、BBB戦隊の情報をモニターしていた通信士が声を上げる。

 

「白色彗星、核付近にて重力傾斜高まる!」

 

そして、ほぼ同時にレーダー手も緊迫した声を上げる。

 

「右舷44°、3,200宇宙キロの地点、カラクルム級多数出現しました!」

「同宙域にて、次元境界面の屈折を観測!ワープではなく、亜空間航行での出現です!」

 

「基地航空隊が警戒していた地点に新たな敵艦隊現る!総数4万を超えました!」

 

「二正面作戦……ここまでとはな……」

 

艦隊司令はそう呟くと、気を取り直したように指示を出し始める。

 

「波動防壁、右舷に集中展開。右舷速射魚雷、牽制射一回!」

「波動防壁出力、180MPaに到達」

「右舷、速射魚雷一斉射用意……テェッ!」

 

「主砲、1番2番共に右舷へ!砲撃戦用意!」

「主砲、照準完了し次第、順次射撃開始!」

 

「目標付近にてエネルギー反応!敵艦隊、砲撃開始!」

 

「敵艦隊のこれ以上の増加を食い止める!亜空間魚雷1番から4番まで、撃ちこみ続けろ!弾幕張れ!」

「亜空間ソナー、次元振を探知。現在、亜空間航行中の総数は6万前後と推定される!」

 

嘗てと同じ、絶望を植え付ける圧倒的なまでの、一方的な数の暴力が場を支配する。

 

「爆雷投射機、スタンバイ!」

「発射サイロ、1番から42番まで開け!対潜弾頭装填!」

 

「亜空間魚雷、二斉射目、テェッ!」

「弾幕切らすな!爆雷撃ち方始め!」

「撃てぇっ!」

 

亜空間との境界面を突き破った魚雷は、群れを成してゆっくりと進むカラクルム級に突き刺さり、一撃で複数まとめて葬り去る。

さらに追い討ちをかける爆雷も、次元境界面から降り注ぎ、敵陣深くで爆発する。40発以上の爆雷は、一撃で何隻も鉄屑に変え、破片と爆炎を周囲に吐き出す。

 

亜空間ではビーム兵器は使用不能なので、これを防ぐ手はカラクルム級には存在しない。*2

 

流石のガトランティスも一方的な蹂躙には堪えられず、押し出されるように次元境界面から顔をのぞかせ、6万以上のカラクルム級が次々通常空間に現れる。

 

「藪をつついて蛇を出したか……」

「亜空間から攻撃してくることはないですね、迎撃する気配が無かったことから考えれば」

「天王星より内側は、亜空間警戒システムが稼働してますから、万が一にも突破されることは無いかと」

 

呟く司令に、副長や艦長が反応する。

 

「主砲1番2番、砲撃始め!」

「右舷速射魚雷、用意!」

 

「主砲3番、続けて射撃開始!」

「右舷多連装ミサイル、全弾射撃!」

 

「距離、3,200宇宙キロから3,100宇宙キロに接近!」

 

「取舵60!離れるように舵を取れ!」

「取舵、増速!」

「機関、出力85%へ!」

「両舷前進、強速!黒20!」

 

エンジンノズルの輝きが増すが、直後に舷側から吐き出された白煙がエルナト級の姿を覆い隠す。

 

「現在捕捉中の敵部隊、総数14,000を突破!敵陣、奥行は22宇宙キロに到達!」

 

「クラスS、全艦統制ミサイル攻撃用意!」

 

エルナト級の後ろを進むスーパーアンドロメダ級のミサイルポッドが右を向き、8門の発射管を開いて攻撃の指示を待つ。右を向いた主砲は次々に砲撃を撃ち込み、敵の船体を食い破った砲撃が、後方の敵も串刺しにして撃沈する。

 

「全艦、ミサイル一斉射!」

 

号令一下、白煙を後ろに吐きながらミサイルが次々と飛び出す。

 

「主砲、弾幕切らすな!右舷速射魚雷、敵陣中央に集中させる!」

「右舷亜空間魚雷、敵陣中枢部に照準!」

 

「敵艦隊!砲撃開始しました!」

 

「右舷舷側砲、撃ち方始め!薙ぎ払え!」

「集中砲火用意!」

 

それまで黙っていた、艦橋基部の6つの穴に光が灯り、急速に輝きを増して弾ける。

 

真横に伸びていった青白い筋は、屈折システムにより進む間に薄い板状に断面形を変化させ、敵陣(カラクルム級の群れ)に飛び込む。

直撃を受けたカラクルム級は、その面で真っ二つに斬られ、断面から火を噴き爆沈する。

 

それに合わせて放たれた主砲も、遜色ない威力で次々と鉄屑に変えてゆく。

 

カラクルム級も黙って見ている訳にはいかず、艦橋の大口径砲が猛烈な弾幕を張る。

 

その多くは海王星艦隊の各艦の脇を通り抜けるだけだったのが、少し経つと波動防壁に被弾し始める艦が増える。しかし、波動防壁はその攻撃を一切受け付けず、被弾経始厚の減少も目に見えないレベルでしかない。

 

「舷側砲、第二斉射用意!敵陣正面で上下に屈折させて輪切りにしてやれ!」

「了解!敵艦隊までの距離測定、AIに直接入力!現在最高効率になる屈折角度を計算中!…………計算終了!射撃盤並びに屈折装置に諸元入力!」

 

「撃ち方始め!」

「テェッ!」

 

主砲と同時に放たれた光線は、先程と同じく薄い板状に変形し、敵陣を浅く抉ってから上下に折れ曲がる。カラクルム級は葉巻型の船体を貫かれ、その面で真っ二つに折れて、赤く彩られた断面を晒しながら爆散する。

 

「敵艦隊、撃破数624、中破91です!」

 

全体からすればまだまだ1%前後であり、敵の数は大して減っているようには見えない。しかし、速射魚雷が穿った破孔を埋めようと動いていた表層のカラクルム級に被害が出たため、敵艦隊の動きは一瞬鈍る。

しかし、敵陣中枢に*3攻撃を届けるには、無理やりにでも破孔を開けてそこへ波動砲を撃ち込むしかない。

 

その機会を失ってはならぬと、火力を集中してはいるが、敵数が膨大でじりじり穴は浅くなる。

 

「主砲、速射魚雷、中央部の破孔を拡げろ!弾幕もっと張れ!」

 

その指示が出るや否や、乱れ撃ちをしていた主砲の向く範囲が一層狭まり、着弾で爆炎の花が咲いていた範囲が中央周辺に集中する。

 

「速射魚雷、信号ロスト!」

「ジャミングです!誘導信号を妨害されている模様!」

 

「レーダー、受信機のECM検知回路が妨害電波を観測!」

「妨害周波数をAIが計算!妨害を受けない周波数を算出しました!」

 

「速射魚雷、誘導周波数を変更!」

 

クラスSのミサイルポッドからも次々とミサイルが吐き出され、エルナト級の船体では速射魚雷のみならず、多連装ミサイル発射機も白煙と共にミサイルを発射する。

更に、主砲のみならず舷側砲も輝いており、弾幕がカラクルム級を襲い続ける。

 

「敵艦隊周辺でエネルギー反応高まる!」

 

「亜空間魚雷、右舷発射管開け!」

「2番4番、撃ち方始め!」

 

エネルギーが高まりつつある敵カラクルム級に狙いを定め、亜空間魚雷が発射される。右舷の全兵装が絶え間なく着弾し続ける敵陣中央部は、窪みが大きくなり、炎しか見えず、一切合切が焼き払われている。

 

「後方、クラスD部隊より波動砲発射準備完了の連絡!」

 

「全艦、射線回避用意!」

「至近を通過する!衝撃に備え!」

 

その直後、はるか後方で放たれた収束波動砲が、エルナト級やスーパーアンドロメダ級の脇を駆け抜けて、カラクルム級の群れに降り注ぐ。

緑の有象無象に突き刺さった青は、あらゆるモノを破壊しつくし、駆け抜けた後には鉄屑だけが残されていた。

 

「第二波、拡散波動砲が来ます!」

 

そして、ちくわの様な形となった敵艦隊に拡散波動砲が突き刺さり、放射状に数え切れぬほどの子弾をばら撒く。それが幾重にも重なった部分では、ありとあらゆる部分を焼かれたカラクルム級が爆散する。

 

球形空間(デス・ゾーン)が血に染め上げられた。

それでも、未だ敵艦隊は勢いを保ち接近を続ける。

 

 

 

海王星を背に抱え、海王星艦隊は善戦を続けていた…………

*1
右回転を与えるものと左回転を与えるもの

*2
なんという野蛮人(地球人)……!

*3
亜空間魚雷以外で




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海王星沖航空戦 -7-

結局戦力温存もかねて、腑に落ちない終わり方をします。


「波動掘削弾の起爆まで、3、2、1、回路接続!」

 

その声と同時に、海王星の蒼の底の、一点が淡く光る。

 

「地球連邦、海王星基地の最期か……」

 

「敵に奪取されるのを防ぐためとはいえ、この段階で破棄が下達されるとは、上層部は相当焦っている……とみていいんでしょうか」

 

「天王星軌道での断続的交戦の計画も破棄され、それをバックアップする予定だった天王星基地も破壊されたのを鑑みれば、別の作戦があるのだろう」

 

「次の手……ですか」

 

「無為な消耗を避けるために、天王星以遠の基地は全て破棄され、艦隊は月面基地に再集結しているらしい。あそこで交戦中の部隊も、じきに撤退命令が出るはず……」

 

と、そこまで話した直後に、正面の星空が歪む。そして、青白い光を放つ。

 

「前方に重力振。航空隊回収の、第二機動艦隊第一支隊です」

 

艦橋の窓から、すれ違いざまにアークツルス級改装戦闘空母、第二機動艦隊旗艦のアルニタクを眺める。アークツルス級の他の艦とほとんど変わらない船体*1だが、船体後部の武装が、2基の後部主砲と艦尾発射管(片舷4門)を残して搭載されず、その分の余剰スペースが艦載機格納庫に回されているので、単艦で3桁の数のコスモパルサーを運用できる。

 

「離脱するぞ」

「了解、小ワープ準備」

「ワープ!」

 

 

 


 

 

「ワープアウト。左舷前方、離脱中の海王星基地要員の引き揚げ部隊です」

「前方、海王星沖にエネルギー反応。交戦中の海王星艦隊、海王星基地航空隊です。IFF信号を確認」

 

「これより、戦闘宙域に突入する。全艦、波動防壁展開」

 

海王星付近に展開する12,000機のコスモパルサーの内、4,000機は空母20隻と共に退却の準備を進めている。40隻のドゥーベ級空母を率いて進出してきたアルニタクの目的は、残りの8,000機の収容である。敵艦隊と交戦中の海王星艦隊は、撤退命令を受けて戦線を押し下げながら、航空隊の離脱を待っている。

 

「敵デスバテーター、襲来!」

 

「気づかれたか、全艦対空戦闘!速射魚雷、発射管開け!」

「重力子スプレッド、発射準備!多目的発射管、迎撃ミサイル装填!」

 

「速射魚雷、発射準備よろし!」

「多目的発射管、発射管開け!」

「重力子スプレッド、投射機展開!」

 

「対空戦闘、撃ち方始め!」

「テェッ!」

 

大量のミサイルが前甲板の舷側から飛び出し、黒い塊となって押し寄せるデスバテーターに接触して爆散する。迎撃により数を減らしたデスバテーターは、重力子スプレッドの膜に突っ込んで全滅する。

 

「対空戦闘用具収め!」

 

指示の後復唱があり、発射管の蓋は閉まり、前甲板に姿を現していた重力子スプレッドは格納される。

 

「全周警戒を厳となせ!」

「全周警戒!」

 

「これより戦闘宙域へと進入する。主砲、対艦砲戦に備え!」

 

「主砲、発射準備!」

 

波動エンジンの尾を引き、波動防壁の青い壁を纏いながら、正面の有象無象へ飛び込んでいく回収部隊。

 

「亜空間ソナーに次元振動!」

「敵艦載機隊、第二群が接近中!」

「正面の敵艦隊、発砲を開始!」

 

「対潜・対艦、対空戦闘用意!」

 

「火器管制、測敵よろし!」

「主砲、自動追尾よし!」

「魚雷、迎撃目標に対する優先割り振り完了!」

 

「全火器、各個に攻撃始め!」

「撃ちィー方ァー始め!」

 

各艦の主砲から青白い筋が飛び出し、射貫かれたカラクルム級は次々と鉄屑へと姿を変える。魚雷発射管からは、大量の魚雷が飛び出してデスバテータの群れを先頭から切り崩していく。

 

「帰投信号確認!海王星基地航空隊です!」

 

「後続空母群、第一グループは回収準備を進めろ。第二、第三、第四グループは前進しつつ援護。本艦はこれより、単独での敵艦隊誘因を実施する!」

 

『了解!』

 

 

 


 

 

「撤退命令!?」

 

「はい!『ガトランティス侵攻に伴う艦隊再編に備え、天王星以遠に展開中の全部隊は速やかに作戦行動を中止、月面基地へ帰投せよ』だそうです」

 

異常な数のカラクルム級を眼前にした海王星艦隊は、速やかに交戦しながら後退を始め、スーパーアンドロメダ級部隊と改ドレッドノート級部隊はワープ準備に入る。

 

「反転、取舵一杯!波動防壁後部に集中展開!艦尾発射管、バリアミサイル装填!」

 

「バリアミサイル、装填よし!」

「テェッ!」

 

白煙を吐きながら、バリアミサイルが連射される。弾けた地点で薄板を拡げ、攻撃をしのぐ防壁となる。

 

 

 


 

 

「こんなにもあっさりと撤退するとは……しかもほぼ戦果が無く、徒に戦力を消耗しただけ。なぜこの時期に地球侵攻を始めたのです」

 

前線から送られてきた映像を見て、ラーゼラーが嘆息する。白濁した薄い壁が攻撃を跳ね返し、一隻も沈められなかった敵艦隊が次元干渉波をまき散らしながら消えるのを、誰もが黙って見ているしかなかった。

 

「そう慌てる時ではない。まだ時間はある。それよりもだ、ガイレーン」

 

「は。先月空間跳躍を行った直後から、テレザートからの高次元エネルギー供給が完全に停止しております。原因はテレザートの消失。その影響で現在、空間跳躍が不可能なほどにまでエネルギー総量が減少しております」

 

「テレザートが……消失?」

 

「原因は目下調査中です」

「テレサの意図で見えなくなったのとは違うだろう。今回は実際に消失しているのだ」

 

ガイレーンの杓子定規な答えに、ズォーダーが重ねる。

 

「何が起きているのでしょう」

 

「調査中と言ったろう。それと、原因などはお前たちが知るべきことではない」

 

「は……は!」

 

ズォーダーの瞳には何が見えているのか、それは誰も知る由は無い。

*1
あんな友鶴事件とか第四艦隊事件待ったなしのアンバランス格納庫は割とアウトだと気づいたのだろう




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幕間
艦隊集結


対白色彗星戦、着実に終局へと向かいつつあります。
次話以降の連続で繰り広げられる大きな戦いへの繋ぎのような回です。


正面の三面モニターの右パネルを上1/3占有するデジタル時計が『2221/07/22/02:00:00:00:JST』を表示し、すぐ下には『2221/07/21/17:00:00:00:GMT』の字が並ぶ。

同時に、当直の士官が声を張り上げる。

 

「現在時刻、0200JST!相対距離400宇宙キロの白色彗星最接近予想時刻まで19時間を切りました」

「回収作業の進行度は!?」

 

「駐機中の航空隊、回収作業は最終第4フェーズ突入が18%、第3フェーズが27%、第2フェーズが、ええと…………51%、第1フェーズが4%!」

「作業完了は明日0335GMTで「艦隊司令部へはJSTで報告しろよ!」

「すみません!本日1235JSTです!」

 

天王星基地司令部。白色彗星を目前に控え、海王星基地に続いて退避が進められていた。非戦闘員は総員退去が済んでいたが、白色彗星との交戦のバックアップ用に大規模な戦力が集結していたこともあり、特に航空隊の退避に時間がかかっていた。

業を煮やして司令部に缶詰め状態だった司令が声を張り上げると、オペレーターの混乱が伝わってくる。

 

「白色彗星の重力場強まる!重力傾斜、33(パーミル)から37‰!」

「距離87,000宇宙キロから86,500宇宙キロへ」

「観測部隊より入電!前方白色彗星増速、です!」

「なんだと「天王星軌道到達予想時刻、修正1030JST!」

「回収作業間に合わない!」

「最接近距離、修正6,500宇宙キロ!」

「AIの予測、被攻撃確率は0.003%未満!」

「全部隊の退却を最優先する!観測は継続!艦隊司令部に暗号を打電、『白色彗星増速セリ 天王星軌道通過予想時刻 修正1030JST』針路、加速度他の情報も送れ」

「了解!」

 

航空管制室の喧騒が伝播していた司令部の中でも、例外的に静かだった通信士区画が俄かに騒ぎ出す。

 

「……了解、通達事項「退却中の仮設3701から3790戦隊の到着予想時刻は「航空隊回収終了時刻は現在より「基地自爆用波動掘削弾の起爆時刻は1300JSTを予定」

 

あちらこちらの通信コンソールで矢継ぎ早に艦隊司令部との会話が飛び交い、呼び出しの電子音が絶え間なく鳴り続ける。

 

「基地破棄に備え、全発電区画を閉鎖「航空隊撤収作業はバッテリーからの供給で続行せよ」非戦闘区画は全面通電カット、並びに総員退去。隔壁完全閉鎖並びに空調システム完全停止」司令部関連施設は非常電源に切り替え」

 

分厚い大気の中に浮かぶため発見しづらい天王星基地だったが、敵のエネルギー探知装置で基地が露呈するのを避けるため、不要システムはすべて停止する。

 

司令部を照らしていた煌々とした白色光が落ち、室内を照らすのは正面の大型モニターとオペレーター達のコンソールの光のみになる。

光の角度が変わったことにより、ほとんど徹夜で司令部に籠っている上層部の面々のクマが際立つ。げっそりとして青白い顔が司令部に並ぶ。

 

 


 

「白色彗星が加速!?」

「土星軌道通過予想日時は231時間20分早まり、8月1日の1320JST!」

 

()()()S()発動までのスケジュールを修正、カウントダウンを更新」

 

東京市街地地下

地球連邦航宙艦隊司令部

地球の全戦力を指揮下に収める防衛の要で、正面には五つに分割された巨大モニターが光る。そして、空中には赤と橙で『作戦発動迄-no data-計算中』と表示されている。

 

「試作情報表示システム、稼働状況は安定」

「仮設3201戦隊から3300戦隊は第3BBB戦隊への編入準備のため待機宙域へと移動開始。無人管制システム起動、戦闘AI ver.2221.07.4F33B7のベースラインAを全体共有」

「プランSの作戦決行が前倒しになった。()()()Y()用『試作Y砲』の設営準備急げ」

「AI全システムへの共有完了」

「プランS作戦開始は8月1日0400JSTに設定、全艦隊に情報共有!」

 

「古代、どう思う?」

 

そう問いかける西本。視線の先には、モニターをぼーっと見つめる古代の姿がある。

 

「えぇ、主力部隊は集結に間に合うでしょうが、機動部隊の出撃準備は、今から目いっぱいでやってギリギリ間に合うかどうか、ってところですかね」

 

「唐突なスケジュール繰り上げは艦載機運用において混乱を起こすからな。その混乱が命取りとなった事例は過去にいくつかある」

 

その言葉と共に、後ろの扉をくぐって真田さんが現れる。

 

「は?」

 

後ろからかけられた言葉を理解するのに時間がかかった古代は、理解してもその()()が分からずに頭にハテナマークを浮かべる。

 

「まぁ無理もないか。大昔の洋上戦……太平洋戦争での話だからな」

 

「ミッドウェー海戦か」

 

真田さんの言葉に一つ納得した様子で西本が答える。

 

「あぁ、それと命取りまで行かずとも危機に陥った事例ならセイロン島沖海戦もある。あの時は日本の機動部隊が英国の陸爆に爆撃を受け、夾叉弾を出した」

 

「セイロン……スリランカですか」

 

「それはさておいて、作戦準備完了し次第の参加を前提とするにしても、目標の土星軌道内側3,200宇宙キロラインが発動条件の三次作戦以降に投入すべきだろう」

 

「それなら原案から変更なしか……原案通りでも三次作戦での参戦だったからな」

 

西本がそこまで言い終わるや否や、オペレーターが切迫した声を上げる。

 

「天王星軌道に展開中の本部直轄、第2003戦闘団から報告!白色彗星正面に77,000隻のカラクルム級を捕捉!」

「天王星基地より緊急入電!『敵艦隊現出!数は確認できる範囲で6万を超え、尚も増大中!』」

「AIの予測、天王星へ向かう可能性は0.01%!」

 

「実戦も近い。プランSの発動は間近だ。その後の白色彗星の動きにもよるが、プランYの準備作業はできるだけ進めてくれ」

 

『了解!』

 

西本の言葉に、敬礼を返す真田さんと古代。そのまま踵を返して、廊下へ去る。

 

「真田さん、ホントにあの計画を実施するんですね」

 

「あぁ、嘗てのガトランティス戦役時の遺産、G計画と対を成す『Y計画』の焼き直しだが、アレを使う以外に白色彗星を破壊し尽くすことは叶わない」

 

「それと引き換えにしてヤマトの無期限凍結まで行うのはやり過ぎでは?」

 

「すぐに出番は来る。白色彗星中枢に突入してゴレムを起動させ、さらに継戦能力を維持して離脱できるのはヤマトを措いてほかにない」

 

「それで、新型波動コイルの前線配備は?」

 

真田さんの有無を言わさぬ気配に、古代は慌てて話題を変える。

 

「あぁ、エネルギー結膜の接続パターンの生成回路を単純なものに変えた改正型を実装している。オリジナルに比べ防御力は低いが、理論上はイーターIIにも対抗できる。しかし、本来の波動砲発射口に使用してのスプリッター運用、並びに六連発一斉射時の輻射防御にはオリジナルのスペックが必要だったから、六連炉心搭載艦艇にはオリジナルが搭載されている」

 

「それってつまり、ヤマトも拡散波動砲を?」

 

「あぁ、ドレッドノート級と同様の縦列薬室に換装した」

 

「一点集中での突破力の収束波動砲に加え、広範囲面制圧の拡散波動砲」

 

「あと、船体に被害を及ぼさず発射可能な六連発一斉射だ」

 

途中の技術本部の扉の前に差し掛かった真田さんは歩みを止め、扉に向き直ってから、古代に先に行くように促す。それに頷き返した古代は、真田さんに背を向けて去る。

 

ここから地球は、嘗てのガトランティス戦役を上回る期間の深い喧騒に飛び込んでいくことになる。




『Y計画』はオリジナル設定です。




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第二章 衝突
捷一号作戦 -1-


実は前回よりも先に書きあがっていたこの回。
前回は文字通り、ここへの流れを意識して書かれた繋ぎだったのです。

ということで、いよいよ激戦へと突入していきます。

タイトルが壮絶なネタバレとか言わない


ブルースカイの艦橋の側面には、布陣する各艦隊・各戦隊がグリッドとして表示されている。

艦隊総旗艦の能力として必要な、大量の情報の並列処理を行うメインフレームをフル稼働させて、全ての部隊を漏れなく捕捉し続けている。

 

「艦隊、戦力集結!」

「白色彗星、依然速度変わらず。進路に変化無し!」

「第二遊撃部隊より入電!」

 

《こちら、第二遊撃部隊。敵は、500万以上の艦隊を正面に展開しながら侵攻中。AIの予測、Aの1に符合。現在、天王星軌道を完全に抜け、土星軌道に侵出しつつあり!捷一号作戦、一次作戦決行を具申する。繰り返す。敵は、正面に500万以上。土星軌…に……し…つあり………》

 

雑音が煩くなり、通信が聞こえなくなる。

 

「通信途絶!重力場のタキオン干渉による、送信機の機能停止と思われます」

 

「受信機は生きてるな?」

 

「はい。こちらからの通信に問題はありません」

 

「捷一号作戦を発令!前段一次作戦を断行する、全艦隊作戦行動始め。第二遊撃部隊、作戦開始!第七・第八・第九艦隊、全艦、ワープ準備!」

 

「了解。暗号通信!『作戦ヲ発令。一次作戦ヲ決行セヨ』」

 

通信士が、指示を暗号に変換して入力していく。

 

「第二・第三機動艦隊は」

 

「現在、火星宙域で出撃準備作業中。準備作業完了は明朝0300を目標とし、準備終了後は第一機動艦隊と合流して、三次作戦発令に備え待機するとのことです」

 

第二遊撃部隊の各戦隊のグリッドが前進して、500万を優に超える敵の、細長く伸びた先頭の部隊と接触する。その後方では、ワープアウトした第七・第八・第九艦隊が続々と戦線に入っている。

 

「第一グループ、ワープ終了。第二グループ、隊列を維持しての一斉ワープを開始!」

「仮設第十艦隊、増援第一群としてワープ開始!」

 

最前線を押し上げつつある第二遊撃部隊の前方に、無人改ドレッドノート級とスーパーアンドロメダ級で構成された、仮設第十艦隊の第3101戦隊がワープアウトする。細長い隊列の脇にワープアウトしたため、激しい砲火に晒されるが、波動防壁が次々と迫る砲撃を防ぐ。

 

嘗てのガトランティス戦役時に銀河で確立された、ワープアウトから連続しての(一時的ではあるが)波動防壁展開の技術がここで生きてくる。

 

「第十一艦隊、全戦隊を以て、白色彗星内へのショートワープ・奇襲作戦を開始する。3110から3119までの全戦隊はワープに入れ!」

 

「3101戦隊、各艦波動防壁臨界点です!」

 

「3102、3103戦隊、前続の3101戦隊に合流、陽動開始!」

 

「第十一艦隊、ワープイン5分前!」

「3102、3103戦隊ワープアウト!3101戦隊に合流!波動砲発射体勢に移行!」

 

刻々と変化する作戦宙域図を睨む艦隊司令に、主力艦隊(今更だが固有名詞)の司令が近寄る。

 

「戦力の扱いが荒いのでは?」

 

「アレは無人艦隊だ。元有人艦だが、乗員は今はエルナト級に配備されて主力を担っている」

 

「ですが無人とはいえ……」

 

「波動防壁が使える。即爆沈には至らんよ」

 

「しかし……」

 

「指揮AIは十分に成熟している。過去の戦いとは違う。戦力も大幅に上回っている。今も月面基地と地球のドックで並行してエルナト級の建造が進められている。省力化の成果として、元の1隻分の人員で3隻を維持できる」

 

「過剰な分の艦をまとめて処分……ですか」

 

2人が見つめる画面には、激闘を繰り広げる無人艦隊が鮮明に映されていた。

 

 

 

ーーー

 

最も手前で砲撃を引き付け、壁となって防いでいた艦の波動防壁が限界を迎え、爆沈する艦が増え始める。

 

直後、その後方の空間が歪み、増援の3102戦隊、3103戦隊がワープアウト。改ドレッドノート級とスーパーアンドロメダ級合計で1,200隻の戦力が新たに戦線に加わり、敵の前衛部隊に被害を蓄積させていく。

 

 

波動防壁を展開した艦が正面で砲撃を食い止め、後列艦が波動防壁の準備を行う。波動防壁が限界に近づいた前列の艦は、後列の艦と交代して後ろで波動防壁の再準備を行う。その更に後ろでは、最後列の艦が波動砲の発射準備をする。

 

 

主砲が火を噴き、漆黒を塗り上げる緑を血祭りにあげていく。凄まじい密度で隊列を組む様は圧巻で、どこか禍々しいものさえ感じる。

 

 

砲撃は次から次へと放たれ敵を串刺しにする。どれだけ撃ち込んでも、わらわらと湧いて出てくるので、どこを狙おうが大して変わらない。

 

火力の応酬が数十回繰り返された時、波動砲発射態勢を整えた最後列部隊が収束波動砲で、凶弾を叩き込む。600発もの砲火は、拡散せずとも大量のカラクルム級を一瞬で屠り、鉄屑の残る空間へと変貌させる。

 

寧ろこの場合は拡散しないほうが良かったと言えるだろう。拡散すると威力が大きく減退し、一撃で屠れるカラクルム級の数はあまり変わらないからだ。敵艦の密度と隊列の幅*1が凄まじいので、拡散波動砲では反対側まで削りきれたとも思えない。

 

 

この大きな穴を埋めるべく前進してきたカラクルム級は、散発的に前進してくるので次々と砲撃で撃破される。塞がりつつある傷口に、塩を塗り込むように次々砲撃を叩き込み、傷口を広げていく。

 

 

使い捨てとして投入された無人艦隊だったが、敵艦隊の不意を衝き、善戦を続ける。

 

大きな群れとなって迫るカラクルム級の帯を断ち切り、その先頭で第二遊撃部隊と交戦する第一群は着実に数を減らしている。

まるでマッシュルームのように、先頭で真横に隊列を広げていくカラクルム級だったが、密度は薄くなり、厚みも目に見えて薄くなっている。

 

その姿を見た第二遊撃部隊の司令は、E級の各艦に拡散波動砲での攻撃を命じる。

 

「全艦エネルギー充填!後退しつつ拡散波動砲発射用意!我々201並びに202戦隊は、前線を維持して敵を引き付ける!波動防壁出力最大!」

 

「201戦隊全艦は波動防壁出力を最大に!」

「主砲1番2番、撃ち方始め!」

「艦首大型魚雷、発射管開け!」

「艦首速射魚雷、弾幕張れ!」

「波動防壁、艦首に集中展開!」

 

どこかの第六章で見覚えのあるシーンと全く同じ光景で、やたらと大量に飛び出す速射魚雷を発射しながら、周囲のエルナト級は全力砲撃を行っている。

 

「この波動砲一斉射でこのグループを殲滅!先制して後方の第二群へ牽制する!亜空間魚雷、発射管開け」

 

「亜空間魚雷、潜航距離の距離設定よし!撃ち方始め!」

「第九艦隊より入電!『一斉砲撃の後、ショートワープで第二群正面に突撃する。援護を要請』!」

 

「余剰次元の爆縮を検知!拡散波動砲、発射されました!」

「回避運動!」

「ヨーソロー!」

 

襲来する敵艦隊を睨みながら指示を下す。操縦手の睨む手元の画面には、現在のアルヘナの位置と、波動砲の射線が表示されている。それに合わせて艦を操り、射線上から退避する。

 

「最接近まで2秒、放射波接触まで4秒!」

「総員、衝撃に備え!」

 

その言葉を叫んだ直後、窓から青白い光が飛び込み、全員が思わず目を細める。そして一瞬の後に衝撃がアルヘナを揺する。

 

「後方に重力振……IFF信号確認!第八艦隊、到着しました!」

 

 

*1
この場合撃った側から見て厚み




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捷一号作戦 -2-

今回ちょっと短めです……


「第八艦隊主力、現場宙域に到達」

「第九艦隊、敵第二群正面部隊と会敵」

「第二遊撃部隊、敵第一群の掃討作戦に移行」

「第十艦隊、各艦散開行動に移行」

「第十一艦隊、第3110戦隊並びに3111戦隊ワープアウト。3100から3109戦隊と合流」

 

ブルースカイの艦橋に、次々と報告が舞い込む。未だ主力艦隊は動かず、アステロイドベルト内側一杯に布陣している。

 

 

 


 

 

当初、天王星軌道での連続交戦を以て、敵戦力を漸減・撃滅し、土星軌道での艦隊決戦、木星軌道での内部への突撃により継戦能力を奪う、という作戦が計画され、それに合わせて

 

天王星軌道警備線第一・第二・第三遊撃艦隊
土星前衛ライン第六・第七・第八・第九艦隊
木星軌道防衛線第二・第三・第四・第五艦隊
小惑星帯絶対防衛線主力艦隊・第一艦隊
火星軌道最終防衛線第一・第二・第三機動艦隊

 

が策定され、各々をそれぞれの艦隊が受け持つこととなっていたが、冥王星での交戦、海王星での陽動戦を経て方針転換。

 

天王星以遠の施設を完全破棄し、戦力を再編。土星宙域に於いて、全艦隊戦力を投入した『捷一号作戦』で彗星本体に打撃を与える目標を再設定することとなった。

この計画は、プランYの前段として立案され、イニシャルを取ってプランSと呼称されていたが、作戦開始に伴い、捷一号作戦と呼称が変更された。

 

後にこの戦いは、第二次土星沖海戦と呼称されることとなる。

 

 

 


 

 

「現在交戦中の第二群、幅3宇宙キロから5宇宙キロに拡大中!密度は12,500から8,900へ低下中です!」

 

「後方の第八艦隊、拡散波動砲を発射!」

 

「全艦、敵艦隊との距離を維持しつつ微速後退!まだここから土星軌道を抜けるまでは1,200宇宙キロある!」

 

「了解!」

 

エルナト級が、艦首のスラスターで後進に移り、じわじわ迫るカラクルム級から一定の距離を保ちながら砲撃を続ける。

 

「敵艦隊の反応、72,000消失!敵艦隊は6,000,000に到達したタイミングで増援が止まりました!」

 

「第十一艦隊は隊列を広く取らせろ!波動防壁、出力40%へ」

 

高密度の砲撃を壁となって受け止めていた第十一艦隊の各艦が、敵の進軍を阻むように広く布陣する。敵の砲撃が間を次々とすり抜けてくるが、本隊の各艦も波動防壁で防ぎ、被害はない。

 

「敵艦隊、中央部の密集隊形が強まりました!」

 

「中央突破を許すな!前進中の第八艦隊も密集隊形で布陣させろ!」

 

「既にマルチ隊形から紡錘陣形に移行を開始しています!」

 

「フェーベ軌道の別動隊はどうなっている!?」

 

「現在、エネルギー充填作業を完了し待機中。重力子スプレッドの展開を残すのみです」

 

「一か八か、敵艦隊を粉砕する!バリアミサイル発射、無人艦隊前で展開させろ」

 

「了解!」

 

「バリアーの間に波動砲発射準備、消失と同時に現在布陣中の全艦で集中砲火を加える!」

 

開戦から数時間でここまで進展したのは、以前に比べ相当早い。長期の消耗戦を強いられた前回と違い、今回は短期決戦となりそうな気配だった。

 

 


 

 

 

幾重にも重ねられた布陣の艦が、圧倒的な物量でイワシの群れのように襲い来るガトランティスを防ぐ様は圧巻だった。その土星でのせめぎあいをメインスクリーンで見上げるヤマトのブリッジクルー。

 

「参戦できないのか……」

 

「代替の波動コアが届かないことには何とも……」

 

「長距離観測によると、エネルギー密度が上昇中。波動砲発射態勢に移ったものと思われます」

 

「まもなくフェーベ軌道別動隊が白色彗星を射界に捉えますから、予想以上に多かった敵艦隊を一気に排除にかかるものかと」

 

小林、徳川、西条、桜井の順に口を開く。エリス基地の仮設ドックに身を横たえたヤマトは、現在波動コアを外したままで動くに動けない状況だった。

 

「艦長と真田さんはいつ戻ってくるんだ……」

 

すぐ右と右斜め後ろの空席を振り返り、降ろした波動コアの代わりを持ち帰ってくるはずの古代と真田さんのことを口に出す徳川。

 

「今は信じて見守るしかない……」

 

「だな」

 

「郷田、換装主砲の最終調整作業はどうだ」

 

《旧3番主砲塔の撤去作業を完了。新第1主砲塔の設置作業に入る。作業完了は明日1930を予定》

 

小林との短いやりとりの後、甲板に降りて換装作業を指揮している郷田に状況を尋ねる上条。

艦橋の窓から見下ろす甲板には、撤去した主砲の跡に巨大なバーベットリングがぽっかりと穴をあけている。主電源をカットし、予備電源の非常灯で薄暗く照らされた艦橋から、星明りに照らされた甲板を見下ろす形になる。

 

ふと右の方へ視線をやると、仕切りのスクリーン越しに作業用照明と溶接の光が瞬く。

甲板で作業している作業員のヘルメットに取り付けられたライトだけが蠢くヤマトに比べ、残作業量の多さからくる不眠不休の喧騒が感じられた。

 

「あっちもあっちで間に合うのか……」

 

「プランY……本当に上手くいくんだろうな……」

 

「エリスから内惑星系をまでの距離から考えると、1/1000°の誤差も許されない狙撃を成功させられるのか……?」

 

「白色彗星の防御を破壊できるエネルギー試算量は、合計3.94×10^27YW(ヨタワット)*1に達します。そんな大規模蓄電設備はどこに用意するんでしょうか……」

 

 

 

上条、小林、徳川、木下、この4人の心配は杞憂に終わるのか、それとも現実のものとなるのか。

 

 

 

結果は神のみぞ知る……

*1
Y(ヨタ)はSI単位系接頭辞の1つで、10^24倍を表す。T(テラ)(10^12倍)なんかよりよっぽど大きい。というか丁度2乗した値




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捷一号作戦 -3-

「第二艦隊、作戦宙域到達!」

「第三艦隊と合流、全艦エネルギー充填開始!」

 

「我々で白色彗星本体並びに敵艦隊の牽制を実施する!第1戦隊を中心に紡錘陣形へ!陣形を維持してワープに入る!」

 

ブルースカイの艦橋が俄かに騒ぎ出す。演算システムがフル稼働し、ワープタイミングを計る。

 

「ワープまで、3、2、1、ワープ!」

 

ブルースカイを先頭に、1,000を超える波動砲艦により構成された主力艦隊が、アステロイドベルト越しの土星に向けて次々と飛び込み、次元共振の波紋を虚空へ描き出す。

 

「ワープアウト、波動防壁出力97KPaで稼働中!」

「正面、白色彗星、距離120宇宙キロ!」

「現在位置、土星軌道より1,800宇宙キロ!」

「波動観測艦ムサシが長距離タキオン観測を実施、観測情報来ました!」

 

通信士がそう言うや否や、右側面モニターが一瞬ブラックアウトして観測情報の表示に切り替わるが、観測データが像を結ぶのに少し時間がかかる。その間にも、白色彗星から這い出してきた後期ゴストーク級の群れは、ミサイルの弾幕を撃ち込んでくる。

 

これまで正面戦闘を引き受けていた第六から第九までの艦隊と第二遊撃部隊の一斉攻撃で敵艦隊は鉄屑を残して消え、フェーベ別働隊の波動砲攻撃により白色彗星のガス雲を排除することに成功していた。しかし前進を阻むことはできず、再び土星が踏みしだかれるのを黙って見ているしかなかった。

そこへ到着した援軍に、当然ながら敵は殺到する。

 

「ミサイル多数接近!」

「対空戦闘用意!主砲、副砲、敵艦に火力を集中、撃ち方始め!」

「艦首に波動防壁集中展開!」

 

対応の間に、意味のない線だった表示が白色彗星の形になり、その中に更に像を結ぶと、航海ブリッジに詰めていた司令部の面々は困惑する。

 

戦闘ブリッジから艦内放送で伝わってくる戦況を聞きながらも、どう打って出るべきかのやりとりを交わす。

 

「光学観測できる3個惑星の内部に、虚数次元の亜空間が存在している……とはどういうことだ」

 

「つまり、有限の平面……厚みが0である二次元平面のことですが、その内部に半ば無限に近い空間を畳み込んでいるということです」

 

「その内部には何が?」

 

「現状のタキオンビーム出力での観測は不可能ですので、目下、第二次観測を実施中です」

 

「それと、上部の白色彗星……いや、()()()()()()()()と呼ぼうか……そこの観測不可能……ブラックエリアにはガトランティスの指揮中枢とゴレムが存在するんだな?」

 

「はい。そうみて間違いありません」

 

「侵入孔が存在しないとなると……どうすべきなんだ」

 

送られてきた詳細な観測情報を印刷した書類を睨みながら、別の士官が技術部門の担当者に尋ねる。

 

「観測不可能域……便宜上ブラックボックスと呼称しますが、このブラックボックスの規模的に、2203年にヤマトが突入したカラクルム級の培養所がそこにあるとは考えづらいのです」

 

「どういうことだ」

 

「ヤマトは、その()()()経由での侵入に成功しました。つまり、ブラックボックス外の()()()にさえ辿り着ければ、侵入は可能というということです」

 

「その培養所の場所は?」

 

「不明です。ですが、相当規模の空間で、しかも超空間通信が完全に反響するとなると、『次元の割れ目』もしくは『ボイド空間』といった虚無空間が存在していると考えられます」

 

「ということは、プラネットキャプチャー内の惑星が持つ虚数次元亜空間がそれの可能性があるな」

 

「はい。技術本部でもその可能性が取り上げられ、現在実施中のムサシの第二次観測はその点についても調査するものです」

 

「ならば、我々が実施すべきは敵艦隊の漸減と敵重力源の破壊、滅びの方舟の動力源に可能な限りダメージを与えること……か」

 

《後退中の第六、第七、第八、第九艦隊ならびに、第二遊撃部隊より入電!白色彗星増速!》

《第一次作戦中の全艦隊、敵正面艦隊の誘因に成功!》

《第十艦隊、第十一艦隊全艦、白色彗星内部へショートワープで突撃!陽動しろ!》

 

この会話の間にも戦局は変化を辿り、ガス雲を薙ぎ払った白色彗星本体に無人艦隊が突入、主力艦隊麾下の波動砲攻撃を間近に控えていた。

 

「プラネットキャッチャー周辺にエネルギー場の形成を確認!」

「全艦エネルギー充填95%!」

「重力子スプレッド展開を確認!重力フィールド、レンズ収束率は理論値との誤差、0.003%!」

「全艦収束波動砲、発射用意!照準固定、22,-13!」

 

「総員、耐ショック耐閃光防御!」

「エネルギー充填120%!」

 

「発射まで、5、4、3、2、1、発射!」

 

2,000本以上の波動砲の筋が重力フィールドで束ねられ、一本の莫大な槍となって白色彗星へと迫る。

 

その先端が白色彗星のプラネットキャプチャーに触れようかという瞬間、赤色の輪が現れてその面で波動砲が留められる。しかし直後に、表面にヒビが入り、そのヒビは一瞬で放射状に広がる。

 

刹那、エネルギーに耐えきれなくなった構造体が砕け散り、プラネットキャプチャーの支持部へと波動砲の濁流が迫る。

 

直撃した波動砲が支持部の構造を吹き飛ばし、18本のプラネットキャプチャーのうちの3本を弾き飛ばす。それだけにとどまらなかった余波は、上部都市部をも抉り、ブラックボックスエリアの外部装甲が露出する。黒光りする異様な幾何学模様を明滅させながら、威圧感を湛える装飾は形を維持したままだった。

 

「全艦、波動砲第二射用意!」

 

「突入した第十艦隊、第十一艦隊、重力源への攻撃開始!波動掘削弾搭載の無人機部隊が発進!」

「周辺の敵艦隊排除成功の信号を受信!」

「無人艦隊も波動砲発射態勢へ!」

 

「重力フィールド、再展開!」

「エネルギー充填105%!」

「照準固定、28,-7!」

 

「全艦エネルギー充填120%!」

 

「カウント省略!波動砲、発射ァッ!」

 

再びの直撃が都市帝国を襲い、更に1本のプラネットキャプチャーを弾き飛ばす。

ブラックボックスの露出部に照準を集中した一撃は、上構をさらに削り、露出範囲を大きく広げる。しかし、ブラックボックスの外部装甲はビクともせず、幾何学模様にも一切の掠れは無い。

 

「総エネルギー量で言えば2202年土星沖海戦時の90倍になる攻撃を2回浴びても尚、無傷で耐える構造か……」

 

「あれこそが()()()()()の本体……」

 

「全艦、白色彗星内部へ突入、第十艦隊、第十一艦隊の重力源破壊を援護する!」

 

「ワープ!」

 

 




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捷一号作戦 -4-

「第十艦隊、損耗率10.07%に到達しました!」

「第十一艦隊、正面会敵中の一群、二群の被害拡大!消耗が30%超えました!」

「重力源への攻撃、中央にカラクルム級32,000が展開してきています!」

「主力艦隊並びに第一、第二艦隊、第十艦隊後方30宇宙キロ地点にワープアウト!砲撃掩護を開始!」

 

「第50BBB戦隊から第59BBB戦隊まで繰り上げで白色彗星内へ突入!出し惜しみは無しだ!」

「プランS用波動掘削弾の備蓄から120発の投入を許可する!敵重力源の破壊を最優先!」

「第十二艦隊、フェーベ別動隊から無人艦を吸収して白色彗星内へ突入!戦力を主力艦隊の直掩に回せ!」

 

艦隊司令部では、白色彗星に突撃した主力部隊からの情報も併せて、無人艦隊へ刻々と指示が出されている。

 

「火力を一点に集中しろ!波動掘削弾の集中投入で破壊できる筈なんだ!」

 

つい最近の人事異動で戦術指揮級の参謀に加わった若い将校が、握っていた万年筆をへし折りながら叫ぶ。

 

「BBB戦隊増援、突入開始しました!」

「波動掘削弾運用専門の第一施設隊より、小型無人機120機と搭載母艦のクラスS、3隻が白色彗星内へ突入!」

「主力艦隊より入電!エルナト級『鵜込(ウゴメ)』『早瀬(ハヤセ)』が被弾!爆沈しました!」

 

「何だと!?」

《艦隊司令部!直掩の第十二艦隊はまだなのか!?》

「第十二艦隊はどうなってる!?」

「現在、フェーベ別動隊の無人艦一群二群の分離が遅れています!」

「合流命令はキャンセルして「戦力不足です!纏めて潰されますよ!」

 

《艦隊司令部!急いでくれ!更に松島(マツシマ)初瀬(ハツセ)(オオトリ)大嶋(オオシマ)が轟沈した!》

 

正面モニターに『SOUND ONLY』と『旗艦:BLUE SKY』と表示され、半ば怒号にも近い叫び声がスピーカーから溢れて、混乱している司令部の空気を揺さぶる。

 

「白色彗星内部、主力艦隊後方にワープアウト反応!少なくとも2,000以上です!」

「IFF信号確認できない!」

 

「何だ!何が起こっている!」

ワープアウト!?第十二艦隊か?……艦隊司令部どうした!第十二艦隊ではないのか!?》

 

「こちら艦隊司令部!そのワープアウト反応は第十二艦隊ではない!新手の敵の可能性もある!注意されたし!」

《そんなことできるかってんだ!》

 

罵声が返ってきた直後、新たな通信が司令部に割り込んでくる。

 

《こちら、ガルマン・ガミラス帝国選抜部隊。これより、ガトランティスに対する戦闘並びに、地球艦隊の援護に入る!》

「艦影識別、ゼルグート級120、ハイゼラード級760、ガイデロール級390、メルトリア級1,450、デストリア級多数!」

「IFF信号確認!2203年式識別コードに該当しました!」

「IFF、元月面大使館所属、ローレン・バレル大使座乗『ローレンス』含むバレル艦隊およそ720を中心とし……デスラー艦隊からゼルグート級100を含む2,000以上!」

 

《こちらローレンス、元ガミラス大使バレル。地球・ガミラス連合艦隊として作戦宙域へ突入する!》

「バレル大使、ガミラス艦隊には、地球部隊の直掩を依頼したい。間もなく、無人艦第十二艦隊も増援に入る。誤射を避けるため、IFF信号の敵味方識別コードを現行バージョンに更新してほしい」

《了解した》

 

「IFF信号、ガミラス部隊へ伝達完了!」

「第十二艦隊、フェーベ別動隊無人艦部隊との合流開始!」

「1分以内に合流・陣形再編を完了します!」

「各艦ワープ突入タイミングはこれより90秒後とする!」

 

「IFF表示、グリッド更新します!表示変更に注意!」

 

正面モニターに映っていた黄色の点群が緑へと変化し、尚も増える点群は、ガミラス部隊のワープアウトが依然として続いていることを伝える。

 

「ガミラス艦隊、ワープアウト収まりました……いや、陣中央に重力振!大きい!」

「重力振規模から、排水量70万tクラス、全長1,000m級と推察されます!」

 

正面モニターが切り替わり、ガミラス艦隊の陣形の中心部を映し出す。直後に、背景のゼルグート級が歪み、730mもの体躯を持つゼルグート級すら小さく見えてしまう巨大な艦影が姿を現す。

 

《こちら、ガルマン・ガミラス艦隊旗艦『レグ・デウスーラ』》

 

平たい六角形のデスラー砲口を艦首に備え、そこからなだらかに繋がる前甲板に*1長砲身四連装砲塔4基、その両舷へ繋がるなだらかな側面に*2無砲身四連装砲塔*36基*4を搭載する。

 

艦体中央から後方には、同じく長砲身四連装砲塔3基、舷側に*5長砲身三連装砲塔10基*6の重装備を誇り、艦底方向に関してもミサイル発射管60門を始めとして、*7長砲身三連装砲塔12基*8の大火力を発揮する。

 

全体が紫がかった青に染め上げられた艦体には、黒で宗教的紋様が描かれ、禍々しささえ感じさせる。

 

「フェーベ別動隊の無人艦部隊との合流完了!」

「戦隊単位での紡錘陣形構築完了!」

「第十二艦隊、突入準備完了!」

「カウント省略!全艦ワープイン!」

 

白色彗星から距離を保って後退し続ける第二遊撃部隊から送られてくるカメラ映像には、正面の白色彗星へ飛び込んでいく無人艦部隊の姿がくっきりと映っていた。

*1
地球基準55口径61サンチ

*2
地球基準49サンチ

*3
ゼルグート級と同一

*4
片舷3基x2

*5
地球基準55口径33サンチ

*6
片舷5基x2

*7
地球基準50口径48サンチ

*8
1列6基x2列




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捷一号作戦 -5-

「波動掘削弾、航空部隊到着しました!」

「第十艦隊、波動砲攻撃第8波開始!」

「第十一艦隊、消耗35%オーバー!これ以上の第十艦隊掩護は困難です!」

 

主力艦隊旗艦ブルースカイ艦橋

主力艦隊の陣の先頭に立ち弾幕を張っているブルースカイは、最も激しい砲撃に晒されている。エルナト級の轟沈艦は6隻でなんとか踏みとどまっているものの、先程からより多くの攻撃を誘引しているブルースカイは、激震に襲われる回数が急激に増えつつある。

 

「右舷前方、距離380宇宙キロにカラクルム級40!」

「主砲右3番4番、照準変更!」

 

「正面のカラクルム級、9,000から8,500に減少中!」

「ホーミング波動砲、発射用意!」

「第二波動エンジンのエネルギー回路を直結!」

「エネルギー偏向装置に諸元入力!」

「射撃盤に回路直結、照準よし!」

 

「テェッ!」

 

ブルースカイの艦首、波動砲口左右に突き出した、普段は『BLUE SKY』と表示されている乳白色部分が開き、その中から武骨な細長い砲口が顔をのぞかせる。

即座に光を湛えた砲口から、細い板状に青白い閃光が飛び出す。

その閃光は、一瞬で向きを変えると、カラクルム級の群れへ襲い掛かる。

 

速射応答性を優先して、波動エネルギー量は抑えられているものの、有り余るほどの機関出力を誇るブルーノア級から放たれるその攻撃は、一撃にして大量の鉄屑を生み出す。

 

「右舷目標殲滅!」

「正面のカラクルム級、2,200隻に!」

「エルナト級各艦、砲撃を集中!」

「残敵、急速に減少中!」

「追撃する!主砲全門斉射!」

 

正面を向いた主砲が、10基30門の砲火を吐き出す。40.6cm口径ながらも、正面から貫通して背後のカラクルム級、そのまた次のカラクルム級、と、小規模な群れの中央にポッカリと大穴を開ける。

 

数が減少したカラクルム級に、エルナト級の砲火が集中してカラクルム級の数を一気に減少させる。

 

「正面、カラクルム級後方に艦影探知!23sknt(エスノット)で急速に近づく!」

「数、2,400から3,000へ!尚も増大中!」

「艦影識別!後期ゴストーク級!」

「距離、1,200宇宙キロ!」

「小型目標探知!数は、23,000を超えています!」

「接近中の目標、魚雷群と識別!速度38sknt!」

「艦隊到達まで215秒!」

 

「対空戦闘用意!全艦、波動防壁出力を再確認!」

 

「エルナト級、速射魚雷斉射用意!」

「艦首発射管、バリアミサイル装填!」

 

「重力源に対し攻撃を敢行する!クラスS、クラスDは後退開始!エルナト級は各艦前進して後期ゴストーク級の迎撃に当たれ!」

「波動砲、エネルギー充填開始!六連発一斉射用意!」

「第一波動エンジン、波動砲発射用意!第二波動エンジン、運転継続、波動防壁への動力供給を維持!」

 

号令一下、後退してくる無人艦隊の紡錘陣の先頭に躍り出て、波動砲口を開くブルースカイ。

 

「クラスS部隊、波動エネルギー充填120%!」

「クラスD部隊、エネルギー充填完了!」

「第一波動エンジン、炉心内圧120%!波動砲口内、波動コイル甲起動、シールド!」

 

「前衛エルナト級、射線上より退避!」

「総員、耐ショック耐閃光防御!目標、彗星都市重力源!波動砲発射まで、5、4、3、2、1、発射ァ!」

 

白い霧がかかっている白色彗星内部に、一層白い光が膨れ上がり、一拍の後に白熱の恒星をも上回る光球が顕現する。

その光は、しばらく輝きを維持したのち、ゆっくりと輝きを失う。数秒の後には、幻だったかのように光は消える。

 

しかしその小恒星の輝きは現実で、青白い濁流は重力源の青紫の光球へ迫る。

 

「重力源に変調!」

「重力井戸の底、底辺の盆地の底が沈降!」

「どういうことだ!」

「重力炉に高エネルギー反応!エネルギー増幅システムにより、多量のエネルギーが流入しているものと思われます!」

「重力源付近にて、重力傾斜高まる!」

「重力井戸の沈降、急激に加速!」

「集中するエネルギー量、これまでの例に対して32倍以上!」

 

「重力源のエネルギー密度が上昇!エネルギーの集中にエネルギー球拡大による減圧が間に合っていない様子です!」

「爆発します!推定放出質量、超新星爆発の2.3倍です!」

「全艦隊、波動防壁出力最大に!総員、耐ショック耐閃光防御!」

「重力衝撃波、来ます!」

 

全員が身構えた刹那、凄まじい重力波を放ちながら、波動砲の光球を上回る輝度の灼熱球が出現する。一瞬で引き裂かれた光から、超高温のジェット噴流とプラズマガス、特大級のコロナ質量放出(フレア)が発生する。

 

それらの直撃を受けた無人艦部隊は、旧式の06式波動コイルだったせいで、密集陣前方の第十艦隊第一・第二戦隊が全滅、第十一艦隊第一戦隊も壊滅的な損害を被った。

しかし、21式波動コイルの有人艦部隊は緊急的に波動防壁に全出力を回して耐え凌ぎ、支援のガミラス艦部隊は、エルナト級の遥か後方、第十二艦隊のすぐ真後ろにいたために直撃を免れた。

 

それでも、1Mアンペアに及ぶ誘導電流を発生させた磁気嵐により、レーダーを含む能動観測手段が機能停止。空間に残留した強電磁波と超高密度の高エネルギータキオン粒子が、超空間通信は愚か短波近距離回線さえ寸断する。

 

「味方艦のIFF信号、全て途絶!」

「アクティブレーダー、機能停止!逆探知回路は辛うじて機能中!」

「超空間通信、短波通信途絶!艦内有線連絡回路にも異常を検知!」

「各システム再起動急げ!」

 

「受動探知システム、正面に高次元エネルギーを捕捉!」

「対消滅ミサイル190、急速に近づく!」

「艦隊の先頭に出る!第一波動エンジン、出力全開!第二波動エンジン、全出力を波動防壁へ!」

 

「波動防壁、出力最大!ヨーソロー!」

「主砲射撃管制、対空戦闘撃ち方用意!」

「艦首魚雷、牽制射用意!開口角2°!」

「火器管制、主砲公算射撃、撃ち方始め!艦首魚雷、牽制射3回の後に距離20宇宙キロでバリアミサイル発射!防護範囲は正面軸から30°!」

 

波動エンジンの輝きをノズルから吹き出しながら、その大柄な体躯を振って前進に転ずるブルースカイ。大火力の主砲を連射しながら、正面に圧倒的な弾幕を築き上げる。

その弾幕の中を飛び、破滅ミサイルの群れの中で起爆する魚雷。周囲に子弾と散弾を巻き散らしながら爆ぜ、その断片に撃ち抜かれた破滅ミサイルは火の玉と化し、その場で消え去る。

 

「対消滅ミサイル120、尚も迫る!」

「艦首魚雷、バリアミサイル撃ち方始め!」

「主砲、弾幕張れ!」

 

「前進、後続部隊に攻撃させるな!」

 

メインノズルの光が一層強まり、波動防壁の膜に纏われた巨体が前進する。弾幕の密度を一層高め、脇をすり抜けようとする破滅ミサイルに舷側の速射魚雷を浴びせる。

 

「後方、第一施設隊分派の無人航空隊が母艦より発艦!」

「超空間通信、回復!波動掘削弾部隊直掩のガミラス第一支隊旗艦、ローレンスからです!」

 

こち……動掘削……発艦完了……艦隊司……部より、撤退命令を受令!》

 

「こちら旗艦、ブルースカイ。これより、無人機の攻撃終了を見届けて、撤退する。エルナト級部隊・ガミラス部隊は速やかに撤退せよ」

 

直後、後退する部隊を守るかのようにバリアミサイルが一斉に開き、その表面に直撃した破滅ミサイルは爆散する。

 

その後方のブルースカイの脇を飛びぬける黒く小さな影。

波動掘削弾を吊るし、一路重力源へと向かう無人機は、波動掘削弾の射程に目標(重力源)を捉えるや否や、胴体下の重荷(波動掘削弾)を切り離して反転する。

 

無人機から放たれ完全に自由になった波動掘削弾は、姿勢制御用のノズルから炎を噴きながら重力源へ突っ込んでいく。120発すべてがほとんど同時に着弾して、重力炉に大量の()()()を咲かせる。

その青い花は、タンポポのように深く根を張り(亀裂を入れ)(周辺の装甲)を砕く。

 

「攻撃完了を確認、これより離脱する」

 

「了解!反転、面舵一杯!」

「面舵180、ヨーソロー!」

 

 




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暁の発進

トランジット波動砲も無ければ、銀河のCRSも残されてません。
その状況で白色彗星倒すにはこんな感じに大真面目にバカげた規模の作戦しかないのです。


すいません。適当言いました。



はい、ということで決着へ加速していきます。


「発進準備!」

 

正面の窓から、地表すれすれの太陽からの光が差し込む。力強い太陽光は、黄道面から遠く離れたこの準惑星の地表を洗う。希薄な大気を飛びぬけた光の矢は、艦橋の中に光のコントラストを生み出す。

 

「了解!各部、点呼!」

「メインフレーム、動作状況オールグリーン」

「航空隊、メンテナンス完了」

「主砲、副砲ともに問題なく動作中」

「超空間通信、稼働状況は良好」

「操艦系、全システム問題なし」

「コスモレーダー、出力安定」

「重力バラスト、問題なし。発進に障害は無し」

「エリス基地からの電力受電系統をカット、艦内発電からの電力供給に切り替え。SES(サブ・エンジン・スタータ)起動、重動力線より補機にコンタクト。補機始動準備」

 

宇宙戦艦ヤマト艦橋。

重力源を破壊し、その際の衝撃波によりプラネットキャプチャーを更に2本失い、重力源の近くにあった惑星が一つ消えた白色彗星だったが、依然として圧倒的な圧力で地球へ迫り続けて、現在火星軌道まで到達していた。

 

エリス基地からの、超大出力タキオン収束砲狙撃による、白色彗星破壊作戦。

那須与一が弓で扇を射抜いたとされる「屋島の戦い」から「ヤシマ作戦」と名付けられたそれは、いくつもの下準備が必要だった。

 

第一に、

できるだけ白色彗星を内惑星軌道周辺まで引き付けること。

なぜならば、狙撃の際に用いるエネルギー流は、僅かな太陽風にすら軌道を逸らされ、少し斜めになっただけでも太陽系外へ押し出されてしまうから。

それを避けるために、できる限り太陽風に対して平行に狙撃するために、なるべく内側の軌道にいることが望ましかった。

 

第二に、

白色彗星に感づかれないほど大遠距離から狙撃すること。

 

第三に、

白色彗星の防御をできる限り削り、そのうえで、重力源にダメージを与えておくこと。

重力場の影響を大きく受ける狙撃において、小ブラックホール規模の重力源ですら、大きな障害となりうる。そのうえその重力が可変的に変化するなら尚更、止めておく必要があるのだ。

 

以上の三項目の内、三つめは概ね達成された。第一条件はじきに整うし、第二条件は元から達成されている。

いよいよ作戦発動が確実となった段階で、ヤマトの左舷側の空きドックに一隻のエルナト級が滑り込んで、地球から戻ってきた古代と真田、エリスで降ろした波動コアの交換用の品が届いた。

 

「機関再始動!」

 

「主機、波動コア交換作業完了を確認、補機始動!」

 

古代の号令の下、徳川が機関始動シークエンスに取り掛かる。

 

「補機、始動を確認。続けて、第二波動エンジンフライホイール接続、点火!」

 

《第二波動エンジン接続!》

《第二波動エンジン点火!》

 

機関室から作業の報告が来る。

そしていよいよ、緊張の瞬間が迫る。単炉心の波動エンジン点火時のリスクはほぼ0まで下がってはいるが、六連炉心の波動エンジン点火には細心の注意が必要となる。それこそが六連炉心搭載艦の少なさの原因だった。特に波動コイル入れ替え後の点火作業では、大きなリスクが伴う。

 

「第一フライホイール、第二フライホイール、接続!」

 

いよいよ主機の点火に入るが、第二波動エンジンの動力を受けて回り出す第一、第二フライホイールは前半戦でしかない。エリスでの改装時に追加された三本目のフライホイール、それこそが起動の本命であり、大幅な出力強化の要だった。

 

《第一フライホイール接続!》

《第二フライホイール接続!》

 

「メインホイール、接続!主機、点火!」

 

「了解!メインホイール接続!」

 

《主機、点火!》

 

少しずつ床下から伝わってくる振動が強まり、いよいよ発進目前であることを伝えてくる。

 

「重力バラスト放出、ガントリーロック解除、補機最大運転、浮上!」

 

「了解、浮上開始!」

 

と、ここで補機の出力で上昇に転ずる。左舷側を見やれば、既にドックから発進したエルナト級の姿が見える。

艦底のスラスターが輝き、青白い噴炎を吐き出して艦体を持ち上げる。更に補機が上昇を補助し、高度120mまで浮上する。

メインホイールに動力が接続され、主機の六連炉心波動エンジンが火を吹く。

 

命を吹き返したように、ヤマトの巨大な艦体が押し出され、急速に上昇しながら加速していく。

左舷側のエルナト級は回頭して、エリス直掩の部隊に合流すべくヤマトから離れていく。

 

「地球司令部より入電、《宇宙戦艦ヤマトは、8月15日0100発動予定のヤシマ作戦補足事項・追加装備艤装の為、速やかに地球へ帰投せよ》です」

 

「次元潜航用意、亜空間バイパス経由で地球へ帰還する」

 

「了解、亜空間航行用意」

「艦内、各部点検。隔壁閉鎖、窓部分保護シャッターを閉鎖」

 

小林の復唱に合わせて、操艦系の切り替えが行われる。

真田さんの指示でシャッターが降り、メインスクリーンに外部の映像が映し出される。

 

「有視界航法から計器航法へ移行」

「次元遷移弁開放、亜空間結節点生成システム、起動」

「主機よりエネルギー注入開始」

 

ヤマトが進む方向と水平に、ヤマトの下方に赤い輪が発生して、黒い輪と共に同心円状に広がる。その直径はヤマトをすっぽりと覆うほど大きくなり、やがてヤマトの船体はその面から円の中へと沈み始める。

 

「亜空間航行に移行する、下げ舵10、減速赤5」

 

「主機、動力停止。補機、出力上げ」

 

「主機停止、補機出力80%へ」

 

小林の操舵に合わせ、古代の指示で徳川が機関を調整する。

自分から時間断層に潜っているような亜空間航行においては、波動エンジンは無限にエネルギーを吸い出されてしまう。それを避けるために主機、第二波動エンジンを停止して補機のケルビンインパルスエンジンをメインでの使用へと切り替える。

その瞬間、メインノズルの輝きが消えて、サブノズルから噴き出す輝きが細長く伸びる。

 

「艦橋、間もなく亜空間へ沈降します」

 

「計測システムの誤作動に注意」

「了解、亜空間ソナーに切り替え、コスモレーダー停止」

 

「メインスクリーンに光学映像を表示」

 

「了解、艦外部監視カメラ起動、信号受信します」

 

そこに表示されるのは、見渡す限りの虚無な緑色の空間と、そこにポッカリと浮かぶ黒い人工物の細長い塊。

 

ECC(エネルギー・キューブ・クラスタ)の敷設、現在74.8%進行中」

 

「アレが、ヤシマ作戦の要、仮設エリス第二要塞の試製Y砲のエネルギーを蓄積するんですね」

「一個単位ですら、通常のエネルギー貯蓄設備とは桁違いのエネルギーを内部に保持できる。その上それが1,000,000個設置されれば、白色彗星破壊に必要な概算量を超える」

 

「ひ、百万個……」

「地球への帰還を急ぐ。作戦開始まで残り170時間を切っている」

 

「了解、増速黒20!」

 

サブノズルから炎が伸び、ヤマトの船体を押し出す。

ヤマトは地球へ急ぐが、地球にはあと一刻の猶予も残されていなかった。




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第三章 決戦
ヤシマ作戦 -1-


そろそろ大決戦の始まりなんですが、
突如として亡国のイージスにインスパイアされてスパイ、というか謀略の張り合いがちょっとだけあります。

(柄でもないのに……)


「現在作戦行動中の全艦隊は、速やかに月軌道に集結。敵正面艦隊の撃破に専念されたし」

 

「亜空間バイパスの敷設状況は!?」

「現在、第423,000までのエネルギーキューブクラスタ(E C C)を敷設完了。残り570,000のECC設置状況は進捗率99.45%!明日未明、0120までに終了見込みです」

 

「試製Y砲、組立状況は!?」

「エリス基地よりの報告によると、予定より1時間30分遅れで最終艤装段階に突入。撃鉄動作確認、最終次超高圧タキオン収束解放システムのテストリスト1,203項目、触媒投入作業の全ての終了はあと7時間で終わらせるそうです。また明日0040には、射撃位置への固定終了、並びに軌道諸元入力、弾道演算、重力場・磁場・量子ゆらぎの影響の最終補正作業に入るとのことです」

 

「突入艦隊旗艦ヤマト、状況を知らせ」

《こちらヤマト、現在メインデータリンクシステムの最終チェック、デバッグ作業中。突入艦隊の随伴無人戦隊は各部点検完了、各艦のビルトインテストシステムも問題なしの情報をよこしています》

 

「大気圏上層の防護フィールド展開作業は!?」

「現在、狙撃時刻時にガトランティス側を向く米大陸上空の防護フィールドは展開完了。現在、大西洋から西欧にかけてと中部太平洋ハワイ周辺からマリアナ周辺までの上空の展張作業に取り掛かっています」

 

「主力艦隊再出撃準備状況は」

《こちら臨時旗艦ブルースカイ。ブルーノアの修復作業は、副砲群の搭載を省略して本日1930に完了予定、明日0300には衛星軌道への投入作業を完了できます》

《こちら機動部隊主力。無人機部隊への換装作業は本日2230に終了予定。後背奇襲に備え、明日0030には白色彗星裏に展開します》

 

地下区画

地球連邦軍艦隊司令部

ガミラス戦役時に建築されたものの、ガトランティス戦役時、太陽の核融合加速時、ディンギル戦役時に地下シェルターとして利用されたため機能増強・改築が行われ、充分な施設が整っている。

 

アマール航海において大破したブルーノアが地球へと回航されたのは今年4月。船体の骨組みを残して焼け爛れた装甲板を剥がし、一基の砲塔を残して全て脱落した主砲塔を再艤装。面影を残していなかったバーベットリングは全て焼き切って、新造したものを積みなおした。

この艤装工事に所要した期間は約4ヶ月。今まで地下ドックでその身を焦がしていたが、土壇場のこの局面で実戦に復帰することになった。

 

「波動掘削弾の要求量は必要最低限の概算で導かれた下限でも100,000発、上界では140,000発に達します。敵艦隊から抵抗を受けるとして、1.3倍は欲しいのですが……」

 

「コスモパルサーには最大4発、無人機隊は1発、と計算して、残存するアークツルス級戦闘空母に3()x140(搭載機数)x4(コスモパルサー)=1,680発、ドゥーベ級空母に190()x200(搭載機数)x4(コスモパルサー)=152,000発、護衛艦隊のスーパーアンドロメダ級に720()x40(搭載機数)x1(無人機)=28,800発、以上計182,480発になります」

 

「白色彗星、重力源の機能回復率32.4%!重力傾斜、月軌道にて44‰に到達!」

 

「第103BBB戦隊、ヤマト隊と連携しての白色彗星内部突入準備を進めろ。第104、105BBB戦隊を吸収して火星軌道へ進出、背後からの奇襲に備え待機」

 

《こちらヤマト。コスモウェーブパターン生成システム、オールグリーン。主管制システムとの直結を確認》

 

 


 

 

 

地下ドックで、僅かな明かりに照らされ、甲板では溶接の光が瞬く。第一艦橋の窓からそれを見下ろしながら、古代は司令部と通信していた。

 

その司令部との交信も終わり、後ろを振り返る古代。これから切り出す話の内容を聞かれては不味いので、それぞれ作業を任せて人払いをしてある艦橋は、普段以上に広い。

 

「それで、コスモウェーブのパターンが無機的な機械構造で再現できるとでも言うんですか、真田さん」

 

古代は、今まで疑問に思っていた質問をぶつける。

 

「それは、どういう意図だ?」

 

「決まり切ってることでしょう。前回突入時にコスモウェーブのコントロールを務めた桂木透子の身体は失われている。今回は()()()はいない、どうやったって制御役がいないんですよ」

 

「……」

 

「答えてください!」

 

「これを口外した場合、君の命は無くなるものと思え」

 

そう言い放つや否や、「話の続きは自動航法室でだ」と古代を制し、足早に主幹エレベータに乗る真田。それについて古代も乗り込み、ボタンを押す。扉が閉まっても、お互い口を開くこともなく、沈黙が重くのしかかる。

 

第一主砲塔が露出する第1露天甲板の1層下、第1甲板を艦首方向へ歩いていく古代と真田。各部から作業用に引かれた通電ケーブルが壁際をより雑多にしている。

「触るな」

「E-22ケーブル/2320に撤去」

「保安部:臨戦態勢のため明日0100までに全撤去」

 

辺りを見渡すと、そこら中にマーカーで殴り書きされた付箋が貼り付いている。所々にある隔壁の扉は大量のケーブルが集中して、床が覆われて見えない。迂闊にケーブルを踏まないように体を捩りながら、潜り抜ける。

 

そうこうして、自動航法室前の三叉路に辿り着く。装置直下の制御室に入り、自身のIDカードを通す真田。しかし、モニターは『Error』の文字を表示し、その下には『401 Unauthorized』の文と共に返される。

 

「!」

 

背後に蠢いた気配に気づいた時には、既に背中に銃口を当てられ、古代も真田も身動きが取れなくなっている。

 

「いやぁ、驚きましたよ。お二人揃って現れるとは」

 

そこには、灰色地に黒色のライン(保安部)の制服を身に纏った星名がいた。まるで空気が凝縮して姿を現したような感覚にとらわれる。

 

「パスコードと権限レベルの割り当ては変更させてもらいました」

 

にこやかな表情のまま銃口を向けながら、コンソールでパスワードを入力しIDカードを通す。『Success』を表示したモニターから視線を上げると、ロックが解除された階段が通路へ降りてくる様子が見える。

 

「話は中でしましょうか」

 

有無を言わさぬ圧力で語りかけた星名は、銃口を向けたまま上へ促す。

 

「君は確か、特殊作戦課第1班に転属していたな。西本長官の差し金か?」

 

「さすが技術部長を務めていただけありますね、真田さん。その通りです」

 

「だがなぜ……」

 

「造作もないことだ。今から君が触れる情報は、軍機に属するものだからな」

 

階段を上がり切って中に入ると、星名は一瞥もくれずに銃口を向けたまま、脇のコンソールを操作して階段を格納する。

 

「それでは、()()とのご対面といこうか」

 

「どうぞ、お構いなく。僕の仕事は口外されないよう監視するだけですから」

 

真田さんが生命維持カプセルのコンソールに近寄り、操作をすると、白濁していたカバーが透明になる。

 

「!?」

 

その中には、意外な人物が入っていた。




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ヤシマ作戦 -2-

そろそろ独自解釈が本格的に話に絡んできます。


「土方……艦長……!」

 

驚愕で口を開けたまま固まる古代。そこに真田さんの言葉が追い打ちをかける。

 

「彼もまた、蘇生体だったのだ」

 

「いつから気が付いていたんですか……」

 

「私も知らされたのは技術本部長になってからだ」

 

そう答えると、古代の横に立ち、透明になったシェルに手を触れる真田さん。

 

「あの突入の後、崩落した構造の下敷きになった土方艦長の身体は、政府の公安部によって回収され、その後防衛本部の地下最深部で検体として保管されていたそうです」

 

「超高画質カメラの映像を読唇ソフトにかけて得られたデスラーの発言が大きなヒントになった」

 

「それはどういう……」

 

「デスラーの座乗艦に小ワープで突撃した時に、『素早い対応ですね。総統は読まれていたのですか?』とミルに質問された後の回答だ。『()()の考えは似てくるものなのだよ』という」

 

「同類……そういうことですか」

 

「さらに言えば、第十一番惑星で一時通信が途切れた後発見されているといった点から、スパイの候補には入っていたんだ」

 

「……」

 

黙り込む古代。そこにダメ押しと言わんばかりに言葉をつないでいく。

 

「これが決定的証拠になったのだが、キーマンが艦長に委ねた筈の反波動格子のコントローラが、加藤に渡った案件があっただろう。幾ら斎藤が怪しまれずに行動出来て、桂木透子の手引きがあったとしても尚、起こりうるはずがないんだ」

 

真田さんの言葉に、星名が更に付け足す。

 

「それにゼムリアに不時着した時、ゼムリア人の遺跡調査に斎藤が離れている最中に桂木透子に対する襲撃がありました。医務室の監視カメラに襲撃者の姿は映ってはいなかったのですが、遭遇した森船務長の『土方宙将』という発言が録音されていました」

 

星名がそこまで言い終わると、真田さんが訝しむような目を向ける。

 

「その情報を知り得たのは、ヤマトの情報が集中する情報処理部門の人間と、トップのごく数名に限られている筈だ。幾ら君が西本長官の差し金とはいえ、易々と口外されるはずがない……君は、()()?」

 


 

「どうだ、ジャップのHQ(Head Quarter)は落とせそうか」

 

米国内務省長官執務室

 

「足元を掬うためのアンカー(イカリ)は沈めました。こちらから作戦開始の指示を出せば、10分以内に行動を開始するでしょう」

 

防諜区画の底、政府高官用にあてがわれた個室で、秘書と会話する男が1人。

 

「外に対し全力を向けている最中ともなれば、作戦の成功確率は上がるな」

 

「正にガトランティスの侵攻を利用した形ですか……しかしなぜ今なのです」

 

「もし日本主導のプランYが成功すれば、白色彗星が去った後の地球のパワーバランスは日本への一極集中が進む。それは我が国の威信に懸けて阻止せねばならない」

 

「それだけではないでしょう」

 

「全く、優秀な部下を持つというのも考え物だな。もちろん、今のことだけではないさ。日本のMr.サナダは軍縮的なイデオロギーを持つ人間だ。彼が発案したプランYが成功すれば、彼の発言力はさらに強まる。我々の支持基盤の軍需産業を失望させるわけにはいかない」

 

「そうですkっ……」

 

そう言いかけて倒れる秘書。小さな破裂音がした室内には、僅かな硝煙の匂いと濃厚な血潮の匂いが立ち込める。

 

「ご苦労だった、特殊班の諸君。まさか私の片腕として動いてくれていた彼が、イチガヤのスパイだったとはね。聞かされた時は驚いたよ」

 

男がそう言うと、壁際の本棚を破って3人の屈強な男が現れる。1人の手には、今も銃口から白煙を漂わせるサイレンサー装備のライフルが握られており、他2名は拳銃を手にしている。

 

「ここから先、この作戦は()()の管轄です」

 

そう言って男に拳銃を向ける隊員。男は一度面食らうが、すぐにすべてを悟ったような表情になる。

 

「なるほど、踊らされていた訳か」

 

その表情は嘆息を含んでいるようでもあり、自嘲の笑みを浮かべているようでもあった。

 

「ええ。あなたは()()にとって、いや、我が国には不要になった」

 

「分かっている。さあ、撃ちたまえ」

 

隊員は一瞥もくれずに引き金を引く。抵抗しなかった男のこめかみに直撃した鉛弾は、一瞬で意識を刈り取った。

 


 

眉を顰めたまま星名に向き直り、真田さんは疑問を口にする。

 

「君は、……()()?」

 

「星名透……米国情報本部、IAA(Intelligence Assassination Agency)第314特殊排撃班、通称314SOF(Special Offensive Force)所属戦闘員ですよ」

 

言い終わらないうちに、古代へ向けてその手に握られた南部97式拳銃を投擲する。ほとんどノーモーションで投げられたとは思えないくらいの速さと威力で、反応が遅れた古代のこめかみに直撃し、衝撃で後ろへのけ反る。

 

「古代!」

 

そちらに気を取られた真田さんは、壁を蹴って瞬発的に距離を詰めた星名に床へ引き倒される。

 

「くっ」

 

猫の俊敏さ・体のしなやかさと、肉食獣の獰猛さで、人間離れした動きで襲い来る星名。

 

倒れる真田さんの背後に回り込み、壁へ背負い投げる星名。

 

体を起こした古代に感づくや否や、真田さんを隅へ追いやる片手間で、一瞥もなく首筋に手刀を叩き込み気絶させる。

 

その動作と同時並行的に真田さんの首元へ伸ばされる手。払いのけようとする手が触れるよりも前に、反対の拳が鳩尾にねじ込まれる。

息が一瞬止まり咳が飛び出すが、その身体の反射の前に、星名の手は喉元へかかり、それに押されるようにして真田は隅の壁に叩きつけられる。

 

「314SOF……パイ(π)、部隊……か…………」

 

ジリジリと喉を締め上げられ、気道が塞がっていく中でひねり出した声は、途切れ途切れで掠れていた。

 

「その通り、ご名答です……っ!?」

 

言い切った直後、自動航法室に銃声が響き、星名は反射的に飛び退く。首元の拘束が解けた真田さんは床に崩れ落ち、激しく咳込む。

 

苦しさに漏れた涙で滲む視界の中で真田さんが見上げると、星名以外にもう1人の人が立っていた。

何時からそこにいたのか、そんな疑問を抱かせるほどに場の空気に溶け込んでいたその人は、まさに()()()()()()()()と称すべき現れ方だった。

 

よく見ると、星名の左肩には小さな銃創があり、そこから血が流れている。

 

傷口を見ようと思わず視線を逸らした星名に、立て続けに銃弾が2発撃ち込まれる。今度は左上腕と、右の脇腹の皮すれすれに傷が刻み込まれる。

 

「こんなところで野垂れ死にしたくないならば、1%も気を抜かないこと、星名」

 

()()()()()()()()()()現れ方をした星名といい、なぜにこうも人間が何も無い筈の空間から現れるのか、そんな疑問は一瞬で消え去った。

 

そこに立っていたのが、意外過ぎる人間だったからだ。




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ヤシマ作戦 -3-

お待たせいたしました。(ごめんなさい)

ここからは力と力のぶつかり合いになります。
終局へ向けて加速する戦いの火蓋が切られます。(『切って落とす』は重複表現だそうです)


「誰だっ!」

 

後ろからかけられた声に、咄嗟に振り返って銃を構える星名。

 

「……」

 

相手は星名の問いに答えることは無く、闇の中からこちらを見つめている。

素人の真田にすら、「見られている」という気配を感じさせる、驚異的な気配の動かし方で、こちらを威嚇しているようでもある。

 

そして、その気配が、一歩、また一歩と動き出す。

その気配が闇から姿を現す。闇が実体化したと形容するに相違ない出現だったが、中から出てきた相手の衝撃に、そんなことを考える余裕は真田の脳裡から消え去った。

 

「百合亜……!」

 

と、星名が呟く。彼自身が一番驚いていたようで、反射的に向けた銃の引き金を締める指がほんの僅かに、注意しても気づかないほどに硬直する。

 

その刹那を見逃さなかった百合亜は、横の壁を蹴るや否や、およそ人間とは思えないスピードで透へ迫る。

 

 


 

ハイライトの消えた目に自分の姿が反射する。すべてを見透かすような、底なしの闇を湛える目が意識に飛び込んできたときには、既に銃を主武器とする()()()()()更に内側へ入られていた。

視界の端に跳んだ百合亜が、そのまま壁を蹴ってくるのが見えたときには銃の構えを解いて()()に意識を集中する。

 

思考を切り替える。

相手は超一級の戦闘員だ。

 

そこまで思考が回ると同時に、低くしゃがんで、一気に相手の下を抜けるように跳躍する。

 

先手を取れなかった以上、相手の予測できない動きをするしかない。

ただし、相手より姿勢を低くすることはリスクを伴う。

足を使った攻撃に対して、対処が難しい。

 

案の定、鋭い角度で蹴りが飛んでくる。

無理やり肩を床に押し付けるように落下して、肩と床の摩擦で減速し、慣性に乗って動き続ける下半身を、床につけた肩を軸にして一気に振り回す。

 

鞭のようにしなる下半身が、不用意に蹴り下ろした()()の脚を捉え、その惰性をそのままに壁に叩きつける。どれだけ身のこなしが上手くとも、ヤマト女性クルーの中でもひときわ小柄だった彼女の身体では、運動エネルギーを殺し切れなかった。

 

それでも彼女は、壁にぶつかる衝撃を受け流しながら、手近にあった天井のパイプをつかみ、反対の手で額へ銃を突きつけてくる。

それは、反射的に探った右手が安全装置を兼ねたグリップを掴み、握力でロックを外しながら彼女に銃を向けたのと同時だった。

 

 

 


 

 

目にも止まらぬ一瞬の攻防。瞬きの後には、星名透と星名百合亜が、お互いの額へと銃口を向けている状況になっていた。

 

どちらかが引き金を引けば、同時に相手も引き金を引く。絶対に相容れない双方の()()()の意志がぶつかり、瞬きもせずにお互いを睨みあって牽制しあう。

 

飄々とした顔で天井にぶら下がりながら、微動だにしない百合亜と、その真下で仰向けになりながら百合亜へ銃口を向ける透。

 

「日本国政府並びにヤマト計画参謀本部連名の特別措置22号に則り、ヤマトクルーに危害を及ぼすものは排除せよ。そう言われてるでしょう?加害側に回るつもり?」

 

最後の一言が僅かに語気が強まる。その言葉を受けた透も口を開き、言葉を紡ぐ。

 

「今の僕は残念ながら特殊排撃班として動いている訳じゃない。今のキミも同じように、ヤマトクルーとして行動している訳じゃない。何であれ、筋違いだ」

 

「そうね」

 

その後、百合亜は言葉を発することなく透と視線を交わす。

 

 

 

数秒の後、2人とも真一文字だった口が僅かに緩み、両者とも銃をホルスターへ戻す。透は床に立ち上がり、百合亜は軽やかなステップでその脇に降り立つ。

 

状況を呑み込めないでいると、そのまま真田に向き直った2人が同時に敬礼をする。

 

「真田本部長、米国からの干渉事項、すべて解消しました」

 

「なるほどな……」

 

気絶したままだった古代が、首筋をさすりながら起き上がる。その時目にしたのは、敬礼を向ける星名透、百合亜と、苦笑した顔の真田だった。

 

「何が、起こったんですか」

 

「2重スパイ、ということだったんだろう」

 

そこで、張り詰めた緊張の糸が千切れるように、古代の意識が途切れる。

 

 


 

 

「…」

 

次に記憶が残っていたのは、医務室の天井の白色灯の光景だった。

 

「何が、起きたんですか」

 

朧げな記憶の中では、敬礼を受けた真田さんが苦笑している光景が最後の景色だった。

 

「彼は2重スパイだったらしい」

 

「特殊作戦課第1班、特殊排撃班所属で、潜入工作を行っていた。しかし同時に、米国情報本部には、自身のスパイとして認識されたらしい」

 

「いまだに状況が読めないんですが……」

 

「事の顛末としては、米国スパイとして我々を襲撃したが、表返った、というところらしい」

 

「だったら最初から襲撃の必要など……」

 

「ポーズをつけるためだろう。報告の書類によると、監視役がいて、その始末が終わるまでは襲撃の手を緩めることは許されなかった。そして、監視役排除の連絡代わりに、百合亜君を寄越した、という手筈だった」

 

「そうですか」

 

何か、話の掛け違いを起こしたような気がした古代は、一度、最後の記憶を思い返す。

 

「その書類は、何の報告ですか」

 

違和感の正体を知覚するより前に、『反射』が口を衝く。

 

「米国からの干渉事項、って何のことですか」

 

漸く意識が回り始めた感覚だった。

 

「プランYの主導国家である日本が、戦後国際社会の実権を握るのを避けるため、私個人に対しての妨害工作が裏で行われていたらしい。それをすべて先回りして潰すことができたのも、星名透が2重スパイを行っていたからのようだ」

 

「泥臭い話ですね」

 

「国家間の関係は、どんな関係であろうと必ず、お互いがお互いを引きずり降ろそうとする側面が存在する。そういうものだ」

 

「今思えば、そういった既得権益の捩れに嫌気がさして、ずっと宇宙を漂っていたのかもしれない……」

 

一度こぼれた本音が、自制心を上回る強さで口を動かす。

 

「既得権益に縋る高官は、中流階級、一般層への還元を恐れ、逆に一般民衆は未だにこんなちっぽけな星の地表に這いつくばっていようとする。未だに一般市民の価値観は地球ベース。深宇宙で過ごすうちに、そんなちっぽけな存在に見えてしまった」

 

「古代……」

 

「それでも、ガトランティスの脅威には、戦わねばならない。地球を捨てて逃げたとして、高々数千年の安寧が得られるだけです。確定的な破滅要因は、ここで叩いて、後顧の憂いを断たなきゃいけない」

 

本当にその言葉が、自分の本心から出ているのかも分からないまま、話を終わらせる。

 

雪ならば、この葛藤を解消してくれるのではないか、その僅かな希望のためにも、ここでリスクの芽を摘んでおき、万全の態勢で捜索に向かわなければならなかった。

 

この男は、うじうじ悩むときはなかなか答えが出ない。それでも、一度決めたことを貫き通す姿勢だけは、昔と変わらないか。そう思った自分に気が付いた真田は、誰にも気づかれない程度に、僅かに口角を上げ、苦笑した。

 

 


 

「ヤマト、発進準備!」

 

「機関始動、動力接続、上昇開始!」

 

「火器管制システム、オールグリーン」

 

「レーダー、亜空間ソナー、すべて正常」

 

「白色彗星、依然として月軌道で地球・ガルマンガミラス連合艦隊と対峙」

 

「重力炉、回復率34.9%、重力傾斜は航行には支障ない程度ですが、狙撃には不安な数値です。再度の破壊が必要かと」

 

艦橋正面には、太陽よりも大きく、白色彗星の姿が映る。

今もガトランティス艦隊を排除し続けるのは、無数のエルナト級と、大量のコスモパルサー隊。母艦から降ろされ、月面基地と地球の航空基地を拠点に、アポカリプス級が乗せて出てくる()()()()()の邀撃と艦隊直掩を行っていた。

 

総勢万以上の単位になるコスモパルサーの物量と、充実したエルナト級各艦の対空兵装による支援砲火が鉄壁の防空網を築き上げ、2203年の戦いのような損害はほとんどない。

 

「機関出力60%から80%へ」

 

「後続部隊、上昇開始」

 

太陽系の外側から迫る白色彗星、それを正面に見るということは背後に太陽を背負う訳であり、地球から出撃すると、夕日を後ろに抱えることになる。

 

《これより、ヤシマ作戦を発動する》

 

地球司令部からの通信が全艦隊に届く。いよいよ、地球の未来を懸けた、()()()真の実力が問われる時だった。




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ヤシマ作戦 -4-

0時ちょうどを告げる時報の電子音が司令部に響く。

一瞬の静寂の後、予定通りの行動が始まる。

 

「フェーズ0を開始、全発電施設は、速やかに『特電路』よりエリス基地仮設蓄電施設へ」

「全管区、発電施設出力最大へ」

「極東管区特高圧変電所、増設第二変電所、昇圧作業開始。一部電力は多段昇圧システム起動電源に回せ」

 

主モニターの中央に、世界各地の各管区での作業の進捗が表示される。

 

「特高圧集積バイパス、仮設特殊高圧変電所への回路接続」

「特殊高圧変電所、昇圧作業は順調。電圧ゆらぎも、予想値範囲内」

 

《こちらエリス仮設第二要塞。Y砲の最終艤装作業完了、受電システム問題なし》

 

「こちら地球司令部。了解。狙撃タイミングまで待機」

 

《了解》

 

地球の電力は、波動エンジンを応用した無限動力で賄われている。それでも、有限時間内での生成エネルギーは有限であるため、管区ごとに多数の発電所が動いている。

狙撃に必要なエネルギーを溜める為に、全ての発電施設がフル稼働でエネルギーをECCへ送っている。

 

「phase0-step1から、step2へ」

 

「他管区の特高圧変電所、昇圧作業開始。並びに多段昇圧システム、起動電力充分、昇圧炉臨界点到達」

「全管区の特殊高圧電力、誘導電路を経由して多段昇圧システムへ注入開始。多段昇圧システム、出力80%に到達」

「最終次、全電源ラインをECC電路へ直結、充電開始」

「ECC全蓄電容量の0.03%が充電開始」

「狙撃可能まで、あと2,800秒」

 

「全艦隊に通達、攻撃開始」

「各艦隊に打電、phase1に移行、全部隊は所定通り作戦行動開始」

 

通信コンソール区画が騒ぎ出し、予備電源に切り替わった非常灯がいつにも増して薄暗かった司令部が、限定的ながら活気を取り戻す。

 


 

「司令部より暗号を受信『ヤシマ作戦発動、phase1開始。各艦隊は陽動を開始せよ』です」

 

「敵前衛艦隊を排除する。第一・第二艦隊は波動砲発射用意、主力艦隊は各艦波動防壁を最大出力に、敵の攻撃を引き付ける」

 

戦列復帰に合わせて、主力艦隊旗艦に再就役したブルーノアの艦橋。臨時主力艦隊旗艦の役目を終えて第一艦隊旗艦へと戻ったブルースカイの艦隊指揮機能とは大違いで、いくら同型艦とはいえ、全艦隊の総旗艦の通信能力はやはり別格だった。

 

「火器管制、オールグリーン。接近中の敵を捕捉、優先度順に対応艦を割り振り開始」

「主砲、1番から4番、正面目標カラクルム級、撃ち方始め」

「テェッ!」

 

「亜空間魚雷、発射管開け」

「測敵よし!」

「撃ち方始め!」

 

「正面のカラクルム級1,200を殲滅、後続に前期ゴストーク級1,500、カラクルム級3,500の艦隊を捕捉。高次元エネルギー反応も観測」

「亜空間魚雷第二斉射用意、主砲全火力を正面へ」

 

「敵艦隊後方に、アポカリプス級200、カラクルム級320,000、後期ゴストーク級*1と思しき反応が1,200,000、白色彗星内部より出てきます」

 

「120万……」

 

「第一・第二艦隊、波動砲発射準備完了」

「射線上から退避する、面舵一杯!」

 

第一・第二艦隊のアークツルス級から重力子スプレッドが放たれ、1,000を優に超える波動砲を束ね上げる。

途轍もなく太い1本の光の矢となって、主力艦隊の布陣の中央の開口部から飛び出した一撃は100万以上の敵艦を全て消滅させ、何事も無かったかのように白色彗星へ迫る。

 

その攻撃は、最終的にガス帯を払うのみに留まったものの、白色彗星内部の敵艦隊を更に外部へ吊り出すことには成功した。

 

「白色彗星内部より、カラクルム級3,000,000が出現、全幅3,000宇宙キロで密集陣形を構築」

 

「『藪をつついて蛇を出す』とはこのことでは」

 

「『虎穴に入らずんば虎子を得ず』分かっているだろう?」

 

「愚問でしたね」

 

「第一・第二艦隊、波動砲第二射充填開始」

「第十三・十四艦隊、第一・第二艦隊に合流、波動砲充填開始」

 

「カラクルム級、先頭との距離900宇宙キロ」

「ホーミング波動砲1斉射の後、射線上より退避する」

「エルナト級は先行して射線上より退避」

 

「ホーミング波動砲、敵陣の上下を挟み込むように設定、敵陣形を圧迫して波動砲の射線上へ誘導」

「エネルギー充填120%、射撃盤に諸元入力よろし!」

「テェッ!」

「取舵一杯、射線上から退避」

「敵艦発砲!」

「波動防壁出力を最大に!射線から退避次第、バリアミサイルを波動砲に干渉しないよう展張距離設定して斉射」

 

「第一・第二艦隊、エネルギー充填120%、波動砲発射!」

 

至近を通過する波動砲の衝撃に、ブルーノアの船体も揺さぶられる。

 

再びの波動砲が今度は莫大な数のカラクルム級を襲い、無に帰す。再びの着弾にも耐えた白色彗星は、圧力を保ったまま微速前進を続ける。

 

「重力炉の再破壊を実施する。全艦、白色彗星内部へ突入準備」

 

「第十五艦隊並びに第75から94BBB戦隊、先行して突入」

「白色彗星内にワープアウト反応、IFF信号、第十五艦隊です」

 

「主力艦隊全艦、並びに第三・第四・第五艦隊で突入する。機動部隊護衛の第六・第七・第八艦隊は待機、波動砲発射直後の第一・第二艦隊は態勢を整えてから突入」

「波動砲による重力炉攻撃後、連続して本艦の無人機隊により波動掘削弾攻撃を行い、重力炉を破壊する」

 

第十五艦隊からの『周辺敵排除完了』を意味する『コードブルー』の受信を今か今かと待ちながら、ワープ陣形の構築に移る主力艦隊。月面基地から出撃した第三・第四・第五艦隊も、衛星軌道上で突入隊形を構築する。

 

「『コードブルー』を受信!」

「全艦、ワープ!」

 


 

「惑星内の虚数次元亜空間の探知、完了しました!」

 

その声が響いたのは、白色彗星が月軌道に差し掛かろうかというタイミング、ヤシマ作戦発動の12時間前だった。

白色彗星の前進に伴って、防衛艦隊は後退を繰り返す。

そうして目まぐるしく変化する安全宙域は、波動実験艦『ムサシ』に暫くの間、安定した観測を許さなかった。

 

「やはり虚数空間内に()()()があったか……」

 

「ヤマトが突入してゴレムを起動し、滅びの方舟本体を引き出してから狙撃、真田副長、どれだけかかる?」

 

すぐさまマイクを取ってヤマトに繋ぐ西本。地下ドックで整備中のヤマトには、有線回線でデータが共有されている。

 

《恐らく、突入から離脱まで35分程度かと。それ以前の防御シールド・重力炉破壊も合わせると45分、でしょうか》

 

司令部とヤマトで開かれた通信回線。白色彗星の襲来に備え、地下都市への住民の退避も進んでいる中、地球艦隊司令部も旧地下都市の旧防衛軍本部へと移っている。

 

「了解した」

 


 

まばゆい光が白色彗星のガス層を取り払い、内部の都市帝国を露出させる。その姿は、地球大気圏内を上昇していたヤマトからも、はっきりと肉眼視できた。

 

「主力艦隊、並びに重力炉破壊部隊、白色彗星内に突入」

 

IFF信号を確認している桜井が声を上げる。

 

「内部のエネルギー反応高まる、重力炉に対する波動砲攻撃の準備と思われます」

 

桜井との横で、彼とは別のデータを睨む木下も報告する。

 

《電磁衝撃波の直撃回避のため、ヤマト以下突入隊は亜空間航行へ移行されたし》

 

中西が、ブルーノアからの直接通信を第一艦橋に再生する。

 

「こちらヤマト、了解。潜航まで残り40秒!」

 

真田さんが応答すると同時に、艦内通信で潜航までの時間を知らせる。

 

「全艦に達する。これよりヤマトは亜空間潜航を経て大帝玉座の間への突入を実行する」

 

真田さんが言い終わると同時に、マイクを艦内放送に繋ぐ古代。

 

「嘗てヤマトが通った道であり、ガトランティスのアキレス腱である。それ故に敵の防御も厚い」

 

随伴艦隊は全て無人艦で、喪失のリスクを無視できる存在だったが、ヤマトだけは違った。

 

「しかし同時に、地球と、この宇宙に生きとし生ける全てのヒト型知的生命の未来を握る一戦になる」

 

嘗てのガトランティス戦役での『奇跡』に懸けて、全ての願いがヤマトに託されている。

 

「総員、第一種戦闘配置!最後の最後まで戦い抜く、その覚悟で当たれ!」

 

古代の檄も入り、否が応でもヤマトの中に一種の緊張感が走る。

古代の言葉の裏で進んでいた潜航準備も整い、ヤマトは最後の戦いへと赴く。

*1
『ゴストーク=ジェノサイドスレイブ』という名前らしい。以後は地球側の分類呼称としては『後期ゴストーク級』で統一




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ヤシマ作戦 -5-

「艦橋シャッター閉鎖、計器航法へ移行」

 

小林の腕に力が篭る。

 

「主機、フライホイールによる運動量保存を維持したまま動力停止。補機、出力80%から90%へ」

 

「次元遷移弁開放、亜空間結節点生成システム起動」

「第二波動エンジンより起動動力注入開始、潜航と同時に第二波動エンジン停止、用意!」

 

「亜空間結節点発生を確認、随伴艦隊、突入開始」

 

ヤマトが殿となって突入するのに、随伴艦が全艦突入するのを待った。全員が固唾を呑み、ヤマトも亜空間へ突入する。

 

「第二波動エンジン、動力停止。補機、出力90%で安定」

 

「主砲乙弾装填よろし」

 

「次元境界面の変動を観測、重力井戸が崩壊」

「境界面に波動を確認、重力波、来ます!」

 

「総員衝撃に備え!」

 

横から激しく揺さぶられるヤマト。通常空間であれば激しい電磁障害を伴って襲うはずの衝撃は、亜空間に伝播できた重力波だけで収まる。

 

「浮上予定地点まで、あと20秒」

 

ナビゲートを務める桜井の声が艦橋に響き、全員が天井のモニターを見上げる。

そこにはヤマトの前面展望がカメラ経由で映されている。そしてヤマトの正面の、見渡す限りの青緑の空間に差す、赤い光の帯がはっきりと映り込んでいた。

 

「重力バラスト放出準備、補機出力を100%へ」

 

「補機、出力最大!」

 

「浮上地点到達、浮上開始!」

「メインタクブロー、上げ舵30、補機前進いっぱーい!」

 

艦首下部のスラスターが火を吹き、ヤマトの巨体が首を擡げる。補助ノズルの長い炎も更に伸び、上へ上へと鉄の箱を押し上げる。

 

「主機再始動、波動防壁を起動!」

 


 

艦橋の頂上部が、何もない空間の中に突如として現れる。みるみるうちに下から、次々に残りの部分が浮上してくる。

 

不揃いなカラクルム級が上下を挟む中に、大量の随伴艦隊も続けて出現する。

 

「以前に突入した際のルートを表示しろ。小林、最大戦速!」

 

「了解!」

 

以前は桂木透子がメインフレーム経由で導いてくれたが、今回箱に収まっているのは無意識の屍。当然、生成できるコスモウェーブも、敵からのコスモウェーブによる干渉を跳ね除ける程度の、所詮『お守り代わり』でしかない。

それが今回随伴艦隊を伴ってきた理由でもある。

 

「レーダー、探知状況はC--(シーツーマイナス)、レーダー波への干渉も確認。光学モードに切り替える」

 

「赤外線受動探知システム、全周囲監視モードで起動。レーダーに情報送ります」

 

「レーダー、赤外線情報頂きました。……正面に熱源反応、光学モードで目標を捕捉」

 

「護衛艦隊、交戦開始」

 

「上条、艦首魚雷装填、主砲撃ち方始めと同時に斉射」

 

「主砲に諸元入力、対空戦闘用意。艦首魚雷、迎撃弾頭装填」

 

「主砲、撃ち方始め!」

 

古代の意を汲み取った郷田が、各兵装に指示を下す。徐に郷田が振り返って上条と視線を交わした後、上条が正面に向き直って声を上げた。

 

「正面の熱源群の識別完了、後期ゴストーク級500、イーター、並びにニードルスレイブ多数。捕捉しきれない」

 

「前衛のクラスD2隻が波動防壁貫通された!爆沈!」

 

「前衛のクラスD、波動防壁被弾経始厚低下。クラスSが前進してカバーに入る」

 

「主砲、ニードルスレイブ群に照準、エネルギー回路を主機から直結、連射モード撃ち方始め!」

 

「テェッ!」

 

主砲が火を噴き、凄まじい連射力で有象無象の群れを片っ端から撃ち抜いていく。

 

「後期ゴストーク級よりミサイル飛来!」

 

「艦首魚雷、撃ち方始め!パルスレーザー群、対空戦闘!」

 

「両舷発射管、並びに下部発射管、対艦弾頭装填!上条の指示にて一斉射、用意」

 

主砲・副砲がイーター・ニードルスレイブにかかりきりになるため、残りの兵装をフル稼働してその他の敵に火力を集中する。

 

「ミサイル、目標諸元入力よろし!」

「撃ち方始め!」

 

舷側と、艦底部第三艦橋前方から、後期ゴストーク級へ向けてミサイルが放たれる。一度発射管の向きに飛び出してから、推進器と補助翼を巧みに操りながら方向を変える。

 

ミサイルは弾幕の合間を縫って敵へ迫り、必中距離に捉えるや否や中段ブースターを切り離して最終ブースターで一直線に敵へ突き刺さる。

 

「正面、後期ゴストーク級殲滅。右舷にニードルスレイブの群れを捕捉」

 

「右舷、舷側魚雷撃ち方始め、パルスレーザー対空戦闘!」

 

「主砲は正面を維持、後部主砲右舷へ。爆雷投射準備」

 

「右舷目標、距離4.3宇宙キロ!」

 

「爆雷投射始め!右舷艦尾魚雷、バリアミサイル一斉射」

 

「小林、増速!()から回廊へ突入する!」

 

()まで120宇宙キロ!38skntで195秒!」

 

「正面から後期ゴストーク級更に現る!」

 

「主砲、撃ち方用意!」

 

「仰角32、相対速度65sknt」

 

「主砲諸元入力、撃ち方始め!」

 

主砲1門ずつ照準して命中させ、1門につき1隻が爆発していく。

 

「先頭、相対距離20宇宙キロに迫る!」

 

「取舵5°「小林!回避せずに突っ切れ!」

 

「りょ、了解!舵そのまま!」

「波動防壁、出力は最大を維持!」

 

操舵機を確りと握りなおす小林。敵の接触に備え、全員が全身を硬直させる。

その刹那、西条の声が艦橋に響く。

 

「直上より落体多数!カラクルム級です!」

 

「煙突ミサイル、撃ち方始め!」

 

「テェッ!」

 

「艦首魚雷、バリアミサイル装填!」

 

「えっ!?」

 

防御に有利でも、そのシールドが自身の前進をも阻むバリアミサイルを艦首魚雷に装填する。

一見支離滅裂に聞こえたが、古代の声に迷いはなかった。

 

「郷田!復唱しろ!」

 

「艦首魚雷、バリアミサイル装填」

「D-13、S-03,08,09がカラクルム級に接触して爆沈!」

 

「バリアミサイル、進行方向の上方へ向けて発射用意、バリア展張面は水平±0°」

 

「了解、バリアミサイル諸元入力」

「撃ち方始め!」

「テェッ!」

 

古代の指示通りに撃てば、ヤマトの進路の上側をカバーする文字通り()()が出来上がる。その理解が郷田の意識に上るよりも先に、手は反射でミサイルに軌道要素を入力していた。

 

「バリア展張を確認!」

 

「正面、後期ゴストーク級10が迎撃不可能域に侵入!」

 

「総員衝撃に備え!」

 

後期ゴストーク級の、真っ黒の衝角。それが艦橋の眼前に迫る瞬間まで、カメラははっきりと捉え、天井のメインパネルに映像を流していた。

その映像で接触した瞬間、厳密には映像で接触するよりほんの少しだけ早く、ヤマトを前後から揺さぶる衝撃が走る。

 

「波動防壁、出力低下率200kPa、現在出力に対し8%の低下にとどまる」

 

「後期ゴストーク級、殲滅。観測機器にその他の感無し」

 

()の開放信号を送信」

 

真田さんが計器を操作する。すると、メインパネルの映像で、天井から垂れ下がっていた()が開き、中から光が溢れる。

 

()の開放を確認!」

 

「小林!飛び込め!」

 

「了解!」

 

上昇して回廊へ突入するものの、強い重力が下向きに加わる影響で、足を引っ張られるように随伴艦隊は脱落していく。

それだけに留まらず、ヤマトの行き足も鈍る。

 

「クラスD・S、航行限界です」

 

「主機、補機は全て推力へ回せ!第二波動エンジンで戦闘を継続する!」

 

「了解!最大戦速!ヨーソロー!」

「波動防壁、動力源を第二波動エンジンへ切り替え!」

 

「波動防壁、再起動」

 

「正面、ニードルスレイブ襲来!」

 

艦橋に西条の声が響く。




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ヤシマ作戦 -6-

「正面、ニードルスレイブ襲来!」

 

西条の悲鳴にも似た叫び声が上がる。動きが鈍ったヤマトに襲い掛かる楔の群れ。その群れは、もはや蛇か龍と称する以外無いほどに連続的に高密度で襲来する。

 

「主砲、連射モード撃ち方始め!」

 

出力の余裕がメインエンジンに劣る第二波動エンジンから回せる余剰のエネルギーは少なく、波動防壁の起動にも瞬間的に大出力が要求されるため、主砲の連射速度が鈍る。

 

片っ端から主砲が撃ち抜き、副砲が取りこぼしを虱潰しに叩く。更にパルスレーザーが至近に接近した物を平らげていく。

 

それでも僅かな連射の隙間を縫って迫る群れは、じりじりとヤマトとの距離を詰めてくる。

 

「多数が迎撃不可能域に侵入!」

 

「波動防壁再起動間に合わない!」

 

「接触まで2秒!」

 

「衝撃に備え!」

 

ヤマトの船体をへし折るように、前部甲板を上から下へ突き抜けていく。波動防壁の展開が遅れていた瞬間に重なったその接触で、甲板に大穴が開く。

 

「第一波、抜けました」

 

「波動防壁起動!」

「出力は12MPaで安定」

 

「増速、突入しろ!」

 

「両舷前進一杯!増速、黒20!」

 

メインノズルの光が瞬くや否や、鉄の巨体が咆哮を上げたように震え、全てのしがらみから解き放たれたように加速する。

 

「艦載機隊、発艦準備!」

 

「真田さん、俺も出ます。船の指揮はお願いします」

 

「分かった」

 

「桜井、小林と代わって操舵に入れ」

 

「了解!」

 

「ありがてぇ!小林、出撃します!」

 

「艦長!俺も出ます!」

 

上条が声を上げる。古代と一瞬目を見交わす。

 

「いいだろう。真田さん、戦闘指揮もお願いします」

 

古代の言葉に、無言で頷く真田さん。

 

「航空隊、全機発進!」

 


 

ヤマト上甲板後部第一格納庫

コスモゼロ21が格納されている場所であり、古代しか使わない現状では、事実上の古代専用の格納庫だった。

 

非常時に備え、いつでも出撃可能なように待機させていたから、乗り込んでそのまま発艦態勢に入る。

 

「Alpha1古代、発艦する」

 

エレベータでカタパルトに接続され、前へ転回する。スロットルレバーと操縦桿の位置を再び確認して集中する。

 

「Alpha1,cleared for take off.」

 

嘗て使い込んだコールサインを噛み締めながら、カタパルトの加速に身を委ねる。

 

《Bravo1上条、Bravo隊全機発艦!》

《Charlie1小林、全機発艦!》

《Delta1佐々木、Delta隊発艦態勢》

 

「レルテの門を突破して大帝玉座の間に達するには、ヤマトの巨体では不可能だ。とはいえ生身で突入する必要はない。Bravo隊は門の破壊、Charlie隊は俺に続いて突入、Delta隊はバックアップを担当」

 

《了解!》

 

【警告、正面に敵機多数】

 

機首のレーダーが捉えた影を戦闘AIが即座に解析し、SID(シド)が音声でアナウンスする。

 

《こちらDelta隊、進路上の敵の掃討に移る》

 

「頼みます」

 

 


 

 

航空隊の全ての通信はヤマトに中継されている。

 

「桜井、レルテの門を突破する。郷田、主砲発射用意、門はヤマトが破壊して航空隊を援護する」

 

「了解、主砲戊弾装填、副砲三式弾、用意」

 

真田さんの言葉に反応した郷田が、戦術長の席から指示を出す。

 

「主砲一斉射の後に副砲で破孔を拡げる。主砲、テェッ!」

 

「照準よし、発射」

 

閃光が主砲口で瞬き、目にも止まらぬ弾速でレルテの門を突き破る。

機上の古代を始めとする一部のパイロットは、空戦で鍛えられた動体視力でその砲弾から剥がれる薄板に気が付いた。

 

APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)

驚異の貫徹力を持ち、20世紀終盤以降長らく戦車の主兵装として活躍した実体弾は、ヤマトにも実体弾の1オプション、対要塞用高貫徹徹甲弾『戊弾』として搭載された。

その特徴としては、特別細い弾体で発射用炸薬の爆発を受け止めるための装弾筒、つまり発射時のみの覆いがついていることで、古代らが肉眼視した薄板こそが、その装弾筒だった。

 

戊弾が弾着するや否や、間髪入れずに次の指示を下す真田さん。

 

「続けて副砲、テェッ!」

 

「発射!」

 

「桜井!破孔に突入!」

 

「了解、回廊の中心軸に艦の軸線を合わせる」

 

左手を操縦桿から離し、機械の補助を借りながら軸線に乗る。

 

「古代、大帝玉座の間に辿り着き次第、ホバリングでゴレムを銃撃、起動させたのち、全速で離脱しろ」

 

《了解です。Charlie隊は突入後の反転に備えよ》

 

《了解!》

 


 

最後の扉を眼前に捉える。次第に細くなっていく回廊はヤマトの侵入を拒み、尚も縮み続けるその隙間に、無理やり滑り込むように侵攻を続けている。

 

《あれが最後の扉ですかね……》

 

「そのはずだ」

 

先頭を行く上条が緊張した声を上げる。扉を1枚ずつ突破してきて、上条の()()がCharlie隊最後の波動掘削弾になる。波動掘削弾を撃ち尽くしたコスモパルサーはコスモゼロの後ろに下がっているので、古代の前は上条機が唯一の機体になる。

 

《波動掘削弾投下》

 

着弾と同時に青い光が溢れ、その光が古代と上条を包み込む。寧ろ、光の中へ飛び込んだという表現の方が適切だった。

 

その刹那、警報が鳴り響く。正面の障害物をレーザー走査計が探知した音だった。

 

「SID、姿勢制御、減速、速度0に」

 

【姿勢制御、空中静止】

 

機体に搭載されたコンピュータが減速に必要な力の力積をはじき出し、スラスターの仕事率から噴射時間を逆算し、その秒数ピッタリに信号を出力する。

 

完全に機体が静止したため衝突の危険が去り、衝突警報が自動で解除されたころには、青い光も晴れて正面の物体が完全に目視できた。

 

高い、筒状の物体。幾何学模様が艶めかしく発光し、その上には豪華な椅子と1人の男が立っている。

その物体は間違いなくゴレムであり、その男はズォーダーだった。

 

【READY GUN】

 

右手で握るスティックにあるボタンで、安全装置を解除し発射態勢に入る。日本人特有の単語ごとに読む、所詮『棒読み英語』でSIDが告げる。

 

右手の人差し指を掛けているトリガーを意識して、右人差し指を握るように絞る。

 

人差し指の沈み込みに一瞬反発したトリガーの部品が、引っ掛けていた部分の最大静止摩擦量を超えた力で押し込まれ、内部のスイッチまで一気に到達する。

 

0.1ミリ秒にも満たない間にそれは電気信号へと変換され、機首の機銃へ発射信号が伝えられる。

信号が途中経由した攻撃管制コンピュータでは、センサー情報で認識して捕捉しているゴレムへ弾が向かうよう、照準が補正される。

 

機銃のアクチュエータが動作して微妙に銃身の向きを調整し、粒子ビームとレーザーの複合であるその弾丸を放つ。

 

古代の反射で放たれた銃撃がゴレムを貫き、ゴレムが起動する。

 

【警告!警告!未知のエネルギー放射を探知!】

 

宇宙全体へ響き渡る()()()()()()にSIDが警報を上げるものの、古代ら人類には全く感知できない次元で事態は進む。

 

「真田さん、ゴレムの破壊に成功、これより離脱します」

 

《こちらヤマト、了解。航空隊は離脱を急げ》

 

 


 

余りに呆気なくゴレムの破壊に成功し、引き上げる。

 

「補助エンジン始動、出力90%!」

 

「重力アンカー解除、反転180°!」

 

機関長の徳川が声を上げ、操縦席についている桜井が舵を取る。

 

「航空隊、帰還しました。未帰還、8」

 

西条が項垂れたような声を出す。

 

狭い回廊内でのニードルスレイブとの空戦で、Delta隊は未帰還4、バックアップに回ったAlpha隊も2、突入したCharlie隊は、引き返す際に衝撃に襲われ、壁に接触した2機が未帰還となった。

 

その衝撃こそが、紛れもなく『滅びの方舟』の起動の咆哮だった。

 

「桜井!代わる!」

 

「お願いします!」

 

艦橋へ舞い戻ってきた小林が再び操縦桿を握って、ヤマトの船体は離脱を始める。

 

「戻りました」

 

「古代、発射まで10分を切ったぞ」

 

真田さんの言葉に無言で頷く古代。

 

「残り10分すか、ヤバいっすね!」

 

小林が声を上げ、ヤマトは増速する。もうガトランティスからの攻撃の恐れは無いので波動防壁の出力は最小限、メインエンジンは機関へ全力を回す。

 

《白色彗星内の各艦は、Y砲の加害半径からの離脱を急げ》

 

地球艦隊司令部からの通信がヤマトに入り、重力炉破壊時の磁気嵐が収まったことを知らせる。

 

《航空隊は波動掘削弾投下により重力炉の破壊作業を完了。空母部隊は航空隊収容後速やかに離脱、戦艦部隊は直ちに離脱せよ》

 

「小林、重力干渉が弱まった地点まで前進してワープで加害半径を抜ける。桜井、全周観測。一番近くの重力低干渉地帯を探せ」

 

「了解!」

 

「上条、只今戻りました!」

 

「……おかしい……半径2,000宇宙キロ圏内に低干渉地帯がありません!」

 

「何!?」

 

古代が叫ぶ。桜井後ろに真田さんも立ち、腕組みをして画面を見つめる。

 

「古代、どうする?」

 

残り8分45秒。古代の脳内には真田さんの声が反響する。




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ヤシマ作戦 -7-

「古代、どうする?」

 

残り8分45秒、1秒のロスが命取りになる。

回廊の外壁は衝撃で吹き飛んでいるので障害物はないが、通常航行では9分弱の内に加害範囲を振り切るのは不可能。最大戦速でも運良く辿り着けて1,980宇宙キロ。

 

「小林、暫定的に最大戦速で離脱、Y砲の軸線から直角に離脱」

 

「了解!」

 

思考の海に取り込まれそうになった瞬間、意識を現実に戻して小林に指示を出す。問題はこの後だ。

 

「真田さん、亜空間潜航は」

 

「次元結節点生成システムは非常にデリケートな代物だ。重力干渉、電磁干渉が残ってる状況下で使用すれば、亜空間回廊への転換にラグが生じ、最悪パラドクス、つまり因果律の崩壊を招く。そうなった場合、宇宙そのものが総転移するか、消滅するぞ」

 

そう言い切ると、何かに気付いたように木下のコンソールの後ろへ移動し、横から身を乗り出してキーボードで計算をし始める。

 

「ただ、一定の可能性はある。あくまで最終手段だ」

 

そう言い切りながらも、キーボードを叩くのを止めない。

 

「無差別ワープは」

 

「重力干渉が強すぎて、ワープ中に回廊壁に接触、虚数空間に粉微塵になって放り出される。亜空間潜航よりも危険だ」

 

「発射まであと8分!」

 

桜井が声を上げる。

同時に艦内の警告灯が点灯し、視界が暗転して赤く照らされる。

 

「重力干渉か……」

 

「前にも重力に囚われて、白色彗星に落下したんですよね……」

 

古代のつぶやきに、振り返った中西が重ねる。

 

「全ては重力のせいか……」

 

スロットルを維持したまま、流されないように舵を微調整しながら、小林が呻く。

その言葉に思うことがあったのか、小林の方を向くや否や一旦硬直する古代。

 

そして、そのままの顔で口を開く。

 

「真田さん、波動防壁なら、……重力波の遮断は可能ですか?」

 

「重力を媒介する重力子の繋がりをシャットアウトか……宇宙空間を切り離す波動防壁なら、あるいは可能かもしれない。どれだけの出力が必要かは不明だが、一考の価値はある」

 

「少し待ってください……ダメです。21式乙では最大出力でも不安が残ります」

 

キーボードを叩いていた木下が被せる。

 

「21式甲ならば理論上は可能です。ですが…」

 

「波動砲口のみの装備では全周囲を切り離すような展開は不可能」

 

続きを真田さんが引き取る。

『ここまで来たのに』という想いが、全員の沈黙を誘い、痛いほどの静寂が艦橋を支配する。

 

暫くしてそれを破ったのは、真田さん自身だった。

 

「いや……波動防壁を2重展開した上で、高次元微細レーダーから真空ゆらぎを発振して2枚の防壁の間で反響、共鳴させれば、疑似的に超低エネルギーの空間が生成され、外部重力のエネルギーを吸収することで、周辺重力の影響は無視できるレベルまで下げられる」

 

「その方法なら21式乙でも可能なんですか?」

 

「可能だ……メインフレームの操作系にオプションとして2重生成を追加するのに時間が欲しい」

 

「残り6分!」

 

「それで充分だ」

 

その言葉を残して、副長席へ舞い戻って、椅子に座る時間も惜しいと言わんばかりに、屈みこみながらキーボードを叩き始める。

 

「木下君、メインフレームの演算でシミュレーションを実行、最適な2重の間の距離と高次元微細レーダーの発振周波数を解析してくれ」

 

「は、はい」

 

カタカタと、タイプの音だけが第一艦橋に降る。

 

先の静寂に限りなく近かったが、正気を保つタイプ音が、まるでクルーの意志を繋ぎ留めているかのようだった。

 

「残り5分!」

 

「真田さん」

 

「大丈夫だ、2分残せる」

 

その言葉が返されるや否や、タイピングのスピードが上がり、より甲高く打鍵音が響く。

 

「木下君」

 

「現在量子ビット演算で解析中です……あと30秒」

 

「終了し次第送ってくれ。生データで構わない」

 

無限にも思える30秒の静寂。どれだけ経ったとカウントダウンを見上げた桜井の目は、視界が暗転する瞬間に10秒も経っていなかった時計を捉えた。

 

『!?』

 

全員の視界がブラックアウトし、慣性制御が切れたのか、無重力特有の浮遊感を感じる。

席に座らず突っ立っていた古代は思わず姿勢を崩したが、『まるで何が起きたのか分からない』という表情を浮かべる。

 

よく見れば、中央の自動航法装置の光も消えている。

 

「メインフレーム、反応ロスト」

 

「やられたか……」

 

「予備電源、スイッチオン」

 

赤色灯が再び点灯し、壁面のディスプレイが光る。左を見やると、郷田の睨む火器管制のディスプレイは全てホワイトノイズがかかっており、唯一まともな表示がされているのは右の木下のディスプレイのみだった。

 

「再起動シーケンス、リストのA01から開始」

 

「真田さん、何が起きたんですか?」

 

「メインフレームに対する電子攻撃だ」

 

「正確にはパルス解析でタイミングパルスに合わせて偽情報を大量に送り込まれました。DoS攻撃に近いものです。……シーケンスリストB1855でダウン。再試行、……B0130でダウン。依然として干渉を受けている模様」

 

キーボードを忙しなく叩きながら真田さんの言葉を補足する木下。

しかし、その声の冷静さとは裏腹に、メインフレームはダウンしたまま再起動を受け付けない。

 

「I/Oシステムをカットの後、サブコントローラにマニュアル入力。古代、強行するぞ」

 

強い視線を古代へ送る真田さん。頷いた古代を見ると、木下へ指示する。

 

「カウント2,1,0」

 

ゼロを数えると同時に、木下の手と真田さんの手が左へ90°回る。鍵を差し込んでメインフレームのI/Oシステムをカットする手順だった。

 

「I/Oシステムのダウンを確認、続いて、サブコントローラ起動します」

 

「中西、ECM起動、妨害電波発振用意。手動制御にて敵電波の妨害開始」

 

「りょ、了解!」

 

「サブコントローラ、マニュアルで起動を確認。マニュアルオペレーションで入力作業開始」

 

「先の解析で絞り込んだ範囲でいい。データを頼む」

 

「了解、精度は±4.4%」

 

「最終的な微調整は、間隔数値と周波数を変化させながら、重力干渉の実測値で探って確定する」

 

「小林、徳川!いつでもワープに入れるように備えろ!」

 

「了解!」

 

「全艦に達する。これより、強行ワープでの脱出を行う。総員、衝撃に備え!」

 

「残り2分15秒!」

 

表示が復活したカウンターを見上げる桜井が声を上げる。

 

「副長!」

 

木下が真田さんに声をかける。

 

「落ち着け、試行時間は5秒残せる」

 

「5秒って……」

 

「0やマイナスじゃないんだ」

 

「残り120秒!」

 


 

「何をやっているんだ……」

 

赤色の非常灯が天井から、青白いモニターが正面から照らす、艦隊司令部。

白色彗星内部の、滅びの方舟の中から飛び出したIFF信号が、依然としてそこに留まっている様子を見て、西本はつぶやきを零す。

 

「ヤマトより入電!『ワレ、重力干渉ニヨリワープ離脱困難。実施中作業ガ終了シ次第離脱スル。射撃ハ予定通リ実施サレタシ』です!」

「作業の情報が添付されてます。モニターCに表示」

 

「発射まで50秒!」

「陽動、最終次作戦へ移行。月面基地、精密誘導弾撃ち方始め」

 

ディスプレイが月面を映し、白煙を吐きながら飛び上がる誘導弾を捉える。密集したサイロから次々と打ち上げられる弾頭は鈍い輝きを放ちながら、白色彗星の逆光により黒い点の群れとなって昇っていく。

 

カメラから見て奥側から始まった発射は、次々と撃たれるうちに手前側に寄り、最後にはカメラの視界が発射の白煙に完全に覆われる。

 

「ECC、充電値は予定値へ」

「最終安全装置解除」

「第1900番までの最終バルブを開放、最終次超高圧タキオン収束解放システムへ」

「撃鉄起こせ」

「撃鉄作動、射撃待機点へ」

「最終次超高圧タキオン収束解放システム、13基全ての最終弁に起動電力注入開始」

 

ディスプレイのY砲態勢表示が白地に黒文字だった『待機』から、赤地に白文字の『火器実装』に切り替わる。

スケルトンで構造が表示されているディスプレイの、撃鉄に当たる部分が動作して固定される。

 

「射撃態勢、待機から火器実装へ」

「銃身冷却、0.005K(ケルビン)から0.001Kへ」

「重力ゆらぎ、収束率は予定範囲内」

「射角最終修正、弾道全要素の入力、弾道演算の結果を反映」

 

モニターに表示された太陽系の縮小モデルで、太陽風、地球磁場、宇宙放射線、エリス公転の転向力、太陽公転の転向力、真空ゆらぎ、重力、全ての要素がまとめて演算され、色違いの矢印になって可視化表示される。

 

「発射まで、残り10秒!」

 

「撃鉄、安全ピン解除!」

「照準固定!」

「銃身冷却終了」

「電磁シールド作動、輻射防御」

「誘導弾弾着、重力傾斜は0を維持」

 

「残り5秒!4、……3、……2、……1、……0!」

 

その時、エリス基地からの中継映像が白い光に包まれる。




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決着

モニターのエリス基地からの中継映像が輝き、一瞬赤色が司令部を照らしたのち、そのまま輝度が上がるにつれ彩度が薄らぎ、最後には真っ白な、所詮『白トビ』の画面になる。

 

「着弾まで5秒!」

「ヤマトは!?」

「白色彗星内部のIFF信号途絶!……今ワープした模様。重力干渉波を検出」

 

「だんちゃーく、今ッ!」

 

「観測カメラ、遮光シールド作動」

 

地球軌道上から捉えた映像を映すモニターが、一瞬白トビしたのち、真っ黒な影となった白色彗星を貫く赤い筋を映す。

 

「白色彗星に直撃した模様!」

「地球防護フィールドに衝撃波、来ます」

 

「電磁干渉。通信回復まで120秒」

 

カメラからの中継映像が途切れ、映像の右上隅に『LIVE』を重ねて表示していたモニターは、一瞬ブラックアウトしてから録画映像の再生に戻り、LIVE表示が消える。

 

AIが映像をデータに変換していく様子が、再生映像に更に重ねられる。

戦果算出中のコンピュータは沈黙を貫き、外部情報の入ってこない司令部は、ある意味この宇宙の中にありながら、最も遠い場所となった。

 

「地上定点観測地点より、有線での映像が入りました。主モニターに回します」

 

ケーブルの接続状況が悪いのか、電磁干渉か、はたまた永く使われていなかった為に有線設備が劣化していたのか、カメラが映した映像は酷く粗いもので、蒼白い空が紅く輝く様子しか見られなかった。

 

「カメラ、露光設定切り替えます」

「システム障害、回復まで20秒」

 

じれったい20秒間の間にも、モニターの四角い宇宙(そら)は輝きを失い、全ての熱を使い切った熱気球が萎むように細い1本の線へと収束し、遂には跡形もなく消え去った。

 

「システム回復!」

「レーダー、IFF信号再受信!」

「作戦図再表示します」

「滅びの方舟、熱源反応無し、再起動の兆候観測されず」

 

「大気圏上層防護フィールド、出力低下は最大で97.43%でした」

「突入部隊、有人艦隊の消耗率は1.2%、基地・母艦合わせた有人機隊の未帰還は全体の13.5%、無人艦隊損耗率は72%、無人機隊は61.9%です」

 

「司令部宛の通信を受信、ヤマトからです!」

 

《こちらヤマト、これより帰還する》

 

 


 

「デブリ回収計画の立案は本田君にすべて引き継ぐ」

 

『本田』と呼ばれた技術士官が「はっ!」と答えている此処は、平時用の地上司令部施設直下のブリーフィングルーム。

そこでは現状の太陽系の状況が説明され、完全に寸断されたインフラの復旧計画が説明されていた。

 

更には、ヤマトに新たな特務任務を下すために、防衛軍長官の西村や、古代、その他第1艦橋の主要クルーが出席していた。

 

押しても引いても容易く砕けない超合金の鉄屑が地球近傍に浮き、非装甲の民間船は地球から離れることすら危険。

大きな塊は輻射シールドを転用した力場で地球への落下を防げるものの、小さなスペースデブリに働く力は小さすぎて大気圏突入阻止には至らず、毎日のように夜空には多くの火球が見られるようになっている。

回収は主としてパトロール艦とその搭載艇により行われ、本体の残骸は今も不休の解体作業が進められている。その光は夜になれば地上からも見えるほど活発に行われ、火球と共に地球の夜空を彩っている。

 

土星は液体金属状の水素から成る核が周囲へぶちまけられ、今も尚毎秒数千tのペースで昇華を続けており、土星近傍には水素分子が高密度で存在するために宇宙船が近寄れない危険地帯が出来上がっていた。

 

「本田君は外してもらって構わない。古代、ここからが本題だ」

 

外へ出るよう促してから、語り出す真田さん。

部外者を排して、ヤマト関係者のみで行われる会議の内容に、古代は身構える。

 

「滅びの方舟……いや、第一次のガトランティスの侵攻は、2203年にゴレムを起動したことで退けられた。ゴレムの効果範囲は全宇宙だから、この時点でガトランティスは消えていたはずだった。これは分かるな?」

 

「はい。2202年時と技術レベルの差も見られませんし、それは疑問に思ってましたが、何か理由が?」

 

「これは仮説段階で、観測データとの照合が必要だが、1つだけ説明できるシナリオがある」

 

「……何が起きてるんですか?」

 

「ワープの際、タイミングを逃すとどうなるか知ってるか?」

 

20年前のイスカンダル航海でのワープテストで聞いたはず、そう意識を記憶へ向けるが、古代は思い出すことができずに黙り込む。その沈黙に取って代わり質問に答えたのは小林だった。

 

「……時空連続体の空間連続性が破綻することで変調をきたし、宇宙そのものが総転移する。でしたっけ」

 

「そう。今我々がその状態にあると仮定する」

 

「!?……それで、何が起こるんですか?」

 

荒唐無稽な仮定に、思わず一瞬反応が遅れる古代。

 

「今この宇宙と、2202年の並行宇宙が重ね合わせになっている可能性がある」

 

「は?」

 

「もちろん、常に干渉しあっているわけではない。高次元から見た際に、重ね合わせになっているとすると、平常での影響はない」

 

「じゃあなぜそんな仮定を……」

 

「ワープを行う際は、次元結節点、つまり、この三次元空間からより高次元に通ずる穴を開け、そこを通る。これにより、()()()()の宇宙との行き来が発生している可能性があるんだ」

 

「だとすると……」

 

「あぁ、白色彗星は向こうの宇宙でのワープの際に、何かの条件を満たし、こちらの宇宙へやってきた」

 

「なら、向こうの宇宙にはもう……」

 

「残党の一部は残っているだろうが、ガトランティスは消えている筈。その理屈になる」

 

「じゃあ、我々への長距離航海の特務任務というのは……」

 

その古代の言葉に、全員の視線が西本の唯一身へ注がれる。

 

「無論、仮定で動くわけにはいかない。真田君に話を聞いた昨年末から、波動実験艦ムサシと実験艦銀河のの再就役をもって高次元レベルでの観測を進めていた。ガトランティス侵攻で計画に大きな遅延が発生したが、現在最終シーケンスを実施している。そろそろそのデータが到着するはずだ」

 

「もし、仮説が正しかった場合は?」

 

「ヤマトには、()()()()の探索任務を下命することになる。諸々の影響で、最低でも1年弱に及ぶ航海になる。乗員の中から志願制で参加者を募ることにする」

 

「分かりました」

 

「失礼します」

 

扉が叩かれ、先程席を外した本田がタブレット端末を持って、再び入ってくる。

 

「計測データが届きました」

 

「結果は?」

 

「仮説の現実性は99.87%でした。念のため真田本部長にも確認してもらおうかと」

 

そう言いながら、本田が真田さんにタブレットを手渡す。液晶画面を指ではじいてスクロールして一頻り確認した真田さんは、一言『うむ』と発して、続きを話す。

 

「問題ない。この数値ならば計測の誤差範囲内で、ほぼ理論値通りだ」

 

「ってことは……」

 

「ヤマトは、現時刻をもって第3001艦隊旗艦の任を解き、特務探査艦として、並行宇宙探査へ向かえ」

 

『了解!』

 


 

艦橋上構の頂上、3本のミニマストの直下の艦長室。地下ドックで整備を進めるヤマトから空は見えないが、窓のシャッターは開いている。背もたれに体重を全て預けながら、物思いに耽る古代。

 

「古代、入っていいか?」

 

扉越しに真田さんの声が響く。そういえばさっきの解散時に「話すことがある」と言われていたんだった。

 

「はい、どうぞ。……それで、話というのは?」

 

「森君……古代雪のことだ」

 

「雪が……」

 

「宇宙の総転移の原因のミスワープ、これがそもそもどこで起きたのかが問題だったのだが、ちょうど、第2次移民船団が襲撃を受けた頃に起きたらしい」

 

「……それで?」

 

「強行ワープで切り抜けた護衛艦が15隻、アマールにあったのは見たか?」

 

「えぇ、雪のスーパーアンドロメダ級も」

 

「基本的に、被弾していても艦内にいさえすれば、次元共鳴を回避し、乗員の死体が残ったままワープアウトするはずだ。しかし、彼女の艦は、大部分の乗員が行方不明のまま現れた」

 

「ということは、その時にワープシステムに機能不全が発生していたと?」

 

「そうだとすれば、それにより宇宙の総転移が発生していたと考えて矛盾はない」

 

「そのワープ中に宇宙の重ね合わせが発生したとなると……」

 

「特異的な相互干渉により、質量保存則が破れ、対称的に()()()()へ放り出された可能性が高い」

 

「こんな話を自分にするってことは……」

 

「あぁ、今作戦は私が主導で進めさせてもらった。もちろん、古代雪以下の戦闘中行方不明(MIA)*1判定100余名捜索も作戦目標に含まれている」

 

「……感謝します」

*1
Missing In Action




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