罪の向こう、愛の絆シリーズ 【続・六花の森】 (千野 伊織)
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(1)序章~マダラの輪廻眼

◆今回(1)の登場人物は、うちはマダラ、ゼツ(黒)。

マダラの輪廻眼開眼によりこれまでのマダラのシナリオが描き換えられ、そして全てが始まります。



 

 

 

 

 

 

「影に咲く花にしては、美しすぎるな」

「…?」

芙蓉はマダラの右腕を拭いている手を止め、マダラの顔を見て首を少し傾げると、不思議そうに微笑んだ。

「六花…お前は俺が蘇るまでの間、決して誰のものにもなるんじゃないぞ…」

寝台に横になっているマダラは、弱弱しい声だが、威圧を込めて芙蓉に向かって言った。

芙蓉はフッと少し笑って少し目を伏せると、再びマダラの右腕を優しく拭き始める。

「はい…承知しております」

 

芙蓉が六道仙人に会い、自分がヒミコの転生者であり、次の転生者をこの世に生まない為、そして世界の救世主になる“碧眼の少年”が現れ世界を救うまで生きることを決めた。

“六花”として、マダラの下僕として…

そして、あれから十五年の月日が過ぎていた。

 

右腕を拭き終わると、芙蓉はもう一度お湯の入った桶でタオルを絞り、今度はマダラの首から胸にかけて拭き始める。

「…俺は影だ。だが、蘇ったその時は、この世界にはもう、光しかなくなる…」

「私にとってマダラ様は、今でも光ですよ?」

そう言って、マダラの左脇を拭き始めると、マダラがその腕を握ってきた。芙蓉はマダラが不快だったかもしれないと思い、心配そうな表情でマダラの顔を見る。

「…俺にとって今のお前は…眩しすぎる」

芙蓉の容姿は六道仙人の力により、今でも二十代のままである。

亜麻色の長い髪、琥珀色の輝く大きな瞳、雪の様な白く滑らかな肌、紅を差したかのような唇…

芙蓉は少し気まずくなり、口を結んで俯いた。

マダラは握った芙蓉の腕をぐいっと引っ張り、芙蓉を胸に抱き寄せた。芙蓉はマダラの胸に頬を埋めて目を閉じる。

マダラの体温、心臓の鼓動が芙蓉を安堵させ、しかしその反面、寂しくもさせた。

「・・・・」

気付けは、マダラは眠りに入っていた。

芙蓉は寝たきりが続いているマダラの身体を拭き終わると、丁寧に服を着せ、布団を掛けた。そして道具を片づけて立ち上がり、静かに部屋を出て行った。

 

 

「マダラもそろそろだね」

「・・・・。」

「木ノ葉の里に住めるから楽しみなんでしょ?」

「・・・・。」

「ねぇってば六花!無視しないでよっ!」

その声に“六花”は洗濯物を畳む手を止める。そしてハァーと大きな溜息を吐いてゼツの方を見る。

「別に楽しみじゃないわ。任務だし…それにゼツ、あなたも一緒だしね」

「言い方に棘があるよね~。芙蓉じゃなくて六花のままの方が可愛かったなぁ」

「この十五年、同じ事ばっかり言うわね」

六花は畳み終わった洗濯物を抱えて立ち上がる。その左肩にぴょんとゼツが載った。

「でもホント、ようやくマダラの代役になりえる子が見つかって良かったよね~」

 

ゼツは芙蓉(六花)の身体から覚醒した母・大筒木カグヤの魂と対面し、マダラが寿命を迎えたのち復活する迄のマダラの代役を、『うちは一族の中にマダラの血を色濃く受継ぐ男が産まれる…その男を役者として使え』と母から告げられていた。

マダラへは代役・兼・マダラを転生させる役は、うちは一族が良いのではないかと提案し、マダラもその案を飲んだ。(例えマダラが許否をしてもゼツによって思考は変えられていたが)

 

そして母・カグヤの予言通り、三年前、木ノ葉の里のうちは一族、しかもマダラの血縁にあたる家系に当該の男児が生れたのだった。

それにより六花は、マダラの死後、その子を木ノ葉の里で影ながら見張り、写輪眼を開眼したところを誘拐し、マダラの代役として六花とゼツが教育・洗脳する計画になっている。

 

「でも、まだ幼い子供よ…」

「マダラが復活するまで、その子が六花のご主人様だね~あははは」

「だったら何?」

「その子が大きくなったらマダラとしてた事、その子ともするの?」

「調子に乗らないで。」

「おーこわっ。あははは」

六花は右手でゼツを払い落とそうとしたが、ゼツはその手を除け、ぴょんと六花の頭の上に移ってまだ笑っている。六花は不機嫌な顔をして再び大きな溜め息を吐いた。

 

マダラの死期は確実に迫っている。

予定通りの事とはいえ、やはりマダラの死は辛い。

そして、たとえマダラの為とはいえ、これから人ひとりの…いやこれからきっと多くの人の人生を変えてしまわなければならない事も辛かった。

 

 

「マダラ様!マダラ様!!」

「マダラ~」

六花は寝台に横たわり朦朧としているマダラの右手を両手でしっかりと握り、必死に名前を呼び続ける。傍にはゼツも居て一緒にマダラを呼んでいる。

「…そんな…顔をする…な…」

「そーだよ六花。予定通りなんだからさぁ。泣くだけ疲れるよ?」

「でもっ…!!」

六花は目に涙を浮かべ、唇を震わせている。

何年か分からない。長い間会えなくなる…そう考えると息苦しくて堪らなくなるのだ。

しかし六花はその感情を押さえて必死に、しかし優しく、マダラの手の甲をさすり続ける。

そして、ついにマダラは静かに目を閉じた。

 

「マダラ様っ!!」

 

「・・・。

 

 ・・・・・・・・⁉」

 

マダラは突然、両目をぱちりと大きく見開いた。

「マダラ…様?…そ、その目は⁉」

今し方まで死の淵にあったマダラは、眼を見開いたままバッと勢いよく上半身を起こした。

「ああ…やっとだ…今の寿命のうちに開眼できたぞ!!六花、鏡を持って来い!!」

「は、はいっ!!」

 

「…輪廻眼だ!!」

「これが…輪廻眼…」

「元気まで戻ったね、マダラ。寿命伸びたの?」

マダラはバサッと布団を除け、寝台から降りて部屋の出口へ向かおうとした。六花は焦ってマダラに近寄るとその脇を支える。

「ご無理をなさらないで下さい!」

「大丈夫だ。この眼を開眼できたら暫くの間は死なん。六花、外へ出るぞ。一緒に来い」

「は、はい…」

二人は部屋を出て行く。

しかし、ゼツはその二人の姿を後ろから静かに見つめていた。

 

・・・予定通りだよ。母さん・・・

 

 

 

マダラと六花は夜空を見上げる。

まるでこの日、この時を待っていたかのように、空には満月が浮かんでいた。

地面の草には白露が付いており、秋冷が更に冷たく感じる。

 

「これから封印石から口寄せをする。少し離れていろ。」

「はい…」

六花は少し戸惑いながらマダラの脇から身体を離すと、後ろに下がって行った。

 

パンッ!

マダラは勢いよく両手を合わせると、素早く印を結んでゆく。

六花は不安そうに胸の前で両手を握ってその様子を見つめている。

本当にマダラの言っていた“外道魔像”なるものを、あの夜空に浮かぶ月から口寄せできるのだろうか…

 

・・・ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・

 

すると、足元から轟音が鳴り響き、地面が揺れ始めた。

轟音と揺れが収まると、マダラは再び地下のアジトへと急ぎ足で降りて行く。六花も急いでその後ろをついて行く。

 

「…成功だ。外道魔像を口寄せ出来たぞ!」

「!!!」

二人の目の前には、禍々しい姿をした巨大な魔人が立っていた。

それを見た六花は、恐怖で思わずマダラの腕に抱き着く。

「心配するな。動きはせん。こいつはまだ、ただの抜け殻だ。」

「わ~これが外道魔像?マダラ、やったじゃん!」

するとゼツが現れ、ぴょんと六花の頭に載ってマダラに向かって言った。

「ゼツ、六花。シナリオの変更だ。まずは俺のこの輪廻眼を預けられる人物を見つけろ。そいつに“輪廻転生の術”を使わせて俺を復活させる。そして“うちはマダラ”を演じさせるあの者が成長し、写輪眼を開眼し次第ここに連れて来るのだ。その間、俺は魔像と繋がって生き続ける。」

「はっ、はい…!」

「うん、でも輪廻眼の所有に耐えうる素質じゃなきゃダメだよね。ってことは、マダラと同じくこの外道魔像を口寄せできる能力の持ち主ってことかぁ…」

「ということは、うちは一族?」

「いや、輪廻眼を開眼できたのは千手の、柱間の力を手に入れられたからだ。外道魔像を口寄せ出来たのも千手の能力の一つ…千手一族の血族を当たれ。」

「…畏まりました」「へーい」

 

 

ザァァァァァァ―――・・・・・

 

六花は黒いマントのフードを被り、雨の中、木の上からその家の中を覗いている。

家の中では母親が台所に立ち、目の前に居る六〜七歳くらいの男児と白衣を着た父親がオモチャで一緒に遊んでいる光景をニコニコしながら眺めている。

幸せを絵にかいたような風景に、六花は目を細めた。

 

「やっと見つけたと思ったら、まだ子供だなんて…」

「何?可哀想とか思ってんの?」

「・・・・。」

「やっぱ君、“六花”のままの方が使えたのにね。いいよ、僕が行ってくるから。」

「駄目!…ううん。私も一緒に行くわ。」

「失敗しないでよぉ?」

「しないわ。絶対に…」

・・・あの子の両親、あの子の残りの人生の為にも・・・

 

夜中になり、家の灯りが消えるのを確認すると、六花は開錠術で玄関の鍵を開け、静かに中に入って行った。

廊下を歩き、先ほど木の上から覗いていた部屋の前に立つ。

静かに扉を開けると、母親、男児、父親が仲良く川の字になって眠っている。

六花は部屋に入ると、三人の頭元に行き、片膝を突いてしゃがんだ。そして、両親の頭に手をかざすと目を閉じる。

「・・・・・これで、良しと。」

両親に幻術をかけた。これで朝まで決して目を覚ます事はない。

そして更に、夢の中で両親の記憶を書き換えた。

この子は生まれた時から、“この眼”だったと…。

「面倒くさい事するよねぇ。親なんてさっさと殺しちゃえばいいじゃん」

「両親を殺されたこの子はどうなるの?一人で生きてはいけないわよ?」

「まぁそうだけどさぁ~」

「さあ、眼の移植はゼツの仕事よ。お願い」

「うん。任せて」

 

「ごめんね…坊や…」

六花はスヤスヤと眠る男児の頭を優しく撫でた。男児の髪の毛は枕元の小さな明かりでも分るほど赤毛で、そして柔らかかった。

六花はスッと立ち上がると、目線の先には額縁に入った写真が在った。

そのまま静かに写真に近寄り、目を凝らして眺めてみる。

そこには、目の前の親子三人が大きなケーキの前で仲良く寄り添い写っていた。

ケーキには『長門 七才 おめでとう』と書いてある。

六花は振り返ると、暫く親子三人を見つめた後、家から出て闇夜へと姿を消した。

 

 

コツ、コツ、コツ、コツ・・・

ポチャン。

…コツ。

六花は天井から落ちた雫の音で足を止めた。そして、目の前にそびえ立つ巨大な植物を見上げる。

「・・・六花。帰って来たのなら直ぐに報告しに来ないか」

「はい…申し訳ありませんでした。マダラ様」

六花は再び歩き出し、巨大な植物の根元に座るマダラの元へと歩み寄り、マダラの足元に跪く。マダラは右手を伸ばし、六花の頬を撫でながら問う。

「あれから、長門は問題無さそうか?」

「はい。輪廻眼もすっかり身体に馴染み、健康な様子です」

「うむ・・・」

マダラは目を細め、手を六花の頬から唇へと移し、人差し指で上下の唇をなぞった。六花は唇の力を抜き少し口を開けると、ゆっくり瞬きをしながらマダラの顔を見つめる。

「俺の寿命が延びて、お前の自由もお預けだな・・・ガッカリしてるんだろ?」

「そんな事はありません。」

そう言うと六花は自分の顔に触れているマダラの掌を握り、先ほどまで唇をなぞっていた人差し指を咥えてしゃぶった。

…チュパッ。

 

【挿絵表示】

 

音を立てて指から口を離すと、立ち上がり、おもむろにマダラの首に手を回すと口づけをした。マダラは六花の腰を持ち、自分の太腿の上に座らせて口づけを続ける。

暫くして、六花は唇を離すと、再びマダラの顔を見つめる。

「…今でも、マダラ様は私の光…この先も、ずっと…」

六花は目を細め、愛おしそうに、そして嬉しそうに微笑んだ。

そしてマダラも、フッと小さく笑った。

 

 

つづく

 

 

 

 

 

 

 



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(2)~うちはオビトの開眼

六道仙人(ハゴロモ)から自分が大筒木カグヤの娘・カグヤの転生者であり、マダラの暴走を止め世界を救う〝碧眼の少年〟が現れて事を成すまで生きることになった芙蓉(六花)はマダラの元に戻り、再びマダラの下僕・六花として共に生きることになった。
あれから十五年───。
遂にマダラの輪廻眼が開眼し、遂にマダラの〝先の夢〟が実現へと歩み出す。それは同時にゼツが狙う母・大筒木カグヤの復活でもあり、即ち世界の終わりでもあった。
話の中心はマダラが復活するまでのオビトの行動(木ノ葉襲撃、暁創設、うちは一族抹殺)と、ナルトの誕生(九尾事件)、木ノ葉の里の情勢(大蛇丸の悪事・平和な里・うちは一族の反乱など)、第四次忍界大戦を主人公・六花の目線で描きます。
〝碧眼の少年〟に世界が救われる時。
六花は何を見て、何を感じるのか?
六花はマダラを信じ、愛し抜くことができるのか?

◆主な登場人物◆(登場順および登場頻度順)
主人公:六花(=橘芙蓉)(o.c)、うちはマダラ、ゼツ(黒)、うちはオビト、波風ミナト(四代目火影)、はたけカカシ、のはらリン、猿飛ヒルゼン(三代目火影)、うずまきクシナ、大蛇丸、うずまきナルト、うちはイタチ、志村ダンゾウ、うちはサスケ、大筒木ヒミコ(o.c)、大筒木カグヤ、大筒木ハゴロモ、千手柱間、千手扉間、などなどです。

※オリジナル展開をまじえつつ、基本は原作の流れに沿っています。
※黒ゼツの性格は白ゼツ以上のお調子者な感じにしてあります。

今回(2)の登場人物は、ゼツ(黒)、うちはオビト、はたけかかし、のはらリン、波風ミナト。
マダラの指示により、うちはオビトの写輪眼開眼の為に行動を起こす六花。
しかし、事態は思っても見ない方向へ向かってしまう。
※原作から引用しています。


「姉ちゃん、どした?具合悪いのか?」

「あっ…うん、ちょっと足をくじいちゃったみたいで…」

「この先に診療所があるから、俺がおぶってってやるよ!」

「いいえ、そこまでじゃないし!私、重いから…」

ゴーグルをつけた元気のいい少年が話しかけてきた。

六花は足をさすり苦笑しながらも、その少年をじっくりと観察する。少年は、自分は忍だから大人の女一人くらい背負えるから任せとけと息巻いている。

 

・・・大きくなったわね。オビト君・・・

六花はこの十年間、定期的に木ノ葉の里に訪れはオビトの成長を見澄まし、マダラに報告してきた。

まだまだ忍としては未熟だが、心根の優しい元気いっぱいの男の子に育っている。優しい性格はマダラに似ており…そして、どこかしら若い頃のマダラの面影もある気がしていた。

しかし今はもう、感慨に浸っている時では無い。

 

すると、正面から黄色い髪で青い瞳をした青年と、銀髪で顔半分をマスクで隠している少年、そして茶色いおかっぱ髪に大きな瞳の少女が歩いて来た。

「…大丈夫ですか?どうかされましたか?」

・・・青い、瞳の、男・・・

六花は、その青年の顔をじっと見つめた。

「足くじいちゃったらしいぜ。今から俺が診療所に連れて行ってやろうと思ってたんだ。」

「オビト、お前また遅刻!先にミナト先生に知らせに来ればいいだろ?」

「まぁまぁカカシ、お姉さんを一人にするのは心配じゃん。ね、オビト?」

「ああ、そうだ!リンの言う通りだ!!」

三人の少年少女の言い合いをよそに、六花はまだ青年の顔をじいっと見つめていた。

「あ、ええっと、どこかで、お会いしましたっけ?…あはは」

ミナト先生と呼ばれている青年は、目の前の美女の熱い視線に耐えきれず、気まずそうな顔をして頭を掻いた。

「ミナト先生、それナンパの常套句だぜ?」

オビトがニヤニヤしながらミナトを指さして言った。

「すみません…知人に似ていたもので…失礼しました」

六花は俯き、目線を外した。

「そ、そうでしたか…私たちが診療所までお連れします。どうぞ、私の背中に乗って下さい。」

「あっ、いえ…でも…」

「お姉さん、遠慮しないで下さい。今は戦争中でこの辺も他里の忍が来ることがあるし、危ないから一緒に行きましょう。荷物は私が持ちます」

リンと呼ばれていた少女が腰を屈め、切り株の上に座って居る芙蓉の顔の高さに合わせてニコニコしながら手を差し出した。

「…あ、ありがとうございます。ではお言葉に甘えて…お願いします」

六花はまずリンに医療忍術で応急処置をしてもらい、ミナトの背中におぶさり、リンの代わりにオビトが荷物を持ってくれ、カカシがミナトの鞄を持ち、みんなで診療所に連れて行って貰うことにした。

 

【挿絵表示】

 

・・・この男性が隊長、そしてあの“黄色い閃光”か…やはりかなりの実力者みたいね…あのマスクの子も上忍並みの力だわ…女の子は平均的な中忍レベルで医療忍術も得意なのね…オビト君は、やっぱりまだ写輪眼は開眼していない・・・

 

「では、私たちはここで。どうぞこの先の道中もお気を付けて。」

六花は診療室の診察台の上に座らされると、目の前に四人が並んで別れを告げた。

「あの、本当にありがとうございました!!これ、お礼です。大したものでは無いですけど、どうか受け取って下さい」

六花は鞄の中から急いで巾着を取り出すと、その中から純金で出来た米粒を四つ取り出し、それぞれに一粒ずつ手渡していった。

「これは金じゃないですか!こんな高価な物受け取れません。私たちは忍として当然の事をしたまでです。礼など必要ありません!」

ミナトが焦って六花にそれを返そうとしたが、六花がその手を押し返す。

「お守りです。それにこれは只のメッキなので安物です。私の故郷では金の米粒を持っていると飢えや病気、怪我から身を守られると言われています。戦争で戦っている忍の皆さんに私ができることはこれくらいだし…お願いです。皆さんのご無事を願う私の気持ちとして受け取って下さい。」

「わ、分りました…ではそのお気持ち有難く頂きます。みんな、ちゃんとお姉さんにお礼を言って。」

『ありがとうございます!』

「こちらこそ…本当にありがとう。親切で優しい皆さんは、きっと立派な忍になれますね。頑張って。」

『はい!』

オビト、リン、カカシは互いに顔を合わせてニコニコした。六花もその顔を見て一緒に微笑み、最後にミナトの顔を見てニコッと微笑んで見せると、顔を赤くしたミナトは頭を掻いていた。

 

 

「遠回りなやり方するよねぇ~。六花があの中の誰かをオビトの前で殺しちゃえばいい話じゃん!あっという間に開眼するって」

「一緒に居たミナトという男性はかなりの実力者よ。私と互角かそれより上…無駄な戦闘はしたくないし、木ノ葉の里に目をつけられても厄介だわ」

「ホント言い訳だけは上手だよね~」

「思考回路と顔だけは超単純よね~」

六花は掌に載ったゼツを目の高さに持ち上げ、ゼツの顔を指さしながら嫌味を込めて言ってやった。そしてゼツを優しく地面に降ろすと、六花はその場に地図を広げる。

「これからミナトさんとあの子たちは別々に任務を行うわ。オビト君たちは地図のここ、神無毘橋の破壊を任されている。その時、リンちゃんを岩隠れの忍に攫わせるのよ」

「自分の手は汚さない…六花って実は卑怯だよね」

「何とでも言いなさい…オビト君の性格なら確実にリンちゃんを救出しに行くわ。それに、オビト君はリンちゃんに好意を持っている…岩隠れのとの戦闘の際、オビト君の写輪眼を開眼させてみせるわ」

「結局、リンが死ぬんじゃん」

「死なせはしない。岩隠れの忍には勿論、私が幻術をかけて操るに決まっているでしょ」

「まーたメンドクサイ事を・・・もうホント、いい加減にしてよぉ~ハァ」

「じゃあマダラ様の所に帰っていなさい。この計画を報告しても構わないわよ」

「マダラが自力で動けないからって強気なんだから…ハイハイ、じゃあ六花のお手並み拝見させて貰うよ。あ、開眼しなかったら僕がリンとカカシをオビトの目の前で殺すから、よろしくね。そしたら万華鏡写輪眼まで開眼できるだろうし一石二鳥じゃん。あはは」

「・・・。」

六花は黙って立ち上がると、戦闘服に着替え始めた。

 

 

「…仲間を大切にしない奴は、それ以上のクズだ!どうせ同じクズなら、俺は掟を破る!…それが正しい忍じゃないってんなら、忍なんてのはこの俺がぶっ潰してやる…!!」

 

・・・オビト君、かっこいい・・・

「…ちょっと、なに感動してんのさっ…早く行くよ!」

「…わ、わかってるわよ…」

 

 

「やっと見つけた…俺にだってできる。待ってろよ、リン!よし行くぞ…」

 

・・・オビト君、頑張って!敵は後ろよ、後ろに気を付けて!・・・

「…あのさ、こういうのを自作自演っていうんだよ?楽しい?…」

「…うるさいな。…えっ⁉」

「…あっ⁉」

 

ザシュッ・・・!!

「ぐぁっ!…」

「か、カカシ!!お前どうして⁉」

「ま、お前みたいな泣き虫忍者一人に任せておけないでしょ」

 

「…ねぇ見て!カカシ君が来てくれたわ!私、カカシ君は絶対来てくれるって信じてた!…」

「…いや、だから自分が幻術かけて操ってる奴と闘わせて何が楽しいのさ…」

「…行けー!カカシ!オビト!頑張れーっ!!…」

「…駄目だこりゃ…」

 

「オビト!!敵は後ろだ!!」

「⁉」

「ぐあぁぁっ!目がっ!!!」

「カカシ!!大丈夫か⁉」

 

「…あーあ、カカシがやられちゃったけど?六花のせいだよぉ?…」

「…あ、後で私が治療してあげるわ!…でも、これでオビト君の開眼が近づいたわ!あと少し、あと少しよ。頑張って、頑張るのよオビト!…」

 

・・・あの言葉だけは、口先だけにしたくはないんだ!!・・・

「・・・そこだ!!!」

グサッ!!!

「な、何故だっ⁉…迷彩隠れの術が見える筈はないのにっ…」

「・・・ここは、仲間は、俺が守る!!!」

 

「…やったぁ!!遂に、遂にオビト君が写輪眼を開眼したわよっ!!…」

「…うんうん、良かった、良かった…」

 

・・・まったく。これ以上君の甘さに付き合ってられないんだよ。いい加減甘さが招く結果を知りな六花!・・・

 

「オビト・・・お前、その目・・・」

「おう、これが写輪眼みてぇだ。チャクラの動きが目に見える!」

「うっ・・・どうやら左目はもうダメみたいだ。リンから貰ったこれが有る・・・応急処置ならすぐ出来る。直ぐにリンを助けに行くぞ!」

「おう・・・」

 

「・・・まったく、どいつもこいつもガキ相手にだらしねぇ・・・が、タダのガキじゃねぇみてぇだな。」

「一度手合わせしたがかなりの早業だ、オビト、気を付けろ!」

「おう!」

ガン!キィイン!!カァン!ガンッ!ザザッ!ドシッ!・・・

ザシュッ!!・・・ドサッ!

「解!」

「・・・カカシ・・・オビト!」

「助けに来たぞ、リン!もう大丈夫だ!」

 

「・・・なるほど。良いコンビネーションだが所詮ガキだな。」

 

「…よし、これで終ね…⁉って、なぜ⁉あの忍にかけておいた幻術が解けてるの⁉…」

「…違うよ。あれは僕がかけてる幻術だよ…」

「…ど、どうして⁉…」

「…ほら、早くオビトを助けに行きな…六花…」

「…ゼツ、あなた!!…」

 

「今お前たちが居るのは敵の手の中だぜ・・・土遁・岩山崩し!!」

ドカンッ!!ガラガラガラガラ・・・・

「ヤバイ!!出口に走れ!!」

 

・・・ゼツの奴、オビト君以外を殺そうとして!!許せないっ・・・

六花は急いで木から飛び降り、洞窟の入り口へと走った。しかし。

 

「・・・嘘・・・」

六花の目の前の洞窟は天井が崩落し、無数の大きな岩が積み上がり山になっていた。

急いで感知をし、中の三人の様子を確認する。

「⁉・・・生きてる・・・まだ三人とも生きてる!!」

六花は膝から崩れ落ち、その場にへたり込んだ。

「それはどうかな?ターゲットが死にそうだけど?」

ゼツの声に六花が急いで顔を上げる。そして気配を消しつつ急いで岩山を登り、僅かな岩の隙間から下を覗き込んだ。

しかし、そこには、信じられない光景があった。

「ほ~ら見てごらん六花。君の甘さが招いた結果がこれだよ」

「⁉・・・・」

 

「・・・やめろ。いいんだカカシ・・・俺はもうダメみたいだ・・・体の右側はほどんど潰れちまって・・・感覚すら・・・ねぇ・・・」

「くそうっ!!!」

「・・・嫌っ・・・そんな・・・オビト、どうして!!!」

「・・・かはっ・・・」

「お、オビトっ!!・・・」

「・・・ちくしょう!!・・・ちくしょう!!!俺が最初からお前の言う通り、リンを助けに来てたらこんな事にはならなかったんだ!!!・・・」

 

「…う、嘘でしょ…ど、どうして…どうしてっ!!!…」

「フフッ…可哀想だねぇ。せっかく写輪眼を開眼したって言うのに…それにこのままオビトが死んだら、代わりを探すのに何年かかるかな?マダラの計画はまた振り出しに戻るね…マダラ、超―怒るよ。オビトも無駄死にだしね。フフッ…」

「…ど、どうゆうつもり⁉マダラ様を、分身のあなたが裏切るの⁉…」

「勘違いしないで。君はマダラの下僕。即ち、僕の下僕なんだよ。いい加減、調子に乗り過ぎ、甘過ぎるんだよ六花は!」

「………」

「助けて欲しい?助けて欲しいなら僕に『一生ゼツに服従するからオビトを助けて下さい』ってお願いして?」

「こんな時に何をふざけているの!いい加減にして!」

「このままじゃ、“全員”、死んじゃうよ?いいの?」

「…ゼツ、あなた本気!!…」

六花は目を泳がす。これが冗談ならいい。しかしゼツが本気ならば…

「さあ!どうするの!!」

「お…お願い…します…ゼツに…一生服従するから…助けて…下さい…」

「うんいいよ♪僕の愛する六花。その代わり、今の言葉絶対に忘れるんじゃないよ…」

六花は涙を浮かべ、怒りに身体を震わせながら、左肩に載るゼツを思い切り睨みつけた。

「…早く!早くオビトを、みんなを助けてっ!!…」

「あーあ、六花が返事するのが遅かったから、なんか始まっちゃってるじゃん。助かるかなぁこれ」

六花は急いで下を見る。

すると、リンがオビトの左目を摘出し、先ほどの怪我で失明してしまったカカシの左目に移植手術を行おうとしている所だった。

「…写輪眼がっ!!!…」

「あらら。せっかく残ってた写輪眼がカカシに渡されちゃうみたいだね。オビトの命は僕が助けてあげるよ。どうする?カカシを殺して取り戻す?ほら、早く決めて?」

「…ど、どうしよう…どうしよう…」

六花ならば、カカシを殺さずともオビトの左目を取り戻すことは容易だろう。

しかし、すっかり動揺して冷静な判断が下せる状態に無い六花は、それすら躊躇われ、決断できない。

「ハイ。タイムオーバー♪」

「⁉」

六花は急いでその場を離れ、離れた木の茂みに身を隠した。

 

ドガァァアン!!・・・

岩を砕く音と共に、岩山の上にカカシが現れた。

近くに座って居る、先ほどゼツに幻術をかけられた敵がそれに気づき、立ち上がる。

カカシは背中に背負っている刀を抜くと、敵に向かって走ってゆく。

 

「…カカシ君!…」

六花が立ち上がろうとした途端。

「六花。動くんじゃない。ここに居るんだ。」

「…どうして⁉…」

「僕に一生服従するって約束したよね。なら黙って従うんだ。」

「っ…!!」

 

キィン!ガンッ!シュッ!カァン!!!ギシンッ!!

カカシと敵との戦いが続いている。

六花は顔をしかめ、唇を噛みしめて、ただカカシを信じて見ているしかない。

ここで動けば、オビトが、リンが、そして目の前のカカシが助からない。

 

グサァッ!!・・・・・ドシッ。

「あ、決着がついたみたい。あのカカシって子、やるね~。まぁ雑魚相手だけど。」

「ハァ―――・・・・」

六花は大きく胸を撫で下ろした。しかし、我に返ってゼツを見る。

「オビト君は⁉オビト君を早く助けて!!」

「大丈夫だって、もう手は打ってあるから。死にはしないよ。六花が僕と約束してくれたから、僕もちゃんと六花のお願いは叶えてあげる」

「・・・・。」

六花は半信半疑でゼツを見つめた。

「・・・⁉ちょっと、ねえ!岩隠れの忍が大勢ここに向かっているわ!」

「焦らない、焦らない。」

そして、あっという間に岩隠れの増援が集まり、オビト、リン、カカシの居る岩山を取り囲んだ。

しかし、六花は居ても立っても居られない気持ちで手を握り締め、ただ目の前の光景を見つめているしかない。

 

「土遁・裂土転掌!!」

岩隠れの忍の術により、大地がひび割れ、目の前の岩山も崩れはじめた。

カカシは、岩の山の下を覗き込んで手を伸ばし、何とかリンを引き上げた。しかし、既に岩隠れの忍たちに包囲されている。

カカシはリンと手を繋ぎ、森の中へ消えてゆく。

 

「まさかこれもゼツの仕業なの⁈」

「うるさい!!黙ってろ!!」

「⁉」

ゼツの怒鳴り声に六花は驚き、左肩を見る。

「・・・ゼツ?・・・」

しかし、そこにはゼツの姿は無かった。

・・・今だわ!・・・

六花はカカシとリンの方へ走りだした。

しかし、ようやく二人の姿を確認できた途端…

「あっ!危ない!!」

 

ガシィィンン!!

 

『あなたは・・・!』

二人の声が揃った。

六花が飛び出した大木の上には、気を失ったカカシとリンが横たわり、そして、ミナトが立って居たのだ。

「アナタは右からの敵を、僕は左からのをやります。行きます!」

「はい!」

 

・・・・・・

 

「やはり、アナタは忍だったんですね」

六花はミナトと二人、岩隠れの増援を全て片付けた。

そして今、夕映えに光る草原で、ミナトと向き合っている。

「気付いていらっしゃったのですね…でももう、私は忍を引退しています。」

「この金色の米粒。これで僕の部下たちの位置を追跡していたんでしょ?目的は何ですか?」

「目的なんて…。私はただ、親切にしてくれた子供達を助けたかっただけです…でも、オビト君の事は助けられなくて…申し訳ありませんでした…」

「すみません。アナタの行動からはどうしても、その言葉を信じることは出来ません。今は戦争中ですし。申し訳ないですが、木ノ葉の里まで一緒に来て貰います」

「それは出来ません。私、急ぎますので…では」

ザッ!

後ろを向いた六花の目の前に、ミナトが立った。

「通して下さい。本当に私に目的なんてありません」

「ごめんなさい」

そう言ってミナトは六花の左手首を握った。

「⁉」

「これは僕の術のマーキングです。アナタがどこに居ても瞬身の術で追うことが出来ます」

・・・これは、扉間さまの術だわ!・・・

六花は愛おしそうにも悲しそうにも見える顔でミナトを見上げる。

夕陽に照らされたミナトの髪の毛の先が、一瞬、あの夏の日の扉間の髪に見えた。六花は思わず下を向く。

「このマーキングを外すためには里に来てもらう必要があります。」

「行くことは出来ません。」

「なら、どこまでも追うだけです。」

六花は下を向いたまま、フゥーっと大きく息を吐いた。そして、ゆっくりと顔を上げる。

「・・・写輪眼⁉アナタ、うちは一族なんですか⁉」

ミナトを悲しそうに見つめる六花の眼は、写輪眼から万華鏡写輪眼へと変化してゆく。

ミナトは急いで目を閉じ、後ろに飛び退いた。

六花はそれを確認すると自分の左腕に付けられたマーキングをジッと強く見つめた。すると、マーキングはスッーっと音も無く消滅してしまった。

そして、その手首をミナトの方へ向けて言う。

「ミナトさん。あなたのマーキングは異空間へ飛ばしました…私はあなたと戦う気はありません。さようなら…」

そう言って六花は姿を消した。

ミナトはマーキングを目の前で消されるという初めての出来事に驚き、暫く六花が居た場所を見つめて茫然としていた。

 

 

つづく

 

 



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続・六花の森(3)~対面~オビトとマダラ、六花とヒミコ

今回(3)の登場人物は、うちはマダラ、ゼツ(黒)、うちはオビト、大筒木カグヤ(o.c)、波風ミナト、うずまきクシナ。

オビトの写輪眼開眼と誘拐の任務を何とか果たし、アジトに戻った六花。
しかし、アジトはマダラによって出入口が塞がれていました。

そして遂に、オビトとマダラが対面し、マダラは語り始めます。
一方、六花の身にも思わぬ事が起こり、大筒木カグヤと対面することになります。

木ノ葉の里に住むことにした六花は、ミナトと再会して・・・
※関連話:「罪の向こう、愛の絆~マダラ、死す」
※原作から引用しています。


 

 

「そうか・・・六花が・・・」

「うん。もう“白ゼツ”も居るし、僕の分身の“黒ゼツ”も居るしさ、六花なんて必要ないんじゃない?これ以上感情に流されて失敗されても困るしさぁ」

「うむ・・・」

マダラは頬杖を外すと、ゆっくりと前を見た。

 

マダラの目の前には、意識の無いオビトが横たわっている。

オビトは重症を負ったものの、マダラが培養した柱間細胞の人造体を潰れた右半身に移植し、命は助かった。

実はその前に、ゼツが分裂した自分の身体をオビトが挟まっている岩の間に入れて救命処置をしていたのだが…。

 

「あいつの甘さはいつか、己を危機に曝すことになる…俺が居ない間、お前が六花を守れ」

「うん任せて。僕と六花、仲良しだから。大丈夫だよ」

「・・・・。」

マダラは、今度は右側を向いた。

そこはこのアジトと地上を繋げる通路の入り口だが、今は大きな一枚岩でその入り口はしっかりと閉じられており、もうこのアジトへは出入りできない。

 

『…今でも、マダラ様は私の光…この先も、ずっと…』

 

「・・・六花・・・」

マダラは小さく呟き一瞬目を伏せたが、再び鋭い眼光で目の前のオビトを見据えた。

 

 

「どういう事?…」

六花はアジトの入り口で戸惑っていた。

アジトの入り口があった筈の場所は、土と岩で埋まっているではないか。

先ほどのゼツの言動…まさか…

「マダラ様はっ…⁉」

陽は山派に沈み、辺りは暗くなり始めている。急がないと…

六花が須佐能乎を出し、巨人の持つ槍で入り口に穴を開けようとしたその時だった。

「止めるんだ六花!」

その声に、六花は後ろに振り向いた。

「ゼツ!何があったの?マダラ様は無事⁉オビト君はどうなったの?」

六花は須佐能乎を収めるとゼツに駆け寄り、掌を揃えて差し出す。するとそこへゼツがいつもの様にぴょんと飛び載った。

「大丈夫。マダラもオビトも無事。まぁ、オビトは無事とは言わないけどね…誰かさんのせいでぇ~!」

「・・・・・。」

「アジトの入り口と通路を閉じたのはマダラだよ。もう誰も入れないし、出れない」

「えっ⁉」

「六花、君は今回の件でもうお役目御免ってわけさ。あ、但し、マダラが復活するまでの間だけだけどね~」

「ど、どういう事?」

「どうもこうも無いでしょ。自業自得じゃん」

「そ、そんな・・・マダラ様・・・」

「でも自由の身になったわけじゃないからね!さっきの約束、覚えてる?」

「・・・服・・・従?」

「うん、そう!」

そう言うとゼツは掌から飛び、鎖帷子の襟口からスルッと六花の胸の谷間に入った。

「きゃっ!ど、どこに入ってるのよ⁉早く出て!」

「オビトもマダラの所へ来たし、もう六花が木ノ葉の里に行く必要も無くなったね。どこかで僕とふたりで暮らそうよ!」

ゼツは六花の言葉を無視し、胸の谷間に埋もれながら言った。

「私はともかく…ゼツ、あなたにはマダラ様の代役、オビト君を見張る役目があるでしょう…?」

「ああ、それなら大丈夫。白ゼツと、僕の分離体・黒ゼツが居るからね。」

「じゃ、じゃあ、私がオビト君に仕えるという任務は…?」

「だからさっき、お役目御免だって言ったでしょ?君のご主人様は、今日から僕だよっ!」

六花は塞がれたアジトの入り口に数歩ゆっくりと近づくと、上を見上げる。

空には既に星が輝き始めていた。

しかし、月の姿は無い。

「・・・。マダラ様は…その…独りで、最後を迎えるつもりなの?」

「みたいだね。もういいじゃんマダラの事は。復活したらまた会えるんだしさぁ」

ゼツの言葉を聞き、六花の眼がみるみるうちに潤んでゆく。そしてついに一筋涙が頬を伝い、胸の谷間に挟まっているゼツの上にポツリと落ちた。

「泣くなっ!今日から僕が君のご主人様だって言ってるだろ!」

「・・・・・・」

六花は、未だ黙って入り口を見上げて立ち尽くし、泣き続けている。

マダラが死ぬところを見るのも辛い。

しかし、こんなたちで別れなければならないのは生木を裂かれる思いである。

「六花っ!!」

ビクッ!…ゼツの怒鳴り声に、ようやく六花はゼツの方を見た。

「今すぐここから離れるんだ。取り敢えずは山岳の墓場の一軒家(アジト)へ行くよ。ほら!さっさと行くんだ!」

それでも、六花は肩で息をしながら首を横に振り、動こうとはしない。

完全に陽は沈み、辺りの視界は殆ど無くなってしまっている。

「・・・っ・・・⁉」

「本当に悪い子だね…六花は」

突然ゼツは身体のかたちを複雑に変化させ、六花の首を絞め、口の中に入って舌を抑えた。

「苦しい?六花?フフッ…死にたくないでしょ?助けて欲しい?」

・・・まだ、こんな所で死ぬわけにはいかない!・・・

六花は震えながらなんとか首を縦に振った。

「かっ・・・かはっ!!・・・ハァハァハァハァ!!・・・」

ゼツは六花を解放したが、六花はその場に倒れ込んでしまった。その身体をゼツが起こす。

虚ろな目をした六花の前に、ゼツの顔が現れた。

「君のご主人様は誰だっけ?」

「…ゼツ…あなたよ…」

・・・こんな屈辱くらい、私の苦しみくらい、なんて事は無いわ・・・

 

 

六花が去ったアジトの中は薄暗い。

ポチャン・・・。

 

・・・俺は死んだ…のか?・・・

「!!・・・こ、ここは・・・?」

「あの世との狭間だ・・・うちはの者よ・・・」

 

オビトは意識を取り戻し、遂にマダラと対面していた。

 

「・・・!!その眼・・・じいちゃんも、うちは一族・・・?」

「・・・さあ、どうだろうな・・・」

「イテテッ!テッ・・・」

「痛みを感じるという事はまだ生きているという事だ。といっても、身体の半分はほぼ潰れていた・・・一応手当はしておいてやったが・・・」

「・・・じいちゃんが助けてくれたのか・・・ありがとう。」

オビトは少しほっとしたかのように、マダラの顔を見て礼を言った。

その右目にはまだ、写輪眼が浮かんでいる。

身体の半分はほぼ潰れてしまったものの、ゼツの防護と処置により、右目の眼球は助かっていた。

マダラはその写輪眼を見つめ、口を開く。

「礼を言うのはまだ早い・・・その分の恩はしっかり返して貰うつもりだ。」

「じゃ、じゃあ、何すりゃいいんだ?悪いけど、ずっとここには居られねぇーよ!生きてるんだって分ったんだ…木ノ葉の里に帰る!今は戦争中だ。写輪眼もやっと開眼したし…これで今度は、もっと、仲間を守れる!」

傷の痛みすら忘れてしまっているかのように、オビトは嬉しそうに応えた。

しかし、マダラは小さく溜息を吐き目を伏せ、口を開く。

「・・・もっと仲間を守る、か・・・」

「?・・・な、何だよ⁉」

「お前のその身体・・・もう忍としてはやっていけまい・・・」

「!!?・・・イヤイヤイヤ!!やっとこの眼を手に入れたんだ!今度こそ仲間を守れる忍に俺が」

「現実を見ろ」

「・・・」

オビトの反論を待たずして、マダラが言葉を続ける。

「この世は思い通りにいかぬ事ばかりだ。長く生きれば生きるほど…現実は苦しみと痛みと虚しさだけが漂っている事に気付く・・・」

・・・何だ?このじじい?・・・

オビトはマダラの話を黙って聞き続けるが、自分を助けてくれたという割に目の前の老人の不可解な話に対し、怪訝な顔をする。

「いいか…この世の全てにおいて、光が当たるところには必ず影が在る。勝者と言う概念がある以上、敗者は同じくして存在する。…」

 

マダラの頭の中に、あの時、目の前に居た柱間の姿が浮かぶ。

一度目は初めて背中を地面に付けた時に自分を覗き込む柱間の顔。

そして二度目は、あの谷で、木遁の変わり身だった柱間の姿だった。

 

「…平和を保ちたいとする利己的な意思が戦争を起こし、愛を守るために憎しみが生まれる…」

マダラの眼の前には、火影の制服を纏い顔岩の上から木ノ葉の里を眺めている“誰か”の姿が浮かぶ。

そして、直ぐにその風景は無数の死体が転がる光景に変わる。

「…これらには因果関係が有り切り離すことは出来ん…本来はな…」

 

・・・うわぁ。スイッチ入っちゃってるよ…こうなるとじじいの話は長ぇーんだよなぁ。はぁ・・・

オビトはこの話の終着点はどこまで続いていくのかと、いい加減耐えきれなくなり口を開く。

「で…ここはどの辺なんだ?」

「お前が傷ついたからこそ、代わりに、助かった者がいる・・・違うか?」

「・・・!」

オビトの頭に“先ほど”、カカシと共に戦った時の光景が浮かぶ。

そして、その結末が…。

「…さっきからうっせーよ!!俺はこんなとこに長居したくねーんだ!さっさと!――…ぐっ…イテッ…」

「出て行きたければ出て行くといい・・・動ければの話だがな。」

そう言うと、マダラはオビトに背を向け、ゆっくりと歩き出す。

オビトはハァハァと上がった息を何とか抑えながら、思う。

・・・待てよ。これって…おかしいだろ…⁉なんで写輪眼のじじいが独りでこんな所にいんだ?・・・

「じじい!!てめぇ、さては木ノ葉の抜け忍だな⁉何者だ⁉」

しかし、マダラはオビトの言葉を無視をし、先ほどまで座って居た場所に戻るとゆっくりと腰かけようとした。オビトは薄暗い中、その光景に目を凝らす。

「!!?」

マダラの背後に何か巨大なものが見えた。しかし何かまでは分からない。

マダラはそこへ腰かけると、再びオビトを見据えた。

「俺は・・・うちはの亡霊・・・うちはマダラだ。」

「・・・・・!!!」

 

 

チュンチュン、チュンチュン・・・

 

翌朝。

朝陽が部屋を照らし始める頃、スズメも囀り始めた。

一軒家のアジトの部屋の中は秋冷でひんやりとし、やがてくる冬を予感させる。

冬は、六花に後悔を蘇らせる。

「ふぅ―――・・・」

六花はテーブルに着き、両肘をついて顔の前で手を握り締め、そこに頭をもたげて長く息を吐いた。そしておもむろに顔を上げると目線の先の本棚の前に、いつかの自分の姿が浮かんでくる。

 

あの日、芙蓉はマダラを見送った後、洗濯をして外に干し、それからこの場所で本の整理をしていた。

すると突然、目の前に扉間が現れ、そのまま木ノ葉の里に連れて行かれたのだった…

その後、マダラは…柱間は…扉間は…そして、自分は…

『いなり作って待っとけ』

今はもう、それすら出来ない。いや、もうずっと前からそうだったではないか。

 

今更考えても仕方が無い事が頭を巡る。六花は急いで立ち上がって台所に立った。

「過去に現在(いま)と未来を支配させては駄目…」

そう小さく、いつか自分が誰かに言った言葉を呟いてみた。

 

 

「ねぇ、住みたい場所決まった?」

「ううん、まだ」

六花は部屋の整理をしながら背中で答えた。すると机の上でザラメせんべいを食べていたゼツは、せんべいを丸呑みしてから六花の頭の上に飛び載った。

「ここに来てもう三日目だよ?早く決めなよ!」

六花は手を止めた。そしてゼツではなく、正面を向いて言う。

「だから、ここに住み続けるのでは駄目なの?ここなら用心棒や寺子屋の仕事もあるし、何より暮らし慣れているから問題無いし…なぜそんなにここ(山岳の墓場)を離れたがるのよ?」

「だって~、せっかくだから違う場所に住んでみたいじゃん。国が違えば食べ物も変わるよ?まだ食べたことが無い甘味が世の中にはいっぱいあるんだよ⁉」

「はぁー。結局甘い物目当てなわけ?」

「はい、六花のご主人様は誰?」

「ゼツさまでーす」

「なら言う事聞いて。いい?」

「ハイハイ・・・」

六花は再び手を動かし、整理を再開する。

本当は、直ぐにでも木ノ葉の里に行きたかった。

しかしオビトが里に居ない今、木ノ葉の里では故人になっている自分が大義名分が無いのにも関わらず、再びあの場所で暮らす事は許されないのではないかと気が咎めた。

勿論、木ノ葉の忍であるミナトに六花が忍だと知られている事も気になる。

「・・・!」

その時手に取ったのは、分厚い理科の参考書だった。

六花は再び手を止め、眼を閉じ俯いた。

 

 

「あ・・・んっ・・・?」

「六花・・・」

「んんっ。もう、だから変な所に入らないでってば・・・って!だっ、誰⁉」

六花は飛び起き、チャクラと写輪眼を発動して身構える。真っ暗な部屋の中を眼球だけで見回したが、異変は無いく、誰も居ない。

「なーんだゼツかぁ…もう、びっくりしたぁ…」

・・・でも今、確かに人影が見えた気がしたんだけど・・・

六花は再び横になり、布団を被って目をつぶった。

「!!?」

「僕だよ?六花・・・」

「な、何してるの?・・・」

布団の中。

その“手”は、六花を後ろからしっかりと抱き締めていた。“足”は六花の足に絡まっている。

ゼツが自在に身体のかたちを変化できることは知っているが、今のかたちは…いや、しかしそんなはずは無い。見た事が無いではないか…。

六花が横を向いて戸惑っていると、その手は六花の腕の隙間をすり抜け、左の乳房を鷲掴みにした。

「・・・⁉」

「六花、愛してるよ・・・」

「ふ、ふざけないで!!!やめてっ!!」

六花は再び起き上がって布団から出ようとしたが、その手は六花の両肩を引っ張って無理やり布団に仰向けに寝かせた。

すると、六花の目の前に、ゆっくりと真っ黒い人のかたちが目の前に現れる。

その顔は、ゼツだった。

「なんの・・・つもり?」

「だってもう六花は僕のものでしょ?」

「いっ・・・・・!!」

その時、六花の身体に戦慄が走った。

 

 

空にはこの秋最後の満月が浮かんでいる。

しかし今宵は月の光で星の姿が見えない。

「・・・うっううっ・・・」

六花は一人、食卓にうつ伏せて泣いていた。

 

ゼツは元々得体の知れない存在ではあったが、マダラの分身であり、記憶を取り戻してからこの二十五年近く一緒に過ごしたことで、相棒とも友達とも兄弟ともペットとも分からないが、心を許す存在になっていた。

しかしそこには明らかな線引きがあり、それが破られる事があるなどあり得ないし、想像すらしたことが無かった。

いや、想像する事すら悍ましい…

その悍ましい感覚に、六花はハゴロモから聞いた自分の前世・ヒミコの身に起きた事を想い出していた。

 

・・・ヒミコさんも、こんな感覚だったのかな・・・

 

「ええ。似ているかもね」

 

「⁉」

 

六花が顔を上げると、目の前の縁側に、髪の長い女性が立って居るではないか。

その頭上には南中の満月が輝いている。逆光で目がくらみ、その女性の顔ははっきりとは見えない。そして、チャクラも感じない。どうやら忍ではなさそうである。

 

「ねぇ、何をそんなに泣いているの?」

「えっ?・・・だ、誰⁉」

すると女性は芙蓉に歩み寄り、ゆっくりと顔を六花の顔に近づけてきた。しかし、芙蓉は不思議と恐怖を感じない。

・・・あっ!この人は!!!・・・

「私が、大筒木ヒミコ。ハゴロモが言っていた、ね…はじめましてだけど、実はずっとあなたの中に居たのよ?ふふっ」

「なぜ・・・ここに?」

「マダラが外道魔像を口寄せしたでしょ?あの力を使って、あなたの中から出て可視化されるようになれたの。いわゆる幽霊ってやつだけどね」

{IMG43820}

「・・・・・」

六花は言葉が見つからず、ただ茫然と、満月に照らされ青白く闇に浮かび上がるヒミコを見つめた。

白く長い髪、額に生えている角の様な物、写輪眼の瞳…

確かにその姿かたちは、ハゴロモに見せられたヒミコの姿、そのものだった。

「ところで、もしその涙がゼツに凌辱されて泣いているなら無駄だからやめなさい。好機だと思うべきよ」

「えっ・・・」

「ゼツはね、私の弟なの。この世には生まれなかったけれど。死産だと分った時、私の母が自らゼツの魂だけを取り出し作り出した存在、それがゼツ。その存在を知っているのは母と私だけよ」

「・・・・?」

六花は、その話を直ぐには理解が出来なかった。

一生懸命、頭の中でこれまで見聞きしてきた単語を繋げて事実関係を整理しようと試みる。

するとヒミコは、再びズイっと芙蓉に顔を近づけてきた。大きく見開いた眼で六花の瞳の奥を探る様に見つめながら言う。

「兎に角、ゼツはあなたを愛している。あなたはゼツのモノなんじゃない、ゼツがあなたのモノなの。それを利用しないでどうするの…芙蓉!」

六花はゼツが自分のことを愛しているゼツはお前のものだという言葉よりも、ヒミコが自分の本名を呼んでくれたことに少し動揺してしまった。ごくりと唾を呑み込み、俯く。

一方ヒミコは月を見上げながら言葉を続ける。

「あなたはこの世の摂理を解ってない。男はね、女が生きる為に存在しているの。女に生まれたあなたには男を利用する権利があり、利用する義務がある…何故なら、この世を支配するのは女だから!」

六花も流石にその過激な発言には驚き顔を上げ、愕然としてヒミコの横顔を見つめた。

芙蓉が想像していたヒミコの人物像とは余りにかけ離れている。

「で、でも・・・」

「これまでマダラに命令されてあなたが心を痛めながら行ってきた任務。どれもあなたは何も悪くない。あなたのその美しく、清らかな手を汚す必要なんて無い。本当に汚い事は全て、ゼツに、マダラに、男共にやらせればいいの!お箸があるのに素手でご飯を食べて手を汚すの?使える道具を使って当然でしょう?」

ヒミコは満月を背負い、ニコニコしながら芙蓉を見ている。しかし芙蓉は怪訝な顔をしてヒミコを一目見たが、直ぐに目線を斜め下に落して言う。

「・・・でも、食べている事には変わりはないです・・・罪も、責任も、私にあります」

「あはははっ!芙蓉、あなたはこれまでの転生者の中で私に一番似ていない。だから私はあなたのことが大好きなの!」

「・・・?」

ヒミコは芙蓉に背を向けた。そして顔だけで振り返って言う。

「残念だけどもう時間が無い。私があなたの前に現れる事が出来るのは満月の夜、満月が南中に在る数分間だけなの。ロマンチックでしょ?ふふっ…じゃあ、またね」

「・・・!!」

ヒミコの姿は、スッと音も無く六花の目の前から消えてしまった。

目の前にはほんの少しだけ西に傾いた月だけが浮かんでいる。

「・・・ヒミコ・・・さん・・・」

 

 

 

川にかかる低い橋、稲の刈り取られた後の田んぼ、大きな楠木…

どこか懐かしさを感じる風景に、六花は目を細める。

「結局、木ノ葉の里って…。やっぱり扉間にまだ未練があるんでしょ?」

左肩に載るゼツが不満そうに、低い声で六花に言った。

「未練も何も…扉間さまは私の夫よ。今でもね…」

「六花ってさ、良い人ぶってホント八方美人だよね。そういう奴が実は一番悪い奴なんだ!」

その言葉に六花は足を止めた。

「…うん。解ってるわ。」

「でも!今は、六花は僕のものだからね!」

「・・・」

 

 

「ほーら、やっぱり。これが目的じゃん」

「いいじゃない、少しくらい」

六花は固く閉じられた門から、首を伸ばしてその家の庭を見ている。

常緑樹の濃緑の葉なら見えるのだが、その足元にあるかもしれない寒牡丹までは見えない。

忍術を使えば庭に入る事など容易いのだが、六花は木ノ葉の里では一般人であり、昼間に堂々と不審な行動をする事は出来ない。

「充分、不審だよ?」

「う、うん・・・」

心の中の声に対し、鞄の中に居るゼツからツッコまれ、六花は気まずそうに首をひっこめる。

庭を見ることは諦め、六花はその場を後にした。

しかし六花の顔はにこやかで、足取りも軽い。

扉間が亡くなって二十五年近くが経った今でも、二人の家はちゃんと在った。その事実だけで充分、嬉しかった。

しかもこの家は今、三代目火影・猿飛ヒルゼンの直接の指示の元、他里からの要人・来客の為の宿泊施設として運営管理されているそうだ。その事実もまた、“芙蓉”にはとても嬉しい…。

 

 

「ごめんください。こんにちは…あの、表の求人の紙を見たのですが…」

開店前の蕎麦屋に入ると、店主と思しき初老の男性、同じく初老の女性、二十代半ばくらいの男性三人が忙しく準備をしていた。

『・・・!』

六花の顔を見るなり、三人の動きが同時にピタリと止まった。

その反応を見て、六花は思わず少し俯いたが、思い切って顔を上げ口を開く。

「あの、厨房と後片付けのお仕事をさせて戴きたいのですが、まだ求人されていらっしゃいますか?」

しかし、三人は口を半開きにしたまま、まだ固まっている。

六花はまさか、鞄の中に居るゼツが術でもかけたのではないかと不安になり鞄を開いたとたん、二十代半ばくらいの男性が突然喋り始めた。

「あっ、はい!こんな店で良ければ是非っ是非にっ!どうぞ、どうぞ、こちらに座って下さい!」

そう言って若い方の男性が急いで客席の椅子を引いた。そして初老の男性も焦って口を開く。

「お、おい母さん、早くお茶を出して差し上げないか!」

「ああ、はいはい!」

「あの、お構いなく…働かせて頂く身ですし…」

その後、お茶だけではなく何故か六花の目の前には店で一番高いメニュー「大海老入り天ぷら五種盛付き蕎麦御膳」が出され、六花は申し訳ない気持でそれを食べつつ、舞い上がってニコニコと話し続ける三人の話を聞かされ、六花の身の上話もあれこれと訊かれた。

この店は店主のウスタ、その妻のムギ、そして一人息子のキネタ三人での家族経営だという。先日、厨房を担当していた年配の女性が辞め、急募で求人を出していたらしい。

 

 

「どうせ働くなら蕎麦屋なんかじゃなく、甘味処にすればいいのに」

帰り道、鞄の中からゼツが六花に不満そうに言った。

「だってそんな所で働いてたらゼツが商品食べ尽くしちゃうじゃない!駄目!」

「あ、でもさっきの蕎麦団子美味しかったな~」

「まったく、もう・・・」

師走の良く晴れた正午。忙しなく多くの人が行きかっている。六花は苦笑しながら、人をかき分けてゆく。そして、ようやく広い場所に出た。

「甘味処・・・か・・・」

そう呟くと立ち止まった。

「やっぱり六花だって食べたいんじゃん。ねぇ、食べに行こうよ?」

六花の頭には、あの日、「蝶屋」でその日の主役である樹、そして扉間、カガミ、ヒルゼン、ダンゾウ、ホムラ、コハルと一緒に樹の火影奨励賞受賞祝いをした思い出が蘇り、胸が締め付けられた。甘い想い出の筈なのに、苦い味が口の中に広がる。

「また、今度ね・・・」

「え~!いいじゃん行こうよぉ!」

「何かお菓子を買って帰るから・・・」

 

 

次の日。

早速今日から六花は蕎麦屋で働き始めることになり、再び蕎麦屋の扉を開いた。

「おはよう!今日からよろしく!分からない事があったら何でも俺に訊いてね」

「はい。よろしくお願いいたします!」

六花は笑顔でキネタに頭を下げた。そして頭を上げると、キネタは手に女物の服を持っていた。しかし、三人の制服とは明らかに違うような…

「あの、六花ちゃんには厨房の手伝いもなんだけどさ…接客もして欲しんだけどいいかい?」

「あ、は、はい・・・」

・・・どうしよう。人目に付かない厨房の仕事だから働くことにしたのに。でもここで断ることは出来ないし・・・

「で、これが制服!これに着替えてくれるかい?」

キネタは少し照れた様子で六花に制服を手渡した。

 

『・・・』

奥の部屋で制服に着替えて店内に出て来た六花を見て、三人は昨日と同じ反応をした。完全に固まっている。

「あの…」

「…超可愛い!!」「美しいっ!!」「お人形さんみたいだわ!」

六花の着ている制服は、赤い矢絣の着物に赤い鼻緒の草履、その上にフリフリのフリルが着いた白いエプロン、頭にもフリルが着いたカチューシャだった。よもや蕎麦屋とは結び付かない風体である。

・・・これじゃ目立ちに来たようなものじゃない!・・・

はしゃぎまくる三人を前に、六花はうな垂れた。

 

 

「まだ大晦日まで十日近くあるのに、蕎麦屋に行列っておかしくね?」

「なんか可愛い看板娘が入ったとかで、みんなそれ目当てみたいだぜ」

六花が蕎麦屋で働き始めて僅か三日ほどで六花の噂は広がり、木ノ葉の里の外れにあるにも関わらず、六花見たさに多くの客が里外れの小さな蕎麦屋に押し掛けてきていた。

六花はその状況に直ぐにでも店を辞めたかったのだが、責任感の強い六花は自ら働かせてくれと頼んでおきながら一週間もしないで辞めるのは躊躇われた。ようやく一週間が経ち、流石にこれではまずいと思って厨房のみで働かせてほしいとウスタとキネタに頼んだが、「年の瀬までは接客の人手が圧倒的に足りないだよ。時給上げるから接客で頑張って貰えないだろうか」と懇願され、仕方なく今でも接客を中心に働いている。

ガラッ…。

ようやく人の波が引き閉店間際だった店の扉が開いた。

「ギリギリに、すみません」

「いらっしゃいま・・・!」

「⁉」

「ん?ミナトどうしたの?」

店に入って来たのは、ミナトと、赤毛で長い髪の女性二人だった。任務の帰りなのか、二人とも木ノ葉隠れの任務服を着ている。

「わぁ~!本当に可愛い!!噂以上だってばね!ねぇ?ミナト!」

「えっと、あの、お二人様ですよね。あちらの奥の席へどうぞ…」

自分を見て両掌を口の前で合わせてはしゃぐその女性から目を逸らし、六花は二人を奥の席に案内した。そして六花は急いで厨房へ引っ込む。

・・・まさかこんなに早くミナトさんに会ってしまうなんて。でも、それも想定内よ・・・

六花は何事も無かった顔をして二人の席へお茶を運んで行く。

ミナトも特に無反応のまま、少しだけ笑みを浮かべて六花を見ていた。

そして六花は笑顔で二人の前にお茶を置きながら口を開く。

「ミナトさん、お久しぶりです。この前はご迷惑をおかけしました。」

「また木ノ葉の里へ戻って来られてたんですね。」

「え?二人共知り合いだったの⁉」

「うん。一ヶ月前のあの任務の時の…ね」

ミナトの言葉を聞くと女性の顔色は変わり、少し厳しい顔で六花を黙って見つめてきた。どうやらミナトはあの日の事をこの女性に話している様である。

「申し遅れました。六花と申します。昔、火の国の大名付きの忍をしておりましたが、今は引退して両親の故郷である木ノ葉に暮らしております。あの、あれからカカシ君とリンちゃんはどうしていますか?」

「こちらこそあの時はご迷惑をおかけしました。お陰で、二人とも元気です。」

「そうですか…良かった。あ、すみません。ご注文はお決まりですか?」

六花は敢えて自分から個人情報を伝え、カカシとリンを心配して見せた。その程度でミナトの疑惑を晴らすことは出来ないだろうが、ここで下手に隠す方が疑惑を深めるだけである。今は疑惑を晴らすのではなく、疑惑を深めない事が何よりも重要だった。

六花は注文を聞き終わると穏やかな笑顔を見せ、厨房へ歩いて行った。

 

「ねぇ、スパイが看板娘なんてするかな?あんな派手な格好で…」

「うん。そうだね。だけど可能性はゼロじゃないよ。もしかしたら任務は終わっているのかもしれないね。戦争も終結に向かっているし…」

ミナトとクシナは蕎麦屋の帰り道、二人で歩きながら六花のことを話していた。

二人の頭に、帰り際の六花の顔が浮かぶ。

『ありがとうございました。次はぜひ、カカシ君とリンちゃんも一緒に…あと、私にできる事があったら何でも仰って下さい。ご協力しますので』

ミナトがふと、帰り際に六花から手渡された蕎麦団子の入った袋に目を落とす。

「暫く様子を見ようってばね。もしかしたら本当に平穏な生活をしているのかもしれないし。そうだったら、なんだか可哀想…同じ女として」

クシナがミナトの目線を追いながら言った。

「うん。そうだね…」

微笑むミナトの横顔を見て、クシナが口を尖らせて言う。

「でもミナトったら嘘ついてた。“女”じゃなくて、“美女”だったってばね!」

「い、いや、それは・・・」

 

 

六花は今、里の外れの二階建てのアパートの二階の小さな部屋に住んで居る。

夜は更け、外は静まり返っている。

「やめてっ・・・」

「やめるのは六花のほうでしょ?あんなに人気者になっちゃって…楽しい?」

「ち、違うわ・・・いやっ!」

「お金はマダラが沢山残してるから生活には困らないのに、どうしてそこまでして働くのさ?そんなに男にチヤホヤされてたいの?ねえ!」

「違う!・・・お願い、もう、もうやめてっ・・・」

「やめないよ。六花のご主人様は誰だっけ?」

「・・・・ああっんっ・・・・っ!!」

「もう我慢の限界だよ・・・僕。毎日、毎日、目の前で六花が沢山の男たちの眼で犯されていることがっ!!!」

「辞める・・・辞めるから!お願い・・・やめてっ・・・」

六花の言葉は虚しく消え、悍ましい営みは夜もすがら続いた。

 

 

 

つづく

 

 



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(4)~新たなる救世主の誕生

今回(4)の登場人物は、うちはマダラ、ゼツ(黒)、うちはオビト、はたけカカシ、のはらリン、大筒木カグヤ(o.c)。

六花が木ノ葉の里に来て五ヶ月近くが過ぎたある日。
カカシとリンは任務を命じられ、ミナトの同伴無しで里を出ます。
六花は不安に思い二人を探します。
しかし、そこで事件が・・・。
遂にマダラの思惑通り、オビトは”うちはマダラ”を受継ぐことになります。
そして六花はマダラの最後に立ち会った後、オビトに着いて行こうとしますが・・・

※原作の場面を引用しています。



 

桜が散り、気温が高い日が続いている。

多くの人が行き交い陽炎が立つ、里の大通りの風景がまぶしい。

しかし、建物の軒先で手拭を頭から被って顔を隠し、その光景を眺めている六花の表情は暗かった。

 

四ヵ月前、年が明けて間もなく、六花はあの蕎麦屋を辞めた。

大晦日の前日にミナトが再びクシナと、そしてカカシとリンを連れて店に蕎麦を食べに来てくれた。きっとミナトが抱く疑惑は晴れてはいないだろうが、カカシとリンを連れて来てくれたことで、疑惑は深まっていない事を確認できて安堵した。そして、大晦日の営業が終わった後、キネタから求婚された。その二つを理由に、六花はようやく店を辞めることが出来たのだった。

それから今日まで、昼間は寂しい時間を過ごし、夜は悍ましい営みに耐える日々だった。

そして、ヒミコとは数ヶ月会っていない。

どうやら満月の日であっても、曇りや雨で月が隠れている時は現れることが出来ないようで、会えない時が続き寂しかった。

しかし、六花は只ぼうっとしていたわけでは無い。

六花は、木ノ葉の忍の動きを偵察し、常に忍界の情勢について把握するようにしていた。

 

六花の暗い表情の理由…それは昨日知った、カカシとリンの任務についてだった。

現在、ミナトは数名の忍を連れて二日前から別の任務で里を不在にしている。

そこへカカシを隊長とした三人一組の班が作られ、火影から任務を任される事になった。任務の内容は、霧隠れの忍が湯の里に侵入して不穏な動きをしている件についての調査だ。戦争は終息したものの未だに各地で火の粉はくすぶっており、木ノ葉の里の忍たちにとって、その火消しが重要な任務になっていた。

カカシはあの日、オビトから写輪眼を譲り受けた事により新術を完成させることができ、精神面でも成長し、それから幾つも難しい任務をこなしていた。

しかし、そこには毎回ミナトの姿があった。

今回はミナトが居ない初めての任務である。

成長したカカシと、同じく医療忍者として更に成長しているリンならば、きっとうまくやってくれるだろう。

しかし、六花は言い知れぬ不安を感じていた。

そこに、自分の仕組んだ事でオビト、カカシ、リンに傷を負わせてしまった罪の意識も加わり、助けてやらねばという気持ちが更に不安を助長させていた。だが今の自分の立場を考えると、下手に手を出して事態を悪化させては元も子も失う。

色々と省みて、六花は黙って二人を見送ることに決めたのだが、やはり不安な気持ちと何も出来ないもどかしさで表情は暗くなってゆくのである。

 

そして、六花の表情を暗くさせるもう一つの理由…

それは勿論、マダラのことである。

ゼツはどうやらアジトを出入りできるらしく、時々アジトに戻って来てはマダラの様子を伝えてくれるのだが、なんと、マダラはまだ生きているというのだ。

嬉しい反面、何か問題でもあったのだろうか、マダラは一体何を考えていて、どうするつもりなのだろうかと心配になる。

しかしその心配はマダラの死を願うようでもあり、やり切れない気持になる。

今すぐにでもマダラの元へ飛んでゆきたい。

しかしそれは出来ないし、マダラが望むことでは無いだろう。

 

六花は空を見上げた。空は、白い雲が浮かぶ薄い青空だった。

・・・同じ空の下に居るのに、なぜ会えないの?・・・

 

 

・・・身体が…馴染んできてる…もう少し…もう少しで会えるぞ…リン!カカシ!・・・

 

「ねぇ!さっき外行ってきたんだけど、君の言ってたリンとバカカシっていうのがヤバイよ!!」

「!!何があった⁉」

岩壁から出て来た白ゼツの言葉に、オビトは飛び起きた。

「二人きりで霧隠れの忍達に囲まれてる!!」

それを聞いてオビトは寝台から飛び降り、入り口を塞ぐ一枚岩に向かって走って行った。

ダッダダダダダッ・・・・・ガッ!!!

そして思い切り右腕で岩を殴った。しかし。

ズリュッ!!

「ぐあっ!!・・・・」

オビトの右腕は千切れそうになり、かろうじて肩にくっついたまま床に落ちた。

白ゼツはオビトに駆け寄った。

「その身体じゃ岩は壊せやしないよ」

「ぐっ…リンとカカシを…助けに行かなきゃ…!!」

「僕の体を着るといいよ」

すると白ゼツは顔面から身体を蔦状に広げると、オビトの身体にまとわりつき、そのまま身体を包み込んでゆく。

「…お前ら…マダラの部下だろ…いいのか?」

するともう一人の白ゼツが壁から現れ、答える。

「その子は…良い子だ」「リンとカカシを助けたいんでしょ?」

「…ありがとうお前ら!!」

 

 

ダダダダダダッ・・・・

 

六花は急いでいた。

数ヶ月ぶりに戦闘服を身に纏い、夕方の曇天のもと、六花は春の野をひたすら走っている。

「ねぇ、僕の言うことを聞かないでこんな事して、後でどうなるか解ってる?」

「そんなこと言いながら、ちゃんと一緒に来てくれてるくせに」

「無駄足だと思うよ?大丈夫だってあの二人なら。ねぇ、今引き返すなら許してあげても良いよぉ?」

「うん。そう思うけど、どうしても胸騒ぎが止まらないの…この眼でしっかり見ないと!」

「ハァ~」

 

「あ!リンちゃんとカカシ君を見つけたわ!」

「うん、無事みたいだね。さ、帰ろ?」

「…⁉ ねぇ、リンちゃんのチャクラがおかしいわ!このチャクラどこかで…あっ!」

 

「カカシ!直ぐに私を殺して!私は利用されている…霧隠れの忍に三尾を身体の中に入れられた…このままじゃ木ノ葉を襲うかもしれないの!」

 

・・・そう、尾獣だわ!九尾と同じ!!・・・

六花はリンの言葉を聞き、心の中で叫んだ。そして、敵が三尾をリンの中に入れることにより木ノ葉の里で暴走させようという事を直ぐに察した。それが分かった以上、直ぐに二人に接触するのは危険だ。

六花は焦りを何とか抑えつつ、霧で煙る森の中、二人と並走する。

 

「オビトにお前を守るって約束した!そんな事は絶対に出来ない。何か必ず別の方法があるはずだ!…」

 

「…私の万華鏡写輪眼なら、マダラさまが九尾を操ったように三尾を操れるはず!!…」

「…うん。でも一度人柱力になった人間は尾獣を抜かれたら死ぬよ…」

「…そんな!!じゃあどうしたら・・・・・⁉…」

 

ビュンビュン・・・ガン!ガン!

リンとカカシを追う霧隠れの忍が二人を攻撃した。

「このままじゃ二人が敵に捕らわれてしまう!」

…シュ!…シュ!

六花は刀を抜いて霧に身を紛らせると、後方からリンとカカシを狙う敵二人を写輪眼で動きを止め、静かに息の根を止めた。

しかし、もう二人、敵が横をすり抜けリンとカカシに近づいてゆく。六花はその敵二人を追う。

 

ダダダダダッ・・・・ザッ!

ザッザッザッザッ・・・・ザザッ!

 

『!!?』

 

“二人”の眼に同時に映ったのは、信じられない光景だった。

 

カカシの右腕が、リンの心臓を貫いていた。

 

「・・・嫌っ・・・」

六花は両手で顔を覆った。

ブワッ!ザシュッ!!グサァッ!!

ゼツが体のかたちを変え、後ろから六花を切りつけて来た霧隠れの忍からガードし、そして体を尖らせ突き刺して倒した。

「六花!ぼうっとしないで!早くここから離れるんだ!早く!!」

「・・・っ!」

六花は急いでその場を走り去った。

 

 

ハァハァハァハァ・・・

六花は河原に出ると、石の上に両手をついて肩で大きく息をしている。ボタボタと汗と涙が入り混じった大粒の雫が河原の石に滴り落ちてゆく。

「…リンちゃん…カカシ君…私が…私が最初から着いて行っていればこんな事には…」

「今回は全く六花に責任なんて無いじゃん!まぁ僕が止めたのに言うこと聞かずに来ちゃったからこんな場面見る事になちゃったけどねぇ。さ、少し休んだら家に帰ろう」

・・・あーあ。あれを見せない為に、せっかく六花をアジトから遠ざけておいたのに・・・

ゼツは心の中で大きく溜息を吐いた。

そして六花はゆっくりと顔を上げる。

目の前の河の川面にはキラキラと揺れる水溜りが出来ていた。

フッと空を見上げると今宵は満月で、辺りは煌々と月明りで照らされている。

「…満…月…」

 

・・・ザッザッザッ・・・

「⁉」

 

音の方を見ると、黒いマントを身に纏った人影が走っている姿が見えた。感知をしてみるとそれはオビトだった。

「オビト君だわ⁉どうしてこんな所に⁉」

そう呟き終わる前に六花は立ち上がり、オビトの後を追って走り出した。

 

 

「この世の因果を・・・断ち切る。その為に戻ってきた。」

オビトは二度と戻ることは無いと思っていたマダラのアジトに再び戻って来た。

そして、マダラと距離を取って対峙している。

「フッ・・・誰にも見られてはいないだろうな?」

マダラの問いに白ゼツが答える。

「見てたのは僕だけ。オビト…敵を皆殺しにしちゃったから大丈夫。ただ、カカシだけは殺す気なかったみたい。でもカカシは何も見て無いよ…木ノ葉の増援が来た時『誰が敵を⁉』ってわめいてたし…」

「・・・かつての仲間だけに未練があったか・・・?」

「違う…どうでも良かっただけだ。この世にアイツが生きていようが死んでいようがもうどうでもいい…これから創る世界にカカシは居る…リンも!…俺に、夢の創り方を教えてくれ…マダラ」

オビトのその言葉を聞くと、マダラは得も言われぬ顔でニヤリとした。

 

「もう礼は要らん・・・こっちへ来い・・・今日からお前が救世主だ」

 

・・・・・・・

 

「…この黒い棒は俺の意思をカタチにして作ったものだ。これは六道の術の時に使え」

オビトはその黒い棒をマダラからしっかりと受け取った。

そして、マダラに背を向け出口へと歩いてゆく。

・・・ブチブチブチッ!

その音に、オビトはマダラの方へ振り返った。

すると、マダラは魔像と繋がっていた蔦を切っていた。

そして苦しそうな目と荒い息でオビトを見据えて言う。

「…さあ動け…俺が復活する…までの間…お前が…うちはマダラだ…」

オビトは頷き、また前を向いて出口に向かって走って行った。

 

「…いつまで…隠れてる…気だ…六花…」

その声と同時に六花が入り口の岩の影から飛び出し、マダラに駆け寄った。

「マダラ様っ!!!」

「…本当に…世話の焼ける…奴だ…お前は…」

「ホントだよ~せっかくここから遠ざけといたのにさ、自分の足でここまで来ちゃったんだよ?六花ったら。」

ゼツが六花の左肩に載ってマダラに言った。

「…六花…見ていた通りだ…俺が復活…するまで…オビトを…手助けしろ…」

「は、はい!!・・・・マダラ様!マダラ様!!?」

「だーかーらー焦り過ぎだって六花~。予定通りなんだからさぁ~」

「…フンッ…」

マダラは僅かに笑うと六花を抱き締めた。六花もマダラをギュッと抱き締める。

しかし、徐々にマダラの腕の力は抜け、心臓の鼓動は小さくなってゆく。それに反比例して六花の腕にはますます力がこもり、鼓動は速くなってゆく…

 

遂にマダラの力は全て抜け、マダラの全体重が六花に圧し掛かった。

六花は、しっかりとマダラの身体を受け止め、最後にもう一度ギュッと抱き締めた。

 

【挿絵表示】

 

そしてマダラの身体をゆっくりと地面に寝かせると、その顔を覗き込む。

 

「…待ってる…待ってるから…あなたが…皆と一緒に世界を救うのを…ずっと!」

 

六花はマダラの両頬を優しく両手で包み込むと、そっと口づけをした。

 

 

 

「待って」

 

その声に、オビトはゆっくりと振り返った。

その右目には、万華鏡写輪眼が浮かんでいる。

・・・万華鏡写輪眼…やっぱり、オビト君はさっきの場面を見ていたのね・・・

「・・・アンタは、確か・・・俺に何の用だ?」

目の前に居るオビトは、以前自分を介抱してくれた元気で優しいオビトとは、まったくの別人だった。

その事に六花は胸が苦しくなり、思わず俯く。そしてまた、ゆっくりと顔を上げた。

「その眼…アンタもうちは一族か?」

「私は、うちはマダラの・・・下僕です。六花と申します。」

「・・・・」

「本当のうちはマダラが復活するまでの間、あなたの手助けをしろと命令されています。これから私も、あなたと行動を共にします。」

「必要ない。邪魔だ消えろ!」

ビュウゥゥ・・・・

先ほどまで吹いていなかった、湿気を帯びた風が吹き抜けてゆく。

月はもう随分と高く昇っていた。

「でも・・・」

「邪魔するなら、お前を殺す!」

「・・・!」

六花は少し怯えた顔になり、目を泳がせた。

すると、肩に載るゼツが口を開く。

「六花、帰ろう。いいよ、こんなガキに着いて行かなくて。必要な時だけ手を貸してやればいい」

「・・・お前は、黒ゼツ?」

「あぁ、さっきマダラが白ゼツの半身にくっ付けてた黒いやつの本体が僕ね。あっち分身だから」

「お前らが誰なんてどうでもいい。俺に構うな!消えろ!」

「言われなくたって消えてやるよ。でも言っとくけど、お前に六花は殺せやしないよ。ううん、殺させない。絶対にね・・・それがマダラの意思だから。」

「ゼツ・・・」

「ほら六花、家に帰るよ」

その言葉に、六花は静かに頷いた。

そして悲しそうな目でもう一度オビトを見て言う。

「私は木ノ葉の里に居ます。必要な時は黒ゼツを使って連絡を下さい。では・・・」

そう言うと六花はオビトの前から姿を消した。

「・・・・」

オビトは少しだけ何かを考えた後、また直ぐに歩き出した。

 

 

今日中に木ノ葉の里まで帰ることは諦め、六花は野営をする事にした。

薪を焚き、暖と灯りを取る。しかし今宵の月光は強く、それでも当たりの月明りは薄れない。

満月を見上げると、先ほどのマダラの死の悲しみが急激に込み上げてきて、そのまま涙になって目から溢れ出た。

またきっと、会える。

しかし、今度こそもう、マダラはこの世に居ない…幻術では無い。

初めて二人が結ばれたあの夜も満月だった…

そして夫婦の契りを交わしたあの夜も満月だった…

月はいつも、例えふたりが遠く離れていても、同じく照らしてくれていた。

しかし、今はもう、マダラは居ない。

 

「やっぱり人が死ぬのは辛いわよね。予定通りだとしても」

その声に六花は顔を正面に向けた。

カグヤがゆっくりと歩み寄り、六花の隣りに座った。炎に照らされている体の部分だけ、透けている。

「・・・ヒミコさん・・・あっ!でもゼツが!」

「大丈夫よ。私が現れる時はゼツを眠らせてあるから。それより、大変だったわね。今日、も」

そう言ってヒミコは拭えるはずもない六花の涙を人差し指で優しく拭ってくれた。

「今日も?・・・ああ、ええ・・・」

六花はハンカチを取り出して涙を拭いながら、少し苦笑して答えた。

「あなたは男に尽くし過ぎよ。ゼツのことも甘やかし過ぎ。まぁでも、それがあなたの男の操り方なんだろうし、それもアリなのかしら?」

「操るなんて!私はただ・・・」

「愛してるだけ?夫が居るのに?ふふっ」

六花は眉間を寄せ苦しい表情になって俯いた。返す言葉など無い。

「ごめんごめん、意地悪言って。あなたを責めたりなんかしないわ。男なんて女を抱くことでしか愛を確認できない下等な生き物よ?それに比べて女は心を捧げる崇高な生き物…一方、常に男の愛情を確認しないと安心できない脆さもある」

六花は顔を上げて、不思議そうな顔でヒミコを見た。前回のヒミコの発言に対し矛盾を感じる。ヒミコも自分の弱さを自覚しているのだろうか?

ヒミコは微笑みを湛えたまま、遠くを眺めている。そしてまた六花を見て言う。

「だからこそ、男を利用しているのよ」

「・・・?」

「マダラは愛に対して絶望する一方、あなたの愛に支えられていた矛盾する存在だった。あなたが芙蓉の時も、そして六花の今も…あなたは女神よ。搾取されているんじゃない。与えてあげてるの…ゼツにもね。そこに快感の一つも無くてどうするのよ。ねぇ?」

「・・・!」

六花は目を見開き、地面に視線を泳がす。心臓の鼓動が速くなり、六花はそれを収めようと胸を手で押さえた。

「あのオビトって子もそうね。リンを愛し守るっていうその強い気持ちに支えられていた。結局それを果たせず自ら闇に落ちてしまったようだけど…そう、それだけ女が男に愛されるということは、女が男を支配しているも同然のことなのよ」

六花は歪めた顔を少し緩め、今度は寂しい顔をし、膝の上にゆっくりと手を重ねるとヒミコに向かって問う。

「・・・でも、私は本当に、マダラ様に愛されていたんでしょうか?」

「あはははは!…本当は解ってるくせに…でしょ?芙蓉」

「・・・」

「大丈夫よ。マダラにはまた必ず会えるから。それまでこの世に生きている毎日を精一杯楽しみなさい。それは罪なんかじゃない。あなたに与えられた権利。そして、私の願いよ」

ヒミコはにっこり笑って、膝に載せている六花の手の上に左手を載せた。その手はすうっと六花の手をすり抜けたが、確かに六花の手を握っている。

「失うものがあるから得るものがある。それもこの世の摂理ね。ふふっ」

そう言って笑うヒミコの顔を、六花は少し目を細めて見つめた。

ヒミコが失ったものはどれほどのもので、得たものはどれほどだったのだろうか…。

「そんな顔しないの。ね?笑って?」

六花はまだぎこちないが、精一杯笑って見せた。

月明りに照らされ、六花の瞳はキラキラと輝いている。

「そう。それでいいわ。ふふふっ」

そう言うと、ヒミコはすうっと姿を消してしまった。

六花は身体を正面に戻し、ボウボウと燃える炎に目を凝らすと、炎の温かさが最後に感じたマダラの体温と重なる。

あの体温をまた感じられる日を、感じ続けられる日々を想像する。

ゆっくりとその場にうずくまって横になると、そっと目を閉じた。

 

 

つづく

 

 

 



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続・六花の森(5)~六花VS大蛇丸!!

◆今回(5)の登場人物は、ゼツ(黒)、うずまきクシナ、大蛇丸、猿飛ヒルゼン(三代目火影)。

マダラの死を機に、六花は木ノ葉の里で新たな生活を始めます。
平穏な生活を楽しんでいた六花の前に、六花の能力を狙う大蛇丸が現れます。

六花VS大蛇丸・・・戦いの行方は?




「あら?六花さんじゃない!お久しぶりってばね!」

六花が商店街の生鮮食品の店から出たところでバッタリとクシナに会った。

「クシナさん…お久ぶりです」

六花は胸がチクリとするのを感じながら笑顔で会釈をした。

クシナは鞄を肩に掛け直すとニコニコしながら六花に歩み寄ってきた。

「元気?もう新しい仕事は見つかった?」

「はい。実は六月から小さな喫茶店を一人で始めたんです」

「へ~喫茶店!素敵ね!今度ミナトと一緒に行っていい?」

・・・あれ?クシナさんお腹、大きい?・・・

六花の視線に気づき、クシナは少し照れくさそうにお腹を摩りながら言う。

「あのね。ほら、見ての通りで私はいま産休なんだってばね。へへっ」

「おめでとうございます!予定日はもう直ぐですか?」

「うん。まぁね…」

「あのこれ、私のお店の名刺です。狭いお店ですけど、いつか良かったら」

六花は鞄から名刺を取り出し、クシナに手渡した。

「ありがとってばね!女性一人でお店は大変だろうけど頑張ってね」

「こちらこそ、ありがとうございます!クシナさんもお身体大切に」

二人は笑顔で手を振り別れた。

 

カチャカチャ。ガチャッ・・・バタン。パチッ。

六花は店に入ると早足でキッチンへ行き、買って来た荷物と鞄を台の上に置く。そして生鮮品を冷蔵庫にしまっていると、鞄の中からゼツが這い出てきた。

「昨日は閉店時間を三十分もオーバーしてたよ。今日は絶対に閉店時間を守る事!」

「分かってるわよ。そうは言ってもお客さんが居るんじゃピシャって閉めるなんて無理よ」

「じゃあ閉店時間を早めればいいだろ?」

「これ以上営業時間を縮めたら何のためにお店をしているか分らないわ」

何度繰り返されたか分らないこの押し問答が今日もまた始まり、六花はうんざりとする。

 

カカシとリンの事件…そしてマダラが死んだ日からもう直ぐ四カ月が経とうとしている。

あの日から一週間後、六花は飲食店を始めると決めた。

勿論ゼツからは大反対されたが、「飲食店なら客から里や忍についての情報が得られる。喫茶店ならゼツも毎日お菓子が食べられる」というメリットを説明した上で、マダラの死後ひとりで何もしないで過ごすのは辛いと本音を訴えた。それでも渋るゼツに、「午後一時~五時までの営業で」という条件を提示し、何とか認めさせたのだった。

しかし、本当は食事をメインとする店がやりたかった。

「食」はこれまでの人生の中で自分と大切な人たちを繋げる大切なものであり、料理は“芙蓉”の生き甲斐でもあったからだ。

それでも、菓子だって料理には違いないし大切な「食」である。菓子メインでしか作れないにしても、食べに来てくれる誰かの為に料理することが毎日楽しかった。

 

 

 

「ついにあの“黄色い閃光”が四代目かぁ」

「ああ。まだ若いけど彼なら文句なしだよ」

カウンター席に座る二人の忍の会話が耳に入り、六花はそっと目だけを上げて二人を見た。しかし会話に入ることはせず、静かに珈琲を淹れている。

「お待たせしました。珈琲です」

六花はカウンターの席まで行き、二人の目の前にそれを置いた。

二人は「どうも」と言って直ぐに会話に戻る。

「でも大蛇丸も、最後まで自分に任せろってしつこかったよなぁ」

「大蛇丸は三代目の愛弟子で三忍の一人。確かに実力から言ってもミナトと同じかそれ以上だしな。でも人望が無いっつかーか、まぁ火影の器じゃねぇな」

 

・・・クシナさん、喜んでるんだろうな・・・

六花は心の中でそう思いながら片づけた皿を洗い始めた。そして少しだけ寂しく、そして羨ましい気持になる。

・・・私も二代目火影になった扉間さまのこと、傍で支えてあげたかったな・・・

 

この日は閉店時間の五時丁度に店を閉めることができ、六花は店内の清掃を始めた。

客席のテーブルを拭きながら、六花は満足そうな顔で店内を見回す。

店は二十畳ほどと狭く、築三十年と少し古い物件だが、六花が磨き上げたチーク材の床は黒光りしている。客席もカウンターと四人掛けテーブル席が二つ、二人掛けが四つだけ。古物店でデザインは違いではあるがウォールナット素材で揃えた。各席の上には白熱灯の灯りを設置し読書や書き物をしやすくした、六花のこだわりの客席である。

この光景は、毎日見ても飽きない。

カウンターの内側のキッチンで、ゼツが余った商品のパウンドケーキと白玉団子を食べながら六花に向かって話しかける。

「さっきの客が言ってた大蛇丸。六花も気を付けるんだよ?」

「ええ。なんだか以前から怪しい動きをしているわ。怖い…」

「六花の身体の秘密が奴にバレたら何されるか分からないよ」(ゼツは六花の不老は母・カグヤの力によるものだと思っている)

「うん…でもミナトさんも四代目火影に就任したし、三代目火影も流石にもう大蛇丸の行動を見てみぬ振りは出来ないんじゃないかしら?」

「あんなヤバイ奴、さっさと始末して欲しいよ。まったく!」

六花は清掃と片付けが終わるとゼツを左肩に載せ、二階の住居へと続く階段を上って行った。

 

 

「もう・・・またなのゼツ?さっきも・・・・・」

ようやく眠りについたのにも関わらず、再びゼツが六花の太腿に触れてきた。

と、思ったのだが…

布団を避けて覗いてみると、それは細長く白い物体で、ニョロニョロと動いている。

良く目を凝らして見ると…

「キャア!!!」

六花が悲鳴を上げると同時にその白い物体は六花の太腿に噛みついた。それを合図に、白く細長い物体がどこからか次々と現れ、あっという間に六花の身体を覆い尽くしてゆく。

 

「キモッ!!!」

六花の左肩に載るゼツが叫んだ。

「噂をすれば・・・みたいね。」

 

「あら、私の蛇に気が付いて変わり身の術で即座に逃れられるなんて、やはりただのくノ一じゃ無さそうね。アナタ」

開錠され開け放たれた寝室の扉の前に、大蛇丸が立って居た。

「・・・・。」

シュンッ!

六花は無言で大蛇丸の目の前から消えた。

「逃がさないわよ…フフッ」

 

「あんな奴、あの部屋でやっつけられたじゃん!わざわざ外に出る必要ある?人に見られたら面倒だよ?」

「だってせっかく借りたばかりの店舗兼住居を破壊されたら困るでしょ⁉」

「こんな時までお店のことかよー」

「当然!!」

 

六花は街灯の無い真っ暗な住宅街を抜け、公園に出た所で足を止めた。公園には一つだけ小さな灯りがついており、夏に湧く虫たちがその灯りに群がっている。

そして、六花は素早く後ろに振り返った。

「女が夜中にそんな格好で全力疾走なんて、はしたないわねぇ。ま、かき捨ての恥になるでしょうけど。」

六花は寝間着の浴衣のまま飛び出してきており、下着はショーツしか履いていない。髪は乱れ、はだけた浴衣からは胸の谷間がのぞいており、足は裸足である。

しかし左手には、マダラから授かった愛用の刀がしっかりと握られていた。

「・・・・・」

「無口な子ねぇ。アナタやっぱりどこかの里のスパイなの?」

「なぜオレを狙う?」

「ミナトが話していたのを聞いちゃったのよ。瞬身の術のマーキングを消した女が居るってね…で、その女が今里に居るって。アナタのその術について教えてほしいの」

・・・なるほど。じゃあ直ぐに写輪眼を使うのは面倒な事になるかな・・・

六花は黙って刀を抜くと、大蛇丸へと構えた。

「剣術も得意なの?じゃあちょっとだけ遊んであげるわ…」

そう言うと、大蛇丸は口を大きく開けた。

すると喉の奥から一匹の蛇が現れた。更に、その蛇が口を開けると、口の中から剣の柄が出て来た。

「…キッモ!あんな奴、刀じゃなく写輪眼と須佐能乎でサッサとぶっ殺しなよっ…」

六花の左肩に載るゼツが小声で言った。

「…殺したら私は里に居られなくなる!アイツは剣と同時に口寄せの蛇を使ってくるはずよ。私が火遁で蛇を焼くから、その間にアイツの動きを止めて。それから、里の忍に知らせてきて!…」

六花がゼツにそう言い終わる頃、目の前の大蛇丸は蛇の口から出て来た剣を右手で引き抜いていた。

そしてゼツは身体を半分に分裂させると、二つは地面に潜って消えた。

「これは神器・草薙の剣よ。アナタのその刀で敵うかしら…来なさい!」

六花は構えた刀を握り直すと、大蛇丸に向かって一直線に走り出した。

 

ダダダダダッ・・・ダンッ!

 

六花は空中に飛び、大蛇丸の頭上から刀を振り下ろす。

「真正面から来るなんて…馬鹿ね・・・⁉・・・」

 

【挿絵表示】

 

トンッ! グッ! バッ!

 

なんと六花は刀を振り下ろすフリをして、大蛇丸が防御で顔の前に斜めに両手で構えていた草薙の剣に片足で乗り、グッとふんばるとその反発力で大蛇丸の背後へと、前転しながらジャンプをした。

ガキィィィン!!!

六花は地面に着く寸前、刀を大蛇丸の背中に切りつけたが、大蛇丸はそれを何とか草薙の剣で防いだ。六花は十メートルほど後ろに飛び退き、再び刀を構える。

「動きはかなり良いわね。やっぱり“眼”が良いからかしら?早く、アナタの写輪眼を見せて貰いたいのだけど?」

六花はその言葉を無視して再び大蛇丸へ向かって走り出す。

「悪いけどもう遊んでいる時間は無いみたいだわ。潜影多蛇手!」

大蛇丸は六花に向かって右腕を伸ばすと、その袖から無数の蛇が束になって出て来て六花めがけて飛んで来る。

六花は足を止め、顔の前で素早く印を結ぶ。

「火遁・豪火滅失!」

六花は口から激しい炎を蛇の束めがけて噴き出した。

ボォワアアァッ!!!

「私の潜影多蛇手が一瞬で燃えた!・・・はっ⁉」

蛇の束が空中で激しく燃え上がる隙に、六花はその下を滑り、大蛇丸の足元に腰を低くして現れた。

「終わりだ」

「何⁉身体が動かない!」

ザシュッ!!!

「ぐあああっ!!!」

ドシッ!!

大蛇丸は勢いよく地面へと背中から倒れた。

六花はサッと大蛇丸に近づくとその顔を覗き込む。

大蛇丸は右足をふくらはぎから切断され、直ぐには起き上がれない状態だ。

「私を殺すつもり?…甘いわね・・・・っ⁉」

六花と目が合った大蛇丸は背中を地面に付けつつ尚もまだ何か攻撃をしようと印を結ぼうとしていたが、その手が直ぐに止まった。

六花の眼には万華鏡写輪眼が浮かんでいる。

大蛇丸が瞼を閉じるのを確認すると、六花は直ぐにその場から姿を消した。

間もなく遠くから数人の足音が聞こえ、公園に入って来た。

「大蛇丸さん⁉大丈夫ですか⁉」

・・・・・

 

 

ザァァァァ・・・ザアアアアア・・・・

「とんだ夜になちゃったねぇ。まさか本当に来るとは。こんな事になるなら先に三代目火影にチクっとけば良かったよ~」

「うん、そうだねって何入ってきてるのよ!出てって!」

浴室でシャワーを浴びる六花の足元に、気付けばちょこんとゼツが居り、六花は追い払おうとシャワーを掛けたが、むしろ気持ち良さそうに目を細めているゼツを見て腹が立つ。

「明日ってもう今日か。今日は店、休みにしたら?」

「そうね…寝室の掃除もしたいし、早速三代目に密告しに行かなきゃならないしね…」

「ほんと、僕らの神聖な寝室に潜り込むなんて許せないよ!」

「怒る所、そこ?・・・ハァ」

 

六花とゼツは木ノ葉の里についての偵察の中で、大蛇丸の怪しい動きについて知っていた。

きっかけは死体安置所から死体が無くなる事件が多発するようになった事である。

最初は他里が木ノ葉の忍の死体から情報を取ろうとしているのかと思われたが、犯人は大蛇丸だったのだ。

その後、ついに生きている人間まで居なくなるようになった。最初は下忍と中忍だったのが、最近は上忍や暗部の忍まで失踪するようになっていた。

六花とゼツはおそらく大蛇丸の仕業だろうと思っていたが、今夜の事でそれは決定的なものになったのだった。

 

 

 

「殺すんですか?この私を。出来ますかねぇ…アナタに…猿飛先生!」

 

大蛇丸はそう言うと素早く印を結ぶ。

猿飛ヒルゼン、ヒルゼンが口寄せした猿魔、そして部下たちも身構える。

ガゴッ!ゴッ!!

ヒルゼンたちは激しく床に倒れた。全員が流血している。

その光景に背を向け、大蛇丸は隠し通路に向かって走り出そうとしたが、足を止めて振り返る。

そして、ヒルゼンと目が合った。

「・・・・・」

ザッ!

僅かな沈黙の後、大蛇丸は暗い通路へと姿を消してしまった。

「猿飛…お前…!」

うな垂れるヒルゼンに向かって猿魔が声を荒げた。

 

「…ヒルゼン…くん…」

「…わぁ~見逃しちゃったよ。甘いねぇ。誰かさんにソックリ!ねぇ~六花?」

六花とゼツはこの日、六花が匿名でした密告を受けて大蛇丸のアジトに向かう事になったヒルゼンたちを追跡してきた。

そして、この部屋の天井にある通気口から一部始終を見ていた。

・・・大切な教え子だったのね。でも、流石にこの場合は・・・

六花はそう思ったが、不意にカガミのことが蘇った。

自分も、もっと厳しくカガミに対して線引きを突き付けておけば、あの日、あんな事にはならなかったかもしれない。

突き放す事こそ本当の愛情だったかもしれない。そう思った。

“芙蓉”を殺してしまったカガミは、あの後、一体どうなったのだろうか…。

扉間は本当に、カガミを罪には問わないでくれただろうか…。

「…これって絶対あとでツケが回ってくるパターンだよね。まぁ僕たちには関係無い事だからどうでもいいけど。大蛇丸は六花の事覚えてないみたいだし。さっ、帰ろ~…」

「…うん…」

六花は重苦しい胸を引きずりながら、静かにその場を離れた。

 

 

つづく

 



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(6)~陽だまり。ミナトとクシナ

◆今回(6)の登場人物は、ゼツ(黒)、波風ミナト(四代目火影)、うずまきクシナ、猿飛ヒルゼン(三代目火影)。

秋の彼岸。六花は偶然、ある男性に会います。
二人の間に流れる空気は・・・

10月中旬。ついにクシナがミナトと一緒に六花の喫茶店に来てくれました。
しかし二人はまだ六花に疑惑を抱いていて・・・
六花はそれでも二人の仲睦まじい姿に目を細めます。

そして夜、六花の眼の前に信じられないものが現れて!?




六花は白と黄色の菊が入った花束を手に、真っ赤な彼岸花が両側に咲き乱れる細い道を歩いている。

その美しい光景に目を細めていると、その中にポツンと白い存在を発見した。

小走りで近寄って見ると、それは一つだけ白い彼岸花だった。

・・・扉間・・・さま・・・

悲しそうにも嬉しそうにも見える表情で暫くそれを見つめた後、再び歩き出す。

彼岸花の細道を抜けて角を曲がると、墓地の入り口に着く。そしてその一番奥に在る墓を目指して歩き出した。

西日を受けてまばゆく光る二つの大きな墓石の前に来ると、その場にしゃがみ、花束の包装紙を解いて花を四等分に分ける。

その二つを、先に左側の墓に供え、もう二つを右側に供えた。それから線香を取り出し、マッチで火をつけ、最初に花を供えた墓に置くとその前でしゃがみ、眼を閉じて手を合わせた。

…豪快に笑う顔、大きくて優しい手の温もり、いたずらっぽい笑顔…

暫くして、そっと目を開けて立ち上がると、墓石に彫られた名前が目に入る。

『初代火影 千手柱間』

そして次は右側の墓の前に移動し、その墓石を見つめながらゆっくりとしゃがむ。

線香は供えない。

生前、この香りが嫌いだと言っていたから…。

六花は少し目を細めて墓石を見上げる。

墓石の角は夕陽を受けて黄色く光っており、まるで“芙蓉”のことを待っていてくれたように思えた。

「…扉間さま…」

小さく名前を呟くと、ゆっくりと目を閉じ、手を合わせる。

…自分だけが知る歯を見せて笑う笑顔、拗ねたように照れる顔、誰よりも厳しく真剣な強い眼差し、そしてあの日、剣術の稽古のとき初めて見た涙…

 

秋の彼岸の中日。

他にも墓参りに来た先客が多く、六花の持ってきた線香以外の香りも漂って来る。その香りが、ここが死者の眠る場所なのだと六花に再確認させ、胸をギュッと強く締め付けた。

そして、固く閉じた目の目頭には、うっすらと涙が光った。

…コトッ。

その音に六花は目を開け、隣を見た。

「ああ…すまない。邪魔をしてしまったかな。熱心に拝んで居るものだから、声を掛けては悪いと思うてな…」

そう言って男は、柱間の墓前に置いた酒瓶から手を離した。

六花は思わず、その男の顔を見て固まった。

しかし直ぐに微笑んで見せる。

「いいえ。こちらこそ通路と墓前を占領していて、お邪魔しました」

「ああいや、そんな事は・・・・ん⁉・・・」

今度は、六花の顔を見た男の顔が固まる。

「ど、どこかで会った事はありましたかな?」

「いいえ。でも私は三代目様のお顔は良く存じておりますわ…ふふっ」

そう言って六花は立ち上がると、ヒルゼンの方を向いて立った。

「お先に失礼致します」

ヒルゼンとほぼ同じ目線の六花はそう言って頭を下げると、もと来た道に向かって歩き出した。

ヒルゼンは茫然とその様子を見つめていたが、不意に六花が無心で拝んでいた墓石を見た。

それはヒルゼンの師である千手扉間の墓だった。

「!」

ヒルゼンはもう一度、遠ざかる六花の後ろ姿を見つめた。

・・・あの女(ひと)は!…いやしかし、そんな筈は!・・・

ヒルゼンが戸惑っているうちに六花は角を曲がって姿を消してしまった。

 

 

開店三十分前。

六花は鼻歌交じりで、白・ピンク・深紅の三色の秋桜を花瓶に生けていた。

「何?妙に今日は機嫌がいいじゃん」

むしゃむしゃとクッキーを頬張りながらゼツがぴょんと六花の左肩に載った。

「ちょっと!何食べてるの⁉それさっき焼き立てのクッキーじゃない!それはこれからミナトさんとクシナさんに出すものなのに!」

「疑われている相手に会うのがそんな嬉しいの?変なの~」

「二人に会うのも嬉しいけど、この花を見てると…気分が明るくなるの。だってこの花は…マダラさまが好きでしょ?」

「顔に似合わず花好きだったよね~マダラ」

「過去形で言わないで・・・って、あ!二人が来るわ!早く隠れて!」

 

…ガチャッ。

「六花さん、こんにちは~」「お邪魔します」

ミナトが店のドアを開けると、クシナが大きなお腹を支えながらゆっくりと先に店内に入り、ミナトがそれを見届けると後から入ってドアを閉めた。

「ミナトさん、クシナさん、ようこそ!いらっしゃいませ!」

六花はクシナに駆け寄ると、触れはしないがクシナの背中に左手を当てて、右手で一番奥の四人掛けの席へと誘導する。

「…開店前から入ちゃって、本当に良かったの?悪いってばね」

「ええ。最近は有難い事に満席になることもあるので…それにミナトさんは時の人でしょう?開店後じゃ入りにくいでしょうし…それに、お二人は私に訊きたいことがあるんじゃないかなって…ふふっ」

そう言って笑う六花を見て、クシナとミナトは顔を見合わせて苦笑した。

「でも、本当に素敵な店だってばね!満席になるのも納得だわ~あはは」

「うん。シンプルで統一感があって落ち着く空間だね!」

「ふふっ。ありがとうございます。飲み物は何になさいますか?あ、本日のケーキは栗のパウンドケーキです」

二人は焦って目の前に出されたメニュー表に目を落とす。

「わぁ~珈琲と紅茶だけじゃなくて、日本茶も色々あるんだってばね!あ、ジュースもあるし。妊婦にも嬉しい~」

「妊婦さんには牛蒡茶とタンポポ茶がおススメですよ。カフェインも無いし栄養豊富ですし。香ばしいから意外とケーキにも合うんですよ」

「へ~じゃあ私タンポポ茶にしてみよっと。えっとケーキはどれにしようかな。あ、ミナトは?…」

二人は肩を寄せ合い仲良くメニューを見て楽しそうに相談している。

 

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六花はキッチンでお湯を沸かしながら、その様子を、先ほど生けた秋桜越しに微笑ましく見ていた。

窓からは九月最後の秋晴れの陽射しが床を照らしており、反射した光がちょうど二人の顔を明るく照らしている。

 

「お待たせしました。タンポポ茶と珈琲、本日のケーキとチーズケーキです。あと、これは私から、クッキーです。さっき焼いたばかりなんですよ。良かったら、どうぞ」

六花はテーブルの上に飲み物とケーキ、そしてクッキーを並べ終わると、二人の前に椅子を引いて腰かけた。

「ミナトさんも火影に就任されたばかりで、クシナさんもご出産前の大変な時に、わざわざありがとうございます。なんだか少し申し訳ないです…」

「だって~甘い物が食べたくってもう我慢の限界だったんだもん!いつ行くの?今でしょって感じだったんだってばね!」

「ははは…そういう事です」

六花は二人の言葉を聞いて、僅かに目を伏せた。そして口を開く。

「それで、あれから何か、私について分かりましたか?」

「えっ…いいえ…大蛇丸さんの事を密告したのがあなただという事しか…」

「私については以前ミナトさんにお話した事、そして年末にお話した事が全てです。ただ・・・本当はもう、私は木ノ葉の里に居てはいけない人間だという自覚はあります」

「木ノ葉の里に居ては、いけない・・・?」

クシナが怪訝な顔で問うた。

「身内が…うちは一族の父が、里を裏切って抜け忍になったんです。それで、母は共犯を疑われ裁判にかけられました。その後母と里を出たんです。それから結婚して、昨年夫が亡くなってたった一人になった時、最初に思い浮かんだのは木ノ葉の里でした。もう私に生きている家族はいませんけど“火の意思”さえもっていれば、今でもこの里と、里の人たちと家族として繋がっていられるかなって…都合がいい考え方ですけど…私、やっぱり木ノ葉の里が大好きなんです」

「火の意思・・・か・・・」

ミナトは小さく息を吐いて、目の前の珈琲に目を落とした。クシナもその視線を追うように、一緒に目を落とす。

火の意思。

それは木ノ葉の忍しか口にしない言葉である。

「…あの…六花さんの旦那さんって、どんな人だったの?」

六花はクシナの質問に、フッと優しい顔で微笑むと、寂しそうに俯いた。

そして少し沈黙した後、六花は話し始める。

「火の意思って、木ノ葉の里を守る強い意志のことですよね…でもそれって、忍が居るこの世界が、やがて手を取り合い平和を築こうという意思へと繋がっていると思うんです」

その言葉を聞いて、クシナとミナトは目を見開くと顔を見合わせる。

「私の夫は、その火の意思を宿しているひとでした…」

「今も、大好きなんだってばね…旦那さんのこと!」

「ええ。愛してます」

三人は顔を見合わせ、ニッコリとした。

「だから、本当に、私に協力出来る事があれば何でも言って下さい。忍として、木ノ葉の一員として、何でもしますから…!」

六花がそう言い終わると、クシナがクッキーに手を伸ばす。

「じゃあ、まずは六花さんのクッキーいただいちゃおっと・・・ん!美味しい~!!」

「・・・うん、チーズケーキも絶品だよ!」

あははは・・・

三人は笑い合って和やかな時間を過ごした。

やがて開店の時間になり、六花は外に看板を出すと、早速三人の客が入店してきて六花は明るく挨拶をする。

ミナトとクシナは、六花が本当に楽しそうに働いている様子を柔らかな表情で見ている。

そして、クシナはミナトの膝の上にある掌にそっと自分の掌を重ね、二人は笑顔を見せ合った。

 

 

短い営業時間を終え、六花は笑み笑みと皿洗いをしている。

その目線の先には秋桜と、あの二人が居たテーブルがある。

「六花、もうあの二人とは会わない方が良いよ」

ゼツがぴょんと飛び跳ね、その視界の中に現れた。

「え?どうして?まだ疑われてるから?」

「うん」

「疑いなんてそんなに簡単に晴れないわよ。いいの、疑われていても。少しづつ信用して貰って、そして、里の人たちの力になれれば…」

そう言って六花は再び目を細めて、二人の居たテーブルを見た。

するとゼツがぴょんと飛び跳ね、いつもの様に六花の左肩に載る。

「あの二人だけじゃなく、この里の人間とは仲良くしない方が良い。悲しい想いをするのは、六花だよ?」

ゼツの言葉を聞き、六花は何度か瞬きをすると悲しい顔に変わり、そのまま目線を手元の泡の付いた皿に落す。そして力を込めて皿を洗う。

「・・・そうだね。やっぱり、私なんかが今の時代の人と深く付き合うのは良くないね・・・」

「僕が居るんだからいいじゃん」

「えぇぇー」

「何だよ!」

 

 

空はどこまでも青く、吹く風も澄んでおり、里の風景もくっきりと鮮明に見える。

六花は店先の落ち葉を箒で掃きながら、ふと手を止めてその空を見上げた。

・・・十月かぁ…錦谷の紅葉は今年も綺麗なのかな。一人でも、観に行ってみようかな・・・

「ちょっと六花!ぼうっとしないで早く終わらせなよ」

エプロンのポケットの中からゼツが声を掛けてきた。

「いいじゃない、空を見上げるくらい」

「六花が空を見上げてる姿を、さっきから男どもがたくさん見てるんだよ!もう!」

六花は、えっと小さく呟いて急いで辺りを見回すと、確かに通りすがりの男がこちらを見て歩いてゆく。

六花はハァと溜息を吐いて地面を見た。

そして、もう一度行き交う人々に目を凝らし、足音や話し声に耳を澄ます。

「…居るわけない…か」

六花は小さく溜息を吐き、目を伏せて微笑むと、箒とチリトリを片づける。

そして愛しい人の姿が心に乗り、寂しい気持ちのまま店に入って行った。

 

 

今日も無事に店の営業が終わり、六花はいつも通り部屋でゼツと一緒に夕食をとっていた。

「新米は甘くて美味しいよね~」

「ゼツにお米の味なんて分かるのぉ?うふふふっ・・・・⁉」

「六花!」

「うん!・・・これって・・・!」

 

「「稗だぁ~」」

 

あははは。米の中に稗の粒が混ざっていた。

二人は食事を済ませ、六花は一階のキッチンへと食器を下げようと畳から立ち上がったが。ふと足を止める。

・・・そういえば、今日は満月だわ。ヒミコさんに会えるかなぁ・・・

 

「・・・!!!」

 

六花は食器をその場に置き、急いで窓に駆け寄ると勢いよく窓を開けて外を見た。

 

「あ・・・あれは!!!」

 

 

 

つづく

 

 

 



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続・六花の森(7)~九尾の出現!

◆今回(7)の登場人物は、ゼツ(黒)、うちはオビト、波風ミナト(四代目火影)、うずまきクシナ。

六花の眼の前に現れたもの・・・
それは木ノ葉の里を襲う九尾でした。

六花は急いでオビトの元へ向かいますが、そこはオビトとミナトの戦闘場面で・・・
しかし二人を止めることが出来ず、ただ見ているしかない六花。

再び里へ九尾を止める為に向かう六花の前にオビトが現れ、六花にある命令をします。
六花はどうするのか・・・?

※原作の場面を引用しています。
※関連話:罪の向こう、愛の絆~契り。マダラとの新たな生活



 

 

 

遠くに、見覚えのある姿が、見えた。

 

『…これは尾獣という九匹いる怪物の一匹で、九尾というんだ。尾が九本ある狐のバケモノみたいなもんだ。邪悪なチャクラを持ち人間を襲う。並の忍が束になっても敵わない強さだ…』

 

「六花、オビトが九尾を回収に来たみたいだ!ここに居たら巻き込まれる。早く逃げよう」

「オビト君が⁉でも、なぜ九尾が里を壊しているのよ⁉」

「操るのに失敗したか、もしくは里を潰す気なんじゃない?」

「そんな!止めないとっ!!!」

「まずは九尾の眼を確認して。写輪眼が浮かんでいるなら、昔マダラがやったようにオビトは九尾を術にかけて操ってるはずだから、術者のオビトを先に止めたほうが良い…尾獣回収はマダラが命令した事の一つだけど、里を潰せとまでは言って無いからね。それに、六花のお店が壊れたらケーキ食べられなくなるし」

「ゼツ…ありがと!」

六花は急いで戦闘服に着替え、刀を腰に差すと、左肩にゼツを載せて二階の窓から飛び出して行った。

 

ガルルルル・・・

ぎゃああー! ぐわぁー! きゃぁぁ!

 

六花は荒ぶる巨大な九尾の足元に来た。

以前、マダラが見せてくれた縮小された九尾の何倍もある大きで、何とか九尾を止めようと飛びかかる木ノ葉の忍たちは哀れに空中で散ってゆく。

そして、九尾の瞳には写輪眼がくっきりと浮かんでいた。

「…オビト君!どうしてこんな事を!!?…」

六花は奥歯を噛みしめ、鋭い目つきで九尾を睨みながら走り出した。

 

 

 

あちこちに移動するオビトのチャクラを追うのに苦労し、ようやく見つけた。

「…ミナトさん!…」

しかしそこは、面をつけたオビトと四代目火影の服を着たミナトが森の中で戦闘している場面だった。

「…六花、いま出て行くのは危険だよ。二人とも時空間忍術を駆使して戦ってる。巻き添えになるだけだ…」

「…でも早く九尾を止めさせないと!…」

「…いいから。じっとしてろ…」

「…。」

確かにゼツの言うことは正しく、二人のレベルの時空間忍術を使うことが出来ない六花はミナトに加勢することも、オビトを止めることも出来ず、今はただ苦しい顔で二人の戦いを眺めているしかなかった。

 

すると突然、オビトとミナトの動きが止まった。

・・・今だわ!・・・

六花が二人の前に飛び出そうとした瞬間。

 

「うちはマダラなのか?」

 

・・・!?・・・

ミナトの言葉に六花の足が、いや身体全体が固まる。

六花は息を飲み、再びうずくまった。

オビトは、おもむろに被っていたマントのフードを下ろす。

六花はその動きを見て、再び身体に力を入れると構え直した。

 

「いや・・・そんな筈は無い・・・彼は死んだ」

「・・・さぁ・・・どうだろうなあ・・・」

「・・・この際アナタが何者かなのかはいい・・・なぜ木ノ葉を狙う?」

 

茂みの中で、六花はごくりと唾を呑みオビトを睨みつける。

・・・そうよ!なぜ木ノ葉の里を襲う必要があるのよ⁉それにあなたの先生であるミナトさんのことも!!・・・

 

「言うなら・・・気まぐれであり・・・計画であり・・・戦争の為でもあり・・・平和の為でもある・・・」

オビトはそう言うと、袖口から長い鎖を取り出し、その両端を両手首に繋げた。そしてミナトに向かって走り出す。

「すでに希望などお前らにはない!」

オビトはミナトに突込み、オビトの身体はそのままミナトをすり抜けた。しかしミナトはオビトの後からついてきた鎖の輪に縛られてしまった。

「!!?」

しかしミナトは瞬身の術でその場から直ぐに姿を消し、数メートル先に姿を現した。そして直ぐに振り返り再びオビトへと向かって走ってゆく。その右手にはチャクラを乱回転ながら球状に圧縮した螺旋玉がある。

オビトもそれを迎え撃つかのように走り出した。

シュッ!・・・ズッ。

ミナトが放ったクナイはオビトの身体をすり抜けてしまった。

そして遂に二人が近づき、オビトの右手がミナトの左肩に触れた瞬間。

「螺旋玉!!」「ぐはっ!!」

ズゴゴゴゴ!!

ミナトは先ほど投げたクナイへと飛び、オビトの背後から螺旋玉を放った。

オビトは螺旋玉の勢いで強く地面へと打ち付けられ、その衝撃で地面は激しく割れて隆起した。

 

「…オビト君!!…」

六花は思わず立ち上がった。

「…こりゃオビトのほうがヤバイかもね…」

「…どうしよう。オビト君のことも助けなきゃ…」

マダラの代役であるオビトが死ぬことだけは絶対に避けなければならない。

しかし六花はどうやって二人の間に割って入れば良いかますます判らなくなる。

「…焦るなって。オビトは死なない。今のオビトのチャクラじゃ九尾を操ってられる時間にも限界があるし自分から退散するはずだよ。もう少し様子を見よう…」

「…でも…⁉…」

 

ザッ!

オビトは地面から時空間忍術で脱出すると、岩の上に現れた。

しかし、その左腕からは血が滴り、よく見ると手首が千切れかけている。

ミナトとオビトの右目が合った瞬間。

 

ドッ!!

「!!?・・・ぐっ!」

 

オビトの一息が終わる頃、ミナトがその目の前に現れクナイでオビトの腹を刺した。

そしてミナトが右手で触れたオビトの左肩に、みるみるうちに封印の術式が広がってゆく。

「!!契約封印!!俺から九尾を引き離す気か⁉」

「…これで九尾はおまえのものではなくなった!」

 

「六花!ミナトが九尾を解放した!今すぐ里に戻って九尾に術をかけて捕獲するんだ。やり方は僕が教える」

「うん!!!」

六花とゼツはその場から姿を消した。

 

 

ダダダダダッ・・・

六花はこれまでにないスピードで地を蹴り走った。

 

・・・柱間さま、扉間さま、木ノ葉の里と人は、私が絶対に守るから…お願い力を貸して!!・・・

 

ズザザッ!

「⁉」

 

「六花・・・だっけか?何をそんなに急いでる?」

「お、オビト君⁉…話は後よ……っ⁉」

オビトは横をすり抜けて行こうとした六花の右手首を掴んで制止した。そしてもう片方の手首も掴む。

「離して!!」

「おい、お前。俺の手助けをすると言ったな」

「…?」

「なら、九尾を俺の所へ持って来い」

「!!?」

「六花…コイツの命令だからじゃなく、九尾を捕獲したらコイツの所へ持って行って」

「ゼツ!あなたまで何を言ってるの⁉」

「さっきも言ったけど、尾獣回収はマダラの命令なんだ。マダラの復活の為、そしてマダラの“先の夢”を実現させる為には九匹全ての尾獣を揃える必要があるんだよ」

六花は愕然とし、オビトとゼツの顔を交互に見る。

尾獣はいま、各里に分配されており、その全てが人柱力によって封印されている。

その全てを回収するという事は…

「ゼツ!どうしてそのこと教えてくれなかったのよ⁉」

「お前、俺の手助けを命令されているのにそんな事も知らされてなかったのか?…フッ!…まぁそんな事はいい。お前も夢を実現させたいなら、九尾を俺の所へ持って来い」

六花は顔を歪め、唇を噛んで俯いたまま返事をしない。

「尾獣回収…優しすぎる六花にはできないでしょ?それを解っているからマダラは何も言わなかったんだ。でも里を守る為にも、今は九尾を止めて捕獲しないと。そうでしょ?」

六花の左肩のゼツは、落ち着いた優しい口調で言った。

しかしその言葉を聞き、オビトは態度を変えた。

「・・・やはり九尾はいい。後からどうにでもなるしな。その代わり、お前には一緒に来てもらうぞ」

そう言うとオビトは六花の手を離し、自分の両手についた鎖を交差させて六花を縛ろうとした。

バッ! グググッ・・・

六花はオビトに背を向けると両手で鎖を掴み、オビトと睨み合う。

「なぜ…なぜ木ノ葉の里を潰そうとするの⁉あなたにはもう関係無いはずよ⁉」

「夢を、希望を、未来を、奴らから奪ってやりたいんだよ・・・里の奴らにこの先の夢なんて必要ない!」

オビトの面の奥の右目には、憎しみの炎で染まった万華鏡写輪眼が真っ赤に光っている。

そして、六花の両目に浮かぶ万華鏡写輪眼も激しい怒りで震えている。

 

【挿絵表示】

 

「時間稼ぎのつもりだろうけど、六花が本気を出せば今のお前なんて簡単に倒せる。千手一族の力をもっているのはお前だけじゃないんた。マダラの命令を遂行出来れば手段は問わないけど、六花の大事なものを奪うことは僕が許さない」

ゼツはそう言うと身体を広げ、オビトの胸に張り付き、更にその身体を広げてゆく。

「マダラの意思の切れ端の分際で出しゃばりやがって・・・・ぐっ!」

ゼツがオビトの首を締めると、オビトは六花を縛ろうとしていた鎖から手を離し、首を掻きむしり始めた。六花はその隙に、急いでオビトから離れる。

「愛する人間を守る力も無かったガキに言われたか無いね」

「ぐっ・・・うっ」

「ゼツ!止めて!もういいから!!」

ゼツは六花の言葉を聞くとオビトの首を絞めるのを止め、身体を球状に戻し、六花の左肩に戻った。

「かはっ!・・・ハァハァ・・・」

オビトは首元を抑えて息を上げ、少し前屈みになりながら六花を睨んでいる。その視線を無視して六花は里へと向かおうとした。

「無駄だぁ!・・・例え今助かったとしても、また俺が里を潰してやる!」

オビトの言葉を更に無視して六花はその場から姿を消した。

 

 

「何?これ・・・結界?・・・」

木ノ葉の忍の奮闘により、九尾はなんとか里の外の森へ追い出されていた。

そして何者かによって九尾は強力な結界の中へ閉じ込められている。

「九尾がさっきより小さくなってる!…ねぇ、あの九尾を縛っている鎖は何かしら?」

「あれは、うずまき一族がもつ尾獣を捕らえられるチャクラの鎖だね」

「うずまき一族・・・じゃあクシナさんも一緒に戦っているのね。でも、彼女はお腹に赤ちゃんが!」

タタタタタッ・・・タッタッタッ。

 

「・・・!!?」

 

茂みを抜け、ようやく結界の足元が見える場所まで移動すると、信じられない光景が目に飛び込んできた。

 

封印石の上に寝かされた嬰児の前には、九尾の長い爪に二人一緒に串刺しにされているミナトとクシナの姿がある。

 

「ナルト…これから辛い事…苦しい事もたくさんある…自分を…ちゃんと持って…!…そして夢をもって…夢を叶えようとする…自信をもって!!」

 

クシナは最後の力を振り絞り、子供へと言葉をかけた。

六花はそれを見て、両手で口を押えると両目から大量に涙を流し始めた。

「…クシナ…さん…そんなっ…こんなことって…」

震える六花の身体に揺られながら、ゼツは冷静に心の中で呟く。

・・・凄いな。九尾を抜かれても直ぐに死なない上にここまで出来るなんて…この様子だとあの子供にこれから九尾を封印する気か。これじゃもう六花が九尾を奪うなんて不可能だ。というか、きっとこれからあの子を守ろうとするだろうし…

つくづく六花は見なくて良いモノばかりを見てくれるよ。まさか、これも母さんの思念か?・・・

 

そして、ミナトはナルトに九尾を封印し、クシナと共に倒れた。

二人の命が潰えると同時に結界が消え、近くに居た三代目火影と暗部の忍が数人、九尾が体内へと封印された嬰児と、ミナトとクシナのものとへ駆け寄って行った。

当然、六花には何もできる筈も無く、涙を流しながらただ茫然とその様子を眺めている。

「六花!」

その声にゼツの方を見る。

「一応聞くけど、どうする?九尾を回収する?言っとくけど、遅かれ早かれ九尾は必ず回収するよ。マダラ復活と先の夢の実現の為にね」

六花は俯き、涙を飲みながらゼツに問う。

「・・・ねぇ、尾獣を抜かれても死なないで居る方法は・・・無いの?・・・」

「無いね」

「・・・・・・・」

六花は思い切って顔を上げると、心を決める。

強い眼差しで、三代目火影の腕に抱かれる嬰児を見た。

 

 

コツコツコツ・・・コツ。

ポチャン。

懐かしい足音と懐かしい水の音。

しかし、目の前に居るのはマダラではない。

 

「九尾を持って来た・・・・んじゃないみたいだな。失敗したのか」

六花を待っていたかのように、面を付けたオビトが魔像の前に立って居る。

「あなたの夢と言うのは何?」

六花は無表情でオビトに問うた。

「うちはマダラの、描く夢だ」

「・・・・」

「まさか、それすら知らないのかお前?」

「マダラ様の夢は真の平和よ。無差別殺人でも無秩序な破壊でもない」

「はははは!」

オビトは六花の言葉を笑い飛ばすと、数歩、六花に近づいて言う。

「俺こそが、うちはマダラだ!真の平和が在る夢の世界を作る計画は、この俺が実行していく。その過程には平和も秩序も必要無い・・・!お前はうちはマダラの下僕だろ。じゃあ俺のやる事に口出しするな」

六花は目をつぶって小さく首を横に振ると小さく溜息を吐き、目を開け、オビトを厳しい眼で睨みつける。

「あなたはマダラ様のただの代役であって、私の主じゃない。あなたのやり方にも賛成できない」

「フッ。まぁそう言うな・・・お前もその“主”の復活を待っているんだろ?先の夢を、叶えたいんだろ?ここは協力しようじゃないか・・・なぁ?」

オビトはそう言いながら、距離を取って六花の右隣りに来た。

六花は疑うような表情でオビトを見る。

しかし、確かにオビトに反発してばかりも居られないのが現実だ。だとしても、オビトのやり方に同調する事など出来ない。

「輪廻眼を預けている人物・・・長門という男のことだが」

「⁉」

六花は焦って身体をオビトのほうへ向ける。

「あいつは今、俺が作った組織に居る・・・お前も、その組織のメンバーにならないか?」

「なんの・・・何をする為の組織なの?」

「六花、君はそんな組織に入る必要は無いよ。コイツは君を捨て駒にする気だ。それに六花はもう何もしなくていい。ただマダラの復活を待ってればいいんだ」

ゼツはそう言うと、六花の鞄から這い出て左肩に載る。

「・・・ゼツ?」

「ほら、オビトに言うことがあるでしょ?早く言って」

「うん・・・・・九尾はミナトさんとクシナさんの子に封印されたわ。今後、その子は私に任せて。そして、もう二度と里に手を出さないで」

「ミナトは自分の子に九尾を封印したのか…ウケるな。いいだろう。九尾の回収は最後にしてやる・・・それにしてもお前は甘いな。本当にマダラの下僕なのか?ただの情婦だろ?フッ」

六花は何度か瞬きをした後、ゆっくりと魔像を見上げた。

巨大な植物に囲まれた魔像は何も変わらない…以前のままである。

そしてもう一度、オビトを見て言う。

「愛する人が居ない世界は、只の荒野にしか見えないわよね…でも、その荒野は誰かにとっては愛在る場所だという事を忘れてはいけないわ…今のあなたに何を言っても無駄だろうけど」

そう言うと、オビトに背を向け歩き出す。

「何を訳の分からなこと事を・・・さっさと消えろ」

六花は振り返ることなく、黙ってアジトを出て行った。

 

 

 

つづく

 

 

 

 



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続・六花の森(9 )~その名は、うずまきナルト

◆今回(8)の登場人物は、ゼツ(黒)、うずまきナルト、大筒木カグヤ(o.c)。

孤児となったナルト。
三代目火影・猿飛ヒルゼンは里親を募集しますが、ナルトの素性を知る大人たちからは応募はありません。
そこで思いついたのが里親が見つかるまでの一時的な養育係。
その養育係に六花は応募します。

ヒルゼンと六花が再会した時、ヒルゼンは運命を感じます。
そして六花もまた、ナルトに出会い運命を感じます。


※関連話:『六花の森(完)その結晶はいつかまた輝く』『続・六花の森~陽だまり。ミナトとクシナ』『罪の向こう、愛の絆~芙蓉と扉間』『罪の向こう、愛の絆(完)~罪の向こう、愛の絆』




「はて、どうしたものか・・・」

ヒルゼンは火影の席に座り、右肘を机についてその手で頭を抱えた。

四代目火影・波風ミナトが殉職し、急遽ヒルゼンが火影の役に戻ることになった。

 

あの事件から二ヶ月。

木ノ葉の里の復興も少しずつ進んでおり、年の瀬に向けて里も徐々に活気を取り戻している。ヒルゼンも引退していたといえ、ミナトへの引継ぎ中で火影の事務仕事はヒルゼンも共に行っていた為、再び火影に戻った所でそれほど変化は無かった。

しかし、やはり四代目火影が就任わずかで落命したことは里に大きな衝撃を与え、九尾の事件を知る大人の忍の間に大きく影を落としていた。

その影は、人柱力になったナルトにも差していた。

 

“九尾事件“については、事件当日から箝口令が引かれた。

他里に対し事件を完全に隠蔽するのは難しくとも、出来るだけ詳細は悟られてはならない。また事件について今後も流布されては、里市民に不安と混乱を招くことになる。

また、ミナトの最後の意思と思惑を知らないヒルゼンは、ナルトの人生の重荷にならない様、時が来るまでナルトが九尾の人柱力である事を隠すことにした。

その為、ヒルゼンは『ナルトに九尾が封じられていることの口外を禁じる』という掟を作り、掟を破った者には厳罰に処した。

それに伴い、九尾の封印をしたミナトとクシナの子である事実も、ナルト本人およびその事実を知らない里の人々に対し極秘にされる事となった。

 

ナルトはこれまでヒルゼン直轄の暗部の監視のもと、病院で面倒を見られていたが、このままずっと病院と暗部で育てるわけにもいかない。

そこで木ノ葉の忍達にナルトの里親を募ったのだが、今現在、誰一人として名乗り出る者は居ないのだ。

ヒルゼン自身が育てたいのはやまやまだが、妻のビワコは九尾事件で命を落としている。ヒルゼンには娘もいるが嫁入り前と言うこともあり、やはり任せるには父親として気が引けた。また、孤児院に入れるという手もあったが、ミナトとクシナが命と引き換えに守った存在、そしてヒルゼンのナルトを里の英雄として見て欲しいと願う気持ちから、それも出来なかった。

 

「まだ里親の募集をかけて一ヶ月ですし、もう少し様子を見てもいいのでは」

今日もまだ里親希望者が居ないという報告をしにきた暗部の忍が、目の前で顔をしかめているヒルゼンに向かって冷静な声で言った。

「うむ・・・だが、やはりナルトの将来の為にも早く里親を見つけてやりたいからのう・・・」

「里親と同時に、養育係の募集をかけてみるのも手では無いでしょうか?やはり里親だとハードルが高すぎますし、養育係と言う仕事なら求職者からの応募があるでしょう。それに養育係なら、忍ではなくとも事情を知らない一般人にも任せることが出来ます」

「そうじゃな…養育係がつけば気長に里親を待てるしのう。そうしよう」

こうしてその日のうちに、ナルトの名前と素性を伏せ、忍だけではなく一般人へも「殉職した上忍夫婦の乳児の養育係募集」として求人を出したのだった。

 

 

 

「ええぇー嫌だよ!僕は絶対嫌だからねっ!六花のご主人様は誰だっけ⁉」

「ゼツよ。だから、二人の子供だと思えばいいじゃない。ね?」

「はぁ⁉・・・無理だよ、そんなの」

「あ、いま少し笑ったわね?ふふっ」

 

あれからナルトの様子をずっと見守っていた六花は、もちろん『ナルト』の養育係の求人が出たことも直ぐに知った。

本当は里親になりたかったのだが、里親になるは色々と条件が厳しく、大前提として結婚し夫と妻二人が揃っていることが絶対条件であったため無理だった。

ということで、六花はゼツに養育係になると宣言し、当然ながら反対されている。

しかし“二人の子供”という言葉にゼツの気持ちも傾き始めたようである。

 

「養育係の契約期間はたった一年間だし、途中で里親が見つかればそこで仕事は終わるわ。ね、お願いっ!」

六花はテーブルの上に鎮座するゼツに向かって掌を合わせて頭を下げた。

「お店はどーすんのさ。まさか僕に子守をさせる気じゃないだろうね」

「養育係に専念する。それにまだ乳児よ?つきっきりでお世話しないと。だから暫くお店は休むわ」

「ていうかさ、そもそも六花に赤ん坊の面倒が見られるの?経験は?」

「・・・無い。へへっ」

「はいダメー!却下!」

「勉強するわ!それに初めて子供を産んだお母さんたちだって子育て未経験だわ。条件は同じよ。だから、ゼツパパも手伝って!ねぇ?」

六花は合わせた掌の上に頬を載せ、首をかしげて上目遣いをして言った。

「ゼツパパ言うなっ。なんでこれから九尾を取ろうとしてる人柱力の子育てなんかしなきゃならないんだよ!」

「そこも考える。人柱力が尾獣を抜かれても死なない方法を探すわ!」

・・・無くもないんだけど…輪廻転生の術。それを言うと六花は絶対やるからなぁ・・・

「分かったよ。じゃあ一年間だけね!それ過ぎたら僕がナルトから九尾を抜くからね!てか、絶対採用されるとも限らないしね!」

「ありがとう!ゼツ大好き!」

「こんな時に初めて“大好き”なんて言うのかよ。まったく…相変わらず卑怯なんだから…」

 

 

 

コンコンコン。

「おお、もう来たか・・・・・どうぞ!」

ノックの音にヒルゼンは慌てて机の上の書類を片づけ、返事をする。

ガチャッ…

「三代目様、養育係志望者の方をお連れしました」「失礼いたします」

 

「・・・!!」

暗部の忍の後ろに続いて入って来た女の顔を見て、ヒルゼンは驚いた。

「さあ、どうぞ、こちらに・・・」

ヒルゼンは立ち上がり、火影の席の前に置かれた椅子を掌で差した。

女は椅子の隣りに立つと、ヒルゼンに向かって一礼した。

「どうぞ、かけてくだれ」

「失礼いたします」

女は椅子に座り、ヒルゼンと目を合わせるとニッコリと笑顔を見せた。ヒルゼンは一瞬ぼうっと女を見つめてしまったが、焦って瞬きをして目を逸らし、手元に準備していた女の志望書に目を遣る。

「ええと・・・橘 六花さん・・・で、よろしいかな?」

「はい。橘六花と申します。よろしくお願いいたします」

「あの・・・その、先日、柱間様と扉間様の墓前でお会いしましたな」

「はい。あの時はご迷惑おかけしました」

「いやいや何も迷惑など・・・早速だが、これまでの経歴と、今回志望した理由を聞かせて貰えますかな」

「出身は旧・千手領地で、夫と死別した事を機に、昨年の十一月に木ノ葉の里に引越してきました。旧領地では、十歳から十六歳までを教える私塾で、十八歳の時から五年間教師をしておりました。現在は小さな喫茶店を経営しておりますが、採用された場合はこちらのお仕事に専念するつもりです。今回志望した理由は、亡き夫と私には子供が出来ず、赤ちゃんを抱っこしたかったという未練が正直な所です。子育ては未経験ですが、自分の子供同然に大切にお世話したいと思っておりますので、よろしくお願いいたします」

六花は落ち着いた口調で嘘の履歴を述べ終わると、軽く微笑んで見せた。

「うむ。なるほどな・・・ここには忍ではないと書いてあるが、間違いないかの?」

「はい。間違いありません。ただ、剣術は子供の頃より習っておりましたので得意です」

「おお、それは頼もしいのう。ははは。その、養育を頼みたい乳児についてだが、ちょうど生後二ヶ月を迎えたばかりの男児じゃ。先日任務で殉職した上忍の両親の遺言通り、将来は忍アカデミーに入学させる。まぁ一年間ということでそこまで気にする必要は無いが、一応その前提で養育して貰いたいと思っておる。養育して貰う場所は、里が準備した住居か自宅かを選べるのだが、どちらが希望ですかな?」

「はい。出来れば私の自宅でお預かりしたいです」

「その場合は調査にいかせて貰うことになるが、それは問題は無いかの?」

「はい。問題ございません」

「うむ。分った。では採用結果は後日直接知らせに行かせますゆえ、それまでお待ちくだされ」

「はい。どうぞよろしくお願いいたします」

六花は立ち上がり、ヒルゼンに一礼すると出口に向かおうとした。

「ああ・・・ちょっと個人的な事をお尋ねするが、あなたの両親、いや祖父母の名前はなんとおっしゃるのかの?・・・」

六花は足を止め、再びヒルゼンのほうを向く。そして少し寂しい顔をして答える。

「申し訳ありません。父とは二歳の頃、母とは六歳の頃に死別しており、親戚もおりませんので覚えておりません。あの、それが何か・・・」

「ああいや、すまぬ。あなたが昔の知人にあまりにも似ておるので、血縁の方かと思うてな・・・申し訳ない」

 

 

その夜。

ヒルゼンは自宅の本棚から昔の写真アルバムを取り出した。

一ページ目を開くと、すっかり色褪せてセピア色になっている写真が現れる。

その一枚目は、扉間の弟子になってすぐ柱間と扉間、そして兄妹弟子のダンゾウ、ホムラ、コハルと一緒に写っている写真である。それを見てヒルゼンは目を細め、口角を上げた。

暫く思い出に浸ると、慎重に次のページを捲ってゆく。

そして、十ページほど捲ったページで手が止まった。

「・・・やはり・・・生き写し・・・いや本人としか思えぬ」

老眼鏡をかけたヒルゼンは、アルバムを手元から少し引いて目を細めた。

それは扉間とその妻・芙蓉の結婚披露宴での写真だった。

左に扉間、右に芙蓉、その二人を挟んで扉間側にヒルゼン、ダンゾウ、ホムラ、芙蓉側にコハルと芙蓉の親友・千手樹が写っている。

その写真の中の一人…芙蓉に、六花は瓜二つなのである。

写真はモノクロだが、実物の芙蓉の美しさは今でも忘れない。

ヒルゼンの眼の奥に芙蓉の容姿が蘇る…亜麻色の髪に、まつ毛の長い大きな目、琥珀色の瞳、雪の様な白い肌…

顔かたちが似ているだけなら偶然かもしれないが、六花はその髪の色、瞳の色、肌の色まで全く同じだった。いや、佇まいまでも同じなのだ…

 

【挿絵表示】

 

しかし、芙蓉は扉間と結婚して僅か二ヶ月後に顔岩展望台から転落死している。

もし、たとえ生きていたとしても、現在は六十歳をゆうに超えているはずである。

ふと、ヒルゼンの頭に今日の六花の言葉が浮かんだ。

『夫と私には子供が出来ず、赤ちゃんを抱っこしたかったという未練が正直な所です』

「もしや、生まれ変わりか・・・」

ヒルゼンはおもむろに顔を上げると、窓の外を眺めた。

その夜は満月で、その光が煌々と里を照らしていた。

 

 

「久しぶりね」

その声に、窓辺で満月を眺めていた六花は振り返った。

そこにはカグヤが居た。

目が合うと、六花は微笑んでヒミコの前に歩み寄る。

そして暫く二人は無言で微笑み合うと、六花から口を開いた。

「最近、ヒミコさんの夢をよく見ていたんです」

「どんな夢?」

ヒミコはそう言うと、六花の後ろの窓へ歩み寄り、月を見上げる。

「ヒミコさんが出てくる夢というか…ヒミコさん自身の記憶の一部なのだと思います」

「芙蓉。あなたは私と会えた唯一の転生者だからでしょ。で、何か言いたいことでもあるの?」

「いいえ。でも、ヒミコさんも辛い想いを沢山されてたんだなって・・・」

「・・・。ごめんね。芙蓉が辛い想いを沢山するのは、私との因縁なのかもね・・・」

六花は少し寂しげな笑顔のまま黙って首を横に振ると、ヒミコの隣に立った。

二人の顔は青白い月の光に照らされ、その顔は二人が今この世に生きている同じ存在とも、異世界に居る同じ存在にも見える。

月は、二人の魂と時空を水平にした。

「でも、芙蓉はやっぱり優しすぎよ。時々私が変わってあげたくなるわ。ふふふ」

「優しいんじゃありません…ゼツが言うように、ただ甘いだけなんです。八方美人で、結局周りを傷つけ、苦しめている…」

「ふふっ。私はあなたのそんな所も好きよ。でもね、あなたが迷おうが心を痛めようが、尾獣をすべて集めなければ、愛するマダラは復活しないし世界は救われない…それが現実よ。それが出来ないなら今すぐ“六花”を止め、時が来るまで身を潜めて生きることね」

初めて見るヒミコの厳しい表情と厳しい言葉に、六花は唖然として言葉が出ない。

 

しかし、六花は解っている。良く解っているのだ。

 

六道仙人と会ったあの日。

“芙蓉”は誓った。

この世界を救う“碧眼の少年”が現れるまでマダラとは一心同体で居よう。

マダラが誰かと手を取り合えば、必ず新しい世界が拓ける。柱間の次は、その碧眼の少年…その人に違いない。そう信じよう。

それまで私はどんな事でもする。世界が救われるその日を見届けるまで、生き続ける…

そう誓った。

しかし、この三十年間で、やはり自分の性分では、マダラの計画を手伝うことには限界があると充分解った。

六道仙人の言うことに従うだけならばマダラに協力せずとも、時が来るまで生きながらえていればいいだけである。

しかし六花にそれをさせないのは、マダラへの愛情と、マダラをもう一度信じたいという強い気持だった。

その為に、“その時”まで、マダラの計画に従うしか無い…。

たとえマダラの計画が間違っていようとも、世界が救われる時、そこに必ずマダラの力が必要であるはずだ…そう信じて。

 

「そんな顔しないの。言ったでしょ?あなたが手を汚す必要は無い。すべてオビトに任せておきなさい。あなたは現実を受け止め、その結果を淡々と待っていればいいのよ、芙蓉」

「・・・解っています。でも私は、マダラさまが誰かと手を取り合ってこそ、世界が救われると私は信じています・・・オビト君にも」

「ふーん。でも相手を変えるのはほぼ不可能だと思うけど。男を信じるなんて愚行よ。信じて裏切られるのが関の山だと思うわよ」

ヒミコの言いたいことも解る。

しかし、人は“自ら”変わることならできる。

そう、マダラなら…

「きっとマダラさまなら変わることができます…それに、これは私が一方的に信じているだけだから…だから、マダラさまが最後に何を選ぼうと、裏切られたなんて思いません。」

「本当にお人好しね・・・ううん。甘いわ」

日付が変わり、押し迫る寒さと静けさの中、霜夜は更けてゆく。

 

 

良く晴れた冬晴れ。

いよいよ今年も残すところ三日となり、年用意為の客で商店街は賑わい、行き交う人々も忙しない様子である。

六花は今、前と後ろを私服警備の暗部の忍に挟まれて里の大通りを歩いている。

「くしゅっ」

「あら大変。寒いのかしら?もう一枚毛布を掛けましょうね」

六花はそういうと立ち止まり、鞄の中から小さな毛布を取り出して、クーファンの中に居るナルトの首までしっかりと毛布を掛けた。その間、暗部の二人も立ち止まり、六花とは少し距離を取ったまま素知らぬ顔で辺りを見回している。

 

――一時間前――

「これがおぬしに任せる子じゃ。名前は『うずまきナルト』という」

ヒルゼン、暗部のくノ一と男の忍、そして六花が里本部の和室で、布団に寝かされているナルトを囲んでいる。

「健康状態や注意点の引継ぎはこの者が行うので後で聞いてくれ。どれ、まずは抱いてやってくれぬか?」

「えっ、あっ、はいっ!!」

六花は恐る恐るナルトに手を伸ばす。左手を頭の下に入れ右手は尻に回すと、慎重に抱き上げた。

「うぅっ・・・ほぎゃあ・・・」

ナルトは明らかに嫌な顔をして泣きそうな顔になる。

六花は抱くのを一瞬躊躇ったが、思い切って胸に抱き上げてみた。

温かい…そして甘いミルクの香りがする。

首は座っておらず、ナルトの頭は六花の左腕にもたれており、手足の動きもまだ小さい。また、四キロに満たない体重はそれ以上に軽く感じられ、その感覚に六花はほんの少し恐ろしくなる。

それでも気を引き締め、しっかりと、しかし優しくナルトを抱きかかえた。

するとナルトは歪めた顔を緩め、また穏やかな顔に戻り、安心して六花に身を委ねた。その様子に、六花は安堵で身体から汗がどっと出るような感覚になり、はぁと息を吐く。

「抱っこがお上手ですね。でもそんなに力まなくても大丈夫ですよ。この子は色んな人間に世話されていたので、初めての人にもすぐ慣れてくれますよ」

くノ一が穏やかな顔で六花に言った。

「はい…」

六花は弓の様に目を細め、愛おしそうに微笑んでナルトを見つめながら返事をした。

その様子を見て、ヒルゼンもようやく胸を撫で下ろすことが出来た。

実は他にも四人ほど養育係の志望者はおり、中には子育て経験が豊富な者も居た。しかし、ヒルゼンは敢えて六花に任せることにした。

その大きな理由は、六花ならナルトに仕事の枠を超えて我が子同然に愛情を与えてくれるだろうと思ったことが一番。

そして、運命を感じたからだ。

勿論、運命を感じたなどと部下たちには言うことは決して出来ないが、ヒルゼンはあの扉間の妻である芙蓉に容姿も性格も生き写しの六花が現れたことは、ナルトにとっての運命なのだと感じたのだった。

 

 

 

「ようこそ。ナルトくん。今日から暫くは、ここがあなたのお家よ」

「あうぅ」

「わぁ~お返事できるのね!お利口さんだわ!」

「いや、絶対違うし」

六花はゼツのツッコみを無視して、ベビーベッドの中に寝かせたナルトの顔に顔を近づけ、改めてナルトの顔をじっくり見てみる。

ナルトも、六花の額あたりをじっと目つめている。

六花はナルトを慈しむ瞳で、静かに見つめ続けた。

「・・・!」

「どうしたの?」

ベッドの柵の隅に居るゼツが、急に驚いた表情になった六花を見て問う。

 

・・・青い眼…ナルトくんが“碧眼の少年”…!!?・・・

 

「う、ううん。ナルトくん、目が青くて綺麗だなぁって思っただけ」

「そうかな・・・六花の眼のほうが・・・綺麗だけど?」

「何よ急に~うふふ。ありがとう。ゼツパパ!」

「だからゼツパパ言うなっ!」

 

青い眼の少年なら、きっと沢山居るだろう。

しかし六花はこの時、ナルトこそ六道仙人が言う世界を救う“碧眼の少年”だと思った。

それは、ナルトがミナトとクシナから産まれ、九尾を身体に宿して過酷な人生のスタートを切った境遇が一番大きな理由だが、それよりも“直感”のほうが大きかった。しかし。

・・・それは私の都合の好い解釈かもしれない。もし、この子がそうでなくても構わないわ。元気に育ってくれれば、それで・・・

六花はそう思うと、ナルトに毛布をしっかりとかけ、眠るまで静かに見守っていた。

 

 

つづく

 



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続・六花の森(9)~『暁』のメンバーに・・・

◆今回(9)の登場人物は、ゼツ(黒)、うずまきナルト、うちはオビト、大蛇丸、ペイン、小南。

成長したナルトの隣りには、今も六花の姿がありました。
しかし・・・
六花にはナルトの傍に居ることが出来ない理由があって・・・




 

二人が歩いている大通りには逃げ水が見られ、季節は春から夏へと変わったことを知らせている。街路樹の緑も随分濃くなり、二人の足元に濃い陰を作っている。

 

「今夜は何が食べたい?」

「うーん・・・」

六花の問いに、ナルトは隣の六花を一度見上げると、再び正面を向いて歩きながら考える。

するとその時、ナルトの眼には、数多くの冷たい瞳が次々と入ってきた。

それは、物心ついた時から見慣れた瞳であるが、決して慣れることなど無い。

ナルトは俯き気味に答える。

「・・・ラーメンでいいってばよ」

「え?ラーメンならいつも食べてるでしょ?いいの?たまには…」

「いいんだってばよ!」

ナルトは目をつぶり、下を向いて叫ぶように言った。

「…うーん、じゃあ野菜たっぷりの野菜ラーメンにしよっか?うふふっ」

「…や、やっぱりカレー!」

「うん。カレーにしよう!お肉も沢山入れてあげるね。野菜と同じくらい。ふふふっ」

六花はそう言うと、ナルトの左手を握り、手を繋いだ。

ナルトは少し驚いて、パッと六花の顔を見上げる。

「もう七歳なのに、手を繋ぐのは恥ずかしい?」

その言葉に、ナルトはプイっと顔を背けて言う。

「六花ねぇちゃんが繋ぎてぇんなら仕方ねぇってばよ…繋いでやるってばよ…」

「フフッ。ありがとう、ナルトくん」

「その代わり、野菜は少なくしてくれってばよぉ」

「ダーメ!」

野菜に対して文句を言い続けるナルトを見ながら六花は笑っているが、ナルトが俯いた瞬間も、その理由も見逃してはいなかった。

 

【挿絵表示】

 

六花はナルトの養育係を当初、一年の契約で務めたが、ヒルゼンの頼みでもう一年延長し、二年間務めた。(ゼツもなんだかんだ言いつつ付き合ってくれた)

それ以降も、ヒルゼンからはナルトの里親が見つかるまで、または自立できるまでは養育係として働いてほしいと何度も頼まれた。

しかし、六花はそれを断り続けてきた。

 

理由は二つある。

一つは、里ではもう死んだことになっている自分が今の世代に深く関わる事は避けたいという思いからだ。

ナルトのことは預かった次の日から、まるで我が子同然の情が湧き、可愛くて堪らなかった。手放したくない…そう思った。

それに、この子がもし本当に“予言の子・碧眼の少年”ならば、自分が世界を救う人物を育てられるなど、これほど嬉しいことは無い。

しかし、六花は自分にその資格が無いことをしっかり自覚していた。

だから影ながら見守り、時々こうしてナルトを励ますことが出来ればそれでいい…そう思った。

 

二つ目の理由は、オビトからの強迫だった。

オビトが作った、というよりも乗っ取った組織“暁”は世界征服をもくろみ、まずはその為に力をつけようとメンバーを増やし、資金集めの為に各国や里、大名などから秘密裏の仕事を請け負うようになっていた。

しかも、その最終目的は九匹すべての尾獣を集めること…つまり、オビトはマダラの“先の夢”の為に暁を利用しているのだ。

ナルトが四歳になった頃、オビトが六花の前に現れ、その時、暁の行動について聞かされた。

ゼツは全て知っていたようだが、敢えて六花には言ってはいなかった。

・・・・・・・・・

「…というわけで、九尾も近いうちに奪いに来る。覚悟しておけ。今度邪魔をしたら容赦はしない。ただし、お前が暁のメンバーになり、俺に協力するなら話は別だ」

「六花、協力なんてする必要は無いよ」

「ゼツ・・・でも・・・うん・・・オビト君、あなたに協力は出来ないわ」

「お前のことは白ゼツの記憶を読んで調べたぞ。マダラが動けなくなってからも命令されて色々していたようだな。義賊気取りで悪人を情け容赦無く退治していた割に、随分弱腰なんだな。マダラの命令が無いと何もできないのか?」

「六花。こいつは君を煽って利用しようとしてるだけだ」

「私はマダラ様の下僕よ。命令された事はするし、されていない事は、しない・・・」

「フンッ。俺の手助けをするように言われてたんじゃなかったか?」

「オビト、お前はマダラを演じてるだけだ。僕はマダラの意思から生まれたいわばマダラの分身。六花はその僕の命令に従ってる。お前の命令は聞かない」

「“輪廻転生の術”・・・って、知ってるか?」

「・・・死者を生き返らせる術・・・?」

「六花!聞くな!!」

「あれは術者の命と引き換えに死者を蘇らせる術だ。お前がマダラから言い聞かされていた尾獣の力を借りて行う術というのは嘘だ!」

「!!?じゃ、じゃあ、長門君は・・・命と引き換えにマダラ様を・・・⁉」

「そうだ!その通りだ!!」

「止めろオビト!!」

「いいのゼツ!!・・・・・解ったわ。あなたに協力します。その代わり、ナルトくんの九尾の回収は一番最後にして頂戴!じゃないと協力はしない!」

・・・・・・・・

六花はゼツの力と言葉もあり、暁のメンバーにはなりはしないものの、協力することになった。

それゆえ、木ノ葉の里を不在にすることが多くなってしまったのだ。

何より、犯罪組織ともいえる危険な集団に協力しながらナルトの養育係をするなど、そんなことは六花に出来る筈は無かったのである。

 

 

「六花ねぇちゃん・・・あのさ、あのさ、月に一回とかじゃなくて、もっといっぱい来てくんないの?てかさ、てかさ、またいつか、オレと一緒に住めないの?」

その言葉に六花はカレーを食べるスプーンを止め、申し訳なさそうに、そして心から悲しい笑顔をして言う。

同じ質問はもう、何度も聞いてきた…。

「ごめんね…。どうしてもやらなきゃいけない仕事があるの。その仕事が終わるにはまだまだ長―い時間がかかってね…きっと、その仕事が終わる頃には、ナルトくんは結婚してお嫁さんや子供が居るかもしれないわ」

「もぉ、いっつもそればっかだってばよ!・・・それに、オレはケッコンなんてしねーし・・・」

唇を噛み、悲しそうにも悔しそうにも見える表情で俯くナルトを見て、六花は優しく言う。

「うん。確かに結婚だけが家族を作る方法ではないわね。友達とか、仲間とか、恋人とか、先生、生徒…他にもいっぱい。人との繋がりが出来れば、それは家族も同然なのかもしれない」

「何言ってんのか分かんねぇーよ!・・・」

「ごめん…でもね、繋がりというのは作るものなの。その為には自分の殻に閉じこもっていては駄目。人と関わらないとね…だけどその関わりの中ではどうしても嫌われたり、否定されることもある。だって人は一人一人みんな違うんだもん。でもね、ナルトくんの良さに気付いてくれる人は必ず居る。私が保証する!ね?だから明日から忍者アカデミーでも頑張って!」

「なんか難しいことは良く分かんねぇーけど、オレってば、頑張るってばよ!それで、それで、ぜってぇ火影になってやるんだってばよ!」

「うん!!ナルトくんならきっと、なれるってばよ!」

二人は笑顔でカレーをスプーンですくうと、それを口に運んで笑い合った。

 

 

翌朝。

六花はナルトを忍者アカデミーの近くまで送って行った。

「じゃあ、いってらっしゃい。頑張ってね!みんなと仲良くね」

「おう!六花ねぇちゃんも仕事頑張ってね!早くまた会いに来てくれってばよ!そしたらここでの武勇伝をたっくさん教えてやっからよ。へへっ!」

「うん。ありがとう。楽しみにしてるね」

笑顔で手を振りながら校門へと走ってゆくナルトの姿が校舎の奥へ消えるまで、六花はその後ろ姿に手を振り続けた。

そして、真顔になってキッと道の向こうを睨むと、足早に歩いて行った。

 

 

「…六花。アナタが本部にまで来るなんて珍しいじゃない」

暁のアジトの入り口を入ると、正面から大蛇丸が現れ声を掛けてきた。

大蛇丸は木ノ葉の里を抜けた後、この暁のメンバーになっており、六花は思いもよらず大蛇丸と再会したのだった。しかし大蛇丸は六花と戦った際、六花の写輪眼により六花の記憶を消されている。

「直ぐに帰る。そこを退け」

「ねぇ、あのトビって愚図な子と一緒に居ても退屈じゃない?リーダーに言って私と組みましょうよ?」

「オレは暁のメンバーではない。只の協力者だ」

六花はそう言うと、大蛇丸の肩をわざとかすめて横を通り抜けて行った。

その背中に大蛇丸が投げかける。

「まだ木ノ葉の里に住んで居るんでしょう?まさか、弱みでも握られているとか」

その言葉に六花は立ち止まり、首だけを後ろに向けるが大蛇丸のことは見ずに答える。

「もしそうだとしても、お前にはオレの弱みは握れはしない…」

六花はまた前を向き、通路を歩いて行った。

 

 

「六花、トビ、今回の任務は非戦闘行為だが、かなりの金になる仕事だ。しくじるなよ」

「分かってますってリーダー!僕も早く暁の正式なメンバーになれるように日々頑張ってるんですからっ!ねぇ六花さん?僕の活躍、リーダーにも説明してあげて下さいよぉ~」

六花は話を振られたが、トビ、いやオビトの相変わらずわざとらしい芝居に眼を閉じフンッと顔を背けた。

「オレはこの任務が終わり次第すぐに木ノ葉に戻る。報告はトビにさせる」

「六花、次回の任務では木ノ葉の里でお前にして貰いたいことがある。一度ここに戻って来い」

「木ノ葉の里で…?何だ?」

「今は言えない。ここへ戻って来てからだ。いいな」

暁のリーダーであるペインは六花に向かって無表情で念を押すと、その場から姿を消してしまった。

六花は焦ってペインの隣に立って居た暁の創設メンバーの一人、小南に向かって言う。

「おい。オレはいいとは言ってないぞ」

「でも、あなただって大切な木ノ葉の里に無断で暁の誰かが入るのも嫌でしょう?ならここに戻って来て話を聞くほうがあなたにもとっても良いと思うけれど」

小南はそう言うと、ペインを追うように消えてしまった。

六花は肩を落として、いぶかしそうな顔をした。

確かに小南の言う通り、六花の知らぬところで暁のメンバーが里に入って何かをするのは気に食わない。

しかし、なぜ今ここで任務の内容を言えないのか…

六花の頭に一瞬、嫌な予感が過ぎり、隣に居るトビを思い切り睨んだ。

「六花さ~ん、顔、怖いっすよ~あはは!大丈夫ですって~」

面をつけていてもトビのヘラヘラしている表情が見てとれるようで、六花は更に腹が立つ。更に強くトビを睨みつけた。

「九尾は最後だからな・・・」

「!」

「まぁその約束を守るかは、お前の働き次第だが・・・行くぞ」

そう言って先にアジトの出口に向かってゆくトビの背中を見て、六花はごくりと唾を飲んだ。そしてゆっくりとその後ろをついて出て行った。

 

 

つづく

 

 

 

 



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続・六花の森(10)~六花とトビのコンビ。最後の任務

◆今回(10)の登場人物は、ゼツ(黒)、トビ(=うちはオビト)、ペイン、小南、砂隠れの技術者(o.c)。

六花とトビ、二人の任務は砂隠れの里が秘密裏に開発しているあるものの情報を盗み、金脈を築くこと。
果たして二人の任務は成功するのか?

そして任務を終え、暁のアジトに戻って来た六花とトビ。

次の任務は耳を疑うような事でした。
六花に突きつけられる厳しい選択!!


 

薄暗い店内では、着飾った女に挟まれた男性客たちが各ソファ席に座り、酒を飲みながら談笑している。

六花はその中で、ある男と二人きりで座り、男のためにウィスキーの水割りを作っている。

「なぁキラリ、今夜こそ、いいだろう?気持を確認してからもう二週間経つよ」

「でも貴方には奥様がいらっしゃるし…駄目よ。それに貴方の地位をおびやかす様なことしたくない…だって私、本気で貴方のこと愛してるから」

「キラリ・・・僕も君のこと本気で愛してる。僕たちの出会いは運命だ!」

「ありがとう・・・」

六花は優しく微笑み、男の目の前に水割りをそっと置いた。

 

・・・・・・

「・・・ああ。寝ていたよ。ごめん」

六花の幻術にかけられていたとも知らない男が、六花の隣りで目を覚ました。

「ううん。とっても気持ち良かったから私も少し寝てた。ふふっ」

ベッドの中、下着姿の六花は上半身裸の男に抱き着つくと、男の腕を枕にして男の顔を見た。そして上目遣いで甘えるように言う。

「あの計画、まだ終わらないの?あとどれくらいかかる?早くゆっくり会えるようになりたいなぁ」

「尾獣兵器のことか…あれはまだ一年以上はかかりそうだよ。技術者が足りないんだ。だが僕たちが開発した尾獣のチャクラを抽出する技術が有れば、兵器に転用することは可能だ。これが成功すれば僕も主任から上官に昇進できる…そうしたら妻とも別れる。キラリ、結婚しよう」

男も六花の顔を覗き込み、笑顔で答えた。そして六花は、さりげなく質問を続ける。

「うん!待ってる…でも今はこうやって、こっそりでも貴方と抱き合えていれば幸せ…。ねぇ、その技術者って今は何人位なの?」

「今は八人だよ。あと二人は最低でも欲しいんだが…技術者不足で計画が遅れていることに風影も怒っててね。来週、火の国で目星をつけている技術者を誘拐して来るらしい」

「そっか…ちょっと怖いね。でも開発ってすごくお金がかかるんでしょう?お金ってどうなっているの?だってうち(風の国)って資源も少ないし…」

「これは極秘なんだけどね、隣国の川の国が小国なのを良い事に、国境沿いの資源地帯で発掘してそれを売りさばいているらしい。まぁその金は、風の国民全員の生活の役にも立ってるわけだけど」

「じゃあ私も風影様に感謝しなきゃ。暮らしに困らないこと、そしてこんな素敵な貴方に出会えたことに・・・ねぇ、もう一回、しよう?」

「ああ・・・キラリ、愛してるよ」

 

ガチャッ。バタンッ!!

 

二人の唇が触れそうになった瞬間、突然部屋の扉が勢いよく開いた。

「ヨモギ主任!ご無事ですか⁉」

猫の面をつけた男を先頭に、砂隠れの忍が五人なだれ込んできた。

「なっ、何事だ⁉」

「その女は土の国のスパイです!情報を得た後アナタを殺害するつもりです!」

猫の面をつけた男がそう言うと、五人の忍が六花をベッドから引きずり出した。

六花は舌打ちをし、顔を歪めて悔しがっている。

「直ぐにその女を牢にぶち込め!」

猫の面の男がそう言うと、五人は嫌がる六花を連れて部屋から出て行こうとしたが、そこで六花が猫の面の男に向かって叫んだ。

「フン!オレを殺したところで、もうその男から聞き出した尾獣兵器の情報は電信の術で仲間に伝えたぞ。遅かったなぁ!!」

そう言い、髪を振り乱し暴れる六花を五人の忍は無理やり引っ張り、牢へと連れて行ってしまった。

面の男は六花の言葉を無視し、ベッドで放心状態のヨモギに歩み寄った。

「大丈夫ですか?お怪我などはありませんか?」

「・・・あ、ああ大丈夫だ・・・」

それを聞くと面の男は窓辺に立ち、おもむろに窓枠にもたれると腕を組み、話し始める。

「はぁ・・・しかし参ったなぁ。アナタ、あの女に情報を洩らしたんですか?」

「いや、それは!確かに少し話をしたが核心は教えてない!問題無いレベルだ!」

ヨモギは身体を起こし、両手を振りながら必死で男に向かって訴えた。しかし男は更に畳みかける。

「それはどうでしょうね・・・第一、アナタが土の国の女スパイに騙され、ベッドを共にした時点で刑罰の対象です。主任の役職は勿論、下忍にまで格下げされて一生奴隷同然で働かせることになるでしょう。いや、今の風影様は冷酷なお方だ。即死刑かもしれない」

「・・・くそっ!!なんでこんな事にっ・・・!!」

ヨモギは目を固くつぶり、両手の拳をベッドに叩きつけでうな垂れた。

「・・・今、アナタがスパイに騙された事を知っているのは、私たちだけです」

「頼む!!誰にも言わないでくれ!!頼む!!」

ヨモギは顔を赤くして必死に男に向かって頭を何度も下げた。

「アナタは優秀な技術者だ。いまアナタに居なくなられては尾獣兵器の開発も遅れてしまう。…解りました。誰にも言いません。しかし!タダではお受けできませんよ?こちらのお願いも聞いて戴かないと…」

男はそう言うと、ベッドに近づいてしゃがむんでヨモギの顔を見上げる。するとヨモギは布団を剥ぎ、男に向かって土下座をした。

「解った!!なんでも言うことを聞く!」

男は猫の面の下でフフッと笑うと、立ち上がり、今度はヨモギを見下す。

「尾獣兵器の開発には潤沢な資金があるようですね・・・それを、我々にも少し回して頂けませんか?」

「⁉・・・お、横領しろと言うのか⁉そんなこと・・・」

「スパイに騙され情報漏えいをした罪と、横領の罪、どちらが重いでしょうかね…?」

「…わ、解った!!言う事を聞く、だから、頼む!スパイの件は黙っててくれ!!」

「はい。我々は金さえ手に入ればそれでいいので…ヨモギ主任、くれぐれも頼みましたよ?・・・」

 

 

 

ガチャン・・・キィィィ・・・

 

「あーあ。せっかく寸劇に出演してくれた礼に、砂の忍どもを楽しませてやろうと思ったのに・・・お前のほうが随分楽しんでたみたいだな」

そう言うと、トビ(オビト)は猫の面の顎を撫でた。

牢の中では、後ろ手にされ手錠を鎖で繋がれた六花が地べたに座り、血の気の引いた青い顔でうな垂れて居る。

そしてその周りには、先ほどの五人の忍たちが血を流して倒れている。

 

【挿絵表示】

 

トビが死体を跨いで六花のもとへ歩み寄ろうとすると、目の前に身体を大きく広げたゼツが立ちはだかった。

「それ以上、六花に近づくな」

「フン!そんな薄汚い女に手など出さん。全く、“下僕”に忠実な“主”の番犬とは笑わせるな…ほら、早く服を着ろ。帰るぞ」

トビはそう言うとゼツに向かって六花の服を投げ、ゼツはそれを受け取った。

「ヨモギから得た情報は、ペインに報告する前に俺に教えろ」

「・・・解った」

六花はうな垂れたまま小さな声で返事をすると、トビは先に部屋を出て行った。

「ゼツ・・・やり過ぎよ・・・」

六花は開錠術で手錠を外しながらゼツに向かって言った。

「何言ってんの?六花が甘すぎるんだ。アイツ(トビ)が幻術で六花を襲わせてるって判った時点で本気で倒しに行くべきだった。ていうか、“今すぐ”アイツを殺してやりたいよ」

「私なら殺さずに気絶させるだけで済ませられたわ!殺す必要は無いでしょ⁉」

「うるさい!いいから早く服を着るんだ!」

「・・・・。」

 

 

「ご苦労だったな、六花、トビ・・・」

「いや~相変わらず六花さんのエッチな幻術とお芝居すんごく上手で僕、ホント感動しちゃいましたぁ!それに砂の上忍と中忍五人を一瞬で倒しちゃうんだもん。凄いですよ!」

オビトは腰を屈めてわざとらしく六花のことを褒めて拍手をした。

いま、六花とトビ(オビト)は暁のアジトに戻り、椅子に座るリーダーのペインとその隣に座る小南の二人の前に立って居る。

「トビ、静かにしなさい…六花、あなたは工作員としての働きも素晴らしいけど、戦闘能力も高い。常々言っているけれど、正式に暁のメンバーになってはどう?」

小南は、はしゃぐトビを諫めると六花に向かって言った。そしてペインもそれに続ける。

「今回の任務成功により、長期的に相当な額の金を風の国から得られるようになる。そして、砂隠れの尾獣兵器についての情報を対立している土の国に売れば莫大な金になる。今回の成果は暁の正式メンバーとして相応しい働きだ。正式なメンバーになれば、同じく正式なメンバーと組める。そうすれば今後の任務も更にやりやすくなるだろう。お前にとっても悪い話ではないと思うが…?」

六花は俯き気味に話を聞いていたが、ペインが話し終わると顔を上げた。

そして真っ直ぐペインを見ると、ゆっくりと瞬きをしてから答える。

「断る。何度も言っているがオレはメンバーになる気は無い・・・わざわざここに戻って来てやったんだ。さっさと次の任務の話をしてくれ」

その言葉を聞くとペインは顔の前で手を組み、小さく溜息を吐いて目を閉じた。そして言う。

「…そうか…残念だな。次の任務は、お前と縁の深い者を連れて来てもらう任務だ…詳しくは隣のトビに訊け…あとは任せたぞ」

ペインはそう言うと立ち上がった。

「ちょっと待ってくれ!ちゃんと説明しろ!コイツから聞けってどういうことだ⁉」

「・・・“うちはマダラ”の指示の元に動けということだ。」

「・・・!」

「・・・健闘を祈るわ」

そう言うと小南も立ち上がり、ペインと二人一緒に姿を消してしまった。

 

「ちょっと、どういう事⁉いったい私に何をさせるつもり⁉」

「こういうことだ」

「!!?」

六花はトビをまくし立てたが、トビの右目を見たとたん、直ぐにその場にうずくまってしまった。

「・・・何?・・・今のは・・・?」

六花はトビに幻術を見せられた。

一瞬、血の海を見た気がしたが死体は見えなかった。

「新たにメンバーに加える男を、迎えに行くのだ」

「私はメンバーの勧誘にも無関係の約束の筈よ・・・それに今の幻術、いったい何をするつもり?」

「無血で終わらせたいのなら、もう一度選ばせてやろう…お前が暁の正式なメンバーになるか、それとも自分の代わりの人間を共に迎えに行くか…どうする?」

六花は困惑し、俯いて瞬きをする。

どんなことがあっても、オビトの思惑で動かされているこの犯罪組織“暁”の正式なメンバーになる気は無い。

自分が加入しなくとも、これまでにもう何名か加入しており、この先新たに勧誘するメンバーも既に決まっている。

しかし、“自分の代わりに”という言葉が引っかかる。どういう事なのか?

「六花…」

「おっと、番犬は黙ってろよ。俺はコイツに訊いているんだ…さあどうする?」

いつもの様にゼツか六花の左肩に載り言葉を発しようとしたが、トビはそれを制止し、六花に詰め寄る。

すると六花は顔を上げ、揺るがない瞳で真っ直ぐトビを見て言う。

「暁のメンバーになるつもりは無い。その意思はこれからも変わらない」

「…フン。まったく頑固だな。まぁいい。これから迎えるメンバーが加われば、お前など用無しだろうしな…いや、娼婦を演じられる奴は他に居ないか?ははは。

お前がメンバーになりたくない理由は人柱力を殺して尾獣を奪うのが嫌だからだろ?自分の手を汚したくないだけの卑怯者め」

 

『…男は女に支配される為に生きている存在…あなたが手を汚す必要は無い。すべてオビトに任せておきなさい。あなたは現実を受け止め、その結果を淡々と待っていればいいのよ、芙蓉…』

 

六花が言葉を発しようと口を開いたと同時に、六花の頭にヒミコの言葉が思い浮かんだ。

六花もう一度口を閉じ、トビに向かってそっと微笑んで見せた。そして、答える。

「そうね…私は卑怯者だわ。汚いことはあなたに全て押し付けてる…ごめんなさい。でも、私に出来る事ならば、何でもする…」

「・・・。新しいメンバーになる男は、うちは一族だ。名は『うちはイタチ』。イタチとは既に接触し、暁に加入する意思も確認済みだ」

六花はそれを聞いても驚きもせず、真顔で頷いた。

しかし内心では驚き、心が痛んだ。

オビトに続いてまたも、うちは一族…

その事もだが、愛する木ノ葉の里の仲間のひとりが暁に加わる事に胸が痛む。

一瞬だけ、自分がメンバーに加わらない事への罪悪感が頭によぎり、それを追うように六花は目線を逸らした。

 

「三日後の夜十一時、旧うちは領地に在る檜枝岐神社に来い。作戦はそこで説明する」

「…作戦?どうしてメンバーを迎えに行くだけなのに作戦があるの?」

六花は怪訝な顔でトビに問うた。

・・・チッ。コイツ、いつも勘だけはいいな・・・

トビは六花の事を完全に舐めているため、言葉を選ぶのを忘れ、心の中で舌打ちをした。

「まぁ、イタチはそれだけ一筋縄にはいかない人物だということだ…」

そう言うとトビはその場から姿を消した。

「ちょっと待って!・・・・・・はぁ・・・」

六花が眉を寄せて大きく溜息を吐くと、それまでトビの言動を黙って観察していたゼツが口を開く。

「六花、アイツの言うことは聞かなくていい」

「え?・・・」

「僕の半身の黒ゼツの報告だと“オビト”は、うちは一族を皆殺しにするつもりだよ」

「なんですって⁉なぜ⁉だってオビト君もうちは一族なのに…!!」

六花はそう言うと、驚いて開いた口のままゼツを凝視する。

「オビトは完全に“うちはマダラ”になりきるつもりなんだ。芙蓉である君が知っている通り、マダラはうちは一族に失望し里を後にした。マダラが死ぬ前、その経緯もオビトに話して聞かせたんだ。

現在、うちは一族の存在は二代目火影の政策を受継いだ志村ダンゾウにより必要以上に危険視されている…今、そのことで迫害されているうちは一族により里は危機にあり、うちは一族もまた取り潰しにされる危機に直面してる。

里の中でまさに戦争勃発の構図が出来上がってるのさ。そんなうちは一族と木ノ葉の里に、あの時マダラの忠告を聞かなかったことを今こそ“思い知らせる”気なんだよ」

六花は話を聞き終わると、ゆっくりと顔を正面に向け、悲しい顔になり目を細めた。

あの時のマダラとの会話で、自分がマダラに問うた言葉を思い出す。

 

『…腹癒せ…ですか?うちは一族を差別し、マダラさまの忠告を聞かなかったことへの…』

 

「・・・やっぱりマダラさまは、ずっと木ノ葉の里とうちは一族を、恨んでいたの・・・?」

「あれ?気付かなかったの?うっそぉーマジで」

「軽いわね・・・兎に角オビト君を止めないと」

ゼツは肩から六花の胸の谷間に移り、六花を見上げて言う。

「マダラの意思を潰す気?今回は黙って目をつぶってな。おそらくオビトは六花にうちは一族抹殺の手伝いをさせる気だ。アイツはこの数年で六花がマダラを愛してることに気付いてる。その事が腹立たしいんだよ。自分はリンを失ってるからね。だから六花は暫く木ノ葉には帰らないで。解った?」

「・・・・待って。なにか引っかかる・・・」

六花は胸の前で掌を組み、その上に顎を載せて考え始めた。六花の両腕で寄せられた胸の谷間でゼツが潰される。

「…三週間前、オビトは私に『九尾を最後にする約束を守るかはお前の働き次第だ』って言った。それにペインと小南の二人から、今までになく強く正規メンバーに勧誘され、断ったら初めて『残念だ』って言われた…

きっとオビトにとって、イタチが加入する今、正規メンバーとしてオビトに協力しない私はもう用済みなんだわ。

…だからもしかして、うちは一族の混乱に乗じて九尾を回収し、再び九尾で里を襲わせる気なのかもしれない!!」

「もういいって!それ以上考えなくて。うちは一族抹殺はマダラの意思…でもそこに下手にオビトの私情が入ってるから厄介なんだよ…六花はもうこれ以上関わらない、考えない。以上、終わり!さっ、行くよ。宿を探さなきゃ」

しかし、六花は俯き考え込んだまま動かない。

「ゼツ・・・」

「なぁに?さっ、行こう。話は歩きながら聞くから」

「あなたがこれまで私に全てを教えてこなかったのは、私のことを気遣ってくれてきたからよね・・・ありがとう。」

「どうしたのさ、急に」

六花はゆっくりと顔を上げると、強い意志を宿した眼差しで正面を見据える。

その視線は真っ直ぐ、揺らぐこと無く、決意の先を見つめている。

 

「私・・・ナルトくんを、守る」

「もういい加減に母親ごっこはやめろよ!ナルトを救いたい気持ちは解る。でも人柱力はナルトだけじゃない。情に流されて命を捨てるなんて、そんな馬鹿げたこと僕がさせやしないからな!」

しかし六花は尚も真っ直ぐ、正面を見据えている。そして表情を変えることなく言う。

「大丈夫よ。輪廻転生の術は使わないから…だけど、オビトにはナルトくんに指一本触れさせない…お願い、力を貸して、ゼツ…」

「貸すわけないだろ」

「なら・・・・私が、マダラさまを蘇らせるわ」

「⁉」

「私ね、マダラさまが柱間さまの次に手を取り合う相手は、ナルトくんだって信じてるの。でもそれはきっと一筋縄にはいかないと思う。柱間さまとのように争いが続くかもしれない。でもね、絶対、マダラさまなら大丈夫だから・・・それに、ナルトくんも」

「六花!ちょっ」

「ゼツ、今まで本当にありがとう。守ってくれて・・・そして愛してくれて」

「ちょっと待てって!分かった、オビトを止めてナルトを守るのに協力するよ。その代わり、マダラからでっかいお仕置きされても知らないからねっ」

その言葉を聞き、六花は胸の谷間のゼツを見てクスッと笑う。

その眼にはうっすらと涙が滲んでいた。そして言う。

「また池に突き飛ばされて、裸にされて首輪と手錠で繋がれて、一晩放置されるかな?それとも今度こそ殺されるかな?フフフッ」

「笑って言うことかよ!って・・・君、芙蓉に戻る前の記憶、思い出してたの⁉」

「うん、全部じゃないと思うけどね」

「六花・・・」

ゼツは涙ぐみつつニコニコしながら自分を見ている六花の顔を見上げて、考える。

・・・仕方ない、計画変更だ。長門に輪廻転生の術を使わせ、尾獣はマダラ自身に回収させるか…六花だけは絶対に死なせない。六花は再び母さんの器になれる人間、それに何より・・・

 

 

つづく

 

 



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続・六花の森(11)~さようなら、ナルトくん・・・

◆今回(11)の登場人物は、ゼツ(黒)、うずなきナルト、うちはサスケ、うちは一族のおばあちゃん(o.c)。

とても久しぶりにナルトと時間を過ごす六花。
それはいつも以上に幸せで、そして悲しい時間でした・・・

愛するひとと里を守る為、六花はうちは一族抹殺、そしてオビトとの対決へと向かいます。
しかし、その胸の内にはある人の存在が消えず・・・

※関連話:『罪の向こう、愛の絆(完)~罪の向こう、愛の絆』
『罪の向こう、愛の絆~マダラとの出会い』



秋日和の午後。空は天高く澄み渡っている。

目の前では幼い子供達がキャッキャと元気に走り回り、その隣では母親たちが笑顔で井戸端会議をしている。店番をする老人たちの顔も明るく、道行く男の忍たちと仲良さそうに挨拶を交わしている。

 

ここも、木ノ葉の里にある平和な風景、そのものだった。

 

六花はふと目に留まった茶屋に入ってみた。店内に客は居ない。

「いらっしゃ〜い。どうぞお好きな席に座って頂戴ね~」

見た目以上に元気な老婆が、大きな声と大きな笑顔で迎えてくれた。

六花は窓から町の様子が見える席に着き、先ほど見た平和な風景をもう一度見渡してみる。

すると老婆が冷たいお茶とおしぼりを持って来てくれた。

「今日は十月なのに暑いわねぇ。お茶、温かいのもあるから欲しかったら言って頂戴ね。今日はちょうど味噌饅頭が出来立てなのよ。良かったら」

「ありがとうございます。ではその味噌饅頭を五つお願いします…ああ、あとこの柿羊羹も四つお願いします」

「あらお嬢さん、痩せてるのに沢山食べるのねぇ!うちはの人間じゃ無さそうだけど、くノ一?」

「あはは…甘い物に目が無くて…それに、うちはのお味噌は絶品だって里でも昔から有名ですし。あ、私は一般人です」

「昔は里でも良く売れてたんだけど、八年くらい前からすっかり売れなくなってね…でも味は落ちてないわよ~」

老婆はそう言うと、笑顔だが少し目を伏せ、いそいそと台所へ向かった。

六花は固い表情で老婆の後ろ姿を見つめながら思う。

 

・・・八年前…九尾事件…うちは一族の仕業だって噂が立ったのよね。そのせいで、もともと扉間様の政策で他の一族とは隔離されていた居住地が、復興の際に更に里外れに追いやられた・・・

 

「…六花、なんで味噌饅頭十個頼まないんだよ!あと柿羊羹も!…」

ゼツが鞄の中から小さな声で六花に向かって抗議した。

「…独りで十個も注文したら変でしょ⁉恥ずかしいし!…」

暫くすると、老婆が盆に味噌饅頭と柿羊羹を載せて持って来た。

「はい、おまたせ。味噌饅頭一個サービスね」

「ありがとうございます!…あの、おばあちゃまはお一人でこのお店をされていらっしゃるのですか?」

「いいえ~。警務部に勤める息子夫婦と孫が、時々手伝ってくれるの。今夜はね、孫が上忍に就任したお祝いでここでお祝いをするのよ~ほほほほ」

老婆は顔をくしゃくしゃにして笑いながら、テーブルの上に饅頭を置いた。老婆にとって、家族は宝物なのだろう。六花も微笑みながらその顔を見る。

「それはおめでとうございます。ご活躍をお祈りいたします」

「ありがとう。今日は本当に嬉しい日だわ~。孫のことに加えて、とっても久しぶりにうちは以外のお客さん、しかもこんなに美人が来てくれるなんて!」

 

 

六花は茶屋を出て、再び道を歩き始めた。

結局、土産で味噌饅頭十個を(ゼツに)買わされた。その紙袋を手に、緩い坂を上る。

坂の両側には住宅地が立ち並んでおり、その全ての家の門には、うちはの家紋が入っている。

何人かとすれ違ったが、うちは一族以外の人間らしき人は一人もいなかった。

気付けば六花は、俯いて歩いていた。

重い足取りを何とか前に進めながら、再びゼツの言葉を思い出す。

 

『…うちは一族の存在は二代目火影の政策を受継いだ志村ダンゾウにより必要以上に危険視されている…』

 

遂に、六花の足は止まってしまった。そして坂の下を見下ろす。

 

・・・扉間さま、なぜ?…私のせい?…マダラさまのこと?カガミ君のこと?…いいえ。何か理由があったのよ。そうに決まってる。そうじゃなきゃ私・・・

 

そう思おうとしたが、六花の瞳は暗いままである。

そして更に、遠い昔、扉間の謀によって殺されそうになったあの事件を想い出した。

 

しかし扉間のことは許している。

心の底からそう言える。

 

マダラが柱間に敗れた後、短い間とはいえ互いに心から愛し合い、結婚もした。

その間に、扉間のひとの上に立つ人物としての才能、人望、忍としての強さを改めて知ることができた。

それでも残念ながら、扉間が私情で動く人間ではないと断言することは“芙蓉”には出来なかった…。

六花は、完璧な人間などこの世には一人としていなのだ、そう思うほかなかった。

 

【挿絵表示】

 

 

道が水平になると、右手にひときわ大きな屋敷が見えた。

六花はその屋敷の門の入り口の数メートル前で立ち止まる。前の道に人は居らず、屋敷も静まり返っている。六花は神妙な面持ちで屋敷を眺めた。

すると、六花の前方からナルトと同じ年くらいの黒髪の少年が歩いて来た。

「あの、ウチに何か用ですか?」

少年は睨むような目つきで六花を見て言った。

「…あ、いいえ。随分大きなお屋敷だからつい見てたの。ごめんなさい」

六花はそう言うと申し訳無さそうに微笑み、ゆっくり歩き始め、少年とすれ違う時に軽く会釈をして歩いて行った。

少年は六花が歩き去るのを見届けると、走って門をくぐり屋敷の中へ入って「ただいま」と大きな声で言った。

 

「さっきの子は、イタチの弟かしら?」

「うん、年頃からしてそうだろうね。ていっても、イタチもまだ十三歳のガキみたいだけどね」

「・・・・。」

六花は大きな池の前で立ち止まった。キラキラと光る池の中央付近には、シロサギが数羽立って居る。その様子に眼を細めた。

・・・十三歳・・・

六花の頭には、あの時自分に向かって手を差し伸べてくれた、元気で優しいオビトの笑顔が浮かんだ。

「…なんとしても、オビトを止めないと…」

六花は、大股でズンズンと歩いて行った。

 

 

「ナルトくん、気を付けてね。いってらっしゃい!」

「オウ!行ってくるってばよ!晩飯、お汁粉も忘れないでくれってばよぉ~?」

「ハイハイ。分かってます。でもケーキとお汁粉なんてちょっと変じゃない?」

「いいんだってばよ!今日はオレの食べたい物、なんでも作ってくれんだろ?」

「うん。もちろん!じゃあ、ナルトくんも寄り道しないで早く帰って来てね!」

ナルトはアパートのドアをなかなか閉めず、何度も開けたり閉めたりして六花に手を振ってから、気が済むと元気よく走って登校して行った。その足音が聞こえなくなると、六花は笑いながら玄関の鍵を閉めた。

 

六花は昨夜からナルトの住むアパートに来て居る。

そして今夜は、ついにオビト(トビ)と会う…

ゼツにはああ言ったが、六花はオビトがナルトから九尾を抜いた場合、自分がナルトを輪廻転生の術で助けると決めている。(勿論、その前にオビトをナルトに近づけないが)

ナルトがもし“予言の子・世界を救う碧眼の少年”ではなかった場合、六花が死んでしまえば、六道仙人との約束を守れない事になってしまうかもしれない。

しかし、六花はこう考えていた。

 

予言も、運命も、自ら切り開いてこそ実現するものだ。

ナルトは最初から万能の救世主として生まれたのではない。

これから救世主へと成長してゆくのだ。

きっと多くの仲間と、愛すべき人たちと共に…ナルトにはその才能と可能性が存分にある。

ナルトを命がけで守ることは、この先きっと、世界を救うことに繋がっているはずである。

いや、そうに違いないのだから。

 

 

秋の日暮れは釣瓶落としで、あっという間に暗くなった。

六花は夕闇に埋もれてゆく町の風景を窓から眺めながら洗濯物を畳んでいる。料理は既に全て出来上がっており、ナルトの帰宅を待つばかりである。

 

…ガチャ、ガチャ、バン!

「六花姉ちゃん、ただいまーだってばよ!」

「お帰り!ナルトくん!」

六花は洗濯物をその場に置くと、玄関で靴を脱ぐナルトに駆け寄って行った。ナルトは六花の顔を見上げてニシシと嬉しそうに笑っている。

 

テーブルの上にはところ狭しとナルトの大好物が並べられた。それを見て、ナルトは目を輝かせている。

六花はその様子が堪らなく愛おしく、そして、辛くなる…。

「・・・六花ねぇちゃんってば!ねぇ?聞こえてんの?食っていい?」

「…ああ、ごめんね。どうぞ召し上がれ~!あ、野菜から食べるのよ」

「嫌だねぇーっと・・・・うん、唐揚げうめぇー!!」

「まったくもう。ウフフフ」

二人は笑み笑みと楽しく食事をした。

いつものように。

そして、いつも以上に…。

 

食事を終えると六花はテーブルの上を綺麗に片づけた。そして今、部屋の電気を消した。

ナルトは暗闇の中、テーブルに着いて胸を躍らせている。

 

「じゃんじゃじゃーん!」

「わぁー!あっははは!」

 

六花は台所から、灯りの付いた八本のロウソクが立てられたホールケーキを手に、ナルトの前に現れた。

ナルトは歓声をあげ、手を叩く。その瞳はロウソクの灯りを受けて、先ほどよりもっともっと輝いている。

そして六花はゆっくりとテーブルの上にケーキを置いた。置くと同時にナルトがジタバタしながら言う。

「これ、消していい?消していい?」

「ウフフ。いいわよ。そおっとね!」

ふぅ―――。

ナルトがゆっくりと八本すべてのロウソクの火を吹き消した。

「ナルトくん、八歳のお誕生日おめでとう!これからも元気でお勉強と修行頑張ってね!」

「おう!六花ねぇちゃん、ありがとうってばよっ!!」

屈託のない満面の笑顔で礼を言うナルトの顔かたちも、身体も、昨年よりもずっと成長している。六花は暫く、そのナルトの顔を深く慈しむ瞳で見つめた。

ナルトは途中、六花のその様子を不思議に思ったが、気づけばナルトも六花の顔をじっと見つめていた。

 

ナルトにとって、このような温かい瞳で見つめてくれるのは、里において、三代目火影と、ラーメン一楽の店主、そして六花くらいだった。

六花の優しい瞳と表情はまるで温かい春の太陽のようで、ナルトはずっとずっと、この温かい目に見つめられていたいと願った。

 

一方、六花は今にも泣き出し、ナルトをぎゅっと強く抱き締めて離したくないと思っていた。

いま見つめているナルトの顔は、来年、再来年、五年後、十年後、いったいどんな風に成長するのだろう…それが楽しみであればあるほど、それ以上に、その姿を見ることが出来ない事実があまりにも悲しく、息が出来なくなりそうだった。

 

そして六花は何事も無いように立ち上がって部屋の灯りをつけると、その手に紙袋を持って戻って来た。

「はい!これ、今年のお誕生日プレゼントよ」

「やったぁ!!なんだろ!なんだろ!ねぇ開けていい?」

「うん!気に入ってくれるといいなぁ~ウフフ」

ナルトは紙袋からプレゼントを取り出し、リボンを解くと包装紙をビリビリと勢いよく破り始めた。

六花はその様子さえも愛おしく感じる。

ナルトが物心ついた頃から、プレゼントを渡すたびにこうして目を輝かせながら勢いよく包装紙を破いてきた姿が、目の前のナルトに何人も重なる…。そして目の前のナルトが本当に三人くらい居る様に見えた。

「わぁ!これってば、欲しかったゴーグル!!覚えててくれたんだ⁉サンキュー!…って、六花ねぇちゃん?…だいじょぶか?」

「うん、ちょっと煙が滲みただけ…もちろんよ!ナルトくんのことならぜーんぶ、何だって覚えてるんだってばよ?ウフフフ!」

「うん。オレも六花ねぇちゃんとの想い出は、いっぱい覚えてるってばよ!へへ!」

「…ありが…とう…」

 

 

午後十時。

ナルトは九時前に就寝し、隣の部屋でゴーグルを握りしめて熟睡している。

六花は暗いリビングで、手元を照らす小さな明かりをつけて短い手紙を書いていた。

「ナルトくんへ。今日のごはんののこりは、れいぞうこに入っています。早めに食べてね。こんどの私のしごとはたいへんです。とうぶん里には帰ってこられません。ごめんね。つぎにナルトくんに会えるときは、おともだちをしょうかいしてほしいな。楽しみにしてるね。六花」

本当は、もっと書きたい事は山ほどある。

この短い手紙一枚を書くのに、十枚もメモ用紙を使ってしまった。それでもようやく書き終えたのだが、ペンを置くことが躊躇われ、何度も首を振る。

なんとか思い切ってペンを置くと、六花は静かに立ち上がった。

そして洗面所に行って服を脱ぎ、戦闘服に着替え始める。

着替え終わると、ナルトの部屋の扉を僅かに開け、月明りに照らされているナルトの寝顔を見つめた。

「…ナルトくん…ナルトくんなら絶対立派な火影になれるよ。頑張って…愛してる…」

小声でそう呟くと、目の前が滲む前に扉を閉め、玄関に向かって歩いてゆく。

そして静かに玄関を出てドアを閉めると鍵をかけ、いつものようにポストに鍵を入れた。

そして、その場から姿を消した。

 

 

 

六花は建物の屋根、電信柱伝いに夜の街を駆けている。

すると左肩に載るゼツが言う。

「まず間違いなくオビトは六花に抹殺を手伝わせる気だ。もう一度聞くけど、手伝う気はないんだね?」

「うん…だって私にはそんなこと、到底…出来ない…」

「だよね。じゃあキッパリ拒否して。どんな脅しをされてもね。それでもし戦闘になるようならオビトを殺すんだ」

「…けど、オビトを殺してはマダラさまの代役が…それに私にそんな事…」

「オビトはもういいよ。代案はある。マダラとナルトが協力して世界を救う所を見たいなら、ここで非情になるんだ。いいね?」

ゼツの言葉を聞き、六花は唇を噛んで顔をしかめたが、直ぐに口を真一文字に結びキッと強い眼差しで前を見た。ゼツが言葉を続ける。

「それと、うちは一族の抹殺を止めようなんて絶対にするな。これはマダラの意思でもあるけど、木ノ葉の忍とうちは一族が招いた結果であり、必然なんだ。それに抹殺の場にはイタチも居る。オビトに加えて万華鏡写輪眼を開眼しているイタチ、あの二人同時相手じゃ僕が居たとしても勝てない。分った?絶対だよ」

その話を聞き終わると、六花は里と旧うちは領地の森との境界線である高い壁の上で足を止めた。

そして後ろに振り返り月明りに照らされている里を眺め、言う。

「結果…その結果に至るまでの道筋をつけたのは・・・」

六花は歴代火影たちの顔岩に目を移す。

左から、初代火影・千手柱間、二代目火影・千手扉間、三代目火影・猿飛ヒルゼン、四代目火影・波風ミナトの顔岩が在る。

「うん。その道筋をつけたのは芙蓉の元夫で六花が命を助けてマダラから超キレられた“あの”二代目火影だね。うちは一族の戦闘能力を活かす名目で警務部隊を組織させたのは建前。体のいい迫害さ。だから恨むんならマダラじゃなく君の元夫を恨むべきだと思うよ」

「私に、恨むべき人など一人もいないわ…居るとしたら、私自身。只一人」

そう言うと六花は壁を飛び降り、森の中に消えて行った。

 

 

つづく

 

 

 



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続・六花の森(12)~うちはイタチの裁断と大罪

◆◆今回(12)の登場人物は、ゼツ(黒)、うちはオビト(=トビ=マダラ)、うちはイタチ、大筒木カグヤ(o.c)。※主人公の六花=芙蓉。

遂に始まってしまった、うちは一族の抹殺・・・
六花は全てを諦めていたかのように見えましたが、イタチの前に現れてある提案をします。
イタチの答えは・・・?
うちは一族の未来は・・・?
※原作の場面を引用している部分があります。

※関連話:『罪の向こう、愛の絆(完)~罪の向こう、愛の絆』
『罪の向こう、愛の絆~それぞれの新章』
『罪の向こう、愛の絆~マダラとの出会い』
など



 

 

暗闇の中に、月明りに照らされ見覚えのある建物が浮かび上がっている。

 

ギィィィ…

六花は階段を上ると扉に手を掛け、ゆっくりと開けた。

 

「遅かったな。十分も遅刻だぞ」

「遅刻常習犯だったお前になんて言われたかないね」

二人を迎えたオビト(トビ)の言葉に、ゼツがすかさず言葉を返した。

神社の社の中にはオビト一人で、イタチは居なかった。

六花は神棚の下に立って居るオビトの前に立つ。

「それで、今回の任務と言うのは何?」

「フン。そこの番犬にもう聞いているんじゃないのか?」

「・・・・」

六花はオビトを見据えつつも、思わず息を飲み、瞬きをしてしまった。

「今日、イタチは木ノ葉の闇、『根』のリーダー・志村ダンゾウの命令でうちは一族を討ち滅ぼす。たった一人、自分の弟だけは助けるという条件でな。で、俺とお前で抹殺を手伝ってやるのが今回の任務だ・・・一人でも多く、殺せ」

六花は真顔でオビトに問う。

「・・・嫌だ、と言ったら?」

「別に拒否するのは自由だ。ただ、これ以上うちはマダラの下僕であるお前が、暁の正式なメンバーにもならず、マダラが命じた先の夢…そう、“月の眼計画”への行動から外れて生きることなど許さん…」

オビトは六花の顔を指さしながらそう言った。

しかし、六花は顔色一つ変えずにオビトを見据えている。

そしてオビトは言葉を続ける。

「任務を拒否するなら、お前には死んでもらう。但し死に方だけは選ばせてやろう…

うちはマダラである俺に殺されるか、可愛がっている九尾のガキの為に命を捨てるか。

…だが任務を遂行するなら、お前の命も九尾のガキの命も助けてやる。さあどうする?」

六花は不意に、床に眼を落とした。

 

あの時とは違い、床は塵とホコリでくすんでいる。

もう何年も人の出入りは無かったようで、既にここは、うちは一族にとって忘却の場所となっていた。

そう、うちはマダラという人物同様…。

 

顔を上げ、もう一度目の前のトビを見据える。

「その任務、拒否するわ。」

「フン!最後まで我儘で卑怯な奴だな。…最後だから教えてやろう。うちは一族をここまで追い込んだ元凶は、二代目火影・千手扉間だ。お前の夫だろ?」

「・・・なぜ、そのことを知ってるの?」

「俺がこれまで木ノ葉の里に出入りしていなかったとでも思うのか?里を調べれば橘芙蓉という人物とお前が同一人物だという事くらい直ぐに分った。それに芙蓉はマダラをはじめ、うちは一族とお前は和気藹々たる関係だったようだしな」

六花は思わず悲しい顔になってしまい、目を伏せる。

そして、自然と言葉を洩らしてしまう。

「・・・なんとか、うちは一族抹殺を、やめさせることは出来ないの?・・・」

「六花!そんなことは出来ないよ。余計なこと言うな!」

六花の左肩に載るゼツが、その様子を見て叫んだ。

「おお。番犬、珍しく気が合うな。いや、合って当然だよなぁ!お前はマダラの意思なんだからなぁ!!」

「六花、さすがに君がここまでマダラの意思に反すると思わなかったよ。ホント役立たずだね。だけど最後くらいはしっかり役に立ってもらうよ。オビト、六花はこの八年、人柱力の傍に居て九尾封印の鍵穴の一つを見つけている。六花に鍵を開けさせ封印が弱まった所で九尾を抜くんだ。それまで僕が南賀乃神社で六花を待機させておく」

「ゼツ、やっとお前も正気に戻ったか…解った。ではこれから共に南賀乃神社に向かう。そこでイタチと合流し、俺はうちは一族の居住地へと向かい抹殺を実行する。その間、六花、お前は神社で大人しくしていろ。変なまねをしたらお前を殺してから里を九尾で破壊してやるぞ。解ったな?」

「・・・分ったわ」

六花は俯きながらゼツとオビトの話を聞いていた。

しかし、六花の心は既にここに在らずであった。

 

 

午後十一時半を過ぎた頃。

六花、ゼツ、オビトは、うちは一族居住地の一角に在る南賀乃神社に到着した。

三人は黙って立ち尽くし、イタチが来るのを待った。

「…来たな」

オビトがそう言うと、三十秒ほどして扉が開き、イタチが入って来た。

そして三人の前に立った。

その顔は、先日うちは居住地で会ったイタチの弟に少し似ているが、十三歳とは思えない凄然たるものだった。六花には、その様子はまるですべての感情を失くしているようにも見えた。

「マダラ…隣の女は誰だ?」

イタチはオビト(マダラ)に向かって静かに訊いた。

「暁の協力者の一人だ。うちは抹殺を手伝わせようと思って連れて来たんだが、ここに来て報酬が少ないと言って拒否されてな。仕方が無いから留守番をさせる。気にしなくていい…さあ行くか」

「ああ」

イタチが先に神社を出て行き、その後をトビが続く。

しかしトビは出口で立ち止まり、六花に振り向いて言う。

「お前はそこで、うちは一族の断末魔を聞きながら転生術の復習でもして居ろ。フッ」

そして六花とゼツを残し、二人は出て行ってしまった。

 

 

六花は、小さな窓から差し込む月明りを眺めていた。

今夜は満月である。

「僕が耳栓しててあげよっか?」

「…うん」

六花はゆっくりとその場に座るとゼツは身体を広げ、いつものかたちになり、六花を後ろから抱き締める。

そしてその手で優しく、六花の両頬と両耳を覆った。

「…ありがとう。ゼツ…」

「…オビトに情けはかけるんじゃないよ。確実に殺すんだ。アイツだって六花とナルトを殺すことが目的なんだから。オビトはもう要らない。僕が白ゼツと魔像を使ってなんとかマダラを復活させる。尾獣はマダラ自身に回収して貰おう。その時は六花もちゃんと手伝うんだよ?」

「…でも私にオビトを殺せるか不安よ。怖い…怖いの…」

六花は両手で顔を覆い、うな垂れた。

「…何も怖くなんて無いよ。僕が付いてる…愛してるよ。六花」

「…ありがとう。ゼツ。私も、愛してる…」

そう言うと、六花は顔を覆った手をゆっくりと除けた。

 

「さあ、行きなさい。ゼツのことは出来る限り止めるから」

「ありがとう!ヒミコさん!」

 

目の前にヒミコの姿が現れた瞬間、六花は立ち上がり、神社を飛び出して行った。

ヒミコはそれを見届けるとその場にしゃがみ、球状に戻って床に転がるゼツに両手をかざした。

「チャクラの無い私にはゼツをいつもより五分程度長く眠らせることしか出来ない…芙蓉、頑張るのよ…」

 

 

ザシュッ!「ぐぁっああ!」ドス!「きゃああぁ!」・・・

 

イタチは刀の血を振り払い、顔に着いた生温かい返り血を腕で拭いながら、また前に歩き出す。

その目の前に、月光を背にした人影が現れた。

イタチは黙って再び刀を構える。

 

「あなたは一族と一緒に、自分自身のことも殺している」

「?・・・お前は、さっきの・・・退け。邪魔をするな」

 

六花は静かにイタチに歩み寄る。

「時間が無い。邪魔するならお前も殺す」

「あなたを助けたいの!…うちは一族のことも、そしてこの木ノ葉の里も!」

「何も知らぬ部外者が口を出すな」

「万華鏡写輪眼…あなたももっているんでしょう?私ももっているの」

そう言うと、六花はイタチに万華鏡写輪眼を見せた。

「・・・だったらなんだ。俺と戦うつもりか?」

「違う。一族に幻術をかけて、クーデター計画や里への反発思考を書き換えましょう。そしてあなたに命令している、志村ダンゾウの思考も!私たち二人でならやれるわ!!」

その言葉に、イタチは目を見開き、ごくりと唾を飲む。

 

【挿絵表示】

 

頭に、先日死亡した親友・うちはシスイが試みようとしていた事が浮かぶ。

だがそれは失敗に終わった。

しかし、いま二人の万華鏡写輪眼をもつ者が力を合わせれば…

 

イタチは構えた刀を下ろし、六花に歩み寄ろうとした。

 

ビュン!!・・・ズガッ!

 

空から飛んできたクナイを、六花がかわし、クナイは斜め後ろの壁に深く突き刺さった。

 

「お前は役立たずというより害虫だな…イタチ、この女に耳を貸すな。こいつは二代目火影・千手扉間の妻だ。お前を騙してお前の弟を含め、うちは一族を殲滅させ里を牛耳る気だ!」

電柱の上に居るオビトが、イタチに向かって言った。

「!!?」

イタチは急いで後ろに飛び退き、再び六花に向かって刀を構える。

今度は殺意を込めた厳しい眼で六花を睨みつけている。

「…私は確かに千手扉間の妻です。でも私は、私に出来る精一杯の贖いをするつもりです!」

「・・・。一族の枠に拘り、自ら破滅の道を選ぶ愚かな奴らなど消えればいい。今の俺にはもう、一族という概念はない。」

そう言うとイタチは姿を消してしまった。

 

そして、トビは電柱から六花の前に飛び降り六花に歩み寄る。

「お前、死を前にして保身に走ったか。とことんクズだな…あとでたっぷり甚振って殺してやる。逃げても無駄だぞ」

「逃げたりしなんてしないわ。檜枝岐神社で待ってる…あの場所は私の思い出の場所だから…」

「フン」

トビはその場から消えた。

 

六花は踵を返し、歩き出す。

すると目の前の地面からゼツが飛び出して来た。

「六花!馬鹿じゃないの!いや馬鹿だろ!バーカバーカ!!馬鹿六花!!」

「・・・ごめん」

「ごめんで済んだらマダラは要らないんだよっ!」

「フッ。何それ・・・」

「あれだけうちは抹殺を止めようとするなって言ったのに!どんだけ馬鹿なの⁉オビトがイタチと組んで攻撃してきてたら死んでたかもしんないんだよ⁉」

球状のゼツは目を吊り上げ、六花の顔の高さまで何度もぴょんぴょん飛び跳ねながら抗議した。

「・・・ごめんったら」

六花は少しだけ苦笑して掌を揃えて差し出した。するとゼツはその上にちょこんと載った。そのゼツに向かって六花は目に涙を滲ませながら言う。

「イタチをあんな行動にまで追い込んだのは、もとはと言えば、扉間さま…扉間さまを追い詰めたのは、この私。だからイタチの罪は私の罪よ。彼の罪は私が持って行くわ」

「どんだけ自虐的なのさ。ホント、君は馬鹿みたいに優しすぎるんだよ…いいから直ぐ気持ちを切り替えて!オビトとの対決に備えるよ!」

「…うん」

六花は顔を上げ、正面の闇を睨みつけた。

 

・・・どうせすべてが許されないのなら、もう逃げ場は要らない・・・

 

 

辺りは真っ黒な血の海が広がり、その上に満月が浮かんでいる。

その隣でトビとイタチが落ち合っていた。

 

「あとはお前の両親か…一人でやれるか?」

「父も万華鏡写輪眼を開眼している。壮絶な戦いになるかもしれないが、実力は俺のほうが上だ。決して負けはしない」

「俺はこれからあの裏切り者の女を片づける。お前よりは時間はかからんだろう。南賀乃神社で待っているぞ」

「いや、すべてが終わればダンゾウと火影に念を押しに行く。先に行っていてくれ」

「分った」

 

 

 

イタチは音一つ立てることなく自宅の屋敷に入った。

庭を通り、一つだけ灯りのついている部屋の前に立つ。

僅かに障子戸を開け、中を覗いた。

「こっちだ」

「!」

「罠など無い。入って来い」

隣りの部屋から父の声がした。

イタチはゆっくりとその部屋の前に移動し、慎重にドアを押し開ける。

・・・キィィ・・・

「・・・!」

ドアを開けると、部屋の中には父と母がこちらに背を向け、二人で並んで正座していた。

「俺の子と、殺し合いはしたくない…そうか、お前は向こうについたか」

イタチは右手に持つ刀を握り締め、何とか口を開く。

「父さん・・・母さん・・・俺は・・・」

「解っているわ・・・イタチ」

母は正面を向いたまま、気丈な声で言った。

「イタチ。最後に約束しろ。サスケのこと、頼んだぞ」

イタチは刀を二人の背中に向け、数歩、歩み寄る。

「・・・解ってる」

そして両手で刀を構えた。

しかしその手はぶるぶると震え、写輪眼の瞳には涙が浮かんでいる。

「怖れるな。それがお前の決めた道だろ。お前の痛みに比べれば、我らの痛みは一瞬で終わる…考え方は違っても、お前を誇りに思う…」

遂にイタチの眼から大粒の涙が滝のように流れ、刀を握りしめた両手の上に滴り落ちていた。

「お前は本当に優しい子だ…」「ええ、本当に…」

その言葉が、父と母の最後の言葉になった。

 

 

つづく

 

 

 

 



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続・六花の森(13)~オビトvs六花の闘い。そして、六花の夢

◆◆今回(13)の登場人物は、ゼツ(黒)、うちはオビト、六花(芙蓉)。

うちは一族抹殺を止められなかった六花。
しかし、これ以上オビト自身のやり方を許すわけにはいかない。
六花はオビトを殺すことを決意し、オビトと闘いを始めます。
二人の闘いの結末は・・・?




 

 

「選べと言われたけれど、選ぶことは出来ないわ」

 

そう言うと、六花はゆっくり振り返った。

その眼には真っ赤な写輪眼が浮かんでいる。

急に強まった風は六花の後ろで束ねた髪を真横に揺らし、朽ち果てた檜枝岐神社の屋根がピュゥゥーと音を立てている。

同じく、オビトの伸びた髪も強風で真横に揺れていた。

 

「それは、俺を倒すという意味か?」

「その通りよ」

「フン・・・そうか。だがお前が負ければ九尾のガキも死ぬということだぞ」

「あなたはどうせ最初からそう言うつもりでしょう?私にナルトくんを救わせた後、殺す」

「…解ってるじゃないか。お前はマダラの夢の実現を口にするくせに、自分の手を汚すことを嫌い、行動を選り好みする。いや何もしない…お前は邪魔だ。いい加減俺の前から消えろ」

「許せないんでしょう?私とマダラさまが夢の世界ではなく、この世界で幸せになる事が…本当は解っているんじゃないの?夢の世界で幸せになれても、この世界で幸せにならなければ意味は無いってことを」

その言葉を聞き、オビトは六花に向かって一歩近づき、言う。

「本当の愛も、希望も、夢も、この世界には最初から存在などしないのだ!そして、その世界を終わらせるのはこの俺だ!」

六花は目を伏せ、静かに言う。

「あなたをそんな風にしてしまったのは私にも責任がある・・・そんな私があなたを殺すなんてこれ以上の自分勝手は無い。でもこれが私の・・・“夢“の叶え方よ!」

そう言い終わると刀を抜き、オビトに向かって走り出す。

オビトは両手に繋いでいる鎖を掴み、一直線にして身体の前に構えた。

 

ガシィン!!

六花の刀が勢いよくオビトの鎖に交わった。

交わった刀と鎖越しに、六花の眼とオビトの右目が合う。

すると六花はニヤリとして見せた。

「雷遁・鎖雷!」

パチッバチィ!チュイィィィン!!

六花の刀の淵に電流の鎖が現れ、淵に沿って高速で回転し始めた。

…バチンッ!! 

「!!」

するとオビトの鎖はあっという間に切れてしまった。

鎖を切った刀はその勢いでそのままオビトの身体も真っ二つに切り裂いたが、それはただオビトの身体をすり抜けただけだった。

「…フン。 火遁・爆風乱舞!」

ゴオォォォォォ・・・!!

オビトは右目から異空間より呼び寄せた竜巻に火遁で火をつけた火炎風を六花に向けて繰り出した。

六花は瞬時に後ろに飛び退く。しかし火炎風は直ぐに六花を飲み込んでしまった。

この距離で喰らえば丸焦げだ…とオビトはほくそ笑んだ。しかし。

 

「くそっ!こいつ須佐能乎が使えるのか⁉」

 

爆風が消えると、そこには、青色の半透明のチャクラを纏った骸骨の肋骨に守られている六花の姿があった。その両眼には万華鏡写輪眼が浮かんでいる。

そして六花が地面に着地すると、六花を守った骸骨の骨が増え、肉付きがしっかりとした巨人の姿になった。

巨人の眼は冷たくも眩しく光っている。しかし、六花の瞳はそれ以上に冷たかった。

オビトは初めて見る六花の表情に一瞬息を飲んだ。

・・・本気の殺気だ・・・

「神威・魔風手裏剣!」

オビトの右目から大型手裏剣がいくつも飛び出し、六花本体に飛んで行った。

巨人はその大型手裏剣を左手で払い除けようとしたが、その瞬間に手裏剣は回転を速めた。

ザシュッ!・・・

巨人の左手が切れ、切り落とされた手先はその場で消えた。しかし直ぐに再び剣を握った左手が現れる。そして同時に、巨人のもう片方の手には、先端が半円形をした鉄鎚が出現していた。

 

【挿絵表示】

 

「須佐能乎・智慧の鉄鎚!」

巨人はその鉄鎚をオビトに向かって放り投げた。

 

ビュン・・・!

 

オビトの身長の倍はあろうかというその鉄鎚はオビトの身体をすり抜けた。

「無駄だ!!たとえ須佐能乎の攻撃だろうと俺には当たらん!!」

オビトをすり抜けた鉄鎚は空中で円を描いて再びオビトの背中めがけて飛んでゆく。

オビトは振り返り、その鉄鎚を睨んだ。

「神威!!」

しかし、その鉄鎚に変化は無い。異空間へ吸い込み飛ばすことが出来なかった。

「…なんだと⁉」

「智慧の鉄鎚はあなたに命中するまで決して止まらない…私とあなたに真理を知らせ、迷いを破るまでは、決して!!」

そう言うと六花は須佐能乎を纏ったままオビトに向かって走り出す。

巨人の左手は元通りになっており、その手には剣が握られている。

 

「土遁・土竜隠れの術!」

オビトは地中に潜り込んだ。

しかし、鉄鎚はオビトという標的を確実に追う。

ドスゥウン!!

オビトが居る場所に鉄鎚が喰い込んだ。と同時に…

グサァァッ!!

その場所を六花が巨人の剣で突き刺した。

しかし、その剣も地中に居るオビトをすり抜けた。

オビトは素早く地中を移動していく。

しかし鉄鎚はひとりでに地面から抜けると、地中のオビトに引き寄せられるようにオビトを追い始める。

そしてまた地中に居るオビトの頭上に鉄鎚が喰い込む…そこを巨人の剣が突き刺す…その繰り返しが三回ほど続いた。

 

そしてとうとう、オビトは地中から飛び出して空中に舞う。

「まるで、現実から逃げているあなた、そのものね・・・でも現実はあなたを逃がさない」

そう言って、六花は美しい顔で微笑んだ。

空中から地面に着地し、オビトは落ちて来る鉄鎚に向かって両手を顔の前で組んで防ぐ仕草をした。

鉄鎚はなおもオビトの身体をすり抜け地面に突き刺さる。

・・・まずい。もうすぐ五分が経ってしまう・・・

 

オビトはその場を飛び退き、数メートル先の地上に立つと印を結ぶ。

「うちは火炎陣!!」

するとオビトを囲うように炎の防壁が空へと延びてゆく。

しかし、鉄鎚はその防壁の中に居るオビトめがけて飛んでいった。

そして、それと同時に…

「須佐能乎・火遁・豪火滅失!!」

六花が印を組むと、巨人は口から業火を噴出し、鉄鎚とまったく同時にオビトを囲う防壁にぶち当てた。

ズオォォォォッゴオォォォォォ・・・!!

鉄鎚と炎はオビトの防壁を破り、オビトに襲いかる。

「ぐぁぁぁっ!!」

炎の海の中からオビトの叫び声が聞こえ、鉄鎚はその場から姿を消した。

 

六花は炎を収めると、その場で仰向けに倒れているオビトに歩み寄って行った。

そして、尚も冷たい瞳でオビトを見下ろす。

面は割れ、オビトの素顔が露になっていた。

左目は閉じており、開いたままの右目の写輪眼はすでに消えていた。

六花は左の手袋を外しながらその場にしゃがむと、人差し指と中指二本でオビトの首の脈を診た。

「・・・死んでる。」

そう言うと立ち上がった。

すると、どこからともなくゼツが現れ、六花の左肩に載る。

「やったね六花!僕の力無しでオビトを倒すなんて!惚れ直…」

 

ドスッ!

 

「死ぬのは、お前だ」

 

六花は、地面を見た。

しかし、そこにオビトの死体は無い。

オビトは木遁・挿木の術で出した鋭い木棒で六花の背後から心臓を貫いていた。

六花の眼に、身体を貫通して血の付いた木棒の先端が写る。

 

「あなたに…真理は分らなかった様ね…」

「!!?」

 

オビトが刺した筈の六花の姿は消え、目の前に、自分と向かい合って六花が立って居る。その左肩にはゼツも居る。

「影分身か!」

「あなたのは・・・イザナギ・・・でしょう?あなたのうちは抹殺の目的はマダラさまになりきる事だけじゃない。写輪眼の収集の為。なら、その眼を使ってイザナギを使う事くらい想定内よ」

「お前らっ・・・!」

「二対一・・・まだやる?」

「僕はお前の味方なんて一言も言ってない。むしろもうお前は用済みだ。六花、さっさと殺しな」

しかし、六花は動かない。

真っ直ぐ、未だ殺気を宿した瞳でオビトを見据えている。

「六花!早くしろ!」

「待ってゼツ・・・。ねぇオビト、私の話を聞いてくれる?」

「…俺の負けだ。いまの俺にお前は倒せないようだ…フン。話を聞いてやる」

「ありがとう…。あのね、私の夢はマダラさまと同じ。世界を救い真の平和を築くこと。だけどそれは“うちはマダラ”だけでは実現できないと思ってるの」

「どういう意味だ?」

「あなたはうちはマダラの代役、つまりマダラさまの協力者。それに、役立たずだけど下僕の私、そしてこのゼツ・・・それだけでもマダラさまは一人じゃないってことじゃない?」

「・・・・。」

「それに、私たち以外の、今は対立している誰かとも、きっとこの先手を取り合ってくれると信じてる。それまで私も、あなたと一緒に『月の眼計画』を手伝う。そしてようやく、私もその正義に従う覚悟が出来たの。あなたのお陰でね・・・」

「フッ・・・馬鹿げた事を考えているんだな・・・本当に甘い」

「もっと笑われると思うんだけど、その誰かの一人は、ナルトくんだと私は思ってる」

「フフッ。お前、頭大丈夫か?」

「へへっ。だよね・・・。でも二人が手を取り合う為に、ナルトくんの中に居る九尾がどうしても必要なら、あなたが九尾を抜いて。だけど、今はその時じゃないんでしょう?」

「お前、知っていたのか⁉」

「うん。ゼツから聞いてる。一尾から九尾まで居るうちの九尾をいきなり最初に入れちゃうと魔像の中のチャクラのバランスが崩れるのよね?」

「・・・ああ、そうだ」

「その時が来たら、私が輪廻転生の術でナルトくんを助ける…。でもね、それは必要無い気がするの。ナルトくんはきっと、どの火影をも越える強い忍びになってくれる。そして最強の忍であるマダラさまと手を取り合ってくれるはず!絶対にね!ウフフフ!」

「フフッ、あははは!・・・お前、意外と面白い女なんだな・・・。まぁでも、俺は俺のやり方でこれからもやる。それは変わらない。それを邪魔するというなら、次こそ負けない」

「こっちこそ。私が許せないやり方をするなら、あなたを止める」

「…はぁ。まったくもう。なんでこうなるのさ…」

ゼツは六花の左肩で溜息を吐いた。

月は随分と西に傾き、高い山の頂に届きそうになっていた。

 

 

今夜、秘密裏に惨憺たる結末に追い込まれたうちは一族とは対照的に、うちは一族居住地区以外の里の風景は、いつもと変わらず秋冷と月明りに照らされ静まり返っている。

「良かった…ナルトくん…」

六花は、カーテンが僅かに開いているベランダの窓から、ナルトの穏やかな寝顔を確認すると静かにその場から姿を消した。

 

「もう今日は寝かせてよ…」

「駄目だよ!」

六花は自宅の玄関を入ると、ドスンと床に座って靴を脱ぎ始めるが、その左肩でゼツは先ほどからずっと同じことを言い続けている。

「六花のその甘い性格、八方美人な性格でこれまでどんだけ痛い目に遭ってきたか忘れたの⁉周りにも大迷惑かけてきた事も!オビトは絶対今回の仕返しをしてくるよ。イザナギを使えば暫くは全力で戦えない。明日オビトを改めて殺しに行くよ!」

「もう、今日は本当に疲れているの。その話は明日にさせてってば」

「忍になって何年経つのさ!こんな事で疲れた言うな!反省は今日中にしとくの!」

「あ、一緒にお風呂に入る?」

「はぁ⁉…話を、逸らすなよ」

「だって今日は本当に辛かったし、ゼツにも悪い事したし…ゼツと一緒に居たいなって。それにお風呂に入りながらなら少しは話せるでしょ」

「し、仕方ないなっ」

 

 

狭い湯船の中、六花は足を折り曲げ、膝を立てて浸かっている。

湯から出ているその膝の間にゼツが載っている。

「…あのね、オビトを殺さなかったのには理由があるの」

「何?」

「三日前、私がマダラさまを蘇らせるって言ったけど・・・本当は今、マダラさまに復活してほしくないの」

「なんで?あんなにマダラに会いたがってたのに。それに僕だって…」

六花は僅かに唇を噛み、俯いた。

マダラには早く会いたい。しかし、今は…

「今はまだナルトくんは幼すぎる。忍としてもまだまだだし。今のナルトくんとマダラさまが会ってもナルトくんが殺されて終わりだわ」

「なるほど。だからオビトには代役を続けて貰わないと困るって思ったわけね」

「うん…。私はいつでも輪廻転生の術を使う覚悟は出来てる。でもそれは今じゃない。ナルトくんが強く成長するまでは…」

「ナルトが強くなるかなんてどうしてわかるのさ!父親がデキる忍だったからって遺伝するとは限らないよ」

「心の痛み、本当の孤独を知っているひとは、人を深く理解できるものよ…だから、きっとナルトくん自身も誰かに理解して貰える日が来る。沢山の仲間に支えられる日が来る。だからよ」

「“芙蓉”がそうだったように?」

ゼツのその言葉に、六花はゼツごと膝を抱えた。ゼツの身体が六花の柔らかい頬に吸い付き、ゼツは心地よさそうに目を細める。

「…私は強く居続けることなんて出来なかったけど、ナルトくんは強くなる…絶対に」

「なーんだ。ぜんぶ六花の希望的観測じゃん。ま、なんにせよ六花に輪廻転生の術は絶対に使わせないけどね!」

そう言うとゼツは六花の頬に軽く口づけをした。

「うん…私も出来れば使いたくない…だってマダラさまと会いたいし、ナルトくんと手を取り合うところ見たいし…」

「はぁ…まったく相変わらず頑なだね…ていうかここまで来たら信念を曲げないってやつ?」

「そんな立派な物じゃないわ…私の…我儘だから…」

 

 

 

つづく

 

 

 



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続・六花の森(14)~暁に入りて暁達す

今回(14)の登場人物は、うちはイタチ、うちはオビト、ゼツ(黒)、六花(芙蓉)、ペイン、暁のメンバー、うずまきナルト、うみのイルカ、その他。

暁に新たなメンバー二人が加わります。
そしてイタチと六花は改めて対峙することに。
イタチは六花を敵とみなすのか・・・?

六花が暁のメンバーになって五年・・・
六花にも、ナルトにも、変化が起きていました。
※原作を引用している箇所があります。



 

「新しくこの暁のメンバーになった者を紹介する」

ペインが宣言する前から、小南を加えて円陣になっている他の暁のメンバーたちの眼は既にその二人に注がれていた。

「元・木ノ葉隠れの忍、うちはイタチ。それから、六花だ。十蔵、お前はイタチと組め。ゼツは六花とだ」

「おい、俺はどうするんだ?」

角都が間髪入れずに質問をした。すると大蛇丸も口を開く。

「私も以前から言っている様に、いい加減六花と組ませて欲しいわ。それかイタチ君でもいい」

「角都は暫く一人でやれ。新しいメンバーと組ませる。大蛇丸、お前には六花もイタチも組ませることは出来ない。同じ木ノ葉出身同士を組ませれば反逆を企てないとも限らないからな」

「そんなの有り得ないわ!木ノ葉に未練たっぷりな六花ならまだしも、イタチ君は違うでしょう。私と同じく木ノ葉の里を全否定しているじゃない。むしろ気が合うわ」

「黙れ。企むのはむしろ、お前のほうではないのか?疑われたくなければ言う事を聞け」

「フン。そう。分ったわ・・・」

「…では、それぞれ任務に当たってくれ。解散だ」

他のメンバーがアジトの出口へ向かおうと足を動かし始めるなか、六花は先ほどから感じている視線に縛られ、動けない。

右隣りに居るイタチは写輪眼を浮かべて六花を横目で睨んでいる。

六花は思い切ってイタチのほうを見て、言う。

「…オレも、目的はお前と同じだ。」

そう言ってイタチから目を逸らすと、六花は出口に向かって歩いて行った。

「お前ら知り合いなのか?」

イタチの右隣りに居る、イタチとツーマンセルを組むことに決まった十蔵がイタチに訊ねた。

「いや…さっき初めて会った」

イタチは振り返り、写輪眼の消えた眼で六花の後ろ姿を見た。

 

――オビトが六花に敗北した次の日。山岳の墓場のアジト――

 

「・・・俺にトドメを刺しに来たのか?」

 

面で顔を隠しているオビトは、魔像があったはずの場所の近くに座って居る。

魔像はいま暁のアジトに在り、ここには柱間の細胞を培養した巨大な植物だけが残っている。

『そう』「じゃないわ。」

ゼツと六花が同時に言葉を発した。

「俺はお前にも木ノ葉の里にも、そして九尾にも、もう手を出すつもりは無い…」

「んなわけないだろ。暁の組織が強固になって、他の尾獣が揃えばまた里を潰す気だろ」

「ゼツ!・・・。オビト、私も今はあなたと戦う気は無いわ。その代わり、私の言う事を聞いて頂戴」

「言う事を…聞けだと?…昨日も言った通り俺は俺のやり方を変えるつもりは無いぞ」

六花は俯いたまま小さく深呼吸をすると、思い切り顔を上げ、強い眼でオビトを見て言う。

 

「私を・・・暁の正式なメンバーにして。そして白黒ゼツと組ませて」

 

「・・・なるほど。内部から俺のことを監視するつもりか」

六花は尚も真っ直ぐオビトを見て言う。

「昨夜のあなたとの戦いで、やっぱり私も直接マダラさまの『月の眼計画』をこの手で進めたいって思った…。でも私には貴方と同じやり方は出来ない。私なりにこの暁を強固にする役目を負うわ。その為には…非情になる!」

六花の言葉にゼツが付け加える。

「オビト。以前も言ったけどお前に六花は殺せはしないし殺させない。絶対にな。お前の仕事がマダラ復活までなら、六花の仕事はマダラ復活の後が本番だ。それまではお前が裏切らないか見張ることが役目さ」

「私はあなたの月の眼計画の進め方については口出しはしない。だけど、あなたが少しでも計画から逸脱している事、そして計画を放棄する事は許さないわ」

その言葉にオビトは胸の前で固く組んでいた腕を解き、今度は膝を組くむとその上に軽く手を置いた。そして考える。

 

・・・これまで非協力的だったのに俺に勝ったら急にこの態度…気に食わないが仕方が無い。

六花は厄介だ。俺がもっと力を付け、尾獣がある程度揃うまで近くに置くほうが俺にとってもコイツの動きを把握ができる。互いに見張り合う均衡状態が今はベストだな・・・

 

「解った。ようやく利害の一致というわけだな…月の眼計画に向けて」

「そうね。改めて、これからよろしく」

「解っているとは思うが、暁の支配者は俺だ。それを忘れるな」

「ええ。解ってるわ」

・・・・・・・・・

 

 

紺碧の海には白波が立っており、砂浜では哀切な声で鳴きながら親鳥を探す一羽の千鳥がちょこちょこと歩いている。

六花はその紺碧の海と千鳥の姿それぞれに、愛する二人の姿を重ねていた。

 

『よく飽きないな』

『飽きませんよ。だってこんなに綺麗なんだもん。それに…』

しかし、隣にマダラは居ない。ずっと、ずっと前から…もう。

今年も残り数日となっていた。毎年この時期になると必ず思い出す、あの日。

初めて胸に抱いたナルトの体重と、体温、そして母を求める、あの瞳…。

その瞳は海の様に深く無限大の可能性を秘めていた。そして堪らなく愛おしかった…。

その想い出に、いつも六花の胸は強く締め付けられるのだった。

 

すると突然大きな風が吹き、六花の纏う装束の裾を翻した。

左肩に載るゼツがその様子を見て言う。

「この装束六花に似合ってるよね。前より良いよ」

「…えっ?あぁ、そう?正直私は好きにはなれないけど…まぁ覚悟の証だからね」

「だって前の格好(戦闘服)は胸の谷間が丸見えだったもん。これくらい全身隠れてる方が安心だよ」

「でも私はマダラさまが選んでくれた服だから、あっちのほうが好きだし安心よ」

 

【挿絵表示】

 

「あーあ。でもまた六花の作ったケーキが食べたいなぁ」

「…うん。でももう二度と木ノ葉の里には住めないからね…(山岳の墓場の町に在る)一軒家のアジトも随分片付いてきたし、また作ってあげるわよ」

「わーい。大福も作ってね」

「ハイハイ・・・・・って、ちゃんと、来てくれたみたいだわ」

六花がそう言うと、ゼツは六花の襟の内側に入り身を隠した。

一分ほどすると、後ろの松林の中からその人物が歩いて現れた。

 

「来てくれて、ありがとう。イタチ・・・」

「俺もアンタに聞きたいことがあるからな」

 

先日イタチはツーマンセルを組まされた十蔵との任務中、十蔵が水の国で死亡した。その為、今日は暁のリーダーであるペインが選んだ新メンバーに会うことになり、イタチは暁のアジトに呼ばれていた。

そしてイタチがペインに会った後、その新しいメンバーと合流する前、六花は話があると言ってイタチをこの場所へ呼び出したのだった。

 

「そうよね・・・どうぞ、何でも訊いて」

「まずは、今日ここに呼び出した理由だ」

「あの日…私があなたに言ったことは本心よ。私は木ノ葉の里を、木ノ葉に生きる仲間を守りたいって思ってる。夫・扉間がうちは一族にしたことへの償いの気持ちもあるけれど、あの時は純粋にあなたのことを救いたかった。信じて貰えない事を承知の上で更に言うと、だから、私が暁に入った目的はあなたと同じだと伝えたかったの」

「なぜ暁に入った理由が俺と同じだと言える?何を知っている?」

「夫の政策を受継いだ志村ダンゾウの行き過ぎたうちは迫害について調べていたの。それであなたが暗部に入ってからの経緯も知った。…二重スパイ。辛かったでしょうね。心に血を流しながら働いていたあなたが、たかが一族に失望しただけで、あんなことをするとは思えない。うちは一族を犠牲に木ノ葉の里を守った…だから今度は、犯罪組織である暁を内部から監視する為に加入したんじゃないの?」

「・・・。俺はアンタのことを木ノ葉の里で何度も見た事がある。ナルトの養育係を辞めた後もずっと。ナルトに九尾が封印されていることも知っているのか?」

「ええ。知っているわ。でもそんな事関係無くあの子を育てたかった…養育係になったことも、辞めた後もあの子の傍に居たのも全ては私のエゴよ…」

「・・・。だが、千手扉間の妻・芙蓉は随分前に死んでいる。アンタは一体何者で目的はなんだ?」

「・・・。私は確かに一度死にかけたわ。でも、うちはマダラに助けられたの。うちは一族のあなたなら知っているかもしれないけれど、私は扉間と結婚する前、マダラとも結婚していた…」

「要するに、アンタはマダラの仲間というわけだな」

「ええ・・・。だけど」

イタチは一度目をつぶると、再びゆっくりと目を開けた。

次の瞬間。

 

六花とイタチは真っ白な空間に居た。

 

・・・なんだここは!何も無いなんてあり得ない!・・・

 

イタチは向かい合っている六花に動揺は見せず、心の中で動揺した。

一方、六花は燃える写輪眼でイタチを睨んだ。

 

「私の心の中に勝手に入って来ないで!…ここに入って良いのは…私の愛するひとだけよ!」

 

気付けば、二人は再び元の場所に戻っていた。

背後では変わらず波の音と千鳥の声がしている。いや、千鳥の声は増えていた。親鳥がやってきたようだ。

イタチも写輪眼を浮かべ、ごくりと息を飲むと口を開いた。

「・・・本当に、何者なんだ?」

六花は悲しそうに眼を細めて答える。

「私にも・・・もう解らない・・・だけど、私は木ノ葉の里を、そしてナルトくんを守りたい。それだけなの。もうそれだけの存在で良い…。

私を信じてくれなくてもいいわ。でも、私の力が必要な時は言って。これは二人だけの秘密。表向きは私も暁のメンバーとして世界征服が目的だから…」

六花はそう言って静かに目を閉じると、左目から一筋の涙が頬へと流れた。

そして、そのままその場から姿を消してしまった。

 

「・・・・。取敢えず、敵では無いという事か・・・」

イタチは写輪眼を収めると、千鳥が飛び去った砂浜を静かに眺めた。

 

 

「私…ハゴロモお兄さまのことも、ハムラお兄さまのことも、大好きです。でも…今は…誰とも結婚したいと思えないんです!」

 

・・・これはあの時、私が扉間さまに言った言葉…でもハゴロモ?ハムラ?…誰、だっけ。あれ、でもあの時の気持ちと、違う。私、本当は・・・

 

「うむ…お前の感覚のほうがこの世界の価値観に近く、正しいのかもしれない。母の因果を断ち切る為にも、その気持ちを優先させることが最善だろう…」

ハゴロモは優しい顔でそう言うが、隣のハムラは身を乗り出し大きな声で言う。

「ヒミコ!兄と妹だろうと、元々この地のヒトではない我らに、そんな事は懸る事では無い。仕方が無かったとはいえ母を封印した俺たちのことを考えたくない気持ちも解る。だが俺と二人で居れば気持ちも変わる。頼む、一緒に月に来てくれ!」

 

・・・そうだ、これはヒミコさんの記憶。でも本当はヒミコさんは・・・

 

目の前のハゴロモとハムラの姿が消え、気づけば床に座りうな垂れて、顔を覆って泣いていた。

「…ヒミコ…」

「嫌っ!!触らないで!!・・・こんな身体の私はもう、もう月に行くしか・・・」

「そんな事は無い!ハムラは一人で行かせる。お前は自由に生きればいいのだ。時が経てば体の傷も、心の傷も必ず癒える。それに、お前には母の魂の欠片が封印されているのだ。その魂を封印する為にもお前のチャクラすべてを封印しなければならない。お前はこれからこの地のひとりの女性となり、幸せに生きるのだ…」

 

・・・なぜ?どうして?私がこんなに傷ついても、あなたは『一緒に居よう』と言ってくれないの!・・・

 

「!!!・・・ハァハァハァ・・・」

六花は飛び起きた。

息が上がり、寝汗をびっしょりとかいている。

「六花大丈夫?どうしたの!」

ゼツも焦って六花の左肩に載り、心配そうに六花の顔を覗き込んだ。

「・・・うん・・・ちょっと怖い夢、見ちゃっただけ・・・」

「最近多いね。暁に入ってから五年近く、六花が嫌なこと沢山してきてるもんね…ストレスがずっと溜り続けてるんだよ。そろそろ暁を抜けたら?最初から君が暁なんかに入る必要は無かったわけだし。もうこれ以上無理することない」

そう言ってゼツは六花の頬に擦り寄った。

「ありがとう…私は大丈夫よ。暁は辞めない。尾獣狩りもいよいよ本格的に始まるし…オビトの行動をしっかり監視しなきゃ…」

「気持ちは解らなくもないけどさ、ストレスはお肌に悪いよ?マダラが復活して六花が老けてたらガッカリするんじゃない?」

「フフッ。それは困るね…」

六花は苦笑しつつ、ゼツを優しく撫でた。

 

確かにこの五年間、潜入捜査が主だったとはいえ、六花は暁の正式なメンバーとして汚い事にも手を染めてきた。

そのストレスは計り知れないもので、自分を見失いそうになることが何度もあった。

自己嫌悪と罪悪感で、いつしか自らナルトを遠ざけてしまっていた。

六花はナルトの八歳の誕生日を祝ったあの夜以来五年間、ナルトに会っていない。

六花はいまの自分にはもう、ナルトの前に笑顔で現れて抱き締める資格など無いと思っている。

幸い、六花に敗れたオビトには、九尾の捕獲は最後にするよう約束させている。

また、木ノ葉の里と弟を守るという六花の同志ともいえるイタチの存在のお陰で少しだけだがナルトに対する心配の気持ちは深まらずに済んでいた。

それでも、ゼツの言う理由の通りで悪夢にうなされることも増えていた。

だが今し方見ていた夢は悪夢ではなく、ヒミコに初めてあった日から定期的に見る、ヒミコ自身の記憶であった。

 

 

翌朝。

六花は久しぶりに普段着に身を包み、山岳の墓場の港町を歩いていた。

昨夜はうなされて飛び起きて以降なかなか寝付けず、仕方が無いので日の出前にベッドから出た。怠さはあるが折角早起きをしたので、漁港で毎朝行われている朝市に行ってみる事にした。

それから新鮮な鰆とハマグリ、菜の花や蕪などの野菜を買い、今は一軒家のアジトに帰る途中である。

五月に入ってから雨や曇りの天気が続いていたが、この日ようやく晴れ、太陽の光に踊るような涼やかな風が六花の頬をかすめていった。

ふと足を止め、目の前の木を見上げる。

それは、緑の葉と白い花のコントラストが美しい、ハナミズキだった。

遠い昔、扉間が弟子である猿飛ヒルゼン、志村ダンゾウ、水戸門ホムラ、うたたねコハル、そして“芙蓉”の教え子でその日から扉間の弟子に加わったうちはカガミを自宅に招いて、芙蓉が料理を振る舞い、皆で楽しい時間を過ごしたことを想い出した。

あの日、弟子たちが帰って静かになった縁側で、扉間と二人肩を寄せ合い、扉間が芙蓉のためにと植えてくれたハナミズキの花を眺めた…。

・・・だけど私はもう、自分が何者か、いよいよ分らなくなってきてしまった・・・

そう心の中で呟くと、視線を足元に落してゆっくりと歩き始めた。すると。

「・・・!」「うん、ペインからの通信だね」

ゼツが六花の胸の谷間から出て左肩に載り、六花は再び立ち止まって斜めに視線を落として耳を澄ませる。

 

「…木ノ葉隠れの里で事件が起きた。大蛇丸が音隠れと砂隠れの忍を使い、木ノ葉崩しと謳って戦争をしかけた…」

「・・・!!」

六花の心臓がドクンと大きく音を立てた。

・・・ナルトくん!・・・

「…しかし木ノ葉崩しには失敗したようだ。この戦争で三代目火影が死んだ。引いた大蛇丸だが行方は分からない。誰かに調査に言って貰う…」

・・・ヒルゼンくんが、大蛇丸に・・・

六花は大きく目を見開き、少し開いた口に手を当て俯いた。その時。

「…俺が行こう…」

うちはイタチが真っ先に調査に名乗り出た。

「…ではお前たちに任せる。九尾の人柱力の件もな…」

 

「ほら僕が言った通りになった。三代目火影はやっぱりあの時のつけを払わされたよ。あはは」

「ゼツ!笑わないの!…私たちも木ノ葉の里に向かうわよ!」

「行く必要無いって。僕が白黒ゼツにナルトの無事を確認させるから。それに九尾捕獲も今はその時じゃないんだから大丈夫だって」

・・・六花がいま壊滅的な被害を受けた直後の里と、中忍昇格試験中に怪我を負ったナルトの様子を見たら、また感情的になって余計な事をし始めたら厄介だ・・・

「解ってる。でも・・・」

「今行ってイタチの相棒の鬼鮫に、ペインの指令も無い六花が見つかったら怪しまれて面倒な事になる。白黒ゼツにはイタチたちの様子も合せて見に行かせるから、六花は取敢えず待ってなって。それにいま買った鰆とかの生モノどうすんのさ?勿体ないし」

「そ、そうね・・・解った」

六花は少し戸惑いつつもそう返事をし、再びゆっくりと家に向かって歩き出した。

ゼツは、眉を寄せ俯き気味に歩く六花の顔を見ながら思った。

・・・流石に六花も冷静に考えられるようになったね。暁での汚い仕事も、六花にとって己の感情に流される甘い性格を見つめ直す良い経験になったのかも・・・

 

 

 

・・・って、やっぱこうなるよね~。ハァ・・・

六花の左肩で大きな溜め息を吐くゼツを横目に、六花は建物の屋根の上で、離れた場所に広がる悲しい光景に涙を流していた。

 

ペインの通信の翌日。白黒ゼツからの報告があった。

ゼツにとっては全て既知の事実だったが、そこで初めて里とナルトの状況を知った六花はゼツの反対を押し切り、こうして木ノ葉の里へやって来たのだった。

そして今、木ノ葉の里に到着した六花の眼の前には、三代目火影の遺影と、怪我を負っているものの元気な様子のナルトがある。

そこは三代目火影と、火影と共に犠牲になった殉職者たちの葬儀の場面だった。

 

「ナルトくん、良かった無事で・・・」

六花はそう洩らすと、しゃがんで屋根に指を当てて目を閉じた。

そして感知を始める。

すると、ナルトの声が聞こえてきた。

『イルカ先生、なんで人は、人のために命をかけたりすんのかな』

「・・・ナルト…くん・・・」

六花は目を閉じたまま、眉を寄せた。

するとナルトの問いに居るイルカという教師の声が、静かにそれに答える。

『人間が一人亡くなる…過去や今の生活、そしてその未来と一緒にな…。沢山の人が任務や戦争で死んでゆく。それも驚くほどあっさりと、簡単にな…死にゆく人にも夢や目指すものがある。しかし、誰しもそれと同じくらい大切な物があるんだ。家族、両親、兄弟、友達や恋人、自分にとって大切な人達…互いに信頼し合い助け合う、生れ落ちて来た時からずっと大切に思ってきた人たちとの繋がり…そしてその繋がった糸は、時を経るごとに太く強くなってゆく。理屈じゃないのさ。その意図を持ちまった奴は、そうしちまうんだ…大切だから』

その答えを聞き、六花はハッと大きく目を開くと、眼の前の小さな二人の姿を見つめた。

イルカの答えは六花の、いや、芙蓉のもっている答えと全く同じだった。

・・・絆…貰って、紡いでゆくもの・・・

六花の二つの眼から大粒の涙が静かに滴った。

そして再びナルトの声がする。

『うん。なんとなくは俺にも解るってばよ。でも、死ぬのは辛いよ…』

その言葉に、ナルトの後ろに居る別の忍が静かに答える。

『三代目だってただ死んだわけじゃないよ。ちゃんと俺たちに大切な物を残してくれてる。ま、いずれお前にも解るようになるさ』

『…うん。それもなんとなく解るってばよ』

 

「良かった・・・ナルトくんにも、沢山の絆が出来ているのね・・・ヒルゼンくんありがとう・・・あなたは扉間さまの光を受継いでくれた。その光で木ノ葉の里とひとを照らしていたのね・・・」

六花はそう呟くと再び静かに立ち上がった。

先ほどまでの雨は止み、鈍色の空の隙間からは青空がのぞいている。そこから午後の明るい光が差し始める。

六花は被っていた笠を取ると、三代目火影・猿飛ヒルゼンの遺影に向かって深く頭をさげた。

そして頭を挙げ、数秒そのまま真っ直ぐ前を見据えた後、再び笠を被るとその場から姿を消した。

しかし・・・

 

「今の女・・・確かナルトの・・・」

 

六花が姿を消す直前、建物の下の狭い街路から、大柄の白い長髪の中年男が六花を見上げていた

 

 

 

つづく

 



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続・六花の森(15)~流されながらも舵を取る

今回(15)の登場人物は、うちはイタチ、うちはオビト(=トビ=マダラ)、ゼツ(黒&白黒)、六花(芙蓉)、うずまきナルト、うちはサスケ、自来也、干柿鬼鮫、ペイン、デイダラ。

ナルトの前に突如現れたイタチと鬼鮫。
ナルトを助けに戻って来た自来也は二人を見て、先日見かけた六花と同じ装束だという事に気が付きます。

それから二年半が経過した頃、
イタチはこれまでの役目を終えることになります。
そしてついに尾獣狩りも残すところ八尾と九尾のみになり、オビトはゼツにある提案をし、仲間に引き入れたサスケにもあることを告げます。

※原作を引用している箇所があります。



 

 

コンコンコン・・・・。

 

「?・・・なんだ、もう帰って来たのかってばよ」

ガチャッ。

「・・・!」

・・・誰だ⁉サスケの写輪眼とおんなじ・・・

「しかし、こんなお子さんに九尾がねぇ」

・・・なんでこいつら、九尾のこと知ってんだってばよ・・・

「ナルト君。一緒に来てもらおう。外へ出ようか」

・・・こいつら、タダもんじゃねぇ・・・

「イタチさん、チョロチョロされても面倒ですし、足の一本でも切っておきましょうか」

「⁉・・・」

「・・・久しぶりだな・・・サスケ・・・」

「・・・うちは・・・イタチ!!」

 

この日、ナルトは〝木ノ葉の三忍〟のひとりである自来也と共に、同じく三忍のひとり綱手を探しに宿場町に来ていた。

しかし自来也は道端で目の合った呑屋の女に誘われ出かけてゆき、宿屋の部屋に一人残されていたナルトの前に突然、うちはイタチと干柿鬼鮫が現れた。そしてそこに、イタチの弟である、うちはサスケも駆けてきたのだった。

しかしナルトは突然現れた強者と、サスケとイタチの関係に、ただ驚き固まるしかない。

一方のサスケは写輪眼を発動し、イタチを睨みつけている。

 

「アンタを憎み、アンタを殺すためだけに俺は・・・生きてきた!!・・・・アンタを殺す!!!」

サスケは千鳥という術を左手に発動すると、イタチに向かって一直線に走り出した。

…ガシッ!

しかし、イタチはサスケのその左手を掴むと簡単に術を抑え込んでしまった。

・・・オレがなんとかしないと!!・・・

ナルトは印を結ぶが、鬼鮫の大刀・サメハダによってチャクラは吸い取られてしまった。鬼鮫はその大刀をナルトに振り下ろす。

 

ガチィィンッ!!

 

すると、ナルトの目の前に口寄せ蛙が現れ、鬼鮫の攻撃を防いだ。

「…お前ら、ワシのことを知らなすぎだのう…男・自来也、女の誘いに乗るよりゃ口説き落とすがめっぽう得意ってな!女の色香にホイホイ着いて行く様には出来とらんのう!」

そして、ナルトの背後に白い長髪の大柄な中年男が現れた。

しかし、その場の全員が自来也のセリフにシラケて居る。

自来也は顔を引きつらせながらも、目の前のイタチと鬼鮫の装束を見て驚いていた。

・・・この装束。葬儀の日に見たあの女と同じ!…だがなぜナルトの養育係だった女が、ナルトを狙うこやつらと同じ装束を…まさかあの女がこやつらを手引きしたのか⁉・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「キャッ!・・・ああ~びっくりした」

「いい加減慣れろ…いちおう相棒だ…」

 

六花は三代目火影の葬儀を見届けた後、一通り木ノ葉の里の状況調査をした。そして木ノ葉の里に向かっているイタチと鬼鮫に鉢合わせないよう、早めに里を後にして山岳の墓場へ向けて出発した。

そして今、小川のほとりの木陰で休憩を取っていた所、木の幹から白黒ゼツが現れ六花は驚いた。

六花の左肩に載るゼツが、白黒ゼツへと尋ねる。

「イタチたちの様子はどうだった?」

「ナルトを襲っていた…」

「なんですって⁉」

「落ち着いて。それは見せかけだから。で、どうなった?」

「ナルトは全く相手にならなかった。自来也が来なければ大怪我だったかもな…だがナルトの仲間でイタチの弟のサスケは重症だ。自来也はこれからナルトを強くするために修行をつけるらしい。少しはナルトも強くなるだろう…」

「だってさ。良かったね、六花。ナルトに師匠がつけば強くなれるね」

・・・まぁ無駄な努力だけど・・・

ゼツはそう思いながら、明るい声で六花に言った。

「うん!あの三忍の自来也様はナルトのお父さん・ミナトさんのお師匠様だったらしいし、安心だわ。きっとナルトも三忍を越える強い忍になるに決まってるわ!」

「浮かれてる場合じゃない。その自来也に六花が暁のメンバーだとバレている…」

「えっ、どういうこと・・・?」

「どうやら葬儀の時に六花の姿を目撃していたようだ。そしてイタチたちと同じ装束を着ていたことで仲間と気付いた…」

「あーあ。これじゃもう二度と木ノ葉の里には行けないね。それにこれからの行動はもっと気をつけなきゃね~」

「軽いわね・・・まさか・・・気づいてたの?」

「さぁね~でも六花はもう二度と木ノ葉の里にもナルトにも近づいちゃダメだからね」

「・・・・。」

六花は悲しい顔をして小川に目を遣った。

ゼツの仕業でなくとも、暁のメンバーになった時から、遅かれ早かれ木ノ葉の忍から危険人物としてマークされ、そして付け狙われる日が来ることは覚悟していた。

・・・きっとナルトくんにも直ぐに知られるんだろうな。そうしたら私のこと・・・

しかしそれが現実になった今、それは想像以上に悲しい事に感じられた。

同時に、六花はイタチの生き方に身につまされた。

イタチは自ら木ノ葉の里の敵、そして弟にとっての仇になってまで両者を守っている。

六花はイタチと二人で会った日、“あなたと同じ”と口にしたことが今になって軽々しい言葉だったと感じられ、胸が痛む。

しかし、イタチも六花も、もう二度と船の様に川の流れを逆らって過去へ戻ることは出来ない。

出来ることは、下流へ流されながらもなんとか舵を取ることだけだった。

 

 

ナルトが約二年半の自来也との修行を終え、木ノ葉の里に戻って来てから暫く経ったある日。

暁のアジトにメンバーたちはリーダーであるペインに緊急招集され、全員が分身としてアジトに集まっていた。

しかし、イタチと鬼鮫だけが遅れている。

 

六花は、九尾を捕獲するのは最後だと解っていても、こうして緊急の招集がある度に、九尾の人柱力であるナルトの身に何かあったのではないかと動揺してしまう。

しかし、ナルトは自来也に二年半のあいだ師事し、十六歳になった今、かなりの実力をつけている。そして暁の動きや友であるうちはサスケの捜索に注力している。

何より、もうナルトには心強い仲間、友達、師が揃っている…。

六花は気を取り直し、イタチと鬼鮫を待とうとした所、二人の分身が目の前に現れた。

そしてペインが話し始める。

 

「緊急に伝えたいことがある…大蛇丸が殺された」

その言葉に誰も周章する様子は無いが、鬼鮫が苦笑交じりに口を開く。

「あの大蛇丸をやったとは大した手練れですね。誰です?」

「うちはサスケだ」

ペインの答えに、六花は横目でそっとイタチの横顔を見た。表情一つ変えていない。

しかし感情を出す者が居た。

「大蛇丸はオイラがぶっ倒すって決めてたのによ!うん」

デイダラはサスケに大蛇丸を殺されたことが気に食わない。

「フン。やりますねぇ。流石、イタチさんの弟だ」

イタチに向かって鬼鮫が言ったが、それでもイタチは無言、無表情のままである。

白黒ゼツが六花の左隣りで口を開く。

「今サスケは仲間を集めまわってる。それも厄介な忍ばかりだ…」

そしてペインがそれに付け加える。

「鬼鮫。お前も良く知っているだろう。霧隠れの鬼灯兄弟。あの片割れだ」

「…水月かぁ。懐かしいですね」

「それに天秤の重吾も居る。せいぜい気をつけろ。イタチ、鬼鮫。おそらくお前たちを狙っている…他の者も一応うちはサスケのことを頭に入れておけ。イタチや鬼鮫の情報を得ようと暁を標的にするかも知れん…兎に角、イタチと鬼鮫は四尾を早く連れて来い。三尾と一緒に封印するぞ」

「解った」

ペインの言葉に返事をすると、イタチは真っ先に消えてしまった。

 

 

 

「ほーんと尾獣の封印ってしんどいですよね。こんなんがあと何回かあるんでしょう?考えただけでウンザリ!」

魔像への三尾と四尾の封印が終わり、トビ(オビト)が大袈裟に言った。

その場には暁のメンバー全員が揃っており、実体なのは四尾を連れてきたイタチと鬼鮫、そして実体として駆けつけてきた六花だった。

「…さて、どっちにいくかな。うん」

デイダラが不敵な笑みを浮かべて言うと、それに対してトビが問う。

「あのセンパイ?どっちに行くかなって、どっちとどっちのことを言ってるんすか?」

「そんなん決まってんだろ!カカシ率いる九尾の人柱力。それか、うちはサスケかだ!」

そう言うデイダラをイタチが横目で見た。そしてそのイタチを六花が見ている。

「いやいやいや!もうどっちもやめましょうよぉ~だいたい僕らのノルマは終わってるし、そもそもサスケは尾獣でも何でも無いしぃ」

「冗談じゃねぇ!九尾の人柱力には殴られた借りがある。カカシには右腕やられたしな。うん…それにオイラが殺すはずだった大蛇丸をやりやがったうちはサスケも許さねぇ!」

「ああ・・・もう・・・この人ったら言い出したらホント聞かないんだから・・・」

「何か言ったか?フン!」

「いいえーっ!」

「行くぞトビ!」

デイダラとトビは揃って消えてしまった。それを見届けると他のメンバーの分身も次々と消えてゆく。

その場には、実体の六花、イタチ、鬼鮫だけが残った。

「デイダラの奴、直ぐにでも私たちのノルマか弟さんの所へ向かう勢いでしたが、いいんですかぁ?イタチさん…」

「・・・・・。鬼鮫、俺は六花と話がある。悪いが先に木ノ葉へ向かっていてくれないか。直ぐに追いつく」

「九尾のほうへ向かうんですね。解りました。まぁお二人ともお時間の限られている同士ですからねぇ…どうぞ、ごゆっくり」

 

イタチと二人きりになった六花は少し不安そうにイタチの顔を見ると、数歩歩み寄ってイタチと向き合った。

「俺はこれから木ノ葉に向かうが、ナルトには手を出さない…確認したいことがあるだけだ」

「確認…したいこと?」

「ナルトとサスケ。今は正反対に在るが、いつか二人が手を取り合う日が来るかもしれないな。そう、あって欲しい…。その為にも俺は、サスケと闘い倒されなければならない」

「ナルトくんとサスケ君が手を取り合う…ええ、私もそう思うわ。あなたが命を懸けて守り抜いたサスケ君にも、最後にあなたの気持ちがちゃんと伝わるよう、私も祈ってる…」

六花の言葉に、イタチはそっと目を伏せた。

そしてまた六花を見据えて、言う。

「サスケが俺を倒したあと、マダラはサスケを利用しようと俺の真実を教えるかもしれない…アンタは自分が俺と同じだと言ったな。ならば、サスケのことも見守ってやってくれ」

六花は悲しい顔で頷くと、そのまま俯いた。

すると遠いあの夜の悲惨な光景が目に浮かんでしまい、思わずぐっと目をつむる。

イタチは六花に背を向け、出口に向かって歩き出した。

「…ちゃんと!あなたにとってサスケ君はかけがえのない存在なんだってこと…伝えてあげてね」

「…ああ」

イタチはそう返事をすると、その場から消えてしまった。

六花は消えてしまったイタチの背中を見つめ、思う。

 

何が正義で、何が平和なのか?

それは人それぞれ、守りたいもの、愛する人によって異なるのではないかと。

きっとこの世には“誰にとっても正しく幸せしかない世界”など無いのかもしれない。

しかしそうだとしても、太陽に向かって咲く向日葵の様に、永久不変の光に向かって皆が同じ方向を向く必要がある。

それが“世界を救う”という事なのかもしれない。

 

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「イタチが死に、ようやく目の上のたんこぶが無くなった。木ノ葉の里に手を出さないという約束も白紙だ…だがイタチはやはりサスケに保険を掛けていた…天照だ。イタチの奴。俺がサスケを仲間に引き入れることを危惧していたんだろう」

 

数日前、イタチはサスケとの戦いの末、死んだ。

その戦いで負傷したサスケを収容したオビトは、自らをうちはマダラと名乗り、イタチがうちは一族を抹殺した真実をサスケに話して聞かせた。

しかし、サスケがオビトの右目の写輪眼を見たとたん、イタチがサスケの左目に仕込んでおいた瞳術・天照によって攻撃され、危機一髪それを逃れたのだった。

 

「しかしここまで来るのにこれほど暁のメンバーがやられるとはな…」

寂れた石橋の上、オビトの隣りに立って居る白黒ゼツが言った。

「どこかしら問題はあったが皆、暁に貢献してくれた。お陰で俺の計画通りに進んでいる…何より、サスケを手懐けた…」

そう言ってオビトは面の下で不敵に笑った。

「サスケは今どこに居る?…」

「暁と手を組む利益として尾獣を分けてやると言った。もちろん嘘だがな…それで今、サスケには八尾を取りに行かせている。それに、ペインのほうもそろそろ木ノ葉の里に入った頃だろう」

「六花にペインのことを言っていないだろうな…」

「その六花のことなんだが…勿論ペインに九尾を狩らせることは言っていない。だが勘の良い女だ。特に木ノ葉と九尾に対しては…。だから念の為、ペインが九尾を狩り終えるまで、六花を俺の作った時空間に隔離しておいてはどうだ?」

オビトは白黒ゼツのほうへ身体を向けてそう言い終わると、ある筈のない白黒ゼツの表情を窺った。

「そうだな…ゼツに訊いておいてやる…」

「あっちのゼツに言えば六花に知られるんじゃないのか?六花は知れば拒むだろ」

「報告しないわけにはいかない…ゼツの返事を待て…」

「・・・。そうか、分った」

 

 

 

ボウッ・・・

その人影がアジトに現れたと同時に、部屋の松明の炎が大きく揺れた。

「俺一人で来いとはどういう用件だ?」

サスケは不満そうに目の椅子に腰かけているオビトに向かって言った。

「お前の仲間に教えても良いが、ややこしくなっても面倒だからな。それにこれは、俺たちうちは一族の問題だ」

「うちは一族の問題だと?何だ?早く言え!」

サスケはオビトの言葉を聞き一歩前に出ると、鋭い視線で答えを催促した。

「イタチを追い込んだ元凶…それは現在の木ノ葉の上層部…だけじゃない」

「それは一体どういう事だ!」

サスケはこれから抹殺しようとしている者達がイタチを追い込んだ元凶では無いと言うマダラ(オビト)の言葉に興奮し、瞳には写輪眼が浮かんだ。

「二代目火影・・・千手扉間だ」

「・・・!」

「扉間は、俺(マダラ)と柱間が手を取り木ノ葉の里を設立した後もうちは一族のことを危険因子として敵視していた。扉間は戦争の最後まで、うちは一族を殲滅させて戦争を終わらせようとしていたからな」

「…それで自分が火影になったことを良い事に、迫害政策を始めたってわけか」

「その通りだ。そしてその思想と意思、政策を受継ぎ更に強固にしたのが志村ダンゾウだ」

サスケは顔を斜めに逸らし、歯を食いしばる。

「くそっ!…うちは一族を追い込んだのは火影の意思だったのか…やはり木ノ葉は上層部だけではなく、うちは一族を無視してのうのうと平和に暮らしている里の奴ら全てが許せねぇ!」

「実はその意思を受継いでいる者が・・・この暁にも居るのだ」

「⁉」

「今は六花と名乗っているが、本名は橘芙蓉…いや千手芙蓉か」

「扉間の妻が生きているってのか?・・・だがなぜ暁に居る!」

オビトは椅子から立ち上がり数歩出ると後ろを向き、巨大な植物を見上げた。そして笑い交じりに言う。

「芙蓉を六花という忍に育て暁のメンバーにしたのは、俺の扉間への復讐だ。芙蓉はもともと俺の妻だった。それをあいつが奪ったのだ。だが俺を捨てて扉間と結婚した芙蓉のことも許せない。そんな女を忍にして、俺たちうちは一族が味わってきた痛みを身をもって教えてやろうと思ってな」

「それは俺には関係無い。色恋などつまらぬことは一人で勝手にやれ」

サスケはそう言うと直ぐに後ろを向いて出口へ歩き始めた。するとその背中にオビトが落ち着いた声で言う。

「たとえあのイタチでも、たった一人でうちは一族全員を殺せたと思うか?」

「!!?」

サスケは思わず足を止め、急いでオビトに振り返った。

「最後までうちは抹殺に迷っていたイタチの背中を押し、抹殺に手を貸したのは六花だ。六花が背中を押さなければ、イタチもうちは一族も三代目火影の言う事を聞き入れ和解に向けて歩んでいたかもしれんな」

「・・・・・」

「六花は今でも木ノ葉を愛している。その点ではイタチと気が合っていたようだがな…だがこれからの俺とお前の計画にとって六花は邪魔だ。俺一人でやってもいいんだが、“芙蓉”を殺せば少しはお前の気晴らしになるかと思ってな…どうだ?」

サスケの瞳には写輪眼が浮かび、そしてそれは、万華鏡写輪眼へと変化していった。

 

 

つづく

 

 

 



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続・六花の森(16)~全てを背負う者。うちはサスケVS六花

◆◆今回(16)の登場人物は、うちはオビト(=トビ=マダラ)、うちはサスケ、ゼツ(黒&白黒)、六花(芙蓉)、大筒木ヒミコ(o.c)。

暁の尾獣回収も残すところ八尾と九尾のみになりました。
オビトの提案により、ゼツはペインが九尾を狩り終えるまで六花を別の場所へ閉じ込めておく事に決めます。
そして六花を騙してオビトの元へ向かいますが、二人の前に意外な人物か現れて・・・!

うちは一族迫害の火付け役となった千手扉間に憎しみを向けるサスケ。
当然その恨みは、元妻・芙蓉(六花)に向けられて・・・

サスケVS六花の戦いとなるのか?

※関連話:「罪の向こう、愛の絆~芙蓉と扉間」、「罪の向こう、愛の絆~マダラ、死す」






 

 

チリンチリン・・・

縁側に吊るされた鉄製の風鈴が夜風に揺られ、透き通った音を立てる。

「はぁ~美味しい~。ホント冷蔵庫って便利だよねぇ。冷凍できるのが更に便利!」

「うん。いつでも家でアイスが食べられるしね」

「ほーんと。この暑いなか饅頭を作らされた後のアイスは美味しいなぁ~」

「ご苦労さま~」

「ちょっとぉ!」

六花は頬を膨らまし、膝の上に載っているゼツの顔を覗き込んだ。

「しかもあんなにいっぱい作らせて…どういうつもり?」

「冷蔵室と冷凍室に入れとけば十日間は充分もつよね~」

 

・・・本当は僕だって出来立てが食べたいよ。一日だって六花と離れたくない・・・

 

ゼツはオビトの提案を飲み、ペインが九尾を狩り終えるまで六花をオビトの作った異空間に閉じ込めておくことにした。

しかし、万華鏡写輪眼をもつ六花ならばオビトの異空間から抜けるのは容易である。

ゼツが何とか六花に嘘をついて異空間に留まらせることが理想なのだが、六花が万華鏡写輪眼で術を使えばゼツには止められない。

その為、仕方なくオビトに「この空間にマダラの探し物が在る」と言って六花を見張らせることにした。

 

「まぁ確かにまた作る手間は省けるけど…だけどねっ」

「あれ~六花のご主人様は誰だっけ?言うこと聞かない子はお仕置きだよ」

「もう!!」

六花は再び頬を膨らまして目を閉じると、フンと顎を上に逸らした。

そして、不機嫌な表情のままゆっくりと目を開ける。

すると六花の瞳に満天の星空が写った。

チリンチリン・・・

風鈴の音が、いつかの笹飾りの音と重なる。

六花は不意に隣を見た。

うちは私塾の笹飾りはとても豪華だった。そしてその笹飾りに付けられていた、うちはカガミの願い事は…

六花は一度床に目を落としたあと、再び空を見上げる。

・・・死んだら星になるって、あれはなんとなく嘘だと思う…

カガミ君も扉間さまも、柱間さまも、樹ちゃんも、椿さんも、仏間さまも、そしてマダラさまも、私以外みんな、きっとどこかで楽しく暮らしているんだわ・・・

そう思うと急に、寂しさと孤独で体の芯を締め上げられるような感覚がして苦しくなった。

再び膝の上のゼツを見ると、ゼツも六花の顔を見ていたようで目が合う。

「そんな顔するなよ。もうすぐ寂しい気持なんて無くなるからさ」

「・・・うん。」

・・・ゼツ。あなたも本当はヒミコさんのこと…今もずっと・・・

六花は少し悲しそうな顔で微笑みながらゼツを優しく撫でると、ゼツは幸せそうに目を細めた。

・・・こんな時、ヒミコさんに会えたらな・・・

しかし、今日は新月である。

 

 

翌朝。

「よし。準備できた。やっぱりこの格好のほうが落ち着くわ」

六花は戦闘服に着替え、姿見の前で満足そうに微笑みポーズを取った。今日は暁の装束を纏う必要はない。

木ノ葉の里ではナルトたちが本格的に暁の捜査に乗り出している今、暁の任務以外では暁の装束を着ないようにしている。

 

六花は戸締りをしてから一軒家のアジトを出た。

ふと気になり、玄関から庭に目を遣った。

一瞬、そこに白い冬物のロングスカートを揺らして歩く自分の姿が見えた気がした。

思わず何度も瞬きをするが、やはり庭には誰も居ない。遅咲きの朝顔が、六花を笑うように揺れている。

『もうすぐ寂しい気持なんて無くなるからさ』

昨夜のゼツの言葉が蘇った。

先ほど見た過去の自分はあの直後、扉間によって木ノ葉の里に連れ帰られた。そしてマダラは柱間に敗れ、マダラが死んではいなかった事を知らずに芙蓉は扉間と結ばた。その事で、マダラと別れることとなってしまった。

そして芙蓉はゼツの力で六花となり、再びマダラの傍に居たが、今度はマダラの死が二人を別けてしまった…そして今、砂時計の残りの砂が僅かになっていることを日々感じている。

 

次、再びマダラに会う時。

それは本当に永遠の別れの時なのかもしれない。

 

少なくともまた当分は会えないだろう。

マダラが蘇る時。

それは六花が思うに即ち、マダラとナルトが手を取り合い、世界を救う時である。そして同時に、六花がこの世に生きている役目が終わる時だ。

そんな事は六道仙人に出会ってからの何十年もの間、数えきれないほど覚悟してきた事である。むしろ、早く役目を終えて扉間たちに会いたいと願っていた。

それなのに、今はもっと生きて居たいと思う。

別人の六花とはいえマダラに愛された数十年間を経て…

そして、赤ん坊のナルトを抱いたあの日から…

六花は目をつぶって俯くと激しく首を横に振った。

「どうしたの?大丈夫?」

左肩に載っているゼツが心配そうに六花の顔を覗き込む。

「・・・うん!大丈夫!行こっか」

六花は顔を上げて明るく言うと、颯爽と出かけて行った。

 

 

 

「急に“オビト”として話したいだなんて、いったいどういうつもりなのかしら…」

六花は昨夜も訊ねた事を、再びゼツに訊ねた。

「尾獣も残すは八尾と九尾だけになったからね。ナルトも凄く強くなってるしオビトも内心は六花と同じ事を考えているのかもよ?」

「そうだと良いなぁ…マダラさまとナルトくんが手を取り合って、そこにオビトも協力してくれる気になってくれたのなら…嬉しい」

 

「確かに。ナルトに興味が湧いてきているのは事実だな」

「!!?」

 

突然、目の前の道にオビトが現れた。

しかも、一人ではない。

オビトの斜め後ろにはサスケが立って居るではないか。

「なぜここに?アジトで話をするんじゃ…それになぜサスケ君まで!」

「サスケがお前に話があるそうでな。サスケを迎えに来たついでにこちらから出向いたんだ」

・・・ズズズズ・・・

すると地面から白黒ゼツが六花の隣に現れ、オビト(トビ)に向かって言う。

「トビ…話が違うぞ…」

「そうか。自分の手で六花を殺せないからサスケに殺させるつもりだな。だけど殺せと命令だって出来ないぞ」

六花の左肩に載るゼツも目を吊り上げてオビトに言った。

「勘違いして貰っては困るな。俺は暁の協力者であるサスケにも、俺の仲間である六花と話をして貰いたいと思っただけだ」

六花は白黒ゼツとゼツ、そしてオビトの会話に戸惑うばかりで何も言えずに居る。

そんな六花に構うことなくサスケがオビトの隣りに歩み寄り、六花に向かって言う。

「おい。お前が二代目火影の妻というのは本当か?」

「!!?」

六花はサスケの発言に固まった。

驚きと恐怖で瞬きも出来ない。

「答えろ!」

その声に六花はギュッと目を閉じて唾を飲み下す。青天の霹靂とまでは言わないまでも、サスケがその事実を知ってしまったことに驚いた。

そして、その事実をしったサスケがどう考えるか…

六花はゆっくりサスケのほうを向いて口を開く。

「・・・ええ。私は、千手扉間の妻…でした」

「うちはイタチに手を貸したのも、お前か?」

「そっ、それは!!・・・」

六花は慌ててオビトの方を見て僅かに戸惑う。

サスケの問いを聞き、オビトがサスケに嘘を吹き込み、六花を攻撃させようとしている事に気が付いた。

しかしうちは一族抹殺に手を貸したのは自分では無くオビトであると言えば、オビトをマダラと信じているサスケを疑心暗鬼にさせ、これまで進めてきた月の眼計画に支障が出るかもしれない…

「お前がイタチうちは抹殺実行に向かわせた…そうなのか?」

サスケは今にも六花に襲い掛かりそうな状態で六花を問い詰める。

しかし、六花はサスケの眼を真っすぐ見て、揺るがない瞳で答える。

「違います。あなたのお兄さんは自らの意思で抹殺を行ったの。里を守るために。私は一切関与していません。」

「フッ。言っただろ…この女が素直にハイそうですと認めるわけがないと」

サスケの隣で腕を組んで立って居るオビトは笑い交じりに、呆れた様に言った。

「いや、二代目火影の妻だという事は認めた。それで充分だ」

六花はサスケの言葉に、少し目を細めて悲しそうな顔をした。

 

サスケが扉間を恨む気持ちは理解できる。

その憎しみが現在も生きている六花に向くことも…

 

サスケは写輪眼を発動させると素早く腰の刀を抜いた。

「俺は、うちは一族を迫害し滅亡にまで追い込んだ奴らだけではなく、うちはの犠牲を無視して平和を享受する木ノ葉の全てを否定する。すなわち、お前の存在もな…」

サスケは刀を六花に真っ直ぐ向けて言った。

「六花、逃げよう。サスケは須佐能乎を使える。オビトも昔のままじゃない」

落ち着いた小さな声で左肩のゼツが言うが、六花は首を横に振りその場から動こうとはしない。

「冷静になれよ!サスケはオビトに丸め込まれてる。何を言っても無駄だ!」

六花は苦しい顔で目の前のサスケを見据えた。

すると、オビトも背中に背負っていた神器・うちはを取り出してこちらに構える。

「さあサスケ。お前のしたいようにしろ。俺は援護してやる」

「援護など必要ない!」

サスケは刀を構えて六花に向かって走り出した。

「六花!早く逃げろ!」

六花は動かなかった足を何とか動かし、その場から姿を消した。

 

「逃がすか!」

青い空を背負ったサスケが六花の眼の前に現れた。

六花は仕方なく宙に浮きながら腰の刀を抜いた。

ガシィィン!!

サスケは六花に構える暇を与えず刀を振り下ろし、六花は何とかそれを刀で防いだ。

ザザッ!ザザッ!

二人同時に地面に着地する。

「…お前の様な奴に、写輪眼をもつ資格は無い!」

サスケはそう言うと再び刀を構えて六花に走ってゆく。

六花は写輪眼の瞳でサスケを見た。

チャクラが激しく体中を回っているが、幻術にかけられている様子は無い。本当にサスケの意思だけで戦っているようだ。

ザッ!・・・・・・

サスケは地を蹴り舞い上がった。そして空中で前転をし、勢いをつけて六花に刀を振り下ろす。

ガシィィィィン!!

六花は両手で刀を支えてそれを防いだが、サスケの圧力に押され、左膝を地に着け手を震わす。

すかさずサスケは刀を離して、今度は六花の左わき腹めがけて刀を突き出した。

キィィン!!

寸での所で六花はそれを刀で防ぎ、勢いをつけてサスケの刀を押し返す。

バッ・・・・・・・ザザッ!

六花はサスケの右側数メートル先に飛び退き、刀を構えた。

「逃げ回るだけか?」

「・・・・」

「俺と勝負しろ。かかって来い」

「・・・・」

六花はその場を動かず、ただ黙ってサスケを見据えている。

「六花、サスケが須佐能乎を出す前に早く逃げろ!僕も援護する!」

左肩のゼツが強い口調で言ってきた。

「逃がすものか。俺はお前と戦ったうえでお前を倒す。俺と戦え!」

シャッ!・・・パチパチパチィ・・・・

サスケが刀を振ると、その刀に青白い電流が流れパチパチと音を立てて始めた。

「六花!あれは須佐能乎じゃないと防げないよ!」

「うん!」

ダダダダダッ・・・猛スピードでサスケが向かって来きた。

「千鳥刀!!」

「須佐能乎!」

ガンッ!・・・バチバチバチィィィッ!!

六花を守る様に骸骨と青い半透明の身体が現れサスケの刀を受け止めた。電流だけが須佐能乎の表面を流れ放電した。

「これがお前の須佐能乎か。ならば俺も須佐能乎で答えてやる」

「六花!須佐能乎のまま逃げるんだ!無駄な戦いはするな!」

六花は須佐能乎を纏ったまま後ろに飛び退くと、その場に須佐能乎を置いて盾にすると、須佐能乎から出て走り去ろうとした。しかし。

「逃がすものか!」

六花の眼の前にサスケが立ちはだかる。その手に握られた刀にはまだ電流が流れている。

六花は須佐能乎を纏おうとしたが、サスケはもうすぐ目の前まで来ていた。サスケの千鳥刀を避けようと何とか右側に飛び退こうとしたが間に合わない。

 

ザシュッ!!バチバチバチィィ!!

「ゼツ!!!」

 

ゼツは身体を広げてサスケの刀を受けたが、そのまま切られてしまい、身体はバラバラになって地面に落ちた。

だがそのお陰でサスケの刀の方向を変えることは出来、六花に怪我は無かった。

六花は地面に倒れ、茫然と地面に散らばるゼツを見つめたまま動けない。

「…六花…大丈夫?」

「ゼツ⁉」

すると六花が地についている左手の傍でゼツの声がし、見ると小さな球体になったゼツの顔がそこに在った。

「六花…逃げて…君は僕が守るから」

「逃がさんと言っている!」

六花がゼツに返事をしようとした瞬間、眼の前にサスケが立った。しかし握られた刀の電流は消えている。

六花は怯えた眼でサスケを見上げた。

「立て。真剣に俺と戦え」

「・・・・」

「さっきから黙ってないで何とか言え!」

「・・・・・・」

「お前はただひとり罪から逃れ、これからも生き延びるつもりか?」

「・・・・・・」

「逃げても無駄だ。どこまでも追いかけお前に罪を認めさせてやる」

「・・・・・・」

六花はひたすら黙っている。

しかし、サスケを見上げるその瞳には揺るがない意思が宿っていた。

サスケは小さく溜息を吐くと目線を地面に落し、言う。

「ならば・・・これでどうだ?」

「!!?」

 

…ドスッ!!

「うあああああぁぁっ!!・・・・」

 

サスケが地面に転がる小さなゼツを刀で突き刺そうとしたが、その瞬間、六花がゼツに覆いかぶさり庇った。そしてサスケの刀は六花の右腕を貫通し、六花はあまりの激痛にうめき声をあげた。

 

「六花っ!なんで⁉僕は死なないのに!!」

「…やめて…ゼツを…傷つけないで!…悪いのは私だけよっ…」

 

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「どうだ。少しはやる気になっただろう?」

しかし六花はサスケの問いを無視し、目の前のゼツに歪んだ笑顔で言う。

「…愛してるから…ゼツのこと…傷つけられたくない…もん…」

「卑怯だよ…いつもいつも…なんでこんな時に初めて愛してるなんて言うんだよ…」

見つめ合う六花とゼツを見て、サスケは目を閉じた。

ズシャッ!!

「きゃあああぁっ!!・・・」

サスケは六花の右腕に刺さっていた刀を勢いよく引き抜き、六花は悲鳴を上げて身体を逸らせた。

「サスケ!!殺してやる!!」

ゼツは地面に散らばる身体を針の様に変えると一斉にサスケに向かって飛びかかった。

「火遁・豪火球の術…」

ボオォォッ!・・・ボタボタボタッ!!

サスケは口から炎を吹き出しゼツの身体を全て防ぎ、ゼツの身体は地面に全て落ちた。

六花は流血している右腕を抑えながら地べたに座り俯いている。

…カチャッ。

首の左側に冷たい刃が当たり、六花は顔を上げる。既にその眼には写輪眼は消えていた。

「うちは一族の多くは、今のお前と同じように目の前で愛するものを殺され、苦しみながら死んでいったんだ。少しは痛みが解ったか?」

 

「ぐっ⁉」

六花とサスケの様子を離れた所で眺めていたオビトの首を突然何かが締め上げてきた。

「サスケを止めろ。僕はマダラの意思だぞ。“見殺し”なんてさせない!」

「フン…禁固呪の札か…見殺しも許さないかは…最後まで分からんぞ…ぐあっ!」

 

「…マダラさま…」

『お前を幸せにできるのはこの世で俺、一人だけだ。そして、お前を不幸にできるのもなぁ』

意識が朦朧とし始めた六花の眼には目の前のサスケが、芙蓉とマダラが別れた日、檜枝岐神社でのマダラの姿として映っていた。

「フン。命乞いか」

「・・・・。…あ、あなたがもし、本当のマダラさまに会ったら、伝えて欲しいの…私は」

『!!?』

突然、六花の身体が薄くなり消え始めた。

そしてサスケと六花は驚くまま、六花の姿はその場から消えてしまった。

 

「マダラ、あの女をどこへやった?」

サスケは目の前に現れたオビトを睨んだ。

「やはりトドメは俺自身がさしてやりたくなってな。悪く思うな」

「殺すつもりは無かった。罪を受け入れているあの女を殺すことに意味は無い」

そう言うと、サスケは背を向けその場を離れて行った。

 

 

 

「・・・こ、ここは?…痛っ」

気が付くとそこは無機質な空間だった。

周囲は何も無いわけではないのだが、何も無い。

ただ無機質な立方体がいくつも在るだけである。

六花はそこに仰向けに横たわっていた。起き上がろうとしたが、痛みと貧血で起き上がれない。

「六花!大丈夫⁉」

六花の顔の隣りには元の大きさに戻った丸いゼツが居り、心配そうに六花の顔を見つめていた。

「うん・・・なんとか・・・」

「僕の力じゃ回復させるのに時間がかかる。まずはチャクラを回復させるから自分で回復術を使って…」

「その必要は無いわ」

『!!?』

六花とゼツが声の方向に顔を遣ると、そこにはヒミコが立って居た。

『ヒミコ!』「さん!」

「ゼツ。どいてなさい。この空間では私はチャクラを使える」

そう言ってヒミコは六花の隣りに膝を突いて座ると、六花の右腕の傷に手をかざして治療し始めた。

「どうしてヒミコがここにいるんだ⁉」

「どうしてもこうしても、芙蓉は私の転生者よ。ずっとこの子の中に居たわ」

「だったらどうしてもっと早く現れなかったのさ!」

「少し黙ってなさい。芙蓉は意識を失いかけているじゃない。チャクラを使うのは久しぶりなの。集中させて」

「う、うん・・・」

 

 

「・・・ヒミコさん。ありがとうございました」

右腕の傷は塞がり、意識もはっきりとした六花は急いで起き上がる。

「まだ暫く横になっていなさい」「そうだよ六花!」

「ここはおそらくオビトの忍術で造った異空間です。早く出ないと」

「オビトがここに現れなかったということは、禁固呪の札に逆らってあなたを見殺しに出来たという事よ。いまその状態で外に出ればまたサスケにやられかねない」

「禁固呪の札⁉・・・」

「うん。昔六花に、いや芙蓉にマダラが仕込んでたやつさ。マダラが自分の意思に反した行動をしない為に仕込んでいる。アイツも、それに気が付いているみたいだけどね」

六花は悲しい顔で目の前のヒミコとゼツ、二人の顔を交互に見ると俯いた。

「またそんな顔をする。マダラがあなたを守るのは当然であり義務よ。オビトに同情する必要なんて無い」

「そうだよ。確かにオビトは六花を殺せないけど六花はオビト以上に強いんだし」

六花は顔を上げ、歪めた顔のまま再び二人の顔を見た。そして大きく溜息をつく。

「オビトが私を殺せないなら尚更、外に出ます!ナルトくんになにかするつもりかもしれない。急がないと」

するとヒミコは首をかしげてニッコリ微笑んだ。

「あなたはもう、マダラが復活するまでここに居るのよ、芙蓉」

「⁉・・・ど、どうして・・・・・・」

フラッ・・・ストン。

六花はヒミコの術で意識を奪われてしまった。

そして倒れそうになったのをゼツが身体を広げて受け止め、静かにその場に横たえた。

 

「さぁ。ゆっくり話しましょうか。ゼツ…」

ヒミコは冷たい微笑を浮かべてゼツを見下ろした。

「六花をこの空間に閉じ込めておくのをなぜ知っていたの?」

「そんなこと知らなかったわ。ただ、私もオビトの異空間に入るよう芙蓉を仕向けるつもりだっただけよ。だってこの子に死んでもらっては困るもの!」

「あれからずっとヒミコも母さんの復活を待っていたんだね」

「懐かしいわ…あなたと初めて会ったのもあの時だったわね」

そう言うと、ヒミコはゼツを見下したまま右側に移動した。

ゼツはじっと、ヒミコの顔を見つめる。

「…もしかして、六花の身体を使う気?」

「当然じゃない。男だったかも知れない、今は只の物体(モノ)と化した身体に入らないといけないなんて真っ平ごめんよ。この子は唯一お母様の意識を覚醒し、私と会えた人物なのよ。この子以外の身体なんて考えられない」

「母さんが復活すれば、この地の人間の多くがまた神樹に繋がれる。その中の女を使うのは駄目なの?」

「あははははは!ふふっ…ふふふ」

ゼツの言葉を聞くとヒミコは口に手を当てて大きな声で笑った。そしてうっすら歯をのぞかせた不敵な笑みでゼツに問う。

「そんなにこの子のことを愛しているの?・・・私のことよりも?」

「・・・・・」

「私以上にこの子を愛するなんて、許さないわよ?」

「君は、一度でも僕のことを愛してくれたことがあるの?」

「ふふっ。それは被害妄想よ。あなたがお母様に肉体を与えられればちゃんと“対等”に愛し合えるわ」

「違う。君が愛しているのはただ一人。それは…」

「黙りなさい。あなたはさっさとこの空間から出て、引き続きお母様復活の為に働くのよ!」

「ヒミコ!!」

ズズズズズ・・・

ヒミコが両手を目の前にかざすと空間が歪み、ゼツはその隙間に吸い込まれていった。

 

「フン!・・・これだから男なんて嫌いなのよ・・・」

ヒミコはキッと強い眼で、静かに眠る六花を睨んだ。

 

 

つづく

 

★千手柱間さん、10月23日・お誕生日おめでとう!!次回は柱間さんも登場しますよ~★

 

 

 

 

 



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続・六花の森(17)~マダラとの再会

◆◆今回(17)の登場人物は、うちはオビト(=トビ=マダラ)、はたけカカシ、千手扉間、うちはマダラ、千手柱間、ゼツ(黒&白黒)、六花(芙蓉)、大筒木ヒミコ(o.c)。

六花が覚まし、ついに新章であり最終章が始まります。

オビトの時空間に居た六花の眼の前に突然現れたオビトとカカシ。
六花が眠っている間にオビトは五里五影に対して戦争を仕掛け、尾獣は全てそろってしまっていました。
そして、待ちわびた人も・・・

六花が時空間から出てその人の元へ向かう時、懐かしい人物と再会します。
そしてついに、マダラとの再会・・・
六花はマダラにあることを申し出ます。

※原作を引用した場面があります。
※関連話:「罪の向こう、愛の絆~芙蓉と扉間」、「罪六花の森~ついに覚醒の時」、「六花の森(完)その結晶はいつかまた輝く」



 

見覚えのある風景だった。

晩夏の壮大な夕焼け空に照らされる、木ノ葉の里…

 

「芙蓉」

 

その声に振り向くと、懐かしい人が居た。

その人は、申し訳なさそうに微笑んでいる。

「すまない。俺は、お前より先に死ぬと言ったのに約束を守れなかった」

芙蓉の瞳も、唇も、小さく震えるが言葉が出ない。そして、罪悪感がその人に歩み寄ろうとする足を引き留めている。

すると、その人はゆっくり芙蓉に歩み寄り、黙って芙蓉を抱き締めた。

「・・・扉間さま・・・私こそ、ごめんなさい・・・」

「お前に謝る事など何も無い。それにもう、これで互いに謝るのは最後にしよう」

その言葉を聞いて、芙蓉は不意に扉間の顔を見上げた。

扉間は、寂しげな影が宿った眼で自分の顔を見つめてくる芙蓉の頬を、優しく掌で包み込む。

「桔梗の花言葉、覚えているか?」

「…永遠に…あなたを…愛する…」

「俺たちの罪の向こうには、もうその言葉しかない」

「でも・・・」

「正義だけが全てじゃない。お前が守りたいものを最後まで守れ」

「扉間さま・・・」

「さあ行け。互いに選ぶ道は違っても俺たちの物語は続く。そうだろ?」

そう言うと扉間は芙蓉から身体を離した。

芙蓉はゆっくりと目を閉じ、そして再び開く。その短い瞬きの間に、扉間との記憶が無数に蘇った。

互いに近づくことを怖れていた幼少期…

互いの気持ちで刺し違え、芙蓉が命の危機に晒されたあの時…

そして二人は咎人となり、繋がった…

いま別れれば、もう二度と会えなくなる。

そんな気がした。

「大丈夫だ。また会える。ほら、行け。早く」

「本当に?・・・」

「ああ。」

 

 

「六花」

 

その声に六花は目を覚ました。

ゆっくり上半身を起こして声の主を探す。

すると、立方体の隙間から動く人影が見えた。

「!!!」

それはオビトとカカシの姿だった。

オビトは面を外しており、素顔を晒していることに芙蓉は更に驚いた。

一体どういう状況なのか全く分からない。

六花は息を殺し気配を消して二人を見つめる。

 

「俺が戦争を起こした理由がお前とリンのことだけだと思っているなら、見当違いもいいところだ」

 

・・・戦争⁉どういうこと⁉ナルトくんは⁉マダラさまは⁉・・・

 

六花はオビトの言葉に思わず両手で口を押え、俯き目を泳がせた。

…ズボッ!!

「!!?」

その音に六花ら急いで顔を上げ、二人を見ると、カカシの右腕がオビトの心臓を貫いていた。

そして同時にオビトが話し始める。

「知っているのさ・・・全て・・・たとえお前がどう言おうと俺にとってリンを守れなかったお前はニセモノだ。リンは俺の中で死ぬべきひとではない・・・よって死んだリンはニセモノでしかない。リンは生きていてこそリンなのだ」

 

・・・オビト…あなたは今でもずっと・・・

 

六花はうな垂れ固く目を閉じた。

否応なしにあの日、リンとカカシを守れなかった後悔が鮮明に蘇る。六花はその場面に必死に手を伸ばすが届くはずは無く、二人の姿はその手をすり抜ける。

「こんな状況ばかりを作ってきた忍のシステム…里…そしてその忍達…俺が本当に絶望したのはこの世界そのもの…このニセモノの世界にだ」

その言葉に、うな垂れ地面を見つめる六花の頭に、今度は病床の仏間の言葉が蘇る。

『…そして忍のことが嫌いだった。この忍のいる世界が、嫌いだった』

今になり、どうして母がそんなことを言っていたのか、解った気がした。

すなわち、忍になっていなければ母の言葉も、オビトの言葉も理解することなど出来なかっただろう…そう思った。

すると、カカシが口を開く。

「ナルトが言ったはずだ。心に本物の仲間が居ないのが一番痛いんだって…」

・・・そうよ。ナルトくんにはもう本物の仲間が居る。認められている・・・

六花は目を見開き、ゆっくりと顔を上げた。

・・・ナルトくんの所へ行かなきゃ・・・

六花は静かに立ち上がると、両目に写輪眼を発動した。そしてそれは直ぐに万華鏡写輪眼に変わる。印を結び、この空間から出ようとした。

しかしその時。

「まだその時じゃないわ。ここに居なさい」

目の前に現れたヒミコは六花に向かって両手掌を向けた。

「ごめんなさい…どうしても行かないと!」

六花は急いで印を結ぶと、その姿は次第に消えてゆく。

「どうして⁉私の力が効かないなんて!!」

ヒミコは舌打ちをし悔しがる。しかしヒミコにはまだ、この空間から出る力は無い。

 

 

ストン…

地に足が着く感覚と同時に、目の前の視野が明瞭になってゆく。

 

「…芙蓉⁉…芙蓉じゃないか!」

 

「・・・⁉・・・は、柱間さま⁉なぜここに⁉」

「いやぁ~説明すると長くなるのだがのう~って!お前もなぜここに居るのだ⁉」

「えーっと・・・私も説明すると長くなります。って、柱間さま、そのお身体!どうされたのですか!大丈夫ですか!」

六花は濁った眼にひび割れた肌の柱間の顔から足先まで、何往復も見回し心配した。

「扉間の忍術だ。心配ないぞ!わははは!って、笑っておる場合ではない…芙蓉、ここは危険だ。一緒に安全な所まで避難しよう」

「あの!うずまきナルトというひとに会いませんでしたか?あと…マダラさまにも」

「兎に角逃げようぞ。話はそれからぞ」

「早く!今すぐに教えてください!!」

「…お、おう。ええっと、マダラは…」

「マダラさまは蘇っているのですか⁉」

「蘇っておるというか、何というか…」

「あっ!…このチャクラ!ナルトくんだわ!仲間と一緒に戦っているのね…」

「チャクラって⁉芙蓉、お前忍になったんぞ⁉…む⁉…いかん!お前は隠れて居ろ!」

「いいえ。私もマダラさまに会わなければなりません・・・」

そう言って六花はゆっくりと後ろに振り向いた。

 

【挿絵表示】

 

「六花・・・こんな所に居たのか。柱間の分身と何を話していた?」

闇から現れたマダラの姿は“芙蓉”と出逢った頃の青年の姿であるが、柱間と同じ術にかけられている様子で普通の身体ではなかった。

しかし、その目は輪廻眼である。

姿は違えど、約二十年ぶりに会う愛しいマダラに六花は目を凝らす。

 

「マダラさま…この方が私と芙蓉という人が似ていると言い、絡まれていました」

「はぁ⁉何を言い出すのだ芙蓉!さっきまで感動の再会をだのう…」

「柱間…お前、穢土転生されても色好みとは恥ずかしくないのか…」

「なんつー事を言うんだ!お前たちこそ一体どうしたというのだ!」

「六花、今までどこに居た?」

「オビトの作った時空間に居ました」

「無視するなぁーっ!」

「オビトもあの空間に居たはずだ。連れ戻して来い。オビトに俺を復活させる」

「輪廻転生の術、ですか?」

「いったい・・・お前たち二人はどうなっているのだ・・・って、おい、輪廻転生の術だと⁉マダラお前!」

無視されうな垂れていた柱間は慌てて顔を上げた。

「この身体は扉間の穢土転生という術によるもので生きた身体ではない。生身の身体にならなければ話にならん…柱間、お前と闘う為にもなぁ…」

六花を見ながらそう言うと、マダラは柱間に視線を移してニヤリとした。

「マダラさま。私がオビトの代わりに輪廻転生の術を行います」

「ちょっ!何を言うておる芙蓉!!マダラ、お前もいい加減にしろ!もう俺たちは死者なのだ。今ならまだ間に合う。戦争などやめるんだ!」

「・・・・。六花、もう一度言うぞ。オビトを連れて来い」

「…マダラさま、うずまきナルトというひとには会いましたか?」

「あの砂利がどうした。何を知っている?」

「あの子に会ってみて…何も感じなかったのですか?…何も気づかなかったのですか?」

そう訊ねる六花の横顔を、柱間は驚きにも悲しみにも似た複雑な表情で見つめた。

しかし、マダラは鼻で笑って見せた。

「フッ。まぁあれだけの数の忍の先頭に立って戦うだけあって只の砂利ではなさそうだな。お前も敵うか分らんぞ?気をつけろ」

六花は俯き唇を噛んだ。

そして顔を上げると、涙で潤んだ瞳でマダラを見た。

「私は・・・あなたがナルトくんと手を取り合ってくれることを願っています」

そう言い終わると、六花は素早く印を結び始めた。

「やめろ!!」

柱間は急いで六花の左手首を握った。

そして、六花の右手を見る。

「言う事を聞かんのはいつまで経っても変わらんな…呆れる」

六花の右手首を握っているマダラが言った。

「離して!!」

「落ち着け!お前がそんな術を使う必要は無い!マダラは皆が必ず止める!」

大声でそう言う柱間の顔を、マダラは怪訝そうに見た後、片方の手で印を結んだ。

「っ!・・・・・・」

六花は気を失い、マダラの腕に受け止められ、マダラがそのまま六花を抱きかかえた。

しかし、柱間は六花の左手首を握って離さない。

「その手を離せ。分身のお前と闘っても面白く無い。早く本体で来い」

「お前たちが、ワシが死んだ後どうやってこうなったかは知らん。だがあの時と同じだ。今のお前に芙蓉は渡せん!」

「何を訳の分からぬことを言っている。こいつは俺が拾った女だ。お前に関係無い」

「マダラ・・・お前・・・」

ザシュッ!!

マダラは手刀で柱間の手首を切り落とすと、六花を抱えその場から消えてしまった。

 

 

「六花!」

目の前にマダラが現れると、ゼツはマダラの腕に抱かれる六花の左肩に飛び載り、六花の顔に擦り寄った。

「ゼツ。お前がついていながらどうしてこうなる。すべてが終わったら詳しく話せ。とりあえず六花を離れた場所へ連れてゆけ」

マダラは六花を地面に降ろし、そう言い残すと再び消えてしまった。

「六花…ヒミコの力に逆らってあの空間から出て来たんだね…だけどもう頼むから大人しくしててよ。母さんが復活すれば君の苦悩も無くなる。二人で幸せになろう。必ず…」

 

 

グサァッ!!・・・

 

「分身とやるつもりは無いと言ったはずだ」

須佐能乎で串刺しにした柱間の分身に向かって言った。

マダラは半身の須佐能乎を纏い、地面に胡坐をかいて座って居る。

「マダラ…お前もずっと…何かを…」

柱間の木遁分身は木に戻って消えてしまった。

そしてマダラは、目の前を見つめて微笑む。

 

「フン・・・流石、俺が育てただけはあるな・・・六花よ」

 

そう言うとマダラは須佐能乎を収めた。

するとマダラの眼の前の岩の後ろから、六花が静かに歩み出てきた。

 

「あの程度の術、お前なら直ぐに解けて当然か。だがゼツもまるで役に立たんな。お前の守(もり)すらできんとは…輪廻転生の術をしようとしているなら無駄だぞ」

「はい…もうそのつもりはありません」

「なら何故来た。今はまだ再会を懐かしむ時ではない」

「お願いです。忍連合側とこれからの忍の世界の在り方について話をしてみて下さい。マダラさまの計画をもっと良いものに出来る何かが得られるはずです」

「フフッ…」

マダラは胡坐をかいた膝に右ひじを置いて頬杖をつくと、軽く笑って見せた。

「マダラさまが亡くなってこの二十年…当然世界は変わっています。新しい世代が新しい価値観と変わらぬ信念をもってこの世界を動かしているのです。その者達の話を聞けばきっと忘れていたものを想い出し、気付けなかった事に気付けるはずです!」

「ハハハハ…分った分った。お前には随分寂しい想いをさせたようだな。だが俺を年寄扱いするのはやめろ。この世界は何も変わっちゃいない。この世に人間が居る限り憎しみと争いの連鎖は消えぬ」

六花は寂しい顔で目を閉じる。

そして静かに、深く深呼吸をする。

「お前の頑固が変わらないようにな…言っても聞かないだろ?計画が完了するまで結界の中から見て居ろ…⁉…」

ヒュンッ! 

バッ!

マダラが結界を作ろうと印を結ぼうとしたが、その瞬間六花がマダラの眼の前に瞬間移動し刀を振り下ろした。マダラは手を解き後ろに飛び退く。

「あなたを復活させ、計画を成功させるわけにはいかない」

 

――六花がマダラの前に戻って来る前――

 

「!」

地面に横たわっていた六花はパチリと目を開けた。

「…ゼツ…良かった…無事だったのね」

六花はゆっくり起き上がり、両掌を揃えてゼツの前に差し出した。その上にゼツがぴょんと飛び載る。

「六花…マダラの術を解くなんて!どうしてそこまで」

「私がマダラさまを輪廻転生の術で復活させる。オビトはまだ引き返せる…」

「何を言い出すんだよ!もうオビトが尾獣すべてを揃えて十尾は復活してるんだ。マダラ復活もオビト自身が望んでいることだよ」

「本当にそうかな…私はそうは思えない。だってオビトを仲間から引き離し、マダラさまに引き合わせたのは、私だもの…」

「今更何を言ってんの!マダラとナルトが手を取り合う為だったら非情になるんじゃなかったの!」

「もう、私の役目は終わっているから・・・」

「何言ってんのさ。君の本当の役目はこの先だろ?」

「あのね、ずっとあなたに黙っていた事があるの…」

「何?」

「私、芙蓉の記憶を取り戻した直後に、六道仙人に会ってるの。それで、あの時マダラさまの元へ戻ったのは、予言の子が世界を救うまでヒミコさんの次の転生者をこの世に生まない為、生きていて欲しいって頼まれたからなの…この身体も六道仙人の力よ」

「それが何だって言うんだよ!」

「予言の子はナルトくんよ。マダラさまの計画を止め、世界を救うのはナルトくんなの。その時、マダラさまと手を取ってくれるかは分からない…でもももう、私がこの世に生きている役目は終わっているのよ」

「六花…僕のこと愛してるって言ったじゃないか。あれは嘘だったの?」

「嘘じゃないわ。愛している」

「だったらこれからは僕の為に生きてよ。新しい世界で二人で幸せになろう。もうこの先君がマダラのことで思い悩む必要は無いんだ」

それを聞くと六花はゼツを掌から膝の上に移して、戸惑うそぶりを見せる。

「私、あなたのことも知っているの。ヒミコさんに聞いてる」

「・・・・。」

「そんなあなたがどうしてマダラさまの傍に居て、マダラさまの命令を聞いていたのか…もしかして、ヒミコさんの事と関係があるんじゃないの?」

 

・・・六花はホント、鋭いんだから・・・

 

「僕の正体を知っていたんだね。なんか、凄く嬉しいよ…」

「?・・・」

「僕はこの世に肉体をもって生まれることが出来なかった。ずっと母の意思として存在していたんだ」

「大筒木…カグヤさん?」

「そう。母がハゴロモとハムラに月へと封印された瞬間、この形になって産み落とされた。いつか母が復活する為にね。だからこの世界を変えようとしているマダラの傍に居たんだ」

「そんな…!」

「…でも、どうやったら母が復活するかなんて分から無かったよ」

「ゼツ・・・」

「でも分ったこともあった。君はヒミコじゃなく“芙蓉”というひとりの人間なんだってこと。だから死なないで。お願いだから…」

六花は再び掌を差し出し、ゼツもそこに載った。

ゼツを顔に近づけると、六花は慈しむ目でゼツを見つめる。

「私、あなたが傍に居てくれなければ、ここまで生きてこられなかった。あなたはもう、私の一部よ。愛してる…」

…チュッ…

「ありがとう、ゼツ…ごめんね」

ゼツは目を閉じ、そのまま眠ってしまった。

六花は優しくゼツを地面に降ろすと立ち上がる。

そして辺りを鋭い目つきで見回したあと、駆けだして行った。

 

 

「芙蓉!無事だったか…」

マダラの元へ向かう途中の柱間の分身の前に六花が現れた。

「…柱間さま…どうか、私にお力を貸して下さい」

「輪廻転生の術なら力は貸せぬぞ!」

「あれはしません。その代わり、マダラさまを止めます。ナルトくんたちが十尾を抑えればマダラさまの計画は白紙です。それまでマダラさまを捕らえるのです」

「うむ。だが二人でやれるかのう…俺はいま分身の身だ」

「私が死んだとされた後、私は何十年もマダラさまに忍術を教えられました。マダラさまの戦い方なら柱間さまと同じくらい理解しているつもりです」

「そうだったのか・・・マダラの奴、そこまでお前のことを愛していたとは・・・」

「違います。マダラさまに芙蓉の記憶はありません。マダラさまにとって私は下僕の六花なのです。詳しく話している時間はありません。向かいながら作戦を話しましょう」

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

つづく

 

 



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続・六花の森(18)~信じる心を守る為に。マダラとの対決!!

◆◆今回(18)の登場人物は、うちはマダラ、千手柱間、ゼツ、六花(芙蓉)、大筒木ヒミコ(o.c)。

「私は・・・負けない為に強くなったんじゃない。守るために強くなった!」

「フン。負けないことと守ること、それは同じことだ」

マダラは六花の闘いに何を見るのか?
六花はマダラに勝てるのか?
ひたすらに、マダラVS六花の闘い・・・!

※原作を引用した場面があります。
※関連話:「六花の森(1)お前の名は・・・」、「罪の向こう、愛の絆~帰り道を失くして」、「続・六花の森(13)~オビトvs六花の闘い。そして、六花の夢」



 

 

「あなたを復活させ、計画を成功させるわけにはいかない」

「俺を裏切るのか?」

 

秋冷の夜風に吹かれ、マダラの長い髪が僅かに靡く。

その髪の毛の先端が、青白い月夜を受けて僅かに光っている。

今夜は、もう、満月である。

 

「いいえ・・・私は、永遠にあなたの味方です」

 

・・・バシィ!!

 

「お前も結局、女だな。言ってる事とやってる事が違い過ぎる」

マダラは刀で襲い掛かって来た六花の両手を右手だけで握って止めた。

ググググッ・・・

何とかマダラの手を振り離そうと六花は両手に力を入れるが全く敵わない。しかしそれでも六花は力を込める。

フッ…一瞬、マダラが握る力が弱まった。

六花はその隙に更に両手に力を入れると、思いきり左にひねった。しかし。

ドシィッ!

「っっっ!!」

再びマダラの手に力がこもったかと思うと、マダラは六花の力と体重をを左側に集中させ、隙ができた六花の右わき腹を左膝で強く蹴った。

六花は両手を拘束されたまま逃げることもできず、その蹴りを喰らってしまった。だがなんとか膝に力を入れて立って居る。

そして痛みを堪えて顔を上げると、写輪眼の眼で刀越しにマダラの顔を見た。

「隙だらけだぞ。何の為の写輪眼だ。先読みしろ」

マダラが言ったと同時に、六花は両足で右膝に飛び載り、そこからジャンプする勢いでマダ両腕を拘束しているマダラの右手を振りほどいた。

ズシャ!

六花は地面に着地して構えると、マダラの首めがけて足刀を繰り出した。

ドシッ!…

 

【挿絵表示】

 

「!・・・」

「蹴りに重さが足りんぞ。ちゃんと飯は食っているのか」

マダラは首に六花の蹴りを受け、六花の手を離した手でその足を掴んでいる。

マダラの眼には、遠い昔、まだ痩せっぽちで刀すらまともに握れなかった少女の六花が浮かんでいた。

六花の渾身の蹴りを喰らっても微動だにしないマダラに一瞬動揺したが、六花は直ぐに気を取り直し、自由になった刀をマダラの左わき腹に打ち付けようとした。

しかしマダラは、掴んでいる六花の右足ごと六花を放り投げた。

ドン!・・・・ゴロンッ・・・バッ!

六花は地面に打ち付けられたが、受け身を取って身体を翻して起き上がった。

 

【挿絵表示】

 

チャッ。

そして立ち上がり、身体の前に刀を構え直して考える。

・・・焦るな。いま須佐能乎を出してもマダラさまとの闘いじゃチャクラが持たない。マダラさまは私を殺さない。一分でも長く闘い続けるんだ・・・

「良い眼だ。だが俺を本気で殺す気概は無いな。そんなことでは俺は止められんぞ」

ダッ!

六花はマダラに向かって走り出す。

ガシッ!

「いいぞ・・・」

六花は直立しているマダラの懐に入ると両肩に手をかけ、抱き着いた。

それだけではなく、六花の影分身二体がマダラを両側から挟んで腕を抱き締めている。

そして正面の六花はマダラを見つめる。

その眼は、その先に誘っている…

 

…チュッ…

 

「火遁・豪火大滅却!」

ゴォオオオオオ!ゴォオオオオオ!ゴォオオオオオ!

マダラの唇に六花の唇が触れた瞬間。

背後に居る六花本体と、マダラを挟んでいる二体の影分身がマダラに向かって口から業火を繰り出した。

炎に包まれたマダラと六花の影分身三体が燃え上がり、あっという間に塵になってしまった。

六花は炎を収めると、目の前に眼を凝らす。

マダラの姿は無くなっていた。

「マダラさまを…倒せた⁉」

すると、地面に散らばった塵がパラパラと音を立てて集まってゆく。

それはみるみるうちに人のかたちを成し、元のマダラの姿がそこに現れた。

「相変わらず、お前にしか出来ない良い技だ。これでこれまで何人の男を倒してきた?」

「…⁉」

「穢土転生とはこういう術だ。だが苦痛も快感も無いのはつまらん」

「・・・・」

六花は唇を噛み、何度も瞬きしながら肩で息をしている。しかし瞳は鋭くマダラを睨んでいる。

 

「六花。俺がなぜ、か弱い女のお前をここまで育てたか分かるか?下僕として役に立つようにする為だけじゃない」

「?・・・・」

「俺以外の誰にも負けない強い女にする為だ。だがすなわち、お前は俺という唯一無二の存在にだけは勝てないのだ」

六花は悲しそうに顔を歪めて斜めに目を伏せる。

そしてもう一度、ゆっくりとマダラを見て言う。

「私は・・・負けない為に強くなったんじゃない。守るために強くなった!」

「フン。負けないことと守ること、それは同じことだ。お前が何かを守れば、何かを守れない者が生じる。いい加減理解したらどうだ。俺はそんな道理が無い世界を作る。それこそが真の平和だ」

「私が負けたくなかった相手は私自身・・・弱くて甘くて卑怯な私にです!そして、守りたかったのは…守りたかったのは…信じる心です。すべての人が自分自身に勝てたなら、他の誰かと争う必要なんて無くなるのに…」

「話が噛み合わんな…お前が信じる心とやらを守りたいなら、俺がやることも信じたらどうなんだ?それとも俺のことは信じられないと言うのか?」

「信じています。私はマダラさまが仲間と手を取り合える強さに再び気づいてくれるよう、そしてまた誰かと・・・ナルトくんと手を取り合ってくれることを信じています!だから、今は闘わなければならないのです!!」

・・・穢土転生は不死身の術…ならば仕方が無い・・・

六花は須佐能乎を発動させた。

須佐能乎は半身から全身へと変わり、最後に女神の顔が現れた。

その右手には鉄鎚が握られている。

「美しい・・・」

マダラは小さく呟くと、自分も須佐能乎を出した。

六花は須佐能乎を纏ったまま、マダラに一直線に走ってゆく。

 

ドシィィィンンンン・・・

 

鈍い音を立てて二人の須佐能乎がぶつかる。

しかしマダラは腕を組んだまま、須佐能乎の中から目の前の六花を静観している。

ズズッ・・・ズッ・・・

六花は足を踏ん張り、己の須佐能乎ごとマダラの須佐能乎の中に入ろうとしているが、僅かに入っただけでそれ以上は進めない。

「智慧の鉄鎚!」

六花の須佐能乎が右手の鉄鎚を振り下ろした。

ドシィィィン!!

ズズズズズ・・・

マダラの須佐能乎に亀裂が走り、その亀裂を開くように六花は更に前に進み、ついに六花の須佐能乎の半分以上がマダラの須佐能乎の中に入った。

「ほう…お前の須佐能乎も強くなったな。さて、ここからどうする?」

マダラは必死の形相の六花を見ると、口角を上げて見せた。

 

…ズボッ!グサァァッ!!!

 

「うむ。須佐能乎を侵入させ俺の足元の地中から攻撃とは、良い手だな」

マダラは地中から突き出した六花の須佐能乎の剣に串刺しにされ、宙に浮いている。

「だが、お前は俺に対してだけ気を抜くのが速すぎる」

「さっきから写輪眼をもっと使えと言っているだろう」

二人のマダラの声が重なる。

六花が振り返った途端、背後からマダラに羽交い締めにされた。

 

ハァハァハァハァ・・・

羽交い締めされて突き出した六花の胸が大きく上下している。

六花は大きく目を見開き、なんとか振り返りマダラの顔を見た。

「降参するか?」

懐かしい場面だった。

修行の時、いつも最後はこうして羽交い締めにされて終わっていた。

最後まで、マダラに勝てたことは無かった…

 

「木遁・木龍の術!」

「⁉」

 

バキバキッ・・・ギシィィ・・・

柱間の攻撃を、マダラは纏っている須佐能乎の剣でなんとか受け止めた。

「ナイスタイミングだった芙蓉!マダラここからはワシが相手ぞ!」

「はぁ・・・お前とはもう飽きた。てか、まだ居たのか分身柱間め」

「芙蓉、良い闘いだったのう!さてここからは共に闘うとしようぞ」

「まさかお前ら・・・フフッ、ハハハ!・・・」

マダラは六花を締め上げる力を強めて笑った。そして六花を見て言う。

「使えるものは敵でも使う…いいぞ。褒めてやる六花!」

ズズズズズ・・・ズズズズズ・・・・

するとマダラの須佐能乎には、二本の手に加えて更にその上に二本の腕が現れた。四本すべての手には青白く燃える剣が握られている。

ビュン!ビュン!ビュン!ビュン!

そして四本の手は持っている剣を、柱間の放った巨大な木龍と柱間、それぞれに向かって投げたつけた。

バキィィィッ!!バキキキッ!!

二本の剣は木龍の頭と尾を地面に釘付けに刺した。

そしてもう二本は、逃げる柱間を追尾する。

「!」

ついに剣は柱間に追いついた。

二本の剣が同時に柱間めがけて落ちてゆき、柱間に触れそうになったその瞬間、柱間の姿は消えた。

 

ズボォッ!!バキバキバキ・・・

「⁉」

六花はそれに驚いて正面を向くと、目の前に地中に這わせていた木の根の中を移動して来た柱間が、その木の根と共に勢いよく地面から飛び出して来た。

六花と、未だに六花を羽交い締めにしているマダラはそれを見上げる。

柱間が術を発動しようと両手を合わせて印を結んだ瞬間。

バキィィィィ!!

「まったく…分身に攻撃を特化させ過ぎたせいでチャクラ切れか。情けないぞ柱間」

マダラは木龍に刺さった剣の一本を須佐能乎に引き抜かせており、その剣で柱間の身体の側面から突き刺した。

「…芙蓉…無事で…いてく…」

そして、柱間の分身は木に戻ってしまった。

 

「・・・・っ」

六花が苦しそうに俯くと、六花の須佐能乎は徐々に薄くなって消えてしまった。

「安心しろ。お前のスタミナ不足じゃない。俺の須佐能乎がお前の須佐能乎からチャクラを吸い取っただけだ」

マダラはそう言うとようやく羽交い締めしている手を緩め、六花をゆっくりと地面に座らせた。

しかし六花は直ぐに立ち上がり、ゆらゆらと身体を揺らしながらも、なんとか腰に携えた刀を抜いてマダラに向ける。

瞳だけは、揺らいではいない。

その瞳を見て、マダラはいつかの六花の瞳を思い出した。

そう、あの時と同じ。

六花は今の自分を強く信じている。

「気丈夫になったな・・・」

マダラはそう言うと六花に歩み寄り、抱き寄せると刀を奪い取った。

そしてそれを六花の首元に突きつける。

「あの時と同じだ。お前の優しさは万人の正義とは成りえない。お前自身がまた苦しむだけだぞ」

しかし、六花の瞳に宿る光は鋭いままである。マダラの腕の中で刀を首に突きつけられたまま、ジッとマダラの眼を見つめ、言う。

「万人の正義など無くて当然なのです。それでも、皆が平和と言う太陽の方に向いていなければならないのです。支配者は太陽にはなり得ない!」

すると、いつかのように、マダラの握る刀はギラリと光って刃を翻した。

六花は反射的にその光の先、空に視線を向けてしまった。

空には大きな満月が輝いている。

 

・・・そうよ。マダラさまに出会った時から、私に帰り道なんてもう無いんだから・・・

 

そう思った瞬間、六花は左手で首元に突きつけられている刀を握った。

六花の掌から青白い刃を伝って黒い筋が出来てゆく。

「あなたは…マダラさまは誰より痛みを知っていて、そして誰より優しいひと…お願い、もう一度、世界を信じて…みて…」

「もういい。お前はもう眠って居ろ」

マダラは再び、六花を瞳術で眠らせようとした。

しかし六花は万華鏡写輪眼の目を見開き、マダラに隙が出来ていた一瞬に腕の中をすり抜けて姿を消した。

 

「いい加減に諦めろ!」

マダラは姿が見えなくなった六花に向かって叫んだ。

だが返事は無い。

 

キラッ。

マダラはその光に空を見上げる。

満月が先ほどより何倍も眩しく光っているように見えた。

すると、もう一度須佐能乎を纏った六花がそれに重なり、マダラの前に立ちはだかった。

 

「真経津鏡(まふつのかがみ)…!!」

 

六花の須佐能乎の額には丸い銀鏡が現れており、そこに集まった月光はマダラに向かって一直線に照射されている。

穢土転生の身体であるマダラには光を眩しく感じる機能も無いはずなのに、マダラはあまりの眩しさに目を細め腕で光を遮った。

「フフッ…六花の奴め、遂に血を使って真経津鏡を口寄せ出来るようになったのか…それでこそ俺の下僕だ!!」

パラッ…パラパラ…パラッ…

すると、マダラの身体は表面から少しずつ塵になり次第に薄れ始めた。

六花はその様子を見ながら、額でマダラを強く睨んでごくりと唾を飲み下した。

・・・マダラさま…あなたを信じてる。だけど今は消えて貰います!・・・

マダラは顔を隠していた腕を除けると、優しく目を細めて六花を見上げ、言う。

「まさに天照大御神のようだな・・・素晴らしい。良いモノが見られた。礼を言うぞ」

「マダラさま・・・」

「できればお前とも生身の身体でやりたかった・・・」

「…⁉」

六花がその気配に気づいて後ろに振り返った時、それはもう六花の眼と鼻の先だった。

なんとか須佐能乎が持っている鉄鎚で、マダラの分身が纏った須佐能乎の剣を防ごうとしたが間に合わない。六花にはもうチャクラが無かった。

ザシュッッ!・・・・ドタッ。

六花の須佐能乎は切り裂かれ、その姿を消し始める。同時に六花は地面に落ちて倒れてしまった。

 

「良い闘いをするようになったな…六花」

その声に、うつ伏せに倒れている六花は何とか顔を上げた。

マダラは六花の頭の前にしゃがむと、六花の左の掌を握って傷を癒し始める。

「…っ…」

「馬鹿だな…要らぬ怪我をしおって」

六花はマダラに握られた左掌に感覚が蘇ってくると、そっとマダラの掌を握り返した。そして朦朧としながらも何とか言葉を発しようとしたその時だった。

「!・・・アレは・・・」

マダラは後ろに振り返って遠くに目を凝らした。

 

ズオオオオォォッ・・・ドサッ!

「ぐっあああ・・・」

マダラの見つめる遠い先の空間が歪み、怪我を負い瀕死のオビトが飛び出して落下した。

落下した場所、それは十尾の頭の上だった。

「アレはもう使いものにならんか・・・」

「・・・?」

六花は霞む眼でなんとかマダラを見た。アレとは何なのか…

「六花、お前は計画が完了するまでオビトの作った時空間に居ろ。出てくるなら殺す。いいな」

「…まさか…オビト…?」

マダラは右手を宙にかざし、オビトの作った時空間への入り口が閉じる前にその入り口をここへ引き寄せた。そして六花に思考する暇を与えることなく、マダラは六花の身体を抱えてその空間へと入れると、入り口は直ぐに消えてしまった。

 

 

・・・ドサッ!

 

「おかえり芙蓉。やっと帰って来たわね…って、あらあら。傷だらけじゃない。チャクラももう殆ど残っていないし」

ヒミコは、目の前に現れて仰向けに倒れた六花に歩み寄ると、ニコニコしながらその顔を覗き込んだ。

「…ヒミコ…さん」

「大丈夫よ。いまキレイに治してあげるから。あなたはゆっくり眠って、しっかり休みなさい」

「で…も…」

「マダラなら大丈夫よ。きっとうまくやってくれるから。ゼツだってついているんだし…さ、いい子だから眼を閉じて。まずは回復しないと何もできないわよ?ね?」

「…はい…」

六花はそう言うと眼を閉じた。六花の体力は限界に達しており、その瞬間に意識を失ってしまった。

「まったく。大切な身体をこんなに傷だらけにして。どう足掻いたって無駄だって言うのに…まぁでも、最後くらいこの子の意思を尊重してあげなきゃね。フフッ、この子が男に…マダラに絶望する顔を見るのが楽しみだわぁ…」

 

 

つづく

 

 



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続・六花の森(19)~失意~マダラの語る計画の裏側

◆◆今回(19)の登場人物は、うちはオビト、春野サクラ、うずまきナルト、うちはマダラ、六花(芙蓉)、大筒木ヒミコ(o.c)。

これまで、マダラのやり方に疑問を抱くことも、納得できない事も多かった・・・
それでもマダラのことを信じ続けてきた六花。
しかし、マダラの口からオビトへ語られた真実を聞き、六花の信頼も遂に・・・

マダラと六花・・・決別の時。

※原作を引用した場面があります。
※関連話:「続・六花の森(2)~うちはオビトの開眼」、「続・六花の森(4)~新たなる救世主の誕生」、
「罪の向こう、愛の絆(5)~マダラとの恋。千手とうちはの決戦」




 

 

 

「私の可愛い芙蓉…こんなに安らかな顔で眠って、どんな夢を見ているのしから」

オビトの時空間。

六花の傷を治癒し、チャクラを回復させたヒミコは、地面に座って六花に膝枕をしてやりながら、六花の頭から頬へと優しく撫でている。

「私の転生者はどれも美しかったけれど、芙蓉、あなたは本当に特別ね…アシュラとインドラの転生者両方の心を奪って結ばれ、そしてチャクラまで使えるようになった。そのお陰で私はようやく復活できるのだけれど…」

今のヒミコにとってこの立方体が転がる無機質な空間は、待ちわびた主演舞台の本番を待つ楽屋のように、緊張感と高揚感が漂う温かいものになっていた。

「…愛することに理由なんて要らないわ」

「⁉」

ヒミコは六花の明瞭な寝言に驚き、思わず身体を逸らしてしまった。

しかし、六花は何事も無かったように安らかな顔で眠り続けている。

ヒミコは胸を撫で下ろし、再び六花の顔に眼を落とした。

その時だった。

サアァァ――――・・・・

その音にヒミコは顔を上げた。

立方体の壁の隙間から、砂の塊に載っている女の後ろ姿が見えた。服装からして、どうやら忍のようだ。

ヒミコは眉間を寄せ、眼を細めて女の後ろ姿を睨みつける。

すると砂の塊は崩れ、女が地面に着地した瞬間、その砂の塊に隠れて見えなかったもう一人の姿が見え、ヒミコは思わず驚く。

「…ハァハァハァ…ここはどこだろう?…ナルト⁉…とにかくナルトの蘇生を続けないと!」

・・・あれはナルト?…死にかけてるじゃない。九尾を抜かれたのね。ということは、もう直ぐね。フフフ・・・

六花は二人の姿を見てニヤリと口角を上げた。

しかし、なぜナルトがこの空間に来たかは分からない。だが九尾を抜かれた人柱力はもう助からない。

ヒミコは六花の代わりにナルトの最後を見届けてやろうと、ナルトの死の瞬間を楽しみに待つことにした。

 

「オビト!」

目の前に現れたオビトを見て女が声を上げると同時に、ヒミコは目を大きく見開き、わくわくとした。

・・・あのオビトの身体はもう十尾が抜けた身体。しかも左半身にはゼツまでくっついてる。死ぬ前にナルトを殺すためにこの空間に連れて来たって訳ね・・・

「大丈夫だ。俺がナルトを助けてやる」

・・・なんですって⁉なぜお前がナルトを助けるのよ!・・・

オビトの想定外の言葉を聞き、ヒミコは大きく目を見開いたまま強張った顔になる。

「信用できるの!!?」

女もオビトの言葉に驚き、声を上ずらせた。

「俺は昔から真っ直ぐ素直に歩けなくてね…だが、やっと辿り着いた」

オビトはそう言うとナルトの腹に手を当てた。

・・・その身体じゃもう輪廻転生の術も使えないくせに、どうやって助けるって言うのよ・・・

ヒミコは強張った笑顔でオビトを強く見つめた。

ズオォォ…!!

オビトの掌から、目に見えるほどの強いチャクラがナルトの体内へ流し込まれてゆき、ナルトの体内のチャクラが蘇ってゆくではないか。

・・・あれは!九尾のチャクラ…いや、それだけじゃない。

あれは…ハゴロモ!!・・・

ついにヒミコは顔を歪め、その顔は悔しさで熱を帯びてゆく。

ナルトが生きようが死のうが、つまりはヒミコにとってどうでもいい事なのだが、ナルトの中にハゴロモのチャクラを察知しまった以上、安易に出てゆくわけにもいかない。いまここでハゴロモに己の存在が気付かれればこの先の計画が…

・・・ハゴロモのやつ…まさかナルトを使ってお母様の邪魔をする気じゃ。無駄よ…この私が居るもの!・・・

ヒミコは焦りの色を現わしながらも、ほくそ笑んでナルトを見つめた。

 

 

「ナルト・・・」

「・・・・・・」

 

ナルトは目を覚ますと、ゆっくり立ち上がった。

「サクラちゃん…ありがとうってばよ。もう大丈夫だ」

「う、うん…オビトが…ナルトに九尾を入れて助けてくれたのよ」

「そうか…ありがと、オビト」

「いや…俺こそお前のお陰で、やっと辿り着けたよ」

「へへっ…そりゃ良かったってばよ。で、ここはどこだ?」

「俺の時空間だ。向こうでカカシと四代目がマダラと戦っている。お前は先に行け」

「ああ!」

ナルトはそう返事をするとオビトが開けた時空間の出口に飛び込み、姿を消した。

 

サクラは急いで安堵の涙を指で拭うとサッと立ち上がり、僅かに戸惑いつつ、地面に膝を突いてしゃがんでいるオビトを見据え、言う。

「アナタは敵…仲間をいっぱい傷つけ殺した…だから本当はこんなこと言いたくないけど、この一回だけは特別…ナルトを助けてくれてありがとう」

サクラは目を閉じて、不本意な気持を押し殺しながら強く念を押すような声でオビトに礼を言った。

そしてオビトは苦しそうに息を切らしながら、サクラを見上げて言う。

「・・・・。最後に頼みたいことがある。味方でなくていい…敵としてだ」

「・・・?」

「俺はもう動くことすらできない…少しでも気を抜けば…黒ゼツにこの輪廻眼ごと身体を奪われてしまう。そうなれば黒ゼツは俺の右目を使い外へ…そのまま輪廻眼がマダラに渡ってしまう…マダラの両目に輪廻眼が揃ってしまえば恐ろしいことになる…」

「恐ろしいこと⁉これ以上どうなるって言うのよ!もう嫌ってほど…」

「俺も輪廻眼を両目に移植することは出来なかった…この左目ひとつでさえ…強すぎるチャクラと瞳力で己を失いかけた。本来の主に輪廻眼の両目が揃えば、恐らく誰も太刀打ちできなくなる…」

「そんな…」

「瞳力とは二つ揃って初めてその力を発揮する…さあ!早い方が良い。一刻も早くこの左目を潰してくれ!」

「わ、分った!」

 

・・・オビトの奴…マダラを裏切ったのね。どいつもこいつも、男は使えない奴ばかり・・・

ヒミコは怒りを湛えた冷たい顔をすると、膝枕で安らかに眠る六花の顔に両手をかざした。

 

「…早くしろ!輪廻眼を潰すんだ!」

「分かってる!」

「…させるか!」

 

ヒュン!・・・

 

『!!』

 

ガンッ!!

 

オビトの時空間に現れたマダラの上半身がサクラに向かって黒い棒を投げたが、その瞬間、サクラはオビトの神威によって外の空間へ瞬間移動させられ姿を消した。

そして、黒い棒が突き刺さった音に、眠っていた六花は驚き上半身を起こした。そして辺りを見回し、すっかり変わり果てた二人の姿を見つけると息を飲む。

「…あれは⁉マダラさま…なの?」

それを確かめようと立ち上がると声がした。

『そうよ芙蓉。あれは十尾の人柱力となったマダラ…』

「⁉・・・頭の中・・・ヒミコさん?」

六花はその声に頭を抱えて少し戸惑った。

『ついさっきまでオビトの左目に入っているマダラの輪廻眼が潰されそうで危なかったのよ。それを止めようとこうしてあなたの中に入って目を覚ましたけど、マダラ自らそれに気づいて取り戻しに来たみたいね…』

「輪廻眼が⁉・・・・・!!?」

グサァッ!

突然、マダラは右手でオビトの胸を突き刺し、そのままオビトの身体を宙に持ち上げた。そしてオビトに問う。

「心臓に仕込んでいた禁固呪の札が消えているな…どうやって取った?己を自分で傷つけることは出来なかった筈だ」

「…カカシに貫かせ…排除した…俺自身が十尾の人柱力になるにはあれが邪魔だったからな…死ぬかもしれない賭けだったが…俺は…アンタの思い通りにはならないのさ」

六花は握った両手を口に当て、悲しそうにオビトを見つめる。しかし、オビトがマダラの単なる操り人形では無かったことに僅かに嬉しさも感じてしまった。その気持ちを直ぐに振り払い、二人の目の前に出て行こうと立ち上がったが、マダラの言葉に足を止める。

「ククク…いや、お前は俺の思い通りに動いてくれた。いや、期待以上か…フッ」

マダラはオビトにそう言い笑って見せた。

「…⁉…何が…可笑しい…⁉」

「操り人形にする禁固呪の札…知っていたようだなオビト。“お前達”に仕込んでおいたこの札…無論、自害することも出来なかった筈だ。俺にとって大切な駒だったからな」

「・・・お前・・・達・・・⁉」

オビトと同時に、六花もマダラの言葉に反応した。禁固呪の札を仕込まれていたのはオビトだけでは無かったというのか。だとしたら、マダラは他には誰に…?六花は地面に眼を泳がせて考える。

「何の因果か…“二人とも”まったく同じやり方で排除するとは面白い」

・・・!・・・

「リン・・・」

六花とオビト、同時に気が付いた。二人の頭にリンの最後が蘇る。

「そうだ。あの小娘を三尾の人柱力にし木ノ葉で暴れさせる計画は俺が仕込んだ事だ…霧隠れではない。小娘はそれを、カカシが敵に向けた技を利用して命がけで阻止したが…あれも計画の内…お前を闇へ堕とし俺の駒にする為のな」

 

「嘘でしょ・・・」

 

六花はその場に膝から崩れ落ちた。

地面についた膝から身体全体へと冷たくなり、まるで凍り付くように感じる。余りの冷たさに、頭までズキンズキンと痛んでくる。

 

「貴様!…俺をわざと、あの場に…!!」

良き絶え絶えのオビトの瞳に怒りで火が灯る。その瞳でマダラを睨んだ。

「ミナトが別の任務に出ていた時を狙い、カカシ一人を残してリンを連れ出させ、霧隠れの忍を操り追わせたのも全て計画。お前の力を開放させ、その程を見る為でもあった。白ゼツ共がお前を煽り地下からタイミング良く出られたのも全て偶然だと思うか?」

「ぐっ・・・・」

オビトの脳裏にあの日の絶望が鮮明に蘇り、再びオビトを激しく絶望させる。

「カカシの手で小娘が死んだのは出来過ぎだったがな。どちらにせよ傀儡の忍で殺すつもりだったんだが…」

 

・・・そんなっ!あれは偶然じゃなくマダラさまが全て仕組んだ事だったというの⁉私は、何も知らずに・・・

六花はついに地面にうつ伏せ、両手の掌を骨が折れるほどの力で握り締め、身体を震わせた。

絶望という一言では表せない苦しみが喉まで上がり、息も出来ない。

音を立てるまでもなく、瞼の裏にあるマダラの笑顔は消え失せた。

 

「人を操るには心の闇を利用しろと教えたな、オビトよ。闇が無ければ作ればよい…自分だけが違うと思うのはおこがましくないか?」

 

・・・自分だけが違うのは…おこがましい…

なら、私もなの?・・・

 

「ぐっ…なぜ…なぜ俺だったんだ⁉」

「お前は心の底から人に優しく愛情深かった。老人介護は得意だっただろう?リンへの、仲間への、火影への、忍への深い愛情…いったん闇に落ちてしまえばそれは、逆にこの世界への深い憎しみへと変わるからだ。そういう奴ほど」

 

「もう止めてぇーっ!!!」

 

六花は堪らず声を上げた。両目からは大量の涙が流れている。

しかし、マダラは構わず続ける。

「オビト、お前のような奴ほどなぁ!」

「うっ!ぐっ!」

マダラはオビトの心臓を掴む力を強め、オビトの身体を引き寄せた。そしてオビトの左目を、カカシから奪って来た万華鏡写輪眼の眼で強く見つめた。

 

・・・マダラさまに輪廻眼を揃えさせるわけにはいかない!!・・・

 

六花は右足に力を込めると立ち上がって走り出そうとした。

しかし、身体が動かない。

『大丈夫よ芙蓉、あなただけは違うから…』

「私のことはどうだっていいの!マダラさまに世界を救う資格なんて、無い!」

『あらそうかしら?マダラは自らが経験したことをオビトにも経験させただけでしょう?それが一番強くなれる方法だと知っているから。それで世界が救われるのだから別にいいじゃない』

「…うるさい!!黙れっっ!!」

六花は全身に力を込めると、ヒミコの見えない呪縛を振り祓い、震えながら立ち上がった。そして万華鏡写輪眼の両目でマダラを見据え、立方体の隙間を一直線に向かって走ってゆく。

『そんな!私が中に入っているのに何故⁉』

 

ドスン!!

 

マダラは左手を振り上げ、向かって来た六花を撥ね飛ばし、六花は激しく左腕から地面に倒れた。しかし六花は直ぐに立ち上がりマダラに向かって構える。

六花に背を向けていたマダラは、ゆっくりと六花へ振り返った。

「!・・・」

マダラの両眼には、既に輪廻眼が揃っていた。

六花は瞬きすらできずに大きく目を見開き、マダラを見つめる。すると、瞳の奥で待っていたかのように、熱くも冷たくも無い涙が既に泣き濡れた頬にこぼれ落ちてゆく。

「六花…酷い顔だな。お前はまだ暫くここに居ろ。なに、時間はかからん」

「…闇に墜ちているのは、あなたも同じよ」

「お前と話している暇は無い」

六花は一度目を閉じると、両目から最後の涙が頬を伝っていった。そしてゆっくりと眼を開ける。六花の万華鏡写輪眼の瞳は、変わらず怒りの炎で真っ赤に燃えている。

「行かせないわ」

「⁉・・・う、動けぬだと!・・・万華鏡写輪眼ごときがこの輪廻眼に敵う筈が・・・」

…バタンッ! オビトの胸からマダラの右腕が抜け、オビトは地面に落ちた。

マダラの両手はだらんと脱力し、下半身の無いマダラの身体が地に足をつけた。

六花はマダラの元へと歩み寄ると、上半身だけのマダラの首に飛び付き、足が地面に着くと顔を上げてマダラの顔をジッと見た。

「・・・何をする気だ!・・・」

六花は黙って、今はもう何も見て取れることの出来ないマダラの輪廻眼の奥を見つめる。

その顔は落ち着きはらい、すべてを諦め、そしてすべてを悟った無表情だった。

「これが私の写輪眼の能力。最初で最後の・・・」

「・・・!!!」

マダラはついに言葉すら出なくなり、六花の瞳から目を逸すこともできない。

六花はそっと、マダラの唇に口づけし、目を閉じた。

 

・・・今すぐ月の眼計画を止め、降伏せよ・・・

 

そう心の中で強く呟くと、六花の瞳は沸くように熱くなり激痛が走った。

それでも口づけを続ける。

マダラは身動きできず、ただ六花に唇を吸われている。

 

「うっ!!」

 

最初に唇を離したのは、六花の方だった。

六花はもう殆ど視界の無い眼を細め、衝撃が走った箇所を見た。

 

「危なかったな…マダラ…」

「黒ゼツ・・・遅いぞ」

オビトの左半身に張り付いている黒ゼツの手が伸び、マダラの背中を貫通して六花の腹に突き刺さっていた。

ズボッ…!

「ぐあっ!」

黒ゼツが刺している手を引き抜くと、六花の腹からボタボタと血が地面に滴り落ち、脱力して後ろに倒れそうになった。その肩をマダラが支える。

「ハァハァハァ・・・マダラ・・・さま・・・」

虚ろな表情でマダラを見る六花の眼にはもう、マダラの顔は映ってはいなかった。すると後ろから黒ゼツがマダラに言う。

「六花の写輪眼の本当の能力…失明と引換えに相手の命の半分を体内に取り込み意のままに操る…知らなかったのか?…」

「そうか。真経津鏡(まふつのかがみ)だけでは無かったか…俺に隠していたとはな」

そう言うと、マダラは六花を地面に仰向けに横たえた。

「六花、俺の計画が完結すればこの世には光しかなくなると言ったな。その光のひとつは、お前だと思っていた」

「・・・私にとって・・・あなたは・・・光でした。」

マダラはもう何も言わず六花に背を向けると、先ほど輪廻眼と交換したオビトの左目に写輪眼の能力を使い、黒ゼツと共に時空間から消えてしまった。

 

六花は、目の前の真っ暗な視界が今の現実そのものだと思い、そっと瞼を閉じた。

脈打つ激しい痛みも次第に遠のいてゆく。

すると、目の前が明るくなり、夕陽に照らされ赤く染まったマダラの顔が目の前に現れた。

マダラに抱き上げられた“芙蓉”は手を伸ばす。

マダラの頭頂部に着いている真っ赤なモミジに手が届くと、そっとそれを取り除き、マダラの顔の前に差し出した。

 

【挿絵表示】

 

そして、モミジ越しに目が合うと、芙蓉とマダラは目を細めて微笑み合った。

 

・・・あの日に戻れて、良かった・・・

 

 

 

つづく

 

 

 

 



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続・六花の森(完)~その結晶が朝陽で昇華するとき

◆◆今回(20・完)の登場人物は、うちはマダラ、ハゴロモ(六道仙人)、大筒木ヒミコ(o.c)、千手柱間、千手扉間、猿飛ヒルゼン、波風ミナト、ゼツ、うずまきナルト、春野サクラ、うちはサスケ。主人公:六花(芙蓉)。


「あなたが必要なんです・・・必要なの・・・必要なの・・・」


最終回です。

※原作を引用している場面があります。
※関連話:「六花の森(完)その結晶はいつかまた輝く」、「続・六花の森(16)~全てを背負う者。うちはサスケVS六花」、
「続・六花の森(11)~さようなら、ナルトくん・・・」



 

ポチャン・・・

 

その音に、六花はもう見える筈のない眼を開けた。

 

「!!?」

「これまで、本当にご苦労だった…芙蓉」

 

六花の視界に六道仙人こと、ハゴロモが胡坐をかいて宙に浮いており、六花はハゴロモと向かい合って立って居た。

「・・・・・」

「御主の眼はワシが治した…致命傷の傷もな」

「・・・なら・・・ここは?」

六花は足元を見た。

地面には水が張っており、水鏡にはぼうっとした自分の顔が写っている。

「ここは御主の精神世界と浄土との境だ。以前、ワシと会った場所だ」

「・・・・。私の役目は終わりました。もうこの先に行かせて下さい」

「うむ…だが、ナルトが世界を救う瞬間を見届けなくても良いのか?」

「・・・世界を救うのは、ナルトじゃない」

「・・・御主・・・」

「久しぶりね、ハゴロモ。チャクラだけの存在になってまで色々画策していたなんて、アンタらしいわ」

ヒミコは六花の顔でニヤリとハゴロモに笑って見せた。

「それはお互い様だろう」

「私は魂で生きているわ」

「ああ。だから今までお前の存在に気付けなかった」

「残念がることは無いわ。アンタが使えなくしたチャクラも、十尾復活と神樹降誕で完全に取り戻すことができたしね…せっかくだからアンタも私の一部としてこれからも活かしてあげる」

「ワシを取り込むつもりか」

「ええ。あなたがこれまで"生かして"きたこの身体でね…」

六花の人格を乗っ取ったヒミコは唇に人差し指を当て、上目遣いでハゴロモを見ながら続ける。

「それが嫌なら、折角助けたこの子を殺す?もう役目は終わっているしね。私がアンタを吸収しなくても、どの道お母様がアンタを吸収するだろうけど。アハハハ!アンタも男じゃなく、女に産まれれば良かったのにねぇ…」

「芙蓉はお前の転生者であり、器かもしれない。だが、お前自身ではない、全くの別人だ。お前の思い通りにはならない」

「ハハハハ!もう遅い。こうして精神世界で芙蓉の人格を支配すればこの子の身体は完全に私のモノ!!この瞬間をどれほど・・・・!!?・・・うっ!ううう・・・」

ヒミコは頭を抱えて前屈みになり苦しみ始めた。ハゴロモは只、眼を細めてそれを見ている。

「うああああっ!!・・・・」

身体を反らし天を仰いで叫び声をあげると、地に膝を突き、そのままうつ伏せた。

 

・・・ハァハァハァ・・・

 

ヒミコは震えながら顔を上げて横を見ると、芙蓉が立ちあがりながら自分を見下ろしていた。

 

バシャァアン!!

「どうして⁉さっきから何度も何度も私の力を・・・でも今回は逆らうことなんて有り得ないのに!!」

ヒミコは水が張っている地面を拳で激しく叩き、芙蓉に向かって叫んだ。

「…だって、私は芙蓉だから…あなたじゃ…ない」

芙蓉は優しくも厳しい声で、静かに言い放った。ヒミコは歯を食いしばり芙蓉を見上げて睨みつけていたが、口を閉じ、震えながら深呼吸をして言う。

「フン!そう…まぁ今のうちに言いたいことを言っておくといいわ。お母様が戦いを終え、ここから出る時には、もう貴方の身体は私のモノになる。あなたは死ぬのよ」

「ええ。私の命はもうすぐ終わる」

ハゴロモは芙蓉の言葉を聞き、僅かに俯いた。

「ヒミコさんも知っている通り、私はハゴロモさんとの約束で生きている。その約束も、もうすぐ本当に終わる…ナルトくんがこの世界を救ってくれるから」

「まだそんな事を言っているの⁉さっき見たでしょ⁉マダラは…」

「ハゴロモさんのこと、いまでも愛しているんでしょ?」

「な、何を言い出すのよ」

「でも、ハムラさんのことも兄弟として大切だった。だから敢えてどちらとも結婚しないって言った。だけどハムラさんはあなたを傷つけた。その時、本当はハゴロモさんに結婚してもらいたかったんでしょ?お母さんの魂が自分に入っているって気づいた時も、汚れてしまった自分もすべて受け入れて欲しかった。そうでしょ?」

「黙りなさい!!」

「自分から告白も出来ない、ハゴロモさんも自分を受け入れてくれない。それが悲しかった…辛かったのよね?」

「黙れ!!解ったような口を利くな!男はみな下等な生き物。私たち女を傷つけ、苦しめる存在…だから女が男を支配しておかなければならないのよ!それだけよ!」

「ねえ、神様って一人だと思う?」

「?」

「もし神様がいるとして、この世の全ての生き物を作ったのなら、それは神様も一人じゃないからだと思うの。だから男がいて、女が居る。女だけで良いなら男は作らなかったと思う。この世界は男と女が居るから回り、未来が生れる。…まぁ、単細胞で分裂して増える生き物もいるけどね。ふふっ」

「…フフ」

芙蓉の言葉にハゴロモが笑った。

ヒミコは、笑うのと泣くのを同時に堪えたような顔になり、困惑した声で言う。

「意味が分からないわ。何を言っているのよ・・・」

「大丈夫。今からでも遅くない。だって、あなたの目の前には今、ハゴロモさんが居るじゃない」

ヒミコは恐る恐る、ハゴロモを見上げた。

するとハゴロモは微笑み、頷き、ヒミコの傍に寄ると、地べたに座るヒミコにそっと左手を差し出した。そして芙蓉もヒミコに寄り添い、ハゴロモの顔を見つめて固まっているヒミコを見て微笑みながら言う。

「一人じゃないから・・・あなたも、私も・・・」

「ヒミコ・・・待たせて悪かった。これからは共に居よう・・・愛している」

ハゴロモの言葉に、ヒミコはガクンと首を垂れた。

そして暫くすると、ゆっくり顔を上げた。

「・・・遅いわよ・・・まったく」

ヒミコは左手を伸ばしてハゴロモの手を握り締めると、ゆっくり立ち上がった。

その顔にはもう、愛と慈しみ、そして優しさしか無かった。

「・・・愛してる・・・」

ヒミコは小さく呟くように言うと、その姿は次第に薄れ始めた。ヒミコは隣りに居る芙蓉に顔を向ける。

「芙蓉…ゼツのこと、よろしくね」

そう言うとヒミコの姿は光となって消えてしまった。

 

「ヒミコさん・・・」

「ヒミコの事でも御主には迷惑を掛けてしまったな。だがお陰でようやくワシらも素直になれた。ありがとう…」

「いいえ…私はこれまでヒミコさんに沢山助けて貰いました。感謝しています…。あの、ヒミコさんは?」

「先に浄土へ行った。母とこの世に復活するのでは無く、ワシとあの世で共に居ることを選んでくれた・・・さて、最後の時だ。我々もゆこう」

「でも…」

「御主も見届けるべきではないのか?愛する者の行く末を…。確かに御主には酷なことかもしれん。だが今のマダラ、いやマダラの生き様を認めてやれるのは御主しかおらぬ」

「・・・・。」

六花は俯き、足元を見た。

六花の頭には先ほど目撃したマダラとオビトの会話の場面が蘇り、足元の水鏡にそれが映し出された。

すると、引いていた筈の怒りの波が再び芙蓉の身体全体に広がってゆく。

しかし六花は必死にその波をかき、深い水の下にあるものを見つめようと懸命に目を凝らした。

 

六花としてマダラと共に居た年月…。

忍であるマダラの姿を見つめてきた。

それは最盛期のマダラの姿では無かったかもしれない。それでも同じ忍である六花の眼を通して見たマダラの生き様と信念は、芙蓉として見ていた姿とは少し違っていた。

少しだけ方向は違っていても、マダラと同じ方向を見て傍に居た日々のなか、二人で紡いできたものは怒りと言う感情だけで押し流されるほど容易いものでは無かった。

いま、二人で紡いできたそれは、細く長く…今にも切れてしまいそうである。

しかし確かにまだ繋がっている。

そして、それは、六花が紡ぎ続ける限り、マダラを必要とする限り、切れはしないのだ。

それならば手繰り寄せることができるではないか。

 

「・・・はい。」

 

 

暁の満月は随分と山入端に近づき、辺りは群青色に染まって静まり返っている。

夜明けが近づいていた。

 

柱間、そして柱間と同じく大蛇丸によって穢土転生された扉間と猿飛ヒルゼンの前に、こちらも三人と同時に穢土転生された波風ミナトが走って戻ってきた。

「…何か、分りましたか?」

ミナトは暫く前までナルトと共にマダラと闘っていたが、ナルトと離れてしまってからその行方が分からなくなっていた。

しかも、マダラとオビトだけではなく、数多く居た忍連合の忍たちの姿も見当たらない。

「誰もおらぬ…ただマダラの下半身があるだけぞ」

柱間は地面に転がるマダラの下半身をしゃがんで見ながら背中でミナトに答えた。

「マダラの下半身が転がっているなら、マダラは死んだものと考えてもいいのでしょうか?嫌な予感もしますが…」

ミナトの言葉に、今度は扉間が空を見上げながら答える。

「どちらにせよ奴の無限月読とやらは完成してしまった様だな。死者の我々にはかからぬ様だが…。四代目、そっちはどうだったのだ?」

「はい。その術にかかった人々を開放しようと、皆を包む木を木を切って救出しても目覚めませんでした。そして直ぐ次の木のツタが絡みとってしまう」

「…やはり同じか」

ヒルゼンがミナトの言葉に眉をひそめて呟いた。

そして扉間が一息置いて口を開く。

「…マダラの生死を確認しつつ事を知るなら、その下半身を使って穢土転生してみればハッキリする。そして吐かせる」

「それには別の生贄が要るではないか!」

そう言い柱間は扉間へ振り向き睨んだが、扉間は腕を組んだまま目を細める。

「ここにきてまだそんな甘いことを…!」

「何か他の方法で…」

柱間は再び地面に転がるマダラの下半身を見つめ左手でその足に触れた、その時だった。

「!!」

メリメリ・・・・シュウゥゥゥ・・・・

マダラの下半身からチャクラが噴出したかと思うと、それはあっという間に宙でかたちを成した。

『!!』

四人は驚いてそれを見上げる。

「…やはりお前は優しい奴よ。アシュラの前任者よ」

「・・・アナタは?」

「名をハゴロモ…忍宗の開祖にして六道仙人ともいう」

 

 

「んんっ・・・・・?」

六花は意識を取り戻すとゆっくりと身体を起こし、霞む眼で何度も瞬きしながら全方向にめを凝らしてみた。

「・・・あ!・・・」

二十メートルほど離れた場所に柱間と、懐かしい三人の姿があった。そしてその四人の目の前にはハゴロモが居る。

しかし、六花は地べたに座ったまま俯いた。

地面にはもう自分の姿は映っておらず、影すらまだ無い。それは六花に己の存在が透明なものの様に感じさせた。

そして、先ほどのハゴロモとの会話が頭に蘇る。

 

・・・・・・・・・・・・・・・

「・・・はい。私も一緒に行きます」

「今、ナルトとサスケが主体となり異空間で母と戦っている。もう直ぐ二人が母を封印するだろう。そこには十尾の人柱力、つまり母に身体を乗っ取られたマダラと、母の元へと戻ったゼツも居る」

「・・・。マダラさまとゼツも、一緒に封印されてしまうのですか?」

「母本体を封印すれば魔像に入っている尾獣たちも含め、人柱力のマダラも剥がされる。運が良ければマダラは封印をまぬかれるかもしれん。だがゼツは恐らく母と共に封印されるだろう。いや、されなければならぬ存在だ」

「どういうことですか?」

「ゼツは母が封印されてから今まで、忍たちを言葉巧みに操り争わせてはそれに乗じて母の封印を解かせようと働いていたのだ。ゼツが居なければ奪われなかった命、変わることが無かった平和もあっただろう。ゼツとはそういう存在だ」

「ゼツが居なければ、マダラさまは…」

「うむ…だが、ゼツは人間を洗脳することはできん。マダラの意思があってこそ、今の結果が導かれたとも言えよう」

・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ゼツ…」

芙蓉は小さくその名前を呼ぶと、グッと強く目をつぶった。

ゼツとの様々な想い出が必然的に浮かぶ…その前に、六花は目を開け立ち上がった。

夜明け前の秋冷は、いつも芙蓉と六花に何かをもたらし、思い出させ、そして奪ってゆく。

 

 

「…で…アナタが先ほど言われた術のことですが…具体的にはどの様にするのですか⁉」

ミナトがハゴロモに訊ねた。

ハゴロモは柱間たちに母・カグヤの事、息子のアシュラとインドラの事を語って聞かせ、そしてナルトたちの現状と、ナルト達がカグヤを封印した後の対応について話して聞かせていた。

「術の印はワシがやる。ただこの術には膨大なチャクラが要る。ワシには今そのチャクラは無い…渡してしまった。余り時間も無い。ワシの言う通りにしてくれ」

 

「私も一緒に手伝わせて下さい」

 

「!!?」

 

その声に全員が驚き、声の主の方を向いた。

「芙蓉・・・」

最初にその名を呼んだのは、扉間だった。

「芙蓉!良かった無事だったんぞ⁉」

柱間が大きな笑顔で六花に向かって両手を振る。

「やはり貴女は芙蓉さんだったか…」

ヒルゼンも少し困った笑顔をして見せた。

「芙蓉…さん?六花さんではなくてですか?」

ミナトは一人で不思議そうに皆の顔を見て困惑している。

「御主の力は有り難い…僅かな時間だがワシが他の助っ人を呼び寄せる間、皆と話すと良い」

「ありがとうございます」

六花はハゴロモに礼を言うと、四人の前に駆け寄った。

「ワシはさっき芙蓉と一緒にマダラと戦ったんぞ!だからほれ扉間、お前がいっぱい喋れ!」

「ハァ⁉なんだソレ⁉聞いてねぇぞ!・・・って、えっと・・・」

扉間は組んでいた腕を解くと、気まずそうに右手で頭を掻いてそっぽを向いた。

「おお。扉間様が照れていらっしゃる。久しぶりに見ましたのう!」

「猿っ!貴様…」

「扉間さま…お久しぶりです。色々と申し訳あり…いえ、ありがとうございました」

六花はそう言って、芙蓉の笑顔で扉間を優しく見つめた。

「・・・。いや、俺のほうこそ…ありがとう」

「詳しく事情を説明する時間はありませんが、私はいま六花という名の忍です。六道仙人さんの力で生き長らえています。そして・・・マダラさまの・・・仲間です」

「⁉」

「…やはりか」

ヒルゼンとミナトは六花の言葉に驚いて六花の顔を凝視するが、柱間と扉間は少し苦い顔をして何度か瞬きをして目線を逸らした。

「私の使命は、予言の子…つまりナルトくんが世界を救うまで生きながらえることです。けれど、私はずっと、自分の意思でマダラさまと共に生きてきました…」

『芙蓉…』

扉間と柱間の声が揃った。そして扉間のほうが言葉を続ける。

「お前はいつから蘇っていたのだ?確かにあの時、お前は…」

「扉間さま、柱間さま。最後までわがままで、自分勝手でごめんなさい。でも、これが私の選んだ道だから…」

・・・ブワァァァァ・・・!!

その音と眩しい光に、五人は後ろに振り返った。

すると、そこには見覚えのある人物たちがずらりと並んでいる。

「うおおー!なっつかしいのう!!初・五影会談の感動が蘇るようだぞ!」

「はしゃぐなっつーの」

「なんだと!お前だってさっき穢土転生しようとか嬉しそうに言ってたくせに!」

「嬉しそうになんてしとらん!」

「ふふっ…ふふふ」

柱間と扉間の隣りで、握った手を口に当てて笑う芙蓉を見て、二人は顔を見合わせフッと笑った。そしてまた、揃って芙蓉の顔を見る。

すると芙蓉も二人の顔を見た。困ったように笑うその顔は、二人にとって懐かしかった。しかし芙蓉の眼には涙が滲んでいるのだが、二人には気付くことが出来なかった。

 

 

満月はもう山入端に沈んでしまい、東の空は白んできている。

きっとこれから始まる一日で、いや、この秋で一番冷たいであろう空気を、六花は胸いっぱい吸い込んだ。

いま六花は、柱間と扉間、ヒルゼンとミナト、そしてハゴロモによって浄土より呼び寄せられたかつての五影たちと共に直径百メートルはあろうかという術印の大きな円周を囲んで座って居る。

六花は、左右十数メートル隣に居る扉間と柱間を交互に見た後、群青色の空を見上げた。

『…そんな顔するなよ。もうすぐ寂しい気持なんて無くなるからさ…』

いつかのゼツの言葉が蘇るが、この先に寂しい気持が無い世界など無いのではないかと思う。

それとも、死ねば全ての感情は昇華されるのだろうか…

「ゼツ・・・マダラさま・・・」

六花は空を見上げ小さく呟いた。

しかし六花が気がかりだったのは、ゼツのほうだった。

 

ゼツは身体を得てヒミコに愛されることを願いながら母の復活の為に生きていた。

果たしてゼツは自身の人生を生きられていたのだろうか?

だがいつの間にか、六花とゼツの間には愛が生れ、二人の心は通じ合った。

しかしそれはマダラに抱く愛とは違う。

つまり、ゼツが望んでいる愛とは違う…

心の奥でもどかしく絡まり解いて見せて説明することができないゼツへの愛情に対し、六花は申し訳なさと悔しさを感じていた。その絡まった愛情は、永遠に絡まったままで構わないと思っていた。うやむやにしたまま自分が先にこの世を去るものだと思い込んでいた。

どうやら、最後まで自分は卑怯で甘いようだと六花は諦めるしかなかった。

そんな自分だからこそ、ゼツが居なければこの長い年月、一人で生き抜くことなど出来なかった。

例えゼツが悪と言われる存在だったとしても、六花にとってはかけがえのない愛する存在だった。

六花はもう居ない左肩に載るゼツを見て、思う。

 

・・・マダラさま…あなたの言う事は正しかった。

平和の始まりは新たな影の始まりなんだってこと、いま解りました。

世界平和より、一億人の幸せより、目の前の愛を守りたい…その為なら罪を犯すことさえ厭わないその気持ちが・・・

 

すると、空から声が聞こえた。

 

「…愛してるなんて言葉、聞かなきゃ良かったよ。こんなに別れが辛くなるなら…」

 

「!…」

確かに聞こえたゼツの声に、六花がゼツの名を呼ぼうとしたその時。ハゴロモが円の中央で声を上げた。

六花も急いで印を結ぶ。

「皆の者準備はよいか。ゆくぞ」

 

『 口寄せの術!!! 』

 

 

『?』

「お帰り・・・ナルト」

「・・・・。父ちゃん?…それに六道の大じいちゃん⁉これってば…」

「そうだ。戻って来たのだ。かつての五影皆で口寄せの術をしてな…よくぞ世界を救ってくれた」

「オウ!!」

無事に口寄せの術が成功し、術印の中央に現れたナルト、サスケ、サクラ、カカシはハゴロモと会話を始めた。円の後ろには、外道魔像から解放された九匹の尾獣たちも居り、口寄せを終えた五影たちはその姿を見て驚嘆すると同時に今ようやく伝説の六道仙人に目を凝らしている。

しかし、柱間と芙蓉だけは違う方向を見つめていた。

そして柱間と芙蓉は、ほぼ同時に立ち上がった。一方、扉間は離れた隣りの芙蓉を心配そうに見つめる。

二人は歩き始めたが、互に別々の方向へと歩いてゆく。

その時、サスケが柱間の向かう方向へ走り出そうとしたが、ハゴロモがそれを制止した。そして言う。

「マダラは一度人柱力となった。尾獣たちが抜けた今…助からん」

「そんなものを利用するからああなる」

サスケは冷たい声で言い放った。

「・・・。サスケ、ナルト、お前たちの前任者の最後だ…見ておくといい」

サスケと共にナルトも、地面に仰向けに横たわるマダラと、マダラに寄添う柱間の様子を見つめた。

 

「芙蓉!・・・良いのか?」

円の外へ一人出て行こうとする六花を扉間が呼び止めた。

「はい。世界が救われた瞬間を見届けることができた…それで充分です」

「悪いな。どうやらあの世で言った事は忘れる様になっているみたいだ。今思い出した…正義だけが全てじゃない。お前が守りたいものを最後まで守れ…そう言っただろ?」

「…扉間…さま…」

「今がその時だろ」

「・・・・はい!」

芙蓉は後ろに振り返ると勢いよく走り出した。

 

マダラまでは僅か数十メートル。

六花の足なら数秒のはずなのに、その距離は山一つにも感じられるほど長かった。

必死で足を前に進める。

 

「マダラさまっ!!」

マダラの傍にしゃがんでいた柱間は、六花の姿が目に入ると立ち上がってその場から離れた。

そして遂に六花がマダラの元へと辿り着き、膝をつくとマダラの左手を握り締め、顔を覗き込む。

「マダラさま・・・」

「・・・六花・・・」

マダラは宙を仰いだまま少し微笑んだが、もうその眼に光は無く、六花の姿は見えてはいなかった。

六花はマダラの顔に左手を伸ばすと、しっかりと確かめるように、そして労わるように優しくマダラの頬に掌を這わせる。

掌から伝わるマダラの残り僅かな体温に、六花の眼から涙が否応なしに溢れ出だす。

かたちの無い愛に触れられる奇跡があるならば、やっと今、この手で触れることができた気がした。

ぼやけてくる視界を何とか鮮明にしようと六花はその涙を何度も拭ったが、涙は次から次へと止めどなく流れ、マダラの顔にぽたぽたと落ち続ける。

遂に視界がぼやけてしまうと、六花は左手でマダラの頭を抱き、マダラの首元に顔を埋めた。

そして、耳元で囁く。

「あなたは間違ってなんかいなかった。ごめんなさい…最後まで理解出来なくて」

「・・・お前は充分…解ってくれて…いた・・・芙蓉」

「!」

芙蓉という名に六花は閉じていた目を大きく開いた。そして僅かに顔を上げ、マダラの端正な横顔を見た。

その横顔は、夜明けの東雲色に照らされていた。

しかしその光は月明りと似て非なるものであり、弱々しいにもかかわらず全てを突き刺す様である。

そしてマダラの横顔は、夜明けを前にして血色を取り戻すどころか、次第に白黒へと変わってゆく。

六花はなんとか体を起こし、マダラの瞳を見つめながら訊ねた。

「私にはマダラさまが必要です…必要なのです…昔も、今も、そしてこれからも…。私とあなたは、まだ一緒に居ますか?」

だがマダラはもう声を発することは出来ず、代わりに六花に握られている左手を僅かだが、しっかりと握り返した。

六花にとってその感覚はこれまでの中で最も力強く、心臓を同時に掴まれているような切なく苦しい感覚だった。

そして六花はマダラに向かって微笑み、小さく頷くと、再び顔を埋める。

 

柱間は芙蓉とマダラの様子を少し離れた所で黙って見ていた。

だがその様子は、柱間がマダラを倒したあの日、マダラの遺体に抱き着いて泣きじゃくる芙蓉の光景と重なり、柱間はそれに耐えられずに目を逸らしていた。

しかし、流石にいつまで経っても泣きもせず沈黙して顔を上げない芙蓉のことが心配になり、躊躇いながら歩み寄った。

そしてそっと六花の肩に手を遣り、声を掛ける。

「芙蓉・・・・・・芙蓉⁉芙蓉!!大丈夫か⁉」

柱間は焦って芙蓉を抱き起し、腕に抱えたが、六花はもう虫の息であった。

離れた所で、柱間とマダラの会話に続き、六花とマダラの様子を見ていたナルトは、仰向けになってようやくハッキリ見て取れた六花の顔を見て驚いた。

「六花…姉ちゃん⁉」

ナルトは六花の元へと駆け寄って行った。

そして柱間の胸に抱かれる六花の顔を急いで覗き込む。

「やっぱり六花姉ちゃんだ!大丈夫か⁉いま助けてやるってばよ!」

「…ナルトくん…大きくなったねぇ…ありがと…」

芙蓉は穏やかな顔で、僅かに光る瞳を細めてナルトを見つめた。

「サクラちゃん!急いでこっちに…」

「残念だがもう助からない。これが六花の…芙蓉の寿命だ」

ハゴロモがナルトに向かってそう言った。ナルトに呼ばれたサクラは、ハゴロモとナルト両方の顔を見てその場で戸惑っている。

「はぁ⁉何言ってんだってばよ!!」

「ナルト・・・」

柱間が怒鳴るナルトを静かに止め、一度唇を噛むと芙蓉の顔を見つめ、握っている芙蓉の右手をギュッと握り直した。

「やっと、やっと会えたってのに…何でだよ!!…」

ナルトは拳を握り締め、眉を寄せて視線を膝に落した。

そしてハゴロモが再びナルトに言う。

「芙蓉も見えない所でこの世界を救った一人だ…。かつて芙蓉とマダラは夫婦だった。カグヤの思念など無ければ離れることは無かったかもしれぬな…」

離れた場所で見守っていた扉間は、ハゴロモの言葉を聞きながら俯いた。

そして、悔しがり俯くナルトに向かって六花が言う。

「…素敵なお友達が…沢山できて…良かったね…見て…たよ…」

それを聞いてナルトは顔を上げ、潤んだ瞳で六花の顔を見て無理やり笑って見せる。

「オウ!友達も仲間も沢山できたってばよ!姉ちゃんとしてた約束、守れて良かったってばよぉ!それからそれから、今は額当てしてっけどさ、あの日貰ったゴーグルだって、ちゃーんと大切にもってるんだってばよ?」

六花はナルトの話を聞きながら何度も瞬きで頷いていた。

そして、次の瞬きのあと、六花は目を開けなかった。

「六花姉ちゃんっ!!」

「芙蓉」

柱間は六花が眠りにつくのを看取ると、六花を抱き上げ、マダラの隣りに並ぶように横たえた。

 

「六花姉ちゃん・・・本当にありがとう」

「芙蓉にとってお前は息子の様な存在だったのかもしれぬな…。ナルト、悲しいがお前は早く父親の所へ行け。もう時間が無い様だぞ」

柱間の言葉にナルトは袖でごしごしと顔を拭くと思い切って立ち上がり、六花に向かって深く一礼し、そして父・ミナトの方へと走って行った。

柱間もナルトの背中を見ながら立ち上がると、寂しそうに軽く微笑みながら並んで眠るマダラと芙蓉の顔を見た。

その瞬間、山入端から遂に太陽が顔を出し、薄黄色の朝陽が辺りを明るく照らし始めた。

朝陽に照らされるマダラと芙蓉、ふたりの顔には、今はもう苦悩の皺は無く、穏やかで、満足そうな表情をしている様にも見えた。

「マダラ…芙蓉。お前たちの“先の夢”は叶わなかったのだろうが、きっとお前たちが守りたかったものへの想いは、受け継がれてゆく筈ぞ…」

そう言うと柱間は一度目を閉じた。

そして目を開けると、離れた場所でこちらを見ている扉間の元へと歩いて行った。

 

柱間が扉間の隣りに並んだ時、二人の身体は眩ゆい光に包まれ、その光は天に向かって一直線に伸びてゆく。

それは柱間と扉間だけではなく、穢土転生されたヒルゼン、ミナト、そして浄土から召還された五影たちも同じく光に包まれゆく。

そして、皆の姿は次第に光の中で薄れ始めた。

 

「本当に良かったのか?最後に芙蓉に声を掛けてやらなくて…」

「…いいんだ。これで」

「フッ。あの世でマダラと喧嘩するなよ?」

「…フン!」

 

太陽は何も知らない顔をして、昨日と同じく大地を照らし始めた。

ここからまた、新しい未来が始まる。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 




最低評価をされておりますが、私自身は満足のいく作品が書けたと思っております。

二次創作の意義は、商業的に誰にでもウケる、売れるものを書かなければならないのではなく、
自分の好きな想像・アイディア・世界観を表現できることではないかと思っています。
確かに他の人から見たら最低な駄作でも、描いている本人が楽しめることが一番だと思っています。(ただし一次創作はそうはいきませんし、それは駄目ですよね)
そこで共感してくれる人が居て、一緒に楽しんでくれれば更に嬉しい・・・それが二次創作の良さではないでしょうか。

なので、正直、二次創作については評価されないという選択肢が欲しい所です。
(やはり評価0をつけられるのは悲しくなるので)


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【続・六花の森・番外編】1時間 46分59秒

【続・六花の森】の番外編でございます。
「(五)大蛇丸VS六花!!」の大蛇丸が六花を襲撃する数日前のお話です。
登場人物は六花とゼツのみです。
※関連話:「六花の森(完)その結晶はいつかまた輝く」 「続・六花の森(3)~対面~オビトとマダラ、六花とヒミコ」
小さな、でも壮絶な未来へを引き寄せる恋・・・


目を開けると、六花の背中が小さく見えた。

・・・これは夢…?・・・

それを確かめようとゼツは無意識に“手”を伸ばした。

すると間もなくその手は六花の背中触れ、その温かさでこれが現実世界であることを確かめられた。しかし。

「こ、これ…は⁉」

「?…ん…ゼツ?」

すると眠っていた六花が背中の感覚に気が付き、ゼツの方へゆっくりと振り向いた。

「・・・⁉だ、誰!」

六花は、飛び起きると、自分の隣に横たわっている見知らぬ男を見て驚き、枕元に置いてある刀を握り締めると飛び起きた。しかし男は何も言わずに、横向きに寝ころんだまま動かず、自分の両掌を眺めている。六花は即座に写輪眼を発動して男の顔と姿を見た。

体格は六花よりも少し背が高いくらいの中肉、この時代のものとは思えない服装をしている。サラサラと布団の上に流れる髪は真っ白で、額には二本の角らしきものが生えており、色白な肌の顔は中性的でとても可愛らしい青年だった。そして六花にはこの風貌に、どこか見覚えがあった。

・・・ハゴロモさんとヒミコさんに似てる・・・

すると男はゆっくりと起き上がり、六花の顔をみつめてきた。その顔には徐々に喜びが満ちてゆき、最後は歯を覗かせた大きな笑顔になって口から溢れ出した。

「六花僕ヒトになれたみたいだ!」

六花は目を更に大きく開け、今一度じっくりと青年の姿を見回した。誰かが変化の術を使っている様子は無い。そして、確かにその声は間違いなくゼツのそれだった。

「…貴方もしかして、ゼツなの?」

「うん」

「本当に…?」

六花は訝しげに訊ね、そして言い知れぬ緊張にゴクリと唾を飲み下した。

声はゼツのそれだと言っても、突然現れた青年(ヒト)が、あの黒い球体の身体に目と口が付いている単純なゼツといういきものであるとは俄かに信じることは出来ない。

「マダラの分身で六花のご主人様であるゼツ様だよっ!」

「・・・・。どうやら、本当みたいね…」

青年がゼツと六花しか知りえない事実を口にしたことで、花は未だに信じられないが、このヒトはゼツだと思い握っていた刀をゆっくりと畳の上に置いた。

「で、でも、どうして急にヒトの姿になれたの⁉というか、もしかしてそれがゼツの本当の姿なの?」

六花は恐る恐るだがゼツへと膝を寄せ、前のめりになって訊ねた。するとゼツも座ったままずいずいと六花に近づき、二人の顔が三十センチほどまでに近づいた。

「本当の姿というか将来の姿って言った方が正しいかもね」

「?」

そう言ってゼツは一度六花の顔を見てニカッとしたあとすぐ、窓の方へと顔を向け、眼を細めて語り始める。

「僕は以前も一度だけこの姿になれたことがある…あれからもう千年近く経つんだね。僕が人の姿になれるのは皆既月食の夜、しかもそれが年に三回ある年じゃなきゃダメ。その三回のうち皆既日食の継続時間が一番長い夜にだけこの姿になれるんだ。それが今夜だったってわけ」

難しい話だが聡明な六花は直ぐに理解した。確かに、これまで月食を年に三回観測できる年は意外にも多くあったのだが、その月食が全て『皆既』月食という年は過去これまでも少なかった記憶がある。そして、月食の日は必然的に満月…。

・・・満月!そういえばヒミコさんは月食の日には現れることが出来るのかしら?もし今夜ヒミコさんも現れたらゼツと・・・

「ねぇ六花ってば話聞いてる?」

「え、あ、うん、聞いてるわ。色々な条件が千年近くの単位でようやく揃ったわけね!」

「そうだよ。でも…」

「でも?」

「何でもない。ねぇこの姿になったら六花としたいことがあったんだ!今からそれしてよ!」

「な、何?…」

そう訊ねながらも、ゼツが自分としたい事はひとつしかないと思っていた。

六花は唇を軽く噛んで僅かに目を伏せてゼツの返事を待つ。

「!」

ゼツが膝の上で重ね慣れている六花の左手首をギュッと握って来て六花は必要以上にビックっと驚いてしまい、思わず顔を上げた。

「六花と手を繋いで外を歩きたい」

「え?…」

「え?じゃなくて!さぁ行こう!」

ゼツは握っている六花の手を引っ張って立ち上がった。六花もつられて一緒に立ち上がる。

「で、でも今から?もう真夜中じゃない。明日にしましょう?」

「六花のご主人様は誰だっけ?」

「・・・。ぜ、ゼツ、だけど…」

「それに昼間は駄目だよ。ヒトの姿してるっていっても人間の姿とは違うんだしさ」

「それはそう、ね…」

そうして六花はなぜか必要以上に急かしてくるゼツに言われるがまま、寝間着から着替えて外出する準備を整えた。

・・・本当に今日は皆既月食なのね・・・

六花は空の上の月を見上げた。今夜は満月の筈だが、月は上弦の月のように上の一部分だけが僅かに光っていた。

いま六花とゼツは柳の植えてある小川の遊歩道を歩いている。

この遊歩道はかつて、初代火影・柱間が造ったもので、いまは〝恋人たちの小径〟と呼ばれ里のデートスポットとして人気の場所として親しまれている。街灯も消え、こんな夜中に歩いている者は他に誰も居ない。

空を見上げていた六花は、いつもの様に目線を左肩に落す。

その視線はゼツのいない左肩をかすめ、そのまま下へ下がってゆき、繋がれた二人の手を見た。しかし、その手には体温は無い。それが今の時間が限れたもの様に、それとも、血潮の果てにある永遠とも感じられ、六花は胸のざわつきを抑えられずにいた。そしてその何とも言えない緊張感に、いつの間にかヒミコのことは忘れていた。

「六花。さっきから黙ってばっかりだけど何か喋ってよ」

「うん・・・って、ゼツから喋ればいいじゃないの」

「ああそうだ。僕って六花の好み?」

ゼツは無邪気な笑顔で自分の顔を指さして六花の顔を覗き込んだ。

「えっ?…うーん」

「即答できないってNOってことじゃん」

ゼツは口を尖らせてそっぽを向いてしまった。

「だって写輪眼があるからってこの暗さだよ?はっきりは見えないもの」

「もういいよ!どうせ六花は僕のものなんだからさ」

「ふふふっ…ヒトになっても中身は変わらないのね」

「なんだよっ」

「そういえば、ゼツはお菓子が大好きだけど、その中でも何が一番好きなの?」

「六花の大福、六花の饅頭、六花のクッキー、六花のパウンドケーキ、六花の…って色々あり過ぎて一番なんてないかな。ああでもこないだの…」

そう言って指折りしながら好きな物を数えるゼツを見て、六花は愛おしい気持になる。その反面、胸の奥がチクリと痛む。

ゼツが自分を好いている、いや愛してくれていることは十二分に伝わって来る。

しかし、六花のゼツへの愛情はゼツのそれとは明らかに違う。ゼツがヒトの姿になっても、きっとそれは変わらない…。

「って自分で質問しといて聞かないとかなんだよ!」

「聞いてる、聞いてる!」

途中ベンチを見つけ、どちらともなくそちらへ向かってゆくと、揃って腰を下ろした。

そして二人は再び沈黙していた。

六花にはゼツに聞きたい事は沢山あった。しかしそれを訊くことは出来ないのだ。

六道仙人と会ったあの日、ゼツの正体のことも知った。そして満月が南中にある数分間だけ

ヒミコの魂と会えるようになってからは夢でヒミコの記憶らしきものを見るようになり、ヒミコやその母・カグヤについての事も少しだが知るようになっていた。

だが六道仙人との約束を遂行するまで、即ち〝予言の子・碧眼の少年〟が世界を救うまではゼツにそれを知られるわけには決して行かないのである。

ぎゅっ…

その感覚に、六花は未だ繋がれたままの手を見た。

「今マダラのこと考えてるでしょ?」

「え…」

「六花のことなら解るんだからねっ」

そう言うとゼツは手を解いて、六花をそっと抱き寄せた。そして六花の後頭部に手を回し、その手で優しく六花の頭を撫で始めた。

「六花…あったかい。あったかいよ」

しかし相変わらずゼツの手も、身体も冷たいままである。六花の体温はその冷たいゼツに奪われてゆくが、それと同時に心までも体温と共に奪われていくように感じて六花は固く目をつぶった。

どれくらいだろうか。数分後、ゼツはようやく六花から身体を離した。

先ほどまで地球に侵食されていた月は、ようやくそこから脱して半分ほど姿を見せている。しかしその色はいつもとは違う、少し不気味な赤銅食だった。

七月とはいえ梅雨時期の今、夜は肌寒く感じる。冷たいはずのゼツの身体が離れ、六花はその寒暖差で一層気温の低さを感じる気がした。それに戸惑い僅かに目を泳がす。

「六花」

その声に六花は顔を上げてゼツの顔を見た。

どことなくヒミコに似ている美しい顔と、感情を見て取るのが難しいその瞳は〝白眼〟である。

チュッ…

ゼツはぎこちなく、六花の唇を吸っている。

六花も自然と眼を閉じ、その感触に浸った。

本来なら満月の強い光に隠されているはずの天の川が輝いている。そして、その中の星が一つ、流れて消えていった。

先日の七夕には、織姫と彦星は再会できたのだろうか。そしてまた〝いつか〟再会することができるのだろうか。六花は“今”が永遠では無い事に気が付いた。

そして、ゼツが先に唇を離した。

「来月六花の誕生日だよね」

そう言うと突然立ち上がり数歩前に歩み出ると、草むらにしゃがみ込んで何かを探し始めた。そして手を伸ばしプチプチとそれを摘み取ってゆく。六花は不思議そうにそれを眺めていた。

「ちょっと早いけど僕からのプレゼント」

ゼツは摘み取った数本の花を六花に向けて見せた。

「あ、ありがとう…」

「本当はもっともっと沢山摘んででっかい花束にして渡したいんだけどそれには時間足りないかな」

そう言いながら花を見つけては急いで摘んでゆく。六花はその姿を見て、何かを想うよりも先に、涙が頬を伝った。

「ゼツ!」

そしてためらうことなく、ゼツの背中に抱き着いた。

「もういいよ!時間が勿体ないわ。もっとゼツのしたい事をして!お願い」

「だから僕が六花にプレゼントあげたいんだってば。はいこれ」

ゼツは、強く背中に抱き着いて顔を埋めている六花の眼の前に花束を差し出して見せた。六花はゆっくり顔を上げる。

そこには、つゆ草、イヌダテ、カワラ撫子、ゲンノショウコ、ヒメジョオンなど、数種類のちいさな夏の草花たちが顔を揃えて六花に向かって微笑んでいた。六花はゆっくりとその花からゼツの顔へと目線を移すと、ゼツの顔は草花よりも遥かに大きな笑顔だった。その顔が、いつものゼツ、丸くて黒くて目とニヤッとしている口しかない単純な顔が重なり、六花は思わずプッと吹き出してしまった。

「何だよひとの顔見て笑うとか失礼じゃない?せっかくプレゼントしてあげたのにさ」

「ふふふっ…ごめん」

六花はそう言ってゼツの手から花束を受け取ると、胸にギュッと抱き締めた。

「ありがとう…ゼツ。とっても嬉しい…」

その六花の切なくも喜びが溢れる表情を見て、ゼツはそっと顔を逸らすと地面を見ながら軽く唇を噛んだ。

「ホントはもっといいものあげたいんだけど。六花が作ってくれるお菓子みたいなさ…」「ううん!充分素敵な誕生日プレゼントよ。これ、押し花にして栞に貼って使うから。ずっと大切にするから、だから…」

「でもいつか!いつかきっと僕が六花を幸せにするから。マダラが蘇ったら、そしたら…」

ゼツは六花の言葉を遮ってそう言ったが、途中で言葉を飲み込んで再び俯いた。

「・・・?」

「帰ろうよ。最後にこの身体で六花のお菓子食べてみたんだ」

「う、うん!急いで帰りましょう」

六花はゼツの手を握って一緒に立ち上がった。

「走…れる?」

六花はゼツの手を握ったまま少し上目遣いで悪戯っぽく訊ねた。

「うん。走れるよ」

「コケないでよね」

「馬鹿にすんな!」

二人は手を繋いで小さく一歩を踏み出すと、その歩みは徐々に早くなってゆき、そして走り出した。

 

月はもう、西の山の派に近づいていた。

六花は健やかな顔で横向きになって眠っている。その頭の上にゼツがぴょんと飛び載った。

『私、今日のことも、ゼツの姿も絶対忘れない』

ゼツの頭に、別れ際に言われた六花の言葉が蘇る。ゼツは丸い小さな目でじっと六花の横顔を見つめた。六花の美しい横顔は月明りに照らされ、僅かに青白く光っている。

「残念だけど今夜の事は目が覚めたら忘れてしまうんだよ六花。でもいいんだ。だってまた直ぐあの姿で会えるから。そしたらその時は…」

満月の光と共に薄れてゆく記憶を、六花の枕元の草花たちだけがその身に宿し、そっと二人を見守っていた。

 

おしまい



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