黒き幻想たる少年、幻想郷に立つ (KuroSaki)
しおりを挟む

黒き少年の日常と妖怪たらしと呼ばれる所以1

尚、この幻想は私の妄想である。


 遠くの空へと視線を移す。現代の汚れた星空ではなく、燦々と輝く星々が夜を照らす綺麗な空がそこにはあった。その夜景を肴に手に持つグラスの中身を口に含む。甘酸っぱいオレンジの味。ああ、俺の大好きなオレンジジュースの味だ。幻想的な夜景と体に馴染んだ味が現実を忘れさせてくれる。

 

 そう――幻想郷に来てから色々とあった。回想する。そう、本当にいろいろだ。

 

 始まりは落下による気絶だった……俺はいまだに根に持っているからな覚えておけよクソ上司。そして、たまたま通りかかった宵闇の少女に連れられて、なし崩し的に人里の傭兵のようなものとして雇われた。そこから始まるは怒涛の人生……であったようななかったような。どんなだったけか。

 

 思い出す。

 

 霧が出た時には、片腕が爆散した。春が来なかったときには、死そのものが襲い掛かってきた――もう思い出したくねえわ。もういいよバナージ。俺めっちゃ苦労してるやん。もう思い出さなくていいよ。

 

 ほろりと涙を流したい気分になってくる。心の中では静かに泣いておこう。ほろりほろりほろほろり。

 

 さて、そんな感じに死線を潜り抜けてきた――正確に言うと笑顔で踏み砕いてきた――わけだが、どうしても解せぬことがある……それは今の現状だ。

 

 正直、生活に関しては何にも不満はない。娯楽が少ないと言えば少ないが、幻想郷の住人たちを眺めているとそれだけで面白い。面白いを通り越して、お願いもうやめてとなることもままあるが。

 

 じゃあ何に対して不満があるかって?

 

 だから、今の現状だ。

 

 場所は博麗神社、内容は宴会。そこに俺はいた。どうして宴会が開かれたかは覚えていないが、どうせろくでもない理由だろう。正直俺は来る気などなかったのだが、知り合いに来いと言われ渋々参加している。毎回そんな感じだ。俺自身は行く気がないが周りに引っ張ってこられる。宴会の中心部はどんちゃん騒ぎが起きていて、飲み比べをしていたり、喧嘩が起きていたりと誠に騒がしい。俺はというとそんな喧騒から離れて端っこの方にぽつりと一人でいた。来いとは言われて来た俺は積極的に参加する気もないため、端っこでひっそりとどんちゃん騒ぎを肴に飲んでいた。正直あの女だらけの中に割って入る気概はない。小心者なのだ。ちなみに飲物は持参してきたオレンジジュースだ。あんまり酒にも強くないので俺にはこれくらいがちょうどいい。つまみは最初に顔を見せた際に、適当に周りに挨拶しながらこっそりと取ってきたピーナッツである。

 

 ……なんか俺の飲みしょぼくね?

 

 そんな悲しいことを考えていると、軽い衝撃が俺の左側から伝わってきた。どうやら誰かが俺の隣に座り……そして、俺の体に抱き着いてきたようだった。不意のことに驚くが、意外と日常的にあることなのでそこまで驚くことはしない。

 

「ここにいたのかハクト」

 

 感情を感じさせない、しかし少女の鈴の音のような声が聞こえてくる。横を向いてみると、そこに居るのは長いピンク色の髪をした少女がいた。青いチェック柄のワイシャツを着て、ところどころ切込みのあるボリュームたっぷりのスカートを履いている。こいつの名前は秦こころ。めんれーきとかいうよくわからない妖怪である。

 

「おい、こころ。何しに来た」

「なんだ、何かしないと来ちゃだめなのか?」

 

 無表情なこころが上目遣いで俺に疑問を投げかけてくる。どうしてこころにいきなり抱き着かれるような状況になっているのだろうか。俺には正直よくわからない。別段何かした覚えはないが、すごく――そう、すごく懐かれてしまったのだ。

 

「別にだめじゃねえけどさあ……」

「じゃあいいな」

 

 と言って、より一層強く抱き着いてくる。拒絶する理由もないのでされるがままにされてやろう。

 

「……はぁ」

 

 ため息をつきながらも手に持つオレンジジュースを口に含む。先ほど飲んだ時より酸っぱく感じた。

 

「おい、ハクト」

 

 すると、こころが俺に呼び掛けてくる。

 

「んだよ」

「左手、空いてるな」

「あぁ?だからどうした」

「頭撫でろ」

「……はぁ?」

「頭、撫でろ」

「二回言わねえでもわかってるわ!」

 

 全く、この少女は一体何なんだろうか。いきなり抱き着いてきたと思えば頭を撫でることを所望してくる。ここで拒絶するのも簡単だ。したこともある。が、するとあまりにも悲しそうな顔をするのだ。こころの表情筋はピクリともしないが。それをフォローするかのように姥の面がこころの顔を覆い隠す。そして「しくしく、とても悲しい」と棒読みでこちらを見つめてくるのだ。すると周りが、おい黒崎がまた女の子泣かせてるぞとざわつきだすのである。

 

 負けた。風評のために俺は恥ずかしさを押し殺してこころの頭を撫でた。ていうかまたって何だよまたって。俺は女の子泣かせたことなんてねえぞ。風評被害甚だしい。

 

 ……既にそういう人物で定着している風評というオチである。

 

 それ以来俺は抵抗することもなくこころの頭を撫で続けている。そう、今回も例外ではない。

 

「……ん」

 

 こころの頭を撫でてやると、さらさらとした感触と共に良い匂いが香る。するとこころはそのまま目を瞑り、されるがままになった。どことなく満足気だ。無表情だけど。

 

 暫くこころの頭を撫で続ける。ときたまつまみを取るために撫でるのをやめて左手を動かすが、不服なのかこころの感情を感じさせない目がじっと俺を見つめてくる。何考えてるのかわからないその目が少し怖いが、同時に綺麗な眼だとも思った。その目が、早く己の責務を果たせと無言で訴えかけてくる。心の中で「へいへいわかりましたよオヒメサマ」と言いながら、再びこころを撫でる作業に戻る。ついでに口に放り込んだつまみを咀嚼する。

 

 もぐもぐ、ピーナッツは美味い。

 

 ごくごく、オレンジジュースも美味い。

 

 あら、調子に乗って飲み過ぎたせいかオレンジジュースがなくなってしまった。新しい飲み物を取りに行こうにも、どうせあるのは酒ばかりだ。どうしようかと悩んでいると、こころのではない、別の少女の声が右側から聞こえてくる。

 

「お困りですか。ハクトさん」

 

 声のした方へ首を動かすと、そこにいたのはまたもやピンクの髪の少女だった。こころと違うのは、ショートヘアーなところだ。それにヘアバンドもしてハート形のアクセントも付いている。また服も色合いこそ似ている物の全く別の服を着ている。そして極めつけなのは、彼女に張り付くようにしている目の存在だ。赤い瞼を半開きにしたその目から管が伸び、彼女の色々な箇所と繋がっている。彼女の名前は古明地さとり。確か、覚り妖怪というものだった筈だ。

 

 お困りかと声を掛けられて少し困惑する。確かに俺はオレンジジュースがなくなって困っていたが。まるで心を読んだかのようである。というか、このさとりという少女、心が読める。『心が読める程度の能力』というものを持っているらしく、俺の考えていることなぞ筒抜けなのだ。心が読めるという特性上さとりとの会話はまるでさとりが一人で話しかけているみたいになるが、楽なので俺はあまり声を発しなくなる。

 

「オレンジジュースがなくなってお困りの様ですね。では、こちらのお酒はどうですか」

 

 と言うと、手に持った酒瓶を見せてくる。

 

 酒かあ。

 

 うーん酒かあ。

 

 酔うのは楽しいが二日酔いが怖いんだよなあ。

 

「二日酔いが怖いと……そう言うと思って、こちらのお酒は度数が低めの物を持ってきましたよ」

 

 なんと、この酒豪が多い宴会に度数が低い物があったなんて驚きである。弱めなら飲んでもいいかと思った。

 

「乗り気の様ですね。じゃあ隣失礼します」

 

 すると、さとりは俺の右隣へ座る……座るが、なんか密着している。肩と肩が触れ合っているのだ。近くないですかね。

 

「そうですか?そんなことはないと思いますが……」

 

 否定しつつさとりは目を逸らす。どことなく顔が赤いような気がするが気のせいだろうか。

 

「も、もう何杯か飲んでいるので酔ってるからです」

 

 そーなのかー。おっと、誰かさんの口癖が移ってしまった。

 

 さとりに酒を注いでもらい、飲んでみる。確かに、お酒独特のアルコールっぽさが薄く飲みやすい。もう一口飲んでみる。うむ、酒の美味さはわからないがなんかいいぞ。

 

「満足して頂けて嬉しいです」

 

 そういうとさとりは微笑んだ。

 

「ありがとうさとり」

「いえいえ」

 

 お礼は口に出して言う。なんかこう、そういうのは大切だと漠然ながら思うのだ。

 

「おいハクト、手が止まってるぞ」

 

 どうやらさとりとのやり取りの間にこころの頭を撫でる手が止まっていたらしく、不満を訴えてくる。

 

「へいへいすみませんねオヒメサマ」

 

 止まっていた手を再び動かすと、また満足気にこころは目を閉じた。全く困った我儘姫だ。

 

「慕われているのですね」

 

 とさとりが優しげな表情でこころを見る。

 

 慕われている……?俺はそんな気はしない。野良の猫に懐かれているようなそんな感じがする。

 

「いいえ、慕われているのですよ」

「ふぅん」

 

 こころを見る。先ほどと同じ満足気な表情だ。無表情だけど。その表情から慕われているかなんてわからない。けれど、心を読めるさとりが言うのだから信じてもいいのだろう。

 

「そういう、ところですよ」

「……あん?」

「いいえ、なんでもないです」

 

 さとりが何か言っていたが聞こえなかった。まあ、いいだろう。

 

 暫くちびちびと酒を飲み続けると、体がぽかぽかとしてきた。思考もどことなくふんわりしている。どうやら酔ってきたようだ。隣にいるさとりも飲み続け、頬が赤い。撫でているこころは時たま身じろぎしては酒を飲んだりつまみを食べたりしている。それ以外はじっと目を閉じて撫でられ続けていた。

 

 静かな時間だった。こういう時間が何となく続けばいいなあと思う。

 

「……あの」

 

 さとりが声をかけてきた。

 

「私も撫でてもらっていいですか?」

 

 と、普段のさとりならば言いそうにないことを言った。酔ってるのかなと思う。まあ酔っているのだろう。俺も酔っている。グラスを置いた俺は、言われるがままにさとりの頭を撫でた。

 

「んっ」

 

 こころとはまた違う髪触りだ。漂ってくる匂いも違う。ひとしきりさとりの頭を撫でた後、俺は手を放す。さとりは寂しそうな顔を一瞬見せるが、すぐに顔を紅潮させ俯く。なんか俺も恥ずかしくなってきた。グラスを手に取り酒を煽る。

 

 現状への不満はいつの間にかなくなっていた。静かな酒とは良い文明だ。騒がしい酒も良いのかもしれないが、今の俺は静かなほうが良い。

 

 酒も案外良い物だな。

 

 俺の年には少し早いかもしれないが、まあ外の世界じゃないし。ノーカウントだ。

 

 気が付けば宴会もお開きの時間となっていた。まだ飲んでる輩もいるが、大体が身支度を始め、帰っていく。それじゃあ俺も帰ろうか。こころを撫でるのをやめ、帰るぞと声をかけるが反応がない。「すぅ、すぅ」と規則的な呼吸が聞こえてくるが、まさかこいつ。

 

「眠っていますね」

 

 さとりも気づいたようだった。どうやらこころはいつの間にか眠ってしまったようだ。呆れてため息をつくが、起こすのも忍びない。とりあえず俺に抱き着いている手をほどき、後片付けをする。片づけをせずに散らかしたままにすると鬼巫女が飛んできてぶっとばされるのだ。実際ぶっ飛ばされる奴が毎回いる。そうならないためにも立つ鳥跡を濁さず、綺麗に片づけていく。

 

「ゲート・オブ・バビロン」

 

 といってもひらいたゲート・オブ・バビロンに放り込むだけだが。選別するのは後回し。とりあえず雑多に投げ込む。……何でその宝具が使えるのかって?細かいことは気にしないのが長生きする秘訣だゾ。どうせ集めた武器防具なんてないから、どこでも出せるどこぞの猫型ロボットの使っているような四次元ポケットとしてしか利用できない。

 

「便利ですねそれ」

「便利便利。四次元ポケットとして使うとすさまじく便利」

「よじげんぽけっとが何かは知りませんが、本当に便利そうです」

 

 羨ましそうにさとりが見るが、分けてはやれない。俺の能力の副産物だからな。諦めたまえ。

 

「残念です……」

 

 片づけ終わると、こころの処分に悩む。このまま放っておいてもいいが……うーん、仕方がない。連れて帰ろう。眠っているこころをどうにかして背負う。まあそう重くないので大丈夫だろう。

 

「やっぱり、優しいんですね」

「やっぱり?」

「いいえ、何でもありません」

 

 さとりはフフッと笑う。

 

「ハクトさん」

 

 帰る準備が終わった俺にさとりが声をかけてきた。

 

「なんだ?」

「良かったらまた地霊殿に遊びに来ませんか?」

 

 と提案してきた。地霊殿か。あんまり行ったことないし遊びに行くのもありか。

 

「いいぜ。休みの日にでも遊びに行くわ」

「ありがとうございます」

 

 さとりは嬉しそうに微笑んだ。

 

「それじゃあ私はこれで帰りますね」

「おう、じゃあな。気ィ付けて」

「ハクトさんこそ、人間なんですから気を付けてくださいね」

 

 手を振ってさとりはこの場を後にする。さて、と俺も帰りますかね。と博麗神社に背を向ける。俺の家がある人里まで遠いが、まあ何とかなるだろう。夜だから能力への補正も入っている。襲われてもどうにか対処はできるはずだ。

 

 そんなことを考えていると、ふと視界に誰かが映った。

 




こころちゃんかわいい。


王の財宝(ゲートオブバビロン)
 皆さんご存知英雄王の宝具。ハクト君はそれを造作もなく発現させる。なおその性質上、中身は空っぽ……ではないが、本来納められている財は欠片も存在しない。精々ハクト君の好きなオレンジジュースくらい。今作では便利な四次元ポケットとして活躍する――筈だ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

黒き少年の日常と妖怪たらしと呼ばれる所以2

「ハクト。帰りは私がお供します」

 

 それは銀のショートヘアーに袖の白い緑のワンピースを着て、黒いリボンを頭につけ、腰に二刀を携えた少女だった。彼女の側には幽霊のような白玉が浮遊しており、それが人外であるという主張をしている。彼女の名前は魂魄妖夢。半人半霊の少女だ。

 

「あん?どういうことだ?」

「幽々子様が、『ハクトは目を離すとぽっくり逝っちゃいそうだから、人里まで連れて行ってあげなさい』と仰ったので」

「なに?俺ってそんなすぐ死にそうなイメージなの?」

「…………そんなことはないと思います」

「その微妙な間はなんだお前……」

「そんなことはないと思います」

「言い直しても意味ねえからな!」

 

 顔をしかめる。一体俺へのイメージはどうなっているのか問い質したいところだ。

 

「ったく、付いてくる必要なんてねえのによ」

「でも、ハクトは不意打ちに弱いじゃないですか」

「…………まあ弱いけど」

 

 俺は滅茶苦茶という言葉が付くほど不意打ちに弱い。普段は大妖怪とも渡り合える(能力によるゴリ押しだが)くらいの力があるのだが、不意をつかれると簡単に一撃必殺される。悪意とかそういうのには敏感なため早々不意をつかれることはないが、逆に言うとそういうものの絡まない事故には非常に弱い。流れ弾とかは気づかずにぽっくり逝くと思う。

 

「下級妖怪の一撃でも不意を突かれたら致命傷になるんですから、本当に気を付けてくださいね」

「一日一回までならセーフですぅ」

「……二回目あったら死ぬってことですよね」

「死にますん」

「そんなみょんな言葉遣いしないでください」

「お前に言われたくねえ!?」

「ほら、馬鹿なこと言ってないで早く行きますよ」

「しかもスルーかよ!」

 

 この少女やけにスルースキルが高い気がする。

 

 それはともかく、漸くの事で俺たちは帰路に着く。暗い夜道で明かりも月明かり程度だが、俺は能力の特性上闇夜でも見通すことが出来る。妖夢もいることだから、迷うことなく人里まで行けるだろう。問題は速度だ。俺は妖夢と違って空を飛ぶことが出来ない。幻想郷の住人を見るに人外は空を飛べるのがデフォルトなのだろうが、身も心も人間な俺は地を歩むしかできないのである。空を飛べたら地上の障害物を無視して一直線に帰れるのだが、無い物ねだりをしてもしょうがない。抱えられて飛ぶという選択肢もあるにはあるが、今回はこころを背負っているので不可能。ついでに言うと、抱えられて飛ぶのはとても情けない気持ちになるので極力避けたい。他にも手段はあるが、戦闘用なので考えないものとする。

 

 結局、歩くしかないのだ。つまりはそれなりの時間がかかる。まあ会話相手もいることだし飽きることはないだろう。

 

「そういえば……」

 

 妖夢が思い出したように言う。

 

「今日の宴会はどうでしたか?」

「どうでしたかって言われてもな」

 

 俺は端っこでちびちび飲んでいただけなので、どうと言われても困るものがある。満足したと言えば満足したわけだが。ある意味――。

 

「いつも通りだな」

 

 俺はありきたりな答えで返事をする。

 

「いつも通りって、ハクトはいつも端の方で飲んでいるじゃないですか。しかも気配を断って見つからないようにこっそり」

「ぎくり」

「最初の方に挨拶だけして、すぐに消えて」

「夜こそは我の真骨頂なので」

「そうやってすぐ誤魔化そうとする」

「うっ」

「フランドールも探していましたよ」

「お、俺の隠形を破れぬのが悪い」

「あなたの隠形を破れる人なんて早々いませんよ」

 

 俺の隠形は夜に限れば伝説の蛇も真っ青の性能を誇る。まるで世界に溶け込むかの如く。しかしどうして、こころとさとりに破られたのだろうか。全くもって謎である。

 

「……今日たまたまですけど、私は破れましたよ」

「マジ!?」

 

 嘘だあ!絶対嘘だあ!と思うものの、隠形が破れた心当たりがなくもない。さとりが来てから、俺は酒を飲んだのである。酔っぱらったせいで隠形が不安定になったのだろう。その隙を妖夢は逃さなかったわけだ。

 

「……どうしたらこころとさとりの頭を同時に撫でるような状況になるんですか?」

「よりにもよってそこ見てたのかよ」

 

 よりにもよってそこである。俺が恥ずかしげもなく(さとりの頭を撫でるときは恥ずかしかったが)こころやさとりの頭を撫でれたのは隠形によって俺の周囲が非常に見つかり辛い空間になっていたからである。そうでなければ人の、しかも女性の頭を撫でるなんて行為できるわけがない(こころを撫でるのは慣れたが)。それを、どうやら妖夢に目撃されたようである。

 

 妖夢がじっとりとした目でこちらを見てくる。俺はそっぽを向くが、暫くその目で見つめてくるので耐えかねて反論する。

 

「なんだよ。俺が女の子の頭撫でてたらわりぃのかよ」

「……別に悪くはないですけど」

「それに、俺が撫でたくて撫でたわけじゃねえし?頼まれたから撫でただけだし?」

「…………」

「よって俺はノットギルティ。きゅーいーでぃー」

「きゅーいーでぃー?」

「証明終了って意味」

「なるほど」

「なるほどってお前」

 

 本当に意味わかってんのか、と思いつつ歩みを進める。すると妖夢が突如歩みを止めた。怪訝に思った俺も歩みを止め妖夢の方へと振り向く。妖夢は俯いたままワンピースの裾を握っていた。

 

「あん?どうした?」

「……じゃあ」

「あ?」

「……じゃあ、私が頼んでも撫でてくれるんですか?」

 

 その声はあまりにも小さく、よく聞こえなかった。

 

「…………あ?今なんて言った?俺の耳が遠かったわもう一度言ってくれ」

「わ、私が頼んでも撫でてくれるんですか!?」

 

 今度ははっきりと聞こえたが、唐突過ぎて頭が言葉を処理しきれない。

 

「…………」

「…………」

 

 暫し沈黙。そして漸く言葉の意味を理解した俺は、解った上で再度訊ねる。

 

「わりぃもう一度――」

「さ、三度目はありません!」

 

 遮られた。

 

「……マジで言ってんの?」

「ま、まじです」

 

 妖夢は顔を上げる。目は潤み、頬は紅潮している。泣きだしそうに見えるが、そうではない。恥ずかしいのだろう。

 

 ……いや俺の方が恥ずかしいわ。

 

「…………」

「…………」

 

 しかし、乙女の決意を無駄にするのも忍びない。どうせ誰もいないしいいだろう。どいつもこいつも簡単に頭を差し出しすぎだろと思いつつ、こころをおぶっている右手をほどき、妖夢の頭へとのせる。瞬間、びくりと妖夢が反応するが、それは無視して撫で始める。こころやさとりとも違う髪触り、ふわふわとした感触が手に伝わる。どれくらい撫でていただろうか、流石にもういいだろうと手を放す。

 

 妖夢の顔を見るといつの間にか目を瞑っていたらしい。どことなく満足気な表情だ。

 

 俺は転生した記憶なんてないが、もしかしたら転生してて、その特典がナデポな可能性が如実に出てきた。いやでもあれって頭撫でたら惚れるだから違う?そんなことを考えるくらいには、俺の頭は混乱していた。

 

「満足したか?」

「……はい」

 

 妖夢はより一層恥ずかしそうな素振りを見せ、もじもじとつぶやく。

 

「な、なんかもう疲れたし早く人里行こうぜ」

「は、はい」

 

 精神的に疲れた。なんとなく気まずいので人里への道を急ぐ。人里までそこそこあったはずだが、その間俺たちの間に会話はなく無言だった。ちらりと見た妖夢の頬はずうっと赤かったような気がする。

 

 なんやかんやで人里の入り口に到着すると、俺は意を決して妖夢に声をかけた。

 

「ここまで着いてきてくれてありがとうな」

「いえ、幽々子様の命でもありましたし」

「……でも?」

「な、なんでもないです!それじゃあおやすみなさい!さようなら!」

「おう、気ィ付けてな」

 

 逃げるようにして妖夢は飛び立っていった。嗚呼、空を飛べるっていいな。俺もタケコプターくらい作ろうかなと思いつつ、あとすこしとなった自宅への道を歩く。人里であるためか、少しばかり明かりが灯っていた。

 

 自宅へはすぐに着いた。自宅へと着いた俺は背負ってるこころをとりあえず寝室に転がし、布団を二人分敷く。敷き終わった布団にこころを転がすと、俺も空いてる方の布団に潜り込んだ。本当は風呂にでも入りたいところだったが、面倒くさいので起きてからでいいやと後回しにする。

 

 眠りに入る。

 

「…………ふわあ」

 

 普段割と早めに寝ているせいかとても眠い。が、なんとなーく今日あったことを思い返す。……どうしたら三人の女の子の頭撫でる状況になるんだろうか?

 

「……わからねえ」

 

 幻想郷にきてわからないことだらけだ。ていうか、どうしてあんなに好感度が高いんだろう。俺なんかしたか?した覚えは正直ないんだが……。思い返してみても、高笑いしつつ戦闘してた記憶しかない。

 

 戦闘狂かよ。

 

 戦闘狂です。

 

 肯定。

 

「ハクト」

 

 そこで不意に声がかかる。こころの声だ。横を向いてみると寝たままの状態で首だけをこちらに向けて俺のことを見つめていた。無表情だからなんだか怖い。

 

「なんだ?起きちまったのか」

「起きてしまった」

 

 どうやら、不意の衝撃かこころは目が醒めてしまったらしい。

 

「寝ろ寝ろ」

「このままでは寝れそうにない」

「知るか」

 

 俺はそう言うと、こころがいる方とは逆に寝返りをうつ。こんなやつのことは無視してじゃあ寝るかと目を瞑る。すると、温かい感触が背中に伝わってきた。

 

「!?」

「これなら寝れそうだ」

 

 なんとこころが俺の背中に抱き着いてきたのである。

 

「なにしてやがる」

「ん?何って抱き着いているだけだ」

「何で抱き着いてんのか聞いてんだよ」

「これなら寝れると思ったからだ」

「意味わかんねえぞ」

「なんだ?恥ずかしいのか?宴会の時だってくっ付いてたのに」

「は、恥ずかしいとかそういう問題じゃねえ!てめえは拒否るとぐずぐずめんどくせえから仕方なくそのままにしてたんだよ!つーか自分の布団で寝やがれ!んでもっててめえも少しは恥ずかしがれや!」

「恥ずかしいということを認めているぞ」

「うるせえこのっ!離しやがれこのっ!」

 

 どうにかこころを引きはがそうとする。しかし、俺よりも小さい体に関わらずびくともしない。小さい以前に妖怪であるため、人間である俺よりも力が強いのだ。暫く四苦八苦したが諦め、ため息をつき目を瞑る。

 

 こころ俺に懐きすぎじゃない?

 

 好感度高すぎじゃない?

 

 なにがどうしてこうなった?

 

 いろいろな疑問が湧き出てくるが、眠気には逆らえない。心地よい人肌の温度を感じているのもあるせいか、すっと、俺は眠りに落ちていった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

黒き少年の日常と妖怪たらしと呼ばれる所以3

 そして朝、お日様が昇り我が家の窓から日差しが差し込む。良い感じに酒が入っていたためかぐっすりと眠ることが出来、心地よい目覚めだった。こころはまだ俺の体に引っ付いており眠っているようだ。少しは離してくれませんかね?

 

 そこでふと、体の上に重みがあることに気が付く。

 

 見てみると金髪の少女が乗っていた。

 

 いやなんでやねん。

 

 イラっとしつつも、体を捻り、その少女を横に転がす。そして眠っているために弱まっているこころの拘束もどうにか引きはがし、横に転がした少女を見る。ショートヘアーの金髪に赤いお札をリボンの様に巻き付け、黒いワンピースを着ている。名前はルーミア、宵闇の人食い妖怪である。何で人食い妖怪が人里にある俺の家に居るのか不思議で堪らないが、一応人里の中に居る分には害はない。ないはずである。

 

 俺が転がした衝撃で起きたのかルーミアが目を開ける。

 

「うぅ……おはよう」

 

 ルーミアが俺の上で寝ているのは、何も今回が初めてのことではない。事あるごとに気が付けば俺の上で眠っているのだ。一体何故俺の上で寝るのか訊ねたこともあるが、「良い匂い」がするという答えしか返ってこない。その程度のことで上に乗るなと何度も言っているが、聞いてくれたためしがない。

 

「お前さあ、俺の上で寝るのやめろと何度も言ったよな?」

「そうだっけ」

「そうだっけじゃねえ。お前用の布団買ってやったのに何で自分で敷かねえんだ」

「……面倒くさい。ふわあ」

「余程俺の怒りを買いたいと見える」

「もうちょっと寝るのだ。ご飯できたら起こして」

「俺はお前のおかあさんか!」

 

 ルーミアはまだ寝足りないとばかりにもぞもぞと俺の布団に潜っていく。こころがいることに気づいているのかいないのか、まるで寄り添うように向かい合った。二人の美少女の寝顔が見れて俺は満足……。

 

 しねえよ!

 

 どうして俺がお前のご飯作んないといけないんだよ!

 

 朝っぱらから何で俺はこんな叫びたい気持ちに駆られるんだ!

 

 釈然としない気持ちをリセットするため、とりあえずさくっと朝風呂を済ませる。そして何だかんだで三人分の朝ご飯を作ることにした。現代と違って火を起こす所からしないといけないが、慣れれば何のその。実は料理できない系男子代表だった俺だが、仕方なくやっているうちに家事には慣れてしまった。まあ料理の腕は普通と言ったところか。本職には到底かなわない。

 

 グダグダ語っているうちにできた朝ご飯を食卓に並べ、寝室で眠っている少女共を起こしに行く。

 

「おら起きろ!飯だ!」

「……うーんあと五分」

「むにゃむにゃおにくおいしい」

「起きんしゃい!」

「えー」

「えー」

「仲良しかお前ら!」

「ルーミアは私の妹みたいなものだ」

「こころは私の妹みたいなものなのだ―」

「どっちが姉か決めとけや!」

 

 イラっとした俺は、二人の頭を軽く叩く。流石に眠ることを諦めたのか、二人は渋々布団から出てきた。寝起きなためぽわぽわしている二人をどうにか食卓に着かせやっとのことで食事を始める。

 

「おかーさん醤油取って」

「おかーさんじゃねえよ。てめえわざとやってんな」

 

 二度寝する際の突っ込みを覚えていたのか、ルーミアはそんな戯言を言う。それを流しつつ醤油を手渡してやる。

 

「おかーさん今日のお昼ご飯はなに?」

「ルーミアの真似すんな。ていうか気が早えよ。つーかお前昼飯も食ってくつもりか」

「うん」

「うんじゃねえ」

「はい」

「はいでもねえ」

「お夕飯も食べてく」

「お前はうちの子かよ!」

「うん」

「うんじゃねえつってんだろ!」

「あ、私も食べるのだー」

「お前はもううちの子みたいなもんだろ……」

 

 二人の少女の傍若無人な振る舞いに悩まされつつもどうにか朝食を終えた俺は、台所へと食器を片づけ洗う。さりげなく水道っぽい物が引いてあるが、特別仕様ということでここはひとつ。それも終えたので、さてじゃあどうしようかと思うと、服の左袖を引っ張る感触に気が付く。振り向くとこころが俺の袖を引っ張っていた。

 

「どうした?」

「手伝うことあるか?」

「遅かったな、もうねえよ。あらかた終わっちまった」

「そうか」

「まあその気持ちだけ貰っとく」

 

 俺はそう言うと、ぽんぽんと右手でこころの頭を撫でてやる。ルーミアとは違い手伝おうとすること気持ちに俺は感動を覚える。するとこころは驚いたように目を見開いた。微かに――本当に微かにだが、確かに見開いたのだ。その様子を見て俺も驚く。こころはまるで表情の動かない少女なのだ。些細な感情の変化すら見せることなく、自身の持つ面で感情を表現する。表情筋が死んでいるのではないかと錯覚するほどだ。そんな彼女が感情を露わにした。それはとても驚くべきことである。

 

「おい、どうした?」

 

 驚いたので声をかけるとこころは言う。

 

「初めてハクトから撫でてくれた」

「は?」

 

 言われて、そういえば自分からこころを撫でたことは今までなかったような気がする。いつもせがまれて撫でていたから、自発的にしたことはなかった。そんなことでこれほどまで驚くだろうか。

 

「嬉しいぞ」

「なぬっ」

 

 こころは引っ張っていた袖を離すと、回避する隙も無く俺に正面から抱き着いてきた。

 

 え?なんで?

 

「きゅ、急になにしやがる離せっ」

「んー」

「頭をぐりぐり押し付けるな!」

 

 こころは俺の胸にこすりつけるように頭を押し付けてくる。どうにか引きはがそうとするが、昨日の夜と同じく力で勝つことが出来ない。結局、されるがままになった。

 

「んぅー」

 

 こころが満足気な声を出した。まるで聞いたことのない声に更に俺は驚いた。

 

「あーハクトがまたこころを誑し込んでる」

「なぁっルーミア」

 

 気が付けばルーミアが俺たちのことを見つけたようで、指差ししながらそう言った。

 

「いやこれは違う」

 

 俺は首を振りながら否定の、または被害者の意を伝えるが。

 

「そんなんだから妖怪たらしって言われるのだー」

「誰が妖怪たらしじゃ!」

 

 全く伝わっていないどころか、不名誉な渾名で呼ばれた。

 

 だーれが妖怪たらしじゃ。

 

 ていうかそんな不名誉な渾名誰が付けやがった。ぶち殺してやる。

 

 俺の怒りも何のその、全く動けない俺のことなど眼中に入ってないルーミアは、台所にある冷蔵庫へ近づき、その扉をあけ放った。さりげなく冷蔵庫がある俺の家だが、これも特別仕様ということでここはひとつ。そしてルーミアは中を物色し目的の物を見つけたのか取り出して扉を閉めた。

 

「おーガリガリ君だー」

 

 ちょ、待てよ。待ってくれ。

 

「おいそれは俺のガリガリ君だぞ!」

 

 取り出したのは俺が裏ルートで入手したアイス。オレンジ色の袋に包まれたアイス。

 

 それはガリガリ君九州みかん味。

 

 あっ、ちょっと待ってそれ最後の一本なの。俺が楽しみにとっておいたの。やめて食べないで。

 

「それじゃーごゆっくりー」

 

 そんな俺の気持ちは露知らず、こんなものは邪魔だと言わんばかりにびりびりと袋を破り捨てたルーミアはこの場から去っていく。

 

「おっ、おい待て。望みはなんだ言ってみろ!今なら三つまで叶えてやるからそれを食べるのだけはやめてー!」

 

 俺の心からの悲痛な叫びは全く相手にされず、しゃくりという氷菓を咀嚼する音だけが空しく響いた。

 

「おー当たりなのだー!」

「マジッ!?」

 

 これはわんちゃんあるで!

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

 暫くしてどうにかこころの抱擁から解放された後、仕事があるので外出する。外出する際には、背中に『黒裂』と大きく白い文字で書かれた黒い甚平に着替えた。

 

 ふふん。どうだ、この甚平。わざわざ呉服屋に頼んで作ってもらった特注品だ。俺のお気に入りだぞ。

 

 いわゆる仕事着というやつだ。これを着ると気が引き締まる。さあ仕事だという気分にさせてくれる。この服を着た俺の夢は「禊」で敵を必殺してその際に背中を見せつけることだ。

 

 殺意の波動に目覚めた俺。

 

 強そう。こなみかん。

 

 ちなみに、前面に「自宅警備員」と書かれた白いシャツや、「I♡人類」と書かれた黄色いシャツが俺の普段着である。

 

 それはさておき、俺の仕事にはこころとルーミアも同行することになった。何せ二人とも暇らしい。だからといってついてきたところですることなんてないはずだが、どうしてもついていくと言ってきかない。仕方なく同行を許可した。正直子持ちのお父さんにでもなった気分である。まあその辺で遊ばせておけば邪魔にはならないだろう。

 

 それで、俺の今日の仕事はと言うと……。

 

 人里の入り口の警備である。

 

 正直に言っていい、お前の仕事しょぼくね?と。

 

 まあ確かにそうなのだが、地味な警備も人里を守る大切な仕事なのだ。それに俺が人里の入り口に居るというのはとても大事なことである。何せ、俺は退治屋『黒裂』としてその名を知られている有名人。これでも幾度も害をなす人間や妖怪を撃退して信頼を獲得した実績のある退治屋なのだ。

 

 うむうむ、この説明で俺への印象も大分変わるだろう。

 

 見境なく女の子の頭を撫でている阿呆じゃないんだぞ!

 

 『黒裂』と書かれたこの甚兵衛も、言わば警察官の制服みたいなものだ。それに俺には悪意や害意を探知するスーパーセンサーが搭載されているので、中に入る前に追い払うことが出来る。

 

 完璧なセキュリティー。安心と信頼のセコムである。

 

 

 人里の警備は俺にお任せ!

 

 てなわけで、お仕事である。本日警備を担当する同僚に挨拶する。

 

「おいーっす」

「おう黒崎、今日も頑張ろうぜ」

 

 警備の同僚は人里の自警団に所属する青年、名前は「重次郎」。インドアな俺とは違い、体のがっしりとした快活な男だ。俺が警備するときの相方である。

 

「おいーっすじゅーじろー」

「おいーっす」

「真似すんなや」

 

 こころとルーミアも重次郎とは顔馴染みで、挨拶をする間柄にはなっている。

 

「おう今日は妖の嬢ちゃんたちも一緒か」

「どうしてもってうるせえから連れてきた」

「全くたらしだなあ黒崎は、妖の女子をとっかえひっかえ……」

「誰がたらしじゃボケナス」

「だってそうだろう?」

 

 何て駄弁りながら人里の入り口に立つ。基本的な仕事は人里へと出入りする人妖に挨拶をしながら、突っ立っているだけだ。

 

 やっぱりしょぼそうに見えるが、先ほど説明した通り大切な仕事なのだ。まあでも、ぶっちゃけ暇な時間が長いので、どうしても重次郎と駄弁っている時間が長くなる。

 

「そういやあ、黒崎は結婚とか考えねえのかい?」

「結婚だァ?んなもん考えたこともねえわ」

「黒崎は外来人だから感覚が違うのかもしれねえけどさあ、お前さんこっちじゃあ別に結婚してたっておかしくねえ歳なのよ」

「ふぅん。それが?」

「だからよぅ、良い相手はいねえのかい?」

「はあ?いねえよそんなもん」

「んなこといって、お前さんいろんな女子からモテモテじゃあねえか……妖だけど」

「モテモテって、そんなんじゃねえだろ……多分」

 

 こころとルーミアが空で追いかけっこしているのを眺めながら愚痴る。今はある左腕をさすりながら。

 

「腕ェ吹き飛んでまでモテたいとは思わねえよ」

「……紅霧異変の時だったか」

「あぁ」

「まあ仕事だからってのもあるだろうけど、お前さん無理してねえか?」

「あぁん?してねえよ」

「だってよぅ、天狗の新聞で読んだぜ――力が封印されてるって」

「せやな」

「せやなって軽いなおい。大変なことなんじゃあないのかいそれって」

「軽い軽い、俺にとっちゃあその程度、障害にもなりゃしねえ」

「んなこと言ったってよ――」

「『黒裂』なめんな」

 

 重次郎が虚を突かれたように黙る。俺はその様子を横目で見ながら続けた。

 

「俺にとっちゃあ力を封印されたなんて些末事。しかも、封印は不完全。やりようはいくらでもある」

「…………」

「それに俺を誰だと思っていやがる。俺ァ――」

「あらハクト、こんにちは」

「黒崎ハクトですこんにちは」

 

 俺の言葉を遮るように少女の挨拶の声が届く。そこにいたのは見知った顔。白いワイシャツの上に赤いチェックのベストを着こみ、赤いスカートを履いており、大自然の草原のような緑色の髪をショートヘアーにした淑女。大妖怪風見幽香だった。彼女は差している日傘をくるりと回す。

 

「か、風見幽香さ……ん」

 

 大妖怪の登場に重次郎がビビったように後ずさる。そんな重次郎の姿には目もくれず幽香は俺へと話しかけてくる。

 

「いつもと違う挨拶ね。いつもなら気さくに挨拶するのに」

「俺がかっこつけるタイミングで丁度来たからだよ!」

「あら、そうだったの」

「んで、今日は何のご用件で?お前が人里に来ると人妖問わずびびりまくるんだけど」

「私がここに来ちゃいけないとでも言うのかしら?」

「んなこたあ言ってねえぜ。俺としちゃあ悪い奴らも来なくなるから楽でいい」

 

 ご自由にどうぞと、人里の入口へと入ることを促す。

 

「そういえばハクト……昨日は両手に花で楽しそうだったわね」

「ガッデムてめえも見てたんか!?」

 

 まさかの俺の隠形が妖夢だけではなく幽香にも見破られていた事実。となると、霊夢あたりにも見られていそうだ。

 

「私というものがありながら、どういうことかしら?」

「待ってゆうかりん。俺はお前の好感度を爆上げした記憶はないぞ」

「ふふっ、あんなに激しく互いを求めあった仲じゃない」

「…………?」

「えっ、覚えていないの?」

「えっ、何かしたっけ俺」

「えっ」

「えっ」

 

 暫し沈黙。そして、幽香が赤面する。

 

「わ」

「わ?」

「私が恥ずかしくなるじゃない!」

 

 それだけ言うとばっと駆け出して人里の中へと入って行った。

 

「……黒崎ぃ」

「な、なんだよ重次郎」

「お前さん。あの大妖怪風見幽香も誑し込んだのか?」

「人聞き悪いこと言うんじゃねえ!あんなこと言われたけど俺本当に身に覚えないんだよ!本当だ!本当だよ!?」

「証拠がねえぞう証拠が」

「んなもん悪魔の証明だろ!俺は何にも知りませんー!」

「いっそ嫁さんに貰ってやんなよ」

「いい加減その口閉じろや!」

 

 くそったれ。と言いつつ、重次郎とは反対を向く。すると、そこにはこころとルーミアがふわふわと浮かんでいた。

 

 ひやりと嫌な汗が流れる。

 

「ハクト……」

 

 こころが言う。その表情は般若の面に遮られて見ることが出来ないが、その面から怒っているということだけは推測できる。ちらりとルーミアを見ると、こちらはじっとりとした目。また「妖怪誑し込んだのかー」とでも言いたげな眼だ。

 

「どういうことだ?」

「いやどういうことも何も俺は何もしていない」

「『あんなに激しく互いを求めあった仲』って?」

「さ、さあ俺には皆目見当もつかないな」

「ハクト……」

「か、勘違いだぜ。多分――」

「多分?」

 

 そう言って誤魔化そうとする。しかし誤魔化すにしてもいい内容が全く出てこない。そんな俺にできることは――。

 

「『ブリンク』!」

 

 逃走の一手のみである。瞬間的に10Mほど移動した俺は、人里へと逃げ込み、続けて二回『ブリンク』を発動。そのまま一気に距離を離し走って逃げる。

 

「あっ、ハクトが逃げた!」

「追うぞルーミア」

「そーなのかー!」

 

 後方から追いかけてくる二人を撒くために、分かれ道を曲がり建物の影に入る。そこで一日一回のみ使用可能な奥の手の技を使う。

 

「『リコール』」

 

 すると、まるで時間が巻き戻ったかのように景色が変動し、次の瞬間には人里の入り口に立っていた。

 

「おおう!?吃驚したハクトか」

「よう重次郎戻ってきたぜ」

「お前さんのそれ、何回見ても見慣れねえよ。ていうかいいのかい?あのお嬢ちゃんたち」

「時間が経てば頭も冷えんだろ」

「そんなもんかい」

「そんなもんそんなもん」

 

 ふぅと一息つき、空を見上げる。空は快晴、雲一つなし。良い天気だ。

 

「あ」

 

 思い出した。

 

「全力で戦った時のこと言ってんのか」

「そんな物騒なことをあんな恥ずかしい表現で言えるんかねえ……」

「俺をからかうつもりだったんだろ……逆に恥ずかしい思いをしたのはあっちだったけど」

「お前さんにゃ敵わないか」

 

 重次郎はお手上げとでもいうように両の掌を空に向ける。

 

「全く、黒崎といると退屈しねえや」

「ったりまえだろ、俺を誰だと思っていやがる。俺ァ――」

 

 一瞬間を置き、俺は言うのだった。

 

「黒崎ハクト様だぜ」

 

 くははと、俺は笑うのだった。

 

「今言っても格好つかねえぜ?」

「……やっぱり?」

 




こころちゃんに抱き着かれたい。

この小説の幽香はゆうかりんです。

『禊』
ゲーム、ストリートファイターのキャラクター、神人(しん)豪鬼(あるいは豪鬼)の技。構えと同時に相手の頭上に移動し、超高速で落下し一撃の下に両断する。この技で止めを刺すと、勝利ポーズとして背中を見せつけ、背中の道着に『神人』の文字が浮かび上がる。なお作者はこのゲーム自体やったことはない。

『ブリンク』
ゲーム、OverWatchのヒーロー、ダメージロールであるトレーサーのアビリティ。
移動方向へ瞬間移動する。正確な距離は忘れた。3回まで貯めておくことが出来、数秒で1回ずつ回数が回復していく。トレーサーが凶悪なタイマン、攪乱性能を誇るのは、この移動アビリティと後述のリコールによるところが大きい。作者は頭こんがらがってトレーサーは使えない。なお、今作のハクト君は一日に三度しか使えないアビリティとなっている。

『リコール』
同じくトレーサーのアビリティ。時間をさかのぼり、位置、体力、残弾数を数秒前の状態に巻き戻す。トレーサーは体力が150と全ヒーロー中最低だが、このアビリティとブリンクを駆使することで数値以上の粘り強さを発揮することが出来る。トレーサーを仕留めるには、リコールを使わせたうえで体力を削り切るか、多大なダメージを与えて瞬殺する必要がある。作者はトレーサーへのフラッシュバン後のヘッドショットを外してそのままリコールされて逃げられることが多い。なお、今作のハクト君は一日に一度しか使えない切り札として運用している。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

黒き少年の日常と妖怪たらしと呼ばれる所以4

 お昼時。お天道様頂上に来て、お腹がぐぅと鳴り始める時間帯。人里の警備はひとまず重次郎に任せ俺は食事処に来ていた。こころとルーミアも……ついでに言うと幽香も一緒である。さあいざ飯を食いに行かんとしたところで、丁度帰ろうとしている幽香を見つけたのだ。なんとなく三人だと区切りが悪いのでなんとなく誘ったら、なんとなく顔を紅潮させながら了承されてしまったのである。

 

 幽香ェ。マジで俺はお前への好感度上げた記憶ないぞ。一体全体何をしたら誘われて頬を赤く染めるなんてことになるんだよ。ていうかお前人間への友好度最悪なんだよね?それが気軽に人里に来て、しかも人間と食事を共にするってどうなのよ。幻想郷縁起追記しようぜ。実はそんなこともないって。

 

 それはさておき、つまり閑話休題。

 

 今日は洋食の気分だったので、最近人里で流行っているという洋食店に来た。

 

 俺とルーミアはハンバーグ。こころと幽香はパスタである。

 

 目の前では、ルーミアががつがつと肉を咀嚼していく中、幽香は上品にパスタを口に運ぶ。隣にいるこころはどことなーく不機嫌そうにしていた。

 

「こころいい加減機嫌直せって」

 

 幽香との邂逅時の会話が未だに引っかかっているらしい。(無表情だが)時節幽香を睨んだりして牽制している。そんな牽制も何のその、幽香は幽香で気にすることなく受け流している。これが強者の余裕か。俺もそれ欲しい。

 

「ありゃあ、誤解だって」 

 

 こころの頭をぽんぽんと叩く。ついでにぐりぐりと撫でておく。

 

「幽香はただの妄想癖のある痴女だっつーだけだから」

「ごほっごほっ!」

 

 俺の言葉を聞いた幽香が咳き込む。

 

「多分、夢と現実の区別がつかなくなってんだ。そっとしておいてやろうぜ、な?」

「そうなのか?」

「そー、もぐもぐ、なの、ごっくん、かー」

 

 こころと肉に夢中なはずのルーミアが俺の方を向く。幽香は咳を抑えようと水を飲んでいた。

 

「そうそう、多分妄想しているうちに現実とごっちゃになっちまったんだ。幻想郷の外でもそういう奴いたからさ、幽香もそうなんだろうぜ。そういう時は優しく諭してやるんだ。『良い病院紹介してあげようか?』って。……あとルーミアははしたないからちゃんと食べてから話しなさい」

「違うわよ!?私はそんな女じゃないわよ!」

「わかったのだー、ごっくん」

「お前の『わかったのだー』は聞き飽きた」

「そーなのかー」

「聞きなさい!」

 

 涙目で幽香が抗議する。先ほどまであった強者の余裕は何処へ行ったのやら。俺をからかって失敗した時のように頬を紅潮させていた。そんな幽香へこころは視線を移す。

 

「……私は別に妄想癖があるわけでもなければ痴女でもないの。そこの黒いのが虚言を吐いただけ」

「そうだったのか」

「そう、こんな男の言うことなんて信じるに値しないわ」

「うむ……」

 

 ぎりぃと、空間が歪みそうな目つきで幽香が俺のことを睨んでくる。というか、敵意……というか殺意マシマシである。てめえ外でたら覚えとけよと言う黒い意思がひしひしと伝わってくる。おお怖い怖い。

 

 そんなことは露知らず、こころは一度俺の方を見ると、再び幽香の方へ向き直し頭を下げる。

 

「すまなかった」

「……そう、わかればいいのよ。わかれば。あなたは賢い面霊気さんね」

「そうだ、私は賢いのだ」

 

 ふんすとこころは胸を張る。賢いと褒められて満更でもないらしい。そこで気が付いたように「あっ」と声を漏らすと、幽香に向けてこう言い放った。

 

「……ところで、良い病院紹介してあげようか?」

 

 瞬間、場の空気が凍結した。そして更に次の瞬間には一気に解凍し、俺の笑い声が響き渡った。

 

「くはっ、はははははははは!」

 

 やってくれたと言わんばかりにこころの頭を撫でまわす。当の本人はわかっているのかわかっていないのか全く分からない無表情。

 

「何にもわかってないじゃないこの面霊気!」

「ごちそうさまー」

「あっ、ルーミアはちゃんと口の周りについたソースを拭きなさい」

「わかったのだーおかーさん」

「お前はいい加減そのネタ引っ張るのやめなさい」

「はーい」

「ちょっと無視しないで!」

 

 だんっと、幽香がテーブルを叩く。大妖怪の力だとテーブルが粉砕しそうだが、そこはセーブしているようで音が響き渡るのみだった。

 

「いやいや、入り口で幽香がからかってきたことの仕返しだって」

「仕返しにしてもほどがあるでしょう!?」

「お前のせいでこちとら大変だったんだぜ、相方に嫁さんにもらえだの言われて面倒くさいったらありゃしねえ」

「よ、嫁さん……」

 

 そこで幽香は押し黙った。代わるようにこころが言う。

 

「ハクト、私は言われたとおりにできたぞ。もっと褒めろ」

「いやもうこれでもかというほど頭撫でてるじゃねえか。これ以上何を――」

「これ」

 

 こころはいつの間にか手に持っていたメニューの一か所を指し示す。そこにあるメニューは季節の果実をふんだんに乗せたパフェ。

 

「これが食べたい」

 

 勿論、こころにはそれを食べさせてやった。

 

 ルーミアと……涙目の幽香も便乗して食べたのは余談である。

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

 幽香をからかいこころを存分に褒めた後は、再び人里の入り口の警備の仕事だ。幽香はそそくさと帰ってしまったが、こころとルーミアは再び空を自由に飛び回り遊んでいる。重次郎はというと、俺とは違い簡単に昼飯を済ませすぐに戻ってきた。どうやら昼飯はそばだったらしい。

 

 そばかあ。いいな。明日の昼飯はそれにしよう。

 

 なんてどうでもいいことを考えていると、いつの間にかルーミアが目の前に降りてきていた。

 

「どうしたルーミア」

「んぅ、眠い……」

 

 どうやらおねむらしい。そういえば俺よりも寝たのは遅いはずだから、眠くて当然だろう。

 

「じゃあ家帰って寝ろ」

 

 と冷たい感じに伝えるが、こういう場合俺の言うことを聞いてくれたためしがない。今回も例にもれず、すぅっと宙を漂い俺の背後に回ったかと思うと、背中に張り付いた。

 

「おやすみー」

「おやすみじゃねえよ!家帰って寝ろって言ってんだろ!」

「すぅ……」

 

 もう寝やがった。寝ている少女を無理矢理叩き起こすのも気が引けた俺は、仕方なくそのままにしておく。

 

「やっぱ妖怪たらしだなあ黒崎は」

 

 と重次郎が言う。お前もその不名誉な渾名知ってんのか、そう問うと。

 

「そりゃあ有名だぜお前さん」

 

 と答えが返ってきた。全くもって要らない渾名を付けられて、なんとなく機嫌が悪い。手で髪をくしゃくしゃと掻く。

 

「片っ端から女の妖怪を手籠めにして、毎日よろしくやってるような糞野郎って噂だ」

「俺が想像してたより滅茶苦茶悪名高いじゃねえかなんだそれ!」

「で、実際のところ毎日よろしくやってんのかい?」

「やってねえよふざけんなぶち殺すぞこのクソ野郎が!ていうか誰だその噂流した糞野郎は!この俺直々にぶち殺してやる!」

「まあまあそう怒るなって。ちなみに噂流したのは俺だ」

「そこに直れやまずはてめえの腹ァ切り裂いて中身ぶちまけてやる!」

 

 どぅどぅと重次郎は両手を前に出して俺のことを宥めようとするが、その顔があまりにもにやけててすさまじくむかつく。

 

「はっはっは、冗談だよ冗談。そう怒るなって。あんまり騒ぐと背中で寝てる嬢ちゃん起きちまうぞ」

「チィ……」

 

 確かに重次郎の言う通り、あんまり大声を出すと背中で寝ているルーミアが起きてしまう。仕方なしに口を閉ざした俺は、しかしイラつきを隠すことなく、重次郎を睨みつける。

 

「ははっ、やっぱ黒崎をからかうのはおもしれえや」

「てめえ……あんまり調子に乗ってると流れ弾で死ぬことになるぞ」

「そりゃ勘弁」

 

 定期的に俺のことをからかってくるものの、何だかんだで重次郎は良い奴だ。ここに来たばかりの時も良くしてくれたし、こいつのおかげで顔も広まった。感謝している。しかし流石に毎回からかわれるのは癪なので、こいつにはいつか何らかの形で復讐してやろうと決意した。

 

 さて、そんな風に駄弁っていると、新たな来客があった。それは空から一目散に此方に飛んできて、俺たちの目の前に着地する。

 

「ここにいたのねハクト!」

「あぁん?なんだ、てんこか」

「てんこ言うな!」

 

 白と青を基調にしたワンピース、そして黒い帽子に桃をくっ付けた少女、青い長髪を優雅に揺らす天人比那名居天子が現れた。

 

「あ、人里はこちらですどうぞ」

 

 と俺は人里の中に入るように促すと。

 

「ふふん、今日は人里に用があるわけじゃないわ。ハクト、あなたに会いに来たのよ」

 

 と天子は言う。

 

「俺に?」

「そう、あんたによ。わざわざこの私が来てあげたんだから感謝しなさい」

 

 天子は腰に手を当てて、ふふんと胸を張る。

 

「あざーっす。人里の入り口はこちらでーす」

「いやあんたに用があるって言ってるでしょ!」

「俺仕事中、お前の用なんか知るか」

「なによその態度!せっかくこの私が会いに来てあげたって言うのに!」

「何でも何も頼んでねえのに会いに来たって言われても困るわ~」

「むかっつく態度ね!私を誰だと思っているの!?」

「えっ、異変の時ぼっこぼこにされてマゾに目覚めたてんこちゃんだろ?」

「目覚めてないわよ!あとてんこっていうなあああああああああ!」

「いいじゃんてんこって愛称。俺は可愛いと思うぜ」

「…………えっ、そう?」

「そうそう、天子って呼ぶより身近で親しみやすいと俺は思う」

「そ、そんなことまで考えてそう呼んでたのね!」

「……いやそこまでかんがえて――」

「いいわ!じゃああんたは特別に私のことてんこって呼ぶことを許可してあげる!」

「アッハイ」

 

 なんとこの天人ノリノリである。てんこ呼びの理由なんてからかう以外の意味はなかったのだが、適当に作った理由でなぜか受け入れられてしまった。

 

「それはともかくハクト!」

「んだよ。俺ァ、ルーミアの子守で忙しいんだよ。あんまり叫ぶんじゃねえよ起きたらまた我儘言われんの俺なんだぞ」

「あんたに勝負を挑むわ!」

「……はぁ?」

「それで、負けたら私の物になりなさい!」

「……はぁ!?」

 

 いきなり突き付けられて挑戦状とその条件に困惑する。そんな様子も露知らず、天子は勝手に話を進める。

 

「今から始めるわよ!準備は良いわね!?」

「良くねえよ!何で勝負すること前提に話進めてんだよ!頭ぱらっぱらーか!」

「もちろん勝負は弾幕ごっこ!勝負はスペカ3枚!」

「話聞けやこのマゾ娘!話聞くことすらできねえのか!」

「なによ!あんたの都合なんて聞いてやんないわよ!衣玖が『男は押しに弱いです』って言ってたから!」

「衣玖さんあんたなに吹き込んでんだよめんどくせえ!ていうか普段は言うこと聞かねえくせに何でそういう時だけ衣玖さんの言うこと聞くんだよこの不良娘!」

「ということで勝負よハクト!」

「聞けよこのあんぽんたん!」

 

 あまりにも俺の言うことを聞かない天子に俺のイライラゲージは鰻登り。先ほど重次郎にからかわれたのも合わせれば有頂天である。

 

 横目に重次郎を見ると、「まーた痴話げんかしてるよこいつ」みたいな目で俺を見てるのが解せぬが、俺は重次郎にこう言う。

 

「重次郎、人里の危機を脅かす輩が現れた」

「……おう?いいのか黒崎。あの嬢ちゃんお前に懸想してるぜ?」

「てめえこれ以上煽るなら本気で腹掻っ捌くぞ」

「すんません……で?そういうことでいいのかい?」

「そういうことだ。あの目の前にいる比那名居天子とかいう天人を血祭りにあげる『黒裂』の名に懸けて」

「了解ッ!」

 

 そういうと重次郎は駆け出し、人里の中に入っていく。

 

「てんこ。暫し待て。そしたらお前の言う通り……じゃあねえが、ともかく、戦ってやる」

「私の物になる覚悟ができたのねハクト」

「てめえの物になる覚悟はできてねえしそうなるつもりもねえが、てめえをぶっ潰す算段ならつけた」

「……ふぅん」

「だから、暫し待て」

「わかったわ」

 

 天子はおとなしく俺の言うことを聞き、待つ態勢に入った。俺は内心にやりと笑う。

 

 ――こっから先は俺の独壇場だ!

 

 




てんしまじてんし

ギャグわかんないので妥協した


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

黒き少年の日常と妖怪たらしと呼ばれる所以5

「な、なに、この人だかり」

 

 天子が言う。それは何に対しての言葉だろう。……とまあとぼける必要もないか。

 

 それは、人里の入り口に集まる大量の人だかりを見ての言葉だった。

 

「おう、黒崎!また面白いもん見せてくれんだってな!」

「黒崎ー!あんたの勝ちにかけたからなー!」

「天人なんてぶっ飛ばせー!」

「最強の名を見せつけてやれ!」

「退治屋『黒裂』期待してるぜー!」

「がんばれロリコンー!」

「いけえ妖怪たらし!」

「おうロリコンて言ったやつ出てこい腹掻っ捌いてやる。あと俺は妖怪たらしじゃありませんー!俺は健全な人間ですぅー。好きな髪型はポニーテールですぅー」

 

 俺が重次郎に危機を伝えたのは、わざわざ人を集めるためだった。妖怪というのはことあるごとに人里を襲うので、俺はその、ことあるごとに戦う必要がある。別に戦うこと自体に不満はないが、そのまま誰にも見られずにいると評判には繋がらない。そこで考えたのは、重次郎に人を集めてもらうことだった。妖怪が襲ってくるたびに人を集め、それを退治する姿を見せつけ、俺が里に必要な人材だということを見せつける。実際そうして退治屋『黒裂』の名は広まっていった。

 

 そしてそれを繰り返した。そのうち重次郎が人を集め始めると、人里中の人間が集まってくるようになってしまったのだ。これは嬉しい誤算である。

 

 今回の天子の訪問は襲撃ではないが、勝負ということなので、利用させてもらうことにしよう。

 

「……あんた、ぽにぃているって髪型が好きなの?」

「……好きだけど何だよ」

「べ、別になんでもないわよ」

 

 天子が自分の髪を触りつつ目を背ける。 

 

「私のもそのぽにぃいているって髪型にできるかしら……」

「あん?」

「な、なんでもないわよ!」

 

 様子が変な天子は置いておき、俺は勝負の条件を確認する。

 

「勝負の報酬は、お前が勝ったら俺はお前の物になるでいいな?」

「えぇ、それでいいわ!」

「逆に俺が勝った時の報酬は、そうだな……お前は今日の夕飯を奢る、でどうだ?」

「別にいいけど、それでいいの?全然釣り合ってないじゃない。別に私を一生せいどれ――」

「はいそれ以上の発言は許しませんー。ハクト君許しませんよ!とにかく、俺の要求は夕飯だ!それでいいな!」

「い、いいわよ。別にそれで不満はないわ!」

「ただ、弾幕ごっこというのは認められない。俺は弾幕ごっこができないというか、しないからな」

「えっ、それじゃあなにで勝負するっていうのよ」

「決まってんだろ――なんでもありの直接勝負だ!」

「……あんた本気?」

「本気も本気よ。大真面目に俺は言ってる」

「私は天人、あんたはただの人間。それを理解したうえでの発言ね?」

「そりゃあ、もちろん」

「……ふぅん」

 

 天子は訝しげに俺を見つめる。

 

「別に私が有利になる分にはいいわ。それで?直接勝負って言うだけ?ルールとかは?」

「ルールは人里に被害を出さない。以上だ」

「……あんた、私を舐めてるの?」

「舐めちゃあいないぜ天人サマ。これでもハンデを付けなくていいのかと戦々恐々さ」

「ハンデ?あんたにつけるっていうこと?」

「いやあ――お前にさ」

「――いよいよ私を舐めてるってわけね」

 

 天子は腕を組む。

 

「あの忌々しい大妖怪に直接の私闘は禁じられている。不良の私だってそれくらい知ってるわ」

「――そうだな」

「私としてはどうでもいいことなんだけれど――アレが言うからには仕方がない。だから、あんたの条件は呑めない」

「――いいや、勘違い、というか知らないみたいだな。特例として『黒崎ハクトとの私闘のみ許可する』ということを!」

「えぇっ!?そうなの!?」

「あぁ、そうだ。俺は虚言妄言世迷言こそ吐くものの、嘘はつかねえぜ」

「それってほとんど嘘と一緒よね……」

「……ともかく!俺との直接戦闘は問題ないってことだ!」

 

 高らかに俺は叫び天子へと指を突き付ける。

 

「さあかかってこい比那名居天子、てめえの物になるかどうかは、文字通りてめえの腕にかかっている!」

 

 ビシッと決めた俺に、天子は――比那名居天子は高らかに笑う。

 

「ふふっ、いいわ!でも、このまま何もできずにぼこぼこにされるんじゃかわいそうだから、あんたにハンデをあげる。『あなたの最初の攻撃を無条件』に私は受けてあげる!」

 

 と天子は言った。それは余裕か慢心か、それとも自身の実力からくる自信なのか。天子は腕を組み俺の行動を待った。

 

 与えられた好条件に俺はにやりと笑う。こいつは俺の実力をわかっていない。噂でも聞いたことがないのだろう。

 

 さて、それじゃあ、一方的な戦いを始めよう――。

 

 ……ちなみに戦いはカットで。

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

 ててててーんてーんてーんてっててー。勝利のファンファーレが俺の頭の中に鳴り響く。

 

「ぶい」

 

 俺は高らかに手を掲げる。人差し指と中指をVの字にしたブイサインだ。勝利のポーズだ。つまりは――俺は比那名居天子に勝利したのだ。

 

「う……」

 

 比那名居天子――天子は、まるで調理された魚の如く地面に伏し、ときたまぴくりと動くのみだった。

 

 いやあ、接戦だったわ。俺の技をあんなに耐えるとは思わなんだ。天人っどいつもこいつもこんな堅いのか?なんて思っていると。

 

「び」

「び?」

 

 天子が変な言葉を放つ。一体何だと近寄ると。

 

「びぇぇぇぇぇぇん!!」

 

 起き上がり、大泣きし始めた。

 

「お、おいどうした」

 

 俺の言葉が届いてるのかどうか知らないが、天子はこんなことをぬかしやがる。

 

「わ、わたしはただハクトとなかよくなりたかっただけなのに!どうしてこんなにいじめるのー!」

「え…………えぇ!?」

「いくのいうとおり、おしにおしたのに!どうしてこうなるのよー!」

「知らねえよ!」

「びぇぇぇぇぇぇぇん!」

「お、おい泣くな!別にそんな泣くことねえだろ!」

「だってぇ!だってぇ!」

 

 俺は泣いている天子のことを宥めようとする。しかしどうやっても泣き止まない。あの手この手を尽くして宥めたが、なかなかどうして、泣き止まない。

 

 そんな様子を見て、人里の連中がこんなことを抜かしやがる。

 

「あーあ、またかよ」

「また黒崎が女の子泣かしてるぜ」

「でもまあ、いつものこったあ」

「あんな可愛い子泣かすなんて、罪なやっちゃなあ」

「だから童貞なんだよ」

「おい童貞って言った奴、俺をロリコンって言ったのと同じ奴だな顔覚えたぞぶち殺してやる!」

 

 阿鼻叫喚だった。

 

 正直こんなことになるとは思わなんだ。人里を攻めてきた妖怪(天子は妖怪じゃないが)を懲らしめた、そんなシナリオにするつもりだったのだ。しかしどうしてこうなった。

 

「びぇぇぇぇぇぇぇん!」

「おいっ!いい加減泣き止めって!」

「でもぉ!でもぉ!」

「でもも何もねえよ!俺が悪かったって!」

「だってぇ!」

「あーもう!泣き止めって!」

「うわぁぁぁぁぁぁん!」

「あーもう!大人げなく技ぶち込んで悪かったって!俺が悪かった!だからこの通り!泣き止んでくれ!」

「……私の物になる?」

「いやそれはちょっと」

「わあああああああああああああ!」

「お前嘘泣きだろ!絶対嘘泣きだろ!こんの頭カチ割ってやる!衣玖さんから要らん事ばかり学びやがって!」

 

 何時まで経っても泣き止まない天子に右往左往する間にも、群衆からは好き勝手な言葉が飛び出す。

 

 もうやめてやれ。

 

 これ以上虐めてやらないでくれ。

 

 かわいそうだろやめてやれ。

 

 てんしまじてんし。

 

「おっ、おい!あいつは嘘泣きだぞ!里を守ってる『黒裂』様よりあいつの味方すんじゃねえよ!」

 

 予想だにしない反応に、狼狽えながらも反論する俺だが。

 

「すいません黒崎さん。でもあの女の子が泣いてる姿を見ると、どうしても良心の呵責が!」

「てんこあいしてる」

「俺、前々から黒崎はどうにもたらしでうぜえ奴だと思ってたんだ」

「ロリコン死すべし慈悲はない!」

「ああああああああ!?殺す!特に後ろ二人は殺す!絶対にだ!顔覚えたからな!覚えたからな!!覚えたからな!!!」

 

 その反論は全く聞き届けられない。それどころか、俺を野次る声は大きくなるばかり。不利を悟った俺は大きくため息をつき、未だ泣き続けている天子にこう告げる。

 

「わかった。わかった。じゃあ引き分けだ、引き分けならいいだろう?」

 

 女の涙に負けたともとれるが、この際仕方がない。

 

「……引き分け?」

「そうだ、引き分け。どっちも負けず、どっちも勝たず。引き分けだ」

「……勝負の報酬はどうなるの?」

「そりゃお前無しだろ」

「わあああああああああああああ!」

「わ、わかった、お前の物になるってのは無理だが、お前の願いを一つ可能な限り叶えてやる。それでどうだ?」

「……ほんと?」

「あぁ、ほんとほんと」

 

 俺の言葉に納得したのか、天子は遂に泣き止む。

 

「じゃあ――」

 

 そして、天子の願いはと言うと――。

 

――――

 

 

 仕事を終えた俺は、人里のとある居酒屋に来ていた。宴会をした次の日にまた酒かと思われるかもしれないが、これは俺のチョイスではない。天子の提案である。天子の我儘に負けた俺だったが、かといって俺の勝利条件である夕飯を奢らせないのも癪だったので、適当に店を選べと天子に行ったら居酒屋になってしまったのだ。決まってから後悔したが、まあ酒は飲まずともつまみで腹を満たすことはできる。

 

 俺の目の前にはルーミアと天子がいる。こころは安定の隣だ。それぞれが、酒を煽りながらつまみを咀嚼していく。

 

「もぐもぐ、ごくごく」

「もぐもぐ、ごくごく」

「もぐもぐ、ごくごく」

 

 しかし、それにしても。

 

「なんで、お前ら当たり前のようにいるわけ?」

 

 俺は隣にいるこころと、対角線向かいに居るルーミアに向けて言う。お前たち二人がいるのはおかしくないか?

 

「お夕飯も食べるって私は言ったはずだぞ」

「私も言ったのだー」

「いや、言ってたけどよ……」

 

 言ってた。言ってたよ?でも本当に食べていくとは思ってなかった。いやルーミアはわかる。長い付き合いだし、半分同居のような形になってしまっているのも確かだ。夕飯を一緒に取るのはそこまでおかしくはない。けれどこころまでって。本当、異様に懐かれているな。特に理由なんて思いつかないんだが。まあ深く考えても回答が得られるわけでもなく意味などないので、俺も目の前の焼き鳥に手を出す。

 

 もぐもぐ。

 

 うん、皮はやっぱり塩だな。でもそれより、白いお米が欲しい。なんだか物足りない。なんて、逸れたことを考える。

 

「はぁ……」

 

 天子が意味ありげにため息をつく。

 

「どうした。まだ負けたこと根に持ってんのか?」

「負けてないし、引き分けよ」

「はいはいそうですね。んで、どうした?」

「あんたなんで人間のくせにあんな強いのよ?霊夢とかならわかるけど、あんたただの人間の退治屋でしょ?」

「もぐもぐ、ハクトはただの人間じゃないのだー、ごっくん」

 

 俺の代わりにルーミアが答える。答えるのは良いけど食べてから喋りなさい。

 

「私みたいな人食い妖怪でも普通に接してくる頭がおかしい人間なのだ」

「ふぅん、頭がおかしいのは知ってたけど。確かに、あんたみたいな危険度の高そうな妖怪と仲良くやっているのは不思議ね」

 

 頭がおかしいて。周りから見たら変なのかもしれないが、そもそもルーミアは俺のことを食べようとはしてこないから恐怖を抱かず普通に接することが出来る。彼女が俺を食べない理由は――彼女の能力と俺の能力が同類だからだろう。

 

 そういえば、俺がこちらに来てから、ルーミアが人を食べたという話は聞いていない。俺とつるんでるせいでそんな暇がないのか、はたまたそれとは別の理由か。

 

「それに、あの風見幽香とも戦って勝ったのだ」

「えぇっ!?あの大妖怪風見幽香と!?ほんとなのハクト!?」

 

 驚く天子に俺は無言で頷く。

 

 確かに、ルーミアの言う通り、俺は幽香との戦いに勝利している。それも弾幕ごっこなどという遊びではなくガチバトルでだ。正直あの時は生きた心地がしなかったが、どうにか俺の全てを出し切って勝つことが出来た。

 

「あと妖怪たらしなのだ」

「それは知ってるわ」

「ちげえよ!」

「今日もこころと抱き合ってたのだ」

「抱き合ってねえよ!抱き着かれたんだよ!」

「ハクトあんた……」

「な、なんだよ」

 

 天子がじとりとした目で俺のことを見つめてくる。

 

「私というものがありながら!」

「いやどういう意味だよ!」

「私と将来を誓い合ったでしょう!?」

「誓いあってねえよ将来を誓い合うってお前なんだよラブコメかよ!」

「だって、さっきの戦いでなんでもしてくれるって!なんでもしてくれるって!」

「言ってねえよ勝手に事実改変すんじゃねえよ!さてはお前酔ってるな!?酔っぱらいだな!?」

「私がこの程度で酔うわけないじゃにゃい!!」

「それは酔っ払いの常套句だ!」

 

 なんて言いあっていると、ふと横からこころが俺の腕に抱き着き。

 

「ハクトは渡さんぞ」

 

 なんて言い始めた。

 

「ややこしくすんなバカ!」

「私よりこころのほうが良いっていうわけ?無表情でクールで天然なのが好きなの?そうなの?そうにゃの!?」

「あぁもうめんどうくせえなこの酔っぱらい!あと、俺が好きなのはポニーテールの女の子ですぅ。黒髪なら尚良し!」

「ぽにいているって何よ!そんなの知らない!私を馬鹿にしてるにょね!」

「してないから少しは黙れ酔っぱらい」

「ハクト、私もぽにいているにしたらどうだ?似合うのか?」

「…………似合うんじゃない?」

「おおっ!……これが喜びの表情」

「ほらっ、ほらっ、やっぱり私よりこころのほうが良いのねこの浮気者!」

「浮気も何もねえだろうが!」

「あ、店員さん焼き鳥追加お願いなのだー」

「ルーミアお前はマイペース過ぎ!助けて!長い付き合いのハクト君を助けて!」

「自業自得」

「身も蓋もないことを言うな!」

 

 ぎゃーぎゃーぎゃーぎゃー。結局この突発飲み会は、天子が酒に飲まれて眠るまで続きました、まる。

 

 

――――

 

 

 

「ぐぅ……」

「くっそ何で俺がこいつを背負ってく羽目に……」

「頑張るのだー」

「頑張れ」

 

 帰り道、俺は天子を背負って自宅への道を歩いていた。こころとルーミアは俺を励ます係である。

 

 酒に飲まれた天子は起こしても寝言を言うだけで目覚めることはなかったので、仕方なくお持ち帰りである。……お持ち帰りというと誤解が生まれるかもしれないので、なんと言うべきか。介抱?まあそんな感じで。しかしそれにしても二日続けて眠ってしまった少女を介抱する羽目になるとは運の悪い。正直面倒くさくて仕方がないが、放っておくのもかわいそうなため仕方がない。

 

「……ていうか」

 

 そういえば、疑問に思ったことがあったのだった。

 

「何でこころ当たり前の用についてきてんの?」

 

 どうしてこころがついてきているのかということに対してである。

 

「こころは今日からハクトのうちの子になったのだー」

 

 その疑問に対してルーミアが答える。俺んちの子て。そうホイホイなっていいものなのか。

 

「いや待てなに勝手に決めてんだ」

「もう決定じこーでーす」

「でーす」

「でーすじゃねえよ」

 

 否定の言葉も無視して、ゆっくり歩く俺の周りを二人は駆けっこをするように走る。全く子供というか、子供っぽいというか。本来俺よりも長い間生きてきた妖怪だというのに、その精神は見た目と何ら変わらない。やはり、体に精神は引っ張られるのか。なんて、下らない推測をする。出会った時のこころはもう少し大人びていた気がするが……知能下がった?

 

 俺の家に来るのは……うーん、まあ、うん、面倒だなと思いながらも良いっちゃ良い。俺の住んでいる家は無駄に広いので、人が増えても何ら問題はない。うるさい奴が家に来るのは勘弁してほしいが、こころはよく喋る以外は比較的おとなしい子である。俺の言うことはあまり聞かないが、気遣いのできる優しい子でもある。

 

 ……断る理由が思いつかない。

 

 うんうん唸って断る理由を探していたが、結局見つからず自宅に辿り着いてしまった。

 

「ただいまー」

「ただいまー」

 

 こころとルーミアが仲良く扉を開け入っていく。まるで姉妹の様である。髪の色は全然違うけど。身長が高いこころのほうがお姉さんっぽい。

 

「……まあいっか」

 

 断る理由を考えることも諦めそうつぶやいて、俺も家の中に入る。布団を敷いてくれという俺の指示に従ったこころとルーミアは、テキパキと寝床の準備を整えた。そのうちの一つに天子を寝かせる。そうすると、面倒ながらも風呂を沸かして少女二人を放り込む。今日はずうっと外にいたんだからちゃんと洗っておきなさい。その後に俺自身も風呂に入り、疲れを癒す。

 

 いやあ、なんか今日めっちゃ疲れた気がする。なんてことを漠然と考えながら、風呂から上がると。

 

「しゃりしゃりだー」

「しゃりしゃりだー」

 

 と少女二人がガリガリ君を食べていた。俺の楽しみにしていたみかん味はもうルーミアに食べられた後だったので、残っているのは普通のソーダ味である。

 

「それ食ったら寝ろよ」

「わかったのだーおかーさん」

「わかった、のだー」

「ルーミアそのネタ飽きねえな……。あとこころはルーミアの真似すると誰が喋ってるのかわからなくなるからやめなさい」

「はーい」

 

 なんて言いつつ、俺も冷蔵庫からガリガリ君を取り出し食べる。

 

 しゃりしゃりだー。

 

 うまい。

 

 さて、食べたし寝るとしよう。

 

 もぞもぞと各自それぞれの布団に入っていく。そうして、俺たちは一日を終えたのであった――。

 

 

 

――――

 

 

 

 ――朝起きて、上と横からの圧迫感を感じた俺は二人の少女をここに住まわせたのを若干後悔したのであった。

 




てんしとこころちゃんのポニーテール……ごくり


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話:こころちゃん、ルーミアちゃんとお喋りする

 私の名前は秦こころ、面霊気という付喪神の一種である。つい昨日、ハクトの家に居候というか、ハクトの家の子というか、そんな感じの状況になった。

 

 彼が拒絶しなかったのは正直意外だった。

 

 彼は誰に対しても態度を改めることなく接するが、表面上親しくなろうとはしない。誰に対しても平等で、誰に対してもふざけた態度で接する。その態度を見て思い浮かべたのは霊夢だった。彼女も同じく誰に対しても平等で、誰に対しても興味がない。あの二人はどことなく似ている。人間を超然としている不思議な雰囲気。やっぱりあの二人は似ている。そんな彼が、ルーミアと同居に近い生活をしていると知って私はとても驚いた。驚きの余り面を付けるのを忘れてしまった程だ。

 

 彼を気にしている妖怪が幾人もいるのを私は知っている。というか、私もその一人だった。親しくなろうとはしない割には親切だったり、文句を言いつつも優しくしてくれたり、理由は人それぞれだろう。私の場合は端的に言うと一目惚れというか、初めて会った時に彼の「感情」があまりにも惹かれるものだったのだ。

 

 彼は幻想(ゆめ)に憧れていた。それはもうどうしようもなく、誰よりも憧れていた。里の子供たちもそういったもの(・・・・・・・)に憧れるのだろうが、ハクトのそれは比じゃなかった。

 

 年の割には子供染みていて、だからこそ純粋で、だからこそ尊かった。

 

 その「感情」は、あまりにも、そう、あまりにも眩しくて、そして私はハクトのことを好きになっていた。興味があると言い換えてもいい。別に男女の恋愛感情というわけではない。あくまでも人として好ましいということだ。そういう意味では、私は霊夢のことも好きである。ハクトと違ってそっけないのが面白くないが。けれど、ハクトとそうなる(・・・・)のも良いかもしれない。……まあその場合は敵が多そうだけれど。

 

 ハクトと懇意になりたがる妖怪は、霊夢よりは少ないだろうがそれでも多い。昨日出会ったさとりと妖夢と幽香と天子、彼女たちは全員ハクトのことを気にしている。他にもいるかも。彼自身はどうしてそんなに好感度が高いのか全く分かっていないようだが……多分何かしたのだろう。私は知らない。あと、幽香だけちょっと毛色が違うかも。あれは多分殺し愛。

 

 ちょっとハクトがモテててイラっとした。これは苛立ちの表情。

 

 それで何が言いたいのかというと、彼女たちを押しのけてハクトに近づけてとても嬉しかったのだ。これは喜びの表情。

 

 嬉しさを踊って舞って表現しようとしたが、「うぜえ」とハクトに頭を叩かれて諦めた。しょぼん。これは悲しみの表情。

 

 それで、ハクトの家に居候することになって数日後、今日もハクトは仕事である。別に毎日ついて行ってもいいのだが、今日は生憎の雨、どうせ暇だからついてくるなとも言われたので、大人しく家で暇を持て余している。ルーミアも一緒だ。彼女は家に居たり居なかったりふらふらとしているが、夜になると大体帰ってきて寝ているハクトの上に張り付く。自分用の布団が敷いてあるにも関わらずだ。なんでも、ハクトは『良い匂いがする』らしく、それに釣られてハクトの上に張り付いてしまうらしい。本能的に。今朝も張り付いていたが、ハクトは何も言わず横に転がして対処していた。ちなみに私は横から張り付いているため、優しく剥がされて起こされずに済んでいる。

 

 さて、いつもはふらふらとどこかへ出かけたり出かけなかったりしているルーミアだが、流石に雨の日まで外に出る気にはならないらしく、今で私と一緒にお茶を飲んでお菓子をつまんでいた。お菓子はお煎餅。

 

 ばりばりむしゃむしゃ。

 

 うん、おいしい。

 

 お煎餅を一枚食べ終えたところでお茶を啜る。そして、そういえば、と私は切り出した。

 

「ハクトって色んな技を使ってるけど、なんて能力を持っているんだ?」

「んーとね、もぐもぐ」

「妹ちゃん、おかーさんがいつも食べてから喋りなさいって言ってるでしょ」

「ごめんね妹ちゃん、ごっくん」

「わかればよろしい」

「ハクトの能力は『夢を見る程度の能力』って言うのだ」

「『夢を見る程度』?」

 

 私は首を傾げる。「夢を見る程度の能力」とは一体どんな能力なのだろう。言葉からは想像しにくいぞ。

 

「そうそう、ハクトが言うには『簡単に言うと思い浮かべたことができる』らしいけど――」

「それは凄い強そうな能力だ。これは驚きの表情」

「――多分それが本質じゃないと思う」

「へえ」

「ハクトがいつも使ってる技は、何処かの誰かが使っている技の模倣でしかないんだって。」

「前に逃げた時の『ブリンク!』って叫んでたあれとかか?」

「うんうん。それも、『げえむ』の中の『ひいろお』が使ってる技なんだって」

「ふーん」

「でも、絶対にそれだけじゃないと思うのだ」

「その根拠は何処に?」

「良い匂いがする」

「匂い?」

「暗くて、深くて、底の見えない、黒い匂い」

「なんだそれ」

「だって、そういう匂いなんだもの。そんな匂いがねハクトからするの」

「それがハクトの能力とどう関係するんだ?」

「私が出す闇と同じだけど、違う匂いなの」

「同じだけど違う?こんがらがってきたぞ」

「でもそういう匂いなの。私の能力は『闇を操る程度の能力』って言うのは知っているでしょ?その能力で出す闇と同じで違う匂い」

「ハクトからその匂いがすると」

「うん」

「じゃあ、ハクトの能力は『闇を操る程度の能力』なのか?」

「うーんどうだろ、ハクトから闇が出たことないし……もわっとした黒いのは出してたけど」

 

 ルーミアはうんうんと唸る。私も今までルーミアから聞いた情報をもとに整理してみる。

 

 ハクトが言うには彼の能力は『夢を操る程度の能力』。それは『思い浮かべたことが出来る』。けれどルーミアは彼からは『闇と同じで違う匂い』がしているから、それが関係した能力なのではないかと推測している。

 

「考えたらお腹減ってきた。もぐもぐ」

 

 ルーミアは考えを放棄したようで、お煎餅を食べ始めてしまった。私もよくわからなくなってきたのでお茶を啜る。

 

 ハクトの能力……うーんわからない。彼のことをよく知りたいと思って聞いてみたけれど、なんだかよくわからない深みに嵌ってしまった気分だ。

 

 そういえばと思い出す。

 

「そういえば、ハクトってなんか封印されているんじゃなかったか?」

「あれーそうだっけ?……そういえばそんなことが新聞に書いてあった気がするのだー」

「なのに能力を使えている?一体どういうことなんだ?」

「全くもって意味不明なのだー。まあ、ハクトだし」

「うーん、それで片づけて良いものか……」

 

 うーん、難しいというか、不可思議というか。封印されているのに、能力がつかえている……それとも、封印されて今の能力になっている?うーんわからない。

 

「まあわからないしいっか」

「もぐもぐ、それでいいと思うのだー」

「妹ちゃん、いい加減おかーさんに言いつけるぞ」

「……ごっくん」

「それでよし」

「妹ちゃんが厳しい……」

 

 ルーミアがしょぼんと肩を落とす。

 

「それはともかく、今日のお夕飯は何だろうか」

「お肉がいいな~」

「ルーミアはいつも肉を食べたがるな。こないだもハンバーグや焼き鳥を食べただろ?」

「だってお肉美味しいし」

「……まあ否定はしないけど」

「人間のお肉食べなくなって、余計に食べるようになったかなあ」

「あれ?ルーミアって人食い妖怪なのに人間の肉食べないの?これは驚きの表情」

「昔は食べてたんだけど、ハクトが来てから食べなくなったかなあ」

「へえ、それはどうして?」

「人間の肉を食べるより、ハクトと一緒にご飯を食べる方が美味しいのだ」

 

 ルーミアは嬉しそうに笑った。

 

「それに、ハクトは退治屋なんだから人食い妖怪なんて退治しちゃうでしょ」

「まあ確かに」

「だから私は人間を食べるのを止めたのだ」

「……ルーミアもハクトのことが好きなんだな」

「こころもでしょー」

「べっ、別にそんなことはないぞ」

「……真顔で言われても茶化す気にならないのだ」

「てへぺろ。これは失礼。そういえば、ルーミアはいつからハクトと一緒にいるんだ?」

 

 私は新たな疑問をルーミアに投げかける。

 

「うーん、多分最初から?」

「最初から?」

「ハクトが幻想郷に落ちて来て(・・・・・)、最初に会ったのが私って言ってたから、多分最初からだと思う」

「そうなのか」

「そーなのだー。それで、人里まで行って、なし崩し的に居候することになって、ずうっと一緒かな」

「少し羨ましいな。これは羨望の表情」

「いいでしょー。ハクトの雄姿を沢山見てきたのだ」

「私も見たかったぞ!」

「ハクトのかっこよかったところ……聞きたい?」

「聞きたい!」

「ええとねえ――」

 

 と、そこで家の玄関の扉が開く音がした。誰かが来たのか、それともハクトが帰宅したのか。

 

「私が見てくる」

「いってらっしゃーい」

 

 様子を見に私が玄関まで行くと、そこにはハクトがいた。どうやらいつの間にか外は豪雨になっていたらしく、びっしょりと服を濡らして帰ってきたようだ。

 

「ああくそったれ、これだから外の仕事は嫌なんだ」

「おかえりなさい」

「あん?こころか」

 

 私に気づいたのか彼の赤と青の瞳が私を見つめる。

 

「雨凄いのか?」

「ああ凄い凄い。あまりにも凄いもんで流石に仕事してらんねえから帰ってきた」

「全然気が付かなかった」

「気が付かなかったって寝てたのか?……おら、風呂場まで行くからどけどけ」

「はーい」

 

 言われたとおりに私は玄関から離れ、居間に戻る。そして誰が来たのかルーミアに告げる。

 

「ハクトだった」

「あれ、もう帰ってきたのかー」

「雨凄いから帰ってきたんだって」

「言われて見れば確かに、すごい雨音」

 

 窓の外を見てみれば話し始めた頃にはそうでもなかった雨も、いつの間にか視認できるほど巨大な雨粒となって地面を叩く音がしていた。暫くすると、水分を拭きとったのかハクトが居間へとやってくる。タオルで頭を強引に拭いたのか、触覚のようにひょっこりと髪が立っていた。今日の気分は自宅警備員らしく、「自宅警備員」と書かれた黒いシャツを着ていた。

 

「おかえりハクト」

 

 ルーミアが座ったまま顔をハクトの方に向けて言う。

 

「あぁ、ただいま」

「今日のお夕飯はー?」

「あぁ?……なんも考えてなかったわ」

「えぇ!?そんなあお肉食べたいお肉!」

「お前この間たらふく食ってたじゃねえか!」

「やだやだお肉食べたいもん!」

 

 それほどまでに肉が食べたいのか、頬を膨らませながら足でバタバタと床を叩き駄々をこねる。

 

「駄目ですぅー。もう外出たくないから今日はありあわせの物で済ませますぅー」

「えぇー!!」

「はっは、お前に節制という言葉を教えてやる」

「おかーさんのケチ!」

「そのネタまだ引っ張んのかお前!」

「だっておかーさんみたいだし。こころもそう思うでしょ?」

「うん、思う」

「二人して俺に喧嘩売るたあ、余程俺の恐ろしさを味わいたいと見える。わかってんのか?俺の匙加減でお前らの飯がどうなるか決まるんだぜ」

「!?」

「!?」

「どうやらわかったみたいだなぁ?そういうときはどうするんだ?あん?」

 

 食事の主導権を握っているがために幼気な少女二人にマウントを取る少年が一人いた。

 

 にやにやと嫌らしい顔で、私たちを見下ろす少年が一人いた。

 

 ていうか、ハクトだった。

 

 あまりの横暴さに不満を覚えるが、しかし忘れてはならない。彼の機嫌を損ねれば待っているのはご飯抜き。妖怪である私たちはご飯を食べなくても然したる問題はないが……正直食べられないのはとても悲しい。

 

「わ、私が悪かったのだー」

「わ、私が悪かった」

「気持ちが籠ってない!」

「私が悪かったのだ!」

「私が悪かった!これは反省の表情」

「まだまだ!もう一声!」

「も、もう一声!?」

「もう一声って何?これは困惑の表情」

「いや特にねえわ。満足したし飯作ってくるわ」

「…………」

「…………」

「煎餅湿気らないようしまっとけよ~」

 

 と言ってハクトは台所へと消えていく。ハクトの気まぐれに振り回されて何だか少し疲れた。

 

「何か解せないのだ」

「私も」

「…………」

「…………」

「ハクトの手伝いでもしよっか」

「うん」

 

 何だかんだで今日はハクトの手伝いをして、みんなで仲良くご飯を食べて終わりました、まる。




能力や技の解説は長ったらしい上作者が言いたいことを言っているだけなので、興味ない方は無視してください。

『夢を見る程度の能力』
 黒崎ハクトの能力。ゴリ押しする際にいつも使っている能力。というかゴリ押ししかできない。大抵の場合はこの能力を使えばどうにかなる。例外は悪意や敵意、害意のない不意打ちや事故。能動的にしかこの能力を使うことはできないので、不意打ちや事故で即死した場合は何もできずに死ぬ……かも?あとは反応できない速度の攻撃にも滅法弱い。
 基本的には漫画やゲームや小説、アニメの技を再現する。そのため理論上(この能力に理論もなにもないが)全ての技を使えることになる。幻想郷の住人の技もコピー可能。全ての技を使えるということで、2chの強さランキング上位の技も使えるが……一定以上の破壊力を持つ技は周辺環境に多大なダメージを与えるため使用しない。例えば天元突破グレンラガンの技使ったら銀河が滅ぶ。自重しようね。また、防御力は紙なので、強さランキング上位勢には引き分けることこそあるものの、勝つことはない。尖がっててもだめなのよ。
 尚、この状態で封印状態である。ただ、封印が解けたら強くなるのかと言われればそうとも言い切れない。
 また、一度使った技は連続して使用できない上に、矛盾するようだが全ての技を使えるわけではない。あくまで理論上は全ての技を使えるだけで、使う技は作者の匙加減で決まる。実際は修行のようなイメージトレーニングが必要。そのため、風見幽香との戦いは能力によるゴリ押しだけでは勝つことが出来なかった。
 ちなみに、なんか強そうな技あったら教えてください気に入ったら使わせます(バトルで使うとは限らない)。
 ※追記 技だけじゃなく武器防具も再現できます。その場合は一定時間で消滅。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

通話:サダメによる報告

一週間以内に更新したいと思って即興で書いたが後悔はしていない、後悔はしている。

今回の話は蛇足且つ東方のキャラはほぼ登場しないので、正直読まなくてもいいと思うよ!

あと今回は即興なので短めです。

あとほぼ会話であまりにも読みにくいので改行入れました。


 この幻想郷において、あるはずのない音が鳴り響く。それは「着信音」だった。彼は無造作に懐から「スマートフォン」を取り出し耳を当てる。

 

 幻想郷に「着信」があるのはおかしい?

 

 じゃあ、それに類する魔法の類のものとしよう。

 

 この時代に「スマートフォン」はない?

 

 では、それと似たようなものとしよう。

 

 彼ら(・・)の技術は、認識は、果たしてその時代に準じたものであるのだろうかという疑問が残るが。

 

 以下、会話内容。

 

「もしもしハクトです」

 

『あぁーハクトひっさしぶりー。サダメでーっす』

 

「んだよサダメかよ。なんか用?」

 

『そりゃ用があるからに決まってるじゃーん』

 

「お前なら用がなくてもかけてきそうだと思ったんだよこのクソロリ上司」

 

『ひっどーい。私はそんな暇じゃないよー。あと次に私のことをロリと言ったら殺すぞ』

 

「うるせえロリ。で、用件は?」

 

『殺した。べっつにー言わなくてもいいと思うんだけどさー。彼女がいなくなっちゃったんだよねー』

 

「……あいつが?」

 

『そうそうあいつが。彼女が。いなくなっちゃったー』

 

「……俺はよろしく頼むっつったはずだけど?」

 

『ごめんごめん。流石の私でも彼女の運命は制御できなくてさー逃げられちゃったんだよねー』

 

「『黒裂』が聞いてあきれるぜ。んで、どこ行ったんだよ」

 

『そりゃ君んとこ』

 

「……やっぱり?」

 

『そりゃもちろん。彼女にかかれば幻想郷にばれないように侵入するなんてお茶の子さいさいだしねー』

 

「あ゛ぁーマジかよ。めんどくせえ。あんなに言って聞かせたのによ」

 

『やっぱりさあ、最初から連れていけばよかったんじゃない?そうすれば君の仕事ももう少し楽になったと思うよ?』

 

「アホかお前。だからロリなんだよクソ上司。俺があいつの力に頼って仕事して、満足できると思うのか?」

 

『さっちゃん呼ぶぞ。まあできないよねー。ハクト、そういうところ頑固だし。でも彼女も頑固だよー?どうすんのさ』

 

「さっちゃんは勘弁してくれいやほんとに。まあなんとかなるだろ。最悪、あいつは俺のことを遠目で見て満足するまである」

 

『まあ確かにそうだけどさー。いやほんとお熱いことだよねー。結婚式いつ?」

 

「しねえよ殺すぞ滅ぼすぞ終わらせるぞ」

 

『冗談でもないんだよねーこれが。魔王アザトースの血が、魂が、その存在が、『黒裂』に入ったらヤバそうじゃない?」

 

「――あいつはアザトースなんてちゃちなもんじゃねえよ」

 

『まあ確かに。私も彼女の存在を計りかねているけどさー。一体何なの彼女。ていうか彼女を彼女足らしめた「初代」様はマジで何者?』

 

「んなもん俺が知るかよ。で、言いたいことはそれだけか?それなら切るんだけど」

 

『いやいやだからさ、彼女が遠目で見て満足するならいいんだけど……すると思う?』

 

「五分五分」

 

『君、彼女のこととなると意外と判断鈍いよね。私的には確実に何かやらかすと思うだよねー』

 

「……ふぅん」

 

『あら、意外と素っ気ない反応。いいのそんな反応で?2ch最強ランキング堂々一位になってもおかしくないような人だよ?世界どころか宇宙どころか、この小説すら消滅するぜ?』

 

「はいはいメタ乙。流石アカシックレコードの外を見る者。ていうかお前2ch見るの?俺そっちの方が驚きなんだけど」

 

『見る見る見るよー。最強ランキング見て、「やべえなこいつ、私より強いじゃん」って言って修練するまでがテンプレ』

 

「お前修練とかするんだ」

 

『するするするよー。私は天才だけど努力もするからねー。どっかの博麗の巫女とは違うのだよ。お陰様で、さっちゃんと五分までもってけたしねー』

 

「マジ!?さっちゃん五分!?お前人間じゃねえ!」

 

『はいはいはいテンプレ乙。私は人間でーす。ちなみにこの間は、アカシックレコード殺されて何も出来ずにやられちゃいましたー』

 

「なぁ、サダメ。俺、さっちゃん怖い。あの能力マジで怖い。何だよ『有限たる無限ならず無限なる無限を殺す』って。意味わかんねーよおかしいだろ。『直死の魔眼』よりやべーよ。多分あいつ(・・・)も殺せるよ」

 

『わかるわかるわかるよー。私もよくわかる。五分は正直盛ってるもん。ていうか一分もない。「黒裂」最強はどうあがいてもさっちゃんだろうねー。勝てる未来が見当たらない』

 

「……俺もさあ、男の子だから最強を夢見るわけよ。でもさあ、さっちゃんにはどうあがいても勝てるビジョンが思い浮かばない。お前あれだぞ?俺とあいつのタッグで戦っても勝てる気がしねえんだけど。もうさっちゃんが『この世全ての頂点』でいいよ」

 

『ほんとそれ』

 

「わかる」

 

『それな』

 

「……で、世間話もこんなもんか?そろそろ居候共が俺の体に張り付いてうずうずとした目で俺のことを見上げているんだけど」

 

『居候?……あぁ、ルーミアちゃんとこころちゃんか。うへへ、またかわいい子を誑し込んだものだね。私の抱き枕になってもらいたい。特にこころちゃん。あのね、その無表情な表情でね、私の愛を受け取ってほしいの』

 

「何で知ってんの……って能力か。弟さんに言いつけんぞ」

 

『あの、あの、それだけは本当に勘弁して。最近ね。私の買ってきたキャラクターものの抱き枕をね。「姉さんがオタクになってしまった」って言いながら燃やし始めたの。最近買ってきたのはどうにか隠し通してるんだけどね……』

 

「なんなのあいつオタクになんか恨みでもあるの殺してやる!」

 

『殺すのはともかくねどうにかしてほしい……』

 

「オタク同盟の名に懸けて懲らしめてやる!」

 

『頼んだよハクト……一応君がいない間に発売された君のお気に入りのゲームとか小説とかの続編は買ってあるからさ』

 

「ありがとう神様一生あなたについて行きます!あと紫経由で送ってくれたらもっと崇め称える!」

 

『流石にそれは難しいかな……あんまりそちらの文化レベルを逸脱したものは遅れないからね……』

 

「そうか……ちなみにさ、『すばらしきこのせかい』の続編は?」

 

『2018年……つまり未来にリメイク版が任天堂Switchに発表されたのみ』

 

「俺……不老になるわ」

 

『ゲームの為に不老になる……うんありだと思う』

 

「一緒にゲーム社会の発展を見守っていこうな」

 

『うん……うん……君こそが私の唯一の同士だ』

 

「ところで、そろそろ切っていい?」

 

『あっ、うんいいよ』

 

「じゃ、またなんかあったらよろしくな」

 

『はーいばいばーい』

 

 以上、会話内容。

 

 がちゃり。通話の切れる音。ハクトは手に持った「スマートフォン」を懐にしまい込む。それを機にハクトに抱き着いていたこころが声をかけた。

 

「ハクト……辛いことがあったら私たちに話せ。私たちはお前の味方だからな」

 

「なんでだよ俺が独り言喋ってたみたいじゃねーか!ちげえよ!遠距離の相手と話してたんだよ!そういうマジックアイテムなの!」

 

「そーなのかー心配して損したー」

 

「なんだ、心配して損した」

 

「心配してくれてありがとうとでも言えばいいのかよ……」

 

 ハクトに抱き着いてたこころとルーミアが離れる。離れていくこころが、そういえば、と口にする。

 

「あいつって誰?」

 

 ハクトは、面倒くさそうに返答するのだった。

 

「……あぁ、白くて魔王でヤンデレで、一途な女の子だよ」

 

 そう言って、ついでにこころの頭を撫でたのであった。

 




今回は技はないので登場人物(人じゃないのもいるが)の解説

『ハクト』
あいつとは家族のような関係。もしくはそれより近い。ゲームしたい。やべーやつ。

『サダメ』
ハクトにとってクソロリ上司。オタク。某紅い悪魔のように運命を操れそう。
可愛い子が大好き。やべーやつ。

『弟』
オタクグッズを燃やすやべーやつ。

『あいつ』
あいつ。勝手にいなくなっちゃった。一番やべーやつ。

『さっちゃん』
最強。なんでも殺すぜ!やべーやつ。

『直死の魔眼』
死を視覚情報として捉えることのできる眼。所持している人によって性能に差異がある。TYPE-MOON出典のやべー眼。尚『さっちゃん』は持っていない。

『黒裂』
ハクトやサダメ、さっちゃんの総称。やべーやつら。

『初代』
あいつをあいつ足らしめたやべーやつ。

『魔王アザトース』
ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの作品における神、魔王、造物主。
万物の王である盲目にして白痴の神アザトホース。
クトゥルフ神話のやべーやつ。宇宙創世とかしてる。この世はアザトースの夢であるともされる。やべーやつ。

『作者(出てない)』
すばらしきこのせかいの続編まだ?こんなわかりにくい小説を書いたやべーやつ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。