麦わらの一味?利害が一致しているから乗っているだけですが? (与麻奴良 カクヤ)
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308 一頁「よくあるスマラの日常」

 

 

「ふんふんん♪」

 

 

 ペラりと本をめくる音を出しながら、女性はそこにいた。本を読みながら鼻歌を奏でている。

 

 カフェのテラスに座って、まるで休日の午後のように読書を楽しむその姿は美しい。整った顔立ちに、腰辺りまで伸ばした薄いクリーム色の髪の毛。年は二十代を思わせ、服装もおしゃれとは言えないが、その辺の町娘とは全く比べ物にならないのが分かる。いい所のお嬢様なのだろうか?

 

 そんな彼女は『今』でなかったのなら、歩いている歩行者をこぞって立ち止まらせるだろう。そう、今でなければ。

 

 普段なら見惚れる人達も、今は彼女の姿は見えない。いや、見る暇が無いと言った方が正しい。

 

 なぜなら……………

 

 

「おい嬢ちゃん!逃げなくてもいいのかい?」

 

「ひゃはは、そんな所で本なんか読んでないで、おじさん達とイイコトしようぜ」

 

 

 ぐへへへ、と海のならず者『海賊』が女性を取り囲む。それでも女性は本を読む事を止めない。

 

 事態が理解できていないのか?はたまた、理解できて尚本を読み続けるのか?

 

 答えはどちらもだ。女性は自分が滞在している街が、自分が、海賊に襲われていることなどどうでもいい。どうでもいいから、そんな周りの事なんか知るか。どうでもいいし、知らないから、本を読む邪魔をするな。そう思っているだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 女性、スマラが滞在している街が海賊に襲われたのは、つい数十分前の話だ。

 

 いつもどおり、昼食後にカフェで本を読んでいると、急に現れた海賊が街を襲い始めたと言う訳である。そして現在、スマラはというと……………

 

 

「ふんふん♪」

 

「んだ!ゴラァ!!」

 

「無視してんじゃねぇぞぉ!!!」

 

「ああ゛ぁ!!舐めてんのか!!?」

 

 

 スマラは海賊達の声が全く聞こえていなかった。

 

 聞こえていない、を無視されていると取った海賊達は、腰に納刀されているサーベルやピストルを抜く。そして、切りかかる、発砲とそれぞれの攻撃手段でスマラの手足を狙う。手足を攻撃して動けなくなったところで、慰み者にしようと言う考えなのだろう。実にならず者らしい考え方だ。

 

 そして、海賊達のサーベルが、ピストルの銃弾がスマラに当たる瞬間、スマラは置いてあったコップに手を伸ばす、本のページをめくる、足をパタパタと動かすと言った何気ない動作で海賊達の攻撃を避けた。

 

 

「あ?避けただと!!??」

 

「ま、マグレだ。もう一回やれ!!」

 

「オォォォ!!!」

 

 

 さっきのはマグレだ、と言いながらも今度は手足をなどではなく、心臓、胴体、頭といった急所を狙って再度攻撃を仕掛けてくる海賊達。二度目の襲撃は、本から目離さずに動かないスマラを見た海賊達は「殺った!」と思う。

 

 しかし、現実はそうならなかった。

 

 スマラに当たった瞬間、刃や弾は肉体を破壊するどころが勢いが反射した。反射した勢いは、サーベルを持っていた者なら腕が折れるようにして、ピストルで撃った者なら自身の弾に撃ち抜かれるようにして、攻撃した本人に返された。

 

 

「あれ、いたの?」

 

 

 攻撃を反射されて受けたダメージで地面に這いつくばっている海賊達を見て、スマラは今更自分が海賊達に襲われていた事を知った。すでに伸びておる海賊達を不愉快そうに睨むと、スマラは歩き始める。ぶらぶらと歩くスマラ、それを見つけるとゴキ〇リホイホイの様に集まってくる海賊達。スマラはそんな海賊達を気にせず歩く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 街を襲撃していた海賊の船上で一人の大男がふんぞり返っていた。海賊団の船長だ。その大男に一人の伝令役の海賊がやってくる。

 

 

「ハァハァ!ほ、報告します!」

 

「ん?あぁ、粗方奪えたか?ならば――――」

 

 

 伝令役の海賊が何時も通りの報告をすると思った大男は撤退の準備を促そうとして、伝令役の海賊に遮られた。

 

 

「街に上陸した野郎どもはほぼ壊滅状態です!!」

 

「はぁ!!?百人はいたはずだぞ!!?一体誰にやられた。まさか、海軍でもこの街に居やがったのか!!」

 

「いえ!ただの女一人です」

 

「……………………」

 

 

 伝令役の部下に、約百人の部下がやられたと報告を受けた船長は、黙ってプルプルと肩を震わせた。怒りだ。今まで何回もの街を襲撃してきた部下共が、たった一人の女に負けたと言われたのだ。海賊団の威厳が簡単に壊されたと船長は思ったからだ。

 だが、こんな時に起こった事に対して憤怒を抱いているだけでは、船長として成り立っていかない。部下の下っ端海賊達はバカだが、船長は違った。

 船長はすぐさま行動に移る。

 

 

「おい、今すぐに撤退の準備を整えろ!街で伸びてる奴らは置いておけ。良いか、出港準備が最優先だ!!行け!!」

 

「へ、へい!!」

 

 

 部下に船長命令を下すと、船長は椅子にドガッと座り込み、自身の武器の手入れをし始めた。

 

 船長が武器の手入れをし始めた理由は戦おうとか、時間を稼ごうとか、そういったものではない。そう言った事は部下に任せればいいだけだ。なら、何故戦う準備とも取れる行動を緊急事態にしなければならないか?と言うと、最悪の事態を想定してだ。

 最悪の事態とは、正体不明の女が海兵または世界政府もしくは賞金稼ぎ、同業の海賊でやむを得ず戦わなければならない事態に陥った時のことである。

 

 

「クッソ、この辺りは海軍の見回りが少ないはずだったな。なら、他の海賊か?」

 

 

 船長は同業者の海賊団を思い浮かべる。東の海(イーストブルー)最高懸賞金で魚人の集団であるアーロン一味、船長が悪魔の実能力者であるバギー海賊団、女でありながら腕っぷしが強いアルビダ海賊団、数年前に船長が捕まって処刑されたクロネコ海賊団、5000人の兵力を所有するクリーク海賊団。

 東の海(イーストブルー)で有力な海賊団を思い浮かべる船長だったが、どれも『女一人』という情報にピンとこない。唯一条件に当てはまるアルビダでも、被害状況に当てはまらない。

 兎に角、

 

 

「兎に角、早く出港しねぇと」

 

「そうね、早く出港して貰いたいわ」

 

「あいつらおせぇぞ。早くしねぇと……………………て、テメェは誰だ!!?」

 

 

 余りにも自然に独り言に返してきた声に船長は初め、全く分からなかった。

 

 どういうことだ?部屋に人が入って来る気配が感じられなかったぞ。それに、不自然に静かだ。船長はそう思いながら、声の主を観察する。

 クリーム色の長髪が特徴の女だ。おしゃれとは言えない服装だが、値が張ると分かる。無機質な目でこちらを見ている姿は、けだるく疲れているようにも見えた。

 

 

「(こいつが部下共をやった犯人か…)テメェは誰だと聞いている。どうやって此処まで来た?部下共が居たはずだが……………………まさか素通りって訳はねぇよな」

 

「私が誰とかはどうでもいいわ。名前を名乗った所で、どうせ知りもしないでしょう?どうやって此処まで来たか?と言われても、ただ歩いて来たとしか言いようがないわよ。私に向かってきた人達は勝手に倒れていっただけだもの。安心しなさい、殺してはないわ。足になって貰うもの、船を動かす最低限の人数は残っているわ。……………所で貴方……」

 

「テメェ!!!何が目的だ!!」

 

 

 今まで冷静だった船長も所詮は海賊、遂に頭に血が上ってしまい、女――スマラに向かって剣を上段から振り下ろす。確実に脳天に当たった、そう思った瞬間力が反転し腕の構造を無視して弾かれる。が、ここで終わらないのが一船の船長である意地なのか、無防備であるはずのすらっとしたくびれがあるお腹に向かって、回し蹴りを叩き込む。

 今度は弾かれない。そう確信した船長は口元をニヤリと意地汚い笑いを顔に思い浮かべて……………………強靭な痛みに意識を失った。

 船長の回し蹴りは確かにスマラにヒットした。しかし、回し蹴りがヒットしたくびれ部分を見てみると、黒く変化している。まるで肌が鉄の鎧を着たみたいに硬化したのだ。唯の足が鉄に匹敵するはずもなく、船長の足はゴキッと音を立てて折れ曲がったのだ。

 

 東の海(イーストブルー)では殆ど使う者の存在しない技術、『武装色の覇気』を解除したスマラは痛みに倒れる海賊団の船長を、何でもない物を見るかのように見ながら、独り言でポツリと

 

 

「データベースで賞金首と確認完了。本代を獲得」

 

 

 目の前に倒れる男を海軍に引き渡すと得られる賞金を思い浮かべて、表情を緩めた。だが、緩めた表情を直ぐに一転させる。今後の移動について考えたからだ。

 

 

「はぁ、能力の連続使用で疲れたから穏便に済ませようとしたのだけど………何で襲って来るのかしら?」

 

 

 スマラは元々、今日の昼過ぎで出港する予定の船に乗って近くの島に移る予定だったのだ。それが海賊団の襲撃によって予定がズレてしまう。海賊が襲撃してきたのに、予定通りに暮らす者などいないだろう。そんな島があるとしたら強力な保護を得ている島しかない。海軍然り、四皇然りだ。

 

 この島で船が出港するまで待つのも良いが、どうせなら元凶である海賊船に乗せて貰おうと、スマラは船長室を訪れたわけだったが。話し合いが起こる前に船長が攻撃を仕掛けて来た為、正当防衛で攻撃をせずに倒したわけだ。

 

 

「さて、どうしようかしら?流石にこの大きさの船は能力で動かすとなれば、疲れるわね」

 

 

 スマラは考える。このまま復旧が整うまで待つか、それとも多少無理をしてこのガレオン船で適当な島まで航海するか……………………。

 スマラが出した答えは、

 

 

「とりあえず船内の探索でもしましょうか?」

 

 

 問題の先送りだった。めんどくさい事は後で考えよう、船内を探索している内に良いアイディアが出るかも知れない。実にスマラらしい考え方である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スマラが海賊船を探索した結果見つかったのは、貯めていた財宝が幾つか、スマラ一人では何か月分にもなる食料、それと、

 

 

「なんだ、小舟があるじゃない。これくらいなら大した疲労もなく動かせるはずだわ」

 

 

 船を島に定着できない時の為だろうか?小舟が二隻しまっていた。

 スマラは早速、財宝と食料を幾つか貰い(強奪)能力を使って背負うタイプのリュックサックに詰め込むと「ここにはもう用がない」とばかりに人知れず島を出た。

 

 

 

 

 

 もしこの場に小舟が無くて、スマラが島の復旧を待っていたのなら、この後に起こるスマラの人生を変える者達と出会う事はなかっただろう。この運命がスマラにとって吉と出るか?凶と出るか?それは神様とやらにしか分からない。

 

 

 

 

 

「あ、船長を縛ってくるの忘れた。…………………ま、いっか。大した金額でも無かったし」

 

 

 案外と抜けている所があるスマラであった。彼女を乗せた小舟は当てもなく、波任せに進む。

 

 







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314 二頁「海賊に拾われたスマラ」

 この作品だけの方は超お久しぶり、作品問わず見て下さる方は予告通り、やっとこさの二話目の投降です。
 前作が完結?したので、そろそろこちらの投稿を始めます。
 最低月一の投稿を目指して頑張りたいと思いたい。


「どうしてこうなったのかしら?」

 

 

 

 スマラは小声で呟いた。

 

 彼女が諦めた様に小言を口に出しているのは、スマラが絶賛スコールの真っ只中に居るからである。

 

 

 航海術を齧った程度に持つスマラは基本、能力を使って嵐を消すか避ける。

 しかし、今回はそうしなかった。出来なかった、と表現した方が正しいだろう。

 

 

 何故なら……

 

 

 

 スマラはただひたすら自身の記憶を思い返した。もう一度、現状の確認を取るために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スマラは海賊船から奪った小舟を能力で時折操作しながら、殆ど風まかせに海を進んでいた。

 

 

 海は危険である。一般人にはバケモノと呼ばれる海の生物や海のならず者、海賊が海には溢れかえっているからである。

 海賊王ゴールド・ロジャーの公開処刑から22年、グランドラインと呼ばれる偉大なる航路の果てにある一繋ぎ大秘宝『ワンピース』を夢見て、海賊達は今なお増え続けている。それは、世界に四つある海の中で最も平和な海、と言われている東の海(イーストブルー)も例外ではない。

 

 更に上記の二つよりも恐ろしいのは自然現象だ。

 大渦、大雨、竜巻、と上げればキリがないが、これらの自然現象は時に生き物よりも驚異になる。何度もしつこい様だが、世界の中で最も平和、厳しくないと言われている東の海(イーストブルー)であっても例外ではないのだ。

 

 最も、スマラによれば偉大なる航路(グランドライン)レベルの自然現象以外は能力でどうとでもなるらしいが。

 

 

 

 そんな油断もあったのだろう。東の海(イーストブルー)へ来てから数年になるスマラは「今更警戒する必要もない」と判断すると、リュックサックの中から本を一冊取り出すと船に寝そべった。

 

 小舟は波に行き先を任せ、ユラユラ、ユラユラと揺れる。基本的にどこででも読書をすることが出来るスマラは、船酔いなど起こさないのは当然どころか、読書を楽しませる心地よいオプション扱い。

 

 

 

「ふん~ふふん~~♪ふふん~~~~♬」

 

 

 

 心地良い時間に、スマラは決して上手いとは言えない鼻歌を奏でてしまう。そんなスマラの姿は美の女神が舞い降りてきたかのように美しく、楽しそうに笑っていた。

 

 心地良い時間は過ぎていく。時間とともに日も高く登り、落ち始める時間帯に差しかっかった。世間ではお昼ご飯の時間帯、当然スマラもお腹が空くので、昼食の準備を始める。

 

 

 

「ふん~、ふ、っふふん!ふふん~~♪♬」

 

 

 

 鼻歌を奏でて、目を本から離さず片手で用意する様子は、食い意地ならぬ読み意地が張っているんだ!?と目撃をした者が突っ込みを入れたくなる姿であったが…………。

 

 本から目を離さずに片手を伸ばしてリュックサックを漁り、目的の物を掴んだ感触を片手間に感じると手を引っこ抜く。チラっと視野を広げて確認すると、感触どおりの物(食パン)が手に取っていた。

 

 

 

「安くて手早く栄養もそこそこある、しかも手と本が汚れない(ここ大事)。食パンがコスパ最強とは言ったものね」

 

 

 

 ジャムやバターなどの余計な物は要らない、とばかりに焼いてすらない食パンを口に挟んでモグモグと食べる。読書のことが絡むと、何処までも残念なスマラであった。

 

 

 

 そうやって簡単に昼食を済ますと、スマラは再び読書に集中する。しかし、少量と言えど昼食後は眠たいのが人間の不思議な生態の一つ。お昼時の気持ちのいい天気とユラユラと揺れる状態が後押しして、スマラは次第に意識が朦朧となる。

 

 

 

(能力を使い過ぎたのがいけなかったのかしら?これだと、本の内容が頭に入って来ないわ)

 

 

 

 特に急いでいる訳でもないし別に問題ない、と判断したスマラは最後の力を振り絞り、手に持っていた本をリュックサックに詰め込むと、そこで意識を手放したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「舐めてた。ほんの数時間仮眠を取るつもりだったのに、まさか六時間近くも寝ていたなんて」

 

 

 

 記憶を振り返ったスマラの一言目がこれである。スマラとしては一、二時間の仮眠だったつもりが、久しぶりに能力を乱用した反動か疲れが溜まっていたらしく、がっつりと寝ていたらしい。

 

 

 今、スコールのせいで船がひっくり返そうになる大荒れと滝の様に流れる雨のせいでようやく夢から覚めたらしい、とスマラは悟る。そうしてもう一度、

 

 

 

「この状況、どうしましょう?」

 

 

 

 声に出してみたところで現状は変わらない。現状を変えようとするなら、スマラが出来ることはただ一つ。能力の執行だ。

 

 スマラの能力を使えば、只の嵐くらいどうってことない。どうってことなない嵐だが、スマラは動かずにただひたすら雲行きを見る。

 

 

 

「降り始めてから随分と経っているようだし、近くは止みそうにないわね。……………………面倒だし、このまま放置でもいいかしら?大切な物(本)が入っているリュックサックも、一応防水加工してあるし……………」

 

 

 

 スマラは使っているリュックサックは特別性で、スマラの能力で収納量を上げており、さらに別の能力を付属することで防火防水付きになっているのだ。

 

 だから、大雨でリュックサックが濡れても中の本の心配をせずにいられるのだった。何処までも持っている本を大切にするスマラ。彼女から本を取り上げる事は、海軍本部に喧嘩を売るよりも難しいのかもしれない。

 

 

 

 現状を放置する事に決めたスマラはもうひと眠りしようと、再び舟底に寝転がる。がしかし、ユラユラ、ユラユラ、とではなく、ザッブン~ッ!!、ザッブン~ッ!!と激しく揺れる小舟。

 

 酔う事はないが、こんな状態だと寝ることは不可能に近い。心地よかったはずのポカポカとした御昼下がりの陽気な天気は、見渡す限りの真っ黒い雲。

 

 

 こんな気候で先ほどのように寝れるはずもなく…………あ、波が小舟を巻き込んでスマラを海水塗れにし……………

 

 

 

「鬱陶しいわ…………っ!!!」

 

 

 

 スマラは能力を発動して、波は小舟を襲うことなく方向を反転させられた。

 

 

 又してもスマラは無傷。いや、無傷とは言い難い。だって、波に襲われようと襲われまいと、彼女は既に雨でずぶ濡れだからだ。

 

 

 

「はぁ……」

 

 

 

 スマラはため息をつく。それは、大嵐が鬱陶しい事を指しているのか、それとも能力を使用した疲れの為なのか、判断はつきにくい。まぁ、スマラならどちらも思ってそうだが………。

 

 

 

 疲れる事は嫌いだ。だが、疲れるからやらなかったが為に何かが起こり、イライラを貯めるのは、もっと気分が悪くなる。……………………………仕方が無いわ。

 

 

 

 スマラはイライラを抑える為に能力を使用。自身の『聴力量』と神経に通る『痛覚量』を変換させ『ゼロ』にした。そして、嵐による轟音や自身の肌を打つ雨の感触も感じない世界で、スマラは目をそっと閉じた。

 

 

 

 

 

 …………………………………………………………………………………………………

 

 …………………………………………………………

 

 ……………………………

 

 …………

 

 …

 

 

 

 嵐の中を一隻の船が進んでいた。

 

 

 船の種類はカーヴェル造り、三角帆使用の船尾中央舵式キャラヴェル。船首には可愛いデザインの羊。帆には麦わら帽子を被った髑髏のデザイン。掲げているは旗は当然のことながら、黒い生地に麦わら帽子を被った髑髏が白々しく目立っている。

 

 平和と言っても他の海に比べてである故に、珍しくもない海賊船である。

 

 その海賊船の甲板では数名の乗組員、つまりのところ海賊達が、嵐を乗り切ろうとしていた。

 

 

「ウソップ!サンジ君!急いで帆を畳んで!!」

 

「よしきた、任せろ!」

 

「はぁいっ!!ナミさんっ!!」

 

 

 オレンジ色の髪の毛をした女性が仲間を呼びかけて指示を出すと、鼻の長いが特徴的な青年-ウソップとスーツを着ている金髪の男-サンジが反応する。

 

 ウソップはオレンジ髪の女性-ナミから指示を受けると、いそいそと帆を畳みに行動を開始し、反対にサンジはナミにハートマークの表情を浮かべながら、ついでに目もハートにしながら作業に取り掛かった。

 

 ナミは帆を畳む為に動く二人を一瞥すると、今度は腹巻を巻いた緑髪の男に指示をだす。

 

 

「ゾロっ!!舵をお願い!!壊さないようにね!!」

 

「壊すかボケェ!!ったく、普通にこれを握ってればいいだけの話じゃねえか」

 

 

 緑髪の男、ゾロは、ナミの注意を心底うざそうに言い返しながら、会議室兼キッチン部屋に入り、操舵を握った。

 

 この船は舵輪の様に回した舵を取るタイプではなく、棒状の物を左右に動かして後部についている舵板と連動して舵を取るホイップスタッフタイプの物なのである。

 

 

 ゾロは握っていればいいと簡単に思っているが、実際にはそれだけでいいはずがない。

 

 これに関しては、ナミの配置ミス。まだ出会ったばかりか、お互いの事を完全に把握していない為に起こった事態だ。

 

 

「ルフィ!!一体何時までそんな所に居るつもりなの?!いい加減戻って来なさいっ!落ちたりでもしたら面倒なのよ!!」

 

 

 ナミが最後に声をかけたのは、この海賊船の五人目の船員。というか船長である麦わら帽子を被った青年に対してだ。

 

 ナミがそんな所、というのもこの青年、ルフィは大嵐の中あろうことか羊を模様した船首の上にいるのである。泳げないのに。

 

 

 「泳げない奴が落ちたりでもしたら助けるのはこちらなのに!」と大嵐中に関わらず危険極まりない場所から引き離そうとするナミに対して、ルフィがとった行動は……

 

 

「ん?小舟に誰か倒れてるぞ?」

 

 

 こんな中目が良いのか、激しく揺れる小舟に人が倒れているのを見つけると、ぐぃ~んと腕を伸ばした。

 

 数十メートル先の小舟まで。

 

 

 幻覚などではなく、文字通り腕を伸ばした。

 

 それもそのはず、ルフィはゴムゴムの実と呼ばれる悪魔の実を食べ、全身がゴムでできたゴム人間なのだ。

 

 

 悪魔の実は海の秘宝とも呼ばれ、食べれば海に嫌われて泳げないカナヅチになり果てる。ルフィが泳げない要因はこれにあった。

 

 その代わり、カナヅチがデメリットと感じられない程の能力(力)を得ることが出来る。ルフィの場合は体がゴムになり、打撃が無効、全身を伸ばせれるといった能力だ。

 

 

 悪魔の実の能力を使い、突然腕を伸ばしたルフィにナミは悪態を吐く。

 

 

「また勝手な行動をっ!」

 

「しょうがねぇだろ。誰か倒れてたんだから」

 

 

 ほら!と伸ばした腕を戻してくるルフィの腕には、確かに人が抱えられていた。ルフィはその女性を甲板に下ろそうとすると否、どこからともなく女好きのサンジが飛び出して、謎の女性を抱える。

 

 「女性の扱いがなってねぇぞ」とサンジがルフィに怒るが、無邪気なルフィにそういった気遣いを求めるのは間違っている。現にルフィは「別にいいじゃねぇか」と若干いじけた様子で拗ねている。

 

 

「おぉ~いナミ?帆は畳んだぞ?って誰だそりゃ!?」

 

「ルフィが拾ったのよ。ってサンジ君、早く船内に運んであげて!!」

 

「っは!?すまねぇナミさん。つい見惚れてて」

 

 

 ウソップが何事か?とやって来た事により、ナミが現状に逸早く復帰した。

 

 今は大嵐の中である。倒れている人をそのままにして置いたら熱が出てしまうかも知れない。いや、もう既に体調が悪いかも知れない。そんな考えが頭の中を過り、倒れていた(風に見えた)女性を抱えているサンジに指示をだす。

 

 そういった気遣いを女性限定で発揮しそうなサンジは、抱き抱えていた女性に見惚れていたらしく、ナミの指示を受けてようやく動き始めた。

 

 

 

 

 

「それにしても不思議ね」

 

「何が?」

 

 

 ルフィが小舟に倒れていた女性を見つけてからそう時間が経たずに、一同は船内に集まった。嵐と言っても、偉大なる航路(グランドライン)の異常気象の様にサイクロンが出るわけでもない東の海(イーストブルー)では初期対応さえチキンとしていれば余程の事がない限り問題はない。その為、わざわざ雨に打たれるような真似をするものはいるはずもなく、雨風から避難と船内に集まったのだ。

 

 

 現在、皆が集まっているのはほぼナミの私室化としている女部屋だ。普段ナミが寝ているベットはルフィが拾った遭難者と思われる女性が使っており、ナミがその傍らに。ルフィが興味深そうに遭難者を覗き込み、ウソップとサンジが少し離れた場所から見守っている。

 

 余談だが、ここには居ないゾロは遭難者に余り興味がなさそうで、一人ラウンジに残っている。

 

 

 遭難者をここに運び込んでから初めてナミが反応した。遭難者の見た目と触った感覚から、少しばかりか疑問に思うことが浮かんだのだ。

 

 そんな声にルフィは、全く分からないと言った風に首を傾げてナミに問いかける。

 

 

「だってほら、彼女さっきまで嵐の中にいたはずなのに、全然濡れていないのよ」

 

「そういや俺も、抱き抱えた時に全くと言っていいほど感触を感じなかったな」

 

 

 ナミの解説に、サンジが遭難者を抱き抱えた時のことを思い出して補足をした。

 

 曰く、体重が羽の様に軽かった。触れた感覚が人のそれと違い触っているとさえも不思議に思うくらいであった、と。

 

 

 

 遭難者のソレは明らかに異常であった。

 

 雨風にさらされていたにも関わらず、服や肌が防水でもしているかのように水を弾き飛ばしている。触った感覚は人肌を感じない。

 

 また、見た目も普通ではない。見事に整った輪郭に、腰まで伸ばしているらしい薄いクリーム色をしている髪の毛は毎日メンテナンスでもしているだろう、海を航海しているナミよりも艶があった。

 

 歳はこの海賊船に乗っている者達とそう変わりがないと思われる。

 

 

 ナミやサンジは彼女の容姿や着ているちょっぴり高価そうな服見て、「彼女はいったいどこのお嬢様かしら?」と推測を始めた。

 

 一方でウソップは一通りの興味が尽きたのか、はたまた周りを見ている者が極度の方向音痴であるゾロだということを心配してか、部屋から出ていった。

 

 ルフィ?何が楽しいのか、自身が拾った彼女の顔を覗き込んでニコニコとしている。また、無茶苦茶な考えでも考えているのであろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 違和感はあった。

 

 見聞色の覇気と呼ばれる辺りの気を読む力で、近くに生物の反応があったからだ。段々と意識が覚醒していく中で、その生物が人間である事を感じ取る。

 

 どこかの島にでも放流したのかしら?と思ったが、直ぐに違和感の正体に気付く。自分の小舟ではない別の場所に自分が寝かされている事を。

 

 

 少しだけ見聞色の覇気に意識を持っていくと、大型船までとはいかないが船に乗せられていることが分かった。乗員数は5名。この人数なら実力者であっても、東の海(イーストブルー)レベルなら簡単に返り討ちに出来ると判断。

 

 

 そして、遭難者——スマラは使っていた能力の使用を一部解除し、目を開けた。

 

 

「ん?起きた」

 

 

 静かに目を閉じてしまうスマラさん。理由は単純、超近距離に麦わら帽子を被った少年がスマラを覗き込んでいたからだ!

 

 咄嗟に目を閉じてしまったスマラに対して、ルフィは「あれ?また寝ちまったぞ?」と首を傾げる。そして何を思ったのか、今度はペシペシと頬を叩くオプション付き。

 

 

「お~い、起きろ~」ペシペシ

 

「………………………」

 

「起きねぇのか?」ペシペシペシペシ

 

「………………………………………………」

 

「ん~??見間違いだったのか?」ペシペシペシペシペシペシ

 

「…………………………………鬱陶しいわ!!」

 

「っぶぉ!!!」

 

 

 目を瞑ったスマラに、何時までも頬ペシペシと声掛けを辞めなかったルフィ。遂に怒りのメーターが吹っ切れたスマラは、上半身を起こすと同時にルフィをグーパンチで殴った。武装色の覇気付きで。

 

 武装色を纏った拳で殴られたルフィは軽々しく吹き飛ばされ、壁に衝突した後殴れた箇所を手で抑えながら「痛ぇぇ!!俺ゴム人間なのに痛ぇ!!?」と転げ回る。

 

 

(咄嗟に手を出してしまったわ。ま、自業自得と片付けておきましょう)

 

 

 うん、私は悪くないはずだ!悪いのは何時までも頬をペシペシってたあいつだ!とスマラは責任転嫁をした。

 

 

 転げ回っているルフィをほっといてスマラは室内を見渡していると、ドタバタと人が降りてくる気配を感じ取った。

 

 

「一体何が起こったの!!?……ルフィ!!?」

 

「な、ナミか?」

 

 

 船内から聞こえてきた大きな音に、ナミを先頭に降りてきたのだ。ナミは部屋に入ると、顔を抑えて転げ回っているルフィを見て悲鳴を上げる。

 

 ナミに続いて降りてきたウソップが、ルフィが攻撃を受けたと勘違いして更に後ろにいたサンジを盾にして隠れ始めた。

 

 

「ほ、ほら見ろ。得体の知れない者を助けるから!!そこの君~!こっちには高額賞金首がいるんだぞ。大人しく投降しなさ~い」

 

「馬鹿野郎!こんなにも綺麗な方がやった訳ねぇだろ!!」

 

 

 と言いつつもルフィが「痛い」と言っている意味が分からず、若干混乱しているサンジ。ウソップはまだサンジの後ろで震えている。

 

 スマラは「また面倒そうなのが……」とため息を吐くと、比較的話の通じそうなナミに目を向けて声を出した。

 

 

「…そこの彼は自業自得だから安心して。そちらに危害を加えるつもりはないわ。ただ、私が何でこんなところに居るのか説明して」

 

 




 ど、どうでしかたか?
 クオリティー下がってませんか?自分はそれだけが心配で心配で。

 出来れば、年内にもう一話と行きたいですね。
 感想などを頂けたらモチベが上がる単純な自分ですよ~!

 あ、FGOやってる方いましたら、活動報告欄で自分の近状を報告してます。良かったらどうぞ。
 では次回!!


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317 三頁「彼が何を言っているのか、ちょっと分からないです」

 約二か月ぶりの更新。お待たせしました。
 オリジナル作品を更新してましましたので遅くなりました。と言い訳を言いつつ、お願いです。
 最後の方は最近書いて、初めの方は前に書いてた分になります。つきましては、書き方が少し違ったり、内容の相違点があるかもしれません。もし見つかりましたら、報告よろしくお願いいたします。


「なるほどね。つまりのところ貴方達は嵐の中、小舟で遭難していると勘違いして私を攫ったってわけね」

 

 

 場所はゴーイングメリー号のラウンジ。身体に異常がないので、何時までも寝ている訳には行かないと、体を起こしてスマラがこの船に拾われた説明を求めたところ、この部屋に案内されたのだ。

 コックらしいサンジが入れてくれた珈琲を飲みながら、ナミから聞かされた説明に、簡単に言うと…と、自身の言葉で確認を取る。

 

 しかし、スマラの解釈の仕方にルフィが否定を取った。

 

 

「いや、攫った訳じゃなねぇよ。助けたんだ」

 

「助けた……ね。頼まれた訳でもないのに」

 

 

 意地悪く攫ったと言い張るスマラに、ルフィは決して攫ったのでないと言い直す。

 スマラはそれを聞いて、又しても嫌味ったらしく頼んでないと静かに言う。

 そこに、スマラの態度にイラッと来たウソップが参戦。

 

 

「おいおい!お前は嵐の中倒れてたんだろ?だったら、善意で助けてやった俺たちにそんな態度をとることはねえだろ」

 

「おいウソップ。相手はレディだぞ!?それに彼女にも「だから、いつ私が倒れてたって言ったのかしら?」っ!?」

 

 

 助けてやったのにその態度は何だ?と声を上げるウソップに、今度はサンジがウソップを非難しようとして………。

 

 スマラが不機嫌そうに静かに物申した。

 

 

 本を早く読みたいのに、状況説明で時間を食っている。そんな現状について、スマラは苛ついていた。

 故に、サンジの言葉を遮った言葉は殺気が漏れ、ウソップを睨む目には少なからず東の海(イーストブルー)では中々お目にかかれない覇気を纏っていた。

 

 中々お目にかかれにない殺気。それはこの一味が少し前に出会った『王下七武海』鷹の目のミホークを前にした時と同じ気迫がしていた。

 最もそれに気づいたのは船長であるルフィと戦闘員でもあるサンジ、後は殺気に気づいて急いで部屋のドアまで入ってきたゾロくらいだったが。

 

 

 殺気に反応して刹那、圧倒的な気迫に耐えて戦闘態勢へとはいる三人。

 拳を握り隙なくスマラを観察するルフィ、手を腰に納刀してある刀の鞘に回し何時でも抜刀態勢のゾロ、女は手を出さない故にナミの前に立ちどうにかしてこの状況を回避できないかと考えるサンジ。

 

 この船最大戦力の視線を受けたスマラはと言うと。

 それはもう深ーい深ーいため息を吐いた。目には、めんどくさいと言う怠惰とやってしまったと言う自分自身に対する呆れが見える。

 

 

「はぁ~。いきなり殺気を当てた事は謝罪するわ。でも貴方も悪いわよ。人の話は最後まで聞きなさい。物語も途中だけ読んで勝手に結論を出してはせっかくのエピローグが無駄になってしまう。でも、それは最後だけ読んだミステリー小説の様に過程楽しまない事も同じ。」

 

「何事にも順序があるって言いたいわけ?」

 

「そうよ。私はあなた方の説明を聞いて、確かに聞き手にとっては違う解釈をしたわ。でも、私の言い分も聞かなければ双方は納得した感想を述べる事ができない」

 

「つまり、貴女は意見を聞いて貰いたいの?」

 

「まぁそんな感じかしら?双方とも同じ物を読んで、なおそれでも意見が合いまみれたのなら仕方のないこと。だって人の解釈は人それぞれじゃない?物語の解釈を巡って争いがおこるのもまた、人生という物語を飾る一興となる。まぁ、私にとってそれはめんどくさいことなのだけれどもね」

 

「「「……………………………………」」」

 

 

 長々と演説をしてしまい、内心で照れているスマラ。そんな彼女の言い方についていけれたのはこの船一番の頭脳を持つナミだけだった。

 しかし、バカではないサンジがスマラが女性とだけでどうにかスマラの話を理解しようとする。

 

 

「えぇとレディ?つまりの所話し合いがしたいとおっしゃるのでしょうか?」

 

「そう言っているのだけれど、伝わらなかったかしら?」

 

 

 スマラの問いにルフィ、ウソップ、ゾロが頷く。ルフィとゾロはともかく、ウソップが理解でできなかったのは普通の人だから仕方のないこと。それくらいスマラさんの演説は様式がかった物だった。普段はこんなにも喋らないのだが、何故か語ってしまったスマラ。更に追撃ダメージが加わる。

 

 

 取り敢えずサンジの解釈によって、話し合いがしたいと言うことが分かった一同はホッとして場の緊張感を緩めた。

 ゾロがこれからの話に興味なさそうに出ていき、サンジが飲み物とデザートの準備の為に背を向けてキッチンへ向かう。そんなサンジにルフィとウソップがデザートを所望し、そんな二人を軽くあしらってナミとスマラに希望を聞いてきた。

 

 

「ナミさんとレディは何にします?材料さえあればお造り致しますよ」

 

「みかんパフェでお願いサンジ君」

 

「分かりました。レディは?」

 

「……ミルク多めのコーヒーで」

 

「承りました」

 

 

 初めて会った自分にまさかデザートを作って貰えるとは思えず、驚いてしまったスマラは好みであるコーヒーを頼んだ。

 そこで自分が自己紹介をしていない事に気づき、先ずは自己紹介から入ろうと決めた。

 

 

「自己紹介がまだだったわね。私はスマラ、いろんな島を巡っているわ」

 

「私はナミ。この船の航海士よ。それでこっちがウソップとサンジ君。出ていったのがゾロで…」

 

「俺はルフィ、海賊王になる男だ!」

 

「海賊王?それにその麦わら帽子…………。メモリー・コネクトオン」

 

 

 ルフィの自己紹介を受けたスマラが彼が被っている麦わら帽子を見て、目を閉じて聞きなれない単語を声に出した。

 何か集中しているスマラにルフィが「なんかあったのか?」と問い掛けるが、スマラは聞こえていない様子でルフィを無視。取り敢えず攻撃的ことじゃないので待ってみることにした。

 

 

 一方でスマラは記憶の回路を調べていた。

 スマラは自身の能力で記憶量を増やしている。その為自分が見聞きしてことなら完全記憶能力レベルで覚えている。がしかし、覚えているからと言ってそれを何時でも引き出せるか?というと全くの別だ。

 スマラが使った能力はそれを可能にする能力だ。原理は単純、記憶から引き出せる量を増やしただけのこと。

 だが、スマラが思い出そうとしている情報は比較的有名な情報だ。故にほんの数秒で終わった。

 

 

「麦わら帽子に該当者二名。しかし一人は故人、もう一人は特徴が合わない。よって単なる思い違いと判断。ふぅ、ごめんなさい。気になる箇所があったのだけれど、人違いだったみたいだわ。ルフィなんて人物聞いたこともなかった」

 

「そっか」

 

「えぇ、私の耳に入らないくらいでは海賊王は難しいのでは?」

 

「ちょっと待て!!ルフィはな!東の海(イーストブルー)で一番の海賊なんだぞ。懸賞金だって破格だ。はぁんお前知らねぇのか?」

 

 

 スマラの言葉に、又してもウソップが食い掛る。自分の所の船長を貶されたのだ、当然といえば当然の反応。次第にスマラがルフィの事を知っていないと分かったらしく、椅子から立って何処かに消えてしまった。

 一方でスマラの方も首を傾げつつ反省をする。

 

 

「あ、また言ってしまったわ。ごめんなさい。でも、東の海(イーストブルー)で最高額の賞金首はアーロン一味のアーロンではなくて?」

 

「あぁ、俺が倒した」

 

「倒した?貴方がアーロンをね」

 

「そのことなんだけど……」

 

 

 ナミが説明を続けようとしたが、ウソップが戻って来て中断してしまった。彼は手に持っていた新聞紙を机の上に広げる。どうやらこれを探しに行っていたようだ。

 スマラはその新聞が丁度未読分なのに気付き、読み始める。

 

 

「なるほど、今日の新聞に載っていたのね。……モンキー・D・ルフィ3000万ベリー。まぁ東の海(イーストブルー)にしては上出来のルーキーね」

 

「なぁお前、もしかして偉大なる航路(グランドライン)から来たのか?」

 

「「え?」」

 

 

 これまでの言い方やルフィにダメージを与えれる手段を持ち合わせたスマラ。出来たばかりと雖も数々の敵を倒してきたルフィ達を見下すような態度。これはどう見たって上位の海出身の人物としか思えなかったのだ。

 薄々気づいていたナミを除き、ウソップとサンジが驚いた様子でスマラを見た。特にウソップなどは、これまで大きく出ていた相手がバケモノの巣窟と言われる偉大なる航路(グランドライン)出身だと聞いて、酷く怯えた態度を見せる。

 

 

「えぇ。確かに私は偉大なる航路(グランドライン)出身だわ。それが何か?」

 

「じゃあさ、じゃあさ!偉大なる航路(グランドライン)ってどんな所だ!?」

 

「ちょっと!?ち、近寄らないで。分かった、分かったから、話してあげるから。でも、その前に私の話を聞きなさい!」

 

 

 偉大なる航路(グランドライン)出身だと聞き、楽しみを抑えきれないルフィに詰め寄られるスマラ。しつこいその態度に本日二回目のイラッ。

 ルフィがスマラに触れるのを見計らって能力を発動。触れる時に生じるエネルギー量を変換し、ルフィを吹き飛ばす。

 

 

「ふるべしっ!痛ぇ!!??」

 

「ふぅ。人の話を聞きなさいと言ったばかりじゃない」

 

「あ、貴女能力者なの?ルフィにダメージを与えれるなんて…っ!?」

 

 

 吹き飛ばされて床を転がっているルフィを尻目に、ナミが恐る恐ると言った態度でスマラに聞く。ウソップなどはルフィにダメージが通ると知って心が身体を抜け出そうとしている。

 

 

(お、俺はなんて奴に大きな態度を……)

 

「スマラで結構よ。そうね。確かに能力者だわ。私の身体に触れていた反発エネルギー量を増やして、ちょっとの衝撃であそこまで吹き飛ばすことを可能にしたわけ」

 

「てて、お前の手が痛かったぞ。何でだ?」

 

「そうだわ。ただのエネルギー変換がルフィに効くはずないもの」

 

「効かない?何故かしら?」

 

「あぁスマラさん、こいつはゴム人間なんだ」

 

「おう!俺はゴムゴムの実を食ったゴム人間だ」

 

 

 ほら!と頬をひぱって皮膚が有り得ないくらい伸びるのを見せてくる。スマラはそれを見て、この男に攻撃する時に武装色の覇気を纏っていたことに感謝した。

 

 スマラにルフィの能力を話した事で四人の興味は、何故ルフィに攻撃が通ったのか?に戻る。

 先陣を切ってスマラに質問したのは先程まで怯えていたウソップだ。スマラが怖いがゆえにその力の実態を把握しておこうと考えた結果だ。

 

 

「それで、ルフィに攻撃が通った理由って何なのでしょうか?」

 

「なぜ敬語?まぁ、偉大なる航路(グランドライン)に入ったら分かるのではなくて?」

 

 

 単純に、覇気と呼ばれる力が存在すると言っても良かった。実際に偉大なる航路(グランドライン)の後半では当たり前の様に使われている能力だ。この力を知っているか、使えるかで戦闘の勝敗に大きく影響するほどの能力。

 では、何故この場で説明をしなかったのか?それは単にめんどくさかったからである。

 

 

 最後に本を読んでから既に四半日が立っており、スマラの読書禁断症状が現れる段階。つまりのところ、少しイライラしてきた。

 なので、話を強引に進めてこの船とおさらばする事に決めた。

 

 

「それで、あなたたちが私を遭難していると勘違いしたのは私の能力が発動してたからなの。ありとあらゆる『量』を操ることが可能な私の能力は、雨の音量と肌の感覚量を遮断してたのよ」

 

「そうか!だから私たちが触ってもあなたは気付かなかった!」

 

「道理で冷たい肌なわけだ。感覚を止めているから俺たちが触っても人の肌の様に感じなかったのか」

 

 

 スマラの説明にナミとサンジが納得がいった!と顔を合わせる。実はスマラの事を人間ではないのかと疑っていたのだ。

 スマラの説明を聞いても「不思議能力かぁ~」と考えることを放棄しているウソップとルフィを尻目に、スマラはそろそろ我慢の限界が達したようで、ナミに自分の荷物は何処か?と尋ねた。

 

 

「え?私は知らないけど……。サンジ君は?」

 

「いや、俺も」

 

「「「えっ?」」」

 

 

 三人の声が揃った。目を合わせてたっぷりと見つめ合った後、スマラが自分をこの船に乗せた張本人に顔を向ける。

 

 

「あの、小舟に私の荷物が一緒に載せてあったはずだけど?」

 

「………………………ごめんなさい」

 

 

 ルフィはたっぷりと時間をかけた後、素直な気持ちで頭を下げて謝った。そこから導き出される答えは、この船にスマラの荷物はない、ということだ。

 

 

「謝って済む問題じゃねぇだろ!!?」バシッ!

 

「よし、戻ろう!」

 

「戻ろうってルフィ、この嵐だもの見つかりっこないわ!……はぁ。悪いけどスマラ、ある程度の弁償はするから勘弁してくれないかな?」

 

「………………………………」

 

 

 嵐の中小舟に置いてきてしまった荷物。一同慌てて荷物を取り戻そうとするが、この嵐だ。普通なら小舟は転覆して荷物は海の底に沈んでしまっていると考え着く。

 戻ろうと言い張るルフィの提案を却下しつつ、ナミはスマラの荷物を弁償すると言った。ルフィのお小遣いを使ってと小声で言っているのは誰もスルーしている。

 

 しかし、肝心なスマラは一向に慌わていなかった。目を閉じて何かに集中している様子だ。

 当の本人が全く慌てていない様子を見て、四人は直ぐに落ち着きを取り戻した。

 

 

「何だ?固まっちまってるぞ?」

 

「きっと、行き場のない怒りを俺たちに向ける準備をしているんだぁ!!」

 

 

 目を閉じているスマラを見てウソップが真っ先に逃げ出した。当の本人が謝っても、スマラに絡まれた思い出を忘れられず、荷物を失っても微動だにしないスマラに恐怖を抱いたから。船の甲板で見張り役をしていたゾロに泣きついている声が聞こえてくる。

 

 そんなこともつゆ知らず、スマラが目を開けた。それと同時に図々しくも指示を出す。

 

 

「見つけた。…船を4時の方向へ移動できるかしら?出来る限りの事をするのよね?」

 

「あ、お前!俺が船長だぞ!!?勝手に進路を決めるなよ。野郎ども帆を動かせぇ!!四時の方向にすっ進め!!!」

 

 

 スマラが指示を出したことに不満があったルフィだが、ただ単に指示を出したかっただけで、スマラの荷物探しには協力するらしい。

 船長の命令を受けた船員達はそれぞれの役割をこなすべく部屋を出ていった。

 

 

「……誰もいなくなったのね。よくもまぁ、初めて会った怪しい人を船内に一人残していられるのね」

 

 

 誰もいなくなった部屋を見て、スマラは「もし私が海軍の潜入隊だったらどうするのかしら?」とらしくもない心配をしつつ、自分の荷物を拾うために甲板へと足を向けた。初めての場所だが出方はなんとなくわかる。うるさい方向に向かって行けばいいのだから。

 

 

 

 

 甲板に出ると、全員が動き回っていた。ゾロが操舵を動かし、サンジとウソップがナミの指示を受けて帆の向きを変える。

 全員が動き回っているなか、ただ一人ルフィだけが羊頭の船首の上でキョロキョロと辺りを見渡していた。きっと、何かすると邪魔になるのでスマラの荷物を探しているのだろう。

 

 

「ん~?見えねぇな~?あ、お前の荷物ってどんなんだ?」

 

「お前じゃなくて、スマラで結構よ。私の荷物は一応リュックサックね。私には位置が分かるからそこまで心配しなくても大丈夫」

 

「そうか?だったらどっちが先に見つける勝負だ!」

 

「なぜそうなるのかしら?」

 

 

 急に勝負ごとになった展開に、スマラはルフィの思考回路が全く理解不能だった。とは言っても、当の本人は真剣にスマラの荷物を探している。手を抜けば失礼に値するだろう。スマラは早速見聞色の覇気と自前の能力を使い、荷物を見つけることにした。

 そこへナミがやって来る。

 

 

「どう?見つかりそう?」

 

「えぇ。段々と近づいているのが分かるわ」

 

「えぇ!!?すっげ~な!!ようし、なら俺が先に見つけてやる!!」

 

「その必要はないわ。もう見つかった」

 

 

 スマラが指を指した先には、リュックサックが浮いていた。荷物が入っているはずなのに浮いている。

 

 ナミは疑問に思ったが、ルフィは気にも留めず腕を伸ばしてスマラの荷物を引っ張り上げた。そして、そのままスマラに渡す。

 

 

「ほらよ」

 

「あ、ありがとう。その腕便利ね」

 

 

 その場所まで進んでくれれば、後は自前の能力で取りに行くつもりだったスマラはルフィが拾い上げた事に目を広げてお礼を言う。めんどくさい能力執行をせずに済んだのはルフィのお陰だ。

 

 スマラはルフィから荷物を受け取ると中身の確認を始めた。リュックサックと言っても大型ではなく小型。せいぜい本が二、三冊入ればいいくらいのサイズ。

 

 しかし、出てきた量はというと……

 

 

「十っと、これも大丈夫そうね。離れていても無事でよかったわ」

 

「うぉー!!いっぱいあるなぁ!!」

 

 

 何と十冊の本に財布と着換えと言った荷物。明らかに容量を超えている質量にルフィは目を輝かせる。

 一方で有り得ない質量が出てきたことに驚いているナミは、今の現状に抗議を上げた。

 

 

「な、何でそんなにも沢山の荷物が出て来るのよ!!?それもスマラの能力なの!?」

 

「スゲー!雨に濡れねぇぞこの本!!」

 

 

 忘れているかもしれないが、今は嵐の真っ只中。雨がた絶え間なく降り注ぎ、風が吹き荒れている。

 そんな中、本を取り出すと直ぐに濡れ破れ、風に吹かれて飛んでいくに決まっている。しかし、スマラの本はその場に何事もなかったかのようにとどまり、全くの影響を受けた形跡が見当たらない。

 

 そんな異常な状態にルフィは単純に目を輝かせ、ナミは驚きスマラの能力だと看板する。

 そこへ、荷物が見つかった事で船を動かす必要が無くなった為、他の三人も集まって来た。

 

 

「へぇー、スマラさんのリュックは食料保存とかに向いてそうだな」

 

「そんな事はどうでもいいだろ、アホコック。こいつがどんな能力を持っているか?それが一番重要だ」

 

「そっか、ゾロは知らねぇもんな。スマラの能力。何か色々と変える不思議能力だ!」

 

 

 スマラの能力をただ一人知らないゾロに、ルフィが自信ありげに応える。しかし、その説明では詳細が分からず、「分かるわけねぇだろ」と呆れるゾロだった。

 ゾロはルフィに見切りを付け、理解できてそうなナミに話を振る。

 

 

「『量』を操る能力だってさ」

 

「『量』?なんだそりゃ」

 

「簡単に言えば、熱量、音量、エネルギー量、体積量と量と名の付くものを操れる能力よ」

 

 

 当の本人であるスマラが分かり易く説明を口にする。がしかし、そこはルフィに次ぐ頭の悪さを発揮して、「そうか。要するに不思議能力ってわけだな」とルフィと全く同じ解釈をするのだった。

 

 

 

 

 

 場所は移動して船内。全員が集まれるラウンジ兼キッチン&操舵室という一室で、サンジが淹れた飲み物を頂きながら、これからどうするか?という話になった。

 

 

「で、スマラはこれからどうするの?」

 

「そうね。適当に降ろしてくれたら構わないわ。目的地はとくにありませんし」

 

「だったら、ローグタウンね」

 

 

 この船の次の行き先を聞いてスマラは少しだけ驚いた。

 

 ローグタウンと言えば、海賊王ゴールドロジャーが処刑された大海賊時代の幕明けの場所として有名だ。当然スマラは東の海(イーストブルー)で真っ先に訪れた島でもある。

 そして、島の位置的にもローグタウンに向かう海賊と言えば……。

 

 

「偉大なる航路(グランドライン)に入るつもりなのね」

 

「あぁ。今から楽しみなんだ!!なぁ、スマラ!!偉大なる航路(グランドライン)の話をしてくれよ!!」

 

「えっ!?えぇ、少しならいいわ」

 

 

 如何やら、もう直ぐ偉大なる航路(グランドライン)入りするらしいこの海賊船に、スマラは「いつぶりかしら?」と思い出に更ける。

 

 

 (確か、十数歳のころに海に出て……………。もう数十年以来かしら?)

 

 

 と、偉大なる航路(グランドライン)について適当に語っている間に思いふけっていると、ルフィが急に意外なことを言い出した。

 スマラが何年も昔の話と言っていたのを覚えていたからか分からないが、スマラにとってもルフィの仲間にとっても意外な内容だった。

 

 

「なぁ、何年も帰ってねぇんだったら、俺たちと一緒に冒険しようぜ!!」

 

「「「「「はぁ!?」」」」」

 

 

 ルフィ以外全員が声をそろえて驚いた。

 色々な出来事が重なった一日であったが、その中でもこの瞬間が一番理解不能な時間だった。とスマラは思う。

 

 

(彼が何を言っているのか、ちょっと分からないわ!!)

 

 




 感想で、アクセラレータのベクトル操作でもしている?と来たのですが、作中でも言っている通り違います。一応タグには『偽一方通行』とも載せてます。
 とあるはにわかなので詳しく知らないのですが、アクセラレータは物質の『向き』を変換してるとのこと。対してスマラは物質問わず『量』を操っています。
 もし「それは同じ事だよ」と思う方は同じ事と解釈しても構いません。が、アクセラレータに出来てスマラに出来ない場合や、アクセラレータは出来ないけどスマラには出来る場合がございますので、ご了承ください。
 取りあえず、深く考えるな!とでも言っておきます。


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319 四頁「なし崩し的に」

 二月中には投降しますね。とかほざいて、お待たせしてすみませんでした。ですが、二月中という約束は守りましたよ。
 その代わりと言ってはなんですが、大ボリュームでお届けします。実は思った以上にキリの良いところまで行かなくて、増えちゃいました。

 後、いつもは長々と書いている活動報告のゲーム報告をTwitterの方に移動しました。良かったらフォローよろしくお願いいたします。フォロー返しはしますよ。
 前置きはこのくらいで、どうぞ。


 その少年の声を聞いた時、船内は静かになった。発言をした少年は麦わら帽子を被ったこの船の船長。彼の仲間達も船長の言葉に顔を固くさせる。そして、スマラは思った。

 

 

(彼が何を言っているのか分かりません)

 

 

 

 

 

 ことの始まりはスマラがこの船に間違って助けられたことから始まる。能力で周囲の状況を遮断していたスマラは、遭難していると間違われこの船に乗せられた。

 スマラが状況把握してからひと悶着あったが、スマラが乗っていた小舟は海の底。なので、次の行き先であるローグタウンまで乗っけて貰うことになる。

 そこまでは良かったのだが、スマラの荷物が船の中に残したままだったのだ。スマラは見聞色の覇気と能力を使っていた持ち物なのが幸いし、悪いと思っている彼等を使い無事に荷物を取り戻すことに成功する。

 そして、船内で自分の経緯やこれまでの事を話していたのが数秒前。

 

 

「なぁ、何年も帰ってねぇんだったら、俺たちと一緒に冒険しようぜ!!」

 

 

 この船の船長で今や東の海(イーストブルー)最高額の賞金首麦わらのルフィが、この先の行き先を決めかねていたスマラを仲間に誘い、スマラや彼の仲間を混乱させ今回の冒頭へと戻る。

 

 

 始めに動いたのはナミだ。彼女はルフィの頭を叩くと、スマラに謝ってくる。うちのバカがごめんなさい、と。

 

 

「あはは、ごめんなさいね。こいつは人の都合も考えずに行動を起こす奴だから」

 

「スマラさん断ってくれても全然構わないぜ。勿論、俺としては美しいスマラさんと一緒に旅ができるのは大歓迎です!!」

 

「アホかてめぇは。まぁ俺としても強ぇ奴がいるなら大歓迎だ。手合わせも願いてぇ」

 

「ちょっと待て!!俺は反対だぞぉ!!こんな危ない奴と航海なんてできねぇ!!」

 

 

 一味の反応はそれぞれだが、明らかな反対意見はスマラにいい思い出を持っていないウソップだけ。来ないならそれでもいいし、来るなら歓迎する。その考えが殆ど。

 しかしスマラはすぐに断る。これまで誰かと共に行動などした事が皆無だからだ。それに、所属してしまえば海軍に目を付けられる事となってしまう。スマラはそれだけは避けたかった。

 

 

「誘いは嬉しいのだけれど、私には無理よ。海賊が嫌いというわけではないのだけれど、私は飽くまでも旅人。海賊になるつもりはサラサラないわ」

 

「え~、いいじゃん!やろうぜ海賊!!楽しいからさぁ!!!」

 

 

 誘いは嬉しい、と言う社交辞令を兼ねて断るスマラだったが、ルフィは全く折れない。これでは断った意味が無い。

 スマラは断っても断っても、しつこくしつこく断るごとに強くスマラを誘ってくる。

 

 

「楽しみは別に求めてないのだけど……」

 

「求めてなくてもいいからさぁ~!!一緒に来れば楽しみが分かるって!!」

 

「だから、海賊には……………」

 

「そんなのやってみないと分からないぜぇ~!!」

 

「いや…」

 

「それにスゲー強いんだろ~」

 

 

 スマラが何か言いかけると反撃の如く勧誘に励むルフィ。普段は温厚なスマラも流石にキレそうになってしまう。この船に居ると普段は全く無い感情が湧き上がってきてしまっていた。

 「そろそろ黙らせてもいいかしら?」と能力執行を行おうと思っていた矢先、ルフィは再びナミに頭を叩かれる。

 

 

「いい加減にしなさい!!スマラが困っているでしょう!!」

 

「あっぶっ!!」

 

「ナミさんナイス!」

 

「いよぉーし!ルフィの発言は取り下げだぁ」

 

 

 女性であるスマラを困らせていたルフィを成敗したナミにエールを送るサンジは、目をハートマークにさせて親指を立ててグッドのポーズ。

 ルフィを黙らせた事により、スマラに苦手意識を抱えているウソップがスマラの勧誘は無かった事になる。と歓喜のポーズ。

 スマラも「これでやっと正式に断れる」とほっと一安心し、この場の空気はスマラが仲間にならない雰囲気になる。

 

 が、そこに空気を読まない男が一人。それはこの場の中で最もルフィと行動を共にした、麦わらの一味一人目の船員。ロロノア・ゾロだ。

 

 

「しかし、こんなことでこいつが諦めるのか?」

 

「「「………………」」」

 

「スマラ一緒に行こうぜ!!」

 

 

 ゾロの一言で一同は黙ってしまう。その隙にルフィがスマラの勧誘を再開するが、今度は先ほどとは違い誰も気に留めない。

 ゾロの言葉に一理あったからだ。

 

 

 思い返してみると、ゾロが何度断ってもルフィはめげずにゾロを勧誘し続けた。結局ゾロが海軍に楯突くことをきっかけにルフィの仲間になった。

 サンジもそうだ。初めは断った。しかしルフィはめげないし、オーナーの許可を先に取ると言う策(本人は全くそのつもりはない)も見せつけた。それでも断り続けたサンジだが、クリーク海賊団との戦いで信念の強さを見せつけられ、夢を叶える為の覚悟を決意しこの船に乗った。

 ナミは少しだけ違うが、事を辿れば同じ様なもの。始めはただのお金を稼ぐ手段として手を組んだ。それが二つの島を巡る間にこの空間が気持ちいいと感じるようになった。一時は船を奪うと言う裏切り行為にまで手を染めたが、それでもルフィはナミの事を仲間だと言い張り、鎖であったアーロンを倒してしまう。

 

 この船に乗っているルフィとスマラ以外の四人。その内三人はルフィのしつこい勧誘に折れて仲間になった。

 唯一ルフィからしつこい勧誘を受けなかったウソップだが、ルフィ達と出会い海に出る決意を決めるきっかけになり、既に仲間だと思っていたルフィの一言でこの船に乗ることになった。

 そのことを入れれば、四人とも全員がルフィのせいでこの船に乗ることとなったと言えるだろう。

 

 

 ゾロの一言で、この中の誰もがルフィにしつこく勧誘されて仲間になっている。そう思い至った四人は、しつこく勧誘を繰り出すルフィに向かって静かに腕を挙げているスマラに何も言えなくなっていた。

 

 

「いい加減にしなさいっ!!」

 

「だぁ!!痛ってぇぇぇ!!!」

 

 

 ごんっといい音を立ててスマラの武装色付きの拳がルフィにヒットした。威力調節をしたおかげか、吹き飛ばされることはなかったが、地面に沈んでしまうルフィ。

 流石に今のはルフィが悪いと分かっているので、仲間は誰もルフィを心配しない。それどころか、吞気に会話を続ける。

 

 

「……諦めると思うか?」

 

「絶対諦めないと思うわ」

 

「だな」

 

「俺たちの時と同じだこりゃあ。余程のことが無い限り無理なのは俺たち全員が知ってることだ」

 

 

 ルフィを地面に沈めたスマラは、読書でもとリュックサックの中に手を入れてお目当ての本を取り出しながら、体験者達の会話を聞いていた。

 体験者ということは今後の展開として、またこのしつこい勧誘者の攻略法のヒントでも、と耳を傾けていたのですが、聞こえる会話は誰もが諦める様なものばかり。スマラはため息と共に、「もうちょっと頑張ってよね」と悪態を吐いた。

 

 一方でスマラにそのゴムの身を貫通する攻撃を喰らったルフィは、一分もすれば痛みは和らいで立ち上がります。そして、スマラのことが益々気に入ったのか、立ち上がると勧誘を開始。

 スマラが無視を決め込んで読書をしていても、ルフィは気にもせずに話しかける。

 

 

「なぁなぁ!!今のどうやったら出来るんだ??」

 

「…………………」

 

「昔じいちゃんにも同じようにやられたんだ!!」

 

「………………」

 

「もしかして、海軍にでもいたのか?」

 

「………………」

 

「なぁ~答えてくれよ~。あ、何の本読んでんだ?俺にも教えてくれよ!」

 

 

 何回質問を繰り返しても返ってくる答えはゼロ。なので偶々目に入った本について話題を振ることにした。

 ルフィが本に話題を移したのは、スマラが本の話題なら話してくれるかもしれない!と思ってのこと。実際にスマラが反応して答えても、ルフィはちんぷんかんぷんであろう。兎に角、ルフィは何でもいいからスマラと話がしたかったのだ。

 

 しかし今のスマラ、ルフィの声が全く聞こえていなかった。能力で音量を消している、のではなく、ただ単に物凄い集中しているからだ。

 理由はちょう簡単。スマラが最後に読書をしたのはおおよそ数時間前。お昼寝タイムを挟んで読もうとしたつもりが、この船に拾われてリュックサックがなくなりと、かなりの時間読書が出来ていなかった。

 

 スマラにとって読書とは、ただの暇つぶしではない。更に言えば、知識を集める手段でもない。勿論、読書を経て知識が詰まって行くのは面白いし、それを他人に披露するのも嫌いではない。

 しかし、それだけならばただの読書好きの女の子。スマラはそれの数段先を行く。

 ご飯を食べる時も読書。移動中も読書。眠くなるまで読書。本の資金を調達するするときも読書。襲いかかってくるならず者と対面した時も読書。とにかく読書。何時でも何処でも、読書読書読書読書読書読書読書読書読書読書読書読書読書読書読書読書読書読書読書読書読書読書読書読書読書読書読書読書読書読書読書読書読書読書読書読書読書読書。物心ついた時から片時も離さずに読書だ。

 

 そんなスマラが短い間と言えど読書をしなかったのは、これまでの人生でたったの一度のみ。その時は流石に手を抜けない相手だったので、やむを得ず読書を中止した。非常に不本意ながらも自分の意志で辞めたのだ。

 しかし、二度目である今は違う。自分の意志でもなく、ましてや不可抗力でもない。悪意は無くても他人によって読書が出来ない環境へといざなわれた。

 

 

 だからか、その反動で物凄い集中力をスマラは纏っていた。何者にも彼女の読書を止められない。例え船が転覆しようが、無意識のうちに船から空中へと移動しそのまま読書を続けるかもしれない。

 そんな今までにない集中しているスマラは手と頭、本の頁に書いてある文字を追いその内容を頭の中で想像すること以外の機能を完全に除外していた。

 なので、スマラを時折突いたりしているルフィの声は一切聞こえていなかった。

 

 ルフィが幾つ声をかけても無視。普通なら鬱陶しいくて無視できないはずなのに、無視を決め込んでいるスマラ。そんな二人のやり取りを見て、ナミが流石に一旦辞める様にルフィに言った。

 

 

「こらルフィ。今集中しているみたいだからそっとしておいてあげましょう。ほら、外の天気の晴れてきたみたいだから、ローグタウンに向けて出発よ!」

 

「そうだな!野郎ども、ローグタウンに向けて出発だぁ!!」

 

 

 やっと何処かに行ってくれた。読書に集中しながらも周りの状況を把握していたスマラは、人が散らばったのを見てそう思った。

 ゾロとウソップは再び帆を張りに、ナミは海図を持って進路の方角を支持するために、サンジだけがこの部屋に残り夕食の支度をしている。ルフィ?羊の船首にでも乗っているのだろう。

 スマラはサンジが夕食の支度をする音をBGMに読書を続ける。

 

 

 

 

 

 ふと、隣に誰かが座ってくる気配を感じた。スマラは文字を追う目を一瞬だけ外し、視野を広げる。のがいけなかった。

 スマラは視野を広げてしまった自分を後悔した。なぜなら自分の隣に座っているのが、何処かに行っていたルフィだったから。

 今から移動しようにも、移動したら読書から集中が途切れた、と思い勧誘される。スマラは隣に座り自分を眺めているルフィを無視して読書に励むしかなかった。

 とは言え、真横で自分をジロジロを眺めている奴が居ながら読書に集中出来る人が何人いるだろうか?スマラの場合、能力で周りの状況を無効化すれば問題はないだろう。だが、一応ここは海賊船。完全に周りの状況把握を切るのは得策ではない。

 なので、スマラは隣にいるルフィに気を散らしながら読書を続けるしかなかった。

 

 

「ねぇ。どうして私をこんなにも誘うの?」

 

「あ、反応した」

 

 

 ルフィに耐えられず、本から目を逸らさないまま質問した。ルフィは「何故?」と問われてもすぐには答えを出せないようで、頭を抱えて答えを出そうと考える。ルフィでも明確な理由があるわけでもないらしい。

 

 

「なんとなくだ」

 

「…なんとなく?」

 

 

 なんとなく。それがルフィの出した答えだった。ただ気分でスマラを仲間にしたかった。そうともとれる答えを聞いてスマラは、

 

 

「気分で決めておいた癖して、えらく諦めが悪いのね」

 

「だから、なんとなく仲間にしたくなったんだ。お前が本気で断らねぇ限り、俺はお前を仲間に加えたい」

 

「気分で仲間にしたくなって、自分の意志は曲げない。………まぁ、いいのでは?」

 

 

 ルフィの言葉の裏を返せば、スマラが能力で逃げれば、もしくは圧倒的な力で叩き潰して海軍にでも引き渡せば、ルフィは諦めると言っている。

 思えばそうだ。スマラはルフィの勧誘を嫌がりながらも本気で振り払わなかった。現に今だって一人で航海できるのに、この船に乗っている。

 心の底で、この時間や空間が心地良いと感じているのだろうか?それは、スマラ自身にも分からない。

 

 初めてルフィを褒める言葉を出したスマラにルフィは、

 

 

「なんだ?褒めてくれるのか?ありがとう!!だったら俺の仲間になれよ!!」

 

「………考えとくわ」

 

 

 再び勧誘するルフィにスマラは、初めて否定的な答えを出さなかった。

 そんなスマラの答えにルフィは嬉しそうに笑うと、追撃は放たない。ここで押すと、いい方向に向いている風が、逆方向に吹き荒れると野生の本能で感じ取ったからだ。

 

 サンジはそんな二人のやり取りを聞いて、嬉しそうにするとより一層料理に没頭した。己の料理でスマラの仲間入りを押せないか?と実に船長の為とも己の為とも言える動機からだが、食事が美味しいのは良いことである。

 

 

 

 

 

 船室にはサンジが夕食の支度をする音とスマラが頁をめくる、ペラ………ペラ………ペラ、と言う音だけが響く。

 やがて、今日の航海は終わりと見たのか、ナミが地図を仕舞いながら入って来た。それに続いて、帆を畳んで錨を下ろし終えたウソップとゾロも加わり、一同は揃った。

 後は夕食を待つだけ、となった所でサンジが見計らったかのように完成させ、テーブルへと運ぶ。

 

 

「さぁどうぞ、レディ達。しっかりと味わって食べて下さい」

 

「ありがと、サンジ君」

 

「はい、ナミさん!!スマラさんもどうぞ。もし足りないようでしたら、お代わりなどもご用意しております」

 

「えぇ、ありがとう」

 

 

 ナミとスマラの前だけには大皿から盛り付けられた夕食が。女性だからこそのサービスだ。

 男ども?そんなの知らん!早い者勝ちで取り合え!なのが、この船の食事事情。用意された半分以上がルフィの腹の中に入っていく。

 

 一人でいるのなら殆どの食事を食パンで済ませ、その間も本を読み続けるスマラも、流石に出された物は食べるし、ながら食いはしない。

 本をリュックサックの中にしまうと、よそってくれた夕食を食べる。ゆっくりと優雅に。

 別にスマラは意識はしていないのだが、その姿は育ちの良さがにじみ出ている。

 掻っ込む様に食べている男性陣とは真反対。ナミはそのマナーの良さに驚きながらも、サンジだって普通にしている時はマナーは良いし、本が好きなスマラのことだ読んで覚えたのだろう。と結論を出すと、それ以上深く考えなかった。

 

 もう一人、頭の切れてスマラの事をよく観察している一人を除いて。

 

 

 

 

 

 食事も進み、残り少しとなった頃。既に食べ終えて、何気ない会話をする一同にスマラは呟いた。

 

 

「……この船に乗っているのもありかもしれないわね」

 

「………っ!!!」

 

 

 聞き耳を立てていたわけでもないのに、スマラの声は全員に聞こえた。

 そして、ある者は嬉しそうに、ある者は驚いたように、またある者は怯えたように、最後にある者は興味深そうに、それぞれ反応する。

 

 

「やったー!!!はっはっはっ!!!」

 

「え!?噓!?」

 

「ひぃ~!!マジかぁ~!!」

 

「へぇー」

 

 

 反応はそれぞれ、一人を除いて歓迎の方向に向いていた。夕食が終わったばかりだが、これから歓迎の宴を……と場の空気がなっているそこに、スマラは待ったを掛ける。

 

 

「待ちなさい。私は仲間になるとは一言も言っていないわよ」

 

「え?何でだ?船に乗ってくれるんだろ?」

 

「えぇ、貴方が諦めないのだもの。一先ず、海賊の仲間になるのはどうしても承諾できないわ」

 

「じゃあどうして……」

 

 

 スマラのストップにルフィが疑問を抱く。分からない事は質問するの精神でスマラに聞いてみると、海賊の仲間にはなれないとの事。

 ならばどうするか?とナミが質問をスマラにした。

 スマラは少しだけ間をおいて考えた後、その質問に対して、出来るだけ丁寧に答える。スマラが普通に答えたら、ナミとサンジ辺りは理解出てても、ルフィを筆頭に理解が及ばない者たちが多数存在すると、今までの時間で導いていたからだ。

 

 

 スマラの説明はこうだ。

 初めは仲間になる事を否定していたが、だからといって嫌いではなかった。スマラはしつこく勧誘してくるルフィにいい加減辞めてもらおうとも思っていた。

 スマラがルフィから聞いた諦める条件は、仲間に入る、又はスマラがこの一味を全滅させること。前者はどうあがいてもスマラには不可能であり、後者もそこまでする理由はない。

 ならば妥協点を探すしか方法はなく、スマラは読書を楽しみながら考えた。

 そして導き出した答えは、仲間には入らないけど船には乗る、と言う強引な妥協案。

 この東の海も飽きた所だし、いい加減偉大なる航路に戻ってもいいかもしれない、と考えたスマラはその提案を決定した。

 だって、流石に偉大なる航路を一人で航海するのは体に負担がかかりまくるし、航路が特殊である故に面倒くさい。

 しかしこの船に乗っていると、行先は勝手に決めてくれるし、航海もしてくれる。寝床の心配もしなくては良さそうだ。要するに便乗して乗っているだけで偉大なる航路が渡れる寸法。

 この船が通る航路がスマラの渡って来た航路と全く同じとも限らなく、行き先で未知の本に出逢えるかもしれない。

 唯一の心配は、途中リタイヤが考えられるが、その時はその時だ。途中でも最終地点でもいいので、兎に角前に進めれば問題ない。

 

 というわけで、スマラは仲間ではなくて、ただの旅人としてこの船に乗る事を承諾したのだ。

 

 

「ん?仲間と何が違うんだ?」

 

「船に乗ることだけを承諾したのよ。仲間じゃないわ。……そうね、食客とでも思ってくれれば十分だわ」

 

「ん???船には乗るのに、仲間じゃねぇのか?」

 

 

 スマラの説明に理解が及んでいないルフィ。ルフィは「船に乗る=仲間」と思っているようだった。

 そんな頭の理解に追い付いていないルフィに「こいつには理解されないと後々不味い」とルフィの認識を絶対にしておきたいスマラは更に説明をするも、ルフィには通じていない。

 

 「理解できるまで何度でも!!」と説明を続けようとするスマラに、「このままだとループするだけ」と感じたナミが仲介人として間に立った。

 

 

 スマラは分かっていないが、スマラの説明は少々遠回りに走っており、小難しいのだ。考える、と言う自然界で人間が繁栄してきた理由を殆ど放棄しているルフィにはいささか、無理難題なのだ。

 小難しく考えずに、要所要所が分かれば、スマラの言いたいことは簡単に分かるのだが。

 スマラにも少しは非があるが、まだ出会って時間の浅いルフィの事を理解して説明しろという方が無理な話だ。対人関係が、部屋に籠りっぱなしの職業自宅を警備する者たち並みに低いスマラにそれを求めるのは、ルフィと同類とも言えるが……。

 

 

「だから……」

 

「ちょっと待ってスマラ。はぁ~、良いルフィ。スマラは船に乗るって言ってるの。その後の説明はあんたには難しいから考えなくて言いわ。仲間にするチャンス期間が伸びた、とでも思っておきなさい」

 

「なんだよぉ!!そうならそうと、言ってくれよなぁ~!!よーしッ!!スマラの歓迎会をやるぞ~!!」

 

 

 それで完全に理解したのか、していないのか、判断に悩む言葉を発するルフィ。

 スマラは「ホントにこの状態でよいのだろうか?」と首を傾げながら、ルフィの号令で歓迎会、もとい夕食後なので飲み物の準備をしている様子を眺めていた。

 

 

「これくらいでちょうど良いのよ。あいつには」

 

「……理解力が格段に低いというのも、難しいのね」

 

 

 サンジが飲み物を準備している傍らに、ナミが騒いでいるルフィを横目に言ってきた。

 

 

「唯一の懸念は、彼が私が仲間に入ったと勘違いするかもしれないことね」

 

「そこはほら、私たちが言い聞かせておくわ。何なら、一層諦めて仲間になっちゃう?偉大なる航路の知識だけじゃなくて、実力も通用するらしいスマラが仲間だと、より安全だわ」

 

「無理よ。これは私の意志もあるけれど、どうしても仲間にはなれないわ」

 

「それって……他の海賊船に所属している、とか?」

 

 

 スマラは初めから言っていた「仲間にはなれない」の言葉に、ナミはもしかして自分と同じなのでは?と疑問と危機感を抱いて質問する。

 が、スマラからの返答は何でもないものだった。

 

 

「いいえ、所属なんかしてやるものですか。犯罪者になると、私の資金源がもらえなくなるじゃない」

 

「それって……」

 

 

 犯罪者になると、海賊を海軍に引き渡して生活費が稼げなくなるじゃない?というスマラ。

 ナミはそっちのことよりも、前者の言葉に違和感を覚えた。まるで、この船ではない何処かに所属されそうになったようだったと。

 

 しかし、そのことの追求は出来なかった。スマラがルフィに無理矢理乾杯の音頭を取らされたからだ。

 ナミは、気のせいかと無理矢理納得させて歓迎会に加わった。

 

 もしもの時はルフィが何とかしてくれる。

 

 嘗てルフィが自分にそうしてくれた様に。と、ナミは自分の船長の強さを信じて。

 スマラが、この世界でも強者の部類に入るとは知らずにそう思ったのだった。

 

 

 

 こうしてスマラは、なし崩し的にこの船に乗ることになり、懐かしき偉大なる航路に帰ることとなった。

 この先、スマラにとんでもない苦労が押し寄せて来るとは思わずに。

 

 




 予告通りスマラがルフィの船に乗りました。
 次回はローグタウン。スマラは処刑されそうになるルフィを見て、どう行動するのか??海軍の反応は??
 取りあえず、12日頃を予定します。


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320 五頁「ローグタウンの裏道は……」

少しの間お待たせしてすみません。最近創作欲が出て来たので、更新速度アップで行きますよ!!


 スマラを乗せた一向は、ローグタウンへと船を進めていた。

 

 

 東の海の海賊が偉大なる航路に入る際、必ずと言っていいほど立ち寄る島がある。いや、島よりも街と言った方が正しい。つまりそれがローグタウンだ。別名『始まりと終わりの街』

 かの有名な海賊王、ゴールド・ロジャーが産まれた街であり、最期を迎えた街でもある。二十四年間続く、大海賊時代幕開けの街。

 海賊のみならず、一般の観光としても東の海頭一と言っても良い程有名な場所。

 

 当然、スマラも数年前に訪れた事があった。目的は勿論、物流が盛んなこの街で見知らぬ本と出合う事だったが。

 

 

 

 スマラがこの船に乗ることを妥協した次の日。空は青く澄み渡り、空気も美味しい午前中の事。

 サンジが作った朝食をミルクと一緒に飲み込むと、スマラは午前の読書タイムを始めた。

 

 実に良い朝だ。昨日までなら、服を着替えて朝食の準備をしなければならなかった。そして、読書をしながら朝食を食べつつ、今後の予定を緩やかに決めていた。

 だがしかし!!今日は今までとはひと味違う!!

 なぜなら、行き先はこの船の船長のルフィが決めることだし、朝食の準備は全てサンジが行う。スマラは、殆どの事をしなくても良くなった。

 

 つまり、それだけ読書タイムが伸びた。というわけだ。

 

 

 

 サンジが朝食の後片付けをする音と、スマラが本の頁をめくる音だけが部屋の中に響く。その他の連中は、帆を張ったり、風を読んで指示を出したり、昼寝?に走ったりと甲板に出ている。

 

 

 そんな物静かな朝食後の時間。初めは、いつも通りに皿洗いをしていたサンジだったが、不意に、トントン、トントン、トン、と不規則なリズムが耳に入ってきた。

 「誰だ?」と思ったものの、この部屋にいるのはサンジとスマラのみ。音の正体がスマラが発していると直ぐに分かる。

 サンジが手を休めずに顔を上げると、そこにはスマラが顔を綻ばせている表情が目に入り、そして目がハートマークになった。

 

 

 普段は無表情でいる事が多いスマラだが、彼女が最も表情を変える時と言ったら、読書している時と言えるだろう。え?何時も読書しているだろう、って?

 それは勿論、普通の読書タイムでは無表情で読書をしている。だが、色々と条件が重なり、スマラの気分が良くなっていると、こうして無表情から美しい笑みを浮かべるのだ。

 無論、スマラは自分の表情の変化に気づいていない。気づいていたとしても、スマラは無視する。本が読めれば他の事はどうでもいいのだから。

 

 

 自分の表情の変化に気づいていないスマラはさておき、目をハートマークにさせてスマラを凝視しているサンジはというと……。

 

 

「スマラさん、朝食後のデザートかお飲み物でもいかがでしょうか?」

 

「………………あっ、ごめんなさい。集中し過ぎてたわ。そうね、温かいミルクティーでも貰おうかしら?」

 

「喜んで!!」

 

 

 スマラに尻尾を振っていた。

 

 集中していたスマラは一拍置いてからサンジに気づき、適当な飲み物を頼んだ。それと同時に、集中し過ぎていた事に自分を叱る。

 

 

(この船での居心地が良すぎて、つい集中し過ぎたわ。駄目ね。どこに行っても、何時何処何が起きても対処出来るように集中しなくてはならないのに)

 

 

 そうだ。仲間になれと勧誘してきているとは言え、この船は海賊船。つまり、何時裏切られて殺されたり、慰め者にされるのか分からない。

 これまでの人生、何度もそう言った経験があったのに今回の失態。

 スマラは、自分を厳しく律して、二度と同じ様な事がないように気を付けよう、と再決意する。例え、この麦わらの一味が、これまでスマラが出会った普通の海賊団と違ってもだ。

 

 そう思って何時もの無表情に戻ったスマラを見て、サンジはスマラの表情が消えた事を後悔する。

 あのままスマラの美しい笑みを堪能すればよかった!!しかし、スマラの読書タイムに自分が入れた飲み物を差し入れられた!!と自らの行いに関して、懺悔と歓喜を繰り返していた。

 勿論、スマラは全く気付かなかったが。

 

 

 サンジはスマラにミルクティーを入れた後、食器の片付けを終えて外に向かう。手にはコップとティーポット。もう一人の女性であるナミに持って行ったのだろう。

 そして、そのまま戻ってこなくなり、船内はスマラだけの空間となった。

 

 

 

 スマラが一人になって何時間が経ったであろうか?もしかしたらたった数十分かもしれない。

 が、しかし。読書中のスマラが体感時間で数時間であっても、数分であっても、スマラには関係ないことだ。周囲の警戒を疎かにしていない状態でも、人並みの集中力を維持できる。

 なので、読書中のスマラにとって『時間』とは無意味な概念なのだ。いや、無意味とも思っていない無関心ぶり。

 

 そんなスマラにとってどうでもいい『時間』が小一時間程流れた時、外から声が聞こえてくる。

 

 

「よっしゃー!ローグタウン行くぞ!!」

 

「「おーう!!」」

 

 

 如何やら、東の海における偉大なる航路の入り口とも言われている島が見えてきたようだ。

 スマラは読書を続けながら、島に着いたらどうしようか?と思考を巡らせた。

 

 一度は訪れたことのある島だ。ならば、颯爽と本屋に向かい、そこで物色して船に戻ればいいかしら。

 死刑台?一度だけ見たことがあるが、特に惹かれなかったからパスで。

 

 と、これから手に入る新しい本を想像して、スマラは少しだけ気分を向上させた。

 

 

 

 三十分も経たない内に船はローグタウンへと到着し、港に船を止めようとしていた。

 読書も一旦切り上げ、甲板へ出たスマラは、これは不味いと思い少し助言をする。

 

 

「こんな所に海賊船を堂々と停泊出来る訳ないでしょう?海軍に確保されるのがオチだわ」

 

「そうね。もう少し離れた場所に泊めましょう。教えてくれてありがとね」

 

「折角手に入れ足ですもの、早々にリタイヤされても興醒めだわ」

 

「心配してくれたのか?ありがとな」

 

 

 ナミはスマラにお礼を述べると、船を別の場所に泊めるべく指示をとばす。すると、サンジを筆頭に男三人が船を動かした。

 他の三人がナミの指示に従って船を動かしている中、ルフィがスマラの隣にやって来る。緊急でもない今は、三人でも人手は足りるらしい。

 ルフィはスマラが読書をしていないことを目に付け、ここぞとばかりに話しかける。

 

 

「本読んでねぇな。街に出掛けるのか?」

 

「それはそうよ。島に着いても船にこもりっぱなしではなくてよ。この先も勝手に居なくなるかもしれないけど、出航までには戻ってくるわ。だから、変な勘違いはしないでね」

 

「分かった!ところでさぁ、街に行くんだったら一緒に行こうぜ!!処刑台見るんだ」

 

 

 島に着いたら自分は勝手に行動するから。そう伝えたつもりだったが、流石考えることを停止しているルフィ。彼には全く通用しない。

 スマラはため息を吐くと、ルフィの誘いをキッパリと断った。

 

 

「私は書店に行きたいの。目的地が別のだから、一緒に行動する必要はないわ」

 

「えぇ~……。ま、いいや」

 

 

 言葉外で、船に乗っているだけでも感謝しなさい!!とも言っているスマラ。伝わるはずが無いのに……。

 ルフィはスマラの断りに一瞬不貞腐れたが、直ぐに気持ちを切り替えた。昨日スマラを妥協させたしつこさはどこに行ったのだろうか?と驚く程の清々しさで。

 

 

 

 

 

 ドタバタと定着準備も終わり、一同は船を降りる。そして、海岸沿いを歩いて街の正面入り口へと向かった。

 

 正面入り口は観光客で溢れかえり、これが東の海最大の都市なのか、と一行を驚かせる。

 四、五階の建物が並びに並び、入口付近から果物や食材を売っているマーケットが賑わい、観光客がガヤガヤ、ワイワイと楽しそうに歩いていた。

 建物と建物の間掛かる装飾を彩った柱には「Loguetown」こここそが、街の入り口だ。

 

 一行は船に集合する時間を決めると、それぞれ思い思いに行動を開始する。

 ルフィは処刑台を見てくると宣言し、サンジが食材集めに、ウソップは装備品集め、ゾロが折れている刀の補充にナミからお金を借り、各々街中に入っていった。

 スマラも時間は有限だ、サッサと予定を終わらせよう。とばかりに足を動かして街中に入ろうとすると、ナミがスマラを呼んだ。

 

 

「ねぇ。良かったら一緒に服でも見に行かない?」

 

「……何故かしら?」

 

「だってこんな大きな街よ。いい服も沢山あるに決まってるわ」

 

「いえ、貴方が服を買いに行く理由を聞いたのではなく、私を誘った理由を尋ねているのだけど……」

 

 

 一緒に買い物をしようと誘ってくるナミに、スマラは全く意味が分からなかった。

 スマラが意味が分からなくても当然の事だろう。なぜなら、スマラはこれまでの人生、殆ど一人で生きてきたからだ。

 友達、どころか知り合いも殆どいないスマラに、買い物のお誘いは通用しない。そんな誘いなど今まで一度も受けた事がないからだ。

 

 だから、スマラはナミが自分を誘う理由が全く理解できなかった。

 そして、分からない事は即座に質問するスマラに、ナミは答える。

 

 

「だって、スマラって持ってる服少ないんでしょ?だったら見に行かないかなぁ?って思ったのよ」

 

「確かに持っている服は少ないけど、破れないから問題ないわ。……というか、何処で見たのかしら?」

 

「破れないって……あぁ、スマラには便利な能力があったものね。見たのは、貴方がリュックサックの中を点検している時。ってそうじゃなくて!!」

 

 

 如何やらスマラがリュックサックの中を点検している時に見た、スマラの着る服が圧倒的に少ない事がナミの気に触ったらしい。

 

 

「スマラは綺麗なんだから、少し服に気を使えば最も良くなるんじゃないかな?」

 

「……綺麗?そうなのかしら?でも、興味ないわ。一人で巡ってちょうだい」

 

 

 しかし、スマラは服が少なくても全く気にしない。女の子だから着飾るということに興味を持つこともなく。そんな金あったら本に充ててるよ!!精神だ。

 スマラはナミの誘いを一蹴すると、人混みに紛れて歩き始めた。

 

 

「あ、ちょっと待って!!ってもう見えなくなっちゃった……」

 

 

 ナミはポツンと一人取り残された。しかし、こうしても居られないのは確かだ。

 ナミは、スマラと言う初めての女性仲間と一緒にショッピングしたかった気持ちを抑えて、自分の買い物に出かける為、人混みの中に消えていく。

 

 

 

 

 

「何だったのかしら?」

 

 

 スマラは一人で呟くが、返ってくる返事は何もない。

 人混みの中に紛れたスマラだったが、既に人通りの少ない裏道に入ったからだ。

 表通りとは異なり、裏道は薄暗く小汚い。

 

 偉大なる航路の入り口とも言って良い程の街なのに、表通りには海賊が殆ど見られないのは可笑しいと思うだろう。

 どんな海賊船でも、物資の補給は必要不可欠である。ならばその物質は何処で手に入れるのか?

 答えは幾つかある。他の海賊船から奪い取る。街から強奪する。と如何にも海賊らしい補給方法だが、広い海原で、他の海賊船や地図も意味をなさない偉大なる航路では街に早々辿り着く訳がない。

 では、どうやって補給物資を調達しているのか?一番の正解は、他の海賊船や街から強奪もするが、大きな街の裏地で海賊にも商売をしている商人から取引をする。が一番多い物資補給方法だ。

 

 ということは、今スマラが居る裏道は海賊や表に出れない様な者達にとって住処であり、一見上品そうに見えるスマラは格好の的なのだ。

 ほら「良い餌が迷い込んで来た」とばかりに、スマラの身柄を狙う者達が集まって来た。

 

 

「おうおう姉ちゃんよぉ~」

 

「こんな所で何してるのかなぁ」

 

 

 スマラを獲物と見定めたならず者等が這いよって出て来る。一体何処からスマラが裏道に入ったことを知ったのか?と疑問に思うほどだ。

 スマラはならず者達をチラっと確認を取ると、溜息を吐き少し威圧を掛けて返答を返す。

 

 

「表の通りは人が多すぎて鬱陶しいからこっちに来たのよ。それで、道を譲って下さる?」

 

「おうおう、譲ってあげるともよ」

 

「その前にちょっとこっちに来てからだがな!」

 

 

 スマラの威圧を感じたのに突っかかってくるのか、それともただ威圧も感じ取れないバカだからか。スマラを明らかに邪な感情を込めて見てくるならず者。

 そして、スマラの手を引っ張ろうとして……。

 

 

「早くこっちに……ぎゃああぁぁぁ!!!手が!!俺の手が!!!」

 

「なっ!!何をしやがったこのアマ!!」

 

「の、能力者だったのか!!?」

 

「あら、ごめんなさい。気安く触れるものだから、温度を変えてしまったわ」

 

 

 全く悪びれることもなく、己に触れようとした男に言い放つスマラ。何をしたのかは一目瞭然。

 ならず者がスマラの手に触れた瞬間、触れた相手が感じている温度量を氷点下まで下げたのだ。もっとも、感覚だけを下げたつもりが、誤って周りの温度量自体を下げてしまい、触れたならず者の手がカチコチに凍ってしまった。

 スマラはそれだけ、書店を楽しみにしていた。というわけだ。

 

 スマラが能力者だと分かると、ならず者達の態度は一変する。これからスマラに行う行為を想像してだらけ切っていた表情から、まるで化け物を見たと言わんばかりの表情に変化した。

 東の海で悪魔の実の能力者とは、化け物と同じ扱い。東の海が他の海に比べて能力者の数が圧倒的に少ないのが原因としてあげられるが、何の特別な力を持たない者からすれば能力者が化け物なのは何処の海でも同じ事。

 スマラは、これで厄介ごとが逃げてくれると安堵の表情を浮かべる。

 

 そして、案の定一目散に逃げようとしるならず者達。しかし彼らは、裏道の奥から歩いてきた者を見て歓喜する。

 

 

「あっ!!ボス!!」

 

「何だお前ら。こんな小娘にやられちまったのか?ん??」

 

「バーカ。能力者ってのは海の秘宝だぞ。そう簡単にいてたまるか。何かトリックでも使ったにちげぇねぇ」

 

「そ、そうっすね!!ボスやっちまってくだせえ!!」

 

 

 バカが増えた。

 自分に向かってくる巨漢の男を見てスマラはそう思った。しかし、実際にスマラの容姿を見て歯向かってくる連中は数多く見てきた。

 だから簡単な対処法も既に開発済み。

 なのでスマラはリュックサックの中から船で読んでいた本を取り出すと、おもむろに読み始めた。

 

 スマラが考えた結果、こういった連中は無視する。それが一番効果的な『やり方』だった。

 

 

「な!!?このローグタウンの裏社会を仕切る俺様を無視だと!!」

 

「ぼ、ボス!!落ち着いてくだせえ」

 

「ちょっと痛み付けるだけですよ!!じゃねぇと売りもんにならなくなる!!」

 

「はっ!!どうせ調教する時に同じ様な事をするんだ!!後か今かどうかの話だろ!!」

 

 

 スマラの態度に怒り狂ったボス。部下たちはボスを冷静にさせようとするが、腕っぷしもボスと言われるだけの実力が有るらしい男を止められるはずがない。

 ボスは遅いとも素早いとも言えない速度でスマラに詰め寄ると……。

 

 

「はんっ!!俺様をナメてるからこうなるんだ!!裏道に入った自分の判断を後っぶげ!!」

 

「「「「ボス!!!?」」」」

 

 

 スマラの自動反射発動!!!

 ボスは戦闘不能になってしまった。

 部下たちはどうしますか?

 

 スマラが何も防御を取らないまま読書に入るはずもなく、自動反射に吹き飛ばされて意識を失うボス。

 部下たちは腕が立つボスが全く敵わないと知ると、二人掛かりでボスに肩を貸しながら逃げて行った。

 

 

 残されたのはただ読書を楽しんでいるスマラだけだった。

 そして、これ以上厄介ごとに巻き込まれてたまるものですか!?と言わんばかりに、サッサと裏道を歩いて行く。

 

 




 はい、ローグタウンに着きました。ホントは一話で終わらせようとしたのに……。なんか、いるわけでもないシーンを挟んでしました。次話か次々話にはローグタウン出航予定。


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321 六頁「本部の海兵隊が駐屯しているのに、どうして騒ぎを起こすのかしら?」

短期間……まぁ許容範囲だよね!走り気味で進んでいきます。


 裏道でならず者達を撃退したスマラは、これ以上厄介事が起こらないようにと自分に集める認識量を下げさせ、書店に向かった。

 勿論、読書を続けながら。

 

 

 一件目の書店に入り在庫を物色。

 面白そうなタイトルを見つけると、パラパラとめくって内容確認。この時、動体視力量を上げている為、パラパラと確認しているだけでも内容をキッチリと把握している。

 内容確認後に面白いと判断すればそのまま購入決定。船で普通の読書スピードでゆっくりと堪能するのだ。

 そしてまた気の惹かれそうなタイトルを探す。これを繰り返していき、全ての本棚を見終わると会計に行く。

 会計を済ませると、買った戦利品をリュックサックの中に入れてまた別の書店にGO。

 

 この街全て、までは行かないが、殆どの書店をこうして周る。

 スマラが街に訪れたその日はこれが日常なのだ。

 

 

 

 

 

 街の書店も殆ど周り尽くしてきた頃、スマラは街中が少々騒がしいことに気が付いた。

 しかし、スマラの周りは特別騒がしくはない。

 気になったスマラは見聞色の覇気で視てみることに。

 すると街の中心部、処刑台に位置する方角に人が大勢集まっている事が判明。

 

 ここは偉大なる航路の入り口。

 どこぞの海賊がバカ騒ぎしているのだろう、と結論付けたスマラは買い物をこれまでにして船に戻ろうと決めた。

 ちょうど中央部を通ることだし、ちょっぴりと見るのも良いだろう。

 

 と、歩いていると、アイスクリームを持った少女が嬉しそうに走っているのが見えた。

 少女はお父さんに買ってもらった3段アイスが余程嬉しいのか、にこやかに走り回って……少し大柄な男のズボンにぶつけてしまう。

 

 本を読んでいる横目で眺めていたスマラは、あっ!と思ってしまう。

 いくら読書以外に興味が無いと自称しているスマラでも、人の心がないわけでない。

 よく見れば少女がぶつかった相手は強面の顔をしていた。

 

「す、スモーカー大佐!!すみません。うちの娘が!!」

 

「た、大佐……」

 

 ヤクザか何か?と一瞬思ったものの、如何やら強面の男性は海軍の大佐ならしい。

 少女はアイスがなくなった事に涙を浮かべるが、少女の父親はこの街頭一のお偉いさんに向かって必死に謝る。

 大佐の部下も大佐にどう反応していいのやらと声をかけている。

 

 場合によっては面倒なことになりそうね。

 あの大佐がどう動くか……。

 

 顔が強面だった事と、少女の父親が必死に謝っている様子から、スマラは能力を発動出来るように身構える。

 が、そんな事は杞憂だった。

 

「すまんな嬢ちゃん。俺のズボンがアイスを食っちまった。次は五段を買うと良い」

 

 そう言って、少女にアイスの料金を手渡した。二段も+して。

 如何やら、強面なのに普通に良い海兵だったみたいだ。

 

「結構良い海兵さんね」

 

 スマラはそう呟くと、読書を続けながら歩き去った。

 

 

 

 

 

「ん?今誰か言ったか」

 

「どうされましたか?大佐」

 

「いや、誰かが俺の事を噂していたような気が……」

 

「通行人ではなくて?大佐の先ほどの対応には我々部下一同も流石だと感じ致しまして……」

 

 部下の言葉を聞くと、納得がいきそうな回答だが、スモーカーはどうも納得がいかなかった。

 

 ただの通行人なら問題は無いが、先ほど聞こえた気がした声はそのような物ではない。

 もっとこう、何処かスモーカーを推し量るかのような声色。

 圧倒的強者からの上から目線のような……。

 

 と考えた所で、スモーカーを呼ぶ声が聞こえてきた。

 ただの部下ではない。

 副官とも言える女の声だ。

 

「スモーカーさん!!遅くなりました!!」

 

「たしぎ、てめえ!!トロトロし過ぎなんだよ!!」

 

 やっと合流したトロい副官とこれからの事件のことで、スモーカーは今までの疑問を頭の隅に追いやってしまった。

 それが、良いことなのか悪い事なのかは誰にも分からない。

 

 

 

 

 

「あ」

 

「ん」

 

「お」

 

「あら」

 

 スマラが中央広場まで歩いていると、見知った顔にで出くわした。

 それも四人に。

 

 如何やら目的の買い物が大体終わったらしく、自ずと広場に向かい合流したらしい。

 ゾロは刀を三本に増やし、ナミは中身がパンパンなビニール袋を背負って、ウソップとサンジはドデカイ魚を二人掛かりで担いで。

 魚図鑑も当然眺めた事があったスマラは、記憶を辿ってその魚がエレファント・ホンマグロだと知る。

 

 偶然合流したので、話の内容は自然にここにいない船長についてとなった。

 

「で、あいつは?」

 

「処刑台見るって言ってなかった」

 

「処刑台の広場ってここじゃねぇか?」

 

 この辺りにルフィが何処かにいないか?と話が進んでいる中、スマラは一人雲行きが悪くなってきたわね、と思う。

 何せスマラは見聞色の覇気でここが騒ぎの中心だということに気づいている。それも処刑台の上が中心どころか発端だとも分かる。

 

 スマラが処刑台をチラリと見上げると、そこには首枷をはめられて身動きが取れない状態のルフィが居た。

 同時に他のメンバーもルフィの存在に気がつき声を上げる。

 

「「「「な、何であいつが処刑台に!!!?」」」」

 

(ば、馬鹿だわ。いったいどうして東の海最高額の海賊が簡単に捕まっているのかしら………)

 

 スマラはルフィに呆れながら周囲の状況を見聞色の覇気で探る。すると、処刑台付近に海賊と思われる反応にその周りを一般人の反応が、最後に広場を覆うように配置しているのが分かった。そして、この島に居てはいけないレベルの反応も感じ取った。

 

 さて、これからどうするか?スマラの意見としてはルフィの命などはどうでもいい存在だ。しかし、このまま散らしてしまうのも惜しいとも思う。

 ルフィの勧誘に折れてしまったスマラの気持ちは既に、偉大なる航路に入り自分が訪れなかった島で新しい本と出合う気満々だ。要は行ったことのない島での新しい本との出会いを楽しみにしている訳。

 なので、こんな場所で機会が無くなってしまうのは、スマラとしてはやぶさかでない。

 

 かと言って、堂々と助けだしてルフィに仲間入りを承諾したと勘違いされるわけにもいかないし、何よりも海軍と敵対するのはスマラ的にNGだ。

 

 さてどうしようかしら?とスマラは悩む。

 が、ここはほかのメンバーの意見を聞くべきだ。と直ぐに思考を停止、読書に戻った。

 無論、見聞色の覇気での警戒は怠らない。

 

「サンジ君とゾロはルフィの奪還をよろしく!私とウソップは船に戻って出港準備を整えておくから!!」

 

「え?あっちょ!!待てよナミ!!」

 

「分かったぜナミさん。おいウソップ!こいつ任せたぞ」

 

 ナミはこの場を戦闘力のあるゾロとサンジに任せ、自分は処刑台と反対方向に向かって走り始めた。

 ウソップはナミの指示にすぐさま反応出来ないでいたが、サンジからエレファント・ホンマグロを渡されると、尾筒を担ぎ引きずるようにしてナミを追っかける。エレファント・ホンマグロの胴体には布が巻かれている為、引きずっても本体の鮮度は大丈夫だ。

 

 こちら側が動いている間も、状況は刻一刻と進んでいる。読書を続けながらスマラは、メインの状況を把握する。

 ルフィを捕まえて処刑しようとしているのは、東の海でも悪名の高い『道化のバギー』如何やらルフィは彼を怒らせてしまったらしい。

 バギーが「ハデ死刑!!」と宣言すると、彼の部下達もピストルを空に撃ち込みながら騒ぐ。と同時に民間人に行動を止めさせるのも忘れない。一々縄で縛らないのは数が多過ぎるからであろう。

 

 その後、ルフィとバギーが言い合っていたスマラには聞こえなかった。それよりも判断しないといけないことがあるからだ。

 スマラは残っているルフィ救出部隊のお二人に、私はどうするべきか?又はどうして欲しいのか?と問うこととする。

 

「それで、私はこれからどうすればいいかしら?」

 

「助けてくれって頼んでも簡単に助けてくれる訳ねぇんだろ?」

 

「ま、そうね。助ける義理はあるけれども、理由は存在しないわ。現状を全て打破出来る力があることは否定しないけれども……」

 

 スマラならこの状況を一瞬で打破出来る。足が生むエネルギー量を変換させ、通常では有り得ない移動を可能とし、処刑台に居るルフィを難無く助け出す。

 言っている事は簡単だが、ルフィを助け出したスマラは海軍に目を付けられる事だろう。幾ら自分が受ける認識量を減らしたとしても、この広場全てにその効果を発揮させることは無理がある。無理があるだけで、無理をすれば可能だが、凄く疲れる。

 それにそうやって助け出すだけの『理由』が無い。この先の海の航海に乗せてくれる人だが、所詮はそれだけのこと。自分の労力とはまるで掛け合っていない。

 

 故にスマラの答えは、

 

「最低限の援護はしてあげるわ。麦わらの彼の首が飛ぶ事態だけは回避してあげる。後は何とかしなさい」

 

「ありがとうございます!!スマラさん!!!」

 

「……助かる」

 

 ゾロとサンジはスマラが最悪の事態だけは回避すると言うと、それぞれお礼の述べて広場の中央、処刑台を目指して走り出した。

 と同時に、ルフィの大声が耳に入る。

 

「俺は!!!海賊王になる男だぁ!!!!!」

 

 よりによって海賊王が処刑された位置での宣言。この場に存在する誰もがその宣言を耳にして、ある者は啞然とし、ある者は呆れ、またある者は失笑し、スマラは……。

 

(なれるはずがないわ。あんなひ弱な男が。でも、麦わら帽子を受け継いでいるのならッ!!)

 

 

 バギーが剣を振り上げ、笑う。そして、ゾロとサンジが現れ民間人は我先にと逃げ出す。

 バギーと同盟を組んでいるアルビダの指示でバギーとアルビダの部下がゾロとサンジを迎え撃つ。一人一人ではゾロとサンジに太刀打ちできないが、数とは卑怯でまたそれも力である。次々と襲ってくる下っ端の対応で二人は中々思う様に進めないでいる。

 そして、バギーがまた一層と笑みを浮かべる。と同時に海軍も突撃準備を整えスモーカー大佐の号令を待つ。

 

 バギーが振り上げていた剣が下に向かって振り落とされる。

 そこで、スマラは見聞色の覇気を強めた。

 

 見聞色の覇気とは大まかに言えば、相手の次の行動が分かると言う簡易的な未来予測の事だ。簡易的と枕詞が付けば、見聞色の覇気を鍛えれば簡易的でななく本当の未来予知が可能になる。

 

 スマラはその未来予知を発動させた。すると、数秒後の未来にはどうやってか生き残ったルフィの姿が映し出された。処刑台が焼け焦げている。恐らく処刑台を焼き壊す程の何かが起きて、彼は助かったのだろう。

 物凄い幸運である。

 

 

 現実に引き戻されるスマラの視界。振り落とされるバギーの剣は、まだ止まらない。

 ルフィは暴れるのを辞め、仲間の名を呼んだ。

 

「ゾロ!! サンジ!! ウソップ!! ナミ!!」

 

 見聞色の覇気を発動しつつ、全体の流れを視ていたスマラと目が合った気がした。

 

「スマラ。  わりぃ、おれ死んだ」

 

(何てこと言ってんのよ!!)

 

 

 これから己が死ぬとは思えないほど普通に、ルフィは笑った。スマラが二十二年前に見た海賊王と同じように。

 

 バギーの振り下ろした剣がルフィの首を切り落とす寸前、スマラの見聞色の覇気に雷の予兆を察知した。と同時に振り下ろされた剣が生んだ摩擦により火花が走り、そこ目掛けて空の雷雲より雷が落雷する。

 

 雷鳴を轟かせ落ちた雷は死刑台を(と同じく上に居たバギーを)焼き壊し、崩れ落ちる。スマラが見聞色の覇気で未来予測した場面と全く同じ光景だ。

 落雷により広場はしーんと静まり返り、動く者はひらひらと舞い降りた麦わら帽子を拾う一人の青年のみ。

 

 麦わら帽子を拾ったルフィは頭に被ると、

 

「やっぱ生きてた。もうけ」

 

 と、偶々良いことが合ったかのように言った。その言葉に、この場にいる全ての人が唖然として動かない。

 スマラも、雨に濡れている事など一向に気にせずに思考を巡らせる。

 

 な、なんて幸運なの。彼は最後、本当に自分が死ぬつもりでいた。

 なのに助かった。助かっても、なんてことのないように拾った命を喜んだ。

 何なの、彼は。こんな人、私は見たことがない。

 麦わらのルフィ………、もしかしたら私は、とんでもない人について行っているのかも知れないわ。

 

 けど、これはいいチャンスなのかもしれない。死に際で海賊王になると威勢を張れる人なんてそうそういないわ。

 利害が一致している間は、せいぜい上手く利用しましょうか。普通なら観覧することができない場所に保管されている本を読む為に!

 

 

 スマラは思考の海から抜け出すと、雨が降っている事を思い出し、能力を使って自分に触れる雨粒を無効化させた。そして、先に走り出したルフィを追いかけるように屋根の上を歩き出す。

 

 伝説が始まろうしていた。




 後半走り気味でしたが、今作はこんな感じで進めて行きたいと思います。

 次回、ローグタウン出航。遂にグランドラインに入ります。


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322 七頁「仲間ではないので、進水式は行いませんよ?」

グランドラインに入ります。


 スマラが屋根の上を歩いていると、後ろから海兵に追われているルフィ、ゾロ、サンジを見つけた。合流しようと思えばできるのだが、辞めておく。

 あの大佐が追って来た時に対処出来るようにだ。

 

 

 一目見ただけだが、あのスモーカー大佐は強い。東の海ではどんな海賊でも相手にならないだろう。

 私なら問題なく対処出来るだろうが、最後までは手を出さないでいるつもり。手を出すなら相手から見えない位置から一瞬でやらなければ…。

 

 

 三人を追っていると、前に女海兵が現れた。ゾロと因縁があるらしく、ゾロが一騎討ちで足止めをする。

 一般海兵では相手にならないレベルで切り合っている二人。ゾロの方は余裕に見えたのでスマラは放っておく。

 

 少し進むと進路に一人の男が道を塞いでいた。当然の様にいる男はスモーカー大佐。広場でバギー一味を一網打尽にした彼は、麦わらの一味の逃走経路を予測して待ち伏せていた。

 まず、スモーカー大佐がルフィを囲むようにして腕を煙化させ、初めて見た自然系能力に抵抗する暇もなく捕まってしまう。

 サンジが即座に飛び出してルフィを助け出そうとスモーカー大佐に渾身の蹴りを叩き込む。が、相手は自然系能力者。覇気を使えないサンジの蹴りは、あっけなく煙化したスモーカー大佐に回避されてしまう。

 顔が煙化した事に驚いたサンジは、スモーカー大佐の腕を煙化して叩き込むパンチ(ルフィのゴムゴムの銃同じようなもの)ホワイト・ブローを受け、壁に激突。すぐには動けないだろう。

 

 

 流石に自然系能力だと無理みたいね。煙の弱点になりそうな物も近くにあるわけでもない。存在を知らない状態で覇気が開花するはずもなし。

 ここで終わるのかしら?さっきの落雷の運は何処へ?

 

 

 やはり運だよりではここまでのようだ。スモーカー大佐がルフィの上にのしかかり、顔を地面に叩き抑える。

 

 スマラは能力を使って助けることとした。使うものは空気。

 デコピンの容量で空気を弾け飛ばすと、普通の人間でも少なからず空気の移動が生じる。移動にかかるエネルギー量を能力で増加させれば、空気の弾丸となってスモーカー大佐を打ち抜くだろう。

 厄介な自然系能力も武装色を纏わせば何の問題もない。

 

 スマラは能力の執行と指に力を入れて………。

 

「そうでもなさそうだが…?」

 

「てめぇは!?」

 

 ルフィに止めを刺そうとしていたスモーカー大佐の腕を止める男がいた。その男の登場にスモーカー大佐もスマラも驚きを隠せないでいる。

 

 一瞬だった。彼は一瞬であの大佐の後ろにやってきて、止めた。

 あぁ、この街にいるはずのないレベルの覇気の持ち主は彼だったのね。

 何故、ここにいるのか分からないけれども、一先ず安心そうね。

 

 突風が起きてルフィがスモーカー大佐から解放された。後方に居た海兵部隊も吹き飛ばされており、ゾロも突風の力を借りるようにして走っている。

 一先ず、この街から逃げ切る事が出来そうだ。

 三人が海兵から完全に逃走できたのを確認すると、スマラは下の様子をちらりと伺ってから自分も船に戻ろうとした。

 

 スマラの素の運動能力でも追いつけはするが、肉体の疲労が伴う為にあまり好みはしない。一歩軽く前に跳ぶ、それだけで一歩が生む運動量を変換させ莫大な跳躍を得る。

 スマラが戦闘を行う場合、殆どは運動量を変換させて行動する。今回もそのようにして離脱しようとして………。

 

「そこの娘。君ほどの手練れが仲間なら申し分ないだろう。この先も助けてやってくれ」

 

 スモーカー大佐を止めている男、革命軍のリーダーであるドラゴンに声をかけられた。

 スマラの居る場所はドラゴンの位置からは完全に死角だったはず。ならなぜ?ドラゴンもまた覇気使いなだけ。見聞色の覇気で探ればスマラの位置など丸裸だろう。

 

 スマラは「娘って歳ではないのだけれども!!?」と怒り任せに怒鳴るのを抑えて言葉を返す。

 

「仲間なんかじゃないわ。今回は初回サービスよ。彼が何時終わろうが私には関係ないの。利害が一致しているから助けるだけよ」

 

「………そうか、それは済まなかったな」

 

 スマラの答えにドラゴンは軽く謝ると、その場を去っていった。スマラもまた、中断させていた能力を再試行させ跳ぶ様にしてこの場を去る。

 残されたのは、スモーカー大佐と、

 

「俺から麦わらを助け出そうとしていた仲間が、もう一人居ただと!?」

 

 スマラを確認出来なかったスモーカー大佐が呟いた言葉だけだった。

 

 

 

 

 

 突風に背中を押される様にし走るルフィ、ゾロ、サンジ。長く感じた道のりもようやく終わり。

 街を出て海岸に出ると、ウソップがロープを懸命に引き寄せ船を岸にとどまらせようとしているのが視界に入った。

 

「ルフィ、急げ!!!もうロープが持たねぇ!!!」

 

「スゲー雨だな」

 

「ナミさんただいまー!!」

 

「早く乗って!!急いで船を出すわよ!!」

 

 こんな状況だと言うのにルフィは、吞気に降っている雨の事に気が散っている。ナミが「急げ」と言うと、三人は急いで船に乗り込んだ。サンジのラブコール?そんなものに反応している時間はない。

 三人が乗り込んでウソップがロープを陸から離す。船は波に攫われて、あっという間に海岸から離れていった。

 

 船が無事に出航すると、ルフィが何かを探すかのようにキョロキョロと甲板を見渡した。

 誰かを探しているみたいだ。ここにはルフィの仲間は四人揃っていて、残り一人と言えば、

 

「あれ?スマラが居ねえぞ?」

 

「まさか街に置き去りにしちゃったんじゃ!!」

 

「戻るぞ!!!」

 

 兎に角早く出航する事に夢中で気づかなかったのだろう。ルフィとサンジはスマラが居ない事を確認すると、大慌てで船を海岸に戻そうとする。

 が、ナミとウソップがそうはさせない。

 

「今更戻るなんて無理よ!」

 

「そうだぞ!!海軍が追ってきているかもしれないんだ。あの女なら空でも飛んで「私ならここにいるわ」ぎゃあぁぁ!!!でた~!!」

 

 ウソップの声に反応して、船内の入り口から顔を出したスマラだ。ウソップはビビッて転んでしまう。が、誰も心配しない。

 

 ルフィたちが走るよりも遥かに早いスピードで移動する事が可能なスマラ。ウソップとナミがルフィ達の帰りを待っている間に密かに戻り、中で読書タイムを楽しんでいたのだ。

 

「スマラさ~ん!!無事でしたか!!」

 

「良かった、ちゃんと戻ってきてたのか」

 

「いつの間に…って戻ってたのなら報告くらいしてよね」

 

 未だに警戒は解いていないゾロと、スマラに苦手意識を持っているウソップ以外の三人が、スマラが帰還していたことに喜びを表す。

 スマラは「次回からは報告するわ」と返すと、船内に戻っていった。雨が降っている中、わざわざ外にいる意味はない。

 

 

 

 

 

 荒波で大きく揺れる船内では、スマラが読書に勤しんでいた。揺れて鬱陶しいと感じるが、文字に集中し本の世界に飛び込めば無視できる。

 

 そうやって読書タイムを満喫している時だった。

 

「おーいスマラ!!」

 

 スマラを呼ぶ声が聞こえてきた。

 

 普通なら無視をするのが妥当な反応だが、今の自分はこの船に乗せてもらっている身。好き勝手我儘状態にも程がある。かと言って積極的に仕事をする気にはなれないが。

 

 スマラが本から視線を上げると、入り口にルフィがいた。

 また厄介?と思うが、先ずは要件を聞こう。

 

「何の用かしら?」

 

「偉大なる航路に入る前に進水式をすることにしたんだ!スマラも来いよ!」

 

 

 進水式とは、完成した船を初めて水の上に浮かべる儀式の事。この船は既に海に浮いているが、偉大なる海に浮かべると言う意味で行うのだろう。

 

「仲間じゃないからやらないわ」

 

「え~?折角なんだしさぁ」

 

 スマラはルフィの誘いを断る。仲間でないからやらないと。

 さらに言えば、外は雨風が吹いている。そんな中に行きたくない、というのが本音かもしれないが。

 

 一言だけルフィに返すと、スマラは無視して読書に戻る。スマラが要件を聞いた後に無視すれば、これ以上話を聞いてくれないことを何となく理解し始めていたルフィは少し不機嫌な顔をした後、外に出ていった。

 多分、スマラを仲間にすることをまだ諦めていない顔だ。

 

 

 

 

 

 また時間が少し経った。三十分も満たない短時間だ。

 

 一同はいつもの部屋に集まっていた。ナミから、偉大なる航路に入るための舵の切り方で言わないといけない事があるから、と。

 

「偉大なる航路の入り口は山よ」

 

「「「「山!?」」」」

 

 ナミから驚愕の事実を聞いて、男四人が驚きの声を上げる。

 ナミが地図をテーブルの上に広げて説明を開始。スマラは読書をしながらぼんやりと話を聞く。

 話を聞いていると、ナミから声が掛かった。

 

「ねぇ、スマラなら何か知ってる?」

 

「……まぁ、知っていると聞かれれば知っていると答えるわ。でも、それを答える訳にはいかないわ」

 

「知ってるなら話してくれても良いだろう?」

 

 ナミからの質問は予想通り、偉大なる航路の入り口が山なのは確かなのか?というものだった。

 実際に目に見たことは無かったスマラだが、秘匿でもない情報を集めるとは簡単な事。だが、その情報をここで提供する気はサラサラ無かった。

 ウソップがスマラに情報提供をねだるが、スマラの態度は変わらない。それに、情報を提供しないのにも理由があった。

 

「私は、一応これから先の色んな事を知っているわ。でもその情報を一々話してたら、あなたたちが自分で乗り越えられないじゃない。情報収集も大事な冒険の一部よ」

 

「…そうね。なんでもかんでも聞いたりしてごめんなさい」

 

「………何だ、やっぱり俺たちの事心配してくれてんのか!」

 

「っ!!し、心配なんかして…っ!!凪の帯に入っているわよ?」

 

 ルフィに図星を付かれたのか、しどろもどろになる寸前なスマラ。とここで見聞色の覇気に巨大な反応が幾つも返ってきた。

 情報提供はしないが、現状を伝えるのはいいか、とスマラはこの船がある海域に入っている事を知らせる。もしも凪の帯を知らなかったなら、身をもって体験させればいい。

 

「おい、嵐が止んでるぞ!」

 

「ホントだ静かだ」

 

 窓の外を見て気が付いたウソップが報告し、続いてサンジも外の景色を見る。

 善意で伝えたスマラの報告に、誰もが理解不能。この一味で一番の知識人であるナミを除いて。

 

「しまった!!凪の帯に入っちゃったのよ!!あんた達、急いで船を方向転換させて!!」

 

 ナミが急いで男たちに指示を飛ばす。が、状況理解できていない四人はナミに説明を求めて動かない。

 その素早く動かなかった代償は大きかった。

 

 来るわね。見聞色の覇気で巨大な生物の反応を読んでいたスマラは、心の中でそう呟いた。同時に大きな揺れが船を襲う。

 

 大きな揺れと共に船が何かに持ち上げられる。そう、スマラが察知していた巨大な生物達によって。

 船内から外に出ていた皆はその生物に声を失う。何故なら、辺り一面海王類で埋め尽くされていたからだ。

 

 

 凪の帯とは世界を一周する海、偉大なる航路を挟むようにして存在する海域の事だ。文字通りその海域にはどういうわけか風が全く吹いておらず、凪状態である事からその名が付けられた。

 ただそれだけなら、パドルシップやオールで漕いで偉大なる航路の最終地点付近に入ってしまえばいい。誰もがそう考えるが、世界はそう甘くない。

 現在の状況を見ても分かる通り、凪の帯は海の王とも言える種、海王類の巣なのだから。

 

 

 あぁ、手遅れか。でも、海王類は別に凶暴な生体ではないはず。危害を加えなければ無事に戻る事は可能でしょう。

 手伝ってと言われたなら………海王類は仕方ないかしら。ちょっとは何かしないと、私の気持ち的には楽になるわ。

 だって、こういった時こそ恩を着させるべきでしょう?

 

 スマラは外の状況など知ったことではないとばかりに読書を続けた。

 

 

 

 

 

 小一時間程、ようやく外が元の大嵐に戻った。

 凪の帯から普通の海に戻る間、船が転覆するかと思う程の揺れに襲われたが、スマラにとって些細な事でしかない。本の世界に入っている限り、スマラにとって外の世界はどうでもいい存在になる。その集中力は並外れたものだった。

 

 スマラの手を煩わせる事無く元の海に戻った船は偉大なる航路の入り口に舵を切る。入り口付近に差し掛かったのをスマラが知ったのは、船内にウソップとサンジが走り込んで来たからだ。

 

「あら、切羽詰まってどうしたの?」

 

「偉大なる航路の入り口が見えて来たんですよ、スマラさん。しっかし、ホントに運河が山を登ってるとは驚きだ」

 

「それくらいで驚いてちゃ、偉大なる航路は航海できないわよ」

 

「へぇー、ってそんなにヤバいところなのかよ!」

 

 スマラが山が海を登るくらいは偉大なる航路ではマシな方だと言うと、ウソップが顔を青ざめ始めた。が、直ぐにそんな余裕は無くなる。外からルフィの指示が聞こえて来たからだ。

 スマラは読書を続けながら視野を広げ、サンジとウソップを見守る。それと、外の音にも集中する。

 船が赤い土の大陸に激突して海の藻屑にならないかと、船の状況を外からの声と音で理解するためだ。

 もし船が赤い土の大陸に激突して大破してしまっても、スマラなら溺れる事無く助かるだろう。しかし、いきなりよりは数秒でも時間が有れば対応の心構えが出来るから。

 

 と、そうこうしているうちに、スマラの耳に歓声が響いた。赤い土の大陸に船をぶつける事無く、偉大なる航路の入り口に這入れたのだろう。一瞬、船が大きく揺れたが、外の様子から問題はなさそうだ。

 スマラは外の警戒を弱め、本の世界に戻ることにする。もし緊急事態が発生すれば、外から何らかの接触があるだろうと踏んで。

 

 

 

 




次回、クジラの体内


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323 八頁「クジラの体内。……まぁ有り得ない事ではないわ」

 本を読む。船が大きく揺れる。

 

 本を読む。何かが爆発する音が聞こえる。

 

 本を読む。大きな鳴き声が耳を痛める。

 

 本を読む。船がまた揺れ始める。

 

 

 偉大なる航路に入ったと思った後、スマラは見聞色の覇気を発動する事を止めて、ひたすらに読書を続けた。

 スマラの知識では偉大なる航路に入ると、双子岬で多少の足止めを喰らうはずだ。

 なので、見聞色の覇気も切りゆっくりと読書をしているのだ。

 途中でゾロとサンジ、ウソップの三人が大慌てで船内に入って来て、折れた舵棒を操作し始めても、スマラは全くの気にも留めなかった。

 

 

 

 ようやく静かになってきた頃、外からナミのスマラを呼ぶ声が聞こえてきた。

 呼ばれたからには仕方なく応えなければならない。

 スマラは本に栞を挟むと、念の為リュックサックを手に持って外に出た。

 

「何のようかしら?特にこれと言った物は見つからないのだけれど?」

 

「幾ら読書してたからって全く状況を理解してなかったの!?いい良く聞いて、ここはクジラのお腹のなの!!」

 

「………それで?何でクジラのお腹の中と言え、景色や島があるのかしら?」

 

「って冷静だな。おい」

 

「山みたいなクジラだぞ。偉大なる航路は初っ端からぶっ飛んでるのか」

 

 ウソップがスマラの冷静さにツッコミを入れ、ゾロが悪態を吐く。

 冷静さを失っていないが、一応緊急事態だ。イレギュラーな事なので対応に判断が付かないスマラは、ゾロの言葉をヒントにして脳内検索を行った。

 

 山みたいなクジラ。メモリーコネクト・オン。

 対象に当てはまる生物を一匹、確認完了。

 アイランドクジラね。世界一大きなクジラで、西の海に生息する固有種。

 何故こんな場所に?と思うが、ここがお腹の中なら脱出する方が優先度が高い。

 幸い、あの小島には人の反応があるみたいね。

 

「偉大なる航路の双子岬にアイランドクジラが居るという情報は知らないわ。イレギュラーな要素と考えてよろしくて。ですが、この先の海を航海するにあたって、この程度の事は起こりうるわ。対処は任せる」

 

「偉大なる航路には船ごと食われるなんて事が頻繫に起こるの!!?」

 

「うわぁぁぁ!!!やっぱりバケモノの巣窟なんだよぉ~。助けて下さいスマラ様~~」

 

 スマラにすがりつくナミとウソップ。スマラは無視して船内に戻った。

 

「ホントに困ったらもう一度呼びなさい。穴を空けて出してあげるわ」

 

 物騒な解決案を提示しながら。

 

 スマラとしては無理ではないが、多少力のかかる解決策なので出来れば穏便に脱出して欲しい。

 物騒な解決案を聞いて顔を青ざめているナミとウソップは、スマラが思っていることは届かなかった。

 

「おい!何か飛び出してくるぞ!?」

 

「「今度は何だよ(なの)!!?」」

 

 海面から飛び出してくる謎の物体に、悲鳴を上げたナミとウソップ。スマラは悲鳴を聴きながら、自分の出番がないことを祈った。

 

 

 

 

 

 本を読んでいると、時間が経つのが恐ろしく早く感じる事が多々ある。それは、スマラに限っての話ではない。

 人は楽しい事をしていると、時間が早く経つとに感じるようにできている。スマラにとってそれが読書であっただけの事だ。

 

 これまで通りに読書をしていると、外からルフィが声をかけてくる。

 

「スマラ、久しぶり!」

 

「久しぶり?」

 

 スマラはルフィの言葉の意味が分からない。勿論、「久しぶり」と言う言葉が長く合わなかった人に言うべき挨拶ということは知っている。

 スマラが疑問に思っているのは、何故その言葉を今言うのか?数十分間合わないでいたが、久しぶりというには少々間が空きなさ過ぎている。

 

 そんなスマラの疑問に答えたのは丁度キッチンに入って、食事の準備をし始めたサンジだ。

 

「あぁ、こいつはクジラのお腹の中に入る前に逸れちまったんですよ。だからじゃないですか?」

 

「そう。そう言えば私が甲板に出た時は居なかったわね。外に居たのね……ということは無事に外に脱出出来たのかしら?」

 

「あぁ、今から花のオッサンと昼飯にするところだ!スマラも来いよ」

 

「花のおじさん?人なのそれ?」

 

「髪型が花見てぇなんだよ。ほら、一緒にいこう。紹介してぇんだ」

 

「仲間と紹介するつもりじゃないでしょうね?いいわ、貴方だけだと不安だから行くわ」

 

 スマラは読みかけの本に栞を挟み、その本を手に持ったまま外に出た。

 

 少し前に甲板に出た時と違い、熱を感じる太陽と赤い土の大陸に聳え立つ二つの灯台。傍らにはこの船を飲み込んでいたアイランドクジラが見えた。

 外に脱出できたのはホントらしい。花のオッサンとやらが関与しているとスマラは考えた。

 

 ルフィに連れられて花のオッサンのところに行くと、確かに髪型が花に見えなくもない。

 しかし、人間だ。スマラの知識が確かならこのご老人は……。

 

「…双子岬の灯台守り人クロッカスね。噂は聞いたことがあるわ」

 

「私の噂かね?大層な物は有りはせんよ」

 

「スマラっていうんだ。俺の仲間候補。スゲー強ぇんだ」

 

「候補…まぁ言い方はそれぞれね。私はスマラ。ただの旅人をやっているわ。この船にはちょっとした事情が有って乗っているだけよ」

 

 スマラと花のオッサン、クロッカスの挨拶はそれだけで終わった。

 

 食事がまだ来ないということもあり、スマラはその辺にあった椅子に座って読書を始める。

 テーブルを挟んで反対側にはナミがノートやら羅針盤、海図やらを広げて何かの作業をしていた。そのナミに向かってスマラは少し疑問に思ってた事をぶつけてみた。

 

「ねぇ。ちょっと聞いてもいいかしら?」

 

「なぁに?スマラから質問って珍しいわね」

 

「船のマスト。修理中だったみたいだけど、何があったのかしら?偉大なる航路では船の些細な状況が命とりになるのよ?」

 

 ルフィと共に船から降りた時、ウソップが鉄をマストに釘で貼り付けて修理中なのが見えた。

 幾らクジラのお腹の中にいたと言え、船がひっくり返ったりしなければマストは折れないはず。

 スマラはマストに何があったのか?と疑問に思ったのだ。

 

 スマラの忠告じみた疑問に、ナミは言いづらそうに話してくれる。

 

「あ~あれね。ちょっとラブーンの態度が気に入らなかったからルフィが使ったのよ。あ、ラブーンって言うのはそこのクジラの名前ね」

 

「は?え?マストを使った?気に入らなかったから?宜しければ始めから話を聞かせて?」

 

 偉大なる航路出身のスマラでも、流石に今の言葉では理解が追い付かない様だった。ナミに説明を求めると、簡単に経緯を話してくれた。

 

「なるほど、仲間を待ってうじうじとしていたアイランドクジラを、あのおバカさんが新しい誓いを上書きさせて慰めてあげたのね。いい話だわ。まるで物語みたい」

 

「そうね。あいつはそこまで考えて行動したか分かんないけど」

 

「ただ、どうしてマストを使ったのかしら?わざわざ壊してまで?全く理解不能だわ」

 

「……大丈夫。私達も同じく気持ちだから」

 

「…話はもういいわ、ありがとう。どうぞ作業の続きをして」

 

 スマラはナミにお礼を述べると読書の続きに入った。

 

「あーーー!!!!??」

 

 直ぐに読書は中断となった。ナミが叫んだからだ。

 幾ら能力で音量を調節出来るからと言って常時調節しているわけでないスマラは、真っ正面でナミの大声を受けて耳をふさぐ。

 ラブーンの額に海賊旗を書いていたルフィがこちらに「うるせーな」と反応し、昼ご飯を持って来たサンジとマスト修理がひと段落ついたウソップもやって来る。

 不意打ちで耳にダメージを受けてしまったスマラは、ナミにキィッっと睨んだ。

 

「今度は何なの?」

 

「羅針盤が壊れちゃったの!方角を示さない!!?」

 

「……別に壊れていないわ。偉大なる航路では普通の羅針盤は使えないの。情報収集は大事だと言ったはずよ」

 

 スマラはそれだけ言うと、サンジが持って来た昼ご飯はよそって食べ始める。そろそろ初対面な態度は止めて、本を読みながら。行儀が悪い?知ったことではない。

 スマラが説明する気がないのを感じたクロッカスはナミに説明する。ナミだけでなく、サンジとウソップも同時に手を止めて説明を受けた。この先の航海での生命線とも言える話だからだ。

 ルフィ?全く無関心ではないが、難しい話は他の仲間が聞いて理解していれば大丈夫だ!と言わんばかりに食事に夢中である。そのペースで食べていたら説明を受けている三人の分が無くなる勢いだ。

 

 

 

 本を汚さないようにと食べていた為、周りで何やら起きていたが、スマラは気にも留めなかった。

 女性が食べる普通の量よりも少しばかり少ないが、初めによそった昼ご飯をゆっくりと食べるスマラ。読書と並行して食べているので、進み具合は遅いがそもそもの量が少ない。

 記録指針の記録が貯まる頃には流石に終わっていた。

 

 目で文字を追いながらチラリと視野を広げて歩く。歩き読書はスマラにとって難しくも何ともない。

 無事に船まで戻ると、ゾロが甲板で寝ているのを横目に船内に戻った。定位置ともなった場所に座るとそのまま読書を堪能する。

 いつの間にか船は出航していたが、スマラはこれまで通り気にしない。新たに見ない顔が二人乗っていても気にしない。

 船は偉大なる航路の入り口、双子岬をラブーンとクロッカスに見送られて出航した。

 

 

 パタンと本を閉じた。読んでいた本が読み終えたからだ。

 スマラはリュックサックの中に本をしまうと、新しい本を取り出さずに部屋中にいるナミに声をかける。質問内容は行き先。スマラとてこの先の島に興味がないわけではない。

 街があるのか?書店は?交易は栄えている島なのか?そもそも人のいない島なのか?

 出来れば珍しい場所にある本を読みたいスマラは、行先の島が知りたかった。クロッカスもいたところだ、まさか知らないということは無いだろう。

 

「ねぇ、次の島はどんな島なの?」

 

「え?あ、スマラも気になったりするんだ。読書以外どうでもよさそうに考えてる節があったから」

 

「えぇ、知らない島で知らない本に出合うのは楽しみだわ」

 

「やっぱり本関係なんかい!!?っと次の島ね。私も名前しか知らないんだけど、『ウイスキーパーク』ってところなの。詳しい島の内容はそこの二人が教えてくれるはずよ」

 

 ナミが指さした方向には男女二人が毛布にくるまって、この船の設備に異を唱えていた。寒くて暖房設備を欲しているようだ。

 ナミに視線を向けると、彼女もコートを羽織って耳当てを付けている。外の外気は相当寒いみたいだ。窓の覗いてみると、

 

「雪?あぁ、だからそんなにも厚着なのね」

 

 外には雪が降っていた。吹雪とまでは行かないが、甲板に多少積もっている事から長い時間雪が降っているのだと推測できる。

 窓の外には雪かきをしているサンジと、積もった雪で遊んでいるルフィとウソップの姿が。サンジはマフラーを巻いているが、ルフィとウソップはいつもの服のままだ。

 外の景色から分かる様に外気に触れていない船内でも、暖房機がないここは普通の服だと寒い。現にナミは厚着で、見知らぬ二人は毛布にくるまっている。

 

「ねえ。寒くないの?その服は動きやすさ重視だと見えるけど」

 

「能力で自分が感じる熱量を変換しているから問題ないわ。流石に雪の中をこの服で歩くつもりはないけれど」

 

 何時もの事だ。熱量を増やして温かくしているのだろう。

 スマラの能力にかかればこのようなことは容易い。やろうと思えば、部屋中の熱量を変換して温度を調節することも可能だ。

 体力を消耗するので言われてもやるつもりはないが。自分さえ快適であれば良いのだ。

 

 と、話を元に戻そう。

 スマラがナミに声をかけたのは、次の島の情報を手に入れるためだ。ナミからは見知らぬ二人に聞けば分かると言っていた。

 ならば、聞くだけ。早速真正面を向いた。

 

 始めて気に留めた二人は水色の髪を後ろでまとめている女の子と、頭に王冠を被っている男だ。見るからに普通じゃないのが分かる。

 女の子だけならまだしも、男の方が完全に怪しい。王様ではないことは何となく分かるが、何かを企んでいるようにもスマラは見えた。

 が、二人の事情などスマラにはどうでもいいこと。ただ次の島の情報教えてくれれば後は知らぬふり。この二人が麦わら一味に何をしでかそうと、仲間ではないスマラには関係のないこと。スマラに被害さえ及ばなければ。

 

「で、貴方達なら次の島を知ってるのかしら?教えてくださる?」

 

「これまで一緒の船に乗っておいて、今更なのね」

 

「本読んでいただけだもんな。まあいい。俺は…」

 

「名前なんか聴いていないの。次の島の名前と人口。交易がどの位栄えているのか。それだけで十分よ。どうせ直ぐに降りるのでしょ?」

 

「くぅ~、なめやがって」

 

「Mr.9抑えて、この人の目は普通じゃない気がするの。いいわ、教えてあげる。次の島は『ウイスキーピーク』よ」

 

「ウイスキーピーク……聞いたことないわ」

 

 ならば自分が通ったことのあるルートではないのだろう。スマラは水髪の女の子の話を聞く。

 分かった事は音楽や酒造が盛んな街。ある程度交易はあるが、ローグタウンには負ける。大都市ではないのだろう。

 

 スマラは女の子から話を聞くと、「ありがとう」とお礼を述べてから読書に戻った。次の島ウイスキーピークの話を聞いたスマラは内心でガッカリしていた。

 一つ目の島には本をあまり期待できそうない。人口もそれ程多くもないようだし、ローグタウンで買った本がまだ沢山ある。一応覗いてみるが、期待はしないでおこう。

 

 次の島が期待外れだったことは忘れて読書にめり込む。偉大なる航路初航海で度々変わる天候や海流に弄ばれるが、スマラは知ったことじゃないとばかりに無視した。

 そして時間が夕方に差し掛かってきた頃、ようやく海は穏やかになり水平線にはサボテンの様な山が見えてきた。ウイスキーピークに到着だ。




ウイスキーピークに到着です。次回、歓迎と罠?どちらも十分です。


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325 九頁「何もしていないのだけれど?」

 偉大なる航路初の島ということで緊張していた一同だったが、あっけなく島に上陸出来てしまった。

 町中総出で海賊船を歓迎してくれている。

 ナミは怪しいと思いつつも、市長を名乗る人物に押され歓迎を受けることに。

 と、船を出るに当たって船内に引き籠っているスマラにお迎えが来る。

 

「おーいスマラ!歓迎会してくれるって!!行こうぜ!!」

 

 スマラをこの船に乗せた張本人ルフィだ。

 ルフィが船内を覗くと、スマラは外の喧騒など気にしていない様子で読書をしていた。ルフィが呼びに来ても気にしていない。

 スマラは本の文字から目を逸らさずに言った。

 

「私はいいわ。適当に楽しんでくれば?」

 

「えぇ~行こうぜ!!楽しいからさ~」

 

 が、ここで諦めないのがルフィクオリティー。スマラに近づくと駄々を捏ねてくる。

 このままではスマラが動くまでいそうだ。とのことで、スマラは渋々と約束を取り付けた。

 

「はぁ、後から顔を出してあげるわ。丁度聞きたいこともあったしね」

 

「ホントか!?絶対だぞ!!絶対後で来いよ!!」

 

 ルフィは喜んで船を出ていった。

 船に残っているのはスマラただ一人。外から聞こえる歓迎の音が程よいBGMになっている。

 本を読みながらスマラはこの街の在り方を考えていた。

 

 異常ね。全くもって異常な町だわ。

 誰もこの状況を疑問に思わないのかしら?

 町中総出で海賊の歓迎会をする。利害が全く分からない。

 まるで油断を誘っているかのように。

 実際に殺気が駄々洩れだった。恐らく狙いは金品、もしくは賞金。

 はぁ、面倒な島に誘われてしまったものね。

 

 取りあえずの結論を出したスマラは、気にしていないで読書の続きに戻る。

 この程度の障害でスマラは動くはずもなかった。

 

 

 

 

 

 時間が経と日も完全に落ちた頃。

 ようやくスマラは船から降りた。

 

 行き先は知らない。だが見聞色の覇気で人の多い場所に向かえば問題はなかった。

 気配に従って進むとそこは酒場だ。入り口を潜ると、そこは飲めや歌えや大騒ぎ。

 スマラの苦手な雰囲気があった。

 

 ウソップが自慢と英雄譚を語り、ゾロとナミが飲み比べ、ルフィが食べ放題に挑戦し、サンジが複数人の女性を口説いている。

 アルコールのキツイ匂いが辺りを充満し、能力で防げるはずのスマラは手で鼻を覆う程。

 

 早くこの場を離れたい一心で、スマラは愉快そうに笑っている責任者の元に行く。

 髪をクルクルに巻き上げているのが特徴的な男だ。彼はスマラを見つけると、不思議そうに言った。

 

「おや?まだお仲間がいらっしゃったのか?ささ、こちらにどうぞ」

 

「いいえ、結構です。それよりも、本を売っている店は何処?」

 

「本……ですか?一軒ありますが、今は歓迎会の途中ですし。もう夜も遅い。明日にでも……」

 

「そう、夜だから空いてないって言いたいのね。でも教えなさい」

 

「っ!この先の道を………」

 

 失念していた。夜になれば店が開いていないのは当然のこと。

 普通の町人ならスマラも脅迫まがいに問いださなかっただろうが、目の前の市長から殺気が駄々洩れなのを感じているスマラは気にしない。

 有無を言わせない態度で問いただすと、顔を引きつりながら教えてくれる市長に「お金は勝手に置いておくわ」と言い酒場の出口に向かった。

 さっさと出ないと面倒な者に見つかってしまう。もっとも、皆それぞれの事に夢中でスマラが来ていた事など気づきもしなかったのだが。

 

 市長イガラッポイに本を売っている店を聞き出したスマラは早速その場所に向かう。

 酒場から離れると辺りはおかしいほどシーンと静まり返っていた。人一人おらず、家の中に明かりも付いていない。明らかに異常な光景。

 しかしスマラはまるで気にしない。

 

 イガラッポイに教えられた場所に着くとドアを押してみる。

 すると、開いた。

 まるで用心がない。この町に泥棒などは出ないのだろうか?それとも、泥棒など居るはずもない理由があるのだろうか?

 

 どちらでも気にしないスマラは簡単に入れた事に、一手間省けたと思いながら店の中を見渡す。

 個人経営のこじんまりとした店だ。書店などとは違い、日用品や雑貨品も扱っている店なのか、壁の一角に本棚が置いてあるだけ。

 スマラは取りあえず、一通り表紙を見ていった。

 

 

 

 月も大分登り、時刻は深夜に差し掛かっている時間帯。

 スマラはまだ店に居た。

 店員さんや他のお客様、辺りが時刻に合った静けさ、窓から差し込む月光。色々なことが重なったのか、スマラは店員のいない店で本を読んでいた。

 流石偉大なる航路と言うべきか、東の海に居た頃とは流通が違う。スマラが読んだことの無い本が幾つも見つかったのだ。

 そうなれば当然、全部読みたいと思うのがスマラ。しかし全部買えるお金がないので、こうやって立ち読みをしているのだった。

 

 新しい本が読めて気分が良いスマラ。だが、その気分もそこまでだった。

 読書に夢中だったはずのスマラは不意に頭を下げる。

 

 パァン!!

 

 刹那、発砲音が鳴り響きスマラの頭があった場所に弾丸が通りすぎる。見聞色の予知能力だ。

 パタン、と本を閉じる音が店の中を木霊し、スマラは静かに告げる。

 

「近くに待機しているのでしょう。出てこなくていいわ」

 

 出て来なくていい。その意味は出てくる間も無く終わらせる。ではなく、面倒だから相手をさせるな。

 スマラは本棚に陳列されている本を根こそぎリュックサックの中にしまうと、何の警戒も無く店の外に出ていく。

 

「あら?出てこなくても良いと言ったはずだけれども?」

 

「捕らえろ!!女だからって油断していると痛い目に合うぞ!!Mr.8が気を付けろと言ってた!!」

 

「十人全員でかかれぇ!!」

 

 店の周囲を十人で囲んでいた町人。スマラが店から出てくると、一斉に攻撃態勢に入りスマラを無力化しようとしてくる。

 ある者は剣で、ある者はピストルで、またある者は槍で、三百六十度からスマラに向かって己の獲物を振るう。

 

 対してスマラは深く溜息を吐くと、ただ目を瞑って棒立ち状態になった。

 

 

 

 

 

「ば、バケモノ……!!」

 

「もう終わりなのかしら?」

 

 十人もの攻撃を棒立ちで受けたスマラ。避けたり防御態勢すら取ろうとしないスマラに、町人改め犯罪者集団は殺ったと思った。

 だがしかし結果は見ての通り、スマラの周囲には腕が折れ曲がり、攻撃をしたはずなのに自身に攻撃が跳ね返って来て血を流している者ばかり。

 スマラの能力『反射』だ。

 

 覇気も扱えない偉大なる航路の入り口にいる者がスマラに傷など追わせることは不可能。ただ棒立ちで攻撃を反射しているだけで殆どの敵を葬ることが出来る。

 向かって来る運動エネルギー量を変換させ、反対方向に打ち返すなどスマラには簡単な事。ただの剣や銃弾となれば尚更。

 

 攻撃をしてこなかった者が、スマラの姿を見てバケモノと表現する。

 バケモノ呼ばわりされたスマラは狙い通りだと、心の中で微笑んだ。

 

 人が他の生物をバケモノ呼ばわりする時は、圧倒的な強さだけでなく恐怖も感じている相手に使うものだ。

 スマラの戦い方は、悪魔の実の能力を知らない人間にとって理解不能なもの。攻撃したはずなのにいつの間にか攻撃が自身に跳ね返っている。更に相手は何の動作も行っていないと来たら、何をやればいいのか分からなくなるだろう。

 

 中には攻撃をし続けると何時かは通るだろうと高を括る者もいる。現に、暗殺者がスマラの周りに増え始めていた。

 スマラはそんな者など気に留めないで歩き始める。すると、暗殺者達はスマラに向かって無造作に攻撃し続けた。

 

 スマラが歩く。銃弾がスマラに向かって発砲される。銃弾はスマラに当たると運動エネルギーの方向を逆算し、撃った本人へと跳ね返っていく。

 スマラが歩く。剣がスマラを叩き切ろうと迫る。剣はスマラに当たると運動エネルギーを逆算し、剣を持っていた本人の腕の可動範囲を無視して跳ね返っていく。

 四方八方どの方向から攻撃を加えても、どんなに遠くから狙撃しようと、一度に多数の攻撃で仕留めようとしても、スマラの運動エネルギー量を変換させる力には敵わない。

 

「いい加減に実力を認めて帰ってくれないかしら?」

 

 いい加減に無造作に行われる攻撃を反射をするのも疲れてきたところ。スマラの能力としての使用は体力と集中力を使う。簡単に見えてかなりのものを使っているのだ。

 スマラも敵の攻撃に飽き飽きして来た所。頭を使って絡め手を繰り出すわけでもなく、ただひたすらに物量と質量の単純攻撃。

 スマラとしては飽きてきていたし、正直言って無視しても問題ないレベルの雑魚敵だ。だが、どうしても無視できない理由があった。

 それは、

 

「この状況で船に戻るなんて、できっこないわね。さて、どうしましょ?」

 

 この状況を無視してメリー号に戻った所で襲撃は無くならないはず。一応乗せてもらっている手前、自分が船に戻っているせいで船が壊れるのはスマラとて気が引ける。

 なので、スマラはこれ以上進めないでいた。

 

 スマラの質問に対して敵が答える訳もなく、スマラを取り囲んでいる暗殺者集団。攻撃しなければ返り討ちには合わないと分かったのか、スマラを取り囲むだけで何もしてこない。

 その何もしてこない間を使ってスマラはこの状況を打破出来る案を検討する。

 

 そして一秒後、スマラから発生した『何か』が辺りを震えさせる。決して物理的な干渉はないはずなのだが、地面が小刻みに震え、建物がミシミシと嫌な音を出す。

 人間も無事ではない。活動に問題なく動ける状態だったはずが、スマラから発生した『何か』を感じると皆、泡を吹いて気を失って倒れていく。

 スマラを狙っていた全員が気を失って倒れたのを確認すると、スマラは額を抑えてうずくまった。

 

「……はぁ。だから使いたくなかったのよ。取りあえず、船に戻って横になりましょう」

 

 スマラが使ったのは悪魔の実の能力ではない。数百万人に一人しか扱えないと言われている覇気『覇王色の覇気』だ。王の器を持つ者にのみ扱えるとさせる覇気だが、スマラはその器があるかは別として覇王色の覇気を扱う事が可能だった。

 だが、どういう訳かスマラは覇王色の覇気を使うと体調が悪くなる。原因はスマラの体力面にあるのか、精神面にあるのかは分からないが、とにかく体調が悪くなってしまう。一度、医者に診てもらいもしたが、原因不明。

 それからなるべく覇王色の覇気は使わないようにしていたのだが、幾ら経っても自分を包囲したまま動かない敵にイライラして、手っ取り早い方法で解決してしまったのだ。

 

 スマラは這うようにして船に戻ると、椅子に座りテーブルに身を投げ出すと意識を失った。

 

 

 

 

 

 外が騒がしい。暗殺者集団が他のメンバーを襲っているのだろうか?

 

 完全回復まではいかないが、幾らかマシになったスマラは見聞色の覇気で辺りを探る。すると、敵反応は一人だけ。しかも船の上に反応が出ている。敵反応は出ているが、直ぐに動くわけではない様子。

 スマラは立ち上がると、ドアを開けて目の前に後ろ向きに居る女性に手を当てる。

 

「これは一体どんな状況なのかしら?」

 

「「「スマラ!!!」」」

 

 何やらピンチっぽかったらしく、この船の圧倒的強者であるスマラが女の後ろをとっている事に歓喜の表情を浮かべる一同。

 スマラがよく見れば、ウソップとサンジが転んでおり、ナミとゾロの獲物が転がっている。攻撃態勢に入ったものの、形成は悪かったみたいだ。

 スマラが手を当てている女性は特に慌てた様子もなく、両手を上にあげて何もしないポーズを取った。

 

「あら、お仲間がもう一人居たのね」

 

「仲間ではないわ。それと、悪魔の実の能力でしょうが、貴女が何をしようと私の方が早いわ。身体を壊されたくなかったら攻撃はしないことが賢明ね。悪魔の子」

 

「……っ!?そう言う貴女こそ、偉大なる航路に戻ってきたのね。可憐なる賞金稼ぎさん」

 

 軽く軽口をたたき合うスマラと謎の女性。スマラは謎の女性の正体を看破していた。悪魔の子と言われた女性も、スマラの事を知っているらしい。

 双方初対面だが、知識としてはお互いの事を知っている。だから女性の方はスマラに手出し出来ないでいた。偉大なる航路の億越え賞金首でも軽く捻るような相手に、動けるはずもなかった。

 

 相手が動かない事を確認したスマラは、下に転がっている他の方に状況を聞き出す。

 

「それで?これは一体どういう状況なのかしら?この街の連中が暗殺者集団だってことは知っているわ」

 

「えっと、それが成り行きでこの子をアラバスタって国に送り届けることになちゃったの」

 

「アラバスタ王国?」

 

 この子と言う女の子を見てみると、スマラの記憶ではミスウェンズデーと名乗っていた水髪の女の子が、スマラを驚いた表情で見て居た。ウイスキーピークへの航海中全く役にたたなかったスマラが、自分よりも圧倒的に強い副社長を脅迫する程の力の持ち主だったことへの驚きだ。

 スマラは自分を見続けている女の子を、先程までの情報を整理して正体を推測する。

 

 アラバスタ王国、あそこはクーデターが起こっていると新聞に書いてあった。

 そして王女様が行方不明とも聞いたことがあるわ。

 その王女様の特徴は……。

 

「貴女がビビ王女ね。………何で暗殺者集団に居たのかはしらないけど、厄介者のようね。言っておくけど、私に援軍を期待したって無駄よ。………それなりの対価がもらえれば話は別だけれども」

 

「え?麦わらの一味なんじゃ……」

 

「勘違いしているようね。私はこの一味と利害が一致しているから船に乗っているだけ、この船の厄介ごとは私には関係ないわ。それと、悪魔の子は私に何かするのかしら?」

 

「いいえ。賞金稼ぎさんには手を出さない方が良いと判断するわ。ボスにも報告ね」

 

 スマラには手を出さない。この言葉を聞いたスマラは、後は用はないとばかりに船内に戻って行く。ただ自分に向かって来る雑魚を無くしたスマラには、この場は無意味なのだから。

 スマラに悪魔の子と呼ばれた女性は、高額賞金首の自分に興味を失ったスマラを冷や汗をかきながら、次の計画を実行する為、悪魔の実の能力を再度解き放った。

 

 



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326 十頁「何もしないで……」

 自分に害を与えるかもしれない存在に、害を与えることはしないと言質を取ったスマラは船内に戻って本を開いた。

 まだ体の調子は本調子とまでは行かないが、普通に動く分には問題ない。ならば読書だ。

 

 それから少し経って、サンジがスペシャルドリンクを持って来てくれた。

 スマラはお礼を言ってから喉に通す。昨日のお昼以来の飲み物だったせいか、いつもより美味しく感じる。

 スマラは一味に襲い掛かる厄介ごとなど気にしないで、読書を楽しんで過ごした。

 

 

 

 

 

 船内に居るからと言って、外の状況が分からないわけでもない。見聞色の覇気を少し展開すれば生物の反応が返ってくるし、外から聞こえてくる会話に耳を傾けると大体の状況は理解可能だ。

 なので、ウイスキーピークで集めた本(犯罪者なので本を貰っても罪悪感はない)を読んでいたスマラも次なる島にたどり着いた事が分かった。

 

 リトルガーデン、スマラも名前だけは知っている島。

 ジャングルが生い茂り、古代からの生態系がそのまま残っているとある探検記には書いてあったのを覚えている。そして、その名前の由来も勿論。

 

 サンジがキッチンに入って来るのがチラッと見えた。島を探検するルフィにお弁当を作っているそうだ。

 スマラも何かいるか?と聞かれたが、特に空腹感はないので丁重にお断りする。

 サンジが弁当を作り終えると、ルフィとアラバスタの王女ビビがカルガモを連れて船から降りたのを感じ取った。更にサンジとゾロも船を降り、船にはスマラとナミにウソップだけとなる。

 

 静かになった船でスマラは読書に集中しようとすると、船の近くに大きな反応を感じ取った。

 かなり強い。偉大なる航路でも中堅レベルの反応だ。

 偉大なる航路の中堅レベルと言ったら、この一味には早すぎるレベルだが、スマラには弱者なのは変わらない。別に放っておいても良かったが、船が壊される可能性が浮上してくるのでリュックサックの中に本をしまい込み外に出る。

 すると、巨大な人間が居た。巨人族だ。

 

「やっぱり巨人だったのね」

 

「す、スマラ助けて…」

 

「後生だから見捨てないで下さい」

 

 唯一船に残っていたナミとウソップは、初めて見る巨人に恐怖しか抱いていない。スマラを神様の様に泣きついてくる。

 説明は無し、でも敵意は見せない巨人にスマラはナミとウソップを引きはがしながら尋ねてみた。

 

「この島に居る巨人と言ったら赤鬼の方?それとも青鬼?」

 

「おぉ!!俺たちの事を知っているのか娘!!我こそがエルバフ最強の戦士ブロギーだ!ガハハハハハ!!!」

 

「赤鬼の方ね。それで、この船に一体何の用なのかしら?」

 

「酒はあるか?こんな島だからな、たまに来る者から貰うしかないのだ」

 

 如何やら敵対心はなさそうだ。しかし、要望はお酒。

 スマラはナミの方を向いて「お酒はあるのかしら?」と尋ねると、全力で頷いた。

 家主の承諾を取ったスマラはブロギーにあると答える。

 

「おぉ!!そうか。それは良かった。では、もてなすぞ客人」

 

「いいえ。私は結構よ。代わりに、この2人がついて行くそうよ。じゃ、あとよろしくね」

 

「……へぇ?ちょっとスマラ!!!」

 

 船の安全を確保したスマラはブロギーの誘いを断り、代わりにナミとウソップを生贄に捧げて船内に戻って行く。ナミとウソップがスマラに抗議しているが無視だ。巨人との交渉はしてあげたのだから、ゆっくりさせて欲しいものだ。

 スマラは船内に戻ると、また読書を再開する。ドスドスとブロギーの足音が遠ざかっていくのをBGMにしながら。

 

 

 

 

 

「たっだいま~~!!!ナミさん!!ってあれ?スマラさんしか居ねぇ」

 

 ジャングルの獣や木々がざわめく音をBGMに読書をしていたスマラの元に、うるさい者が帰って来た。狩り勝負に出ていたはずのサンジだ。

 サンジは船内にスマラしか残っていない事を不思議に思う。ナミとウソップが船から降りるはずが無いと分かっているからだ。

 取りあえずはと、サンジは冷蔵庫から冷えた飲み物を取り出し、作り置きしていたクッキーをスマラの前に持っていく。

 

「どうぞ、おやつです」

 

「…ありがと」

 

 本から目を逸らさずにお礼を言うスマラ。サンジはそれだけで幸せの表情を浮かべた。

 がしかし、現状報告は忘れていない。サンジはスマラの機嫌を損ねないように慎重に会話を始める。

 

「スマラさん、ナミさんとウソップが居ないみたいですが、何か知ってますか?」

 

「……この島に住んでいる人のもてなしを受けているんじゃないかしら?」

 

「もてなし?安全なんですか?」

 

「…敵意は感じなかったわ。大丈夫じゃないかしら」

 

「そうですね。いざとなったらウソップがナミさんの身代わりなれば…」

 

 スマラが慌てていない事から、サンジも取りあえず落ち着く。

 サンジはスマラの読書姿を眺めて顔をにやけさせながら、ただひたすら他のメンバーが帰って来るのを待つことにした。

 

 

 

 二時間か三時間ほど経った。冒険好きのルフィや方向音痴のゾロはともかく、まだ誰も帰って来ていない。

 狩ってきた恐竜を使った料理の支度をしていたサンジは、段々と不安になって来た。

 

 

「やっぱりナミさんかビビちゃんに何かあったんじゃ?」

 

「…………」

 

「だとしたら、俺はのんびりと料理の支度をしてる場合じゃねぇな」

 

「……………………」

 

「よし、探すか。スマラさんも一緒に来て下さると助かるんですが……」

 

 誰も帰って来ない事にしびれを切らしたサンジは、仲間を探しに出掛けることにした。スマラを連れて。

 サンジから「ついてきてほしい」と聞かれたスマラは、始め「何言っているのかしら?」と内心で首を傾げる。

 

「何故かしら?ジャングルの探索ならあなた一人でも問題はないでしょう」

 

「確かにそうですが……。心配なんですよ。こんな中に一人船に残すことが」

 

「……私はあなた達よりも遥かに強い自信があるわ」

 

「それでもですよ。強さは関係ない。ただ、俺の気持ち的問題です」

 

 それならどうして初めからこの船に残っていなかったのかしら?とスマラは言葉を飲み込む。そしてサンジの目をみる。

 表情は真剣そのもの。噓をついている様には見えない。

 スマラはため息をつくと、サンジの誘いに乗った。

 

「…分かったわ。ただし一時間だけね。それ以上は知らない。勝手に船に戻るわ」

 

「ありがとうございます。では、行きましょうか」

 

 サンジがスマラに手を差し出す。エスコートしてくれるらしい。

 が、他人の肌に触れるのは主に攻撃の時だけなスマラは、きっぱりと拒否。女性扱いをされて嬉しくないわけでもないが、何処か調子が狂う。今までスマラと接した人間は『バケモノ』扱い。家族ですら『道具』扱いだったから………。

 差し出した手を拒否されたサンジは、特にめげることもなくスマラの隣り並ぶ。そして、適当にジャングルの仲に進み始めた。

 サンジはスマラに仲間の探索は頼まない。見聞色の覇気と言う名前は知らなくても、そういった事が出来るとなんとなく気づいているが、そこまでは踏み込まない。これ以上頼み込むとスマラの機嫌が悪くなると分かっているからだ。

 

 

 

「お~いナ~~ミさ~ん!!ビ~~ビちゃ~ん!!」

 

 サンジの仲間を呼ぶ声がジャングルに木霊する。返事はグルルルルと言う唸り声だけ。

 前方にサーベルタイガーが見えた。よだれを垂らし、完全にスマラとサンジを捕食対象とみている。

 

「ガァルル!!」

 

 と、サーベルタイガーが飛びかかってきた。サンジがなんでもないようにスマラの前に出ると、サーベルタイガーに蹴りを一発。

 大きなサーベルタイガーは頭にコブを作り、サンジの足で一発ノックアウト。サーベルタイガーはサンジとスマラの足となった。

 

「おーい!返事してくれー!好きだ~!!」

 

 

 サンジがおかしな呼びかけをしながらジャングルの中を移動する。サーベルタイガーの上に乗って。

 流石現地生物、人間だと時間のかかる足場をいともたやすく駆け巡る。

 サンジを前に、スマラはサーベルタイガーに横乗りになり読書の続きをしていた。サンジとの約束は同行のみ。移動に専念しなくてもいい状況なのだから、何をしていても文句は言われない。揺れて酔わないのか?大丈夫だ、問題ない。

 

 ジャングルを無造作に駆け巡っていると、サンジが不自然な建築物を見つけた。サーベルタイガーから降り、逃げるように去っていくサーベルタイガーを尻目に建築物を観察する。スマラも本から目を離して見てみる。

 ジャングルの少し開けた場所にポツンと存在している白。目分量正方形の白い塊だ。塗装なのか所々流れ落ちているように見える。

 

「なんだこりゃ?」

 

「簡易的な家、明らかに可笑しい人工物ね」

 

「とにかく入ってみよう。もしかしたらこの中に居るかもしれねぇ」

 

 と、サンジはドアに近づいた。近づいてみると更に不気味さが上がってくる。壁の素材とドアやドアノブの素材が全く同じなのだ。何かの素材を削って作った入れない建造物と言われても不思議ではない。

 ドアノブをひねると、問題なく開く。罠類なども作動反しない。

 建物の中も外見と同じく、同じ素材で作られている。乏しく置いてある家具も壁から生えるように。その他はテーブルクロスとティーセット、天井からつりさげられている金具に光源のロウソク、バスケットと観葉植物。

 

 ここに住んでいる。ではなく短期滞在に用意された建物だと判断できる。

 では一体誰が?何のために?と続く疑問がくるが、スマラは硬いソファーに腰を下ろした。ここまで来るのにサーベルタイガーの上だったので、少しばかりか疲れているはず。サンジはちょっと休憩とばかりに置いてあるティーセットから紅茶を注ぎ始めた。

 

 

 

 ちょっと休憩のつもりが大分時間が経ってしまった。スマラとしてはここから動きたくなかったのだが、サンジが我に返ってしまう。

 こんな事をしている場合じゃない、とこのくつろぎスペースに愚痴を言いながら建物を出ていこうとした。とその時、「プルルルル」と何かが鳴っている音が聞こえてくる。

 ジャングルの外からではない、建物の中からである。くつろぎスペース使用料金の催促であろうか?

 部屋を見渡してみると、バケットの中から聞こえて来るではないか。サンジは何のためらいもなくバケットの中から中型の電伝虫を取り出してテーブルに置くと、受話器を取り上げた。

 

「へいまいど、こちらクソレストラン。ご予約で?」

 

 突っ込まさせて欲しいわ。レストランではないのにレストラン?しかも自ら罵倒した名前で………。

 癖が抜けていないのかしら?って、そもそも知らない人の電伝虫を出るものじゃないわ。

 

 サンジが、何のためらいも無く電伝虫の相手に対応し始めた事に驚きを表すスマラ。

 とは言え、こんなジャングルの中にあるくつろぎスペースだ。明らかに不自然な場所への連絡。相手の事が気になったスマラは耳を傾ける。

 サンジの挨拶に怒っている会話相手だが、サンジが誰だ?と尋ねると相手は名乗った。

 

「おれだ、Mr.0だ」

 

 その名を聞いた途端、スマラの頭はフル回転する。

 

 Mr.0……記憶に該当者なし。…類似者発見。

 ということは、あのウイスキーピークに居た人達と同じグループ。数字の関係性と態度からしてかなりの上位者。もしかしたらトップ?

 なら、この人に船は襲われていると判断できる。そして、ボスが連絡をして来たこの建物は敵の陣地。

 はぁ、面倒な場所に迷い込んだものね。

 

 と、そこまで考えた所で敵対反応が返ってくる。窓に二体。

 顔を向けるとメガネを掛けたラッコ?とハゲタカ?ホタテ型の刃物に機関銃をこちらに向けている。

 面倒だが敵対者には反応しなければならない。スマラは取りあえず自動反射で攻撃を……。

 

「クソトリ、てめぇ誰に銃を向けてんだよ!!!」

 

 女性に武器を向けたことに怒ったサンジがあっという間に片付けてくれました。流石ナイト。この先こいつの近くに居れば全て片付けてくれるのでは?とスマラは買い物の護衛者にと真剣に考えた。

 

「スマラさん無事ですか?」

 

「えぇ、助かったわ。この先頼む事があるかもしれないけど、引き受けてくれるかしら?」

 

「喜んで!!」

 

 バカだ。内容も確認しないでスマラの頼みを引き受けた。

 とサンジが何かを見つける。

 

「ん?なんだこりゃ?」

 

「永久指針ね。場所は……アラバスタ、良かったじゃない」

 

「へーこれが。それにしてもスマラさんも嬉しそうですね」

 

「嬉しいわ。だって、アラバスタ王国に行くのは初めてだもの」

 

 顔をほころばせるスマラ。理由は行ったことのない島だったから。アラバスタ王国は貿易も盛んな大国。世界会議にも出席出来る超大国だ。さぞ本が沢山あるのだろう。

 スマラが喜ぶ理由など、単純だった。

 

「じゃあ、私はこのくらいで船に戻るわ」

 

「え?土産もできたんだし、後はナミさんとビビちゃんを見つけるだけなのに」

 

「初めに言ったわよね。一時間だけだと。もう一時間と少し経っているわ」

 

 スマラはポケットの中に入れてある懐中時計を取り出して、サンジに見せる。実に凝った細工がされてある懐中時計だ。本以外の事に無関心なスマラが持っているとは思えないランク。

 サンジは約束なら……と引き下がる。ついでに船まで送ろうか?と親切心を見せるが、

 

「船の位置は覚えているの?………分からないのでしょう。私は迷わずに戻れるから心配ないわ」

 

「しかし……」

 

「ここが敵の拠点なのよ。敵が近くに居ないってことは彼らの近くに居るのでは?」

 

「はっ!!?ナミさ~ん、ビビちゃ~ん今助けに行くからねぇ~~~」

 

 スマラが意識誘導を行うと、サンジは目をハートマークにして飛び出していった。スマラの事はもう忘れている。

 実に簡単で単純。そのうち敵に惑わされなければいいのだけど?とスマラはサンジの心配を頭の片隅に思い浮かべながら、自分も船に戻る方向へ進み始める。

 本を片手に。ジャングルの中で足元が危険だろうがスマラには関係ない。

 木々や獣のざわめく音をBGMにスマラは船に戻っていく。

 



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327 十一頁「診察紛い」

身体が痛ったい!!特に首!!可笑しい体制で寝たかなぁ?


 スマラが船に戻り読書をしていたら、他のメンバーが帰って来た。声的には全員一緒みたいで、ジャングルの中にあった敵も倒したらしい。

 ナミとルフィがスマラに声をかけてくれ、適当にあしらうと舩は動き出した。

 

 動き出して直ぐ、外が騒がしくなる。と同時に船が大きく揺れた。また何か起こったようだ。

 スマラには関係がないので、のんびりと読書を続ける。が、急に暗くなってしまう。

 外の喧騒から察するに、巨大な生物に食べられたらしい。女性陣は焦っているが男性陣は焦っていない。

 何か打開策があるのかもしないが、念の為スマラは本を閉じて甲板に出る。

 

 そして、船が飛んだ。後方からの巨大なエネルギー刃に押し出されれるようにして。

 

 『覇国』……巨人の中でも気性の荒い者達の集落エルバフに伝わる最強の槍。あんなのが起こす技よりもエネルギー量が桁違い。コンディションが悪いことや二人で発動していることも考慮して考えると、恐ろしいとしか考えられないわ。

 私が防御に徹してもやり過ごせるか…………。三十年も昔のことだと考えると、あいつも、あんなのも、もう相手に出来ない。

 もしこの船が新世界であそこに行くのなら私は…………。

 

 

 

 スマラがそんなことを考えていると、周りは巨大生物の口の中から脱出したことと、エルバフの戦士の力を実際に目に出来た事にお祭り騒ぎ。特にルフィとウソップのはしゃぎようが物凄い。

 絡まれてはいけないと船内に戻ると、サンジがデザートを作っていた。出来上がったプチフールをおやつに読書を再開。

 外から慌ただしくルフィとウソップが入って来て、競争するかのように食べる。己の分をもう食べ終わったのかルフィがスマラのお皿を狙っているが、スマラのゴム無効化攻撃が嫌なのか見るだけ。代わりにウソップの分を食べる。

 

 日常と言ってもいいほどののんびりとした空気。しかし、そういった時に事件は発生する。

 ウソップとルフィが喧嘩していると、外からビビの慌てた声が船中に響いた。ナミがひどい熱で倒れたらしい。

 一同はゾロと(ゾロだけでは心配なので)スマラを進路の見張りに立てて、ナミを女部屋に運び込む。スマラがすれ違いざまに様子を見ると、サンジが一番慌てていた。

 

 緊急事態なので、スマラも指示に従って甲板に出て読書をしていると、ゾロが声をかけてくる。スマラの事を警戒している節があるゾロにしては珍しい。

 

「なぁ、聞きてぇ事があるんだが、いいか?」

 

「……どうぞ」

 

「偉大なる航路には、鉄を切れる剣士ってのはどれくらいいるんだ?」

 

 スマラが懸念していた内容ではなかった。ただ単純に偉大なる航路のレベルを知りたいという思いのみ。

 私が知ってるだけの情報なら、と前置きを入れてスマラはゾロの望む情報を提供していく。こればかりは世界中を見て回らなければ難しいと判断したからだ。

 

「まず、世界最強の剣士ジュラキュール・ミホークね。世界最強というだけであって、何でも切り裂くわ」

 

「……知ってる」

 

 ゾロが顔を歪めて胸に手を当てて答えた。ミホークとやり合った事があるのだろうとスマラは推測する。

 が、一つ正しておかなければならない事があった。

 

「知ってはないわね。多分、手加減どころの話じゃなかったはずよ。彼の剣術は豪と柔を即座に切り分けている。もっとも、それ以前の問題があるのだけどもね」

 

「それ以前?」

 

「それは自分で見つけないとダメよ。それで、鉄を切れる剣士だったわね。半分くらいまでなら早々居ないでしょうね。半分を過ぎたあたりからはそれがデフォルト。取りあえず、鉄を切れるように頑張りなさい」

 

 終了。これで話は終わりのはずだった。

 だが、ゾロがふと疑問に思った事を口にする。

 

「お前は、剣も使えるのか?」

 

「……素人よりはマシってところね。剣術の本を読んだことはあるもの」

 

「じゃあ、俺とお前が今戦ったらどっちが強ぇんだ」

 

「能力もありならまず私が圧勝ね。悪魔の実の力無しの勝負なら……多分私が勝つわ」

 

 剣士としてはかなりの部類にはいるゾロに、純粋な剣術勝負で勝てると言うスマラ。流石にゾロもカチンときた。

 

「あぁ!?どうしてだ?」

 

「剣術以前の問題だもの。こんな腕だけど、力は貴方と互角以上よ。それに……」

 

 武装色の覇気について語ってもいいのかどうか?一瞬躊躇するスマラに、ゾロが言葉を引き継いだ。

 

「ゴムを無効化出来る力か?」

 

「そうね。これについては情報提供しないわ。自分で見つけて……っと進路は大丈夫なのかしら?」

 

「大丈夫だ。真っ直ぐあの雲に向かって進んでいる」

 

「は?雲?」

 

 一瞬、ゾロが何を言っているのか理解不能だった。

 普通進路と言えば、羅針盤もしくは偉大なる航路なのだから記録指針、永久指針を見るはず。

 しかし、この男は何と言った?雲だと?

 

「ちょっと待って、それだと……」

 

「おーい!!スマラちょっとナミ視てくれ!!」

 

 ゾロに間違いを指摘しようとすると、ルフィが邪魔しに来た。ルフィはスマラの知識を借りて、ナミを一刻も早く診てもらおうと手を引っ張って船内に連れていく。

 ルフィはなんの悪くもない。なので強くも出れない。

 船の進行方向が間違った方向に進んでいる事をゾロに伝えれないまま、スマラはナミが寝かされている女部屋に連れていかれてしまった。

 

「ねぇ今この船は……」

 

「連れて来たぞ!!」

 

「スバラざん!!!ダビさん死ぬのかな!!!」

 

 ゾロに伝えられなくても、そのほかのメンバーに伝えられたらいいや。と、もう一度伝えようとすると同時に部屋にたどり着いて、サンジに泣きつかれてしまう。

 その結果、もういいわ!!と投げ遣り状態になってしまうスマラさん。この船が進路からズレても知っちゃこっちゃねぇ!!と進路がズレている事をそっと胸の奥にしまい込んだ。

 

 取りあえずスマラは、泣きついて来るサンジを引きはがし、男どもに部屋を出ていくように言った。

 

「何で?」

 

「診察をするからよ。服を脱がすから出ていきなさい」

 

 パッと見ただけで病名が分かるならとんでもない名医だ。普通の医者でもキチンと診察して……と手順を飲む。この馬鹿どもはスマラに何を期待していたのだろうか?スマラが出来るのは飽くまでも診察紛いのことだ。ある程度の予測は可能だが、実際に医者に診てもらわなければ確実な判断ができるはずもない。

 スマラはナミの体を起こして、ビビに手伝ってもらって服を脱がせていく。診察に必要な道具などはあるはずもないので、能力で補える部分は補って、それでも無理なことは省いて診察を進めていく。

 

「熱は?」

 

「40度を超えているはず…です」

 

「高熱…息遣いも荒い……倒れるくらいだから身体も怠いはず。皮膚に異常は……」

 

 ビビは驚いていた。

 初めてコンタクトした時は、高圧的な感じの女性だと思っていた。船内の一角に座り込んで航海の仕事もせずに読書に呆ける人。ナミさんやルフィさんにどんな人か聞いたら、ルフィさんが船に連れ込んだ旅人。悪い人じゃない。ビビには正直に言ってただの怠け者にしか見えなった。

 そんな評価を改めなければならなくなったのは、ウイスキーピーク出港間際。バロックワークスの副社長が船に現れて船は緊迫した状態。謎の悪魔の実の力で、みんなの武器が手元から落とされビビは絶体絶命だと思っていた。しかし、そこに現れたのが彼女だ。スマラは颯爽と副社長を怯えさせて彼女には手出しをしないという言質を取って帰っていく。

 副社長が怯えるほどの実力者。バロックワークス全体で見ても敵わないと思わせ、ボスである王下七武海クロコダイルに注意するべきだと伝えさせる程の実力を持っている事を理解できた。

 そして彼女の力がただの強さだけでない事を今理解出来た。本を沢山読んでいる為か博識で、本職でないと言いながらもナミさんの診察をきちんとして……。

 

「痣?……この斑点模様はケスチア!?」

 

 誰も分からなかった病名を当てた。医学の知識は無くとも、普通の病名なら知っているビビでも聞いたことのない病名。表情があまり変わらないスマラが少し焦っている様に見えたビビは、自身も焦ってスマラにどんな病気か尋ねる。

 

「聞いたことの無い病気……どんな病気なんですか?」

 

「…外で待機している人も呼んできなさい。纏まって説明するわ」

 

 そう言われてビビは部屋の前に待機していたルフィ、サンジ、ウソップを呼んで来る。目の前で待機していたのか、ビビがドアを開けるなりなだれ込むように入って来た。

 一番にルフィとサンジがスマラに引っ付いて来る。それを華麗に避けながらスマラは静かにするように言い放つ。静かになるとスマラは出来るだけ噛み砕いて説明を開始した。

 

「まず、このままでは彼女は死ぬわ。病名はケスチア、古代に流行ったと言われている死の病気。5日病とも言われ、発病して5日後に死ぬの。もっとも私の知る限りの知識から判断したから、もしかしたら間違っている可能性もあるわ。医者に見せることは絶対よ」

 

 スマラの診断を聞いて、一拍遅れて反応する。熱が高いとは分かっていたものの、死に至る物とは考えておらずサンジとルフィは勿論、ウソップとビビも取り乱す。

 

「そ、そんな!!」

 

「ナミが死ぬのか!!?早く医者に見せるぞ!!」

 

「ダビザン!!!」

 

「ヤベぇ!!ナミが死んじまう!!」

 

 煩い。健康なスマラですらうるさいと感じるほどの騒ぎよう。伝えられた内容を考えると仕方のないことだが、ここには死にかけの病人が寝ている。

 

「病人の身体に響くわよ。黙りなさい」

 

 この一言で一同は黙り込む。焦っているのは確かだが、ナミの身体に響くと言われると騒げなかった。

 急いで船を進めるのは確かだが、どうにかナミの病気を和らげないかと考えていると、ウソップが名案を思いついた。

 

「スマラならなんとか出来るんじゃ無いのか?ほら、能力でズバーっと」

 

 ウソップの言葉に一同は希望に満ちた表情をスマラに向ける。そんな彼らにスマラは死刑宣告を下す。

 

「無理よ。自分の身体ならまだしも、他人の身体は難しいわ。失敗して身体がはじけ飛んでも知らないわよ」

 

「「「「…………………………………………」」」」

 

 病気を治すつもりでやったのに、治すどころか身体がはじけ飛ぶ可能性がある。そう言われて、こんな希望には縋れない。そう思った一同を見ると、スマラは部屋から出ていった。

 あ、船が間違っている方向に進んでいる事を知らせるのを忘れてた。スマラはため息をつくと、ここまでくれば自分の落ち度、能力で進路を正しい方角へ直そうと考える。

 そして、甲板に出ると、

 

「進路……異常なし」

 

「異常ありありよ」

 

 ダンベルを片手に持って筋トレをしていたゾロの呟きに、スマラは呆れ声で言い返した。そして、傍に置いてあった永久指針をゾロの目の間に持って来て、丁寧に説明をする。

 

「いいかしら?偉大なる航路はこの指針だけが頼りなの。これ以外は信用したらダメ。雲なんて論外よ」

 

「あぁ?でも船はあの雲を目指して……」

 

「あんた何見てたのよ!!」

 

 いつの間にかナミがスマラの側に立っていた。顔は赤く息も荒い、立っているだけでも精一杯なのか、フラフラとしている。今にも倒れそうだ。

 病人に無理はさせられない。スマラはナミを支えて寝ていろと言う。

 

「私の診察を聞いていなかったのかしら?死にたくなければ寝ていて安静にしていた方が身のためよ」

 

「…はぁ……はぁ」

 

 さっきまでゾロと言い争いをしていたのに、もう体力がなくなったのかスマラに返答へのない。このまま部屋の連れて行こうかしら?と考え始めて足を動かした時、ナミが待ったをかけた。

 

「……空気が変わった」

 

「空気?……特に何も感じないのだけれど?」

 

 急にナミが何かを感じ取った。ナミに言われてスマラは見聞色の覇気を使って辺りを調べる。が、何も見つからない。スマラはナミが何を感じ取ったのかわからなかった。

 

「正面から大きな風がやって来るの。みんなを呼んできて」

 

「……分かったわ。呼んできてあげる」

 

 スマラはとりあえずナミの言うことを信じた。予測不可能な偉大なる航路なのだ、こうも予測をしているのは初めて見たが、指示に従って損はない。何もなければそれでいいし、何かあれば事前に回避出来てラッキー程度だ。

 ゾロが船内にいた連中を呼び出し、ナミから聞いた指示を伝えていく。スマラはナミに肩を貸して支えているので仕方なくそのままの状態で他のメンバーが船を動かしているのを眺める。

 何も無いのに進路変更(本当は進路がズレているから進路変更は必然なのだが)に疑問を抱きながらもそれぞれの役割を果たしていく。

 

 何も起こらないまま進路変更が完了し、中に残っていたビビが出てきた。その顔は覚悟が決まっている顔だ。早く船内に戻りたいなぁっと思いながらビビの覚悟を耳に入れる。

 一国の王女様の覚悟だ。相当なものなのだろう。

 そう聞いていたのだが、ビビは一刻も早く国に帰らなくてはならない状況で、この船の最高速度を取った。つまり、ナミを医者に見せた後でアラバスタ王国に帰るとういう進路だ。

 

 自身の国の国民よりも目の前の人を助けるのが先って訳ね。正解か不正解、どちらに向かっているのかはまだ分からない。私好みの物語みたいな展開になってきたじゃない。終わりが喜劇か、それとも悲劇か。何処に向かっているのかしっかりと見届けさせてもらうわ。まぁ、どちらでも構わないのだけれどもね。

 

 そろそろ船内に戻りたいなぁとスマラが考えていると、ルフィの叫び声で後方の異常事態に気が付いた。同時にナミがスマラに全体重を傾ける。

 

「ごめん。私やっぱりヤバいみたい」

 

「………えぇ、当然よ。今みたいなことは起こらせない」

 

 スマラはそう言ってナミを安心させた。この船に情が湧いた、訳では無く単に自分の載っている船が壊れたら自分も死ぬからだ。

 スマラが後方を振り向くと、スマラでは手に負えないレベルのサイクロンが発生していたのだ。元々この船が進んでいた方角でもあった。

 

 偉大なる航路の予測不可能な災害を予測した。偶然にしては指示が的確だった事を考えると……。この先の航海でも様子を見た方がいいわね。こんな人見たことも聞いたこともない。

 

 船は南に進む。

 




平成中にまだ投稿できますよ!!


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328 十二頁「雪の国にて」

 毎回、思っていて中々言えなくて申し訳ないです。いつも誤字報告して下さる読者様、ありがとうございます。この場にて感謝を。今後ともやらかすと思うのでよろしくお願いします。
 能力を納涼とよくタイプミスしてします。何とかならないか?


 アラバスタ王国を示す進路を無視して海を彷徨う事一日が過ぎた。島は見つかっていない。

 

 何時も通り、指定席となりつつある場所に座り込み読書を続けるスマラ。ナミの命が掛かっているものの、平常運転だ。

 ナミが寝込んでいるので、いつもと配置が少し違う。サンジとビビがナミの看護にあたり、ゾロが見張り台で双眼鏡片手に島を探す。ルフィとウソップは有事に備えて外で遊んでいる。

 つまり、いつもと変わらないというわけだ。ナミが寝込んでいるので永久指針や記録指針で進まず、波の思うが侭に海を漂っているだけだ。

 

 今日も発展がないまま一日が過ぎるのかしら?と緊迫感を全く感じずにスマラが思っていると、船が大きく揺れた。窓の外の景色は雪雲だけなので、天災が起きたわけではないらしい。となると、自然現象以外による揺れ。

 見聞色の覇気で辺りを探ってみると、この船の反応以外に沢山の反応が返ってきた。

 

 海でこの様な反応が返ってくる場合は、貿易船か客船、海軍の軍艦、または海賊船だ。貿易船や客船が海賊船であるこの船に近づく必要はない為、考えられるのは海軍の軍艦か海賊船の二択のみ。

 反応の大きさを考えると、海軍にせよ海賊船にせよこの船の敵ではなさそうだ。放って問題ないだろう。

 

 スマラはこの船にいくらかの人が乗り込んで来るのを感じ取りながら、本当の有事に備えて動ける態勢につく。

 暫くすると銃声が聞こえてくる。戦闘に入ったようだ。海軍なら問答無用で攻撃を仕掛けてくることから、相手は海賊。

 次々に消えていく反応を感じながら、スマラは読書に戻っていく。戦闘はこちら側が優勢も優勢だからだ。

 やがて、一番強い反応が海のかなたに消えて行くのを最後に、戦闘は終了したみたいだ。スマラがこの船に乗って初めての襲撃事件だったが、余程の相手でなければ問題ないことが分かった一件になった。

 

 

 

 夜も更けて深夜三時を過ぎた頃。ナミが目を覚まして身を起こした。

 

「日中寝ていると変な時間に目が覚めてしまうものなのかしら?」

 

「…すまら?この状況は?」

 

 声を掛けてくれたスマラに、ナミは部屋を見渡して訪ねる。女の子部屋であるはずのこの部屋に何故か一人を除いて寝ているからだ。

 ルフィだけではなく、ウソップやゾロまでもいる。それ程心配を掛けているのだろう。

 

「見ての通り、心配なんでしょうね」

 

 スマラはナミの額に手を当てて体温を計った。能力で熱量を測れるのだろう。

 

「まだ上がっている。安静にしときなさい。ホントに死ぬわよ」

 

 ポンと肩を押して身体を寝かせると、ナミは感極まったのか毛布を頭まで被ってしまった。

 スマラはナミが再び寝息をつくまで見守ると、コッソリ部屋を抜け出してキッチンへ向かう。お湯を沸かしてあったかいミルクティーを二人分淹れる。このくらいは問題ない。

 船内を出て甲板に出ると、ミルクティーが零れないように慎重に上に登る。目的地は、

 

「うぅ、寒ぃ。……もう直ぐ満月だな」

 

「明日くらいじゃないかしら?」

 

「スマラさん!?」

 

 今夜の見張り役のサンジの下だ。サンジはスマラが現れたことに驚く。

 

「見張り番は普通二人以上でやるものよ。まぁ、この船は乗組員が少ないから仕方がない事かもしれないけれど」

 

「そうですね。ミルクティーありがとうございます」

 

 サンジは礼を言うとスマラからカップを受け取った。

 暫く無言でミルクティーを飲む時間が続き、サンジが耐え兼ねてスマラに話題をふる。

 

「寝ても大丈夫ですよ。何か起きたならルフィやアホ剣士をたたき起こすので」

 

「…問題ないわ、昼間に寝ればいい話よ。それに今は有事、普通の時は夜になったら寝るわよ」

 

 ナミが病気だから。スマラはそう言う。

 仲間でないと言いながらも有事には動いてくれている。そんなスマラにサンジは笑った。

 

「ナミさんは助かりますよね、スマラさん」

 

「……………どうかしら?」

 

 サンジの弱音にスマラは明確に答えない。スマラの中ではナミは助からないと思っているからだ。

 確定したわけではないが、ナミの病気はケスチアだろう。恐らく普通の病院では特効薬などまず手に入らないし、診断できるかも微妙なところだろう。奇跡的な確率で医学の発展している国に漂流しない限りナミの病気は治らないはずだ。

 心当たりは幾つかある。偉大なる航路序盤では一つ。雪国だったのでもしかしたら……とこの船の運の良さに驚いていた。

 

「それじゃあ戻るわ。カップは片付けておいてあげる」

 

「あぁ、ありがとうございました。面倒だったら置いておいてもいいですよ。俺がやっておきますので」

 

 サンジからカップを受け取り見入り台から降りるスマラ。なんてことのない、だたの気まぐれが起こした行動だ。スマラ自身でも何故気まぐれを起こしたのか分からない。

 この船に乗っているからだろうか?それがいい方向に向いているのか、それとも悪い方向に向いているのか。知る者は誰一人いるはずが無かった。

 

 

 

 

 

 何処に行けばいいのだろうか?

 誰を頼ればいいのだろうか?

 それを探す目的もあったはずだ。

 これが、答えなのだろうか?

 この答えは本当に正しいのだろうか?

 それは………………………………………。

 

 

 

 

 

 雪が安定して降り続けている。

 気候が安定しない偉大なる航路で気候が安定しているのは、島が近い証拠である。このまま行けば島が周囲に見えてくるだろう。

 と、言ったそばから「島が見つかった」との報告が外から聞こえてくる。

 気候から考えるには恐らく冬島。外は寒いのでスマラは船内に閉じこもった。

 

 船が島の河口に入ると、周囲に少なくない反応が返ってくる。先日の海賊と比べても大差ない。対象出来るであろうとスマラは放置。

 銃声が一発聞こえてきたが何とか話し合いで解決できたらしく、船をこの場に停留して上陸することになった。とルフィとサンジが教えてくれる。

 

「そう、それで?」

 

「上陸はどうしますか?」

 

「一緒に行こうぜ!!」

 

「……後で行くわ。適当に見て回るから私のことを待つ必要はないと前から伝えているけれども?」

 

「あぁ、ならいいんだ。俺が聞きたかっただけですよ」

 

「えぇ~今回こそは一緒に行きたかったのに~」

 

「黙れ!?今回はナミさん優先なのを忘れるんじゃねぇぞ!!」

 

 どうしてもスマラと一緒に島の探検を行いたいルフィをサンジが止める。あくまでも今回はナミ優先だと。それ以外にも、スマラの好きにさせてあげたいという思いもあるのかもしれないが。

 ルフィとサンジが去ると、船内は再び静寂に包まれる。船にはスマラとゾロ、ビビのペットカルガモのカルーだけとなった。

 

時間が少し経ち、何となく気になったスマラは甲板に出る。すると、寒くて毛布に包まっている震えているカルーに話しかけているゾロの姿が。

少し意外だったのと、話していた内容が可笑しかったのでつい反応してしまう。

 

「それは治ったとは言わないわよ」

 

「あぁん!?なんだスマラか。いいんだよ俺はこれで。いい加減筋トレにも飽きて来たところなんだ。一本勝負とかどうだ?」

 

恐らくリトルガーデンで受けた傷を、針で縫い付けてまだ塞がり切っていない状態で治ったと言い切るゾロ。その上鍛錬としてスマラと組手をしたいと言い出す始末。手の付けようの無いバカだ。

スマラは深〜くため息を吐いた。

 

どうしてこの船にはこうも個性的な人間が多いのかしら?ますます興味深くなって来たわ。

とはいえ、流石におかしいわよ。まだ完治しきっていないのに私と戦いたいってどんな戦闘狂なのかしら?

 

怪我人とは、健康であっても模擬戦闘はしたくないスマラは呆れた目をゾロに向けた。

 

「誰が戦うものですか。私が戦うのは自分に害がある場合のみよ」

 

害がある場合。それは、自分と同格レベルの相手のみだ。簡単に言えば偉大なる航路の上位。それ以外は戦闘にすらならない。

スマラが戦闘を開始する=この船では絶対に勝てない相手のみだ。そんな相手は当分現れる訳が無いとスマラは高を括る。

 

「チッ、そうかよ。だったら寒中水泳でもやろうかねぇ」

 

スマラが嫌そうに断ると、ゾロは舌打ちをして上半身の服を脱ぎ去った。気温が氷点下で雪も降っているのにバカだ。

幾ら鍛錬だと言おうとやって良いことと悪いことがある。身体を真っ先に壊すに決まっている。もっとも、それを越えた先に限界を超えた強さが手に入るのかもしれないが。

 

勝手にしなさい、とスマラは心の中で答えると船を降りる。島に上陸して本を探す為だ。

初めて訪れた島なのに案内は要らないのか?見聞色の覇気が有れば問題ない。人の反応が多い場所に向かえば良いだけだ。

雪に足を囚われながらも森の中を歩いていると、先方から銃を装備した集団が現れる。彼はスマラを見ると銃をスマラに向けて構えた。

 雪が降っている中、防寒性もなさそうな普通のちょっと高価っぽそうな服装で歩いている見たことのない人。そんな者を発見して、島の警備隊に属している彼らが銃を構えて身元確認をしないわけが無いのは当たり前だ。

 

「貴様!!何者だ!!答えろ!!」

 

「さっきの船に載っている者ですよ」

 

「そ、そうですか。……その格好、寒くないですか?良かったら服貸しますよ?」

 

「結構です。それじゃ私は行きますので」

 

「気を付けて」

 

 スマラは全く気付かなかったが、男どもはスマラの美貌にノックアウト。少し赤くなりながらもスマラを見送った。

 その後少しボーっとしていた彼らは気を取り戻すと、何故彼女に好意的に接したのだろう?と疑問を抱いながら海岸沿いの警備についた。

 

 

 森を向けると集落が見えた。雪が積もらないように急斜面になっている屋根は、冬島ではよく見られる光景で、スマラは特に珍しがることもなく集落を進む。

 途中で気のいいおばちゃんに本を扱ている店を訪ねて場所を教えてもらい、その店に入って本棚を物色し数冊選んだ。

 流通もある程度ある島なのか、殆どが見たことのある本。

 スマラはため息を吐く。

 

「はぁ、やっぱり余り無いわね。自分で集めるのも限界に達してきたのかしら?」

 

 何気ない独り言。そんな言葉に返答があった。

 

「お姉さん、何かお探しかな?」

 

 店員さんだった。スマラがあまり本が無いと嘆いていたのが聞こえたのか、ご丁寧にも要望の本を探してくれるそうだ。

 スマラは期待半分諦め半分で頼ることにする。

 

「この島で珍しい本が置いている場所はないかしら?どんな場所でも構わないわ」

 

「珍しい本?それはただの書店や雑貨店ではなくて?う~ん??………あっ!どんな場所でもって言ったよね?」

 

「えぇ。歩いて行けなくても問題ないわ。置いてあるだけでいいの」

 

 何と店員さんはスマラの要望に心当たりがあったらしい。店員さんは窓の方に向かって「あそこが見えますか?」と聞いてくる。

 指の先には島に入った時に見えたり円柱状の山々。その内最も標高の高い山を指して説明してれる。

 

「あそこの山には前国王のお城があるんだ。今は魔女が住んでいて、そこならなにか珍しい本があるかも知れないよ」

 

「分かったわ。……それと、この国の名前は?」

 

 そう言えばそうだった。何となく予想はつくが、スマラはこの国の名前を聞いていない。

 この機に尋ねてみる。

 

「名前は無いよ。滅んだばかりだからね」

 

「滅ぶ前の名前は?」

 

「ドラム王国さ」

 

 やっぱり。とスマラは内心微笑んだ。

 ドラム王国は世界会議にも参加を許された国で、医学が発展していると本で紹介もされている。この国ならナミの病気を治す事が可能かもしれない。それに、読んだことのない医学書だってあるかも知れない。

 麦わらの一味の引きの良さを喜びながら、スマラはそう思った。

 

 スマラは早速お城に向かう事にする。何故魔女が住んでいるかなどどうでもいい。国が滅んだ理由もどうでもいい。

 とにかく読んだことの無い本が読めれば良いのだ。それが医学書であっても。

 

 店内の出口に向かっていると、店員さん慌ててふためく。

 

「ちょっ!!冗談ですって!!確かに山の頂上に魔女がいますけど、誰も登れる訳が無いでしょう!!それに、森にはラパーンって言う危険な動物まで居るんですよ!!」

 

「…………」

 

 店員さんの喚き声にスマラは立ち止まる。店員さんは嬉しそうにパァーっと笑顔を見せて…

 

「良かった。えっと他に取り寄せたい本なんかは…」

 

「私は珍しい本が読みたいの。場所は関係ないわ。もし私が死んでも貴方に罪は無いわよ。これ以上喚くなら物理的に黙らせるから」

 

「ひっ!!」

 

 恐らくスマラをナンパしたかった店員さんは、スマラの冷たい視線を受けて尻もちをついて後ずさる。少々相手が悪かったと諦めるしか無い。

 しかし、店員さんの情報が役に立ったのも事実。スマラはお礼だけ言って立ち去った。目指すはドラムロッキー。移動は疲れそうだが、立ち入り禁止ではないし行けないこともない。ならば行くしかない。

 スマラの頭では既に、新しい本を想像してほわほわ状態だった。

 

 

 時同じくして、サンジとルフィもナミを背負ってドラムロッキーを目指し始めていた。

 



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330 十三頁「お城を目指して」

令和初投稿です!!


 店員さんからいい情報を得たスマラは早速集落を後にする。サクサク、サクサク、と積もった雪の上を歩く足取りは軽い。それだけウキウキ気分なのだ。

 しかし、それだけならばただの町娘のお散歩に見えるだろう。それだけならば……。

 

「グオオォォォ!!!」

 

「ガルルルル!!!」

 

 ドゴォン!!!ズドーン!!キラーン、ザッシュ!!

 

 効果音を入れるならそう表現できるだろう。スマラの周りには、無数のウサギ?が居た。雪の上を飛び回り、素早い動きでスマラに攻撃を仕掛けてくるその動物は、多分店員さんがチラッと言っていたラパーンなのだ。

 襲ってきている理由は恐らく縄張りに侵入されたから。スマラとしてはただの通り道なのだが、動物相手にそんな言い訳は通用しない。

 

「ガァァ!!」

 

 無数のラパーンが襲ってくる襲ってくる襲ってくる襲ってくる。ただの一般人なら一匹見ただけでも周り右する様な野生動物が、一斉にスマラ目掛けて腕や顎でスマラを殺そうとしてくる。

 その戦闘力は鍛え抜かれた兵士にも引け取らないはず。加えてここは、移動の困難な雪の上。強者でも逃げるのが正しい選択なのだが………。

 

 ひょいひょいひょいひょいひょいひょいひょいひょいひょいひょい。

 

 回避回避回避回避回避回避回避。ラパーンが攻撃してくる場所を見聞色の覇気で先読みして回避。

 相手が悪かった。ラパーンが相手をしているのは、世界でも上位から数えた方が近い強者のスマラなのだから。本の為とあらば海軍の軍隊、海賊の艦隊でもあっても止めることの出来ない、頭の可笑しい娘なのだから!!

 

 数こそが最大の問題であるラパーンの群れ。一体一体倒すとキリがない。

 そんな中をスマラはただ歩く。足取りはまだ軽い。

 攻撃を察知して回避。一秒後にはラパーンの鋭い爪がスマラを引き裂こうと通り過ぎる。また回避。ラパーンの突進をジャンプで回避。

 空中なら逃げ場のない。ラパーンは知性が少なからずあるのか、スマラにアタック!!空気を蹴って横に回避。地面に着地。と同時にターンして別のラパーンの攻撃を回避。

 もし傍からこの攻防を見ている者が居たのなら、社交界でステップを踏む美しい女性と見違える程の可憐さ。実際はただの読書厨なんですよ、と注意してあげたいが、現実には見物人はただの一人もいない。

 

 全く攻撃を喰らわないスマラに、ラパーンは一旦攻撃を辞める。スマラの周りを囲いながら様子をみていた。そして、一斉に飛びかかる。今度は先ほどの比ではない。

 数十匹ものラパーンが四方八方からスマラに遅い掛かってくる。全く隙間のない攻撃。避ける空間も与えない。今度こそ殺った。ラパーンに人格があったならそう思っただろう。

 しかし、相手はスマラだ。今まで能力使用の負担が嫌だったので回避しかして行わなかったが、今度は回避よりも能力使用の方が負担が少ないらしく、動かしていた足を止めた。

 

「野生動物の分際で……」

 

 ラパーンがスマラに殺到。攻撃がスマラに触れて…………一斉に反射した。スマラにダメージは全くなし。逆にラパーンは殆どが遠くまで吹き飛ばされ、戦闘不能な状態まで持っていかれる。

 

 攻撃に参加していなかった残りも、

 

「いい加減、力関係の力量くらい見極めたら如何?」

 

 覇王色の覇気発動。移動中全く本が読めず、回避に専念しなければならないことで、鬱憤が溜まっていらしゃったらしく、遂プッツンしてしまったらしい。

 一応抑えているものの、世界上位の覇気を浴びたラパーン達はその場で卒倒するか回れ右して去っていく。辺りには倒れて動かないラパーンだけで、動くものはない。

 

 そう、スマラも覇王色の覇気発動の反動で倒れていた。雪の上にバッタリとだ。雪が降り積もって段々と埋まっている。

 

 このまま埋もれて死んでしまうのか?傍から見ればそう思うだろう。実際にスマラは数時間起きなかった。

 

 

 

 

 

 雪が動いた。下からの振動を受けたからだ。

 次の瞬間、雪の中から手が生えてくる。細い手だ。青白くなっており、凍傷で死にかけているようにも見える。

 その手はバサバサと周りの雪をかき分けて自身を掘り起こす。そして、数時間雪の中で眠っていたせいでガチガチに凍え切っているスマラが出て来た。

 

「やっぱり、覇王色の覇気はやすやすと使うものではないわね……くっしゅん!!」

 

 鼻水が出ている。体の体温も物凄く低いはずだ。このままでは凍死するのは見ての通り。雪に埋もれている間は自動反射が発動していなかったらしい。

 やはり覇王色の覇気は使うべきではなかった、と冷静に反省するスマラ。とは言え、このままでは死んでしまう。スマラ的にはまだまだ読んだことのない本が山ほどあるので、ここで死ぬわけにはいかない。

 

 負担はこの際気にしない。緊急事態だと割り切って能力を惜しみなく使用する。

 先ずは体内温度を上げる。その後、体内に生成される抗体量を一時的に増やして、体の回復を促進させる。凍傷した部分は回復量をあげているのでじきに治るはず。

 念の為三十分ほど木陰で回復に務めた。本を取り出して安静にしておくのだ。

 

 もういいだろう。ある程度体のダルさが消えかかった頃、スマラは本を読みながら立ち上がった。読書をしながら雪山を進むらしい。

 サクサク、サクサク、と安定の足取りで雪山を登って行く。ラパーン達が木の影からスマラを見ているが、あれがあった後だけに仕掛けてはこない。今度こそ殺されると分かっているからだ。実際に読書の邪魔をして来た存在は全て無残な末路を辿っている。

 

 

 

「さて、これからどうしようかしら?」

 

 再び登山を始めてから時間が少し経った。雪で上手く歩けなくても、そんなこと関係の無いスマラは短時間でドラムロックの麓にたどり着いたのだ。

 そして、本格的な登山を始める前に足を止めていた。

 

 スマラの目の前に広がっているのは壁だ。正しく言うのなら直角に聳え立つ山。

 この山を誰が登れると言うのだろうか?これが少しでも斜面で合ったならばまだ登りようがあったはず。頂上にお城が建っているらしいので、何処かに足場のようなものがないか?と探して見ても無し。ならばどのようにしてこの山を登るのか?

 一般人が思い付く方法は一つだけだ。この絶壁をよじ登る。しかしそんなバカな方法を試す者はいないだろう。頂上は遥か雲の上だ。そこまで体力が持つはずがない。

 ……例外はいくらでもいる。この世界には頭の可笑しいくらい強靭な体を持った者がいるのだ。例外は今、病人を背負い意識を失ったけが人を咥えて山をよじ登っていた。

 

 

 

 知らないところでバカが山をよじ登っているその時、スマラは空を跳んでいた。人の苦労も知らずにトントンと。

 

 直角に聳え立つ山を前にスマラが取った行動は、空を飛んで行く事だった。これは空中を一瞬で十回以上蹴ると空まで跳べる体術『月歩』世界政府が主に扱うことの出来る人間を超えた六つの体術の一つである。

 習得には人間を辞めなければならない程の身体能力が必要で、素の身体能力がゾロやルフィよりも高いスマラが出来て当然の技。もっとも、スマラの場合は能力で身体能力量を上げているので、そこまでの負担は掛かっていないのだが、超人なのは間違いない。

 

 そういうわけで、トントンと空を駆け上げるスマラ。吹雪が降っているのでふとした人に目撃されることはないが、美しい容姿もあって天界に昇っていく天使のようだ。誰も見ていないが。

 よじ登ると恐ろしく時間のかかる登山を、経った数分で終わらせる。雲を突き破って頂上にたどり着くと、そこには幻想的な風景がスマラを待っていた。

 が、美しさに見惚れる事も無くスタスタと城に向かう。これぞスマラさんだ!!

 

 幸いと言うべきか何故か城の玄関門は開いていた。お陰で場内は寒くなっている。

 スマラは、家主に一言入れるべきだと考えて人の反応のある方に歩き始める。スマラとて常識知らずではない。敬意を払う相手には払うのだ。ただ、常に自分の方が上だと考えている節があるため、敬意を払う必要がないだけである。

 と、場内を歩いていると、後ろから声がかかった。

 

「おいお前!!!ここで何している!!!というか、どうやってここまで来たんだ!!?」

 

「……人じゃないわね」

 

 スマラが振り向くとそこには毛皮に覆われた大男が立っていた。反応があったので人がいることは知っていたが、それがまさかの人外だったので内心で驚いた。それでも偉大なる航路には似たような生物くらい普通に存在しているのでそこまで反応反応は無い。

 

「お前、俺を見て驚かねぇのか?人間じゃないんだぞ?」

 

「そうね、驚かないわ。だって話は通じるでしょ?それに、偉大なる航路では見慣れた光景よ」

 

「そ、そうなのか……?」

 

 大男はスマラの落ち着き様に、逆にやりにくさを感じていた。スマラの様に細かいことを気にしない人に合った事が少ないのだろうか?

 スマラはピンク色の帽子を被った大男を観察する。体は殆ど毛皮に覆われていて、ズボンは履いているが、それ以外は何も着ていない。背中には人間が背負われていいた。

 動物系悪魔の実の能力者だろう。とスマラは結論をだすと、大男に話を切り出す。

 

「とりあえず、その背負っているのは私の知人よ。運んでくれてありがと。あなたがこの城に住んでいる魔女なの?」

 

「いや、俺はチョッパーだ。ドクトリーヌがここに住んでいる医者だ、俺は弟子さ」

 

 スマラはチョッパーと共に歩く。ドクトリーヌがいる部屋に案内してもらっているのだ。

 チョッパーは自分を怖がらない人間が珍しいのか、途切れる事無くスマラに話しかける。

 

「こいつらと旅しているのか?」

 

「海賊だそうよ。私は同行しているだけだけれども」

 

「海賊なのか!!じゃあ色んな島を見てきたのか!!」

 

「まぁそうね。旅人やっているから、色んな海の色んな島を見て来たわ」

 

 テンションは出会った頃のルフィと全く同じ。冒険好きなのだろう。

 話して上げても良かったが、部屋にたどり着いたのでおしゃべりは終わりだ。

 

「ドクターいる?」

 

「何だいチョッパー?ん?その小娘は………一体」

 

「ちょっと待ってくれドクター。それよりもこっちを先に見てくれ!」

 

 中にいたのは見た目80歳位の婆さんだった。魔女と言われるからには女性なのは分かっていたが、ここまで高齢とは思いもよらなかった。

 服装も少し驚きだ。スマラですら長袖を着ているのに対して、ドクターはへそ丸出しの半袖シャツ一枚だ。いくら城内で暖炉に火がついていると言えど、感覚可笑しい。スマラは能力で体温を調整しているから感覚麻痺しているのだが。

 

 ドクターはスマラに興味を持ったようだが、チョッパーが急患が居るからと遮った。

 チョッパーは背負っていたナミたちを下ろすと、ドクターと一緒に診察し始める。スマラもここに来て初めて三人の様子を確認出来た。

 ナミは今まで通り、熱がまた上がってきているのか顔を赤くしてぐったりと倒れている。サンジも血だらけで気を失っていた。上って来る途中に戦闘があったのかボロボロだ。多分、ラパーン達であろう。

 唯一気を保っているのはルフィだ。何があったのか、極寒の吹雪の中をいつものタンクトップでガタガタと震えており、全身が凍傷を起こしかけているらしい。死にかけてまでこの山を登ったのはスマラですら称賛に値する。

 

 自分が死にかけてまで仲間を助けるというの!?何て言う根性。

 こんな奴が船長で、海賊王を目指している。麦わら帽子に処刑台の奇跡、革命軍総司令官が手助け、やはりこの男は何かがある。

 私はそれを確かめなければならない………。

 

 大方の診察が終わったのか、ナミを優先的に治療開始することになった。医者の目からしてもナミの病気はヤバいらしい。

 スマラは治療の短縮化させてあげるために自分の診断結果を教える。このくらいの手助けくらいならやっても罰は当たらないはずだ。それに、本を読ませて貰えるかも知れない。

 

「脇の所に斑点があるわ。多分ケスチアよ。まぁ正確な診断は任せるわ」

 

「それは本当かい?チョッパーは如何やら本当に急いだ方が良さそうみたいだね。因みに、何日目だい?」

 

「………三日目よ。ところで医学書でもいいので本を読んでもよろしくて?勿論読み終えたら元の場所に戻すわ」

 

「ありがとうさん。読書は良いだろう。中身が分かればいいけどね」

 

 ヒ———————ッヒッヒッヒ!!と笑い声を上げながらドクターとチョッパーは医務室にナミを運んだ。ルフィとサンジは放置されている。

 仕方ないので、スマラは二人を適当なベッドに運ぶ。

 その後にその辺の本棚にある医学書を取り出すと、ソファに腰掛けて読み始めた。やっと充実した時間がやってきた。

 




今回も誤字脱字あったらお手数ですがよろしくお願いします。


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332 十四頁「厄介ネタ」

次回イベント何かなぁ。空白期間か四章だと楽。


 寒いだろうから、と言われて治療の終わったナミが眠っているベットの近くにある暖炉前に座っていた。

 何冊目だろうか?夕方かも知れないが、生憎曇り空で太陽が見えない。多分夕方前だろう。

 部屋にはナミとスマラだけでなくチョッパーもいる。時折ナミの容態を確認しながらゴリゴリと薬を作っていた。

 今もナミの容態を確認しようと椅子の上から降りてトコトコと歩いている。と、目が覚めたらしいナミが足音に反応した。

 

「だれ?」

 

 ビクッ!!ドン!!ガシャン!バタ、バタとモノが崩れる音が連続して起きた。

 スマラも音に反応して本から顔を上げる。顔を上げると、ドアの奥で逆覗き見をしているチョッパーを身を起こしてじーっと見つめるナミが確認出来た。

 しばらく眺めていると、チョッパーが喋る事に驚いたナミが驚きの声を上げ、その声にビックリしたチョッパーがドタバタと逃げ去っていく。

 チョッパーが逃げて行った部屋で、スマラはパタンと本を閉じるとナミに近づいた。

 

「おはよう。体は大丈夫かしら?」

 

「あ、スマラ。……ん、まだちょっと怠い気がするけど、意識があった頃に比べると平気そう」

 

「そう。なら良かったわ。もう少し安静にしていなさい」

 

「ヒ————ッヒッヒッヒ!!熱は多少引いたみたいだね小娘!!」

 

 独特な笑い声と共に現れたへそ出しスタイルの長身な老人ドクトリーヌだ。チョッパーが起こした騒ぎを聞きつけてやってきたのだろう。

 スマラは彼女に場所を譲ると、椅子に戻って様子を伺う。

 ドクトリーヌはハッピーかい?と又しても謎の単語を口に出しながら指をナミの額に当て体温を測った。地味ながら凄い特技だ。スマラも体温を測れるが、悪魔の実があってこその能力。素で行えるのは称賛物。

 ドクトリーヌは酒をあおりながらナミに病気の診断結果を説明する。スマラの診断通りケスチアだった。

 

 説明を受けたナミはここに三日拘束される事に異を唱えた。ビビのために急いで出発しないといけないからだ。

 しかし、相手は医者だ。ポリシーもあって、完治するか死ぬまで面倒は見るというもの。

 ナミはベッドに押し倒され、メスを首元に持って来られて脅される。

 ナミは何とか早く出発しようと思い、スマラに目を向けた。スマラなら言いくるめられるはずだ!!そんな希望が目に宿っている。

 

「……スマラ」

 

「私もドクターに賛成よ」

 

 希望が崩れた。しかし、何かあると思い続けてみる。

 

「……本音は?」

 

「ここには珍しい医学書があるわ」

 

「あ、そう」

 

 何処までもスマラだった。

 ナミはジト目をスマラに向けると、ベッドに寝転んで安静になった。と、ここで安静にしてくれないのがこの作品。

 部屋の外からのドタバタと喧騒が聞こえてきて………先ほど出ていったはずのチョッパーが隣の部屋で寝ていたはずのルフィとサンジを引き連れてやって来る。喋る動物だろうとお構いなしに食い飯地を張っているらしい。それとも喋る事を知らないのか、サンジまでもが調理を考えている。

 話を聞かない二人のしつこさにいい加減に堪忍袋の緒が切れたのか、チョッパーは人獣型に変身して二人を振りほどいた。地面に叩きつけるようにしたのは、医者としてどうかと思うが、二人が悪いということにしておこう。ドクトリーヌもチョッパーの行いに何も言わない。

 普通なら怪我の一つや二つ負っているはずなのにケロッと立ち上がるサンジとルフィ。そんな二人の目が椅子に座って読書を再開させていたスマラに向けられる。

 

「あ、スマラおはよ」

 

「スマラさ~ん!!どうしてこんな場所に?まさか俺のことを心配して……っ!!」

 

「お前、この山を登ったのか!!」

 

「………開口一番うるさいわよ。私は珍しい本を探してこの場所に辿り着いただけなの、貴方たちを追って行った訳ではないわ」

 

 一言で会話をぶった切って読書に戻るスマラ。そんな彼女にドクトリーヌが呆れた様に声をかける。

 

「飽きるものだと思っていたが、そいつの内容が分かるのかい?」

 

「………大体は分かるわ。分からない単語も解説されているし、ほかの本を読んで補えているもの」

 

「……あんたは医者の端くれなのかい?小娘の病気を一足先にケスチアと診断していたけど」

 

「ただの知識を持っているだけよ。私には技術が無い。……………ただ、それだけ」

 

 スマラは何処か遠い所を見ながら返答した。何処を見ていたのかは本人だけしか分からない。

 

 会話を終わった。ルフィとサンジがドクトリーヌと同じテーブルについて会話をしているが、スマラは参加してこない。話自体は聞いているかもしれないが、無視して読書に浸っている。

 途中でルフィとサンジがチョッパーを追いかけて部屋を出て行き、ドクトリーヌが二人を追いかける。ナミが騒ぎに不満を呟き、戻ってきたチョッパーがナミに安静にしているように言う。と、再びルフィとサンジがチョッパーを追いかけ回し、ドクトリーヌが諦めて椅子にドサッと座る。

 ナミがチョッパーを勧誘していたことにお言葉を指すドクトリーヌ。チョッパーの過去を語った。スマラも物語なら……と聞き耳を立ててた。

 

 他の仲間と少し違ったから親に見放されて、悪魔の実を食べたからいよいよ追い出された。それでも仲間が欲しくて探した。それでも仲間は見つからなかった。……たった一人のヤブ医者を除いて。

 私と、似ていないこともないわね。唯一違うところは、たった一人でも生きていけるけど仲間が居ない私と、たった一人では生きていけなかったけど仲間と呼べる存在が二人は居るトナカイ人間。………どちらがいいのかしらね?まぁ、私は今の人生に満足だけれども。

 

 と、チョッパーがトナカイ姿で帰って来た。開口一番に「ワポルが帰って来た」と言う。

 ワポル?誰だか分からないが見聞色で探って見たところ、数日前船を襲ってきた海賊と同じ反応が三つだけあった。彼がワポルだろう。何故ここに「帰って来た」と言われているのかは分からないスマラだったが。

 チョッパーとドクトリーヌは直ぐさま正面玄関へと急いだ。チョッパーを追いかけていたルフィとサンジも流れるままに正面玄関へと向かう。城内に残されたのはベッドで寝ているナミと本を読んでいるスマラだけになる。

 と直ぐにルフィが帰って来た。外が寒いので服を取りに来たらしい。一番の戦力が戦線を離れていいのだろうか?

 ルフィはその辺を漁り始める。普通そんな場所にある訳ないと分かるだろうに。それに、ルフィはこの城に着いた時点でコートを着ていなかった。つまり、いくら探しても見つかるはずがない。

 ナミが気になって外の様子を聞くとルフィは喧嘩だと言う。喧嘩なわけがないが、ナミにはそれだけで十分だったらしく、自身のコートをルフィに貸し与える。ルフィは文句を言いながらもナミに言いくるめられてコートを借りて出ていく。

 

「なんだ、何語事かと思っちゃった」

 

「どうして彼にコートを貸し与えたのかしら?戦闘に行くならキレイな状態で戻ってくるはずないわよ?」

 

「あ………まぁそうなったらあいつに貸しを作れるわ」

 

 酷い考え方だ。

 スマラは読書に戻る。外で戦闘が起こっているならここも安全ではなくなるかもしれない。スマラは読書のペースを上げた。

 そのせいで、こっそりと部屋を抜け出すナミを引き止める事はなかった。もっとも、見ても引き留めたか分からないが。流石に病人なので戦場になるかも知れない場所から出ることを一言は言うと思うが。手の届く範囲で病人に手を出すのを黙って見過ごす程スマラも心情がないわけでないのだから。

 なので、スマラは読書を続ける。見聞色で周りを常に索敵しているが、医学書と言う頭を使わないと読めれない部類の本なので大雑把になっている。近くのナミが部屋から抜け出した事に気づかないくらいに。かと言ってスマラ自身に攻撃すれば気付くし、反射が勝手に動いてくれる。

 

 

 時間が少し経った。城内が騒がしい。

 何事かと本から顔を上げると部屋の中は大渋滞だ。どうしてこんなに人がいるのかしら?そう思って辺りを見渡すと、ナミだけでなくビビが居た。一体何時の間に登ってきたのだろうか?

 

「あ、スマラ。もう直ぐこの島を出発するから準備してね」

 

「そう。なら早めにしなくてはいけないわね」

 

 スマラは出発が近いと知ると、持っていた本をペラペラと一気にめくった。一冊目が終わると本棚から次々と取り出してはペラペラと捲る。二冊目、三冊目四冊目五冊目…………本棚に収納されていた本すべてをそうし終えると、疲れた様子で「準備が終わったわ」と一言。

 見かねた大男———ドルトンさんが「彼女はいったい何を?」とナミとビビに尋ねる。

 

「私も長い時間一緒に居た訳ではないので、スマラさんの事はよく分からないんです。ナミさんは?」

 

「本に関する行動なのは分かるけど………ねぇスマラ、何をしてたの?」

 

 わからないことは聞いて見る。経験上、この先の航海や誰でも知れるような情報以外は教えてくれるはず。一応立場上、こちらの方が上なのだから。

 スマラは一瞬ドルトンに目を向けるが、直ぐに興味を失ったようにして目を逸らしてナミの質問に答える。

 

「速読よ。流石にここの本を持っていく事は出来ないわ」

 

「へー、地味に凄いスキルね。後で内容を堪能するってわけ?」

 

「堪能と言うよりも読み解くと言った方が正しいかしら。それで、急がなくてもいいのかしら?」

 

「「あっ!」」

 

 スマラに言われてここから出発する準備を開始するナミとビビ。隣の医療室で寝ているサンジを二人して引き摺って城内を出る。スマラが手伝えばこの様な苦労をしなくてもいいのだが、言われないので黙っておく。面倒な労働は嫌いだから。

 

 外に出るとチョッパーがルフィと対峙していた。ルフィがチョッパーを誘ってチョッパーが断っているようだ。スマラと似ている。

 自分をトナカイで角も蹄もあるし、青鼻だし、海賊にはなりたいけどバケモノだから……と言って断っている。スマラとの違いは本当は行きたがっている心だけ。

 だから、お礼を言いに出て来ただけだと言うチョッパー。また気が向いたら遊びに来て欲しいと言葉と被るようにしてルフィが「そんなことはどうでもいい。行こうぜ」と誘った。

 勧誘方法としては超強引。いったいどこに、うるさいと言う勧誘方法があるのだろうか。たぶんここだけだ。

 しかし、チョッパーにはその強引さが最後のひと押しになったようだ。声を上げなら泣いている。この船に乗る決意が決まったらしい。

 

 医者ゲットってわけね。偶然立ち寄った島にしては上出来な結果だわ。

 今後病人が出ても私が診察しなくても済みそうだわ。良かった。

 それにしても、まさかロープウェイがあったのね。白い風景に紛れて誰も気づかなかったとは、私としても見落としていたわ。どうして山の上にお城があるのに交通手段がなかったのか?とね。少し考えれば分かるはずなのに。

 

 スマラが自身の推測不足に嘆いていると、チョッパーが戻って来た。後ろに刃物を投げつけて追ってくるドクトリーヌを引き連れて。多分、お許しを得られなかったのだろう。

 チョッパーは獣型でソリを引いてこちらに向かって走って来る。ロープウェイに乗らず、ソリを使って山を降りるらしい。後ろから刃物を投げつけてくるドクトリーヌに驚きながら急いでソリに乗る。

 ソリは大人数で乗ることを想定している訳ではない中型タイプなので、全員が乗るといっぱいいっぱい。ナミとビビがサンジが落ちないように抑えて、ゾロとウソップが反対側に腰掛ける。最後尾にルフィとスマラが乗ると満席。スマラは一瞬降りようか?と考えがよぎったが、どうせ乗れるなら一緒に連れて行ってもらった方が楽だと思いそのまま腰掛ける。

 ロープは白い色で張られており、チョッパーは兎も角人が乗っているソリが安定して降りるには少々ぐらつくが、チョッパーは速度でカバーする。途中でルフィがふざけて空気抵抗をもろに受けてソリから落ちそうになり、慌てたウソップが何とか引っ張り上げると言う事故があったものの、ソリは無事に地面に着地した。

 

 森を抜けている最中にドン!ドン!と発泡音が島に響いた。何事かとソリを止めて振り返って見ると、桜が咲いていた。

 いや、本当に桜の木が咲いている訳ではない。ドラムロックを木の幹として、辺りに降り注ぐ雪を桜の花に見立てているのだ。

 幻想的。いったい誰がこんな方法で、雪国に春島の植物を咲かせて見せようと思いつくのか。

 チョッパーには思い当たる節があるのだろう。大号泣している。一同もその幻想的な景色を見て立ち止まり空を見上げていた。

 そしてスマラも夜に咲く桜を見て、少しだけ感動的になっていた。

 

 

 

 

 

 桜を咲かせてから少しだけ時間が経ち、麦わら一味の船が出航した頃。赤い塵が付着した雪も殆どが地面に落ちてゆき、夜空には満月が夜を照らしていた。

 ドラムロックの頂上。雪の上に座って麦わら一味の出航を見守っていた人物が二人。言わずと分かる、チョッパーを取られたドクトリーヌと国の代表ドルトンさんだ。

 奇跡は起こった。国は生まれ変わる。笑顔で二人は話していた。そんな中、ドルトンさんに報告が入る。

 麦わらのルフィに伝言があったそうだ。ドルトンさんは心配ないと言う。伝言の島と麦わら一味の目指している島が一致しているからだ。

 一方でドクトリーヌはモンキー・D・ルフィの名前を聞いて、何やら感傷浸っていた。139歳ともなればDについて知っている情報も世間とは違うらしい。

 そして、

 

「あぁ、思い出したね」

 

「何がですか?もしかして何か伝える事が……」

 

「違うよ。…あのクリーム色の髪をした娘のことだ」

 

「彼女が何か?見たところ不思議と強さを感じましたけど……。そう言えば、我々よりも先にここに付いていた彼女は一体どうやってこの場所に?」

 

「跳んで来たそうだよ。しかし、あの娘なら納得できる。もう30年くらい前だったかね、当時新聞で大騒ぎになったからね」

 

「跳んで?それに、30年前とは」

 

「あれは船に乗せておくだけで厄介を招く存在だ。それがまさか家のバカ息子が付いて行っちまった舟に居るとはね。そろそろ、時代が動き出すよ」

 

 ドクトリーヌの独り言にドルトンは意味を理解出来ていなかった。分かることはただ一つ、クリーム色をした髪の毛を持つ女性のことだということ。

 如何やら、この国を救ってくれた恩人達は厄介事を乗せているらしい。

 

 

 

 

 

 そして、船の上。

 スマラは遥か遠くを見ていた。目線の先はドラムロック。

 

 まさかねぇ。

 

 




こんなに伏線張って、全部回収出来るか心配。もっとも、張りすぎな気もするけど。

次回、到着アラバスタ王国!!!ビビ渾身のお願い。


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333 十五頁「ビビのお願い」

遅くなって申し訳ありません。そして、アラバスタ王国に到着出来なくて済まない。


 ドラム王国を出航した麦わら一味の船の上。今、ここでは新しい仲間を祝う歓迎会が開かれていた。皆ジョッキを持ち、楽しそうにしている。

 ただ一人を除いて。

 

「おいスマラ!!外に来いよ!!楽しくやろうぜ!!」

 

 何時ものように船内で読書を楽しんでいたスマラに、ルフィからの誘いがかかる。スマラはチラッと横目でルフィに視線を向けると、そのまま興味を失い読書に戻った。

 

「おい!」

 

「それは、この船の船長としての命令?」

 

「命令なんかじゃねぇ」

 

「だったら好きにさせてもらうわ。私、パーティーとかにいい思い出がないから」

 

「………そうか、だったら仕方ねぇな」

 

 言葉では諦めたかのように見えるが、ルフィの目はまったく諦めていなかった。ルフィは今日のところは引き上げだと言わんばかりに、諦めていない目線をスマラに向けながら船内を出た。再びバカ騒ぎを起こす為に。

 

 

 

 船内一人残ったスマラは、ルフィの言葉に思い出したくない記憶を思い出していた。

 

「………パーティー」

 

 嫌な思い出しかない。無理矢理参加させられ、見たくもない奴らに合わさせられる。当然、本も読めない。

 当時はまだ力も無かったから従うしか方法はなかった。産まれた意味は政略結婚の道具として………。いや、私はまだいい方なのかもしれない。私ら辺は道具は道具だけれども、結婚と言うよりも部下や武器としての意味が大きかったはず。

 たまに新聞で知るあいつら。私など忘れているも同然のレベルだ。だけど、思ってしまう。『このまま新世界に戻っても良いのか?』と。

 

 嫌な考えが頭の中を支配する。スマラは頭を奮ってリセットした。こういう時は読書をして活字の世界に飛び込むのが一番の鎮静剤だ。

 余計な考えを頭の中から追い出すと、スマラは本の世界に飛び込んで行った。

 

 だから、普段なら敏感な見聞色の覇気が乱れていたのだろう。一人、入り口で船内に入るタイミングを失ってスマラの様子を覗き見していた人物がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サンディ島————通称アラバスタ王国。あるオアシスの中心部で男はミス・オールサンデーに聞き返していた。

 

「それは、噓偽りはないのか」

 

「えぇ、もちろんですとも。ビビ王女の乗っていた船に可憐なる賞金稼ぎが居た。仲間ではないみたいだけど、手は出さない方が賢明と判断して戻ってきたわ」

 

 『可憐なる賞金稼ぎ』数十年前に話題となった賞金稼ぎの別名だ。本名はスマラ。

 本を買うための資金を調達する為に適当な海賊を討伐していたのだが、主に街に居た時に討伐することが多かったので世間的には「市民を守ってくれる賞金稼ぎ」「彼女が街に居たら安心だ」とかいう噂話が広まったこともあった。

 数十年前の話なので、知っている人は知っている知らない人は知らないレベルの話だ。余程覚えている人か、実力が有り危険視していた海賊しか覚えていないだろう。そして、この場にいる二人は後者だった。

 

「そうか、ご苦労………」

 

「あら?こちらに引き入れる考えでもしているの?」

 

「リスクを考えると、触らない方が賢明かと思うわよ。引き入れた時のリターンも大きいけれどもね」

 

「交渉材料が大切か。まぁいいさ。本人は深く関わるつもりがねぇなら問題ねぇさ。そもそもの話、奴らはMr.3にやられちまっている。奴は生きているだろうが、足がないならこの国に来る必要性がない。今回の件はそれでお終いだ」

 

「………えぇ、そうね。それと、今王国で海賊が暴れているらしいわよ」

 

「何?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は戻って航海中の麦わら一味の船の上。彼は只今全滅の危機に陥っていた。

 

「おめぇじゃねぇかよ!!!」

 

「ふべっ!!」

 

 サンジの蹴りがヒットしてルフィに刺さった。事情を知らないなら仲間割れだと思うだろうが、ちゃんとした理由のある制裁なのだ。本人はゴム人間なのでダメージはないのだがそこは形だけでもという心理からだろう。

 さらに、釣りをしていたウソップとチョッパー、カルーまでもがナミの拳骨を喰らった。理由は勿論、ルフィと共犯だったからだ。

 

 今回の事件の概要は簡単である。サンジがアラバスタ王国に着くまでちゃんと持つ様に配分していた食糧が一晩の内に消え去ったのだ。そこで一味一の食いしん坊であるルフィを問い詰めた所、あっけなく犯行がばれる。丁度つまみ食いしていた物を証拠隠滅と飲み込んでいた他の三人もナミに気づかれて撃沈。

 そう、今この船は食糧難の危機に陥っていた。

 

 普通の海なら近くの島に立ち寄って食料を補給すれば問題ないと考えるだろうが、あいにくとここは偉大なる航路。島の位置すら不明な海なのだ。頼れるのはアラバスタ王国の永久指針のみ。しかし、方角は分かっても距離が不明なのが怖い所。

 つまり、何時たどり着くか分からない状況なのだ。

 

 といったん話は置いておいて、外でビビがバロックワークスの概要を皆に話している時、スマラは何時もの様に読書をしていた。

 それなら特にここで述べる意味が無いのだが、実際には述べる意味がある。何故なら、スマラは読書をしながら果物を齧っていたからだ。

 まさかのつまみ食い?いいや、元々スマラは旅人だったのだ、容量を増やしているリュックサックの中に非常食くらい用意している。

 

 なので、食糧難の今でも優雅に栄養を取ることが可能なスマラは、夜中に冷蔵庫の中の食料が全て消えても全く問題なかった。だから、外の制裁には気にしない。

 朝食が無かったので、誰もいないこの時間をついて一日一日の最低限の栄養を取っていたスマラ。誰も見ていないのなら全く問題にならなかった。

 だが、こういう時ほど、うまくいかないのが最近の事情。

 

「す、スマラさん?ちょっと話した事があるのだけれど、今いい……かしら?」

 

「シャリシャリ。少し待ちなさい」

 

 突然部屋の中に入ってきたビビに見られてしまう。が、スマラは気にしないで残りの果物を口に入れていく。

 見られると面倒だが、まだ一人だ。ビビ相手ならどうとでもなるはず。そう思って気にしないでいたが、微かな匂いに気が付いたのだろう。ルフィがドスドスとやって来る。果物を少し食べているだけなのに、匂いが強いわけでもないのに気付くとはバケモノである。

 

「クンクン。あぁ!!スマラが飯食ってるぞ!!」

 

「何ぃ!!本当か!!」

 

「クェ~!!」

 

 ルフィの声に、共犯者どもが反応した。特にウソップなんかは、真面目なスマラが自分達と同じ事をしていたので大喜びだ。サンジやナミもまさか!?と言う表情で駆け寄って来た。ゾロ?寝てる。

 

 スマラが果物を食べているのがそんなにも珍しいのだろうか?余り物を食べないイメージがあるスマラだが、一応人間である。それならば栄養を取らないと死んでしまう。別に食事が珍しいというわけでもない。サンジから出される三食に、デザートやおやつまできっちりと食べているではないか。

 この船が食糧難の危機に陥っているという特殊な状況でなければの話だが。

 

 ルフィやウソップが騒ぎ立て始めたので、スマラはさっさと果物を口の中に放り込んだ。本をしまい、ビビの話を聞く体制に入る。ルフィが「何か俺にもくれよぅ!」と言っているのは無視だ。

 スマラに相談があったビビは、自分の相談を先に聞く事が出来ない。先に果物を食べていた事を問いたださなければ。少しだけ怖いが、ビビは勇気を振り絞って口にする。

 

「あの、スマラさん。今のはどういう事なの?」

 

「今の?………あぁ、朝食が無かったので自分で用意していた非常食を齧っていただけよ。自分のだから別に可笑しくはなくて?」

 

「そ、そう」

 

 自分で用意していた分なら誰も文句を口に出す事は出来ない。

 

「スマラ!!メシくれ!!!!」

 

 あ、ルフィは何も思わなかったみたいです。というか、夜中に食料を数人で分けたと言え、全部食べたのに凄い食い意地だ。

 スマラが断るまでもなくサンジとナミに殴られてしまう。ゴンッっといい音を当て床に沈むルフィ。同じくスマラに頼ろうと考えていたウソップと、煽られたといえ共犯になってしまったチョッパーとカルーが三人で抱き合い震える。

 しかし、考えていた事は皆同じだった。

 

「ねぇスマラ?その食糧ってどの位入っているの?」

 

「…それを聞いてどうするのかしら?と言っても何となく答えは見えているわ。そうね、全員で食べても問題ないくらいは入っているかしら?」

 

「お願い!!それ、貸してくれない?後でお礼はするからさ」

 

 本当は自業自得と言って切り捨てるつもりだったけど、お礼ねぇ…………。ビビ王女の話も気になるわ。

 場合によっては大きな貸しになるはず。本ならともかく、食料なんて私には余り必要性が無いもの。別に分けて上げても問題ないわね。

 

「えぇ、いいわよ。お礼は期待してもいいのかしら?」

 

「もちろんよ!!」

 

「スマラさんありがとうございます♡」

 

 スマラの答えに、ナミとサンジがお礼を述べる。ビビもあからさまにホッとした表情に変えた。

 勿論、食糧難の原因を作った者たちも嬉しそうに喜ぶ。

 

「流石スマラ!!」

 

「俺は信じてたぞ!!スマラが実はいい奴だということを」

 

 ルフィは何時も通り。ウソップは普段の態度とは裏腹にスマラを奉る。チョッパーとカルーは動物の勘か、素直に喜べないでいた。

 そして、四人に死刑宣告が走る。

 

「あんた達は無しよ!!!」

 

「「えええぇぇぇ~~!!!!??」」

 

「やっぱり……。ドクター、俺飢死するかも」

 

「クエー」

 

 

 

 冷蔵庫に入れて置くと、お腹を空かせたルフィに襲撃されるかもしれない。ということで食料はその都度スマラのリュックサックから出してもらうことにして、一旦話は終わりだ。閑話休題とでも言えばいいのか。

 食料の問題が解決(つまみ食い犯人は別として)したのに顔がまだ暗いビビ。重要な話なのだろう。スマラはそれで?とビビを促した。

 

「あの………。えっと、どう言えばいいのかしら?」

 

「………大方予想はつくけど、早くして頂戴」

 

「はいっ!!こんな事言ってルフィさんたちには悪いと思っています。でも、確実性を上げるにはこれしかないの」

 

 ビビは確実性を取りたいと言ってルフィやナミに申し訳なさそうな顔を向ける。ルフィはともかく、ナミやサンジはビビの言いたいことが分かり、尚且つその意味をきちんと把握しているので、何も言わない。

 ビビは一呼吸入れた後、スマラに勢い良く頭を下げた。

 

「力を貸して下さい!!お願いします!」

 

「…………力ね……」

 

 少しだけスマラの反応が遅れる。力を貸して欲しいと言われる事は何となく感づいていたが、ここまで真剣にお願いされるとは思ってもみなかったからだ。

 スマラはビビを見返す。頭を上げたビビはしっかりとした目でスマラを見返していた。

 

「私に何を求めているのかしら?クロコダイルを倒せと言われても、私は頷かないわよ」

 

「クロコダイルは俺がぶっ飛ばすから、スマラは邪魔すんなよ」

 

「ルフィ………ビビはそこまで言っていないでしょ。それに、スマラ自身が承諾しないわ」

 

 スマラがビビに貸し与える力の内容がクロコダイルの討伐ではないのか?と疑うと、ルフィがスマラに「俺が倒す」とくぎを打った。ナミはルフィに「話を聞きなさい」と言ってルフィの軌道修正を行う。

 ビビは自分がスマラをクロコダイルにぶつけるなんて思っていないことをアピールする。スマラなら王下七武海であるクロコダイルをも倒せるのではないか?と希望を一瞬抱くが、払える報酬が存在しない。長年続く反乱で国政は滞り、国庫の資金は減ってきている。それに、ナミと十億の契約を結んでいるのだ。スマラに払える金額が出せるはずがなかった。

 

「そのことじゃないの。もっと簡単なことよ。アラバスタについたら私を護衛してほしいの」

 

「護衛任務の依頼ね。………別に私に頼まなくてもいいと思うけど?」

 

「勿論、ルフィさんやサンジさんが護衛してくれる事には感謝しているわ。感謝しきれないくらいに。でも、相手はクロコダイル。私が生きていると知ったら何が何でも狙ってくるはず。それに加えオフィサエージェントも動くはず」

 

 一気に来られたらイーストブルー最高額の海賊船でもとてもさばききれない。ビビはそう締めくくった。

 最重要はビビが生きて国王や反乱軍のリーダーに会うこと。だが、その過程で敵に遭遇したらその対処は麦わらの一味に任せるしかない。敵はビビを狙うはず。守りながら戦うのは、戦いにおいて一番難しい事だ。ビビは戦闘の足枷にはなりたくなかった。

 一人になってでも行動をするべきだ。だけど、幾ら戦えると言っても本職には程遠い。そこで専門の護衛を雇うのだ。バロックワークスと言う犯罪組織ですら避けようとしている者、スマラを。

 

 説明を終えたビビは今一度スマラに力添えを願う。先ずは、交渉の場に立たせる。それが一番の難関だ。

 

 スマラは悩んでいた。今の現状から一番の厄介事はクロコダイルの討伐だ。勿論、相手の情報も幾らか持っているし、戦っても九割が倒せる自信はある。ただ、仮にも王下七武海なのだ。ただの賞金稼ぎが政府公認の海賊を倒すのはいささか面倒ごとが多すぎる。

 クロコダイルが国の反乱の黒幕だと明るみになっても話は変わらない。国を救った英雄と国民や新聞で注目を集めることだろう。しかしそれはスマラの望んでいる生活とはかけ離れている。新聞に載ったことで、忘れかけているあいつらの気を引くかも知れない理由もある。

 しかし、蓋を開けてみればただの護衛任務。護衛者の重要性からすれば襲撃は確実であるが守ればいいだけの事。関わらないと副社長に伝えていた所を護衛ではあるが関わってくると、向こうがどう対応するのか分からないが。

 ただの護衛任務なので、一緒に行動すればいいだけの事。襲ってくる敵を倒さなければならないが、大した問題にはならない。クロコダイルなら逃げればいいだけの話。それだけの実力はあるつもりだ。

 

 そして、スマラは交渉の場に着いた。あくまでもただ働きはしない。報酬が気に食わなければ受け付けない。

 

「それで、反乱中の国に報酬は払えるのかしら?」

 

「お金……が欲しいわけでもないのよね?」

 

「そうね、お金は必要ないわ。まぁ簡単な話ね。王女である貴女なら私の望むものを手に入れる事も容易なはず」

 

 報酬にお金は要らないとスマラは言う。

 お金ならこれまでの海賊討伐で湯水の様に得ているからだ。特にでかい買い物をしているわけでもなく、ただ生活に必要な分と書籍代のみの経費。億単位で稼ぐことが可能なスマラはリュックサックや銀行にたんまりとお金が眠っていた。

 スマラはお金では無いものをビビに要求する。王女なら簡単なものだともの言う。国が反乱中だったにもかかわらず簡単に用意できるものと言えば………。

 

「全てが終わったら王宮の図書室の本を一部譲ります。滞在中も好きに観覧してくれても結構よ」

 

「………交渉成立ね。アラバスタ王国に着いたらよろしく頼むわ」

 

 王宮の図書室はあくまでも一般人であるスマラにとって、そうそう入れる場所ではない。実際には侵入は可能なのだが、持ち主への敬意はするのがスマラだ。

 しかし、ビビが許可すれば簡単に観覧可能だ。スマラはこれを待っていた。アラバスタ王国と言えば建国が数百年以上もある歴史ある国だ。その王宮ともなればさぞかし多くの本が貯蔵されているだろう。貴重な本もあるかもしれない。

 

 スマラは依頼を受けたばかりにも拘わらず、もう任務達成した気分でいた。早くアラバスタ王国に着かないかしら?と。




これから少しだけ投降頻度が落ちますが、エタらないので気長に待っていて下さい。応援コメント会ったら頑張りますよ?


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334 十六頁「ナノハナの町にて」

遅くなりました!!ここまで描写を詳しく書くつもりがなかったのですが、何故か書いてしまい。進行速度が遅い。今後は出来るだけスピード感を出しつつ頑張っていこうと思います。これもスマラが護衛任務を受けるのが悪いんだ。最後に、何時も誤字報告して下さる方には本当に感謝しています。


 途中、ホットスポットと言われる海底火山が多く集まっている海域でMr.2と言う敵と友情を育んだり、四日ぶりのご飯を仕留めようとウミネコに手を出したり(ビビが必死に止めた)と色々あったが、特に苦難と言う苦難はなくアラバスタ王国にたどり着く事が出来た。

 

 食糧難はスマラが生きるのに最低限は与えていた為、ルフィ、ウソップ、チョッパー、ゾロは何とか生きている。が、ルフィは流石に限界だったみたいだ。アラバスタ王国に立ち入る理由をただの食料補給としか思っていない。

 因みに、ゾロまでもが最低限の食料しか与えられいないのは、話し合いの場で寝ていたからで、カルーはビビが大目に見て自分の分を分け与え得ていたからだ。

 

 アラバスタ王国の港町『ナノハナ』に着くとスマラも船を降りる準備をした。

 今回は護衛任務として行動するので、私情に流されて一人行動するわけにもいかない。そこがスマラが唯一残念に思っていることだが、報酬が報酬なのでその思いを封じ込める。本の為なら何でも出来るスマラなのだ。

 護衛と言う事で離れないように、と出発前からビビの近くで待機しているスマラにビビがあることを指摘する。

 

「あの、本当に目印をつけなくて大丈夫なんですか?」

 

「大丈夫よ」

 

 ビビの言う目印とは、腕に×印を書いてその上を包帯で巻いている事だ。敵に姿を真似出来る能力があると知った時、ゾロが提案した見分け方。

 仲間の印と言われたそれを、スマラはしていない。理由は単純明確で、スマラに例え目印だろうが簡易的な物だろうが、仲間となるわけには行かないからだ。何処で情報が漏れるか分からないのがこの世界。何処かの仲間になるわけにはいかないスマラはそれを拒んだ。

 

「私がこの中の誰かと一緒に居ない状況なら、怪しんで攻撃を問答無用で仕掛けても構わない。と言っているから」

 

「でも、それだと本人だった場合物凄い手間がかかるんじゃ……」

 

「そこも含めて問題ないと言っているのよ。受けた依頼は完遂する。私が貴女から離れなければいいだけの事よ。それにもし、一人になってから攻撃を受けたとしても、手間をかけずに終わるからよ」

 

 ルフィだろうが、この船の総力だろうが、スマラは簡単に返り討ちに出来る。スマラはビビにそう説明した。

 ビビはスマラが強い事を知っている。博識である程度のことも落ち着いて対処出来る。だけど、ルフィとスマラを比べるとどちらが強いのかはビビには分からなかった。スマラが強さの片鱗を見せたのは副所長が現れた時だけだ。対してルフィはこれまで敵を何度も倒してきているのを見ている。比べる物差しが無いのだ。

 

 だから、ビビはスマラといえどもこの船の全員が問答無用に攻撃しなければならない条件を良しと思っていなかった。

 ビビは何か別の案があるはず!とスマラに抗議の言葉を発する。

 

「でも、それでもしスマラさんに何か遭ったら」

 

「……私が良いと言っているのを理解出来ないのかしら?人の身を思いやる気持ちをダメだとは言わないけれど、貴女は王族でしょ?」

 

「っ!!……」

 

「そういえば、貴女は見たことが無かったのね、ならしかたないわ」

 

 スマラがゴムを無効化出来る力や殺気を出す場面を見たことがないと思い出したスマラは「仕方ないわね」と首を降った。

 ビビは余計にスマラの事が分からなくなったのか、ただスマラを呆然と見るばかり。

 

 そうこうしているうちに上陸準備が整い、船を町から少し離れた海岸沿いに停めた。

 と同時にルフィが町目掛けて走り去っていく。如何やらお腹の限界が達していたみたいだな。しかし、お金を持って行ったのかは分からない。多分持っていない。

 ビビがルフィが一人町に入っていったことを心配する。ナノハナは広いから探すのが大変だと。

 そんなビビをサンジが大丈夫だと言う。騒がしいところを探せば見るはずだと。理にかなった方法だが、果たしてそんな扱いでいいのだろうか?あんな奴でも船長なのだから。とスマラは密かに思った。

 

 一先ずご飯食べようとゾロが仕切り、スマラを含めた一同は行動を開始する。いつもは一緒に居ていも離れた場所にいるスマラもビビの隣だ。

 スマラはアラバスタ王国に着いてからいつも以上に気を切り詰めた。見聞色の覇気は常時最大展開で敵の位置や地形を把握。読んでいないとイライラするらしい読書もなしだ。全てはアラバスタ王国の王宮図書室の観覧権の為。

 

 歩いている最中、スマラが珍しく意見を述べた。

 

「一先ず、町の中に全員が入るのは賛成しないわ」

 

「どうしてだ?」

 

 ゾロが代表してスマラに疑問を返す。

 スマラはビビの方を向きながら答えた。

 

「もう死んだことになっているといえ、犯罪組織に狙われているのよ。顔がばれている人は行動を控えた方が賢明よ。特に大した戦力を持っていない人はね」

 

「そうね。スマラの判断は正しいわ。町に入って補給物資を調達するのは私とビビと護衛のスマラ以外でお願いね」

 

「楽しようとしてずるいぞ~」

 

「仕方ないじゃない。戦力無いんだし」

 

 ウソップのがぼやきに対して、ナミが残念そうに返した。表情はまったく残念そうでなかったのが、ウソップの癪に障る。ナミやビビの戦力無い組と、ウソップは対して変わらない戦力だったからだ。

 かと言って、知らない街をただ黙って待つほどウソップの忍耐力は強くない。ルフィほどではないが、冒険したい心を持っているからだ。

 

 買い出し組と待機組の組み分けが出来ると、ビビが買わないといけない物をリストアップしていく。

 砂漠渡りの為の水を樽単位、枯渇している食料に備品の少なくなっている物をその他諸々。紙に書いてサンジに渡す。

 それに加えて、ビビが身を隠すための庶民の服を人数分買って来るように頼んだ。

 

「服?それは良いですけど、何でまた」

 

「普通の服だと砂漠越えはキツイいのよ。出来るだけ肌を隠せるものが適しているの」

 

「あぁ分かった!!俺にお任せください!!」

 

 そうこうしているうちに、ナノハナの町にたどり着いた。郊外にある壊れかかったレンガ積みを待機場所として決めた後、買い出し組は町の中に入っていく。

 チョッパーが予想外の事故で残っている以外は全て順調に進んでいる。何も立って待つことも無いのでナミとビビは座った。スマラだけは壁に寄り掛かっただけだ。

 女子だけとなると起こるのは女子トークだ。ナミとビビは楽しそうにお喋りをしている。ナミの気遣いかもしれないが、そこは聞いてはいけないことだろう。

 

 さてと、この辺りで情報整理といきましょうか。見聞色で探ったところ、この街にいる猛者は一人。後、それに少し劣る形で二人の計三人。一人は麦わら一味の船長の気配で、残り二人が一ヶ所にまとまっているわね。

 って、どうして自分から火の中に飛び込んでいくのかしらね。気が知れないわ。一人だけいる猛者がクロコダイルだったらどうするつもりなのかしら?

 

 郊外に入ってから見聞色の覇気で敵を探っていたスマラ。当然、この町にスマラでも勝てるか分からない猛者がいる事をキャッチしていた。

 そんな者の場所に飛び込んで行くルフィに、スマラはため息をこぼさないはずがない。頼むからその猛者を連れて来ないでよね!と心の中で思わずもいられない。

 誰かは知らないが、スマラが全力で戦っても勝てるか分からない力量なのだ。しかも今は護衛任務中、逃げるのは当然だが攻撃を全て逸らせる自信はない。自分一人なら問題無いのは言うまでもない。

 

「ちょっとスマラ!!聞いてんの?」

 

「………何かしら?」

 

 不意に話しかけて来たナミに、スマラはすぐには返せなかった。見聞色で辺りを索敵し続けているたのだから、仕方だないと言えばそうだ。常人なら、戦闘時に一瞬先の攻撃を予測するのが精一杯である見聞色を長時間広範囲に渡って発動しているのだ。一体どれほどの集中力が必要なのか。考えるまでもない。

 が、ナミは覇気のことを知らない。今まで殆ど使い手のいない東の海に居たのだし、スマラもわざわざ伝えていないので当然のこと。

 どちらの条件もあり、スマラが直ぐに返事出来なかったのは仕方のないこと。なのだが、スマラは満足いかなかったみたいだ。

 遠くの索敵に集中するあまり、近場の状況把握を怠った。実践なら命取りになり兼ねない失態。それだけなら何とか対処出来るが、今は護衛任務中。一番大事なのは自分の命だが、その次は護衛対象となる。スマラはビビを守ることを怠ったとも言えるのだった。

 

 それを分かっているからか、少し不機嫌そうにナミに返事をしてしまう。その態度にビビが少しだけうろたえてしまう。

 

「もしかして、やっぱり嫌になりました?」

 

「…いいえ、報酬が報酬だもの。全力で取りかからせてもらうわ。不機嫌だったのは自分の落ち度が酷いものだったからよ。気にしないでくれたらいいわ。それで何の用かしら?」

 

「えっと、スマラはこういう護衛みたいなことを前からやっているの?」

 

 ナミがスマラに聞こうとしていたことを訪ねた。誰かから依頼を受けたりしていたのか?と。

 

「昔何回かやった事はあるわ。報酬が良かったり、金欠で海賊が見つからない場合などに少しね」

 

「だから、手慣れていたのね。てっきりお金持ちのお嬢様育ちだと思っいたから」

 

「お金持ち?今ならばお金は持っているけれど、昔はそうでも無かったわ。無一文で海に飛び出したりしたものだから……」

 

 自発的に己の過去を話してくれそうなスマラ。スマラは何処か遠い場所を見ている目をしていた。

 ナミとビビがスマラを見つめると、スマラは目を瞑って続きを話さなかった。

 

「この話はお終いよ。私の過去は知るべきでは無い。貴方達が偉大なる航路の終着点を目指すなら」

 

「それって…!?」

 

 何かを知っている。そんな雰囲気を出しながら話を終わらせたスマラに、ナミは更に聞き出そうとして……。

 

「おーい!帰ったぞ」

 

「ナミさん!ビビちゃん!!スマラさん!!!怪我はなかったか〜い?」

 

 買い出しから帰って来たメンバーに遮られてしまった。ウソップやサンジには悪気は無かったのだろうが、スマラの事を聞くタイミングを逃してしまい、ナミは少しなからず落胆した。

 

 買い出しから帰って来た男どもは全員着替えていた。なので、女性陣も物陰に隠れて着替える事にする。

 のだが、

 

 

 

 

 

「素敵っ!!こういうの好きよ、私」

 

「でも……頼んだのは私たちだけでも、これ庶民というよりも踊り子の衣装よ?」

 

「………何で私まで………」

 

 サンジがビビに頼まれて買ってきた砂漠越えの為の庶民の服装。それは踊り子の衣装だった。

 上から外套をかぶれば問題ないと言え、サンジの趣味丸出しの買い物だ。

 ナミは素敵な衣装を着れたと喜んでおり、ビビはこれで砂漠越えするのかと微妙な表情だ。疲れたら負ぶってあげるとか、そういう問題ではない。

 そして、スマラ。彼女もサンジが用意していた。断る暇もなくナミにあれよあれよと着替えさせられて、スマラも踊り子の衣装を着ている。ナミは言わずともビビよりも胸元が残念な様子なのは、触れるべきではない。触れたらその者の最後となるであろう。

 

「ねぇ、私は自分で服を持っているし、いざとなれば能力に頼るから問題無いのだけれども……」

 

「そんな事言わないでくださいよ。とても良く似合ってますよレディー」

 

「そうよ!!それに、目立たないようにするためには周りに合わせるのが一番なんだから」

 

「スマラさん、ドラムの時にとても目立ってましたものね」

 

 

 スマラがいやいやと駄々をこねると、サンジ、ナミ、ビビがスマラを諭す。サンジはともかく、ナミやビビの意見はスマラとて邪険に出来ない。

 目立たない。というのは依頼上の関係でとても無視できない事となっているからだ。

 もしビビからの依頼がなかったら?それは勿論、一人でふらっと船を離れて街の本屋を適当に巡りながら、麦わら一味の最終目的地『首都アルバーナ』を目指すはずだった。服装も適当に袖が長く風通しの良い服装を着るはず。

 それが、一緒に行動するだけでこの変わりよう。大抵お嬢様っぽい服を着る事が多いスマラだが、踊り子の衣装やドレスなどは着たことがない。着ようとも思わなかったので、露出の多さやひらひら度合いに落ち着かない様子でいた。

 

 

 

 早速食糧難で満足にならなかったお腹を満たしているゾロとウソップ。サンジが二人の服のセンスを女性陣と比べて笑っているが、ゾロがあきれながら言い返す。サンジと自分、格好がどう違うのだと。確かに似ている。サンジしては精一杯オシャレしているつもりらしい。

 

 まぁ、そんなことは置いておいて、砂漠越えする為の物資はこれで整った訳だ。ビビはこれからの予定を皆に話した。

 今国にある勢力は三つ。王国軍と反乱軍、そして二つの争いを裏から操り漁夫の利を狙っているバロックワークス。ビビはまず先に反乱軍を止める為に動くという。リーダが居ると言われている『ユバ』を目指す。

 そこまで説明して続きを話そうとした瞬間、

 

「隠れなさい!」

 

「え?」

 

 スマラがビビの腕を引っ張り、物陰に隠す。町で起こっていた暴動が近くまで来ていたからだ。

 ゾロも気づいたのか、物陰から奥の様子を伺う。

 

「海軍だ。何でこの街に居やがる」

 

「………っ!!荷物を持って。そろそろこの場を離れないと」

 

 ゾロとウソップが物陰から隠れて様子を伺っていると、スマラが何かを察知した。皆に急いでこの場を離れる様に進めるが…。

 海軍に追い回せれていたルフィに見つかった。スマラは察知したのは、この街に居る少し強い反応が二人こちらに向かって来ており、さらにスマラでも相手になるか分からない猛者がその後追いかけて来ていることだった。

 ルフィに見つかると連鎖的に海軍にも気づかれてしまい、一同は急いで荷物を担いで逃げることに。

 

「ほら、急ぎなさい」

 

「で、でも。荷物を持たなくちゃ」

 

「……はぁ。貴女の分は私が持つから、走りなさい」

 

 スマラは真っ先に依頼主であるビビを逃がそうとする。が、責任感のあるビビは荷物を持とうとしてスマラをイラつかせた。

 迷っている時間はない。スマラはため息をつくと、ビビが持とうとしていた分の荷物と適当な荷物を掴むとビビを先行させる。

 

 後ろでは猛者が接近していたが、狙いはこちらではなさそうなので放っておくことにする。ルフィの知り合いみたいだった。

 スマラは後ろを気にしつつ、ビビの後ろを走って船へと戻っていく。他のメンバーもその後を続いた。

 




次回はユバまでいきたい。願望通りにいくのか?


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335 十七頁「話の聞かない兄弟と誤算」

只今、将来に向けて小説書きまくるか、執筆活動は毎日コツコツと続けて物語を読む本職に戻ろうかと絶賛葛藤中。物語は書きたいけど、それ以上に読みたい。しかし、それで本当にいいのかと思っている。*どちらにせよ、将来について真剣に考えていないマスター。


 走った。走った。遅く走った。護衛対象の後ろに張り付いて走った。

 

 身体能力がバケモノで能力使用による速度はさらに速く走れるスマラにとって、あくびの出るスピードだ。しかし、スマラは文句を言う事なく後ろに続いた。

 

 これが最も切羽詰まった状況なら荷物なんか放り投げてビビを抱えて移動しただろうが、ルフィの知り合いらしい猛者が海軍を引き受けてくれている。あんなにも強い人が何故ルフィと知り合いなのだろうか?と疑問に思うが、自分が不利にならないのならそれでいい。

 だからスマラは依頼主の意向に合わせて走った。

 

 船に着くと、適当な場所に荷物を置いて一息。このくらいなんともないレベルだが、荷物を持って走る。更に周りを警戒しながら、というのも久々だ。肉体的疲労は無くても、精神的疲労は少なからずある。

 スマラとて人間なのだから。

 

 

 

 ビビがカルーに手紙を持たせて王宮に一足先に向かわせると、船は急いで出発した。

 船が出港すると、陸からデカイ反応が船に向かって跳んでくる。スマラは何事かと一瞬身を固めたが、船に乗ってきたのはルフィの知り合い猛者だった。

 

 名は『ポートガス・D・エース』別名『火拳』海賊なら誰でも知っている海の皇帝『四皇』白ひげ海賊団二番隊隊長だ。四皇の幹部にしては若いほうだが、スマラはきっちと情報をつかんでいた。何しろ、色々と有名だからだ。

 

 

 スマラは適当に耳を傾けて話の内容を聞く。エースはルフィを白ひげ海賊団に誘った。仲の良い弟が自分が乗っている船に入って貰いたいと思うのは普通に考えられることだろう。

 

 もしルフィが話に乗るのなら、スマラはビビの護衛任務を終わらせた後、この船から去らなければならない。海賊船に乗るだけでも危うい状況なのに、四皇となれば次元が違う。スマラの元には早急に連絡が来るであろう。

 

 しかし、スマラの気鬱は現実にはならない。ルフィが即答で断ったからだ。少し変わっている。

 相手は海賊の頂点『白ひげ』だ。並の海賊なら即答か悩むくらいするだろう。

 

 

 エースはルフィに用事を済ませると仲間一人一人を見ていき、そしてスマラで止まった。

 別に睨んでいたわけではない。ただボーっと眺めていただけだ。兄弟の友情と言う物語を。

 しかし、それが原因ではないのだろうが、エースはルフィにスマラの事を尋ねる。

 

「ルフィ、こいつは?」

 

「スマラって言うんだ。スゲー強いんだ。エースも勝てるか分かんねぇぞ。今、仲間に勧誘中なんだ!」

 

「勝てるか分かんねぇ?」

 

 エースがルフィに聞いて反応したのはその部分だった。ピクリと反応してスマラに目を向けるエース。

 スマラはサッと目を逸らした。失礼になるとかそんなもの関係ない。

 エースはスマラをジッと眺める。まるで、スマラの実力を図っているみたいだ。今度は慎重に。

 やがて、エースはスマラから目を逸らすと、首を大きく降った。

 

「ダメだ。勝てる可能性が見えねぇ。だけど、負ける気はねぇぜ」

 

「はえ~!!やっぱりスマラはすっげ~んだな!!」

 

 四皇の幹部に勝てる可能性がないと言われて、ルフィ以外のメンバーが驚く。ルフィは単に喜んでいた。

 そして、自分もエースやスマラを超えられるように精進しようと決意する。

 

 一方でスマラは「余計な事を!!」と怒っていた。自分が強い事は話していたが、四皇の幹部と対峙できるとなれば話は別だ。これを聞いた奴らは大抵スマラに媚を売って来たり、スマラを利用しようと企む。前者は無視して後者は二度と利用するなどと考えないように思い知らせたが。

 

 だから余り自分の本当の実力を見破られるのは嫌だった。この船でもそうなるのだと思っていた。だけど、蓋を開けて見れば何もない。船長であるルフィやゾロとサンジの戦闘組は「もっと強くならないと」と意気込んでいるし、ナミやビビ、ウソップは単純に驚くだけ。チョッパーに至っては外の世界の事を何にも知らないので分かっていない。

 あっけない反応。しかしこのような人たちだからこそスマラはこの船に乗っている。

 

「それ以上何か言うのなら……。こちらも実力行使に出るわよ」

 

「お~怖ぇ怖ェ。いやいいよ。あんたとやり合うには時間も場所も状況も揃ってねぇ。でも、ルフィに何かあったら守ってやってくれ」

 

「そこまでは保証しk」

 

「出来の悪い弟を持つと兄貴は心配なんだよ。こいつには手を焼くと思うが、よろしく頼むよ」

 

 スマラの話を聞かずに自分の船に戻っていくエースに、スマラは珍しくキレそうになった。

 自分の実力を暴露しておきながらこちらの話を聞かずに「守ってやってくれ」だ。足の為に船に乗っているが、スマラはルフィの仲間になった訳ではない。だから、負けるべきところでは放置する。

 

 変な勘違いは放置しておくべきではない。スマラは実力で負かしてからスマラの話をきっちりと聞いて貰おうかと考えるが、辞めた。相手は四皇の幹部だ。ただの旅人に過ぎないスマラが易々と手を出してもいい相手ではない。手を出して負かしたりすると、親である白ひげが黙っていないはずだ。本や自由の為なら何でもするスマラだが、四皇を相手どるなんて考え無しな行動はしない。迷惑がかかるのは自分だけではないのだから。

 

 スマラの気持ちなど知らない。エースは船を降りて自分の船へと移る。その身勝手な行動にまだイラッとしているが、向こうが何もアクションを起こさないならスマラも行動は起こさない。スマラは基本受け身なのだ。……あっち系の話ではないよ?

 エースが去っていくのを皆が見送っている。スマラは疲れたとばかりにその辺りに座り込んだ。本を取り出して読み始める。

 船内に入らないのは緊急事態に対応出来るようにだ。依頼の事を忘れてはいけない。

 

 スマラが読書で精神的な疲労を回復していると、船は海岸沿いを進んでいく。ビビが皆に向かって今の進路を説明する。

 スマラも一応聞いておく。

 

 先ず船でサンドラ川を抜けて内陸に入り込む。途中で船を降りて反乱軍の拠点『ユバ』を目指すらしい。それで今回の依頼が終わるわけではないが、当面の目標が定まった。

 

 これ以上聞いても無駄だろう。とスマラは意識を本に戻す。

 予定を聞いて情報を得るのはいい事だが、やらないといけないのは王女様の護衛だけ。スマラはただひたすらにビビについていればいいのだ。何も考える必要性はない。

 

 砂漠越えになるとまた忙しくなる。

 スマラは辺りの警戒を怠らないまま、束の間の休憩をした。

 

 

 

 

 

 そこまで時間がかからずに内陸部に上陸する事になった。スマラは船を降りるとビビの近くで待機だ。

 船を降りて早々、クンフージュゴンと言うアラバスタ王国の固有種を弟子にしてしまうと言うアクシデントで時間を食い。

 廃墟を通りがかりながら、アラバスタ王国が枯れていった原因をビビが話す。ダンスパウダーが原因だったみたいだ。

 廃墟を抜けると本格的な砂漠越えだ。見渡す限りの砂の山。この国で育ったビビがいなければろくに進むことも出来きなかっただろう。

 

 水を巡る喧嘩が起こり。ルフィに任せた荷物が全て奪われたり。巨大なトカゲを倒した結果ラクダを手に入れたり。ラクダにナミとビビが乗ったせいで男子陣と逸れたり。

 色々な事が起こったが、特にスマラが対応しなければならない事態は起こらずユバにたどり着いた。

 

 ユバにたどり着いたものの、当初の目標は果たせなかった。既に町は枯れ果ててしまい、反乱軍も拠点を別の場所に移動した後だった。

 反乱軍を追いかけようにももう既にお月様が上っている時間帯だ。昼間も砂漠越えしていたこともあり、仮眠を取る事になった。

 

 

 昼間の砂漠越えで皆が疲れて眠っている頃。スマラは屋根の上で読書をしていた。

 静寂なはずの砂漠の夜は、スマラがページをめくる音と、地面の空いた穴が聞こえる土を掘る音だけだ。

 スマラがこんな時間まで起きている理由は単純だ。昼間は護衛依頼で気を張り詰めていた為、読書などする暇もなかったからだ。

 なのでこんな時間。敵が夜襲を仕掛けてくる可能性もあるが、基本的には何もしなくてもいい時間帯。更に言えば休憩時間。少しくらい楽しみがあっても良いだろう。本の世界にのめり込まなければいいだけの話なのだから。

 

 騒がしかった下の様子が静かになった。

 ふと下を見下ろしてみると、この街に住んでいるただ一人の男が地面の穴からルフィを担ぎ出していた。

 

「私が部屋の中に放り込んでくるわ」

 

「君は?」

 

 スマラは男にルフィの移動を買った。

 ぼんやりと眺めていたところ、男はルフィを担ぎ上げているがキツそうだったから。男は痩せ細せてもいた。

 何がスマラを突き動かしたのかは誰にも分からない。ただ何と無く思って行動しただけだ。

 

 男は急に上から降ってきたスマラに驚く。

 スマラは男の質問に対して適当に返した。

 

「王女ビビの護衛者よ。ただの気まぐれでそいつを戻しておくわ」

 

「なら、よろしく頼むよ」

 

 男からルフィを受け取ると、スマラは難無くルフィを持ち上げて建物に向かって歩き始める。

 そんなスマラの背中に向けて男が。

 

「君もそろそろ休むといい。砂漠越えは自国の者でも厳しいからね」

 

 優しい気遣いを投げかけた。

 スマラからの応えはない。ただ、黙って建物の中に入って行く。

 しかし、男の忠告を聞いたのか、スマラが建物の中から外に出てくることは無かった。

 

 

 

 

 

 スマラ達一向がユバで身を休めている時、遠く離れた都市の地下である者達がボスを待っていた。

 椅子に座って待っているのは5人。皆それぞれ出されている飲み物を口にしながら時間を待っていた。

 

 遅い。誰もがそう思い始めた頃、彼女が現れた。スマラが『悪魔の子』と呼んだバロックワークス副社長のミス・オールサンデーだ。

 そして現れるボス。その名は王下七武海の一人『サー・クロコダイル』だ。

 待っていた五名、バロックワークス幹部達はその名の有名さに驚く。が、クロコダイルの言葉で静まり返る。

 不満はない。王下七武海と言えば誰もが認める実力者の集まりだからだ。何故?と疑問を持つが、従わない理由はあるはずもない。

 ボス自らの口から説明される最終作戦。

 

 そして最後、計算外のMr.3による麦わらの一味が生きていると言う情報に、クロコダイルはある命令を下した。

 

「最後に一つ、クリーム色の髪を持ってる女には絶対に手を出すな。出したが最後、こちらにあるのは壊滅の一文字だけだ」

 

「壊滅~!?そんなの冗談じゃないわよ!!」

 

「俺たちが揃っていて、女一人に負けるとでも?」

 

 Mr.2、Mr.1の二人がクロコダイルの警告に異を唱える。偉大なる航路前半ではそれなりの実力がある二人だからこその言い分だ。

 しかし、相手が悪かった。

 

「お前らは、『可憐なる賞金稼ぎ』を知ってるか?」

 

「バッ!そりゃっ、何十年も昔の話だろ?」

 

「最近は全く話を聞かなくなったから、死んだとも噂されている奴ね。………まさか!?」

 

「私が直に会ったわ。対峙して分かったのだけど、あれは手に余る相手よ。偉大なる航路の前半なんかに居てもいいレベルじゃない」

 

 女は一昔前に有名だった賞金稼ぎだ。ここにいる者の中で最も年配のミス・メリークリスマスが全盛期で働いていた頃に有名だった賞金稼ぎ。ミス・ダブルフィンガーに至っては、まだ子供だった頃の話。

 

 それがスマラだ。

 社内で実力もナンバー2であるミス・オールサンデーが直に会って危険だと感じるレベルのバケモノ。

 クロコダイルですら「手を出すな」と厳令する相手に、この場にいる全員が異論を引っ込めた。

 

 だが、クロコダイルとミス・オールサンデー程スマラの危険性を理解出来ている者はこの場に居なかった。

 それは、噂でしか聞いたことのない存在だから。実際に立ち会って圧倒的な実力の差を身に染みた事が無いから。

 誰だって、経験したことのない事を理解しろなんて不可能なのだ。

 

 だから、隙があるなら殺そうなどという考えが浮かぶ。筆頭は、殺し屋上がりのMr.1だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、知らないところで話題に上がっているスマラと言えば。

 

「それ以上、手を出さないことね」

 

「そこを退け!!スマラ!!!」

 

 砂漠の真ん中で、ルフィと対峙していた。

 

 この場に居るスマラとルフィ以外の全員が思う。

 『どうしてこうなった!?』と。




今回短いネ!もう少し書いても良かったが、こんな終わり方してみたかったのさ。


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336 十八頁「スマラ弱体化?」

 本当はもう一時間ほど前に投稿したかったんですけど、『ありふれた職業で世界最強』のニコ生見てました。はい。今から楽しみです。いつか『ありふれた』も書いてみたいなぁ。初期設定は何となく出来ている。だけど、次の投稿作品は『ハリポタ』にするつもり。あ、ハリポタは超長編なので数年レベルでかかるって?大丈夫だ。生きていて、家があるうちは投稿を辞めないぜ!
 あ、関係ない話がこんなにも。ほんへどうぞ。


 事の始まりは少し前まで遡る。

 

 ユバに反乱軍が居ないと知ると、一向は一夜身体を休めると反乱軍がいるらしいカトレアに向かって出発した。二度手間な砂漠越えに一同は不満はあるものの、何も言うことなく歩いていた。

 

 が、急にルフィが座り混んでしまう。ルフィには不満があるみたいだ。

 スマラが黙って聞いていると、二度の砂漠越えではなくビビの計画に不満があるみたいだった。

 次第の二人の言い争いはヒートアップし、遂にビビがルフィに手を上げた。

 

 このままで不味いとスマラは間に入った。

 味方する方は当然、依頼主であるビビだ。

 

「それ以上、手を出すのはやめなさい」

 

「どけよ!!俺はビビに言わないといけないんだ!!」

 

 ルフィは一度決めると頑固で考えを変えない。一方でスマラは譲れない物はあるが妥協点は持ち合わせている。

 ルフィのやっていることはビビが先に手を出してきたからやり返しているだけ。それでもスマラは依頼主の安全を守ると契約した。

 それは誰が相手だろが関係ない。全ては王宮の蔵書を見るために。

 

「お前は俺の邪魔をするな!!」

 

「貴方が私の前に立っているだけでしょうに。ご安心をビビ王女。貴女には手出しさせません」

 

 自分の身をバロックワークスから守ってもらうために依頼したスマラが、自分から手を挙げたといえどやり返してきそうになったルフィから守ってくれている。

 ビビは少し予想外の状況に二人を止められないでいた。

 

「ちょっと、これどうすんの?」

 

「えっと、あのスマラさん?」

 

「こりゃまずい」

 

「おい!逃げよう!!ルフィとスマラが戦ったら俺たちも巻き込まれるぞぉ!!」

 

「そ、そうなのか?コエ~~~~!!!」

 

「クエ~~~~!!!」

 

 にらみ合うルフィとスマラ。二人の気迫に押されてビビは声をかけずらい。

 ナミとサンジが頭を抱え、ウソップが一目散にこの場から離れて行き、チョッパーとカルーも便乗して逃げる。

 ただ一人、ゾロだけが冷静だった。

 

「ルフィもスマラも間違っている事はしていないだろ?止めないといけないのは確かだが」

 

「だが何?」

 

「あの二人ってどっちが強ぇのか気になるだろ?」

 

「…………」

 

 ゾロの本音でガクッとなるナミだが、確かに気になる。今までスマラが強いことは見てこれた。だが、一度も本気で戦った事を見たことはない。

 ルフィがおふざけに突っかかってスマラが適当にあしらって終わり。明確な順位はない。

 一同、少しだけ気になった。

 

 

 止めるべきか一度殴り合いをさせるべきか。決めかねている間も時間は進む。

 先に動いたのはルフィだ。腕を後ろに伸ばしてスマラに走り迫ってくる。

 

「ゴムゴムの~~ブレットォ!!」

 

 腕を後ろに伸ばし、戻ってくる反動を活かした攻撃だ。

 しかし、その腕はスマラに当たった瞬間、後ろに伸び返った。

 なんてことはない、スマラに向かってくるただの運動エネルギー量を調節して反対方向へ向かうエネルギー量を増やしただけの、ただの反射だ。

 その後も、ルフィが色んな攻撃を繰り出してスマラを攻撃するが、スマラはことごとく反射して受け流す。

 傍から見れば一方的な戦いに見えるだろうが、実際はスマラにもてあそばれているだけ。

 遂にルフィがスマラから離れた。一度距離を置いて立て直すつもりだろう。

 

「クソッ!攻撃が全然通じねぇ」

 

「もう終わりかしら?今度は私から行っても?」

 

 来るッ!!ルフィがそう身構えた瞬間、ルフィはスマラを見失った。

 と、後ろからもの凄い衝撃がルフィを襲う。吹き飛ばされながら痛む頭を抱えたルフィは、ようやく何が起こったのか理解した。

 一瞬のうちに自分の後ろを取ったスマラに後頭部を蹴られたのだ。普通なら効かないはずの只の蹴り。しかし、その効果は。

 

「あぁぁぁぁ!!!痛ぇぇぇぇ!!はぁ、はぁ」

 

「…………」

 

「じいちゃんと一緒だ。痛ぇ」

 

 呟きながらも、ルフィは油断なくスマラを見る。

 今度は逃がさない。そんな決意を嘲笑うかのようにスマラが消えた。

 消える程素早い敵は初めてではない。杓死と呼ばれる、使った者ですら制御できないスピードで攻撃してくる敵を思い出す。

 あの時は確か音が頼りなはず。ルフィは集中して音を聞き分ける。

 

 風  砂の舞う音  仲間たちの息遣い

 

 何も聞こえない。足音一つすらない。

 こんな事有り得ない。そう思える。

 が、世界には空中を歩ける者がいる。月歩という空気を蹴る事で空中浮遊を可能とした超人の技。

 スマラがドラムで山を登るときに使った技だ。

 スマラは高速移動しながら常に空中を移動していた。なので、足元の砂の動きを見られずに済む。更に自分が放つ音量を無くす事息遣いも聞こえなくする。

 徹底している。それだけ本気ということだ。全ては報酬の為に。

 

 幾ら体力がある方のスマラでも、無尽蔵にあるわけではない。何十秒もルフィを待つ必要などない。

 一瞬でルフィの前に姿を現す。

 

「そこかッ!!!」

 

 ルフィは一瞬を逃さずにスマラに向けて腕を伸ばす。が、空振り。

 スマラはルフィが攻撃を出すと同時に、再び消える。次に現れたのは攻撃したことによる無防備な背後。

 一撃離脱、それがスマラが得意な戦法だが、何もそれ以外にも攻撃方法は存在している。そして、一撃離脱よりも簡単な方法だ。

 

「捕まったわ。動いてもいいけど、私に貴方の攻撃は効かない。終わりね」

 

 スマラにとって敵に触れる、ということは最終宣告と同じ事だ。これは別な能力者にも言えることだが、悪魔の実は己に何かしらの影響を与える。

 

 ゴムゴムの実なら自身をゴム人間に、ヒトヒトの実なら人に、モクモクの実なら煙にと変えてしまう。

 ならばスマラが食べた悪魔の実は?スマラ自身の身体のあらゆる物質量を変化させてしまう。体が感じる熱量、細胞の量、神経を伝ってくる電気信号の量。

 中には己ではなく外に能力を出す悪魔の実もある。概念を発して周りに影響を及ぼす能力。ノロノロの実、コブコブの実などがそうだ。

 スマラの悪魔は己に影響を与えるだけでなく、周囲にも力が働いた。触れたモノに対して。スマラがことごとく攻撃を反射しているのもこういう事だからだ。

 

 触れたモノに対して影響を及ぼせる。

 

 そう、今スマラはルフィに触れている。ルフィの体に悪魔の実の影響を反映させることができるというわけだ。

 先ず手始めに、

 

「あれ、力が抜けていく」

 

「今、貴方の体力を奪ったわ。もう暴れる体力は無いでしょう。私の勝ちよ」

 

 今まで何度も強敵と戦い、勝ち抜いてきた東の海最強の海賊は、相手に本気を出させる事なく敗北した。

 しかし、完全に意識を奪うほどスマラは非情では無かったみたいだ。これまでスマラを襲った者は全て意識は奪われている。

 

「ルフィに勝っちゃった………」

 

「ここまでの実力差があるとはな………」

 

「あいつの本気を出させねぇと、この先やって行けれないって事だろ。目標が見えてラッキーだ」

 

「やべー!!やっぱりあいつやべー!!味方で良かったぁぁ!!!」

 

 スマラの完全勝利に見ていた一同の反応はそれぞれだ。何となく頭では分かっていたものの、現実を見て啞然としている者。実力差に目を見開く者。目標が見えて意気込んでいる者。ただ、単純に自分の船長よりも強くて怖がっている者。

 そんな中ビビは、

 

「……スマラさん。私は……………」

 

「一旦冷静になりましょう。二人とも正しい判断が出来てなかったみたいね。もっとも、そっちは物語の核を付いているみたいだけれどね。貴女が熱くなってちゃダメでしょうに」

 

「ま、まさか!?」

 

「私が考え無しに戦闘を行う?自分に利益がないのに?まぁ、依頼主である貴女を守る役目もあったのだけどね。さぁ、話し合いでもしてきたら?時間がないのでしょう?」

 

 スマラと他人は全て利害関係でしかない。自分に利害がないのにルフィと戦闘をしていた。なんてことは無く、一旦スマラが間に入る事で両方に冷静さを取り戻して貰うのが目的だったみたいだ。

 これが意味のあった行動なのかは誰にも分からない。スマラは意味があった、と思うことにした。でなければ自分が動いた意味が無くなるから。

 

 スマラに体力を弄られたので、へとへとになって動けないでいるルフィの元に皆が集まり、スマラの言う通り話し合いをした。

 その間、スマラはボーっと空を眺めた。勿論、辺りの警戒は解いていない。

 スマラが話し合いに加わらないのは、興味がないからだ。彼らがどの様に動こうと、スマラにはどうでもいい。ただ、依頼のことがあるので、ビビの近くにいればいいだけの話。アラバスタ王国がどうなろうが、スマラには関係ない。ビビの護衛を行っていればいいのだ。バロックワークスの企みは麦わら一味の管轄だ。スマラはめんどくさいことはしない。

 アラバスタ王国が乗っ取られたら?その時はその時だ。依頼が完遂したら報酬は受け取る。ビビの許可を経て堂々と王宮に向かえばいいだけの事。そこが敵陣地であってもだ。

 

 

 お空が青いな~。なんて久しぶりにボーっと眺めていると、方針が決まったみたいだ。

 クロコダイルを直接叩く為にレインベースと言うオアシスに向かう。スマラは特に異論はない。こちら側が少人数なら敵のトップを叩くのはよくある戦法だもの。

 

 

 

 ナノハナで買った水や食料を、ユバに向かう途中で鳥に盗まれた為、殆ど飲まず食わずで歩き続ける。

 今この一行の生命線は、ユバの出発前に湧き出たらしい小さい樽一つ分の水のみ。だがルフィは頑なに使うことを拒否した。その為水は手に入っていないのと同じだ。

 幸いにして何日も掛かる様な距離では無く、日が沈みまた登った頃には、レインベースが視界内に見えてくる。

 

 今回もナノハナの時と同じで、適当な場所に腰を下ろして買い出しをルフィとウソップに任せて休憩だ。

 意味のない話では盛り上がる一方でスマラは一人疲れてた。なぜかと言うと……

 

「スマラさん、顔色が悪いですけど、大丈夫ですか?」

 

「………問題ないわ。ちょっと何も口にしていないだけよ」

 

「それって、ちょっとどころの話じゃないわよね?」

 

「私たちにも水を度々分けてくれているけど、当の本人が全く口にしないのはおかしいわ」

 

 サンジが心配して声をかけるが、スマラは問題ないの一点張り。しかし、どこからどう見たって顔色が悪い。当然だ、スマラはこの島に入ってから一口も食料や水を口にしていないのだから。

 

 何故そうなったのか?スマラはリュックサックに食料と飲み水を入れているはず。だが、それはあくまでも非常用を少し多くした分量だけだ。

 ドラム王国を出港してからの食糧難。アラバスタ王国についてからの砂漠越え、からの鳥に荷物を奪われる。立ち寄った街も枯れており補給できたのは樽一杯分のみ。

 

 流石に限界だった。幾らか身体の構造を少しばかり弄れると言っても限度がある。そして、その限度が訪れてようとしていた。

 ビビの依頼の為に、読書を控えなければならないのも関係しているかも知れない。が、そこは置いておこう。

 今はスマラの身が大切なのだ。自分達の不注意で無くなった物資を分けてもらったがために、スマラが栄養失調で倒れるのは可笑しい。そしてほっとけない。

 

「いい!!ルフィとウソップが帰って来たらあんたが真っ先に水と食べ物を食べなさい!」

 

「スマラさん、今は皆もいるから楽にしていていいのよ」

 

「そうそう。ビビちゃんとナミさんは俺が守るから」

 

 そんなことを言われて簡単に引き下がるスマラではない。が、三人の勢いに押されてスマラは座らされてしまう。

 せめてもの意地で、見聞色の覇気を使った辺りの警戒だけは解かない。これも報酬の為なのだ。

 

 

 と、早速反応が出た。このパターンは、

 

「わあああぁぁぁぁ!!!!」

 

「ゲッ!?あいつらまた海軍に追われているぞ!!」

 

 ルフィとウソップがいつぞやの時と同じように、海軍を引き連れてこちらには逃げてくる。あいつは撒いてから合流するという考えがないのかしら?とスマラは腰を上げた。

 今の状態だと、エースやクロコダイルといったレベルの相手は難しいかもしれないが、支部レベルの海軍なら問題なく対処できるはず。もっとも、ビビの護衛に徹していればいいだけなのだから、もっと簡単だ。万全の状態で無くてもいい。

 

 海軍に追われているなら、このまま三方向に散り、クロコダイルの居る建物を目指す事になった。麦わら一味で力のあるルフィ、ゾロ、サンジと別れる。ビビはゾロと同じ方向に逃げたので、スマラも後を追いかける。

 ビビの場合は海軍に捕まっても保護されるだけだと思うが、この街はバロックワークスの本拠地だ。いつどこで狙われるか分からない。

 その為に体に鞭を打ってビビを追いかける。幸いにして、スマラは素の能力が高い。ビビの後を追いかけるのは容易だった。

 

「これじゃキリがねぇな。お前ら、先に行ってろ。あの大佐が居ないのなら問題はねえ」

 

「え?ちょっと!?」

 

「分かったわ。さ、行きましょう王女様」

 

 ゾロがビビを逃がすために立ち止まる。スマラはゾロに任せ、さっさとこの場から逃げるためにビビの背中を押した。お優しい王女様。ビビはゾロの心配をする。

 

「大丈夫かしら?Mr.ブシドー………」

 

「彼なら問題ないでしょうね。それよりも走って。ここは敵の本拠地で貴女は最優先で狙われる人よ」

 

「……!!そうね。スマラさんも体調に気を付けて」

 

 更に無理を打っている為か、ますます顔色が悪くなっているスマラ。お互いに気を付けながら、街の中心部を目指して走って行く。

 

 




 書いている内は長く感じるけど、プレビュー見ると短いなぁ。初期の頃と比べたら長くなったんだけど……。もうちょっと長くする?でもそうすると投稿期間が長くなる。どっちがいいのだろうか?
 今回の話で、スマラの能力について書いていますが。まだ出せてない設定がありありです。ルフィの体力を奪ったのも、一応説明できるようには考えていますのでご承知ください。だいぶ先出ないと明かせない。明かすタイミングが分かんなや。
 次回、これってハンデ戦?


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337 十九頁「ハンデ戦と言ったところかしら?」

 た、大変長らくお待たせいたしました。四章始まる前に間に合って良かった!!


「随分と暴れてくれたみたいだな。王女様にその護衛役さんよ」

 

 レインベースの一角。辺りにはスマラとビビが倒したバロックワークスの社員等で溢れている。

 

 ゾロと別れたスマラとビビは海軍は何とか撒けたものの、敵の本拠地故にゴ〇ブリのようにはい出てくるバロックワークスの社員に見つかってしまう。何とか応戦したもの、スマラは全力が出せないで、ビビは数の多さに追い詰められてしまっていた。

 

「仕方がないかしら?」

 

「あぁ!?ふらふらで倒れそうじゃねぇか。無理すんなって」

 

 このままでは依頼を達成する事が出来なくなる。そう思ったスマラはフラフラな体に鞭を打つ。

 そんなスマラに、バロックワークスの社員は笑った。こんな状況で何ができる?

 

 フラフラで万全ではない状態。常人にはどうすることも出来ない。が、スマラは悪魔の実の能力者だ。やりようによってはこんな状況を覆す事も難しくない。

 

 スマラは能力の執行を行おうとして……。

 

「ギャア!!?」

 

「な、何だあの鳥は!?」

 

 空からの援軍が現れた。それは大きな鳥だった。

 大きな鳥は、背負っているガトリングで敵に牽制。数名を戦闘不能にすると、こちらに突っ込んでくる。

 

「しまった!!王女を!!」

 

 鳥はビビとスマラを拾い、三階建ての建物の上に避難させた。そして明かすその正体。

 鳥はみるみるうちに縮んでいき、人間の姿に。ここまで来ればその正体はスマラでも分かった。悪魔の実の能力者だ。形状から、トリトリの実モデル隼と言ったところだろう。アラバスタ王国最強の戦士であうる。

 

 ビビにペルと呼ばれた男は、再び隼に変身すると瞬く間にバロックワークスの社員を倒していった。

 その速度は、素の状態のスマラですら追うことが難しい。

 

「見た感じ、仲間かしら?」

 

「えぇ、彼が来てくれたならもう大丈夫。早く、皆の所に行かないと…」

 

 ビビが言いかけたその時、スマラがビビを背中に庇った。

 目線の先には………

 

「あら?貴女は関わらないと思っていたはずだけど?」

 

「ミス・オールサンデー!!」

 

 バロックワークス副社長、ミス・オールサンデーだった。スマラはビビを庇いながら、オールサンデーとの会話を聞く。

 他の人メンバーが集まっている場所に、ビビを招待したいとのこと。計算外だったのはスマラがビビの護衛に付いていると言う事。

 スマラはミス・オールサンデーにこれからどうするのか?と問う。

 

「それで?どうするのかしら?私としては面倒だから貴女とは争いたくないのだけれど?」

 

「私も同じ意見よ。そうね………王女には危害を加えないわ。ただし、私についてきて貰うっていうのはどう?」

 

「そんなこと!!」

 

「危害を加えないなら問題ないわ」

 

 ビビがオールサンデーの物言いに言い返そうとするが、スマラが遮ってしまう。

 ビビは驚愕した表情でスマラを見た。スマラの反応が意外だったのだろう。

 そして、ビビよりも短気な者がもう一人。スマラの事を良く知らない戦士だ。

 

「貴様!!ビビ様の仲間だと思っていれば!!」

 

「『悪魔の子』貴女が何とかしなさい」

 

 ペルはスマラがビビをあっさりと敵に売った奴だと思い、鳥の姿になってこちらに飛んでくる。狙いはスマラだ。鋭いかぎ爪でスマラを倒そうと思っているのだろう。

 対してスマラは冷静だ。自分の行いが裏切りに見えてもおかしくないことくらい、当然理解していた。

 

 スマラは誘いに乗るのだから貴女が対処しなさい。と、ミス・オールサンデーに命令する。

 ミス・オールサンデーはスマラの命令など聞く必要はない。ないのだが、スマラと戦わずしてビビをクロコダイルの前に連れて行く事ができるのだ。それくらいの対応など安いものだ。

 

「『三輪咲き』」

 

「!!?」

 

 ミス・オールサンデーが手をクロスして構えると、ペルの胴体に手が生えた。生えた手は羽と刀を抑えて身体の制御を奪う。自由を奪われたペルはスマラ達の居る建物の屋上に落下。

 が、この程度で倒れる程アラバスタ最強の戦士は柔ではない。

 

「冷静になったかしら?」

 

「敵に寝返った貴様に言われる筋合いはない!」

 

 スマラが優しく話しかけるが、ペルは相手にしない。

 スマラは仕方なく相手を変えた。

 

「ビビ王女、私は別に貴女を裏切った訳ではなくてよ?」

 

「えっ!?じゃあどうしてあいつの誘いに……」

 

「貴女はクロコダイルの下に行ったメンバーと合流したい。違くて?」

 

「そうだけど……」

 

「なら、誘いに乗った方が安全では?忘れているかもしれないけど、私は万全ではないのよ。リスクは出来るだけ減らすべき。違う?」

 

 こんな所で残り少ない体力を使うべきではない。戦う必要がないのなら、自分は手を出さない。

 自分の体調を考えた結論が、ミス・オールサンデーの招待に預かることだった。

 

「そ、それは……」

 

「何を言っている!!まだ私がここにいる!!」

 

 納得仕掛けるビビに、待ったをかけたのやはりペルだった。元の元凶を倒せば問題ない!!とばかりにミス・オールサンデーに向かって動いた。悪魔の実が無くても一般兵よりも力のある戦士。素早い動きだ。

 だが、相手が悪かった。ただの人ならそれで問題なく対処できたであろうが、悪魔の実の能力者だとこうも上手くいかない。

 ペルは己と地面に咲いた手に掴まれて、身動きが出来なくなってしまう。

 

「速さ、力、そんなモノ私には意味が無いものよ」

 

 「クラッチ」とペルに生えた手を使って、ミス・オールサンデーは関節技を決めてしまう。

 身体を普通とは逆方向に曲げられて無事でいられる人間など、普通ではない。如何に悪魔の実の能力者と言えど、余程特殊な能力でないと人体の構造を変えることは不可能だ。

 背骨を折られたことによるダメージで、ペルはダウンしてしまう。これにより、ミス・オールサンデーの行く手を阻むものは存在しなくなった。

 

「案外、王国最強の戦士も大したことないのね」

 

「ペル!!そんな……!?」

 

 国での最強である助っ人があっけなく敗れ去った事に、ビビは悲鳴を上げる。

 そんなビビにスマラは何を思ったのか、安心するように声をかけた。

 

「大丈夫よ。息はあるわ」

 

「そんな問題じゃ!!……それなら貴女があいつを倒せば良かったんじゃない!!」

 

「私の依頼は貴女の身の安全だけ。貴女以外がどうなろうと知ったことではないわ。それに………、意見を言いたかったのなら、まず私の体調を回復させることに行動を起こすべきだったわね」

 

 ビビの選択のせいだと言いたげな様子のスマラ。さもありなん、という態度を取った。

 ビビが真っ先にスマラの回復を優先させるれば自分が何とかしていた。そうも言える態度。

 自分が「まだ大丈夫だ」と言っていたのにも関わらずだ。少々、虫が良すぎるのではないだろうか?この娘さんは。

 

 明らかな矛盾。ビビは指摘しようにも出来なかった。

 と、いうのも。

 

「さぁ、行きましょうか?社長と貴女のお仲間が待っているわ」

 

「それについてはビビ王女の決定次第ね。それよりも、何か食べ物と水を分けてくれないかしら?」

 

「折角弱体化している強敵を復活させるとでも?」

 

「ま、そうなるわよね。良いわ、問題あると言えばあるのだけれど、問題ないと言えばないのだから。落ちぶれた海賊くらい、ハンデがあっても相手取ることは可能と見せてあげるわ」

 

 栄養失調で思わぬ弱体化してしまっているスマラ。それでも彼女は余裕そうだった。

 ミス・オールサンデーはその言葉を聞くと、「いつまでその余裕が持つかしら?」と言い、スマラとビビを先導し始めた。

 しかし、ミス・オールサンデーの内は焦っていた。通常時では自分など手も足も出ない程の強さを誇る彼女が、ビビを狙った自分を真っ先に始末しないのだ。しないならしないで生き残れるのだが、弱体化しているはずのスマラはまだ奥の手がある様子。つまり、始末しようとすれば、出来る状態なのだ。

 

 軽々しく見てられない。ミス・オールサンデーは億越えを軽く討伐する賞金稼ぎの存在に、軽く恐怖を抱いてしまった。

 

 

 

 ミス・オールサンデーはカジノの裏口からビビとスマラを建物の中に案内し、廊下の角をいくつか曲がる。やがて地下に潜る階段を抜け、大きな扉を潜ると。

 

「クロコダイル!!」

 

 今回の事件の黒幕が居た。

 ビビとクロコダイルは対話する。が、クロコダイルの言葉にビビが怒る。

 椅子に座って食事をしているクロコダイルに向かって、ビビは階段駆け降りる。胸の部分からアクセサリーの様な刃物を取り出し、糸で伸ばし回転させると、クロコダイルに向かって放つ。

 普通なら少し切れるだけの攻撃。だが、直撃を受けたクロコダイルの顔面は、

 

 弾け飛んだ。

 

 いや、頭部がザクロのように弾けたわけではない。人肉が抉れるわけでもなく、血が滴るわけでもない。

 砂の像を破壊するかのように弾けた。

 

 いや、『砂』なのだ。

 サラサラと姿全体が掻き消える。そして再び、ビビを後ろから組み伏せるようにして砂で形成されるその身体。

 クロコダイルはスナスナの実を食べた砂人間なのだ。

 

「この国の人間なら誰もが知っているぞ?このおれのスナスナの実の能力くらい? ミイラになるか?」

 

 再び砂で形成されたクロコダイルの身体は、ビビの口を後ろから塞ぎ、もう片方の義手を使って自由を奪う。

 初めて知るクロコダイルの能力に、檻の中に居たウソップが悲鳴を上げる。ルフィは自分の仲間に手を上げた事に怒る。

 

 

 そして、こうなる事が分かっていた者は……。

 

「その、物騒な手を放しなさい。サー・クロコダイル」

 

 ドアの奥から現れたのは、スマラだ。目は油断なくクロコダイルに向けている。

 

「やっぱり。スマラがビビから離れるわけなかったのよ。そのままそいつをぶっ飛ばしなさい!!スマラ!!」

 

「よし!ビビを助けろ!!そして、俺の相手だからまず俺を出せ!!」

 

 救世主の登場とは、正にこのことだろうか。スナスナの実と言う物理攻撃力が効かないクロコダイルに対して、絶望を抱いていた所に、考えられる限りの最高戦力。

 ゴム人間ですらダメージを与えられるスマラに、ナミはそのままクロコダイルを倒せると希望を抱く。

 一方でルフィは、スマラはビビの安全確保だけで良いと言う。クロコダイルは自分が倒せないと気が済まないのだろう。

 

「『可憐なる賞金稼ぎ』か。俺に何の用だ?」

 

「手を離せって言っているのよ?聞こえなかったのかしら?その年でもう耳が逝かれたのかしら?」

 

「テメェ……!!ふざけやがって」

 

 スマラの言葉に、怒りを覚えるがクロコダイルは冷静だ。ほらよ、とクロコダイルはビビを離した。ビビはそのまま落下し、椅子に叩き落される。

 流石のクロコダイルも、スマラの相手を正面からするのは良しとしない。

 

 スマラとクロコダイルは両者油断なく構える。

 軍配は両者引き分け。スマラは栄養失調で弱体化。クロコダイルはスマラを単騎で仕留めれる程の実力は持ち合わせていない。

 

 故に、この戦い。どちらに転ぶかわからない。

 

 

 

 もっとも、スマラにその気が有ればの話だが。

 

「これが怪我認定されるか分からないのだけれど………。とにかく、ビビ王女にもう危害は加えない?おーけー?」

 

「………だろうと思ったよ。貴様が動くのは、俺と同じで利害が発生するときのみ。ここでミイラにしても良いのだが、そちらにはその気はないと」

 

「契約内容はビビ王女の護衛。サー・クロコダイルの討伐や国の反乱阻止ではないわ」

 

 

 スマラはこの場に居る全員に釘をさすと、その場に倒れた。意識は失っていない。

 限界だったのだろう。スマラには、余裕を持ってクロコダイルと対峙出来る力は残されていない。

 しかし、目だけはクロコダイルを捉えている。ビビに何かあれば、意地でも動いて助けるだろう。

 そう、王宮図書室(報酬)の為に!!

 

 

 

「だそうだ。ビビ王女に麦わら一味」

 

 スマラが特定の条件下以外では戦う気はない。クロコダイルにそう伝えて倒れると、彼は嗤った。絶望にひれ伏す顔が見たかったのだろう。

 スマラの事は一先放置だ。問題ないと判断したのだろう。

 

 そんなクロコダイルに

 

「何言ってんだお前?お前は俺がぶっ飛ばすから、スマラは関係ないだろ」

 

 とルフィ。鼻をほじりならが楽観的に答えた。他のメンバーも大して大きな絶望は抱いていない。

 もとよりスマラは戦闘には参加しない、と言っていた。スマラがクロコダイルを倒してくれるなら、ここまで全員で攻め込む必要もないから。

 スマラが倒れた事で多少取り乱してはいるが、完全に動けなくなったわけでない。命の危険だけはないので後回し。

 倒れたと言っても、仰向けやうつ伏せではなく、ペタンと座り込む形だからだ。

 

 

 と、ミス・オールサンデーが「そろそろ時間よ」とボスに伝える。

 クロコダイルは自分の作戦を語った。これでこの国は終わりだと言った。民の手が国を。国を思う気持ちが国を滅ぼす。自分が手を下す事無く国を手に入れる。

 人の気持ちを誘導させて国を滅ぼす計画がそこにあった。

 

 

 

 

 

 ビビはそれでも諦めない。手を拘束されても、這いつくばってでも反乱を阻止しようと動く。

 それを面白がっているのはクロコダイルただ一人。彼は「国王に質問がある」とビビの不安を掻き立てる言葉を呟く。そして、ルフィたちが閉じ込められている檻の鍵を捨てた。

 捨てられた鍵はアラバスタ王国でも獰猛な動物、バナナワニのお腹の中に入っていく。取り出す事は困難極まりない。

 それだけでも絶望だというのに、追い打ちをかけるクロコダイル。長らくアジトに使っていたこの部屋も用済みとばかりに、沈むのだという。能力者でなくても窒息死してしまう。

 

 嗤うクロコダイル。

 彼の指示でバナナワニが一頭、水中から登ってくる。ビビを餌だと認識したのだろう。

 ビビは数十頭いるバナナワニを倒さなければならない。そうしないと、檻の中に閉じ込められている皆を助けられない。

 

 戦闘態勢に入るビビ。バナナワニが吠えた。

 一噛みで石の階段をえぐり取る。人間など丸吞みだ。

 何とか回避に成功したビビにバナナワニが迫る。

 

「ビビ!!」

 

 誰かが悲鳴を上げた。

 

 がしかし、

 

 

「全く、食事中くらい静かにしてもらいたかったわ」

 

 間一髪。スマラがビビを助けた。

 フラフラで倒れそうな体調ではない。しっかりと両足で地面に立ち、顔色も元の状態に戻ったスマラがそこにいた。

 

「「「スマラ!!!」」」

 

 




 今回も短い。もっともペース早めねば!!

 スマラのガチ戦闘は最終章以外ないです。多分。
 次回辺りで終盤戦に。二、三話でアラバスタ終わらせたいなぁ。全てはスマラの行動次第!!

 次回は最も早くお届けしたと思っております。が、四章あるからなぁ。後、日曜日にイリヤ見に行く。やっふぅ~~!!!魔法少女だぁ!!!(現実ではロリコンと呼ばれている。いや、ガチで)


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339 二十頁「奮闘」

どうも、一週間以内に投稿間に合いませんでした。今度は守りたいです。


 ビビの危機を救ったのはスマラだった。顔色も良く、しっかりと地面を踏んでいる。

 この場に居る全員が「ビビが助かった!!」初めはそう思っていたが、次第に次の疑問点へとシフトする。

 

 何故スマラは全快しているのか?

 

 答えは簡単だった。今は亡きテーブルを見れば分かる。

 クロコダイルが用意していた食事。元々は自分で食べるつもりだったのだろうが、スマラが目を付けた時はまだ残っていた。

 クロコダイルはもう食べるつもりがないのか、ひたすらに麦わらの一味に向かって、自分の計画を語り続けるのを確認すると、スマラは決心を決める。

 他人が残した食べ物を食べるのは、いささか気が進まなかったが、ここで食べなかったら今度は何時ありつけるかわからない。背に腹は代えられない、とこっそりと口に運んだ。

 

 量でいえば、一食分だろう。栄養失調の者には足りないようにも思えたが、元々スマラは食が細いのが幸いした。

 一食分あれば十分だ。スマラは能力を使い、身体に入れる事で得られる栄養の量を増やす。

 無であれば増やすことは不可能だが、一でも有ればある程増やすことができる。

 

 というわけで、スマラは一食分の食事で、見事全快レベルの栄養を取る事が出きたのだ。

 これで動ける。

 スマラは早速契約通りにビビの危機を救った。

 

 

「それで?ビビ王女はどうしたいのかしら?」

「どうしたいって……ッ!!!そんなの、ここであいつを叩くのよ!!」

 

 このチャンスを逃してやるものか!!ビビはそう思った。

 が、ビビは一つ忘れている。重要なことだ。それは、

 

「どうやって?私は手伝わないわよ」

 

 こんな状況でもビビの意見を聞かない。飽くまでも護衛任務。ビビに命の危険がないので、手を貸そうともしない。

 それに、今はもっと違う事が優先だ。

 

「そこの檻を開けたいのではなくて?」

「それは……任せてもいいの?」

「まぁ、そうでもしないと、貴女はワニに立ち向かうのでしょう?だったら、初めから私がやった方が良いわ」

 

 助ける目的ではなく、ビビを危険から遠ざける為。理由はどうあれ、今のビビにとっては有り難いことだった。

 ビビはスマラにバナナワニを任せた。そして、自分は……。

 

 

 ビビに任されたスマラは、バナナワニに向き合う。

 大きな巨体。長身なスマラでも、丸吞みにされてしまいそうだ。ゴツゴツした強靭そうな鱗で身を覆われており、並みの攻撃なら通さないだろう。

 

 並みの攻撃なら。

 

「あなたには恨みはないのだけど………。邪魔をするなら殺すわ。大人しくするなら何もしないわ」

 

 スマラは少しの殺気をバナナワニに向ける。これで怯えて帰ってくれるなら、自分も面倒な戦闘を行わなくてもいい。

 そんな淡い期待は、

 

「グルルルル!!!」

「そう、野生の本能が鈍っているのね。平和な生簀の中に買われていたせいよ」

 

 スマラを丸吞みにしてくる行為で消え去った。

 

 スマラは難なく回避すると、バナナワニの側面に蹴りを一発ぶち込む。勿論武装色の覇気付きで。

 アラバスタ王国でも獰猛と呼ばれるバナナワニも、偉大なる航路後半でも上位の攻撃には耐えられない。

 一発でノックアウトさせる。が、ほっと一安心するのはまだ早い。

 水槽から列をなして並んでいるバナナワニが、まだ数十匹で残っているからだ。

 

「はぁ。面倒くさいったらありゃしないわ」

 

 一体倒しただけなのに愚痴をこぼす。ワンパンキルできるが、数が多いのがネックなのだ。

 しかも、時間がない。まだ大丈夫だが、水は着々と増え続けている。このままでは溺れてしまう。

 檻を壊そうにも、海楼石と呼ばれる能力者にとって天敵とも言える石で作られていて、スマラでは壊せない。正攻法しか攻略法がない。

 

 バナナワニも、一匹登って来てもダメだと判断したか、一気に複数体が出てくる。

 多方向から襲いかかってくるバナナワニ。スマラは見聞色で行動を読み、回避からの攻撃を与えてノックアウトさせていく。

 

 時間だけが問題だ。

 スマラは次々と襲いかかってくるバナナワニを沈めていく。

 

 

 と、一匹のバナナワニがスマラの視界外で動いた。

 狙いは………

 

「誰が私を無視して良いって言ったのかしら!!?」

 

 壊れた階段を登って部屋を脱出しようとしていたビビだった。

 間一髪、スマラは直前で狙いに気付き、ビビの前に立ちふさがりバナナワニの攻撃を正面から防いだ。

 

「頼んでおいて、一人で逃げようとしたのかしら?」

 

 こっちはワニの殲滅に忙しいのだから、余計な行動は控えなさい!!そんな意味を込めてビビに問い詰める。

 ビビはそんなことしない!!と声をあげてスマラに自分の行動の意味を説明した。

 

「ここが水で一杯になるまで、まだ時間があるわ!!外に助けに行くのよ!!」

「外に助け?………そういえば、見えない顔が二人程いるわね」

 

 スマラがバナナワニと戦闘している間、電伝虫が鳴ったらしい。相手はMr.プリンス。

 クロコダイルやミス・オールサンデーは正体を知らないが、声をしっている麦わらの一味とリトルガーデンでの一幕を知っているスマラは正体に気付く。サンジだ。

 声だけではピストルでやられているらしいが、そんな事でやられる訳がないと判断。

 幾らスマラが一人で無双できようと、時間には勝てない。人手が必要だと考えたビビは応援を呼びに行くと決めたというわけだ。

 

 確かに応援は嬉しい。時間が必要な今、少しでも早く欲しいものだ。

 水が着々と増え続ける今、足元は水が張りスマラは力を失っていく。

 

 ビビの行動は嬉しい。嬉しいが……。

 

「かと言って、護衛対象を一人で行かせる訳には行かないのよ」

 

 行動するなら自分がついて行かないといけない。せめて一言欲しかった。

 

 さらに……………

 

「っ!!」

 

 ガキーン!!

 

「ちっ!!」

「誰が手を出しても良いと言ったのかしら?私には関わらない約束ではなくて?」

 

 ビビが助けを呼ぶ事を良いと思わないクロコダイルが隙を見て攻撃を仕掛けてきた。

 砂であろうがスマラは関係ない。阻止は簡単に成功するが、クロコダイルと対峙することになったスマラは不機嫌だ。

 

「そっちが先に関わって来たんじゃねぇか。今からでも遅くねぇ。 俺と契約を結び直さねぇか?」

「………ッ!!!??」

 

 クロコダイルの言葉にビビが反応する。

 クロコダイルはスマラを買収するつもりだ。クロコダイルにとって一番のイレギュラーであり、立ちはだかるなら最も困難な障害がスマラだと考える。

 

 麦わらのルフィとか言う、偉大なる海に入って来たばかりのルーキー程度どうとでもなる。ここで終わりだった筈だ。

 だが、スマラがビビ王女の護衛に付いているなら話は別だ。現に今、ビビ王女の護衛目的でバナナワニを蹴散らしている。そして、計画が狂ってしまったことに我を失い手を出してしまう。

 クロコダイルは冷静に戻った。起こってしまった事は仕方がない。ならば次にどう動くか?が大切になる。

 そして、考えた結果がスマラの買収だ。考えてみればわかる。スマラとこの国の関係は、ただの利害の一致で成り立っているのだ。そこを突けば動かせる。

 

 クロコダイルはスマラに問いただす。俺と契約しろと。

 

「テメェの目的は知れねぇが、この計画が終わったら俺が用意してやろうじゃねぇか。金か?地位って訳でもなさそうだな。信頼ってタマでもないよなぁ?」

「……………」

 

 クロコダイルが条件を絞り込んで行く。スマラはそんなクロコダイルを黙って見ていた。

 

「俺に着けば、こんな面倒なことなんざする必要はねぇ。俺からテメェに要求のはただ一つ、『何もするな』それだけだ」

 

 手を出さなかったら報酬として好きな物をやる。それがクロコダイルの要求だった。

 

「……そうね」

 

 初めてスマラが反応した。

 ビビは不安だった。スマラとビビの関係も利害の一致であり、スマラは報酬次第では向こう側に着くかも知れない。

 麦わら一味ならバロックワークスから国を救ってくれると信じている。が、スマラがいなければ自分は今までどうなっていたのか分からない。

 

 怖い。ここで裏切られる事に。

 スマラの目的は王宮の図書室のみ。持ち主が誰であろうと関係ないはずだ。

 だったら反乱が止まって元通りネフェルタリ家が王宮に居ようが、反乱が成功してクロコダイルが居ようが関係ない。

 元々、スマラ程の実力があるなら、一人で王宮に行き侵入して読書に浸れる。そうしないのは、スマラが王族に少なからずの敬意を抱いているからだ。

 本屋でも立ち読みは断じてしない。気になったなら買えばいいだけの話。どうしても欲しい本があるならば持ち主に交渉する。

 

 だから、この状況でスマラがどちらの手を取るか分からない。

 ビビもクロコダイルも、檻の中にいるルフィもナミもウソップも、スモーカーも、ミス・オールサンデーも。

 この場にいる全員がスマラに注目する。

 裏切って欲しくない。仲間になるんだろ。一緒に旅してきたなかでしょ。こんな奴が敵に回って溜まるか。こいつさえいなければ。どう動くの。奴らとこいつらの関係はなんだ。

 それぞれの思いが交差する中、スマラは答えた。

 

 

 

 めんどくさいと思った。

 これもまだ見ぬ本の為だと我慢した。

 昔から我慢は得意だ。

 生きてから我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して、

 我慢して生きていた。

 力を得てから、我慢の限界だった。だから逃げ出した。

 逃げ出してからは己の欲望のままに生きた。

 初めは出来心だった。何となく気になったから。大した意味はない。

 あるとすれば、報酬に目がくらんだからだと思う。

 後先考えずに行動した結果、依頼は成功して報酬を得た。

 それが始まり。

 噂を聞いたのだろうか?ちらほら人が現れるようになった。

 中には、仕事だけさせて利益だけを奪い取ろうとした愚か者も居た。そんな愚か者には契約違反の鉄槌を下した。

 プライドは特にないと思っていた。

 が、何時しか依頼を達成することが微かなプライドになっていた。

 一度承った依頼は完遂する。

 そう言ったプライドが、微かにあった。

 なぜなら自分は…………………………。

 

 

 

 だから答えは見えている。

 

「確かに貴方の提案は魅力的だわ」

 

 開口一番。スマラの言葉にクロコダイルは口元を上げた。

 しかし、次の一言で崩れ去る。

 

「でも、一度受けた依頼を破棄する事はしないわ。約束はキチンと守る。当然でしょ?」

「スマラさん!!」

「スマラ!!」

「よしスマラ!!早く鍵を見つけてくれ!!」

 

「くっ!! ………ならいいさ。ビビ王女を諦めるしかねぇ話だ。俺と敵対する気はねぇならそれでいいさ」

 

 目論見が外れたクロコダイルは、さっさと撤退する事を選ぶ。この場さえ凌げれば、後は水が全てを終わらせてくれる。それで己を倒すと意気込んでいる者は息絶える。

 クロコダイルは当初の予定通り、店前で捕まえたと言うMr.プリンスを拝見する為、扉の向こうへ消えて行った。

 

 

「スマラさんこれからどうすれば………」

「今、この部屋から逃げ出すのは下作よ。私はこのワニの処理に少し時間がかかるだろうし、クロコダイルが許さない。………そうね。私が合図を飛ばしたら店内に行きなさい」

「え?店内に?」

 

 スマラはそれだけ言うと、バナナワニの処理にかかった。一体何匹ものバナナワニを飼っていたのだろうか?着実に少なくなってきているが、まだ時間はかかる。

 バナナワニをこれまで通りに倒していく。ビビを狙った個体も、きっちと仕留める。

 

 と、見聞色の覇気が外の状況を察知した。

 今だ。待ち望んでいた条件は達成られたのだ。

 スマラはビビに合図を送る。

 

「今よ!!行くなら急ぎなさい。多分、向こうから見つけてくれるわ」

「………?とりあえず、分かったわ。皆!!もう少しだけ我慢して!!必ず戻って来るから!!私は絶対に皆を見捨てたりなんかしない!!」

「……おう!!頼んだぞ、ビビ!!!」

 

 ビビは走り去っていく。その後ろをバナナワニが追いかけようとするが、スマラがそれを許さない。

 

「ふぅー。大変ね。幾ら誤魔化したと言えど、一食分のエネルギー。そろそろ終わらせたいわね……」

 

 倒れる前ほどと言えないが、精神的疲労が溜まってきているスマラ。

 さらに言うと……

 

「ぎゃぁ~~!!!水がああああ!!!!!」

「死ぬぅぅ!!!!」

「スマラ急いで!!!!」

 

 水が膝まで迫っていた。

 檻入っている三人がスマラに急ぐように伝えるが、それも無理な話だ。

 

「水が厄介ね」

 

 スマラも悪魔の実の能力だ。水に浸かると力が抜けるのは、当たり前のことだった。

 何とか足場を確保しながら戦っているが、バナナワニは水中生物。水が多くなってきているこの場で、不利になって行くのはスマラの方だ。

 

 と、スマラが見聞色で気配を察知した。

 もうそこまで来ている。これで戦力は増えた。

 

「お食事中は極力音を立てません様に……反行儀キックコース!!!」

 

 バナナワニが一匹吹き飛んだ。

 

「おっす、待ったか?」

 

 ビビが呼んで来た助けがそこにいた。

 

 




で、もう一つ謝らないと………。今回も話が進みませんでした。次回こそは場面飛ばします。必ず、絶対に……。と約束しても出来ない奴。


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340 二十一頁『逃走』

 今回いつもより早いんじゃね?と思ったら、いつもと同じだった。最近一週間以上開いているせいだ。
 今年中には終わらせたいなぁ。今回もグダグダでヘイト集まるんじゃね?と心配しながら。
 何時も通り誤字があると思いますので、報告に感謝します。先にお礼を述べる派。



 助けに来たのはサンジだった。

 

 スマラは自分一人では鍵を見つける事が————バナナワニを殲滅することは可能————不可能だと判断した。ならば人手を増やせばいい。なので、ビビの、外にいるメンバーに助けを求めるというのはスマラも大歓迎だった。しかし、クロコダイルが見逃してくれるはずもない。

 スマラは考えた。どうすれば助けを呼べるのか?

 答えは見聞色の覇気でクロコダイルの動向を察知して、絶対に手出しを出せない状況になってから迎えに行かせればいいだけの話。幸い、サンジの気配がカジノに向かっていたので、少しの間一人にさせるくらい問題ない。

 最悪自分が急行すればいいだけだ。

 

 ビビは見事スマラの予想通り、サンジを引き連れて戻ってきた。これでペースは早まるだろう。

 

「スマラさ~~ん!!お待たせしました!!!俺が来たからにはもう安心ですよ!!」

「……助かったのは確かだけれども、早めに終わらせてくれないかしら?」

 

 スマラにドヤ顔を見せるサンジに「だったら、今入ってきたワニを倒しなさい」と指示を下す。

 半信半疑になりながらも、スマラの指示を忠実に従うサンジ。

 不思議がる檻の中にいる者たちにスマラは言った。

 

「鍵を食べたワニはずっと見ていたわ。早く出てきてほしかったのだけど、ようやく出て来てくれたのよ」

「スゲー!!」

「ああ!!!出たぞ!!」

 

 スマラの言う通り、サンジが指示されたバナナワニの腹を蹴り上げると、何かを吐き出した。

 鍵……ではなく白色のボール型の何か。

 理解不能、と思ったら割れた。中から飛び出して来たのは、髪型が特徴的なMr.3。ドルドルの実で作ったものだったらしい。

 

 敵の出現。スマラはビビの近くに待機すると、成り行きを見守った。

 Mr.3は麦わら一味が捕まっている事を知ると、ドルドルボールに引っ付いていた檻の鍵を遠くに放り捨てる。その行動に啞然とする一同。だが、ウソップが名案を思い浮かべた。

 それは、Mr.3に檻のカギを蝋で複製して貰うと言うことだった。物は試し、Mr.3がやってみると………ガチャリと開いてしまう。

 まさかの結果に、サンジが隙を付いて蹴り飛ばしてノックアウト。檻を開けられて、敵も撃破。ここに来て順調に進んできた。

 残り少ないバナナワニも、ルフィとゾロが鬱憤晴らしに撃破されて残るは脱出のみ。

 

 と、部屋の限界が来てしまった。バナナワニ、スマラ、サンジにルフィとゾロ。主に、室内を破壊するように動き回ったバナナワニと、それを吹き飛ばした時に生じたエネルギーが部屋の壁に蓄積され。遂に壊れてしまう。

 壊れた隙間から、今までとは比べ物にならない量の水が侵入してくる。あっという間に飲み壊れて………。

 

 

 

 

 

 水、水、水。辺りは水で囲まれている。

 当たり前だ。ここは水中の中なのだから。

 

 こんなにも無力だったのは何時ぶりだろうか?分からない。

 多分、自我を持ち始めてから数回しかなかっただろう。

 でも、水中で溺れかけるという体験は初めて。

 自分の生死は、自分を捕まえてくれている者に委ねられているだろう。

 

「っけほ!!た、助かったわ」

「いえいえ、お構いなく。おい、生きてるか?ルフィ!!」

 

 水中の中では身動き出来ないスマラを助けたのはサンジだった。反対側には、同じく能力者であるルフィだ。ルフィは水を大量に飲んだのか、意識がない。ついでに言うとウソップも。

 スマラはサンジに礼を言うと、立ち上がって当たりの警戒を始める。

 

 良かった。クロコダイルの反応は遥か遠く。直ぐにはバレないだろう。

 

 その後、船長命令で助けられたスモーカーとひと悶着あったが、何を思ったのか見逃してくれることになった。

 街を出てこのまま走って首都のアルバーナまで行くのか?と危惧しかけたその時、チョッパーが大きなカニに乗って迎えに来てくれる。

 背中によじ登って、いざ出発!!

 

 と上手くいかないのがお約束。ビビに向かって魔の手が忍び寄っていた。

 

「ッ!!!」

「ビビ!!!」

 

 クロコダイルの儀手に引掛けられて、カニの背中から落ちて行くビビ。

 スマラは、動けないでいた。物理的にだ。

 

「手!?………遠すぎる」

 

 スマラの体は、カニの背中から生えている手によって行動を制限されていた。力技で無理矢理引き剝がす事も可能だが、一瞬引き留める事には成功された。

 しかし、スマラが動く必要は無かった。ルフィが飛び出し、自分を犠牲にビビを取り返したからだ。

 

 何たる不覚。遠距離からの拘束は想定していなかった。

 平和な東の海に居て、危機感知が怠けてしまっている。気を引き締めないと。

 

 スマラはルフィに投げ飛ばされたビビを受け止めると「ごめんなさい」と謝った。

 ビビも誰もスマラを責めない。あの状況下で動けるはずも無かったからだ。

 「俺一人でいい!」というルフィの言葉に従ったゾロが号令をかけ、カニを出発させるチョッパー。

 ビビがルフィの心配をするが、麦わら一味は誰一人としてルフィの勝ちを疑わなかった。

 ゾロが言う、ビビは俺たちの誰がどうなっても生き延びなければいけないと。

 サンジが言う、戦いを始めたのは君だけど、一人で戦っているわけでなはいと。

 ウソップもビビりながらも大丈夫だという。

 ビビの覚悟は決まった。

 

 対してスマラは……………。

 

 生きて帰って来れればいいのだけれど。自然系の能力者には、武装色か海楼石、弱点をつくこと以外は無傷。クロコダイルの砂は水が弱点だと思うのだけど、果たして思いつくのかしら?

 王下七武海を甘く見ては、痛い目を見るのは貴方のほうよ。

 

 

 

 

 

 自分が居るから手を出してこないと傲慢になっていた。

 

 集中しなきゃ。とスマラは気合いを入れなおす。

 向こうは既に、自分に手出しをする事に躊躇しなくなっている。

 より危険だ。ビビを狙った攻撃なら対処も簡単だが、己も狙ってくるなら難易度は跳ね上がる。

 バロックワークス側に、自分が気合を入れて挑まないといけない人物は二人。クロコダイルと悪魔の子だ。特に後者は遠距離から拘束をしてくるので、特に厄介になる。

 ハナハナの実で拘束しクロコダイルがビビを狙ったなら、今度は守りきれるだろうか?

 否、守り切る。それが契約だ。

 今度は油断しない。

 

 スマラは数十年前のように、見聞色の覇気を常時発動させる。追っ手に怯えていたころのように。

 油断はしない。今度拘束された時は痛い目を見せてやる。

 久しぶりに熱くなってしまうスマラに、ビビが声をかける。

 

「スマラさん、私……」

「言いたい事は分かるわ。護衛任務はこの戦いが終わるまで………。もう、油断はしないわ」

「うん………ありがとう」

 

 いつもなら本を読んで時間を潰したいところだが、先程のような事があってはならないと、スマラはビビの真横にくっついて目を閉じた。

 目を閉じると、視覚情報は減るが、その分目以外で感じ取る情報が増えるから。見聞色の覇気を使う時に最も効率のいい使用方法だ。

 

 

 

 その後、サンドラ川までカニに乗せてもらい、カニなのに泳げないサンドラ川を、クンフージュゴンに助けて貰い渡る。川を渡り切ったところで、先行していたカルーが超カルガモを引き連れて帰って来た。

 

 これなら間に合う。

 一同は、作戦を立ててアルバーナに向かう。

 

 それは、スマラとビビを残して、麦わらの一味が街に入る。敵を引き連れた所でビビが反乱軍と対話して衝突を阻止するという物だ。

 上手くいくかどうか誰にも分からない。でも、やらなければ未来はない。ビビは静かにみんなの無事を祈った。

 

 

 ビビは砂漠のど真ん中に降り立った。総勢200万人の軍勢だ。その地鳴りは素覚ましい。大地が震えている。

 そんな中に躊躇なく立てるのは、度胸が備わている。

 

「カルー、いいのよ?ここにいなくても」

「クエ~!!クエッ!!」ふるふる

 

 ビビの言葉にカルーは恐怖に震えながらも拒否する。主人思いの良いパートナーだ。

 

「踏みつけられても知らないんだから」

「……それは一応貴女にも言える事だけれども?」

「私はいいの。だって、スマラさんが隣に居るんだもの」

「………はぁ。出来る限りの事はするわ。っと、そろそろかしら?」

「うん。絶対に止めて見せる」

 

 ビビは再び決意する。そして、できる限りの大声を上げて反乱軍に呼びかけた。

 「止まりなさい反乱軍!!」「この戦いは仕組まれたことなの!!」

 呼び掛けるビビ。反乱軍では、一人の男がビビの存在に気づいて………。

 

「危ないわ」

「わっ!」

 

 スマラがビビを少し下がらせた。

 直後、目の前が爆発し、砂煙が舞い上がる。

 アルバーナで待機している軍が大砲を打った撃ったのだ。これにより接触は困難になる。

 ビビの存在を気づかずに突っ込んで来る反乱軍に、ビビは懸命に声を上げた。しかし、その声は届かない。

 

 気配が一つ、ビビを通り越した。

 ビビは振り返って声を上げようとするが、

 

「クエッ!!」

 

「もうダメよ」

 

 後に続く反乱軍が乗る馬がビビに迫る。が、衝撃は来ない。

 庇ったのはスマラだった。ビビを庇うように倒れ込み、馬は全てスマラに当たる。

 

 国王軍も反撃を始め、遂に戦闘が起こった。

 大砲の音や剣と剣が交わる音。怒号が響き渡る。

 

 反乱軍が通り過ぎる。

 残ったのは、ボロボロになったカルーだけだった。

 

 いや、カルーの下に無傷な者が二人。

 スマラとビビだ。

 

「カルー……貴方、私達を庇って………」

「……………」

 

 主人思いだけどバカな鳥……。私なら馬に蹴られた程度、傷一つ付きやしないのに。

 まぁ、とっさの事で必死だったのは分かるわ。

 

 カルーに黙禱を捧げるスマラ。カルーは死んでいないぞ。

 と、後ろから誰かが接近して来る。

 

「ビビ!!こっちに乗れ!!」

「ウソップさん!!」

 

 来たのはウソップだった。馬に乗り、早く乗ってくれと言う。

 スマラはウソップからビビを遠ざけた。

 

「ビビ王女、下がって。…貴方、怖くないのかしら?」

「怖い?何言ってるんだ!!早く行かねぇと………」

「合図が出来ていないし、私が軽く睨んでも怯えないのは本人じゃないわ」

 

「クエッ!!クエ~~~~!!」

「カルー!!」

「まだ動けたのね。余り遠くに行かないでよね」

 

 ウソップがおかしいと判断したスマラは、軽く睨んだ。すると、彼は怖気づかない。いつもの彼なら怯えまくるだろうに。

 さらに言えば、合図を送って来ない。私たちが疑っていると分かっているのに、腕に巻き付けている包帯しか見せない。本当ならば包帯の下にある印を見せるのが合図なのに。

 スマラが本人ではない。と看破すると、同時にカルーがビビを載せて遠くに移動する。まだ動けたのか、と感心している場合ではない。

 

 見破られた偽物は正体を表す。

 それはオカマだった。男顔に濃い化粧をしている。これをオカマと呼ばずに何と呼ばれいいのだろうか?

 

「何で、バレたのよぉ~~~~ぅ。でも逃がさないわぁ~よん!!」

 

 オカマはスマラに目もくれずカルーとビビを追いかけた。スマラもオカマを追いかけた。

 明らかに敵。スマラは合った事がないが、聞いた話ではオカマはMr.2。なら敵。

 現にビビを追いかけて、カルーを食べてやると意気込んでいる。

 そんなオカマを、

 

「邪魔よ」

「ぶっへ!!」

 

 蹴り飛ばしてビビの下に向かう。

 スマラとしては、時間稼ぎのつもりでの軽い一撃を入れた。のだが、スマラの軽い一撃はオカマレベルの者にとっては重い一撃だったようで、吹き飛ばされて痙攣している。

 よし、これなら時間稼ぎの目的は達成られた。

 

「それで?これからどうするつもり?」

「王宮に向かうわ」

 

 ビビに追いついたスマラは、カルーの足に並走しながらビビに尋ねた。

 反乱軍が止まらないなら、国王軍を止めるしかない。ビビはそう言う。

 

 しかし、それを行うには、

 

「あったま来たわよぉ~~~!!!もう逃がさないわ~~~~」

 

 タフなのか、それとも倒すつもりがなかった一撃だったからか、オカマが何時の間にか起き上がっていた。

 そのまま突っ込んで来る。その足は、アラバスタ王国最速のカルーにも負けない。

 さてこれからどうしようか?一番にするべき事は脅威の排除だが、立ち止まるとビビに置いて行かれてしまう。例え追いつけるとしても、ビビから離れるべきでない。

 そんな思いがスマラを動かせずにいた。

 

 そうこうしているうちに、アルバーナまで後少しという距離までやって来る。

 正面入り口である階段は反乱の人々で溢れ、簡単には通れない。

 どうするのだろうか?スマラが隣を走っているカルーを見つめると……

 

「クエエエ!!!!」

「え!!?そっちは壁…」

 

 カルーは壁を走った。数十メートルある垂直に聳え立つ壁をだ。

 が、途中で足が離れてしまい、転落しそうになる。

 カルーは空を飛ぶ羽を犠牲に、素早い足を手に入れた生き物なので、当然空は飛べない。

 このまま真っ逆さまに落ちるのか?否だ。

 

「無茶苦茶するのね。でもまぁ、これで距離を離せるわ」

「す、スマラさんが飛んでる……」

 

「何で人間が空を飛んでるのよぅ~!!!」

 

 カルーとビビを救ったのは、勿論スマラだ。

 スマラが空中移動する姿を初めて見たビビとカルーは驚きに戸惑う。

 そんな一人と一匹を、スマラは易々と頂上へ押し上げた。

 

 しかし、ホッとするのも束の間。これではMr.2も上がっては来れないだろうと思っていると、オカマケンポーとやらで壁を登ってくる。

 このアドバンテージを生かして逃げないと。しかし、目の前はどこもかしこも戦場だった。反乱軍と国王軍が絶え間なく戦っている。

 こんな中を走り抜けないといけない。常人には無理だ。

 でも、諦める訳には行かない。

 

「カルーお願い!!」

「クエ~~~!!」

 

 と走り出した同時に、オカマが頂上に追いく、カルーが流れ弾に撃たれてしまう。

 それでも踏ん張り、倒れる事なく走るカルー。ビビは涙をこらえるので精一杯だ。

 そんな後ろを、スマラは静かについて行く。

 

 

 反乱軍と王国軍が戦っている戦場を抜けた。幸い街の入口付近のみで、中心部まで攻め込まれていないようだ。

 王宮まで後少し。だが、ここまでビビを運んだカルーも、限界が来てしまう。足がふらつき、ビビを放り出す様に倒れ込んでしまう。

 カルーは体力的にも限界だった。ビビはカルーの身を案ずるが、オカマはすぐそばまで来ていた。

 

「カルー!!」

「グエ!!グエ!!」バサバサ

「うん…………うん………分かっている」

「早く、この子の頑張りが無駄になるわ」

 

 と、スマラがビビを急ぎたてるがオカマが遂に追い付いてきた。

 戦闘態勢に入るスマラ。泣き崩れているビビが、再起可能になるまでの時間稼ぎをしないといけない。

 

「が~~~~~はっはっはは!!邪魔するんじゃないわよ!!!可憐なる賞金稼ぎだか何だか知らないけど、ぶっ飛ばして…デふっ!!!!」

「……カルガモに吹っ飛ばされたわ」

 

 スマラに攻撃を仕掛けようとしたオカマは、突如として現れたカルガモに吹き飛ばされてしまう。

 その正体はカルガモ部隊。そして助けに来たのは、

 

「反乱はまだ治まるんだろ、ビビちゃん?スマラさんもここは俺に任せてくれ。そのオカマ、俺が引き受けた」

 

 又してもサンジだった。

 




 書いている途中に思った事を纏めた。次回も書くつもりだが、忘れてたらない。

 スモーカー大佐とカルーの見せ場を奪うスマラさん。→しょうがない。ここで動かなければ護衛の意味が無いから。
 拘束されたスマラ→カタクリのように常に未来を見ているのではないので、ロビンの拘束を事前に察知することはできません。とは言え、力では圧倒的な差があるので、一瞬しか出来ません。
 カルーに乗って移動するよりもスマラがビビを運んだ方が速くない?→依頼なのでやるべきことはするが、基本的には最低限しかしない。カルーに乗せて貰っているほうが、スマラも制限なしに動けますもんね。
 又してもサンジ登場で終わり。いや、狙ったわけじゃないよ?文字数が5,000以上で、キリの良いところまで書いたらこうなっただから。
 十九巻のみならず二十巻も終了。ペース上げて行こう。

 FGO遂に四章攻略?嫁ネロのピックアップも!!活動報告に詳しい内容載せます。


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342 二十二頁「最終決戦?」

 今回は(以下略

 今日からイベントですね!ニコ生見ながら待機です。で、明日ワンピース発売だから、夜中雨降ってる中居かなくては!!?車無いからこういう時面倒くさい。

 ではどうぞ。誤字有りましたらよろしくお願いします。ありがとう!!!


 宮殿にたどり着いたビビは、現在国王軍の最高司令官であるチャカに無茶苦茶な要求を求めていた。

 それは、4,000の歴史を持つ宮殿を破壊するというもの。判断は、チャカにゆだねられた。

 

 しかし、待ったをかける存在がいた。そう、スマラだ。

 このシリアスな場面で彼女は一体何を切り出すのか?

 

「ビビ王女、一つ訪ねたい事が……」

「何かしら?」

「図書室は………私の報酬は無くならないわよね?」

 

 シリアスな状況を全く考えずに、自分の報酬の心配をするスマラ。

 この空気の読まさなをそろそろ理解した方がいいのではないだろうか?

 ほら、「なにいってんだこいつ」ってなってる。

 

 ビビは一瞬だけ呆けると、スマラとの契約を維持するために頭を使って答える。

 

「だ、それは大丈夫!!図書室には被害を出さないようにするから!!」

 

 根拠もない事を言い出すビビ。図書室だけ被害を出さないようにするなんて、一体どうするのだろうか?まあ最悪、避難できるだけの本を宮殿外に持ち出しておいて、後でそれを報酬として渡せばいいのだろうが………。

 

 スマラはそれ納得したのか、「そう」とだけ言って下がる。歴史的建造物を破壊される事などは知っちゃこっちゃない。そんな態度だ。

 

 

 状況は再びシリアスさんがお戻りになる。

 チャカに再び頼み込むビビ。周りにいる兵士達はビビの判断に否定的だ。

 そんな状況下の中、チャカはビビを真っ直ぐした目を見て決心する。跪いて命令を受けたのだ。

 

 納得が行かないのは必然的だ。しかし、一派兵である彼らに上からの命令に背けるはずがなく、宮殿爆発の準備は進められる。

 至る所に爆薬が設置され、スマラの為に図書室にある本を避難させる。

 

 

 ビビとチャカは二人で話をしている。二年ぶりの会話だ。本来なら、もっと和んだ状況でしたかったはず。

 外壁からは下の様子が確認できる。何処も争っていた。全て一人の男の策略だ。

 

 スマラは、そんな二人を少し離れた場所で見守っていた。

 辺りには誰も近寄って来ない。一見ビビと同じく、どこぞのお嬢様と思える外見からは、スマラがビビの護衛者とは思えないから。

 仮にも兵士。戦いに身を投じる者特有の感覚が、スマラに対して警告を発しているのかもしれない。正しい選択だ。

 

 

 と、スマラの警戒網に強い存在が二つ引っかかる。同時に、スマラのビビの傍に駆け寄った。

 

「……チャ、チャカ様!!」

 

 満身創痍な兵士が入って来る。その頃には、スマラも彼が言わんとすることが分かっていた。

 

 そう、あの男がここに居る。

 

「困るねぇ………!!物騒な真似をしてくれてるじゃねぇか。ミス・ウエンズデー」

 

 ルフィに足止めされているはずのクロコダイルだ。

 ルフィを破り、ここまで追って来たのだろう。

 

 ビビが悲鳴を上げ、チャカが殺気をクロコダイルに出し始める。

 が、クロコダイルは直ぐに戦闘を始めるつもりはないのか、話を始めた。スマラは興味ないので、黙って警戒を続ける。

 

 クロコダイルが国王に『プルトン』の存在を問うている間、スマラはミス・オールサンデーとたわいのない会話を始めた。警告の意味も含めてだ。

 

「お元気かしら?悪魔の子」

「…………。えぇ、そっちこそ大丈夫?彼に一本取られたみたいだけど……」

「その事なら安心しなさい。今度は油断しない」

 

 殺気を見せるスマラ。ミス・オールサンデーは恐怖を感じた。

 ダメだ。今までの比じゃない。今の状態の彼女に喧嘩を売れば………。

 ミス・オールサンデーは慎重になってスマラを警戒する。

 

「そうよ。警戒するのが当然よ!死にたくないなら手を出さないことね。今度は前みたいに上手くはいないわ」

「……そうね。今回ばかりは相手が悪いかしら?でも、貴女が彼に勝てるとでも?」

「勝つ必要はないわ。ただビビ王女の安全を確保すれば良いだけの話。クロコダイルも落ちたものね。偉大なる航路の序盤でルーキー相手に怠けているから、私が本気で対処しなくても済むのだから」

 

 再び戦慄するミス・オールサンデー。クロコダイル如き、本気を出さなくてもいい。そう言っているスマラにただただ、怯える。

 彼女の興味がこちらに移ったら?彼女は賞金稼ぎ。己を捕まえて海軍から報酬金を得ることだって可能だ。つまり、彼女は本気だ。何が彼女を本気にさせているのかは分からないが、彼女が本気になった以上、この計画は失敗する可能性が見えてくる。

 ミス・オールサンデーは、クロコダイルを見限る計画も密かに立て始めた。

 

 一方で、全ては本の為に本気になっているスマラさんと言えば…………。

 

 

 麦わらが死んだ。………その程度で死ぬような人では無いと思ったのだけれども。まぁ、仕方ないか……。死んだら死んだで足を変えれば済む話。死んでいなかったら今まで通り。

 だけど、サー・クロコダイルは麦わらの事なんかどうでもいいらしい。そこは私と似ている。だけど、クロコダイルの勝利条件は王族の滅亡だそうだ。残念。私の依頼内容に引っかかるわ。

 サー・クロコダイルと戦うとなれば、私も少しばかり本気にならざる負えないわね。王下七武海とはそのぐらいの相手よ。ま、こちらには武装色の覇気があって、サー・クロコダイルが前線を引いてから時間もたって衰えているから、大した手間にはならずに済みそうだわ。もし全盛期並みだったなら………別の意味で国が亡んじゃうかも。

 

 ん?プルトン?古代兵器?私が知らない単語だわ。ビビ王女や護衛隊副官は知らなさそう。でも、国王様は知っているらしいわ。

 一発で島を吹き飛ばす威力、世界政府すらも跳ね除ける軍事力。その辺はどうでもいいのだけど、その原点は?どこで知ったの?知りたい。書物なら是非とも読んでみたいわ。

 

 ………如何やら『歴史の本文』に記されているらしい。正直言って、あれは読みたいとは思っている。あいつらの思惑に乗ると言われても、読んでみる価値はある。何故なら、歴史書とは実際の物語だ。現実でも非現実であろうと、人が描く物語は素晴らしいものだ。それが、世界政府によって禁じられたものなら、尚更読み応えのある者だろう。

 とは言え、私は古代文字を読めない。考古学者ではないのだから当然だ。だけど、もしかしたら………と思ってしまう。悪魔の子にでも教えてもらおうかしら?

 

 あら?話し合いはもう終わり?もう少し成り行きを見守っていたかったのだけど………。これも物語の一部なのかしら?

 しかたないわ。やることだけ終わらせて、さっさと歴史の本文を見に行きましょう。

 

 

 

 チャカが怒りを爆発させる寸前、ある部隊が現れた。その名も『ツメゲリ部隊』アラバスタ王国でも屈指の部隊だ。

 彼らは命を削り力を得る水、豪水を飲んでおり、その命と引き換えにクロコダイルを打ち取ろうと襲い掛かる。

 

 が、彼らの命がけの特攻も、クロコダイルは砂になって回避する。戦いすらしない残酷ぶり。

 お前らでは戦う気すら起きないと言っているようなものだ。

 

 ツメゲリ部隊が無駄に命を散す結果になると、チャカの怒りが頂点に達する。

 己が出せる最高の技を持ってクロコダイルに攻撃するが、クロコダイルは砂になって逃げる。自然系相手には覇気を使わない限り、勝機はない。

 チャカはあっという間にやられてしまう。スマラが感じる反応は小さく、ぎりぎりの所で生きているといったことろ。

 

 場面は更に混乱する。

 反乱軍のリーダー、コーザがこの場に現れたからだ。

 コーザに向かってクロコダイルは己の策略を話す。そして、広場に爆弾が仕掛けられている事を知ったコーザは知らせに向かう……のをビビが止める。

 

 そしてその二人を、

 

「俺がそれを、黙って見ているとでも?」

「えぇ、貴方は黙ってみてなさい」

「クッ!!!  可憐なる賞金稼ぎ!!そろそろ決着と行こうじゃねぇか!」

 

 ビビとコーザを狙った一撃は、スマラによって阻止される。当然だ。

 クロコダイルは「ちょうどいいい」と言ってスマラとの対決を臨む。

 

 ここに、最終決戦が始まる。

 

 

 先に仕掛けたのはクロコダイルだ。クロコダイルは下半身を砂に変えてスマラに飛び込む。

 義手をスマラに振るうと同時に、もう片方の手を密かに動かす。

 

「ふっ!! 乾き死ね!!」

 

 通常なら距離を取るしか回避する方法はない。普通の手の方は、触った物の水分を奪い取る力を持っており、触れたらアウト。かと言ってそちらに集中すると義手が相手を襲う。故に、距離を取るのが一番良選択。

 が、普通の人ならだ。

 

「嫌よ」

 

 スマラは後ろに下がるのではなく、クロコダイルが飛び込んで来るのを待った。

 スマラの戦闘スタイルは待ちだ。本人の性格が戦いを好んでいないのもあるが、能力上の関係性が大きい。

 

 己を引き裂こうをする義手を反射で跳ね返し、もう片方の手を難無く避けると、

 

「ぶっ飛びなさいっ!」

「ゴハッ!!」

 

 武装色の覇気を纏った反射パンチをお見舞いする。成す術もなくぶっ飛んでいくクロコダイル。

 彼が痛みを感じたのは何時が最後だっただろうか。少なくとも、バロックワークスを設立してからは無かったはずだ。

 故に効く。痛みに慣れて居た頃ならいざ知らず、第一線から遠のいてしまった今のクロコダイルには効きすぎた。

 

「クッ!!なめてんじゃねーぞ!!『砂漠の宝刀』!!」

 

 が、そこは王下七武海の意地を見せて、一発ノックダウンとはならずに、空中で態勢を整えて技を放つ。

 砂の刃がスマラを襲う。その砂の斬撃は一流剣士が放つ斬撃にも劣らない威力。当たれば一刀両断待ったなし。

 

 回避する素振りを見せないスマラは、そのまま体を真っ二つに……………なるわけがない。

 砂の斬撃であろうと、運動エネルギーが働いている事には変わりない。こちらに向かってくる運動エネルギーの量を反転。反射する。

 

「クソッ!!こっちの攻撃が通らねぇのに、向こうの攻撃が通るってふざけているだろ!!」

「知らないわよ。覇気は新世界では当たり前でしょ。ほら、もう終わり?」

「まだ終わってねぇ!!」

 

 スマラの規格外ぶりに、思わず悪態をついてしまうクロコダイル。スマラはクスッと笑ってクロコダイルを挑発して攻撃を促す。

 両者は周りに被害を与えながらぶつかる。

 

 

 

 

 

 チャカは満身創痍の体で、スマラとクロコダイルの衝突を只々眺めていた。本当なら、ビビ様の為に今すぐにでも動かなければならない。だが、満身創痍な体が言うことを聞かない。只々、地面に横たわってバケモノ同士の衝突を呆然と眺めるだけ。

 

 己がビビ王女をクロコダイルから守ろうとした。だが、それよりも早く動いたのはビビ様の護衛という身元の不明な人物だった。

 クリーム色の髪の毛をした長身の女。初めて対面したとき、得体の知れない者だと感じた。こんな細い女がビビ様を今まで護衛していたといのか!?

 信じられなかったが、戦いに身を沈める者の感覚から、彼女には逆らわない方が良いと感じる。

 結果として、それは正しかった。

 

 チャカ自身やツメゲリ部隊が手も足も出なかったクロコダイルに全力を出させている。いや、それでなお圧倒しているという方が正しいだろうか。

 クロコダイルの能力で形成された砂が二人を中心に舞い上がる。砂煙が舞い上がり、外壁はクロコダイルの攻撃を反射するスマラのせいでボロボロに。

 

 これほどまでに手の出ない相手だとは思わなかった。ビビ様の護衛者がそこまで腕が立つ者だとは思わなかった。

 そう、二人は、正真正銘のバケモノ同士の衝突だ。

 

 

 

 クロコダイルは焦っていた。

 あと少しで計画が完遂し、アラバスタ王国が手に入るのに。王家の持つ歴史の本文から古代兵器の在処を知る事が出来るのに。世界政府も手を出せない軍事力を手に入れるまであと一歩なに。

 

 なのに、あと一歩が遠い。

 

 もしかしたら、今までの数年より遠い一歩だ。

 それ程までに、スマラの参戦はクロコダイルの計画を狂わせていた。

 

 

 砂漠の宝刀で切り付けても、石を砂に変えて足場を崩しても、砂嵐をぶつけても、スマラは全てに対処してくる。

 回避、回避、回避。見聞色の覇気で先読みされて、余裕そうに避けられる。複数方向から同時に攻撃しても、スマラの能力で反射して意味がない。

 やはりこの女は次元が違う。新世界出身だが、最近は危ない海から遠のいたはず。それでもなお遠い。

 この女はまだ、自分が諦めた新世界でもやっていけるだけの力が備わっている。

 

 この女さえ倒せれば。この女さえ味方に引き入れれば……。

 クロコダイルは、『たら、れば』の仮定世界を考えてしまう。

 

「クソッ!渇きの手でさえ捕まえれば!!」

 

 思わず愚痴ってしまうクロコダイル。

 渇きの手、己の手で触れたものの水分を吸い取る力だ。スナスナの実の真髄とも言える渇きの力を、最大限まで高めた結果。この手に触れたら最後、どんなものでも干からびてしまう。

 

 だから、これがある限りクロコダイルは負けてはない。

 この手で触れる事さえできたのなら……勝機はまだある!!

 

 と、スマラの油断がクロコダイルに勝機を作った。

 今まで触れる事が出来なかったスマラの体を、クロコダイルは遂に捉えたのだ。

 

「これで終いダァ!!」

「……えぇ、渇きの手とやら試してみては如何?」

 

 そんなクロコダイルに向かって、スマラは小馬鹿にしたように嗤った。

 試してみろと。クロコダイルの切り札を余裕そうに受ける。

 

 クロコダイルはその挑発を受けて、能力を発動する。

 そして、スマラもこれまで通り干からびてしまう。

 

 

 はずだった。

 

 

「この程度?確かに、切り札と成りうるだけの力だわ。何の対処法を持っていない人ならそこで終わり。でも、私には通用しなかったみたいね」

「な、何だと!!?」

「ああ、通用しなかったというのは間違いね。通用はしているけど、力が足りなくて私の対処法が強かった。それだけよ」

 

 スマラはクロコダイルの渇きの手を受けてもピンピンしていた。

 確かに渇きの手は発動している。ただ、スマラは能力で自身から奪われる水分量を調節しているだけだった。

 故に、クロコダイルは己に流れ込んでくる水分量が少ない事に気が付いた。もっと鍛錬を積んで居たらスマラの能力を超えられていたかもしれない。しかし、偉大なる航路の入口に陣取って努力を怠った結果がこれだ。

 

「バケモノが!!」

「……一般人からすれば貴方も同じでしょう?」

 

 呆れるスマラ。

 

 決着は着いたはずだ。しかしそれでも戦いは終わらない。

 クロコダイルがビビを狙う限り、スマラはクロコダイルの相手をしなければならない。ビビが生きている限り、この計画は完遂しない。

 それが分かっているから、二人の衝突は止まらない。

 

 




 王宮爆発に伴う図書室の安全
 そもそも図書室なんてあるのかも知らない。全部は無理でも一部だけでも読めたらいいね!

 久々のスマラ視点
 これが一番早そうだった。この時スマラが何を考えているのか?を書きたかった。

 歴史の本文にも興味を持っているスマラさん
 歴史の本文も実際に起こったことを記している文ですからね。実史か創作かどうか何てスマラにとっては関係なし。人が生きているだけで物語なのだ。

 二十一巻終わり
 飛ばす飛ばす。関係ない描写は省きまくるぞ。もっと簡潔に書きたい。

 チャカの見せ場を奪うスマラさん
 今回奪ってばっかりだな!!誰もがビビを守ろうとするから、その護衛であるスマラが横取りするのは必然。

 又しても出るスマラさんの謎能力。
 詳しい原理とか考えずに文字通りの意味だと思ってくれ。詳しい説明はもっと後にするから。

 チャカ視点の激突
 スマラや三人称よりも他人の視点からの方が、二人の戦いが分かりやすいと思った。ホントは書いてたらこうなった。

 スマラさんVSクロコダイル
 やべぇ、終わり時が分かんねぇ。あ、スマラさんは本気ではないです。本気だすのは、己の命が危ないときか、ある海賊を相手にする時だけです。

 次回でアラバスタ編を終わらせたいなぁ。
 願望は基本現実にならない。そこまで至れるように頑張ります。


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343 二十三頁「雨降り注ぐ」

 おまたせです。ただ今家の外で書いてます。気分転換とかじゃないよ?あ、ヤバイ。見つかった!これだけは投稿させてくれよ!

 ネタじゃないからな。ではどうぞ。


 何時まで続ければいいのだろうか?

 

 スマラはクロコダイル相手にある瞬間を待っていた。

 

 

 クロコダイルとスマラが衝突して既に数分が経っていた。広場の爆破まで時間はない。

 終わらせようと思えば直ぐに終わらせてしまえるスマラだが、一向にクロコダイルにトドメを指さない。

 

 理由は単純明確。スマラがトドメを指すと目立つからだ。

 この国には海軍もいる。既にクロコダイルが黒幕だとバレているので、スマラがクロコダイルを討伐しても世界政府からの反感は買わないだろう。が、王下七武海が国を乗っ取ろうとしたのだ。世界的に目立つのは当然となる。

 スマラが一匹狼の賞金稼ぎなら何ら問題も無かっただろう。国を救った英雄として新聞に取り上げられるはずだ。多少問題は起こるが、昔も新聞に取り上げられた事があるのでスルーされるはず。

 だが、今は状況が少々混み合っている。スマラは只今海賊船に乗っており、仲間だと言うルフィの姿をスモーカー大佐に見られているのだ。

 確実に不味い。賞金稼ぎとして新聞に取り上げられるのは承諾できるが、海賊としては非常に不味い。スマラの今後の人生を左右するレベルの問題だ。

 だからスマラはクロコダイル相手に時間稼ぎをしている。

 

 それにもう一つ。

 

 

 

 長引いた戦いも、もう直ぐ終わろうとしていた。

 スマラは見聞色の範囲内にある気配をとらえると、クロコダイルから一気に距離を置く。そして、天を仰いだ。

 

 太陽にポツンと点が見える。点は次第に大きくなり、その正体を表した。

 

「クロコダイル~~~~~!!!!!」

 

 ルフィの声だ。ペルーに乗ってこちらに向かって来ている。

 

 

 そう、スマラが待っていたのはルフィの到着だったのだ。

 確かにクロコダイルはルフィを殺したと言った。スマラも死んだのかと思うが、どうしても信じ切れなかった。古来より死んだはずの人が実は生きてました。というのは、典型的なストーリーだからだ。

 少し負担になるが、見聞色の覇気をレインベースまで範囲を広げると、生きている事が発覚。それまでの時間稼ぎをしていた。

 

 さらに言えば、スマラは「クロコダイルを倒すつもりはない」と宣言している。ルフィに譲る事も。

 スマラは守れない事は口に出さないが、口に出して約束したことは律義に守る。

 

 故に、ペルーから飛び降りたルフィに、選手交代で引き下がるのは当然のこと。

 

 

 ビビは飛び降りて来たルフィに抱き着いた。

 スマラがクロコダイルを止めていても、あと数分後には広場が爆破してしまい、皆が死んでしまう事を嘆く。

 ルフィが言った。俺たちに任せろと。

 

 

「スマラ!!ビビを守ってくれててありがとな! よし!!交代しろ!!」

「依頼ですからね。  ……それではサー・クロコダイル。麦わらに負けない様に、お気をつけて」

 

 スマラはそう言うと、ルフィと場所を交代した。

 クロコダイルは何か言いたげだったが、スマラが自らひいてくれるなら願ってもないチャンスだ。麦わらを倒した後、ビビ抹殺の為に対峙しなければならないが、まずは歴史の本文を読んで古代兵器を手に入れる方が先だ。もしかしたら、広場の爆発に巻き込まれどちらかが死ぬかもしれないし。

 

 ビビの隣に立ったスマラは断りを入れてビビを抱きかかえる。お姫様抱っこだ。百合百合がお好きな方が目にしたら鼻血ものの光景だ。

 戸惑うビビを放置して、スマラは城壁を飛び降りる。

 

「きゃああぁぁ~~~!!!!」

 

 耳元で聞こえる悲鳴の音量を下げて無視して落下。減速や月歩でも方向転換もしない。自然落下。ただ真っすぐに降りる。

 数秒間の自然落下も終わり、ストッと音を立てて地面に降り立った。普通なら足の一本や二本、下手すればそれだけで死ねるレベル。

 スマラは地面に痕跡一つ残らずにやり遂げた。浮遊感が無くなり、目を開けたビビが啞然としていたが「スマラさんだもの、気にしても仕方ないわ」の一言で終了。酷い言われようだが、スマラはそこまで一般人にこだわりを持っている訳ではないのでスルー。

 

 降り立ったスマラとビビの元に次々とメンバーが集まる。皆満身創痍。無事にオフィサーエージェントとの戦闘に勝ったようだ。

 良かった、と安心するのも一瞬だけ。ビビは広場が爆破される事を伝える。皆で手分けして探す事になった。スマラとしてはビビには逃げてもらいたかったが、半径五キロを吹き飛ばす爆弾だ。王宮も無くなる。報酬がなくなるならビビを守る必要はない。精々自分の命を守るだけ。

 

 

 ペルーが街中を走り探すビビに報告する。空から探したが見つからなかったらしい。

 後五分を切っていた。

 

 

 四分。

 まだ見つからない。

 

 三分。

 ビビは転けた。今までの疲労が脚に来ているのだ。

 まだ見つからない。

 

 

「分かったわ!!スマラさん!!」

「ホント?」

「えぇ!!ウソップさん!!」

 

 再び広場に戻って来たビビが、遂にありかを突き止める。

 その場に居たウソップに信号弾を撃ってもらい、直ぐに動き始める。が、バロックワークスが行く手を阻んだ。

 

「キャッホウ~~!!見つけたぜ、ビビ王女!!」

「大人しく………ブゴッ!!」

 

 何かテンプレっぽいセリフを言いかけた敵に、スマラが蹴りをかます。彼らは知らない。これから対峙する相手が、自分たちのボスを軽く捻ったバケモノだということを。

 

「あなたたちは先に行きなさい。私が行っても無駄だから」

「……で、でも!!」

「そうだ!!スマラが居れば爆弾なんて……」

 

「私では爆弾の無力化は難しいと言っているの。そうこうしている時間はないのではなくて?」

 

 スマラ居れば爆弾など簡単に無力化出来ると踏んでいたビビやウソップだが、スマラはそれを否定する。

 半径五キロを吹き飛ばす爆弾だ。スマラでも簡単に無力化出来ない。後数分で出来る事と言えば、自分の身を守ることくらい。もっと時間があれば無力化も可能だったかもしれないが……。

 

 と言う事でアラバスタに来てから初めてビビから離れるスマラ。実際、依頼はもうどうでも良いと考えている節がある。

 スマラに説得されて先を急ぐウソップとビビ。スマラは二人を見送ると、バロックワークスの社員に向き合った。

 

「オイオイ女。多少腕に自信があるみたいだけど」

「この数に勝てると思っているわけ?」

「ぎゃははは!!!」

「………………れたわ」

 

 何かを呟いたスマラ。聞き返す社員さん。

 

「ん?なんか言ったか?」

「まぁいい。さっさとビビ王女ぶっ殺して昇進してやるぜ!!」

 

 ヒャッハー!とスマラを襲う社員さん。

 彼ら一言。

 

「疲れたわ。って言ったのよ。……沈みなさい」

 

 

 辺りが震えた。比喩ではない。物理的にだ。

 何か?が突き抜けていく。それを受けた者は例外なく泡を吹いて倒れていく。

 

 王者の覇気。覇王色の覇気だ。

 

 ここ数日、ビビの護衛で碌に読書ができていない。つまり、イライラしていた。

 そのイライラをぶちまける様に覇気で雑魚敵を一掃する。覇気を使った後の疲れなど知ったことでない。

 

「さてと、爆弾はどうなるのかしら?」

 

 一瞬で戦闘を終わらせて、自由時間を得たスマラは高みの見物よろしく時計台を見た。

 

 

 爆発まで後、三十秒。

 

 

 

 時計台の一部が開いていた。そこから見えるのは巨大な砲台。それを使って爆弾を発射するのだろう。

 見聞色には反応が二人分見える。四十九、バロックワークスのエージェントだろう。と、人が時計台外壁を飛んでいる。麦わら一味だ。個々では無理でも、集団の力で敵の場所まで進んでいるのだろう。

 どうにかしてビビが時計台から敵を落とす。

 

 残り一秒。

 

 

 何も起きない。だが、ビビが時計台から顔を覗かせて何か叫んでいる。表情からすれば、想定外の事が起こっているのだろう。

 

 残り数秒。

 

 ファルコンが爆弾を時計台から運び出す。

 確かに、彼の速度なら可能かもしれない。

 

 

 スマラは未来を見た。

 

 

 数秒後、空で大爆発が起きる。しかし、何事も無かったかのように戦いは再開される。

 何も変わらない。終わらない。ビビの声はアラバスタには届かない。

 

 地面から何かが打ち上がる。クロコダイルだった。

 偉大なる航路の入り口で、傲慢にもルーキー狩りをしていた王下七武海は、己の鍛錬を怠った為にルーキーに負けたのであった。

 

 

 黒幕は倒れたのに、戦いは一向に終わらない。必死に叫ぶビビ。

 

 

 ポツリ  ポツリ  ポツリ

 

 誰かが気づいた。

 

 ポツリ ポツリ ポツリ

 

 気づいた者が行動を止める。

 

 ポツリポツリポツリポツリ

 

 段々と広がっていく。

 

 そして、届いた。

 

 

 

 待ち望んだ雨と共にビビの叫び声が届く。

 この瞬間、クロコダイルの作戦が終わり、アラバスタ王国の反乱が終結した。

 

 

 

 

 

 スマラの依頼も、ここに来て完遂だ。

 流石に疲れているのか、民家の壁に背を預けて目を閉じる。

 

 

 終わった。今までで一番面倒くさい依頼だった。

 ただし、報酬もまた格別。

 

 知らず知らずのうちに笑みが零れていた。

 

 急いで報酬の下に行かねば。しかし、少しくらい休んでもいいだろう。

 その前に………。

 

 

「何の用かしら?海軍さん?」

 

 スマラの目線の先には海軍がいた。クロコダイルを運んでいる。

 通りかかっただけだろう。だが、スマラに声を掛ける理由がわからない。

 女海兵は、何かを決めかねている目をスマラに向けている。

 

「貴女は、クロコダイルと戦ったと聞いています」

「えぇ、そうね」

「それは麦わらの一味としてで……」

 

 最後まで言わせなかった。

 殺気をまとった指先が女海兵の額に触れる。ただそれだけ、スマラは女海兵の殺生権を握った。

 力を少しでも込めれば女海兵の頭蓋骨には風穴が空き、脳汁と脳味噌を辺りにぶちまけるだろう。

 

「冗談でも言わないでくれるかしら?……確かに麦わらの一味の船には乗っているわ。でもそれだけでしょ?肩入れはしていない。仲間でもない。私の知らない場所で推測をたてられるのは仕方ないにしても、聞こえる範囲では許さない。その言葉がどの様な意味を、影響を持つのかよく考えなさい」

「………っ!!」

「周囲の海兵も構えを解きなさい。上司がお亡くなりになってもいいのかしら?」

 

 自分を包囲している海軍に向かって、スマラは喚起を飛ばす。

 スマラとしても海軍と事を構えるのは望んでいない。寧ろ良好な関係までとは行かないが、賞金稼ぎとしての普通の関係は結びたい。

 

「……包囲を解きなさい」

「しかし!!」

「解きなさい!!彼女の噂が本当なら、私達は全滅します。それに、彼女は海賊ではありません」

 

 女海兵が部下に言う。その気迫が通じたのか、海軍は包囲を解く。スマラも円滑なコミュニケーションをとるために女海兵から指を離した。

 極度の緊張感から汗が流れ落ちる女海兵。

 海賊ではない。その言葉がスマラの気迫を抑えたのだろう。

 

「それでいいのよ。どうやら、貴女は私の立場について悩んでいたようね。そこに現れた私に問い詰めるつもりだった。……その結論で結構よ。上にはそのまま答えなさい。上がどう考えるかは私には知ったことではないわ」

「……そう、させていただきます」

 

 「失礼いたしました」と女海兵は部下と共に去って行った。

 

 

 

 

 

 さてこれから何処に向かうべきか。

 

 スマラは泥のように眠る麦わらの一味を見つけてそう思った。皆、満身創痍だ。

 このまま待ってもいい。が、雨に濡れるのは得策ではない。スマラとて雨に濡れれば風邪をひくし、体調も崩す。今はクロコダイルとの戦闘、度重なる見聞色の覇気の使用、とどめの覇王色。

 最後に食事を取ったのもレインベースの一回きり。そろそろ持たない。

 

 なので、スマラは一人で王宮に向かうことにした。

 麦わらの一味を待つ義理はない。元々スマラは仲間じゃないので、島では自由行動を取っていた。

 アラバスタではビビの護衛任務により行動を共にしていたが、本来は違う。

 一人で王宮に向かっても、何ら問題はない。

 

 

 王宮に着くと、ビビや王様がまだいた。その他にもイガラムやチャカ、王国軍の皆様も勢揃いだ。

 出迎えている。というより、待っていると言った方が正しい雰囲気だ。

 

「スマラさん!!」

 

 スマラが姿を見せると、ビビが駆け寄って来た。

 

「あの、みんなは………」

「さぁ?………と言いたい所だけど、それは流石に酷いわね。ここからそう遠くない場所で一同倒れるように寝ているわ」

「ホント!!?パパ…?」

 

 麦わらの一味が王宮に帰っていないことを不安に思ったのだろう。ビビに聞かれたスマラは見つけた場所を教える。

 ビビが国王に目線を送ると、

 

「勿論だ。チャカよ、国を救ってくれた英雄たちを王宮に運び込んでくれ」

「はっ!承知いたしました。そのように手配致します」

 

 国王から命令を受けたチャカは、国王軍数名を引き連れて倒れている場所に向かった。

 ビビが安堵の表情を浮かべ、国王も笑顔を向ける。

 

 そろ~りとこの場から離脱しようとしていたスマラに、国王が視線を向ける。

 

「君も助かった。礼を述べよう。ありがとう!!」

 

 頭を少しだけ下げて、スマラに感謝の気持ちを伝える国王。

 スマラはそれを見ると、

 

「……えぇ、依頼ですから。報酬の前に、休憩出来る場所を頂けるかしら?」

 

 

 スマラはどこまでもスマラだった。




 ビビを王宮から投げ出せなかったクロコダイル
 スマラが抑えているからね!よって少しだけ原作と変更。

 ストッと音を立てて着地
 音量やら衝撃を能力で抑えています。

 半径五キロ爆弾
 爆弾の威力や、衝撃、中に入っている火力量などを弄れますが、数秒では無理。自分に干渉することはすぐ可能だが、自分以外に能力の影響を及ぼすとなれば時間がかかると考えている。

 依頼を放棄し始めているスマラさん
 幾度なくビビを救った。最後にクロコダイルと戦ったしいいよね!と思っている。本音→作者が疲れちゃった。てへぺろ。

 二十二巻終わり
 巻き巻き。

 あの状況下でスマラとたしぎが出会うのか?
 ご都合展開としてお願いします。遭遇してもおかしくないでしょ?

 最後の方「向ける」が多くない?
 し、知らない。語彙力がないので……。

 やっとアラバスタ編終了。
 八話もかかるとは思わなかった。次回ラストです。


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344 二十四頁「王宮での休憩」

イベント完走しました。本垢もサブ垢も……。


 クロコダイルの陰謀を阻止し、アラバスタに再び雨が降りだして三日が経った。

 運び込まれた麦わら一味も、船長のルフィ以外が元気になり、各々の行動を取っている。

 ある者はルフィの看病をし、ある者は王宮お抱え医師を驚かせながら薬を調合し、またある者は二人で買い出しに出掛け、ある者は今回の戦いで見出した力の鍛錬に励む。

 

 そしてある者は……

 

「えぇ!!ここの本、貰ってもいいの?」

「あぁ、構わん。私は読んだ物ばかりだ」

「やった~!スマラは………って物凄い勢いで読んでるし!」

 

 ここは王宮図書室。案内されたナミは「ここの本は幾らでも読んでいいし持っていても構わない」そう国王から言質を取って喜んだ。

 同じく図書室にいるスマラに目を向けると、スマラは速読の勢いで本を読んでいた。辺りには本が大量に積まれている。その数数百冊に及ぶだろう。

 

 

 戦いが終わった日、スマラは与えられた――と言ってもナミとビビと同じ部屋――で少しだけ休むと、国王にこの場所に案内してもらった。

 ビビからの報酬の話もあったのだろう。国王は先ほどナミに話した内容と同じ事を、スマラにも話した。

 

 すると、スマラはここにある本を全て読む勢いで読書に取り掛かったのだ。

 幾らでも持って行って構わないと言われても、スマラが持てる冊数には限りがある。なので、滞在している間出来るだけ読む。読んだことのない本を速読して、内容を頭の中に詰め込める。その中でも気にいった物を持って行く打算だ。

 

 となると、時間との勝負。麦わらの一味の話では、ルフィが目覚めたらアラバスタを出港するとのこと。

 ルフィが目覚めるまでどのくらいの時間があるか不明だが、数週間とはならないだろう。

 

 だから、夜も部屋に帰らずに、睡眠もとらずにひたすら本を読む。図書室という神聖な場所で飲食をするのは言語道断!と考える者もいるだろうが、スマラはその様な考えはないので、食事もここに持ってきてもらい読みながら食べる。

 そうして三日目。再び国王がナミを連れて来るまで続いていた。

 

 スマラの執着心に若干引き気味になるナミ。気にしても仕方ないと、スマラを無視して自分も本の選別に取り掛かった。

 

 

 

 

 夕方前。ナミが部屋に戻って行くがスマラはそれでも止めない。

 一応見張り役として居る護衛兵がスマラに声を掛けた。一冊分を読み切ったキリの良いタイミングでだ。

 初めて声を掛けた時は間が悪く、スマラに睨まれて怖かった経験を生かすのだ。

 

「スマラ様……今日もお食事はこちらで?」

「……そうな――いいえ。もう良いわ。面倒な奴も起きたとこだし、どうせ呼びに来るわ」

 

「はぁ」とスマラの言っている意味が分からない見張り役は返事を返す。要するに、今日の夕飯は持って来る必要がないということだ。

 スマラは最後の抵抗を見せるかのように速読を開始した。

 

 数分後、バタンと図書室の扉が開いた。と同時に静かな図書室に似つかわしくない声が響く。

 

「スマラ!!ご飯行くぞ!!」

「こらルフィ!病み上がりなんだから一応安静にしてくれよな!」

 

 飛び込んで来たのはルフィだった。後ろにはチョッパーもいる。

 三日間の眠りから目覚めたルフィがスマラを呼びに来たのだ。

 当然、見聞色でルフィの気配が起きた事を察知していたから、スマラは夕飯を食べに行くと返していた。

 

「早く!早く!!揃わないとメシを出さねぇってちくわのおばはんが言うんだよ!!」

「だからルフィ……安静にしてくれぇ~。あ、スマラもケガとかしてないか?してたら俺に言うんだぞ。船医だからな!」

 

「騒いでたら余計遅くなるわよ?」

 

 ラスト一冊を読んでいるスマラの横で、ルフィとチョッパーが騒ぎ立てる。

 これでは早く読もうにも集中できない。

 イライラしながらも何とか読み切ったスマラは席を立ち上がる。そして、ルフィに引っ張られるようにして、三日ぶりに図書室を出たのであった。

 

 

 

 

 場所は大食堂。普段は静かな場所であるはずだが、今だけは違った。

 普段の倍、いや四倍近い量のお皿と人数が席に座って食事をいる。国王、ビビ王女、カルー、チャカとイガラムは当然として、ゲストの麦わらの一味とスマラだ。

 ルフィは三日分の食事を取り返すかのようにして手を伸ばしては口に入れる。普段よりも大食いだ。

 ルフィにとられないようにと、ゾロ、ウソップ、チョッパーは競うようにして食べ物を口に入れる。そんな者たちを、ナミを筆頭にビビが眺める。呆れながらと笑顔で。

 唯一サンジだけは料理そのものに興味があるみたいで、調理法を料理人に尋ねていた。

 

 そんなバカ騒ぎの中で、スマラは物静かに食べていた。

 普段なら「行儀作法など知ったことではない」とばかりに本を片手に食事をしているのだが、今だけは礼儀正しく食べていた。

 三日も速読漬けで、流石に疲れたのか。それとも、クロコダイルとの戦闘で使った栄養をじっくりと体内に吸収するつもりか、珍しく食事に集中している。

 その姿は、正しく宮廷の大食堂で出されている食事を取っている令嬢。ナイフで肉や野菜を切り分けて口に運ぶ。一口ごとにナプキンで口元を拭い、全ての動作を適確なスピードで行う。

 

 その姿は見る者を圧倒させる。

 麦わら一味の無作法ぶりに、苦い顔をしていた護衛兵等の目線を釘漬けにし、本物の王族であるビビや国王コブラまでもが「ほぉ!」と吐息を零さずにはいられない。

 

「ビビ、彼女は一体…?」

「えっと私もこんなスマラさんは、初めて見たわ。いつもは読書をしながらだったから……」

 

 父親の言葉に、ビビも戸惑いを隠せなかった。

 席が遠いながらも二人の会話が聞こえていたナミが、騒いでいる麦わら一味を代表して答えた。

 ナミ以上にスマラについて話せる者は、スマラ自身をのぞいたらいないだろう。適切な人員だ。

 

「私たちも良く知らないの。分かっている事は自称旅人。偉大なる航路の後半出身で、クロコダイルに勝ったルフィよりも圧倒的に強い。それでいて尚底を見せない」

 

 ナミの説明に、この場にいる麦わら一味以外の全員が、あのクロコダイルを余裕の表情でいなした戦闘が蘇る。確かに、偉大なる航路後半出身は納得だ。

 ビビは船に乗った当初からの疑問をぶつけた。

 

「ウィスキーピークを出港した時から思っていたのだけど、スマラさんはどうしてこの船に?仲間って言葉に、普段の冷静さをみせない位に否定するけど……」

 

 本人が怖いのか、スマラをチラッと確認しながらビビは言う。

 大丈夫だ、他人の存在などいないかのように食事を取っている。

 

「あ~、本人曰く「天候が悪いのでお昼寝していたら、急に拾われた」」

「えっと、それはつまり、彼女が海で居た所を麦わら一味に拾われた。と言う事で宜しいでしょうか?」

「うん。その解釈でオッケー」

 

 気になったチャカが要約する。

 ふと気づけば、ルフィ以外の者が静かになっていた。話題が料理からスマラの話へシフトしたみたいだ。

 なお、ルフィだけがバクバクと料理に手を付けている。他の者は次々と出てくる料理に、無くなる心配が無くなったので、各自のペースで食べれば良いと安心したからだ。

 

「そういや、あれはビビったからな~。起き上がると同時にルフィをぶっ飛ばしたもんで。あの焦りようと言ったら」

「お前が一番ビビってたんだろ。いや~、食事をする姿も綺麗だなぁ」

「なぁ!俺にも聞かせてくれよ!」

 

 ウソップとサンジが横道に逸れる。今となっては懐かしい思い出だ。

 その時は仲間になってないチョッパーが、ウソップに当時の状況を詳しく聞く。

 

 

 横道は横道で楽しく花を咲かせるとして。

 本題の話はやっぱりナミが行う。

 

「目覚めたスマラを、いきなりルフィが仲間に誘うもんだから……。あの時のスマラが今でも一番怖かったわ」

「それは……災難でしたね………」

 

 今でも鮮明に思い出せるのか、ナミは身体をぶるっと震わせた。

 チャカも、自分が手も足も出せなかったクロコダイルを圧倒するスマラを思い出したのか、ナミに同情する。あれが味方では無かったらと思うと、震えが止まらない。

 

「それで、海賊の仲間になるわけにいかないと言い張るスマラと、スマラを仲間に引き入れたいルフィ。スマラが一歩引いて、仲間にはならないけど船に乗って航海を共にするのは良い、そう言う感じで落ちついたのよ」

「そうだったの……。てっきり諸国漫遊の為に乗っているのかと…」

「あながち間違っては無いわよ?船の上でも島の上でも、読書しかしないもの。本人の話も一切なし。強引に聞き出そうとは思わないけど、気になるのは当然よね」

 

 ナミとビビの視線がスマラに向けられる。

 スマラは一通り食べ終えたのか、優雅に飲み物が入ったグラスを傾けていた。

 

「ん?何か用かしら?」

「あんたの話題だったのよ。私たちとの出会いと、後、見た目に劣らない作法ぶり。それ、何処で覚えたの?」

 

 ナミが勇敢にも聞きだそうとする。

 普段は話題にすら上がらないことだ、今がチャンス!とばかりにスマラに聞いてみる。雰囲気も後押しして、喋ってくれれば良いだろうと考えて。

 そんな思いを知ってか、知らずか。スマラは答えてくれた。

 

「小さい時から自然と。周りがバカすか食べていたから……。対抗心でもあったのかもしれないわ」

「し、自然と……。自然と覚えた理由が対抗心って……」

 

 スマラの口から出た説明は、いささか期待とは違ったものだった。

 もっとこう、「家が王侯貴族だった」や「親の躾が厳しかった」などを思っていた。が、周りが今のルフィの様に無作法だったので作法を覚えたとは、思いもよらないだろう。

 益々、スマラの幼少期が気になってくる。

 が、これ以上話すつもりはなさそうで……

 

「ごちそうさま」

 

 そう言って席を立とうとするスマラ。

 また図書室に籠るのだろうか?ビビが行き先を尋ねる。

 

「スマラさん?何処に……?」

「少し外に出て来るわ。ほんの一二時間で戻ってくるつもりだから心配は無用よ。付添人もいらなわ」

 

 自分の言い分だけ述べると、スマラは大食堂を出ていく。

 スマラの個別行動は今更なので、誰も何も言わない。口ぶりからすれば、王宮の外に用事があるのだろう。

 ナミやサンジ、ウソップまでもが「本関係だな」とジト目を消えたドアに送った。

 

 

 

 

 

 大食堂を出たスマラは王宮内をサクサクと進む。途中で出会った衛兵達も皆、スマラを見ると足を止める。スマラの美しさと強者の存在感故にだ。

 王宮を出ると、反乱により壊れた街を復旧させている作業の名残が見える。当然夜なので働いている物は居ない。

 空いた窓から聞こえる喧騒が、国民の心強さを物語っている。反乱が終わったばかりなのに、皆元気にしている。

 

 そんな街中をスマラは進む。迷いない足取りだ。

 街を進んで郊外に出る。遺跡らしきものが度々見えた。

 その中でも一際目立っているのがあった。崩れていて、掘り返さないと進めないくらい崩壊している遺跡内部へ続く階段。

 

「はぁ、やっぱり難しそうね。………歴史の本文。読めなくても写しくらいはしたかったのだけれど………。これくらい崩れているとなると、時間も相当掛かるはずだわ」

 

 スマラは残念そうに呟いた。

 

 スマラがここまでやって来た理由は明白だ。クロコダイルが言っていた歴史の本文を写すため。

 スマラは数十年間で世界中を渡り歩いた。その過程で歴史の本文が存在する島を訪れるもの必然だろう。

 以前も述べたが、歴史の本文と言えど物語には違いない。物語なら読みたい。例えそれが読めない文字であっても、文字の形さえ覚えておけばいずれ読める様になった時に楽しめる。

 そう言った考えで、スマラは読めない歴史の本文を集めていた。

 

 今回も例にもれず最終日に立ち寄ってみたが………。

 ルフィとクロコダイルの戦いで遺跡が崩れてしまっているようだ。歴史の本文は決して壊れない石で出来ているので、壊れる事は無いが。掘り返すのは途轍もない苦労と時間がかかるであろう。

 如何にスマラの能力がバケモノじみていたとしても、掘り返す事は可能でも相性上一夜では不可能だった。クロコダイルやミス・メリークリスマスと言った能力なら可能かもしれないが。

 

 とりあえず今回の歴史の本文は諦める事にしたスマラ。

 目的が遂げられないならこの場に意味はない。さっさと来た道を戻り王宮に帰る。

 部屋に帰る前に図書に立ちよると、気に入った本をリュックサックの中に詰め込んでいく。国王自らの言質は取っているので、遠慮なく持ち去る。

 その数数十冊。遠慮ない?本に遠慮など必要ないのだよ。

 

 と、部屋に戻って与えられたベットで三日ぶりに休むスマラ。

 だが、そう簡単に休ませてくれないのがこの一味。

 

 寝ていたスマラは急にたたき起こされてしまった。

 




 時々でるお嬢様スマラ。
 ホントのお嬢様かどうか?そんなの秘密ですよ。

 お風呂回
 スマラは王宮の外に出ていた為なしです。ホントは入らせようかと思ったんですが、書いている内にこうなってしまった。お風呂に入らなくて匂いが気にならないのか?スマラの第一優先は本です。そのためなら気にしない。と言っても女の子なので多少は気にします。最低でも週に一回は入る。無論入れるときは入る。そんなこと気にしている時点で海になど出れない。

 次回
 終わる終わる詐欺でした。次回はホントに終わらせます。アラバスタ出港とロビン加入だと予定。


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345 二十五話「言ってなかったかしら?」

 遂にアラバスタ出港してジャヤに到着です。簡潔に参りましょう。

 あ、サバフェスは周回も残りまじかですよ~。詳しいガチャ結果は活動報告へ。


 たたき起こされたスマラ。理由は「今すぐここから船に戻るから」と言うものだった。

 その様な理由では怒れるに怒れない。だが不機嫌を隠さずにいられなかった。

 

 身支度を整えて超カルガモ部隊に送ってもらう。

 流石アラバスタ最速の動物。夜の間にサンドラ河にたどり着く。

 船上で破壊工作をする訳でもなく、麦わらの一味を待ち構えていたMr2。アラバスタ王国が海軍に包囲されているから一緒に突破しよう。というものだった。

 

 海軍によるアラバスタ王国包囲。

 確実に麦わらの一味を潰しに来ている。

 

 だが、それがどうした?

 スマラには関係ないことだ。

 船が落ちて捕まるならそれはそれ。スマラにはどうしょうもない。

 船が沈むまで数秒の余裕さえあれば逃げ出す事も可能なスマラは……

 

「シャワーを浴びてくるわ」

「ん。いいぞ」

「分かったわ」

 

 スマラにルフィとナミが返答する。

 その他は出港準備をしていて聞いていない。

 

 別にスマラに頼るつもりはない彼らは、あっさりと了承する。この程度、スマラの助けなどに頼っているとこの先の海ではやっていけない。

 それに、元々スマラがこの船に乗る条件としては「基本的には干渉しない」航海の手伝いは行わないことだ。

 ビビの護衛任務は、ビビ個人が王族としてスマラ個人に依頼しているから問題ないのだ。

 

 しかし、この一味の状況をよく知らない者が一人。異論を上げる。

 

「えぇ!!?あのバカ強い人は手伝わないのおぉ~~~!!!」

「スマラは基本なんもしないぞ」

「ボスも警戒するくらい強いのにぃ~~~??」

「スマラの手を頼ってっちゃ、ダメなのよ」

 

 Mr2をなだめているルフィとナミの声を後ろに、スマラは船内に入っていく。

 船内を進み、お風呂場に向かう。たどり着くと、服を脱いで布一つまとわぬ露わな姿に。

 そして扉を開けて

 

「あら」

「あぁ、いたのね」

 

 そこにはミス・オールサンデーが。

 見聞色で当然気づいていたスマラは余り驚かない。

 

 敵同士だった二人。戦いが始まる緊張した空気は………起こらない。

 固まるミス・オールサンデーを無視して、スマラはシャワーの蛇口を捻って水を浴び始める。

 

「何もしないの?一応敵船に潜入しているのだけれど?」

「私にとって貴女と敵対する理由がないわ。それに、私はこの船に乗っているだけだもの。敵対しないならどうでもいいわ」

 

 ミス・オールサンデー=ニコ・ロビンは驚いた。

 初めて出会った時は初手から攻撃態勢。次にあった時は王女の護衛として敵対。

 話の通じる人だとは分かっていたが、こうも興味なしとは思わなかった。

 スマラは『可憐なる賞金稼ぎ』と呼ばれるほどの有名な賞金稼ぎだ。つまり、高額賞金首のニコ・ロビンは格好の的。

 スマラの賞金首の狙う基準を知らない者からすれば、何時襲われるのかビクビクしてしまう。

 

「そう言えば……」

「………っ、何かしら?」

 

 シャンプーを泡立てているスマラが話を切り出した。必要の無い会話は余りしない主義のスマラにしては珍しい。

 ついつい警戒してしまうニコ・ロビンに、スマラは何でもないように質問した。

 

「貴女は古代文字が解読出来るってホントかしら?」

「な、何故それを……」

 

 ニコ・ロビンは、二十年前に政府の怒りを買って滅んだ島の生き残りだ。滅んだ島の名はオハラ。

 考古学者が集まる島で、世界一の蔵書を誇る図書館「全知の樹」があった島。政府の怒りとは、禁止である歴史の本文の解読を行ったこと。

 ニコ・ロビンが高額賞金首なのも、世界で唯一古代文字が解読出来るから。

 この辺りは少し調べれば誰でも分かる話だ。スマラも当然知っている。

 

「解読出来るか出来ないか?と聞いているのよ。あぁ、安心して頂戴。別に貴女を政府に引き渡そうとは思わないから」

「………出来るわ。政府から追われているのが証拠よ。聞きたかったのは、話が本当か気になっただけ?」

「もちろん違うわ。私の要求はただ一つだけ……。私に――――――――――――しなさい」

「ッ!!!それは!?」

 

 お風呂場には、シャワーから流れる水の音だけが鳴り響く。

 

 

 

 

 

「交渉成立ね。私はもう上がるわ。後はごゆっくりどうぞ」

 

 話が終わり、身体もバッチリ洗い終わったスマラは出ていく。

 気分が良いのか、鼻歌までしている。

 

 そんなスマラの後ろ姿を視て、ロビンは「今ならこちらの要求も通るのでは?」と思う。

 勝率があるなら逃すな!とばかりにロビンは、扉を隔てたスマラにある要求を求める。

 

「一ついいかしら?」

「えぇ、どうぞ」

「服が一着しか無いの。着替えを貸して貰える?」

 

 図々しい。

 先ほどの会話でスマラの事を一部知ったらしく、このくらいならオッケー。と言う範囲をもう見極めたようだ。

 これに対してスマラの返答は……

 

「分かったわ。この辺に置いておくから好きにしなさい。それじゃあ、上手くしなさい」

 

 了承だった。

 気分がいいのもあるだろう。

 スマラはリュックサックから予備の着替えを置いて、部屋を出ていった。珍しく激励の言葉をかけながら。

 

 

 上に戻ると、麦わら一味は寝ていた。夜通し砂漠を渡って来たのだ。当然と言えば当然だろう。

 スマラも女部屋に行ってソファーに持たれて寝る。久しぶりに熟睡できそうな夜だった。

 

 

 

 

 

 任務も終わったスマラは、これまで通り読書をする。

 朝食を取りながら読書。麦わらの一味が出港準備をしている間も読書。

 海軍からの攻撃を受けながらも、関係無いとばかりに読書。

 

 時間が経った。外から聞こえる喧騒が終わった。ふと窓の外を覗くと見えるのは海だけ。

 海軍の包囲網を抜けて、アラバスタから完全に離れたらしい。

 

 と、外から驚き混じった声が聞こえてくる。ロビンが姿を現したようだ。

 船に乗せてくれるかは、船長であるルフィの管轄。スマラにはどうすることもできない。

 だが、スマラにとってロビンは乗ってほしいところだ。

 

 なので、立ち上がって手助けしようと向かった。瞬間、ナミとウソップが部屋に飛び込んでくる。

 二人とも血の気を引いており、スマラを救世主を見るような表情だ。

 

「た、助けてくれ!!」

「もうスマラしか頼れる相手がいないの!」

 

 何となく状況を理解することが出来た。

 敵だったロビンが船内に忍び込んでいて、スマラなら撃退出来ると思って飛び込んできた。そんな風にスマラは予想できる。

 詳しく話を聞いてみると、案の定ロビンの事だった。スマラに取って嬉しい誤算なのは、

 

「船長が許可したのでしょ?なら私が言う事は無いわよ」

「えぇ~そんなぁ」

「そういえば悪魔の子は、クロコダイルの懐にいたのだからへそくりくらい持っているでしょうね。ねだって見たら?」

「行って来るわ!! お姉さま!!!」

 

 ナミ懐柔。そしてウソップも、ルフィから生えた手によるチョッパーの真似に懐柔。

 これでスマラの邪魔をするものはいなくなった。

 

 いや、ただ一人だけ。

 一人だけスマラとロビンを信用していない者がいた。

 

 

「また厄介なのが乗ったもんだぜ」

「あら?私も?」

 

 気晴らしに外へ出たスマラに、一人だけ厳しい目線で言ったのはゾロだ。

 彼だけはまだスマラとロビンの事を認めていない様子。船長であるルフィが決めた事だから表立って騒がないだけで、心の中では警戒している。

 

「クロコダイルでも敵わねぇのは、いざとなったらルフィが抑えられないって事だ。警戒するのは当然だ」

「そう、それが役割なのね。まぁ、乗せて貰っているわけだし、特別な理由がない限り敵対はしないわよ」

 

 「特別な理由が一番簡単なんだろ……」と言う言葉をゾロは引っ込める。スマラに一歩でも近づく為にダンベルを持って鍛錬を始める。

 

 

 

 気晴らしに外に出たのは良いものの、やることは特に変わらない。

 舩の隅に座り込んで読書を再開しようとして……

 

「ん? 雨?」

 

 『何か』が降ってきた。普通なら雨だと思うだろう。

 が、ここは普通が通用しない偉大なる航路。雹だって雷だって降る海だが、それならまだマシな方である。

 何故なら…

 

「……破片?」

 

 上を見上げるとほら、降ってくるのは巨大なガレオン船だ。

 

 一瞬とまさかの落下物に気を取られて、誰もが空を見上げて止まっていた。

 直撃コースなら一巻の終わり。だが、すれすれの場所に落ちる。

 衝撃で海が荒れる。ナミが「舵を切って」と指示を出すが、この荒れようでは舵など効きもしない。

 更に、恐らく船に乗っていたであろう物もパラパラと落ちてくる。雑貨、木片、人骨などなど。目の前に人骨が落ちてきたウソップは悲鳴を上げた。

 

 

 

 やっと終わったガレオン船が落ちてくる現象。

 空を見上げてみるが、何もない青空が広がっているだけだ。

 チョッパーとウソップはビビってしまい、二人して抱き合って震えている。この世の奇怪な現象を目のあたりにしたと言わんばかりだ。この先の海ではもっとデタラメな現象が起こると言うのに。「大丈夫かしら?」と少しだけ心配になる。

 

 ホッとするのも束の間。

 ナミが腕に付けている記録羅針を見て声を上げた。

 

「あ!!!」

「どうした、ナミさん!!?」

「記録指針が……壊れちゃった。上を差して動かない!!」

 

 どうやら、先程まで正常に島の方角を示していた指針が、上を指したまま動かないらしい。

 このままでは、行き先が分からない。

 

 が、そんな心配も偉大なる航路に詳しい二人が晴らしてくれる。

 スマラとロビンだ。

 二人とも、指針が上を示す島を知ってた。

 

「へぇ、珍しいわね。初めてこの船に乗っていて良かったと思ったわ」

「行先はあるってこと!?壊れた訳じゃないの!?もっと詳しく!!!」

「………より強い磁力を持つ島によって、新しい記録に書き換えられたのよ……!」

 

 余り多くを語らないスマラに、ロビンが補足説明を加える。

 説明しているロビンは知ってはいるが存在しているなんて…!?と言った顔で、スマラは見るからに笑みを隠せない顔で。

 二人して島の名を確かめる。

 

「…指針が上を向いているなら…………」

「十中八九、空島に記録を奪われたわね」

 

「「「空島!!」」」

 

 聞いたこともない、そもそも空にあるという島に、ウソップとルフィがはしゃぐ。

 ナミやサンジといった頭脳派は、ロビンが説明した海が浮いていると言う言葉に、首をかしげる。どうしても信じられないらしい。

 

 

 

 やがてルフィとウソップが沈みゆくガレオン船に探検しに行き、ロビンが引き上げた棺桶で考古学者っぽい事を始める。

 そこまで来ると、スマラに役割はない。元々無いけどね!!

 

 

 甲板の隅に移動して読書を再開する。こうなると基本的に、スマラ自身の命に関わる問題が発生しない限り読書を止めない。止めるのは呼ばれた時か、この場所に飽きた場合だけ。

 だから、ルフィ、ゾロ、サンジの三強が海に潜っても。突然音楽が鳴り響き、サルに似た海賊が先程沈んだ船をサルベージし始めても。ガレオン船が一飲みに出来る程巨大な、カメの海王類が表れても。突然夜になっても。空に巨大な人が見えても。

 スマラは微動だにせず読書を続けていた。流石、新世界出身者。このくらいの異常現象では動くことすらしない。ホントは本の世界に入り込んでいただけだとは、誰も思わないだろう。

 

 スマラが顔を上げたのは、全てが終わり、ジャヤと言う島に向かう途中だった。

 

「で、どうなったのかしら?」

「いや、あれだけ騒いでたんだから気づけよ!」

 

 スマラの質問にウソップがツッコミを入れる。「俺たちがあんなに苦労してたのに……」と涙を流すが、文句は言わない。だって怖いもの!ウソップは未だにスマラの事が苦手だった。

 スマラの質問に答えたのはルフィ。新しい島にワクワクを抑えきれずに言う。

 

「ジャヤ舵一杯だァ!!」

「ジャヤ?リゾート観光でもするの?」

「リゾート?俺たちは空島に行く方法を聞きに行くんだ」

 

 一瞬、スマラが言ったリゾートと言う言葉に反応仕掛けるが、それよりも空島に関する事が勝ったらしく、先程の探検で発見した空島の地図をスマラに見せる。

 スマラは地図を確認した。空島関係は興味があるみたいだ。

 

「『スカイピア』……?聞いたことがないわ。それに、かなり抽象的なものね。中央のが祭壇で……」

 

 地図を見て観察するスマラ。彼女の頭の中では、今まで得た知識を総動員させて空島に関する知識を得ようとしているのだろう。

 が、そんなスマラを邪魔する者がいる。

 

「ねぇ、ちょっと良い?」

「雲に浮かぶって事は相当な………何かしら?」

 

 ナミだった。ルフィの次に、スマラに対してずけずけと踏み込む人物である。

 

「ナミさん!!スマラさん!!タコ焼き要る??」

 

 あ、サンジも相当スマラに対して話をする。

 

 とりあえずサンジには断って、ナミに向かい合う。

 全員も、気ままに過ごしているが、耳だけは傾けている様子。

 

「さっきリゾートって言ってたけど……。もしかしてジャヤの事を知っているの?」

「たまたま観光本を読んだだけよ。リゾート地がある島で、かなり自由な街。ひとまず、人は沢山いるから情報収集には打って付けの場所だと思うわ」

 

 己の知っている情報を提供するスマラ。これくらいなら、情報提供は惜しまない。

 話すことは終わった。スマラは再び本を開いて読書を再開する。自分勝手だが、これがスマラだ。

 もう少し情報が欲しかったナミだったが、最低限の事は聞き出せた。良しとしよう。

 

 

 

 

 

 天候も良好。ポカポカと温かい空気が辺りを支配している。ジャヤの環境支配領域に入っている証拠だ。

 途中で、空を飛んでいたカモメが島陰もない場所から狙撃される。というアクシデントが起こったが、その他特に何も起こらずに島に着いた。

 リゾート地とスマラが言うだけあって、港にはメリー号を超える船が幾つも並んでる。海上に建てられた建造物は、遠くから見るだけで気分がそそり、聞こえる声も陽気で騒がしい。その住人や観光客の身分が海賊という事を除けば………。

 

「……確かにリゾート地だけど………」

「自由な街っぽいけど………」

「人も沢山いるけど………」

 

「「「海賊が自由闊歩しているなんて聞いてない……」」」

 

 スマラの情報を聞いていて、久しぶりに楽しい観光も出来ると思っていたナミ、ウソップ、チョッパーの弱小トリオがスマラに向かって抗議の声を上げた。

 当然スマラは聞いていない。間違っている事は言っていないから。

 

 

 ジャヤの西にある「モックタウン」そこは、夢を見ない無法者たちが集まる政府管轄外の、人が傷つけ合い、歌い、笑い合う、嘲りの町。

 

 ここに、空島の情報があればいいのだが……。

 

 

 

「あら?言って無かったかしら?」

 

 

 




 原作ではロビンが船に潜入した時間が不明なので、この時にはもう潜入していたと解釈します。

 スマラとロビンって話し言葉似てるよね……。
 どちらがどっちか出来るだけ分かるようにしています。それども分からない場合はご連絡ください。感想にでも。

 スマラの依頼
 まぁ、これだけヒントが出ていたら分かるよね!

 お風呂に美女二人。
 百合百合な展開は起きません。そもそもあの狭い空間に二人も入れるのか?と言う質問も受付ません!!だって創作作品だし!!ご都合展開で!!ちなみに、ロビンは豊満なお胸ですが、スマラさんは絶ぺ………ギリギリの戦いでBですよ!!

 あっけなく終わる二十三巻
 いつの間にかビビとのお別れも済んでました。まぁ、仲間ではないからね。

 空島に進路を奪われた事でワクワクを隠せないスマラさん
 本を読んでいるので、勿論存在は知っている。が、運要素もあるので行ったことはない。空島にはどんな物語があるのかしら?

 ジャヤ到着。
 黒ひげは………。まぁ、次回出港予定。


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346 二十六頁「この町は死にたがりが多いのかしら?」

今回も書いている内にシーンが増えて遅くなりました。誤字脱字、いつも通りありがとうございます。


 ジャヤに着いた麦わら一味御一行。

 

 ルフィとゾロは楽しそうに笑いながら船を降りて行く。町に向かって歩いて行く二人の背中を、残ったメンバーが不安そうに見つめていた。

 不安しかない。喧嘩っ早くて極度の方向音痴バカに、自分の本能の思うが侭に周りを翻弄するバカ。これでどう安心しろっていうものだろうか?

 

 やがて決心したのか、ナミが船を降りて二人の追って行く。保護者だ。一人で手綱を握れるか不安だが、もしもが起こっても身の安全は確保されている。

 ナミさんが行くなら……!とサンジも船を降りようとするが、残ったウソップとチョッパーがしがみついて止める。サンジまでもがいなくなると、この船を守る戦力がいなくなってしまうから。

 遂さっき仲間に加わったロビンと、得体の知れないスマラは戦力にカウントされていない。

 

 更に、

 

「……あれ?ロビンちゃんは?」

「………………?」

「す、スマラも……」

「あれ!?いない」

 

 

 

 

 

 場所を少し移動してモックタウン。

 海賊たちが騒いでうるさい中、見事に場違いな二人組が歩いていた。

 

 

「で、私についてきて一体何の用かしら?」

「あれ?用もなければ同行してはダメなの?」

 

 勿論この2人、スマラとロビンだ。

 皆がルフィとゾロに気を取られている間に、一人島を散歩しようとしていたスマラに、ロビンが引っ付いて来たと見受けられる。

 スマラは「何でコイツが?」と迷惑そうにロビンに苦情を入れると、ロビンはニコニコと腹の内を隠しているのか、はたまた本心なのか分からない態度でスマラに返す。

 

「勿論、ダメではないわよ。私に個人の行動をどうこう言う権利はないもの」

「そう、なら私の勝手よね」

 

 沈黙が流れる。

 元々二人とも口数が少ない性格だ。こうなるのは当然のこと。

 しかし、ロビンが切り出した。

 

「……何処に向かっているの?目的地くらいあるのでしょう?」

「本屋よ。なければ雑貨屋でも。兎に角本さえおいていればいいわ」

 

 やっぱり本屋。知らない町、島に入ったらとりあえず本屋を探す。

 これぞスマラの生態系だ。はぐれたなら、本のある場所を探せば基本的には見つかるだろう。スマラさんに恨みのあるお方々、有効な情報ですぜ!

 

 

 

 だがしかし、ここは海賊が満喫している町。文学的な本が置いているはずもない。

 あるとすれば、ボロボロになった航海日誌くらいなものだ。

 

「ボロボロな航海日誌でも構わないのね」

「えぇ。一人の海賊が歩んだ物語を読めるんだもの。上手い下手は関係ないわ。ただ読めればそれで満足よ」

 

 先ほど、雑貨屋から買った古びた航海日誌を慎重に読むスマラ。物語が読めれば満足な彼女は、創作だろうが史実だろうが構わない。

 航海日誌だろうが、丁寧に製本された売り物だろうが、その場で書いた詩だろうが、目で見た物語だろうが構わない。

 だから、この様なボロボロに朽ち果てた航海日誌でも愛せるのだ。

 

 予想してたよりも少ないが、戦利品を手に入れたスマラは帰ろうとする。

 が、そこで待ったをかけたのはロビンだ。

 

「これで終わり?」

「そうだけど?何か問題でも?」

 

 スマラの返答に、驚いた表情を浮かべるロビン。少しばかり予想外だったのだろう。

 

「問題……というより、情報取集で町に出たのでは?」

「情報収集?………あぁ、一つ考えを正しましょう」

 

 そう言って人差し指をロビンの前に持っていくスマラ。

 攻撃!?と気を張り詰めるロビンを置いて、スマラは自分と麦わらの一味の関係を説明していく。

 

「いい。私は麦わらの一味の船に乗っているけれど、仲間ではないわよ。仲間ではないと表現すれば、貴女と同じ様に聞こえるかもしれないけど、根本的に違う。貴女は一応賞金首で政府から追われている身、海賊でも問題ないの。一方私はただの放浪者、時々海軍から賞金を貰っているから海賊だったら問題ありなの」

「……そう。気を付けるわ。でも、船に乗っているから少しは手伝おうとは思わないの?」

「全く。と言っても状況によるけど………。兎に角、何か情報を得たいなら一人で行動しなさい。私はお付け目役で貴女と行動しているわけではないから」

 

 ロビンを残してさっさと立ち去るスマラ。本を読みながらも、ぶつかっただけで因縁を付けて来そうな海賊共を避けていた。全く末恐ろしい人物である。

 あ、的確に避けるスマラに業を煮やして、複数人で囲んで逃げ道を無くした上でぶつかって行く馬鹿が数名。

 

「おうおう姉ちゃん。痛てぇじゃねえぇか?」

「あ~あ、こりゃあ骨が折れたかもな」

「慰謝料たっぷりと払ってもらうぜ!?」

「その身体でな」

「「「「きゃっはっはっは!!!」」」

 

 バカだ。ぶつかって因縁を付けた相手がただの小娘だと思って、いやらしい目を向けて来る海賊共。

 嗤っている海賊共に、スマラは掌を向けた。

 

「――――のに」

「え?なんつった!!?」

「折角気分よく読書をしていたのに。よくもいけしゃあしゃあと因縁ふっかけてくれたものね」

 

 気分が良いところに、その気分をぶち壊す者が現れる。スマラでなくてもキレるのは当然だろう。

 で、その気分をぶち壊した海賊共は、

 

「貴方の物語、ここで完結するのかしら?」

「あぁ!!?何を意味の分からねぇ事を!!」

 

 独自の言い回しで海賊を挑発するスマラ。本人は挑発していると思っていない。

 海賊が声をあげることで、騒ぎは辺りに知られる。が、周りにいるのは基本海賊なので野次馬化する。

 

「そう言えば、骨折しているのよね?」

「あぁ!!そぉだよ!!!」

「じゃあ、ホントに骨折しても文句は言えないわよね?」

「何を言って……」

 

 スマラが海賊を軽く押すと、予想以上に吹き飛んだ。まるで大男に全力で殴られた様に。

 吹き飛ばされた海賊は家を壊して止まるが、意識はすでにない。身体もあちこちが折れているだろう。

 

 ポカーンとなる海賊共と野次馬。ただの接触が強力な攻撃になったのだ。それも、か弱そうに見える女性がやった。

 やがて現状の理解が追いついたのか、スマラに因縁を付けた海賊共は狼狽え。野次馬はスマラを応援し始める。

 

「く、クソッ!!全員だ!!全員でかかれ!!」

「なんかの能力者でも、同時攻撃なら!!」

「「「おおぉぉぉ!!!」」」

 

 狼狽えたのも一瞬。全員でかかれば大丈夫だ!!と全方位から攻撃を仕掛ける。が、ただの海賊共の攻撃くらい、全方位でも読書の片手間でも対処出来る。

 案の定、それぞれの武器がスマラに接触した瞬間、運動エネルギーが反転し、腕の可動範囲を無視して動く。腕が折れ曲がり、その勢いで後ろに吹き飛ばされる海賊共。

 大丈夫だったのはスマラの方だったネ!

 

 

「…これが、可憐なる賞金稼ぎ」

 

 ロビンは呟いていた。

 初めの方だけだったが、クロコダイルとの戦闘を視て彼女の強さは知っていた。だけど、強者相手に翻弄し、雑魚と呼べる相手には己が動く必要がない。

 恐らく、奇襲、毒殺、狙撃、真っ当な手段で無くてもスマラは難無く撃退するであろう。

 改めてスマラの恐ろしさを知り得たロビンは「彼女には絶対に敵対しない」そう己に誓った。

 

 

 海賊が撃退されたので、野次馬も減っていく。皆、恐らく強いスマラに関わりを持ちたくないのだ。

 スマラも関わって来ないから関係ない、とばかりにこの場を立ち去ろうとする。

 

「待って」

「? 何かしら?」

「同じ船に乗っているよしみで、少しだけ時間を頂戴」

 

 スマラを呼び止めたロビンは「それくらいいいでしょう?」とスマラに頼み込む。

 ロビンが何をしようとしているか理解できなかったスマラだが、読書の邪魔をしないなら問題なしと判断。古びた航海日誌の続きを読み始める。

 

「…ありがとう。ねぇ貴方達」

「な!なんだよっ!!!もう手は出さねぇから勘弁してくれ!!」

 

 ロビンが声を掛けたのは、スマラに因縁を付けて返り討ちにあった海賊だった。

 殆どが気絶している中、唯一意識があった者にロビンは目を付ける。

 

「さっきの彼女と知り合いなんだけど、今情報が欲しいの。何かない?」

 

 ロビンが求めたのは、簡単に言えばスマラに対する詫びだ。お詫びとして情報を提供させようとしている。

 怯えながらも痛む身体を動かして懐に手を伸ばす。

 

「言っておくけど、この状況で更に報復しようとするなら、痛い目を見るわよ?」

「しねぇよ!!ほら、島の地図だよ!!」

「ありがとう。それと、空島について知っている人を知らないかしら?」

「あぁ!!?空島だと?そんなもん……」

「私も興味あるわ」

「ぎゃああぁぁぁ!!!」

 

 島の地図を善意で譲り受けたロビンは、追加で空島について尋ねた。が、それがスマラの興味を引き付けてしまう。

 ロビンの口から空島と聞いた男は、周りにも聞こえるレベルで声を出してバカにしようとして、急に会話に参加したスマラに悲鳴を隠せない。

 男は知らないが、スマラは空島に行きたい。そんなスマラの前で空島の話をすれば、情報を聞き出そうと飛んで来るのは当然だろう。

 男はスマラに怯えた様子で話を続けた。

 

「い、いいか。決して馬鹿にしている訳でなく、仕方なく言っているだけだからな。この島には空島を信じているような夢見がちな者は居ねぇ」

「…………」

「地図を見てくれ。ここがモックタウン、今いる場所だ。そんでもって、反対側のここに『モンブラン・クリケット』っつう夢を語って町から追い出されたはみだし者が住んでるって噂だ」

「モンブラン?」

 

 地図を指差しながら丁寧に説明してくれる海賊。身体が折れているだろうに、スマラの機嫌を悪くさせないように必死だ。

 そんな事もつゆ知らず。スマラは男が言った名前に注目していた。

 

 確か、北の海に伝わる絵本だったかしら?主人公の名前が噓つきノーランド。本名『モンブラン・ノーランド』

 子孫かしら?だったら、どうしてこの島に? 知りたい。

 絵本の題材にもなった人物の直系の子孫が歩んできた物語。そこに何があるのか知りたい。

 

「同じ夢を語る者同士だ。話くらい合うんじゃねぇのか?」

「そうね……。どう思って?」

「…面白そうじゃない」

 

 スマラの興味が引けたらしく、男は見るからに安堵の表情を浮かべる。

 

「じゃ、じゃあ俺はこの辺で!!これ以上情報は持ってねぇから!!」

「あ……行っちゃったわ」

 

 出来るだけ早くスマラから離れたかったのだろう。喋る事はもうないと言うと、ビューンと逃げて行った。まだのびている仲間たちは置き去りだ。よっぽどスマラが怖いらしい。

 

「さて、これからどうするつもり?」

「勿論、モンブラン・クリケットに会いに行くわ」

「そう、なら一旦船に戻りましょう。ここからだと歩くよりは船からの方が早いわ。……貴女ならそうでないかもしれないけど」

「えぇ、移動に足を出してくれるなら頼るわ。それじゃ、行きましょうか」

 

 一旦船に戻ることを決めた二人は、船が泊めてある郊外に向かって歩く。

 今度は海賊に因縁を付けられるなんて事は無い。何故なら、一刻も早くノーランドの子孫に会いたいスマラさんが、軽く威圧を飛ばしているからだ。

 この先ほどよりも機嫌の良いスマラを呼び止める者は、力関係を見抜けない大馬鹿者か……

 

「ほぉ!これまたべっぴんが揃っているじゃねぇか!!?えぇ!?」

 

 スマラの軽めの威圧をものともしない強い者だろう。

 

 視線を向けるとそこには、豪快にも地べたでチェリーパイとドリンクを飲んでいるおっさんが一人。

 誰だ?と思うよりもまず、スマラはこの男がこの島で一、二を争うレベルで強いことを理解した。それは、スマラが少しばかり本気で相手取らなければ即座に負けるレベル。こんなオッサンがだ。

 

 本を閉じて、真っ直ぐに相手を見つけるスマラ。見聞色の覇気で未来を先読みしつつ、何時でも動けるように能力の計算を始める。

 スマラの本気度に、味方のはずであるロビンも震えが止まらない。クロコダイルの時ですらこうならなかった。なら、相手はクロコダイル以上ということだ。

 

「知り合い?」

「……メモリ・コネクトオン……………該当者を検索中」

 

 ロビンがスマラに声をかけた時、スマラは警戒しながらもどこか機械的な声を呟いていた。

 能力で上限を増やしている記憶の中から、目の前のオッサンに関する情報を探しているのだ。その間は一部機能を残して全てを思考能力に費やし、その他関係ない機能は全て機械的なルーティンワークに寄って行われる。記憶力がいいからと言って、メリットばかりでないのだ。

 

「……該当者の検出を確認。……貴方、マーシャル・D・ティーチね、白ひげ海賊団二番隊隊員の」

「おぉ!!俺のことを知っているのか!?だが今は、黒ひげ海賊団船長だ。ゼハハハハハハハ!!!」

 

 豪快にも高笑いをするマーシャル・D・ティーチこと黒ひげ。声も大きく、周りに注目されようが関係なし。豪快過ぎる人物だ。

 品がないという点を除けば、周りを気にしないスマラに似ている。スマラも読書中は周りの目を気にしない。

 

「そう、覚えておくわ。で、私たちに一体何の用?勧誘ならお断りよ」

「いやな!綺麗だったから声をかけたまでよ!! でも良く見ると知った顔じゃねか!!『可憐なる賞金稼ぎ』がどうしてこんな場所に?」

 

 どうやら、スマラの事を知っているらしいが、本人とは知らずに声をかけていたみたいだ。最近は噂もない二つ名。知っている者からすれば、偉大なる航路入りは驚くだろう。

 

「…胸が少し残念だが、どうだ?俺の仲間にならねぇか?そうなりゃ計画が大幅に進む!」

「……死にたいなら、ハッキリとそう言いなさい」

 

 あ、黒ひげがスマラを怒らせた。先に「勧誘はお断り」と言っていたのに。わざとなのかな?

 威圧で空気が震え、例えスマラの意識に入っていなかったとしても、近づくだけで意識を持っていかれる。どさりどさりと、と近場に居当た者がとばっちりを受ける。

 が、そんな威圧を物ともせずに黒ひげは笑う。即一発と言う雰囲気にはならないらしい。

 

「ゼハハハハハハハ!!!これは手厳しい!! ………やめておこう。姉ぇちゃん相手には一つじゃ心許ないからな!!」

「………そう、なら私も安心だわ。面倒な者に目を付けられたくないもの」

 

 威圧が収まる。辺りは嘘みたいにここだけシーンっとしている。原因はまぁ分かるだろう。

 ただ一人、ロビンだけがスマラと黒ひげの会話の意味が理解出来なかった。それなりの知識を持っているはずだが、それでも知らない事は多い。目の間の二人は、その知らない部分で会話している。

 

 更に、先程の威圧。あれがスマラの全力。かは分からないが、クロコダイルの時以上の戦闘態勢。黒ひげという人物がそれほど警戒するべき者なのだろう。届かない。あれが世界レベルの者。あんなのが自分に矛先を向けられたら生きていられる自信がない。

 ロビンは、スマラの評価を改める。彼女には抗ってはダメだ。敵対されたが最後、私は生きてられない。怒りを買わないように、かかわらないと。生憎、彼女の好奇心は本にしか行かないようだけが救いだわ。

 

「それじゃ、今日はこの辺でおさらばするぜ!!いつかまた逢えたら、そん時は手柔らかに頼むぜ!! ゼハハハ!!!」

 

 チェリーパイを包んで、ドリンク片手に去っていく黒ひげ。豪快で何も考えていないように見えて、慎重にスマラを観察して言葉を選んでいた。油断なれない男だ。

 スマラはそんな黒ひげの背を見てため息をつく。感情は自分自身に対する呆れ。

 

「はぁ~……………。やってしまったわ」

「……人間らしい所もあるのね。驚いたわ」

「そりゃあ、人間だもの。私」

 

 「さぁ行きましょう」とスマラは足を踏み出す。邪魔する者は今度こそいない。何故なら、先程の威圧で恐怖すら抱いているからだ。やったね!

 スマラとロビンは、やっとこさ帰路につけた。

 

 さて、船に帰ったら読書の続きだ。面倒な空島までの準備や航路は他の者に任せて、空島についたら動きましょう。

 

 




 簡潔に……と言いつつオリジナルシーンが多くなっていく。
 ホントにこう言ったシーンを書かないと、ホントに何もしないし。巻き込まれ戦闘しかないから!

 思いつきで凹される海賊さん
 ホントに思いつき。これだと時列的にロビンが栗のおっさんの情報を手に入れるのは難しいんじゃか?と思った結果こうなった。

 いつの間にか替えの服を買っているロビン。
 忘れてた。描写いらないよね?スマラが雑貨屋をめぐっている間に、ロビンが勝手に買いに行ったということで。

 細かい話は書きながら考えているので、仕方ないよね!
 簡潔に終わらせたいのに、終わらない理由がこれ。

 結局絡ませる事にした黒ひげ
 と言ってもちょっとした接触だけですが。黒ひげは白ひげの船に乗っていても目立つことをしなかったって原作にありましたが、世界最強の船のクルーです。一般クルーの情報くらい、少しはありますよね。

 お胸の事でキレるスマラさん
 普通はここまで短期ではない。だが、気分や相手が黒ひげと言う生理的嫌悪感を抱くような相手だとこうなる。あぁ、また話が進まない………。


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347 二十七頁「死ぬ?それとも引き下がる?」

FGO四周年については活動報告に記載!!


 モックタウンでの行動が思ったよりも疲れたスマラは、船にたどり着くと説明を全部ロビンに丸投げして休憩に入る。まぁ、疲れていなくても説明はロビン丸投げしていると思うけどね!

 一緒に行動していて、何を説明すればいいのか理解しているロビンでも問題はない。

 ルフィとゾロについて行って何があったか知らないが、機嫌が悪いらしいナミの横を通り過ぎて船内の規定位置に座った。リュックを降ろして古びた航海日誌を読みふける。

 

 休憩と言っても、スマラのいう休憩とはただの読書だ。椅子に腰を掛け、本を開いてゆっくりと活字を追いかける。頭の中では活字を読んでいるはずなのに、文字通りの世界が広がっていく。

 同じ読書でも、急がずに詰め込むだけの読書ではなく、ゆったりと本の世界を感じて味わう読書。休憩用だ。活字以外の事は何も考えない。

 ただ唯一、外への警戒だけはやめていないけど、殆ど無意識のうちにやっていることだ。この世界で死にたくないのなら当然である。

 

 

 休憩なので、この読書は誰にも止める事は出来ない。

 耳に入る音量をゼロに、一定以上の衝撃を自動反射、視野を狭めて集中力を高めるとあら不思議!世界でも最高レベルの強さを持った者にしか止める事が不可能なスマラが出来上がる。

 要するに結構いつも通りだった。

 

 いつも通りなので、外で物凄い声で攻撃して来る敵と出会っても、スマラは気にしなかった。気配では気づいているが、自分に害を与える者でもない限り自分で対処しない。

 普通なら耳を塞いでも頭の痛くなるような声に、読書などできるわけもない。だけど普通ではないスマラは能力で音量を消している。

 相手は知らないうちに命を拾っていた。もしスマラが能力で音を消していなかったらどうなるのか?この船に乗っている者なら誰でも予想が付く。相手は殺される。命までは取られないかもしれないが、海賊なら捉えられて海軍に引き渡されるまでがセットだろう。

 

 

 

 

 

 黒ひげと対峙した時の疲労は思ったよりもあったらしい。

 日が陰り、灯りをつけなくては本が読めなくなるまでスマラの休憩は続いた。

 やっと日が陰っている時間帯だという事に気づいたスマラは、立ち上がってギューッと背伸びを行う。ぽきぽきと骨が鳴った。

 

 流石にお腹がすいたので、やっと辺りに視線を持っていく。が、やけに静かだ。誰もいない。

 いや、船内に誰もいないだけである。見聞色の覇気には船の外に反応がある。なので外に出てみることにした。

 ドアをくぐって外に出ると、日が沈み月明かりが夜の地上を照らしている。道理で本が読みにくかったはずだ。

 

 辺りはシーンとしている。いやただ一点、張りぼての小屋から聞こえてくる、どんちゃん騒ぎだけが響いている。多分、あの中に他のメンバーはいるのだろう。

 船を降りて地面を進む。一か所だけ不自然に地面が掘られている事を除くと、何も変哲のない場所だ。

 ためらうことは何もない。ためらうような感情を基本的に持ち合わせていないスマラは、石造りの小屋のドアを開けた。

 

 するとそこは、麦わらの一味が知らない者たちと騒いでいた。サルとオラウータンに似ている巨体の男二人に、頭に栗を乗っけている様に見える頭のおっさんだ。

 スマラの思考は一瞬止まる。

 

 人間……よね?混血かしら?

 短時間で別の島に移動は基本的には不可能だから、ここはジャヤね。悪魔の子が誘導してはみ出し者のモンブラン・クリケットの場所まで移動したと考えた方がいいわね。

 ということは、あの三人の誰かが当人ね。

 

 ナミが入り口に立ち尽くしているスマラに気づいた。何かと一番スマラの行動を知っている気がする。

 

「あ、やっと起きた。あんた声掛けても一切反応しなかったんだからね!」

「…それはごめんなさい。音を消していたから」

 

 音を消す。普通なら突っ込むところだが、麦わら一味は慣れてきている。誰も驚かない。

 やがて他のメンバーもスマラの登場に気がつく。サンジが己が作った料理を勧め、ルフィが空島への航路が分かったと語る。ウソップとチョッパーがスマラを怖がりながらも、興味を示すだろう「噓つきノーランド」の絵本を見せ、ゾロとロビンはそんな彼らを少し離れた場所で見ていた。

 

 

 

 サンジが勧める料理を食べながら、スマラはクリケットが知る絵本の原形の物語を聞いている。

 「髑髏の右眼に黄金を見た」謎解きの様な遺言を語り、一同のテンションはMax。更に海底から見つけたと言う黄金のインゴットを取り出すと、ナミまでもが騒ぎ出す始末。

 

 やっぱり子孫から話を聞くと違った見方が出来るわね。最後の笑いながら処刑されたのが、涙で懇願しながらだったとは。

 黄金都市は本当に実在していたらしいし、鐘の音に導かれてこの島にやって来たとは……。謎は何故島から黄金都市は消えてしまった?よね。

 一番の説はノーランドも唱えた海に沈んでしまった。本当にそうなのかしら?この家が切れ目なら、何故ここだけは生き残ったのか?普通なら島ごと全部沈んでしまうのが定石よね。

 更に突き上げる海流と言う災害。新世界でも似たような現象は起こりうるけど、災害と呼ばれるほどではない。積帝雲と呼ばれる聞いたこともない雲がこの海域には現れるらしいし………。知らない事が沢山だわ。やっぱり偉大なる航路ってステキな場所ね。

 でも、そろそろ情報も終わりかしら?

 

 時間が経つに連れてスマラは冷めていった。

 確かに物語は面白いし、子孫でしか持っていない様な航海日誌も読ませて貰った。だが、それだけだ。

 これからそれを探すだとかはどうでもいい。物語さえ読めれた後は、興味なし。

 モンブラン・クリケットとモンブラン・ノーランドの物語はそれまでの事。クリケットの物語はまだまだ続くだろうが、終わりが来るのは数十年後。その時にまた読めばいいだけの話だが。この場で知ることができないなら、興味は失せる。

 

 と、クリケットが急に叫び声を上げた。今しがた見せていた黄金の鳥。サウスバードが空島への航海に必要ならしい。

 更に、空島へ向かう為の条件が明日の昼過ぎで、今から船の改造に取り掛からないと行けなかったそうだ。宴会などしている暇はなかったとのこと。

 メンバー全員で今から森の中に入ってサウスバードを捕まえて来ること。その間にクリケットらが船の改造に当たる。宴会は中止となり、全員が小屋の外に出た。

 そして、スマラは……

 

「じゃあ、私は寝るわ。おやすみなさい」

「えっ!?ちょっと手伝ってくれないの!?」

 

 船に戻ろうとするスマラにナミが驚きの声を上げる。スマラも空島に行きたがっていたので、手伝ってくれと思っていたのだ。

 勿論、空島には行きたい。だけど手伝う気はサラサラないようだった。が、異論は上がる。

 

「その、気配を読む力がありゃ、一発で終わるだろうが。お前も空島に行きてぇんだったら、手伝うのが当然だと思うが?」

「そうね。でも、それだと簡単だと思わない?鍛錬だと思って貴方達で挑戦してみたら?それとも、直ぐに人を頼る人達なのかしら?」

 

 船に乗っていて、空島に行きたいなら手伝えというゾロに、スマラはそれだと面白くないと返す。更に自分を直ぐに頼る人なのか?とゾロを煽る。単純に、自分で森の中に入りたくないだけだ。

 

「そんなわけあるか!!!見てろよスマラ!!直ぐに見つけて帰って来てやるからな!!」

「スマラさ~ん!!俺はそんな堕落しているマリモとは違うぜ~~!!直ぐに帰って来るから待っててねぇ~」

「…上等だ」

 

 挑発に乗ったのはルフィ、サンジ、ゾロだ。三人とも考えは違うが、スマラを手伝わせるつもりは無くなった。

 スマラに乗せられてしまった三人を見て、ナミ、チョッパー、ウソップが項垂れた。楽をしたかったのだろう。

 

「折角簡単に捕まえられる人が居るのに利用しないなんて………」

「分かるぜその気持ち。あいつらはいつだって自分勝手だからな」

「夜の森コエー!!」

 

 そんな事を言ったって考えは変わらない。ただし、空島には行きたい為、保険はかけておく。

 

「万が一捕まえられなかったのなら、私が行くわ。出港前に少し時間を貰えられればそれで充分よ」

「ほっ。流石スマラ」

「なら、俺たち行かなくても良いよな!?」

「いいえ、努力はしなさい」

「分かったよ、チックショー!!」

 

 安心するナミ。ならば結局スマラに任せれば良いと思うウソップに、スマラは笑顔で試練を与える。

 自分なら少しの時間を貰ったら捕まえられると聞いて、ゾロが勝手に燃え上がったり、そんなゾロに対抗心を燃やすサンジ。ルフィは「俺もやるぞ!!」と気合を入れる。

 そんな感じで、麦わら一味は森の中に入って行った。果たして無事にサウスバードを捕まえて来れるのだろうか?スマラは全く不安ではなかったが…。

 

 

 

「ということで私は船で待つわ。邪魔にならないかしら?」

 

 サウスバードを捕まえる為に森の中に入っていく麦わら一味を見送ったスマラは、忙しそうに船の改造を始めている猿山連合軍のマシラとショウジョウに質問した。

 二人はスマラに対して丁寧に受け答えしてくれる。

 

「大人しくしているなら、全く問題ねぇさネーチャン」

「そうそう、もしショウジョウが何かして来た時は俺に言ってくれ」

「オウオウ、何で俺がそんな事しなきゃなんねぇんだ!!俺を怒らすんじゃねぇぞ!!」

「うっき~!!しそうだったから言ったまでだ!!」

「喧嘩売ってんのか!!?ハラハラして来たぜ!!」

「おいお前ら!!ちんたらしてねぇでしっかり働きやがれ!!」

 

 急に喧嘩を始めた二人。明らかにマシラが吹っ掛けた喧嘩だが、そんなことは些細な理由にしかならない。

 敵の様に相手を憎んでいる訳ではない。だけれども些細な事で勃発してしまう。

 そんな、喧嘩を止めるのはいつだってクリケットだった。今回は時間との勝負もあるので特に。

 

 スマラはどうなっているかって?スマラさんはショウジョウが第一声を発したと同時に船に歩いて帰りましたが?

 船に居ても問題ないと知ったら、即座に行動に移す。猿顔の大男二人の喧嘩など、微塵も興味が湧かないらしい。頭に腐がつく女子以外は誰でもそうだろう。腐女子でも猿顔は無理かもしれないが。

 

 船内に戻って来てもやることは変わらない。自分の本能に任せて行動するのみだ。

 灯りを灯して読書をするのも良いだろう。夜の静けさと波の音がいいBGMになりそうだが、数十年と航海を続けているスマラからすれば飽きているもの。

 というわけで、女部屋に行きソファーに転がる。リュックサックの中から毛布を取り出して、ぱさっとくるまると目を閉じて寝息を立て始める。

 余程疲れている様子だ。いくら読書が最高のリラックス状態になると言えど、身体の本質は人間だ。疲れが溜まると、意識を落として身体を休めようと脳が働く。

 スマラもそこまで人間を辞めてないということだ。

 

 

 

 

 

 朝までぐっすりだったはずのスマラ。しかし、目が覚めてしまった。

 寒かったとか、悪夢をみてなどではない。気配だ。自分に敵対心のある気配を感じ取ったからだ。

 目を開くと、眠気に襲われることもなくパッと起き上がり移動を開始する。これまでの習慣が身についているからこそ、今の今まで生き残ってこれた。

 

 今回もそのとっさの行動が功を奏した。船が、急に真っ二つに割れたのだ。強い衝撃を船内を襲った。甲板に飛び出して陸地に着地する。そうして始めて、何者かに襲撃されている事を知った。

 

 海賊だ。メリー号の何倍もある船が止まっていた。

 それだけではない。陸地には気絶しているマシラとショウジョウ。唯一クリケットだけが意識があったが、それも時間の問題だろう。そう思える程、海賊に痛めつけられている。

 

「海賊……。さて、どうしましょうか?」

「ん?お前もこいつらの仲間か?」

 

 スマラさんに声をかけたのは、女の肩を抱いている長髪の大男。

 スマラは即座に記憶を探って相手を調べる。

 

「……検索完了。ベラミー海賊団のビックナイフ・サーキースね」

「ほぉ!俺の事を知ってんのか。だったら話が早ぇ。ささっと逃げな。それか俺の女になるか?」

 

 戯言を言い出すサーキスに、スマラの反応は無視。目の前の惨劇をどうとらえようかと考えていた。

 サーキースは動こうとしないスマラに段々とイラついてくる。偉大なる航路のルーキーとして、実力を持ち有名だと思っており、スマラが慌てふためく様子を見せなのにイラついているのだ。

 

 スマラは情報通なので彼らのことは知っている。麦わら一味と同じく、偉大なる航路にいるルーキーとしてちょっとばかり有名になっている海賊団だ。そこの副船長。ククリナイフを得物とし、懸賞金は3,800万ベリー。スマラからすればこれのどこが威張れる額なのか不思議に思っている。小山の大将だ。

 一方でサーキースらはスマラのことなど知りもしない。最近は東の海で放浪してた為、新聞に載る様な事もなかった。スマラが一番名が知れていたのは、ベラミー海賊団が結成される前どころか、生まれる前だからスマラの事を知る由もない。昔のニュースを真剣に調べていれば別だろうが。

 

 サーキースらを見つめて思考に耽るスマラ。やがてサーキースの取り巻きである一人の女海賊がスマラに突っかかってきた。サングラスにフワフワとしている髪の毛。海賊というよりもギャルだ。

 

「アハハハ。早くどけって言ってのが分かんないの? お嬢様!!」

 

 余り戦闘向きの人員ではないのだろう。様になっていない蹴りをスマラに入れてくる。

 多分、スマラの格好がお嬢様にしか見えなくて、海賊として一般人よりは戦える自分が簡単に勝てると思ったのだろう。ちょっと脅せば逃げていくとも。

 だが、それが彼女の間違いだった。

 

「どっか行けよ、オラ!!」

 

 ギャル海賊は蹴りを放った。だが簡単に当たる様な相手ではない。

 ヒョイと蹴りを避けると、本当の蹴りはこうだとお返しの蹴りを入れる。スマラの蹴りはお腹にヒットし、ギャル海賊をお空にぶち上げた。

 そのまま星になって消えていく………わけもなく、地面に叩き落とされるギャル海賊。蹴りの痛みで意識はすでに朦朧とし、受け身など取れるはずもない。骨を折って戦闘不可能となった。

 

 良いところのお嬢様にしか見えないスマラの行動を、サーキースらは動けないで見ることしか出来なかった。直ぐに仲間がやられた事に驚いて、スマラを見るとそこには、

 

「私の敵決定ね。死ぬ?それとも引き下がる?どっちにしろ、逃がしはしないわよ」

 

 バケモノが降臨していた。




 数時間同じ体制で読書をするスマラさん
 これぞスマラしている。本読んでると時間忘れる事ってありまよね?流石に体制かえますけど……。二年前は一日でラノベ三冊は読んでました。あの頃に戻りたい。

 睡眠を邪魔されてお怒りなスマラさん
 俺の眠りを妨げるのは誰であろうと許さない。とばかりな感じです。さらに言えば、足変わりな船を壊された訳です。更に攻撃を受けたら反撃は絶対。

 なんか上手く纏まっていない気がする。まぁ、いっか。この話でジャヤ編終わりたかったのに……。これもベラミーが悪い。

 今回短い様に感じる?
 改行を余り行っていないので、そう見えるだけ。普通に文字数は5,700文字あります。


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349 二十八頁「私を倒したかったら、世界レベルを持って来なさい」

 四周年の福袋がショックで立ち直れなかった。が、スタンピード観に行ったのでテンションは上がってます。

 前回サーキースの名前を間違えてました。報告ありがとうございます。今回は直している、はずです。


 ギャル海賊がやられた。一息ついて漸くその現実を理解したサーキースは眉間に皺を寄せる。

 自分の仲間がやられたのだ。怒らないほうがどうかしている。ベラミー海賊団は北の海である海賊に憧れたチンピラが海賊になった集団だ。仲間想いは強い。

 

 サーキースはククリナイフを取り出してスマラを睨む。

 だが、そんなことは知らないとばかりなスマラは立ち尽くす。その態度が更にサーキースをイラつかせる。

 声を上げてスマラに肉弾戦を仕掛けた。

 

「ナメるんじゃねぇ!!」

「ナメて無いわよ」

 

 一撃目、下ろしたククリナイフ。スマラは一歩立ち位置を変えるだけで難なく避ける。

 二撃目、横薙ぎ払いされたククリナイフ。スマラはまたしも一歩下がるだけで回避。

 三撃目、目にも止まらぬ速さで連続でスマラを襲うククリナイフ。スマラは受け止める場所を武装色の覇気を纏い、的確に全て受け止めた。

 四撃目、は来ない。サーキースは全力で行った攻撃を全て回避、又は防御された。

 

「ヒィッ!!」

「どうしたの?まさかこれで終わりじゃないでしょうね?」

「な、何をしやがった!?悪魔の実の能力者か!!?」

 

 今までこれを受けて立ち上がった者はいない。その攻撃全てを可憐に回避され、謎の黒い肌で受け止められた。

 サーキースは戦慄する。こちらが攻撃しようとしても、事前に察知したかのように逃げられる。かといって、当たれば黒い肌で防御される。

 こんな強さの敵、今まで出会った事がない!スマラに肉弾戦を仕掛けるのは、一番やってはいけない事だった。

 

 

 スマラの覇気を悪魔の実の能力だと判断し、距離を置いて観察するサーキース。

 悪魔の実の能力者に全くの無知ではない。今まで何人も出会っているし、船長だって悪魔の実の能力者だ。弱点は必ずある。

 

 スマラを観察して、間違った解釈を行うサーキース。スマラは悪魔の実の能力者だが、先の戦闘では能力は一切使用していない。

 能力を使った反撃は、反撃とも呼べない惨劇はこれから始まる。

 

「悪魔の実の能力者ね…。正解よ。ただ、それを見せるのは今からだけどね」

「は?何言って……!!」

 

 運動量を上げ、瞬間移動とも取れる速度でサーキースの真ん前まで移動するスマラ。サーキースは反応すらできない。

 そして、スマラの拳が当たる寸前。

 

「ナメているんじゃのよ。ナメる必要が全くないのよ」

 

 そう聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 事の始まりは、酒場で会った麦わら帽子を被ったルーキーだった。彼らはベラミーやサーキースにいくらイジメを受けようが、反撃すらしなかった。

 そんな腰抜け海賊が言った一言が今回の襲撃元だ。『空島について何か知らない?』

 あるはずもない幻想。空島にエメラルドの都、黄金郷、ワンピース。夢を見ない彼らが癪に触るのは当然の事。

 夢を見ているで思い出した、ジャヤの隅っこに暮らす異端者の存在。何と金塊を持っているらしい。

 そんな者に金塊は勿体ない。ならば俺たちが貰ってやろう。

 そう思っての襲撃だった。深く考えずに、酒のツマミになればと思っての行動だ。

 

 襲撃の初めは成功した。護衛であった、ショウジョウとマシラを難なく沈め、後はクリケットを残すのみ。

 己のバネバネの能力を使えば運動レベルで終わる戦い。

 

「スプリング……スナイプ!!」

「…ガハッ!!」

 

 散々痛めつけても立ち上がって来たクリケットも、悪魔の実の能力で強力な攻撃を食らわせれば一発でノックアウト。

 酒場で出会った腰抜け海賊の船を壊している筈のサーキースも、そろそろ終わっている頃合いだろうと振り向いた瞬間!

 

「……あぁ……」

 

「は?サーキース?」

 

 何かがベラミーの真横を通り過ぎて行った。

 一瞬遅れてそれが仲間のサーキースだと理解したベラミーは、驚きまして惚ける。

 何が起こったのか分からない。攻撃を受けた?誰に?サーキース程の奴が負ける相手なんか…。

 

「貴方が船長ね」

「だ、誰だ。…お前がサーキースをやったのか?」

「見て分からない?ベラミー海賊団船長、ハイエナのベラミー」

 

 スマラがベラミーの前に立っていた。服装一つ乱れていない。戦闘など行った形跡が一切見られなかった。

 コイツは危険だ。そう直感的に感じたベラミーは即座にバネバネの能力を開放する。仲間がやられた、手加減など要らない。

 

「スプリング……」

「ベラミー待て!!コイツ、何か可笑しい!!」

「……スナイプ!!」

 

 仲間がベラミーを制止させようとするが、ベラミーに聞こえちゃいない。

 足をバネに変形させ、反動で跳ねる。その速度は、一般人が反応出来る速度ではない。

 だが、相手はバケモノ。スマラだ。

 スマラはベラミーが跳んで来るのを目視すると、身じろぎ一つせずにベラミーの攻撃を受け止めた。反射の設定はしてない。

 反動で距離が開いてしまう。ベラミーは信じられない目でスマラと自分の拳を見つめる。

 

「なんでだ。攻撃は確かに当たった筈だ!どうして倒れない?」

「…それは、貴方の攻撃が弱いからではなくて?」

「…!?……まぁ良い、今度こそ本気で行くぜ!!」

「ベラミー!!やめろ!!そいつに攻撃は……っ!!」

 

 またしても仲間の制止の呼びかけ。だが、ベラミーの耳にはそんな雑音入ってきてはいなかった。

 先ほどよりも強く地面を蹴る。その威力は、地面に小さな凹みが出来る程。

 目にも止まらない速度。普通の海賊なら目視することすらできずに敗れ去るだろう攻撃。

 それをスマラは目視して避け、すれ違いざまに拳を叩き込む。

 一瞬にして意識を失うベラミー。仲間たちも目を開いて啞然とする。スマラが異常なほど強い事はサーキースがやられた事で分かってはいたが、懸賞金5500万ベリーで偉大なる航路で話題のルーキーが呆気なくやられるレベルだとは思わなかったのだろう。

 

 大口を叩いている大型ルーキーもこの程度かと、スマラは興味を失う。仲間達がベラミーに近づいてくるのをと対極に、スマラはクリケットやショウジョウ、マシラに向かって歩く。

 最後にスマラは、意識のないベラミーに向かって呟いた。

 

「情報は武器よ。相手が誰なのか知っていなくてはダメ。情報がなくても、相手の技量を見極めるくらいしないと、この海では呆気なく散っていくわ。覚悟が足りない。ヘラヘラと海賊やっていても、海軍も本物の海賊は本気で相手にしてくれないわ」

 

「ベラミー!!大丈夫か!!?」

 

 仲間が駆け寄って来た。この場にもう用はない。

 やはりただのルーキー。麦わら一味の様に、七武海に喧嘩を売る様な度胸も、覚悟も足りてない。自分の実力で簡単に終わるレベルで満足して止まっているからこうなる。

 やっぱり、麦わら一味は伸び代がある。観察しなくては……。

 

「私を倒したかったら、世界レベルを用意しなさい」

 

 

 

 

 

 地面に倒れて意識を失っているショウジョウとマシラの巨体を難なく持ち上げて一箇所に纏める。

 クリケットは意識はあるものの、怪我が酷すぎて動くのも困難。スマラは流石にこのまま放って置くのも非人道的だと思い、半壊した船に戻って救急セットを持って来る。ノーランドの日誌を見せてくれた恩は返すのだ!

 

 覇気や生まれつきの頑丈さで、怪我など両手で数えるほどしか負った事がないスマラには、怪我の処理はチョッパーほど上手く行えない。本格的な治療は彼にやって貰うとして、それまではスマラが応急処置を行う。

 色々な本を読んでいるスマラにとって、怪我に応急処置を行う事など造作もない。

 

 3人の応急処置を行い、麦わら一味が帰って来るまでスマラはここで待つ事にした。

 本を読んで待っていると、クリケットが話しかけて来る。

 

「すまないな。船を壊させちまっただけでなく、追い返して応急処置もしてもらって…」

「大丈夫よ。それに、日誌を読ませて貰った恩があるもの。突っかかって来た向こうが悪いわ」

「……お前さん、見かけによらず強いんだな」

「えぇ……。少なくともこの島で私に勝てる可能性があるのは一人だけだわ」

「あの麦わらの小僧か?」

「違うわ。――もうしゃべらない方が良いわ。応急処置しか出来てないもの。もう直ぐ帰ってくるはずだから、黙って待ってなさい」

 

 スマラをクリケットを横にさせると、興味を失ったようで読書に戻る。

 恩はあるが、それだけだ。ただの一般人に自分の情報を提供するほど愚かではない。

 

 

 

 

 

 スマラがクリケットに言った通り、十分も経たない内に麦わら一味は帰って来た。

 彼らはまず、壊れたメリー号に目を開き、地面に横たわっているショウジョウとマシラに悲鳴を上げる。

 

「あら?お帰りなさい」

「あら?って!!この状況はどういうことよ!!」

 

 ナミがスマラに詰め寄った。圧倒的実力者であるスマラが居ながら、こんな状況になっているのはおかしいと。

 

「まぁ舩を壊されたのは私の落ち度だわ。ごめんなさい。でも、先に彼らを診てあげてくれるかしら?一応応急処置をしてあるけど、本職に診てもらった方が安全だわ」

「わ、分かった。でも、応急処置は完璧だ。これなら大丈夫だ!」

 

 チョッパーが三人の手当てにかかる。

 その間、スマラは何があったのか伝えた。船で休んでいると急に破壊されたと言う事。歯向かってきた海賊は叩き潰したと言う事。

 全てを話し終えると「それなら仕方ない」ということになった。麦わら一味は優しいぞ。スマラの知っている唯一の海賊なら、責任を取らされた挙句仕事を背負わされる。

 

 そしてもう一つ、スマラが気付かなかった事が一点だけあった。それは、

 

「ねぇみんな!!金塊が取られてる!!」

 

 壊れた小屋を片付けていたナミが足りない物に気が付いた。

 スマラが出てきたのは金塊を盗んだ後だったのか、そこまで頭が回らなかった。所詮金塊。本では無い限りスマラの興味は動かない。だが、所詮金塊と思っているのはスマラとクリケットだけだった。

 その金塊は、クリケットが十年も身体を壊しながら潜水して、海底から拾い上げた黄金郷の手掛かりなのだから。

 そのことをウソップがクリケットに「そんなものじゃないはずだ!!!」と言うが、クリケットの気持ちはただ一つ。麦わら一味を空島に連れていくことだけだ。

 

「なぁスマラ」

「何かしら?」

「ひし形のおっさんを襲ったのはベラミーってやつか」

「そうね。一応潰しておいたけど、船員が残っていたから逃げているでしょうね」

「そうか」

 

 スマラに襲撃した相手の確認をとるルフィ。クリケットの金塊を取り返しに行くつもりだ。

 ナミとクリケットが止めようとするが無駄だ。こうなったら力ずくでしか止まらない。

 ルフィは止まらない。朝までに戻って来ると約束をし、ルフィは海岸沿いを走って行った。

 

 こちらもルフィを待ち惚けているわけにもいかない。チョッパーが制止するのも無視して、クリケット、ショウジョウ、マシラは起き上がる。ルフィが帰ってくるまでに船の改造を終わらせるためだ。麦わら一味も猿山連合軍も総動員して作業に取り掛かった。

 

 スマラ?その辺で読書に勤しんでいますよ?

 

 

 

 

 

 場所は変わってモックタウン酒場。

 スマラに破れ意識を失っていたベラミーとサーキースは、船で移動している間に回復していた。

 体中が痛むが、後遺症は残っていない。それだけスマラは手加減していたということだ。

 最も、彼らは知る由もないが。

 

 酒場に戻ってきたベラミー海賊団は、スマラにやられた事を忘れる様に酒を飲んでいた。

 雰囲気は心非ずと言ったところだろう。だが、そんな雰囲気を変える為に、話題はショウジョウやマシラの話になる。

 

「あの時は笑ったよ!!あの図体で血塗れと鼻水垂らして「おやっさん~~!!」だぜ!!ハハハ!!」

「そんなに大事ならしっかり守ってみろってもんだぜ」

「仕方ねぇさ、相手はベラミーじゃしょうがねぇ」

 

 ショウジョウとマシラを酒の摘まみにして笑い合うベラミー海賊団。だが、話題はスマラの事になる。

 暗い雰囲気になるが、愚痴でも言わないと収まらない。

 

「しかし、あの女は何者だ、ありゃ?」

「さぁな。全く見覚えのないツラだった。もしかしたら新世界から来たバケモノかもな」

「そこまでにしようぜ。そんな話聞きたくはねぇ」

「それもそうか、済まない」

 

 スマラの話題を止めて酒を煽る。場の空気は再び楽しい雰囲気に包まれようとしていた。

 だが、そんな空気も吹き飛ばす情報が酒場に飛び込んでくる。

 

「た、大変だァ~~!!昼間にこの酒場に居た奴………」

「オイ、こんな夜中にうるせぇな」

 

 飛び込んで来たのは一人の男だ。これといった特徴はない。

 彼はベラミーを見つけると「直ぐに逃げた方がいい」と言った。

 ベラミーは気分が悪そうに男を睨み返す。

 

「………あぁ!?俺が誰に殺されるって?」

「あの昼間にこの酒場で虐めた二人だよ!!緑髪の剣士は6000万、麦わら帽子を被った奴に至っては一億!!どっちもあんたよりも懸賞金が上なんだよ!!」

 

 まさかの情報を聞き、酒場は静寂に包まれる。偉大なる航路の前半部分に居る海賊で、億越えなど滅多に存在しない。

 しかも、昼間にこの酒場で笑ってしまった相手だ。なぜその場で反撃しなかったのか不思議だが、海賊である限り報復に来るに決まっている。

 酒場の空気はお通夜状態に。

 

 だが、そんなのどうした!?とベラミーが嗤う。

 当の本人はベラミーにやられても仕返し一つしなかった腰抜だ。手配書の偽造に違いない、ハッタリでのし上がった実力不足だ!!とベラミーは希望願望を言い立てて、場の空気を元に戻した。

 

 だが、それもほんの少しの合間だった。

 

「ベラミーはどこだぁ~!!!」

 

 外から大きな声でベラミーを呼び立てる声が響いたのだ。声の主は話題に上がっていた麦わらのルフィ。

 金塊を取り返しに来たのだった。

 

 

 




 ベラミーww
 流石当て馬キャラ!!二年後では成長してますが、この時点では世界を知らないチンピラです。
 スマラにボコられ、ルフィにやられる。これが成長と言う奴なのだ!!なお、作者はベラミーに特別な感情はありません。

 ショウジョウは海に落ちたはずでは?
 ご都合主義での変化です。スマラは海に入れないので。

 今回進んでない
 まさか、戦闘とちょっとした後日談で一話が終わるとは思いませんでした。作者もビックリです。ジャヤは直ぐに終わるって言ったやつ誰だよ?自分ですね。簡潔に簡潔に……って思っているんですが、中々上手くまとめれない。どうも、ダラダラと書くのが得意な作者です。

 次回は世界政府からの見たスマラです。
 五老星とセンゴク、ドフラミンゴか……。この辺はタイトル通りっぽいかな?次回こそジャヤを終わらせ……。


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354 二十九頁「世界各地で噂されてますが?」

 イベント始まりましたね!!今回はQPがおいしいとのこと。

 詳しい内容は活動報告………ではなく新しく初めて「カルデア日記という名の、作者がFGO活動報告を毎日書いていくというもの」をご覧ください。
 何時ものノリで書いてます。一応毎日投稿しています。


 偉大なる航路前半部分の半分くらいの場所、ジャヤ島から遠く離れた大陸。

 世界を一周する赤い大陸『赤い土の大陸』その頂上部分に位置する世界貴族が住まう土地、聖地『マリージョア』

 その中でも一際目立つお城が存在している。その名も『パンゲア城』世界政府の総本山である。

 

 場所は世界最高権力者である五老星が集まる『権力の間』

 彼らは現在最も重要な報告を伝令から聞いていた。

 

「……何?赤髪が?」

「えぇ、不審な動きを……」

「別に自ら動いた訳ではあるまい」

「はい……部下を使った接触があったものですが……。白ひげと赤髪の接触は余りにも危険です!!」

 

 世界の均衡を保っている三大勢力。それは、政府と海賊によって成り立っている。

 世界政府の直下機関である『海軍本部』

 世界政府が公認した海賊『王下七武海』

 新世界を陣取っている四人の大海賊『四皇』

 

 その四皇である『白ひげ』と『赤髪』が接触すると報告が上がってきたのだ。

 四皇は一人でも世界均衡を崩しかけないレベルの怪物。そのうちの二人で接触するとなると、世界政府も黙って見過ごす訳にはいかない。

 

 五老星は一人一人意見を述べる。

 

「ふむ。それは確かにな……」

 

 伝令係の海兵の言葉を肯定すし、

 

「だが、赤髪は暴れさえすれば手に負えんが、自分から世界をどうこうしようという男ではあるまい」

 

 情報を得ているからか、はたまたよく直に会い、よく知っているからか。危険視はしていない様子で、

 

「下手に動かずに見守るのだ」

 

 結論を出す。

 

 それよりも――と五老星の一人が続ける。

 

「今はクロコダイルの後任を埋める事を考えろ。穴一つとして甘く見るな」

 

「三大勢力の陣営崩壊は、世界に直接ヒビを入れる。均衡を保たねば」

 

 四皇よりも先日倒された七武海の後任について、頭を抱えている様子だ。

 海兵は頭を下げたまま報告を続ける。その為の会議を行うために、七武海を召集していると。

 七武海と言っても所詮は海賊。集まってくれるかも分からない。と愚痴っている海兵をよそに、五老星の興味はクロコダイルを打ち取った海賊に集まっていた。

 

「クロコダイルめ、厄介な事をしてくれおって。――それを打ち取った海賊『モンキー・Ⅾ・ルフィ』この男も野放しにできまい……」

「アラバスタ王国と言えば、可憐なる賞金稼ぎがそこにいたと報告があったな」

「奴か……。偉大なる航路に戻って来たのか」

「クロコダイルと衝突したり、麦わらのルフィの仲間だと言う噂も上がっている」

「厄介な奴め。だが、海賊稼業に戻るとは思えんな。元クルーが黙ってないはずだ」

「それも含めての会議だ。敵にだけは回さないように立ち回らないと……」

 

 

 

 五老星がそんな話をしている頃、マリージョアの入り口では大男が二人、軍艦と共にやってきていた。

 どちらも身長三メートル越えの常人以上の力を持った人物だ。その名も……

 

『海軍本部からマリージョアへ………王下七武海『ドンキホーテ・ドフラミンゴ様』 次いで『バーソロミュー・くま様』がお着きになられました』

 

 放送と共に現れる二人の男。

 ピンク色のひらひらとした上着を着こんでいるのは、懸賞金元三億四千万ベリー『天夜叉のドフラミンゴ』

 巨漢で海賊に似つかないバイブルを持っているのは、懸賞金元二億九千六百万ベリー『暴君くま』

 どちらも王下七武海。先日討たれたクロコダイル以上の実力を持った化け物だ。

 

 

 

 会議は熾烈な始まり方で始まった。

 ドフラミンゴが能力で会議に参加する海兵を操り、味方同士で争わせたのだ。やんわりとドフラミンゴに制止を要求する中将『大参謀つる』彼女を無視してそのまま続行しようとした瞬間、海軍本部元帥『仏のセンゴク』が現れて事なきをえた。

 驚きの展開はまだ続く。参加者に世界一の大剣豪『ジュラキュール・ミホーク』も参戦。この様な会議に出席する事が滅多になく、誰もが驚く。

 更にマリージョアのパンゲア城にあっさりと侵入した人物、ラフィットが会議に参加。ある男を王下七武海に推薦するらしい。

 

 そうして会議は始まる。

 まずは本題であるクロコダイルの後任について。丁度推薦者が居ることで、話を聞いてみることに。

 

「ティーチ?知らんな。そんなどこの馬の骨とも分からん奴では、他の海賊の威嚇にもならん」

「えぇ、それは勿論重々承知で……。名を上げる計画は御座いますので、少々準備期間を頂きたい」

 

 名を上げるから少し待ってほしい。ラフィットはそう要求した。

 それに対して、ドフラミンゴだけが賛成の声を上げる。

 

「フフ!フフフフ!!!面白そうだ。やらせてみようぜ、センゴク」

「我らが一味は『黒ひげ海賊団』ご記憶下さいますように……」

 

 ラフィットをそう言うとバルコニーから跳び降りて消えていった。

 

 

 

「で、どうするよ。センゴクさんよぉ」

「時間をおいてみるだけだ。余りにも民間人に被害が出るようなら辞めさせるが、一気に知名度を上げる計画があるなら我々はそれをどう受け止めるかどうかだ」

 

 ドフラミンゴの問いにセンゴクは興味のなさそうに答えた。

 まるで、会議の一端に過ぎないと言わんばかりな態度だ。

 

 おつるが仕切り直す。

 

「ラフィットの事は一端置いて置くよ。それよりもクロコダイルを倒した海賊についてだけど………」

「モンキー・Ⅾか……」

 

 ルーキー海賊が王下七武海を倒す事はよくあるまでとは言わないが、ある程度珍しくはない。

 王下七武海にしろ、四皇にしろ、誰もは上の海賊を倒していって成り上がった者達なのだから。

 しかし、問題はその海賊の素性だった。

 

「ガープの野郎!!「ワシの孫は強い海兵になるんじゃ!!期待しとけよ!!」だと!!!全く逆方向に進んどるじゃないか!!」

「はぁ、困ったものだね」

 

 そう。モンキー・Ⅾ・ルフィは海軍の英雄モンキー・Ⅾ・ガープの孫だった。

 同期で彼をよく知るセンゴクとおつるは二人揃って溜息を吐く。ガープの孫なら今後何をやらかすか分かったものじゃない。と言いたげだ。

 

「仲間のロロノアもこの短期間で成長したものだな」

「フフフ知ってるのか?」

「東の海で一度斬った」

「クソッ、ならば何故その時に捕らえなかった!!」

 

 東の海で一度出会ったと言うミホークにセンゴクは怒りの声を上げるが、おつるがその場合の悲劇を予想する。

 

「はぁ~。その場合はクロコダイルがアラバスタ王国を乗っ取ってたんだよ」

「いいじゃねぇか。その方も面白かった」

「貴様のような事は二度と起こさせないよ」

 

 ルフィを軽視するドフラミンゴをおつるが黙らせる。

 ドフラミンゴも海賊時代にドレスローザの国王になった経歴を持つが、絶対にまともな方法で王座に着いたはずがない。海賊時代にドフラミンゴを追いかけていたおつるからすれば、ドフラミンゴはまだ敵だった。

 

 ここで、今まで黙り込んでいたくまが声を出した。

 

「……それよりも、麦わらの船にスマラがいると言うのは本当か?」

 

 スマラ。その名前が出た瞬間、この場に居る全員がピクリと反応する。

 ラフィット、麦わら、この名前が出た時よりも目を光らせる。それほど、彼女の在り方は危険だった。

 

「……本当だ。だが、接触した者からの報告には「海賊になるものか」と回答を聞いているらしい」

「スマラが海賊になるはずないよ。あれだけの事をしでかしてして逃げたんだ。戻るはずがない」

 

 皆、スマラの起こした事件を思い出して顔を暗くさせる。

 それだけ、スマラの存在は危険だった。

 

「……そんなに厄介ならクロコダイルの後任にさせちまえばいいじゃねぇか」

「馬鹿言うな!!それこそ三大勢力にひびが入るわ!!!」

「彼女の存在は彼女一人で完結してるわけじゃないんだよ。お前が知らないはずないだろ?」

「鷹の目……麦わらに遭遇した時に奴は?」

「少なくとも、その頃には居なかったな。居たら俺が気付いていないはずがない」

 

 それならば、偉大なる航路に入る前に仲間になったのだろう。

 いや、そもそも奴は海賊になったのだろうか?

 本人の口からは海賊になってはいない。と証言を得ているが、海賊の船に乗っている情報は知られているはず。

 だが、今の所動きは確認されていない。どうするべきか……。

 

 頭を悩ませるセンゴクは、スマラに悪態を吐きながらスマラの対応を決定する。

 

「現状維持だ。我々が手を出すと戦争になる」

「それが一番の打開策だね」

「俺も、それでいい」

「奴と敵対しても良いことは無い。ならば手を出さないのは当然だ」

 

 センゴクが決定案を出すと、おつる、くま、ミホークが賛成と声を出す。

 主要メンバーのほぼ全員が賛成する中、ただ一人どちらとも言えない声を上げる者が居た。王下七武海の中でも最も危険な思想を持っているドフラミンゴだ。

 彼はニヤニヤとしながらスマラを王下七武海入りを押す。

 

「ここで奴を、政府の支配下に入れるのも悪くねぇはずだぜ」

「だから、それは戦争を……」

「今まで数十年間、何もアクションを起こさなかった奴だぞ?既にあいつらも諦めているのかもしれないぜ。俺としては戦力として雇うのも悪くねぇと考えているが?」

「スマラは海賊を嫌っているはずだよ。どうしてそんな事が言える?」

 

 政府が取り込まないのなら、俺が利用してもいいか?とドフラミンゴは言う。

 おつるは、ドフラミンゴにスマラを利用出来るようなものがあるのか?と問う。

 

「嫌っている少し違うな。あいつは自分に降りかかって来る火の粉を防いでるだけだ。あいつが食いつく様な条件をちらつかせれば、話に乗ってくるはずさ」

「その餌と言うのは?」

「そこは本人と話してからじゃねぇと分からねぇよ。現に麦わらの一味の船に乗っているのは、あいつに取って魅力的な餌を用意出来たからだと俺は思うね」

 

 ドフラミンゴの予想は当たっている。

 だが、それが単なるルフィからの勧誘を妥協したせいだとは思わないだろう。

 果たして、政府やドフラミンゴはスマラが食いつく様な餌を用意することができるのか?

 多分出来ない。スマラが食らいつくのは本であって、行ったことのない島であり、麦わらの一味の物語でもある。

 それを超えるとなると、相当な物が必要になる。そもそも、スマラの身柄を握っている人物が許さないだろう。何せ、スマラを自分の道具だとしか思ってないのだから。

 

 会議はまだ続く。

 一番初めにクロコダイルの後任、麦わらの一味、スマラと話題が出たが、王下七武海と海軍が話合わないとならない事は他にもある。

 

 

 

 

 

 ジャヤ島モックタウン。

 夜中であろうと、街は眠らない。酔っ払いの海賊たちが大騒ぎしているのが毎日の事。

 だが、今日は少し違った。大騒ぎしているのは変わらないが、バカ騒ぎではなく大事件を目撃したかのように騒いでいるのだ。

 話題はこうだ。「この街にいた大型賞金首のベラミーがやられた」と言う事。どこもかしこもこの話題。

 

 話題の中心であるベラミー海賊団は……。

 

 

「オイ!!こんなとこで突っ立ってんじゃねぇ!!俺は今、むしゃくしゃしてんだ!!」

 

 ベラミーがやられてむしゃくしゃしているサーキースが歩いていると、大男にぶつかってぶつかってしまう。

 たったそれだけの事だが、小さな事でも因縁をつけるのが得意な海賊。それも気分が悪い時となれば相手に怒鳴らなければ気が済まない。

 最悪、手を出して分からせないといけない事もある。

 

「やかましいわ!!」

 

 しかし、怒鳴るサーキースを分からせてやったのはぶつかった大男の方。

 頭に手を添えられて、勢い良く地面に叩き付けられるサーキース。本日二度目のノックダウンだ。

 因縁を付ける相手を間違えたようだ。相手の実力を見抜くことが、今回も不可能だったらしい。

 

「小物にゃあ用がねぇ。俺が探してるのは一億を超える賞金首だ!!ゼハハハハハ、こっから成り上がってやるぜ!!」

「ウィ~~~ッハハハ!!やっと獲物を狩る時か!!」

「船長、しかしラフィットとの奴とはこの島で落ち合う計画……」

「おめぇらしくねぇなオーガー。「これも運命の巡り合わせ」だろう!!?」

「その通り、運命とは常にその人間の存在価値を計る……ガハッ!」

 

 サーキースに微塵も興味を持たずに歩き去る。

 大きな巨体が四人。バージェス、オーガー、ドクQ、そしてティーチ。

 サーキースが喧嘩を売ったのは黒ひげ海賊団だったらしい。

 

 四人は港を目指して歩く。急いではいるが、決してその足取りは速いものはない。

 ここで逃げられると厄介だが、まだまだ時間はある。しかし、障害があるとすれば………。

 

「やっぱりあいつが乗っているのが厄介だな。うっかり敵認定されちまわねぇようにしねぇとな」

「あいつって誰の事だ!!?」

「恐らくこの島で我々に対抗可能な戦力は一人かと。これも運の巡り合わせ」

「『可憐なる賞金稼ぎ』………グフッ!……ハァ、相手取るとこちらも危険だ」

 

 やはりスマラだ。

 麦わらの一味の船にはスマラが乗っている。

 麦わらに手を出して怒らせないと良いが………。クロコダイルの前例もある。

 ティーチはスマラの思考を読む為に脳の回転率を上げた。

 




 五老星は流石に知ってる。
 何をかって?それはスマラの過去をだよ。

 王下七武海にも面識があるスマラさん
 年齢を考えたら当然のこと。あ、スマラの年齢出してないな。勿論秘密です。

 黒ひげ海賊団
 ホントは登場予定なかった。だけど、キリが良い場所まで持っていくには文字数(一話の目標数の5000文字)に足らないので友情出演。


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361 三十頁「盾なんて意味が無いわ」

 マウスホイール壊れた!!!反応するけい変な感じにスクロールされる。弟の余ってるのを借りよう。

 そして今回からこそ簡潔に……。


 日は登り朝。約束の時間から46分オーバーしてもルフィは帰って来ていなかった。

 積帝雲と突き上げる海流が完全一致する時間まで残り僅か。今直ぐにでも出発しないと、年に数回のチャンスを逃してしまう事になる。

 

「何やってんのよ!!!あいつったらも――――!!」

 

 ナミは怒っていた。自ら危険な航路を通ってまで空島に行きたくないと言っている癖して、いざ準備が整うと怒る。

 船長の行きたい場所に連れていってやるのが航海士。既にナミはルフィの船の航海士としての責任を持っていた。

 

 と、グチグチとルフィに対する愚痴を言っていたナミの標的がスマラに向いた。

 

「スマラ!!あんたも空島に行きたいんでしょ!!」

「……ん?そうね、行ってみたいとは思っているわ」

 

 船の甲板に座り込んで読書に勤しんていたスマラが、ゆったりとナミに受け答えを返す。イライラしているナミと違って、スマラは危険視している様子はない。

 

「なら、とっととルフィを連れ戻して来なさい!!」

「その必要はないわ。もう帰って来る頃だから……」

 

 とスマラが言った瞬間、森の中からルフィの声が聞こえてきた。

 なんて事は無い。スマラは見聞色の覇気で、常にルフィの居場所を掴んでいたからこその余裕だ。

 だが、ルフィが森の中をグルグルと彷徨って、ヘラクレスを探していたとは微塵も思わなかったが。

 

 こんな時もマイペースで昆虫採集をしていたルフィに、ナミとウソップは二人してツッコミを入れると、メンバーは急いで船に乗った。

 猿山連合軍に改良された「ゴーイングメリー号・フライングモデル」だ。実際には、ただ単に羽のような物を船の両端に取り付けただけ。ナミからすれば不安しかない改良工事だった。

 

 金塊もクリケットに返して、マシラとショウジョウの船に連行されるようにして出港。

 初めは緊迫した様子だったが、麦わらの一味の何時もの様子を見て、二隻もゆったりとする。

 

 スマラは何時も通り、船内に入って読書を開始した。

 

 

 

 約三時間後、船の外が騒がしくなっていく。いよいよ空島への航海が始まったようだ。

 普通ならこんな一大イベント、手伝いに甲板に出るのは当然のこと事。だがスマラは気にしないで読書を続ける。

 空島に行きたいのは確かだが、そこに至るまでの航海に興味があるわけではない。ので、本能のままに読書を続けるのは当然だった。

 外にいるメンバーは、こんな時でもスマラが船内から出て来ないのに、慣れ初めていたのでスルーだ。外の様子が気になったり、こちらから必死に頼み込めば出てくるだろうと分かっているからだ。

 

 積帝雲が現れ、太陽が遮られて暗くなる。と同時に船が大きく揺れ始める。

 が、スマラは読書を止めない。このくらいの暗さでも文字は見えるし、本の世界に入る程の集中力の前では大しけの揺れも気にならない。

 と、急に船の揺れが止まった。

 

 ……ッ!!?

 

 本を読みながらも、見聞色の覇気で警戒を怠っていなかったスマラがビクンと反応した。

 大きな反応が一つ、この船の近くに現れたからだ。

 

 スマラは本をパタンと閉じて席を立った。

 自分が出ないとマズイ程の反応だ。

 

 と次の瞬間、船が大きく揺れた。いや、揺れたでは済ませられないほどの衝撃だ。

 なんと、壁が地面になった。簡潔に言い換えれば、船が垂直になったのだ。

 同時に大きな反応が物凄い勢いで遠ざかっていく。

 

 これは………突き上げる海流が起こったと考えてよさそうね。

 差し詰め、空に向かって付き上がっている水柱の側面を、船が進んでいるのかしら?

 どちらにせよ、並みの海賊船ならここで落ちてしまい、海面に叩き付けられて大破していまう。全滅は免れないわ。

 でも、攻略法は絶対に存在している。果たして、それを見つける事は出来るのかしら?

 

 ある程度の予測を立てると、スマラは再び読書に戻った。

 もちろん、失敗して海面に叩きつけられてしまった時の為に、脱出の準備はしている。果たして、この船は空島にたどり着くことができるのか?

 スマラはどちらでも良さそうにしていて、行けたら良いなぁと思っていた。

 

 

 

 

 

 本の世界に夢中になり過ぎていたスマラは顔を上げた。

 何時しか轟音鳴り止み、外にいるはずのメンバーの声が聞こえない。

 

 死んでしまったのだろうか?いや、反応は甲板に見られれる。

 どうやら、意識を失っているだけのようだ。

 

 スマラは外の様子を、己の目で確かめる為に起き上がる。

 垂直になっていた船内では、床に寝そべる様にして背をもたれさせた方が楽だったからだ。船が再び元の方向に戻れば、スマラが床に寝そべっており、足を壁に伸ばしている姿勢になる。

 傍から見ればはしたない格好。もしスカートでも穿いていたのなら、重力に従って捲れ、ショーツが見えてしまっていただろう。が、実際にはそのような事は起きない。何故ならホットパンツだからだ!!服など基本的にどうでもよく、緊急時に動き回る事を想定した服装を着ているのは当然だろう。

 

 

「……大丈夫かしら?」

「…ケホッ………ハァハァ、あんたは無事のようね」

「ゴホッ!!よ、良かった。スマラさんは無事でしたか」

「ゲ―――――ゲ――……エホ!!」

「………参った。何が起きたんだ………!?全員居るか?」

「ハァ……ハァ……」

 

 スマラが声を掛けると、ナミとサンジが反応した。二人とも、中に居たスマラの身を案じてくれている。

 一方でチョッパーは未だに目が回っており、ウソップに至っては意識を失っている。

 ゾロは起こったことに驚くも直ぐに船員の安否確認を取る。ロビンも息を整えている。

 全員を見て分かった事は濡れている事。船内に居て何があったか理解出来ていないスマラだったが、辺りを見渡してある程度の事を予想した。

 そこは辺り一面に広がる雲の世界。上を向いても雲、下を覗いても雲、視界が雲しか写し出していない。

 

 成程。ここは差し詰め空の海。積帝雲に突入した際に、何故か存在している海らしき雲でこうなったと。

 雲は雲でも、船が浮かんでいる様に、地上の海と同じ性質を持った雲が存在しているのね。

 まるで別世界。ならば、見た事が内容な本が存在しているのかしら?

 冒険には興味ないけど………。

 

 と考察しているうちに、ウソップが復活。雲の海に飛び込んでいった。

 スマラが、雲に海底はあるのかしら?と思うと同時に、ロビンも同じ事を思ったらしい。違う点は、スマラは脳内でボーっと考えるだけなのに対して、ロビンは口に出して皆に知らせる。

 結果、ルフィが腕を伸ばし、ロビンが能力で目を咲かせてウソップを捕獲。こうして事なきを得た。スマラはぼんやりと眺めているだけだったが。

 

 ウソップを引き上げると同時に、巨大なタコも引っ付いてきた。

 巨大なタコに大声を上げてビビるナミとチョッパー。ゾロが切り込み隊長を務め、サンジとルフィがあっと言う間に終わらせた。下が海なので、ルフィだけは船から腕を伸ばして攻撃しただけだったが。

 戦闘が終わった所で、意識を取り戻したウソップが早々に騒いだ。ズボンの中に見たこともない生き物が侵入していたらしい。

 ロビンとナミが考察する。クリケットが持っていた航海日誌にあった奇妙な魚だと結論付けた。地上とは環境が違うため、進化の過程が違うとのこと。ロビンは博識で如何にも考古学者っぽい。

 

 その生き物をサンジが瞬く間にソテーにしルフィ食べている中、スマラはようやく思考を停止させた。

 スマラは双眼鏡で周囲を見渡しているチョッパーの元を尋ねる。

 

「空島はどこだ?」

「何か見つかった?」

「お?スマラも興味あるのか!?望遠鏡貸そうか?」

 

 珍しくスマラが本以外の事に興味を向けている。

 チョッパーは初めてスマラと会った時から、自分をバケモノ扱いしないスマラの事を気に入っていた。なので、スマラから声をかけてくれて嬉しかった。

 チョッパーはスマラに望遠鏡を手渡そうとするが、断られてしまう。

 

「それは貴方が使いなさい。私は目が良いから無くても見えるわ」

「そうなのか?…望遠鏡と同じくらい見えるってことなのか~!!?スゲー」

「そうでもないわ。能力あってのことだわ。…………船?」

「ホントだ!おーい皆~!!船と………人?」

 

 双眼鏡が必要ないのは、能力で視力を上げているからだ。全く見えない状態をゼロ、数キロ先の光景をハッキリと確認出来る事をMaxだとすれば、そのゼロからMaxの振り幅、つまるところ範囲、量だ。全ての測りごとを量と定めると、スマラの能力によって自在に変更可能になる。

 そうやって視力を変えているので、双眼鏡などに頼らずとも遠くの光景を見ることが出来るのだ。

 

 チョッパーとスマラが二人して周囲の状況を見ていると、スマラが船を見つけた。チョッパーも見つけ、仲間に知らせるが……。

 

 何の前触れも無く船が爆発した。急にチョッパーが動揺し双眼鏡を取り落とした事に、皆が「何があったの」とチョッパーに聞く。

 しかし、チョッパーも良く分かっていない様子。ならば!!とゾロが傍で同じ光景を見ていたとされるスマラに、質問する対象を切り替える。

 

「おい、何があった?」

「戦闘ね。船が見えたけど爆発して沈んでいるわ。それで………船を爆発させた人がこちらに向かってくるわ」

「はぁ!?」

「人が来る?――ッ!!?人だ!!誰か来るぞ!!」

 

 スマラの報告を聞いて、サンジがスマラが未だに視線を向けている方向を向くと、雲の海を人が滑っていた。

 スマラとサンジの言う通り、雲の海を人が滑ってこちらに向かて来ていた。盾とバズーカ砲のような武器、足元には底が高い靴、上半身は裸であり腰巻きしか着ていない。文明人のようには見えない。

 

 そいつは、サンジが話し合いを促すも、関係無いとばかりに攻撃態勢に入った。

 

「排除する」

 

 一言。その一言だけでルフィ、ゾロ、サンジは戦闘態勢に入る。が、三人とも一撃を受けるとダウンしてしまう。

 目を疑うナミ。ウソップとチョッパーは、麦わらの一味の三強が一瞬にしてやられた事に悲鳴をあげる。

 そいつは、船の縁を使って跳ぼ上げると、バズーカ砲のような物を船に向けた。どうやら先ほどスマラが見た、船が爆発する光景は此奴のせいらしい。

 

「…ッ!!スマラお願い!!」

「………仕方ないわね」

 

 船が壊されてはたまったものじゃない!!ナミは麦わら一味の三強が呆気なくやられた事を配慮して、スマラに頼んだ。

 険しい目を向けられたスマラは、一瞬目を細めて考えるも、溜息をつくように了解する。

 一応船に乗せて貰っている立場だ。こんな時くらい役に立っても問題ないだろう。倒すわけではない。単に船が壊される脅威を跳ね除けるだけだ。

 

 縁に足をかけて跳ぶ。襲撃者は構わずバズーカ砲をぶっ放そうした瞬間、強い衝撃を受ける。

 襲撃者の予想を遥かに上回る速度で接近したスマラさんが原因だ。

 

「ガハッ!!」

「盾なんて意味が無いわ。一先ず、吹き飛びなさい」

 

 一瞬空中で交差する。スマラの物理攻撃力は、新世界でも折り紙つきの威力を誇る。そんな者が覇気も知らないような者にぶつかればどうなるのか?

 答えは簡単。襲撃者はお空の星となった。かな~り抑え気味なその威力も、武装色の覇気どころかまともな防御も出来なかった襲撃者には強すぎたらしい。

 もっとも、今回は倒す事が目的ではなく、とりあえずこいつをどこか遠くに吹き飛ばす事が目的だった。威力は弄らずに、風圧だけを強めて吹き飛ばせば済む話。

 何と無く接近戦闘で終わらしたスマラだが、あのままバズーカ砲を撃たれても対処は可能だった。まぁ、とっさの判断で、船に被害を出すには受けよりも攻めの方が都合がいいと判断したから。けして、広範囲のバズーカ砲を能力で操作するのが面倒だったとかではない。ないったらないのだ。

 

 スタッと甲板に戻ったスマラ。

 ナミはスマラにお礼を述べる。

 

「助かったわ。ありがと」

「どうってことないわ。ここまで来て船が壊されるのは私も困るから……。貸し一つとでも思っておいて」

「ふむ。青海人があのワイパーをいとも容易く撃退するとは………恐れ入った」

「……………」

「あんた誰よ!!!」

 

 いつの間にかスマラとナミの会話に参加して来た男。自然と居た為、誰も気付かなかった。スマラだけ別だが。

 ナミは叫ぶと同時にスマラの後ろに隠れる。見知らぬ人が船に乗っているのだ、先ほどの件もあって当然の反応だろう。

 他のメンバーも臨戦態勢入る。が、甲冑を着た老人は両手を上げて戦意がない事を伝えた。

 

「あぁ、そう構えるな。吾輩は助けに来たのだ」

「ピエー」

 

 間が空いた。

 助けに来たと甲冑を着た老人は言うが、実際に助けて貰ったわけではないので信用出来るはずはない。

 

「助けに来たのは良いけど、私が吹き飛ばしたわよ?」

「そうよ!!スマラがやっつけたあいつは一体何なのよ!?それに何よあんた達、だらしない!!三人がかりでやられちゃって!!」

 

 ナミは突然現れた老人に困惑しつつ、真っ先にやられてしまった三人を叱り飛ばす。

 サンジが不甲斐ない自分を叱りながら謝る。

 

「いや、全く不甲斐ない」

「なんか体が………上手く動かねぇ」

 

 ルフィが己の不調を知らせる。ゾロも言葉には出さないが、同じ気持ちならしい。

 そんな三人の疑問に答えたのは、博識のロビンだった。

 

「……きっと、空気が薄いせいね。誰かさんには関係ないみたいだけど……」

「…………??」

「あぁ……言われてみれば………」

 

 誰かさんとはスマラさんのことである。

 肝心の本人はけだるそうに本を読んでいた。うん、謎の不審者を全く気にしていない。

 ここに着いた時は、初めての島であり未知の島と言う事で外の様子に興味を持ったが、次第に興味は薄れていった。後は、人の住んでいる場所で本を購入出来れば満足なのだ。

 

 なので、その後の詳しい話は聞いていなかった。

 麦わら一味三強が一瞬にしてやられた理由が空気の薄さだとか、突き上げる海流以外にも空島に行く手段はあったとか、甲冑を着た老人の名前がガン・フォールで傭兵をやっているなど。

 何一つ聞いていなかった。いや、聞こえてはいるだろうが、それほど重要な情報としては記憶されなかった。能力の関係で記憶はしているが……。

 

 スマラさんは何時も通りだった。

 さて、彼女が次に本から目を逸らすのはいつになることやら。




 簡潔にとは何だったのか?
 し、知らない。やっぱり途中のスマラ関係ない場面は書かなくても良かったか……。

 スマラさんが働いている!!
 多分空島で働くのはあと一回です。書いているうちに別方向に向かわなければ。

 バズーカ砲
 バーンバズーカだったよね?ガス噴射からの爆発だろうが、撃たれる前に仕留めれば関係ない。

 空の騎士
 出番奪っちゃったね!!これにより空の騎士の強さが伝わっていない。今後にどう影響を与えるのか!!?←与えません。原作通りです。

 能力について少しでましたね。
 う^ん。これで大分、「量」が何を指すのか分かって来たのではないでしょうか?もちろん、自分の考えが全て伝わるとは思ってません。質問があればいつでもどうぞ。

 次回を地味に書いているのですが、何とか簡潔にできそうです。一先ず一巻分はカットできるかも。


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369 三十一頁「攻撃を読めるのが貴方だけとは思わないで」

今回で空島開幕戦終了です。


 スマラさんは本から目を上げない。

 

 人が乗れる雲の合間を縫って移動しても、天国の門と呼ばれる入国所からエビに掴まれてダイナミックな入国をしようとも、やっとこさ人が住んでそうな島に上陸しても、麦わら一味が全員船から降りたとしても顔を上げなかった。

 

 体を揺さぶれば気がつくだろう。しかし、機嫌が悪くなるのが明白なので誰も気にかけない。

 唯一冒険に誘いそうなルフィも、今回ばかりは目の前の楽しさに目を奪われて誘わなかった。

 

 

 

 

 

 時間がどのくらい経ったのだろうか?

 楽しい事に集中していると、時間とは直ぐに経ってしまうもの。逆に早く経ってほしい時程ゆっくりになる。

 

「あら?誰も居ないのかしら?」

 

 今回はそれ程経って居なかったらしい。ラッキーだ。

 貴重なお時間を浪費せずに済んだ。

 

「さてと、人が住む町には着いたみたいだし……私も買い物に行きますか」

 

 スマラは何時も通りの単独行動を開始する。モックタウンではロビン、アラバスタ王国ではビビの護衛と、最近一人で行動することが無かったが、本来の姿はこうだ。

 島に着いたら勝手に行動する。麦わら一味が島を出る時には勝手に戻っている。それが元々の関係。

 

 スマラは、まだ見ぬ本を求めて歩き出した。

 

 

 

 

 

 視線が集まる。

 

 ここは神の国『スカイピア』エンジェル島―ラブリー通り。

 

 スマラはこの島唯一の大通りを歩いていた。地面は島雲で出てきており、高い場所へも橋をかけて移動が可能になっている。

 そんな地上では有り得ないような街中をスマラは、ルンルン気分で歩いていた。

 

 空に本があるのか不安だったが、それも気鬱に終わったからだ。

 見た感じ、空にも植物は植えてあった。ならば本は作れる。

 探せば何処かに書店はあるだろう!

 

 視線を集める。

 

 空島の住人は普通とはちょっと違った姿をしてる。

 空島の人固有のものなのか、皆背中に羽を生やしていて、髪の毛も独特なヘアスタイルだ。そんな普通とは少しだけ違う空島の住人に、スマラはなにも驚かない。だって人間以外の種族が居るこの世界では、その程度の姿は驚くに値しない。

 そんな中、青海人であるスマラが堂々と歩いていると目立つに決まってる。スマラは全く気にしないでいたが……。

 

 

 

 見たこともない食べ物や観葉植物が並ぶ大通り。スマラは「そんなもの興味ない」と何時も通り無視して歩く。

 看板から目的の店を割り出すと、スマラは迷わずに直行。ドアを開けて店内に入った。

 

「いらっしゃい…………青海人か?」

「青海人?あぁ地上から来た人の総称ね。そうですけど、なにか?」

 

 店内に入ると、店主が顔を見せる。

 店主はスマラが空島の住民ではないと分かると、あからさまに態度を変えた。

 普段は無視するスマラでも、本屋の店主となれば別だ。態度が変わった事に疑問を抱く。

 

「すまないが青海人には――「青海人には本を売らない……なんて事は無いでしょうね?」――うっ!!」

 

 スマラが先に言った言葉に、喉を詰まらせる店主。どうやら図星のようだ。

 と、ここでスマラは自分に向けられていた視線の意味に気付く。普段は無視に決め込むが、本が絡むと思考は良くなる。

 少しの間思考を巡らしていたスマラは、推理を披露する探偵のように言った。

 

「………まさかこの島、青海人には優しくないのかしら?気にして居なかったけど、あそこまで視線を向けられていたら、嫌でも気づくわ」

 

 店主は何も言わない。

 ま、私には関係無いけど。とスマラは店主を無視して本棚に近づいて物色し始めた。

 が、店主はスマラにやめてくれ!!と悲願する。

 

「た、頼むからやめてくれ!!この島では青海人に……」

 

 何かに怯えているようにも見える。まるで、青海人が罪人のような……。

 

 それでもまぁ、スマラは止まらないんですがね!

 やっとこさ未知の島での本漁りだ。これまでの島とは勝手が違う。

 流通など有りもせず、書き手も空島出身者。その感性の違いからして、地上では滅多に手に入る事が出来ない一品。

 その一品が、ここには沢山売っている。見たこともない本を求めて世界中を放浪しているスマラからすれば、絶対に見逃せない。

 

 止まるはずもなかった。

 

 

 殆どが見たことのない本。

 スマラは激選した本をカウンターに乗せる。その数十数冊。これでも我慢している方なのだ。

 欲を言えば全部読みたい。ここに居座ってでも、店中の本すべてを読破したいと思うのは、スマラに取って耐え難い思いである。

 

「はい、これ全部買うわ。会計をしてくれる?」

「まっ!俺は売るなんて一言も………」

「青海人だから?それはちょっと差別的ではないかしら?私が何をしたっていうの?」

 

 まだ売らないと言っている店主に、スマラは少しだけイラついてきた。

 目の前に見たこともない本があるのに、それが買えない。金銭的問題や保存的問題なら自分も諦め切れる。

 が、どうだ?実際は地上の人間だから売れないと言う、スマラに全く非の無い差別的な意味でだ。

 

「もしかして、どこに行っても同じなのかしら?」

「そうだよ。俺だって見知らぬあんたに売りたくないわけじゃねぇんだ。でも……」

 

 何かに怖がっているように見える。スマラはピンとくる。

 

「……絶対的な支配者による恐怖政治、と言った所かしら?あぁ、別に答えなくてもいいわよ。私は独り言を呟いているだけ」

「……ッ!!?」

「ただの恐怖政治なら裏でコッソリすればいい。普通は店の中までは見えないのだからね。でも、そこですら憚れる何か………」

 

 スマラが言いたいのは、情報力が恐ろしいということだ。

 人を雇って国中を調べるのはどんな国でも出来る。だが、それでも絶対ではない。

 しかし、見聞色の覇気を使えば国中の声を聴くことだって可能である。スマラだって出来ない事は無いが、それは能力の補助があっての芸当だ。そう考えると、支配者も悪魔の実の能力者だと辻褄は合う。

 

「大方、青海人は全て犯罪者、だからそれに協力する貴方も犯罪者になる。ってところかしら?」

 

 目を大きく見開く店主。如何やら当たりのようだ。

 どうして分かったのか?古今東西ありとあらゆる本を読んでいると、簡単な政治のやり方くらい覚えるものだ。その中で、恐怖政治の支配者側がよくやりそうなテンプレートを、現状に当て嵌めるとどの様な政策をしているかなど、簡単に予想がつく。

 

 店主に声を出さなくていいと言ったのは、見聞色の覇気に引っかからないようにするため。

 声に出さなければ、そう簡単に気づかれない。と同時に、見聞色で聞いているだろう相手に脅すためだ。

 

「それじゃあ、貴方に会計は求めないわ。このまま本を持って出て行く。犯罪者だろうが、この島は閉鎖的みたいだし、別に構わないわ」

「………おいっ!!待て!!」

 

 スマラはカウンターに置いた本をリュックサックにしまい込むと、そのまま店を出た。

 青海人に店主は物を売ったのではない。青海人に物を強奪されたのだ。

 

 全て分かった上での行動である。

 店主はスマラを追いかけようとして、気づく。カウンターの上に札束がポンと置かれている事に。

 

 

 

 

 

「さてと、これからどうしましょうか?」

 

 店を出たスマラは大通りから離れた場所に居た。

 橋を使わないと行くことのできない宙に浮いている島雲だ。

 

 端に座って足をプラプラとさせながら、めんどくさそうに呟く。

 本代と迷惑料を払ったスマラだが、他の本屋でも同じような真似をするつもりは毛頭ない。店に入る度に同じ様な事が起こると、流石に未知の本が目の前と言えどもめんどくさい。

 それ故に、住民から見つかりにくい場所に潜伏している。

 

 

 気持ちいい日差しを受け、このまま眠ってもいいかもしれない。とぼんやりしていると、大通りの方で動きがあった。

 

 

「全員、敬礼!! へそ!!!」

 

 兵隊の様に同じ服装を着た男達が、大通りの中央に止まった。

 敬礼と言っているが、小指と人差し指を立てて頭の上に載せている。とても敬礼とは思えない。

 が、周りの住民も驚きながらも、対象は敬礼にではなく現れた者に対している所を見ると、敬礼は普通の事だと分かる。

 

 スマラは兵隊のような存在の登場に、「もう追手かしら?」と耳を傾けた。

 幸い、知らせるように大声で喋っているので、少し集中すれば問題なく聞こえる。

 

「みなさんお気を付け下さいまし!!本日エンジェルビーチより不法入国者が侵入致しました!!目下、我らホワイトベレー、犯人を全力で探索中であります!!」

 

 そういうと、彼らは小走りで去っていく。

 

 一先ず、情報を整理してみることにした。

 一つ、スマラの強奪はバレていないこと。

 二つ、この国に不法入国者が現れた。←時間的には麦わら一味の可能性大。

 三つ、ホワイトベレーと言う組織が麦わら一味の探索に当たっている。

 以上の情報を入手した。

 

 情報を手に入れたスマラは、この先どうするか考える。

 目を閉じて情報を頭の中で整理。そこから考えられる敵の行動と自分の行動をシュミレート。

 結果、導き出した答えは、

 

「船に戻っても仕方が無いわね。………適当に時間潰しでもしていましょう。不法入国の件は、あっちで解決してくれるでしょう」

 

 そう言って、スマラは移動を始めたのであった。

 

 

 

 

 

 島の端っこまで移動したスマラ。

 彼女は今、雲で出来ている大きな運河のようなものの前まで来ていた。

 

「確か、確認した地図ではこの先に大きな島があるのよね。人の気配はあまりなさそうだし、そちらに渡って適当に時間を潰しましょうか」

 

 そう決めると、スマラは跳んだ。

 運動エネルギーを変化し、跳躍力を伸ばす。通常の何倍もの距離を跳んだスマラ。しかし、まだ足りない。

 このまま落ちると下は海雲。能力者であるスマラは溺れて真っ逆さまに地上行き。

 なので、宙を蹴った。人間離れした脚力が生み出す技『月歩』だ。

 

 月歩で宙を蹴り再び加速、落下が開始されると再び月歩で………繰り返すこと数回。

 スマラは向こう岸にたどり着いた。

 

 

 

 辺りは不穏な空気を纏っている。

 雲で出来ている運河の脇には壊れた船の残骸が散らばっており、見える範囲全てが巨大な木々で生い茂っている。

 さらに、全てが雲で出来ていると思われた空島にも、大地はあった。

 この人の少ない場所こそが空島で唯一、土で出来ている場所である。

 

 成程ね。殆どが雲で出来ている空島では、土――大地は神聖な物と認識されるのもおかしくはない。

 だから、この場所には人の気配が少ないのね。

 さてと、何処か過ごしやすい場所でもないかしら?

 

 スマラは適当にぶらつき始めた。

 本を取り出して歩く。

 

 整備されていない自然な森の中を歩くのは、かなり体力のいる事だ。

 凸凹で、何故か巨大に成長している樹の根っこや蔦が行く手を阻む。

 普通なら両手両足を酷使して、根っこを登ったり下りたりしながら移動しなければならない場所。

 そこをスマラは足だけで移動する。何せ両手は本で埋まっているから!

 足腰だけの力で突き進むスマラ。やはりバケモノ。

 

 目的地は存在していない。ただただ適当に歩く。

 大地の端では人に見つかるかもしれないから、ひたすらに奥に進むだけ。

 視線は本の活字を追いかけているので、ふらふら~ふらふら~と適当に進む。

 真っ直ぐ歩く必要はない。人に見つからない場所を探して奥地に進むだけだ。

 帰り道は見聞色の覇気を使用すれば問題ない。

 

 どの位時間が経ったのだろうか。

 スマラとしては一瞬。実際に過ぎた時間は半刻よりも短い。

 ふと、スマラが足を止めた。そろそろ疲れてきたので、移動を止めて腰を下ろせる場所を本格的に探そうと思ったから。

 頁に栞を挟んで本を閉じた。本を丁寧にリュックサックにしまうと、スマラは足に力を入れて跳び上がる。

 

 スタッと地上十数メートルの位置に存在する枝に飛び乗った。枝と言っても木自体が巨大なので、人間一人が乗ったくらいでは折れることもない。寧ろ、ゴーイングメリー号が乗っても折れる事がないかもしれない。

 跳び乗ったスマラはそのまま辺りを見渡すと、枝と枝を飛び回る。

 枝の形状を確認しながら、過ごしやすそうな枝を探す。

 

 過ごしやすそうな場所を探すと言っても、そこまで重視している訳ではない。

 枝を数か所回ったスマラは「ここでいっか」と決めると、リュックサックを降ろして抱きかかえる。

 腰も降ろし、幹を背もたれ替りにしてリラックス。そのまま目を瞑り休憩し始めた。

 

 

 

 

 

 日も落ちて時刻は夜に差し掛かった頃。

 目を瞑り寝ていたスマラがピクッと反応した。

 そのまま横に数センチずれる。と同時に、スマラが数秒前に居た場所に槍が突き刺さる。

 

「ふん。避けたか」

「随分と物騒な目覚めの挨拶のご様子ね。一体だれ?」

 

 抱えていたリュックサックを慎重に降ろすと、スマラは目の前の男に質問した。

 獲物は槍。スカイライダーが被るような帽子を被っており、鼻髭が横にピンッと立っている。

 敵意を持っているのは先程の一瞬で疑いのない事だ。

 

 スマラを一撃で仕留め損ねた男は舌打ちをし、そんな男にスマラは質問を繰り出す。

 男は枝から飛び降りると、どこからともなく現れた巨大な鳥の上に乗った。

 

「俺はスカイライダー、シュラ。ルールを破った生贄を狩りに行った帰りに、まさか行方不明だった不法入国者の一人に出会うとはな!」

「………不法入国者。貴方はこの国を治める側の人間ね」

「そうだとも!!!俺に見つかったのが最後、既に辺りには試練の準備を整えている」

「試練?」

「あぁそうだとも。生存率僅か3%の我が試練を乗り超えてみせろ!!」

 

 ルールを破った不法入国者って私以外のメンバーの事よね。

 その誰かを倒しに行った帰りと言う事ね。

 口ぶりからすれば、目の前の男は統治者側の人間でも高位者。

 逃げてもいいけど、ここは……

 

「一先ず、敵なら倒すまでよ」

「ははっ!!その口が何処まで続くか見ものだぜ!!」

「じゃあ、そうさせてもらうわ」

 

 スマラは動いた。

 その瞬間、身体がピタリと止まる。

 

「あっけないな。これぞ紐の試練!!貴様は既に俺が撒いた紐雲によって拘束された!!」

 

 シュラはニヤリと笑った。

 これで動けずに自分の槍の餌食になるだけだ。

 

 そんなシュラの思惑と反対に、スマラは無表情でシュラを見返す。

 

「このまま永遠ち動けないのも辛かろう!!俺が止めを刺してやる!」

 

 シュラは巨大な鳥に乗ったままスマラに突っ込んでくる。

 手に持っている槍の先は、しっかりとスマラの心臓を狙い定めている。

 スマラさん大ピ~ンチ!!!

 

 

「はぁ~。こんな紐で動きを封じたと思われるなんて、全くもって心外だわ」

「なっ!!大の男でも拘束する強靭な俺の紐だぞ!!!どうしてこんな小娘が……!!!しかし、もう遅い!!!」

 

 自分に絡まった紐雲とやらを、規格外の力で引き千切ったスマラさん。

 驚くシュラであったが、狙いは既に定めている。回避は間に合わないだろう。そう思って嗤う。

 

 そして、シュラの持っている槍がスマラに突き刺さる。

 

 事は無い。

 回避が間に合わなくてとも、スマラには反射がある。思考さえ追いつけば…追いついていなくとも、ほぼ無意識のうちに行う能力執行。それが反射だ。

 シュラの槍はスマラに触れた瞬間、運動エネルギーの方向を反転させられる。無理矢理運動エネルギーを別方向に動かされた槍は当然、シュラの腕の稼動範囲を無視して動く。

 結果、槍の持ち手を破壊した。骨が有り得ない方向に折れ曲がり、数ヶ月間はまともに機能しないだろう。

 

「うぐッ!!何をしやがった!!」

 

 痛む腕を庇いながらシュラはスマラに問う。持っていた槍は既に遥か下方の地面に落ちていた。

 

「何って敵に教える程、馬鹿ではないわ」

 

 面倒くさそうにスマラは答えた。

 答えにはなっていないが。

 

 シュラは「くッ!」と悪態を吐くと、鳥を操って地面に急降下。地面に転がっている槍を動く腕で拾った。

 そのままクルりと向きを変えスマラに背を向けた。己ではスマラに勝てないことを悟り、戦略的撤退を行うらしい。

 だが、一度敵意を向けてきた相手をみすみすと逃がす程、スマラも甘くは無い。簡単に勝てなかったり、自分の立場的に戦うべきでない相手――一部の海賊や世界政府、海軍――なら引き際を見て逃げるのだが………。

 シュラは簡単に勝てる相手と認識されたようだ。不幸だが仕方ない。本能で手を出してはダメな相手を見分けられなかったのが、シュラの敗因だ。

 

 鳥にまたがって猛スピードで逃げるシュラに、スマラは軽く地面を蹴るだけで追いついた。

 

「なっ!?……だがしかし!!!マントラを使える我々には攻撃など………」

 

 スマラがいとも簡単に追いついた事に驚く。が、そこは幹部なだけあって直ぐに持ち直す。

 マントラと呼ばれる空島版見聞色の覇気を使える自分に、攻撃など当たる訳もないと思っているシュラ。

 そんなシュラに向かってスマラは蹴りを放った。

 

「攻撃など…ゴハッ!!!」

「あのね、攻撃を読めるのはあなただけとは思わないで。それに、攻撃を読めたって避けられなければ意味が無いわ」

 




 本から目を上げるとそこは………。
 そこには誰も居ませんよ?

 シュラの襲撃
 原作でもワイパーに呆気なくやられたので、スマラさんに返り討ちにされても問題無いだろう!!


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382 三十二頁「我をどの位楽しませてくれるか、楽しみなものだ」

お待たせしました。只今幕間クエストを消費中です。


 スマラにとって、見聞色の覇気を扱える敵はよくある存在だった。

 敵も自分の行動を読める。自分も相手の行動を読める。ならば、読み合いを超えた先に、攻撃を当てた方が有利になるのは当然の事。

 見聞色の覇気の弱点は一つ。読めても行動に移せないなら意味が無いことだ。

 

 スマラは生まれ持った身体能力と能力による補助を使い、相手以上の速度で見聞色の覇気を無効化していたのだ。

 未来すら見えない未熟者に負けるはずもない。

 

 

 

 シュラは破れた。スマラにちょっかいを仕掛けたがための代償がこれだ。

 

 スマラの蹴りを受けたシュラは鳥の上から吹き飛ばされ、巨大樹の幹にぶつかって止まる。意識は既になく、ズルズルと地面に落ちていく。

 スマラは枝に着地すると吐息を吐いた。戦闘中に止めていた息を吐き出すように。

 

 

 

「クカカカカ!!」

「……あぁ、まだ鳥が居たわね」

 

 シュラが乗っていた鳥――フザが嘴から炎を吐出しながら迫っていた。主人の仇を討とうとしているのだろう。

 だが、鳥如きがスマラに適うわけがない。

 

「グカカカァ!!」

「攻撃してくるなら、動物だろうが容赦しないわよ。………ッ!!」

「ク、クカヵヵヵ…」

 

 スマラが静かに言い放った瞬間、フザはその場に留まるようにして空中に停止し、嘴から炎を吐き出すのを辞めた。

 目はスマラを見つめたままだ。その目はまるで怯えているよう。

 

「去りなさい。……それとも、死にたい?」

「クカカカカ!!?」

 

 スマラが言葉を呟いた瞬間、フザは一目散に逃げ出した。もちろん、主人であるシュラを回収するのも忘れない。

 敵討ちとか言っている次元ではない。あれは関わることすら危険な存在だ。フザの本能はそれを感じ取っていた。

 

 

「ふぅ~。やっと静かになったわね。ここも危なそうだし、船に戻ろうかしら?」

 

 シュラの時よりも疲れた雰囲気を醸し出すスマラ。そのままキョロキョロと辺りを見渡すと、スマラは枝の表面を蹴った。別の枝に飛び移り、リュックサックを回収したのだ。

 

 スマラはそのままストンと枝に腰を下ろし、目を瞑って寝息を立てはじめる。

 戦闘を行ったばかりだというのに、何て寝入りの良さだろうか。

 

 

 

 スマラがこんなにも早く寝れたのには、実は理由があった。

 シュラとの戦闘で相手を上回る見聞色の覇気を発動させたのは勿論。一番の原因はフザに向けた威圧だった。

 フザに向けた威圧は覇王色の覇気の鱗片である。スマラは覇王色の覇気を扱える。ならば、その鱗片レベルの発動も出来るのは当然のこと。

 

 ここで一つ。覚えているだろうか?

 スマラは覇王色を扱えるが、使用後には体調不良を起こすことを。

 

 鱗片と言えど、覇王色には間違いない。

 なので、スマラが体調不良までとはいかなくても、何らかの疲労を覚えるのは必然的だ。

 その疲労が、目を瞑ってすぐの寝入りを引き起こす。

 

 それが、スマラが目をつぶって直ぐに寝息を立てた理由だ。

 もっとも、読書が行えない程の灯りが無かった事も、理由の一つとして挙げられるが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここは神の島に存在する神の社。

 この空島を統括する存在は神と呼ばれ、その地位に就いた者の居住区と仕事場がこの場所である。

 

 普通なら多数の神官が仕事に励み、忙しそうにしている様子がうかがえる。のだが、あいにく今は夜の時刻。

 殆どの者が就寝し明日に備えている。

 

 

 そんな神の社の入り口で二人の男が会話していた。

 

「我々が…ンンンンンンーン!!ンンン………ンンン!!」

「喋り難いだろ?下唇を噛んだままだ」

「ッ!!!!!」

 

 会話ではない。ただのコントのようだ。

 特徴的な髪型の男が下唇を噛んだまま喋ると言う所業を、スキンヘッドのグラサン男が注意してようやく気が付いたらしい。

 どんなうっかりなのだろうか。

 

「そう言えば、シュラがまだ来ないな」

「生贄を狩りに行くと言ってなかったか?大方返り討ちにされたのだろう」

 

 会話の内容はこの場に居ない、もう一人の神官シュラの事。

 神官とは、神には程遠いもののそれなりの実力を持っている者が選ばれる名誉ある地位の事だ。

 四人しかおらず、それぞれ試練と神の大地での支配領域を持っている。

 この二人も神官だ。特徴的な髪型の男は『空島番長 ゲダツ』スキンヘッドのグラサン男は『スカイブリーダー オーム』実力はどちらも空島でも十本指に入る。

 

「そう言えば、サトリの奴も倒されたんだったな」

「あいつは最弱だ。それでも倒されるなんて誰が予想出来る?」

「出来んな。神(ゴッド)ですら思わなんだろう」

「ではシュラの奴は……」

「大方遅れでもしているのだろうよ。神(ゴッド)の呼び出しだろうが!!」

 

 神官である二人は己が四人の中で最強だと思っているが、誰一人としてその辺の雑魚に負ける程弱いとは思っていない。

 なので、シュラがまだ到着していないのは、ただの遅刻だと思った。

 

 

 そしてシュラが到着しないまま、中から扉が開かれた。

 ガチャッと音を立てて開く扉。それに気づいたゲダツとオームは跳び下がり拳と剣を構える。

 それを後方から見ていた大男が溜息を吐き、神官二人に喚起を飛ばす。

 

「何をしている!!お前たちは!!!」

 

 神兵長であるヤマだ。

 しかし、二人はヤマの言葉を無視して言い合いを始めた。

 

 デカい口を叩くな。貴様など取るに足らないわ!!

 

 その様子にキレたヤマが怒りの声を上げる。

 

「お前たち!!!神(ゴッド)の御前だぞ!!」

「御前?神(ゴッド)はまだおられぬではないか?」

 

 オームが空の上座を見て言い返す。

 確かに誰もいない。

 

 と、そんな時。

 油断していたオームとゲダツに声がかかる。

 

「隙あり!!」

「「!!」」

 

 声に反応してオームとゲダツは再度構えなおすが、二人の間に人が現れ、バリリッッ!!と攻撃が迸る。

 オームとゲダツが攻撃を喰らい呻いているのを後ろに、攻撃を放った者はそのまま側転の要領で動き上座に座った。

 

「ヤハハハハハハ!!!我が神なり」

 

 神官二人に攻撃を浴びせた者が「修行を怠るな」とやんわりと言い放った。

 この者こそがスカイピアの絶対統括者、『神エネル』

 

 

 

 神エネルはオームとゲダツ、ヤマの前で起こっている事を話す。

 青海人達が黄金を狙っている事。明日シャンディア達が再び攻めてくる事を。

 なので、神官二人に神の島全域を開放し、何処に試練を張りルール無用で暴れまわっても問題無いと言い放つ。

 

「――なぜ、急にその様な事を?」

 

 ゲダツが神エネルに質問する。

 神エネルはリンゴを齧りながら答えた。

 

「もうほぼ完成している。………マクシムがな」

「っ!!」

「…では」

「あぁ、さっさと旅立とうではないか。夢の世界へ」

 

 前々から決まっていた。

 スカイピアを統一する前から決めていた計画の完成だ。

 

 そんな神エネルの言葉に、オームとゲダツを驚きと喜びを隠せない。

 遂に完成したか。と両者とも思い、明日の出発を描いて頬が緩む。

 神エネルも気分が良さそうにしていたが、次の話題を考えるにあたって次第に険しい表情に変わる。

 

「神(ゴッド)?どうされたので……」

「一つ、伝えねばな。……………今しがたシュラがやられた」

「ん!?」

「なっ!!?それはまことで?」

 

 神エネルの口から伝えられた驚愕な情報。

 遅刻だと思っていたシュラが、実は青海人にやられたとのこと。

 最悪の予想が当たってしまった。

 一日のうちに二人もの神官が倒されるなど、この六年間でもっとも有り得ない大事件。

 

「あぁ、私の心網から声が聞こえなくなった。相手は………」

「神(ゴッド)相手は誰なので?」

「ふむ。……よく聞こえないなこれは。私の心網から逃げられる者が存在しているとはな……面白いではないか!!!」

 

 自分の心網で捉えられない者が一人存在している。

 神エネルはそれを面白いと思った。

 なぜなら、自分の能力が絶対だと信じており、例え心網が通じなくても負けないと盲信しているからだ。

 

「お前たちはそいつには手を出すな。我が直々に相手をしてやる」

「神(ゴッド)自ら!!?」

「しかし、心網も通じず容姿が不明です。どうやって見分ければ?」

 

 そうだ。

 心網が通じないなら攻撃を読むことだけでなく、知らない者の見分けも付かない。

 神エネルにはその方法があるのか?

 

「なに、強そうな奴に尋ねて見れば良かろう。もし本人だと分かれば戦闘を避けるだけだ」

「なるほど。青海人は僅か八名。流石に近くまで寄れば心網で強さが分かるでしょう」

「そうだな。我をどの位楽しませてくれるか、楽しみなものだ。ヤハハハ!!」

 

 

 

 こうして夜は更けていく。

 スマラは眠っている。知らない所で、厄介ごとに巻き込まれているともつゆ知らず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜も開け、知らず知らずのうちに神エネルが定めたサバイバルゲームが始まった。

 

 そんな空島の運命を掛けたゲームの最中、麦わら一味は二手に別れて行動していた。空島に眠る黄金を探す部隊と、メリー号を島の出口まで安全に持っていく部隊。

 

 メリー号の部隊は全員で三名。船を航海させるに必要不可欠な航海士、ナミ。ナミの護衛であり、船を守る最大戦力、サンジ。こんな危険な島に入っていけるか!!と怖がって残ったウソップ。以上三名に、昨日神官の襲撃を受けた際に仲間を守ってくれた、空の騎士ガン・フォール。

 これが現在メリー号に乗っているメンバーである。

 

 生贄の祭壇から出発して少し。彼らはガン・フォールから空の戦いについて学んでいた。

 衝撃を吸収し、任意で放出させる事が出来る衝撃貝。それを実演させてみせ、空の戦いが如何に地上とは違うものか教えるガン・フォール。

 貝の種類を見極められない青海人には厳しい。更に加工雲も存在している。

 日々訓練をし、何年、何十年と鍛錬を繰り返した者に青海人は手に負えないだろう。

 

 ガン・フォールはそう述べた。ルフィ達の真の実力を見ていないから言える言葉だ。

 

 そして、ここまで聞いたサンジが唯一語られなかった気掛かりを質問する。

 『マントラ』とは何か?

 

 ガン・フォールは吾輩が扱えるわけではないが……と、前置きを入れて知っている事を話す。

 曰く、聞く力だと。人間、生きているだけで何らかの声を発生している。その声を聞く事によって、相手の次の行動を読めるのだとか。

 神官は神の島全域、神エネルに至っては神の国全域を聞ける規格外。

 

「あの力は得体の知れない……」

 

 そうガン・フォールは締めくくった。

 

「お、おい」

「あぁ、分かってるよ」

 

 心網の説明を聞いたウソップとサンジが何かに気づいた。

 言葉はないものの、お互いに言いたいことは分かる。

 麦わら一味の船にも一人、相手の行動が読める規格外が存在していると。

 

「スマラよね……」

「あぁ、あいつは初めからルフィの行動を知っていたかの様に避けやがった」

「スマラさん………まさか空島出身だったのかな~??」

「いや、そこまでは分からなんぞ」

 

 ナミ、ウソップ、サンジはスマラが心網と呼ばれる不思議な力を扱える事を決定づけた。

 しかし、それが空島特融の力なのか、それとも地上でも普通に知られているものなのか?そこまでは本人に聞かなければならない。

 

 話題は、何時の間にかいなくなっていたスマラの事に変わる。

 一味の中でも特にスマラを気にかけている二人がいるのだ、話題は尽きない。

 

「そう言えば、船動かしてちゃってるけど、帰ってこれると思う?」

「大変だ~~!!迎えに行かないと!!」

「お、おい待て!!サンジ!!」

 

 ナミがスマラはこの船に帰って来れるのか?と疑問を口に出すと、サンジが船から跳び降りようとする。が、ウソップが慌ててサンジを引き留める。

 ウソップがビビりながらサンジを説得し始めた。

 

「お前がこの船から降りたら、誰が守るんだよ~!!言っとくが、俺を戦力にしたらダメだぞ!!」

「そうよ。冷静に考えてサンジ君。スマラなら声を聞いて場所を探すんじゃないかと思う。それに、今までスマラが負けた所を見たことある?」

「ないです!!……確かにそうだ。ナミさんが言った通り、スマラさんは必ず帰って来る!!」

 

 ウソップの説得にナミも助太刀し、サンジはようやく止まった。

 

 一連の会話を聞いていたガン・フォールは、心網が扱えるらしい人物に目を開く。

 

「聞いて居れば、青海人にも心網が扱える者が居るそうだな」

「私達も詳しく知らないんだけど、これまでも言動から絶対に使えるはずよ」

「ふむ。それがあの娘さんか………」

 

 ガン・フォールはこの一味に初めて会った時のことを思い出す。

 ワイパーの襲撃から青海人を守ろうと思って駆けつけてみたものの、戦闘は既に終了後。あのワイパーを初見で返り討ちにしていた。

 その時に、自分の説明を興味なさそうに聞いて居なかった娘がスマラだろう。と、ガン・フォールは納得する。

 

「な、なぁ。一つ思ったんだけど」

「ん?どうしたウソップ?」

 

 ウソップが何か考え着いたらしい。

 サンジが聞き返すと、ウソップは簡単そうに言った。

 

「この島には神官や神、ゲリラ達がうじゃうじゃいるんだろ?だったらスマラが纏めて全部吹き飛ばしてくれねぇかな~?って思ったり……」

「あいつがそんな面倒な事すると思う?」

「だよなぁ~。希望願望ってやつだよ」

 

 ナミ一言で論破。ウソップもやってもらおうとか、やってくれるはずだとかは思っていない。だって、スマラだもの。自分から進んで敵に手を出すなんて事、今まで一度も無かったので、ウソップも「言ってみただけだ」と早々に諦める。

 ただ、誰一人としてスマラが神に勝ないとは思っていない。

 

 

 

 

 

 知らぬ所でサバイバルゲームが始まっているとは知らない。そもそも、この島が神側、ゲリラ側、麦わら一味の三つ巴の戦場になっているとすら知らないスマラは………

 

「ふ~~んっ!!っと、快適快適」

 

 何も知らずに読書をしていた。

 片手で本を掴んで、もう片手でリュックサックから取り出した食パンをモッギュモッギュ食べていた。まったくお行儀の悪い手本のようだ。

 

 

 

 神の島には82人の参加者が存在している。

 その中で生き残れる者は僅か5人。神エネルがそう決めた。

 勿論、スマラもその中に入っている。

 さて、スマラは無事にサバイバルゲームから逃げる事ができるのか?答えは誰も知らない。

 

 

 神エネルに狙われているとはつゆ知らず、スマラは読書に勤しむ。

 誰かこの人に状況を説明してあげてください!!

 

 

 

 




 開幕のフザ戦は前話に組み込もうと思ったのですが、長くなりすぎるし投稿が遅くなるのでやめました。

 シュラよりもフザの方が……。
 分かります。分かりますよ!!シュラよりもフザの方が疲れているじゃん!!あれです、スマラにとって動くよりも、威圧で引いてくれるフザの方が都合が良かったのです。

 前話で描写無いですけど、夕方過ぎ~夜初めの時間帯の話です。

 ナミ達に見聞色の覇気使いだとバレました。
 別に隠している訳で無い。しかも、空島なので心網呼ばわりですし……。物語の進行状況に変わりはありません。他の小説でよく見る、覇気が早い段階で目覚めたりはしません。

 ふ~~んっ!!
 背伸びの際に出た声です。ずっと同じ体制はキツイからね……。


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390 三十三頁「こちらに戦う意志はないわ。辞めない?」

UA100,000越え達成!!!ありがとうございます!!!これからもよろしくお願いします!!


「ふんふん~~~♪」

 

 巨大な木の枝の上でスマラは楽しそうに読書をしていた。

 森の中でマイナスイオンが派生していると言う。マイナスイオンはスマラの副交感神経に作用し、気分を落ち着かせ、細胞を活性化させて疲労を回復させていく。

 リラックス出来る環境と言うのは読書にピッタリな空間だ。

 

「ふんふん~~~♪」

 

 枝から足を宙に投げ出して、ふらふらとばたつかせる。表情は笑顔で楽しそうだ。

 まるで森の中で妖精さんが一休みしている様に見える。そんな幻想的な空間。

 

 

 しかし、そんな幻想的な空間に邪魔者が現れる。

 

「メ~~!!ゲリラではない!!?青海人か!!?」

 

 邪魔者はスマラを見つけると、跳び上がりスマラに近づく。

 彼は神兵。神エネルに使える戦闘兵だ。実力も一兵士としては申し分ないくらい強い。

 神兵は神の国には存在しない貝、斬撃貝を使いゲリラ達を葬っている。

 

 神兵の標的には青海人も当然入っている。なので排除するのみ。

 神兵の持つ斬撃貝の射程範囲に入った。

 

「読書などナメた事を!!!」

 

 盾すらも簡単に切り裂く攻撃がスマラを襲った!!

 が、スマラが無防備で読書をしているはずもなく、斬撃は反射され神兵に返される。

 

「なっ!?だにが……」

 

 まさか攻撃を受けるとは思わない神兵は、己が放った攻撃をまともに喰らってしまう。

 血飛沫が上がり、神兵の意識を刈り取る。

 ここで一名の神兵がサバイバルゲームから脱落した。

 

 神兵が倒れると、辺りは再び静寂に包まれる。

 そこでようやくスマラが動いた。

 

「あら?襲撃者かしら?多いわね」

 

 スマラさん、まったく気が付いて居なかった!!

 それもそのはず、本に集中していたから仕方がない。

 

 しかも、襲撃者は今回が初めてではなかった。

 スマラが座っている枝の下、数メートル下方の地面に視線を移せば、神兵やゲリラ達が数名倒れていた。

 全て、スマラに攻撃して反射を喰らい、脱落した者達である。

 

 

 

 

 

 サバイバルゲーム開始から二時間が経過していた。

 勿論、スマラはそんなゲームなど知らないし、興味も湧かない。

 だが、敵はスマラの心情など無視してやってくる。

 

 敵でない者も……

 

 

「よぉ。こんな所に居たんだな」

「……?あぁ、貴方ね。どうかしたの?」

 

 度重なる襲撃にちょうど集中力が切れかかった頃、聞いたことのある声がスマラに呼びかかった。

 地面に顔を向けると、ゾロがスマラを見上げて立っている。

 後ろには何故か巨大なサウスバードもいた。

 

 そろそろ、船に戻ろうかしら?と、スマラはリュックサックを背負い直して、枝から飛び降りる。

 スマラが飛び降りると、初めからそう打ち合わせをしていたかのように歩き始めるゾロ。

 スマラも疑問なく黙ってその後を追った。

 目的地はない。ただ、歩きたくてゾロの後をついて行っているだけだ。

 目的地はないが、ゾロと行動する目的はある。この島の現状確認がしたかっただけ。

 

「何が起こっているの?見たところ、大規模な戦が起きているみたいだけど」

「詳しい説明は俺にはできねぇ。でも、この島が戦場になっているってのは正解だ」

「戦場ね。道理で襲撃者が多いはずだわ。参加者は?」

「ゲリラ達と神の手先共、後は俺たちだ」

 

 民族姿なのがゲリラ達で、白い服を着ている「メ~」と言っているのが神の手先ね。とスマラは襲撃者と参加者を照合していく。

 そして、疑問が出てくる。

 

「では、何故戦いに参加しているのかしら?目的でもあるの?」

 

 そう目的。

 元々、この島には記録指針が奪われたことで立ち寄った島だ。

 目的など島の観光くらいしか思いつかない。後、記録指針の記録が溜まる時間。

 

 が、エンジェルストリートで不法入国だと追われているもの確か。

 神の手先と戦う理由にはなる。

 だが、それだけでは戦いに参加する目的はないはずだ。

 

 それが分からないスマラは、目的をゾロに質問する。

 戦いに参加するくらいだ。そのくらい知っていなくては困る。

 

 ゾロは口を開いた。

 スマラの気鬱は、どうやら心配しなくても良いものらしい。

 

「黄金だ。ナミが言うには、どうもこの島はジャヤ島の片割れだとかなんだとか……。とにかく、黄金が眠っている可能性がある」

「だから強奪しに行くと………海賊ね」

「海賊だろ?」

 

 ゾロはニヤリと笑った。

 スマラはあっけを取られた様に見返す。

 

 目を大きく開き、パチパチと瞬きを素早く二回。

 

「……そうだったわね。忘れていたわ」

 

 麦わら一味が余りにも海賊らしからぬもので、スマラは忘れていた。

 

 スマラは直ぐにゾロの後を追いかける。

 目的地は知らない。どこに向かっているかなど興味ない。

 

 男で足腰の力も持っているゾロのペースに、スマラは難なく着いていく。

 初めの方は時折振り返ってスマラを確認していたゾロだったが、スマラが普通に着いて来ていると分かると、振り返るのも辞めた。

 ゾロとスマラは黙々と森の中を歩く。歩いて、歩いて、歩いて、歩いた。

 

 そんなゾロが立ち止まったのは、川の役割を果たしている雲が溜まっている場所。湖のようだ。

 湖の中心にはポツンと建造物が立っている。松明が灯っており、壁画が描かれている。蔦や苔で所々覆われているが、その様子は分かる。

 祭壇だ。少しだけ神聖な雰囲気を感じるのは気のせいだろうか?

 

 立ち止まったゾロがポツンと言葉を零した。

 

「見覚えが……ある様な……ない様な……」

 

 スマラはゾロの方向を向いた。

 ゾロは木の幹に手を置いて祭壇をジッと見つめている。見覚えがあるらしい。

 やがてゾロは、ため息を吐きながら結論を出した。

 

「ははーん………似たような場所か…」

「………元の位置に戻って来たのね」

「なっ!!?」

 

 ゾロが考えなかった事をスマラが指摘する。ゾロはスマラをキッと睨み付けた。

 

「はぁ~。方向音痴なのは薄々分かっていたけれど………自覚症状もないとは」

「はぁ!?うるせぇ!」

 

 ゾロの方向音痴を偶に会話(一方的な)をするナミやルフィから聞いていたものの、実際に体感すると呆れるしかない。

 

 スマラはゾロの怒りを軽く受け流すと、見聞色の覇気を発動させた。

 調べているのはエンジェル島の方角。人の声が一番多い方角を見分けれたらいいだけだ。

 

「なるほど……あっちの川からここに辿り着いて、あっちの川から抜け出したと……。こんな所かしらね」

 

 スマラは湖と繋がっている川と、エンジェル島の位置から推測して、麦わら一味がどう行動したのかを予想を立てる。

 ゾロに聞かないのは、方向音痴に道を尋ねても、来た道を指さされる可能性も考えてだ。

 

 これからどうするか?

 スマラは船を追いかけるつもりだが、ゾロはどうするのか?それを尋ねようと振り返った。

 すると、

 

「ジョジョジョジョジョジョ~~~~!!!」

「何だよ。食料狙ってついてきたお前が悪ィんだろ」

「ジョジョ~~!!」

「俺の横にいるとそういう目に合うんだ。やんのか?」

 

 ゾロと巨大なサウスバードが喧嘩していた。

 そう言えば、ゾロの隣にずっと居た様な……。

 

 と、それはともかく、鳥とすら喧嘩するゾロに呆れるスマラは目を閉じた。

 その一瞬で自体は急変した。

 

「ばか!?――待て。もう食いもんは入ってねぇよ!!」

「ジョ~!!」

 

 ゾロが持っている食料を狙ったサウスバードが、リュックサックごとゾロを宙に持ち上げたのだ。

 みるみるうちに高度を上げていき、遠くに去っていく。ゾロと共に………。

 

「えェ………」

 

 さすがのスマラさんもこれには呆然とする。

 「うわぁぁ」と言うゾロの悲鳴だけが聞こえてきた。非情な現実だった。

 

 

 

 

 

 一人になったスマラは覇気で声を聞きながら歩いていた。

 目的地は勿論ゴーイング・メリー号。つまり船だ。

 

 祭壇がある湖から延びている川を辿りながら進む。

 幾らか進むと、森を抜けて海岸沿いに着いた。後は海岸沿いを辿るたけなようだ。

 

 スマラは歩く。走ったら一瞬で追いつくが、それでは疲れるのでダメだ。

 ゾロの話を聞いたところ、数名で黄金探索をしているそうなので、追いつくまでに探索が終わるということはないだろう。

 なので、ゆっくりと歩く。本を取り出して、ウキウキ気分で歩く。

 襲撃の心配はない。見聞色の覇気に近場の反応は皆無だし、こんな端に来る様な者はいないだろう。

 

 

 ふんふん~~~ふんふふん~~

 

 

 辺りはスマラの鼻歌だけが小玉する。

 サバイバルゲームが行われているとは思えない静けさだ。

 

 そんな時間が過ぎ去っていく。

 

 

 

 時間は必ず過ぎ去って行き、面倒な事は図らずともやって来る。

 

 パタンとスマラが本を閉じた。そのまま丁寧にリュックサックへとしまう。

 船にはまだ追いつけていない。追いついたとしても、本を閉じる必要は全くない。

 

 スマラが本を閉じた。

 それは、閉じないと相手に出来ない様な強者が近づいている証拠だ。

 

 スマラが本をしまう程の相手。

 この島では一人しか居ない。

 

 スマラは後ろに振り返ると、今し方到着した相手に問うた。

 

「貴方が空島の統括者ね」

 

 上半身が裸な男だった。頭に頭巾を被っており、長い耳たぶと背中に付いている太鼓が特徴的な男だ。

 スマラが見聞色の覇気で感じる強さも相当なもの。クロコダイルよりも強いかもしれない。

 

 スマラに問いに男は――神エネルは笑いながら答えた。

 

「ヤハハ!!!我が神なり」

「神ね……。貴方、能力が絶対だと過信していない?」

「ほぉ。神に口を出すとは、さすがシュラを倒しただけはあるな」

「シュラ……あぁ、あの寝込みを襲った非常識な男のことね」

 

 敵討ち?とスマラは無表情に返す。

 エネルは「いや」と返して………

 

 バチィ!!!

 

 スマラが立っていた場所に電撃が走った。

 

「ふん。避けたか……」

「えぇ、私の覇気は貴方よりも強いわ」

 

 電撃が走る一瞬前、スマラは見聞色の覇気で未来を見て、優々と避けたのだ。

 そして、相手に分からせる。

 

「後方に回り込んで棒を使って突きを三連続」

 

 エネルが後方に回り込むと、死角からスマラに突き攻撃を放った。が、後ろに目でもあるかのように回避するスマラ。

 

「次は頭上に移動して雷撃」

 

 言葉が響くと同時に頭上から雷撃がスマラに降りかかって来た。が、これも既に範囲から退去済み。

 

「イラついた貴方は雷撃を前方と後方から挟むように」

 

 エネルは舌打ちをすると、太鼓を叩いて雷鳥と雷獣を生み出してスマラに攻撃を仕掛ける。

 しかし、その攻撃もスマラは読んでいた為、跳び上がりと急降下で回避する。

 

「ふん。心網の強さだけは認めてやろう」

「ふん。心網の強さだけは認めてやろう……なっ!?」

 

 自分が発した言葉と全く同じ言葉を口に出したスマラに、エネルは珍しく驚いた。

 それもそうだろう。今まで心網を扱える人物に会ったことはあっても、己を超えるレベルの人間と出会った事はなかった。

 故に傲慢で慢心。鍛錬を怠った事は無いが、上が居ると知っているのと、井の中の蛙状態で鍛錬するのとではまったく心構えが違う。

 

「雲の上ばかりに目を向けているからそうなるのよ。地上にもバケモノは沢山いるわ」

「バケモノ………。しかし、我は雷だぞ。避けてばかりでは私は倒せぬ……『神の裁き』!!!」

 

 エネルは腕を雷に変換させそれを打ち出した。巨大なエネルギーに変換されたそれは、まるで波動砲かと思うほど。

 そんな攻撃が雷速でスマラに襲いかかって来る。

 

「はぁ」

 

 エネルの「神の裁き」が当たる寸前、スマラはめんどくさそうにため息をつく。

 

 今度こそ直撃した。避ける素振りすら見せないスマラに、エネルはニヤリと口元を緩ませる。が、次の瞬間、信じ難い光景を目にした。

 

 スマラに直撃したはずの攻撃が己に向かって帰ってきたのだ。

 

 反射。それはどんな攻撃も跳ね返す事が可能な能力。物理現象から高エネルギーの塊まで。

 この世に存在している限り、全ての量を変換可能なのだ。

 こちらに向かって来るエネルギー量をゼロに、逆に反対方向へのエネルギー量を100に。

 止められるのは、スマラが脳内処理が不可能な程高火力で全体方向からか、別な事に能力を全力で執行中、反射に脳内処理を割けない時。

 

 雷エネルギーの直撃くらい、なんの準備もなく反射可能だ。

 

「な、何をした……!?」

 

 エネルは無傷。それはそうだ。

 己が産んだ雷を浴びようが、自身が雷そのものである故にダメージは無い。

 しかし、それでも驚愕した表情は隠せていない。

 雷を避ける敵はともかく、それを跳ね返してしまう敵など、想像すらしない。

 

「想像すら出来ない能力が存在しているのが偉大なる航路よ。敵が未知の能力を使用したからといって、こんなレベルで驚いていては神なんて名乗るに足らないわ」

「…青海人にはこの様な人間がいるのか。だが!!」

 

 何処まで耐えられる?

 

 そう言いたかったのだろうが、敵に最後まで伝える筋合いは無い。強者同士なら言外に伝わるものだ。

 エネルはありとあらゆる方向からスマラに攻撃を仕掛けた。

 

 放電、神の裁き、雷獣、雷鳥、黄金の棒での突き、体術。

 エネルの渾身の連撃だ。これ程の攻撃を仕掛けたのは何時ぶりだろうか?いや、初めてではないのか?

 エネルは己が食べた悪魔の実が強すぎる故に、本気で出せる相手が居なかった。

 神官であるシュラ、サトリ、オーム、ゲダツとの鍛錬ではそれなりに楽しめるが、本気の戦闘とは違う。

 

 エネルは不覚にも楽しかった。

 全力で迎え討たなければならない相手というのは、こうも面白いものなのか!?

 

 

 

「……不覚にもやり過ぎたか?」

 

 攻撃で地面が削れ、木々が倒される。

 神の島の所有者は自分であろうが、いくら何でもやり過ぎた。

 これでは破壊行為に等しいではないか!!?

 

 エネルはつい本気を出してしまった事を反省する。

 そして、これだけやれば死んだだろう。と嗤った。

 

 刹那

 

 舞っていた土煙が操作されたように晴れる。

 中心に佇んでいたのは勿論、無傷で気怠そうにエネルを瞳に映していたスマラだ。

 無表情にエネルを見ている。見ているが、エネルには自分を見ているようでどこか違う場所を見ている様に思えた。

 

「……無傷だと!!?」

 

 生まれて初めてエネルは恐怖を感じた。それは小さなものだったのかもしれない。

 でも、どんなに小さなものであっても恐怖は恐怖だ。

 神こそが恐怖である。と信じているエネルからすれば、神である己が恐怖をするなど有り得ない事だ。

 神が恐怖を恐れるなどあってはならない。

 だが、アレは何なのだ?

 

 悪魔の実の能力である事は疑いようのない。

 しかし、雷が効かない物など存在しているのか?

 それ以前に、雷と同調したことによって活性化した心網をも上回る心網。

 雷の速度に着いて来れる反射速度とそれを可能にする運動能力。

 上記の二つだけでも、エネルを驚かせるには十分過ぎる要因だった。

 だが、それ以上に

 

 

「……何なのだ。……………何なのだその目は!!?」

 

 

 目が気に食わなかった。目に恐怖を覚えた。

 まるで、お前の事など興味ないとばかりな感情を押し付けるかのような冷たい目。自分を見ているようで見ていない目。

 さらに無表情がエネルの感情を刺激する。

 本気を出した攻撃を受けて無表情はエネルの癪に触り、本能の部分で恐怖に触れていた。

 

 頑張って足掻いた結果が無傷なら、ここまでの恐怖を覚えなかったかもしれない。

 だがどうだ?本気で行った攻撃がまるで効いていない。

 有り得ない事だが、電気が効かない能力だと考え、電気エネルギーの副産物である熱を使った攻撃もしてみた。

 しかし、それも効いているようには見えない。

 

 エネルが唯一ほっとすべき点は、攻撃が反射されても身体が雷であるがゆえにダメージが入って来ない点だろう。

 攻撃を受け流せる。これだけがエネルが「己は絶対に負けない」と思っている勝機。

 ならば、まだやりようはいくらでもある。

 攻撃を跳ね返せると言っても、限度があるはずだ。

 例えば範囲。島ごと消してしまえば、流石の反射能力でも反射しきれないはず。

 エネルはまだ負けた気でいられなかった。

 

 まぁ、やろうと思えば反射した攻撃に武装色の覇気を纏わせる事も可能なんですけどね……。

 スマラが攻撃に移っていないのが、エネルの幸運だろう。

 

 

「おのれ、小癪な能力だことよ」

「……ねぇ、一方的に攻撃されていたから言えなかったけど、こちらに戦う意志はないわ。辞めない?」

 

 攻撃が止まった。

 これは幸いと転じ、スマラはエネルに戦う意志はないと伝える。

 

 それはそうだ。スマラは戦闘狂でもなければ、エネルに何かされたわけでもない。

 戦う理由は不足している。

 

 ……シュラ?あれは一撃で沈められる程度の雑魚敵だったから黙らせただけだ。

 だが、エネルは違う。能力もさることながら、素の戦闘能力も高い。

 負けたことないがゆえに傲慢なところもあるが、スマラとて倒すのには時間と労力がかかる。

 要するにめんどくさいから戦いたくない。この一言に尽きるのだった。

 

「………それは、神の下に降るという意味か?」

「………はぁ~。何でそうなるのかしら?私が言いたいのは『私は戦う気が無いから、潰される前に何処かに行きなさい』ってことよ。――雷だから攻撃が通らないって足元見てんじゃないわよ」

 

 勘違いしているエネルにスマラは優しく論してあげる。

 違った。これでは敵の怒りを買うだけですよ~?

 

「ここで辞めるなら私は追わない。だから私に関わらないで。関わらないなら、貴方が何をしようが興味ないわ。私の気が変わらない内に早くしなさい」

 

 ほら、WINWINな関係でしょ?とスマラはエネルに言った。

 これで頭のいい奴なら引く。果たしてエネルはどちらなのか?

 

「……確かに貴様の言い分は分かった。理解できる。理解できるが、何故貴様に神が従わなければならぬ!!?その目も態度も力も、全てが気に食わぬ。我は神だぞ!!!攻撃が効かないと分かって少々焦ったが、それまでだ!!!これから神は全力を持って貴様を始末する」

「交渉決裂ね……。はぁ、めんどくさい」

 

 エネルはスマラの言い分を却下した。

 その理由は、己が神だと信じ切っているが為。神なのに命令形。神の裁きを受けない。ならば神の力を見せてやろう。

 スマラが武装色の覇気を使わなかった故に、エネルが出した結論だった。

 めんどくさがって適当に相手をしているから、相手の怒りを買ったというべきだろう。スマラの失態はその一点に限る。

 自分の力を過信しすぎて、外界の情報を一切知らないからこう言い切れるエネルもエネルだったが……。

 

「二億V“雷神”」

 

 エネルは全身に限界まで高めた雷のエネルギーを纏い、自らを巨大な雷神の如き姿に変異させた。

 普通の人間なら触れただけで感電死。これにどうやって攻撃しろというものだ。

 

「電力を変えただけじゃ、意味が無いのよねぇ。全く、私を知らない強者がいるなんて………考えたこともなかったわ」

 

 リュックサックを地面に降ろし、しっかりと視界に敵を入れる。

 ダラリと手は下がったままだが、スマラは戦闘態勢に入った。否、入ってしまった。

 能力を全開させたエネルは、スマラに敵認定されてしまったらしい。

 

 反射だけでは勝てない相手だと判断。

 武装色の覇気を発動させ、圧倒的な力を見せ付けて敵対心を砕く方法へ変更。

 体力を消耗してしまうが、能力使用の制限を限定解除。

 

 

「自然系だからって、攻撃が通らないと思わないでよね」

 

 

 さぁ、スマラの反撃の開始だ。




 だにが
 ダニではない。何が?を濁らせただけ。勿論、威力などは弄ってないので死んでませんよ~。

 ゾロと再開。
 ゾロは迷子さんなので、登場させやすかった。そして、唯一スマラを警戒しているキャラとしてスマラと関わらせやすい。 これプロットに無かった。ので、また長くなる要員。

 遂に始まったエネルVSスマラさん!!
 スマラには未来を見れると言うアドバンテージが。エネルには雷速で動けるアドバンテージが。
 まぁ、他にも武装色、反射などの能力を考えると、スマラさんのほが圧倒的有力なんですけどね!
 ただ単純に蹂躙するだけでは面白くないので、どうストーリーにかかわらせるかが重要。ホントにどうしようか? と、ここまで書いて、エネルこんなにもスマラに引き下がらないとは思わなかった。今後の展開どうしよう?



 アンケートとか使った方がいいのか?
・出来るだけ簡潔に書いて、物語の進行を早くした方が良いのか。
・それとも、長くなるの大歓迎なのか?
 読者様的にはどっちなんだろう?
 作者の自分としては、簡潔に早く終わらせたと思っている。んだけど、書いているうちに脱線してしまう現状です……。


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402 三十四頁「さっさと逃げなさい」

遅くなって申し訳ありません。箱イベと、終わり時が分からず長々と書いてしまいました。


 強大な雷エネルギーを自身に纏わせ、雷神と化したエネル。

 対するは、一見非力に見えるお嬢様。

 だがしかし、現状は世界でも最強の部類に入るバケモノ、スマラ。

 

 果たしてどちらが勝つのか!!!

 

 

 とナレーション的に熱く語ったものの、戦局は始まりからずっと傾いたまま。

 神の島で行われているサバイバルゲーム。参加人数も残り十数名を切った頃合い。

 参加者は殆どが島の上昇遺跡に。つまるところ神の島の中央に位置する巨大豆蔓を登った場所に移動していた。

 故に、一番下の大地である此処には戦闘可能な者はスマラとエネルしか残っていない。

 エネルとスマラが幾ら暴れても問題ないと言うこと。

 

 

 

 

 

 神の島に雷面が轟く。

 一度や二度ではない。

 

 十を超えた辺りから、何事かと驚いていた空島の住民達も静まる。

 静まるが、それは慣れたからではない。

 神が何度も何度も、天罰を落とさなければならない事態が起こっている現状に、恐怖を抱いているからだ。

 昨日の不法入国者が関係しているのか?それともゲリラ達が……!!?

 皆家の外に出て、恐怖に震えながらも祈るしかなかった。

 

 

 

 島に雷鳴が轟くその中心。

 大地が削れ、木々が燃えている。

 

「神の力は絶対なのだ!!」

 

 雷神が大地を叩く。

 雷撃が地面を迸りエグる。

 土煙が舞い上がり視界が悪くなる。

 

 その中から影が跳びだした。スマラだ。

 直撃を避け、バックステップで回避したようだ。

 そこへ、雷によって熱せられた高温の雷槍がスマラに狙い定まされた。

 

 空中なら避けられないだろう?

 

 スマラは攻撃を目視すると、腕を黒く硬化させて真っ正面から受け止める。

 力と力がぶつかった事により、衝撃波が巻き起こる。

 拮抗……いや、一瞬拮抗するがスマラが勝った。

 雷槍を押し返すと、態勢を崩した雷神に接近する。

 

 宙を蹴って瞬間移動。

 雷神はその行動を読んでいた。

 「おのれぇ!」と呟くと電圧を上げる。

 向かて来るなら結構。感電死しろ!!

 

 スマラは己に影響を及ぼす電気量をゼロにし近づく。

 そして、黒化したままの腕で雷神を殴った。

 

「ぐぉッ!!」

 

 初めてのダメージ。

 武装色の覇気は、普通なら捉えられることのない雷神を実体として捉える。

 スマラが雷神に与えたダメージは大きい。

 肉体的ダメージも然ることながら、精神的なダメージにも直結する。

 

「ば、バカな!!雷を捉えただと!!」

「見聞色を知っていて、武装色を知らないって新鮮だわね。さぁ、これで私の攻撃は貴方に通るわ、諦めない?」

「………原理は知らぬ。だが、それでも貴様は神に触れる事が出来ると理解した」

「…………」

「あってはならない事だ!!神は絶対なのだ!!」

 

 スマラの言葉はエネルに届かない。

 スマラはこれで理解した。

 エネルには何を言っても無駄だと言う事を。

 

 己が絶対神であると信じているから。

 自分以外の強者を見た事がない、故の傲慢。

 自然系能力者にも攻撃が通るという事実を知らない。

 だから、目を逸らす。

 

 神には攻撃が通るはずがない。

 神よりも見通せる者は居ない。

 神よりも強い者は存在しているはずがない。

 

 そう信じているから、スマラの声はエネルには届かない。

 一種の逃避行動でもある。

 そのくらい、スマラの存在を認めたくなかった。

 

 

 スマラの存在を否定するが如く、エネルの能力は活性化していく。

 エネルを中心に雷が迸る。

 近づくものは全て雷エネルギーで黒焦げになる。

 緑は全てが黒に変わった。

 生きていけるものなど存在しないはずの世界が完成される。

 

 そんな一種の死の世界にスマラは立っていた。

 能力を使い、己に触れる電気量を全てゼロに変換。

 異常な光景の中、たった一人が立っている異常光景。

 

 立ち尽くしているスマラに雷撃が襲い掛かる。

 一つではない。何十という数の雷撃だ。

 だが、スマラは全くもって身動き一つすらしない。

 

 

 考えている。考えているのだ。

 このめんどくさい状況を打破する作戦を。

 

 スマラがどうしようと、「神だから」で返されてしまう。

 ここまで自分の力を過信している者は初めてだ。

 今まで、自分の能力を過信していた敵は皆、スマラの圧倒的な強さを見ると恐怖で引き下がる。

 引き下がらないのは、四皇か王下七武海、世界政府の化け物くらいだ。

 これほどまでに戦力差があるにも拘らず、諦めずに攻撃してくるのは初めて。

 非常に厄介。どう対処する?

 

 わざと負ける。は論外。

 隙を突かれた風に装って、能力を解除して雷を受けると、死ぬ確率がある。

 素の力ではエネルの攻撃に耐えられると断言はできない。

 スマラは死にたくはないのだ。

 

 逃げる。も無理そう。

 相手は雷速で行動可能な雷そのもの。

 空島にいる限り、一瞬で見つかってしまうだろう。

 

 なら一つだけだ。

 もっと痛めつければいいだけの話。

 問題は疲れる。

 基本的に受けで、攻撃を跳ね返すだけで大抵の敵を倒すスマラは、こちらから攻撃を仕掛けるというものが得意ではない。

 攻めは苦手。だからといって出来ない訳ではない。

 

 

 

 

 

 エネルは動かない敵に途切れずに攻撃を放っていた。

 体力を大分消耗するが、この敵が己に与えた衝撃を思えば安い物だ。

 この神の国にいる戦力の中で最も厄介なのが奴だ。

 その最大の脅威を排除出来るとすれば後は問題ない。

 唯一の懸念は『限りない大地』に向かう為の方舟マクシムを動かす体力があるかどうか。

 まぁ、その辺は追々考えれば済む話。

 ただ雷エネルギーを垂れ流すだけで動くのだから。

 

 その他にも、空の騎士ガン・フォールやゲリラの戦士ワイパー、神官を倒せるレベルの青海人など、戦うべき相手は多数存在しているが、雷の前では無力も同然。

 この女が異常なだけだ。

 

 エネルは雷神となり雷エネルギーで形成された拳を叩きつけた。

 何度も同じ事を繰り返したように、また大地が破壊され……なかった。

 

「ッ!!?」

 

 今までと感覚が違う。

 拳全体で地面を破壊することなく、一点で止まっていた。

 一瞬遅れてやってきたのは、腕の痛み。

 

 何故!?

 

 理解した時には、腕がなくなっていた。

 分かったのは奴が腕を吹き飛ばしたことだけ。

 吹き飛ばされた腕は再構築可能だ。

 実態がないのだから当然だ。

 しかし、なら何故痛みがあるのだ!!

 

 続けざまに放った雷撃もこちらに跳ね返ってくる。

 雷で出来ている身体である為、こちらにダメージが入るはずがないのだが、なぜか痛い。

 跳ね返った攻撃を身体に吸収する度に電撃が身体に突き刺さる。

 

 エネルの頭には、何が起こっているのか全く理解できなかった。

 

 

 

 エネルが跳ね返った攻撃を受ける度にダメージを負っている原因は、勿論スマラだ。

 非常にめんどくさい精度を要求されるが、反射する攻撃に武装色の覇気を纏わせる。

 すると、跳ね返す電撃一つ一つがスマラの攻撃になるのだ。

 エネルは当然回避など行わない。

 だから、跳ね返った電撃が当たる度に痛みを伴うのだ。

 

 しかし、それが何十と続くと流石のエネルも気付く。

 跳ね返ってきた電撃全てが自分にダメージを与えていると。

 ならば回避を行うまで。

 元はと言えば、己の攻撃だ。

 心網を使えば、飛んでくる場所など丸わかり。

 己を雷に変化し難なく回避していく。

 

 エネル自身が攻撃を行わなければ、跳ね返ってくる攻撃もなくなる。

 範囲に入る者全てに襲い掛かる電撃の嵐は、いつの間にか収まっていた。

 静けさが舞い戻ってくる。

 

 全く動いていないスマラと、疲労で汗を流しているエネルだけがこの場を支配している。

 いや、この場を支配しているのはスマラだけ。

 

「全くもって気に食わん。お前の能力は大体は把握したぞ」

「把握したからなに?勝機でも見つけたのかしら?」

「攻撃する手段がないのだろう?」

 

 全くもって違いますよ!!

 

「ヤハハハ、図星か」

 

 だから違いますって!!

 

「確かに今のままでは俺には勝てない。だが!!それは貴様も勝てないのと同じことだ!!」

 

 見当違いな推測を、自信ありげに語るエネル。

 スマラはいい加減鬱陶しくなっていた。

 

 だから、地面を蹴った。

 

 エネルからすれば消えたように見えただろう。

 だが、エネルの余裕は消えない。

 心網を使えばスマラの行動などいともたやすく読めるから。

 

 エネルの死角からスマラが現れる。

 スマラはエネルに向けて裏拳を放つ。

 だが、エネルはスマラの行動を読んでいる。

 既に攻撃を避けていた。

 

「今更何を……グフッ!!」

 

 確かに避けていた攻撃が当たった!!?

 エネルは予想外のダメージに一瞬意識を飛ばしてしまう。

 

 スマラの攻撃が当たった理由は実に単純。

 見聞色の覇気で、エネルが自分の攻撃を避ける未来を見て、避けた先に攻撃を放っただけだ。

 見聞色の覇気使い同士の攻防では、読み合いが重要。

 圧倒的な心網で読み合いもくそもなかったエネルは、当然経験不足。

 単純な見聞色の覇気と体術だけの勝負でも、スマラに分があるのは当然のこと。

 

 エネルは痛みを堪えて、距離を置こうとする。

 が、スマラがそれを許さない。

 エネルが移動する場所に先回りして、武装色の覇気を纏った腕を置いておく。

 すると、エネルはその腕に自分からぶつかって行く。

 未来すら見ることの出来る見聞色の覇気あっての先読み攻撃だ。

 腕を置いているだけなので、攻撃ですらないのだがな!!

 

「くそっ!!」

 

 エネルが再び放電。

 スマラは片手間で電気量をゼロにしてダメージを受けない。

 更にエネルの眉間にしわが刻まれる。

 

「いい加減諦めたら?」

 

 エネルは電気エネルギーを活性化され、再び雷神へと変化する。

 巨大化させた電槍でスマラを突く。

 スマラは空中であろうが、地上であろうが関係なく回避。

 突く。回避。突く。回避。突く。回避。突く。回避。突く。

 

 回避、はしなかった。

 いい加減変化が欲しかったスマラは電槍を掴んで止める。

 二万Vもの電気エネルギーがスマラに襲うが、触れた瞬間にゼロに。

 更に能力の影響する範囲を少しだけ広めて……。

 

 何の予兆もなく、エネルが纏っていた電気エネルギーが消え去り、雷神モードが解除された。

 エネルは生身でスマラに捕縛されている。

 

「な、何が!!?」

 

 何が起こっているのか全く理解不能な様子のエネル。

 雷に変換しようが、武装色の覇気で捕まっている為、スマラから逃れる事も出来ない。

 効かないと分かっても放とうとする雷撃も、身体から発生していない。

 

 いや、発動はしているのだ。

 発動していのだが、その瞬間に消されている。

 スマラが能力で触れている限り、エネルは雷を使えない。

 それは、海楼石も同然の力だ。

 

「こんなこともできる。どう?力の差は歴然としているわ。これでもまだ諦めないの?」

「くっ!!?我は神である」

「神なんてこの世には存在してない。四皇すら届かない小物が神だなんて……井の中の蛙大海を知らずって言葉は知らないの?」

 

 発動した瞬間に無効化してくる存在など、この世に何人存在しているのだろうか?

 エネルの能力が覚醒しており、己から離れた場所からの攻撃ならスマラに届いたかもしれない。

 だが、それはエネルの能力が覚醒している事が前提だ。

 現実には覚醒などしてない。

 

 していないからこそ、勝敗は着いたも同然。

 エネルは呆然とした表情でスマラを見つめる。

 

 スマラが呆れ交じりの放った言葉で、エネルはようやく理解した。

 いや、本能では理解していたが、認めたくなかった現実をようやく理解したのだ。

 

 このバケモノには勝てない。

 勝てないどころか、挑むことすら間違っていたのだという現実。

 

 現実は己が思っている以上に残酷である。

 

 

 力なく地面に尻餅をついてしまうエネル。

 神の威厳など頭の中にない。

 あるのはこの目の前の存在から、逃げ切れるかどうか?だ。

 

 エネルはスマラが今更戦闘の中止を受け入れるとは思えなかった。

 向こうは戦いたくないとは言っていたのだ。

 だが、こちらは受け入れなかった。

 自分なら誰が相手だろうが勝てると、信じきって相手にしなかった。

 今更だ。

 

 現に相手はこちらに手を出してきた。

 反撃は、己を敵なのだと認識された今、放棄するなど不可能に近い。

 

 手加減してくれていたから、攻防が成立していたのに。

 本当の実力差は、戦う以前の問題。

 しかし、なにか行動を起こさないとやられる。

 

 

「さて、ようやく己の状況を理解できたようだけど……」

「……俺をどうするつもりだ。青海にも俺と対等以上に渡れる存在がいることは理解出来た。貴様がそうだともな」

「……それで?」

「神が敗者になるのは他のものに示しがつかん。故に戦わずして勝つ」

 

 言い終わると同時にエネルは、スマラの能力封じから逃れる為に動いた。

 能力は封じられているものの、海楼石みたいに身体の力が抜けているわけではない。

 故に、体術を使って逃げることは可能だ。

 

 槍を捻ってスマラが掴んでいる手から離れさせ、槍の自由権を取り戻す。

 同時に雷になってスマラから距離を取った。

 能力の関係上、接近戦が最も危険だから。

 

「あら、逃げられると思っているの?」

「逃げられる。貴様は雷の速度についていけるが、雷の速度で動いているわけではないのだろう。だったら、我が本気で逃げ続ければ逃げ切れるだろう」

 

 圧倒的な実力差には見ないふりをしていたが、観察眼は本物。

 戦いの中できっちりとスマラの行動を観察していたのだ。

 それでいて、早々に引くという結論が出なかったのはアレだ。神という過信が邪魔していたのだ。

 

「そうね。でも、私のこのイライラはどうするつもり?」

「知らぬ」

 

 スマラも黙ってはいられない。

 戦いたくはないが、反撃する程度にはイラついた、

 この落とし前はどう発散させれば良いか。

 

 エネルにも原因の一端があるが、そこは神としての自分勝手な性格で放置。

 スマラさんのイライラが更に深まる!

 

「……せめて一撃」

「ん?」

 

 スマラが呟いた言葉にエネルは惚ける。

 見聞色の覇気で分かっているが、聞こえてないふりだ。

 スマラさん更にイラッとなり、眉間に皺が寄る。

 

 スマラさん、腕を目の前に掲げてスタンバイ。

 エネルはスマラの行動の意図が分からずに首を傾げる。

 

 スマラさん、腕を振って空気を変動させる。

 通常なら空気が少し押される程度。だが、少し押されるだけでも空気の移動は起きている。

 その移動の量、つまり少ししか動かないのが一だとすると、空気砲如く攻撃に変換するのが100。

 その量を変換させ、スマラは空気すら武器にするのだ。

 

「腕など振って何をして……ガハッ!!」

 

 斬撃の如く飛ばされた空気はエネルに直撃。

 スマラの能力で有り得ないほど増加されたスピードでぶつかった為、エネルは今までで一番大きなダメージを受けてしまう。

 勿論武装色の覇気付きなので、雷になって攻撃を受け流す事は出来ない。

 

「私のイライラはどうするつもり?って言ったでしょ。まぁ、この辺にしておいてあげるから、さっさと逃げなさい」

 

 今日一番のダメージ。

 エネルは、スマラの手加減を無くした攻撃を一撃で。たった一撃受けただけでノックアウト。

 あまりの痛さに白目をむいて、意識を手放している。

 

 スマラは伸びているエネルを放置して、移動を開始した。

 目的地は勿論、ゴーイング・メリー号。

 追いつくのは完全に諦め、スマラはトボトボと歩き始めた。

 

 

 

 スマラVSエネル

 結果、スマラの圧勝。

 

 




 同じような内容を繰り返している節がある……。
 目をつむってくれたら嬉しいな!!!!

 これのどこが長いのか説明しなさい。
 後半削って、次話に回した結果です。次回は早く届けられるかも!!?

 周回疲れた……。
 箱イベの話。


 投稿から五時間後の追記です。
 アンケート結果が意外にばらついててビックリしました。
 多くても10くらいかな~って思いつきだったのに、まさかの100を優に超える投票数。
 それだけ多くの方に見てもらえていると言う事ですね。

 アンケート概要でも述べている通り、結果が絶対に反映するわけではありません。
 読者様が思っている事を知るためのアンケートです。
 多少意識するかもしれませんが、基本的には変わらない事をご了承ください。

 沢山のご協力ありがとうございました!!これからも頑張って投稿し続けて行きます。


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411 三十五頁「……疲れたら読書が一番よね」

ギル祭周ってますよ!!!リンゴ無くなったから高難易度クエストと箱開け作業なんですけどね!!


「――ッ!!まだ、倒れてなどおらんぞ」

 

 スマラが立ち去った直後、エネルは意識を取りもどした。

 時間にして1分未満。

 エネルは心網で周囲の状況を確認し、まだ近く(エネル基準で)に居るスマラの方を睨んだ。

 

「だが、あのまま戦うのは下策。予定通りマクシムを使い、島ごと消し去るのが吉か……」

 

 エネルはスマラに固執する気は消えたらしい。

 あれ程の力の差をみせつけられたのだ。

 まだ抗う者はバカか譲れない誇りを傷つけられた者だけだろう。

 

 

 どうやら、エネルの中では、スマラとの戦闘は無効試合となっているようだ。

 それはそうだろう。主催者側の神が一参加者に負けたとなれば、神の威厳はどうなる?

 絶対で唯一。

 勝てる者どころか同じステージにすら立てる者は居ないと思われていたのが、勝てる存在は世界に多数存在している。現在の空島にも一人居ると、主張しているのと同意儀だ。

 

 エネルにはそれが少々まずい。完璧な計画を持って、神は限りない大地へと向かうのだ。

 空に居る存在を全て地上に還して。

 

 流石に空島を丸ごと消すような攻撃ならば、奴にダメージを与える事が出来るだろう。

 だが、奴の標的にされたら終わりだ。

 先の戦いは幸い、誰にも見られていない。いくらでも無かった事にし易い。

 

 スマラ自身も戦う気がないので、目立ちたくないのだ。

 もし先の戦いがバレて、スマラに「エネルの撃破をしてくれ」と大勢に頼み込まれるとなると、スマラは更にイラつく。

 その発散先が誰?と考えると、エネルに向く可能性大だ。

 それも、先の戦闘よりも手加減なしで………。

 

 故に、先の戦いはなかった事にするのがお互いの為なのだ!!

 

 スマラへ視線を向けるのをやめると、エネルは雷となって消えた。

 消えた様に移動をしたのだ。

 島の上階遺跡で己の名を口にしているゲリラの一人に、恐怖を叩き込む為に……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スマラもまた、エネルの反応が遠くに消え去ったのを感じ取っていた。

 はーっと大きく息を吐き出しす。

 

「やっと何処かに行ってくれたわね………今度目の前に現れたら、完膚なきまでに叩き潰してやるわ」

 

 スマラさん、かなりイラついていたようだ。

 今この瞬間に、スマラに攻撃を繰り出すバカがいたのなら、反射だけではなく、スマラから攻撃をして、理不尽な八つ当たりを食らったことだろう。

 まぁ、そんな敵は全てスマラから遠い場所に移動しているのだが……。

 

 トボトボと歩くスマラさん。

 その後ろ姿は、何処か疲労が溜まっている様に見えなくもない。

 

 

 それはそのはず。

 エネルとの戦闘は、ここ数十年の中でも最上位にめんどくさい相手だったのだから。

 自然系能力者で、見聞色の覇気の達人。

 空島でしか活動していない為に、慢心している点もあるが、能力ばかりに頼って鍛錬を怠っているわけでない。

 新世界でも十分に生きていける実力。

 

 最近で言うとクロコダイルレベル。

 スマラの敵ではないが、何も考えずに勝てる雑魚敵とは話が違う。

 見聞色の覇気は常に発動状態、能力も反射以上の力を使った。

 鍛錬もくそもないスマラに、疲労が貯まるのも無理はないだろう。

 それでも、汗一つ掻いていないのは、素のポテンシャルが一般人を遥かに凌駕している証拠。

 

 

 フラフラと歩くスマラ。

 エネルとの戦闘で、何時しか島の端から大分移動してしまっていたらしい。

 

 船に戻りたい。だが、反応は曖昧。

 島の中央部にはエネルと生き残った者と思われる反応が数名。

 こうして感じ取っている間にも、一人、また一人と消えていく。

 

 中央部以外に反応があるのは、島の外周、北東付近に四名。

 内二名の反応は薄く、二名の反応は普通だが一般人だと思われる。

 反応が薄い二名は麦わら一味の誰かだとは分かった。

 短いとは言えない間、一緒にいるのだ。

 反応くらい見分けられる。

 

 さて、ここで困ったことがある。

 スマラがいるのは島の南西側。

 最短距離で行くには、中央部を通らなければならない。

 うん。めんどくさい。

 かと言って周り込むのもめんどくさい。

 さてどうしましょうか?

 スマラが出した答えは………。

 

 

「……疲れたら読書が一番よね」

 

 腰を下ろしてリュックサックから本を取り出す。

 そのまま活字を追うだけの機械になり果てた。

 

 そう、読書だ。

 困ったときの読書。時間潰しに持って来いだし、本の世界に入り込むことで精神的な疲労回復にも繋がる。

 スマラの場合、本当に肉体的疲労も回復するらしいが……。

 読書には、我々の常識に測れない不思議な力が宿っているのだ!!(そんなわけありません)

 

 まぁ、移動せずに読書を開始するということは、歩きながら読書をするだけの余裕がなかったと言う事。

 それだけ、エネルとの戦闘はスマラにも疲労を与えるほどの相手だったのだ。

 スマラにここまでの労力を負わせた相手など、世界でも数えるほどしかいない。

 地上を見下さずに、新世界で修行を行っていたのなら、エネルは最も強くなるだろう。

 そんな相手だった。

 

 人知れず高レベルな戦闘を終わらせたスマラは、休憩に入る。

 すでに本の中にのめり込み、現実世界に意識を向けていない。

 

 さぁ、戦闘後の読書を心行くまでご堪能下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、そう簡単に物語が終われば、読者もそのような物語を求めないだろう。

 一難去ってまた一難。起承転結。伏線回収。

 言い方はいくつもあるだろう。

 要するに、エネルの野望はこれで終わったわけではないのだ。

 なので、一騒動起こるに決まっている。

 それが物語であり、物語を超える現実なのだから。

 

 

 

 ふと、スマラは嫌な気配を感じて本から顔を上げた。

 見聞色の覇気で索敵は常にしているものの、やはり読書中に無意識で行っているよりも、意識的に行っているのでは精度が段違い。

 意識を現実世界に戻し、意識的に見聞色の覇気を使う……までもなかった。

 

 顔を本から上げると、嫌な気配の原因は空にあった。

 雲だ。

 ただの雲ではない。

 

 雷雲。

 雨こそ降っていないが、見るからに雷が落ちて来そうな雲。

 

 

 自然現象ではない。

 人工的な雷雲だ。

 森の一部を破壊しながら上昇している船の、煙突部分から絶え間なく発生している。

 

 

 この島でそのような現象を引き起こす事が出来る存在は二人だけだ。

 原子レベルの量を操って天候すら自由自在なスマラと、雷そのものであるエネルだ。

 スマラにはこの様な事を行う理由が無いし、いままで読書にいそしんでいた。船なども持っていない。

 ならば、消去法でエネル一択。

 

 

 スマラが見聞色の覇気で島を索敵しながら眺めていると、雷雲から雷が迸る。

 エネルが操作したであろう雷は、エンジェル島にぶち当たり、建物を破壊する。

 

 

 そう言えば……とスマラはエネルの言葉を思い出した。

 『これで勝ったと思うなよ。島ごと消し飛ばせば貴様も生き残れないだろう』

 戦いの最中にそんな事を言っていたような気が……。

 

 その結果がこれなのだろう。

 原理はよくわからない。

 ただ分かるのは、あの船がエネルの力で動いていて、このままでは空島丸ごと消し飛ばす攻撃が降り注ぐと言う事のみ。

 

 流石のスマラでも、島ごと消し飛ばす程の攻撃には対処が難しい。

 ここで重要なのは難しいだけであって、決して出来ない訳ではないと言う事だ。

 スマラだけが生き残るなら対して労力はない。

 普通の攻撃に比べて消費体力が多いが、全体からすれば微々たる差。

 しかし、島全体を消し飛ばす程の高威力で広範囲の攻撃を、丸ごと操作するとなると、途方もない体力と時間がかかる。

 

 さらに言えば、スマラは人が死のうが、島がなくなろうと無関心なのだ。

 自分さえ生き残れればそれだけで十分。

 余裕があるなら人助けをする程度。

 勿論、対価に合った報酬も貰う。

 とことん、この熾烈な海で生き残るのに長けた性格だ。

 

 

 

 時間にして一分程度。

 これからの行動予定を建てたスマラは、軽く走り始めた。

 方向は島の中央部。巨大豆蔓の下だ。

 

 見聞色の覇気で探った結果、巨大な豆蔓付近にはそれなりの反応が多数返ってきた。

 サバイバルゲームの生き残りで、エネルにやられた者達だ。

 麦わら一味のメンバーも二名の反応がある。

 

 

 こんな面倒な事態だけは回避したいが、適当な場所で終わるのを待ってると帰るタイミングが分からない。

 それならば、始めから一緒に居ればいいのだ。

 居るだけで、何も手出しはしないけど……。

 スマラがこの船に乗っている者たちの物語を見たいと思っているなら、近くで観察したほうがより臨場感を味わえる。

 

 常人の発想ではない。

 人の物語の為にわざわざ危険地帯に踏み込むなど、可笑しいと捉えられてもおかしくはない。

 それでもスマラはやる。

 なぜなら本で読むよりも、よりリアルで深く物語を見ることが出来るから。

 

 スマラと言う壊れた人間は、物語を求め続ける。

 物心付いた時から、魂に刻まれているかの様にそう在り続けた。

 常人に理解されなくてもよい、己が楽しければそれでいい。

 仲間なども必要ない。

 それが、壊れている人間スマラの行動原理なのだから………。

 

 

 

 

 

 スマラの能力を持ってすれば、島の中央部にたどり着くのにそう時間はかからない。

 やがて、森を抜けて遺跡に出た。

 

 黄金都市シャンドラだ。

 

 雲に埋まっているのか、遺跡はどれも建造物の上層部に見られる造りばかり。

 中央部には巨大な豆の蔓が更に上空へと伸びている。

 

 そして、上空を見上げているロビンに声を掛ける。

 近くにはゾロとガン・フォール、ゲリラが黒焦げで倒れていた。

 反応はあるので、意識を失っているだけだろう。

 

「久しぶり、でいいのかしら?随分と面倒な事になっているわね」

「貴女は!?一体今まで何処にいたの?」

「森の中よ。適当に過ごしていたわ。神はあそこね」

 

 スマラは蔦の頂上付近を旋回している船を指さした。

 見聞色の覇気で場所など特定しているが、確認は必要。

 

「エネルのことね。えぇ、航海士さんが連れていかれて、船長さんが助けに向かったわ」

 

 流石にエネルの存在は知っていることに、ロビンは内心ほっとしながら現状を伝えた。

 が、スマラの知る状況と少し違う。

 

「船には神の反応しかないのだけれど?」

「え?」

 

 と言った時だった。

 下から声が聞こえて来た。

 

「ロビ~~ン!!スマラ~~~~!!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁ~~!!」

 

 同時に、文字通りの飛んでくる子供と空の騎士のペット。

 ロビンが能力を発動して彼女たちを受けとめた。

 

 雲の下から蔓を登ってやって来たのは、やはりと言うべきかルフィだった。

 右手には巨大な黄金の球体が引っ付いている。

 さぞかし重かろうが、それを引っ張りながら登って来れる身体能力は称賛に値する。

 

「ロビン!!この蔓のてっぺんに黄金の鐘があるんだな!!エネルはその鐘を狙っているんだな!!?」

「それは……確かに鐘楼があるとすればそこしかないわ……。だけどもう……」

 

 ルフィとロビンが、スマラには理解出来ない内容の話をする。

 それもそうだ。

 黄金の鐘と言われても、ゾロとしか会ってないスマラからすれば、何のことか分からない。

 ある程度の予想はつくが、思い込みは大きな致命傷になりかねない。

 スマラは自分で調べた事実だけしか信用しないのだ。

 

 やり取りが終わったのか、ルフィは蔓を登り始めようとして……止まった。

 頭だけ振り返ってスマラの方を向く。

 

「スマラ!!!これが終わったらお前の好きな冒険の話を沢山してやるからな!!」

「は?」

 

 「楽しみにしてろよな!!」とルフィは蔓を勢い良く登って行く。

 あっという間に見えなくなる。

 

「……冒険の話が好きなのではなく、物語全般が好きなのだけれど?」

「反応するところがそこなの?」

 

 スマラにツッコミを入れるロビン。

 珍しい組み合わせだ。

 

 ロビンはルフィと一緒に現れた女の子に質問する。

 手が咲くという摩訶不思議な能力を目の当たりにし、先まで叫んでいた女の子はビクッとしながら答えた。

 

「ねぇあなた。航海士さんは何処?オレンジ髪の女の子」

「え?ナミ?ナミならあの船に……」

「いないわよ?」

 

 女の子の言葉を遮ったのはスマラだ。

 ロビンはナミの居場所を知りたがっている様子。

 女の子はナミの居場所を知っているのか、船を指さそうとしたのだ。

 だから、見聞色の覇気で船にはエネルしか乗っていない事を知っているスマラが間違いを正した。

 

 

 情報のすれ違いはない方がいいに決まっている。

 少し前のスマラだったなら、聞かれてもいないのに答えるなどしなかっただろう。

 これはどういう変化なのだろうか?

 麦わら一味と接することで、スマラにも仲間意識が芽生え始めたのふだろうか?

 真相は、スマラ本人にも分からない。

 

 

 スマラの言葉に、女の子もナミの気配が船から消えている事に気が付いた。

 

「ホントだ。空から声が一つしか聞こえない……」

「あら?貴女も見聞色の覇気の使い手なの?」

「けんぶんしょくのはき?心網の事?」

「ここではそう呼ぶのね。まぁ良いわ。意味は同じだから」

 

 スマラはこんな幼い子供が見聞色の覇気の使い手だと言う事に、少しだけ驚く。

 生まれ持っての素質なのだろう。

 あり得ないことではない。

 スマラ自身もこのくらいの年頃には、見聞色の覇気を扱えた。

 でなければ、今のスマラはいないはずだから。

 

 スマラと女の子の会話を聞いて、ロビンはわざわざ女の子に聞かなくても、スマラなら何とか出来ることを思いだした

 

「そういえば、貴女も人の気配を感じ取れるのだったわね」

「難しくはないわよ?死地に接すれば、自然と開花する場合もあるしね。それで、航海士さんの現在地は……」

 

「いた!!」

 

 とスマラがナミの位置をロビンに伝えようとした時。

 遺跡の奥からナミがウェイバーを走らせてやって来た。

 ボロボロになっているウソップと意識を失っているサンジも一緒だ。

 

「うぉ!!ロビン!!げっ!!スマラもいやがる!!」

「アイサ~!!良かった無事なのね」

 

 女の子――アイサがナミに抱きついた。

 嬉しそうにしていることから、そうとう懐かれているのだろう。

 到着した二人はウェイバーと呼ばれる貝を使った乗り物からおり、サンジを雲の上に下した。

 そこでウソップがゾロ、チョッパー、ガン・フォール、ワイパーがボロボロの状態で意識を失っている事に気付く。

 サンジと怪我の見た目が同じことから、エネルにやられたのだと気付き、俺がいたなら……と有り得ない強がりを見せる。

 ナミがアイサにルフィの居場所を聞いた。

 ナミはルフィとアイサが一緒にいるものだと思っていたらしい。

 ここでも情報の伝達の齟齬が発生している。まぁ、この世界で起こっている事を満遍なく知ることが出来る者など、存在しない。

 

 

 スマラが黙ってみていると、空の方でも動きを見せる。

 空島を覆いつくす様に広がっていた雷雲から、雷が落ち始めたのだ。

 何度もの雷が落ち続け、空気は震える。

 

 

「さぁ…宴を始めようではないか。万雷」

 




あと何話で空島終わるかな?下書きなどないし、細かいプロットすら作ってないからこうなる。5話以内に収まったらいいなぁ。げ、空島終わったら青雉じゃんか……。


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422 三十六頁「私一人が助かるだけなら問題ないわね」

空島も終盤戦!!!!そして、箱イベお疲れ様でした。只今箱開け作業しています。


「さぁ…宴を始めようではないか。万雷」

 

 エネルの言葉とともに、落雷の数は増える。

 名前の通り、まさに万の雷。

 島に落ちた雷が大地を削り、森を焼いていく。

 

 

 

 そんな雷が無差別に落ちてくる。

 スマラたちがいる場所も例外ではない。

 

「ッ!!?」

「……あっ!!!」

「ぎゃあ~!!!」

 

 ドゴォォン!!!と僅か数百メートルも近くに落ちた雷に、一同は伏せた。

 直撃しなくとも、通常の何倍もの大きさの雷は、余波だけで数十メートルの被害をもたらす。

 遺跡に直撃したことで破片が舞い散り、皆を襲う。

 ナミはしゃがみ込んで伏せ、ロビンは何とか立っているものの目はしっかりと瞑っている。

 ウソップとアイサに至っては軽く吹き飛ばされた。

 

 スマラ?自分から半径三十センチの空間を能力で支配し、衝撃や空気の変動などどこ吹く風状態。

 便利過ぎる能力だ。

 勿論、それなりの演算能力や体力を消耗するのだが、スマラからすれば大した量ではない。

 

「なんてでっけぇ雷!!ここに居ちゃア空の塵になっちまう!!」

「皆船に急いで!!!私もルフィを連れて直ぐに戻るから!!」

「よよよよ~し分かった!!」

 

 ウソップが落ちてきた雷の大きさに驚き、この状況のヤバさを言葉に表す。

 ナミも急いだ方がいいと悟ったらしく、ウェイバーを準備してウソップとロビンに船に戻る様に伝えた。

 ナミは、黄金の鐘とエネルの下に突っ走っていったルフィを追いかけるらしい。

 

 最後にナミはスマラの方を振り返る。

 そして、やはりと言って良い言葉をかけた。

 

「ねぇスマラ」

「貴女ならエネルを無力化出来るでしょ?」

 

 やっぱりだ。

 困った時のスマラ頼み。

 それは、スマラの力を信じている事でもあったが、スマラにはこの状況を打破して貰いたいだけだと思っている。

 

「確かに無力化は可能だわ」

 

 既にやったとは口が滑っても言えない。

 あの戦闘は無かった事になっているのだから。

 

「一応聞いてみるけど、ルフィを連れ戻すのを手伝ってくれたり、エネルを倒して空島を救ってくれたりしない?」

「……その考えは何故出てきたのかしら?ビビ王女が私に護衛依頼を頼んだから?」

「それもあるわ。だけど、空島の危機なんだから、そのくらい許容範囲かな~って」

 

 空島の危機=スマラでも止めないと不味いでしょ?

 と思っているナミ。

 

 だが、それは甘~い考えである。

 

「確かに、空島の危機に心が痛むわ。でも、私が神を倒す理由にならないわよ?」

「でも、流石のスマラでも島ごと消す様な攻撃には……耐えれそうね」

「そうよ。私一人なら問題ないわ。だけど、島ごと消す様な攻撃をどうにかするなんて、時間的にも苦労的にもやりたくないわ」

「ですよねー」

 

 言ってみただけ、とナミは諦める。

 やがて、ウェイバーのエンジンを入れて、加速状態に入った。

 最後に、

 

「じゃあ!!みんなを雷から守ってあげて!!」

 

 と言い残して蔓の頂上へ向けて発進した。

 スマラ意見ガン無視だ。

 普通に言ったって、了承されないと思ったからの行動だろう。

 これなら、スマラも皆を雷から守らなければならない。

 策士なナミである。

 

「急げロビン!!!こいつら何とか船まで運びだすんだ!!スマラも手伝ってくれ!!」

「はぁ、一人だけよ」

 

 ウソップがスマラとロビンに指示をだす。

 スマラが怖いとか言っている場合ではないからだ。

 と、誰が誰を持ち上げるか決めかねていたら、ワイパーが立った。

 同時に、ゾロとガン・フォールも意識を取り戻す。

 

「………剣士さん!!」

「変なおっさん!!!!」

「………ゲホ」

「……エネル………!!!」

 

 ガン・フォールは強い目をしながら体を起こす。

 ウソップが急いで逃げようと状況を簡単に説明し始めた。

 

「良かった。時間がねえんだ。歩けるか!!?」

 

 

 とその時、ボーっと空を眺めていたスマラが動いた。

 

「スマラ!!?」

「…あいつ!!」

 

 ウソップとゾロがスマラの行動に驚く。

 

 軽く跳び上がったスマラ。

 そんなスマラに向かって雷が落ちてきた。

 雷に触れてエネルギー操作。

 エネルギー量をゼロに消して、雷を消す飛ばす。

 

「……なっ!!」

「………ふぅ~危なかった。……よ~し!!俺の指示通りだ!!!!」

「私が事前に察知したお陰なのだけれど?」

 

 ウソップが自分の手柄にしようとしたので、スタっと着地と共に訂正した。

 スマラに睨まれた(本人は睨んだつもりはない)ウソップは少しビビッて下がる。

 そんなふうになると分かっているのなら、初めから言わなければいいのに。

 

 スマラが雷を無効化したのをみて、ガン・フォールが呟いた。

 

「ワイパーを簡単に吹き飛ばした人か……こうも実力があったとは」

「俺を飛ばした奴だな。エネルの雷を無効化するなんて、バケモノかよ」

 

 ガン・フォールの呟きに、ワイパーが反応した。

 有り得ないって顔をしている。

 だが、これが現実なのだよワイパー君。

 ワイパーはそのまま、空を見上げて固まった。

 壊される大地を目の前に、思うところがあるのだろう。

 

 

 

 

 

「ヤハハハハハハハハ。……絶景」

 

 黄金の大鐘楼を狙って方舟マクシムを上昇させながら、エネルは呟いた。

 船の縁に立ち見渡す景色は、己の万雷によって破壊されていく空島。

 エネルはまさに神の如く気分で眺めていた。

 

 もうすぐ、空の全てを地上に還す事ができる。

 そして己は『限りない大地』へ向かうのだ。

 

 

 エネルは気分よく、雷を更に活性化させ放出。

 上空の雷雲は更に激しさを増す。

 

「ん~~~あの辺りか?忌まわしきシャンドラの戦士たちの隠里は?」

 

 エネルはシャンドラの先住民族が隠れて暮す、位置に狙いを定め、雷を落とす。

 元々青海の住民。元の場所に戻れて嬉しいだろ!!!

 エネルは本気でそう思って村を破壊する。

 

 何をしても自由。

 気に入らない物は全て破壊しても己の勝手。

 なぜなら、この空は神の領域であり、己が神であるからだ。

 

 

 

 より一層激しくなる落雷は、徐々に街に被害を出し。

 人にも被害を出し始める。

 

 負傷者を出しながらも皆必死になって逃げる。

 エネルが聞こえる声はどれも悲鳴ばかり。

 しかし、悲鳴以外の声も聞こえる。

 

 神に向ける敵意が一人。

 何も感じてないバケモノが一人。

 

 ゴム人間とやらと、神にすら手が届かないバケモノだ。

 厄介なのは後者。

 

 あれは個人で戦ってもいい相手ではない。

 島ごと消し飛ばすという、戦術級の攻撃でようやく相手になるレベルのバケモノ。

 やがてその攻撃は完成するが、こちらに向かわれても厄介だ。

 

 

 エネルは巨大な雷を落とし、数刻前まで住んでいた神の社とその下に存在するシャンドラの遺跡を破壊する。

 と、同時に、遺跡付近にいる者たちに攻撃を仕掛けた。

 

 

 

 

 

 バリリリリィィ!!!!

 

 上空から雷が落ちてきた。

 スマラは今度は何もしなかった。

 直撃しないなら、わざわざ能力を使って雷を消す意味が無い。

 それに反射ならともかく、強大なエネルギーを一つ消すには結構な労力を使ってしまう。

 

 

 スマラはボーっとしていた。

 見聞色の覇気を使用し、雷が落ちてこないか探っているのだ。

 

 こちらが了承していないと言えども、勝手に押し付けられた役割だろうが、一度交わされた約束を破るわけにはいかない。

 神の相手をしろと言われるよりは遥かに簡単な役割だ。

 それに、一応船に乗せさせて貰っている立場上、こんな時くらい護衛にまわってもいいだろう。

 少なくとも、罰は当たらないはず。

 

 

 スマラが動かずにただ空を見上げているのは、護衛対象が動いていないからだった。

 現在、ロビンとワイパーがエネルの目的である黄金の鐘の事を話しており、ウソップが度々「早く逃げよう」と口ずさんでいる。

 ワイパーは蔓の頂上にシャンドラの象徴である黄金の大鐘楼があると知り、それを鳴らしたいらしい。

 シャンドラの一族だけが知る、何かがあるのだろう。

 その目は真剣だ。

 

 

 ふと、頂上付近で雷が落ちたのをスマラは察知した。

 目を凝らすと、何かが点となって落ちてくる。

 

「この場から離れた方が良いわよ」

「え!!?っておおぉいいl!!蔓から離れろ!!!何か落ちてくるぞ!!」

 

 スマラがポツリと忠告をこぼすと、ウソップが耳にして空を見上げた。

 すると、段々と大きくなっている何か。

 危険だと判断したウソップが大声で皆に伝える。

 

 ドスゥン!!!と大きな音を立てて落下して来たのは、蔓の頂上。

 折れ口が焼け焦げていることから、エネルによってやられたらしい。

 ルフィは無事なのか?ウソップがオロオロと慌てる。

 

 ワイパーの方はと言うと、先の蔓の落下で生じた衝撃で地面に突っ伏した。

 既に体はボロボロ、立っているのがやっとで普通の人なら生きていること事態が奇跡。

 アイサがワイパーの身を案じるが、それでもワイパーは諦めきれない。

 あと少し。あと少しで偉大なるご先祖、大戦士ガルガラの切望の鐘がそこにあるのだと……。

 

 

 

「ん?」

「どうかしたのか!!スマラ!!何かある早く言ってくれよ!!」

 

 スマラが少し眉をひそめると、ウソップが「また何か落下物が!!?」と焦る。

 がスマラの返答は違うものだった。

 

「神の反応が遠くに変わった?」

「反応??って何だあありゃ!!!?」

 

 ここより少し離れた場所の上空に、巨大な黒い球体が現れたのだ。

 エネルの反応はその付近から感じられる。

 九分九厘、エネルが関与しているものだろう。

 

「エンジェル島の真上だよ……!!」

「雷雲が球体に……」

「悪夢だ~~!!!この世の光景じゃねぇ!!!」

「何を始める気だ……」

 

 アイサが大体の場所を位置付け、ロビンが冷静に分析をする。

 ウソップは悪夢だと叫び声を上げ、ガン・フォールが聞こえるはずのないエネルに向かって呟く。

 

 スマラは何を言うわけでもなく、黙ってエネルのそれを鋭く見ていた。

 

 

 あれが神の言っていた島ごと消し飛ばす攻撃だとすれば、確かにうなずけるだけの見た目はある。

 いや、見た目どころかそれなりの威力も持っているだろう。

 己が嫌うあの人と同等の力。

 それほどまでにあの力は強大だ。

 反射すら難しく、己にダメージがいかない様にするのが精一杯。

 アレを使われたら、スマラも勝てなかったかもしれない。

 

 だが、エネルも方舟マクシムのバックアップを受けてようやく完成できる攻撃。

 準備にも時間がかかり、スマラもその間に能力を使って阻止しようとするだろう。

 スマラが手出しできない場所に居る事が必須条件で、ようやく発動できる攻撃なのだ。

 

 

 

 球体状の雷雲は、エンジェル島に落ちていく。

 雷迎と呼ばれるそれは、地面に衝突すると同時に物凄い量の雷エネルギーをまき散らす。

 

 雷が晴れた後、その場所には何も無かった。

 一瞬にして島一つを消し飛ばす攻撃。

 正しく神業である。

 

 

 流石のスマラも目の前の光景に戦慄して………居なかった。

 この空に居る大抵の人間が感じている恐怖や、ルフィやガン・フォールがエネルに抱く怒り。

 そう言った感情すら発生していない。

 

 スマラにあるのはただ冷静でいること。

 冷静な目で、あの攻撃を分析していたのだ。

 

 

「(物凄いエネルギー量……通常状態の私では、とうてい制御しきれない量だわ。だけど……)」

 

 

 確かに、あれほどのエネルギー量を制御するとなれば、スマラでも骨を折るだろう。

 だが、悪魔の実の能力にはもう一段階上があるのだ。

 それを解放すれば、いともたやすく攻撃を無効化できるだろう。

 

 だが、欠点が一つ。

 スマラは海賊ではない。

 ましてや海軍でも革命軍でも何でもないただの「放浪人」を自称する一般人。そのはず。

 そんな者が、敵や己の目標の為に強くなろうとするだろうか?否だ。

 新世界でも上から数えた方が早いほど強いスマラだが、実のところ鍛錬など一回もしたことがなかった。

 全て素の能力と才能。それだけで生きてきた。

 

 そんな努力のどの字も知らないスマラが、悪魔の能力を限界まで執行するだろうか?

 答えは当然、するはずがない。

 

 当然、自分命にかかわるなら全力を尽くすが、そこまでしなくて大丈夫ならしない。

 スマラが冷静に分析した結果。

 

 

 

「私一人が助かるだけなら問題ないわね」

「おい~~!!!俺たちは助けてくれないのかよ!!!」

「??どうして私が、あなた達を助けないといけないのかしら?」

 

 スマラの呟きにウソップが反応した。ウソップはスマラの言動をずっと観察しているのではないか?と言えるほどの地獄耳だ。

 自分一人だけ助けるという状況に、ウソップはスマラに泣きつく。

 が、スマラはそれを拒否する。

 スマラは本心から自分以外を助ける意味が分からないと思っているのが、余計に怖いところだ。

 すかさずロビンがウソップの援護に回る。

 

「それは酷いのでは?航海士さんからも頼まれているでしょう」

「あれは別よ。それに、このくらい如何にかできなければ、この先の海で生きていけないわよ。助けを求めるなら私ではなくて、麦わらの子。……違う?」

 

 ロビン、スマラに撃墜される。

 このくらい自分達で如何にかしなさい。自分たちにできないなら、船長に助けを求めるのが筋ではなくて?と言うスマラに、ゾロだけが答えた。

 

「はっ!!そうに違いねぇ」

 

 




 もう一段階上の能力
 覚醒??覚醒しちゃってるの???答えはイエスでもあり、ノーでもあります。スマラは覚醒と言う概念は知っていますが、実際に覚醒まで至った事はありません。だけど、概念を知っていて、自分能力に当てはめれば何処までできるようになるかを想像が出来ているのです。なので、やろうと思えば入れるかもしれないが、疲労がとんでもないことになりそうなのでやらない。と言った解釈が正解ですね。

 皆さんはスマラの正体に気づいているんですかな?
 一応伏線も少し出してますし、勘のいいひとなら分かるレベルです。(だと思いたい)
 感想でどんどん送ってきても構わないのよ?と言いつつ、実際に正解を出されると反応に困る作者です。

 次回で空島フィナーレに行きたい!!


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428 三十七頁「ここまで働く気はなかったのだけれどね」

 沢山のアンケートありがとうございました!!!

 絶対に反映するわけではないのですが、出来るだけキャラと関わりながら進めていきたいです。
 あと、早く更新してほしいと言う要望もありました……。そちらはごめんさない。自分の執筆モチベーションとして、毎日コツコツと書いていくのが性に合っているらしいので。更新ペースは変わらずです。ゲームやってなかったり、書くことだけに集中するならできるんですけどね。あと、普通の仕事もあるので。誰か趣味だけに集中させてくれ!!!
 勝手にしやがれと言う意見も。感想でもあったのですが、自分の書きたいように書いていきます。その結果、キャラとの関わりも増えたらいいなぁ。
 出来るだけ簡潔にと言う人もいらしたようですね。これは自覚しています。物語の運びが下手ですもの。長々とその場で思いついた事を書きまくるせいです。一度いいからガッツリとプロップ作ってから挑みたい。だけど、更新してないのも悪いと思う……。
 結果、もっと頑張ろう。アンケートは気が向くか、新しいアンケートを出すまで残しておきますので、まだ投票していない方がいらしたら遠慮なくどうぞ。しなくても結構ですよ。

 長々と語ってしまいましたが、ほんへです。どうぞ。


 

「じゃああいつは、確かに言っていた。この状況下で……確かに鐘を鳴らすだと!!?」

 

 

 現在、スマラたちは完全に行動を停止していた。

 というのも、ワイパーが動こうとしていないからだ。

 

 彼はエネルの目的が黄金の鐘だと聞いて、ルフィが鐘を鳴らすと聞いて、信じられない様子でいた。

 あの島を消し飛ばす程の攻撃を繰り出せるエネル。それにぶつかって行こうと言う馬鹿が一人だけいるのだ。

 ルフィがエネルと戦う場面を見ていないから言える。己がエネルに完封までに叩き潰されたから言える。

 

 不可能だと。

 

 

「やると言ったら、あいつはやる」

 

 そんなワイパーにゾロは、ルフィがどんな奴か言った。

 ナミが連れ戻そうと、強大な敵が立ちはだかろうと、ルフィは戻りはしない。

 やると言ったら、どんな不可能な事でも成し遂げる。それがルフィだと。

 己の船の船長を完全に信じ切っている表情で語った。

 

 

 スマラはそんなゾロを細めた眼で観察していた。

 今までの航海で、麦わら一味がルフィを中心にまとまっている事は理解した。

 その中でも、ゾロが一番ルフィを信じているようにも見えた。

 

 己が船に乗った時もそうだった。

 ウソップやナミが警戒する中、ゾロだけがルフィの言葉に否定意見を出さずに、すんなりと受け入れた。

 ただ船長の言葉を受け入れるだけでもない。

 スマラがどんな奴かも観察し、船で一番警戒もしている。

 それでもスマラに何も言わないのは、ひときわにルフィの言葉を信じているからだ。

 

 スマラはそんなゾロを見て、素晴らしい信頼だと思った。

 警戒されるのはいい。誰だってこんな怪しい女を船に招き入れるのだろうか。

 ましてや、海賊の敵である賞金稼ぎ、ルフィでも勝てないレベルのバケモノ。

 警戒されるのは当たり前。しないのは、余程のバカだけ。

 

 普通警戒するのなら、文句の一つくらいあるだろう。

 だが、ゾロに文句は無い。船長であるルフィが決めた事なら受け入れる。その上で、スマラを警戒している。

 どんな人間にも出来ることではない。

 

 だからスマラは、ゾロの事を気に入っている。

 それは、スマラ自身でも無意識の気持ちなのかもしれない。

 なぜなら、スマラの過去にその様な人を見た事がないから。

 どんな人間も常に裏切りを考え、表面上では仲良くしている仲間も信頼はしていない。

 スマラの知る海賊団はそんな嫌いな奴らの集まりだった。

 

 

 

 

 ふと、モンブラン・ノーランドの航海日誌を思い出した。

 黄金の鐘が話題に上がっている事もあったのだろう。

 気になる事があった。

 

「少しいいかしら?」

「どうした。助けなら要らねぇぞ」

「おィ!助けてもらえるなら、助けてもらうに決まっているだろうが!!!」

 

 スマラが声を掛けると、ゾロが「助けならいらない」と言い、ウソップがそんなことを言うゾロの頭を叩く。

 ウソップ的には、スマラの力は是が非でも欲しいものなのだ。

 そんな二人にスマラは「違うわ」と間違いを訂正してから己の要件に入る。

 

「私が話したいのは悪魔の子よ」

「私に?貴女も大鐘楼を狙って……?」

「さぁ?黄金の鐘には興味はないわよ。ただ、見たところこの遺跡には所々に古代文字のレリーフが刻まれている。もしかして、大鐘楼にはアレがあるのではないかと思ったのよ」

 

 アレとは、古代文字で書かれた『歴史の本文』のこと。

 航海日誌を読んで思い出したのだ、大鐘楼には『歴史の本文』と呼ばれる読めない文字で書かれた彫刻が刻まれていると。

 そのことについて、自分よりも遥かに知識があり、専門家なロビンに質問したということだ。

 

「……この遺跡を調べ尽くしたところ、それは何処にも無かったわ。ならば、大鐘楼と共にあると考えるべきね」

「分かったわ。貴重な情報ありがとう」

「……そう言えば貴女………」

 

 

 ロビンが上を見上げるスマラに、船に乗る前交わした約束を聞き出そうとした時、邪魔が入った。

 邪魔……というのも、その声の主であるウソップに悪いだろう。

 なぜなら、スマラが無視している危機を知らせてくれたのだから。

 

「あ!!危ねぇ!!また何か落ちてくる!!」

 

 ウソップの焦った声とは裏腹に、ひらひらと落ちてきたの葉っぱだった。

 一体なぜ一枚だけ?と疑問が生じるが、アイサが葉っぱに伝言が書いてあるのを見つけた。

 その内容は「この巨大な蔓を西に切り倒せ」というもの。

 

 切り倒せば何が起こるのか?とウソップが皆を代表して疑問を口にする。

 とその時、ウソップがまたもや大声を上げた。

 あれを見ろ!!!そう言われて一同顔を上げる。するとそこには………

 

 先ほどの数倍もの大きさを持つ雷迎が浮かんでいた。

 

 

 

 大きさだけのはりぼてではないだろう。

 島の一部を消し飛ばした大きさよりも、さらに数倍は大きいそれ。

 エネルの宣言通り、この大地を地上に還す事が出来るであろう。

 

 スマラですら、目を大きく開いてその景色を見張った程だ。

 あれは無理だ。能力を一段階上げなければ対処しきれない。

 自分一人が生き残るなら問題はないが、スマラとて地面は必要である。

 空気を蹴って空を跳ぶ武術、月歩でずっと跳べば良いではないか?とおもうだろうが、スマラのめんどくさいがりからすれば、ずっとは不可能。

 せいぜい、十分が限界だろう。

 

 しかし、なぜ地面が必要なのか?

 スマラなら空島が消えて無くなったとしても、能力で色々と操作することで、安全に地上に生還する事が可能だろう。

 生き残るだけならそれだけで十分。

 だがそうでもいいと思わないのも理由がある。

 幾人もの命が散るのが悲しいから?麦わら一味を生かしたいから?断じて違う。

 それは、歴史の本文を読みたいと言う、スマラ自身の欲望であった。

 だからスマラは、エネルに黄金の鐘が渡るのを良しとせず、大鐘楼を降ろすだけの地面が欲しいのだ。

 

 

 

 

 葉っぱに書かれていた内容は至って単純。巨大な蔓を西に向かって切り倒せというもの。

 初めは何故?と思ったものの、空に浮かぶ巨大な雷迎を目にすると、その理由が分かる。

 倒れかかった蔓を利用して、エネルが乗っている舟まで跳ぶ。これしかない。

 

 ゾロはルフィを信じて、蔓を切り倒す気満々だ。

 ウソップが無茶だ!!とゾロを押さえるが、「じゃあお前が止めてこい」と言う言葉に反論できない。

 

 と、またもやスマラが軽く跳んだ。

 瞬間、スマラに向かって雷が落ちてくる。

 このくらいなら造作もない。殆ど無意識レベルで雷エネルギーを消す。

 

「うぉぉ!!!助かった!!」

「地面のある場所へ!!このままじゃ、遺跡に落とされる!!」

 

 ゾロの号令で皆は動き出す。

 ゾロは一人、刀を抜いて蔓に向かって走った。

 彼一人だけは、エネルを倒して空島を助けられるのはルフィしかないと思っているから。

 

 

 気を失っているサンジとチョッパーを担いで地面のある場所まで下がった一同。

 ゾロが蔓に向かって走って行くのを見ていた。

 この中であの巨大な蔓を斬り倒せるのは、ゾロしかないからだ。

 

 あ、ゾロに向かって雷が落ちた。

 エネルも、易々と見過ごしてくれる訳がないらしい。

 が、何とか回避したらしい。ゾロは雷を避けつつ蔓に接近。

 通常の剣士には到底不可能に近い程巨大な蔓を、ぶった切った。

 直後、ゾロに向かって雷が直撃。なすすべもな遺跡に落下。

 普通なら死んでもおかしくないのだが、スマラの見聞色にはゾロの声は聞こえている。

 

 

 ゾロは身を挺して蔓を切った。だが、それでもびくともしない。

 まだ足りない。

 下から物凄い衝撃が蔓を襲った。蔓は少しだけ傾くが、それだけで止まった。

 もうひと押し必要らしい。

 もう少し、ウソップも出動。横に移動しながら蔓に向かって火薬星を打ち込む。

 微弱ながら力になっているのか?

 そんな時、ワイパーが動いた。彼はウソップを後ろに引かせると、蔓に手のひらを当てて、それのスイッチを入れた。

 瞬間、蔓の一部を消し飛ばす程の衝撃波が発生する。

 

 これだけのダメージを与えたのなら、さすがの巨大な豆蔓も倒れるだろう。

 誰もがそう思った。

 

「そんな!!」

「これでも、倒れねぇのかよ………」

「ならば吾輩が……」

 

 だが、何百年と空島に根付いていた巨蔓は健在。

 西に傾いた巨蔓であったが、その状態で止まることが出来るのかよ!!と突っ込みたくなる状態で止まった。止まってしまった。

 見事な耐久だと褒め称えるべき生命力であるが、今はそんな状況ではない。

 今はこの巨蔓には倒れてほしいのだ。

 

「いや待て!!!そういえば、スマラはどこに行った!!」

「………っ!!何の心変わりなのかしら」

 

 ロビンの目線の先にはスマラがいた。

 気だるげにボーっとしているスマラではない。

 空中を蹴り、蔓へと向かうスマラの姿だ。

 

 スマラはこの事を予測していたのだろうか?

 予測はしていた。万が一蔓が倒れない事があったなら、己が最後の衝撃を与えようと。

 だから、蔓が止まった瞬間にはもう動いていたのだ。

 

 

 

 

 スマラとて心変わりしたわけではない。だが、ルフィに望みを託したのは同じだ。

 なぜなら、スマラが望んでいるのは歴史の本文。エネルにそれを奪われるわけにはいかない。

 ようやくエネルを敵だと認識したスマラであったが、少々遅すぎた。

 今からエネルを倒しに行こうとすれば、あの雷迎はスマラがたどり着く前に完成し、島を地上に還すだろう。

 スマラにそれを止める力は、一つしか持っていない。しかし、それも確実に出来ると断言出来るわでもない。

 

 自分の力を傲慢し過ぎていたのは、スマラの方だったかもしれない。

 あの時、確実にエネルを倒しておけばこんなことにならなかったのかも知れない。

 全ては詰めの甘かったスマラが悪い。

 

 そこで、スマラは一つかけてみた。

 あの麦わら帽子が本物なら、彼は何かしらの奇跡を起こすだろう。

 それこそ物語の主人公のように。

 スマラが見たいのはそのような人の物語だ。

 

 失敗したら?その時はその時だ。

 無理なら無理で結構。諦めればよい。

 ただ、歴史の本文を集めているのは、スマラ自身の趣味だけではない。

 スマラが世界中を放浪している事を許されている理由でもある。

 スマラとしては、出来れば歴史の本文は複写したい。

 

 

 だから、麦わら帽子を被った青年にかけてみた。

 勿論、他にも策は用意してある。

 少しだけ、自分の趣味を優先してもいいだろう。

 趣味だけで生きているような物な、スマラらしい考えからである。

 

 

 

「いけ~~!!スマラ!!!」

 

 ウソップの都合のいい応援が聞こえる。

 スマラは勢いを殺さずに巨蔓に蹴りを入れた。足が蔓にぶつかる寸前、衝撃を調整し巨蔓が折れるだけの衝撃を伝えた。

 普通に全衝撃を蔓に伝えると、勢い良く巨蔓は折れてしまい、上に居るナミとルフィに被害が出る。だから殺した威力で。

 

 メキメキと巨蔓が西に向かって倒れていく。

 が、エネルが万雷を発動し、無数の雷を巨蔓に向かって落として来た。

 こちらの目論見がバレてしまい、巨蔓を根本から砕くつもりだ。

 

 

 

 

「はぁ、ここまで働く気はなかったのだけれどね」

 

 

 スマラがそうはさせない。

 月歩で空中に飛出し、片っ端から雷を消していく。

 だが、それでも焼け石に水。何十もの雷を全て相手取るには、能力の力が足りない。

 触れないと発動出来ないその力は、落ちてくる雷の一部を消すにしか至っていない。

 それでも物凄い数なのだが、落ちてくる雷は万にも等しい。覚醒していないスマラの能力では、それが限界なのだ。

 

 

 段々と雷迎が落ちてくる。

 

 スマラにそれを止める力は無い。

 雷を消しつつ、スマラはルフィの反応が巨大な雷エネルギーの中に消えていくのを感じ取った。

 

 

 ゴム人間に金属の球体。対するは雷と気流の渦。

 もし彼があの中で暴れれば?

 答えは簡単。中でエネルギー同士のぶつかり合いが生じ、地面に落ちる前に発散される可能性が浮上する。

 ほうら、段々と幕放電が怒って…………。

 はぁ。まさか、こんなルーキーに助けられるなんてね。

 

 

 

 ドパァン!!!

 破裂音が鳴り響く。

 

 雷迎が破裂し、周りの雷雲を吹き飛ばす。

 空島は一瞬にして晴れた。

 

 その後の場面は空に存在する者皆、上を見上げて見ていただろう。

 雷神へと身体を変えたエネルを、ルフィが黄金の球体をもって殴り飛ばす。

 エネルの舟を破壊し、最後に、

 

 

 空に鐘の音を響かせた。

 

 

 

 カラァーン……。カラァーン、カラァーン、カラァーン。

 

 

 

 四百年ぶりに響かせたその鐘の音は、幻想的で美しい。

 聞くもの全てを魅了する様な音だった。

 

 

 

 

 スマラでさえ目を閉じて耳を傾けていた。

 

 

 




 あれ肝に銘じたつもりなのに、初っ端から無くても良いスマラさんの謎を入れてしまった。
 別に書かなくても良かったのにね。こうやって文字数が増えていく。これ、年内に終わらないと思うよ……。

 ようやく終わりました。
 次回、空島出発です。


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436 三十八頁「あら?遅かったわね」

総合評価が1,000ポイントを超えました。連載開始当初はここまで増えるとは思っておらず、ただ息抜きで書いていた作品でした。ここまで評価してくださり、誠にありがとうございました。これからも頑張りたいと思います。

今更感ありますが、台風は大丈夫でしたか?自分ですか?地方都市の郊外(周りに田んぼよかある感じ。段々と開発進んで行っている←これが昔の景色が亡くなって悲しい……)なので全く関係無かったですね。東京ザマァ~としか思ってませんでした。

鬼キュアも毎朝頑張ってます!!!深夜アニメリアタイで見たいので、ほぼずっと昼夜逆転生活送ってますよ。火曜日と金曜日、日曜日は見る奴無いから寝れる。ただし、朝起きれる自信がないから基本寝ない。ニートですか?ギリギリ違います。


 地面に降りたスマラは、人知れず消えていった。

 

 辺りは薄暗い。これまで空島を覆っていた雷雲のせいではない。

 単純に、太陽が傾いているからだ。

 

 

 スマラは神の大地を歩く。

 戻ってこないスマラを不安がっている麦わら一味など知りもしない。

 どうせ彼らのことだから、もう一日は動かないだろう。

 その間に何としてでも見つけ出さねばなるまい。

 

 あそこまで労働を行ったのだ。

 これで見つかりませんでした。では済まされない。

 だからこそ、探し出さねばならない。

 

 黄金の大鐘楼に刻まれているという歴史の本文を。

 

 

 

 

 

「正解みたいね」

 

 神の大地を探し回って数時間。

 のんびりとのほぉ~んと歩いているとやっと見つかった大鐘楼に、スマラはほっと一安心。

 その場所は、神の大地の東の海岸。巨大な豆蔓に引っかかっていた。

 

 探し物は見つかった。後は用事を済ませるだけだ。

 だがしかし、蔓に引っかかっているため、肝心な歴史の本文が見えない。

 

 非常にめんどくさい。

 スマラの用事を済ませるためには、蔓に引っかかっている黄金の大鐘楼を引っ張り上げないとだめだろう。

 非常にめんどくさいのは、引っ張り上げなくてはならないことだった。

 

 見たこともない大きさの大鐘楼に加えて、全てが黄金で製造されている。当然重たい。

 数百名の人間が引っ張ってやっと動かせる重さだろう。

 能力を使って、人では到底不可能なことが可能にできるスマラでもためらう重さ。

 単純に、今日だけでエネルの攻撃を何十回と無効化した疲労が溜まっているだけだが……。

 

 

 

 それでも、今やろうとも思わない。明日でもいいだろう。

 スマラはそう見切りを付けると、少し離れた場所に移動して腰を下ろした。

 そのまま背負っているリュックサックの中から、食パンを一切れ取り出すと、むしゃむしゃと食べ始めた。

 晩御飯だ。スマラが個人で用意する食事に、まともな物を期待する方が間違っている。スマラはこれで十分なのだから!!

 

 もっぎゅもっぎゅと食パンを完食すると、スマラは寝転ぶ。ご飯を食べたばかりに寝転んだら太る?消化に悪い?

 スマラさんにはその様な小さい事は気にしないのだ。能力によって体重も増えない!!女の敵である。

 

 

 世界中に住む女性が羨む様な力を持っているスマラさんは、そんな事も知らない。

 寝転ぶと、直ぐに眠たくなる。眠気もある程度操れるが、今はそれ以上に疲れているらしい。

 

 まぁ、当然と言えば当然の反応だろう。

 エネルはスマラの予想以上に強敵だった。空の上ばかりに興味を示すこともなく、青海をもっと見聞したのなら、スマラに匹敵する力を得ることだって可能かもしれない。

 それ程までに、自然系能力者は厄介なのだ。

 

 

 

 スマラは瞳を閉じると、直ぐに夢の世界に旅立って行った。

 

 

 

 

 

 ふと、目が覚めた。

 

 太陽が雲の先から見え始め、朝露が辺りに蔓延している気持ち良い朝方。

 

 もう少し眠りたい気持ちを抑えて、スマラは起き上がると見聞色の覇気を発動した。

 すると、少し離れた場所に数名の反応が帰ってくる。なんてことのない一般人の反応だ。

 ふと目が覚めたのは、彼らが原因だろう。

 

 チラッと確認すると、彼らは大鐘楼に群がっている。やがて、紐を括りつけて引っ張り出そうとしていた。

 彼らもまた、麦わら一味からこの大地が空に現れた時の伝承を聞き、象徴である黄金の大鐘楼を探していたのだろう。

 

 引っ張り出してくれるなら願ってもないことだ。

 スマラでも骨の折れる作業を代わりに行ってくれるのだ。甘えるとしよう。

 全てが終わった後、じっくりと目当ての物を作ればいい。

 これでも島を守った麦わらの一味に引っ付いているスマラだ。易々と追い返されたりはしないだろう。

 どうしても断られるならその時はその時だ。

 全員を気絶させた後に作業に移ればいいだけの話。

 

 その時まで気軽に待つとしよう。

 麦わら一味の気配は常にマーク済み。空島を出港しようとしたらすぐにわかる。

 それまでに終わりそうにないなら、スマラも手伝わざるをえないが………何とかなるだろう。

 スマラは、黄金の大鐘楼を引っ張り上げようとしている者達を見て、楽観的に見守った。

 

 

 

 シャリシャリ。チラッ。ペラッ。

 

 シャリシャリシャリシャリ。チラッ。ペラッ。

 

 

 シャンディアの戦士たちが「せーのっ!」と声を合わせて大鐘楼を引っ張り上げている中、のんきな音が響く。(のんきな音はシャンディアの皆さんには聞こえてません)

 リンゴが齧られる音。本の頁が捲られる音も一緒にだ。

 

 本の頁が捲られると言えば、スマラしかいない。スマラ以外に居るというのなら、是非とも教えて欲しいものだ。それ程筋金入りの読書中毒。

 

 スマラは少し離れた木の枝の上で、本を読みながら朝食のリンゴを齧っていた。時々、チラッと前方の進行状況を確認するのも忘れていない。

 現状、スマラはシャンディアの皆さんが黄金の大鐘楼を引っ張り上げるのを待っていた。

 他力本願過ぎるスマラさん。だが、それでこそスマラさんと言えるだろう。

 このまま普通に出ていき、シャンディアの皆さんと一緒に汗を流す………なんて事があったら、誰でも気持ち悪いと思うはず。何となくスマラの事を理解し始めている麦わら一味のメンバーが見れば、すぐさま熱か毒、偽物を疑うだろう。

 

 他人など気にしない。自分に利益がないと動かず、その利益すらも本や物語と言った特殊性癖。

 能力が強力ゆえに動くことを嫌い、面倒だとか自身がしなくてはならない場面以外では常に読書をして、自分の趣味を優先する。

 それがスマラだ。

 

 なので、シャンディアの皆さんが一生懸命に働いているのを見ても、ただのうのうと朝食と読書に浸っていても、何ら違和感もない。

 読書をして精神的な疲労を癒しながら、スマラは時が経つのを待った。

 

 

 

 

 

 いくら時間が経っただろうか?時計を持たないスマラには体内時計でしか、時間を知るすべがない。

 もっとも、街中だったりすれば話は別だろう。

 

 まぁどちらにせよ、スマラには取って時間は特に意味を持たない概念である。

 明かりのない夜には寝て、好きな時に起きる。起きている間は基本読書をするだけ。お腹が空いたら読書の片手間に食べ物を齧り、また読書の時間へと戻る。

 予定などないに等しい。その場の空気に流されて島を旅する。ある意味無職者。

 そんな者に時間の概念はいらない。時間など気がついたら経っていた。それだけだ。時計などいらない生活になるのは必然的だった。

 

 

 

「やった!!!!」

「これがオーゴン!!!?」

「なんて美しいものなんだ!!」

 

 

 本の世界に入り込み始めたスマラの耳に、歓声が聞こえてきた。

 せっかく本の世界に入り込みそうだったのに!!と間の悪いシャンディア達にイラつきながらも、本来の目的を思い出したスマラはチラッと本から視線を上げた。

 するとそこには、見事な黄金の大鐘楼があった。蔓や苔に覆われながらも、その形は健在。四百年もの歳月をかけて、再び人の目に触れる事が出来た訳。

 

 

 スマラは本をパタンと閉じると、リュックサックにしまい込んで腰を上げる。そのまま枝からヒョイと飛び降りてシャンディアの下に向う。

 

「少しいいかしら?」

「…!?青海人か……。何用だ」

 

 スマラが黄金の大鐘楼を見上げているシャンディアの皆さんへ声を掛けると、集まっている者のなかでも一番の高齢者と言っても過言ではない者がスマラに答えた。

 彼がシャンディアの酋長だ。最年長の者であり、幼きワイパーに大戦士ガルガラの執念を伝えた者でもある。

 

「そこの歴史の本文に用があるの。場所を空けてもらっても構わないかしら?」

「用?何をするつもだ……」

「少し紙に写すだけよ。遺蹟に少しだけ触るけど、壊したりはしないわ」

「………写す?一体何の意味が?」

「さぁね。………物語が読みたいだけ……なのかしらね」

 

 スマラの答えは、まるで自分がしている作業なのに意味が分かっていない様子だった。意味が分からないのにしている作業。誰かに命令されてしているような………。

 

 スマラは酋長が何も言わない事を肯定と取り、早速作業に取り掛かった。

 リュックサックを降ろして身軽になると、中から巨大な模造紙とインクを取り出した。模造紙は広げると、丁度歴史の本文にぴったりと当てはまる位の大きさ。

 スマラが述べた目的の写す。それは決して嘘や戯言なのではなく本気のようだ。

 

 一人で着々と準備を始めているスマラに、誰かが誰もが持っている疑問点を言った。

 

「もしかして、読めるのか?」

「まさか。今はまだ、読めはしないわ」

 

 今は……まるで今後は読めるようになる。そう確定しているような言い方だ。

 

 今度はペタペタとインクを遺跡に塗りたくるスマラ。

 それは、先祖が大切にしていた物を汚す行為と等しい。我慢できずに一人が酋長に抗議の声をあげた。

 

「酋長!!遺跡が!!」

「……仕方ない」

 

 この黄金の大鐘楼がとても貴重な物あると、一番分かっているはずの酋長は、スマラを止めるどころか何もしない。淡々と抗議を言った者に言った。それはスマラの行為を認めると同意儀。

 しかし、シャンドラの皆さんは納得いかない様子。一人が声を上げたのを堺に、次々とスマラの行為を非難し始めた。中には武器を手に取り構える者もいる。

 

「おい!!いくら恩人の青海人であろうと、そのような行為は認めんぞ!!」

「そうだ!!折れたオーゴンの棒くらいは差し上げても良いが、その遺跡を汚すな!!」

「今すぐにそれをやめろ!!」

「酋長!!流石に辞めるべきです」

 

 スマラの行為に怒りを見せるシャンドラの皆さん。ここまで広がれば、いくら酋長でも抑えられない。

 スマラさん大ピンチ!!!!

 

 と、なる訳がない。

 シャンドラの皆さんは知らないが数刻前、空島を恐怖に落とし入れたエネル。奴を簡単に叩き倒す事が可能な実力を持っているスマラさんだ。この程度ではどうってことない。

 しかし、嫌々ながらも珍しく作業をしているスマラさん。

 

 うん。イラつくよね。

 簡単な作業と言えど、丁寧にしているのは確かだ。そんな中横やりの様に非難する声を聞かされるのは、スマラでなくてもイラつくだろう。

 

 なので、スマラさん抑えていた威圧を少しだけ解放した。覇王色の覇気ではないが、ただの人を怯えさせるには十分な威圧だ。

 シャンドラの皆さんにスマラの威圧が襲う。武器を構えていたものは取り落とし、酋長に言葉を述べていた者は口が開けない。どちらでもなくただ見守っていたものでさえ、息を吞んでスマラから目を離せない。

 

 覇王色の覇気ではないと言えど、世界でもトップレベルの実力を持ったスマラの威圧だ。一般人ではなくとも心の弱い者には響く。

 結果、この場に居た三分の一が気を失って倒れたのは当然だろう。

 

 これでも軽めなのは、直接的な妨害をされていなかったり、そこまで大きな威圧を出さなくても簡単に黙らせる事が可能だと判断した余裕であったり、単に面倒であったり。と、色々な懸念が混ざり合った結果である。

 

 

「酋長!!彼女は!!?」

「こうなる事が分かっていたから、この方に素直に場を明け渡したのだ。見ろ、これ以上強引に止めるというのなら、我々を皆殺しにしてでも用事を済ませるだろう」

「………酷い言いようね。流石にそこまではしないわよ。せいぜい全員を気絶させる程度かしら?」

 

 シャンドラの皆さんが不満を述べるのが分かっていながらも、スマラに場所を素直に引き渡したその理由。

 それは、酋長だけがスマラの目に気がついていたからであった。

 冷たい目。人などどうとでも思っていない。人間的ではないその目を酋長だけが気がついていた。

 もしここにワイパーがいたのなら、酋長と同じ様に止めただろう。いや、酋長よりも力づくでも仲間たちを止めるはず。なにせ、彼はシャンドラの皆さんの中で唯一、スマラの実力を目にしていたからだ。

 エネルの雷を無効化する様なバケモノを敵に回したくないと思うのは、当然の感情だろう。

 

 それに、スマラとて意味なしげに遺跡を汚すわけではない。

 魚拓の方法で遺跡に刻まれている文字を紙に写し、それを持ち帰る目的があるからだ。

 ただ無意味に遺跡を壊すのが目的ではないので、後片付けだってキチンと行う。

 

 全てを説明しなかったスマラも悪いし、話を最後まで聞かずに暴走したシャンドラの皆さんも悪い。

 どっこいどっこいだろう。

 

 一人でこの大きさの遺跡を移すのは時間がかかる。テキパキとスマラは作業を進める中、気絶しなかったシャンドラの皆さんが、酋長の指示を受けて手伝ってくれた。

 紙を抑えて、一斉に引っ付ける。スマラの指示の元、作業は速いペースで終わっていく。

 

 

 

「どういうつもりなの?私は手伝ってとは言っていないわよ」

「先のお詫びだ。それに、一人よりも皆で行った方が早く終わるだろう」

「……そう……ありがと」

「礼など不要だ。……お詫びと言っただろう。エネルの倒してくれた青海人でもある……」

 

 沈黙が流れる。遺跡の文字を写した紙は既にスマラのリュックサックの中。

 他の人達は遺跡に残ったインクを洗い落としている最中。

 その様子を眺めながら、スマラと酋長は遺跡の前に立ち尽くす。

 

 隣にいる酋長は何百年と続く部族の長だ。風格だってある。

 それならば、この遺跡に書いてある内容だって分かるのでは?と気になったスマラは口を開いてみた。

 

「………何が書かれているのかご存知で?」

「……………しらずとも良いことだ。我々は―――――」

 

 我々はただ守るのみ。そう言いたかったのだろうか?

 だが、意外な人物によってその言葉は消える。

 

「『真意を心に口を閉ざせ。我らは歴史を紡ぐ者。大鐘楼の響きと共に』」

 

 意外な人物。いや、シャンドラの皆さんにとって意外であり、その正体を知っているスマラからすれば自然な人物。

 

「あら、遅かったわね」

「貴女みたいに島中を探し回った訳ではないもの。報告を受けてから来たのよ」

 

 麦わら一味の考古学者『悪魔の子』ニコ・ロビンだった。




すまない!!思ったよりも文字数が伸びてしまった……。ので、もう一話。次回こそ空島終了です!!


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443 三十九頁「私はただの人間よ」

 今回はいつもよりも早かったのではないでしょうか?自分でもサクサク書けた気分です。
 毎日投稿している方はホントに尊敬できる。自分も出来ないことはないが、最低文字数しか書かないから、絶対に話の途切れ方が変になるね!!前作で学んだ過ちは繰り返さないのさ!!

面白い?タイプミス
世界財布………世界政府と打ち込みたかった。だが、天上金とかある意味そうだと思う。あ、天上金と世界政府が使っている予算は別なのか?


 スマラが遺跡の前に立ち、酋長から内容を聞き出そうしている最中に現れたのは、ロビンだった。

 酋長は意外な人物が現れた事に驚くが、スマラは自然体で、寧ろ待っていたかのように接する。

 なにせ、ロビンが世界で唯一古代文字を解読出来る人物として有名である。ロビンが賞金首になった原因でもあり、新聞をキチンと読んで情報を仕入れているスマラにとっては常識だ。

 

 「まさか読めるのか!?」という酋長の言葉に、ロビンは遺跡に書かれている歴史の本文を読むことによって返答する。

 スマラは一文字一句効き間違いのないように耳をすませた。

 

 そして、紡がれるその内容。

 

 

「『神の名を持つ”古代兵器”「ポセイドン」…そのありか』」

 

 

 初めて耳にする歴史の本文の内容。

 スマラは鳥肌が収まらなかった。

 

 

 

 何というこの感覚。まるで、新しい本で新情報が発見されたかのようなゾクゾクとした感覚。

 これだ!!これこそが物語を読む醍醐味!!!

 古代兵器とは一体何なのか!!?ポセイドンとはどのような兵器なのか!!?アラバスタ王国でクロコダイルが言っていたプルトンとの関係は!!?

 

 知りたい!!知りたいわ!!!

 あぁ、読めなかった本が読めるようになるのはこんなにも気持ちのいい物なのか!!?

 悪魔の子に解読してもらうのもいいけど、やはりここは自分の力で解読して読んでこその興奮!!!

 悪魔の子が語ったのは解読したほんの少しだけ。出来れば全文を一句一字違わずに知りたい!!!

 早く解読出来るようになりたいわ!!!

 

 

 

 頬を赤く染め、興奮した状態で思考を巡らすスマラ。既に周りの目線など気にしていない。

 そんなスマラを見て、シャンドラの皆さんの野郎どもの視線が釘付けに。仲間を気絶させられた因縁など消え失せている。

 そんな野郎どもを見て、女どもは冷徹な目を野郎どもに浴びせる。

 カオスが出来上がっていた。

 

 そんなことも知らないロビンが動いた。

 

 

「やっぱりハズレね」

「そうなの?こんなにも気持ちの良いことはないのに……」

 

 くるっと回れ右をしてきた道を戻ろうとするロビンに、スマラが珍しく上機嫌で着いて行く。

 用事は終わった。このまま麦わら一味の場所まで一緒に戻るつもりだ。

 おかしくはない。単独行動が基本なスマラには珍しいだけだ。

 

 そんな二人に声をかける者が一人。シャンドラの一人。遺跡の隅っこを指さしている。

 

「…おいアンタ!!その横に彫ってあるのは、同じ物文字じゃないのか?」

「え!?」

 

 振り返って指さされた場所を見ると、確かに古代文字が刻まれている。

 しかしそれは初めから遺跡の一部としてある物ではなく、後から、継ぎ足された様に刻まれているものだった。

 スマラとロビンが見落とすのも当然。なにせ、歴史の本文にしか目が行っていなかったのだから。

 

「読んで見せてくれないかしら?」

「………ッ!!?『我ここに至りこの文を最果てへと導く。海賊王ゴール・D・ロジャー』……海賊王!!?まさかこの島に!!?それに何故、その文字を扱えるの……???」

 

 刻まれていた文字は海賊王の言葉だった。少なくとも二十四年以上昔に、彼はこの場所に訪れていたらしい。

 ロビンが驚愕していると、横からスマラが口を出してきた。

 

「………へぇ。ロジャーがこの島にね………。やはり仮説は正しかったみたいね」

 

 と何かを呟いた後、

 

「別におかしくはないわよ。偉大なる航路を制覇した船だもの。古代文字を扱えたって、なんら不思議はないわ」

「ちょっと待って!!?貴女は一体、何者なの………!!?」

 

 返ってくる答えはない。

 ちょっとした物心から質問に答えただけだ。それ以上は答えられない。

 スマラはどこ吹く風で空を見上げているだけだった。

 

 

 

 その後、ちょうどこの場に居たらしいガン・フォールからロジャーと知り合いだと言う情報が手に入り、ロビンは真の歴史の本文の存在に大きな仮説を立てることができた。

 歴史の本文をロビンが読んだことにより、この歴史の本文は役目を果たしており、「もう戦わなくてもいい。先祖の願いは果たされた」と酋長が涙を流した。

 空島をエネルの脅威から救われたり、先ほどロビンから先祖の願いは果たされたと知らされたりと、色々あったお礼を込めて、折れてしまった黄金の柱を麦わら一味にあげちゃう!!!そう決まって準備がなされた。

 

 スマラ?黄金など眼中にない。欲しいものは手に入っているし、頭の中は古代文字を読みたいなぁ~。どんな内容が書かれているのかな~と、世界政府の禁忌を思いっきり犯す気持ちでいっぱいでしたが?

 

 そもそも、あんな馬鹿デカイ黄金の柱をもらっても、換金できる場所が存在しない。その前に、船が沈んでしまう。

 誰一人その考えには至っていない。

 

 

 

 イッチ、ニー、イッチ、ニー、イッチ、ニー

 

 シャンドラの皆さんが布で包んだ黄金の柱を引っ張る。

 

 その先頭をロビンとスマラが歩いていた。スマラの足取りは軽く、注意しなければスキップを踏んでしまうほど。

 

 何故なら……気分が良い時に無意識にしている鼻歌を奏でていらっしゃるから!!

 

 目に見えて気分の良さげなスマラさんに、ロビンが気になって声をかけてしまう。

 

「ねぇ。何がそんなにも気持ちいいのかしら?」

「あら、そこまで表情に出ていたかしら?」

「えぇ。とても――――貴女がただの人間なのだと再確認する事が出来るくらいにね」

「私はただの人間よ」

 

 

 実際はそうだ。

 世界でも類を見ない程の実力者。全てをどうでもいいと思っているかのように冷たい目。襲ってくる海賊共をただの金にしか見ておらず、淡々と返り討ちにする機械的な行動。

 どれをとっても、人間らしいとは思えない。だがそれは、噂だけを聞いた者。海賊を討伐する時を目にした者。

 誰一人、一方方向のスマラしか見ていない評価だ。

 少しでもスマラと行動を共にした者なら知ってるだろう。

 

 読書をしている時のスマラは、実に生き生きとしている。嬉しそうに頬を赤らめ、小鳥がさえずっているかのような鼻歌を奏でる。

 それがスマラという一人の人間の姿。

 スマラの行動原理も全ては本が読みたいから。実に本能に忠実であり、人間的である。

 

 

「ところで、あの約束は忘れていないでしょうね」

 

 スマラが横目でロビンに問いかけた。

 「あの約束」というのは、アラバスタ王国を出港時、シャワー室で裸の付き合いをした時に交わした約束のことだ。

 

「えぇ。貴女が接触してこないから、どうしていいか分からなかったけど……」

「なら結構。空島を出港してから、時間を見てしましょうか」

「そうね。やる気なら私は何も言わないわ。ただ、かなり難しいわよ?」

「難しい………ね。古今東西、ありとあらゆる本を読み続けても未だに解読出来ない『それ』。解読出来たら、とても気持ちの良いものだと思わない?私は思うわ」

 

 願いが叶った未来を見たのだろう。恍惚とした表情で体を震えさせるスマラ。

 男には見せられない姿になっている!!危ない危ない。

 同じ女であるロビンも若干引き気味だ。

 

「そ、そうなの。でも、覚悟はしておいて。それほど難しいのよ。”古代文字を覚える事は”」

 

 

 

 

 

 遺跡に戻ってくると、何やら騒がしかった。

 遠目から見ても分かる。あれは、ルフィ、ゾロ、サンジ、ウソップ、チョッパーの麦わら一味男メンバーが取っ組み合いの喧嘩をしていた。

 内容も聞こえるが、スマラには特に興味が湧かない内容。よって無視することにした。

 ある程度近づくと、向こうも気がついてみたいでウソップが他の四人に知らせる。

 

「オイ見ろ!!ロビンとスマラが帰って来たぞ!!」

「お~い!!ロビ~ン、スマラも何処に行ってったんだ~~~!!!急げ急げ!!!逃げるぞ!!黄金奪ってきた!!」

「アホ!!言うな!!後ろ見ろよ。みんな一緒に帰ってきてる」

「コリャ一気に帰ってきたな」

「やべーー!!!巨大大砲だ~~!!」

「ギャ~~~~~!!大勢いるぞ~~!!」

 

 騒がしいのは変わりなし。

 スマラとロビンは、2人が帰って来たのを喜びながら背中に背負っている袋を見せてくるルフィを見て、苦笑い。

 急いでこの島を逃げると言う麦わら一味に、背後で黄金の柱を運んでいた者たちも焦る。

 

「ん?あいつら、もうこの島を出るつもりじゃねぇよな?」

「おい待て!!お前ら待ってくれ!!」

 

「ほら見ろ、バレたぞ!!」

「逃げろ~~~!!」

 

 こちらと向こう。話というか状況が食い違っている気がする。

 麦わら一味は、空島の皆さんが黄金を奪う事を引き留めている様に思っており、それを知らずに、お礼にと持ってきた黄金の柱を武器だと思われている事を知らない空島の皆さん。

 ゆっくり話し合えば解決出来ることだろうが、スマラとロビンは指摘しなかった。

 ウソップが立ち止まって演説まがいの逃げ台詞を大声で言っていると、ようやく空島の皆さんが話の食い違いに気付き始めた。

 

「捕まえるって何の話だ?俺たちはお礼を……」

「おいあんたたちこのオーゴンを貰ってくれるんじゃ……」

 

 スマラとロビンに声をかけて困惑する空島の住民。

 そんな彼らに、ロビンが笑いながら止めの一撃を入れる。

 

「ふふっ。いらないみたい」

「そもそも、持って帰れないってことを、誰も気づかないのかしら?」

 

 船を見ていないからそう言えない空島の皆さんと、もっと価値のある黄金を貰える機会を知らずの内に捨てた麦わら一味に向かって、スマラは呆れてため息をついた。

 

「お~い!!!スマラ~~~逃げるぞ!!」

「スマラさ~~ん!!!早くおいで~~~」

「早く逃げねぇと、巨大大砲に攻撃されるぞ~」

 

 気がつけば、ロビンが走っていた。まだ走っていないスマラに、ルフィとサンジ、チョッパーの声が届く。

 仲間ではないスマラに、彼らはとても良くしてくれている。

 スマラは呆れ半分な気持ちで追いかけた。速度自体はとてもゆっくりと追いかける。最後尾をゆっくりと着いて行く。

 

 

 

 心の底では、この現状が心地よいと思い始めているのを、騙しながら。そうではないと戒めをかけるように。

 この変化は今後どういった影響を与えるのか?

 

 それは神のみぞ知る。

 

 

 

 

 

「黄金!!」

「黄金!!」

「黄金!!」

 

 スカイピアの下層。『白海』にて、一隻の船が進んでいた。麦わら一味の船、メリー号である。

 

 甲板では、一人を除いで皆が騒いでいた。その理由は、甲板に転がっている金品の数々だろう。

 ついに手に入れた黄金を目の前に、それぞれが思い思いに欲しいものを口に出して要求する。

 デッカイ銅像、船が沈む。大砲を十門、維持が大変である。鍵付き冷蔵庫、実用的だ。医学の本、私も読んでみたい。酒、常識の範囲内なら。

 と、この様に騒ぎ立てる一味を取りまとめるのは、一味の頭脳。ナミだ。

 

「ちょっと待ってあんた達。お宝の山分けは、ここを降りてからよ」

 

 もっともな意見だ。この標高一万メートルから地上に帰らなければ、何も始まらない。

 

 

 スマラはこの場に居る必要はないと判断し、船内に戻ろうとした。

 そんなスマラに声をかけたのは、騒いでいる一味を一歩引いた場所から眺めていたロビンだった。

 

「あら、どこに行くの?」

「………船内に戻るわ。ここに居てもなにもなさそうだしね」

「寂しい事を言うのね。偶には馴れ合ってみるのも悪くないわよ?」

「…………別に良いわよ。利害関係が一致しているから乗っている。ただそれだけよ。………ただそれだけ」

 

 最後の言葉を呟く様に言うと、スマラは船内に入って行く。

 ロビンはそんなスマラの背中を、不思議そうに見ていた。

 

 

 

 船内に戻って来たスマラは、既に定位置となりかけている椅子に座った。

 リュックサックを机の上に降ろして、ほっと一息。

 

 この船に拾われてから既に数週間が経っている。この場所は、珍しくリラックス出来る空間になっていた。

 それは常に移動を繰り返し、定位置を持たなかったスマラからすれば初めての事。

 

 心地良い何て感情は芽生えてはいけないはずなのに。

 どうして………どうしてこの場所で行う読書は、いつもよりもリラックスできるのだろうか?

 このまま、流れてしまってもいいのではないだろうか?一瞬そう思ってしまったのは、仕方のないことだろう。

 何しろ、二十年以上世界政府から逃げ続けた女が、楽しそうにしているのだ。

 そのくらい、この船は心地良い。

 

 

 本以外の事でこんなにも悩むのは珍しい。

 一旦整理をするためにも、読書をするべきだ。目の前に置いたリュックサックから本を取り出そうとして………謎の浮遊感がスマラを襲った。

 

「……っ?」

 

 見聞色の覇気を一気に広げる。

 敵反応なし、遠ざかる反応が二つ。甲板でも騒ぎが起きている。

 

 前言撤回。

 この船にいるとトラブルが絶えない。早く何かしらの理由を付けて去るか、新世界まで我慢するか………。

 どちらにせよ、一筋縄では行かないだろう。

 

 スマラは疲れた様子を見せ、リュックサックから取り出した本の世界に入り込んだ。




 今回で空島は終了!!
 次回からは、皆様気になってであろう青雉登場ですよ~。
 スマラさんと最高戦力との関係は!!?
 細かい内容はまだ考えてない!!





 自作のアンケートですが、結構バラついていますね。
 大きく見ると、原作が一緒なワンピースのリメイクと月一投降しているカルデア職員が接戦!!
 このまま順位が入れ替わらないなら、ワンピースのリメイクを書き溜めしつつ、月一でカルデア職員を投降する。と言う流れになりそうです。

 と思ったのがこの話を書き始める前。
 書き終わることにもう一度確認すると、SAOが伸びていました。が、順位は変わらず、上記の通りで進めていくつもりです。

 書き忘れていましたが、このアンケートは別作品のカルデア日記にも載せてるものとの合計になります。
 別のアンケートを思いつくまでこのアンケートは投票可能にしてますので、まだの方や次回作に期待している読者様がいらしたらよろしくお願いいたします。


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451 四十頁「さぁ?自分達で考えなさい」

 反応と打ちたいのに藩王と打ってしまう……。ブラインドタッチでよく押し間違える。後、打ち過ぎてボタンに書いてる表記が所々消えてるし……。ボタン見ないと打てない人は無理なキーボードになってる。


 麦わら一味に対する認識を改めようとした時に起きた謎の浮遊感が、スマラさんの改めようとした心を彼方へと放り投げた。

 どうやら、標高7,000メートルから落下中ならしい。

 だが、スマラさんはこのくらいではキレない。ただ、麦わら一味の評価はだだ下がりになっただけだ。

 酷い言いがかりだ。麦わら一味のこの落下は想定外なのだから!!

 

 幸いなことに、数秒も経てば落下は収まった。地上に帰った訳ではない。

 スマラの見聞色の覇気に少し大きな反応が近付き、真上で止まる。

 外の様子から考えるに、急に現れた生物が船の落下速度を緩めてくれたのだろう。行きと違い、快適な帰還システムだ。

 同時に、カラァーン…カラァーン…カラァーン…と鐘の音も同時に聞こえてくる。

 恩人たちを鐘の音で送る。無事に帰れよ!!また来てね!!そんな声と共に、鐘は鳴る。

 

 本の世界に入っていたはずのスマラも、嬉しそうに頬を緩めた。音を聞いて何かを思うなんて珍しい。

 それほどまでにも、黄金の鐘の音は美しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジャヤ島モックタウン。ここでは今、一大事件が起きていた。

 町中では喧騒が起こり、逃げながらも遠巻きに見物してしまう。

 

 中心にいるのは、ベラミーとサーキース。ベラミー海賊団である二人が騒ぎの中心で対峙していた。

 ベラミーの腕からは血が流れ怪我を負っていることがわかる。スマラは勿論、ルフィやゾロには勝てないベラミーだが、これでも5500万ベリーの賞金首だ。そこらの海賊では相手にならない。

 では誰がベラミーを負傷させたのか?対峙しているサーキースは持っているククリナイフを見ればわかり切った話だ。

 

 仲間割れなのか?

 ベラミー海賊団も場所を空けて巻き込まれないようにしながらも、ある人物に向かって「止めてくれ!!」と叫ぶ。

 仲の良かったはずのベラミーとサーキースが殺し合いをしているのか?それは、二人の意志ではないからだ。

 負傷しているはずのベラミーよりもサーキースが苦しそうに懇願していた。

 

 誰に向かって?

 

 この状況を作り出した張本人に向かってだ。

 

「何で?何でかって?サーキース、ベラミー?」

 

 淡々と声が響く。誰もが無視できない声だった。

 声の本人は指先を不規則に動かしている。

 

「この…おれのシンボルに泥を塗ったからだ。他になにがある?」

 

 フフフフフフフフッと愉快そうに笑った。

 ピンク色のひらひらとした上着を羽織り、短く揃えた金髪にサングラス。樽の上に座っていても分かるほどの巨体。

 

「空島が、あるかないか。黄金郷は幻想か否か。――――そんな事はどうだっていいんだ」

 

 ベラミーに向かって厳しく吠える。意見が違うのなら、力でねじ伏せろ!!と。

 

 

 野次馬もあのベラミーを雑魚の様に遊んでいる奴の正体に気付く。

 ドンキホーテ・ドフラミンゴ。王下七武海の一人で、元懸賞金額は三億を超える。

 正直言って、バケモノ。偉大なる航路の前半部分の中央付近であるこの島に居て良い存在ではない。

 

 ドフラミンゴは野次馬など気にしていない様子でベラミーに語りかける。

 

「俺の部下に、チンピラはいらねぇんだ小僧共!!」

 

 傘下であるベラミーたちの失態を知ったドフラミンゴは、それはもうお怒り。

 相手がクロコダイルを倒した海賊であろうと、ドフラミンゴには知った事ではない。

 シンボルに泥を塗った。負けたのが原因ではない。

 その違いが分からないベラミーはただの懇願するしかない。

 

 ドフラミンゴが再び指を動かす。

 すると、サーキースの身体が自分の意志では無いのに動き出す。

 

「うあ……!!畜生、勘弁してくれ!!止めてくれ!!いやだ!!」

「……!!!?」

 

 サーキースが涙で顔を汚しながらベラミーにククリナイフを振り下ろす。

 抵抗する間もなく、ベラミーは攻撃を受け地面に這いつくばった。

 

「……もう一度、チャンスをくれ!!俺たちは、あんたに着いて行く!!」

 

 そして再び懇願。

 ベラミーの思いはただ一つ。憧れの海賊団であるドフラミンゴの元に行きたいだけ。そのためなら、生温い奴らを駆逐してでも、ドフラミンゴがいる場所まで到達する。

 決意の籠った目でドフラミンゴを見つめる。

 

 そんなベラミーをドフラミンゴは好きだと言った。

 樽から腰を上げ立ち去りながら好きにしろとベラミーに言い放つ。

 

「ただし、俺の部下には要らん」

 

 無慈悲なドフラミンゴは、指を曲げてサーキースを操り、ベラミーに向かってトドメを送った。

 ドフラミンゴの背からは、悲鳴と肉を割く音が響く。それを聞き、また嗤う。

 

 これが世界に名を轟かせる大海賊。ルーキーであるベラミーなどまるで赤子の手をひねる様に始末する。

 

 何がおかしいのか?

 ドフラミンゴは嗤いながら宣言する。

 

「フッフッフ!!――――やがて始まるぞ!!急げ!!急いで準備を整えろ!!本物の海賊だけが生き残れる時代がやって来る!力のねぇ奴は逃げ出しな!!手に負えねぇうねりと共に豪傑共の………新時代がやって来るのさ!!」

 

 フッフッフッフッフと嗤いながら立ち去るドフラミンゴ。

 意味を理解できた者は、誰一人いなかった。

 

 

 ドフラミンゴはモックタウンを離れ郊外へと歩いていた。意味など特にない。

 雲がある場所に限るが、空を跳ぶ様に行動出来るドフラミンゴに取って、このくらいの寄り道。なんてことはない。

 

 彼の思考はただ一つ。

 麦わら一味に乗船しているクリーム色の髪をした女性。スマラについてだ。

 

「ベラミーの野郎からの証言通りなら、奴が麦わら一味と共に行動しているのは確実……」

 

 フッフッフッフッフと笑いが込み上がってきた。

 

「あの野郎……今度は何を起こすつもりだァ?奴がこの海に戻って来るには、それなりの理由があるはずだ……」

 

 何を考えてやがる?万年一人を貫き通していた奴が仲間を見つけた?それはない。断じて違う。

 乗ってる船が砂鰐を倒したルーキーだと言う事も面白れぇ。他にも色んな奴らが話題に上がってきている。警戒するのは麦わらだけじゃあねぇ。

 壊僧、赤旗、ギャング、魔術師、海鳴り、ユースタス、………ロー。

 

「何にせよ。奴が新世界に戻ってくるなら、それだけで世界が動くぞ!!」

 

 うねりは着実に近づいて来ている。

 

 ドフラミンゴは近くに起こる未来を見て、笑いが抑えきれなくなる。

 

 さぁ、早く戻ってこい。あいつらがお前を待っているぞ。絶対に放って置かないはずだ。

 戦いが起これば、俺の産業も潤う。

 俺の国に立ち寄るなら、その時は歓迎しようではないか!!奴が手に入るなら、形成を覆す事も可能かもしれない。

 

 嗤いながら、ドフラミンゴはジャヤ島を去る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 船の中で浮遊感が強くなっていくのをスマラは感じ取った。いつの間にか、大きな生物の反応は小さくなっており、海面が着実に近くなっているのが分かる。

 

 読書を続けながら、スマラは椅子から立ち上がった。

 見聞色の覇気で船と海面の距離を図る。そして、船が海面に叩き付けられる直前、軽くジャンプ。

 するとどうだ。船の床に足を着いていると襲うはずだった衝撃は、スマラを襲わなかったではないか。

 

 これぞ!!能力を使わずとも落下の衝撃を防ぐ方法だ!!ただし、見聞色の覇気を使わないで行うと、タイミングを失敗する場合がある。

 

 着地したスマラに揺れが襲う。が、読者は辞めない。船が転覆する訳でもないのだ。揺れくらいで辞める理由にはならない。

 着地の余韻の揺れも収まって来た。しかし、見聞色の覇気に又しても反応が引っかかる。チラッと窓の外を確認すれば、シーモンキーが巨大な津波を引き起こしていた。

 

 これぞ偉大なる航路。空の海とは大違いの天候だ。

 スマラは再び読書に戻った。あのくらい、スマラが手を下さなくても対処できると踏んだからだ。 

 

 

 

 少し時間が経った。スマラにとっては長くも短い時間であったが……。

 またまた外が騒がしくなっている。簡単に声を聞いた所、天候のせいで騒いでいるのではないらしい。

 スルーでいいかしら?と本の世界に戻りかけたその瞬間、部屋の中にうるさい存在が入ってくる。

 おやつを準備していたサンジ?彼はスマラの邪魔にならない様にしているため、カウントされない。

 

「ス~マ~ラ~!!黄金の山分けするぞ~」

「いよ!!待ってました!!」

「山分け山分け!!幾ら位になるのかな?」

「酒がたらふく飲めりゃあそれで構わん。早く飲みてぇ」

「楽しんでいるところ悪いねスマラ♪」

 

 外に出て航海の仕事をしていた麦わら一味のメンバーだ。天候が安定してきたので、持ち場を離れても大丈夫との事。

 楽しそうにガヤガヤしている理由は一つ。空島で奪ってきた(本人たちはそう思っている)黄金を分けるためだ。

 

「私の事は気にしないで。何なら外に行くわ」

 

 無表情で言葉を返すスマラ。鬱陶しそうな表情に変わらなかっただけ、変化していると言える。

 スペースの、自分の読書の邪魔になる。そう思って席を立ちあげりかけたが、そう簡単に問屋は降ろさない。

 

「何言ってんだ?スマラの分もあるぞ?」

「そうね。空島ではスマラにお世話になった場面もあるから、配分に加わっているわよ」

「違うぞ、ナミ!!スマラは仲間だからだ!!」

「いいえ、私は仲間じゃないはずよ。……そこだけは絶対に履き違えないで」

 

 ルフィ。既にスマラが仲間に加わっていると思っていらっしゃる。

 最近緩くなってきたスマラも、その言質だけは看過できない。鋭い目線でルフィに忠告を入れる。

 入れるが……

 

「じゃあ、仲間になる予定だから!!」

 

 と、なる予定と言い変えただけだった。本人は至って大真面目。

 スマラの身元も詳しく知らないのに、身元が戦争の引き金になるかもしれないのに、スマラ自信が望んでいないのに、本人の中ではスマラを仲間にするのは確定事項なのだろう。

 

 ため息をつくスマラ。一旦はそれで良しとしたのだろう。明確に宣言していない限りは安全だろう。自分も否定し続けているし………。

 ため息をつくスマラの肩をサンジが優しく叩いた。

 

「仲間になる云々は置いておいて、スマラさんもこの黄金を受け取る大義名分はありますよ」

「お金には困ってないの」

「……ルフィが良いと言った。それだけありゃ十分だろ?」

 

 今度はゾロがサラリと口出しをしてくる。サンジの額に青筋が浮ぶが、気にしてはいけない。

 サンジやゾロが言いたいのは、ルフィが決めたなら他のメンバーは納得できるとの事。実際に、スマラは空島でエネルの攻撃を防いでいる。報酬替わりだと。

 ルフィは仲間になる予定だから。ゾロはルフィが決めた事なら。ナミとサンジは報酬替わりでもあると。ウソップすら助けて貰っているのを見ているために何も言わない。チョッパーはスマラを除け者にする思考を持ち合わせていない。ロビンはそもそも一歩引いている為口を出さない。

 つまり、全員一致でスマラの取り分もあると決まっている。

 

 ここまで来ればスマラも無下にできない。

 やろうと思えば新世界でも一人で航海出来るスマラだが、一人で航海するよりもこの船に乗せて貰っている方が楽だから、という理由で乗っている為、立場は向こう側が上。

 ここは有難く貰っておくのが最良の選択だろう。この船に乗っている限り、賞金稼ぎが出来ず本代を稼げないし………。

 

「………」

 

 返答はない。ただ、椅子に座り戻ることで了解した答を伝える。

 伝わったであろうサンジは少し笑って、キッチンに立つ。

 

 

 

 こうして始まった黄金の山分け大会。テーブルの上に黄金を広げながらナミが宣言する。

 これだけの純度と量。軽く見て億は越えるだろう。

 海賊が宝を分けると言えば山分け方式。

 

 各々に欲しい物を頭に浮かべて、場は一気に盛り上がる。

 が、ナミがへそくりで八割を横暴すると言うと、一気に空気が下がった。

 スマラとロビンを除く全員でツッコミを入れる程。

 流石にこの船の財政を司る者。元々の性格でお金が好きなため、ここで止めなければ確実に横暴していただろう。

 

 気を取り直して山分け開始!!!とは又もやならなかった。

 山分けの前に、これだけの大金を手に入れたのだから船の修繕費に充てようと言う事になったのだ。

 スマラがそういえば……とメリー号の現状を思い浮かべると、よくここまで偉大なる航路を渡ってこれたわね?と素直に称賛を与える程、この船は小さくボロボロになっている。

 今までは狙撃手のウソップが継ぎ接ぎ修理を行っているらしいが、それももう限界に近いだろう。次の島で船大工を仲間に引き入れる予定で決まった。

 

 

 サンジが作ったサンドイッチを食べながら、山分け会議は終了。

 本を読みながら聞き流していたスマラは思った。

 私、ここに居る意味あったかしら?と。

 それが伝わったのか分からないが、ナミが少しだけ申し訳なさそうに声をかけてくる。

 

「と、言う事になっちゃったけど、スマラもそれでいい?」

「良いもなにも、私が口を出す権利はないわよ。………船を大事にするのはいいけど、他の選択肢も考えるのも視野に入れて起きなさい」

「……?他の選択肢ってなんだ?」

 

 ルフィがスマラに聞き返す。全く考えてない。分からなければ人に聞けば良い。それこそルフィらしいのだが、スマラからすれば呆れるしかない。

 本気で考え付かないのか。それともまた、本能的な部分で考えないようにしているのか………?

 果たしてこの中で、後者なのは何人居ることやら………。

 スマラには関係無いことだ。だから、これ以上は何も言わない。

 

「さぁ?自分達で考えなさい」

 

 スマラはそれだけで言うと、机の上にあるサンドイッチを一切れ掴んで甲板に出ていく。

 全員が集まって騒がしい部屋から出たかったのか、それとも単に外に出て気分を変えたかったのか……。

 とりあえず、ルフィは考える事を放棄してサンドイッチに齧り付いた。

 他のメンバーが何を考えているかは、本人たちしか分からない。

 

 




 初めの導入部分は前話に組み込んでも良かったかも……。
 こんなに短いとは思わなかったので。

 ドフラミンゴのシーン。
 マンガでの部分も要らなかったかな?思ったより長すぎたし、変わっている部分もないかったし……。


 毎回後日報告ありがとうございます!!投稿してから寝るので、確認及び訂正は起きてからということで……。


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467 四十一頁「近づく」

お待たせいたしました。セイバーウォーズ2のストーリークリアしました。イシュタりんは大爆死です。


 偉大なる航路の中心に位置する島マリンフォード。その島に設置されている世界三大勢力の一つ「海軍本部」

 世界を守る要であるその場所では、ちょっとした騒ぎが起こっていた。

 

「…中将!!やはりおられません!!」

「おられません!!で済む問題か!!どこに行ったんだあの人は!!?」

「自転車がありませんので、恐らく海へ……」

「五老星に連絡を入れろ!!!」

 

 どうやら、重要な人物が突然居なくなったらしい。

 自転車が無いことが海に出ていると結論付けられるのは、自転車で海を移動出来るという事。

 果たして、そんな人物が世界に何人いるだろうか?

 

 

 

 海軍本部から連絡を受けた五老星は、各々に呆れの表情を見せる。

 

「………またあの男か。どうせ見物だろう」

「まったく……自分の立場を弁えているのか……。そうやすやすと動かれてはこちらもたまらん」

 

 世界政府の最高権力者を持ってこうも言わせられる男。

 

 その男こそ、海軍本部最高戦力「大将青雉」その人だ。

 

 

 

 偉大なる航路の前半部分の海の上で、一人の男が自転車を漕いでいた。

 己の能力で海に道を作り、その上を自転車で進む。

 道中出会ったイルカに「ごめんよ」と声をかけてフラフラと進む。己の勘を信じて、先の見えない目的を追いかけて………。

 

 麦わら帽子を被った少年が写っている手配書を見て、ため息をつく。

 その少年の身内を知っている風でもあった。

 

「はぁ、厄介な一族の船に乗ったもんだな。二人共…………。片方はともかく、もう片方は俺の一存じゃ手出しできねぇな………。どうしよっかな~」

 

 どうやらもう片方の方顔を思い出し、嫌そうな顔をする。

 最高戦力ですら、簡単に手を出せない人物。

 

「散歩ついでに会いに行くか……と軽く考えたのが失敗だったな?まぁいいや、あいつも海軍と敵対する様子でもなさそうだしな」

 

 難しい顔をしたのも一瞬。直ぐに「なんとかなるや」と楽観的な気持ちに切り替わる。

 戦争を吹っ掛けに行くわけではない。ただ、ちょっとお話をして、目的を聞き出せたら御の字。その程度の考えだ。

 

 

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

 

 

 甲板で風を浴びながら本を読んでいると、大きいだけの反応に囲まれた。本から目を上げると、シーモンキーが海から顔を出してこちらを見ていた。

 目が合う。ドボンとシーモンキーが海に潜り込み、あっという間に津波を引き起こした。

 どうやら、この船は狙われたらしい。

 

「逃げろ~~~シーモンキーだ~!!」

「まずい、風がねぇ!!」

「直ぐに帆を畳んで!!」

「漕ぐんだ!!漕げー!!」

 

 目の間に現れた津波に大慌て。急いで帆を畳み、巨大なオールで船を漕ぐ野郎ども。

 スマラは、その合間を縫って部屋に戻った。

 

 手伝う気はゼロ。せめて邪魔にならない様にと部屋の中に戻る。

 

「……危なかった。本が濡れる所だったわ」

 

 違う。本の安全の為に部屋の中に引き籠ったらしい。

 能力を使えば手元にある本くらい、水飛沫から防げるのだが、屋根のある船に慣れたスマラさん。

 能力を使って体力を消耗するより、部屋の中に退避する事を選んだらしい。

 

 

 早速定位置の椅子に座って読書の続きを読み始める。

 自分の身の危険を除く見聞色の覇気をカット。読み終わるまでは、邪魔はさせない。

 完璧な読書体制に移行して、スマラは読書を再開した。

 

 音すら聞こえない。

 なので、津波から逃げている時に、帆が無い海賊団を見つけたこと。津波とシーモンキーから逃げ押せ、気候が安定し島が見えたこと。

 その島に上陸して、ルフィとウソップ、チョッパーが船から島に探検に行った事を知らない。

 そして、船の外で一大事が起こっている事。

 

 全部全部知らない。仲間ではないから、守る必要はない。

 それは確かだ。だけど、この船に乗っている前提条件が壊れかかっていることすら、スマラには届かない。

 

 

 

 

 

「スマラ!!!ちょっと来て!!」

 

 完全な読書体制に入っているスマラさんの前に、邪魔者が入ってくる。

 ナミだ。勢い良く扉を開け放ち、並々ならぬ気迫を見せてスマラに駆け寄る。

 が、

 

「…………………」

 

 反応しない!!?ペラと頁を捲り、ナミなどいないかのように振る舞う。

 スマラの態度にナミはカーッとなる。こんな時に無視するなんて!!?

 怒りに任せてスマラの肩をギュッと掴む。

 

「スマラ!!」

「………?」

 

 今度は目を向けた。一瞬、ナミが何故怒っているのか分からない?と首を傾げた後、無意識に使っていた能力を解いた。

 

「ごめんなさい。何か不都合でも起こったのかしら?」

「やっと反応してくれた……。。それが……」

 

 船の外に移動しながら、ナミはスマラに説明を行った。

 後方から海賊船が現れ、船の進路を塞がれたこと。ナミは一応、スマラにも状況を伝えたかったのと、偉大なる航路に付いて詳しいスマラの知識が欲しかったらしい。

 

 甲板に出て船を降りると、確かに巨大なガレオン船があった。

 海賊船と言うことは、旗が書いてあるはず。海賊旗を目にすると、スマラは脳内に検索をかけた。

 

 見て一瞬で思い出せないと言うことは、それほど有名ではない海賊団。

 だが、偉大なる航路を航海出来るレベルの海賊団なのだ。何かしらの情報は出るはず。数日前に立ち上げたばかりの海賊団でない限り。

 そして、情報は出た。

 

「フォクシー海賊団ね。船長は銀ギツネのフォクシー。懸賞金2400万ベリー」

「流石スマラ~!!良く知ってるわね」

「スマラは物知りだな!!医学も知ってるしもしかして、何でも知ってるのか!!?」

「…恐ろしい知識量ね」

「2400万って俺よりも低いじゃねぇか。どっかのコックと良い勝負になりそうだ」

「あ”??おい、くそマリモ。俺が賞金首になったら貴様よりも高ぇんだかんな!」

「ほざいてろ負け犬」

「んだとコラ!!」

 

 海賊旗を見ただけで、殆どタイムラグ無しに相手の名称と船長を当てるスマラ。

 そんなスマラにナミとチョッパーが素直に称賛の言葉をかける。

 二人とは裏腹にロビンは軽く怯える。が、単純に自分でも直ぐに思い出せなかった記憶を直ぐに言い当てた事を称賛しているだけでもある。

 ゾロは船長の懸賞金額に反応しサンジを煽る。サンジがそれに反応して喧嘩が始まる。何時ものやり取りだ。

 

 スマラがフォクシー海賊団を知っていると知ると、フォクシー海賊団の方々も気分が良くなってにこやかだ。

 甲板に集まっている船員のうち一人が、大きく宣言した。

 

「俺たちを知ってるのか!!だったら話は早く済みそうだ」

 

 話が済む?ただ単純に敵船の物資を奪う略奪行為ではないのか?

 話し合いの余地がありそうで、なさそうな勢いだ。

 ナミはスマラに再び疑問をぶつける。

 

「ねえ。あいつらは結局何が言いたいわけなの?」

「……勝手に説明してくれるわよ。それでも分からなかったら、改めて聞きに来なさい」

 

 スマラは言い放つと、この状況に興味を失ったらしく、本を取り出して読み始めた。音を反射していないのは、最低限の配慮だろう。

 ナミは「最後まで説明してくれてもいいのに」とジト目を送りながら、視線をフォクシー海賊団に戻した。

 

 

 スマラが言った通り説明をしてくれる。その内容は、フォクシー海賊団は麦わら一味に対してデービーバックファイトを申し出るという内容だった。

 戦いの火蓋は、互いの船長同士が合意した瞬間から開始される。フォクシー海賊団の船長、銀ギツネのフォクシーは既にルフィに申込みに向かっているらしい。

 この場にいる者たちでは何も出来ない。ただ、船長の判断を待つばかりだ。

 ゾロが喧嘩なら買うと意気込んでいるが、サンジがゾロに喧嘩とは違うと説明を入れる。

 博識なロビンがサンジに続いて、理解しきれていない様子のナミとゾロに説明を入れた。

 

 海賊が海賊を奪い合うゲーム。それがデービーバックファイトだ。

 スマラも十分に知っている。新世界にある海賊たちの楽園「海賊島」そこで生まれたのがこのゲームの発端だ。

 フォクシー海賊団が麦わら一味に対して挑むのは3コインゲーム。簡単に言えば、三回勝負。一回勝つごとに負けた方から好きな船員を奪い取れて、負ければ奪い取られる。欲しい船員がいなければ、船の海賊旗をも剝奪する事が可能。

 賭ける物は「仲間」と「誇り」勝てば戦力強化、負ければ失う物は大きい。如何にも海賊が考えそうなエゲつないゲーム。

 

 大まかな話を聞いたナミは大声で拒否権を言い放つ。

 だが、海賊団の船員には拒否権などなく、全ては船長の判断に委ねられる。

 海賊の世界では暗黙のルール。破れば大恥をかく。

 どうやら、ゾロとサンジは珍しく意見が一致しているらしく、「大恥をかくくらいなら死ぬ」そう思っているらしい。

 ロビンは意見を述べることはなく、諦めなさいとナミを落ち着かせる。

 

 しかし、この場にはまだ一人存在している。

 デービーバックファイトどころか、フォクシー海賊団の存在すら気に留めていないスマラだ。

 ナミは、笑顔でスマラに近寄った。

 

「ス~マラ。あんたはあんな下らないゲーム嫌よね?」

 

 目が物語っている。めんどくさがりのスマラなら、絶対のこのゲームを受けないだろうと。

 だが、現実は非情だ。斜め上を行くと言っても良いだろう。

 

「ゲームは嫌だけど、私には関係ないわよ?」

「……え?」

 

 まさかの関係無い。ゲームを受ける以前の問題だ。

 スマラの物言いに、ナミは固まった。最後の希望が崩れ去った現状である。

 

「だってあの人たちは、『麦わら一味』に対してゲームを仕掛けているのよ?『麦わら一味』でないただの相乗りしているだけの私には関係無いわ」

「………そうだったわね」

 

 まさしくその通りだった。『麦わら一味』に入っていないスマラからすれば、ゲームを受ける以前の問題だ。

 最近はそのことを忘れ始めていたナミは、見るからに落胆する。

 何故か虚しくなったので、打開策を教えてみる。

 

「海賊の誇りとか暗黙のルールを気にしないなら、フォクシー海賊団を皆殺しにしたら?後はここにいるメンバーが黙ってさえいれば、何の問題もないわよ?」

「問題大有りよ!!こんな大きな海賊団を皆殺しとかできるか~!!」

 

 スマラの考え方は、ナミには………一般人にとって少しばかり過激だったらしい。

 そんなのできるか~!とナミはスマラに常識を教えると同時に、崩れ落ちた。

 もう一つ。非常に可能性を低いが確実な方法を思い出させてみる。

 

「船長を止めたらゲームに受けたことにならないわよ?」

「……そうよ!!早くルフィを止めなくちゃ!!」

 

 ナミは素早く立ち上がり、恐らくルフィがいるであろう方向に向かって走り始めた。

 フォクシー海賊団が「無駄な足掻きは辞めるんだな!!」とナミに向かって各々に叫んでいるを無視して進むナミ。

 その様子を眺めながら、ゾロがポツリと言った。

 

「皆殺しって過激だな」

「………そうかしら?気に要らない意見は力でねじ伏せる。この海の基本よ」

「そういえばスマラさん、海賊じゃなかったのか……。そんなスマラさんもステキだぁ~~!!」

 

 サンジがスマラにメロメロなご様子。文脈が合ってない気もするが、これが正常な状態なので気にしない。

 

 さて、肝心なゲームを受けるか受けないかの件だが、ナミがルフィを止めに向かっている行動も虚しく、二発の銃声が聞こえてきた。

 この島で誰かが決闘していたとか、銃の練習をしていた。なんて偶然がない限り、ゲームが受諾された事を示す銃声だった。

 

「まさか……!!」

「あ~あ~、受けやがった」

「望むところだ…」

「面白そうね」

 

 ナミは目を開いて驚愕し、サンジは半分呆れて、ゾロはニヤリと笑いながら、ロビンも珍しく不敵な笑みを浮かべて。

 各々に反応を示す。フォクシー海賊団の皆さんも嬉しそうに歓声を上げた。

 

 ここに、麦わら一味とフォクシー海賊団のデービーバックファイトの開催が決定した。

 

 

 この場の誰よりも一歩引いた場所で見物しているスマラ。彼女は内心で笑った。

 さて、仲間を失うゲームを麦わら一味はどうくぐり抜けるのか………。

 ここで解体されるのも良し。見事打ち勝ち、無傷で終わるのもまた一興。

 私にとってどちらでもいい。ただ、この結末を見届けるだけ………。

 

 

 

 デービーバックファイトの参加決定。その意思を受け取った瞬間、フォクシー海賊団は瞬く間に祭り会場を作り上げた。

 余興のステージで賭け事を行う者。屋台を作り上げて祭り価格で食べ物や飲み物を販売する者。何でもアリだ。

 これも、デービーバックファイトで勝ち取った大勢の船員が所属しているおかげだろう。並みの海賊団ではこの様な事は行えない。

 

 船に戻るのも気が引けたスマラは、危険なゲームに参加した事で唯一落ち込んでいるナミと共に木箱に座って時間が経つのを待っていた。

 サンジとルフィだけがこの場に居らず、ルフィは船長として参加表明誓う儀式に参加する為簡易ステージに上っている。

 サンジはというと……

 

「ナミさんわたあめ売ってたよ~!」

 

 未だにブスッと不貞腐れているナミのご機嫌を回復させようとわたあめを買って来ていた。敵船にお金を払っていいのだろうか?

 サンジが買って来たわたあめの数は三つ。本命であるナミと仲間であるロビン。

 最後にスマラへ渡して来た。サンジが男女差別なのは承知の上。誰も文句など言わない。

 

「はい。どうぞ」

「……くれるの?」

「勿論!!」

「そ。………私の事など気にしなくてもいいのに」

「スマラさんがそこに居てくれるだけで俺は十分です!!」

 

 本を片手で抑え、空いた手でわたあめを受け取る。

 活字に目を通しながら一口。……甘くて美味しい。

 祭りの度に出していると言えど、一般の海賊が作るわたあめは美味しかった。

 スマラとて女性。皮肉なことに甘い物が嫌いなわけがなかった。

 

 

 ルフィが戻って来たことで、ゲームの出場者振り分けを行う。

 誰がどの競技に出場するのか、自分たちで決めなければならない。ここでも一苦労かかるのがこの一味の特徴。

 ルフィを筆頭にゾロ、サンジが最後の戦闘に出たいと言いだし、ナミとウソップが試合に出たくないと落ち込む。

 二人共スマラの方を向いて、何やら期待の籠った目で見つめてきたが、スマラは本に目を落として無視した。

 

 

 

 出場者が決まると、早速一回戦が始まる。準備が整い、観客は皆海岸沿いに集まる。

 

 一回戦の内容は手作りボートレース。ルールは簡単。オール二本と空ダル三個使ってボートを作り上げて、島を一周するというもの。

 麦わら一味からの出場者はウソップ、ナミ、ロビンの三名だ。一味全体を見てみると、一番競技とあった組合せなのではないだろうか?

 相手チームは女の子一人に魚人とホシザメ。海でのレースなら、完全に有利なチームだろう。

 

 

 麦わら一味が応援の為、海岸沿いに移動する。

 が、いつまで経っても動かないスマラを気にしたらチョッパーが声をかけてきた。

 

「スマラは見に来ないのか?」」

「ここでも十分見えるわ」

「そうなのか!!スマラは目が良いんだな!!」

 

 海岸沿いに移動しなくても映像電伝虫のお陰で見えるし、何なら実況もあるので本を読みながら観戦しちゃう!!

 チョッパーに反応したらしいルフィもやって来た。

 

「こっから見えるってスゲーな!!」

「そう?そこに映像電伝虫があるわ」

「それでも、スマラは完璧に分かるんだろ?空島に居た奴ら見てぇに気配も読めるしな!!」

 

 「今度教えてくれよ!!」とルフィはスマラの肩をゆすった。

 思いのほか勢いが強く、ぐゎんぐゎん揺れて読書何処ではない。

 

「いい加減に……」

「わぁ!!?何だ!!?」

「しなさい!!」

 

 ビシッ!!

 スマラの肩をゆすっていたルフィの顔を掴み、おでこを思いっきりデコピンするスマラ。

 武装色は勿論、自前の能力すら使って威力を倍増。ただのデコピンとは思えない音を立ててルフィを弾き飛ばした。

 ゴロゴロとゾロたちの元に転がったルフィ。今のは彼が悪い。

 

 出会った当初は攻撃と間違われていたそれは、今では単なる茶番のようなもの。

 サンジが呆れたようにルフィを引き摺って移動する。チョッパーや他のメンバーもそれに続く。

 試合開始までもう少しだ。急がないと始まってしまう。

 

 

 皆が移動し、ここに残っているのはスマラと、

 

「一つ聞いていいか?」

「何かしら?答えられる事なら良いわよ」

 

 珍しく気難しい顔をしていたゾロだけだった。

 




さて!!デービーバックファイトの始まり!!

次回!!最高戦力………登場予定。


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479 四十二頁「デービーバックファイト」

遅くなって申し訳ありません。実は深夜には出来ていたのですが、寝ないと不味い時間になったのでこの時間まで伸びました。


 

 祭り会場の様に賑やかなロングリングロングランドの一角。もう直ぐデービーバックファイトの一回戦「ドーナツレース」が開始されるとあって、益々盛り上がっている。

 

 そんな祭り会場で似合わず静かな場所があった。

 

「…………」

「……………」

 

 めんどくさいからか、この場で見聞色の覇気や映像電伝虫、実況の音声で読書をしながら観戦予定のスマラ。

 もう片方は唯一残った麦わら一味のメンバー、ゾロだった。

 

 ゾロから質問があると言われ、耳をすませながら聞く体制に入っているスマラ。(耳をすませていると言え、読書を辞めず目も合わせない状態が聞く体制かと問われれば全力で否定されるが、スマラにとっては聞く姿勢だ)

 ゾロはスマラを観察の目を向けながら喋らない。

 故に、重々しい空気が流れる。

 

「ほら、早く言いなさい」

「辞めねぇのかよ!!?」

 

 なので、早速催促してみた。が、どうやら読書体制を辞めてくれるのを待っていたらしい。

 まぁ良い、と少しばかり苛立ちを隠せないままスマラに向き合ったゾロ。

 

 再び沈黙が訪れる。

 

 しかし、時間はみな平等に流れていくもの。このまま時間を浪費したら、第一回戦の開始に遅れてしまう。ゾロとて仲間の応援くらいしたいだろう。

 更に付け加えれば、怪しんだサンジがやって来てしまう。主にゾロに喧嘩を売りながら……。だが、まだいい。ルフィという名のカオスがやってこない限りは………。

 

 それでも早く用事を済ませたいのは同じ気持ち。

 ゾロは早速口を開いた。

 

「てめえ………何を考えてやがる」

「何とは?あぁ、こちらの思考ではなく、どうしてその考えに至ったのか?という質問返しよ」

「珍しく船から出て観戦するって意味だ。いつもだったら船に籠りっぱなしだろ?こんな場所に本屋がねぇ事は分かり切ったことだぜ」

「…………」

 

 

 なるほど、そう来たか。

 確かにスマラが船から出て実際に映像や実況を聞きながら観察するのは珍しい。スマラの事を認めていない宣言をしているゾロが怪しむのも当然のことだろう。

 実際には海を放浪していたと聞いているが、経歴は謎だらけだ。

 何年放浪して来た?偉大なる航路出身だとは聞いたが、この余裕さはなんだ?

 実力も底を知れない。今のルフィですら、いとも簡単に倒す事ができるだろう。かかっている賞金は一億だ。ねじ伏せて海軍に突き渡すだけで、一生遊んで暮らせる額のお金が手に入る。それをしない理由はなんだ?

 チラッと聞いた話では、いずれも偉大なる航路に帰る予定だったという。放浪を辞める理由は?そもそも本当に本だけの為に危険な海を航海するのか?

 

 謎だらけだ。はっきり言って、闇を見てるはずのロビン以上にだ。

 ルフィが仲間にしたいと言っているから目立った批判はしていないが、このまま船に乗せておくのは危険な気がする。

 言葉にできないが、強大な組織を相手取るかのように………。

 

 

 ゾロは船内では見せない様な鋭い視線でスマラを睨み付ける。

 一方でスマラはというと、全く気に留めても居ない様子。流石に視線には気づいているらしいが、本からを全く目を逸らさない。

 

「………さぁね。ただの気まぐれ」

「…………………」

「あぁ怖いわ。本当に気まぐれよ。そういえば、手合わせしたいって言ってたわよね?」

「……そりゃあ、強い奴がいるなら、戦いたくもなるだろう。刀使っても勝てるっていうんだからな」

 

 話をすり替えることに成功したスマラ。

 ゾロは好戦的な目でスマラを睨みつけた。戦闘狂だから仕方ない。

 

「そうね。刀の戦闘以前の問題と言ったでしょう?まだまだ足りないわ」

「あ”あ”?あの時よりも良くなった。鉄だって斬れるぜ」

「じゃあ、鉄よりも固い私は斬れないわね」

「………試してみるか?」

 

 刀に手を添えるゾロにスマラはため息を吐いて答えた。

 

「試してみてもいいけど、今はそんな呑気な状況なの?船の存続がかかっているゲームといっても言いはずよ?」

「ちっ。このゲームが終わったら仕切り直しだ」

「そう。勝手にしなさい」

 

 「忘れんなよ」とゾロはスマラの元を去った。

 本の活字を追うのを辞め、スマラは「面倒なことになったなぁ」と思い始める。

 無意識のうちにゾロを煽っていたスマラにも援護はできないよ?

 しかし、そう考えるも一瞬。直ぐに思考を停止して、今まさに始まったデービーバックファイトに集中する。

 

 ゾロとの手合わせなど、既に頭の中に残ってなどいなかった。

 

 

 

 

 

 こうして不穏な空気を纏いつつ始まった。第一回戦「ドーナツレース」

 読書をしながら、主に実況の音声だけで観戦したスマラ。果たしてそれが観戦と呼べるものなのかは置いておこう。

 島一周といえど、そこまで大きな島ではないので、一時間もすればレースは終了した。

 結果から述べよう。麦わら一味は負けた。フォクシーの情報を持っていなかったが故に。

 

 スタートと同時にフォクシー海賊団から妨害が入り、出遅れてしまう麦わら一味。しかしそのような妨害をサンジを筆頭に認めるわけもなく、妨害を妨害してレースに出ている仲間を守る。

 出遅れた麦わら一味は、ウソップが衝撃貝やロビンの悪魔の実の能力を使って接戦状態。

 その後も、サメと魚人の力で麦わら一味を抜かすフォクシー海賊団であったが、ナミやウソップの機転で次々に障害を回避。

 まるで初めからレースの妨害として発生していたかのようなサンゴ礁と巨大な渦を、ナミの航海術で呆気なくクリア。

 渦巻の勢いとウソップの衝撃貝を使って細長い岬もショートカット。船長であるフォクシー直々の妨害も避け続け、ついにはゴール目前。

 このまま、麦わら一味が第一回戦を制してしまうのか?誰もがそう思ったその時、フォクシーが最後の手段を使ったのだ。

 結果敗北。ゲームに負け、チョッパーを取られてしまったのだ。

 

 

 

 ゲームに負けた直後、フォクシーの能力「ノロノロビーム」のデモンストレーションや、敵船に獲られて泣くチョッパーに活を入れるゾロ。チョッパーをとられたことで選手が一人いなくなり、サンジゾロの凸凹コンビで二回戦に挑むことになったり。

 ゲーム終了後も色々あったが、スマラは全て無視。

 

 したかったのだが………

 

「………」

「………」

 

 目の前には納得のいっていない様子のナミがいる。もう少しで勝ち、と言うよりも勝ちが確定していた場面から気が付いたら負けていた。これで納得のいくわけがない。それが、悪魔の実の能力により妨害だったとしてもだ。

 

 そしてもう一つ。ナミにはスマラから聞き出さねばならない事があった。

 

「ねえ」

「……目が怖いのだけれど?」

「そりゃあ怖くなるわよ。あんなのを喰らって負けたんだもの」

「そう。残念ね」

 

 ジト目を送るナミ。スマラは気づいていながらも無視することに決めた。だって絶対に面倒な事になるのだもの!!

 

「………目を逸らさないで」

「………はぁ~。言いたいことがあるならさっさと言いなさい。いくら貴女であろうと、鬱陶しければ反撃するわよ」

 

 じーっと見てくるナミに警告を出すスマラ。

 それでようやくナミは、己が言いたかった事をぶつけた。

 

「あんた、フォクシーの能力の事も知ってたんじゃないの?」

「そうね。当然知ってたわよ」

「やっぱり………。少しくらい教えてくれてもいいじゃない!!」

 

 フォクシーの能力を知っていて話さなかったスマラに、ナミはお怒りならしい。

 耳がキーンとなってしまう。

 思わず能力で音量を抑える事を忘れ、耳に指を突っ込んでしまった。

 

 ナミのお怒りを受けたスマラだが、このまま言い返さない訳がない。

 何故ならば、キチンとした理由があったからだ。

 

「……聞かれなかったから、要らないのかと思って……」

「聞かれてないから答えないなんて……」

 

 スマラにとってはキチンとした理由だった。

 当然、ナミが納得するわけがない。こちらは、フォクシーが能力者だったことすら知らなかったのだ。質問のしようがない。

 

「あんた。ソレ辞めた方が良いわよ」

「どうしてかしら?」

「聞かれたことだけに答えて、質問されないなら何も言わない。それじゃあまるで、機械じゃない」

「機械…………えぇ、機械みたいね」

 

 機械。それは、本の活字を追う、世界に溢れる物語をただ読みたい。それ以外の事はどうでもいいと思っているスマラに響いた。

 機械。人との関わりを最低限に留め、自分のしたいことだけを行う。ある意味人間らしく、ひたすらに同じ事を繰り返す機械。

 ナミの何でもない一言は、スマラに刺さった。

 

 深く差し込まれ、二度と消えない傷を負わせるみたいに………。

 

 

 

「あ、いや。別に非難したわけじゃ……」

 

 流石のナミも様子がおかしいと思ったのか、すぐさま謝って来る。

 だが、そんなことどうした?とでも言いたそうにスマラの事を表情は変わらない。

 

「気にしてないわ。……それよりも、そろそろ二回戦の始まりじゃないの?」

「そうよ!!……と、今回は来るの?」

「流石に今回は実況しないみたいだし。見えないこともないけど、実際の目で見てみたいわ…………この先やっていける実力なのかを」

 

 珍しく行動を共にするスマラ。実況や見聞色の覇気でも観戦可能であるが、やはり自分の裸眼で視るとは全く違う。

 出場選手もゾロとサンジと、地味に興味が湧くコンビ。麦わら一味の実質ナンバー2の実力がどのくらいなのか、推し量ってみても良いだろう。

 ゾロなどは特にだろう。あれほどの啖呵を切ったのだから。

 

 

 ナミについて行くこと数秒後、観戦場所に着いた。コートの広さはバスケットボールコートよりも少し広いくらいで、サッカーコートよりは狭いだろう。

 そんなコートの中にポツンとゾロとサンジが戦っていた。

 

「あんた達やめんか!!」

 

 早速ナミが止めに入った。

 

 凸凹コンビだが、実力は十分。やる時はやる奴らなので、試合に負ける事はないだろう。ここで負けると麦わら一味は実質一人失う事が確定してしまうのだから。

 

「あ!!スマラも応援に来たのか!!」

「応援じゃないわよ。観戦よ。どっちが勝っても私には関係無いわ」

「ゾロとサンジは絶対に勝つぞ~!見とけよな!!」

 

 ナミと共に現れたスマラを嬉しそうに出迎えたのはルフィだった。

 彼はゾロとサンジが勝つことを信じている様子だ。船長としての信頼があるのか、それとも別の考えがあるのか……。とりあえず、前者なのは間違いない。

 

 準備が整ったのか、フォクシー海賊団の選手も入場してくる。音楽が流れ船首像からの登場とは、かなりの演出だろう。実際に登場したのはそれだけの存在感を持った奴らだった。

 ゾロとサンジの三倍の身体を持つハンバーグとピクルス。魚人と巨人のクォータービックパン。ふざけた名前だが、実際にゲームになるのか?と思う程のデカさだ。

 

 登場した三人とゾロとサンジをスマラは比べてみたい。

 身体は比べるのまでもなく負けている。だがしかし、その他の部分はどうだろう?

 

「………純粋な強さなら負けてないわね……」

「だろ~!!あいつらなら絶対に勝ってくれる!!」

「そうだぞ~~!!あんなバケモノでも、ゾロとサンジならやってくれるさ!!」

 

 スマラの呟きに、ルフィとウソップが反応した。二人とも、勝つことを疑っていない。

 肝心なゾロとサンジは又もや喧嘩を始めていたが………。

 

 そして始まった第二回戦。負けるのは論外。どれ程楽に勝利をするかが肝だ。

 スマラは、自分と手合わせをしたいと言ったゾロの力量を図るべく、試合の観察を始めた。

 

 

 

 

 

「どうだスマラ!!!ゾロとサンジは強かっただろ!!こいつらが負けるか!!」

「おめーら!!ハラハラさせやがって!!」

 

 ルフィとウソップがサンジとゾロの勝利を喜ぶ。

 ルフィは信頼に応えてくれたことと、自分達のチームが勝った事で満足げに笑い、ウソップが試合内容に泣きながらゾロを叩いて勝利を喜ぶ。

 

 

 結果から言うとゾロとサンジは勝った。楽勝とは言わず、ゲームであるが故のルールと、審判のジャッジ妨害などがさく裂し、手間取ったものの勝利を掴む事が出来た麦わら一味。

 やはり普通の海賊相手では、負けることは無いのだろう。ただ、これがゲームだということが足を引っている。

 これがフォクシー海賊団のやり方………。

 

 果たして、このゲームを見たスマラの感想は!!?

 

「最低限はクリアだけど、全然ダメね……」

 

 ダメだったらしい。危ない場面が幾度もあったのがいけないらしい。

 純粋な力比べではゾロとサンジは圧倒していた。ただ、これがゲームだということや、あからさまな不公平ジャッジが実力を発揮できないでいた。

 それが評価の主な原因だ。

 最も冷静に対処していればスマラも評価を改めただろう。しかし、格下の相手に制限があれど苦戦した。

 スマラに認めてもらいたければ、この先の海を渡って行くのならば、これくらい簡単に勝利してもらわないとダメだ。

 

 

 スマラの言葉は、勝利に酔いしれている麦わら一味には届かない。

 

 

 

 スマラは人知れずこの場を去った。

 

 まだ船長であるルフィの最終戦が残っているが、もはや興味など失せた。

 敵は船長のフォクシー。ルフィが勝つ可能性が高いが、フォクシーのノロノロの実の能力も厄介な能力である。圧倒的勝利とは行かないだろう。ならば、そちらもスマラ的には見る価値はない。完成された物語を読んだ方が有意義な時間になる。

 

 故に船に戻った。気配を出来るだけ消し、麦わら一味に気づかれないように。

 誰もスマラの事を気に留めない。ただ、わたあめだけ買って船に戻った。

 背後から聞こえるスピーカーから、チョッパーが麦わら一味に戻ったことだけが聞こえて来た……。

 




ぜ、前回青雉出るっていったよな?ふふ、秘儀「告知ブレイク!!」
次回は絶対に出します。

次回「青雉襲来」


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494 四十三頁「大将青雉とスマラ」

出来上がってから一時間ほど放置していた……すまない。
皆さんお待ちかねの青雉です。


 船内に戻ると、定位置になっている椅子に座りリュックサックをテーブルの上に降ろす。

 わたあめを食べ糖分を摂取。甘い味を堪能しつつ、人混みの中に居た精神的な疲れを癒す。

 

「ふぅ~………戦いようによっては負ける可能性もあるわね」

 

 ただ、たったそれだけで負けているようではこの先の海は航海出来ない。

 如何に優れた航海士が存在していても、立ちはだかるのは世界の壁だ。

 もう直ぐ半分に近づいている。海軍も中将レベルを用意するだろう。海賊だって億越えが常識になってくる。

 そんな中で生き残るなら、甘さは捨てなければならない。今まで順調過ぎている。

 クロコダイル然り、エネル然り。負けているはずが、急激な成長を遂げて倒している。がしかし、それは運が味方したり、相性が良かったりと実力以外の要因も働いていた。

 それが悪い訳ではない。ただ、それらをひっくるめても勝てない敵は存在している。

 海軍本部大将、政府の闇、四皇、四皇の部下。

 今のままでは逆立ちしたって勝てないだろう。それどころか、一味が崩壊する可能性もある。

 

 一度、大きな敗北を経験する必要があるわね。

 幸い、敗北確定な敵が上陸したみたいだし………。

 

 この島に世界でも類を見ない力を持った存在の上陸を確認したスマラは、その気配を決して見過ごさないように気を付けて本を開いた。

 

 その存在もスマラの気配に気づいているだろう。それでいて己の本能を優先した。

 それは、睡眠だった……。

 

 この島の最強同士は、己の欲望に忠実ならしい。

 

 

 

 

 

 最も多くの反応を察知できる場所では現在、最高潮の持ち上がりを見せていた。

 三回戦は熾烈を極め、そろそろ決着が着くという寸前。フォクシーの猛攻を受けてなお、何度でも立ち上げり続けるルフィ。仲間は誰一人やらん!!それだけを胸に戦い続ける。

 観客もルフィの強い思いに感動し、麦わら一味を応援しだす者も現れた。

 

 そして、鏡を使ってフォクシーの能力を攻略したルフィは勝った。

 盛り上がりはここで最高潮に達し、このゲームは幕を閉じた。

 

 

 麦わら一味が勝った。それを感じ取ったスマラは、とりあえず移動手段の船が崩壊しなかった事を安心した。

 これで見聞色の覇気を全てを、同じくらいの力を持っている奴に注げる。

 

 問答無用で攻撃してくるとは思えないが、警戒は必要だ。なぜなら、自分が乗っているのは海賊船。話の分かる男だと認識しているが、相手は世界政府の手下。どう動くか完全に読めるものではない。

 スマラは一般の海兵には捕まる理由を持っていないが、己の事情を知っている存在には見過ごせない存在であると自覚している。

 だから不安なのだ。自分でも全力を尽くさなければ逃げ切れない相手というのは、数十年ぶりになのだから。

 

 

 

 読書をしていても本の世界に入り込めず、逆に気が散ってページが中々進まないのは何時ぶりだろうか?

 それほどまでに、スマラは気を抜け無かった。

 

 集中できない気配を追っていると、麦わら一味と奴が遭遇した気配を掴んだ。

 悪魔の子が恐ろしく怯えている。過去に何かあったらしい。二人の経歴を考えたら、不自然なことではない。

 しかし、殺気は感じられない。あの男は何をしにこの島に?

 

 詳しくは分からないが、遊牧民の移動の手伝いをするらしい。そのために海岸に近づき、能力を解放したのを感じ取った。

 

 まだ話しているらしい。その男が海軍本部の大将だと知らない訳でもないだろうに……。

 

 

 そして、スマラも無視できない感情を感知する。パタンと本を静かに閉じ、リュックサックを船内に置き去りにして甲板へ出た。

 感じ取ったのは殺気だ。

 

 

 

 

 甲板に出ると、遠くの方に麦わら一味らしき点が見える。スマラの能力を使えば、双眼鏡で覗いている様に分かる距離だ。

 ロビンがその男に能力を使った。どうやら、ここでヤルらしい。

 無謀だ。一時的な感情に身を任せて破滅を選んだか………。

 

 何をするわけもなく、ただずっと眺めているとルフィ、ゾロ、サンジの三強が一瞬にしてあしらわれ、ロビンが氷漬けにされた。

 誰もが冷静でないその時、ルフィが「決闘で決着を付けよう」と言い出す。と同時に、船の目前まで迫っていたチョッパーとウソップがスマラに気づいた。二人して氷漬けにされたロビンを抱えている。

 

「おぉ!!スマラ!!海軍の大将がやって来たんだ!!」

「待てチョッパー!!その前に、ロビンの治し方とか知らねぇか!!?頼む!!礼なら後で幾らでもするからよ!!」

 

 残ったルフィたちの心配をするチョッパーに待ったをかけて、スマラに頭を下げてロビンを優先させるウソップ。

 彼はスマラの事が苦手なはずだ。それでなお、勇気を出してスマラにお願いしているのは、仲間を助けたい意志からだろう。

 懇願するウソップに、スマラは淡々と告げた。

 

「水で少しずつ溶かせばいいわ。熱湯はダメよ」

「………っ!!?行くぞチョッパー!!」

「お、おう!!ありがとう!!」

 

 スマラの言葉を耳にしたウソップは、チョッパーを引っ張って船内に急いだ。

 なので、聞こえて無いと分かっていながらも、スマラは呟く。

 

「ここで死んだら、文字を教えてくれる約束が守れないでしょう?」

 

 

 私が行かなければダメでしょうね………。

 スマラはため息を吐きながら船を降りた。直ぐに戦闘になってもいいように、能力での戦闘準備を整えておく。

 

 

少し歩くと、身体の一部を氷漬けにさせられたゾロとサンジ。二人と一緒に焦った様に帰ってきたナミに出会った。

戦力外になったので、邪魔にならない様に戻って来たのだろう。

 

「スマラ!!この先は危険よ!」

「その通りですスマラさん。貴女が幾ら強いからと言って、危険な目に合わせる訳には……」

 

 ナミとサンジがこちらに向かって歩くスマラを目にすると、二人揃って戻るように言ってきた。二人ともスマラの実力を知っていながらも、海軍の最高戦力と言う明らかにヤバい奴に会わなくてもいいように言ってくる。

 スマラの面倒臭がり症を知ってるが故に、動かなくても良いようにとの気遣いなのかも知れないが、スマラは何とも言えない気持ちになる。

 ちょっとしたハプニングでは頼る癖に、本当のヤバい奴には身の危険を案じてくれる。彼らをらしいと言えばらしいが、この状況での「頼らない」は明らかに下策だろう。

 

「いや、お前が本当に俺たちが足元にも及ばないくらい強ぇなら、こんな時こそ頼るべきだろう」

 

 唯一、ゾロだけが違った。スマラの実力を冷静に分析し、海軍本部大将にも劣らないと考え付くと、スマラに頼った。

 世界の実力者を目の前にし、スマラが本当にそこまで強いのか?見極める腹でもあった。

 しかし、心優しいナミとサンジはその考えが読めないみたいだった。

 

「何言ってんだクソマリモ!!あんな化け物の中にスマラさんを一人でいかせる訳には行かないだろうが!!」

「そうよ!幾らスマラが強いからって言っても、アイツは次元が違う!!ゾロだって見たでしょ!」

「だからだ!!……アレは正直言って化け物だ。ならば、今までの強敵を難なく打ち負かして来たスマラしかいねぇ!!……コイツはアレと対等に渡り合えると俺は思っている。何故だか分かるか?」

「そ、それは……」

「気迫、心構えが違う。……悔しいがコイツの言う通りだナミさん」

 

 女に戦闘をさせたくない。その騎士道が邪魔してスマラの行動を咎めたが、実はサンジも分かっていた。大将と言う化け物に対抗するには、未だ底知れぬスマラをぶつけなければならない、と言う事実に。

 

「というわけで、頼めるか?」

「頼めるとは何を?」

 

 ここまで来たら話が分かるだろうが、敢えて言葉にして確認を取るのがスマラらしい。何事にも確認は大切だ。それが勘違い防止になる。

 一部手遅れな気もするが、それを元に戻せるかどうかも、この後の対話にかかっている。

 

「倒せとは言わねぇ。ルフィを生きて帰らせる。それだけで十分だ」

「出来れば、スマラさんも無事で帰って来て欲しいところです」

「…………そう。適当にあしらって帰ってくるわよ。まぁ………ここまで乗せてもらった恩があるから、麦わらのルフィは生きて戻すわ」

 

 それは、スマラは戻ってこないかもしれない事を意味しているのか?

 気付いていたが、誰も言えないまま、スマラをバケモノの下へと送り出してしまった三人だった。

 

 後方から「これをどうにかしたら、俺たちも行きますよ~!!」とサンジが大声で伝えているのを無視してスマラは進む。

 辺りの温度が急激に下がり、息を吐くだけで白くなる。

 あの男が能力を使っている証拠だ。

 能力を使って温度を下げるだけで、相手の身体を無意識に固くさせる。

 本気を出していないにも関わらず、敵に与える力は絶大な効果を発揮する。つくづくバケモノだ。

 自分と同じ様に………。

 

 とりあえず、スマラは能力を使って自分の体温を調節した。

 戦う事にならなければいいが……と、ありもしない期待を寄せながら、スマラは島の中心に向かって歩いていった。

 

 

 

 

 

 島の中央部では二人の男が対峙していた。

 

 のっぽで高身長、毛だるそうに相手を観察している男、海軍本部の最高戦力『大将青雉』

 対するのは、息をかなり上げ所々凍っている身体を無理矢理動かしている青年、海賊『麦わらのルフィ』

 

 青雉の能力で辺りの温度は氷点下を下回り、地面はどこもかしこも凍って幻想的な風景を醸し出している。

 肩で息をするルフィに、本気どころか遊び半分な様子の青雉。力の差は歴然だ。

 それなのに、戦意は全く衰えず青雉をにらみつけるルフィ。

 

 そろそろ、体力の限界が訪れる。これが最後の攻撃になるだろう。

 ルフィは力一杯に地面を蹴って青雉に接近しようとして……………………青雉の視線が自分を向いていない事を認識した。

 

「おい。何処見てんだ?俺とお前の決闘中だぞ!!」

「決闘ねえ………。それは結構なことだが、俺としちゃあ、お前さんよりも厄介な奴を警戒しないといけない訳なのよ」

「はぁ??何言って……ッ!!?」

 

 今までとは比べ物にならないくらいの殺気が、この場を支配した。

 ふざけては居なかったが、本気では無かった様子の空気を纏っていた青雉が真面目な顔をしてルフィを見ていた。

 いや、ルフィの後方をだ。

 

 ルフィも気が付いた。自分に向けられた訳ではないのに、押されそうになるほどの空気。その向かう先は自分の後方だと。

 振り返ると、いつの間にか消えていた仲間(になる予定)がいた。

 

「あらら、こりゃあいい女になっちまって」

「貴方は………。老けたわね」

 

 お互いの事を知っているだけでなく、知り合いの様に言い合う二人。

 ルフィはそんな二人を見てビックリする。

 

「スマラ!!何でここに来たんだよ!!こいつの相手は俺だぞ!!」

「あら、私が貴方の言うことを聞く義務はないはずよ。何処に行こうが、あなたに止められる筋合いはないわ」

「ぐっ!」

 

 歯軋りをしてしまったルフィをスマラは放っておいて、青雉に向き合った。

 相手を鋭く観察し、声を出す。

 

「ここに居る理由はともかく、麦わらのルフィを潰すの?」

 

 珍しい事をするのね。と青雉に質問する。

 青雉は質問には答えず、スマラの目的を聞いた。

 

「……ニコ・ロビンに会いたかっただけだ。それにしても、ホントにお前さんが麦わら一味に居るとはなぁ」

「悪い?行っておくけど、海賊になった覚えはないわよ」

「そうかい。上には伝えておきますよ」

 

 海賊ではないスマラをここで捕える事はしない。ただ言葉を上に、五老星に伝えるだけだ。

 その後の対応は向こうが考えてくれるだろう。今はノータッチだ。戦争にしたくないのなら。

 

 事務的な話は終了。後は軽口を叩くだけだ。

 先ずは………

 

「それにしても――」

「おい!!今は俺の相手だぞ!!!スマラも後にしてくれ!!」」

 

 言いかけた青雉の注意を逸らしたのは、ルフィの伸びた腕だった。

 決闘の途中なのに、よそ見をされて不機嫌ならしい。スマラにも怒りの声を上げてくる。

 

 伸びた腕を青雉は難無く回避し、スマラに視線を向けた。が、スマラさん、腰を地面に降ろして足を伸ばしている。全く見ていない。

 

 

 再び静寂が訪れる。

 ルフィは油断なく構えて、青雉をにらみつける。一方で青雉はボーっとルフィを見ている……と思わせて、スマラの生足を見ていた。

 視線に気づいたスマラが「後で溶かそう」と思っていると、ルフィの口が開く。

 

「お前!!スマラの事も知ってるのか!!」

「知ってるも何も、俺とあいつは同年代だ。少なくとも、お前さんたちよりは詳しいが………何だ?教えて欲しいのか?」

「本人の口から聞くから良いよ」

「本人ねェ……まぁいいや。さっさと再開しようじゃないの」

 

 スマラの冷たい目線を受けて、青雉はルフィを睨みつけた。

 これ以上時間をかけるなら、訪れたチャンスを棒に振ることになる。

 最低限の事は話せたが、こちらの用事はまだ終わってないのだから。

 

 

 「うおぉぉぉ~~~~!!」

 

 ルフィが吠えながら特攻を仕掛けた。一気に距離を詰め、青雉が突き出した腕をしゃがんで避ける。そのまま、足を蹴り上げて青雉を吹き飛ばす。

 吹き飛ばされた青雉は、油断なくルフィを見つめていた。ダメージは殆ど入ってないみたいだ。

 ルフィは勢い良く空気を吸込みお腹に貯めると、ゴム人間な特性を活かして身体をねじった。そのまま地面に向けて放出。

 ねじった事で回転しながら宙を飛ぶルフィ。そのまま無数のパンチを繰り出す。

 

 王下七武海のクロコダイルすら倒した大技。『ゴムゴムの暴風雨』だ。

 ルフィが今出せる最大の技とも言えるだろう。決着を付けようをしていた。

 

 

 だが、そんなルフィの努力は虚しくも届かない。

 無数のパンチは、自然系である青雉の能力によって無効化され、あっけなく接近を許してしまう。

 接近されたらもうお終いだ。青雉に抱きつかれ、一瞬にして身体を氷漬けにされてまう。

 

 一方的な攻防だった。いや、攻防すら無かった。

 ただ、ルフィが一方的に凍らされただけだ。

 

 それ程までに、世界の壁は遠い。

 

 

 

 

 

「参った嵌められた……」

 

 ポツリと青雉が言った。

 独り言なのか、スマラに言っているのか、はたまた氷漬けになったルフィに言っているのか……。

 

「一騎討ちを仕掛けられたそうね」

 

 スマラが答えた。腰を下ろしている青雉と違い、スマラは腰を上げてルフィを見つめていた。

 

「あぁ、この勝負は俺の勝ち。それまでだ」

「男の勝負とか、決闘とか、そう言ったマナーなんかどうでもいいでしょ?」

「いや、ヤボは俺の方になる」

「律儀ね………大将がそれでいいのかしら?」

「ハハハ。俺は俺の正義に従っているだけだ」

 

 沈黙が流れる。二人とも、氷漬けのルフィを見ていた。

 

「それとも、本気で俺に勝つ気でいたのか?」

「――――ふふっはっは!!えぇ、彼は何時でも本気よ」

 

 ニヤリと青雉が不敵に呟くと、スマラが珍しく笑った。

 何がツボったのだろうか?スマラにしか分からない要因があったらしい。

 スマラは無表情を崩して笑い続ける。

 その姿を見た、女癖の悪い大将はというと………。

 

 

「なんだ?お前も笑えるじゃねえの」

「失礼ね。私だって笑う事くらいあるわよ」

 

 スマラにナンパをしていた。

 普通の男なら殺されてもおかしくはない。だが、スマラ自身と同等の力を持った相手、社会的な地位もこれ以上ないくらいに高い。

 向こう見ずな性格ではないので、喧嘩は売らない。

 

「そりゃあほんの数回だけしか声を交わした事が無いからな。当たり前と言えば当たり前か……。今夜とかどう?」

「私がそんな軽い女に見える?海賊や海軍と関係は持たないわよ」

「あらら。……一般人なら良いと?」

「………無理よ。誰にも出来ない。私の過去を知れば、誰だって逃げるわよ」

 

 ナンパは失敗。当たり前だが、こんな単純に身体や心を許せるなら、今のスマラはいない。

 青雉も分かっていたのか、落胆の表情は見せない。お持ち帰り出来たらラッキー程度の考えだったらしい。

 散歩ついでに、スマラをお持ち帰りという名の捕虜にして帰ってから受けるはずの怒りをチャラにしようとしていた。

 

「あ、そう。折角いい体に育ったと思ったのにな。………胸以外は」

「……何か言ったかしら?胸がどうとか」

 

 青雉、最後の最後で地雷を踏んでしまった。

 

「……………」

「……………」

「…………」

「…………」

「…」

「…」

 

 ひゅ~~~っと風が強く吹いた。

 二人とも黙ったままだ。

 

「……セクハラが癪に触ったのか?」

「普段なら気にしないのにね。貴方に言われると、無性に腹が立つの」

 

 説得失敗。

 海軍大将の名折れだ。

 

 

 

 引き突った顔の青雉。微笑んでいて美しいのだが、怖い笑顔のスマラさん。

 青雉も立ち上がり、ルフィと戦闘していた時よりも神経を尖らせていた。

 そして青雉が先に動いた!!

 

「………――――さいなら!」

「逃がすと思う?」

 

 消えた!!?と思わせる程のスピードで脱出を試みた青雉を、スマラが逃がすわけもない。

 青雉以上のスピードを持って先回りすると、腕を伸ばして青雉の身体を受け止める。

 

「――――ッ!!」

「あら、勘のいい人ね」

 

 スマラの腕に触れた途端、青雉は本能的な危険を察知して後ろに跳び下がった。

 

「それが能力か?」

「……そうね。人によるけど、私の前で自然系能力の絶対的なアドバンテージは消え去る。………さぁ、一発殴らせなさい」

「絶対一発どころじゃないでしょ!!?………こんなつもりじゃ無かったんだがな」

 

 

 瞬間、世界でも指折りの実力を持った者同士の覇気が大地を揺るがした。

 

 




次回に持ち越しです。さて、世界レベルの戦いを……書けるかしら?


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507 四十四頁「誰が一発って言ったのよ」

皆様誤字報告ありがとうございます。これからも誤字を沢山作っていこうと思います。


嘘だからね!!ホントにありがとうございます!!!見直ししても全然見つかられない不思議。
話を知ってるから、読んでも中々見つかられないと推測。誤字してても脳内補正が勝手に行っているからおかしいと思わない奴。


FGOメンテ終わらず。明日の朝に期待だね!!


 島全体が震えた。

 島に生息する生物は全てが震え怯え、中にはショック死した物も存在した。

 

「おい!くそコック!!」

「分かってるよ!!お前こそもっと早く走れ」

 

 ルフィを助けに戻るため、船で簡易的な治療を終えたゾロとサンジが、島の中央部に向かって走っていた。

 二人とも、島を揺るがす覇気を感じ取り、互いに「急げ!!」と言い合う。

 

 二人とも気が付いていた。この異常現象の発生原因が青雉とスマラにあると。

 怖いと身体が何時も通りに動かず、中々前に進もうとしない。身体が本能で「近づいてはダメだ」と叫んでいる。

 しかし、それでも進んでいるのは、あそこに船長であるルフィが居るからだ。負けたのか、それともスマラの登場で中断させられたのか、氷漬けになっているのか、何が起こっているのかは分からない。ただ、勝てないにしても応援に行くべきだろう。

 

 肉眼で見えてきた。そこにあったのは……

 

「な、なんだありゃ……」

「……今まで本気を出していなかったってとこだろうよ」

 

 

 

 今までの戦闘がお子様の喧嘩に見える程、激しいぶつかり合いだった。

 

 辺りが一瞬にして凍り付き、また一瞬の内に溶ける。青雉が繰り出した氷の鳥が宙を舞い、スマラに触れると凍りつく。その端から溶けていく。

 青雉が一瞬にして接近すると、スマラはその前に動いて避ける。そのまま腕を伸ばして青雉に触れようとして、青雉も避ける。

 今度はスマラが動いた。音を置き去りにして移動すると、青雉に黒く硬化した拳をぶつける。ルフィの様に凍りつくこともなく、氷になって避けることもなく、青雉にダメージを与えた。

 内蔵がやられたのか、口から吐血するも体内を凍り付かせる事で無理矢理止血。

 スマラを睨もうと前を向いた瞬間には、スマラが消えていた。が、見聞色の覇気で先読みし、全力で能力を使った拳を振る。

 拳と拳がぶつかると、冷気を纏った衝撃波が周囲を襲う。

 青雉もやられてばかりではない。海軍として鍛えた体術の差を活かして、スマラに蹴りを入れる。

 重い音が響いた。やったか!!?と青雉が思うが、直ぐに顔をしかめる。

 防御が間に合わなかったスマラだが、能力を使って威力を無くし、運動エネルギーを操作して後ろに下がる。

 ふわっと何事もなかったように着地するが、見聞色の覇気が激しく警報を鳴らす。思考する前に身体を捻って回避。

 スマラが一瞬先に居た場所には、氷の刃が刺さっていた。回避しなければ刺さっていた。冷や汗が流れる。

 

 スマラの反射も万能ではない。常時発動は可能だが、その為には脳内での演算を必要とし、その度に体力を消耗する。ただの海賊如きの攻撃なら、幾千、幾万と攻撃を受けたとしても、読書の片手間で防ぎきれるだろう。

 だが、自分よりも同等、格上の相手の攻撃は連続して防ぎきる事は難しい。能力と集中力を全て反射につぎ込めばある程度は無敵になる。しかし、それではジリ貧になるし、今のスマラは少しばかり冷静ではなかった。

 全身に能力を執行し、通常の何倍もの身体能力を得る。見聞色の覇気と武装色の覇気にも体力を使用しなければならない。相手はそれくらいやって、やっと勝てるレベルの相手。覚醒すれば、青雉を殴ると言う目的が無ければ、何もしないでも終わる。

 でもそうしないというのは、やっぱり冷静さを欠いているからだろう。唯一の欠点だ。

 

 さらにもう一つ、気を遣わなければならない事があった。スマラも、青雉も何となく分かっているが、戦闘中に何が起こるか分からない。

 

 青雉は地面に生えている草を千切って、それを軸にした氷の剣を作った。ゾロの刀ですら壊れない強度を保つものだ。

 突っ込んでくるスマラに向かって振りかぶる。拳と刀がぶつかり合い、衝撃波が辺りを襲った。

 だが、そのぶつかり合いも一瞬の事。スマラが能力を使用すると、氷の刃はあっけなく溶け始める。

 それを見た青雉は考えるまでなく氷の刃を放棄。手を離すことで、スマラの能力を受けないようにした。

 青雉が氷の刃を手放した時には、スマラも別の行動に移っていた。さらに足を動かして、懐に潜り込んで、青雉の身体に……触れられない。

 スマラの能力を受けると均衡が崩れてまけてしまう。基、フルボッコに殴られてしまう。それが嫌だったので、仕方なく反撃しているのだ。

 

 スマラが止まった。今まで青雉に特攻ばかり仕掛けていた戦法を考えると、何かがあるはずだ!!と青雉は頭をフル回転する。

 こちらが避けきれない攻撃を構築している。それなら逃げればいいだけの話。

 しかし、逃げようと足を踏み出そうとすれば、一秒後の青雉が居るであろう場所に、スマラは目線を向けるのだ。

逃げ切れない。

 

 どうする?

 

 青雉は取り敢えず、スマラに向かって氷の塊を飛ばしてみた。

 しかし、スマラに当たるとこちらに向かって返ってくる。反射を使われては攻撃は通じない。

 ならばッ!!と剃でスマラの周りを高速移動しながら、四方八方から遠距離攻撃を撃ってみる。が、失敗。この程度ではスマラの反射を破れない。スマラが動いてない事で、反射に割ける集中力が増しているためだ。

 

 どうする?

 

 自分が抑えられるかもしれない。というリスクを背負って、青雉は肉弾戦に移す。

 一瞬にしてスマラの背後に回り込むと、全力の冷気を纏いながらスマラに抱きつかんとした。

 しかしスマラもその行動を読んでいた。何の捻りもない行動なので、身体を横にズラすだけで回避。からの肘撃ちをかます。勿論武装色の覇気に加え、自身にかかるはずの運動エネルギーも相手に打ち出すと言う凶悪極まりない、スマラの通常攻撃。

 「うぉぉ!!」と思わず叫び声を上げながら身体を捻る青雉。

予備動作が全く無かったその一撃は青雉でも回避が間に合わなかった。

 青雉の身体は一部が削れた。氷になって再生するものの、武装色の覇気を纏った攻撃が効かないわけがない。再生したはずの身体は、肩の骨が骨折し、動かすと激しく痛みを伴ってしまう。

 肩の痛みを無視して青雉は足を動かして距離を置く。スマラは追撃には………来なかった。

 

 先ほどまでならチャンス!!とばかりに追撃には来そうなスマラだったが、時間が経ち少しばかり冷静さを取り戻したスマラは追撃をしなかった。

 それは、己の戦い方を取り戻したからだ。

 スマラの戦闘方法。それは、カウンター戦法に他ならないだろう。

 自分は動かずに、見聞色の覇気にて攻撃を避けて、運動エネルギーを用いた攻撃で敵を一撃粉砕。避けきれない攻撃でも、反射を使って即刻反撃。冷静さが売りである。

 それが、青雉のセクハラ行為という、何故か無性に腹が立つ事が起こってしまい、冷静さを欠いた戦法になってしまった。

 身体にかかる負担を軽減し、攻撃力アップとでも言える能力執行による攻撃を用いた肉弾戦。全ては青雉をボコボコにしたいがための衝動。

 まぁ、苦手な戦法ですら、海軍本部の大将と言うバケモノと同等に戦闘を行えられていた。それだけで、彼女の底知れぬ実力が浮き彫りになっているだろう。

 

 

 スマラが冷静になってしまった。そのことを一度の攻防で理解した青雉は、心の中で舌打ちをしてしまう。

 冷静さを欠いていた時ですら、自分が本気で対処しなければ一瞬にしてやられてしまう相手だ。冷静さを取り戻した今、相手の実力は一層に危険度が増す。

 向こうから攻撃を行ってこない分だけマシだと思うが、こちらの攻撃は全てに対処されてしまうのだ。カウンター攻撃すら行って来る余裕さ。

 お手上げだった。これ以上するのなら、青雉としても本気だけでなく全力を尽くさなければならない。

 なので、

 

「参った。俺の負けでいい」

 

 両手を挙げて降参のポーズを取った。

 

 青雉が降参したのに意味はある。これ以上自分の怪我を酷くさせないためだ。

 肩の怪我はすぐに治る。しかし、戦闘中にとはいかない。動かすだけでも痛みが走り、このままスマラとの戦闘を続けても勝つことはないだろう。

 さらに世間的な事を考えれば、負けるのは痛すぎる。スマラや麦わらの一味が漏らす事は無いと思うが、海軍本部大将が一般人となっているスマラに負けた事実を作るのは、これといってない程不味い。

 なので降参。戦闘に敗北したと言う事実を作らないためだ。それにスマラは青雉の降参を受け入れる。

 元々と言えば、青雉にセクハラされたのが原因だ。青雉を倒したい。青雉もスマラを捕まえたい。そう思っている訳ではないので、戦闘を行う意味がない。

 一発殴らせろ、と言うスマラに逃げを取った為戦闘に発生した。故に、青雉がスマラに無抵抗で殴られれば済む話だったのだ。

 

 だからスマラも、青雉が戦闘態勢(逃げる気持ち)を辞めたのを感じとると、戦闘態勢を見るからに解いた。緊急時に対応するために、完全に緩めないのは当たり前だが……。

 

 

 

「やっと諦めたのね」

「あぁ、これ以上はどっちにとっても不利益しかないだろ?じゃ、俺はこの辺で帰らせてもらいますわ」

「何言ってるかしら?」

「え?」

 

 これで終わり。以上解散!!とこの場を立ち去ろうとする青雉にスマラが待ったをかけた。恐ろしくデジャブを感じる。

 傍から見れば美しい笑顔で青雉に歩いて行くスマラ。青雉には、悪魔の様に思えた。

 一歩、後ずさる様に足を引いた。スマラの歩みが早くなる。

 

「さっき、俺を何度も殴ったよな?」

「それは戦闘中のことよ。逃げようとするからいけないの」

「じゃ、じゃあ……」

「これからがセクハラ分よ…覚悟しなさい」

「い、一発だk――待て待て!!」

 

 ロングリングロング中に青雉の悲鳴が響き渡ったと言う。(後日ルフィとロビン以外の麦わら一味談)

 

 

 

 

 

「い、一発だけじゃなかったのかよ……」

「誰が一発だけって言ったのよ。そもそも逃げようとするから酷くなるのよ」

 

 痣だらけの青雉と珍しく疲労困憊な様子のスマラが座っていた。

 やるべきことはやった後らしい。

 青雉が、忠告だ。と口を開いた。

 

「お前たちは、必ずニコ・ロビンを言う女を持て余すぞ。ニコ・ロビンと言う女の生まれついた星の凶暴性を、お前たちは背負いきれなくなる」

 

 それはロビンを船に乗せていることへの忠告。彼女が居る限り、麦わら一味は崩壊する。

 青雉はそう言ったのだ。

 

 それに対してスマラが思ったこととは…

 

「お前たちね……もう一発必要なのかしら?」

 

 麦わら一味と自分を一緒にした青雉への怒りだった。これには青雉も素で驚く。

 麦わらのルフィに言ったんだ。と何とか怒りを納めるものの、冷や汗が止まらない。沸点が分からない分、余計に慎重にならざるをえない。

 それほどまでに、スマラの成長ぶりは凄まじかった。

 

「じゃあ、俺はもう行くわ。………行っても良いよな?」

「えぇ、さようなら。もう会いたくはないけど」

「そりゃ酷い。プライベート、若しくは海軍を辞めたら幾らでも会いたいよ」

 

 この男、懲りていない様子だ。

 本気か遊びか分からない態度に、スマラは興味がない。人からの好意を子供の頃から受けていない為、どうすればいいのか分からないからこその、無反応に徹する。

 

 後ろを振り向いて去る青雉。スマラはボーっとその姿を眺める。

 そして、

 

「条件付きなら呑んで上げないこともないわよ。そう伝えなさい」

 

 その言葉が聞こえたのか、青雉は片手を挙げて手を振った。

 

 

 

 しかしまぁ、久しぶりに力を解放したものだ。ここまで身体を動かしたのは、何十年ぶりだろうか?

 青雉がセクハラなどしなければ、こうも怒る必要は無かったのにな……。冷静でいなくては、とスマラは己の行動を振り返って反省する。

 

 青雉が去ると、今度は反対方向から二つの反応を覚えた。この反応はゾロとサンジだ。

 ほら、早速声が聞こえてくる。

 

「いたぞ!!」

「ルフィ!!と」

「スマラさ~~ん!!!」

 

 青雉とスマラの戦闘で発生していた覇気で近づけずにいた2人が、ここにようやくたどり着いたのだ。

 氷の像となっているルフィとスマラの無事を安心する。

 

「砕かれちゃいねぇ」

「良かった良かった。……スマラさん!!?その手は!!?」

 

 ルフィが砕かれていないことを確認しているゾロ。サンジはスマラの心配をして若干涙目になっていたが、スマラの手を認識するとひどく驚いた。

 何故なら、スマラの手は白かった。白すぎて血の気が通っていない死人の手のようだったからだ。

 

「す、直ぐにチョッパーの下に!!」

「問題ないわ。このくらい直ぐに回復するわ」

 

 ルフィの事など眼中にないようで、スマラを急いでチョッパーの下に連れて行こうとするサンジ。スマラはそれを振り切って「問題ない」と判断した。

 

「おい!!そっちよりもルフィの方が心配だ!!手伝え!!」

「あぁ”!!命張って下さったスマラさんの心配はしてねぇのかよ。このマリモ!!」

「してねぇと言ってねぇだろ!!ルフィの方が優先度が高いってだけの話だ!!」

「レディを心配して何が悪い!!すべすべで傷一つ無かった手があんな風になっているんだぞ!!ルフィを運び終わったらスマラさんに土下座しやがれ!!」

「何でお前の命令を受けなきゃいけねぇんだ!!勝手にやってろ」

 

 と言い合いをしつつも、ルフィを担ぎ上げるサンジとゾロ。

 スマラがルフィを助ける為にバケモノと戦闘を行ってくれたのは理解しているが、完全に凍り付いたルフィの方が優先度が高いと判断しているゾロ。

 全身凍り付いて心臓すら動いていない状態のルフィの優先度を理解しているが、怪我をしている女性を目の前につい心配をせずにはいられないサンジ。

 両者ともそれぞれ考えがあるのだ。それが、この組み合わせだとつい言葉が激しくなってしまうのだ。

 

 

 ルフィを抱えながら急いで船へ運ぶ二人の後ろを、スマラはゆっくりと歩いて戻る。視線と思考は自分の白くなった手に向いていた。

 

 戦闘中は目の前のことに集中していて気付かなかったが、能力を使っていても完全に防ぎ切れなかった青雉のヒエヒエの能力。凍傷まで発展していないのは、スマラの能力で抵抗していたからに他ならない。

 スマラが思っていた以上に青雉の能力が強かったわけだ。

 手を抜いていた訳ではない。瞬時に出せる全力を出していた。だが、それでも規格外の力を持ってスマラの能力を超えてきた。

 だらけきった青雉ですらそうなのだ。他の大将なら……新世界の怪物なら……。やはり、東の海に居た数年間は、自分の危機感を堕落させていたらしい。もっと能力の出力を上げなければ……この先、自分の能力が通じない可能性が出て来た。

 

 スマラはぼんやりと考えた。

 自分は成長していない。が、他の奴らは成長しているのだ。同じ目線で比べるのはやめよう。でなければ、強制的に放浪の旅を終わらせられる。

 それは嫌だ。あそこが嫌いだったから逃げ出したに他ならない。今更戻れなんて言われてたまるものですかッ!

 

「あ!!スマラ!!無事?」

「…………っ!…えぇ、問題ないわ」

 

 思考に傾き過ぎていたらしい。いつの間にか船にたどり着いていた。

 ナミ心配して駆け寄って来るが、スマラはサラッと受け流す。

 

「サンジ君から手がどうとかって聞いたけど……ちょっと見せなさい」

「何もないわよ」

 

 先に戻っていたサンジから話を聞いたのか、ナミがスマラの手を握って来る。

 普段なら振り切れたり、そもそも触れせたりするはずの無いスマラだったが、青雉との戦闘は思った以上に疲労が溜まり、スマラに余裕を持たせなかったらしい。

 能力を使えばその疲労すらもどうにか消すことが可能だが、緊急事態も去っているのでそうする気にもなれずそのままにしておいたツケが回ってきた。

 

 スマラの手を取ったナミは変わったところがない手に驚いた。

 サンジの言葉だと、白く凍傷寸前だと言う話だった。それが普段通りにしか見えない。

 サンジが嘘を吐いた?それはない。サンジは基本的に嘘を吐く事は無い。女性の体の事となれば間違いない。

 それなのになぜ?

 

「手が凍傷って聞いたけど、何もないわね。どうしたのそれ?」

「言ったはずよ。このくらい過ぐに回復するって」

「か、回復!!?ルフィ並みの回復力を持ってたとしとても……それも能力なのね」

「正解。詳細は伝えないわ。言っても理解が難しいのは勿論、自分の能力を詳細に伝えるバカではないわ」

 

 疲れたから休ませて頂戴、とスマラはナミを振り切って船内に入っていく。

 何時もの場所でリュックサックを手に取ると、そのまま進んで女部屋に向かう。

 女部屋に入ると、床に転がった。そのまま意識を手放す。数十年ぶりの本気の戦闘は、スマラに莫大な疲労を感じさせたのであった。

 




戦闘描写難しい……。
あっけなく終わってしまって申し訳ない。

次回からウォーターセブン編!!世界政府が出てくぞ!!


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517 四十五頁「昔を思い出す」

遅くなって申し訳ありません。朝には完成したのですが、用事のため外出してました。
今回短い上に、話が殆ど進展しません。

FGOクリスマスキャロル。自然回復で周回中。サンタ婦長、レベマ達成。


 ガサゴソと周囲が騒がしい。一体何があったのだろうか?

 無意識の内に発動している見聞色の覇気には、敵意は全く感じられない。ならば、麦わら一味の誰かだろう。

 スマラは何時も通り目を覚まして瞳を開ける。

 

 移ったのは天井ではなく、人の顔。大きさからかなり接近している事が分かる。

 

「……人の寝顔は見ていて楽しいものなの?」

「………ッ!!」

 

 人の顔はナミだった。スマラを覗き込むようにしていた顔は、スマラが目を開けて声をかけるや否、驚きからの悲しそうな表情に代わっていった。

 何故ナミが私の寝顔を見ているのかしら?、とスマラは完全に覚醒しきっていない頭で考えていると、ナミがスマラに抱きついた。

 

「し、心配したんだから!!」

「えっ!?ちょっとなに!?」

 

 ナミの豊満な胸がスマラを殺しにかかる。

 訳も分からず抱きしめて来るナミにスマラはどうするの事もできない。力任せに引き剥がす事は可能だが、敵でもない、ましてや女性であるナミを吹き飛ばすのは憚れたらしい。

 困惑を繰り返すスマラであった。

 

 

 

「で、部屋で倒れていた私を心配していた、と」

「そ、そうよ!!紛らわしい場所で寝るんじゃないわよ!!」

「……せめてソファーで寝るべきだったわね。反省してるわ」

 

 事の顛末はこうだ。

 ロビンとルフィの心臓が動いたとチョッパーから伝えられたナミ達は、緊迫した状態から休むために確実部屋に戻った。

 ナミは濡れたままのロビンに着替えさせるための服をこの部屋に戻ってきたのだが、床で倒れているスマラを発見。

 チョッパーを呼ぶべきかどうか?これ以上他の皆を心配させない為にも、様子見と称してスマラを観察すること数分。スマラの心臓は正常に動いている事を確認し、ロビンを着替えさせた後にまた戻って来て見ていた所、スマラが覚醒した。

 つまり、ナミの勘違いだ。

 

 スマラはほっと一息吐く。

 ナミが事を大きくさせ無かった事に感謝しかない。スマラが倒れたと言われると、さらに混乱を引き起こすだけだ。

 スマラが倒れた原因を、青雉との戦闘に向かわせた自分たちだと責め、何事もなく起きたスマラにも看病が付くことになる。

 そんな面倒な事、絶対にスマラは望まない。看病されたら、自由に本が読めないから……と言う理由はスマラらしいと言えばらしいが……。

 

「ホントに何も無いの?」

「そう言ってるでしょう?ただ、久しぶりに疲労が限界を超えたから寝ていただけであって、身体に異常はないわよ」

 

 しつこいナミにスマラは起き上がることで答えた。それでも心配そうな顔を隠せないナミであったが、スマラは無視して部屋を出る。

 何時もの部屋には、ベッドが二つ設置されていた。寝ているのは勿論、ロビンとルフィだ。二人とも何事もなかったかのように寝息を立てている。

 

「異常はなさそうね」

「うん。少し前に心臓が動いたらしいの」

 

 後ろから追いかけてきたナミが答える。部屋には二人の看病をしているチョッパーしかいない。他のメンバーは甲板だろう。

 部屋に入ってきたスマラに気が付いたチョッパーがスマラの元にやって来る。

 そして、お礼を口にした。

 

「スマラ……ありがとな」

「別に何もしていないわよ」

「いいや。スマラがあそこで適切な処置を教えてくれたからだよ」

「あぁ…そのこと。別に良いわよ。あれは特殊な例だもの。処置を知らないのも無理はないわ」

 

 スマラはチョッパーにお礼は無用だと言って、歩いて部屋を出る。

 お気に入りになりかけている場所だが、流石に同じ空間にいるのは忍びないと思ったらしい。

 

「ねぇ……処置が出来るって事は青雉の能力を知ってるってことでしょ?」

「そうね。ヒエヒエの実の能力者。身体の芯まで凍っていない場合は自力で脱出も可能かもしれないけど、あれだと芯まで凍っていたから、別の方法を教えて上げただけよ」

 

 ナミが聞いてきたので、質問に答えて上げる。

 一度答えれば、後はそのままなだれ込む。つまり質問攻めの時間だ。

 寝ているウソップと座って瞑想しているらしいゾロの横を通り過ぎて、船首像付近まで進んで座り込む。

 

「青雉とは知り合いなの?」

「知り合いというほど顔を合わせていないわ。今日で………三回目かしら?」

「その時も戦闘になったの?」

「一回目だけね。私もクザンも若かったわ……」

「若いって何歳よ」

 

 まるで三十路をとうに超えたおばさんの様に言うスマラに呆れるナミ。彼女をよそに、昔を思い出すかの様に遠くの方を見た。スマラの脳内では、当時の記憶が再生されているのだろう。

 ただ、読書もせずにナミの質問を受け答えしているのは珍しい。青雉との戦闘で心の心情でも変わったのだろうか?

 

「悪魔の子を子供……またはお姉さんぶれるくらいかしら?」

「その体で!!?」

 

 正確な歳を教えない代わりに、ヒント的な物を教えるスマラに、ナミの目が点になった。

 年上だとは思っていたが、ロビンを超えるレベルでの年上とは思わなかったらしい。いや、薄々気づいてはいたが、スマラの体つきがそれを信じさせなかっただけだ。

 スマラとしては、ナミの成長過程が信じられない。主に胸の大きさが……。まぁ、それは置いておくとしようか。

 

「悪魔の実の能力の効果よ。場合によっては食べただけで肉体に影響を及ぼす物もあるわ」

「悪魔の実……それなら納得だわ。少し羨ましいわね」

「機会があっただけよ。ほしくて食べた訳ではないわ。それに、何の能力か分からない実だと、失敗する可能性もあるわよ」

 

 スマラの身体が全く衰えない秘密。それは悪魔の実能力による副作用だ。

 歳による老化をパラメーターの様に捉えて、それを弄って常に最盛期の姿に押しとどめる。スマラの場合、己の意思で行ったるのではなく、悪魔の実がそうさせている。

 ある意味不老。無意識の内に行っているそれを中断せざるをえないレベルの能力を使った時以外では、スマラは老化では死なない。

 その為に常に万全のスタイルを保っていられるのだ。全世界の女が憧れる能力だ。しかし、その代償はかなりデカいが……。生まれながらに常人よりも高い身体能力や体力を持っているスマラだからこそ出来ている離れ業。ただの人が同じ悪魔の実を食べたとしても、スマラの様に使いこなせないであろう。

 古今東西ありとあらゆる本を読んでいるからこそ出来る、柔軟な発想力あってこその能力だ。………これは悪魔の実全般に言えることだろうが……。

 

 スマラの容姿の秘密は分かった。まだ聞きたいことはたくさんある。

 現状、スマラは読書をせずに遠くを見ている。この機を逃せば、スマラの事を知るチャンスはいつ訪れるか分からない。なので、ナミは次々に質問攻めをする。

 

「放浪していたって言ってたけど、東の海以外には何処を周ったの?」

「偉大なる航路の航路を一部と、北、南、西、東の海をそれぞれ五年くらい。適当に見て周ったわ」

「それってわざわざ凪の帯を渡ってってこと!?あ~……スマラなら有り得そうな実力を持っているものね」

「そうなるわね。でも、結構面倒なのよ。一日中海王類の襲撃に気を張らないといけないし……。だから数年に一度だけだったの」

「へ~」

 

 スマラでも凪の海はホイホイと渡りたいと思わないらしい。海王類事態は容易く撃退出来ても、集団で襲ってくるとなると話は別だ。

 途中で体力が尽きてしまい、海の藻屑になる事を間違いなし。その為、出来るだけ慎重に、逃げ中心で渡っている。

 かの王下七武海の女帝や、海軍の軍艦なんかも通り抜ける事が出来るらしいが、海楼石を船底に敷き詰めたり引っ張る生物の毒が海王類をも仕留められたり……と個人でどうこうなる様なものではない。

 一体二体ではどうにかなり逃げながられも海を渡れたり、海王類如き一振りの剣でスッパリと斬ってしまったり、その覇気や技術で凪の帯事態を泳いで渡れる個人の方が異常なのだ。

 

 

「青雉とはいつ会ったの?」

「……私が子供の頃ね。ちょうど偉大なる航路を彷徨っていて、一番荒れていた時期かしら?」

「え?スマラが荒れてる時期って想像もつかないんだけど?」

「私ではないわよ。私を取り巻く環境が……」

 

 あの頃は酷かった。

 当時に食わされた悪魔の実が強く、その強いられた生活にも嫌気がさして島を逃亡した。

 海では常に海賊と海軍に追われる始末。

 海賊は今よりも数は少ないが誰も精鋭ばかり、海軍も英雄であるガープやセンゴク、おつる、といった今の海軍を最高位の者たちが全盛期の時期。

 迫りくる敵、敵、敵、敵、敵、敵。

 敵に敏感に反応する為にいの一番に見聞色の覇気に開花し、普通の攻撃が通じない自然系や覇気使いを相手取る為に武装色の覇気を発動できるようになった。

 それでも敵の数、で押され力でも推し負ける。まだ、まだ足りない。

 

 それでも能力が単純に強かったのがスマラに負けを許さない。より一層求めてくる海賊。スマラの強さや能力にも価値を見出し始めた海軍及び世界政府。

 逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、逃げても追いかけて来る。

 そしてついに嫌気がさした。

 どうしてこのような目にならなくてはならない?能力が強いから?逃げているから?生まれたのがダメだった?

 私はただ、本を読んで静かに暮らしたいだけなのに。その環境がそれを許さない。

 なら、私もその環境を許さない。

 普段は温厚なスマラ。理性的で争いを好まず、本を読んで暮らしたいだけの女の子。追われて逃げる毎日で碌に読書すらできやしない。

 だからキレた。溜まっていた怒りを吐き出すように。

 

 スマラは頭が良い。子供ながら色んな本を読み、学者が読むような内容の本も読み漁る。

 同年代は比べるまでもなく、大人どころか科学者にも引け取らない。(さすがに世界一の頭脳を持つベガパンクには及ばないが)

 スマラの能力は単純に、氷になる、火になる、ゴム人間になると言った能力ではない。

 頭の中で必要な概念を思い浮かべ、それを演算して能力を発動させる必要がある。

 

 子供ながらその能力を頭の良さから使いこなしていたスマラだが、色んな本を読んでいたスマラには創造力までもが付属していた。

 段々と能力を使いこなしていくスマラ。

 

 そして、海賊の本隊、海軍の軍隊に追い詰められる。そこでキレた結果、海賊の本隊と海軍の軍隊は壊滅的な被害を受け、スマラは覇王色の覇気の開花と能力の覚醒を手にした。

 そこから両者の接触は極端に減った。スマラは初めて自由を手にしたのだった。海賊も海軍も、これ以上の深追いは危険だと判断したのだろう。

 

 それから数十年。全く接触が無かったとは言い難いが、海賊王の死によって大海賊時代が幕を開けると、スマラに戦力を回せないのか特に減った。東の海に居た頃は一回も無かった。

 ……しかし、何かの因縁か、再びこの海に戻ってきた。

海軍及び世界政府には当にバレている。恐らくだが海賊にもバレているだろう。

 海軍はこうして接触する回数が増えているが、海賊側はまだない。新世界まで戻ったのなら、恐らく……必ず接触してくるだろう。餌を用意して……………。

 

 

 

 

「…………………」

「ちょっとスマラ。どうかしたの?」

「……いえ、昔を思い出してただけよ。それで?もうお終い?なら読書に戻らせて…」

「待って!!もう一つだけ」

「何か?」

「ホントに仲間にならない?この先青雉みたいな奴が現れるなら、スマラが居てくれた方が安心できるし……みんなももうスマラのことは――」

「残念だけど、それは了承できないわ。……確かにこの船は居心地が良いわ。でもそれだけじゃダメ。悪魔の子を乗せていることで青雉が現れたように、私にも最も深い奴らが現れる」

「でも!私たちが何とかしてあげることは」

「出来ない。今回の青雉は本気ではなかった。私を追いかける奴らはそんな遊び半分で来ないわ。逃げ切るにも精一杯、場合によっては何人か失う事になるわ」

 

 それは、スマラなりの心配だった。こんな自分を良くしてくれている人たちを失わないように仲間にはならない。

 一歩。そのたった一歩が最も重要なのだ。

 

 だからスマラは何時も一人だ。

 一人の方が過ごしやすく、好みだというのもあるだろう。しかしそれ以上に、迷惑をかけたくないから独りであり続ける。

 




 昔説明した内容をもう一度だったり、矛盾してたりしたらごめんなさい。
 特に年数はキチンと調べていないため間違ってる可能性もあります。

 そろそろスマラの親を見つける読者様もいるのでは?と思いつつ、誰もが自分の策略に引っかかってくれて安心している作者。

 書き終わってから気が付いた。ほぼナミ回だなぁ。っと

 次回からウォーターセブン!!と言いたいのですが、もう少しだけ停泊中です。
 次回はオリジナル回かな?スマラは約束を守る子なので。


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527 四十六頁「手合せ」

伏線?回収です。
スマラが刀だけでゾロと戦ったらどうなのか。

誤字報告、いつもお世話になっております。ありがとうございます!!!

FGO
スカスカ巌窟王でゴールドタグ級周回。


 

 

 次の日の朝がやって来た。

 ロビンとルフィは目を覚まし、チョッパーに安静にするように言われながらも、いつも通りの様子を見せる。

 しかし、肉体的な疲労は勿論、海軍本部の最高戦力に襲われたというのは精神的な疲労を溜めていた。

 航海を急いでいる訳でもないので、養生の為数日間停泊する事になった。

 

 

 一日が経ちルフィが安静にする事に飽きた頃、いつも通り部屋の中で読書に浸っていたスマラに声をかける存在が一つ。

 

「おい」

 

 たった一言。だが、それだけで誰がどんな意味で声かけを行たのか理解できる。

 

「あら、青雉にやられた傷はもういいの?」

「腕が凍っただけだ。すぐ直った」

「へぇ~……で、呼んだ理由は?」

「前から言っていた約束を果たしてもらおうか」

「そう」

 

 栞を挟んで本を閉じる。そのままリュックサックにしまい込むと、軽々しく船を飛び降りた。

 ゾロがスマラに続こうとして……

 

「おいゾロ。何処に行くんだ?」

 

 二人を見ていたウソップがゾロに質問した。何かを作っているのか、『ウソップ工房』と書かれた木箱から作業道具を広げている。

 ゾロは何でもないように言いながら船を跳び降りた。

 

「鍛錬だ」

「そっか~。鍛錬か…………ってスマラ相手にか!!?」

「そうだ!!夕飯前には戻る!!」

「はぁ!!?そんな事を聞きたいんじゃねぇよ!!」

 

 鍛錬。それだけならウソップも「なんだ、何時ものことか」と興味を直ぐに失っただろう。

 だが、ゾロは直前にスマラに声をかけて一緒に降りて行った。そこから導き出される答えは、スマラ相手に鍛錬をするつもりだ、ということ。

 いくら何でも無茶苦茶だ。昨日の夜、ナミから聞いた話では、ルフィ、ゾロ、サンジが手も足も出せなかった大将青雉に互角の勝負をし、そのまま余裕で撃退したそうだ。

 そんな相手に鍛錬。強い相手に修行を積むというのは理にかなっているが、いくら何でも実力差があり過ぎる。

 また一つ、心配事が増えてしまった。この話をオレ一人しか聞いてないのか……とウソップは何時も通りネガティブになるのだった。

 

 

 

 

 

 向かった場所は先日青雉とスマラが争った場所。

 地面が少しだけ凸凹になっているのが、戦闘の激しさを物語っていた。

 前を歩いていたスマラがクルっと周り、後ろを歩いていたゾロに向き合う。

 

「それで、まだ私と戦いたいのかしら?」

「当たり前だ。強い奴と戦うだけで修行になる」

「……私が、貴方たちが手も足も出さなかった青雉と同じくらい強いと知っても?」

 

 圧倒的な戦力差は単なる蹂躙にしかならない。鍛錬や、修行になるわけがないのだ。

 スマラは言外にそう言う。しかし、ゾロの意志は硬い。

 

「お前が俺たちの何倍……何十倍も強い事は分かった。だがな、剣の勝負だけでも勝てると言われるのは俺のプライドが許さねえんだ」

「そう。剣術はほんの少ししか出来ないわよ?」

「はっ!そのちょっとしか出来ねぇ奴が勝てるって言うのはどうなんだ?」

「だから、私と貴方では身体能力が違うわよ。剣術でそれを埋められるのならいいのだけど……」

「つまり、俺の剣術が強ければ倒せるわけだな」

 

 違う。そうではない。

 幾らゾロの剣術が強かろううが、自分の素の身体能力だけで完封出来る。スマラはそう言いたいのだ。

 しかし、戦闘狂のゾロはまるで分かっていない。脳筋で考えることを若干放棄している節がある。

 スマラは仕方ない、何を言っても無駄だろうと早々に切り捨てる。

 

「それで?試合方式は?」

「一本勝負だ。俺は勿論本気で行かせて貰う」

「はいはい。で、私が能力禁止で尚且つ刀を使うのね」

 

 刀なんか持ってないけど……とスマラが言いかけるが、ゾロが持っていた刀を投げよこした。

 なるほど。このために持って来ていたのか。珍しく準備の良いことだ。

 

 ゾロがスマラに渡した刀は、名刀でも両刀でも何でもないただのありふれた刀。船の武器庫に眠っていた一振りだ。

 鞘から抜いて軽く振ってみる。特に違和感もない。極端に軽い訳でもなく、重たくて振れない訳でもない。本当にただの量産品。そんな感じの刀だ。

 対してゾロの使う刀はどれも名刀揃い。大業物工の和道一文字、良業物の雪走、業物の三代鬼徹。どれもこの刀に比べたら、スマラの使う刀はごみ同然。下手したら切れ味の差で折れる。

 

「………」

「なんだ?不満か?」

「いいえ。これでも問題ないわ」

「はっ!そうかい」

 

 刀を使うとは言ったものの、剣士ではないので鞘は邪魔になる。腰にぶら下げず、その辺に置いておく。このくらいは良いだろう。

 

 対峙するゾロとスマラ。

 スマラは刀を中段の構えを取ってゾロの出方を待つ。対してゾロは、手ぬぐいを頭に巻き刀をそれぞれ両手と口で持つ。最初から全力で行くつもりだ。

 そうしないとこのハンデ戦でも勝てないと、青雉とスマラの戦闘を見て思ったからだ。

 

 開始の合図はいらない。準備は既に済んでいる。目と目が交わし合い、ゾロとスマラの戦いが幕を上げた。

 

 

 

 

 

 先に動いたのはゾロだ。地面を蹴ってスマラに肉弾する。両手の刀を巧みに動かし連撃をスマラに打ち出した。

 しかしスマラはこれを難なく捌く。見聞色の覇気を使った行動を読み取って、交わしたり刀をぶつけて流したりするだけで攻撃を寄せ付けない。

 

 ただの素人がゾロの連撃を容易く捌けるわけがない。大抵は一撃目で力負けして攻撃を喰らうか、一撃目を防いでも二撃目、三撃目と二本ある刀を防ぎきるのは不可能に近い。素人ではなく、各地で名をはせている剣士なら捌くくらいなら可能だろうが………スマラにその様な技術は持っていない。

 確かに能力は使っていない。しかし覇気を使うなとは言われていない。

 

「ちっ、空島の神官と同じか……だったらっ!!」

 

 ゾロは空島の神官がマントラを使って攻撃を避けるのと同じように、スマラが同じく力を使って攻撃を予測していると理解する。

 攻撃を避けられるなら、避けるよりも早く攻撃を仕掛ければ良いッ、とゾロは攻撃の速度を上げる。

 

 がしかし、それが神官や少し強いだけの相手なら通じただろう。

 スマラには通じない。能力を使わなくても生まれ持った肉体は一般人の限界を軽く凌駕する。それでなお、見聞色の覇気で未来を見通しているのだ。簡単に当たるわけがない。

 

 

 ならば、硬直状態に持ち込んで力勝負。とゾロは刀と刀がぶつかり合った瞬間に踏む込む。

 暇な時間があれば常に鍛錬を繰り返し、常人には理解不能な筋肉を身につけたゾロと、親から引き継いで細いながらも強靭な肉体、別に欲しくもなんともなかった物を才能だけで制御するスマラ。

 力は互角だ。いや、若干スマラが上回っている。

 ゾロは押され始める腕を見て「化け物かよッ」と心の中で呟いた。通常時ならこれに加えて能力で補助してくるのだ。能力禁止のハンデ戦でなければ、青雉の時のように一蹴されただろう。

 

 

 いい加減硬直状態に飽きたスマラがグッと力を込めてゾロを押し返す。

 ゾロは、このままだと推し負ける事は明確だと判断し、あっさりと引く。

 後ろに跳び退いて距離を置くゾロ。スマラからの追撃は……来ない。基本待ちの戦法だから当然だ。

 

 

 ゾロは次の攻撃に備えて刀を構える。

 

「三刀流『百八煩悩風』!!!」

 

 ゾロが持つ最強の斬撃を飛ばす技である。鉄の硬度すら容易く切り裂き、空島では神官オームを仕留めた技。

 遠距離攻撃故に隙が多く避けられる心配もあるが、これは鍛錬である。だからスマラが避けない事にかけた。

 あれだけ言い張っていたのだ。必殺技なら避ける事をしねぇよな?

 ゾロの目線はスマラにそう言っていた。そしてスマラは動かない。

 

 賭けに勝った。ニヤリとゾロは嗤う。

 この斬撃は鉄すら軽く切り裂くのだ。スマラに渡した刀だと防御は不可能だろう。少々卑怯かもしれないが、それ込みでスマラは了承したのだ。だから仕方ない。

 

 斬撃を目の前に動かないスマラ。そしてついに動いた。

 

「武装色硬化」

 

 スマラが呟くと『黒い何か』がスマラの手を覆った。手だけには収まらず、刀までも黒く染め上げていく。

 そうして出来上がった物はまるで黒刀そのもの。

 ゾロに嫌な予感が走ると同時に、スマラがその刀を斬撃にぶつけた。

 

 技と技の衝突時に起こる衝撃が巻き起こる。砂煙が巻き起こり、互いの様子が目視できなくなった。

 嫌な予感が湧いてならないゾロはそのまま突っ込む。スマラが斬撃でやられたなどとは考えない。考えたら負けだ、手加減しても負けだ。鍛錬などと思うな。

 

「『鬼―――斬り』!!!」

 

 ゾロの十八番の技。刀をクロスさせ、尚且つ三本目の刀を加える事によって逃げ場を無くし、ありったけの力を加えて発動させる。

 今まで最も頼ってきた技とも言えるだろう。

 

 

 しかし、

 

 

「はっ!バケモノかよ」

「………」

 

 その技も止められてしまった。黒くなってる刀によって。

 

 

「それは能力とは別の力なのか?」

「……そうね。万人とはいかないけど、誰だって使えてもおかしくない力よ」

「そうかよ」

 

 膠着状態を使ってゾロはスマラに尋ねた。

 スマラは覇気そのものは教えずに、誰でも使える力だと言う事だけ伝えた。それ以上は教えない。

 聞かれても困るだけだ。概要は知っている。でも、それは自分たちの力で見つけるべき存在だからだ。この先進むのなら、覇気は必ず習得する必要がある。だからスマラは教えない。精々ヒントを渡すだけだ。

 ………それに、やり方を聞かれても困るのはスマラの方だ。何せ、必要に迫られて習得した物だ。習得方法など知る由もない。

 

 

 約束だから仕方なく相手をしているが、そろそろ飽きてきた。単純とは言えないが、これといって頭を使って戦法を立てている訳でもない。力業のオンパレード。

 手合わせなのだから様子見で剣を打ち合っているが、スマラは戦闘が好きではない。というか、読書をしてない時間が勿体無いと感じ始める。

 

 イライラし始めるスマラに気づいたのか、ゾロはスマラの様子がおかしいと感じ取った。

 瞬間、スマラが力を抜いてゾロの体制を崩した。そのままゾロに向かって剣を振り斬る。

 が、ゾロも負けていない。気合で体制を整えると、スマラの攻撃を捌く。つもりだったのだが、スマラがゾロの刀を避けて振り切った。

 

 

「これで、貴方の首は落とされて戦死。流石に首を斬られたら生きていられないでしょ?」

「………あぁ、参った」

 

 

 スマラの刀はゾロの首筋に添えられていた。命の奪い合いだったのなら、ゾロはこと切れていただろう。

 

 完敗だ。連撃は捌かれ、遠距離からの斬撃も落とされた。刀を折るつもりの攻撃も謎の力で防がれ、力業でも負ける。

 スマラの剣術が嗜む程度だったのか、それともゾロが強くなっているからかは分からないが、鷹の目のミホークと戦った時よりは戦闘になっていた。

 しかし、能力禁止でのハンデ戦にしておいて、自分の得意分野での勝負に負けた。

 こんなにも差が空いているとは思わなかった。得意分野で負けたのは恥だ。これまで以上に鍛錬を積み重ねよう。ゾロはそう決意出来た有意義な時間になった。

 

 

 

「あぁ!!!マリモてめぇ!!!スマラさんに何してやがる!!!!」

 

 戦闘が終わって刀を納刀していると、声が響いた。この主はサンジだ。

 汗をかいて刀をそれぞれ持っている様子を見て、サンジは大激怒。ゾロに一直線に向かっていく。

 

「あぁ?単なる手合せだ。お前には関係ねぇ」

「関係大有りだこの野郎!!スマラさんに怪我でも出来てみろッ!俺はテメェを許さねえ!!」

!俺はテメェを許さねえ!!」

「はっ!!手合せなんだから仕方なくねぇじゃねぇか。それに、そいつはピンピンしてるぜ」

「そういう問題じゃねぇんだよ!! スマラさ~ん!!大丈夫ですか!!」

 

 ゾロとの言い争いに見切りを付けて、スマラにくねくねと向かって来るサンジ。

 スマラは何でもないように無事を確認させた。

 

「問題ないわ。少し疲れただけで、怪我は負っていないわ」

「そうですか。……ったく、あのマリモの野郎。スマラさんと手合せなんて……。断って良かったんですよ?あの野郎は俺が下ろすとして……」

「実力を見せるいい機会だったから、良いわ。約束したのは自分だしね」

「………分かりました。帰ったら何か作りましょうか?」

「えぇ、お願い」

「はい!!喜んで!!」

 

 

 サンジは急いで帰って行った。忙しい人だ。

 ボーっと眺めていると、先を歩いているゾロを吹き飛ばす様に妨害し、ゾロがそれに対して怒る、というのいつも通りの喧嘩が始まった。

 

 後は………とスマラは記憶を巡らす。この際だから、約束を一気に終わらせてしまおう。

 古代文字の習得に時間が必要かもしれない。最悪、概要だけ学んで、後は独学でどうにかする必要がある。物語を読むためなら努力も惜しまないスマラであった。

 

 




すみません、もう一話滞在させます。


次回の後半にはウオーターセブンに突入出来たらなぁ~と考えております。
今年中には後二話程更新出来たら良いと思っていますので、残り僅かな2019年をよろしくお願いします!!


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538 四十七頁「お勉強会」

次回からウォーターセブンだぁ!!

FGO
幕間クエと二部フリクエ周回中。箱開け作業が終わってません……。


 ゾロとの手合せから一日後。滞在三日目の事だ。

 ルフィは言わずとも超回復を見せ、安静にするのも限界に達して来た頃だ。

 ロビンが大分回復してきた。ルフィの様に激しく動いたりするのはまだ無理があるらしいが、会話や食事くらいなら問題なく行えるらしい。

 

 

 未だに調子が万全ではないロビンの為にと、元気な者どもは皆甲板に出ていた。

 そんな中、椅子に座ってゆっくりと朝食を取っていたロビンの前にスマラが座っていた。

 朝食は既に食べ終えている。本を取り出していつものように読書に勤しんでいた。

 

 何時もの光景。特に意味がなく、ただ単にスマラが偶々ロビンの前に座っているだけのこと。

 ルフィやウソップ、チョッパーたちが見たらそう思うだろう。しかし、ロビンは持ち前の洞察力で何かあると察した。

 

「何か要件があるのではなくて?」

「あら、どうしてそう思ったのかしら?」

「フフフ、勘よ」

「そう……要件があるのは確かよ。先ずは朝食を食べ終えてから話すわ」

 

 スマラから「要件がある」そう言われれば、未だにこの船の仲間と考えているわけでもなく、海賊船に乗っていながらも海賊ではないスマラを警戒しないわけがない。

 毎度毎度、そうやって警戒を怠らなかった故に逃げてこられた。スマラに獲物認定されれば、これまでで最も厄介な相手になるだろう。大将青雉と本気で戦っていながらも無傷で、それも撃退出来る人物など世界に一体何人存在しているだろうか?

 慎重に、慎重にいかなければならない。

 

 ロビンは気が気では無かったが、どうにか朝食を全て飲み込む事に成功。途中から味がしなかったが、完食と言えば完食だ。

 食器を片付けて元の場所に戻ると、スマラが口を開く。ロビンは気持ちを切り替えた。

 

 

「そんなに硬くならなくてもいいわよ」

「……硬くなったつもりはないのだけど?」

「そう、では本題ね。古代文字を教えなさい」

「何の為に?と質問するのは無駄かしら」

「内容を読みたい。ただそれだけよ。空島で約束したのだから、当然引き受けてくれるでしょう?」

「え、えぇ………」

 

 スマラの用事とは、アラバスタ王国を出港した時に交わした約束は果たす事だった。

 麦わら一味に乗せてもらえる様に働きかけるから、古代文字を教えろ。

 スマラは実際にロビンを援護した。それはたった一言だろうが働きかけたのに違いはない。

 ロビンは渋々ながら了承するしかない。

 

 では早速と、スマラはリュックサックの中から絶対に入らないであろう大きさの紙を取り出した。

 ロビンにも見覚えがある物だ。

 

「これは……歴史の本文の写し?」

「そうよ。これをお手本に読み方を教えてもらえると助かるわ。あ、言い回しや文法の手本が足りないのなら、お手本は幾つかあるわよ」

 

 何という事だろう。お手本がまだある。それはつまり、歴史の本文の写しを数枚持っていると言う意味そのものであった。

 ロビンが気づかないはずがない。そうこれは「教師役になるなら、見たことのない歴史の本文が読めるわよ?」と言われているようなもの。

 

 スマラがどうして歴史の本文の写しを複数枚持っているかと言われれば、本を求めて世界中を放浪した結果、としか言いようがない。

 

 

 ここまで来れば断れるわけもなかった。

 ロビンが乗り気になると、スマラはニッコリ笑顔でノートとペンを取り出した。

 

「さぁ、ご教授頂けるかしら?ニコ・ロビン教授」

 

 

 

 こうしてロビンが送る『古代文字を読もう講座』が始まった。

 二人は何時間も部屋に籠って古代文字の勉強を行う。ロビンが文法や文字を教え、スマラがそれを吸収する。

 しかし、ありとあらゆる言語を覚え、読書して来たスマラでも古代文字は難しい。それだけ重要な内容が書かれていると言う事だ。

 ロビンはこれを八歳の頃に覚えたというのだから、末恐ろしい。スマラも負けてはいられない。全ては内容が知りたいという、己の欲望のためだけに世界政府が禁忌している文字を覚える。

 スマラはスマラであった……。

 

 

 

 

 

 幾らロビンに気を遣って甲板に出ていると言っても、お昼ご飯の時間はやって来る。

 つまり、お昼ご飯の準備にサンジが入って来た。

 

「あ~済まない。邪魔しました?」

「いいえ、大丈夫よ。そうね……そろそろ休憩をしましょうか?」

「そうね。休憩は大事だわ。一気に詰め込み過ぎても効率悪いわ」

 

 サンジが昼ご飯の支度をしに入って来たのを区切りにして、スマラが受けるロビンの古代文字講座は一旦休憩となった。

 スマラとしても、文字を覚えるのは新しい物語を知れるきっかけになるので好きだが、いくらなんでも煮詰め過ぎた。

 食事による栄養補給と、読書によるリフレッシュが必要だと本能が騒いでいる。

 

 スマラとロビンが机の上に散らばっている紙やペンを片付けている間に、サンジが手慣れた様子で昼ご飯を調理していく。流石本職、瞬く間に完成する。

 サンジが大声を出して外に居る者たちに昼ご飯の完成を伝えると、三人を除いた全員が部屋の中に入って来る。

 ささっと席に着くと、大皿に盛り付けた料理をサンジが運んで来る。早速食らいつくルフィとウソップ、見かねたゾロとチョッパーも参戦。うっかりしていると、全部ルフィが食べてしまう。

 

「ったくあいつら品もねぇ……。さて、こちらがナミさんとスマラさんの分です。ロビンちゃんは別に食べやすい物を作ってるよ~ん!!」

「ありがとう、サンジ君」

「はい!!」

「……ありがとう」

 

 その点女性陣は安心だ。双子岬で大皿に取り付けたエレファントホンマグロをルフィ一人に食べられたのが余程悔しかったのか、サンジは女性陣の分だけ初めから取り皿に分けておいてくれるのだ。

 ナミとスマラの分を運んでくると、未だに本調子ではないロビンの為に食べやすい別料理をわざわざ作って持ってきた。

 本当に至れり尽くせりだ。女性陣だけの特権であるが……。

 

 

「ほうへいばさ」

「飲み込んでから喋れよ」

「んぐんぐ…ゴクン。そういえやさ、ロビンとスマラは部屋に籠って何やってたんだ?」

 

 思いついたことは直ぐに聞くの精神を持っているルフィは、食べ物を口に詰め込んだまま質問を繰り出す。が、隣に座っているウソップがすかさずツッコミを入れる。流石麦わら一味のツッコミ役。

 飲み込んだルフィは、スマラとロビン目掛けて質問を繰り出した。内容は午前中の事。ロビンはともかく、ロビンを気遣って皆甲板に出ているはずなのだ。昨日までスマラもそうしていた。

 しかし今日はスマラは部屋に籠りっきりだった。気になって窓からチラッと覗いてみた時には、机の上に何かを置いて話し合っていたのは見えたのだ。

 好奇心旺盛なルフィは気にならないはずがない。宝の地図でも書いているのか?はたまた冒険の話?

 考えることが苦手……というかしないルフィは直球で質問したというわけだ。

 

 これは答えても良い物なのか?判断が付かなかったロビンはスマラに視線を向けた。が………。

 スマラはいつも通り、読書をしながら昼食を口に入れていた。目は一切、本に書かれている活字から離れていない。見聞色の覇気を発動してお皿の位置を把握して口に運ぶ。世界一無駄な覇気使い方だろう……。

 

 気が付いていないのか?全くこちらを気にしていないスマラに、頭を悩ませるロビン。言った時に怒られるリスクの方が高いから黙っていよう。そう決めたロビンが口を開きかけた瞬間…。

 

「文字を教えてもらっていたのよ。考古学者は色んな文字を知っているからね」

「へ~~勉強かぁ!!それも本を読む為なのか?」

「そうよ。色んな言語を理解していないと、それだけ読める本の幅が狭まる。勿体ないと思わない?」

「いや、全然。だって俺は本読むと眠くなるからな!!」

 

 わっはっはと笑うルフィをスマラは可哀想な子を見るような視線を一瞬だけ送った。

 というかスマラ。本を読みながらも会話をキチンと聞こえていたらしい。見聞色の覇気で食事をして、意識のほとんどを読書に向けながらも、周囲の会話も聞いている。忙しい奴だ……。

 

「でも、スマラでも読めない文字があるのね」

「えぇ。とても専門的な知識が必要になる文字なんかそうね。彼女の読書に対する想いは、呆れる程に大きいわね」

 

 ナミが会話に参加して来た。スマラは答える気がないのか、黙ったままなので代わりにロビンが答えた。

 古代文字を教えていることは教えない。秘密にしている訳ではないが、先ほどの言葉ではスマラは古代文字について言葉にしなかった。ならば、ロビンもそれに沿って言葉にしないべきだろう。

 

 

 その後は特にスマラに関しての話題は上がらなかった。昼食が終わると、サンジが食べ終えた食器を片付ける為に残っているのを除いて誰も居なくなる。

 それぞれ休息を楽しんでいるのだろう。海の上では常に危険に備えていなければならない。だから、この島に止めている間は良い気分転換にもなる。

 

 サンジが食器洗いをしている生活音が響く中、スマラはパタンと本を閉じてリュックサックの中にしまった。代わりに取り出したのは紙とペン。先ほどの続きをするらしい。が、その前に

 

「体調は大丈夫かしら?辛いなら今日は止めにするけど……」

「…いえ、このくらいなら大丈夫よ。それにしても、心配するなんて珍しいわね」

「…講師役に無理はさせられないもの」

 

 照れているのか、プイッと横を向いてロビンから視線を外す。

 これも重要なことなのだ。私益の為だろうが自分が知らない文字を教えてくれる先生に違いはない。病み上がりなら体調に気を使うくらいやってのける。

 巡り巡って自分の為なのだと言い訳をしながら、スマラはロビンとの勉強に戻った。

 

 

 

 

 

 古今東西ありとあらゆる本を読んでいるおかげか、一般人にしては頭の良いスマラ。しかし、そんな彼女でも古代文字の習得には時間がかかった。

 滞在期間最後の四日目、ロングリングロングランドを出港した一日目、二日目と勉強を積むと、ようやくたどたどしいながらも読める様になっていった。

 これはスマラの頭が良いのと、内容を読みたいと言う強い意志が成せる事であった。普通の人なら三日で新しい文字を…しかも読める人がニコ・ロビンしか存在していない古代文字を覚えれるはずはない。

 それだけスマラの意欲が強かったわけだ。

 

 出港三日目はロビンの体調もようやく戻って来たことと、ロビンが引っ付いて教えるレベルを超えて来たので、勉強会は一旦お開きとなった。

 

「まさか、三日でここまでくるとはね…。恐ろしいわ」

「褒めたって何も出ないわよ。でも、貴女だって八歳の頃に覚えたんでしょ?そっちの方が称賛に値するわよ」

「ふふふ。私の周りには最高の資料がそろっていたから…」

「全知の樹『オハラの大図書館』ね……。焼け落ちる前に一度訪れて見たかったものだわ」

 

 懐かしむようにしてスマラは目を瞑る。思い出すのは子供のころに本の写真で見た図書館内。どこもかしこも本、本、本、本で囲まれている。樹齢五千年を超える大樹をくりぬいて出来上がった大図書館は、長きにわたり世界中各地から大量の本が運び込まれていた。

 世界で最大最古の知識を誇る図書館……それは本好きの人間からしたら聖地だ。スマラとてそれは変わらない。

 

「焼け落ちる前に……ということは、貴女一度オハラに行ったことがあるのね」

「…えぇ。バスターコールで焼け野原にされようと、島から島民が居なくなろうと、世界地図に載っていなくても、そこに地面がある限り行くことは可能だわ。偉大なる航路を出てから直ぐに向かったわ」

 

 一度行ってみたかった……焼け落ちる前に、とスマラは言う。それはつまり、焼け落ちて、地図上から消え去ってしまったオハラに訪れたことがあるらしい。実にスマラらしい。聖地巡礼は基本中の基本だから……。

 オハラの悲劇、当時の事を思い出しながらスマラは軽く殺気が漏れた。

 

 あの時は酷く感情が揺らいだ。多分、生まれて初めて一番怒った日でもあるだろう。

 怒りの余り、世界政府及び海軍を壊滅させてやろうかと憎んだ程だ。

 実際には、まだ子供で今よりも力がなかったことから、諦めた。他の要因もあったが、ここでは語る必要はないだろう。

 もし現在同じような事が起こったなら、自分は果たして感情を抑える事ができるだろうか?………多分、無理だろう。世界政府もそのことを配慮していれば良いが……。

 

 

 

 と、この辺でオハラの話題は辞めるべきだろう。唯一の生き残りであるロビンにとっても、聖地と言っても過言ではない場所を破壊されて世界政府に強い怒りを覚えているスマラにとっても良い話題ではない。

 

 勉強会が終わったスマラとロビンの行動はそれぞれだ。

 ロビンは久々に甲板に出て、皆に体調の全快を知らせる。スマラはいつも通り、この三日間で読めなかった分を取り戻す勢いで読書に勤しんだ。

 つまり、何時も通りの日常に戻ったわけだ。

 




 というわけで、ギリギリ出港まで持っていけました。次回からウォーターセブン編スタートです。
 ちょっと思い切った行動させるので、その反応がどう出るのか心配してます……。一回目のターニングポイントですね。
 伏線は張っているので、分かる人には分かります。……多分。

 では、次回で今年最後の更新になります。といいますが、執筆ペースにもよりますが29日にも投稿できるかも?
 年末年始ですが、FGOと執筆作業は通常通り行いますよ。初詣も近くの(歩いて五分くらい)地元民ですら行かないようなとても小さな神社に行くだけですし……。勿論仕事も入ってるよ!!


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554 四十八頁「世界政府からの使者」

お待たせいたしました。急展開に入りますが、まだ終盤でないので安心を。


FGO
アトランティス良かった。エウロペに7万……なのに超人オリオンは宝具4って。


 ロビンと入れ替わる様にして入った来たサンジに、ミルクたっぷりのコーヒーを淹れて貰って数時間。

 一度、船がオールで漕がれたり、海列車と言うこの辺りにしか通っていない海の上を走る蒸気機関車の駅に止まったりしたが、概ね順調に航海は進んだ。

 

 そして到着した。偉大なる航路の前半部分最後の島。水の都『ウォーターセブン』

 街の半分が水に浸水しており、人々は水路をうまく使って移動を行う。

 街の中央に行く程高くなっており、遠目からでもわかる街のシンボルマークは巨大な噴水。見るものを圧倒する街……島、それがウォーターセブン。

 

 

 スマラは島に着いても即行動と行かない。じっくりと今読んでいる本をいい場所まで進める。

 その間に島の安全を確認するのも怠らない。この位置でそこまで気づかないということは、青雉のような規格外のバケモノは島に居ないと言う事だろ。しかし念を入れて見聞色の覇気を使って念入りに調べていく。隠れた実力者の位置を把握しておくことは、自分の身の安全に繋がるからだ。

 調べた結果、感じ取れたのは麦わらと同じかそれ以上の強さを持った者が四名この島に居ると言う事だった。精度を上げたなら、場所すら分かるだろうが、そこまで面倒なことは無しだ。居ると言う事が分かっていればそれだけでいい。どうせ見聞色の覇気は常時発動中なのだ、近づいて来れば丸わかりなのだから……。

 

 

 さて、良い場面まで読書は進んだ。ならば、栞を挟んで本をリュックサックにしまう。そのままリュックサックを背中に背負うとドアをくぐって甲板へ出た。

 既にルフィ、ナミ、ウソップの気配が近くに感じ取れない。一番厄介そうな二人は出払っているらしい。

 そこでほっと一息。息を殺して…までとはいかないが、極力目立たないように移動して船を降りようとする。が、そこでスマラに待ったをかける人物が二人、

 

「おっ!?何処か出掛けるのか?スマラ!!」

 

 チョッパーだ。隣にはロビンも立っていた。

 スマラは面倒くさそうに答えてあげる。チョッパーの純粋さには敵わない。

 

「書店巡りよ」

「そうなのか。だったら、俺たちも同行してもいいか?」

「私達も散策がてらに寄りたいと思っていた所なのよ。いいでしょ?」

 

 同行を求めてきた二人。一瞬拒否しようと考えたが、そうして理由を求められるもの面倒くさい。

 スマラは同行を許可した。何処かに立ち寄るなら、自分は無視して書店に向かえばいいだけの話だ。

 

「分かったわ。準備は終わっていて?」

「えぇ、勿論よ」

「よし!!じゃあ出発だ!!」

 

 こうして、スマラの書店巡りツアーinウォーターセブン編は開幕した。

 

 

 

 

 

 街は水路で溢れている。人々はそれを活かして、ブルという生物に乗って移動範囲を広げていた。

 しかし、だからといって陸路がないわけでない。ブルの存在その物を知らない人や水路を使って移動するまでもない距離を移動する街民の為に幾らか道もある。

 場所は裏町の商店街。裏町とは言えない程に、こちらもデカイ水路を中心に栄えていた。

 そんな横道をスマラとロビン、トナカイ形態に変身しているチョッパーが歩いていた。

 

「水が澄んでいて綺麗ね」

「歩ける場所もあるんだな。…というか、スマラは良くこんな場所を知ってるよな」

「街の紹介記事に載っていたわ。あ、こっちね」

 

 チョッパーの問いに淡々と答えるスマラは、地図も無しに先導していた。

 実を言うと、ウォーターセブンに訪れるのは二度目なのだ。前回訪れたのが、新世界から前半の海に逆走した時。何十年も昔の話だった。

 何十年も経てば、島はこうも発展を遂げるらしい。人の勢いも盛んで、造船技術もまとまっている。

 それ故に書店の場所くらいなくなっているかもしれない。しかし、スマラはどこにいても本を読む。いつ読んだかも覚えていないマイナーな新聞に載っていた情報をも覚えていたスマラは、その情報通りに進んでいく。何十年も昔の記憶よりも、確か数年前に見た情報の方が正しいに決まっているからだ。

 

 しかし、その情報通りに進んで見つからなくても構わない。情報とは常に刻一刻と変化していくもの。その通りになっていなくても、一向に構わないのだ。まぁ……スマラの持っている情報が数年前と数十年前と言う途轍もなく古い情報なので仕方が無いのだが……。

 

 

「書店発見……」

「ホントか~~!!」

 

 そう。持っている情報などどうでもいいのだ。活気の多い場所を目指せば、書店の一つや二つ程見つかるだろう。

 案の定見つけたスマラが呟くと、チョッパーが即刻反応した。二人して一瞬にして短い距離を移動。その様子にロビンを呆れさせるのだった。

 

「ロビ~ン!!先に入っておくぞ!!」

 

 さっさと店内に入り、片っ端から試し読みをしていくスマラと違い、チョッパーは律義にロビンに声をかけてから店内に入ってくる。獣人形態ではなく、人間形態なのは他人の目線やお店の人を気にしているのだろう。

 

 

「あ………まいっか」

 

 そしてスマラ。書店が目の前にあることで見聞色の覇気を緩めてしまった。だから、島に入る前に確認した気配の接近を許してしまったのだ。

 しかしスマラ。自分に害がないなら特にアクションを行さないのが基本。

 不意な接近を許したけど、自分に用があった訳じゃないからいいよね!!と、直ぐに失敗を忘れる。

 

 

「あれ?ロビン?」

 

 だから、読書に夢中でロビンがその強い気配を持った者と接触し、この近くから消えた事に気付かなかった。

 まぁ、気づいていたとしても、スマラは無視すると思うんだけどね!!

 

 裏町の商店街には、チョッパーがロビンをよぶ声だけが響いた。

 

 

 

 

 

 いつも通り、殆ど全部の棚に入っている見たことない本を確認した後、手持ちの金額と相談しながら本を購入した。その数数十冊。

 少ないようにも見えるが、何百、何千、もしかしたら軽く万を超えているかもしれない数の本を読んで生きてきた。

 読んだことのある本などいくらでもあるだろう。寧ろ、数十冊もあった方が凄いのだ。流石は大都市でもある島。海列車のこともあり、貿易が盛んらしい。

 

「これください」

「はへ~!!これ全部かい!?」

「??そうですけど?」

「こんなに沢山……お金は払えるのかい?」

「勿論よ。でなければ、カウンターに持っていかないわよ」

 

 と、ひと悶着あったものの、無事に本の補充を行えたスマラ。ホクホク顔で書店を出る。

 周りには、ロビンもチョッパーも居ない。早速逸れたらしい。が、スマラは気にしない。元々、勝手に着いて来ていた関係だ。居なくなっても困りはしない。

 スマラは更に裏路地へと歩いて行った。買ったばかりの本を読みながら……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕方になった。あれから数件書店を巡ったスマラのテンションは最高潮に達していた。

 なぜなら、おおよそ数か月ぶりのまともな書店だったのだ。ロングリングロングランドでは遊牧民で書店すらない状態。空島では本はあるものの、小さい。アラバスタ王国での王宮図書室が最後。長かったなぁ……。

 

 目線を下に向けて本を読みながらテクテクと裏路地を進むスマラ。

 そんな彼女に忍び寄る黒い影。

 

「おいおい嬢ちゃんよ!!こんな場所に迷い込んで迷子ですか~」

「……………」

「無視とは酷いじゃねぇの」

「こんな物ばっかり読んでるから、俺たちみたいなのがいる場所に迷い込むん…だぞっ!」

 

 スマラの行く手を阻むのはどんな裏路地にも潜んでいる悪漢。表舞台に出られないチンピラだ。

 獲物が自分からノコノコと現れたぞしめしめ…とスマラを標的に定めたチンピラは、目を離さない本を奪い取ろうとして腕を振り下ろした。

 

「……」ヒョイ

「あん?よけやがって。もう一度!!」

「………」ヒョイ

「このっ!!いい加減にしろ!!」

 

 当然、当たるはずもない。このくらい読書の片手間でも行える。

 まるでダンスを踊るかのようにして避け続けるスマラ。対して段々と息が上がっていくチンピラ。身体の作り方が違うのだよ。(物理的に)

 避けるスマラとそれを追い回すチンピラ。段々と面倒になってきたスマラは……。

 

「よっしゃー!!ついに追い詰めたぞ!!」

「………」

「その身体、貰った!!!……ぐっふ」

 

 回避を止めて反射に変えた。攻撃が当たったと確信したチンピラを撃退。代償は腕の骨だ。

 あまりの痛さに気を失うチンピラ。獲物にする人は選ぼうね。でないと、命を失うかもしれないわよ。

 

 

 

 チンピラを撃退したスマラ。それまで一言も発しなかった声を発した。まるで、闇に紛れた者に呼びかけるように。

 

「それで隠れているつもりなら、なんてお粗末なもの」

「……」

 

 スマラの声に反応して出てきたのは、馬の仮面を被った何者かだった。

 強い。青雉ほどでないが、読書の片手間では対抗できないレベルの者だ。島では一番反応が強い。

 スマラはくるりと振り返り、めんどそうに…しかして油断ない目で返す。

 

「CP9です。と言いましたら、貴女にはお分かりで?」

「政府の闇がなぜ此処に……とは聞かないわ、どうせ答えてくれないのでしょう」

 

 スマラの前に現れたのはCP9と呼ばれる、政府の諜報機関の一員だった。

 CPでサイファポール。それは一般にも知られている政府の諜報機関だ。全部で1~8まであり、色々な仕事を請け負っている。

 しかし目の前に現れたのは9。一般的には知られてない、闇の組織だ。

 一般的に知られていない組織を何故スマラが知っているかというと、昔に色々あったと言っておこう。

 

「賢明な判断だ」

「さて、政府の判断は何?」

「ここでは漏れる可能性がある。ついて来い」

 

 早速要件を聞き出そうとするスマラだったが、相手は情報漏れを恐れて別の場所に移動すると言い、歩いて行く。スマラの意見など聞いちゃいない。

 だが、内容が内容だ。スマラとしてはどうでもいいが、政府からしたらこの情報は絶対に漏らしたくないものだろう。

 内容を聞かずに帰るわけにもいかず、スマラはCP9の後ろをついて歩く。

 

 

 

「ここだ。この中に入れ」

 

 CP9が案内したのは、裏町に存在している一軒のバーだった。

 政府が案内する場所としては少々安易過ぎる。と思ったものの、店じまいがしてあるのか、ドアには『クローズ』――――――閉店を示す札が掛かっていた。

 気にせずに中に入って行くCP9。どうやら、買収若しくはグルなのだろう。

 

 店内はありふれたバーそのもの。とてもじゃないが、政府が用意した場所とは……。

 

「こっちだ。この中には入れ」

 

 CP9が指さした方向には、不自然な形で壁にドアがあった。

 元々壁で、突貫工事で作ったにしては綺麗過ぎる。まるで、一般的じゃない法則によって生み出されたような……。

 

「あぁ、悪魔の実の能力ね」

「……」

 

 沈黙は肯定と取る。正にそれだった。

 部屋の中にドアを潜って隠し部屋に入ると、そこには良く見知った姿の人がいた。

 

「貴女っ!!CP9だったの!!?」

 

 数時間前に別れた…勝手に何処かに消えたロビンだった。

 彼女はスマラがこの場に現れた事に対して大きな疑問、ショックを受けている。なぜなら、ロビンにとってこの場に居る全員がCP9で敵だからだ。現れたスマラをそう言う解釈するのも無理はない。

 勿論、スマラだって間違われるのは認めない。誤解ダメ絶対。

 

「そんな訳ないじゃない。政府とか一番信じられないわよ」

「その直属の機関であるわしらの前で言うのは凄い心じゃのう」

 

密室の中で待っていた一人がスマラの説明にツッコミを入れる。骸骨のマスクを被っている人物だ。

 その他には、密室にドアを作った熊の仮面の大男。SMプレイが好きそうな衣装まとった女性(勿論、仮面を被って正体を隠している)

 合計四人。これがこの島で最も強い反応を示している者の正体だった。

 

 

「さて、ニコ・ロビンには全部を説明したが、貴様には必要か?」

「いいえ。面倒だから概要だけで良いわ」

「話が早くて助かる」

 

 リーダー枠なのだろう。この中でも桁違いの反応を見せる馬の耳のマスクを被った人物。リーダーなのにスマラの迎えに向かったのは、唯一対抗できる可能性があるからだろう。

 馬のマスクを被った人物は女に説明を任せた。

 

「ニコ・ロビンは政府の命令により捕縛。その後インペルダウンに連行します。麦わら一味については放置。ニコ・ロビンとの交渉により、この島を出るまで手出し不可。分かりましたか?」

「別に良いわよ。私に言われても、「はいそうですか」としか言いようがないわ」

「同じ船なのに無頓着なのね」

「乗っているだけだもの」

 

 これでロビンがこの場に居る理由が分かった。この世界で唯一古代文字が読めると思われている存在なのだ。世界政府も当然捕縛するに決まっている。

 

「では、私たちが世界政府より受けた伝言を伝えます」

「えぇ。どんな判断を下したのかしら?」

「政府は貴女の確保を命令。我々は明日にエニエスロビーに帰還しますが、同行していただけますか?」

 

 青雉経緯で世界政府に伝えた伝言。それはしっかりと伝わっていたらしい。

 世界政府が下した決断はスマラの確保。スマラを自由にはさせたくない、海賊側の戦力となるなら、こちら側に持っておきたい。そう思っているのだろう。

 

 しかし、スマラとて無条件で従う訳がない。

 

「タダで同行を許す程私はバカじゃないわよ。対価を要求したはずだけれど?」

「えぇ。政府が示した対価は衣食住の絶対保証」

「………まだ足りないわ」

「一般的に入手可能な物を全て」

 

 世界政府がスマラを囲う為に示した対価は、生活に必要な物全てと望む物の全て。つまり、スマラは一切働かずに本を読むだけの怠惰な生活を送ることが出来る訳だ。

 途轍もない好条件だ。これまでは自分で海賊を討伐し、海軍から賞金を稼いでいた。しかし、この場で頷けば、天国が待っている。

 

 だからスマラは………

 

 

「分かったわ。ただし、もう一つ条件を付けてもらうわ」

「……条件?」

「なに、とても簡単な事よ」

 

 




はい。多分、予想の斜め上を行けれたと思います。
この後はどうなるのか!!まだまだ始まったばかりのエニエスロビー編をお楽しみ下さい。

次回も今年中にだせると思います。最悪、31日には出しますよ。
時間的にも次回が今年最後の更新ですな。


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566 四十九頁「利害」

23日にTwitterでチラッと見た情報なのですが、嵐とコラボするらしいですね。
原作ファンからすれば、正直言ってやめてほしい。する意味が分からない。あのリアル風の絵が受けつけられない。
普通に人気なのだから、無理やりコラボしなくてもいいのに……。とても残念です。

という愚痴から入りました。ほんへはウォーターセブン編からエニエスロビー編へと向かいます!!すぐ終わらせるつもりだけどね!!

今回何時もの倍はあります。理由としてはキリの良いところまで行きたかったからです。


「交渉成立ね」

 

 政府とスマラの交渉はあっけなく終わった。スマラにとっても悪い条件ではないし、世界政府もたったそれだけの事で世界レベルの厄介者を囲えるとなると、頬を緩ませるしかない。もっとも、使者であるCP9は仮面越しで表情が分からなかったが……。

 

「では、時間まで此処に……」

「いいえ。自由にさせてもらうわ。私が嫌うのは、自由を縛られる事。あなた達世界政府の命令に従う気は全くないわ」

「……。良かろう。せいぜい最後の時間を楽しむ事だ」

「……………そんなんじゃないわよ」

 

 引き留めるCP9を軽く威圧して自由を得ると、悪魔の実の能力者によって作られたドアをくぐり抜けて店を出る。

 とりあえず、船に帰りたかった。船を降りることにしたと伝えるためだ。

 一応乗せてもらっていた関係だし、島を出るタイミングでいなければ置いて行っても構わない、と言ってあるが、あのお人好し集団が素直に出港するわけがない。

 多分、島中を探し回るだろう。そうなると非常にめんどくさい。なので、自分から別れを告げるのだ。

 菓子折りでも持って行った方が良いのかしら?とスマラはズレた事を考えながら、船を泊めた場所を目指す。

 夜も更けてきているので、開いている店も少ないだろう。用意する気はゼロのスマラだった。

 

 

 

 船を泊めている裏町の岬。メリー号が見えてきた。見聞色の反応にも、ロビン以外の全員が集まっているのが分かる。

 ただ、中から感じられる感情はいつもと違う。激しい感情のぶつかり合いだ。

 何が起こっているのかは不明だが、そんな面倒ごとの場面の中に入って行かなければならないのか……。

 

 船に登り、ドアの前に立つ。ここまで来ると、部屋の中の声も聞こえてくる。

 激しい叫び声。つかみ合いになっているのであろう音。喧嘩だ。

 

「じゃあいいさ!!……そんなにおれたちのやり方が気に入らねぇのなら、今すぐこの船から…」

「馬鹿野郎が!!!」

 

 サンジがルフィを蹴飛ばしたのであろう。中から何かが壊れる音が聞こえてくる。

 サンジとルフィの喧嘩か?と思うものの、中から聞こえてくる声を拾えばそうではない事が分かる。

 さて、この状況をどうしたものか……とスマラは悩む。いつも通りなら、状況など気にも留めず甲板で読書を始めるのだが、現状スマラがしたいと思っていることは読書ではない。

 なので、時間が惜しい、扉の奥で起こっている事など関係無いとばかりに部屋の中に突入した。

 

 瞬間、

 

「……」

「あでッ……」

 

 ドアを勢い良く開けて外に飛び出そうとしたウソップにぶつかった。

 …………。

 ウソップだけでなく、部屋の中に居たロビンを除く麦わら一味の全員がスマラに注目する。

 とんだシリアスブレイカーだろう。流石である。

 

 一番早くに反応したのはサンジとチョッパーであった。

 彼らはウソップの事を気にしつつスマラの帰還を喜んだ。

 

「あぁ良かった!!おかえりなさいスマラさん!!」

「何処に行ってったんだよっ!!おれいっぱい探したんだぞ!!」

「良かった…ロビンもだけど、スマラまで居なくなちゃったのかと思ったわ」

「………スマラ」

 

 続いてナミも笑顔で対応する。が、一番元気そうなルフィが元気ではない。先程のやり取りを一番気にしている様子だ。

 スマラは何も答えない。代わりに、ウソップがスマラに言った。

 

「……どいてくれ」

「……………」

 

 素直に場所を譲るスマラの横を通り過ぎて、ウソップは船を降りる。

 スマラの登場で場の空気が冷え切り、お互いの感情が収まったかのように思えたが、ウソップはそうでは無かったらしい。

 慌てたチョッパーがウソップを追いかけた。

 

「おいウソップ!!どこ行くんだ!!」

「……どこへ行こうが俺の勝手だ」

 

 制止させようとするチョッパーの声を振り切ってウソップは進む。ウソップの行動が気になる皆も部屋から出てくる。

 そこからは急展開だった。ウソップが麦わら一味を辞めると言い張り、挙句の果てにはルフィに決闘を申し込む。

 何が何だか分からず、この状況に全くついていけない様子のスマラだったが、聞こえた会話から状況整理。そして理解する。

 

 なるほどね。意見の互い違い。ただの喧嘩ではないのね。

 原因は……メリー号。恐らく船の査定の結果に対する決断の対立だろう。

 ………海賊にはよくあることね。よくある事だからこそ、乗り越えなければならない。

 ……………私にはもう関係ない事だけれども。

 

 

 

 ウソップは今夜10時に決闘だと言って街に向かって消えて行った。

 ルフィは何を思っているのか、男部屋でハンモックに寝そべり何かを考えている様子。ナミはそんなルフィに向かって「仲直りしなさい」と言うも、ルフィにキッパリと無理だと言われる。

 ゾロとサンジもこんなことになった原因を、意味なく押し付け合いの喧嘩になり、ナミに止められる始末。

 ウソップを追いかけて行ったチョッパーも泣きながら帰ってきた。

 一味がバラバラになっていく。ナミが不安そうに呟いたが、誰も答えなかった。

 

 

 

 しんみりとした船内。麦わら一味の現状を示すかのそうに、外の天気は曇っていく。

 そんな中、男部屋には二人の人間が居た。ハンモックに寝そべっているルフィと、その真横に立っているスマラだ。

 

「………」

「……はぁ」

「…言いたいことがあるなら早く言え。俺は今気分が悪ぃ」

 

 何時もの元気が無く、気が立っていて不機嫌そうなルフィにスマラはめんどそうにため息をつく。

 こんな状況で告げなければならないのか……。だがしかし、今がチャンス。

 

「なら、遠慮なく言わせてもらうわ。私も今日限りで船を下ろさせてもらうわ」

「………スマラも俺達のやり方が気に入らねぇのか?」

「いいえ、別に何とも。ただ、この船に乗る理由が無くなったからその報告よ」

「諦めきれねぇと言ったら?」

「貴方の意見なんか聞いていないわ。利害が一致していたから乗っていただけ。利害がないのなら去るそれだけよ」

「……………」

「じゃあ、さようなら」

 

 

 仲間一人と喧嘩したばかりだからだろうか?ルフィはスマラが思っている以上にしつこくなかった。

 だが、これでいい。現状さえ乗り越えたらなら、彼らはスマラを追ってこない。追って来れない。

 

 男部屋を出て何時もの部屋を通り過ぎる。そのまま部屋を出て行こうとして……。

 

「何処に行くんですか?スマラさん」

 

 サンジに引き留められた。内心で舌打ちを行うスマラ。よくよく考えたら現状ルフィよりも面倒なのは彼らだ。

 それにこんな状況だ。船を出ていくスマラを気にしない人たちではない。

 

「……どこへ行こうと私の勝手でしょう?」

「もう夜よ。さっき帰って来たばかりだし……まさかっ!?」

 

 頭の回転が早いナミだ。決定的な証拠が集まっていないのに、スマラの考えを読み取った。本人はそうであって欲しくないと思いつつも……

 

「そのまさかね。船を降りる事にしたわ」

「……どうしてっ!!?」

「勘違いしないでほしい点は二つだけ。私自身が決めた事。他のメンバー離脱の要因とは全く関係ない事よ」

「……ルフィはどう言ってやがる」

「さぁ?まだ諦めてないように感じているけど、現状では強く引き止められなかったわ」

 

 ゾロが肝心のルフィについて質問するが、スマラはさっきの会話で掴んだ事を掻い摘んで教える。ゾロは納得したらしく、それ以上は何も言ってこない。

 しかし、ナミとサンジは納得してない。声を上げてその理由を聞こうとする。

 

「今になってどうして……」

「そうだぜ。何か悩み事があるなら俺たちに任せろって」

「……そんなじゃないわ。単にこの船に乗る理由が無くなっただけ。悩みがあるとすれば、引き留めるあなた達をどうやって黙らせようか?と悩んでいることくらいよ」

「………」

「でも…」

「分かった」

「ナミさん?」

「あんたがそういうのなら、そういうことにしといてあげる。戻りたくなったらいつもで帰って来なさい」

「………そうね。目的が出来たら……」

 

 そうやってスマラは麦わら一味の食客の立場を捨てた。

 サンジがまだ何か言いたそうだったが、去るスマラの後ろ姿を見て止めた。何となく、噓ではないと。本人が決めているならと、引き留められなかったからだ。

 ただ最後に、もう一度だけ晩御飯を作ってあげたかった……。

 

 

 

 

 

 麦わら一味とのお別れを済ませたスマラは街を歩く。既に日は完全に落ち、出歩いている者はほとんどいない。活気ある街並みは静かで落ち着く。

 別に別れに悲しい感情は抱かない。ただ、数か月間で慣れしんだ騒がしい日常が、それ以前の一人旅をしていた頃に戻っただけだ。読書が捗るいい機会ではないか。

 なのに、長編小説を読み終えた後のような感情が湧き出るのは何故だろう……。

 自分のことながら、スマラはこの感情を支配できないでいた。

 

 しかし、悩んでいても読書は出来る。風が強いが、能力を使えば無効化、または弱体化可能だ。

 行儀が悪く、本の活字も読みにくいが、何処かの屋根の上で読書に浸りたい気分だった。

 明日の何時に出発か知らないが、朝方には戻れば問題ないだろう。スマラはそう結論を出すと、跳び上がって屋根の上に赴く。このまま、月明かりが消えるまで此処に居よう。

 

 

 

 朝、というかまだ早朝にも満たない時間帯のことだ。

 月明かりはほとんど消え朝日が顔を出し始めた頃、街中が妙にざわつき始めたのだ。

 見聞色の覇気で常に周りの安全を確保を行っているスマラにも、そのざわつきは感じ取れた。読書の手を一旦止める程に。

 

「…怒り?……戸惑い?…心配?……よく分からないけど、面倒な事件が起こったのね」

 

 見聞色の覇気で感情を読み取った結果、この街にとって無視出来ない様な事件が起こったようだ。

 ……CP9が出発を明日(実質今日)に指定している事といい、何かしらの関係があるとしか思えない。

 

 スマラは欠伸を抑えながら屋根を降りてCP9が根城にしているバーに向かう。

 歩いているとすれ違う人皆が騒ぎ立てている。まだ新聞も出回っていないだろうに……それ程その事件がこの街にとって重要であると言う事だろう。

 一部取り寄せて読まなければ……。

 

 

 

 

 

 バーの目の前だ。

 スマラは今、困っていた。

 

 スマラがいるのはCP9が根城にしている思われるバー。如何に根城と言っても、表向きはバー。平日の朝である現状、当然営業している。現に客と思わしき人物が数名入っていった。朝っぱらから飲んだくれかよ……。

 どうしようかと迷ったスマラは、結局バーに入ることにした。バーというのだから、簡単な食事位できるだろう。夜ご飯を食べていないからペコペコだ。

 

 店に入ると、カウンター席に着く。店主に注文しようとして……。

 

「っっと、こんにちは」

「へへ、いらっしゃい。早いお帰りで」

「……えぇ。とりあえず、適当に朝食を頼めるかしら?」

「おう。ちょっと待ってな」

 

 

 驚いた。店主の男とCP9の気配が全く同じだったのだ。

 驚いたスマラだったが、声を上げる様な失態はしない。諜報活動に酒場の店主として情報集めとは、これまたよくある状況だからだ。

 向こうもスマラの事を気づいているらしく、普通の接客に混ぜて対応してくる。

 さっさと静かな場所に移動したいのだが、向こうも予定がある。ここでご飯を食べながら読書をして待つとしよう。

 リュックサックの中から本を取り出して読み始めると、外の喧騒など気にならなくなる。

 

 少し経つと店主が運んできた料理を口に運びながら読書。食べ終わってもアルコール度数の低いカクテルを頼んで読書。酒の勢いに酔ってナンパしてくる酔っぱらいを無視して読書。怪物の置物みたいな婆とその孫娘、猫だけどホントはウサギを連れた海列車のシフト駅の駅長がやって来ても読書。フランキーと呼ばれるウォーターセブン裏の纏め役がやって来て、百万ベリーという大金をばらまいても読書。

 とにかく読書を堪能して時間を潰した。いや、これなら待つことよりも読書がメインになっているまである。

 

 時間がかなり経ち、ウォーターセブン特有の災害『アクアラグナ』の避難勧告が放送されると、皆家に帰って災害に備え始める。

 バーにはスマラと店主、数名の客しかしなくなる。

 

「皆すまねぇ、今日はもう店じまいだ」

「ん?そうかい」

「んだよ~。これからって時に」

 

 店主が店じまいをすると言うと、客たちは愚痴を言いながらも帰っていく。案外と聞き分けの良い市民たちだ。

 最後の客が店を出て、店主が入り口に鍵を掛けると……壁にドアを作って奥の部屋への入り口を作った。

 

「お前はこのままブルー駅を目指せ。俺達は仕事を行ってから向かう」

「ブルー駅?」

「貴様は一度エニエスロビーに向かってもらう。そこからまた指示が降りる。質問は?」

「ないわ。せいぜい気を付けることね」

「……ふん。我々に勝てる人間などこの島には貴様くらいしかおらんわ」

 

 店主から仕事の服に着替える為だろう。店主はスマラに指示を出すと自身はドアをくぐって消えて行った。

 そうすると、この場所にはもう用事がない。スマラは、店を出て目的地であるブルー駅に歩いて向かう。

 

 

 

 外はアクアラグナの影響か、台風やスコール並みの突風が吹き荒れている。

 街は誰一人として歩いていない。居るとすれば、ただの一般市民では無い者だろう。かく言うスマラもその一人。

 

 突風は時間が経つにつれて酷くなっていく。それは、ただの一般市民なら簡単に飛ばされてしまうようなレベルだ。鍛え抜かれた者でないと簡単に歩けない。

 そんな突風の中をスマラはいつも通り歩いていた。突風などものともしない足取りで本を片手に、視線と思考を本に向けて。ホントにいつも通りだ。

 

 

 

 

 

 ブルー駅の駅前広場では、場所を覆いつくす程の海兵と政府の役人が周囲の警戒をしていた。

 これより、長期間に渡る任務にけりを付けたCP9がやって来る。重要な任務であるがゆえに場は緊迫した状況が続いていた。

 失敗は有り得ない。この場には海軍本部大佐に加えてもう直ぐCP9もやって来る。襲撃は有り得ない戦力であるが、万が一を考えない程政府もバカではない。

 作戦開始数分後、一つの山場が訪れた。

 

「おい、人が歩いて来てるぞ」

「は?そんなわけ……ホントだ」

「警戒!!報告にあったターゲットかもしれんが、油断はするなよ」

「「「「はっ!!」」」

 

 一人の海兵が見つけたその人物。この場に現れる一般人は皆無に等しい、そんな余裕ある気持ちが状況判断を鈍らせる。慌てた上司が号令をかけて警戒態勢にはいった。

 

「……こんな天候の中なんなんだよ…」

「弱そうに見えるが、軽い足取りに加えて読書だと……!!?」

「中佐、彼女は一体……」

 

 歩いているだけで場の空気を一変させた女。

 彼女は進行方向上に、海兵、政府の役人が隊列を組んで己を警戒していても気にしない。

 クリーム色の髪の毛を伸ばし、綺麗な顔立ちに焼ける事を知らない肌。どこぞのお嬢様を思わせる高価そうな服装でいて、動きやすそうでもある。

 極めつけは軽い足取り。突風などものとせずに読書をしながら向かってくる女は、見るからに異常だ。

 

 そう、彼女こそが昨日急に作戦に組み込まれた確保対象、スマラである。

 だがしかし、スマラは海賊でない故に顔が広まってない。此処にスマラとされる女性がやって来る事は知らせれているが、本人確認が完了するまで警戒を解く訳にはいかない。

 

 部隊のリーダーだろう、直剣を持っている長身の海兵がスマラの前に一歩出る。骨の様な肌をしている割には熱血な心意気を持ったTボーン大佐だ。彼が今作戦の海軍側の責任者である。

 

「失礼、貴女が「スマラ」で宜しいでしょうか?」

「………」

 

 スマラに話しかけるTボーン大佐であるが、それに対する反応は無し。

 「あの……」と再び呼びかけるTボーン大佐。少し哀れだった。

 

「貴様ッ!!大佐の前だぞ!!」

「……」

「大佐ッ!!明らかに怪しい奴です!!」

「捕らえましょう!!」

 

 返事をしないスマラに痺れを切らした部下たちがTボーン大佐に囃し立て始める。

 Tボーン大佐も部下たちの声を無下にできない。しかし、一般市民を守ることに熱意を注いでいる彼が「もし彼女が耳の悪い一般市民だったら?」と言う思いが行動を起こす事を拒否していた。

 

「……五月蠅い」

 

 と、その時、誰もが寒気を覚える様な感覚が場を支配した。そう、超極悪人に睨まれた時の様な感覚だ。

 発生源はもちろんスマラ。彼女は少々いらだっていたのだ。

 なぜなら、キリの良い場所までもう少しだというのに、邪魔な雑音が耳に入って来るからだ。

 

 

 

 ……実にスマラらしい単純な理由だ。

 しかし、それでもスマラの声は海兵や政府の役人の動きを止めるに至る迫力を持っていた。それが小さな声であったとしても。

 唯一動けるのはこの場で一番実戦経験が高いTボーン大佐のみ。そんな彼でも立ち直るに数秒の時を要した。それだけあれば、スマラはキリの良い場所まで読み進めて栞まで挟む事が可能だった。

 

「で、私がスマラだけど、あなた達は私をどうしたいのかしら?」

「……っ!!?」

 

 どうしたいのか?

 それが、捕縛なのか確保なのか、連行なのか同行なのか。向こう側のとらえ方によっては、スマラはこの場から消える。

 それが分からないTボーン大佐ではない。「彼女とは敵対するな。彼女から同行してもらえ」そう命令は下っている。

 故にTボーン大佐は、

 

「すみません。部下の失態は私の失態。深くお詫び申し上げます」

「……どうだっていいわ。それで?ここで時間まで待てと言うわけでないわよね?」

「勿論のことです。誰か彼女を海列車に案内するのだ」

 

 頭を下げてスマラに許しを請う。スマラは気にしない様に許すと、早速暖かい場所に案内するように命令した。

 別に能力を使っていて寒さを感じなくても、突風の影響を受けていなくても、快適な環境に移りたいスマラだった。だって能力の使用は疲れるのだもの!!

 

 Tボーン大佐も、世界政府もスマラには同行を願っている立場だ。こんな悪天候の中、時間まで待たすつもりは毛頭ない。直ぐに計画通りスマラを海列車に案内する。

 

 

 

 

 

「こちらになります。そう時間はかからないと思いますが、出発までの余暇はご了承ください」

 

 政府の役人に案内された場所は海列車の第一車両。貴賓室なのだろうか?物凄く豪華だ。

 

「………」

「では、私はこれにて失礼させていただきます。何かご要望がございましたらそちらの専属の者に申し付けください。出来る限りのことを対応させていただきます」

 

 政府の役人はそう言うと列車に数名の護衛兼見張りを置いて出て行った。それなりの地位に就いているだろう彼もまた、多忙なのだ。

 

 

 さて、政府の役人が出ていくと、車両内はシーンと静かになる。ここはスマラとロビンのためだけに用意された車両だ。現在は役人が数名待機しているが、海列車が出発すると第五車両に引き込む。

 スマラと数名の世界政府の役人。それとは別にもう一人だけ乗っていた。侍女服を着た少女。先ほど紹介された専属の者なのだろう。

 

「先ほどご紹介に預かりましたシルズです。これより貴女様の身の回りのお世話を務めさせていただきます。どうかお見知り置きを…」

「……そう」

 

 見事なお辞儀を披露してスマラに首を垂れるシルズと名乗った少女を、スマラは無言で見つめる。

 顔を上げたシルズはスマラの視線に一切反応せずに立ち尽くす。

 

 

 何かを探るようにシルズを覗き込むスマラと、全く反応せずに立ち尽くすシルズ。

 緊迫した時間が経つ。それは、ほんの数秒だったのかも、それとも何十分もそうしていたのかは分からない。

 やがてスマラは視線を外した。満足したかのような目線だ。何があったのかは本人しか知り得ない事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は少しだけ移動して、ブルー駅の一角。影に紛れるように姿を隠して辺りの様子を伺っている人物がいた。

 

「しかしまぁ……海軍に政府の役人共、よくも俺たちに矛先が向かねぇもんだなこりゃ」

 

 金髪をなびかせ、口元には煙草を吹かしている。

 麦わら一味のコック。サンジだった。

 

 彼は日中ロビンを探し周り、ようやく再会出来たと思いきや意味不明な言葉を残して目の前から消えた。

 一緒にロビンを探していたチョッパーをルフィの下に返して、一人別行動をとっていたのだ。

 

 彼の評価を行うのなら、麦わら一味のNo.3だろう。コックでありながら、戦闘員としても多彩な足技を披露して実力を示す。

 しかし、麦わら一味の主力の中では彼は特出するべき点がある。それは頭脳だ。

 考える頭を持たないルフィはもちろん、ゾロですら基本的に力技で物事を解決しようとする。そんな中、サンジだけは一味の中も上位に匹敵する頭脳を用いて戦闘に挑む。

 

 その頭脳を用いた結果、導き出した答え合わせを行うためにそこにいた。

 ロビンちゃんは何故急に麦わら一味を辞めると言い出した?チョッパーとはぐれた後からだ。その間に何者かがロビンちゃんと接触、説得か脅して一味を抜けるように言った。それが青雉が言っていた暗い闇だとしたら?「あの女は必ずお前たちの手に余る」

 だからロビンちゃんは俺たちから逃げる。なぜ逃げる?会いたくないからだ。何故会いたくない?もしも、会ってしまったら決心が鈍るとしたら?ならば早く逃げたいと思う。

 

 だから、そのチャンスが唯一ありそうな海列車の駅で待ち構えていたのだが……。同じくして一味を抜けたスマラを発見した。

 初めに思ったのが何故ここに?だった。ここにいるのは海兵や世界政府の役人たちだけだ。

 サンジが隠れてロビンを待ち構えていると、周囲を気にしない足取りでスマラ現れた。初めは単に迷い込んだのだろうか?と思ったものの、海兵たち空気が一変して緊迫した雰囲気になる。サンジは慌てて飛び出そうとするのをこらえ、そのまま成り行きを見守った。

 結果、スマラは駅内に案内される形で消えていった。これから導き出される答えは、

 

「スマラさんは元々世界政府の手駒だったか……。それとも別の因果が働いているのか……」

 

 どちらにしても決定打が撃てる情報ではない。彼女は言っていた。情報を仕入れるのはとても大切な事だと。己の知ってる情報だけで決めつけてはいけない。

 サンジは船に乗った当初のスマラの言葉を思い出すつつ、状況が動き出すのを待った。

 

 

 

 

 

 

 そして時は流れる。麦わら一味とスマラの舞台はウォーターセブンから場所を移動していく。

 それが因果なのかは誰にも分からない。それでもスマラは一つの事を確信していた。それが信頼なのか、経験法則なのか、本を読み続けた事で養った予測なのか、はたまた見聞色の覇気で視た未来なのか……スマラ自身にしか分からない。

 

 

 

 彼らは――――――麦わら一味は仲間を絶対に見捨てないだろう。というめんどくさい未来を見据えてスマラはため息をつく。

 

「何にかご不満でもありましたか?」

 

 ため息を不満と解釈したシルズがいそいそとスマラの要望を聞く態勢に入る。が、スマラはやんわりと否定した。

 

「いいえ。ただこれからの事を思ってため息が出ただけよ。不満があるわけではないわ」

「そうですか。分かりました」

 

 表情筋が死んでいるわけではないが、心の中を見せない厄介な者を付けられたものだ。とスマラを毒吐きながらため息をつく。今度は誰にも悟らせないように心の中でだ。

 流石世界政府が用意した侍女だ。表情を変える事はあれど、心の中で思っている心情を全く外側に出さない。それは物語に登場する本物の侍女のようであり、スマラを探るスパイでもあるかのようだ。

 そのことをスマラは理解している。ということを向こう側も理解しているのだろう。そしてスマラもそれを理解しているからこそ面倒だ。

 

 しかし、暫くはこの主従関係を演じてみるのも悪くないかもしれない。

 麦わら一味の船に乗っていた時のような新鮮味を味わえるかも知れない。物語のような関係に憧れがないわけでもないし……。

 

 

 

 スマラは全て理解しながらも生きている。なぜなら、それが最も利害が一致しているからだ。

 麦わら一味然り、世界政府然り。誰もがスマラを甘くみている。考え方と実力を。

 だから、分からせてあげなくてはいけない。だってそれが……

 

 

 スマラと言う人間(バケモノ)なのだから。




疲れた……。こんなにも長々としてしまい、申し訳ないです。でも、どうしても大晦日なのだからここまで行きたかった!!!

今年最後の更新でした。次回からはエニエスロビー編をサクッと進めていきたいと思います。
更新日時は少なくても6日以降ですね。お正月でも休み無しで頑張っていきたいと思いますよ~!!


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582 五十頁「海列車での旅」

え?もう50話いったんですか?……これ100までに終わるかな?いや、終わらせたいです。

はい。あけましておめでとうございます。利害一致2020年初の投稿です!!
今年もよろしくお願いします。
今年中には完結されたいところです。

では、中盤に差し掛かったところで本編をどうぞ。
あ、今年も誤字脱字報告ありがとうございます!!何時も助かっています。


 スマラが海列車に乗ってからほどなくして、車両のドアが開いた。中に入って来たのはロビンだ。

 

「あら、逃げ無かったのね」

「逃げる?私にそんな理由なんて……ないわッ!!」

「そうかしら?でも、彼等は追って来た…でしょう」

「……何処まで見越しているのッ」

 

 入って来たロビンに向かってニッコリと笑顔で嫌味を述べるスマラ。本人は嫌味だと気づいていない辺りがロビンを煽る。

 一方でロビンは、スマラがこの場に居ることについては驚かないが、スマラが先程あった麦わら一味が追いかけて来る事件を知っている事について息を呑む。スマラにとっては軽い予想なのだが、ロビンからすれば未来を見通しているようにも見えなくもない。

 

 ロビンはスマラの真正面に座った。こうして対面する形で座ったのは、少なからずロビンとスマラに、同じ船に乗っていたと言う共通点があるからだ。

 敵だらけの海列車の中で、一番心休める場所なのだろう。スマラにとってロビンはただの教師なだけである……。味方ではない。

 

 と、数分も経たないうちにスマラの横にシルズが現れた。

 報告の為だ。

 

「予定よりも早い時間ですが、出港する事になりました。何かご不満は?」

「特にないわ。勝手にしなさい」

「ありがとうございます」

 

 一礼してからシルズは下がった。こちらの意見を知らせるのだろう。

 と、シルズの事に興味を持ったロビンがスマラに話しかける。

 スマラは本から目を逸らさずに、適当に答えた。そのくらいスマラには造作もなく、重要な内容ではない。

 

「彼女は?」

「専属の侍女だそうよ」

「…至れり尽くせりね」

「貴女と違って連行されるわけではないもの。あそこまでは求めてなかったけれど、それなりの対応がなければついて行ったりしなかったわ」

 

 実質そうだ。久しぶりに偉大なる海…新世界に帰郷するついでに 麦わら一味の船に乗ってその冒険を見る。来るときには見たことない島で本を物色するのが理由だった。始まりは別だとしても……。

 しかし、その船に乗ってからというもの、苦労する出来事が多い気がする。

 伝説レベルの空島に到着でき、歴史の本文の写しもゲットできた。そればかりか、ニコ・ロビンに古代文字の読み方を教授してもらえた。良いこともあった。

 しかし、それに比べては苦労が多いような気もする。クロコダイルの足止めから始まり、エネルにちょっかいをかけられ、青雉とも本気の戦闘を行った。勿論、それ相応対価だと割り切る事も出来なくはない。

 しかし、スマラはそこまで大人じゃない。(心の広さ的な意味で)自分の欲望に忠実なニンゲンだ。

 世界政府が「ほら、ニートしててもいいからここに居て?」と手招きをするだけでホイホイついて行ってしまうような女である。

 

 だからスマラには麦わら一味から離れられる用事が出来てラッキーだったりする。

 こんなにも早くに対応してくるとは思いもしなかったが……。

 

 ロビンとの会話はそれで終わった。

 程なくして、海列車はゆっくりと出港していく。思ったほど振動は来ない。

 振動があったとしても、読書中のスマラには気にしないだろうが、乗り心地は別である。

 

 

 

 

 

 出航から少し時間が経った。

 外の天候は悪天候。雨が降り注ぎ、風も強く波は荒い。

 そんな中でもスピードを保ったまま進むことの出来る海列車は画期的な移動道具だろう。

 

 不意にスマラが窓の外を指さした。

 

「そこ、見てごらんなさい」

「え?……長鼻くん!!?」

 

 スマラに指をさされた方向を向くと、そこには仮面を被っているものの、特徴的な鼻はウソップその人だ。

 彼は雨に打たれながらも列車に張り付いていた。

 咄嗟に窓を開けて中に入れてあげる。そういう所が甘いのだ。本当に仲間を捨てたならそもそも相手にしない。

 

 窓を開けたせいで雨風がスマラに降りかかるが、能力を使って反射。全くもって問題ない。

 慌ててタオルを持ってきたシルズさんが首をかしげる。彼女はスマラの能力を知らないのだろう。もしくは、知らないふりをしているのか……。

 

 

 

 ウソップはスマラがこの場にいる事に驚いたものの、直ぐにロビンに状況を説明した。

 曰く、彼の名は「そげキング」狙撃の島で生まれ育ち……というのはどうでもいい。彼はロビンを助けにきたらしい。それも、海列車内ではフランキーと呼ばれるチンピラとサンジを筆頭に、後方には麦わら一味も大人数を引き連れているらしい。

 なるほど。麦わら一味らしい行動力である。

 今直ぐ逃げよう!!と言うウソップにロビンは異を唱える。追いかけて欲しくなかった!!と。それにウソップも反発して次第に言い争いは大きくなり……。

 

「……どうした?今更泣きわめいても貴様の運命は変わりはせんよ。それとも、元仲間同士で話が盛り上がったのかな?」

「なんでもないわ」

「……??」

「何でもないから、一人にしてちょうだい」

 

 大きな声が第二車両にも聞こえたのだろう。様子見に政府の役人が入って来た。ロビンに対して尊大な態度でいる。それなりに高い地位の人間らしい。

 役人が入って来る直前にロビンの外套に隠れたウソップは、ロビンの声に合わせて腕を動かす。ロビンの雰囲気と腕の動きが噛み合っていないのは、ご愛嬌だろう。

 

「…………」

 

 それでも世界政府の役人は納得がいっていない様子。

 それはそれで当たりまえの反応である。この程度で騙されるようでは、政府の役人は上に上がれない。

 本人は犯罪者。基本的には信用にならない。なので、ここにいるもう二人に聞けばいいだけの話だ。

 

「おい、そこのスマラとか言う奴。この車両に変わった事は無かったか?」

「……………」

 

 本から目を逸らさないスマラ。

 役人はイライラしてスマラの返答を待つ。

 上からの指示でスマラを護衛しているが、内心では「こんな小娘をどうして政府は……」とか思ている。

 

 対してそげキングは物凄く焦っていた。どうにかロビンの着ている外套に隠れる事はできたが、スマラの事を忘れていた。

 スマラが言えば、そげキングの居場所は即座にばれる。冷汗が止まらなかった。

 

 そのスマラさんは、本から目を逸らさないでいた。役人はさらにイラつく。

 このまま何もなかったで帰る事はできるが、それによって騒動を見逃したとなると、自分の責任になる。つまり、昇格の機会を失うことなになる。

 だから、彼は帰れないでいた。

 

「…出来れば早くお聞かせ願いたいですね。我々も暇ではないので」

「……知らないわよ。私はずっと本から目を逸らしていないのだから」

 

 あら不思議。スマラは確かにそげキングの事を知っているはずなのに、知らないと言った。

 知らない。それはどちらとも取れる意味合いだ。嘘を付いている可能性もある。

 だから役人はスマラの横に佇んでいるシルズに目線を動かした。

 それだけで意味を理解してシルズは答えた。

 

「いえ、私は向こう側でスマラ様のお茶の準備をしていましたので何とも……」

「チッ」

 

 どういう訳か、シルズもスマラと同じ答えを述べる。確かにシルズはそげキングの姿を見ているはずなのに……。

 

 

 

 カチッと音がした。

 スマラがチラッと視線を上げると、役人が拳銃をロビンに向けている所だった。

 

「さて、それだけではいそうですか。と帰れるほど俺も甘くないんだよ。その外套を外してもらおうか!」

 

 向けられる銃口。

 それにロビンは従うしかいない。能力を使ってこの役人を倒すこともできるが、それではそげキングをかくまっている事がバレてしまう。

 スマラは……気にも止めないで読書を続けている。間に入るつもりは全くないようだ。

 

「(ロビン、俺のことは良いから、外套を外してくれ)」

 

 そげキングが腹を括った。ロビンに外套を脱ぐ様に指示を出して、己は作戦を立てる。

 ロビンが外套を脱ぐと、そげキングが現れる。

 役人は疑っていたが、実際に目の前に現れた不審人物に動けないでいた。

 それはほんの一秒だったのかもしれない。だは、準備が出来ているそげキングからすれば、一秒で相手を狙撃できる。

 

「必殺!!『火薬星(ガウンパウダースター)』!!!」

「何ッ!!」

 

 至近距離で爆発を受け、役人は上半身に酷い火傷を覆いながら気を失ってしまう。

 いや、火傷で済んだだけマシ。普通なら体のパーツが一部消し飛んでいる。役人と言えども、現地で働く実行係として鍛えているのだろう。

 

 と、後方の車両からも破壊音が聞こえてくる。サンジとフランキーの仕業だろう。怒鳴り声まで聞こえて来た。

 ロビンは決心した様な表情で立ち上がり、ドアに向かって歩く。そげキングが必死になって止めようとしているが、ロビンは歩みを止めない。

 ロビンがドアを開けたと同時にスマラは意識の外に追い出した。

 興味はない。ウソップもスマラの事は何も言わなかった。ならば、後はどうなろうが知ったことではない。

 ただ一つ。気になったことがある。

 

「それで、何故あそこで嘘を吐いたの?」

「嘘…?いいえ、噓ではございませんが……」

 

 それはシルズのことであった。

 彼女は世界政府が用意した侍女である。何処から見ても侍女にしか見えないが、世界政府が用意したにしては安易過ぎる。

 侍女とは裏腹に何かを隠している、そんな気がしてならない。小説でも、こんな役回りには必ず裏のある人物が登場する。

 彼女がただの侍女ではないと仮定して考えよう。ならば、彼女は完全に世界政府側の人間だ。サイファポールと考えるのが一番思いつく役職だろう。

 ならば、何故そげキングの居場所を吐かなかったのか?シルズもそげキングが車両に侵入してくる場目も、ロビンの外套に隠れる場面も目撃しているはずである。

 なのに、何故「見てませんでした…」と嘘を吐くのだろうか?

 

「そうね。確かに見てないとは答えてないわね。何とも……。それが答えだもの。何故そう答えたの?」

 

 単純な疑問だった。スマラ自身がそげキングの居場所を教えなかったのは単純に面倒だったのと、教えてもメリットが無いからである。

 対してシルズは何故答えなかった?これか先、少なくない時間をそばに置く人物だ。多少なりとも人なりを知っておきたい。自らの危機を回避する為にも……。

 

「何故?と言われましても……。私はスマラ様にお仕え致す者です。主人の意見と違うような事は言いません」

「……そう」

 

 

 なるほど。スマラの意見を尊重する為に答えなかった。

 あくまでもスマラの意見を尊重する。それが彼女の活動方針なのだろう。

 はたしてそれが、侍女だからなのか、世界政府に命令されているのかは、スマラには判断がつかなかった。

 

 

 

 列車に静寂が……実際には第二車両と第三車両でロビン奪還作戦が行われているのだが、スマラには全くもって関係の無い話である。

 スマラは何事もなかったかのように読書を続ける。時折シルズから差し出されるカップを手に取り喉を潤すが、それ以外は全くもって体を動かさない。

 気分の良い時に出る鼻歌は、もう出てこない……。

 

 

 

 

 

 気が付いたら騒動も収まっていた。ロビンが目の前に座り、通路を挟んだ隣りの座席には海パン半裸のチンピラが座っている。

 どちらも海楼石の手錠に繋がれおり、自力で外すのは一部のバケモノを除いて不可能だろう。

 窓の外に視線を向ければ、あれ程荒れていた海は穏やかになっており、その島を囲うようにして雲がなくなっている。

 

 その場所こそが世界政府の玄関。司法の島エニエスロビー。

 別名「不夜島」とも呼ばれており、一年間を通して夜が一切訪れない特殊な環境を持つ島だ。夜が無いことから、夜間の襲撃は有り得ないし、そもそも世界政府に喧嘩を売ろうとする無謀者は世界中探してもほんの一部しか存在しない。

 

 エニエスロビーを司る司法の塔は島の中央部に位置し、島全体をぐるりと囲む底の見えない滝に囲まれている。これにより、司法の塔から逃げ出す事はほぼ不可能。

 司法の塔の後方には、どうやって建設したのかも考える事が出来ないような巨大な門。

 政府専用の航路、たらい海流への入り口である。あそこを超えたが最後、行き先は海軍本部か大監獄インペルダウンしかありえない。つまり、海賊にとっては死の門とも言える。

 

 というのが、エニエスロビーの大まかな説明である。一般的には知られていない情報もあるが、絶対に漏れてはいけない機密情報ではない。

 なら、政府の重要機関である島の事を、スマラが知っていないはずがない。

 

 

 

 

 海列車がエニエスロビーに到着した。完全に列車が止まり、降りる時間だ。

 もう少し本を読んでいたい気持ちもあるが、このままではおいて行かれてしまう。スマラはそれでもいいが、政府との交換条件に乗ってこんな場所まで来てやったのだ。タダで帰るのも気が引ける。

 ならば、普通なら到底叶わぬような場所にある本だって読めるはずだ。何なら世界政府が禁書指定している本だって!!

 そう思うと、スマラは早速行動を開始する。本に栞を挟んでリュックサックにしまい込む。席を立ちフランキーとロビンの後に続く。

 

 列車を降りると、大勢の役人と海兵に出迎えられる。全員が敬礼を行って長期間任務に就いていたCP9の四名に「ご苦労様です!!」と言っている。やくざの重役を出迎える風景に似ているが、実際にヤクザと政府を似たり寄ったりしている組織のようなので、間違いではない。CP9など闇の組織である。

 

「罪人を連れ出せ!!」

「あう!!この俺様を誰だと思ってやがる!もっと丁重に扱いやがれ!!」

「ぎゃ~~ッ!!」

「気を付けろ!!コイツ噛むぞ!!」

 

 両腕を鎖でグルグルに巻きにされて尚、自由な口を使って噛みついて抵抗を試みる。勿論それで逃げられとは思っていない。単なる嫌がらせ行為だ。

 

「流石CP9だ。世界政府が20年追い続けた女……」

「あれがニコ・ロビンか……」

「すげぇ美人だ」

 

 と、次に出てきたロビンの美人っぷりに息を呑む海兵役人共。

 政府から逃げ続けて来たと言う事実に驚きと称賛を与え、そんな女を捉えたCP9を褒め称える。

 

「おい見ろよ。スッゲー美人だぜ」

「雰囲気がニコ・ロビンよりも段違いだ」

「あれが急に命令が下った女かよ」

「噂では、大将青雉と互角に渡り合ったらしいぞ」

「噓だろっ…大将って最高戦力だぞ」

「でも見ろよ、手錠もついていない」

 

 などと、スマラが姿を見せたことでより一層騒がしくなる。

 スマラ自身は思っていないが、容姿端麗で教養も家柄もある意味では良い。こんな人間早々出会えない。

 隣を歩くシルズが侍女姿で佇んでいるのも、より一層スマラをお嬢様っぽくさせている。

 

 

 

 

 正門が開き、政府の役人が住む為だけに作られた町中を進む。

 先頭にはCP9のリーダーであるロブ・ルッチ、カク、カリファ、フランキーを引き連れているブルーノ、ロビンだ。

 最後尾にスマラがシズルを携えて進む。

 

 ふと、ロビンが立ち止まって後ろ振り向いた。嫌な予感がしたのだ。

 

「どうしたニコ・ロビン……立ち止まるな」

 

 ロビンに対してルッチが進むように促す。

 ロビンは素直に……それでいて名残惜しそうに前を向いた。

 そんなロビンに、スマラは面白そうに言った。

 

「来てるわよ。彼らが」

「……ッ!!」

 

 面白半分に麦わら一味がこの島にいることを伝えるスマラ。

 その表情は、物語の中盤から終盤に差し掛かった一番美味しい場面を読んでいる時のようにうっとりとしていた。

 

 …………スマラ、この状況を楽しんでいる。誰が見てもそうだろう。

 でも、それがスマラだもの。




エニエスロビー編かっ飛ばしますよ~!!


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592 五十一頁「司法の塔」

お待たせいたしました。
エニエスロビー編もクライマックスです。

FGO
閻魔亭完全クリアしました。


 歩く。歩く。歩く。

 

 ただ歩くだけ。

 それでも静まり返った街の中を歩くのは不吉なものを感じてしまう。

 この島には一般人は一人も存在しない。

 在住しているのは、世界政府の役人、または海軍本部の海兵隊のみ。

 それ以外でこの島に足を踏み入れる者など、捕らえられた罪人が連行される時だけだ。

 それを破られそうになっているのだが、スマラには関係の無いこと。

 

 

 島を進み最後の建物にたどり着く。

 世界政府の三大機関『エニエスロビー』が誇る司法の塔だ。

 今まで通って来た街が海兵、役人の居住区域ならば、この塔は職場。ここで役人たちが日々諜報活動の記録や下調べ、報告を行っている場所。

 

 建物に着くや否や、スマラ、ロビン、フランキーはある部屋の前で待たされる。

 中に入っていったのはCP9の四名のみ。中で指揮官に帰還報告でもしているのだろうと予想を立てたスマラは、早速不機嫌になる。

 

「ねぇ私がここで待つ必要はあるの?早く資料室に向かいたいのだけれど?」

「申し訳ありません。こればかりは私の一存で行動出来かねます。それと、流石に資料室は機密情報が多すぎますので観覧の方は少し……」

 

 早く部屋に帰って本を読みたい。どうせならこんな場所でしか読めないような物も……と我儘を垂れ流したスマラだったが、シルズにやんわりと窘められる。

 思わず舌打ちが出てしまった。淑女にあるまじき行為だが、スマラには関係無い。やりたいようにやる。それがスマラだ。

 何者にも止められる筋合いは無い。

 

 

 

 と、待つこと数分後。

 耐え兼ねてリュックサックから取り出した本を立ち読みしていると、ドアが開いて中に入る様に促される。

 面倒なので視線は本に置いたままだ。

 

 中には、先ほど入室した四名に加えてもう四名。合計八名の人物がいた。

 大将程ではないが、油断ならない相手が一人。間違いなく勝てるが、それなりに戦えそうな者が二名。その辺の海賊に比べたら強いがスマラ相手となると同時でも相手にならないのが四名。話にならないのが一名。

 この島で最も高い戦力を保有してる者たちの集まりだ。CP9全員がこの場に集まっていた。

 

 その中で長官と呼ばれる話にならない戦力の男が、ロビンとフランキーをいたぶりながら話を進める。

 少しばかり興味深い内容が飛び交うので、耳を傾けているが、目線はしっかりと本の活字へと向いていた。

 

「(あれは凄い美人チャパね)」

「だが、内包する力は本物だ。油断するなよ」

「チャパパパ。俺たちが負けるわけないチャパ。しかし、この面子の前であの余裕は凄い。長官の注意が向いたらどうなるチャパか」

「怒る…だろうな。巻き込まれたくないぞ」

 

 フクロウのような丸い巨体を持った男……フクロウが、隣には座っているブルーノに対して小声で話しかける。内容はスマラのことだ。

 噂話が大好きなフクロウは、急に下った指令の女に、当然の様に興味を示す。小声なのは、長官が気持ち良くフランキーとロビンと会話しているのを妨げないためだ。

 ブルーノは軽くフクロウの相手をしてやる。二人の仲はそれなりに良好だが、現在は待機中。勝手な会話は控えるべきだと考える。それに、ブルーノはスマラに少なからず接している。それだけで、彼女には関わりたくないと、そう思わせる雰囲気を纏っていた。

 

 

 

 近くして、少しいたぶって気が済んだのか、長官は衛兵に指示を出してロビンとフランキーを鎖に繋いでおくように命令を下す。

 そして、存在を思い出したかのようにスマラを見た。ニヤニヤ顔で詰め寄る。

 

「これがあのスマラとか言う女かよ。思ったよりも若いじゃねぁか」

「…………」

「おい!!何とか言いやがれ!」

「スパンダム長官、それ以上はお控えください。スマラ様は機嫌が悪いのです」

 

 スマラを見てニヤ付き、声をかけるもだんまり……本から目を逸らさずに反応しないスマラに怒る長官スパンダム。

 ロビンやフランキーの時のように折檻を行いそうになる。そんなスパンダムを止めたのはシルズだった。

 

「それと、特に用がございませんでしたら、こちらも退出させて頂きます」

「はぁ?貴様が何時俺よりも偉くなったんだ。言ってみろ!!俺は天下のサイファポールナンバーナインの長官様だぞ!!口は慎め!!」

 

 スマラの内心を読み取ってスパンダムにやめるように促すが、スパンダムにとってそれは下位の者による命令に聞こえてしまう。

 スパンダムはプライドが高く、権力に媚びる小物であるが、父親は世界政府の中ではかなりの高い地位に居る役人だ。そんな親を持っているスパンダムは、己が偉いと勘違いしている。

 だから、世界政府にとっても重要な人物であるスマラに危害を加えてはならない、と知りながらも自分を無視するスマラに怒鳴る。そのお付きであるシルズの制止も耳を貸さない。

 

 スパンダムがシルズに怒鳴った所で事態は急変する。

 だんまりだったスマラが動いたのだ。パタンと態と音を立てて本を閉じたスマラはたった一言、

 

 

「……煩い」

 

 

「ヒィッ!!!?」

 

 

 軽く殺気を載せた一言に、本格的な命のやり取りという物を知らないスパンダムは恐怖で飛び上がる。

 後ろに跳び下がり、あちらこちらにぶつかりながら転げまわり、やっと止まった時には部屋の隅。物凄く離れたものだ。

 

 スマラは単にスパンダムの興味本位で呼ばれただけだと分かると、颯爽と部屋を退室する。

 シルズは一応スパンダムを気にしつつ、スマラの後ろに寄り添って退室。スマラにスパンダムが怯えたことが、若干気持ち良かったりする。

 

 

 

 スマラが退室して行った部屋では、スパンダムが悔しそうにイラついていた。

 

「クソッ。どいつもこいつも俺を見下してやがって……」

 

 その呟きに誰も返さない。否、返せないのだった。

 休憩したいのに、エニエスロビーと言う普段は入れない場所に入れたのに、特別な本が読めない。

 それを知ったスマラの機嫌は悪いに決まっている。それに加えて、ただの興味本位で意味のない空間に呼ばれたりしたのだ、殺意くらい覚えるだろう。

 それも、対象を一人に絞らず駄々洩れにしてしまった。

 スパンダム程怯えはしないが、それでも緊張して動けなくなるレベルの寒気を覚えてしますCP9。

 『あれ』には我々であろうと勝てる見込みが見当たらない。全員でかかっても取り押さえることができるかどうか……。

 

 そんな中で唯一、CP9歴代最強の称号を持つルッチだけが、冷たい目で見えなくなったスマラを追いかけていた。

 

 

 

 

 

 コツコツと足音が廊下に響き合わる。

 建物が石造りなのが余計に反響し合い、音をより一層大きくしている。

 歩いているのはスマラとシルズだ。

 長官の部屋を出た二人は、一時の待ち時間を過ごすために用意された部屋に向かって歩いていた。先導するのは勿論シルズだ。

 

 少し歩き、部屋にたどり着く。迷いない手でドアを開けてスマラを中に招き入れシルズ。

 部屋の中はなんてことの無い一室。ただ、客人を持て成す為に用意された部屋なのか、広く、調度品も高価そうな物が飾ってある。

 スマラをソファーに座らせたシルズは、備え付けの棚からティーセットを取り出して準備を始めた。

 その後ろ姿を見て、スマラは思った事を質問する。

 

「それで、私はこんな場所で過ごさなくちゃいけないの?」

「いいえ。ここは法の島。罪人でないスマラ様が過ごすには少々場所が悪すぎます」

 

 スマラの言葉は否定された。

 シルズは「そう言えば説明がまだでした」と零すと、スマラにこれからの予定を説明し始めた。

 

「まず、ここエニエスロビーは中継地点でございます。護衛兼使者であるCP9の活動拠点が此処だからでございます」

「じゃあ、私は何処に向かっているのかしら?まさかインペルダウンじゃないでしょうね?」

「まさか!!あそこは監獄です。スマラ様は監獄に入れられる理由はないはずです。スマラ様は海軍本部にて不自由ない暮らしを得るのです」

 

 ここで明かされるは最終地点、海軍本部。

 それは世界政府三大機関の一つ。

 

 何故海軍本部なのか?政府がスマラの身を確保しておきたいのなら、エニエスロビーでも良かったはずだ。しかし、エニエスロビーには戦力が少々少なすぎる。CP9と言う強力なカードが存在しているが、スマラ相手では少々小さすぎる。

 

 もう一つ政府が管理する場所と言えば、聖地マリージョア。雲を貫く遥か上空――――――赤い土の大陸の頂上に位置する聖地。

 世界政府を作ったとされる20名の王の末裔『天竜人』が暮らしている場所であり、世界政府の総本山『パンゲア城』が存在する場所でもある。

 そこならば、スマラが不自由ない暮らしをするには十分すぎる設備が整っているはずだ。

 しかし、そこは選ばれなかった。それはスマラと言う非常に厄介な経歴を持つ人間には、秘匿するべき情報が多い場所でもある。

 

 故に、それなりに環境が整っており、万が一スマラが暴れても取り押さえられる戦力が集結している場所。そこが海軍本部であり。選ばれた原因だろう。

 

 とスマラは軽く考察してみた。

 当たりか外れかはスマラには知る由もないが、遠からず間違ってはいないだろう。

 もしも、があればスマラは相当な戦力になるのだから……。

 その実力的にも、外交的にも…………。

 

「海軍本部ね……」

「ご不満ですか?」

「いいえ。条件さえ呑んでくれるのなら、私は何処だって構わないわ」

 

 実を言うとスマラ、世界政府の重要な場所に案内されるとは思っていたものの、最終的には適当な田舎でゆったりとした場所に押し込まれるものだと思っていた。

 要求した物がすぐに届くことはないだろうが、それ程時間を有さずに用意してくれる適切な距離。

 周りには何もなく、ただひっそりと暮らす。

 ある意味、スマラの理想の最終形態だ。

 

 

 ただ、海軍法部というのは少々厄介だ。

 スマラは犯罪者ではなく、ただの一般人を自称しているが、スマラの実態を知る者からすれば、一般人など有り得ない話だ。

 一部の世界政府関係者、海軍でもある程度従軍歴の長い者、大海賊時代以前の海を知る海賊達にとっては、有り得ない話。

 

 その己を一般人扱いしないであろう者が多数在籍している海軍本部はスマラにとって面倒ごとの塊。

 出来れば行きたくない。しかし、わざわざ意見述べて変えてもらう程の脅威ではない。

 

 

 何とかなるだろう……スマラはそうやって楽観的な未来を思う。

 一度己の中で意見を決定してしまうと、スマラは一切の思考を頭の中から叩き出す。

 叩き出すことによって、スマラの思考の殆どが読書に割かれる。残っているのは、無意識下で制御している反射と見聞色の覇気だけであった。

 

 

 

 

 

 外の出来事にスマラは気づかない。

 否、反応しない。

 

 見聞色の覇気では、麦わら一味が直ぐ近くまでロビンを追いかけて来ていることを無意識のうちに知っている。

 スパンダムがCP9を集結させ、奈落の崖を挟んで対峙していることも、ロビンが麦わら一味に向かって本音で向き合っている事も、この島で闘志を燃やしている者たちの声も………全部スマラには届いている。

 しかし、それでなおスマラ反応を示さない。全部無視して読書に集中していた。

 

 待っているのは出発の一言のみ。

 そして……

 

 

「読書中失礼します。時間は来てませんが、想定外の事態につきまして予定を早めさせて頂きます。よって、移動をお願いします」

 

 その時がやって来た。

 

 

 

 スマラは直ぐに本に栞を挟んでリュックサックに詰め込む。歩き読みと言う芸当を持ち合わせているスマラだが、ここはエニエスロビー。一般人が立ち入れない場所だ。

 この司法の塔から正義の門までの道のりも気になると言うところ。

 何時でも出来る読書よりも興味が湧くに決まっている。

 

 シルズに案内されて司法の塔を歩く。階段を下り、如何やら地下に向かっているらしい。

 海中に道を作ってあり、そこに入るためには鋼鉄の扉を開けなければならない。無論、システム的にロックされている。

 流石エニエスロビー。厳重な作りになっている。

 

「現在麦わら一味の主力がこの塔の中でCP9と交戦中。抹殺命令が下っています」

「……」

「万が一に備え、スパンダム長官とロブ・ルッチ氏がニコ・ロビンを正義の門に連行中。スマラ様も同じ護送船に乗っていただき、海軍本部に向かいます」

「ふ~ん………」

「何か質問は?」

「無いわ。…………ただ、勝てるかしら?」

 

 スマラは歩きながらシルズから説明を受ける。ほぼ一方的な説明だが、スマラは遮ったりせずに静かに清聴していた。

 見聞色の覇気である程度の状況を把握しているスマラだが、一方的に気配だけで把握するのも限界がある。人の口から聞くことにより、より正確な情報となるのだ。

 誤報ダメ絶対。誰も自分の意見を聞こうとせずに勝手に決めるのは、スマラは大嫌いであった。

 

 

 スマラ面白そうに呟く。口元には若干の笑みが浮かんでいる。

 シルズは困惑珍しくする。スマラの言葉の意味が理解出来なかったからだ。

 勝てる?誰が誰に?

 

「あの、それは麦わら一味がCP9に…と言う意味でしょうか?」

「……逆もね」

「逆?」

 

 これまでの力を見れば、麦わら一味はCP9に勝てない。だがしかし、麦わら一味は三度奇跡と呼べる逆転劇を見せてきた。

 クロコダイル撃破、エネル撃破、青雉撃退……どれも格上相手に生き延びている。

 彼らは戦いの中で確実に成長して行っているのだ。

 そんな物語を見てきたスマラは、今度も何か起こしてくれるのではないか?と思っていたりする。

 恐らくだが、覇気無しでなら世界最高戦力だ。麦わら一味は果たして勝てるのか?

 

 逆に、そうして幾度も勝って来たであろう麦わら一味に、CP9は見事勝利を収める事ができるのか?

 相手は今前半の海で最も快進撃をみせている海賊の一つと言って良い。将来は大物になるだろう海賊団だ。

 

 それを今ここで止める事が出来るのか?それとも破られて功績にされてしまうのか?

 スマラは他人事だからこそ、その結果を楽しむようにして見ていられるのだった。

 

 

 

 スマラはそれから何を言うでもなく、黙ってシルズの後を付いて歩く。

 途中でスパンダム、ルッチ、ロビンと合流し、スパンダムに嫌味を言われたが、スマラはどこ吹く風。

 途中、通路に轟音が鳴り響き、誰かが追いかけて来ている事を知ったロビンが何度も立ち止まるアクシデントが発生したが、無事に海底通路を通り抜ける。

 しかし、海底から海上に上げる階段の途中で事件は起きた。

 それは、スパンダムが電伝虫と間違って『バスターコール』専用のゴールデン電伝虫を押していたのだ。

 

「よりによって!!バスターコールをかけちまった!!!」

「バカなことを!!今直ぐ取り消しなさい!!!」

 

 うろたえるスパンダムにロビンは焦りながらも、電伝虫通信で逃げるように警告を示す。

 しかし、スパンダムは冷静を通り越してとんでもない思考に至ってしまう。それは、自分が狙われる事は無い。出世のために全員死ね!!!と言った内容。

 クズだ。金、女、出世、この世の男の欲望を見事に纏めたかのような男である。

 

 

 

 そんな光景を隣で面倒そうな目で見ていたスマラは、シルズにちょっとした質問を行っていた。

 

「ねぇ」

「はい。どうされました?」

「そのバスターコールの標的に私も入るのかしら?」

 

 スマラの質問。それは攻撃の目標にされないかどうかだった。

 バスターコールはスマラには効かない。幾ら砲弾を撃ち込まれようが、五名の中将から狙われるようが、スマラにはその程度どうにでもなる。

 ただ、それをやり過ごす為の能力行使による疲労は途轍もなく面倒だ。疲れる。

 なので、出来れば狙われたくない。

 そんな思いから出た言葉だった。

 

「いいえ。スマラ様には攻撃しないように命令が下っているはずです」

「まぁそうでしょうね。念のための確認よ。答えてくれてありがとう」

「スマラ様のお心も理解出来きます。どうかご安心をなさってください」

 

 

 

 

 

「待て!!ニコ・ロビン!!」

 

 階段にスパンダムの声が響く。

 ロビンが隙を突いて逃げ出したらしい。少し経って、物が破砕される音が聞こえて来る。

 海楼石の手錠に縛られているロビンにそんなことできないので、恐らくスパンダムがやったのだろう。

 だが、スマラには関係の無い話だ。

 

 

「良かったので?」

 

 淡々と先を進むスマラに声をかけたのは、後ろを気にしつつもスマラに付いて歩くシルズだ。

 彼女はスマラと麦わら一味の関係を深く知っている訳ではない。

 故に、良かったのですか?と、元の仲間を心配しないのか?と問う。

 

「良かったも何も、私には関係無い話だわ。あなたは偶々一緒に船に乗ていたからと言って、会ってからたった数分の人間の為に命を投げ出せるかしら?」

「……他人ならともかく、それが主人ならば」

「そう。………何処までも従者に徹するのね」

「はい。………………もう少しで護送船に到着です。アクシデントがあったと言え、少々早く着き過ぎたみたいですので、橋が上がり終えるまでお待ちください」

 

 

 そうやって会話をしている間に、ためらい橋の上に到着するスマラとシルズ。

 ためらい橋。エニエスロビーにある正義の門が開き、真ん中の橋を作動する事で完成する石橋。

 正義の門をくぐった先に見える小さな門が一つ。それこそ本当の正義の門。罪人にとっての天国と地獄の境界線。

 その門を潜った者は誰一人として平穏な海には戻れない。

 そして、誰もがそのことを実際に感じ取り、ためらうように足を止め、逃げ出そうとすることから、この橋の名前が「ためらい橋」と呼ばれるようになった。

 

 ほら、スマラとシルズから少し遅れてやって来たロビンが逃げ出そうとしている。

 髪を引きちぎられようと、石橋に頭から押し付けられようと、ロビンは噛みついて抵抗する。

 そんな姿をチラッと目にしたスマラは、ほっといて前に進む。

 シルズはもう何も言わない。

 

 ロビンから「助けて」と込められた目が合ったのは、気のせいにする気だ。

 

 

 

 そして、

 

「政府の要請を受けてご同行感謝します!!」

「敬礼!!」

 

 スマラは本当の正義の門をくぐり抜け、海兵隊が整列して敬礼する中を通った。

 

 

 

 

 出航まで残り僅か。

 ロビンもスパンダムに捕まり、引きずられてこちらに向かっている。

 

 スマラはそんな中、司法の塔の屋上からこちらを狙っている一人の男の気配を感じ取っていた……。




次回でエニエスロビー編は終了予定。
そして、前半の終了です。
果たしてスマラはどうなるんでしょうね~。麦わら一味に戻るのか?それともこのまま海軍本部に行くのか。
まぁ読者様なら簡単に予想付きそうですけどね。

一月中には更新します。お待ちくださいな。


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603 五十二頁「麦わら一味?利害が一致しているから乗っているだけですが?」

お待たせしました。

FGOは半分まで行きました。残り半分も頑張ります。


 本当の正義の門をくぐり抜けたスマラ。後に続いてシルズがくぐり抜ける。

 次は大きな声でこの一歩が如何に歴史に名を刻むことかと威張り散らしているスパンダムと、引きずられてるロビンだ。

 歩くどころか逃げようとするロビンを引きずって、スパンダムが最後の一歩を踏み出そうとした瞬間、それは起こった。

 

 スパンダムが急に爆発して本当の正義の門を通り超えたのだ。ロビンはまだ越えていない。

 慌てる海兵隊。辺りを見渡すが、何処にも敵の姿は見当たらない。それどころか、一人、また一人と狙撃されていく。

 

「一体何が……」

「司法の塔の屋上ね」

「え?あ……」

 

 スマラに言われて初めて気付くシルズ。

 狙撃手は司法の塔の屋上にいた。仮面を被った男。そげキングだ。

 狙撃を免れた者たちも大層驚く。あんな遠くから、風も強く吹き荒れているのに寸分も狂いなく狙える者など、この海に何人存在しているだろうか?

 世界でも上から数えた方が早い狙撃の腕を持った狙撃手。それが麦わら一味のウソップであった。

 

 

 

 そげキングの狙撃により事態は一変する。

 ロビンが逃げ出し、捕まえようとする海兵の攻撃をフランキーが一掃する。

 さらに、司法の塔で倒したCP9が持っていた鍵を全て集め、ロビンは海楼石から解放された。そして今までの恨みを込めた攻撃がスパンダムに襲い掛かる。

 それだけではまだまだ終わらない。エニエスロビーを囲む鉄柵が爆発を起こし破壊された。バスターコールの要請を受けた軍艦からの砲撃である。

 後ろに逃げ道はないと悟ったフランキーとロビンが護送船を奪いに行動し始めた。

 

 

 一方で全てを無視して護送船に辿り着いたスマラはというと、船内に入込んで読書をしていた。

 この女、自由過ぎる。

 

「あの……このままでいいのですか?」

「このままって?」

「このままこの船に乗っていて、ですよ。麦わら一味が奪いに来ているようですし……」

「かまわないわ。いざとなれば跳べばいいのよ」

 

 それくらい貴女も出来るでしょ?とスマラの目はシルズに向いていた。

 当然、シルズも月歩を取得している。だが、それをスマラに伝えた事は一切ない。

 なのにバレている。どうやら、思った以上に筒抜けらしい。

 シルズはそのことを悟らせない様に表情を変えずに「では、スマラ様のタイミング次第で……」と言って引き下がる。

 スマラのタイミング次第。それは決定権を与えたことである。ここから動くのか動かないのか…。場合によっては、スマラを始末しなくては………。

 と考えたところで思考を停止させた。これ以上考えるのは危険だ。ただただ世界政府に派遣されたスマラの侍女。それをこなすのが最優先事項である……。

 

 

 

 

 

 外の状況はどんどんと変わっていく。

 海軍はバスターコールの要請通りに島を跡形もなく消し飛ばすべく、軍艦からの砲撃を開始する。それにより崩壊していく街々。そこには、人の感情など有りもしない。

 ルフィとルッチの戦闘もいよいよ終盤に向けてヒートアップしていく。戦場は一か所にとどまらず、色々な場所を破壊して尚、決着はつかない。

 程なくして麦わら一味が、人魚のココロの助けを借りて護送船に集まってきた。ロビンとフランキーも合流だ。後はルフィただ一人が揃えば完璧である。

 

 

 

「あ……スマラ!!!」

「………」

「やっと会えたわ!!このまま戻ってくるの?」

 

 船内に飛び込んできたのはナミだ。彼女は船の出港準備の確認を行いに来たのだが、既に海兵たちがある程度済ませてある。伏兵や設備状況の確認の意味もある行動だ。

 そこで見つけたのが、いつも通り読書に勤しむスマラ。当然喜びの表情を見せるのが彼女の美点である。

 

「まさか、ここまで見据えて私たちから離れて行動していたの?」

「………貴女。私が船を降りるって聞いてなかったの?」

「い、いやでも、私たち世界政府なんか敵に回したって……」

「そういう事を言っているのではないのよ」

 

 スマラをどうにか戻ってこさせようとするナミに対して、スマラがストップさせた。

 スマラは少し可笑しくて吹き出しそうになるのを我慢した。今の少し必死そうなナミの様子があまりにも滑稽だったからだ。

 出会いは単なる偶然。初めはルフィすら歯が立たない強者としての怯え。それが数か月旅する中で薄れていき、今では彼女自身からスマラの事を仲間だと思うようになっていった。

 その変化が実に面白いものであった。

 

 故にスマラは、キチンと分からせてあげることにした。ロビンのようにはいかない事を。

 

「いいかしら。ここに居たのはあなた達が護送船を乗っ取ったからで、私から会いに来た訳ではないの。それに、戻るならキチンと条件を述べなさい。世界政府が出した条件よりもいい物をね」

「……ホントに別れるつもり?あんただってこの旅が退屈だったわけじゃないでしょ?」

「確かに退屈では無かったわ。面白い物も見れたし、新しい島にも行けた」

「だったら……」

「それでも世界政府の条件の方がいいのよ。私がそう判断したから……」

 

「そうね。世界政府よりもこっちの方が居心地が良いと判断したら戻って来るわ。その時はまた歓迎してくれるかしら?」

「……当たり前じゃない」

 

 

 そうやって締めくくった。

 勿論、単なる口約束。この場を円滑に進めるための出まかせである。

 それを知っているのはスマラだけであったが……。

 

 

 

「ところで、その隣に居る人は誰?メイドさん?」

「…初めまして。この度スマラ様のお世話を申し付けられましたシルズと申し上げます」

 

 お見知りおきを……とシルズが一礼。

 海賊であると知っていても崩さないその態度は、侍女の極みに位置するであろう。

 ナミも渇いた笑いしか浮かばない。なぜなら、

 

「こんな人を付けられてるのが報酬の一部ね……」

「………まぁね」

 

 スマラを麦わら一味に戻すとなると、これを超える条件を見付けなければならない。

 故に、ナミは渇いた笑いしか浮かばない。

 

 

 

 

 

 それ以前に、この状況から逃げ切らねば始まらない。ナミは程なくして船から降りて行った。

 軍艦から降りてきた海軍本部中佐、大佐が出陣してくる。ロビンの奪還の為にだ。

 それと渡り合う麦わら一味。CP9を倒した彼らにとって不足は無い戦力だが、海軍側にはいくらでも人員補充が可能。

 対して麦わら一味はジリ貧。さっさと逃げたいところだが、ルフィがルッチと戦っている。それが終わるまで帰れない。

 時間との勝負。しかし、麦わら一味はルフィが勝つと信じて耐え抜く。

 

 そして、

 

 

『ぜ、全艦に報告!!!CP9のロブ・ルッチ氏が、たった今……麦わらのルフィに敗れました!!!』

 

 

 電伝虫を通じた軍艦からの報告が島中に鳴り響く。

 CP9は全滅。残りは海軍だけだ。

 

 

 

「麦わらのルフィが勝ちました。スマラ様はここまで見えていたのですか?」

「いいえ。可能性があると感じていただけよ」

「なるほど……どちらへ?」

 

 スマラはパタンと読んでいた本を閉じた。リュックサックの中にしっかりとしまい込んで立ち上がる。

 シルズがすかさず付いていく。スマラは答えない。ただ、足取りに迷いはない。

 船の甲板に出ると、スマラは振り返り軍艦を見渡した後、シルズに命令を下す。

 

「貴女は先に軍艦に行って私が向かうと伝えなさい。そうね………そこで良いわ」

「はい、承りました。スマラ様はどちらに?」

「最後に義理を果たしにね。戻って来るから安心して待ちなさい」

「わかりました!」

 

 侍女らしく、主人の命令には正しく従う。シルズはスマラの命令に疑問など持たずに応える。

 スマラは満足そうに頷いて護送船を後にした。その直後である、護送船が軍艦の砲撃によって爆発して大破したのは。

 全ては未来をも見通すレベルの見聞色の覇気のおかげだ。………まぁ、あの中に居たとしてはもスマラ自身は無傷でやり過ごすことなど、無意識で可能だが……。

 

 

 

 

 爆発に紛れてスマラは護送船を脱出した。その際に見聞色の覇気でシルズの足取りを探った所、彼女も無事に脱出したらしい。やはり、言った通り彼女も護送船から軍艦までの移動手段を持ち合わせていたみたいだ。

 スマラが移動した場所は元の原型を少ししか残していない場所だ。もう一、二分後には危険に晒される場所でもある。そこに一つだけ用事があった。

 それは……

 

「はぁ……はぁ……くそぉ……」

「…………」

「うごけ……」

「絶体絶命のピンチ…………どんな気分かしら?」

「あ……す、スマラ…」

 

 スマラの現在地はためらい橋の支柱。ルッチに勝って倒れたたまま動かないルフィの目の前だった。

 用事、それはこの場でしか行えない事。

 

「助けに、来て…くれたのか?」

 

 スマラの姿を捉えたルフィが、何の疑問もなくそう言った。

 お気楽な思考回路だこと。麦わら一味の船から姿を消したスマラがこんな場面で現れたのだ。何も疑問も思わずに「助けてほしい」と言えるのも、彼だけであろう。

 本気で助けてほしい。そう思っているルフィにスマラは呆れた表情で言葉を返す。

 

「助けに来たね……。それ以外にも言いたい事はあるんじゃないのかしら?」

「う…そうだ……。お前、ホントに船から降りるのか?」

「えぇ。それは確定事項よ……」

「そうか……」

「あら、もう少し引き留めるかと」

「いいさ。お前がそれでいいなら、な。でも、何時でも戻って来ていいぞ」

 

 ルフィは疲労で動かない筋肉を使って表情を変えた。笑顔だ。

 全く、理解不能な男だ。こんなにも怪しい自分を仲間に誘い。去り際には「何時でも戻ってこい」と笑うのだ。

 スマラの知る海賊の中でも、彼ほどのんきな者は知らない。…………いや、数名いたような…。ともかく、彼の笑顔は清々しいものにもほどがあった。

 

 

 

 スマラはルフィの元にただ佇ずむ。これ以上声を掛けるわけでもなく、ルフィを動かすわけでもなく、ただ佇む。

 しかし、そんな中でも外の状況は変わらない。

 軍艦の砲台がためらい橋の支柱に狙いを定め、麦わら一味を殲滅しようと火を噴く数秒前。

 このままでは間違いなく全滅は免れない。ロビンがとりあえずルフィを自分たちの支柱に引っ張り込もうと能力を使って腕を咲かせているが、ルフィの倒れた位置が悪く届かない。能力にも効果範囲という物が存在している。ほんの少しだけ足りないようだ。

 そして、遂に砲弾の照準が整い……砲撃5秒前。

 

 5

 

 こうなったらどうにか協力してルフィの元に跳び、ルフィを海に落とそうと考えるゾロとサンジ。

 

 4

 

「海へ跳べ!!!!!」と叫ぶウソップ。

 

 3

 

 最後に、ルフィをポンっと叩いて一メートル飛ばすスマラ。

 

 2

 

 ルフィをしっかりと掴み、咲かせた腕でルフィを引っ張るロビン。

 

 1

 

 麦わら一味が叫びながら海に向かてダイブした。

 

 0

 

 砲撃開始。

 一斉に砲弾が降り注ぎ、支柱が完全に破壊された。

 

 

 間一髪、麦わら一味は全員無事に戻ることが出来た。

 たった一人で麦わら一味の窮地に駆けつけてくれた仲間の元に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かくして、麦わら一味は世界政府から逃げ切った。

 しかし、物語はここでは終わらない。

 

 一海賊団を逃したばかりか、CP9は全滅しエニエスロビーはボロボロ。

 まんまと逃げきられて、怒りではち切れそうな中将の前に、一人の男が現れた。

 その姿を見た瞬間、中将は姿勢を正して怒り心頭の様子を隠さずに言った。

 

「い、いらしたとは!!直ぐに追いますので!!」

「このままでは到底終われない!!」

 

 直ぐに麦わら一味を追おうと行動に移す中将を止めたのはその男だった。

 

「……もういい」

「!!?」

「この島と艦隊を見れば一目瞭然。……この一件、我々の完敗だ」

 

 中将ですらこの男の言葉には従わなければならない。

 なぜなら、彼こそがスパンダムにバスターコールの権限を与え、今回の麦わら一味とニコ・ロビン捕縛作戦の最高責任者、大将青雉だからだ。

 彼が追撃を許可しないのなら、中将等では勝手な行動は出来ない。それほどの権限を青雉は持っている。

 

 

 

「それで、負けた気分はどうかしら?女の子にも勝てない大将さん」

「お前はッ!!」

 

 これにて終了。後処理の為に頭を抱えていた中将の前に、それは現れた。

 今回の作戦で保護対象とされた人物であり、麦わら一味への一斉射撃を行った時から行方を眩ませていた者だ。

 それが隣に居る。

 

 それだけなら良かった。が、中将は彼女の気配を全く察知出来なかったのだ。隣に現れる寸前まで。

 それは通常なら有り得ないことである。海軍本部の中将以上の者は皆、覇気を習得している。習得していなければその地位まで昇進出来ない。

 覇気は扱える。扱えるようになって一年というレベルではないのだ。中将になって十数年。己の見聞色の覇気を過信している訳ではないが、こうも反応できなかったことは一度もない。

 故に驚きが止まらない。一体いつの間にそこに居た?声を掛けられなければ、全く気付かなかったくらいだ。

 

 

「殺気を引っ込めなさい。私は別に争いに来たわけじゃないもの」

「あらら……。彼女こそスマラで間違いない。任務を忘れたか、お前ら?」

「た、大将殿……。ぐぬぬぬ……ッ!!」

 

 このままでは軍艦が全部破壊されてしまう。そう思った青雉が中将を諌める。

 大将に言われてしまえば殺意を抑えるしかない。もっとも、スマラが気配を消して後ろから近づかなければ、中将も殺気など向けなかったのだが………それはスマラの自業自得だろう。

 それに、海軍にはスマラを敵視せずに本部に同行させて観察するように命令が下っている。中将も冷静になっていればスマラに敵意を抱くなんてことはしないはずだった。

 これも全部、スマラが気配を消して後ろから近寄った事が原因だ。その時にかけた言葉も意味を飛躍させる一環となっていた。

 歩いて、遠くからでも分かるように移動していれば良かったのだ……。

 

 

 あのままスマラに暴れられてこれ以上軍艦に被害を出さなくて良かったと、ほっと一息を吐く青雉。その思考を読んで、私は暴れないわよ。……反射した攻撃がどこに行くかは知らないけど。と呆れた目線を向けるスマラがいた。

 スマラの気配を感じ取り、走ってやって来たシルズからスマラで間違いないと、複数人からの証人を得た中将がようやく敵意を抑えて場の指揮に戻る。

 一件落着……とは行かないが、何とか収まった。これで後は海軍本部に移動するだけだ。

 

 

 

 

 となれば話は簡単だったんだが……。

 海軍の出港準備が整うまで暇を持て余しているスマラの隣には青雉が座っていた。何かある。でなければ、今頃実務から逃げるように海を漂っていたであろう。

 スマラはそう断言出来る。本の活字を追いかけながら横目でチラッと確認を取る。

 

 

「…………」

「……………一つ、聞いておきたい事がある」

 

 

 ほら来た。

 青雉が真剣な顔をする時、必ず厄介な案件である。

 スマラはそう内心で顔を歪めずにはいられなかった。が、無視してやり過ごすには少々分が悪い。なぜなら、チラッと横目を向けた時に目が合っているからだ!!仕方なく話を聞いてやる。

 ただし読書は止めない。

 

 

「良いわ。勝手に話しなさい」

「勝手にって、これまた自由気ままだな」

「それが私だもの。でなければあんな場所から逃げ出すなんてしてないわよ」

「そりゃそうだな……。じゃあ質問だ。なんであそこで麦わらを助けた?あんたにとってあいつらはただの同乗人なんだろう?」

「それは…………」

 

 パタンと本を閉じたスマラ。スマラが本を閉じるだけの質問だったらしい。

 目を青雉へと向ける。青雉は座っているわけで、自然と見下す立ち位置になった。

 

「それは、最低限の義理を果たしただけよ」

「と、と言うと?」

「無理矢理でも、東の海からウォーターセブンまで乗せてもらった事には変わりないわ。だから、それのお礼……とでも考えて」

「……お前さんがそこまでやるのか?乗っている船がどうなろうと関係ない。自分さえ生きていられれば……そんな考えを持った人間だと思ったんだけどなぁ。俺の考え違いか、こりゃ」

 

 

 青雉がスマラの言い分を聞いて、考えが外れたと頭をボリボリとかいて言う。スマラはまたしても鼻で笑った。

 

 

「ハッ、考え違いね。良いわ、もう一度だけ確認をさせてあげる」

 

 

 その言葉と共に場の空気が固まる。スマラから覇気が漏れているのを青雉は感じ取った。

 政府の指示と言え、味方ではない者が覇気を発動させている。当然の様に感じ取った中将が周りに集まるが、青雉が手で追い返す。

 仮に暴れられても、中将レベルではスマラの相手にはならない。これはスマラの感情だ。スマラ自身が必要として青雉を威圧する為に出しているもの。それだけスマラの本気度が伺える。

 青雉は生唾を飲み込んでスマラ言葉を待つ。

 

 

「私は私のしたい様にする。それはあなた達の場所に鞍替えしても同じ。手綱を握るとか、良い駒に出来るとか考えないことね。不満があるならそれでも構わないわ」

「………それでも指示に従うのか?」

「従っている?違うわよ。私に利益があると思ったから、それに従っているだけよ。利益が出ないと思ったら、他の方がいいと思ったのなら、私は何時でも出ていくわ」

「はぁ~。そりゃあ自分勝手なことでして。世界政府もお前さんが提案に乗ってくれたと聞いて、さぞかし喜んだだろうな」

「そうね。でも、麦わら一味同様、私は利害が一致しているから乗っているだけよ。だからこう締めくくらせてもらうわ……

 

 

  麦わら一味?利害が一致しているから乗っているだけですが?」

 

 

 

 

 

 一部完

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、海軍本部にて。

 

「はぁ~。またしでかしてくれたなぁ!!!ガープ!!」

「わっはっは!!流石にワシの孫じゃの!!!」

「笑っている場合かい。これは一大事件だよ。それに、スマラもここで監視されるみたいだからね」

「ほ~懐かしい名前じゃな」

「貴様は吞気でいい奴だな」

「まぁまぁ、あお茶くれ」

 

 最古参である三人の老兵が、今後の対応についてため息を吐いていた。

 

「奴なら大丈夫じゃろう。こちらから何もしなければ、あいつは何も手を出してこんよ」

「それは知ってるわ。ただ、どうしてここなのか?だぞ。おつるさんはどう思う?」

「さてね。ここなら万が一があっても止められると思われているんだろうね。まぁ怒らせなければ大丈夫だろうさ」

「はぁ……赤犬を筆頭とした問題児たちにどう説明するか……」

 

 




これにて前半戦を終了いたします。次回から後半戦をスタートです!!
麦わら一味を降りたスマラがどう過ごすのか!!!この時期に海軍本部と言えば……察してください。

何時も誤字脱字チェックありがとうございます!!自分では中々見つけられないんですよね……。
感想とかも時折ありがとうございます!!物凄く励みになります。


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616 五十三頁「海軍本部」

 大変お待たせ致しました。今回から後半戦の始まりです。
 従って、形式をちょっとだけ変えてみました。読んでからどうだったか感想をしてくださると嬉しいです。今回の方が良かったのか、それとも前回までの方が良かったのか……。自分的には今回の方が上手く書けたのではないかと、珍しく思ってます。
 あ、毎度ながら誤字・脱字報告ありがとうございます。最近ちょっとだけスランプに陥っているので、多いかと……。感謝していますよ。

FGO塔イベ終了。バレンタインイベント楽しみだ!!


 静かな空間。開けられている窓から外で起こっている喧騒がきこえてくる。が、それもかなり離れているので空気にとけこんだ生活音となっていた。

 部屋の中には本の頁をめくる音だけが響く。

 

 

「♪~~♬~~」

 

 

 違う。部屋の主が鼻歌を奏でていた。その姿はそれは見事な絵になっている。本人は全く気付いていないみたいだが……。

 

 この辺で分かる人は分かるだろう。本作の主人公のスマラがそこにはいた。現在地はマリンフォードの海軍本部に数多くある部屋の一角。本部自体が和風建築となっており、スマラの部屋もそれに沿った設計になっている。床は畳、仕切られた壁はスマラが見たこともない材質、ドアは襖で出来ていた。

 

 部屋には本が山積みになって散乱している。どれもスマラが政府に頼んで届けてもらった世界中の本だ。最近発行された新刊から毎日発行される新聞、数年前から十数年前に発行された古本、地方でしか売られていない新聞、雑誌、童話集などなど。数えるとキリがない事だけは分かる。

 

 片付けようとは思わない。面倒だし全部どこにあるか分かるからやらない。むしろ、この本すべてを本棚に収めようとするなら、部屋中が圧迫されるだろう。それよりも直ぐに取り出せるその辺にポイッと山積みしている方が楽だ。このことに業を煮やしている侍女が居るのだが、スマラがそういうのだから出来ない事を悔やんでいる。表に出していないが……。

 

 

「失礼します。昼食をお持ちしました」

 

「……いつもの場所に置いておいて」

 

「かしこまりました」

 

 

 そうこうしているうちに、話題に出ていた侍女――シルズが昼食を持って現れた。監視の為にこの場所に収めこまれているが、スマラは食客の身分である。食事も言わなくても豪華だ。両手に料理を載せたお盆を持って器用にバランスを取っているシルズ。バランス感覚はスマラ以上にあるのだろう。

 

 何時も通りスマラに昼食の時間だと伝えると、少し間が開いて返事が返ってくる。キリの良い場所まで読み進めたのだろう。スマラはマイペースに自分の読書を優先する節があるが、シルズは何も言わずに返事を待ち続ける。返事を急かせて不機嫌になったら困るからだ。世界政府方の命令でスマラには気持ち良く、指定された場所に留まってもらうために自分が派遣されたのに、その自分のせいで不機嫌になられると自分の首が跳ぶ。物理的に。まぁ、その前シルズは根っからの侍女なのでスマラに意見など一つも言わないのだが……。

 

 

「では、ごゆっくりどうぞ」

 

 

 シルズはそう言って襖の前に佇んだ。あくまでも侍女、命令があるまで待機するのが彼女の仕事だ。命令が下ったらそれに従うのも仕事だが、そこまでは言わなくても分かるだろうが述べておこう。

 

 スマラはシルズに礼を言うまでもなく勝手に食べ始める。読書は止めずに自分のペースでゆっくりと口元に持っていき飲み込む。しっかりと噛んでいるのは大変よろしいことなのだが、本人は無意識化の内にやっていることなので健康の事なんか考えちゃいない。

 健康?能力が勝手にコントロールしてくれるから気を付けたことがなかったわ。……世界中の女性がこの言葉に怒り狂うだろう。

 

 静かにな部屋の中でスマラは静かに昼食を食べる。もぐもぐ、ペラ、もぐもぐ、もぐもぐ、ペラ、もぐもぐ、もぐもぐ、もぐもぐ、ぺら。とスマラが食べ物を咀嚼する音と、何時も鳴り響いている頁をめくる音だけだ場にこだまする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スマラがここに到着したのは今から二日前。エニエスロビーでの一件で呼び出された軍艦に同乗して本部に向かったのだ。たらい海流と言う特殊な政府御用達海流に乗って30分。直ぐに海軍本部んは到着した。

 

 既に連絡は行っているのか、スマラが軍艦を降りる頃には無数の海兵が敬礼して出迎えていた。待遇は王下七武海並みと言えるだろう。実際に、スマラは海賊である事を否定している事と知名度以外では王下七武海並みの実力と実績を持っている。

 

 

「……はぁ」

 

 

 目の前の光景に一瞬呆れたスマラだが、言っても無駄だろう、と言うか言っても辞めさせること自体がめんどくさいとばかりにそのまま歩く。一部の海兵以外は皆、スマラが通り過ぎるだけでその美貌に吐息を吐き出す。噂に聞く海賊女帝にも引けを取らないその美しさに誰もがやられてしまう。

 

 しかし、彼らは知らない。美しいからと言って性格まで完璧と言うわけではないということに。海賊女帝然り、スマラ然り。誰だって完璧な人間など存在しない。スマラなど、男どころか人にすら関心抱くことが珍しいレベルでの変人ぶり。故に、彼らはスマラの事を遠目から見れるだけが一番幸せなのだ。

 

 

「それではスマラ様、お部屋に案内の前に元帥へ挨拶を予定しておりますが、いかがなさいましょうか?」

 

「元帥……センゴクね。めんどくさいけど、後腐れなくするためなら仕方ないわね。案内して頂戴」

 

「かしこまりました。では、そのようにお願いします」

 

 

 シルズの指示で案内役が現れる。将校ではないらしいが、それなりの地位を持っている人物らしい。薄ピンクの髪の毛に黒淵の丸眼鏡とバンダナをしている額に傷が入っている少年と、金髪ロングをオールバックで後ろに流している青年だ。二人共若いながら潜在能力は高いわね……とスマラは推し量る。

 

 

「短いながらも案内役を務めさせていただきます!!本部曹長のコビーです!!それとこちらが…」

 

「軍曹のヘルメッポだ。しっかしこれが噂の可憐なる賞金稼ぎかぁ~。思ったよりも綺麗じゃねぇか」

 

「し、失礼ですよヘルメッポさん!!任務に当たるんですから、私語は慎まなきゃ」

 

「私語って言ってもよぉ。相手は上官でも何でもねぇんだから、少しくらいいいだろ?それに、コビーだってソワソワしてる癖によぉ」

 

「そ、それは!!!でも初めくらい……」

 

「お喋りくらいしてても良いから、案内役なら歩きながらしてくれるかしら?」

 

「「はいぃぃ!!!只今ッ!!」」

 

 

 潜在能力は高いながらもまだまだ若いせいもあってか、少しばかり私語が多い二人はスマラの無表情の催促により跳び上がりながら前を歩き始めた。コビーとヘルメッポが並んび、スマラがその後ろを付いて行き最後尾にシルズが静かにお供する。一種のパーティーのようだ……とスマラは洞窟を探検する物語を思い出しながら歩く。

 

 港区から海兵やその家族が暮らしている居住区域を抜けると、長い階段を登って防壁の役割を果たしている石壁の上に。ここからは関係者しか立ち入り禁止な場所、『海軍本部』そのものである。色んな場所を曲がって登って先を歩くコビー。スマラはしっかりとその道順を記憶する。普通の町なら記憶するだけ無駄であると斬り捨てるが、この場所だけはある意味特殊なので別だ。緊急時にも使えるし、それ以外にも気分転換に歩き読書したくなった時にも使える。(良い子は真似しないでね)普段は訪れる事の出来ない場所の地形を覚えるために、わざわざ本を読まずに黙ってついて行ってるのだ。………もっとも、スマラが覚えなくても完璧な侍女を演じているシルズが全て憶えている訳だが……。

 

 

 

 それは本部に入ってかなり上の方に上ってきた時だった。まだ上なの?とスマラが若干歩くのにも面倒になって来た頃合いに、戦闘を歩くコビーがソワソワし始めたのだ。

 

 

「あ、あの~。お一つ聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」

 

「質問?」

 

「はい」

 

 

 コビーはスマラに質問がしたいらしい。それが自己紹介の時にヘルメッポとお喋りしていた理由だろうか?スマラは暇だったので許可を出した。するとコビーは周囲の様子を確認した後、先ほどとは違って興奮した様子を見せて質問を繰り出した。

 

 

「スマラさんって麦わら一味に乗っていたんですよね?ど、どんな感じでしたか?」

 

「どんな感じ?騒がしくて面倒事を吸収するような人たちだったわ。……所で何故そんな事を貴方が聞くのかしら?」

 

「わ、話題のルーキーなので情報を……と思いまして」

 

「噓ね。表情が緩んでいる。その様子では知り合いのようね。だいたい想像は付くけど……」

 

「いや~。実はルフィさんは僕の…」

 

「貴方の物語には興味があるけど、直接聞くのは好ましくないわ。後で文字にして提出しなさい」

 

「も、文字ですか!?」

 

「あ~あ、俺は知らねぇぞ。だいたいあんな過去忘れたいくらいだぜ」

 

「そっちのヘルメット軍曹?だったかしら?そちらにも興味あるわ、コビー曹長と一緒に提出してくれると助かるわ」

 

「ちくしょ~~~!!!」

 

 

 話の会話から、この二人は麦わら一味の関係者だと予測を立てる。末恐ろしい人達だ。敵である海軍にも交友関係があるとは……。気になったスマラは書類での提出を命じて二人を困らせる。権力的な権限はスマラ持っていないのだが、スマラは食客扱いの監視対象だ。望むものは何でも用意させる。それが世界政府との交換条件。故にスマラが望むのならこの二人はスマラの要求から逃れられない。自分から言い出したコビーはともかく、完全なとばっちりを受けたヘルメット……ヘルメッポはドンマイ。

 

 

 

 そんな感じの会話を挟んでまだ登る。元帥の部屋と言うだけあって、やはり最上階に位置するらしい。移動だけで小一時間かかっている気もするが、ようやく目的の場所にたどり着く事ができた。

 

 と、ここで一つ疑問が浮かんだ。スマラが案内されたのは元帥の部屋だ。元帥は海軍のトップの役職でもある。一介の海兵では会うことすらできないであろう権力者だ。そんな者の部屋に、軍曹と軍長レベルの者が案内役として用意されたか?だった。普通なら最低でも少尉……いや、スマラの実力を考えると少将や中将レベルの物が案内人であってもおかしくはない。

 

 しかし、そんなスマラの疑問も直ぐに解決した。それは元帥の部屋に着いてからだった。

 

 

「失礼します!!賞金稼ぎのスマラさんをお連れいたしました!!」

 

「あぁご苦労だったな!!!どうじゃった!!噂のこやつは!!」

 

「ガープ!!お前が面倒見ている者を迎えに向かわせたと言えば、これが目的なのか!!」

 

「わっはっはそう怒るな!!」

 

 

 スマラが到着した次第、即座に喧嘩を始める二人。大男二人の喧嘩は迫力がある。……いや、喧嘩と言うよりもカモメの帽子を被った男が白髪のおじいちゃん海兵に向かって一方的に怒鳴っているだけであったが……。喧嘩と言うよりもじゃれ合いなのだろう。片方はせんべいを食べながら笑っているし………。

 

 しかし、じゃれ合いでも周囲の海兵の顔色は悪くなっている。それはそうだろう。なんて言っても、彼等は全世界に数百万在籍している海軍の中でもトップの二人なのだから。

 

 カモメの帽子を被った仏顔台無しの怒りをぶちまけている元帥『仏のセンゴク』その異名の原因が顔であることよりも『ヒトヒトの実モデル大仏』からきていることもスマラは知っている。もう片方のおじいちゃん海兵。おじいちゃんと言っても見た目はスマラをも超える巨体に鍛え抜かれた身体。単純な近接戦闘ではスマラですら手も足も出せないだろう。『海軍の英雄ガープ』悪魔の実は食べておらず、単純に鍛え抜かれた身体と覇気だけで大将に選抜される化け物。

 

 海軍の中でも歳を食っていながらもまだまだ現役な二人。幾ら海賊でないと言い張っているスマラでも、産まれが産まれなだけあって緊張せざる負えない。もし本気の戦闘が起きれば、元帥に英雄、それに大将だって出撃してくるであろう。そうなったらスマラですら対応しきれない。ここは何時でも能力を使えるように集中するかない。

 

 それともう一つ。スマラが途中で感じた疑問、それはコビーとヘルメッポがガープの命令で動いていたとなると納得だ。彼等が年の割に強いのは、英雄に育ててもらってるとなると納得出来る。まぁだからと言って書類の提出を免除するわけでないが……。

 

 

 

 一波乱あったがようやくガープを怒鳴るのを辞めたセンゴク。彼はスマラを黙って観察し始めた。噂には聞いていたが、初めて会う強者である。海軍で預かるのならその実力を図っておくのもトップとしての仕事。

 

 

「ふむ。聞いてた話よりも若いな。能力の影響か?それに……当然覇気を制御している。こんな奴が海賊でなくてホッとするぞ」

 

「おぉ!!どうだ!!わしが鍛えて強い海兵にでも……」

 

「やめんかっ!!!誰構わず海兵に育てようとするのは!!」

 

「……海兵なんて絶対に嫌だわ」

 

 

 一人だけ場違いな事を言って怒られるガープ。スマラは即答で断った。あの手の脳筋はどこかの海賊と同じでしつこい。しっかりと断っておかなければ、ズルズルと引きずり込まれてしまう。

 

 そうなったら困るのはスマラ自身だ。今までは個人として海を放浪していたから何もなかったが、どこかに所属するとなると話は別である。先の麦わら一味の船に同船もそうだが、現在の状況である世界政府の指定する場所に留まるのも本当は危ない橋を渡っている状態なのだ。何処かに所属するならば、奴らは絶対に取り返してくる。それがただの海賊団相手ならば全滅で、世界政府相手ならば交渉か強奪か……。どちらにせよ、スマラにとって望んでいる状況でないのは確かだ。

 

 はぁ……。どうして誰も私をほっておいてくれないのかしら?この能力が悪いのかしら?それとも産まれ?親を憎めばいいの……ってもう憎んでたわね。まぁそのことは置いておいて、今はここでの生活を快適に出来るために印象を良くして置かないとね。

 

 

「それで、私はここに歓迎されているのかしら?」

 

「歓迎などするかッ!……だがしかし、海賊の様に敵対するわけでない。何しろ貴様は、少なからず賞金稼ぎとして海賊の捕縛に貢献してきたのだからな。経歴がどうとあれ関係無い」

 

「暇が出来たらわしと手合わせでも……」

 

「貴様はもう黙ってくれっ!!」

 

 

 茶々を入れてきたガープに怒鳴るセンゴク。ガープは懲りたのか、不貞腐れたようにせんべいをバリバリと食べ始めた。副官にお茶を要求している。……部屋から出さないのは、部屋から出て行ってどこかの大将の様に放浪されると困るからだろうか?

 

 ガープが黙った事でようやく落ち着いて話が出来る。と言ってもスマラから話ことは何もなく、用事があるのはセンゴクの方だ。一体これ以上何があるのやら……。

 

 

「ようやく黙ったな」

 

「それで?早くしてくれないかしら?私疲れたのよ」

 

「まぁ焦るな。今日で会う事は無い……はずだ。…………ガープが既に聞いているが、これも上からの命令だからオレを恨むなよ」

 

「だから早く」

 

「軍に入るつもりは?無論待遇は良くするつもりだ。入隊から中将の地位、通常勤務の免除で緊急事態だけの出動、キチンと給金も出る上に政府に頼めば欲しいものを用意してもらえる。いわば名誉職みたいなものだ」

 

「私が軍に入ることによるそちらのメリットは?」

 

「……新世界でも通じる可憐なる賞金稼ぎのネームバリューによる牽制だな」

 

「……………それだけじゃないわよね?」

 

「グッ!!……ハッキリ言うが、その辺の海賊よりも四皇への牽制意味合いの方が大きい。貴様は四皇までとはいかずとも、四皇の幹部には匹敵しているからな」

 

「嫌味なの?喧嘩撃ってるなら買うわよ!?それと軍への入隊はノーよ!!」

 

 

 えらく不機嫌な様子で機微を返すスマラ。センゴク、スマラの地雷を踏んだらしい。暴れてこそいないが、青雉にセクハラされた時よりも機嫌は悪い。無意識ながらも覇王色の覇気までちょこっとだけ漏れている。それくらい癇に障ったらしい。

 

 スマラは怒りに任せて「部屋に案内してちょうだい!」と若干強めにシルズに命令して部屋を去る。このまま居座っても何も良いことは起こらない。スマラの溢れ出る覇気にコビーとヘルメッポがやられているからだ。流石にセンゴクとガープは何事もない様子でいるが、経験が経験なので仕方ない。

 

 

 ドスドスと不機嫌を表したかのように地面を踏みしめて進むスマラ。部屋のドアが閉まる直前、後方からガープののんきな声がスマラの耳に届いた。

 

 

「そうじゃ~。ルフィの奴は未だにウォーターセブンに居ると思うか~?」

 

 

 麦わらのルフィと英雄ガープに何の関係が?と思ったスマラだったが、そう言えば家名が同じだったことを思い出す。年齢から考えて祖父と孫。海軍と海賊と言う対極に居ながらもその様子が気になるのだろう。

 

 ここで答える義理はない。そもそも、スマラはウォーターセブンに到着したその日の夕方に抜けてきたはずだ。エニエスロビーで一時期会ったりしたが、その後はどうなったのかは不明だ。しかし、別れ際に船を乗り換える話をしていた様な記憶が……。ならば、そのままウォーターセブンで新しい船の完成を待っているのではないか?

 

 答えは出た。だけど、まだ答える義理は出ていない。このまま無視して部屋に案内してもらおうと思った矢先、スマラはある考えを思いついた。そういえばあの二人に感想文をお願いしていたわね…と。ガープがルフィの元に行くのなら、あの二人も当然ついて行くだろう。そこでルフィと再開するはず。そうなれば、文字数が増える!!これは是非とも教えるしかないであろう!!と、思った。

 

 

「……だと思うわ」

 

「そうか。ありがとな。よし、早速行ってくるぞ!!コビー、ヘルメッポ!!起きんか!!!」

 

「待てガープ!!!貴様、まさかと思うが!!」

 

 

 後は知らない。多分あの様子だとガープが振り切って無理矢理出航したのだろう。振り回される人の苦労が絶えない。

 

 スマラは最上階から二階下のこの部屋に案内され、2日経過した今に至ると言うわけだ。あれから海軍側からは何の接触も見られない。接触どころか姿させ見せない状態なので、スマラの着港した時に居た海兵以外からは都市伝説……まではいかないが「物凄く綺麗な女性が本部の何処かに住んでいる」という噂が海兵隊員………特に階級の低い者たちからたっている。もっとも、スマラは部屋から一切出ないので、その噂も耳にしないのだが……知っても本人は特にきにしなさそうだ。

 

 

 

 場面は戻って二日後の昼食時。運ばれてきた料理をモグモグ食べているスマラ。例え読書をしながらというマナーの成っていなくても、その姿に見惚れる者は10人中9人はいるであろう。そう、マナーが悪くても!!

 

 

「そういえば、外の様子が少し騒がしいわね。何かあったの?」

 

 

 突然声を出してシルズに質問を投げかけるスマラ。見聞色の覇気を常備発動中の彼女だからこそ気づけた事だ。ここまスマラに取って敵地までとは言わないが、それでも警戒するには越したことのない場所である。自身に攻撃をしてこない可能性も拭い切れない為、常に周りには気を張っている。中将レベルならまだしも大将レベルの攻撃ならば反射で無力化出来ない場合もあるからだ。

 

 だからスマラ気づけた。海軍本部の様子がここ二週間の中では最も気配が慌ただしくなっている。スマラが到着した時以上の騒めきだ。流石に気になったスマラがシルズに質問すると、当然の様に返答が返ってくる。

 

 

「はい。実は新世界において『白ひげ』と『赤髪』が接触した模様です。なので厳戒態勢を……という事らしいです」

 

「あの白ひげと赤髪が?ここに来て潰し合いかしら?」

 

「私からは何も……。これに関してははスマラ様の方がお詳しいでしょう」

 

「まぁそうね。全く関係ないとも言い切れない事態ですからね。……全く忌々しい」

 

 

 『白ひげ』と『赤髪』どちらも偉大なる航路の後半『新世界』の海に君臨する4人の海賊、通称『四皇』と呼ばれる覇者だ。四皇は世界三大勢力の一角として数えられるほどの影響力を持ち、そのトップ2人が接触するとなると、さすがの海軍、世界政府も無視出来ない緊急事態になる。

 

 スマラはそのことをシルズから聞くと、少しだけ顔を歪ませた。白ひげ又は赤髪、若しくは四皇と言う単語に心当たりがあるらしい。それも特大サイズに嫌~な思い出が。だからこの話題は終わりになった。スマラは不機嫌そうにササッっと昼食を済ませ、食事中でも読んでいただ本を勢い良く読み進める。

 

 スマラが会話を続けないのならシルズには会話を続ける権利はない。食べ終えた食器をお盆の上に乗せて「食器を片付けてまいります」とスマラに一言声をかけてかたら部屋を退出した。彼女は直ぐに戻ってくるが、一体何時食事や休憩を取っているのであろうか?対外スマラの近くにいるので、スマラが疑問に思っている点でもあった。

 

 

 

 こうしてまた一日の半分が過ぎ去った。外の世界には全く関わろうとせず、全てを与えられた部屋でのうのうと読書をして過ごす。これぞスマラが望むヒモ生活だった。欲を言えば、街から徒歩1時間くらいの郊外がベストなのだが、見返りに望む本を全て用意してくれるなら、こんな場所(海軍本部)でも文句を言えない。

 

 しかし、スマラが外との関わりを断とうとも世界は動き続ける。先の四皇同士の接触から始める大きな出来事に、スマラは巻き込まれる事を今はまだ知らない。いくら見聞色の覇気で未来を見ることが出来ると言っても、何週間も先の事を知れるなら、それではまるで本当の未来予知ではないか。生憎、未来予知を行える人物はこの世界には存在していない……とされている。世界は広いのでどこかにそんな能力者が居る可能性も否定出来ないのが、この世界。

 

 スマラは未来の事を知らずにのうのうと読書を続ける。だって、それが彼女にとって一番やりたいことなのだから。

 

 




早く頂上戦争入りたいんや……。でも何でこんなに長くなったのだろう?
2、3話挟んで頂上戦争かと。どんな感じで話に絡むんでしょうかねー棒読み


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621 五十四頁「待ち受ける受難」

毎度誤字報告ありがとうございます。


 次の日。つまるところスマラが海軍本部に来てから三日目の朝だった。

 

 いつも通り夜遅くまで読書を行い、お外では海兵さん達が鍛錬や仕事に勤めている時間帯にやっとこさ起きたスマラ。生活リズムが麦わら一味にいた時よりも悪化している……。しかし、スマラは身分的にいつまで起きていようと、いつまで寝ていようと怒られない。基本的に自由な生活リズムを持っていたスマラだが、ここに来て更に堕落したようだ。

 

 夜更かしは肌に悪い?スマラに美容の事なんか全く頭の中にない。それでいてあの美貌なのだから、スマラの存在を確認している女海兵からの嫉妬が多い!!でも、スマラには全くもってダメージはゼロ。スマラに精神的なダメージを与えたければ、それでこそ世界の動きに関わって尚且つスマラにも関係のある情報や事件を引き起こしましょう。報復で殺されるでしょうが、そこまでの覚悟がお有りなら是非ともお勧めです。スマラの平凡な怠惰な暮らしは一瞬にして崩れ去る事が可能ですぞ。

 

 

 

 と、冗談はここまでにしておきましょう。ナレーションは真面目に戻る。あまりふざけたナレーションはいらない。そんな事を述べたいのなら、一人称系にすればいいだけの話である。

 

 三日目の朝、惰眠を貪っていたスマラがようやくベッドから起き上がると、ずっと待機していたシルズがスマラに新聞を手渡した。今朝発行されたばかりの朝刊だ。

 

 

「あら…ようやく新聞になったのね」

 

「麦わら一味の司法島事件でしょうか」

 

「そうよ。……一般人の巻き込みから島が燃え堕ちたことまで全部麦わら一味のせい。情報操作が過ぎるわね。でも、世間的にはこれくらいがちょうど良いのでしょうね」

 

「それは仕方ありません。それがこの世界ですから」

 

 

 情報操作。それが一般人にとって良いのか悪いのか……。少なくとも一般人ではない自称一般人のスマラには到底分からない。己の立場故に新聞を深く読んで情報収集を行う。たった少しの変化、疑問点を野放しににしていただけで今の暮らしが無くなる可能性がある。そんな人間、決して一般人とは言えないだろう。

 

 新聞記事を隅から隅までチェックしている最中にシルズが朝食の準備を整える。焼きたてのクロアッサンにバター、ヨーグルトとハーブティーと簡単な物だがスマラ、普通に食事が食パンだけだった日もあったので、これだけで豪華だ。税金で用意されるご飯は美味しいですね!!

 

 用意された食事を食べながら新聞も読み進めていく。すると、折込チラシのように挟ませてあった紙が数枚落ちる。

 

 

「手配書……更新されたのね。3億か。まぁ手頃な金額ではないかしら?」

 

「…普通は3億レベルになると手頃とは言えないのですが……スマラ様からしたら手頃な金額なのでしょうね」

 

「覇気も習得してないのによくやるわ。でも、新世界では通用しないでしょうけど」

 

「流石、新世界でも活躍できる賞金稼ぎの言うことは違いますね」

 

「お膳立てしているつもりなら止めて頂戴。全部必要だから行った結果よ。好き好んで危ない橋を渡る訳ないじゃない」

 

 

 どの口が言うか。現在スマラは危ない橋を渡っている最中なのだ。これがバレたら絶対に居場所が無くなる。それだけは絶対に避けたいのだが……生活費ゼロ、娯楽用品費ゼロの生活が美味し過ぎた。基本的に自制を行えるスマラだが、本の事になると我を失ってしまう我儘な性格なのだ。というか、誰だってこの条件は飲むだろう。世界政府と言うまさに世界を仕切っている機関が後ろ盾になってくれるなんて、王族でも有り得ない。

 

 パラパラと眺めながら懸賞金額について意見を述べるスマラに、シルズがよいしょ多めの受け答えを返す。それがまた気持ち悪くてスマラは止めるように促すが、シルズはまた辞めないだろう。だってそれが侍女なのだから!!

 

 朝食を食べ終える頃にはスマラも新聞を読み終えた。シルズが食器を片付けている間に、その辺に積み上げてある本のタワーの中から今日読む本を選んで傍に引き寄せる。題名だけで選んだシリーズ物の長編小説だ。耐性の無い者が目にしたら、ものの30分も経たないうちに根を上げてしまうような頁数。速読するにしろ普通に読むにしろ、スマラにとってはなんてことのないレベルの本だ。

 

 シルズが戻ってくると次に欲しい本を彼女に伝えておく。すると、余程入手困難な本でない限り一週間以内に届いてスマラは読みたい本が読める。

 

 

 

 

 

 そうやって、一日で何十冊の本を読み続ける生活が数週間続いた。一か月か二ヶ月、そのあたりだろう。正確な日数は覚えていない。そもそも、適当に海を放浪していたスマラだ。その生活や移動基盤に規則性などなく、思いだった日に即決で移動したりする日が何十年も続いた。そりゃあカレンダーの必要性を感じなくレベルに。だからスマラにとってのこの海軍での生活でもカレンダーは意味をなさない。

 

 本の発売日は?と思うかもしれないが、スマラはそこまでこだわっている訳ではない。見つけたら買う、その程度の認識だ。兎に角読めたら何でもいい。気に入っている本なら何度でも読む。最近はシリーズ物の新刊だと、政府側が勝手に買って来てくれるので、スマラは一言伝える手間が省けてラッキーだった。

 

 

 この数週間、スマラは読書だけをして過ごしていた………訳ではない。

 

 基本的には読書は止めないが、疲れたらボケーっと窓の外を見ていたり、部屋を出て街を散策したもする。何事にも気分転換は必要だ。それが己にとって好きな事でも、何時間何日も続けていれば流石に疲れて来て集中力が落ちてくる。スマラにとっての気分転換は適当に景色を見て回ることだった。そもそも、読書自体がそれほど体力や集中力を使うわけでもなく、むしろ日常に近いスマラは気分転換と言ってもする事は何もない。だから景色を眺めるのだ。

 

 勿論、景色を眺めるだけでは終わらない。いや、実際には終わるんだが…………スマラ以外にとっては、スマラが読書をしてない時間帯はとても貴重なチャンス時間だった。

 

 スマラが街を歩いていると、時折話しかけて来る人が数名存在している。それはただの子供だったり海兵の家族だったり、噂が広まっているのか普通の海兵だったり中には海軍将校レベルの大物もいた。スマラは彼らを相手したり、しなかったりと気分によって変えているが、皆興味深く接してくる。

 

 何が珍しいのだろうか?私の容姿のせい?それとも滅多に部屋から出ないから?政府の護衛対象だから?あの事件の事を知っているから……。いや、もしかしたらこれが普通なの?

 

 分からない。分からなくて疑問に思うからスマラは時折街を散策する。少なくとも、自分に敵意を持っている分けではないことは分かった。

 

 

 

 それだけではない。スマラが部屋で読書している間にも訪問して来る者は二名いた。書類仕事をサボっているガープと青雉だ。仮にも中将と大将、殆ど頂点に位置する二人なので捌かなければならない書類の数もかなりの数。サボり癖のある二人は、スマラの部屋を憩いの場として一時的に利用する打算なのだろう。

 

 今日も今日とてやって来る青雉にスマラは苛立ちを隠せない。集中して本が読めないではないか!!

 

 

「ねぇ、何故私の部屋に居るのかしら?サボりなら別の場所に向かってくれる?」

 

「つれねぇこと言わないでよさ~。ほら、今晩とかさ……」

 

 

 次の瞬間、青雉に向かって熱エネルギーが襲う。快適なはずの室内温度は急上昇し35度を超えた。余波だけでこれなのだから、青雉自身が感じている温度は軽く50度を超えているだろう。ヒエヒエの実の能力者で熱に弱い青雉にはこれ以上ない嫌がらせ行為だ。全く学ばない青雉である。

 

 

「次セクハラしたら部屋に入った途端に叩き出すわよ」

 

「分かった!分かったから室温を下げてくれ!!」

 

「自分の能力で調整したらどう?」

 

「それ、部屋事態を凍らす羽目になるんだが……」

 

「あなた、それでも大将なの?」

 

「面倒だからあんたに頼んでるんだよ!!そもそも室温上げたのはそちらじゃないの」

 

「その原因を作ったのはそもそも貴方でしょう」

 

 

 青雉、この部屋から出るか、面倒承知で能力を使って部屋の温度を調整する羽目になる。……すべて自業自得だ。分かっていながらもスマラにちょっかいを出すからこうなるのだ。

 

 なお、暑いと思っているのは青雉だけだ。スマラとシルズは、スマラの能力で二人の周りだけ普通の温度に調節しているからだ。確かに面倒な調整だが、何日も能力を使わないでいると感覚を思い出せなくなる。能力の使い方を忘れると困るのはスマラ自身だ。この平穏な生活が一生続くとはスマラも思っておらず、その時が来ても能力を普通に使えるようにしておくのがスマラのやるべきこと。

 

 この男のちょっかいは実に良い口実だった。間違っても死ぬことはない相手であり、過程が過程であるが故に逆上されることは絶対にない。実に都合のいい存在だった。

 

 

 

 こうなると青雉はスマラの部屋を出るしかなくなる。でないと、溶けてしまうか体力を無駄に消耗し続けるだけなのだから……。しかし、この日は違った。いつもなら少し脅せば直ぐに根を上げて出ていくんだが、この日は何故か居座る。

 

 

「珍しい、今日は根を上げないのね」

 

「普通なら逃げたいよ?でも、今回ばかりは仕事で来てんのよ」

 

「仕事?貴方が?」

 

 

 いつもはサボる為の口実としてスマラの部屋に入り浸っているが、今日ばかりは仕事で立ち寄っていると言い張る青雉。スマラは奇妙な物を見る目で青雉に視線を移す。海軍本部の大将を見るような眼では無かったが、それまでの言動がこの結果を招いているので青雉はスマラに言い返せない。

 

 

「俺だって若い頃には海賊退治に燃えていたぜ?それはあんただって知ってるはずだ」

 

「そうね。勘違いで付きまとわれて、一回その業績からくる自信をへし折ってあげたわね」

 

「うぐっ…手厳しいなぁ!!…………しかし、燃え上がる正義からだらけきった正義に変えた今でも、俺にもやらなければならないことくらいある」

 

 

  いや、言い返す。仮にも大将。威厳とかプライドとか上からの命令とか色々あるのだ。そこのところを配慮したうえで部屋の温度を……。あ、ダメですか。

 

 青雉、言外の交渉失敗。スマラとて青雉が言いたいことくらい簡単に理解可能だが……………今までのセクハラ行為を思い出した結果、嫌がらせ兼能力の低下を防ぐ練習を止めない。部屋の室温は40度近くまで上がってきている。青雉は更にヒエヒエの実の力を強めた。すると、スマラの口元は笑みを浮辺る。……こいつ、完全に遊んでやがるっ!!

 

 既に環境は限界、それに加えて目の前の女は楽しんでいる。青雉は久しぶりにキレそうだったが、それをグッとこらえる。ここでキレてスマラに危害でも加えたら、彼女は何をしでかすか分からない。最悪ここを出て行くまである。そこから自分に降りかかる上からの言葉を予想できないわけもない青雉は、余計にスマラに対して唸るしかない。

 

 

 一つ申し上げておこう。この間の会話の最中でもスマラはずっと手に持った本の活字から目を逸らしていなかった。実にフリーダムなスマラだ。

 

 

「で、早く要件を言ったらどう?」

 

「その姿勢は止めないんだな…」

 

「当り前よ。あなたたちの要件なんか、読書の片手間に聞くくらいで十分よ」

 

「…これでも十分重要な内容だけど……」

 

「知らないわよ。私にとってはそれくらいの価値よ。まぁ、内容次第ではキチンと真正面から向かいますけど?そうかどうかは貴方が概要を話してから私が決めるわ」

 

「………自分勝手奴だな」

 

「えぇ、私は自分勝手な人間なの。だからあそこからも逃げ出すことが出来たし、今まで適当に生きていた。今更誰かに従って生きるなんてまっぴらごめんだわ」

 

「………………」

 

 

 淡々とした声でありながらも力強い意志が伝わって来る言葉だった。青雉はその言葉に顔を伏せる。何かを考えている、思いだしているようだった。

 しかし、数秒もしない内に顔をあげた。そこには先ほどまでのだらけきった表情をした青雉の顔はない。海軍本部大将青雉としての顔があった。スマラも一瞬ながら、滑らかに動かしていた視線を止めた。

 

 ここからが本題だ。何時もみたいな何気ない会話ではなく、緊迫のある会話にすり替わるのだ。

 

 

「なぁ最近の新聞は読んでいるか?」

 

「当然でしょう。そこに文字があるのなら、私は読むわ」

 

「じゃあ話は簡単だ。今海軍が置かれている状況を知らないはずはない」

 

 

 新聞を読んでいたら分かる世界の――海軍の動き。頭の悪いものでも青雉が言わんとしようとしていることを理解できる。世界でも上からの数えた方が早いスマラが気づかないはずがない。

 

 今朝の新聞から事態が動いた日にちまでの新聞記事を頭に思い浮辺る。必要な記事だけを引き抜いて整理する。すると見えてくるのは、青雉が言いたいこととその先の言葉。

 

 

「火拳の処刑。……白ひげ海賊団。…全面戦争。……………さて、一体何が言いたいのかしら?」

 

 

 しかしスマラはとぼける。なぜなら、そのほうが都合がいいからだ。

 

 

 

 

 スマラの受難はまだまだ続く。呪いであるかのように。

 

 




あ、察し。と言う方も多いのではないでしょうか?


次回はちょっとばかり遅くなります。
10~14と旅行に行きますので、執筆作業が出来るか分からない状態ですので…。なので、いつもの倍遅いと思ってください。
その代わり今回更新しましたので許してください。せっかくの旅行なので執筆をしない可能性もあります。詳しくは活動報告に。


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629 五十五頁「最悪の始まり」

 お待たせいたしました。旅行に5日ほど行っていましたので、その間執筆作業が出来ませんでした。

 本編は後半戦初っ端から飛ばしていきます!!


 FGOバレンタイン
 ガチャはすり抜けしか来なかったよ…。三蔵ちゃん二体に不夜城のキャスター、玉藻……何故だ。


「はぁ……面倒な事になってきたわね」

 

 ぼんやりと本の活字を追いかけていたスマラは深くため息を吐いた。それもこれも全部数日前の会話が原因だ。あのセクハラの塊であるかのような堕落人間青雉。そんな彼が齎した事はスマラにとって非常に頭を悩ませる物だった。

 

 昨日の会話を思いだしながら、またもや長いため息を吐くスマラであった。

 

 

『今回限りでいい。海軍側に力を貸す事を打診しないか?』

 

『嫌よ。どうして私があなた達世界政府側の肩を持たなければならないの?』

 

『ここでの生活の恩返しとか…』

 

『元々何もしないでいい、と言われたから頷いた契約。私が力を貸す理由にはならないわ。それに、私を白ひげにぶつけて何がしたいの?私にとっても、そちら側にとっても最悪しか起こり得ないじゃない』

 

『だから、俺が決めたことじゃないのよ。全部上の指示。俺はそれをあんたに伝えて返答を貰うだけだ」

 

『大将がパシリとは海軍も落ちたものね……』

 

 

 

 あれから海軍側は一切の接触をしてこない。スマラが部屋から出ていないもの原因の一つとして数えられるが、どうしても話し合いがしたいのなら、部屋から出て来るのを待つばかりではなく乗り込んで来るのが一番手っ取り早い方法だろう。それをしないと言う事は、海軍側…及び世界政府としても最重要事項ではなかったのだろう。

 

 むしろ、あの事件にスマラをぶっこんでも良いことは何一つ無い気がする。新たな火種を巻き起こすだけだ。ちょっと考えれば誰にでも分かることだ。全ての事情を知ってさえいればだが、海軍の上層部及び世界政府は知らないわけがない。なので、スマラが承諾すればそれでよし。その後に起こりうる種火の前に、目の前の種火を消化する方を選んだだけ。承諾しなくても元々の作戦には組み込んでいない為、大きな障害にはなりはしない。

 

 

 それ以上は考えても意味はなさない。既に断ったのだから、スマラには関係の無い話にすり替わる。ならばそれだけ思考を重ねるだけ無駄である。そんな暇があるなら、本を読んでいた方が有意義な時間になるに決まってる。

 

 だからスマラは思考を捨てて読書タイムに浸った。好きな時に本を読んで好きな時間に好きな事ができる生活へと。それが彼女が望んだ生活だ。望むと言うのものは、基本的に叶わない物が多い。そう、スマラだって臨んだ生活はいつか必ず崩壊する。その束の間の平穏だけを楽しむことになるとは、今のスマラには分からないことだった。

 

 

 

 

 

 それは突然訪れた。

 

 スマラが何時ものようにゴロゴロと本を読んでいる時間帯。最近はこの生活にも真新しさを感じ無くなり、すっかりと本を読むだけのアンドロイド化が進んでいた。何週間も部屋から出ておらず、トイレすら室内付きのに入っている。食事は小食な上に勝手に用意してくれる、一番肝心な読書の為の本探しも契約により全て探し出して持ってきてくれる。

 

 本当に、一日中本の活字を追いかける生活が完成されていた。そんなものだからか、スマラは世間という物を気にしないで過ごすようになる。元々世間体を気にしないスマラであったが、それが特に大きくなった。簡単に言えば、新聞を読んでも特に反応しなくなり、シルズから報告や声をかけられても上の空状態に近く、考える前に返事をして直ぐに忘却する。兎に角活字を目で追う話はそれからだ。本の世界に入り込んだらそれ以外はどうでもいい。ここ数週間動きがないのなら、罠にはめて自分をいいようにこき使う可能性は限りなく低くなった。

 

 スマラは久しぶりに手に入れた何不自由ない生活を満喫していた。

 

 

 

 何時ものように朝起きて、シルズが運んできた朝食を口に入れながら新聞の活字を追う。その後、その辺に転がって昨日読んでいた本の続きを読んでいた。短編物の小説であったが、眠かったので途中辞めにしてその辺に置いていた奴だった。

 

 本を読み始めて一時間程。スマラの耳に大きな雑音が入ってきた。

 

 

「五月蠅い………」

 

 

 普通なら状況把握を先に行うべき。そうして自分に関係あるのか関係ないのかを確かめる。しかしスマラはこれまでの何不自由無い生活がそれを怠らせた。

 

 どうせ大した内容ではないだろう、と勝手に推測して確認を怠る。能力を使用して自分に聞こえる音量をゼロに変更。肩を叩けば当然気付くが、音だけではスマラは反応しない状態へと変化した。

 

 

 これが間違い。もっとよく周りの(この場合はシルズ)へ疑問をぶつけて話を聞いてさえいれば、見聞色の覇気で周囲の状況をより良く把握していれば、その前から思考を止める事なく新聞に書いてある記事の内容を確認してさえいれば、部屋に籠るばかりでなく外の状況を自分の目で見ていれば、頭の良いスマラは気づいていただろう。しかし、それはもう遅い。ほんの数日前、数時間前、数秒前に行動を起こしていたのなら、スマラは違う結末へと変わっていただろう。

 

 

 

 

 

 不意に、スマラの見聞色の覇気が緊急信号を鳴らした。急いで回避しなければ死ぬぞ、能力に頼ったただの反射だと防げない可能性あり。

 

 スマラは考えるまでもなく、己の危機信号と本能に従った。それは回避だった。本を放り投げて部屋の外に飛び出す。更に能力を全力で執行して衝撃に備える。

 

 ここまでの防御態勢を取るのは何時ぶりであろうか?ロングリングロングランでの青雉戦は半分お遊び。どちらの命までは取ろうと思っていなかった戦闘だ。そうなると……実に三十年ほど前かしら?と辺りを付けた瞬間、

 

 

「グッ~~~!!!?」

 

 

 スマラが即席で組んだ防御態勢が崩れ去るほどの衝撃がスマラを襲った。これは完全に殺しに来ている攻撃だった。自分に向けられていたものならもっと前に気づけたはずだ。ならば、これは完全なるとばっちり。でも、スマラには関係ない。結果論で自分に死ぬレベルの攻撃を受けたこと一点だけだ。

 

 しかし、それだけならばスマラもまだ暴走することはなかった。

 

 

「ご無事ですかッ!!私が近くに居ながらもとんだ不覚を……」

 

「いいえ、あれは殆ど範囲攻撃なのだから仕方がないわ……」

 

 

 ぐちゃぐちゃになった廊下と部屋。何とか生き残ったスマラに慌てて駆け寄ったのはシルズだ。彼女も咄嗟に攻撃を緩和したのだろう。しかし、スマラ程上手く攻撃を緩和出来たらしくなく、額には血が流れ出ており、普段なら寸分の狂いもなくピシッとした侍女服は破れかぶれになっていた。しかし、それでも当たれば即死級の攻撃に耐えられているのは、流石世界政府から派遣されたエキスパートである。

 

 スマラの無事を確認したシルズはすぐさま頭を下げて謝罪を述べた。本来ならば、自分が先に予測して守らなければならない事案。身を挺してでもスマラの身を守らなければならないことであったが、これはスマラを狙った訳ではない攻撃。それも部屋どころか建物全体を破壊し兼ねない一撃だった。これを避けろ、守れと言う方が無理があるだろう。とってスマラもシルズを許そうとして……………。

 

 

 半壊した部屋の内部が目に入った。

 

 

「あ……」

 

 

 半壊した部屋の内部にはそれまで部屋にあった物がごちゃごちゃになっていた。無事な物もあるが、基本的には皆壊れてしまっている。そんな破壊された物の中には、当然のようにスマラが持ち運んでいた書物が大量に存在していた。

 

 

「…………………」

 

「す、スマラ様?」

 

 

 壊れた書物。頁はズタズタに引き裂かれており、中には原型すらとどめていないもの、壊れた壁によって外に舞っている物もある。本が好きな読書家からすれば、許し難い行為だ。

 

 故にスマラの内心はぐちゃぐちゃにかき混ぜられる。抱いているのはこの攻撃を放った者への怒りだけだ。即死級の攻撃を相手が使えるなどといった相手への思いはない。存在するのはどうやって相手に償わせようとするか?この本と同じような目に合わせるのもいい。とにかく、この怒りをぶつけなければ………。

 

 普段のスマラならば、ここまで怒りを見せることはなかったであろう。そもそも、スマラには本に対する想いは少々特殊だ。スマラは本は好きだが、本当に好きなのは本ではなく文字から生まれる物語であり、情報であり、テキストだ。媒体は関係ない。単なる日記でも安物の本でも、豪華な皮や装飾が施された経典でも、毎日刷られているような新聞でも、遺跡に掘られている古代文字でも……スマラは愛せる。それほどまでに愛しているスマラだからこそ、目の前の本が壊されている光景に瞳を大きく開いて怒りを持つ。

 

 当然、かたちあるものはいずれも壊れる。なので本がいずれ壊れてしまうことについてはスマラも重々承知している。それが、震災による不幸、不注意による水濡れ、直射日光による日焼け、数年も売れなくなった廃棄、禁書、いずれの方法であっても構わない。なぜならば、それが自然的なのだから。

 

 しかし、今回は少しだけ状況が違う。明らかに人為的な攻撃による被害。それが狙ったものであれ、結果的になったものでもスマラには関係ない。誰かの手によって本を廃棄せざるおえない状態に破壊された。まだ読んだことの無い本や、稀覯本の類も数冊あったのだ。これには普段温厚なスマラでも大激怒。

 

 本が関わると自分を見失ってしますとはこのこと。スマラは、攻撃してきた相手が誰か?現在の海軍本部が置かれている状況がどういったものなのか?自分が行動することによって降りかかる自分の不幸、第三者の影響等々を全て無視した。

 

 スマラの頭の中にあることは、この攻撃を行った相手への報復のみ。相手が誰とか考えていない。全部後回しだ。……いや、後回しと言う考えすら頭に登っていない。あるのは全て攻撃者への報復。差し詰めバーサーカーだ。誰の言葉も耳にせず、あるの一点のみ。

 

 

 

 

 

「………殺すッ!!」

 

 

 たった一言だけを呟いてスマラは能力を使って建物を飛び出した。シルズが窘める隙も与えない速度だ。置いて行かれたシルズは、ただ一言

 

 

「……さて、この場合はどう動きましょうか?」

 

 

 そう呟いて姿を闇に紛れるようにして消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は、謎の攻撃がスマラの部屋を襲った日の朝まで巻き戻る。

 

 その日は世界的にある一か所に注目が集まっている日であった。その場所はマリンフォード『海軍本部』世界のほぼ中心に位置する世界の平和を司る島だ。

 

 今日、海軍本部で行われるのはある人物の処刑。数週間前から世間を賑わせており、つい数日間に決まった処刑。それだけで世界中の目は海軍本部へと向けられ、誰がどんな事で動いても良いように厳戒態勢を強いられていた。

 

 普通処刑という物はここまで大々的に行うものではない。海賊に対する見せしめという意味で年に数回処刑を行うが、それはせいぜい新聞に一回載る程度であり、全世界が注目する程度ではない。ここまで大々的に処刑が行われるのは実に二十二年前の海賊王処刑時以来だ。いや、あの時でもここまでの事はしなかっただろう。

 

 この日の為に集められた戦力は、世界政府が考えられる最強の布陣であった。『東の海』『西の海』『北の海』『南の海』『偉大なる航路前半:パラダイス』『偉大なる航路後半:新世界』普段はあいまみえない六つの海に存在する海軍基地から派遣された海軍隊の精鋭が総勢約十万人。

 

 世界三大勢力の一つでもある『王下七武海』メンバー

 『女帝 ボア・ハンコック』

 『鷹の目 ジュラキュール・ミホーク』

 『天夜叉 ドンキホーテ・ドフラミンゴ』

 『ゲッコー・モリア』

 『暴君 バーソロミュー・くま』

 の五名の曲者すら強制収集する始末。

 

 最後に、処刑台の真下で硬く守るのは海軍本部最高戦力三人の大将

 『青雉』

 『黄猿』

 『赤犬』

 これ以上の戦力は他に考えれない。世界政府が現状で形成できる最強の布陣だった。

 

 

 そして、今回これほどまでに政府と海軍が警戒せざるおえない現状を作り上げたのは、今回の処刑人の存在だ。

 

 白ひげ海賊団二番隊隊長『火拳 ポートガス・D・エース』

 

 世界最強とも言われている男『白ひげ』その船員が今回の処刑人であった。白ひげは部下を絶対に見捨てたりしない。だからこそのこの布陣。奴らは必ずエース奪還を行いに来る、そう確信が誰もがあった。実際に、白ひげの船を監視していた監視船は既に沈められており、彼らの動向はつかめないでいた。故に緊迫した場の空気が何時間も形成されている。

 

 世界最強の名を冠している海賊とその部下。片や世界政府が用意できる最大の戦力。どちらが勝っても負けても、世界は必ず動く。明日の世界の運命を見守るため、世界中の注目がこの島には集まっていた。

 

 

 

 そして、そんな世界で最も注意目を浴びている島、最も危険な島に彼女はいた。のうのうと読書タイムに浸り、世間との関わりを断っているスマラだ。外の世界を全く気にせず「ここは安全だ」と言う過信を抱いて本部内に留まり続けている変人。いや、そもそもエースの処刑が海軍本部で行われる事や、その日程が今日だということすら気づいて居なかった。

 

 そんな彼女が暴れ始めるまで、残り六時間をきっていた。

 

 




 戦争に参加するスマラさん。果たして影響するのか!!!??


 あ、戦争を開始するまでスマラに移動を伝えなかったのか?と言う疑問がありますが、後日説明いたします。


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651 五十六頁「頂上戦争」

 二週間以上も更新期間が空いてしまい申し訳ありません。忙しかったので遅れました。決して怠かったとかじゃないですよ?
 それで、そこまで時間をかけたのに申し訳ないのですが、今回の話は飛ばしてしまって構いません。なにせ、いつもの倍以上の文字数がある上に、原作と変わりない内容でして……。最後の数段落だけ読んで下されば全然オッケーです。
 ホントはダイジェストで送ろうとしたんですけどね?気がついたらこうなっていました……。


 FGOはCBC開催!!!オデュッセウスが呼符で来ました。が、種火無い育成は出来ませんでした。


 

 朝早くから布陣を引いて白ひげの襲撃に備えていること数時間。インペルダウンからエースが護送されて来て処刑台に連行された正午。事態はようやく動き始めた。

 

 センゴク元帥が処刑台の上に立ち、電伝虫を取って重要な放送を開始したからだ。内容はエースが今日ここで処刑される意味について。世界政府の中でも数名しか知らないその情報。海軍の中では、元帥センゴクと育ての親に当たるガープのみ。それは、

 

 エースの本当の親父は海賊であるということ。

 

 内容は放送を通じて直ぐに全世界に広がる。当時の政府は特に酷く、疑わしい女性を全て殺すという悪逆までも兼ねて可能性を潰し、途絶えたと思われた海賊王の縁。それは実の息子と言う最悪の形で公表された。それは、スマラですら知り得なかった情報だ。

 

 エースの処刑。それは海賊王の血筋をここで断つと言う事他ならない。放置すればいずれ海賊時代の頂点に立つ資質を発揮し始める。その前に今ここで終わらせる。それが白ひげとの全面戦争になってもだ。

 

 エースを必ず奪い返しにやって来る白ひげ海賊団。それを阻止して処刑を行いたい海軍・政府側。そのための布陣。このまま現れない方が被害が出ずに良いのだが……。

 

 

 

 しかし、それは事態は急速に動き始める。センゴクの下に「正義の門が指示もなく開いている」と言う報告から始まり、立て続けにマリンフォードから海賊船の艦隊が確認される。全43隻、全て白ひげ海賊団の傘下の海賊船だ。これはまだ前章に過ぎない。本隊がいるはずだ、と海軍側も息をひそめること数秒。初めに異変に気づいたのは三大将。続いてセンゴク、おつる、ガープと言った歴戦の猛者。

 

 湾内海底に影が現れる。そのまさか、初めから彼らは海底を進んでいたのだ。道理で見つからないはず。布陣を間違えたかもしれない。おつるは自らの失態を認めた。コーティング船で海底進み続けていたモビーディック号。白ひげ海賊団の海賊船が遂に姿を現す。

 

 そして、船首に立ったのは一人の巨漢。巨人族ほど大きくはないが、それでも存在感は圧倒的であった。世界各地から寄せ集められた名高い海兵と王下七武海、新世界を航海できる億越えの賞金首、そんな世界でも強者に位置する者たちが幾人居るこの島。そんな中で群を抜いて存在感を放つ巨漢。彼こそが世界最強の称号を持つ生ける伝説。

 

 『白ひげ エドワード・ニューゲート』

 

 センゴクと白ひげの視線が交わる。両者とも己の信念に基づいて行動した結果。高らかに宣言する白ひげ。「待ってろエース。必ず助けてやるからな」と、白ひげらしい家族愛に満ちた言葉が開戦の合図だった。

 

 

 

 

 開戦の言葉と共に白ひげは早速動いた。グラグラの実、世界最強の悪魔の実を使って振動を起こす。大気にヒビが入り、海面が盛り上がる。エースと白ひげ海賊団の間にひと悶着あったが、それは直ぐにやってきた。高さ数百メートルはある津波が、左右から襲ってきたのだ。まさに世界を滅ぼせる可能性を持つ能力。一撃で海軍を潰せる威力を持った攻撃が襲う。

 

 海軍だって無能集団の集まりではない。すぐさま青雉が能力を使って津波を凍結、ついでに白ひげへと攻撃を放ったが、あっけなくカウンターをくらう。普段のやる気のなさはどこやら、海に落ちて海面を凍らせて海賊船の身動きを封じる。海軍がすかさず砲弾を発砲するが、良い足場が出来たとばかりに白ひげ海賊団の隊長たちが先陣を切って走る。後方からの海軍に向けての砲弾も浴びせるが、そう簡単にうまくいくものではない。中将も戦線へと踏み込み、バスターコール真っ青な戦力での乱戦が始まる。

 

 次に行動したのは王下七武海の一人、鷹の目のミホーク。彼は白ひげとの距離を測ると言い、軽く剣をひり下ろした。それだけで発生する巨大な斬撃。分厚い氷をものともせずに突き進み………何かにぶつかって上へと打ち上げれらた。万物をも切り裂く世界一の斬撃を止めたのは、白ひげ海賊団三番隊隊長、ダイヤモンド・ジョズ。

 

 海軍の攻撃はまだ終わらない。黄猿が宙に跳び上がり光の礫を白ひげに向かって発射。白ひげは動かない。動かずとも、息子が守ってくれると信じているから!!白ひげに当たる寸前、青い炎をまとった何かが黄猿の攻撃を全て受け止めた。何者の攻撃も受け止める彼こそが、白ひげ海賊団一番隊隊長、不死鳥のマルコ。不死鳥となり空を駆け黄猿を地面にぶち落とす!!

 

 まだまだ終わらないぞ!!ジョズが凍った水面に力を加え、持ち上げて投げつけるのは巨大な氷塊。巨人族が何人居ても受け止められるか分からないその大きさは、まるで氷山そのもの。いったい誰がこれを止められるのか?処刑台を巻き込んでエースを助けようとするその攻撃は、最後の大将によって阻止される。マグマグの実の能力者、マグマ人間の赤犬が腕をマグマ化させてそれを噴出させる。まるで火山の如く噴き出したマグマは氷塊を蒸発させて海賊を襲う。

 

 

 開戦初っ端から世界でも有名な者達の交戦。戦場のその場にいる者も、放送を見ている者達も圧巻の始まり。どちらとも引かない戦いは、見る者を魅了させ震えさせ憧れを抱かせ絶望に叩き落す。大海賊時代が始まって以来の海軍と海賊の大戦争が幕を開けた。

 

 そこからは乱戦状態だ。各々が全力を持ちいて目的を果たす。海賊の悪逆を許さず、正義を全うするために戦う者。世界平和などどうでもよく、ただただ仲間を取り戻すためだけに戦う者。それぞれの信念の下に戦い続ける。

 

 巨人族をも超える巨体を持つ海賊。国引きの伝説を持つ魔人オーズの子孫。オーズJr.は白ひげの傘下であり、エースの友達。だから身を挺しても返してもらう!!オーズJr.は海兵を蹴散らしながらも前へ進む。巨人でも歯が経たず、突破口を作る!!

 

 だが、海軍側もやられてばかりではない。ハンコックが敵味方関係なく石化させる攻撃を行い、バーソロミュー・くまが空気を圧縮させた衝撃波をオーズjr.へと直撃させ、それでも倒れないオーズjr.に砲弾を浴びせる海軍。せめて七武海の一人でも…とドフラミンゴに仕掛けた攻撃はあっけなく避けられて返り討ちに足を斬り落とされてしまう。でも、あと少しと伸ばした手を嘲笑うかのように影がオーズjr.を突き刺して止めを刺した。

 

 戦争はまだ始まったばかりだ。白ひげは襲いかかった巨人族のロンズ中将を一捻りに倒し、オーズjr.の背中を乗り越えて行け!!と海賊側を鼓舞する。乱戦はさらに加速する。ドフラミンゴと向き合っっていた十三番隊隊長、水牛アトモスが操られて味方に武器を振るってしまう。

 

 ここでドフラミンゴはおかしそうに笑う。時代の真ん中にいるこの場所こそが中立だ。頂点に立つ者が善悪を塗り替える。

 正義は勝つ?そりゃそうだ。勝者だけが正義なのだから…。

 

 オーズjr.が開いた道を閉ざさずに進め!!と海賊が前へ進むと同時に、白ひげ海賊団傘下、氷の魔女ホワイティベイが鋼鉄の砕氷船を持って湾内へと侵入を決めた。だがしかし、これくらいで慌てるセンゴクではない。予定通りに決めていた作戦を実行すると電伝虫を通じて知らせる。

 

 とその時、空から何かが降ってきた。絶叫する声が聞こえる。場の注目を集めて現れたのは人。それも数十名とかなりの数。軍艦と共に降って来たそれらは、ジョズが開けた大穴に落ちて落下死を免れる。戦いが続く戦場でも、放送から全体を見渡せる記者や観戦者たちも皆が注目を集めて現れたその一団は、

 

 話題のルーキー、麦わらのルフィ

 元王下七武海、海峡のジンベイ

 元王下七武海、サー・クロコダイル

 革命軍幹部、イワンコフ

 一部で有名な海賊、キャプテンバギー

 

 その他数十名のインペルダウン囚人によって形成された色物集団だった。

 

 その注目度は凄まじい。特に麦わらのルフィとなれば、祖父である中将ガープと元帥センゴク、合いまみれた七武海、三大将大将、准将のスモーカーと副官たしぎ、友人であるコビーとヘルメッポ、更にはマルコにも………大勢の者から注目を集める。

 

 初っ端から注目を集めまくるルフィ。まだこんなものでは終わらない。手始めに白ひげの首を狙ったクロコダイルから守り、世界最強相手にため口ではり合う。その後、多勢を無視して前に突っ込むルフィ。そんな弟の姿を見てエースは「来るな!!」と叫んで拒絶。しかしルフィは「弟だぁ!!」と己の理由を怒鳴る。弟が兄の心配をしてはいけないのか?これにはエースも反論の余地もない。同時に、ルフィの親が世界最悪の犯罪者である「革命家ドラゴン」であると電伝虫を通じて全世界に通じると、彼もエースと同じく世間に逃がす訳にはいかないと海軍側の士気を高めるセンゴク。時を同じくして白ひげもまた、マルコに「ルフィを死なせるな」と彼の将来性に期待の色を見せた。

 

 戦場は更に激しくなっていく。エースが運命を受け入れジタバタ言い返すのを辞め、結末を受けいれる覚悟を決め。この戦場で活躍したいバギーが白ひげと手を組む話をし、白ひげが傘下の海賊団に命令を下して動きを見せる。ルフィの前に立ちはだかっていたモリアがジンベイに一撃で倒され、先を急ぐルフィの前にスモーカーが立ちはだかり、ハンコックに助けてもらった。バーソロミュー・くまと対峙していたイワンコフがドフラミンゴから衝撃の事実を聞かされ、クロコダイルが再び白ひげに狙いを定めてジョズに吹き飛ばされる。

 

 立ちはだかる七武海に海軍大将。しかし、何人もの人に助けてもらいながら先を進む。同じ目的ながら戦場にて数々の味方を得るその力。戦場でも有数の者が恐ろしいと感じ始めているその力を無自覚に使いながらルフィは先に進む。

 

 

 開戦から約一時間半。両者ともが攻めあぐねている中、海軍側がようやく大きな仕掛けへと打って出る。元から作戦だったのであう。海賊の目的がエースである以上、皆が前へ前へ進む。ならばその隙をついて裏へと回っているいたのであろう。後方には、億越えの海賊ですら倒すのに手間取る海軍の人間兵器が無数の数を持って包囲していた。無論、白ひげも無策だったわけではない。先に左右を潰すことで、四方から包囲されるのを防いだ。しかし、上下から追い込まれるのは辛いことである。前からは七武海、中将大将、無数の海兵が白ひげ海賊団を、後方からは人間兵器が傘下の海賊団を、それぞれが襲う。

 

 同時に、戦争を放送していたシャボンディ諸島で異変が起こる。なんと、映像電伝虫からの通信が途絶えてしまい、画面が真っ暗になってしまったのだ。これに視聴者は大激怒。怒りをその場にいた海兵に浴びせるも、その場いる海兵ではどうすることもできない。なぜなら、これから行う事は海軍にとって後ろめたい事。世間に放送する様な綺麗事ではないからだ。だがしかし、海軍にも誤算があった。三匹の映像電伝虫の内、一匹を戦場で目立ちたいバギーに盗まれてしまったからだ。放送現場にいる記者や観戦客は皆、バギーしか映らない画面に怒りをぶつける。それでも会場にはどうすることもできない。

 

 そして、遂に異変が起こる。戦場で行方が分からなくなっていた白ひげ海賊団傘下、大渦蜘蛛のスクアードが白ひげの元に現れて。そして、言葉を交わし………自らの意思で白ひげの胸元に剣を突き刺した。四皇……この世に存在するどの海賊団の中でも最上位に位置してもおかしくない程に結束の硬い白ひげ海賊団とその傘下では有り得ない事態だった。戦場の誰もが目を開いて事態を見つめる。バギー達が持っていた映像電伝虫もそれを映しており、シャボンディ諸島の会場にも映し出される。

 

 即座にマルコが白ひげの元に駆け寄り、スクアードを取り押さえる。が、暴れて拘束から逃れると、赤犬に信じ込まされた嘘を大声で叫ぶ。茶番はやめろよ、これは仕組まれた戦争だったんだろ?エースを助ける代わりに傘下を売った。現に被害を受けているのは傘下の海賊だけじゃねぇか!!?そんな嘘を言い放つスクアード。それは放送されており、白ひげが真実を述べようとした瞬間、センゴクが青雉に命令を下してバギー集団を凍らせて放送を強制停止された。

 

 まだ混乱する海賊側。そんな中、クロコダイルが批判の声をあげて白ひげに決意を灯らせる。と同時に、白ひげがスクアードに制裁加えた。

 

「バカな息子をそれでも愛そう」

 

 そう言って抱き抱えたのだ。それは、親父である己に武器を突き付けて怪我をさせた息子に対する許しだった。どれだけ言われようと、誰か一人だけを特別視することはない。白ひげ海賊団だけではなく、傘下も含めて皆家族。だから、お前を惑わせた海軍は許さない。白ひげは、振動を起こして左右に広がっていた凍らされた津波を破壊することで、戸惑っていた傘下に安心感を与えてやる。これで逃げ道は用意した。海軍が流した嘘を信じて逃げたければ逃げるが良い。しかし、海軍を信じず家族を信じる者は俺と共について来い!!そして、自分の信じる者は自分で決めやがれ!!遂に、世界最強の男が戦線に登場した。

 

 士気は最高潮。誰もがやる気で満ちあふれている。逆に海軍は利用したつもりが逆に利用させられて、緊張の汗が流れ落ちる。ここにいる者は余程の者でない限り、世界最強の一角の戦闘を直に見たことはない。故に緊張の一瞬。次のセンゴクを初めてした大将ですら冷や汗をかかずにはいられない男なのだから。

 

 

 そんな白ひげを前に、初めの一歩を踏み出したのは巨人族の中将、ジョン・ジャイアント。世界で初めて海軍に入隊した巨人族だ。その男が白ひげに挑んだ。名のある海賊であろうと押しつぶされるであろう巨体と力を込めた一撃は、片手で持った薙刀で難無く受け止められる。怒りに燃える白ひげはこんなものでは終わらない。何と彼は、空間そのものを掴んで島ごと、島どころか周囲の海ごと傾かせる。まさに天地天災。このようなことが出来るのは、歴史上を探しても彼だけであろう。体制を崩したジョン・ジャイアントに直接振動を浴びせることで、彼を戦闘不能にした。その振動は止まる事を知らず、地面を破壊しながら処刑台へと迫る。が、それを食い止めたのが三大将。ただの片手攻撃に大将が三人も必要なほど、化け物じみた攻撃だが、それを止められる三大将も三大将だ。もっとも、処刑台には大海賊時代が始まる遥か昔から白ひげと幾度なく戦って来たセンゴクとガープがいるので、白ひげも本気で処刑台を壊せるとは思っていない。

 

 味方の裏切りによる心を揺さぶった心理作戦に失敗した海軍側だが、元より成功すれば御の字とばかりに次の作戦に入る。湾内に沿って発動させたのは高い壁。いつの間にか海兵を陸の上に避難させていたようで、海賊たちは凍った海上で包囲されてしまう。その壁の高さは巨大ガレオン船のマストの頂上付近までにのぼり、強度は鉄であっても逆に折る事が可能なほどの強度。壁の一部がオーズjr.の血で作動しない事に気が付いた白ひげが勝機を見つける。が、それよりも早くセンゴクは赤犬に命令を下す。赤犬は己の腕をマグマ化させてそれを上空に解き放つ。流星火山。火山からマグマが吹き飛び、流星群の様に吹き荒れる赤犬の技。通常の地面ですら多大な被害を被ることになるが、凍った海上では更に効果は増す。氷を溶かして足場を奪う事になるのだ。

 

 赤犬の攻撃で着々と足場が削られていく。被害は人に限らない。白ひげ海賊団の母船『モビーディック号』が燃え落ちる。永らく白ひげ海賊団を支えてきた船の最後だ。船もだが人にも甚大な被害を与える。何とかマグマに当たらずに済んでも、足場は無くなり海に逃げようにも、マグマのせいで水温が上昇して煮えたぎっている。追撃にと包囲壁からの砲弾も飛んでくる。白ひげが能力で包囲壁を破壊しようと試みるも、ただの鉄ではないらしく通じない。壊すのには時間がかかるだろう。そして、この時間にエースの処刑を行うと放送があった。

 

 

 まさに絶体絶命。急がなくてはならないのに、この危機を解決する方法が見当たらない。しかし、こんな時に発揮するのが星の元に生まれた豪運の持ち主。戦場で一時注目を集めていながらも、白ひげの事があり注目が減っていた主人公。

 

 包囲壁が作動した衝撃で目が覚めたオーズjr.を黄猿がレーザーで脳天を貫こうとした瞬間、水柱が戦場に上がった。包囲壁を超えて三大将の前に落ちたのは、ルフィだった。早すぎる挑戦。無謀とも言える戦闘行為。片や、パラダイスで注目を集めている海賊団の船長と、片や海軍の最高戦力×3。実力差は明らかだ。一人でも新世界基準で並大抵の海賊を倒せる過剰戦力が三人も。三大将が揃えば、世界最強と名高い白ひげですら勝機は低いだろう、と誰でも分かる戦力。誰もが無謀と呼ぶ行為を、ルフィは立った一つの願いだけを抱いて挑む。エースを助ける為に。

 

 先に動いたのはルフィだった。持っていた折れたマストを青雉目掛けて振りかざす。即座にマストを凍らせる青雉だったが、自身に能力が効く前に手放したルフィは凍ったマストを足で砕いて三大将に浴びせる。武装色の覇気も纏っていない攻撃は自然系の能力者である三大将には意味がない。しかし、視界は数秒ながらも隙を作ることができた。その隙をついてルフィはギア2を発動。通常の動体視力では追う事が難しい速度でルフィは三大将を抜けようとした。が、そんな簡単な事で抜かせる程三大将は甘くない。見聞色の覇気で動きを予測して、光の速度で動ける黄猿がルフィの行く手を阻む。

 

 吹き飛ばされるルフィを見たセンゴクが死刑執行人に「やれ!」と命令を下してエースの処刑を行う。執行人の持つ刀が振り上げられ…………下からの攻撃が執行人を襲った。結果的にエースを助けることとなった行動を行ったのは、白ひげの首を狙っていたはずのクロコダイル。海軍側が喜ぶ顔を見たくないと言う自己的な考えだが、それでもエースの首は繋がった。当の本人はドフラミンゴと戦闘を始めた。

 

 一方でルフィは青雉に腕を貫かれて痛手を負うも、駆け付けたマルコに助けられる。三人の侵入者を許してしまった海軍は急ぎ対処しようとするが、白ひげが切り札を切った。海底に残していた最後の船を上昇させて陸に乗り上げたのだ。代償にオーズjrが力尽きるも、これでエースを助けるんだ!!と海賊側の士気は以前として高いまま。

 

 

 遂に広場へと降り立った白ひげ。薙刀に振動を載せて攻撃を繰り出す。一撃で何十人もの海兵が吹き飛ぶ。白ひげの前では、中将レベルでないと立つことすら許されない。すぐさま対処できる青雉が動いた。白ひげを能力で凍らせるも、白ひげは己を振動とさせて免れる。グラグラの実は超人系能力だが、超人系能力者の中でも自然系の様に身体を変化させる能力者もいる。ゴムゴムの実の能力者であるルフィが筆頭であろう。氷を破った白ひげは覇気を纏った攻撃で青雉を刺す。が、これで死ぬくらいならば、大将と言う地位まで生きていない。青雉は至近距離で白ひげに向かって氷の刃を発射しようとし……横から強い衝撃を受けた。ジョズだ。彼が白ひげの邪魔をする大将を自ら引き受けたのだ。流石は白ひげ海賊団の隊長である。

 

 ルフィも負けてはいない。黄猿に蹴り飛ばされたことで、処刑台から遠のいたがそれくらいでルフィは諦めたりしない。起ちあがって処刑台目指して走る!!!が、大将以外にもルフィの進行を阻む者はいくらでもいる。モモンガ、ダルメシアンだ。万全の状態ではないルフィに中将二人はキツイ。二人はすり抜けようとするルフィの進行を阻み、最終的には黄猿のレーザーによってルフィは瀕死になる。再び吹き飛ばされたルフィ。彼を受け止めたのは前線に上がる最中だった白ひげだった。白ひげはルフィに「こいつはよくやった」と後ろに投げ、治療するように船医言った。それでも立ち上がってエースの元に行こうと願う。しかし、願うだけで叶うなら世界平和は実現しているし、スマラだって救われているはずだ。これまで何時間も連続で戦闘を続けて来た代償は大きい。常人なら既に気絶してたっておかしくない疲労と怪我を負いながらもルフィは気力で動く。それでも身体は既にボロボロで動かなくなっている。

 

 白ひげはそんなバカを称賛する。白ひげが薙刀を振りかぶり、攻撃態勢を取ると海兵側に緊張の汗が流れた。そして振りかざされる薙刀を止める人物が。片足で受け止め、大きな爆発を引き起こす。白ひげの相手は、大将の一角である赤犬だ。

 

 

 それぞれ各所でも戦闘が行われる目立っているのは当然、白ひげ海賊団の隊長、中将、大将、王下七武海のメンツだ。誰もが楽園では名前だけで戦意を失わさせることの出来るレベルの猛者だ。

 

 そんな中、動きが起こった。能力で飛べる事を生かして、マルコが不死鳥となり処刑台向かって飛んだ!!!…………、そんな、大将ですら仕留めきれない不死鳥は空から落とされてしまう。その人物こそは、英雄ガープ。エースの育て親であり、ルフィの実の祖父。それでいて海軍の英雄と呼ばれる程の功績を持った伝説の海兵。嘗て海賊王とも渡り合った生ける伝説。彼がようやく守りに加わったのだ。突破出来るとしたら、白ひげくらいしかいない。この戦場でも最上位陣に位置する実力者だ。

 

 白ひげと赤犬の戦闘は一進一退だ。白ひげは街を壊すように攻撃を促す。白ひげ海賊団も負けてはいない。パシフィスタを複数人でありながらも徐々に破壊していく。エース救済への道は徐々に前へ前へと進んでいる。

 

 

 そう思われたその時、白ひげの身に異変が起こる。いくら世界最強であろうと寄る年波には勝てない。心臓が酷く痛み、膝をつき口から血反吐を吐いてしまう。マルコが白ひげの危機にそばに寄ろうとするが、大将との戦いは一瞬の隙が勝敗を別つ。レーザーで胸を打ち抜かれてしまう。それを見たジョズが青雉に凍らされてしまった。そして、白ひげは赤犬の攻撃を直撃で受けてしまった。

 

 一方その頃、ルフィはイワンコフに力をくれ!!と叫んでいた。既に身体は動かないのに感覚を麻痺させるホルモンを注入したら、切れた時にホントに死ぬ。そうイワンコフはルフィを説得するもルフィは聞かない。ここで倒れてエースを失うくらいなら、今ここで死んだ方がマシ。やるだけやって死ぬなら良い、でも何もせずにエースを失うことになったら、後から死にたくなる!!そう叫ぶルフィからドラゴンの血筋を感じ取ったイワンコフはやけくそ気味でルフィに「テンションホルモン」を注入。アドレナリンがドバドバと発生し、今までの疲労を全く感じなくなったルフィは戦場でも目立つ叫び声を上げながら立ち上がり、エースの下へと走る。それを防ごうと立ちふさがる海軍だが、中将以上の戦力は白ひげ海賊団に向いている。イワンコフの援護もあり、止められる者は少ない。海軍側に付いている友達を殴り飛ばし、パシフィスタのレーザーをハンコックの助けを借りて先へ進む道を確保する。ルフィは今のところ順調そうだ。

 

 不味いのは白ひげ海賊団の方だ。油断したマルコが海楼石の手錠をかけられ、ジョズが完全に氷漬けにさせられた。センゴクの号令で海兵が一斉に白ひげに襲いかかり、白ひげは成すすべもなく攻撃を受けてしまう。白ひげ海賊団の船員が助けに向かおうとするが、それは白ひげ自身の命令によって止められた。俺は白ひげだ、このくらいじゃ死なねぇ。と攻撃する海兵を一蹴して前を向く。年を取り、赤犬からの攻撃を直撃して尚、健在する世界最強の男。バケモノだ、と海兵を畏縮してしまう。そんな白ひげの後方をジンベイ並びに隊長達が守る。親父の誇りは俺達が守るんだ!!

 

 

 それでも距離は遠い。攻撃が届く、移動すれば届く距離に居ようと、海軍が行う処刑の方が早い。刀を振り上げて降ろすだけでいいのだ。邪魔が入らないのなら救いようはあるが、それを見過ごす海軍ではない。無視して進もうものなら、マルコとジョズのように致命傷を受けてしまう。完全に詰みだった。元々、海軍側は処刑を行うだけで良いのだ。白ひげ海賊団を待つ必要は無かった。しかし世の中には体裁という物があり、今回の処刑は公開処刑だった。約束の時間を守らなければ、色んな場所から非難を受けてしまう。しかし現在放送をしていた電伝虫は意図的に切断し、この戦場にいる者以外には情報が公開されない。海兵には緘口令を下さばいいし、王下七武海に関してはそもそもほぼ無関心。白ひげ海賊団は海賊なのでそもそも情報の信憑性が低く、出版社がそもそも記事にしない。政府の恨みを買ってまで記事にしようと思わないだろう。なので、海軍側は容赦なくエースの処刑を執行する事ができるのだ。

 

 一度は執行しようとしてクロコダイルに邪魔された処刑。交代した執行人によって再び行われようとした。センゴクの命令によって執行人が刃を振り上げてた。白ひげは能力で防ごうとするも、いくら世界最強いえど与えられたダメージは、常人なら死んでも可笑しくないレベル。白ひげは体内出血により身体が思うように動かない。その隙は一瞬であろうと、処刑人にとってはその一瞬でエースの処刑は完了する。執行人が刃を振り降ろして………。

 

 

「やめろォ~~~~~!!!!」

 

 

 一人の叫び声と共に、覇王色の覇気が戦場を駆け抜けた。何百人もの海兵、海賊が問わず意識を失っていく。執行人も同じく意識を失って倒れてしまう。誰もがその覇気を発動させた一人の少年に注目する。ルフィだ。彼は無意識に発動したようだが、覇王色の覇気は百万人に一人にしか扱えない生まれ持った才能。この戦場でも、白ひげ、エース、ドフラミンゴ、ハンコックとたった四名しか扱えない。今はルーキーでもやがては彼らのように海軍にとっての異分子となる存在。当の本人は気付いてない様子だが、周りの評価は確実に上がっていく。ドーベルマン中将が危険異分子の早期排除を、白ひげが将来の芽をつぶさないように、とそれぞれ味方に指示をだす。

 

 それぞれの上司の命令を聞き、ルフィを狙う海兵にそれから守る隊長達。ミホークの攻撃をダズ・ボーネスが防ぎクロコダイルが抑える。パシフィスタはハンコックが抑え、多くの海兵を白ひげが蹴散らす。もう少し。最後の一押しだと、イワンコフが髪の毛に隠していたイナズマに頼む。彼はチョキチョキの実の能力者。あらゆるものを紙の様に切り取って貼り付ける事が可能な力を持っている。彼、彼女の力で出来上がる処刑台まで直通の道。これを駆けあがれば、一分も経たないうちにエースの元に辿り着く事ができるだろう。

 

 ルフィはお礼を言って橋を駆け上がる。誰も予想だにしていない一手。ルフィを止めるべく、一人の海兵が砲台を打ち込むも、白ひげ海賊団四番隊隊長ビスタによって防がれる。黄猿が光速で周り込もうとするも、白ひげがそれを許すはずもなく阻止。誰もがルフィに注目が集まる。が、橋に強い衝撃が襲った。ガープが祖父としてではなく、海軍中将としてルフィの前に立つ。ガープが下から橋に上がった事で、橋が崩壊し始める。一刻の猶予もない。引き返すなどは論外。この機を逃せば、次のチャンスは訪れないかもしれないのだ。そのためには、祖父であり、海軍中将であるガープをルフィは超えていかなければならない。

 

 走るルフィ。待ち構えるガープ。覚悟は決まった。どちらも本当は戦いたくない。しかし、それぞれが選んだ道がそれを許さない。ガープは海軍中将としてエースの処刑を守り、ルフィは海賊……弟としてエースを助ける。ガープが拳骨を振り上げる。ルフィはそれをかいくぐってガープに拳をぶつけた。ガープならば絶対に命中させることが可能で、避けられる攻撃だった。しかし、最後の最後に「親」としての情が動きを鈍らせたのだ。

 

 

 ガープを超えてルフィは処刑台にたどり着いた。ルフィはハンコックから貰った海楼石の手錠の鍵を探す。だが、それを許すはずもない人物が一人、処刑台には最後の関門として存在している。その人物は能力を使って自らを巨大化した。元帥センゴクだ。昔はともかく、今は元帥という立場から前線に出ることが無くなった為、能力を使った姿を見た者も殆ど居ないのであろう。海兵側からも驚きの目で見られる。ヒトヒトの実モデル大仏。それがセンゴクのだった。己を大仏化させてその巨大な腕を持ってルフィを押しつぶさんと構える。

 

 エースを開放しようとしたルフィだが、一瞬の隙を付いて白ひげを撒いた黄猿がレーザーで鍵を撃ちぬいた。鍵が折れてようやく周囲の状況を把握したルフィ。振り下ろされる拳に対抗してルフィはお腹に空気を入れて圧砕。エースへの衝撃はたまたま処刑人へと変装していたミスター・スリーことギャルディーノに頼む事で回避する。

 

 崩れ落ちる処刑台。状況をすぐさま飲み込んだギャルディーノが能力を使ってエースの手枷の鍵を複製する。と同時に、海軍側が言われるまでもなく崩壊する処刑台に砲弾を浴びせた。爆炎が鳴り響く。ルフィ、ギャルディーノも砲弾を受けて生き残れる可能性は低いが、一番低いのは海楼石の効果を受けて生身の人間であるエースだ。

 

 一同が結末を見守る中、爆炎の中に炎のトンネルが現れる。歓声が湧き上がる。もちろん、海賊側からだ。あの爆炎を操れる人物などあの中には一人しか存在しない。そう、エースが持つメラメラの実の力によって生まれた炎のトンネルだ。姿を現すのはもちろん、手枷外して自由となったエース。白ひげ海賊団から歓喜の声が上がった。

 

 

 

 エースは火柱を発生させて着地地点に集まっていた海兵を蹴散らす。二人共大犯罪者の親を持つ次世代の悪。海軍側としては何としてでも逃がしたくない兄弟に、海兵達は全力を持って襲いかかってくる。が、銃弾は自然系とゴム人間によって無効化され、ルフィの弱点である斬撃ですらもエースによって回避。子供の頃から一緒に暮らしている過程で身につけたコンビネーションは今でも健在。青雉が出てこようと、能力の相性を持ってエースが圧砕。止められる者は誰も居なかった。

 

 海軍側が焦る中、海賊側で動きが起こる。広場に乗り上げていたバトルシップが動き出した。乗り込んでいるのは大渦蜘蛛海賊団、つまりスクアードの海賊団だ。彼らは自らの親父の信頼を裏切ったことに対する贖罪として、この戦場での殿を務めると言い出した結果の行動だ。恐らくここを墓場と覚悟を決めているのだろう。だが、その覚悟を粉砕する者が現れる。白ひげ本人だ。彼はバトルシップを片手で停めると言った人外に相応しい行動を示して、息子達に最後の命令を下した。それは「俺が殿を務める。全員生きて新世界に帰還しろ」と言うものだった。実質上の「ここで死ぬ気」の宣言。これに誰もが驚愕する。白ひげ海賊団及びその傘下にとっては有り得ない、考えたくもないような命令だった。

 

 そして、海軍にもう一度宣戦布告として能力をフル活用して横に地震を起こす。その攻撃は海軍本部の本館までにも及び、半壊させる。下層部分はひび割れ、土台が半壊したことにより全体的に斜めに崩れ始める。

 

 

 

 

 

 この攻撃が運命の別れ道だった。覚悟と共に大きな攻撃を行ったのは、決して間違いなんかでない。しかし、攻撃を向けた場所が悪かったのだ。今までは三大将のお陰で本館には大きな被害は出ていなかった。が、今回は誰も止める者のいない本気の攻撃が本館を襲った。

 

 単に運が悪かったと諦めるべきであろう。なにせ、白ひげ海賊団はもちろん、海軍側ですらその存在を確認している者は数える程でしかいない。なので仕方が無いのだ。起こった事は受け止めて、その後の対応をどうとるか?が重要になってくる。

 

 

 

 白ひげの命令に皆が泣く泣く撤退を始める白ひげ海賊団。それを逃がすものかと追う海軍。エースが土下座で白ひげに感謝を伝えた時の事だった。

 

 

 戦場全体の時を止めるかのような殺気が場を襲った。

 

 

 




 次回からスマラさんの登場です。「行動原理が理解不能」と言う感想を頂いたのですが、もっともです。この辺が評価の低い理由なのでしょうね。単にスマラを暴れさせたいだけなのと、方向修正を行うためです。
 次回投稿はここまで遅くならない様にガンバリマス!!!



 現在YouTubeで転スラの無料配信やって助かった。何せ、アニメが終わった時点は読んでなかったからなぁ。最近Web版原作を読み終えたし、今年の秋に二期するのでこの無料配信はとても助かる。面白すぎて一気に14話まで見たよ。後半の無料配信早よ。
 と言うことで、現在頭の中では転スラの二次作を絶賛妄想中!!(全然固まっていないので、ハーメルンでの投稿は予定にないです)


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665 五十七頁「最悪の告白」

遅くなって申し訳ありません!!!前回ほどではないですが長いです。


 場の空気が凍った。物理的にではない。

 

 蛇に睨まれた蛙の様な殺気が場を見定める。誰かを探しているようでもあったその視線は、無関係の者すら圧倒させた。

 簡潔に言えば、ルフィが無自覚に発動させた覇王色の覇気を耐え抜いた者ですら意識を手放してしまう始末。中将レベルや一部の者を除いて誰もが気絶するか怖気づいてしまい地面に膝をついてしまう。その中将ですら震えが止まらない。

 

 圧倒的な強者を目の前にしたような感覚だ。それは白ひげを前にした時と同じ感覚なのだが、一点だけ違う事があった。それは明確な殺気。

 白ひげもエースを救出しようと本気になって攻撃を仕掛けてくるが、あそれはあくまでも目的を達成する為の障害物を払いのけようとする為の攻撃である。戦意の無い者には何もしてこない。無駄な殺しは行わないのだ。

 一方で現在進行形で受けている殺気は明確な殺しの意志が乗っている。本気で怒っているのだ。四皇に匹敵するレベルの者による威圧を前に、中将ですら恐怖で震えてしまうのは仕方のないこと。海賊側の傘下の船長はもちろん、隊長達ですら身構える。

 

 海賊側で唯一平然としていられたのは白ひげのみだった。大海賊時代が始まる前から海の上で生き、幾度となく戦った猛者たち。ロジャー海賊団との争いは少し違う意味を持つが、ビッグマム、カイドウ、シキと言った本気で命を狙ってくる者たちの覇気を受けているからこその余裕。

 動揺と恐怖が広がる中、白ひげは海軍側を観察していた。センゴクを始めとしたおつる、ガープ、三大将には表情こそ変われど、動揺している様子は見られない。これもトップ層だけが知る作戦の内か否か……。

 

 

 考えこそするが、時間は有限である。白ひげは息子達を逃がすために動く。まずは、へこたれている息子達の尻を叩く。

 

 

「お前らァ!!今がチャンスだ!!足を止めるな!!」

 

 

 白ひげの一喝によって場は動き始める。白ひげ海賊団は撤退は再開し始め、海軍側は多少手間取りながらも雑兵をまとめ上がげる。それでも立ち上がれない者は放っておくという非道っぷり。動けない仲間に肩を貸して連れて帰る海賊側とは正反対だ。

 

 

 

 

 

 撤退を始める白ひげ海賊団を見ながら、センゴクは部下から報告……というかお小言を受けていた。あれも作戦の内なのか?と言うものだ。

 

 

「センゴク元帥!!今のは一体…」

 

「慌てるな。今の所、こちらに被害は発生せん。ただ、白ひげの近くには中将以下の者は近寄らせるな。巻き込まれるぞ……」

 

「は、はぁ……」

 

 

 センゴクの命令の意味が少しばかり理解出来ないが、言われた通り命令を他の者に伝えていく海兵。センゴクはその様子を尻目に「こちらにも被害が出なければ良いが…」と今にも崩れ落ちそうな本部本館を見上げながら内心で呟く。

 その姿は厄介事をどう扱うかどうか悩む苦労人そのものだった。

 

 

 

 

 

 そんなセンゴクの様子を観察していた白ひげは、己にトドメを刺そうと近寄っていた海兵等が下がっていくのを確認した。

 遠巻きに見ている。指示があったのだろうと憶測を付ける白ひげだったが、ピクリと己の見聞色の覇気が反応を示した。

 

 それぞれの指揮官が場を治めた事で無視されつつあった殺気だったが、それが自分一人に向けられている事を感じ取る。防御態勢を……と思った時には既に、身体は動いていた。

 見聞色の覇気で攻撃部分を予測、そこに薙刀の刃部分を持って来て打ち返す。瞬間、鈍い音が鳴り響く。見聞色の覇気を用いた高度な戦闘技術であり、覇気すら知らぬ者からすれば、白ひげが何かしたと身構える者当たり前だ。

 だが、それは違った。明確な殺気を籠らせた攻撃。それは単純ではなく計算し尽くされたものであり……。

 

 

「……死になさい」

 

「ッ!!アホンダラ!!!」

 

 

 凛とした声と共に女が現れる。パッと現れたかのように白ひげの裏を取り、明確な殺気を籠らせた手を伸ばす。

 が、白ひげもこの程度でやられる程弱っていはいない。振り向くと同時に能力を纏った拳を振りぬく。

 

 女性の細い手と白ひげのゴツイ拳がぶつかる。能力付きの白ひげの攻撃を受けた女が死んだ!!遠巻きに見ていた海兵等はそう思ったのだが、彼等の予想を上回る結界が起こった。

 拳と手がぶつかった瞬間、これまでで一番大きな衝撃が発生する。何かが白ひげの能力に破れ消し飛ばされ、振動能力が女を襲う。

 

 地面が爆発し土煙が舞い上がる。海兵等は白ひげに攻撃した女の冥福を祈った。それは仕方のないことだ。

 なにせ、彼達の中に女の事を知っている者は誰一人として居なかったのだから。彼等の目からすれば、美しい女性が急に現れ白ひげの攻撃を直撃で受けてしまった、となるのだ。

 

 しかし、白ひげは油断しない。能力は直撃したが、それくらいで倒れるのなら己の見聞色の覇気は危険信号を鳴らさない。少なくても中将以上の強者である。

 それに声からして覚えている。やり合ったわけではないが、一度だけ面識がある。その時に聞いた声とそっくりだ。どうしてこの場に居るのか、何故負けるかもしれない自分に攻撃を仕掛けて来るのか?その理由が分からない。

 

 

 煙が不自然に晴れた。中央に立っているのは無傷の女――スマラだ。

 白ひげの攻撃を受けてもピンピンとしている姿を見た周囲の反応は、至って当たり前の反応を見せる。「無傷だと!?」「白ひげの攻撃だぞ!!?」「誰だあいつは…」「しかしまぁ、綺麗な人だ」「まさか、最近噂になっている…」等の反応が大半を閉める。

 お親父の危機に手を貸せないのを歯ぎしりしながら見ていた白ひげ海賊団及び傘下の連中も同じ様な反応だ。誰一人としてスマラの事を知らない。

 しかし、古参の何名かは引っ掛かりを覚えているようだ。何となく見覚えはある。が、それがいつだったのか思い出せない。なにせ、スマラが世間に登場したのは大海賊時代が始まる以前が最初で最後だったのだから、思いだせなくても当然だ。

 

 だが、大海賊時代以前から名を上げて海に生きていた白ひげは違う。即座にスマラの事を思い出すと、彼女にどうしてここに居るのか質問を繰り出す。

 

 

「テメェ……こんな場所で何してやがる。これを知られたら困るのは小娘の方だろう」

 

 

 戦う理由はないはずだ。そう白ひげはスマラを説得しようとするが、スマラは聞く耳を持たなかった。

 口を開く気にもならないらしく、白ひげの言葉を無視して行動に移す。一歩前に歩く。その時の能力を使って一歩で移動できる距離を書き換えると、白ひげの目の前に瞬間移動して腕を伸ばす。

 が、白ひげもそれを読んでいたのか軽く回避。したと思ったのだが、スマラは腕を伸ばした時に発生した空気移動を操作、白ひげを押しのける。

 バランスを崩してしまう白ひげ。老いとこれまでのダメージによって簡単には立ち直れない。

 今度は簡単に避けられないようにと、ゆったりとした速度ではなく普通のパンチの速度で白ひげに腕を伸ばした。反撃の可能性も考えて腕は黒く染まっている。

 

 今度こそ殺った。

 

 僅かに残っている理性でそう確信した。……白ひげを――部屋にあった本を殺した相手を殺す事しか考えていない時点でそれは理性と呼べるようなものではないのだが、それはいったん置いておこう。

 

 殺気全開のスマラに触れたら最後、触れた瞬間に能力を使われて血管を通っている血液の量を極端に増やしたり減らしたりして殺しに来る。それ効かなくても、その他の人間を生存に必要な物体の量をぶち壊して殺しにいく。

 助かる方法は、先の白ひげやロングリングロングランドでの青雉の様に覚醒レベルの能力で抵抗しなければ、生き残るすべはない。

 

 

「親父に何しやがる!!!」

 

「そこから離れろ!!」

 

「親父ィ!!!」

 

 

 だが、そのまま黙って見ている訳でもないのが白ひげ海賊団。逃げろと言われても海兵でもない見知らぬ女性、しかも親父相手に張り合っているヤベー奴が、明らかにヤバそうな雰囲気を纏った手を伸ばす。そんな危機に助けに行かないはずがない。

 普通の船員が行っても無駄に死傷者が増えるだけ。故に隊長達がスマラを止めようと戦線に戻って来た。

 

 砲弾を浴びせられ、二刀流による連撃、巨大鉄球による打撃がスマラを襲う。十番隊隊長クリエル、五番隊隊長ビスタ、七番隊隊長ラクヨウだ。いずれも新世界に覇を轟かせる実力者。本来ならば、隊長全員でかかりたいところだが、撤退の指示出しや殿と言った役割分担が必要。本来ならば、マルコやジョズと言った隊長の中でもずば抜けた二人が駆け付けたい場面だが、マルコは海楼石の手錠に、ジョズは氷漬けで動けない。

 

 砲弾の爆発は無傷、剣と鉄球は跳ね返された。が、肝心の白ひげへと伸ばす腕は止まった。攻撃が効かなった事に驚きはあるが、一番の目的を果たした。後は傷が深い親父から引き離せば……。

 

 

「……邪魔」

 

 

 回し蹴りがラクヨウを襲い、能力によるノックバックを上げることでより遠くへ吹き飛ばす。

 

 

「ラクヨウッ!!!テメェ!!」

 

「……待てッ!!クリエル!!」

 

 

 仲間が吹き飛ばされた事に怒ったクリエルがバズーカを鈍器にして襲い掛かる。何かに気づいたビスタが制止しようとするも、既に遅かった。

 迫りくるバズーカを軽々しく避けると、そのまま懐に潜り込んで掌をお腹に当てる。次の瞬間、ドゴォ!!と音を立てて崩れ落ちるクリエル。

 当然避けられた時には武装色の覇気で防御を固めていた。しかし、それを無視してた攻撃がクリエルを襲った。バキッと嫌な音を消える意識の中で聞こえたクリエル、肋骨がやられたようだ。そのまま意識を失って地面に倒れる。

 

 

「…フンッ!!俺の愛する息子達に何しやがる!!」

 

「…………」

 

「お、親父…」

 

 

 スマラの背後から白ひげが能力を込めた薙刀を全力で振るった。スマラも優雅に振り向いて裏拳を当てる。

 振動能力と量変化能力がぶつかり合う。当人たちは全く気にしていないが、すぐそばに居たビスタは驚きの声が口から零れ落ちながら必死に耐える。このままでは巻き込まれるのは必然なので、衝撃波を利用して数メートル後方に退避。

 

 スマラは振動能力によって生み出された運動エネルギーの量の向きを変更して、自身に向かうべき方向から逸らす。よって無傷に攻撃を逸らすことに成功する。

 普段以上の集中力がいるのか、短い吐息を吐きだすスマラ。理性が殆ど残っていないので、すぐさま次の行動に移る。

 足を動かす。能力によって進む量を増やして一瞬だ。周りの目には瞬間移動したように見えるだろう。もっとも、剃や見聞色の覇気を体得している者にはある程度予測の付く速度だ。

 白ひげも見聞色の覇気をフル活用して攻撃を放つ。拳から発生する地震が、薙刀に付属された地震能力が、スマラの行動予測場所に現れる。スマラもそれに対応していく。能力を使って攻撃を逸らすと、周囲に被害が広がっていく。海兵を巻き込んでもスマラは知らんぷり。というか、目の前の敵しか見えていない。

 

 数合打ち合って白ひげは納得した様に攻撃を止めた。

 

 

「なるほどなぁ。読めたぜ。テメェ海軍に利用されていなぇか?」

 

「利用?私は至って冷静よ。貴方が私の敵。それだけで十分」

 

 

 白ひげの言葉が心外だったのか、言い返すスマラ。だが、それは支離滅裂な言い分だ。

 冷静でない人ほど冷静だと自分を判断する。つまりスマラは冷静ではないのだ。知らず知らずのうちに海軍に利用されている事に頭が回らない。普段のスマラなら簡単に至る結論に到達できない。目の前の事で頭が一杯な証拠だ。

 それが分かっただけでも進展したと言える。のだが、それが分かった事で現状は変わらない。

 

 これが普通の人間なら怒りが収まるまで声をかけ続けるか、適当に相手をすればいいだけの話。しかし、スマラは普通の人ではない。

 普通の旅人を自称しているが、世界でも上位に入る実力にどうしても政府や四皇が無視できない生まれ。どう見たって普通の人間ではない。普通の人間なら世界最強の男に立ち向かったりしない。そもそも戦場にいない。

 白ひげですら気を緩めれば命に直結するレベルの相手。時間をかけようものなら海軍がその隙に息子達を襲う。かと言って無視して海軍を相手どれば後ろから刺される。

 現状維持しか見つからない。解決方があるとすれば……

 

 

「小娘、こんな場所に居ても良いのか……。何も動きを見せなかったテメェが動いたと知れば、直ぐにでもやって来るぞ」

 

「……そんなことはどうでもいい。罪を償って死ねばいい」

 

「罪って言われてもなぁ。俺がテメェに何したって言うんだら!!」

 

 

 そう、対話だ。相手が動物でもあるまいし言葉は通じる。理性がちょっと吹き飛んでいて、行動が感情に左右されているが、それでも受け答えは帰って来る。

 どうにかして怒りを治める、もしくは方向変更させて被害を抑えたい。そのための対話を試みる白ひげだった。普段よりも理性が引っ込んで二言目には「死ね」と言うスマラ相手にどこまでやれるのか……。

 弱点であるはずの「家族」を指摘しても、どうでもいいとバッサリと切り捨てられてしまう。これがかなり重症だ。

 

 スマラにとって家族とは過去に棄てた存在。しかし向こうは諦めていないと知っているからこそ、今の今までひっそりと放浪してきたのだ。

 スマラは知らないといえ、この戦争は公開放送されている。丁度バギーが捉えていた映像電伝虫は復活していて、戦場を映し出していた。

 そもそも、映像電伝虫による公開放送が無くても、いくらでも情報の取集方があるのに定評のある奴らだ。こんな場所で白ひげとやり合っている情報を掴めば、戦争中であろうと乗り込んでくる可能性を否定できない。

 そうなれば被害は更に大きくなる一方だ。撤退し始めている白ひげ海賊団も、海軍ですら同じことが言える。それなのに海軍がスマラを利用したのは偏に、それだけ白ひげを本気で潰したいが故の決行だったのだろう。

 

 

 言葉を交わしながらもスマラは白ひげに向けた攻撃の手を緩めない。白ひげも薙刀と素手を使ってその攻撃を圧殺する。

 互いに決め手にかける。スマラは理性が無い、白ひげは怪我と病気で衰えて。この二つの要因が戦いを長引させる。

 

 

「面倒くせぇ!!そろそろ理性を取り戻したらどうだ、このボケナスがぁ!!」

 

「………ッ!!?」

 

 

 攻撃を回避して懐に潜り込んできたスマラを、白ひげは蹴り上げて宙に浮かせる。能力を使ってダメージをなくしても、衝撃によるノックバックを無視することは出来なかったようだ。それだけ白ひげは本気で蹴り上げた。

 宙に浮くスマラの頭を手で掴んだ。スマラは掴まれた頭と手を通して能力を執行。白ひげを体内から破壊していく。

 苦しい表情でスマラの能力を直に受ける白ひげは、それでもスマラを放さずに振動エネルギーを拳にため込んでいく。多少の反撃覚悟でキツイ一撃をお見舞いする事にしたらしい。話し合いが通じないスマラが悪い。

 

 頭を掴まれて視界が閉ざされているが、それでもこれから起こることくらい予想が付くスマラはそれでも白ひげへの破壊活動を辞めなかった。振動能力をフル活用した一撃を喰らうと分かっていながらだ。

 攻撃の事しか考えていない。既に防御する思考を辞めたようだ。それに反する様に、能力を攻撃へと使っていく。

 

 常人なら一秒すら持たないスマラの能力を白ひげは覇気と能力で耐え抜いた。能力の全てを手に収着させてスマラごと地面に叩きつける。地面が割れ、スマラは激しい衝撃波を直に受けてしまう。

 

 

 

「……」

 

「………」

 

 

 一秒、二秒、三秒。いつまで経ってもスマラは動かない。

 死んだか?周囲はシーンと静まり返る。誰だって白ひげに挑んだ正体不安定の生死が気になるのだ。

 

 

 はっきり申し上げよう。この程度ではスマラは死なない。いくら理性が失われていようと、残っている本能が咄嗟に危険だと判断して防御を固めたのだ。それだけでなく、生まれ持った頑丈な身体もあって外見的な怪我は見当たらない。

 ただ地面に倒れたまま動かないのだ。いつまで経っても動かないスマラに業を煮やした白ひげが、コツンと薙刀の先っぽで突っつく。

 

 

「………」

 

「おい、小娘」

 

「…………痛いわよ。いい加減にしなさい」

 

 

 覇気は込めていないが、それでも最上大技物工の一振りは伊達じゃない。ツンツン攻撃はスマラの能力を突破した!!

 厳密には違う。身体にダメージは負う事は無かったが、強い衝撃を頭に受けたのだ。記憶喪失の治し方ではないが、強い衝撃を頭に受けたことで理性を取り戻したらしい。

 言葉に棘はあるが、先までとは声色が違う。二言目に「死ね」と言ってない!!?

 

 刃の先を握って忌々しそうに白ひげを睨むスマラ。怒りはまだ治まっていないらしいが、一先ず聞く耳を取り戻したらしい。

 さて、ここからどう対応を取るか。それによってはまた直ぐに敵対するだろう。

 

 

「で、訳も話さずに俺に殺意を向けて来るとは何事だァ。場合によっちゃあ落とし前キチンと付けてもらうぞ」

 

「ふん。よくもまぁ被害者面していること。……貴方の攻撃でいったい何十冊の本が亡くなったと思っているのッ!!」

 

 

 感情に任せながら薙刀を放す。怒り心頭と言った様子で荒ぽっくはあるが、単なる力を使った反動を受け止められない程白ひげは軟じゃない。

 怒り心頭と言った様子をしているスマラだが、少なくても対話を行う気はあるようで、白ひげを睨んだまま動かない。

 

 そんな敵対を辞めていないスマラの様子を見て、一番近くにいるビスタは何時でも切り込める様に構えていた。親父相手に生き残るどころか張り合っていた。そんな相手に自分の剣は効くだろうか?それでも、今は自分以外にいざという時に親父を守れる者はいない。そう自分に言い聞かせて身構える。

 親父は分かっているようだが、あいつは誰だったか……。と記憶を探っているビスタであった。

 

 一方でスマラから怒りの理由を説明された白ひげはと言うと、

 

 

「あァ?本だァ?……なるほどな。おおよそ予想は着くが、それを俺にぶつけるのも少し違ェんじゃねぇか?」

 

 

 スマラの説明を一蹴。自分に非はないと言い張る。

 

 

「違う……。それは冷静になって理解したわ。でも、その上で貴方に弁償を求めているの」

 

「政府に文句を言いつければいいじゃねぇか。何でテメェがこんな場所に居たのかは知らねぇが、大方の想像はつく」

 

 

 言いがかりは俺に言うな、政府に愚痴ってくれ。白ひげはそう言うが、スマラもスマラも考えなしで白ひげに弁償を請求しているわではない。

 

 

「政府はもうダメよ。私には何も不自由ない環境を用意すること、それが私が政府の指定した場所に大人しくとどまる条件」

 

「戦争の真っただ中に説明無しに置き去りにされて、尚且つ被害を受けた。だからもう信用できねぇということか」

 

「えぇ。その通りよ」

 

 

 信用は元々していない。それでも報酬が魅力的だったらから話に乗っただけの契約。こちらは大人しくしいたのに一方的に破られた条件。

 政府としては、何も言ってこないからそのままでもいいねよね?とばっちりの被害を受けても白ひげのせいにしたら良いし、何なら怒りで白ひげにダメージを与えてくれたら御の字だ!!という感じだろうか。

 実際にスマラは戦争の事を対して意識せずに場所を変えてほしいとも申請しなかった。それによって、白ひげ攻撃で理性を失って白ひげと争ったりもした。

 理性を取り戻してみると、この状況が政府の用意した作戦の内の一つだと言う事が分かる。そして、スマラが理性を取り戻して政府との契約を切っても大した痛手にならないことも分かる。

 

 だからスマラは不機嫌だった。

 ただ手元に置いておきたいだけだからと思って乗ってあげたのに、結局のところ自分を利用して来る政府も。それが分かっていながらも乗った自分も。

 どっちの事も嫌いだ。だからスマラはここで終わらせると決めた。

 

 先ずは、弁償という名の己の欲望を白ひげに吹っ掛ける。部屋に有った本を全て読んでいる……わけではない。読んでいない本もあり、それを易々と諦め切れるスマラでもない。

 政府程ではないが、それなりの貿易ルートを持っている天下の白ひげ海賊団ならば……と考えてだ。

 

 

「もう政府とは縁を切るつもりだし、それでも本は手に入れたい。ならば壊した本人に請求するのは当然でしょう?仮にも四皇の船長。できないはずはないわよね?」

 

「アホ言うな、俺がそこまでする義理はねぇだろうがよォ。さっきの攻撃を無かったことにしてやるからそれで勘弁しな」

 

「…は?」

 

 

 白ひげ、スマラの交渉を見事にぶっ壊す。請求してきた相手にチャラにしてやるからそれで我慢しろとは、肝が備わっている者しかできない。

 まさかの返答にスマラは殺気をだだ漏らせる。そんなスマラにビスタが身構える中、白ひげは不敵に笑った。

 まるでどうだ?と言わんばかりの態度。機嫌の悪いスマラにこれほどまで大胆な挑発行為ができる存在も、世界に数名しか存在していないだろう。

 

 一方でスマラは白ひげの態度を見て溢れた殺気を抑える。感情的になってはダメだ。自分に不都合な方へと流されるぞ。そう自分に言い聞かせると同時に能力を使って感情を抑える。

 普段はここまでしないが、そうも言っていられない危険な状態だと判断して能力まで使った緊急の冷却行為。

 

 

「っす~~~っは~~~~。そうね、貴方の言う通りでもあるわ。白ひげは非はない。問題だったのは契約違反した海軍。そうしましょう」

 

「余計な手間取らせやがって……。撤退の時間稼ぎ、手伝ってもらうぞ…」

 

「え?何で白ひげ海賊団の手伝いをしなければならないの?」

 

 

 深呼吸を行って冷静に戻ったスマラは、多少遺恨を残しながらも白ひげと和解した。これにて終了。この場に居る必要は無くなった。早速この面倒そうな場所から撤退しようとして後ろを向いたスマラに、白ひげは無惨にもスマラに言いがかりをつけてきた。

 手間取らせたんだから撤退の手伝いしやがれ。これにはスマラもビックリ。クルリと振り返って首をかしげる。美女がキョトンとしている様子はそれは萌える。

 が、その場にその価値の分かる人種はいなかった。居たのは……

 

 

「白ひげと奴が手を組んだぞ!!!『可憐なる賞金稼ぎ』も元々は海賊の身。決してこの場から逃がすな!!」

 

 

 これも作戦の内か、スマラに敵対心を見せるセンゴクの放送が響き渡ったのだった。

 

 




 さて、こっからどうなるのやら…(すっとぼけ)
 ちなみに、赤犬とエースサイドでの進行は一旦ストップしております。どちらにも無視できない状況でしたからね。この後見事赤犬がエースを煽りまくります。(この後はご存知…)
 そしてビスタ、最後までスマラのことを思い出せず……。


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689 五十八頁「運命は逃がさない」

 大変お待たせいたしました。最近は纏めるのと、執筆出来ない日が偶に発生するせいで、更新速度が遅くなってます!!
 どうにかして早めにお届けしたいんですが、文字数来たから内容無視って微千切るのも悪くじゃないですか?なので、おそくなってます!!

 頂上戦争もそろそろ終わりたい……。あと、今回悩みました。軌道修正するしか無かったんだ……。ではどうぞ。


「白ひげと奴が手を組んだぞ!!!『可憐なる賞金稼ぎ』も元々は海賊の身。決してこの場から逃がすな!!」

 

 

 これも作戦の内か、スマラに敵対心を見せるセンゴクの放送が響き渡ったのだった。

 

 

「なっ……」

 

「グラララ!!海軍はテメェと敵対する道を選んだようだぜ」

 

 

 センゴクの放送を聞いた白ひげがニヤリと笑う。嬉しい事があったのではないが、スマラの事情を知っているが故に面白さを感じ取ったらしい。

 大局的にスマラは絶句した。元々は一般人、良くても賞金稼ぎとして世間では通していたのだ。それをこんな場所で大々的に海賊の身であったとバラされてしまえば、誰であろうと言葉を失うであろう。

 

 センゴクの放送を受けた海兵が遠巻きに見ていることを止め、スマラ達に砲弾や剣撃を放ってくる。海兵達の多くはスマラの名前すら知らないだろう。が、実力は先に見たばかり。『可憐なる賞金稼ぎ』が元々海賊であり、白ひげに匹敵する力を持った実力者だと分かれば、二度と海に戻すものか!!と猛攻を仕掛けてくる。

 スマラが海賊行為をした事がないと知っていながらも、センゴクが海賊だといえばそう従う。海軍にはセンゴクの言葉こそが全てなのだ。そこにスマラ個人の意志は関係ない。

 

 

 実力を見ている為か最低での少将、主に中将が徒党を組んで襲ってくる。スマラは面倒そうに全てを反射させて防御。中将レベルは新世界の船長であろうと手こずる実力者だが、スマラはその攻撃を難なく捌いて行く。

 複数ともなるとスマラとて本気を出さざるえない大将レベルならともかく、中将なら問題ない。しかし、中々追い払えない。こちらから動く必要がある……。

 

 

「で、だ。そろそろ決心がついたんじゃねぇのか?俺の息子達の撤退を手伝ってやれ。そうすればここは俺が引き受けるぜ?」

 

「馬鹿言わないで。このくらい自分で対処するわ」

 

 

 白ひげと軽口を叩きながら攻撃を反射してくるスマラに切れた中将が数名、一斉に襲いかかって来る。

 スマラはため息を吐き出すと同時に気合いを入れた。

 

 吐き出された息が止まった瞬間、空気が震えた。それはこの戦場では二度目の出来事であり、一度目よりも多くの実力者を昏倒される結果に至った。

 覇王色の覇気。雑魚を始末するには丁度いい手札だった。

 

 

「おい馬鹿野郎!!!味方にまで被害を出してどうしやがる!!」

 

「味方になった覚えはないわ。敵対していなだけで、覇気の対象外にするわけないわ」

 

 

 スマラの覇王色の覇気によって少なくない人数の白ひげ海賊団の人員が倒れる。撤退に徹していたことと、同じ分だけ海軍側にも被害が出ていることから、白ひげ海賊団に大きな被害は発生していない。

 しかし、無許可に巻き込む形で覇気を発動して白ひげが怒るはずもない。対してスマラは、味方じゃないからと言って無責任を貫く。

 かっこいいことを言っているようにも見えるが、実は覇王色の覇気をコントロール出来ないスマラは、自然と誰構わず対象として発動しただけであった。

 現にスマラはフラフラと足取りは重い。発動前に能力を使う事でリスクを最小限まで減らしただけで、本音を述べると今でも倒れて休みたい。が、それは場所が許さない。いくらスマラでも気を失っていては能力を使いこなせない。

 

 

 

 幾ら覇王色の覇気を発動しようが、倒れない者は存在する。海軍の精鋭中の精鋭である中将等や大将である。

 

 

「どんだけ綺麗であったも、敵対されちゃあ仕方ない。火拳とは能力相性最悪なんで、俺がお前さんを相手しよう」

 

「青雉……よく私の前に立つわね。死にたいの?」

 

「俺だって死にたくはねぇよ。ただ、やられっぱなしってのもメンツが潰れるんでな!!」

 

 

 青雉がスマラの前に立ちはだかった。ホントによくである二人だ。何かの因果関係がるのではないか?と運命を呪いそうになるスマラを前に、青雉は能力を解き放つ。

 周囲に冷気が漂い、石畳が凍っていく。ノータイムで地面から氷の刃が生成され、スマラに襲い掛かる。命中すれば風穴を空けて傷口から凍らさられる。

 相手がただの覇気使いならばの話だが……。

 

 

「それで不意打ちのつもり?」

 

「ちっ、やっぱ無理か。火拳相手するよりは幾らかマシだが………まったくどうなってのやら」

 

「敵に教える訳ないでしょ。そのくらい自分で考えなさい」

 

 

 ノーダメージ……まではいかないが、スマラに青雉の攻撃は全く意味をなさなかった。氷の刃は反射能力で壊され、触れることで万物をも凍らせるヒエヒエの実の能力はスマラの悪魔の実の能力で防がれる。

 マグマや炎でもないのになぜか?それは以前も述べた様に、熱量を弄っているだけだ。これにより、スマラは年中快適な環境で生活できる。

 もっとも、青雉や赤犬と言った覚醒級の能力者が本気を出さば、スマラとてダメージを覚悟しなければならない。

 今回の攻撃は手調べなのか、本体から離れているせいなのかはわからないが、全く効きやしなかった。青雉もそれは分かっているのだが、一見何もしてないような人に防がれるのは堪えるらしい。

 

 

「まぁおおよその予想は付いてるんだがな………氷河時代!!」

 

「……っ!!?」

 

「いくらお前でも一瞬の変動は無理そうだな」

 

 

 剃で接近、油断して臨戦態勢に入る前にカタをつける。そう言わんばかりに青雉はスマラに触れて能力を限界まで使用した。

 青雉の推測は正しい。スマラだって反応速度に限度がある。それに加えて青雉レベルの力だと反応する前に凍らされる。

 

 青雉の前には、氷漬けにされたスマラがあった。

 

 

 

「………まぁこうなるよなぁ。白ひげと言いバケモンかよ」

 

 

 凍らせただけで終了するはずもなく、スマラを凍らせていた氷は解け始める。真まで凍ってなければ、一定上の人間は再起可能。

 まさしくバケモノと言っても過言ではない。が、当の本人の青雉も一般人からすれば十分バケモノである。

 

 

「寒い……」

 

「だが、足止めはこれで充分だろ?」

 

 

 しかし、これも青雉の作戦の内。まだ万全に動けないスマラの後方から閃光が迸る。黄猿のレーザー攻撃がスマラを襲ったのだ。

 ご丁寧にもまだ溶けきっていない部分を狙い撃ちする正確さ。話し合ったわけでもないはずなのだが、見事なコンビネーション。無駄に働きが良いのが腹立たしい。

 溶けきっていない場所へとレーザーは着弾し、爆発を引き起こす。並みの人間なら一発で即死するが、生憎と相手は生半可な火力では傷一つすら負わないバケモノだ。

 熱量を変化させて氷を溶かしながら並行してダメージ量を変更。二つの量を同時に弄るのは流石に無理がったのか、爆破によるダメージは無効化に失敗してしまう。

 肌は少しだけ傷を負い、服はボロボロ。スマラの能力で服の機能を失うまで破壊されてはいないが、それでも紳士なら目を逸らさるおえない。

 爆破の熱によって氷の拘束は無くなり、完全に自由を取り戻したスマラが現れた。

 

 

「…やってくれたわね。女の子一人に大将二人がかりって大の大人としてどうなの?」

 

「女の子って歳じゃないでしょ。っと、もう言わねえから睨むの辞めてくれね?」

 

「ふ~む~。青雉の能力で拘束した上で、わっしの攻撃を喰らってその程度のダメージ………全く、嫌になるねぇ~」

 

「私の方が嫌だわ。サッサとこんな場所おさらばしたいのに、どうして邪魔するのかしら?」

 

「わっしだってアンタみたいなバケモノを相手するのも御免だね~」

 

「だが、上からの命令なんでな。世間に放送されてる今、ここでお前さんを捕らえない訳にはいかないのよ」

 

「チッ、だったら押し通るまでよ!!」

 

 

 青雉&黄猿vsスマラの戦いが始ま…………らなかった。

 

 

 

 

 

 広場の一角で炎とマグマの衝突が起こる。エースと赤犬の衝突だ。

 エースを救出した途端に撤退する白ひげ海賊団の悪口を言い挑発した赤犬は、見事に乗ってきたエースを向かい打つ。一度救出されて相手が抵抗するならば、この手で処刑するのみ。

 海軍の中でも取り分け過激派な赤犬は、どんな手を使ってでも白ひげ海賊団、エースとルフィを逃がすつもりはなかった。

 

 今までの疲労から膝をついてしまったルフィに向けて赤犬が迫る。それをエースを身を挺して庇った。

 

 

「エースがやられたァ~~~!!!」

 

 

 戦場に響き渡る白ひげ海賊団の悲鳴。

 

 誰もがその場に注目している。白ひげも、隊長等も、海兵も、青雉、黄猿、センゴク、ガープ、バギーやその仲間が持っていたら映像電伝虫によって中継されているシャボンディ諸島に集まった民衆、そしてスマラでもだ。

 騒がしくあった戦場の時が止まったかのような静寂が訪れる。そんな中、一番早く動いたのはスマラだった。今がチャンスとばかりに青雉と黄猿の前から立ち去ると、自身から発生する音量をゼロにして戦場を駆け抜ける。

 青雉と黄猿が気づいたときにはもう遅い。スマラの姿は消え、見聞色の覇気による追跡も戦場では困難。まんまと逃げ押せたスマラに向かって、青雉は珍しく悪態を吐いたのであった。

 

 

 

 戦場をスマラは駆ける。と言っても、青雉と黄猿の追跡を振り切った今、走って体力を消耗することは無い。

 音量はそのままゼロにしたまま、移動距離は人間の歩幅と変わりない。つまり、能力の使用を抑えているのだ。

 理由は簡単。先の戦闘で体力を消耗し過ぎたのだ。さすがのスマラも怒りによる暴走からの大将二人との戦闘はキツすぎる。このまま逃げ押せるつもりだが、万が一にも戦闘に再び入った場合、体力を残していないと勝率は低い。

 

 戦場を町中を歩く様に歩くスマラ。存在を消している訳ではないので、目に入った海兵がスマラを捕えようと攻撃を仕掛けて来たり、流れ弾が飛んでくる。

 それを見聞色の覇気を使って優雅に避ける。本人はそう言ったつもりはないのだが、まるで踊っているようにも見えたとか……。

 

 歩いている間にスマラはこの場から逃げる方法を考える。

 

 船に乗せてもらうのが一番手っ取り早いのだけれど……。それでは白ひげに借りが出来てしまうわね。

 私としてはそれでも問題ない。場所を提供して貰う代わりにちょっとした雑用を捏ねせば良いわ。それでこそ新世界入りしたルーキーの排除を数回でも。それで恩を返したと思ったなら船を降りて、またふらふらしてもいい。

 だけど、それじゃああいつらが許さない。私としてははた迷惑な関係でも、向こうからしたら貴重な情報と戦力源。決して逃れられない縁がある

 ……どうせこの処刑の放送も観ているんだろう。いずれ私の目の前に現れるはず……。

 ならば白ひげ海賊団に乗っているのは無しね。面倒な事になり兼ねない。ならば……海を能力で歩いて渡るか、小型船を一隻盗んで能力で動かすか……。

 どっちにしろ、今の私には現実的じゃないわね。

 

 

 どうする?どうする?

 気が付いたら追い詰められている。これも深く考えずに行動した結果。

 方法は思うかぶが、どれも現実的ではない。否、現実に実行可能なのは確かだが、どれにもデメリットが存在する点が、スマラを悩ませる。

 

 

 

 

 

 そうこう悩んでいる内に状況は刻一刻と変化していく。エースが死に精神が崩れたルフィを守ろうと、ジンベエとマルコが赤犬の前に立ちふさがる。ルフィはジンベエに背負われたまま撤退する事となった。

 赤犬が白ひげ海賊団の攻撃をものともせずに追撃に走るが、それを白ひげが見逃すはずがない。赤犬にエースを殺された怒りをぶつける。顔の半分を失ってなお白ひげは赤犬に攻撃を直撃させる。今までも本気を出していないことは無いが、それでも今の白ひげは怒りで倍以上強くなっている。

 白ひげの一撃で広場に亀裂が……広場が真っ二つに割ける程の結果を生み出した。これにて海軍と白ひげ海賊団は完全に別つ形となる。いずれ追いつかれる可能性もあるが、一時的にも時間を稼げる。

 それだけでなく、白ひげはここに残るという覚悟の現れでもあった。

 

 戦争は終盤へと傾く。

 王下七武海のはずの黒ひげが姿を表し、白ひげに襲い掛かる。衰弱、病気、怪我、体力の消耗。色々な事が重なり、白ひげはついぞや命を散らした。

 最後に、『ひとつなぎの大秘宝』は実在すると爆弾発言を残して………。

 

 

 

 

 

 白ひげ死亡。それは全世界を駆け巡る。それは戦場でも同じことだ。

 エース、親父と家族を立て続けに失った白ひげ海賊団、白ひげを殺した張本人である黒ひげ海賊団に頭を抱える海軍。

 様々な思いが飛び交う中スマラもまた、この戦場で次々と起こる時間について考えていた。

 

 

 ゴール・D・ロジャーの息子、火拳のエースが死んだ。これならまだ世間は混乱しない。せいぜい、海賊王の息子が処刑されて良かったと安心するだけ。

 でも、白ひげが死ぬは火拳よりも影響力が違う。四皇はそれぞれが力を持った存在。それは単純に海賊としての力が強いだけじゃない。他の海賊よりも一つも二つも飛びぬけているのは勿論、それ以外にも新世界の経済を回している存在なのだ。

 赤髪は別として、白ひげ、カイドウ、ビッグ・マムと誰もそれぞれのナワバリを持っている。ナワバリ内では海軍……世界政府は関与できない。その代わり、彼らが新世界を航海している海賊から守っているのだ。見返りにとして、お金や技術、食べ物を融通して貰う。

 それが四皇のやり方。他の海賊と違って、海を航海するのではなく君臨する海賊。私の知識ではそう覚えている。四つの海や偉大なる航路の楽園では考えられないことだが、新世界ではこれが常識。海賊が支配する海域があるとは、また非常識な感覚だ。

 その四皇の中で最もナワバリが多く、尚且つ白ひげの名で民間人を守っている場所は多い。白ひげが死ぬとその場所が無法地帯と化するだろう。そうなれば世界政府だって手間暇が増えるはず。

 

 あの黒ひげ……あいつはそこまで考えて白ひげを殺したのだろうか?

 白ひげの死体と共に黒幕の内側に籠りっきりだし……。まか私には関係のないことだわ。

 

 

 

 これから起こるであろう混乱に頭を痛めながら、スマラは歩く。

 白ひげ海賊団の船を頼るにしろ、海を単独で渡るにしろ、逃げる方向は一緒だ。

 白ひげ海賊団に紛れながらスマラは先を急ぐ。

 

 そんなスマラを又しても運命は見過ごさなかった。

 

 

「オイ、お前さん!!!」

 

 

 戦場に声が響いた。ジンベエの切羽詰まった声だ。

 当然、スマラは無視する。だって名前を呼ばれている訳じゃないのも。

 ……名前を呼ばれていても、無視する可能性もあるが、それはそれだ。

 

 無視して先を急ぐスマラを、誰かが服の裾を掴んで止めた。

 

 

「待て。ようやく思い出した。貴様は『可憐なる賞金稼ぎ』のスマラだな。海賊の子供だったとは……」

 

「それ以上その話題を出すのなら、二度と口を開けない状態にするけど?具体的には喉の声帯を潰して……」

 

「おうおう、コエーことだ」

 

 

 無謀にも白ひげや大将二人と殺り合っていたスマラを止めたのは、何時の間にか見えなくなっていたビスタだ。

 剣は二本とも鞘の中にしまったままだ。白ひげの敵討ちに来たわけではないらしい。

 下っ端の海賊ではなく隊長。この戦場では白ひげ側の最上位の役職だ。スマラとて反応しないわけにはいかない。

 ただ、急いでいるので逃げながらだ。立場はことらの方が上なのだから、失礼にも当たらない。もっとも、スマラの場合、四皇であろうと自分の方が上だと思っている節があるが……。

 

 

「で、何?」

 

「何じゃないろ!!?ジンベエが貴様を呼んでいるんだ。何でも、エースの弟の仲間だとか…」

 

「はぁ……」

 

 

 スマラはため息をつく。視線の先にはジンベエに背負われたまま気絶している麦わらのルフィの姿。

 彼は船から降りたにも関わらずスマラのことを仲間だと喋っていたのだろう。いい加減な男だ。スマラでなくてもため息が零れ落ちるもの無理はない。

 どこまでその話が伝わているのか、想像に負えない。進んで鎮火しようとは思わないが、見つけた火種は消すに決まっている。

 

 

「確かに麦わらの船に乗っていた時期はあったわ。でも、それは少し前の話。仲間でもなんでもないわ」

 

「だが、この状況だ。助けに行くのは道理ではないか?」

 

「道理もクソもある訳ないでしょ?私は海賊ではないけれど、自分身勝手の女よ」

 

「海賊ではないとあくまでもそういうのか……。しかし、一夜の恩義は一生忘れない、と言う出ないか?」

 

「ハッ、恩義とか仁義とかどうでもいいのよ。私はしたいように生きるだけ。誰の指図も受けないわ」

 

 

 どうにかしてジンベエを、延いてはエースの弟を生かしたいらしい。

 現在ジンベエに背負われたルフィは赤犬の猛攻を受けている。白ひげ海賊団やおかしな連中が逃がそうと、砲弾を浴びせたりと足止めを行ってるものの、相手は全く怯まない。

 

 

「……親父が死んだ今、大将を相手取れるのは数少ない。海軍と敵対しておる貴様を使わない手は無い」

 

「だからなんで私が……」

 

「海軍に利用されていたといえど、親父に攻撃した事実は消えやしない。このまま後ろから斬りかかっても良いんだぞ?」

 

「チッ!!」

 

 

 思わず舌打ちが出てしまう。それほどビスタの言葉はスマラにとって面倒事極まりなかった。

 こちらの言うことを聞かないのなら、白ひげ海賊団を敵に回すぞ。海軍にも狙われている中、俺達まで敵に回せるのか?

 そう言ってるも同然。だからスマラはイラつくのだ。

 

 ビスタの攻撃なら幾ら受けようが反射で無視できる。しかし、ビスタが攻撃していることで他の白ひげ海賊団はスマラを敵対者だと認識し、攻撃を行うかもしれない。そうなればスマラは前に進むことが出来なくなる。

 無論、ダメージを受ける訳ではないので無視は可能だ。しかし、無視出来るくらいの攻撃量ならいいが、無視できずに一歩も動けないほどになれば厄介極まりない。

 さらに言えば、スマラは白ひげを無意味に攻撃している。白ひげの能力で部屋が崩れたと言う事実があっても、それが一度綺麗に精算されたとしていてもだ。

 だからこその舌打ち。何であそこで怒りに身を任せてしまったのだろか……とスマラは自分を責めたくなる。

 

 逃げるスマラ。追うビスタ。これではいつまで経っても埒が明かない。このままでは本気で斬りかかって来そうだ。

 話を聞くべきか、それとも無視して一人逃走に走るか……。悩んだ末、スマラは声を上げて振り返った。

 

 

「あぁもう!!何をしたら良いの!!?行っておくけど、私はタダでは動かない人間よ!!」

 

「エースの弟を助けてくれたらいい。元気で海に出港出来る様になるまでな。こっちからの条件は……居場所を用意しよう。白ひげ海賊団の名をかけて約束は守る」

 

「分かったわよ!!あぁ!!赤犬相手って面倒だわね!!」

 

 

 この時又しても後先考えずに行動したスマラはこの後、途轍もなく苦労する事となる。この時気付いていれば違った未来を歩くかも知れなかった。が、たらればはIFの世界。並行世界に当たる。この話は、スマラはここで気づけなかった場合の世界の話だ。

 もっとよく人の話をきいていればいい物の……。この女、予想外の展開が続けば適応力にかけている。後、数分前の自分から学ばない。

 

 

 スマラは面倒そうに悪態を吐くと、ルフィを生き残させるべく走り始めた。

 

 




 と言う事で、ビスタの説得内容が薄い気もしますが、自分にはこれが限界でした……。スマラはルフィの下に向かいます。まぁタイトルあるしね。

 明日はワンピース96巻の発売日でし!!コミックス派なのでこの発売日が生きる理由の一つと言っても過言ではない!!!深夜買いに行きます!!!
 おでんの過去!!最近はハーメルンで増えてきたロックス!!!楽しみ過ぎる!!!


 次回はもっと早く更新したいです(願望)


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745 五十九頁「賭けと懸け」

 エタると思いましたか?更新速度は落とすけど、きちんと投稿はしますよ。
 オリュンポス攻略してたら遅れました。まぁとっくの昔にクリアしてましたけど……。


 スマラは走る。理由?それはビスタに脅されて、ルフィを助けると約束させられたからだ。

 ビスタとの言い合いで時間を喰ってしまった。スマラは取り返しのつかないことになる前に急ぐ。これから赤犬と戦闘を行う為、能力の使用は控える。リスク無しで能力を使える体力はもう残っていない。否、雑魚敵なら幾らでも問題ないのだが、大将ともなると心許なさ過ぎる。少しでも抑えるのだ。

 本当は能力を使ってでも急ぐべきなのだ。しかしスマラは能力を使わない。これは体力の消耗を抑えると同時に、自分なら何とか出来るはずだ、と言う実力者故の慢心を抱いていたからだ。

 それに、スマラがジンベエを視界に入れた時には……

 

 

 

 現状ジンベエは海に出ようと湾岸から飛び降りたのだが、青雉に先回りさせられて海は凍っている。しまったっと思った時にはもう遅い。

 空中に飛び出してしまったジンベエには身動きが制限されていた。先に跳んだ者と、後から追いかけて跳んだ者。有利なのはどちらだろうか?答えは後から追って来た者が断然有利だ。

 赤犬が手をマグマ化させて追って来る。避けようがなかった。

 

 

「アアアッ!!?」

 

 

 どうにしようとするものの、相手は自然系能力者。並大抵の攻撃は効きやしない。

 赤犬の腕はジンベエの肩を貫通してルフィの胸を抉る。即死は免れたが、致命傷には変わりない。

 

 

「邪魔しちょるのうジンベエ!!」

 

「ウ……!!ルフィ君すまん!! 更なる傷を負わせた!!」

 

 

 地面に落ちたジンベエは自分の傷はどうでもいいようにしてルフィに謝った。

 ルフィを一度降ろして体制を整えようとするも、すぐ近くには攻撃態勢の赤犬の姿。逃げ場は何処にもない。

 このままルフィを守れないのか……。

 

 そう覚悟した瞬間、赤犬の身体あ崩れ落ちた。自然系能力者である故に、身体を弾けさせながら辺りにマグマをぶちまける。

 

 

「あぁ!!めんどくさい!!」

 

 

 この戦場で赤犬に向かって原型を留めない程の攻撃を行える人物は限られている。

 赤犬は己の攻撃した人物を睨みつけた。

 

 

「おんどれぇ!!小娘!!!儂の邪魔しちょるのか!!?」

 

「こっちにも事情があるのよ!!」

 

 

 赤犬の問いにキレ気味に答えるスマラ。事情と言っても殆どスマラの自業自得なので仕方が無い。

 身体を元に戻した赤犬が忌々しそうにルフィを睨んむが、直ぐに視線はスマラへと戻す。ルフィを殺すのは当然のことだが、スマラが相手となると意識を逸らすわけにもいかない。

 ここで青雉や黄猿なら引くように交渉したり、様子見に徹したりするものだが、スマラの相手は過激派筆頭の赤犬。海賊は悪、それ以外の論理は認めない。相手が四皇であろうが、元海賊であろうが関係ない。

 故にスマラは赤犬だけの前には立ちたくなかった。更に今のスマラの立場は、後先考えずに海軍を敵に回した犯罪者。赤犬は容赦しない。スマラが元海賊であり、ここ数年は賞金稼ぎとして海賊を捕縛していると知っていてもだ。今であれ、昔であれ関係ない。海賊だったという事実だけで赤犬にとっては捉えるべき敵。

 それが産まれと言う仕方のないことであっても……。

 

 赤犬は憎らしい目つきでスマラに向かってマグマ化させた腕を噴出。スマラは自身に触れる前に能力を使って防ぐ。

 赤犬の攻撃は触れると危険だ。何せマグマ、そこらの打撃や斬撃とは訳が違う。触れた先から皮膚だけでなく骨まで溶かしてしまう理不尽の極み。武装色の覇気を纏えばそれ限りではないのだが、それでも火傷レベルのダメージは免れないだろう。

 それ故にスマラは普段は触れる事で発動する能力の範囲を拡大、自身から15センチ程で反射を発動させた。

 

 

「厄介な能力やのぉ!!」

 

「自然系能力者に言われたくないわよ。……何をぼさっとしてるのよ、早く逃げないと私も撤退出来ないでしょッ!!」

 

「お前さんは……ルフィ君の仲間の……。分かった!!助太刀感謝する!!」

 

「貴様も麦わらも逃がさん言うとるぞ!!」

 

「だから、行かせないわよッ!!」

 

 

 ジンベエがルフィを背負って逃げる。それを追撃しようとする赤犬をスマラが阻止する。

 スマラを無視できない実力だと己で見極めていながらも、赤犬は逃げるジンベエに意識が行ってしまう。逃げないスマラよりも逃げるジンベエを優先しがちになるのだ。

 それはスマラを厄介だと認めていながらも、驚異だとは感じていない証拠。火拳の弟分であり最悪の犯罪者ドラゴンの息子、覇王色の覇気を素質を持ち、超新星と世間では呼ばれ急成長している麦わら。

 それと比べ、海賊でありながらもそれを否定して海賊を捉える賞金稼ぎへと転職。堂々と海軍の前に姿を現し、ついさっきまでは庇護下に甘んじていた新世界の不安定要素スマラ。

 現状を鏡見ると、脅威なのはスマラに違いない。しかし、成長度や経歴、産まれを考えるとこの場で逃がせば海軍にとって不利益になるのはルフィに間違いなかった。

 

 だからこそ、赤犬はスマラよりもルフィを追う。スマラに防がれようと、大したダメージにはならない事を理解している。

 赤犬は殺す気で海賊を追っているが、スマラはこれまで一度たりとも殺す気でいたことはなかった。ロングリングロングランドでの青雉、先の白ひげを見ると殺す気でいる様に思えるが、実は怒りに任せただけの感情。冷静に考えて明確な意志を持って人殺しを考えた事は一度もないのだ。………スマラが放浪中に撃退した海賊の中には死んでしまった者も存在しているかもしれないが、それはスマラが使った能力がその人物に耐えられなかっただけであり、スマラにとって殺す気は無かっただけである。

 

 

 であるから、赤犬はスマラを無視してルフィを狙うのだ。殺しに来ないスマラなど放っておいても問題ない、それよりも麦わらだ。と言わんばかりの態度だ。

 これにはスマラも大激怒……はしない。積極的に攻撃してこないなら結構。こちらは麦わらが逃げ切れる様に赤犬の邪魔をすればいいだけの話。

 が、しかし。何時まで地面をのうのうと逃げていられたらスマラも赤犬を抑えるのは困難だ。なので、風を起こす。

 

 

「ここにいると邪魔よ」

 

「のぉ!?」

 

「おんどれぇ!!デタラメをやりおる!!」

 

 

 自身が腕を振った事による風の動きを肥大化、竜巻まで成長させてジンベエを何処かに飛ばす。これなら赤犬も直ぐには追いつけないだろう。

 飛ばされたジンベエとルフィは空中にてバギーがキャッチ(本人にはその様なつもりはない)あれならば船まで辿り着けるはずだ。

 と視線を戻せば、赤犬がスマラに向かってマグマ化させた腕を振るってくる。

 

 

「早々に貴様を倒すしかないようじゃの!!『冥狗』!!」

 

「ハッ!!倒せる様なら倒して見せなさいよ………と言いたいところだけど、私とて好き好んでやってるわけじゃないのね」

 

「なら退かんか!!」

 

 

 怒りに任せてマグマの温度を上昇させていく赤犬。いくら触れる前に対処される能力であろうと限度があるはず。力で押し切ればいずれは倒せる。

 能力の使用による体力消耗で表情を歪めるスマラを見て、赤犬を自分の考えが正しいと嗤う。現に、マグマが反射される位置が段々とスマラの方に下がっている。力比べで押せば必ず勝機はあるのだ。

 ただし、これは赤犬と言った世界で指折りの実力を持っている人物だからこそ出来る戦法だ。並大抵の実力しか持ってない者ならば、いくら攻撃を続けようとスマラの能力に打ち勝つ事は不可能。

 

 

 

 と、そんなやり取り?をしている間に、白ひげ海賊団が集まってきた。現状で動ける隊長達を筆頭に、脱出の準備を行っている者達、海兵を食い止めている者たち以外の全員が集まっていた。

 全ては麦わらの為。底知れぬ執念と力を見せつけ、エースが守り親父が認めた麦わらを、白ひげ海賊団は新しい時代に送る義務がある。

 スマラには到底理解出来ない理屈を並べる白ひげ海賊団。それは海軍である赤犬にも理解出来ない考え方である。

 故に対立。逃がした白ひげ海賊団と、何としてでも殺しておきたい赤犬は相容れない存在なのだ。

 

 そんな白ひげ海賊団がスマラに厳しい口調で命令する。

 

 

「何をしている。早く麦わらを追え」

 

「あんたに託したのは赤犬の足止めではなく、麦わらとジンベエの護衛だよい」

 

「さあ早く!!バギーとか言う海賊では不安だ!!」

 

「エースの意志を守るんだ!!」

 

 

 白ひげ海賊団にどやされるスマラは深く、深~くため息を吐いてから空を跳んだ。勿論、それを許すはずもない赤犬だったが、白ひげ海賊団に阻止される。

 怒声がスマラの耳に入るが、無視して先をフラフラと飛んでいるバギーを追いかけた。

 

 幸い、バギーの速度は速くない。それは跳んでいるよりも浮遊していると言った方が正しいからだ。

 バギーの能力はバラバラの実。身体を自在にバラけさせる事が可能な能力だ。ただそれだけでは浮遊はできないが、バラけさせた身体はある程度の制限範囲があるものの、自由自在に操作することが可能。バギーは手下に足を運んでもらう事で空中での移動を可能とし、空から逃げている。

 が、先にも述べた通り、飽くまでも浮遊なので宙を蹴って移動するスマラに追いつけない訳がない。

 

 

 

 

 

 バギーは困っていた。

 インペルダウンから脱獄したものの、悪運が強いのか自分よりも懸賞金と実力の高い囚人達から慕われる始末。これを利用して乗り掛かった舟だと頂上戦争で暴れてみるも、囚人達が全く役に立たない程のレベル。

 もう嫌だ!!と思い戦場から逃げようとしていたところに飛んできたのはジンベエと麦わら。手下の囚人共はバギーが助けたと勘違いして、バギーを称える始末。

 それだけでもバギーにとっては人生でも十本指に入る不幸の出来事。だが、まだ終わらない。

 

 

「キャプテン・バギー!!後ろから何か迫って来ていますぜ!!!」

 

「撃ち落としてやりましょうか!!?」

 

「ん?何かって……うぉ!!!?」

 

 

 地上を走っていた手下達からの声に振り返ってみると、確かに自分に向かって跳んでくる存在が居た。

 それは一瞬でバギーの目の前で止まると、バギーを無表情で見つめると背負っているジンベエに視線を向けた。

 

 

「ス、スマラ……何で俺のとこに来るんだよ!!?」

 

「……死んでは居なさそうね。気を失っているのは癪だけど……仕方ないわ」

 

「無視すんなーゴラァ!!!?」

 

 

 バギーの前に現れたのはスマラだ。当然の様に追いつき、当然の様にジンベエとルフィの生存確認を行う。その間、バギーの存在は無視している。

 目の前に現れた人物に驚きながらも、無視されている事に怒り心頭の様子であるバギー。ついつい、スマラに向かって怒声を浴びせる。

 そんなバギーの態度に囚人共は「謎のやべー奴に啖呵を切るキャプテン・バギースゲー!!」「流石キャプテン・バギー!!俺たちに出来ない事をやってのける!!」「そこに痺れる憧れるぜ!!」と謎の悪運を発動して勘違いし始めた。

 

 バギーに目もくれずジンベエとルフィの生存確認を取っていたスマラも、流石に確認し終わるとバギーに注目する。

 

 

「貴方は確か……ロジャーの所で見習いだった……バギーね。助かったわ。そのまま適当な船まで運んで頂戴」

 

「重いんだよ!!テメェが運びやがれ!!」

 

「汚れるし重いから嫌だわ」

 

「拒否すんな!!と言うか、どこの船に持って行きゃぁいんだよ」

 

「直ぐに出港出来る船よ……」

 

 

 白ひげ海賊団か傘下のどこかが準備しているはずだけど…。

 

 そこまでは口に出せなかった。なぜなら、海の中から潜水艦が浮上して来たからだ。

 「潜水艦!?」「誰の船だ!!?」と狼狽える囚人達。そんな中、潜水艦の扉が開いた。

 

 

「麦わら屋をこっちへ乗せろ!!」

 

「ム・ギ・ワ・ラ・ヤ~~~あぁ!?テメェ誰だ小僧!!」

 

 

 中から出てきたのは一人の男だった。歳だけを見れば、確かにバギーからすれば小僧と言ってもおかしくないであろう年齢。しかし彼は、強さと知名度だけを見ればバギーよりも上の存在。そんなことも知らずに、バギーは大きな態度で反応する。

 バギーは知らない。しかし、常に新聞を購読して世間の情報を仕入れているスマラにとって、彼は普通に知っている存在だった。

 

 

「超新星のトラファルガー・ローね。懸賞金額は貴方よりも高いわ」

 

「最後の情報必要ねぇだろ!!?嫌味か!!?」

 

「で、どうするの?私としてはどっちでもいいけれど……」

 

「超新星だか何だか知らねえが、どこぞの馬の骨とも分かららねぇ奴らに渡してしまっても構わねえのか?」

 

「知らないわよ……」

 

 

 トラファルガー・ローが「麦わらを渡せ!!そいつを一旦逃がす。俺は医者だ!!」と叫んでいるのを放っておいて、スマラとバギーは二人でのんびりと会話していた。

 スマラからすればルフィとジンベイを逃がせればどうでもよく、バギーからすればトラファルガー・ローなど聞いたこともない海賊。すぐさまバギーがルフィとジンベエを手放さないのは当然だった。と言うよりも、知らない奴を頼るのが嫌だったのだろう。

 

 しかし、状況は待ってくれない。スマラとバギーがどうする?と熱い視線を交わし合っている間も(一方的)、戦場は動いている。

 トラファルガー・ローに気づいた海軍が捕縛しようと軍艦から砲撃を開始。さらに、どういうわけか白ひげのグラグラの実の能力を得た黒ひげが島全体を傾けさせて暴走気味。ルフィとジンベエを逃がそうと赤犬の足止めをしていた白ひげ海賊団も、かなり押されている模様。

 戦場で優勢なのは完全に海軍側であろう。そうなると…………。

 

 

「……どいて」

 

「へぶっ……何しやがる!!」

 

 

 急にスマラがバギーに触れて体制を崩させる。意味が分からず抗議するバギーの横を閃光が逸れる。

 ギギギ…と壊れかけの機械のように横を向いけマントを見れば、通り過ぎた閃光によって空いた穴が見えた。攻撃を受けた証拠だ。レーザーなど使えて、空中に居るバギーを狙える存在などパシフィスタか黄猿くらいしか居ない。

 案の定、黄猿がバギーを……正確にはバギーが背負っているジンベエと麦わらのルフィを狙っていた。光の速度で動ける黄猿に狙われている以上、バギーが逃げることは不可能だ。

 スマラがいなければだが。

 

 

「置いてきなよぉ~~。麦わらのぉルフィをさ~~!!」

 

「はぁ……せっかく赤犬から逃げきれたと思ったのに……」

 

「ぎゃぁぁぁ~~~……!!!?大将とか無理に決まってんだろぃ!!!俺を助けてくれぇ~~!!!!」

 

 

 再び狙いを定める黄猿にスマラが構えた。赤犬との戦闘を終わらせたばかりなのに、またしても大将が追って来る。嫌になるその態度を隠そうともせずにスマラは黄猿を見つめる。

 そんなスマラにバギーが泣きつく。死にそうな目には幾らでもあってきた。だが、大将に目を付けられるのは人生でも上位にランクインする不幸だ。懸賞金額が億にも届かず、戦闘能力もこの戦場においては一般兵よりも少し高い程度のバギーが、大将ともやり合える実力を知っている、見ているスマラに泣きつくのも当然の事。

 

 スマラは賭けるしかないと思った。

 この状況で白ひげ海賊団の船を待つのは時間がなさすぎる。幸運にも海に潜って逃げ切れる可能性のある海賊船が呼んでいる。

 ただ、麦わらのルフィにとってトラファルガー・ローは味方でもないライバル相手。医者だと有名な海賊であるが、ライバルをここで助けるメリットが見当たらない。

 だけど………白ひげ海賊団の出港準備が整うまで待つ、黄猿を足止めするのもめんどくさい。足止めは必須だが、直ぐにでも出港してくれそうなトラファルガー・ローに賭けてみるのもアリかもしれない。

 それにルフィとジンベエは緊急治療が必要な程の大怪我を負っている。スマラでは治療は難しいだろう。自身を回復させるならどうとでもなるが、他人に能力を使うのは危険度が跳ね上がる。

 これが罠だとしても、所詮は超新星。実力では負けない。………治療は後で考えなければならないが。

 

 スマラはバギーに指示を下す。と共に自身は黄猿に集中する。

 

 

「彼らに渡しなさい。黄猿は私が食い止めてあげるから……早く!!」

 

「お、おう。よしっ、任せたぞ!!馬の骨共!!!」

 

 

 バギーがジンベエとルフィを潜水艦目掛けて投げ落とす。甲板では巨漢の船員が受け止めた。

 

 

 と同時に、スマラが黄猿に肉弾戦を仕掛けていた。距離を弄って詰めると、武装色の覇気を纏った回し蹴りを炸裂させる。

 

 

「おォ~~これは効くねぇ~~。あんたもサッサと逃げればいい物をぉ~面倒な者を庇うのかい~」

 

「あなた達海軍が先に裏切らなければ、こうして戦争にも加担しなかったのにっ!!?」

 

「その辺りはわっしも関与してないんでねぇ~~……。センゴクさんか、もっと上からの指示だろうねぇ~、運が悪いと思って捕まってくれるかい~」

 

「あの時以外は海軍、世界政府に手を出してないわよっ!犯罪行為などしてないし、これまで海賊を捕まえてあげてた恩はないのかしら?」

 

「親が親だからねぇ~~」

 

 

 スマラと黄猿は高速戦闘を行いながらも会話を続ける。会話だけを見れば、どちらも余裕そうに戦闘を行っているように聞こえるが、実際に行われているのは戦場でも注目の的である、センゴクvs黒ひげ、白ひげ海賊団vs赤犬とも並び立つ規模である。余波だけで中将以外は立っていられないだろう。

 海面ではトラファルガー・ローが麦わらのルフィを船内に連れて行く。が、周囲からの攻撃で中々出航出来ないでいた。スマラは黄猿の相手に手一杯だ。自分達でどうにかしてもらわなければならないが、それも難しい状況だ。

 幾ら偉大なる航路の前半で注目を集めている超新星であろうと、この場に居るのは海軍の精鋭ばかり。このままでは押し切られてしまうだろう。船長であるトラファルガー・ローが麦わらのルフィの治療の為に奥に引っ込んでいるのも原因の一つだろう。怪我人の前に医者は優先順位があるのだ。

 

 このままでは何も出来ずに終わってしまうかもしれない。スマラは本気でそう考え始めた。

 せっかく色々無駄にしてここまできたのに、残ったのは何もない。これでは自分が馬鹿みたいに思えてくる。無駄にしてきた物を無駄にしない為にも、麦わらのルフィの命だけは残して見せる。

 それは一種の意地だった。初めてこのような感情を抱いたのだろう。スマラがその感情を気付くことはない。しかし、それでも風化していたスマラの時間が解け始めていることには変わりない。その時が何時からだったのかは分からないが……。

 

 能力を使って黄猿の速度を封じ込める。その隙をついて潜水艦の周りにいる海兵と軍艦を片付ければ……。能力の限界近い使用を考えれば、出来なくはない。だが、それはあの時依以来……それ以上の負担を強いることとなる。

 既に覇王色の覇気を使用し、大将を幾度となく相手取った能力使用は確実にスマラの身を削っていったいた。これ以上無茶をすればどうなるか分からない。

 常に余裕を持って行動してきたスマラにとって未知の領域。敵地で試すようなことではない。その考えが決断を遅らせていた。

 

 

 

 そんな時、

 

 

「そこまでだアアァ~~~~~~!!!!」

 

 

 戦場に一人の声が響き渡った。




実は、シャンクス登場まで行きたかったんですけど、そこまで書くともっと遅れてたのでここで切りました。
 次回は戦争の終了です。

 では、また一か月後に会いましょう。


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797 六十頁「逃げるが勝ち」

ファイナル本能寺やレクエムコラボをしていたので遅れました(月一更新なので遅れていない)


「そこまでだァァ~~~~!!」

 

 戦場に響き渡る一人の海兵の声。奇しくもその声は全員の動きを止めるのに十分すぎる大きさと覚悟を持っていた。

 一海兵の叫び声。それだけなら誰も気に留め無かったであろう。しかし、海兵は大将赤犬の前で立ちふさがると言う行動に出たため、戦場の時間が止まった。

 本来、将校にもなっていない様な一海兵が、大将と言葉を交わすと言う事は有り得ないことであった。反逆罪で捕らえられても仕方のないことである。しかし、自らの命を差し出してでも彼は立ち上がる。

 既に勝敗は決しているのに、目的は達成しているのに、戦意のない海賊を追いかけて救える命を捨てて犠牲を増やす。まるで馬鹿みたいだと、彼は赤犬に物申す。

 

 その勇気ある青年の名はコビー。海軍軍曹であり、英雄ガープの弟子であり、麦わらのルフィの友達である人物だ。

 

 

 スマラはコビーが赤犬の前に立ちふさがった事に反応を示す。彼とは麦わらのルフィを通じて顔見知りになった。

 海軍本部に着いた時に案内役として知り合い、その後麦わらのルフィとの出会いを文字として形作らせて読んだ。それだけの交友だが、覚えていた。海賊を友達と呼ぶ可笑しな海兵として。

 

 

 黄猿と睨み合いながらも、コビーと赤犬の成り行きを見守るスマラ。

 と同時に、見聞色の覇気が強者の気配を捉えた。未来視は見えない……ではなく、見るような体力が残っていない。気配を追いながら黄猿から目を逸らさない。

 

 

 

 そんなコビーが作った数秒は世界を変えた。

 

 

 

 正しくない海兵は要らない。赤犬はコビーを焼き殺そうと能力を発動させてマグマ化させた腕を振るう。コビーは恐怖に崩れそうになりながらも動かない。

 誰もがコビーの死を疑わなかった。しかし、その予想は大きく外れた。

 

 

 コビーに叩きつけられるはずだったマグマの拳は止まった。否、止められた。

 赤犬の攻撃を止めたのは、黒いマントに赤髪の隻腕の剣士。スマラが見聞色の覇気で感じ取った気配でもあるその人物。

 彼の登場に戦場の誰もが驚いた。それはスマラも同じこと。

 

 

 ……何でこの場所にッ!!

 

 

 スマラですら思考を停止して呆ける一瞬の隙をついて、黄猿が潜水艦に向かって狙いを定めて……。

 

 

「何もするな、『黄猿』」

 

 

 直ぐ近くのマストの上に一人の男が銃口を構えていた。グルグル模様のマントに白っぽい髪の毛をオールバックに決めた男。

 銃口を向けられただけ。たったそれだけで黄猿は降参のポーズを取った。

 

 ベン・ベックマン

 

 海軍でも海賊でも知らない人は居ないレベルで有名な海賊。そんな彼がこんな場所に居る。

 赤犬を止めた隻腕の赤髪の男に、ベン・ベックマン。湾岸から見える一隻の海賊船。

 四皇『赤髪のシャンクス』とその海賊団が戦場に参戦してきたのだ。

 

 

 これには誰もが予想外。つい先日までは新世界にてカイドウと小競り合いをしているはずだと、海軍側には情報があったのだから。

 赤髪の目的。それはこの戦争を止めること。何故彼がこの様な行動に出たのかは誰にも分からない。しかし、彼のお陰で助かった命があったという事実だけは変わらない。

 

 

 

 

 戦場の空気が確実に変わった。逃げるなら今しかない。

 スマラは宙を蹴り今にも海に潜りそうな潜水艦に飛び乗る。と同時に、シャンクスから渡された麦わら帽子をバギーが投げよこした。

 

 

「キャプテン!!四皇は珍しいけど早く扉を閉めて!!」

 

「ああ…待て。何か飛んでくる」

 

「キャプテン!!!黄猿と互角にやり合ってた女性が乗ってるよ!!?」

 

「海軍側じゃねぇなら何でもいい。勝手な行動は慎んで貰うぞ」

 

 

 白くまがスマラを警戒して構えるも、今は敵じゃないからどうでも良かった。

 トラファルガー・ローはスマラに「勝手な行動はするな」とだけ伝えると、飛んで来た麦わら帽子をスマラに投げよこして奥に向かう。

 

 

「ふぅ……。疲れたわ……」

 

 

 ついつい零れ落ちた本音。その弱気な声は誰にも聞こえなかった。

 

 連戦に次ぐ連戦。それも四皇に大将。誰であろうと疲労は免れない。スマラですらそうだ。

 ちょっと休むくらい良いよね。寝ている間も自動で反射にしておけば、超新星程度ならどうにかなると思うし…。と目を瞑って休み始める。

 

 そんなスマラを、オロオロと眺めている白くまは一人居たとか……。

 

 

 

 

 

 

 数時間が経過した。スマラは規則正しい寝息をたてて寝ていた。

 そんなスマラの元にコツコツと足音を鳴らして近づく男が一人。緊急手術を施した後のトラファルガー・ローだ。

 彼はスマラに近づくと立ち止まる。距離は遠くとも近すぎるわけでもない。触れようと手を伸ばしても触れられない距離だが、彼の攻撃の範囲内ではある、そんな中途半端な距離。

 

 トラファルガー・ローは途端に寒気を感じ取った。原因は言わずとも分かるであろう。

 目の前の人物はただ寝ている。寝ていると言う生物的な行為なのに、己を刺す気配がビンビンと感じ取れる。

 末恐ろしい存在だ。四皇にも引け取らない圧倒的な強者を目の前にした気迫を、寝ているだけで放って居るのだ。ロー以外の船員なら近寄ろうとは思わないだろう。

 これ以上は近寄ってはならない。ローの本能が警戒を鳴らす。が、ローはそれでも一歩足を踏み出した。

 

 

「……ッ」

 

「…………?あぁ、そんなつもりは無かったのよ」

 

 

 ローの気配を感じ取ったスマラが目を開く。スマラは自分が無意識のうちに攻撃態勢へと意識を持っていたことを謝罪する。

 麦わらとジンベエを預けたと言え、安地とは言い難い場所なのだ。信用出来るまでは寝ている間も無意識の内に警戒するに決まっている。麦わら一味の船?アレは論外だ。まるで敵意が感じ取れない。

 しかしこの船は別だ。麦わらの一味とは本来敵同士、助けるメリットが無い。恩を作ると言う考え方もあるかもしれないが、医者と言うからにはそこまで考えているのかも分からない。

 何かあるかも知れない、と警戒を解かないのも当然と言えば当然の行動だろう。さらに言えば、この船は潜水艦。現状海に潜って海軍から逃げている最中である。幾らスマラであろうと能力者。海水に触れてしまえば力は制御出来なくなる。能力によってやりようはあるにしても、不利な状況下には変わりない。

 故に、無意識の内に攻撃態勢へと移行していたのは仕方のないことだ。今のところ敵対心が見られないなら、攻撃態勢を取っていた事を謝るのも当然と言えよう。

 

 

「……それで?麦わらのルフィは助かったのかしら?」

 

「その前に一つ答えろ。テメェは麦わら屋のなんだ?麦わら屋の仲間じゃねぇだろ」

 

「そうね。仲間ではないわ。味方……とも違うわね。えぇっと……とりあえず、敵ではないわ。海軍……世界政府に勝手に敵認定された以上、この船を沈めたり売ったりすることは無いわ」

 

「…………とりあえず信じてやる。妙な動きをするんじゃねぇぞ。即刻叩き出すからな」

 

「えぇ。それで充分よ。私としても馴れ合うつもりはないもの」

 

 

 お互いに牽制する。戦争の一部始終を見ていたローからすれば、スマラの能力を攻略出来るかは分からない。逆にスマラだって、ローの能力を防げるとは限らないのだ。

 自然系のような自然現象や動物系のような力の強化ならば、スマラの能力での対応はかなりし易い。が、超人系能力者は時偶にスマラの理解に苦しむ能力を使ってくる場合がある。

 『トラファルガー・ロー』彼の能力は不明な点が多い。オペオペの実の能力者だと言う事は分かっているが、その能力に自身の能力で対応可能かどうかは分からない。

 

 スマラは一先ず相手の言い分を飲む。敵地で変な行動をとるはずもなく、そもそも自分に不利益な行動を起こすはずがない。

 スマラの受け答えにジッと睨んでいたローであったが、やがて視線を切って続きを話す。完全に信用された訳ではないが、少なくとも一触即発の状況からは脱け出したみたいだ。

 

 

「…海峡屋の方は何とかなった。後は時間が解決してくれるはずだ」

 

「ジンベエの事なんか聞いてはいないのよ。肝心なのは麦わらのルフィ。医者を名乗るのなら助けられたんでしょう?死の外科医」

 

「……医者を名乗るからと言って、全ての怪我を治せるわけじゃねぇ。そこんところは履き違えるな」

 

「………………」

 

「緊急手術は何とか終わった。だが、油断出来ねぇ状態が続いている。後は奴の回復力を待つしか無いな」

 

「なるほど……」

 

 

 まだ生きている。しかし、辛うじて命を繋いでいる状態。ローから伝えられた容態に、スマラは一先ずホッとした。命さえ繋いでいるなら何とかなるだろう。アラバスタで瀕死の状態からたった数日で持ち直した超回復力を知っている。

 しかし、早く回復してもらえるなら願ったり叶ったり。スマラも早く麦わらのルフィの再出港を見届けて、白ひげ海賊団に居場所の提供をしてもらいたい。居場所というか、ぐーたら出来る環境の提供だが…。

 

 ならば、さっさと麦わらのルフィには回復してもらいたい。スマラは足早にルフィがいる場所へと足を進める。だが、それを見過ごせない者がこの場には居る。

 

 

「待て!!何処へ向かうつもりだ!!勝手な行動はするなと約束させたはずだ」

 

「何処に向かおうが私の勝手でしょう?……麦わらのルフィの下よ」

 

「…何をするつもりだ。奴は一応俺の患者だ。勝手な真似はして欲しくねえ」

 

「………悪い事にはならないわ」

 

 

 良いこと思い付いたと言わんばかりにスマラは返す。止めたって無駄だ。スマラは自分の利害の為に行動している。こうなったら最後、止められる者は数少ない。

 ローは仕方なく奥の手術室へ通した。ここが海底だとしても勝てる見込みが存在しないからだ。何をするつもりかは分からないが、悪いことにならないのは確かなのだろう……。そんな気がした。




 また何かしてるよスマラさん。行動原理が不明と非難されるんだろうなぁ。



 全く関係ないことですが言いたい事が一つ。
 最近ハーメルンで特殊タグが増えてます。フォウント変更などは紙の媒体からありますし、良い雰囲気も出すのでそれなりに理解は出来る。ただ、動く文字を多用するのは好きじゃないですね。
 勿論、自分はそこまで面倒な事はしたくないので、わざわざ手間をかけているのは素直に尊敬出来ますよ?しかし、多用されると小説感が薄くなる。後、動いたり消えたりされると読みにくい!!!←これに尽きる
 以上、特殊タグを使う小説が増えている件について読者視点からでした。自分は面倒なので使いませんよ。


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832 六十一頁「余計」

お待たせいたしました。ラスベガスが忙しかったので遅れました。


後書きに今後の対応について記しています。


「ふぅ……」

 

 手術室でやる事を終えたスマラは大きく息を吐いた。理由は単純明確。単に疲れたからだ。

 

 能力とは使い過ぎると身体に負担が強いられる。ゴムゴムの実の様に意味もなく伸びたり、バラバラの実の様に適当にバラけるだけであったり、動物系の様に姿を変えるだけであったり、自然系の様に攻撃を避けるだけの為に変化させたりするだけなら、殆ど無意識化の内に出来る。

 普通の身体に置き換えれば、呼吸や心臓の鼓動に似たようなものだ。生きている上で自然と行っていることに対して誰も体力を消耗したりなどしないだろう。

 

 しかし、意識して能力を使えば能力者は体力を消耗する。それは大小違えど能力者にとって当たり前の現象。自身に影響させる使い様ならばまだ負担は少ない。自分以外に使用するならば、他人なら尚更負担は大きい。

 自分以外にも影響を及ぼすならばそれは覚醒の域。スマラの悪魔の実は覚醒の域には達していない。それでも、触れてさえ入ればある程度の操作は行える。

 

 

「何をしやがった…。徐々にであるが、数値が安定してきやがる」

 

 

 ローは驚愕していた。本人が元々持ち合わせていた医学知識とオペオペの実の能力をくっしても、『放って置けば死ぬ』から『運が良ければ助かる』まで持ち直すのが限界だった。

 それがどうだろうか。一部では有名らしく、戦争では四皇や大将と渡り合った存在である謎な人物が、触れただけで容態が大分マシになったのだ。何かの能力を使ったと捉えるしか思い浮かばない。

 故にローはスマラに突っかかる。医者として何かを勝手に投薬でもされて、これからの予定が崩れ去るかもしれない。医学とはそれだけ慎重なものなのだ。

 

 

「……別に何をしたって貴方には関係ないでしょ?」

 

「俺は現状、コイツ等の主治医だ。勝手真似は見過ごせねぇし、何かをしたのなら何をしたのか知っておくべきだ」

 

 

 だから吐け。ローは医師としての正論を述べてスマラに問い詰める。素直にベラベラと喋ってくれるとは思えないが、少しでも能力のヒントを見付けられたら御の字だ。そう言う意図もある。彼は海賊としては賢く、先を見据えた行動を行える人物であった。

 

 対してスマラ。関係ないと突き放したのは良いものの、ローの言葉に揺れなかったわけはない。読書しか興味ないと信条していたスマラだが、長年独りぼっちに海を放浪していたせいか、人間観察が面白いと思い始めた。……違う。物語の登場人物の様に面白そうな経歴や覇気を持つ人物を観るのが楽しく感じてきた。

 その条件に最も当てはまるのが麦わら一味……ルフィだと思うようにも。新米海賊のルーキーから王下七武海クロコダイルを下し、滅多に行けない空島に渡り生還し、本気では無かったと言え大将に目を付けられて生き残り、仲間を助けるだけの為に世界政府に喧嘩を売った。頂上戦争でも生き残れる確率は低かったはずだ。

 まさしく物語の登場人物の様に進み続ける麦わらに、スマラも関心を持たざるえなかった。

 

 一度は捨てたはずなのに。のうのうと戻れるのか?自分には読書しか無かったのではないか?

 思うところはある。自分だって時々分からなくなる。でも、その時はそれが一番だと思って行動しているが、振り返ってみると自分でもどうしてそう行動したのか疑問に思う点がある。

 それでも、戻れない。麦わらの再出航まで見届けるという、後先考えない約束も本当は守る必要はない。読書しか考えないのであれば、さっさとこの潜水艦から抜け出して適当な島にでも行けば良い。

 麦わらに出会う前の様に過ごせば、平穏な日々は戻ってくる。先の頂上戦争で注目を集めたせいで、平穏などないかもしれないが、それはその時になって考えれば良いこと。

 そうだ。それが一番だと冷静に考えればわかるはず。それでも、スマラは麦わらの生末を見届けたいと思った。思ってしまった。

 現在進行形で害を与えていないのなら、その軌跡をこの目で眺め観てみたい。その気持ちを例えるのなら、原作がある世界に転生した主人公が原作を特等席で眺めていたい、と言う欲望から来ている気持ちだろう。

 

 

 

 だから、この様な場所で退場してほしくなった。それだけの気持ちで動いた事だ。

 果たしてそれをローに伝えても良いものなのか………………。良いものでは無かった。自分でも良く分かっていない行動と気持ちをつらつらと他人に語る必要性は皆無だ。

 とは言っても、主治医に患者の容態を教える程度なら問題無かろう。その事については伝える。

 

 

「身体の自然治癒力を調節しただけよ。治したわけではないわ。元々持っていた彼の適量が多かったのね」

 

「自然治癒力を調整だと!!?勝手な真似してくれやがって!!急な体調の変化は急患に取ってもっとも危険な行為なんだぞ!!」

 

「……あの?話を聞いていらして?」

 

「あぁ!?そもそもな話、テメェが余計な事をしでかして……」

 

「だから、麦わらの自然治癒力を高めたのよ。外部からの干渉だけでも難しいのなら、内部からの干渉を増やすしかないでしょう。つまり、身体の細胞を活性化させて回復を早めているのよ。変な薬品と投薬したわけではなくて、能力で元々麦わらが持っていた力を無理やり高めただけよ?」

 

「それが危険だって言ってんだよ!!それで悪化しやがったらどうしてくれるッ!!単純に自然治癒力高めたと聞かれても、それが信用できるとは限らねぇだろうが!!」

 

「…………それもそうね。まぁ、診てみれば分かることでしょう」

 

「ちッ、余計な仕事増やしてやがって……」

 

 

 確かにそうだ。スマラからすれば確実に回復を促進する事をした、そう思っていても、医者であるローからすれば訳の分からない能力で患者の容態を崩した、そう捕らえてもおかしくはない。

 善意の行動は時に悪意に変わることだってあり得る。本を読んで知識としては知っていても、それを実践出来るかと聞かれると、それは無理だろうと答えるしかない。

 なぜなら、スマラの対人能力は皆無に等しい。ローの、医者としての気持ちを組んで言動を取れるはずもなかった。

 

 

 

 失敗した。そう思ってはみるが、どうすれば良かったのか?が思いつかない。否、思い付きはするがそれを実行出来る程甘くはない。

 やはり言葉による対人関係は難しい。そう感じるスマラだった。




 次回こそあの女帝さんをだします。(多分)


 二点だけ作者から

 今後、全ての感想に対する返信はいたしません。というのも、心に刺さるコメントが多く、その度にモチベーションが下がるからです。そう言ったコメントが悪いとは言いません。(悪いのはそう言う作品しか書けない自分です)が、もう少し手心を加えていただけたらなぁ、と思った次第です。感想もログインユーザーしか書けないように設定いたしました。
 幾ら評価で★1や0しか付けられなくても全く心に響きませんが、言葉や文字だけは刺さる作者です。(勿論、高評価や応援コメントはとても嬉しく思います)
 自分の心の防衛の為、感想は一度は目を通しますが、絶対に返信するとは言い切れません事をここに報告します。加えて、できる限り心に刺さる感想の投稿を控えていただけると幸いです。何度も言いますが、するなとは言いません。余程伝えたい事でもない限り、内に秘めて下さると、こちらとしては嬉しいです。
 結論。一話からの落差が激しく、嫌になったのなら読まなくても結構です。その完成度を保てなかった作者の落ち度です。それでも構わない方のみ、引き続き今作をお楽しみください。


 もう一点、更新頻度上げて欲しいですか?
 リアルが忙しく、月に一度しか更新できません現状ですが、短くても良いのであれば2週間以内には更新出来るかと思います。
 これは更新頻度が月一だよなぁ…と思った事から判断しました。できる限りぶつ切りにならないように注意しますが、繋げてもよくない?と思うような感じになり得ます。
 それでも良いのなら更新頻度を上げますとも。特にアンケート昨日などは使いませんが、感想や活動報告覧に意見を書いて下さる程の方がいらっしゃるのなら検討いたします。


 心苦しい後書きになってしまいましたが、ここまで読んでくださりありがとうございます。今後ともよろしくお願いいたします。


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903 六十二頁「戦後の来訪者」

 遅くなって申し訳ありません。感想などで励ましをもらい、モチベーションはかなり上がりました。7/28くらいに、何時もよりも早目に投稿できそうだぞ!!と思っていましたら、その後リアルが忙しくなってしまい、書ける時間はあったものの、中々執筆に向えずにいまして……。ようやく完成に至りました。反省も兼ねて文字数増やしていますので許してください。


 CCCコラボと大奥復刻と立て続けにあって遅れました。最近は強化クエスト特別編も来たので忙しかったです。あ、いや。リアルも普通に忙しかったですよ?仕事するか寝る時間かFGOしかしてない時期ありましたから…。(CCC&大奥開催時)


 ピクッと第六感が反応した。

 

 

「なぜ……?」

 

 

 ローに怒られてから数時間が経過していた。ローは緊急手術室にずっと籠ったままだ。スマラ?これ以上余計な事をしないようにと、追い出されていますが?

 

 行き場もなく、緊急手術室の前で読書をしながら待っていたスマラ。船内が慌ただしくなり、ようやく浮上するとの情報をゲット。それで見聞色の覇気で海上を調べてみると浮上先と思われる地点に強者の反応を感じ取ったのだ。

 そして冒頭の呟きへと戻る。

 

 

 悩んだのは一瞬だった。頁に栞を挟んで閉じると、立ち上がり外へ通じる扉へ向かう。扉の付近には数名の船員が待機している。彼らの邪魔にならないように、少し離れた場所で再び本を開いて読み始めた。

 

 船員がすでに待機していると言う事はもう直ぐ海面に出るタイミングらしく、そう時間がかからない内に海面へと飛び出した。衝撃で少しだけ揺れるが、スマラは微動だにせず読書を続ける。この程度の衝撃でスマラの読書を止める事など不能だ!!

 

 

 

 

「ん~~!!やっぱり海面に上昇した時の快感は気持ちいいよなぁ~」

 

「だよな~。何回体験しても変わらねえもんだぜ!!」

 

 

 ハートの海賊団でも古株な2人が甲板に出て気持ちよさそうに背伸びをする。他の船員が帆を掲げたりしている様子を見るに、彼らはこの海賊団の中でもそれなりの地位にいるのだろうという事が分かる。

 それでも全く仕事をしていないわけでもない。

 

 船員を顎で使い、自らはのうのうとリラックスしている、などできるのは大海賊団とも呼べるほど規模が大きな海賊団になってからだ。

 世間では『超新星』などとそれなりの評価を得ているハートの海賊団ではあるが、人数はそこまで多いものではない。せいぜい20人がいい所。少数精鋭とは言えない集まりだが、海賊にしては数が少ない方だろう。

 

 となれば、全員に何かしらの役割が分担されている。

 この2人、シャチとペンギンはのんびりしているようにも見えて仕事はこなしていた。それは、周囲を見渡して状況把握だ。見張りとも言える。

 当然、海面に上がる前にも確かめはするが、実際に肉眼で確かめる方が何倍もの効果を発揮できる。

 

 と言っても、双眼鏡を片手にのんびりと駄弁りながら周囲を見渡してる二人であったが…。

 

 

 

 

「ん?ありゃなんだ?」

 

「おー何かあったのか…………って船?」

 

「船は船でも……ってありゃ軍艦じゃねえかよ!!?」

 

「えぇえ!!?軍艦!!?キャプテンに知らせないと!!?」

 

「……いや、ちょっと待て…?」

 

 

 シャチとペンギンが慌てる様子を見ていたシロクマのミンク、ベポが会話を聞いて慌てふためく。そのままペンギンと共にローの下に知らせに向かおうと急ぐ。

 が、そんな二人を引き留めたのはシャチだった。ベポとペンギンの騒ぎを聞きつけて広まる喧騒の中、一人だけ冷静に軍艦を観察していたのだ。

 

 

「ど、どうしたんだよ!!軍艦なら急いでキャプテンに伝えなきゃ……ッ!!?」

 

「だから待てって言ってんだよ!!俺だって動揺してんだから!!」

 

「……軍艦に白旗?なんか手を振ってるぞ!!」

 

「あ、ホントだ。それに、囚人服?他にも変な服装の奴らばかりだ!!?」

 

 

 三人そろって双眼鏡を覗いて軍艦を観察すると、おかしな点が幾つか見受けられた。まず一つ、甲板に集まっていると思われしき人員が、大きな白い布を振りかぶっているところ。その白旗を振っている者達の格好が海兵服を着ていないのだ。

 まず考えたのが油断を誘う作戦。世間体もあることから、わざわざ服を着替えてまで卑怯な手段をとるであろうか?時には卑怯な手段を用いて海賊を捉える事もありえなくもないが、こちらは超新星と言えど新米ルーキーだ。それこそ中将二、三人、戦争の中心でもあった麦わらを乗せている事を考えると、大将一人で十分過ぎる戦力だ。

 

 しかし、軍艦からは降伏命令どころか、攻撃の用意すら見受けられない。

 悩んだ末、シャチとペンギンは船員の一人を船長の元に向かわせ、他の船員を戦闘態勢へと促した。

 

 

 

 

 

 その様子を陰から見ていたスマラ。彼女の視線は軍艦へ向いたままだ。

 生まれながらに目が良く、その上能力で視力を伸ばすことも可能なスマラには、数百メートル先の軍艦上の人など、双眼鏡から覗いたよりもハッキリと見えている。

 さらに言えば、見聞色の覇気で軍艦側に敵意が無い事は分かる。それに、少し強い気配が一つ。スマラでも苦戦は強いられる強者が一人乗っていることも。

 

 

「攻撃意志が無い。軍艦でも乗っている船員は殆どがおかしな格好の人ばかり。対して海兵は石化状態……一体、どういうつもりなのかしら?」

 

 

 スマラは誰に聞かせるわけでもなく呟く。考えている内容が口に出た様だ。

 スマラが見えた光景。それはハートの海賊団が見えた光景とは少し違った。

 より正確に言うなら見える倍率が大きかっただけで、軍艦がもう少し近づくか使っている双眼鏡の倍率が高ければ見える。

 

 スマラはずっと一点に集中したままだ。軍艦に乗っている人員の中でも異質。世界でも指折りの知名度を誇る女の最高峰。

 

 

「海賊女帝……ボア・ハンコック」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 軍艦が潜水艦に近づいて止まる。攻撃の気配など全く感じられない。

 

 

「ルフィ!!!?」

 

 

 飛び降りてきたのは一人の女性だった。その女性は見る者を圧倒し、何者であろうと頬を赤らめて目にハートマークを浮かばずにはいられない至高の存在。飛び降りる姿すら美しかった。

 数十メートルある高さを難なく着地し、一般人なら絞め殺せそうなほどデカい蛇を侍らせて麦わら名を叫ぶ。

 

 対して、軍艦から乗り込まれたことになるハートの海賊団の船員と言えば……。

 

 

「海賊女帝!!?」

 

「は!!?何でこんな場所に!!?」

 

「というか……」

 

「「「「美しい!!!」」」」

 

 

 ハートの海賊団は皆、目を奪われていた。海賊団の対応としては最悪の事態ではあるが、王下七武海『海賊女帝 ボア・ハンコック』の前では仕方ないことでもある。

 海賊女帝はかの人魚姫にも劣らない美貌を持つ、世界一の美女だ。その破壊力は同性であっても魅了するほど。

 

 が、それでも敵味方分からぬ相手であることに変わりはない。頬を赤く染め、動揺している事丸わかりだが、それでも、何時でも行動出来る様に構える。

 

 対話出来るなら対話で解決することが好ましい。戦闘になどなっても蹴散らされるのはハートの海賊団である事は明白だ。

 一団を代表して、シャチが話しかける。下心が無いわけでも無い。海賊女帝と言葉を交わしたというだけで、世の中の人間は羨むだろう。

 

 

「か、海賊女帝……貴方様は何故此処へ?場合に寄っちゃあ俺たちも覚悟を決めにゃあならねぇが……」

 

「なんじゃ?妾が此処に居る理由など一つしか無いに決まっておる!!」

 

「そ、その理由とは……」

 

「それは勿論、ルフィの安否を確認する為に決まっておろう…」

 

 

「「は?」」

 

 

 

 シャチの言葉に威厳ありげに返すハンコック。しかし、愛する人を想うと、自然と頬が赤く染まる。指をツンツンと合わせて照れてる姿は、ただの乙女のようだ。

 この様子にシャチとペンギンはただ困惑するのみ。誰だってそうであろう。威厳ある世界一の美女が恋する乙女のような態度でいるのだ。イメージが違いすぎる…。

 

 ポカーンと予想外の事態に理解が追いつけないハートの海賊団を放っておいて、ハンコックがある一点を睨んだ。

 

 

「して、妾は軍艦を乗っ取りルフィの安否を確認する為にこの場に参ったわけじゃが……。貴様、ルフィとどういった関係じゃ?」

 

「「「……ッ!!?」」」

 

 

 更に一転してハンコックの覇気の籠った声。若干の覇王色の覇気が込められた言葉に、向けられた対象でないシャチ等まで圧倒された。

 これが女ながらに王下七武海に選ばれる海賊の力。先の言動から敵ではないと判断は出来るが、それでも暴れられたら、ここに居る者など数秒も持たないだろう。

 そんな力を向けられて何事もなく立っていられるのは、この潜水艦では四人だけだろう。船長であるトラファルガー・ロー、ジンベエ、モンキー・D・ルフィ。しかし、二人は重傷で動けない。ローはそんな二人の治療の為、奥に籠っている。

 

 となると、後の一人は……。

 

 

「どういったも何も……ただの知り合いよ。元食客とでも言うかしら?」

 

 

 そうスマラだ。戦争に現れた、正体不明の元賞金稼ぎの海賊。

 ハンコックからすればそれはどうでもよく、一番知りたいと思っているのは愛する人であるルフィとの関係性。

 戦争では、ルフィから少なくない信頼を寄せられているように見えた。ルフィからすればハンコックと同等の信頼であろうが、スマラからすればはた迷惑な執着心だろうが、恋する乙女であるハンコックには関係ない。

 

 隅の方から姿を現したスマラを睨むハンコック。スマラはその視線を受け、早迷惑そうに深いため息を吐いた。

 既にハンコックの視線は射貫くような鋭い視線ではない。いや、実際には似たような見た目なのだが、向けられている当人であるスマラからすれば、それは殺意の籠った嫉妬の視線だ。

 非常にめんどくさい。実際に体験したのは初めてになるが、恋物語も嗜んでいるスマラにはこの後の展開を思い浮かべて逃げたくなった。

 

 

「食客?それにしてはルフィから随分と信頼されているように思うのじゃが……」

 

「それはこっちのセリフだわ。政府側の人間であるはずの貴女が軍艦乗って現れたのだもの。義理が大きいと言え、麦わらを再出航させるまでが私の仕事。……信頼は知らないわ。勝手に向こうがしてるだけ。これ以上は本人から聞きなさい。で、貴女は何故麦わらを助けるの?」

 

「な、何故と言われても……。ルフィとはプロポーズをされた仲だから……」

 

 

「「「は?………はぁ!!?」」」

 

 

 

 スマラの問いに頬を赤く染めて答えるハンコック。その様子に、二人の会話をハラハラドキドキしながら見守っていたハートの海賊団から悲鳴が聞こえる。

 対してスマラは無反応。と言うわけでもないが、そこまで大きな反応は示さなかった。何と無く予想が付いていたので、実際に言われてもそこまで響かなったからだ。

 

 でも、プロポーズって意外だわ。海賊女帝の反応からして、よくて一方的な片想いだと思っていたのに……。麦わらに恋愛脳なんて一ミリも感じられ無かったのにね。

 ………………まさか海賊女帝の勘違いって可能性も面白いわね。まぁ、どちらにせよ。敵意は感じられないから、放って置いても大丈夫かしら。

 

 

「そう言うことなら納得だわ」

 

「ふむ、貴様がなんであれルフィの味方というのなら、妾は特に何も言うことは無い。して、ルフィは何処じゃ?」

 

「船内の緊急治療室よ。勝手には入らない事ね」

 

「あぁ心配で心配で気が気ではないのじゃが……容態くらい聞いても?」

 

「……命に別状はないわ。多分。詳しい内容は医者に聞きなさい」

 

 

「私、忙しいの」とスマラはハンコックとの会話を無理やり切り上げる。

 あのタイプの人間は好きではない。一度無害と決めたらとことん甘やかすタイプだと、スマラは勝手に想像を付ける。現に、男嫌いで有名な海賊女帝が麦わらにお熱な様子だ。顔を合わせた当初に何があったのかを知るすべはないが、何事もなく麦わらにゾッコンになるはずもない。何があって麦わらに甘くなったのは間違いない。

 

 男嫌いで有名な女帝が一体どうやって落とされたのか?恋物語の定番とも言える内容に惹かれながらもハンコックの側から離れて適当な場所に座った。仲良くなる気はないが、今後の展開としてはどうすのか気になるのだろう。

 スマラは潜水艦内で見つけた本を勝手に持ち出してペラペラと読み始めた。

 

 

「……ふむ。ルフィとの関係性をもっと詳しく知りたかったのじゃが…。まあ良かろう」

 

 

 ハンコックはスマラを視界の端で確認しながら、ルフィについて詳しく聞き出したかった…と肩を降ろす。しかし、彼女の気分はなるべく阻害するものではないと、先の戦争から分かっていた為これ以上話すのは止めた。

 それに、思惑通りに行くのなら、今後次回は幾らでもあるはずだ…ととも考えていたハンコックであった。

 

 

 

 

 

 スマラとの接触が終わったハンコックは、医者であるローが出て来るのを待つことにした。幸い、無謀にも話しかけてくるハートの海賊団船員が多数いた為、退屈はせずそう時間のかからないうちにローが艦内から出てきた。

 

 スマラはそれを横目で確認しながら聞き流す。何度でも言うが、スマラにとってこの程度の芸当は朝飯前。むしろ日常的に行っている。

 

 報告を既に受けていたのか、ローは特に取り乱したりせずにルフィの容態を言葉に示した。

 

 

「やれる事は全部やった。手術の範疇では現状命をつないでいる。だが、有り得ない程のダメージを蓄積している。――まだ生きてられる保証はねぇ」

 

「…………!!」

 

「それは当然だっチャブル!!ヒィ~~~ハ~~~!!」

 

「な、なんだあいつら!!」

 

 

 ローの言葉にハンコックの表情は険しいくなる。そんな彼女の内心を知らずに、非常に煩い声のトーンで叫ぶ顔面が巨大化している人間?を中心として者たちが現れた。今までグッと潜めていたのだろう。存在感が爆発したみたいだ。

 ハンコック曰インペルダウンの囚人達であり、ルフィの味方らしい。協力体制を敷いていたとみられるハンコックが軍艦でルフィを追いかける準備を目にした為、密かに忍び込んで海軍本部を脱出したかったらしい。

 

 

 読書を続けているスマラ、煩いと感じ始めてチラッと視線を上げる。すると、そこにはそれそれが一方的に知っている相手だった。

 

 革命軍幹部、エンポリオ・イワンコフ…。まさか脱獄したとは…。

 

 だがスマラ、それくらいで声はかけない。気になるが、後日新聞でいくらでも調べようのある情報だ。

 そもそもこの場に居る時点で麦わらの味方。なら気にする理由は欠片もない。なので無視する。一瞬ながらも気が付いたイワンコフと視線が交差するも、何事もなかったかのように視線は本の活字へと戻る。

 ただでさせ厄介事を承っているのだ。追加要素はこれっぽっちも欲しくない。欲しいのは本と読書の為の時間と平穏。

 数年間維持し続けていた自堕落な生活は何処で狂ったのだろうか?……多分、麦わらに出会ってからだ。

 

 途中でジンベエが病室から抜け出して会話に加わるという事態が発生したが、ローが医者として忠告を述べただけで終わる。その後、命を取り留めても完全な回復には時間を有するとのことで、ハンコックが女ヶ島で匿う事が決定した。

 女ヶ島は海軍も手出しのし難い凪の帯の真ん中に存在しており、王下七武海ハンコックの拠点でもある為政府の監視の対象外となる。身を隠すには打って付けの場所だ。

 

 

 これで当面の目的地は決まった。後はハンコックが電伝虫で呼んだ九蛇の海賊団を待つばかり。スマラもこれ以上は時間の無駄だと、涼しい館内に戻って快適な読書に身を移そうと考えていると、ローが突然スマラの話題を掘り返した。

 

 

「それと一つだけお前らに朗報だ。肉体的に有り得ないダメージで現状でも命が危ないと言ったな」

 

「む?朗報とはなんじゃ?ルフィがどうしたのじゃ!!?」

 

 

 ルフィの話題なら反応しないわけにもいかない。ハンコックがすかさずローに視線を向ける。若干の威圧感があるが、ローは落ち着いて話すべきか迷っていた事を口にする。

 

 

「誰かのせいで麦わらの容態は安定している。医者として気分を害されるが、好ましい状態には変わりない」

 

「と言う事はつまり、ルフィは直ぐに良くなると言う事か!!?」

 

「医者としてはギリギリを維持するまで回復させるまでが精一杯だったが、医学的に不可解な方法で無理矢理回復させた奴がいる」

 

 

 ローの視線の先にはスマラがいる。自ずとハンコック、ジンベエ、イワンコフと言った中心メンバーも視線を向けた。

 スマラ、感じる視線を無視して本の活字を追う。少しだけイラついた。

 

 

「あやつがルフィの治療を行ったと言う事なのじゃな?」

 

「あぁ、間違いなく悪魔の実の能力だろう。よく分からねぇデタラメな力を使いやがって……」

 

「あの子は麦わらボーイ曰く仲間だそうよ。態度からは想像もつかないけど、甘いところでもあるんじゃーないっちゃぶる!!?」

 

「戦争でも随分とお世話になったからの………。正直、あまり信用しとうない奴じゃが、ルフィ君が大丈夫と言うのなら、ルフィ君を信じてみるのもやぶさかではなかろう」

 

「つまり、彼女ではなく彼女を信頼してる麦わらボーイを信じるってヴぁけね!!」

 

「ルフィがそう言うなら妾は何も言わんぞ」

 

「……知るか。患者が完治次第俺は縁を切る。敵対しないのならそれでいい」

 

 

 

 どうやら、勝手に話題を出されて勝手に解決したみたいだった。これで視線も消える……と思いきや。

 まだ感じる。今度は一人だけのようだ。個人的な話なのだろうか?

 無視を決め込むスマラ。なんとなく、動いたら負けだと思った。なので動かず目で活字だけを追う仕事に戻る。

 視線の主が動いたのが分かった。このくらい朝飯前に出来る。当然、活字を目で追い、無駄ない手さばきで頁を捲った。

 ついには目の前に立つ視線の主。巨体を辛そうに支えていた。医者に忠告されているにも拘らず、これだけは言わなければならない。その思いだけで身体を動かす。

 その男の名は……。

 

 

「ジンベエ……何か用かしら?」

 

「……ハァ…ハァ」

 

 

 私、忙しいの。一瞬だけ上げた視線を本に戻して読書へと戻るスマラ。ジンベエはそう言われた気がした。

 が、それでも止まるわけにもいかないのだ。後からでも時間はあるが、今言っておかなければ気が済まない。

 

 

「オヤジさんに敵意を向けた事、海軍に利用されたのじゃろうが余り良い思いではない」

 

「……だから?」

 

 

 だからなんだというのだろうか?それを言う為だけに来たのなら、スマラは相手にしない。確かに白ひげを慕っているジンベエからすれば、スマラの行動は許せないことだろう。あくまでも可能性の話だが、あの戦闘がなければ白ひげは生き残る力が残っていたかもしれない。

 だけど、それは終わったこと。ジンベエはそこまで見えない人間なのだろうか?

 

 

「じゃが、それでも儂とルフィ君を助けてくれた事は事実。礼を言おう。助かった、ありがとう」

 

「…………」

 

 

 深く、頭を下げるジンベエ。一言、それでも言っておかなければ、気が済まないのだろう。

 それを見たスマラは……。

 

 

「無理矢理やらされただけよ」

 

「無理矢理……でもないだろう。あの力があるのなら、白ひげ海賊団を充てにしなくても生きているじゃろう。そこを律義に守ってくれた。感謝しかない」

 

「単に貸しを作っておきたかっただけよ。深い意味はないわ」

 

「深い意味は無くても、ルフィ君を助けたいと思ったから……と言う考えはあるんじゃないのか?」

 

「…………」

 

 

 図星だった。麦わらなら今後、誰も予想だにしていない結末を見せてくれるのではないか?もしそうなら、彼らの物語を見てみたい。本の中の世界をも超える現実を見せてくれるのなら……。

 人と関わることを拒みながらも、心の何処かでそう思っているからこその行動。それを自分でも理解出来るから黙るしかなかった。

 

 

「沈黙は肯定と取るわい。……しかしの、あの『可憐なる賞金稼ぎ』が元海賊だとは――」

 

「黙りなさい……ッ!!」

 

 

 痛い所を付けれてイラついていた所に一番触れてほしくなかった内容。

 手に持っていた本を勢い良く閉じ、ジンベエをキッっと睨みつける。軽く覇王色の覇気も使ってしまってる点、本気で感情を制御できていない証拠だ。

 そのまま船内へと戻り接触を完全に断つスマラを見て、ジンベエは「失敗した」と自分を責めた。戦争時から薄々気づいていたことだが、スマラにとって海賊だったという事実は、誰からも言われたくない闇だったらしい。

 ジンベエは腰を降ろす事で、痛む身体を労わりながら今後の事を思った。

 

 

「まぁ、今は敵対せんだけで十分じゃろう」

 

「ヴァターシ的には余り関わりたくない人生を持ってるコだものね~」

 

「問題は、あの戦争が世界中に放送されておったことじゃろうな。この先新世界の海は必ず荒れるぞ…」

 

 

 ジンベエの言葉にイワンコフが反応する。先が思いやられるとため息を吐いた。

 

 

 

 

 その後、九蛇の海賊船が迎えに来ると、イワンコフは「麦わらボーイの援護はここまで、後の事はジンベエに任せた」と言い残して、軍艦を出港させた。イワンコフが女王を務める国、カマバッカ王国へ向かうと言う。

 泳ぐまで回復に至っていないジンベエはそれを承諾。せめてルフィが完全に回復するまで見守る事を宣言した。

 

 こうして、意識の戻らないルフィを乗せ、一行は海賊女帝ハンコックが統治する島、女ヶ島『アマゾンリリー』へと向かうのであった。




 毎回誤字報告助かってます。簡易とは言えど、見直してるつもりですけどね…。次回更新こそ早目に行いたいです。

 次回はレイリーですね。サクサク進みたいです(叶わぬ願望)


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961 六十三頁「女ヶ島」

 一か月以上放置してすみません。リアルが本当に忙しかったです。


 FGOの周年はアーツの時代を築いてしまったキャストリア。もちろん当てました。その後怒涛の水着イリヤちゃんの実装。無事に宝具マ達成です。

 最近になってようやく落ち着いたので時間が取れました。


 頂上戦争より二週間が過ぎた。戦争の影響は世界中で現れ始めていた。白ひげの死に際の発言により、海賊になり『ひとつなぎの大秘宝』を見付けようとするミーハー共が増えたのだ。

 それにより海軍は各地に軍艦を派遣しなければならず、戦争の後始末と重なり忙しさは大海賊時代を迎えて以来のピークを超えていた。

 海賊王の宝を求めて海に出る者、海賊が増えたことで不安に怯える一般人、後始末や仕事量が増えた海軍及び世界政府関係者。世界中は喧騒に包まれていた。

 

 

 

 

 

 そんな世間を離れた場所にスマラは居た。島の隅っこに幕を貼られて隔離されている所を見るに、ここから先へは絶対に侵入するな、と言う強い意志が感じられるほど。

 幕の先には深いジャングルが広がっている様子。見聞色の覇気で感じ取った結果、島の中央付近に人の気配が多数存在し、ジャングル内には少しだけ気にする程度の強さを持った野生動物が生息していることが分かった。

 

 そう、ここは凪の海に位置する島、女ヶ島『アマゾン・リリー』男性の立ち入りを禁止している女だけの島である。

 ローたちハートの海賊団はハンコックの計らいにより、ルフィの療養を目的とした停泊を緊急特例によって許可されていた。

 

 と説明したが、スマラの性別は女。彼女が女ヶ島に入り込もうが慣習的には全くもって問題ありません。ま、余所者であるスマラを攻撃しないとは限らないが……。

 

 

「………」

 

 

 スマラは名残惜しそうに島の中央を見ていた。

 他者を出来る限り排除してきた女だけの島。一切外界から隔離されたとはいかないが、それでも独自文化を築き上げていることは予想しやすい。

 ならば…とスマラは考えた。

 

 ならば、女ヶ島でしか読めない本があってもおかしくない!この機会を逃してなるものか!!

 読んだことが無い未知の本に頭が一杯であった。が、そんなスマラに釘を刺したのは島の絶対者ハンコック。「島に入るのに許可は必要ないが、せめて妾が戻るまでルフィの傍で護衛を頼むぞ」無慈悲な言葉だった。目の前の好物を取り上げられたスマラは激怒する。が、ここでハンコックの不興を買うと島から追い出される可能性も考えられる。その様なこと無視して好きにすれば良いとも考えたが、彼女はただの美女ではない。王下七武海の一人。実力はスマラとて油断は出来ない。

 

 と、その様な事があり現在スマラは大人しく島の中央をぼんやりと眺めているのだった。

 そして肝心なルフィはというと……。

 

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!」

 

 

 絶叫していた。兄を亡くした悲しみだろう。現実から目を背けるかのように暴れ、そして叫んでいた。

 

 親しい人の死と言うものがスマラには理解出来ないでいた。親しい人など皆無だし、家族など死んでくれたら嬉しいまでもある。

 そんなスマラでも唯一ルフィの心境を図れるメジャーを持っていた。

 

 好きな登場人物が死んでしまったらこんな感じなのかしら?……そう考えると、確かに悲しい気持ちにはなるわね。

 

 やはりズレていた。本の世界と現実では思い入れが全く図れる次元では無い。時には二次元を現実よりも愛する者が居るが、そもそもスマラはそこまででは無い。現実は現実で見下し、想像の世界はそれで愛している。

 全くの別のベクトルでしかない。

 

 

 

 と、そんな風にボーっとしているスマラの耳にジンベイとローの会話が入って来る。話題は麦わらのルフィ。「あのまま放っておけばどうなる?」とジンベイがローに医者としての意見を求め、ローも医者として「あのままだ傷が開いて今度こそ死ぬかもな」と答える。

 となれば、ルフィを無事に再出航まで見届けるつもりのスマラには不味い状況。無理矢理にでもルフィの暴走を止める必要があるが……。

 

 

「テメェは行かなくてもいいのかよ…」

 

「海峡が行っているなら問題ないでしょう。何?私がもう一度お節介を妬くとでも?」

 

「いや、ただ疑問に思っただけだ。……精神的な問題をも操れねぇのかってだけだ」

 

「…………貴方に教える必要があるの?わざわざ能力の範囲を教える程私は馬鹿じゃないわ。それに、私が勝手に介入するのを貴方は嫌いではなくて?」

 

「……俺は医者だ。完治する方法があるならそっちの方法を選んで何が悪い」

 

「……悪くないわね。私はもう何もしないけれど……」

 

 

 スマラはそう言って視線を大海原へと向けた。と同時に、陣の向こう側からルフィの悲鳴が聞こえて来た。

 兄を失った悲しみに、泣きじゃくっている様子が脳裏に浮かぶ。だが、スマラはそれまでだ。先からずっと海の向こう側を見ていた。

 

 

 

 ルフィが目を覚まし暴れ始めてからずっとこの調子だ。普段なら読書に没頭していたであろうが、手元に本が無い事と合わさってずっと何処かを視ている。

 まるで視界内に入らない遠い場所を感じ取っているかのような………。

 

 手持無沙汰で海を見つめる時もあるであろう。しかし、そうであるのなら、ここまで長い時間一点だけを見つめるであろうか?

 手持無沙汰だったローはスマラに疑問をぶつける。

 

 

「ずっと同じ場所ばかり見てるが、そこに何かあるのか?」

 

「……まぁ。分からないならそれでも良いけど、警戒はしておいた方が良いわよ」

 

 

 ローは無駄な会話はしない自分と似たような性格だと思っていたスマラは、ローが無言の空間に耐えられず(ローの部下は緩く駄弁っているが)言葉のキャッチボールを自ら行うとは思わなかった。

 少しだけ驚きの感情が芽生えたが、それ以上発展しないのがスマラだ。聞かれたのなら答えても良いだろうと、自身がずっと海の向こう側を見つめている理由を話す。

 と言っても、「何かあるのか」に対して「分からないの?」と場合によってはおちょくっている返答であるが、そこまで答える義理はないと判断したてぼやかす。

 それでも、警戒を促すあたり、甘いのか厳しいのか……どっちか判断に困る人間だ。単に何も考えていないだけかもしれないが……。

 

 

 

 

 

 ローに警戒を促したスマラであったが、何も根拠がない訳ではなかった。殆ど常時発動されているスマラの見聞色の覇気に、スマラが警戒を強める程の存在を感知したからだ。

 ここは凪の帯である事から、海王類の気配ではないか?と通常なら考えるはずだが、スマラにとって海王類は雑魚…とはいかないが気にならないレベルで無視できる存在だ。

 ならば候補は限られる。

 

 一つ目が海軍本部の大将率いる軍艦。

 スマラとて大将の相手はキツイ。そこらの海王類など比べ物にならないレベルで次元が違う。故に気配の大きさから有り得なくはないが、スマラの予想としてはそれ程高くはない。現在地が女ヶ島だと考えれば、海軍が連絡も無しに付近に近づくとは考え難いからだ。そもそも、ならばどうやってこの場所を突き止めたか?と疑問が残る。

 

 二つ目はその他の海賊だ。

 スマラが警戒するほどの海賊と言えば、中々存在しない。しかし、中々というだけであって居ないわけはない。先の戦争で死亡した白ひげを筆頭に四皇、王下七武海だってそうだ。その他、新世界には侮れない海賊が少なからず存在している。しかし、付近が凪の帯である事から可能性はやはり低い。

 

 となれば、誰だ?反応は一直線にこちらを向かってきている。偶然とは思えず、何かしらの目的があってこの島を目指していると考えたスマラは、読書が出来ない事を理由にボーっと見聞色の覇気で反応を観察していた。

 

 

 

 対象の可能性を考えては、有り得ないと捨てていく。そうして最後には……。

 

 

 

 狙いは麦わらではなくて、私の可能性もあるわね。中継されていた戦争であれ程注目したのだから……。

 あの時はどうかしていたわ……。もしあれが原因なら……。

 

 

「あいつらが今更関わって来るはずないわ…」

 

 

 ぽつりと零れた声。一番近くにいたローですら聞き取れない程小さな声だった。

 思考を重ねるにつれて生み出された可能性。どんなに極小であろうと、有り得ない話ではない切り捨てられないのが、スマラの考えられる最悪の因縁を持つ奴らだ。

 しかし、今更?と諦めたはずでは?と言う考えがそれを否定する。

 

 そもそも、見聞色で感じられる強大な反応に敵対心は感じられない。敵対心を抑えているとも考えなくもないが、あいつらが私に対して敵対心を覚えないはずがない。

 という点から有り得ないと否定する。何回でも否定する。

 となると、単なる存在しているだけで強大な覇気を有している者。

 

 

 

 

 

 何分経っただろうか?それ程経っていないようにも思えるが、本を読めないスマラには時間経過など全く気にならないのは確かだ。

 もっとも、本を読めるのなら更に時間など気にならなくなるのはご愛嬌。

 

 そんなスマラ以外には数分と言う時間が経った頃だ。

 

 

 ボゥン!!!

 ギャァァァ!!!

 

 

 急に水飛沫が上がった。同時に海王類と思われえる生物の悲鳴も聞こえて来た。距離は凡そ数百メートルから一キロメートル程度だろう。肉眼でも難しいながら水飛沫は確認出来るであろう距離だ。

 現にハートの海賊団船員達が崖に集まって水飛沫が上がった方向を向いている。中には双眼鏡まで持ち出して観察する者もいた。

 水飛沫や悲鳴は何度も確認でき、暴れている海王類がそれなりに巨大であることが伺える。しかし、ペンギンが双眼鏡を使って、海王類と戦っている相手を見付けようとするも、飛沫が邪魔になったり両方激しく動いている点から、誰が戦っているのかは見えず仕舞いだった。

 やがて海は静かになり、海王類が死んだ事で決着が付いた。あの馬鹿デカイ海王類がやられた事で、ハートの海賊団は盛り上がる。

 

 

 当然、スマラも見聞色の覇気と肉眼でその様子を捉えていた。ここで分かったのが、船も無くたった一人だったということ。

 となると、スマラの考えていた最悪の展開は避けられた。あいつらがたった一人で来るはずがない。来るなら大群で徹底的にが奴らの基本思考だからだ。

 

 ほっとすると同時に、海王類を海で倒せる人間……スマラは脳内で候補を絞っていく。ひとまず能力者は除外される。見た感じ船にも乗らずに移動している為、能力者は泳げないから除外。非能力者で海王類を倒せる存在と言えば、真っ先に海軍の英雄であるガープが思い浮かぶ。

 思い至った理由は単純。先日の戦争前に顔を合わせていたからだ。しかし、ガープなら自身の軍艦で移動するはず。ならば………。

 

 とスマラが思考を巡らせたところで、島の海岸に人が現れた。海の中から現れた人物はまさかの老人。しかし、老人とは思えない筋肉質で右胸には傷を縫った跡が残っている。

 覇気からしても明らかに常人ではないその老人。息は荒いものの、まだまだ余裕のありそうなその姿に誰もが驚く。

 

 

「え~~~~~!!!??」

 

「冥王レイリー!!!!」

 

 

 誰もが知る有名人であった。一般人でも名前くらいは聞いたことのあるほどの知名度を誇るこの老人。嘗て海賊王の右腕として支えた程の人物。

 当然スマラも直接的な関係はないものの、海を放浪する者、元海賊として知ってた。

 

 ハートの海賊団は面識があるのか驚きのベクトルが「何故此処にいるのか?」に向いていた。その問いに対して冥王は、

 

 

「ルフィ君がこの島に居ると推測したのだが?」

 

 

 瞬間、場の空気が一気に重たくなった。殺気……とまでは行かないが、明らかに攻撃意志が感じられた。ハートの海賊団はもちろん誰もが動けなくなり、ローですら神経を尖らせるほどだ。

 スマラが冥王を睨んでいるのだ。しかし、肝心の向けられた冥王はと言うと、

 

 

「やる気の無さが感じ取れるぞ。可憐なる賞金稼ぎ……いや、今はもう海賊のスマラと言うべきだな」

 

 

 呆気からんとスマラの心情を読み取った。世界最高峰の見聞色の覇気使いだからこそ出来る芸当。通常なら全く分からないだろうが、冥王はそれを見事にいい当てた。

 言い当てられたスマラは気分を図星だったため、舌打ちすると共に睨むのを止めた。場の空気は軽くなり、ハートの海賊団はほっと息を吐く。ここで暴れられたら巻き込まれて死ぬ可能性だって有り得なくもない。

 しかし、スマラ的に敵である冥王を視界内に納めて、何かあれば即座に行動出来る様に準備する。もちろん、外面では怠そうにしている態度から変わってない為、ハートの海賊団は気づかないだろう。冥王にはバレバレであろうが……。

 

 

「で?貴方程の人物がこの島に一体何のご用かしら?」

 

「先ほど言ったはずだが?ルフィ君の居場所を推測したと。しかしだ、今になって君が表舞台に現れるとは思いもしなかった。ルフィ君と冒険をして心変わりでもしたのかね?」

 

「私の事はどうだっていいでしょうに。…………敵じゃないのね」

 

「麦わら帽子……」

 

「はッ、皮肉なことね」

 

 

 そのままスマラは寝転がり目を閉じた。冥王が味方なら、自分が警戒して居なくても十分だろうとの判断だ。有事の際は嫌でも本能が己を覚醒させるだろう。

 

 

 目を瞑っているスマラにはあずかり知れないことだが、考え事をしながらスマラを見つめる冥王がいたとか……。




 予告通りレイリー登場です。次回は修行開始に行きたいです。


 次回の更新ですが、FGOで箱イベの開催が近いので恐らく遅れます。出来る限り早くお届け出来る様に頑張りますが、箱イベ中は基本的にずっと周回するつもりなので……。目標は300箱です。


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六十四頁「戦後の動向」

流石に1年は不味いと思ったので仕上げました。


「えぇ~~!!?レイリーのおっさん!!?」

 

 

 ジャングルの中で一通り暴れ回り、ジンベエに打ちのめされて心を立て直したルフィが戻って来る。

 満身創痍な上で暴れ回ったものだからか、ジンベエに背負われている。

 

 ルフィは元の場所に戻ってきたらハートの海賊団は消え、代わりにシャボンディ諸島諸島で船のコーティングを頼んだ冥王が居た。

 すっかり立ち直ったルフィはこの場所に冥王が居る事に驚きの表情を隠せないでいた。シャボンディ諸島にこれから向かおうと思っていた事も一緒に伝えると、麦わら一味のメンバーはまだ誰も集まっていない事を知る。

 やがてルフィが目覚めたと知らせを受けたハンコックが姉妹共に大量の食事を持って現れる。荷車を引いているのはこの島に住む猿だ。

 ハートの海賊が出港して人数が減ったのに対して、一気に騒がしくなる。その様な周囲にスマラは自然と意識を覚醒せざるを得ない。

 

 

 ぼんやりと会話を聞くに、ハンコック達姉妹は冥王と面識があるらしい。「恩人」と言っているからに昔何かあったのだろうと当たりをつける。

 そして話し合いは本題へと移る。目覚めたルフィはシャボンディ諸島へ向かうつもりだったらしい。話を黙って聞いていると、シャボンディ諸島での出来事へとシフトしていった。スマラも概要は知っている。当時の新聞の一面記事になったほどだ。

 

 『麦わら一味の壊滅』

 

 有名な超新星だっただけに話題は大きく、つい先日まで足にしていたスマラにも目に入った。その時は「遂に終わったのね…」などと期待外れの感想を抱いたのだが、「そういえば壊滅したとは書いてあったが、捕まったや死亡したとは書かれていなかたわね」と見落としに気付く。その証拠に、ルフィはシャボンディ諸島で仲間たちとの合流の意思をみせている。

 ならば、シャボンディ諸島まで一緒に行けば役目は果たされた事になる。

 

 

「(待って……。この場には既に冥王が居る。ならば何があっても麦わらの無事はほぼ確定されている者……。これはお役御免でいいのでは?)」

 

 

 とスマラは冥王の登場により「自分の存在は必要ないのでは?」と思い始める。もっともその通りなのだが……。

 

 

「さて、狸寝入りはそのくらいにしたらどうかね?」

「え?スマラがいるのか!!?」

 

 

 レイリーがスマラを呼んだ。ルフィはレイリーの近くに見知った女性が寝っ転がっている事に今更ながら気付く。どれだけ食べ物に夢中だったのだろうか……。

 ルフィが驚きながらもスマラも元へ近づき、嬉しそうにダイブを決めて……スッと立ち上がったスマラに避けられた。そのままルフィは地面にキスをすることとなる。死に掛けの怪我人に酷い仕打ちであるが、スマラにとって抱きつかれた方が鬱陶しい。そもそも、女性に抱きつくとは一体どういう神経をしているのか…。本人は単純に再会の嬉しさを表しただけけなのだろうが……。

 

 そんなスマラの行動に納得がいかない人物が一人。

 

 

「ルフィに何をしておるのじゃ!!」

「……普通は避けるわよ」

 

 

 急に殺気を感じ取ってスマラは一歩横へズレる。スマラが立っていた場所へハンコックの鋭い蹴りが通った。

 ルフィから抱きつかれそうになった嫉妬と、それを避けて重傷者のルフィを受け止めなかった怒りからの犯行である。

 ハンコックもそれ以上は追撃はしなかった。一度避けられたのなら二度目も同じ事だろうし、怒りと嫉妬に任せた行動だった。つい手を出してしまったとかこのことだ。出したのは脚であったが……。

 

 地面にキスをキメたルフィであったが当の本人はあっけらかんと立ち直る。ついでにハンコックの持ってきた肉に手を伸ばしながら、今更な疑問を口にする。

 

 

「そういやスマラって何でここにいるんだ?」

「そうじゃのぉ……」

「彼女本人の口から聞くのが一番でだろう」

 

 ルフィの疑問にジンベエが答えようとするも、何が彼女の沸点に触れるか分からずに答えにくそうに視線を向け、代わりにレイリーが面白そうに口を出す。

 戦争の放送やシャッキーの女の勘を聞いているレイリーはルフィの疑問に対する答えを予想しているはずだが、その予想を本人から聞き出すように仕向ける。レイリーが口角を上げて面白そうに笑っているのが、スマラにとって非常に腹立たしい。

 ルフィはレイリーの言葉を聞き、興味深々と言った表情でスマラを見つめる。無言で肉を食べながら見つめて来る様子は、一種の脅迫に感じる者もいるだろう。

 ルフィの視線を受け止めたスマラは、めんどくさそうに視線を逸らしながら答えた。

 

 

「…………色々あったのよ」

「ふーん。そっか」

 

 

 「あの時の私はどうかしてた…」と過去の自分を客観的に振り返って、遠い目をしながら答えるスマラ。わざわざ詳しくは伝える様子はないらしい。

 ルフィは一言で興味を失う。スマラに対しては珍しいが、気分屋のルフィにとってはこの程度よくあることだ。

 聞いてきたのは貴方なのに……と思わずにはいられないが、深く踏み込まれなかったのはスマラにとって都合のいい事なので黙っておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、スマラは殆ど彼らに関わっていない。一先ず女ヶ島にある本を探して読む事を始めた。

 時間は無限とは言わないがそれなりにある。というのも、ルフィはレイリーの提案で二年間の修行を開始。

 その間に島を出発して適当に海を放浪する生活に戻ろうと考えもたのだが、予想以上に女ヶ島にあった本の数が多く、一冊一冊丁寧に読んでいると時間が掛かってしまっていた。他にも理由は存在している。

 

 ハンコックが思いの外構ってくるのだ。麦わら一味の船に乗っていた、戦争で三大将からルフィを守った(周囲からはそう見えている)ただそれだけでルフィの味方判定。ルフィの味方ならハンコックにとってスマラは敵では無い。むしろ、自身が知らないルフィの話(情報)を教えてくれるいい奴。

 レイリーに禁止されたのか、ハンコックがルフィの島に訪れる事が出来るのは数週間に一度のみ。近くにいるのに会えない鬱憤を晴らすかのように、ハンコックはスマラに付きまとった。

 心底鬱陶しいことこの上ない。

 

 

 

 そして、半年ほどの月日が過ぎ去った。

 

 

 

 女ヶ島の居住区域から少し離れた、自然の外壁に当たる岩山に近しい場所。

 ポツンと即席の小屋があった。雨風さえ凌げればよいと言わんばかりな、こじんまりとした小さな小屋だ。

 中には部屋が一つだけ。そのただ一つの部屋には少ない数の本が置かれていた。幾つもの本のタワーが出来ている。

 本当に雨風さえ凌げれば良い、ここを利用する人はそう考えているのだろう。それ以外の機能が欠落している小屋だ。

 

 そんな小屋にスマラは居た。雨風しか凌げない上、たった一つしかない部屋に本のタワーを作っている人物など、女ヶ島……世界中を探しても彼女しかいないだろう。

 どんな人間にも生活必需品や生理現象が発生する。しかし、彼女なら能力でそれすらも引き伸ばす事が可能だ。

 だから、この平穏な日常を満喫したく、わざわざ人里離れた場所に活動拠点を用意したのだ。

 

 

 しかし、そんな理想と言えなくもない状況下でも不満が幾ばくか存在していた。

 

 

 

 一つ目。新しい本を入手し難い。

 女ヶ島は凪の帯にポツンと存在する島である。海王類の巣である凪の帯自体が天然の要塞なっており、外敵から島を守るのに大いに役に立つ。しかし、逆に考えると凪の帯は移動を制限する邪魔な物でしかない。

 女ヶ島の物資の入手手段と言えば、島の動物を狩りして得る、食材を育てる、九蛇海賊団が他の海賊から物資を奪う、仕入れる。一般人が国外品を入手する手段は無いに等しい。

 本だって基本的に海賊から奪うくらいしかない。貿易で多少は取引として扱うが、女ヶ島では入手できない食材や香辛料、衣服や娯楽品にリソースを回す。書物だって基本的には新聞や歴史書などの勉学に必要なものが多い。

 海賊から奪うのも、偶々あった場合だけだ。そもそも、海賊になる様な荒くれ者が本など読むはずがない。読書を嗜む海賊もゼロではないが、圧倒的に少数派なのは確かだろう。

 と言った点から、スマラがこの島で本を入手する事が難しい理由であった。

 

 二つ目。女ヶ島から比較的近くに存在してる無人島へ度々派遣されるのだ。その島の名前は……

 

 

 

 

 

「迎えに来てやったぞスマラ」

 

「……はぁ」

 

 

 温かく天気の良い読書日和のお昼前。何時も通りの読書をしていたスマラの耳に雑音が入る。否、一般人が聞けば天にも昇る心地が良く、声を聞けた事に感謝し、その姿を視界に入れた瞬間、あまりの美しさに石化してしまうであろう美貌の持ち主。

 

 

「ハンコック…」

 

「あぁそうじゃ。約束の時間になっても現れないものじゃからな。全く、何時になれば素直になるのやら」

 

「別に本心で協力している訳でもないのだけれどね」

 

 

 スマラを迎えに来た……引っ張りに来たのはこの女ヶ島のトップ。王下七武賊の紅一点。ボア・ハンコック。同性ですら目が離せなくなるその美も、スマラの前には無力だ。

 スマラはため息を吐きながら、部屋の入口に立つ彼女をジト目で見た。

 

 全部あの老骨のせいだ。あのジジイさえいなければ私は快適…とは言えないが、それなりに良い環境で読書漬けの日々を送れたはず。なのにだ。丁度いいからと好き勝手決めて…引き籠れば女帝を使って引きずり出してくる。

 昔から頭の回る奴だったが、こうもやり込められるとイライラするのだ。昔からそれなりの立場と実力があったが故に、スマラは縛られる事は多くは無かった。が、それでも世界の頂点には届かない。

 

 能力で無意識下でも下せる雑魚ならともかく、本気でやり合っても勝てるかどうか微妙な相手な上、負けないが勝つのも難しい同格であるハンコックもスマラに立ちふさがる。

 ハンコックだけでも簡単には逃げきれないというのに、本命もあるとなると絶対に逃げきれない。

 能力を最大限酷使すれば勝てない事もないかも知れないが、能力を酷使しし過ぎるのは身体にかかる負担が大きすぎる。そこまでして逃げる必要があるか?と自問自答をすれば、答えはノーだ。逃げる方が余計な労力を割くだけ。癪だはあるが、大人しく従っている方が、無暗に抵抗するよりも何十倍も早く簡単に終わる。

 

 そういうわけで、スマラは偶に発生する強制イベントへと向かう。読書をしながらハンコックの後ろをついて歩く。

 残り数時間の読書タイム。その後の面倒で退屈な時間がやって来る。その前にこの時間を堪能しなくては……。




 8割は去年の10月頃に完成。今年の4月頃に9割方。昨日と今日で仕上げと見直しの構成で出来ております。


以下21/10/10追記

アンケートについて。
 投稿速度に関してのアンケートを設置いたしました。詳しい概要は活動報告にて。


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六十五頁「2年後」

半年……知らない子ですね。


 凪の帯、女ヶ島より北西の無人島『ルスカイナ』

 48季と言い、週に一度季節の変わる過酷な環境の島。

 そんな過酷な島で、

 

 

「ゴムゴムの~~~JETピストル!!」

 

 

「JETウイップ、JETスタンプ、JETガトリング!!」

 

 

 

 スマラはゴム人間の猛攻を受けていた。

 これまで通りゴムの特性活かした攻撃。楽園レベルの海賊なら一撃一撃が必殺技級。それをギア2で加速させて速度と攻撃力をアップ。

 2年前ならば、億越えにすら少なくないダメージを与えられる事が可能な攻撃。

 

 それに加え、武装色の覇気を攻撃に纏っている。

 新世界でも十分に通用する攻撃だ。

 そんな攻撃を受けているのは……

 

 

「ハァハァ…。どうだ!!効いたかこの野郎!!」

 

「……野郎ではないと言っても無駄よね」

 

 

 この2年間(正確にはレイリーがシャボンディ諸島に帰ってからの半年間)ルフィの修行相手として島に留まっているスマラだ。

 修行なのだからと能力を使わずにルフィの攻撃を防御。それはつまり、生まれ持った肉体と武装色の覇気のみでガードした。ノックバックは僅か数センチ。

 

 

「……ま、見聞色の覇気で相手の出方を見て、武装色の覇気で纏った攻撃を当てる。少しは成長したのでは?」

 

「涼しげな顔で言われても嬉しくねぇぞ!! 何回か避けられるし、捕らえても平気な様子だしよ…。何でだぁ!!?」

 

「当然よ。貴方よりも覇気の精度が高いもの。経った2年でそれなりに扱える様になれただけでも驚きだわ」

 

 

 ルフィが悔しがり、スマラが当然のように言い下す。ついでに全く驚いていない表情で褒めるが、ルフィも全く嬉しそうにしてない。

 2年間修行してようやく能力無しの防御を少し押す程度なのだ。当人にとれば相当悔しいだろう。

 

 スマラは服に着いた埃を払い、少し離れた場所に置いてあった本を取り行く。戦闘中に本を読む事も不可能ではないスマラだが、流石に2年間修行したルフィが相手ではそんな余裕はない。……訳はない。単純に真面目にやってるように見せなければ面倒だからだ。

 まだ不機嫌を隠せないルフィを放っておいて、スマラは読書の続きを再開する。ごちゃごちゃ言っているルフィの声は、音を調整する事によってカット。

 今日が修行の最終日。先程の組手が最後の仕合だった。これ以上は面倒を見る義理は無い。

 残り数時間後の出航まで読書を堪能した。いや、シャボンディ諸島に向かう道中でも読書は辞めない。これぞスマラスタイル。

 

 

 

 

 

~シャボンディ諸島~

 

 王下七武海の特権もあって、海軍や海賊に邪魔される事はなくシャボンディ諸島にたどり着くことが出来た。

 否、シャボンディ諸島に王下七武海が居ると目立ち、その船から指名手配犯のルフィが乗って居ることがバレるとハンコックと世界政府の関係が崩れる。最悪、王下七武海の除名だ。

 なので、シャボンディ諸島に直接送り届けるのではなく、近海送った後は小舟でシャボンディ諸島に上陸することとなる。

 

 これで全てが終わり。託された(押し付けられた)願いもこれでお終いだ。後は勝手に消えるだけ。

 そう思っていたスマラに魔の手がかかる。

 

 

「では、シャボンディ諸島までよろしく頼むぞ」

 

「は?」

 

 

 つい、らしくない声が漏れた。

 

 

「そなたに託すのは癪じゃが、妾にも立場があるのでな」

 

「待って頂戴。何故私が麦わらを諸島まで送り届けるのが前提になっているのかしら?」

 

「そなたこそ何を言っておるのだ。妾が聞いた話では、ルフィを新世界まで送り届ける約束をしたと聞いておるぞ」

 

「…………」

 

 

 黙り込むスマラ。記憶を辿って白ひげ海賊団と……一番隊隊長マルコとの会話を思いだしているかのように思える。

 が、既にスマラは当時の状況を脳内に再生していた。

 何を黙っていると言うと……。あの時マルコに言われた『無事に出航するまで』の定義だ。

 

 無事というのが、怪我と精神面を現すなら、既に完治しているので達成済み。

 出航が治療場所から旅立つ事なら、女ヶ島及びルスカイナを出航した時点で達成されいる。

 と、そこまで考えたところで疑問が生じた。

 

 無事に出航というのは、麦わら一味が全員揃ってシャボンディ諸島の次の航海へと出航した時なのでは?

 そう思えば、そうともとれる。定義としてはどちらとも正しい。

 スマラは女ヶ島を、ハンコックは全員が揃って。

 着目点のすれ違い。

 

 正解は無い。しかし、自分の解釈を押し通すか、それとも譲歩するべきか。

 スマラが黙っているのはその一点に尽きる。

 麦わら一味と出会う前のスマラなら浮かびもしなかった選択肢。

 

 

 数秒、たっぷり悩んだ後、

 

 

「約束はしてないわ。でも、今の貴女を敵に回すほど私は愚かじゃない」

 

 

 ハンコックに間違いを訂正しつつ、解釈を受け入れた。

 

 

 

「しっししし。またお前と一緒に同じ船に乗れるとな!!俺は嬉しいぞ」

 

「勝手に喜ばれても困るわ。諸島までは貴方が漕いで行きなさいよ」

 

「あぁ、任せろ!!かっ飛ばすぞ!!」

 

「静かに漕いで。海に落ちたら二人共助からないわよ」

 

 

 ルフィもスマラも悪魔の実の能力者だ。海に落ちれば助からないであろう。

 億越え賞金首の最後が、人知れず溺死となるのはいささか物語のバッドエンドには不十分過ぎる。

 

 スマラが指摘するとルフィは渋々と従った。

 だが、その顔とても笑顔だった。

 何を思っているのか、スマラには予想することしかできない。

 

 スマラは本に目を落とした。

 

 

 

 

 

 一刻もしない内にシャボンディ諸島に辿り着いた。

 ここからは別行動だ。

 麦わら一味がシャボンディ諸島を出航するまでは此処に滞在する必要性があるかも知れないが、その場で見送る必要はないだろう。

 一緒にいるとあらぬ誤解で新世界に連れて行かれてしまう。

 それはスマラの望む事では無い。

 確かに、そろそろ新世界に戻る必要はあるかもしれないが、何も麦わら一味の船に乗船する必要はない。

 ……最も、シャボンディ諸島から新世界までの航路を考えれば、それなりの船をコーティングして魚人島経由で向かった方が1番早い。

 となれば麦わら一味の船に乗るのが1番合理的なのだが……。

 

 

「今更そんな真似出来る訳ないじゃない」

 

 

 ウォーターセブンで別れ、エニエスロビーで完全に下船した事が、合理的な選択肢を許さない。

 己の都合で消えたのに、乗る船がなくなったら戻るなど論外だ。

 ごく一部の馬鹿は気にしないだろうが、頭の回る船員なら当然警戒する。

 

 だから、スマラは無言でルフィと別れた。別れたと言うより、諸島に上陸した途端に小舟を放り出して駆け出したルフィと勝手に逸れたとも言える。

 もし声をかけていたのなら、ルフィに無理矢理船まで連れて行かれる事になっていた。スマラは正解の選択肢を選んでいた。

 はずだ。

 

 

 

 

 久しぶりにのんびりと街を歩く。女ヶ島とルスカイナに2年ほど引き籠っていたせいか、かなり久しぶりに感じる。

 街は騒がしい。2年前と比べて海賊が多いように感じられる。

 新聞で知ったが、海軍本部がG-1支部と入れ替わった代償だろう。とスマラは勝手に予想する。

 

 

 海賊が多いと言う事はトラブルも多いと言う事だ。

 中身はともかく、スマラの外見は美女だ。スラリと伸びた脚、大きくはないが決して小さい訳ではない胸、細いお腹周りには少しばかりの筋肉が。

 ゆったりとした上着に、動きやすいスエットパンツ。上半身と下半身のコーデが全く合ってないが、それはご愛嬌。

 服装なんて着衣していれば、動き易ければ、それなりに安すれば(幾ら手元に大金があろうと)なんだっていい。最後の最後に好みが来るが、基本的になんだって良い。上記の条件を満たしてさえいれば、手に取って余程可笑しな格好でなければ、なんだって着る。

 一人旅に出る前は、全て誰かが用意していた物に着替えるだけであったスマラにセンスを求める方が間違っている。

 ただ、一人間としての感性が、大衆から大いに逸れているわけでもない為、余程の事が無い限り奇抜な服装になる事は無い。

 

 

「はぁ、久しぶりに街を歩くのも悪くないと思ったのだけれど……」

 

 

 既に二桁にも及ぶならず者がスマラに潰された。歩いてきた道には屍……ではなく、意識を刈り取られた野郎どもが伸びている。

 全て、スマラの美貌を目にして誘拐を企んだ人攫いと海賊の成れの果てだった。

 美人というだけで彼等は群がってくる。それにスマラは呆れていたのだ。

 

 しかし、スマラも対応が悪いとも言えた。

 襲ってくる敵を気に留めないで返り討ち。能力を最小限使っていなしている為か、些か派手さに欠ける。ここでヤルキマンマングローブでも圧し折る勢いの反撃を行えば、凶悪な力を持った能力者で一向に歯が立たないと実力差を思い知って逃げ出していくだろう。見えにくい力は敵を勘違いさせやすい。

 

 

 そんな妨害に会いながらも足を進める事数十分。

 見聞色の覇気で冥王レイリーの居場所を突き止めたスマラは16番グローブに来ていた。

 既にレイリーとも距離は範囲内。(新世界の強者なら)肉眼でギリギリ見える場所には、麦わらの一味の船であるサウザンドサニー号。

 その甲板にレイリーが乗っているのを確認すると、スマラは大きくため息を吐いた。その心情は簡単に読み取れる。

 めんどくさい。わざわざ出向いたのにタイミングが悪過ぎる。早く切り上げて一人にならないかしら?

 怨念の如く悪態を心の中で吐くスマラ。当然、麦わらの一味のメンバーに合うのが嫌なのだ。

 というのも、半ば裏切る様な形で船から降りたのだ。誰だってそんな相手と顔を合わせるのは御免被るだろう。

 もっとも、スマラにとっては「裏切った」と言う感情はない。元々仲間でも何でもない食客。タイミングに思うところはあれど、船を降りて政府に側に着いたのはスマラの勝手。

 まぁ、その数か月もしない内に政府に裏切られるのだが、自業自得でもある。

 

 

 続々と麦わらの一味が船に集まってくるのを、スマラは遠目で感じ取る。

 今船に居ないのは、買い出しに出掛けてる『黒足のサンジ』、街をふらついて迷子になっている『海賊狩りのゾロ』、つい数十分前にはぐれた『麦わらのルフィ』の三名。

 奇しくも麦わらの一味の主戦力。ならば、ここでもう少し近づいてレイリーに気づいてもらおうかしら?

 いくらここが偉大なる航路の楽園とはいえ、スマラがもう少し近づけば警戒していない見聞色の覇気に引っかかるだろう。

 それとも、リスクを確実に回避するべくここは待ち。つまり、麦わらの一味が出港して邪魔が入らなくなるまで待つべきか……。

 迷うスマラ。昔のスマラならば待ち一択だったのだが、少しでも迷うという事は変わって来たのか、否か。本人ですら分からない。

 

 

 近づくかここで待つか迷っていると、運はスマラに味方した様だった。

 話を終えたのか用事が出来たのか、はたまたスマラがいるのを感じ取ったのか、真相はレイリー本人にしか分からないが近づいて来るのが見えた。

 気配ではなく肉眼で見える範囲まで近づくと、レイリーはようやくスマラを認知した。

 

 

「おぉ、こんな場所に居たのか。ルフィ君は一緒ではないのかね?」

 

「逸れたわよ。分かり切ったことを聞かないで」

 

「会話によって生まれるものもある」

 

「要らないわ」

 

 

 相手のページに乗せられるのを防ぐ為、レイリーの言葉を一蹴するスマラ。

 世界一の海賊船で副船長を務めていた男なのだ。船長が突進型なのも相まって、必然的に頭を使うことに長けている。

 長々と会話に付き合った挙句、こちらが不利になる状況に持っていかれることもある。

 時間をかけたくないのと、主導権を握られたくな位ので、スマラは早速話を切り出した。

 

 

「本題に入りましょう。私はこの二年間麦わらの修行に付き合ったわ。そして、こうしてシャボンディ諸島まで護衛もした。これ以上は何もしない、これで良いわね」

 

「あぁ、それでいい。協力感謝する」

 

「協力ではなく、武力による強制だったわ。それじゃあ私はこの辺りでお暇させてもらうわ」

 

 

 これ以上厄介ごとには関わっていられない。颯爽とキビを返すスマラ。

 目的地は民間運営の船が停泊してる港。海軍本部からも近いこの島から遠ざかるつもりだ。

 

 せっかく楽園と新世界の間まで来たというのに、航路を逆走して戻るのは残念だと思うが、シャボンディ諸島から新世界に向かうには赤い大陸の頂上を通るか、海の底にある魚人島を経由する進路しかない。

 当然、海賊ではないが賞金首なので赤い大陸、つまりマリージョアを通るルートは使えない。許可が降りたら政府頭を疑うレベルで有り得ない。

 主に海賊が通るのは海底の魚人島を経由するルート。観光名所でもある魚人島に行きたいと思う海賊は後を絶たないだろう。

 しかしこのルート。深海を潜って移動する為、魚人島への強いては新世界への到達率はそれなりに低い。能力者であるスマラも出来れば通りたくないルートだ。

 

 スマラが考えているのは破天荒な3つ目のルートである。

 海は基本的には繋がっている。赤い大陸を挟んだ向こう側でなければ、理論上は何処にだって船で移動出来る。

 しかしこの方法が基本的には不可能なのは、赤い大陸と交差するようにある偉大なる航路とその両脇に位置する凪の帯が原因だ。

 何が原因なのか不明だが無風であり波が無い。これだけでもパドル式の船や人力での移動手段を持つ船でなければ海は移動できない。

 さらに移動を困難とさせているのが、大型の海王類の巣という点だろう。スマラレベルともなれば勝てない相手ではないが、海に落ちればアウト。一体ではなく何十体何百体と襲ってくる可能性を考えれば、あまり使いたくない手段だ。

 

 しかし、このまま凪の帯を抜けても迎えるのは東の海か南の海だ。

 故に東と南、西と北。楽園と新世界。行き来は困難である。

 なので海以外の道を使う必要がある。つまり、赤い大陸を登って超えるのだ。しかし、どこでも登ることが出来ると言う訳でもない。

 一番楽な場所は先述したように、マリージョアを経由する唯一の公認ルート。そのルート以外は見つかれば政府に捕縛されるルート。

 しかし、グレーゾーンのルートが一つだけ存在している。それは、リヴァースマウンテンを登って偉大なる航路に入るルートだ。四つの海から主に海賊船が使うルートである。偉大なる航路に入る前半数以上が沈むとされる第一の関門だ。

 絶壁を登るよりは楽だろう。スマラはそう考えてリヴァースマウンテンまで戻ることを決める。

 

 逆走して登る苦労を考えれば、ここから適当な海賊船や船に載って魚人島経由で新世界に入った方が遥かに楽なのだが、麦わらの一味から逃げる事を第一に考えているスマラには思いもつかない。

 盲点と言うべきか冷静になって考えれば分かる事だが、それすらも思いつかないということはそれだけ余裕がない証拠だろう。

 自分のペースを乱されるととことんポンコツになるスマラだった。自由気ままなルフィはスマラの天敵とも言える。

 

 

 

 

 

 歩き出すスマラ。

 

 

「まぁ待ちたまえ」

 

「ッ!?」

 

 

 それに待ったをかけたのはレイリーだ。彼はスマラの肩に手を起き歩みを止めた。

 スマラは急に後ろから触れられた事に驚きを隠せない。

 

 それもそうだろう。彼女の肩を触れて歩みを止められる者は新世界でも数少ない。

 不幸だったのは、その数くない相手が目の前にいた事だった。早く立ち去りたい気持ちが先行して、周囲の警戒を疎かにしてしまったスマラの落ち度だ。

 とはいえ、今この島にスマラをどうこう出来る人間など、目の間のレイリー以外には存在しない。強いて上げるなら、麦わらとぼったくりバーの女店主程度だろう。

 麦わら一味総力なら少し迷惑そうに足を止める程度だろう。ルーキーの中でも頭一つ抜けているとは言え、まだまだ新世界にも入っていないルーキーなので当然だ。

 

 レイリーの手を振り払おうとするスマラだったが、老人とは思えない力で引き留められる。

 振り返ってキッと睨みつけてやるが、レイリーは全く気にしない。それどころか煽る様に笑う。

 

 

「依頼はルフィ君が出航するまでだろう?なら見届けようではないか」

 

「此処まで付き合っておいて?この島まで連れて来た時点で終わったも同然よ」

 

「出航するまでが約束のはずだが?それとも、約束も守れないのかね?」

 

「所詮は口約束よ。ここまで健気に付き合ってあげただけでも感謝して欲しいわ」

 

「感謝はしてるさ。私だけでなくルフィ君もそうだろう。君ほどの人物が居るからこそ、私は半年間任せられたのだ」

 

「勝手に始めた修行の最後を押し付けただけでしょうに。ギャンブルは楽しかった?」

 

「ハハッ、最近は自制してるんだ。シャッキーがうるさくてね」

 

 

 皮肉も通じないのか?スマラはそう思ったが、口には出さなかった。

 レイリーの事だ。分かっててわざと言っているのは透けて見える。

 だからスマラは余計にイラッとする。相性が悪過ぎる。一刻も早くこの場を、この島を去りたい。

 そんスマラの心象も知らずに、レイリーは話を続ける。

 

 

「君に感謝しているのは本当だとも。私も老体だ。今の君ほどは動けまい。現在の新世界の強者を知らしめる良い機会になってくれた」

 

「感謝しているなら、とっとと解放して貰える?」

 

「それとこれとは話が別だとも。 それに、引き留めたのは労いも兼ねて一杯奢らせてくれ」

 

「羽振りが良いのね。でも断るわ。お酒の一杯よりも、赤い石の在処を教えて貰える?」

 

「冗談では済まないぞ」

 

 

 瞬間、レイリーの発する覇気が強まったのをスマラは感じ取った。スマラとて冗談で言ったわけではない。

 がしかし、

 

 

「嫌なら良いわ。私とて期待はしていないもの」

 

「…………」

 

 

 殺気はまだ散らない。断るだけでは許してくれないらしい。

 話題を変えるのは愚策。無理矢理この場を去るのが最悪の行動。

 正解が何か……。何か……。…………。

 

 スマラよりも先にレイリーが動いた。否、空気を動かした。

 

 

「……海賊王には興味が無かったのではないのかね?それとも、君も彼女の子と言う訳か?」

 

「ハッ!?馬鹿言わないで。誰があんな親……」

 

「では何故その石を求める?」

 

「……知的好奇心よ。アレとは縁を切ってるわ。実際にここ数十年一切接触は行っていない」

 

「2年前とは状況が変わった。君は殆ど表舞台から消えて活動していたかもしれないが、あの戦争で表舞台に返り咲いたと言っても良いだろう。そんな君を彼女が放っておくと思うかね?」

 

「……思わないわ。だから、勝手に来られて私の計画を無茶苦茶にされるより、自分からコンタクトを取った方が賢明だと思わないかしら?」

 

「ふむ……それがルフィ君の船に乗らない理由か。何だかんだで優しいじゃないか」

 

「勘違いしないで。もうあの船に乗るのが嫌なだけよ」

 

 

 そうだ。アイツ等が現れて麦わら一味に被害が出るのが心苦しいわけではない。ただ、乗せてもらっているのに、現れて全てを無茶苦茶にしたら後味が悪いだけだ。

 あと、普通にもう一度あの船に乗るのが嫌なのも本心だ。理由は何度も述べてる通り。

 だから優しいと言うのは間違っている。スマラは心の中でそうレイリーの言葉を否定する。口に出さないのは、何を言っても誤魔化しにしか思われないと分かっているからだ。

 

 

 

 未だにレイリーはスマラの肩を離さない。まだスマラに用がある用だ。

 話は一番初めに戻って来る。

 

 

「ここまで来たのだ。最後まで付き合ってもらおうじゃないか」

 

「断ると言っているはずだけれど?」

 

「ふむ……」

 

 

 何かを考える様に目を閉じて黙るレイリー。手を引き離そうにも緩めてはいない。

 いっそ、能力で引き剥がしてやろうか?と物騒な思考回路へと繋がり始めた頃、レイリーの口角が上がったのをスマラは見た。

 

 嫌な予感がする。現在進行形で嫌な事は起こっているが、それを遥かに超える事が起こる気がする。

 見聞色の覇気で未来視にはまだ見えてこない。しかし、確実に警報器はガンガンと鳴り響く。

 未来視で視える前にさっさとこの場から離れるべきだとスマラは決めて、レイリーの手を振りほどきにかかった。

 

 能力で相手の力関係を逆転。緩まった一瞬を使って振りほどく。

 後はこのまま全力ダッシュで逃げるの……

 

 

「ふむ……。厄介な事になったらしいな」

 

「何を言って……」

 

 

 突然の事だった。レイリーに促されるまでもなく、スマラはレイリーに尽力していた見聞色の覇気の範囲を拡大。すると、シャボンディ諸島の一角に大勢の声が集まってるのを感じ取った。

 それだけならスマラもレイリーも気にも留めない事だっただろう。が、その中心に居るのはこの島でスマラとレイリーの除くと最も強い力を感じ取れる者だった。

 現在の島の情勢を考えると候補は一人しか存在しない。

 

 

「アイツ……」

 

「この様子では何かに巻き込まれたと見る。海軍が出張っているのを見かけたぞ。ほれ、君の出番だ」

 

 

 見聞色だけでは大勢の人が戦っていることしか分からなかったが、レイリーがそう言うなら海軍が出て居るのは間違いないだろう。

 無法地帯が多く、2年前と比べて海賊の数が増えたと聞くが、直ぐ先には海軍のグランドライン第1支部がある。ただのルーキー程度が少し滞在するなら海軍側も偵察程度に留めるはずだ。白ひげの死で海賊の増加が起こり、海軍及び世界政府はそれの対応で人材不足を抱えてる。ただのルーキー程度に割く戦力はそこまで持ち合わせていない。

 しかし、偶然か運命か、現在この島では麦わら一味を名乗る海賊が百数人人もの仲間を集めていた最中だった。生死が不明な麦わら一味が2年越しに表舞台に現れて仲間を集めている。例え噂話であろうと、一定の危険度から海軍は動かざる得ない。

 例えそれが本物であろうと、偽物であろうと百数人にも規模も膨れあがるとなると、治安維持の為にも出動しなければならない。

 

 海軍と海賊。その衝突が今まさに行われていた。

 偽麦わらの一味がこれ以上は無駄だと判断し、募集で集めた海賊を集めて己を侮辱した野郎を処刑しようとした瞬間、戦力を集めていた海軍が集会に乱入。

 敵がまとまっている内に叩くとばかりに偽麦わら一味とその傘下を捕えようとしていた。

 そして、何かの因果関係か、偽麦わら一味の中に麦わらのルフィ本人が紛れ込んでいたのを、スマラは見聞色の覇気で感じ取っていた。この島でも5本指に入る覇気。人混みの中であろうとスマラが感じ取れないはずがない。

 

 

「アレ、私が対処する必要があるかしら?海軍の戦力は居ても中将が2人程度、暴君クマの模造品ロボットが数体、後は取るに足らない雑兵だけよ」

 

「ルフィ君はもとより、他の仲間たちも負けはしないだろう。しかし、多勢に無勢。数には勝てない時がある。このままだと一向に出港出来ないぞ」

 

 

 それは君も見過ごせないだろう?とレイリーは言う。全くもってその通りなので癪に触る。本人は分かって言っているから余計に気に障る。

 言葉外に「ルフィ君の危機だぞ?早く解放されたいなら海軍と事構えて来いや」簡単に言い直すとこう言っているレイリー。

 

 それを分かっているスマラは恨めしやかに睨む。黙って行動を待つレイリー。

 シュールな光景が数秒間続いた。なお、本人たちは至って真面目なのでここら一体だけ空気感が違う。ピリピリした空気が周囲の人間を遠ざける。

 もっとも、元から人が殆ど居ない場所だったので問題は無い。人通りが多い場所なら、ここはぽっかりと空いていただろう。

 

 何秒間にらみ合っていただろう。数秒かもしれないし、何分も経ったかもしれない。

 両者黙って己の意見を押し通そうとする。意見が別れたなら、力を持って己が意見を貫き通すのがこの世界。つまり、拳をぶつけて相手を打ち負かすのが手っ取り早くこの状況を終わらせる事が出来る。

 しかし、そうならないのは双方に理由がある。

 スマラはめんどくさがりで、無駄な行動は極力控える。ここでも早く離れたいが、暴力で解決するとなる相手が悪く、周囲に甚大な被害を生み出してしまう。しかし早く解放されたい。暴力に訴えて逃げに徹するか、それとも今後の付き合いや労力を考えて踏みとどまるべきか……。揺れに揺れていた。

 レイリーとしては実力行使はあまり行いたくない。隠居した身ではあるがそれで実力は健在。海軍大将と互角に戦える力を持っており、ここでスマラを叩くのは簡単だ。しかし、歳の差で押し切れない可能性もあり、現在この島で海軍が動いてるとなるとここで衝突するのはいい方向に転ばないと考える。荒事を起こすならスマラとではなく、ルフィを逃すために行うべきだ。

 

 

「いい加減に覚悟を決めたらどうかね?先の戦争で君は表舞台に戻った。世間では分からぬが、君をしる者達はそう考えるはずだ。この機に新世界に戻りなさい」

 

「貴方に言われなくても分かってるわよ。でも、私の航海図は私で決める。……の船もね」

 

「そうか……。で、いい加減終わらせてもいだろう」

 

「癪だけどそうするしか諦めてもらえそうにないのよね。…………良いわ。ほんの少し手助けを行うだけよ」

 

「あぁそれでいい」

 

 

 ようやく動く事を決めたスマラ。初めから素直に従っていたら無駄な時間を過ごさずに済んだ、とは言ってはいけない。

 殆ど無い様なものだが、何でもかんでも素直に動けば今後も押し通される。それを防ぐためでもある。

 一番なのは、もう二度と安請け合いをしない事だが、なんだかんだ言って押しに弱いスマラが果たして断れるか……。

 

 

 




次回も1年以内に投稿します。今年入ってから毎日少しずつ時間が取れてるので、場合によっては半年で行けるかも。


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六十六頁「再び元の位置に」

2カ月……頑張りました。今回は難産でした。


 

 善は急げ。

 ルフィの救援を承諾したスマラはレイリーと共に騒動が起こっているグローブに向かう。

 見聞色の覇気で状況を調べると、特出すべき反応は全部で10つ。一番大きいのは麦わら、次いで2つは麦わら一味の海賊狩りと黒足、同等なのが海軍陣営にあるので将校だろう。残りの6つの内、異質な反応は二つ。この二つが一番敵を倒しているっぽい。こうしてる間にも、有象無象ではないレベルではあるが、新世界から見たら大した事ないと分かるレベルの反応が一つ消える。残りの3つは少しだけ粘っているようだが、このままでは消えてしまうだろう。

 

 

「着く頃には終わってるかもしれないわよ」

 

「なに、大きな奴等は相手にしなくてもルフィ君が倒すだろうさ。我々は雑兵の牽制と時間稼ぎがメインだよ」

 

「それでは貴方一人で十分だわ」

 

 

 急いでいるのだが、ゆったりとしたスピードで歩きながら軽口を叩き合う二人。

 そうこう言っている間に、異質な反応が二つ消えた。交えた反応から察するに、麦わら一味が倒したのだろう。現場は本物の麦わら一味の登場に騒がしくなっている頃合いだろう。

 

 騒ぎに紛れて逃げてくれたら良いが……。

 スマラがそう思ってると、麦わら一味と思う反応が三つ、突出してこちらに向かってくるのが分かった。

 面倒だが、アレの後ろを追っている海兵の足止めがスマラの仕事。トボトボと向かうスマラ。

 

 

 

 

 

 スマラはマングローブを回り込んでいる海軍隊の相手を行うことにした。

 無法地帯、それも偽麦わら一味が大勢集合していた場所に一般人がノコノコと現れるはずがない。そう分かっていても、ぱっと見ただの軽装な女性の登場に海兵達は驚いて足を止めてしまった。

 

 

「そこの貴女!!ここは危ないので至急逃げるように!!」

 

「准将!!大変綺麗な方です!!」

 

「馬鹿野郎!!そんな事どうだっていいんだよ。しかし…何処かで」

 

 

 スマラを見て雑兵は興奮を隠せない。それでいいのか海兵と言いたいところだが、この世界には見ただけで石化させる世界一の美女も存在するので、否仕方ないのかもしれない。

 足を止めてしまった海兵たちであったが、ここは直ぐにでも麦わら一味が現れて戦場になる場所だ。行く手を阻む女性をやんわりと退かす海兵。

 

 

「お嬢さん?聞こえていますか?危ないですよ」

 

「ええ、はっきりと聞こえているわ。非常に不本意だけど此処から動かないで頂戴」

 

 

 え?と困惑する海兵たちであったがその中の一人、この部隊の指揮を任されている准将が思い当たる節を見つける。

 彼は2年前の頂上戦争に参加していた。だからか、交戦はしていないが目の前の女性をチラッとだけ見たことがある。そうだ、目の前の女性は一般人などではなく……

 

「違う!!全員構え!!奴は億越えの賞金首だ!!」

 

「え?」

 

「は、ハッ!!総員構え!!」

 

 

 准将が叫ぶと、一呼吸おいて一部隊が総員マスケット銃を構えた。呆けてた割には行動が早い。それだけで偉大なる航路、それも本部に近しい場所に配属されている海兵だと伺える。

 対してスマラは銃を向けられても特に行動は起こさなかった。否、起こす必要はない。

 意識一つでただの銃弾など無力に出来るからだ。流石に海楼石の弾には気を付けなければならないが、海楼石の加工はワノ国の技術。そうやすやすと使用出来る弾ではない。

 

 通常の弾ならこの通り、スマラの肌に触れる前に方向性を弄って反射する。跳ね返った銃弾に部隊は少なくない被害を受けた。

 しかし、それだけで諦める程海兵たちも弱くはない。一定の階級持ちが肉弾戦を仕掛ける。

 

 

「クソッ!!これなら!!」

 

「数名で囲めば流石の彼女でも……ッ!!」

 

「悪く思うなよ!!」

 

 

 セリフだけを見たらただのチンピラである。が、実際は清く正しい(かは人によるが)海兵。悪を討ち滅ぶさんと燃える海軍准将以下数名だ。

 並みの海賊なら苦戦するか負けてしまう。億越えでも苦戦は強いられる階級持ち数名のよる猛攻だ。中には六式の一部を使用する者もいた。

 億越えでも苦戦を強いられる連携。しかし、億を少し超えた程度の実力しか身に着けていない海賊相手ならば、と言う但し書きが付く。

 

 棒立ち状態でやる気がなさそうにしているスマラに海兵が突っ込む。剃を使っているのか、消えるようなスピードだ。

 スマラの頭に向かって拳を振り上げる。が、見聞色の覇気で予測していたスマラは一歩後退するだけでスルリと回避した。その先に二人目の海兵が剣を振りかぶっているが……武装色の覇気を纏わせた片腕で剣を掴むスマラ。そのまま力を込めて折る。からの、回し蹴りをして三人目の海兵を二人目と同時に処理。左右から挟み撃ちしてくるのを片腕で受け止め、筋力だけで地面に埋める。

 ここまで僅か10秒程度。能力は一切使用しておらず、純粋な格闘のみで圧倒。上官が何人も手も足も出ずにやられた事で尻すぼみする海兵隊。

 

 と、そこにようやくルフィ達が現れた。

 

 

「あー!!どこ行ってたんだよスマラ!!?」

 

「うぉぉ~~~!!スマラさん~~~久しぶり~~」

 

「んなぁ、アイツ…………」

 

 

 自分から進んで迷子になって行ったというのに、スマラの方を迷子扱いしているルフィ。

 目をハートにし足で不思議なステップを踏みながら再開を大袈裟に喜んでいるのがサンジ。

 ゾロだけは、最後の別れが別れなだけあって、いい顔はしていない。むしろ敵対心を持っているだろう。

 

 スマラはチラッと横目で確認すると、さっさと出港しちまえの意味を込めて残りの敵の処理にかかった。数名の将校をあしらったが、気絶させたわけではないのでその内に起き上がって来るだろう。

 スラマに特攻しなかった将校もまだ残っており、彼らが部隊を鼓舞して指揮を執っているため、まだ安全とは言えない。

 私が注意を引き受けている間に先に進め。そう言う意味を込めて視線を送った後、残っている海兵の方へと向いたのだが……。

 

 

 にゅい~~~ん。ガシ。

 

 

 ルフィの伸びた腕がスマラの肩を掴んだ。あれ?既視感がある気が……と、惚けていると、伸びた腕に引っ張られてスマラは宙を舞った。

 そのまま引っ張られるスマラ。ルフィは伸びた腕を戻しても手は離さない。どころか、逃げ内容にはグルグル巻きにしてスマラを抱えて走り出す。

 

 

「よしっ!!走れ~!!」

 

 

 ルフィの号令でサンジとゾロも走る。が、二人から文句が出てくる。

 

 

「オイ、ルフィ!!そいつは一度裏切ってる。また船に乗せるとか本気かよッ!?」

 

「大丈夫だ。スマラは戦争で俺を助けてくれたんだ。修行もしてくれたし、良い奴なのは変わりないぞ」

 

「そうだぞクソ剣士。スマラさんは事情があって舟を降りたんだ。分かったらテメェが降りろ」

 

「あ”ぁ!?」

 

「しかしルフィ。いつまでスマラさんを掴んでやがる!!さっさと降ろして俺に代わりやがれ!」

 

 

 2年前からずっとスマラを警戒していたゾロは、ウォーターセブンで一味の前から消えて世界政府に付いて行った事からもう一度船に乗せることに難儀を示す。

 サンジはルフィが綺麗な女性を雑に運んでいる事に怒る。相変わらずの紳士であり、ウォーターセブンであった事は水に流してる模様。

 そんな2人にルフィの答えは……。

 

 

「嫌だ。俺はコイツを船に乗せてぇし、こうでもしねぇと逃げるんだよ」

 

「逃げるんなら逃がしとけば良いものの……。何考えてるのか分からねぇ奴ほど危険な奴は居ねぇぞ」

 

「っんな事どうだっていいんだよ!!良いから代われ!!」

 

 

 言い合いをしながら逃げる三人。スマラは口を挟めないでいた。

 ここで拘束を外す事は出来なくもないが、力技ではかなり難しい状況だ。ゴムゴムの実の能力を活かして、腕を伸ばしてスマラの身体にグルグル巻きにしてると、単に押しのけただけでは外れそうもない。

 力で押しのけようにも、2年間の修行でルフィは素のスマラにも負けない筋力を手に入れていた為、簡単な力押しでは外すのは時間がかかる上に、ルフィに気づかれて更にきつく締められてしまうだろう。

 生憎だが、この様な状況下ではスマラの能力はあまり発揮出来ない。摩擦力を弄って抜け出すことも出来なくはないが、かなり集中力が必要だ。

 つまり、要するにだ。何が言いたいかと言うと「単純にめんどくさいからこのままで良いや」と言う問題の先送りであった。こう言った事が後々余計に厄介事を引き起こすと、未だに学習しないスマラだった。本人の能力故、どうとでもなると過信がそれを起こす。

 

 

 

 ボケーと成り行きを見守るスマラ。

 再び海兵が追い付き征く手を阻むが、ネガティブを操る女性、巨大昆虫を引き連れた植物学者、人口空島の天候化学者、見るに堪えないオカマが麦わら一味の逃走を援護する。

 終いには、チョッパーが仲良くなった巨大鳥に乗って迎えに来た。空路でサニー号に辿り着き、麦わら一味が2年ぶりに全員集合する。

 そして……

 

 

「よし、野郎ども。ずっと話したかった事が山ほどあるんだけど、とりあえず2年間おれのワガママに付き合ってくれてありがとう!! 出港だぁ!!」

 

 ルフィの号令で船は海面下へと沈んで行く。船底に取り付けられた浮袋を外した結果、コーティングされた船は自らの重りに耐え兼ねて沈むのだ。

 海の中で帆を張り、風の代わりに海流を受けて方向転換をしながら魚人のある海底1万メートルを目指す旅は始まった。

 

 

 

 

 

「で、あんたいつまでソイツを抱えてんの?」

 

「げぇーー何でソイツまで連れて着ちまったんだよ~~」

 

「ん?どっかで見た姉ちゃんだが……」

 

「今すぐ地上に戻ってくれ~~。ここじゃあ逃げ場がねぇぞ~!?」

 

「わぁー物凄い美人さん。パンツ見せて貰ってもよろしいでしょうか?」

 

「アホかぁ!!貴様何ぞには見させるか。俺が見る」

 

「アホコック。…いい加減捨てて来いよルフィ」

 

「船がバラバラにならなければ良いけど……」

 

 

 麦わら一味の視線を集め、言いたい放題に言われたスマラは呆れながら能力でルフィの拘束から抜け出した。

 

「酷い言われようだわ……」

 

「あッ……」

 

 

 気持ちは針の筵。となるのが普通の人だが、図太……否、他人からの評価や視線を基本的には気にしない、気にならないスマラは甲板の手すりにもたれ掛かった。

 

 

「で、船まで勝手に許可なく連れて来てどういうつもり?」

 

「どういうつもりも何も、お前は俺の仲間じゃねぇか」

 

「私はこの船の食客扱いで、好きな時に降りていい話だったはずだけれど?」

 

「そんなもん、俺は認めてねぇぞ!!」

 

「一方的感情……いえ、それを言うなら私の行動も一歩的な感情の末だったわね。でも、貴方がまたよろしくしたいと思っていても、お仲間さん達の意見は無視?私を拒否してるのが殆どでしょうが?」

 

 

 幾ら船長とは言え、船員の意見を無視して押し通すのは難しい。余程船長のワンマン海賊か、船長に絶大な信頼が無ければなおさらだ。

 スマラが一人我儘を言っているルフィに周囲を見渡す様に言う。麦わら一味の意見は反対が多いが、少なからず反対してない者もいる。主にスマラが麦わら一味の船を下船した後、一味に入ったサイボーグの船大工フランキーと骸骨音楽家ブルックの二名だ。

 ウソップとチョッパーは甲板の逆方向に行くまで怯え、サンジとゾロは何時も通りの喧嘩に発展し。ナミとロビンは言葉で普通の態度を取っているが内心では警戒していた。

 

 

「お前ら……スマラはいい奴だから心配すんなって。2年前は手も足も出なかったけど、修行で鍛えたから大丈夫だ」

 

「「「そういう話か!!?」」」

 

「でも降ろすにしてもどうするの?船は海底に向けて航海中よ?今更地上に戻れる?」

 

「いや、一度浮き袋を外した船は戻れねェ。レイリーのおっさんがそう言ってったはずだ」

 

 ロビンがスマラを船から降ろす為に戻る提案をするが、レイリーからシャボンコーティングの説明を受けたフランキーが無理だと断言する。

 頭を捻っていたナミはこれ以上の方法が無いと判断すると、スマラとルフィに指差しで航海士として、一船員としての判断を提示した。

 

 

「流石のあんたでも、海中に出たら生きていけないでしょ?」

 

「……そうなるわね」

 

 

 能力を使えば何とかなる可能性がある、と言う言葉を押し込んでスマラは頷いた。ナミの言う通り、海中に放り出されると生きるのは難しい。

 

 

「私としては急に消えたあんたに言いたいことが無いわけじゃないわ。でも、元々船に乗っていたのはルフィが無理矢理留めていたからであって、いつでも自由に降りる時は降りると宣言していた。だから割りきることにする」

 

「えぇ。確かにそうだわ。物分かりが良くて助かるわ」

 

「ここからは現在の話よ。未来じゃなくてね。一先ず、私たちが魚人島を出港して新世界に辿り着くまでは船に乗せていても良いんじゃないかと思うけど……」

 

 

 自分の意見を述べて、ナミは麦わら一味の顔ぶれを見渡した。接点の無いフランキーとブルックは「それで良いじゃないか?」と元々通り肯定。ルフィとサンジはナミからの提案に嬉しそうに頷く。

 これで過半数の賛成を得た。残るは超絶ビビりまくっているウソップとチョッパー。警戒を崩さないゾロとロビン。

 一向に埒が明かないと悟ったゾロは、切り詰めていた息を吐き出す様に深く吐き捨てると刀を一本、鞘から抜いてスマラに突きつける。

 

 

「納得はしてねぇが、船長が言うなら仕方ねぇ。変な真似しやがったら即斬ってやる」

 

「そう言えば黙って船を降りた以外、特に害は無かったわね彼女。戦争ではルフィもお世話になったみたいだから、良いんじゃないかしら?」

 

 

 ゾロに引き続きロビンも考えを緩めて承諾する。こうなるとウソップとチョッパーも怖がりながらも承諾し、満場一致でスマラの乗船が認められた。

 まさかこうなるとは思わず、スマラは呆れて何も言えない。個人的にはこのまま水中に流される事を想定していた。

 ちょっとこの一味甘すぎではないかしら?一度政府側に着いた人間をこうも簡単に船に乗せるとは……。

 

 

 

 もうそれぞれが各々の行動を取っている。ルフィとゾロは魚を捕ろうとしてウソップとチョッパーに殴り倒され、サンジは大量の鼻血で水中へと飛び出した。

 問題児たちが再び暴れ出す前にナミはコーティング戦の注意事項を説明し、フランキーが船を守った男について語る。

 人数は増えようと、スマラがメリー号に乗っていた時の日常があった。1分前まではあんなにもピリピリしていたのにだ。

 

 

(2年前とまるで変わっていない。……いや、2年間で成長したと言う自信の現れ?確かに、修行で進化した一味が総力で襲いかかったら私でも…………)

 

 

 そこで考えるのを辞めた。これ以上は考えても意味のないことだ。余程の事が起きない限り、麦わら一味全員を相手取る事は無いだろうと言う予想でもあった。

 スマラは2年前と同じように船内に入って行く。初めて入る船故に目的地は決まっていないが、何処か静かな場所を探したい。勿論、そこで読書に更ける為だ。

 魚人島への到達率3割。これまでの航海でも屈指の難易度だが、麦わら一味なら無事に航海出来ると思っていた。なんなら、失敗しても自分が生き残るだけならどうとでもなる。自分の安全を心配していないからこそ、こんな超新星の海賊団と同行出来るのだった。

 

 サウザンド・サニー号は潜っていく。目指すは深海1万メートル。楽園と新世界を繋ぐ航路だ。偉大なる航路の本番レースまでもう目前。

 その先に何が待っているかは、世界中の誰にも知らない。




次回も同じくらい期間が空きます。……予定が詰まって書けない日が何日も続かなければですが…。


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六十七話「魚人島で本屋巡り」

少し早いですが出来上がりました。


 海底1万メートルに位置する魚人島への航海は安定とは言えずに進む。

 カリブーと言う今年のルーキー海賊の船がサニー号に接近して、船長のカリブーだけを置いて逃げたり。

 深層海流に乗るために巨大な滝にも思える場所で伝説の巨大水怪生物クラーケンと一戦交えたり、深海でアンコウの罠に引っ掛かりフライングダッチマン号と大入道に襲われかけ、海底火山から逃げたり……。

 語るには数行では足りない程の苦難を麦わら一味は乗り越えて行った。

 

 スマラ?彼女は船の最後尾に位置する円形の部屋、測量室兼図書室にて優雅に寛いでいた。

 ナミが毎日付けている航海日誌やルフィ以外の船員が持ち込んだ本を勝手に引っ張り出しては読み漁っていた。

 海は想像以上に広い。数十年と海を流離っても未だに見たことのない本に出会う。未読の本をチェックし、麦わら一味の船に乗る楽しみを見つけた。

 

 

 

 鼻歌を奏でつつ読書を行い、海底1万メートルへの旅を測量室から出ることなく過ごす。

 しかし、数度目の揺れ……否、揺れと言うより360度回転しながら落下して行くと、流石のスマラでも本を閉じた。

 グルグル回る船内。壁に引っ付いている棚を掴むことでスマラは振り回されてしまう事を回避。

 

 数分…数十分船は落下しただろうか?揺れに耐えていると、薄暗かった船内が明るくなっていく。そして数分後、太陽の下と間違える様な程明るい日差しが窓から差し込むと……少し経って軽い衝撃がサニー号を襲った。

 その後は船が動いている気配が感じられない。窓から外を覗き込むと、見えたのは日光に照らされた地面。否、宝樹イブの光に照らされた海底の砂浜。

 船が大破したわけでもなく、船員を失ったわけでもない。砂浜から視点を上げるとこそには、大型の海王類と比べてもまだ巨大に見える程大きい過ぎる根っ子の間にシャボンに包まれた島が見えた。

 

 あの幻想的な島こそが魚人島。偉大なる航路の楽園と新世界の狭間にある海底の楽園だ。

 

 

 

 魚人島は海上の島と違っておいそれと行き来が出来ない場所にある。舟をコーティングして、約3割しか生き残れない死の海中を潜って航海しなければたどり着く事が出来ない。その確率はどんな大海賊、何度も航海している海賊でも同じだ。

 

 スマラも昔、一度だけ魚人島に上陸した事があった。もう何十年も昔、大航海時代以前の話だ。

 何十年も前となると、景色は少なからず変わる。古い記憶なので美化される場合もあるし、朧気故に現在の方が美しく見えたり……。

 心なしか、早く魚人島に行きたかった。

 

 

 

 

 程なくして船は魚人島に向けて進み始めた。しかし、魚人島に入る前に数十体もの海獣に行く手を阻まれてしまう。現在魚人島に入ろうとする海賊を捕まえて隷属させている新魚人海賊団だ。

 彼らは麦わら一味に隷属を求めるが、船長であるルフィはそれを拒否。クー・ド・バーストと呼ばれる空気を使った移動法を用いて一気に魚人島に上陸した。

 

 当然、船内に居たスマラには溜まったものではない。この揺れではゆったりと読書も出来やしない。パタンと閉じて揺れが収まるまで待機する。

 

 

 数分後、ドスンッと大きな揺れと音を立てて何処かに漂着した。再び窓の外を覗くとサンゴの森が広がっていた。

 ここは魚人島南東の海の森。潮の流れの関係上、操作性を失った船は殆どここに流される。通称船の墓場。

 そんな場所にサウンド・サニー号は座礁していた。

 

 揺れが納まり、船が何処かに止まったと確信したスマラはゆっらりと船を降りた。肩には容量を弄っているポーチが一つぶら下っている。

 

 

「クジラ…サンゴ。人里からは離れてるみたいね。さて…ここからどう動くべきか」

 

 

 誰も居ないので独り言が漏れる。言葉は誰にも聞かれる……という事もなく空に消えた。

 2年前と同じだ。島に着いたらスマラは勝手に散策する。麦わら一味の出航に間に合わなければこのままお別れ。誰かについて行くでもなく、監視されるわけでもない。船に乗せてもらっているだけの関係。

 しかし、魚人島では話が違う。これまでなら移動手段の船は幾らでもあった。しかし、魚人島から地上に出る船はほぼ存在しない。

 つい200年ほど前まで差別を受けていた魚人島に向かう客船は皆無。地上ルートが通れない関係で海賊船は通るが、麦わら一味の様に気前のいい連中はほぼいない。それの上、海中の航路は新世界の海と同等以上に危険な航路だ。運良く他の船に乗れたとしても、麦わら一味の航海士には到底及ばないであろう。

 つまるところこれまでの島とは違い、この魚人島を確実に出航する船は麦わら一味の船しかないのである。よって、かなり慎重に行動しなければならない。幸い魚人島はそこまで大きくない為、スマラの足ならどこにいても1時間もかからずに戻って来れる。さらに言えば、入国時はハプニングがあったが出航する時は必ず国の正面入口から出るはずだ。

 魚人島の正面入口は島の橋にあり、海の森からは大分離れている。普通の島の様に外周を回って移動できない構造上、シャボンを使って空を移動するしかない。

 よって、空を確認続けていれば見逃す事はないだろう。懸念事項としては、読書に夢中になり過ぎて見過ごすと言う事だが……。新たな本の探索だけにして、読書は船に戻ってから行う様に気を付ければ問題なかろう。

 試し読みがガチ読書にならないように。腰を据えてリラックスタイムに移行するのは船に戻ってから。ここで置いてい行かれても絶望的な状況にはならないが、地上に戻れるだけの運と実力、そして己を乗せてくれる船を探す方が非常にめんどくさい。だから、絶対に本の世界に飛び込まない様に注意しなくては……。

 スマラは何度も何度も自分に言い聞かせる。ここまで自分を縛るのは何時ぶりだろうか?割と最近もあった様な気がしなくもない……。

 

 

 スマラは自己暗示にも等しい今回の目標と厳重事項を決めると、行動を開始する事にした。

 とりあえず、ふらふらと辺りの散策だ。街に向かうのが一番なのだが、現在地と目的地の位置が不明のため、最短ルートは通れない。

 月歩を使い、空から街を目指すという手も取れるのだが、人や時間に追われていないにも拘らずその様な体力を消耗する様な事はしない。要はめんどくさいのだ。

 非常事態に備えて体力の消耗を抑えるのは基本だ。数日以上慣れしんだセーフティーゾーンや、全くもって不愉快極まりないが自宅などなら襲撃の心配を恐れないでいれる。もっとも、襲撃の心配が無いと言っても最低限の体力は残しておくものだし、その時はその時でも能力や無駄な体力の消耗はしないだろう。

 

 言い訳はこのくらいにしておこう。

 

 

 

 勘のままにふらふらと。目的地を定めずに歩く。サンゴの森は塗装された石畳を歩く訳とは違い、山道を歩く様に凸凹で見た目以上に体力を奪っていく。

 そんな道をものともせずに歩くスマラ。彼女の足腰ならどんな困難な道も、道すらない場所でも変わらない。

 

 歩く事数分後。スマラの歩みが止まった。彼女は目を開き、言葉が出てこない様子で固まっている。驚きの表情だが、スマラがここまで感情と表情を露わにするのも珍しい。

 そう、スマラの目の前には正方形の巨大な石があった。表面には考古学者でも一握りの者しか読み解けず、現在解読可能なのはただ一人と言っても良い文字が刻まれていた。

 『歴史の本文』そう呼ばれる、何が起こっても壊れない石に刻まれた歴史書だ。これまでの放浪で数個見つけており、最近では空島での発見が挙げられている。

 

 魚人島の外れにそんなものがあるとは……。

 

 魚人島はその名の通り魚人と人魚が暮らす島だ。人間の住民は殆ど居ないと言っても良い。人間が居ないと言う事は、政府の目から逃れやすいと言う訳だ。

 政府が更にして捜し、監視している歴史の本文が人間の手が伸びていない島にあってもおかしくない。

 しかしそうなると、何故魚人島に存在しているのか?元からあった鉱石を加工したのか、それとも何かの意図がある運んだのか……。また、加工方法すら判明していないのだから、謎の塊だ。魚人島無いとは言い切れないが、まさか本当にあったとは……。

 

 驚きしつつも、内容をコピーするのを忘れない。これには歴史的な価値以外にも利用価値がある。スマラとしては、知らない歴史を知りたいと言う気持ちもあるが、これを欲しがっている者への土産でもある。

 わざわざ捜し歩いたりはしない。しかし、目の前にあったら飛びつく程度の価値はあるものだ。

 

 コピーと言う名の写しが終わると、スマラは用は済んだとばかりに逆方向へ向かう。

 この先には何もなさそうだから……と言う安直な考えではなく、歴史の本文と言う非常に価値の高い物が街の近くにあるとは考え難い。海の森が島の端だとすれば、歴史の本文があったのは更に端。従って、逆方向に向かえば人里があると考えた。

 もっとも、魚人島はシャボンに覆われている島なのでその中心に向かえば良いだけの事。これだけの島なのだから、島の中央が栄えてないはずがない。例外はあるが、それは特殊な地形や理由あってのこそ。

 魚人島は魚人が住み始めたから栄えた島だ。わざわざ住み難い場所を選ぶはずがない。

 

 

 

 歩く事数十分。海の森を抜けた。まだまだ人は見えないが、人工的な加工を感じられる物を発見したことから、この先に人里があるのは間違っていなかった。

 更にもう少し歩くとバス停らしきものを発見。これは幸いと待合用の椅子に座って読書を再開。経った数十分の行動にも嫌気がさしていた頃だったので、スマラは物凄く癒されていた。

 

 やはり読書こそが祝福の時間だ。現実の面倒なしがらみや関係を一切捨て去れる。物語の中は物語の中だけで完結していて、ハッピーエンド、バッドエンド、トゥルーエンド、ビターエンド、鬱エンド、メリーバッドエンド、打ち切りエンド、グッドエンド、ベストエンド、デッドエンド、ワーストエンド、メリーバッドエンド、ノーマルエンド、ハーレムエンド、バウムクーヘンエンド、世界再編成エンド、アナザーエンド、パラレルエンド。物語の数だけの終わりがあり、同じ物語でも違うエンディングがある場合もある。

 その時の気分で好きな物語を読み感傷に浸る。偶然も必然も、運命も計画された妨害も存在しない。確定された物語は最高だ。

 

 バスを降りると人里だった。さて、どこに本屋はあるか…。

 読書を続けながら、店の看板をチラ見しつつ街を散策する。

 何だか街中が騒がしい気もするが、スマラには関係ない。それよりも本屋だ。魚人島にも執筆者はいるのだろうか?魚人目線の物語でも伝記でも歴史書でも何でもいい。新しい観方で楽しめるならなんだって良い。

 だから……騒ぎを起こさないで貰いたい。麦わらの一味。

 

 既に遅かった。聞き耳を立てる程の事ではないが、何らかの騒ぎが起こっていた。十中八九麦わら一味が関わっているのだろうと、スマラは軽率に判断する。

 しかし、騒ぎが起こっていると言っても店が閉まる程の事ではない。第六感で書店を探し出すと、さっそく入店。そのまま背表紙を眺めて、気になったタイトルの本を捲ってく。

 

 サニー号を降りた時の取り決めを守って試し読みはあくまでも試し読み。初めの数ページだけ流し読みして、覚えのない内容かつ気に入ったら買い物かごに入れていく。

 深海にある魚人の楽園とはいえ、地上と貿易を行っていないわけではない。だからか、見たことのある発行部数の多い人気本、汎用的な教本なども目に付いた。が、何と言っても地上ではお目にかかれない本が目的だ。名前では人間か魚人かは判明できない。となれば、片っ端から見たことのない本を開いて確認するのみ。

 前書きや後書き、執筆者紹介文で判明出来ればヨシ。分からなくても、気に入った本ならそのままお買い上げコースだ。

 一つの狭い島だが、複数の町が存在している魚人島。当然、本を取り扱っている店は島に一つな訳がない。空を気にしつつも一軒一軒巡り戦利品を獲得していく。

 

 

 

 数件の店を回った頃。時間にしたら、魚人島に到着から数時間後。

 急に町中が騒がしくなっていく。移動する為に歩いていると、原因の物が視界に入ってくる。

 映像をモニターに写す機能を搭載した電伝虫だ。モニターには凶悪そうな人相をした魚人が写っている。

 本屋を探す片手間に放送の内容に耳を傾けた。

 

 彼の名は「ホーディ・ジョーンズ」新魚人海賊団の船長だそうだ。

 魚人海賊団と聞いたスマラは名前の頭に『新』と付けているのに疑問を持った。魚人海賊団と言えば、元王下七武海のジンベエが船長を勤めている海賊団だ。2年前の戦争で立場が変わったはずだが、それに伴い新たな勢力でも生まれたのだろうか?

 スマラが2年前の戦争で会ったジンベエの事を思い返している間も、ホーディの放送は続いて行く。本屋を捜すのを辞めず、歩きながら聞いてていると、クーデターを起こそうとしていると判明した。

 偶々立ち寄った航路の途中でクーデター。なんて運の無い一味なんだ。スマラが乗船している間だけでも、全ての島々でイベントが起こっている。そういう星に産まれたのか、それとも単なる偶然なのか。偶然にしては出来過ぎている気もするが、スマラはそれ以上考えるのを辞めた。

 ホーディの話は続く。竜宮城を占拠し、現国王のネプチューンの処刑。国盗りは大詰めに入っていた。さらに、麦わら一味の数名を捕えており、これを機に新魚人海賊団が地上への見せしめにするらしい。

 

 ホーディの演説が終わる。どうやらクーデター以外にも、麦わら一味にも喧嘩を売ったようだ。麦わら一味を仕留めて、地上に警告を発すると。

 

 正直に言って片腹痛い。麦わら一味程度を仕留めただけで警告になるとでも?高々少人数ルーキーで、世間に注目を浴びている海賊なだけ。

 新魚人海賊団の戦力がどの程度が分からないが、麦わら一味程度に負けるならそれまで。打ち取れても、他の海賊からすればライバルが一つ減っただけ。海軍や世界政府、一般市民からすれば海賊を討ち取ってくれて「ありがとう」だ。

 さらに言えば、新魚人海賊団がどの程度か現状図れる尺度が存在すしないため分からないが、深海に潜っていた物が新世界に入って通用するとは思えない。見た目と自信が伺える様子、それに本気ではないかも知れない上に水中と言うアドバンテージがあったかも知れないが、麦わら一味のナンバー2であるロロノア・ゾロを筆頭に3名捕えていることから、ある程度の実力を保有していると考えるのが妥当だろう。

 が、そこまで。新世界の怪物たちには絶対に敵わない。意図的ならお手上げになるが、見聞色の覇気で探っても、精々ルーキーに毛が生えた程度の気迫しか感じられない。なら覇王色すら持っていないだろう。

 新世界では覇気の習得は常識。覇王色の覇気だって所有者はごろごろ存在している。最低でも、覇気の一段階上まで覚醒させてから、ようやく権利があると言ってもいい。

 

 見た目で判断するのは愚者のやる行為だが、見た目以前に覇気の強さが全くない。スマラはホーディの未来を想像しながら街を散策し直す。

 ホーディが待つ未来は、此処で麦わら一味に叩き潰されるか、新世界に躍り出て四皇の顔も拝めずに叩き潰されるのどちらか。

 もっとも、どちらであってもスマラには関係の無い話だ。

 

 だから、本屋巡りを再開したのだった。




次回も同じくらいお待ちください。


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六十八頁「四皇の魔の手」

最近ワンピースの二次作が盛り上がっていますが、コミック派なのでネタバレが怖くて読めないです。
こちらの作品は安心安全のコミック基準で執筆しております。


 ホーディのクーデター宣言の放送があったものの、スマラはそんなモノ無視して本屋巡りを再開した。

 街中では若干パニックが起こっている模様。道に人が多く、スマラのイライラが募る。先ほどまではそうでもなかった道も、先ほどの放送で人が大勢溢れかえっている。放送を聞くためと、その放送の内容が内容だからだろう。

 

 魚風情が私の観光を邪魔して……。

 

 ホーディに対する怒りが湧き上がるが、ここで動くのは得策ではないとグッと堪える。

 感情に流されて行動する様な人間ではない。理性的にだ。ほんの少しの感情で動いた結果、非常にめんどくさい厄介事を招き入れる事を身をもって知っている。

 些細な行動が、後の自分の首を締めていくのだ。

 

 こんな時は読書に限る。

 放送の件で人が大勢溢れかえっているが、読書でもしてリラックスしなければこのイライラは収まる事は無いだろう。

 目立つ上に、見聞色の覇気を多用し、座って読むよりも気が散って内容に没頭出来ないが、それでも視線を前に向けるよりはマシだろう。

 それに、早速新しく買ったばかりの本を読みたい気持ちもある。

 

 スマラは新品の本を取り出して歩き読書を始めた。人混みは見聞色の覇気を使って避ける。世界一位下らない事で見聞色を使うスマラであった。

 

 

 

 

 

 こうして数十分の時が経った。広い島でもないので、数十分も歩けば街から街へと移動が出来る。

 子供の足や、目的も無くふらふらと歩くなら難しいかもしれないがスマラは大の大人であり、一般的な女性にしては高身長にはいる背丈を誇っている。更に血筋故に体力だって一般的な男性を遥かに凌駕し、世界トップクラスの身体能力すら持っている。

 そんなスマラにかかれば、歩きながら読書している不安定な状態でもかなりの速度で歩く事が可能だ。

 隣街に移動するまでそう時間はかからなかった。

 

 街を移動しても人混みは消えない。むしろ人数は増えて行っているようにも思える。

 チラッと顔を上げて周囲の状況を見ると、不規則に見えた人も規則に則って並んでいるようにも思えた。

 まるで検問……とは違う。何かを確認しているのは確かだろう。

 

 疑問に思ったスマラは自然な歩きを装って集団の側を通り過ぎる。

 見えたのは何かを耐え忍びながら『ある写真』を踏んでいる魚人や人魚だった。

 

 スマラには見覚えが無く誰だか分からないが、魚人島の住民なら子供以外誰もが知っている存在。10年前に銃殺で亡くなったオトヒメ王妃だ。

 新魚人海賊団が目指すのは魚人(人魚)主義の世界。2年前に東の海で帝国を築き上げようとしていたアーロン一味も魚人主義だが、彼らと違う所は人間に友好的な者にも容赦しない所だろう。

 人間との友好を結ぼうとする一派の第一者こそがオトヒメ王妃。既に亡くなったが、王族というだけでなく魚人島の者に慕われているからこそ、彼女が亡くなった後もこうして人間と手を結ぼうと動いていた。

 そんな者を許さないのが新魚人海賊団。こうしてオトヒメ王妃の写真を踏む事で人間に友好的な感情を向けていない、と判別させているのだ。

 

 つまり、街中の人が外で出て集まっている。混乱はすでに国中で発生しており、全ての事が通常営業には程遠い。

 本屋は営業していないだろうと言う事だ。

 

 どうするか?営業していないのなら、この島に用意は無い。

 営業開始を待とうにも、このクーデターが何時治まるかも予想できない。治まらず、このまま魚人島のが新魚人海賊団の統治下に置かれる可能性は考えない。麦わら一味に喧嘩を売った時点で彼らのクーデターは失敗に終わるのは確定している。

 問題はやはり、どのくらいの時間で通常営業に戻るかどうかだ。

 

 

 よし、サウザンド・サニー号に戻ろう。

 これがスマラが出した答えだった。

 いつ終わるかも分からないクーデターの終わりを待つより、サッサと船に戻って読書の続きを堪能した方が有意義な時間の使い方と言うものだ。

 決まればスマラの行動は早い。

 くるっと来た道を振り返り、サニー号が座礁している海の森の方面へと足を向ける。

 

「え……」

 

 と、振り返ってタイミングで見えたある海賊旗に、スマラは言葉が漏れた。

 思考停止。

 たっぷりと数分の時を使ってスマラは復帰した。

 そこからは思考の海に潜り込む。

 

 何故?どうしてあのマークが魚人島に?

 ロジャーの処刑以降、此処は白ひげのナワバリだったはずで……。

 いえ、白ひげは死んだ。白ひげの名は効力を失い、黒髭に四皇の座からも引きずり降ろされたはず。

 となれば、魚人島が新たな庇護者を求めたのも頷ける。

 

 

 

「ねえ、一つ尋ねてもいいかしら?」

「は、はいッ」

 

 スマラは確認を行うべく、通りかった男性の魚人に声を掛ける。

 見知らぬ他人に物を尋ねられて、不快になる者は少なくともめんどくさいと思う人が多いだろう。が、スマラが持ち合わせている美貌がそれを許さない。

 スベスベの実を食べたアルビダや世界一位の美女と名高いメロメロの実を食べた海賊女帝ハンコックのように、異性どころか同性すら引き付けてしまうような過剰な魅力は無い。しかし、過剰な美貌はないにしても、一般人では届き得ない美の持ち主である事は確かだ。街一番の美女と比べても見劣りしない。

 自らお洒落に気遣ったりはしないが、自分の身体特徴は自分が一番分かっている。皮肉にも血筋が作用している点だけが頂けないが、使えるものは何でも使う。

 目が肥えてる王侯貴族でもない限り、スマラ程の美女に声をかけられて嬉しくない人は多くない。故に、多少の煩いには目を瞑って質問に答えるのだ。可能性は低くても、お近づきになるために。それが男だ。種族は関係ない。

 

「あの海賊旗は?此処は白ひげの島でしょう?」

「あぁ、2年前の戦争は知ってるよな?その戦争で白ひげの名は効力を失った。だから島を守る為に新しくビッグ・マムの旗を借りたのさ」

「……どうしてビッグ・マムに?」

「ビジネスの話しさ。ビッグ・マムは魚人島のお菓子を大層気にいったらしくてさ。毎月それを納品する代わりに海賊旗を借りるんだ」

 

 白ひげとは違った関係性を築いている魚人島。しかし、たったそれだけの関係性でも効果は絶大だ。魚人島を襲撃し、島を……厳密に言うならお菓子工房とその納期を遅らせることがあれば、ビッグ・マム海賊団は必ず襲撃者に報いを受けさせるだろう。

 しかし、となればこの状況は非常に不味い。

 

「そう、ありがとう。……それと一つ忠告だけど、ビッグ・マムとは縁を切った方が良いわよ」

「はぁ?おいおい、新世界では四皇の庇護下に入るのが得策だ。それくらいお嬢さんでも理解できるよなぁ?」

「海峡のジンベエはどうしたの?」

「ジンベエの親分さんは戦争の一件で王下七武海を追われて島に入ることが出来なくなったんだ。代わりにビッグマムと盃を交わして島を守ってくれてる訳だが……」

「なるほど。ありがとう」

 

 それじゃあ、と言い残してスマラは立ち去った。男の方は「この後お茶でも…」と言いかけていたが、それを無視する。分かってはいたが撃沈に合唱。

 歩きながらスマラは情報を整理する事にした。

 

 2年前の戦争により魚人島は白ひげの庇護を失った。故にジンベエが盃を交わす事で新たな庇護者としてビッグ・マムの旗を掲げる事が出来た。

 海賊が新世界へ向かう航路には魚人島は必ずしも避けられない島だ。故に庇護が無くなれば、海賊王の処刑から白ひげがナワバリにするまでの期間、絶えず海賊や人攫いが現れては人魚を攫っていたと聞く。

 白ひげな亡くなった2年前に同じ状況に陥り、四皇に接触する事になったのだろう。四皇にすがるなら、赤髪にすれば良いものを……とスマラは歯ぎしりした。

 黒髭は白ひげの後釜として四皇の位置付けにいるが、戦争が終わった直後は最悪の世代の一人だった。時期的に不可能だ。

 百獣のカイドウはナワバリにした島を武器工場などにして支配していると情報がある。魚人島の島民を守りたい立場からすれば有り得ない。

 赤髪のシャンクスなら、他の四皇と違いナワバリにした島に過度な負担を強いる事は無いだろう。白ひげに一番近い感性を持った四皇とも言える。

 ビッグ・マムはナワバリの広さ、兵の質に量共に平均的で、ナワバリに対する評価は四皇……海賊として普通だろう。赤髪の様に寛容であるわけでもなく、カイドウの様に島民を奴隷にする訳でもない。ビジネスとして最低限の取引条件さえ守ればなにもされない。

 がしかし、この最低限の取引が問題なのだ。取引内容は殆どが島で生産されているお菓子、又はお菓子の原材料の献上。それだけなら何の問題もない取引だが、膨大な量とむりゃぶりな納期。島のトラブルなんちゃ知ったこっちゃない。

 

 この調子なら確実に納期に遅れる。奉納したばかりなら問題は最小限に抑えられるかもしれないが、納期寸前なら終わる。

 文字通り終わりだ。

 麦わら一味が勝ってもお菓子の納期が間に合わなければ島は滅ぶ。数パーセントにも満たない可能性だが、新魚人海賊団とやらが勝っても魚人島にお菓子を作る生産性などなく、それどころかビッグ・マムには反抗して滅ぶだろう。

 深海1万m、海中戦?そんなの四皇にとっては不利でも何でもない。新世界に居る海賊である以上、深海1万メートルの航路は乗り越えた海賊達である。ビッグ・マム海賊団に言えば、家族の中に何人も魚人は存在している。それら数名を派遣するだけで魚人島、新魚人海賊団はあっけなく崩壊するであろう。

 

 

 スマラが最も関わりたくない人物。それが四皇『ビッグ・マム シャーロット・リンリン』である。

 島が滅ぶとかもうどうでもいい。新しい本の探索もこれで終わり。

 もう少し見繕っていたかったが、新しい本を見つけるメリットと世界で一番嫌いな人に会うかもしれないデメリットを天秤にかけた結果、圧倒的にデメリットが大きかった。そのくらい会いたくも、一切の関わりも持ちたくない海賊が、四皇『ビッグ・マム』だった。

 

 早足で来た道を戻る。放浪の身であった時期が長いからか、一度通った道は覚えている。歩き読書をしていてもだ。

 人目がある場所では早歩きで、人目から外れた場所では、生まれながらの脚力を活かして、跳ぶようにして来た道を戻った。

 が道中、人里から離れて後は海の森目指して一直線……と言う距離になると、スマラはふと足を止めた。

 

 辺りが暗くなったのだ。

 陽樹イヴは地上と同じ様に光を形成している。地上が朝なら朝日と同じだけの光量を、夜なら月明かり程度の光量を魚人島にもたらす。

 その光が弱まったと言う事で考えられる原因は3つ。

 一つ夜になった。有り得ない。時間が早くなるなんて現象は通常では起こり得ない。悪魔の実の能力者であれば不可能ではない能力もあるかもしれないが、そんな話聞いたことも無い。空想上の妄想だ。

 二つ陽樹イヴが死滅して特性を発揮出来なくなった。何百年も生きた巨木がいきなり死ぬとは思えない。可能性はゼロではないが、即座に切り捨てる程に低い可能性だ。

 となれば、三つ目モノが光を遮ってしまう。地上でも同じように、分厚い雲などが光を遮ってしまう事がある。それと同じ現象だ。

 

 光が遮られたのは数秒程度。風物体の大きさはそこまでではない。

 スマラは上を見上げ、光を妨げた物の正体を掴もうと視線を向けると……。

 

 

「麦わら一味の船……何故?」

 

 

 そう、スマラが目指している麦わら一味の船『サウザンド・サニー号』が宙にあった。巨大なシャボンをマストに括り付け、まるで風船にぶら下がって宙を舞うかのように進んでいた。

 隣には巨大なクジラも並走している。

 

 何故サニー号が宙を飛んでいるのか?答えは直ぐに見つかる。

 先の放送で新魚人海賊団は麦わら一味に喧嘩を売ったのだ。売られた喧嘩は買うもの……とは一概に言えないが、麦わら一味の性格上必ず買うだろう。

 囚われた仲間を助けに行くのか、それともネプチューン王の処刑を止めに行くのかは分からないが、何かしらの行動を起こしているのは間違いない。

 

 スマラはそう推測した。同時に深いため息。

 今までの労力と時間が無駄になった瞬間だからだ。

 このまま海の森に言ってもスマラが求める楽園(と書いて図書室兼見張り台)には辿り着けない。生まれ持った脚力を使い宙を行くサニー号に乗り移る事は可能だが、空を跳んで目立ってしまえば元も子もない。

 

 

「さて、どうしたものか……。戻るか、待つか」

 

 

 待っても良いが、もう一度海の森に戻って来るとは限らない。待って出港までに合流出来なければ、どちらにせよ宙を跳ぶ事に変わりは無くなる。

 となると、地面を歩いて地道に追いつくしかない。最終手段があると思えば、最悪間に合わなくて追い付くことには問題ない。

 

 そう考えたスマラは回れ右して歩いて来た道を戻り始めた。その歩みはゆったりとしている。

 何なら、手にしている本を読みながら。

 

 無限ではなく有限な時間であるが、それでも麦わら一味が戦闘を終わらせるまでには軽く見ても2.3時間はあるだろう。それだけの時間があれば、スマラの脚力と体力なら島の端から端まで行っても問題ない時間だ。

 最終的な麦わら一味の船の場所は、見聞色の覇気で気配を捕まえておけば問題ない。

 

 唯一の懸念点は、今この瞬間にでも現れるかもしれない四皇の船だ。

 深海一万メートル。決して奴らを侮ってはならない。ロジャー海賊団が世界一周を成し遂げる前から海賊をやっていた連中だ。そこらの海賊、ルーキーなど比べものにならない。

 航海が困難だからといって、連絡船の一つも送れないようでは何十年間も海を支配などできやしない。

 

 

 油断するな。ここは新世界の入り口。

 海の皇帝たちは超新星を今か今かと待ち構えているぞ。




1話使って船に戻るだけ(戻れていない)っていう、超絶亀の速度で進行中。


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六十九頁「予想外」

モルガン祭を周回しながら書き上げました。誤字ありましたらごめんなさい。


「やっと着いた……」

 

 大勢、そんな単語よりも国中と言った方が似合いそうな程、多くの人達が詰めかけている場所で、スマラは下を見下ろしながら呟いた。

 

 場所はギョンコルド広場。ネプチューン王の処刑場であり、王妃オトヒメが暗殺された現場であり、現在新魚人海賊団が集まっている場所であり、魚人族の革命(予定)の場所である。

 出来るだけ早くサニー号に戻りたかったスマラは早足で歩いてここまで来た。ホーディの放送から既に一刻近く経っている。

 それだけの時間があれば、魚人島中の人々が魚人島の行く末を見ようと押しかけるのには十分な時間だ。

 広場内を見下ろす崖は人で溢れかえっていた。

 

 そんな中をスマラは縫うように進む。平常時であれば人混みの中など進んで入るはずもないが、今回は別だ。

 何度も何度も言うが島を出港するのに、魚人島にて身を隠すにはこれほど確実な船は麦わら一味のサニー号しか考えれない。

 そんなサニー号はギョンコルド広場の中央に鎮座している。戦場の真っ只中だ。

 しかし、そんな事はスマラにとっては些細なことでしかない。あの頂上戦争すら生き抜いたスマラにとって、この戦場はただの喧嘩にしかなりえない。

 

 周囲の人が引き留めるのを無視し、スマラは広場へと落ちていく。

 高さ数十メートル。一般人なら最悪落下死、運が良くて足腰の骨折の怪我は負う覚悟を持たなければならない高さを何のためらいも無く踏み出し、生まれ持った身体と身体能力を使い着地。

 軽い動作で行った行動は、傍から見れば役者が2.3メートルから演技のように飛び降りた様子。

 ふわっと降りると、今だ戦闘が激しく続く中へと歩き出す。

 こんな場所に場違いな雰囲気と服装を持って街を歩く様に歩くスマラを見て、新魚人海賊団の者達は『何故こんな場所に人間が?』と疑問に思い、人間=麦わら一味=下等生物との考えで襲いかかる。が、能力であっさりと返り討ち。この程度、意識すら向けなくてもよい。

 

 数十名を撃退した頃には、魚人たちはスマラから離れていく。眼中すらない様子に激怒する者も現れるが、誰も攻撃を当てられない事を見てた仲間に止められる。幹部が応援に来てくれる事を願うが、生憎と幹部は麦わら一味の相手をして劣勢状態。到底駆けつけてくれることは無い。

 人間は憎い。しかし、己の命はもっと大事だ。幹部共からすれば、魚人の命で人間が減るなら喜んで死ねと言うが、その燃えるような復讐心を部下達まで持っている訳ではない。

 誰だって命は惜しい。

 あくまで、新魚人海賊が勝ち馬だったから。人間の海賊など我々にとっては敵では無かったから。

 己が強者だったからこその態度。誰だって自分とは次元の違う相手には媚びるしかない。

 そんな者達がスマラを刺激しないように距離を取るのは自然な流れだった。

 

 

 そんな雑兵の気も知らないスマラは、攻撃が止んでラッキー程度に考えていた。扱いがハエや虫と同等レベルだ。

 サニー号へ向かい移動中、何名かの麦わら一味がスマラを視認したが、戦闘中だった為にそれ止まり。二名ほど、目を奪われて敵の攻撃を受けてしまったエロコックとガイコツ音楽家がいたが……。それはスマラにはあずかり知れない事だ。

 サニー号へと無事に辿り着いたスマラは、自慢でも何でもない脚力を使って甲板へ飛び乗る。

 そしてそのまま、スタスタと船内に入っていく。船内を進み、船の後方に位置する測量室兼図書室へと踏み込む。

 時間にして僅か数時間、1日も経たない時間しかサニー号に乗っていないスマラだが、既にここが自室の様にふるまっている。

 ある意味自室とも言える程、心休まる快適な部屋にたどり着くと、ようやくスマラは気を緩めた。ソファーにドサッと倒れ込む。

 ここなら安心だ。目ではサニー号へスマラがいるとは分からない。見聞色の覇気でも余程の熟練者、四皇の赤髪レベルでもなければ察知出来ないだろう。

 これで私がビッグ・マムに見つかる可能性はグッと減った。後は無事に新世界へ辿り着き、適当な島で行方を眩ませたら良い。

 

 そうだ。もう少しで私の平穏な日常は戻って来る。

 船に乗る前、頭上に見えた巨大を超えて一つの島と言っても過言ではない程の船が見えたのはきっと気のせいだ。

 あんなのが島にぶつかれば、魚人島を覆っているシャボンは割れてしまうだろう。だから、あの光景はきっと疲れが見せた幻覚なのだ。

 スマラはそう思う事にした。現実を直視するよりも、とっとと本の世界に飛び込もう。

 現実逃避はスマラの得意技の一つだ。問題の先送りも。

 

 島の危機に麦わらが黙って見ているはずがない。

 これまで通り、力を合わせてどうにかしてくれるだろう。

 考えようだが、あの程度の船を止めらないのなら、四皇に挑むには能力の鍛錬不足。

 

 スマラはそう思う事にした。

 思考を切り捨てて、本を開いて目を頁に落とす。

 脳内に物語を描く。あぁ、幸せな一時だ。

 一時。一時じゃ物足りない。一時と言わずに一生にしなければならない。

 私は……私は逃げてみせる。

 もっとだ。もっと巧妙に存在を隠さなければ。

 2年前、東の海で起こった失敗は、間違った選択はもう二度と取らない。

 

 

 

 

 

 

 本の終わり。物語には終わりが必ずある。

 それは、完結だったり、次回作へ続く為の一時のお別れだったり、はたまた投げだされた滅茶苦茶な終わりだったり。

 これ以上読めない。続きが無い。

 頁の最後に印刷された、発行年月日、編集、イラスト、著者などの名前を眺め終わると、スマラはようやく本の頁から目を上げた。

 

 何時間ぶっ通しで読んでいたのだろうか?久しぶりの感覚な気がする。

 分厚いが1冊読み終えた程度の時間しか経っていないはずだ。経験上、この頁数なら3.4時間と言ったところだろう。

 長時間同じ体制でいた為、身体が凝っている。

 

「んッ~~」

 

 背伸びして身体をほぐす。何時間も同じ体制で読書していたので、身体がパキパキとなる。この瞬間は嫌いじゃない。

 本の世界から現実に戻ったことで、お腹が空腹を訴えているのに気が付いた。不便な身体だ。

 読書中は気にならないが、いざ読み終えると人間の法則からは逃げられない。能力である程度誤魔化す事は可能でも、根本的な解決にはならない。

 人間を辞めない限り、人間の生体からは逃れられない。数日間の断食や無睡眠はできても、いずれ限界が訪れる。

 そう言った能力者でも世界トップクラスの実力と体力を持っていなければ、数か月から数年が限界なはず。もっとも、スマラには目にしたことのない能力なので予測の域を出ない。

 

 とにかくだ。疲れたスマラは食事を求めて部屋を出た。

 窓の外を見るに、まだ魚人島を出港してないらしく、太陽の光が見えた。(イヴの根っこが発光しているのを太陽の光、と呼んでも良いのかは疑問だが、今はどうでもいい)帰路の途中なら真っ暗なはずだし、既に新世界にたどり着いているのなら船が揺れているはずだ。波に揺らされている感覚は無く、船は至って静かだ。

 そう、静かすぎる。誰かが乗っているのなら、ここまで静かになるはずがない。イベントには事足りる麦わら一味なのだから。

 

 キッチン兼ダイニング、誰もいない。食糧庫や保健室、誰もいない。お風呂、トイレ、誰もいない。甲板、誰もいない。見張り兼筋トレ室、誰もいない。女部屋男子部屋、誰もいない。

 キッチン兼ダイニングと甲板を覗いた時に既に答えは見えていたのだが、他の場所は一応の確認というわけ。何気に、初めてこの船をじっくりと見て回ったかもしれない。

 それもそのはず。サニー号に初めて乗ったのはつい先ほど。シャボンディ諸島を出港する時から。一直線に図書室兼測量室に潜り込み、その後は甲板に出て船を降りただけだ。

 

 誰もいないのは予想外だった。船番の為に誰か一人でもいるだろうと思っていたのがあだとなったらしい。

 未だに魚人島から出港していない見たいだし、ギョンコルド広場からは移動しているらしい。時間なのか、場所の影響なのかは分からないが薄暗い。しかし、真っ暗と言う訳ではなく、精々曇りにぶつかった船内と言う明るさ。故に不自由なく船内を散策出来たのだが。

 船の外には立派な建物が見える。魚人島内で見たどの建物よりも大きく、そして歴史がある趣を感じる。故に、目の前の建物がかの有名な竜宮城だと当りを付ける。

 

 となれば……宴会中だろうか?見聞色の覇気で気配を探ると、城の中に麦わら一味らしき気配が纏まって感じられる。

 これは当分戻ってこない。となれば……。

 

 スマラはキッチンに足を運び、何か料理を作ろうと冷蔵庫を……開けられなかった。

 鍵付き冷蔵庫だ。サニー号に乗り換えるついでに、船長を筆頭に行われるつまみ食いを防ぐために、サンジが頼んでナミがゴーサインを出して買った家具だ。

 4桁の暗証番号を知っていれば開けることが出来るが、麦わら一味の中で知っているのはナミとロビン、そしてコックのサンジの三名のみ。それ以外は知らないので、開けることができない。

 冷蔵庫が使えないということは、生物が扱えない。卵や肉を適当に焼くこともできない。出来るのは食糧庫に入ってる保存食や調味料のみ。

 

 冷蔵庫の中身を使って、勝手に料理を作って食べようと思っていたスマラは固まる。

 これでは料理が出来ない。保存食を食べる程飢えているわけじゃない。なら……。

 と、スマラは階段を上り始める。何日も船を留守にするとは考えにくい。それなら数時間我慢すれば良いだけの話。

 その程度なら我慢できる。本を1、2冊読み終える頃には誰かしら戻ってくるだろう。それまでの辛抱だ。

 そう食欲を抑え込むと、スマラは元の位置に戻って別の本を読み始めた。

 

 

 

 

 数時間後。

 スマラの見立て通りの時間が経った頃、麦わら一味のメンバーが帰ってきた。

 相変わらず騒がしい一味だ。

 ガヤガヤしながら出港準備が整えられていく。そんな中、スマラは階段を降り、また登ってダイニング兼キッチンへと向かった。

 ここに居たら誰かしら入ってくるだろう。それこそ……。

 

「~~♪ うぉ!!?スマラさん!!?一体何処にいたの~~♡大丈夫だった~!?!」

 

 船上での職場、戦場とも言えるキッチンに真っ先に入ってくるのはコックだろう。

 サンジはスマラを目にした途端、目をハートマークにして謎のダンス。からの跪いてスマラの身を心配してくれた。

 紳士的な態度は何時も通り。ふざけているようにも見えるが、ガチでやっているでの邪気に出来ない。事もない。

 

「大丈夫も何も、あなた達が革命に突っ込まなければ心配される事もなかったのだけれど……まあぃいわ。それよりも何か食事を取りたいのだけれ……」

「ハッ!!?すまない。俺とした事が宴会やなんやかんやで忘れてました。今から早急にお造り致しますので、椅子に掛けてお待ちください」

 

 サンジはそう言って優雅に礼を行うと、食糧庫へ向かって行く。

 スマラは言われた通りに椅子に座ってサンジの調理を待つ事にする。無論、ポーチに入れていた本を開く。ボーっと待つ程スマラの中毒症状は我慢してくれない。

 サンジが材料を持って戻ってきて、冷蔵庫から生物を取り出して調理を開始する。素人目にも手際が良いのが分かる。流石本職。

 作り始めるといい匂いが部屋に充満してくる。すると、どこから匂いを嗅ぎつけてきたのか、ダイニング兼キッチンに入ってくる者が一人。

 

「サンジ~~何作ってんだ!!俺も欲しいぞ!!」

「お前…さっきまでの喰ってただろ…」

 

 匂いに釣られてやって来たのは麦わらのルフィ。先程まで宴会して、たらふく食べてきたのが嘘みたいな食欲だ。

 そんな船長に呆れつつも、ちゃっかりと材料を足して準備する分、彼は優しいのだろう。

 着席したルフィはサンジの料理を楽しみに待つ。そして、ようやく隣にスマラが座っている事に気が付いた。

 

「あ、お前どこ行ってたんだよ。さっきまでお城で宴会してたんだぞ」

「そうみたいね。お陰様で静かな読書が堪能出来たわ」

「ふーん。それは良かったな。 そういやさ、ここのお菓子スゲー美味いだぜ。スマラも食ってみろよ」

「テメェ、さっきたらふく食って無くなったばっかじゃねぇか。それでビッグ・マムと事を構える事になったのをもう忘れたのか」

「あははは、そうだった」

「ったく。安心してくださいスマラさん。俺も食ってみたので再現出来そうならしてみますよ」

「…………」

 

 笑うルフィ。

 サンジは一言言いつつも、笑みを浮かべて魚人島のお菓子を頭の中で調理していく。そこにはコックらしい顔があった。

 

 対してスマラ。2年前のメリー号に乗船している時同様、誰かが隣で話しかけているのを読書をしながら横耳で聞き流して……。

 

「ん?スマラが本を読むのを辞めるなんて珍しいなー。そんなに魚人島のお菓子が喰いたかったのか?」

「テメェはアホ見てぇにバカすか全部食っちまったのが元凶だろうが。反省しやがれ」

「うん、ごめんな!!今度は極力、覚えてたら我慢するぞ!!」

 

 極力、覚えてたら。とれも意図したとは思えない二重の予防線を張っているのを考えると、一日経てば記憶の彼方へ忘却しているだろう。

 サンジはそう予想し苦笑い。この船長に食べ物に関する事を言っても無駄である。長い付き合いで理解している。

 出来上がった料理をお皿に盛り付けてスマラの前に差し出す。元副料理長が成せる技か、完璧に調和された盛り付けだ。ルフィの分は残った分をどっさりと。盛り付けというよりもお皿に置いただけ。

 男女差別だ。しかし、ルフィは一向に気にしない。何なら、ルフィ以外の男メンバーも気にしない。サンジの御飯を食べられるだけで満足している。

 

 コトっと音を立てて並べられるお皿。メイン料理から飲み物とデザートまで至れり尽くせりだった。

 余り物、イレギュラーな食事というのに完璧な栄養配分と見た目を持っている料理だ。それだけサンジの腕が良いのを表している。

 世界中を放浪していたスマラでさえ、ここまでの腕を持つ料理人は聞いたことがない。もっとも、食事は身体を生かす為に義務的に採っていただけなので世界中を放浪したと言っても積極的に美味しい物を食べてたわけではない。

 そんなスマラでさえ舌を唸らせるコックがサンジだ。スマラが知る中で彼に匹敵する料理人は一人しか知らない。

 

 しかし、スマラは手を付けない。それどころか、読書を辞めた体制で固まっている。

 ルフィは既にがっついて半分以上を胃の中に収めている。早くしなければスマラのお皿に載っている料理にすら手を付けそうな勢いだ。

 もっともサンジが傍にいる限り、普通の人はその様な愚行は行えないのだが。ルフィは学習しないで手を伸ばそうとするのだから手に負えない。

 

 料理を運び終えたサンジが、一向に動かないスマラを見て心配する。

 

「ど、どうしました?何か嫌いな食べ物でもありました?」

「なーんだ。苦手な物があったのか。どれ、俺が喰って……」

「まだ答えてねぇだろクソゴム!!今度手を出しやがったら晩飯抜きにすんぞ!!」

「ゴ、ゴベンナザイ」

 

 スマラの料理に手を出そうとしたルフィにサンジが蹴りを入れる。蹴られた顔面に瘤が出来ている。

 スマラは、武装色の覇気を使っていないはずなのにどうしてゴム人間に蹴りが効くのだろうか?……と頭の片隅よぎったが、それどころじゃない言葉が聞こえて来たのを思い出す。

 

 そう、何気ない会話に潜んだ悪夢とでも言える。スマラにはそう感じた。

 何時かはそうなると予想していた。麦わら一味はトラブルの中心で、海賊王を目指す一味だ。必然と敵対は誰にでも予想できる。

 普通なら戦力差に絶望して降る。が、この船長なら誰の下にも付かない性格なのも知っている。

 

 故に予想していた。

 

 そして、その頃には船を既に抜けているつもりだった。無関係な場所まで移動し行方を眩ませる。

 そうすれば最低での数日、最長で数か月の時間稼ぎになるはず。それだけの時間があれば、ある海域を避けながら新世界の島々を転々と放浪する。ある程度周り、新たに発行されたであろう本を入手又は読み切る事が可能だ。

 その後は、新世界からまた距離を取ろう。そうすれば、奴らはそう易々と追っかけてこれなくなる。

 完璧な計画だ。(スマラによる自画自賛)

 

 だがしかし、まだ新世界に到着すらしていない段階でこうなるとは完全に予想外。

 いや、可能性はあった。スマラだって見ているし、頭の中に可能性を考えていた。考えてはいたが、流石にないだろうと捨てていた。

 普通じゃない。この一味には普通は通じない。いささか己の常識を信じたのがダメだった。

 

 そう、

 

 

「四皇『ビッグ・マム』に喧嘩を売った……?」

 

 

 呆然とした声が響いた。




次回こそ、次回こそ魚人出航させます……。多分来年なので、よいお年を。


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七十頁「新世界突入」

来年になると思っていましたが、最近筆が乗っていたので早めに書けました。


「四皇『ビッグ・マム』に喧嘩を売った? それ、何かの冗談にしては質が悪いわ」

 

 冷静に努めようとしているが、冷静になれず震える声色でルフィとサンジに聞き替えしたのはスマラだ。

 何時もの余裕は無く、声だけでなく表情からも何時もと違うのが、人の観察が苦手なルフィですら分かった。

 

「嘘じゃねぇぞ。なぁ?」

「えぇ、本当ですよ。コイツが魚人島のお菓子を喰いつくしちまったせいで、ビッグマムを怒せたみたいで……。話の流れ的に啖呵きったと言いますか」

「バカなの…」

 

 つい思ってることが声に出た。

 ルフィはぐうの音も出ない。

 反論しようにも、つい先程まで航海士、狙撃手、船医にコッテリと絞られてたからだ。流石のルフィも、1時間以内の事は頭の中にとどめていようと頑張っているのだ。

 

 スマラは溜まっているストレスを吐き出すかのように、深いため息をついた。

 

「はぁ……」

 

 そしてギロリとルフィを睨んだ。

 

「四皇とまともにぶつかるのがどれ程無謀かまだ理解していないようね。この2年間で理解したと思っていたけど?」

「まだ勝てねえだけだ。こっから強くなれば良いだけだろ」

「これから強くなるのに何年かかることやら。四皇の最高幹部は私よりも強いわよ。最高幹部ですら勝てる確率が1割以下だというのに、次元が違う四皇本人なんて夢のまた夢。そこのところ、キチンと理解してないようね」

「だーかーら!!それまでにって言ってるんだよ!!」

「それまでがどの程度時間があるとでも?1ヶ月?半年?1年?ビッグマムなら新世界に入って直ぐ接触してくるわよ。奴らは世界屈指の情報網を持っているのだから」

「時間なんて知るかよ。負けたって何度もぶつかるだけだ!」

 

 白熱するルフィとスマラの言い合い。

 スマラがここまで声を荒げるのは珍しい。というか、麦わら一味に乗船してる間では初めてではないだろうか?

 王下七武海と敵対しても、最強の自然系能力者と合間見ても、大将が相手でも、頂上戦争中でも、スマラはここまで取り乱さなかった。

 サンジは初めて見るスマラの焦りに驚く。と同時に、スマラにとって四皇とはそれほどまでに恐ろしいものなのだと理解した。

 このままでは二人とも平行線なので、慌てて止めに入る。

 

「ルフィ、スマラさん。少し落ち着こう。このまま言い争いをしても何の解決にもならねぇ。既にルフィは喧嘩を売っちまってるんだ」

「……」

「……そうね」

「あぁ、それよりも先に料理を食べてください。冷めちまう」

 

 サンジに促されて溜飲を下げて料理を口に運ぶスマラ。美味しい。

 確かにそうだ。既に過ぎ去った事を部外者がアレコレ言うのは間違っている。考えなしで向こう見ずな麦わらを見て、少しばかりヒートアップし過ぎたらしい。

 冷静に努めようとサンジが作った料理を無心で口に運ぶ。いつもは本を読みながら食べているので、こうしてじっくりと味わうのは久しぶりだ。

 意識して味わうと、サンジの料理の腕が如何に優れているのかがより一層に理解できる。基本的に食事に無頓着なスマラを唸らせる程の腕前。

 気が付いたら全てを食べ終えていた。いつもは1人前の最後の方は飽き飽きしながら口に運んでいた記憶があるが、今回は最後までぺろりと平らげていた。

 サンジがお代わりはいるか?と聞いてくるが、これ以上は要らなかったのでナプキンで口元を拭きながら断った。

 

 空腹状態から脱出した事で気持ちは落ちついた。

 これ以上麦わらを問い詰めるのは無意味だろう。何を言っても話は平行線なのは目に見えている。

 なら、スマラが問いかけるのは……。

 

「これからどするのかしら?」

「どうするって何が?」

「新世界に着いてからよ。今後の航海予定くらい頭の中に……」

「そんなの着いてみなきゃ分かんねぇ」

「無かったわね。そうよね」

 

 新世界に着いてから何処か目的地があるのか、喧嘩を売ったビッグマムのナワバリを目指すのか、その辺りを聞きたかったのだが、案の定ルフィにそんな先の事など考えてもいやしない。

 精々、ビッグマムと出会ったら戦う事を考えている程度だろう。

 もっとも、いきなり四皇を相手にする事を仲間が許すかどうかは別だろうが……。

 スマラが聞きたかったのは、新世界に入ってどの島に向かうつもりなのか?だった。

 

 行き先が決まっていなければ、己が少し進路の助言を言おうと思っていたのだが……この調子では何を言っても聞かないだろう。

 行き当たりばったりの航海が好きなのだ。この船の船長は。

 私とて、様々な物語を嗜んできた身だ。

 この様な思考回路の人間が存在している事くらい理解している。

 私に置き換えてみれば、読んだことのない物語のネタバレをされている様なもの……。

 そう思えば、確かに私のやりかけた事は到底許せない行為だったわ。

 

 反省するスマラ。

 ネタバレ行為は全ての者に対する侮辱行為。

 読書ではないが、似たような行為だと置き換えると恥ずかしい事をしてしまった。

 これ以上は何も言うまい。そう思い席を立つ。

 

「あれ?もういいのか?」

「ええ。よくよく考えてみたら、四皇と対峙しようが貴方の勝手だもの。新世界に入ったらお暇させて貰う私には関係無い事だわ」

「えーー。ここまで来たんだから最後まで冒険しようぜ~」

「嫌よ」

 

 未だに諦めていないルフィの勧誘をピシャリと断る。肩を組もうとしている腕を武装色の覇気を込めた手で払って席を立つ。

 食器を洗っているサンジに「ご馳走様」と述べてスマラはキッチン兼ダイニングを出た。

 元の場所、聖地図書館へと向かう。途中で二人程の麦わら一味とすれ違ったが、特に何も言葉はない。

 「あぁ、いるのか」その程度の認識で構わない。

 スマラがこの船に拾われる前からいるメンバーからすれば若干の同情気味に、スマラが居ない間に船に乗った者は物珍し気に、それぞれ視線を送る。

 が、スマラはそんな視線などものともしない。無理やりではあるが、船に乗せて貰っている身。話かけられたら受け答えはするつもりだったが、出航前で忙しいのかスマラに話しかけるメンバーは居なかった。

 

 図書室にたどり着くと、定位置になりつつあるソファーの端へ腰掛け、栞を挟んだページを開いて読書を再開する。

 もう四皇とかどうでもいい。すべて忘れて読書に浸りたい。

 先程発覚して不安を頭から追い出して読書に耽るスマラ。それは船が動いても変わらなかった。

 

 

 

 竜宮王国を出国。再びコーティングし、船頭に取り付けたクウイゴスで船体を浮上させ、上昇海流へ乗る。

 道中、白い竜と呼ばれる長い距離に渡る横型の渦に巻き込まれたり、アイランドクジラに海上へ連れていってもらったりした。

 船が四方八方滅茶苦茶に振り回されようが、一度本の世界に飛び込んだスマラを現実に戻すのは至難の業だ。重力が下へ向かう位置に流れる様に壁や天井を足場として活用し乗り越えた。新世界の一定の基準を超えない敵以外では半分無意識に行う。

 船が海上へ新世界へと到達すると、スマラは見聞色の覇気で周囲の島を探った。が、文明が発展してそうな気配は感じられない。近くに島がないのか、島があっても無人島なのか。

 スマラの見聞色の精度ではそこまでは分からない。

 最も、本のページに印刷されている文字列を追う行為を少し止め、窓の外を除けばおおよその情報を入手する事が可能なのだが、スマラはその一手間すら惜しんで読書を続ける。

 読書と外の情報を天秤に掛けた結果、読書の方にずっしりと傾いただけだ。普通だ。誰にだって譲れないモノはある。

 スマラにとってそれが読書なだけだ。

 

 

 

 

 

 数時間経った。

 正確な時間は不明だが、少しだけお腹が空いてきたのを鑑みるに、4.5時間は経っている頃合いだろう。

 このまま読書を続けるのも悪くないが、何十時間も同じ部屋に居ると疲れないわけもない。

 やろうと思えば、必要に迫られば何時間と言わず何日も同じ空間で読書を続ける事が出来る。

 しかし、頁数が膨大かつ読解が非常に高く必要な専門書、分厚いシリーズ物の小説、何度だって読み返したくなるような作品、等々の本でもない限り、何日間も飲まず食わずで読書を続ける意味がない。

 今だって、丁度1冊が読み終えたから場所を変えようかしら?と頭に過ぎっただけである。

 

 うじうじ悩むほどのことではない。

 この程度の事は即決して決めると、スマラは十数時間ぶりに立ち上がった。

 

「ん…ぁ」

 

 固まった身体がパキパキと気持ち良さそうに音を立てて嬉しい悲鳴をあげた。

 聞くものによっては艶めかしい声を口から零しながら背伸びを行う。

 背伸びを行わずしても即座に軽い戦闘行為に入る事も可能なほどスマラの身体は軟ではないが、やはり基本的な構造は普通の人間と大層変わらない。

 長時間同じ姿勢を保った身体を背伸びで伸ばすと、気持ちが良いのは変わらない。

 

 口に物を入れる気分ではない。

 キッチン兼ダイニングを無視して甲板へ移動する。芝生の上で気持ちい風に扇られながら読書でもしようと言う魂胆だ。

 しかし、外に出た途端にその目論見はズタズタになった。ならざる得ない。

 

 海が燃えている。島が燃えている。

 遠くには極寒と思われる気候も見え、感じられる。

 異常気候がデフォルトな新世界でも、更に異常に思える島が目の前にあった。

 

 

 パンクハザード。

 世界政府管理下の島で、数年前まではベガパンクを始めとする世界の頭脳が集まって研究を進めていた島。

 現在は元大将『青雉』と現元帥『赤犬』の決闘により気候までも変化してしまった島だ。覚醒した自然系能力者同士が本気の決闘を行うと、どの様な影響を周囲に与えるか見事に語っている。

 現在はたとえ政府の人間であろうと立ち入りが厳禁されている島だが、麦わら一味は嬉々として入っていったらしい。

 もっとも、2年間外界から離れてたスマラには知る由もない。青雉と赤犬の決闘は知ってるが、場所が此処だという事は知る事は出来ないのだから。

 

 

 

「…………」

 

 言葉が出なかった。

 気分転換にと風を求めて甲板にやって来ただけなのに、目の前に両極端の地獄を体現した島があると予想できるだろう?

 どう考えても厄介事の臭いしかない。

 

 新世界の島に着いたらさっさと船を降りて麦わら一味から縁を切るつもりだったのに、どうしてこうも上手く行かないのだろうか?

 ガイドブックや案内人がいなくても分かる。この島に一般人は居ない。

 

 軽く考えても、東の海でこの船の船長に拾われてから人生が狂い始めたと思う。

 便乗で偉大なる航路に入って、適当な島で降りてこれまで通り、自由気ままに島を巡って読んだことのない本を探す人生だった。

 それが、何が悲しくて王下七武賊と事を構えたり、政府に保護されたり、白ひげと対面したり、政府から逃げたり、何十歳も年下のルーキーの修行を手伝ったり、新世界まで戻って来たりしているのだろうか。

 なりふり構わず逃げ出せば良いのに。あの時の様に真っ向から歯向かって、ボロボロになりながら自由を勝ち取ればいいのに。

 どうして逃げ出さないのか。

 答えは出そうで出ない。冷静な思考だけでなく、その時その時の感情まで織り込んで予想するのは私には出来ない。

 私は、感情を読むことしか出来ていないから。読んで理解出来ていると思わない。思えない。

 だからだろう、と仮の答えを導き出しておく。自分を納得させておく。

 

 

「……ハァ」

 

 

 再び深いため息。

 気持のリセットのルーティンに近い。

 現状分かっている事を認識し、このどうすれば解決するか、その為にはどう動くかを再確認する。

 

 現状の確認。

 新世界に入ったら適当な島で船を降りて縁を切る。

 目の前の島は見聞きしたことのない極熱と極寒の島。

 人が住んでいるように見えない為、ここで麦わら一味とお別れするのは極めて下策。

 

 解決法方。

 普通で平穏な島まで待つ。

 最低でも村程度の集落が生存していないとダメだろう。

 交易とはいかずとも、せめて船が着港するに値しなければ移動手段が無くなる。

 交易船でも、海賊船でも、政府の船でも良い。

 

 どう動くか。

 現状、私が動く必要性は見つからない。

 如何にも厄介ネタがあるそうな島。

 船番も残さずに一味全員で乗り込んでいる意味が分からないが、わざわざ動いて厄介ネタと遭遇するリスクを増やす意味はない。

 シャボンディ諸島で海軍に出会ってるから、海軍経由で裏社会には私が麦わら一味に懲りずに乗っていると知られているはず。

 ここに裏社会や政府関係者が居るかは不明だが、わざわざ安全地帯から飛び出す必要はない。

 

 

「……戻ろう」

 

 

 気持ちの良い風どころか服にべったりと張り付く汗を流し、少なくとも数時間は気持ち悪いだろう。

 能力で抑制する気も失せた。

 気分転換のつもりだったが頭を悩ませる種が増えただけだった。

 

 

「まぁ、次の島ならまともな島でしょう」

 

 

 新世界は前半の海に比べて人が安全に暮らしている島が少ない。

 四皇のナワバリだったり、単純に気候が荒かったりと大変なのだ。

 それでもまともな島は存在しているし、ある程度の妥協をすれは幾らでも見つかる。

 

 スマラはそう思って甲板を後にした。

 

 しかし、スマラは知らない。考えが未だに緩かった。

 麦わら一味はそう簡単に行かないと。前半の海でも島々で何かしらのイベントに巻き込まれていた船だ。

 より一層危険度が増した新世界でまともな島に辿り着ける訳が無いと。

 緩かったのか、それとも一味に風紀が充てられて緩くなったのか。

 本人しか分からない。本人にも分からないかもしれない。




サクッとパンクハザードとドレスローザ編終わらせたいです。

今年は更新がそれなりに出来たので良かったです。来年もよろしくお願いします。


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七十一頁「だから、嫌いだ」

7章ナウイ・ミクトラン攻略及びオルト・シバルバーの攻略、怒涛の情報追加にてんやわんやしていたので遅れました。来週からのバレンタインが楽しみです。


 麦わら一味が島から帰って来るまで数時間を有した。

 

 ただ、帰ってきただけならどうでも良かった。

 この燃え盛る島でどんな冒険をしようが、どんな戦いを繰り広げようが、どんな友情を育もうとスマラには関係ない。

 物語としては興味は湧かない事は無いが、それでも作り物の方が良い。

 人の人生や旅など、そう運よく物語のようにとんとん拍子で進む訳がないと知っているからだ。

 

 

 船が動き出したのを感じ取ったのは、夜が明けてから数時間後。

 外の喧騒が五月蠅かったから消した音の様子から、またしても宴会でも開いているのだろう。

 毎度毎度騒がしい事だ。

 途中でサンジがホルモンスープを持って来てくれたのだが、スマラは一瞥しただけで終わった。

 

 

 

 

 

 船が動き出して少し経った頃。

 少しというのはスマラの体感なので、実際には数時間経っていたのかもしれない。

 

 頁に栞を挟んで本を閉じる。

 いつもの行動。これが空想の世界から現実へ戻るルーティンワーク。

 物語で実感していた感情を押し殺す。

 現実は厳しく冷酷なのだから、浮かれた頭ではいられない。

 

 首を傾げてポキッと音を立てる。背伸びをして骨がさらに音を立てる。

 数時間ぶりに身体を動かす障害。しかし気持ちいい。

 一通り身体を解し終えると部屋を出て甲板へ向かう。と同時に無意識に使っていた見聞色の覇気に意識を向ける。

 

 船にある気配は全部で13人。

 おかしい。麦わら一味の人数は9人のはずだ。

 4人増えている。

 覇気の強さは1人が麦わらに匹敵するほど強く感じられる。

 さて、誰を船に乗せているのか。

 こんな緩い麦わら一味でも海賊だ。海軍や政府関係者は幾らなんでもあり得ないだろう。

 海賊なら覇気の強さも納得できる。新世界を単独で航海しようと思えば、最低でも億越えの実力は必要になる。

 肝心なのは麦わら一味の船に乗る度胸ある輩は一体誰だ? と言うところ。

 

 今度こそ心地良い風を求めるついでに甲板へと足を運んだ。

 

 

 

 キィと出来るだけ存在感を消しつつ甲板へ出たスマラ。

 しかし誤魔化す事は出来なかった。甲板の芝生の上に座って集まっているメンバー全員の視線が集まった。

 

「…………」

 

 多少驚きつつも、視線を無視して際の柵まで歩いて座り込む。

 そのまま閉じたばかりの本を取り出して読書を再開する。

 しかし、本の世界に飛び込むのは止めておく。

 頁に綴られている文字列を追い、頭の中で処理してはその時の会話にも耳を傾ける。

 

 

「おい麦わら屋。奴が居るとは聞いてねぇぞ」

「ん? そうだったか? 悪ぃ」

「はぁ……。計画の見直しが必要か? いや、既に研究所は破壊してシーザーは攫っちまってるだ、今更か」

「待って!? 何か嫌な声が聞えて来たんだけど!? 何!? スマラってそんなにヤバいの!?」

「ナミ、スマラは物凄げ~~強ぇぞ。それは俺が保証する」

「そんな事知ってるわよッ! 私が言いたいのは、彼女が居るとどうして不味いのかって話」

「そういや、戦争の記事で何か書いてあったな。あれ?何だったっけ?」

「アレだろ? あの嬢ちゃんが海賊だって奴ぁだ」

「バカ野郎、スマラさんの親が海賊だって書いてあったんだよ」

「そう! 本人の口からは一切出てこないのに、新聞や周りの人達は何時も騒ぎ立てている。クロコダイルに青雉の反応はどう考えても可笑しいわ。トラ男、アンタなら何か知ってるんじゃない?」

「俺だって真相を知ってる訳じゃねぇ。当時を知ってる人から概要を聞いたことがある程度だ」

「海賊って有名な奴なのかな~?」

「能天気っ!? もし大海賊なら俺達やべーんじゃないのか? 目ェを付けられたら終わった。あ、既に四皇を目的にしてる上に怒らせてるッ! 2人もッ!」

「ギャ――オレ達やべーー」

「五月蠅い! それじゃあ、私達よりも知ってそうな人に聞いてみましょう」

 

 

 本人が直ぐ側……と言うには遠いが、声がギリギリ届く距離にいながら本人の話を本人自体を会話に入れずにする辺り、本当に肝が備わっている。

 いや、スマラがその程度で癇癪を起こさないと分かっているからこその行動だろう。

 計算高い航海士さんだ。もちろん、トラ男事トラファルガー・ローを除く野郎どもはそんな考えは頭にない。

 

 

 ナミが視線を向けると、その他全員も視線を向けた。会話に加わっていなかった数名も視線だけを向けていた。

 そうだ。この船で一番の異質な存在が居た。

 海楼石手錠で能力を封じられ、ボロボロになった顔面を応急処置で軽く治療されている。

 色白、細身で背丈は大きい。裾の長いローブは研究職の白衣を思わせる。いや、実際に研究者なのだろう。

 麦わら一味ではもっとも接点の無かった男だ。トラファルガー・ローは頂上戦争で少なからず接点が発生しているが、この男は全くもってない。

 

『シーザー・クラウン』

 

 新聞を読んでいれば名前くらいは聞いたことがある者がいるだろう。手配書でも3億ベリーと大金が積まれている事から、起こした事件と危険度を伺える。

 問題は、何故あの島に居たのか? どうして麦わら一味に捕らえられているのか?

 

 あの燃え盛る島に居た理由は分からないが、後者ならスマラでも簡単に想像が付く。

 何かしらの敵対行為をシーザーが行い、麦わらが激怒してぶっ飛ばしたのだろう。倒した敵を自らの船に乗せているのは何かしらの理由があるのだろう。

 トラファルガー・ローが意味もなく敵船に乗るはずもない点から、彼が関係しているのだろう。

 

 スマラはとりあえずは納得した。

 疑問点は幾らか残るが、その解決は今でなくて十分だ。

 それよりも、今の関心はシーザーがどんな事を口に出すかが重要だとスマラは考える。

 年齢的にも彼は私の事を知っているかもしれない。否、海軍の化学部隊に所属している経歴から考えるに、確実に私の事を知っているだろう。

 スマラはそう結論付けると、目線を紙に印刷されている文字列に向けながら聴覚だけを周囲に向けた。

 

 

「はんッ。俺様の知識が必要みてぇだなぁ。教えてやっても良いが、それ相応の扱いってもんを「良いからさっさと吐く事吐きなさいよッ!」ぶらヴぇ」

 

 己の知識を求めていると分かったシーザーは高位的に対応の改善を要求するが、全てを言い切る前にナミに殴られてしまう。

 時にはルフィ、ゾロ、サンジすらもボコボコに出来てしまう航海士の拳だ。さぞかし痛かっただろう。

 

 腫れあがった顔面に慣れ、シーザーが再びまともに喋れる様になるまで少しの間が空いた。

 その間、スマラはここぞとばかりに本のページを読み進めた。

 

「チクショウーッ! 喋りゃあいいんだろう。喋りゃあ!」

「初めからそうしないさいよね。余計な手間暇と時間をかけさせて」

 

 全くもうッ、とナミは吐息を吐いた。

 『元凶はお前だろ…』と数名の心の声が重なったが、ナミはどこ吹く風でシーザーを睨みつけている。

 ともあれ、これでスマラの謎が解ける。誰もが気になるらしく、輪から少し離れた位置で何かを作っていたウソップ。一応、聞いていたみたいだが今にも寝そうなゾロまでもが手を止めて視線を向けていた。

 

 真面目な雰囲気も作れるじゃない。

 そう思ったスマラだが、その内容が自分の事。さらに言えば地雷に当たる部分に近しい内容なのが眉をひそめる。

 興味ない様な。私は気にしてませんよ。的な雰囲気を醸し出しながらも、スマラは何時でもシーザーを始末出来る様に身体に力を入れる。

 

 如何にシーザーが自然系の能力者であり懸賞金額3億ベリーの大物と言えど、所詮は能力に頼り過ぎている研究者。

 スマラ自身も定期的に身体を動かしている身では無いとはいえ、生まれ持った身体能力と能力を組み合わせれば研究者を消す程度造作もない。

 真面目に身体を鍛える事に取り組んでいたら、その力を正しい方向へ、親の言う通りに育んでいたら、結果は変わっていたかもしれない。

 もっとも、それは有り得たかもしれない平行世界の話。今現在、このスマラにとっては関係の無いもしもの話だ。

 

 

 

 シーザーは一瞬だけスマラに視線を向けてから話始めた。

 

 

「奴が初めて世間に知れ渡ったのはある事件がきかっけだった。いや、事件って言うよりもその海賊が出した被害から知れ渡った名前だったな」

「被害? 海賊の被害と言っても限度があるでしょう」

「はんッ、テメェ等は知らねぇのさ。現在の海賊は比較的大人しいんだよ。まぁ、小さな海賊の被害は世界中各地で多々起こっているが、新聞の一面記事になるような事件はそうそう発生しねぇ」

「新聞ならオレ達だって載ったことあるぞ。嘘言うなよ」

「規模がちげぇって言ってんだよ。最近だと……そうなだ。麦わらが暴れた四皇『白ひげ海賊団』と世界政府の王下七武賊と海軍が全面戦争を起こした頂上戦争レベルの事件だな」

「世界規模の事件って事ね。でも、その規模なら私たちが知っていてもおかしくないと思うけど?」

「今から何十年も前の話だぞ。海賊王の処刑よりも昔だ。生まれてねぇ頃の話なんて誰が気にする?」

「海賊王よりも昔って……。ロビンは何か知ってる?」

「詳しくは知らないわ。私が子供の頃の話だと思うわ。ただ、裏社会で生きていると噂を耳にするの」

「噂? それってスマラの?」

「『奴に手を出すな』確か初めて耳にした時はこうだったわ。初めて聞いた時は誰を指しているのか分からなかったけど、裏社会で過ごす内に可憐なる賞金稼ぎと言う名は自然と定着していた。手を出すなと言うのはその事件が関係しているのね」

「奴はだな、今から三十数年前に親元の海賊船から逃げたのさ」

「逃げた?」

「あぁ、逃亡だな。詳しい状況や奴の心情は本人に聞け。まぁ、答えてくれるとは思えねぇがな」

「逃げたってたったそれだけで一大事件になるほどの事とは思えないけど…………」

「……普通の海賊だったら、逃げられたらそれを追いかけて捕まるか、逃げ切られて終わりだな。普通の海賊ならな」

「そう。奴が逃げ出した海賊は普通じゃなかった。逃げても逃げても圧倒的な情報量と物量で追っかけて行った。それこそ世界政府の加盟国、無人島、海軍の艦隊が間近にあってもだ」

「それは……確かに被害は尋常じゃなさそうね。世界政府は抑えきれなかったから大事件にまで膨れ上がった」

「そうだ。最終的にはパタリと終わっちまった。奴と海賊との話し合いがあったのか、海賊が諦めたのかは誰にも当事者同士しか分からねぇ。まぁ、この場で聞かせてくれるってなら、俺も聞きてぇんだが……」

「……………………」

「まぁ、そう簡単に口を割る訳ねぇよな」

「で? 肝心なスマラの親ってどんな海賊なわけ? 幾ら情報規制が行われようと、それだけ暴れ回ったら相手の名前くらいはわかるでしょう?」

「そうだそうだーッ! もったいぶらずに吐けーッ!」

「……」

 

 

 

 騒ぎ立てる麦わら一味のお調子者共。

 はーけー、はーけー、コールがサニー号に響き渡る。

 シーザーは限界まで口を閉ざしていたが、コールに負けてしまった。

 決して、決して、ナミが握りしめた拳に屈したわけではない。

 『手錠さえなけきゃ唯のパンチなんか…』スマラの耳には、確かにそう聞こえた。

 

「はぁ…良いか一回しか言わねぇから耳をかっぽじって聞きな。奴の親はな……」

 

 もったいぶる様にシーザーは溜めを作った。

 ゴクリと誰かが喉を鳴らす音が聞こえてきた気がする。

 

 

「四『それ以上はいけないわ』」

 

 

 初めの音に被せる様にスマラが声を出してシーザーの言葉をかき消した。ついでに、覇王色の覇気を放出。対象を絞らず手加減無しの覇王色だ。

 海がシケよりも荒ぶれ、空は覆っていた雲が飛ばされて快晴を見せる。本気の手加減無し故に空間に重力が発生し、バチバチと黒い電流が発生する。

 麦わら一味、トラファルガー・ロー、シーザー・クラウン。この場に覇王色の覇気で気絶するような雑魚は存在しないが、それでもナミ、ウソップ、チョッパーと言った弱小トリオ組が数秒意識を持って行かれ、その他も気を抜けば直ぐにでも飛びそうだ。

 

 そんな中、覇王色の覇気をまともに受けてもケロッとしているのが4名。

 船長であり自身も覇王色の覇気使いであるルフィ、世界一の大剣豪を狙うゾロ、海のコックとして夢を探すサンジ、戦争後に王下七武海となったローの4名だ。

 ケロッとしているのは比喩だ。ゾロとローは己の剣の柄に手を掛け、サンジは相手が女性なので眉を潜めながらも戦闘態勢に入る。

 殆ど本能的な行動だったのだろう。構えはするも攻撃には出ない。それはスマラがシーザーを睨んでいるだけだったからだろう。

 覇王色の覇気と共に軽い殺気も当てられたシーザーは、後ろにズッコケていた。気絶しないだけ、本人の実力が伺えるが、本気でやりあったのなら己の負けは必然的。悪の科学者VS放浪者。対外的な肩書だとショボいものの、両者とも一般人を遥かに超える戦闘力を持っているのは無視出来ない……。悪魔の実の能力者を、一般人と同じ扱いにしてはならない。

 もっとも、新世界クラスになると、悪魔の実を使いこなせてようやく土台に上がる事が出来る程度。素の身体能力、場数の経験、武装色の覇気と見聞色の覇気はデフォルト装備、その場の運といった要素を持ち合わせている者が強者として海を航海できるのだ。

 

 シーザーではスマラには敵わない。これは戦う前から分かり切った事。

 一部の挑戦者からすれば、戦う前に結果を決めつけてしまうのは逃げだと思うかもしれないが、生憎とシーザーは常に自身の命を保身にかけている為、絶対に勝てない相手には挑まない。

 それだけ、スマラとの実力差を弁えて居た。麦わら一味や若い世代の知らない真実を知っていると言う評価対象も加えれば、シーザーにとってスマラは麦わら一味よりも厄介な相手だった。

 己の投資者や研究作品の売り捌き先も考えれば怒らせてはいけない相手なのだ。

 それほどスマラを取り巻く環境は複雑だった。当の本人はそれから逃げていると言うのに、世間は、世界の闇は逃がしてくれない。

 

 

 

 それを理解しているからこそ、スマラはイライラを募らせる。

 麦わら一味に乗せらせて口を滑らせる気でいると思いきや、ちょっと脅しただけでだんまりを決め込む。ハッキリとしないその振る舞いが嫌いだ。

 

 

 まるで自分を見ているかのようだったから。

 

 




当初の予定になった話。次回こそ話を進めます。


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七十二頁「夜、刻々と近づく…」

2ヶ月経ってないのでヨシ。


 

 シーザーが暴露しようとした己の親の名前。

 別に知っている人はこの海に幾らでもいる。知らない人が知っている人から聞き出すのも間違っていない。

 別に世界政府が空白の歴史の様に存在をもみ消している訳ではないのだから。

 

 無知を既知にしていくのはスマラにとっても好ましいことではある。

 むしろ、読書と言う形で己が率先して行っている形だ。

 

 そう、気になって調べたり聞き出すのは問題ないとスマラは思っている。

 自分にとって地雷でもあるそれを己が見聞きしている範囲で行われない限り、と言う条件付きだが…………。

 

 

 

 話し合いの最中に彼らが目視出来る場所までノコノコとやって来たのは私だ。

 話の流れをちゃんと耳に入れていたのも認める。

 ならばシーザーの口から私の親について語られるのも予想していたし、実際にシーザーは麦わら一味の圧に負けて語っていた。

 私も当初はそれを黙認していた。

 先に述べた通り、私の口から言うのは憚れていたが他人の口から知られる事に関しては良かった。

 しかし。しかし、話を聞いて行くうちに不快感がどんどんと混み上がって来たのだ。

 

 シーザーがアイツの名前を言葉にする寸前に我慢の限界が訪れた。

 感情のコントロールを失った私は威圧だけに留めようと思っていたにも拘らず、覇王色の覇気を全開で叩きつけてしまった……。

 我ながら失態だ。いえ、消化しきっていると思い込んでいたモノが未だに私の中でくすぶり続けていた、と言う事かしら。

 

 

 

「……ハァ。ダメね」

 

 スマラは何度目かのため息を吐き出した。

 時間は既に夜。あれから既に数時間が経過していた。

 

 コントロール出来ていない覇王色の覇気を船の上で叩き付けた。場合によっては敵対行為として捉えられても可笑しくはない。

 しかし、船長を除く全員が戦闘態勢に移行しようが、能天気な船長だけは違った。

 彼はケロッとした表情で「何だよ~。それくらい聞いてもいいじゃねーか。 それもとなんだ?スマラが言いたかったのか?」と言った。

 更に「それならそうと言ってくれれば俺たちは何時でも聞いてたぞ~」と続ける始末。

 恐らく本気で言っているのだろうが、今この時は能天気さに空気が救われた。と思ったのはスマラだけ。

 場の雰囲気に居たたまれなくなり甲板を後にしたのだった。

 

 

 心が落ち着かない時でも読書だ。

 ふとした瞬間に現実へと戻り、先の件を思い出して辞め息を吐くのだが、それでも本の世界に飛び込んでいる時は悩まずに済む。

 

 それらを繰り返して早数時間。

 時刻は既に夕方を過ぎ夜へと変わっていた。

 

 時間を意識すると、くぅ~と可愛らしいお腹の虫が鳴る。

 流石に食事を取らなさ過ぎた。これ以上は流石に厳しい状態に突入する。

 能力で引き伸ばす事も出来なくないが、能力を使うにも体力を消耗する。

 その消耗する体力の為に栄養を補給しなければならないのに体力を使って補給を遅らせるのは、倍々に体力を消耗しているにの違いはない。

 戦場や敵地であれば我慢する事も考えたが、ここは敵地でもないし友軍地でもない。

 友軍地ではないが、自分に害をなす事はしないだろう。故に食事を取ろう。

 

 読みかけの頁に栞を挟んで移動する。

 月明かりと記憶している間取りを頼りに歩いてキッチンへ。

 既に夕食の時間は過ぎているのだろう。気配は殆ど無かった。

 キッチン前にたどり着くと灯りが付いているのが分かる。

 一瞬、ドアノブを捻る前に昼間出来事が頭を過ったが、それも一瞬だけだった。

 

 私は何も悪くない。……多少の責任はあるにしても、元々の原因を作ったのはシーザーだ。麦わら一味が興味を持ったからだ。

 

 そうやって、自分を正当化して誤魔化して気持ちを戻す。

 ドアノブを捻って部屋の中に入った。

 部屋の中に居たのはサンジとロビンの二人だけだった。

 ロビンは読書、サンジは明日の朝食の仕込みを行っていた。

 

「おっ!やっと降りてきた。お腹、空いてるでしょう?冷めてますので温め直すので少しお待ちください」

 

 サンジはスマラが部屋に入って来るのを見て、食いしん坊共に食べられない様に残して置いた夕飯の残りを温め直し始めた。

 何時も通りの対応。内心では気にしているのかもしれないが、表面上の態度は全く変わらない。

 そんな態度に少しほっとしつつ、スマラは礼を述べてテーブルに着いた。

 

「え、えぇ。ありがとう」

 

 何であれ感謝は伝えるべきだ。

 こちとら食客の身。言い方を変えれば居候。

 船での仕事を一切していない身だ。

 食べさせて貰っている立場を考えれば感謝くらい言葉にしても罰は当たらないだろう。

 むしろ、それすらしないのならクズに成り下がる。

 もっともクズに成り下がろうが、ゴミに成り下がろうが、他人の評価はあくまでも他人からの評価。

 何を置いても読書や、まだ見ぬ本を最優先事項に置いているスマラにとってはどうでも良い事だ。

 心が傷ついたり、気になったりしない訳ではないが、多少の評価ならどうでもいいと斬り捨てられる。

 どうだって私の評価には親が引っ付いてくるのだから、今更何をしてどう評価されようか大して変わるはずがない、と達観にも言える域まで昇華された価値観でスルーする。

 

 料理が出来上がるまで時間がある。時間があるなら読書だ。

 スマラは様式美とも言える行動原理の如く席に着くと、本を取り出して読書を再開した。

 

 ジュージュー。パチパチ。

 

 室内にはサンジがフライパンで料理を温める音と、

 

 ……ペラ、……ペラ。

 

 スマラとニコ・ロビンが本の頁を捲る音だけが静かに鳴り響く。

 各々が目の前の事に集中しているからこそ響き渡る生活音。

 停泊しているからか、ユラユラ、ギィギィと船が波に静かに揺られる。

 

「そう言えば…」

 

 静かな部屋に声が響いた。

 静寂を破ったのはロビンだった。

 

 スマラは自分に話しかけられたとは思わずに読書を続ける。

 自分に話しかけられる様な話題が無い。それに雑談をするなら同じ船の仲間であるサンジの方が適任だろう。

 彼なら女性であれば誰だって喜んで相手になるだろう。良い方に言うなら紳士的、悪い方に言うならチャラ男。

 

 しかし、続けて出た言葉にスマラは無視できなくなった。

 

「戦争ではルフィが世話になったようね。目立つのを極力避けているはずの貴女が、あの状況でルフィの味方をするとは思えないけど何かあったのかしら?」

 

 蒸し返される2年前の黒歴史。

 あの時の私は何か可笑しかった。

 平和で何もしなくても生活を送れる日々をようやく手に入れたと思えば、戦争と言う厄介事を生活圏内の直ぐ側で起こされた上に巻き込まれた。

 えぇ、白ひげに殴りかかったり、センゴクの売り言葉を買って敵対を決めたり…。

 ここ数年で…いえ、初めての黒歴史かもしれないわ。

 

 スマラは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ…ていると個人的には思っているが、実際はロビンから見れば何も変わっていない様に見える表情で答える。

 

「新聞に掲載されていないけど、昼間と似たような事があったのよ。麦わらへの援護は成り行き。安全な島に着き次第船を降りるわ」

 

 淡々と事実と今後の予定を述べるスマラに、サンジが悲しそうに叫ぶ。

 

「えぇ!!?次で降りちまうの~~!!?最後まで航海しましょうよ。美味しい食事だって毎日三食おやつだって絶品をお届けしますよ~~」

 

 美人航海士と美人考古学者が既に仲間だと言うのに欲張りな男である。

 もっとも、コックとしての腕だけを見ればスマラも認めざる得ないのは確かだ。食に拘りを人一倍持たないスマラでさえ、そう思えるサンジの腕は既に世界トップレベルと言っても過言ではないだろう。

 どっかの海賊に目を付けられなきゃ良いけど、とスマラは淡々と拒否する。

 

「いいえ、この船が最後の島にたどり着く事は無いわ」

 

「それは、ルフィだと海賊王になれないと言う意味かしら?」

 

 そうとも取れる発言に噛みついたのはロビン。

 麦わら一味は誰だってルフィが海賊王になると信じて疑わない船員の集まりだ。

 そんな船員達に『お前らの船長が成れるかよバーカ』と暴言を吐くものなら、叩き潰される事間違いない。

 言葉選びを間違ったと悟ったスマラは補足を重ねる。

 

「誰が海賊王になろうが私にはどうだって良い。私が言いたいのは、現四皇ですら最後の島に辿り着くのに二十四年以上もかかっているのに、新世界に入りたてのルーキーが経った数か月で四皇を出し抜いて辿り着けるはずがない、と言いたいのよ」

 

「確かに正しい考えね。それで、数か月も有ればこの船を降りると」

 

 そう。スマラは頷いて肯定を示す。

 一つ『この船が最後の島に辿り着く事はない』と言う根本的な発言に関しては全く否定しないのには触れない。

 幾ら麦わらが成長を重ねようが、生物としての格が違う四皇には勝てるはずがないと、スマラは冷静な部分でそう思っているからだ。

 能力や覇気の有無ではないのだ。この身体からして違う。

 もっとも、それをどれだけ丁寧に告げた所でこの船の船長は全く聞く耳を持たない事を重々承知しているので、スマラはこれ以上語らない。

 

 

「ルフィは海賊王になる。俺はそう信じてますし、誰だって己の船の船長が海賊王になるはずだと信じて着いて行っているんじゃないですかね? そんなことよりも、夕食の温め直しが終わりました。どうぞ召し上がってください」

 

 コトッ、とサンジがお皿をスマラの前に置いた。

 湯気がもわぁと沸き上がり、美味しそうな匂いがスマラの食欲を刺激する。

 流石にこれ以上は我慢できない。普段は読みながら食べる食事も、今回ばかりは食事だけに集中する。

 

「いただきます」

 

 素材と作ったサンジに感謝を述べてフォークとナイフを使って口に運んでいく。

 ルフィやウソップの様にバグバグと急ぐわけでもなく、かと言ってナミやロビンの様にゆったりと食べるわけではない。

 一つ一つの動作を丁寧に綺麗に、それでいて決してゆったりとはしてない絶妙なペースでお皿に盛りつけられている料理を片づけていく。

 

「綺麗な食べ方ね。何処かで習っていた?」

 

「…習っていたら何かあるの?お生憎様だけどこれは独学。作法のマナー本でも読んでいたら勝手に知識に入って来るわ」

 

「知識を得るのと実践するのは別の事よ」

 

 本を読んで知っていても、それを使う機会が無ければ身に付かない。

 つまり、スマラには丁寧に食事を行う機会があったと言う事だ。

 言葉の裏にそんな意味を持たせるロビンだったが、スマラはそれを汲み取って無視する。

 

「話はそれだけ?」

 

 私は忙しいのよ。とわざわざ話しかけてきたロビンを拒絶する一声。

 ロビンはそれに対して笑みを浮かべる。大人な対応。

 サンジは既に使った器具の片付けに入っている。

 どうやら、これ以上足を踏み入れる事はしないようだ。紳士的な考えからか、それとも彼もまた家族に触れられたくないのか。

 

 どうやら、本当に戦争でルフィを助けたお礼を言いたかっただけらしい。

 それ以上会話を行わないまま、スマラは遅い夕食を食べきる。

 最後の一口を口に含みしっかりと噛んで飲み込んで、飲み物で口内を洗ぐとナプキンで口周りを綺麗に拭き取ると席を立つ。

 

 ごちそうさま、サンジにそう伝えてシンクに食器を置くとそう言えば、とふと気になった事を尋ねる。

 

 

「そう言えば、次の進路は決まっているの?」

 

 通常だと記録指針を辿って航海するのが偉大なる航路の常識だ。

 しかし、何かしらの目的があって海を渡るのなら記録指針は邪魔になる。

 島を記録した永久指針を使って目的の島へ船を進める。

 

 今後四皇を倒すつもりで作戦を考えているのなら、記録指針を辿って島を巡るだけでは勝てない。

 傘下や本体から離れている部下を各個撃破して戦力を地道に削って行く。

 そうやって戦力を少しずつ少しずつ削ってようやく四皇本人が拠点にしている島へと上陸する事ができる。

 それでも数千にも及ぶ部下、億越えが当たり前の幹部に10億すら超えて来る大幹部が立ちふさがり、奇特で有効打な作戦でも組まない限り四皇本人と戦う前に全滅だ。

 故に、次に向かう島は決まっているはずだとスマラは辺りを付けて質問をした。

 

「えぇ、トラ男君によるとドレスローザと言う国に向かうそうよ。貴女は知ってる?」

 

「新聞を読んでいるのだから知らないはずがないわ。……それにしても、ドレスローザとは思い切ったわね」

 

 ドレスローザ。数十年前に王下七武賊のドンキホーテ・ドフラミンゴが国王に即位した珍しい国だ。

 当然スマラの知識にも入っている。

 が、何を目的としてドレスローザへ向かうかは不明なままだ。

 四皇打倒に関する鍵を握っているのは確かだろう。ドフラミンゴは闇のブローカーとしても有名であり、取引先に四皇が絡んでいる為、潰して戦力の低下でも考えているのだろう。

 スマラはそう辺りをつける。

 

 

 そのままドアと出て廊下を進み階段を上がる。

 寝るのなら女部屋だが、寝る前にもう少しだけ読書をしていたい気分だった(何時もその気分だろう)

 本を開きながら考えるのは次の島、ドレスローザの事。

 

 王下七武海の天夜叉が治める国。

 闇のブローカーという点だけでも厄介な気配を感じるというのに、それ以外にも何かしらきな臭い感じがする。

 船を降りられるのなら街レベルの文明発達がある島なら何処でも良いと思っていたけれど、流石にドレスローザは無しね。

 そもそも街で散策するだけでファミリーに見つかって何かしらの接触を図られる可能性がある。

 確実に放っておかれないわね。

 船から出ないのが吉だけれど、そうなると更に次の島は四皇に近づく事になる。

 それはいけない。

 やはり公開中に適当な場所で下船して海を漂流するのが無難なのでは?

 

 このまま船に乗ったままだとかなり不味い事になる。

 これまでの経験上スマラはそう考えるが、幾らスマラとて新世界の海を手漕ぎボートで漂流しようとは進んで思わない。

 東の海ではもっとも安全な海であり、ただのシケだったから能力で無力化しながら漂流していたのだ。

 

 

「……」

 

 目を瞑って少し考える。

 早めに船を降りる為になりふり構わう訳には行かない。

 しかしドンキホーテ・ドフラミンゴはダメだ。

 原因はドンキホーテファミリーにあると言える。ドレスローザ王国自体は悪くない。

 新聞で耳にしたことがあるそれなりに有名な王国なので、近場の島とも交易しているだろう。

 客船でなくとも貿易船でも問題はない。

 国も豊かな発展を遂げているので、スマラの本来の目的である見知らぬ本にも出会える可能性は高い。

 何度でも言うが、国王がドンキホーテ・ドフラミンゴでなければの話だ。

 

 新聞を読んだ程度の知識しか知らないが、ドレスローザ王国の王朝が変わった原因は前代国王が乱心し、ドフラミンゴがそれを止めたからだと言われている。

 ここまで考えて、スマラはドフラミンゴの能力を思い出す。

 

 確か、彼の能力は糸を操る能力だったはず。

 単純に糸を鞭の様に扱う事もあれば、目視出来ない糸を使い神経に接続して人の身体を無理矢理動かす事も可能なはず。

 あぁ、なんとなく真相が考察出来る。

 この考察を証明しようとは思えないが、麦わら一味が彼が支配している国に乗り込むならば彼らがドフラミンゴの黒い部分を世間に公開してしまうかもしれない。

 つまり、クロコダイルと同じ様な現象を起こす可能性があるかもしれない。

 否、もし見えない部分で悪政を強いていたのなら、麦わら一味は確実に無視しないだろう。

 限界ギリギリまでやれば、麦わらはドフラミンゴに勝てない事もないはずの実力を持っている。

 

 となれば、この船に引きこもって麦わら一味がドフラミンゴを打倒するのを待てばいい。

 下手に敵地に飛び込む事は無い。

 事態が収拾した後に、しれっとフェードアウトすれば良いだけ。

 

 

 そう決めたスマラはパタンと本を閉じて就寝へと移行する。

 流石に疲れた。少し長めに睡眠を取っても問題ないはず。

 

 何もしていない?

 否。

 ストレスは読書時間を除いて色々と溜まっているのだ。

 今日は特に起こり過ぎた。

 故に睡眠でリセットする。完全に無くならないだろうが、幾ばくかはマシになるだろう。

 そもそも、スマラも人間なので三大欲求には抗えない。

 

 

 

 最大の問題に立ち向かう事になるとも知らず、スマラはスヤスヤと眠る。

 時計の針が丁度真ん中に登った頃の事だった。




今回も予定に無かった話です。次回こそはドレスローザ終盤までは持って行きたいなー。


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七十三頁「奇天烈おばさん」

コラボイベント完。ドラコー、ガチャ演出良かったですね。6万で宝具3に出来ました。


「着いた~~ドレスローザ!!」

 

 

 外からルフィの声が聞こえる。

 その大声にスマラは起こされた。

 

 

「うッ……」

 

 

 ぼんやりと意識が覚醒していく。

 窓から差し込む眩しい太陽の光が未覚醒のスマラを刺激する。

 しぼしぼと目をパチパチさせて光に目を慣らしていく。

 

「…………」

 

 うめき声を出しつつ背伸びして凝り固まった身体をほぐしていく。

 時間は何時だろうか?

 壁掛け時計に目を向けると、お昼前だった。

 少し…いやかなり寝坊してしまったらしい。

 

 

「ふぁわぁーーー」

 

 

 欠伸を噛みしめつつ簡単に身支度。

 同室のナミとロビンは恐ろしい程時間をかけるが、スマラは殆ど時間をかけない。

 鏡の前見苦しくない程度に揃えたらお終い。

 結んだり固めたりするのは時間の無駄だ。

 そもそもオシャレに気遣う様な年頃ではない。

 もっとも、若かりし頃のスマラも似たような感じで適当に整えてただけだ。

 逃亡中なのもあるが、それでいいのだろうか?

 

 

 女部屋を出て甲板へ向かう。

 船の上は騒がしくない。時間的に騒がしい奴らが眠っているとは考えにくく、そもそもスマラを惰眠から引きずり起こした声的に、ドレスローザに辿り着いて既に行動を起こしていると言う事だろう。

 ガチャとドアを開けて甲板にたどり着くと、そこには数名しか残っていなかった。

 

「こえーよ~~。どうしてサンジまで島に行っちまったんだよ~」

「一番安全だと思ってたのに……」

 

 膝を芝生について下を向き嘆いているチョッパーとナミがスマラの視界に飛び込んできた。

 何があったのだろうか?

 触れるべきかそっとしておくべきか、悩みつつもやっぱり触れたくなく遠く離れる様に移動をしようした時。

 足音に反応して船に残っているメンバー全員がスマラに視線を向けた。

 

「そうよ!!私達にはまだスマラが居るじゃない!!」

「おぉ~~助かったぁ~~」

「ヨホホホ!!話はお聞きしましたが、そんなにお強いのです? だとしたら心強いですね」

「うむ、苦しゅうないぞ」

 

 ガバッと抱きついて来るナミとチョッパー。

 ブルックは高らかに笑い、ワノ国の子供は何故か偉そうにしている。

 一体何なのか?

 スマラには理解が全く追いつかない。

 とりあえず、ナミとチョッパーはひっぺ剥がして事情を尋ねる。

 

「な、何? ただの船番なんでしょう?」

「それが、一緒に残ってくれるはずだったサンジ君が島に行っちゃったのよ!!」

「敵の襲撃を受けるかもしれねぇって話も出てるしよぉ~」

 

 簡単な説明。しかし、それだけである程度の情報は得て理解する。

 つまり、船番で一番の戦力になるはずだったコックが島に入ってしまい船を守り切る戦力が足りない、と言う事だ。

 

「はぁ……」

 

 ため息を一つ。

 日常的に何か起こらなければならない呪いでもこの船はかかっているのだろうか? 

 そんな疑問が頭を過るが、そんな無駄な事を問いただしてもスマラが満足する答えは帰ってこないだろうと、勝手に結論を付けて無視する。

 

「それで、私は敵が攻めてきたらこの船を守れば言いわけ?」

 

 恐らく船番メンバーが望んでいるであろう言葉を先回りで言うと、彼らは目を丸くして驚く。

 

「え? ホント!?」

「えぇ」

「私達としたらありがたいんだけど、後で何か請求してきたりしない?」

「しないわ。嫌なら私は船内に籠るわ」

「ううん。大歓迎よ」

「うぉぉ!! これでオレ達も安全だぁ~~」

「うむ、大義である……とことで一体誰である?」

 

 ナミは『何か理由でもあるのか?』と意味深に考えてしまうが、スマラ本人に『嫌なら良いわ』と言われて、深く考えるのを止めて素直に喜んだ。

 その他のメンバーはそもそも何も考えずにいる。

 一名スマラの事を全く知らない侍の童が居るが、誰も説明は行わない。

 関係が複雑に絡み合っているし、そうれなら言っても無駄だろう。年相応な頭脳しか持ち合わせていない子供ならしょうがない。

 

 とは言え、理由くらい言っていても問題ないだろう。

 それくらい言っておかなければ後ろめたい事でもあるのか?と邪推されたら溜まったものじゃない。

 

「別に、貴方達の船長が無理矢理乗せてきたとは言え、船に乗せてもらっている身なのは違いないわ。貴方たちが何処で全滅しようがあまり興味ないけれど、安全な島に向かう船が私が乗っている間に襲撃を受けて沈むのは後味悪いのよ」

 

「「「おぉ~~」」」

 

 前半の海を一緒に航海しているからそこの感動を覚えたナミとチョッパー。

 ブルックは何となく2人にノッっただけである。

 

「……」

 

 柄にもない事をしているのは自分でも分かる。

 それでも一度約束したからにはやり遂げなければならない。

 知らんぷりして船内で読書にのめり込んでいても、襲撃を受ければ対処に駆り出されるのは目に見えていた。

 ならば自分から言いだした方が少しでも印象は良くなるというもの。

 印象とか微塵も気にしてないが……それはそれ、これはこれである。

 

 照れくさくなった…のかもしれない。

 スマラは上を向いて遠くをぼんやりと眺めた。

 

 澄んだ青い空。

 形を変えつつも風に乗って移動する雲。

 燦々と輝く太陽が眩しい。

 サァーと風が吹き髪の毛が揺れる。

 耳をすませば遠くでカモメが鳴き、島からは時折歓声が聞こえて来る。

 

 見聞色の覇気を軽く展開。

 それだけで島から強大な反応が複数存在しているのが分かった。

 スマラでも戦闘になれば無傷で逃げ切るのが難しい相手ばかりだ。

 

 とりあえず見聞色の覇気で警戒していたら大丈夫だろう。

 スマラは芝生に腰を降ろして本を取り出して続きを堪能することにした。

 見聞色の覇気もある上に海の上なのだから敵が接近して来たら誰かが気付くだろう。

 敵地なのに見張りを一人も立てずにいるなんて事、流石に気の緩みが多い彼らでもないだろう。

 興味がないので調べていないが、今回で一番の戦力を持っているドフラミンゴ本人が出張って来ない限り片手間で終わるはず。

 気楽に考えよう。そうしないとやってられない。

 

 

 

 

 

「だ、誰かいる~~!???」

 

 『ソウルキング』ブルックの悲鳴だ。

 スマラは軽めに回していた意識を本から浮上させて横眼で彼らを観察する。

 と同時に、流し聞きしていた彼らの会話の内容を脳内で整理し始めた。

 

 事の発端は見慣れぬワノ国の子供を相手に将軍ごっこ遊びをしている最中だったはず。

 チョッパーが毒味で全て飲み干し、ナミが膝枕であやし、ブルックがギター片手に演奏している時だったはず。

 男部屋から声が聞こえて来たのが始まりだった。

 『やだよー』とブルックの即興の歌詞に則った声は初めは誰かが言ったのだと誤認したのだが、その後に何かが割れたり壊れたりする音が鳴り響く。

 明らかに誰かが居る。

 現在、サニー号に乗っているのは船番待機組に振り分けられたナミ、チョッパー、ブルック、ワノ国の子供モモの助、そしてスマラの5人だけだ。

 スマラが緊急時に手を貸す約束を交わした時には見聞色の覇気で察知していた気配は5人だけだった。

 それが今、改めて見聞色の覇気に意識を割くと確かに船の中に気配があった。

 

「確かに誰か潜り込んでいるわね」

「よし、行くのよスマラ!」

 

 呟いたスマラにナミがGOサインを出す。

 襲撃に対応するとは言ったものの、何故指示を受けなければならないのかしら?

 スマラは首をかしげた。

 

「一体どうやって……あぁ、海の中から近づいたのね」

 

 ナミを無視して一人見聞色の覇気をかいくぐられた方法を考えるスマラ。

 普通に考えたら船で近づくはずだ。海の中は盲点だった。

 とは言え船に潜入する間に海面に顔を出すはずなので、スマラが周囲の警戒に全く集中出来ていなかった証拠である。

 

(しょうがないじゃない。今読み進めて居る本が面白すぎるのだもの)

 

 己の怠惰を責任転嫁した。

 コイツ、次も絶対に同じ過ちを繰り返す。次が有ればの話だが。

 

 

 

 

 

「さて、やりますか」

 

 パタンと本を閉じて立ち上がりながらスマラは言った。

 

 やる気は微塵も湧き上がらないが約束は約束だ。

 力技で反故する奴等とは違う。

 最低限の力は貸してあげよう。

 

 凝り固まった身体を解すように首、手足、腕、足、背中と動かしていく。

 ぽきぽきと音が鳴り、身体の調子を整えていった。

 ここまでしなくても能力を駆使すれば大抵の敵は手も足も出せずに撃退出来るはずなのだが、この2年で慢心は思いもしない被害を己に振りかけて来ると学んだ。

 ましては此処は新世界。王下七武賊の天夜叉ドンキホーテ・ドフラミンゴの本拠地。

 どの程度の敵が襲ってくるか不明なのだ。ガチガチの戦闘モードじゃなくても肉体を動かす程度の戦力は出て来ているはずだろう。

 幹部級の敵は居るはずだ。前半の楽園なら各々が船長をしていてもおかしくない実力を持っている。

 新世界でも上位層のスマラからすればその程度だが、ドフラミンゴの直属の部下と考えれば油断はあまり出来ない。

 スマラが読んでいる英雄譚でも、英雄の最後は大抵が慢心故の油断で致命傷を負って終わりだった。

 

 見聞色の覇気で敵の気配を探りながらスマラは芝生の上を歩いて男部屋の入り口に立つ。

 気配は部屋の中から動かない。

 向こうもスマラが部屋の前まで来たことを察知したはずだろう。出来ていないならその程度の相手。

 

「行くの? 行くのよね?」

「各自防御態勢よーいッ! 『毛皮強化』」

「ヨホホホッ! さて、鬼が出るか蛇が出るか」

「コラッ! チョパえもん一人だけズルいでござる」

 

 後ろで好き勝手言ってくれる。

 私だって万能ではない。手の届かない範囲だと守り切れないから、各自防御姿勢を取って船から逃げてくれるのが一番ありがたいのだが……船番が船を捨てて逃げるわけにもいかない。

 

 ハァとため息を一つ。今日だけで何度目だろうか?

 軽く覚悟を決めてドアノブを捻る。

 ガチャと音を立ててドアを開いて……。

 

「ザマス?」

 

 バタンッ!!

 速攻で閉じた。

 

「…ッスーーーハァ」

 

 スマラは深く息を吸って吐き出した。

 目頭を抑えて上を向く。

 

「え?何?? 何がったの!?」

「一体どうしたんだ? オバケでも居たのか?!」

「オバケェーーー! やだ怖い!!」

 

 外野がごちゃごちゃ言っているが無視だ。無視。

 

 オーケー。冷静になった。

 冷静になったから先ほど見えたモノについて考察しよう。

 私は男部屋のドアを開けた。それは間違いない。

 用事がないから入ったことは無いが、同じ船の部屋なのだから造り自体は他の部屋を大差無いはずだ。

 となれば、あのキテレツで気色悪いデザインは何だったのだろうか?

 

 スマラは頭を抱えながら先ほど見えた光景を理解しようとするが、幾ら考えても理解できなかった。

 理解と言うかある程度の考察なら沸いている。

 

「……悪魔の実の能力」

 

 ポツリと呟いたスマラに応える声が一つ。

 

「その通りザマス。アトアトの実でそこの部屋を絶対的な『美』に変えて差し上げましたのよ」

 

 ドアが中から開かれて人が出てくる。

 人? 人なのか? 不細工な人魚にも見えなくない?

 オーッホッホッホッホ~~と高笑いする初老に差し掛かった老婆が現れた。

 下半身が異妙に細く上半身にいけばいくほど太くなっている姿は確かに人魚に見えなくもないが、足は鰭ではなく鱗もついていない。

 金髪よりも黄色と橙色のパーマと三角メガネが特徴的な女性だった。

 奇抜なファッションセンスをお持ちの様だ。

 基本的に質素なスタイルを好むスマラとか欠片も合わないだろうと一目見て分かる。(そもそもファッションに欠片も興味がないだけ)

 

 そんなことはどうだって良い。

 敵が目の前に居て、どんな理由だろうと守るべき者が後ろに居るのなら余計な思考は辞めるべきだ。

 スマラは敵の言葉から相手の能力を考察し始めた。

 能力者との戦いは敵の能力を把握して弱点を付く事が戦闘の基本だ。

 

 敵がバカで助かったわ。能力を知る事が勝利に結びつくとは限らないし、より強い能力や覇気で相手の能力を気にしないで勝てる者も居るから絶対とは言い切れないが……。

 言葉通りなら『美に関する能力』?美と言えば海賊女帝のメロメロの実だけれど美に関する能力を得たのなら老婆の体型や容姿や普通過ぎる。

 となれば、美と言うのは老婆の主観的な意見、観測、イメージ、捉え方なのかもしれない。

 あぁ、ある程度絞れてきたわ。

 

「そうかしら?この船とは全く噛み合っていない奇天烈な景観になっただけだけれど? そもそも貴女は何処の誰?」

 

 思考しつつも声をかけて相手の情報を探る事にした。

 敵だと分かっていても自己紹介は大事。己は名乗らないのがまた自己中心的な思考回路をしている。

 老婆はお喋りなのか、それとも自身の能力に絶対的な自信を持っているのか、ペラペラと喋ってくれた。

 

「あたくしを知らない何て損してるザマスね。いいでしょう。あたくしは~ドンキホーテファミリー幹部!! トレーボル軍所属のジョーラ!!」

「ご丁寧にどうも」

「そちらはもちろん知っておりますわ。かの高名な元賞金稼ぎ!! スマラと名乗っているのでしたわね」

 

 ナミには一瞬だけスマラが気張った様に思えたが直ぐに冷静な態度に戻った。

 ここで追及するべき時ではないので心の内に留めておく事にした。

 

「有名なのは損しかないわね。私の強さを知っているなら退いてくれないかしら。貴女では私では勝てない。最低でも天夜叉を連れて来るべきだったわね」

「若様は別の重要な仕事があるざんす。それに、能力は相性次第でますよッ!!」

 

 ジョーラは急に攻撃に移った。

 両手で非科学的な泡を作り出して撃ちだす。

 誰がどう見ようと悪魔の実の能力による攻撃だ。

 

「避けなさいッ!」

 

 手加減をする理由もない。

 見聞色の覇気で未来を見ていたスマラは易々と避けるが、後ろでスマラとジョーラのやり取りをハラハラしながら見物していた者たちはスマラの警告では間に合わなかった。

 

「えっ!? なにこれ!?」

「泡かー!? でも変だぞこれ!」

「ホネ吉拙者を守るのだッー!!」

「と言われましてもこの距離だと無理です!! そもそも跳ね返れせられるんですか!?」

 

 泡が船番達4名に当たった途端に弾けた。

 見た感じ殺傷能力は無いと思われる。

 

「何をしたの?」

「オーッホッホッ! 先ほども言ったでしょう。ワタクシの能力で美に変えてさしあげましたのよ」

 

 能力を探るが相変わらず答える気はないらしい。

 と言うか、普通は答えるはずがない。

 何度も言うが、能力者は敵に能力を知られないのが一番能力を発揮出来る時間帯なのだ。

 敵に能力を知られたら対策され、弱点を見つけられたらそこを突かれて負ける可能性がグッと高くなる。

 敵の能力を知りたいのなら、スマラも能力の開示を行えばいい。

 もっとも、スマラとジョーラの力量を考えれば能力を知っていようが知らまいが関係無い場合が多い。

 自身の能力や素の力でゴリ押しすれば勝てる能力もいる。

 

 がしかし。

 悪魔の実の能力でも相性が悪い能力者は誰だろうといる。

 スマラにとっては超人系悪魔の実がそれだ。

 ゴムゴムの実やキラキラの実と言った自身に影響を及ぼす能力なら武装色の覇気で無効化して殴れば済むは無しだが、ソルソルの実やグラグラ実と言った他人への影響が強い能力相手だと無効化出来ない、失敗する可能性は高い。

 ジョーラの能力が美に関する能力ならば、ジョーラ本人に作用していない以上概念的な変化を起こす能力なのだろうと推測できた。

 

 なので、スマラはジョーラの攻撃を防ぐのではなく避けたのだ。

 善意で麦わら一味にも回避を行う様に言ってあげたのだが、戦闘に長けている者が居ないのか避けることはかなわなかった。

 麦わら一味の3人とワノ国の子供を覆っていた泡が消えていく。

 晴れたその先にいたのは……。

 

「……厄介な能力ね」

「「「「な、なんじゃこりゃ」」」」

 

 各々を見て叫ぶ麦わら一味。

 奇天烈な容姿に変わり果ててしまった船番の4名が居た。

 

 確かに厄介な能力だ。

 この能力を受けてしまうと普段の力を発揮できないかもしれない。

 そう考えるとスマラはうかつに動けなくなってしまった。

 

「ホーッホッホッホ!! 流石ワタクシざます。ステキな格好になりましたわね」

 

 高笑いで奇天烈な格好に変わり果てたナミたちを褒め称えるジョーラ。

 その感性は決して共感できないスマラだったが、冷静な部分でジョーラには能力の相性が最悪だと言う事を把握して指示をとばした。

 

 

「撤退よ。私が抑えている間に脱出しなさい」

 

 




アレれ?対ジョーラ戦なんて初期プロットには無かったぞ。ドレスローザ編は船で読書してたら勝手にゾウにスキップするはずだったのに……。


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七十四頁「能力を使うまでもないわ」

 

「撤退よ。私が抑えている間に脱出しなさい」

 

 スマラが淡々と指示を出すと、三人はモモの助を抱えて脱兎の如く駆け出していく。

 向かう先は船の中央に位置するソルジャードック。

 スマラは知る由も無いが様々な乗り物が格納されており、潜水艦や戦車、買い出しの小舟まで揃っている。

 

 ともかく、あの奇天烈なおばさんさえ足止めしていたら勝手に逃げ出してくれるだろう。

 その為の時間稼ぎに入る。

 

「それで?天下のドンキホーテファミリーの幹部様が一介の海賊船に何の御用で?」

 

「麦わら一味は超新星の中でもずば抜けて知名度が高いのですよ? まあ、若様はそれ以外にも見ている部分があるザマスが……」

 

 

 牽制なのだろう。

 会話の合間にもジョーラは能力で作り出した泡をスマラに向かって撃ちだしてくる。

 不意を突けば当たる人も居るだろうが、受けてしまえば能力の低下は見てわかる様な能力を態々受ける様な事はしない。

 舐めプはしないのだ。

 当然地面を蹴って回避。

 跳び退けた横目で泡が当たった場所を確認すると、先ほど目に付いた男部屋のように奇天烈な外見へと変化してしまっている。

 

 やはり回避するのが得策。

 あの泡かジョーラ本人に直接触れる事が能力の発動条件とみていいだろう。

 覚醒しているかは不明。

 能力の覚醒は上澄みの実力者でなければ開花していない一つ上のステージだ。

 ドフラミンゴならともかく、目の前の奇天烈老婆がそのステージに立てているとはスマラには思えなかった。

 

 ジョーラはスマラに攻撃を回避されようが気に留めていなかった。

 他の事に気を取られている訳ではなく、単にスマラ相手だと回避されても仕方ない事だと諦めているのだろう。

 王下七武海の幹部ともなれば、楽園の馬鹿海賊と違って実力差というものを弁えているようだ。

 

 そうこうしているうちに、船から脱出した四名が海の上から船に向かって叫んでいるのが聞こえて来た。

 

「サニー号から離れろー!!」

 

「私達は無事に脱出出来ました~!」

 

「さぁ、サニー号が壊れない程度に叩き潰しちゃいなさい!」

 

 上から順番にチョパ衛門、骨吉、オナミである。

 ナミが一番物騒である。

 スマラが交わしてくれた約束を盾に調子に乗っている節もあるが、敵からすればたまったもんじゃない。

 ジョーラ達の一番の懸念点は彼女だった。

 

「お黙り!! ワタクシが若様から預かった任務は三つ。一つ、麦わら一味の船を奪取すること。二つ、モモの助の確保。最後にスマラの引き抜き若しくはドン・キホーテファミリーに危害を加え無いと確約をもらう事!」

 

 高らかに己の任務を公開するジョーラ。

 普通は喋らない物なのだろうが、能力の相性故の圧倒的な優勢状況から気が緩んでいるのだろう。

 

「分からないわね。船の奪取は敵の逃げる手段を消すから合理的だし、私と敵対したくない理由は業腹だけれど当たり前だわ。でも、モモの助の確保は分からないわね」

 

「ワタクシとて若様のお考えを全て理解しておりませんわよ。ですが、任務が下った以上ワタクシはそれに応えるのみ。さぁ! モモの助を渡すでザマス!!」

 

 ジョーラも任務を真意を理解している訳では無かった。

 が、モモの助を敵に奪われてはならない事は分かった。

 

 はてさてどうするべきか。

 ドン・キホーテファミリーが好意的に接してくるのは予想外では無かった。

 ドフラミンゴ程の人物が己の出生を知らないはずがないし、闇のブローカーなら繋がりがあるも必然。

 これまでも私と敵対しないようにと動いて接触して来た者は数えるのも面倒になる程いた。

 直近だと政府がこれに当たる。

 

 スマラはジョーラの攻撃を回避しつつ考える。

 ドフラミンゴの提案に乗って麦わら一味を裏切るのは無しだ。

 幾ら温厚な彼達とは言えそう何度も裏切ると海賊狩りを筆頭に、悪魔の子やまだ顔を合わせたばかりなサイボーグがスマラを叩こうとするだろう。

 幾らスマラに好意的なルフィが船長であろうと、船員の意見を無視してやり過ぎるのはいけないことだ。

 麦わら一味はそんな一味なのだ。

 

 スマラは麦わら一味を捨ててドン・キホーテファミリーに乗り換える事を捨てた。

 約束は交わした。

 嫌々だろうが新世界まで乗せてもらったのは恩である。

 恩には仇で返す訳にはいかない。

 

 かと言ってドン・キホーテファミリーと敵対をしたいわけではない。

 スマラは善良な一般人を気取っている為、海賊とは本当は関わり合いを一切持ちたいないのだ。

 まあ、既にそんな理想的な生活は諦めるに至っている。

 ドン・キホーテファミリーと敵対しても良い事は無い。

 戦えばドフラミンゴに勝てないまでも逃げることは容易だろうが、そんな徒労をするくらいならそもそもこの時点で逃げている。

 逆に仲良くしても良い事は一つだけしかない。

 ドン・キホーテファミリーの組織力を使い、まだ見ぬ物語と出会える可能性が高まるだけ。

 下品であるが涎の垂れそうなメリットであるが、ここ最近の行動や現在地を加味するとメリットよりもデメリットの方が上回る。

 なので、ドン・キホーテファミリーとは一切の取引は行わない。

 

 

「モモの助?と渡したら船から手を引くのかしら?」

 

「若様の命は先ほど言って差し上げたばかりでしょう? ボケには早すぎるのではなくて?」

 

「言ってみただけよ。なら交渉決裂ね。悪いとは思わないでね」

 

 

 形式は大事。

 一応提案して、却下され、年齢で弄られた。

 あまり気にしないとはいえ、スマラとて妙齢の女性なので多少は気にする。

 面と向かって言われるとイライラする程度には常識的な反応を示す。

 

 

 スマラは甲板の芝生を蹴って距離を詰める。

 能力まで使った速度は数メートルの距離を1秒にも満たない時間で埋めた。

 移動の勢いを殺さずに踏み込んで蹴りを放つ。

 

「ふッ」

 

「ガはッ……」

 

 当然ながら回避が間に合うはずもなく、スマラの蹴りを喰らって吹き飛ばされるジョーラ。

 彼女に取って救いだったのは、スマラが能力を使ったのは移動に対してだけで攻撃は素の身体能力だけで行った点と、吹き飛ばされた先が船の壁だった二点だろう。

 攻撃そのものに能力の力を上乗せしなかったのは情け故か、それとも単純にそこまで必要ないと考えた結果か。

 単純に、移動に使用しただけで疲れた線もある。

 

 船の壁を突き破って吹き飛ばされたジョーラは船内で痛みに悶えていた。

 回避は敵わなかったジョーラだが、咄嗟に武装色の覇気を纏う事は間に合ったのか、激痛が身体を走るだけで済んだのは運が良かったのだろう。

 

 見聞色の覇気で意識があるのを感じ取ったスマラが、ジョーラに向かって淡々と言い放つ。

 

「殺さないのはドフラミンゴが私に歯向かわない為よ。殺してるならともかく、生かしているなら彼も私にちょっかいをかけないでしょうし」

 

「ば、馬鹿おっしゃいなさい!! 確かに貴女のバックは若様ですらおいそれと触れられない領域。ですが!! 貴女を攻撃しても動かないのは2年前の戦争で証明済み。若様なら必ずしも敵討ちに出て下さいますわ~~!!」

 

「チッ……面倒だわ」

 

 ジョーラの命乞いを聞いを聞いたスマラは思いとどまる。

 

 殺しと言う行為に対してではなく、単純にジョーラを殺した後に発生するゴタゴタを天秤に乗せた結果、殺さないで無料化する方が多少は厄介事が減ると言うだけの事。

 殺しについての嫌悪感は既に無くなっている。

 産まれからして殺し殺されは日常的だった上に、半強制的にさせられていたからだ。

 本人の性格的にも殺人について然程興味が無かったのも加味している。

 必要があれば躊躇なく殺すし、必要が無ければわざわざ犯す必要のない行為。

 スマラにとって殺しとはただそれだけの事。

 そんな性格だからこそ、家族達に馴染めなかったのだろう。

 

 

 

「油断しましたわね~~~~!! わたくしの芸術は止まらないザマス。あぁ、貴女もわたくしの思う通りに綺麗にしてあげる~~♪」

 

 思いとどまったスマラの隙をついてジョーラは能力を発動した。

 卑怯とは言ってはいけない。

 スマラは海賊では無いと自称しているがジョーラは海賊なのだ。

 目的、任務、己の為、若様の為ならばどんな手を使ってでも達成させる。

 それがドン・キホーテファミリー幹部の覚悟だ。

 

 スマラは能力の泡が迫ってくるのを見て、芝生からマストを足場にして宙へ逃げる。

 そして月歩の要領で移動しながた悪態を吐いた。

 

「…やはり海賊の言葉は信じられないわね。確実に殺すか意識を奪って手足の一本でもへし折っておくべきだったかしら?」

 

「いや、恐いんですけど!!? ってちょっと! これ一人乗りなんだけど!!?」

 

 ヒョイと飛び乗った先に居たナミが突っ込みを入れた。

 スマラが飛び乗ったのはナミが操縦しているウェイバーと呼ばれる空島で見られる貝を使った乗り物だ。

 波と風向きを熟知していなければ乗りこなすのが難しい乗り物だが、天性の才能で完璧に乗りこなしている。

 そんな絶妙なバランス感覚が必要な乗り物に飛び乗ると言う事はバランスが崩れて……

 

「あれ? 軽いッ!!? 何で?」

 

 ナミはスマラが後ろに乗り込んできたのに全くバランスが崩れず、スマラが体重を殆ど感じさせない事に気づいた。

 

 スマラとナミは海に放り出される事は無かった。

 

 

「能力で体重を軽く調節したのよ。小物程度なら乗せても問題ないでしょう。それに、海に落ちたら私は溺死してしまうわ」

 

「う、羨ましい能力ッ」

 

「そんなことよりも良いの? 船が奇妙なオブジェクトに早変わりしたけれど」

 

「噓ッ!!? フランキーに怒られちゃう~!?」

 

 

 スマラが促して、ナミはようやくサニー号の現状を思い出した。本人的にはスマラが一人乗りのウェイバーに乗り込んで来た事に託けて、頭から綺麗サッパリ忘れてしまいたかったのかもしれない。

 しかし、ナミだけが現実逃避していても意味がない。買い出し用のミニメリー号に乗り込んだブルックとチョッパーはしっかりと船が奇妙なオブジェクトに変えられたのを見て、ギャーギャー騒いでいる。

 

 奇妙なオブジェクトとなり果てたサニー号の甲板から、ジョーラが待機していた部下達に指示を下す。

 

 

「お前達に活躍の場を上げるザマス。ヘンテコな乗り物を壊してモモの助を確保しなさい。スマラとて海に落ちたらただの金槌。落としてしまえば怖くな~~いッ!!」

 

 

 ジョーラの第一優先はモモの助の確保。サニー号を船としての機能を奪った今、それに全力を捧げられるというもの。

 スマラが手を出して来る予想もあったが、今の状況では守り切る事は不可能だとジョーラは考えた。それが甘すぎる考えだとも知らずに。

 

 

「モモの助を奪え~!!」

「モモの助ってどれだよ」

「ワノ国の子供って話だとよ。あの姉ちゃん達足元に居る奴じゃねぇのか?」

「あんな小さな小舟、波にあおられるだけ沈んじまうぞ。ボーナスゲットーー!!」

「待ってよ、俺が先だァ!!」

「ずりーぞ!! 俺だって!!」

 

 ごぞってスマラとナミを狙い始めるジョーラの部下共。

 スマラが視線を下に向けると、震えているモモの助がナミの足に引っ付いていた。

 小さくて見えていなかったようだ。安定の点から言えばミニメリー号の方が遥かに条件が良いのだろうが、モモの助にとってはナミの側が断然に良いらしい。単純に男の側よりも女性の方が良いと言う下心だったのかもしれない。

 が、今になって言えばそれは、現状でもっとも安全な場所の近くに陣取れたと言っても過言ではない。

 

 

「ナ、ナミ!! 敵が来ようぞ!! ほね吉にチョパえもん拙者を守ってくれ~!!」

 

「慌てる心配はないわよ。むしろ、能力者二人の方に行かなくて助かったわ。さぁ、やっておしまいッ!! 私たちに歯向かった事を後悔させてやるのよ」

 

 

 スマラが真後ろに居るからか、普段とは違い敵が襲って来ているにも関わらず調子に乗っているナミ。

 そんなナミをジト目で見つめるスマラ。

 

 

「貴女、立場を分かっているのかしら? この状況下だと私の能力だけじゃあ守り切れないわよ」

 

「え……?」

 

「私の能力は基本的には私が直に触れること。この乗り物ごと転覆させられる可能性は無くは無いわね」

 

 

 それこそ、スマラですら防げない覇気を込めた力業で立っている舞台から壊されてしまえばどうしょうもない。

 もっとも、それはナミとモモの助を守りながら、と言う前提条件があればの話だ。

 スマラ一人ならば脚力で空気を蹴って陸まで逃げ切る事は簡単だろう。追撃の銃弾程度なら能力で跳ね返せる訳で、足場にしている攻撃すらも無意味になる場合の方が高い。

 しかし同乗者が居て、それらを守る必要があるとなれば、難易度は少々変わってくる。

 それ相応の能力の使い方を学んで、習得しようと鍛錬を積んでいたのなら確実に守れると断言出来たであろうが、生憎とスマラはこれまでずっと孤独だった。

 独りで戦う術を何十年も昔から定着してきたのだ。今更他人を守りながら戦えと言われても困るだろう。実力差が漠然を出ている戦いなら雑にやっても問題はない。しかし、王下七武賊の幹部で海の上と言う条件下では難易度は爆上がりだ。

 

 故に、

 

「まぁ良いわ。この程度、能力を使うまでもないわ」

 

 吹き荒れる覇王色の覇気。

 

 海軍中将ですら一部を持っていく覇気は容赦なくジョーラの部下の意識を奪っていった。

 ドボン、ゴロンと海に落ちたり潜水艦の甲板に倒れる。

 潜水艦の甲板なら打ち身程度ですむが、海に落ちた者は最悪だろう。意識がない為自力で起き上がる事は不可能。沈んだら助けてもらわない限り溺死は確実で、浮力で受けた者も顔が海面を向いていれば呼吸が行えずに溺死。仲間に助けてもおうにも、ジョーラが引き連れてきた部下はあえなく全員スマラの覇王色の覇気に意識を持って行かれている。助けられる者は誰一人としていない。

 最悪死んでしまうだろうが、スマラは全く気にしなかった。能力者を海に落とそうとして殺す気でいた奴等に賭ける慈悲はない。王下七武賊であろうが海外をやっているのだ。死ぬ覚悟は既に出来ていなければ可笑しい。

 そういうわけで、無法者には容赦しないスマラだった。

 

 能力を雑に使うだけでは完全に守り切る事が不可能だと判断したスマラは、ジョーラの部下共の攻撃が届く前に対処した。

 確かに嘘は言っていなかった。能力を雑に使うだけでは、ナミとモモの助を確実に守りきる事は不可能だったのだから。

 むろん、誤解したナミがスマラに怒りの声を上げるのは当然だった。

 

「ちょっと無力化出来るならもっと早く言いないよ! 慌てたのを返しないよー!!」

 

「言ったでしょう。能力だけでは完全に守り切れないって。手段が全くないとは言葉にしてないわ」

 

「ッ~~~。そう言う事じゃないのよ。まぁ良いわ。あのオバサンはどうなったの?」

 

 あれではまるで絶体絶命のように聞こえたじゃない、そんな言葉をナミはグッと飲み込む。これはあれだ。ルフィやゾロと似たような感覚だ。つまり、言っても意味は無い。

 我慢してナミはスマラにジョーラがどうなったのか聞いた。この距離だとサニー号の甲板はギリギリ見えるか見えない距離だった。

 ナミはスマラが見聞色の覇気で遠くの気配を察知出来る事を思い出し、良いように扱う。言わなきゃ動いてくれないのだ。逆に言えば動いてくれる可能性は高いと、これまでの航海で理解していた。雑な扱いでもある程度はやってくれるのだから、今は働いてもらおう。

 

 スマラはナミに聞かれて、無意識に発動している見聞色の覇気に意識を向けた。

 ジョーラの気配は……ある。が、動きは全く見られない。少なくとも意識は飛んでいないみたいだ。

 牽制レベルとは言え、覇王色の覇気を受けても意識を保てるので流石王下七武海『天夜叉』ドンキホーテ・ドフラミンゴも部下とも言える。

 

「意識はあるみたいだけれど、動きは無いわ。船を奪還するにはチャンスだと思うわ」

 

「良し! チョッパーとブルック行くのよ~!」

 

「船を取り戻すのは賛成ですが、私たちだけですか? お嬢さんも来て下さると心強いのですが……」

 

「ダメよ。万が一があったら誰が私を守るのよ。……狙いはモモの助でしょう? だったら易々と近づかないのが正解。分かったら行きなさいッ!!」

 

 ナミがビシッとそれらしき事を言ってブルックとチョッパーにサニー号の奪還を任せた。

 決してジョーラが怖いわけではない。そう、これはモモの助を守っているのだ。故に最大戦力を手元に置くしかなく、それなりに戦えるブルックとチョッパーをジョーラ捕縛とサニー号奪還に向かわせるだけだ。

 うんうん、と頷くナミを横目でスマラは見聞色の覇気を強めたのだった。こんな海上でドフラミンゴとやり合うのは分が悪いのよ。

 

 



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七十五頁「誤算」

筆が乗ったので1ヵ月未満で完成出来ました。


 ジョーラは思いの外簡単に拘束する事が出来た。

 スマラの覇王色の覇気で戦意が削がれていたからだった。虚勢を張る様に「まだ負けてない」と言うが口だけで手足は震えて使い物にならなくなっていた。

 

 ドフラミンゴの部下と言えどこの程度か。武闘派で無かったのが幸いしたわね。

 スマラはジョーラが鎖でぐるぐる巻きにされているのを見て、ほっと一息を吐いた。

 

 能力者なのだだから欲を言えば海楼石の手錠を付けて欲しいところだが、麦わら一味にそんな高価な物は存在しない。

 基本的に、世界で最も硬いと言われている海楼石を加工出来るのはワノ国の技術のみ。現在ワノ国を支配している百獣のカイドウはその技術力を持って世界政府や他の海賊、その他裏社会の人間たちと取引して利益を生み出し、その利益で海賊団を強化している。

 海楼石の手錠を備蓄している海賊団が居るかもしれないが、それはカイドウの傘下か、裏社会から流れてきたものを高価格で買い取っただけの事。

 つまり、麦わら一味がそんな高価な物を持っているはずがなかった。そんなお金があれば、目の前の航海士さんが好きな家具や洋服に費やしているだろう。

 

 海楼石の手錠は能力者を封じ込める以外にも役に立つ。硬い性質から、余程の覇気使いでなければ壊すことは不可能。今回で言うならば、ジョーラに嵌めておけば逃がさない上に能力まで封じ込める。

 まぁ、私としては海楼石の手錠は数少ない弱点になるのだから、この船に無いのは嬉しいのだけれどね。

 

 スマラは海楼石の便利性と厄介さを改めて認識しながら、サニー号の甲板でドレスローザを眺めていた。

 

 

 

 

 

「ボーっと海を見て楽しいのか?」

 

「……楽しくないわ」

 

 

 ふと声がした。視線を横に向けるが誰もいない。

 視線を下に向けるといた。

 

 一部を刈り上げ残った髪を頭上で一纏めにする独特な髪型。ちゃっちな物ではなく、きちんとした布を使って織られた着物。

 子供ながらにしてワノ国の侍を彷彿させる容姿。間違いなくワノ国出身なのだろう。否、スマラは興味がないので聞いてないが、時折ワノ国の次期将軍を名乗る子供だ。

 スマラがキチンと耳にしていれば頭を傾げる事を口に出すモモの助だったが、彼は彼でスマラの事が気になっている様子。

 

 麦わら一味の仲間なのかそうでないのか良く分からない人。

 気が付いたら船に居て、麦わら一味の誰も何も言わないから敵ではないのだろう。

 身長が高くクールな印象でカッコイイ。

 女好きの血を引いているモモの助が興味を引くには十分な容姿を持っていた。

 目にするスマラは何時も本の頁を捲っていた。

 知的で華奢なら身体的に戦闘なんてこなせない、なんてモモの助は幻想していた。

 

 しかし、現実は違った。

 

 ジョーラに襲撃され、おナミにしがみついて震える事しか出来なかったモモの助は見た。

 戦いなんて知らないと思われたスマラが怖いオバサン相手に圧倒している姿を。雑魚を威圧だけでなぎ倒す姿を。

 その姿を見てモモの助は思い出す。ほんの数日前……父を殺す要因となったバケモノを。

 あのバケモノとは全く異なる。性別からして違い、スマラは細く華奢な体付きをしている。

 身長が高い方であった父上をも遥かに上回る肉体を持ったバケモノ。

 対してスマラは女性にしては長身であるが精々2メートルに届かない程度に収まっている。

 なのに、どうして似ていると感じたのだろうか?

 

 モモの助には知識も無く子供故の肌で感じた感覚でしか分からなかったが、恐らく覇王色の覇気の有無だろう。

 ルフィも覇王色の覇気を持っているがモモの助の前では使ったことが無く、また雰囲気というか圧というか……とりあえず違った。

 末恐ろしい。しかし、そんなバケモノに近い彼女が何故この船に乗って大人しくしているのか不思議だった。

 

 怖い。

 怖いが気になって仕方がない。

 おナミやチョパえもん達は自分を捕えに来たジョーラを縛り上げるのに夢中でモモの助は暇だった。

 丁度いいとでも言うべきか。

 そこでモモの助は一人海を見ているスマラへと声をかけたのだった。

 

 

「楽しくないのに見てるのか? 意味が分からぬ」

 

「警戒よ警戒。なんでか知らないけど、あなたがドフラミンゴに狙われているのでしょう? 私は私の足の為に守っているの」

 

「うむ。それはありがたい。 が、襲撃は退けたでないか。もっと緩んでいても良いではないか。ほれ、拙者が退屈を紛らわせてやろうぞ」

 

 光栄に思うが良い。

 モモの助は下心満載でスマラと触れ合う為に近寄った。

 

 しかし、スマラは心底嫌そうにモモの助の額にデコピンを喰らわせて断る。

 ビシッ!とそれなりに強い衝撃と音を立ててモモの助の額を弾いた。

 

「嫌よ」

 

「い、痛いでござる!!? い、いや、侍は痛く、ない」

 

 能力は勿論、覇気も力もそこまで込めてない一撃を受けたモモの助は仰け反って額を抑える。痛くない痛くないと口に出しているが、目尻には涙を浮かべており悶絶している姿をみれば、強がっている子供にしか見えない。

 か弱い女の子のデコピンなら、子供相手に優しさを見せる人のデコピンなら、本当に少し痛む程度の軽いもののはずだ。

 しかしモモの助は仰け反り数分もの間痛みに悶えていた。

 つまり……コイツ、普通にデコピンしやがった。

 本気ではないが加減はしていない力でデコピン……スマラのそれは大の大人ですらモモの助と同じ様になったであろう威力。

 大人げないぞ。優しさの欠片も無い。

 いいや、普通に何も考えずに能力と覇気を込めずにデコピンを行った結果なのかもしれない。

 無関心だが人として最低限の良心と言うか常識と言うか……とりあえず子供に大怪我を負わせない力加減は持っているようだ。

 

 まぁ、もとはと言えばモモの助が下心でスマラに近づいたのが悪かったのだ。

 その辺りはサンジを見習った方が良い。彼も女性にしたして下心を持って接する時もあるが、本気で女性が嫌がる行為は絶対に行わない紳士なのだから。

 

 

「ワノ国の子供は強いのね。 まぁ良いわ。それよりも勘違いしているみたいだけど、まだ安全とは言い切れないわ」

 

「へ?」

 

「幹部を捉えてるとなれば、ドフラミンゴが部下を捨てる非情さを持ってない限り必ず別の人が送り込まれて来るわ。目的である貴方はドレスローザから離れていないもの」

 

「そうか。だから警戒しておるのだな。感謝するぞ」

 

「えぇ、存分に感謝なさい、ワノ国の将軍候補なら国に帰った時に本を読まさせてもらうわ」

 

 まぁドレスローザでドフラミンゴが失脚するか、次の島では必ず絶対に船から降りてみせるわ。

 

 スマラは内心で全く違うことを考えていた。

 ワノ国まで絶対に同行しない意志を感じられるが……またなぁなぁで降りるタイミングを見失ったりしないだろうか?

 ナミ辺りはこのままずっと乗ってそうな雰囲気を感じ取っているが、スマラの意志に対して運命は逃してくれるのだろうか……。

 

「ん? もしかしてドフラミンゴ本人がやって来る事はないだろうな?」

 

「かなり高いわね。もっとも、ドフラミンゴの優先度が貴方なのか、シーザークラウンの確保なのか、どちらかに寄るけれど……。私だったら貴方の確保でしょうね」

 

「何故だ!?!」

 

「私を計算に入れないのなら戦力的に此処が一番手薄だからよ」

 

 そのことを見越し、本来ならサンジが船番に残る予定だったのだが、当の本人は情熱的なドレスローザの女性たちの存在に惹かれてしまった。

 まぁ、こうしてスマラが手助けしているのもサンジのスマラへの信頼の印なのかもしれないが……向けられた本人は真底嫌そうだ。

 

 ドフラミンゴの思考を読んで警戒を続けるスマラだが、そもそも彼女は読書に夢中になっていてドレスローザでの作戦を知らない。

 故にドフラミンゴは現在、島の端に位置するグリーンビッドでシーザークラウンの身柄を受け取るために向かっており、トラファルガー・ローとバチバチにやり合っている。

 

 そんな事を知らないスマラは今にでもドフラミンゴがドレスローザの王宮からやって来ると警戒しているのであった。

 

 

 

 

 

 プルプル……。

 プルプル……。

 

 

「ん? 電伝虫が鳴ってるぞ!! 出ても良いよな?」

 

 電伝虫の呼び鈴に気づいたチョッパーが現在の最高責任者であるナミに許可を求める。

 ナミは許可を出す。

 

「良いわ。ただし、知らない人、危険人物だった場合は何しないで切ること」

 

「おう!! 分かったぞ! もしもし?」

 

 ナミも一応は警戒しながら許可を出す。

 危険人物とは恐らくドフラミンゴを言っているのだろう。

 出ない、と言う選択肢はない。もし仲間が助けを求めてかけてきてたらどうする?

 

 チョッパーは恐る恐る受話器を取った。

 電伝虫は特性通り、繋がった側に居る人物に顔を似せて声を出した。

 

「トニー屋か……。良かった。そっちは襲撃がなかったのか」

 

 ノイズと共に聞こえて来た声はトラファルガー・ローのものだ。

 声が荒い。息切れと言うよりも、大怪我で呼吸が乱れて声を出すのも辛いのだろう。

 スマラは会話を黙って聞いた。

 

「直ぐに船をグリーンビッドに回せ!! お前らにシーザーを預ける!!」

 

 用件だけ言って直ぐに切れた。

 会話の途中に何かが崩れる音が聞こえて来たところから、トラファルガー・ローは戦闘中で余裕がないのが分かる。

 

 トラファルガー・ローも単なる億越えと言うわけではなく、麦わら一味が休止中に王下七武海に選ばれる程の実力は持ち合わせている。

 となると、相手は単なる雑魚では無く同格以上の存在となる。

 このドレスローザにそんな人物など一人しかないだろう。

 

「は?? 取引の対価に身柄を渡すだけだったじゃないの!? 説明をしなさいよ、説明を!! ルフィか!!」

 

「状況から察するに、取引は何らかの原因で中止。ドフラミンゴと戦っている陽みたいでしたね。ナミさんどうしますか?」

 

「化け物どうしの戦いに近づくなんて自殺行為……と言いたいところだけど、私たちが行かない訳にもいかない状況よね……」

 

 どうやら、トラファルガー・ローの立てた作戦は失敗。その尻拭いをこの待機チームで行わなくちゃならないみたいだ。

 ナミ、チョッパー、ブルックも戦えると言えば戦えるが、敵の最高戦力を相手取るには不安になる面子。

 しかし、この場には最高戦力にも劣らない実力を持っているであろう人物が乗っている。

 

 ナミはチラッチラッとスマラの方に視線を寄越しながら指示を飛ばす。

 

「良し。とりあえずグリーンビッドに向かいましょうか。船に危害があればよろしくね」

 

「……えぇ。私も足が無くなるのは困るから」

 

 ナミのおねだりにスマラは苦々しく了承をする。

 

 ドレスローザさえ出港して次の島に辿り付けさえすれば……。

 そう思わずにはいられない。それか、麦わらがドフラミンゴを蹴り落として……海軍がやってきたらスマラとて安静に出来ないので即座に却下する。

 以前なら、麦わら一味と共に行動する以前なら海軍が駐在する島であろうと問題なく立ち寄れた。

 手配書も無く末端の海兵まで顔を知られてない以前なら、余程の問題行動を起こしさえしなけ安全で快適な毎日を送れていた。

 偉大なる航路に、新世界に戻ると言う目的を持って船に乗らせて貰っていなければ継続していたであろう日常。

 もっとも、いずれにしても偉大なる航路や新世界には長い時間をかけようと戻るつもりであったので、何十年と遅いか早いかの違いであるが……。

 

 

 

 

「うぅ……。自ら若様の下へ向かおうだなんておバカな事」

 

 と、ドフラミンゴの居場所を今更ながら知ったスマラが鞄の中から本を取り出して祝福の時間を過ごそうとしていると、スマラの覇王色の覇気とそれなりに強い一撃を喰らって気絶していたジョーラが目を覚ました。

 海楼石ではないが鎖でぐるぐる巻きにされているジョーラは身動きこそ出来ないが、能力を封じている訳ではない。

 注意が必要だ。麦わらのように身体を伸ばす拘束が役に立つ能力とは違い、動かなくても能力が発動できスマラにとって相性の悪い能力者ならなおさらだ。

 スマラは本の文字列を追う作業を辞め、直ぐにでも動き出せるように重心を整えながら様子を見守った。

 

 

「め、目を覚ましたぞ!! どうするのだ?」

 

「能力を使われる前にやっちゃいなさいッ!!」

 

「よ、よしきた。動けない相手に気が乗らないけど、能力は厄介だしな。『ヘビーゴング』ッ!!!」

 

「えぇ、海賊の世界は残酷ですので……。あ、ナミさん? それはやりすぎでは?」

 

「要はもう一回気絶させれば良いんでしょ? 『ウィザーエッグ サンダーボルト=テンポ』ッ!!」

 

 

 サニー号に雷が落ちる。オーバーキルな気もするが、幹部ではあるが、戦闘員と言うよりは工作員な側面が強いジョーラには十分過ぎる攻撃だった。

 ナミの雷を受けて今度こそ気絶してしまったジョーラ。これで近くは意識が戻る事はないだろう。

 

 

 ジョーラの意識が飛んだの見たスマラは視線を本へと戻す。

 ギャーギャー言いつつも、何だかんだってやる時はやれるじゃない。楽できるからありがたい事この上ないわ。

 

 この先はそうもいかないだろう。電伝虫からの会話を聞くに、既にドフラミンゴと戦闘に入っている模様。

 既に敵対行為を取っているとは言え、スマラとして非常に好ましくない状況だ。

 とは言え、約束を反故にして逃げるわけにも行かない。

 スマラにとって良い点と言えば、トラファルガー・ローと戦闘している点だろうか。ドフラミンゴと言えど彼を無視して船を襲う事はないだろう。

 

 そうスマラは楽観的な予想を立て、一時の読書時間を堪能するであった。

 

 

 何故ドフラミンゴとの取引が中止になったのか知らないまま、麦わら一味船番5名はグリーンビッドに船を進める。

 ドフラミンゴが実は王下七武海を辞めてなどいなくて、このドレスローザに上陸している海軍本部大将『藤虎』と共闘しているなど、情報を仕入れる手段がない彼らはまだ知らない。




 本来なら拘束されど意識までは失わないジョーラですが、スマラの攻撃と覇気で失ってしまいました。
 これにより、ドフラミンゴの王下七武海脱退が誤報だった情報がナミたちは得られてません。
 本筋にはそこまで影響は無いはず……。


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七十六頁「正当防衛」

トネリコが3万で宝具マになったのに、ミコケルを出すのに5万かかりました。


 トラファルガー・ローから緊急連絡を受けて数分後。

 海岸沿いに船を進め、そろそろグリーンビッドが見える頃になっていた。

 

 島の周りには霧が発生しており、中々島を確認しずらい。

 麦わら一味船番組は船の端に集まって、自分達を此処に呼びつけたトラファルガー・ローを見つけようとしていた。

 

「トラ男は見える?」

 

「うーん。霧でよく見えね。変わった森なら見えるんだけど……」

 

 双眼鏡を持っているチョッパーが島の様子を報告するが、何も見えないと言う分かり切った報告だけ。

 しかし、読書時間を堪能しているスマラは見聞色で色々と感じ取っていた。

 島には強い気配が3つあること。コソコソと動き回っている小さな気配が点々と。

 

 そして、海中から猛獣に近い気配がそこら中に。

 

「衝撃に気を付けなさい」

 

「え? 今なんて…」

 

 スマラが離れているナミ達にギリギリ聞こえる声量で伝えた瞬間、ドスーン!! そう音を立てて船が揺れた。

 柵にしがみついて振り落とされるのを耐える居残り組。スマラも壁に背中を預けて揺れに耐える。

 

「うぁぁ!?」

 

「何?? 何なのー!!?」

 

「海に何か居るぞ!!」

 

 サニー号を襲撃したのはグリーンビッドの周囲を縄張りとしている闘魚と言う魚の群れだった。

 赤黒い鱗に角が生えており、何と言ってもそのデカさだ。サニー号の三分の一以上もの大きさだ。

 そんな危険極まりない魚が居るからこそ、シーザー引き渡し組はドレスローザ内部からわざわざ徒歩で向かったのだと、今更ながら居残り組は気が付いた。

 

「ナニコレ!?魚?? 角生えてるんですけど!?」

 

「船に穴開けられるぞ!? こんな島に船で近づけねぇよー!!」

 

「迎撃しようにもこの数はチョットばかし厳しいですね、ナミさん、どうしますか?」

 

「トラ男の奴、後で覚悟してなさいッ!! 今この船に誰が載っていると思ってんの!! さぁスマラ船を守って頂戴!!」

 

 自分達はドレスローザから歩いて安全に向かったトラファルガー・ローに怒りを見せていたナミは不敵に笑うとスマラに頼った。

 完全に他人頼りだが、それはそれでナミらしいと言うか何というか……。ナミに指示を仰いだブルックは何とも言えない。

 

「はぁーー…」

 

 何となく予想はしていた。しかし、実際に言われると気が滅入ると言うものだ。

 それでも船が大破して海に投げ出されるのは困る。

 

 スマラは大量の闘魚の群れを一瞬で無力化する方法を取った。

 それは即ち、

 

「……ッ!!」

 

 覇王色の覇気による一掃だ。

 これが一番確実で素早く済む。全く動く必要が無いのも点数が高い。

 

 こうしてサニー号を襲っていた闘魚は全滅した。

 気絶した闘魚が船の周りに大量に浮かび上がる様子は、一種の天変地異の前触れかのように思える。

 しかし、殺したわけでもなく気絶させただけなので安心はできない。

 気絶とは一時的なもので、一生目が覚めない可能性もあるが基本的にはいずれ目は覚める。それが数秒なのか、数分なのか、数十分なのか、数時間なのかは闘魚自身の気の強さによるところだ。

 

「び、ビックリした~~」

 

「魚人島でのルフィさんと同じで一瞬にしてあの群れを無力化しましたよ。……彼女、一体何者なんです?」

 

「ルフィが拾って仲間って宣言してそのままよ。ま、かな~り強くて頼りになるのは間違いないわね」

 

 ありがたやーと拝んでくるナミをスマラは無視して読書に戻ろうとした。

 しかし、スマラは固まった。

 彼女は一つミスをしていたのだ。

 

 グリーンビッドには現在トラファルガー・ローがサニー号の到着を待っている。それも単に待っているのではなく戦闘を行いながらだ。

 では、戦闘を行っている相手は誰だ?

 王下七武海の称号を持っていたトラファルガー・ローが本気で余裕を持てない程の相手は?

 となりの島は誰の国だ?

 

 冷静になって思考停止しないでちゃんと頭を使いながら行動していれば簡単に分かる事だった。

 覇気使い、悪魔の実の能力者すら殆ど居ない四つの海で過ごした数十年が考えながら行動する事を忘れさせた。

 頂上戦争、麦わらへの2年間修業と最近は強者との戦いが増えてきていたが、それでも人生の中で最も過酷だった時期に比べるとまだ温い。

 

 

 

 スマラのやる気のない見聞色の覇気に敵の気配が引っかかる。

 戦闘モードで広範囲に展開していたらグリーンビッドに近づく前には気が付いていて、覇王色の覇気を垂れ流すなんて己の居場所を知らしめる馬鹿な行為などしなかっただろう。

 もっとも、グリーンビッドにここまで近づいた時点で覇王色もクソも無く見つかる可能性だってあったのだが……。

 

 

 

「あれ? ……あぁぁ!!?」

 

「今度は何!?」

 

「ドフラミンゴが飛んで来る!!?」

 

 

 そう、今この瞬間。グリーンビッドにはドフラミンゴが居た。

 隣の島のドレスローザはドフラミンゴのテリトリーであり、シーザー・クラウンの身柄を受け取る交渉の為にグリーンビッドまで足を伸ばしていたのだから当然だ。

 作戦を知らなかったスマラが全面的に悪い。

 他のメンバーが悲鳴を上げているのは、ドフラミンゴの標的がこちらに向いたからだ。

 

「何この悪夢…私たち死んじゃうの!!?」

 

「ギャ―――助けてくれーー!!」

 

 チョッパー、ナミ、モモの助が抱き合って悲鳴をあげる。

 戦闘能力が低い方である二人には少々ショッキング過ぎる光景だ。

 

 呼ばれたスマラはため息を一つ吐くと立ち上がる。

 やる気など微塵も出てこないが、ドフラミンゴが船を沈めようと動くならスマラにはそれを止める約束がある。

 ドフラミンゴレベルの相手ならスマラとて手を抜いて勝てる相手ではない。

 本気でやって五分五分……よりも低い。

 むしろ4割程度の勝率が見えるだけスマラの能力と素の身体能力が高い事が分かる。

 戦闘能力を鍛えていたのならば8割の勝率を得ていたであろう実力。

 

 たらればの話は辞めよう。

 実際のところ、今のスマラはそこそこ動ける程度にはなっている。

 理由は単純。

 麦わらへの2年間の修行でかなり動いた。

 それこそ、頂上戦争にも匹敵する戦闘を半年以上も。

 ルフィの戦闘能力はスマラとて読書をしながら軽く受け流せる枠を遥かに超えていた。

 世界的に比較するならば、海軍本部の上澄みの中将、四皇の最高幹部にも十分戦っていける程に強くなっている。

 そんな相手をしていたのだ。

 戦闘の勘を取り戻し、能力に頼らず動いても筋肉痛を患わず、覇気だって平和な海でほのぼのと過ごしていた時よりも洗礼されている。

 

 

 

「フッフッフ、俺の大切な家族によくもまぁ手出してくれたな。スマラ!!」

 

「そっちが私の足を沈めようとするからでしょう。正当防衛よ」

 

 宙に浮かぶドフラミンゴと甲板に立つスマラが向かい合う。

 両者とも相手が動けば即座に対応出来る姿勢だ。

 見聞色の覇気で読み合いを互いに行い、それがまた牽制となって両者とも動けないでいる。

 もっとも、本気を出せば数秒先の未来を視る事も可能なスマラの方が読み合いにかけては軍配が上がるが、ドフラミンゴが動くのを待っているのでスマラは動かない。

 

「正当防衛も行き過ぎは過剰防衛と捉えられても可笑しくねぇ。どうだ、今からでも遅くはねぇぞ」

 

「冗談。私を勢力争いの道具にしないで頂戴。私の血、知らないはずがないでしょう?」

 

「フッフッフ。確かにそうだが、にしては麦わらに惚れてるみてぇじゃねえか。え?」

 

「惚れ込んでいる訳では無いわ。成り行きよ成り行き。それでも約束は守るべきじゃない? だから私は貴方の前に立つのよ」

 

 非常に不本意ながらね。とスマラは若干眉をひそめる。

 ドフラミンゴはソコを突く。

 

「だったら裏切っちまえばいいじゃないねぇか。海賊に裏切りを付き物だぜ」

 

「私を社会の底辺と一緒にしないでくれるかしら? うっかり貴方を殺してしまいそうになるわ」

 

「やれるもんなならやって見せろよ!!」

 

 ついにドフラミンゴが攻撃に移る。

 挑発に乗った形に見えるが実際はそうではない。

 これでスマラが己に手を出して落とされるのなら、新世界の均衡が崩れるかもしれない。

 ドフラミンゴも、ドフラミンゴの商売相手も、世界の均衡が崩れて世界中で戦争が起こる事を望んでいる。

 もっともスマラともう縁を切ったかもしれない。もう何十年も接触したと言う情報を、噂ですら聞いたことがない。

 闇の仲介人として新世界の裏稼業を仕切っているドフラミンゴが知らないのだ。実際に接触は皆無なのだろう。

 それでも何十年も接触しなかったからと言って完全に見限ったとは思えない。

 ドフラミンゴ自身も海軍本部に信頼のおける部下を十数年も潜伏させてきた。

 故にその可能性にかけた。外れても問題ない。何も起こらないだけだ。

 

 能力で生み出した糸をスマラに向けて放つ。

 糸と言えば攻撃性がないと思うかもしれないが、ドフラミンゴが操る糸はピアノ線にも劣らない硬度を持ち、それが凄まじい速度で襲いかかってくるのだ。

 その凶悪さは鉄の盾ですらすっぱりと切ってしまうと言えば伝わるだろう。

 そんな攻撃を人体に向けて放つ。

 結果は肉体に斬撃よりも鋭い切り傷を残すこととなる。

 

 しかし、それはあくまでも一般的な戦闘能力を持つ者を相手にした場合に限る。

 スマラは能力で自身に当たる前に方向を操作して弾く。

 雑兵の攻撃の様に無意識化では無理だが、同じ程度の実力者の雑な攻撃なら集中してしまえば完全に無力化可能だ。

 

「雑な攻撃ね。ご自慢の操り人形も私には聞かないわよ。覇気を纏えば能力は防げるわ」

 

「だったらお荷物を狙うしかねぇよな?」

 

「させると思う?」

 

 今度はスマラが船から飛び出してドフラミンゴを狙う。

 スマラ自身が船に居る限り、二次被害でサニー号が沈みかねないと判断したようだ。

 

 交差して行くスマラとドフラミンゴ。

 空中で繰り広げられる攻防にナミたちは安心と同時に心配を覚える。

 

「スマラ、負けないわよね?」

 

「分かりませんね。両者とも凄まじい実力です。ドフラミンゴもですが、スマラさんもとてもお強い」

 

「ルフィの修行相手を務めただけはあるみたいだな」

 

「一体何者だったのかしら?」

 

 ナミの言葉に答える者は居ない。

 大海賊時代幕開け以降に生まれた二人、海の上だった独り、未だに子供。

 情報通であるロビンなら知っているかもしれないが、今はグリーンビッドでドフラミンゴと戦っている、はずだ。

 もっとも、疑問に思っているだけで無理矢理聞き出したい訳ではない。

 本人が語らない以上、そっとしておくのがこの船に乗っている者たちの総意だった。(一部全く興味を持たない者も存在する)

 

 彼女たちがスマラの秘密を知るまであと少し……。

 

 

 

 

 

 ドフラミンゴは糸を雲に飛ばし、スマラは月歩を使って、空中で行われている攻防は過激さを増していた。

 ドフラミンゴの攻撃はスマラの能力の前に通じず、スマラの攻撃もまたドフラミンゴの覇気の前に思うように通じない。

 

「チッ、厄介な能力だな」

 

 何の実かは不明。

 頂上戦争と現在の攻防で見た限り動きに関すると推測できるが、決定的な情報に欠けるから断定は出来ない。

 更に能力を食べたばかりの輩とは違い、多少は洗練されている使い方だ。

 そして、最も厄介だと思うのは彼女の動き。

 政府の人間御用達の六式の一部を当然のように使いこなし、そこに覇気まで加わるものなので並大抵の海賊では相手にならない。

 最も恐ろしい事に彼女は自らを鍛えたことはほぼ無く、持てるものの半分以上が天性の性能故。

 ドフラミンゴですら決定打に欠ける。

 

 

「もう諦めたらどう? 私と貴方の実力は拮抗している。ここで力を使い果たすのは貴方も望んでは無いのでしょう? 船を諦めてくれたら私は何もしないわよ」

 

「そうかもな。 テメェが動く事で世界がどう変わるか見て見てぇが、少なくとも今じゃなさそうだ」

 

「そう、ありがとう。 あぁ、船を沈めないなら何をしたって私は関与しないわ。それじゃあ後ろに気を付けてね」

 

 

 このままでは拮抗したまま何時間だって戦いが続く。

 スマラもドフラミンゴも同じ事を思っていた為、あっけなく戦いは終わった。

 これ以上続けるのは時間と労力の無駄だ。

 スマラならともなく、ローや麦わらと敵はまだまだいるドフラミンゴにとってはそろそろ撤退したかった頃合いだった。

 

 麦わら一味の船を壊したかったが、スマラがどれ程動けてどう考えているのかが分かっているだけ得はあったと捉えるべきだろう。

 本気で彼女を排除するのも一興ではあるが、それをするには予想以上に覚悟を決めなければならないとドフラミンゴは考える。

 

 スマラは意味深な言葉を残して船へと降り戻る。

 後ろに気を付ける。意味としては大まかに二つ。

 言葉通り、純粋な後方からの攻撃に対する忠告。もう一つは後ろと言う意味の解釈を広げて気にしていない方向、つまり油断して舐め腐っている相手からの逆襲に気を付けろ、と言う意味。

 当然後者だとドフラミンゴは考えた。今の状況からすればそう解釈するのが一番合っていたからだ。

 

 しかし、戦闘中でスマラに集中していた見聞色の覇気を浅く広く展開する事でようやく気が付いた。

 後数秒、一秒でも遅れていたら危なかったであろうソレは、宙を駆けて脚を燃やしてやって来た。

 

 

「テメェこのトリ野郎!! ウチのクルーとスマラさんに何してくれやがるッ!!」

 

 

 宙を駆けてやって来たのは麦わら一味のコック。

 一味ナンバー3『黒脚のサンジ』だった。

 

 




何でドフラミンゴと戦ってんだコイツ。あと数話でドレスローザ編終了させます。


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七十七頁「遠くに感じるものは」

サムライレムナント発売したので遅くなました。


「テメェこのトリ野郎!! ウチのクルーとスマラさんに何してくれやがるッ!!」

 

 麦わら一味のピンチに駆けつけて来たのは一味のコックであるサンジだった。

 スマラはドフラミンゴと戦いつつも見聞色の覇気で周囲の状況を把握し、丁度サンジがこちらに向かって来ているのを知っていた。

 いい感じにサンジが近づくまで戦闘を長引かせ、射程距離になったらフィードアウト。

 後は船に戻って余波が襲って来たときの為に待機しておけば問題ないだろう。

 

 完璧に近い作戦だ。

 後は黒脚がドフラミンゴを抑えている間に船を安全地帯に進めるように促すだけで良い。

 麦わら一味とトラファルガー・ローの作戦や四皇崩しの作戦なんて知った事ではない。

 そもそも、幾ら麦わら一味とトラファルガー・ローが組んで作戦を練った所で崩れる程四皇は甘くないの。

 

 何処からその様な自信が湧いて来るのか、スマラは自分の作戦が上手く行ったのを自画自賛し、満足そうに頷く。

 船に戻った所で誰もスマラを見ていない。居残り組の視線は空中で戦っているドフラミンゴとサンジに向いている。

 

 誰もドフラミンゴと戦っていたスマラの心配をしていないのか?否、スマラがドフラミンゴと並ぶ位に強いのを知ってる、見て理解したから心配しないだけだ。

 それくらいなら、2年前の時点で手も足も出なかった実力差を持っていたサンジの心配をするのが妥当だろう。

 サンジが強いのは理解しているが、相手は大海賊であるドフラミンゴだ。

 ルフィですら勝てるかギリギリな相手に仲間を心配しないのは仲間ではない。

 

 

 

 スマラは甲板の柵に寄りかかってサンジとドフラミンゴの戦いを眺める。

 当たり前に近いが劣勢なのはサンジだ。

 奮闘しているがドフラミンゴには一歩及ばず、ドフラミンゴの糸に捕まってしまう。

 ドフラミンゴの能力を正確に把握していなければ、把握していたとしても対処が難しい非常に厄介極まりない能力である。

 このままサンジはやられてしまうのか?否、同盟相手がやられるのを黙って見ているほど冷酷ではない男が近くにいた。

 想定外の敵に不利を取りボロボロになっていたが、スマラとサンジが時間を稼いだお陰で体力を少し回復してこの場に割り込む事が出来たトラファルガー・ローである。

 ローが参戦してからは一気に戦況か加速し乱れる。

 ドフラミンゴが船に降り立ったローに狙いを定めると同時に、グリーンビッドから海軍の戦艦が飛んでくる。更には遥か上空からは隕石だ。

 無茶苦茶のオンパレード。

 流石に船を捨てて逃げるべき?と悩んだものの、能力が常識を外れるローが全て往なした。

 隕石をどうにか出来てしまうのは素直に感心してしまうスマラだった。

 

 彼女の場合、生き残るだけなら隕石が起こす衝撃波の範囲から逃げれば良いだけなのでどうとでもなるが、麦わら一味の船を守り切れるか?と自問すれば答えは難しい。

 出来ないとも言えなくもないが、出来るとは言えないのがスマラの限界だった。

 直感と才能だけで能力をのうのうと扱っている弊害であるが、かといって今更鍛錬を始める程活力は無い。

 まぁ、船を壊されずにこの場を脱出出来るのならスマラはどうだって良い。むしろ早く逃げて読書へ戻りたいと言うのが本音だった。

 

 そうこうしているうちにも場は動く。

 ローが転がっている奇天烈おばさんを抱えて橋へ飛ぶ。

 麦わら一味を逃がすための囮を買って出てくれたのはスマラ的に評価高い。

 勝てる勝てないはどうだって良い。船を逃がしてくれただけで良い。

 ありがとう。貴方の事を忘れないわ。

 スマラは数分後には忘れる記憶に刻んだ。

 

 

 

 サニー号はグリーンビッドから離れてドレスローザ近海に陣取った。

 ローは次の目的地であるゾウを目指せと言ったが、仲間が揃っていない上に船長の許可が降りていない以上ドレスローザを出港する訳にはいかない。

 ナミが風と波と雲を読み取りつつ舵を取り、ブルックが後方からドフラミンゴがやってこないか見張り、サンジは今後の予定を再配布する為にも電伝虫を握り散らばった仲間に連絡を取り、そんなサンジをチョッパーが治療していく。

 そんな様子を横目にスマラは座って読書を楽しんでいた。

 

 最早やる気は平均以下。

 もう今日は動きたくない。波風はもう飽きた。長く外に居過ぎたら本に悪い。

 既に今日は2回も戦っている。本気を出してはいないが、ドフラミンゴとの戦闘はそれなりに身体と能力を使って体力を消耗させられた。ジョーラへの一方的な戦いを戦闘と言っても良いのかは分からないが。

 

 ともあれ、後はずっと読書をして過ごしていたい。

 元々私の立場は食客に近かったはず。

 でもしかし、何の作業もしないでただただ食事を貰うだけの立場に甘んじる……のも少しだけ、ほんの少しだけ居心地が悪かったのも確か。

 私が頼んだ訳ではないが、東の海から新世界まで運んで貰ったのは事実。

 運搬料替りに主力が全く役に立たない相手が襲って来た時に限って助けて手助けをするのもやぶさかではなかった。

 しかし、しかしだ。

 

 クロコダイル、前線から何年も離れている自然系能力者を相手取るなんて大した苦労ではなかった。

 空島の神、確かに能力は強力だし奢らずに鍛錬も積んでいたみたいだけれど覇気を知らず能力的な相性も良かった。

 大将青雉、あそこで出会ったのは予想外だったけれど立場上本気で私を捕まえる気は無かったと推測。

 頂上戦争、快適な暮らしをぶち壊されて色々と考え無しに行動してしまった為自業自得。

 2年間の修行、口車に乗せられたにせよ約束は約束で初めは片手間に追い払えた強さも終盤にはめんどくささも感じる強さに。

 全て私がなぁなぁで流されて約束してしまったが為に起こった戦闘と言えるだろう。

 初めの頃の敵は弱すぎて注視せずに読書を続けながらでも勝てる相手だけど、それが今や真剣に対処しなければやられてしまうレベルまで来ている。

 さながら物語の主人公に立ちふさがる敵の如く強くなっている。

 ならば、この先もどんどん敵の強さは上がっていくだろう。

 

 それこそ私が手に負えないくらい……既にドフラミンゴ辺りがギリギリ。

 本気でやりあうなら私でもかなりの痛手を負ってしまうレベルに来ている。

 非常に腹立たしい事だけど、私を通して奴等を見ているから本気で排除しようと思わないだけでしょうね。

 あぁ、イライラする。

 今になって顔がチラつくのは非常に気に食わない。

 とはいえ、新世界まで進める様な海賊の船に乗っている時点でバレるのは明白だったわ。

 ……面倒でも新世界に入った時点で船から落りて手頃の島まで漂流する方が居場所をかく乱出来て良かったのでは?

 

 

 

 なんて読書をしながらぼんやりと思考しているスマラ。

 目線で追っている文字列は頭の中に入っているが、本の世界に飛び込む程は集中出来ていない。

 スマラはパタンと本を閉じてしまい込んだ。

 

 今は辞めにしよう。

 こんな日もあるさ。

 

 サァーっと風が吹く。

 ドフラミンゴとの戦闘が無ければ気持ちの良い風で良い読書日和だっただろうに。

 でも今はそんな気分ではない。

 ここ数年間で初めてだった。

 常に読書、読書こそが最高の清涼剤。

 人間の三大欲求よりも読書。

 それこそがスマラのアイデンティティだったはずなのに、今はそんなアイデンティティすらも役に立ちやしない。

 

 スマラはぼーっと空を見上げて雲が流れる様子を眺める。

 そこには何もない。

 思考を停止し、ただただ雲が形を変え大気の移動と共に流れる景色を視界に入れるだけ。

 眺めて何を想うでも無し、ただただ眺めるだけ。

 

 ま、こんな日もあって良いか……。

 

 これ以上関わりたくないとばかりにスマラは、見聞色の覇気で軽く周囲を警戒する以外の反応を切って空を眺め続けた。

 電伝虫越しで行われる麦わら一味の会議を無視して。

 

 

 

 

 

 ・・・・・・

 

 

 

 

 

「…………笑えない冗談はやめてよね」

 

 

 雲と空を眺めて30分程。

 スマラはぼんやりするのを辞めて身体を起こして立ち上がった。

 周囲に意識を向けると、電伝虫を複数体使って一味総出で会話している様子がみれる。

 作戦会議に集中して誰も気が付けていない様子だった。

 

 否、未だ目視は不可。

 空気の流れに沿って浅く広範囲に広げていたスマラの見聞色の覇気だからこそ、ギリギリ引っかかったと言える。

 それと……隠しようの無い覇気の数々。

 あぁ、噓であって欲しい。

 

 身体が震える。

 こんな事何十年ぶりだろうか。

 

 少なくとも2年前に最強の一角である白ひげと対峙した時でも無かった感覚をスマラは真正面から受け止める事が出来ていない。

 今すぐに行動を起こさなければならないと分かっているのに行動出来ない。

 

 逃げろ、逃げろ。

 逃げなきゃ終わる。

 約束とか放って置いて今すぐにこの船から飛び降りて遠くの島へ逃げるべきだ。

 

 冷静でない頭が『今すぐに逃げろ』と囁く。

 と同時に『今更この距離で逃げても無駄』だと別の声も上げる。

 

 どっちだ?どう動くのが正解だ?

 現状維持を続ける為に抗うか、何十年も自由で怠惰な日々を暮らし続けてきた制裁を黙って受け入れるか……。

 

 冷静な部分が見聞色の覇気で奴等が近づいてきているのを把握して知らせ続けて来る。

 この距離で迷わずサニー号に向かって一直線で向かって来ているのを見ると、奴等の狙いが誰だか不明だがサニー号に乗っている誰かだと言う事は分かった。

 

 確かめる方法はある。

 スマラがサニー号から離れれば良い。

 それでスマラを追いかけるかそれともサニー号に向かったままなのかで、少なくともスマラ自身が狙いなのかそれ以外なのかは判明する。

 もし己を追って来たのなら、麦わら一味は無関係になる。

 そうなると、必然的に最後に麦わら一味を助けた結果を残して離脱する事になる。

 逆に追って来ずに麦わら一味を追いかけるなら、悲しき事だがしれっと2つの因果から逃げ切る事が出来るチャンスになる。

 

 そうだ。ここで船を捨てて逃げるのが最善の策だ。

 正解は簡単に導き出せた。

 導きだせた……なずなのに、何故私は動けないでいるのだろうか?

 

 

 葛藤ですらない。

 何を悩んで何を考えて身体が動かないのかスマラ自身にも不明。

 不可解だ。……不愉快だ。

 

 何度も似たような場面を観てきた気がする。

 観てきた否、読んできた。

 本の世界にしかないと思っていない場面が現在、スマラの前にあった。

 本として、ただの文字列として目に通して頭の中でイメージしていた頃は何とも思わずにただの演出だと思って読んでいた。

 しかし、有り得ないと割りきっていた現状が目の前にある。

 そう、本当に小説の中の主人公が抱えていた感情はあったとのだと、スマラは感動にも近い感情を抱く。

 

 感動している?そんな暇などないのに?

 分からない。私が何を思っているのか分からない。

 逃げなきゃこの先の平穏は完全に断たれるのは分かり切った事だ。

 私一人なら絶対に、百パーセント逃げていたのに……麦わら一味を見捨てて逃げるのに抵抗があるのは何故?

 物語に書いてあった現実味の無い感傷が実際に目の前にあったから?それだけで私は動けないでいるのか?

 それだけ……こうやって悩むと言う事は、私にとって『それだけ』では無かったと言う事なのだろうか。

 ……あぁもう。そうではないでしょう。

 ギリギリだけれどまだ間に合う。

 麦わら一味を捨てて逃げるなら今しか無くて、後数分もすれば奴らは目視出来る距離まで迫って来るだろう。

 そんな近くまで近づかれたのなら、私でも逃げ切るのはかなり難しくなる。

 ……誰が出張って来ているかにもよるけれど、確実に今の戦力で勝てるレベルが出てくる事は無いでしょうね。

 幹部の一人を倒せた所で、今度は怒り狂った幹部をまた複数人も相手しなければならない。最高幹部ともなれば私ですら勝機は薄い。

 麦わら一味全員が揃っていたとしても、生き残りたいのなら撤退するのが最善の策。

 

 うじうじと悩む。

 即決が基本なスマラにしては長すぎる長考。

 その判断力の低下が今後のスマラの運命を左右した。

 

 

 

「もう無駄よね」

 

 気がつけば、目視出来る距離まで奴等の船が近づいていた。

 今更逃げても追いかけて来るだろう。

 逃げつつ戦うのは出来ない。

 海上ではスマラも不利だ。

 

 スマラは諦めて傍観の体制に入る。

 能力で視力を上げて迫りくる船を観察するスマラ。

 見えるのは超巨大ガレオン船だ。海軍の軍艦一隻よりも遥かに大きな大きさを持っており、麦わら一味が乗るサニー号の何十何百倍なのかも見当がつけないほどの差だ。

 あの大きさの船が不自由無く動かせる人員が乗っており、それら全てが雑兵が行っていると考えればとんでもない乗組員を起用していると言うことになる。

 少数精鋭と言う言葉や実際に麦わら一味がそうであるが、数と言うのは基本的に力になる。

 あれだけの船を動かせる人数と財力、それでいてあれが本船でない可能性も考えれば、一概の海賊と規模が全てに置いて桁違いだと痛感せざるを得ない。

 

 ガレオン船もこれまた特徴的な船だ。

 デカイ以上に気になる点が二つ。

 一つは船の一部、またはほぼ全てがお菓子で作られている点。

 どうやって?どのようにして?何故?と普通の人は疑問に思う者も出るだろうが、帆に描かれている海賊旗を見れば知る者には一目瞭然。

 そちらは気になるとはいえ、スマラなら「あぁ、あのコックならそんなこともできるだろう」と納得がいく。

 問題はもう一つの方だ。否、問題と言う問題は無い。

 ただ、物凄く気になるのだ。船首の顔が陽気に歌っている現象は。

 

 何アレ?

 今まで幾つもの海賊船を観てきたけれど、あんなアホらしく思える船首は始めてみたわよ。

 世界中探したって船首が歌ったりする船は無いわね。

 それよりも……何時伝えようかしら?

 「四皇の本船が目視出来る距離まで近づいてきているわよ」そう言うのは簡単だけれど、その後の反応と白熱しているあの会話に入れと?

 無理だ。やだ、めんどくさい。

 遠距離から攻撃してこない以上、私が何か行動を起こすのも不味いだろうし……。

 流石に近距離まで近づて来れば誰かが気づくでしょう。

 黒足なら流石にあの覇気の量を見過ごすほど甘くないでしょう。

 

 

 とりあえず静観だ。

 奴等、四皇『ビッグ・マム』海賊団が何を求めて此処に現れたか不明だが「ここまで来たらなるようになれ」とスマラはボケーッと空を仰いだ。

 



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七十八頁「ゾウへ」

恐らく今年最後の更新になると思います。来年には完結させたいです。


 

 スマラが見聞色の覇気で四皇『ビック・マム』海賊団の接近に気づいてから早数分。

 サニー号の上ではドレスローザ各地に散った麦わらの一味が電伝虫を駆使して作戦会議。

 ビッグマム海賊団の船は快速で近づいて来ている。

 

 スマラはそんな二者を船内へ続くドアに近い壁に背中を預けて立っていた。

 もう少し近づいて来たら船内へと逃げるつもりだった。

 最初から顔が見える位置に居れば絶対に厄介な事になると判断したからだ。

 目的が麦わら一味であるならば、スマラは居ない風を装っておけばいい。

 目的でなかったとしてもスマラを見つければ必ず標的認定してくるのがビッグマム海賊団なのだから。

 

 

 

 

 

「ぎゅぁああああ!」

 

「おいあの船って…ビッグマム海賊団の船だぁ!!」

 

「何でこんな場所に―!!」

 

 

 壁越しに聞こえれる悲鳴をスマラは目をつぶって聞いていた。

 見聞色の覇気を使わなくても分かる程の覇気がサニー号の間近から感じられる事から、遂に麦わら一味とビッグマム海賊団が接敵したのだろう。

 砲撃を受けて波が荒れ、船がシケの時みたく揺れる揺れる。

 今の所直撃を受けてないのは運がいいのか、はたまた操舵が優れているからか。

 

 スマラが隠れているのは甲板から壁一枚挟んだ船内。

 外の声や爆音はほとんど遮られる事なく聞こえてきている。

 耳を傾け無くても聞こえる声を聞いていると、麦わら一味の方針が分かってきた。

 

 まず、ビッグマム海賊団の標的はシーザー・クラウン。

 麦わら一味はついでに沈めると言った所。

 魚人島でビッグマム本人に喧嘩を売った事を考えれば、シーザーの事抜きにしても出会えば即殺し合いになる事間違いない。

 初めは逃げようとしていた居残り組だったが、黒足が麦わらにある許可を求めて、キャプテンである麦わらはそれを了承。

 つまるところ、彼らは勇敢にもビッグマム海賊団の船を撃退するつもりらしい。

 

 無謀だ。無茶だ。

 死にたがりなのだろうか?

 

 今までも何度も格上の相手に立ち向かって来た麦わらの一味。

 コイン等なら勝てるんじゃないのか?そう思わせるナニカを持っている彼らでさえ、それでもなお届かない頂きに居るのが『四皇』と言う世界の頂点だ。

 実力差はシャボンディ諸島で壊滅させられた一味と大将黄猿と同等。

 四皇など本来なら海軍本部が軍艦を何十隻も揃えて最低でも大将一人を戦場に立たせてようやく勝負になる次元であり、四皇本人ともなれば三大将総出で戦ってようやく五分五分。

 頂上戦争の時は仏のセンゴクや英雄ガープ、更には何十人と言う本部中将。それでいて老いて全盛期よりも遥かに力が劣っていた白ひげだったからこそ頂上戦争はあの結果になったのだ。

 未だに力の衰えていないビッグ・マム、全盛期と言っても過言ではないカイドウ辺りなら今頃世界が変っていた可能性だって十分にあり得る。

 

 ビッグマム海賊団の船から感じる覇気からして本人は来ていない……はずだ。

 フットワークが軽い赤髪、竜となって天を駆ける事が可能なカイドウと違いビッグ・マムは国を治めている立場。本人の腰は他の四皇よりも重たいだろう。

 幾ら麦わらが電伝虫越しに喧嘩を吹っ掛けたと言えど、四皇に挑むルーキーは毎年の様に現れる。世間から大きく注目を浴びようと、四皇にとってはわざわざ出向く程の相手ではないはず。

 その証拠に接敵してくる船から強い覇気は感じられるが、四皇ほどにヤバイ気配は感じらない。

 スマラの見聞色の覇気で気配を察知していないのなら、四皇本人はこの場に居ないのだろう。

 

 四皇本人が居ない。

 確かに地獄の底に垂らされた糸だろう。

 しかし、その場が地獄である事に変わりはない。

 

 四皇本人がいなくても幹部は必ず乗っているだろう。

 最高幹部かは判別できないが、今の麦わら一味にとってただの幹部でさえ格上の相手だ。

 全員揃っているのならまだしも、主力が黒足のサンジだけの状況下。

 逃げ切るのですら困難を極める状況下ですら、麦わら一味は絶望に染まらずに抗おうとする。

 立派な精神だ。称賛に値する。

 

 

 しかし、現実は非道だ。

 ビッグマム海賊団の強みは層の厚さ。

 スマラには今現在何人もの幹部がいるのか知らないし興味もないが、最低でも20人は下らない事を知っている。

 その一人一人が新世界で船長をやって行けるだけの実力者。

 数の暴力とはこのこと。

 主力が黒足一人きりでは捌くことは不可能だ。

 船医や骸骨が新世界の船長並みに強かろうと、四皇の幹部は当たり前のようにそれを超えて来る。

 

 さて、目的がシーザーなら私がこっそりと逃げてもビッグマム海賊団が追って来る可能性は低いだろう。

 本命はシーザーの確保。序に麦わら一味の殲滅。

 私は第三の目的とされて易々捕まる程甘くは無いが……いい加減疲れてきた。

 ココは待ちでいきましょうか?

 

 スマラは己の今後の人生を天運に任せる事にした。

 逃げるのにも気力が足りず、かと言って抗うのも体力の無駄遣い。

 奴らがシーザーを捕縛して船を沈めるなら下船。

 船の上で戦闘が起こり、巻き込まれれそうなら雑に対処するだけ。

 後は――なら投降で良いだろう。

 

 

 方針を固めたスマラはドアを離れて船内を移動し始めた。

 目的地は勿論、図書室もとい測量室だ。

 

 

 

 次の日、ビッグマム海賊団の猛攻を凌いだ麦わら一味の居残り組は無事にゾウへと到着した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 たった一日で世界の均衡にヒビが入った。

 そう理解しているのは少なくとも裏社会に精通している者、新世界を航海する有力な海賊団、海軍及び世界政府上層部だけだった。

 一般人は新聞の額面通りに事を受け取った。

 つまり、

 

 王下七武賊ドフラミンゴが不当に国を乗っ取っており、それを解放したのが海軍ではなく海賊と言う事。

 

 それだけでも十分過ぎる大事件。

 海賊や裏稼業の勢力争いや力関係を知らない一般層がドフラミンゴ失墜の意味を理解しろと言われても無理のある話なのだが……。

 

 

 

 ドフラミンゴの悪政から人々を解放したのは話題に事欠かない最悪の世代の一角『麦わらの一味』である。

 彼らはドフラミンゴ撃破後、ドレスローザ国民の力を借り海軍本部大将『藤虎』の攻撃を退けて出航。

 出航と同時にドレスローザにて共闘した十数名の海賊などを傘下に加え、麦わら大船団を結成。

 一通り宴会を楽しんだ後、麦わらの一味のメンバーはバルトロメオの船で『ゾウ』を目指して数日掛けて到着。

 雲よりも高いゾウの足を登った先にはミンク族の国があり、無事に先駆けてゾウへと先行していたメンバーと合流する事が出来た、通ったのが……。

 

 

「で、どうすんの!? サンジ君の件!!」

 

「どうするって言われても、手紙には心配するなって書いてあるんだろ? じゃあほっとけばいいじゃねぇか」

 

「うーん、攫われた訳でもねぇし」

 

「そう言う雰囲気じゃなかったから言ってるのよ!! それに、あのスマラまでもが黙って従っちゃったのよ!?」

 

「あの女には前科があるだろう。忘れたとは言わせねぇぞ」

 

「ウォーターセブンの時の話でしょう。あの時は海軍と世界政府。今回は海賊。それも四皇ね」

 

「共通点と言えば世界三大勢力と言う事だけね。語りたがらないから仕方ないとは言っても、彼女は明らかに隠したがっている事情がある。もしかして彼女、ビッグマム海賊団と何かしらの因縁があるでは?」

 

「オイオイ。アイツが!? 船では基本的に本を読んでばかりで、偶に俺達を助けてくれたと思いきやスゲー実力だしよ。……益々分かんねぇよ」

 

「ねぇルフィ。あんた、スマラに修行付けて貰ってたんでしょう? 実際のところどうなのよ」

 

「スマラはスゲー強ぇぞ。ギア4使っても半分も勝てねぇもん」

 

「ギア4? とにかく、ドフラミンゴを倒したルフィよりも強いって認識で良いのね」

 

「そんなスーパーな姉ちゃんが大人しくついて行くって、四皇はどんだけやべーんだよ」

 

「でもスマラの様子はなんて言うか……諦め?みたいな表情だったぞ。戦いたくないだけで大人しくなったのは、そうする事が一番早く開放されると考えた、とか?」

 

「いえ、だとしても少し疑問が残るわ。彼女なら四皇だろうと逃げる事は出来たはずよ」

 

「そういや、白ひげのオッサンにも喧嘩売ってたな」

 

「元世界最強にか~~!? もう放っておこうぜ。あいつ、元々この船に乗り続けるのに不満げだったしよ~~」

 

「ルフィ、いい加減諦めたらどうだ? 今まではなぁなぁで乗せていたが、オレは元々反対だったんだ。本人も船を降りる事を望んでた見てぇだし、ちょうど良い時期じゃねぇのか」

 

「……ひとまず彼女の件はおいておきましょう。今重要なのはサンジでしょう?」

 

「そうそう、ゾウに辿り着いた途端に象の背中の上に国はあるわ動物は喋るわ、都市は滅んでるしミンク族は敵かと思えば味方だし、挙句の果てに歓迎されて恩人扱い。何が何だか分かんねぇよ」

 

「ナミ、もう一度一から全て話してもらえる? ドレスローザの近海から今まで何が起きたのかを」

 

「そうね。色々起こって気が動転してたかも。順を追って話すわ」

 

 

 ロビンに落ち着かされて順を追って話す事にしたナミは、最後に一同が揃った場面から振り返り始めた。

 

 

「私達が出くわしたのはビッグマム海賊団の巨大な歌う船」

 

「「「歌う~!!?」」」

 

 

 ビッグマム海賊団の船に遭遇したのは一応頭の中にあったものの、歌う船と言う想像以上の現象に一同は驚きの声を上げる。

 ナミ、チョッパー、ブルックの三人も今でこそ驚かないが、所見では大ビビりしたものだ。

 偉大なる航路、新世界は常識外の現象が当たり前の様に起こる海であるが、まさかまさかの無機物が生き物の様に振る舞うとは思わなかっただろう。

 

 続けてナミは船から見えた戦力を報告する。

 

「確認できた戦力は魚人島でルフィ達が出会った卵とライオンの二人組、そして同じ最悪の世代であるカポネ・ギャング・ベッジ」

 

「ベッジ!?」

 

「彼らは傘下に下ったみたい。後は……大柄の女性が数名」

 

「甲板でチラッと私達の方を見たと思えば、ベッジに指示を出して船内に引っ込んで行きましたよ。戦闘中で余裕がありませんでしたから少しですが」

 

「アレ、何だったんだろうな? 億越えで強いはずのベッジがヘコヘコしてたんだ」

 

「傘下の船長が下手に出るって言やぁ十中八九ビッグマム海賊団本船の幹部だろよ。にしても、よく無事でゾウまで辿り着いたよなぁ」

 

 

 フランキーの疑問に促されてナミ達は続きを話した。

 敵の砲弾をブルックが黄泉の冷気で凍らせ、怪物化したチョッパーがシーザーを網代わりにして纏めて投擲、それをサンジが蹴りつけてビッグマム海賊団の歌う船に着弾。

 更にナミは雨雲を生み出し雨や霧でビッグマム海賊団歌う船から視界を遮って逃げ切った。

 

「おぉ~~!!」

 

「スゲーぞお前ら!!」

 

「いや~それほどでも」

 

「照れるじゃねぇか、コノヤロウ~!」

 

 

 実に見事な連携だ。一味全員が揃っていなくても十分新世界を航海していけるだけのスキルを身に付けている。

 そこからゾウには翌日到着。モコモ公国は既に崩壊していたが、チョッパーとシーザーのお陰でギリギリ国民達を助けることが出来た。

 だからこその歓迎の嵐。命の恩人なのだから納得だ。

 

 話しの途中で知らせが届き、今ままで目覚めなかった公爵様が目覚めたと聞いたチョッパーが急いで診察に向かう。

 それにより、一味は場を移しながら続きの話を聞く事となった。

 

 

 ワンダの口から聞かされるモコモ公国で起きた事件の真相。

 ワノ国の忍者を探しにやって来た百獣海賊団の大幹部が暴れ、しまいには毒で国民を皆殺しにした。

 麦わら一味が現れ窮地に一生を得た事。

 

 一通り話し終わった頃にはちょうど公爵が療養している場所へと近づいていた。

 目前にまで迫った時になってようやくロビンがずっと気になっていた事を質問した。

 

 

「一つ気になったのだけれど、ビッグマム海賊団と交戦した時にスマラは何処に居たの? 彼女も船が壊されて移動手段を失うのは痛いはずよ」

 

「それが船の中に入ったっきり出てこなかったのよ」

 

 

 ロビンの問いに答えたナミは今でも疑問に思っている首をかしげていた。

 スマラの対応に真っ先に反応したのはウソップで、その次にゾロだ。率先して追い出したい訳ではないが、やなりまだ完全に仲間だとは思っていない様子。その厳しさは仲間を思ってからこその行動なのだが、果たして何人がそれに気づいていることやら。……鈍い奴等以外は気づていそうだ。

 

「出てこなかった? 船が壊れたり負けて捕まっても良かったわけなのか?」

 

「あの女に限って船は絶対じゃないだろう。何せ跳べる。むしろ今まで海軍だろうが海賊だろうが船の危機となれば敵をあしらう事くらいしてた女が、ビッグマム海賊団とは事を構えなかった。この意味を考えるべきだ」

 

「気が変わったとか?」

 

「それは無いわ。直前ではドフラミンゴと普通に戦ってたもの」

 

 

 ナミ達居残り組兼ゾウ先行組の脳裏にはドフラミンゴと戦うスマラの姿が浮かび上がる。

 短時間しか戦っていなかったが、少なくともサンジよりは戦えており、戦いに関する態度も姿勢も以前のスマラのままだったと思う。

 となれば、やはりビッグマム海賊団には何か因縁があるのではないか?とナミが考えている間も会話は進んで行く。

 

 

「サンジが駆けつけてくれるまでの短い間だったけど、あのドフラミンゴ相手に一歩も引かなったんだぞ。それでも今までみたいに淡々とした感じじゃなかったけどな」

 

「へー、流石にルフィを鍛えただけはあるな。こっちとしちゃあそのままドフラミンゴを戦闘不能にしてくれてた方が助かったんだがな」

 

「それはダメだッ! アイツは俺がぶっ飛ばしたかったんだぞ」

 

「分かった! と言うか既にぶっ飛ばした後だろうが」

 

「それもそうか」

 

 

 ウソップに突っかかていたルフィはシュンと止まる。

 過去は過去、もしもはもしも。

 今だけを見据えて生きているからこその急変。

 

 

 と、ナミが頭の中で考えていた可能性を示す。

 

 

「ねぇやっぱりスマラとビッグマム海賊団の中には何かしらの因縁があると思うの」

 

「根拠は?」

 

「直前までドフラミンゴと戦っていた癖してビッグマム海賊団の前には出てこなかった点よ」

 

「自分よりも強い相手には戦わない、とかどうだ?」

 

「確かに考えられるけど、頂上戦争では白ひげにも喧嘩売ったみたいじゃない? だったら同じ四皇であるビッグマムと戦わない理屈が分からないのよ」

 

「だから因縁があるはずだと考えたのね」

 

「しかしよぉ。どっちにしろ本人に聞いてみなきゃ分かんねぇ事だろう?」

 

「一旦この話は終わりにしましょう。ゾウに滞在している間にサンジ君に何があったのか、先にそっちを聞きましょう」

 

「えぇ、確かにそうね。本筋を見失っていたわ」

 

 

 スマラの事は分からない事が多すぎる。

 断片的な情報から、彼女はビッグマム海賊団に因縁があってそれが関係しているのでは?と結論に至ったが、それ以上は考えても何も新しい予想は生まれなかった。

 ルフィが勧誘を繰り返しているとは言え、本人が全く了承しないでいて、一度は船を出て行って政府に従った身である。

 幾らルフィを2年間修行を付け、時偶に船や仲間を守ってくれる存在であろうと、手放しに仲間だと言えるほど信頼関係が築けてるはずもなかった。

 今後どうするであれ、一先ずはわきに置いておいてサンジの件が最優先なのは間違いない。

 

 ルフィらドレスローザ一行は、ナミ達先行組の話を続けて聞いたのだった。

 



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七十九頁「再び離脱」

あけましておめでとうございます。
本来はもっと長くなる予定でしたが、投稿期間が空き過ぎるので分割しました。


 話はルフィ達、ドレスローザ滞在組がゾウに追いついて先行組と合流出来た日から2日程遡る。

 

 

 

 スマラは何時もの様に読書をしていた。

 密林の部屋の一室。

 何処からか集めた本や独自の物語伝承を机の上や床にズドドーンとタワーを幾つも作っている。

 一人用の個室ではないので、周囲には若干迷惑そうなミンク族の姿がチラホラ。

 

 殆ど外とは交流を断っている国であり、ゾウの上と言う防衛が作り出した公国には非情に貴重な文献がいくつもあった。

 国が混乱しているのもあり、スマラはそれをどこからともなく集めて読んでいると言う訳だ。

 無論、一言くらいは断りを入れているし、泥棒や後で話が拗れない様にこうやってわざわざ目の届く範囲で読んでいる。

 

 スマラはなんとなく、読書をしながらこのゾウにたどり着いた時の事を思い出す。

 あの時はビッグマム海賊団に追いかけられていたと言う事でピリピリしていた。

 

 

 

 

 

 ビッグマム海賊団とは顔も合わせたくなかったスマラは船内で待機。

 船が横につけられ、彼らでもどうしょうもない幹部が乗り込んで来た時は諦めよう、そう気を張り詰めていたが、見事な連携と操舵技術で撒いてしまった。

 

 それでもスマラの機嫌は直らなかった。

 それほどまでにビッグマム海賊団との因縁は深く、未だに嫌悪している関係でもあった。

 相手は世界一の情報網を持つと言われている大海賊。

 たった一度海上で撒いただけでは安心など出来るはずもなかった。

 

 しかし、 スマラの不安も虚しくサニー号はあっけなくゾウへと辿り着いた。

 世界中を放浪して来たスマラと言えど、足を運んだ事も無い島や国など幾つも存在している。その上、ゾウと言うのは本物の巨像だ。

 その背の上に生物が生活していると言うのだから驚きはある。

 

 ゾウが巨大な生物の事であり、船に残っていても仕方がないのでナミ達と共に足を登ってモコモ公国へと入国したスマラは

 毒がまき散らされており公国は壊滅していたが、スマラはそんな事など眼中にない。

 シーザーとチョッパーが国の毒を中和し、毒や怪我で傷ついたミンク族の治療を開始すると同時に、動けるミンクの中でもリーダー格なのであろうワンダと言う犬のミンク族の女性に一言だけ「本を勝手に集めて読んでも良いか?」と伝えるだけ伝えて本漁りに入った。

 キョトンとするワンダはナミに「危害は無いから一先ず放っておきましょう」と言われて頷き、仲間たちの治療の手伝いを始める。

 

 国の崩壊の危機を乗り込えたミンク族やその手助けで忙しい麦わら一味を尻目に、スマラはルンルンな様子で本を集めた。

 遠くへ行かない様に注意しつつ崩れた家を物色して本を探し出して持ち出していく。

 家主や持主が……と、平時なら犯罪行為だが今は緊急事態。

 ミンク族からすればスマラは麦わら一味に見える。

 つまり強く言えないのであった。

 コイツ狙ってやっている。

 

 

 

 

 

 というのがつい先日。

 勝手に持ち出したとは言え他人の私物。

 故に借りてきた本を何度もループして内容を頭に刷り込む。基本的に一度読めば大まかな内容は頭に入るが、細かい部分まで刻み込もうとすれば何度も読み込むのがベストだ。

 ゾウと言う特殊な環境下にある本なら希少性も高く、現在では発行されてない年代物も書物。独自に製本された作品や歴史書などを中心的に記憶する。

 文字が書いてあるなら雑食性を見せて手当たり次第に読むスマラと言えど、二度と読めない希少性の高い本なら優先的になるのも居な仕方なし。

 

 そろそろ飽きて来たなぁ~。何時もの物語に戻ろうかな~。でも、持ってきた本の冊数はそこまで多くないし~、此処にあと何日滞在するかも不明で~。いっそ象を降りて船に戻るのも手かしら~。でもでも、船にある本も殆ど読みつくして~、数日程度なら断食できなくもないけれど~、数週間も船に乗っているのは流石の私でも厳しいわ~。

 いっそ、この機に麦わら一味を離れるのも考えものよね~。麦わら一味はバカ船長のせいでビッグマム本人からの喧嘩を買っていて~。

 私としても捕まらないに越したことはないけど~、でも、ゾウが生き物で移動している以上現在地が不明なのがネックなのよね~。隣の島の方向させ分かれば小舟で航海する事は不可能ではないのだけれど~。

 

 と言う感じにスマラは物凄くダラけていた。

 何度も何度も同じ本を数十間に渡りループし続ければ、スマラでなくともそうなるだろう。元々、(物理的以上に読める本の種類を)拘束されるのが苦手なスマラにとっては非常に効果的なダメージを受けているようだった。

 ダラ~~と机にうつ伏せになり、ここまで来ると惰性で文字列を目で追い続けている。更に内心ではグデ~と若干の幼児退行が行なわれていた。

 見た目は二十歳越えの実年齢三十路を遥かに超えた女性……場合によってはおばさんの幼児退行……。誰得なのだろうか?

 内心で考えている事が声に出ていたら完全にアウトだ。一部の特殊性癖の方には刺さるかもしれない(見た目だけは完全に良いので)が、普通は引く。

 それほどまでに精神的に病んでいた。

 

 

 

 

 

 本気でゾウから飛び降りて麦わら一味とおさらばしようかしら?そう真面目に検討し始めた頃、スマラの見聞色の覇気に二つの反応が引っかかる。

 

 確実にゾウの外からやって来た反応だ。

 麦わら一味なら特色を覚えている為彼らではないのは確実だ。

 

 なら誰か?

 強さは麦わらより少し低い程度。

 それこそ、黒足やモコモ公国国王や噂に聞く旦那レベルの実力はある。

 ダメね。ゾウが巨大過ぎる故に常時発動している範囲の外か……。

 となれば、直接出向くしかないわね。

 

 

「スマラちょっと来て!!」

 

「サンジとブルックがビッグマム海賊団の奴等と一緒に森の方へ行っちまったんだー!!」

 

「えぇ、良いわよ。私もちょうど気になっていたのよ」

 

「ホント!? やったー!」

 

「スマラが居ればもしもの時は安全だな」

 

 

 後練る事の多いスマラだったがこの提案はスマラにとっても悪くは無かった。

 無論、一人で動いた方が守る対象が居ない為動きやすいが、この国でスマラが一人で出歩くのもこれまでの行動から可笑しいと思われかねない。

 町の外から麦わら一味と敵対する者が現れ、今まで読書しかしてこなかった奴の姿が急に見えなくなる。

 これまで麦わら一味に非常に友好的な態度をみせているミンク族であろうと、誰かしらは疑問を抱いてしまうかもしれない。

 実際に見ていないが、この国の者達は非常に戦闘能力が高いのだろう。

 四皇の幹部が毒と言った絡めてを使わなければならない程に。

 そんな相手と勘違いで戦いたくなどない。

 

 

 サンジとブルックがビッグマム海賊団の遣いであるミンク族のサングラスをかけた者と、確か新聞で見たことがある顔を先頭にして森の中に入って行く。

 ナミとチョッパーもスマラを先頭(盾)にして少し離れた距離から追う。

 

 どんどん奥に入っていく三人を前に、スマラは森に入って直ぐ止まった。

 

 

「ん? どうしたんだ。置いてかれるぞ?」

 

 盾役のスマラが進まないなら自分たちも進めない。

 チョッパーがスマラに尋ねるが、スマラは問いには答えずに後方に向けて声を放つ。

 

 

「隠れて無いで出てきたらどうかしら?」

 

 

 穏やかな口調ではあるものの、指示に従えざる得ない強制力を感じる言葉だった。

 急な声に驚くナミとチョッパーであったが、スマラは無視して周囲に警戒の目を向けて動かない。

 そんなスマラに観念したのか人が現れた。一人二人ではなく、数十名もの武装した集団だ。ミンク族ではない。

 指揮官と思われる二人を除き、装備は一律で整っている。

 

 確実に先行した二人の部下ね。格好からしてマフィアっぽい方か?

 マフィア……確か最悪の世代の一人がギャング上がりだったわね。

 となれば、麦わら一味に接触するまで二人だけだった反応が急に増えたのも納得がいくわ。

 悪魔の実の能力は常識に囚われてはならない……だったわね。

 

 

「ねぇどうするの?」

 

「囲まれちゃったぞ。戦うのか?」

 

 

 スマラの側に寄って、側と言うには近すぎる距離。ピッタリとくっ付いてスマラに囁く二人。

 チョッパーは柔力強化に変形し、ナミは魔法の天候棒を取り出して戦闘態勢。

 2年間の修行を経てその辺の雑兵には負けない程度の地力を付けた二人だが、億越え海賊が相手となれば少々厳しい。

 戦いにはなるだろうが、勝つとなればギルギリの戦いになるだろうし、何よりも戦闘音で先行している四人に気づかれてしまう。

 戦闘になるならサンジやブルックに戻って来てもらえた方が確実に勝てるだろうが、それだと二人との会話が分からなくなってしまうかもしれない。

 

 ここで私たちを捕まえるように囲んでいる点を見るに、何かしらの要求を通す為の人質と言った所かしらね?

 だけれど。私が着いていると知らないはずもないだろうし……。

 私の実力を低く見積もられた?確かに態々鍛える様な時間の無駄な行為は行なうわけも無いでしょうが、傘下の海賊の幹部程度なら身構える必要もない。

 やはり何かあると見た方が良いわね。

 

 そう考え、目の前にいる代表らしき人物が喋るのを待った。

 確か手配書で顔を見た事があったはずだが…。ダメだ。パッとは思い出せない。

 周囲を囲む部下達は銃を構えたまま。

 そんな中、身体もデカいが両手が通常よりの大きな男が笑いながら言った。

 

「レロレロ! 流石に気配はバレバレレロね」

 

「あんた達こんな事しても大丈夫だと思ってるの? こっちにはスマラが付いてるのよ!!」

 

「そ、そうだぞ。オレだってやる時はやるんだ。か、かかって来い!!」

 

 

 スマラの背後に隠れたまま挑発を行うナミとチョッパー。

 怖いものは怖いらしい。

 それなら言わなければ良いのでは?と思いつつ、スマラは目線だけ男に向ける。

 

 

「そんなバカな真似したらこの海では生きていないレロよ。何も我々は戦いに来たわけじゃないレロ」

 

「戦いに来た訳じゃない? 噓ね。だったらこの包囲を解いてゾウから出て行きなさいよ!」

 

「包囲したのは悪かったレロ。おい、銃を下レロ」

 

 

 男が指示を出すと周囲を囲っている者達は銃を降ろす。

 しかし、降ろしただけで何かあれば直ぐに撃てる様に手に持って、引き金には指を置いたままだ。

 

 

「悪かったレロね。本来の作戦ではお前達を人質にする予定だったレロが、そこのスマラ嬢が居るとなれば話は別になレロ」

 

「スマラ…嬢?」

 

「えー!? スマラってお嬢様だったのか!?」

 

 

 レロレロ五月蠅い男の、スマラに対する呼び方にナミとチョッパーは驚いて問い詰める。

 

 

「確かに容姿端麗だし、本の事が絡まなければ作法だって丁寧よね」

 

「違うわ。私が言い所の令嬢な訳ないじゃない。と言うか、話が進まないから一旦黙ってて貰えるかしら?」

 

 

 ニヤニヤしてこちらを眺める男を「原因は貴方でしょうに」と冷ややかな目で睨みつつスマラは言った。

 スマラの目と声がいつも以上に冷ややかだった為か、今は真面目に目の前の敵に集中するべきだと思い出したのか、コクコクと頷いて戦闘の構えに戻る二人。

 

 会話の主導権は目の前の男が握ったままだが、最悪無かった事にすればいい。

 何十年も昔はそうしてきた。

 

 

「それで、要件は一体何かしら? 人質にはならないわよ」

 

「本来なら頭目が直接渡すのが礼儀レロが……。この手紙を貴方に渡すように上から指令が下っているレロよ」

 

「手紙……」

 

 

 男の大きな手からスマラの手へと手紙が渡った。そして、受け取ると同時に破り捨てた。

 これに何度目かの驚きを示すナミとチョッパー。普段なら問い詰めている所だが、先ほど既に注意されている身。ナミとチョッパーはひそひそ話をするだけに留める。

 

 

「読まなくて良かったのかしら? 明らかに普通の手紙っぽく無かったわよね?」

 

「文通って柄でもなさそうだしな。どういった関係なんだろう?」

 

「でも見て、あの男、全く動揺していないわ」

 

「ホントだ! 普通はもっと慌てるぞ」

 

 

 ナミとチョッパーがひそひそと話す様に、通常はもっと慌ててもいいはずだ。

 上司の上司、会社に例えるなら会長レベルから渡された書類を確認もせずに破り捨てられた暴挙。

 しかし、相手はあのスマラである。

 手紙の主は読まずに捨てられる事も折込済みなのだろう。

 渡した手紙が破り捨てられるのを見た男は再び懐から全く同じ手紙を取り出す。

 

 

「だと思ったわ。一体何通預かっているの?」

 

「何十通もだレロ。部下も含めて全員が同じ数だけ、頭目はもっと持っているレロ。どうだ? 全員倒して奪って破るレロか?」

 

 

 懐から沢山の手紙を出しつつスマラに見せつける男。

 チラッと確認すると、囲んでいる部下達も引き金に手を掛けつつもう片手で手紙を手にしていた。器用な人達だ。

 スマラは男の提案を拒否する。

 

 

「いいえ、手紙を読むわ。誰が全員倒すなんて野蛮でめんどくさい事やるものですか」

 

 

 この場に居る者達を無力感化するのは非常に簡単だろう。

 強めの覇王色の覇気を浴びせれば周囲を取り囲んでいる部下達は意識を失うだろうし、恐らく耐えるであろう交渉役の男とガトリング砲を腕に装着している男も、億も超えてない賞金なら制圧はそこまで時間はかからない。

 長引いても5分未満、既に同じ位足止めを喰らっていると考えれば、今更追いついたところで話が聞けるとも限らない。

 となればここで素直に相手の要望に応えた方が楽で良い。

 

 スマラは嫌そうな顔をしながら手紙を受け取る。

 何の変哲もない手紙だ。

 高価な紙を使っているのかもしれないが、スマラには知識はあっても見分ける技術は持ち合わせてない。

 直接手渡しする為か、証拠を残さない為か、宛名は書かれてない。

 ご丁寧に蝋で封をされている。

 

 私に当てる手紙としては少々丁寧すぎやしないかしら?

 読むかも分からない手紙を何十枚と用意して……。

 誠意を見せてると言うのも考えようだけれど、あの人達にとって私なんて塵同然でしょうに。

 もしかして指示を出したのは本人や大幹部だけど、実際に制作に携わったのは事情を知らない下っ端なのかしら?

 

 などと思いながら封を剥がすスマラ。

 これまた丁寧に折り畳まれた中の手紙を開くと、達筆な文字でスマラ宛の要件が書き記されていた。

 長々とこねくり回して書かれている文字を二、三秒で目を通して閉じる。

 知っている者は知っているが、わざわざ知らない者に知らせる様なキモチのイイ内容ではない。

 一番の要因は後ろからそーっと覗き込もうとしていた二人への対応だ。

 

 

「…………」

 

 

 手紙の文章を頭に入れたスマラは深く息を吸って吐き出した。

 瞳を閉じて長考。周囲の人たちも黙って見守っている。

 何が書かれていたのか。

 態度を見るにイイ内容では無かったのは確かだ。

 

 

 

「分かったわ。その誘いに乗ってあげましょう」

 

 たっぷり1分近く閉じていた目を開くと、スマラはそう呟く。

 手紙の内容を見てないはずの者にも分かるように、スマラは端的に伝えた。

 

 

「私はここで船を降りるわ。今までお世話になったわね」

 

「えッ? ちょっと急に何よ」

 

「…………えぇ!!?」

 

 

 突然の離別宣言。

 ナミとチョッパーの脳裏には2年前のウォーターセブンでの出来事が思い浮かぶが、

 

 

「あぁ、2年前のあの時と似ているけど違うわ。私は絶対に麦わら一味の船には戻れない。分かったらもういいでしょう」

 

 

 スマラは否定する。

 似ていると言う事には、ビッグマム海賊団に身を委ねると言う事なのだろうが、政府に着いて行った時と違うのはどういった意味なのだろうか?

 そう言った疑問が湧き上がるが、ナミとチョッパーには悠長に考えている余裕もなくなっていた。

 

 

「迅速なご対応感謝するレロ。おい、捕まレロ」

 

「えっ!? ちょっと待って今更私たちを捕まえてどうする気よ!?」

 

「言ったレロ。人質にすると」

 

 

 男が指示を飛ばすとナミとチョッパーに銃口を向けて来る部下達。

 スマラはそれを無心に見つめていた。

 

 殺されるような事はないだろう。

 何の交渉をしているのか分からないが、奥で話しているサンジとベッジの話し合いを有利に進める為だけの様だろうし、何か危害でも加えればサンジが黙っていないはずで、最悪麦わら一味を敵に回す。

 最悪の世代の中でも麦わら一味は特にイカれた一味だと有名であり、2年前のシャボンディ諸島では一緒に行動を共にしていた人魚と魚人を攫われたからと言う理由で天竜人を殴り飛ばすと言う常識外れっぷり。

 さらに悪い事に、数日前新聞の一面大見出し記事になった様に、トラファルガー・ローとも同盟を結んでいる。

 四皇の傘下だから大丈夫と慢心出来る程の相手ではない。

 故に、ナミとチョッパーは捉えられこそするものの、身体的なダメージを負わすわけにもいかないのが、ファイアタンク海賊団の現状だ。

 

 抵抗虚しく捕まって連れて行かれるナミとチョッパーをみつつ、スマラは交渉役だった男に声をかける。

 

 

「じゃ、私は船で待っているわ。足元に停めてあるのでしょう? あの無駄に大きな船」

 

「えぇ。船番をしている奴等には伝えてあるレロ。俺達も用事を済ませたら直ぐに向かうレロ」

 

「そう。反撃を喰らわない様に気を付けることね」

 

 

 

 スマラはそう伝えてこの場を去る。

 ナミとチョッパーは何度も呼び掛けたが、スマラは一度も振り返ることはなかった。

 

 



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八十頁「万国 カカオ島」

新刊発売日でウキウキしているので投稿しました。

そんなに進んでいないけど最終章に入りました。


 以上がスマラに関する事の顛末である。

 その後、ナミとチョッパーが捕まって人質となり、スマラとの交渉を勤めた男がサンジの耳元である情報を囁くと、サンジはあっさりとベッジの要求を受け入れた。

 

 今頃、二人共遠く離れた海の上だろう。

 向かう先はほぼ確実にビッグ・マムが本拠地にしている島。

 今から追いかけても間に合うかどうか。

 それでもサンジを連れ戻そうとしても、立ち塞がるのは四皇だ。

 実際に百獣のカイドウを目標にトラファルガー・ローの計画の元行動をしているが、何の策略も無く突っ込んで行って帰れる程甘い相手ではない。

 今直ぐに行こうと言うルフィをゾロが窘め、ブルックがサンジの覚悟を伝える。

 

 そして数時間後。

 様々な意見を聞き、ゾウで短い時を過ごしたルフィは当然の結論を出した。

 

 

「やっぱりオレ、サンジのとこ行くよ。戻ってこないかもしれねぇって言われて納得いくか」

 

「ハァー。ルフィがそう言うなら仕方ないわね。私としても相談もせずに決めたサンジ君に一言言ってやらなきゃ」

 

「オレもオレも!!」

 

「では、僭越ながら私も同行させて頂きます。あの場に居ながらも何も出来なか私にも少しばかり思うところがありますので」

 

 

 ゾウへ先行していた組はサンジが一人で決めてビッグマム海賊団に着いて行った事が許せないのか、ルフィの決断を受けて同行する事にした。

 ナミが居る以上、無事にビッグマム海賊団のナワバリにたどり着く事は出来るだろう。

 問題はカイドウやワノ国の事だが、何もワノ国について直ぐカイドウに喧嘩を売るつもりは無かったらしく、ドレスローザに居たメンバーとハートの海賊団が先んじて潜入して情報を集めて作戦を立てる事になった。

 ルフィ達は安心してビッグマムのナワバリに侵入してサンジを連れ戻す事が出来る。

 

 

「よ~し!! 待ってろよビッグマム!!」

 

「言っとくけど、サンジ君を説得して連れ戻したら直ぐにナワバリを出るのよ!? ビッグマムとは戦わないし、カイドウの方優先でしょ」

 

「そうだぞルフィ。四皇を二人も同時に相手取るなんて無謀もいい所だぞ。穏便に、穏便にな!?」

 

「ヨホホホッ!! 四皇の島に直接忍び込むのですから、この位の勢いがなくては」

 

「ホントに、大丈夫なのだろうか……」

 

 

 ルフィが勢いに任せて発言し、ナミとチョッパーがルフィに本来の目的と取るべき行動を叩き込み、そんな様子をブルックが微笑ましく眺める。

 いつも通りの光景であるが、今回の旅にミンク族を代表して同行を申し出たペドロが小声で嘆く。

 そんなペドロがルフィに尋ねる。

 今回も目的であるサンジの奪還。それと同じで違うもう一つの裏ミッションを。

 

 

「で、もう一人の方はどうするのだ? 話を聞くに一筋縄では行かぬ人だそういだが……。話を聞くに、サンジ殿とは違い脅しをかけられた訳でも無く着いて行ったのだろう?」

 

 ミンク族のペドロにとってスマラは微妙な立ち位置の存在だった。

 同じ船に乗って来たのだから恩人である麦わら一味のメンバー、と思いきや態度は仲間とは思えないほど遠く、同行する上で聞いた詳細ではナミとチョッパーが人質として囚われるのを黙認したという。

 情に熱く、800年もの昔の光月家との契りを守り国が亡ぼうと雷蔵を敵に売らなかったミンク族の一員としては、スマラの行動は到底考えられない所業だった。

 故に、幾ら仲間ではないとは言え今まで船を共にしていた者を見過ごす行動を取ったスマラの事を良い風に思えないペドロは、サンジを助け出すのには賛成だったがスマラなどに時間を使う意味が理解出来なかった。

 

 

「何か理由があったのかもしれんが、簡単に仲間と言ってくれるゆが等らを見捨てた奴など放っておくのが賢い選択だぞ」

 

「ダメだ! 俺はアイツを気に入ってるんだよ。あと、これまでも何度も助けて貰った。サンジと同じ様に簡単に嫌な場所に行くような奴じゃねぇよ」

 

「しかし……いや止そう。ルフィ殿が決めたらなら従うのみ。ただし、サンジ殿が最優先なのを履き違えないで欲しい」

 

「……あぁ、分かってる。今度こそ本心を問い詰めてやるぞ~~!!」

 

 

 やる気に燃えるルフィ。

 ルフィにはやはり、スマラが心の底から納得して着いて行ったとは考えていないみたいだ。

 麦わら一味の中で、スマラと最も長い期間過ごしていたからこそ、スマラの些細な気持ちに気づいていたのかもしれない。

 

 

 こうして麦わら一味は二手に分かれて進む事になった。

 サンジを取り戻しにビッグマム海賊団の本拠地へ潜入する組、ワノ国に先行して情報収集を行う組。

 後者は前者の無事を祈って分かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『新世界』とある海上

 

 世にも奇妙な船が海を行く。

 まるでお菓子で船を作り、命を吹き込んだかのように思えるその船は、帆に描かれた髑髏マークをはためかせて海を進んでいた。

 その海賊旗は新世界に生きる者なら誰だって知っている、知らなければならない海賊旗だ。

 現在活動中の星の数ほどもいる海賊。その中でも一際古くから存在し、世界でも有数な数と影響力を持った海賊。

 世界三大勢力の一角『四皇』の一席を何十年も居座り続けている大海賊。

 四皇『ビッグマム海賊団』の一船だ。

 

 水平線を見渡しても近づく船は一隻もありゃしない。

 四皇の船は例え本人が、大幹部が乗っていなくても近づく馬鹿は誰もいない。

 世界で最も過酷な海である新世界であっても、四皇の力は絶大だ。

 本人は言わずもがな、大幹部一人がナワバリ外の島に上陸するだけで、その島は抵抗すら出来ずに終わる。幹部一人でも新世界を航海する海賊団の船長と互角以上の実力を有し、幹部が乗っていない船でさえ一般的な海賊は接触を普通は避ける。

 そう言った側面があるが、この船はもう一つの理由で周囲に船が見当たらない。

 

 

 

 スマラは天気が良いので本日は甲板に出て読書をしていた。

 ビーチチェアーを用意させ、パラソルで日陰を作ってゆったりと寝そべっている。

 横にはこれまた用意させたであろうテーブルにドリンクが一杯。

 連行されていると言った雰囲気を全く出していない。むしろVIP待遇だ。

 

「暇だわ…」

 

 ポツリと呟いた声は波音に消えるだけ。

 側にはスマラの側付きか、監視か、チェス兵と呼ばれる者が立っているが、先の独り言は独り言と捉えたらしい。

 

 暇と言ったが、無論読書をすれば時間は直ぐに過ぎ去れるだろう。

 しかし、そんな日常も1週間近く続けば飽きてしまうもの。

 船に乗ってから真っ先に用意させた、船中からかき集めた本(それこそ個人的な私物まで)は全て読み切った。

 というのも戦いの為に移動する、今回に限ればサンジとスマラの迎えとシーザーの捕縛の為に出撃した船だ。

 チェス兵に私物などありはしないし、この船に個室を与えられている幹部級の存在はベッジとその部下数名のみ。

 かき集めた本の冊数は5冊にも満たなかった。

 船の大きさに反して全くもって書物の数がなってないわね。とスマラは既に悪かった機嫌が更に悪くなった。

 

 仕方がないので、かき集めた本と常に持ち歩いている本を繰り返し読み込んでいるのが現状。

 唯一の楽しみは毎朝ニュースクーが配達してくる世界経済新聞くらいだ。

 世界政府の圧を受け、中身は事実とは違った内容に編纂されているかもしれないが、それでも読み物としては悪くはない。

 読者もバカではなく、誰もが知っている様な内容だけを載せていては購読者は離れていく。

 噓の中に真実があったり、他の新聞会社では載せられないような記事まで載せていたり、時には世界政府の指示に逆らって事実をそのまま載せる時もある。

 物語性としては皆無だが、辞書や専門書を意味もなく目を通すよりかは楽しめる。

 毎日発行されて内容も全く違う点もいい所だ。

 あと、購読料金はビッグマム海賊団に払わせているので無料で読めるのもポイントが高い。

 

 

 何十回目かの文字列を目で追いながら暇を持て余していると、殆ど言葉を発さないチェス兵がスマラに声をかけてきた。

 

 

「スマラ様、後1時間もしない内にカカオ島に到着いたします。そこで小一時間の小休憩と物資補給を行い、本日の夕方頃に本島ホールケーキアイランドに到着となります」

 

「出歩いて言いわけ?」

 

「勿論でございますとも。しかし、一名お付を連れて貰います。最も何かご入用であればこちらで用意いたしますが…」

 

 

 なるほど。

 自由行動は阻まないが出港時間までには船に戻るように、そしてスマラがここに来て逃げ出さないように監視役を付けると言う事か。

 あの人のナワバリまで来ておいて今更逃げ出す訳がないのに。

 

 スマラはピクリとも表情を変えずに答えた。

 

 

「街へは行くわ。着いたら起こしなさい」

 

 

 答えると同時に背もたれに体重を預けて目を瞑った。

 時間まで暇で仕方が無いので仮眠を取ることにしたらしい。

 チェス兵はそれを聞き届けると、見てもいないのに深く頭を下げて了承の意を取った。

 

 

 

 

 

 チェス兵が言った通り、1時間でカカオ島に到着した。

 後ろに待機していたチェス兵に起こされて、背伸びを一つして起き上がる。

 船から下を見下ろすと、確かに島に着いていた。

 名前の通り、チョコレートがふんだんに使われている島だ。

 甘ったるい匂いがここにも届いてきて、空腹感を刺激してくる。

 

 

 時間が余ればカフェテリアにでも寄ってみようかしら?

 

 

 そんな考えを抱きながら船を降りて街へと繰り出した。

 適当に歩いて書店に入り込み、本を物色している間側付きに頼んで別の書店をピックアップして貰う。

 こうすることで次回以降書店を探す手間が省ける。

 監視役も兼ねている為は初めは渋っていたチェス兵だったが、少し睨むとスマラの願いを了承して書店を探しに行った。

 チェス兵は直ぐに戻ってきて、スマラが同じ棚の前で本を選んでいるのを視界に入れると、ホッとして大きなため息を吐いた。

 スマラは知る由もないが、このチェス兵が時間をかけずに戻ってこれたのは、別のチェス兵を使ったからに他ならない。

 別に一人で仕事を全部しなければないわけではない。

 ここはカカオ島でビッグマム海賊団が保有する島の一つだ。

 チェス兵を一人二人召喚する事など造作もない。

 

 

 四皇に支配されている島でもビッグマムの万国は経済が発展している島と言える。

 政府の力が届かず、海賊と言う無法者に支配されている何十もの島から出来上がった国、それが万国。

 ビッグマム本人がお菓子を食べやすくする為に島が形成されており、税が苦しくて島民が生活出来ない程貧窮しているわけでもなく、かと言って世界政府加盟国のような一般的な法がまかり通っているわでもない。

 法を決めているのは海賊だが、島で暮らしているのはただの一般人だ。

 支配者が違うだけで外面は何も変わらない。

 

 故に、島をふらふらと歩いているスマラが思った感想は「思った以上に秩序が守られているのね」だった。

 世界で一番嫌いな海賊が支配する国。

 それはもう、法が機能しておらず殺し合い奪い合いは日常茶飯事。島民は海賊の横暴に日々震えてるクラス日々…なんて、平和に暮らしている者共がイメージする海賊支配の島そのものを予想していた。

 

 しかし、そんなイメージに反して普通の島だ。

 むしろ四皇のナワバリで他の海賊が攻めて来る心配が無い分、何の後ろ盾も得ていない島に比べて活気がある。

 自分達の事だけでなく、そこに住む者の事も考えている証拠だ。

 自分達の生活や天上金の事しか考えていない世界政府加盟国よりもよっぽど良い暮らしが出来ているのかもしれない。

 まだ一つの支配島。その内の一つの都市を軽く見ただけだが、思ったよりも住みやすい国なのかもしれない。

 もっとも、ビッグマム海賊団が支配している国、と言うだけで嫌悪感が消えないのは確かだが……。

 

 

 

 

 

 時間は平等に過ぎ去っていく。

 一時間と言う時間は長いようで短い。

 書店を巡っているとその時間は更に短く感じるだろう。

 

 書店巡りは成功と言えただろう。

 ビッグマム海賊団が支配している国の経済状況も見ることが出来たし、書店に並べられている書籍も悪くない。

 少なくとも、スマラが世界を渡り歩いてなお見たことのないタイトルの品が数多く並べられていたを知れたのは大収穫だった。

 一般市民でこれなのだ。

 支配階級たるビッグマム海賊団の本拠地には更なる本が待っている事だろう。

 

 自由は減ってしまうかもしれないが、そのデメリットを塗り潰すメリットはちゃんとあるのを確認出来たのは大きかった。

 少なくとも、コイツ等が本気でスマラを縛り付けたいと考えているなら、その間は生きるのに必要な全てが提供され続けるだろう。

 もっとも何の見返りもなく与え続けてくるわけがないのを想像に付く。

 対価は情報か、私が今戻ってくる意味、何十年も放置していたのに今更な理由は……。

 

 

 そこまで考えたところで船に戻っていた。

 これ以上考えるには少し落ち着かない場所。

 階段を登って船の甲板へ。

 そのまま約1時間前に居た場所へと戻ろうとしたスマラの前にある男が現れた。

 

 

「スマラさん、少しだけ話がしたい」

 

 



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八十一頁「船での会話」

今回は1カ月で投稿出来ましたが、物語は何も進んでないです。


 物資補給と言う小休憩から戻って来たスマラにお客さんが居た。

 

 

「スマラさん、少しだけ話がしたい」

 

 

 金髪を雑に伸ばし、片目を前髪で隠している男。

 剃っていないのか、少しだけ不恰好に伸びている。

 言えば何でも揃えてくれる立場であろうに本島に最低限の事以外何もしてないのが見て取れる。

 毒物を警戒して口につけていないのか、はたまた単純に喉に通らない気分なだけか…顔色も良くは無い。

 

 おそらく後者だろうとスマラは当たりをつける。

 純粋に家と家の繋がりの深める為だけに普通に結婚させるだけとは思えもしないが、それでも実際に結婚を執り行うまでは何もしないだろう。

 黒足の性がヴィンスモークだったのは意外だけれども、今までの手配書に家名が載って居なかった点、これまで一切関わり合いや話題が出てこなかった点から私と似たような境遇だったのだろう。

 ヴィンスモークにとっての価値はまだ図り損ねてるけれど、ビッグマム海賊団にとってはまだヴィンスモークと正式な繋がりを得た訳ではない。

 今の時点で毒殺する理由がないのだ。

 今更毒殺を実行するくらいなら、新入りの傘下を向かわせるよりももっと簡単に麦わら一味を全滅させられる方法がある。

 大幹部を筆頭に幹部十数名でも送り込めば麦わら一味は簡単に終わる。四皇本人がやってくればそれこそチェックメイトなのだから。

 

 

 目の前の男、黒足のサンジは麦わら一味を離れてこのお菓子な船に乗って初めてスマラに向かって言葉を発した。

 

 今更?

 万国に入って考えが纏まったからだろうか?

 だとすれば内容は何?

 今までについて?

 これからについて?

 私が話していなかった事?

 いずれにしても、私が弁明する事は何も無い。

 

 

「話をするのはいいけれど、こんな場所で良いのかしら?」

 

「……出来れば内密に。少なくとも船内の俺の部屋まで来て貰っても良いですか?」

 

「別に構わないわ」

 

 

 やはり誰が聞き耳を立てているか分からない甲板では駄目な話みたいだ。

 ビッグマム海賊団の船である以上、船内でも全く気を許せる訳がないが、それでも外よりは壁に囲まれている部屋の方が良いとサンジは判断したらしい。

 盗聴されていようがどうでも良かったスマラはサンジの提案を素直に受け入れる。

 

 

「何でもいいから軽く摘まめる物と飲み物を頂戴」

 

 船内に入る直前、側に付いているチェス兵に軽食を要求してサンジに着いて船内に入って行くスマラ。

 面と向かって話がしたいと言われてそれを承諾したのなら、読書をしながら話を聞くのは失礼にあたるだろう。

 ならば、栄養補給も兼ねて何か口にしながら話を行った方が時間効率的にも有意義な時間の使い方だ。

 

 

 サンジの部屋は船内の中心にあった。

 まだ客人だからか客室と言っても良い部屋だ。

 スマラに与えられている部屋と同等以上のランクだった。

 無駄な調度品なんかも飾られている。

 サンジはスマラに備え付けのソファーに座らせると自身も対面に座り、早速話を切り出してきた。

 

 

「早速で悪いんですが……最初からこう言う計画だったのですか? 無関係を装って船に近づいて有能で使えそうな人材を引き込む調達員と……」

 

「その解釈は無理があるわ。私があの船に拾われたのは完全な偶然で、麦わらが私の事を気に入ったのは想定外。そんな運だけに頼ったヘッドハンティングなんて非効率的過ぎるわ。

 そもそも東に海で旗上げしたばかりの貴方たちがここまで成長するとは誰にも予想出来なかった。その場の強さだけを考えるなら平和な東の海よりも新世界の方が手っ取り早く戦力を持ってこれる」

 

 

 あの場で麦わら一味に拾われたのは完全なる偶然だ。

 そして、既に縁を切った相手の意図を組んで行動してやる程お人好しではないし、向こうも忘れていなかったにしても半ば放置だ。

 恐らく目を付けたのはウォーターセブン……世界政府と交渉してからだろう。

 それまでは殆ど世間に姿を表していなかったし、世界政府になら伝手やスパイくらい幾らでも居てそこから情報が伝わったのか……。

 もっとも、頂上戦争で大将と戦ったせいで新聞に載ってしまい、そこまでの時間差は全体的に見ればないに等しいけれど。

 

 

「そう理由を述べても貴方は納得しないのでしょうね。でもこれだけは言わせて。私はビッグマム海賊団が世界で一番嫌いよ。天竜人よりもね」

 

「……余程嫌っているのに、何故?と聞いても?」

 

「新世界に入れば基本的に海軍及び世界政府、四皇、その他有力海賊団の支配が何処にでも及んでいるわ。大人しくしていれば一般人として紛れ込む事も出来たでしょうが、海賊の船に乗ってナワバリに近づくとなれば話は別よ。

 貴方も知っていると思うけれど、ビッグマム海賊団の情報収集力は世界政府にも匹敵するわ。ナワバリの近くの情報なんて勝手に入って来る。奴等に知られた以上、これ以上私の日常が汚される前に交渉した……」

 

 新世界まで戻ってしまった以上、ビッグマム海賊団が己の動向を意識しないはずがない、とは考えていた。

 麦わら一味やシーザー・クラウンと言うきっかけがあったにせよ、ここまで接触を図ってくるとは思ってもよらなかったのが私のミス。

 ドフラミンゴがなんて言っている暇も無くドレスローザで、新世界初めの島であるパンクハザードで隙を着いて、それよりも早く新世界の海面に浮上した時点で麦わら一味を離れて入れば良かった……。

 そう後悔してももう遅い。

 向こうがそのつもりなら、こっちも最大限活用するまで。

 

 

 それで……とスマラはサンジに目を向ける。

 

 

「貴方は私の事を聞いてまで何が言いたいのかしら?」

 

「俺は……。俺は家族の問題にケリを付けに行くだけなんです。アイツ等と直接会って交渉して俺の結婚を取り下げる為にこの船に乗った。……でも、簡単に終わるはずがない」

 

「親に縛られる気持ちは分かるわ。私も同じだもの」

 

「えぇ。だからスマラさんが嫌々向かっているなら協力出来るんじゃないかと……」

 

 

 サンジが今頼れる存在と言えば同じ船に乗っているスマラしか居ない。

 サンジから見れば自分と同じ様に嫌々従っていると思い、一緒にビッグマム海賊団から逃げる仲間になれば良いと考えていたが……。

 思ったよりも反応が薄い。

 

 それもそのはず。

 嫌々従っているのは確かだが、スマラは何時かこんな状況になるんじゃないかと昔から予想していた。

 予想していたから、実際に使いを寄越して来た時に観念したのだ。

 決して報酬に惹かれたわけではない。

 

 

「でもまぁ、ビッグマム海賊団と血縁を結んでも良いことは一つもないのは確かね。狙いは大方ヴィンスモークの持つ技術力。ビッグマム海賊団も人材は豊富だと思うけど、一時期は世界一の天才と共に研究所を構えていたヴィンスモークの当主には及ばない。海賊団の強化に他陣営の力を取り入れるのはもっとも手っ取り早く力をつける方法だけど、ビッグマムは自身の子供にそれを強要して行って海賊団の強化を行ってきた海賊よ」

 

「よく知っているんですね」

 

「嫌でも知ってるわ。 貴方は結婚した相手方の家族がどうなっているか知っていて?」

 

「知る訳もないですよ。縁を結んで強化を図るんですから、良好な関係を何十年も続けているんじゃないですか?」

 

「そうならビッグマム海賊団は今よりも大きな組織になっているわね」

 

「つまり……」

 

 

 縁を結んだ相手が海賊でビッグマム海賊団の傘下にでも加入しない限り、消して来たと言う事は言葉にしなくても伝わったはずだ。

 

 

「でもまぁ、飽くまでも私の想像に過ぎないわ。実際に居城に行ってみない事には何とも言えないわね」

 

 

 カカオ島のショコラタウンで想像よりもかなり良い統治をしている事を目の当たりにしているスマラは、今語った予想が正しいとは思えなかった。

 あの書店巡りがなければ、予想とは言わずにそう言った海賊だとサンジに伝えていただろう。

 

 果たして予想は合っているのか?

 こればかりは実際に結婚し過ごして見なければ分からないだろう。

 幾ら悪逆非道な四皇とは言えど、結婚式で相手家族を皆殺しにする短気さは無いだろうとスマラは考えるが……。

 

 

 本題に入ろうと思う。

 サンジがスマラに話を持ち込んで来たのは、己と同じ立場であると思い込み協力関係を結んでビッグマム海賊団から逃げる事を目標としてだ。

 サンジとて四皇が易々と逃がしてくれるとは思ってもいない。

 ましてやサンジはビッグマム海賊団に喧嘩を売っている麦わら一味のコックだ。

 縁を結ぶ以前に喧嘩を売ってきた相手の戦力を削り、人質としてナワバリから逃がすはずもない。

 

 

「協力関係は無理だけど、貴方が本気で逃げる時はそれと無く手助けする事は出来なくもない……かもしれないわ」

 

「それは……一緒に逃げないって意味ですよね」

 

「えぇ。元の鞘に収まるだけだもの。待遇が良い方に鞍替えするのは2年前に知っているでしょう? それに、どうしょうもない程憎悪していたらもう逃げてるわ。

 まぁ、私の期待以下なら一緒に逃げて……いえ、バラバラに逃げた方が逃げられる確率はあげられる?」

 

 

 早速先の言葉を違えようと考えているスマラ。

 しかしそれは、スマラの期待値を下回った場合のみだ。

 ここまで長い期間広大なナワバリを納めて、新世界に根を張って世界中に影響を及ぼすほどに成長した海賊団だ。

 何十年も収集した、略奪した物品はそこらの海賊を遥かに超えるだろう。

 それ故に、期待はある。

 むしろ世界政府が禁書指定している歴史書だって一冊や二冊位あるかもしれない。

 

 

 

 部屋に沈黙が訪れる。

 サンジの言葉を待っているスマラだが、言いたいことは既に終わった様な気もする。

 これ以上の話は無駄。

 

 席を立とうとしたスマラだったが、ドアのノック音で忘れていた事を思い出す。

 

 

「失礼します。要望のお飲み物と軽食をお持ちしました」

 

 

 そう言えば話が長引くと思い、飲み物と食べ物を頼んでいたのであった。

 手際よくテーブルに並べて部屋を出ていくチェス兵。

 

 どうするの、これ?

 

 話は終わった。

 さっさと立ち去って読書タイムに戻っても良いが、自らが頼んだ物なだけあって手を付けないで部屋を出るのは味気ない。

 早く戻って早速買ったばかりの新刊を読みたい気持ちもかなりあるが、どうせ読み終われば暇になるのは目に見えている。

 ならばここでゆっくりしているのもまた一興だろう。

 サンジ自身女性に甘いこともあり、スマラが留まってゆっくりとしていても無碍にしないだろう。

 

 

 一先ず、黙って用意しても貰った物を頂く事にしたスマラ。

 カカオ島がチョコレートの島であることもあり、チョコレートラテにガトーショコラ、チョコチップクッキー、チョコブラウニー等々。

 チョコ尽くしである。

 

 甘い。

 非常に甘い。

 この甘さに会うのはブラックコーヒーだろうに……とスマラは準備をした者に心の中で愚痴る。

 ゆっくりと軽食を頂くにはやはり読書が必要、ということで早速買ったばかりの本を選んで鞄から取り出す。

 甘い物ばかりの口直しも兼ねてホラーサスペンスだ。

 是非とも甘い軽食を中和していい感じになって欲しい。

 

 

 一方で己の部屋で寛ぎ始めたスマラをサンジはただただ見ていた。

 詳しい事情は聴いていないが、これまでの話や雰囲気から何十年もビッグマム海賊団から逃げていたんだと感じていた。

 時折見せる表情から、ビッグマム海賊団の事は特に嫌っていたはずだ。

 それなのに、それなのに一回捕まっただけでこれまで見せていた嫌悪感にあるまじく淡々としている。

 内心は計り知れないが、余程嫌ならば新聞やイワンコフから見聞きした頂上戦争の様に暴れれば良いだけだ。

 なのに、その様な行動を取らないと言う事はサンジと同じ様に誰かを人質に取られているのか、それともサンジには知られていない取引でもあったのか……。

 

 考えても仕方ない。

 そう結論を付けたサンジは頭をくしゃくしゃと掻くと、目の前に用意されていたカップを手にとって一気に飲み干す。

 一先ずは、大将三人を同時に相手取れる実力を持ったスマラが敵対せずに、運が良ければ手助けしてくれる結果を喜ぼう。

 

 

 

 

 

 スマラは軽食と飲み物を全て食べ終えると、サンジに「それじゃあせいぜい頑張りなさい」と一方的に声をかけてから部屋を出ていった。

 その足で自身に与えられた部屋に戻った。

 

 今から甲板に出ようにも、既に日は陰り始めている。

 まだ涼しいで済むが、一刻もすれば肌寒く居心地が悪くなるだろう。

 本一冊も読めずに部屋に退去せざるを得ないくらいなら、端から部屋に戻っておいた方が賢い。

 

 部屋に戻ると椅子に座って読書だ。

 読書をしながら考えるのは明日の事。

 ナワバリに入り快速で向かっている本島は明日には着くだろうと聞いていた。

 明日には……明日にはビッグマム海賊団と対面する事となる。

 実に何十年ぶりだろうか?

 数年前までは新聞で奴らが暴れた事件の概要を知るくらいで、直接的には全く関わりが経たれていた相手。

 

 怖いとはもう思わない。

 あの時よりも背丈も伸び、能力の使い方だって段違いに上手くなっている。

 それでも、それでも心の奥底に刻まれている記憶は、私を万全な態勢にさせてくれない。

 

 あの巨体。自分勝手な言動。

 仲間すらも気に留めずに暴飲暴食。

 いつもいつも命令口調。

 脳内に浮かぶアイツはいつも余裕そうに笑っている。

 その表情を崩させれたらどれ程気分が良いことやら。

 しかし私には無理だ。

 可能性があるとしたら麦わら一味だけれど……今のままだと幹部にも勝てないでしょうね。

 まぁもうここまで来てしまったのだからしょうがない。

 何十年と自由に過ごしていたツケを払うだけ。

 

 

 何気なしに見た窓の外。

 その先にはビッグマム海賊団の本拠地:本島『ホールケーキアイランド』が存在している。

 あと数時間……向こうの都合を考えれば遅くても明日には顔を合わせる事となだろう。

 

 

 これ以上は考えたくもない、とばかりにスマラは視線を落として読書へと戻った。

 今は楽しい時間を満喫しよう。



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