とある未来の青猫機械 (クリップ使い)
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プロローグ

(夏休みの真っただ中、私こと上条当麻は思い出のない状態で銀髪シスターと出会い、

以来彼女にウソをつき続ける生活をしていた。

そして今、香水臭い自称魔法使い神父から"吸血殺し"なる人物の奪還作戦へと

強制参加させられ、件の銀髪シスターことインデックスと一時帰宅したところだ。

…なぜか彼女のお腹は来た時の1.3倍ほどに膨らんでいらっしゃるが。)

 

「こら、テメェ服の中に何隠してやがる?」

「な、何も隠して――うひゃぁ!」

彼女が叫んだのは、突然下腹部の膨らみが移動を始め

背中を通って螺旋状に足元へと降りてきたからである。

そのまま膨らみの正体は布の隙間から解き放たれ、

三毛猫配色の毛玉となって表れた。

「ミー」

「こ、こらスフィンクス!まだ出てきちゃダメなんだよ!」

「いつ出てきてもこいつを家に置く気はねぇからな!

というか三毛猫、よく今出てきた。さぁそのまま玄関から出ていけぇ!」

「ミヤ゛ッ」

迫る上条の手の間から抜け出した三毛猫は何か匂いを嗅ぐような仕草をすると

なぜか玄関ではなく戸棚へと走っていき器用に前足で一番下の扉を開ける。

戸棚を開けた猫の文字通り目と鼻の先に合ったものは…

「あぁー!それは上条さんとっておきのドラ屋どら焼き!」

「ンミッ!ンミッ!」

箱からどら焼きを引っ張り出し、上条の股下を通って風呂場へ駆け出すまでこの間3秒。

さながら忍者である。

「とうま!そんなとことにそんなものを隠していたのかな!?」

「ちょっと待てインデックス、あれは来客用の特別なやつだぁー!」

獣の目のインデックスを押しのけると風呂場へとダッシュする上条当麻。

風呂場に入ると扉の鍵を閉める。

「ふっふっふ、もう逃げられませんよー。さぁ、そのどら焼きを返してもらおうか」

「ちょっととうまー!?入れないし中も分からないんだよー!」

腹を立てているだろうインデックスが扉をたたく音が浴室にこだまする。

「ミャ…」

しかし次の瞬間、上条当麻は絶句した。スフィンクスが2本足で立った上に

お腹から人一人入ろうかという卵を取り出したからである。

「…………っちょ、は!?テメェ、なんで!?」

ズドーン

巨大な卵を軽々と取り出した三毛猫はさも当然のことをするかのように

どら焼きを加えて何も言わずにタマゴの中へ入っていった。

「とうま?今の揺れは何なのかな?びっくりしたんだよ」

(驚きたいのはこっちなんですが。何なんですかこの都市(まち)は。

え?こういうのが普通なの?この三毛猫は科学技術の粋を集めた生物兵器で

一日12時間は専用カプセルの中でどら焼きと一緒に休息しないといけないとかなの?)

「えぇーと、ちょっと出てきません?出てくれば?出てこいや三段活用!」

「とうま―!中の様子が聞こえないんだよ!」

モグモグという咀嚼音が聞こえてくる中

上条当麻の怒りは次第にあきらめへと変わっていく。

(食われた…上条さんちの最低限のおもてなし用どら焼きがぁー)

しかし彼はこの後さらに常識殺し(想定外)に合うこととなる。

科学と魔術に加え未来の思惑が交差するとき、物語は次元を超える。




最初に出てくるひみつ道具がこれというのは
これまでのどんな話にもなかったんじゃないでしょうか。

今回の道具
"動物生まれ変わりタマゴ"
中に入ったものは思い浮かべた動物に変身することができる。
見た目や細かい情報も設定でき、変身解除にはもう一度中に入ればよい。

次回のひみつ道具は〇〇〇〇〇〇だ!


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旧約
1話:自信を持っていこう


目の前にある巨大タマゴを上条当麻はにらみつけている。

正確には、その中に入り込んだ三毛猫?をにらみたいのだが

あいにく上条当麻はその右手のせいで透視能力(クレアボヤンス)を身に付けることはできなかった。

(こんなことならすけすけ見る見るをちゃんとやっておけば良かったなぁ。

まぁビリビリがデレデレになってもそんなことはありえないだろうけど)

そんなことを考えていた矢先、いかにもな効果音とともに

目の前のタマゴの上部が開いた。しかし中に三毛猫の姿はない。

「おい、スフィンクス!どら焼きのことは許してやるから

とっとと出てk――」

そこまで言って上条は言葉を失った。

目の前のタマゴの中の青い塊がゆっくりと動き始めたからである。

「は?お前、スフィンクスじゃねぇのかよ!」

青いのはなのも言わずにタマゴから出ると

先ほど三毛猫がやったのとは逆に卵をお腹にしまい、

今度は犬の置物のようなものを取り出して封筒を食べさせ始めた。

「・・・ふう、これでやっと君と話ができるよ」

「青い・・・タヌキ?」

「僕はタヌキじゃなーい!猫型ロボットのドラえもんだ!」

「猫型って・・・猫耳もないしお腹にポケットはあるわで

どう考えても有袋類だろ」

「・・・君が上条当麻で間違いないみたいだね。

その馬鹿さ加減は聞いてた通りだ」

「とうまとうま―早く扉を開けてほしいんだよ!」

扉の外からインデックスが上条当麻を急かしたてる。

「あ、開けなくちゃ。」ガチャ

「おぉい!何してくれちゃってんですか!」

「あ、青いタヌキ」

「僕はタヌキじゃない!今日はもう2度目なんだけど!?」

「???・・・そんなことよりとうま、スフィンクスはどこに行ったの?」

「あー、スフィンクスはこいつに変身しちまった」

「とうま、どういうことなの!?説明を要求するかも!

もしスフィンクスに危害を加えてたら教会が許さないんだよ!」

「ちょっと待てインデックス、教会ってそりゃお前が来ている歩く教会のことだろ!?

全くの私刑じゃないか!」

インデックスは今にもかみつきそうな形相で上条当麻を照準に定める。

それを横から見ていたドラえもんは・・・

「まぁまぁ、二人とも落ち着いて。

僕も話しておかなきゃならないことが色々とあるし、

これから少し説明させてもらってもいいかな?」

「早く説明をするんだよ」

3人は居間へ移動しちゃぶ台の周りに座った。

そこからドラえもんは様々なことを語り始める。

もっとも、上条当麻はこれからの波乱を予感することもできなかったが。

「僕はドラえもん。22世紀からやってきた猫型ロボットだ。」

「22世紀!?じゃあタイムマシンとかもあるのか!?」

「もちろん」

「とうま、たいむましんって何?」

「タイムマシンっていうのは、過去や未来に行くことができる乗り物だ」

「過去や未来!?カナミンよりすごいかも!」

「それじゃ話を続けるね。僕は三毛猫に変身してこの時代で君に拾われた。

スフィンクスの姿でね」

「そ、それじゃあスフィンクスはどこに行ったの?」

「スフィンクスはドラえもんにお前が勝手につけた名前ってことだ。

まぁ、こいつが変身した三毛猫の名前をスフィンクスにすればいいさ」

「じゃあとっととスフィンクスになるんだよ!」

「ちょ、インデックス、そんな無茶な「できるよ」」

「ちょっと待ってね・・・”動物生まれ変わりタマゴ”~」

先ほどと同じように卵を取り出したドラえもんはその中へと入る。

10秒もしないうちに三毛猫が出てきた。

「スフィンクスなんだよ!」

「まぁ、完全記憶能力を持つお前なら猫を間違えることはないよなって

おい!ドラえもん苦しがってるだろ、放してやれよ」

抱きしめていられないことに不服そうなインデックスだったが

しぶしぶといったふうに猫と膝の上に乗せる。

「こんなふうに自由に動物に変身できるひみつ道具なんだ。」

「ひみつ道具ってなんだ?さっきも風呂場で変な犬を出していたけど」

「ひみつ道具の説明をするためには

学園都市で行われている計画と未来について話す必要がある」

「未来?ただ動物に変身するだけならLevel3くらいの肉体変化(メタモルフォーゼ)でも可能じゃないのか?

「そう、この学園都市では能力開発を行っている。

そしてその能力を工業的に再現しようとするプロジェクトが進められているんだ。」

「そんなプロジェクトきいたこともないぞ」

「秘密裏に行われていたからね。」

「"行われていた"?」

「僕がいた22世紀には学園都市は存在しない。とっくの昔に崩壊した。」

「崩壊!?」

あまりに大声を出したせいかインデックスが飛びあがった。

その間にドラえもんは膝の上からちゃぶ台の元の位置に戻る。

「あ、ごめんよインデックス」

「もう、とうまったら。難しい言葉が多くて

ドラえもんがスフィンクスだってこと以外何も分からないんだよ」

「ごめんね、もうすぐ終わるから・・・

それで、続きだけど・・・」

「あぁ、続けてくれ」

「崩壊したとき、学園都市の技術は一般に公開された。

ここで登場するのが松芝重工。

この会社は学園都市の技術を狙って解析を続けていた。

流出技術をすべて回収し解析データと組み合わせることで

市場を掌握するほどの大企業、マツシバへ一気に成長したんだ。」

「そんなことが起こるのか・・・」

「まぁ、これは君たちにはほとんど関係ないんだけどね」

「で、さっきの能力を工業的に再現しようとするプロジェクト?

ってのがどう関係するんだ?」

「そのプロジェクトはファイブオーバーと呼ばれてね、

名前の通り工業技術でLevel5(超能力者)を超えることを目標としていたんだ」

Level5(超能力者)って化け物みたいなやつらだよな?

そんなスゲーことホントにできるのかよ)

ドラえもんはポケットから変な筒状のものを取り出すと

上条に向けて取っ手を引いた。

すると、頭からシャボン玉のようなものが飛びだし吸い込まれる。

「わっ、ビックリしたんだよ!」

「ひみつ道具はファイブオーバーなどの研究をもとに

異能の力を純粋科学で再現したものだよ。

まぁ、子供のおもちゃみたいなもんだからそんなにすごくないけどね」

「子供のおもちゃで学園都市の能力を超えられてたまりますかっ!」

「例えばこれは第5位のファイブオーバーのひとつ、"本音吸出しポンプ"だよ」

ドラえもんがゆっくりと取っ手を押し出すとシャボン玉が出てくる。

「あ、さっきのシャボン玉なんだよ」チョン パァン!

「わっ」

『level5って化け物みたいなやつらだよな?

そんなスゲーことホントにできるのかよ』

「これはとうまの心の声?とうま、ほんとに考えていたの?」

「スゲーな!ほんとに心の声じゃないか!」

「他にもいろんなものがあるよ。

一方通行(アクセラレータ)のファイブオーバー、"ひらりマント"。

能力追跡(AIMストーカ)のファイブオーバーの"たずね人ステッキ"に

定温保存(サーマルハンド)の"エアコンフォト"。

変わったところでは多才能力(マルチスキル)時間割り(カリキュラム)の"ESP訓練ボックス"や

君の能力、幻想殺し(イマジンブレイカー)のファイブオーバーなんてのもある。」

「もはやどこからつっこめばいいのか・・・

とりあえずLevel5(超能力者)以上の能力なのに未来じゃ子供のおもちゃってとこからおかしい」

「難しすぎてさっぱりなんだよとうま。

ところで魔術師のわたしの前でそんな話してもいいの?

いくら理解できないとはいえわたしは完全記憶能力を持っているから

丸々誰かにばらすことだってできるんだよ」

「それもそうだ。そんな秘密、ホイホイしゃべっていいもんじゃないぞ」

「大丈夫だよ。"ヒミツゲンシュ犬"を設置したから。

これを使えば絶対に秘密がばれることはないんだ。たとえ滞空回線(アンダーライン)を使ってもね」

(そんな都合のいい道具まであんのかよ。てかアンダーラインってなんだよ。

インデックスほどじゃないがこっちも頭が破裂しそうだぞ)

「とうま、スフィンクス買ってもいい?」

「・・・はぁ・・・飼ってもいいぞ。その代わり、ドラえもんには約束してほしいことがある。」

「なんだい?」

「インデックスを守ってほしい。

俺はこいつを守ると心に決めたが、いつでもかしこも手が届くところにいるとは限らない。

その点、お前ならスフィンクスに変身できるしそのひみつ道具とやらを使えば守ることだってたやすいだろう?」

「うん、約束する」

「よしっ、インデックス、スフィンクスをかってもいいぞ!」

「やったぁー!」

銀髪の少女はこれ以上に嬉しいことはないというように目を細めて猫を掲げる。

ほおっておいたらこのまま回り始めそうな勢いだ。

「ちょっとおりるよー」

声とともに少女の頭の上に降り立つスフィンクス。

そのまま肩、袖、と段々に降りていきちゃぶ台の上に着地するとお腹をまさぐる。

上条は若干慣れてきた自分に呆れつつも興味深そうに見ていて、

インデックスはまるで手品を見るかのように目を爛々とさせていた。

「"家の感じ変換機"~」

「なんだそりゃ?」

「これをコンセントにつないで上にプレートを乗せれば家をどんな感じにも変えることができる、

名前の通りの道具だよ。早速繋いで上に安全な家のプレートを乗せれば・・・」

「ねぇねえ、何が始まるのかな?」

「これで安全な家になったってことか?ご都合主義にもほどがあるだろっ!もはや能力と何の関係もねぇし!」

「これでスフィンクスは家で暮らせるんだね。当麻、もしも裏切ったら私が許さないんだよ!」

「あーもうわかったから歯をガチンガチンさせるなぁー!」

ダッシュで玄関を通って逃げ出した上条当麻は突然後ろから襟首をつかまれる。

「ちょっとあの子を家に連れ帰ってくるとか言っておいて、遅かったじゃないか。」

「ス、ステイル!?こんなところで何しているんだ?」

「見ればわかるだろ?ルーンのカードを張っていたんだ。インノケンティウスをここに置いていくためにね。」

「そ、そうだったのか、セキュリティに引っかからないようにしろよ?」

「あたりまえだ。気づかれないようにする魔術も併用しているから不用意に触るな」

「そうか、なら良かった」

「早くいくぞ、幻想殺し(イマジンブレイカー)。こんなくだらない騒ぎに巻き込まれるのはこちらとしても不本意なんだからな」

「お、おい、襟を持って走るなぁー!」

 

十数分後

「とうまが戻ってこないんだよ!」

「また不幸に巻き込まれたんじゃないかな」

「きっとそうかも。探してくるね、スフインクス。ちゃんとお留守番するんだよ!」

「いってらっしゃーい」

 

さらに数分後

「さて、もうすぐ彼らが三沢塾につく頃だね」

いつの間にか元の姿に戻ったドラえもんは"どこでもドア"と"タケコプター"で三沢塾の上空へと移動していた。

空を飛びつつ"透視めがね"で外から最上階を透視する。

4棟のうちの北棟で立ち止まり(というかホバリング)何かを設置した後、

上条の部屋に戻ってさらにもう二つ道具を出し準備を始めた。

「ひとまずこんなところかな?さぁ、どら焼きを食べながらゴロゴロしよう」

しばらくして、記憶を消された上条当麻とステイルが運び出されると

(ちなみに上条は電話をしたが留守電につながった。

不思議がってはいたがインデックスが設定したとは思わず、事実その通りである)、

入れ違いにインデックスが中へと入って行った。

(廊下にルーンが貼ってあったから魔力の流れをたどってみたんだけど

魔力をさっぱり立っている建物の中へと通じているんだよ。

とうまも帰ってこないし、きっとこの中には何かあるんだよ。)

入ってすぐ、禁書目録の知識が盛大に警鐘を鳴らした。

この建物の主は上条当麻にかかわらせてはいけないと。

「久しいな、禁書目録の少女、と言ったところで君は覚えておらぬか。

必然、アウレオルス=イザードという名にも聞き覚えはあるまい。」

不自然な開き方をしたエレベータから緑髪の男が姿を現す。

「依然、君は私のことが分からぬようだな。そうでなければ困る。わたしの努力が報われぬのでな」

「何を言っているんだよ?」

「現然、君をここで待たすわけにはいかぬ。少しの間眠ってもらおう。『眠れ』」

「っ、あっ!」

突然アウレオルスが倒れ、駆け寄るインデックス。

「唖然、なぜ和が黄金錬成(アルス=マグナ)を反射する?

・・・釈然、その修道服、霊s―――」クカー

(私の歩く教会は物理魔術ともに絶対的な防御力を誇るんだよ。

でもとうまの右手で壊されちゃったかも。)

「二人とも。そこでなにをしているの」

「あ、エセ魔法使い!」

「エセではない。魔法使い。」

「名前はなんていうの?」

「姫神秋沙。それより。上へ」

「わかったんだよ。ほら、寝ぼけてないで早く」

(なつかしき)

「最上階へ。早く起きろ」

 

数十分後、校長室には上条当麻とステイルの姿があった。

「・・・なんじゃこりゃ」

「なんてくだらないものを見せてくれるんだい?」

「あ。フードコートの」

「どういうことだ?」

「なぜかこの人眠っちゃったんだよ。とうま、起こす?」

「俺たちが来る前にいろいろやったんだろ?

それで起きないなら何らかの異能の力による可能性が大きいんじゃないか?

ちょっとビンタしてみるから下がってろ」

上条が軽く頬をはたくとアウレオルスはゆっくりと起き上がる。

「ここは私の部屋か?・・・はっ、禁書目録はどこだ」

「ここにいるんだよ」

「歓然、無事か」

「やはり本当の目的はインデックスか。しかしお前も残念だったな。

防衛魔術は発動していなかったしその様子では自分の魔術に飲まれていたようだが?」

「『黙れ』。我がインデックスを忘却の彼方より救うのだ」

「お前、一体いつの話してんだよ?」

「な、に?」

「何のことかよく分からないけれど、

あなたが記憶の限界の話をしているならそれはもう終わっているんだよ」

「――――――っつかか」

「『答えよ』、ルーンの魔術師!いったい何があった!?」

「教えるも何も今言った通りさ。インデックスはとっくに救われているんだ、

君ではなく近代のパートナーによって。」

「馬鹿な、ありえん!吸血鬼でもなければ、いかにして記憶の制限を逃れたのだ!」

「それについては話せない。しかし言えることは一つだ。君にこの子は救えない。」

「落ち込まないで。アウレオルス。あなたは間違っていなかった。

きっとあなたの方法でも解決できた。」

「しかし、もう私にこの子を救うことなどできない・・・

は、ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは

もうお前など不要だ!吸血殺し(ディープブラッド)、『死ね』!」

その瞬間、姫神秋沙は自覚し、観測し、決定した。自分自身の死を。

「姫神―――!」キュイーン

しかし、幻想殺し(イマジンブレイカー)の干渉により、

観測は乱され、事象は捻じ曲げられ、結果として、『死』は回避される。

その時、上条たちの間に耳慣れない音が響いた。ヒュンという風を切るような音。

空間転移特有の音だった。

「もうだめだ・・・・黄金錬成(アルス=マグナ)ごときでこんな化け物に勝てるわけがない・・・

おしまいだ・・・上手くいく気がしない・・・私は何をやってもダメなのだ・・・」

先ほどまでは打って変わってあまりに弱気になるアウレオルス。

一同はその変わりように一同は声を発することさえも忘れていた。

そこへどこかから声が響いてくる。

「あー、あー、もしもし当麻君?忘れ物して行ってたよ。

人の話は最後まで聞かなきゃダメじゃないか。」

「その声は―――」

「スフィンクス!?家で留守番してなきゃだめだよ!」

「スフィンクスって。何者?」

「まさか、エジプト神話に登場するスフィンクスか!?」

「いや、そんな遠い時代から来たわけじゃないよ」

「その声・・・フム、いったいどこから聞こえてきている?

どうにも一方から聞こえてきているようではないが」

「あ、これは君たちの周りを飛ばせている"糸無し糸電話"から聞こえているはずだよ。」

「またひみつ道具かよ・・・」

「スフィンクス、今どこにいるのかな!?」

「僕は今当麻君のうちにいるよ。ちゃんと留守番しつつモニターで見てた。」

現在上条の家ではとある道具が居間を占領していた。

そのちゃぶ台ほどの道具の名前は"忘れ物送り届け機"。

ドラえもんはこれを使って校長室に"糸無し糸電話"ととある道具のアンテナを送ったのだ。

「もう事件は収束したみたいだし、二人は姫神さんと帰ってきて。」

「わかんたんだよ。あいさ、一緒にうちに来てくれる?」

「それはいい。でも。この人はどうするの?」

姫神の指さす先にはへたれ込む緑髪の男の姿がある。

「俄然、私はなんてダメなのだ・・・」

「泣かないで。あなたはよく頑張った。悲しみに打ちひしがれた私を救ってくれた。」

「あいさ・・・」

「アウレオルス、お前はよく頑張ったんだ。

俺が言っていいのか分からないけどお前はインデックスを救いたかっただけなんだろ?

元の生活に戻れるかは分からないけれど、俺はお前が悪いやつとは思えない。

人を思ってそこまでやれるんだったらきっといくらでもやり直す方法はあるはずだ」

「とうま・・・」

「ともかくだ。アウレオルス=イザードを確保し

吸血殺し(ディープブラッド)を保護した時点で僕の仕事は終わった。

アウレオルス=イザードは僕たちが預かる。

おそらくだけど、その男は宗教裁判に掛けられ、

黄金錬成(アルス=マグナ)について糾弾されるだろう。」

「その必要はないよ」

声とともに吸血鬼のようなものが出現した。

「スフィンクス!?お前吸血鬼だったのか!?」

「なるほど、そういうことか。ふふっ、笑わせてくれるね」

「スフィンクス、あいさを嚙んじゃダメなんだよ!メッ!」

「言っておくけど、僕は本物の吸血鬼じゃあないよ。その証拠に・・・」

蝙蝠に変身し急加速したドラえもんがアウレオルスに噛みつく。

その姿は本物の吸血鬼のようだったが・・・?

「・・・私は何をしていたんだ?」

「この子。吸血鬼ではない。本物はこんな分かりやすい姿をしているわけではない」

「この"ドラキュラセット"を使えば記憶を吸い取って忘れさせることができるんだ」

「よくもやってくれたな!科学の猫が!」

「捕まらないよーだ」

炎剣を振り回すステイルの周りを小さくなってひらひらと飛び回り

傍目から見ると蝶とそれを追う虫取り少年のようにも見え・・・ない。

しばらくすると痺れを切らしたステイルが

炎剣を爆発させて勝敗がついたかのように見えたが

実は背後に回っていたドラえもんがひみつ道具に関する記憶を奪って終わりとなった。

ドラえもんがバケツのような道具を取り出して

アウレオルスの首に輪っか状のパーツを取り付け

ボタンを押し始めると顔が粘土細工のように変化する。

「おーいステイル、あんまりぼうっとしていると取り逃がすぞ」

「スフィンクス、帰るんだよ!」

「お腹。すいた。おやつがあるといい」

「我はどうしてこんなところにいるのだ?」

「着いて来い!お前の身柄はイギリス清教に引き受けられたんだ!」

「僕は先に帰って留守番してるるねー」

窓からドラえもんが飛び去ったのを合図として各自が岐路につくこととなった。

 

家に帰るとドラえもんが片づけをしているところだった

「なあ、結局忘れ物って何のことだったんだ?」

「私も言われた覚えがないかも!」

「あぁ、このアンテナだよ」

ドラえもんが取り出したのは棒状のアンテナだった。

「"自信ぐらつ機"~!この道具はアンテナを取り付けられた人の

自信を失わせることができるんだ。」

「まんまじゃねーか!ってうかあいつあのまま引き取らせて大丈夫だったのか?

宗教裁判にかけるとか言ってたけど」

「それについても問題ないよ。彼のすべての記憶は奪っておいた。

きっとかれはやり直せるはず。ここまで信念を貫けるほどの性格だったのだからね」

記憶を失って新しい人生を生きるということを現在進行形でやっている上条は

アウレオルスの心情を察しつつも、ドラえもんが一瞬こちらを見たように思えた。

「ところで。私はどうすればいい?」

「あいさは吸血鬼を呼び寄せてしまうからとうまが手を握っていた方がいいかも」

「え。・・・///」

「インデックスさん!?」

「(冗談なんだよって言いたいけれどあまり冗談とも言えないかも。)

あいさは教会でいったん預かることになると思うんだよ」

「そう。この能力がもう不幸を呼び寄せないならそれでいい。」

「ともあれこれでハッピーエンドだね。」

「そういえば。この子は何?」

「僕は未来から来た猫型ロボットのドラえもんだよ。」

「何だか不思議な子。でもありがとう。」

「えっ、どうして?」

「あなたは。私の恩人二人が傷つくのを防いでくれた」

「確かにあのまま言ってたらもっと酷いことになってたんだよ。

私からもお礼を言わなきゃかも」

「どういたしまして。でもん僕はここにおいてくれるだけでもう十分だから

そんなに頭を下げなくても大丈夫だよ」

「ところでドラえもんはなんでこんな不幸学生のところなんかに来てくれたんだ?」

「それは君を不幸から救うためなんだよ。」

「そ、そんなことのために来てくださったのですか!

神様仏様ドラ様ありがとうございます!」

突然の幸運に小躍りしそうになるのを全力で胸の内に押しとどめる上条。

しかしこの後も不幸は続くこととなるのだった。




前回予告したひみつ道具は"自信ぐらつ機"ですね。
手っ取り早くアウレオルスに黄金錬成を使えないと思わせてみました。
この道具は対人戦においてほぼ無敵と言えるんですよね(一部心理掌握等の例外を除き)。
今回は解説が多くていきなり前回の8倍もの文章量に。
そのくせして戦闘シーンはその半分もないので
2回に分けた方がよかったかもしれません。
ちなみにインデックスが黄金錬成を反射したのは
前回のとあるシーンがフラグになります。キーワードは一方通行。
さて今回から本編が始まって道具もどんどん出てきました。
いきなり無名チートアイテム全開ですが。

今回の道具
"ひらりマント"
振るだけで何でも反射できるマント。
今回は一方通行のファイブオーバーのひとつとして名前のみ登場。
"たずね人ステッキ"
名まえを言って倒すと転がって方向を指し示すステッキ。的中率は70%。
別名"探し物ステッキ"。今回は能力追跡のファイブオーバーとして(ry。
"エアコンフォト"
被写体を写真と同じ温度にできるカメラ。
今回は定温保存のファ(ry。
"ESP訓練ボックス″
これを使って3年間勉強すれば念動能力、座標移動、透視能力のlevel4相当の能力が
身につく。
今回は多才能力と時間割りのファイブオーバーとして名前のみ登場。
時間割りは能力ではないが細かいことは気にしてはいけない・・・多分。
"ヒミツゲンシュ犬"
隠したい内容を紙に書き、封筒に入れて食べさせることで
周りが隠したいことを探ろうとしても絶対に知ることができなくなる。
"家の感じ変換器"
コンセントをつないだ家を様々な色のプレートで好きな感じにできる。
"どこでもドア"
やっと使われたひみつ道具御三家。説明不要の空間湾曲装置。
"タケコプター"
反重力で空を飛べる。
"透視めがね"
一層だけ透視できる虫眼鏡。
"忘れ物送り届け機"
忘れ物を指定した座標へ転送できる装置。
"糸無し糸電話"
筒状の無線で話せる糸電話。飛べと言いながら投げると目標の周囲を飛行する。
"自信ぐらつ機"
アンテナをとりつけた相手だけが受信する自信ソーシツ電波を発信する小型電波塔。
自信ソーシツ電波を受信するとあっという間に自分に自信が持てなくなる。
"ドラキュラセット"
着け犬歯とマントのセット。装着すると吸血鬼に変身できる。
ただし吸い取るのは血ではなく記憶で、
吸い取られるとすっかり忘れて思い出せなくなる。また、閉まった窓もあけられる。
変身した後は吸血鬼の特徴を受け継ぎニンニクと十字架が苦手になる。
"モンタージュバケツ"
中にナンバリングされた大量の顔写真が入っており、顔の部品をその中から選ぶ。
電線の付いたチョーカーを首に付けて本体のボタン操作で
選んだ番号、部品、位置を入力することで顔を好きに変えられる。

次回のひみつ道具は○○○○○○○○だ!


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2話:役職を持っていこう

1時間遅れてしまいました。ここにお詫び申し上げます。


上条当麻は瀕死の重傷を負っていた。

より正確に言えば、瀕死の重傷の上に瀕死の重傷を負ったため、もはや死んでいないことがおかしい事態である。

(ちくしょう、勝率0.0001%も無いだろうlevel5との勝負を2回もやってまだ生きてるって

それ生きてるのが誤差なんじゃないのぉ!?)

なぜこんなことになったのか。ことの始まりがいつかは分からない。

それを考える余裕すらも上条当麻は失っていた。彼は、今目の前にいる相手――一方通行(アクセラレータ)との戦闘をこなしている。

 

そんな姿を影から見る者がいた。

「ミ、サカのためにあの人は戦ってくれているのですか・・・と、ミサカは――」

そして、戦いを見守るものはほかにもいた。

(まったく、学園都市の最高峰、一方通行と勝負するとは・・・君は本当に君らしいな。

しっかし、こんなに危なっかしいんじゃおちおち見ているわけにもいかないよ。

でもまだ"アレ"を使うまではいっていないか・・・)

実は、上条当麻がここまで戦ってこれたのはひとえに彼の暗躍のおかげでもある。

最適条件下での粉塵爆発の威力を削るため、"カチンカチンライト"を使って

上条の周囲の小麦粉を固形化させ爆発の威力を打ち消したり、

落ちてくる鉄骨の一部を逸らせたりしていたおかげで上条当麻は一方通行と渡り合えたのだ。

「イイ加減楽になれ。好きな方の手に触れろ。

それだけで血の流れの向きを、生体電気の向きを逆転させて死ねるからよォ」

「くっ・・・」

重力の向きや空気抵抗の向きさえも変換し、推進ベクトルに変え、

指数関数的加速を得た一方通行が両手を構えて上条に迫る。

「どっちがいい?苦手か、毒手か、両方かァ」

ゴシャアと潰れるような音を立てて人が吹っ飛んだ。

 

そしてそのころ、とある鉄橋では御坂美琴がいぬを膝に乗せていた。

「あいつ・・・ほんとに行っちゃったのかな・・・」

「ニャァオン」

「あなた、何か知ってる?わけないよね」

すると、突然に猫が肩を伝って耳元で何かをささやき始めた。

その事実と内容に美琴は信じられないという表情をする。

 

操車場にて、吹っ飛んだ人は月を見上げていた。

「くそっ、何だコリャぁあああああアァ!」

(何だ?さっきの俺は前からの力をそのまま推進ベクトルに変換し続けていたはずだ。

なのになぜ、

これだけの能力(チカラ)をもってしてもたったあの三下をぶッ飛ばすことすらできなかったってのかァ!?

もっと、圧倒的に、この場を制御する力をッ!)

「へっ、来いよ三下」

「うがァアアアア!」

鈍い音が響き、二人は子供の喧嘩のようにぐちゃぐちゃになりつつも互いのこぶしをぶつけ合う。

しかし、わずかに上条当麻の方が勝っている。

「なぜだァ!?なんで俺のベクトル操作が効かねェ!?」

「そんなこと知るか!お前、なんでこんなことやってんだよ。

妹達(シスターズ)だって生きているんだぞ!」

「あの人は、あって間もないミサカたちのことを

心配してくれているのでしょうが・・・とミサカは逆に心配してみます。」

直後、一方通行が吹っ飛ばされる。

「何だってテメェみたいなのに殺されるのを受け入れなきゃいけないんだよ!」

「あァ?何で人形を壊すのをためらわなきゃなんねェンだよ。

あいつらはボタン一つでいくらでも量産できる汎用品に何の価値があるってンだ。」

落ち着いているように見えて一方通行は冷静さを失っていた。

今までに経験したことのない、未知の恐怖を絶対的な力で葬り去りたいと思った。

「くかかかか、あンじゃねェか、ここに。この世界すべてを満たす力場が。

こいつを手の中に収めることすら可能とする、それこそが俺の能力じゃねェか!」

一方通行が空中に手を差し出すと、そこを中心として風のベクトルが整列、圧縮される。

「なァ三下、エグゾーストキャノンって知ってるかぁ?」

エグゾーストキャノンとは圧縮した空気を一気に開放することで空気の塊を発射する、

いわゆる空気砲の大型版といった装置である。

一方通行が中心部の空気のベクトル制御を解除すると

行き場を失った圧力により上条に向かって衝撃波のような風が発生した。

「ぐぉおっ」

「圧縮かァ・・・いいことを思いついたぜ」

大量の空気を圧縮することで熱が発生する。上条を吹き飛ばした後

熱伝導のベクトルを操作し、高圧空気の檻に閉じ込めると淡い光が見え始めた。

「始まったみたいだね」

超高温環境に置かれた物体は特異な振る舞いをみせる。窒素や酸素とてその例外ではなく、

特有の桃色や青色の光を放つ熱プラズマが発生する。

「くかきけこかくくくうかかけけけけここここかかきけかけ」

「ミサカは、あの人を助けることができるのでしょうか

とミサカは自分のことを棚に上げてあの人のことで頭をいっぱいにします」

よろりと立ち上がった上条の視界に写ったのは

ボロボロになりながら一方通行に向かうミサカ妹の姿だった。

「ミサカにできることは多少の電撃程度、いまだ実験が続いている中では

他の妹達の手を借りることはできません・・・とミサカは自分の能力不足を嘆きます」

(くそっ、八方ふさがりじゃねぇか。

こんな不利な状況をどうやって打破するというんだっ・・・助けてくれ、ドラえもん!」

「あァ?」

「やっと僕の出番か・・・"一発逆転爆弾"~」

コンテナの上から戦場を見渡していたドラえもんがポケットから手りゅう弾のようなものを取り出す。

そしてそれを御坂妹と一方通行の間に向かって投げた。着弾すると煙のようなものが広がる。

「な、何でしょうかとミサカは突然の爆発に驚きをあらわします」

「さて、あとは万事うまくいくはずだ。でも、ちょっとだけ背中を押してあげよう」

そういうと先ほど使った"カチンカチンライト"を構え、プラズマに向けて照射する。

硬化したプラズマが一方通行の頭上に落下した。

もちろん、硬化したプラズマは反射され一方通行に一切ダメージを与えず砕け散った。

しかし、現代の科学サイドにとってそれはあり得ない現象であった。

(なンだ?プラズマが固まった?そんなことありあるか?それでも今実際に起きたことだ。

反射できたということは物理現象に従ったもンだといえるが・・・)

「捕まえたぁー!」

「なに!?」

「おい御坂妹、こいつに向かって電撃を放て!俺よりお前が倒した方がいい!」

「は、はいとミサカは状況が呑み込めないまま逆転のチャンスにありつこうとします」

右手で後ろ手に一方通行を取り押さえ、そこへ御坂妹が電撃を飛ばす。

御坂美琴の電撃には遠く及ばないが、それでも感電すれば確実に失神する大きさの電流だ。

右手でつかんでいるため、反射は発動せず、上条は感電しない。

「ぐァあああああァァァァァァァ!!」

元々能力に頼り切った生活をしていたために体の弱い一方通行は倒れてしまった。

「これでひと段落か――「ちょっとアンタ!」」

お姉様(オリジナル)ではありませんか、とミサカは今更遅いんだよという雰囲気を出しながら呼び止めます」

「遅くなんてないもん!アンタ、大丈夫だったの?」

「あぁ、なんとかな。それよりその猫、どうしたんだ?御坂妹に預けた子猫そっくりだけど」

「あぁ、鉄橋に居たら寄ってきてね・・・」

「それよりあなたと一方通行は病院に行くべきです、とミサカはすでに肩に担ぎつつ助言します」

「そうねってこいつ私が運ぶの!?」

「悪い御坂、俺はもう・・・」

度重なる疲労のせいで上条当麻はついに倒れてしまった。

 

明後日

「と゛う゛ま゛-!」

「ひっ、インデックスさん!?わたくしはまだ入院中の身なんですよ!」

「アンタ!どうしてこうも突っ走ってしまうのかしら?」

「御坂さんも落ち着いてくださいっ!」

「先生の話ではたった打撲と火傷と内出血の酷いのだけだって話なんだよ!」

「だけってことはないでしょ!」

「まったく、私も呼び出されて大変だったんだからね」

「え?わたくし目が眠っている間に何があったんですか」

「あんな屈辱・・・とにかく、私とアンタとこのシスターとで学園都市を一時出ることになったから」

「えっ!?一体何があったんだ?」

実は今朝、御坂美琴は綿辺先生と一緒に上条が通う学校へと向かい、

月詠先生を伴って一方通行を怪我させたことである高校の先生のお説教を受けてきたのだ。

(全く、あの猫め、

 『食蜂操祈に頼み込んで"一方通行を倒したのは上条当麻と第3位だ"という噂を流してもらえ』

なんてめちゃくちゃなことを頼んできて・・・大変だったんだから)

そして事態鎮静化まで学園都市の外に一時的に出られるように手配してもらったのだ。

「・・・おいスフィンクス、ちょっと後で来い」

「?」

上条の唐突な発言にきょとんとするインデックスだったが、御坂は意図を理解したらしく

銀髪シスターを入り口まで連れていった。

「・・・ホント、ありがとうね。私と妹を救ってくれて」

「いや~上条さん死ぬかと思いましたよ」

「今度お礼に美味しいクッキーでも買ってくるから」

「そこは手作りクッキーのほうが上条さん的配点高いんだけどな」

「て、手作りクッキーなんて・・・」

顔をリンゴのようにして声を口の中に押し止める御坂だったが

直後にハサミのような効果音がしたあと思いきったようすで

今度持ってくるからと言い残し去っていった。

「さてと、どういうことかなドラえもんくん。説明したまえ」

「え、何のこと?」

「あのプラズマだよ!どう考えてもあんなぶっ飛んだことが出来るのはお前だけだからな!」

「あれは君たち自身の手でやったことだ。僕はただ暖かく見守っていただけだよ。

状況を一転させることしかやっていないし。」

「・・・・・・はぁ、それで絶対能力者進化計画はどうなったんだ?」

「あれは即時中止になった。肝の一方通行が妹達に破れることとなったんだからね」

「はぁ、それからさっきの御坂のアレもお前だろ?」

「あぁ、"思い切りハサミ"のことだね。悩んでいる人を吹っ切れさせる道具だよ」

「ところで、お前は行くのか?旅行」

「僕は学園都市でやることがあるから3日目以降に合流するよ。

それと、これを渡しておくね」

ドラえもんが手渡したのは小判型の紙の束だった。

「なんだよこれ」

「それは"代用シール"といって使い方は・・・とにかく外見と周りからの認識が一致しない人に名前を書いて貼ってあげて」

「そんなややこしい人居るのか?」

「2人ほどいるはずだよ。外出楽しんでね。一応言っておくと保護者として上条夫妻も来るから。」

「げっ、どうしよう。助けてドラえも~ん!」

「そんなこと言われてもな」

「おーい、交代だぞー」

「ちょうどいいや、ちょっと待ってて」

ドラえもんは扉の外に出るとすぐに入ってきた。

「やあやあ遅れてごめん」

「今でたばっかりだけどどうかしたのか?」

「ううん、気にしなくていいよ。それより頼まれたものを持ってきた。」

そう言ってドラえもんはポケットからレコードほどの記録ディスクと再生機をとりだした。

上条が疑問を抱くよりも早く、ベットに備え付けのテーブルの上に置くと

ディスクの中身を再生し始める。

「これは・・・?」

そこに写っていたのはちょうどインデックスほどの背丈の女性と

どことなく上条当麻に似た中年の男性が撮影者の方へ笑いながら走ってくる映像だった。

そして何度か撮影者であろう人物の名前を呼んでいる。

問題はその名前が"当麻"であることだ。

「とっ・・・・・・・」

「どう、驚いた?」

「・・・・・・・なぁ、もしかしてこの人たちが俺の両親なのか?」

「そう、上条刀夜・詩菜夫妻だよ。タイムマシンで君が失う直前の君の記憶をすべてもらってきた。」

「(やっぱばれてたか)ということはこれは記憶を失う前の俺ってことだよな」

「これは君が小さいときに海へ行ったときの記憶だよ」

それから上条当麻はひとしきり泣き、意を決したようすですべての記憶の閲覧を始めた。

その中でも上条当麻は上条の知らない事件に巻き込まれていた。

一方で上条当麻は上条と同じように自分の身を削って他人のために動いていることを感じた。

(両親の愛する上条当麻はもういない。子を亡くした親にこのふりをして会うというのは苦しいな・・・)

 

翌日、上条当麻、御坂美琴、インデックスの3人は「わだつみ」という海の家にいた。

単純なケガだったので治りも早く、療養もかねて早く出すという上の判断によりこんなに早く来ることとなった。

「いやー、海なんて久しぶりに見ましたよ」

「私も初めて見るんだよ!」

「私も学園都市に来る前以来よ」

「早速海で泳ぐか!」

「せっかくの海なんだし、楽しみましょう!」

(黒子がいたら面倒くさいことになってただろうけど・・・もうちょっとだけお留守番お願いね!)

「当麻、スイカ割りってのをやってみたいかも!」

「あ、それならスフィンクスがスイカ割り用のスイカを用意してくれたよ」

「それは楽しみなんだよ!」

 

そのころ、学園都市に残ったドラえもんは妹達と接触していた。

「私のいぬが突然アニメキャラみたいな何かになってしまいました、

とミサカ10032郷は呆然としつつも冷静に状況を述べます」

「僕はドラえもん。未来から来たネコ型ロボットだよ」

「未来からとはどういうことでしょうかとミサカ13577号は混乱しつつも質問します」

「そのまんまの意味さ。僕は上条当麻という男の子とその周りの人々を幸せにするためにやってきた。

そこには当然君たちも含まれる。

妹達は人間の軍用クローンだからバレるといろいろと面倒なことになるのは知ってるよね?」

「はい、とミサカ17831号は同意します」

「しかしそのことについてはもう対策が決まっているのでは、とミサカ19090号は疑問を投げかけます」

「その対策というのは妹達を世界中の学園都市協力施設で分散して保護するというものだよね。

でも僕はそれ以外の道も示してあげたいんだ」

「それはどのようなものなのでしょうかと、ミサカ10039号は新たな道にワクワクしつつ質問します」

「君たちを一つの体にまとめ上げ、そのうえで常盤台中学校にお姉さまと一緒に通って見たくはないかな?」

「そ、そんなことが可能なのでしょうかとミサカ18324号は驚愕の回答に驚きを隠せず変な言葉遣いになります」

「もちろん。僕は22世紀の高級猫型ロボットだからね」

「では、妹たちの中で反対の者はいますか?とミサカ10032号はミサカネットワーク内で質問します。」

十数分後、妹達の中での総意が決まった。

「では、よろしくお願いします、とミサカ10032号は正式にお願いします」

「よし、"ウルトラミキサー"~!この両端に二人ずつ手をくっつけて。」

「分かりましたとミサカ10032号と」「ミサカ10033号は指示に従います」

二人が両端に手をくっつけた瞬間、吸い込まれて上側から合体した御坂妹が出てきた。

数時間が経過したころ、やっと妹達の合体が完了した。

「ふむ、性格のベースはミサカ1003号がもとになっているようですね、とミサカは確認します。

しかしミサカネットワークとすべての御坂たちの意思をを脳内に収めるとは

どうなっているのでしょうか、とミサカは疑問に思います」

「じゃあ次はきみが学園都市で生活できるようにしよう。

今日の午後5時、第7学区の病院前に行ってもらえるかな?」

「分かりました、とミサカは次の展開に期待しつつ了承します。」

(さて、こちらは準備完了。次の場所に行こう)

そういうとドラえもんはどこでもドアを使ってある廃墟へ移動した。

その廃墟とはスクールが根城としているところである。

「"ぐっすりまくら"でっと。ごめんね、誉望さん、3時間ほど昼寝しててね」

「な、なんス―――クゥ・・・」

「あとは"入れ替えロープ"を使って・・・」

ロープの両端を誉望万化とドラえもんのそれぞれに触れさせると一瞬にして姿が入れ替わった。

「さて、ポケットは一応回収しておくけど、こんなところに置いておいたら目立つし・・・

とりあえず壁際で寝ててもらおう」

ずるずるとドラえもん姿の誉望万化を壁際まで引っ張ると風邪をひかないように毛布をかけておく。

「さて、垣根帝督に会いに行かないと・・・気が進まないなぁ・・・」

最上階までエレベータで移動するとそこに垣根帝督がいた。

「なんだ?どうしたんだ。飲み物買ってくるんじゃなかったのか?」

「飲み物?それなら直ぐ用意しますから」

「俺の分じゃない。自分の分を買いに行ったんだろ?」

「そ、そうだったっス。別にいいかなって思って(やばいやばい焦った)」

「夏場はちゃんと水分補給しろよ。熱中症みたいなくだらないことで抜けられたらこっちが迷惑だからな」

「は、はい(優しいんだか自己中心的なんだか)」

「それで、なんか進展あったか?」

「・・・何の進展でしたっけ?(まずい)」

「窓のないビルの突破に決まってるだろ。・・・ほんとに熱中症か?」

「そ、そんなことはないっスよ。(そうだ)進展はありました。」

「そうか、どんなだ?」

「物体を原材料に分解する能力の研究をしてる再生技術研に言ったらこのライトがあったっス」

こっそりと四次元ポケットからひみつ道具を取り出す。

「なんだ?そのライトは」

「"原料ライト"と言ってその能力を強力にして再現したものらしい。(ほんとはひみつ道具だけど・・・)」

「そいつで本当にあのビルを破れるのか?」

「調べたので間違いないっス」

「なら、再現してもらおうか」

「へっ?」

「いや、再現性がないようなものは科学とは言わない。それとも俺はこのまま延々デマに振り回されるのか?」

「ひっ、再現します直ぐします(とりあえず”レプリコッコ”で・・・)」

急いで外に出て窓のないビルのレプリカを作成し根城に戻ると瓦礫で叩いてみせてょんものであることを証明する。

「この演算型・衝撃拡散性複合素材(カリキュレイト=フォートレス)にこいつを当てれば・・・」

光が当たった端からレプリカが分解されていった。

「!?お前、それどこから手に入れた?」

「いやだから再生技術研から盗み出してきましたけど(嘘だけど)」

「ふん、まぁいい。使えるものは利用させてもらわないとな」

「あ、使うならこのカードをポケットに入れてくださいっス」

「ふん・・・」

垣根帝督がポケットにカードを入れるのを確認すると、

ドラえもんは半ば逃げ出すようにして廃ビルを駆け下り、急いで誉望と入れ替わって逃げていった。

(ふぅ、何とかアイツに"シテクレジットカード"を渡せた・・・)

「何だか今日のアイツ変じゃねぇか?まぁ良い、これはいいものが手に入ったぜ」

この時の垣根帝督はまだ知らなかった。それがいかにしてもたらされたのかが示す意味を。

 

午後5時・第7学区病院前

「ここでこの線香に火をつけて待っていろと言われましたがとミサカは展開を不安に思います」

「あぁ?お前、第一位を倒したっていう第3位のクローンじゃないか」

「あなたは第二位の垣根帝督ですねとミサカはおびえながら確認を取ります」

「その通りだが・・・いったい俺はなんでこんなところに来ちまったんだ?」

(もうこの3日ほどで超能力者のトップスリーと

会わないといけないなんて・・・とミサカは自分の運命を恨みます。)

「あらよっと」

何の前触れもなく垣根帝督が御坂妹をお姫様抱っこで抱えた。

「何をするんですか、それはあの人にのみ許される特権ですよ、とミサカは語気を強めて言い放ちます」

「ちょっとだけメルヘンの世界にご招待―」

「うわぁとミサカは若干興奮しつつ感想を語ります」

上空遥かに舞い上がった垣根はそのまま線香の煙を飛行機雲に学園都市を一周した。

「ありがとうございました、とミサカは渋々ながらもお礼を言います」

「それとこれ、なんだか知らんが渡さないといけないような気がしてな」

「何ですかこのカードはとミサカはあふれる疑問を押さえつけます」

「なんでこんなことをしたんだろうな。とっとと帰るか」

(超能力者というのは精神が破綻した人が多いと聞いていましたがここまでとは、

とミサカはお姉さまのことも心配します)

「へっくしゅん、誰かあたしの噂してるのかしら」

「そんなことよりみこと、海なんだよ、スイカ割りなんだよ、割らなくても食べれるのはおいしいんだよ!」

こうして一同は中身無しの音がよく響くスイカでスイカ割りをしたり、

インデックスがスイカジュースで風船みたいになったり、

中身スイカ入りフルーツポンチを食べて上条だけ腹を痛めたり、海で泳いで上条だけ砂におぼれたりした。

「とうまはどこに行っても不幸なんだね」

「全く、こんな美少女二人と海で泳げたんだからちょっとは誇りに思いなさいよ!」

「はいはい、上条さんは幸運でしたよっと・・・」

(まったく、"代用シール"なんて必要ないじゃないか)

「じゃあ上条さんはベランダっぽいとこで寝るから、お前らは布団引いてとっとと寝なさい」

「まったく、女の子と一緒なんだから少しは考えなさいよね。ムードも減ったくれもないわ・・・」

「短髪、何をブツブツ言ってるんだよ?

明日はとうまのお父さんやお母さんと会うんだから早く寝た方がいいかも」

3人は知らない。明日の朝起きた時に何が起きるのかを。




前回予告したひみつ道具は"ウルトラミキサー"です。
これは結構有名ですね。結構時間がかかってしまいました。
一方通行戦、こんなのでよかったのかな?
エグゾーストキャノンほしい

さて、次回前回なぜインデックスが魔術を反射したのかの解説をします。
今回も新しい道具が結構出てきました。
"一発逆転爆弾"と"原料ライト"はチートだと思う


今回の道具
"カチンカチンライト"
流体や微粒子の塊を固めることができるライト。
"一発逆転爆弾"
戦況などを逆転させる手りゅう弾型の道具。チートアイテム。
"思い切りハサミ"
ハサミのチャキンという音を聞いた悩んでいる人を吹っ切れさせる。
"代用シール"
物の名前を書いて貼ると貼ったものは書かれた名前の物として扱われる。
"メモリーディスク"
人の頭の上に投げることで記憶を取り出したりまた戻すことができる。
また、このディスクに入れた記憶をマジックで塗りつぶせばその部分の記憶は失われ、
別の記憶を上書きをすれば記憶を改修できる。
"ナカミスイトール"
中身だけ空間を歪めて取り出し、別の場所に移すことができる道具。
今回はスイカの中身を取り出してスイカ割り用のスイカを作った。
"スイカストロー"
スイカにさすとスイカの身だけを吸うことができるストロー。
スイカと一緒にインデックスに渡しておいたらしい。
"入れ替えロープ"
ロープの両端を触った二人のそれぞれの体を入れ替える道具。
"ぐっすり枕"
近くにあるだけでタイマーで指定した時間対象を眠らせ続ける枕。
"シテクレジットカード"
してほしいことを描いて相手に持たせるとその通りしてくれる。
動作が終わると書いた文字は消える。
"原料ライト"
照らした物体を原料に戻すライト。あわきんに持たせるべき。

次回のひみつ道具は〇○○○○○○○○○○○だ!


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3話:階級を持っていこう

前回の話はかなり推敲が杜撰だったのでしばらくしたら書き直すことにします
しゅ


腹部に圧力を感じ、

「早く起きろー。起きなさいってば。起きないと――――」

という声が耳イン入ってきて上条当麻が片目を開いてみると

あお向けに寝ている自分のお腹の上に声の主がまたがっているのが見えた。

「あ、起きた。もう8時よ?朝ごはん食べられなくなっちゃうわよ」

「うにゃうにゃ、インデックスは?」

寝ぼけたまま声の主に訊くと

「すでに食べてどっかいったみたいよ。今頃朝の海で遊んでるんじゃないかしら」

という返事が返ってきた。

「そうか、ならよかった。俺たちも朝ごはん食べに行くか、み、さk――」

「どうしたのよ。早くいきましょ」

「誰だお前は!どっから入ってきた黒髪お花畑!」

「はぁ?昨日から一緒にいたでしょ」

「俺は昨日御坂とインデックスとしか一緒じゃなかったぞ」

「私は御坂美琴じゃねぇのか―!」

「へっ?」

そういうと黒髪で頭に大量の花をつけた少女は両手を振り上げて髪から電撃を散らす。

あわてて右手を突き出すと電撃が砕け散った。

「その右手、いったい何なのよ・・・」

ブツクサと小言を言いつつ上条の上から降りる御坂。

「お前本当に御坂か?別の発電能力者とか」

「ならレールガンのキャッチボールでもやるかしら?」

ワナワナと震えていると次第に周囲の壁が震え始め、

金属製のものがあっちこっちに弾け飛び壁にぶつかりまくる。

「お、おい、御坂?落ち着けって」

「ふにゃぁあ」

上条がミサカの頭をなでると奇声を発して御坂が顔を真っ赤にした。

するとそこへもう1人乱入してきたものがいた。

「お客様、朝からお盛んなのは結構でございますが朝ごはんはどうされますか?」

「え?御坂妹?」

「何言ってるの、管理人さんでしょ?今度こそ朝ごはん食べに行くわよ」

御坂に手を引かれて上条はしぶしぶ布団から抜け出し管理人の横を抜けて下に降りた。

(なんか赤髪の大男がいたような気がしたが見なかったことにする。

一体何が起きているんだ?俺相手にまさかのドッキリ?)

そうこうして朝ご飯を済ませると御坂は上条の手を引いて外に出る。

「こんなにいい天気なんだから外で遊べばいいじゃない」

「なんだかなぁ」

「あ、とうまなんだよ!いいところに!」

現在最も頼りになりそうな人物から声を掛けられた。

「インデックスじゃないか!お前はそのままで助かったよ。何か魔術が使われた形跡はないか?」

「そ、そうなんだよ!大変なことが起きてるんだよ!」

「大変なこと?って何よ」

「どうにも、世界中の人間の外見だけを入れ替える大規模術式が発動しているみたいなんだよ!」

「はぁああああ!?」

(どうなってるんだよ!せっかくの休暇がぁああ!ドラえもんに頼もうとしても今は連絡取れないし・・・)

「なによそれ、そんなのありなの!?」

「セフィロトの木って聞いたことあるかな?十字教やカバラなどで扱われる概念何だけど」

「そんなの聞いたことないわよ」

「簡単に言えば人間や神様何かの上下関係を表したもの。

ここまではえらくなれるけどこっから先は無理っていう表なんだよ」

「そんなけったいなものがどうかしたのか?」

「そこには天使も含まれていてね、この術式は天使の魂を人間の魂の群の中に落とす魔術みたいなんだよ。

無理やり天使の魂が落ちてきたことでビリヤードみたいに人間の魂が散り散りになってしまったんだよ」

「ちょっと待って、魂とか魔術とかわけわかんないんだけど!」

「じゃあそれを発動したやつをぶっ飛ばせはいいのか?」

「もしくは儀式場でもいいんだよ。でもこれだけの大魔術だと家ほどの大きさになるからちょっと難しいかも」

「よし、じゃあ――――――」

「おーい、当麻ー」

声をかけてきたのは上条当麻に似た中年の男性だった。

「と、父さん!」

「久しぶりね。あらあら?そちらの二人は誰なの?」

「おにいちゃーん!ひっさしぶりー!」

さらにその後ろから二人の女性が出てきて上条に声をかけたものの・・・。

「えっと・・・母さんと―お兄ちゃん呼びってことは乙姫ちゃん?何かもんのすごい感じ変わったね・・・」

それもそのはず、上条詩菜は茶髪ロングから黒髪ロングの活発そうな顔立ちになっており、

竜神乙姫は映像で見た姿と打って変わって虚ろなジト目なのにやたらとハイテンションという

ギャップキャラになっているのだから。

「おにいちゃーん!元気?昨日は楽しみすぎて全然寝れなかったよー」

「あらあら、当麻さん的には私たちそんなに変わって見えるのかしら?」

「後ろの女の子たち誰?お兄ちゃんのカノジョ?」

「かかかか彼女って・・・」

「私たちはそんなんじゃないんだよ」

「うふふふ、もし二股かけているようだったら当麻さんにもブルーレイレコーダ投げつけたくなっちゃうわ」

「ひぃいいいいいいい!?」「ひぃいいいいいい!?」

妹達並みのハモリ具合で男二人の悲鳴がこだまする。

その後海岸でインデックスではなく上条が砂に埋められた後に上条一家+2はつつがなく海水浴を楽しんだ。

 

旅館に戻った後上条夫妻は部屋に戻ったものの上条当麻は違和感しかない配役に悩んでいた。

「とりあえずこの"代用シール"ってのを試してみるか。おーい御坂―?」

「な、何よ!」

「ちょっと後ろ向いてもらえるか?」

ワタワタと状況を把握できていない御坂美琴を視界の隅に止めつつ"代用シール"に御坂美琴と書いて貼りつける。

するととたんに上条から御坂は御坂に見えるようになった。

「おー、これすごいな」

「ちょっと、何したのよ!」

「悪い悪い、今朝も言った通り-お前の外見が入れ替わってるから、

ドラえもんに貸してもらった道具で元に戻しただけだ」

「ドラえもん?まさか・・・」

「おーいインデックス―!」

呼ばれた少女が扉の向こうからお菓子をほおばりつつ顔を出した。

「あー!それ私のおやつじゃない!」

「たんぱつのだったの?それよりとうまの知り合いが来ているんだよ!」

「知り合い?」

 

下の階に案内されると、そこには日本刀を腰に下げたポニテの女性がいた。

「神裂!?」

「かんざきさんというのかい?いやー、長身で赤髪のカッコイイ人だけど日本の人だったのか」

「あらあら、刀夜さんたらとんだ勘違いをして」

「お兄さんはここの人なのー?」

上条の目には確かに神裂火織として映っていたがどうやらほかの人には違って見えるようだ。

無垢な悪ほど邪悪なものはないというが、神裂自身も耐え切れずに身を震わせている。

「おーい神裂、ちょっときっち来てくれるか?」

「はい?」

呼ばれて行った神裂火織の背中に神裂火織と書いた"代用シール"を上条が貼ると

インデックスを含むみんなの反応が先ほどと打って変わって正しく認識されるようになった。

「いやーきれいな人だなぁ・・・」

「あらあら刀夜さん?うふふふ、ちょっと表に出て頭を冷やしてきますか?うふふふふふふ」

「いやっ、ささっきの発言は語弊がありましたっ」

「そうか、あなたに触れたので術式の効果が切れたのですね」

「いや、背中に貼ったシールのせいだ。はがれると元に戻ると思うから気をつけろよ」

「???お札のようなもの?いえ、あなたに魔術は使えないはず・・」

あまりにも中途半端な説明であり、さらには上条自身もあいまいな説明しかされていないために

神裂を余計に混乱させる原因となっていた。

「インデックス、上条当麻を連れてきてくださり、ありがとうございました」

「気にしなくていいんだよ。ちゃんと話したらかおりもいい人みたいだったし」

「それより、ちょっと彼をお借りしたいのです。今起きているこの事態の収束のためには

あなたと彼はいっしょにいてはなりません」

「どうしてだ?」

「今起きているこの魔術をイギリス清教は便宜上御使堕し(エンゼルフォール)と呼称することにしました。

これほどの魔術、イギリス清教の禁書目録たるあなたぐらいしか発動できません。

そのため、あなたは世界術から監視されている状況です。

その点、彼はマークされていないので自由に動けるのでお借りしてもよろしいでしょうか」

「分かったんだよ。かおりの言うことなら信じられるかも」

「あぁー!何私抜きでいい雰囲気になってんのよ!」

「ゲッ降りてきたのか」

御坂が怒りの形相で雷撃を飛ばす。甲高い破裂音をたてながら電撃が上条に向かって伸びるが、

突き出した右手によって防がれ、そのすきに神裂を連れて脱出されてしまった。

宴会室でワイワイやっていたために騒ぎに気付いていない上条一家、御坂、インデックスがその場に残された。

「やっぱり私のこと邪魔に思っているのかな・・・」

御坂がインデックスの太ももに伏せってポロポロと涙を流す。

「当麻はたんぱつのこと絶対に邪険になんて扱わないんだよ」

「そう、かな」

「そうなんだよ。たんぱつはもっと自分を信じたほうがいいかも!」

「うん」

 

「おーいかみやーん!ちょいと待つぜよ」

海の家を出ると途端にグラサンアロハシャツの不良風のいでたちの男に捕まった。

「土御門!?ってちょと待てよ。なんでお前がここにいるんだよ!どうやって学園都市の外に出たんだ?」

「細かい話はあとだにゃー。ねーちんにあったということは大体の事情は把握してるよな?」

「えぇ、私からインデックスと彼には話しました。それより土御門、あなたも彼に触れてもらいなさい」

「いくらかみやんの幻想殺し(イマジンブレイカー)でもこいつは打ち消せないと思うぜよ」

「どうしてお前がそれを知っているんだ?一体お前は何者なんだよ!まさかとは思うがお前も魔術師だーなんて言わないよな?」

「そーゆー事。おれも「必要悪の教会(ネセサリウス)」の一員だってことだぜい。」

「上条当麻!早く彼に触りなさい!急がないと――」

ドガァという音とともに赤い何かが飛来した。なまじ先の一方通行戦で似たような音をよく聞いた上条は

体が震えあがる。

「問1。御使堕し(エンゼルフォール)を発動したのは貴方か?」

「え?」

「問1をもう1度。御使堕し(エンゼルフォール)を発動したのは貴方か?」

「(何を言いたいのかさっぱり高とにかく誠実に答えないとヤバそうだ)・・・違うぞ。一体君は誰なんだ?」

「回答1。私はロシア正教 殲滅白書(Annihilatus)のミーシャ=クロイツェフ。

この異変の解決のため派遣された。

問2。発動したのは自分ではないといったがその証明は?」

「証拠なんて、ねーよ。そもそも俺は魔術のやり方なんて何も知らないぞ・・・」

「ミーシャ=クロイツェフ、何度も言っている通り彼は能力開発を受けています。

能力開発を受けたものが魔術を使おうとすれば高い負荷を受けます。

また彼の右手はすべての異能を打ち消す幻想殺しであり、魔術の影響を受けていないのはそのせいです」

「問3。ではあのシスターはなぜ影響を受けていない?」

「それは・・・なんでなのかな。歩く教会とやらのせいじゃねーの?」

「回答を認め、証明に移る。数価。40・9・30・7.合わせて86」

とたん海面から水の竜巻が起こったかと思うと鋭く先を尖らせ

上条当麻に向かって延びてきた。

上条が驚き声をあげつつ右手で叩いて破壊すると、

ダイアモンドダストのような氷の粒に変化し、上条の周囲を浮遊する。

いくつかは右手に付着したようで

時おりピキュンピキュンと音をたてている。

「あっぶねぇな、おい!」

「・・・・・少年、無礼を失礼した。

その右手、確かに魔術を無効化するようだ。

これを証明の手段として認める。」

「何はともあれ、かみやんが犯人じゃないとわかってよかったニャー」

「上条当麻、先程のようにこの男の姿を

もとに戻してはもらえませんか?

任務に差し支える姿になってしまったようなので」

「にゃー、有名アイドルの一一一の姿でいるのも悪くはないんだぜよ?」

呆れつつも上条当麻が"代用シール"を貼るのを

土御門が不思議そうに見ていた。

「驚いたにゃー。魔術を全く使わずに御札と同じ効果を生み出すとは、

多重スパイかつ陰陽博士の俺でも皆目見当がつかないぜよ」

「そんなすごいもんなのか?これ」

「あぁ、学園都市も途方もないものを作ってくれたもんぜよ」

(本当は未来から来たものとは言えないな・・・)

「ところでミーシャ=クロイツェフ、あなたは貼らなくてよいのですか?」

「いい。万が一にもその右手が私の霊装を破壊すると困る」

「そうか。まあ皆さん、今日のところは解散でいいでせうか?」

「これ以上ここにいても仕方がないですし、今日のところは一旦別れるとしましょう。

あ、上条当麻、言い忘れていましたが魔術の中心はあなたの近くにあるようです。

ですから今日は土御門と共に同じやどに泊まらせてもらいますよ」

「あぁ、構わないと思うぞ。父さんたちも喜びそうだしな。」

旅館に戻ると御坂が妙なあああやる気を見せていて、その日の晩ごはんは神裂・土御門を加えて楽しく進んだ。

8時頃。お風呂場に3人の影があった。

「上条当麻・・・と土御門、折り入ってお願いがあるのです。」

「なんだ?」

(ははーん、さてはねーちん・・・)

「現在私はステイルの見た目になっています。このまま女湯にはいるのはどうかと思いまして・・・。

今は誰も入っていないようなので私が入っている間誰も入らないように見張っておいてもらえませんか?」

「そんなことせずに男湯に入ればいいニャー。ついでに俺たちも入れば男3人仲良く!――――フゴッ」

「お前は黙ってなさい!」

聖人の一声と共に粛清されると男二人が快く?引き受けることとなった。

 

神裂入浴中

「なあっかみやん、その「フコウだー」って口癖、神裂のまえではあまり言わないでほしい」

「なんか事情でもあるのか?俺も極力控えるけど」

土御門は上条に聖人の意味と神裂の過去と魔法名について話す。

 

「・・・ってなわけで、神裂きは幸不幸に敏感なんだにゃー。魔法名として名乗るほどにな」

それを聞いた上条当麻は唖然としていた。

「けど、かみやんが気にすることでもないぜい。あんなん神裂が勝手に思い出してるだけだぜい。

テメェのトラウマで勝手に沈むなんざ自己中もいいトコだにゃー」

上条がブルーな気持ちに浸っている間に第4、第5の影は迫ってきていた。

「あ、とうま?そんなところで何しているのかな?しかも舞夏のお兄さんも一緒に・・・」

「あんたは・・・そんなに私たちの裸が見たいのかー!」

「いえ、これはただの誤解でありまして、私はただ中の人から見張りを頼まれただけでぇー!」

「かみやんも罪な男ぜよ」

「土御門も弁明に協力しろ!」

「ふん、覗き目的じゃないならいいわよ」

御坂が扉に手をかけようとするとすんでのところで上条が引き止める。

「何よ、私たちは女なんだからいいでしょ」

エーット、エーットと連呼し冷や汗を流す上条は思い詰めたようすで"代用シール"を取り出すと

そのままの勢いで壁と書いたそれを貼り付ける。

「何よ、扉を隠したわね!なんてことするのよ」と怒り心頭の御坂からシールを守りつつ

数十分すると中から神裂が扉を開けてと頼んだことで一時停戦となった。

「いやー上条当麻、助かりました」

(何か問題でもあったのかしら)

そんなこんなで無事に2日目が終わりやっと3日目になった。

「おはよう、当麻くん、起きて」

上条が寝ているうえに青い丸いものが乗っかかって揺すっている。

「うぅーん・・・・っは!助かったぜドラえもん!何とかしてくれよー」

「あのね、僕だってむやみやたらとひみつ道具を貸せるわけじゃないんだよ」

「そんなぁー」

「あ、とうま起きたんだね。ドラえもんも久しぶりかも」

「んな、な、何よそのあおタヌキ・・・ちょっとこっち来なさい!」

御坂は両手をもって抱えるようにすると

ドラえもんは手足をじたばたと動かして抵抗するがあまり効果はないようだ。

「ちょっとそのポケット貸して―・・・あった。"着せ替えカメラ"。」

「ど、どうしてお前がそのことを知ってるんだ!?」

「ちょっとね・・・」

実は、前回食蜂操祈に頼み込んで"一方通行を倒したのは上条当麻と第3位だ"という噂を流してもらったのだ。

そのとき交渉材料として食蜂操祈が要求したのが御坂美琴のコスプレ1時間で100個というのだったのである。

向こうは到底無理だと思って要求してきたらしいが

そこを何とかするのが未来のロボットの使命だと言って何とかした。

何とかするのに使ったのがこの"着せ替えカメラ"であったため、

御坂はこのひみつ道具を取り出せることを知っていたのである。

(いやー垣根帝督に

 『午後5時に第7学区病院前に行ってそこにいる妹達を連れて学園都市の上空を一周した後

  妹達にこのカードを渡す』

と書いた"シテクレジットカード"を渡すのはほんとに肝が冷えたよ)

「うふふふふふふ・・・・」

御坂が何やら奇怪な声をたてたかと思うとカードをセットしドラえもんを撮影する。

「かっわいー!」

その瞬間にドラえもんは青いゲコ太になってしまった。

「全く、御坂妹が学園都市のなかで生きていけるように命がけでしてきたのにひどいよ」

「命がけって何をしてきたの?」

「第2位にあってきた。」

(いったいこいつ何者なの!?)

「あ、ありがとう。」

「ところでなんで私とドラえもんには御使堕し(エンゼルフォール)が効いてないのかな?」

「あぁ、インデックスちゃんには"交通標識ステッカー"の一方通行を

外向きに魔術と書いて歩く協会に貼ってあるんだよ。

これでインデックスちゃんは魔術を使ったり感知できるけど、

そとからの魔術は一切反射されるようになるんだ。」

「(何その怖いチート性能)いったいいつの間にそんなもの貼ったんだよ?

ってことはあれか?アウレオルスの魔術が効かったのも そのせいか?」

「そうだよ」

「じゃあドラえもんが影響を受けてないのは?」

「あぁ、僕は昨日この世界にいなかったからね。

昨日発動した魔術の影響を受けるはずがないじゃないか」

その場にいる全員が何いってるんだこいつと思いつつ話を聞く。

「やっぱりひみつ道具か・・・・」

「そう。"時間貯金箱"を使って昨日一日ぶんの時間を僕だけカットしたからね」

(なんかもう、深く突っ込んじゃいけない領域ね・・・)

「じゃあとは頼んだよ、当間くん」

そういうとドラえもんは"タケコプター"を使って窓から飛び出す。

「あとよろしくってどういうことだよ!?」

「僕だってバカンスしたいんだよー」

そのまま海の方へ飛んでいってしまったドラえもんを唖然と見守る3人だけが残された。

 

その後、3人+2名が上条家を訪れて戻った後・・・・

「やれやれ・・・。大仕事はぼくの出番か」

上空からゲコ太が舞い降りた。

「全く、こんな巨大なものを一発で破壊できる道具なんてないからね。

頭を使わさせられたよ。まぁ、僕ぐらいの高級ロボットなら簡単に導けるけどね」

そういいつつポケットをまさぐり4つの道具を取り出した。

「まずは"切り取りナイフとフォーク"で家の回りを空間の接続を保ったまま切り出す」

てに持ったナイフで敷地の周囲と空中をなぞるとそこに切れ目ができた。そこにフォークを突き刺し空間をごっそり取り出す。

「次に"スモールライト"で小さくして"どこでもドア"で運ぶっと」

ドアを開けるとその先は海面だった。

ドラえもんはそこに先程の空間を浮かべるとチョークで囲む。

「最後に"時空間取り替え機"でちょちょっとしてやれば・・・」

パシュンと音を立ててラインが光ったかと思うと一瞬で先程の空間が消失した。

それにともない、まばゆい光がラインから四方八方に漏れだす。

しかしそれも数十秒で消えた。

 

そのころ、海の家にて

「うふふ、刀夜さんったらー」

「あはははー」

「ぐぬぬぬ・・・」

酔っぱらう上条夫妻に神裂が困っていた。

しかしそこに一瞬のまばゆい光が走ったかと思うと

みんなの姿が正しく戻っていた。

「これはッ!?」

「おーいかおり!みんなの姿がもとに戻っているんだよ!」

そこに懐かしき友の声が響いてくる。それは自分の任務が終わったことを知らせる安堵の鐘のようだった。

しかし当然誰がやったのかという疑問が湧いてくる。

「全く、ドラえもんも素直じゃないよ。素直に最初からなんとかしに行ってくると言えばいいのに」

上条いわくドラえもんという人が何とかしてくれたらしい。

「では今度そのドラえもんという方にお礼がしたいのですが・・・」

「エット・・・それはあちょっとなぁ。こっちから合わせてお礼をしておくよ」

「そうですか・・少し残念ですね」

「とうまとうま!今晩は祝・解決ってことで一杯食べるんだよ!」

「おーい、当のゲコ太がもどってきたわよー」

「おおそうか、あいつにはいろいろ聞きたいことがあるからな」

少しだけものおとがしたかと思うと御坂の声が響いてきて、上条とインデックスは上に戻っていった。

「神崎さんも一杯どうですか?なんだか楽しそうでっすし」

「あらあら刀夜さん、グラスは何キロで頭蓋骨を割れるのでしょうね」

誰にとっても平和な日常が戻っていた。

しかし今は誰も上条家が消し飛んだことなど知らない。




前回予告した道具は"切り取りナイフとフォーク"でした。
今回は対天使というよりも対御使堕し編です。
だからミーシャさんの出番があほぼありません。
天使さんは無事に帰ることができ被害は最小限に済みました。(家はドラえもんが新しいものをたてておきました)
ところで重大なお知らせがあって、
来週は試験があるので更新できません。なにとぞご了承ください。

今週のひみつ道具
"着せ替えカメラ"
衣装が描かれた紙を入れて撮影すれば来ている服がその衣装に変わるお馴染みのカメラ。
御坂はこれを使ってドラえもんにゲコ太の被り物をさせた。
"交通標識ステッカー"
裏に名前を書かれた対象はこのステッカーの近くでは
その交通標識に描かれた物理現象に従ってしまう。
"時間貯金箱"
自分の時間をカットしたり、後で使うことができる。
後で使った場合その人だけを残して他の時間が止まる。
"切り取りナイフとフォーク"
空間を切り取るためのナイフと刺して持ち運ぶためのフォーク
"スモールライト"
照らしたものをなんでも小さくする定番懐中電灯。
"時空間入れ換え機”
チョークで囲った場所を過去や未来のその場所と入れ換えるひみつ道具。
”ペーパーハウス”
広げるだけで家が建てられる。紙製だが鉄筋コンクリート並みに丈夫。

来週のひみつ道具は○○○○○○○○○○○○○○○○○○○だ!


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4話:時間を持っていこう

5巻前編


上条当麻は学園都市在住の高校生である。よって、学生寮に住んでいるのだが、

自室のベッドはとある居候の銀髪シスターに占領されていた。

かといってその辺の床で体を痛めつつ寝ているわけではなく、

そこら辺のことはもうひとりの居候がなんとかしてくれている。

顔をしかめた上条が壁紙の中から出てきた。別に彼が部屋の構造体の隙間で寝ているわけではなく、

本当に壁紙の中で寝ているのだ。

「痛ででででで、頭打って鼻血出た・・・・」

現在時刻は23時56分、早寝派しかいない上条家では全員寝静まっている時間である。

リビングのベッドでは件のシスターが寝ているので起こさないようにティッシュを回収することが目下上条当麻の任務である。

「インデックスもこうしてみると普通の美少女なんだけどなぁ・・・」

「・・・・・・・・・・・・・うにゃ、とうま?」

「悪い、起こしちまったか?」

「なんだか起きなきゃいけないような気がしたんだy――――とうま?なんで私の前で鼻血を垂らしているのかな」

その瞬間、少年は窮地にいることを自覚した。

女の子の寝姿の前で鼻血を垂らしている少年は基本的にどうみられるか。

「いやいやいやインデックスさん、鼻血が興奮の象徴なんてそんな俗説に魔導書図書館が振り回されるなんて導かと思いますよ?

それに上条さんの鼻腔の毛細血管血管壁はそんなやわじゃありません!」

「とうま、そんなに必死に言い訳されるとさらに怪しく思えるn」

そんな無慈悲な一言が叫び声によって遮られる。

「ギヤァアアアアアアアネネネネネズミィぃー!!!!!!!」

ドタドタとリビングにもう一人の居候が入ってきた。

それだけでは止まらず、壁や天井を含む部屋中を縦横無尽に駆け回っている。

「落ち着けって、ドラえもん」

「ネズミが嫌いな猫なんて聞いたことがないかも」

「だってだって・・・・・・」

「ほら、そんなに嫌いだったら退治すればいいだろ」

「そうか・・・・・フッフヒヒヒヒ、"熱線銃"に"ジャンボ・ガン"に"名刀電工丸"に―――」

「ストォーップ!!そんなものを家でぶっぱなす気か!!もっと穏便に!」

「じゃあ"おもちゃの兵隊"に家から追い出させよう」

やっと落ち着きを普段の半分ほど・・・いや4分の1ほど取り戻したドラえもんは

ポケットから人形の一団を取り出すと床に並べ始め、何やらスイッチを入れる。

「いいかい、この家中のネズミを一匹残らず追い出すんだよ」

命令を受けた兵隊たちは敬礼をするとドラえもんが使っている"かべ紙ハウス"へ突撃した。

「おいおい、中から金属をぶつけるような音やら金キャップみたいな音がしてるが大丈夫か?」

「問題ないさ」

しばらくするとハウスの入り口から必死のネズミたちが出てきて、

あたりのものを撒き散らしながら外に出ていった。

「いやぁ助かった。もう戻っていいよ」

ネズミ騒動?で出した道具や散らかった部屋を片付けていると、上条当麻はある驚愕の品物を見つけた。

「っこ、これは・・・」

「――んー?あ、夏休みの課題だね。まっサラだけど、ちゃんとノートに解いたよね?」

「・・ってない・・・・・・」

「どうしたの?とうま」

「やってないー!!!夏休みの課題がたっぷり残ってるー!」

「なにー!?宿題をやっていないなんて夏休み中いったい何をしていたんだい!」

「申し訳ありませんドラ様、今回だけ、今回だけはお助けを・・・」

「自分自身の力でやらなきゃ意味がないじゃないか!!」

そういうとドラえもんはポケットから錠剤入りの小瓶を取り出して投げた。

「何だこれ?」

「24時間眠くも疲れもならなくなる薬、ハツラツンだよ」

「はぁ、これ飲んで頑張るしかないのか・・・」

「とうま、私も応援するんだよ!」

「あーはいはい、上条さんは自室で勉強してますよーっと」

絶望に浸れながら上条が自分の"壁紙ハウス"に戻っていったのをきっかけとして各自が眠りにつくこととなった。

そのころ、学生寮前では・・・

「ァーァーまったく、あの無能力者(level0)に負けてから変な奴に絡まれるンが増えたもンだ」

「チュチュチューチュー」

「・・うォっ、ネズミかよ、どっかの家から夜逃げしてきましたってかァ?

はっ、驚かせやがって。余計なもンは反射反射」

「あっ、あなたはってミサカはミサカは自体進展にちょっと気分を上げてみたり!」

 

朝6時ごろ

「うぅー、やっと6分の1終わった・・・」

外からノックの音が聞こえてきてくる。

「とうま、朝ご飯ほしいかも!」

「ドラえもん、冷蔵庫にご飯があるからインデックスにチンしてやってくれるか?」

「うん、分かった。それと当麻くん、他が起きだしたらうるさくなってくるからほかのとこにでも行かない?」

「いやー貧乏学生のわたくしには個室サロンなんてものは借りられな――っておいどこへ連れて行くんだ」

レンチンする合間に"どこでもドア"を取り出すと上条当麻を引き連れて第3学区の個室サロンへ向かった。

「おいおいこんなところ上条さんには・・・」

「"貸し切りチップ"ー!」

小片を吹いて壁に付着させるとそれだけでお客が全員帰り始めた。

「受付さん、最上階お借りします」

「えぇ、どうぞ」

抹消面からタダで入れろと言っているのに受け付けはニコニコと笑って許可しているという

非常に不自然な光景が展開しているにもかかわらず他の人間はまるで気にしていないようで

上条当麻は困惑した。

「じゃ、せっかくだし最上階の部屋でも使わせてもらおう」

「お前はどうしてこうも無茶苦茶なんだか・・・」

最上階の部屋は1室がほぼ上条当麻の学生寮と同じ大きさというトンデモな豪華部屋だった。

「すごいなぁー。"壁紙ハウス"で空間を拡張してるけどそれでやっと上回るかくらいだよ」

「で、上条さんはここに閉じこもって勉強することになるのですか・・・」

「そ、お昼はどこかで適当に食べればいいさ。あとは・・・」

ドラえもんはポケットから古めの置時計を取り出すと上条の机の後ろに設置している。

「これで良しっと、じゃあ僕はちょっと出かけて来るから、あとは頑張るんだよ?」

「任せておくれよっての!(・・・まぁその結果が白紙の宿題なわけだけど)」

こうして各自の変わった夏休み最終日が始まることとなった。

 

ドラえもんはタイムマシンに乗っている。彼が向かうのは7月28日。

とある少年と人工衛星の命日である。

「さてと、僕も夏休みの課題を終わらせるかな」

タイムマシンの出口が開いたのは月詠小萌の教員寮の上空・午後11時30分。

張り子風の紙を空中に浮かべる。"片付けラッカー"で透明にし、寮の周囲に別のひみつ道具を仕掛けた後、

少し離れたところでさらにひみつ道具をもって待機する。そしてしばらくの後、寮の一室に二人組が訪ねてきた。

しかし数分後また出てくる。

ドラえもんは手に持ったひみつ道具で透明の張り子に直径300 mm程度の円を描くとすぐに30 mほど離れた所に着地する。

直後、虚空に穴が出現した。

そしてその数秒後、凄まじい衝撃音があたり一帯に響く。竜王の殺息(ドラゴンブレス)だ。

そして驚いた魔術師組が中へ入って行った数秒後、教員寮の屋根を突き破り高熱源体が上空へと放出された。

たとえ話を持ち出しても正しく表現できないエネルギを誇るそれは垂直に空へ伸びていく。

しかし高熱源体はどこまでも伸びていくということはなく虚空の穴へすべて吸い込まれていっている。

下では自動書記(ヨハネのペン)竜王の殺息(ドラゴンブレス)を引きずり戻そうとしているが

強力な重力によって穴から漏れることはなく、出力を上げて吹き飛ばそうとしても

吸い込めば吸い込むほどさらに強く吸い込んでゆくためにどうやっても逃れることができなかった。

その間にも上条は自動書記(ヨハネのペン)に接近しており、彼女の頭に右手で触れるとともに

竜王の殺息(ドラゴンブレス)もろとも自動書記(ヨハネのペン)が破壊された。

吸い込むものを失った穴は自分の周囲にある紙を吸い込み始めるも

自分自陣の力で紙を八裂かれて消失、衝撃波となった。

後には空中を漂う羽だけが残されるも、遠隔で電源を入れた"吹き飛ばし・扇風機"によって遥かなところまで飛ばされる。

ドラえもんは破壊された屋根から屋内へと移る。

「だ、誰ですかあなたはッ!?」

「君、いったいどこから湧いてきたんだ。一般人は不用意に近づかない方が身のためだぞ」

「やぁ、僕はドラえもんだけど」

「学園都市はこんなものまで完成させていたのか・・・」

「僕は未来から来たんだ。さっきの羽から上条当麻を守ったのも僕」

「光の羽を吹き飛ばしたのはあなたでしたか。どうもたすかりました。あとはお任せください。」

「ひとつお願いがあるんだけど・・・」

「なんだ?僕たちで出きる範囲でなら叶えてあげよう」

「上条当麻のすべての思い出を僕に預けてほしい。

でなければ、記憶が失われた未来から来た僕はここに存在できないから」

「・・・???」

「もしも記憶が失われなかったならば僕はここに来る必要がなくなるからさ。ある種の矛盾が生じるんだ」

「そんな・・・」

一同を気まずい沈黙が包んだ。

「・・・なぁ、その未来でインデックスは幸せにしているか?俺は、アイツの幸せを守れたのか?」

「もちろんだよ。あの子のそばには君がいる。記憶がなくても君はあの子を守り続けているんだ」

「・・・・・よし分かった、俺の思い出はお前に預ける!こんなもので助かる人がいるなら俺も満足だ」

大胆な結論だったが上条当麻らしい答えだった。それを周りで聞いていた神裂とステイルも納得したようだ。

「よし、"メモリーディスク"ー!」

レコード大の円盤を上条の頭上に投げると記憶がどんどん吸い出されていく。

最後にドラえもんがディスクを回収した時には上条当麻の脳内から全ての思い出が移動されていた。

記憶の移動を行った後、彼は疲れがどっと噴き出たようでそのまま眠りに落ちてしまった。

そもそも普段、彼はこの時間もう寝ているのだから。

「じゃあ、彼のことは頼んだよ。僕はこの記憶を未来の彼に託さなきゃいけないから」

「任せておいてください。未来の彼によろしく」

そう告げるとドラえもんは"タケコプター"でどこかへ飛んで行ってしまった。

 

学園都市上空約3600㎞

「いくら"テキオー灯"を浴びたからと言ってこんな所へは何度も行きたくないなぁ・・・」

ここは静止軌道、樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)を搭載したおりひめ1号の近くだ。

「"スーパー手袋"装着、紙は用意したからあとは・・・」

ポケットから丸い手で白いボールペン、"ホワイトホールペン"を取り出した。

このペンは、対となる"ブラックホールペン"で書いた丸に吸い込まれたものを吐き出す丸を

書くことができるペンだ。

それで持っていた紙に丸を書くと中から高熱源体が飛び出、しまっすぐおりひめ1号を粉砕した。

「あんまり壊したくはないんだけどなぁ・・・」

破壊後は"万能クリーナー"で紙に書いた丸を消去する。

「それじゃ、次の課題にかかろうかな」

 

8月21日午後8時35分

("動物生まれ変わりタマゴ"~これで黒猫に化けて・・・)

ここはとある鉄橋。20分前、ここに災害級の雷が落ちた。

「そんなこと、できるわけ・・・」

「ミ、ミャァー」

座り込む御坂美琴の背後に近寄るものがいた。

「・・・アンタ、ひょっとしてあの時の猫だったりする?」

「ミャ?」

「ゴメンね、私には見分けがつかないや」

「ウミャイウミャ」

「・・・わたしの電磁場を怖がらないって、アンタも相当変わりものね」

「ミャウン」

御坂は黒猫を抱きかかえると顔の高さまで持ち上げてみる。

「ミャーミャー」

「あいつ・・・ほんとに行っちゃったのかな・・・」

「ニャァオン」

「あなた、何か知ってる?わけないよね」

すると、突然に猫が肩を伝って耳元で何かをささやき始めた。

その事実と内容に美琴は信じられないという表情をする。

「それ、ほんとなの?」

「ウッミャミャー("着せ替えカメラ"-!)」

お腹の袋はほぼ厚さがないのにそこから自分の体ほどもあるカメラを取り出したのだから

驚かないわけがない・・・

が、先ほど猫がしゃべり始めたのを見ただけあって、もはやこれ以上驚く余裕もないらしい。

「どうなってるの?」

ここから御坂とドラえもんは食蜂操祈の所へ行くこととなるがそれはまた別のお話。

 

翌々日

ドラえもんはとある病室の前で待機していた。

「げっ、どうしよう。助けてドラえも~ん!」

「そんなこと言われてもな」

「(今だ)おーい、交代だぞー」

「ちょうどいいや、ちょっと待ってて」

病室から過去のドラえもんが出てくる。

「助かったよ、後は頼んだからね。僕は御使堕し(エンゼルフォール)対処に回るよ」

そう言い残して過去のドラえもんはスフィンクスに化けて出て行った。

「やあやあ遅れてごめん」

「今でたばっかりだけどどうかしたのか?」

「ううん、気にしなくていいよ。それより頼まれたものを持ってきた。」

上条当麻に"メモリーディスク"の中身を見せる。

記憶喪失の深層にかかわる部分だけは隠しておいたものの、双方に心苦しさが生まれていた。

(これで僕の課題は一通り終わった・・・?まぁ、自由課題(裏ステージ)にも挑戦しておこう)

彼らの複雑な夏休み最終日はまだまだ4分の1も終わっていないのだ。




前回予告したひみつ道具は"ブラックホールペンとホワイトホールペン"でした。
回収した竜王の殺息、何かに使えるかな?

あんまり長くなってしまったので5巻分は2編に分けます。
いや・・・3人にそれぞれ1巻分の話があるとか大変大変。


今回登場したひみつ道具
"熱線銃"
最大出力ならビルをも消し飛ばす火力を誇る銃
"ジャンボ・ガン"
一撃で戦車をも吹っ飛ばすことができる銃
"名刀電工丸"
レーダを搭載した剣。手に持つだけで自動的に敵を迎撃する。
"おもちゃの兵隊"
リカちゃん人形ほどの兵隊のロボット。命令に徹底的に従ってくれる。
"ハツラツン"
24時間眠くたくも疲れなくもなる錠剤。
"壁紙ハウス"
壁紙の中には10平方mほどの超空間があり、扉から入ることができる。
"貸し切りチップ"
貼り付けると貼った人が貸し切った状態になる。
"片付けラッカー"
吹きつけたものが透明になるので片づけたように見えるスプレー。
"吹き飛ばし・扇風機"
最大出力なら学校校舎をも吹き飛ばす風を起こせる
風力操作のファイブオーバー。
"ブラックホールペンとホワイトホールペン"
このペンで丸を書くとそれぞれ疑似的なブラックホールとホワイトホールになる。
2つで1セットであり、同じセットで作ったホール同士はすべてつながっている。
ブラックホールは最初は吸い込む力が弱いものの吸い込めば吸い込むほど
力が強くなる。
"テキオー灯"
これから出る光を浴びると24時間はどんな環境でも快適に過ごすことができる。
"スーパー手袋"
着用すると力を強める手袋
"万能クリーナー"
どんな汚れやインクでも消し去ってしまうことができる水切り状の道具。

次回のひみつ道具は
"○○○○○○○"と"○○○○○○○○○"だ!


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5話:余裕をもっていこう

5話後半


上条当麻は学生である。夏休みには課題が出る。

しかし上寿当麻は夏休みの半ば以前の記憶の記憶を失っていた。

つまるところ夏休み課題の存在を8月31日になってようやく思い出し焦る羽目に陥っている。

上条当麻は居候のおかげで個室サロンを貸切ることができて、そこで缶詰になっていた。

そしてこの夏休み最終日にはもう一人の課題(主人公)がいる。

彼の名は一方通行(アクセラレータ)。もとは5文字の日本人らしい名前らしいが

今は風化され、能力名で呼ばれることの方が多くなっていた。

そして彼は、荒らされた部屋で侵入者とともに眠りについていた。

小さな侵入者は最終信号(ラストオーダー)と呼ばれる、妹達(シスターズ)の最終ロット・20001号である。

少女は薄水色の毛布に身をくるみ、大テーブルの上に寝ていた。

一方通行は絶対能力進化(レベル6シフト)計画に参加していた過去を持つ。

もっとも、上条当麻の介入により実験中に妹達(シスターズ)に敗北したことで実験は即時中止措置を取られ

今は学校をさぼっている生徒でしかないのだが。

負けるはずのない戦いに敗北したことで一方通行の自分だけの現実(パーソナルリアリティ)に若干の揺らぎは見られるものの

今でも学園都市最強を誇り、序列でも第1位である。

 

午前8時

「とりあえず数学、やっと終わった・・・まったく、1小問80題で21小問なんて多すぎだろ!

数学の先生、終わること考えてないわー」

「そういえばいくら疲れないとは言ってもお腹はすくんだよなー。

とりあえずなんか朝ごはんでも食べに行くか・・・」

個室サロンの中にドラえもんが用意していたメモによると『"プッシュドア"に君の寮を登録しておいたよ』

とのことらしい。見れば個室のドアに変な機械が取り付けてある。これが"プッシュドア"らしい。

機械に一つだけついているいかにもなボタンを押してドアを開くと学生寮のお風呂についた。

「インデックス、ちょっと出かけてくるぞー」

「あ、とうま、帰りにアイス飼ってきてほしいかも!」

「はいはい、お金が余ってればね」

インデックスと呼ばれた少女は陶磁器のような修道服をきてテレビにかぶりついていた。

普段の様子からして物理的にかぶりついてもおかしくはないが、比喩的にアニメに夢中である。

 

学生寮を出るといつもの二人がいた。

「ようカミやん、どうしたんや?」

「今日は8月31日だぜい?カミやんのことだから宿題と交戦してるんじゃないかにゃー」

「よくわかったなあこの野郎ああこの幻想を打ち壊してぇ!」

そのまま3人はとある学園の学生寮まで歩いた。

「お、ここはかの名門、常盤台の学生寮やないかい」

「そうだぜい。俺の妹の舞春がメイドやってるとこでもあるにゃー。やっぱ妹×メイドが最高なんですたい!」

「まったくお前ら、俺が宿題と格闘してんの分かってるのか?居候にしてもお前らにしてもほんとに頼りがいのないこと」

「まぁまぁカミやん、その居候は精力剤くれたらしいにゃー?」

「ただ眠くなくなるものの何が精力剤だ!」

「ていうかカミやん、夏休みにいろいろラブコメ的イベントあったらしいやないかい?

ここの子を手籠めにしたらしいしなあ」

「なわけあるか!この二次元星人め」

「はぁ?虹だけじゃないでぇ。ボクぁ落下型ヒロインのみならず、義姉義妹義母義娘双子未亡人先輩後輩同級生女教師幼なじみお嬢様金髪黒髪茶髪銀髪ロングヘアセミロングショートヘアボブ縦ロールストレートツインテールポニーテールお下げ三つ編み二つ縛りウェーブくせっ毛アホ毛セーラーブレザー体操服柔道着弓道着保母さん看護婦さんメイドさん婦警さん巫女さんシスターさん軍人さん秘書さんロリショタツンデレチアガールスチュワーデスウェイトレス白ゴス黒ゴスチャイナドレス病弱アルビノ電波系妄想癖二重人格女王様お姫様ニーソックスガーターベルト男装の麗人メガネ目隠し眼帯包帯スクール水着ワンピース水着ビキニ水着スリングショット水着バカ水着人外幽霊獣耳娘まであらゆる女性を3次元で迎え入れる包容力を持ってるんよ?」

「いやいや何を言う青ピ。妹一本こそがただしい道というのをいまだ理解してないみたいニャー。

家の舞春に勝る女性なんて考えられないぜい」

「お前らもう帰れよ!」

そんな3人を見る者がいた。

(・・・海原から逃れるためにはこれしかないっか・・・)

「ごめーん、待ったー?」

(くっそリア充め!爆発しろっ!)

「待ったー?って言ってんでしょうが無視すんなやゴラァアアアア!」

「突然後ろから女の子がぶつかってきた!?

カミやん、突撃系ヒロインなんて新しい属性を発掘するとは・・・恐ろしいんやで」

 

午前10時前。上条当麻と御坂美琴はホットドッグ屋に並んでいた。

「まったく、もう朝ごはんかお昼ご飯か分かんねぇなこれ」

「あら?私からのもらいものなんだからもっと喜びなさいよ!」

「はいはい、美琴センせーのお恵みありがとうございます」

「それに・・・代役とはいえデートなんだから!もっと恋人らしいことでもしなさい」

「こ、恋人らしいこと?そんなの付き合ったことのない人にはわかりませんのことよ?」

「いいから!」

二人はまだ知らない。恋人という公理から明確な定義を求めることの難しさを。

「ともかくホットドッグも買ったことだしそこのベンチででも食べよう」

「そ、そうね」

簡易的な机といすに座る。

座面裏の表示によればマイクロオゾンバブル封入の紫外線対策された学園都市モデルらしいが

緊張に凝り固まった二人にそんなことを考える余裕などない。

「ん、んーと、そういえば妹はどうしたんだ?元気にやってる?」

「あ、うちの学校に入学して元気にやってるわよ。ただ・・・」

「ただ?」

「アンタも見たでしょ?あの後輩。毎日毎日あの子にちょっかい出してて・・・。

あの子もあの子で素直すぎるのよねー。毎回止めに入る私の身にもなれっての」

あの子というのは妹達のことだ。ただし今は全員が合体して御坂の双子の妹として

常盤台中学校にlevel4で入学している。

自身の中に丸っとミサカネットワークを取り込んだために自分だけの現実(パーソナルリアリティ)とAIM拡散力場の並列化が起き、

かけられる電圧は美琴の100分の1にも満たないが、

出力電流は10000倍近くなって致死量の数十倍にも及ぶ電流を流せたり、

最終信号との通信能力を持っていたりすることとも合わさって常盤台第2の電撃姫となっている。

「そうか。あいつが普通の生活に戻れてよかった」

(ってかデート中にほかの女の話をする恋人っているのかしら)

この後ホットドッグ取り換えっこ詐欺に合ったり古文を教えてもらったりした上条は、

御坂がハンバーガを買いに行っている間に当の海原光貴と話すことになる。

「ですから、御坂さんは人への行為と敵意を区別すべきだと思うんですよ。

出ないと敵に同乗して不意打ちに合うなんてことになりかねません――あ、その答えは③ですよ」

「とはいってもなぁ、あいつは優しい奴だし・・・。どっちかに決めるなんて難しいんじゃねぇの?」

「その優しさが人を気づつけることだってあり得るんですよ。あ、そこは②が答えです」

「サンキュ。・・・あれ?」

「どうかしましたか?」

「さっきの店にお前とよく似た人が入って言った気がしたんだ。多分気のせいだと思うけどな」

「本当に気のせいですか?この町には肉体変化(メタモルフォーゼ)という能力者もいるらしいじゃないですか」

「それもそうだな。御坂なら自分で何とかできそうな気もするけど、念のため様子を見てくるよ」

御坂の様子を見るために席を立つ上条、その姿を海原は後ろから見ているはずだった。

「ぐはっ・・・う、うっ」

「どうにも人をだますのは苦手ですね」

海原光貴は上条の背中に刃物の柄で突を入れていた。

「な、にするんんだ・・・」

「それはこちらの台詞です。あなた、自分がなにをしたのかわかっているのですか?」

「は、ぁ?」

「とぼけないでください。夏休みの間だけで4つも問題に対面して、さらに解決しているじゃないですか。

これだけのことをしておいてその言い方は許せませんね」

「まて、それはおれだけのちからじゃな」

「えぇ、そうです。あなたを中心として上条勢力が形成されつつある。上はそれを危惧したんです」

「上?背後に誰かい゛っ」

さらに肺の中身を吐き出させるように攻撃を加えてくる。

「何もかも、その異能消しの右手がいけないんですよ。どんな異能でも消し飛ばすんですから」

「ごふっ・・・」

 

午前10時30分

海原から逃げて路地裏までやってきた上条当麻のもとにあるものが飛来した。

「うぉっ、魔術を使ってくるなんて反則だぞ!」

「はぁ?私はまだ変装術しか使っていませんがっ・・・」

「後ろだ後ろ!」

「そういわれて振り向く人がいますか」

上条は海原の体術をすんでのところでかわし強制的に視線を背後に移すため、

海原の背後に右手を突き出しつつ回ると、そこにそれは上条の右手が刺さった状態でいた。

「は?」

あまりのことに両者は疑問符を浮かべることしかできない。

何せ、上条当麻の右手があからさまな異能に直接触れているのになにもおきないのだから。

そこにはお化けがいた。

「これお前の魔術じゃねぇのかよ!」

「し、死霊術は専門ではないのですが・・・。魔術でなくとも異能に違いはないでしょう、なぜ消えないんです」

お化けはうらめしげなうめき声を出している。

「シュクダイヲヤレェ・・・」

「ひぃいいいい、追ってきたぁー!」

「助けてくれぇ―!!」

もはやどちらのものとも思えぬ悲鳴がこだまし、彼らは路地裏から逃げ出すことになる。

 

午前11時30分

「ゼー、ゼー、ゼー・・・」

「はっはっ、はっはぁ・・・」

建設現場に逃げ込んだ二人はお化けに追いつかれるももはや逃げる体力すら残っていなかった。

「な、なぁ、お前の魔術で何とかならねぇの?これ」

「いえ、私が今持っている霊装ではとても太刀打ちできませんよ・・・。

あなたの幻想殺し(イマジンブレイカー)でも太刀打ちできないものがあるなんてね」

「俺にできることなんて数少ねぇよ。ちょっと電撃を消したりできるくらいさ。

電撃といえば・・・お前、御坂のこと好きなのか?」

「・・えぇ、そうです。でも、いつかは襲わなければならない対象のリストにあるんですよね・・・。

もしそんなことになったら、彼女を私から守ってくれますか?」

「そんな暗い未来ばかり見やがって。お前にだってできることはまだあるぞ!

たとえば・・・俺のことを過小評価したうえで上に報告する。幻想殺しは幽霊一つ殺せない弱い能力だってな。

そうすれば、いくら俺が広い交友関係を持っていたって当人が何の力も持たない空問題はないはずだろう?」

「なるほど・・・現に今幽霊にとりつかれていますしね。論争の証拠としては十分です。

まさか、になろうとはね。」

「ということは、あきらめてくれるのか?」

「あきらめはしないでしょう。上があなたの注目を受けていることに変わりはないはずです。

もしかしたら、自分やほかの者がまたあなたの周りの世界を壊しに来るかもしれない。

もちろん自分もそういうことにならないよう、努力はします。でももう一度問いておきます。

それでもまたこんな事態になったら、彼女を守ってくれますか?」

上条は黙って彼の問いを受ける。しかしその答えは疾うに決まっていた。

「いつでも、どこでも、誰からでも、、何度でも。このようなことになるたびに、

まるで都合のいいヒーローのように駆けつけて彼女を守ってくれると、約束してくれますか」

上条は決めていた答えを示す。

たとえ彼に幻想殺しがなくとも、たとえ彼に記憶があっても、この答えは変わらなかっただろう。

そんな二人を見つめる影がお化けのほかにあったのは内緒の話。

 

午後3時15分

上条当麻は個室サロンにこもっていた。お化け付きで。

「あぁーもう、mol計算なんか分かるかよっ!何なんですかぁ?勝手に溶液の量何か指定していいんですか!」

ギロリ、とお化けが睨む。

(おちおちトイレもいけない・・・全くこいつは何なんだ・・・はぁ、不幸だ)

 

午後5時30分

魔術師・闇咲逢魔はとある学生寮の前に立っていた。

「ここか」

右手に装着された特殊な梓弓を操作する。籠手の操作だけで弦を引けるからくり付きだ。

「風魔の弦」

そう呟いて弓を撃つ。弦が空気をかき鳴らす音が響くと、その場にずんぐりむっくりとした風の渦が生じた。

目も開けずに飛び乗ると、そのまま7階まで上昇する。

「衝打の弦」

もう一度惹かれた減が響かせる音とともに、見えない鉄球のような衝撃波がガラス窓へ一直線に伸びる。

しかし、ガギンッという鉄が裂けるような音とともに衝撃波が弾かれた。

闇咲は異常事態に若干取り乱すものの、平常を保ち中を確認しようとする。

一瞬でカーテンが閉まったものの透明なガラス窓の中に人はいなかった。

念のため見えない部屋も確認しようとしたが、さらなる異常事態によってそれは阻まれた。

ベランダに置いてあった物干し竿がまるで意思を持った槍のように闇咲にまっすぐ向かってくる。

ハンガーが飛んだかと思えばさす叉を思わせる動きで飛んできた。

あっという間に洗濯用具に包囲された闇咲はそれ以上の詮索をあきらめ地上に降りた。

洗濯用具たちもそれ以上追撃を加えてくることはなかった。

「ふむ、食事にでも出かけたか」

もう一度籠手を操作して弓を引く。その音は第7学区中に響き渡った。

「捜魔の弦」

拡散する音は反射を繰り返し、やがて闇咲の元へ戻ってくる。

なぜか学生寮内を除く、学区中の情報を持って。

 

10分前

「ただいまー」

「おうドラえもん、お帰り」

「お、ちゃんと見張ってくれてるね。えらいえらい」

「・・・は?今なんつった?」

「『えらいえらい』」

「その前だ!」

「『お、ちゃんと見張ってくれてるね。』」

「お前かこのお化けの犯人は!」

「え、えぇと怒ってる?」

「このドラ猫タヌキ―!」

ドラえもんに馬乗りになった上条がほっぺをもって左右に引っ張るともちのように伸びた。

「ほふはふひほへひふー(僕はタヌキじゃない―)!  うにょーん」

「まったく、早くなんとかしてくれよ、おちおちトイレもいけやしない」

「僕がいないときっとさぼるから見張りとして置いておいたのに」

ブツクサ言いながらもドラえもんは置時計のようなものを操作する。

いくつか操作すると上条に散りついていたお化けがウソのように消えた。

「はー、たすかったー」

「どのくらい進んだ?」

「あと4分の1ってとこだな。海原や御坂が手伝ってくれたおかげでだいぶ進んだよ」

「そりゃあよかった。そろそろ晩ご飯でも食べに行かないかい?インデックスもお腹を空かせているころじゃないかな」

「それもそうだな。インデックス―?」

"プッシュドア"で学生寮に行くとインデックスはまだカナミンを見ていた。

「なるほどッ、この超機動少女(マジカルパワード)カナミンは第5呪具(パーツオブエーテル)蓮の杖を現代素材(プラスティック)で構成することに成功したんだね!」

「(いや魔法少女にはまりすぎだろこの実在(リアル)魔法少女)おーいインデックス、今日は外食しようか」

「!? わぁーい!やったー!」

「"プッシュドア"に新しいボタンを挿してっと」

「んじゃ、牛丼屋でも行きますか。待ち時間に読書感想文でも書きますかね」

 

午後6時10分

「はぁ、不幸だ・・・」

上条当麻の目の前には大盛りの白米があった。

「げ、元気出しなよ。3枚はちゃんと書いたんだから僕がきれいにしてあげるからさ」

すみませんすみませんと横で頭を下げまくってるウェイトレスをよそ眼に上条は掘削作業を開始した。

標的(読書感想文のプリント)はこの山の下だ。

お詫びにご飯代は半額にしてくれるらしいがそんなもので安らぐ気分ではなかった。

上条たちはボックス席に座っていた。

目の前では再び運ばれてきた定食2人前をインデックスがバクバク口に運んでいる。

何となく窓の外に目をやるとスーツの大男がこちらを見ていた。

学園都市にも少ないものの大人もいるので別段珍しくない。

(やっぱこの大食いシスターとわけわからん何かを連れてるとこ、目立つよなぁ」

男が右手を上げると上条はギョっとした。右手の先には意味の分からない弓が取り付けられている。

上条の本能が警鐘を打ち鳴らす。

「やべっ」

とっさに右手を掲げると同時、男が弓を引く。

衝撃波のような何かでガラスが割れ、何かはまっすぐ上条の右手に向かって進む。

右手に触れた途端何かはガラスのように砕け散ったが、後から来た風でそこらの物が宙を舞っていた。

「透魔の弦」

さらに弓を弾くと大男の姿が見えなくなった。砕け散ったガラスが部分的に音を立てていることから

こちらに歩み寄っているらしい。大男は急に上条の背後へ姿を現す。

「先ほどから異常事態続きだがこれはいい方に転んだな。お前、この子は借りていくぞ」

「おぉいお前!何てことしてくれたんだ!

もうこれじゃあ上条さんの課題読めないどころか見つけられもしないじゃないですか!」

「知ったことか。透魔の弦」

もう一度弓を弾くと今度はインデックスごと姿が消えた。どうやら外に出たらしい。

町行く人が何事かという様子で覘きこんだり、透明な何かにぶつかって悲鳴を上げたりしている。

「くっそ、ぜってぇ許さんぞ!おーいドラえもん!」

呼ばれた本人はというと・・・椅子と一緒にほかの席まで吹っ飛んでいた。

慌てて引っ張り出すと背後に異様な圧力を感じる。

「君、ちょっとこれどうしてくれるんだい」

そこにはいかにも怖い人っぽい男がエプロンを着て立っていた。胸元の名札には店長とある。

「ごめんなさい何とかしますから何とかしてくれよー!」

「まったく・・・。これは本人もどうしようもなかったんです。

壊れたものを修復したら許してもらえませんか」

「修理ってそんなことできるのか?」

「もちろんです」

ポケットから"復元光線"を取り出すと周囲一帯の物に当てる。

机や椅子をはじめとして、食器、食べ物、カバンやほかのお客の書類などにも当てていくと

すべてが元通りの状態となった。

「いやーこれは驚いた。君すごい能力持ってるね。ちゃんとご飯代払ってくれたら見逃してあげるよ」

「はいっ! ほら当麻くん、払って払って」

「あ、え、ぇーと財布財布・・・」

こうして無事お店を出ることができた上条たちはインデックスの追跡に向かう。

「なあ、これからどうする?」

「"強力匂い追跡鼻"~!これをつけてインデックスちゃんのにおいをたどろう!」

箸のにおいを利用してまるで警察犬のようにインデックスのにおいを追跡する。

何と追跡した先にあったのは上条が利用していた個人サロンだった。

 

午後7時

「なかなか早い到着だな」

「インデックスを放せ!」

「それは困る。私はどうしてもある魔導書を必要としているのだ」

「魔導書なんかに手を出してもろくなことにならないんだよ!やめるんだよ!」

「悪いというのか。たとえこの身を呈してでも私はそれを手に入れなければならん」

「お前、どうしてそんなに必死なんだよ。まったく、どいつもこいつも盲目的なんですか?」

「断じて違う。そう言い切らなければならん。断魔の弦!」

ビュンと音を立てて風の刃が向かうものすべてを蹴散らす。

しかし上条の右手によって空気の刃は叩き割られる。

魔術の頭脳、科学技術の結晶、よく分からない力の権化にかなうはずもなく

あっさりと闇咲は取り押さえられ、組み伏せられてしまった。

「なぁ、魔術師、いったい何でこんなことをしたんだ?こんなことになってからであれだけど、

俺たちでよかったら協力するぞ?」

「なぜ、そんな言葉を掛けられる?」

「仕返しさせてもらったからだ。インデックスが受けた苦しみはもう十分返した。

ここからは、お前の受けた苦しみを返す番だ」

「・・・ふん。私が手に入れようとしたのは抱朴子と呼ばれる魔導書だ。

そこの魔導書図書館ならこの意味が分かるだろう」

「抱朴子。中国文化における不老不死の方法を記した本。

とうまにも話した錬丹術について詳しく記載されている本だよ」

「不老不死ってお前、そんなものを目指していたのかよ」

「違うよとうま。錬丹術は確かに仙人を目指す学問でもあるけど、それによって得られる薬には

いかなる呪いや病をも解くという作用があるの。

あなた、助けたい人がいるんでしょう?きっとあなたはその人に恋をしているんじゃないかな?」

「な、なぜそれを・・・あ、あの女はそんな対象ではない!」

「わかるよ。こんなに恋心に鈍い人よりずっとわかりやすいんだよ」

「ようはその女の人を助ければいいんだな?」

「そんな簡単に言ってくれるが、そいつは死の呪いにかかっているんだぞ」

「だったらなおさら簡単だ。そいつにこの右手でちょっと触れるだけで済むんだからな。

アンタも見ただろう?この右手。異能の力ならどんなものだってたちどころに消してしまう。

たとえそれが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

闇咲逢魔は涙していた。それがいったい何に対する涙なのかは分からない。

自身の諦めを恨む気持ちからか、突如現れた救済に対してか、はたまた彼女を思い出したからなのか。

しかしそれは誰にも分らず分からなくていいい。大切なのは彼女が救われたという事実のみ。

 

午後8時12分

一方通行は打ち止め(ラストオーダー)の治療にあたっていた。

ここは第7学区のはずれ、とある遺伝子研究のの前の空き地だ。

止まっているレクサスは廃墟に見合うかのように、タイヤはつぶれ半円形に、

左のフロントドアは無理な力でも加わってひしゃげていた。

彼は自分の体と能力を学習装置(テスタメント)の代わりに、打ち止めの記憶データの書き換えを行っている。

ひしゃげたドアには天井亜雄が挟まっている。

彼は打ち止めの脳にウイルスを入力し、ミサカネットワークでつながっている他の妹達を

世界各地で暴れさせるテロの実行犯たる研究者である。

(よし、あと残り書き変えるべきコード数は23891)

「邪魔を・・・する・・・なっ」

戸に挟まっていたはずの天井亜雄がいつの間にか手を動かせるようになっており、拳銃を引き抜いていた。

狙いはもうついている。あとはこの手を放すだけだ。

残りコード数 16342

 

残りコード数 7001

天井亜雄の震える手が拳銃の引き金に掛けられた。

ゴムの伸びる音がする。

残りコード数 945

 

残りコード数 102

天井亜雄は極限状態にいた。逃げ出したいと思った。

パシュっという音がした。弾丸がついに発射されたらしい。弾着後、即座にそれは自身の機能を発揮する。

残りコード数 13

 

残りコード数 0

 

午後8時27分

天井亜雄は月を見上げていた。

体は動かない。視界の端で白いものが舞っているのが見える。

(あれは何だ?私はどうなった。・・・・・・・・・・生きている!あの学園都市第1位を相手して生きているぞ!)

「あら?お目覚めのようね。」

聞き覚えのある声が彼を包む。

「悪いけど、あなたは拘束させてもらったわ。

わたしが甘いだけかもしれないけど、目の前でひとに死んではもらいたくないもの」

「お前は・・・芳川桔梗・・・」

「えぇ、全く、楽しい経験をさせてもらったものよ。

人生でたった一度でも小さな子供のために奔走する先生のようなことができたのだから」

「お前が言う子供ってのはどっちのことだ」

「もちろん、両方よ」

ワゴン車の後ろからもう一つの人影が現れた。

「よォ三下、目覚めごごちはどうだァ?」

 

午後9時

撃つ直前、天井亜雄の襟首につけられた"いやなことヒューズ"によって

彼は気絶させられていた。

一方通行は無事にコードの書き換えを行い打ち止めを救うと、

彼を車の部品を利用して地面に完全に固定した。

芳川桔梗はそこへ乗り込んできたのだ。

「しっかしおまェも間抜けだなァ、撃つ時に気絶すったァ」

「そいつは私が責任をもって処理するから」

「あァ、死ぬよりひどい目に合わせてもらわないとせっかく生かしてやった

俺の気がすまねェからよォ、ちゃンとやってくれ。」

「ふふっ、まかせて」

「ひ、ひぃいいいいいいい」

夜の廃墟に一人の男の声がこだました。

 

同刻、廃墟の茂み

「さて、これで自由課題(裏ステージ)もおわりだ」

そこにはドラえもんがいた。

"いやなことヒューズ"で狙い打ったのはもちろん彼だったのだ。

「さて、もう一度呪術師の所へ行かないと・・・」

 

午前0時3分

「やっと帰ってこれたぁー!でも宿題は絶望的だ・・・」

「そんなことはないよ!」

「とうま、がんばって。もう寝る・・・」

"プッシュドア"で女の人の所へ行き呪いを消した上条たちは

その足で呪術師の所へ行って更なる戦闘を繰り広げたのだ。

「"時間貯金箱"ー!これで時間を作ればいいさ。

特別に僕の24時間を使わせてあげるんだからちゃんと終わらせるんだぞ!」

「ははぁー!ドラ様―!」

彼らの長い夏休みがやっと終わる。




前回予告したひみつ道具は"お化けタイマー"と"いやなことヒューズ"でした。
寝落ちしてごめんなさい。
本来なら金曜日のうちに書き上げるはずだったのですがこんなことになってしまいました。お詫びします。
一万文字近くになりました。さすが主人公が多い。天井先生は更生させよう。
それから、6巻に関しては飛ばさせていただきます。
あまり介入の余地がないので・・・。
風斬、シェリー好きの方、重ねてお詫びします。

今回のひみつ道具。
"プッシュドア"
ドアに付けて使う道具で、ボタンが12個ついている。
任意のボタンを取り外し、裏に目的地を書いて戻すことで目的地が登録される。
普段はただボタンを押すだけで目的地とつながるためどこでもドアより手軽。
"お化けタイマー"
指定した時間になるとお化けが出てきて、事前に決めた仕事をする。
"復元光線"
壊れたものなどに当てると自動で修復、再構成して元通りになるようになるライト。
"強力匂い追跡鼻"
鼻に付けると、ものすごく嗅覚がよくなって
わずかな臭いでもたどって標的を見つけられる道具。嗅覚センサーの発展型。
"いやなことヒューズ"
襟元に付けておくと、いやなことがあったときに気絶するようになる。時間は15分間。
"必中ゴムパチンコ"
狙いをつけたところに必ず当たるパチンコ。


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6話:余談も持っていこう

超電磁砲7巻


御坂美琴は常盤台中学校に通う超能力者(level5)だ。電撃使いの中でも最高の能力を持つ。

過去に彼女は、欠陥電気計画でDNAサンプルを不当に利用されており、

その計画とも関わりのある絶対能力者進化計画における第1の被害者といえる。

 

8月21日午後8時40分

彼女はとある鉄橋に座り込んでいた。その膝の上には黒い猫がいる。

ただし、2足歩行をしているが。

猫の名は"いぬ"。彼女のクローンである妹達のミサカ10032号が名付けたもので、

決して面白がってつけられたものではない・・・・・・はずだ。

ただし、この黒猫は"いぬ"本猫ではない。その正体は、未来から来た猫型ロボット・ドラえもんだ。

とある少年を不幸から救い上げることを目的としてきた彼はファイブオーバー同じか

上回るほどすごいアイテムの数々、ひみつ道具を持っている。

彼が黒猫に変身出きるのもひみつ道具のお陰なのだ。

 

「止めなくちゃ、止められなくちゃいけなかったのに・・・」

「必ず当麻くんは帰ってくる。だって君が信じてその役を任せるのに値する人物なんだから」

「あんたって一体何なのかしらね。アイツもアイツの回りも、ほんとに変なやつ」

「そんなことないと思うけどね・・・君にお願いがあるんだけど」

「あら、何かしら?」

「彼が一方通行を止めればこの実験はきっと止まる。

そこで、残った妹達はどうやって生きていくかという問題があるんだ」

「それは・・・」

考えてみれば当たり前のことで、事実美琴も計画を止める最中にそれを気にして立ち止まってしまったことがある。

軍用クローンが普通の手段で日常に溶け込むのはかなり難しい。

おまけに彼女らにはこの街のIDすらないのだ。

「で、でも止めないわけには行かないじゃない!あの子達は私が守るわ!そのためだったらなんだってする!」

「うん、その言葉が聞きたかった。君にもちょっと協力してほしいことがあってね」

「協力?なにか良い手でもあるの?」

黒猫は返答と言わんばかりに肩へと飛び乗ると耳打ちをする。

驚きの内容に御坂は思わず黒猫の方へと頭を振った。

「なんですって!そんなことできないわよっ」

「何でもするんでしょ。僕も手伝うからきっとうまく行くって」

「くっ、仕方ないわね・・・なら、とっとと行きましょう。

いくら相手がアイツだからと言って夜分遅くに行くほど常識はずれじゃないわ」

 

学舎の園・常盤台中学校学生寮

食蜂操祈の部屋の窓の外に妙な人影があった。

「あらぁ?」

不審に思った食蜂がかんぬきを開けて確認しようとすると

真鍮の金具が跳ね上がり、ひとりでに窓が空いた。

「久しぶりね、食蜂操祈」

開いた窓から侵入してきたのは御坂美琴である。

「窓を遠隔で開けるなんて、あなた念動使い(サイコキネシスト)だったかしら」

「私は磁力も操れるの、忘れたの?」

入ってきて早々険悪な雰囲気になりかけるのを腕の中のドラえもんが咎める。

「っと、そうだった。・・・食蜂、私のお願いを聞いてもらえないかしら」

急に土下座の体勢になる美琴。

「え!?・・・ぷっ、あっハハハハハハ、どうしてあなたが私に頭を下げるなんてことになったの?

ちょっと想像力足りないわぁ」

「(こんの・・・・・)実はね・・・」

とりあえずことの天幕を伝える。

 

「・・・・・・いいわよぉ、協力してあげても。でもぉ、ただでやるのは嫌かなぁー」

「あぁもうわかったわよ、なんでもするって言った手前もう引き下がれはしないし。早く言いなさい!」

「そうねぇ、お金の類いは要らないし・・・・・」

突然なにかを思い付いたように食蜂が邪悪な笑みを浮かべる。

「コスプレしなさぁい、1時間で100個」

「は!?そんなの無理でしょ!体裁を気にせず急いで着替えても

一着につき一分はかかるし着替えだけで1時間半以上食うじゃないっ」

怒り散らす御坂の袖口をドラえもんが引っ張ると少しは落ち着いたようで

顔を赤めたまま耳を貸した。

「・・・・わかったわ。それ受けるから、ちゃんとお願いきいてよね」

「もちろんよ。もっとも成功したらだけどねぇ」

「食蜂ッ!」

(はぁ、喧嘩するほど仲が良いって言うし意外と仲良いのかな)

その後"セットメーカー"で軽く舞台を作ったりなんたりした。

「それじゃ、始めてちょうだい☆」

セットの張りぼて一枚隔てて食蜂の合図がある。

「お願いするわね」

「はいはーい。"着せ替えカメラ"~!」パシャッ

とたん、煙と共に服がコスプレ衣装に変化した。最初の格好はロングスカートのメイド服のようで、

なれない格好に戸惑いながらもドラえもんと表側に回る。

メイド服白衣チャイナ服振り袖巫女服チアガールミニサンタ着物執事服バニーウエイトレス

ナースに婦警さん等の定番や多種多様な水着、

7人のlevel5のうち3位と6位を除いたメンバーのコスプレに

赤桃橙黄緑浅水青紺紫白黒虹色のゲコ太に各種学校の制服やアンチスキルの制服といった学園都市関連のコスプレから始まり、

黄色いカシューチャの元気少女や黒髪メガネの饒舌才媛、猫耳ハイジャンプ少女、赤毛のパソコン少女、

チョココロネが好きそうな子に陶磁器のような少女、とんでも水着のようなアメリカチックデザインのヒロインetc。

さすがの食蜂操祈もこの展開は予想外だったらしい。

始めはとても信じられないという表情をしていたものの

途中から考えるのを放棄したようで目を輝かせて楽しんでいる。

予想外は御坂美琴も同じで後半はかなりノリノリになっていた。

「はぁ、はぁ、ちゃんと100着着たわよ」

「まさか5分も余裕を残して100着着るとはねぇ。服飾系能力の子でも手込めにしたのかしらぁ?」

「そんなわけないじゃない。うち(常盤台中学校)にいるのはあんたの派閥の子だけだし」

「そうねぇ。じゃあちゃんと手伝うわよ。いやー眼福眼福」

「!?」

 

かくして食蜂操祈の協力を得た御坂はおよその状況を説明した。

「なるほどねぇ。だったら良い考えがあるわ。あなたの友達の支援力も借りなきゃならないかもだけど」

「一体何をする気なの?」

 

柵川中学女子寮の1室

『ねぇねぇ初春、この都市伝説知ってるー?

[第7学区には人の運命を狂わせる三毛猫がいる]ってやつなんだけど』

「佐天さんったらまたなんか変な都市伝説なんて信じて・・・・・。あ、人が来たみたいなんで一旦切りますね」

ドアホンの音がした。覘き穴をあけてみるとそこには彼女の友人、御坂美琴が立っていた。

「ごめんね―こんな時間に」

「いえいえ、でもなんで急に?」

「はぁーい!177支部の守護神(ゴールキーパー)さん?」

「え!?と、常盤台の制服…もしかして御坂さんのお知り合い?」

御坂美琴の後ろにはもう一人常盤台の制服を着た子が立っていた。

肩がけ式のチェーンバッグからリモコンを取り出しささっと初春に向けていくつかのボタンを押した。

(??、何か能力でしょうか。それにしてもこの人、お嬢様オーラが満開ですごいですね。

瞳に星が入ってるのもかわいいし。素敵だなぁ~)

「ちょっとアンタ!何いきなり改修しようとしてんのよ!」

「改修?いや、食蜂様はちょちょっとことの顛末を教えてくださっただけで・・・

ってあれ?私はなんでこんなことを知っているんですか?」

「そういうことよぉ。ちょっと情報を書き込んだだけだから安心してちょうだい。

ということでちょっと一仕事お願いねぇ」

「まぁいっか。じゃじゃ、上がって待っててください」

「失礼するわね」

 

花模様のデスクトップのノパソのキーボードをたたく。

「このサイトでいいんですか?」

「えぇ、『Auribus oculi fideliores sunt.(見ることは聞くことより信じるに値する)』。

そこの運営者と所在地を突き止めてもらえないかしら」

「そんなことは簡単ですけど・・・いいんですか?」

「大丈夫、表向きの理由は用意しておいたしぃ」

「それじゃ、いきますよー。せーの、どーん!」

初春がEnterキーを叩くとコマンドプロントがいくつか開きwebブラウザが起動して

とある人物の顔写真、名前に能力にどこかのサイトのURLとIPアドレス、学生寮の住所が表示された。

「はいはい、どうも学生さんが運営していたサイトらしいですね。

雨粒から撮影する念写能力者ということはこのサイトの画像は本物だったわけですか。

ちょっとこれは検証の必要がありますね。白井さんに連絡して・・」

「はいはい、仕事熱心なのは構わないけどぉ、こっちの頼みだってことを忘れちゃだめよ」

「あ、住所分かりました。第15学区のメディア学校の学生寮みたいですね。ここです」

「ありがとね。今度パスティッチェリア・マニカーニのケーキを持ってきてあげるわぁ」

「わぁあい!やったー! そういえばその猫、どうしたんですか?」

机の周りに座る御坂美琴の膝の上には黒猫が乗せられていて今は食蜂操祈がその背中を撫でている。

(はぁ~こうしてみるといかにもお嬢様同士のふれあいといった感じで何ともこう胸に来るものが――)

「(ふむふむ・・・)今日はお暇いたすとしましょう、御坂さん」

「ちょ、ちょっと、急に変な口調はやめてよ」

「それでは初春さん、ごきげんよう」

いわゆるごきげんよう的なスカートの両端をもってたくし上げるあれをする食蜂操祈。

「あはは~ごきげんよー」

「生ごきげんよう(゚∀゚)キタコレ!!!」

 

第15学区とある学生寮の1室

「はいはい。あ、管理人さん?ちょっと待っててください、今出ますから」

部屋の主がインターホンを見るとそこには寮の管理人の姿が写っていた。

「はぁーい、運営さん?」

「お、お前は超電磁砲(レールガン)じゃないかっ。・・・ゲッ、後ろにいるのは心理掌握(メンタルアウト)!?

おしまいだ、遂にバレたんだ・・・・」

名門常盤台のlevel5二人がそろっている訳であり

うち片方は自分が追っている人物なのだからその絶望感は計り知れないはずだ。

「何も取って食おうってわけじゃないんだから安心なさい」

「そうよぉ、今日は特ダネも持ってきてあげたんだから」

「特ダネ?」

「この画像よ」

「こ、これは・・・」

二人が提示した写真は一方通行の写真である。ただし"タイムカメラ"で撮影したものであり、

そこには上条当麻と御坂妹に倒される一方通行が写っている。

「ここっつこかこけこれはあの第一位じゃないかっ!

一緒に写っているのは・・・お前と『どんな能力もきかない能力を持つ男』!」

「あぁ、『どんな能力もきかない能力を持つ男』のことは伏せておいてほしいんだけど」

「ぅ、うん、わかったよ」

「私も拡散には協力するわぁ」

(無論僕も)

かくして食蜂操祈との間の約束は達成された。

都市伝説という形で学園都市の8割を超える住人・学生たちの一部へ浸食した情報は

彼らの手によって拡散、そのほとんどに知れ渡ることとなる。

なぜかここ2,3日ほど都市伝説が大流行したらしい。




今回は外伝的なもの。
私は超電磁砲の方が好きなのです。他作品との一方的コラボをやってみました。
パスティッチェリア・マヌカーニのケーキが食べたい今日この頃。
次回法の書ですが・・・この世界ほどコンニャクが
パワーバランスを簡単に崩す世界はほかにないでしょう。



今回のひみつ道具
"セットメーカー"
張りぼてを簡単に作れるカメラ型のひみつ道具
"タイムカメラ"
過去や未来におけるある場所の写真を撮ってきてくれるロケット型カメラ。
時間を断続的に変化させてとるなど仕様範囲は広い。
"CMキャンデー発射機"
ものの名前を言いながらトリガーを引くと中身のキャンデーが発射される銃型のケース。
中身のキャンデーを食べた人はその物が欲しくてたまらなくなる。
都市伝説の宣伝に使った。

次回のひみつ道具は・・・"○○○○○○○"だ!


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7話:目的を持っていこう

7巻


2学期が始まった。夏休み最後の日にゃ二人の魔術師と交戦するわ

始業式の日にゃゴスロリの魔術師戦って

風切氷華と友達になるわで大忙しな毎日を上条当麻は過ごしている。

特異な日々ではあるが彼は十分に学生の青春を謳歌していると言っても良い。

で、彼は学生寮にすんでいるわけであるがさぁ自室へ戻ろうかというところを

円柱形の清掃ロボットに乗ったメイドさんに引き留められた。

彼女の名前は土御門舞夏。上条当麻の隣人土御門元春の義妹である。

「かかっかかき上条当麻ーーーーーッ!大変だぞー」

若干だけ間延びしたような緊迫感のある声が響いてきた。

「んん?一体どうしたんだ、そんなに慌てて」

「落ち着いてな、落ち着いて聞けよー。あの純白シスターちゃんが誘拐されたのだ!」

「えっインデックスが!?相手の様子は見たのか?」

すぐさまインデックスを狙う他の魔術師のことが頭に浮かぶ。

しかし返答は予想から少しはなれたものだった。

「そうなのだー。真っ赤な髪に黒い修道服を着た背の高いやつでなー。

去り際にこの封筒を袖口でつまんで渡してきたのなー」

「これって・・・」

封筒の中身を確認すると、筆跡をかくして直線で書かれたというか描画された文字が

並んでいた。

「なになに?『上条当麻、この子は預かった。返してほしければ薄明座まで一人で来い。

尚、この手紙の内容や誘拐された事実を他の人にいったり警察に通報しようものなら

即刻この子は殺すので覚悟しておけよこのクソ野郎』。

俺土御門の前で全文声に出して読んじゃったけどどうしよう」

上条当麻の脳内をインデックスの笑顔と彼女に抱えられた三毛猫の姿がよぎる。

その時不自然なことに気づいた。急いで部屋を確認すると三毛猫はいない。

つまりはインデックスと共に誘拐されたことになる。

上条家に居る三毛猫はただの三毛猫ではない。

何せ未来から来た猫型ロボット・ドラえもんの変身した姿である。

誘拐されそうになってもステイルくらい吹っ飛ばしそうなものだ。

しかし周囲に抗争の痕跡はなく、舞夏に聞いてもおとなしく連れていかれるのみだったらしい。

どうやらドラえもんは自分の意思でついていったようだ。

ここにかかれている情報だけだとわざわざついていく必要性があったとは思えない。

それより上条の帰りを待たずに救助するか連絡するはずである。

(どうやら、なにか裏があるみたいだな。)

「どうにも身内内での話のようだからこの事は他言無用で頼む」

「身内?なんだ、動機は不純なラブなのかー?」

「アイツの名誉のために純情なラブってことにしといてやってくれ」

 

ここは学園都市の外のバス停。上条当麻は案内図とにらめっこをしていた。

「えーと、まず2本目で左に曲がって、そのあと・・・・だぁーもう!!早く行かなきゃならないのに何でこんな入り組んだところにたってるんですか!?」

そんな様子を見つめる真っ黒な者がいた。

「あのー、お困りなのでしょうか?私のような者でよろしければご案内いたしますが」

「へっ!?あ、ありがとうございます。でももうわかったので大丈夫ですよ」

「学園都市行きのバスはこちらなのでしょうか」

「学園都市のなかに入りたいのか?そのバスは学園都市には行かないぞ」

「この残暑にはまいっしまいますね」

「全くそうですねっておいッ!さっきから全然話が噛み合わないんですけど!?」

「まぁ、このバスは学園都市行きではないのですね。失礼しました」

そう言って真っ黒な服に身を包んだシスターはそのままバスにのりこもうとする。

「ちょちょっと待てい!人の話聞いてましたか!?」

慌てて上条が手を引いてバスから下ろすと運転手さんが付き合いきれんという表情をして

バスを発車させてしまった。

「はぁ、全く。一体学園都市になんの用があったんだ?

一般の人はどんな手を使っても入れる可能性はないぞ」

「実は私、追われているのですよ」

「は?」

その光景に上条当麻は7月のある日の映像を思い出す。

(あのときも突然追われ者シスターとであってからいろんなことが動き出したんだっけ)

黒い服のシスターが変な反応に首をかしげていた。

 

廃劇場・薄明座

「まったく、とうま遅いんだよ」

「そんなことをいってやるな。僕は絶対に認めはしないがパートナーなんだろう」

「スフィンクスもどっか行ったし・・・・・」

インデックスがいい加減にしびれを切らし始めていると倉庫の入り口から靴の音がしてきた。

先ほど来たローマ正教のシスターとは音の間隔が違うのでおそらく別人であろう。

しかし二重振り子のように音と音の間隔が変動している。

「悪い、遅れた」

「遅いんだよ!・・・とうま、隣にいる人は誰なのかな」

「あらあら、こちらはイギリス清教の方でしょうか?」

「そういえば名前を聞いていなかったな。教えてくれるか?」

「はい、わたくしの名前は―――」

「そいつの名前はオルソラ=アクィナス。いいところへ来たな、上条当麻」

「ステイル!まったく、どうして狂言誘拐なんてしたんだ?」

階段から赤髪の二人組が現れた。ステイルと呼ばれた長身の男はイギリス清教所属の魔術師である。

他方はオルソラと同じ修道着に身を包んだ低身のシスターで、

動きずらいことこの上なさそうな高下駄を履いている。

上条当麻はオルソラが細かく震えていることにまだ気づかない。

「形式上、こうでもしなければ君の手を借りることができなかったからな。もう帰っていいぞ。」

「ちょ、いきなり呼び出しておいて着くなり帰れとは、上条さんちょーっと血圧上りましたのことよ?」

と、会話を遮るように二つの円盤形の物体が飛来した。

「うぉっ!」「きゃぁー!」

赤と青の円盤型の物体はそれぞれ上条とオルソラの袖口にくっついた。

瞬間、2人は強い引力によって結びつけられてしまった。

「とうま、いったい何のつもりなのかな?今すぐおるそらを放すんd――伏せて!」

インデックスの様子が急変したかと思うと上条とオルソラの足元から切っ先が飛び出し、

そのまま周囲の地面を分断して土煙とともに崩落する地下へと吸い込まれて行った。

「とうまー!」

「クソっ、我が手には炎、その形は剣、その役は断罪っ――!」

ステイルの炎剣がぽっかりと空いた穴を照らすが、もうそのなかに人の気配はなかった。

 

地下道を移動していたオルソラは何人かの男に抱えられて運ばれているので

今のところ怪我の余地はないが、上条はオルソラにくっついている左手と

辛うじて女の人に持ち上げられている右足だけで支えられている宙ぶらりん状態のため

お腹とか持ち上げられていない四肢が地面に引きずられてあちこち擦り傷が目立っていた。

「オルソラを放せッ!さてはお前たちが追ってだな!?」

「お前さん、どうにも勘違いしているようなのよな」

あっという間に地下道からでると遊園地のようなところに出た。

看板には「パラレルスイーツパーク」と書かれている。

その中の広場のようなところで彼らに下ろされた。

「オルソラーッ!」

上条の手をずっと握っていた女の子を振り払うとオルソラと男の間へと飛び込む。

クワガタにも似た髪の毛の男がやれやれと言った様子で溜め息をもらす。

夕方にもなろうと言うのに辺りの熱気が強くなった気がした。

「魔術師、一体どうしてオルソラを誘拐しようなんて企んだんだ!?」

「だから、俺たちは誘拐なんてしていないのよな。

強いて言うなら裏切られたってのが正しいんだろうが、別にそんなことは気にしないのよ」

「ならどうしてオルソラを拐う?まさか始業式の日みたいに誰でも良いってんじゃないだろうな」

上条の脳裏に9月1日の映像がよみがえる。

あの日学園都市を襲撃した魔術師の目的も条件さえ会えば誰でも良いというものだった。

そのときも上条は標的の一人で、土でできたゴーレム相手に苦戦を強いられた。

(こんなときドラえもんがいてくれたら・・・・・・・)

先の襲撃事件のときも空間を繋げて取り残された人を脱出させたり

逃げ遅れた人を地中にいったん逃がしたりと周囲の安全を確保してくれたお陰で

地下街での不利な戦闘を有利に変えることができたのだ。

(いったいどこに行ったんだ?)

逆光の熱気が上条の後ろから照り付けていた。そして遊園地の広場の門が開く。

「さてさて、上条当麻、よくやってくれたな」

「ステイル!?どうしてここが?」

「あれだけバカでかい声で彼女の名を呼んだんだ。嫉妬に狂う猛獣が聞きつけてもおかしくはないだろう?」

「どゔま゛ー!?」

ステイルの後ろから白と黒、2人のシスターが現れた。

「インデクスと・・・もう一人?あの場所にいたシスターか」

「はい、ローマ正教所属のアニェーゼ=サンクティスでごぜぇやす」

「当麻、無視するのはひどいんだよ!」

「とにかくこいつらを止めればいいんだよな」

「いや、君はオルソラ=アクィナスを連れて逃げろ。ここばば僕たちに任せたまえ」

「そいつらは十字峡の蓑に隠れた神の敵、倒すことに躊躇はいりやせん」

「すまん、必ず後で戻ってくるからな!」

 

結び付けられる腕を引っ張って上条当麻はオルソラとともに一時広場から逃げ出した。

「はぁ、はぁ、とりあえずここまで逃げて様子を見よう」

「あら、こんなに汗をかいて・・・きちんと拭かなければ風邪をひくのでございますよ?」

「うわぁーわー!」

問答無用の無言の圧力の怖さというものを上条は思い知ることとなる。

「うみゃっやー」

「ん!?スフィンクス?」

「みにゃおん」

鳴きかけてきたのは件の居候かつ飼い猫のスフインクスだ。

なぜか十字架のネックレス?を咥えていたスフィンクスは咥えていたチェーンを上条の右手に乗せる。

「なんだこれ?くれるのか?」

「みぁお」

「何かのひみつ道具なのか?でも俺が持ってたって意味がないし・・・そうだ。

オルソラ、これはお前に預けとくよ」

上条としては特に深い考えをもっての発言ではなかったが、

オルソラは窮地に救世主が現れたかのように顔を輝かせた。

「まあ、それは本当なのでございますか?」

「おう」

「それでは、一つだけ、お願いがあるのでございます」

「え、な―・・・・・・何だよ?」

「あなた様の手で私の首にかけてもらえないでございましょうか」

「は?まぁ構わないけれど・・・・ッ!?」

上条が答えるとオルソラは目を詰むって手を前に組んだ。

その姿は礼拝を捧げる熱心な修道女にも、なにかを期待する妖艶な姿にも見えるようだった。

「か、かけるぞ」

「えぇ」

ゆっくりとネックレス的なものを広げて頭から被せる。

オルソラは若干空を見上げており首紐もあまり長くないので

途中 うっかり間違いを犯しそうになるほど二人の顔が接近したが

上条はなにも考えないことにした。

その唇にインデックスがベッドに1人分の間を開けているのと

同じようなものも感じられたが気にしてはいけないと思う。うん、多分。

そうこうして十字架をかけ終わると、上条は頭がツンツンした気がする。

「よし、かけ終わったぞ。(なんか別の意味でドキドキしたな)」

「えぇ、ありがとうございます。ところで、これはどういたしたらよろしいのでしょうか」

おもむろに引き寄せられ続ける両者の手に目をやる。

「えいやぁー!!!!」

スパン、という音がして肩辺りごとオルソラに持っていかれた圧感がした。

なんだよと思って肩を見ると肩から先の袖口が持っていかれている。

「え!?ちょ、どうなってんの!?」

また頭がツンツンした気がした。

 

天草式とアニェーゼ部隊及びステイルが対峙する。

「仕方がない、こっちも応戦するぞ!」

「"スモールライト"ー!」

突然上空から謎の光が天草式の元へ降り注ぐ。光は防御結界を無視して彼らに当たる。

暫時、彼らの体が縮み始めた。

「なんだ!?この光は!」

「天草式が消えていきやがる・・・?」

 

天草式がいなくなったのでオルソラを狙うものはいなくなったと思われた。

しばしインデックス、ステイル、オルソラ、上条の四人で歓談をしたのち

オルソラはローマ正教へと引き渡され、事件はここで中断となる。

「インデックスいわく天草式は魔術を使っていないとのことだから

もう心配はないんだろうけど・・・・」

常識的に考えて、人が消えるというのは異常事態である。

ましてや10人や20人の集団が消えたのだがどうにもオルソラののんびり体質がうつってしまっているようだ。

右手になぜか切断された左袖口を抱えていた。

先ほどまでの謎の引力は袖口のワッペンから起こっていたらしいが

袖口が切れると同時に引力が消え、ワッペンも剥がせるようになった。

(はぁ、あそこでドラえもんが出てきたということは初めからわかってやったな?

全くうちの居候はどうしてこんなにも勝手なんだか・・・)

また頭がツンツンした気がして左手で頭頂部を払うと変な手応えを感じ、

手を戻すとそこには・・・・・・――――

「えぇー!?」

ミヤマクワガタとハナカマキリがしがみついていた。

「なんで!?」

どう考えてもこんなところにいるわけがない。

しかるべき役所に届けようかと考えた瞬間、上条の脳裏にもう1つの可能性が浮かんだ。

魔術師。先ほどの戦闘で天草式は確かに制圧された。

上条は魔力常々についてよく知らないが、

身体が小さくなったことで魔力の量が減ったとしたら。

魔力の減りと必要量の減りののオーダーが違ったとしたら。

魔力の消費量がインデックスにも関知できないほどに小さな絶対値の変化だとしたら。

てもしも天草式が動物もどき(アニメ―ガス)のような術式を持っているとしたら。

厳しい弾圧から逃れるために化ける術を得るのは何もおかしな話ではない。

上条がそっと手を触れると、高い破壊音がした。

「きゃーっ!」

「何をするのよな!」

「うぉっ、ほんとにお前らだったとは!」

いきなり上条の手の上の昆虫が肥大化しながら人間の姿のもどる。

ハナカマキリはショートカットの小柄な女性に、

ミヤマクワガタは先ほどのつんつん髪の男性に。

「まったく、オルソラ嬢の身を案じてここまでついてきたのにバレるとは情けないのよな。

しかし、お前さんとオルソラを切り離したのは失策だったが。

まさか俺たちの仲間が一瞬でやられるとは・・・」

「ん、今なんつった?」

「何もこうも、私たちはオルソラ嬢に危害を加えるつもりなど少しもないんです。

むしろ危害を加えようとするのはローマ正教の方ですっ」

「ローマ正教が?そりゃ一体どういう理屈なんだ?」

「オルソラ嬢の頭の中に秘められているのは法の書の解読法。そして法の書を解いて得られるものは何だ?」

「そりゃぁ、十字教の世界をひっくり返すほどの力だろ?まぁオルソラは力を求めていたわけじゃないが」

「考えてもみるのよ。現在進行形で十字峡の安定した世界の最大勢力として君臨するローマ正教が、

自信の力の源かつ安定の基盤たる十字教の転覆なんぞ望むわけがないのよな」

上条当麻は先ほどあったシスターを思い出す。

アニェーゼと名乗るそのシスターはあの時何を思っていたのだろうか。

「くそっ、早く行かなきゃ!」

「にゃおん!」

「いいところに!やっぱお前どっかで見てただろ!」

「何のことかな」

「さぁ、行きましょう!」

 

オルソラ教会

オルソラ=アクィナスはアニェーゼ部隊に囲まれている。

「はははは、全く、みじめなもんですねぇ。

信じていた仲間に裏切られるなんて。騙されて踊らされていたことを知ったらいったいどう思うんでしょうか。」

「ゴフッ!?・・・騙されていたのでございましょうか・・・・・なら、それは・・・・・・・

とても良い知らせでございましょう・・・・ガァッ!」

集団リンチまがいの行いが始まろうとしていたが、まるで教え諭すような口調で会話をしていた。

「いい知らせ?ははっ、そんな救いなんて無いに決まってんでしょうが。

そんな都合のいいヒーローなんてどこにもいるわけないんですよ」

 

宣言など必要ない。変数(役者)の定義はもう立った。

天窓に触れると甲高い音がした。そのまま開けてキャットウォークに降り立つ。

オルソラの顔が一層輝いた気がした。

「結界が壊れた・・・?至急、侵入者の探索を!」

「その必要はねぇよ。侵入者は俺だ」

「あなたは・・・どうかしましたか?もうあの事件は()()したのですよ。

いまさら何を望むって言いやがるんですか」

「オルソラを、助け出す!」

上条は持っていたワッペンを右手の腕時計に貼る。

とたん、先の引力が発生し上条にオルソラが引き寄せられていき

あっという間にいシスターの中から連れ出された。

「なるほど、さしずめ囚われの姫を助け出す騎士(ナイト)といったところでしょうかね。

でもこの人数相手に勝てるとお思いですか?」

いくら上条が喧嘩慣れしているとはいえ、喧嘩なんてものは基本1対1で行うものである。

相手は200人以上いる1つの部隊、しかも上条は物理的にオルソラとくっついているため身軽な動きが取れない。

たとえ一人一人と細い路地などで個人戦してもいかんせん体力が持たないだろう。

残された道は防戦、しかも逃走しながらである。

だが、20億人もの使徒を持つローマ正教からいかにして逃げ切るというのだろうか。

(できるできないの問題じゃねぇ、やるしか無いんだよ上条当麻!)

「僕たちのことを忘れてはいないかい?」

声の出どころはステイルだ。

そして僕達と言ったからにはもう一人、上条家の最初の居候も。

「とうま!一人でいいとこ持っていこうなんて許さないんだよ。そもそもこの後はこっちの問題だったんだからね!」

「素人1人に任せるわけにはいかないだろう」

「ちっ、たとえ1人や2人増えたところでこちらは数で圧倒するまでです!」

「それはどうなのよな!」

ステイルの後ろからさらに現れたのは建宮斎字だ。

「お前はッ!天草式!?消えたはずではなかったんですかい!?」

「ステイル、あれをこいつらに見せてやるのよ」

「来やすく呼ばれるのは気に入らないが・・・ッ」

その瞬間、ステイルの背後に巨大な何かが出現した。直径10mはあるだろう。

「熱ッ!?」

巨大な火球がまさに顕現した。

「俺の仲間がいい仕事をしてくれてな。お前たち、行くのよな!」

掛け声に応じて後ろから小さな群衆が現れた。

彼らは小さな姿でルーンや"温泉ロープ""即席落とし穴""飛ばし穴"などを配置、

ステイルの魔力だけでなく地脈を持捻じ曲げ力に変え、

さらにはルーンの配置法によって太陽や火災被害の魔術的意味を加えることによって

イノケンティウスをこれほど強大なものに変えたのだ。

「『消えたと思わせておいて』というのも我らの十八番の一つなのよ」

「インデックスが記憶していた、オルソラの首飾り、

あれは僕たちイギリス清教のイギリス清教の十字架だ。

たとえ正式な手段を踏んだうえでかけられたものではないにしても、

僕たちはその十字架の加護受けたものを傷つけられるをのみすみす見逃すつもりはない」

「我らも女教皇(プリエステス)の教えに従い、

助けを求めるものが傷つけられるのをそのままになど絶対にせぬのよな」

「皆さん・・・・・」

「アニェーゼ=サンティクス、今やオルソラ=アクィナスの身柄はどこの所属とも取れない状況だ。

そんな中で1勢力として勝手に弾劾を行うのはこちらとしても止めなくてはならない」

「そういうことだ。お前らにもう逃れるすべはない。

それでもオルソラに危害を加えなくちゃなっらないって言うんなら、

お前たちローマ正教が守るもの(幻想)をぶち壊してでも必ず止めて見せる!」

 

「面白いじゃないですか、上等です。こちらもいきますよ!」

アニェーゼの言葉に各自がその武器を手に取るものの、

反撃するに足る武器がないのか8割がたが手から落としてしまう。

「使えない奴らめ・・・・上条当麻!お前の相手は私です。ほかの者はあの魔術師を!」

ローマ正教アニェーゼ部たちとの戦いが始まった。

 

終油聖堂。"万能舞台装置"によって整えられた場所で上条当麻とアニェーゼの決闘が始まる。

「万物照応。五大元素の第五、平和と秩序の象徴「司教杖」を展開。

偶像の1、神の子とと十字架の法則に従い、異なるものと異なるものを接続せよッ!」

その言葉の一つ一つに従い、杖の先端が等間隔に展開される。

蓮を模した第五呪具は現代科学では否定されたエーテルの象徴だ。

光を伝えるとされたその性質とは裏腹な真っ黒い笑顔のアニェーゼが迫る・・!

(あいつ、どんな攻撃をしてくるか分からねぇ、まずは右手を構えて・・)

だが、そんな上条とは逆に、アニェーゼは蓮の杖を振りかぶり後ろへと叩きつけた。

金属のわずかな弾性によって杖が跳ね返るほど強く。

何をしたのか上条が考えるより先に後ろからの衝撃が上条を前へと突き飛ばす。

「さぁ、回避不能の痛みを受けて見やがれ!」

そのまま杖の反動を利用して上条の肩を上から打つ。

さらに上条は分か機からも衝撃を受け斜め下に突き飛ばされた。

「大きな口をたたいていた割にはあっけないですね」

一方通行の反射ともとも違う。杖にダメージはなく上条にのみダメージが通る。

「なるほどな、その杖が俺ってことか・・」

「へぇ、異教徒のくせによくわかりましたね」

ならば、と上条は視界の隅に写った三毛猫に目配せをする。

「ほらほら、もう一発行きますぜ!」

アニェーゼが杖を後ろの柱にたたきつけようとした瞬間、上条は無言でジャンップして前へと飛び出す。

そのまま空中で大きく腕を振りかぶりって上げ、斜め上から放物線を描きアニェーゼに突っ込んだ。

「かかった・・・ッ!」

勝利を確信したアニェーゼが杖をたたきつけると、突然壁や床、さらには柱までもが消失した。

ステージというものは意外に高いもので、下まで5メートル弱の高さがあった。落下まで1秒。

その間に上条は司教杖をつかんでそのままアニェーゼに叩きつける。

「ぐふぉぁああ!!!」

眠り行く彼女が何を思ったのかを、上条は知らない。

「さてと、両方とも尻もち搗いた程度だし、ありがとなドラえもん、とっさにボールプールの舞台にしてくれて。」

「何の。それよりこの戦いを終わらせよう」

「あぁ、こんな不条理な戦い(幻想)には終止符を。よっこいせ、と」

上条がアニェーゼを抱える。一般にお姫様抱っこと呼ばれるもので、

インデックスが見たら即噛みつき執行になりそうで

美琴が見たら朝まで超電磁砲キャッチボール決定な光景である。

 

婚姻聖堂の扉が空く。

"飛ばし穴"や落とし穴にかかったりしたシスターたちの中を上条当麻が進んでいく。

状況さえ違えば結婚式のようにも見えただろう。

リーダーたるアニェーゼが敵の手に落ちている姿は

残りのシスターたちの戦意をこれまでないほどに、破砕・裂開・崩壊させた。

 

1時間後

アニェーゼ部隊が壊滅したのでオルソラはイギリス清教が一時的に引き受けることとなった。

姫神秋沙を預けたときのこともあったのでいくらかは信用できたが

それでも『何か危害を加えたときは絶対ぶっ飛ばす』という伝言をステイルに伝えたうえで。

「はぁー疲れた。インデックス、うちに帰って晩御飯にしようか」

「うん!スフインクスも一緒なんだよ!」

「そうだね。今日の晩御飯は何だい?」

「お前はミルクでも飲んどけ!絶対何か裏でやってただろ!

あとインデックス、お前はいったいどうやって警備を潜り抜けるつもりだ?」

「わぁー!忘れてた!」

「大丈夫、僕が"どこでもドア"で先に送っとくよ」

明日の平穏を望みながら、こうして3人はまた学園都市へと帰っていく。

この後神裂が堕天使エロメイドのから逃げ、土御門がそれを追って

上条の検査入院の個室へと尋ねてくるのは誰も知らないが。




前回予告したのは"N・Sワッペン"でした。
なんだか書いていてごちゃごちゃになってしまってしまってごめんなさい。
法の書の謎は後回しにします。いずれ誰かに解かせたいものですね。
もちろん"暗号解読機"あたりでごり押すのもありですけれど。
そういえば"ショックガン"にしろ"空気砲"にしろ
大勢を鎮圧するのには便利な武器ばかりだけど魔術師相手だと使いにくいなぁ

今回のひみつ道具
"抜け穴ボールペン"
外でこれを使って壁や地面に丸を書くと中に通じる。中で円を描くと外に通じる。
地中に閉じ込められえた人を助けるのに使用。
"どんぶらガス"
これを吹きかけられたものにとっては地面が柔らかくなり泳げるようになる。
"N・Sワッペン"
赤いNワッペンと青いSワッペンからなり、張り付けるとはがれなくなる。
貼りつけられた人はそれぞれの単極磁石となって
物理的に反発したりや引き合ったりする。
貼り付けた服を脱げば効果は消え、また剥がせるようになる。
"タイムコピー"
過去や未来に同じ場所に存在するものを完全に複製することができる、
タイムテレビとタイムコピーを組み合わせた装置。
ただし同じ瞬間から複製できるのは1つだけ。コピー元の時間をずらせはさらに複製できる。
十字架の複製に使用。しょっちゅう失くし物をする筆者が欲しいと思っている道具の一つ。
"温泉ロープ"
ロープを結んで輪っかにし、平らな面に置くと内側が温泉になる。
空間を歪めているので下にあるものがぬれたりすることはない。
"即席落とし穴"
置いたところが落とし穴になる輪っか。
"飛ばし穴"
上に乗ると飛ばされる丸いマット。落とし穴の反対。
"暗号解読機"
上から暗号文を入れると下から解読されて出てくる22世紀FBIが開発したマシン。
"ショックガン"
この銃で撃たれると気絶する。
"空気砲"
打ったものを吹き飛ばす威力がある。
手にはめて「ドカン」ということで空気の塊を発射する銀色の円筒形の武器。

諸事情により次回お休み


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8話:破片を持っていこう

8巻


ここは学舎の園。常盤台中学校を筆頭とする有名お嬢様学校が集まる、

学園都市内でさらに閉じられた場所のひとつである。

内部は洋風な作りの建物や構造物で溢れているが、

その街並みはどこか本式の洋風建築と違う学園都市特有のものだ。

信号すらも都市内のものとは違ったお洒落なものになっている。

勝手に信号を違うものにして道交法で取り締まられないのかという疑問があるが、

学園都市内では通常の日本国法が適用されていない節があるので気にしてはいけないのだろう。

前述の常盤台中学校は学舎の園のなかでも一際発展しており、

入学条件として強能力者(level3)以上の能力者であること、さらに難しい試験を潜り抜けたことが問われる。

超能力者を2人も擁し、特に第5位は学園内最大の派閥を作っているなど

他の学校を上回る異色の存在だ。

そんな常盤台中学校に併設されている帰様の浴院で3人の少女が揉め事を起こしていた。

赤いリボンで髪をツインテにしているのが白井黒子、そしていがみ合う相手の双子?が御坂美琴 とその妹だ。

「お姉様は入らないでくださいの!!これは黒子とお妹様のことですの!」

「私が入らなきゃこの子相手に好き勝手するでしょーが!」

「お姉様、何もそんなに怒らなくても、とミサカはとがめます」

「うっ、あなたはこの子について知らないからそういえるんでしょうけど、

黒子の変態行為といったら他人の下着をこっそり回収してたり

何かにつけて媚薬を混入しようとしたりそれはそれは――」

「お姉様、黒子はお姉様とお妹様一筋ですのよ!」

「だからその時点で一筋じゃないっての。どこの世界に姉妹丼を望むやつがいるのよ!」

「ふっふへっひひひ、お姉様の口から姉妹丼なんて言葉が出るとは・・・じゅるり」

「だぁーもう手をワキワキさせるなー!!」

美琴の髪から紫電がほとばしる。淡く漂うつんとした臭いは理論純水のお風呂にはにあわないものだ。

「まぁまぁお姉様、ここでやると他の人の迷惑になりますからここはミサカが、

とミサカは指向性高めで電撃を撃ってみます」

妹の忠告にしぶしぶ従い電撃を放つ用意をやめると、妹が手をピストルの形にしていた。

指の先からレーザのように鋭い雷が発射される。

「お仕置きとのことなので電流値高めです」

「あ゙あ゙っ!良いですわ゙、この電撃っ!!お姉様の荒ぶる獣のような電撃も良いですが

お妹様の゙尖ったクーデレ電撃もだまら゙ないですのぉ゙ー!!!

黒子は、黒子は、どうにかなっでしm――」

「だからあんたはもうどうかしてるのよッ!」

個室内に香ばしい香りが漂った。

 

お風呂の帰り道、ランジェリーショップによったりスイーツトークの花を咲かせたりしていると、

常盤台中学の学生寮についた。学生寮は学舎の園の中と外に一つずつあり、

美琴たちはそ外の学生寮で暮らしている。

ただし、御坂妹は諸事情により病院で暮らしているため、入り口で別れることとなる。

別れたのち、自室に戻ると、黒子は自分の机でレポートを書き始めた。

「ん~?何のレポート?」

「第3種経済ですわ。まったく、参考にしようと思っていた資料の記述がバラバラで

困っていましたのよ」

「あー、あれね。私も大変だったわ。その割には使いどころないと思うんだけど。

そうね、ヒントでも出しておこうかしら。今では飛行機であらかじめ加速度を与えた上で

空中から発射する技術が生まれてるってのがあるんだけど」

「学園都市は空中からでも地上からでもバカスカ打ち上げられるから良いとして、

アメリカやらフランス、スペインロシアと最近打ち上げが多くありませんこと?

まるで何かを探しているみたいn――」

ピリリ、と黒子の方から電子音がした。何やら困り顔の美琴との会話を切らせてもらい、

収納された画面を取り出すとそこには発信者不明の文字。

「誰からですの?『ピッ』もしもし、どちら様ですしょうか?」

『もしもし?あ、その声は白井さんですね。なんのようですか?』

「何のようって・・・貴女がかけてきたんじゃないですの」

『え?そっちからかけてきたんじゃないんですか。

まぁ良いです。ちょっと困ったことになったのおで支部に来てもらえませんか?』

「はぁ、貴女が呼び出すということはそれなりに困っているのでしょう。

すぐ行くので少々お待ちくださいまし」

『やったー!頑張って紅茶をいれて待ってますね!』『ピッ』

「初春さん何て?」

「少々野暮用だそうですの。とっとと終わらせてきますのでお姉様はここで待っていてくださいな」

「わかったわ。それと、ちょっとしたら雨が降り出すらしいから早く帰ってきなさい」

 

雲1つない満天の星たちの下、白井黒子は黒服の男たちとの戦闘を繰り広げていた。

初春飾利によるとそいつらはトランクの強奪犯で拳銃を持っている可能性が高いとのことだ。

実践では空間移動に翻弄されていたことと旧式の拳銃で武装していたことから

学園都市外の部隊か何かなのだろう。侵入者に対する警備の甘さを愚痴りながら

トランクの情報を初春に送り持ち主の確認をとろうとしていたとき、

腰掛けていたトランクが虚空に消え去った。

後頭部に走る鈍い痛みで現状を知る。

支えを失った体は回転モーメントにより地面の上に伸びていた。

敵襲を感じ空間移動の利用で身体を立て直す。

白井の能力は遠距離のテレポートには不向きだが近距離なら高い精度で機敏に動ける。

重心位置を0.90m高い位置に、但し各座標をx軸中心で90°回転させた上で移動する。

地表よりいくらか高いところに出た衝撃が足へと伝わるが

白井の意識の範疇にそれはなかった。

 

白井の前に立っていた少女はなんとも奇妙な格好をしていた。

どこかの学校の制服とおぼしきスカートにさらしを巻いた胸。

さらにその上からブレザーを羽織っている。

少女と言えど白井よりもさらに年上そうで恐らくは高校生だろう。

「トランクの回収ありがとうございますの。

ただし、そのトランクはジャッジメントで預かりますのでこちらに寄越してくださいますか。

貴女が所有権を主張する場合送り札から確認しますので

名前を教えていただけると助かるのですが」

「あら、あなたそれ本気で言っているの?」

その女の言葉通り、白井の発言には嘘が含まれていた。

トランクの送り札に封入されている情報は第23学区宛ということのみであり、

送り主も受け取り手も何も判明していない。

女は腰掛けした警棒のようなものをとるとこちらに向けてきた。

戦闘の意思と受け取り、身構える。

太ももには鉄矢のベルトを仕込んであるが、

女の技量を考えると余り頼りになるとは思えない。

何せ先程、手を触れずにトランクを手元まで空間移動させたのだ。

手元へ引き寄せるタイプの能力であることも考えられるが、

"手元"の範囲がどこからどこまでなのかも、取り寄せられる最大距離もわからない。

(警棒のようなものを持ち出した・・・?9月1日に侵入した原石と同じように

あれを使って能力をコントロールしているのでしょうか)

「あなた、絶対能力進化(level6シフト)って知ってるのかしら」

「level6?そんなのありえませんわ。それともそのトランクの中身がそこへ導くものとでも?」

戦闘に備えて思考を演算に割いていたのであまり深く考えずに答えたが、

普段の白井なら気づくものがあっただろう。

MAR。警備員の付属組織で、起動鎧や救助ヘリなどの災害救助装備を多数配備した機関だが、

かつて木原・テレスティーナ・ライフラインの手に落ちていた。

彼女は春上衿衣の精神感応(テレパス)の持つ特異な性質に目をつけ、

一方通行の交信の念話能力(テレパス)を持つ枝先万里ら置き去りを彼女とともに誘拐し、

置き去りの脳内物質と能力体結晶を融合して投与することによってlevel6へと至らせようとした。

その置き去りたちは木山春生の教え子たちだった。

木原幻生の被害者でもあり、

暴走能力の法則解析用誘爆実験において既に体晶を投与され

意識不明の重体となって眠れる暴走能力者になっていた。

ただし、この計画はもうすでにに御坂美琴らによって阻止されている。

「その様子だとないも聞かされていないのかしら。

確かにこれを使えばlevel6を生み出すこともだってできるでしょうね。

でも私の望みはもっと崇高なものよ」

戦いの火ぶたが切って落とされた。

空間移動能力者(テレポータ)同士の戦いはオセロにも似ている。

一見優勢に見えてもたったの一手で戦況はひっくり返され、自分の体を空間的に塗りつぶされてしまう。

白井は鉄矢を構えて前へ飛ぶ。

飛んだ先は女の右となり。その手をつかんで手元に引き寄せ、固め技で相手の思考を奪おうとする。

しかし次の瞬間右手の感覚は一気に抜けた。

自らの武器の鉄矢が消えるのが見える。

死に物狂いでトランクに手を触れ、元居た位置の0.30m左隣へ転移を実行。

が、今度は右足首を鉄矢が食い破る感覚が白井に襲い掛かる。

空間転移(テレポート)でトランクを相手の頭上へ飛ばす。自分が演算している物体に対して

他の空間移動系能力を重ね掛けすることはできないので転移させ続けていればトランクを奪われることはない。

さらに自らもトランクの上へ飛ぶ。

だが女はそれを見越して警棒様のものを真上に振り上げ、

近くに合った古そうな扉をx-z平面に平行になるよう丸ごとトランクの上へ飛ばしてきた。

空間移動の性質として、転移したものは転移先にあるものを押しのけて出現するというものがある。

そのためこうすればトランクの中身を傷つけず相手を上下に分断することができるのだ。

さらに警棒を前に向け落ちてくるトランクと汚く汚れた扉をぶつかるほんの直前で目の前へ移動させた。

ゴトっという重い音とともに扉が地面に落ちる。

上の方にある手すりからだろうか、パラパラと赤さびの粉が降ってきた。

シュン、という音ともに女の子が空中に出現した。

扉を見て戸惑う女に肘を打ち込み、肺から空気を抜く。

トランクに手を掛けると先ほど女が取り除いた入り口のところまで飛び、ビルの中へと突入する。

「ガふッガガァァァァッァァあああああ!」

女の怒声がこだました。

(先の戦闘、あいつは一度も自分自身を転移しませんでしたの。

おそらく自分自身を転移できないか転移に一定の条件があるのでしょう。

となれば内の目視できない建物に逃げ込めば徒歩で追ってくるはず!)

 

しかし、建物内に入った白井の目にはとんでもないものが写っていた。

どこまでも続く地平線。だだっ広い雪原にでも行かなければ

見られないような風景が、建物内に広がっていたのだ。

後ろから女の声がする。その瞳はまっすぐこちらを見つめていていまだ周囲の異変には気づいていない。

「ふっふ、ふ、良くもやってくれるじゃない、気に入ったわ。

私の名前は結標淡希。あなた、私と一緒に来る気はないかしら?

そうね、そのトランクの中身も教えてあげるわよ」

「何ですって?」

「そのトランクの中身は樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)残骸(レムナント)なのよ」

「樹形図の設計者?それは宇宙空間に浮かんでいるはずですの!」

「そうか、そんなことすら教えてもらってないのね。

あなた、第3位には信用されてないのかしら」

「お姉様と私は固いきずなで結ばれていますの!」

「ふん、どうだか。あんただって、そのお姉さまに体よく利用されているだけじゃないの?

現に、こうまであなたは追い詰められているのに助けに来ないじゃない」

「それでも、信じぬくのが淑女ってものですのよ。

ただの器の小さな子悪党ごときにどうこう言われる筋合いはありませんこと!」

結標が警棒のようなものを構え、トランクに向けて振る。

だが、テレポートは発動しない。

入り口の近くで三毛猫の影がちらついた気がした。

「なんで!?どうして座標移動(ムーブポイント)が発動しないの!?」

「無駄ですわ。もうう試しましたもの。この空間、どうやっても空間移動が発動しないようですの。

空間移動の計算式を立てようにも自らの座標位置が何一つ定まらない。

例えるなら、砂漠で迷子になったようなものですわ」

白井黒子は立ち上がる。自らの職務と、自分自身の信じるもののために。

自分自身の信念のために禁忌を冒してまで人を助けえようとした科学者がいた。

自分の判断によって人を傷つけ、その償いのために一人で責任を背負いこんでしまった者がいた。

自分の信じる正義をめぐって自分の友と対立をしてしまった者たちもいた。

それでも、その信念の先にあるものは真の結末だと白井は思う。

能力の大本、自分だけの現実とは思い込みや信じる力だという。

一人で一軍隊と対等に渡り合うことができるほどに強力な能力を白井黒子は持っている。

能力はとても大きな力だ。風紀委員(ジャッジメント)をやっていると力の大きさに負けて罪を犯したと言う人にも出会う。

しかしそれは違うと思っている。

白井の信ずる御坂美琴は超能力者(level5)の第3位で

一ヶ国の軍隊が持つ軍隊をまとめて相手にしたとしても劣らないほどの力を有し、

なおも自分の力を正しいことのためにふるっている。

確かにこれは否定にはならないだろう。でも、御坂なら自分のしたことを能力のせいにはしない。

いくらか背負いすぎなところはあるものの、自分のやったことに対して必ず責任を負っていた。

(あぁ、私もお姉様と同じなのですわね。)

空間移動(テレポート)縛りの、空間移動能力者(テレポータ)の戦闘が始まった。

 

時は1時間前、第10学区。

なぜか人から嫌われたこの学区には、少年院や墓地などの嫌煙される施設が集まっていた。

もっとも、そういった施設が存在しているために嫌われているのかもしれないが。

その少年院の近くにドラえもんがいた。

ポケットからドライヤーのようなものとメガネを取り出した。

留置所のある階に向けてスイッチを入れる。

 

路地裏。

結標は妙な空間になっているビルから何とかトランクと共に出口へとたどり着いた。

ただし白井から完全に逃げたわけではなく、脱出を阻止しようとそこまで来ている。

突如として、ドゴシャーン!という何かを踏み潰したような音が響いた。

音のした方角に目をやると、白髪の小柄な人が爆心地と思われる場所に立っている。

余りの音に白井は驚いてビルの中へ倒れてしまう。

その白い人のことは結標も知っていた。

level5にも届くと言われた自分の能力でも到底届かない相手、学園都市230万人の頂点、一方通行(アクセラレータ)だ。

(私は、死ぬのか・・・・)

「よォ、そこのコソ泥くン。殴られるのと足蹴りされるのどっちがいいかなァ?」

ベクトル操作によって周囲の風が渦を巻き、4本の竜巻が背中に接続される。

(トラウマなど知ったことかっ!!)

能力制御のための軍用懐中電灯を投げ捨て、自信の体とトランクを10m前へ移動。

「おやおやァ、俺の呼び名を忘れたかァ?こっから先は一方通行だ。

何者たりとも通しはしないぜ」

高次ベクトル空間上で変更される結標の体の速度ベクトルを操作、移動角度を変更し

結標を元居た方へ、下方0.23度修正した上で反射する。

これにより彼女の両足は10cmほど地面に埋まった状態で出現することとなる。

前述の空間移動の特性から彼女の足は原子レベルで隙間なくアスファルトと密着しているのだ。

こんな状態では気圧はもちろんのこと、クーロン力すら問題になるほど強く足が吸い付けられる。

「やめてくれっ!!!」

突然の叫び声にその場にいるものが凍てつく。ただ一人結標を除いて。

叫び声のした方には数人の少年少女がいた。

「あ、あなたたちは拘束されたはずじゃなかったの・・・?」

「どうしてかは分からない。

拘束され留置所に移送されて途方に暮れていたらいつの間にかビルの中から外に移動していたんだ」

「あァあったくよォ、ガキにせがまれて出てきたと思ったらなんで目の前で

感動の再開みたいなシーンやってンですかねェ?」

一方通行の手から瓦礫の破片がまっすぐ高速で結標たちの方へと射出される。

とっさに仲間の一人が結標をかばい、瓦礫は目標物にあたると自分もろとも粉々に砕け散らせた。

「俺はあのクソ忌々しい実験が再開されるようなことがなければそれでいいンだ。

お前らみたいな三下に用はねェンだよ、とっとと失せやがれ」

立ち去る一方通行の後には、茫然と固まる結標淡希ら科学結社と白井黒子、

壊れたトランクケースのみが残された。

 

その数日後。風紀委員第177支部。

「変な事件でしたね、白井さん」

「えぇ・・・あのトランクケースの残骸の中からは何一つ見つかりませんでしたし、

結局あの女どもも取り逃がしてしまいましたの」

「それで白井さんが言っていた妙な空間ですが、あの後周辺一帯のビルを調べても何も出てきませんでした。

極めて高度な立体映像がAIMジャマとともに展開されていた可能性はあるでしょうが、

それほどまでに高度な立体映像は光学操作能力がなければ展開できませんし

AIMジャマが展開されていたならばそもそも能力が使用できないはずなんですよね・・・」

「とにかく調査はこれからも地道に続けることにしましょう。

初春、お疲れさまでした。今度ケーキおごりますわよ」

「やったー!じゃあじゃあ白井さん、学び舎の園にあるという伝説の和菓子ケーキ店のケーキを・・・」

 

件の廃ビルにドラえもんがいた。

「"地平線テープ"~」

取り出したテープを伸ばし、空虚なドア枠の下の所に沿ってテープを張る。

両端を貼るとドアの向こうが消えた。

それまで廃ビルの内装があったはずの空間の向こうには

ただただ地平線が広がっているだけの無限の空間ができた。

「続いて、"ナカミスイトール"!」

トリガを引くとドラえもんの手の上にちょうどトランクに入りそうなサイズの物体が出現した。

「最後に"全体復元液"をちょびっと垂らしておけば・・・・」

ポケットから取り出したスポイトの中の液体をその物体にかけるとブクブクと泡立ったが、

一見何の変化もないように見えた。

「これであの人のためのプレゼントも準備完了。一週間後が楽しみだな」

自分で壊しておいて自分で直すというのだからマッチポンプも甚だしいが

これにて樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)をめぐる騒動は一定の区切りを受けることとなった。

余談だが、この後残されたメンバー+スフィンクスは上条さんからきっついお説教を受けたらしい。




大幅遅刻誠に申し訳ありません。
テストと書き溜めデータの消失が重なって心が折れかけていました。
今回は樹形図の設計者をめぐる騒動です。
私の好きなあのキャラのためにも頑張って準備しておかないとね。
そして第3の主人公には素敵な贈り物を。

今回のひみつ道具
"地平線テープ"
テープを張った面を超空間へつなげる。
この超空間ではワープができず
大気と地面が永遠に続いているだけの位相がずれた空間である。

"万能グラス"
かけて念じるとどんなところでも見ることができる眼鏡。
留置場のある階を探るのに使用。千里眼のファイブオーバー。

"全体復元液"
どんな小さな欠片からでも全体を補完してしまう。
ただし、残っている割合が少ないと復元には時間が掛かる。


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9話:日常も持っていこう

日常回,8巻9巻間
劇場版は別途捕捉します。


学園都市にはとある一般外来向けイベントが設定されている。

閉鎖的・機密的というイメージを払拭するため、

また学園都市の超能力や先端科学の宣伝のため、

申請こそ必要だが保護者が見学することのできるようになっている。

一般の学校で言う体育祭に相当するもので大覇星祭と呼ばれる。

ちなみに文化祭に相当する一端覧祭と呼ばれる内部向けのイベントもある。

 

9月のある土曜日午前11時、

第7学区のとある高校ではその大覇星祭に向けて準備が進められていた。

「かーみじょう!ほらそこでボケっと突っ立ってないで、

暇ならこのパイプ群をL-3まで運びなさい!」

「ひぇ~・・・・」

階段下の日陰で休んでいたツンツン頭の少年は上条当麻。

学園都市内での能力強度(レベル)こそlevel0(無能力者)だが右手に幻想殺しという稀有すぎるチカラを秘めている。

そんな少年に鞭打っているのは吹寄制理という少女だ。

かなりの巨乳であるのに対してカミジョー属性全ガードの女などと呼ばれているが

密にフラグを立てただの立てていないだのと(ゲフンゲフン

彼女はいわゆる委員長キャラと呼ばれるタイプで今年の大覇星祭の実行委員をしている。

「疲れたんなら私特製元気になるドリンク小瓶タイプでも飲むかしら?」

「けっけっ結構!そしておもむろにウェストポーチから取り出そうとするんじゃない!」

この通り健康グッツオタクという一面も持つ。

「元気は有り余っているようね?ならとっとと働きなさい!」

上条は怒声に飛び上がるとあわててテントの部品らしきパイプを運んでいく。

もちろんこれも学園都市モデルであり軽量を謳っているものの

数世代前のモデルであり現個品に比べれば二回り三回り重い。

この学校は貧乏というほどではないが

特別有名というほどでもないので上から降りてくる資金も自然と控えめになる。

まぁ安全性に問題があるほど古いわけでもないしいいだろうという先生の意向もあり

テントも少し古いものである。

まあそれでも外とはずいぶんな差があるが。

「あ。上条君。それはここへ」

「え?姫神、吹寄曰くあっちらしいんだが・・・」

「カミやーん!それはこっちに持ってきてほしいんやけど」

「え?そっちじゃないのかニャー?」

「だぁー!もう収拾がつかないぞどっちにやるんだこれ」

クラスメイトからあっちこっちとタライ回しにされたあげく

たどり着いたのは元の場所であった。鬼の覇気をはなつ吹寄付きで。

「上条・・・貴様モノ運び一つできんのか―!!」

「ふっ、不幸だ―!」

彼のいつもの口癖が炸裂した後に吹寄が襟首を後ろからつかんで

お小言をぶつけながら上条を後ろから押して所定の位置まで連れて行こうとする。

その姿はさながらフォークリフトとそれを使う人間のような主従関係を表していた。

 

同時刻、件の男子学生の住んでいる寮に純白のシスターがいた。

その名はインデックス。完全記憶能力を持ち10万3千冊の魔導書を

一字一句一図まで完璧に記憶しており、禁書目録の異名を持つ。

イギリス所属の魔導書図書館であり彼女は司書にあたる者だ。

スカイツリーホワイトよりも透き通った白い修道服は歩く教会ともよばれ、

物理魔術ともに絶対の防御力を持ち学園都市の第1位とはまた違う白い鎧である

――が、7月19日に上条当麻の右手によって破壊されており、

もうその布地自体には何の効果もない。

現在はもう一人の同居人の手によって魔術だけを反射するように

ひみつ道具で設定されている。

「ふわぁーっくしょん!・・・風邪、まだ治っていないんだよ・・・」

2~3日前から彼女は風邪をひいており絶不調というやつである。

「スフィンクス~遊ぼ・・・」

そう言って彼女は絵の扉を開ける。そこには雑多なものが大量に散らばった部屋があった。

スフィンクスと呼ばれたの部屋の主は中央のあたりでよく分からない機械をいじっていた。

青くて真ん丸な体でしてにっこりと振り返る。

「ゴメンね、今ひみつ道具の点検をしてるから遊べないんだよ」

「てんけんって何?」

「ひみつ道具はすごい性能を持つから壊れてたら使うときに危ない。

今のうちに調子が悪いのがないかとか調べることを点検というんだ

そっちがてんけん終わったやつ。で、こっちがこれから点検するやつ」

順に自分の左の方と右の方を指し示す。

見れば左側には若干薄汚れたものが見られるのに対し

右側のものはどれも新品のような輝きを持っていた。

そしてその中にはいくつか見覚えのあるものもある。

また食べ物のような見た目のものもいくつかあった。

彼の名はドラえもん。未来から来たネコ型ロボットだ。

お腹に備えた四次元ポケットからたくさんのひみつ道具を出して

上条たちをいつも助けてくれる存在である。

「ねぇ、このパン食べてもいい?」

その辺に積んであったパンを見つけてよロコるインデックスに訊かれ

ドラえもんは少し考えるようなそぶりをみせる。

「・・・・・・一枚だけだよ?」

「やったー!やっぱ風邪の時はたくさん食べるのが一番かも!」

大歓喜しながらパンをほおばると1分もせず食べきる。

社会人なら朝の支度がはかどると喜びそうなものだが

今の彼女にそんなことは関係ない。

そうこうしているうちに次の目標へと照準を合わせたようで。

「あ、これ知ってる!コンニャクって言うんだよね。

日本が誇るヘルシー食品なんだよ!」

「わー!わ―!それは食べちゃダメ―!」

下手をすればそのまま食べてしまいそうな勢いに

慌てて"タケコプター"を装着して空からそのコンニャクを奪う。

「もう!インデックスちゃんは危ないから外で待ってて!」

「ふーんだ!もう知らないんだよっ」

捨て台詞を吐き残し、インデックスは外へと飛び出していった。

騒動という物は何の前触れもなく起こるものだ。

 

1時間後モノレールの駅近くにインデックスはいた。

実は彼女はさっきのやり取りの中でひみつ道具をこっそりと持ち出していたのだ。

「何なのかな、この腕輪・・・」

持ち出してきた花飾り付きの腕輪を右手に付けてみる。

「特に何にも起きないんだよ」

とりあえず腕輪を装着したまま歩き回ってみる。

モノレールに沿って歩いて見ていると徐々にあちこちから学生の影が出てきた。

この前友達と学食レストランでお昼を食べたのを思い出す。

その友達はまた会えるという伝言を残して文字通り消えてしまったが。

「くしゅん!風邪のせいで息がしずらいんだよ・・・・」

そう言いながら手をこする。

となりを女子中学生と思われる二人組が歩いていった。

「キャー!?サテンさん!スカートめくらないでください!」

「いーじゃんウイハルー。減るもんでもないし」

「減るもんです!」

バッサバッサという効果音からして

どうやら一方が他方のスカートを扇子代わりにしているらしい。

そのとき、インデックスの周りを一陣の風が舞った。

「「ひゃー!?!?」」

突然の強風に2人の悲鳴が上がる。

一方過剰な花飾りの少女はその様子をニヤニヤと見ていた。

「ふっふっふ、日頃のスカート捲りの恨み!

しっかりとこの目に焼き付けさせていただきましたよ!」

そしてインデックスの前には、誰にも信じれないような者がいた。

その男の子は黄色の服を着て腰に短剣を備えており、頭には金色の冠をかぶっていて

周囲にまとった風でホバリングしている。

しかし周囲に漏らす風はリフターのようにごく少量なのだ。

こんなことをするためには空力操作(エアロハンド)風力操作(エアロシュータ)強能力者(level3)以上の能力者が必要である。

「あなたは・・・誰・・・なのかな?」

「誰って・・君が呼び出したんじゃないか。僕は風の精。

風を操りその力を統べる精だよ」

「でも私は魔術も能力もどっちも使えないし――あっ、この腕輪のせいなのかな」

「そうだよ!それは――――――――」

風の精が腕輪の説明をしようとした途端、消えてしまった。

気づけばさっきの娘たちはもういない。

「結局使い方はよく分からないんだよ」

この時のインデックスは知らなかったがこれは"秘密ゲンシュ犬"の効果である。

そのためインデックスが腕輪の使い方を知ろうとしたことに対し

妨害が働いたのである。

またこの腕輪こそ"精霊呼び出し腕輪"であり、

例えば風の近くで名前を呼びながら腕輪をこすると風の精を呼び出すことができる

という効果を持つひみつ道具なのだ。

今は風の原因である中学生たちがいなくなったせいで

精霊が姿を保てなくなり消えてしまったが。

 

30分後・上条当麻の学生寮にて。

「たっだいまー」

「あ、当麻くんおかえり」

土曜は午前中だけ出席があるので正午過ぎには各自寮につくことができる。

ただし吹寄制理など実行委員の仕事がある者は午後も残って活動をするらしい。

「ん?インデックスがいないみたいだけど、どっかいったのか?

あいつひとりで出かけさせたら絶対何か起こりそうな気がするんだけど」

「えっ、外に行っちゃったの?はぁ、捜そうか」

部屋の中に散乱していたひみつ道具をポケットにしまっていく。

が、その手が止まる。

「無い!"精霊呼び出し腕輪"が無い!もしかしてインデックスちゃんが持ってったの!?」

「おいおい、何とも杜撰な管理だな。早く捜さなきゃまずいぞ・・・

インデクスのことだからまた何か騒ぎの中心点にとちとち歩いていくか

自分自身が騒ぎの中心点になってしまいそうだし」

溜息とともにお腹のポケットに手を入れる。

「"尋ね人ステッキ"~!」

「じゃ、また外に出ますか。まだまだ残暑が残っていて暑いな・・・」

ステッキの先を床につき、インデックスの名を告げる。

数秒間その場で先端を軸にして歳差運動をしたのち窓の方へ倒れた。

ガラガラと窓を開け2人してベランダに出る。

「で?こっから一体どうする気だ?」

「"タケコプター"~!これを・・・まぁいいや、とりあえず頭に付けてよ」

自分の頭に黄色いそれを取り付け根元のスイッチを入れると

ドラえもんの体が宙に浮かぶ。

もう一本を上条の頭に取り付け、スイッチを入れた。

反重力発生パネルが回転し反重力場が上条の周囲に発生してその体が宙に浮き上がる。

「ってかこれどうやって操作するんだ?ジャイロ効果?」

「まさか。思考を読んで思った通りに飛べるようになってるよ」

上条が試してみると

言われたとおりああやってこう位の思考だけで自由自在に空が飛べる。

(たったこれっぽっちの思考から残りの飛行制御まで補うなんて

どう考えても軽いスパコン並みの演算が必要だよな・・・)

そんなことを考えながらもベランダの柵を蹴って

インデックスがいると示された方へ向かう。

 

同刻、インデックスは人通りの少ない野外テーブルで休んでいた。

「結局この腕輪はどんな機能を秘めているのかさっぱりわっかんないんだよ。

帰ってドラえもんにきいてみようかな」

そこに集まる影が2つ3つ。

不穏な空気をしめしていた。

 

10分後。

「あー!ドラえもん、そこ!そこ!」

上条当麻の大声と指さしの先にはインデックスがいた。

――路地裏に連れ込まれ不良に囲われたまま。

上条当麻の声はインデックスには届いていないようだ。

インデックスとは結構な距離があり

たとえ最高時速80kmを誇る"タケコプター"でも間に合わないだろう。

呼ばれたドラえもんが振り返る。

「見つかった?っあっアワワワワワワワ!!」

黒い革の服に身を包んだ奴らと対照的に純白のシスターはあまりにも儚げで、

何のチカラも使えない少女にとってはたとえ異能力(level2)でも脅威で。

発火能力者(パイロキネシスト)の指先にともした炎は青く揺らめき、

発電能力者(エレクトロマスタ)の腕にまとった雷は刺々しく、

残った一人も何か不可視の能力を発動した。

「どうするんだ!?ドラえもん!」

「えぇええええと、あれでもない、これでもない、あれでもない・・・・

あった!"望遠メガホン"!」

大きなコーンと持ち手がついたそれをを口の前に構え、叫ぶ。

「インデックスちゃーん!」

しかし、何も起こらない。慌ててひみつ道具を取り出した彼の選択は間違っていて――

「これ、"ハメルンチャラメラ"じゃん!」

「なんでメガホンとラッパを間違えてるんだ!落ち着けドラえもん!」

"ハメルンチャラメラ"を上条に投げ渡すとポケットにもう一度手を突っ込む。

再度取り出したのはまたグリップの付いた機械だ。

「今度こそ、"望遠メガホン"!

『インデックスちゃーん!腕輪の使い方を教えるから、落ち付いて聞いてほしい。

腕輪をこすって、火の精、雷の精と言って!』」

突然響いてきた正体不明の声にインデックスは驚くものの

記憶の中のドラえもんの声と一致し安堵する。

「・・・・・・・火の精、雷の精。これでどうなるのかな」

「あぁ、なんだ?」

不良は場に合わない単語に思考を停止させる。

そして不良たちはその後に起きた現象にさらに驚愕することとなる。

バリバリ、ゴウゴウという効果音とともに精霊が降臨した。

「ふっふっふ、オレは雷の精だぁー!」

「ぼくは炎の精だぜ!さぁ、何を燃やせばいい?」

「わっ、またなんか出たんだよ!」

「なんだぁ?こいつら。おい、邪魔すると――ケガすっぞ?」

発火能力者が指に炎をまとわせて雷の精にチョップを加えようとする。

が、炎の精が急に体にまとった炎を増大させたために彼の体が火に包まれ火だるま状態になる。

慌てて地面を転がり回りはたいて消火し始めた。

「こんの野郎!」

逆上した発電能力者ともう一人が雷の精に殴りかかる。

が、電撃を精霊による雷撃にかき消され、余波を受けて吹っ飛ばされてしまう。

精霊の能力は学園都市の能力強度(レベル)相当で大能力者(level4)くらいあるようだ。

「おぉ?なんかすごいんだよ!助かったんだよ!」

「ふざけやがって・・・・くそっ、何なんだこのシスター!?一旦ずらかるぞ!」

「待てー!」

インデックスが対処しているうちに通路の中まで来ていたドラえもんと上条が警報を鳴らす。

とたん通路のわきに設置されたポールから黄色と黒の遮断桿が横に飛び出し、不良たちの進路をふさぐ。

不良たちは立ちふさがる上条らを壁に押しやり無理やり追い抜いて勢いそのままに

飛び越えたりスライディングで潜り抜けようとするとそれに合わせて遮断桿が上下に動き撃墜?した。

「ぐふぇ!?何なんだこの棒はよぉ!?」

「おいおい、警報が鳴ってるときは踏切を越えちゃいけませんって習わなかったのか?

・・・・よくもうちのインデックスに危害を加えようとしやがったな?」

「ひっ!?」

怒りに染まった上条のこぶしが不良の頬をを打つ。

直立姿勢の人間の頭は重心から十分な距離離れているため一定以上の力を受ければ必ず転倒する。

驚きに固まった人は格好の的だ。

1人目、発電能力者をぶっ飛ばすと、先ほど何か謎の能力を発動していたやつが応戦してきた。

脚力特化の身体強化系能力者だったらしくそれなりの速さでこちらへ跳んできたが

ドラえもんが何かをパチンコで食べさせたところ空中で動きが極端に鈍り

そのままナメクジほどしか動かなくなりそのままぶっ飛ばした。

最後、発火能力者は少しは頭の回るやつだったらしく、今の騒ぎの合間に

ライターを使って風船を膨らませ、それを投げつけてきた。

自身の発火能力を利用した簡易爆弾である。

指先からライタートーチのように青い炎を出してガスに点火した。

しかし上条はすんでのところで上半身をかがめて避け背中で爆発を浴びる。

そのまま前に踏み進んで不良にタックルを喰らわせなおも押し飛ばす。

突き放された不良は作動中の踏切にぶち当たりそのままダウンした。

ちなみにこの簡易爆弾は表面でしかガスが酸素と触れ合わず

あまり効率がいいとは言えないのでマネしないように。

ライターガスと着火源を使って爆弾を作るならばブタンガスと空気を適切に混合したうえで

場を区切って着火すると爆鳴気とよばれる急速な燃焼が起こるので

この不良はそうすべきだたのだがいかんせん追い詰められた状況ではそこまで頭が回らなかったようだ。

ノックダウンした不良たちにドラえもんが先ほど身体強化能力者に飲ませたものを飲ませて回っている。

これならば警備員(アンチスキル)の到着までここから離れることはできないだろう。

「はぁ、はぁ、はぁ。こいつら・・・!」

「待った!」

さらに追い打ちをかけようとした上条に対しドラえもんが語気を強めて言い放つ。

「その先はダメだよ」

「あっ・・・・・すまん、つい熱くなってしまった。ほら、インデックス、帰るぞ!」

「うん!また助けられちゃったね」

「大丈夫だぞインデックス。気にすることないって」

「そろそろおやつの時間だし、家に帰ってどら焼きでも食べよっか!」

かくして彼らのつかの間の日常の家のある日の騒動は終わりを迎えた。

しかしこの後も騒ぎは続く。

そしてこの時地軸対称とした地球の裏側近くで次の騒ぎの元凶が学園都市に向け出発しようとしていた。




一昨日仕事を納めたので書いたんです。
本編と関係ない話ですがこの期間くらいしか挿入できなさそうだったので挿れます。
インデックスが"精霊呼び出し腕輪"の使い方を覚えました。
ただそれだけですけどね。
ところで私は静的な喧嘩か
武器を使って一方的に攻める喧嘩くらいしかやったことがないので
こういう取っ組み合いの喧嘩はよく分からないんですよね・・・。
ひみつ道具ありきの戦闘だと正攻法から先に決めてるので
いかにして引き延ばすか頭を使わされます。

設定についてのメモ。
こういうところで残しておかないと忘れてしまいそうなので。

現状ひみつ道具と未来についてちゃんと知っている人。
・ドラえもん ・上条当麻 ・インデックス ・神裂火織

うっすらと存在には気づいている人。
・御坂美琴 ・土御門元春 ・食蜂操祈 ・白井黒子 ・一方通行

何も知らない人
・学園都市上層部 ・ステイル含むその他のイギリス清教メンバー 。

ひみつ道具について。
ひみつ道具は純粋科学によって異能を再現したものや
学園都市の先端技術などを子供のおもちゃクラスで未来で販売しているものである。
異能を再現したものにはファイブオーバーを元にさらに改良し
能力を強めたものなどがある。
現在の設定
"ひらりマント"一方通行,"エアコンフォト"定温保存,
"尋ね人ステッキ"能力追跡,"吹き飛ばし・扇風機"."空気砲"空力使い,
"モンタージュバケツ"肉体変化,"原料ライト"物体を原材料に戻す能力,
"望遠メガホン"念話能力,"ESP訓練ボックス"多才能力.時間割り,
"メモリーディスク"."本音吸出しポンプ"."思い切りバサミ".etc心理掌握,
"万能グラス"千里眼,"四次元ポケット"???,"???"幻想殺し,etc

また学園都市の諸技術を改良、汎用化したものもある。
例:"強力匂い追跡鼻","ペーパーハウス","家の感じ変換機",etc

原作と相違点を持つ人物
一方通行:能力制限がない。杖も持っていない。
御坂妹:10032~20000号までが合体している。常人の1万倍近く強いAIM拡散力場を持っている。
AIM拡散力場内にMNWを格納しており10032~20000号までの妹達の意識も内包されている。
基本的な性格は10032号である。余ったNVゴーグル?知らない子ですね。
垣根帝督:ピンセット以外の手段を模索している。
結標淡希:人質は取られていない。
食蜂操祈:コスプレ萌えになりかけている。
天井亜雄:芳川桔梗の手で死ぬよりもひどい苦痛を味合わされている最中

また原作にない設定
樹形図の設計者:残骸からの復元途中であるがドラえもん以外誰も知らない。
竜王の殺息:一部が回収されている。
以上!

登場したひみつ道具
"暗記パン"
書いてあるものに押し付けると
内容が転写される。そのパンを食べれば書いてある内容を覚えられる。
ただし、体の中にパンがある限り。

"精霊呼び出し腕輪"
花飾りがついた腕輪で、特定の物の近くで
○○の精と言いながら擦るとその精霊を呼び出すことができる。
ただし呼び出した政令は元の物に依存するので元のものを取り除けば消失する。

"ハメルンチャラメラ"
対象に向けて吹くと山に行ってしまう。
呼び戻すためには逆さにしてコーンの方から吹けば良い。

"望遠メガホン"
遠くにいる特定の対象にだけ声や音を届けることができるメガホン

"踏切セット"
ポールのようなものと列車型の警報機のセット。
警報が鳴っている間は設置されたところをアリ一匹通さない。
ただし緊急車両は除く。

"スロー"
錠剤で、飲むと心の動きも体の動きも物理的に遅くなる。
飲むと早くなる"クイック"の逆。

次回のひみつ道具は○○○○○○○○○○○○だ!


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10話:裏切をもっていこう

9巻・10巻
非常に遅くなってしまいすみません。
課題に追われてました。→期末試験に追われていました→部活に追われていました


学園都市。人工230万人・東京都の西半分を占める科学サイドの頂点。

ローマ正教・ロシア成教・イギリス清教の3大勢力によって

まとめあげられている魔術サイドに対して科学サイドは学園都市の一極集中だ。

それは科学技術において学園都市が圧倒的なリードでもって纏め上げていることを意味すると同時、

地中を侵食した竹林が失われれば斜面の崩壊が起こるように

学園都市が失われれば学園都市ありきで成り立ってきた科学サイドは

崩壊の一途をたどるという脆弱性でもある。

 

大覇星祭の開会式が始まった。

学園都市の頂点たる超能力者(level5)は広告塔でもある。

その超能力者(level5)による開会宣言で学園都市のイメージを高めることも狙いであった。

ただし超能力者(level5)のチョイスを間違えたらしく、

どうにもマッチは最悪でその目的が達成されたとは言い難いが。

そんな開会式を終えて上条当麻は最初の試合会場へ向かっていた。

「あ!居たッ!」

そんな声が聞こえたかと思うと、体操服の襟の対地速度がゼロになる。

雑踏の中、上条当麻が後ろにしりもちを搗くと、

周りの人が割れ襟をつかんだ張本人が姿を現した。

「いってててててて・・・み、御坂!?」

「そうよ!見つけたわ・・・アンタ、大覇星祭の勝敗の規則は知ってるわよね?

今度こそ厳正な勝負よ!」

「お前なぁ、勝負勝負って・・・一体何が目的で勝負しないといけないんだ?

お前勝って俺をどうしようってんだよ!?」

「そ、そうね・・・私が勝ったら何でも言うこと聞きなさい!」

「{何でもって!?まさか一晩中超電磁砲(レールガン)キャッチボール(ただし俺が一方的な受け)とか

言い出さねぇよな、こいつ!?}だ、だったらお前も同じ条件だ!

お前も買ったら俺の言うこと聞けよ!」

まさか飲むとは思えないような条件を提示し、御坂が引くのを予想していたが・・・

「じょッ上等じゃない!飲んでやろうじゃないの!」

どうやら、初めから断る気はなかったらしい。

そんな時、こちらを眺める3人の大人を見つける。

「やぁ、当麻。そちらのお嬢さんは当麻のガールフレンドかい?」

「あらあら、当麻さんったら、やっぱり刀夜さんの血を引いていますのね?うふふふふふ?」

「あら~美琴ちゃんったらいつの間にカレシなんか作ってたの~?」

これこそが波乱に塗れ浸された大覇星祭の始まりだった。

 

第1種目・棒倒しに参加した後、御坂の手によってインデックスと引き離された上条は

合流のため自立バスのバス停に向かっていた。

大覇星祭に通常の運動会のような棒倒しや借り物競争、パン食い競争、玉入れなど

意外にシンプルな競技が多いのはそのほうが能力の派手さが引き立つという

上層部の思惑なのだろうか。

そんなことを考えつつも上条がバス停の近くまでたどり着いたとき、

明らかな疎外感のある2人組を発見した。

真っ黒で特殊な修道着に赤い髪、口の端にタバコを咥え話す相手は

金髪グラサンピアスアロハシャツに長身という

不良に必要な要素を再結晶させたような風貌である。

そしてその二人は上条当麻の知り合いである。

声を掛けようと近づくと2人の話し声がうすっすらと聞こえる。

「・・・・・・・・・・・・・・侵入・・・・・・・危険・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・監視・・」

侵入と危険という二つの単語に上条の耳が反応し、話しかけるトーンが変わる。

「おい、それってどういうことだ?」

「カミやん、聞いてたか」

いつも見せるヘラヘラとしたソレではなく

いつにない真剣な凄みの表情でこちらを見つめ返してくる。

「また魔術師がここに侵入した。名前はオリアナ=トムソン。

ここでは話すのに具合が悪い。向こうのテラスできちんと話そう」

指さされた方を見るといつぞやのプラスチックテーブルがあった。

 

「今回侵入した魔術師・オリアナ=トムソンは

リドヴィア=ロレンツェッティという魔術師ともグルらしくてね。

明確な侵入はオリアナしか確認されていないが、

おそらくこちらも学園都市に侵入しているものと思われる。

全く面倒な奴がやってきたものだよ」

「にゃー。なんせ、告解の火曜(マルディグラ)追跡封じ(ルートディスターブ)、二つ名付きが二人ぜよ。

追いかけなければならない方にとってこれほどつらい組み合わせもないぞ」

「それでその魔術師どもは何のためにここに侵入したんだ?

大覇星祭に乗じたってことは普通は侵入できない目的ってことなんだろ?」

「こちらではとある霊装の取引とにらんでいる。これだ」

土御門が携帯電話を差し出すとメーラソフトに黒を背景とした画像が表示されていた。

その物品は、柄と同じくらいの長さのおおきな鍔に

某縦横者の大王剣のような、縫い針のような杭状の刀身を備える。

「変な形の剣だな・・・いったいどんな能力を持っているんだ?」

「どうにも正しいことが判明したわけではないのだが・・・

その剣は刺突杭剣(スタブソード)と呼ばれているらしい。

こいつは英国博物館の記録書類を漁りに漁って

うちの暗号解析班が見つけ出したたった1つの画像だ。

そして、その剣は処刑と刺殺の意味を極限まで抽出・濃縮している。

神の子がどうやって処刑されたか知ってるか?」

「あ~十字架に磔にされて焼かれたんだっけ?」

「おしいな。正確には磔にされたのちに杭を刺されて死んだんだ。

その"刺す"という行為が殺すためだったのか死亡確認のためだったのか、

はたまた念には念を入れてということなのか、その辺はいまだ論争が行われている。

だが今大切なのは、刺したことで死が確定したということだ。

これは神の子に対応するもの、また刺した杭に対応するものの関係についても適用される。

神の子に対応するものというのは神の子の性質を受け継いだ人間、

つまりは聖人のことだ。

この刺突杭剣(スタブソード)という霊装は聖人を一撃で葬り去る力を持つ。

いや、一撃どころではないな。

ただ切っ先を向けただけで間に何があろうともその先にいる聖人を殺すんだ」

聖人の恐ろしさは上条もよく知っていた。

なぜならばその聖人たる神裂火織に記憶をなくす前にボコボコにされているからである。

記憶を映像で見せられた時には思わず冷や汗で全身が濡れるほどだった。

しかも彼女にとってはあのレベルで軽いジョギングにも満たないよう。

そんな聖人を向けるだけで殺せてしまうものなのだから。

「ちょ、そんな恐ろしいものを取引するってのかよ・・・・」

「あぁ、そしておそらく取引相手はロシア成教と思われる。

あそこは自分から何かしようってことはしないが、漁夫の利を狙ってくるからな」

「あ、そうだ!おい土御門、ステイル!心強い仲間がいるぞ!

ちょっと電話するから待ってろ!」

ステイルと土御門にそう言い放つと携帯電話を取り出し電話帳からインデックスの番号を呼び出す。

「あぁ、カミやん、今回は禁書目録の知識は借りられないぜよ?

オリアナ=トムソンとリドヴィア=ロレンツェッティの侵入が判明したことで

禁書目録の周囲を世界中の魔術師が警戒してるからな」

「別に警戒してても気づかないとは思うが・・・

俺が電話するのはインデックスじゃねぇよ」

発信ボタンを押して8コール目で件の人物が出た。

「もしもし、インデックスか?

・・・・

そうだ。ドラえもんに代わってくれ」

スピーカからインデックスがドラえもんを呼ぶ声が薄く聞こえる。

『もしもし?僕だよ』

「ドラえもんか?よかった。ちょっと頼みたいことがあるんだけど・・・」

『あぁ、当麻くん、言い忘れてたけど今回僕はオリアナ=トムソンの味方だからね?』

スピーカから聞こえてきたのは信じ難い言葉だった。

 

オリアナ=トムソンは学園都市の市街を歩いていた。

つなぎのような生地の作業着に身を包み、自分の身長より長いかという看板を小脇に抱え悠然と歩を進める。

しかし看板業者にはあり得ない装いだ。

自分の身長よりも長いような看板を運ぶなら2人以上で看板の前後を持って運ぶべきであるし、

その作業着の上着は第2ボタンでしか留められておらず、この場に作業監督者がいれば、

いや安全意識のある者が1名でもいれば即座に咎めるであろう格好だ。

それでも誰も彼女をとがめようとしないのはひとえに表裏の沈黙(サイレントコイン)という術式のお陰である。

声をかけられそうになったらそっと反対側を向くだけで声をかけようとした人は興味を失い、

その事を永遠に後回しにしてしまう。

「はぁ、誰にも構われずに歩き回るってのも疲れるものね。1人で始めちゃおうかしら」

右向こうの方で男女の学生が言い合いをしながらこちらに歩いてくるのが見える。

痴話喧嘩だろうか。少し考えた後に、仲裁に入ることにする。

そちらに歩みを進めようとすると、男子学生の携帯電話が突然鳴り出した。

電話に出るととたんに険しい表情になり、女子学生を差し置いて何かを話している。

女子学生は初め注意しようとしたがその険しさに圧倒される。

特別ぶつかることに問題はなさそうなので、とりあえずぶつかって間に入ることにした。

とん、と肩を少しだけあてる。

男子学生はこちらに視線を預けたままだ。当然か、とオリアナは思った。

今の自分は相当に扇情的な格好をしているわけだから。

「あらあら、ごめんなさいね?あなたもいつまでも画面の向こうに気をとられていないで

現実でイイことした方がいいわよ?」

そうだな、と一言言うと男子学生は右手でこちらの手をつかみ

そのままオリアナが来た方向から90度の方へ歩き出す。

右手で掴まれた瞬間、虚空から金属が割れる音がする。

暫時、自分の知識を根本からと思う現象であった。

女子生徒はどこから音がしたのかと警戒したようだが、

オリアナにとってこれは単純に鳴った時の比でなく危険な音だ。

少年は尚も先導してオリアナを連れ去ろうとする。

こちらに背を向けてはいるものの、その意思が鈍ろうとする気配はない。

視界から外れることなきよう、オリアナが真後ろに入らないよう、

手が100度を越えることはない。

「強引ねぇ、相当溜まってたのかしら?」

そんな軽口を叩きつつ、彼女は自分の意識を落ち着かせようとする。

雇い主に何度言われようとも、彼女の地はコレであり甚だ治す気などない。

この結界は、今はまだ破られるはずではなかった。

計画の根本に関わる事項であるが彼女は輸送作戦立案実行逃走のプロであり、

そこからついた2つ名こそ追跡封じ(ルートディスターブ)

意識の中で瞬時に他の手段を作り出し、評価する。

さすがに予想外すぎたため原案は存在しなかったが、

それでもいくつか案は出てきた。

(応戦・逃走・計画前倒し。

応戦してここで潰したいところだけど、この衆人環視の下戦闘をやるのは避けたいかな。

おねえさん羞恥プレイはあまり好きじゃじゃないし。

計画を前倒すにしても"条件"が決まってるから。結局、逃げに徹するのが一番なのかしら。

それにしても"条件"を悟られたらこの計画は失敗。

人海戦術でどうにでもなってしまうものね)

勝利手段が少ないこともよく理解していた。自分の劣勢がわからない指揮官は失格である。

しかしそこさえクリアすればいくらでも対処のしようがあるというものだ。

まだ希望はあると信じオリアナは駆け出す。

力の入れ方、回転方向を工夫し手にあり得ないモーメントをかければ

手首を破壊することなど造作もない。

少年はとっさに握り手を解いたことで手首の破壊は逃れたようだが、

それでも再び拘束し続けることはできないだろう。

角を曲がると都合のいいことに路地裏に出た。

さっさといくつかのノブを蹴破って逃走手段の数を増やしておく。

たとえそこから逃げることはできなくとも、一瞬でも逃走経路を増やすことは

全ての経路を評価する必要のある追跡者と一つでも条件を満たす経路が存在すればいい逃走者の間には

絶対的な格差が存在するはずなのだ。

いくつかの経路を計算し、少なくとも最適な経路を見つけ出しそこを突き進む。

もちろん、途中でさらに枝分かれさせることも忘れない。

あまりやりすぎても経路の深さを評価基準にされてしまうので意味はないが適度に分散させておく。

オリアナは自身の逃走技術に相応の自信を持っていた。

ただしそれには、自身の逃走風景を追跡者が見る手段を持っていないという前提条件の下での話だ。

例えば『スクール』所属の弓箭猟虎の持つ嗅覚の痕跡特定による追跡ならば、このような攪乱は無意味となる。

一介の学生にそのような技術はないという判断の上の行動だったがはたして・・・・?

 

上条当麻は混乱していた。

余りにも錯綜した情報は何が正しいのか、何が間違っているのか、それとも決定不能なのか。

足りない情報を埋めるための情報が定義されておらず、何をやっても堂々巡りになる。

結んだ端から結んでいない場所にたどり着くのだ。

誰を信じ誰を敵とするのか。

これまでさんざん頼りにしてきたドラえもんが突然敵側についた。

(もう、誰を信じればいいんだよっ!!)

高々高校1年生に世界情勢にもつながる善悪を決定し、

自分の回答に従って行動することを求めるのは酷なことかもしれない。

言動1つで第3次世界大戦につながってしまってもおかしくはないのだから。

自分が信じるべき基準を求めた点ではオリアナ=トムソンも同じことだった。

彼女が旅先で助けた若者は 偶然にも 敵国へと奇襲をかけようとしていたものだった。

今も、純粋なる善意に従ってケンカを仲裁しようとしたものの相手は 偶然にも 敵対者のようだ。

自分の行い1つ1つについてその結果をいちいち思案するなど不可能のラインに漸近する。

何せ思案するという行動について思案する必要があるからである。

そういう観点で見れば行いの善悪はベクトル量といえるだろう。

ベクトル量というのは基準を変えるたびにその大きさが変わるものだ。

例えば、静止衛星が分かりやすい例である。

静止衛星は地球上のある地点の上に止まっているように見える衛星のことだ。

あなたが衛星の下に立ってその衛星を観察したところで衛星の速度は0だろう。

しかしここで地球を出て月から観測したとしよう。

そこから静止衛星を見たあなたはきっと驚くはずだ。

静止衛星が恐るべき速度でで地球の周囲を公転しているために。

静止衛星のカラクリとは、

衛星が軌道上を地球の自転速度と同じ速度で――正確には角速度だが――公転していることである。

結果についての思考は、試行でもありそのたびに自分自身は異なる系へランダムに転移してるのだ。

思案する(≒系を変える)たびにもたらされる結果は変動し可能性を取る。

例えば"切り替え式タイムスコープ"を使えば自分の行動とその先の未来をかなり近い精度で知ることができるが、

必ずしもその未来になるとは限らない。

これを防ぐためには原点すなわち基準を決めておく必要がある。

そのためには転移先の極限値が必要だがこれを下から取ることはできない。

なぜなら、思考についての転移の関数はランダムであり、

非連続関数であるから極限値を求めることができないためである。

極限値が存在しないにもかかわらず、未来はただ一つに収束する。ならば未来を上から押さえればよいのだ。

"タイムマシン"や"もしもボックス"はこれを可能とする存在である。

自分の行動による結果を先取りすれば、自分の思った通りの未来にたどり着くことも可能かも知れない。

もしも彼女の前にドラえもんが現れたならば、きっとそれを欲することだろう。

 

オリアナ=トムソンがある曲がり角を曲がると先から余りにも場違いな服装の2人組位があらわれた。

(コスプレイでもしているのかしら…?)

背の高いほうの席初の少年の胸に掲げられた小さな金属片。

それは十字教徒なら誰もが持っているアイテムにして各自の宗派の色濃く表れるアイテム。

イギリス清教の十字架だった。

彼が個人的な理由でこの大覇星祭に来ていることも十分考えられるが、

彼の胸ポケットに入っているドクロを見てオリアナは確信した。

あのどくろは携帯電話のストラップを模してこそいるものの通信用の霊装であると。

ならば、この者たちは自分の敵対者か。

現状追跡されている以上彼らは追っ手の一員だと考えるのが妥当であると思われる。

先ほどの学生は他の学生とも十分な面識があるようだったので

おそらくこちらに雇われた仮のメンバーだったのだろうと思考し、

追っ手を打ち払うために彼女は単語帳を構える。

速記原典(ショートハンド)ともよばれるそれのうちの1ページを口に咥えて千切り取ると、

千切ったページにWind_Symbolの黄色い文字が浮かび上がる。

礎を担いし者(Basis104)!!」

コンマ数秒、自分の周囲の半径500mm~556mmのドーナツ型の領域(フィールド)が真空と超高圧の空気に苛まれ、

凄まじい暴風が吹き荒れる。

その領域(フィールド)は面積を保ったまま広がっていき、

触れるものを押しつぶし引きちぎって切り裂く風の刃となって半径数十mに広がるまで衰えない

群がる追っ手を一掃するための攻撃であった。

発動する瞬間、金髪がニヤリとしたのが気になったがそのときにはもう遅かった。

刃が対象へ到達する寸前、バギンッという音を立てて砕け散った。

振り向くと、先ほど自分のことを掴まえてきた少年が息を切らして後ろに立っていた。

「よう、魔術師。追いついたぜ」

ステイルがルーンのカードをかまえると、背後に炎の巨人、魔女狩りの王(イノケンティウス)が顕現した。

上条はそんなステイルを右手で制する。

「魔術師、いったい何が目的なんだ?」

「あらぁ?お姉さんが素直に話すと思ったのかしら?」

そういうと速記原典(ショートハンド)を口に咥え、リングから切り離す。

単語帳に赤い文字でFire_Symbolの文字が浮かび上がる。

「生命と再生の象徴である火の象徴。

そこに更に火の象徴の赤を重ねがけしたら、いったいどうなるのかしらね?」

その言葉を皮切りに、上条の体を駆け巡っていた違和感が増大する。

本来、肉体としての疲労は血液循環と腎臓によって緩やかに体内から排出されるべきものである。

魔術によって回復速度を過剰に上昇させるということは、

筋肉から疲労物質を血液中へ高速で析出させるということである。

その弊害として浸透圧の変化による脱水も起こり、のどの強い乾きや吐気、痙攣等の副作用を引き起こす。

「くぁっ・・・かっかくきあ・・・・」

言葉にならないうめき声をあげつつ、上条は己の下半身をたたく。

直ぐに魔術による回復は終了したが体に残った脱水状態は残ったままだ。

意志の力でそれらを抑えつつ、しずかに立ち上がる。

「あら?意外と持つのね?早々に腰が砕けてしまうかと思っていたわ」

「・・・・・・・っ、答えろよ、魔術師。お前は本当に戦争を引き起こしたいのか?それとも、世界を救いたいのか?」

上条の口からもたらされた問いに、その場の3人は固まる。

 

遡ること午前11時、上条当麻は自分の寮に戻ってドラえもんといた。

上条は学生という立場のため、大覇星祭の競技に出場しなければならない。//出席単位は大切にね!!

更に腹ペコシスターと電撃姫の相手もしなければならないので中々に時間が取れないのだ。

競技の合間を縫って自室に戻ったところ、部屋ではドラえもんがよく分からない地図を広げていた。

更にその地図には4つの丸が表示されておりマップ上を動いていた。

「お帰り、当麻くん。オリアナのことなら任せといてね」

大きくため息をつくと台所に行って水を飲む。

(電話で呼び出されたから帰ってきたのになんなんですかこの対応は)

「まったく何の用だ?」

普段に比べてツンツンした口調で問う。

「ちょっとこれを持ってくれるかな?」

そういってドラえもんが差し出してきたのは謎の機械だ。

握り手から伸びた棒にはパラボラアンテナがついていたり球体がついていたりとわけが分からない。

その後指示に従うt

「・・・・ん?なんで俺寮に戻ってるんだ?」

上条が気付くと自分の部屋に座っていた。

目の前にはドラえもんがいて、上条の携帯を差し出している。

「何言ってるの?君が電話でメールの意味が分からないって聞いてきたんじゃないか」

丸い手で器用に携帯電話のボタンを操作し、そのメールを表示する。

ゴムまりみたいな手でよく操作できるなと思いつつ画面を見ると、

たしかにメールは外国語で書かれており上条には読めなかった。

「そ、そうだったっけ。何とかできるのか?ってか敵対してなかったか?」

「え~?そういうこと言うんなら助けてあげないよ」

「そ、そんなこと言わないで教えてくれ!」

「しかたがない、"ほんやくコンニャク"~」

ポケットから取り出したのは何の変哲もないように見えるコンニャクだった。

「さ、これ食べて」

嫌悪感を感じつつも齧ってみるととくに臭みとかはなくほぼ無味でコンニャクの食感だけする代物だった。

「(モグモグ)これを食べたら読めるようになるのか?・・・読める!読めるぞ!

『題名:使徒十字に関するレポート。送信者:オルソラ=アクィナス』!?

本文は・・・開かなきゃだめか。『本文:拝啓土御門元春様――』間違いメールだったのかよ!」

オルソラ=アクィナスとは、元ローマ正教のシスターで、

ややあって今はイギリス清教の暗号解析班でシェリー=クロムウェルとともに従事している。

その後に続いていた文章は使徒十字(クローチェディピエトロ)と称される霊装の管理法や管理者の様子についてで、

年に一度昼間に光が入らない部屋で掃除をすることという規定の存在や

管理者がホロスコープで遊んでばかりいることなどが記されていた。

「ふんふん、『――PS、今朝は間違いのメールを送ってしまい申し訳ございませんでした。

神裂さんがおいしいお団子のお店を教えてくださったので土御門さんもいかれてはどうでございましょうか?』

って、相変わらず会話の脈絡がわっかんねーな!ん?PSに書いてある今朝のメールってなんだ?」

土御門に送られたはずの今朝のメールとは、刺突杭剣(スタブソード)についてに写真付きメールのことだろう。

それに間違いがあったというのはどういうことなのか。

頻出している使徒十字とは何なのか。

分からないことが多すぎる。

とにかく行動しなければと思って上条は外へ出る。

エレベータを使っている時間を惜しみ階段を駆け、学生寮の入り口まで下りてくるとそこで吹寄制理に捕まった。

「まったく、試合の応援をさぼって学生寮に帰って行ったなんて聞いたから呼び戻しに来たのよ?」

「す、すまない吹寄・・・」

「どうしたのよ?ひどく困った顔をして。・・・・・・・・・・・・もしかして、戻りたくないの?」

「いや・・そんなことはないし俺だって今朝みたいにバカやってボロボロになるまで頑張りたいさ。

でもな・・・・・・悩んでいるんだ。困ったことが多すぎて」

「悩んでいる?上条らしくもないわね。ほら、この吹寄さんに話してみなさい?

それとも話せないような悩みなの?」

「そうだなー、なんて言ったらいいんだろうか。

分からないことが多すぎて何が分からないのかもわからなくなって決断に迷ってるって感じだな」

そう告げると、彼女は少し考えるそぶりを見せた後にフフッと笑って

「そんなの、分かるようになってから考えればいいことなのよ。

元から頭が弱いんだから分かるようになるまで時間が掛かるのは当然じゃない。

決断のときに向けて、何があってもいいように準備するの。間違えたって、リカバリも含めて決断なのよ」

「そうだな。吹寄だってよくヘンなマッサージ機とか買う決断しているけど、間違えてばっかだし。」

「あ、あれは買うときはほんとに良いものと思って買ったのよ!?でも届いたらなんか違うなーって・・・・・・・・」

「やっぱ間違えてるじゃん!」

そうこう言い合いをヒートアップさせていると上条の携帯が鳴った。

 

時は戻って路地裏。

固まった3人の中で上条は更に話し続ける。

「お前が運んでいるその霊装、本当は使徒十字と言うんじゃないか?

そんな名前で偽って、いったい何をしようとしているんだ?」

「ちょ、ちょっと待つんだカミやん。今、使徒十字といったか?」

「あぁ、そうだ。この名前になにか問題でもあるのか?」

「Croce di Pietroとはイタリア語で、こちらの言葉に直すとペテロの十字架という。

上条当麻、いったいいつ刺突杭剣(スタブソード)使徒十字(クローチェディピエトロ)だと気づいたんだ?」

「あら?もうバレちゃったのかしら。これは剣などではないわ。

使徒十字(クローチェディピエトロ)、この世に平穏と幸福をもたらす絶対の存在」

「幸福だと?その名の通りなら、この世界にもたらされるのはローマ正教にとって都合のいい未来だけだ!」

使徒十字(クローチェディピエトロ)という言葉に対し、三者三様の大きなリアクションを見せる。

いずれにせよ、オリアナ=トムソンとリドヴィア=ロレンツェッティの取引していた霊装は

使徒十字ということが確定した。

「おい土御門、使徒十字(クローチェディピエトロ)について詳しいことを教えてくれ!」

「カミやん、時間がないから簡潔に話すが、

使徒十字(クローチェディピエトロ)ってのは聖ペテロが死んだときにバチカンに立てられた十字架ですたい。

その影響はすさまじく、立てたところを中心としてローマ正教の支配が広がるほどぜよ」

「支配って・・・まさか学園都市を制圧する気なのか!?」

「支配といっても物理的な支配になるとは限らないぜ?

でも、いずれにしろ学園都市がローマ正教から大きな影響力を受けることになるのは確定だにゃー」

「お姉さんたちはね、この世界を一つにまとめたいの。

様々な主義主張の柵が入り乱れ混じっている今の世界から柵を取り去って、

ローマ正教という一本の柱を中心として一つの方向へと導く」

「そんなの、多数決の原理の名のもとに少数意見を踏みにじって台頭してるだけじゃねえか!!!」

「そうかもしれないわね。でも、そこには争いも憎しみも、踏みにじられた人の恨みも1塵の失敗さえもない。

素晴らしい世界だとは思わないかしら?」

「失敗、か。もしもよ、自分のやることなすことすべての正解を教えるものがいたとしたら、

そいつを選ぶことは正しいことなのか?」

「そうよ。そんな都合のいい存在がいたならば、私はこの世界のすべてを託すわ」

「そうか。でも、そいつの言っていることは本当に正しいことなのか?

結局そいつを選ぶか選ばないかは自分の判断なんだろうう?

この世界全てを託すような決断だって、結局は自分自身でしか決められないんだ。

人に任せたってなんにも解決しねぇ。結局毎回毎回自分で決めていくしかないんだよ!!!」

「でも!雑多である限り、自分が正しいと思ってしたことも失敗に終わるかもしれないじゃない!」

「だったら、失敗してもまたやり直せばいいだろ!

失敗した先を救い続ける覚悟もないのに、軽々しく世界を一つにするなんて言うな!」

そのトリガーをきっかけとして、オリアナ=トムソンが崩れ落ちた。

勝利を祝うように花火ようなの小さな音がしたがそれに気付くものはいなかった。

素早く上条が体を掴む。

オリアナを確保した後、一匹の猫が駆け寄ってきた。

上条は土御門に使徒十字について早急に調査するようお願いしている。

実は、これは半ば確定した事象なのだが、上条がそのことを知る由はない。

オリアナのことをステイルと土御門に任せ、ドラえもんと話すために人のいないところへと移動する。

「なぁ、お前は俺の敵か?味方か?」

「僕は、君を助けるために来た猫型ロボットだ。君を傷つけるつもりはさらさらないよ」

「そっか、なんだか少し安心した。安心したら喉渇いたな・・・・・」

「水でも飲むかい?"どこでも蛇口"~」

お腹から蛇口の取っ手だけを取り出し、近くにあった取っ手へ器用に取り付けた。

更にコップを取り出して蛇口をひねると水源にはつながっていないはずなのに水が流れ出てコップを満たす。

「お前はまったく、この世の理ってものに少しは従ったらどうなんだ?」

そんなことを言いながら渡されたコップの水を飲みほした。

「リドヴィアの居場所、分かるか?」

「もちろん探すことはできなくもないけど、今は情報を集める方が先じゃないかな?

ステイル君や土御門君はなぜ君があの霊装の正しい名前を知っていたのか気になっているはずだよ。

これ以上君が情報を渡したりしたら不審に思われてしまう」

「それもそうだな。あのメール、いったいなんて書いてあったっけ」

上条がメールを確認しようと携帯を開くと電池残量の警告が表示された。

「・・・やべっ、携帯の充電あと5パーしかないじゃん!

おかしいな、開会式の時は45パーあったし、5パーで1時間は持つはずなんだけどな・・・?

ドラえもん、持って帰って充電しといてくれないか?」

「オッケ~」

そう言い残してドラえもんは携帯をポケットにしまい、

上条の肩からぬるりとした動きで地面へ降りて上条の寮へと帰って行った。

「さてと、とにかく土御門たちと近くを探すしかないよな」

彼らと合流すると、シェリー=クロムウェルと電話していたところだった。

『あ゛ぁ゛?使徒十字(クローチェディピエトロ)って霊装について調べろだ?こっちはさっき上からそれについて調べるように言われたのよ!?

上はもっとちゃんと連絡しろや!!あとオルソラ!そこでマフィン食うんじゃないって言ってるでしょ!

あーっボロボロこぼれてる!食べながら話すな!!』

なんだか罵声が聞こえたりステイルのぼやきが聞こえたりしている気がするが上条は気にしないことにする。

 

午後3時ごろ

上条は土御門たちとともにいた。お昼ご飯を食べているときに

御坂家の襲撃にあったり、御坂美琴の母親である御坂美鈴が

御坂妹を普通に受け入れているのを見て美琴が驚愕したり、

一緒にご飯を食べていたドラえもんを問い詰めたりと

それはそれは混沌とした形相になっていたのはかふぇにいた者しか知らない。

「家族写真もなぜか御坂家と一緒になってるし。御坂と共有したらなぜか赤面するし一体どうなってんだかな」

ちなみに携帯電話はお昼ご飯の時に取り急ぎ30パー位充電した状態でドラえもんが持ってきてくれた。

「にゃー、カミやんも罪な男ぜよ。それじゃ、本題行くニャー。

オルソラから送られてきたメールを転送してくれ」

上条が携帯電話を操作すると2人へメールが転送された。

このメールはついさっき上条の携帯に送られてきたものだった。

(イギリス清教の誰かを通じて俺のメールアドレスを知ったんだろうが、土御門と間違えるとは・・・

今朝も来たし間違いすぎじゃないか?インデックスならこんなミスはしないんだろうけど。

てか今度はいったい何のメールなんだ?登録外からのメールの内容は表示しない設定らしいけど、

オルソラは電話帳に登録しとこうかな。)

そんなことを思いながらポチポチとすると3人でメールが共有される。

「どうだ?何か分かったか?」

「あまりよく分からないな。どうにも使徒十字(クローチェディピエトロ)は光に関係するようだが・・・」

「だったら、日陰は除外できるな。土御門は何か分かることないか?」

「光、ホロスコープ、都市支配という大規模な効果・・・・まさか、星座か?」

「星座?」

「君は知らないだろうが、魔術において星座というのは大きな意味を持つ。

単純な平面図形ではあるが、何分巨大なのでね」

「平面図形って・・・星座は星を頂点につないだものでもないし星の配置は立体的なはずなんだがな」

「カミやん、魔術における星座は物理における星座と違って、

天球上に見える星をつないだ図形その物なんぜよ。カミやんの言う心配は特に気にしなくていい」

「しかし、だ。

星の配置は使徒十字(クローチェディピエトロ)が最初に使われた時と同じでなければならないんじゃないか」

「その通りだ。使徒十字(クローチェディピエトロ)が最初に使われた時と今日の夜空で一致する星座は、

天頂付近及び西方向の一部の星座のみ。おそらく、その辺にトリックがあると思われる」

「そうか・・・じゃあ、少なくとも西側に開けているとこという条件はあるんだな。

それだけ分かったら、地図アプリで虱潰しに調べれば良さそうだ」

「日没まであと3時間半・・・・ギリギリ行けそうだ。カミやん、地図で条件に当てはまるところを出せ。

ただし、大覇星祭の侵入可能区間のみだ。他は警備員や風紀委員が警備しているから、可能性は低い。

敵は少なくとも学園都市の機能を奪う機出るとみていいだろう。

だから、調べたら中心に近く行政区画が集中する第1、第5、第7学区及び学園都市中心部から優先して捜索だ」

 

1時間半後

「結局どこにもリドヴィアはいないじゃないか!」

そもそも学園都市には大量の高層ビル群が存在しており、条件に当てはまる場所がもとから少ないのだ。

一番苦労したのは第23学区だったが、

土御門が謎のコネを利用して監視カメラの映像を横流ししてくれたので確認は早かった。

「まさか、 外 か?」

「まさかな。だがそうだとしたら、相当厄介だぞ。こちらから向こうの居場所を特定できない。

オリアナの通信術式から分析しようとしたんだが、

あの戦いが終わった後どこを探しても速記原典(ショートハンド)が出てこないんだ」

「(こうなったら、しかたがないか・・・)・・・・2人とも、ここは俺に任せてくれないか?」

「いったいどうする気だ?」

上条の意外な発言に魔術師たちは当惑する。

「ちょっくら俺が言って解決してくる。土御門がやったように、俺にも変なコネがあるんだよ」

 

30分後、電話して呼び出したところにドラえもんがやってきた。

「なぁ、やっぱり場所を特定するのを手伝ってくれないか?」

「まぁ、ここまで自分たちの力で頑張ったんだ。あとは僕に任せなよ」

そういってドラえもんはポケットからピンクのドアを取り出した。

「さぁ、リドヴィアの居場所へ!」

上条がドアを開くとそこは東西に広い廃飛行場のようなところだった。

が、ドアをくぐって見渡しても周りににリドヴィアはいない。

あちゃーという声が背後から聞こえ、ドラえもんが上条に下を見るように促す。

そこには白い修道服を着た女性が鼻血を流して倒れ込んでいたのだ。

どうやら突如目の前に出現したドアが開いて顔面を強打したらしい。

彼女の傍に大理石のようなものでできた1メートルはあろうかという十字架があったので

とりあえず右手で触ってみるとパキンという効果音とともに真っ二つになってしまった。

どうしようもないので十字架をドラえもんに運んでもらい、自分はリドヴィアを負ぶう。

もう一度"どこでもドア"で学園都市までもどってステイルたちの所まで連れて行く途中、

リドヴィアが目を覚ました。

「ここは・・・・・・?――んっ!離れろ!異教の猿がっ!」

//本人はイタリア語で話していますが"ほんやくコンニャク"のおかげで上条には普通に聞こえています。

「まったく、顔の手当てしてやったのはこっちなんだぞ?」

「手当?はっ、使徒十字(クローチェディピエトロ)使徒十字(クローチェディピエトロ)は!?」

「壊したよ。俺が右手で触ったらな、真っ二つに折れてこの通りだ」

折れた使徒十字(クローチェディピエトロ)をドラえもんが無言で差し出すと、

リドヴィアは意気消沈といった様子で上条の背中にうなだれる。

「これでは、これでは、救済ができない・・・・・救済、救済――――――」

「なぁ、救済っていったい誰を救済するつもりだったんだ?

そもそもなんでこんなことを始めようと思ったんだ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・私がバチカンにいたとき、とある日本人男性に出会いました。

その時、悩みの相談を受けたのです。その悩みは、自分の息子が不運すぎて心配であるというものでした。

もともと私は学園都市を攻め落とすつもりでいましたので。

これを受けて、戦略を変えました。攻城から、救済へと。

使徒十字(クローチェディピエトロ)が破壊された今、救済の手段がなくなってしまいましたので。お土産が効いているとよいのですが」

「なぁ、その日本人て、もしかしてこういうやつか?」

そういうと、上条は自分の携帯を左手で操作し、先ほど撮った写真を画面に表示する。

「そう、その方です――まさか!?」

写真に写っている人物を見てリドヴィアは驚愕する。

そこに写っていたのは上条当麻と――その父親、上条刀夜を含む家族だった。

「俺は今、すっげー不運だけど、それでも同じくらい幸せだ。

人の幸不幸なんて、勝手に決めつけていいいようなもんじゃねぇ。

人から又聞きした情報からならなおさらだ」

ロリドヴィアは言葉に詰まり、ただ連れて行かれるのみだった。

 

午後5時。

上条はインデックスに噛みつかれていた。

今朝御坂に首を引かれて頭ではなく頬に噛みついてしまったショックから立ち直ったらしく、

もはやお決まりの光景となっている。

その後リドヴィアとオリアナをステイルたちに任せ、ぎりぎり今日の最終種目に間に合いそうだったのだが・・・。

「お腹すいたんだよとうま!いったいどこに行っていたのかな!?スフィンクスもちょくちょく抜け出していたしインデックスはとっても寂しかったんだよ!競技に参加してないってこもえからとうまのこときかれるしみことからとうまとの関係について言及されるしこうなったらとうまの頭をかみ砕いて今日のおやつにしてやるもんねーっだ!!」

「うわぁー、痛い、痛いぞ!噛みつきから咀嚼にまで急速進化した攻撃を喰らわせるのはやめてくれほんとごめんインデックスさん~!」

上条の叫びがひとしきり響き渡ったあと、

歯形の付いた上条は父さんと母さんに電話する必要があることを思いだした。

あ、父さんたちに電話しなきゃ!・・・・・・・・電話がねぇ~!」

「まったく仕方がないなぁ・・・・"取り寄せバッグ"~」

スフィンクスがお腹から女物のカバンを取り出し、上条に携帯を思い浮かべつつ手を入れるように要求する。

が、手を突っ込んで触れる感触は携帯電話の固い感触ではなくフニフニとした感触で、

なぜか突然例の音がしたかと思うと黒こげの壊れた携帯電話がカバンから飛び出してきた。

なぜかその後御坂と御坂妹からひどく怒られることになったのだが、一体どういうことか上条は知ることもない。

「まぁまぁ当麻くん、君のおかげで特別なものも手に入ったしよかったよかった」

「何が手に入ったんだ?」

「ふっふっふ、大覇星祭期間限定選手応援どら焼きだよ!秋の味覚の芋餡が入ってるんだ~!」

紙袋をひけらかすドラえもんに

お前は俺を走りまわしといてそんなことしてたのか―!という上条の心の叫びが伝わることはない。




今回のひみつ道具はこの道通りゃんせチャートでした。
えらい長くなりましたね。誤字・時系列のミスがあったら教えてください。
ホントは年末にはもう前の方が書けていて、年明けに投稿するつもりだったのですが
家族の用事で書くことができず申し訳ありませんでした。
あと速記原典はいろいろ遊べていいですね。
とりあえずオリジナルの魔術を一つ。あと真空刃について考えてみました。

今回のひみつ道具
"この道通りゃんせチャート"
部屋の壁一面ほどの巨大な地図。
範囲は指定でき、黒い"障害チップ"をチップセットすると逃亡者は白いチップで、
追っ手や邪魔者は黒いチップで地図上の位置をバレバレにされてしまう。
"チップストッパー"
水切りのような形をした道具。
"この道通りゃんせチャート"上の"障害チップ"を引き留めることができ、
チップが引き留められると対応する人も追跡を妨害される。
妨害のされ方はドラえもんいわく「荒っぽい」。
"切り替え式タイムスコープ"
未来を見ることができる望遠鏡のようなひみつ道具。
上のレバーを切り替えることによって
自分が行動を変えたときの結果も知ることができる。
その通りに行動すればその未来にたどり着く。
"タイムマシン"
絨毯のような力場発生シートに机くらいの操縦装置、
赤い椅子と各種レバーにエネルギータンクと
アンテナのような部品などで構成されているタイムマシン。
時間を行き来するための時空間航行機能と空間を移動するための空間移動機能がある。
"もしもボックス"
電話ボックスの形をしたおなじみの並行世界移動装置。
受話器を取ると上のメーターが動き始め、
メーターが反転するまでにいきたい世界の内容を言うと
ジリリン、ジリリンという音ともに望んだ世界へ移動することができる。
必要な世界が存在しない場合空いている世界に世界を作る機能もある。
元居た世界に戻りたいときは同じ手順で元に戻れと言えばよい。
"ほんやくコンニャク"
一口齧ればあらゆる言語を理解できるようになるおなじみのコンニャク。
自分が話す言葉は相手に応じてその言語に自動で翻訳されて聞こえ、
書いた文字は読み手の言語で書かれているように見えるようになる。
"どこでも蛇口"
壁などどこでも取り付けて蛇口をひねると水がいくらでも出てくる。
"取り寄せバッグ"
必要なものを思い浮かべながら手を突っ込むと
空間を歪めてカバンの中がその物の近くにつながるおなじみのカバン。


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