イナズマイレブン -もう一つの伝説- (メンマ46号)
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Reloaded
vsバルセロナ・オーブ前編


○本編との相違点

・一年生の頃サッカー部を作った時にプロトコル・オメガの襲撃が無かった。

・この小説の本編における正史を辿った世界線からアレスルートに行った。

・その為化身を使えるのは主人公のみ。


 side凪人

 

 夜、熱狂冷めやまぬフットボールフロンティアスタジアムで俺達雷門イレブンは試合の準備をしていた。角馬王将さんの実況が俺達の気合いを更に引き上げてくれる。

 

『遂にこの日がやって来ました!日本とスペインの親善の意味を持った記念すべき試合です!!日本一になった雷門中とスペイン少年リーグ優勝チーム、バルセロナ・オーブの世界を股にかけた試合に日本中が注目しています!!』

 

 突然だが、言わせて貰おう。

 

 エイリア学園来なかった。

 

 フットボールフロンティア全国大会で世宇子を倒して優勝した俺達雷門中だが、その日雷門中に帰ったあの日、黒いサッカーボールの落下は無くフットボールフロンティア優勝を祝う雷門中生に迎えられた。

 

 その日の内に部室で円堂、修也、鬼道と一緒に世界を目指すという話を盛り上がった。イナズマジャパンとして世界と戦う事が夢だったからな。

 

 そしてもしかしたらゲーム2のように優勝から一週間後に襲来するのかと考えて待っていたが結局来なかった。それはもうビックリしてそれはもうガッカリした。まぁ来たら色々大変だからこの考え方は不謹慎なんだろうが。

 

 そして響木監督の提案の元、世界の強豪であるスペインの少年リーグ優勝チームであるバルセロナ・オーブとの親善試合が組まれた。それが今日この日、このフットボールフロンティアスタジアムで行われる試合だ。

 

 エイリア編スキップして世界か……。これ勝てなくね?だってジェネシス倒した後ようやく世界と渡り合えたのが俺の知ってるストーリーな訳だから……エイリア学園との戦いがあったからこそ、日本代表は強くなって世界一になった訳だし……。

 

 多分この試合は転生前に聞いた事がある『もう一つの27話』なんだろう。エイリア学園が来なかった世界線、『アレスの天秤』に繋がる話という訳だ。

 

 転生前に『サッカー強化委員』なるものを聞いた事がある。確か染岡が白恋、風丸が帝国に所属しており……というか雷門イレブンが各地の学校のサッカー部に派遣されてそれぞれを強くするって話だった。

 

 つまりこの試合でボロ負けして、世界に対抗する為に日本全体で強くなろう!その為に雷門がその扇動者になる。といった所か。

 

 ……なんか自分で予測しておいて腹立って来たな。ボロ負けするなんて性に合わないし、全力で足掻いて勝ちに行ってやる……!!

 

「燃えているな。凪人」

 

「!修也。……そうか?」

 

「ああ。目が絶対勝ってやるって語ってる。お前らしいな」

 

「……まぁ、やるからにはな」

 

 今修也が言った通り、実はかなり燃えている自分がいる。自分で言うのも何だけど……多分俺は既にエイリア学園が来なかった事は割り切っちゃっているんだと思う。それよりも世界がどれだけ凄いのか……今の俺達がどこまで通用するのか楽しみになっている。

 

 そしてストレッチを終えた俺は円堂の隣に行って楽しみだなという会話を少し交わすと二人して会場の客達に手を振ったりし始める。

 

「おーい!」

 

「皆ー!観に来てくれてありがとなー!」

 

『おや?雷門のキャプテン円堂守と副キャプテン斎村凪人が揃って大きく手を振っています!日本のサポーターは大興奮だ!!今や伝説の最強コンビ円堂守と斎村凪人が日本を代表して世界の強豪と戦うぞぉ!!』

 

 伝説の最強コンビ……なんて良い響きなんだ!そんな感じでイェーイと笑っていると修也に注意された。

 

「円堂、凪人。二人共悪ノリし過ぎだ」

 

「そうか?良いだろ?偶には。な!斎村!」

 

「だな!この雷門で世界と戦えるんだ!ここで勝てば世界大会で日本代表!…なんて話も見えて来るぜ?」

 

 そう。恐らく響木監督は負け試合として組んだんだろうけど、ここで活躍すればいずれ開催されるだろうFFIで日本代表になる為のアピールにもなる。

 

「世界大会に日本代表か……気が早過ぎるんじゃないか?」

 

「そうか?」

 

 とは言え、エイリア学園が来る本来の歴史ならその三ヶ月後くらいにはFFIが開催するんだがな。

 そして観客席には先日退院した夕香ちゃんが修也の応援に来ており、すぐ近くの席には円堂の両親と俺の両親が並んで座っている。またその近くには幼馴染である渚達がいる。他には鬼瓦さんやフットボールフロンティアで戦ったライバル達もだ。

 

 そして仲間達が一箇所に集まって来る。

 

「俺達がどこまでやれるのか楽しみだよな!」

 

「しかし響木監督からの提案が世界を相手にした親善試合とはな」

 

「スペインの名門バルセロナ・オーブ……相手にとって不足無しだな。雷門の…いや、日本の力を見せてやるか!」

 

「なんかまたトイレ行きたくなって来たッス」

 

「ただのエキシビションなのにこの雰囲気はヤバいねぇ…」

 

「良いじゃねーか!声援は多い方が燃えるってもんだ!!」

 

「久し振りに味わってみるか。世界のレベルを!」

 

「弱小なんて馬鹿にされながらも皆で頑張って遂に日本一になったんだ。今回も一緒さ!このメンバーで世界に行こうぜ!!」

 

 最後に俺がそう宣言して皆が頷く。そうだ。エイリア学園が来ないからなんだ。それで弱気になる必要なんて無い。どんな歴史だって俺達はこれまで通り、そしてこれまで以上に全力で戦うだけだ!!

 

 そして円堂の号令一下、俺達は更なる気合いを込める。

 

「行くぞ皆!相手は世界だ!!」

 

『おおーーー!!』

 

****

 

side三人称

 

 凪人達雷門イレブンは整列し、バルセロナ・オーブと挨拶を交わした後、それぞれのポジションに付く。

 

FW 豪炎寺 染岡

 

MF 一之瀬 鬼道 斎村 マックス

 

DF 風丸 壁山 土門 栗松

 

GK 円堂

 

 そして主審がホイッスルを鳴らし、雷門ボールで試合開始。豪炎寺が染岡にボールを蹴り渡す。

 

「行くぞ!」

 

「おう!」

 

 それからドリブルで斬り込んで行く染岡。相手FWに接触する寸前でバックパス。ボールは凪人が受け取る。

 

「さぁ!始めるか!俺達の……!!」

 

『サッカーを!!』

 

 パスを受け取りドリブルで走る凪人の前にベルガモが立ちはだかる。凪人は瞬時に彼を観察して隙を見つけ、フェイントをかけて突破した。

 

「……!」

 

「おいおい何やってんだよ?舐め過ぎてやる気も出ねぇか?」

 

「……いや、奴は……」

 

 ルーサーの軽口に対して反応せずベルガモは凪人の後ろ姿を見る。ベルガモは確かに油断はしていた。日本のレベルが低いと分かっていたから。しかしそれを差し引いても良い動きだった。

 

「……中々楽しめそうだ」

 

 クラリオのその呟きを聞いた者はいなかった。

 

「凪人!」

 

「りょーかい!決めろ修也!!」

 

 凪人のセンタリングを受けた豪炎寺は爆炎を纏い、回転しながら跳び上がってその炎を強めて行く。やがて左脚に集束された炎と共に蹴り出される技の名は…、

 

「ファイアトルネード…改!!」

 

「いっけえぇーーー!!」

 

 迫り来る炎の弾丸シュートに対してバルセロナ・オーブのキーパーであるアロンソは右手の人差し指を立てるとそれをジッと見つめてから手を指一本からパー…五本指を立てて掌でファイアトルネードを受け止めた。

 

『!!』

 

 キュルキュル…と音を立てて焦げを残す事なくファイアトルネードは止められた。誰もがそれに驚愕する中、凪人はアロンソの手を見ていた。

 

(……まさか、指一本で止めるつもりだったのか?それを右手一本に切り替えた……?)

 

 そしてアロンソはボールをゆったりと蹴ってコロコロ…と豪炎寺の足元に転がす。それから指をクイクイ…と己に向けて動かし挑発する。もっと撃って来いと。

 

 豪炎寺は鬼道に視線を向け、鬼道も凪人を呼ぶ。

 

「斎村!」

 

「おう!」

 

 鬼道にボールが渡ると同時に上空に蹴り上げられるボール。紫色のオーラを纏いつつ、稲妻を帯びて落下してくる。それを鬼道、凪人、豪炎寺の三人で一斉に蹴り出す。

 

「「「イナズマブレイク!!」」」

 

 そうして撃ち出した現雷門最強クラスの必殺シュート。しかしアロンソは跳び上がるとすぐに落下してイナズマブレイクに強烈なスタンプをお見舞いした上で三回程足踏みをしてその勢いを完全に殺した。

 

『なっ!?』

 

「馬鹿な…!?」

 

「あんな止め方をするとはな……流石は世界だ」

 

 驚愕する雷門イレブンと会場のサポーター達。しかしそんな中でも凪人は彼らのプレーをよく観察し、分析していた。

 

(これが世界標準レベル……強い!でも分かった事がある。原作イナズマイレブンの基準で見れば……こいつらはジェミニストーム程じゃない!勝機は無くても、付け入る隙はある!!)

 

 そう考えながら凪人が走り出すと同時にアロンソはクラリオにボールを投げ渡す。

 

「ディフェンス!準備しろ!!」

 

 そして凪人はドリブルして走るクラリオに追い付き、タックルを仕掛けつつ、ボールを奪う瞬間を伺う。

 

「……ほう」

 

 クラリオはそんな凪人を見てまるで感心するかのような声を出す。その瞬間に凪人は叫ぶ。

 

「風丸!土門!」

 

「「おう!」」

 

 二人が同時に飛び出てクラリオがキープするボールに脚をヒットさせ、奪おうとする。クラリオは凪人に気を取られて反応が一瞬遅れたのだ。

 

 しかしクラリオは意に介さずにボールを強く蹴り込み、二人をいなして突破した。

 

「……悪くない」

 

 そしてFWのルーサーにパス。ベルガモとのツートップで駆け上がる。立ちはだかるのは壁山と栗松。二人をワンツーで突破しようとした瞬間に凪人と鬼道がそれぞれ叫ぶ。

 

「一之瀬!11番の前に!」

 

「マックスは9番に仕掛けろ!」

 

「「おう!」」

 

 二人の指示に従ってパスコースを潰し、ボールを奪いにかかる。ルーサーは二人を軽く躱しながらも試合前の評価を改める。

 

「意外と普通に良いじゃねぇか。さっきのベルガモの件はそういう事か……」

 

 そして凪人のマークを振り払ってゴール前に来たクラリオへとボールが戻り、円堂とクラリオの一騎討ち。

 

「来い!」

 

「ふんっ!」

 

 シュートが放たれた。必殺技でも何でもないただのシュート。しかしそれは疾かった。日本のレベルでは対応する間も無くゴールを決められる程に。

 

 しかし円堂は……円堂だけは違った。

 

「くっ!どりゃあああっ!!」

 

 シュートに飛び付き、その手でボールを掴んだ。しかしそれまで。ボールの勢いは止められずに手は弾かれ、ボールはそのままネットに突き刺さる。

 

 0-1

 

「……い、今のは……なんてシュートなんだ……!!」

 

 華麗過ぎるシュートにスタジアムは静まり返る。円堂さえ反応して触れるので精一杯だった。

 

 しかしクラリオ達の実力に唖然とする日本側とは対照的にバルセロナ・オーブもまた雷門を評価していた。

 

「……成る程。これは伸びしろがある上に成長力も爆発的に持っているようだ。向こうの監督は我々とぶつかる事でそれを彼らを飛躍的に急成長させる刺激にしようとしているのだろう」

 

「……まさか敵を強くする役割を請け負っちまうなんてなぁ。こりゃあここで勝ってもいずれ割に合わなくなるぞ?」

 

「……ならば手を抜いた上で勝つと?」

 

「それこそまさか。敵がより強くなってくれんならそれが一番だ。俺達のレベルを徹底的に見せた上で勝とうじゃねぇか」

 

「……決まりだな」

 

 そしてバルセロナ・オーブの思惑を知らずして全力で戦う決意を改めて固める雷門イレブン。そしてバルセロナ・オーブと雷門はそれぞれに知る事になる。

 

 世界との実力差と……日本の爆発的な潜在能力を。




正史の世界線から派生したアレスルートでもフットボールフロンティア優勝時点で全員原作より強いので原作リローデッドよりかは善戦します。

また、このバルセロナ・オーブ戦を始めとして原作アレスの天秤とのバタフライ効果が多く起こります。主に主人公が無印のフットボールフロンティア編から大きく無印キャラ達に影響を与えた事によって。

雷門サッカー部
監督:響木正剛

1.円堂守 GK(キャプテン)
2.風丸一郎太 DF/MF
3.壁山塀吾郎 DF
4.影野仁 DF
5.栗松鉄平 DF
6.半田真一 MF/DF
7.少林寺歩 MF
8.宍戸佐吉 MF
9.松野空介 MF/FW
10.豪炎寺修也 FW
11.染岡竜吾 FW
12.目金欠流 FW/MF
13.土門飛鳥 DF
14.鬼道有人 MF
15.斎村凪人 MF/FW(副キャプテン)
16.一之瀬一哉 MF
17.多摩野五郎 DF

本編の修正に伴って主人公の背番号は20番から15番に変更されてます。


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vsバルセロナ・オーブ後編

案外早く試合書き終わった。当初の構想じゃあと1話くらいあるかなと思ってたけど。


 side凪人

 

 強い。圧倒的に強い。だからこそ笑みが溢れてしまう。

 

 それがバルセロナ・オーブに抱いた俺の思いだった。点差は既に0-3。こっちは息も絶え絶えになってやる奴が多い中、俺は……俺達は必死に喰らい付こうと走り続ける。

 

「でやぁっ!!」

 

 マックスのスライディングをルーサーがジャンプして躱した瞬間、俺はそこに飛び込んでボールを掻っ攫う事に成功した。

 

「へぇ…?」

 

「染岡っ!!」

 

 俺のパスを受け取った染岡は修也とアイコンタクトを取ってボールにフルパワーを込めて空高く蹴り上げる。

 

「ドラゴン……!!」

 

「トルネード…改!!!」

 

 二人のドラゴントルネードがその灼熱の牙と共にゴールへと飛んで行く。しかし相手キーパーのアロンソはそれをたった一発のパンチングで弾き飛ばしてしまった。

 

「これでも駄目か……」

 

「まだだ!だったら入るまで何度も何度でも撃つだけだ!!」

 

 こんなにもズタボロにやられているにも関わらず、俺はちっとも焦りを感じる事も無く楽しんでいた。

 

 理由は簡単。嬉しいんだ。こんなにも強い奴らと戦える事が心の底から……!!

 

 次々とディフェンスが突破されて行く中、誰一人として抜かれても諦めようとはせずに相手を追う。しつこさなら負けない。それでもクラリオは軽々とゴール前まで辿り着く。

 

「ふんっ!!」

 

「うおおおおお!!」

 

 クラリオのシュートに円堂の手が掠る。しかし止められずにゴールネットが揺れる。

 

 0-4

 

「まだだ……!あと少しで止められるぞ……!!」

 

「その調子だ円堂!次こそ頼むぜーー!!」

 

「おーう!任せろー!!」

 

 まだ追い付き切れてはいないが円堂なら必ずこの試合中に奴らのシュートを止める。なら俺達も必ず奴らのプレーに喰らい付いて点を取ってみせる。

 

 それから俺達は諦めず攻め続ける。俺と鬼道がやっとの思いでベルガモを突破してから真横にいた一之瀬にボールを託す。そしてその両隣には風丸と土門がやって来た。

 

「「「ザ・フェニックス!!」」」

 

 円堂の代わりに風丸が入る事でゴールがガラ空きになるという弱点を克服したザ・フェニックス。しかしクラリオはそれを前に飛び上がると強烈なキック力でインターセプト。ザ・フェニックスを不発に抑えた。

 

 そこで前半は終了。ハーフタイムに入るのだった。

 

****

 

 side三人称

 

 ハーフタイムの最中、雷門の雰囲気は重い。まさかこれ程までの差があるとは思わなかったのだ。凪人と鬼道の同時指揮によってどうにか堪えてはいるが、それでも既に4点差だ。

 

 そんな中、円堂と凪人はワナワナと震えながら感動の言葉を口にする。

 

「凄え……これが世界か…!なんて凄えんだ……!!」

 

「……上には上がある。簡単に対等にやり合えちゃむしろ拍子抜けだ!!乗り越えてやろうじゃねぇか!!俺達はいつだってそうやって強くなって来たんだ!!これからもな!!」

 

 円堂と凪人の言葉を聞いて雷門イレブンの雰囲気は明るくなり始める。その様子を見て響木の表情は僅かに綻ぶ。

 

「皆!世界は強い!!でも全力で行くぞぉーー!!!」

 

『おおーー!!』

 

 そして後半が始まる。やはり前半同様終始圧倒されてしまう。それでも雷門は諦めず、粘り強く、しつこく迫る。点差は更に広がり0-7。

 

 ルーサーが豪炎寺、染岡を連続突破するも、一之瀬と鬼道、凪人がトリプルで迫り、連続ディフェンスを仕掛ける事でボールを奪い取る。

 

 しかし今度はクラリオがドリブルする凪人の前を走り、迫る。

 

(奴らの速さ、技術……全てが俺達より上だ……!!それでも負けられねぇ……負けたくない!!)

 

 心臓に手を当てるように自分のユニフォームを掴む。その瞬間、クラリオは凪人の姿を一瞬捉えられなくなった。

 

「……!?」

 

「アグレッシブビート!!!」

 

「ぐあっ!?」

 

 そしてクラリオの背後に出現した凪人は衝撃波で彼を弾き飛ばした。その瞬間、スタジアムには大歓声が響いた。

 

「やった!斎村の奴、遂にクラリオを突破しやがった!!」

 

「しかもこの土壇場で新必殺技だ!!」

 

 凪人のファインプレーに土門と風丸の表情も明るくなる。その勢いを維持すべく鬼道は叫ぶ。

 

「俺達も続くぞーー!!」

 

『おう!』

 

 雷門はバルセロナ・オーブに及ばずとも巧みに連携を組み、必殺技を織り交ぜながらバルセロナ・オーブの陣内を少しずつ……本当に少しずつ突き進んで行く。

 

「……ルーサー」

 

「ああ……こいつら、試合の中で次第に成長してやがる!!少しずつ俺達のレベルに近付いて来てやがるぞ!!」

 

「……そしてその引き金(トリガー)となっているのは、間違いなく彼だ」

 

 そう言ったクラリオの視線の先には凪人の姿がある。そしてクラリオは凪人を試したくなったのか、右手を上げてチーム全体にハンドサインで指示を下した。

 

「……!?」

 

「凪人っ!」

 

 その動きの意味に唯一気付いた鬼道はボールを保持していた豪炎寺にそれを伝えようとするが、その前に豪炎寺は凪人へとパスを出してしまう。

 

 そしてその瞬間、凪人がパスを受け取った時にはバルセロナ・オーブのMFとDFが凪人の周囲を取り囲んでいた。

 

「こ、これは……!完全に包囲された!!俺達へのパスコースも潰されてしまった!!」

 

 鬼道の言う通り、クラリオは凪人の力を見極める為に彼を包囲してパスコースを潰したのだ。例え空中に跳び上がったり、蹴り上げてパスをしようにもザ・フェニックスをインターセプトした事から良い効果は期待出来ないだろう。

 

「………」

 

「さて、ここからどうする?」

 

 試すかのように問うクラリオに強い視線を返し、凪人は叫ぶ。

 

「……俺は……諦めない!!日本の力を見せてやる!!雷門を舐めるなぁーーー!!」

 

 そう叫んだ凪人の背中から影が溢れる。その影の真の力……化身を呼び起こしたのだ。

 

「はああああああああああああああっ!!!堕天の王 ルシファー!!!」

 

「………素晴らしい」

 

 ポツリと呟くクラリオ。しかし凪人はそんな呟きなど聞いてはいない。凪人はただ一点、バルセロナ・オーブのゴールだけを見つめていた。

 そして遂に化身技を撃つ。ルシファーがその手に持つ槍はまるでビリヤードを撃つ様に構えられる。しかしその槍の先端部分はいつもと違い、金色の稲妻が迸っている。

 

「サタン・スピアー!!!」

 

 放たれた化身シュートは前方を塞いでいたDF達を蹴散らしてゴールへ一直線。さしものアロンソも化身を前に余裕を失くしたのか、凄まじい量の掌底を放ち、そのエナジーを溜め込んで盾にする。

 

「ミリオンハンズ!!」

 

 アロンソの出した必殺技を凪人の稲妻を纏った化身シュートはぶち破り、ゴールネットを揺らした。

 

 1-7

 

 たった1点。されど1点。その1点が入った事で実況も観客も大きな歓声を上げた。

 

『き、決まったぁーーーー!!ミラクルシュート炸裂ーー!!我らが雷門イレブンの副キャプテン、斎村凪人が遂に決めてくれたぁーーー!!世界の度肝を抜いたぞ!!これが日本の底力だぁーーー!!』

 

 スタジアムの歓声は最高潮に盛り上がる。あれだけ強い世界を相手に遂にもぎ取った1点。この1点こそが最も大切なのだ。

 

「おっしゃああああっ!!」

 

「やったな斎村!!」

 

 手放しに喜びを露わにする雷門イレブン。対してバルセロナ・オーブは悔しさを露わにする訳でもなく、表情を変えない。クラリオに至っては無表情だ。

 

「見事」

 

「おいクラリオ。残り時間は少ない。このまま終わる気か?」

 

「何?」

 

「あの日本人があれだけ凄えのを見せてくれたんだ。今度はお前が見せてやれよ。俺達のレベルを。そうすりゃ、あいつらはもっと強くなるぜ。かなりのスピードでな」

 

「……成る程。それもそうだな」

 

 そしてバルセロナ・オーブのキックオフで試合再開。雷門はもう一度ボールを奪って追加点を決めようと走り出す。しかしルーサーとベルガモは豪炎寺と染岡を躱すと凪人に接触しないようにクラリオを交えてパス回しをして鬼道の真後ろにクラリオを辿り着かせる。

 

「な……!!」

 

「……日本の戦士達よ」

 

「……?」

 

「良いものを見せて貰った礼だ。私達の本気を見せよう」

 

 刹那、突風が吹いたかの様に円堂を除く雷門イレブン全員に悪寒が走った。クラリオは右脚で数度斬り込みを入れるようにボールを蹴り込むと最後にフルパワーで押し出した。

 

「ダイヤモンドレイ」

 

 これまでとは比べ物にならない速度で雷門ゴールに向かうシュート。円堂はこれまでバルセロナ・オーブのシュートに反応は出来ても一度も止められなかった。

 

 だがそれでも尚、このシュートを前にしても円堂は止めるつもりだった。上半身を捻り、心臓にパワーを集めてそれを100%右手に伝導する。

 

「うおおおおおっ!!マジン・ザ・ハンドォォォ!!!」

 

 正面衝突する必殺技と必殺技。しかし金剛石の光を前に魔神の手は綻びを抱え始める。徐々に押されていく魔神を見て雷門は衝動的に彼の名を叫ぶ。

 

『円堂!!』

 

『キャプテン!!』

 

「円堂ォォーーー!!!」

 

「……今度こそ止める!ここでゴールを許したら……チーム皆の想いが途切れてしまう!!だから俺はこのシュートを絶対に止めてみせる!!ゴールを背負うっていうのはそういう事なんだ!!!」

 

 マジン・ザ・ハンドで圧倒的パワーを誇るダイヤモンド・レイ相手に耐え続けながら円堂は左手を心臓部に当てる。そして心臓から今度は左手に溜めた気を100%伝える。

 

「うおおおおおおっ!!!」

 

『!!』

 

 そして今度は右手と一緒に左手をボールに衝突させ、マジン・ザ・ハンドの威力を増幅させる。それでも尚、止まらないシュート。円堂は直感的に逆にそのパワーを利用すべく両手でボールを上から抑え込むように地面に押し付けにかかる。

 

「止まれえぇぇぇぇ!!!」

 

 円堂は地面に押し付けたボールを完全に押さえ込み、ボールはゴール前のピッチに減り込んで、沈静化した。

 

 雷門もバルセロナ・オーブも誰一人として例外なく息を呑み、眼を見開く。

 

『と、止めたぁーーー!!今度はキャプテン、キーパーの円堂がバルセロナ・オーブの必殺シュートを止めたぞぉーーー!!!』

 

 三度、スタジアムの歓声が上がる。円堂はゼェゼェと息を苦しげにしながら、真っ先に敵陣に走り出した凪人目掛けてボールを遠投した。

 

「行っけええええええええええっ!!!」

 

 凪人に続いて豪炎寺も走り出す。凪人が届いたボールを空高く蹴り上げると、並び、二人揃って一瞬だけ踏み込み、身を捻る。

 

 それぞれが右回転、左回転で爆炎を纏って上昇。ボールと同じ高さに達すると同時に凪人と豪炎寺はツインシュートをぶちかます。

 

「「ファイアトルネードDD!!!」」

 

 最初に撃たれたファイアトルネードとは比較にならない威力の爆炎はアロンソに技を出させる暇も与えず、両手で受け止めた彼を弾いてゴールネットを焦がした。

 

 2-7

 

 追加点を挙げた凪人と豪炎寺。しかしここで遂に体力の限界を迎え、息を切らしてしまった。

 

「「はぁ…はぁ…はぁ……」」

 

 息も絶え絶えの雷門にまだ余裕を残すものの、最後の最後で日本の底力を目の当たりにしたバルセロナ・オーブ。そしてここで試合終了のホイッスル。勝利したのは当然バルセロナ・オーブだ。

 

 雷門イレブンは疲労と圧倒的な敗北感から全員が倒れ込む。最後に2点をもぎ取れたとしてもこれは間違いなく完全敗北だった。

 

「……俺達が手も足も出ないとは……。これが、世界か…」

 

 仰向けに倒れ、完全敗北を噛み締める鬼道。そんな鬼道にクラリオが話しかける。

 

「……確かに前半は悪いプレーでは無かったが、話にならない実力だった。この程度かと失望すらした。だが後半になって貴方方のプレーは格段に良くなった。試合の中で急速に成長し続けるチームなどこれまで見た事がない。貴方方のこれからの進化に期待する!!」

 

 それだけ告げて雷門に背を向けてベンチに戻り始めるバルセロナ・オーブ。しかし、彼らの雷門への評価は鬼道に向けたものだけではなかった。

 

「……日本なんて大した事ないって思ってたが、まさかこんな可能性の塊とはな」

 

「ああ。このチームはもっと伸びる。そう遠くない内にな」

 

「ったく、俺達もうかうかしてられねぇぜ。とんでもねぇのが二人もいやがった」

 

 ベルガモの視線は仰向けに倒れる凪人と円堂に向けられる。クラリオは頷くと更に言葉を続ける。

 

「あの二人こそ、サッカー情熱の感染源(インフルエンザ)。彼らがいる限り日本は際限なく急速に強くなり続ける。この敗北をきっかけにしてそれに拍車をかける結果になっただろう」

 

「……本当に割に合わねぇぜ」

 

 そして日本の完全敗北によって観客が静まり返る中、凪人と円堂はそれぞれ夜空を見上げながら呟く。

 

 

 

「……じいちゃん、やっぱサッカーは……楽しいなぁ」

 

 

「ここからだ……。ここから始まるんだ。俺達の世界への挑戦が……!!」




この小説では必殺技のモーションは基本無印と同じにします。じゃないと急に周りのモーション変わって主人公が戸惑う。

オサーム様のドリルスマッシャーもリアルにドリルが出ます。

化身、ルシファーの槍が稲妻を纏っていたのは主人公の化身が中途半端に進化しようとしていたからです。結局しなかったけど。


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日本を強くする為に

 side凪人

 

 バルセロナ・オーブへの惨敗から数日。俺達は理事長に学校の応接室に呼び出しを受けていた。ソファに俺、円堂、修也で座り、他のメンバーはその後ろに並んで立つ。……何か鬼道に悪い気がする。何故か。

 

「雷門イレブン、揃いました」

 

「イエス。今日は君達にこちらの方を紹介したいんだ」

 

 そう言った理事長の隣には何やらでかいおっさんがいた。……この人は確か少年サッカー協会の……。

 

「私は少年サッカー協会統括チェアマン、轟伝次郎だ」

 

『統括チェアマン!?』

 

 俺以外の皆は声をハモらせながら驚く。実際俺も声に出さないだけで驚きを隠せない。少年サッカー協会理事である理事長よりも大物だ。皆何故こんな凄い人に呼び出しを受けたのか分からないようで代表して染岡が呟く。

 

「俺達、何か悪い事したか?」

 

「し、してませんよ!」

 

「となるとこないだの親善試合の事か?」

 

 風丸の呟きに鬼道がピクリと反応し、ピリピリした雰囲気を醸し出す。……相当屈辱だったみてぇだな。

 

「バルセロナ・オーブとの親善試合、見せて貰った。あれは実に素晴らしく、有意義な試合だった」

 

「有意義?……どこが有意義だったんですか?手も足も出ず負けたんですよ……?」

 

「落ち着け鬼道。この人に感情をぶつけんのは間違ってんぞ」

 

 今にも感情が爆発しそうな鬼道を俺が諌めつつ、それを見てチェアマンは話を続ける。

 

「だからこそ意義深いのだよ……。日本の弱さと潜在能力を知らしめた!!!」

 

『!!』

 

 弱さを知らしめた……つまり今の日本は世界に通じない。それを知る事で強くなろうとするのがあの試合の目的だったのだろう。それは分かる。だが、潜在能力を知らしめたとはどういう事だ?

 

「鬼道君、君にも分かっただろう。今の日本のサッカーのレベルでは到底世界のレベルには通用しない!それ程に日本と世界のサッカーの実力差が開いているという事だ!」

 

「……」

 

「だが同時に嬉しい誤算も得た。日本の爆発的な進化の可能性!!潜在能力だ!!!」

 

「潜在能力?」

 

 円堂の呟きの後にチェアマンは俺に視線を向けて来た。

 

「斎村君!先日の試合でそれを最も示してくれたのは君だ!君はあの試合の中で成長し、バルセロナ・オーブの実力に迫り続け、チーム全体の力の差を少しずつ縮めて行った!そして遂にはゴールまで奪ってみせた……!!忘れもしない……あの衝撃……!!」

 

「……」

 

 俺が化身の力を引き出して奪ったあのゴールか……いや、それ以前にも普通のプレーでDFを躱したり、新必殺技でクラリオを突破出来もした。俺はあの試合の中で進化し続けていたのか……。後から考えると結構凄い事してたんだな、俺。

 

「そして確信した!日本にはまだまだ強くなれる可能性がある!!計り知れない潜在能力があるのだと!!そこでだ!日本のサッカー界の為に君達の力を貸しては貰えないだろうか?」

 

「どういう事ですか?」

 

「君達に日本を強くして欲しいんだ!」

 

「日本を強く?」

 

「そうだ!近い将来、強力な日本代表を作り上げる為に!!日本全体のサッカーのレベルを押し上げたいのだ!!」

 

 日本代表……つまりこの世界線でも世界大会、フットボールフロンティアインターナショナル…通称FFIは開催されるという事だ。その時日本が世界と渡り合う為に日本を強くする。……想像通りだな。エイリア学園との戦いがない世界線ではそれしか世界と渡り合う方法はないだろう。

 

「君達は『サッカー強化委員』として全国各地の別々のチームに加入し、それぞれのチームの実力の底上げに努めて貰いたい!!」

 

「『サッカー強化委員』……」

 

「……成る程。その中から人材を発掘し、強くする。そして俺達自身も強くなる事で日本代表を生み出す訳ですか」

 

「その通りだ!そこから君達のような革命児が生まれ、更には君達を超える存在が出て来るかもしれない!!」

 

 ……最後のだけ聞くと割と複雑な気分になるが、悪くはない。先程も考えた通り、エイリア学園が来ないこの世界線では雷門を中心とする日本の急激なパワーアップは不可能。こうやって各地で雷門魂を伝えて時間をかけて世界に挑戦出来るレベルにまで皆で強くなる。これが一番だ。

 

 だがここで円堂が疑問を挟む。

 

「……あれ?ちょっと待って下さい?それだと雷門サッカー部は?」

 

「雷門の遺伝子を全国に広めるという大義の為、雷門サッカー部は一旦解散となる」

 

『一旦解散!?』

 

 ……本当に簡単にしれっと言ってくれるなこのおっさん。いくら何でも中学生にこっちの事情を考慮せずに転勤させるとか完全にブラック企業のソレじゃねーか。

 

「確かに雷門は強いチームだ。しかしこれは日本サッカー界全体の問題なのだ!!今日本の力を結集して日本代表を組織したとしても!世界では一勝すら上げる事は出来ないだろう……それ程までに世界の壁は厚いのだ!!」

 

……確かに、現状では俺達雷門なんてフィディオ・アルデナやロココ・ウルパといった世界の有力選手である彼らの足下にも及ばないだろう。俺の知る原作で勝てたのはエイリア学園との激戦があったからこそだ。

 

「見たくはないかね!?あれだけ強い世界に日本が渡り合う所を!!」

 

 その一言を聞いた瞬間、俺は思わず呟いていた。

 

「……だ」

 

「斎村……?」

 

「見ているだけなんて嫌だ……!!俺は世界と戦いたい……!!世界に勝ちたい!!!」

 

 真っ直ぐにチェアマンを見てそう宣言する。その瞬間に鬼道や修也、円堂達の表情も変わる。チェアマンはそんな俺達を満足そうに見てから話を続ける。

 

「ならばまずは何者にも負けないその雷門の精神を広めて欲しい!!そして日本全体で強くなり、その名を世界に轟かせるのだ!!やってくれるな!?」

 

 俺達は互いのの顔を見て頷き合う。そしてその問いに円堂が代表して答える。

 

「分かりました!世界と戦える日本を作ります!!」

 

****

 

 そして俺達はチェアマンから転入先候補の学校のリストを受け取り、部室前で皆で相談していた。

 

「……とは言ったものの、色々あるなぁ。ここからどれを選ぶ?有名所は木戸川清修に帝国学園……白恋もあるな。無名だと……星章学園に利根川東泉、永世学園。聞いた事ねぇな……」

 

 つーか世宇子は無いのか。あそこに行くのも面白そうではあるんだけどなぁ。

 リストを俺と鬼道でチェックしていると部室前の木に背を預けて半田が呟く。

 

「折角こんな良い仲間が出来たのに……」

 

「皆離れ離れになるなんて……俺は反対だ!!」

 

 どうやら半田と染岡はまだ強化委員に納得していないようだ。……気持ちは分かる。しかしエイリア学園が来ない以上仕方のない事でもあるんだ。まぁこれは原作知識のある俺だけの理屈だが。

 

「それに俺が人に何か教えるなんて不安ッス…」

 

「右に同じ」

 

「自信無いでヤンス……」

 

「キャプテンや斎村さんに鬼道さんとかならやれると思いますけど、俺達には……」

 

「そこはかとなく無理な気がします」

 

「パソコンの使い方なら……」

 

「目金さん、それもうサッカー関係ないですよ…」

 

「結局は俺も皆がいたから……」

 

 壁山、マックス、栗松、宍戸、影野、目金、五郎、少林……と自信の無いメンバーが次々とネガティブ発言……。それよりも俺は他に心配な奴がいるんだがな。

 

「情け無いな。ここへ来て怖気付いたか?」

 

「俺達はどんな困難も乗り越えて来た。それが俺達雷門じゃないのか?」

 

 鬼道、修也と皆への活入れをしていく。すると鬼道に視線を向けられる。……俺も何か言えってか。ハイハイ。

 

「……難しく考え過ぎなんだよお前らは。サッカーにとって一番大切な事ってなんだ?言ってみろ」

 

「一番大切な事って……そりゃあ、諦めずに全力で戦う事ですよ」

 

「それも大切だけど……一番はサッカーを楽しむ事だ。それさえ忘れなきゃ、大丈夫だよ。雷門魂の根幹はサッカーの楽しさにあるんだからさ」

 

 これは割と本気で真理だと思う。結局サッカーが楽しいから好きになる。だから全力で戦えるんだ。そして俺がそう言うと皆の表情が明るくなる。続けて風丸が発言する。

 

「恐らく、俺達が教えるのは技術じゃない。そんな雷門の精神じゃないのか?斎村の言う通り、サッカーを楽しむ事さえ忘れなければ必ず出来る事だ」

 

「雷門の精神……」

 

「確かにそれなら……」

 

「やれそうでやんす……」

 

 ………水差すような事考えて悪いんだけど、俺はお前が一番心配なんだけどな、風丸。責任感強過ぎて色々溜め込み抱え込むタイプだし。ダークエンペラーズやアウターコードで影山に従う様子を知ってる身としては。

 

「だけど!ここで皆離れ離れになるなんて……!!」

 

「離れ離れじゃないさ。俺達は何処にいても繋がっている。ここでな」

 

 それでも納得出来ないらしい染岡を諭し、修也は自分の胸を叩く。続けて鬼道も染岡を諭す。

 

「染岡、俺達の絆は離れていても揺らぐ事は無い。俺達は離れていても日本を強くする為に力を合わせるんだからな」

 

「……力を、合わせる……」

 

「さっきから言ってるだろ?難しく考え過ぎなんだよ。世界と戦う為に皆で強くなる!それだけの話だ」

 

「斎村……」

 

 三人で説得する事で染岡はどうにか噛み砕いてくれた。そして最後に円堂がシメに入る。

 

「ああ。これから色んな困難にぶつかるかもしれないけど、俺達は今までも、いつだって乗り越えて来た。それが俺達雷門イレブンだ!そうだろ?皆!!」

 

『おう(はい)!』

 

 そして俺達は早速チェアマンの用意してくれたリストを閲覧し始める。俺も何処のチームに行くかを考えねぇとな……。

 

****

 

 そして数日後、一之瀬と土門は強化委員の任を放棄してアメリカに高飛びした。……こう書くとまるで逃げたようにも思えてくる不思議。いや微塵も思わねーけど。

 

 まぁ結局はあいつら自身がレベルアップする為に選んだ道だ。非難するつもりはない。……俺もイタリア辺りに行ってフィディオとでも会ってそこで武者修行でもしようかな?……なんて考えは冗談だ。……割と真剣に選択肢には入れているが。

 

 夏未は夏未で強化委員として海外チームの情報を集める為に各国を飛び回る事に。あいつが一番負担デカくね?少年サッカー協会が本格的にブラック企業と化して来ているんだが。学生の本分は勉強だよ?……そういや学校の経営まで理事長に一任されたな、あいつ。

 

 そして夜、俺と円堂、修也、鬼道との四人で鉄塔広場に集まっていた。

 

「染岡は北海道の白恋に行くつもりのようだ」

 

「白恋かぁ…あいつら強かったよなぁ……染岡が行ったら鬼に金棒じゃんか」

 

「円堂……お前、鬼に金棒なんて言葉を知っていたのか……!?」

 

「おい鬼道。シリアス全開で失礼な事言ってんじゃねーよ。いくら円堂でもキレるぞ。見ろ。顳顬に血管浮いてんじゃん」

 

 ナチュラルに円堂をディスるのやめろよ鬼道。それから俺は以前から気になっていた事を鬼道に尋ねる。

 

「鬼道は強化委員も兼ねて帝国に戻るのか……?元々世宇子を倒したら戻るつもりだったんだろ?」

 

「いや、戻らない。確かに強化委員の話が来る前はそのつもりだったが、日本全体で強くなるには今まで通りじゃ駄目だ。俺も帝国の皆もな」

 

「ふーん」

 

 それで雷門の精神を帝国に伝える役割として代わりに風丸が派遣される訳か。……でもどうやったら影山に従うなんて事になるんだ?アウターコード3話までしか見てねー……つーかその辺りで死んだから続きが分からん。2話に出て来たエイリア学園の奴らの学校名は忘れたし。とにかく風丸とはあいつに怪しまれない程度にこまめに連絡を取る事にしよう。

 

「修也は?」

 

「俺は木戸川清修だ。俺のサッカーの原点でもある」

 

 鬼道の意見を聞いた直後にその結論はある意味凄えよ。実際修也がいた頃の木戸川清修は修也のワンマンチームになってる所もあったしな。

 

「……じゃあまだ決めてないのは俺と円堂に風丸だけか。早く決めねぇとな」

 

「日本を強くする為に暫くのお別れだな。でもワクワクするじゃないか!日本が世界と戦えるようになる日が来るんだ!!」

 

 円堂は気楽だな。でもそれを言う前に早く派遣先決めろよ。俺もだけど。

 

「確かにな」

 

「世界にはどんな奴がいるんだろ?クラリオみたいなのがゴロゴロいるのかな?」

 

「いくら何でもゴロゴロはいないだろうが……」

 

「しかし、アレが世界標準のレベルだ」

 

「そ。あくまで標準であって断じてトップじゃねぇ。俺達は世界一を目指す以上、乗り越えて踏み台にする程に強くなる必要がある」

 

「だったら、俺達はもっと特訓しないとな!」

 

「これからは個人としての力を上げるだけでは駄目だ。チームとしての連携、戦術。そして長い戦いを勝ち抜く為の戦略が必要だ」

 

「そして世界に通用する必殺技もな」

 

「それが世界を勝ち抜く為のサッカーか!面白そうだな!」

 

 俺には他の誰にも無い武器、脅威の侵略者ルートというパラレルワールドの原作知識がある。強くなる為の特訓や強力な戦術、そして必殺技。無論これらに頼り切るつもりなんて毛頭無いが、最大限に活用するつもりだ。強くなる為に。

 

「あー…所で、サッカー強化委員って何やるんだっけ?」

 

「……おい円堂、それマジで言ってんのか?」

 

「円堂…!お前話を聞いてなかったのか!?」

 

「いやぁ、全国各地に行くって事は分かったんだけどな?」

 

 それから俺と鬼道で懇切丁寧に円堂に強化委員の仕事を説明する。勿論メモを取らせた。これから先、日本代表として共に戦うその日までお前の手助けは出来ないからな。風丸はどうにかしたいけど。

 

「全員が違うチームなのか…ちょっと寂しいな」

 

「フッ。円堂、お前ならどんなチームに入っても良いキャプテンになりそうだがな」

 

「あ、それ言えてる。てかキャプテンじゃない円堂なんて円堂じゃないだろ」

 

「だな」

 

「何だよソレ!?」

 

 俺と修也の言い分に円堂は軽くツッコミつつ、話を続ける。

 

「ま、つまり俺達の役割はサッカーの熱さを教える先生って所か!」

 

「まぁ、そういう理解で間違いないだろう」

 

「日本には俺達以外にもまだまだサッカーの才能を持った奴がいる」

 

「世界に勝つにはそんな奴らを発掘し、束ねなければならない」

 

「束ねるには相応の実力も必要だ。結局俺達自身も強くなる他無い訳だ」

 

 ここで日本を強くしてそこで終わりなんてゴメンだ。その後俺も必ず世界へ行く。わざわざ自分が強くした奴を送り出すだけなんて間抜けも良い所だ。

 

「でも俺達だってもっと強くなって日本代表の座を狙っていくんだよな?」

 

「当然だ。これからは代表の座をかけたライバル同士でもある」

 

 円堂と鬼道の言葉に頷きながらも俺はライバル宣言を鬼道に告げる。

 

「司令塔の座は譲らねーぜ、鬼道」

 

「ああ。俺もお前に負けるつもりはない。日本代表の司令塔は俺だ」

 

「いーや俺だ。この『フィールドの軍神』だね」

 

 日本代表の座もそうだが、司令塔の座もだ。俺は鬼道に負けたくない。必ず次のフットボールフロンティアで鬼道に勝って俺が上だと証明する。

 

「その前に次のフットボールフロンティアではお互い敵同士という事になるな」

 

 修也が俺の考えていた事を先に言った。けどまぁ別に良いか。誰が言っても変わらないからな。

 

「言っておくが、俺はお前達には負けないぞ」

 

「ああ。俺も負けるつもりは無い」

 

「上等だよ。修也も鬼道も円堂も……皆ぶっ倒して優勝は俺と俺のチームが頂く!」

 

「よーし!雷門魂をぶつけ合おう!サッカーをもっと熱くする為に!また会おうぜ!斎村!鬼道!豪炎寺!!」

 

「「「ああ!」」」

 

 こうして俺達は拳をぶつけ合わせてそれぞれが帰路に着く。……まぁこんな別れ方しても派遣されるのはもう少し先だから、また明日会うんだけど……円堂は忘れてんだろうな。




リローデッドはこれで終わりです。次回から強化委員としての派遣先に関する話になります。


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原作開始前
最弱のイレブン


今回から主人公の強化委員派遣の経緯と派遣先の話に、フットボールフロンティアまでの諸々の流れなどを一通りやってから本格的に『アレスの天秤』編に入ります。


 side凪人

 

『……それでお前はその学校の試合を観に行くのか?』

 

「ああ。お前も派遣先候補の下見だろ?利根川東泉だっけ?そろそろ切るぞ。試合が始まっちまう」

 

 俺はスマホでの円堂との電話を切ってチェアマンに渡された地図を取り出し、周囲の看板や標識を見て自分の位置を確認する。

 

「……確かこの辺だよな」

 

 今日俺は強化委員としての派遣先の候補の一つであるとある中学校に向かっていた。あくまで候補であってその学校に本決まりという訳ではない。

 

「今日が練習試合ってんなら、見極めるのに丁度良いか……」

 

 そう、今日はその候補チームの練習試合が行われる日だ。その試合を見る為にその学校へ俺は向かっている。とは言え、これまで全くの無名校だった上に俺の知る原作イナズマイレブンシリーズのどの話にも出てこなかった名前の学校だ。ある意味ではオリジナルチームとも言えそうだ。

 

 実はそのチーム、チェアマンが直接俺に指導を頼めないかと提案してきたチームだ。チェアマンの顔を立てて無下には出来ないから試合を見る事にした。当然そのチームは俺が観戦しに来る事は知らない。

 

『彼らのようなチームにこそ、君の力が必要なんだ!君ならばきっとこのチームを世界に挑める強いチームに出来るはずだ!!』

 

 ……ほとんどあの剣幕に押されたようなもんだけどな。地図を見る限りこの辺なんだが……。

 

 それから俺は道行く先々の人達に道を尋ねつつ、目的地へと向かって行く。そしてようやく辿り着いた。

 

「おっ。あったあった。中々立派な校舎じゃないか。生徒の数は……多分雷門より少ないかな?

 

 

ここが“閃電中学校”か」

 

 辿り着いた先……今回の目当てのチームである“閃電中学校”に来た俺は早速校門を潜り、サッカースタジアムに足を運ぶ。

 

****

 

 side三人称

 

 閃電中学校。

 

 創立20年余の私立中学であり、東京にその門を構えているが雷門中からの距離は離れている。フットボールフロンティアでの地区予選も恐らくは別グループに振り分けられるだろう。

 

 この学校は進学率はそこそこ高く、偏差値も雷門中と遜色無い。生徒数は一学年に200人程度。雷門中よりも100人程少ない。敷地内に学生寮があり、寮で生活し、学校に通う生徒と自宅から通学する生徒に分かれる。

 

 そしてスポーツが中々に盛んな学校。ただ一つ、()()()()()を除いては。

 

「皆!今日の相手は竜宮中だ!全力で行こう!」

 

『おおー!!』

 

 閃電中サッカー部のメンバーはキャプテンの号令一下、気合いを入れてグラウンドに駆け込んで行く。そんな彼らを見て観客ーーー否、同校の生徒達は応援……ではなく野次を飛ばす。

 

「オラー!下手クソサッカー部!また負けたら承知しねーぞぉーー!!」

 

「今回くらいは10点以下に抑えろよヘナチョコキーパー!!」

 

(……凄え言われよう)

 

 と、この野次の通りサッカー部だけはこの学校では唯一の弱小部であり汚点とすら言われる存在だった。この学校では勝てない運動部の権威は低く、勝ち星を挙げられなければ部費も殆ど割り当てられなくなり、そこから充分な設備を得られず満足に練習も出来ずに他校と実力差が開き、負ける……という悪循環が繰り返されている。

 

 観客席で試合開始を待つ凪人はチンピラみたいにサッカー部に野次を飛ばす一般生徒達を眺めつつ、フィールド全体を見渡す。

 

 FW二人、MF四人、DF四人。そしてGK。オーソドックスなベーシックスタイルでのフォーメーション。基礎中の基礎とも言える。

 

(位置取りは悪くない……。試合への意気込みもここまで言われてる割には中々だ。メンタルも弱くはないな……)

 

 閃電イレブンをそう評価しつつ、チェアマンに渡されたこれまでの閃電中の戦績データを読む。

 

(練習量は多い方だ。練習の真剣さも頭一つ抜き出ている……。試合も全員が人一倍真剣に挑んでいる。なのに……)

 

 ホイッスルが鳴って閃電ボールでキックオフ。FW二人が攻め上がって行く。

 

(ここ二年間、練習試合、公式試合問わず……一度も勝利を収めた事がない)

 

 一瞬にして相手FWにボールを奪われて次々と突破されて行く。そしてシュート。キーパーは反応出来ても間に合わずにあっさりと点を奪われた。

 

 そしてすぐまた閃電ボールで試合再開。

 

(連携に問題はない。むしろ相手よりも良いくらいだ)

 

 それでもすぐにボールを奪われて一方的に攻められ、すぐさま追加点を取られる。

 

(個人技も別段下手じゃない。中々上手い)

 

 竜宮中のFWのシュート。ゴールのコーナー狙いで放たれた鋭いキック。そのシュートに閃電のキーパーは全力で食らいつく。

 

「どりゃああああっ!!!」

 

 シュートを止める為に飛び付いて………そのまま勢い余ってゴールポストに顔面から激突した。

 

「…………!!」

 

 さしもの凪人も絶句した。あんぐりと口を開けて絶句した。見れば閃電イレブンもあちゃーとでも言わんばかりに頭を抱えており、竜宮イレブンも目玉が飛び出るのではないかと思える程ビックリしている。

 

(あんなベタなギャグ漫画みたいな失敗する奴、このイナズマイレブンの世界にいたんだ………)

 

 しかし閃電中サッカー部は凪人から見てもチームとして、選手として問題点は見当たらない。足りない点はあるが致命的な欠点など何一つ無かった。

 

 なのに何故ここまであっさりと一方的にやられるのか。何故全く相手に歯が立たないのか。

 

 

 

 答えは至極単純明快だった。

 

 

 

 閃電中イレブンは………ただひたすらに弱かった。

 

 

 

(あいつらは……練習自体の要領の悪さもあるんだろうが……それ以上に激しい練習やサッカーへの思いに全く成果が見合っていない。幾ら何でもこれは……!)

 

 

 

 はっきり言えばかつての雷門よりも遥かに酷かった。凪人はチェアマンの言葉を思い出す。

 

『彼らのようなチームにこそ、君の力が必要なんだ!君ならばきっとこのチームを世界に挑める強いチームに出来るはずだ!!』

 

(チェアマンは知っていたんだ……このチームの事を。そして、あいつらが強くなるには……俺が必要だって事も)

 

 そしてまた竜宮中のFWが鋭いシュートを撃つ。DF達はそれを阻む事も出来ずにボールにすり抜けられ、またゴール前にいるキーパーがそれを止めにかかる。

 

「うおおおおおおーーーーっ!!!()()()()()()ォォォーーーーーー!!!」

 

「!?ゴッドハンドだと!?」

 

 キーパーの少年の叫びに凪人は目を見開く。しかし円堂守が出すような巨大なエネルギー体の掌は出現せず、キーパーの少年は真正面から両手でシュートを捉え、止めにかかる。

 

「ぐぎぎぎっ……!!どわああああっ!!!」

 

 数秒間持ち堪えはしたものの、ノーマルシュート相手に止めきれずに弾かれて転げ回る。当然、シュートはゴールネットを揺らす。

 

 前半、後半と瞬く間に時間は過ぎて行く。そして試合終了。結果は0-13。相当酷い結果だった。

 

(竜宮中はフットボールフロンティアの予選トーナメントじゃ帝国学園に惨敗している。その際に怪我をした選手も多いと聞いた。まだ本調子じゃないはずだ。その竜宮中相手にこの結果か……ほとんどサンドバッグ状態。竜宮中は復帰した選手の試合での連携やプレーを確かめ、チームの調整をする為……これは文字通り()()()()()組んだ試合なのか)

 

 確かに人数がしっかり揃った上でここまで弱い弱小チーム程、その手のサンドバッグに適した存在は無いだろう。竜宮中は景気付けの為にもこの試合を組んだのだ。

 

「またボロ負けか!弱小サッカー部!!」

 

「辞めちまえクソザコキーパー!!」

 

「そこのテメーもキャプテンのくせに何やってんだ金髪ヤロー!!」

 

 今回もまた惨敗した事で一般生徒達は負けたサッカー部員達に空き缶やペットボトル……ゴミを投げ付けてブーイングの嵐。しかしキーパーの少年はそれに負けないように必死に涙を堪えながら叫ぶ。

 

「次こそ……!!次こそ絶対勝ってやる!!見てろ!!俺達は絶対こんなとこで終わらねー!!フットボールフロンティアで絶対優勝してやっからなーーーー!!!」

 

 キャプテンの少年はキーパーの少年の肩に手を置くと、批難と罵倒を耐えながらチームメイト達と歩く。

 

「お前らなんか絶対無理だっての!!」

 

「才能ねーんだよ!諦めてとっとと解散しろ!!」

 

 哀愁漂うその後ろ姿を凪人はじっと見ている。

 

 閃電イレブンの一人一人を良く観察してユニフォームの下にある傷や痣を見る。

 

 筋肉で固められた腹、擦り剥いて傷だらけになった膝。走り込みで発達した脚。重なり合った傷跡。

 

 どんなに弱くても、試合に勝てなくても、勝利を信じて、強くなりたくて必死に練習して付いた傷だった。そんな練習をしなければ決して付きようがない傷だった。

 

 ユニフォームの背番号を背負う彼らの背中が無言で叫んでいた。強くなりたい。大好きなサッカーで勝ちたい……と。

 

 どれだけ負けても努力の成果が実らなくても挑み続けられるのは……彼らが決してサッカーを諦めていないからだ。思わず凪人は微笑んでいた。

 

 似ていたからだ。彼らはかつての雷門イレブンに。

 

(……雷門魂、最初から持ってんじゃねーか)

 

 中でも二人、それが顕著に現れた者達がいた。一人は閃電サッカー部のキャプテン。そしてもう一人はあのゴールキーパー。

 

 まるで円堂守を見ているようだった。

 

 凪人は資料を取り出してキーパーである彼の名前を確認する。グラウンド横を見れば彼を中心として閃電イレブンは全員声こそ出していないが悔しさからボロボロと泣いていた。

 

 

(……堂本衛一郎(どうもとえいいちろう)、か。気に入ったぜ)

 

 

 立ち上がって彼らに背を向け、観客席を後にしながらも尚、呟く。

 

「まさかここに来て円堂にソックリな熱血サッカー馬鹿を見つけられるなんてな……」

 

 凪人はスマホを取り出して少年サッカー協会統括チェアマンである轟伝次郎に連絡を入れる。

 

「どうも。斎村です。派遣先の希望校、決めました。………チェアマン、俺はサッカー強化委員として、貴方の紹介してくれた閃電中サッカー部に行きます!」

 

 そう宣言した凪人の瞳は稲妻のような輝きを帯びていた。

 

 かつて日本中に嵐を巻き起こした者達がいた。

 

 40年間無敗を誇り、あのフットボールフロンティアで優勝し続けた帝国学園を倒し、最強と謳われた世宇子中をも倒した。

 

 その名は雷門中サッカー部。

 

 彼らはイナズマイレブンと呼ばれた。

 

 そのプレーに誰もが勇気を貰い、心を震わせた。

 

 ……そして、今。その雷門サッカー部の遺伝子を受け継ぐチームによる新たな伝説が始まろうとしていた。

 

 閃電中サッカー部、堂本衛一郎と雷門中サッカー部強化委員、斎村凪人。この二人の邂逅する時こそが新たなイナズマイレブンの伝説になる事は……まだ誰も知らない。




と、まぁ主人公の派遣先のキーパーは本編の劇場版オーガから名前だけ出てた堂本衛一郎です。分かりきってましたよね。

連携や技術に問題は無くても彼らが弱いのは簡潔に言えばゲームでいうステータスがGPとコントロール以外軒並み低いからです。他にも理由はありますが。またレベルも低く、必殺技も碌に使えない状態です。

以下、簡単なプロフィール

堂本衛一郎
GK 背番号:1 火属性
閃電サッカー部のキーパー。漫画版の円堂と似た性格をしている。年齢は円堂や主人公より一つ下。

【キャッチコピー】
情熱の闘魂キーパー


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閃電中のキャプテン

前話の後書きの通り、堂本の性格はやぶてん先生の漫画版円堂をベースにしています。


今回のメインは堂本ではありません。


 side三人称

 

 ある日、とある牧場にて。閃電中サッカー部のキーパーである堂本衛一郎とキャプテンの少年はその牧場にて特訓をしていた。

 

「来ぉい!!」

 

 堂本はキーパーのユニフォーム姿でグローブを身につけてどっしりと構える。そしてその先には……頭にサッカーボールを括り付けられた闘牛がいた。

 

 どうやらこれを止める事でキーパーとしての特訓をするつもりらしい。

 

「堂本君……やっぱり無茶だよ!?」

 

「何言ってんですかキャプテン!どんなボールでも俺は止める!あの円堂さんみたいになるんだ!!」

 

 閃電サッカー部のキャプテンはそんな滅茶苦茶な特訓をする堂本を止めようとするが聞く耳を持たない……というより堂本は忠告を聞いても理解していない。

 そして迫り来る闘牛のタックル。堂本はサッカーボールをその手で捉え掴もうと叫ぶ。

 

「おおおおっ!!()()()()()()ォォォーーーーーー!!!」

 

 そうしてがっしりとボールをその手で捉え、闘牛の動きと共に真正面から受け止めてみせた。

 

「と、止めたーーー!?」

 

「ぐぎぎぎっ……!!」

 

 そして数秒後、ボーンという効果音と共にくるくると空を舞う堂本の姿とキャプテンの叫びがそこにあった。

 

「やっぱ無理だったーーーー!!」

 

****

 

 翌日、月曜日になって閃電中の学生寮から制服を着て、頭や腕に包帯を巻き付け、顔中にガーゼを貼ったボロボロの堂本が出て来た。

 

 無気力にも見える腑抜けた面で歩き、校舎へと向かう。そんな彼の様子を閃電中の生徒達はコソコソと陰で話す。

 

「うっわ…何アレ……」

 

「ボロボロだなぁ……」

 

「あいつサッカー部のダメキーパーだよ。あの弱小の。何でも必殺技の特訓してたんだってさ」

 

 そんな堂本に後ろから走って来たサッカー部のキャプテンが話しかける。どうやら彼は学生寮ではなく自宅通学のようだ。

 

「あっちはあっちでチームを纏める事は出来ても勝たせる事の出来ないヘボキャプテン。そろそろサッカー部も廃部かな……」

 

「むっ!?」

 

 “廃部”という言葉に敏感に反応した堂本は怒りの形相でそれを呟いた男子生徒に突っかかる。誰しも廃部にはなりたくないものなのだ。

 

「何だと〜!?」

 

「何だとって普通だろ。必殺技なんておめでたい事言ってるしよ」

 

「それに……言われたくないんだったら一回くらい勝ってみろよ。この前の試合だって勢い良く横っ飛びして、ボールも取れずにゴールポストに顔から激突してたろ……」

 

「ゔっ…!!」

 

 痛い所を疲れて堂本は押し黙ってしまう。それでも気丈に振る舞いながら反論を開始する。

 

「馬鹿にすんなよ!俺達はいつか必ずあの雷門中のように……いや、雷門中をぶっ倒してフットボールフロンティアで優勝するんだからな!!」

 

「雷門中…?」

 

「あの中学サッカー界の伝説になった……?」

 

 それをきっかけにスイッチが入ったのか堂本は鞄からサッカー雑誌を取り出して熱くあの雷門イレブンについて語り出す。

 

「そう!雷門中サッカー部!!今や『イナズマイレブン』とも言われる伝説のチーム!!無名から一気にフットボールフロンティアの地区予選大会、全国大会での優勝によって日本一になったんだからな!!強力な必殺技を使って40年無敗だった帝国学園や最強とまで言われた世宇子中すら倒したんだ!!」

 

 その勢いに圧倒されながらも男子生徒の一人はごくりとつばを飲み込みながら核心に迫る。

 

「まさか……特訓していた必殺技ってのは……!!」

 

「『ゴッドハンド』……雷門イレブンのキーパーでありキャプテン、円堂守が使っていた必殺技だ。お前らだってスポーツが盛んなこの閃電中の生徒だってんなら……実際に中継で見た事があるはずだ」

 

 当然見た事がある。スポーツが盛んなこの閃電中学校の生徒は例え自分の所属する部活以外のスポーツでも観戦するのは当たり前。弱小で負けると分かり切っていたようなサッカー部の試合を観戦する物好きと言って良い生徒がいるのもスポーツ愛好心から来るもの。当然、堂本と話す男子生徒達も運動部所属である。………だからこそ、あそこまでボロ負けすれば罵詈雑言の嵐なのだが。

 

 そしてあのゴッドハンドは確かに強力無比な必殺技だった。円堂守という伝説のゴールキーパーの象徴とも言える技だろう。

 

「い、一体どうやったらあんな凄え技を出せるっていうんだ……!?」

 

「……さぁ?そこまでは…」

 

「「知らねえのかよっ!!」」

 

 つまり堂本はゴッドハンドの習得方法は分からずに闇雲に無茶な特訓をしているだけである。

 

「と、とにかく俺達は雷門中みてーに強くなって、フットボールフロンティアで優勝してこのサッカー部を学校で一番凄え部にしてやるんだ!!な!キャプテン!!」

 

「え、……あぁ。うん……」

 

 しかし自信満々な堂本とは対照的にキャプテンの少年は自信が無く、弱々しく頷くだけである。そして男子生徒二人はそんな対照的な二人……主に現実を理解していないであろう堂本……を見てゲラゲラと大笑いする。

 

「「お前らなんか絶対無理!!」」

 

「なんで笑うかーーー!?」

 

 若干キレている堂本をよそにキャプテンは何処までも暗い。やはりこれまで一勝すら出来ていない事が影響しているのだろう。そんなキャプテンにある女子生徒が話しかけて来る。

 

「キャプテン!大変です!」

 

「!……時枝さん」

 

「せ、生徒会長が……サッカー部を潰すって…!!」

 

「「ええ!?」」

 

 キャプテンに話しかけた女子生徒ーーーサッカー部のマネージャーの言葉に驚き、部室に向かって走り出す堂本とキャプテン。マネージャーも慌てて二人を追う。

 

 そして部室前に辿り着くと他の部員達の前に生徒会が並び、生徒会長が代表して立ち退きを要求していた。

 

「おい生徒会長!勝手な事してんじゃねーぞ!!」

 

「……また君か堂本君。前から言っているはずだ。このスポーツが盛んな閃電中において勝てない弱小部に居場所などない。学校の恥だ。むしろこれまで残っていた事がおかしいんだ」

 

 生徒会長の言い分に閃電イレブンは反論出来ずに黙り込む。しかし堂本だけは違った。

 

「勝ちゃあ良いんだろ!?勝ちゃあ!!次こそ絶対に勝つ!!そこから……」

 

「次こそ100%無理だ」

 

 冷徹に突っぱねる生徒会長。しかしその言葉にサッカー部員全員がある反応を示す。

 

「!つ、次の試合相手……決まったのかい!?」

 

「ああ…。………王帝月ノ宮中学だ」

 

 その名前に堂本以外の全員が絶句する。しかし堂本からすればこれまで聞いた事の無い学校だ。新設校かサッカーにおいて無名校なのだろうと判断する。

 

「そっか!じゃあ放課後から早速練習して……」

 

「無理だと言っているだろう。あの『アレスの天秤』の被験校だぞ?」

 

「……あ、アレスの天丼……?」

 

「『アレスの天秤』だよ堂本君。あの“月光エレクトロニクス”が開発した次世代の教育システム。幼少期から遺伝子レベルの分析をして、スーパーコンピューター『AR2000』によってその個人に最適なプログラムを提案して、英才教育を受ける。この教育を修了した者はどんな事も完璧にこなせる人間になれると言われているんだ。それをサッカーに持ち出したチーム。それが王帝月ノ宮イレブンなんだ」

 

 『アレスの天秤』による教育システムは国からも注目される程のものだ。そんなものを受けたチームを相手に勝てなければサッカー部は廃部になってしまうという事だ。

 キャプテンの説明によって閃電イレブンの空気は更に重くなる。

 

「勝ち目ないだろ……」

 

「どうしてそんなエリートチームが俺達に……?」

 

「さては俺達の隠れた才能を見に来たな!!」

 

「馬鹿か君は……ハァ」

 

 生徒会長の溜め息によって堂本以外のサッカー部員の気持ちも意気消沈していく。

 

「とにかく、どことやっても勝ち目なんて最初から無いんだ。学校の恥をこれ以上晒さない為にも即刻廃部に……」

 

 『アレスの天秤』の見せしめになる事を良しとしない生徒会長が問答無用で廃部を押し通そうとしたその瞬間、その声はどでかく響いた。

 

「そんな事無いぞぉーーーー!!!」

 

 誰もがその声の出所に振り向く。逆光でシルエットしか分からないその人物が歩み寄って来る事によって次第にその姿を確認出来て来る。

 

 そしてその人物の顔を見てその場にいる者達全員が驚愕する。このスポーツ校である閃電中において彼を知らぬ者はいない。

 

「な、何故君のような有名人がこんな所に……!?いや、それ以前に君は雷門中の……」

 

「……あれ?ここの理事長から話通ってないのか?ほれ。俺だってこの閃電中の制服着てんだろ?」

 

 戸惑う生徒会長と話す彼は鞄からある書類を取り出して生徒会長に見せる。

 

「こ、これは……!!」

 

「……少年サッカー協会からの正式な通知だ。……文武両道でスポーツを重んじるこの閃電中なら……無下には出来ねえだろ?」

 

「……確かなんだな?」

 

「ああ。俺は『サッカー強化委員』としてこの閃電中を強くする為に来た。そちらさんの理事長にも話は通ってる」

 

「……分かった。暫くは様子を見よう。負けてもサッカー部の廃部は保留だ」

 

「ありがとな。後、王帝月ノ宮との練習試合はいつなんだ?」

 

「……一ヶ月後だ」

 

「……充分!任せてくれ!」

 

「……フン」

 

 生徒会長は生徒会を連れて部室前から去って行く。これまでのやり取りに戸惑う閃電イレブンに気付いた彼は早速名乗る。

 

「……さて、まず初めましてだな。『サッカー強化委員』として雷門中から来た斎村凪人だ。これからよろしくな!」

 

『……え?え?ええぇぇぇーーーーー!!?』

 

 閃電イレブンの驚愕の絶叫が響き渡る。あの日本一の雷門イレブンの副キャプテンである斎村凪人が突然自分達のチームに加わると言うのだから。

 

「す、すっげーーー!!あの斎村さん!?マジで!?中学サッカー界切ってのスーパーMF!!あの雷門中を全国優勝に導いた副キャプテン!!『フィールドの軍神』なんて言われる天才司令塔じゃんかよ!!」

 

「ん。よろしくな!堂本衛一郎君!」

 

「お、俺の事知ってんの!?うおおおおおおっ!!」

 

「……テンション高いな」

 

 グイグイ迫って来る堂本と話しながら凪人は今度は閃電イレブンのキャプテンに話しかけ、握手を持ちかける。

 

「……よろしくな。改めて、斎村凪人だ」

 

 閃電のキャプテンは凪人を真正面で見ながらあらゆる考えを頭の中で巡らせていた。

 

 何故なら凪人は彼にとって小学校時代からずっと憧れていたサッカープレイヤーなのだから。

 

(……斎村君と一緒なら……もしかして本当にフットボールフロンティアで優勝出来るかも……!!)

 

 知らず知らずにそう考える程に。彼は迷わず手を出して握手に答える。

 

「よろしく……!僕は閃電中サッカー部キャプテン……

 

 

 

 

 

 

 

星宮サトル!!」




星宮サトル
MF 背番号:8 山属性
閃電中サッカー部キャプテン。正史・本編と違って両親が生存する。その為正史・本編と違ってお日さま園及び永世学園との関わりが無くなり、閃電中に入学した。ただしこの世界線ではGKの経験は皆無でお日さま園のメンバーとの関わりも無い為、実力は正史や本編より遥かに劣る。キャプテンとしては慕われている。

これがこのチームにおけるアレスルートと本編との最も大きな差です。本編でもクロノ・ストーン編後にイナズマジャパンが強化委員として各地に派遣され、主人公はこのチームに来ますが、当然そこにサトルはいません。そちらの世界線では堂本がキャプテンをやってます。


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日本一になる為に

王帝月ノ宮との練習試合をやった後は、スポンサー探しや各校での強化委員としての雷門イレブンについて描写して、主人公の知らぬ所での原作崩壊に……原作開始前にやる事多いな。


 side三人称

 

「さあっ!!練習だ!!」

 

 放課後、部活動の時間、サッカー部用のサッカースタジアムにて凪人は両手で一つのサッカーボールを前に持ち、練習開始を告げる。かつて雷門で円堂が仲間達に言い放ったように。

 

「あ、あの……斎村さん」

 

「どうした?刀条?」

 

 閃電イレブンのFWを務める刀条優作はおずおずと手を挙げてから凪人の後ろを指差すと誰もが気になっていた疑問を凪人にぶつけた。

 

「……何ですか?そのタイヤ」

 

 刀条の言う通り、凪人の真後ろには大量に積み重なったタイヤの山が積み上げられていた。何処から仕入れて来たのだろうか。

 

「特訓に使うのさ。雷門ではこのタイヤを使って色んな特訓をした。まぁ、今日はまだ使わないけどいずれな」

 

「そ、そうですか……」

 

「取り敢えずメンバーを確認する。現状部員は俺を除いてギリギリ11人。マネージャーが一人か。それぞれのポジションは……」

 

 1.堂本衛一郎 GK 1年

 2.石島泪 DF 2年

 3.城之内進太郎 DF 2年

 4.藤咲宗吉 DF 1年

 5.種田夕刻 DF 2年

 6.逢崎俊 MF 1年

 7.海原誠 MF 2年

 8.星宮サトル MF 2年(キャプテン)

 9.赤木八雲 MF 1年

 10.刀条優作 FW 1年

 11.桐林直久 FW 2年

 

 18.斎村凪人 MF/FW 2年(強化委員)

 

 時枝四季 1年 マネージャー

 

「………って、監督はいないのか?」

 

「うん……一応顧問の先生はいるんだけど、あまりサッカーに詳しくなくて……本人もバスケ部の監督希望だったから……こっちに充てられても」

 

「……碌な指導もせず、意欲も薄い訳か」

 

 サトルの説明を聞いて凪人は溜め息を吐いた。本当に形だけの顧問のようだ。別のスポーツクラブの顧問を希望していてそれが叶わずたらい回しされるかのようにサッカー部の顧問にされたとしてもこれは無い。教員としての責務を果たせと文句を言いたくなる放任具合だった。

 

「出来ればちゃんとサッカーを知っていて、指導意欲のある人に監督をやって貰いたいんだがなぁ……」

 

「この学校は学校側の許可さえ下りれば外部の人に監督やコーチをお願い出来るんだけど……僕達はそんな人脈は無いから」

 

「成る程ね。……つまり、俺が外から監督を連れて来て学校に申請、許可が出たらその人に監督をやって貰えるのか!」

 

「そりゃそうだけど……もしかして……」

 

「ああ。監督に関しては俺がどうにかする」

 

 凪人の中には既に数人程、閃電中サッカー部の監督に是非呼びたい人材がいる。かつての雷門サッカー部OB……伝説のイナズマイレブンの人達だ。

 

(……出来れば会田コーチか備流田さんとかに頼みたいな。後で電話してみるか)

 

 因みに雷門の監督だった響木という選択肢は最初から無い。彼は円堂と一緒に強化委員として利根川東泉中の監督に就任したからだ。

 

「さて…次は「その前に一つ良いか?」何だ?桐林」

 

 今度は桐林直久という同年齢の少年が凪人に質問を投げかける。

 

「そもそも『サッカー強化委員』って何だよ?何で優勝校の雷門からウチみたいな弱小に来たんだ?」

 

「……そっか。まずはそこからだな。先日、俺達雷門がスペインの強豪チームであるバルセロナ・オーブと親善試合をしてボロクソに負けた事は知ってるな?」

 

「はい……でも斎村さんは最後の最後で日本の底力を奴らに見せ付けたじゃないですか。サタン・スピアー、カッコ良かったです!!」

 

「はは…サンキュな。赤木。でも日本一の俺達があれだけ惨敗してお前達も分かったんじゃないか?世界から見たら……日本は弱過ぎるんだ」

 

『!!』

 

 閃電イレブンに衝撃が走る。日本サッカーのトップに立つ雷門が世界には通用しない。それだけでなく凪人の口から次々と出る数々の衝撃の事実。

 

 今日本の力を結集して日本代表を組織しても世界では一勝すら挙げられない。だからこそ、一年で実力を上げて無名から日本一になった雷門イレブンが中心となって日本を強くして世界に羽ばたかせる。それがサッカー強化委員。

 

 そして来年のフットボールフロンティアの後には世界大会であるフットボールフロンティアインターナショナルが開催される。

 

 そこで世界と渡り合い、勝てる最強の日本代表を作る為にも日本全体の実力を押し上げたいのだ。

 

「だ、だったら尚更何でこんな弱小チームに!?もっと強いチームを強化するのが普通なんじゃ……!?」

 

「そういうのは修也に染岡、風丸とかがやってくれる。俺は俺なりで行くの」

 

「で、でもこんなチームで燻ってたら下手すりゃ斎村さんは日本代表に選出されなくなるんじゃ……」

 

「俺はこのチームを弱小のまま燻らせるつもりは無いし、日本代表から落選するつもりも無い。何が何でもこのチームを日本一の最強に鍛え上げて、俺自身も強くなって日本代表になって世界と戦う」

 

 まっすぐに閃電イレブンを見て凪人は揺るがずに宣言する。誰もがそんな凪人を見てたじろぐ。サトルは凪人に最後の質問をする。

 

「ど、どうして僕達のチームなの……?」

 

「似ていたからだ。強くなる前の雷門に。強くなりたくて誰よりもサッカーに真剣で……だからこのチームを選んだ。俺の雷門魂でお前達を鍛えれば必ず日本一を目指せるチームになる。この間の試合を見てそう思ったんだ」

 

『………』

 

 閃電イレブンはどこまでもまっすぐな凪人の目を見る。決して自分達から目を逸らそうとはしないその真剣で情熱に溢れた目……まさしくサッカー馬鹿の目だった。

 

 すると堂本が凪人の前に出る。

 

「俺はやるぜ斎村さん!!斎村さんが俺達を信じて鍛えに来てくれたんなら……俺は応える!!俺も世界と戦いたい!!日本代表になりたい!!だから……よろしくお願いします!!」

 

 そう言って凪人に頭を下げる。それからすぐに閃電イレブンに向き直る。

 

「やろうぜ皆!世界と戦える日本を作るんだ!!その為にまずはフットボールフロンティアで優勝するんだ!!俺達が日本一になるんだ!!!」

 

 そんな堂本を見て凪人とサトルは目を合わせ、笑い、人差し指を立てて堂々と掲げる。

 

「日本一に!」

 

「日本一に!」

 

 そして次々と閃電イレブンは人差し指を立て、誇らしくそれを掲げた。

 

『日本一に!!』

 

「そして世界へ!!」

 

『世界へ!!』

 

「なるぞ!日本代表!!」

 

『おおーーー!!!』

 

 そうして閃電イレブンは早速スタジアム内のピッチに駆け出す。凪人はチームメイトに声をかけてながら走る。

 

「よォーし、まずは練習だぁーーー!!」

 

 走り込みから始め、凪人は走りながら練習の概要を説明していく。器用なものである。

 

「まずは前回の練習試合からお前達の長所と短所を分析した。これを元に個人の練習メニューと全体での練習メニューを立てた!これでお前達を基礎から鍛え直す!!王帝月ノ宮との練習試合の前にはお前達全員に必殺技を覚えて貰う!!特に堂本に星宮!!お前らはスパルタ覚悟しとけよ!!やるぞお前らーー!!まずは王帝月ノ宮に勝ぁーーーつ!!!」

 

『おおーーー!!!』

 

 そうして閃電中のサッカースタジアムにて凪人の指導による練習が始まる。その様子を生徒会長と理事長は観客席から見ていた。

 

「……まずは部員達の心を掴みましたね。まぁ、まずはそれをしなければチームを纏める事など出来ませんからね」

 

「……我が校は運動部が盛んですからね。サッカー部だけが碌に勝てない現状はどうにか打破したいと考えていたんですよ。雷門中からのサッカー強化委員は正に渡りに船でしたよ。ホッホッホ。……さて、彼の連れて来る新監督の受け入れ準備でもしておきますかね」

 

 そう言ってサッカー部への期待を高める理事長はその場を去って行く。そんな理事長の後ろ姿を見送った後、生徒会長は猛練習を始めた閃電イレブンと凪人を見て呟く。

 

「………本気であの王帝月ノ宮に勝つつもりか。アレスの天秤教育システム………その力の見せしめになる前にサッカー部は潰しておくべきだと思うがな」

 

****

 

 -王帝月ノ宮中

 

 王帝月ノ宮中学校のサッカー棟。そこで個室に籠り、パソコンで何かを調べる少年がいた。彼の名は野坂悠馬。一年生ながらも王帝月ノ宮イレブンのキャプテンであり、『アレスクラスター』なるものの頂点に君臨する男だ。

 

「………」

 

 そしてその野坂の側近として彼を支える立場にある少年、西蔭は彼にある報告をしにやって来た。

 

「野坂さん、あの雷門イレブンの強化委員としての派遣先が全員分判明しました」

 

「……そう。それで主要メンバーの派遣先は?」

 

「……一之瀬一哉と土門飛鳥。この二人は強化委員の任を放棄してアメリカに武者修行との事です。鬼道有人は無名校である星章学園へ。豪炎寺修也は古巣である木戸川清修。壁山塀吾郎は同じく無名の美濃道三中。染岡竜吾は北海道最強の白恋中。風丸一郎太はあの帝国学園です」

 

「……そうか。風丸一郎太が帝国か。帝国に行くとしたら鬼道有人だと思っていたけど、予想は外れたな」

 

「……そして副キャプテンの斎村凪人。野坂さんの予想通り彼は最低レベルの弱小校の閃電中でした。キャプテンの円堂守は碌に運動部の無い利根川東泉中……この二人は理解に苦しみますね。何故こんなチームに……」

 

 西蔭の疑問にクスリと笑いながら死んだ目で野坂は的中していた推測を口にする。

 

「……似ていたからだろうね。かつての雷門に。それにこの二人はイレブンを成長させ、前進させる事に関しては驚異的な力がある。閃電と利根川東泉は必ず星章や木戸川、白恋、帝国を遥かに凌ぐ実力を付けて来る。だからそのペースを把握しておきたいんだ」

 

「……だから一ヶ月後に態々閃電への練習試合を?」

 

「利根川東泉はまずは部員集めからだからね。その点、閃電は既にメンバーが揃っていたから早速斎村凪人が鍛え始めているだろうからね。その成果が見たい。一ヶ月でどの程度のものなのか」

 

「分かりました。では練習試合の承認連絡があればまた報告します。……影山零治についても、情報が入り次第」

 

「頼むよ。……ご苦労だったね。西蔭」

 

 そうして西蔭が野坂の個室から去った後、野坂はあるサッカー雑誌を取り出した。数週間前に発行されたフットボールフロンティアで優勝した雷門イレブンの特集だ。

 

「…………サッカーは楽しい…か。理解出来ない感情だね」

 

 野坂は肩を組む凪人と円堂の写真を見て、そう呟いた。




刀条優作
FW 背番号:10 風属性
閃電中のエースストライカー。とは言ってもやはり現状の実力は低く、傘美野中レベルの学校からしか得点は出来ない。豪炎寺修也や吹雪アツヤのような絶対的なストライカーに憧れている。元々は本編でギャラクシー編をやる場合の地球代表メンバーとして考案したキャラ。

桐林直久
FW 背番号:11 火属性
閃電のFW。やはり実力は低い。しかしサッカーへの思いは誰にも負けない。性格は多少荒いが思考は柔軟な方。少なくとも強化委員である主人公をよそ者扱いしたりする事は無い。即興で作ったキャラなのでまだ固まっていない所も多い。


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練習試合に向けて

 side三人称

 

 斎村凪人が強化委員として雷門中から閃電中に派遣されてから一週間が経過した。閃電イレブンはキャプテンであるサトル以外は全員が寮で生活しているので、土日も基本的に練習をしている。勿論サトルも土日は練習に参加しているし、凪人も寮生活を送っている。

 

「刀条と桐林、海原、赤木はこの間隔で配置したコーンを倒す事なく、もっと言えばぶつけないように調整しながらのドリブルだ。石島と種田はヘディングの精度を上げる。まっすぐ相手にボールを返すんだ」

 

『はい!』

 

 凪人は基礎の基礎から閃電イレブンに技術を仕込んでいた。彼らは別段技術的に下手という訳ではないが、焦らず初心に返って一から鍛え直すという手段を取ったのだ。今の彼らに必殺技を教えようにも凪人の指揮と合わなければ意味がない。

 

 ともあれ、遠回りに思えて、閃電イレブンの実力を向上させるには最も効率の良い練習内容だった。

 

「どああああっ!?」

 

 そしてブランコみたいにぶら下がったタイヤを止めようとしてぶっ飛ばされる堂本。キーパーとしての練習は円堂を基準に考える凪人は当然、このタイヤ特訓を堂本にやらせていた。

 

「ほらどうした?頑張れ堂本!ゴッドハンドを覚えるんだろ!?円堂みたいになるんだろ!?いやむしろ円堂を超えろ!!利根川東泉をぶっ倒すぞ!!」

 

「ハードル上げたよ……」

 

 サトルの呆れが混じった声が閃電スタジアム内にて発せられるものの、閃電イレブンは凪人による練習メニューに手応えを確かに感じていた。たった一週間ぽっちだが、それでも格段に強くなっている実感が沸いていた。

 

 しかし凪人はそうは考えていなかった。

 

(……王帝月ノ宮との練習試合まであと一ヶ月か。その後の事も考えると、このペースで次のフットボールフロンティアに間に合うか……結構ギリギリだな。今の閃電には更に勢いを付ける起爆剤が必要だな。王帝月ノ宮がそれを果たしてくれれば良いんだが)

 

 元々が全国でも最低レベルに弱いチームだ。閃電イレブンが力の伸びを感じていてもやはり真に強いチームの前では歯が立たないのだ。ただ練習や特訓をこなすだけでは駄目だ。やはり練習試合で勝つ事によって実戦経験と勝利を知る必要がある。

 

(出来れば田舎の島からあのチームが雷門に来る前に手を打ちたい。……強化委員の意見交換会で鬼道や修也に相談してみるか……)

 

****

 

 side凪人

 

 閃電中学校学生寮。

 

 この学校に通う生徒の約半数がここで生活している。運動部が盛んなこの学校において、1秒でも部活動の練習をしたいと考える生徒が多い事が理由だ。因みに二人一部屋という組み合わせだ。

 

 食堂では誰が誰と一緒に食べようが自由だが……基本的に男は部活単位で集まって食事するのが一番多い光景だ。それ故にルームメイトなのに共に行動する事はほとんど無いなんてのもザラらしい。勿論俺も食事は基本的にはサッカー部員と食う。……女子は割と部活関係無く色んな組み合わせで集まるらしいが。

 

「……星宮は自宅通学だから、この寮で飯は食わねーんだっけ?」

 

「キャプテンはそうですね……でも偶に自宅通学の人も合宿とかで寮に泊まる事はありますから、お金払えば食べられますよ。年間費用で払ってる俺達よりも一回の費用は少しばかり高くなりますが」

 

 律義に刀条は夕飯のカツカレーのカツを口に運びながら答えてくれる。その隣では赤木もカツカレーを食べている。俺の隣で堂本に桐林もだ。食堂でのメニューは全員同じなんだ。

 

 因みに俺のルームメイトは一学年下の堂本だ。何でも堂本や刀条の学年は入寮者が奇数だった故に堂本だけ余っていたらしい。それもあって強化委員としての急な転入生である俺はその部屋に割り振られた。堂本自身の熱心な希望もあったらしいが。

 

 まぁ俺としても強化委員である以上はサッカー部員の方が良いし、来年のフットボールフロンティアが終われば雷門に戻るから別に同学年である必要は無い。卒業までこの学校にはいないからな。

 

「明日からは本格的に全員タイヤを使った特訓になる。かなりハードになるから気を引き締めていけよ。王帝月ノ宮との練習試合も控えているんだからな」

 

『はい(おう)!』

 

 こいつらが自覚しているのかは知らないが、俺の特訓メニューをこなしたこいつらは確実にレベルアップはしている。今なら竜宮中と再戦しても充分勝てる見込みはある。確実とは言えないがな。

 

 だからこそ、圧倒的格上のチームと真っ先にぶつかって善戦させる事で強くなった事を実感させる。勝ち負けはそれからだ。勿論勝ちたいとは思うがそれ程甘い相手ではない。

 

 

 野坂悠馬

 

 

 確か、このエイリア学園の襲撃の無い世界線である『アレスの天秤』の主人公の一人にあたる男。それが王帝月ノ宮中のキャプテンだ。彼の事は良く知らないが、奴が主人公の一人である以上、王帝月ノ宮も弱いはずがない。転生前に見た予告PVでも強者感が滲み出ていたし。……雷門に来る田舎チームの奴は弱いの丸分かりだったが。

 

 だが、今回の練習試合はこいつらにあらゆる観点での経験を積ませる事が俺の目的だ。王帝月ノ宮と試合をして勝つ必要があるのはあくまでフットボールフロンティアでだ。

 

 ……だがアレスの天秤教育システムか。まさかサブタイトルになってる『アレスの天秤』が実際の物質ではなく、コンピュータシステムだったとはな。てっきり俺はエイリア石か何かが別の用途で悪用されたものだとばかり考えていたんだが。

 

 ……野坂って本当に主人公か?ラスボス感半端無い……事もないな。

世宇子しかり、ダークエンペラーズしかりドラゴンリンクしかり、フェーダしかり、イクサルフリートしかり。本命と思われた奴らを倒すか、追い詰めるかしてからそれを押し退けるかのように出て来るのがイナズマイレブンのラスボスだ。例外はリトルギガントくらいだ。

 

 そう考えると野坂と王帝月ノ宮って、聖堂山みたいにドラゴンリンク的な本命のラスボスに押し退けられそうな気がするなぁ……。

 

****

 

 side三人称

 

 それから凪人が強化委員として閃電イレブンの特訓内容を一新してから彼らの成長速度は並のものではなく、実力はメキメキと上がり、その猛練習によって団結力もまた上がっていった。

 

「うおおおおっ!!」

 

 コーナーを狙った鋭いシュートに堂本が食らいつく。そしてその両手でボールを掴み、ゴールラインの前で転げ回る。

 

「ハァッ…!ハァッ……!!」

 

「ナイスセーブだ堂本!次!星宮がシュートを撃て!」

 

「う、うん!」

 

 凪人は三週間を使って閃電イレブンの個人技や基礎的な能力、体力の向上をメインに彼らを鍛えていた。王帝月ノ宮との練習試合まであと一週間だが、凪人の予想以上に閃電イレブンの潜在能力はすさまじかった。

 

(まだ勝てるとまでの実力ではないが……予想よりもずっと良い。これなら……)

 

 凪人は特訓プランを少し軌道修正し、仲間達に伝える。

 

「皆!これからの一週間は連携の見直しと強化。そしてお前達の必殺技開発に使う!!」

 

『!』

 

「ひ、必殺技……!?」

 

 必殺技。昨今のサッカー界ではもはや常識と言って良い程の超重要要素。ただ基礎スペックが高くなっても必殺技という高火力の要素がなければ試合には勝てない。

 そしてそれは同時にサッカープレイヤーにとってのある種のロマンでもある。

 

「俺達……もう必殺技を使えるレベルにまでなってるって事……?」

 

「勿論俺の知る技をいくつか教えるつもりもあるが、やっぱりお前達自身の必殺技を作る!これが一番良い。まずはこれから教える基礎的な必殺技をマスターしつつ、自分だけの技の名前とそこから来るイメージを作るんだ!出来次第、俺に相談してくれ!具体的な特訓方法を一緒に考える!出来ない場合も相談して欲しいが、俺以外にもチームの仲間の意見を仰ぐのも一つの手だ!!」

 

 凪人から必殺技を覚える為に必要な事を聞き、士気を高めていく閃電イレブン。

 

「それから言っておくが、王帝月ノ宮戦は勝つつもりでいくが、()()()勝てるとは思うな!胸を借りるつもりで思いっきりチャレンジするんだ!!俺達の目指すものの為にも!!

 

俺達は絶対にフットボールフロンティアで優勝する!!日本一になるんだぁーーー!!!」

 

『おおっ!!』

 

****

 

 そして瞬く間に更に一週間が過ぎて王帝月ノ宮との練習試合の日がやって来た。送迎バスから降りて王帝月ノ宮イレブンは閃電スタジアムにその足を運ぶ。

 

「あ、あいつらが王帝月ノ宮イレブンか……」

 

「そしてそれを率いるのが『戦術の皇帝』野坂悠馬」

 

 それからキャプテンであるサトルを中心に野坂達に挨拶しに行く。

 

「よろしくね!僕は閃電中サッカー部キャプテン、星宮サトル!!」

 

「……ああ。よろしく。王帝月ノ宮の野坂悠馬だ」

 

 サトルの出した手に応えて握手を交わす野坂。しかしその目はサトルを見ておらず、後ろに立つ凪人を見ていた。

 

「……」

 

 そして観客席には次第に人が集まって来る。運動部が盛んな閃電中は弱小チームであっても校内からの観戦生徒はやって来るのだ。

 

「今日こそ勝てよ弱小サッカー部!!」

 

「強化委員!サッカー部を強くする為に来たんなら今回は勝てるんだろうなァ!?」

 

 ……その大半は野次であるが。そしてこのスタジアムには他校からの観戦客もそれなりにやって来てはいた。

 

「ここが閃電中か。聞いた事も無い弱小校というのは本当みたいだな」

 

「ああ……だが強化委員として派遣されたのは斎村だ。あいつの指導力と指揮能力の恐ろしさは同じチームにいた俺達が一番良く知っている」

 

 佐久間次郎と風丸一郎太。帝国学園の現キャプテンと強化委員として派遣されて元雷門イレブンだ。帝国学園からはこの二人が敵情視察と凪人の指導の成果の確認を兼ねて観戦に来ていた。

 

「……強化委員の派遣先として最初に練習試合をするのが閃電だ。帝国も来年度、フットボールフロンティア前には鬼道が派遣された星章学園と練習試合をするつもりだからな」

 

「ああ……まさかたった一ヶ月でこうなるとはな。申し込んだのは王帝月ノ宮だが、斎村の奴も良く了承したな」

 

「そういう奴なのさ。それに雷門と帝国の時と違って廃部のリスクも無い試合だ。負けたとしても閃電の成長には良い刺激になると考えたんだろう」

 

 そしてまた別の席でも強化委員とそこのキャプテンの会話はあった。

 

 

「この試合は恐らく王帝月ノ宮の勝ちだろうが……閃電を良く見ておけ水神矢。斎村はただ負けるだけでは終わらん。絶対に閃電に一矢報いらせる。奴は俺が最も警戒する男なのだからな」

 

「は、はい…!!」

 

 

 

「ま、一ヶ月で鍛えた弱小の閃電がどれだけやれるのか見物じゃん?みたいな?」

 

「……どうやって王帝月ノ宮と戦うのか、どれだけ強くなったか……見せて貰おうか。凪人」

 

 

 

 そして肝心の閃電イレブンは凪人と、マネージャーの時枝、そして凪人に要請を受けて監督に就任した会田力がベンチに座っている。

 

「ありがとうございます。会田監督。監督を引き受けて下さって」

 

「良いんだよ斎村君。日本を世界に挑戦させるというのなら、儂らとてイナズマイレブンとして協力させて貰うさ。稲妻KFCの監督は商店街のサリーさんに代役を引き受けて貰えたしね」

 

「まこの母さんでしたっけ……。今度菓子折りでも持ってお礼に……いや、今はそうじゃないか」

 

 そしてサトルや堂本達閃電イレブンに向き直る。

 

「じゃあ皆!俺は本当にヤバいと判断しない限りこの試合には出ない!お前達が特訓の成果を出し切って戦うんだ!!」

 

『はい!!』

 

「強化委員とか雷門イレブンとか……俺の面子なんて気にするな!!お前達には悪いが、このスタジアムに来てる観客は誰も期待なんかしちゃいない!!弱小のお前らが一ヶ月でどの程度強くなってんのか知る為に来ただけだ!!今更恥を掻く事なんて恐れるな!!思いっきりやって来い!!そしてサッカーを楽しんで来い!!」

 

『はい!!』

 

 凪人からの激励を受けて閃電イレブンはフィールドを駆け出してそれぞれのポジションに付く。先程挨拶と握手を終えた王帝月ノ宮イレブンもまた同様にポジションに付く。

 

(野坂悠馬……お前のサッカー、見せて貰うぜ!)

 

 凪人は野坂を見て彼がどんなサッカーをするのかを楽しみにしながらベンチに座る。対して野坂もまた、凪人をチラ見する。

 

(斎村凪人……やはり最初からは出て来ないか。まずは閃電を徹底的に叩き潰して、彼が出ざるを得ない状況にして引き摺り出す必要があるな)

 

 そして主審による運命のコイントスが行われた。




具体的に強化委員として派遣された時期が分からないので一応まだバルセロナ・オーブに負けた直後……つまり円堂達が中学二年の二学期辺りの時期という事にしてます。これでも派遣するには大分遅い気がしますけどね。

アニメ見る限り円堂達が三年になってから派遣されたっぽい描写がされてますが、フットボールフロンティアが五、六月辺りなのを考えると四月からの一、二ヶ月では強くするのに期間が短か過ぎて世界に挑戦出来るレベルになるのは無理があるし、それならそれまで何してたって話になるので。

取り敢えず観戦客として灰崎がいないのはそういう理由です。まだ小学生だから。


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練習試合開幕!王帝月ノ宮!!

 side三人称

 

 閃電イレブンは凪人と会田が考え、決定した通りにフォーメーションを組む。それは以下の通りだ。

 

FW 桐林 刀条

 

MF 海原 星宮 逢崎 赤木

 

DF 城之内 石島 種田 藤咲

 

GK 堂本

 

「……フォーメーションの内訳がこれまでと違いますね。2番と5番は以前までサイドバックだったのに、今回はセンターバック。そして3番と4番は逆ですか…」

 

「恐らく連携や技術に問題は無くても位置取りと個人の能力が噛み合っていなかったのもあれ程までに弱かった原因の一つなんだろう。斎村はそれを修正したんだ。立ち位置が変わっていないのは8番とFW陣だけだ」

 

 星章キャプテンの水神矢と強化委員の鬼道は閃電のフォーメーションについてそう分析する。他校から来た面子は全員前回の……凪人が派遣される前の閃電の練習試合をデータと映像で確認しており、その圧倒的なまでの弱さに驚愕した程だ。

 

 そして王帝月ノ宮ボールでキックオフ。まずは野坂が小手調べも兼ねてドリブルで駆け上がっていく。

 

「さて……まずはこの一ヶ月の伸びを見せて貰おうか」

 

「うおおおおっ!!」

 

 ドリブルする野坂に対して早速スライディングを仕掛ける逢崎。それをジャンプして躱す野坂だが、逢崎のスライディングを見て僅かに目が動く。

 

「……」

 

 そして種田と藤咲が間髪入れずに連携ディフェンスを仕掛け、野坂の行く手を阻む。ディフェンスの位置取りは完璧。野坂と言えど突破するには余計な消耗を強いられる。

 

「……成る程」

 

「「でやああっ!」」

 

 藤咲が粘着質でしつこい迫り方のディフェンスを仕掛け続け、野坂は巧みなボールコントロールを駆使してそれを振り払う。そしてその瞬間に隙が生まれた。その隙を突いて種田が思いっきりボールを左前方に蹴っ飛ばし、キャプテンであるサトルにボールが渡った。

 

『おおっ!』

 

 思わず閃電中の生徒達は歓声を上げる。木戸川清修の武方勝と星章の水神矢は目を見開き、驚愕の視線を向ける。凪人の事を良く知る風丸、豪炎寺、鬼道、佐久間の四人は表情を変えず観察を続行する。

 

(確かに今の三人のディフェンスだけ見ても格段にレベルアップしているのが分かる。本当に、一ヶ月前にあんなみっともない負け方をしたチームと同じチームなのかと疑いたくなるレベルだ。来年のフットボールフロンティアが始まる頃には全国でもトップレベルに君臨しているだろう……)

 

 今の攻防だけで野坂は閃電イレブンをそう評価する。そして閃電はサトルの掛け声で早速攻撃に移る。

 

「よぉーし、今度は僕らの番だ!!」

 

『おおー!』

 

 素早いドリブルとパス回しでガンガン攻め上がる閃電。その様子を見て観客席にいる強化委員達は顔を綻ばせる。閃電イレブンの実力は過去の試合やデータで見たものとは桁違いに上がっているのだ。

 

「流石は斎村だ……奴らの成長速度はかなりのものだ」

 

「ですが……あのアレスの天秤教育システムを受けている王帝月ノ宮相手にどこまでやれるか……」

 

 そしてサトルは敵のMFを紙一重で躱し、ボールを前線で走る刀条に繋いだ。しかしその連携に一番驚いているのは観客でも試合相手の王帝月ノ宮でもない。

 

(上手く行ってる……!)

 

(こんなに気持ち良くパスが来たのは初めてだ……!!)

 

(あれだけ負け続けていた俺達が……王帝月ノ宮相手に……戦えている……!?)

 

(斎村さんが……俺達を導いてくれたんだ!!)

 

 何よりこの状況に最も驚いているのは他ならぬ閃電イレブンだったのだ。どれだけ練習しても連携は崩され、真正面から全てを打ち破られて来た。だが今は違う。強豪相手に対等に戦えている。その事実は閃電イレブンを鼓舞するのには充分だった。

 

(これなら……きっと…!!)

 

「桐林先輩!」

 

「おう!」

 

 そして刀条は逆サイドでフリーの桐林へと繋ぎ、桐林と王帝月ノ宮のキーパーである西蔭の一騎討ちだ。

 

「決めてやる…!これが閃電中の第一歩だ!!」

 

 ボールを上空に蹴り上げ、桐林も跳び上がる。そして両足を同時にボールに叩き込むとボールが発火してゴールへ向かい、飛んで行く。

 

「メテオアタック!!」

 

「!必殺技までもう使えるようになったのか!!」

 

 観客席の豪炎寺は思わず声を上げる。閃電の成長速度が速いとはいえ、必殺技を使えるレベルにまで至っているとは思わなかったのだ。

 

『いっけええええええ!!!』

 

 閃電イレブン全員の叫びが木霊する。しかし現実はそう都合良くはいかないのだ。西蔭は右手一本を前に出すとメテオアタックを難なくキャッチした。必殺技を使わずに。

 

『!?』

 

「……思ったよりはやるようになっていたが、所詮この程度か」

 

 閃電イレブンの成長の全てを嘲笑うかのような死んだような笑みを浮かべて西蔭はその手に持つボールを前方の野坂に投げ渡す。

 

「野坂さん、もう良いのでは?閃電の成長データは充分取れたでしょうし、次の段階に移行しては?」

 

「……そうだね。一番欲しいのは斎村凪人、彼のデータだし……引き摺り出す為にもまずは……徹底的に叩く」

 

「!?どういう事だ!!」

 

 赤木がその会話の詳細を尋ねるも野坂は無視して堂本の守るゴールを見据え、その後にベンチにいる凪人を見る。そこからだった。地獄が始まったのは。

 

 野坂を中心に王帝月ノ宮イレブンはFWとMFが前へ走り出す。閃電のMF陣は瞬く間に抜かれ、彼らを追う。

 

「アレスの力……特別に見せてあげるよ」

 

そう言った瞬間、野坂は真横を走るサトルに向かってボールを蹴り、ぶつけて吹っ飛ばした。

 

『!?』

 

 会場全体が驚愕する。それからも王帝月ノ宮は進むと同時にボールを蹴って閃電の選手達をファウルスレスレのラフプレーで傷付けていく。まるでかつての雷門と帝国の練習試合……いや、それよりも酷かった。

 

「お、王帝月ノ宮の連中……わざと痛め付けてやがる……!!」

 

「ひ、酷え……」

 

「弱小相手にここまでやるかよ……!?」

 

「涼しい顔してあんな……」

 

 弱く、勝てないサッカー部を散々馬鹿にしていた一般生徒ですら息を呑み、顔を背ける程の残虐ファイト。そして一般生徒の一人がポツリと呟いた。

 

 

「あいつら………本当に感情あるのか……?」

 

 

「き、鬼道さん…これは……」

 

「……奴らの目的は斎村なんだろう。奴を引っ張り出す為に脱落者を出す必要がある。……俺にも覚えのあるやり方だ」

 

 そして王帝月ノ宮のMFである草加は石島と種田をタックルで続けて吹っ飛ばして野坂にパス。

 

「石島先輩!種田先輩!!」

 

「仲間の心配をする余裕は無いよ?」

 

 そして野坂の容赦無いシュートが穿たれる。その鋭いシュートのスピードと威力は堂本の許容量を完全に超えていた。反射的にその手に触れる事は出来ても1秒も持たずに弾かれ、鳩尾にシュートはヒットする。

 

「っ!?う、がああああっ!?」

 

 鳩尾に減り込みながら堂本諸共ゴールネットに突き刺さる。

 

 0-1

 

 スタジアム全体が呆然とする。進化を遂げた閃電イレブンの力は通用しない。王帝月ノ宮は手を抜いていたのだ。野坂達が本格的に動き出す前にその事に気付いていたのは雷門の強化委員達と帝国の佐久間だけだった。

 

(……不味いな。王帝月ノ宮の実力がここまで予想よりも高いとはな)

 

 凪人もまた、王帝月ノ宮の実力に舌を巻くと同時に冷や汗を流す。凪人とて勝てるとは思っていなかったが、そう簡単に圧倒されるとも思っていなかったのだ。凪人から見ても閃電イレブンの実力の伸びは異常だ。部員全員が凄まじいまでの潜在能力を秘めていると言って良いだろう。

 

 しかし今のシュートを堂本が止められないのなら、このままでは大差で負けるとも考える。

 

(堂本だけが……未だに必殺技を修得していない……!熱血パンチすらマスター出来なかった)

 

 そう、堂本衛一郎には必殺技が無い。キーパー用の必殺技が無ければ必殺シュートを止める事など出来ないし、実力差から来るタイプの通常のシュートすら止められないのだ。

 

 凪人から見て実際には堂本よりもキャプテンであるサトルの方が遥かにキーパーの素質も才能も伸びも潜在能力さえもあった。「立向居的な存在かこいつ?」とすら思った。

 

 それでもサトルをキーパーに起用せず、堂本のポジション転向をさせなかったのは堂本にはフィールドプレイヤーとしての適正が他のメンバーより低かったからだ。DFとしての素養ならばそれなりにあったのだが、既に他の四人で足りている上に劣っている。それならば源田にも勝るとも劣らないキーパーとしての才能を伸ばした方が良いと判断したのだ。いや、正確にはもう一つ……堂本に別の可能性を感じてはいるのだが……。

 

(……それが裏目に出たか。星宮をキーパーに転向させていれば今頃、ゴッドハンドクラスの強力な必殺技の一つや二つ編み出せたんだろうが……いや、今更言っても仕方ないし、星宮と堂本のポジションを変えさせる気も無い。それに……、

 

 

 

こんなラフプレーで俺に出て来させようとしてくるのは想定内だ)

 

 そして閃電ボールで試合再開。刀条と桐林のツートップで駆け上がっていく。

 王帝月ノ宮はやはり過激なラフプレーで閃電を潰しにかかる。脱落者を出せば凪人は試合に出ざるを得ない。そうして凪人の実力を測り、データを得る事が目的なのだ。

 

 それからも一歩間違えれば足に当たって、怪我をさせかねないスライディングをFWが仕掛ける。しかし刀条は両脚でボールを挟み、跳び上がって回避。

 

「行くよ皆!必殺タクティクス、フライングルートパス!!」

 

 サトルの合図と共に刀条に続いて何人かが跳び上がる。そしてその中の一人に刀条がパスを出し、受け取って者はまた即座に跳び上がっている者にパスを出す。それを延々と繰り返しながら着実に上がっている。

 

「何だこれは……?閃電のパスが繋がって良い感じになってるみたいな?」

 

「……そうか。閃電はパスに合わせてジャンプして受け取っているんじゃない。ジャンプした選手に合わせてパスを出しているんだ。そうすれば常に即座にパスを出せる上、ディフェンスによるラフプレーを喰らわずに済む。アレならボールを奪うのもパスカットするかパス相手を割り出して前に割り込むかするしかない。ラフプレーを抑えられる。凪人は王帝月ノ宮がこう来る事が分かっていたんだ」

 

 そして王帝月ノ宮は豪炎寺の予測通りに途中でパスカットをしてボールを奪う。少なくともディフェンス面ではラフプレーで相手を傷付ける事が出来なくなった。

 

(なら……オフェンスついでに蹴散らせば良い!)

 

 そうしてボールをぶつけようとすればその一人に対して二人が寄り添い、三人がかりで足でボールを受け止める。

 

「!」

 

「よし!もう一度フライングルートパスで前線に繋ぐぞ!!」

 

 閃電は相手がオフェンスの際にラフプレーをしてきた時の為の対策を凪人が練り、その方法を叩き込まれていた。ディフェンスのラフプレーは必殺タクティクスのフライングルートパスで封じれば良い。

 

「前半はこれで凌ぎ切るつもりだろう。しかしあれだけの動きを続ければ体力がいつまで持つか……」

 

「斎村は閃電イレブンに強い相手との試合経験を積ませたいんだろうからな…。だがこれではどっち道それは無理だぞ。このままあのタクティクスでパスを繋ぎ続けても体力を浪費するだけで実戦経験を得られない。かと言ってラフプレーを受け続けても経験にはならない」

 

 佐久間と風丸を閃電の連携に舌を巻くと同時にこの状況の打開に凪人がどう動くのかに着目していた。

 

 そしてまた野坂によってパスがカットされた。そしてボールを踏み付けると同時に王帝月ノ宮のベンチを見る。そこでは監督の男が如何にも不機嫌そうな顔で自分達を睨んでいた。

 

 彼からすれば閃電は凡人以下。なのにアレスクラスターである自分達が蹴散らす事すら出来ない現状に苛立っているのだろう。

 

(……凡人以下はお前だ)

 

 野坂はそう思っても口には出さない。ただゴールを見据えて思い切りボールを蹴っ飛ばした。

 その瞬間、凄まじい風圧が生まれ、閃電イレブンを纏めて吹き飛ばした。

 

『!?うわあああああああああっ!!?』

 

「!皆……うがあああっ!?」

 

 そしてボールは堂本に直撃。彼諸共ゴールにぶち込まれた。

 

 0-2

 

「み、皆……!監督!斎村さん!」

 

 時枝は閃電イレブン全員が倒れた現状を見て血相を変えて会田と凪人に訴える。試合を中断して欲しい…と。このままでは彼らは取り返しのつかない怪我をしてしまうかもしれない。

 

「……まだ駄目だ」

 

「そんな!どうして……」

 

「あいつらの目を見ろ」

 

 試合中断を拒否する凪人に言われ、時枝は閃電イレブンの目を見た瞬間、息を呑んだ。

 

 ギラギラとしたのその瞳には情熱が宿り、王帝月ノ宮イレブンを見て雪辱に燃え盛っていた。

 

「……あいつらは誰一人として勝つ事を諦めちゃいねぇ。俺が勝てないと断言したにも関わらず、最初から全員勝つつもりで試合に臨んでいた。だからあいつらが諦めない以上、何があっても止めちゃいけねえんだよ」

 

 そう言う凪人の手は拳を握り締め、王帝月ノ宮への怒りで震えていた。




一応GOのフライングルートパスとは違いがあります。一度に複数の人物が跳び上がる為、相手はパス相手を予測しなければならない上、誰に渡すかはボールを保持する者がその場で決める為、パスカットもしづらい。しかし場合によっては自分達が攻めあぐねる事態になります。GOの木戸川みたいに相手が三人一組のフォーメーションを取ってる訳ではないので。


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閃電の底力

今回ギャラクシーのシーンを元にした部分があります。あとやぶてん版も。


 side三人称

 

 前半が0-2で終わり、王帝月ノ宮のメンバーはベンチで監督から苦言を呈されていた。

 

「何だあの体たらくは。凡人以下相手に何をやっているのだ。奴らは凡人相手に大差で負けるような虫ケラ共だぞ!それをアレスクラスターであるお前達がたったの2点差だと!?ライオンが兎を狩るのに反撃され、足を折られるか!?鮫が魚を食おうとして反撃でヒレを食い千切られるか!?この体たらくはそう言う事だ恥を知れ!!結局本命である斎村凪人を引っ張り出す事すら出来ない始末!!お前達は偉大なる『アレスの天秤』に傷を付けるつもりか!!!」

 

 野坂達にそう告げる王帝月ノ宮の監督。しかし彼は野坂達に具体的な指示など一つも出してはいない。ただ『アレスの天秤』のシステムが考案した作戦を伝え、完璧に実行されているかチェックをしているだけ。虎の威を借る狐とは正にこの事である。

 

「……お言葉ですが、監督。閃電は少なくとも凡人よりは優秀に成長しています。あの斎村凪人の指導によって急激に強くなっていました」

 

「……何だと?」

 

「っ!野坂さん!!」

 

 監督の言い分に憤りを覚えたのか野坂が反論すると監督は目に見えて不機嫌さを増す。それをどうにか西蔭が宥める。

 

「……とにかくだ。後半は必ず斎村凪人を引き摺り出せ。そしてあの化身とか言う力を使わせ、データを得る。これは命令だ。あのタクティクスを使え。アレを使えば必ず負傷者が出る。斎村凪人も出ざるを得ない」

 

「!あれは禁断の……!!」

 

 監督からの指示を受けた野坂はその内容に動揺を禁じ得ない。それだけの過激な策と言えるタクティクスだからだ。それによって発生する閃電側の被害など気にも留めない王帝月ノ宮の監督は冷たい視線を野坂達に向けながら指示を出す。

 

「それを使わざるを得ない体たらくを晒したのは何処の愚か者共だ?……やれ」

 

 そして閃電イレブン側もベンチにて休憩を取りながらも凪人からのアドバイスと会田からの指示を受けていた。そして話が終われば凪人は会田に頼み事をする。

 

「監督……この後半で王帝月ノ宮が更に過激な手段を取って来るのであれば……俺を試合に出して下さい」

 

「……分かった。ただし、当初の予定に沿った上でだ。この試合を乗り越えられなければ閃電の成長の勢いは途切れてしまう」

 

 この試合、勝つ必要は無い。狙いはあくまで閃電イレブンの成長と経験。しかし大怪我をしてそれが台無しになっては元も子もない。

 

 そして後半が始まる。王帝月ノ宮のボールでキックオフ。野坂は背後のMFにボールを渡すと、躊躇うような表情で呟く。

 

「……やるんだ。やらなきゃいけないんだ……」

 

 後半が始まって暫く、野坂はそう呟き続け、膠着状態が続く。しかしこうして時間を浪費しては目的が果たせなくなる。だから野坂は腹を括る。

 そして背後のMF達が閃電の陣営に駆けると同時に命じる。斎村凪人を引き摺り出す為に。

 

「グリッドオメガ…フェイズ1!!」

 

 王帝月ノ宮の選手達が閃電イレブンを抜き去ると同時に赤黒い突風が吹き荒れる。それは竜巻状に回転して行き、その風は閃電イレブンを纏めて吹き飛ばす。

 

(フェイズ2に移行する必要は無い……加減をすれば問題無いはずだ……!!)

 

 明らかな実力差があるのに最終段階まで実行してしまえば閃電イレブンの選手生命は間違いなく終わってしまう。だからこそ、野坂は加減と引き際を見極めねばならない。

 

『アレスの天秤』は人を育むもの。決して害を成す存在であってはならないのだから。

 

『うわあああああああああああっ!!!』

 

(貴方が……貴方さえ出て来てくれれば全て穏便に済むんだ!!)

 

 野坂は凪人には決して視線を向けない。しかし、その感情はまっすぐベンチにて試合を見守る凪人へと向けられる。そして風が吹き止めば閃電イレブンはボロボロになりながら倒れていた。

 

「う…うぅ……」

 

「い…つぅ……」

 

「………すまない」

 

 野坂の言葉は誰にも聞き取られる事は無かった。閃電スタジアムにいる観客達はあまりの凄惨な光景に言葉も出ない。急激に力を付けたとは言え、弱小の閃電中相手にここまでする必要があるのか。怒りに震える者すらいた。

 

(……出て来い!今出なければ……)

 

 野坂は今度こそ凪人へ視線を向ける。しかし凪人はそんな野坂に真顔で告げる。その声は聞こえないものの、口の動きを読み取る事で野坂は理解した。

 

「……どこ見てんだよ」

 

「……!?」

 

 ただ一人。ただ一人だけ、敢えての不完全と言えどグリッドオメガの暴風に耐え、立ち上がった者がいた。

 

「……勝手に、止まってんじゃねぇぞ……!!野坂ァァ!!!!!」

 

 堂本衛一郎。閃電の最後の砦と言えるゴールキーパー。堂本は決して野坂から視線を逸らさずにまっすぐに彼を睨む。

 

「……ここで得点を決めなければ、出る気は無いという事か」

 

 凪人の真意をそう解釈した野坂は正面から堂本と向き合う。ここで堂本を叩き潰して閃電を壊滅手前に追い込まねば、あの腰の重い軍神は出て来ない。

 

 野坂の背後に青いオーラで作られた王騎士が出現する。その手に持つ槍を以ってボールを突く。そのタイミングに合わせて野坂自身もシュートを撃つ。

 

「キングス・ランス!!」

 

 槍の先端部分と融合したシュートとオーラ。閃電のゴールを奪うべく堂本に迫る。

 そして堂本は視界にグリッドオメガでズタボロにされた仲間達を収める。前半からラフプレーも多く、傷付けられて来た仲間達の悔しさが直に伝わって来るのだ。

 

(野坂……!お前は許さねえ……!!)

 

 堂本の右手に熱が籠る。

 

(このシュートだけは絶対に止めてやる……!!)

 

 堂本の右手に赤い光がじわりと溢れ出す。

 

(見てろよ皆……!キーパーとして、最後の砦は……!!)

 

 堂本の右手の中で赤いエネルギーが膨張する。

 

(絶対に守ってみせる!!!)

 

 その時、人々の眼には……堂本衛一郎に赤い稲妻が宿ったように見えたと言う。

 堂本は右手を開くと同時に空高く上げる。そしてそこから赤き巨大なエネルギー体の右手が出現した。

 

『!!』

 

 その時、誰もがある男を連想した。

 

 あの雷門のゴールを守り続けた伝説のキャプテン……円堂守を。

 

「ゴッドハンドォォーーーーー!!!」

 

 堂本の右手…否、赤きゴッドハンドが野坂のキングス・ランスを真正面から受け止める。そしてそのシュートの勢いを完全に、完膚無きまでに止め切った。

 

 観客席にいるかつての雷門イレブンと派遣先のチームメイトは口々に驚愕の心境を述べる。

 

「あ、あり得ない……!い、いやしかしあれは……」

 

「色こそ違うが間違いない。円堂と同じゴッドハンドだ……!!」

 

 帝国の銃士は目の前の現実がどうしようもなく信じられない。蒼き疾風はそれを受け止めるものの、やはり動揺が隠せない。

 

「う、嘘じゃんよ!?あんな奴があの熱血君の技をマスターするなんてあり得ねぇ!!……みたいな?」

 

「………凪人が眼を付けた奴だとは聞いていたが、これは……」

 

 木戸川の自称エースと炎のエースストライカーもまた、その衝撃にそれ以上の言葉が出ない。

 

 天才ゲームメイカーだけが……この状況で笑っていられた。

 

「……堂本衛一郎か。面白い……!!」

 

 そしてこの場にいる全てのサッカープレイヤーの記憶に、堂本衛一郎という名がたった今、刻み込まれた。

 

「……あれ?俺今何した?」

 

「凄いよ堂本君!野坂の必殺シュートを止めたんだ!!」

 

 呆ける堂本にサトルが涙を流しながら教える。堂本はそれを確認すると自分で驚き、尻餅を突く。

 そしてようやく、ベンチにいたこの男が立ち上がった。

 

「会田監督……良いですね?」

 

「……ああ!閃電の皆に見せてやると良い!君のサッカーを!!」

 

 ボールを敢えてピッチの外に出させて試合を中断し、選手交代。FWの桐林に代わって強化委員である斎村凪人が入る。

 

(後半残り10分か……逆転は厳しいな)

 

 凪人はそう考えながら軽くジャンプして身体をほぐす。すると野坂は凪人の前に出る。

 

「何故……今の今まで出なかったんですか。それに今更出て来るなんて……」

 

「……この練習試合は、チームを強くする事がこっちの目的だ。それだけの事だ」

 

 凪人はそれだけ言ってFWのポジションに付く。……が、自陣のディフェンスラインにチーム全員を下げて、自身もそこに身を置く。

 

 そして王帝月ノ宮のフリースローで試合再開。早速野坂にボールが渡る。野坂は凪人を見て、彼に向かって走る。この試合の王帝月ノ宮側の目的は凪人の力を図る事なのだ。凪人と接触しなければ意味が無い。

 

(その力……見せて貰う!!)

 

 しかし野坂は気付いた。

 

 既に自分の足元にはボールが無い事に。そして目の前にいたはずの斎村凪人の姿がもうそこには無い事に。

 

 すぐ様背後を見ればそこにはボールを踏み付け、王帝月ノ宮イレブンを見渡す凪人がいた。

 

(いつの間に……!?)

 

 凪人は王帝月ノ宮イレブンの観察を終えると閃電イレブンに向かって叫ぶ。

 

「見せてやる!!この俺のサッカーを!!付いて来い!!」

 

 そう叫んで走り出す凪人。釣られてボロボロの閃電イレブンも走り出す。野坂は咄嗟に王帝月ノ宮に指示を出す。

 

「止めろ!!決して通すな!!」

 

 草加が凪人の前に出る。軽く躱される。丘野がスライディングを仕掛ける。ジャンプして避けられる。谷崎と葉音がダブルで迫る。パスを出されて刀条が受け取ると同時に隙間を一瞬で突破される。またボールが凪人に戻る。

 

 あの王帝月ノ宮を纏めてほぼ一人で翻弄する凪人の突破力に王帝月ノ宮の監督は唖然とする。監督だけではない。雷門の強化委員と閃電イレブンを除く全ての者達が困惑している。

 

「な、何故……!?あんなハイレベルなプレーなんてしたら弱小の閃電なんて誰一人付いていけない……!!」

 

「果たして、本当にそうかな?」

 

 水神矢の意見に鬼道は異を唱える。見ればボロボロで今にも倒れそうだった閃電イレブンは全力で走り、凪人のパスや指示に全て応えている。前半よりも余程良い動き、プレーが出来ている。

 

「こ、これは……!!」

 

「斎村は閃電のあの姿を引き出す為にこの試合をこんな形で進めていたのだろう。奴らは敵が強ければ強い程諦めない。仲間のプレーに釣られて追い付こうと踏ん張り続ける。斎村はその両方を揃える事で閃電イレブンを更に進化させるという結果を導き出したんだ」

 

「進化……」

 

 凪人からパスを受けたサトルは王帝月ノ宮の連続ディフェンスを躱し続けるものの、遂に奪われてしまう。それと同時に凪人は後方へUターン。それに釣られて閃電イレブンも走り出す。

 

「斎村の派遣先である閃電は弱小チーム。より指導力を求められる。しかしそれだけでは本当の意味では強くはなれない。大きな敵に立ち向かう勇気、どれだけの逆境の中でも走り続ける気力。最後の1秒まで諦めない全力のプレー。奴の知る強さの全てを伝える必要があった。そして奴らは見事それに応えた!!それによって閃電はどこまでも強くなる!!」

 

 そして凪人の指示が無くとも閃電は連携してどうにか王帝月ノ宮が攻めあぐねるくらいには足止めが出来ていた。野坂にボールが渡ろうと凪人はそれをあっさりと奪い、また走り出す。

 

「どうした皆!?俺に付いて来い!!俺のサッカーに!!付いて来ぉーーい!!」

 

『おう!!』

 

 未だ0-2で閃電が負けている現状。それでも閃電はまるでリードしているかのように互いを鼓舞し合い、レベルアップし続け、全力でサッカーを楽しんでいた。

 

 赤木のパスがまた凪人に渡る。

 

「行かせるか!」

 

 王帝月ノ宮のディフェンス陣が凪人の前に立ち塞がるものの、凪人はドリブルとスピードを駆使して次々とDFを突破していく。そして見事に四人抜きをあっさりと成し遂げる。

 

(……体力的な差もあるのだろうが、それ以上に精神的な差が大きい)

 

 豪炎寺はこの状況を……凪人と閃電、そして王帝月ノ宮のプレーをそう評する。

 ゴール前にてキーパーの西蔭はシュートに備えて構える。そして凪人もまた必殺シュートの体勢に入る。

 

「シャイニングランス……改!!」

 

「王家の盾!!!」

 

 凪人の必殺シュート、シャイニングランス。数本に別れた光の槍が紋章の様に出現した盾とぶつかり合う。しかしそれは数秒と保たずに槍が盾に亀裂を走らせ、粉々に砕き、突き破った。

 

 1-2

 

「……馬鹿な…!?」

 

 西蔭は信じられないものを見る眼でゴールネットを揺らしたボールを凝視する。いくら相手がかつての雷門イレブンだとしても今回最大の目当てである化身を使う以外に自分からゴールは奪えないと確信していた。否、タカをくくっていた。

 

 だからこそこの1点は王帝月ノ宮には何よりも痛いものだった。

 

 ピッ、ピッ、ピーー!!

 

 ここで試合終了のホイッスル。この練習試合は1-2で王帝月ノ宮の勝利だ。しかしこの結果に納得する者は王帝月ノ宮側には一人もいなかった。

 

 野坂は何処か不機嫌そうな表情で凪人に話しかける。

 

「……こんなのは勝ったとは言えない。結局一番の目的は果たせていない上に、そちらはそれを果たした……」

 

「……お前らがどう思うかは関係ねーよ。……今回は俺達の完敗だ。言い訳のしようもねぇ。

 

けど、()()()()()()()()

 

 それだけ告げて凪人は野坂に背を向けて話を打ち切る。そして観客席にいた閃電中の生徒達は口々に感想を叫ぶ。

 

「よく頑張った!!」

 

「見直したぞサッカー部!!」

 

「これから勝ってけ!!応援するぞ!!」

 

「王帝月ノ宮相手に大健闘だ!!」

 

 拍手喝采。

 

 これまでの罵声とは180度違う声に閃電イレブンは誰もが涙を流す。初めてこれまでの努力を肯定して貰えたのだ。そして閃電イレブンの前に凪人が立つ。

 

「斎村さん……」

 

「斎村君……」

 

「泣くのはまだまだ早いぜ?俺達の戦いはまだ始まってすらいないんだからよ。フットボールフロンティア開催までに俺達はもっともっと強くなる!!王帝月ノ宮も、利根川東泉も!!全部ぶっ倒して必ず優勝する!!」

 

 凪人の言葉に全員が頷く。そしてキャプテンであるサトルが前に出て凪人に手を差し出す。握手を求めているのだ。

 

「これからもよろしく。斎村君!」

 

「……おう!」

 

 それに応じて握手する凪人。そして観客席の方を向いて今回の試合を観に来た雷門の仲間達を見る。

 

(見てたか……?こいつらが俺の自慢の……イナズマイレブンを超える仲間さ!!)

 

 これが閃電中サッカー部の本当の意味でのデビュー戦だった。そして、彼らこそが……この日本にかつてない程の稲妻を呼ぶ。




堂本のゴッドハンド、ロココと同じく赤色。つまり火属性です。

原作開始までにやらなきゃいけない事結構あるな……。


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閃電サッカー部に必要なもの

 side凪人

 

 王帝月ノ宮との練習試合以来、誰が情報を拡散したのか……強化委員として来た俺の指導により、閃電サッカー部は劇的なレベルアップを遂げたという話が広まった。ま、事実だけどな。

 

 それにより、以前とは違って他校からの練習試合の申し込みが引っ切り無しに殺到し、閃電サッカー部はようやく軌道に乗った。

 

「……これで、7連勝だぁーーー!!」

 

『おおーっ!!』

 

 キャプテンである星宮を発端に部員全員が盛り上がる。今日は御影専農との試合に勝利を収め、通算7連勝だ。因みに初勝利の相手は万能坂中だ。

 

 ……そろそろ探し始めても良い頃だろう。そう判断して俺は皆の前に立つ。

 

「さて、お前達もこれで充分に勝つ事を知ったと思う。そんなお前達には更なる課題がある!」

 

「!更なる課題……?」

 

 刀条がシリアス全開の表情で反芻する事で他の皆にも緊張が走る。良い面構えだ。これを確保しない事にはこの閃電サッカー部はフットボールフロンティアに出場出来ないばかりか、いずれ存続すら危うくなる。

 

「ズバリ、スポンサーを獲得する!!」

 

 スポンサード。

 

 前回のフットボールフロンティアにて俺達雷門イレブンが全国優勝を遂げた事により、今や中学サッカーは国内で最も人を集めるスポーツとなった。

 練習試合でさえ、観客が多く押し寄せるその現状に、少年サッカー協会は頭を痛め初めている。

 

 人が集まり過ぎて人と人の接触事故などが最近多いのだ。つまりちゃんとした警備の人や会場内を整理する人が欠かせない。チームや試合を安全に運営するには莫大な資金がかかる。

 

 そこで必要になるのがスポンサーだ。

 

 中学サッカーの人気は今やプロ並の稼ぎが期待出来るというのが現状だ。ちゃんとした契約を結べばそれによってスポンサー側の利益にもなる程。実際に既に名の知れた強豪チームはスポンサーを確保し、契約を結んでいる。例えば木戸川清修はZゼミ。帝国学園は鬼道重工……と言った感じで。

 

 因みにうちの父さんはパンダ交通の本社に勤めている。……何故今こんな事言った俺。

 

 とにかく少年サッカー協会でも中学のサッカー部にスポンサーを付ける事の義務化が検討されている。俺達もスポンサーを獲得する必要があるのだ。

 

「……話は分かりましたけど、スポンサーですか…」

 

「ああ。スポンサーがいないとそれだけで廃部にされるチームもいずれ出て来るだろう」

 

「でもどうやってスポンサーなんて付けるんだ?」

 

 城之内の疑問も当然だろう。そこで俺は会田監督を通じて備流田さんから貰ったポスターを取り出して見せる。

 

「中学サッカーのスポンサーになりたいって企業は実は結構沢山あるんだ。さっきも言った通り、人気過ぎてプロ並の利益が見込めるからな。けど、どの企業も基本的にはどのチームのスポンサーになるべきか分からないのが現状だ」

 

 俺の取り出したポスター、それはそんなスポンサーになりたいけど、チームを選べないっていう企業が合同で開催する大会のものだ。

 

「だからこんな大会を開き、自分達の利益になるチームを見つけてスポンサーに収まるってのが企業側の算段なのさ。有名所はセキュリティ会社のHECOMに、農業用システム開発メーカーのVEGEMECH。他には飲料メーカーのゴッドブル飲料。楽器製造会社の神童インストルメントなんかもある」

 

 他にも沢山あるが、この四つが有名所だろう。この大会に出場して好成績を収めればスポンサーが付く可能性は高い。

 それにスポンサーが付けば部費が殆ど無いこのサッカー部の設備も充実するだろう。最近勝ち続けて、校内からの評価が上がっても……以前負け続きだった事からやはり部費は割り振って貰えない状態だからな。

 

「既にこの大会に出場してスポンサーを獲得しようと考え、参加を表明するチームもある。壁山が派遣された美濃道三や今日勝った御影専農。フットボールフロンティアの準優勝チームである世宇子なんかが筆頭だ。他にも尾刈斗や野生、青葉学園や海王学園なんかもいる」

 

「世宇子…って、何で準優勝の強豪チームがまだスポンサーを確保出来て無いんですか?」

 

「世宇子はフットボールフロンティアで神のアクアという薬でドーピングしていたからな。影山に唆かされていたとはいえ、世間の目も色々と厳しい。そんな中じゃスポンサーなんてまず現れない。神のアクア無しでの本当の力を示す必要がある」

 

 世宇子も雷門の強化委員派遣の候補ではあったんだが……アフロディが断ったんだよな。一応俺的には世宇子に行くという選択肢も充分に考えていたんだが。アフロディと共闘するのも面白そうだったからな。

 

「けど、ドーピングしてたからって、本当の世宇子が弱いだなんて思うなよ?世宇子は影山が集めた天才達のチームだ。神のアクア自体、元々軍事用の薬でそれに耐えられる強い肉体が求められるんだ」

 

 この大会で最も強いチームは間違いなく世宇子だろう。奴らの強さは雷門の中でも俺が一番知っている。今の閃電では勝てない。

 

 大会の参加費は俺が強化委員という事でサッカー協会が負担してくれる。いや本当にチェアマンには頭が下がります。

 

****

 

 side三人称

 

「うおおおおおっ!!」

 

 その日の練習後、堂本はいつものように木に吊るしたタイヤを受け止めるキーパー特訓をしていた。当然自身もタイヤを背負っている。

 

「お、やってるな堂本!」

 

「うす!斎村さん!!」

 

 それを見かけた凪人が堂本に労いの言葉をかけると、堂本は元気良く返事をする。

 

「タイヤ特訓、気に入って貰えたみたいだな!」

 

「はい!これ円堂さんがやってた特訓なんですよね!?これをやって俺もゴッドハンドを覚えたし、もう日課って言うか……」

 

「それだけじゃないだろ?」

 

「へへっ、やっぱ分かっちゃうか……。何たって俺達、勝っちゃったんだもんよ!!スポンサーだってきっと見つかる!そしたら最大の大会…フットボールフロンティアに出場出来る!!ずっと憧れてきたんだ……!」

 

 最高の笑顔ではしゃぎながら握りしめた右拳を見つめる堂本。凪人はそんな堂本を見てますます彼を円堂と重ねる。そしてふと気になった事を尋ねてみる。

 

「そういやお前らは今までフットボールフロンティアに出た事無かったのか?」

 

「え?ああ〜…俺達弱小だったから、大会の参加費を出して貰えなくて……人数は足りてたんすけど」

 

「成る程。あの生徒会長なら納得」

 

 凪人自身、この学校の生徒会長は未だにサッカー部を認めていないのは分かっている。サトルが校内で彼と会う度に露骨に嫌味を言われているのを何度も見かけたのだ。

 

「フットボールフロンティアは中学サッカー日本一を決める大会だ。あの帝国学園を始め、数々の強豪が参加する。特に今年は優勝校の雷門イレブンが全国各地のチームに強化委員として加入しているからな。尚更生半可な実力じゃ勝ち上がる事は出来ない」

 

「はい!だから俺、もっともっと強くなって、ゴッドハンドを強化しようと思って……」

 

 堂本は自分の手を見つめる。彼はここ最近の試合でもあの赤いゴッドハンドで何度も相手のシュートを止めている。王帝月ノ宮戦では唯一必殺技を修得出来ていなくて、出遅れていたが、凪人の眼から見て今一番伸びているのは間違いなく堂本だ。

 

「そっか。なら、俺のシュートを受けてみないか?」

 

「え…」

 

「どうだ?」

 

「お、お願いします!!」

 

 そんな堂本を見て応援したくなったのか、凪人は堂本のキーパー特訓に付き合う事にしたようだ。場所は変わってサッカー棟のグラウンドにて練習を始める。

 

「シャイニングランス…改!!」

 

「うおおおおっ!ゴッドハンドォー!!!」

 

 凪人のシャイニングランスを止めようとゴッドハンドを繰り出す堂本。しかしゴッドハンドはシャイニングランスを受けた瞬間、粉々に砕け散る。

 

「どわああああっ!?」

 

「どうした!?この程度でへばったりしないよなぁ!?」

 

「へへっ…!当然!!ずばばーんと来ぉい!!」

 

 ゴッドハンドが破られても自信を喪失する事なく次のシュートを要求する堂本を見て凪人の表情は綻ぶ。へこたれない精神は既に円堂に迫る。

 

「……今更だけどお前、敬語下手だよなっ!ファイアトルネード改!!」

 

「うおおおおおおっ!!」

 

 こうして、スポンサー獲得の為の大会に向けて閃電イレブンは凪人主導による猛特訓を続けた。

 

****

 

 そして大会当日、閃電イレブンは電車を使って自費で大会の執り行われる地域に来ていた。既にスタジアムにはあらゆるチームが揃っている。

 

「この大会はこの五連休で行われる。大会と言ってもトーナメントなんかじゃなく、完全ランダムでカードが組まれ、1チーム、一日二試合行う。この会場にグラウンドは八つあるから同時に八つの試合が行われる。開会式が終わればすぐ試合開始だ!」

 

 凪人の説明に閃電イレブンは息を飲む。全部で10試合。その中からアピールをしてチームを売り込む。そうして企業に目を付けて貰う他無いのだ。

 

「有名なチームもやっぱり来てるね。野生中に御影専農……あっちは海王学園だ」

 

「青葉学園もいるぜ……この大会、かなり厳しい戦いになるぞ」

 

「何言ってんすかキャプテン!桐林先輩!俺達はフットボールフロンティアで優勝するんですよ!?ここでビシッと勝ってスポンサーを獲得しねーと締まらねーっすよ!?」

 

「堂本君……」

 

 最近勝ち続けているとはいえ、元々が弱小の閃電はやはりどこか弱気だ。それを堂本が励ます。そんな彼らを見て凪人は配布された紙を配る。

 

「今日の俺達の対戦カードだ。開会式が終わればいきなり初戦だ。……行けるな?」

 

『おう!』

 

 そうして閃電イレブンは一斉に初戦の相手を確認する為に紙を開く。するとそこに記されていたチームの名前は……、

 

【大会1日目、閃電中試合相手】

 

 ①10:30〜 美濃道三中

 ②15:30〜 天河原中

 

「しょ、初戦からサッカー強化委員のいるチーム!?」

 

「しかも美濃道三って…壁山塀吾郎の……」

 

「ああ。壁山が派遣された事でディフェンス面において突出した実力を表したチームだ。壁山の作り出したディフェンス力はそう簡単に突破出来るものじゃない。だからこそ戦う価値がある!!」

 

『!!』

 

「そのディフェンスを破れば俺達が強くなった証明になる!相手に取って不足無し!!そう思わないか!?」

 

 騒つく閃電イレブンの不安をたったそれだけで吹き飛ばす凪人。そして凪人は拳を上げて叫ぶ。

 

「打倒、美濃道三!!閃電の力を見せてやろうぜ!!」

 

『おおーっ!!』

 

 ……そして試合の前に開会式に出る為、先を急ぐのであった。




美濃道三を倒す事は閃電の成長には不可欠だと考えたので。
メタ的な視点で言えばぶっちゃけ今回の目的はスポンサーよりも壁山です。


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激突!閃電vs美濃道三・前編

難産でした。美濃道三のキャラはアニメの描写が少ないから書きづらい。


 side三人称

 

 複数の企業が合同で開催する中学サッカーの大会。その中でもこの試合は非常に注目が集まっていた。かつてフットボールフロンティアで優勝を遂げた雷門イレブンのメンバーが強化委員として派遣されたチーム同士の試合なのだから。

 

「斎村さん、今日は負けないッスよ!」

 

「ああ!勝負だ壁山!ぶつかって来い!」

 

 壁山塀吾郎。かつての雷門のレギュラーDFとして鉄壁を誇った男だ。こうして会うのは数ヶ月振りだが、彼が格段にレベルアップを遂げているのは一目で分かった。

 

 凪人は壁山と握手を交わすとピッチに立つメンバー達に今回の試合方針を伝える。今回は王帝月ノ宮戦とは違い、勝つつもりで戦うのだ。

 

FW 桐林 刀条

 

MF 海原 星宮 斎村 赤木

 

DF 城之内 石島 種田 藤咲

 

GK 堂本

 

 これが今回のスタメンだ。逢崎は今回ベンチスタートだ。と言っても実力が劣るからではない。いざという時、いつでも出られるよう準備しているのだ。

 

 ピョンピョンと軽く跳ねてウォーミングアップをする凪人は美濃道三のフォーメーションをその目で確認する。成る程ディフェンスに重きを置いた陣形だ。あれを真正面から突破するのは難しいだろう。普通なら。

 

(……そもそも美濃道三から点を取るのに攻める必要なんか無いんだけどな)

 

 凪人からすれば今の美濃道三は守る事しか出来ないチームと言えた。壁山が入って強固なディフェンスが出来るようになったのは評価に値するが、逆に言えばディフェンスばかりに気を取られて自分達で攻撃に持ち込む力が欠けていると言えた。これまで美濃道三の得点は全て無理にそれを突破しようとした相手から守ってからのカウンターによるものだ。

 

 その為、こちらが守りに徹すれば向こうは足りない攻撃力で無理に攻め込むしか無くなる。そこを逆にカウンターしてやれば容易に点を取れる。

 

(この辺の事は試合後に壁山に教えてやらねーとな……言われても改善出来なきゃそれまでだ)

 

 しかし凪人及び閃電イレブンは今回そのような方法で勝つ気は更々無い。無謀にも攻め込んであのディフェンスを突破するつもりだ。

 

(美濃道三のディフェンスを正面から突破出来る程の攻撃力を持ち、それを活かせる連携が出来なきゃ……日本一になるのは勿論、世界に挑戦するのも無理だ……)

 

 凪人は司令塔として優秀な頭脳とMFとして優秀な技術を兼ね備えている。そして他の誰にも無い武器……脅威の侵略者編以降の原作知識がある。

 

 それらをフルに活用して閃電イレブンを鍛えて来た。美濃道三の鉄壁のディフェンスを正面突破するだけの実力は付けたと自負している。

 

「見せてやろうぜ!雷門魂と閃電魂の共鳴現象ってヤツを!!」

 

『おう!』

 

 大勢の観客と企業の社員達が見守る中、ホイッスルと共に閃電ボールで試合開始。刀条が桐林に、そして桐林がサトルにボールを渡し、二人は前線に上がって行く。

 

「星宮!まずは思いっきり攻めるぞ。そこから相手の出方を伺って、攻略法を考える」

 

「うん…僕達中盤が重要になるね……」

 

 凪人とサトルが攻め上がる中、壁山によって鍛えられた美濃道三イレブンは早速動き出す。FWの石壁を躱す為にサトルが凪人にパス。するとキャプテンでありFWの岩垣が凪人からボールを奪わんと迫る。

 

「元雷門副キャプテン……天才MF斎村凪人!一度貴方と相見えてみたかった!!」

 

「あっそ」

 

 良く言えばストレート。悪く言えば愚直に突っ込んで来た岩垣を凪人はΦトリックで避けて適当に軽く遇らう。それから次々と迫るMF達をサトルとのワンツーやサイドから攻める赤木や海原との四人でのパス連携を駆使して順調に攻略していく。

 

(……さて、問題は肝心のディフェンス陣。FWやMFの通常のそれよりディフェンスのレベルが高かった。壁山をメインに置いたディフェンス陣はどう仕掛けてくる……?まずは様子見だ!)

 

「刀条!」

 

「はい!」

 

 前線でゴールを狙う刀条にボールを託し、凪人はフィールド全体……取り分けディフェンス陣に注目して観察する。すると歯を剥き出しにしたDFの万里が刀条の前に出る。

 

「うおおおおおっ!!ザ・ウォール!!」

 

「!?うわああああっ!!」

 

「刀条君!」

 

 まさかの壁山の必殺技、ザ・ウォールを使い、巨大な壁を出現させる事で相手の行く手を阻む。そして衝撃波で刀条を吹っ飛ばしてボールを奪う。

 

「ふむ……ザ・ウォールを全員に教えた上でそれを基点に自分だけの必殺技を編み出させる方針ってとこか。……それより刀条は突破力に欠けてるな。ドリブル技をメインに特訓が必要だなこりゃ」

 

「れ、冷静に分析してるーーー!?」

 

 そして凪人は何処までも冷静に万里のディフェンスから美濃道三のディフェンス特訓の方針とレベルにアタリを付け、刀条の特訓内容の改善を考えていた。

 

「万里君!今のザ・ウォール、今までで一番良かったッスよ!!」

 

「ウス!!」

 

「さてさてさて……次はオフェンスを見せて貰おうか」

 

 そしてカウンターを決めるべく美濃道三は攻め上がる。対して閃電は下がり、ディフェンスに集中する。すると凪人は思いっきり叫ぶ。

 

「皆!カウンターを仕掛けられているからって焦るんじゃないぞ!!お前達なら美濃道三()()の攻撃……簡単に防げる!!特訓の日々を思い出せ!!」

 

「ほう……言ってくれるな!」

 

 岩垣は凪人の発言が気に食わなかったのか、それとも先程適当に扱われたのが悔しかったのか、その体格を活かした当たりの強いパワータックルで閃電ディフェンス陣営に食い込んで来る。

 

「種田!石島!」

 

「「はい!」」

 

 凪人に名を呼ばれてDFの二人は岩垣の前に出てマッチアップ。岩垣は流石に2対1は避けたいのか周囲にパスを出そうと辺りを見渡す。しかし既に周りの仲間達は閃電イレブンによるマークを受けてパスが出せない状態だった。

 

「なっ!?いつの間に……!!」

 

 当然これも凪人の指示だ。それも凪人はこれまでの美濃道三の選手のプレーを分析した上でその明晰な頭脳を駆使して予め幾多のパターン分けしての前もって出された複数の指示の一つでしかない。

 

「「勝負だ!」」

 

「……良いだろう!正面突破するのみだ!!」

 

 迫る石島と種田。岩垣は真正面から切り抜けにそのパワータックルを仕掛ける。

 

「ふっ!」

 

 それを種田は紙一重で躱して左脚を伸ばし、ボールを上に弾こうとする。岩垣それに気付き、軽く跳び上がる事で胸でトラップ。無事にキープしてほっと一息。

 

 そしてその直後、ボールを保持して着地した瞬間、石島が仕掛けた。

 

「ブレードアタック!!」

 

 一回転して踵から放たれた刃状のエネルギー波が岩垣に直撃。衝撃で吹っ飛ばしてボールは種田の元へ。

 

「やった!これが俺の必殺技……ブレードアタックだ!!」

 

「うおおおおっ!すげぇーー!!ビリビリ来たぁーー!!やったっすね!!石島先輩!!かっけぇ!!」

 

「ああ!」

 

 石島のディフェンス技を見て興奮したのか大声で叫ぶ堂本。石島もそんな堂本に右手の親指を立てて応える。そしてキャプテンであるサトルが叫ぶ。

 

「良し!もう一度僕達が攻めるぞ!!速攻だぁーー!!」

 

『おおおーっ!!』

 

 石島から出されたパスを受け取りドリブルするサトル。ボールを取り返そうと前から襲って来る相手MFを凪人とのワンツーで躱して海原にパス。今度は左サイドから攻めていく。

 

 そしてそんな前線を見守りながら凪人がサトルの隣を走りつつ語る。

 

「アレが美濃道三の今の攻撃レベルだ。守る事ばっか考えてるから攻撃力が致命的に足りてない。試合前に説明した通り、相手が全力の攻撃をして消耗した所をチーム全体での力押しカウンターをしないと満足に攻められない。そこまでしなきゃ得点出来ない。個人で攻めさせたらあの通り。今の石島達なら充分止められる」

 

「……だからこっちが守っていれば痺れを切らして全体で攻めて来るしかなくなる。そこをカウンターすれば楽に点が取れる訳だね」

 

「ああ。今回は閃電(おれたち)の成長の為だからこそ敢えてやらねーけどな。カウンター狙いが逆にカウンターが弱点になるとは皮肉なもんだ」

 

 凪人はこの試合が終わったら壁山にその点を指摘して助言する思いを固める。守る事しか出来ないチームは勝てないのだ。

 

(それに……多分攻撃を捨てて守りに全て注いだとしても……美濃道三は木戸川清修の突破力の前には打ち砕かれるだろうな……)

 

 そして美濃道三のディフェンス陣はガンガン攻めて来る閃電に対して全力のディフェンスで応える。

 

「もっこり丘のモアイ!!」

 

「どわあああっ!?」

 

 地面からせり上がって来たモアイ像によってボール諸共空中に吹っ飛ばされる桐林。しかし桐林の必殺技は空中から放つもの。むしろ好都合だった。

 

「メテオアターーック!!」

 

 偶然か否か…そのシュートはモアイ像の陰に隠れてキーパーからはシュートコースが見えない。見える頃にはキーパーは間に合わず、ゴールネットを揺らすだろう。

 

 しかし美濃道三にはそれに対応出来るDFがいた。

 

「ザ・ウォール改!!」

 

 壁山塀吾郎は桐林のメテオアタックを以前より進化したザ・ウォールでシュートブロック。勢いを完全に殺して足元にボールが落ちた所を踏み付ける。

 

「ゴールは簡単にはやらないッスよ!」

 

「……自分のレベルアップも怠ってはいないようだな」

 

 チームを成長させ、導くという点では凪人からすればまだまだだが、一人のDFとしてのレベルアップ具合は文句無しに合格点だ。今の壁山相手では凪人もそう容易には単独突破は出来ないだろう。

 

「強化委員の意地を見せるッス!!」

 

「それはこっちも同じさ!!」

 

 壁山が再び前線に繋ごうとパスを出せばそれを赤木がカット。しかし赤木の前には平田が立ち塞がる。

 

「フランケン……(シュ)タイン!!」

 

 親父ギャグのようなネーミングだが、平田の前には巨大なおじさんのようなオーラが具現化し、その手で赤木を叩き潰さんと振り下ろす。

 

 刹那……赤木は目を閉じる。

 そしてその腕が振り下ろされるのを感じ取るが如く……ユラリと舞うように紙一重でそれを躱してみせた。

 

「何!?」

 

「……赤木は閃電イレブンの中で特にオフェンスの素質が高い。ちょっとした特別メニューでの特訓をすれば……その突破力は絶大なものになる。……まだまだ発展途上だがな」

 

 そして最後に「一番凄いのはそれを発見して鍛え上げる俺だ」と凪人は自画自賛する。勿論心の中でだが。ここで口に出したらただの痛い奴である。

 

「桐林!星宮!4番と5番をマークしろ!!赤木はそのまま持ち込め!!」

 

 そして凪人の指揮によって美濃道三のディフェンスは乱され、崩れ始める。凪人自身は壁山をマーク。

 

「やっぱり斎村さんは凄いッス……けど俺達だって負けないッスよ!!」

 

「ああ!俺とお前……ひいては閃電と美濃道三の全力勝負だ!!」

 

 そして遂に凪人がマークする壁山以外の……右サイドのディフェンスは見事に突破され、エースストライカーの刀条へとボールが渡る。キーパーとの一騎討ちだ。

 

「決めろ刀条!!」

 

「刀条君!!」

 

「はい!ソニックショット!!」

 

 ダイレクトで蹴り出したボールが途中で急加速。そのスピードにはキーパーも対応出来ずにゴールネットが揺れる。

 

 1-0

 

 前半25分の事だった。そしてその瞬間、会場に歓声が沸く。あの鉄壁の守りを誇る美濃道三相手に急成長中とはいえ、未だ弱小から脱却したとは言えない閃電がゴールを奪ったのだ。

 

「やった!!決めた!!鉄壁の美濃道三相手に俺が!!」

 

「ナイスシュートだ刀条!!」

 

「うん!最高のキックだったよ、刀条君!!」

 

 先制点に盛り上がる閃電イレブン。そしてそれとは対照的に美濃道三イレブンは悔しさに顔を歪ませる。

 

「くそ…!俺達のディフェンスが正面突破されるなんて……!!」

 

「凄いパワーのオフェンス技やタクティクスを使われた訳じゃない……なのに……!!」

 

 しかしここで彼らを落ち着かせ、導く存在こそが『サッカー強化委員』だ。壁山は皆の前に立って彼らを励まし、発破をかける。

 

「皆!まだ試合は終わってないッスよ!!まだ前半25分!逆転は出来るッス!!」

 

「壁山さん……」

 

「諦めない雷門魂……皆の中にもうあるはずッス!!あの技でゴールを守って、奪うッス!!そして勝つッス!!」

 

 真剣に語る壁山。そしてそんな壁山を見て美濃道三イレブンは互いの顔を見合わせて頷く。そう。まだたった1点取られただけなのだ。試合はまだ分からない。

 

 そして美濃道三ボールで試合再開。凪人の指揮でまた見事にボールを奪い、攻める閃電。

 

 しかしここで事態は動いた。攻め上がって来る閃電を迎え討つ為に全員がゴール前に集結した。

 

『!?』

 

「全員守備……?」

 

 その瞬間に凪人は直感で何かを感じた。しかしそれを口に出す前に彼らはそれを出した。

 

 

 

 

「皆!行くッスよ!!」

 

 

 

『レンサ・ザ・ウォール!!!!!』




稲森と一星の異母兄弟説が出回ってるけど、それが本当だったらイナイレ史上初のドロドロした重さになるな……。


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激突!閃電vs美濃道三・後編

 side凪人

 

 前半が1-0で俺達のリードに終わり、ハーフタイムの真っ只中。俺達は消耗した体力を回復させようとスポーツドリンクを飲む。

 

「何だよあの技……どれだけ攻めてもビクともしねぇ……!!」

 

 そんな中、城之内が愚痴を洩らすかのように呟く。それに釣られて皆表情を暗くする。……仕方ない。早目に説明しておくか。いずれは俺達も修得する必要のある技術だ。

 

「あれは“オーバーライド”だ」

 

『オーバーライド?』

 

 聞き慣れない単語だろうな。俺だって原作知識があるとはいえ、この単語と意味を知ったのはこの世界に転生してからだ。何故前世では出なかったのか。アレスの天秤編が考案されてから新しく作られた設定なのかもしれないな。

 

「簡単に言えば必殺技同士の連携。特定の技同士を掛け合わせる事で威力を増幅させたりするんだ。染岡と修也のドラゴントルネードや俺と修也とでやるファイアトルネードDDなんかもそれにあたる」

 

 思えば一之瀬、土門、円堂に修也を加えた四人がかりで発動するザ・フェニックスとファイアトルネードを連携させたファイナルトルネードもそれに当たるんだろう。この世界じゃ出なかったけど。

 

「……それってシュートチェインやツインシュートと違うんですか?」

 

「ま、一見同じに見えるだろうな。けどシュートチェインにツインシュートってのは必殺技を追加しているだけで技同士のシンクロはしていない。けどオーバーライドは違う。必殺技同士の相性が良ければ技同士がシンクロして極限以上に威力が高まる。言うなればシュートチェインは足し算でオーバーライドは掛け算だ!」

 

 俺の言ってる事は割と真理だと思う。思えば前世で観たシュートチェインしてもただ繋げているだけの技や合体技として成立した技の違いはそういう事なんだと思う。

 

 オーバーライドとシュートチェインは混同されがちだが、オーバーライドは組み合わせ次第で無尽蔵にパワーを増す可能性を秘めている。

 

 そして最大の違いはシュート技オンリーのシュートチェインと違って、オーバーライドはドリブル技やディフェンス技など……あらゆる組み合わせが可能な点だ。

 

「あいつらは複数人でのザ・ウォールを組み合わせてオーバーライドを発動させたんだ。その結果がさっきのレンサ・ザ・ウォールなんだろう」

 

 あそこまで高く広く聳え立つザ・ウォール。あれはもしかしたら千羽山の無限の壁にも匹敵するパワーがあるかもしれない。ディフェンス技とキーパー技という違いはあるがな。

 

 厄介なのはあのレンサ・ザ・ウォールを発動させたまま攻め上がって来る事だ。流石に全員で攻撃して来る事は無いが……あれだとボールを奪うのは至難の技な上に奪えても碌に攻められない。

 

 幸いそれでも奴らのシュートは大した事はない。どれだけ行っても奴らの必殺シュートも堂本のゴッドハンドで充分止められる。

 

 それに……あのオーバーライド技に弱点が無い訳でもない。

 

「よし!そろそろ後半開始だ!その前にメンバーを交代する!赤木の代わりに逢崎!お前の出番だ!レンサ・ザ・ウォールを破る切り札はお前だ!!」

 

「!?お、俺が……!?」

 

 お前なら必ずレンサ・ザ・ウォールの突破口を開ける。そして最後にゴールを決めるのは……

 

****

 

 side三人称

 

FW 桐林 斎村 刀条

 

MF 海原 星宮 逢崎

 

DF 城之内 石島 種田 藤咲

 

GK 堂本

 

 これが後半の閃電のフォーメーションだ。前半で活躍した赤木を下げて逢崎を投入。凪人はMFからFWにポジションチェンジだ。

 

「じゃあ皆、分かっているな?逢崎、頼むぜ」

 

「は、はい!」

 

 緊張でガチガチになっている訳ではないが、ここ一番の重要な役割を任された逢崎は少しプレッシャーを感じているようだ。

 

 そして美濃道三ボールで後半開始。1-0で閃電がリードしている現状、美濃道三も積極的に点を取りに来るだろう。FWがドリブルで攻め上がって来る。

 

「行くぞ!レンサ・ザ・ウォールを攻略する!!」

 

『おう!』

 

 凪人は敵のFWをスルーして前に出る。ボールを奪うのはDFにやって貰うつもりのようだ。

 

「クイックドロウ!」

 

 そしてボールを巡って競り合うこと10分。遂に種田が期待通りに決めてくれたようだ。クイックドロウは初歩的な技だが、それ故に使い手の実力がハッキリと現れる技だ。ボールを奪うテクニック、相手に悟られないスピード。それらを極限まで要求される。

 

 そして凪人の元にボールが届いた瞬間、壁山を中心に美濃道三イレブンは再びオーバーライドを発動させる。

 

『レンサ・ザ・ウォール!!』

 

 積み重なり、広がるザ・ウォール。これを突破するのは凪人が化身を使っても骨が折れるだろう。勿論比喩だが。それでも閃電イレブンにはそれを打ち破る手段があった。

 

「いくぞ!必殺タクティクス、“チャージ式時限爆弾”!!」

 

『おう!』

 

 凪人の合図と共に頷く皆。凪人が後方にボールを出すと、海原はダイレクトにサトルへ渡す。サトルもまた逢崎へ。そして逢崎、刀条と来てまた凪人。そして桐林へ。

 

 このように前線の六人で不規則にパスを出し続ける。そしてそれに翻弄される美濃道三は隙を突かれない為に更にレンサ・ザ・ウォールによる守りに集中する。相手の攻めを止めさえすればそこから鉄壁守りを維持したまま攻めに転じる事が出来るのだ。

 

(防御を攻撃に変えるッス!!)

 

 攻撃は最大の防御という言葉を逆転させたような発想に押し上げたのだ。

 しかし彼らは気付かなかった。閃電イレブンがパスを出し続けている中、ボールに少しずつ彼らのパワーが蓄積されている事に。

 

「よし、チャージ完了!逢崎!!」

 

「はい!」

 

 目に見える程に溜まったエネルギーは放電しながら、そのパワーを主張している。そしてボールを凪人が空高く蹴り上げる。

 

「うおおおおおっ!!」

 

 そして逢崎は跳び上がってそれに食らいついたのだ。

 

(逢崎の長所はジャンプ力!そしてそこからダイレクトに蹴り出せるアクロバティックの素質がある!!)

 

 むしろMFではなく、ストライカーにこそ必要な要素の一つだ。そして彼には蹴ったボールの行き先を決められるだけのコントロール力もあった。

 

「狙うはあの一点だ!」

 

「はい!」

 

 そうして空中から蹴り出されたボールはレンサ・ザ・ウォール目掛けて飛んで行く。当然美濃道三は迎え撃ち、耐え切るつもりだ。

 そして閃電イレブンのパワーが込められたボールは……レンサ・ザ・ウォールの壁同士の隙間に入り込んだ。

 

『!?』

 

「よし!」

 

「後は……練習通り……」

 

 そしてザ・ウォール同士の隙間に入り込んだボールから……そのエネルギーが爆発するかのように放射され、レンサ・ザ・ウォールを内側から爆砕した。

 

 当然美濃道三イレブンはその衝撃で纏めて吹っ飛ばされる。

 

 “チャージ式時限爆弾”。この必殺タクティクスは別のパラレルワールドである『イナズマイレブンGO』の世代で使われる“アルティメットサンダー”を参考にした必殺タクティクスだ。

 

 あのタクティクスはボールをチャージし続けて最後に敵陣目掛けて蹴り出して着弾した瞬間に衝撃を拡散して相手ディフェンス陣を纏めて吹き飛ばす技。

 

 しかしそれには強力なキック力が求められる。凪人ですらそれには届いていなかった。

 そこで凪人は敵陣着弾を衝撃波発生の為のトリガーにするのではなく、一定時間経つと自然にエネルギーを解放して衝撃波を生み出す性質に改造したのだ。

 

 下手をすれば自分達が被害に遭い兼ねない不完全なタクティクスだが、美濃道三というチームの性質がそれを可能とさせた。

 

 そしてレンサ・ザ・ウォールがあっさり破れたのは壁同士の内側から破壊した為だ。どれほど外壁が丈夫であろうと少しでも隙間があればそこに力を加える事で簡単に崩れてしまうのだ。

 

「よーし、これなら行けるぜ!!」

 

 桐林の叫びに全員が頷く。レンサ・ザ・ウォールを台無しにされた美濃道三は動揺も相まってプレーに乱れが生じている。凪人の指揮があればいとも容易く突破出来る。

 

「斎村さん!」

 

 得点を決めた事でマークされている刀条にはパスが出せない。それ故に逢崎は凪人にパスを出そうとするも、凪人は別の指示を出す。

 

「海原に渡せ!」

 

「!は、はい!」

 

 逆サイドにいた海原にパスを出すものの、彼はパスの精度が持ち味であり、イマイチ突破力には欠けるのだ。当然、美濃道三のディフェンス相手に単独突破は厳しいだろう。

 

 しかし凪人の特訓を受けていた彼がそれを克服していない訳がなかった。

 

 海原は足元でボールを転がす。それに合わせてボールの下から海水のようなオーラが溢れ、それが海原と敵を阻み始めた。

 

「波乗りピエロォォ!!」

 

「な、何!?」

 

 すいすいと美濃道三のディフェンスが炸裂する前に素早く躱して突破する海原。その表情は自信と成功の嬉しさに満ちていた。

 

「正直本職のDF複数人よりも、斎村君一人にマークされる方がキツいよ!桐林!!」

 

「おうよ!」

 

 そして海原に託されたパスをダイレクトに左寄りのゴール前に来た凪人へ渡す。凪人とキーパーの一騎討ちだ。キーパーは斎村凪人相手に止められるのかという緊張感を抱きながらシュートに備え、構える。

 

「うおおおおおおっ!!……よっと」

 

 しかし凪人はシュート態勢で撃つ直前から一転してすんでのところでヒールでボールを真後ろに軽く蹴る。そしてそれを受け取ったのは凪人の後ろに隠れていたサトル。

 

 ボールを受け取ると同時に右寄りのゴール前に移動。キーパーは凪人を警戒していた為に左側。完全にフリーだ。

 

「決める!!」

 

『星宮!!』

 

『キャプテン!!』

 

 そうしてサトルがシュートを蹴り出そうとしたその時……、

 

 

「そうはさせないッスよ!!」

 

 何と壁山がゴール前……それもサトルのシュートコース上にに躍り出たのだ。そして何としてもゴールを守るべく、身体から湧き上がる必殺技を発動する。

 

「ザ・ウォール改!!」

 

「そんな!!折角必殺タクティクスを決めたのに……」

 

 逢崎の悲痛な声が響く。しかしサトルと凪人の瞳には諦めの色は無かった。凪人はサトルならば決められると信じている。そしてサトルの眼には壁山ではなく、全く別のものが見えていた。

 

『サトル!いつかまた、一緒にプレーしよう!』

 

 思い出すは母の故郷であるイタリアの風景。そこで出会った友の言葉。

 

(こんなチャンス……もう二度と無い!斎村君が強化委員として来てくれたから……日本一に挑戦するチャンスがある!それをものにすれば日本代表にだって……!!

 

 

僕はフットボールフロンティアで優勝して…日本代表になって、もう一度フィディオとプレーするんだ!!)

 

 彼ならば必ず世界の舞台に来る。そう確信を持っているからこそ、夢の舞台に立つ為に……スポンサーを得る為に、負けられないのだ。

 

「絶対に決める!!オーディンソード!!!」

 

 魔法陣のようなオーラが展開され、そこから蹴り出すと同時に神聖な剣のオーラとなって突き進む必殺シュート。それを見て閃電イレブンに衝撃が走る。中でも原作知識を持つ凪人に。

 

(オーディンソードだと!?あのフィディオ・アルデナの必殺技じゃないか!!どうして星宮がこれを!?)

 

 イタリア人とのハーフとは聞いていたが……それでも尚余りある衝撃。

 

 そしてサトルのオーディンソードと壁山のザ・ウォールがぶつかり合う。

 

「「おおおおおおっ!!!」」

 

 壮絶なぶつかり合いの果てに……オーディンソードはザ・ウォールをその剣先で砕き、ゴールネットに突き刺さった。

 

 2-0

 

 追加点。閃電が鉄壁を誇る美濃道三相手に2点も奪ってみせたのだ。強化委員の凪人ではなく、元から閃電にいたメンバーが決めたのだ。

 

「や、やったぁぁ!!」

 

『取ったぞーーー!!』

 

 そして同時に試合終了のホイッスル。どうやらこの攻防によって予想以上に時間を消費していたようだ。凪人自身、ホイッスルが鳴ってから時間に気付いた。

 

(我ながら相当熱くなってたみたいだな……)

 

 そして美濃道三で強化委員の役目を果たしている壁山の前に出て手を差し出す。

 

「お疲れ。今回は俺達の勝ちだな」

 

「……やっぱり斎村さんは凄いッス。たった二ヶ月で閃電中をこんなに強くしちゃうんスから」

 

「何言ってんだ。お前だって凄いじゃないか。鉄壁の守り……千羽山よりも上なんじゃないか?たった一人でよくここまで指導したな。お前の成長にも驚いたぞ」

 

「斎村さん……」

 

「とはいえ……守る事ばかりに気を取られて弱点が丸出しなのは減点対象だがな」

 

「えっ」

 

 それから凪人は延々と美濃道三の弱点を語り始める。相手が攻撃で押してくるのではなく、守備を固めて引いてくる戦術で来た場合の末路。自力で攻める力に欠けている点。

 

 それらを分かった上で成長の為に自分達は正面突破を選んだ事。

 

「……とまぁ、要するにカウンター喰らったらなす術なくやられちまう訳だ。オーバーライドに頼り過ぎ。今後はレンサ・ザ・ウォールのゴリ押し守備を無理矢理攻撃に変えずとも、ちゃんと自分達で点を取りに行けるようにするのが課題だな」

 

「は、はいッス……けど今ので自信吹き飛んだッス……」

 

「はははっ!ま、完璧なチームなんて無い。だから少しずつ欠点を改良していくんだ。その為に散り散りになったのが俺達強化委員だろ?」

 

 バンバンと壁山の背中を軽く叩きながら、久しぶりに雷門イレブンとして笑い合う凪人と壁山。閃電イレブンと美濃道三イレブンは良い試合をした事で互いに讃えあっている。

 

「さぁ、この後の試合と残り四日間戦い抜いて……スポンサーを獲得するぞぉーーー!!」

 

『おおーー!!』

 

 凪人の叫びに同調して気合いを入れ直す閃電イレブン。そして観客席から彼らを見守る者がいる事に……誰も気付いてはいなかった。

 

「閃電中か……この大会で君達と戦えるかは分からないが……楽しみにしているよ。斎村君」




オリジナル必殺タクティクス

【チャージ式時限爆弾】
TTP 50
威力:アルティメットサンダーより少し弱い

主人公がアルティメットサンダーを参考に編み出した必殺タクティクス。アルティメットサンダー同様にボールにエネルギーをチャージするが、六人がかりで少しずつというやり方。これは一定時間でエネルギーを放出して衝撃波を生み出すという性質にした上で相手側に放り込めるようにする為。一歩間違えれば自爆に繋がる。初見殺しな為、余程の間抜けでもない限り二度は通用しない。

ゲーム風説明文
ボールに皆のパワーをチャージ!タイミングを見極めてドッカーン!敵のディフェンスをぶっ壊せ!


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見習いの神様

オリオンの刻印……ずっと思ってたけど、風丸と不動の背番号、普通逆じゃね?


 side三人称

 

 スポンサーを獲得するべくこの五連休を利用して大会という名の連戦練習試合に参加した閃電中イレブン。今日がその最終日であり、現在している試合こそ今回彼らがする最後の試合である。

 

 残り時間も僅かな中、桐林の出したパスがゴール前のサトルへと届き、トラップしてすぐにシュートへと移行する。

 

「オーディンソード!!」

 

「くっ!うああああっ!!」

 

『決まったぁーーー!!閃電中キャプテン星宮の必殺シュートが青葉学園のゴールに突き刺さったぁー!!これで6点目だ!!』

 

 ピッ、ピッ、ピーーーー!!

 

『ここで試合終了のホイッスル!!閃電中vs青葉学園は6-0で閃電中の完全勝利!!この試合のMVPはゴールキーパーの堂本でしょう!!全てのシュートを止め切り、無失点を誇った次世代のスーパールーキーです!!』

 

 閃電イレブンはこの大会において全戦全勝を誇り、この大会を開いた全ての企業から注目を受けていた。元々が弱小だった故に強化委員の派遣と共に爆発的に実力を上げている閃電中の存在は非常に目立つのだ。

 

「しゃあっ!!勝ったぞ!!」

 

「これで大会は全戦全勝!これならスポンサーだって付くんじゃないか!?」

 

 口々に喜びの言葉を出す閃電イレブン。今回は試合に出場せずにベンチから彼らの活躍と成長具合を見ていた凪人も思わず頬を緩めてしまう。

 

「斎村さん!思った以上に皆強くなってます!これなら……!!」

 

「ああ。フットボールフロンティアの全国上位も充分に狙える。ここまで成長が速いとは俺も予想外だ……」

 

 マネージャーである時枝の意見に同意しながら、この試合で取れた閃電イレブン全員のデータを確認する。

 

(……そろそろ連携必殺技やオーバーライドにも挑戦出来るか?一度風丸か修也と連絡を取って合同練習や練習試合を組んで貰えないか頼んでみるか……)

 

 思った以上に上手く事が運んでいて凪人自身、内心ウキウキしてしまう。近い内に雷門のイナビカリ修練場を使って特訓させるつもりではあるが、フットボールフロンティアが始まる頃には本当に全国トップに君臨しているかもしれない。

 

「やったっすよ斎村さん!全勝です!!」

 

「おう堂本。良くやった。ゴッドハンド、格好良かったぜ」

 

 試合相手への挨拶を済ませ、ベンチに集合する閃電イレブン。まだまだ体力にも余裕がある。彼らの潜在能力は凪人が思っている以上に高いのかもしれない。

 

「良し!じゃ休憩が終わったら、Bグラウンドに行くぞ。丁度良く始まるはずだ」

 

「始まるって…?」

 

「世宇子中の今大会最終戦だ」

 

****

 

 side凪人

 

 俺達閃電中の大会での試合は全て滞りなく全勝で終わった。だがそれ以上に気になる試合がある。あいつらは俺達と同じくこれまでの9戦を全勝し、これが残り最後の一試合だ。都合良く俺達の試合が終わってスケジュールが整った事でようやく観戦出来る。

 

 世宇子中vs海王学園

 

「前回のフットボールフロンティア準優勝校、世宇子中か……」

 

「雷門サッカー部が強化委員として一時的に解散している以上、実質的に現状日本No.1の実力のチームだ。神のアクアによるドーピングが明るみになったとはいえ、その実力は本物だ」

 

 特にアフロディ。奴のシュートは例え神のアクアが無くとも円堂がマジン・ザ・ハンドを使ってようやく止められるレベルだ。フットボールフロンティアでは必ず目の前に立ち塞がる。……一応仲間達が強化委員として各地に散らばる前に俺の知る原作の…脅威の侵略者ルートでの技に関するヒントや助言をさり気なく伝えてはいるが、それを活かせるかはあいつら次第だ。それが出来なきゃアフロディ率いる世宇子を倒すのは難しい。

 

 因みにそれぞれに教えた無印での技のヒントは染岡にはワイバーンクラッシュ、修也には爆熱ストーム、風丸には風神の舞、円堂には怒りの鉄槌とイジゲン・ザ・ハンドといった感じだ。そこから上手く無印の技を会得してくれれば良いんだが。……不安だ。特に修也。木戸川清修であの魔神を出す爆熱ストームを修得出来るだろうか……。メンバーがあの三兄弟だからなぁ…。

 

 いや、それとなく沖縄の大海原中に行ってみないかとか提案してみたんだが……冗談としか受け取られなかったんだ。

 

 因みに世宇子はフットボールフロンティアでの神のアクアによるドーピングの事からこの大会では試合毎に徹底した検査を受けている。またドーピングをしていたら勝っても誰も世宇子のスポンサーになろうとはしないだろうし、これは当然の処置だ。

 

「あ、始まりますよ!」

 

 赤木に言われて俺はピッチに立つアフロディ達世宇子を観察する。デメテルとアフロディが敵陣目掛けて真っ直ぐに走り出す。そのスピードと突破力を対処出来るDFは海王学園にはいないようで、すぐにアフロディがゴール前に辿り着いてしまった。

 

 アフロディはすぐに六枚羽の純白の翼をその背中に広げる。それと同時に浮かび上がったボールに羽のエネルギーが稲妻となって注がれながら、アフロディはその翼で飛翔。そして最後にシュート。

 

「ゴッドノウズ!!!」

 

「……やっぱやるなーアフロディ。神のアクアなんか無くても滅茶苦茶強え」

 

 当然海王学園のキーパーには止められずにゴール。世宇子が先制点を掴み取った。

 

 神のアクアを使っていない今でもその威力は健在。いや、むしろパワーアップしている。来年のフットボールフロンティアでは確実に無印でもあったゴッドブレイクを使ってくるだろうな。今の堂本のままじゃ絶対に止められない。勿論円堂だってゴッドブレイクを止めるにはマジン・ザ・ハンドじゃ無理だ。上手く怒りの鉄槌とイジゲン・ザ・ハンドを修得してくれれば……。

 

「リフレクトバスター!!」

 

 そんな事を考えていればデメテルのリフレクトバスターで追加点。

 

「強い…これが世宇子中……!!」

 

「ああ。けど、これまでの世宇子とは根本から違う」

 

「え?」

 

 以前の世宇子はメンバー全員が神のアクアによって絶対的な力を得たと思い込み、嫌な自信に満ちていた事からチームなんて形だけ。11人全員が各々思うように勝手な動きをしていた。実際それで勝てていたからサッカーは11人でやるという基本的な事すら忘れていた。

 

 必殺技だってそうだ。あいつらの中に連携必殺技を使う奴らはいなかった。全員が個人技で向かって来た。

 

 確かにサッカーにおいて卓越した個人技能は必要だ。だがそれ以上に必要なのはチームプレー。それが出来ない奴はいずれ破滅する。雷門との決勝戦の時だってそれが出来ていれば結果は違っただろう。

 

 だが今の世宇子は違う。神のアクアが間違っていた事に気付き、自分一人で出来る事なんてたかが知れている事を知っている。一人では限界があるという事を正面から認めている。

 

 だから手を取り合っている。仲間を信じてパスを託す。相手を倒す為に仲間の力を借りる事を知っている。

 

「……強いぞ。今の世宇子は」

 

 思わず口の端が上がっていた。今の世宇子はフットボールフロンティアの時とは比べ物にならない。神ではなく、人としての強さを勝ち取る為にがむしゃらに頑張る。

 

「はああああぁぁっ!!」

 

「ふっ!」

 

 アフロディが出したパスをデメテルがヘディングでダイレクトにゴールへぶち込む。……ふと思ったがあのヘルメットは良いのか?ヘディングの威力上げてそうなんだけど。

 

 とにかく世宇子はチームプレーをメインに試合を運び、勝利へと迫っている。

 

「アフロディ達はもう大丈夫だな。最初雷門の強化委員の派遣を断った時は決勝戦の事根に持って逆恨みされてるんじゃないかと心配になったけど……それも無さそうだ」

 

「……因みに世宇子が強化委員の派遣を断らなかったら誰が行ってました?」

 

 不意に時枝がそんな事を聞いてきた。

 

「あ?……う〜ん、消去法で円堂か俺じゃねぇかな?殆どの奴は行きたがらないだろうし」

 

 鬼道が行けば影山関連でギスギスしそうだし、風丸は風丸で行かせたら苦悩するだろうから……染岡は100%モメる。となるとキーパーのポセイドンがじきに卒業する事も踏まえて円堂か……チームの統率を図る目的で俺になっただろうな。

 

 勿論、俺や円堂が行く気になってたらの話だが。俺は世宇子に行く選択肢も考えてたが。

 

 試合はもう終盤に差し掛かっている。得点差は9-0。ここまで来ると海王学園の健闘振りに目が行く程だ。あの世宇子相手に9で抑えられているのは凄いと言えるし、時間的に逆転も不可能なレベルなのに諦めずに戦っている。普通はこうはいかない。

 

「世宇子…王帝月ノ宮よりずっと強え」

 

「どうだ?あいつらと試合してみたいか堂本」

 

「はいっ!!ゴッドノウズ……俺の手で止めてみたいっす!!」

 

 100点満点の回答だ。そしてここで試合終了のホイッスル。勿論世宇子の完勝だ。神のアクアによるドーピングは無いと大会側で厳正に診察したんだ。紛れもなく実力で勝ち取った勝利。世宇子にもこの大会でスポンサーが付くだろうな。

 

「おっ。会田監督からだ」

 

 そしてこのタイミングで監督からメール。その内容は勿論この大会の趣旨……スポンサー獲得の件だ。結果は……

 

「……スポンサーになりたいって企業が名乗り出てくれたらしい!それもかなりの数が!これからどの企業にスポンサーになって貰うか決めるってさ!俺と星宮が呼ばれた!」

 

『おお!!』

 

 これでサッカー部の設備もどうにかなるだろう。それにフットボールフロンティアにも出場出来る。後今日やる事は……

 

****

 

 side三人称

 

 世宇子中vs海王学園の試合が終わってから、一時間後に閉会式をする為、初日の開会式を行ったグラウンドに各チームは集合する事になった。

 

 アフロディはそれまでの時間、疲れを癒す為に単独行動を取り、自販機でスポーツドリンクを買おうとしていた。

 

「……この大会では全勝出来た。けど、問題はスポンサーが付くか」

 

「付くに決まってるだろ。お前達は自分達の実力を示したんだ。問題無い」

 

「!」

 

 すると背後から知り合いの声がアフロディに向けられた。彼は迷わず振り返ってその人物と顔を合わせる。

 

「斎村君…」

 

「よっ!世宇子の控え室に行ってもいなかったからさ、他のメンバーに聞いて探したぞ」

 

 そう言って凪人はアフロディが買おうとしていたスポーツドリンクを投げ渡す。アフロディは少しだけ驚いたものの、難なくキャッチする。

 

「やるよ。お疲れさん。今日の試合、痺れたぜ?」

 

「……フッ」

 

 アフロディは凪人の言葉に微笑むと凪人に貰ったスポーツドリンクのキャップを開いて飲み始める。すると凪人の瞳はキラリと光った。

 

「神のアクアだけどな。ソレ」

 

「!?…っぶはっ!?ゲホッ!!ゲホゲホッ…!!!」

 

「……冗談だよ。悪かった」

 

 あまりに唐突で不意打ちが過ぎたのかアフロディはむせてしまう。流石に冗談にしては悪質過ぎたと反省した凪人はアフロディの背中を軽く叩いて落ち着かせる。

 

「……全く君は…いや、君の冗談を責められる立場じゃないな」

 

「……やっぱ気にしてたんだ。神のアクアの事」

 

「ああ。フットボールフロンティアが終わってから……ずっと後悔していた。雑誌に書かれたよ。『世宇子の強さは偽物だった』ってね。……偽物じゃない。皆一生懸命努力したんだ。神のアクアなんて無くても世宇子は強かったはずだ。あんな事は間違っていた。僕はキャプテンとして……どうしてもっと早く気付く事が出来なかったんだって…」

 

「……」

 

 アフロディの嘆きに凪人は何も言わない。事実だからだ。同情も言い訳も必要無い。凪人が慰めても意味が無い。大切なのはこれからどうするかなのだから。

 

「でもある人が言ってくれたんだ。人は誰でも間違いを犯すものだって。大事なのはその後…その間違いを乗り越えて前に歩いて行けるかどうかだって」

 

「!」

 

 奇しくも凪人と同じ考えを他の誰かに言われて立ち直る事が出来たらしい。

 

「……そっか。良い人だな。その人」

 

「うん……。それで気付いたんだ。僕は神様なんかじゃないって」

 

「……今更?」

 

 思わず呟いてしまう。フットボールフロンティアの時から神を自称していたが、ドーピングは後悔してもその時まで自分を神と言い張るのは変わらなかったらしい。ある意味彼らしいとも言えるが。

 

「……だから決めたんだ。やり直すんだ。見習いの神様として」

 

「ブレないなお前……」

 

 呆れているようで苦笑してしまう。それでこそアフロディとも思う自分がいる。アフロディはそんな凪人に向き直って話を続ける。

 

「だから君達に……雷門の皆に言いたかったんだ。ありがとう。間違いに気付かせてくれて」

 

「そう思ってくれてんなら、試合で示してくれよ?」

 

「勿論さ。君達強化委員の派遣されたチームに勝つ事でその恩に報いるつもりさ。だから強化委員を断ったんだ」

 

 何の憂いもなく話が出来た事で満足した凪人とアフロディは互いに背を向けて歩き出す。

 

「……次のフットボールフロンティアの地区予選、恐らく世宇子と閃電は戦う事になる。その時は絶対に負けない」

 

「俺だって、本気でお前達に勝つつもりだ。雷門最強のライバルである世宇子に!!この閃電イレブンで!!」

 

 背を向け合っているのにお互いがクスリと笑っている事が理解出来る。

 

「じゃあ……」

 

「またな」

 

 そうして凪人とアフロディは自分のチームの元へ歩き出した。再戦を誓い合って。




つーわけでネタバレっぽいですが、アレスの天秤編で閃電と世宇子は戦います。
アニメの描写があまりにもお粗末だったのもある。

因みに主人公もアフロディも予選は前回と同じトーナメントだと思ってます。まだ現時点ではグループリーグとは知らないので。


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合同練習

アレス開始前にアウターコードの第3話はやっておきたい。


 side凪人

 

 あの大会の結果、見事俺達閃電中にはスポンサーが付いた。企業は大手の楽器製造会社、『神童インストルメント』だ。あの神童財閥の系列社でもある。

 

 神童財閥ーーーつまり、あのイナズマイレブンGOの神童拓人の父親がトップに立つ財閥だ。

 正式にスポンサー契約を結ぶ際に監督として会田監督、キャプテンとして星宮、強化委員として俺が挨拶したんだけど、その際神童財閥総会長の側にちょこんとちっこいのがいた。てかあの子普通に神童拓人だった。なんかすっげぇキラキラした目でガン見された。

 

 それで契約の話をしていればてくてくとその子は俺の足元に来て、下ジャージの裾を小さい手でギュッと掴んで来た。その手にミニサイズのサッカーボールを持ちながらパクパクと口を動かそうとして……でも何も言って来なくて俺は少し困惑した。

 

 すると総会長さんが代わりに神童……いや、拓人君は天河原中との試合を観てからずっと俺の事が気になってたようでサッカーを教えて欲しかったらしい。シャイニングランスで決めたのを観て大興奮だったんだとか。

 

 中々話を切り出せなかったのは元々人見知りが激しくシャイだった為だとか。そういやGO原作でも泣き虫だったり色々あったからなあの子。

 

 とりあえずその事については快く了承しておいた。偶に相手をする感じで。小さな子の憧れになるのは悪い気はしないし、本人がサッカーをやりたいのなら教えてあげるのは何ら苦ではない。………中学生になったら雷門じゃなくて閃電に入ってしまうんじゃないかと少し不安になったが。

 

 そして何よりのビッグニュースが……、

 

「これが……新しいユニフォームだぁ!!」

 

『おおおーーっ!!』

 

 そう、スポンサーが付いた事から心機一転という事で俺達閃電中のユニフォームを新デザインの物に変える事になったのだ。これぞスポンサーの粋な計らい。しかもそのユニフォームのデザインは原作イナズマイレブンGOの天馬世代の雷門と全く同じだった。これは俺が一番驚いた。勿論、真ん中には青字で『SHINDO』とある。

 

 ………エイリア学園が来なかったから絶対にGOはこの目で見られないっていう事へのあの神様からのせめてものサービスって事なのだろうか?だとしたら少し複雑だ。

 

「これが僕達の新ユニフォームかぁ……かっこいいなぁ!!」

 

「なんかこう……気合いが湧き上がってきますよね!!」

 

「スポンサーも付いて新ユニフォームも……斎村さんが来てくれてからなんかすっごい順調ですよね俺達!」

 

 星宮、種田、刀条を中心に和気藹々と盛り上がっているな。……けど、フットボールフロンティアが始まるまではただ勝ち続けるだけなんてさせるつもりは無い。負ける事を忘れたら意味が無いからな。優勝するにはどちらも必須だ。その後世界を相手にするなら尚更だ。

 

「さて、ここで重大発表だ!」

 

「?重大発表……?」

 

「定期的にあるチームとの合同練習を行う事にした。あいつらのレベルを目の前で見た上で挑み続けるんだ。これまで戦ったどのチームよりも強いチームだ。勿論あの王帝月ノ宮よりもな」

 

「王帝月ノ宮以上……!?」

 

 王帝月ノ宮の名前を出すとこいつら全員の表情がより真剣なものになる。こいつらからしても王帝月ノ宮は絶対に倒したい相手なんだろう。まぁあれだけズタボロにされたからな。リベンジはしたいだろう。

 

 そして実際に両方と戦った俺だからこそ判断出来る。王帝月ノ宮の成長スピードにもよるから『アレスの天秤』の原作が始まる頃にはどのくらいか分からないが……現時点ではあいつらは王帝月ノ宮より遥かに強い。

 

「それで……そのチームは……?」

 

 神妙な顔付きで尋ねる星宮の言葉に俺は口の端を吊り上げながら答えた。

 

「帝国学園」

 

****

 

 side三人称

 

 サッカー強化委員派遣より約三ヶ月。閃電イレブンは東京のサッカー名門校、帝国学園を訪問していた。

 

 帝国学園と言えば昨年の地区予選決勝にて雷門に敗北するまで無敗神話を誇った学校でそれまで過去40年に渡ってフットボールフロンティア全国大会で優勝し続けた強豪チームである。

 

 昨年の全国大会では前年度優勝校に与えられる特別出場枠にて参戦。惜しくも初戦で世宇子中と当たり、一回戦敗退となったが、世宇子の神のアクアによるドーピングが無ければ間違いなく決勝戦にまで勝ち上がっていただろう。これは世論の大半が同意している意見だ。

 

「まるで要塞じゃねーか……こえー」

 

 城之内のコメントに海原がコクコクと頷く。この物騒な雰囲気の校舎は外部の学生からすれば見るだけで緊張を誘う。こんな恐ろしい校舎だが、帝国学園はサッカーの実力だけでなく、学力でも全国一位を誇る。

 

「懐かしいな。ここで鬼道達に勝ったんだよな。………鉄骨が落ちて来た時はマジでビビったけど」

 

「斎村君……本当に帝国学園との合同練習を定期的に……?」

 

「ああ!今回は俺達が訪問するけど、一回ずつ交代で次は向こうが俺達の学校に来る。それと、これとは別に雷門に行ってイナビカリ修練場でも特訓するからハードワークになるからそのつもりでな」

 

「というか……よくOKして貰えたね。僕達こないだまで全然勝てなかったのに。……未だ弱小のレッテルは剥がし切れてないし」

 

「大丈夫だって!俺から風丸と佐久間に頼んだのもあるけど、あいつらだって王帝月ノ宮との練習試合を観て閃電にその価値があると判断したからOKしてくれたんだ!もっと自信を持て!」

 

 少し不安なのかやけに深呼吸の多いサトルとどこか楽観的な凪人。そして二人の会話をよそに熱く燃え上がっている堂本。

 

「強豪帝国学園っ!!どんな練習してんのかなぁ!!くぅ〜っ!」

 

「お前はもーちょい堂本を見習え。あんな熱血馬鹿になれとは言わんが」

 

「……うーん」

 

 そして帝国学園サッカー部のマネージャー(男子)に案内を受け、控え室でユニフォームに着替えてグラウンドに向かえば帝国イレブンが既に準備運動を始めていた。

 

「……来たか!斎村!」

 

「よっ!ひっさしぶりだなぁ!!風丸!元気だったか?」

 

 凪人は朗らかな笑顔で帝国学園に強化委員として派遣された風丸に話しかける。風丸もまた久しぶりに会った友達との会話は少なからず楽しみだったようで笑いながら話す。

 

「ああ。しかし今回の合同練習の件は驚いたよ。お前なら円堂か豪炎寺に頼むような内容だったからな」

 

「つっても修也はともかく、円堂の利根川東泉はまだ部員集めの段階じゃん……あいつ大丈夫かな?来年のフットボールフロンティア出れるよな?」

 

「……まぁ、円堂なら大丈夫だろう。………多分」

 

 若干円堂の現状が心配な二人であったが、今は強化委員としてやるべき事に集中する。円堂ならきっと大丈夫だと信じているのだ。多分恐らくきっと。

 

「木戸川清修だとちょっと距離が遠いってのもあるんだが、閃電の今後の課題の事も考えると風丸と帝国学園っていう組み合わせの方がプラスになると判断したんだよ」

 

「そうか。でも俺達だって黙って色々と吸収される訳じゃない。閃電の急激なパワーアップの秘訣を盗んで帝国が日本のトップに再び君臨する為の糧にするつもりさ」

 

 だが凪人の真の目的は他にもある。一つは原作無印でイナズマジャパンにメンバー入りした風丸と佐久間に無印並の成長を促す事。これは合同練習する閃電から見ても将来の日本代表から見てもプラスになる。ついでに言えば無印での必殺技を修得する為のサポートやいずれ転入してくるであろう不動明王の情報を得る事。

 

 もう一つはじきに刑期短縮によって釈放される影山零治が帝国学園総帥に返り咲く際に風丸が奴に従う事になる原因を探り、あわよくばそれを排除して防ぐ事。風丸が影山に従うなんてのは結果的に碌な事にならないのは分かっている。……それでも影山か帝国に戻って来るのはどうにもならないが。

 

(……風丸が影山に従うようになる理由……それを突き止めねぇと)

 

 ……後は帝国学園の必殺技…特に連携必殺技を学ぶ為だ。閃電が成長するには帝国学園の統率力による連携を学ぶ必要がある。

 

 そして凪人と風丸の会話を見計らって佐久間が話しかけて来る。

 

「そろそろ話は終わったか?じゃあ早速始めるぞ」

 

「ああ!でもその前にこっちから自己紹介しとかないとな。ほら星宮!キャプテンのお前が名乗らないでどうすんの」

 

「あ、うん!えと……僕は閃電中サッカー部キャプテン、星宮サトルです!ポジションはMFで……」

 

****

 

 side凪人

 

「よーし、一旦ここまで!30分の休憩だ!!」

 

『ありがとうございました!!』

 

 流石は帝国学園。かなりハードで質の高い練習だった。今は不在とはいえ、影山の指導能力の高さが良く分かる。閃電の為って意味じゃ組んで正解だったな。この合同練習。

 

 それに、やっぱり帝国学園もかなりレベルアップしていた。今のまま試合をしたんじゃ俺達は絶対に勝てない。風丸のプレースタイルに影響されたのか、個人でのドリブル能力やディフェンステク、そして連携の息の合わせ方が格段に上がっていた。以前は鬼道がタイミングを測らないと撃てなかったデスゾーンを完璧に撃てる程だ。

 風丸は風丸で帝国の練習を元にその技能を取り入れてDFよりもサイドのMFとしての能力が上がっている。佐久間と寺門との皇帝ペンギン2号で簡単に堂本のゴッドハンドをぶち破ったし、やっぱメチャ強え。風丸も帝国も。

 

 エイリア学園の事件も無いから風丸は精神的な焦りも見当たらない。無理に力を求めようとしない分、順調にしっかりと着実なレベルアップが出来ている。

 

 ……本当にどうしてこいつこのルートで闇落ちするんだ?

 

「ほら、お疲れ」

 

「ん。サンキュー」

 

 そんな事を考えてたらその風丸本人からスポーツドリンクを手渡されたので受け取り、飲む。うん、美味い。

 

「しっかし流石風丸だな。帝国、すっげー強くなってるじゃん」

 

「それを言えば閃電だってそうだろ?うかうかしているとすぐに追い抜かれそうだ」

 

「こっちはそのつもりだっての。フットボールフロンティア優勝は俺達が頂く。帝国も木戸川も全部蹴散らしてな」

 

「ふふっ。俺達だってそう簡単に負けるつもりは無いさ」

 

 ……やっぱ雷門の仲間と一緒にいると楽しいな。特に風丸は良い感じに燃え上がらせてくれる。円堂だと逆に熱くなり過ぎて周りが見えなくなる事も多いからな。

 

「……そうだ、斎村。お前知ってるか?鬼道の事なんだが…」

 

「鬼道?……確か星章学園だったか?あいつの派遣先のチーム」

 

「ああ。鬼道が派遣された星章学園は……閃電にも負けない程の成長速度で実力を上げて行っているらしい。いや、強化委員派遣前の実力を考えると無名だが、平均的な実力だった星章学園の方が現在の実力は上だ」

 

 ………星章学園か。確か『アレスの天秤』での主人公の一人、灰崎の所属するチームだったな。でも今はまだ灰崎はいないらしいから来年入学するんだろう。前世で観たPVではラストでデスゾーンを撃とうとしていたからかなりインパクトの強い奴だった。宇都宮虎丸とどっちが凄いんだろうな?

 

「……構わないさ。元々鬼道と派遣先の星章学園は倒すつもりだったんだ。そもそも日本一を勝ち取る為にはどっちにしろ戦うしな。勝つ為にももっと強くならないとな」

 

 結局やる事は変わらない。閃電を強くして、俺自身も強くなる。そして勝つ!実に単純だ。実際にはもうちょっと複雑に考える必要があるんだが。

 

「じゃ、休憩終わったら必殺技の特訓といこうぜ!ちょっと考えている必殺技を完成させる為に必要な事があってさ……」

 

 こうして、俺達閃電中と帝国学園はフットボールフロンティアが始まるまで定期的に合同練習をする事が決定した。これが風丸が影山に従う理由を知る為、そしてそれを防ぐ為に役立つか……甚だ疑問な所だが。




因みに堂本のユニフォームは三国さんのと同じではなく、天馬のGKユニフォームと同じです。背番号は普通に1。

風丸の強化委員や個人としての能力が原作より高いのは普通に主人公の影響です。


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サッカー強化委員の成果

今回はペンギンを継ぐ者の1話を使ってます。


 side三人称

 

 円堂守率いる雷門中サッカー部はフットボールフロンティアを制した後、日本が世界に羽ばたく為、日本の中学サッカーのレベルを底上げする『サッカー強化委員』として全国各地の中学校に散って行った。

 

 実際に彼らの加入したチームはメキメキと実力を上げ、その殆どが全国の中学サッカーのランキングにおいても上位に君臨している程だ。例外もあるが。

 

 中でもその代表格のチームは二つ挙げられる。

 

 一つはかつての帝国学園キャプテンであった天才ゲームメイカー鬼道有人が派遣された星章学園。

 

 もう一つは雷門の副キャプテンであり、鬼道と肩を並べる程の司令塔、『フィールドの軍神』斎村凪人の派遣された閃電中。

 

 他にもエースストライカー豪炎寺修也が派遣されたかつての古巣、名門木戸川清修中に風丸一郎太の派遣された40年連続優勝の帝国学園。雷門の点取り屋こと染岡竜吾が派遣された昨年の全国大会ベスト4の白恋中……。これらが該当するだろう。

 

 サッカー強化委員が派遣された事により、全国の中学サッカーのレベルは格段に跳ね上がっていた。全ては日本が世界に羽ばたく為に……。

 

 そして迎えた4月……彼らの学年も上がり、いよいよ今年のフットボールフロンティアが近付いていた……。

 

 今日この日、かつての雷門イレブン……現サッカー強化委員の内、四名が稲妻町のある場所、ある店の前に集まっていた。その周囲にいる一般の人々はその四人に視線が釘付けになっている。現在中学サッカーはスポンサーを必要とする程に人気なのだ。その立役者であり、昨年の優勝チームのメンバーであり現在はサッカー強化委員を務める彼らは何処へ行こうと目立つ存在になっていたのだ。

 

「ありがとうございましたー」

 

 アイスクリーム屋の店員の声が程々に響き、11段重ねというアイスを購入した少年、円堂守は後ろを振り向いてそこにいる友三人に話を振る。

 

「いやぁ…まさか俺達が別々のチームになるなんてなぁ〜」

 

「……今更過ぎねえか?」

 

 円堂の最初の一言に呆れつつ、クレープを頬張る斎村凪人。彼は周囲からの視線に辟易としながらすぐに食べ終えて飲み込む。

 

「あはは……俺のチーム、つい最近発足したばっかでさ。あんまり実感無くて……」

 

「だから最初から人数揃ってる所に行けって言ったろ?もうサッカー強化委員派遣から半年以上経ってんだし、それだけ期間ありゃあいくらでもチームの強化なんて出来ただろうに」

 

 凪人の言葉は客観的に見れば正しい。彼自身、これまで勝った事の無かった弱小チームを今や全国ランキングの上位……それもあの帝国学園や木戸川清修を抜いてトップクラスにまで成長させたのだ。言葉の重みが違う。

 

「あはは……でも大丈夫さ!本当にサッカーが好きな奴らが集まったから!これからドンドン強くしていくさ!!」

 

「……ま、お前はそうだよなぁ。期待してる。全国大会で白熱した勝負が出来るってな」

 

 するとそれまで黙っていた豪炎寺修也はジュースのストローから口を離し、不敵な笑みを浮かべながら話に参加する。

 

「凪人、円堂……俺達の事を忘れた訳じゃないだろうな?特に凪人。今の所は全国ランキングで木戸川清修は閃電に負けているが、油断をしているならいつでも足元を掬ってやるぞ?」

 

「忘れてねーし、油断もしねーっての。こっちこそ木戸川清修はターゲットの一つなんだ。俺達に負ける前に他に倒されてくれんなよ?」

 

「言ってくれるな……」

 

 ニヤリと笑い合う凪人と豪炎寺。その様子を見てますます熱くなった円堂はウキウキしながら話す。

 

「でも早くお前らとやりたいぜ!サッカー!」

 

「ふふ。木戸川清修は強いぞ」

 

「閃電が最強だね。円堂や修也にだって負けない凄え奴を二人も見つけたんだ」

 

「おおっ!そいつらどんな奴らなんだ!?」

 

「……堂本衛一郎と星宮サトルだろう?俺達もあの二人はマークしているからな」

 

「修也正解。知りたきゃ自分で調べてみな円堂」

 

「え〜!?何だよそれ〜!?」

 

「王帝月ノ宮との練習試合を観に来なかったお前が悪〜い♪」

 

 円堂だけが他のチームに関する情報を全くと言って良い程に持っていなかった為、凪人のチームについて知りたがるが凪人は教えない。他のチームに態々情報を流す気がないのもあるが、そのくらい調べられないようでは後々円堂自身が困るようになるからだ。まぁ一緒に利根川東泉に派遣された木野がなんとかするだろうが。

 

「……で、鬼道の学校はどうだ?いたか?ビリビリ来る奴」

 

「難しいだろう。鬼道は厳しいからな」

 

 そして円堂はここに集まった最後の一人……鬼道有人に強化委員としての成果を尋ねる。鬼道はジュースのストローから口を離してニヤリと笑ってから答える。

 

「ふっ……いない訳ではない」

 

 刹那、円堂と豪炎寺に衝撃が走る。

 

「えっ!?鬼道の目に留まった奴がいるのか!?すげーなそいつ!!一体誰なんだ!?」

 

 興奮して身体を大きく揺らす円堂。そんな彼の右手に握られたコーンの上に積み重なった11段アイスが揺れる。その方向に座っているのは……凪人。

 

(………あっ)

 

「……人呼んで『フィールドの悪魔』」

 

 刹那、キメ顔のドヤ顔で鬼道がそう告げたのと同時に円堂の手にあった11段アイスは倒れ、その先に座っていた凪人の顔面にスパーキング。

 

「のあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"っ!!?」

 

「あーーーっ!!やっべぇアイス落ちたぁーーー!!!」

 

「11段とか欲張るからだ円堂!!」

 

「俺の心配ゼロ!?」

 

 顔面に大量の冷たいアイスがぶつけられた事により、冷たさによるダメージと重力に従って叩きつけられた事による地味な痛み、そして甘いアイスなので顔に付いてベタベタするという幾重もの攻撃を食らった一番の被害者である凪人。

 

 しかし円堂と豪炎寺は色々と論点が違った。

 

「あ、ごめん斎村……」

 

「ホラ、このハンカチを使え」

 

「お前らなぁ……うぅ、ありがとう」

 

 円堂と豪炎寺のあまりに遅い対応に怒りを覚えるものの、ハンカチを貸してくれた事については素直に礼を言い、顔を拭く。

 

 何はともあれ、完全に出鼻を挫かれた鬼道は一人シリアスになって黙る。ちょっと気不味い。

 

「……ったく、てか今は鬼道のチームの話だったろうが」

 

「あ、そっか。ごめん鬼道!それでそいつ、人呼んで何だっけ?」

 

「……いずれ分かる」

 

 そう言って鬼道はあくまでシリアスを保ってその場を去ろうとする。しかしそれに水を差すのが凪人である。

 

「そうか。灰崎凌兵って言うのか、そいつ」

 

「……お前、知っていたとしてもここで言うか?」

 

****

 

 それから数日後、鬼道は星章学園が獲得した新戦力、『フィールドの悪魔』灰崎凌兵の力試しと星章学園の成長確認の為、かつての古巣であり、風丸が派遣された帝国学園との練習試合を組む事にした。

 

 結果は3-4。帝国学園の辛勝だ。全国ランキング1位に君臨する星章学園にかつての絶対王者帝国学園が勝利を収めたのだ。

 

「はぁ…はぁ……!!」

 

「……正直、帝国がここまで強くなっているとは思わなかった。強化委員として上手くやれているようだな風丸」

 

「ああ……だが、お前が鍛えた星章学園の強さも……相当のものだ」

 

「……当然だ」

 

 互いに息を切らし、汗だくになりながらも互いの強化委員としての成果を知った事で讃え合う鬼道と風丸。しかし風丸としては今回の勝利には後ろめたいものがあった。

 

(……今回、鬼道の星章学園に勝てたのは……閃電中との合同練習や情報交換があったからだ。間近で成長する閃電中や斎村のアドバイスが成長の材料になっただけだ……!!今回、強化委員としての勝負は……完全に俺の負けだ)

 

 定期的に開催されていた閃電中との合同練習。それに伴う凪人からのアドバイス。そこから伝わる雷門魂。帝国の実力アップと今回の練習試合で星章学園に勝てた要素は完全に凪人と閃電からの恩恵によるものだったのだ。

 

(斎村からの申し出が無かったら……恐らく俺も帝国も現時点でここまで強くなる事は不可能だった。恐らく星章の足元にも及ばない程度の……)

 

 そう考え込み始める風丸だったが、背後からの大声によってそれは中断させられる。

 

「ククク……ハハハハハ!!!これが……最強と謳われた帝国学園……!!確かにハッタリって訳じゃねぇ……!!面白い……!!」

 

 負けたというのに……僅差だった故か、そこまで悔しがる様子は見せずに狂笑する星章学園の新入生……『フィールドの悪魔』灰崎凌兵。

 その内心は実際には敗北を前に腑が煮え繰り返っているのだが、風丸には嗤っている彼の異常性しか認識出来ない。

 

「……届かねえ差じゃねぇ。次やる時には叩き潰してやるよォ!!」

 

「おい!灰崎!!……すいません、まだ後輩の躾がなっていなくて……」

 

「あ、ああ……」

 

 捨て台詞のようなものを言ってグラウンドを去る灰崎。星章のキャプテンである水神矢は風丸や佐久間達帝国イレブンに謝罪してから彼を追いかける。

 

「……しかし末恐ろしい奴だった。今回の3点は全て奴に取られたからな」

 

「ああ…以前鬼道に頼まれて星章の練習に参加した時よりも更に……」

 

 源田と佐久間は以前、鬼道の頼みで数日間星章学園の練習に参加した事があり、その際に灰崎と知り合っていたらしいが……その時よりも遥かに強くなっていると聞き、風丸は尚更自分と鬼道の差を実感させられる。

 

 自分一人で星章をここまで押し上げた鬼道と凪人の力を借りなければ帝国を強く出来なかった自分……。

 

(……強化委員として、俺は……無力なんじゃないか?)

 

 風丸は無意識に握り締めた拳に更に力を込めた。

 

 強くなりたい。

 

 あの友のようにーーーーーー…。

 

****

 

 -北海道

 

 ここは北海道のある場所に位置する道内一のサッカー強豪校、白恋中。このチームは前回のフットボールフロンティアにて全国大会ベスト4に進出し、現在は雷門中からのサッカー強化委員として染岡竜吾が派遣されていた。

 

「真人っ!!」

 

「バイシクル…ファイアV2!!」

 

 豪炎寺修也の従兄弟であり、白恋の二大エースストライカーの一人、豪炎寺真人が放った、爆炎を纏ったバイシクルシュートがゴール目掛けて飛んでいく。白恋のキーパーをそれを受け止めようとするも、あっさり弾かれてゴールを決められてしまう。

 

「よーし、連携も随分スムーズに出来るようになって来た!来週には本州の強豪チームとの練習試合が控えている!気を引き締めていけ!」

 

『はい!』

 

 サッカー強化委員として派遣された染岡は雷門での経験を活かし、昨年の準決勝で戦った白恋の弱点である中盤の強化を中心にこのチームを指導していた。

 

「今だアツヤ!」

 

「おう!…エターナルブリザードV2!!」

 

 だがそれが上手くいったのも昨年のフットボールフロンティア準決勝があったからだろう。白恋のもう一人エースストライカー、吹雪アツヤはそれまでチームメイトを兄の士郎と自分と肩を並べる真人の二人以外を足手纏いと見做してこの二人以外とは録に連携しようとしなかったのだ。

 

 だがそれも雷門との試合で改善され、それ以来、チームプレーを尊重するようになった。染岡の強化委員としての指導が順調に進んだのもアツヤの改心が大きい。

 

「かなり順調だね。染岡君」

 

「士郎か……。ああ。やっぱ白恋に来て正解だったぜ。今のこのチームなら星章や閃電、帝国だろうと負けやしねぇ」

 

 キャプテンである吹雪士郎は染岡が派遣されて来てからの白恋の全体的な成長振りに確かな喜びを感じていた。

 

「それで染岡君、君の新しい技は完成したのかい?」

 

「ああ。ドラゴンクラッシュどころか豪炎寺とのドラゴントルネードすら上回る技を完成させた!斎村の奴にも「進化したドラゴンクラッシュを見せてくれよな」なーんて言われたからな。期待に応えない訳にはいかねぇ」

 

 そう言って染岡は氷上からパスを受け取るとキーパーにゴール前から退いて貰い、その技を披露する。

 

「これがドラゴンクラッシュを超えた……ワイバーンクラッシュだぁ!!!」

 

 こうして、白恋は染岡の加入によって順調にその実力を上げ続けている。エイリア学園との戦いが存在しないこの世界においてもワイバーンクラッシュを修得し、染岡はかつての雷門の仲間達とのフットボールフロンティアにおける激突を心待ちにしているのであった。




一応鬼道が原作より強い影響で星章も原作よりパワーアップしてます。帝国に比べると微々たる差ですが。

強化委員って自分の意思で派遣先決めたらしいけど、この小説はともかく、原作じゃ染岡は何を思って北海道の白恋に決めたのか……。


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帝国学園の新監督

風丸がアレス原作前のストーリーの準主役になってる件。


 side三人称

 

 フットボールフロンティア地区予選大会開始数日前、帝国学園ではある問題が浮上しようとしていた。

 

 サッカー強化委員として帝国学園へと派遣されて来た風丸一郎太は先日の練習試合にて全国ランキング1位の星章学園に帝国学園が勝利を収めた事から、強化委員としての手腕をあらゆる人物に高く評価され、認められていた。

 

 しかし本人からすれば星章学園に勝つ事が出来たのは閃電中とそこに強化委員として派遣された斎村凪人との合同練習のおかげでしかなかった。風丸自身は自分の力で帝国学園を強く出来た訳では無いと考え、強化委員として己がどうあるべきかで深く悩んでいた。

 

 そんな時だった。彼の前に雷門の宿敵が現れたのは。

 

 帝国学園の教員達から呼び出しを受け、指定された総帥室に向かえばそこで待っていたのはかつての帝国学園総帥、影山零治だった。

 

「影山……!?」

 

「久しぶりだな……風丸一郎太」

 

「何でお前が……!?世宇子と神のアクアの件で、お前は捕まったはずだ!!」

 

「私は政府考案の『アレス更生プログラム』の実験対象に志願し、その結果として短期間に刑期を終えてこの帝国学園の監督に再就任する。以上だ」

 

「な……!?そんな話が認められるか!!俺だけじゃない!!帝国にはもうお前に従う奴なんか一人もいない!!忘れたとは言わせないぞ!お前がしてきた数え切れない程の卑劣な行いを!!」

 

 風丸は影山が帝国の監督となる事など到底受け入れられなかった。当然だ。影山のこれまでやって来た悪事を考えれば彼を監督として認めるなど愚か者のする事だ。

 

 何より影山は友人である円堂守の祖父、円堂大介の仇なのだ。

 

「ククク……まずは先日の星章学園との練習試合の勝利、見事と言っておこう。鬼道が指導し、指揮を執ったあのチームに勝つとは強化委員として貴様は中々に有能だと評価されているようだな」

 

「あ、あれは……」

 

「……知っているとも。あの勝利と帝国の成長は斎村凪人のおかげ……。貴様自身は何も出来なかった。それなのに分不相応な評価を受けている現状が苦しくて仕方ないのだろう?」

 

「っ!!」

 

「敢えて聞こう。風丸一郎太、強化委員として貴様が帝国学園に来た理由は何だ?日本を世界に羽ばたかせる為。……違うか?」

 

 影山は的確に風丸の心を抉る。そして影山の背後に設置されていたモニターが起動し、風丸に……否、雷門イレブンにとって苦々しい思い出である試合……バルセロナ・オーブとの親善試合が映し出された。

 

「世界を相手に勝負を挑み……大敗を喫した。日本一の座に君臨した雷門が不様だったな……」

 

「……」

 

「あの試合で世界に多少なりとも通用したのは斎村凪人ただ一人だったな」

 

「……めろ」

 

「円堂や豪炎寺……鬼道ですら碌に戦えなかった。斎村がいなければ8点目の失点を防ぎ、2点を捥ぎ取る事など到底出来なかっただろう。勿論お前など戦力外でしかなかった」

 

「やめろ!!黙れ!!」

 

 思わず叫んでいた。あの親善試合以来、ずっと感じていた無力感を刺激され続ける。風丸にとっては非常に苦痛な仕打ちだった。それでも尚、影山は続ける。

 

「雷門が不様な負け方をした時、お前は何を思った?どんな事をしてでも日本サッカーを強くしたい。星章との練習試合を経て、斎村の様に帝国を強くしたい。斎村の様に自身が強くなりたい。そう思ったんじゃないか?」

 

「……!」

 

「帝国が強くなれば敵もまた強くなる。これは斎村が証明した事だ。帝国との合同練習を経て、閃電の実力アップは更に拍車がかかり、先日の練習試合から星章もまた同様に強くなって行くだろう。

 

それこそが今の日本サッカーに必要な化学反応を呼ぶのだ!!」

 

 そして影山の背後のモニターにはバルセロナ・オーブとの試合で不様に這い蹲る風丸と……それとは対照的に化身を出現させてバルセロナ・オーブから点を捥ぎ取った凪人が映し出される。

 

「お前の手で帝国を再び最強にのし上げ、斎村と並び立ち、共に世界に羽ばたく。その道筋を教えてやろう」

 

 凪人と並び立つ。その言葉に風丸は抗い難い魅力を感じる。風丸の眼から見れば今日本で最も世界に近いプレイヤーは円堂でも豪炎寺でも鬼道でもなく……凪人だった。

 

「影山零治……お前は……!」

 

「答えろ。私に従うのか否か」

 

 風丸の中にはあらゆる感情が渦巻く。帝国学園は強くなった。鬼道が指導し、全国トップに立った星章学園に勝つ程に。

 

 しかしそれは自身の指導によるものではない。全てあの友のおかげだ。風丸自身の実力アップすらも……。

 

 このままで良いのか?帝国学園が頂点に立つにはいつまでも凪人や閃電の力を借りてばかりではいられない。いずれは閃電とも戦わなければならないのだ。

 

 だが影山などに従っても良いものなのか?奴の悪事を知っていて従うなど絶対にあり得ない。だが鬼道の才能を見出し、帝国を過去40年に渡って全国優勝、無敗を誇らせた彼の監督としての能力は認めざるを得ない。

 

 どうするべきか?自分では力不足なのは事実。

 

「……俺は……」

 

「さぁ……どうする?」

 

 

 

 従います。

 

 

 その言葉が喉元に出掛かった瞬間にまたあの友の言葉が脳裏に過った。

 

 

『閃電の今後の課題の事も考えると風丸と帝国学園っていう組み合わせの方がプラスになると判断したんだよ』

 

 

『しっかし流石風丸だな。帝国、すっげー強くなってるじゃん』

 

 

「…………!!」

 

 あの時、彼は何と言った?閃電のレベルアップには風丸と帝国の力が必要だと言っていた。風丸の指導能力を認め、帝国は強くなったとも言っていた。

 

 斎村凪人は思慮深い性格ではあるが、決してお世辞や嘘偽りで相手を持ち上げるような発言はしない。駄目だと思えば遠慮なく……それこそ相手がショックを受けようが知った事かと言わんばかりに酷評してこき下ろす。相手が円堂であったとしてもだ。風丸ならば尚更だ。何より彼の幼馴染がそんな感じで評価を受けて割と本気でへこんだ所を風丸は何度も見ている。

 

 ……ならば少なくとも凪人から見れば、風丸の手で帝国学園をしっかりと強く出来ているのではないか?閃電が強くなる事に風丸が力を貸せていたのはないか?

 

 ふと、そんな考えが風丸に浮かんだ。

 

 だから風丸はこう答えた。

 

「……考える時間を下さい」

 

「良いだろう。一日だけ待ってやる」

 

 従う他に答えは無い。そうなるに決まっている。そんな確信があったからこそ影山はそれを承諾する。

 

 退室した風丸は即座にスマホを取り出して凪人へと電話をかける。全ては知りたいからだ。彼が風丸と帝国の実力についてどう思っているのかを。彼ならば嘘偽りなく答えてくれると分かっているからーーー…。

 

****

 

 翌日、風丸は佐久間と源田と共に帝国イレブンのミーティングルームに向かっていた。風丸と共にそこへ向かう二人は少しばかり苦しそうな表情だ。

 

「まさか予選大会開始ギリギリで奴が帝国に戻って来るとは……!!」

 

「あんな事があった後だから……学校側も慎重に選ぶと思っていたんだがな」

 

「ああ……。だが、昨日レギュラーメンバーで話し合った通りの方針で進めるぞ。それしか方法は無い」

 

 そうして三人はミーティングルームに入室する。すると既に帝国イレブンのレギュラー達は揃っており、二軍選手達は佐久間、源田、風丸の登場に合わせて帝国学園特有の敬礼をする。

 

「……随分と早く全員揃っているな」

 

「事が事ですからねぇ……」

 

「何たって新監督が奴になってしまいましたからね……」

 

「もうすぐフットボールフロンティアの予選も始まりますから、早目に解決しておきたいんです」

 

「……それもそうだな」

 

 源田の言葉に五条、洞面、万丈の順で答えていく。昨日、凪人に電話した後、風丸は彼らに現状を全て説明したのだ。

 

「それはそうと佐久間、あいつ誰だよ?」

 

 そんな中、大野がキャプテンである佐久間に尋ね事をする。その視線の先……ミーティングルームの最前列には見覚えの無いモヒカンヘアの少年がいた。

 

 ただでさえ監督の件で帝国は立て込んでいるのだ。面倒事になる前にどうにかしようと佐久間は彼に話しかける。

 

「お前、誰だ?」

 

「さぁな」

 

 しかし彼はそんな佐久間の言葉に取り合う事もなく、適当にあしらおうとする。そんな彼に反感を抱いた寺門が突っかかる。

 

「おいキャプテンに対して失礼だぞ!!」

 

「キャプテン?」

 

「佐久間さんも知らないんですか?てっきり後で紹介してくれるのかと……」

 

「俺は何も聞いていない」

 

 キャプテンである佐久間が彼を知らない。彼の方も佐久間がキャプテンである事を知らなかったようで嫌々な感じを醸し出しながら口を開く。

 

「俺もアンタがキャプテンなんて聞いてない。鬼道がいないせいで大しt…「ああ、すまない。すっかり忘れていた」……忘れてただぁ!?」

 

 佐久間に対して嫌味を言おうとした先に風丸が発言。どうやら強化委員である風丸は彼の事を知っていたようだが、その風丸が忘れていたという発言は彼も看過出来なかったようで、焦りながら食いつく。

 

 彼自身、おかしいとは思っていたのだ。帝国学園に転入してサッカー部に入部する事が決定していたのに部員達に話が通っていない事は。

 

「風丸、知っているのか?」

 

「ああ。昨日あんな事があって伝えるのを忘れていたが、彼は不動明王。帝国イレブンに加わる事になった新たな仲間だ」

 

「おい!忘れていたってどういう事だ!?」

 

「そうか不動か。……まぁ、忘れても仕方ない。帝国は今、大変な事になっているからな」

 

「おい!キャプテンなら忘れても仕方ないで済ませんなよ!強化委員だとしてもちゃんと叱れ!!」

 

「うるさいぞ。今俺達はお前に構っている暇なんて無いんだ。少し黙ってろ」

 

「!?」

 

 理不尽……と言うよりあまりにも雑な扱いにキレる以前に唖然とする不動。風丸、佐久間、源田は不動の事を話した後は何か別の事で話し込んでいる。それでいてその顔は真剣そのもの。監督関連とは分かるが、肝心の監督が誰なのか…名前が一切出ない故に不動はまだ現状を理解し切れていない。

 

(……ったく、何なんだ?甘っちょろい気持ちでサッカーやってる連中なんざと組むなんて反吐が出るが……こいつらはこいつらでムカつく)

 

 不動は最初帝国学園のキャプテンとして知られる天才ゲームメイカー鬼道目当てで帝国に来たがその帝国には鬼道はおらず、キャプテンは佐久間、強化委員として風丸がいるという現状。

 

 鬼道が帝国にいると思って来ている辺り、不動は情報収集が甘かった。

 

 とにかく今不動が何か嫌味を言って佐久間をイラつかせようとしても相手にされないのは目に見えていた。何を言っても今の不動は道化でしかないだろう。

 

 そんな事を考えていると突如ミーティングルームの照明が消えて、一箇所だけに光が集中する。何事かとそちらを見やれば床のスライドが開き、エレベーターの様にある人物がせり上がって来た。

 

「な……!?」

 

 不動はその人物ーーー影山零治の顔を知っていたのか驚愕している。対して帝国イレブンは警戒の色を隠さずに影山を睨む。

 

「おい、俺を忘れても仕方ねぇって……」

 

「見ての通りだ。厄介な事に戻って来やがったんだ」

 

 不動と源田のやり取りを見て影山は風丸が話を通していた事を察する。ならば話は速いと言わんばかりに口を開く。

 

「私が新監督の影山零治だ」

 

「新監督って……新じゃねぇし」

 

「それで風丸一郎太、及びに帝国学園イレブンよ。答えを聞こう。私に従うか否か」

 

 昨日の風丸に迫った選択を影山は帝国イレブン全員に迫る。すると風丸、佐久間、源田が代表して前に出る。

 

「俺達は昨年のフットボールフロンティアの件から、アンタに従わないと決めた。アンタを監督と認める訳にはいかない」

 

「ほぅ?だがそれで良いのか?私は大会に出場する全てのチームを分析した。今のお前達では次に試合をすれば閃電中や星章学園には勝てない」

 

 影山の言葉はある意味正しかったし、帝国イレブンも自覚はしていた。帝国学園はもう絶対王者とは言えない。昨年の雷門への敗北から始まり、世宇子への完敗。強化委員や閃電との合同練習もあるとはいえ、その閃電の急激な成長を最も間近で見ていた上、星章学園との練習試合も辛勝だった。このままフットボールフロンティアでぶつかれば勝利は難しいと言わざるを得ない。

 

「確かにそうかもしれない。だがアンタに全権を委ねる事は出来ない」

 

「だがフットボールフロンティアに出場するには監督そのものは必要だ。ここで突っぱねても俺達は大会に出られなくなるだけだ」

 

「だから……条件付きで、その条件を飲むならお前を監督として認める」

 

「……何だ?言ってみろ」

 

 一応聞く気はあるのか、影山は風丸達にその監督就任の条件の説明を求める。

 そして帝国イレブンが影山の監督再就任に当たって出した条件は以下の通りだ。

 

 ・帝国イレブンは全面的には影山の指示には従わない。試合前に戦術などの指示を出す際にはその全容を全て説明した上で帝国イレブンが従うかどうかを決める。

 

 ・他校の選手及びその関係者に危害は一切加えない。その条件を破ったと判断された場合は帝国学園はフットボールフロンティア出場を辞退する。

 

 他にもいくつかあるが、大まかにはこの二つだ。影山の過去の悪事……神のアクアや試合前に敵選手を潰すといったものがこれに該当する。

 

「……成る程な。良いだろう」

 

 影山はこれらの条件を至極あっさりと飲んだ。影山からすればこの程度の条件は想定内どころか拍子抜けする程のものだった。

 

 勿論風丸達とてこれが完全に影山への抑止になるとは思ってはいない。しかしこれを破れば帝国学園が大会を辞退する事になっている。この話は既に少年サッカー協会の統括チェアマンに通してある。影山は世宇子の件で既に少年サッカー界における地位を失っている為に圧力をかける事は出来ない。多少の効果はあるはずだ。

 

「……後でしっかり全部説明しろよ」

 

 不動は風丸にそう耳打ちする。彼からすれば何から何まで急過ぎるのだ。

 

 そんな中影山は風丸の目を見る。昨日とは違って強い意思を感じる。自分に自信を持っている目だ。

 

(……揺らぎはしないか)

 

 風丸を見て影山はそう評する。どう揺さぶりをかけても影山に都合の良い駒にはなりはしないだろう。

 

「では全員席に着け!これよりフットボールフロンティアを勝ち抜く為の作戦会議を始める!!」

 

 影山の命令に渋々ながらも帝国イレブンは従う。風丸もまた、席に着いて影山を見据える。

 

(……完全にではないにしろ、影山に従うのは気が引けるが……帝国がフットボールフロンティアに出場するにはこうするしかないのも事実だ)

 

「ではこれより、新たな必殺タクティクス、“インペリアルサイクル”の概要を説明する。このタクティクスを使うかは全容を聞いてお前達で決めろ」

 

(だが……日本を世界に羽ばたかせる為にも、俺達が強くなる為にも影山を最大限に利用するべきだ。そして斎村……俺は強くなって、正々堂々とお前と戦いたい!)

 

 その為には……影山を帝国で抑えなければならない。帝国が正々堂々とサッカー界に再び君臨する為に。

 

 影山と帝国イレブンーーー互いの思惑が裏でぶつかり合う中、彼らのフットボールフロンティアは始まろうとしていた。




という訳で風丸は影山に従うという選択をしませんでした。でも監督がいないと帝国はフットボールフロンティアに出場出来ないし、追い出して野放しにするのも危険過ぎるから一応は監督として帝国に置いておくという選択をしました。勿論これは帝国イレブンと話し合って決めた事。

主人公はあくまで風丸自身と帝国の実力向上についてどう思うか聞かれただけなのでこういった裏事情は知りません。

不動が完全に出鼻を挫かれたのは突き詰めればぶっちゃけ主人公のせい。


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アレスの天秤編
無謀な田舎者達


今回からアレスの天秤原作開始です。


 side三人称

 

 中学サッカー日本一を決める激闘の殿堂、フットボールフロンティア開幕!!

 

 今年のフットボールフロンティアは例年よりも遥かに盛り上がりが増していた。理由は大きく分けて三つ。

 

 一つは、現在日本の中学サッカーは昨年のフットボールフロンティアにて無名から一気に優勝校までのし上がった円堂守率いる雷門イレブンの活躍の影響でかつてないまでに国内での人気を誇っていたからだ。

 

 二つ目の理由はその雷門イレブンは日本全体の中学サッカーのレベルを引き上げる為に全国各地のチームへと『サッカー強化委員』として派遣された事から各チームへの期待とかつての雷門イレブン同士の戦いに注目が集まっているからだ。

 

 そして最後の一つ……このフットボールフロンティアが終わった後、少年サッカー世界大会、フットボールフロンティアインターナショナル……通称FFIが開催される。この大会の戦績はFFIの日本代表の選考に大きく影響するのだ。今年のフットボールフロンティアでの優勝は日本一になる以上に意味がある。

 

 日本の頂点(てっぺん)に立ち、日本代表として世界に羽ばたく。

 

 その栄光を獲得する為に日本全国の中学サッカーのチームはフットボールフロンティアを勝ち抜こうと燃え上がっていた。

 

****

 

 -閃電中グラウンド

 

 side凪人

 

「……雷門がフットボールフロンティアに出場する…か」

 

「ああ。どうやら伊那国島という田舎からサッカー部員が不在の雷門に11人丸ごと集団転入して来たらしい。何でもその島の学校のサッカー部がスポンサー不在を理由に廃部にされてしまったらしく、それでどういう訳か雷門中に転入してサッカー部を取り戻そうって話だ」

 

 フットボールフロンティア開幕直前という事もあり、帝国学園との合同練習は今日で最後となった事から風丸と話し込んでいると、雷門に田舎から集団転入生が来て、俺達が空けているサッカー部に入部したと聞かされた。まぁ知ってたけど。通知来たし。

 

 ……それにしても遂に来たか。この『アレスの天秤』の主人公達のチームが。

 

「でも雷門にもスポンサーいないだろ。俺達が強化委員で不在だからスポンサーになる意味無えって」

 

「ああ。だが実際フットボールフロンティア出場申請は受理されたそうだ。……だが確かにスポンサーの名前は出ていない。項目も空欄だった」

 

 ……手続きが遅れてるのか?まさか()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんて失格処分ものの違反行為なんてしてないだろうし。でも遅れてるだけなら尚更スポンサーの名前は出さなきゃ駄目だろう。

 

 因みに俺と風丸のこの会話は練習中にしている。と言っても強化委員として強くしたチームの実力確認の為だから、敢えて俺達は動いてないんだがな。

 

「「二百烈ショットォォ!!」」

 

「ゴッド…ハンドォォ!!」

 

 見れば佐久間と寺門の二百烈ショットを堂本はゴッドハンドで完全に止めている。今のあいつなら修也のファイアトルネードを止める事だって不可能じゃない。……かもしれない。実際のところ修也の実力を確認しないと何とも言えないけど。

 

「今なら帝国にも勝てるな」

 

「言ってくれるな。俺達だって閃電に負けるつもりは無いぞ。フットボールフロンティアで勝って証明するさ」

 

「つっても閃電と帝国が戦うとしたら全国だろ?特にお前らの所属グループは結構厳しいんじゃないか?」

 

 今回のフットボールフロンティアの予選大会はグループのリーグ方式で1グループに16チームが所属し、その中で各チームがランダムに組まれた六試合をしてその勝率…勝ち点を競う。

 

 風丸達帝国学園はフットボールフロンティアの予選リーグでは関東Aグループに配属されている。そこのグループは強豪揃いで競争率も高い。鬼道の星章学園や修也の木戸川清修、壁山の美濃道三……他にも青葉学園や御影専濃などがいるが強化委員の派遣先が四つとこんなにも揃い踏みだ。個人的にはもうちょいバラけさせて欲しかった。前世の視点で見れば全国大会で戦わせたい組み合わせだろう。

 

 しかも全国に進めるのは上位2チームだけ。生殺しだろこれ。

 

「星章、木戸川、帝国……どんなに頑張ってもその中の2チームとしか戦えないのはキツいなぁ」

 

「既に全国に進むのはその中の二つだと確信してるんだな……」

 

「まぁな」

 

 一応3チーム以上進める道はあるっちゃあるけどかなり奇跡的な確率だからなぁ。まず無理と言って良い。

 

 他には円堂の利根川東泉とあの王帝月ノ宮は関東Bグループ。俺達閃電は関東Cグループだ。関東枠多くね?因みに世宇子も関東Cグループだ。

 

「まぁ帝国は全国に行くとして……もう片方の枠を星章と木戸川のどちらが勝ち取るかだな」

 

「気が早過ぎないか?まだ予選も始まってないのに……」

 

「いーや、断言するね。関東Aグループのチームで一番強いのは帝国だ」

 

 これは俺個人の価値観と意見だと言われるだろうが、贔屓目抜きに帝国が予選落ちする事態は有り得ない。星章や木戸川よりも強い。

 

 影山が監督に戻ってからは不安だったが、どういう訳か風丸は影山に従う事なく、むしろ抑制するように監督就任にかなり厳しい条件を課したらしいし……一体何があってどう原作と変化してこうなったんだ?

 

 でも影山の監督としての能力の高さは確かだ。無印の原作やGOギャラクシーを知ってる身としてはやはりこの大会で一番の障壁となるのは帝国だろう。

 

 まぁ……今気にするべきチームは帝国ではない。雷門だ。

 

「で、雷門も関東Aグループに配属か」

 

「ああ。関東で枠が余っていたのはAグループだけだからな」

 

「てか何で余ってんのがAグループなんだよ」

 

 普通こういうのって最後のグループ……つまり俺達のCグループが余ってるもんじゃないの?

 それにしても星章、木戸川、帝国、美濃道三と強化委員の派遣で強豪になったチームばっかのグループに入れられるとか雷門の難易度高過ぎねぇ?

 

 ん?待てよ?

 

「確か雷門の初戦相手って……星章じゃなかったか?」

 

「ああ。鬼道が全国ランキング1位にして、それに帝国が勝ってから更に強くなっているだろうな……」

 

 初戦で星章相手とかただの鬼畜じゃねぇか。田舎の孤島のチームなんだろ?何故碌に経験の無いチームにいきなり星章なんて当てたんだよ運営。

 

****

 

 side三人称

 

 数日後、予選大会の関東Aグループの第一試合の一つ……雷門中vs星章学園が星章学園スタジアムにて行われようとしていた。

 

「……まさかこんな形で雷門が大会に出場するなんてね」

 

「けど……強いとは限らねえ。実質名前が同じだけの別チームじゃねぇか。田舎の島から来たんだし、試合の経験も碌に無ければ良い指導者がいた訳でもなさそうだしよ」

 

「でも楽しみじゃないっすか!雷門の名前を背負ってる以上、あのチームだって死に物狂いで戦うはずだし!」

 

 閃電中イレブンのキャプテン星宮と桐林、堂本はこの試合の観戦に来ていた。そんな彼らの引率として強化委員の凪人もまた、会場で買ったドリンク片手にフィールドを見下ろす。

 

「……でも何か複雑だなぁ」

 

 凪人からすれば雷門とはやはり現在強化委員として各地に散っているあのメンバーであって、彼らを雷門と呼ぶのはどうにも嫌な感じがするのだ。

 

「それは……貴方はやはり雷門として強化委員をしている他のメンバーと共に戦いたい気持ちもあるからですか?」

 

「まぁ否定はしねぇけど……てか、何でナチュラルに最初からいた感じで話しかけて来たんだよ。

 

 

 

 

野坂」

 

「「「っ!」」」

 

 凪人の呟きに極自然に背後から質問して来たのは野坂悠馬。その後ろには彼の腹心、西蔭政也もいる。

 凪人はそんな彼の突然のふっかけにも動じる事はなく答え……しかし見逃す事もなく突っ込んだ。

 

 そしてようやくサトルや堂本、桐林も野坂と西蔭に気づく。

 

「てめぇ…野坂ァ!」

 

 閃電イレブンの中でも一際王帝月ノ宮ーーー特に野坂に対抗心を抱く堂本は野坂を睨む。あの練習試合でのラフプレーはやはりまだ許せないのだろう。

 

「宣戦布告にでも来たのか!俺達は強くなったんだ!もうお前らには負けねぇぞ!!全国ランキングだって2位でお前らより上なんだからな!!」

 

「やぁ堂本君。それに星宮さんに桐林さん。そして……斎村さん。でも今回は挑発のつもりは無いんだ。星章とーーーあの雷門が少し気になったから観戦しに来たんだ」

 

「……そうか。俺達もそんな所だ。この会場には修也や風丸…円堂もいるだろうな。てか何だその座り方。ちゃんと座れ」

 

 凪人は野坂を前にしても感情を荒立てる事は無く、淡々としている。そしてツッコミを忘れない。野坂は観客席の椅子ではなく、その背もたれに腰掛けており、その前の席の背もたれに足を乗せるという体勢次第ではそれを破損してもおかしくないという割と迷惑な座り方をしていた。

 

「ぐぬぬぬぬ〜〜〜〜!!!」

 

「堂本、スルーされたからって野坂を睨むな。もうすぐ始まるぞ」

 

 そして角馬王将による実況兼アナウンスが星章学園スタジアム内に響き渡る。他の観客席を見やれば基本的満員であり、この試合の注目度の高さがよく分かる。

 

 メンバーが丸々違うとはいえ、前年度優勝校である雷門と全国ランキング1位の星章学園の試合なのだ。この集まりは当然と言った所か。

 

『さぁ雷門中と星章学園の面々がフィールドに散って行きます!雷門は本来のメンバーが「サッカー強化委員」として不在の為、昨年とはメンバーが一新しています!!どんなプレーを見せてくれるのか!!』

 

 凪人としては現時点では正直あまり期待していない。桐林の言った通り、実力も経験も殆ど無いと見るのが普通だ。しかしこの世界線での主人公ーーー稲森明日人があのチームにいる。

 

(……将来性は視野に入れておくべきだな)

 

『そして対するは今大会の優勝候補の一つ!「サッカー強化委員」としてあの鬼道有人が派遣された事で頭角を現した星章学園です!!練習試合によるランキングレースでは帝国学園に惜敗したものの、2位の閃電中と僅差で全国1位の座を獲得しています!!』

 

 見ればちらほらと雷門中の生徒も観戦に来ている。まぁ凪人からすればそこはどうでもいい。

 

 凪人……いや、会場の全体が注目しているのは雷門ではない。星章ーーーそのエースストライカー『フィールドの悪魔』灰崎凌兵だ。

 

(源田から点を奪う程のストライカーなんだ。奴のプレーを分析する事は絶対に必要だ)

 

 この試合に鬼道は出ていない。当然だ。星章ならば鬼道無しでも勝てる試合なのだから。

 

 そして試合開始のホイッスル。雷門ボールでキックオフ。伊那国島からやって来た選手達はまずは点を取ろうと攻め上がる。

 FWは灰崎のワントップ。MF陣が雷門のFWを止めにかかるも雷門はドリブルとパスを駆使してそれを躱し攻め上がって行く。

 

 星章学園が様子見の為に手抜きのディフェンスをしている事は誰の目にも明らかだった。

 

 FWの剛陣から同じくFWの稲森へとボールが渡る。瞬間、凪人の目線が一気に鋭くなる。

 

(………ドリブル、パス…オフェンスの技能は平凡そのものだな。あの剛陣とやらは隙だらけ。後ろのMF、DFはまだ動いてないから分からないが……)

 

 折緒と水神矢が稲森の前に立ち塞がると同時に隣を走っていた小僧丸にボールが渡る。パスを出すタイミングは凪人から見て及第点だ。

 

 そして小僧丸はボールを蹴り上げると脚を踏み込み、凪人のそれと同じく右回転で炎を纏って上昇し始めた。

 

「へぇ……」

 

「!あの右回転での炎……」

 

 そして小僧丸はボールを蹴り出すと同時にその技の名を叫ぶ。

 

「ファイアトルネード!!!」

 

 放たれた必殺技……ファイアトルネード。全国でも使い手として知られるのは豪炎寺修也に豪炎寺真人、斎村凪人の三人だけだろう。そして今、ここに四人目が現れた。

 

「……威力、斎村さんの程じゃないっすね」

 

 堂本は観客席から観ただけでそう評価する。どうやらキーパーとしての“目”もしっかりと養えているようだ。

 

 しかしファイアトルネードという技は有名でもこれまで三人しか使い手がいなかった技。その技そのものに強いインパクトがあった。

 

 そのインパクトに押され、星章のキーパーは棒立ちとなり、至極あっさりとゴールを奪われてしまった。

 

『何とぉーー!!ランキング1位の星章学園に雷門が先制点ーー!!』

 

「どう思う?」

 

「ファイアトルネードのインパクトで取れたようなもんだな。次撃ててもあのキーパーからはもう点は取れない。……俺に言わせればそんな衝撃ぐらいで棒立ちになるあのキーパーも駄目だけどな。堂本なら止められてた」

 

「ですね。それに今ので灰崎君のスイッチも入ってしまったようですし……後は星章による蹂躙が待っているだけです。注目点はあの雷門がどれだけ持ち堪えられるかくらいですね」

 

「……てか何でこいつが一緒に」

 

 サトルと凪人の会話にナチュラルに入って来た野坂を見て桐林がかなり不満そうな表情で呟く。西蔭は西蔭で野坂が積極的に閃電に接触している現状に……表には出さないが、少なからず衝撃を受けていた。

 

(……堂本衛一郎。野坂さんはこいつに何を感じたんだ……?)

 

 傍目から見れば斎村凪人を意識しているように見えるだろう。しかし実際にはその目は確かに堂本衛一郎を観察している。サッカーの試合でも練習でもない今の状況下でだ。

 

 勿論凪人も野坂が堂本を観察している事には気付いている。気付いた上で敢えて何も言わない。

 

(確かにキングス・ランスを止めたあのゴッドハンドは凄まじかったが……俺達の脅威になると野坂さんが警戒する程なのか?俺には斎村凪人の方が余程脅威に思えるが……)

 

「ククク……ハァーッハッハッハッ!!!」

 

 そして雷門の先制点によって一人狂笑に陥っていた灰崎は獰猛な笑みを浮かべて雷門を見つめる。そんな灰崎に雷門の稲森は指で銃の形を作って宣言する。

 

「俺達は…お前を倒す!!」

 

「やってみろよ……」

 

「さて……見せて貰おうか。『フィールドの悪魔』」

 

 そして星章ボールで試合再開。灰崎はドリブルをして真っ直ぐに雷門陣営を突き抜けてゴール前に迫る。その両隣にはMFの折緒と佐曽塚が走る。雷門のゴールへと直進する灰崎の瞳が妖しく光る。

 

「デスゾーン……開始!!」




伊那国雷門の難易度を鬼畜にしたのは実質主人公なんだけど、本人気付いてない。アレス原作知る前に転生したから仕方ないけど。


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雷門、完全敗北

 side三人称

 

 新メンバーを要する雷門中と星章学園によるフットボールフロンティア関東予選Aグループ第一試合が行われているその裏側、北海道の白恋中ではその試合を中継で観戦する者達がいた。

 

『何とォーー!!予想外の展開だぁーー!!全国ランキング1位の星章学園に何と雷門が先制点ーーーー!!!』

 

「雷門……か」

 

 薄暗い部室で中継を観て呟くのは白恋中サッカー部のキャプテン、吹雪士郎。『雪原の王子(プリンス)』という異名を持つ北海道最強と呼ばれるDFだ。

 

「兄貴、今年の優勝は俺達が貰う。そうだろ?」

 

「ああ」

 

 そんな士郎の肩に手を置いてそう囁いたのは士郎の弟である吹雪アツヤ。白恋のエースストライカーであり、ブリザード、熊殺しといった異名を持つ。

 

 そんな中部室に電灯が点いて部屋全体が明るくなる。そうして部室に入って来たのは他の白恋イレブンのメンバー達だった。

 

「アツヤ!今日も大活躍だったじゃねーか!ナイスシュート!」

 

 陽気にアツヤを褒めながら近付いていたのは彼の先輩にあたる目深。他のメンバーも心なしか笑顔でアツヤを褒めようと歩み寄って来る。

 

「ま、当然っすよ目深先輩。エースストライカーの俺が決めなくてどうするって話ですから」

 

 アツヤはそんな賞賛をさも当然のように受け止め、鼻高々に自身の活躍を語る。そんな彼を見て最も嬉しそうにしていたのは豪炎寺真人。あの豪炎寺修也のいとこにして白恋のもう一人のエースストライカーである。

 

(昨年の雷門戦までは俺と士郎以外は足手纏いと決め付けて他のメンバーを軽んじていたが……随分変わったな)

 

 昨年のフットボールフロンティアの準決勝以来、良い方向に変わっていったアツヤはチームプレーを重視するようになり、今日の試合もチーム一丸となって戦い、最後に託されたボールで見事に得点を挙げたのだ。

 

「得点王も夢じゃねぇんじゃねぇか!?」

 

「やっぱりアツヤは凄いズラ!!」

 

「へっへーん。もっと褒めろ。俺はまだまだ上に行くぜ?振り落とされねぇよう付いて来いや!」

 

「……」

 

 しかしチームメイトとの仲が改善されてから彼らも素直にアツヤを認めて褒めるばかりに天狗になり易くなってしまった事は少しばかり頭が痛くなる。

 

「盛り上がっている所、水を差して悪いがそれは後にしろ」

 

 そして今にも宴会でも始めそうな雰囲気の中、アツヤを変えるきっかけをくれたかつての雷門イレブンの一人、染岡の声が部室に響く。

 

「何すか染岡さん。強化委員の務めか何か知らないすけど、せめて空気くらいは読んで欲しいですね。折角祝勝会しようとしてたのに」

 

「それは分かってる。だから謝ったんだ。だが後にしろ。今は試合を観るんだ」

 

 アツヤの嫌味……というより単なる愚痴を適当に流しつつ、染岡は先程から士郎が観ていたTVを指差す。その画面には現在進行形で雷門と星章の試合が中継されていた。

 

 そしてその試合では星章学園の灰崎を基点としたあの帝国学園のデスゾーンが炸裂。雷門は至極あっさりと点を奪い返されてしまう。

 

「何なんだこの試合は!?凄過ぎる……!!」

 

「これが……星章学園」

 

 その試合を凄まじさは染岡すら驚愕するものだ。しかし染岡は勿論、白恋全員が気付いている事実がある。染岡は一応皆の認識を確認する事も兼ねて説明する。

 

「……全員分かっているだろうが、この試合では星章学園は実力の30%も出しちゃいない」

 

「確かに……。この試合には“彼”がいない。染岡君も良く知る“彼”が」

 

「……元帝国学園キャプテン、天才ゲームメイカーと呼ばれた『ピッチの絶対指導者』鬼道有人」

 

「その通り。奴が……鬼道が指揮を執ればチームは別物に変わる。更に…それに対応出来る……そしてそれをひっくり返せるのはあいつだけだ」

 

 全員の脳裏に昨年の全国大会準決勝での雷門戦……そこで指揮を執った二人の司令塔の姿が浮かぶ。実際彼らが派遣されたチームが全国ランキングレースでも1位2位を獲得しているのだ。

 

「……それでも、僕達は彼らに勝つよ?染岡君」

 

「ああ……勿論だ」

 

 北の大地、北海道最強のチームは今度こそ日本一の栄光を掴むべく、その牙を研ぐ。

 

****

 

 side凪人

 

 それからの星章学園と雷門中の試合はそれはもう酷いものだった。星章学園が終始雷門を圧倒し、雷門は手も足も出ずに失点を続け、蹂躙されるだけ。

 

 この世界線の主人公達だし……少しは期待してたんだけどなぁ。

 

 逆に星章学園の強さもハッキリして来る。灰崎を基点にしたあのデスゾーンのパワーは中々だが……あの程度のシュート、閃電でも出来るし、堂本も止められる。

 

 あのデスゾーンの後は星章学園は必殺技を使う事もなく、雷門を追い詰めている。雷門は雷門であの小僧丸という奴以外、必殺技をそもそも持っていない。小僧丸ですらファイアトルネードだけ。それをどうにか出来るような司令塔すらいない。

 

 ……それで良く星章学園に挑もうなんて思ったな。雷門と帝国の練習試合の時だって、原作と違って円堂達は既に必殺技を使えたし、俺の指示でちゃんと試合を組み立てられていた。

 

 既に後半残り5分。得点差は1-13。全て灰崎による得点だ。灰崎がここまでやれる事にも驚いたが、あの雷門がここまで実力不足とも思わなかった。

 

 だが、目に見えて体力不足による消耗をしながらも走り続けて諦めない雷門。あの姿勢と根気は好感が持てる。雷門を名乗っておきながら「もう駄目だ〜!」とか言って投げやりになったり、「この試合は捨てよう」なんて言って諦めていたら本気で怒っていたところだ。

 

 ……特にあの稲森明日人。あいつは良い。この物語の主人公として出て来た事は納得がいく。

 

 だがこの試合ではそれまでだな。

 

「……フットボールフロンティアでの初戦でこのザマですか」

 

 不意に背後にいた西蔭のその呟きに反応してしまう。確かにあと五試合あるとは言え、この負け方は流石に不味い。この先得失点差にも影響して来る。運良くこの後の試合に全勝出来たとして、勝ち点が同点のチームがいた場合、得失点差で勝ち残りが決まる。

 

 雷門はそれらの試合でこの10点以上の点数差を帳消しどころか大きく上回る程の得点率を上げなければその得失点差がネックとなって敗退する事になる。

 

 あの中国人の監督はこれをどうするつもりなのか。曲がりなりにも雷門の監督をする以上は有能な人物のはずだ。なのにここからベンチを観ても携帯ゲームに夢中みたいだし……何を考えている?

 

 確か……趙金雲……だったか。

 

****

 

 side三人称

 

 後半残り5分、1-13という点差でも尚、雷門は諦めない。そんな彼らを下らないと思いつつも灰崎は攻める事をやめない。

 

「見せてみろよ!お前らの潜在能力って奴をよォ!!」

 

 対して雷門は灰崎一人に圧倒されている現状にうちのめされながらも走り続ける。彼らにだって負けられない理由があるのだ。

 

「お前ら、抜かせるな!」

 

「あいつ一人にやられてんじゃねーぞ!!」

 

「分かってますけど…!」

 

「止められない!!」

 

 実力が違い過ぎる。もし星章が一致団結して雷門を倒しに来ればこの比ではないだろう。それこそ、20点以上の失点を重ねていた。

 

 灰崎一人で勝手に突っ走っているからこそ、この程度で済んでいるのだ。

 

「『フィールドの悪魔』って…これが…!!」

 

「絶対に通すな!!」

 

 そんな叫びも虚しく、灰崎はボールを蹴り上げて飛び上がり、空中で指笛を吹く。するとピッチから六匹のペンギンが飛び出て次々と空中のボールにその嘴を突き立てる。

 

 嘴が突き立てば今度は六匹のペンギン全てがドリル状に回転。小型ロケットのような形に変化して火がジェット噴出。ボールにパワーを蓄積させていく。

 

 そして最後に灰崎のオーバーヘッドキックが炸裂。蹴り出すと同時にペンギンの姿に戻った六匹はボールに纏わり付きながらゴール目指して一直線に飛んで行く。

 

「オーバーヘッドペンギン!!!」

 

「ペンギン!?」

 

「何だ!?」

 

「これ以上……点はやらない!!」

 

『!!』

 

 炸裂した灰崎の必殺シュート。その光景に雷門は驚愕を示しつつも、稲森の叫びをきっかけにこれ以上の失点を抑えるべく走り出す。

 

「最後まで……」

 

「戦うんだ!!」

 

「負けるもんか!!」

 

「絶対に諦めない!うおおおおおっ!!」

 

 ゴールへ一直線に飛んで行くオーバーヘッドペンギンを雷門のフィールドプレイヤー10人は必死で追い掛ける。しかし灰崎程のストライカーの必殺シュートに……まだサッカープレイヤーとして未熟な彼らの足で追い付けるはずもなく、瞬く間に突き放されてしまう。

 

「止めてみせる!」

 

 そして雷門唯一の女子選手であり、ゴールキーパーの海腹のりかは真正面からオーバーヘッドペンギンと向き合うものの、キーパーとしての必殺技を持たない彼女にそれを止める術は無い。必殺技も無しに必殺シュートを止めるというのはシュートを撃った相手を大きく上回る、圧倒的実力があって初めて成り立つのだ。

 

 観客席で試合を見守る凪人の知る限り……日本の中学サッカーで灰崎のオーバーヘッドペンギンを必殺技無しで止められるゴールキーパーは……円堂守ただ一人。

 

「うあああっ!!」

 

 そして案の定あっさりとゴールを奪われ、新たな1点が星章学園に刻まれる。

 

 1-14

 

 ピッ、ピッ、ピーーー!!

 

 ここで試合終了のホイッスル。勝ったのは当然、星章学園だ。灰崎は嘲笑の視線を雷門イレブンに向け、彼らの心をへし折りかねない一言を言い捨てる。

 

「この程度かよ。期待した俺が馬鹿だったぜ」

 

 灰崎がこれでも雷門にそこそこ期待していたのは強化委員である鬼道に「雷門は灰崎にとっての“光”になるかもしれない」と言われたからだ。鬼道の言う“光”が何なのかは灰崎にも分からない。しかし、鬼道が言うからには楽しめると思っていた。

 

 だが結局はこのザマだ。

 

 それから灰崎は雷門イレブンに眼を向ける事なくベンチに戻って行く。

 

『14-1の大量得点で星章学園、ランキング1位の風格を見つけましたぁーー!!

 

一方期待された雷門でしたが、やはり伊那国島から出て来たばかりの新メンバーでは星章学園の相手としては荷が重かったのかぁーーー!?』

 

 息も絶え絶えになって絶望したような表情を浮かべる雷門イレブン。そんな彼らを見て観客席にいた西蔭と野坂はその評価を口にする。

 

「当然の結果ですね」

 

「そうなんだけど……西蔭、あの雷門の事を少し調べてくれないか?」

 

「……分かりました」

 

 そしてその目の前にいた閃電のメンバーもまた雷門の試合を観てそれぞれの感想を口にする。

 

「……完敗だったな」

 

「うん……斎村君が来る前の僕らはあれより酷かったけど……こうして観ると自分達がどれだけ強くなったか実感出来るよ……嫌な感じ方だけど」

 

 桐林とサトルは以前は自分達も似たような負け方をしていた事から彼らの惨めな完全敗北を笑う気にはなれない。しかし堂本は黙って雷門をジッと見ていた。

 

「……気になるか?堂本」

 

「……あの稲森って奴、俺は嫌いじゃないや」

 

「……!……そうか」

 

 相変わらず敬語を使い忘れる堂本だが、あの雷門に悪印象は抱いていないようだ。そんな彼を見て凪人は少しだけ嬉しそうに微笑む。

 

 そしてベンチに戻った雷門イレブンはこの世の終わりのような表情で座り込む。

 

「これで終わりですね…」

 

「もう…サッカーは出来ないんだね」

 

「こんなにもあっさり終わるなんて……」

 

 星章学園に勝って自分達の価値を証明し、スポンサーを獲得する。それが彼らの目的だった。これからサッカーを続けて行く為の。だがそれも果たせなかった。

 

「皆!何だよその顔は!絶対にサッカーはいなくならない!諦めなければ必ずチャンスは来る!」

 

「明日人……」

 

「俺達、今までサッカーに救われて来た……。辛い事だって乗り越えられて来たんだ!だからサッカーは渡さない!いつか絶対に取り返す!!」

 

「……言うじゃねーの。あいつ」

 

 凪人は閃電メンバーを連れて星章学園スタジアムを後にしようとしていた所、稲森の仲間達への演説を聞いてそう呟く。

 

「でもまだフットボールフロンティアの予選もあと五試合あるし、まだ本戦出場の可能性はあるよね、雷門(彼ら)も」

 

「俺もあいつらは捨てたもんじゃないとは思うが……あの生徒会があいつらが雷門サッカー部に居座り続けるのを認めればの話になるな」

 

 サトルの確認に対して凪人は別の観客席で観戦していた雷門中の現生徒会メンバーを見ながら答える。雷門中の名前が中学サッカー界では伝説になっているだけに、あの田舎者達をその名に泥を塗る厄介者と認識してもおかしくはない。

 

(……夏未の後任らしいが、夏未の時より嫌な性格した生徒会メンバーになってるな。仮にも生徒会だろうに……)

 

 凪人は試合前から彼女らを見かけていたが、生徒会長である神門杏奈を除く、雷門中生徒会メンバーは稲森達に対して小馬鹿にする言動が目立っていた。凪人としてはあまり印象は良くなかった。

 

「ま、今は雷門(他人)を気にするよりも自分達の事だ。俺達は予選を1位の全勝で通過する。これは大前提だ。このフットボールフロンティアで優勝するのは俺達閃電中だ!」

 

「「「うん(おう/うす)!!」」」

 

 こうして、雷門と星章の試合は幕を閉じた。稲森明日人達の物語がどうなるのか……凪人は原作知識(その結末)を知らない。だがそれは大した問題ではない。

 

 これは閃電中サッカー部の物語なのだから。




主人公と稲森達はあまり積極的に絡みはしません。主に堂本がその役割を担っていきます。


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伊那国・雷門から見た閃電中

ぶっちゃけ閃電中と神童インストルメントのスポンサーCMを考えてここまで遅くなりました。

というかほぼスポンサーCMの為の回。


 side三人称

 

 フットボールフロンティア関東予選グループC。このグループにはある二つの強豪チームが所属している。

 

 昨年のフットボールフロンティア準優勝校、世宇子中。

 

『サッカー強化委員』として斎村凪人が派遣された事で全国ランキング2位にまで上り詰めた閃電中。

 

 そして今日はその閃電中のグループ予選第二試合なのだ。閃電中は第一試合にて15点もの点数差を叩き出し、大勝利を収めた。先日の星章学園を上回る戦績にあらゆる方面から注目が集まっていた。

 

 -閃電中スタジアム

 

『さっいむらっ!!さっいむらっ!!さっいむらっ!!さっいむらっ!!さっいむらっ!!』

 

 会場はどこもかしこも斎村コール。昨年のフットボールフロンティア優勝校の副キャプテン兼司令塔…そして大会MVPは伊達ではない。

 

「わー…凄い観客だ」

 

 稲森明日人は自分達雷門中に『アイランド観光』がスポンサーとして付いた事で晴れてフットボールフロンティアを戦う事が出来るようになり、第二試合の美濃道三中との試合に備えていたのだが、今日は監督である趙金雲の指示により、伊那国島から来たメンバーと雷門サッカー部マネージャーの大谷と共に閃電中の試合を観戦しに来たのだ。

 

 因みに彼らはスポンサーが付いたばかりでまだイレブンライセンスカードを持っていないので一般入場だ。

 

「俺達と星章学園との試合の時よりも多くないか?」

 

「閃電中の注目度は本大会の大本命ですからね。ランキングこそ2位ですが、実力は星章学園を上回るとさえ言われているんですよ!」

 

「えっ?それじゃあ閃電中はどうして1位じゃないの?」

 

 観客の数に驚愕するキャプテン道成、閃電中の事を彼らに説明する大谷。その説明を聞いて疑問に思う稲森。

 

「ランキングで1位だからって一番強い訳じゃありません。実際星章学園は予選前の練習試合ではランキングで閃電よりも低い帝国学園に負けちゃっていますし。それに閃電と星章じゃスタートラインがまるで違いますから」

 

「スタートラインが違う?」

 

「はい。星章学園は強化委員として鬼道君が派遣されるまでごく普通の実力しかないチームでした。地区予選で二、三回戦まで進んだら凄ーいってくらいの。

 

 だけど閃電中は別。斎村君が派遣されるまではどんなチームにも勝てなかったんです。過去二年間において公式非公式問わず一度も勝てた試しがない。昔の雷門よりも酷い弱小チームだったんです。それを斎村君が一から鍛え直してメーキメキ強くして行ったんです!」

 

「……成る程。それで全国ランキング1位2位で見ても重みが違うし、元々の順位差が辛うじて残っているくらいだった訳か」

 

「そうです!だから閃電中はフットボールフロンティア予選が始まるのがもう少し遅ければ確実に星章学園からその座を奪い取り、1位になっていたと言われているんです」

 

 大谷からの説明を聞いてゴクリと喉を鳴らす現雷門イレブン。元雷門イレブンの副キャプテンであり、『フィールドの軍神』と謳われた天才司令塔の指導……それによって成長した閃電イレブン。成る程、ここまで注目される訳だ。

 

「実際に強化委員として各地に派遣された元々のサッカー部の皆さんも星章よりも閃電に注目しているそうですし。豪炎寺君とか」

 

「…!」

 

 豪炎寺の名前が出た瞬間、小僧丸がピクリと反応する。そしてベンチでメンバーと打ち合わせをしているであろう凪人に目を向け、気に入らなそうに睨む。

 

「伝説のMF、斎村凪人さん……」

 

「確かに確実に全国大会に進出するだろうな……もしかしたら最強の敵なのかもしれない」

 

「その前に僕らがそこまで進めるのかですけどね」

 

 氷浦、万作、奥入の順で驚愕しつつ、席を見つけて座る。そして周りを見れば確かに他校の選手達が何人も来ている。

 

「あっ!見てください!あそこにいるの鬼道君ですよ!」

 

 大谷の声に釣られてその指の示す先に目を向ければドレッドヘアにゴーグル、そして星章学園のブレザーという奇抜なファッションを着こなした天才ゲームメイカーがグラウンドを見下ろしていた。その隣にいるのは先日雷門を完膚なきまでに叩き潰したフィールドの悪魔。何やら話し込んでいるようだが……。

 

「よく見ておけ灰崎。あれが斎村が作り上げた閃電というチームだ。……ところで、春奈が何処に行ったか知らないか?」

 

「知るかよ。過保護も程々にしとけ」

 

 何やら話しているようだが、距離のせいでその会話は稲森達には聞こえない。

 

「!灰崎……!!」

 

「あいつも観に来てたのか……」

 

「そりゃあ斎村凪人と言えば……あの鬼道有人のライバル。灰崎が目を付ける程の格上だろうしな……」

 

 雷門の大半が敵意丸出しの視線を灰崎に向けるも当の灰崎は気付いていないのか興味が無いのか、その両方なのか……ただ閃電イレブンを観ている。

 

「……あと他にも気になる事があんだけどよ」

 

 すると今度は剛陣が個人的に気になった事を指摘する。彼が指す指の先には沢山の女の子達が『凪人 LOVE』と書かれた横断幕を持って黄色い声を上げて凪人を応援していた。

 

『L・O・V・E!I love Nagihito!!』

 

「何だよあの応援!どんだけ期待されてんだ!?」

 

「剛陣先輩、あれは期待されていると言うよりファンなのでは?」

 

「斎村君ってすっごくモテるんですよ。カッコ良いし、頭も良いから他校の女の子が熱狂的なファンになっちゃうくらいに。プレカの人気もぶっちぎりで1位ですし。強化委員で閃電中に行っちゃった時も学校中の女の子達の大半が凄く落ち込んじゃって一時期学校全体がどんよりと暗くなっちゃったくらいで」

 

「なんじゃそりゃああああっ!?」

 

「そ、そこまで行きますか……?」

 

「ムカつくけどそれ以上に引くな……」

 

 その一団を見れば雷門、閃電を始めとしてあらゆる他校の女子生徒達がいる。星章、帝国、木戸川、世宇子、青葉、etc……本当にあらゆる学校の女子生徒がいる。

 

「……よく見たら生徒会の人達もいますね」

 

「杏奈ちゃんはいないみたいですね。でもこの試合に斎村君が出るかは分からないので出なかった時のあの人達の落胆は凄いでしょうね」

 

「てゆーか、つくしさんは斎村さんの事好きだったりしないの?」

 

「私ですか?…う〜ん、私的にはやっぱりカッコ良いと思うのは土門君ですね。背も高いし。でもアメリカに行っちゃいましたから…」

 

 どうやら大谷は別段凪人のファンだったりはしないようだ。まぁそんな事はどうだって良い。

 

「確か部室の方に斎村君が派遣される前の閃電中の試合のDVDがありましたから、この試合と比較すればどれだけ強くなったのかよく分かると思います。……正直、本当に同じチームなのかと疑いたくなるレベルです」

 

「そんなにか……」

 

 そして遂に試合が始まろうとしていた。スタジアムの大画面にまず相手校のスポンサー広告のCMが流れる。そして今度は閃電中のスポンサー、『神童インストルメント』のCMが流れ始めた。

 

『天まで届け!栄光のハーモニー!!』

 

 閃電中のグラウンドから凪人がボールを蹴り上げて、そこから雲が引き裂かれる。そして切り開かれた空からは絵本の天使のような羽が生えてユニフォーム姿でデフォルメされた閃電イレブンが楽しげに楽器をズンチャカと演奏しながら舞い降りて来る。中々にシュールな絵面だ。サトルはトランペット、刀条はコントラバス、堂本はスネアドラム、種田はクラリネット、城之内はホルンと言った具合にそれぞれが別々の楽器を演奏している。

 

 そして最後に凪人もまた同様に天使の羽が生えてユニフォーム姿でデフォルメされて指揮棒を振り上げながら閃電イレブンと一緒にパタパタと飛び、最後にその下部に神童インストルメントのロゴが表示され、スタメンが公開される画面に切り替わる。

 

『神童インストルメントは閃電中を応援しています』

 

 公開されたスタメンの中に凪人の姿は無いようだ。稲森達は凪人のプレーを生で見られない事を残念に思いつつ、いずれは壁として立ちはだかるであろう閃電中の実力を確認しようと観戦する。

 

 そしてその実力は……圧巻の一言だった。

 

「皇帝ペンギン……7!!」

 

 刀条の指笛と共に虹の七色それぞれの色を持つ七匹のペンギンが出現し、ボールに嘴を突き刺して纏わり付いて前進する。敵のキーパーはそれを真正面から受け止めようとするも耐えられずに押し切られてゴール。

 

 いや、今のも真正面から受けられたのではなく、真正面から突破する為にシュートコースを調整されたものだというのは稲森達にも分かった。それ程に分かり易かった。

 

 堅実で安定したパス回し。ドリブルやブロックにも一切の焦りが無い。基本に忠実。それでいて大胆。どんなチームよりもサッカーの基本を抑えた上で応用が効いている。

 

 突如奇抜なプレーをしたとしてもそれは敵に大きな隙を作り出す為の戦術の布石。敵のディフェンスは一気に瓦解してキャプテンであるサトルがフリーでシュートを撃てるようになっている。

 

「はあああっ!!」

 

 強烈なボレーキックが炸裂。威力だけでなくコントロールも確保されたそのシュートは抉るようにゴールネットに突き刺さる。

 

 決して星章のような派手でインパクトのあるものじゃない。灰崎のような弾丸がある訳でもない。だからこそ稲森達は戦慄する。

 

「……!!」

 

「これが……閃電中」

 

「星章学園よりずっと強えんじゃねぇか……?」

 

 星章学園以上の攻撃力、木戸川清修以上のチームワーク、帝国学園以上の統率力、美濃道三以上のディフェンス力、どれもがグループAの注目チームを上回っている。

 

 稲森達とは別の席で観戦する鬼道はそう評する。隣で観戦している灰崎もまた、閃電中の実力を目の当たりにして絶句している。

 

「分かるか灰崎。現状、閃電は星章よりも強い。今のままではいずれ全国大会で当たった時、星章学園は閃電中には勝てない」

 

「……うるせぇ!奴らがどれだけ凄えかは知らねぇがな!あんなもん、俺が…!!」

 

「閃電中を舐めるな!奴らはまだ実力の30%も出してはいない。斎村が出て指揮を執ればあれを遥かに上回る。お前が個人の力で奴らを上回る事が出来たとしてもその連携の前には無力だ。そして……堂本衛一郎からゴールを奪う事は絶対に出来ない」

 

「何だと……!!」

 

 逆に言えば司令塔たる凪人がいないにも関わらず、あれだけのチームプレーを保っているのだ。星章学園を上回る実力を。

 

 灰崎は以前から閃電イレブンの事をチェックしていた。それは敵としてではなく、自分が倒して復讐を図ろうとしている王帝月ノ宮の打倒を掲げているチームだと鬼道に聞いたからだ。

 

(ふざけるな……!王帝月ノ宮を……『アレスの天秤』を潰すのは俺だ…!!それを他に取られてたまるかよ!!)

 

 もし星章よりも先に閃電が王帝月ノ宮と当たってしまえば……灰崎の復讐は果たせなくなる。そう思ってしまった。彼らならば王帝月ノ宮を倒せると思ってしまったから。

 

「ふざけるな!あの閃電なんかにこんな負け方してたまるかよ!!」

 

 相手チームは苛立ちを隠せないようでがむしゃらに閃電のゴールに向かって攻める。彼らはかつて弱小だった閃電をボロクソに打ち負かしたチームの一つだ。だからこそ、ここまで圧倒されて負けるなどプライドが許さなかった。

 

「「「くらええ!!」」」

 

 敵チームのFW三人によって同時にボールが蹴られて凄まじいパワーの必殺シュートが放たれた。だがスタジアムに観客としているサッカープレイヤーは全員が理解していた。

 

 閃電のディフェンスは敢えてシュートを撃たせたのだと。

 

 

「ゴッド……ハンドォォォ!!!」

 

 赤い稲妻が迸る。堂本衛一郎の右手から出現した神の手はそのシュートを完膚無きまでに止め切り、ボールの回転すら許さずに堂本の手に収まる。

 

「俺達は強くなったんだ。俺がいる限り……もう閃電のゴールは割らせねぇ。

 

 

 

なんてな!」

 

 シリアスな雰囲気を醸し出してからの照れ臭そうな笑顔。相手チームはそれによって完全に毒気を抜かれたのか、脱力して殆どのメンバーが膝から崩れ落ちる。

 

 ピッ、ピッ、ピッーーーーーーーーー!!

 

 そして試合終了のホイッスル。結果は12-0で閃電中の完全勝利だ。前試合より3点程少ないがそれでもたった二試合で得失点差が27点に上るという快挙。

 

 そこにはもう弱くて粋がるだけのチームはいない。正真正銘の強さを持つ自信に溢れた閃電中サッカー部がいた。

 

『今回のMVPは……エースストライカーの刀条優作だぁぁぁっ!!』

 

 

「凄いや……」

 

「元雷門イレブンの強化委員で一番の成功例は間違いなく斎村凪人だろうな……」

 

 道成の言葉に思わず頷く雷門イレブン。それから大谷は更に閃電イレブンについて解説を続ける。

 

「斎村君が派遣先に閃電中を選んだ理由は知られていません。というかインタビューがあってもノーコメントを貫いているんですよねー…。でも一部の噂じゃあのゴールキーパー、堂本衛一郎君を気に入ったからなんじゃないかって言われてるんです!」

 

「あのゴールキーパーを?」

 

「はい。そもそも斎村君は中学に上がる際に帝国学園や木戸川清修のスカウトを蹴ってます。そうまでして雷門に入ったのは円堂君にゴールを預けたいからなんだって本人から聞きました!で、堂本君はあの通り円堂君と同じゴッドハンドを使えます!だからかは分かりませんけど、堂本君の可能性に惹かれて閃電中に行ったんじゃないかって噂なんです」

 

 その説明を聞いた稲森は閃電側のベンチで爽やかに笑いながらチームメイトと話す堂本に視線を向ける。

 

「堂本…衛一郎」




堂本はアレス主人公三人と深く関わっていく『四人目』の存在なので早目に三人と接点を持たせたい所。今の所野坂だけだからなぁ。

因みにスポンサーCMでそれぞれの担当楽器

主人公:指揮棒
堂本:スネアドラム
サトル:トランペット
種田:クラリネット
刀条:コントラバス
城之内:ホルン
桐林:シンバル
海原:ピッコロ
赤木:バイオリン
逢崎:フルート
石島:チェロ
藤咲:ピアノ


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突撃!星宮家の晩ご飯

そういやサトルの両親について本編でもこっちでも碌に描写してない事に気付いた。

とゆーわけでサトルの両親登場!


 side三人称

 

 -閃電中、第三グラウンドにて

 

「連携を崩すな!海原!お前はドリブルに自信があり過ぎるあまり、それを過信して無理に敵のディフェンスを突破しようとする癖がある!それでは世宇子には通用しない!仲間へのパスを活かせ!」

 

「っ!ああ!!」

 

 フットボールフロンティアの予選第二試合を快勝した閃電中は次の第三試合といずれ来る世宇子中との試合に備えてよりヒートアップした練習をこなしていた。

 

「桐林!お前は左脚でのシュートを苦手としているな。だから左脚で撃つべきシュートを敢えて右で撃とうと修正し、ワンテンポ遅らせてしまう事がある。それでは敵のキーパーにコースを読む余裕を与えてしまう!自覚して直そうとはしているんだろうが、その前に刀条や俺のシュートを良く見て参考にしてみろ」

 

「お、おう!」

 

 攻守に分かれての練習をしながら凪人は一人一人に的確なアドバイスを告げる。閃電イレブンもそれを素直に聞いてプレーの改善をしていく。

 

 閃電中サッカー部は現在凪人含む12人が選手登録されているが、今年から入った新入生が大量に入部している。そんな彼らの中から更にフットボールフロンティアを勝ち抜く為の戦力になり得る者を見つけなければならない。

 

 そんな多忙な現状でも着実に彼らは成長している。

 

「……ところで、堂本の奴はどうした?あいつが練習に遅れるなんて珍しいな」

 

「確かに……補習でも食らったか?赤木、お前何か知らないか?同じクラスだろ?」

 

「知りません。でも教室を出たのは俺より先でした。てっきり先に練習してると思ってたから、ここに来た時にはあいつがいなくてアレ?って思いましたけど……」

 

 凪人、城之内、赤木の順で未だに現れない堂本についての話が始まったその時、狙ったかのようなタイミングマネージャーの時枝がレギュラーメンバーの練習場に駆け込んで来た。

 

「きゃ、キャプテーン!斎村さーん!!」

 

「どうしたの?」

 

「血相変えてどうした?」

 

「ど、堂本君がぁ!!」

 

「あいつ何やらかした?」

 

 時枝に言われるままに着いて行けば閃電中の生徒達が何やら人集りを作り、ある場所ーーー第二グラウンドを見てゲラゲラ笑っている。そこはサッカー部の戦績で勝ち取った今年入った一年生達の為の練習グラウンドだ。

 

「堂本の奴、練習に来ないであんなとこで何やって……」

 

 人混みを掻き分けてサッカー部レギュラー達は先頭に出る。そしてそこにいたのは……

 

 

 特殊な形状をしたベルトを巻かれ、綱で繋がれて綱引き状態になっている堂本と、

 

 

 全力で力んでその堂本と綱引きをしている巨大な牛だった。

 

「う、牛!?」

 

『牛と綱引き〜〜〜〜〜!!?』

 

 ゲラゲラと笑われる訳である。恐らく堂本だけは真剣にやっているのだろうが、ただの道化である。というか何がどうしてそうなった。

 

「ブモオォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!」

 

「ぬぐぐ…負けるかぁ〜〜〜!!!」

 

「何やってんだあの馬鹿!?てか誰が牛なんて連れて来た!?」

 

「堂本以外いませんよ……」

 

 まさかの光景に愕然とする凪人とどこか悟ったような顔の閃電イレブン。サトルが乾いた笑みを浮かべながら解説する。

 

「堂本君は斎村君が来る前まで偶にキーパーの特訓として牛の頭にボールを付けてそのタックルを正面から受け止めるなんて事してたんだよ」

 

「馬鹿じゃねーの!?てか、それで何で牛と綱引きなんだよ!?タックルを正面から受けるのはまだ分かるよ!?キーパーだからね?でもこれはどう見てもおかしいだろ!!何の特訓になんだよ!?サッカーに活かせるもの何一つねーよ!!あいつこの半年以上俺から何学んだと思ってんの!?」

 

 流れるようにツッコミまくる凪人。堂本がどこからあんな牛を連れて来たのかは分からないが即刻帰らせなければならない。どう考えても学校に連れて来て良いような動物ではないだろう。

 

「ははは……星宮、ちょっと生徒会室に」

 

「え"っ」

 

 いつの間にやら閃電イレブンの隣に来ていた生徒会長。彼に連行されて生徒会室に連れて行かれるサトル。

 この後は結局負けて牛に引き摺り回される堂本の救出に、牛のいた牧場の関係者への連絡と連れて帰って貰う際の作業の手伝い、牛が荒らしたグラウンドの後始末、そして事の発起人である堂本と連帯責任としてキャプテンのサトルと強化委員の凪人へのきついお説教などなど色々あってその日の練習は丸々潰れるのだった。

 

****

 

side凪人

 

「全く、何考えたらあんな意味分からん特訓を思い付いて実行するんだ!!あんなの円堂でもやらねーぞ!!……やらない…よな?」

 

「そこは言い切ろうよ斎村君……」

 

「いやぁ……行けると思ったんだけどなぁ」

 

 牛の強制送還と後始末に教員からのお説教……と全てを終えるのにもう夜の9時を回ってしまった。

 

「笑い事じゃねーよ。怪我人出たらどうすんだよ。そもそもお前が怪我したら誰が閃電のゴールを守るんだ!てかあんな特訓で得られるものなんて一つも無い!!」

 

「う……」

 

「そもそもあの騒ぎのせいで今日の練習は中断する事になっちまったし……」

 

「うぅ……」

 

 何をトチ狂ったのか野坂との再戦に備えてキーパーの実力を上げようと考えた結果が牛との綱引きらしい。やっぱこいつ馬鹿だわ。とびっきりのな。

 

「てかもう9時だぜ。寮の食堂ももうやってねーよ。晩飯抜きはキッツいな……コンビニとかで弁当買おうにも遠いんだよなぁ閃電中の立地的にも」

 

「……マジですいませんでした」

 

 反省すんの遅えよ。もう絶対牛で特訓なんてさせねぇからな。ああ…腹減った。そもそも寮の門限とか考えるとこの時間外出すんのは無理だよな……。でも腹減ったぁ……。

 すると星宮はキョトンとした顔になる。そういやこいつは寮じゃなくて自宅から通ってんだっけ……。そりゃ寮の食堂事情も知らないわな。

 

「……じゃあ、二人共僕の家来る?」

 

「「へ?」」

 

「晩ご飯、(うち)で一緒に食べようか」

 

****

 

 あの後、星宮が家にいる母さんに電話して俺達の分の夕飯を頼んでくれている間に俺と堂本は寮の方に外泊届を提出し、その他諸々必要な物を部屋から持ち出した。外泊先も生徒である星宮の家な事も有ってどうにか許可を貰えた。

 

 そうして俺達は今、星宮宅の目の前にいる。星宮は普通にドアを開けて俺達を中に入れる。

 

「ただいまー!」

 

「お、お邪魔します……」

 

「お邪魔しまーす!」

 

 中に入れば結構洋風な家だな……。星宮自身ハーフみたいだし、親もその辺は拘ってるのかな?

 すると奥の方から星宮と同じ金髪の女性が出て来た。……綺麗な人だ。外国人みたいだし、この人が星宮の母さんか。けど日本語も流暢だな。

 

「おかえり、サトル。それで……貴方達が斎村君に堂本君ね?」

 

「あ、はい!斎村凪人です!」

 

「はいっ!堂本衛一郎です!」

 

「いらっしゃい。サトルから話は聞いてるわ。大歓迎だから今日はゆっくりして泊まっていってね。サトルがお友達をお泊りさせたいなんて言うの初めてなんだから」

 

「お母さん!それより僕達お腹減ったよ」

 

「はいはい」

 

 ………母さんか。俺は春休みに会ったっきりだな。強化委員だし寮生活だから仕方ないけどさ。

 去年は野生中戦前に円堂と修也が家に泊まったりしてたっけ。

 

 そうしてリビングに案内されると態々待ってくれていたのかテーブルの前で分厚い本を読むおじさんがいた。この人が星宮の父さんって訳ね。

 

「お!おかえりサトル。それに君達が斎村君と堂本君か。話はよく聞いているよ。自分の家だと思って寛いでくれて良いからね」

 

「「あ、はい……」」

 

 流石にそこまで神経図太くはない。円堂の家だったらそこそこ寛ぐ気になれるんだけど。昔から良く泊まったりもしてたからな。

 

「はいはい。話は後でね!さ、夕ご飯にしましょ!」

 

 星宮の母さんがテーブルまで料理を持って来てくれる。……今日はパエリアなのか。てか俺と堂本凄え大盛りだな。勝手に押し掛けて来ちゃったのに申し訳ない。

 

「お代わり沢山あるから……食べれるわよね?」

 

「「はい!いただきます!!」」

 

 折角の好意な訳だし、有難く頂く事にする。実際今日は色々あり過ぎて空腹がいつも以上だったからこの大盛りの上にお代わりまであるのは本当に有難い。

 

 ……“母さん”の手料理なんて、久しぶりだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ご馳走様でした!」」

 

 もう腹一杯だ。でもこんなに沢山良かったのだろうか。凄く美味しかったし。

 そんな俺の考えが表情に出ていたのか星宮の父さんは笑いながら「遠慮するな」という旨の言葉を投げ掛けて来る。

 

「子供は元気が一番さ。沢山食べた方が良い」

 

「……ありがとうございます」

 

「お礼を言うのはこっちの方さ。君が『サッカー強化委員』という役割でサトルの学校に来てくれてから、サトルは本当に明るくなったんだ」

 

「へ?」

 

 そしてタイミング良く星宮は俺達が寝泊まりするあいつの部屋を片付けに行き、堂本は星宮の母さんに言われて風呂へ直行。

 

 それから語られる星宮の過去。

 

 ハーフ故にその容姿を揶揄われる事が多かった星宮は周りとの繋がりを得る事を目的にサッカーを始めた。星宮の父さんがサッカー観戦を趣味としていた事も影響していたんだとか。

 

 だがどれだけやっても碌に上達せずに負け続けて馬鹿にされる毎日だった。それでもサッカーが好きだった星宮は諦めなかった。中学に上がってもサッカーを続け、フットボールフロンティアを目指し続けた。

 

 そんな折、俺が閃電中にやって来た。俺の指導でみるみる星宮達は実力を上げて勝てるようになった。勝つ喜びと白熱した試合の熱さを実感した星宮はこれまで以上にサッカーが好きになり、明るくなって行ったそうだ。

 

「そうだったんですか……」

 

「ああ。だから君には感謝しているんだ。サトルの学校を選んでくれて。サトル達に雷門のサッカーを教えてくれて」

 

「……なんか、照れ臭いですね」

 

 つまり、星宮にとっての俺は……俺にとっての円堂みたいものだったのか。なんか円堂になった気分とでも言うのだろうか。結構嬉しい。

 

「でも大丈夫です!俺達はフットボールフロンティアで優勝して、その偉大な山の頂点(てっぺん)に立ちます!!閃電は強いチームですから!!」

 

「……これからも息子とそのチームを、宜しく頼むよ。斎村君」

 

「はいっ!目指すは日本一、そして日本代表です!!」

 

 星宮……良い両親の子供に生まれたんだな。

 すると丁度堂本が風呂から寝間着で出て来る。同時に星宮も部屋の片付けが終わったのか二階から降りて来た。

 

「ふぅ〜サッパリしたぁ…あ、斎村さん!風呂空きましたよ!!」

 

「おーう!」

 

「そう言えばもうすぐ雷門と美濃道三の試合だよね。どっちが勝つのかな?」

 

 そんな感じで俺と堂本は星宮家で一夜を明かす事になった。勿論寝る前にはサッカー談義や他校の分析などの話し合いは忘れない。

 

 フットボールフロンティア、絶対勝ち抜いて全国行って優勝しようぜ。星宮。




サトルが本編で両親をパパママ呼びだったのはまだ幼い頃に亡くしていた為。こっちでは普通に生きてるので成長した影響もあった為呼び方が違います。

星宮(たかし)

サトルの父親。日本人。キラスター製薬に勤めている。サッカー観戦が趣味。その影響を受けてサトルは自発的にサッカーを始めた。
キラスター製薬の事から吉良星二郎とも面識があり、その繋がりからエイリアルートの方ではサトルはお日さま園に引き取られる事になる。
父親としては非常に素晴らしい人物。

星宮エレナ

サトルの母親。イタリア人。美人。とにかく美人。料理の腕が非常に高い。フィディオの母親とは旧知の仲。
イタリアの製薬会社に勤めていたが、キラスター製薬との共同プロジェクトが立ち上げられた際、星宮孝と出会い、色々あって交際。結婚を双方の両親に反対され、駆け落ちに近い形で日本に移住。勘当された過去を持つ。
母親としては非常に素晴らしい人物。





























正史・本編(エイリアルート)において二人は主人公と円堂が初めて出会ったその日に交通事故に遭い、亡くなった。


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堂本vs灰崎

雷門と美濃道三の試合、ぶっちゃけ書く事があまりないのでカットします。というかそこまで雷門を書く必要がないというか……だって主役は閃電だし。

雷門は多分書いて三、四試合程度。内一つは帝国戦。これでも充分多い。


 side凪人

 

 先日、あの雷門と壁山が派遣された美濃道三の試合が行われた。結果から言えばお互い無得点の引き分けに終わった。

 

 美濃道三は昨年のスポンサー獲得の為の大会で俺達とやり合ってからカウンター対策や自力で攻め上がる力が必要という明確な課題があった事から今の実力を見極める形で観戦した。

 

 雷門は正面突破からの得点は現状の戦力じゃ不可能と判断したのか、守りを固める戦術で美濃道三が痺れを切らして攻撃に出るのを待つ事にしたようだ。これは賢い選択と言える。無策に突っ込んでも返り討ちに遭うだけだからな。

 

 だが雷門のFW、小僧丸とやらは見るからにイラついているのがよく分かった。攻めあるのみとか考えてんだろうなぁ。多分俺達閃電が正面突破した前例もあるから余計に崩せる守りだと勘違いしたんだろう。あいつはどうにも短気で考えが足りない傾向があるようだ。閃電以外のチームがどんな目に遭ったのかを考慮せず、自分の実力を過信して客観視出来ていない。ファイアトルネードを撃てる程の実力があるだけに……惜しい。

 

 あの監督、趙金雲は雷門に守備を固める戦術を指示。かつての美濃道三の弱点であるカウンターを狙った……と客観的に見ればそうなるが、美濃道三はその弱点を既に克服していた為、雷門は攻めてもカウンターでもあの守りを突破出来ず、自力で攻められるようになった美濃道三の方はやはりまだ攻めが未熟で守りを固めていた雷門を攻略出来ず……結果引き分けで終わった。

 

 しかし雷門のあの監督……それすらも織り込み済みのように見える。というか、あの策で勝てなかったのは監督の方針が間違っていたのではなく、単純に雷門の実力不足だ。あの雷門がもっと強ければ充分に勝てていた策だった。それを活かせなかった雷門に問題がある。

 

 しかし今回も勝てなかった雷門はこれで全国大会への進出がより厳しくなった。あの監督は何を考えているのか……腹の内が全く読めない。

 

「趙金雲……少し調べてみる必要がありそうだな」

 

****

 

 side三人称

 

 稲森明日人はこの日、監督である趙金雲のお使いによって少し離れた町に来ていた。

 

「監督、地図がいい加減過ぎるよ……。これじゃあ全然分からない。しかもスポーツタオルなんて態々別の町に来なくても……」

 

 絶賛迷子中であった。稲妻町ではない町のスポーツ用品店で諸々の買い出しを頼まれたのだが肝心の地図が物凄く適当だったのだ。

 どうしたものかと悩んでいるとすぐ近くの店の自動ドアが開く音が聞こえて来た。ふとそちらを見やればその店から出てきた人が手に持つ袋に入っているのはスポーツ用品。

 

「あの店か!……って堂本衛一郎!?」

 

「ん?」

 

 稲森が発見したそのスポーツ用品店から出て来たのは閃電中サッカー部ゴールキーパーの堂本衛一郎だったのだ。いきなりフルネームで呼び捨てにされた堂本はその声に反応して稲森を見つける。

 目が合った瞬間、実質初対面の相手に失礼だったと悟った稲森は堂本に歩み寄って挨拶をする。

 

「えと……」

 

 しかしいきなり話しかけられた堂本は当然困惑。稲森とはほとんど初対面みたいなもの故にどうして良いか分からない。というか相手が誰なのかも良く分かってない。

 

「あ、ごめん……俺、稲森明日人。雷門中のサッカー部員なんだ。君は……堂本衛一郎君……だよね?閃電中サッカー部の!」

 

「そうだけど……雷門……あーっ!どっかの島から来たっていう新雷門中の奴か!!星章や美濃道三との試合観たぜ!!」

 

「え!?そうなんだ!?ありがとう!!……まぁ、どっちも勝てなかったんだけど」

 

 元々性格的に意気投合し易い二人は街中でお互いに観戦した相手の試合について語り出す。

 堂本はチームにかつての雷門イレブンである凪人が強化委員として派遣されていて、稲森は強化委員派遣による雷門の空き枠を使っている為、雷門という共通ワードから互いに話がし易い相手でもあった。

 

「ねぇねぇ、斎村さんってどんな人なの!?やっぱり凄い必殺技とか使うの!?」

 

「ああ!斎村さんは凄えぞ!!斎村さんのおかげで俺達は………」

 

 本人の預かり知らぬ場所で凪人の話題になりかけたが堂本は別の何かに気付いたのか、左側にあるゲームセンターに視線を向けた。

 

「堂本君……?」

 

「見ろよ稲森。あそこにいるの……灰崎だぜ」

 

 稲森が同箇所に視線を向ければクレーンゲームをしている星章学園のエースストライカー、灰崎凌兵がいた。

 

「何であいつゲーセンなんかにいるんだ?星章は明日予選第二試合だろ?練習しなくて良いのか?しかも相手はあの木戸川清修なのに……」

 

「木戸川清修って……あの豪炎寺さんの!?」

 

「知らなかったのか?」

 

 気になった二人はゲームセンターに入店。そのまま灰崎に話しかけようと近寄って行く。

 

「はぁー…なんか、賑やかだな」

 

(ゲーセン来た事ねーの?)

 

 稲森の田舎者発言をスルーしつつ、クレーンゲームに興じる灰崎に話しかける。

 

「あのー、星章学園の灰崎…君だよね?明日、試合観に行くから……」

 

「!閃電の堂本と……誰だ?お前」

 

 稲森が話しかけても既に彼の事は記憶の果てまで飛んでしまっていたのか、眉を潜め、首を傾げる灰崎。稲森は一人、言い知れぬ物寂しさに晒された。

 

「ほら、こないだお前がボッコボコにした雷門の稲森だよ」

 

 もう少し言葉を選ぶべきなのが容赦無く言い切った堂本。彼も以前までは似たり寄ったりなのだがそういう気遣いはしないらしい。素でそうなのか、敢えてそうしているのか……恐らくは前者だろう。

 

「……ああ、あのヘナチョコチームか」

 

「ヘナチョコ!?雷門はヘナチョコじゃない!!」

 

「負けただろ?完全によ。それにこないだも守ってばっかのチームに引き分けだったじゃねーか。かつての優勝校の名前に泥を塗ってるお前らをヘナチョコと言わずに何と呼べってんだ」

 

「うぅ…」

 

 反論が出来ない。堂本もフォローはしない。というか出来ない。事実だからだ。しかしそれでも稲森は己の決意を述べる。

 

「確かに負けと引き分けだ……。けどここから巻き返すさ!俺達は全国に行くんだ!」

 

「ハッ。あの程度の実力で行けるかよ」

 

 灰崎の言葉はある意味正しい。全国に行ける枠はグループ予選の1位と2位だけだ。星章や雷門の所属する関東Aグループには他にも帝国学園や木戸川清修など数々の強豪校がいる。既にこれだけ酷い戦績の雷門は全国進出は非常に厳しくなっている。それこそ雷門がこの先四試合全勝した上で他のチームが雷門以上に酷い戦績を出す事を期待せねばならない程に。

 

「行けるさ!どんな特訓をしても食い下がってみせる!」

 

「へいへい」

 

 稲森はその状況を理解していないのか……理解した上でこの先四試合を全勝するつもりなのか。どちらにせよある意味大物だろう。

 

「ところでお前こそ練習しねーのかよ?明日は木戸川戦だろ?」

 

「明日の試合には出ねーよ」

 

「え!?何で?スタメンでしょ?」

 

「試合に出るかどうかは俺自身が決める。明日は乗らねぇ。だから試合には出ない。以上」

 

 まさかの発言に稲森も堂本も絶句するしかない。自分勝手が過ぎるその物言いに驚愕を禁じ得ない。

 

「星章学園じゃそんな勝手が許されるの!?」

 

「俺クラスになるとな」

 

「嘘つけ!鬼道さんがそんなの許す訳ねーじゃん!斎村さんから鬼道さんの事は聞いてんだぞ!!」

 

「るっせーな!俺の勝手だろうがよ!!」

 

 話しながらもクレーンゲームを続行しつつ、景品の『クマゾウ』というぬいぐるみをゲットし、灰崎はそれを手に稲森と堂本に背を向けてゲームセンターを出ようと出入り口に向かって歩き出す。

 

 そして同時にある人物が入店して来た。

 

「ここにいたか堂本。お前何やってんだ?買い出しにどんだけ時間かけてんだよ。つか何でゲーセンに入ってんだお前」

 

「あ、斎村さん」

 

「え!?斎村さん!?」

 

 買い出しから中々帰って来なかった堂本を探していたのか、凪人がこのゲームセンターにやって来たのだ。すぐ近くのスポーツ用品店は閃電中サッカー部がよく利用している事から、その近くにいると踏んでいたのだろう。

 

「電話も繋がらねぇし、何してんだお前は」

 

「あ、電池切れてた……」

 

 スマホを確認するとバッテリーが無くなっていた事に気付く堂本。そんな彼を横目に凪人は堂本の周囲にいる二人ーーー稲森と灰崎を見る。

 

「お前らは……灰崎、それに……」

 

「あ、初めまして!俺、稲森明日人って言います!」

 

「ああ、知ってるよ。雷門に来た奴だろ。で、お前ら何してんの?特に灰崎。明日は木戸川戦だろ?練習はどうした?」

 

「……明日は出ねえよ。気分が乗らねえ」

 

「……そうかい」

 

「「え?」」

 

 意外にも凪人は灰崎の勝手な振る舞いに口出しはしなかった。灰崎はそんな凪人を物分かりが良いとでも思ったのか、稲森と堂本を見て鼻で笑い、その場を去ろうとする。

 

「ま、良いんじゃねーの?どうせお前が出ようが出まいが星章は木戸川には勝てねーし」

 

「……何だと?」

 

 凪人が灰崎を煽り出した。いや、顔色一つ変えずに淡々と言ってる事から本気でそう思っているのが伺える。凪人が本気で言っているのを理解した灰崎は凪人の胸倉を掴みにかかるが軽く躱される。

 

「ストライカー対決なんて騒がれてるけどお前と修也とじゃあ、お前に勝ち目なんて無いからな。やるだけ無駄なのは良く分かる」

 

「何だと斎村ァ……!!」

 

「違うってのか?なら示してみろよ」

 

「……上等だ。こいつからゴールを奪えば文句はねぇだろ……!!」

 

 凪人を睨みながら堂本を指差す灰崎は先日、鬼道に言われた事を思い出す。

 

『現状、閃電は星章よりも強い。今のままではいずれ全国大会で当たった時、星章学園は閃電中には勝てない。お前が個人の力で奴らを上回る事が出来たとしてもその連携の前には無力だ。そして……堂本衛一郎からゴールを奪う事は絶対に出来ない』

 

 堂本からゴールを奪えない。鬼道はそう言った。ならば鬼道が星章よりも強いと言う閃電からゴールを奪えば相対的に自分が豪炎寺よりも優れている事を示せると考えた。堂本からゴールを奪ったところであまり豪炎寺には関係無いのだが。

 

 そしてあれよあれよと勝手に話が進み、近場のサッカー広場にて灰崎と堂本のPK対決が決定した。二人は既にユニフォームに着替えている。

 

「どうしてこんな事に…」

 

 嘆く稲森をよそに睨み合う灰崎と堂本。凪人は灰崎の観察を始める。

 

(好都合だ。堂本が灰崎相手に通用するかどうか……この先の練習やフットボールフロンティアを勝ち抜くには重要な情報になる)

 

 灰崎が三本シュートを撃ち、三本とも止められたら堂本の勝ち。一本でも入れられてしまえば灰崎の勝ちだ。キーパーが不利な条件だが、キーパーにはそれだけの責任があるという事でもある。

 

「オラァ!!」

 

「おりゃああっ!!」

 

 灰崎の鋭いシュートが堂本の守るゴールに向かって放たれる。堂本はそのシュートの軌道を読み、余裕を持って食らい付き、その両手でボールを掴み取った。

 

「なっ!?」

 

「凄い……灰崎のシュートを止めた!?」

 

「まずは一本。堂本が取ったぞ」

 

 初弾で決めるつもりだった灰崎もこの結果には困惑し、稲森はただただ驚愕する。雷門のキーパーは一度も止められなかったシュートをあっさり止めた堂本に。

 

「しっししっ!良いシュートだったな!」

 

「チッ!」

 

 笑顔でボールを返され、舌打ちをする灰崎。すぐに二本目のシュートを撃ち、コーナー狙いで鋭いコースを選択する。

 

「はあっ!!」

 

「……!!」

 

 しかしそれをもパンチングで弾き、ゴールを死守する堂本。灰崎の顔色から余裕が無くなって来ている。いとも容易くゴールを奪う自信があったのだろう。しかしそれは逆に容易く打ち砕かれた。

 

「ラスト一本だ。言っておくが修也なら最初のシュートで堂本からゴールを奪えていた」

 

「……!!」

 

 灰崎は苛立ちながらも精神統一を図る。ここで決められなければストライカーとして豪炎寺に劣るという烙印を押される。そんな評価に納得出来る訳がない。

 

「さぁ、来い!」

 

 堂本の気合いの入った言葉に苛つきながらも灰崎はボールを蹴り上げて飛び上がり、空中で指笛を吹く。するとピッチから六匹のペンギンが飛び出て次々と空中のボールにその嘴を突き立てる。

 

「あれは……!!」

 

(やっと見せたか。問題は堂本がこれを止められるか……)

 

 嘴が突き立てば今度は六匹のペンギン全てがドリル状に回転。小型ロケットのような形に変化して火がジェット噴出。ボールにパワーを蓄積させていく。

 

 そして最後に灰崎のオーバーヘッドキックが炸裂。蹴り出すと同時にペンギンの姿に戻った六匹はボールに纏わり付きながらゴール目指して一直線に飛んで行く。

 

「オーバーヘッドペンギン!!!」

 

 現在確認されている灰崎の個人必殺シュート。技そのものの威力は豪炎寺の使う、ファイアトルネードに勝るとも劣らない。

 

「ゴッドハンドォォォ!!!」

 

 赤い稲妻が迸った。堂本の右手から出現した赤き神の手はそのシュートを受け止め、衝撃でペンギン達を跳ね除けた。そしてその右手にボールがしっかりと収まっていた。

 

「……す、凄え……」

 

「良いシュートだったな!灰崎!!」

 

 稲森は灰崎に勝利してみせた堂本の実力に圧倒されるばかりだった。これが堂本衛一郎。凪人が派遣される前の閃電の試合は観た事はあるが、やはり比べ物にならない程の成長だ。あの円堂守と同じ技をここまで使いこなしている。

 

「……終わったな。とんだ時間食っちまった。学校に戻るぞ堂本」

 

「あ、ウッス!じゃあな稲森、灰崎!今度は試合で会えると良いな!」

 

「あ、うん……」

 

「……」

 

 去って行く凪人と堂本。ポツンと残される稲森と灰崎。灰崎は屈辱に顔を歪めながら凪人と堂本を睨む。

 

「………クソがああああああっ!!」

 

 悔しさが滲み出ている叫びを上げて一人でその場を去る灰崎。稲森はその後ろ姿をただ見ている事しか出来なかった。




壁山は怪我する事なく普通に出場しました。雷門が得点出来なかったのは壁山の存在が大きいです。

純粋なストライカーとしてなら灰崎より豪炎寺の方が上です。多分これは原作の方でもそうでしょうし。

主人公も言ってましたが現状堂本は豪炎寺のシュートは止められません。


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激戦!星章vs木戸川清修!!前編

アレス、オリオンと何故に剛陣にばかり無駄な尺使うのか。


『木戸川清修にてサッカー強化委員を務める豪炎寺修也は“炎のエースストライカー”と呼ばれ、その名を少年サッカー界に轟かせています。次の試合では強豪、星章学園との激突が注目されています』

 

『星章学園はターゲットの一つとして捉えている。キーマンである灰崎は星章の力でもあり、弱点でもある。完全なるチームワークを誇る我ら木戸川清修なら、綻びを抱えた不完全な星章学園を倒せる。星章学園には本命のターゲットである閃電中を倒す為、我々の実力をより正確に把握する試金石となって貰う』

 

 〜スポーツニュース、豪炎寺修也への取材から抜粋〜

 

****

 

 side三人称

 

 星章学園vs木戸川清修中当日。星章学園スタジアムは超満員。一般の観客だけでなく、フットボールフロンティアの出場チームも多く来場していた。全国ランキング1位の星章学園とその星章を倒せると豪語した強豪木戸川清修の試合なのだ。当然と言えば当然だろう。

 

「……あのCMはどうにかならねーのかねぇ」

 

 凪人は観客席で冷ややかな目を電光掲示板に向ける。先程まであそこにそれぞれのチームに付いているスポンサーの広告CMが流れていたのだ。凪人が苦言を呈しているのは木戸川清修のスポンサーであるZゼミのCMである。

 

 武方三兄弟が勉強机に付いたら彼らを食う勢いで豪炎寺がドヤ顔でサムズアップするという普段の豪炎寺のキャラからは考えられない内容なのだ。何だ君の成績にトルネードって。意味不明過ぎる。

 凪人は初めてそのCMを見た時は指差してゲラゲラと大笑いした。その真後ろに豪炎寺本人がいる事に気付かずに。そんな割と逆恨みに近い理由で凪人はこのCMを好ましくは思っていなかった。

 

「楽しみだねー!星章と木戸川、どっちが勝つかなー!?」

 

 無邪気にはしゃぐサトルは今か今かと試合を待ちわびている。本日観戦に来た閃電メンバーは凪人、サトル、刀条、種田そして堂本だ。

 

「斎村さんは星章はまず()()()()って言ってましたけど……」

 

「試合を観れば分かる」

 

 敢えて理由は語らない。星章学園が木戸川清修に勝てない理由はハッキリしている。それはこの試合で明るみになるだろう。

 すると後方から凪人を呼ぶ聞き覚えのある声が響いて来た。

 

「あーっ!?斎村君!お久しぶりですー!」

 

「!…大谷さん?」

 

 声の主は大谷つくし。雷門中に通っていた頃のクラスメイトだ。現在は伊那国島から雷門に転入して来たサッカー部のマネージャーをやっていると聞いている。

 

 その後ろには稲森を始めとした雷門のメンバーがぞろぞろと四人程連れられている。他には現生徒会長だという神門杏奈だ。

 

「あ、どうも初めまして。今雷門でキャプテンをやらせて貰っています。道成達巳です」

 

「ああ。斎村凪人だ。よろしく」

 

 同い年ではあるが、雷門の枠を「使わせて貰っている」という意識があるのか、低姿勢で礼儀正しく挨拶をしてくる道成。凪人とて邪険に扱うつもりはないのでかつての副キャプテンと現キャプテンの顔合わせは穏便なもので済んだ。

 

「稲森はこの間会ったな。そっちの二人は確か…DFの万作とエースの小僧丸だったか?」

 

「あ、はい…」

 

「チッ」

 

 確認も兼ねて尋ねると肯定で返して来る万作と舌打ちで返して来た小僧丸。小僧丸のその態度を見てムッと来たのか刀条が小僧丸に突っかかる。

 

「初対面で舌打ちなんて失礼じゃないか?君達は斎村さん達が強化委員で出払っている事でその不在の部を使わせて貰っている立場なのに」

 

「フンッ、知るかよ」

 

「おい小僧丸!……すいません、斎村さん」

 

「……理由は知らないがどうやら俺はそいつに嫌われているみたいだな」

 

 凪人としては完全の初対面の相手にここまで嫌悪感を剥き出しにされる事など初めてであった為、怒りや反感よりも驚きの方が大きかった。

 

(……思い当たる節は……無いな)

 

 そんな感じで何故かナチュラルに隣の席にて半ば無理矢理に観戦の同伴をして来た雷門。断る理由も特に無いのだが、何の断りも無しにそういう事をされると少しばかり居心地が悪いと思ってしまう。

 

「斎村さんはこの試合どうなると思ってますか?」

 

「……普通なら試合はやってみなきゃ分からないもんだが、この試合だけは別。現時点で8割方、木戸川清修が勝つだろうな」

 

 なんかグイグイ迫って来てこの試合に関する凪人自身の見方まで尋ねて来る稲森。凪人はそんな彼に辟易としながらも律儀に答える。すると今度は大谷が質問を投げかけて来た。

 

「じゃあ星章学園が勝つ確率は残りの2割なんですか?」

 

「いや、1割だ。残り1割は引き分け」

 

「えっ!?どうしてですか!?星章学園はあんなに強いのに!!」

 

「木戸川清修だって星章に負けないくらいに強いのもあるが、灰崎がこの試合に大きく影響して来るだろう。鬼道があいつをどう動かすかで勝敗が決まると言っても良い。馬鹿正直に灰崎をいつものようにFWとして投入するなんて愚策をやらかせば100%木戸川清修の勝ちだ」

 

 断言する凪人に対して絶句する稲森達。先日のインタビューでも豪炎寺本人が灰崎を星章の弱点と述べていた。灰崎にそれ程までの欠点があるとは思えないのだ。

 

「修也とのストライカー対決なんてしたら灰崎に勝ち目なんて無いし、デスゾーン以外で仲間との連携をしようとしない灰崎じゃ木戸川清修のチーム力の前に叩き潰されて終わる。星章はシュートの一本すら撃てずに負けるだろう」

 

****

 

 遂に始まろうとしている星章学園vs木戸川清修中の一戦。しかし驚くべき事に星章のエースストライカーである灰崎はFWではなくゴールキーパーとして試合を始めるという異例の事態にスタジアムは騒然としていた。

 

 そんな騒然とした空気の中、フィールドでは、かつての雷門イレブンとして共に全国を制し、それぞれの学校で強化委員として役割を担う鬼道と豪炎寺は不敵な笑みを浮かべて話していた。

 

「いよいよこの時が来たか…」

 

「ああ。凪人には悪いが……どうやらお前を最初に倒すのは俺らしい」

 

「ほう?言うじゃないか。そっちはかなり仕上げて来たようだな……」

 

「相手はお前だからな。こっちも真剣だ。そっちの問題は未解決のようだが?」

 

 豪炎寺はキーパーのユニフォームを着て全然納得のいかない表情で不機嫌な灰崎を見て鬼道に尋ねる。鬼道は余裕を崩す事なく答える。

 

「打てるべき手は打った。後はこのチームの力次第だ」

 

「では見せて貰うとしよう。『ピッチの絶対指導者』とやらのお手並みを」

 

 そして星章と木戸川清修……それぞれのチームがポジションに付いて試合開始のホイッスルを待つ。

 星章の監督である久遠道也が何故灰崎をキーパーとして配置したのか。その意図をこのスタジアムの中で理解出来ている者は少ない。木戸川清修の監督である二階堂ですらそれを理解出来ていない。

 

 そんな中、木戸川清修のボールでキックオフ。まずは豪炎寺がキャプテンである武方勝にボールを託し、ドリブルで斬り込ませる。

 

『早速木戸川清修が仕掛ける!何というスピードでしょうか!速い!速いぞぉー!!』

 

 まずは武方三兄弟が中心となって緻密で堅実。しかし素早いパス回しとドリブルの連携で次々と星章のMF陣営を翻弄。鬼道をも出し抜いて攻め上がって行く。

 

 そして武方勝がDFの一人を躱すと同時に豪炎寺へとボールが渡った。

 

「速い…!」

 

「データ以上のスピードだ!」

 

 早くも前線のペナルティエリアへと辿り着いた豪炎寺はボールを蹴り上げると同時に己を身を捻り、左回転で爆炎をその身に纏いながら跳び上がる。

 そしてその炎の全てを左脚に集束させ、その左脚でボールを蹴り出した。これは豪炎寺の代名詞とも言える必殺技だ。

 

「ファイアトルネード…改!!」

 

 空中から一直線に突き進むファイアトルネード。雷門の小僧丸は当然として、閃電の凪人や白恋の真人をも凌駕する灼熱の炎が星章ゴールを襲う。

 こんな威力のシュートをキーパー未経験である灰崎が止められるはずがない。DFの八木原と白鳥はシュートコースに躍り出て身を呈してファイアトルネードを止めにかかる。

 

「「はあああああっ!!……ぐあああああっ!?」」

 

 腹でシュートを受け止め、それを支える。しかし二人の身体を張ったシュートブロックも虚しく豪炎寺のファイアトルネードはDF二人ごとゴールへとぶち込まれた。

 

 1-0

 

『き、決まったぁーー!!DF二人のフォローを物ともせずに豪炎寺のファイアトルネードが星章ゴールに突き刺さったぁーー!!キーパーの灰崎は棒立ちぃーーー!!!』

 

 至極あっさりと決まったシュート。これは会場にいるファイアトルネードの使い手二人と、アレスクラスターと呼ばれる者達しか気付いてはいなかったが、豪炎寺の撃った今のファイアトルネードは本気ではなく、実力確認の為の牽制だった。その為、豪炎寺本人は物凄く拍子抜けな気分になっていた。

 

(流石だな豪炎寺……。木戸川清修の仕上がりはこれまでとは別次元だ。それにお前自身のレベルアップも欠かしていない。だがこの試合は俺達が勝つ!)

 

 誰もが木戸川清修の絶対有利を確信する中、鬼道だけは不敵に微笑み、余裕を失わない。

 

「……!!」

 

 灰崎は何も出来なかった事実と豪炎寺の実力を目の当たりにし、昨日凪人に言われた事がフラッシュバックする。

 

『お前と修也とじゃあ、お前に勝ち目なんて無いからな』

 

「っ!…ふざけるなよ斎村ァ……!!」

 

 この屈辱に灰崎が耐えられるか否か。それがこの試合の流れを左右するだろう。しかしそれに灰崎が自分で気付けなければ星章はただ負けるだけだ。

 

「不味いです鬼道さん。奴らはデータより数段上のチーム力を持っているようです」

 

「ああ。だが元よりそんなものアテにならん。敵がデータよりも強くなっているなんていうのは当たり前の事だ。俺はそれを昨年の雷門に嫌という程、味合わされたからな」

 

「これが豪炎寺修也ですか……。苦しい戦いになりそうですね」

 

「心配するな。どんなに苦戦を強いられようと、最後に勝つのは俺達だ」

 

 水神矢と折緒の報告に対し鬼道はやはり余裕を崩さない。豪炎寺ーーーひいては木戸川清修がデータ以上の実力を持っている事など想定内だ。情報なんて不足して当たり前。それを踏まえた上で勝利を導き出すのが司令塔というものだ。

 

 灰崎は屈辱に震えながら拳を芝生に打ち付けて叫ぶ。

 

「俺はこんなトコでうだうだやってる暇はねぇんだよ……!!鬼道ォォォーーー!!!」

 

 そして今度は星章ボールで試合再開。反撃に転じる為に動き出す星章学園。鬼道へとパスが渡ればその前に立ち塞がるのは豪炎寺だ。豪炎寺がボールを奪いにかかれば鬼道は身体を盾にそれを牽制しつつボールを守り、マッチアップ。

 

「流石だな豪炎寺……」

 

「俺一人の力じゃない。チーム全員が連携した力だ!」

 

『ああっーと!鬼道と豪炎寺!雷門中で共に全国を制した元チームメイトによる激しいマッチアップだ!!』

 

 豪炎寺と鬼道のボールを奪い合う攻防。素早く細かな動きで鬼道のプレーを崩しにかかる豪炎寺とそれを器用に躱して緻密なボールコントロールでキープし続ける鬼道。この勝負を制したのは鬼道だった。

 

 豪炎寺を突破した鬼道はそのまま前線に進む折緒へとロングパス。しかしそれをDFの西垣がスライディングでカット。攻撃を防ぎ、カウンターへと繋ぐ。

 

「……ここまで仕上げて来ているとはな」

 

 木戸川清修はディフェンスの連携でパスコースを限定させ、そこに誘導したのだ。そうすれば体力の消耗を抑えつつ、確実にボールを奪える。

 

「武方三兄弟だけではなく、チーム全体の意思疎通が行き届いている。完全なチームサッカーだな」

 

「そうだ。かつて天才ゲームメイカーと呼ばれた鬼道有人にこれが破れるかな!?」

 

 そう挑発して豪炎寺は前線へと向かう。鬼道はこのチーム全体での連携を高く評価する。

 

(本命は閃電と言っていたな……つまりこのチームサッカーの行き着く先は斎村を超える為の戦術……面白い!)

 

「豪炎寺!」

 

 西垣からのロングパスが豪炎寺へと届く。見れば他の星章メンバーは木戸川のメンバーにマークされ、動きを抑えられている。これは凪人の戦術に通じるものがある。

 

「行くぞ!」

 

 豪炎寺の号令一下、木戸川清修の全体的な動きが攻撃的なものに早変わりする。

 

「今こそ木戸川清修の真のチーム力を見せる時だ!!」

 

 それからも木戸川清修の素早く華麗なパス回しに星章はまるで付いて行けない。鬼道は敢えて指示を出さずに様子見を決め込んでいる。

 

「くっ!」

 

「何だこの速さは……!?」

 

 この連携は豪炎寺や武方三兄弟というFW達だけで出来るようなものではない。チームが真の意味で一つになる事で初めて辿り着けるサッカーだ。

 その完全なるチームサッカーによって良いように攻め込まれ、碌にディフェンスも機能出来ない星章学園。それはキーパーがこの場において役に立たない灰崎だからという理由から来る焦りもあったからだ。

 

「くっ、ここで食い止めなければ……!!」

 

「何やってんだ!止めろよ役立たず共がぁ!!」

 

 しかしそんな事も自覚せずに怒鳴り散らす灰崎に星章ディフェンス陣は呆れるばかり。この試合はDFとして出場している正キーパーの天野が役立たずなのは今の灰崎だと指摘しても機嫌を悪くするだけで何も好転しない。

 

 そうしている間にも木戸川清修は豪炎寺と武方三兄弟を中心に見事なパス回しでDFを軽くあしらいながら攻め上がって来る。

 

「行くぞ!」

 

「「「おう!!」」」

 

 武方三兄弟が背中合わせに立ち、振り向くと同時に中心に置かれたボールを一斉に蹴り上げる。

 

「「「トライアングルZ!!」」」

 

 空中に向けて放たれたそれは従来のものとは違い、トライアングルを模したオーラが幾重にも展開されて天を駆け登る。その先にあるボールに追い付かんと豪炎寺がファイアトルネードの要領で爆炎を纏いながら左回転で縦に上昇して行く。

 

 重ねられたトライアングルにファイアトルネードの炎が着火。その全てが燃え盛り、豪炎寺の纏う炎と回転を爆増させる。

 

「何ィ!?」

 

「僕達のトライアングルZに!!」

 

「豪炎寺のファイアトルネードを加えた!!」

 

「これぞ最強のシュートっしょ!!」

 

 最後に頂点で炎のトライアングルに力を溜め込んであるボールを豪炎寺が普段のファイアトルネードと同じ様に全力で蹴り出した。

 

『爆熱トルネェード!!』

 

 一斉に叫ぶ豪炎寺と武方三兄弟。これは必殺技同士を連携させて威力を増幅させる戦術、オーバーライドと呼ばれるものだ。以前美濃道三が閃電や雷門との試合で見せたレンサ・ザ・ウォールと同じカテゴリーに属する。

 

 トライアングルZとファイアトルネードが融合した超パワーに星章ディフェンス陣は勿論、灰崎が対応出来る訳がなく、灰崎はボール諸共ゴールにぶち込まれてしまった。

 

「ぐああああああああっ!!?」

 

 2-0

 

 前半開始10分、木戸川清修は全国ランキング1位を誇る星章学園相手に大きくリードするのであった。




Q.小僧丸、主人公に対して態度悪くね?

A.簡単に言えば嫉妬です。豪炎寺とのファイアトルネードDDのパートナーという立場に嫉妬してます。また、旧雷門の中で唯一お互いを名前で呼び合う程に仲が良い事も有名ですからそれも関係してます。

Q.オーバーライドの名前、爆熱ストームじゃないの?

A.アレス版爆熱ストームの名前変更については本来の爆熱ストームを別に出したいのでそうしました。威力も見る限りエイリアルートの爆熱ストームの方が強そうだし、劣化版という事で「爆熱トルネード」としました。

Q.つか最初のファイアトルネード…

A.無印FF編の時点で豪炎寺が原作より強かったから。一年後のアレスなら尚更。なので他にも無印キャラが原作で止められた技、シーンで相手の技や諸々をぶち抜く事も普通にあります。


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激戦!星章vs木戸川清修!!中編

オリオン、豪炎寺と鬼道の復帰はどうなるのか。追加メンバーの枠が当初の予定より二枠増えたからこの二人が離脱した分、枠が空いたみたいな感じにされてるんじゃないかと不安。


 side凪人

 

 修也の必殺技、ファイアトルネードと武方三兄弟のトライアングルZによるオーバーライド技、爆熱トルネードが炸裂。そのリプレイが大画面に映し出され、会場は興奮の渦にあった。

 

「くぅ〜!豪炎寺さん、やっば凄え!!」

 

「あのシュート、俺も受けてみてぇ!!」

 

 すぐそこにいるチビデブと熱血馬鹿がうるせぇ。声量考えろ。

 

 それにしても爆熱トルネードか……エイリア学園の襲撃が無かった事から修也が爆熱ストームを覚えられず、結果あのオーバーライドが爆熱ストームですなんて事になってたら俺自身少し荒れたかも知れん。それとあの三兄弟のトライアングルZが少し変わったな。いや、あの面倒臭い工程からのファイアトルネードじゃやり辛いから別モーションでも撃てるように特訓したんだろうけど。

 

 そもそもトライアングルZのモーション自体あまり覚えてないんだよな。これまで一回しか見た事なかったし。確かあれは河川敷で円堂と三兄弟の決闘時に帝国との予選決勝から既にマジン・ザ・ハンドを使えた円堂があっさり止めてそれ以来だ。去年の三回戦に至っては俺と鬼道の同時指揮であいつらにシュートの一本すら撃たせなかったのを良く覚えてる。

 

 てか前に修也が爆熱ストームを修得出来るようにアイデアとかアドバイスとか出したからな。全国大会では爆熱ストームが見られるかもしれん。いや、全く別の技が出て来るかもしれないが。

 

「武方三兄弟も凄かったな……。あのシュートは三兄弟の協力あってこそだった」

 

「はぁ!?」

 

「だな。半分は武方三兄弟の得点じゃないか?」

 

「どこ観てたんだよ!今のは100%豪炎寺さんの得点だろ!!」

 

「お前こそどこ観てたんだ。今のは三兄弟のトライアングルZとのオーバーライドだろうが……」

 

 いくら修也でもファイアトルネード単独じゃあそこまでの炎と威力は出せない。爆熱ストームや爆熱スクリューを使えば話は別だろうが、あれはあくまでファイアトルネードを使っている。

 

「うるせぇ!今のは豪炎寺さんが取ったんだよ!!」

 

 ……こいつマジで修也しか見てないのか?ファイアトルネードを使う事から予想はしてたけど修也の熱狂的なファンみたいだな。そして何故俺にはそこまで反発して来る。

 

「おい小僧丸、さっきから失礼過ぎるぞ!……本当にすみません、斎村さん」

 

「小僧丸がそこまでムキになるなんて珍しいな……。どちらの事にしても」

 

 道成と万作にそう言われても特に反応する事のないチビデブ。流石に俺もムカついて来たけど、ここで反応するのも癪だ。試合観戦を続けよう。

 

****

 

 side三人称

 

 見事な連携で果敢に攻め続ける木戸川清修。対して星章学園は防戦一方。どちらが優位に立っているのかは一目瞭然だろう。

 ペナルティエリア目前に来た豪炎寺は武方三兄弟にまた合図を出す。

 

「行くぞ!」

 

「「「おう!」」」

 

「さっきのシュート……オーバーライドが来るぞ!豪炎寺にボールを上げさせるな!」

 

 星章のキャプテンである水神矢と白鳥…DF二人が豪炎寺を徹底マーク。しかし豪炎寺の表情は笑っている。二人はそれに気付かない。木戸川清修のようなチームプレーを徹底するチームは……時にはエースストライカーすらも囮になり得る事を……星章ディフェンス陣は忘れていたのだ。

 

 そして武方三兄弟が走る。先程とは違って三人一斉に上空へとシュートを打ち上げるのではなく、従来のパスを駆使したやり方だ。長男の勝が前方にいる三男の努目掛けてパワーを込めたパスを出し、三男の努は上空へとそれをダイレクトに蹴り出す。勿論ボールにパワーをチャージする事を忘れない。

 

 そして次男の友が長男の肩を踏み台にして飛び上がり、強烈なボレーキックでシュート。この時点で三人のパスとシュートでZの軌道を描いている。

 最後にトライアングルを彷彿させる組体操で決めポーズ。これこそが本来の……、

 

「「「トライアングルZ!!!」」」

 

 三兄弟の技は豪炎寺の走るコースに沿って突き進む。

 

「撃たせるかあーー!!」

 

 正キーパーの天野が豪炎寺のファイアトルネードとのオーバーライドを阻止するべく、接近する。しかし根本的な事を見落としている。豪炎寺が走っている……つまりは地上にいる。シュートの軌道もそれに沿っている。そんな状態でファイアトルネードとトライアングルZを組み合わせるなど出来る筈が無いのだ。

 

 天野が豪炎寺の前に出るも、豪炎寺はトライアングルZをスルー。そのままシュートはガラ空き同然のゴールへと突き刺さった。

 

3-0

 

『決まったぁーー!!木戸川清修にまたもや追加点!!決めたのは武方三兄弟だぁーー!!』

 

 三度棒立ちとなった灰崎をよそに豪炎寺と武方三兄弟はハイタッチを決める。現在前半20分を超えている。ここで1点は取り返しておかないと後半で灰崎が鬼道の狙いに気付いても星章の勝利は厳しくなって来る。

 

 そしてまた星章ボールで試合再開。鬼道は折緒と佐曽塚を引き連れて攻め込んで行く。

 

「無駄ですよ」

 

「いくら天才ゲームメイカーと言われた鬼道でも俺らのチームサッカーには勝てない!みたいな?」

 

 武方の長男次男が二人掛かりで鬼道をマーク。豪炎寺を始めとした他のメンバーは統率の取れた動きで他の選手達の動きを封じている。

 

(……やはり斎村のゲームメイクに通じるものがあるな。完全なるチームサッカーは見事だが、斎村の戦術を模倣しているだけの動きもある。それでは俺は勿論、斎村にも突破口を開かれてしまうぞ)

 

 瞬間、鬼道は勝と友のマークを振り払い、一人で前線に躍り出る。そして佐曽塚にパスを渡され、単身ドリブルで攻め込む。他者のマークに回っていた木戸川のメンバーはフリーになった鬼道への対応が遅れる。

 

「行かせるものか!」

 

「イリュージョンボール改!」

 

 西垣との一対一の攻防をイリュージョンボールによる撹乱で制し、突破。ペナルティエリアへと辿り着いた鬼道はキーパーとの一騎討ちに持ち込む。

 

 左脚を後ろに振るう事でボールに回転をかける。回転によってドス黒いエネルギーを纏い、その密度を高めていく。そしてダークエネルギーのチャージが終わると同時に右脚で蹴り出した。

 

「デスロード!!」

 

「カウンターストライク!……ぐああっ!!」

 

 単独でデスゾーンや皇帝ペンギン2号すらも上回る威力を誇る鬼道の必殺シュート。流石にイナズマブレイクやデスライトニングには及ばないものの、経験の少ない木戸川の新キーパーである大御所からゴールを奪うには充分だった。

 

 3-1

 

『決まったぁー!鬼道、木戸川のチームプレーを見事に破り、点差を縮めてみせたぁーー!!』

 

 ピッピーーー!!

 

 ホイッスルが鳴り響き、ここで前半終了。3-1で2点差ではあるものの、非常に見応えのある激戦と言えるだろう。しかし星章の方は鬼道を除く選手達に不満が募っているのは明らかだ。特に灰崎はその傾向が強い。

 

 ハーフタイムの最中、ベンチ前にて灰崎が鬼道の胸倉を掴んで怒鳴り散らす。

 

「何を考えてやがる鬼道!!このまま負ける気か?今すぐ俺をFWに戻せ!!」

 

「負ける気は無い。お前をFWに戻す気も無い」

 

「ふざけんな!俺はこんな所で負ける訳にはいかないんだァ!!」

 

「……俺は勝つ為の手順を踏んでいる!」

 

 聞き分けの悪い灰崎に対し、何処までも冷静に鬼道は灰崎の手を振り払い、自分の考えを告げる。

 

「何故お前をキーパーとして出場させたか。それが分からなければ、お前がFWに戻っても木戸川清修には勝てない」

 

「何だと……!?」

 

「昨日、お前は斎村に豪炎寺とストライカー対決をしても勝ち目は無いと言われたそうだな。俺も同感だ。今のお前ではどう足掻いても豪炎寺には勝てない」

 

「ハッ!あんな奴に負けねぇよ!!」

 

「豪炎寺を舐めるな!!」

 

「っ!」

 

 豪炎寺に自分が劣っているとは思っていなかった灰崎。しかし鬼道の口調と剣幕は真剣そのもの。鬼道もまた、灰崎はFWとして、ストライカーとして……豪炎寺には及ばず、それ以外にも負ける要素が揃っていると理解しているのだ。

 

「例えお前の力が豪炎寺を超える事が出来たとしても、豪炎寺が作り出したチームプレーは強力だ。チームを軽んじるお前がFWとして出ても、お前個人と木戸川清修全員との戦いになり、星章はシュートすら撃たせて貰えないだろう」

 

 それだけ言って鬼道は灰崎に背を向けて監督である久遠と話しに行く。しかし灰崎は納得しない。出来るはずがない。

 

「御託はいい!俺をFWに戻せばすぐに逆転してやるよォ!!」

 

 だがその嘆願は聞き入れられる事はない。

 

「ふざけんじゃねぇぞ鬼道ォ……!!」

 

 そんな灰崎を水神矢は心配そうに見ていた。

 そして後半が始まる。灰崎は変わらずキーパーで試合は進む。後半も木戸川清修の猛攻が続き、星章はディフェンスに徹するしかない。

 

 しかしここでとうとう灰崎の中で何かが切れた。

 

「鬼道……これ以上テメェのサッカーごっこに付き合ってられっかよォォォォ!!!」

 

 そう叫んで前線へと走り出した。グングンスピードを上げて武方長男を弾き飛ばしてボールを掻っ攫う灰崎。キャプテンである水神矢がゴールをガラ空きにするという灰崎の暴挙を咎めるものの、聞く耳を持たない。

 

「取られた分、取り返しゃ良いんだろォォォ!!」

 

 これはある意味勝負を捨てていた。チームプレー以前の問題。一人で他の21人を敵に回している。試合を観戦する雷門は今の灰崎を総評する。そして凪人は鬼道の真意を理解しようと考える事すら放棄している灰崎に溜め息を吐くしかない。

 

(……このままじゃあ、星章はこれまでで一番不様な敗北をして終わるな)

 

 この試合に負ければ星章の全国出場は非常に厳しくなるだろう。木戸川清修の他にも帝国という強豪がいる関東Aグループに所属しているのだ。元々凪人の見立てでは1位通過を果たすのは帝国学園で、木戸川と星章が横並びで2位争いと睨んでいた。凪人からすればこの試合こそ全国出場を懸けたAグループで最も重要な試合なのだ。

 

 だからこそ、灰崎のこの暴挙はチームの首を絞める行為でしかない。

 

「何やってる灰崎!こっちにボールを渡せ!」

 

「うるせえ!雑魚は引っ込んでろ!!」

 

 灰崎はチームメイトのパス要求も無視。その先にいる鬼道を追い越して彼に向かって宣言する。

 

「証明してやるよ……俺一人でも勝てるって事をなぁ!!」

 

 しかしそんな灰崎の爆進を許す程、木戸川清修のディフェンスは甘くはない。西垣の指示で光宗と黒部が灰崎の前に立ち塞がり、更に女川も加わって連携ディフェンスで灰崎を包囲。そして仕上げに西垣が右脚を振るい、水色の衝撃波を飛ばした。

 

「スピニングカットォ!!」

 

 こうしてあっさりとボールを奪われた灰崎。そしてガラ空きなったゴールを木戸川は一気に狙う。

 

「豪炎寺!」

 

 西垣のセンタリング。空中に舞うボールに豪炎寺と武方の次男である友が喰らい付く。

 

「行くぞ友!」

 

「ええ!見せてやりましょう!木戸川のオーバーライドは爆熱トルネードだけじゃない事を!!」

 

 豪炎寺は赤い炎を纏い、左回転。友は青い炎を纏い、その逆回転。二色の炎が交わり、ボールの回転に組み込まれて行く。豪炎寺のボレーキックと友の踵落としが同時にボールへと叩き込まれた。

 

「「ダブルトルネェード!!」」

 

 豪炎寺のファイアトルネードと武方三兄弟の共通技であるバックトルネード。二つのトルネードが一つとなって赤と青が混ざりながら星章ゴールを襲う。ロングシュートだが連携する事で充分な威力を保っている。

 

 ガラ空きのゴールにシュートが決まるかと思いきや、正キーパーであり、DFとしてそこにいた天野がその大柄な体躯を使った胸筋によるブロックを図る。筋肉の鎧とはいえ、手を使わず生身でダブルトルネードを受ける天野。その衝撃による激痛を一身に受ける負担は計り知れない。

 

「ぐおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

 そしてその背中を残りのDFである水神矢、八木、白鳥の三人が支えて四人でダブルトルネードを相手に踏ん張る。

 

「星章ディフェンスの意地にかけて……これ以上点を取らせてたまるかあぁぁぁっ!!!」

 

「「キャプテン!」」

 

 しかしその想いに反して留まる事を知らないパワー。もしもファイアトルネードかバックトルネードのどちらか片方だけのシュートならばこれで止める事が出来た可能性はある。しかしシンクロさせたことで単純に二つのシュートを足した以上に威力を向上させたこのシュートを止めるには天野がキーパーとして動けない現状では到底力不足だった。

 

『ぐああああああぁぁぁっ!!!』

 

 努力と踏ん張りも虚しく、そのシュートはディフェンス陣の四人ごとゴールネットを揺らしたのだった。

 

 4-1

 

 ダブルトルネードを凌げず、ゴールを守れなかった四人の前に灰崎が立ち、彼らを見下して減らず口を叩く。

 

「アンタ達も鬼道に言ってやったらどうだ?こんなキーパーは願い下げだとなァ……」

 

「……灰崎、お前はゴールの前に立っていても、FWの気分でいるのか?」

 

「あ?」

 

「お前がそこにいる為に、キーパーを外された者がいる」

 

 水神矢にそう言われた事でダブルトルネードを胸筋で受けた事によるダメージに悶える天野を見て灰崎は初めて黙り込む。

 

「そこにいる時くらい、ゴールをどう守るのかを考えろ!!」

 

「……!」

 

 それからも試合は続く。変わらず木戸川清修の攻撃に押される星章。そんな中で灰崎は水神矢に言われた事を考える。

 

(ゴールをどう守るか…だと?俺はFWだ…。点を取る事しか知らねえよ……!)

 

 そう考えながらも灰崎は木戸川清修の動きを観察する。武方三兄弟は囮になっている。本命は豪炎寺だ。なのにDF達はそれに気付かない。何故気付かない。そう考えながらも身体が勝手に動き、豪炎寺に向かって行く。

 

「灰崎!」

 

「あいつ…また性懲りも無く!」

 

 しかし灰崎は豪炎寺からスライディングでボールを奪い、ディフェンス陣に向かって怒鳴る。

 

「お前ら!何処に目ぇ付けてやがんだよ!11番がガラ空きじゃねえか!!ボサッとすんな!9番が狙ってるって分かんねえのかよ!!」

 

 口は悪いが的確な指示(アドバイス)。灰崎が敵を()()事で星章のディフェンスは少しばかり正確に機能する。勝のシュートを水神矢の必殺技でコースをズラし、フィールドの外へとボールを出す。

 

 その様子を見て観客席とフィールド……三人の司令塔(ゲームメイカー)が灰崎の変化を感じ取り、頬を緩ませる。

 

「へぇ」

 

「気付くのが遅いが…まぁまだギリ間に合うってとこか」

 

「フッ……」

 

 そしてその中の一人、鬼道が灰崎の前に立つ。

 

「鬼道……これで良いんだろ?」

 

「漸く気付いたか」

 

「フン」

 

 投げやりに言う灰崎だが、鬼道は全てを見抜いていた。そして審判に選手交代とポジション変更を申請。魚島に代わって古都野をDFに入れ、天野をキーパー、灰崎をFWに配置し直した。

 

(残り10分で3点差か……)

 

「俺としても予想外な程に点を取られ過ぎた。だが、ここからひっくり返すぞ。やれるな?」

 

「ああ…。受けて立ってやるよォォ!!」

 

 灰崎はキーパーのユニフォームを脱ぎ、投げ捨ててフィールドプレイヤーのユニフォームに着替え直す。

 

『フィールドの悪魔』と呼ばれるストライカーの力を、今こそ見せようとしていた。




主人公が出ない試合に主人公を絡めるのはやっぱり難しい。当然っちゃ当然だけど。


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激戦!星章vs木戸川清修!!後編

決着です。それに合わせて前二話は前編、中編とサブタイ一部変更しました。


 side凪人

 

 星章学園は灰崎をFWに戻し、本格的に反撃を始めるようだ。鬼道の目的は灰崎に敵の連携を正面から見せる事で連携の重要性と木戸川清修に対する攻め方を理解させ、真のエースストライカーとして灰崎を覚醒、機能させる事だった訳だが……3点差で残り時間10分か。中々に厳しいだろうな。

 

「結局、何の為に灰崎をキーパーにしていたんだ…?」

 

「今更FWに戻した所でもう手遅れじゃないのか?」

 

「それは違う。キーパーの位置からなら敵味方問わず全ての動きを正確に理解する事が出来る。敵の攻撃の連携パターンを把握すれば前線における有効な攻撃パターンがどんなものなのかも自ずと分かる。鬼道は灰崎にそれを分かって欲しかったんだ。ただシュートをバカスカ撃つだけのストライカーのままじゃ、木戸川清修には絶対勝てないからな」

 

 道成と万作はまだ灰崎がキーパーにされていた理由を理解出来ていなかったようなので解説を入れてやる。そのくらいはしてあげるよ、俺。

 

「じゃ、じゃあ…星章学園が残り10分で逆転するって事ですか!?」

 

「いや、この試合、恐らくはーーー…」

 

 神門の質問に対し、俺の予想を告げると全員が目を丸くする。小僧丸は鼻で笑いやがったけど。いや、あくまで予想だからな?けど小僧丸は修也を尊敬するあまり、修也に比べると他を低く見過ぎている。多分こいつそういった点でその内足元救われて痛い目見るだろうな。

 

****

 

 side三人称

 

 ゴール前から天野がボールを蹴り出し、試合が再開する。灰崎は前線で走りながら鬼道にある確認を取る。

 

「鬼道、アンタはあの光景を俺に見せる為に俺をキーパーにしたんだな?」

 

「シュートの撃ち合いを豪炎寺とやった所で、奴とお前の実力差から見ても、チーム連携で攻めて来る事から考えても木戸川清修には勝てない」

 

 灰崎は正面から豪炎寺に劣っていると言われてもこれまでとは違い、憤る事無く、静かに鬼道の話に耳を傾ける。

 

「奴らを討つにはお前が真のエースストライカーとして機能する必要があった。ただ突っ走るだけのストライカーではなく、チーム全員の信頼を受け、想いの繋がったボールを受ける事が出来る…。それが真のエースストライカーだ!!」

 

 鬼道の話が一区切り付くと同時に豪炎寺達木戸川清修の攻撃陣が固まって鬼道と灰崎の前に躍り出て来る。二人は左右に分かれてそれぞれサイドから木戸川清修の陣内へと侵入を試みる。

 

 鬼道は豪炎寺達の連携の隙間を突いて逆サイドの灰崎へとパスを出す。灰崎はそれを受け取ると鬼道の話への返答を口にする。

 

「へっ…そんなプレーは向いてねーよ」

 

「灰崎、お前の闇は分かっている。だが俺はお前が何の為にサッカーをやっていようと関係無い。俺が求めるのは最高のサッカーだ!!」

 

 ワンツーを繰り返し木戸川清修に攻め込んで行く鬼道と灰崎。灰崎は猛スピードで敵陣を攻めながらも後ろから聞こえて来る仲間達のパス要求に応じる。

 

「ホラよ!」

 

『!』

 

「ゴールの引き立て役くらいにはしてやるよ!凡人共!!」

 

 態度は相変わらずだが、灰崎の中でチームメイトに対する意識が明らかに変わっていた。それを感じ取った星章イレブンは軽く頬を緩ませながらパスを駆使して攻め上がる。しかしそんな事をそう簡単には木戸川清修も許さない。

 

「連携を崩すな!灰崎をマークして、動きを止める!!」

 

 豪炎寺の指示に従い、木戸川清修は灰崎への警戒を強める。鬼道はそんな光景を見ながらもクールな笑みを消す事は無い。

 

「さあ見せてみろ灰崎。お前の最高のサッカーを!」

 

「ククク…乗って来たぜ!!」

 

 灰崎は佐曽塚からボールを受け取ると瞬く間に素早い動きと華麗なドリブルで豪炎寺を突破。木戸川のこれまでの連携パターンからこの先のディフェンス連携を直感で予測し、次々と突破して行く。

 

(鬼道…俺だってお前なんざ関係ねぇ。俺が求めてんのは敵をぶっ倒すサッカーだ!俺一人で豪炎寺を倒せねぇなら、精々お前らを利用してやるよ!!復讐の為にもなァ!!)

 

 灰崎は木戸川清修の連携ディフェンスに単身斬り込んで行く。そして豪炎寺達を引き付けると同時に他のMFやDF達に囲まれる。しかしそれこそが灰崎の狙い。

 

 人と人との隙間を見つけ、その先にいるチームメイト達を見る。鬼道にはパスは出来ない。しから折緒ならば……

 

「そらよっ!!」

 

『!!』

 

 フィールド全体、そしてスタジアム全域に衝撃が走る。あの灰崎がゴールを前にして自分で決めずに仲間に託した。これは豪炎寺だけでなく、星章の仲間達にとっても意外な行動だった。ただ一人、鬼道を除いて。

 

 一瞬の戸惑いはあったものの、折緒は迷わず必殺技をゴールに向かって放つ。

 

「スペクトルマグナァ!!」

 

 両脚でボールを挟むと時間差で撃ち出されるキャノン砲。それはキーパーとして経験が不足している大御所から簡単にゴールを奪った。

 

 4-2

 

『ゴォール!星章学園、再び2点差まで縮めて見せたぁーー!!自ら決めると思われた灰崎!折緒と見事な連携を見せました!!』

 

「しゃあっ!!」

 

「灰崎、あいつ……」

 

 デスゾーン以外ではチームとの連携をしなかった灰崎の変化に戸惑いながらも喜ぶ星章イレブン。連携に連携で対抗する事を学んだ彼はこれまでと大きく異なる事は明らかだ。

 

(灰崎に新たな道を示した訳か。ピッチの絶対指導者……その名の通りだな、鬼道…)

 

 だが木戸川清修もこのまま逆転されてやる気など一切無い。更に突き放すべく一気に攻め上がる。

 しかし今の灰崎はフィールド全体を客観視出来る。成長した灰崎によって、木戸川清修の連携は崩れ始める。

 

「9番ガラ空きだぁーー!」

 

「古都野!」

 

「おいトゲトゲ!トンガリに付け!」

 

「へっ!任せトゲぃ!」

 

「ええっ!?」

 

「乗っかったぁ!?」

 

 何やら親しみを込めて灰崎のアダ名に悪ノリのする者もいたが、それは触れる必要はない。そして何より、至高の司令塔たる鬼道の指揮が振るわれる。

 武方三兄弟にプレッシャーがかかり、パス回しもカットされ始める。今の星章に対応出来ているのは豪炎寺くらいだろう。

 

 努が佐曽塚に奪われたボールを豪炎寺がスライディングで奪い返すと同時に上空へと打ち上げ、炎を纏ってシュートへと移行する。

 

「ファイアトルネード改!!」

 

「もじゃキャッチ!!」

 

 謎の紫色の羽毛のような雲のような何かにファイアトルネードが包まれる。しかし豪炎寺のファイアトルネードはその全てを一瞬で消し炭にしてキーパーを突破。ゴールを決める。

 

 5-2

 

 再び3点差まで追い詰められた星章学園。早乙女はイレブンバンドに表示される残り時間を見て苦虫を噛み潰したような表情をする。

 

「あと4点取らなきゃいけないなんて……」

 

「ざけんな。ちゃんと目ェ開けて見ろ。見えて来るぜ?勝利への道が」

 

 意図したのかは分からないが、そんな彼を励ましたのは灰崎だ。灰崎はチームの士気を上げるべく叫ぶ。

 

「行くぞテメーらァ!!」

 

 それからも星章は木戸川清修との点数差など問題ではないと主張するかのように攻め続ける。対して木戸川清修は連携が崩され始めている事から焦りが生まれ、そこからミスが生まれ、連携がズレるという悪循環への陥り始めていた。

 

「止めろ!」

 

 豪炎寺と努で鬼道を止めにかかるも、星章はパスを駆使した連携で木戸川清修の守りを攻略していく。そんな折、ドリブルで攻める早乙女の前に黒部が出て来た。連携がズレようとも個人技まではズレはしない。名門である木戸川清修もチームプレーだけで戦っている訳ではないのだ。

 

 しかし星章は鬼道が派遣された事で個人の実力でも圧倒的にレベルアップしていた。彼らを相手に個人技でディフェンスを図るのは悪手だった。

 

「エンジェル・レイ!」

 

 周囲が暗闇となると、早乙女が光源体となっての目眩し。その隙を突いて黒部を抜き去り、同じく目眩しの効果を少しばかり受けていた大御所を相手に容赦無くシュートを決めた。

 

 5-3

 

「よぉし!」

 

 灰崎が連携を意識する事でチーム全体の力を引き出している。全ては強化委員である鬼道と監督の久遠の思惑通りという訳だ。

それからも攻め返す木戸川清修。しかし木戸川清修の連携が崩れ始めてから、星章の連携がスムーズに進んでいる。苦しい状況下に置かれているのは間違いなく木戸川清修だろう。

 

 白鳥と水神矢の連携て勝からボールを奪い、またもや反撃に出る星章。

 

「行くぞぉ!!」

 

「くっ!調子に乗るな!みたいな!」

 

 星章は正確なパス回しによってあっという間に木戸川清修のディフェンス陣に攻め込んで行く。そして最前線の灰崎へとボールが渡る。ボールを蹴り上げた灰崎は指笛で六匹のペンギンを召喚。

 

「オーバーヘッドペンギン!!」

 

 小型ミサイルの如く発射された空飛ぶペンギン。木戸川清修のDFがそれを止める為にシュートコースに躍り出るが、纏めて弾き飛ばされてしまった。

 そして今更灰崎の必殺技をキーパーが止められる訳がなく、ゴールネットがまたもや揺れる。

 

 5-4

 

 遂に1点差まで追い上げた。そしてアディショナルタイムに突入。残り時間は僅か。木戸川清修が逃げ切るか、星章が追い付き、追い越せるか。

 木戸川清修はもう一度攻め上がる選択を見せた。ここで守りに入っても突破される可能性が高いと踏んだのだろう。幸い、星章キーパーの天野は先程のダブルトルネードでダメージを受けている。そんな状態では満足に力を発揮出来ず、必殺技を撃てばほぼ間違いなく決まるだろう。

 

「今こそ決める時!」

 

「ファイアトルネードを超える俺達の必殺技!」

 

「バックトルネードだあぁぁぁ!!!」

 

「ゴチャゴチャ言う前に撃てば良かったな」

 

 ボールを蹴り上げてバックトルネードを放とうとした武方勝。しかし三兄弟揃って長い前口上を垂れている内に灰崎が自陣のディフェンスまで下がり、ジャンプして勝がバックトルネードを撃つ前にボールをカットして水神矢へとボールをパスした。

 

「ちょっ!?嘘だろ!?みたいな!?」

 

 その様子を見て豪炎寺は昨年のフットボールフロンティア三回戦……雷門と木戸川清修の試合序盤で似たような感じで凪人がバックトルネードを不発に抑えた光景を思い出した。

 そこからカウンターで攻め返す星章。残り時間は一分を切った。このままであれば木戸川清修の勝ちだ。更にここにきて木戸川清修は豪炎寺の懸命な指示により、連携を立て直して来た。

 

「間に合わねえ!」

 

「……そこか!」

 

 しかし灰崎は諦めず、木戸川清修の立て直された連携の中に穴を見つける。そこに向かって全力で突っ走る。双子玉川はそんな灰崎を信じて灰崎の行く先にロングパス。

 

 しかしここで灰崎とボールの間に豪炎寺が割り込んで来た。

 

「なっ!?」

 

「貰ったぁ!!」

 

 ここで食い止めれば逃げ切って木戸川清修の勝利だ。しかしそれを阻止せんと鬼道が更に豪炎寺とボールの間に割り込み、ボールを灰崎の方へ弾く。

 

「何!?」

 

「俺は……俺達は負けん!!」

 

 しかし肝心のボールは灰崎を通り越してピッチの外へと向かおうとしていた。どの道これではタイムアップで木戸川清修の勝ちだとフィールドにいる誰もが思っただろう。

 

「そんな…」

 

「鬼道さんがミスだと!?」

 

 鬼道と灰崎を除いて。

 

「楽しませてくれんじゃねぇか……!!うおらああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」

 

「何だそのスピードォ!?」

 

 灰崎は全速力でボールに喰らい付く。彼の凄まじい脚力が陸上選手顔負けの超スピードを引き出した。正に勝利への執念の為せる業だろう。

 

「灰崎!」

 

「行ける!」

 

「届け!」

 

 走った勢いに身を委ね、スライディング。そしてそれはラインの外に出る前に届き、ボールをフィールド内に留まらせた。

 

「おおっ!」

 

「あり得ない……!」

 

「鬼道はこれを見越していたと言うんですか!?」

 

「ああ!ミスキックなんかじゃない!」

 

「灰崎が追い付く事を読んでいた!?みたいな!?」

 

 灰崎はゴールに向かって行く。星章イレブンもそれに続く。一方で鬼道のパスをミスと思っていた木戸川清修は対応に遅れる。それが全てを分けた。

 

 折緒と佐曽塚が灰崎に続く。この三人が揃えば何をして来るのかはすぐに分かった。

 

「デスゾーン開始!」

 

「「させるかぁ!!」」

 

 豪炎寺と西垣がそれぞれ折緒と佐曽塚の前に躍り出て飛び上がり、彼らのジャンプを妨害する。このまま二人が飛び上がってもぶつかり、必要な高さまでは到達出来ず、デスゾーンは発動出来ない。

 

「「くっ…!」」

 

しかし灰崎はそれを察知するや否や、一人で別方向ーーー鬼道とオーバーラップして前線に来ていた水神矢の元へ走り出す。

 

「何!?」

 

「鬼道ォ!!」

 

 灰崎は鬼道にボールを預け、更に方向転換してゴールに向かって走る。その隣には水神矢が並走する。

 

(最後はそう来ると踏んでいたぞ豪炎寺……。お前は少し斎村を意識し過ぎだ……。お陰でお前の考えは以前よりも読み易かった)

 

 鬼道が指笛を吹くとその周囲に五匹の紺色のペンギンが出現する。そして間髪入れずに鬼道はボールを蹴り出す。

 

「皇帝ペンギンーーー!!」

 

「「2号ォォーーーーーー!!!」」

 

 鬼道、灰崎、水神矢の皇帝ペンギン2号が炸裂。コース上にいた豪炎寺と西垣を除く木戸川清修の面々を纏めて吹き飛ばし、ゴールを決めた。

 

 5-5

 

 遂に同点に追い付いた。そして同時に主審が試合終了のホイッスルを鳴らした。

 

 ピッ、ピッ、ピーーーーーー!!

 

『試合終了ォォォ!!!5対5!!星章学園と木戸川清修の激戦の結果はまさかの引き分けで終わったぁぁーー!!ラストは灰崎を中心としたチームプレーが奇跡を呼びましたぁーーー!!』

 

 星章も木戸川清修も全員が息を上げていた。引き分けという結果では喜びの感情が出るはずもない。

 

(……鬼道は最初から試合中に灰崎の欠点を克服させる事を視野に入れていたのか)

 

 結果こそ引き分けではあるが、試合の内容で見れば明らかに木戸川清修の負けだ。少なくとも豪炎寺はそう評した。引き分けで済んだのは前半で大量に得点出来ていたからに他ならない。

 

「……チッ、引き分けかよ。締まらねぇ終わり方だ」

 

 そしてこの試合の中心人物と言えた灰崎は引き分けという結果に憤っているかと思いきや、何処か晴れ晴れとした表情で清々しく笑みを浮かべていた。勝てはしなかったが、この試合で得るものが大きかったからだろう。本人にその自覚があるのかは別だが。

 

(灰崎、やっとなれたか。星章学園の真のエースストライカーに……!!これがお前が闇から抜け出す第一歩となるだろう)

 

 鬼道もまた、この試合に勝てはしなかったが、それでも得られた灰崎の変化に喜んでいた。

 

「……とはいえ、勝てなかったのは悔しいな」

 

 スタジアム全域では惜しみない賞賛の拍手が起こっていた。そして電光掲示板には豪炎寺のイレブンライセンスカードが表示される。

 

『この試合のMVPは……木戸川清修、豪炎寺修也ぁーーーーー!!!!』

 

 今回のMVPは豪炎寺だったが、もし星章学園があと1点取り、逆転勝利を収めていれば間違いなく灰崎がMVPとなっていた事は少なくない数の人間が悟っていた。

 

「……やられたよ。今回は俺達の負けと言っていい」

 

「だが良い試合だった。お互いまだまだ改善点も多いがな」

 

「ああ!」

 

 そしてフィールドの中央では豪炎寺と鬼道が爽やかに笑いながら握手を交わす。

 

「灰崎凌兵か……面白くなって来たな」

 

 豪炎寺は早々にフィールドを去る灰崎の後ろ姿を眺めながら、そう呟くのだった。




○バックトルネード不発の際

凪人(あれ、なんかデジャヴ……)


主人公の出した予想は実際の結果と同じ5対5の引き分けです。小僧丸は鼻で笑いましたが、実際こんなの予想出来る方がおかしいので割と一番正しい対応です。小僧丸に豪炎寺への尊敬からくる過大評価の補正が無かった訳ではありませんが。

試合は終わったけど灰崎メインの話はもうちょっとだけ続くんじゃ。


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灰崎と『アレスの天秤』

 side三人称

 

 試合が終わった後、灰崎は一人、控え室に戻る為にスタジアムの通路を歩いていた。しかしそこに行く前にある人物が待ち構えているのを見つけた。

 

「……!」

 

「よ」

 

「……アンタか」

 

 灰崎を待っていたのは凪人だった。昨日の今日で会った灰崎だったが、その表情に凪人への嫌悪の感情は無い。凪人もそれを理解しているようで何もなかったかのように尋ねる。

 

「今日の試合、楽しかったか?」

 

「……アンタの言う通りだったよ」

 

 灰崎は凪人の質問に答えず、別の話を切り出す。ある意味灰崎がこの試合に出る理由になった話だ。

 

「俺一人じゃどう足掻いても豪炎寺には勝てなかった。ストライカーとしても、チームとしても」

 

「だろ?いくら実力と才能があって大暴れ出来て注目されてても、それだけじゃ届かないものなんて幾らでもある。俺達元々の雷門とバルセロナ・オーブとの親善試合なんか良い例だ」

 

「……そうかよ。でも、いずれ勝つぞ。豪炎寺にも、アンタにも」

 

「楽しみに待ってるぜ。俺達もお前達星章学園とは是非戦いたいからな」

 

 全国ランキングの1位2位というだけではない。凪人は小学生時代から続く鬼道との決着や昨年の雷門と帝国としての再戦の誓いを果たす……という意味合いを含めて言っている。

 すると灰崎は何か考え込んでからまっすぐに凪人の目を見て口を開く。

 

「……なぁ、アンタ、この後時間あるか?話がある」

 

「ん?ああ…構わねえけど」

 

「なら校舎の昇降口の前で待っていてくれ。聞きたい事があるんだ」

 

「……それは王帝月ノ宮についてか?」

 

「……ああ」

 

 目的を見抜かれていた事に驚きはしない。自分が王帝月ノ宮の選手と遭遇した際に取った態度や向けた視線などは周りの人間から噂になる程広く伝わっているだろうし、何より元雷門イレブンの強化委員だ。鬼道を通じて自分の事を知っていてもおかしくはない。自分も鬼道を通じて閃電が王帝月ノ宮の情報を集めていると聞いたのだから。

 

 それだけ告げて灰崎は軽い駆け足で控え室へと走って行った。一応待たせるという立場なので無意識に礼儀を心掛けているのだろうか。

 

「……『アレスの天秤』教育システム…か」

 

 凪人は閃電中に派遣されてからの最初の練習試合の相手校である王帝月ノ宮中のキャプテン、野坂の死んだような瞳を思い出しながら、灰崎の指定した場所に向かうのだった。

 

 

 

 

「……あれ?灰崎いないなぁ…」

 

 二分程遅れてその場に駆けて来た稲森はとっくにその場を通り過ぎた灰崎がここに来るのを待って道成が迎えに来るまで一時間程待ち惚けを食らった挙句、その日灰崎に会う事は無かった。

 

****

 

 side凪人

 

「ホラよ」

 

「あ、ああ……」

 

 俺は10分程待ってやって来た灰崎に今日の試合の労いも兼ねて微糖のコーヒーを手渡す。そうか。やっぱりこいつコーヒー飲める口か。微糖派とかブラック派とかむしろカフェオレが良い派とか色々あるが俺は別にどれでも良い。気分次第だ。

 

 ……ていうか、何故ジャージではなく制服なんだろうか。いやここ星章学園の敷地内だしおかしくはないけど。

 

「……で?お前はどうして王帝月ノ宮を……『アレスの天秤』を敵視する?俺は鬼道からはお前が野坂達に強い敵愾心を抱いている事しか聞いてないんだが?」

 

「……」

 

 俺の知る王帝月ノ宮の情報を灰崎に教えるのは構わない。しかしその理由をちゃんと嘘偽りなく話して貰わねば。それが礼儀ってもんだし、灰崎はこのエイリア学園が来ない世界線での主人公だ。だが俺にはアレスの天秤ルートでの原作知識が殆どない。一人のサッカープレイヤーとしてだけじゃなく、転生者としても灰崎の事情は知っておきたい。

 

「……小学生の時の事だ」

 

 それから灰崎は語り始める。不器用な性格故に碌に友達がいなかった灰崎は小学生の頃、アパートの隣の部屋に引っ越して来た宮野茜という同い年の女の子と友達になった。

 

 初めてで唯一の友達だったその子と交流を重ねる内に灰崎自身、親に指摘されるまでに明るい性格になっていった。しかしそんな幸せな時間は長くは続かなかった。

 

「アレスだ…。『アレスの天秤』が茜をあんなにしやがった……!!」

 

 そこにどういう経緯があったのかは分からないが、宮野茜は『アレスの天秤』教育システムを無償で受けられる被験者として選ばれ、それに応じた。医者になりたかったが、家庭の金銭事情でそれが難しかった彼女としては願ってもない話だった。

 

 そうして彼女は王帝月ノ宮の系列校に転校し、季節が巡り、帰って来た時には廃人になっていたそうだ。

 

「『アレスの天秤』が…茜の心を破壊した。俺は『アレスの天秤』のシステムで育成されたあのチーム……王帝月ノ宮を叩き潰して、『アレスの天秤』に何の意味も無い事を証明する」

 

 『アレス天秤』の教育システムを受けたものはあらゆる分野において優れた存在となる。『アレスの天秤』を開発した月光エレクトロニクスの社長、御堂院宗忠はそう断言した。つまりたった一つの分野だけでも失敗や挫折、敗北は許されない。だからこそ、『アレスの天秤』を受けていない灰崎がアレスクラスターと呼ばれる野坂達を倒せば、『アレスの天秤』の意義が根底から覆る……そう考えた訳か。

 

「サッカーをやっていれば、茜をあんな目に遭わせた奴らに復讐出来る……。その日が来るまで、俺はサッカーを続ける」

 

 確かにある意味では正しい判断だ。『アレスの天秤』を受けた王帝月ノ宮が制覇しようとしている分野は勉強や野球といったものもあるが、日本で最も注目されるとしたらやはり中学サッカーだろう。そこで『アレスの天秤』が他より劣ると示せば影響は確かに出る。出るには出るが……。

 

「……だが、復讐が終わったら……鬼道の言う、最高のサッカーを求めていくのも良いかもしれねぇな。今日の試合で……そう思った」

 

「……そうか」

 

 今の一言で取り敢えず俺は満足した。確かに灰崎がサッカーを始めたきっかけは復讐かもしれない。だが、それでも灰崎はその先を見ようとしている。サッカーの楽しさをちゃんと知ってるんだ。

 

 俺は鞄に入れていたUSBメモリーを二つ取り出し、持ち歩き用のパソコンを取り出す。それからあの試合以来集め続けていた王帝月ノ宮の情報データを空のUSBにコピーする。その作業を終えたらそのUSBを灰崎に渡した。

 

「ほら。俺達が集めた王帝月ノ宮の情報と分析の全てだ。けど鵜呑みにはし過ぎるなよ。それと、流石に他のチームの情報まではやれねぇが……鬼道にも見せとけよ。お前一人が知ってても意味が無いのは今日の試合で分かってるだろ?」

 

「ああ……ありがとよ。……斎村、サン」

 

 灰崎はぎこちなく礼を言って、USBメモリーを受け取り、その場を去って行く。俺はその後ろ姿を見送りながら考える。

 

 

 

 

 

 

 ……灰崎には悪いが、あいつがその復讐を達成したところで、それは無駄な徒労に終わる可能性が高い。月光エレクトロニクスにはいくらでも言い訳の材料があるし、むしろそれを与えて『アレスの天秤』が更に発展する結果になりかねない。

 

 星章学園に王帝月ノ宮が負けたとしても、御堂院社長は「教育が不十分だった」とか「教育の改善点が見つかった」とか言って『アレスの天秤』に余計なプランを追加して再始動するだろう。それをまた灰崎が倒したとしても……結局また同じ事の繰り返しだ。世間が失敗続きの『アレスの天秤』を見限るまで……な。気の遠くなる程の時間が必要になるだろう。

 

 『アレスの天秤』には黒い噂が絶えない。その教育システムのせいで廃人になったという例は宮野茜以外にも聞いた事がある。しかし法に訴えようとしても月光エレクトロニクスが金と権力に物を言わせて、圧力をかけた事で被害者の家族は泣き寝入りした……とも耳にしている。

 

 一番確実なのはそういう人達を集って、徹底的に『アレスの天秤』を調査して、『アレスの天秤』に致命的な欠陥がある事を証明、公表する事だ。『アレスの天秤』のせいでこうなったという、確固たる証拠を提示して。

 

 だが灰崎や他の被害者の家族達にはそんな事をするコネクションも金も無い。だから泣き寝入りするしかないんだ。だから灰崎はアレスクラスターである野坂達を倒すしか方法が無い。

 

 そんな欠陥を見つけられるとしたら………当の『アレスの天秤』被験者である、野坂達くらいだろう。

 

 ……エイリア学園が来る脅威の侵略者ルートの方が良かったんだろうな。俺もそんな事は考えずに済むし、昨年の内にイナズマジャパンとして世界に行けた筈だ。恐らく灰崎と宮野茜もそんな教育システムに関わる事なく、幸せに生きて行けただろう。

 

 ……パラレルワールドなんてもんを知ってるのは歯痒い事だ。

 

 

 

 

 

 

 そして星章学園と木戸川清修の激戦から数日後、雷門中にとっての第三試合である御影専農中との一戦は、何故かベンチに監督である趙金雲が不在という珍事があったものの、雷門の作戦勝ちとも言える劇的な勝利だった。

 

 星章や美濃道三との試合からは考えられない程に見事な連携と作戦だった。途中で必殺技を披露したり、イレブンバンドを巧みに使いこなす御影専農のプレーの裏を掻いたプレー。リスキーなプレーもあったが、それによって得られた成果も大きい。中々に見応えのある試合だった。星章や美濃道三とやり合った時と比べたら成長していた。あれが趙金雲の監督としての手腕なんだろう。いなかったけど。

 

 

 そしてそんな雷門の四試合目の相手は……帝国学園だ。

 

 

****

 

 side三人称

 

 -帝国学園

 

 要塞のような校舎の廊下を歩き、ミーティングルームの目の前まで辿り着く。この時間に着いては遅刻になるのだが、この男がそんな事を気にするはずもない。

 

 帝国イレブンの一員である不動明王はセンサーに察知される事で開く自動ドアの前に着くが、自分が察知される一歩前の所で自動ドアが開いた。

 

「あ?」

 

 そしてそこから屈強な量産型黒服達が一人の男子生徒を神輿のように担いで出て来る。

 

「……ハァ!?」

 

 担がれている男子生徒はギャアギャアと喚き、ジタバタともがくが悲しきかな。その貧弱な身体では屈強な男達からの拘束からは逃れられない。

 

「ちょ、おま…離せ!僕をサッカー部に入れろー!!殺すぞボケェ!!この鉄骨野郎ーー!!僕は鬼道重工の重役の息子だぞ!!何で僕の言う事を聞かないーー!!!」

 

 屈強な黒服達が彼の戯言に耳を傾ける事もなく、彼は喚きながら連行されて行った。

 

「……何だ?ありゃあ……」

 

 訳の分からない一部始終を目撃した不動は困惑しながらミーティングルームに入室する。そこには既に監督である影山に強化委員である風丸、他の帝国イレブン達が揃っていた。

 

「おい総帥さんよ、何だよ今の?」

 

「気にするな。ただのクズだ」

 

「そ、そうか……」

 

 即答し、バッサリ言い捨てる影山。それ以上聞いても何も答えないと判断した不動は別段そこまで興味も無かったので、さっき見たものは忘れる事にした。

 

「それよりも不動!遅刻だぞ!レギュラーなんだからもっと自覚を持って行動しろ!!」

 

「ハイハイ、キャプテンさん。それよりも鬼道がいな「まぁ良い。さっさと始めるから席に着け」……」

 

「お前、もうそのネタで佐久間を挑発するの諦めたらどうだ…?まるで相手にされてないぞ」

 

「……うるせーよ」

 

 注意して来た佐久間に嫌味で返そうとするもすぐに話を打ち切って次に移行する佐久間。そんな感じで置いてけぼりにされた不動にどこか同情したかのような視線で諭して来る風丸。

 

 以前、閃電中との合同練習で凪人と初めて顔合わせした時も同じ雷門の司令塔という事で似たような嫌味を凪人に言ったが相手にされず、むしろ逆におちょくられて挑発に乗って勝負を挑んでボロ負けして……と踏んだり蹴ったりな目に遭ってから、妙に風丸が優しくしてくれるのが逆に辛い不動であった。

 

「では雷門対策会議を始める」

 

「フン、刑務所に入っていた奴の話を聞かねばならんとはな」

 

「今の雷門如きに対策かぁ?三戦目で漸く勝てる程度だろうが」

 

 影山の切り出した本日の議題。源田はやはり影山が会議を仕切る事に気が進まず、不動はこれまでの雷門の戦績から特に危険視はしていなかった。

 

「確かに今の雷門は恐れるに足らん。しかし先日の御影専農戦での勝利……あれは監督である趙金雲という男の考えた策によるものだ」

 

「いやあの監督、試合の時いなかっただろうが……」

 

「いや、つまり…事前に作戦を伝えていた?」

 

 モニターに映し出される趙金雲と雷門イレブンの練習風景。そして趙金雲に指名された選手は試合まで訳の分からない雑用をさせられているという動画。影山が派遣したスパイが録画して来たものだろう。

 

「これは……」

 

「美濃道三戦で見せた岩戸のザ・ウォールに氷浦のパス技、御影専農戦でのディフェンス技……全部この雑用から発展させて編み出したのか?」

 

「かと思えば、真っ当な特訓で修得した技もある…」

 

 察しの良い不動と風丸の考察にニヤリと嗤う影山。何はともあれ、これで趙金雲という男の監督としての手腕は侮れないと分かった。

 

「趙金雲の危険性は理解しただろう。これから私が手配したスパイから一日置きに奴らの練習や諸々の光景を見せる。どんな些細な事でもしっかり頭に入れておけ」

 

 影山の発言に、雷門……というより趙金雲への警戒度が格段に跳ね上がる帝国イレブン。これが試合にどのような影響を及ぼすのか……それはまだ誰にも分からない。




はいざき は グリッドオメガ の じょうほう を てにいれた!

これが星章vs王帝月ノ宮にどう影響するかは……まだ考えてない。

次回、雷門vs帝国。原作で一番納得いかなかった試合です。


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因縁あるけど別に因縁なんてない帝国vs雷門・前編

今作の不動は基本コミカルに描きます。


 side三人称

 

 フットボールフロンティア予選第四試合、帝国学園との試合を控えた雷門は試合に備えたミーティングをしていた。

 

「次の対戦相手はあの帝国学園です。帝国学園は40年間、実力No.1の座を守って来ました。現に、ランキングこそトップを逃していますが、今年もフットボールフロンティアが始まる前に練習試合とはいえ、あの星章学園に勝っています」

 

「40年……しかも星章に勝った……」

 

 大谷の説明によって雷門に緊張が走る。自分達があれだけの惨敗を喫した星章学園に勝利したチーム。そんな相手とこれから戦うのだ。

 

 昨年のフットボールフロンティアでは地区予選決勝で敗北し、前年度優勝校の特別枠で全国大会に出場するも、一回戦敗退。しかしその負けた相手が優勝校である当時の雷門中と準優勝校の世宇子中。しかも世宇子に至っては神のアクアでドーピングしていたのだから参考にならない。

 

「それまで帝国学園を最強たらしめていた要素は三つ。皇帝ペンギン2号は強力な必殺技。天才ゲームメイカーである鬼道君がいた事で戦略的に飛び抜けていた。そして、総帥にして監督の影山零治。この人は勝つ為には手段を選ばない人で危険行為と世宇子へのドーピングの指示が明るみになって刑務所に入りました」

 

 影山零治の事はサッカー界では有名だ。勿論彼らも島から雷門中へ転入した際に聞いている。その悪事を。

 

「だけど最近、舞い戻ったんです……」

 

「悪どい手でも使ったんじゃねーか?」

 

「今の帝国学園は鬼道有人が抜けて、司令塔(ゲームメイカー)がいない筈。それでも強いのは何故なんでしょう?」

 

 剛陣と奥入の疑問にも大谷はスラスラと答えていく。

 

「まず帝国学園には日本のサッカーレベルを上げる為に、サッカー強化委員として元雷門イレブンの風丸君が派遣されたんです。その為に個人個人の実力が上がったと言われています。それから、昨年の12月辺りから斎村君が強化委員として派遣された閃電中との合同練習を定期的に行っていて、その時期からですね。帝国学園と閃電中……この二つのチームの実力がメキメキ上がり出したのは」

 

「チッ…また斎村かよ…!」

 

「こ、小僧丸?」

 

「それに帝国学園は元々才能に溢れた一流の選手が多く集められているので、鬼道君の不在は大した痛手ではないのかもしれません」

 

 帝国学園がその強さを維持するどころか更に成長している要因を大谷が挙げると凪人の名前が出て来た事で苛立ちを募らせる小僧丸。とにかく、帝国学園の実力は鬼道に依存していた訳ではないのだ。

 

 監督である趙金雲の子分……李子文がリモコンを操作して前方のモニターを起動させる。そしてそこに映し出されるのは趙金雲が指定した四人の選手達。

 

「今回特に気を付けなければならない選手はこの四人デスね。まずはサッカー強化委員として派遣された風丸一郎太君。万作君よりも足の速いDFデス。次にゴールキーパーの源田幸次郎君。彼はかつてはキング・オブ・ゴールキーパーと呼ばれた凄腕キーパーデスから。三人目は現帝国キャプテンの佐久間次郎君。皇帝ペンギン2号やデスゾーンといった強力な連携技の数々は現在彼を基点に発動されマス。そして最後に彼……不動明王君デス」

 

「不動明王……?」

 

 最後に挙げられた人物は三年生なのにこれまでの大会で話題に上がった事の無い選手。突然帝国学園に転入して名を上げている事から気になってはいた。

 

「別名アッキー。彼は非常に優れた司令塔なのデス。それはもう鬼道君や斎村君にも匹敵する程の。帝国学園で鬼道君の抜けた司令塔の穴は彼が完璧に埋めたと言っても良いでしょう」

 

「ニックネームを言った意味は……?」

 

「そんなに凄い司令塔なのか……」

 

「私が独自に集めた情報によると、バナナの皮を源田君に投げ付けるも、仕返しに歩く先にその皮を仕掛けられて、滑った瞬間を斎村君に写メられて帝国、閃電イレブン全員にその写真が出回ったとも聞きマス。ついたアダ名が“孤高のバナナ王”」

 

「司令塔全然関係ねぇだろ……」

 

「ただの面白い人じゃないですか?」

 

 何故かサッカープレイヤーとしての実力ではなく、恥ずかしい情報を暴露される不動。全てを突き詰めれば誰のせいなのかは明白なのだが、その元凶たる存在がそれを自覚していないのが彼にとっては腹立たしい事だろう。

 

 まぁその元凶(凪人)が全てを察したとしても風丸が影山に従うという道を回避出来たのなら安いものだと考えるだろう。

 

「まぁそれは置いときまして……帝国学園には少しばかり妙な噂がありましてねぇ」

 

「あ、それ知ってます。帝国学園は監督である影山零治が再就任してから、練習試合を非公開にし、練習試合、公式試合問わず帝国と試合をして負けたチームは調子を崩し、連敗続きらしい」

 

「え、でも星章は……」

 

「星章学園は影山零治が帝国に戻る前に試合をしたからな。特にそういったスランプになる事は無かったみたいだ」

 

「なんか呪われてるみたい……」

 

 万作が仕入れて来た情報を聞いて不気味に思う雷門イレブン。そんな中、やはり帝国学園イレブンや影山に疑いを向ける者も出て来る。

 

「やっぱり影山零治が何かしてんじゃねーのか?帝国の選手も怪しいもんだぜ」

 

「少なくとも帝国の人達はそんな事しないと思うんですけどね……」

 

「何でそんな事が言えるんだよ?風丸さんがいるからか?」

 

 偏見全開な小僧丸の発言を否定しつつ、大谷は詳しく説明する。

 

「帝国学園は部員の方から少年サッカー協会へと影山零治によるものと思われる他校の選手への被害などが確認された場合は大会出場を辞退するという届け出が出されているんです。最初は影山零治の監督就任を認めたくはなかったけど、下手に放り出したら何をするか分からない事からこういう措置を取ったみたいです」

 

「確かに……そんな届けまで出しているなら、それは考え辛いな……」

 

「いや、そう思わせておいて裏では……なんて事もあるかもしれませんよ。昨年まで勝つ為には手段を選ばなかったんですから」

 

 道成は大谷の説明から帝国を疑う事はないようだが、奥入はやはり偏見とも言える意見で帝国イレブンを疑っている。結局その真相がこのミーティングで分かるはずもなく、帝国戦に向けた特訓をする他にやる事は無かった。

 

****

 

 そして試合当日、帝国学園スタジアムにて、第四試合である雷門vs帝国が始まろうとしていた。

 

『フットボールフロンティア予選!雷門中対帝国学園!注目の一戦が間もなく始まろうとしています!!』

 

 帝国学園とスポンサー企業である鬼道重工。雷門中とスポンサー企業であるアイランド観光。それぞれのCMが流れる中、凪人は観客席にて試合開始を今か今かと待ち構えていた。珍しくその周囲には閃電イレブンのメンバーの姿は見えない。

 

 そして観客席に座っているとすぐ側の階段から鬼道が登って来た。

 

「お。やっぱお前も来たか。雷門と帝国……元雷門としちゃあ観ない訳にはいかないもんな」

 

「当然だ。それに俺は元帝国でもある。それはそうと……今日は一人か?」

 

「ああ。他の皆は練習だ。俺達も次の試合が近い。だから帝国の情報収集には俺だけで来た。帝国が強いって事は閃電の皆も良く知ってるしな。ずっと合同練習をしてたんだから」

 

「フ……大会前とはいえ、俺達星章をも倒す程に成長していた。やはり佐久間の元で新しい帝国を創り上げて欲しいと考えた俺の判断は正しかった訳だ」

 

 ライバル同士、ニヤリと笑いながら帝国の強さを語る二人。影山という不安要素はあるも、風丸達はそれに屈する事なく、前を向いて歩んでいる。これ程嬉しい事があるだろうか。

 

「で、灰崎……やっぱお前も帝国目当てか?」

 

 そう言って凪人が後ろを振り向けば無愛想な表情ではあるが、二つ程上の席に灰崎が座っていた。

 

「お前も来ていたのか」

 

「ああ…。帝国は俺が…いや、俺達が唯一負けたチームだ。観ないはずがねぇだろう」

 

「……本当に帝国だけか?」

 

 鬼道の意味深な問いに灰崎は答えない。凪人にも鬼道の言ってる事の意味は分かる。稲森の事だろう。それから凪人と鬼道は灰崎と同じ列に座り直し、試合開始を待つ。

 

「雷門対帝国……あんたらにとっちゃ因縁のチーム同士の対決って訳か。どっちが勝つと見てるんだ?」

 

「別にチーム名が同じなだけで特に因縁無いけどなあいつら。風丸に至っては雷門から帝国に派遣されてるし。ま、十中八九帝国だろうな」

 

「珍しいな。普段のお前ならばやってみるまでは分からないと言いそうなものだが」

 

「今の帝国の強さは俺が一番良く知ってるって事だ。まぁ雷門にも可能性が無い訳じゃないがな。趙金雲……あの得体の知れない監督なら何かやらかすのは間違いない」

 

「だが、あくまで佐久間達が納得した場合の話ではあるが……影山も何か仕掛けて来るはずだ」

 

 選手達の実力では帝国学園の圧勝だろう。しかし両チームの監督は超一流。監督の采配次第では試合が大きく傾く可能性も大いにある。

 

 場所は変わってフィールド前のベンチで帝国イレブンは今回のフォーメーションの最終チェックの為に話し合う。勿論敵に情報は悟らせない為にある程度声を抑えているが。

 

「今回は不動。お前が重要な役割を果たす事になる。頼むぞ」

 

「ハイハイ」

 

「返事は真面目にしろバナナ」

 

「いい加減それやめろ!!」

 

 返事が反感を買う気満々だった為、バナナネタで弄ってチームの緊張感をある程度緩和する佐久間。弄られキャラとツッコミポジションとして確立した不動も別にストレスになってる訳ではないので、この程度の弄りに問題はない。

 

 雷門はそんな帝国を遠目から観察していた。

 

「帝国の奴ら……何か打ち合わせしてるな」

 

「作戦の最終確認でしょうか……。何を仕掛けて来るか分かったものではありませんよ」

 

 やはり帝国に対するマイナスイメージが抜けていない小僧丸と奥入は帝国が何か卑怯な手を使って来るのではないかと疑っている。だがそんな事は御構いなしに稲森は皆を元気付ける。

 

「大丈夫!この日の為に、みっちり練習して来ただろ!?」

 

「そうだな!俺達には対帝国用の必殺技がある!!」

 

「うん!」

 

「この試合、必ず勝つぞ!」

 

『おおーっ!』

 

 円陣を組んで盛り上がってはいるが、情報漏れを防ぐ為に声を出来る限り小さくしていた帝国に比べ、雷門の話し声は普通にでかかった。つまり……帝国側に丸聞こえだった。

 

「対俺達用の必殺技があんのかよ……」

 

「何で自分達から堂々と言ってるんだあいつら……」

 

「ていうか、聞かれてるのに気付いてないぞ……」

 

「これも趙金雲の作戦……なの…か?」

 

 呆れ八割、疑念二割で色んな意味で予想外の雷門の言動に驚かされるのだった。

 そして帝国、雷門共にポジションに付く。帝国のフォーメーションは以下の通りだ。

 

FW 佐久間 寺門

 

MF 辺見 洞面 不動 咲山

 

DF 万丈 五条 大野 風丸

 

GK 源田

 

 試合開始のホイッスルが鳴り、帝国学園のボールでキックオフ。寺門が佐久間にボールを渡すと佐久間は走り出す。

 

「来い!」

 

 まずは稲森が佐久間の前に出る。佐久間はこれまでの雷門の試合のデータから稲森が攻守双方に優れた器用な万能型のプレイヤーだと理解していた。彼と一対一でぶつかっても突破は出来るがしつこく粘られるのは面倒だ。序盤から体力を無駄に消耗する必要はない。そう考えて寺門へパスを返す。

 

「えっ!?」

 

「おらあっ!!」

 

 そして寺門は単純なキック力以外に取り柄が無く、そのキック力すらコントロールが無くて意味を成さず、ディフェンスもからっきしな剛陣を軽々と抜かして攻め上がる。

 

「行くぞ!」

 

「てめーら、しっかり働けよ!」

 

『おおっ!』

 

 キャプテン佐久間と司令塔不動の号令一下、攻撃陣は前方へと走り出す。帝国の統率力は木戸川清修のチームワークをも上回る。元々個人の技量でも連携でも高い能力を持つ彼らが経験の少ない田舎者達の守りを攻略するのはそう難しい話ではなかった。

 

 佐久間がフェイントをかけて氷浦を突破。真横に来ていた不動へとパス。道成が来た所で真後ろにいた洞面に渡す。不動と道成を大きく越えたロングパスで寺門へ。

 

「これが帝国学園……!?」

 

「個人技も連携も星章以上じゃないか!!」

 

「またあの繰り返しになんのかよ〜!?」

 

 予想を遥かに上回る帝国学園の実力。卑怯なやり方を懸念してはいたが、全くの的外れだ。そんなもの……本当の強さを持つ彼らには必要ないのだから。

 

「行かせないでゴス!」

 

「ゴスって何だよ」

 

「ゴスゥ!?」

 

 思わず素で聞いた不動だったが、そんな質問されるとは夢にも思わなかった岩戸は頭が真っ白になってしまう。その隙にドリブルする咲山が普通に通り過ぎて行った。

 

「行かせるかぁーー!!」

 

 しかし雷門の中で比較的高い身体能力を持つ稲森が自陣のディフェンスラインまで下がってスライディング。虚を突かれた咲山はボールを奪われてしまう。

 

「「明日人!」」

 

「皆…反撃だぁーー!!」

 

 まずは万作へとロングパスを出した稲森。万作は前線へボールを繋ごうと走り出すが、既にその眼前には風丸が迫っていた。

 

「なっ!?いつの間に……!!」

 

「分身…ディフェンスV2!」

 

 万作に考え、行動する時間を与えずに分身して次々と襲い掛かる三人の風丸。風丸同士の巧みな連携でボールを即座に奪い返し、前線を走る佐久間へと繋いだ。

 

「佐久間!」

 

 ゴール前で佐久間へとボールが渡る。その両サイドに寺門と不動が揃っている。

 

「まずは1点!確実に取って行くぞ!!」

 

「不動!」

 

「俺の足引っ張んじゃねぇぞ!!」

 

 佐久間の指笛が吹かれる事でその周囲にペンギンが五匹出現する。それより少し前に前方へ飛び出した二人に合わせて佐久間がキラーパスを出し、ペンギン達も飛び立って行く。ペンギン達とボールが二人に追い付けば寺門と不動は同時にシュートチェイン。

 

「皇帝ペンギン2号ーーー!!」

 

「「V2!!!」」

 

 帝国学園の誇る必殺技が初っ端から炸裂。誰もが帝国学園の先制点を確信する。しかし雷門イレブンの表情には焦りや落胆は見られない。

 

「いきなり使って来たか!」

 

「だったらこっちも特訓の成果を…!」

 

「見せてあげましょう!」

 

 服部、日和、奥入の三人が皇帝ペンギン2号の軌道上に立つ。三人は同じ方向に手を翳し、パワーを注ぎ、巨大なエネルギー体の匣を創り出した。

 

「「「グラビティケージ!!」」」

 

「な、何だ!?」

 

「まさかアレが対俺達の…!?」

 

 完成と同時に皇帝ペンギン2号が匣と衝突。吸い込まれるかのように匣の中に入り込む五匹のペンギン。ペンギン達が入ると同時に匣の外装に鉄格子が組み込まれる。

 

 次の瞬間にペンギン達が鉄格子を砕いて匣をぶち破って脱出した。

 

「「「え?」」」

 

 そのまま真っ直ぐに飛んで行き、三人を纏めて弾き飛ばして尚、突き進む。

 

「……え?」

 

 皇帝ペンギン2号を攻略する為に出した技が通用する事なく即座に突破され、その衝撃で呆然と棒立ちになっていた雷門のキーパー海腹は皇帝ペンギン2号に反応出来ずそのまま素通りを許してしまう。

 

 1-0

 

『き、決まったぁーー!先制点は帝国学園!!まさかの最初から必殺技、皇帝ペンギン2号で名門の実力を見せつけたぁーー!!』

 

 随分と呆気なくゴールが決まった。帝国を倒す為に考えた作戦を根底から覆す展開に一同呆然とする雷門イレブン。随分と気不味い空気の中、風丸は意を決して尋ねた。

 

「えっと、何だったんだ?今の……」

 

 風丸の質問に答えられる者は……当然ながらいなかった。




Q.趙金雲、どうやってアッキーの変な情報ばっか集めた?

A.李子文が帝国学園の一般生徒に聞き込み調査。アッキーの弄られキャラはサッカー部以外でも定着してる。

Q.バナナは?

A.体力補給に良いので閃電中が持って来ていたものを勝手に食ってそれを咎めた源田に皮を投げ付けた。なのでバナナの皮で滑らせるというベタな罠を貼ったら歩く時はカッコつけて目蓋を閉じて足元を見ない彼はあっさり引っかかった。

Q.結局あのスパイクは?

A.影山はちゃんと仕組みとその狙いを説明。別に違反ではないが、卑怯だし正々堂々と戦いたいアッキーが猛反対。佐久間達もこれは弄らず真面目に応じてきっぱり拒否。あのスパイクはお蔵入り。影山は影山で別に最初からそれでも構わなかった。

不動「感謝するぜ佐久間!」

佐久間「やめてくれ気持ち悪い(真顔)」

不動「んだとコラァ!!」


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因縁あるけど別に因縁なんてない帝国vs雷門・中編

前回、私の書き方の問題により、小僧丸への心象を悪くしてしまったようで非常に申し訳ありませんでした。


 side凪人

 

 佐久間達の皇帝ペンギン2号が雷門の初出のディフェンス技を普通にぶち破ってゴールを決めた。

 

「……鬼道、今のって……」

 

「言ってやるな……」

 

「所詮前年度優勝校の名を汚す雑魚共って事だろ」

 

 灰崎が辛辣。酷え。同じ『アレスの天秤』の主人公同士なのに酷え。

 ……多分あれって皇帝ペンギン2号を止める為に開発された技だよな。多分あれでシュートブロックして止めるって作戦だったんだよな。多分あれ、物語の展開的に普通にぶち破っちゃ駄目なパターンだよな……。

 

 この辺の原作とか知らないけど、多分原作じゃあの技で皇帝ペンギン2号止められたんじゃないか?でも止められなかったのは技の精度が原作より高いのと帝国のあいつらの実力が原作より強いのが理由だよな。ついでに言えば昨年…つまり原作で言う無印のフットボールフロンティア編から既にそんな感じだったし。

 

 つまり原因を突き詰めて行けば……もしかして俺のせい?

 

 ……いやいや俺は別に悪くないだろ。エイリア学園が来ないから世界と戦う為に皆で時間をかけて強くなろうって話なんだし。それに貢献しただけじゃないか。そうだよ。ここで雷門が皇帝ペンギン2号止めて、歴代の猛者達である風丸や帝国がポッと出の田舎者達に負けて……それで正解か?違うだろ?人気投票で五条じゃなくて円堂や天馬が1位獲得してそれが正解か?違うだろ?

 

 結局どれだけ努力して強くなったかって話なんだ。多くの努力をして正当に積み重ねて行った者達が栄光の勝利を掴む。キャラとしての魅力を持つ(五条)が多くの人を惹き付けて人気投票1位になる。当たり前の話だ。

 

 頑張れ風丸。頑張れ帝国。そして五条……お前がNo.1だ!!(錯乱)

 

 

****

 

 side三人称

 

「グラビティケージが破られたからってそれがなんだ!元々相手は強豪なんだ!!作戦がいつも上手く行く方がおかしいんだよ!!」

 

 剛陣のやけっぱちな空元気とも言える励ましによって雷門はどうにか調子を崩す事なく、応戦している。帝国の激しいディフェンスをどうにか潜り抜けてペナルティエリアまで辿り着いた。

 

「キラースライドォォォ!!」

 

「うわっ!?」

 

 ドリブルする稲森に五条のキラースライドが炸裂。稲森はそれをまともに食らってボールを奪われると共に空高く打ち上げられる。三代目原作主人公と言えど歴代人気投票オール1位には敵わないのだ。

 

「ナイスだ五条!」

 

「ククク……これでも帝国の誇りがありますからねぇ」

 

「五条先輩!こっちです!」

 

 パス要求をして来た洞面にボールを託す五条。洞面は細かなドリブルでサクサクと雷門の守りを突破して行く。

 

「昨年とメンバーは違っても雷門が相手だ……。この試合には必ず勝つ!!」

 

 雷門と帝国。昨年のフットボールフロンティア前の練習試合から始まった因縁。勿論それは現在は強化委員として各地に散っている元々の雷門イレブンとの因縁であり、稲森達には何の関係もない。しかしだからこそ、全く無関係の彼らが雷門として戦うのなら……尚更負ける訳にはいかなかった。本来の雷門ともう一度戦う前に……そんな連中には絶対に負けられない。

 

『おおおおおおおっ!!!』

 

 ただ全国に行きたいだけーーーそれが普通なのだがーーーの今の雷門とかつての栄光を取り戻し、因縁との決着を望む帝国とではこの試合に懸ける想いがまるで違う。

 

「今度こそ止めるでゴス!」

 

「だからゴスってなんだよ」

 

「ゴスはゴスでゴス!!」

 

 訳の分からない戯言の羅列が交わされるが、本人達は大真面目に戦っている。不動の前に壁のように立ち塞がる岩戸は力の限り叫ぶ。

 

「ザ・ウォール!!」

 

「ヘッ…美濃道三の壁山の技か!」

 

「これは壁山さんとは違う、平らな壁でゴス!!」

 

「ただの薄っぺらい見せかけだけのパチモンだろうが!!」

 

「ゴスゥ!?」

 

 不動は壁山に比べれば大した事ないと岩戸を一蹴し、空中にボールを蹴り上げて、倒れて来る岩戸のザ・ウォールの下敷きになるのを避けるべく引き下がる。

 

「皆!あのボールを確保するんだ!氷浦か小僧丸に繋げ!」

 

「フン!出来るものならな!」

 

「何!?」

 

 上空に高く上げられたボールを先に確保しようと動く雷門。しかし帝国側に先にそれを成す者達がいた。

 

「行くぞ大野!」

 

「おう!」

 

 DFである風丸と大野が前線まで上がって来ており、同時に跳び上がる。二人は身を捻ってお互いに足を空中で合わせる。大野は踏み台としての役割と風丸を上に押し上げるバネの役割を同時に果たす。そして風丸は大野を踏み台に更に高く舞い上がる。

 

「竜巻ぃ〜〜…!!」

 

 そして風丸の上昇がボールに追いつき、風丸は右脚に風を纏ってオーバーヘッドキック。

 

「落としぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

 大竜巻を発生させ、渦巻きながらもボールはゴールに向かって行く。雷門のディフェンス陣はシュートブロックをしようにも強い風圧で近付けない。風丸自身がパワーキックをするタイプではない故に皇帝ペンギン2号に破られたグラビティケージならば止められる程度の威力だが、近付けなければ意味がない。

 

「のりか!」

 

「止めてみせる!ウズマキ・ザ・ハンド!!」

 

 両腕を大きく回す事で渦潮を再現して水の塊のようなゴッドハンドに近い青い手を出現させる。しかしそれは衝突と同時に竜巻落としの風力で全くのあらぬ方向へと吹き飛ばされてしまった。

 

「きゃああああっ!!」

 

 そして技を失った海腹は成す術無くゴールを奪われた。

 

 2-0

 

「そんな……」

 

「これが帝国学園……!!」

 

「まだ前半が始まって10分も経ってないぞ……!?」

 

「で、でもあれだけ激しい動きを続けてるんだからかなり体力を……って息切れ一つしてないぃぃっ!?」

 

 奥入の指摘とは裏腹に帝国学園は誰一人として息切れはしていない。まだまだ余裕があるように見える。否、実際に余裕がある。帝国学園のスタミナは閃電との合同練習もあって陸上の長距離選手顔負けの体力お化けと化していたのだ。

 

「ハッ、やっぱ三試合でやっと一回勝てる程度の連中じゃねえか!」

 

「油断はするな不動。奴らの監督である趙金雲ならばこの後どんな戦術を仕掛けて来るか分からない。これまでの試合……美濃道三相手に引き分けに漕ぎ着け、御影専農に勝利した戦術はかなり考え抜かれたものだった」

 

「わーってるよ。……悔しいが影山が監督じゃなけりゃあ俺達は趙金雲の危険性に気付けなかった」

 

 リードをしても警戒を緩めない帝国学園。2点もリードしようものなら多少は調子付きそうなものだが、彼らに限ってそんな慢心はしなかった。これは雷門にとって相当痛い。

 

 そしてまた雷門ボールで試合再開。同時に帝国のイレブンバンドに影山からの指示が下る。

 

「『敢えて突破させてシュートを撃たせろ』……か。佐久間、どう見る?」

 

「……奴らの得点源はあのFW……ファイアトルネードの使い手だろう。それが源田には通用しない事実を見せる事で、奴らの士気を下げるといった所だな」

 

 一応は影山の指示通りに敢えてディフェンスを雷門がギリギリ突破出来るレベルに抑え、彼らの体力削りと並行して影山の目論見通りに源田の力を見せ付ける事を風丸と佐久間は選んだ。

 

「小僧丸!」

 

「ふんっ!」

 

 稲森からのパスを受け取った小僧丸はボールを空に打ち上げ、右回転で炎を纏って上昇。右脚に炎を集束させて蹴り出した。

 

「ファイアトルネード!!」

 

「パワーシールドV3!!」

 

 しかしそれは即座に源田のパワーシールドによる衝撃波で炎は吹き消され、ボールは弾かれてしまった。そしてそのボールは五条が確保する。

 

「何だと!?」

 

「ファイアトルネードがあんな簡単に弾かれた!?」

 

 驚愕する小僧丸と稲森に対して五条は人差し指を立ててご丁寧に解説を加える。

 

「それは当然です。源田君は君が撃つよりも遥かに強いファイアトルネードを……斎村君のファイアトルネードを何度も受けているのですから。それも君と同じ右回転型。斎村君よりも劣る君のファイアトルネードが今更通用するはずがありません」

 

「そ、そっか……閃電中と合同練習……」

 

「俺のファイアトルネードが斎村より劣っているだと!?」

 

 五条の言葉に憤りを見せる小僧丸。しかし今知られているファイアトルネードの使い手は彼を含めて四人。木戸川清修の豪炎寺修也にその従兄弟である白恋の豪炎寺真人。そして閃電の斎村凪人。この三人よりも小僧丸が劣っている事は誰から見ても明らかだ。

 

 そしてベンチでは携帯ゲーム機でアクションゲームをする趙金雲が不敵な笑みを浮かべながら話す。

 

「帝国はリードしている状態で尚、こちらの士気を潰しにかかってるようデスネェ。小僧丸君さえストライカーとして機能出来なくしてしまえば帝国はより一層有利になりマスから」

 

「そんな!どうにかならないんですか!?」

 

「……人生にはゲームのようなイージーモードはありませんからネ。どうやら私が思っていた以上にこの大会はハードモードなようデスネ。その方が私としては都合が良いのは確かデスが

 

 そして試合はやはり帝国による一方的なものへと動いていた。帝国は自分達の体力を温存しつつ、雷門が全力を出してギリギリ対応出来るかどうかのプレーで彼らの体力を削り続ける。

 

「疾風ダッシュ改!」

 

「お前ら!ディフェンスがチンタラしてんじゃねえ!!」

 

「違う…!風丸さんが速過ぎるんだ!!」

 

「これが元雷門の風丸一郎太……!!」

 

 風丸が雷門のディフェンスを次々と切り抜けてゴールへと迫る。同じく雷門の中で最も足の速い万作が風丸を追うが追い付けない。距離は開く一方だ。

 

「行かせるかぁぁぁ!!」

 

 しかしそこでFWのはずの稲森が風丸の前へと立ち塞がり、加速。電撃を纏うかのように光りながら点と点で移動。瞬間移動のように現れては消えを繰り返し、風丸の眼前に現れたかと思ったら両脚でボールを挟み、風丸に背を向けて真上へと跳び上がり、着地。風丸を抜き去る。

 

「イナビカリ・ダッシュ!!」

 

『明日人!』

 

「……あれはドリブル技だったはずだが、ディフェンスに応用したのか。面白い奴だ」

 

 ボールを奪われて突破された風丸は稲森を高く評価する。勿論悔しくはあるのだが、それで焦る事は無い。充分な点差がある上、一人の動揺はどのような形でチームに影響するかは分からないのだ。だからこそ、風丸は冷静でいなければならない。

 

「氷浦!」

 

 そして稲森からボールを貰った氷浦は眼前に広がる敵陣を見渡す。フリーなのは剛陣だがあれは分かった上で放置されている。剛陣に渡ればいつでも奪えるからだろう。言わば味方が敵の罠に組み込まれてると言っても良い。それ程に分かり易くフリーだった。

 

 そして稲森はすぐ近くにいる為、シュートは撃てず、小僧丸も万丈と五条にマークされている。

 

(どっち道小僧丸のファイアトルネードは帝国には通用しない……。なら一か八か……やってみるか!)

 

 氷浦は右手を振るい、ボールに冷気を込めて凍り付かせて、勢い良く蹴り出す。

 

「氷の矢、シュートver.!!」

 

「氷の矢を応用したシュート技!?」

 

 美濃道三戦で編み出したパス技。それを直接ゴールを狙う為に使っただけの応用もへったくれもないやり方だが、確かにただノーマルシュートを撃つよりかは遥かに効果があるだろう。

 

 相手が格下のキーパーならば。

 

 源田はパワーシールドを発動する時のように拳にエネルギーを込める。しかしジャンプして力を溜める事無く、直接ボールを拳骨で殴り、地にボールを押さえつけて鎮圧した。氷は砕け散り、ピッチにボールが減り込む。

 

「なっ!?」

 

 驚く氷浦。しかしこれは源田の実力を知る者からすれば当然の光景でしかない。そして当の源田本人からは強い怒気が発せられ、それは声にも現れていた。

 

「……何だこれは。ファイアトルネードが通用しなかったのを見た後にパス技で直接ゴールを狙うだと?舐めているのか?」

 

 氷の矢はあくまでパスの為の技。相手が負担無くボールを受け取る為にシュート技に比べればそのパワーは遥かに劣る。源田からすればそんな技でゴールを狙って来るという行為は舐めているとしか思えなかった。

 

「くっ……!」

 

「何やってんだよ!あの源田に付け焼き刃が通用する訳ねぇだろ!!」

 

「仕方ないじゃないか!ファイアトルネードが通用しないなら、片っ端から色々試して行かないと!!」

 

「ちょ、二人共……!」

 

 小僧丸と氷浦の論争が始まるが、稲森が仲裁に入り、何とか喧嘩になる事なく、その場は収まる。

 

(やっぱり帝国学園は強い……!日和達のグラビティケージも皇帝ペンギン2号には通用しなかった……!!でも、きっとあの技なら帝国から点を奪えるはずだ……!!逆転だって絶対出来る!俺は諦めないぞ!!)

 

 決意を新たに帝国との試合を続行する。しかし個々の技術で劣り、連携で劣り、結束力で劣る雷門は全くもって思うようにプレーが通用しない。

 

「サイクロン!」

 

「どわあああっ!?」

 

「分身フェイント!!」

 

「増えた!?」

 

 帝国学園の必殺技に圧倒され続ける雷門。弱点を突かれ、調子を崩しにかかる帝国のプレーによって次第に彼らの精神にも大きく影響が出始める。

 

「はっ!」

 

「おらっ!!」

 

「何やってんですか!ちゃんと守って下さい!」

 

 佐久間と不動のワンツーによって道成が抜かれる。すると彼に向かって万作の罵倒が飛んだ。

 

「人の事言ってる場合かぁ?」

 

 言ってる側から不動に抜かれる万作。今度は道成の方から万作へと非難の声が飛ぶ。

 

「お前だって抜かれてるじゃないか!!」

 

「中盤がしっかりしてくれないからこっちにばっか負担が来るんですよ!!」

 

 彼らの言い争いを気にする事なく帝国の攻撃は続く。佐久間にボールが渡りその両サイドに寺門と不動が再び揃う。佐久間の指笛と同時に五匹のペンギンが出現した。

 

「皇帝ペンギン2号ーー!!」

 

「「V2!!」」

 

 二度目の皇帝ペンギン2号が放たれる。日和、奥入、服部の三人もまた再びシュートコースに出て先程の必殺技でシュートブロックにかかる。

 

「「「グラビティケージ!!」」」

 

 しかしやはり一瞬にしてぶち抜かれ、皇帝ペンギン2号はゴールへと迫り、キーパーの海腹が水から巨大な手を生み出す。

 

「ウズマキ・ザ・ハンド!!……きゃああああっ!!」

 

 3-0

 

 ここで前半終了のホイッスル。前半は帝国が終始雷門を圧倒して終わった。そしてこれだけの事があったにも関わらず、帝国は誰一人として息が上がっておらず、反対に雷門はスタミナを徹底的に削られ、息が上がっていた。

 

「のりかさん!キーパーならちゃんと止めて下さいよ!!」

 

「ご、ごめん……」

 

「おい奥入……そりゃ仕方ねーだろ。あいつらのペンギンが強かったって事なんだからよ」

 

「剛陣先輩は黙ってて下さい!何の役にも立ってないんですから!!」

 

「ああ!?てめーらだって自信満々に必殺技出しても通用してねーじゃねぇか!!」

 

 苛立ちが募り、酷く言い争う雷門。そんな光景を稲森は信じられないものを見る目で見ていた。

 

「何だよこれ……こんなのサッカーじゃないよ」

 

「その通りだ」

 

「え?」

 

 稲森の悲し気な呟きに答えたのは帝国側の風丸だった。そして雷門のメンバーも風丸に気付き、その視線を向ける。彼らの視線が自分に集まったのを確認した風丸は口を開く。

 

「お前達……それでも雷門か!!」




原作では全国大会から互いのミスを責めるという雷門にあるまじき展開が目立ちましたから、帝国の相手の得意分野を潰し、調子を崩すというやり方をまともに受ければ早々にその辺が露呈しそうだなと思ってこうなった。

伊那国・雷門へのヘイトと思われて低評価付くかもしれないけど、一応彼らの成長の為のシナリオでもあるので。


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因縁あるけど別に因縁なんてない帝国vs雷門・後編

ナンバリングにしてたけどまた三話で終わったから前編、中編、後編の形式にした。


 side三人称

 

「お前達……それでも雷門か!!」

 

 風丸の一喝に雷門イレブンは一瞬面喰らったようなポカンとした表情になる。

 しかし次の瞬間にはハッとした表情になりながらも、風丸の一言の真意が分からずに道成が代表して尋ねる。

 

「風丸さん……それはどういう……」

 

「お前達は雷門の名を背負う事を何も分かっていないと言っているんだ!!」

 

 怒りすら感じる強い眼差しで射抜かれ、怯む道成。しかしここまで言われて頭に血の登り易い剛陣が黙っているはずもない。

 

「おいおい……流石にそんな事を言われる謂れはねぇぞ」

 

「ある。雷門は本当なら俺達のチームなんだ。それを名乗っておきながら、お前達がやって来た事は何だ!?言ってみろ!!」

 

「そ、それは……前年度優勝校の名前に泥を塗るかのように情け無い戦績ですけど……「そんな事を言ってるんじゃない!!」ひっ!」

 

 風丸の叱咤を受けながら的外れな返答をする奥入はまたもや風丸に叱られ、怯えてしまう。しかし風丸はそれを気にする事なく話を続ける。

 

「お前達は仲間のミスや失敗を責め、自分に非は無いと言わんばかりに試合中にも関わらず、仲間割れを始める始末……そんなものが雷門と言えるか!そんなのが仲間と言えるか!!仲間の失敗を励まし、力を合わせて支え合う……それが仲間だろう!それが雷門なんだ!!」

 

『…っ!』

 

 サッカーは11人でやるもの。仲間割れなんてしたら連携は噛み合わなくなり、チームは自ら崩壊していく。チームとは呼べなくなる。彼らは風丸にそれを指摘されるまでそんな簡単な事すら見落としていた。

 

「俺はお前達を雷門とは認められない。勝つ事ばかりに気を取られ、仲間と一緒にサッカーを楽しむ事を忘れて仲間同士で信じ合う事の出来ないお前達を…雷門とは認めない!!」

 

 それだけ言って風丸は稲森達に背を向けて帝国のベンチへと戻って行った。そしてそこに残ったのは暗い表情をして落ち込む“伊那国イレブン”だった。

 

「……サッカーを楽しむ事、仲間を信じる事……俺達はそんな大切で簡単な事を……見落としていたのか」

 

 万作がそれを口に出した事により、彼らの雰囲気はより一層重くなる。そしてキャプテンである道成は意を決して口を開いた。今ここで彼らを勇気付けなくて何が仲間か。何がキャプテンか。たった今風丸に言われたばかりではないか。

 

「皆!聞いてくれ!確かに風丸さんの言う通り、前半の俺達のプレーや言動は雷門として…いや、サッカープレイヤーとして恥ずべき最低のものだった。言い訳のしようもない」

 

「キャプテン……」

 

「強い敵と戦っている事で俺達はそれに対抗しようとする余り、サッカーの楽しさや仲間の大切さを見失いかけてたんだ!俺達はそんな事にならないような伝説のイレブンじゃないけど……少なくとも、後半から皆でサッカーを楽しむ事は出来る!」

 

 かつて昔の偉い人は言った。「過ちを改めない。これを本当の過ちと言う」…と。雷門の名を汚してしまった事はもう取り返しのつかない事だ。しかしここから汚名を返上し、雷門の名誉挽回をする事は出来る。

 

「……もう一度、やり直してみるか!」

 

「ちゃんとしたサッカーを…!」

 

「相手はこれ以上ない相手……」

 

「伝説の雷門イレブンの一人、風丸一郎太と40年無敗の帝国学園だからな……!!」

 

 道成の言葉によって伊那国イレブンの瞳に火が灯る。彼らの中にあった蟠りは消えようとしていた。その様子を見ていた趙金雲はニヤリと笑い、彼らに歩み寄る。

 

「では、予定より随分と早いデスが……そろそろ行きますヨ!サッカー盤ごっこデス!!」

 

****

 

 後半は雷門のボールで始まる。風丸の一喝を受けて持ち直した雷門は堅実なパス回しでボールを守りながら進んで行く。

 

「おいおい、態々相手の調子を持ち直してやるとか何考えてんだ?」

 

「雷門を名乗っておきながら、余りにも見ていられない始末だったもんでな」

 

「俺もそれには同意する。俺達が戦う雷門が内輪揉めで自壊して行くなんて許さない。だが、それと勝敗は別だ。負けるつもりは無い。気を引き締めて行くぞ!」

 

 不動の苦言を甘んじて受け入れながらも風丸に後悔は無い。そして佐久間達も風丸を肯定している。彼らが雷門の名を背負っていなければ内輪揉めして自滅しようが知った事ではなかったが、雷門とは帝国を打ち破ったチームの名だ。その名を汚す事は許容は出来ない。

 

「……まぁ良い。で、碌に体力も残ってねえ田舎のザコ達に何が出来るんだろうな?」

 

「油断はするな!奴らの監督は趙金雲なんだ!」

 

 そしてドリブルをしながらも雷門は攻め上がる。しかし中盤で剛陣が洞面にボールを奪われてしまう。だが、雷門はその場でボールを取り返しにかからず、それぞれがバラバラな配置に広がって行った。

 

「あ!?何だこりゃ!?」

 

「……いよいよ仕掛けて来たな。ここからが本番だ。奴らの策に対応する為に前半で3点のリードをし、奴らの体力を徹底して削ったんだ。俺達の体力も充分に残っている。佐久間!」

 

「皆!暫くは様子を見る!奴らの動きや配置をしっかり把握しておくんだ!!気付いた事があればすぐに伝達しろ!!余裕を持って焦らずに対処するんだ!!」

 

 佐久間の呼び掛けに応じて頷く帝国イレブン。ここ数日の雷門の練習は影山の送ったスパイによって一通り頭に入れてはいる。流石にイナビカリ修練場での特訓は見られなかったが、それでも対応出来るだけの情報はある。

 

 稲森はそれを知ってか知らずか……風丸の叱咤から学び、仲間を信じて呼び掛ける。

 

「皆やろう!監督の言う通り実行するんだ!失敗したって良い!思いっきりやろう!!」

 

「けどフィールドに線は引かれちゃいない!」

 

「いや、線は見えるよ!現に皆大体の位置には付けたじゃないか!皆落ち着いてフィールドを見るんだ!」

 

 稲森に言われてフィールドを見渡す。すると彼らには彼らにだけ見えるものがあるのか、多少の位置修正を図ると帝国イレブンに向き直る。

 

「線から出ないように……だったな」

 

「何だってんだ……?」

 

「行くぞ!まずは奴らの策を見極める!焦らず冷静に分析するんだ!それが不動!司令塔(お前)の役目だ!!」

 

「……ったく」

 

 一先ずは風丸に従って不動は雷門の位置取りを確認する。一定の間隔を空けて散らばっているがこれでは連携は取れそうにない。ドリブルで佐久間と二人で駆け抜けるが、そこに氷浦と道成が迫る。

 

 しかし不動と佐久間の前に立ち塞がる前に彼らの持ち場を駆け抜けるとあっさり追い駆けるのを諦めて立ち止まった。

 

「何!?」

 

「どういう事だ!?」

 

 これには流石に驚愕を隠せない。彼らにそんな余裕など無いはずだ。なのに何故追い付けないからと言ってすんなり通してしまうのか。

 

「はあっ!!」

 

 しかしそれに気を取られた瞬間、服部のスライディングにボールを弾かれ、その先にいた稲森へとボールが渡った。

 

「やった!」

 

「これは…?」

 

 前半とは勝手の違う展開によって微妙にプレーにズレが生まれ始めた帝国イレブン。対して雷門はもう一度攻める為に稲森がドリブルをしながら上がろうとする。

 

「いや、ドリブルは駄目だ…。パスで運ばなきゃ!」

 

 そして道成にパスを出してから前線へと向かう。明らかに前半とはベクトルの違う雷門のプレー。当然観客席にいる彼が興味を示さない筈が無かった。

 

「ボールを奪う為に複数でプレスをかけるのではなく、行動範囲を制限する事で体力の温存と、一定範囲内での瞬発力のあるプレーをする事で敵の攻撃リズムを崩している……。帝国はこれまでのデータを元に組み合わせた戦術と前半の雷門のプレーに慣れているから効果覿面だなオイ」

 

 凪人はこの短い時間で雷門の策の概要を見抜き、理解していた。とは言えこれはフィールドではなく、頭上である観客席から第三者目線でプレーを観たからこそ。凪人自身があのフィールド上にいたらこれを理解するのにもう少し時間がかかっただろう。

 

 これにより雷門の動きが良くなったようにも見える。

 

「帝国の速い攻撃に着いて行き、複雑でありながら精度の高い連携リズムを崩す為にも自分達の行動範囲に制限をかける……。こんな戦術、考えた事も無かったな……」

 

「これが趙金雲か…。ふざけているようで考え抜かれている。影山ですらこんな発想に至った事は無いだろう」

 

 鬼道もまた同様にこの戦術の奥深さを理解しているからこそ、趙金雲の底知れなさに戦慄する。正直言えば今の雷門ではなく、もっと強豪のチームの監督をしていれば星章学園を抜いて全国ランキング1位にそのチームを君臨させる事すら可能な程の腕前だ。

 

『雷門の選手は何故か一定範囲内しか動いていない!これは“サッカー盤戦法”とでも言うのかーー!?』

 

「実況も気付いたか。アッキーも今の実況で分かっただろうし……ここから大きく変動するぞ。色々な意味でな」

 

「雷門のペースになろうとしているな」

 

「帝国のフォーメーションが崩れて行くぞ。面白え…」

 

「型破りに見えるがあれも一種のタクティクスだ。名付けるなら、“サッカー盤戦法”」

 

「「それ今実況が言ってたぞ」」

 

 天然で言ったのかジョークなのか……恐らくは後者なのだろうが、今の鬼道は完全にスベっていた。それはもう見ていて痛々しいくらいに。実際凪人と灰崎が鬼道に向ける目は非常に冷めていた。

 

「そうか…!こいつは雷門が練習の合間にやってたミニゲームだ!一定範囲内に行動を制限して体力の温存と俺達の連携のリズムを崩す事を同時にやっていたんだ!」

 

「そういう事か…。だが俺達では奴らの行動範囲を正確に割り出すのは難しい…!」

 

「裏を返せばやはりあいつらの体力はかなり消耗しているし、まともにやれば俺達の連携には着いて行けない!まずはボールを奪い返して連携を組み直す!!」

 

 帝国イレブンも雷門の戦術のカラクリに気付いた。アイコンタクトで意思の疎通を図り、六人でまとまって加速。瞬く間に稲森を包囲した。

 

「インペリアルサイクル発動!」

 

 六角形の形で包囲した稲森に超高速で一斉に襲いかかり、対応する時間も考える暇も与えずに速攻でボールを奪い取る。折角の戦術も止められてしまえば降り出しに戻る事になる。

 

 しかし今の雷門の精神状態は前半とは違った。

 

「ドンマイだ明日人ー!」

 

「次だ次!」

 

「おーう!今度は突破してみせるよ!」

 

 仲間の失敗を励まし、支え合う。そんな光景を見て風丸は思わず頬を緩めてしまう。やっと雷門らしくなって来た。そんな風に思ったのだろう。

 

「だが、この試合に勝つのは俺達帝国だ!!」

 

 パスを受け取った風丸はそのスピードを活かしてドリブルで攻め上がる。行動範囲の制限によって逆に動きが予測出来ないのは厄介だが、やりようはある。風丸は走りながらも真後ろに寺門と不動を率いる。

 

 これは不動が出した案だ。予測が出来ないのなら、一人が直接ドリブルして攻め上がるのと同時に他のメンバーで敵の動きを見張り、何かあれば逐一報告し、事前に防ぐ。場合によっては即座にパスを繋ぐ。

 

「くっ…!」

 

「流石は帝国だ…!すぐに対応して来たか!」

 

 道成には寺門が。氷浦には佐久間がマークについて中盤を出来るだけ容易に突破出来るようにする。後は風丸自身の突破力が物を言う。

 

「行かせません!」

 

「ゴス!」

 

「……これは対斎村用のとっておきだったんだがな」

 

「え?」

 

「ゴス?」

 

「風神の舞!」

 

 奥入と岩戸の二人掛かりでのディフェンスの突破は難しいと判断したのか、風丸は暴風を纏いながら二人の間に突っ込んで行き、風のドームの中に二人を閉じ込め、吹き飛ばした。

 

「「うわあああああっ!?」」

 

「あんな凄い必殺技をまだ隠していたのか!?」

 

 そしてゴールの前に風丸が迫る。海腹はシュートに備えて構える。しかし風丸はシュートを撃つと見せかけて、ボールを上空へと蹴り上げた。

 

『!?』

 

 そしてそれに食らい付いたのは佐久間だ。佐久間はそのままフルパワーでヘディングをかまし、ボールを叩き落とす。そしてその先でシュートを構えていたのは不動だ。

 

「認めてやるぜ!てめーらは全力で叩き潰すのに相応しい相手になったってなァ!!!」

 

「ああ!帝国学園の誇りに懸けて全力を以ってお前達を倒そう!!」

 

「「ツインブースト改!!!」」

 

 迫力も実際の威力も以前とは比べ物にならない程にパワーアップを遂げたツインブースト。海腹もそれを止めるべく、フルパワーの必殺技で対応する。

 

「ウズマキ・ザ・ハンド!!」

 

 水のゴッドハンドは正面から受けたツインブーストのパワーを何とか弱め、その手にボールを掴むものの、今にも爆発しそうだと言っているかのようにパワーが膨張しようとしている。海腹は残ったパワーを抑え込もうと必死に堪える。

 

「うう…!!」

 

「させるかあっ!!」

 

 そこで万作が横からボールに膝蹴りを叩き込んでパワーを殺しにかかる。しかしそれでも僅かに力が及ばず、別方向から力を加えられた事により、バランスを崩した海腹は遂に耐え切れなくなり、ゴールを許してしまった。

 

 4-0

 

「う…!」

 

「済まない……!俺の力が足りなかった」

 

「ううん…!私だって最初に止められていたら……!」

 

 そこに責任の押し付け合いや、仲間への責め苦は無い。互いが互いを支え、気遣う。雷門のサッカーがそこにはあった。

 

「皆!俺達は諦めない!勝てなくても……最後に一矢報いる事くらいは出来るはずだ!!」

 

『おう!』

 

 気付けば残り時間はあと10分も無い。雷門の逆転は絶望的だろう。それでも彼らの顔に絶望は無かった。それは観客席から見る者達にも分かる程に。

 

「斎村……」

 

「ああ。稲森達はこの帝国との試合を介してなろうとしているんだ。本当の雷門に…!雷門の真の必殺技は最後まで諦めない気持ちなんだ。あいつらはそれを掴もうとしている……!」

 

「……気に入らねえ」

 

 鬼道と凪人はそんな稲森達を見て彼らに感じるものがあったのが、顔が少しばかり綻んでいた。対照的に灰崎は少しばかりイラついている。

 

 残り時間僅か。サッカー盤戦法と彼らなりの工夫を駆使して何とか攻め上がる雷門。帝国もまた体力の消耗を度外視して全力で応戦している。

 

「はああーっ!!」

 

 万丈のスライディングが剛陣の足元にあったボールを弾く。それを日和が確保して迫る咲山が目の前に辿り着く前に氷浦へと繋いだ。

 

「今度こそ!氷の矢!!」

 

「またそれか…」

 

 前方目掛けて全力で蹴り出されたパス技。源田はそれを止めるべく構える。しかしそのパスがゴールに届く前にゴール前へと全速力で駆け抜けて来た三人がいた。

 

「何!?」

 

「シュートチェインか!?」

 

 稲森、小僧丸、海腹だ。三人は背後に迫る氷の矢に合わせて力の限り叫び、その力をボールに込める。

 

「「「うおおおおおおっ!!」」」

 

「行っけえええ!!これが俺達の必殺シュート……!!」

 

 三人の背後に巨大な白熊が出現し、飛んで来た氷の矢をその口に咥え、氷の矢の比ではない冷気を注ぎ込む。

 

「「「北極グマ…2号ォォーー!!!」」」

 

 白熊の咆哮と同時に三人で蹴り出したシュート。技単体の威力ならば皇帝ペンギン2号に勝るとも劣らないその必殺技を見て帝国イレブンは唖然とする。しかしキング・オブ・ゴールキーパーと呼ばれたこの男だけは違った。

 

「必ず止めてやる……!!フルパワーシールドV3!!」

 

 両腕に込めたエネルギーを特大ジャンプと共に地面に叩きつけて展開した巨大なエネルギーの壁。パワーシールドとは比較にならない総エネルギーにエネルギー密度。しかしそれは衝突と同時に少しずつ凍り付いていく。

 

「な、何だと!?」

 

「フルパワーシールドが押されてんのか!?」

 

 そして亀裂が生じるフルパワーシールド。その時風丸は昨年の予選大会決勝の光景を幻視した。

 

『『ザ・ギャラクシー!!』』

 

 帝国を強くする為に力を貸してくれた友と……雷門の始まりの切っ掛けとなったエースストライカーのシュートを。

 だからこそ、今だけは立場を忘れて雷門イレブンとして告げる。

 

「……見事だ」

 

 フルパワーシールドは砕け、源田の真横を通り過ぎ、ゴールネットは揺れた。

 

 4-1

 

「や、やったぁーーー!!」

 

『おおおおおっ!!』

 

 歓喜の声に包まれる雷門イレブン。しかし無情にも終わりの時はやって来た。

 

 ピッ、ピッ、ピーーーーーーーーー!!!

 

 試合終了のホイッスル。この試合は4-1で帝国学園の勝利だ。

 

『ここで試合終了です!雷門と帝国…因縁の対決は帝国学園の勝利となりましたぁーー!!しかし一方的だった前半に比べ、後半の雷門は大健闘と言って良いでしょう!!これは歴史に名を残すと言っても過言ではありません!!』

 

 しかしこの試合の敗北を以って、雷門の全国大会出場は不可能になったと言って良いだろう。これまでの試合と照らし合わせてこの先帝国、星章、木戸川清修の3チームが雷門以上に酷い戦績となる事はあり得ないからだ。

 

 しかし今だけはそれが気にならない程、雷門にとっては清々しい敗北だった。

 

「最後まで全力で楽しめたんだ。負けても悔いは無い」

 

「負けて悔しいけど……やっぱ強かったなぁ帝国学園!」

 

「全くだ。まるで歯が立たなかった。星章以上だ」

 

 負けたのに笑っている雷門。そんな彼らに風丸は歩み寄る。風丸に最初に気付き、駆け寄ったのは勿論稲森だ。

 

「風丸さん!ありがとうございました!負けちゃったけど、風丸さんのお陰で大切な事を思い出せました!!サッカーは皆でやるから楽しいんだって!!」

 

「そうか。さっきは偉そうな事を言ったが、俺も途中で折れそうになった時があってな。辛い事がある度にかつての雷門の仲間達との事を思い出して乗り越えて来た。お前達だってそうさ。仲間がいればチームの力は何倍にだってなれる。仲間と一緒にもっと強くなれるんだ。それを忘れるな」

 

『はい!』

 

 気付けば雷門全員が風丸の前に整列して返事をしていた。敵チーム同士なのに何だかおかしな光景に風丸は苦笑してしまう。

 電光掲示板には今試合のMVPのイレブンライセンスカードが映し出される。今回のMVPは不動明王だ。

 

 そして観客席では観戦を終えた凪人達が今後の雷門について話し合っていた。

 

「負けときながらちゃっかり成長したみたいだな雷門も。けど帝国に負けた連中はスランプ続きだ。後の二試合はみっともねぇ負け方になるのは確定だな」

 

「それはどうだろうな」

 

「あ?」

 

「確かに雷門は負けた。そしてこれまで帝国に負けたチームは長所を潰されてスランプに陥っていた。しかし今回の試合、雷門は長所を潰されこそしたが、調子を崩すと言えるような負け方はしてはいない。これまでとは違い、奴らはスランプに陥る事なく、存分に戦い抜くかもしれんぞ」

 

「それに、帝国学園に負けたチームがスランプになるって話には続きがあるんだ」

 

 灰崎の言葉に鬼道が反論し、凪人も最近出回っていた帝国学園に纏わる噂話について説明を始める。

 

「帝国と戦ったチームはスランプの後、大幅に勝率を上げているんだ。つまり、帝国と戦ったチームは強くなるんだ。もしかしたら雷門にはこの部分だけ帝国戦のジンクスが適用されるかもな?」

 

「……それでも奴らが全国に行けずに脱落すんのは確定だろうが」

 

 珍しく力無く反論する灰崎。凪人はキョトンとした顔になる。

 

「は?……お前まさか知らねえの?鬼道……」

 

「知らない?何をだ?」

 

「ああ。教えてはいない。教えた所で意味は無いしな」

 

「マジか」

 

「おい、何の話だ!?」

 

 凪人と鬼道が何を言っているのか……灰崎が聞き出そうとしても二人は答えずに自分達だけで完結させる。

 

「いや知らないなら良いんだ。……あいつらがそれを使う気になるかは全く別の話だからな。少なくとも……それを知って嬉々として使う気になる程恥知らずじゃねぇだろ」

 

 凪人は敗北を悔しがりながらも、笑顔で試合を終えた稲森達を見ながら小さく呟いた。




ハイビーストファングは敢えて出しませんでした。メタ的に言えば帝国が原作より強くなり過ぎているので、北極グマ出してもなんか止めちゃいそうな気がして……。源田本人の心境的にはフルパワーシールドで止められると思ったんです。

尚、原作通りに自陣ゴール前から撃ってたら確実に止めてました。

そういやアレスルートの方ではまだ新しいオリジナル技出してないな。

次回からはまた暫く閃電サイドです。


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かつての神々との戦いに備えて

アレス編開始前から構想し続けてきた試合が遂に始まります!


 side凪人

 

「くらえええっ!!」

 

 相手が最後の悪足掻きとしてぶちかました必殺シュートが俺達のゴールに迫る。ゴールを守る堂本は右手を上げてそこに赤い稲妻を集中させる。

 

「堂本!」

 

「堂本君!」

 

「うおおおおっ!!ゴッドハンドォォーーーー!!!」

 

 堂本のゴッドハンドによるキャッチと同時に試合終了のホイッスルが響き、電光掲示板にある11-0という驚異的な点差と共に俺達の勝利を祝福する拍手が閃電スタジアムに溢れ返る。

 

「やった!勝った!これで勝ち点15!!全国大会に出場決定だよ!!」

 

「ああ!」

 

 俺と星宮とでハイタッチを交わし、電光掲示板に表示されている得点を確認する。得失点差はこれで総合60点は超えた。個人では永世学園の吉良ヒロトに得点王の座を持って行かれてはいるが、チーム単位では間違いなく全ての予選大会で得点率トップは俺達閃電中だ。

 

「けど…あと一試合残っている」

 

 俺が観客席に眼を向ければ丁度観戦し終えてスタジアムから去ろうとする白ジャージの金髪で長髪の男の後ろ姿が見えた。やっぱり観戦に来てたか。

 

 俺達の属する関東CグループはAグループに勝るとも劣らない程の激戦区だ。これまでの五試合で全勝となっているのは俺達の他に1チームしかいない。既に閃電とそのチームとで全国大会出場枠は埋まっている。

 

 だからこそ、運営は遠慮なくぶつけて来るだろう。俺達とそのチーム……世宇子中を。

 

****

 

 side三人称

 

 閃電中サッカー部の部室にて監督である会田、マネージャーの時枝、そして閃電イレブンは集まっていた。前方にあるホワイトボードには関東Cグループの上位2チームの名が記されている。

 

 1.閃電 五勝無敗 勝ち点15

 2.世宇子 五勝無敗 勝ち点15

 

「……と、これで俺達閃電と世宇子の全国大会進出は決定した。此の先どう足掻いても勝ち点15に届くチームはCグループにはいないからな。因みに同点なのに俺達が1位なのは得失点差によるものだ」

 

 ついでに言えば双方共に現状失点0。だが次の試合で閃電と世宇子がぶつかる事が決定した事により、嫌でもどちらかは失点0という記録が潰える事になる。

 

「既に全国大会進出が決まっているからって間違っても消化試合だなんて思うなよ!これはグループ突破1位を懸けた戦いなんだ。フットボールフロンティア優勝を目指すなら……負けて良い試合なんて一つもない!!」

 

『おう!』

 

****

 

 閃電中はスポーツが盛んな学校である。どの運動部も全国トップを狙える程の実力を誇っていた。そんな中、昨年の秋まではサッカー部だけが例外中の例外であり、何処の学校にも勝てない程の弱小部だった。正に学校の恥であり黒歴史。廃部にしたいと考えた者も多かっただろう。

 

 しかしそれはフットボールフロンティア全国大会を制した雷門イレブンの副キャプテン、斎村凪人のサッカー強化委員としての派遣によって大きく変わった。弱かったサッカー部はみるみる強くなり、今や全国トップクラスの実力を持つに至った。

 

 そんな閃電サッカー部はフットボールフロンティア予選大会突破を決め、1位通過の為に昨年の準優勝校、世宇子中との試合に備えて猛練習をしていた。

 

「うおおおおおおっ!!打倒世宇子中!!!」

 

『おおおおーーーーーっ!!!』

 

「おー、燃えてるなサッカー部」

 

 教室の窓からも良く見える第2グラウンドにてサッカー部のレギュラーメンバーがタイヤを引き摺りながら全速力でドリブルして走る様子を見て他の部に所属する男子生徒の一人が呟いた。

 

「何でもあいつら地区予選大会突破して全国大会に出場出来るようになったらしいぞ」

 

「へぇ、あの弱小部がねぇ〜〜」

 

「他校のサッカー部からしたらもう立派な強豪で優勝候補らしいけど、ぶっちゃけ信じらんねー」

 

「あれだけ惨敗しまくってたのを見てたからねぇ〜」

 

「王帝月ノ宮との練習試合の時は感動したけど……あれも結局負けてたからなぁ」

 

 好き勝手に話す彼らだがそれも仕方ない話ではある。凪人が派遣される前までは本当に彼らは弱く、みっともない試合しか出来なかったのだから。

 

「で、予選最後の試合は昨年の準優勝校の世宇子中だろ?あいつらの快進撃もこれまでだな」

 

「いくら強化委員で斎村先輩が来てるからって……雷門にいた時もかなりギリギリの勝利だったしな……。昨年の雷門ならともかく、ウチのサッカー部じゃ無理だろ」

 

「何言ってんの!それでも全国には進めるんだし、予選2位で全国進出も立派よ!」

 

 褒めているのか貶しているのか。ずっと閃電サッカー部の負けっぷりを見て来た彼らからすれば未だにサッカー部が全国ランキング2位に君臨する程に強くなったという実感が湧かないようで面白半分に彼らの練習風景を眺めている。

 

「おおおっ!!」

 

「でやあああっ!!」

 

「……もう充分頑張ったってのになぁ〜」

 

 だがそれからも閃電サッカー部は世宇子との試合まで練習をやめる事は無かった。

 

 雨の日も……

 

「今日は雨だし流石にサッカー部も練習してないか」

 

「いや、堂本と赤木の奴ら、サッカー棟に向かってったぞ!」

 

「あ、そっか。そういや弱小だったあいつらにも専用の練習場はあったもんな」

 

 グラウンドが使えないならば屋内でより一層練習に励む。

 

 風の日も……

 

「この暴風に負けずにドリブルとパス、シュートをこなすんだ!!ボールのコントロール技術を徹底的に磨く!!」

 

『うっす!!』

 

 風という妨害に遭いながらも逆にそれを練習に取り入れて技術向上を図る。傍目から見て滅茶苦茶以外の何物でもない特訓を全力で実践する。

 

「よくやるよあんなの……」

 

 そして試合三日前に迫った日の夜も……

 

 その日、閃電中のバスケットボール部員三名は部活動に集中するあまり、学業成績が疎かになっていたが故に補習授業を受けていた。既に空には月が浮かんでおり、真っ暗だ。彼らが寮生活を送っている為にここまでの時間の勉強になったのだ。

 

「ひーっ、補習疲れたぁ〜…」

 

「もう8時前だぜ?寮の食堂閉鎖ギリギリまでしごきやがってあの鬼教師……」

 

「とにかく飯だ飯。腹減った」

 

 暗い学校の敷地内を歩く男子生徒達。するとふとその中の一人が第2グラウンドを見て呟いた。

 

「流石にサッカー部もこんな時間じゃ練習切り上げてるか」

 

「当たり前だろ。こんな遅くまでやる馬鹿いねーって。腹減るし、第一外じゃ暗くてドリブルなんて出来ねーだろ」

 

「あれ?……なんか、サッカー棟の方、明るくね?」

 

 丁度サッカー部の話をしていたらそのサッカー部専用の練習場であるサッカー棟に電灯が点いている。それを見て気の所為だとか消灯のし忘れだとか考える程、彼らは軽い頭をしてはいなかった。

 

 外では暗くて練習なんて出来ない。ならば明るい所ならば彼らなら……。

 そう思ってすぐに寮に戻って夕食を済ませてサッカー棟へ向かう。するとサッカー棟の観客席には少なくない数の閃電中生徒達がいた。中には教師までいる。ここにいる全員が寮生活をしている生徒なのだろう。

 

「嘘だろ……?」

 

「え、ええ〜〜っ!?」

 

「……あり得ねえ。マジかよあいつら……」

 

 サッカー棟……閃電スタジアムのピッチには夜になって尚猛練習を続ける閃電イレブンレギュラーメンバーの姿があった。息も絶え絶えになりながらもその目には決して辛いだとか早く終わって欲しいだとか……そんな逃げの思考は宿ってなどいない。全員が真剣に練習に取り組んでいた。

 

「声出せー!!」

 

「もういっちょ来ーい!!」

 

「おーう堂本ー!!」

 

「城之内!今のドリブルは良かったぞ!!」

 

「石島もナイスチャージだ!」

 

 強化委員である凪人の指示の元、猛練習に励む彼らを見る為にここにいる生徒や教師達は集まったのだ。

 

「キャプテンの星宮君、実家通いだけどここ数週間はずっと寮に泊まり込みで練習してるんだって」

 

「今日も晩飯食ったらまたすぐ練習だってさ……食堂のおばちゃん達も疲労回復やスタミナを増やす為に余り物で特別メニューの夜食とか作ってくれてるらしいぞ」

 

 聞こえて来る閃電イレブンの努力と周囲のバックアップの実態。いくらバックアップがあっても自分達はバスケの為にここまで努力した事があるだろうか?

 

「何で予選の為にそこまでやるんだよ……全国出場は決定してるし、次のはただの消化試合だろ?」

 

 そして二日後……世宇子戦前日。

 

「ん〜!皆、ストレッチは済んだな?そろそろ始めるぞ!」

 

『おう!』

 

 凪人の号令の元、閃電イレブンは気合いの入った返事を返す。

 昨日はスポンサーである神童インストルメントと監督の会田の意見により、一日しっかり休んだ。それどころかスポンサーが気を利かせて疲労を取る為にプロによるツボ押しやマッサージまで受けさせてくれた程だ。

 

 お陰でここ数日の溜まった疲労はすっかり回復し、今日一日の練習と明日の試合により全力で臨める。

 

「明日はとうとう世宇子戦だ!全力でぶつかるぞ!!皆頑張って行くぞぉーーー!!」

 

『おおーーー!!』

 

 第2グラウンドに向かって行く閃電イレブン。凪人も一緒に行こうとしたが、その前にバスケットボール部の男子生徒に呼び止められた。

 

「あの、斎村先輩……」

 

「ん?」

 

「どうして……そこまでやるんですか?全国大会にはもう出れるのに、世宇子戦は消化試合ですよね?なのに……」

 

 当然の疑問だ。特にサッカー部員でない彼からしたら尚更だ。だから凪人は怒らずに答える。

 

「ライバルだからだ。強化委員の派遣されたチームだけじゃない。フットボールフロンティアに出場する全てのチームが優勝を争う対等なライバルだからだ。中でも世宇子はとびっきりのな。

 

だから俺達はやれる努力は全てやって全力でぶつかり合いたいんだ。それがサッカープレイヤーとしての礼儀であり、誇りだ」

 

「……誇り」

 

「じゃ、俺達練習あっから!お前もバスケ頑張れよ!」

 

 笑顔でそう言って練習に向かって行く凪人。男子生徒はその後ろ姿を見て、拳を握り締めた。

 

 世宇子戦前の練習は実にシンプル。基礎の基礎から徹底的に復習している。コーナードリブルに狙った場所に向かってのシュートやパス。ディフェンスとオフェンス……一対一の勝負。それぞれの連携。

 

 今の彼らは凪人が派遣される以前とは比べ物にならない程に前向きで良い表情をして練習に取り組んでいる。

 

「斎村さん!俺も最高のシュートお願いしますっ!!」

 

「ああ!」

 

 凪人と堂本の一騎討ち。サッカー部の練習を見守る生徒達がゴクリと喉を鳴らして見守る。

 

「はあああっ!!」

 

 放たれた鋭く疾い…そして力強いシュート。その軌道を堂本はその眼でしっかりと見据えながら、本能で脚を動かし、手を伸ばし、喰らい付く。

 

(明日世宇子に勝って、全国に行って……優勝する……!見てろよ野坂…!!お前達だって同じだ……お前達がどんなに強くても……俺達は勝ってみせるっ!!)

 

 そして掴んだ。止めた。堂本が凪人のシュートを。ボールを持って立ち上がり、仲間達に向けて右手の親指をグッと立てる。

 

「やるな。だがアフロディのシュートはこんなもんじゃないぞ」

 

「おう!それでも止めてみせるっす!絶対に!!」

 

 パチパチパチ………

 

「え?何?」

 

 周囲からパチパチと手を叩く音が聞こえた。それが気になって一時練習を中断して周囲を見渡すと閃電中の全校生徒と教師達すらもまっすぐに閃電イレブンを見て拍手をしていた。

 

「え?え!?」

 

「良いぞーサッカー部!!」

 

「世宇子に負けるなよーー!!」

 

「応援行くからねー!!」

 

「全国で王帝月ノ宮にもリベンジだーーー!!」

 

「頑張れよーー!」

 

「期待してるからねー!!」

 

「絶対優勝しろよなーー!!」

 

 向けられた声援に戸惑う閃電イレブン。王帝月ノ宮との練習試合からはそれなりに応援もあったのだが、学校全体からここまで真剣に応援されるとは思ってもいなかった。これまではずっと馬鹿にされてきたのだから。

 

「……へへっ!」

 

「てへっ、てへへっ!」

 

「二人共照れてる場合か?」

 

 学校中の応援に照れて思わずにやけてしまうサトルと堂本に呆れながらも凪人がツッコミを入れる。閃電イレブンは全員で顔を見合わせて応える。代表してキャプテンであるサトルが皆の前に出る。

 

「よし…分かったよ。僕達に……」

 

『『『ズババーンと任せとけーーーー!!!』』』

 

****

 

 そして試合当日。

 

 -世宇子スタジアム。

 

 フットボールフロンティアスタジアム上空に浮かぶ巨大スタジアム。これは昨年のフットボールフロンティアにて雷門と世宇子の試合の為に用意され、決勝戦が執り行われたスタジアムだ。

 

 関東Cグループ予選最後の試合であり、全国進出を決めた二つのチームによる1位突破を懸けた試合。それもあの世宇子と元雷門の強化委員である凪人が派遣された閃電中の試合という事で少年サッカー協会が特別に動かす事になったのだ。

 

 その観客席は当然ながら超満員。その2割程が閃電中の生徒や教師などで締められている。それだけの人数で2割である事から世宇子スタジアムが如何に巨大であるかが分かる。

 

「あ!いたいた!おーい豪炎寺ーー!!」

 

「円堂……」

 

 当然、各チームもこの試合には強く注目する。円堂と豪炎寺もまた、この試合の観戦に来たのだ。

 

「なっつかしいなー!俺達去年はここで日本一になったんだぜ?」

 

「ああ。しかし世宇子に凪人との試合で先を越されるとはな。どちらが勝つかかなり楽しみな試合だ」

 

 すると今度は円堂と豪炎寺を見つけたのか帝国学園の四人……風丸、佐久間、源田、不動がやって来る。不動だけは豪炎寺を見て、「げ…」とでも言いたそうな苦々しい表情になったが。

 

「おー!お前達も来たのか!」

 

「当然だろ。閃電とは合同練習をしていた仲なんだ。それに帝国は世宇子とも因縁がある。色々な意味で見逃せない試合だからな」

 

「それに閃電も世宇子も既に全国出場を決めている。情報を集めるという意味でもこの試合は観戦しなければならない」

 

「お前も来たのかアッキー」

 

「だからアッキーと呼ぶなぁ!!大体お前がヘアサロンでの事を斎村に話さなきゃ…「騒ぐなみっともない」むがむが…!!」

 

 円堂、風丸、佐久間で話し、豪炎寺のアッキー呼びから過剰に反応する不動の口を源田が手で塞いで黙らせる。丁度人数分空いた観客席を見つけた六人は座り、試合開始を待つ。

 

「いよいよだな…」

 

「ああ。予選大会でも一、二を争う注目度の高さだ」

 

 閃電と世宇子……それぞれのスポンサーCMが流れ、それぞれのスタメンが発表される。凪人も今回ばかりはスタメン入りしているようだ。横並びにピッチを歩きながら凪人とアフロディは軽く会話を交わす。

 

「アフロディ……やっとお前達と正々堂々、正面からぶつかれる日が来たな」

 

「斎村君……僕は…僕達は君達雷門のおかげで悪夢から目覚めた。だからこそ実力で戦い、僕達の本当のサッカーで勝つ!それが君達への恩返しだ!!」

 

「……負けねーぞ」

 

「こっちこそ」

 

 不敵に笑い合う二人はそれぞれ自チームのポジションに付いて試合開始のホイッスルを待つ。フットボールフロンティア予選大会最高のサッカーが今、始まろうとしていた。




次回から世宇子戦!アニメと違い、熱く燃え滾るサッカーと世宇子の活躍を約束します!!


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稲妻走る!閃電vs世宇子・前編

サブタイ一応はナンバリングにしたけど今回も三回で終わったりするんだろうか……。


 side三人称

 

『さぁーフットボールフロンティア関東Cグループ予選最後の試合!実況は私、角馬王将!昨年のフットボールフロンティア全国大会決勝戦で雌雄を決した元雷門イレブンである斎村凪人率いる閃電中と世宇子中のかつてない激戦を前に、スタジアムの興奮は最高潮だぁーー!!』

 

 熱狂冷めやまぬ世宇子スタジアム。そこでぶつかり合う閃電中と世宇子中が整列と挨拶を終えてそれぞれのポジションに付いてホイッスルを待つ。閃電のフォーメーションは以下の通りだ。

 

FW 桐林 刀条

 

MF 海原 星宮 斎村 赤木

 

DF 城之内 石島 種田 藤咲

 

GK 堂本

 

 逢崎には控えて貰い、このスタメンで勝負に挑む。主審のコイントスによって閃電ボールに決まった。

 試合開始のホイッスルが鳴ると刀条と桐林は頷き合い、刀条が桐林にボールを蹴り渡す事でキックオフ。試合が始まった。

 

「行くぞ!」

 

 まずはドリブルで攻め上がる桐林。その前に立ち塞がるのはFWのペルセウス。今年入った一年生ながらも世宇子の新たな得点源となったストライカーだ。

 

「はあっ!!」

 

「ふっ!」

 

 ペルセウスがブロックをかけてボールを奪おうと脚を出して来ても桐林は足元でボールをキープして触らせない。巧みな足技を駆使してその状況を10秒程続けると流石にペルセウスに焦りが生まれて来る。その焦りを突いて真後ろにいたサトルへとボールを渡し、ペルセウスが驚いた隙にサトルは加速して突破。合わせて桐林もペルセウスを抜き去った。

 

「やられた…!」

 

「ガンガン行くぜー!」

 

 それからサトルと凪人の素早いワンツーでアテナとヘルメスを軽々と躱して閃電が攻めて行く。

 

「刀条!」

 

 そしてディフェンス陣が凪人の前に出ようとした所で完全に集まり切る前に隙間からロングパス。エースの刀条へとボールが渡ろうとする。

 

「行かせません!」

 

 しかし世宇子の新人の一人、DFのハデスが刀条に迫る。刀条の決定力に目を付けていた世宇子は彼へのマークを怠ってはいなかったのだ。しかし閃電とてそれは織り込み済み。

 

「赤木!」

 

 刀条はボールに飛び付いて右斜め後ろへとヘディング。ハデスにボールを取られる事なく赤木へと繋いだ。しかしやはり世宇子も勝利への執念がある。凪人に出し抜かれてロングパスを許してしまったディフェンスの一人、アポロンが赤木に向かっていた。

 

「うおおおっ!!」

 

「プレストターン!」

 

 ボールを蹴り上げてアポロンの視線をボールへと誘導し、足元に戻ったところで超速移動。アポロンがそれに追い付く前に一気に突き放した。

 そのタイミングに合わせて凪人も一気に加速して目の前のディフェンス陣の壁を潜り抜けて、ゴール前に出た。

 

「斎村さん!!」

 

「ああ!」

 

 パスを受け取った凪人はキーパーの二代目ポセイドンと一騎討ちに出る。彼の兄である初代ポセイドンにはかつて皇帝ペンギン2号やザ・ギャラクシーを止められてしまった。だが弟の彼の実力はどうなのか。試す意味も含めてこのシュートを選んだ。

 

「真シャイニングランス!!」

 

「止めろ呑二!」

 

「DJ、止める!津波ウォールッ!!!」

 

 七色の光を発するまでに進化したシャイニングランスと兄から受け継いだと思われる津波ウォールが激突する。二代目ポセイドンの津波ウォールは神のアクアを服用していた兄、初代ポセイドンと比べても遜色無いものだ。しかし凪人のシャイニングランスはかつてとは比べ物にならないまでに強くなっていた。故にその津波を突き破った。

 

「!?……ぐ!…ぐおおおっ!!」

 

 津波ウォールをあっさりと突き破った事に面食らった二代目ポセイドン。しかしそれでもキーパーとしてのプライドにかけてその両手でシャイニングランスを止めようと掴み取る。が、やはり止められずに弾き飛ばされてしまった。

 

「よし!」

 

「……いや、まだだ!」

 

 得点を確信した刀条が喜びの声を上げるが、凪人は否定する。その直後、このままゴールに入ろうとしていたシャイニングランスの前にアフロディが立ち塞がった。

 

「え!?アフロディ!?」

 

「やっぱりか。俺達が攻めている時、あいつはディフェンスとして俺達の前には来なかったからな…」

 

 そしてアフロディは右脚を大きく振るい、シャイニングランスを蹴り返しにかかる。凪人のシュートとアフロディの蹴りがぶつかり合い、周囲に強い衝撃が走る。

 

「うおおおおおおっ!!」

 

「シャイニングランスを蹴り返すつもりか!?無理だ!そんな事、帝国の佐久間さんだって出来やしない!!」

 

「アフロディを舐めるな!カウンターに備えろ!!」

 

 アフロディの行動を無謀だと主張する刀条だったが、ディフェンス強化を働き掛ける凪人の指示には従った。凪人の表情には確かな焦りがあったのだ。

 そしてアフロディはシャイニングランスのパワーに耐えながらもこのままでは押し込まれてしまう。そう悟ってそっと目を閉じた。そしてカッと見開く。同時に背中に白い稲妻が走り、純白の六枚羽が姿を現す。

 

「おおおおおおおおおっ!!!」

 

 そしてゴッドノウズの翼によってキック力が跳ね上がり、シャイニングランスを見事に蹴り返した。無力化されたボールはディオが確保して踏み付ける。

 

「……やっぱ跳ね返したか。今のはフルパワーだったんだが、お前がいる以上、シャイニングランスは通用しないか…」

 

「……言っただろう。君達には必ず勝つ。負ける訳にはいかないんだ!」

 

 悔しがりながらも何処か嬉しそうに好戦的な笑みを浮かべて話す凪人に真剣な表情でありながら試合を楽しんでいるアフロディが応える。そして今の全力の攻防を観たスタジアムの観客達が大きな歓声を上げた。

 

「さあ、今度は僕達が攻めるぞ!!」

 

「一旦戻って散開!奴らの動きを良く見てからディフェンスを仕掛けろ!必要な所は俺が指示を出す!!」

 

 攻め始める為にアフロディが中心となって走る世宇子。対して閃電は一旦ある程度戻って彼らを迎え撃つ。

 まずはFWの刀条と桐林がアフロディからパスを貰ったデメテルに突っ込んで行く。

 

「ダッシュストーム!!」

 

「「うわああああああっ!?」」

 

 しかしダッシュストームによる暴風に吹き飛ばされてしまう。今度は凪人とサトル、海原でアフロディに迫る。

 

「ヘブンズ…タイム!!」

 

「しまっ…!!」

 

 アフロディが掲げた右手で指鳴らしが行われた次の瞬間には彼は凪人達の真後ろにいた。

 

「ヘブンズタイム……これが…」

 

「なんて速さだ!」

 

「驚くのは後だ!構えろ!!」

 

 ヘブンズタイムの凄まじさに驚愕するサトルと海原。しかし叫ぶ凪人の声にハッとして身構えて踏ん張る。直後に発生した暴風に吹き飛ばされないように踏ん張り続ける。その甲斐あってか吹き飛ばされる事なく、地に足をつけ続ける事は出来たが、5、6m程後方に押し出されてしまった。当然ドリブルして走るアフロディとの距離は遠く離れてしまっている。

 

「天空の支配者……確かに後はゴッドノウズで空を飛べはその異名の通りだな……」

 

「だけど好きにはさせない!」

 

 種田と石島は同時にアフロディへと襲い掛かる。何としてもヘブンズタイムを使う前に仕留めなければならないのだ。

 

「分身ディフェンス!」

 

「ブレードアタック!」

 

 種田が分身ディフェンスを仕掛けてアフロディの気を引き、石島がブレードアタックを確実に当てる為の二段構えの連携。しかしアフロディは種田三人の動きを完壁に見切ってディフェンス全てを躱して対処。ブレードアタックによる衝撃波はボールを膝に乗せてジャンプする事で難なく避けてみせた。

 

「「なっ…!」」

 

「ペルセウス!」

 

 そしてアフロディから見て左サイド前方に移動していたペルセウスへとボールを託した。当然藤咲がボールを奪う為に接近している。

 

「キラースライド!!」

 

 不意打ちに近いキラースライド。しかしそれが届く前にペルセウスの周囲を風の壁が守り、キラースライドは届かずに押し戻された。藤咲は逆上がりの要領で跳び上がって着地する。

 

 風の壁はペルセウスの背中へと流れて行き、風が集まる事でその背中に水色に光る翼が現れた。

 

『!』

 

「あれは…ペルセウスの必殺技か!!」

 

 ペルセウスとの一騎討ちに燃える堂本は彼のシュートを迎え撃つべく構える。

 ペルセウスはボールと共に空を舞い、オーバーヘッドキック。同時にその蹴りに風と翼の全エネルギーを注いで風の円盤にも見えるシュートを撃ち出した。

 

「天空の刃!!」

 

「速え!けど捉えらんねぇスピードじゃねえ!!風丸さんはもっと疾かったぞ!!」

 

 驚くべき勢いで迫るシュートの軌道を堂本の目はしっかりと捉えていた。後はそれを止めるのに最適なタイミングに合わせて技を出せば良い。

 堂本の右手に赤い稲妻が迸る。赤い光から生まれた巨大な神の手を以って神からの刃を掴み取る。

 

「ゴッドハンドォォーーーー!!!」

 

 天空の刃と神の手。素手で直に刃を掴むなど普通ならば怪我をするだけだが、ゴッドハンドは神の手だ。如何なるパワーをもその手で止めてしまう。

 天空の刃のパワーは押し殺され、堂本の右手にボールは収まった。

 

「何だと!?」

 

「〜〜っ!!つぅ〜!!凄えパワーだ!手がビリビリしてくらぁ!!良いシュートだったぜ!!」

 

「俺の必殺技を……天空の刃を止めるなんて……次は決めてやるからな!!」

 

「おう!俺だって負けねーぜ!!」

 

 そして堂本は逆サイドにいた城之内へとボールを投げ渡す。そして城之内がボールを受け取ろうとボールに向かって走った。しかし彼にボールが届く前に凪人が叫ぶ。

 

「何やってんだ!石島、種田!今のに気を取られてマークを外すな!!」

 

「「!?」」

 

 二人掛かりでマークしていたはずのアフロディがその場から消えていた。そして堂本から城之内に向けたパスルートにアフロディが割り込み、パスをカットした。

 

『な!?』

 

「不味い…!フリーキックだ!」

 

「ゴッドハンド……確かに円堂君のものと同じだ。これが堂本衛一郎……斎村君が新たに見出したキーパーか。納得だ」

 

 アフロディの背中に純白の六枚羽が出現する。その翼を広げ、ボールに白い稲妻が注がれ、アフロディはボールと共にその翼で空を舞う。注ぎ込んだエネルギーが最高潮に達した事でアフロディは全力のキックをお見舞いする。

 

「ゴッドノウズ…改!!」

 

(不味い……ゴッドノウズを止めるにはゴッドハンドじゃ無理だ!かと言ってこのタイミングじゃ対ゴッドノウズの技も間に合わない!!)

 

 凪人の焦りと同じくして堂本の顔にも汗が流れる。堂本は赤い稲妻と共に再びゴッドハンドを発動した。

 

「ゴッドハンドォォォ!!!」

 

「さて…どちらが本当の神かな?」

 

 衝突するゴッドノウズとゴッドハンド。しかし技自体の威力にかなりの差があるのは明らかだ。当然、堂本の赤いゴッドハンドは砕け、ゴッドノウズはゴールネットへと突き刺さった。

 

 0-1

 

『ゴ、ゴォール!!先制点を挙げたのは世宇子中!!得点者はキャプテンのアフロディーー!!世宇子中は今大会で閃電中からゴールを奪った最初のチームとなりましたぁーーーー!!!』

 

 スタジアムの歓声は凄まじいものだった。あの閃電中に先制点どころか点を取った。これまで無失点で勝って来た閃電を相手に。それは世宇子や他のグループの2チームにも言えるが、やはりかなり衝撃的な出来事と言える。

 

「くっそぉーーー!次はぜってー止めてやる!!」

 

「済まない…俺がアフロディから目を離したばっかりに……」

 

「……悔やんでも仕方ない。次は同じ失敗をしないようにすれば良いさ。それよりまずはこの1点を取り返すんだ」

 

『おう!』

 

 悔しがる堂本、アフロディにシュートを許してしまった事を悔やむ石島。仲間達の意識を次へと切り替えるように励ます凪人。無失点の神話が崩れても彼らは決して自信が揺らぐ事は無い。失点も敗北も嫌という程に慣れている。閃電の試合をトータルで見れば未だ黒星の方が多いくらいだ。今更こんな事で折れはしない。

 

 そしてまた閃電のボールで試合再開。閃電イレブンは巧みなパス回しで堅実に攻めて行く。他のどのチームよりもサッカーの基本を抑えた彼らの連携を崩せるチームなどそうそういない。

 

「メガクエイク!!」

 

 ディオの必殺技により、地形が大きく変わる。しかし地形の変化や衝撃波などにも揺れる事なく、閃電のパスは安定している。

 

「はっ!!」

 

 サトルはメガクエイクによって空に放り出されても、空中でアクロバティックに身を捻って凪人へとボールを繋いだ。アテナとアレスが立て続けに迫ろうとも華麗なドリブルテクで軽々と躱してしまう。

 

「今だ!」

 

 アフロディの号令と同時にアフロディ、アポロン、ヘルメスの三人で凪人を包囲。ジリジリと歩み寄る。

 

「三人掛かりなら俺からボールを奪えると思ったか?俺はお前達を躱せるし、ここから突破も出来る。お前達の隙を突いて外の仲間へとパスを出す事も簡単だ」

 

 凪人は挑発をしながら三人に悟られる事なく周囲を見回す。先の発言は挑発であると同時に事実でもある。どれもが実行可能なプレー。アフロディ達もそれが分かっている。だからこそどれが来るのか疑心暗鬼に陥らせ、挑発によってプレーの荒を出させる事で更に攻略の難易度を下げる。

 

 しかし凪人の目論見とは反対に三人は一斉に叫んだ。

 

「「「裁きの鉄槌!!!」」」

 

「なっ!」

 

 天からエネルギー体の足が三つ同時に振り下ろされる。単発でそれを出しても世宇子を徹底的に研究した凪人には避けられてしまうのは目に見えていた。だからこそこうして包囲して同時に三つ振り下ろす事で確実にボールを奪う。

 

 

 

 しかし凪人が三つの巨大な足に踏み潰される前に、その足の真下から黒い影が噴出した。

 

 

 観客達は思わず身を乗り出してフィールドを見てしまう。バルセロナ・オーブとの試合以来、公式戦では一度も見せる事のなかった凪人の切り札なのだから。

 

 一閃、いや……幾重にも光の閃が見えた。そして少しばかり遅れて裁きの鉄槌による巨大な足はバラバラに切り崩され、消し飛んだ。そしてそこに現れたのは……

 

 

 堕天の王 ルシファー

 

 

 凪人の持つ化身である。化身がその手にもつ槍によってエネルギー体の足は切り裂かれ、消し飛ばされたのだ。

 スタジアム全域が歓声と熱狂によって震える。

 

「アフロディ……この程度で俺からボールを奪えるとでも思ったか?」

 

「……まさか前半から化身を使って来るなんてね。けど良いのかい?それは体力の消耗が激しいはずだけど」

 

「心配無用だ。体力なら充分過ぎる程に強化出来てるんでね」

 

 そのまま凪人はゴールを見据え、化身技の構えを取る。まさかこのままシュートを撃つつもりか。誰もがそう捉え、アフロディ達はそれを阻止する為、凪人に迫り、スライディングを仕掛ける。

 

 だが、凪人はそれに合わせてボールを両脚で挟んで跳び上がる事で躱し、シュートを撃たずに左サイドへとパスを出した。

 

「なっ…まさか今のはこのパスの為のブラフ!?」

 

「化身でゴリ押ししても良かったが……ペース配分は大事なんでな」

 

 凪人が化身を消すのと同時にそのパスはディフェンスからオーバーラップして来た城之内が受け取った。

 

「彼はDFのはず…」

 

「同時にリベロなんだよあいつは」

 

 そして化身に気を取られていた世宇子イレブン側の陣内は城之内の走る場所からそのまま真っ直ぐにゴールに向かえるようになっていた。これも先程のパス回しと化身のインパクトによって整えられた事による彼らの策だ。

 

「おらあああっ!」

 

 城之内がパワーを込めたボールを全力で蹴り出す。

 

「はあっ!」

 

 それを海原が左脚のボレーキックでチェイン。

 

「これで……同点だあぁぁっ!!」

 

 最後に桐林がフルパワーで更にシュートチェインをかけて凄まじいスピードとパワーを兼ね備えた連携シュートが放たれた。

 

「「「トリプルブースト!!!」」」

 

「DJ、今度こそ止める!!ギガントウォールッ!!!」

 

 巨大化した二代目ポセイドンはその拳をトリプルブーストに振り下ろす。しかしトリプルブーストによる超火力を前に圧倒的にパワーが足りず、止めようと踏ん張ればみるみる巨大化の為のパワーを使い果たしてしまった。

 

「ぐああああっ!!」

 

 トリプルブーストのスピード故に仲間が援護に回る暇もなく、二代目ポセイドンは自分諸共シュートをゴールに押し込まれてしまった。

 

 1-1

 

「「「しゃああっ!!」」」

 

 三人は肩を組んでガッツポーズ。同時に閃電の応援に来ていた観客達が大いに盛り上がった。

 

『ゴォール!!閃電もすぐに取り返したぁーー!!前半17分、1-1の同点!!かつてないまでに凄まじい激戦だぁーーー!!』

 

 ゴールを見て悔しがるアフロディに凪人は誇らしげに告げる。

 

「これが閃電イレブンの力だ!!」




先に言っておきますと堂本はマジン・ザ・ハンドは使えません。流石にそこまで円堂と被せる気は無いので。


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稲妻走る!閃電vs世宇子・中編

間に合った!これが平成最後の投稿です!!

ところでオリオンの刻印、スコーピオンの名前や異名を持つチームもしくは選手は出ないのだろうか?


 side三人称

 

 1-1で同点。白熱し、勢いと熱さが増し続ける閃電中vs世宇子中の試合。スタジアムに訪れた誰もが息を飲んでこの試合に夢中になっていた。

 

「凄え……木戸川清修と星章学園の試合以上じゃないか?」

 

「全国ランキング2位の閃電相手にここまでやれる世宇子が凄いのか、前回の大会で準優勝した世宇子相手にここまで戦える閃電が凄いのか……分からないなこれは」

 

 閃電と世宇子、それぞれのサポーター達の眼を以ってしても優劣が付けられない。それだけ両チームの実力は拮抗しているのだ。

 

 デメテルのスライディングがサトルからボールを弾き、海原の足元に転がって行く。しかしそれをアフロディが先に確保してアルテミスへパス。それを石島がトラップによるパスカットをして凪人へとロングパス。

 

「先に2点目を取る!皆上がれ!」

 

「守り通す!カウンターの準備も怠るなよ!」

 

 攻め上がる閃電と守りを固める世宇子。どちらのチームワークも木戸川清修以上と言えるだろう。

 

 ペルセウスが正面から仕掛けたスライディングを両脚にボールを挟んで跳び上がる事で回避する桐林。すかさず刀条にパスを出した。敵にボールを触らせずにパスで攻撃へ繋ぐその速さは圧巻の一言。

 

「決めろ刀条!」

 

「はい!」

 

 閃電のエースストライカーである刀条と世宇子の守護神、二代目ポセイドンの一騎討ちにスタジアムが注目する。刀条の指笛と共に現れたの七色で一匹ずつ配色の異なる七匹のペンギン。

 

「皇帝ペンギン…7!!」

 

「津波ウォール!!」

 

 対して二代目ポセイドンは津波ウォールで対抗。先程凪人のシャイニングランスに破られたとは言え、あれは凪人のシュートの威力が頭のおかしいレベルだっただけだ。刀条の皇帝ペンギン7に対抗するには充分な威力だ。

 

 しかし津波の力が僅かに及ばず、津波ウォールは突き破られる。それでもゴールを許す程、世宇子の守護神の名は安くはない。二代目ポセイドンはそれを待ち構えていたかのように、フルパワーまで力を込めた拳でアッパーカット。皇帝ペンギン7は津波ウォールによって大分威力を削られていた事もあって上空に弾き飛ばされた。

 

「フンッ!!」

 

「何だと!?」

 

 そしてそのボールは空中戦法を得意とする世宇子のDFが確保。また攻撃に繋ぎ始める。

 

「俺の皇帝ペンギン7が……!これがポセイドン……」

 

「もしかしたら兄貴以上のキーパーになるんじゃないか?成長が楽しみだ。来年戦えないのが残念だぜ」

 

 呑気にそんなコメントをしている凪人だが、決して油断はしていない。凪人は世宇子が十八番の空中戦に持ち込んで来る事は分かっていたので既にここ数日の特訓で対応策を仕込んでいた。

 

「デメテル!」

 

 アフロディからデメテルへとボールが渡る。このまま行かせてしまえばみすみすシュートチャンスを与える事になる。しかしそんな展開を凪人は許しはしない。

 

「石島!」

 

「ああ!サイクロン!!」

 

 空中でパスを受け取ったところで身動き出来ない隙を突いてのサイクロンでの吹き飛ばし。対象が即座に次へのパスを出すかどうかをしっかり見極めねばならないがフリーで必殺技を決められるのは大きい。見事にデメテルを吹き飛ばした石島は城之内へとボールを託し、もう一度反撃を始める。

 

「相手が空中戦を仕掛けて来るなら、こっちは徹底して地上戦に持ち込むぞ!!この試合、相手の思惑通りの戦法をさせてしまったら敗北に繋がると思え!!」

 

『おう!』

 

 凪人の真剣な口調により、一層閃電イレブンの表情は引き締まる。しかしそんな彼らの表情は心なしか何処か笑っていた。

楽しいのだ。世宇子という強敵と繰り広げる真剣なサッカーが。真正面からのぶつかり合いが。

 

「この試合、勝つのは俺達閃電だ!この最高のライバルに勝って、堂々と全国に行くんだ!!」

 

 それからも続く一進一退の攻防。閃電と世宇子、双方の攻守は同等のレベルに至っており、どちらも譲らずに攻め続ける。

 

(弟のポセイドンからゴールを奪うのはそう難しくはない……。むしろ注目するべきは奴ら……中でもアフロディのシュートだ)

 

 凪人はドリブルをして世宇子のディフェンスを躱しながら彼らの攻撃への対応策を講じる。ヘブンズタイムを破る方法はまだ思い浮かばない。凪人の知る原作知識ではエイリア学園のカオスのメンバーがそれを成し遂げてはいたが、超速で動くアフロディに付いて行く方法がまだ分からない。

 

「スピニングカットV2!」

 

 アテナのスピニングカットが凪人に迫る。しかし凪人もまたスピニングカットの使い手。対策など幾らでもある。スピニングカットの衝撃波の圏内から出れば良いのだ。二歩、三歩下がれば簡単に出来る。世宇子もそれを察しているのか、ボールをキープしながらバックステップを取った凪人にアポロンとディオが両サイドから迫る。

 

「「貰ったぁぁーー!!」」

 

 左右同時のスライディング。しかし凪人はボールを両脚で挟んで飛び上がる事でこれを躱し、そのまま右斜め前方へとパス。赤木がこれを受け取り、アレスがマッチアップ。

 

「行かせはせん!」

 

「幻ドリブル!!」

 

 しかし赤木は分身…ではなく、己の幻影を作り出し、それと鏡合わせに左右から同時に突破しにかかる。どちらを止めるべきか分からなくなったアレスは動揺してみすみす抜かれてしまった。

 

「刀条!」

 

「ああ!決めるぞ赤木!」

 

 赤木の前を刀条が走り、上空へと一気にジャンプ。続いて赤木はボールを両脚に挟んで飛び上がり、空中で縦回転しながら離し、蹴り上げる。それを刀条と交代交代で繰り返しながらボールにエネルギーを込めて行く。

 

「「ジョーカーレインズ!!」」

 

 最後に二人で右足の裏、左足の裏で同時にスタンプシュート。青いエネルギーと黒い稲妻を帯びたシュートは世宇子ゴールへと一直線に振り落とされた。

 

「くっ!津波ウォールッ!!……ぐああああっ!!」

 

 赤木と刀条のジョーカーレインズは二代目ポセイドンの津波ウォールを容易くぶち破ってゴールネットを揺らした。

 

 2-1

 

 三度、歓声が湧き上がった。閃電中が逆転を遂げた。今の攻防も熱く、素晴らしいものと言えるものだった。これを見て興奮しない者はいないだろう。

 

 そしてすぐに世宇子のボールで試合再開。世宇子はもう一度優位に立つべく、その攻撃の手を緩めずに攻め込んで来る。

 

「ダッシュストーム!!」

 

 デメテルのダッシュストームによる暴風でFW陣が吹き飛ばされ、サイドのMFも踏ん張って耐えるが近付けない。しかし中央にいた凪人とサトルはそれに正面から耐えながら駆け寄って行く。

 

「何っ!?」

 

「「はあーっ!!」」

 

 デメテルの驚愕の隙を突いてサトルが正面からスライディング。ボールを上に弾くと同時に風は止まる。そしてその前に風に耐えながらも真上に飛び上がっていた凪人がそれを受け取る。

 

「「ブロックサーカス!!」」

 

 そしてまた反撃に転じようとするもそこで黙ってやられる世宇子ではない。アフロディが既に凪人の更に上に飛び上がっていた。

 

「な!?アフロディ!!」

 

「追加点は取らせない!裁きの鉄槌!!」

 

 空中で上手く身動きの取れない凪人に容赦無く裁きの鉄槌による巨大な足を繰り出すアフロディ。見れば既に真下にデメテルはいない。全て計算してあった事なのだと理解した凪人はそれに抗うべく、背中から影を噴出して化身を出そうとする。

 

「ぐぐ…っ!」

 

「空中で碌に体勢も取れていなければ上手く力は入らず、化身は出せないだろう!貰ったぁーーー!!」

 

「くそぉっ!!」

 

 そのまま振り落とされた裁きの鉄槌。凪人は上手く力を発揮出来ないながらもどうにか化身の影による圧力でエネルギー体の足の踏み付けを躱し、少し離れた場所に着地する。

 

 しかしその距離は不味かった。アフロディがドリブルをしてディフェンスに迫る時間を確保するには充分な距離。おまけに先程の裁きの鉄槌でサトルは踏み潰されはしなかったものの、衝撃によって転んでしまった。これもアフロディを自由に進ませる要因となった。

 

「ヘブンズ…タイム!!!」

 

「し、しまった!」

 

 ヘブンズタイムによる瞬間移動にも似た突破でディフェンスは全て抜き去られてしまった。後は堂本とアフロディの一騎討ち。

 

(俺のゴッドハンドじゃゴッドノウズは止められない。ならあの技を使うしかない。単純な威力ならマジン・ザ・ハンドにだって匹敵するだけの力はあるって斎村さんが言ってたんだ!ぜってー止められる!!)

 

「これで同点だ!ゴッドノウズ改!!」

 

 アフロディの背中に現れた純白の六枚羽。白い稲妻が注がれた事によって圧倒的パワーを得たシュートはゴールに向かって行く。

しかしゴッドノウズに相対する堂本の眼には必ず止めてみせるという強い意思が宿っていた。

 

「俺達は必ず勝つ!このシュートは絶対に止めてやる!!」

 

 堂本の右手に稲妻が迸る。しかしその色は赤ではなく、黒。その稲妻はゴッドハンドではなく、ドラゴンの腕を形成、実体化させた。いや、堂本の腕がドラゴンの腕そのものになってる。

 

「何っ!?」

 

「うおおおおおっ!!ドラゴンスクラッチ!!」

 

 堂本は黒い稲妻を帯びたドラゴンの腕でゴッドノウズを受け止め、その爪をボールに立てて、食い込ませる。そしてボールを引き裂くかのように腕を振るい下ろし、八つ裂きにするかのようにゴッドノウズのエネルギーを消し飛ばした。

 

 同時に堂本の腕は元に戻り、その手にはボールが握られていた。

 

「ゴッドノウズが……!?」

 

「うおおおー!やったぜ堂本ーー!!」

 

「アフロディのゴッドノウズを止めやがった!!」

 

「……へへっ!どーだっ!!」

 

 ゴッドノウズを止めた事で完全に自信が付いたのか、アフロディに向かって得意気になる堂本。一方でゴッドノウズを止められたアフロディは面白いと言わんばかりに好戦的な笑みを浮かべていた。

 

「もういっちょ、反撃だぁーー!!」

 

 堂本が前線目掛けて投げたボールはサトルが受け取り、ドリブルでまた攻め込んで行く。それに合わせて閃電のFWや中盤も続いて上がって行く。

 

「メガクエイク!」

 

「ヒートタックル!」

 

「フラッシュアクセルV2!」

 

「グレネードショット!!」

 

「ギガントウォールッ!!」

 

「ダッシュストーム!!」

 

「リフレクトバスター!!」

 

「ドラゴンスクラッチ!!」

 

 一進一退の攻防に激しい必殺技の応酬。前半終了が迫る中、互いに攻め込んで、守り通して、激しくも熱い激戦が繰り広げられる。

 

「クイック…ドロウ!」

 

 種田によるクイックドロウがヘルメスからボールを奪い取る。またここから閃電の攻撃が始まるかと思われたが、今度は世宇子のDFであるハデスが閃電の陣営まで上がって来ており、クイックドロウを決めたばかりの種田へスライディングを仕掛けて、ボールを前方へと弾き飛ばした。

 

「決めろ、ペルセウス!」

 

 そしてボールはFWのペルセウスへ。堂本はシュートを止めるべく、構える。

 

「来い!」

 

「絶対に決めてやる!」

 

 睨み合う両者。しかし堂本の息は少しばかり乱れていた。前半からかなりの頻度で強力なシュートを受け続けて来たのだ。ある意味当然と言えよう。

 

(やっぱりドラゴンスクラッチを前半で二回も使うのは負担が大きかったんだ!ここでシュートを撃たれたら止められても後半からもっと苦しくなる!)

 

 堂本の現状を見抜いた石島は自分とは逆サイドからペルセウスを狙える藤咲へと呼びかける。

 

「藤咲、止めるぞ!シュートを撃たせるな!」

 

「はい!」

 

 同じ考えに至っていたのか、藤咲も即答して二人は足に風を集める遠距離からシュートを未然に防ぐならばこの技を使うべきと判断したのだ。

 

「「ダブルサイクロン!!」」

 

「なっ!?ぐううううっ!!」

 

 二つの竜巻がペルセウスを囲い、吹き飛ばしにかかる。しかしペルセウスはそれを耐える。何としても今シュートを撃って同点に追いつかねば後半はかなり苦しい展開になる。それを許す訳にはいかない。

 

 しかし天空の刃はゴッドハンドで止められてしまう。ただ撃っても点は取れない。するとペルセウスある事に気付く。

 

(……風?)

 

 自らを吹き飛ばしにかかる暴風。もしこの力を天空の刃の力に変えられたら?

 

「う、おおおおおおっ!!」

 

 ペルセウスは暴風に耐えながらボールを蹴り上げ、背中に水色に輝く翼を生やした。それを見て凪人は叫ぶ。

 

「……まさか!ダブルサイクロンを止めろ!いや、無理か……!!」

 

 ペルセウスの狙いに一早く気付いた凪人はそう叫んだが、サイクロンという技は後からパッと止める事は出来ない技だ。それを遅れて思い出してからペルセウスに駆け寄る。

 

「シュートブロックをかけるんだ!」

 

 そして漸くペルセウスの狙いと自分達の失態に気付いたディフェンス陣は凪人の指示に従ってシュートコース上に立つ。

 

「おおおおおおっ!!」

 

 ペルセウスはボールと共に空を舞い、オーバーヘッドキック。同時にその蹴りに風と翼の全エネルギー……そして、ダブルサイクロンの暴風をも巻き込んでその風力の全てをボールを注ぎ込む。

 ペルセウスの狙い…それはダブルサイクロンのパワーを奪い取り、天空の刃に上乗せする事でシュートの威力を増幅させる事だった。そしてそれは成功し、超巨大な風の円盤となったシュートを撃ち出した。

 

「天空の…刃っ!!!」

 

『うわああっ!!』

 

 シュートブロックをしようとした閃電のディフェンス陣は瞬く間にその風力で吹き飛ばされ、キーパーの堂本もその暴風のせいで視界が悪くなり、シュートを掴む事も出来ずにそのまま吹き飛ばされてしまった。

 

 2-2

 

 ゴールネットが揺れた。限定的に超強化された天空の刃がゴールに突き刺さったのだ。

 

「よ、よっしゃあーーーーー!!!」

 

 ペルセウスの歓喜の叫びがスタジアムに響く。そしてここで前半終了のホイッスル。前半は同点で終わった。

 

****

 

 side凪人

 

「すまない堂本!あそこで余計な事をして、奴のシュートを強化してしまった!!」

 

「い、いや石島先輩と藤咲は悪くないっすよ!俺の体力を気遣ってシュートを撃たせないようにしようとしてくれたんすから!!……俺こそ最後の砦なのに結局取られちまったし…」

 

 前半最後のあのシュートが決まってしまった事を石島と藤咲が堂本、ひいてはチームの皆に平謝りしている。だが誰も二人を責めたりはしない。あれは仕方のない事だったと皆分かっているからだ。

 

「三人とも謝るのはその辺にしとけ。誰かが悪いとかそんな話じゃない。あんなやり方は誰でも予想外だった。こっちのディフェンス技をシュート強化に利用するなんて誰が予想出来る?無理だろう?」

 

 俺がするべき事はこの話をここで終わらせ、後半どうするかを話し合い、その音頭を取りつつ皆の士気をより高める事だ。

 

「とにかく、この先ペルセウスにはサイクロンやダブルサイクロンは使うな。もっと物理的に接触するタイプの技で食い止めるんだ。それから……」

 

 俺は後半を戦い抜く為の方針と策を皆に示す。世宇子は強い。神のアクアなど無くても。だからこそ、俺は今のあいつらに勝ちたい。それは皆も同じ気持ちのはずだ。

 

 そして後は水分補給は休憩を取って体力を少しでも回復させる。後半は残りのスタミナが重要になるからな。

 そうしてハーフタイムが終了し、いよいよ後半が始まる。俺達はポジションに付くべく、フィールドに向かう。

 

 世宇子もまた同様にフィールドに向かう。するとアフロディは何処かワクワクしているかのような顔をしていた。俺は思わずアフロディと話すべく近付いてしまう。

 

「……楽しそうだな。良い笑顔してんじゃん」

 

「斎村君…そうだね。サッカーがこんなに楽しいって事、何で昨年は忘れていたんだろうか。こんなに熱くなれるのに……雷門と戦った時はそれを忘れていた。出来るなら雷門としての君達とまた戦いたいとも思う」

 

「出来るさ。例えこの大会に元々の雷門が出ていなくても、サッカーを続けていけば、いつかまたあの日の雷門と世宇子でまた戦える日は来る。必ずな」

 

 これは嘘偽りのない本心だ。今は閃電として戦っているが、俺もいつかまた昨年の雷門のメンバーでこいつらと戦いたい。そして勝ちたい。心からそう思う。

 

「……そうか。でも今は…」

 

「ああ……負けねえぜ。勝つのは俺達閃電だ!」

 

「こっちこそ」

 

 そして俺とアフロディがポジションに付いて閃電と世宇子が再び向き合う。

 センターサークルの中央にボールを置き、アフロディは好戦的な微笑みを浮かべ、俺達閃電イレブンを見据えて口を開いた。

 

「決着を付けよう。来るが良い閃電中学サッカー部。いや……

 

 

 

新たなるイナズマイレブンよ!!」




オリジナル技解説

【ドラゴンスクラッチ】
キャッチ
属性・火
TP アレス・46 /オリオン・34(仮定)
威力:マジン・ザ・ハンドと同等

黒い稲妻を起点として己の右腕をドラゴンの腕に変化させる。それを振るい、その凶悪な爪と腕力で敵のシュートのパワーを八つ裂きにする。アレス、オリオンの技は絶妙にダサい名前なのでこっちでもダサくしてみた。

ゲーム風説明文
龍の爪は全てを引き裂く刃。どんなシュートもこれで八つ裂きにしてやる!!


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稲妻走る!閃電vs世宇子・後編

令和最初の投稿。

やはり三話で終わった。前回と前々回のサブタイも修正。世宇子戦、決着です。


 side三人称

 

 後半が始まって暫く。閃電と世宇子の試合は2-2の同点のまま、より白熱した勝負を繰り広げていた。

 

 センターサークルを少し越えた地点を凪人がドリブルで駆け上がる。そしてその目の前に立ち塞がるのはアフロディ。もう何度目になるか……この二人のマッチアップに観客も実況も…誰もが熱くなり、盛り上がる。

 

『おおーっと!またしても斎村とアフロディのマッチアップだぁーーー!!昨年のフットボールフロンティア決勝を彷彿とさせる雷門の副キャプテンと世宇子のキャプテンによるボールの奪い合いが繰り広げられているーーー!!』

 

 スタジアム全体が二人に注目する中、凪人とアフロディはお互いの顔を見て同時にクスリと笑って、呟き合う。

 

「……楽しいな」

 

「ーーーああ…!」

 

 アフロディを抜き去る為に凪人は彼の右側を通り抜けようと身を乗り出す。しかしアフロディもそれを読んでいるのか、身体の左側を偏らせ、突破コースを身体で塞ぎにかかる。しかし凪人も即座に切り返して逆サイドで走り出す。アフロディもそれを追う。

 

「くっ…!」

 

「はぁっ!」

 

 足を伸ばしてボールを奪おうとするアフロディに対し、凪人はボールを足で転がし続けてどうにかボールをキープし続ける。互いが互いを出し抜くその瞬間を狙い続け、ボールを巡って戦うその様に魅入ってしまう者は多かった。

 

 そして凪人は己の背中を壁にアフロディとボールを阻む事に成功した。アフロディはどうにか凪人の前へ行こうともがく。同時に後ろのアフロディに気を取られているであろう凪人からボールを奪う為に世宇子の他のメンバーが迫る。

 

「それっ!」

 

 しかし凪人はアフロディが凪人の前側に行こうとして足と足の間ーーー股が大きく開いたその瞬間を察知してそのまま踵で後ろへとボールを蹴り込み、股抜きによってボールをアフロディの真後ろへと運んだ。

 

「なっ…!だが……!!」

 

 このプレーには驚いたものの、逆にアフロディにはチャンスと言えた。すぐに後ろを振り向いてボールを確保しようとその身を動かす。だがその前にいつの間にかアフロディの背後でスタンバイしていたサトルが先にボールを確保し、そのまま真上にセンタリングを放った。

 

『!?』

 

「ナイスプレーだ!星宮!!」

 

 それから凪人は流れるように地面を踏みしめて右回転で身体を回転させながら飛び上がる。そしてその周囲には強い熱気を放つ爆炎が渦巻く。それを纏った右脚でボールをゴール目掛けて蹴り出した。言うまでもなくファイアトルネードだ。

 

「ファイアトルネード…改!」

 

「いっけえええっ!!」

 

「ファイアトルネードだと!?」

 

 ペナルティエリアから少しばかり遠いが凪人の実力ならば充分な威力を保てる距離だ。凪人のシュートが相手では二代目ポセイドンと言えど分が悪い。だがこのファイアトルネードによる脅威はそれだけではなかった。

 

「ナイスタイミングだぜ斎村っ!!」

 

 ファイアトルネードは直接ゴールまで向かわず、その手前の所で急降下。そこで待ち構えていたのは桐林だ。桐林は全力のシュート体勢を整えて落ちて来たファイアトルネードをそのまま前方へと蹴り出した。

 

「「ツインブーストF!!」」

 

 ファイアトルネードとツインブーストのオーバーライド。至極単純な組み合わせ方だが、単純故に威力を非常に効率良く合算出来ている。津波ウォールやギガントウォールなど容易くぶち抜くだろう。

 だが世宇子とてこのシュートを通すつもりは全く無い。ディオとアレスがシュートコースに立ち、シュートブロックを仕掛ける。

 

「裁きの鉄槌!!」

 

「メガクエイク!!」

 

 天から降りたエネルギー体の足が上から抑え付け、盛り上がった巨大な断崖絶壁が下と前から衝撃と壁を作ってツインブーストFの威力を殺しにかかる。二つの技はツインブーストFの前に砕け散ったが、確かにその威力は徹底的に削がれていた。

 

「フンッ!!」

 

 二代目ポセイドンがその身を独楽のように回転させ、そのスピンによってシュートを弾き、ハデスの元へとボールは転がっていった。

 

「「くっ!」」

 

 世宇子の連携ディフェンスによって得点を阻まれた凪人と桐林の顔は当然苦々しいものになっていた。決められる自信があったのなら尚更だ。

 

 今度は世宇子の攻撃。ハデスがボールを前方へとロングパスを出し、デメテル、ペルセウスを経由して早速アフロディへとボールが渡った。アフロディの進行を止める為に閃電のディフェンス陣が一斉に必殺技を仕掛ける。何よりもヘブンズタイムを発動させない為に。

 

「ブレードアタック!!」

 

「スピニングカット!」

 

「フレイムダンス!」

 

「サイクロン!!」

 

「えげつなっ!」

 

 予め指示していた凪人が言うのもなんだが明らかにオーバーキルでえげつないディフェンス技の嵐だった。四つのエネルギーがアフロディに直撃し、その場に砂煙が舞う。

 

「……え?」

 

 砂煙が晴れればそこには金色の翼がアフロディを守るように包んでいた。そしてその翼が広げられれば無傷のアフロディが立っていた。

 

(……ゴッドブレイク?いや、何か違う……?)

 

 凪人の知る知識の中にあるゴッドノウズの上位互換と言える究極奥義が浮かぶが、それとは少し異なる。正確にはゴッドブレイクの領域にまだ届いていないような……そんな翼だった。

 

「この技を応用しなければ……僕は成す術無く、ボールを奪われていただろう。君達はやはり強い…!だが僕は…僕達はそれを超えていく!!かつての過ちも…敗北も……全てを乗り越える!!」

 

 アフロディはボールを蹴り上げ、その金色の翼によって大空を飛翔する。そして凄まじい稲妻のエネルギーをボールに注いで蹴り出した。

 

「ゴッドノウズ・インパクト!!」

 

「ゴッドノウズを進化させたのか!?」

 

 神のみぞ知る衝撃。ゴッドノウズを凌駕するパワーによってゴール前のペナルティエリア内の地面がみるみる砕け散って行く。威力こそ凪人の知るゴッドブレイクには及ばないだろうが、そのゴッドブレイクではなく、このシュートこそがゴッドノウズの正当進化なのではないか。凪人は素直にそう思った。それ程に強く美しい必殺技だった。

 

 そのシュートを止める為にキーパーの堂本は怯む事無く、その右腕に黒い稲妻を纏って龍の腕を創り出す。

 

「ドラゴンスクラッチ!!」

 

 衝突する進化した神の御技と龍の鉤爪。堂本のドラゴンスクラッチによる爪の斬撃でゴッドノウズ・インパクトのパワーを消し飛ばしにかかる。しかしそのパワーはゴッドノウズの比ではない。そのパワーを消し飛ばす事は出来ず、逆に堂本の必殺技のパワーが押し負け、消し飛んだ。

 

「何ぃっ!?」

 

「勝つのは……僕達だ!!」

 

 ドラゴンスクラッチ……龍の腕が消し飛び、元に戻ってしまった以上、堂本に勝ち目は無かった。ゴッドノウズ・インパクトはそのままゴールに直進し、それをどうにか押し止めようとした堂本諸共ゴールネットに突き刺さった。

 

 2-3

 

『き、決まったぁーーー!!アフロディの新必殺技、ゴッドノウズ・インパクトによって世宇子が逆転し返したぁーー!!再びリードを勝ち取った世宇子が一気に有利になったぁーー!!後半は残り半分!閃電には苦しい展開かーー!?』

 

 スタジアムが最高潮に盛り上がった。角馬王将の実況が更にそれを後押しする。後半残り15分、この15分で閃電は2点を奪わねばならない。

 

「……ちっくしょ〜!俺のドラゴンスクラッチがこんな簡単に破られるなんて……!!」

 

「ま、アフロディだって円堂のマジン・ザ・ハンドを破る為に新必殺技くらい開発してただろうからな。予想はしていた」

 

 軽く言う凪人だったが、その顔には確かな冷や汗と焦りの表情があった。そして意を決したようにチームメイト達を集め、これからの策を告げる。

 

「まずは俺があの技で世宇子のディフェンスを蹴散らす。星宮、桐林、刀条……お前達であの技を決めろ。そして最後はーーーー…」

 

****

 

 観客席では2-3という世宇子リードの閃電が苦しい展開を円堂達が見守っていた。

 

「これだけ激しい試合だ…。どっちも体力はあまり残っていないだろう。閃電が逆転するには斎村に優れた戦術が要求されるな」

 

「アフロディ達、本当に強くなったな。そりゃ去年も強かったけど……重みが違う。神のアクアなんて無くても、やっぱりあいつらすっげー強え。今のアフロディ達はサッカーを楽しんでる」

 

 風丸と円堂はそれぞれ閃電と世宇子の現状について話している。一方で昨年世宇子にズタボロにされた佐久間と源田は黙って試合を見守る。世宇子への恨みはもう無い。だからこそ、結果で世宇子が本当のサッカーを示してくれる事を願う。

 豪炎寺は何も語らない。ただ己の相棒でありライバルである凪人が閃電を率いてどう戦うのか……闇から抜け出した世宇子が見せるサッカーの行き着く先は何なのか……それを見極める。

 

「……さて、見せて貰おうか。『フィールドの軍神』と『天空の支配者』、どちらが勝つのか」

 

 不動は不敵に笑いながら、この熱き試合を誰よりも楽しんで観ていた。

 

****

 

「赤木!アポロンをマーク!海原は…」

 

 凪人の指揮によって閃電イレブンはフィールド上を縦横無尽に駆け回る。圧倒的な運動量だがそれに耐えられるだけのスタミナが彼らにはある。そして残り時間が少ない故の消耗を度外視したプレー。やれる事を全力でやらなければ勝っても負けても後悔する。それが分かっているからこそのものだった。

 

「はぁーーー!」

 

 デメテルのスライディングをサトルが躱して突破する。そして隣に並走する凪人へパス。そして凪人の左手でジェスチャーを出すとサトルは頷き、別方向へ移動を始める。

 

(1…2…駄目だ。もっとだ…!!)

 

 凪人は前方へとドリブルで全力疾走。直接ゴールを狙う為に走っていると誰もが思った。当然、アフロディを始めとする世宇子の面々が全力で阻止しにかかる。

 

「敵はなり振り構わず来る!彼に化身を出させるな!!」

 

 世宇子イレブンが何人も固まって凪人の前に出て来るご丁寧で前方へのパスが出来ないように味方同士、ある程度の距離を保って。

 

(4…5…充分だ。だが範囲外…!もっと近くに来い……!!……来たっ!!)

 

 凪人は凪人で人数とタイミング、距離を図り、彼らの接近を待っていた。そして凪人の狙った全ての条件が整ったその時、凪人は一瞬だけだが立ち止まって、その手にエネルギーを集め、剣を具現化した。

 

『!!』

 

「行くぞ…!」

 

 そして高い瞬発力で前に出ると同時に横に一閃。目の前にいる世宇子メンバーを全員纏めて弾き飛ばした。

 

「王の剣!!」

 

 具現化された聖剣エクスカリバーを振り、世宇子のディフェンスを完全突破。そして右前方へとパス。それをサトルが受け取り、その両隣を桐林と刀条が並走する。

 

「決めろ!」

 

 そして三人の加速が沸点に達した瞬間に三人の走る道は交錯し、それが成功した瞬間に道跡がメラメラと凄まじい豪火を発する。

 

 そこから発生した火柱が巨大な火の不死鳥を形成する。三人は飛び上がり、両脚を使ってボールを蹴り込んで発射。爆炎より生まれ出た不死鳥はシュートと共にゴールへと向かって行く。

 

「「「ザ・フェニックス!!」」」

 

 かつての雷門の必殺シュートの一つ。一之瀬、円堂(または風丸)、土門の必殺技を凪人は閃電に伝授していた。その中でも最強の必殺技、それがザ・フェニックス。元々はとあるオーバーライド技の為に覚えさせた技だが、この技だけでも相当の威力を持つ。

 

「う、うおおおおおっ!?」

 

 二代目ポセイドンにはこの技を止めるだけの力は無く、そのままゴール。ゴールネットを焦がしながらもボールが突き刺さる。

 

 3-3

 

『よっしゃあーーーー!!』

 

 閃電は世宇子を相手に同点ゴールを決め、見事に追い付いてみせた。後半も残り5分。決着の時は迫っていた。

 

****

 

『さぁー、フットボールフロンティア予選大会、関東Cグループ最終戦、閃電中対世宇子中の試合も残り時間はあと僅か!たった今アディショナルタイムに突入!勝つのは世宇子か!?閃電か!?このまま引き分けで終わるのか!?勝利の女神はどちらに微笑むのか!これは見逃せないぞぉーー!!』

 

 実況が述べた通り、残り時間は本当に僅かだった。一進一退の攻防の末、どちらもまだシュートに持ち込めていない。世宇子で堂本からゴールを奪えるのはアフロディのみ。閃電の方はとにかくシュートに持ち込めればゴールを奪えるだけの必殺技も人員も揃ってはいるが、両者のその微妙なバランスこそが互いに決してシュートを撃たせまいとする想いに拍車をかけていた。

 

「堕天の王 ルシファー!!!」

 

 凪人がとうとう化身を発動し、迫り来る世宇子メンバーを纏めて蹴散らしていく。世宇子はそのパワーに成す術なく、押し負けると思われたが、凪人の体力もまたこれまでの激しい攻防や運動量から万全とは言えず、化身も本来のパワーを殆ど発揮出来ていなかった。

 

「メガクエイク!!」

 

「「裁きの鉄槌!」」

 

 故に世宇子は大技のディフェンスで凪人とその化身を攻略しにかかっていた。

 

「はぁ…はぁ……!」

 

 そしてそれらの大技から仲間をかばう為に化身を使って凌いでいたからこそ、凪人もここに来て更に急激な消耗を余儀なくされていた。

 

(考えろ…!一気にゴール前まで行き着く為の策を……!!どうすれば良い……?ディフェンスを完全に突破してキーパーとの一騎討ちに持ち込むんだ!!)

 

「スーパースキャン!」

 

 するとアテナがここに来て凪人を即座に分析する事でボールを奪う動きを弾き出すスーパースキャンという必殺技を使い、見事に奪い取った。化身を出し続ける事により、アテナ個人に向ける集中力が欠如していた故の痛恨のミスだった。

 

「し、しまった!!」

 

「キャプテン!」

 

 そしてペナルティエリアにいるアフロディへとボールが繋がってしまった。アフロディはゴッドノウズ・インパクトを撃つ為にパワーを背中に集中させる。

 アフロディと対峙する堂本は考えていた。どうすれば良いか……これまで経験や今の実力からして天地がひっくり返ろうとも今の堂本にゴッドノウズ・インパクトは止められない。

 

(だったら……!)

 

「撃たせねぇーーーーーーーーーー!!!」

 

 キーパー特有の脚のバネと鍛えられた走力を生かした全力ダッシュでアフロディの元へ駆け出し、ボールへと飛び付いた。そしてアフロディが蹴り上げる前にボールをその手に掴んでその場を転がった。

 

『と、止めたぁーー!!堂本、アフロディのゴッドノウズ・インパクトを不発に抑えたーーー!!』

 

(な、なんて執念なんだ……。本当に…円堂君を見ている気分になってくる……。これが……彼こそが、君が閃電を選んだ理由なんだね、斎村君……)

 

 アフロディは堂本の執念のプレーを前に驚愕と円堂を見ているような錯覚を覚える。

 そして凪人は一瞬だけ目蓋を閉じ、カッと見開くと同時に叫ぶ。

 

「上に上げろ堂本ォーーー!!」

 

「っ!おうっ!!」

 

「石島、種田、赤木、刀条!お前達も飛べっ!!」

 

 堂本は凪人の指示に迷わず従い、ボールを右方向の上空に蹴り出す。そして他のメンバーもまた凪人の指示に従って飛び上がる。ボールは石島が空中でキープしてある事に気付く。

 

「こ、これは……空中にパスルートが!?」

 

 そう。空中にはパスを阻む者は誰もいない。それどころかパスを出す味方がいる。石島、種田、赤木、刀条……と流れるように素早くパスを出す。

 

『こ、これは世宇子が得意とする空中戦術!閃電が徹底して地上戦に持ち込んでいた為に世宇子は空中戦をしなかった!!だがその裏をかいて逆に閃電が空中戦をここで仕掛けたぁーーー!!』

 

「必殺タクティクス、ルート・オブ・スカイ…ってな」

 

 凪人は世宇子イレブンが空中に気を取られている間に一気に前線へ駆け上がる。そして空中のパスルートの最後にいた刀条からパスを受け、ゴール前へ飛び出した。

 

「くっそお!!」

 

「撃たせん!!」

 

 だがディオとアレス、ハデスが凪人の前に立ちはだかる。化身を出すだけの体力がもう無い凪人からすれば非常に嫌なタイミングでのディフェンスだった。

 

(シャイニングランスを撃ってもシュートブロックされちまう…!化身はもう出せねえってのに……!!)

 

「僕が一緒に撃つ!」

 

「!」

 

 そんな凪人の隣をいつの間にかサトルが並んで走っていた。何故……とは聞かないし思わない。それが仲間。チームメイトなのだから。凪人はフッ…と笑うとサトルに呼び掛ける。

 

「行くぞ……“サトル”!!」

 

「ああ…“凪人”!!」

 

 本人達にその自覚はあるのかは分からない。だが確かに彼らは互いを名前で呼び合った。それを引き金とした信頼が…彼らの新たな力を引き出した。

 

「オラァ!!」

 

 凪人は真上に向かって全力で光のシュートを穿つ。サトルはそれを追って飛び上がり追い付くと同時に両腕両脚を広げて力の限り叫び、溢れる全てのパワーを放出する。

 

「うあああああああああああああっ!!!」

 

 それによりその周囲に広大な星雲が広がる。すると凪人のシュートによって光のエネルギーが込められていたボールがその星雲を吸い込み始め、その全てを吸収するとボールは凄まじいエネルギーを感じ取れるまでにその力がチャージされる。

 そしてサトルはそのままボールに両足の裏でのキックを……凪人は飛び上がってのオーバーヘッドキックを……同時に叩き込んだ。

 

「「ネブラ…スピアー!!!」」

 

 そして蹴り出されたシュートは超巨大な一本の光の槍となってゴールに突き出された。そのパワーはこれまでに類を見ない程の圧倒的な威力を誇っていた。

 

「止めろぉーーー!!」

 

 アフロディの叫びと全く同じタイミングで世宇子のディフェンス陣とキーパーである二代目ポセイドンは蹴散らされた。

 そのシュートはゴールを突き破って後ろの壁へと減り込み、その摩擦で煙と焦げを発生させた。

 

 4-3

 

『き、決まったぁーーー!!最後に決めたのはキャプテン星宮と強化委員斎村だァーーー!!』

 

 ピッ、ピッ、ピーーーーッ!!

 

『ここで試合終了のホイッスル!!かつてないまでの激戦の末、勝利を掴み取ったのは閃電中だぁーーーーー!!!』

 

「「や…!」」

 

『やったぁーーーーー!!』

 

 凪人とサトルが勝利の喜びの叫びを上げようとしたその寸前、それより先に二人の元へ駆け寄って来た閃電イレブンが叫び、二人にのしかかった。

 

 電光掲示板には今回のMVPのイレブンライセンスカードが表示される。今回のMVPはゴッドノウズを止め、更にゴッドノウズ・インパクトを不発に抑え、最後の逆転勝利のきっかけを生み出した堂本だ。

 

「……今の僕達が負けるとは……やっぱり雷門魂は一筋縄ではいかないな」

 

 敗北したアフロディ達世宇子イレブンは勝利を掴み、喜びを分かち合う閃電イレブンを見て悔しがりながらも何処か清々しい表情で彼らを見ていた。

 

(やっぱり負けるのは悔しい……!でもそれ以上に…楽しかった……)

 

 すると凪人がアフロディの前に駆け寄って来た。そして笑顔で握手を求めながら同時に同意を求めて告げる。

 

「アフロディ、良い試合だったな!」

 

「!……ああ。凄く楽しかった。またやろう。そして次こそ僕達が勝つ!!」

 

 アフロディは握手に応じ、爽やかにリベンジを宣言する。その様子にこの世宇子スタジアム全域から惜しみない賞賛の拍手の嵐が巻き起こった。

 

「次はお互い全国だ。別々のブロックに配置されるだろうから、当たるとしたら決勝以外あり得ないぜ?」

 

「元より優勝するつもりさ。君達こそ僕達に勝っておきながら、決勝に来る前に負けないでくれよ?」

 

「お互い様だ」

 

 こうして関東Cグループ予選は全試合が終了した。全国大会に出場するのは1位通過を決めた閃電中と2位の世宇子中となった。そしてこの試合を観ていたほぼ全てのチームがある目標を掲げただろう。

 

 打倒閃電中、打倒世宇子中。

 

 そして世宇子スタジアムのフィールドのど真ん中で堂本が観客達に向かって叫んだ。

 

「次は…全国だぁーー!!」




これにて世宇子戦も終了!閃電の次の舞台は全国大会です。……けどその前にもうちっとだけAグループの方をやるんじゃ。

オリジナル技解説

【ネブラスピアー】
シュート
属性・山
TP アレス・70/ オリオン・70(仮定)
威力:ラストリゾートと同等

本編より先に出た主人公とサトルの連携シュート技。威力はラストリゾートクラスというチート。名前は正史・本編のエイリアルートでのサトルのエイリアネーム、ネブラから。なんでこんな奇跡的な偶然の一致をしたのかは不明(作者の意図)。

ゲーム風説明文
星雲の光が槍となって敵のゴールを穿つ!友情の究極奥義。


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帝国学園キャプテンの進む道

今回の事実上の主役は……まぁサブタイで分かりますね。


 side凪人

 

「よーし、一旦休憩だ!!」

 

 全国大会に向けて練習を続ける俺達は世宇子戦以来、その練習がますますヒートアップしていた。

 

 世宇子との試合は激戦の末、俺達が辛くも勝利をもぎ取った。チームが一丸となって最後まで諦めずに戦い抜いたからこその勝利と言える。

 だが、世宇子の強さは俺達の想像を遥かに超えていた。一度勝ったからと言って次も勝てるなんて事は決して言えない。閃電が1位、世宇子が2位で全国大会出場が決定してはいるが、もし決勝で奴らと再び戦う事になるとしたら、今のままの成長ペースでは俺達が負けてしまうだろう。

 

 皆もそれが分かっているのか、練習はより活気と熱意に溢れていた。堂本がその筆頭格と言えるだろう。アフロディのゴッドノウズを止める為に編み出し、実際止めてみせた必殺技、ドラゴンスクラッチがアフロディの進化した必殺技、ゴッドノウズ・インパクトに容易く破られたんだからな。それにあの試合で結局ゴッドノウズ・インパクトを止める事は叶わなかった。シュートそのものを未然に防げなければ俺達は負けていた。

 

 アフロディは……世宇子は本当に強くなった。これからも強くなり続けるだろう。

 

 ふとゴールの方を見れば休憩時間だと言ってるのに勝手にPK練習をしている刀条と堂本の姿が映る。ったく、あいつら…。

 

「うおおおおっ!!」

 

 刀条の鋭いコーナー狙いのシュートへと食らい付く堂本を見て、やはり思う。このままでは決勝どころか全国を勝ち抜く事は非常に難しい。仮に木戸川清修にでも当たれば修也と武方三兄弟のオーバーライド技、爆熱トルネードをドラゴンスクラッチで止める事は出来ないのは火を見るよりも明らかだ。

 

 それに、修也には無印ルートでの必殺技を身に付けられるようにアドバイスやアイディアなども伝えている。より一層それは厳しくなるだろう。

 

 ……修也と言えばそろそろか?木戸川清修の予選最後の試合は。今の所は四勝一分で勝ち点は13だったか。

 

 俺は練習が再開する前にマネージャーにパソコンを借りてそろそろ少年サッカー協会が公表しているであろう対戦表を確認する。俺達の他にもグループリーグを突破し、全国出場を決めたチームは多数存在する。北海道予選の一つでも先日、白恋中がぶっちぎりの1位突破を成し遂げていた。関東Bグループでも既に利根川東泉と王帝月ノ宮がそれぞれ六勝無敗の同率1位……いや、得失点差で王帝月ノ宮が1位、利根川東泉が2位で予選突破している。

 

 ……利根川東泉と王帝月ノ宮は直接ぶつかる事は無かった。恐らく月光エレクトロニクスが少年サッカー協会に圧力をかけてこの両チームがぶつかるのを防いだんだ。『アレスの天秤』に失敗は許されないだろうからな。野坂達が円堂とぶつかるのは時期尚早と判断したんだろう。

 これまでの試合を観る限り、王帝月ノ宮で一番決定力を持っているのは野坂だからというのもあるだろう。その野坂だが……今のあいつのシュートで円堂からゴールを奪えるとは俺には到底思えなかった。それでもあいつ自身まだ伸び代はあるはず。月光エレクトロニクスは『アレスの天秤』を使って野坂のその才能を伸ばす事で円堂を倒せるレベルまで到達させてから利根川東泉とぶつけるつもりなんだろう。同じグループ所属のチームは全国大会では別ブロックに配属されるから必然的に決勝戦以外での試合はあり得ないからな。時間も充分にある。

 

 そんな事を考えていればページが開き、情報が開示される。……成る程な。確かにこの組み合わせなら大会は大いに盛り上がる。全国出場権を三つ巴で取り合っている訳だし、強化委員の派遣された強豪校同士の試合だからな。

 

 

【フットボールフロンティア関東Aグループ予選第六試合

 

木戸川清修中vs帝国学園

 

○月△日 14:00開始】

 

 一昨年の全国大会決勝の組み合わせであり、あの日修也は試合に出られなかった。そして帝国には鬼道はいなくても不動と風丸が加わっている。……修也にとって、あらゆる意味で重要な一戦だ。俺もこれは見逃せない。楽しみだ。

 

****

 

 side三人称

 

「……次は木戸川清修と帝国学園…ですか」

 

「ああ。中々に面白い一戦になりそうじゃないか。一昨年のフットボールフロンティア決勝の再現でもあり、豪炎寺修也はその試合は欠場している。加えて帝国にはもう鬼道有人はいない。代わりに不動明王と風丸一郎太が加入……その実力はそれぞれ星章戦と雷門戦で見せた通りだ」

 

 街中で食べ歩きをしながら王帝月ノ宮中の野坂と西蔭は先程公表された試合の組み合わせについて話し合う。

 野坂の手にはバニラ味と思われるアイスクリームがあるが、西蔭の手には何故か四段重ねで中には激辛味のものまで混ざっている。野坂が西蔭に食べさせる為に購入したものだ。余談だが野坂はグルメ関係になると何故か西蔭に妙なものを大量に食べさせたがる。野坂の信奉者と言っても良い西蔭は困惑しながらも決して拒みはしない。それが野坂のプロデュースによる西蔭のフードファイター化に拍車をかけているのだが……誰から見ても割とどうでも良い事なので割愛する。

 

****

 

 -帝国学園

 

 帝国学園のミーティングルームの中、座席の一つに座り込むキャプテン、佐久間次郎は次の予選最終試合に想いを馳せていた。

 

(今の所は五戦全勝の勝ち点15……帝国学園の予選突破はほぼ確定したと言って良いだろう。だが予選最後の相手は木戸川清修……強化委員として豪炎寺がいる)

 

 豪炎寺修也。かつて木戸川清修の…いや、中学サッカー界の伝説のエースストライカーと呼ばれた男。昨年も雷門のエースとしてチームを全国優勝に導いた。その力はかつての帝国学園をも脅かす程で一昨年のフットボールフロンティア決勝ではその力を危険視した影山の策略により、妹を交通事故に遭わせる事で出場を阻止した事もあった。

 

 帝国に……影山のサッカーに負けは認めないという身勝手な理由でそんな出来事が引き起こされ、一時期はサッカーから彼は離れてしまった。

 

 当然、もうそんな事は二度と起こしてはならない。起こらないように影山の監督就任に条件を出したのは豪炎寺の例あっての事だ。

 

 勿論佐久間は当時豪炎寺が出場していたとしても帝国学園が敗北するなどとは今も昔も微塵も思ってはいない。相応の根拠があるからだ。帝国学園が実力者の中でも選りすぐりの精鋭達のチームである事、そして当時の帝国には鬼道有人がいたからだ。

 

(元帝国学園のキャプテンにして天才ゲームメイカーと謳われた『ピッチの絶対指導者』鬼道有人……俺はあいつのようにはなれない。なら、豪炎寺率いる木戸川清修を倒すには……)

 

 分かってはいる。鬼道のようになる必要はない事は。だが時々不意に考えてしまう。鬼道のように帝国を引っ張って行くにはどうするべきかを。

 

「ここにいたのか、佐久間」

 

「源田…」

 

 そんな風に考え込んでいる佐久間に話しかけたのは帝国の守護神である源田だ。口振りからして佐久間を探していたのだろう。そして佐久間の様子を見て源田は全てを察した。

 

「木戸川清修の事か」

 

「ああ。木戸川清修は強い…。星章と引き分ける程に……。俺達も一度は星章を相手に勝利を掴んだが、そんな過去は当てにはならない。星章はあれから更に強くなっただろうからな。あのチームは鬼道の元でどんどん成長する。今までも…これからもな」

 

 佐久間にとって憧れであり、隣に立つ友である鬼道。そんな鬼道に指導を受け、共に走る星章イレブンが羨ましくないと言えば嘘になる。しかし佐久間は帝国のキャプテンなのだ。佐久間には帝国を背負って立つ責任と誇りがある。

 

「帝国も同じだ。強化委員として風丸の派遣と不動という新戦力の獲得。そして閃電との合同練習を経て強くなった……。だが俺自身はキャプテンとして成長出来ているのか……時々自分が情けなく思えてくる。風丸や不動にばかり頼ってしまっているような気になってな」

 

 佐久間の想いを聞き、源田は少しばかり黙り込む。しかしすぐにその口を開き、己の内に込めていた信頼を告げる。

 

「俺は……お前の可能性を信じているぞ。佐久間…いや、キャプテン」

 

「源田……ありがとう」

 

 決して気休めなどではない。これまでチームとして共に過ごしていたからこそ分かる。これは偽りのない源田の本心だ。

 そんな源田の本心からの励ましが嬉しかった。佐久間は源田とコツンと拳をぶつけ合わせ、練習場に向かう。ウジウジ考えても仕方ないのだ。

 

 そしてミーティングルームから出ると廊下の壁に寄りかかった風丸が二人を待ち構えていた。

 

「風丸……何か用か?」

 

「……お前が何に悩んでいるかは分かっているつもりだ。俺だって強化委員として自分が情けなく思える時があるからな」

 

「……!」

 

 風丸は源田よりも早く佐久間の心境を察しており、佐久間の悩みが、考えが纏まるまで敢えてそっとしておいたのだ。

 そして最後に最もな重要な事を伝える為に、ここで待っていた。

 

「……だが、その劣等感は全くの検討違いだ」

 

「何?」

 

「雷門時代、『帝国の銃士』佐久間次郎は…最高に厄介な相手だった。鬼道に劣らずな」

 

 その言葉で佐久間は風丸が何を伝えたいのか全てを悟った。自分でも初めから分かっていたではないか。鬼道のようになる必要など全くないのだ。今の帝国は佐久間次郎がキャプテンなのだから。

 

(……どこまでいっても、俺は俺だという事だな)

 

 佐久間には佐久間のサッカーがある。それは鬼道とは違う、佐久間だけのものだ。佐久間は自分のサッカーで鬼道のサッカーを超えれば良い。今の帝国のサッカーで今の木戸川清修のサッカーに勝てば良い。それだけなのだ。

 

「クククッ…なぁにペチャクチャ喋ってんだよ、お前ら」

 

 そして廊下の影から今や見慣れたモヒカンヘアーが出て来る。

 

「不動…」

 

「「いたのか」」

 

 いつもは鬼道とのキャプテンとしての差を引き合いに出して嫌味を言おうとしても軽くスルーされるのが常だが、今日は珍しくその事で頭を悩ませている佐久間を見て揶揄いに来たのか、はたまた彼なりに佐久間を気にかけているのか。

 どちらにせよ不動の予想とは裏腹に佐久間は好戦的な笑みを浮かべて歩き出す。

 

「お前こそもう無駄口は叩くな。またバナナ呼ばわりされたいか」

 

「テメッ…!」

 

「黙ってついて来い。さぁ練習だ。木戸川清修は強いぞ」

 

 軽口を叩いて素通りした佐久間を見て、不動は彼の中にある変化に気付き、何処か満足そうな表情になる。

 

「ヘッ…分かったよ、キャプテン」

 

 それは思えば初めてかもしれない。不動が嫌味を込めずに佐久間をキャプテンと呼んだのは。そんな不動の確かな変化を感じ取って佐久間達は少し嬉しく思う。

 

「木戸川清修の特徴は豪炎寺と武方三兄弟を中心とする攻撃的なプレーと何と言ってもあの完成されたチームサッカーだ」

 

「ああ。だが付け入る隙はある。それに奴らにインペリアルサイクルは破れはしない」

 

「爆熱トルネード……必ず止めてやる!」

 

「ヘッ…完全なるチームサッカー……この俺がぶっ潰してやるぜ」

 

 迷い、悩み、進む。それが佐久間次郎が歩むキャプテンの道。帝国学園をかつての絶対王者の座に返り咲かせる為にも、木戸川清修との試合に負ける訳にはいかない。帝国イレブンはそれぞれの想いと共にグループ予選最後の試合に臨むのだった。




はい、という訳で次回から木戸川清修vs帝国になります。皆の五条さんがアップを始めました。
それに伴ってサポーターの皆さんにお願いです。五条さんへの差し入れはレンコンやレンコン味のものでお願いします。間違っても豚肉なんて以ての外。そんなもの差し入れしたら許しませんからね。

帝国のくだりはやぶてん先生の漫画(灰崎編)です。

木戸川サイドも書こうと思ったけど、何も思い浮かばなかった。豪炎寺はともかく、木戸川イレブンの学園生活とかどんな感じなんだ……!?


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雪辱の戦い!木戸川清修vs帝国学園 前編

前回の後書きによって寄せられた五条さんへの差し入れ一覧

・レンコン味のレンコンチップス
・レンコンのはちみつ漬け
・辛子蓮根
・レンコンの詰め物

帝国学園サッカー部一同で美味しく頂きました。

さて、一応今回もナンバリング。けどまた三話で終わる予感。

星章戦でもそんな感じだったけど、木戸川の三兄弟は三人称時での呼び方は敢えて一貫させません。私のその時の気分でコロコロ変えます。まぁ、名前か長男、次男、三男かですが。


 side凪人

 

 -木戸川清修スタジアム

 

『さぁー、フットボールフロンティア予選大会も残す試合は数える程度になって来ました!本日は関東Aグループ予選、第六試合!木戸川清修中vs帝国学園!!一昨年の全国決勝でぶつかった因縁の試合です!!実況は私、角馬王将がお送り致します!!』

 

 今日俺達は関東Aグループの木戸川清修と帝国学園の試合を観に来た。一昨年の全国大会決勝と同じ組み合わせである事からかなり因縁深い一戦だ。そしてこの試合に勝った方が全国大会への出場が確定する。現状帝国は勝ち点15、木戸川は勝ち点13だからな。

 

 そしてそれぞれスポンサーCMとしてZゼミと鬼道重工のものが流れる。当然、それぞれ強化委員である修也と風丸がスタメンで出るようだ。

 

「攻撃特化のチームサッカーをする木戸川清修と全体的にバランスの取れた組織的な戦術を駆使する帝国学園……どっちが勝つか…」

 

「さぁな。実際最後までやらないとこればかりは分からねえ。少なくともどちらか一方は必ず全国大会で戦う事になるだろう。しっかり良く観ておけ」

 

 因みに今日の同伴者は逢崎、堂本、刀条、城之内だ。特に堂本には修也のプレーを良く観て貰う。爆熱トルネードクラスのシュートを止められなければ全国優勝はかなり厳しいからな。

 

 ……でも修也と木戸川清修という組み合わせに風丸と帝国学園……凄く楽しみだ。きっと白熱した良い試合になる。

 

****

 

 side三人称

 

 帝国学園と木戸川清修それぞれのスターティングメンバーがストレッチとウォーミングアップをする中、風丸と豪炎寺はこれから戦うというのに親しげに会話を交わす。いや、これから戦うからこそなのだろう。

 

「お前達からすれば一昨年の雪辱戦といった所か」

 

「ああ。俺は試合に出られなかったし、皆はリベンジに燃えている。星章戦だけを見ればお前達は勝って俺達は引き分けだったが、直接対決で勝てると思うなよ?」

 

「勝つさ。その為に厳しい特訓を重ねて来たんだ」

 

 静かに闘志を燃やす二人。元雷門イレブン同士での試合は強化委員派遣にあたって強く望んで来た事だ。双方共に鬼道率いる星章学園と戦ってはいるが、逆に言えばそれだけ。こうして戦う機会が巡って来た事は嬉しいのだ。

 

 お互いに最大のターゲットは別にいて、尚且つそれが一致しているからこそ、余計に負けられない想いを抱いている。

 そして双方のチームがウォーミングアップを終え、ピッチに繰り出して行く。それぞれのフォーメーションは以下の通りだ。

 

 -木戸川清修フォーメーション

 

FW 武方友 豪炎寺 武方努

 

MF 跳山 武方勝 茂木

 

DF 西垣 光宗 黒部 女川

 

GK 大御所

 

 

 -帝国学園フォーメーション

 

FW 佐久間 寺門

 

MF 辺見 不動 咲山

 

DF 万丈 成神 風丸 大野 五条

 

GK 源田

 

 

 木戸川清修はキャプテンである武方勝をMFに下げて中盤を強化し、他は星章戦と近いフォーメーションで試合に臨み、一方で帝国は雷門戦と違い、洞面に代わって成神を入れてディフェンスを強化している。木戸川清修の攻撃的なフォーメーションに対抗する為だろう。

 

「木戸川は三兄弟の長男をMFにする事で星章戦で目立った中盤の穴を塞いだか。対して帝国は成神君を入れ、風丸さんを中央に配置して守備を固める……。カウンター狙いか」

 

「正解だ刀条。星章戦を見る限り木戸川清修のチームサッカーはカウンターに弱い点が多々あった。だがそれは修也や二階堂監督も把握して克服させたはず。アッキーの指揮と影山の采配が鍵になってくる」

 

 観客席で彼らを見守る閃電イレブンは今か今かと試合開始を待ちわびていた。そして試合開始のホイッスル。帝国学園のボールでキックオフ。

 まずは佐久間と寺門のツートップで斬り込んで行く。ドリブルをするのは寺門だ。

 

「ボールを渡して貰いましょうか!!」

 

「ハッ!そうはいかねぇなぁ!!」

 

 寺門の前には三兄弟次男、武方友が出る。続いて隣の豪炎寺も迫る中、寺門は見事なフェイントで武方次男を躱し、豪炎寺が辿り着く前に左脚の踵でバックパス。左斜め後方にいた不動を経由して佐久間へとボールが繋がれた。

 

「まずは先制点を奪う!」

 

「当然だ!!キリキリ働けてめーら!!」

 

「ボールを寄越せ!みたいな?」

 

 今度は長男が佐久間に迫るも、佐久間と不動のワンツーで切り抜け、帝国が木戸川清修の中盤に食い込んで行く。

 

「分身フェイントV2!」

 

 佐久間はキレが増した分身フェイントで茂木を突破し、着々と木戸川清修のゴールへと迫って行く。しかしそれを黙って許す木戸川清修ではない。先程突破された武方長男が後ろから佐久間に追い付き、黒部、女川との三人で佐久間を取り囲んだ。

 

「くっ…!」

 

「俺達のチームサッカーを舐めるなよ!」

 

「この二年間、帝国へのリベンジを忘れた日は無かったぜ!みたいな?」

 

 包囲されて冷や汗を掻く佐久間に対し、三対一から生まれた余裕により、威圧する三人。今か今かと佐久間からボールを奪おうとジリジリ迫る。

 

「こっちだ!」

 

 すると不動がフィールドの中央からゴールへと一直線に駆けながら佐久間にパス要求を出す。勝達は佐久間に不動へのパスを出させない為、身体を張ってパスコースを塞ぐと共に躙り寄る。

 佐久間はそれでも構わずパスを出そうと動き出す。それに真っ先に反応したのは武方勝で佐久間の目の前に身を乗り出す。が、それは佐久間が誘ったものであり、勝が目の前に来たらすぐに左脚を軸に身体の向きを切り替え、フェイントを混ぜて長男を抜き去った。

 

「何ぃ!?」

 

「受け取れ不動ォー!」

 

 全ては包囲網を抜けて確実にパスを繋ぐ為の布石だったのだ。そしてボールはそのままフィールドを走る不動の元へ。

 

「そうはさせんっ!」

 

「な…豪炎寺っ!?」

 

 しかしボールが不動に届く前にそのパスコースに豪炎寺が割り込み、鮮やかにパスをカットしてみせた。瞬間、スタジアムにいる豪炎寺ファンによる歓声が大きく湧き上がる。

 

「チッ!返しやがれっ!!」

 

 不動は急ストップしてから即座にスライディングを豪炎寺に仕掛ける。しかし豪炎寺はボールを右足の甲に乗せて、跳び上がって不動のチャージを躱す。

 

「反撃行くぞ!」

 

「ディフェンス!!」

 

 豪炎寺の号令の下、攻撃を始める木戸川清修。対してキャプテン佐久間の叫びから守りを固め始める帝国。

 

「こっちだ豪炎寺!」

 

「行け努!」

 

 豪炎寺は三男、武方努にボールを託し、右サイドから攻めるという方針をイレブンバンドを介して監督である二階堂から伝えられる。

 

「今こそ木戸川清修の完全なるチームサッカーの力を発揮し、二年越しの雪辱を果たす時だ!!」

 

 木戸川の三兄弟の三男が中心となって緻密なパスを駆使して帝国学園の中盤ーーー咲山を突破し、今度は万丈と成神が彼らの前に立つ。努と勝、茂木の三人は恐れる事無く突き進む。

 

「あれで行くっしょ!みたいな!?」

 

「アレだな!」

 

「おう!」

 

 まずは茂木がボールを頭に乗せた努の腕を掴み、空高くぶん投げた。それを追うかのように勝が跳び上がって努の両横腹を両手で掴み、更にぶん投げて後押しさせる事で加速させる。努は両腕を伸ばし、身体全体をプロペラの回転に見立てて更に加速。そのまま低空ながらも凄まじいスピードを使い、万丈と成神を勢いで突破した。

 

「「「ブーストグライダー!!!」」」

 

「「なっ!?」」

 

「豪炎寺ぃぃっ!!」

 

 そして中央でゴールに向かっていた豪炎寺へとパスを返す。正に連携を究極まで高めた完璧なチームプレーだ。

 このまま豪炎寺がシュートを撃つかと思われたが、そんな豪炎寺の前にかつての同志が立ち塞がる。

 

「…風丸!」

 

「やっぱり凄いな…。お前達のチームプレーは!」

 

 豪炎寺と風丸のマッチアップ。かつて全国を制した元雷門イレブン同士のぶつかり合いにスタジアムの熱気は最高潮だ。

 

「これが真の木戸川清修のチームサッカーという訳だ。俺達は互いの協力によって、より高みへと登って行く!それが世界だとしてもだ!!」

 

「ああ…。だがこの試合、勝つのは帝国だ!世界に行くのもそうだが、まずは帝国がこの日本の頂点(てっぺん)に立つ!!」

 

 互いに認め合い、ぶつかる両者。豪炎寺は自分を突き放せるだけのスピードを誇る風丸をただのドリブルやフェイントだけで突破するのは難しいと分かっているのか、マッチアップで睨み合う中、その身体にメラメラと炎を滾らせ、纏わせる。

 

「押し通る!ヒートタックル改!!」

 

「させるかぁぁぁぁっ!!」

 

 対して風丸の周囲に一陣の風が吹く。蒼き疾風が風丸の身を一瞬だけ隠し、その姿を再び見せた時には風丸は五人に分身していた。

 五人に増えた風丸は一斉に跳び上がり、その身体を更に超回転させて一人一人が巨大な竜巻を発生させた。その竜巻は豪炎寺を取り囲み、身体に纏った炎(ヒートタックル)を完全に吹き消した。

 

「ぐっ!?」

 

「うおおおおっ!スピニングフェンス!!」

 

 更に五本の竜巻が一つになって誕生した大竜巻が豪炎寺を吹き飛ばし、その竜巻の中から一人に戻った風丸がボールをキープしながら飛び出て来た。

 

『な、何とぉーーー!風丸が豪炎寺の進行を止めたぁーーー!!元雷門イレブン同士のマッチアップを制したのは新必殺技を披露した風丸だぁーーー!!』

 

「んな馬鹿な!?」

 

 伝説のエースストライカーである豪炎寺のFWとしての持ち味はシュートだけではない。その突破力もまた、日本の中学サッカー界において並び立つ者は数える程度のもの。それを完封してみせた風丸のディフェンス力に木戸川清修の面々は驚愕する。

 

「五条!!」

 

「ククク……では、私も見せてやりましょうか!」

 

 風丸からパスを受けた五条は前方を見据え、ボールを踏み付け、指笛を吹いた。

 すると五条の足元に一匹だけペンギンが現れた。何故か宅配業者を彷彿とさせる帽子を被っている。そして五条がそのまま前方へボールを蹴り出すと同時にペンギンが飛び立ち、ボールをその嘴で咥えて前線へと飛んで行く。たった一匹ではあるがその一匹のジェット噴射に関しては皇帝ペンギン2号のそれよりも上かもしれない。

 

「デリバリーペンギン!!」

 

 ボールを咥えたペンギンは木戸川清修のFW陣、MF陣を一気にすっ飛ばし、DF達をもすいすいと躱してゴール前に先回りしていた不動の元へボールを届けて絶好のシュートチャンスを作り出した。

 ボールを届け終えたペンギンは俺の役目は終わったと言わんばかりに地面に潜り込むと、周囲のDF達が不動に近付けないように不動の周辺に軽い衝撃波を発生させる。これで不動は心置き無くフリーでシュートを撃てる。

 

「やるじゃねぇか…!」

 

 不動は五条の新必殺技に感嘆しながらも、冷静に木戸川清修のゴールを見据えてボールを右足の足首で軽く蹴り上げ、ボールを五つに分裂させる。それらのボールは黒い部分がそれぞれ赤、青、黄色、緑、紫となって彼の周囲を舞う。

 

 そうしている間にボールは一つに戻り、赤いエネルギーを宿しながらも緑と紫の入り混じったオーラを撒き散らす。

 

「マキシマムサーカス!!」

 

 蹴り出すと同時に再び五つに分裂したシュートは五方向からゴールへと襲い掛かる……と思わせてまた一つに戻ってその威力が増幅する。増えたり減ったり、威力が増幅したり……と正にサーカスと言えるシュートを前に混乱に陥った木戸川清修のキーパー大御所はシュートコースを読み切れず、ボールに触れる事すら出来ずにただ通過を許してしまった。

 

 0-1

 

『ゴォール!!先制点を挙げたのは帝国学園!!激しい攻防の末、風丸が豪炎寺からボールを奪い、五条のロングパスによるアシストを受けた不動が決めたぁーーー!!』

 

 歓声が響く中、クールな笑みを浮かべる不動と慇懃無礼でニヒルに笑う五条がパァン…!とハイタッチを決める。

 

「どーだ!なぁにが完全なチームサッカーだ!俺のサーカスの方が断然上だぜ!!」

 

「今のは五条のアシストあっての事だろう」

 

「全く……だが、あれが不動明王だからな」

 

 何処か自分のキャラを置き去りにしている感のある不動を佐久間達は暖かい目で見守る一方で先制点を取られた木戸川清修のメンバーは悔しそうに拳を握る。

 

「くっ!あんなパス技を編み出してショートカットを図るとは……」

 

「ああ。だが帝国学園が強い事は最初から分かっていた事だ。それに、試合はまだ始まったばかりだ。この試合、必ず俺達が勝つ!二年前の雪辱を果たし、全国への切符を手に入れる!!」

 

 西垣と豪炎寺の会話を聞いて他のメンバーも持ち直したのか頷き合う。そして木戸川清修のボールで試合再開。

 

「よぉーし、決めてやりましょう!爆熱トルネードを!!」

 

 次男、友の宣言に豪炎寺達木戸川清修の攻撃陣営は頷く。帝国を…源田を相手に出し惜しみは無しだ。木戸川清修は帝国イレブンにボールを触らせないように計算されたパスを駆使して帝国のディフェンスを紙一重で潜り抜け続ける。

 

「うがあああーー!!」

 

 大野がその巨体を活かしたタックルで迫って来ようと豪炎寺はそれをヒラリと躱して次が来る前にパスを出す。

そしてゴール目前、風丸と成神がいるものの、武方三兄弟が揃う。

 

「豪炎寺に爆熱トルネードを撃たせるな!!」

 

「もう遅い!みたいな!」

 

「「「トライアングルZ!!」」」

 

 長男の勝が前方にいる三男の努目掛けてパワーを込めたパスを出し、三男の努は上空へとそれをダイレクトに蹴り出して次男の友が長男の肩を踏み台して飛び上がり、強烈なボレーキックでシュート。この時点で三人のパスとシュートでZの軌道を描き、最後にトライアングルを彷彿させる組体操で決めポーズ。

 

 しかしそれは上空に向かうのではなく、そのまま直接ゴールを狙ったもの。豪炎寺のマークに付いていた五条が見れば豪炎寺の口元は僅かに緩んでいる。星章戦と同じだ。豪炎寺と爆熱トルネードを囮にして確実にトライアングルZを決める寸法という訳だ。

 

 トライアングルZは風丸と成神の間を瞬く間に過ぎて源田に迫る。

 

「よっしゃー!これでまずは同点じゃん!!」

 

「さぁーて、そりゃあどうかな?」

 

 得点を確信した勝の言葉に不動が反論する。そしてトライアングルZを前にした源田は右手を己の右胸に添えてから獲物を見つけた獣のように瞳を薄い赤色に光らせる。そしてその背後に巨大な獣の幻影が現れ、シュートに源田自ら接近。獣が顎で餌を噛み砕くようにその両腕を牙と顎に見立ててシュートを上下から挟み込んだ。

 

「ハイビーストファング!!!」

 

 瞬間、トライアングルZのパワーは消滅。源田は左手だけでボールをピッチに抑え付けた。

 

「「「な、何ぃぃぃぃっ!?」」」

 

「トライアングルZを止めただと!?」

 

 トライアングルZを止める。技の名前こそダサいがトライアングルZはデスゾーンを上回るパワーを誇る。それを止めるともなれば円堂のマジン・ザ・ハンドにも匹敵する威力の技でなければならない。

 

 源田が今披露したハイビーストファングという技はその条件を満たしていた。そしてキング・オブ・ゴールキーパーと呼ばれた彼だからこそ、モノに出来たと言っても良い。

 

(あの技を破るにはダブルトルネードでも厳しい……!爆熱トルネードクラスの威力が無ければ破れないと見て良いだろう……)

 

 チームサッカーは帝国学園に通用する。しかし決定力が足りない。この状況は木戸川清修の側が圧倒的に不利。誰の目から観ても。

 しかし何故だろう。それで焦りは微塵も湧いて来ない。むしろワクワクしてすらいる。

 

「……やってやる。必ずゴールを決めてやる!」

 

 豪炎寺修也は目の前の強敵達を相手に、静かに…しかし激しく闘志を燃やす。




オリジナル技解説

【デリバリーペンギン】
パス
属性・林
TP アレス・40/ オリオン・35
威力:少なくとも氷の矢よりは強い。

皆大好き五条さんのオリジナル技。最初はシュート技を作ろうかと思ったけどDFである五条さんが全力キックでのシュートは違うよなあ、もっと鮮やかにアシストして他に華を持たせてやる謙虚さを持つのが五条さんだよなぁ……と考えた結果、得点に繋がるパスを出せば五条さんも輝けるという結論に達し、パス技に。氷の矢と違ってシュート技としてもある程度通用する。

ゲーム風説明文
狂え、純粋に……!!!


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雪辱の戦い!木戸川清修vs帝国学園 中編

難産…という程でもない。最近割と忙しくて……。


 side三人称

 

 前回のあらすじ

 

 五条さんがペンギン出した。超カッコ良かった。

 

****

 

 0-1で帝国学園に先制点とリードを許してしまった木戸川清修。武方三兄弟によるトライアングルZも源田によって止められ、早くも決定力の不足を突き付けられた。側から見れば一縷の望みは豪炎寺のファイアトルネードと三兄弟のトライアングルZのオーバーライド技、爆熱トルネードのみ。

 

 帝国学園もそれを理解しているからこそ、この四人の連携はさせない。

 

「真キラースライド!!」

 

 成神のキラースライドが炸裂。武方長男はぶっ飛ばされて宙を舞う。だが次は跳山が真横からボールを奪い取り、豪炎寺へと繋ぐ。当然、帝国のディフェンスは爆熱トルネードを撃たせるつもりは無くとも、豪炎寺への警戒は三兄弟以上だ。

 

「撃たせるかぁ!アースクエイク!!」

 

 即座に大野がディフェンス技で止めようとするが、豪炎寺は素早くフェイントを入れながら躱して突破してしまう。そして風丸と五条が間に合う前に源田の正面に辿り着いた。

 

 ボールを踵で蹴り上げ、爆炎を纏い左回転ジャンプ。炎を左脚に集束してボールを蹴り出す。

 

「ファイアトルネード改!!」

 

 豪炎寺の代名詞と言える必殺シュート。豪炎寺はこれまでかつての雷門と帝国の練習試合と昨年のフットボールフロンティア関東予選決勝においてこの技で源田からゴールを奪っている。後者の方は凪人のシャイニングランスをシュートチェインしたものだが、己から二度もゴールを奪った豪炎寺とその技を前に源田は雪辱を果たす為、より気合いを入れて必殺技を繰り出す。

 

「フルパワーシールドV3!!」

 

 広範囲に展開された巨大なエネルギーの壁がファイアトルネードを阻む。フルパワーシールドの威力ならば豪炎寺の技が相手だろうと遅れは取らないし、他の選手が衝突中にシュートチェインを仕掛けて来ようと破られる事はないと自信を持って言える。

 

 そして源田のフルパワーシールドは豪炎寺のファイアトルネードを弾き飛ばした。

 

「くっ…!」

 

「フッ。俺は大会が始まるまで散々斎村のファイアトルネードを受け続けて来た。幾度となくゴールを奪われる屈辱も味わった。だが俺はそれを乗り越えた!今の俺にファイアトルネードは通用しない!例えオリジナルであるお前のシュートだろうとな!!」

 

 豪炎寺の必殺シュートを跳ね返し、自信満々に宣言する源田。実際これ程までのセーブ力を見せ付けられれば木戸川清修の面々も反論は出来ない。本格的にオーバーライド技、爆熱トルネードに一縷の望みを託す他に得点源が無いのだ。その爆熱トルネードは帝国に完全警戒されており、到底撃たせて貰えそうにない。

 

「くっ!爆熱トルネードが撃てねーとかなり厳しいじゃん!みたいな?」

 

「恐らくはダブルトルネードも通用しませんね…」

 

 シュートの火力が足りずに攻めあぐねる木戸川清修。シュートには持ち込めてもやはり源田には爆熱トルネード以外通用しないだろう。茂木が跳ね返ったボールを確保するが、そこで狙いすましたかのように帝国イレブンが彼を包囲して襲いかかる。

 

「インペリアルサイクル発動!」

 

 風丸がボールを奪い取り、前線へ向けてパスを繰り出す。パスを受けたのは不動。不動はそのままドリブルで駆け上がって行く。

 

「「行かせるか!!」」

 

 木戸川清修DFの黒部と光宗が左右から迫り、不動の進行を阻む。しかし不動のドリブルテクは並のMFを遥かに凌駕していた。木戸川清修のチームディフェンスを以ってしても器用なボール捌きでディフェンスを潜り抜け、突破する。

 

「オラよっ!」

 

 不動がボールを上空に蹴り上げる。すると不動の左右、そして後ろの三方向から帝国の攻撃陣が飛び上がり、空中でボールを包囲した。

 

「……デスゾーン、開始だ!」

 

 指パッチンと共に出された宣告。飛び上がった佐久間、寺門、辺見の三人はボールの周囲を回転しながら暗黒のエネルギーを注ぎ、死のトライアングルを奏でる。

 そして三人が一斉に両足のスタンプシュートを叩き込んだ。

 

「「「真デスゾーン!!!」」」

 

 星章学園が放つ灰崎を起点とした同じ技とは比較にならない程、強力な威力のデスゾーン。紫色のエネルギーの塊となった弾丸は木戸川清修のゴールへと一直線に進み、キーパーである大御所と激突する。

 

「か、カウンターストライク!!」

 

 駄目元で必殺技のパンチングを繰り出す大御所。しかし経験不足云々以上に圧倒的に実力が足りなかった。拳を繰り出そうとあっさりと押し負けて、ボールをゴールネットに食い込ませてしまった。

 

 0-2

 

『決まったぁーー!!流石はかつての絶対王者帝国学園!!鬼道が不在でもその実力は健在!!一方名門の木戸川清修は持ち前のチームワークでも帝国学園に圧倒されてしまっている!!このまま一昨年の全国大会決勝のように、ワンサイドゲームとなってしまうのかーーー!!?』

 

 帝国学園に追加点。源田から帝国学園のゴールを奪えない木戸川清修にとってかなり苦しい展開になってきた。その様子を観客席から鬼道と灰崎が伺っていた。

 

「チッ…俺らがあれだけ苦戦した木戸川清修のチームサッカーを物ともしてねぇ…。奴らが強えのは知ってたが、こうも簡単にやってくれると流石に腹が立つぜ……」

 

「木戸川清修も帝国学園も共通してチームワーク、組織力による連携を重視する傾向にある。だがそれによってメンバーの個々の性質の違いによる差が出たな」

 

「どういう事だ?」

 

「帝国はチーム全体が中々に個性の強い選手が多い。一方で木戸川清修は個々の我の強さが攻撃陣に偏ってしまっている。我の強い選手はパスワークや連携だけでなく、個人技も圧倒的な者が多い。木戸川清修はチームプレーを重視し過ぎていた。一対一に持ち込まれてしまえば豪炎寺以外は圧倒されてしまう。それに木戸川清修には司令塔に適正がある者がいない。豪炎寺がストライカーとしての役割と兼任しているようだが……不動には一歩も二歩も劣るだろう。それを片手間でやるなら尚更だ」

 

「……オマケに帝国は閃電と長い事合同練習をしていた。あの手のチームプレーを相手取るのはお手の物って訳か。ついでに言えばファイアトルネードもな」

 

 見れば見る程木戸川清修に不利な試合だ。最大の決定力である豪炎寺の単独シュートが通用しない事から、いずれ木戸川清修には焦りが生まれ、チームワークにも乱れが生じ始めるだろう。

 

(だが逆に徹底してチーム一丸となってぶつかり続ければ木戸川清修にも充分に利がある…。やはり最大の鍵は決定打となるシュートを撃てるか…という事になる)

 

 そして木戸川清修のボールで試合再開するも、個々の技量が高く、チームプレーに優れ、不動という優秀なゲームメイカーを有する帝国学園が木戸川清修を圧倒している。

 

「ククク…貰いましたよっ!!」

 

 五条のスライディングが武方友からボールを掻っ攫う。跳山がボールを奪い返す為に走って来るが、五条はギリギリまで彼を引き付ける為に敢えてスライディングによる滑りを止めず、体勢も直さずにボール押すように足で持ちながら滑り続ける。そして跳山がボールを取るギリギリの距離まで来たら、体勢を直す事無く、そのまま身体を捻りつつ、左へとパスを出した。

 

「ククッ、頼みましたよ…風丸君?」

 

「よしっ!ナイスパスだ五条!!」

 

 それを受け取ったのは風丸。持ち前の足の速さを活かしてこのままオーバーラップせんと走る。目の前に豪炎寺が迫るものの、余裕を持って風にその身を任せて突き進む。

 

「風神の舞!!」

 

「ぐっ…!うああっ!!」

 

 竜巻のドームに閉じ込められ、解放されると同時に吹き飛ばされる豪炎寺。風丸はそんな豪炎寺に目もくれずに進んで行く。

 

「辺見!」

 

「不動!」

 

 帝国学園のパスワークに木戸川清修はチームプレーを崩す事無く対応するが、やはり徐々に隙が生まれてそこを突かれる事で突破を許してしまう。

 

「オラッ!3点目だ!!」

 

「「二百烈ショット!!」」

 

 不動のセンタリングからダイレクトに佐久間と寺門が同時に百烈ショット……二百烈ショットを穿ち、木戸川清修のゴールに牙を剥く。しかし木戸川清修のキーパーにボールが届く前に左右から豪炎寺と西垣が割り込んだ。

 

「「させるかあっ!!」」

 

 豪炎寺が右脚、西垣が左脚。それぞれが利き足とは異なる方の足でシュートブロックを図り、力を合わせてボールを弾き飛ばす事に成功する。それを黒部が確保して大御所にパス。大御所がボールを踏み付け、その僅かな時間の中で豪炎寺と西垣が立ち上がる。

 

「やはり帝国は強いな…!」

 

「ああ…だが、このまま一方的に負ける訳にはいかない。爆熱トルネードが撃てないのであれば、それ以外の方法でゴールを決めるまでだ!!」

 

 そして大御所がボールを豪炎寺に渡し、ペナルティエリアから豪炎寺がドリブルをして再び攻めに転じる木戸川清修。まずはその両サイドを木戸川清修のディフェンス陣が共に走り、パスの選択肢を増やす。

 

「炎のエースストライカー……シュートの他に突破力を直に見せて貰おうか!!」

 

「リードしているからって随分余裕だな?アッキー」

 

「テメッ…!」

 

 真っ先に不動が豪炎寺の前に躍り出て、ディフェンスを仕掛ける。しかし豪炎寺は迷わず走り、不動を抜き去ろうと右に左に何度もフェイントをかける。そして不動がそれに着いて行こうと激しく動き、遂に身体のバランスを崩しかける。その瞬間を狙って豪炎寺は一気に加速。そのまま不動を突破した。

 

「勝!」

 

 ボールを前方を走る武方勝に託し、少しだけペースを下げて走る。このままゴールまで単独ドリブルは戦術的にも体力の消耗的にも愚策だからだ。木戸川清修は帝国学園がボールに触れる前に次のパスを繋いで進んで行く。

 

「やはり豪炎寺の作り出したチームサッカーは厄介だ…!」

 

「だが必ずそれを崩す手立てはあるはずです!」

 

 万丈と成神は木戸川清修のパスワークに翻弄される中盤を見て、危機感を強める。大野のタックルが迫ろうと豪炎寺はそれをルーレットで躱すと同時に左サイドを走る武方友へボールを託し、そこから武方友は逆サイドを走る武方努へとロングパスを繰り出す。

 

「豪炎寺と西垣のプレーで木戸川清修は持ち直して来たようだな」

 

「結局ゴールを取れなきゃ意味はねぇだろ」

 

 木戸川清修を客観的に分析する鬼道とただ成り行きを見守る灰崎。チーム力で互角である以上、態勢を持ち直そうと個人技で遅れを取り、ゲームメイカーのいない木戸川清修が不利だという事実は変わらないのだ。

 

 猛攻を続ける木戸川清修に対し、帝国のディフェンス陣も対応に乗り出す。まずは武方三兄弟にそれぞれ個人マークを突かせ、豪炎寺をDF二人で止めにかかる。チームサッカーが厄介なのであれば最初からそれをさせなければ良いのだ。

 

 大野と成神が豪炎寺の前に出て、行く手を阻む。しかし木戸川清修はチーム全体の意思疎通が行き届いたチーム。攻撃陣を封殺しても、()()()()()()()()()()()()()なのだ。

 

「こっちだ豪炎寺!!」

 

「ああ…西垣っ!!」

 

 後方ーーーディフェンスラインから前線に上がって来た西垣がパスを要求し、豪炎寺はそれに応えてバックパス。そのまま予想外の事態に怯んだ帝国の中盤をMFである茂木や跳山とのパスワークで次々と潜り抜けていく。

 

「チッ!ちょこまかと……!!」

 

 同じチームサッカーでも時には個人プレーを活かす面を持ち合わせる帝国は皮肉にも今度は個人対木戸川清修全体という構図となってしまい、連携を立て直す前に次々と守りを突破されてしまう。

 

 西垣と武方努のワンツーが辺見を突破すると、この混乱に乗じて豪炎寺達はマークを外し、バラバラに動きつつも西垣を中心とした陣形を即座に作り上げた。

 

「チームサッカーを一貫させる木戸川清修と連携と個人プレーを使い分ける帝国……今度は木戸川清修に有利な形で違いが出たな」

 

 観客席で試合を見守る鬼道は木戸川清修と帝国の方針の違いから来る性質の違いを見抜いていた。

 そして木戸川清修は西垣を中心にその両サイドを豪炎寺と武方勝が走る。平行して同じ速度で走る彼らを見て風丸は既視感を覚える。

 

「っ!あの動きは…!!させるかあぁぁぁっ!!」

 

 豪炎寺達の狙いに気付いた風丸は蒼き陣風を吹かせ、五人に分身する。

 

「スピニングフェンス!!」

 

 五本の竜巻が豪炎寺、西垣、勝の前に広がる。しかし三人は臆する事無く突き進み、青い炎と共に竜巻の壁を突き破る。

 そして三人の道が交差する時、青い火柱が立つ。そこから現れたのは巨大な青きペガサス。

 

「「「トライペガサス改!!」」」

 

 西垣、豪炎寺、勝の順で両脚でペガサスの上にあるボールを蹴り込みを入れて行き、ゴール目掛けて発射する。青きペガサスは王者の砦を破壊せんとその翼を羽ばたかせて突進する。

 

「うおおおおっ!!帝国はもう二度と負けん!!フルパワーシールドV3!!!」

 

 源田は全力全開のフルパワーシールドで対抗。1点も許す訳にはいかないのだ。帝国学園の誇りにかけて。

 しかしそれを以ってしても彼らのトライペガサスを止め切る事は出来なかった。フルパワーシールドは打ち砕かれ、源田諸共ゴールネットにボールが食い込む。

 

「ぐおおおおおおおおっ!!!」

 

 1-2

 

 木戸川清修が1点を返した。そして同時にホイッスルが鳴り、前半終了。帝国学園が優位に立つものの、木戸川清修も完全には負けていない。

 

「やられた…!まさかトライペガサスを使って来るとは……!!」

 

「いや、トライペガサスは元々一之瀬、土門…そして西垣の三人で編み出した技だ。円堂とやっていたのは再現に過ぎない。オリジナルの使い手である西垣がいる上に木戸川清修のチームサッカーという特徴を考えれば充分予想出来たはずの事だった……」

 

「閃電もザ・フェニックスの修得を試みた事から何度も受けてはいたが……完全に盲点だった。だがそれを差し引いてもトライアングルZを上回るパワーだった。ハイビーストファングでも止められるかは分からん…!!」

 

 佐久間、風丸、源田はそれぞれ前半ラストでの失点を別々の意味で悔やんでいた。敵の技と狙いに気付かなかった佐久間、予想出来たはずの事を予想出来ず、未然に防げなかった風丸。相手のシュートに力が及ばなかった源田。

 

 一方で木戸川清修は1-2という未だリードを許してしまっている現状を苦々しく思っていた。

 

「ここでトライペガサスを使う事になるとはな……爆熱トルネードが撃てない保険という意味では正しい使い道だが、もう絶対に撃たせては貰えないだろう……」

 

「ええ。もうトライペガサスを撃てなくなる以上、何が何でも爆熱トルネードを撃つしか逆転の可能性はありません」

 

「あのハイビーストファングって技を破る為にもな。みたいな」

 

 西垣や武方三兄弟が中心となってミーティングをする中、豪炎寺は少しばかり考え込んでいた。爆熱トルネードは警戒され続けている。トライペガサスも二度は通じない。ならばどうするか。

 

(……誰か個人のシュートで源田から点を奪う他に道はない)

 

 帝国は徹底して爆熱トルネードとトライペガサスを防いで来る。だとすれば豪炎寺の出した結論しか逆転の芽は得られないだろう。そしてかつてのチームメイトからの助言が脳裏に過ぎる。

 豪炎寺は話し合う仲間達にある提案を出す。

 

「皆、聞いてくれ…」

 

 そして木戸川清修と帝国学園が双方共にミーティングを終え、ハーフタイムは終了する。後半は木戸川清修のボールで始まる。

 

「皆、頼むぞ」

 

「ええ。数少ない貴方の頼みですからね」

 

「任せな!絶対お前にボールを繋いでやるぜ!」

 

「ま、俺達チームだし?みたいな?」

 

 頷き合い、ゴールを見据える木戸川イレブン。豪炎寺が勝にボールを渡し、チームの仲間よりも一足先にゴール前へとまっすぐに向かって行く。

 

「何!?」

 

「チームサッカーはどうした!?」

 

 チーム全員での連携で攻守を成り立たせる木戸川清修の方針を投げ出してゴールへ走る豪炎寺を見て佐久間や不動は愕然とする。一方で武方達は揺らぐ事なく、連携してゴールを目指す。

 

 仲間を信じてパスを待ちながら進む豪炎寺の頭に再び相棒の言葉が繰り返される。

 

 

 ーーー世界に通用するシュート?連携じゃなく、単独で?

 

 

 ーーーそうだなぁ、化身……狙って出せるもんじゃねぇし……円堂の技を見てみろよ。あいつは力を心臓に集中させて、形を与えて増幅させてる。それと同じさ。

 

 

 豪炎寺の心に闘争心という名の火が灯る。

 

 

 ーーーサッカーが大好きだって思いと一緒に力の全てを背中に込めてみろよ。そしたらきっと……

 

 

「豪炎寺ィィッ!!」

 

 風丸のスライディングをギリギリで飛び上がって躱した努からのパスが来た。豪炎寺をそれを胸でトラップして受け取り、源田と彼の守るゴールを見て対峙する。

 

「っ!来い!!」

 

「う…おおおおおおおっ!!!」

 

 豪炎寺は両腕を交差させて力を込め、その背後から灼熱の爆炎を噴出させる。

 そして爆炎の中から現れたのはーーー炎の魔神。

 

 

 ーーーお前の魔神が応えてくれるはずだ。

 

 

『!!!』

 

 スタジアムの誰もが豪炎寺の背後に現れた炎の魔神に注目する。ベンチで試合をコントロールしようとしていた影山ですら、驚愕を禁じ得ない。

 そして観客席で観戦していた斎村凪人は、口の端を吊り上げ、その瞳は確かな歓喜を宿していた。この瞬間をずっと待っていたのだと。

 

 魔神は右掌を豪炎寺の足場にすると同時に上空目掛けてボール諸共放り上げる。豪炎寺はそれに合わせて獄炎を纏いながら左回転で上昇。全ての炎を左脚に集束させ、魔神の獄炎を纏った鉄拳と共にボールを撃ち出す。

 

 

「爆熱…ストォームッ!!!!!」

 

 

 ファイアトルネードどころか爆熱トルネードですら比較にならない灼熱の獄炎の嵐。間違いなくこのシュートは今の木戸川清修が撃てる最強の必殺技だ。

 王者帝国のゴールを守るキング・オブ・ゴールキーパーはこの獄炎を前にしても臆する事なく迎え撃つ。

 

「ハイビーストファング!!!」

 

 背後に出現した獣の顎に合わせて両腕で炎のシュートを抑え込む源田。しかしその熱量は獣の牙を焼き崩し、留まる事を知らぬ嵐は全てを吹き飛ばす。

 

「ぐっ…!!ぐ…ぐおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

 両腕は弾かれ、ハイビーストファングの力を真っ向から打ち砕いた爆熱ストームは源田を弾き飛ばしてゴールネットに突き刺さり、焦がし尽くしてしまった。

 

 2-2

 

 スタジアム全域に歓声が沸く。後半開始早々に同点に追い付いた事もあるが、それ以上に豪炎寺の新たなる必殺シュートに誰もが興奮を隠せなかった。

 

『ゴォール!!炎のエースストライカー豪炎寺!!新たなる必殺技、爆熱ストームと共に帝国のゴールを打ち砕いたぁーーーーー!!!』




アレスのアニメで木戸川清修の方針を知った時から、多分木戸川清修はトライアングルZみたいな余程に特殊な連携でもない限り、チームが使える連携技は誰と誰の組み合わせでも発動出来そうだな……と思った。そして西垣の存在からトライペガサス。多分西垣さえいれば他の組み合わせでも発動可能です。


やっと出せた本家の爆熱ストーム。


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雪辱の戦い!木戸川清修vs帝国学園 後編

また三話で終わった。決着です。

最近のオリオンの刻印の展開見て、げんなりし続けてます。

アレス編の流れはもう決まってるけど、そのままオリオン編に入って良いのだろうか……。不安過ぎてルートを三つくらい用意してしまった。この先のアニメの展開次第でどのルートにするかを決めます。


 side三人称

 

 帝国学園と木戸川清修の試合は2-2のまま後半15分となっていた。互いに次の1点を掴み、リードしようと激しい攻防を繰り広げる。

 

「インペリアルサイクル発動!」

 

 帝国イレブンの内、六人が豪炎寺を囲い、一斉に襲い掛かってボールを奪い取る。ボールを奪ってからは風丸がその自慢のスピードを活かしたドリブルを駆使して木戸川清修の面々を次々と突破している。チームワークを大切にする木戸川清修と言えどやはり全体的な個人技では帝国に軍配が上がる。連携を取られる前に一対一に持ち込めば良いのだ。

 

「より一層速くなったな風丸!」

 

「ああ!閃電との合同練習でより長所を伸ばしたからな!」

 

 後を追う豪炎寺。しかし追い付けない。距離は開く一方。そして司令塔不動の采配により、帝国側にはフリーになっている選手も多い。豪炎寺…ひいては木戸川清修を後手に回らせる為に風丸は前方へとパスを繰り出す。

 

「寺門!」

 

「おう!」

 

「させない!スピニングカットォォ!!」

 

 パスを出された寺門だったが、近くにいた西垣がすかさずスピニングカットを繰り出して彼を弾き飛ばし、ボールを奪い取った。更にそこから間を置く事なく反撃に転じる。

 

 木戸川清修と帝国学園はどちらも強い。チーム連携も決定力もある。しかし木戸川清修は個人技の他に帝国学園よりも不利な点があった。それはゴールキーパー。帝国のキーパーは全国でも上位クラスに入るであろう、かつてキング・オブ・ゴールキーパーと呼ばれた程の実力を持つ源田だ。しかし木戸川清修のキーパーは経験も少なく、実力もまだまだ足りない新入生の大御所。

 

 お互いに決定力があるのなら、後はキーパーの技量にかかっている。源田は豪炎寺が爆熱ストームを撃たない限り、木戸川清修のシュートの殆どを防げるだろう。しかし大御所には帝国学園の必殺シュートを止めるだけの力が無い。帝国の決定力の前ではシュートを撃たれる事自体が即座に失点に繋がってしまうのだ。勿論、これが凡百の実力程度の別チームならば問題は無かっただろうが……。

 

(まだ大御所にはデスゾーンや皇帝ペンギン2号を止めるのは無理だ!何としてでもこちらが攻め続けて連続して得点を重ねなければ!!)

 

 西垣の機転の利いたプレーで反撃を始める木戸川清修。ここは何としても再び豪炎寺がシュートに持ち込む必要がある。爆熱ストームを以ってすれば必ずや得点が可能。誰もがそう確信している。

 

「……修也が爆熱ストームを撃てれば試合の流れは木戸川清修に一気に傾く。しかし帝国側は誰がどの技…という限定条件が無い。誰であろうと必殺シュートを撃てればそれは十中八九得点になる。そうなれば流れは再び帝国のものだ」

 

「やっぱり40年も連続して優勝し続けた名門は伊達じゃありませんね……。合同練習でも凄く強かったし…正直、豪炎寺さんの爆熱ストームを見ても俺は帝国が負けるイメージが湧きません。何れは俺達の手で倒すべき相手なのに……」

 

 観客席で状況を客観的に分析する凪人と改めて帝国学園の強さを思い知る刀条。だが刀条の感想は尤もだと凪人とて思う。同様の考えも彼自身も持っているから。

 

(……けど、そんなイメージがあっても昨年のフットボールフロンティアの全国大会じゃ、帝国は世宇子に負けた。それに今年は日本全国が世界を目指して戦っている。これからもより激しい戦いになる……)

 

 そういうイメージは早い段階で捨てなければならない。世界の頂点を目指すのならそんな固定概念に囚われたサッカーをしていてはならないのだ。

 

 そんな事を考えていれば帝国の厚い守りを潜り抜けた木戸川清修は先頭の豪炎寺に再びボールが渡り、すぐにでも爆熱ストームを撃つ為、源田の前に出ようとする。

 

「撃たせないぞ!」

 

 しかしそれを許す風丸ではない。爆熱ストームを不発に抑える為に豪炎寺の前に出た。

 

「フッ」

 

 しかし豪炎寺は柔らかい笑みを浮かべると同時にボールをヒールで後方へとバックパス。風丸にディフェンスをさせずに、脚に力を込める。

そして後方でパックパスを受け取ったのは武方三兄弟。彼らは即座に豪炎寺の意図に気付き、本来のモーションとは異なる形で三人の中心に置かれたボールを一斉に蹴り上げる。

 

「「「トライアングルZ!!」」」

 

 トライアングルを模したオーラが幾重にも展開されて天を駆け登る。そしてそのボールに追い付かんと踏み込んでいた豪炎寺がファイアトルネードの要領で爆炎を纏いながら左回転で縦に上昇して行く。

 

「まさか…!爆熱ストームを囮にしてオーバーライドを確実に決める為に……!?」

 

 重ねられたトライアングルにファイアトルネードの炎が着火。その全てが燃え盛り、豪炎寺の纏う炎と回転を爆増させる。

 

「源田のハイビーストファングを破れるのは爆熱ストームだけじゃありませんよ!!」

 

「元々この技で破るつもりだったしな!」

 

「つーか一人でやるあっちより力を合わせるこっちの方が強いっしょ!!みたいな!?」

 

 木戸川の見事な即席連携。常にチーム一丸となって戦う彼らだからこそ、何の打ち合わせもなくこんな事をやってのける。特にこのチームプレーで変わったのは武方三兄弟だ。かつてのように豪炎寺一人に得点を頼り切る事もなければ自分達だけでやるなどという勝手な事もしない。真にチームを想ってのプレーだ。

 

『爆熱トルネードッ!!』

 

 試合序盤から警戒され続け、未然に防がれ続けて来た木戸川清修のチームプレーの結晶と言えるシュート。灼熱の炎を撒き散らして帝国のゴールを狙う。

 

 源田はこのシュートを前にしても憶する事なく、己の右胸に手を当てて気合いを高め、自らシュートに接近して止めにかかる。

 

「ハイビーストファング!!!」

 

 両腕で炎のシュートを抑え込む源田。源田の顔はその威力を抑え込もうと必死で少しだけ苦しそうに見える。そう、ハイビーストファングと爆熱トルネードのパワーが拮抗しているのだ。

 

「なっ!?」

 

「源田!!」

 

「止めろォー!!」

 

 今にも挟む両手から炎が噴出しそうな感覚だ。しかし源田は己のプライドにかけて必ず止めようと、力尽くで抑え込む。獣の牙で灼熱の炎の竜巻を砕く為に。

 

 獣は火を恐れる。だがここにいるのは王だ。

 

「ぐっ…!!うおおおおっ!!」

 

 そして源田の腕による圧力で炎は消し飛び、ボールは彼の腕の中でギュルギュル…と回転し続けながらもその手に収まった。

 

「「「何ィィっ!!?」」」

 

 仰天…とばかりに大声を上げて驚く三兄弟と目を見開く豪炎寺。源田はボールを両手で掴みながら、爆熱トルネードに対する己の評価を下す。

 

「爆熱トルネードか……。良い技だ。爆熱ストーム程の威力は無いが、その爆熱ストームを一度受けていなければ止められなかっただろう……。だがその実態はトライアングルZとファイアトルネードのオーバーライド。つまりはファイアトルネードの延長線上の存在に過ぎない……。今の俺ならコースさえ分かれば充分に止められる。

 

 

 

言ったはずだぞ豪炎寺…!俺にファイアトルネードは通用しないと……!!」

 

 源田は閃電との合同練習で何度も凪人のファイアトルネードを受け、何度もゴールを奪われる屈辱を味わったと……先程そう言っていた。だからこそ、ファイアトルネードというシュートをキーパーの視点からは誰よりも熟知していた。恐らくは円堂よりも……。

 

 まず間違いなくその凪人ですら今の源田からはファイアトルネードでゴールを奪う事は不可能だ。オリジナルである豪炎寺が通用しないのだから。

 

「何て奴だ……!」

 

「ああ。あのゴールを守っているのは……奴の中にある王者のプライドそのものだ」

 

 そして源田は前方へとボールを蹴り出し、中盤の不動がそれを受け取って走り出す。茂木が止めようとディフェンスを仕掛けてもやはり個人の技量の差がネックとなり、フェイントをかけられてルーレットで躱されてしまう。

 

「このまま一気に決めるぞ!!」

 

「テメェが命令すんな!司令塔は俺だぞ!!」

 

「お前こそ偉そうにするな!キャプテンは佐久間だ!!」

 

 ギャアギャアと口喧嘩しながらも佐久間、寺門、不動の連携は細かく完璧だ。この口喧嘩すらも動きの波長を合わせる為の確認だと思えて来る。見事なパス回しに連携と個人技の切り替え。それで次々と木戸川のディフェンスは攻略されてしまう。

 

「発動だ!」

 

 佐久間の指笛が吹かれる事でその周囲にペンギンが五匹出現する。それより少し前に前方へ飛び出した二人に合わせて佐久間がキラーパスを出し、ペンギン達も飛び立って行く。ペンギン達とボールが二人に追い付けば寺門と不動は同時にシュートチェイン。

 

「皇帝ペンギン2号ーーー!!」

 

「「V2!!!」」

 

「うわああああっ!!」

 

 やはり大御所に皇帝ペンギン2号が止められるはずがなく、あっさりとゴールを奪われてしまった。ペンギン達はボールと一緒にゴールネットを大きく揺らした。

 

 2-3

 

 ここで再び帝国学園がリード。そして残り時間はあと7分弱。木戸川清修にとっては絶望的と言える状況だ。この試合は双方共に全国大会の出場がかかっている。帝国学園が勝てば勝ち点18となり、文句無しのトップ通過となり、木戸川清修もまた勝てば勝ち点16で1位通過と言えるだろう。

 

 しかし負けた方はまず全国には進めない。この試合の他に現在勝ち点13の星章学園があと一試合残しているのだから。他のチームに彼らが負けて勝ち点を取り零すはずがない。

 

「だからと言って諦める訳にはいかない!残り時間で2点を取る。星章戦で奴らは短時間で俺達に追い付いてみせた。ならばそれと同じ…いや、それ以上の事が俺達に出来ない道理は無い!」

 

「たりめーっしょ!絶対勝って全国行って優勝するんだ!みたいな!」

 

「帝国学園へのリベンジは僕達の悲願でもありますからね」

 

「ああ!今日こそ絶対ぶっ倒そうぜ!!」

 

 当然、諦める意思など無い木戸川清修。この短時間でも逆転してみせると意気込んで試合を再開させる。

 一方帝国学園も王者復活を目指す故により完璧な勝利を求めて追加点を狙う。

 

「キラースライド!!」

 

 不動のキラースライドが正面から豪炎寺を狙う。豪炎寺は飛び上がってそれを躱し、次男の友へとパス。しかしそこに来たのは大野だ。

 

「アースクエイク!!成神!!」

 

 ボールを奪うとすぐに逆サイドの鳴神へとボールを回す。成神もまた素早いドリブルで三男の努を突破しつつ、前線へボールを出す。お互いに体力の限界は近い。そしてタイムリミットも迫っている。

 

 一進一退の攻防。帝国側の陣内で木戸川清修と帝国学園はボールを奪い合う。

 

「疾風ダッシュ改!」

 

 風丸は疾風ダッシュで跳山を躱す。が、その直後に茂木からのスライディングを受けてボールを弾かれる。そのボールを確保したのは五条だった。

 

「ククク……これで決めなさいっ!!」

 

 五条は前方を見据え、ボールを踏み付けて指笛を吹く。

 すると五条の足元に一匹の何故か宅配業者を彷彿とさせる帽子を被っているペンギンが現れた。そこからは説明はいらないだろう。五条のロングパスと共にボールを咥えたペンギンが飛んで行く。

 

「デリバリーペンギン!!」

 

 五条のパス技。強制的に敵の守りなど関係無く味方の攻撃の流れを生み出す技。ボールは不動に渡り、地面に潜ったペンギンによって周囲に衝撃波が走る。これでシュートの準備は整った。

 

「マキシマムサーカs…「させるかあぁぁっ!!」…くっ!?」

 

 前半のようにマキシマムサーカスを撃とうした不動の元に走って来たのは豪炎寺だった。デリバリーペンギンを追って前線から凄まじいスピードで駆け戻って来たのだ。そしてその衝撃波が収まったタイミングで追い付き、ボールを奪いに来たのだ。

 流石にこれは予想外だったのか、帝国の誰もが驚いている。

 

「しつ…けえなっ!!」

 

 ボールを何としても奪おうとする豪炎寺の気迫に押されながらもボールをキープし続ける不動。しかしそれも限界に来たのか、隙を見てセンタリング。それを見た帝国の攻撃陣は一斉に飛び上がる。

 

 佐久間、寺門、辺見の三人がボールの周囲を回転して暗黒のエネルギーを注ぎ、死のトライアングルを奏でる。

 そして三人が一斉に両足のスタンプシュートを叩き込んだ。

 

「「「真デスゾーン!!!」」」

 

 司令塔による合図も無しに完璧にデスゾーンを撃ち出した帝国。会場の誰もが帝国の追加点を確信し、残り時間の面から見て帝国の勝利すら確信する。

 

 あの三兄弟を除いては。

 

「決めさせねーぞ!!」

 

「勝つのは僕達なんです!!」

 

「俺達は……チーム全員で勝ちてえんだ!!みたいなァー!!!」

 

 勝、友、努……武方三兄弟がデスゾーンのシュートコース上に飛び上がっていた。彼らも豪炎寺同様にゴール前まで下がっていたのだ。

 そして先程と同じく従来とは違う、一斉に蹴り込む形であの技でシュートブロックを図る。

 

「「「トライアングルZ改!!」」」

 

「この土壇場で進化した!?」

 

 トライアングルZは鬼道曰くその威力はデスゾーン以上。勿論それは一年前の話であり、基礎的な技量から見ても今は佐久間達のデスゾーンの方が上だろう。しかし時に人の想いは実力以上の力を生み出す。武方三兄弟の『チームでの勝利』への執念は正にそれだ。そして同時にトライアングルZという技は進化した。

 この条件が揃った事でトライアングルZのパワーは一時的にだがデスゾーンを超えた。

 

 トライアングルZとデスゾーンのぶつかり合いと相殺によってボールはパワーを完全に失い、空中を雑に舞う。

 

「馬鹿な…!俺達のデスゾーンが……!!」

 

「くっ…!もう走る力は残ってねえ…!」

 

 誰もがそのボールの確保に動きたいが……もう充分に走れる体力が残っていない。しかしデスゾーンを相殺した三兄弟は叫ぶ。

 

「今だ豪炎寺ー!爆熱ストームを決めろーー!!」

 

「!!」

 

「ここまでしたんです!絶対に決めて下さい!」

 

「信じてるぞ!豪炎寺!!」

 

 彼らの想いに応える為、考えるよりも早く豪炎寺の身体は動いていた。落ちて来たボールを胸でトラップして自陣ゴール前から敵陣ゴールを睨む。源田はこの距離があったとしても、構える。

 

「させねーよっ!!」

 

 不動は嫌な予感がしたのか、豪炎寺のプレーを不発にしようと接近する。しかし次の瞬間には彼の背中から溢れた爆炎によって吹き飛ばされていた。

 豪炎寺は爆炎の中から現れた魔神の鉄拳と共に脚に宿る爆炎によるシュートを穿つ。

 

「爆熱ストーム!!!!!」

 

 獄炎の大嵐が吹き荒れ、熱を放出する。一直線に帝国ゴールへと向かっていく爆炎は帝国のディフェンス陣を次々と蹴散らす。風丸はシュートブロックをしようと爆熱ストームのコース上に身を乗り出す。

 

(いくら爆熱ストームが強力なシュートとはいえ、この距離ならかなり弱っているはず……っ!?)

 

「うわああっ!?」

 

 しかしその希望は打ち砕かれた。爆熱ストームのパワーは全く衰えていない。自陣ゴール前から敵陣ゴール目掛けて撃って、それだけの距離を通過していても……微塵もその炎は消えようとはしない。風丸もまた他のメンバー同様に弾き飛ばされてしまった。

 

「良いぞ…!ここで必ず止めてやる!!ハイビーストファング!!」

 

 源田は己の背後に還元させた野獣の力を借りてその両腕に牙の力を宿して再度爆熱ストームに立ち向かう。この獄炎を前に高みに立つ獣の牙は焼かれ、崩れていく。

 

『いっけえええええっ!!』

 

「絶対に……ゴールは許さんんんっ!!!帝国は……勝たねばならないんだ!!!」

 

 木戸川清修の魂の叫びと王者のプライドが激突する。しかしやはり爆熱ストームの熱に獣の牙は耐えられなかった。

 

「ぐああああああああああああっ!!」

 

 源田の腕は弾かれ、爆熱ストームはそのままゴールネットに突き刺さり、ネット…そしてボールそのものを黒焦げ…いや、消し炭にしてしまった。

 

 3-3

 

『ゴ、ゴォール!!木戸川清修、チーム全員の見事な協力と信頼に豪炎寺が応え、超ロングシュートの爆熱ストームで追い付いたぁーーーーー!!!!』

 

 ピッ、ピッ、ピィィーーー!!!

 

『ここで試合終了!!木戸川清修対帝国学園の試合は引き分けに終わりましたぁーーーー!!』

 

 木戸川清修に帝国学園……双方の誰もが仰向けに倒れ、立ち上がれないまでに消耗していた。本当に全力の全力を出し切ったのだ。

 

「引き分け…か」

 

「ちっくしょー…今日こそ勝つって決めてたのによ…」

 

 負けてはいないが勝ってもいない。どちらのチームも落胆を隠せなかった。中でも最後にゴールを奪われた源田は疲労が溜まっていようとも拳をピッチに叩き付けている。だがそれでもお互いの健闘を称える為に暫くして皆立ち上がり、それぞれが握手を交わす。

 

「やはり、帝国は強かった……。流石だな風丸」

 

「俺だけで強くした訳じゃないさ。それに……木戸川清修も強かった。まさかトライペガサスを出して来るなんてな」

 

 風丸と豪炎寺は握手を交わして讃え合う。そうしていると実況からある報せが入った。

 

『只今の試合において、帝国、木戸川清修、共に1点ずつ勝ち点が与えられました!それによって帝国学園は勝ち点16!木戸川清修は勝ち点14!現在関東Aグループにおいてトップ2の戦績となります!そして帝国学園は現時点を以って全国大会出場が決定致しました!!!』

 

 この実況によって会場中の帝国サポーター達は大いに盛り上がる。やはり40年無敗だった強豪校は伊達ではないのだ。

 

『一方、木戸川清修ですが、現グループ3位の星章学園が勝ち点13で一試合を残しています!木戸川清修のグループ突破は後日予定されている星章学園対緑ヶ丘中の結果次第となります!!』

 

 これを聞いて木戸川清修のサポーター達は落胆する。あの星章学園が緑ヶ丘中に負ける訳がないのだ。もはや木戸川清修の全国出場は絶望的だろう。

 当然、木戸川イレブンも同様に落ち込んでいた。

 

「……勝つべき試合に勝てなかった。それだけだ。だが今は胸を張ろう」

 

 豪炎寺は自分の悔しい気持ちを抑えて仲間達を諭す。それを理解しているからこそ、彼らもその気持ちを抑えて今は帝国学園の全国出場を祝う。

 そして風丸はこの試合を観戦していたであろう凪人を想い浮かべる。

 

(観ていたか斎村?お前のお陰で俺達はここまで強くなれた。実力だけじゃない。心もな。だからこそ、先に全国出場を決めたお前に追い付けた事が嬉しいよ。

 

だから俺はお前に勝ちたい…!お前と戦える時を心から楽しみにしているよ!!)

 

 こうして、木戸川清修と帝国学園の因縁の勝負は幕を下ろすのだった。

 

 木戸川清修vs帝国学園

 3-3

 引き分け

 MVP・源田幸次郎(帝国学園)

 




この試合では爆熱ストームの他に武方三兄弟の精神的な成長とキング・オブ・ゴールキーパーたる源田の凄さを描きたかった。

特に三兄弟の本編での扱いが雑過ぎたから……。クロノ・ストーン編の次の章では源田はそこそこ活躍するだろうけど、三兄弟は既に豪炎寺がインフレし過ぎてて……。

関東Aグループ現戦績
1.帝国学園 五勝一分 勝ち点16(全国出場決定)
2.木戸川清修中 四勝二分 勝ち点14
3.星章学園 四勝一分 勝ち点13

木戸川清修と星章の得失点差は同点です。
さて、次回からは初の伊那国・雷門視点。……………書く気が失せて来た。


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『アレスの天秤』と灰崎のサッカー

ちょっと最後ら辺雑かも。
前回ラストで雷門視点と言ったけど、今回8割以上主人公視点。


 side凪人

 

 関東Aグループは帝国学園がグループ突破。全国大会への出場を決めた。まぁ予想通りだな。現時点で帝国は1位だし、そして残る所の2位……は暫定で木戸川清修中だが、3位の星章学園はまだ一試合残している。そしてあの星章がその試合で負けるはずがない。よってAグループを突破するもう一つのチームは星章学園で決まりだろう。

 

 ……修也とも全国で戦いたかったが、こればかりは仕方ない。

 

 そして今日がその星章学園のグループ最後の試合。相手は緑ヶ丘中だ。

 

 今日俺はサトルと堂本を連れて星章学園スタジアムに来ていた。ぶっちゃけ星章学園の勝ち確定だが、それでも一応観戦しておく。鬼道も灰崎も出ないだろうけど星章には他にも警戒すべき選手はいる。

 

「あれ?鬼道は出るんだ」

 

「灰崎君は出ないのにね」

 

 大画面に今回の星章のスタメンのイレブンライセンスカードが映し出される。珍しい事もあるもんだな……。緑ヶ丘はこないだ美濃道三に完敗してたから鬼道は出ないと思ったのに。いや、一応全国出場がかかってるから当然か。

 

「あ!斎村さーん!星宮さんに堂本も!」

 

 そんな俺達に後ろから喧しい声を上げて駆け寄って来た奴がいる。現在俺達が不在の雷門でこの大会に出場している稲森明日人だ。

 

「おーっ!稲森じゃん!」

 

「堂本達も観に来てたんだ!やっぱり星章の試合は気になっちゃうよな」

 

 ………こいつ、他のチームの試合気にしてる場合かよ。雷門の戦績はとても全国大会に出られるようなものじゃないのに。そして大画面に目を移して漸くその星章のスタメンを知る。

 

「あれ?灰崎、出てないんだ…」

 

「あんな雑魚相手に俺が出る訳ねーだろ」

 

 そしてタイミングが良いのか悪いのか……俺達の背後にやって来て話しかけて来たのはその灰崎だ。

 

「偵察とは御苦労なこったな」

 

「全国大会じゃ初戦からお前達と当たる可能性だってあるんだ。どんなに些細なものでも情報は情報だ」

 

「俺は偵察なんかじゃないよ。俺は灰崎のプレーが観たかったんだ」

 

「……物好きな野郎だぜ」

 

 いやそんな事ねぇと思うが?星章学園は全国ランキングレースじゃ1位だし、そのエースストライカーのお前に注目しない奴は余程の馬鹿だろ。

 

「それに灰崎だって俺達の試合、観に来てただろ?」

 

「あれは美濃道三や御影専農、帝国の試合を観に行っただけだ。その対戦相手が偶々お前らだっただけの話だ」

 

「えー!?でも昨日の試合も来てたじゃん!俺達の事、ライバルだって思ってるんじゃないの!?」

 

「昨日の試合、お前らズタボロに負けてんだろーが!!そもそも全国行けずに脱落決定してんだから、格下のテメーらと俺がライバルだなんて寝言言ってんじゃねぇよ!!」

 

 灰崎、それ否定になってない。てか雷門の試合を観に行った事は認めるのな。

 そんでもって雷門だがあの帝国との試合以来、結局スランプになったらしい。おかしいだろ。お前ら別に調子崩すような負け方してなかったじゃないか。あの試合の後の俺と鬼道の意味深な発言完全に無駄じゃねーか。昨日のお前らのボロ負け具合観た後、灰崎(こいつ)に鼻で笑われたんだぞ。どうしてくれんだ。

 

 反論出来ない稲森の肩を堂本が軽く叩いて励まし、苛ついている様子の灰崎をサトルが宥める。………ったく、どうにも稲森と灰崎はウマが合わない……というより灰崎が稲森を一方的に嫌ってるな。その割には気にもなってるみたいだけど。

 

 どうしたものかと考えていると灰崎と俺達閃電に共通して因縁のある声が聞こえて来た。

 

「あっちの席が空いてるみたいだね」

 

「「野坂……!」」

 

 この試合の観戦に来た様子の野坂の声に灰崎と堂本が反応する。声のした方向には野坂と西蔭が歩いている。

 

「野坂君……王帝月ノ宮の……」

 

 稲森は野坂と直接会った事が無いようで、灰崎と堂本が野坂を睨む理由が分からず困惑している。そんな中、俺達の耳に野坂と西蔭の会話が入ってきた。

 

「ところで、竹見の件てすが…彼はもう限界のようですね」

 

「そのようだね…。彼の眼には感情が現れ過ぎていた。

 

 

 

あれは弱い人間の眼だ」

 

 

 バッサリと言い捨てた。どういう意図で言ったのか……それは『アレスの天秤』を受けている者にしか分からないのかもしれないが、客観的に聞けば……灰崎のような境遇に置かれている者の怒りを買うのは明らかな発言だ。

 

「でも良いさ。代わりはいくらでもいるからね」

 

 ……おい、お前今何つった?

 流石に今の発言は俺も見過ごせない。まずはその真意を問う為に野坂に近付こうとすればその前に灰崎と堂本が怒気を含んだ声を発した。

 

「待てよ、テメェ……!!今なんて言いやがった!!」

 

「弱い人間の眼って何だ!!代わりがいくらでもいるってどういう事だ野坂ァ!!」

 

 灰崎と堂本が話しかけた事で野坂はこちらを見て俺達を一瞥してから口を開く。

 

「灰崎君に堂本君じゃないか。君達知り合いだったのか。斎村さんに星宮さんもいるなら挨拶したいところだけど……君達は僕に話があるようだね」

 

「……人間が弱くて悪いのかよ、テメェは何様のつもりだ!!」

 

「代わりがいるって何だ!!人間は替えのきく道具じゃねえんだぞ!!」

 

 怒りに震える二人とは対照的に野坂は淡々と答える。

 

「それらについては戦ってみれば分かるんじゃないかな?少なくとも君達よりは上のレベルの人間さ」

 

 いやそれ返答になってねぇよ。灰崎の「何様のつもりだ」って質問の答えにはなってるけど堂本の質問完全無視してね?

 すると今度は西蔭が続いて意見を述べる。

 

「尤も、木戸川清修や帝国、世宇子程度に苦戦するお前達では野坂さんを本気にさせる事は出来ないだろうがな」

 

「ほざ…「ストップ灰崎」な…」

 

 また灰崎が怒鳴ろうとしたが、俺が割って入る。流石に俺もこれには言い返さなきゃならん。

 

「斎村さん、貴方も何か?」

 

「野坂の自分達のが上って発言はまだ良い。自信を持つ事は良い事だしな。けど西蔭、今のお前の発言は聞き捨てならない。他のチームを軽視するその言葉は取り消せ。直接戦ってもいねぇのに見下しにかかるたぁ、それこそ何様のつもりだ……!!」

 

 そう。俺が灰崎の話を遮って話しかけた相手は野坂じゃない。西蔭だ。修也達木戸川清修も佐久間達帝国もアフロディ達世宇子も皆物凄く強かった。それを直接戦ってないこいつが見下すのは絶対に笑って流す事は出来ない。

 

「……何を言うかと思えばそんな下らない事を…「取り消せ」…っ!!」

 

 俺はもう一度、圧を込めながら言った。すると西蔭はそれに押されたのか、息を呑んで一歩後ずさる。自分でもかなり気迫を発しているのは自覚しているからな。

 そのせいか、西蔭は冷や汗を掻きながら俺を凝視して、何も話そうとしない。いや、気迫に押されているせいで言葉を発する事を忘れかけている。

 野坂はそれを理解したのか、ポンと西蔭の肩を持つと前に出て来る。西蔭はそれで漸く我に返る。

 

「……確かに今のは西蔭の失言でしたね。チームメイトに代わって王帝月ノ宮中キャプテンである僕が正式に謝罪します」

 

「……いや、そこまでしなくて良い。だが…」

 

「分かりました。西蔭…」

 

「は、はい……。……失言でした。取り消します」

 

 ……まぁ、今はこれで良いか。それにしても『アレスの天秤』……感情を失うかと思えば傲慢にもなって来る。やっぱり教育システムとしてはかなり問題があるんじゃないか?

 

「では、僕達はこれで」

 

「待て!テメェらは俺がぶっ潰す!!」

 

「何言ってんだ!野坂達は俺達がぶっ倒すんだ!!」

 

「アァ!?すっこんでろ雑魚が!!」

 

「誰が雑魚だコラァー!俺達は強くなったぞ!!つーかこないだお前とPKやって俺が勝っただろーがこのロン毛野郎!!」

 

「何で君達が喧嘩するの!!」

 

 立ち去ろうとした野坂を灰崎が引き止めて打倒宣言。それに堂本が待ったをかけて口喧嘩の勃発。それをサトルが諌めようと割り込む。何やってんだこいつら……。稲森完全に蚊帳の外だよ。

 

 流石に野坂も呆れているのか呆れ混じりに灰崎に質問を返す。

 

「……堂本君は分かるけど、灰崎君、君はどうして僕達にそこまでの敵意を向けるんだい?」

 

「何も知らないとでも思ってんのかよ…!『アレスの天秤』システム……!!その薄汚いやり方をなァ……!!茜は…あいつはその犠牲になって……!!テメーらだけは絶対許さねえ!!」

 

 灰崎の幼馴染、宮野茜。『アレスの天秤』の被害者の一人で彼女は精神が崩壊してしまった。だからこそ、失敗の許されない謳い文句を出している『アレスの天秤』被験者を普通の人間である灰崎が打倒する事で完全否定する。それが灰崎の掲げる復讐。

 

「……そう。でも今のままの君では僕達に勝つ事など不可能だよ」

 

 それだけ言って野坂達は去って行った。

 

 ……正直言って今の王帝月ノ宮があの練習試合の頃と比較してどれだけ強くなっているのかは分からない。だから否定も肯定も出来ない。Bグループには野坂達の全力を引き出せるだけの実力のあるチームは利根川東泉以外はいなかった。その利根川東泉も結局王帝月ノ宮とぶつかる事はなかった。

 

「復讐の為にサッカーをやってるって……それは茜さんって人の為なの?」

 

 すると今度は今まで黙っていた稲森が口を開く。流石に今のやり取りに思う所はあるよな。

 

「テメーに関係ねぇよ」

 

「小僧丸から聞いたんだ。茜さんって人のお見舞いに行ってるって……」

 

 灰崎の個人情報の保護はどうなっているのだろうか。何やってんのあいつ。一年前の円堂と修也みたいなシチュエーションで知ったんだよな?じゃなかったらドン引きなんだけど。そしてチームメイトだからってそんな事普通言い触らす?

 

「小僧丸?ああ、あのデブか。チッ、コソコソ嗅ぎ回りやがって……」

 

 そしてお前はお前で辛辣だな灰崎。後半については擁護出来んが。

 

「『アレスの天秤』システムが茜さんの入院と関係あるの?茜さんは、灰崎にとって大切な人なんだよね?だからサッカーで復讐なんて…「やめろ稲森」…斎村さん!?」

 

 俺がまた話を遮るとは思ってなかったのか、とても驚いた顔の稲森。いや、普通止めるからな?

 

「サッカーをやる理由は人それぞれだし、人のデリケートな部分に土足で踏み込むな。第一、お前がどうにか出来るような問題じゃない。関係無い奴が…「関係ありますよ!!」はぁ!?」

 

 何言ってんだこいつ。訳分かんねぇ……。

 

「灰崎は凄いサッカープレイヤーです。俺は灰崎を尊敬してます…。だから、心からサッカーに向き合う灰崎が見たいんです!」

 

 ……言いたい事は分からんでもないが、そりゃ押し付けだろ。円堂と似ていると思ってたが、全然違うわ。少なくとも円堂は相手のサッカーをする理由を否定したり、押し付けたりはしない。

 

「鬱陶しい奴だな…何なんだお前……」

 

「サッカーはすげー楽しいのに、灰崎は純粋にサッカーをやりたいって思った事は無いの?」

 

 稲森にそう言われて灰崎は少し押し黙る。……あるにはあるだろうな。木戸川清修との試合なんか正にそれだったし、あの試合の後、それに近い事は言っていた。

 

「……下らねぇ。サッカーごっこで喜んでるお前らと一緒にするんじゃねーよ。俺は王帝月ノ宮を倒すと決めた。良いか稲森!堂本!俺はどんな手を使ってでも勝ち進む!気に食わないモノをぶっ倒す為に強くなる!誰よりもな!!」

 

「「……」」

 

「……これ以上俺に構うな」

 

 そう言って灰崎は去って行く。稲森は去って行く灰崎の背中を悲しげに見つめていた。

 

「灰崎……」

 

 ……稲森には言っておくべき事があるな。灰崎の為にも、こいつ自身の為にも。サトルと堂本には席取りを頼んで先に行って貰い、稲森には話があると言って残って貰った。

 

「稲森」

 

「斎村さん……」

 

「お前の言ってる事はただの押し付けだ。さっきも言ったが、人のデリケートな部分に土足で踏み込むんじゃねえ」

 

「……」

 

「お前の言ってる事は分からんでもない。俺だって純粋にサッカーを楽しんでいる灰崎を見たいと思った事くらいあるさ。それぐらいあいつは凄い奴だ」

 

「……なら!」

 

「だがあいつが復讐をきっかけにサッカーを始めたのも事実だ。それを否定しちゃあ、あいつのサッカーそのものを否定する事になる。そんな事をしたら、あいつは道を開けなくなっちまうぞ」

 

 俺の話を聞いていく内に稲森は押し黙って考え込むようになっていった。……どうやら本当に自分の気持ちを相手に押し付けて思うようにさせたい…なんていう愚か者じゃないらしい。

 

「……これに関しては灰崎に言葉で何を言っても聞きやしねぇよ。木戸川戦のプレースタイルの件とは訳が違う。けど、サッカーを通してプレーで想いを伝える事なら出来る」

 

「斎村さん……」

 

「灰崎のサッカーでお前が何か思うのなら、お前のサッカーで灰崎に気持ちをぶつけろ。俺はそうする事で色んな奴を闇から救い出した奴を知っている。灰崎だって、きっと例外じゃない」

 

 一通り話し終えると稲森は暫く考え込んで、やがて何か決心したのか、その瞳に強い意思を宿して俺を見る。

 

「ありがとうございます。斎村さんのおかげで俺、自分が今何をするべきか分かった気がします!そうだ!俺のサッカーを灰崎に観て貰えば良いんだ!今度の青葉学園との試合だって灰崎はきっと観に来てくれる!そこで俺のプレーを見せて灰崎に俺の気持ちを伝えれば良いんだ!サッカーは楽しいものだって!」

 

 ……もう心配はいらないみたいだな。

 それで良いんだ。本当のサッカーを灰崎に理解して欲しいのなら、サッカーでそれを示す。それ以外に方法なんて無いんだから。問題は帝国戦以来スランプ中の稲森達が予選最後の試合をどうするかだが……ま、監督の趙金雲が何とかするだろ。

 

 そんな事を考えていたら星章スタジアムにあるアナウンスが入った。

 

『本日予定されていました、フットボールフロンティア予選大会第六戦、星章学園対緑ヶ丘中学の試合ですが、緑ヶ丘中学から部員全員がインフルエンザにかかった為、棄権するという申し出がありました。よって本日の試合は中止とさせて頂きます』

 

「「ええーっ!?」」

 

 だったら会場がこうして開かれる前に中止の通知を出すだろ普通!!舐めてんのか運営!?来た奴ら完全に時間無駄にしてんじゃねーか!!稲森はそんな事無いみたいだが……ふざけんじゃねえ!!

 

 

****

 

 side三人称

 

 第四、第五試合……と敗北を続け、迫る第六試合を控えた雷門。帝国に敗れて以来、スランプに陥った事で予選第五試合だけでなく練習試合でも連敗している中、予選最後の第六試合の相手であった青葉学園が部員のカンニング発覚による部活動停止処分になった事から試合を行えなくなり、試合が中止になった。

 

 かと言ってそれで不戦勝になるのかと言えばそれは違う。他のチームに対して不公平だからだ。そして時を同じくして相手校の部員全員がインフルエンザにかかるという珍事により試合中止となった星章学園と試合数を公平にする為に第六試合で再戦する事となったのだ。

 

 そして関東Aグループのトップに立つチームは以下の通りだ。

 

 1.帝国学園 五勝一分 勝ち点16

 2.木戸川清修中 四勝二分 勝ち点14

 3.星章学園 四勝一分 勝ち点13

 

「現時点で関東Aグループの上位3チームは1位が五勝一分で勝ち点16の帝国学園。2位が四勝二分で勝ち点14の木戸川清修。3位が四勝一分で勝ち点13の星章学園デス」

 

「Aグループの他のチームも粗方予選試合は終えています。現時点で勝ち点16で1位の帝国学園は全国大会への進出は確定しています」

 

 趙金雲と大谷から説明を受ける雷門イレブン。元々フットボールフロンティアの予選は各グループ上位2チームが全国大会に進めるのだ。1位が帝国学園で確定した以上、残る枠は一つ。

 

「木戸川清修は既に六試合終えて勝ち点14。星章学園はあと一試合……俺達との試合を残して勝ち点13……このまま行けばスランプ中の俺達は負け……星章も勝ち点が16に届いて全国大会に出場する事になる」

 

「スランプ中でなくても、前回あれだけズタボロに負けましたからね……。既に僕達は全国大会にも行けませんし」

 

「何言ってんだ!せめて最後にはリベンジするんだよ!!」

 

 奥入の弱気な発言に剛陣が強く反論しながらも、その表情にはあまり自信が無い。

 

「……逆に俺達が勝てば星章に勝ち点は入らず、木戸川清修が全国大会に進む。そうだな?」

 

「え?はい…そうですけど、正確には引き分けでも木戸川清修は全国大会に進めます。それは星章にも言えますけど」

 

「え?全国に行けるのは2チームだけじゃないの?」

 

「原則はそうなんですが、2位になった複数のチームの勝ち点が同点で尚且つ得失点差も同点であれば3チーム以上が全国大会に出場する事も不可能ではありません。それに木戸川清修と星章は試合でも引き分けていますから、尚更です」

 

「という事は木戸川清修と星章の得失点差は同点なのか」

 

「はい。木戸川清修は一つ一つの試合で堅実に大量得点を重ね、星章は最初のウチとの試合での13点差を基にそれからの試合での点差が重なって偶然にも得失点差が同じになったんです」

 

 つまり、雷門と星章の試合で雷門が勝つか引き分けに漕ぎ着ければ木戸川清修は全国大会に出場出来るという事だ。

 

「豪炎寺さんが全国に行けるかは……俺達にかかってんのか……」

 

「でも次の試合は星章も全国出場がかかっている事からあの鬼道有人は必ず出て来るでしょう……」

 

 やはり暗い雰囲気の雷門。前回の大敗は相当堪えていたようだ。そんな中、稲森が立ち上がって元気良く叫ぶ。

 

「皆!考えていても仕方ない!剛陣先輩の言う通り、最後にリベンジだ!!俺達のサッカーをやろう!!」

 

 稲森の言葉を聞いて他のメンバーもウジウジ考える暇があるのなら、少しでも星章との実力差を縮めようと考え、練習に向かう。そして稲森は先日の凪人との会話を思い出す。

 

(これはチャンスなんだ…!折角もう一度星章と…灰崎と戦えるなら、俺のサッカーを直接ぶつけるんだ!想いはサッカーで示す……ですよね!斎村さん!!)

 

 稲森明日人は灰崎とサッカーへの想いを胸に走り出した。




下のアンケートはちょっとした調査です。この先の展開に影響するかは不明。

投票終了しました。


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スランプ脱出と合同練習

何とかして五条さんを出そうと四苦八苦して遅くなりました。


 side三人称

 

 星章学園との試合を一週間後に控え、雷門はスランプを乗り越えて勝利すべく猛特訓に励んでいた。

 しかし雷門は帝国戦以来、スランプに陥っていた為にやはり練習も上手く進まずに刻一刻と試合までの時間をただ浪費していた。

 

「……今日も、監督のメニューをこなしても成果は得られなかったな」

 

「帝国との試合がここまで影響して来るなんて……」

 

 万作と奥入の暗い呟きが雷門イレブンの心に刺さる。星章との試合までもう一週間を切っている。最後にリベンジを果たそうと考えても焦燥が湧いて来るばかり。具体的な解決策を得られずにいた。

 

「帝国戦以来、練習試合を組んでも負けの繰り返しだったし、五戦目も負けた。今また練習試合をしても効果はねえだろうな…」

 

「ちっくしょー!せめてスランプの治し方さえ分かりゃあ何とかなると思うんだけどな…!」

 

 小僧丸と剛陣も悶々としながら現在、彼らが暮らす木枯らし荘への帰路に着く。するとキャプテンである道成がある呟きを口にする。

 

「……こういう時、元々の雷門イレブンの人達ならどうしてただろうな」

 

「キャプテン?」

 

「あ、いや……今強化委員で各地に出てる元々の雷門の人達は、こういうスランプがあったのかな…って。あったとしたらどうやって乗り越えて日本一になったのか…少し気になってな」

 

「こういう時、強化委員が派遣されたチームが羨ましいよな…。星章なんか鬼道有人が指導してくれるんだぜ?その上一緒に戦ってくれる。それだけで心強いし、自信も付くよ」

 

 道成の意見をきっかけに服部は少しばかり愚痴を零す。しかしこればかりは仕方のない事だ。むしろ円堂達が今も雷門中にいたらここにいるメンバーの転入は受け入れて貰えず、フットボールフロンティア出場どころか、伊奈国島でサッカーを失って泣き寝入りするしかなかったのだから。

 

「……サッカー強化委員か」

 

「俺達も指導して貰えたら……」

 

 ふとそんなあり得ない願望を抱いてしまう。無名から一気に全国優勝まで登り詰めた伝説のイレブン。彼らの手で敵はより強大な存在となっているのだから。

 

 そうして帰り道を歩いていると十字路に差し掛かる。ここを抜ければ稲妻町の商店街だ。いつもここを通って稲森達は木枯らし荘に帰っている。

 そしてその十字路を曲がろうとしたら、同じく十字路の向こう側から曲がろうとしていた通行人とぶつかる。

 

「「うわっ!?」」

 

 稲森とその通行人がぶつかってお互いに尻餅をつく。

 

「明日人、大丈夫か!?」

 

「う、うん…。あの…すいません、良く前を見てなくて……」

 

 仲間達に身を案じられつつも、稲森はぶつかった相手に謝る。そしてその相手もまた謝り返す。

 

「い、いやこちらこそ急ぐあまり走ってて…すまない。怪我は……」

 

 そしてお互いの顔を見て目を丸くする。稲森とぶつかった相手の特徴は青い髪にポニーテール。その身に纏っているのは帝国学園の制服。そして女性と見紛う顔。

 

「か、風丸さん!?」

 

「お前達は……」

 

 驚く稲森。そう、ぶつかった相手は風丸一郎太。かつての雷門イレブンの一人であり、現在はサッカー強化委員として、雷門のスランプの原因……帝国学園に派遣されているサッカープレイヤーだ。

 

「ど、どうしてここに…?」

 

「斎村と待ち合わせをしていてな。この後、喫茶店で打ち合わせがあるんだ」

 

「打ち合わせ?」

 

「ああ。帝国も全国大会への出場が決まったからな。同じく既に全国出場を決めた閃電とまた合同練習をしようって話になったんだ。勿論全国大会が始まるまでだがな。お互いに手の内を明かす事になるが、俺達は木戸川清修、閃電は世宇子との試合以来、もっと強くならなきゃいけないと再認識したからな……」

 

 どちらも予選大会で上位に掲げられる試合だ。勿論稲森達も観戦し、この四校の凄まじい実力を目の当たりにした。その内の全国大会出場が決まった二校が合同練習を行う……稲森達からすれば雲の上の出来事とも言える。

 

 しかし、それを聞くと同時に稲森の中にある案が思い浮かんだ。

 

「それじゃあ、俺はこの辺で……「待って下さい!」…うわああっ!?」

 

 凪人との待ち合わせ場所に向かおうとまた走り出した風丸の服を掴み、引き止めようとする稲森。しかしそれによって風丸はバランスを崩して転倒。稲森もそれに引き摺られて倒れる。

 

「おい明日人!何やってんだ!」

 

「いつつ……急に服を掴むなよ。急いでるんだぞ…」

 

「す、すいません……ってそうじゃなくて!」

 

「いや、そうじゃなくてじゃなくてだな……」

 

 風丸の抗議とも言える言葉をスルーして稲森はグイグイ風丸の前に出て来る。何やら興奮して風丸側の都合を度外視してしまっているようだが、落ち着けばちゃんと謝るだろう。

 

 しかしその前に稲森は爆弾をぶっ込んだ。

 

「その合同練習、俺達も混ぜて貰えませんか!?」

 

****

 

 

 -帝国学園スタジアム

 

 

「……で?結局押し切られたと。まぁ打ち合わせに割り込んで来た時から予想は出来てたが」

 

「……すまん」

 

 数日後の土曜日、帝国学園のグラウンドにて引き攣った表情で稲森達雷門イレブンの前に立っていたのは凪人率いる閃電イレブンだった。

 

「いきなり押しかけたりしてすいません……」

 

「いやいーよ。今更だし、事の発端は稲森が暴走した事みてーだしな」

 

 流石に身勝手に合同練習に割り込んだ罪悪感があるのか、道成が代表して凪人達に謝罪する。小僧丸だけは凪人を心底気に入らないと言わんばかりに睨んでいるが。それでも参加している辺り、自分達の置かれた状況を冷静に客観視出来ているようだ。

 

 星章に勝つには鬼道に匹敵する司令塔の凪人の指導を受けるしかない。

 

「影山は?」

 

「総帥室だ。練習メニューは貰ってるから今日は俺達で進める」

 

 凪人の質問には帝国現キャプテンである佐久間が答える。この手の進行確認にはもう慣れたものだ。強化委員である凪人と風丸、各々のチームのキャプテンであるサトルと佐久間の四人でテキパキと練習内容について話し合い、決めていく。

 

「おい道成、何ボーッと突っ立ってんだ!ちゃんと聞け!」

 

「は、はい!」

 

 呆然としていた道成に雷門のキャプテンとしての自覚を持たせるべく、呼び付けて練習メニューを伝える凪人。道成は慌てながらもそれを良く聞いてメモを取る。

 

 その様子を見て稲森は図々しく押し掛けて迷惑をかけている事を申し訳無く思いつつも、星章戦に向けた練習に想いを燃やす。

 

(俺達は何としてもスランプを脱出して、俺の想いをサッカーで灰崎に伝えたいんだ!だから閃電を滅茶苦茶強くした斎村さんの力をどうしても借りたい……!)

 

「はい、斎村君!これが帝国戦以降の雷門の練習と試合のデータです!」

 

「ああ、サンキュー大谷さん」

 

 大谷からタブレットを受け取るも最初凪人は雷門に肩入れする気など無かった。それは強化委員の仕事ではないし、帝国に負けてスランプになったチームなど他にも沢山ある。なのに彼らだけ特別扱いして鍛えるなど不公平な話だ。だからこの話を了承したのは別の理由がある。

 

(……ホンットに酷えなこりゃ。これが仮にも雷門かよ…?一応主人公チームなんだよな?)

 

 データからも分かるスランプの酷さ。ふと雷門に目を向ければ小僧丸と目が合い、次の瞬間には小僧丸は舌打ちをして目を逸らした。そして木戸川と星章の試合を観戦した時のように刀条が小僧丸のあからさまな態度について突っかかる。

 

(………こんな調子で大丈夫か?)

 

「それでどうデスか?斎村君、君から見た彼らは?」

 

 閃電と雷門のメンバーが雑談を交わす中、データを見ていた凪人に趙金雲が話しかけて来る。誰も自分達の会話に耳を傾けていない事から、丁度良いと判断した凪人は返答と同時に疑問を投げかける。

 

「……どうって、酷いもんですよ。……趙金雲監督、何故あいつらのスランプ脱出を俺にさせようとするんですか?貴方なら短期間でそれ以上の成長をさせる事も簡単ですよね?」

 

「買い被り過ぎデスよ斎村君」

 

「しらばっくれないで下さい。一体どういうつもりなんですか?貴方程サッカーを知り尽くしている監督が稲森達をスランプから脱出させる事が出来ない筈がない」

 

 凪人は鋭い目付きで趙金雲を見据えて己の考えを述べる。対して趙金雲はその視線から目を逸らす事なく、凪人の話を聞く。

 

「それを出来るだけの能力があるにも関わらずやらない……。それを俺にやらせる……。つまり、この合同練習を通して貴方には別の目的がある。思えば雷門が唯一勝利した御影専農との試合には貴方は不在だった。考えれば考える程、貴方には謎だらけだ。何か他に思惑がある。違いますか?」

 

 一通り凪人の主張を聞いて趙金雲は黙り込む。しかし数秒程間を置いてから神妙な雰囲気を醸し出して口を開く。

 

「……斎村君」

 

「……」

 

「考え過ぎデス」

 

「……は?」

 

 おちゃらけた笑顔であっさりと凪人の考えを一蹴する。これには流石に凪人も素っ頓狂な声で呆けてしまう。

 

「頭が良いのは結構デスが、深読みし過ぎデスね。君の推測通りならもっと直接色々とやりますよ。第一、稲森君が風丸君に合同練習への参加を申し出たのは私も予想外でしたカラ」

 

「……だったら御影専農戦で貴方が不在だった理由は何ですか?あの試合で貴方がいなかったのは何か雷門を成長させる思惑があったはずです」

 

 まだ趙金雲の言い分に納得出来ていない凪人を他所に今度は風丸が質問する。すると趙金雲の表情が固まる。それを見て凪人も風丸も何かやましい事でもあるのかと思い、更に問い詰めようとした時、大谷が口を開いた。

 

「あ、その時は監督、警察に捕まってたんですよ」

 

『はぁ!?』

 

 衝撃的な一言に閃電、帝国全員が目を丸くして、趙金雲に疑惑の眼差しを向ける。それに気付いたのか、李子分が慌てて訂正を入れす。

 

「ち、違いますよ!親分が悪い事をしたとかじゃなくて、僕のミスで親分のパソコンがウィルス感染してしまって、そこからあらぬ疑いを……」

 

 李子分の釈明により、一応は趙金雲への疑いを晴らす。影山という前例を知っている以上、警察案件というのは本気でシャレにならないのだ。

 すると今度はこれまで黙っていた氷浦が凪人に話しかけてきた。

 

「斎村さん、実はその時からずっと気になってた事があるんです。でもチームの皆に聞いても教えて貰えなくて……」

 

「それを俺に聞く時点で間違ってね?」

 

「博識な斎村さんなら分かると思って…」

 

「……一応、言ってみ」

 

 あの試合における戦術的な話だろうかとアタリを付けながら氷浦の話を聞いてはみるつもりになった凪人。遅れて稲森達は氷浦の言わんとする事に気付く。だが遅かった。

 そして氷浦は口を開いて爆弾を投下する。

 

 

 

 

 

 

「ムフフ…ってどんな画像なんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?」

 

「いや、だからムフフな画像って一体…」

 

「お前は何を言ってるんだ」

 

「監督が捕まった原因は子分君が監督に頼まれたムフフな画像のディスクがウィルス感染していた事なんですけど、そのムフフってどんな画像なのか俺には良く分からなくて……皆に聞いても教えて貰えないんです」

 

「お前は俺に何を聞いているんだっ!?」

 

 真剣な表情で『ムフフな画像』が何なのかを問う氷浦。額に汗を滲ませて返答に困る凪人。雷門、閃電…と女子マネージャーがいる中、こんな話を投げかけるのは完全に拷問だった。

 

 雷門は「やっちまった…」という表情をしており、助けを求めて閃電や帝国を見やれば全員気不味そうに目を逸らす。不動に至っては凪人の置かれた状況を見て普段の憂さ晴らしになっているのか、ニヤついて凪人を嘲笑う。この場に凪人の味方は一人もいない。不動に至っては敵である。

 

「……氷浦」

 

「……はい?」

 

「……俺にも分からん。だがアッキーが答えを分からずにいる俺達を見て笑ってる。つまりあいつは知ってる。アッキーに聞いてみろ」

 

「分かりました!不動さん!」

 

「!?斎村テメェ!!」

 

 だからこの面倒臭いピュアボーイを不動に押し付ける事にした。

 結局趙金雲の思惑と氷浦の疑問は有耶無耶に終わり、時間が押しているのでそのまま合同練習を始める事にした。そして凪人は氷浦に対して苦手意識を持ったのだった。

 

****

 

「頼む!俺の必殺技完成に力を貸してくれ!」

 

「……構わないが、俺達が考えている技をお前らにくれてやる気は無いぞ。あくまでお前自身が考え、編み出そうとしている技の完成を手伝うだけだ」

 

 いざ練習が始まり、雷門のスランプ克服の為にある程度の練習を付けていると、稲森と意気投合していた堂本の口から凪人の指導による必殺技修得という閃電の情報を得た剛陣がグイグイと凪人の前に出て自身の必殺技に関する相談を持ちかける。

 

「大丈夫だ!考えてる技ならもうあんだよ!島にいた頃から思い描いていた必殺技……」

 

「まさか…」

 

「剛陣先輩やばいですって!斎村さんにそんな馬鹿丸出しの相談するなんて!!」

 

 雷門イレブンは揃って嫌な汗を掻きながら剛陣を止めにかかる。閃電イレブンは良く分からずに首を傾げ、凪人は詰め寄る剛陣にたじろぎながらも話を聞く姿勢だ。

 

「ファイアレモネードだ!!」

 

「……ファイア…レモネー…ド……?」

 

 雷門イレブン全員の顔が真っ白になった。終わった…という表情でもある。ふざけているとしか思えないネーミングに凪人もポカンとした表情だ。剛陣はフンッと鼻の穴から息を吹き出す。

 

「な、なんだ…?ファイア…レモネード?」

 

「炎なのか炭酸ジュースなのか……どっちなんだ?」

 

「僕達に聞かれても知りませんよ!元々はファイアトルネードを間違って覚えたんですし!!」

 

 ファイアレモネードとは如何なる技なのか。意義があるのかどうかも疑わしい議論を雷門と帝国と閃電で交わす中、凪人は口を開いた。

 

「それで?」

 

『え?』

 

「それで……お前の中ではどういうイメージなんだ?そのファイアレモネードという必殺技は?お前のポジションがFWなのとその性格から考えたらシュート技なんだろう?」

 

 なんと真面目に正面から取り合って来た。真剣な眼差しで剛陣にファイアレモネードの詳細を尋ねた事に驚きを隠せない一同。趙金雲はどこか感心したかのような表情で二人を眺める。剛陣もまた、これまで仲間内ではファイアトルネードの言い間違いと指摘されたり、まともに取り合って貰えなかったりと散々な扱いを受けて来た為、真面目に応対してくれる凪人に一瞬戸惑うも、話を再開した。

 

「お、おう…!ファイアトルネードに炭酸の爆発力を加えたイメージだな!うん!」

 

「……」

 

 凪人はふむ…と少し考え込むと近くにあったホワイトボードを引っ張って来て、ペンで凪人が頭の中で思い描いたイメージを図解して書き込んでいく。剛陣と思われるデフォルメされた人の絵がボールを蹴り出した絵だ。そのボールには炎が纏ってある。

 

「つまりこういう事か。最初に蹴り出した際にはファイアトルネードの様に炎の弾丸シュートな訳だが、ゴールに向かう途中、もしくはキーパーと接触する寸前のところで炭酸が爆発したかのように威力を一気に増幅させる……。シュートの威力が途中で爆発的に上がる訳だからキーパーも対応するのが非常に困難な技だな」

 

「おうっ!それっ!そうだよ!これだよ!俺のファイアレモネード!!」

 

 図には途中から炎が増幅してキーパーを吹っ飛ばす図までご丁寧に描かれる。

 

『………理解したあぁぁぁぁっ!?』

 

 雷門イレブン、それにマネージャーである大谷と神門まで口を揃えて絶叫する。それ程までに衝撃的な出来事だった。あんなざっくりした説明とふざけたネーミングからその技の概要を完璧に理解したのだ。そりゃこうなる。

 

「なんで!?なんでアレで分かるんですか!?僕達も初めて知ったんですけどファイアレモネードの概要!!」

 

「はぁ?これだけ聞けば分かるだろ?」

 

「いや普通分かりません!やばいです!」

 

「うるせーんだよ。お前らの理解力が低いだけ…つかネーミングから一方的に理解しようとしてなかったんだろうが。つーかお前はやばいです以外にその手のボキャブラリーが無いのか?サッカーの前に語彙力を鍛えた方が良いんじゃねーの?」

 

 心底馬鹿を見る目を奥入に向ける不動。剛陣にファイアレモネードについて解説を始める凪人。遠回しに剛陣よりも馬鹿というレッテルを不動に貼られた奥入はショックからか真っ白になってへなへなとへたり込んだ。

 

「にしても剛陣、この技かなり難しいぞ。徐々に威力が上がるならまだしも一瞬で一定以上の増幅となると少なくとも二段階の工程が必要になる。まずはシュートの前にボールを風圧の層で包む事が重要だ。パワーだけじゃなく、一点に特化したテクニックも要求される。多分これ、下手なオーバーライドよりも難易度が高い」

 

「何ィ!?な、なるほど……道理でこれまで必死に練習してもまだ出来ねえ訳だ……!!」

 

「それに前提としてファイアトルネード並の炎系のシュート技が必要だ。こんな風にな」

 

 凪人はボールを右脚で前方ーーーいつの間にか源田が前に立っていたゴールへと蹴り出す。すると普段のファイアトルネード程ではないが力強い爆炎を纏ったシュートが一直線に飛んで行く。

 

 それを待ち構える源田はユラリ…と右掌をボールに向け、右手に球状のエネルギーを薄っすらと…遠くからは目視出来ないレベルに纏って片手で迎え撃つ。

 

「はあっ!!」

 

 ドン…ッ!!と大きな轟音が響き、周囲にその衝撃波が広がる。そしてそれが収まると源田は右手一本でシュートを止めてそこに立っていた。

 

「やるじゃねえか源田。ますます強くなったな」

 

「…フ、お前もな斎村」

 

 剛陣にアドバイスをするはずが、何故か凪人vs源田となっている。その状況を理解し切れていない雷門イレブンに不動が気怠そうに説明を入れる。

 

「挨拶代わりだよ。合同練習をやる時には毎回あの二人で勝負してんだよ。そのついでにそいつのふざけた必殺技のヒントを教えてやっただけってこった」

 

 暗に雷門イレブンを軽視する発言だったが、誰もそれを気にしない。目の前で繰り広げられた勝負があまりにもハイレベルなもので呆気に取られてしまっているのだ。

 

「ま、こんなもんだ。ファイアレモネードとやらは炎のシュートを使えないと修得は出来ないだろうな」

 

「おう!じゃあまずは早速その技を…!」

 

「これは俺の技だ!くれてやるつもりはないっ!」

 

「何ぃ!?」

 

「取り敢えず、まずはパワー増幅の為にシュートを撃つ前に回転をかけて風圧の層でボールを包め。炎のシュートはその後だな」

 

 源田との勝負を終えて色々と剛陣へのアドバイスを始める凪人。そんな凪人を睨みながらも小僧丸は小馬鹿にするように悪態を吐く。

 

「……結局片手で止められてんじゃねぇか。偉そうに指導出来る御身分かよ」

 

「何も分かっていませんねえ」

 

 悪態を吐く小僧丸に背後から話しかけたのは五条だった。帝国との予選試合の際も源田にファイアトルネードを止められた時に小僧丸は五条から似たようなコメントを受けている。それを思い出したのか、少し苛つきながら五条の言葉に耳を貸す。

 

「君にはただ片手で止めたように見えたでしょうが、源田君はあの時パワーシールド発動に必要なエネルギーを右手に集め、それを放出する事なく直接斎村君のシュートにぶつけて威力の相殺をしたのです。源田君の実力は君が思っている以上に高い。そしてそれは斎村君も同じ。

 

ついでに言えば、技自体はファイアトルネードの方が上ですが、総合的な威力は君よりも今の斎村君のシュートの方が断然上です。勿論二人共全く本気を出してはいません」

 

「……何だと!」

 

 五条の解説に憤りを見せる小僧丸。しかし五条は臆する事なく淡々と告げる。レンズの光によってその瞳は外からは見えないが、視線は小僧丸を憐れんでいた。

 

「そもそも何故君はそこまで斎村君を敵視するのですか?ポジションもプレースタイルも君と斎村君ではまるで違いますが」

 

「……」

 

 小僧丸は何も答えない。その敵意の根底にあるのはただの嫉妬であると自覚しているから、答えられない。

 

「……答えたくないのなら、無理に問い詰めはしません。ですがこれだけは言っておきます。

 

まずは認めなさい。斎村君を。そして斎村君と君の実力の差を。それをしない限り、君は本当の意味では強くはなれませんよ」

 

 五条はそれだけ言って小僧丸に背を向けて、割り振られた練習メニューをこなすべく、帝国ディフェンス陣の元へと向かう。小僧丸はそんな五条の後ろ姿を眺めた後、風丸と共に剛陣にアドバイスを語る凪人を見て、拳を固く握り締めた。

 

 そして趙金雲はそんな小僧丸を見て不気味に微笑んでいた。




最初は閃電との練習試合にしようと思ってたけど、主人公が応じない気がして、五条さんの出番捻出を考えてこうなった。ちょっと無理矢理過ぎたかな。
五条さんには主に小僧丸の精神的な成長に一役買って貰います。

【ファイアバレット】
シュート
属性・火
TP ゲーム1・30/ ゲーム2・33/ ゲーム3・28
威力:ドラゴンクラッシュと同等

今回主人公が剛陣に一例として見せたシュート技。元々ファイアトルネード修得の前段階としてフットボールフロンティア編の帝国との予選決勝前に開発・覚えていた技。勿論本編の方でも出ていないだけで使用可能。勿論後付け設定。ファイアトルネードを覚えた時点で用済みの技。豪炎寺や風丸、閃電イレブンも使用可能。
剛陣に伝授したりはしない。

ゲーム風説明文
蹴っとばせ!炎の弾丸キック!!

以下、主人公に対する意識調査。今後の展開にはあまり関係ない。
投票終了。


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ファイアトルネードと決意の叫び

前回のラストでの五条さんの助言で「小僧丸はもう大丈夫」と確信している人多数。流石五条さん。

色々と時間を捻出して漸く書けた。

もしかしたら書き直すかも?


 side三人称

 

 ピッ…ピッ……ピーーーーーー!!!

 

 試合終了のホイッスルが鳴り響く。得点板に刻まれた数字は5と0。ホイッスルを吹いた雷門のコーチ、亀田はピッチに足を踏み入れると閃電イレブンにその手を向ける。

 

「5-0でこの練習試合は閃電中の勝利!」

 

 今の今まで行われていたのは練習試合。閃電中と雷門中の練習試合。ここ数日間の合同練習の仕上げとして閃電、帝国、雷門の三チームでの総当たり戦を行ったのだ。勿論体力と時間の都合上、15分ハーフという短い試合となったが、それでも尚この点差を叩き出す以上、閃電と雷門の実力差が窺い知れるだろう。

 

 因みに帝国と雷門の試合は4-0。閃電と帝国の試合は帝国側の連戦もあり、2-1で閃電の勝利だった。

 

(閃電は連戦なのに……それでも15分ハーフの試合で5点差……!!)

 

 道成は閃電と帝国…この二つのチームの高い実力を改めて目の当たりにする事で打ち拉がれていた。

 化け物級のスタミナ、卓越した基礎技術、安定した連携、迷いのない信頼、強力な必殺技……全てが雷門とは天地の差だ。

 

(これが全国ランキングレース2位に君臨する閃電中……そして、それを弱小から鍛え上げた元雷門イレブン副キャプテン、『雷鳴軍師』斎村凪人……!!)

 

 大会参加校の中で事実上の最強校とまで称される閃電中と自分達の差を目の当たりにし、それと同格とされる星章学園との差を想像する。このままでは……勝てない。

 

 一方で試合を通して雷門のサッカーを見た凪人もまた、雷門を評価する。

 

(俺が合同練習でプレーのアドバイスをして、スランプの大元であるこいつら自身の短所や癖の指摘に柔軟に対応し、改善してみせるか……!この短期間で大いに……それも俺の予想を超えて成長してやがるな。もうスランプも克服したと見て良い…)

 

 雷門は凪人の予想を遥かに凌駕する勢いで成長を遂げていたのだ。これには流石に凪人も驚きを隠せない。

 

(当初の予定じゃ、この試合でも10点差は付けるつもりだったが、半分で抑えられたのが成長の証拠と言えるだろう。……俺から見た場合の話だがな)

 

 だが傍目から見れば結局はボロ負けしているので、彼らに成長の実感は無いだろう。それに閃電相手に15分ハーフで5点差を付けられているのでは、それと同格のチームである星章を相手にしても似たり寄ったりな結果になってしまう。

 

 最大のイレギュラーたる趙金雲の存在を無視した場合の話……になるが。

 

(あの監督はサッカーを知り尽くしている。見た目に反して理知的で思考もずば抜けて優れている。星章には天才ゲームメイカーの鬼道とあの久遠道也監督がいるとしても、趙金雲がいる限り、星章が勝つなんて予想は無意味だ。この男は何をするのか全く読めないからな……)

 

 星章に所属する二人の天才戦術家すら霞むのではないかと思ってしまう程の優れた采配。これまでの試合は雷門の力不足によって、敗北を喫していたが、逆に言えば雷門は実力さえ一定水準に達していれば、趙金雲の策を十全に活かし、格上相手に勝利を収める事も充分に可能なのだ。

 

 凪人が持つ原作知識を含め、彼が知る限り監督として趙金雲に比肩する存在は先に挙げた久遠道也に影山零治や円堂大介くらいなのではないかと思える程だ。

 

「斎村さん、どうぞ」

 

「ああ。ありがとう」

 

 赤木からスポーツドリンクとタオルを渡されて、水分補給をして、汗を拭く。星章戦での策を講じているであろう趙金雲に視線を向ければ変わらず我関せずと言わんばかりに携帯ゲームに興じている。

 

(……個人的には次の試合、久遠監督と趙金雲の監督としての勝負に一番興味がある。選手層は星章の圧勝。しかしそれも監督の采配次第でいくらでもひっくり返せる。勿論鬼道も趙金雲への警戒は怠ってはいないだろうが……)

 

 何れは閃電への脅威になり得るであろう趙金雲の名采配。戦術を考案する司令塔としても、出来れば彼から直接学びたいと思えるものは多い。

 

 そんな感じで趙金雲の事を考えていると、ふと背後から強い嫌悪感を滲ませた気配が近付いて来た。凪人は振り向く事なくその気配の主に声をかけた。

 

「……お前から俺に近寄って来るなんて珍しいじゃないか。……何か用か?小僧丸」

 

「チッ…どうなってんだお前の気配察知の勘はよ」

 

 先程の練習試合でも不意打ちに近いブロックを仕掛けても全て躱されるか、防がれるかでプレーを対処された小僧丸は忌々しそうに口を開く。

 

(俺からすれば察知以前の問題なんだけどな)

 

 あれだけの嫌悪感を発していれば嫌でも気付く。気配をなるべく殺して近付いても台無しだ。嫌悪感に影響されたプレーは読み易い。動きもタイミングも手に取るように分かってしまう。

 

「で、態々何の…「俺と勝負しろ」……あ?」

 

 何の用かと問う前に突き付けられたのは挑戦状。小僧丸はまっすぐに凪人を見て己の力を試すかの如くその瞳に熱を込める。

 

「ファイアトルネードの使い手の一人として、ストライカーとして」

 

****

 

 閃電、雷門、帝国のメンバーが見守る中、帝国学園のグラウンドの中心にて小僧丸と凪人が並び立つ。

 

「じゃあ改めてルールはこうだ。このセンターサークルからペナルティエリアまでボールを奪い合いながらドリブルして進み、先にゴールを決めた方の勝ち。それで良いな?」

 

「ああ。ぶっ潰してやるよ」

 

「あいつ!この期に及んでまだあんな口を…!」

 

 初めて会った時から小僧丸とは折り合いの悪かった刀条は小僧丸の凪人に対する口振りに難色を示す。しかしそんな彼の肩を掴み、それを諌めたのは……、

 

「……五条さん!?」

 

「ここは様子を見ましょう。彼が斎村君にあそこまで噛み付く理由は分かりませんが、きっとそれは彼にとって譲れないものなんでしょう。私達は小僧丸君について何も知りません。彼の斎村君に対する言動や態度は確かに褒められたものではありませんが、彼のその点を咎める前に、私達は彼について深く知らねばなりません。それには彼のサッカーを斎村君との勝負という形で見るのが一番良いと私は思います」

 

「……まぁ、五条さんがそう言うなら」

 

「五条君がそこまで言うなら、この勝負にも試す価値はあるか」

 

「ハハハッ!五条さんが言うなら大丈夫だな!」

 

「お前ら五条への信頼半端ねぇな…」

 

 五条の説得により、納得した様子の刀条や海原、堂本。対して五条一人がそう言っただけであっさりと納得してしまった閃電メンバーを見て少々引いた様子の不動。

 何故ここまで五条が閃電からの信頼を勝ち取っているのか不動には分からない。不動が帝国に編入して来た時には既にそんな感じだったのだ。

 

 そんな外野を放置して亀田が吹いたホイッスルで凪人と小僧丸の勝負が始まった。まずは小僧丸が先に動いてセンターサークル内のボールを確保してゴールに向かって走り出した。

 

「先手必勝!」

 

「…良いバネだ」

 

 ドリブルをしてゴールに向かう小僧丸。そのずんぐりむっくりした体型と短い足からは予想し辛い意外なスピードでどんどん突き進む。

 

「が、ドリブル中の警戒が甘い。スピードも体型からすれば大したもんだが、全体的なレベルとしては低い」

 

 しかしその小僧丸に凪人は一瞬で追い付いた。そしてそれに反応する暇も与えずにボールと小僧丸の間に割り込み、滑り込むようにボールをカット。そのまま二人の距離も安全圏まで離れた。

 

「何だと!?」

 

「正面突破に長けてはいるが、その分横や背後への注意が散漫になっているぞ」

 

「…くそっ!!」

 

 急いでボールを奪い返そうと凪人を追うが、追い付けない。基礎的なスピードが段違いな上、そのスピードを殺さないドリブルの技術もまた、凪人と小僧丸とでは天と地程の差があった。

 

 結局追い付く事もままならず、ペナルティエリアに入った凪人はそのまま鋭いシュートを撃ち、ゴールネットを揺らした。

 

「……斎村の勝ちだな」

 

 佐久間の判定に異議を唱える者はいない。予めルールを決めて、それに則って行ったのだ。素人でも分かる。

 しかしこの結果に彼は納得しない。目を見れば凪人には分かった。だからこそ、この蟠りを解消させる為に口を開く。

 

「まだだ」

 

「斎村…?」

 

「まだ続けるんだろ?」

 

「……当然だ!!」

 

 流石にこれ以上合同練習を滞らせる訳にはいかないので場所を変えての勝負になったが。帝国の二軍用グラウンドにて何故かこの勝負を見守ると決めた五条と何か思う所があるらしい稲森の見学の元、小僧丸は凪人に同じ条件で挑み続けた。

 

 ボールを先に確保される。ディフェンスを仕掛ける間もなく、振り切られてゴールを決められる。

 

 ボールを先に取ってもすぐに奪われる。奪い返そうにもスライディングもブロックも全て躱される。ゴールを奪われる。

 

 何度も何度も同じような事の繰り返し。小僧丸のプレーはオフェンスもディフェンスも何一つ通用せず、力の差を見せ付けられ、点差ばかりが一方的に開いていく。

 

「小僧丸…なんでそこまで……」

 

「ククク…さてねぇ。彼なりの意地ではあるんでしょうが」

 

 稲森はあそこまで敵愾心を剥き出しにして凪人に挑み続ける小僧丸が理解出来ず、五条はただ慇懃無礼に含みのある笑みを浮かべる。

 

(クソッ…!全く埋まらないこの差は……一体何だ!?)

 

 どれだけ挑んでも良いように翻弄され、ボールに触れる事もままならない。必殺技を使わせる事も出来ない。

 汗だくで息を切らして四肢を地に着ける小僧丸と汗も殆ど掻かず、呼吸も安定して悠然と小僧丸を見下ろして立つ凪人。非常に対照的な絵面だ。

 

「もう終わりか?俺に突っかかる割には大した事ないな」

 

「んだと…!!」

 

 ボールを踏み付ける凪人を睨み、突進していく小僧丸。凪人からボールを奪おうとタックルを仕掛けるもそれは凪人を弾くには至らない。そして同じようなタックルをまたしようとした瞬間、凪人は身を引く。そして小僧丸のチャージは空振り、そのまま地面に倒れ臥す。

 

「ぐ…!ぐぐ……!!」

 

「小僧丸……」

 

「稲森君、手出しは無用ですよ」

 

 凪人はそのままゴールに向かわずに倒れる小僧丸に語りかける。

 

「……お前は実力差も分からないような奴じゃないだろ?ここまで付き合ってはやったが、何でそこまで…」

 

「うるせぇ……一勝くらい、てめぇに一矢報いなきゃ……俺の中で次はねぇんだ……!!今それが出来なきゃ、その座を奪い取れねぇんだ…!!」

 

 倒れながらも必死に語る小僧丸。その言葉を聞いて何か思ったのか、凪人はボールを足の甲の上に乗せて言った。

 

「立て。これがラストだ」

 

「……」

 

「終わらせて練習に戻る。その前に見せてみな。お前のファイアトルネードを」

 

 ファイアトルネードの使い手として勝負しろと小僧丸は最初に言った。だがこれまでお互いにファイアトルネードを使ってはいない。故に最後の決着に凪人はファイアトルネードを選んだ。小僧丸が立ち上がると凪人はすぐにボールを蹴り上げて、飛び上がる。

 

「……これだけは、負けねえ!!」

 

 小僧丸も遅れて飛び上がり、互いに右回転で炎を纏う。その光景を見て稲森と五条はそれぞれ違う反応を見せる。

 

「二つのファイアトルネードが…!」

 

「ぶつかり合う事で彼の心情を見極めるつもりですか……」

 

「「ファイアトルネード!!!」」

 

 正面からぶつかり合う二人のファイアトルネード。しかしそれぞれの脚に纏わり付く炎の勢いも熱量も規模も何もかもが凪人のシュートの方が格段に上だ。基礎能力で凪人が上回っており、技の熟練度も質も凪人が上ならば小僧丸に勝ち目などないのだ。

 

 しかしそれでも小僧丸は自分のファイアトルネードを以ってして凪人のファイアトルネードを押し切ろうと踏ん張る。

 

「この技だけは…ファイアトルネードだけはお前に負ける訳にはいかねぇんだ!!!」

 

「「!」」

 

 鬼気迫る表情で叫ぶ小僧丸。その顔を見て、言葉を聞いた凪人と五条は漸く理解する。小僧丸が凪人を敵視する理由を。

 

(……そういう事か)

 

「ククク……成る程。ファイアトルネードDD…ですか。豪炎寺君も罪作りですねぇ」

 

 高熱の炎がぶつかり合う中、凪人は蹴り込む力を強め、気力を高める事で脚から放たれる爆炎を増幅させる。

 

「なっ!?」

 

「そういう事なら本気でやってやらあ。修也の相棒の座をそう易々と他にくれてやる気は微塵もねぇんだよ」

 

「お前…!まさか今までこのファイアトルネードは本気じゃなかったってのか!?」

 

 驚愕する小僧丸に対し、凪人はこれ以上何も答えず、ただ眼前の敵を押し切る為に全力を注ぐ。そして炎の勢いが完全に負けた小僧丸はボール越しに弾き飛ばされ、そのまま落下。凪人は空中で炎を纏って回転するボールを蹴り出してゴールにぶち込む。そして着地。

 

 落下した小僧丸は仰向けに倒れ、空を見上げる。

 

「……負けた。ファイアトルネードでさえも……!!」

 

 憧れた男の技であり、己の自信そのものであった必殺技。それを同じ技で何よりも気に食わない男に捩じ伏せられた。

 目の奥が熱くなる。ただ試合で負けるよりも遥かに耐え難い気持ちだ。

 

「くそおおおおおおおっ!!!」

 

 屈辱の果てに絞り出した叫びは無力感に包まれていた。

 

「彼が斎村君にあそこまで敵愾心を抱く理由は昨年の世宇子との決勝で見せた、豪炎寺君とのファイアトルネードDD。豪炎寺君の隣に立つ“相棒”という立場に嫉妬していた……という訳ですか」

 

「そっか…。豪炎寺さんは小僧丸の憧れ……一緒にファイアトルネードを撃つ事は……小僧丸にとって特別な事だったんだ」

 

 五条は小僧丸の心情を理解し、稲森も納得する。豪炎寺と並び立つ凪人がある意味では羨ましく、邪魔だったのだと。凪人もそれを理解したのか、溜め息を吐く。

 

「修也の相棒の座を奪う…ねぇ。悪いがさっきも言った通り、くれてやる気はねぇし、修也がファイアトルネードDDのパートナーに俺より弱いお前を選ぶ事も絶対ねぇよ」

 

「っ!」

 

 凪人はそれだけ言って小僧丸に背を向けて二軍グラウンドを出ようと歩き出す。これだけの為にかなりの時間を削ったのだ。そろそろ合同練習に合流しなければならない。

 

 しかしその前に小僧丸は叫ぶ。その目元を腕で覆って隠して。

 

「分かってんだよ!嫉妬してるだけなのも!!筋違いの逆恨みだってのも!俺がお前にまだ勝てねえのも!!」

 

「小僧丸……」

 

「けどっ!それでも……!!俺はお前より強くなってやる!!」

 

「!」

 

「良いかっ!!俺は…近いうちに絶対お前に勝ってやる!!お前に勝って!!日本代表として世界を相手に!!豪炎寺さんとファイアトルネードDDを決めるのは!!この俺なんだ!!!」

 

 声を震わせながら叫ぶ小僧丸。その話を聞き終えて稲森は何も言えなくなり、五条は何処か満足そうな笑みを浮かべる。そして凪人は振り返って好戦的な笑みを浮かべながら返答した。

 

「ああ…いつでもかかってきな。何度だって負か(相手)してやる」

 

 こうして、小僧丸の中にあった蟠りは少しだけ解けた。それ以降は精神的にスッキリしたのか小僧丸のプレーはキレが良くなり、ほんの少し……あくまで少しだけだが、凪人に対する態度も僅かに軟化した。

 

 

 そして閃電、帝国、雷門の合同練習は幕を閉じ、

 

 

 遂に雷門中と星章学園の試合の日が来た。




次回、伊那国・雷門vs星章。

色々と苦しい特訓を乗り越えてきたしそろそろ雷門も真っ当に活躍させたい。(帝国に負けたら強くなる補正+合同練習によるスランプ克服と実力UP+稲森、小僧丸の精神的成長+その他諸々)

小僧丸の主人公に対する態度は軟化はしましたが、仲良くなったりはしません。キャラ的にライバル視する感じでしょうから。


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リベンジマッチ!雷門vs星章 前編!

これまでの事からどうせまた三話くらいで終わるだろとタカを括って今回は「前編」と付けました。

これで四話以上行ったら私には計画性が無いという事になるのだろうか?なるんだろうな。


 side三人称

 

 -雷門スタジアム

 

 今日はいよいよフットボールフロンティア予選大会、関東Aグループの最終戦、雷門中vs星章学園の日だ。この試合の結果によって、全国大会に出場するチームが決まる。

 

 星章学園が勝てばそのまま彼らの全国大会への進出が決まり、逆に雷門が勝てばその枠は木戸川清修のものとなる。そして引き分けならば星章と木戸川清修の双方が全国大会へ出場する事になる。

 

『フットボールフロンティア予選もいよいよ最終戦だぁ!対戦相手が大会を棄権した事により、初戦でぶつかった雷門中と星章学園が再びぶつかる事になりましたぁ!!』

 

 そんな重要な試合を見守る…はずだった斎村凪人は少しばかり辟易した表情で目の前にある物体を見ていた。

 

「……野坂、一応聞いておくが……これはなんだ?」

 

「スタジアムグルメ、棘もじゃ焼きそば雷おこしサンドです」

 

「なんだこの炭水化物に炭水化物を合わせたカロリーのバケモンは。大体焼きそばとサンドイッチを同時に食う気になれるか。てゆーか、和菓子をパンで挟んで食うなんて発想よく思い付いたなオイ。胸焼けするわ」

 

 先程偶然鉢合わせた野坂が持っていたスタジアムグルメを見て凪人はドン引きしていた。ボリュームが異常というのもあるが、それ以上に焼きそばに雷おこしのサンドイッチをセットするというある種の凶行にだ。

 

「これは敢えて炭水化物に炭水化物を重ねているんじゃないでしょうか。試合観戦にはエネルギーを使いますからね。焼きそばからサンド、サンドから焼きそば……どちらから入っても楽しめる上にサンドから焼きそばからサンドというように焼きそばをサンドでサンドする形でも楽しめます」

 

「焼きそばサンド焼きそばサンドうるせーよ!ゲシュタルト崩壊起こすわ!そもそもそのサンド自体、雷おこし挟んでんの忘れんな。和菓子挟んでる時点でまともなサンドとして成立してねーよ」

 

 流れるようにツッコミを連発する凪人に対し、よく分からない解説でこの焼きそばとサンドイッチについて語る野坂。

 

「つか何この焼きそばの上にある棘って…」

 

「さあ?取り敢えず西蔭の分は棘大盛りにして貰っています」

 

「それただの嫌がらせじゃね?」

 

 後から来るであろう西蔭に僅かながら同情しつつ、凪人はふと気になった事を尋ねる。

 

「つーかお前、行く先々のスタジアムで観戦中に買い食いしてるの良く見るけど、最早ただのB級グルメ担当になってねーか?」

 

「その自負はあります」

 

 自覚ではなく、自負と言う辺り、野坂のグルメ趣味の真剣さが伺える。仮にも『アレスの天秤』を背負う彼がこんな調子で大丈夫なのかと思いつつも、待ち合わせがあるので野坂とはここで別れる事にする。

 

「あ、待って下さい。折角ですから雷おこしサンド、お一つどうぞ」

 

「この流れで普通それ渡すか?」

 

****

 

 そしてスタジアムのピッチでは雷門イレブンと星章イレブンが並び、睨み合う。そこには当然星章のエースである灰崎と強化委員としてこのチームを成長させた、『ピッチの絶対指導者』鬼道有人の姿があった。

 

(この試合は絶対に負けられん。この試合の結果次第で全国大会に進めるか否かが決まる。そしてそれはFFIにおける日本代表の選考にも影響してくるだろう……)

 

「よォ、てめーらのサッカーごっこを今日ここで終わらせてやるよ」

 

「俺達は俺達のサッカーをやる。そして勝つ!」

 

「!……稲森」

 

 最初は嘲笑の笑みを浮かべていた灰崎だが、稲森は何処までもまっすぐに灰崎を見て、返答して来る。そんな稲森が気に入らないのか、灰崎は少しばかり目付きを鋭くして彼を睨んだ。

 

 そして灰崎への宣言を済ませた稲森はチームメイトの元へ駆け寄る。全員が揃ったのを確認した道成はキャプテンとして仲間達を鼓舞する。

 

「これまで俺達は幾度となく敗北し、辛酸を舐める事になって来た。だがそれでも敗北から得るものは沢山あった!」

 

「ああ。最初に戦った時より、確実に強くなっているはずだ!」

 

「スランプだって乗り越えたしな!」

 

「絶対豪炎寺さんを全国に送り出すんだ!!」

 

「皆!この試合、必ず勝つぞ!!」

 

『おおーっ!!』

 

 雷門側は気合充分。拳を振り上げ、各々がポジションに付く。

 

(勝負する前に気持ちで負けてちゃ駄目なんだ。この試合、絶対に勝つ!!)

 

 新たな決意を胸に、雷門と星章は全員がポジションに付き、試合開始のホイッスルを待つ。前半は星章のボールで試合が始まる。

 

『雷門中対星章学園!星章と木戸川清修の全国大会進出を賭けた運命の一戦が始まります!!いざキックオフ!!』

 

 実況に合わせて試合開始のホイッスルが鳴り響く。星章は鬼道がボールを最初に蹴る。そしてまず灰崎が前方に飛び出した。

 

「寄越せ!鬼道!!」

 

「……」

 

 灰崎の要求を飲み、まずは様子見も兼ねて鬼道はボールを灰崎へとパスをする。すると灰崎は雷門のゴールを睨み、全力キックでボールを蹴り出した。

 

「食らいやがれえぇぇっ!!」

 

 鋭く、周囲の空気を巻き込んで竜巻をコーティングされたシュートはセンターサークルからペナルティエリアの距離を軽々と飛び越え、雷門イレブンに反応する暇も与えずにその隙間を潜り抜けてゴールネットへと突き刺さった。

 

「……え?」

 

 0-1

 

『ご、ゴォール!!試合開始から僅か数秒で星章が先制!!決めたのやはりこの男ォ!「フィールドの悪魔」灰崎凌兵だぁぁーーー!!!』

 

 対して雷門は今の失点を愕然とした表情で見て、表情を暗くする。

 

「マジかよ…」

 

「まだ一歩も動いてないのに……!?」

 

「あんなシュートを撃たれたら…」

 

「スランプを克服しても、切り札があっても勝ち目無いでゴス……!!」

 

「チッ…あん時のお返しって訳か」

 

 小僧丸の脳裏に過ったのは初めて雷門と星章がぶつかった日の先制点となったファイアトルネード。開始早々に決めたあの1点の趣返しとして、灰崎はそれをも上回る早さで先制点を挙げたのだ。

 

「どうだ?稲森、これが絶望的なまでの力の差って奴だ…」

 

 灰崎はこの1点で稲森の顔に絶望を植え付けようと思っていたのか、ちょっとしたドヤ顔で実力差を語る。しかし稲森の表情にそれによる憂いはない。むしろ笑っていた。

 

「っ…!」

 

 そして稲森は灰崎の挑発を意に介する事なく、仲間達を励ましていく。

 

「皆ごめん!シュートを簡単に撃たせ過ぎた。俺達FWがガンガンプレッシャーかけていくから、ディフェンスもまずはゴール前をガッチリ固めよう!」

 

 そして稲森に励まされたチームメイト達の顔も次第に明るくなっていく。それが灰崎を苛立たせた。

 

「稲森ィ…!!その打たれ強さだけは褒めてやる……!!だが、何処までそんな顔でいられるかな…?」

 

「いくぞ!まだまだこれからだ!!」

 

 そして今度は雷門のボールで試合再開。彼らは星章のゴールを奪う為に駆けて行く。

 しかしそんな稲森が心底気に入らない灰崎は即座に稲森からボールを奪い、雷門陣営に駆け上がる。

 

(絶望って奴を見せてやる!!俺のサッカーはてめーらのとは違う!始まりも!ボールを追う理由(わけ)も!何もかもが!!)

 

「てめーらのごっことは違えんだよォォォ!!!」

 

 小僧丸や剛陣、雷門のFWを軽々と突破し、中盤に差し掛かる。当然、雷門のMF達も縦横無尽に駆け回る悪魔そのものと言える灰崎に対抗出来るはずもなく、ただただ翻弄される。

 

(灰崎……お前の抱える闇は分かっている。闇が深く、影が濃い程、太陽の眩しさは刺さって来るんだ)

 

 鬼道はそんな灰崎の後ろ姿を追いながら、かつて自分を変えた太陽(円堂)と今灰崎を変えようとしている太陽(稲森)を重ね合わせる。

 

(稲森ィ…!お前如きに俺のサッカーを語る権利は無え!!)

 

 しつこく喰らい付いて来る稲森を引き離す為、灰崎は一旦折緒にパスを出し、それに稲森が驚いた隙を突いて一気に加速して引き離し、反射的に返されたパスを受け取ってまた走り出す。

 

(俺のやろうとしている事はお前如きに止められねえんだよ!!)

 

 灰崎はかつてのただ暴れるだけの悪魔ではない。チームメイトと連携をする事が出来るエースストライカーだ。彼自身も成長し続ける。故に雷門がどれだけ成長していようと、灰崎と星章学園は止められない。

 

「灰崎の奴、荒れてんなぁ」

 

「だが連携に滞りもミスもない。荒々しいプレーとは裏腹に冷静な思考も残っているだろう」

 

 凪人と豪炎寺は観客席から灰崎を冷静に分析する。豪炎寺は今回全国大会への進出がかかっているこの試合を見逃す訳にはいかず、こうして観戦している次第だが、やはり今のペースでは雷門の勝利どころか引き分けすら期待出来ない。

 

「その灰崎をどうにかしないと雷門は攻撃に転じる事も出来ねぇ。それが出来たところで鬼道を封じなきゃカウンター食らって終わりだな」

 

「……だが、お前は期待しているんだろう?雷門ではなく、趙金雲に」

 

「……調べたらかなり不可解な経歴持ってたんだよ。あのおっさん。あのスタンフォード大学を主席卒業後、カンフー師範、軍人、野球選手、サッカー選手を三年ずつ転々と渡り歩いてから満を持してサッカーの監督をしたらたったの一年で引退してたんだ。その後10年くらいスポーツ界の歴史から姿を消していた。んでその理由が世界サッカー協会に除名処分を下されたんだと。サッカーへの批判的行動を取ったのが原因らしいんだけど、あれだけサッカーを知り尽くした男がそんな事をするとは思えねえ。どうにもキナ臭いんだよ」

 

「……それは、確かにそうだな」

 

 凪人は閃電中のスポンサー企業である神童インストルメントと知り合いのツテで得た趙金雲についての情報を豪炎寺に語り、それを知った豪炎寺も驚きを隠せない。あの趙金雲とは本当に何者なのか。

 

「けど、今はそれは良い。それより気になるのは……これだけ実力差がかけ離れたチーム同士で、圧倒的不利な雷門を星章相手にどうやって勝たせるつもりなのか……鬼道やあの久遠監督をも上回る戦術を編み出せるのか……俺はそれがとても気になる。この試合の価値はほぼあのおっさんの戦術にあると言っても良い」

 

****

 

 攻める手を休めない灰崎に雷門は圧倒され続ける。仲間達のアシストを受けてゴール前に躍り出た灰崎は飛び上がり、全力を込めた咆哮によって八匹のペンギンを召喚する。

 

「うおおおおっ!!パーフェクトペンギン!!」

 

 ボールを器にしてその中にエネルギー体としてペンギン達は入り込む。そんなボールを灰崎がボレーキックで蹴り出すと同時にペンギン達は再び姿を見せる。すると今度はゴールに向かうボールの中に再び入り込むだけでなく、ボールを媒体に融合を果たし、金色の巨大ペンギンとなって雷門のゴールへと襲いかかる。

 

 当然、これ程のシュートが海腹が止められる訳がない。彼女はなす術なく弾かれ、ゴールネットにペンギンがダイブする。

 

 0-2

 

『ゴール!!灰崎、新たな必殺技で星章に追加点!!既に2点ものリードだぁーー!!』

 

 雷門は誰もが灰崎による無双状態に驚愕を禁じ得ない。前回の13点もの大差を付けられての敗北すら霞む程の圧倒的な力。

 灰崎は自陣に戻る途中、すれ違い様に稲森に苛立ちを向けて吐き捨てる。

 

「これが俺のサッカーだ。てめぇは精々負け試合を楽しんでろ」

 

 しかしそんな灰崎を仲間達は放ってはおかない。

 

「どうしたんだ灰崎、勝つのは分かってる試合だろ?」

 

「何故稲森をそこまで敵視するんだ?」

 

 折緒と水神矢に問われ、灰崎はイラつきながら答える。

 

「ムカつくんだよ。勝手な綺麗事を並べる奴が!」

 

 彼の脳裏には先日の稲森の言葉が過ぎる。

 

『サッカーはすげー楽しいのに、灰崎は純粋にサッカーをやりたいって思った事は無いの?』

 

(そんなもんに何の価値がある?俺はサッカーに楽しさなんざ求めてねぇんだよ!!!)

 

 全ては幼馴染であり、大切な友達である茜の為に……。彼女の心を破壊し、廃人にした全ての元凶が『アレスの天秤』だと分かったその時から灰崎はその復讐の為にサッカーをしてきた。

 

 王帝月ノ宮を叩き潰し、『アレスの天秤』に何の意味も無い事を証明する。その為だけにサッカーを始めたのだ。

 

 それなのにお門違いの意見を押し付けて来る稲森明日人が……灰崎にとっては目障りで、どうしようもなく気分を騒つかせるのだ。

 

 稲森の言葉を……価値観を認めてしまえば、自分の……復讐の為のサッカーが間違っている事になってしまう。だからこそ稲森の全てを叩き潰したいのだ。

 

「……イライラさせやがって」

 

 一方、雷門側のベンチでは灰崎達星章の勢いとこの劣勢に対し、コーチである亀田とマネージャーの大谷と神門は苦々しい想いで観戦していた。

 

「やっぱり前回の試合からの短期間で実力差が埋まるはずもなかったんだ……!」

 

「このままじゃ前回の二の舞ですよ…!?」

 

「監督〜!」

 

「心配いりませんヨ」

 

 しかしそんな三人の弱音を趙金雲はあっさりと一蹴し、ニヤリと薄ら笑みを浮かべて続ける。

 

「この試合、予め出しておいた指示以外は好きに動いて良いと彼らには伝えてありマス。……今の彼らには必要以上の作戦はいらないでショウ。……恐らく斎村君は私の作戦目当てでこの試合を観戦しているのでショウけど…」

 

「……?何で斎村君…?」

 

「彼は自分で思っている以上に、このチームを強くしてしまったのデス」

 

 そしてまたフィールドの上では3点目を奪い取りに灰崎が爆走する。この試合では徹底的に雷門を打ち負かし、彼らのメンタルを粉々に打ち砕くつもりなのだろう。

 

「おおおおおおっ!!」

 

「これ以上…好きには、させないっ!!」

 

 しかしFWであるにも関わらず、ディフェンスに回って来ていた稲森が死角からのスライディングを仕掛け、遂に灰崎からボールを奪い取る。その様子を鬼道は感心したように見ていた。

 

「ほう…」

 

「氷浦っ!」

 

「ああ!氷の矢!!」

 

 そのままダイレクトに氷浦へとパスを繋ぎ、彼もまた必殺技でボールを前線へと届ける。それを受け取ったのはエースである小僧丸だ。

 

「決めてやる!このシュートは豪炎寺さんと並び立つ為の第一歩だ!!」

 

 そのままファイアトルネードを撃つ為に星章ゴールに接近する小僧丸。しかしDFである星章キャプテン、水神矢はそれを許さない。

 

「通させるか!ゾーン・オブ・ペンタグラム!!」

 

 水神矢を中心にドーム状のエネルギーが展開され、それに包囲された小僧丸の動きが極端に遅くなる。その自覚症状はあるようで、苦々しい表情になってシュートではなく、味方へのパスをしようとボールを剛陣に向けて蹴り出す。

 

 しかし、ボールの軌道はエネルギードームの外を出た瞬間に全くの別方向へと逸れた。これが水神矢の必殺技、ゾーン・オブ・ペンタグラムの効果なのだ。

 

 そしてコースが大きく逸れたパスは鬼道へと向かって行く。また星章のターンかと思いきや、鬼道とボールの間へと道成が割り込み、ボールをその胸でトラップした。

 

「何!?」

 

「道成!こっちだ!」

 

「ああ!剛陣っ!!」

 

 即座にパスを要求した剛陣へと迷いなくボールを蹴り渡す道成。ボールを受け取った剛陣は他のDFが小僧丸と稲森ばかりをマークして、彼自身は完全にスルーされていた事からディフェンスも間に合わず、すぐにゴール前へと辿り着く。

 

(ずっと練習して来たんだ…!今がここぞって時だよな!父ちゃん!!)

 

 過去編とか読まないとよく分からない感じのモノローグ語りをしつつ、剛陣はシュートを撃つ宣言をする。

 

「食らえ!これが俺の必殺技!」

 

「トルネードですよ!剛陣先輩!」

 

「いや、斎村さんのアドバイスがあったんだ!あいつはファイアレモネードを完成させたんだ!」

 

 日和はいつものように剛陣の間違いを訂正するが、道成は真剣に剛陣のやろうとしている事を予測した。そして直後に剛陣の周囲が炭酸ジュースのような水っぽいエネルギー的なものに包まれ、彼はボールを踏み付けてゴールを睨む。

 

「ふんっ!」

 

 ボールを踏んでその反動で宙に浮かせて炭酸パワーと水分、風圧の層でボールを包む。そしてそれが落ちてくるタイミングに合わせて炎のエネルギーを内包した右脚によるシュートをぶちかました。

 

「ファイアァァ…!レモネェード!!!」

 

『!!』

 

 フィールドだけでなく、スタジアム全域に衝撃が走る。蹴り出されたボールはジャイロ回転しつつ、注がれた炎と炭酸のエネルギーを放出して纏う。炎の周りを緑色に変質した炭酸エネルギーもなんか良い感じにジャイロ回転してゴールへと向かう。

 

「もじゃキャッチ!!」

 

 それを迎え撃つキーパーの天野。その右腕から羽毛のような紫色のもじゃもじゃが展開され、ファイアレモネードを包み込む。しかしファイアレモネードの炎がなんかこう…ぶわ〜っともじゃもじゃを焼き尽くして消し飛ばす。

 

 もじゃもじゃを失った天野は直接ボールを掴みにかかる。幸い、もじゃもじゃを焼き消した炎はそれによって鳴りを潜めている。止められない威力ではなかった。そのままなら。

 

 天野が受け止めにかかってるボールはエネルギーが今にも爆散しそうな……なんかそんな感じで破裂しそうになっている。

 

「な、なんだこれは!?」

 

 そして破裂の瞬間に合わせて剛陣は後ろ側に向けていた左手を前方に向けて、握りっ屁でも解放すんのかと思わせる感じで掌を開いてそこから緑色の淡いエネルギーを解放する。

 

「SPLAAAAAAASH!!!」

 

 瞬間、ペットボトルのキャップを開けたら炭酸の所為で中身が噴き出て来たのと同じようにボールから炎とレモネード炭酸が爆発して、その衝撃が広がり、同時に焼けたレモンの匂いも充満する。

 

 そして天野とボールは星章のゴールネットを大きく揺らした。

 

 1-2

 

「バカなぁっ!?」

 

『ゴォール!!雷門、1点を返したぁぁぁっ!!その得点を挙げたのはまさかの剛陣だぁぁっ!!』

 

 歓声が上がる中、予想外の事態に星章イレブン……中でも灰崎、そして鬼道までもが状況を理解し切れずに呆然と雷門を……剛陣を見ていた。




主人公「……ゑ?」

いやぁこの試合、改変が難しい。良い意味で勢いがあり過ぎて改変の余地を見つける、割り込む要素を考えるのも一苦労です。とりあえず監督のハリボテは無しという改変をしました。

ついでに剛陣の技の描写を所々いい加減な感じにしてみました。本質はギャグキャラだと思ってるので。


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