俺の束姉が可愛くて生きてるのが辛い (pluet)
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第1話

 ――あの日。

 両親が失踪し、俺と姉さんは二人だけの家族になった。

 

 

「姉ちゃん」

「……ん、どうしたの?」

「とーさんとかーさんはどうしたの?」

「さあ、どうしちゃったんだろうね。どっかいっちゃった」

 

 そんな素っ気なく言われた言葉を当時の俺がどう受け止めたのかは、よく覚えてない。

 でも、自分が置いていかれたことと、二人が戻って来ないだろうことは何となくわかった。

 それが悲しくて、姉さんに抱きついて泣いたのを覚えている。

 

「うん、大丈夫だよ。いっくんには私がいるから。ずっと守ってあげるから!」

 ―――いつも通りに胸を張って言ってくれたその言葉が嬉しくて、また泣いた。

 

 

 でも、姉さんが俺を守るなら。だれが姉さんを守るんだろうか。

 姉さんは俺の家族だ。俺だけが守られるなんて、そんなのは嫌だ。

 

「じゃあ、姉ちゃんは俺が守る。ちぃ姉ちゃんより、先生よりずっとずっと強くなって。姉ちゃんを守るからッ!」

 

 姉ちゃんはいなくならないで。その言葉は口に出さなかった。

 願い事は口に出すと、叶わなくなる。いつだったか、千冬姉さんに教えられていたから。

 それに、口に出さなくても、誰よりも頭のいい姉さんが気づかないわけがないから。

 

「―――うんっ。ありがと、いっくん」

 そう言って、強く抱き締められたことがその返事だと、そう思うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とまあ、そんなことがあってから幾ばくかの月日が流れた。

 

 そして、今、テレビでは先日起きた日本――いや、世界が混乱の渦に叩き込まれた事件についての報道番組が流れている。ちなみにどのチャンネルも同じ事を報道してる。

 ご丁寧に、国会議員やら防衛省のお偉いさんやら豪華なコメンテイター陣を呼んで事件についての特番を組んでだ。

 

『―――昨日、12:00頃に世界各地から突如日本に向け、現在分かっている時点で2341発もの弾道弾ミサイルが発射され、その全てがたった1機の謎の機体により破壊されました。

日本政府は、この事態につき弾道弾ミサイルを発射した各国を強く非難するとともに、原因についての情報開示を求めるとの声明を発表しました。また、ミサイルの破片等による被害、及び、この謎の機体についても引き続き調査中とのことです。繰り返します―――』

 

 上空、数千メートルの映像をいったいどこの誰がどうやって撮ったのかも分からないが、その謎の機体とやらがばったばったと刀一本でミサイルを切り裂き、何かビームっぽいものを放って辺りに爆炎が広がるシーンなどが何度も何度も流されている。

 果たして、これはSF映画の予告か何かではなかろうかと思われるかもしれない。

 

 ところがどっこい……フィクションじゃありません……! 現実です……! これが現実……!

 

 輪郭や鼻がえらく鋭く角ばった気がするが、気にしない。

 

 それはともかく、今放送されてる謎の機体とやらがウチの庭先に鎮座しているのはどういうことだろうか。

 目に焼き付いた白い機体。その隣にはミサイルを叩き切った刀も突き刺さってる。

 

 ………おい。これはどういうことだ、姉さん。と、隣で一緒にテレビを見ていた姉に問いかける。

 

「いやー、よく撮れてるねー。一足先に無人機をステルスモードにして待機させてた甲斐があったね!」

 

 ……などと、意味不明の供述をしており。

 実にいつも通りだが、全く聞いちゃいねぇぞ、この姉。

 

「どういうことだよ、これ。というか、これ乗ってんの千冬姉さんだろ! 何やってんだよ! 何やってんだよ、アンタ等!?」

「おぉ、さっすがいっくん。白騎士ってバイザーとか着けてるのによくちーちゃんだって分かったね! アレだね、おっぱいで分かったんだね!」

 

 んなわけがあるか。

 でも、確かになんとも身体のラインがくっきり分かるボディースーツを着てて、実にエロいけd

 

「何を考えてる、何を……っ!」

「ぎゃあああぁぁああっ!?」

「何って、ナニさ! って、あ、待って、ちーちゃん! そんな全力で頭を掴んじゃ……っ!?」

「フフフ、姉弟仲良くここで朽ち果てるんだな」

 

 握力が100近い千冬姉さんに仲良く宙吊りにされる、織斑姉弟。つまり、俺と束姉さん。

 

 みちみちと、通常頭から聞こえてはいけないような音が聞こえてくる中、若干頬が染まった千冬姉さん可愛い! とか考えてしまってる俺は確実に姉さんの影響を受けているに違いない。

 

 そんな事を考えながら、意識がブラックアウトした昼下がりであった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 ずきずきと痛む頭のことはさておき、改めてどういうことなのかをおそらく元凶であろう束姉さんに問いただす。

 ちなみに被告には正座をさせている。反省した様子はまるで見えないけどな!

 

「これはねー、世の中の脳みその足りない有象無象の塵芥どもに束さんとちーちゃんのISがほんとにすっごいんだって知らしめてやるためなんだよ!」

 

 相も変わらず、身内以外の評価が酷い姉である。

 そういえば、先日姉さんは小天体から微粒子を回収して数年越しに帰還したは○ぶさに感動したとかで、J○XAに自前の宇宙航行用の機体を作ってプレゼンしに行ったんだっけ。

 珍しく姉さんが他人を評価したから、これを切欠に少しはまともになってくれるんじゃないかって思った俺は間違ってたらしい。

 けらけらと、楽しげに言う姉さんに頭を抱えつつ、質問を重ねる。

 

「でも、なんで宇宙進出が目的なのにこんな戦力を示したわけ?」

「 派 手 だ か ら ! 」

 

 ……たまに。

 いや、割と頻繁に俺は本当に姉さんが頭がいいのか疑問に思う事がある。

 アレか、天才と何とかは紙一重とかそういう奴か。

 

「まあ、常識を姉さんに期待するだけ無駄なのは分かってたけどさ」

「ぶぅ、いっくんたら酷いんだー」

「事実だろうが」

「いやいや、そんな冷静に突っ込んでる千冬姉さんこそ、なんで止めずに参加してるのさ」

 

 しれっと束姉さんにつっこむ千冬姉さんであったが、ジト目でそう尋ねるとなにやら口ごもり始める。

 この篠ノ之 千冬(しののの ちふゆ)姉さんは束姉さんの唯一の友人であると同時にストッパーなんだが、どうしてこうなったんだか。

 今流れてるシーンでもノリノリで、篠ノ之流の奥義とか放っちゃってるし。先生が泣くぞ。

 まあ、これでこの操縦してる人が千冬姉さんだって分かったんだけど。

 

 ……というか、よくよく見てみると口元笑ってるように見えないか、このシーン。

 あ、ダメだ。なんか奥義が綺麗に決まって悦に入ってるようにしか見えなくなってきた。

 これが、愉悦……ッ! とか言ってそう。

 

「むっ、そ、それはだな……その……」

「にゅふふ、ちーちゃんは束お姉ちゃん厳選『いっくんベストショット』3枚で買収されたのでしたー。えっへん」

「なっ、それは内緒にしろと言っただろうが!」

「でも、私は了承した覚えはないよ~♪」

「この……ッ」

 

 もうやだ、姉たち。

 どこに謝りゃいいんだよ、これ。防衛省か?

 あーもう、一晩寝てたら夢になってないかなぁ。

 ……うん、一縷の望みをかけてそうしようか。おやすみー

 

「む、いっくんもう寝ちゃうの? じゃあ、お姉ちゃんと一緒に寝よう!」

「待て、束。もう一つの報酬を忘れたのか? 一夏は私と一緒に寝るに決まってるだろうが」

 

 あーだこーだと仲良く言い争いながらも、部屋を出ようとする俺に二人が引っ付いてきた。

 俺には一人で寝る権利もないのか。せめて、寝るときぐらい安らぎをくれてもいいじゃないか。

 あと、俺を挟んで言い争わないでくれ。歩きづらい。

 

 ……もういいよ、干したての布団に癒してもらおう。

 干したての布団の匂いに包まれる、これ以上の幸福があろうか、いやない。

 そんな小学生らしからぬ事を考えながら、ずるずると二人を引きずりつつ俺の部屋にたどり着く。

 

 しかし、部屋を開けた先にあったのは―――

 

 

「……すぅ………ん……」

 

 

 気持ち良さそうに布団の上で眠っている幼馴染、篠ノ之箒の姿であった。

 箒、お前もか。お前まで俺に残されたささやかな楽しみを奪うのか。

 ワナワナと肩を震わせる俺を他所に、千冬姉さんが箒へと近づいていき

 

「起きろ、愚妹」

「へにゅっ!?」

 

 そのまま頬をつねりあげた。 

 うわぁ、すっげぇ痛そう……いいぞ、もっとやれ。

 

「ななな何するんですかぁ!?」

「うるさい。それより、なんでお前が勝手に一夏の布団で寝てるんだ」

「そっ、それは………」

「説明しよう! 箒ちゃんは大好きないっくんの匂いがする枕を抱きしめてたら、ついつい眠くなっちゃってそのままぐっすりだったんだよ!」

 

 ちなみにこれが証拠ログ~

 そう言って、モニターを投射して箒が寝るまでの映像を流し始める姉さん。

 おい、これどうやって撮ったんだよ! 盗撮か! しかも無駄に高音質高画質……弟の部屋にカメラなんて仕込むなよ!?

 

「いっくんの成長記録を撮るためなら束さんは一切の妥協をしないのだよ!」

「ふむ、私もお前のそこだけは褒めてやろう」

「えへへ~」

 

 褒めるとこじゃねぇよ! と、声を大にして言ってみても二人が聞く耳もたないのは明白だった。

 対して、自分の行動の一部始終を流された箒はと言うと

 

「………よし」

「よくねぇよ。なんでまた寝ようとしてるんだよ」

 

 羞恥心からか、顔を真っ赤にしながらまた布団にもぐりこもうとしていやがった。

 

「ううう、うるさい! こんなところに干したての布団を置いてるほうが悪いんだ!」

「いや、干したての布団の気持ちよさは分かるけど、寝るなら自分の家で寝ろよ」

「………それだと、一夏の枕がないではないか」

「ん? なんだって?」

「何も言ってない!」

 

 最後の方でなにやらブツブツといってた気がするけど、理不尽に怒られたんで口を噤む。

 そんな俺を見てから、そのまま、また俺の布団に身体を投げ出す箒。

 が、その直前に千冬姉さんに捕まってしまう。

 

「愚妹、そこは私の場所だ。さっさと明け渡せ」

「横暴な! いくら姉さんとはいえ、ここは私が先に取ったんです!」

「ならば、その枕を渡せ。お前のにおいが染み付く前に私がもらう」

「嫌です!」

 

 二人はどこからか取り出した竹刀を手にそのまま姉妹喧嘩を始める。

 俺の部屋で暴れるなよ、やるなら外でやってくれ、外で。

 あぁ、布団はもとより部屋中がボロボロに……

 

「あーあ、ぐちゃぐちゃになっちゃったねー」

「笑ってないで止めてくれよ、姉さん」

「うん、それ無理! いくら束さんでもできない事があるんだよー」

「今週のどっきりメカは?」

「そんなもの今まで造った覚えはないよ、いっくん」

 

 であるか。

 せめて復元光線ぐらいは欲しい。俺の部屋を元通りにしてくれ。

 というか、このままじゃ俺、今日の寝る場所がなくなるんだけど。

 

「そこはお姉ちゃんにまっかせなさい、だよ! こんなこともあろーかと、束さんもお布団を干してあるんだからね! さあ、一緒に寝ようよ、いっくん!」

「干したのは俺だけどな」

「もうっ、細かいこと気にしてちゃダメだよ! さあさあ、束さんの部屋に行こうじゃないかっ!」

 

 そう言って姉さんは俺の手を引っ張っていく。

 あー、もう、どうにでもなーれ。

 

 後のことは起きてから考えよう。

 部屋の片付けは篠ノ之姉妹に任せる方向で。あと、束姉さんも幇助犯として同罪な?

 

「ええー、束さん悪くないよ?」

「……もういいよ、それで」

「やったー! 私許された!」

「はいはい」

 

 そんな緩いやり取りをしながら、姉さんの部屋に向かう俺なのであった。

 

 目が覚めた時には、なぜか千冬姉さんと箒も一緒になって寝てたりと頭を抱えたくなる事になるんだが、それはまた別の話ってことで。

 

 

 

 

 

 




読了感謝です。
一夏はもげるべき、死にたくなければそうすべき(挨拶)

小学1年生を取り合う姉さんじゅうよんさい、ありだと思います。
以前、にじファンで投稿した時よりも2000字近く加筆修正しております。
主にもっぴーこと箒を呼ぶ声が多かったんで登場させてしまったためですが。
ほとんど、設定しか組んでおらず先走ってしまっているため更新に関しては非常に不定期になると思われますが、楽しんでいただければ幸いです。

誤字脱字等ありましたら、ご報告いただけるとありがたいです。


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