遊☆戯☆王 マリク・リンクス!! (ゼロん)
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プロローグ 『デュエルリンクスへようこそ』

デュエルリンクスをやっていたら書きたくなりました。
ゲートで闇マリク登場! やったね!






 バトルシティ、決勝戦。闇マリクと闇遊戯との戦いはついに決着の時を迎える。

 

 表人格のマリクによる降参(サレンダー)によって。

 

「お、おい! 主人格様よぉ? まだライフポイントは1残っている!! 1ポイントでもあればデュエルに勝つ可能性がある! 馬鹿な真似はよせ!!」

 

 互いの人格の消滅をかけた闇のゲーム。最初は生贄となりかけていた表人格のマリクは、遊戯の奇策によりついに肉体の主導権を取り戻した。今生贄となって消えかけているのは闇人格のマリクだ。片目だけが残り、不気味にうごめいている。

 

「僕が生み出してしまった闇の人格よ。……もう終わりにしよう。イシュタール家の三千年の闇と共に」

「よ、よせ、やめろぉぉぉ!!!」

 

 表人格のマリクはデッキに自分の片手を乗せ、降参の意を示す。

 

「消え失せろ! 僕自身の闇よ!!」

「ーーッッ!! うぁぁぁぁっっ……ッッ!!!!」

 

 片目だけとなっていたマリクの闇人格は闇に溶けていく。自らが生み出し増幅させた心の闇に、彼は飲み込まれてしまったのだ。

 

 そして……バトルシティの優勝者は武藤 遊戯に決まり、戦いの幕は一度閉じる。

 

「やったな……マリク。お前の生きる意志が闇の人格に打ち勝ったんだ」

「遊戯……いやファラオの魂よ。僕の完全なる敗北だ。礼を言わせてくれ」

 

 イシズは元に戻ったマリクの元へ駆け寄る。

 

「マリク! 怪我は大丈夫なのですか!?」

「姉さん……それにリシドも、心配をかけたね」

「マリク様……」

 

 マリクの闇人格は消滅し、姉のイシズ、使用人であるリシドと共に改めてイシュタール家として……マリクは新たな一歩を踏み出した。

 

 --はずだった。

 

『ふふふ……フハハハハ……この俺が……簡単に消えるとでも、思っていたのかぁ……? 主人格様よぉぉ?」

 

「ッッ!?」

 

 

 

 ====================================

 

 

 

 遊戯が闘いの儀を終え、藍神の騒動から数年。

 

「社長! ついに……ついに完成いたしました!!」

「ほぅ……いよいよか。随分とこの俺を待たせたな」

 

 新型デュエルディスクの開発により、海馬コーポレーションはさらに強大化。今や世界有数のトップ企業の一つとなっていた。

 

「これが……『デュエルリンクス』完成形です!」

 

 研究員の一人が白銀のコートを着た青年、海馬瀬人(かいばせと)に目の前のスクリーンを見せる。海馬は感動した様子でスクリーンに映し出された都市を眺める。

 

「これがデュエルリンクス……電脳空間に作られた究極の決闘世界(デュエルワールド)……」

(にい)様……いよいよだね」

 

 海馬の横にいる白銀のスーツの少年。瀬人の弟、海馬モクバは満面の笑みで瀬戸の方に身体を向ける。

 彼の笑顔に海馬は普段他人に見せることのない笑みを浮かべる。

 

「あぁ。これで俺たちの新たな夢が現実のものとなる」

 

 まだ海馬がモクバと共に孤児院にいた頃の二人の夢。『身寄りのない子供達でも遊べる遊園地を作る』。その夢がかなった後、二人は世界中のいかなる人種、身分、貧しい子供たちが遊べる世界を作ることを目標としたのだ。

 

「まったく……随分と大きくなったものだ。磯野!」

「はっ! 瀬人様。いかがなさいましたでしょうか?」

「世界の貧困率はどうなっている? それと孤児の割合は」

 

 海馬の側近である黒スーツの男、磯野はスマートフォンで毎分単位で更新されているデータを確認する。

 

「両方とも10%となっています」

「ふん、まだ多いな。該当地域は分かっているな?」

 

 さらに巨大化した海馬コーポレーションは孤児やストリートチルドレンに対する支援も行っていた。過去に50%以上を占めていた貧困率も海馬瀬戸の手腕で今や10%ほどにまで減少していた。

 特に身寄りのない子供や、貧しい家庭には支援を優先させる形で。

 

「その地域の子供達にもこの最新型デュエルディスクを送れ。タダでな」

 

 研究員達が『デュエルリンクス』にアクセスするための機器を海馬の前に持ってくる。

 

「かしこまりました。しかし瀬人様……カードまでは遅れませぬが……」

「必要ない」

 

 海馬はふっと笑い、スクリーンに映し出された電脳決闘世界に指を向けた。

 

 

「すべてのカードは……この中にある」

 

 

 --遊戯……貴様との決着にふさわしい舞台は、この俺が整えてやったぞ。

 

 

 ======================

 

 

『デュエルリンクス』は見事に大ヒット。今や電脳決闘世界(デュエルワールド)は世界中のデュエリストが集まる人種も貧富もない理想郷となっていた。

 

「すごいね……姉さん」

 

 イシュタール家も『デュエルリンクス』の招待券である接続用のヘッドデバイス、最新型デュエルディスクを送付されていた。最新型は試作段階よりも軽量化が進み、過去に比べサイバーチックなデザインになっている。

 マリク、リシド、イシズも現在その最新型を着用している。

 

「えぇ、そうねマリク。貧富も人種も関係ない……あの横暴極まりない瀬人でもこんな素晴らしいものを作れるのですね」

「イシズ様、海馬瀬人が黙って葬祭殿を発掘したことをまだ怒って--」

「……何のことですか、リシド」

 

 笑いながら怒気を放つイシズにリシドとマリクはだじだじになってしまう。

 

「そ、それよりも! あそこにカードショップがあるよ! リシド、ちょっと見て行かないかい?」

「そうですねマリク様。ではイシズ様。私もマリク様についていきますので」

「あ! 待ちなさい! マリク! リシド!!」

 

 その場から逃げ去るようにマリクとリシドはカードショップへ向かう。平和そうな三人を見つめる一つの影。

 

 

「総帥。見つけました」

『--ご苦労。そのまま隙を見て二人を連れ去ってください』

「ははっ!」

 

 

 ======================

 

 

「リシド、このパックはどうだ?」

「うむ……これならハズレが出ても強力なデッキが作れそうですね」

 

『ほ~ぅ、目の付け所はいいじゃねぇか主人格様よぉ』

 

 --!?

 

 マリクの目の前にはいつぞやの闇人格の姿がうっすらと映し出されていた。リシドを含め周りの人には見えていない様子だ。

 

『ハズレ雑魚モンスター、一体の攻撃力が1,700以上。レアカードの効果もまぁまぁ……なかなか初心者にはいいパックじゃねぇか』

 

 --お前! 僕に口出しするんじゃない!

 

『まぁ、ゲーム内通貨(ジェム)がなきゃ買えねぇがなぁ?』

 

 マリクは闇人格の指摘に反対しようと、通貨確認画面を広げる。中身は……ゼロ。

 闇人格は『フハハハハ』と高笑いをあげ、主人格をあざ笑っている。

 

「……」

「マリク様、通貨は……」

「ないよ。リシド」

 

 この時ほどマリクは惨めな思いを味わったことがなかったという。




作者ページの活動報告で3話以降のマリクとの対戦相手を決めるアンケートを行っております! 興味ある方はぜひ!


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闇マリクvs《エグゾディア》レアハンター

先に言っておきます、ミスがあったらすまぬ!
意外と時間がかかるんだねデュエル小説って。





「結局カードは買えなかった……」

 

 唯一手に入れたのは店主が慈悲でくれた一枚のモンスターカードのみだった。

 

「しかも手に入った唯一のカードがこれか……」

 

 マリクは一枚のカードを目の位置まで持ち上げる。そのカードの絵には生きた万力が赤い電気を放出しているような魔物の絵が描かれていた。

 

 ――『万力魔神(まんりきまじん)バイサー・デス』。僕の闇人格が好んで使っていた拷問モンスター。はっきり言って悪趣味だ。

 

 顔をしかめるマリクにリシドは『まぁまぁ』となだめる。

 

「最低限のカードはデッキに入っているみたいですね。一応参加者は必ず一枚レアカードが初期のデッキに入っているようです」

 

 リシドは自分のデッキに入っていたカード、『アポピスの化身』をマリクに見せる。デュエルリンクスの世界ではウルトラレアカード。つまり最高ランクのレアカードだ。

 

「どれどれ、僕のは……ッッ!」

 

 マリクがデュエルディスクからデッキを取り出す前に何者かに襲われてしまう。

 

「が、ぐぁ……!!」

「マリク様! ぐぅッッ!?」

 

 マリクに続き、リシドも襲われ気を失ってしまう。マリク達を襲った黒布の男たちは彼らを連れ去って行ってしまった。

 

 

 ====================

 

「う、こ、ここは……!?」

 

『お久しぶりです。マリク様』

 

 声の主の方に顔を向けると、そこにはかつてマリクが結成したレアカード犯罪集団『グールズ』のレアハンターたちがいた。

 

「お前たちは! レアハンターの……!!」

「えぇ、懐かしいですな。元総帥」

 

 レアハンターの中でもやせぎすの男が前に出てくる。

 

「元……? グールズはもう……」

「はい。一度は壊滅しました。しかし、新たな総帥の元で再び『グールズ』は蘇ったのです」

 

 やせぎすのレアハンターは両手を広げ、高らかに声をあげる。

 

「ちなみにここには誰も助けに来てくれませんよ? ここは裏デュエル空間。我々が作った非公式の電脳空間ですからねぇ」

 

「元の技術さえ盗めばお手の物」

 

 ――なるほど……今度は『デュエルリンクス』の中で違法行為を極秘裏に行うつもりか。

 

「その新たな総帥というのはだれだ?」

「言う必要はありません、なぜなら……」

 

 レアハンターたちは醜悪な笑みを浮かべ、後ろを振り返る。そこには全身を切り裂かれ、重傷を負ったリシドがいた。

 

「り、リシド……!!」

 

 マリクの目が絶望と底知れぬ怒りに染まる。

 

「あなたも、()()ゴミのように我々にいたぶられるのですから!!」

「き……貴様ら……よくも、よくもぉッッ!」

 

 下品な笑い声を上げ、レアハンターたちはデュエルディスクを構える。

 

 ――ッッ!?

 

 マリクの怒りが頂点に達した瞬間、彼の頭を鋭い痛みが襲う。

 

「う……!! ぐぁ……! うぐぁあ……!」

「な、なんだ? こいつ急に様子が……」

 

 レアハンターは急に苦しみだしたマリクに驚き、唖然としている。次の瞬間、マリクの動きがピタリと止まる。ゆっくりとレアハンターたちに視線を戻すマリク。

 

「……ふふふ」

「……?」

 

 様子がおかしいマリクにレアハンターたちは怯む。

 

「ふ、フハハハハハッッ!! ついに! ついにやったぜ! 再びこの肉体の主導権は()のものだぁ!! フハハハハハッッァァ!!」

 

「!? よ、様子が変だぞ……?」

 

 マリクは満足げに彼の腰につけられていた千年アイテム……千年ロッドを手に取ってまじまじと見つめる。

 

「ほぅ~、海馬のやつもなかなか粋なマネをするじゃないか。この俺に再び千年ロッドを持たせるとはなぁ」

 

 ――だが海馬がこの千年ロッドを作り出し、俺に渡す……ということは、間違いなくこれは偽物のはず。

 

 しかし、マリクは自分が今持っている千年ロッドが偽物だとはとても思えなかった。

 

「マ、マリク様のひ、額に目の紋様が……!!」

「い、いったい……何が……」

 

「ん、そうか。貴様らには主人格様に俺の存在を教えてもらってなかったなぁ……くくっふふははっ……」

 

 マリクの闇人格、闇マリクの額にはハッキリとヴィジャド眼の紋様が光を放ち、レアハンターの周りをどす黒い闇が覆っていた。

 

 闇マリクとなった今のマリクの姿は、以前とは完全に別人だ。

 

「さぁて……復活祝いに誰を闇の生贄にしてやろうか……ふぁははは……ッ!」

 

 髪は逆立ち、その瞳には表の人格にはないほどのすさまじい狂気に満ちていた。闇マリクは喜悦に顔を歪め、ちらりとレアハンターたちを見つめる。

 

「へ、へっ! 笑わせやがって……クズカードしか入っていないデッキでやれるものならやってみるがいい!!」

 

 やせぎすの男がデュエルディスクを構え、前に出る。闇マリクは『決まりだなぁ』とやせぎすのレアハンターの勝負を受けデッキをディスクにセットする。

 

『デュエル!!』

 

 互いの新型デュエルディスクから青の閃光が交差する。

 

「私のターン!」

 

 レアハンター:手札 4枚

 

 ――くく、貴様ごとき私の《エグゾディア》デッキで粉砕してくれる……!

 

 レアハンター:手札 4枚→3枚

 

「私はモンスターをセットし! ターンエンド!」

 

 レアハンターのフィールドに裏守備表示のモンスターが浮かび上がる。『それだけかぁ?』と闇マリクは笑い声をあげデッキに手を伸ばす。

 

「俺のターン! カードドロー」

 

 闇マリク:手札 4枚→5枚

 

 ――デュエルリンクスのルールでは、デッキは最低20枚。モンスター、魔法、罠はフィールド魔法を除き3枚まで……ふふふ。貴様の戦術がモノを言わせる環境じゃないか。

 

 闇マリクはピンッと自分の持つカードを指ではじく。

 

 闇マリク:手札 5枚→4枚

 

「行くぞ!! 『三ツ首(みつくび)のギドー』を攻撃表示で召喚!」

 

 《三ツ首(みつくび)のギドー》悪魔族/通常モンスター

 ATK/1200 DEF/1400

 

 闇マリクのフィールドに仮面を被った三つ首の怪物が姿を現す。『けけけ』と不気味な声をあげている。今にもレアハンターに飛びかかっていきそうだ。

 

「は、はは! たった攻撃力1200のモンスターに何ができるというんだ!」

 

「さぁて……何ができるかねぇ……。バトルだ! 『三ツ首(みつくび)のギドー』! ヤツの守備モンスターを攻撃ぃ!!」

 

 マリクのモンスターは『ギャギャギャ!』と叫び声をあげレアハンターのセットモンスターに飛びかかる。

 

 自分のモンスターが攻撃されるというのに、レアハンターは余裕の笑みを浮かべている。

 

「くく……私のセットしたモンスターは……『幻影の壁』!! 守備力1850だ!」

 

 レアハンターのセットモンスターが《三ツ首(みつくび)のギドー》に攻撃された瞬間、巨大な人面壁、《幻影の壁》がフィールドに姿を現す。《三ツ首(みつくび)のギドー》は『ギャギャァ!?』と驚きの悲鳴をあげ、壁に吸収されてしまう。

 

「『幻影の壁』と戦闘したモンスターは持ち主の手札に戻る! ふふふ、これでお前のフィールドはガラ空きだ!!」

 

 ――さぁ、焦れ。私のモンスターのダイレクトアタックがくる、来てしまう、と!

 

「ふ、フハハハハ……。なかなか味な真似をしてくれるじゃないか……フへへへァ……」

 

 ――ッッ!? な、なんで……なぜ笑う?

 

 闇マリクはなんてことないと言った風に不気味に笑う。戦闘に負けたことでマリクのライフが減っていく。

 

 闇マリク LP:4000→3350

 

 圧倒的に不利な状況で不気味な笑みを浮かべるマリクに動揺するレアハンター。まるで先程までフィールドにいた『三ツ首(みつくび)のギドー』がその持ち主に乗り移ったかのようだ。

 

 ――少なくても私の知るマリク様はこんな気持ちの悪い笑みを浮かべなかったぞ……!?

 

「さぁて……『デュエルリンクス』ではバトルフェイズの後のメインフェイズ2はない。これで俺はターン! エンドだ! さあ! 貴様のターンだ!!」

 

「くっ……わ、私のターン」

 

 レアハンター:手札 3枚→4枚

 

 やせぎすのレアハンターは苛立ち気味にデッキからカードをドローする。手札には《エグゾディア》のパーツカードが1枚。

 

 ――な、なに。ビビることはない。ヤツのデッキに入っているのは所詮、雑魚モンスター。それに……

 

 やせぎすのレアハンターは自分の目につけた特殊コンタクトレンズでデッキのカードを見つめる。

 彼はデッキの上から何番目に《エグゾディア》のパーツカードがあるかがわかるのだ。

 

 ――私の手札にあるのは『封印されし者の左腕』! 残りの《エグゾディア》パーツはあと7ターンで揃う! それまで耐え忍べば私の勝ちだ。

 

 自身に満ちた目でマリクを見つめるも、逆に嘲るようにマリクはレアハンターを鼻で笑う。

 

「貴様のデッキなんぞ、すでに見破っているよ……フフフ……」

 

 ――くっ……だが貴様のデッキに私の壁モンスターを突破できるほどのモンスターなんていないはずだ。だが……

 

 レアハンターは冷や汗を額に浮かべ、手札のモンスターカードに手を伸ばす。

 

 ――相手は腐っても元グールズ総帥。油断するわけにはいかない。

 

「マリク様! あなたは7ターン後! 後悔することになりますよ!!」

 

 レアハンター:手札 4枚→2枚

 

「モンスターを裏守備表示!」 

 

 レアハンターのフィールドに守備表示のカードが浮かび上がる。まだカードの真の姿は見えない。

 しかし、レアハンターのターンはこれだけでは終わらない。

 

「さらに魔法カード! 『強欲なカケラ』を発動!」

 

 レアハンターは『くくく』と笑いながらもう一枚のカードをディスクに表側表示でセットする。

 

「2ターン後の自分のターン、私は通常のドローに加え! このカードを墓地に送ることでもう2枚カードをドローできる!! 私のターンは終了だ!」

 

 ――なるほどねぇ。早めに《エグゾディア》を手札に加えるつもり、と。

 

 闇マリクは主人格の記憶を通し、すでに目の前の相手の戦術を見破っていた。ちらりとマリクは自分の持つ手札に視線を移す。

 彼の持つ手札()()は全て攻撃力1400以下、守備力も最大で1000ポイントのモンスターカードだ。

 

 ――だが貴様はもう終わっているんだよ。俺の手札にこのカードがある時点でなぁ……。

 

「俺のターン!!」

 

 闇マリク:手札 4枚→5枚

 

 マリクはカードをドローし、ニンマリと笑う。

 

「喜べよぉ……これで貴様の闇行きは確定した。しかも、わりとえげつない方法でなぁ……」

 

「な、バカな!! 貴様のデッキにはロクな攻撃力のモンスターは入っていないはず!! 私の壁モンスターを突破できるわけがない!!」

 

「……確かに。今の俺のデッキでは貴様のフィールドにいる『幻影の壁』。守備力1850を超えるモンスターを、()()()()()()()には召喚はできない」

 

 追い詰められているというのに『フフフ』と笑い、レアハンターのモンスターに指をさすマリク。

 

「それにそのリバースモンスターもそれなりの守備力を持っているんだろう?」

 

 マリクがデュエルディスクにセットしたのは……主人格の初期デッキに入っていた、たった一枚のウルトラレアカード。

 

「な……? わ、私のモンスターが……!」

 

 レアハンターのフィールドにいた『幻影の壁』と、伏せたはずの『ビッグシールドガードナー』が、突然溶岩に飲み込まれ溶けていく。

 

「な、なにをした!?」

「そう焦るなよ。ただ『生贄』にしただけだ……!」

 

 レアハンターが怪訝そうな顏をした瞬間。溶岩に飲み込まれた彼のモンスターと同じように彼の全身が燃え、足が溶岩に溶けていく。

 

「う、うぁぁぁあああああああああッッ!!! い。いやだぁ!! た、助けてくれぇ!!」

 

「ハハハハハハッッ!! ――ッッ、いいねぇ! 心地いいよ! もっと苦痛の叫びをあげろぉ!! フハハハハハッッ!」

 

 悶え苦しむレアハンターを見て爆笑する闇マリク。なんと猟奇的で残酷なのだろうか。試合を観戦しているレアハンター達もつい目を背けてしまう。

 

 ――これは闇のゲーム。幻想が実態となり、モンスターの苦痛はプレイヤーにも襲い掛かる。まさに『死のゲーム』。

 

「が、あぐぁッッ! 殺す……殺してやるこのガキィ……!!」

「いいね……その表情。そそるぜぇ」

 

 憎しみに満ちた目でレアハンターはマリクをにらみつける。だがマリクは怯えるどころか、彼の反応を嬉々として嗤う。

 

「もっとだ! もっと憎しみを抱け! それが極上のスパイスになる!!」

 

 そして突如レアハンターのフィールドに出現し、彼のモンスターを飲み込んでいった溶岩が隆起し生き物のようにうごめく。

 

「さぁ! よく見な!!」

 

 レアハンターは驚愕に目を見開き、目の前に現れた巨大な溶岩の魔神を見上げる。

 

「な、なんだ……?」

「こいつは貴様のモンスター2体を生贄にして、貴様のしもべとなるのさ!!」

 

 

 ――うぼぁぁぁあぁぁあああああ…………ッッ!!!

 

 

 世にもおぞましい雄たけびをあげ、魔神の姿が露わになる。溶岩で出来た胴体には蠢く骸骨に、ゆらゆらと揺れる鉄檻。くさびをいくつも撃ち込まれた、その巨大な姿は見るだけでも嫌悪感を沸かせる。

 

 

「『溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム』!!」

 

 

 《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》悪魔族/効果モンスター

 ATK/3000 DEF/2500

 

「こ、攻撃力3000……? こ、こ、こんなバカな」

 

「おっと! 勘違いするなよ。それは貴様のしもべだって言っただろう? 喜べよォ、攻撃力3000のモンスターを操れるんだぞ?」

 

 ――私が、操る……?

 

 レアハンターは手札にある他のモンスターを見つめる。

 

 ――こいつの攻撃力はたった500だが……。マリクのライフは3350。これでダイレクトアタックが通れば……!!

 

「《ラヴァ・ゴーレム》を召喚するこのターン、俺は他のモンスターを召喚できない」

 

 マリクは一枚リバースカードを伏せ、ターンを終了させた。

 

「……!! 私の、ターン!」

 

 レアハンターは手札にきた『封印されしエグゾディア』を見てニヤリと笑う。『強欲のカケラ』の発動は次のターン。そうなればどの道あと4ターンで《エグゾディア》は揃い、レアハンターの勝利は確定する。

 

「ラヴァ・ゴーレムの効果で、貴様は自分のスタンバイフェイズに1000ポイントのライフを削られ――」

 

「構わん!! これでどの道、貴様は終わりだぁ!!」

 

 レアハンターは攻撃力500のモンスターを召喚し、バトルフェイズに移る。

 

 レアハンター:LP 4000→3000

 

「死ねぇ!! 『ラヴァ・ゴーレム』でダイレクトアタック!! ゴーレム・ヴォルケイノォ!!」

 

『ラヴァ・ゴーレム』は両手から火球を生み出し、マリクに一斉投擲。トドメに口から溶岩ブレスを放ち、レアハンターが召喚したモンスターもマリクに攻撃を仕掛ける。

 

 マリクは苦痛に顔を歪め、『ラヴァ・ゴーレム』の攻撃のせいで全身から煙があがっている。

 

「ハハハッ!! バカめ!! なぜ私にモンスターを渡したのか知らんが、負けたのはお前の方だったな、クソガキ!!」

 

 口から煙を吹くマリクに対して唾を飛ばし、レアハンターは高笑いをあげる。試合を観戦していた他のレアハンターも『驚かせやがって』と安堵の表情を見せる。

 

「どうだ!? あぁ? 何か言ってみろよ元総帥よぉ! ハハハハハ!!」

 

「……ぃい」

「あ?」

 

 伏せられていたマリクの顔が徐々に持ち上がっていく。

 

「気持ちいいぜぇ!! デュエルが思い通りに進むのはなぁッッ!!!!」

 

 歪み切ったマリクの顔はこの場にいる全員に恐怖を与えた。

 

「……は?」

「俺のターン!!!」

 

 ――ど、どうして……もうマリクのライフはゼ――

 

 闇マリク:LP 3350→2850

 

「随分と焦っていて気づかなかったようだからなぁ……説明してやるよ。俺は貴様のメインフェイズ終了前にこいつを発動していたのさ」

 

 マリクは自分のフィールドにわずかに残った、燃える黒蛇の肉片に指をさす。それは……リシドが持っていたウルトラレアカード、罠モンスター『アポピスの化身』。

 

「『アポピスの化身』は相手か自分のメインフェイズに発動できる永続罠(えいぞくトラップ)。このカードは守備力1800のモンスターとなり、俺のフィールドに特殊召喚される。さっき『ラヴァ・ゴーレム』の攻撃を受けたのは、こいつさ」

 

「な、じゃ、じゃあ……」

 

 やせぎすのレアハンターはわなわなとふるえる指で自分のフィールドにいる攻撃力500のモンスターをさす。

 

「そう、俺が受けたのは……攻撃力500のモンスターのダイレクトアタックのみ」

 

 よって、デュエルは続行。

 バトルフェイズにできることが何もなくなったレアハンターはターンエンド。

 

 ――リシドからカードをくすねておいて正解だったぜ。

 

「……ぁああ」

「ほぅ、どうやらバカではないらしいなぁ」

 

 ――ようやく気づいたか。貴様のデッキ構築ミスに。

 

「貴様は、《エグゾディア》に頼りすぎたんだよ。『デュエルモンスターズ』には優れた守備力をもつレベル4以下のモンスターは、貧弱な攻撃力しかもたない」

 

 どんなモンスターにもメリット・デメリットが存在する。それを構築で補い合うのが強きデュエリストだ。

 

「つまり、俺のデッキにある雑魚モンスターでも貴様の攻撃は防ぎきれるわけさ。元々、貴様のデッキは、相手のライフをゼロにするデッキじゃないだろうぉ?」

 

 ――トラップが少なすぎる。魔法も最低限、ドローに必要な物しか入っていない。デッキの枚数が30枚まであるとはいえど、余計なカードは入れられない。

 

「肝心のエグゾディアが来なくなっちまうからなぁ、フハハハハハッッ!!」

 

「うぁぁぁ……」

 

 マリクはモンスターをセットし、絶望しきり泣き崩れるレアハンターをニヤニヤと見つめる。

 

「さぁ! 貴様に残されたのはあと3ターン!! どうにかして《エグゾディア》をそろえてみろよォ!! フハハハハハッッ!!」

 

 ――まぁ無理だろうな。『強欲の欠片』を引く前に『あと7ターン』と貴様は言った。見えているんだろう? 貴様のデッキのどこにエグゾディアがあるのかを。

 

「ターンエンド!」

 

「わ、わたしの……私のた、-ん」

 

『ラヴァ・ゴーレム』の身体から落ちた溶岩がレアハンターを襲う。激痛と共に訪れるのは死へのカウントダウン。

 

 レアハンター:LP 3000→2000

 

 レアハンターは恐る恐るデッキからカードを引いた。『強欲のカケラ』を使っても、引いたのは《エグゾディア》のパーツと攻撃力500未満のモンスターカードのみ。

 

「さ、サレンダー……」

「認めねぇよ。最後までデュエルをしなぁ」

 

 無常にもマリクは戦意を失ったレアハンターに言い放つ。

 マリクは『どうなるのか、わかっているのか』と千年ロッドを構える。

 

 ――降参なんぞで逃がしはしない。じわじわと迫る死の恐怖に怯えて、あと一枚の《エグゾディア》パーツを目の前にして! 貴様は敗北するんだよ。

 

「俺はサレンダーが大嫌いでねぇ、悪いなぁ。フハハハハハッッ!!」

「ら、ラヴァ・ゴーレムで、攻撃」

 

 その後、レアハンターはカードを引き、攻撃はするも決定的な一撃は与えられなかった。

 

 

 

 

 レアハンター:LP 1000

 

 マリクがターンエンドを宣言する前にレアハンターは勝負を放棄して、マリクに泣きつこうとする。試合を観戦していたレアハンターも懇願する。

 

「も、もう許してくれ!! 俺達は命令されただけなんだ!!」

「たのむ、エンド宣言だけはしないでくれぇ!!」

「マリク様ぁ!!」

 

「……ぁ」

 

 マリクとデュエルをしているレアハンターはすでに廃人一歩手前だった。服はほぼ焼け落ち、下着以外燃えカスだ。目も虚ろになり、焦点が定まっていない。

 

「おぉおぉ、気持ちいいね。生を求め懇願する。さすが主人格様が作った『グールズ』だけあるなぁ!! フハハハハハッッ!!」

「で、では……!」

 

 闇マリクは機嫌が良さそうに高笑いをあげる。彼の機嫌の良さそうな姿を見て、一時でもレアハンター達は希望をもってしまう。

 

 

「ターンエンド」

 

 

 そして、『ラヴァ・ゴーレム』は邪悪な笑みを浮かべ、レアハンターにとどめの溶岩を垂らした。

 

 レアハンター:LP 1000→0

 

 

 勝者、闇マリク。

 

 

「さぁて。俺は今、すこぶる機嫌がいい。闇への生贄はこいつだけで勘弁してやる」

「た、たすけ、て……マリク様……!」

 

 試合が始まる前の余裕たっぷりの姿は、もうやせぎすのレアハンターには見られなかった。今あるのは生殺与奪の権利を持つマリクに(すが)りつくだけだ。

 

 やせぎすのレアハンターは他のレアハンターに助けを求めるも、誰も彼を見ようとはしない。ただ自分たちが助かったことに安堵するのみだ。

 

「さぁ……! 覚悟はいいかぁ?」

「で、できてないです!! お願いします! 助けて!!」

 

 マリクは千年ロッドを構え、ニンマリと笑った。

 

 

「罰ゲーム!!」

 

 

 今まで散々弱きものからカードを強奪してきたレアハンターは、悲鳴をあげ、『エグゾディア』と同じように闇から現れた鎖によって四肢を繋がれ『永遠の封印』と苦しみを味わった。



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