愛した人と学戦修行 (白夜132)
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プロローブ

リリカルなのはの話は、キャラの細かい設定がまだ定まってないため、なかなか話が書けなかったので細かい設定が決めやすかったアスタリスクの話を書いていきます。
リリカルなのはも、投稿するペースは遅いですが投稿を続けていきます。
今回の作品では、隼人のヒロインと最終的な実力がネタバレになります。
構わないならこの作品も読んでくれると嬉しいです。


白夜side

 

白夜が気が付くと、そこは神のいる何もない真っ白な空間だった。

周りを見回してみると、万由里の姿が見つからなかった。それに、同じく転生した隼人達の姿が見えなかった。

 

「万由里達は、どこにいるんだ?」

神「万由里達は、別の空間に居る。

本来転生の間は、一人を転生させるためにある場所だからの。だから、一人ずつ別の転生の間でわしと話して居る。」

「流石は神様。いくつもの空間に同時に存在して話せるなんてな。

それと、次からは万由里とは一緒にしてくれ。」

神「まあ、このくらいはの。分かった。

で、次に行く世界はどうする?万由里達はお主に選択を任せると言っていたぞ。」

「あいつら、万由里はともかく隼人は自分で考えるとかしろよ。

じゃあ、学戦都市アスタリスクの世界に転生させてくれ。」

 

白夜は、神様が言った隼人達の伝言に白夜は苦笑しながら、次の世界をどこにするか答えた。

 

神「わかった。

なぜ、学戦都市アスタリスクの世界なんじゃ?」

「俺が知っている世界で、平均的戦闘力が高くて武術が盛んで危険度の低い世界はそこくらいだしな。」

神「なぜ、そんな条件で世界を選ぶんじゃ?」

「万由里は確かに強くなったが、身体能力や霊力が上がっただけで、それを完璧に使いこなせていないからな。だから、武術を修めれば今より俺に近づけるだろうからな。」

神「なるほど、万由里のためか。」

「まあな、それに万由里と学園生活するのも楽しそうだしな。

それと、あんたが万由里に与えたあの二つの力は封印しといてくれ、あれがあると武術関係なしに無双できるから意味がない。あれがなければ、万由里の身体能力とかならあの世界の上位陣と同じくらいだろう。」

神「それは構わんが、それだとお主の力はずば抜けて居るじゃすまないぞ。」

「ああ、万由里もそれだと納得しないだろうからな。

俺は、あんたにもらったメリオダスと神代焔の力を封印して、デアラの世界で鍛えた力と魔神化と殲滅状態だけで十分だ。だから、感覚をその力に合わせてくれないか。じゃないと、俺の霊力が圧倒的過ぎたせいで感知するのが大変だったからな。

それと、俺が作った神器の龍刀天叢雲剣を持っていきたい。神器としての能力はなくていいから、絶対に折れないようにしておいてくれ。」」

神「わかった。」

 

神様は、少しの間黙ると再び話し始めた。

 

神「今の話を万由里達に伝えた。

万由里は、お主の出した条件に納得した。それと、万由里もお主から貰った神器を持っていきたいと言っていた。

隼人は、求道玉と瞬身の術以外を封印するそうだ。六道仙人モードなどは使用するそうだ。

凛音は、向こうの世界に合わせた能力が欲しいと言っていた。」

「そうか。」

神「しかし、お主はそれでいいのか?

わしが与えた力を封印したら、身体能力は万由里達よりかなり高いが、霊力、いや星辰力の量は万由里達のなかで一番少ないことになるぞ。まあ、差はそんなに広くないが少ないことに変わりはないぞ。」

「ああ、構わない。

それに、星辰力は万由里が一番多いだろうが、隼人も六道仙人の力まで至ったんだ相当な量があって当然だしな。それに、凛音もあんたが能力を限界まで引き上げたんだから当然だろう。でも、身体能力じゃあ万由里と隼人が同じくらいだろうから、総合的に見たら俺たち四人は同じくらいだろ。

まあ、万由里が星辰力の面でかなり有利に立つだろうがな。」

神「ああ、お主の予想通りじゃ。」

「これで、四人の戦闘力はちょうどいいだろ。

後は、俺の原作の記憶を消してくれ。」

神「わかった。」

 

そして、また少しの間神様が黙った。

 

神「そういえばお主、アスタリスクの世界で一番好きなキャラは誰かの?」

「?どうしたんだ急に?」

 

神様は、急に変なことを質問してきた。

 

神「なに、少し気になっただけじゃよ。」

「そ。強いて言うなら、シルヴィアかな。」

神「そうか、そうか。

では、楽しんでくるといい。」

「おう。」

 

そういうと、意識が遠くなり気を失った。

 

万由里side

 

私が、気が付いてから次の世界のことについて話していた。

そして、白夜が大体のことを決めてくれたので、私は希望を少し言う程度だった。

 

神「ところで、なぜ恋のライバルが欲しいなどと?」

万「ん~、十香と折紙見てて思ったのよ。あんな風に好きな人を取り合う相手がいたら白夜への愛が今より大きくなるかなって。それに、精霊達みたいに競い合える友達もいたら楽しいかなって思ったし。」

神「そうか。じゃが、好きになることを強制するわけではないから白夜のこと好きになるとは限らんぞ。」

万「ん。白夜のことをちゃんと見ていたら、好きにならないわけがないでしょ。」

神「お~、白夜のことそうとう信頼してるね。」

万「冗談よ。でも、ゼロってわけじゃないだろうから大丈夫だと思う。

それに、誰も白夜のこと好きにならなかったら、今までと変わらないだけ。」

神「そうか。」

 

それから少しの間沈黙が続いたが、私は神様にある質問をした。

 

万「ねえ、次の世界で私と白夜の差ってどれくらい?」

神「お主と白夜では、身体能力の面で大きく負けている。しかし、星辰力という霊力に変わる力ではお主の方が上だ。具体的な差は、身体能力はお主の身体能力の五割増しくらいじゃ。星辰力の量は白夜はお主の九割くらいあるかないかくらいじゃ。」

万「それ、私に追いつくこと出来るの?」

神「まあ、一割の差は言葉なら小さいかもしれんが、お主の霊力の量は精霊の十倍以上ある。つまり、お主と白夜では、精霊一人以上の差があるということだ。」

万「でも、身体能力ではそれ以上に差があるんでしょ。」

神「まあの。じゃが、白夜はわしが与えた力を封印した。それはつまり、今の白夜はお主らが知っておる圧倒的な身体能力も桁外れな霊力も持っていないお主らと大して変わらぬ一人の人間じゃ。」

万「そ。でも、神様から貰った力を持ってる私たちと大して差がないって、そうとう異常よね。」

神「まあの。

それと、魔神化した白夜に勝つのは人間には不可能じゃ。

じゃから、お主にも何か能力を与えておく。」

万「ん、ありがと。」

神「おう。では、次の世界楽しんでくるといい。」

万「ん。」

 

そして、私は意識が遠のいた。

 

白夜side

 

白夜達は無事に転生して、なんでもない普通の家庭に生まれた。

万由里とは家が隣同士だったが、隼人達は近所にいるようではなかった。

そして、白夜と万由里は五歳の時に神様に頼んでおいた刀を親から受け継いだ。

親が言うには、この二つの刀は家に代々受け継がれているものらしいが、抜けるものが誰もいなかったのだが、俺たちがたまたま抜いたことで五歳の時に受け継ぐ形でもらった。

万由里は刀を受け継いだことで、五歳から剣術を習うために道場に通い始めた。

白夜は、めんどくさかったので道場に通うことはなかった。

そして、普段の生活では白夜と万由里はよく一緒に遊んでいた。

そして、二人と一緒にもう一人シルヴィアという女の子もいれて三人で遊ぶこともよくあった。

しかし、シルヴィアと万由里は小学三年の時に親の都合で二人とも引っ越していった。

それから、しばらくの間普通の暮らしをしていたが、高校に上がる時アスタリスクの星導館学園から特待生としてスカウトされた、ちょうどアスタリスクのどこかの学園に転入しようとしていたので受けることにした。

 

「しかし、どうして俺がスカウトされることになったんだろうか?」

 

白夜は、星導館学園の校門の前でそんなことを呟いた。

そんな白夜の服装は、黒色のパーカーの上から制服の上着を着ていて腰には刀を差していた。そして、身長はそこまで高くなく165程度で、髪は腰辺りまである銀髪だ。

白夜は、少しの間学園を眺めていると校門の方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

万「久しぶり、白夜。」

「万由里、久しぶり。」

 

白夜は、万由里の姿を見て一瞬目を見開いたが、すぐに戻り万由里に返事を返した。

 

「万由里、星導館の生徒だったのか?」

万「ええ、中学一年からここに通ってるわ。」

「へえー、じゃあ、アスタリスクで修行をしてたのか?」

万「そ。これでも結構強くなったんだから。」

「そうか。

今度、また手合わせしようぜ。」

万「ん。」

 

万由里は、星導館の制服を着て腰に刀を差していた。

デアラの世界で万由里はあの刀に雷霆聖堂とケルビエルの漢字をそのまま読んだだけの名前を付けていた。

 

「で、俺はこれからどこに行けばいいんだ?」

万「生徒会室で生徒会長のクローディアが待ってるからついてきて。」

「わかった。」

 

そして、俺は万由里の案内で高等部校舎の最上階にある生徒会室にあんなにされた。

生徒会室に着くと万由里が来たことを中にいる生徒会長に報告すると、生徒会室のドアが開いた。そこにはとても生徒会室には見えない空間が広がっていた。

床にはダークブラウンの絨毯に革張りの応接セット、壁には星導館学園の絵画がかけられ、空を切り取ったかのような巨大な窓の前には樫造りの重厚な執務机が置いてあった。

 

「ここは、大企業の社長室かなにかか?」

万「まあ、そう見えるけど、一応生徒会室よ。」

「そう。」

 

気にせずに中に入ると、中には一人の女性が執務机についていた。

おそらくは、彼女が生徒会長のクローディアなのだろう。

そう考えていると、彼女はこちら向いて笑顔で話しかけてきた。

 

ク「星導館学園にようこそ、神堂白夜さん。歓迎したします。」

「ありがとう。

で、君が生徒会長で間違いないか。」

ク「はい。星導館学園生徒会長、クローディア・エンフィールドです。よろしくお願いします。」

「よろしく。俺のことは白夜でいい。」

ク「わかりました、白夜。

私も白夜と同じ学年ですから私のことは、クローディアとお呼びください。」

「わかった、クローディア。

で、クローディアはなんで敬語なんだ?」

ク「これはただの習慣ですのでお気になさらず。」

「そうか。

じゃあ、転入の説明に入ってくれ。」

ク「わかりました。」

 

そういうと、クローディアは少し間を開けて話は始めた。

 

ク「我が星導館学園が特待転入生のあなたに期待することはただ一つ、勝つことです。

ガラードワースに打ち勝ち、アルルカントを下し、界龍を退け、レヴォルフを破り、クインヴェールを倒すこと。すなわち、《星武祭》を制すること。そうすれば我が学園は、あなたの望みをかなえて差し上げましょう。それが現世でかなう望みであれば、どのようなものであれ。」

「わかった。」

 

白夜は、そういうと目をつむり少しの間黙った。

そして、目を開けた白夜は嘲笑うような笑顔で言葉を続けた。

 

「今シーズンの《鳳凰星武祭》、《獅鷲星武祭》、《王竜星武祭》のすべてを制してグランドスラムを成し遂げて見せよう。」

ク「そうしてくれるとありがたいのですが、グランドスラムを成し遂げるのはそう簡単ではありませんよ。」

「そうでないとつまらないだろ。」

 

クローディアは、白夜の言葉に驚きを隠しきることが出来なかった。

 

「そういえば、どうして俺が特待生になったんだ?」

ク「そうですね。あなたももう一人の特待生も完全に無名でしたから、ぶっちゃけスカウト陣は猛反発を受けました。」

「お前が、推薦したのかよ。」

ク「もう一人の方はそうですが、あなたは万由里が私に推薦して来たんですよ。」

万「そういうこと。」

「なるほどな。」

ク「しかし、流石に驚きました。

まさか、いきなりグランドスラムを成し遂げると宣言するとは思っていませんでしたから。」

万「私も思ってなかったわ。」

「そりゃあ、今思いついて気分で言ったからな。」

ク「あらあら。」

万「相変わらずね。」

「でも、言ったからには成し遂げるぞ。」

ク「では、期待して待っています。」

「おう。」

ク「あ、そうそう。大切な連絡事項を忘れるところでした。」

 

クローディアはふいにそういうと、ぽんと手をたたいた。

 

ク「我が学園の特待生には各種費用の免除の他にもいくつか特権がありまして。その中の一つに学有純星煌式武装の使用に関する優先権があります。あなたは《魔術師》ですから、適合する可能性はほとんどありませんがどうしますか?」

「いや、いらない。

俺には、この刀があるからな。」

ク「あなたも万由里と同じで刀で戦うのですね。」

「まあ、そんな感じだな。だから、純星煌式武装はいらない。」

ク「わかりました。」

「じゃあ、俺たちはそろそろ行くぞ。」

 

白夜はクローディアにそういうって生徒会室を出ようとした時、外から爆発音が聞こえてきた。

生徒会室にいる三人で窓から外の様子を見ると、黒髪の男子と薔薇色の髪の女子が何やら向かい合っていた。

 

「あれは?」

万「おそらく決闘ね。

あの女の子の方はユリスね。」

「あれが決闘か。

で、あの女子と知り合いか?」

万「ん、同じクラスの子だから、白夜も私と同じクラスになるみたいよ。」

「へえー、それはいいな。」

ク「あらあら、ユリスと向かい合っているあの男子は、もう一人の特待転入生の天霧綾斗くんですね。」

「あれがもう一人の特待生か。

じゃあ、様子見に行こうぜ。万由里。」

万「ん。」

 

万由里と一緒に生徒会室を出て決闘を見に行こうとすると、クローディアが話しかけてきた。

 

ク「では、私もご一緒に行かせてもらいます。」

「いいけど、なんでだ?」

ク「彼に用事がありますから。」

「そ。」

 

そして三人で決闘を見に行くことになった。



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2話

星武祭など最初は漢字で書こうとしたのですが、たくさん書いていて自分が分からなくなってきたのでカタカナで書くことにしました。


白夜side

 

万由里とクローディアと一緒に決闘の現場に来たが、どうやら今しがた始まったばかりのようだ。

ユリスと呼ばれた女子はレイピア型の煌式武装を構え、綾斗と呼ばれた男子は剣型の煌式武装を構えていた。

 

「あの綾斗とかいう男、実力がよくわからんな。」

万「ん。でも、ユリスの方はページ・ワンだから強いわよ。」

「ページ・ワンてなんだ?」

ク「各学園のネームド・カルツという全七十二枠のランキングリストの最初のページに来る上位十二人のことです。」

万「で、ユリスは序列五位の実力者。」

「あれが、序列五位か。」

 

それだけ話すとユリスが攻撃を始めた。

 

ユ「咲き誇れーロングフローラム。」

 

ユリスが細剣を振ると、その軌道にそって巨大な青白い炎の槍が顕現する。テッポウユリの姿をしたその炎は、ロケットのように綾斗を貫こうと飛び掛かった。

 

綾「くっ!」

 

綾斗は剣を楯にしてなんとかそれを受け流したが、衝撃で大きくはね飛ばされる。

かろうじて受け身を取ったものの、ずいぶん息が上がっているようだ。

 

「なるほどな。」

万「どうかしたの?」

「あの男、力を封印されてる可能性があるな。」

万「どういうこと?」

ク「それは私も気になります。」

「あくまで推測に過ぎないが、あいつ自分の思ってるように体を動かせてない。身体能力だけを封印されてるのかプラーナも封印されてるのかはわからないがな。」

万「確かに動きからして剣術を習ってるみたいだから、自分の動きを把握してないわけないわね。」

ク「でも、どうして力を封印されてるのでしょうか?」

「そんなことは俺に言われても分かるわけないだろ。てか、それが分かったらただの化け物だろうが。」

万「今でも十分化け物染みてるじゃない。」

「そんなことはないと思うんだが。」

万「あんたからしたらね。」

 

万由里に言われて黙ることしか出来なかった。

俺は決闘の方に意識を戻したが、隣で万由里とクローディアが俺には聞こえない声で何かを話していた。

 

ク「あの万由里、白夜はどのくらい強いのですか?」

万「ん~、最近はあってないからわからないけど、昔は強かったわよ。」

ク「昔はどのくらいだったのですか?」

万「私、五歳の時から剣術習ってたって話したわよね。小学二年で奥義まで全部修めて小学三年で引っ越す時までずっと道場に通ってたんだけど。それでも剣術や武術を習ってない白夜に一度も勝ったことがないわ。」

ク「!?」

万「でも、引っ越してから今までのより遊ぶ時間も減ったから、その分修行して強くなったから今やったらどうなるかわからないけど、私でも勝てる可能性はほとんどないと思ってる。」

ク「それほど強いのですか?」

万「白夜は、ゲームやアニメ、小説を見て技や戦い方を学んでるみたいだから技も豊富なのよ。」

ク「それで技を学べるのでしょうか?」

万「まあ、白夜にとってはそれだけで技を使えるようになるのよ。だから、技を見ただけで大体は使えるようになるわよ。」

ク「なるほど、グランドスラムを成し遂げると宣言するだけはあるようですね。」

万「まあ、そういうこと。」

 

万由里とクローディアも話を終え、綾斗たちの戦闘に目を向けた。

 

綾「ええっと、ユリス・・・さん?そろそろ許してもらえないかな?」

 

と、ようやく息を整えた綾斗が眉を下げながら両手を挙げる。

 

ユ「ユリスでいい。で、それは降伏の意思表示と受け取ってもいいのか?」

綾「そりゃもう。いや、そもそも俺としては最初から戦いたくなんてなかったんだけど。」

ユ「ま、それはそれで構わないが、その場合おまえは変質者として私に仲間でじっくり焼かれるか、やはり女子寮の自警団に突き出されるかのどちらかになるぞ?ちなみに先日自警団に捕まった下着泥棒は、『おしおき』の結果カタコトしか喋れなくなった挙げ句に部屋から一歩も出られない精神状態になったそうだ。」

綾「・・・もう少し頑張ってみようかな。」

 

綾斗は引きつった笑みを浮かべながら剣を構えなおした。

 

「なあ、ユリスが今恐ろしいこと言ってたんだが気のせいか?下着泥棒をしたやつに同情することはないが、自警団の『おしおき』明らかにやばいだろ。」

万「まあ、女子寮は男子禁制だから。」

「恐ろしいな。」

万「白夜なら、自警団くらいあしらえるでしょ。」

「あしらえるあしらえないの問題じゃないだろ。」

 

そんなどうでもいい話をしていると、ユリスはプラーナを集中させていた。

 

ユ「咲き誇れーアマリリス。」

 

ユリスの前に巨大な火の玉が出現すると、ギャラリーがざわめいた。

 

ギャ1「やっべえ!大技だ!」

ギャ2「ちょ、冗談じゃねえぜ!」

ギャ3「退避退避ー!」

 

巻き込まれて怪我しても当然自己責任だ。ギャラリーがあわてて距離を取る。

クローディアもそれに乗じて距離を取った。

ユリスはそんな野次馬たちに見向きもせず、最適な軌道を瞬時に計算して火球を放った。綾斗が腰をかがめて身構えるが、かわされる直前でユリスはぐっと拳を握りしめる。

 

ユ「爆ぜろ!」

綾「!」

 

その命に、綾斗の眼前で火球が爆発した。

 

綾「天霧辰明流剣術初伝ー”貳蛟龍”!」

 

剣閃らしきものが煌いたかと思うと、炎の花弁が十文字に切り裂かれた。

 

ユ「なっ・・・・まさか、メテオアーツ!?」

万「あいつ、調整もされてない煌式武装でメテオアーツなんてよくやるわね。」

「いや、あれはメテオアーツじゃなくてただの剣技だな。

やはり、力を封印されていたか。今、一瞬だけ封印を破って本来の力で防いだんだろうな。」

 

ユリスが戦慄に近いものを覚えた次の瞬間、炎の切れ目から現れた綾斗が一息で間合いを詰めていた。

そうとうな速度だった。少なくとも先ほどまでの動きとは別次元だ。

一瞬、綾斗の周囲に薄い光の火花のようなものが散ったのを白夜は見逃さなかった。

 

ユ「こ、このっ!」

 

反射的に迎え撃とうとしたユリスを、綾斗の鋭い声が打つ。

 

綾「伏せて!」

 

その意味をユリスが理解する前に、押し倒された。

 

ユ「お、おまえ、なにを・・・・!」

 

抗議の声を上げようとしたユリスは、思わず目を見開いた。

今までユリスがいた場所に一本の光の矢が突き刺さっていたのだ。

 

ユ「どういうつもりだ。」

綾「どういうつもりだって・・・それは俺じゃなくて撃った本人に聞いてほしいな。」

 

綾斗は困ったように答えた。

 

ユ「そうではない!なんでわざわざ私を。」

 

ユリスはそこまで言って、はと気づいた。

綾斗がユリスの発展途上の膨らみを、思いっきり鷲掴みにしているのだ。

それを理解した途端、ユリスの顔がぼっと赤く染まった。

 

綾「・・・あ。」

 

遅れてそれに気づいた綾斗も、あたふたと飛びのいて頭を下げる。

 

綾「ご、ごめん!いや、あの、俺は別にそんなつもりじゃ全然なくて!」

 

その様子を見て、白夜は笑うのを必死にこらえていた。

 

万「あ~あ、折角助けたのに、やらかしちゃった。」

「いや~、あいつすごい才能があるんじゃないのか。

どうどうと女の胸を触るなんてな、男からしたらうらやましい限りだろうな。」

万「へえ~。じゃあ、白夜は私の胸触る?」

 

万由里は、白夜に向かって笑顔でそう言ってきた。しかし、笑顔なのに目が笑っていない。その顔を見て、白夜は血の気が引いた。

 

「いや、ただの冗談なんだが。

まあ、それに関してはまた今度な。」

万「そ。」

 

そんな会話をしているうちにクローディアがユリスと綾斗の決闘を止めていた。

そこに万由里も近づいて行った。なので白夜もついて行った。

 

ク「ふふっ、これで大丈夫ですよ。天霧綾斗くん。」

綾「はあ~。」

 

綾斗は額の汗をぬぐい、大きく息をはいた。

 

綾「ありがとうございます・・・え~と、生徒会長、さん?」

ク「はい、星導館学園生徒会長、クローディア・エンフィールドと申します。よろしくお願いします。」

ユ「いくら生徒会長といえども、正当な理由なくして決闘に介入することはできなかったはずだが?」

万「いいじゃないユリス、助けてもらったんだから。」

ユ「万由里!どうしてここに?

それに、隣にいる男は誰だ、見ない顔だが?」

万「この人は、神堂白夜。そこの男と同じで特待転入生で私の幼馴染。

それで、同じ特待転入生が決闘してるから見に行こうって白夜が言うから来たの。」

「そういうことだ。よろしくな、ユリス。」

ユ「ああ、しかし馴れ合うつもりはない。」

「そうか。」

 

そういうと、ユリスは綾斗の方を向いた。

 

ユ「ところで・・・先ほどは、その・・・あ、ありが、とう。」

 

ユリスはばつの悪そうな顔で綾斗にお礼を言った。

 

綾「ああ、それはいいんだけど・・・もう怒ってない?」

ユ「それは、まあ、怒っていない、こともないが・・・助けてくれたのは確かだからな。

私とて、あれが不可抗力だったことくらいはわかる。

だから、今度のことは貸しにしてくれていい。」

綾「貸し?」

ユ「ああ。分かりやすいだろう?」

ク「まったく相変わらずですね、あなたは。」

万「もう少し素直になった方が生きやすいわよ。」

 

クローディアと万由里が呆れた様子で言った。

 

ユ「大きなお世話だ。私は十分素直だし、これで人生になんの支障もない。」

ク「あら、でしたらタッグパートナー探しのほうもさぞかし順調なのでしょうね?」

ユ「う・・・そ、それは・・・。」

万「まさか、まだ見つけてないの?

フェニクスのエントリー締め切りまであと二週間しかないわよ。」

ユ「わ、わかっている!

そういう万由里はどうなのだ?お前も今回のフェニクスに出るのであろう!」

万「もう決まってるわよ。」

ユ「なんだと!いったい誰と!?」

万「ん。」

 

万由里はそういうと、白夜を指さした。

それを見てクローディアとユリスが驚いた顔をしていた。

 

ユ「そいつと出るのか?」

ク「そうだったのですか?なぜ先ほどは何も言ってくれなかったのですか。」

「俺も今初めて聞いたからな。」

万「私も初めて言ったから。」

 

その言葉に、万由里と白夜以外の三人は訳が分からないというような顔で首を傾げた。

 

綾「パートナーになる確認もしないで決めたってこと?」

万「ん。」

ク「あらあら。」

ユ「では、お前もつい先ほどまで決まってなかったのではないか!」

万「私は、白夜が転入してくるって知ってたからパートナー探さなかっただけだし。」

ユ「まるで、そいつが確実にパートナーになってくれる様な言い方だな。」

万「ようなじゃなくて確実だから。ね、白夜。」

「まあ、俺も万由里を誘うつもりだったしな。」

綾「白夜は、万由里が星導館学園にいるって知ってたの?」

「それは、今日知った。」

綾「そうなんだ。」

 

綾斗たちは呆れた顔をしていた。

 

「それより、時間は心配しなくていいのか?」

ク「それもそうですね。

では、綾斗君は話があるのでついていてください。」

綾「わかりました。」

 

そういって綾斗とクローディアは高等部校舎の方に歩いて行った。

 

万「ユリスはどうするの?」

ユ「私は、寮に戻る。」

万「そ。」

 

そういって、ユリスは女子寮の方に歩いて行った。

 

万「私たちはどうする?」

「まだ時間ありそうだし、この辺りを少し散歩でもするか。」

万「ん。」

 

白夜と万由里は、高等部校舎の近くを散歩し始めた。

 

万「白夜、さっきのユリスを狙った攻撃気づいてたでしょ。」

「なんだ、気が付いてたのか?」

万「何となくね。

私は、爆発越しで見えなかったけど、白夜は気づいてるだろうなって。」

「お前は、俺のことを過大評価し過ぎだ。

前の世界と違ってこっちの世界ではもう最強じゃないんだから。」

万「今でも十分強いくせに。」

「まあ、ある程度は強いけど、不利な状態になったら負けることもあるぞ。」

万「それが普通なんだけどね。

そういえば前に言ってたわね、いかなる状態でも負けない絶対の強さを持つ者こそが最強って。」

「ああ、世の中上には上がいる、じゃんけんのように相性がある以上必ず不利な相手も存在する。そんな中最強であるためには有利不利関係なく勝つだけの力がいる。でも今の俺にはそんな超次元の力なんてないからな。」

 

白夜は、そういって肩をすくめた。

 

万「それでも私は白夜は誰にも負けないって信じてるから。」

「!?それはうれしいな。」

 

微笑みながらそういう万由里に、白夜は一瞬目を見開いたが同じく微笑んで返した。

 

万「でも、いつか必ず私が白夜に勝つから。」

「負けないって信じるんじゃなかったのかよ。」

万「信じてるわよ。だから、私にとって最大の目標なんじゃない。」

「そうか。

なら、簡単に超えられてガッカリされないよう頑張らないとな。」

 

そんなたわいもない話をしながら時間まで散歩を続けた。

そしてちょうどいい時間になったので、職員室に行き綾斗と一緒に担任の先生である谷津崎匡子に連れられて教室に向かった。

教室に入って、黒板の前に立たされて事項紹介をさせられた。

 

綾「えーと、天霧綾斗です。よろしく。」

「神堂白夜です。よろしく。」

谷「席は・・・あの二つが空いているから、好きにしろ。」

 

そういって、先生が指さしたのはユリスの隣の席とその一つ前の万由里の隣の席だった。

俺は、先生に指さされた方に歩いていき万由里の隣の席に座った。

 

「綾斗は、火遊び相手の隣がいいだろ?」

ユ「だ、誰が火遊び相手だ!」

「お前以外に誰がいるんだ?今朝さんざん炎で遊んでただろ。」

ユ「あ、遊んでいたのではなく決闘をしていたのだ。」

「あんなの遊びと変わらないだろ。一方的に焼くだけなんだから。」

ユ「まあ、そうかもしれんが・・・。」

 

そんな話をしていると、綾斗もユリスの隣に座り声をかけた。

 

綾「まさか同じクラスとはね。」

ユ「・・・笑えない冗談だ。」

綾「今朝はいろいろあったけど、これからよろしく。」

ユ「お前には借りできた。要請があれば一度だけ力を貸そう。だが、それ以外で馴れ合うつもりはない。」

 

それだけ言うとユリスは顔を背けた。

 

夜「ははっ、振られたな。」

 

綾斗の後ろの席から同情半分からかい半分といった感じの声がかかった。

綾斗が振り向いてみると、男子生徒が手を差し出していた。

 

夜「まあ、相手があのお姫様じゃ仕方ないさ。」

 

綾斗が手を握ると、その男子は嬉しそうに手をぶんぶん振り回した。

 

夜「俺は夜吹英士郎。一応お前さんのルームメイトってことになってる。」

綾「ルームメイトって・・・ああ、寮の?」

夜「そういうこと。うちの寮は基本二人部屋だからな。」

 

そんな話をしている綾斗と夜吹を見ていると、前の席から声がかかった。

 

隼「よっ、俺は風林隼人だ。よろしくな、神堂白夜。」

 

俺の前の席に座っていたのは、俺と同じようにデアラの世界から転生してきた隼人だった。

外見もデアラのころと何も変わっていない。

 

「おう、よろしく。俺のことは白夜でいい。」

隼「わかった。俺のことも隼人でいい。」

凛「私は園神凛音。よろしくね、白夜。」

「ああ、よろしく。」

凛「万由里ちゃんの幼馴染なんでしょ。」

「ああ、そうだ。」

隼「俺たちは万由里の星導館での友達だ。

これから、仲良くしていこうぜ。」

「ああ。」

(前世のことなかったことにして話すの面倒だな。)

 

それからホームルームが終わると綾斗の周りにはたくさんの生徒が集まり質問攻めしていた。

 

「これはすごい。転入初日にページ・ワンと決闘するとこうなるのか恐ろしや。」

隼「まあ、そうだろうな。まあ、ユリスが人気者ってこともあるがな。」

万「そういうこと、でも大変そうね。」

凛「本当だね。綾斗君大丈夫かな。」

「まあ、質問されるだけだろ。」

 

そんな質問攻めは授業が終わるごとに続いた。

それにより綾斗はすっかり疲れ果てていた。

 

綾「はあ~・・・。」

夜「お疲れさん。人気者は大変だな。」

「まあ、あれだけ質問攻めされれば疲れるわな。」

綾「まあ、おかげさまでいろいろわかったよ。」

夜「ほぉ、例えば?」

綾「まず、人気者なのは俺じゃなくてユリスだってことかな。」

 

綾斗は隣の席を見ながら、わざとらしく肩をすくめてみせた。

ユリスは授業が終わるなり出て行ってしまったので、すでにいない。

 

綾「みんな俺に興味があるんじゃなくて、『ユリスと決闘した誰か』の話を聞きたいんだ。そうだろう?」

夜「おや、ご明察。」

「特待生だけあって、洞察力はいいのか。」

綾「そういう白夜も特待生じゃないか。」

「俺はお前が質問攻めされてるの見て気づいたからな。」

綾「そういえば、白夜はほとんど質問されてなかったね。」

隼「まあ、白夜より興味があるやつにみんな質問したいってことさ。」

万「野次馬根性も大したものだしね。」

凛「まあ、悪い人じゃないんだけどね。」

綾「でもそれならユリス本人に聞けばいいじゃないか?」

夜「それが出来れば苦労はないのさ。なにせ、あのお姫様ときたら人を寄せ付けない感じがあるだろ?」

綾「・・・確かに多少とっつきにくい感じはあるかな。」

夜「ま、どんな理由かは知らないが、あのお姫様が他人と距離を取っているのは間違いない。そもそも・・・。」

綾「ああ、ちょっと待って。いまさらだけど、そのお姫様っていうのはユリスのあだ名なのかい?みんなそう呼んでるみたいだけど。」

夜「んー、あだ名っつーかなんつーか・・・正真正銘のお姫様なんだよ、彼女は。」

綾「・・・は?」

「へー、アスタリスクにはお姫様も来てるんだ。」

綾「お姫様って・・・あの、おとぎ話に出てくるようなお姫様?」

夜「おうよ。悪い魔女に呪いをかけられたり、王子様のキスで目覚めたり、政略結婚をさせられそうになったり、魔法の国からやってきたり、オークや触手に責められたりする、あのお姫様だ。つまりプリンセス。」

「お前、ユリスのことそんな目で見てたのか?」

夜「は!?いや、違う。」

 

夜吹は白夜の言葉に夜吹は驚いた顔をして、白夜の言葉を否定した。

 

万「最低ね。」

夜「いや、だからちょっとふざけただけだって。」

「まあまあ、世の中いろんな人間がいるから安心しろ。お前がそんな風に思ってることはユリスには黙っといてやる。」

綾「夜吹ってそういう趣味だったから、お姫様に対するイメージがそうなの?」

夜「いやだから違うってば。

園神も風林も黙ってないでなんか行ってくれよ。」

凛「私もちょっとどうかと思っちゃったり・・・?」

隼「同じく。」

夜「俺に味方はいないのか!?」

「変態の味方なんて誰もしたくないだろ。」

夜「だから違うって言ってるだろ。」

万「白夜それくらいにしたら。」

「え~、もう少し遊んでもよくないか?」

綾「話が進まないからその辺にし解いたら。」

「それもそうだな。

じゃあ、続きよろしく。」

夜「お前らな~。」

「夜吹、情報は武器になるって知らないのか?」

夜「これでも一応新聞部だから、それくらいわかるさ。」

「じゃあ、俺が今の情報の伝え方によって、どうなるか分かるよな。」

夜「うっ、ま、まあな。」

「じゃあ、大人しく続きを話そうか。」

夜「おーらい、了解した。」

 

夜吹は観念したように両手を挙げた。

 

夜「インペルディア以降、欧州のあちこちで王制が復活しただろ?まあ、実質的に政治経済を取りまとめている統合企業財体にとっちゃ、象徴としての王家ってのがいろいろ便利だったんだろうな。とにかく、その一つリーゼルタニアって国の第一王女が、あのお姫様ってわけだ。ユリス=アレクシア・マリー・フロレンツィア・レナーテ・フォン・リースフェルト。ヨーロッパの王室名鑑にも載ってるぜ。」

綾「へえー。」

「それにしても、なんでユリスがこんなところで戦ってんだ?」

夜「さすがにそこまでは知らねーよ。てゆーかおれが聞きたいくらいだ。」

万「私は前に聞いたから知ってるけど、ユリスに悪いから言わないわよ。」

「そうか。まあいいよ、戦う理由に関しては興味ないからな。」

万「白夜は相変わらず人に興味を持たないからね。」

隼「少しは他人に興味を持った方がいいぞ。」

「知るか。」

夜「でも、フェスタで勝ち抜くには対戦相手の情報がないと厳しいぞ。」

「問題ない。」

夜「相当の自信だな。」

「そんなことはないさ。それよりもう帰らないか?」

万「それもそうね。」

凛「じゃあ、万由里ちゃん帰ろうか。」

万「ん。」

隼「じゃあ、俺たちも帰るか。」

夜「あれ、白夜の話はあっさり切るのか?」

綾「まあ、どうせ聞いても話してくれないだろうし。」

「そういうことだ。」

夜「あー、わかったよ。俺も一緒に帰るよ。」

 

そういって高等部校舎から外に出て万由里と凛音と別れた後男子寮に向かって四人で歩いていた。

 

綾「ああ、そうだ。一応ありがとうと言っておくよ。

まあ、これがなければユリスも見逃してくれたかもしれないから複雑ではあるけどね。」

 

そこで、綾斗が何かを思い出したかのように煌式武装の発動体を取り出し夜吹に渡した。

 

夜「なんで、俺だと?」

綾「ん、まあ、声かな。」

夜「あの状況で俺の声聞き分けて、それを覚えてたって言うのか?」

綾「借りたものは返すようにって姉さんが口を酸っぱくして言ってたもんでね。」

夜「・・・ははっ!やっぱりお前さん面白いぜ。」

「お前、今朝の本当は勝てたんじゃないのか?」

綾「いや、今の俺じゃ無理だろうね。」

「今の、ね。」

レ「答えろユリス!。」

 

そんな話をしていると大きな声が聞こえてきた。

 

「はあ、面倒なことになりそうだから先に寮に帰るわ。どうせ夜吹は見に行くんだろ。」

夜「当たり前よ。」

綾「俺も気になるからついていくよ。」

「お前はどうする?隼人。」

隼「俺も興味ないから帰ろうかな。」

「そうか。じゃあ、一緒に帰ろうぜ。」

隼「おう。」

 

そういって矢吹と綾斗を置いて寮に向かって歩き始めた。

そして歩いている途中周りに人がいないことを確認して隼人に話を振った。

 

「それにしても久しぶりだな。」

隼「ああ、でもお前が万由里と離れて生活してるとは思ってもみなかったよ。」

「それは俺も同じだ。

おそらく万由里が神様にお願いしたんじゃないか。理由としては修行に集中できるようにとかかな。」

隼「ああ、万由里がそう言っていた。」

「やっぱり。さてさて万由里はどれくらい強くなったのだろうかな。」

隼「それは手合わせすればすぐに分かるだろ。」

「まあな。お前はどれくらい強くなったんだ?」

隼「まあ、そこそこかな。前世のお前に比べたらまだまだだよ。」

「まあ、力を封印した今ならいい勝負ができそうだな。」

隼「おいおい、これでも俺はここの序列六位だぞ。そう簡単に負けられないさ。」

「それは意外だった。お前がユリスより下だとは思っても見なかった。」

隼「まあ、序列が上の奴と戦ってないってだけだよ。」

「へえ~、凛音もページ・ワンに入ってるのか?」

隼「ああ、序列八位だ。」

「みんな頑張ってるんだな。ちなみに万由里は何位なんだ?」

 

それを聞くと隼人は驚いた顔をして白夜の方を見つめた。

 

隼「お前、万由里の序列も知らないのか?」

「そりゃあ、今日まで星導館に万由里がいることも知らなかったからな。」

隼「はあ~、万由里は序列二位だよ。」

「へえ~。万由里は頑張ってるようだな。」

隼「まあな。万由里はストレガの能力を一度も使ってないから、俺も勝てるかどうかわからないしな。」

「とういうことは剣術のみで戦ってるのかかなり剣術の腕も上がってるんだろうな。」

隼「まあ、そういうことだ。

そういえばお前、万由里と一緒にフェニクス出るんだってな。」

「ああ、お前は凛音と出るのか?」

隼「おう、負けないぞ。」

「まあ、楽しみにしてるよ。」

 

そんな話をしていると、寮についた。

白夜は隼人と別れて自分の部屋に向かった。

部屋のネームプレートに俺以外に名前がなかったので、夜吹に代わって今度は白夜が一人のようだ。

 

「まあ、一人の方が落ち着くからいいか。

さて、さっさと飯食べたりして寝よ。」

 

白夜は食堂に行き晩飯を食べた後、風呂に入った。

その後は、持ってきた荷物の整理をしてベッドに横になって眠った。



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3話

白夜side

 

「ふわぁ~あ、眠い。」

夜「ふわぁ~あ、眠い眠い・・・おはようさんっと。」

 

大あくびをかましながら夜が教室の扉を開く。

それに続いて白夜もあくびをしながら教室に入った。

そんな二人に呆れつつ綾斗と隼人が続いて教室に入った。

白夜たちはそれぞれの席に近づいた。周りの席である万由里たちはすでに、席についていた。

 

「おはよ、万由里、凛音、ユリス。」

綾「おはよう、ユリス、万由里、凛音。」

隼「おはよう、凛音、万由里、ユリス。」

万「おはよ。」

凛「おはよう。」

ユ「・・・ああ、おはよう。」

 

俺たちが、座っている三人に声をかけると、万由里と凛音はこちらを向いてあいさつを返してきた。ユリスは頬杖をついたまま返してきた。が、その瞬間クラスの喧騒がピタリと収まった。

 

生徒1「お、おい、今の聞いたか・・・?」

生徒2「・・・あ、あのお姫様が挨拶を返しただと・・・!?」

生徒3「聞き間違いじゃないよね・・・?」

生徒4「あいつら、一体どんな魔法を使いやがった・・・!」

生徒5「いやまて、そもそもあれは本物なのか・・・?」

 

一転してざわめきだしたクラスメイトたちに、ユリスがバンと机を叩いて立ち上がる。

 

ユ「し、失敬だな貴様ら!私だって挨拶くらいは返す!」

「普段の行いだな。」

ユ「なんだと!?」

万「ユリス、少し落ち着いたら。」

ユ「うっ、確かに冷静さを欠いていた。」

 

そんな会話をしていると、綾斗はユリスとは逆側の隣の席に座っている青い髪の少女に声をかけようとしていた。

 

綾「おはよう、お隣さん。えっと、俺は昨日この学園に転入してきた天霧--。」

 

しかし綾斗は最後まで口にすることはなかった。

 

綾「・・・え?」

 

綾斗はその少女の顔を見た途端、ぽかんとした顔のまま固まってしまった。

 

綾「さ、紗夜・・・?」

紗「・・・。」

 

当の少女は無表情に綾斗の顔を見つめていたが、やがて小さく首を傾げてぼそりとつぶやいた。

 

紗「・・・綾斗?」

綾「えええっ!な、なんで紗夜がここに!?」

 

驚きのあまり立ち上がった綾斗の後ろで、新しい玩具を見つけたように目を輝かせた夜吹は身を乗り出した。

 

夜「なんだなんだ。お前ら知り合いなのかよ?」

綾「ああ、うん・・・古い友人というか・・・まあ、いわゆる幼馴染ってやつかな。」

夜「幼馴染ぃ?」

 

夜吹は疑わしそうに二人を見比べる。

 

夜「だったらなんでうちの生徒だって知らなかったんだ?」

綾「いや、幼馴染って言っても、紗夜が海外に引っ越して以来だから・・・もうかれこれ六年ぶりくらいになると思う。白夜と同じ理由だよ。」

夜「そういえば白夜と水樹も幼馴染だったな。

しっかし、そのわりに、こっちの反応は薄いようだぞ。」

 

確かに紗夜は少しも表情を変えずに綾斗を見つめている。

 

綾「んー、そうは言っても昔からこんな感じだったからなぁ。これでもきっと驚いてる・・・はず。きっと。」

「自信ないのかよ。」

夜「本当か?」

紗「・・・うん。ちょおビックリ。」

夜「・・・いや、全然そうは見えないけどな。」

 

ピクリとも眉を動かさない紗夜に、夜吹が力なく突っ込みを入れた。

 

紗「でも、本当に久しぶり。元気だった?」

綾「それにしても変わらないね、紗夜は。なんか昔のまんまっていうか・・・。」

紗「・・・そんなことはない。ちゃんと背も伸びた。」

綾「え・・・そ、そう?」

 

綾斗は紗夜をまじまじと見つめた。

 

綾「やっぱりあんまり変わってないような・・・。」

紗「違う。綾斗が大きくなりすぎ。」

夜「しっかし世の中狭いもんだ。運命の再開ともいえることが二つもあるとはな。」

紗「運命の再開・・・。うん、夜吹はいいことを言う。」

万「ん。夜吹にしては珍しくいいことを言った。」

 

矢吹の発言に万由里と紗夜はぐっとサムズアップした。

 

綾「そういえば白夜と万由里の関係に関しては全く詮索しなかったよね、夜吹。」

夜「ああ、まあな。水樹万由里の情報だから出来れば細かく聞きたいんだが・・・。」

 

夜吹は俺の方を苦笑いを浮かべて見てきた。

 

夜「白夜から情報を取れる気がしないし、逆にいろいろ情報を渡しちまいそうで手が出せないってわけさ。昨日だってやられたからな。」

綾「まあ、あんなこと広められたら大変だろうしね。」

 

綾斗は夜吹に同情するような視線を向けた。

 

「へ~。そういうこと言うんだ。じゃあ、昨日のこと言っちゃってもいいんだぞ、夜吹。」

夜「だから、それは勘塀してくれ。」

「じゃあ、今度欲しい情報が出来た時は教えてくれるよな。」

夜「おーらい、了解した。だから、もう勘塀してください。」

「よし、じゃあこれで昨日の件は無かったことにしてやる。」

夜「はあ~、助かるぜ。」

「ちなみに、どんな無理難題でも調べてもらうからな。」

夜「まじかよ。」

 

白夜の言葉に夜吹は肩を落とした。

 

谷「おらおら、さっさと席につけ。ホームルームはじめっぞ。」

 

そうこうしていると谷津崎先生がいつも持っている釘バットを引きずりながら眠そうな顔で教室に入ってきた。

その後谷津崎先生は紗夜に気が付くと、昨日学校に来なかったことを怒った。それから昨日と同じようにホームルームをした後授業をして学校が終わった。

放課後は、万由里、隼人、凛音、綾斗、紗夜と俺で一緒に教室で話していた。すると、ユリスが教室に戻ってきて近づいてきた。

 

ユ「あー、こほん。そろそろ準備はいいか?」

綾「ああ、ユリス。じゃあよろしく頼むね。」

ユ「し、仕方がない。約束は約束だからな。」

紗「・・・約束って?」

綾「今日はユリスに学園内を案内してもらうことになってるんだ。」

紗「リースフェルトに?なぜ?」

ユ「それは・・・まあ、いろいろあったのだ。沙々宮には関係ない。」

紗「・・・むー。」

 

紗夜がわずかに眉を寄せる

 

ユ「さあ、行くぞ。」

綾「ああ。じゃあ紗夜、また明日・・・。」

紗「・・・待って。だったら、私が綾斗を案内する。」

ユ「なっ!」

綾「ええっ!」

 

そんな感じで綾斗をどっちが案内するかユリスと紗夜が言い合いを始めた。

 

「そういえば俺もまだ学校の中詳しく知らないな。ちょうどいいから案内してくれないか、万由里。」

万「別にいいわよ。ユリス達と一緒にまわる?」

「そうだな。折角だし一緒にまわるか。でも、こいつら未だに言い洗ってんだけど。」

万「まあ、すぐ終わるでしょ。」

 

万由里達と一緒にユリス達を見ると、クローディアが綾斗に後ろから抱きつくところだった。

 

ク「あら、そういうことでしたら私が一番適任ということになりますね。」

綾「おわっぁ!」

 

クローディアは、そのたわわな胸を綾斗の背中に思い切り押し当てている。

それを見たユリスと紗夜の顔が一層険しくなった。そして万由里の顔も少し険しくなったが、すぐに元に戻った。

凛音と隼人はどう反応していいかわからなそうな顔をしていた。

 

ク「ユリスは中等部三年からの転入ですが、私はちゃーんと一年生からここの生徒ですもの。」

紗「・・・だれ?」

ユ「なぜおまえがここにいる。」

綾「てゆーかその前に離れてよ、クローディア。」

「何か用事か?」

万「何しに来たの?」

ク「あら、皆さんつれないです。せっかくですし、私も混ぜていただきたかったのですけど。」

紗「・・・嫌。」

ユ「不許可だ。」

万「好きにすれば。」

「だとさ。」

綾「いや、だから、あ、あたってるってば!」

ク「ふむ、残念です。それでは要件だけ済ませて退散するとしましょう。」

 

クローディアは名残惜しそうに離れると、綾斗に書類の束を差し出した。

 

ク「先日申し上げました純星煌式武装の選定及び適合率検査を明日行います。この書類に目を通していただいて、問題ないようでしたらご署名をお願いします。」

綾「あ、そのことか。

わかったよ。・・・って、結構書類多いんだね。」

 

綾斗はクローディアから書類を受け取り書類を見た。

書類は十枚以上あり、どれも細かい字でびっしりと埋まっていた。

 

ク「預かっているとはいえ、統合企業財体の資産ですからね。まあ形式上のものなのでお気になさらず、さらさら~っと流してしまって結構ですよ。」

ユ「・・・そんなものをわざわざ生徒会長が持ってくるとは、生徒会もよほど暇らしいな。」

ク「ええ、おかげさまでうちの生徒はみんな良い子ですから助かっています。」

 

ユリスの皮肉をクローディアはさらりと受け流した。

 

綾「・・・前から思ってたんだけど、ユリスとクローディアは友達なの?」

ク「はい、そうですよ。」

ユ「断じて違う!」

 

正反対の答えに、綾斗は困惑した顔で首を傾げた。

 

ク「あらあら、冷たいお答えですね。」

ユ「ウィーンのオーパンバルで何度か顔を合わせた程度の昔馴染みだ。それ以上でも以下でもない。

いいから用が済んだらさっさと帰るがいい。」

紗「・・・しっしっ。」

ク「ふふっ、ごきげんよう。ですが明日は私が綾斗を独り占めさせていただきますので、悪しからず。」

 

一礼して去っていくクローディアを、ユリスと紗夜は腹立たしげな視線で見送った。

 

ク「まったくあの女狐め、少しばかり乳が大きいからといって調子に乗りおって・・・。あんなもの所詮ただの脂肪ではないか。」

紗「・・・同意。」

 

ユリスの言葉にうんうんとうなずく紗夜。

さっきまでいがみあっていたのが嘘のように意気投合している。

 

綾「あ!じゃあさ、せっかくだし二人に案内してもらおうかな。」

ユ「二人で・・・?」

紗「・・・。」

 

ユリスと紗夜はしばらくお互いの顔を見やったあと、さも仕方ないという顔で苦笑した。

 

紗「・・・了承。」

ユ「いいだろう。これ以上揉めるのも面倒だ。」

綾「ふぅ。」

 

ユリス達の話し合いが終わったので、白夜は綾斗たちに近づいた。

 

「俺と万由里も一緒に回りたいのだがいいか?」

綾「ああ、俺は構わないよ。」

ユ「私も別に構わん。」

紗「・・・同じく。」

「そうか。じゃあ、行こうか。」

 

そういって三人と一緒に教室を出ようとした時、万由里が白夜の制服の裾をつかんできて教室を出るのを止めた。

 

「どうした?」

 

白夜は万由里の方を向きながら訪ねた。

万由里は俯いていたが、顔を上げた。その顔は少し不安そうな表情をしていた。

 

万「ねえ、白夜はやっぱりクローディアみたいに胸が大きい方が好き?」

「・・・はっ?」

万「だから、クローディアみたいに胸が大きい方が好きなの?」

 

万由里は先ほどより強めな口調で言った。

ユリス達は先に教室を出て行ったので今の話は聞かれていないだろうが、俺たちがついてこないことに気づけばすぐに帰ってくるだろう。隼人と凛音もユリス達が教室を出るときに一緒に教室を出て帰ったのでもういない。

 

「いや、俺は大きいのも小さいのも好きじゃないぞ。俺は万由里みたいにちょうどいい大きさが好きだぞ。

だから、そんなこと気にしなくていいからさ早く行こうぜ。」

万「ほんと?」

「ああ、本当だ。それに胸の大きさだけで万由里以外を好きになることはないから。

俺は永遠に万由里を愛してるから。」

 

白夜がそういうと万由里は嬉しそうに顔を赤らめた。

 

万「ありがと、私も白夜を愛してる。」

「じゃあ、早く行こうぜ。じゃないと綾斗たちが戻ってくるだろ。」

万「ん。」

 

そういって万由里と一緒にユリス達三人の後を追って五人で学園内をめぐることになった。

学園内の施設について万由里とユリスが説明してくれているが、紗夜は俺と綾斗と同じように説明を聞いているだけだった。

 

ユ「沙々宮わ、私たちは別におまえを案内しているわけではないのだがな?」

 

中庭のベンチで一休みしながら、ユリスは説明をずっと聞いていた紗夜に向かって言った。

 

紗「・・・私、方向音痴だから。」

万「それで、よく案内するなんて言えたわね。」

紗「えへん。」

ユ「いや、褒めてないぞ?」

「まあ、俺はどっちでもいいがな。」

綾「まあまあ、いいじゃないか。俺も勉強になったし、本当に助かったよ。」

ユ「そ、それならいいのだが・・・。」

綾「あ、なにか飲み物買ってくるけどなにがいい?おごるよ。」

ユ「そうだな。では冷たい紅茶を頼む。」

紗「・・・私はりんごジュース。濃縮還元じゃないやつがいい。」

「俺もついて行くよ。万由里は何がいい?」

万「白夜に任せる。」

「わかった。じゃあ、行こうか綾斗。」

綾「うん、じゃあ行こうか。」

 

白夜は綾斗と一緒に大きな噴水を回り込むようにして高等部校舎の方に歩いて向かった。

万由里がいるベンチが見えなくなった辺りで白夜は綾斗に話しかけた。

 

「なあ、綾斗聞きたいことがあるんだが構わないか?」

綾「ん?ああ、別に構わないけど。」

「お前、誰に力を封印されてるんだ?」

綾「!?」

 

白夜の言葉に綾斗は驚き足を止めた。綾斗が止まったので白夜も綾斗より少し前で止まった。

綾斗は警戒した顔で白夜を見ながら疑問を口にした。

 

綾「どうしてそれを?。」

「お前とユリスの戦いを見た時に気づいたんだよ。

あの時、お前の動きは思うように体を動かせてない感じがした。それだけならまだ運動が苦手という可能性もあるが、お前はそれなりに剣術が使えるみたいだから違和感があった。なによりお前が最後に一瞬封印を破って使った剣技で気が付いた。」

綾「まさか、あの一瞬で気づかれるとは思わなかったよ。」

 

綾斗は先ほどと同じように驚いた顔をした後、肩をすくめて軽く笑いながら言った。

 

「だろうな、あのタイミングだと俺以外で気づいたやつは誰もいないだろうな。

ああ、悪いが万由里には封印のことをもう話したが。まあ、大丈夫だろうあいつは誰かに話したりはしないだろうから。」

綾「そうなんだ。まあ、白夜がそういうなら信じるよ。」

「さて、続きは歩きながら聞くよ。」

綾「そうだね。」

 

白夜と綾斗はジュースを買うために再び歩き始めた。

 

「それで、誰に封印されたんだ?」

綾「この封印は姉さんにかけられたんだ。姉さんの能力は万物を戒める禁獄の力なんだ」

「へえ、お前の姉さんはどうしてそんな封印を?」

綾「できれば俺も聞いてみたいんだけどね。なにしろ五年前に失踪しちゃってるからなぁ。」

「そうか。悪いことを聞いたか?」

綾「いいんだ。きっと姉さんには姉さんの事情があったんだろうし、これもきっとなんか意味があるんだと思う。」

「そうか。」

 

それから少し無言のまま歩いて目的の自動販売機についてジュースを買って帰る途中今度は綾斗が何かを思い出したかのように話しかけてきた。

 

綾「ああ、そうだ。俺からも一つ聞いていいかな?」

「ああ、構わない。」

綾「白夜はどうして純星煌式武装を借りないの?」

「ああ、俺にはこれがあるから使う必要がないからな。」

 

白夜はそういいながら、いつも腰に差している愛刀に軽く手を振れて言った。

綾斗は白夜の腰に差してある刀を見ながら、話しかけてきた。

 

綾「でも、見た感じそれって普通の刀だよね。

純星煌式武装みたいに特殊な力がある武器とかを使った方がフェスタとかにも有利になるんじゃないの?」

「まあ、そうなんだが。俺は使い慣れたこいつのを使った方が戦いやすいからな。」

綾「まあ、その気持ちは分かるかな。」

「そういうことだから、俺はこれがあれば困らないからいらないんだよ。

・・・それにそんなものなくても負けるとは思わないがな。」

綾「ん?何か言った?」

 

白夜は最後の方を小さい声で言ったため、誰にも聞かれることがなかった。

綾斗は白夜が何を言ったのか聞こうとした時万由里達が待っている中庭の方から爆発音が聞こえてきた。

 

「なんだ今の音は?」

綾「わからないけど、中庭の方から聞こえたからユリス達に何かあったかもしれないし急いで戻ろう。」

「そうだな。」

 

白夜と綾斗が一緒に走って中庭に向かうと、大きな噴水が壊れて水を噴き出していた。



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4話

遅くなってすみません。
しばらく忙しい日が続いたため書く時間がなかったので遅くなりました。



万由里side

 

白夜と綾斗が飲み物を買いに行った。

 

紗「・・・リースフェルト、もう一度聞きたい。」

ユ「なんだ?」

 

白夜達が行ってすぐに、ユリスと紗夜が話し始めた。

 

紗「なぜリースフェルトが綾斗の案内をすることになった。」

ユ「お前もなかなかしつこいな・・・まあいい、答えてやる。私はあいつに借りがあるからだ。それだけにすぎん。」

紗「借りとは?」

 

その問いにユリスは一瞬口ごもったが、仕方なく素直に答えた。

 

ユ「・・・決闘の最中に助けられた。」

紗「決闘?リースフェルトは綾斗と決闘したのか?」

ユ「そうだ。知らなかったのか?

流石に理由までは答えんぞ。プライバシーの問題だからな。」

紗「・・・結果は?」

ユ「途中で邪魔が入ってな。不成立となった。」

紗「・・・それはおかしい。」

ユ「なにがだ?」

紗「綾斗と闘ってリースフェルトが無事なわけがない。」

 

紗夜の言葉にユリスは少々面食らた。

ユリスは冗談かと思ったみたいだが、紗夜の瞳はいたって真面目だ。

 

万(紗夜の言い方からして、綾斗はかなり強いみたい。やっぱり、白夜が言っていたように力を封印されているってことかな。)

 

私は、二人の会話を黙って聞きながら白夜の考えが正しいのか一人で考えていた。

 

ユ「これはまた過小評価されたものだ。」

紗「・・・リースフェルトは強い。それは知ってる。」

 

紗夜は淡々と語る。

 

紗「でも、せいぜい私と同程度。それじゃあ綾斗の相手にはならない。」

ユ「—――ほう。今度はずいぶんと大きく出たな。」

紗「水樹はともかく、リースフェルトの実力は私と同程度なのは事実。」

ユ「いいだろう。試してみるか?」

紗「・・・。」

 

紗夜は、立ち上がり無言のまま距離を取った。

それを同意と受け取ったユリスも立ち上がり、距離を開けて胸の校章に手をかざした。

私は、二人の中間あたりにあるベンチに座ったまま二人に声をかけた。

 

万「ほどほどにね。」

ユ「わかっている。」

紗「ん。」

ユ「我ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトは、汝沙々宮紗夜へ決闘を―――。」

 

ユリスが、そこまで言った時私の二人を見ていた私の目の前の噴水の方から光の矢が数本飛んできた。

私は、隣に置いておいた雷霆聖堂の柄に右手をかけ鞘に左手で掴んでベンチから立ち上がる勢いで刀を抜いて飛んできた数本の矢を一太刀ですべて切り落とした。

ユリスの方を見ると、同じように光の矢が飛んできていたようで矢が地面に刺さっていた。ユリスは跳躍して回避したのか空中にいた。

紗夜の方は攻撃がされていないようだったので、おそらくフェニクス出場者だけを狙っているのだろう。

 

ユ「噴水だと。」

 

ユリスの声を聴いて改めて噴水を見ると、黒ずくめの格好をした襲撃者が上半身だけを水面からのぞかせていた。その手にはクロスボウ型のルークスが握られている。

 

ユ「ふんっ、またもや不意打ちか。」

 

嘲笑うように笑ったユリスはプラーナを集中し、空中で炎の槍を創り出した。

 

ユ「咲き誇れ―――ロンギフローラム!」

 

その炎の槍を、着地に合わせて解き放った。

相手を貫き焼き尽くすはずの炎槍は、間に入った黒い影によって遮られた。

間に入った黒い影は、襲撃者と同じく黒ずくめの格好をしていた。ユリスの炎を両手で構えた巨大な斧型のルークスを盾代わりにしたようだ。

 

紗「・・・どーん。」

 

重低音と共に大男が真横に吹き飛び、十数メートルの距離を舞ってきりもみするように落下し動かなくなった。

 

ユ「・・・は?」

万「え?」

 

ユリスと私は唖然としながら紗夜の方を見ると、紗夜が自分の身長よりも巨大な銃を構えていた。

 

ユ「・・・なんだそれは。」

紗「三十八式煌型擲弾銃ヘルネクラウム。」

万「擲弾銃って、グレネードランチャー!」

 

紗夜は、こくりとうなずいて構えた銃口を無造作に噴水に向けた。

 

紗「・・・《バースト》。」

 

紗夜が呟いた後、銃身がほのかに光を帯びた。

プラーナが急速に高まり、巨大な銃に集まっていき、マナダイトが煌々と輝きを増した。

 

ユ「—――メテオアーツか!」

 

襲撃者は噴水の中から身をおこし、あわてて逃げ出そうとしていたが遅かった。

 

紗「・・・どどーん。」

 

紗夜の撃った光弾が炸裂したことで、噴水は木っ端微塵に粉砕されていた。

わずかに残った基底部分から猛烈な勢いで水が吹き上がり、それはまるでシャワーのように周りに降り注いだ。

 

ユ「見かけによらず過激だな、お前は。」

紗「・・・リースフェルトほどじゃない。」

 

二人は、壊れた噴水のことを特に気にした様子もなく話していた。

 

万「はあ、二人ともやりすぎ。」

 

私は、雷霆聖堂を鞘に納めて二人に近づき話に入った。

話を聞いてみるとどうやら襲撃者たちには逃げられたらしい。あの攻撃を食らって動けるとはずいぶんと丈夫だなと話していた。

三人で話していると、白夜と綾斗が帰ってきた。

 

「なにが、あったんだ。

あと、万由里これでも羽織れ。」

 

白夜は、そういって自分の来ていた制服の上着を脱いで私の方に渡してきた。

私は、白夜の言葉と行動ですぐに気づいて自分の格好を確認すると、壊れた噴水から降り注ぐ水で水浸しになり着ていた夏服は生地が薄いため肌に張り付いて透けていた。

それを確認してすぐに、白夜が渡してきた上着を羽織って隠した。

 

万「見た?」

「もちろん、ばっちりと見た。

完全記憶能力もあって細部までしかっりと記憶している。」

 

私の質問に、白夜はサムズアップして報告してきた。

その答えに私は恥ずかしくなり、顔が真っ赤になっていることに気づいたが俯いて顔を隠すことしか出来なかった。

そうしている間に、白夜は私がこれ以上濡れないように水がかからないところまで誘導してくれた。

綾斗は、私と同じような状況にあるユリスたちを見て顔を真っ赤にして照れていた。その後は、ユリスの頼みで羽織るものを取りに走っていった。

白夜のおかげで綾斗に私のずぶ濡れの姿を見られることはなかった。

白夜は、ユリスたちの格好に目もくれずにいつもとあまり変わらないが、いつもより上機嫌で私のことばかり見ていた。その行為自体はうれしいが、もう少し綾斗のように照れて顔を赤くするなどもしてほしい。

それから、綾斗が羽織るものを持って帰って来た後、風紀委員の事情聴取などを受けて解散した。

 

白夜side

 

ユリス達が襲撃された翌日、綾斗は純星煌式武装の適合率検査を受けるために生徒会室に向かった。

ユリスや隼人達も今日はすぐに寮に帰ってしまったので、白夜と万由里は二人で一緒に万由里に貸し出されているトレーニングルームに向かって歩いていた。

万由里はこれからの訓練のためトレーニングフェアを着ていた。

 

万「久しぶりに白夜と模擬戦するわね。」

「そうだな。万由里が引っ越す前日にしたから、大体6年ぶりかな。」

万「まあ、今まで一度も勝ったことないけど。」

 

万由里はそういって目を細めて横目でこちらを見てきた。

 

「どうした?何かついてるか?」

万「そうじゃないけど、私の相手は制服のままで十分って言われているみたいだなぁって思っただけ。」

「ああ、そういうこと。まあ、ストレガの能力を使われたらトレーニングフェアを着ても勝てる気しないがな。」

万「よく言うわね。私が能力使っても今のままだと、魔神化した白夜に勝てないことも分かってるわ。

だから、魔神化してない白夜と渡り合えるくらいになるまでは白夜にも能力は教えないから。」

「それは残念。まあ、俺と渡り合えるくらいにこれからちゃんと鍛えてやるよ。」

万「ん。」

 

そんな話をしていると、トレーニングルームについた。

 

万「そういえば、白夜少しお願いがあるんだけど。」

「どうした?」

万「昨日の襲撃事件が解決するまでユリスの護衛を一緒にして欲しいんだけどいい?」

「ん?別に構わないが、となると綾斗の市街地の案内にもついて行くのか?」

万「ええ、そのつもり。白夜に市街地の案内するついでに行こうと思ってる。」

「友達の護衛をそんなついででいいのかよ?」

万「まあ、ユリスも強いから別に市街地で護衛する必要はあまりないから。」

「そうか。じゃあ、模擬戦を始めるぞ。」

 

万由里にそういうと白夜は万由里から距離をとった。万由里は白夜が距離を取ったのを確認すると雷霆聖堂を鞘から抜いて臨戦態勢に入った。しかし、白夜は武器である龍刀天叢雲剣を抜く素振りすら見せない。

 

万「刀抜かないの?」

「まあ、抜く必要が出れば抜くさ。」

万「そ。」

「じゃあ、始めるか。

いつでもいいぞ、遠慮なくかかってこい。」

万「じゃあ、遠慮なく。」

 

万由里はそう返した後、一瞬で距離を詰めてきた。

距離を詰めた後、白夜から見て右下から左上に斬り上げ、そのまま刀を返して左から右に斬りかかってきた。

白夜はその攻撃を後ろに少し下がり紙一重で回避した。

最初の攻撃はともかく二回目の攻撃は、当たれば首が飛んでいただろう。

 

「本当に遠慮ないな。

当たってたら死んでるぞ。」

万「遠慮しなくていいんでしょ。

それに、こんな攻撃で当たるなら苦労してないわよ。」

「まあ、確かにこれじゃあ当たらないな。」

 

お互いに話しているが、その間も万由里は白夜に刀を振り斬りかかっている。

しかし、白夜はそのすべてを紙一重でかわしきっている。

そんな攻防を少しの間続いたところで、万由里は右足を大きく踏み出して右から左に大きく振り、白夜の足元を斬りはらった。

万由里のその攻撃を白夜が軽く飛んで回避したが、万由里はそれを予想していたかのように刀を振った勢いを利用して右足を軸に回転し、空中で回避できない白夜にもう一度右下から右上に斬り上げを放った。

 

「ほー。」

 

白夜はその攻撃に感心した顔をして、刀を持っている万由里の右手の上に右手を置いて跳び箱を飛び越えるように刀を回避した。その回避で体制が崩れた万由里は体制を立て直しながらすぐに白夜に斬りかかったが、先ほどまでとは違い距離を取るように回避した。

 

「いやー、危なかったよ。

今の攻撃はなかなか良かった。

崩れた体制からの攻撃も的確で良かったぞ。」

万「はあ、まだまだ余裕あるくせによく言うわね。」

「いや、流石に素手で戦うにはあんまり余裕がなくなって来たな。

斬撃の速度も大分早くなってるし、狙いもかなり正確になってる。

体の使い方が大分分かってきたようだな。」

万「まあね。

武術を習って10年は経つから、これくらいは出来るようにならないと師匠に申し訳ないからね。」

「これだけ強くなればあの師匠も喜ぶだろうよ。」

万「まあね。けど、今のままじゃ白夜には勝てないかな。」

「だろうな。けど、これ以上剣術を上げるのはそう簡単な話じゃないがな。

だから、これからは星脈世代として強くなってもらう。」

万「どういう意味?」

「まあ、その説明の前に実際に体験してもらいたいことがあるんだが・・・。」

万「どうかしたの?」

「まあ、先に謝っておくわ。」

万「え?」

「すまない。」

 

白夜は自分の武器である龍刀天叢雲剣の柄に手をかけた。

そして白夜は万由里に対して尋常じゃない殺気を放って近づいてきた。

万由里はその殺気が本当に自分を殺そうとしているものだと本能的に理解して恐怖で動けなくなった。

白夜が刀が届く距離まで近づいたところで、刀を鞘から抜き神速と呼ぶべき速度で万由里の首に向かって振りかぶった。普段の万由里ならその斬撃を認識することすらできないだろうが、今は刀がまるでスローモーションのようにゆっくり動いて見えた。その斬撃は万由里の首すれすれで止まった。

万由里は首を斬り飛ばされなかったことに対する安堵で力が抜けて崩れ落ちそうになったが、いつの間にか刀を鞘に納めた白夜が万由里を抱きしめて倒れないように支えた。

 

「本当にすまない。」

万「だい、じょう、ぶ。

けど、後で、ちゃんと、せつめいしてよね。」

「ああ、今はすこし休め。」

万「そうする。」

 

万由里は、殺されることの恐怖のせいで呼吸が荒くなって白夜の胸に縋るようにして立っている。

そんな万由里を白夜はお姫様抱っこでトレーニングルームの隅に運んで、床に寝かせた。そして万由里の頭の近くに座り、白夜の膝の上に万由里の頭乗せた。

 

「今はこれくらいしかできないが、まあ我慢してくれ。」

万「ありがとう。」

 

白夜は、膝の上にある万由里の頭を優しくなでた。

先ほど、万由里に向けた殺気が嘘のような優しい顔をしている。

それから少しの間経つと万由里も大分回復したので、先ほどの説明を始めることにした。

 

万「じゃあ、なんでさっきあんなことしたのか話して。」

「それはいいが、膝枕したまま話すんだな。」

万「悪い。」

「いや、全然悪くないが。」

万「ならいいでしょ。

さっき殺されそうになったんだからこれくらいいいでしょ。」

「まあ、それもそうだな。」

万「じゃあ、説明して。」

「まあ、その前にさっきの抜刀術どこまで見えた?」

万「鞘から抜かれて私の首の直前で止まるまで全部はっきりに見えた。」

「だろうな。分かってると思うが、ゆっくり振ったわけじゃないぞ。

魔神化してない今の俺の最速の抜刀術だったからな。」

万「じゃあ、さっきのはいったい・・・。」

「人は死にかけると時間が圧縮されてゆっくり流れてるように感じるんだ。

さっきのはその感覚をより強く実感してもらおうと思ってな。」

万「それは分かったけど、どうしてそれが必要だったの?」

「万由里もプラーナで瞬発力を強化できるのは知ってるだろ。」

万「ん。」

 

白夜の質問に万由里は首を縦に振りながら小さな声で返した。

 

「知ってる通り、瞬発力の強化は少しミスしたらコントロールが出来なくなる。

けど、どんなに完璧にコントロールしても認識できる最大速度を上げないと必ず限界が来る。

だから、これからは瞬発力を強化して戦う修行をしながら自分の意志で時間を圧縮して認識できる最大速度を上げていく。」

万「そんなことできるの?」

「まあ、慣れ次第だな。

万由里も昔に比べたら大分認識できる最大速度が上がってるだろ。

高速での戦闘を繰り返してたらそのうち速い速度になれるからな。」

万「なるほど、でもそれだと死にかける意味なかったんじゃ?」

「いや、人為的に時間を圧縮する感覚を味合わせる手段がなかったからな。

一度も味わったことのない感覚を再現してみろなんて無理だからな。」

万「どのみち無理なきがするんだけど。」

「まあ、生半可な覚悟だと無理かな。けど、万由里なら出来るって信じてるから。」

万「・・・じゃあ、出来たらなんかお願い聞いてくれる?」

「ああ、どんなお願いでも聞いてやる。」

万「わかった。頑張る。」

「おう。

じゃあ、もう少し休んだら瞬発力を強化した状態で戦闘する修行を始めるぞ。」

万「ん。」

 

それから白夜と万由里は修行をしばらくの間続けて寮に帰った。

そして次の日も同じように万由里のトレーニングルームで修行をして一日を過ごした。

その次の日は、綾斗とユリスと一緒に市街地の案内について行く予定が入ったので修行はせずに、綾斗たちと正門前で待ち合わせをしていた。

白夜は綾斗と一緒に寮を出て正門に向かった。

正門前につくとすでにユリスと万由里は待っていた。

 

「おまたせ、待たせたか?」

綾「おまたせ、二人とも。ひょっとして待たせちゃっ・・・。」

万「ん~ん。今来たところ。」

ユ「いや、私たちも今し方着いたばかりだ。ちゃんと時間前行動が出来ているのは褒めてやらんでもなーーって、なんだ、ぽかんと口など開けて。腑抜けた面が一層腑抜けて見えるぞ?」

 

綾斗はユリスの言う通り、口を開けて固まっていた。

白夜は、そんな綾斗を横目に軽く見てすぐに目の前の万由里に目を移した。

万由里は、普段と同じ天使の羽のような髪飾りで同じ髪型をし、襟と袖、裾の部分に少しフリルのあしらわれた白いワンピースを着ていた。ワンピースは少し丈が短く、そこからすらりと伸びたきれいな足はほとんど何にも覆われておらず、白いブーツサンダルを履いているだけだ。そして、白いトートバックを持っていた。

 

「その服装よく似合ってるぞ、万由里。」

万「ありがとう。それにしても綾斗はいつまで固まってるの?」

「さあ。」

 

万由里の質問に白夜は肩を少しすくめて答えた。

綾斗が、固まっている理由は分かっている。

綾斗を軽く見てユリスの方に視線を移した。

ユリスの格好は、黒とピンクのガーリーなワンピースはやや丈が短く、そこからすらりと伸びた足の太ももまでをフリルのあしらわれたオーバーニーソックスが覆ている。手には短めの日傘を掛けている。

 

(おそらく、このユリスの格好を見て普段のユリスのイメージと違っていろいろ意識してるんだろうな。)

 

そんなことを考えていると、ユリスが綾斗に話しかけた。

 

ユ「・・・私の顔に何かついているか?」

綾「あ、ああ、ごめん!いや、なんていうか・・・・いつもと随分イメージが違うなって。」

ユ「う・・・そ、そうか?」

綾「うん、でもすごく似合ってるよ。」

ユ「なっ!ば、馬鹿!なに恥ずかしいことを・・・!」

 

ユリスは目線を逸らし、頬を染めながらそっぽを向いた。

 

ユ「だ、大体これは本国から送られてきたものを適当に見繕っただけでだな、別にお前のために選んだというわけでは・・・。」

「綾斗だけじゃなく俺たちもいるんだがな。」

ユ「うっ!」

万「白夜、あんまりそういこというと嫌われるわよ。」

「万由里に嫌わせなければいいんだがな。」

万「それはうれしいけど、あんまりひどいと嫌いになるわよ。」

「それは困るな。これから気を付けよう。」

 

そんなことを白夜と万由里が話していると、ユリスは綾斗たちの方に視線を戻して興味深そう言った。

ユ「しかし・・・こう言ってはなんだが、お前たちの方は私服でもあまり代り映えせんな。」

綾「そりゃまあ、元がそんなに良くもないからね。おまけにこれも古着だし。」

 

綾斗はTシャツの上に七分袖のシャツを羽織り、下はジーンズというラフな格好だ。

 

「俺も、元がそんなに良くないし服装にはあんまり拘りないからな。」

 

白夜は半袖のTシャツに半袖のフード付きのパーカーを羽織っている。そしてTシャツもパーカーも両方とも黒色で特に何の柄もない。下は綾斗と同じでジーンズをはいている。

 

万「二人とも見てくれは悪くないと思うけど。」

ユ「万由里の言うように、二人とも見てくれは悪くないと思うが・・・ああ、待て。」

綾「えっ?」

 

ユリスはずいっと綾斗に顔を寄せると、いきなりその手を伸ばして髪を撫でた。

 

綾「わわっ!な、なになに?」

ユ「寝癖だ。まったく、子供じゃあるまいし、もう少しきちんと直してこい。」

 

そういって、あどけない顔でくすくすと笑う。

すると、万由里が白夜の方をじっと見てきている。

 

「どうかしたか、万由里?」

万「白夜も寝癖ないかなって。」

「残念ながら、俺は寝癖出来にくい髪質だからないぞ。」

万「そ。」

 

白夜の答えを聞いた万由里は少し残念そうな顔をしたので、万由里の頭を優しく撫でた。

すると、万由里は少しうれしそうな顔をした。

 

ユ「よし!では行くぞ!。」

 

ユリスのその言葉で白夜達四人は一緒に市街地に向かって歩き出した。



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5話

白夜side

 

白夜達は、中央区のフェスタ総合メインステージ前にいる。

 

ユ「ここがアスタリスク最大の規模を誇るメインステージだ。フェスタの決勝戦は全てここで行われる。」

 

巨大なドーム状の建物を前にユリスは説明を続ける。

収容人数はおよそ十万人。フェスタの開催期間中はここがギャラリーで埋め尽くされるらしい。

今でも観光客が記念写真などを取っている姿があちこちで見受けられる。

 

ユ「ローマのコロッセオをモチーフにしているらしいが、もはや別物だな。この他にも大規模ステージが三つ、中規模ステージが七つ存在する。小規模の野外ステージ数え切れん。」

綾「へぇ、そんなにあるんだ。」

「そんなにあって使うやつがいるのか?」

ユ「市街地での決闘でも、原則的にはステージを利用するのがマナーとされているからな。もっともあまり守られてはいないようだが。」

綾「・・・・それは街中で決闘が行われてるってこと?」

ユ「うむ。」

綾「どう考えても危ないよね?」

「交通機関が地下に作られるわけだな。」

万「まあ、ここの住人や観光客は覚悟のうえで来ているから別にいいんじゃない。」

ユ「まあな。それに店舗や家が壊れた場合は一応保証されるしな。」

綾「無茶苦茶だね・・・・それでもみんなここに来たがるっていうんだからわからないなぁ。」

ユ「企業からしてみればアスタリスクに出店するということはステータスであり宣伝でもあるから仕方ない。それにイベントによっては中央区そのものが舞台になったりするケースもあるのだぞ。」

綾「俺なら住みたくないよ、そんな町。」

ユ「同感だ。」

 

ユリスは苦笑して言った。

 

ユ「さて、次はどうする?もう少しこのあたりを見てみるか?」

綾「いや、ここはもういいかな。」

「俺もここはもういい。」

ユ「ふむ、だとすれば次は行政区に行って治療院でも見ておくか。あそこには治療能力を持ったストレガやダンテがいるから、フェスタなどで大ケガをした場合などは世話になるぞ。もっとも公平性維持のため、骨折程度では普通の治療に回されてしまうがな。」

万「まあ、フェスタとか決闘をしなければお世話になることはないけどね。」

「そんな臆病者このアスタリスクに存在するのか?」

万「いるにはいるわよ。戦うことがすべてじゃないしね。」

「そうか。」

万「その次はどうするのユリス?」

ユ「あとは・・・そうだな、一度再開発エリアを見ておくのもいい。あのあたりは一部がスラム化していて治安的に問題があるが知らずに迷い込む方が危険だからな。」

綾「そういえば紗夜が買い物に行こうとして怪しげな場所に迷い込んだことがあるとか言ってたなあ。なんか古くてボロボロのビルやら潰れたお店やらばっかりが並んでたって。」

ユ「・・・・それは間違いなく再開発エリアだな。とういか買い物に行くなら普通商業エリアだろうに、なぜそんな場所へ?」

綾「紗夜、筋金入りの方向音痴だから。」

 

それを聞いたユリスは悪戯っぽく微笑む。

 

ユ「ふふ、そう言うおまえも変なところへ迷い込んでばっかりなのだから、人のことは言えないだろうに。」

綾「う・・・・。」

 

綾斗は事実だけに何にも言い返せないようだ。

 

ユ「では、次は・・・・。」

綾「ねえ、ユリス。案内はありがたいんだけど、そろそろお昼にしない?」

 

空間ウィンドウで地図を開きながら考え込むユリスに、綾斗がそう提案した。

時間的には丁度いい頃合だ。

 

ユ「む・・・・まあ、確かにそんな時刻であるが・・・・。」

 

しかし、ユリスの方はいまいち煮え切らない。

 

「どうしたんだ?」

ユ「いや、その・・・昼食は構わないのだが場所というか店がだな。」

綾「お店なんて商業エリアに行けばいくらでもあるんじゃないの?あっ、それとも実はすごく高いお店ばっかりとか?」

ユ「そうではなくて。あー、なんだ。つまり・・・・すまない!」

 

するとユリスはいきなり頭を下げてきた。

 

ユ「私は、その、あまり・・・・とういうかほとんど商業エリアに言ったことがないのだ。だからこういう時にどういった店に案内すればいいか判断がつかん。」

綾「ああ、うん・・・・。」

ユ「案内を任されておいて情けない話だが・・・・い、いや、それでも一応ネットで調べてきたのだぞ!ほら!

 

ユリスは携帯端末を取り出して、いくつか表示させた。

どうやらクチコミサイトのページらしい。が、それを見た綾斗の顎が、かくんと落ちる。

そこにチェックされていたのは超ド級の高級店ばかりだから仕方ないか。

それを見た万由里はため息をついて頭を抱えた。

 

「なあ、万由里こいつは馬鹿なのか?」

万「これは、私も一緒に案内の予定を考えなかったのが悪いわね。

まあ、ユリスも金額については理解してるから謝ってるんじゃない。」

「いや、俺が言いたいのはこいつは真面目すぎないか?」

万「まあ、それがユリスだし。」

「そうか。」

 

万由里とそんな話をしていると、綾斗がユリスと話をつけてこちらに話しかけてきた。

 

綾「結局適当にぶらつくことになったけど、白夜はそれで問題ない?」

「もともとどこでも問題ない。それこそユリスのおすすめする店でもな。」

万「はあ、白夜もかなりお金持ちだからね。」

綾「あはは。けど、流石に俺はそんなにお金がないから無理かな。」

「それくらいわかっている。」

綾「それじゃあ、とにかく商業エリアの方に行ってみようか。」

 

そのまま、白夜達は商業エリアの中でも最もにぎわっているメインストリートに向かった。

 

綾「うわ、すごい人だね。」

ユ「うむ。さすがに休日だけあるな。」

 

綺麗に整備された石畳風の道は私服に校章を付けた学生たちであふれていた。

 

「まあ、ちょうどこの辺に飲食系の店が並んでるし適当に決めて入ろうぜ。」

綾「そうだね。この辺で決めようか。」

 

綾斗が振り返ってそういうと、そこにユリスの姿はなかった。

 

綾「・・・・あれ?」

 

きょろきょろと辺りを見回してみれば少し戻ったところにユリスがたたずんでいた。

 

綾「なんだ、急にいなくなるから驚いちゃったよ。」

ユ「昼食はここでいいか?」

綾「ここって・・・・。」

 

ユリスが覗いていたのは、いわゆるハンバーガーチェーン店だった。

 

綾「俺はここで構わないけど・・・・本当にここでいいの?」

ユ「ああ、ここがいい!」

「俺もここでいいぞ。」

万「私もここでいいわ。」

 

白夜達は、注文をしてテラス席のテーブルに四人で座った。

 

綾「これを聞くのは二度目になるんだけど、ユリスって本当にお姫様?」

ユ「・・・・どういう意味だ。」

綾「だって、普通お姫様はハンバーガーチェーンを利用しないでしょ?」

ユ「それは偏見というものだな。お前の目の前に実例があるのだぞ、納得しろ。」

綾「そりゃそうだけどさ・・・・。」

「まあ、ユリスが普通じゃないとしたら納得だな。」

ユ「おい、私は普通だぞ。」

万「まあ、ユリスなが普通のお姫様ではないのは納得だけど、綾斗のお姫様に対する偏見も多少あると思うわよ。」

ユ「おい、万由里。」

「まあ、お姫様らしくないのは事実だからな。」

ユ「友人たちに教えてもらったのだ。」

 

ユリスは、小さく懐かしむように言った。

 

綾「友達?」

「ユリスに万由里以外の友達がいたのか?」

万「私以外に凛音もいるわよ。」

ユ「私にだって万由里達以外の友人はいる。ここではなく、自分の国に、だがな。」

綾「あ、もしかしてこの前の手紙ってその友達からだったんだ?」

ユ「むぐっ!?」

 

それを聞いたユリスは喉を詰まらせたのか、顔を青くしてどんどんと胸を叩いた。

 

ユ「けほっ、こほっ、な、なんでおまえがそれを・・・・!」

綾「本当に分かりやすいね、ユリスは。」

ユ「うっ・・・・!」

 

今度は顔を真っ赤に染めて背ける。

 

綾「ところで、少し真面目な話をしていいかな。」

ユ「ん、なんだ?」

「別に構わないが。」

万「私も同じく。」

綾「ユリスが襲われた一件なんだけど・・・・。」

 

綾斗は、事件について話し始めた。

内容を簡単にまとめると、他学園の手引きがあるのではとういう話だ。

 

ユ「なるほど、ありそうな話だ。他所の学園の手引きか。」

万「確かに、他学園の介入はあり得るわね。」

 

コーラのストローを加えながら話を聞いていたユリスは、それほど驚くわけでもなくうなずいた。

万由里もユリスと同じように、全く驚いていない。

 

ユ「おそらく私が最後のターゲットなのだろうな。だからこそ姿をさらしてまで仕留めに来たのだろう。」

綾「そんなわけで、しばらく一人での外出や決闘は控えた方がいいと思うんだけど・・・・。」

ユ「断る。なぜ私がそのような卑怯者のために自分の行動を曲げねばならんのだ。」

綾「・・・・だよね。」

「まあ、今回の事件の犯人はもう大体分かってるんだがな。」

綾、ユ「「はっ!?」」

万「相変わらずね。で今回の犯人は誰なの?」

綾「いやいや、犯人が分かったってクローディアもまだつかめてないのに?」

ユ「いや、それ以前にいつお前は事件について調べていたんだ。私の知る限り貴様が事件を知ってからまだ一週間もたっていないんだぞ。風紀委員に知り合いがいるわけでもにだろうし、クローディアに情報をもらったわけでもないんだろ。」

「この前の噴水を破壊した事件から軽く調べて分かった。まあ、本格的に調べたわけじゃないから証拠とかはないがな。」

ユ「呆れた奴だ風紀委員が必死に調べているのに軽く調べたで犯人を見つけるなど。」

万「まあ、ユリス達もそのうち慣れるわよ。」

綾「まあ、証拠はなくても犯人が分かったんなら教えてよ。」

「まあ、その前に後ろにいる奴は知り合いか?」

ユ「・・・・レスターか。立ち聞きとはいい趣味をしているな。」

 

ユリスは、少し振り向いて確認するとすぐに元に戻って言った。

 

レ「けっ、好きで聞いたわけじゃねえよ。たまたまだ。」

 

レスターの後ろには取り巻きの二人がいた。

 

レ「聞いたぜ。謎の襲撃者とやらに襲われたらしいな。少し恨みを買いすぎじゃねえのか。」

ユ「私は人に恨まれるようなマネはしていないぞ。」

レ「そういう態度が敵を作るってわかってるのかよ?」

ユ「わからんな。私はなにも間違ったことはしていない。それで敵となるものがいるのなら、相手になるまでだ。」

レ「はっ、大した自信だな、だったら今ここで相手になってもらおうじゃねえか。」

ユ「何度言えばその脳みそは私の言葉を覚えるんだ?もはや貴様の相手をする気はない。」

レ「いいからオレと闘えって言ってるんだよ!」

ラ「レ、レスターさん!いくらなんでもここで同意なしの決闘はまずいですよ!」

サ「そ、そうだよレスター!ここで騒ぎを起こしたら警備隊が・・・・!」

綾「そのくらいにしておいた方がいいんじゃないかな?」

レ「てめぇは黙ってろ・・・!」

綾「そうはいかないよ。先日ユリスが襲われた状況を知らないのかい?」

レ「なんだと?」

綾「今ここでユリスにケンカを売るのは、ユリスを襲った連中の同類とみなされても仕方ないってことさ。」

レ「ふざけるなっ!このオレ様がこそこそ隠れまわってるような卑怯者共と一緒だと!?」

ラ「レスター、お、落ち着いて!レスターの強さはみんなわかってるから!レスターはいつだって正々堂々相手を叩き潰してきたじゃないか!」

 

背後からレスターをランディが必死な顔で押しとどめる。

 

サ「そ、そうですよ!みんなわかってます!決闘の隙を伺うような卑怯なマネ、レスターさんがするはずありません!」

 

サイラスも慌ててそれに加勢した。

レスターはそれでも怒りが収まらないといった顔で綾斗を睨んでいたが、やがて踵を返して無言で去っていった。

 

綾「ふぅ・・・・。」

ユ「やはりお前は食わせ物だな。」

 

額をぬぐった綾斗に、ユリスがニヤリと笑いかける。

 

綾「なんのことかな。」

 

それにたいしてとぼけたように綾斗が答えた。

 

「まあ、綾斗が意外な一面を見れたが、犯人を言う前にもう誰か分かったみたいだな。」

万「あんなぼろ出したらね。」

ユ「しかし、お前はなぜあいつが犯人だと分かったんだ?」

綾「確かに、手がかりはなかったと思うんだけど。」

「それくらい、自分で考えろ。」

万「白夜の考えは聞いても理解できないだろうから意味ないわよ。」

ユ「まったく、お前たちは底が知れんな。」

 

その後は、ユリスと万由里の二人に案内してもらい帰る途中にレヴォルフの生徒に乱闘に見せかけて襲われたが、その大半はユリスがかたずけたので特に何もすることなく終わった。

その後、襲撃者らしき影をユリスが追ったが、迎え撃たれて危なかったところを綾斗に助けられた。

それから、警備隊が来る前に星導館に帰った。

綾斗はユリスの部屋に向かったが、白夜は万由里の部屋に向かった。

 

「それで、万由里は俺に何のようなんだ?」

 

白夜は綾斗と同じように窓から万由里の部屋に入った。

 

万「恋人を部屋に招くのに理由が必要なの?」

「いや必要ないが、今回は用事があるから呼んだんだろ。」

万「まあね。」

 

そういって、万由里はベッドに端に座って隣のスペースを軽くたたいて座るように促した。

白夜が万由里の促した場所に座ると万由里は白夜の膝の上に頭を置いて横になった。

 

「随分と甘えてくるな。まあいい早く要件を話してくれ。」

 

白夜は膝枕をしている万由里の頭を撫でながら言った。

 

万「別にいいでしょ。それにそんなに早く要件を聞いてどうするの?

もしかして、早く帰りたいの?」

「早く帰りたいわけじゃないが、用事が終われば何も気にせずゆっくり出来るだろ。」

万「そ。まあ、大した話じゃないんだけどね。気づいてると思うけど今回の事件そろそろ決着がつくでしょ。」

「ああ、そうだな。明日辺りにユリスを呼び出して潰しに来るだろうな。」

万「それでユリスはその誘いに絶対に乗るだろうから、ユリスの後をつけて犯人を潰してもらいたいんだけどいい?」

「ん~、万由里のお願いだから聞いてやりたいんだが。今回は綾斗の実力を少し見たいから手を出すのは綾斗と一緒に行くってことならまあいいぞ。」

万「別にユリスを助けてくれるならいいけど、綾斗の実力を確かめてどうするの?」

「そのうち戦うことになるだろうからどれくらいの力を封印されてるのか見ておこうと思ってな。」

万「なるほど、なら別にいいけど。」

「そうか。なら俺からも一つ聞いていいか。」

万「なに?」

「万由里ならユリスを助けるくらい余裕で出来るだろ。なんで俺の力を借りようとするんだ?」

万「今回の犯人の中にユリスや紗夜の攻撃を受けても動けるような相手がいたから、そんなのを相手にした白夜の力を少しは引きずり出せるかなって、せめて刀を抜かせるくらいはしてもらいかな。」

「見学する気満々だな。」

万「だめ?」

 

万由里は白夜の膝の上で白夜の顔を見ながらかわいらしく首を傾げて訪ねてきた。

 

「・・・はあ、まあいいか。」

万「ありがとう。」

「代わりと言っては何だが、今度は俺に膝枕して欲しいんだが。」

万「ん~、わかった。」

 

万由里は白夜の膝から頭を上げて最初と同じように座った。

万由里が座ったのを確認して白夜が万由里の膝に頭を乗せた。

 

「やっぱり、これは落ち着くな。」

万「今日は泊っていく?」

「それもいいな。」

万「じゃあ、泊まるってことね。」

「ああ。」

 

それから白夜は万由里の部屋に泊まって次の日また同じよう窓から出ていったん自分の部屋に帰ってから登校した。

登校するとユリスが何か手紙に目を通していた。

 

(やっぱり、仕掛けて来たか。)

 

それから普段通り授業を受けて放課後になった。

ユリスは用事があるといってすぐに帰ってしまった。

ユリスが帰る前に気づかれないように発信機を付けておいたので居場所が分からなくなることはない。

綾斗は生徒会室に向かったので、万由里と一緒に後から生徒会室に向かった。

生徒会室に入ると綾斗とクローディアがユリスを探すという話をしていた。

 

「ユリスが危ないってところまでは分かってるようだな。」

ク「ええ、その口ぶりだととっくに分かっていたみたいですね。」

「まあな。発信機も仕掛けてあるから場所も分かる。」

綾「本当、じゃあ、すぐに向かおう。」

ク「お待ちください。アレの用意が出来ています。どうかお待ちください。」

「じゃあ、俺は校門のところで待ってるぞ。用意が出来たら来てくれ。」

 

そういって白夜は生徒会室を後にした。



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6話

遅くなってすみません。4月も投稿しようと思ったのですが、時間がなくできませんでした。本当にすみません。


ユリスside

 

私は再開発エリアの廃ビルを訪れていた。

解体工事中のそこは、すでに一部の壁や床が打ち壊されているため広く感じるが、あちこちに廃材が積まれているため死角は多い。

一番奥の区画に足を踏み入れた途端、吹き抜けになっている上階部分から廃材が落ちてきた。

 

ユ「咲き誇れ―――レッドクラウン。」

 

私がそうつぶやくと同時に、私を守るように五角形の花弁が出現し、落下してきた廃材をすべて跳ね除けた。

 

ユ「今更この程度で私をどうにか出来るとは思ってないだろう?いい加減、出てきたらどうだ。サイラス・ノーマン。」

サ「これは失敬。余興にもなりませんでしたか。」

 

廃材が巻き上げた土ぼこりが立ち込める中、サイラスがゆっくりと姿を現し、芝居がかったしぐさで頭を下げる。

 

サ「それにしても驚きましたよ、よく僕が犯人だと分かりましたね?」

ユ「昨日、貴様が口を滑らせたおかげでな。」

サ「昨日?はて、なにか失敗しましたか?」

ユ「昨日、商業エリアで顔を合わせた時にあいつがレスターを挑発しただろう?あの時、貴様はレスターを止めようとこういったのだ。『決闘の隙を伺うような卑怯なマネ、するはずがありません』とな。」

サ「・・・それがなにか?」

ユ「なぜ襲撃者が決闘の隙を狙ってきたことを知っている。最初の襲撃―――あいつとの決闘の隙を狙った狙撃はニュースになっていない。」

サ「でも二回目の襲撃はニュースになっていたじゃありませんか。実際に僕も見ましたよ。」

ユ「そうだな、確かにニュースにはなった。だがあれはどれも私が襲撃者を撃退したとういうことを伝えていただけだ。沙々宮の名前どころか、彼女が現場にいたことさえ伝えていなかった。愚かしいことだ。あの時、貴様らを撃退したのは沙々宮の方だというのにな。」

サ「・・・・。」

 

サイラスは底知れない目で私を見つめている。

 

ユ「わかったか?あの現場に他にも人がいたという事実さえニュースになっていないのに、『決闘の隙を狙った』と言い切れるのは、その状況を直接見ていたか、あるいはその状況を聞かされたか―――いずれにせよ、犯人かその仲間しかありえんのだ。」

サ「これはこれは・・・僕としたことが迂闊でした。とすると、彼があの時レスターさんを挑発したのもわざとですか?」

ユ「だろうな。あれはそのくらいの腹芸ならやってのける男だ。しかし、白夜はそれより前に知っていたようだがな。」

 

少し自慢に胸を張って言った後、白夜について苦笑しながら話した。

 

サ「ふむ・・・だとすると彼の方に狙いを変えたのは正解だったようですが、もう一人の方は予想外ですね。まあ、あなたを狙う上で、彼はいかにも邪魔者だ。」

ユ「っ!貴様・・・!」

サ「くくっ、わかっていますわかっていますよ。あなたがわざわざここに足を運んでくださったのは、そうさせないためでしょう?だったら取引をしませんか?」

 

余裕の表情で手を広げて見せるサイラスに、私は奥歯をかみしめた。

今朝、ユリスの机に入れられていた手紙には「これからは周囲の人間を狙う。それを望まぬなら以下の場所に来られたし」とあったのだ。

 

サ「こちらの条件はあなたのフェニクス出場辞退です。」

ユ「話にならんな。ここで貴様を叩きのめせば済むことだ。」

 

私は、そういいながらレイピア型の煌式武装を起動させサイラスに向けた。

少しの間、サイラスと睨み合っているとレスターの叫び声が聞こえてきた。

 

レ「今の話は本当か?サイラス。」

ユ「レスター。」

サ「やあ、お待ちしていましたよ。レスターさん。」

レ「ユリスが決闘を受けたというから来てみれば、てめえがユリスを襲った犯人だと。」

ユ「こいつはどこぞの学園から依頼を受けて、フェニクスにエントリーした有力学生を襲っていたのだ。知らなかったのか?」

レ「同じ学園の仲間を売ったのか。」

 

レスターの言葉を聞いたサイラスは軽く笑った後、話し始めた。

 

サ「御冗談を。このアスタリスクに集まるのはみな敵同士、所詮己の欲望のために狙い狙わる関係じゃありませんか。だったらそれを利用して稼ぐ方が賢いと思いませんか?」

レ「ぶちのめす前に聞いておくぜ、なぜ俺様を呼び出した?」

サ「あなたには一連の襲撃事件の犯人役をやっていただきます。お二人は決闘して仲良く共倒れ、無難な筋書でしょ。」

 

サイラスの言葉にレスターは斧型の煌式武装を起動させてサイラスに襲い掛かった。

 

レ「くたばりやがれー!」

 

その時、サイラスとレスターの間に黒ずくめの大男が割って入り、レスターの一撃を素手で受け止めた。

それだけでも驚異的なのに、大男はレスターが渾身の力を込めてもびくともしない。

驚いた顔を浮かべつつもレスターは一度大きく距離を取った。

 

レ「へっ!それが自慢のお仲間ってやつか。」

サ「ふっ、馬鹿を言わないでください。」

 

サイラスが指を鳴らすと天井の吹き抜けからもう二人黒ずくめの男が降ってきた。

 

サ「こいつらは、かわいいかわいいお人形ですよ。」

 

サイラスがそういうと黒ずくめの三人は着ていたマントを脱ぎ棄てた。

それは、顔には目とおぼしき窪みがあるだけで鼻も口もない。関節は球体でつながっており、全体的につるんとしている。強いて言えば、マネキンに近いがそれよりもはるかに不気味な外見だ。

 

ユ「戦闘用のパペットか・・・。」

サ「あんな無粋なものと一緒にしないでいただきたいですね。こいつらには機械仕掛けは一切使っていませんよ。」

ユ「なるほど、それが貴様の本当の能力という訳か。」

レ「くらいやがれ!ブラストネメア。」

 

レスターがプラーナを高めると、ヴァルディッシュ=レオの光の刃が二倍ほどに膨れ上がる。

裂帛の気合と共に振り下ろされたそれは、人形たちを三体まとめて吹き飛ばしていった。

派手な音を立てて柱に激突し、破片が飛び散る。受け止めた柱に亀裂が入るほどの威力だ。

その一撃で三体のうちに二体が完全に破壊されたようだ。いずれも手足がもげてあらぬ方向を向いている。もっとも大男タイプの人形はボディにひびが入っただけですんだらしい。柱から体を引きはがすと何事もなかったかのようにレスターと向かい合った。

それを倒そうと人形に接近しようとすると柱の陰から新たな人形が二体レスターの光弾の雨を浴びせた。

 

レ「ぐああああああああああ!」

ユ「レスター!」

 

私が、思わず飛び出そうとしたが、それを阻むように別の人形が現れた。

 

サ「おっと、あなたはそこでおとなしくしていてください。そうそう、こいつらはあなた用に耐熱限界を上げてあります。」

 

ユリスを囲むように新たに三体の人形が現れた。他の人形たちと違って素体の色が真っ黒だが、違いといえばそれだけだ。

その手には剣型の煌式武装が握られていた。

 

レ「きたねぇ不意打ちしかできねぇようだな。」

 

レスターは立ち上がりながらサイラスにそういった。

 

サ「おや、存外お元気のようですね。」

レ「ふっ、こんなでくの坊例え何体かかってこようと・・・。」

 

レスターが喋っている最中に目の前に新たな人形が降ってきた。

その人形に続いて吹き抜けから一体また一体と増えていく。

レスターは忌々しそうにその光景を見ていたが、次第にその顔に浮かぶ表情は驚愕へと変わり、やがて恐怖へと塗り替えられた。

 

サ「何体でかかってこようと?いいでしょう、お望み通りにしてあげます。僕が同時に操れる最大数百二十八体でお相手して差し上げます。」

 

百二十八体の人形を前にレスターは絶望した顔で立ち尽くした。

それをサイラスは笑いながら見下ろした。

 

サ「あーははは、いい表情です。では、ごきげんよう。」

 

大量の人形に押しつぶされてレスターが見えなくなり悲鳴だけが聞こえた。

助けに行こうにも人形が道をふさいで助けることもできない。

 

ユ「やめろ、サイラス!

咲き誇れッ―――!アンテリナム・マジェス!」

 

ユリスが細剣を振るった軌道に魔方陣が浮かび上がり、そこから猛烈な熱波が迸ったかと思うと、その魔方陣を破るように巨大な焔の竜が出現した。

焔の竜は雄たけびを上げると、行く手をふさいでいた人形たちをその顎でまとめてかみ砕いた。

 

サ「これは大したものですね。しかし、所詮は多勢に無勢!」

 

顎をかいくぐった人形が五体、再びユリスを囲むようにして襲い掛かった。

それを細剣を振るって応戦し胴体に蹴り飛ばして倒し、最後の一体に細剣を突き刺した時、人形がしがみついてきた。

人形にしがみつかれて身動きが出来ない間に、サイラスの横にいる人形たちが銃を構える。

とっさに焔の竜を盾とすべく呼び戻すがわずかに間に合わず、光弾が太ももを抉りその場に膝をついた。

すかさずに二体の人形が両腕を抱えるようにして壁に押さえつけた。

同時に焔の竜が溶けるように掻き消えた。

 

サ「あなたの能力は強力ですが、ご自分の視界までふさいでしまうのが難点ですね。」

ユ「ふん・・・さすがに、よく観察しているじゃないか・・・。

だが、私にも一つ分かったことがあるぞ。」

サ「ほう、なんですか?」

ユ「貴様の背後にいるのはアルルカンとだということだ。」

 

その言葉にサイラスの顔から笑みが消える。

 

ユ「その人形共、特別仕様とか言っていたな。だが私やレスターの攻撃に耐えうるだけの装甲をどこから調達した?ましてやその数を量産できるとなれば、他の学園では不可能だ。」

サ「ふむ、ご明察―――ですが、これはいよいよもって見逃すわけにはいかなくなりました。」

ユ「はっ、もともとそんなつもりないくせによく言う。」

 

サイラスが私に近づこうとした時、私の腕をつかんでいた人形の腕が千切られて左右それぞれの方向に飛んで行った。

 

ユ「なっ!?」

「悪いな、遅くなった。」

 

そして、私の前で人形の腕を落として白夜が声をかけてきた。

その後、すぐに窓側の方から綾斗が入ってきて抱きかかえて支えてくれた。

 

サ「どうしてここに!?」

 

白夜side

 

「お前が、ユリスに呼び出しの手紙を送ってくることは予想してたからな。今朝、気づかれないよにユリスに発信機を仕掛けて置いたんだよ。」

 

サイラスの質問に対して当たり前のように答えるが、その答えにサイラスとユリスは絶句して何も言えなくなり、それを見て綾斗はただ苦笑していた。

 

ユ「貴様、いつのまに仕掛けた!」

「お前が手紙を読んでる時に横を通り過ぎる一瞬で付けた。」

ユ「ど、どこに?」

「左手の袖の裏。」

 

ユリスが、左手の袖を調べると確かに黒い小さな機械が出てきた。

それをユリスは握り潰して、白夜を軽くにらんだ。

 

「おいおい、助けに来たのに随分な態度だな。」

綾「発信機仕掛けられてたら誰でも睨むと思うよ。」

 

白夜の言葉に呆れながら綾斗が返した。

 

ユ「発信機を付けていたなら、もっと早く来られたんじゃないのか?」

 

ユリスの言葉に、綾斗が気まずそうな顔で頬をかいた。

 

綾「移動してる途中で紗夜から迷子になったから助けてくれって連絡が入って、それをクローディアに連絡してたら、遅くなって、ごめん。」

ユ「それは貴様が謝ることではないだろうに。」

「まあ、取り合えず犯人を早く捕まえて帰ろうぜ。」

 

白夜の言葉に今度こそユリスは呆れた顔で白夜に返した。

 

ユ「お前にはあの数の敵が見ないのか?」

 

ユリスの言葉に今まで驚いていたサイラスも復帰して話しかけてきた。

 

サ「なぜ、手紙のことがばれたのかはこの際いいとして、彼女の言うようにこの数を相手に勝てるとでも?」

「別におもちゃ数体相手にするのに何か問題があるのか?綾斗、半分倒しておいてやるかユリスと上で少し話して来ていいぞ。さっきから何か言いたそうだしな。」

綾「わかった。というか全部倒してくれてもいいんだけど?」

「おいおい、俺が手の内見せるんだからお前もすこしは見せろよ。」

綾「わかったよ。じゃあ、少しの間よろしく。」

 

綾斗はそれだけ言うとユリスを連れて天井の吹き抜けから上の階に上がった。

 

「さて、俺たちも始めるか。」

サ「私は、お二人同時に相手にしてもいいんですよ。」

「必要ないさ。言っただろおもちゃを相手に二人がかりはオーバーキルだからな。」

サ「大した自身ですね。いいでしょう。これだけの数を一人でどうにか出来るというならやってみるがいい!」

 

四方から光弾が乱れ飛び、その合間を縫って剣や斧、槍といった煌式武装を持った人形たちが飛び掛かってきた。

人形たちが、白夜の間合いに入った瞬間に人形たちは持っている武器ごとバラバラにされて吹き飛ばされた。バラバラにされた人形の切り口は切れ味の悪い何かで無理やり叩ききったようだ。光弾は白夜に当たるものだけがすべて弾き飛ばされる。

そのあまりに異様な光景にサイラスは驚愕に顔を染めて、人形たちは攻撃を止める。

そこには、膨大なプラーナを纏った白夜が先ほどと何も変わらない自然体で立っているだけだ。

 

サ「貴様、いったい何をした!?」

「何って見たままだが?」

 

白夜はさも当然のように言うが、誰が見ても異常な状況だ。

 

「どうした?来ないならこちらから行くぞ。」

 

白夜はそういって、サイラスにゆっくりと歩いて近づいた。サイラスは得体の知れない化け物が近づいてくる恐怖で後ずさりながら、人形たちの攻撃を再開した。

しかし、結果は先ほどと何も変わらず、頑丈な大男タイプの人形でさえもバラバラにされて吹き飛ばされる。光弾もはじかれ何一つとして攻撃が通用せず、白夜は一歩、また一歩と確実に近づいてくる。その白夜の姿にサイラスの顔は絶望に染まり、その場から動けなくなった。

しかし、不意に白夜は止まり距離を取った。

 

サ「!?」

 

その行動が理解できずサイラスは何も言えないまま、ただその場で驚くだけだ。

 

「俺の仕事は終わったぞ。」

 

白夜が、そういうと上から綾斗がユリスを抱きかかえて降りてきた。

 

綾「本当に俺いらなかったんじゃ・・・。というか本当に半分だけ倒したんだね。」

「ああ、あとは任せたぞ。」

 

白夜はそういうと、近くの柱に縋って見学を始めた。

それを綾斗は呆れたように見つめ、ユリスは化け物を見るようにこちらを見てきた。

 

綾「はあー。まさか、白夜があそこまで強いとは思わなかったよ。」

「へー、さっきの見えてたのか?」

綾「まあ、一応はね。」

「これは、少しは期待できそうだな。」

綾「期待には応えられないと思うけど、まあ、俺なりに頑張るよ。」

 

綾斗は、それだけ言うとサイラスの方を向き目を閉じて集中しだした。

 

綾「内なる剣を以って星牢を破獄し、我が虎威を開放す!」

 

綾斗の顔に苦悶の表情が浮かび、プラーナが爆発的に高まったかと思うと、複数の魔方陣が周囲に浮かび上がり、光の火花を散らし砕け散る。圧倒的なプラーナが解放され、光の柱のように立ち上がる。

そして次の瞬間、綾斗の姿はその場から消えていた。

サイラスは、何が起きたかわからないままぽかんと立ち尽くしたまま、先ほどまで綾斗がいた場所を見ていた。

 

サ「・・・・な、馬鹿な!?」

 

サイラスは慌てて周囲を見回した。

周囲には、白夜にやられたものとは違い、高熱で焼き切られてバラバラになった人形が何体か倒れていた。

 

サ「どこに消えた!?」

綾「ここだよ。」

サ「ひっ!」

 

綾斗は、サイラスの斜め後ろに立っていた。

ユリスを抱えたまま、一瞬で回り込んだのだ。それも人形たちを薙ぎ払いながら。

ユリスには、猛烈な突風と共に景色が切り替わったようにしか見えなかったが、その動きが尋常な速度ではなかったことくらいは理解できた。

 

サ「な、な、な・・・・!」

 

サイラスは慌てて振り返り、青い顔をして後ずさる。

そこには、右手に大剣、左手に少女を抱え、目視できるほどに圧縮された莫大なプラーナを纏った少年の姿があった。

 

(これは、すごいな。プラーナの量は俺より少し少ない程度か、身体能力も大したものだ。それにあの剣はかなり厄介だな、触れられないとなるとかわすしかないか。)

 

白夜が綾斗の戦いを見ながら考えていると、残った半分の人形も全滅していた。

それを確認して白夜は綾斗の方に近づいて行った。

 

「おつかれ、なんでお前ユリス抱えたまま戦ってんの?」

綾「白夜がユリスを守ってくれそうになかったからだけど。」

「別に言えばそれくらいやってやったのに。」

綾「まあ、別に問題ないから良かったんだけど。」

「そうか。」

 

そういって方、サイラスの方を見ると呆然と立ち尽くしていた。

 

サ「・・・・馬鹿な・・・・こんな馬鹿なことが・・・・ありえない・・・・ありえるはずがない・・・・。」

 

綾斗はそんなサイラスに大剣を向けると、悲鳴を上げてしりもちをついた。

 

綾「ゲームはおしまいだよ、サイラス。」

サ「・・・・ま、まだだ!まだ僕には奥の手がある!」

 

サイラスは腰砕けになりながらも大きく腕を振った。

すると、背後にあった瓦礫の山が吹き飛び、中から巨大な人影が姿を現した。

他の人形の五倍くらいの大きさがあり、腕も足もこの廃ビルの柱くらいあるだろう。外見は人いうよりゴリラのようだ。

 

サ「は、ははは!僕のクイーン!やってしまえ!」

 

サイラスの命令に従い、巨体に似合わぬ素早い動きで白夜達に襲い掛かってきた。

白夜と綾斗はお互いにため息をついて、白夜が前に出た。

白夜に巨大な腕が振り下ろされたが、白夜はそれをかわし腕が床につく前に巨大な人形の胴体を殴った。

巨大な人形は、胴体を殴られたことで上に打ち上げられ、殴られた場所から放射状にひびが全身に広がった。その後、巨体は綾斗がいるあたりに飛んで行った。

そして、巨体が綾斗たちを圧死せんと迫る刹那―――その剣が閃く。

 

綾「五臓を裂きて四肢を断つ――――天霧辰明流中伝”九牙太刀”。」

 

白夜以外では、間近で見ていたユリスにも、綾斗が何をしたのか分からなかった。

セル=べレスタが煌めいたかと思うと、巨大な人形は両手足を切断され地響きを上げて倒れていたのだ。その胴体には白夜の殴った跡以外に大きくえぐられた跡があったが、どのような攻撃でそれがなされたのか―――いや、そもそもにおいて綾斗が何回剣を振るったのかさえもユリスには見えなかった。

 

サ「・・・・・。」

 

サイラスにいたってはもはや言葉も出ないらしい。

それでも綾斗が近づいてくると、顔を引きつらせて逃げ出した。

 

サ「ひぃぃ!」

 

そしてサイラスは人形の残骸に縋りつくとふわりと浮いて吹き抜けから飛んでいった。

 

「ああ、面倒だなー。」

綾「ごめん、ユリス。ちょっと追いかけてくるから、ここで待っていてくれるかな。」

ユ「それはいいが、間に合うのか?」

綾「・・・正直、微妙なところだと思う。」

ユ「ふん、だったら私の出番だな。」

綾「え・・・?」

ユ「言ったはずだぞ、足手まといになるつもりはないとな。」

(いつ言ったんだ?そういえば、さっき戦闘前に何か二人で話してたな。その時か。)

 

白夜が、そんなどうでもいいことを考えていると。

 

ユ「咲き誇れ―――ストレリーテイア!」

 

マナが集約し、綾斗の背中から何枚もの焔の翼が広がった。

 

綾「うわっ!」

ユ「行くぞ、コントロールは私がする!今度こそあの卑怯者に一発かましてやれ!」

綾「・・・お姫様のセリフじゃないよ、それ。」

 

そういいながら綾斗とユリスは吹き抜けから飛んでいきサイラスを追いかけて行った。

 

「俺は、万由里と合流して帰ろ。」

 

白夜は廃ビルを出て万由里の気配がある方に向かって跳んだ。

 

万由里side

 

私は、クローディアと一緒に白夜達の戦闘を外から見ていた。

ちょうど、すべての人形を白夜達が倒し終わったところだ。

 

万「綾斗が思っていた以上に強くて驚いたわ。」

 

私の言葉にクローディアはいつものように笑顔だが、ほんの少し引きつっている。

 

ク「確かに綾斗の強さには驚きましたが、それ以上に白夜の強さに驚かされました。」

万「はあ、刀くらい抜かせてくれるじゃないかと期待してたんだけどね。結局一度も抜かなかったし、人形も光弾も手刀で全部叩き斬っていたし。」

ク「あれは本当に手刀だったのですね。見えない速度で刀を抜いてるのかと思いました。」

万「その方が現実的だから?」

 

クローディアに万由里が首を軽く傾げて質問する。

 

ク「ええ、そうですね。」

万「そ。けど、私は手刀でやったって言われた方が納得できるけどね。」

ク「そうですか?」

万「手は見えるのに刀が見えないのは変だしね。それにプラーナで手を強化して叩き斬ってたみたいだから。」

 

クローディアは私のことを驚いた顔で見てきた。

 

万「どうしたの?」

ク「そんなところまで見えていたのですね。」

万「白夜と付き合いが長いとその辺も注意してみるようになるのよ。」

ク「そういうものですか?」

万「そういうものよ。それより、サイラスが落とされたみたいよ逃げられる前に捕まえに行かなくていいの?」

ク「それもそうですね。では行ってきます。」

 

クローディアは、サイラスが落ちて行った場所に跳んで行った。

そして、クローディアが行って少しすると白夜がこちらに跳んできた。

 

万「おつかれ、白夜。」

「ああ、どうだった?」

万「多少はね。けど、出来れば刀を抜いて戦うところも見たかったんだけどね。」

「あの程度の相手に抜く必要もなかったしな。」

万「ちなみに、あれどうやって斬ったの?結構硬そうだったけど?」

「ああ、手刀が当たる瞬間だけプラーナで強化して斬ったんだ。一瞬なら全力で強化してもガス欠しないからな。」

万「なるほど、当たる瞬間だけ出力を上げているのね。」

 

白夜の説明に私は納得して軽くうなずいて返した。

 

「じゃあ、そろそろ帰ろうぜ。」

万「そうね。あとはクローディアがやるだろうし。」

「クローディア以外にも来てるみたいだがな。まあ、もう問題ないだろう。」

万「それもそうね。じゃあ、はい。」

 

私は、帰ろうという白夜に近づいて両手を大きく開いた。

その行動の意味が分からなかったのか白夜は首を傾げた。

 

「?どうしたんだ?」

万「ユリスみたいにお姫様抱っこで運んで。」

 

私は、上目遣いで軽く首を傾げてお願いしてみた。

 

(ああ、まったく万由里はかわいいなー!)

「わかった。」

 

白夜はそれだけ言うと、私をお姫様抱っこしてくれたので落ちないように白夜の首に腕を回した。

白夜は私をお姫様抱っこした後、建物の上を飛び移りながら星導館まで帰った。気のせいでなければ、白夜にしてはゆっくり帰っているような気がした。



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7話

投稿するの遅くなって申し訳ありません。


白夜side

 

白夜は綾斗と一緒に走っていた。

 

「急がないとユリスに怒られるんじゃないか?」

綾「わかってるよ。白夜も万由里に怒られるんじゃない?」

「まあ、少しは怒るだろうな。けど、あの担任に雑用を押し付けられたことを言えば許してくれるだろ。」

綾「それも、そうだね。」

 

話ながら走っていると、前を走る綾斗が渡り廊下を横切ろうとした時、柱の陰から出てきた少女と衝突した。

綾斗は少女と衝突しないように無理して避けたが、少女もまた綾斗と同じ方向に避けたため衝突する結果になった。

 

「大丈夫か、お前ら。」

綾「ああ、俺は大丈夫だよ。君、大丈夫?」

少女「あ、はい・・・大丈夫です。」

綾「本当にごめん。」

 

二人とも無事なことを確認して、急いでトレーニングルームに行くため綾斗に声を掛けようとして、綾斗の顔が赤くなっているのに気が付いた。

綾斗の視線の先を見ると少女がスカートを押さえて顔を赤くしていた。

それで何を綾斗が顔を赤くしている理由を理解して白夜は左手を頭に軽く当てて呆れた顔で綾斗に声をかけた。

 

「綾斗、お前は何をやってるんだ。」

綾「いや、これは事故で。」

「はあ、まあいい。それよりも急がないとやばいんだろ、早く誤って急ぐぞ。」

綾「そうだね。ごめん、不注意だったよ。」

 

そういって、綾斗は少女に手を伸ばした。

少女は、恥ずかしがりながらも綾斗の手をとって立ち上がった。

 

少女「いえ、こちらこそごめんなさいです。」

?「綺凛、なにをしている!」

綺「はい、ごめんなさいです。」

 

怒鳴るような男の声に少女はそちらに向かって謝り、落ちていた荷物を拾った。

 

綺「それでは。」

綾「ああ。」

 

少女は最後にこちらに頭を下げてから男の声がした方に走っていった。

綾斗は、少女が走っていった方を見て何か考えているようだ。

 

「もう時間は過ぎているが、随分余裕そうだな。」

綾「あ!」

 

綾斗が急いで駆け出そうとした時、ちょうど携帯に着信が入ったようだ。

綾斗が空間ウィンドウを開くと不機嫌そうなユリスの顔が映った。

 

白夜と綾斗はユリスからの着信があった後、急いでトレーニングルームに向かい現在訓練をしている。

普段は別々でトレーニングしているが、今回は綾斗やユリスと一緒に白夜と万由里の四人で合同訓練をすることにしたのだ。

現在は、綾斗とユリスの二人が訓練しているのを万由里と一緒に休みながら見ているところだ。

 

「やっぱり、綾斗は強いな。封印が全部外れたら面倒そうだ。」

万「よく言うわ。白夜に強いって言われても嫌味に感じるんじゃない?」

「それは流石にないだろ。」

万「わからないわよ。サイラスとの戦いの時、綾斗はセル=べレスタを使ってたけど、白夜は素手だったし。綾斗にそう思われても仕方ないんじゃない?」

「そうか?あいつもセル=べレスタ使いにくそうにしてるからそうでもないと思うんだが?」

万「確かに、扱いにくそうではあるけど、それでも素手よりはましだと思うわよ。」

「・・・返す言葉がございません。」

万「まあ、私も素手で倒し切るとは思わなかったわ。紗夜のあの攻撃を耐える人形が相手だったわけだし。」

「あんなのに刀抜く気がしなかっただけだよ。それより終わったみたいだぞ。」

万「そのようね。」

 

白夜と万由里は、訓練を終えて近づいてくる綾斗とユリスを見つめた。

 

「お疲れ。」

万「お疲れ様。」

綾「お疲れ。」

ユ「ああ、それより何を話していたんだ。」

「綾斗の力について少しな。」

綾「俺?」

万「ええ、けど大したことは話してないから気にしなくていいわよ。」

綾「そ、そうなんだ。」

 

白夜と万由里の言葉に綾斗は少し戸惑って返事を返した。

 

ユ「それより、私たちの訓練は見ていたのか?」

「見てたぞ。綾斗が飛び跳ねて炎を切ってた。すごかった。」

ユ「なんだ。その小学生みたいなふざけた感想は。」

万「まあ、白夜が言ってることも間違いじゃないけどね。ユリスの技のバリエーションが多いのは少しうらやましい。」

ユ「まあ、そのあたりは私も自負するところではあるが・・・、万由里にうらやましいと言われても嫌味にしか感じんのだが。」

万「そ、そう?」

ユ「今の私ではお前に勝てないからな。」

万「まあ、私も白夜に対して似たようなものよ。」

綾「確かにこの前の白夜、すごく強くて驚いたよ。」

ユ「確かに万由里が勝てないと言っていたから強いと思っていたが、まさかあそこまで圧倒的だとわ。」

「別に俺そこまで圧倒的に強いってわけじゃないぞ。」

ユ「どういうことだ?」

「俺は身体能力は万由里より上だが、プラーナの量で言えば万由里の方が上だからな。」

綾「そうなの?」

万「ええ、プラーナだけで言えば私が勝ってるわ。」

「プラーナだけで言えば綾斗より少し上なだけで大して変わらない。」

綾「俺、プラーナの量には多少自信があるんだけど・・・。」

「世の中上には上がいる。」

綾「それはそうだけど・・・。」

「それじゃあ、次は俺と万由里が試合するから休んでな。」

 

白夜がそういってトレーニングルームの真ん中に歩いていこうとした時、空間ウィンドウが展開された。

 

『来訪者です。取り次ぎますか?』

 

機械音声がそう告げると、白夜達はお互いに顔を見合わせた。

白夜達は来訪者をトレーニングルームに招き入れるために扉を開けると、紗夜とレスターが入口に立っていた。

 

ユ「ほほう、これはまた意外な組み合わせの来局だな。」

 

ユリスは面白がっている顔で言った。

二人はムッとした表情でユリスを睨んだ。

 

綾「紗夜に・・・レスター、どうしてここに?」

 

綾斗の言葉に紗夜は一歩前に出てユリスに人差し指を突き付けた。

 

紗「ずるい」

ユ「は?」

紗「リースフェルトは綾斗を独り占めしすぎ。綾斗と二人きりで放課後、密室にこもって人に言えないような行為に耽っていたことは調べがついている。」

ユ「人聞きの悪いようなことをいうな!私たちはフェニクスに向けてトレーニングしていただけだ!」

 

ユリスと紗夜がもめている横で綾斗はレスターと話始めた。

白夜と万由里は完全にそんな四人を呆れた顔で見ながら話が終わるのを待った。

 

「完全に無視されてるな。」

万「今回は私たちもいるから綾斗とユリスの二人きりじゃないのにね。」

「確かにな。」

 

白夜と万由里が話していると、入口が開いてクローディアとアルルカントの制服を着た女性が二人入ってきた。

 

ク「あら、みなさんお揃いでしたのね。」

エ「ほほう、ここが星導館のトレーニングルームかー綺麗だね。」

カ「あまりはしゃぐんじゃない、エルネスタ。」

「クローディア、その二人は誰だ?」

 

白夜がクローディアに問いかけると、クローディアは二人の紹介を始めた。

 

ク「ご紹介しますね。こちらはアルルカント・アカデミーのカミラ・パレートさん、そしてエルネスタ・キューネさんです。」

綾「アルルカント・・・?」

ク「この度我が学園とアルルカントが共同で新型の煌式武装を開発することになりまして、今日はその契約のためにいらしたのです。」

カ「どうも。」

ユ「ふっ、そういうことか」

レ「どういうことだ」

ユ「サイラスの一件を告発しないという条件で技術提供を取り付けたのだろう。」

レ「なっ!」

ク「さて、なんのことでしょう。」

 

ユリスの言った言葉にレスターは驚いた声を上げてユリスの方を向いた。

クローディアはいつも通りの笑顔で返した。

 

「それはどうでもいいんだが、なんでその二人がここに来てるんだ?」

万「契約だけならここに連れて来る必要はないわよね。」

ク「ええ、それは。」

 

白夜と万由里の質問にクローディアが答えようとすると、エルネスタが手を上げて答え始めた。

 

エ「はいはい、それは私が見たいって言ったからでーす。」

 

エルネスタはいいながら綾斗に近づいて周りを回り始めた。

 

エ「私の人形ちゃんをぜーんぶぶった斬ってくれた剣士ちゃんを」

 

そういってにぱっと笑うエルネスタにカミラは頭を抱え、クローディアは驚いたように口元に手を当て、ユリス達も白夜を除いて全員が驚いた。

 

ユ「貴様、今すぐ綾斗から離れろ」

 

ユリスはレイピア型の煌式武装をエルネスタに向け、紗夜は無言で煌式武装を起動させた。

エルネスタはそんな二人を気にせずに綾斗の観察を続けた。

 

エ「なるほどなるほど、なかなかいいわね気にいちゃた。」

 

エルネスタは綾斗を指さしながら言った。

 

綾「あの・・・人形を斬ったのは僕だけじゃないんだけど」

エ「知ってるよ、彼もだよね」

 

エルネスタが白夜に近づこうとすると、万由里が間に入りエルネスタを遮った。

万由里が刀の柄に手をかけると、エルネスタは両手を挙げて後ろに下がりカミラの後ろに隠れた。

 

エ「怖いな怖いなー。挨拶しようとしただけじゃないか」

カ「悪いな、エルネスタは御覧の通りの性格でね。代わりにお詫びする。」

 

カミラは謝ると、紗夜の持っている煌式武装見て紗夜と話し始めた。

白夜は紗夜とカミラが話している間に万由里に話しかけた。

 

「別に割って入らなくても良かったんじゃないか。特に何かする様子もなかったし。」

万「ちょっと嫌な予感がしたから割って入ったの。」

「嫌な予感ね、あれが何か出来るとは思わないけどな。」

万「白夜に危害は加えられないだろうけど、何かイラつくことをされそうな予感がしたの」

「そうか。まあ、もう終わったことだし気にするな。」

万「それもそうね。」

 

白夜と万由里が話している間にエルネスタ達はトレーニングルームから出ていっていた。

カミラと何かあったらしい紗夜はフェニクスに綾斗と出ると言い出し、ユリスともめ始めた。

それを見かねたレスターは黙ってトレーニングルームから出て行った。

 

翌日の昼休み、白夜と綾斗はアルルカントについて夜吹に聞きながら食堂に移動していた。

万由里は白夜と一緒に昼食を食べるために夜吹の話はとくに聞かずについてきた。

四人が歩いていると、パァンという乾いた音が響き渡った。

四人が音のした方を向くと、先日の放課後に綾斗が渡り廊下でぶつかった少女と彼女を怒鳴っていた男だ。

 

「あの二人何してるんだ?」

万「あれは刀藤綺凛ね。」

「万由里、あの子知ってるのか。」

万「知ってるも何もあの子は。」

 

万由里が綺凛について話そうとした時、綾斗が駆け出して綺凛を叩こうとしていた男の手を止めた。

 

「あいつ何やってるんだ。」

万「さあ、お人好しなんじゃない。」

「お人好しにも程があると思うがな。」

 

白夜と万由里が話していると、綺凛と綾斗が決闘をする流れになり綺凛が綾斗に決闘の申請をした。

それを綾斗が受諾すると、綺凛は刀を抜いた。

 

「あの綺凛とかいう子、なかなかやるようだな。刀を構えただけで綾斗を身構えさせるとは。」

万「そうでしょうね。なにせ彼女はうちの学園の序列一位なんだから。」

「!?」

 

万由里の言葉に白夜は驚いた顔で万由里の方を向いた。

 

「一位ってことは万由里より強いのか?」

万「直接戦ったことはないから分からないけど、剣技だけだと負けるかもしれないわ。」

「それはすごいな。今度手合わせしてみたい。」

万「勝負の結果は分かりきってるけどね。」

「分からないぞ、もしかしたら負けるかもしれない。」

万「そんなことないと思うけどね。」

万(白夜が勝つなんて一言も言ってないのに、負けるかもしれないって、何かない限り負けないってことね。)

 

万由里は白夜の圧倒的な自信に呆れながら綾斗と綺凛の決闘を見守った。

綺凛は綾斗のセル=べレスタを刀を合わせずに躱しながら攻撃していた。

 

「確かに剣技だけなら万由里より上かもしれないな。セル=べレスタの攻撃を躱すだけじゃなく、防御も軌道を変えて躱している。あれだけの才能を持ったものが同年代にいるとはな。」

万「彼女まだ十三歳よ。」

「は!?」

 

万由里の言葉に白夜は驚いた声を出した。

 

「あれで十三歳か、末恐ろしいものだ。」

万「五歳で私の師匠の剣術を奥義まで見ただけで師匠に負けず劣らずの完成度で習得した人が良く言うわ。」

「なんのことだか。」

万「まあ、彼女の才能がすごいけど、白夜程ではないわってだけだし。」

「それにしても綾斗はセル=べレスタを扱いきれてないな。」

万「そうね。セル=べレスタが綾斗の扱いやすい形だったら綺凛は負けてたかもね。」

「かもな。」

 

白夜と万由里が話している間に綾斗の校章が綺凛によって斬られたことで決闘は終了した。

決闘が終了してすぐにユリスが綾斗を連れて行った。

 

「俺たちも綾斗のところに行くか。」

万「それもそうね。」

「じゃあ、夜吹飯はまた今度な。」

 

白夜と万由里は何か言っている夜吹を無視してユリス達の後を追った。

白夜達はユリスのトレーニングルームに移動し、綾斗をトレーニングルームの床に寝かせた。

ユリスは不機嫌そうに綾斗の額に冷やしタオルを乗せた。

 

綾「それで、あの子が序列一位っていうのは本当なのかい?」

ユ「こんなことで嘘をついても仕方あるまい。というよりだな、お前こそ自分の所属する学園の序列トップを知らないとはどういう了見だ、この馬鹿者。」

「いや、俺も知らなかったぞ。」

万「白夜は序列とかに興味ないだけでしょ。」

「まあな。」

ユ「序列に興味がなくてもフェニクスに出るなら各学園の有力な選手くらい調べるだろう。」

「いや、まったく。」

万「そこは少しは調べようよ。」

「別に警戒している相手がいないわけじゃないが、あいつは出てこないからな。」

万「誰の事か分からないけど、もう少し調べようよ。」

「そんな必要ないけどな。」

万「そ。」

 

白夜と万由里が話している内容に呆れて頭に手を当てた後ユリスは綾斗に話しかけた。

 

ユ「それよりも、刀藤綺凛はお前でも勝てないほどの強さか。」

綾「・・・悔しいけど、剣の腕じゃ彼女の方が上かな。」

ユ「そうか・・・。」

万「ユリス、この場合は彼女を褒めるべきよ。なにしろ、あれでまだ13歳なんだから。」

綾「十三歳!?」

 

綾斗は少しの間何か考えた後ぶんぶんと首を振った。

 

ユ「?どうした?」

綾「ああ、いや、なんでもないよ。それよりもう少し彼女のことを教えてくれないかな?」

ユ「・・・随分と彼女のことが気になるようだな。」

綾「う、うん、まあね。」

ユ「ふん・・・そうか。まあいい。」

 

ユリスはつまらなそうに答えると空間ウィンドウを開き、ネームド・カルツの一枚目を表示した。

 

ユ「以前にも言ったが、私より強い者はそれなりにいる。この星導館学園の学生に限れば、『今の私ではどうしても勝てない』と思った者は五人―――三人はお前たち、それからクローディア、そして最後は刀藤綺凛だ。」

綾「クローディアも?」

万「私も?」

ユ「不本意ではあるが、事実は事実だ。クローディアは強い。何しろあれでうちの序列三位だからな。万由里、お前は普通に強いだろ。」

万「確かにそれなりに強いとは思っているけど、ユリスがどうしても勝てないって言うほど強いとは思わないけど。」

「万由里、お前はユリスよりかなり強いぞ。そう思われても仕方ないくらいにはな。」

万「そう。」

 

白夜の言葉に万由里は少し嬉しそうな顔をして下を向いた。

綾斗はクローディアについて詳しくユリスに問いかけた。

 

ユ「クローディア・エンフィールド。二つ名は《パルカ・モルタ》。未来視の能力を持つ純星煌式武装《パン=ドラ》の使い手だ。」

綾「未来視ってことは、つまり予知能力?」

ユ「詳しくはわからん。あれはクローディア以外、まともに使いこなせたものがいないらしいのでな。」

「未来視の能力かそれは少し厄介そうだな。」

ユ「噂では数十秒先までの未来を見ることが出来るのではないかと言われているが、詳しくは万由里に聞いたらどうだ。万由里はクローディアに公式序列戦で唯一ただの日本刀で勝った生徒だからな。」

綾「そうなの?万由里ってそんなに強かったの。」

ユ「当たり前だ。万由里は序列二位、二つ名は《雷霆万鈞》。ストレガでありながら、日本刀だけでクローディアを倒すだけの実力を持っているんだからな。」

綾「万由里って、ストレガだったの?」

万「ええ、まあそうだけど。」

綾「どうして、能力を使わないの?」

万「能力を使ったら刀の修行にならないでしょ。」

綾「・・・え?」

 

万由里の言葉に綾斗とユリスは何を言っているか分からないような顔をした。

白夜はそれを見て呆れながら補足説明を始めた。

 

「つまり、能力を使って戦うと剣術使わなくても勝てるから剣術の修行にならないってことだ。」

万「そういうこと。」

ユ「それはつまり、能力を使えば剣術よりも強いってことか?」

万「ん。」

ユ「否定しないのか。」

綾「じゃあ、能力を使えば白夜よりも強いってこと?」

万「それはないわ。」

綾「え?」

万「白夜はダンテだもの。」

綾「え!?」

ユ「そうだったのか!?」

「言ってなかったけ?」

 

万由里の言葉に綾斗とユリスは驚いて白夜の方を抜くが、白夜はいつも通りの顔で首を傾げた。

 

ユ「一言も言ってないぞ。」

綾「白夜はなんで能力を使わないの?もしかして、白夜も剣術の修行?」

「いや、能力どころか刀を抜く必要がない相手ばかりだから。」

綾「・・・・。」

ユ「・・・・。」

 

綾斗とユリスは先日のサイラスとの戦いの時白夜が刀を抜かずに人形を倒していたことを思い出して、無言のまま白夜を見つめることしか出来なかった。

 

万「まあ、私は白夜相手以外で能力を使う気はないから大丈夫よ。」

ユ「それはどうしてだ?」

万「だって、能力を白夜に一回でも見せたら白夜に対策を練られるから、白夜との一騎打ちまでは絶対に誰にも見せないって決めてるの。」

ユ「確かに、ストレガやダンテは能力は知られてしまうと優位が無くなるからな。」

「俺は気まぐれで使うかもな。」

綾「気まぐれって・・・。」

「そりゃあ、いい勝負した相手とかには少しくらい本気を見せてやろうかなって考えるかも知らないからな。」

万「ほどほどにね。」

ユ「はあ、ともかくフェニクスの話をしたいから万由里達は席を外してくれないか。」

「それもそうだな。」

万「じゃあ、また合同訓練しましょ。」

 

ユリスの言葉に白夜と万由里はトレーニングルームから出てた。

 

「それじゃあ、俺たちは昼食を食べに行くか。」

万「それもそうね。」

 

二人は食堂に向かって移動を始めた。

 



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