純粋な力のみが成立させる、真実の世界を (ティッシュの人)
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活動報告&お知らせ

 どうも、ティッシュの人です。

 

 えー、今回このようなところで言わなきゃならないことがございまして、それは作者の受験による投稿一時休止です。

 元々、作者は受験生でその状態でこの作品を始めたこと自体アカンのですか、10月に入るしそろそろやらなきゃアカンぞと親や教師に言われたことに背中を押されてこのような決断をさせて頂きました。

 無論、この小説を終わらせるつもりはありますし、こんな不本意な形で終わらせるつもりはございません。マクギリスの野望、鈴との青春……まだまだ書いていないことは沢山ありますし、書きたいこともいっぱいあります。でも将来のことを考え、天秤にかけた結果このような決断を選びました。御容赦ください。

 

 期間としては4ヶ月ほどとなります。2/22にはまたマクギリスが躍動する姿を皆様にご覧頂けるかと思います。その頃には受験受かって、エクバ2も落ち着いてるといいな。

 

 

『何処かの予備校より愛を込めて   ティッシュの人』

 

 

 -小噺『設定』-

 

名前:マクギリス・ファリド

年齢:16(実年齢不明)

性別:Male

専用機:『Bael』

 武装:バエルソード×2(剣に信管が仕込まれている)

   :電磁砲×2

   :単一能力『???』

 説明:イタリア政府主導で造られたIS……というのは体裁上の話。本当は『亡国機業』所属の『博士』によって造られた第三世代IS。一見すると第二世代を通り越して第一世代の様にも見えるが、実は背中部分のスラスターは非固定武装扱い。そしてこの機体の一番の目玉は『PICの最大限の強化』である。PICを強化することによって多少の無茶な機動も出来るために、敵を撹乱し素早く撃破することに特化した強襲型IS。そして単一能力が発揮されればその力はより強くなるとされているが……

 

専用機:『Gurimugerude』

 武装:ヴァルキュリアソード×2

   :ヴァルキュリアライフル(120mmライフル)

   :ヴァルキュリアシールド×2

 説明:『亡国機業』所属の『博士』によって造られた第三世代ISのプロトタイプ……と言うよりバエルのプロトタイプ。武装をできる限りシンプル且つ軽い物のみにし機動力を上げて一撃離脱戦法を可能にした機体。こちらもPICの強化はされてはいるがプロトタイプということでそこまで高くは設定されていない。頭部のアンテナが兎の耳のように見えるために、一部のマクギリスによって襲撃された軍の中では『死の兎』『死を運ぶ兎』と呼ばれていることもある。

 

 

性格:至って温厚。話しかけてくれた者に対しては基本的に優しく応じることが多いが、恨み深い性格でもあるため一度やられたことは忘れることは無い。また、敵対的な態度を取るものにはそれ相応の態度で返すこともある。元々スラム街出身だったこともあり、食事に対しては酷く目がない。一度イタズラで渡されたシュールストレミングの缶も臭いと思いつつも全て食べきった。オータム曰く「ただの悪食」らしい。マクギリス本人にはどうやら果たさなければならない野望があるようだが、それはまだ誰も知ることは無い。

 

交友:凰鈴音とは至って良好。互いの事を信じ切っている。マクギリスは彼女にある女性を重ねているようだが、鈴がそれを知ることは無い。

セシリア、ラウラとも良好。それぞれに自らの友人を重ねているからか。

シャルル、簪に関しては一方的に同情の念を抱いている。シャルルが自らの出自のために、簪が自らの姉の力のために周囲から色眼鏡で見られていたことを自らの人生と重ねている。

春万、千冬、箒には露骨な嫌悪感を示している。幼少期の事を一切覚えていない彼らの姿に憤りを感じているようだ。



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#1 マクギリス・ファリド

 マキブONのバエルが強すぎるので初投稿です。


 目を開けると二人の男女の顔が見えた。二人とも笑っていた。どうやら何かめでたいことらしい。身体を起こそうと思ったその時、彼は気づいたのだった。

 

『俺は、赤子になっている』と。

 

――――――

 

 その男は、ベビーケージに入れられ看護師達が目の前を行き交うのを見ながら考えた。俺は、あの時親友に全てを曝け出して銃殺されたと。なのになぜ生きているのだろう。それに、なぜ両親が居るのだろうかと。

 幾ら神が気まぐれで、自分に何か使命を与えようとして世界を巻き戻したと言っても、自分の両親はアジア系の人間ではなかったはずだ。それに、姉も居ないはずなのだ。

 明らかに、別世界に来たと考える他無いのかもしれない。そう思った男は赤子特有の眠気に誘われた。

 

――――――

 

 3歳になって、言葉がそれなりに喋れるようになったし解することも出来るようになった。自分の名前は織斑一夏、姉は千冬で、弟が春万(はるま)らしい。

 どうやら本当に別世界に来てしまったらしい。そう理解した彼は寝どころで頭を抱えた。名前を見る限り日本人である事は確かだが、ニュースなどを見ても『ファリド』や『ギャラルホルン』という名前を聞かない時点で既に何かは察していた。

 だが、彼は諦めなかった。ここに来たということは、何か神が使命を持って遣わせたのだと信じていたから。

 

――――――

 

 5歳になって、剣道を始めた。6歳上の千冬の指導でだ。初めは構えから、次に打ち方など、あらゆる剣さばきを学んだ。1歳下の春万と一緒にだった。春万は彼以上に剣道の吸収が早かった……というより、彼自身が剣道を拒んでいた。彼の身体が、彼の心が『自分には剣道が全くあっていない』と叫んでいた。

 

――――――

 

 7歳の時、彼は千冬に『剣道を辞めたい』と述べた。自分には向いていない、吸収の早い春万に集中すべきだと。彼女はこめかみに青筋を立てて激昂した。根性無し、馬鹿、意気地無し、人間の屑……あらゆる言葉を言われた。今まで仲良くしていた幼馴染にも同じようなことを言われ、自分を見放した。

 春万は何も言わなかった。ただ、姉である千冬と同じように彼を見放して行った。男は、家族として見られなくなり、ただの奴隷のような扱いを受けた。飯炊き、洗濯、掃除。ありとあらゆる雑用をやらされるが、何かを忘れたりすれば竹刀で身体を叩かれた。身体中至る所にアザができた。

 ある日には、道場の木の人形に縛り付けられ、春万の面打ちや胴打ちの相手にさせられることもあった。時には彼女自身が、手本と称して自ら叩くこともあった。情け容赦など無かったのだ。

 父と母はもうその頃には居なかった。彼を守ってくれるものは、もう誰もいないと思っていた。

 

――――――

 

 9歳の時、転校生がやってきた。彼女は中国からやって来たらしく、中国語以外喋る事が出来ず、虐められていた。

 そこで彼は手を差し伸べた。言葉を一つ一つ教え、何処かで遊んでいるグループが在ればそこへ自然に入れる様に手助けをした。だが、彼自身が入ってくることは無かった。痣だらけの身体、ボロボロでシミもついた服。そんな彼を入れてくれるような所はもう、無かったのだった。

 そんな時だった。ISによって世界のバランスが変わったのは。

 

――――――

 

 10歳のある日、彼はドイツに来ていた。表向きは、第2回モンド・グロッソ大会決勝に出る千冬の家族として、裏向きは彼女のストレス発散の道具として。もはや人間とは思われては居なかったのだ。唯一、ホテルの人々は彼を人間と見て暖かい料理を出してくれた。『客だから』という理由があるのかもしれないが、その気遣いがささくれた心を癒してくれた。

 そのまま彼は外に出た。ドイツという国はいい国だと、そう思ったその時だった。

 後ろから何者かに抱きしめられ、口にタオルを当てられた。藻掻こうにもタオルには睡眠導入剤が含まれていたのか、彼を眠りへと容赦なく誘った。

 

――――――

 

 彼が目覚めると、そこは薄汚い廃ビルの場所だった。目覚めたのを確認すると中年の男が、ボスであろう女に何かを喋っていた。その女は、世界のバランスを破壊したISに乗っていた。

 

「よぉ、お前はオリムラ・イチカ。それで間違いないな?」

 

 男の声に頷く。彼の頭は不思議と、恐怖を感じていなかった。縛られてはいるが、ここなら暴力も、不当な締め出しも喰らわない。何処か安心感を抱いていたのだった。

 

「おじさん達、誰?」

「俺たちは……そうだな、悪者だな。捕まったら死んじゃうくらいの」

「おじさん達死んじゃうの?」

「死なないようにこうやってお前を捕まえてるのさ」

「死なない為に……?」

 

 彼は、自らの知能指数をあえて下げた言葉を喋るように心掛けていた。どうやら誘拐されたという事実、そして盗み聞きから彼女達はブリュンヒルデを敗北させようと目論む為に自分を釣り餌にしようと考えているようだった。

 

「―――――!!???―――――――――!!!!――!!」

「――――――、――――――?」

「―」

 

 彼らは何かを喋っていた。すると、女が近づき自分に拳銃を突き付けた。

 

「残念。キミの身柄はお姉さんにとって優勝よりも価値の低いもののようね」

「…………」

「何か遺言はある?それだけは聞いてあげる」

 

 女に言われたが故に、彼は考える。ここで死ぬ訳にはいかない。神がなにか使命を託したというのなら、それを完遂しなくてはならないのだ。

 

「…………私は、死にたくない」

「……そりゃあ、死にたくないでしょうけど、しょうがないじゃない。政府も誰も貴方を救ってくれない」

「ああ、でも貴女なら。貴女たちなら、私を救ってくれる。あんな地獄から、ゴミ溜まりの淵から、私を解放してくれる」

「……どういうことよ」

 

 女は、眉を顰める。後ろでは男が脱出用の車を用意しているようだった。何とかして、彼女たちと共に彼処に乗らなくては。

 

「ブリュンヒルデは、織斑千冬は私を虐待し続けた。彼女のストレス発散のために」

「……それはまた、凄惨な話ね。だけど、関係ないわ。私は貴方を殺す。それしかないの」

 

 意志を持った瞳を彼女は向ける。だが、彼は怯まなかった。

 

「だが、私にも意思がある!私はここで死ぬわけにはいかない!奴らは最早どうでもいい、ただ自らの意思で、私は別人として生きたい!」

「…………!」

「無理は承知だ、だがどうしても曲げられないことがある!もしダメならば私を逃がせ。そうすればいずれ優秀なドイツ軍が見つけてくれるだろうが、私はそれを望みはしない!」

「…………じゃあ、どうするって言うのよ!」

 

 女が感情的な言葉を放った。男はもう少しだ、そう思って畳み掛けた。

 

「私を、貴女たちの仲間に入れてほしい」

「……!?」

「荷物持ちだろうと何だろうと構わない!私を……私を『ブリュンヒルデの弟』ではなく、『織斑一夏』と読んでくれた貴女たちと共に行きたい!」

 

 その言葉を聞くと、女は思案し始めた。丁度その時に男が入ってきた。どうやら車の準備が出来たようだ。もう逃げ時だと思ったのか、彼女は少年に手を差し伸べた。

 

「……そうね、いらっしゃい。我々亡国機業は、貴方を歓迎するわ」

「…………感謝する」

 

 そう述べて乗り込んだ車の中での彼の目は、最早少年の目からあの時の戦いの、戦士としての目となっていた。

 

――――――

 

 「ところで、貴方名前はどうするの?織斑一夏って名前で活動したら即刻バレるわよ?」

「分かっているとも。元々織斑一夏なんて名前に執着はない」

「あら、サバサバしてるのね」

 

 少し悩んだ素振りを見せたあと、少年は女に述べた。

 

「今日から私の名前は、『F』あるいは――――――

 

 

 

 

 

『マクギリス・ファリド』だ」




 皆様初めまして、ティッシュの人と申します。この度、この作品を読んでいただきありがとうございます。

 個人的にマクギリスは報われて欲しかった、そんなキャラだったのとマクギリスの転生が少ないので投稿しました。

 感想など、軽いことでも構いませんので是非書いていただけると作者からのアグニカポイントが増えます。


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#2 新たなる力

バエルのコンボ覚えられないので初投稿です。

相手が強いと思ったから自分が使うと使い切れないこと、あると思います。


 あの運命の日から5年が経った。マクギリスも15歳になり、立派な青少年へと成長した。

 あの後、織斑一夏の名を捨てた彼は整形手術をして、あの時のマクギリス・ファリドの顔そのもの……とは少し異なる部分も無い訳では無いが、ほぼそのものになっていた。確実に鍛えたと見える筋肉質の身体は、上司であるオータムやスコールも嘆息するほどであった。マクギリスは、生まれ変わってもやはり努力家なのだ。

 髪の毛も金に染めた彼は、スコールによって現場担当の指揮官に任命された。実働部隊であった女を口説き落としたことから、前で戦うよりも後ろから指揮させた方が良いだろうという目論見だった。そして、その目論見は見事に的中した。生前の地球外縁軌道統制統合艦隊司令官だった時の経験を生かした作戦により、資金や物資調達、現地での戦闘も全てが上手く行くようになった。

 

――――――

 

 ある日、実働部隊が敵のISを奪取したという無線をマクギリスに入れた。マクギリスは、それが本当かどうか確認するために外に出た。すると、目の前にトラックから格納されるISらしきパワードスーツが映った。女性しか扱えないIS、だが先日男性の操縦者が現れたと発表があり、各国が総出で男性の操縦者を血眼で探し始めた。もし居れば、彼をダシにして国際社会で強く出れるからだろう。

 マクギリスは、もし自分に適性があればと考えていた事は少なくなかった。あの力があれば、自分が望んだ真実の世界を……そして、アグニカ・カイエルに近づくことが出来るに違いないと、そう思っていた。そんなことを考えながらISの外装をポンポンと触り、部下達に労いの言葉を言おうとした時だった。

 頭の中に何かが流れ込み始め、気が付けば視点が高くなっていた。何が起きたのかとぼんやりしていると、部下達が口をあんぐりと開けて震え始めた。

 

「あ……あ…………!」

「……どうした?」

 

 首を傾げずには居られなかったが、その疑問は部下の次の言葉で砕け散った。

 

「オ、オータムさぁん!隊長が、隊長がぁ!」

『なんだ!?マクギリスがどうした!?』

「隊長が、ISを纏いましたぁぁああああ!!!!!」

『何ィィィイイイイイ!!!!????』

 

 無線の先ではどうやらオータムとスコールが阿鼻叫喚しているらしかったが、マクギリスは一人ほくそ笑んだ。この力があれば、世界を変えられる。

 自分は今度こそ、『アグニカ・カイエル(伝説)』になれると。

 

――――――

 

 次の日、マクギリスは『博士』と呼ばれる男と対面していた。もう70歳を過ぎた爺だが、ISに関しては組織内で誰よりも知っている男……らしい。

 

「マクギリスくん、実はISのコアには擬似人格が宿っていることはご存知かね」

「擬似人格だと?誰かが入封されているとでも言うのか?」

「違う違う、所謂AIみたいなものだ。製作者である篠ノ之束が何故入れたのかは分からないがね。でだ、マクギリスくんにはあのISを君好みの機体に改造してもらうプランを出して、それで君はIS学園に入学してもらう……というのがスコールちゃんが出してくれた計画だ」

「IS学園?」

 

 マクギリスが悩む素振りを見せると、博士は蓄えた長い髭を撫で始めた。マクギリスがいつもやっている前髪を弄る行為と良く似ている。どうやら仲良くできそうだ、そう思った。

 

「詳しい話は、スコールちゃんかオータムちゃん……いや、マドカちゃんの方がよく知っているかもしれんな。まあ、いいか。そこに紙があるだろう?そこにISの形や武装の案を二つ書きたまえ」

「二つ?何故だ?」

「IS学園で使うものと、いつもの仕事で使うものだ。IS学園には代表候補生と呼ばれる優秀な生徒達が来ると言われている。だから、マクギリスくんが出来る最前の方法は、これからの任務でマドカちゃんやオータムちゃんの様にISで最前線に行ってもらう……ってのがベストなんだが」

「…………了解した、多少なりとも時間が欲しい」

「無論だとも、一週間以内に出してくれれば私も困りはしない」

 

 マクギリスはまだ髭を撫で続けている博士に一礼すると部屋を出た。マクギリスが欲していた力は、すぐそこまで来ていた。

 

――――――

 

 設計図を書いて提出すると、スコールが『家族に会ってきなさい』と言い始めた。マクギリスが訝しく思い、何故と聞くと『男性操縦者なのに親や家系が何も無いなんておかしいでしょ?元よりイタリアは私達亡国機業の傀儡政権みたいなものだし、戸籍とか家柄とかは誤魔化せるから平気よ』とスッキリした顔で言われた。どうやらこの世界の女性は皆強いのだろうか。

 スコールに指示された場所に行くとそこには大豪邸があった。警備員がマクギリスを人目見るとお辞儀をして門を開けた。どうやら入れということらしい。昔からファリド家の養子として雇われ、次期当主となって、親友のガエリオの家にもお邪魔したりしていたマクギリスではあったが、まさか生まれ変わった先でも貴族になれるとは思ってもいなかった。家のドアを開けると豪勢なシャンデリア、総勢20名の執事……そして、よく知った顔が2人。

 

「隊長……お久しぶりです」

「元気だったかしら?坊や……いや、マッキー?」

「マッキーは辞めろとあれ程……まあいい。久しいな、ミルコネン、藍那」

 

 2人はマクギリス直轄の実働部隊、『ギャラルホルン部隊』の兵長を務めていた。風の噂で仲良くなった、とは聞いていたがまさか自分の茶番にまで付き合えるほどだとは思わなかった。

 

「今日から俺らは家族……ってことらしい。俺がミルコネン・ファリドで……」

「私が藍那・ファリドってことらしいわよ?」

「……君たちは……いいのか?」

「何が?」

「その……家族になるということがどういうことか分かっているのか、ということだが……」

 

 マクギリスが遠慮気味にそう言うと藍那は部隊で笑う時と同じような声を上げてこう述べた。

 

「だって、私達もう結婚したもの」

「…………は?」

「隊長には、まだ言ってませんでしたっけ。今回俺達が来たのは、ギャラルホルン部隊の人間だからってだけじゃありません。俺達が夫婦になったって聞いたスコールさんに『はい、これお金上げるからイタリアで貴族夫婦やってきなさい』って言われたんですよ、その方が都合がいいからって」

 

 幾ら人生で山ほど災難を経験してきたマクギリスとはいえ、これには絶句だった。それと同時に、逆にこの二人が来てくれてありがたいとも感じていた。元々ギャラルホルン部隊の下で働いていた彼らの事だ、確実に他の人間より信用に足る。

 

「……そうか、おめでとう。何かプレゼントでもあげることが出来ればいいんだが……」

「いいのいいの!ファリド家って苗字と……」

「隊長が我々の養子になってくれるってだけで十分ですよ!」

 

――――――

 

 程なくして、博士からマクギリスに連絡が入った。ISが出来たから、見に来てほしいという事だった。

 

「おお、良く来たな!ささ、これがお前さんのISだ。気に入って貰えるといいんだが」

「…………こ、これは!」

 

 目の前にある2つのISの形には確実に見覚えがあった……というより自分の使いたいものを再現してもらっただけなのだが、ここまで再現率が高いとはマクギリスは思ってもいなかったので、純粋に感嘆が零れた。

 方や真紅に染まり、両手の盾に内蔵されたブレードとマシンガンが目立つ機体。もう片方は二つの短剣を持ち、背中にマウントされた巨大な電磁砲が鈍く光る白き機体。

 IS版にオミットされているとはいえ、マクギリス・ファリドという人間からは切っても切り離せない機体が揃ったのだ。

 

「よく再現できたな!」

「そりゃあ、君たち戦士の要望に応えるのが我々製作側の仕事だ。さぁ、自分の機体に名前を付けたまえ。用意周到なマクギリスくんのことだ、もう付ける名前は決まっているのだろう?」

「ああ、当然だ。真紅の機体は『Gurimugerude(グリムゲルデ)』そして、白い機体は

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――『Bael(バエル)』だ」




 皆様昨日ぶりですね、ティッシュの人です。

 さてさて、次回から本格的にマッキーがIS学園に絡んできます!さぁ、マクギリスはあの時のイズナリオのように自分を痛めつけた織斑家に復讐は果たせるのか、そして自らが望む伝説になれるのか!今後ともこの作品のマッキーを見守って頂けたら嬉しいです!

 感想など、軽いことでも構いませんので是非書いていただけるとアグニカポイントあげます!よろしくお願いします!では!


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#3 入学試験

ルプスのズサキャン出ない時があるので初投稿です。

お前下レバ入れてるよなぁ!?


「ここが、IS学園か」

 

 イタリアからチャーターした飛行機から出てきたマクギリスが思った感想は『広い』だった。人工島一つ丸々を改装したIS学園にはあらゆるものが揃っている。だが、裏では何かが隠されていると専らの噂でもある。

 今回、マクギリスがIS学園に降り立った理由、単に言えば『入学試験』であった。ISを持っているからと言って無試験で入る訳にも行かないので、学園側が形式的に導入した制度だった。だが、恐らく真の理由は『マクギリス含め男性操縦者の強さの確認』だとマクギリスは見抜いていた。

 

「これは……迷いそうだな」

 

 早く来た甲斐があった、そうマクギリスは考える。自らの計画を実行するために島の隅々まで見ておきたい、故にマクギリスは自身の試験の6時間前に来ていたのだった。

 

――――――

 

 6時間かけてたっぷりと見終えたマクギリスは、目的地であるIS学園に到着した。警備員に声をかけると、事前に伝えてあったのか直ぐに通してもらえた。

 『モンターク商会』という名で売り続けてきたIS用スーツを着込み、機体を展開する。無論モンターク商会はマクギリスが創立した会社で、IS用のスーツから武器まであらゆる物を提供する。半年でかなりの顧客を得ることが出来た上に収益金でファリド家の資産もかなり潤沢になったと言ってもいいだろう。少なく見積っても現在の日本円で9桁は容易にあるはずだ。

 

「この感覚……やはり、私の帰るべき場所はバエルだったか……!」

 

 博士によって手掛けられたバエルは、頭や胸は完全装甲であるが、前世のガンダムバエルの灰色のむき出しの部分、例えば腰やふくらはぎなどはむき出しだった。

 出撃口を飛び出したバエルとマクギリスは、試験相手である教員の目の前に降り立つ。

 

「……男なんてなんて汚らわしい、顔も隠さないと人前に降り立つことも出来ないなんて!所詮まぐれで乗った奴と戦うなんてなんて不名誉なんでしょう!」

 

 その女は、所謂女尊男卑の思想に染まりきった女だった。現代において、ISという『力』は持っているだけでステータスとなる。逆にその力を持たない男性は侮辱され、女性の下につくのが常識だとされてきた。

 だが、マクギリスは一切動じることは無い。今までで口だけの奴は散々見てきたし、そういう侮辱は山ほど受けてきたのだ。

 開戦のブザーが鳴る。女の打鉄はアサルトライフルを展開し、バエルに目掛けて射撃を始める。バエルは、ただブーストを吹かして横方向に避けるだけだった。

 

「ふん、やはりこんなもんですか……あーあ、やっぱりクズはクズでしたか」

「……言いたいことはそれだけか?」

 

 それだけ言うと、マクギリスは機体を90度反転させて背中の羽にマウントされた巨大な電磁砲を放つ。女は予期していなかったのか、黄色い射撃に直撃してしまう。

 電磁砲の真価は、威力ではない。威力なら下手をすれば商会で出しているスナイパーライフルに劣る。しかしながら、その真価は受けた時の衝撃にある。体勢を崩した女の打鉄はフラフラとその場で漂った。

 

「もう、逃げられまい」

「ヒィッ!」

 

 女はアサルトライフルの残弾を乱射するが、マクギリスは左右にグネグネと動くことで回避。そのまま右手のバエルソードで切りつけ、打鉄を打ち上げる。間髪入れずにマクギリスはその方向ベクトルをブーストで無理やり打ち消し、打ち上がった相手に切りかかる。

 

「どうしようどうしよう!!!こんな男に負けたくない!!!」

「……考えている場合か?」

 

 何度か切りつけたマクギリスはそのまま剣を打鉄のアーマーの隙間に突き刺して前に引き摺る。そのまま上へと引き摺り上げ、右手のバエルソードを突き刺し、柄を踏付けるとそのまま剣の刀身が起爆した。

 

「ひ、ひぃぁぁああああ!!!!????」

 

 打鉄は撃ち落とされ、地面に墜落した。その時点でブザーが鳴り、マクギリスの勝利を知らせるアナウンスが放送された。

 倒すまで、わずか5分。この事実は、教員ら全員にとって衝撃であったが、マクギリスにしてみれば大したことではなかったと言う。

 試験後、挨拶した教員はこんな言葉を聞いたそうだ。

 

『実戦を経験したことの無い者の技術など、こんなものか』と。

 

――――――

 

 マクギリスが宛てがわれた部屋は2人部屋だったが、説明してくれた山田真耶教員に拠れば今は誰も入る予定がないが、誰か転校してくれば入る可能性はあるらしい。少なくとも今は誰も来ない、その事実にマクギリスは感謝した。

 部屋に荷物を置いて一息つくと、電話に着信がかかる。開くと博士からの電話だった。

 

『マクギリスくん、機体はどうだったかな?』

「……そうだな、感触としては上出来だった。だが、バエルソードを起爆する上で、起爆したあと右手のバエルソードが使えなくなってしまうのは痛手だ。それに、電磁砲も衝撃を与える上では素晴らしい効果を発揮してくれはするが、如何せんチャージ時間が長すぎる」

 

 マクギリスはこの間にも盗聴器を探していた。少なくとも、今は無い。だがいずれこの部屋にも付けられるのだろうと警戒する。

 

『ふむぅ……そうさなぁ、バエルソードに関してはスペアをリロードコンテナに搭載するとしよう。幸い、装備が少ないおかげで拡張領域(バススロット)は有り余っているしな。そして、電磁砲に関してだが……』

「威力を低くして、チャージ時間を短くすることは出来ないか?」

『うーむ……何秒縮めればいい?』

「……1秒で構わない」

『……分かった、やってみよう。三日後には修正パッチを送ってやる』

「感謝する」

『ふん、人遣いが荒い奴だ』

 

 そんな憎まれ口を言いながら博士は一方的に電話を切る。博士はいつもこんな感じだ。だが、彼が憎まれ口を叩く相手は相当気に入っているということだ。気に入らない奴にはわざと失敗兵器を送る……とオータムから聞いていた。だから、マクギリスはなんだかんだで博士のお眼鏡に叶ったということになる。

 

「さて……これをどう処理したものか」

 

 彼の目の前の机には、入学までに読んでおかなければならないISの参考書が存在していた。ざっと見積っても10センチはあるだろう。まるで街の求人情報が載っている本のようだ。

 

「まあ、地道に読むしかないな。こういうのは、楽しようと思えば思うほど大変な事になる」

 

 マクギリスは、机に内蔵されているライトを着けると黙々とその本を読み始めた。

 一学期開始まで、あと3日しかなかった。




 どうも、こんばんは。ティッシュの人です。

 プロット練ってたりしたらそこで満足しかけました、イカンアブナイアブナイ……
 マッキー……ってかバエルの攻撃って結局アニメでやったのと、マキオンの攻撃しかないから戦闘描写に困りますね。言っちゃ悪いけど華がない。

 感想など、軽いことでも構いませんので是非書いていただけると作者からのアグニカポイントが増えます。よろしくお願いします!


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#4 運命

バエルの電磁砲何処にあるのか分からないので初投稿です。

内蔵されてるってガンプラにそんなディテール存在せんかったぞ。


 マクギリス・ファリドの朝は早い。朝4時に起きると、学園の敷地を20km走る。心地よい汗をかいたあとは、腕立て伏せとスクワットをそれぞれ200回ほどして、部屋でシャワーを浴びる。そこまでがワンセットだ。元々マクギリス自体運動は好きではないが、自らの肉体が変わっていくのを見るのはやはり心地よいものだと彼は思う。故にこんなトレーニングメニューを立てているのだ。

 今日は入学式だ。自分が入るクラスはどんなクラスになるのだろうと期待する反面、どうせ厄介事が起きるのだろうと嘆息した。

 

――――――

 

 IS学園の入学式はあまり長くない。だいたい1時間もすれば話は終わる。校長の話、生徒会長の話……そして、生徒代表。今年の代表はどうやら女尊男卑色の強い人らしく、ISが女性の権利を強くしたやら、男性は卑しい動物だやら、聞いていてうんざりするようなことばかりだった。

 入学式の後はそれぞれのクラスに向かう。マクギリスのクラスは1-1だったため、校舎を入ってすぐの場所にあった。

 自分の席に着席してみたが、明らかに座高があっておらずだいぶ窮屈だった。これではエコノミー症候群になるなとマクギリスはまた嘆息した。

 

「織斑くん?織斑くん!!」

「は、はい!」

「ごめんね、今自己紹介で『あ』から始まって『お』の織斑くんなの」

「あ、すいません……織斑春万です。えー……以上です」

 

 女性陣が春万に対してワーキャー叫ぶ中、マクギリスの興味も当然彼へと向かった。

 

(今、『織斑春万』と言ったか?)

 

 まさに運命。そしてそのまま運命はマクギリスの思惑通りになり……

 

「もっとまともな自己紹介は出来んのか」

「いっ…………げぇっ、関羽!?」

 

 再度叩かれる春万。まるで何かが破裂するような音を立てながら振るわれる出席簿には何故か傷一つない。言葉を何度かやり取りすると女はこちらに向き直った。

 

「……さて諸君、私が織斑千冬だ。君たち新人を一年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。私の言うことはよく聴き、よく理解しろ。出来ない者には出来るまで指導してやる。私の仕事は弱冠十五才を十六才にまで鍛えぬくことだ。逆らってもいいが、私の言うことは聞け。いいな」

 

 使い物などという時点でもはや人とは見ていないな、そうマクギリスは思う。なんせ自分もイオク・クジャンの事を使い物にならんと人としては見ていなかったのだから。

 

「キャ────!千冬様、本物の千冬様よ!」

「ずっとファンでした!」

「私、千冬様のためなら死ねます!」

「……毎年、よくもこれだけ馬鹿者が集まるものだ。感心させられる。それとも何か?私のクラスにだけ馬鹿者を集中させてるのか?」

 

 茶番のようなやり取りが交わされる中、マクギリスは心の中で感涙に咽いでいた。まさか、因縁の二人がこのクラスに集結するなどとは思ってもみなかったからだ。そして、彼らを計画に組み込むのも容易になる、故に彼らには私の手のひらの上で踊ってもらおうと考えた。

 

「自己紹介を続けろ」

「は、はい!じゃあ、次の方!」

 

 作業のように自己紹介が続く中、とうとうマクギリスの番となった。

 

「……私はマクギリス・ファリド。生まれも育ちもイタリアで、両親は商会を営んでいる。この度、数奇な運命により諸君らと共に勉学に励むこととなった。よろしく頼む」

 

 当たり障りない感じで自己紹介を終えて座るマクギリス。すると、たちまちそこかしこから黄色い歓声が上がる。

 

「キャー!金髪美青年よ!」

「イケメン!それに高身長!」

「多少高圧的なのも素敵!」

「その声で罵って!そのまま踏みつけてー!」

 

 何か変な声が聞こえた気がするが、何も聞いていないフリをしてマクギリスは後ろに手を振る。そうするとまた黄色い歓声が上がった。

 

「え、えーと……つ、次の人!」

 

 これは、山田先生も大変だとマクギリスは思った。1番の頭痛の種が自分であるとは夢にも思っていなかった。

 

――――――

 

「よう……ま、マクギリス・ファリドだったか?」

「君は……織斑春万か」

「お、覚えてくれてたんだな!同じ男として頑張ろうぜ!」

「……そうだな」

 

 この男は、マクギリス・ファリドという男が実は『織斑一夏』だったとは夢にも考えていないだろう。いつか自分の正体を明かす時、どんな顔をするだろうか。

 

「……ファリド、済まないがこの男を借りてもいいか」

「……ああ、構わない」

「じゃあな、ファリド!」

 

 あの幼馴染の少女はどう考えても篠ノ之箒だろう。なんとまぁ、ここまで因縁がある奴らが揃ったものだ。マクギリスは次の授業を確認すると席に戻って分厚い参考書を開いた。

 

――――――

 

 マクギリスが部屋に戻る頃には日は落ちて来ていた。夕陽が差し込む中、マクギリスはあることに気づいていた。

 

(カーペットに多少のズレが出来ているな……誰かが侵入したか)

 

 部屋に入った当初は盗聴器は存在していなかったが、部屋が確定した今日だからこそ付けたのだろうとマクギリスは推測した。

 キャリーバッグに入れていた卵サイズの瓶を取り出すと、ボタンを押して地面に放った。瓶は青い光を放つ、するとそこかしこから何かの電源が切れるような音が聞こえてきた。

 

(やはりか……博士にEMPグレネードを貰っておいて助かった)

 

 青い閃光はEMPの光だった。盗聴対策のため、マクギリスが事前に頼んでおいたものである。前世でマクギリスは何度も政敵から盗聴器を付けられたことがあったが故の対策だった。

 

「さて……これからの計画を考えるとしよう」

 

 マクギリスは服も脱がずに机に向かい、ルーズリーフを1枚取り出した。自らの野望、つまりはマクギリスがアグニカ・カイエルの伝説の体現者となる事だが、それを達成する為には観衆の注目を集めなければならない。一番集まる日がどこかと聞かれれば当然、文化祭の日だろう。文化祭にはただの客だけでなく、多数のメディアが訪れる。そこで演説をぶちあげれば、間違いなくマクギリスの考えを世界に発信することができるだろう。

 また今朝の自己紹介の時に、セシリア・オルコットというイギリス貴族の娘がいたが、オルコットという名前自体は数年前のイギリス領内でと鉄道爆破テロの時に聞いていた。確か別のテロ組織による犯行で、オルコット夫妻は爆破に巻き込まれて死亡していた、そう記憶している。また、彼女自体がかなり女尊男卑、あるいは国粋主義の思想に染まっているがために、明日のクラス代表決めでは波乱の展開になるだろうということも予測していた。

 しかしながら、今の時点で他の計画を建てることは時期早々であるとマクギリスは確信していた。今居る代表候補生は全学年合わせて12人。大国である中国、フランス、ドイツの代表候補生が居ない以上、途中で入学してくることは確実で、誰か分からない時点で計画が狂う可能性の方が高い。亡国機業のデータベースにアクセスすれば名前や顔写真などは分かるが、実際に会って人柄などを確認しなければ意味が無いのだ。

 

 マクギリスの夜は、こうして明けていくのだった。




 こんばんは、ティッシュの人です。

 さて、次回から原作人物に絡んでいきます。セッシーは割と好きだよ、一番じゃないけど。だから、そこまでアンチ対象にするつもりは無いし、多少のブレを入れつつも自然にマクギリスを入り込ませられたらいいなと思っています。

 ご感想、ご指導等がございましたら是非感想欄に書いてください。作者のアグニカポイントが溜まってエクバ2でバエルメインにさせることが出来ます。よろしくお願いします!


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#5 決闘

店内対戦でいきなりボコられたので初投稿です。

CPUやってたら対面にいきなり金プレ来たのマジ許さない。


「……ということなので……」

 

 真耶が教える声と、生徒達がノートに授業のメモを記す音が聞こえる中、マクギリスは分厚い参考書を未だに読んでいた。

 

「えー、ファリドくん。何か分からないところはありますか?」

「いえ、特にはありません。いずれ分からなくなったら頼らせていただきます」

「は、はい!是非頼ってくださいね!」

 

 真耶自体、頼られたい願望がある人間のせいでこういうことを言えば直ぐにご機嫌が良くなること自体既に見抜いているマクギリスは、立て板に水で真耶に話した。彼女はニコニコ笑顔のまま、春万に向き直すと同じようなことを聞いた。

 

「……えーと、ほとんど分かりません」

「……え?ほ、ほとんどですか?」

 

 これにはクラスの中からも困惑の声がちらほらと出るようになってきた。そして、どこからともなく千冬が現れて春万に聞いた。

 

「織斑、ファリドが持っている参考書は読んだか?」

「……古い電話帳だと思って捨てました」

 

 パァン!と物凄い音が響き渡る。本音に至ってはぎゅっと目を閉じてしまっていた。千冬は、教壇の下にあった新しい参考書を取り出すと春万の机に放り投げた。

 

「一週間で覚えろ」

「い、一週間!?」

「出来ないのか?ファリドは三日で覚えたぞ?」

「み、三日……」

 

 げっそりとした顔で春万はマクギリスを恨めしげに見るが、当の本人はすました顔で参考書を見続けているのだった。

 

――――――

 

「ちょっといいこと?」

「ん?」

「何か我々に用でもあるのか?セシリア・オルコット孃」

「まぁ!何てふてぶてしい態度なのでしょう!私に話しかけてもらえること自体素晴らしい事なのに!」

 

 春万は何だよという感じでまたげっそりとしていたが、マクギリスからすればこの程度想定の範囲内だ。むしろ話しかけてもらえただけ有難い。本人の性格が間近で把握出来るのだ。

 

「これは失礼した、だが我々は既に学を共に学ばんとする同級生だ。多少の上下関係の緩さは見逃していただきたい」

「……まあ、いいでしょう。私は、代表候補生というエリートですし分からないことがあったら聞いていただいても構いませんことよ?」

「じゃあ、早速なんだが……代表候補生って、何?」

 

 マクギリスは思わず溜息をついた。セシリアもワナワナと震えると声を大きくした。

 

「あ、貴方、そんなことも知らないのですか!?」

「織斑、代表候補生は国家を代表するIS操縦者の卵……つまりは出世が約束されたキャリア官僚のようなものだ」

「ふーん……すげえんだなぁ」

 

 相変わらず他人事のように呟く春万を見てマクギリスは春万に対する評価を改めた。

 こいつはイオク・クジャンに勝るとも劣らない無能だと。

 

――――――

 

「そう言えばクラス代表を決めねばならんな。自薦・他薦どちらでも構わん、やりたい者はいるか?」

「私は織斑くんがいいと思うなー」

「私もー!」

「お、俺!?」

「ファリドくんにお願いしたいな!」

「あ、それ私が言おうと思ったのにー!」

「……私か」

 

 二人ともそれぞれ別の反応をする中、彼らの他薦に異を唱える声が上がった。

 

「納得がいきませんわ!」

「……オルコット、何か意見があるなら言ってみろ」

「このような選出は認められません! 大体、男がクラス代表だなんて恥さらしですわ! そのような屈辱を、このセシリア・オルコットに味わえとおっしゃるのですか!?」

 

 おやおやとマクギリスは肩を竦める。噛み付いてくることは想定の範囲内ではあったが、ここまでとは思っていなかったため、つい感情が出てしまった。そんな彼を置いてけぼりにして、セシリアは話を進める。

 

「そもそも実力から行けば私がもっともクラス代表にふさわしいのですわ。それを適当な理由で、極東の猿男にされては困りますの! 私はIS技術を修めにきたのであって、サーカスの必修にきたわけではございませんわ!文化にしても後進的な国で暮らさなくてはならないこと自体、私にとっては……」

「イギリスだって大してお国自慢ないだろ。世界一メシマズで何年の覇者だよ」

「なっ……!というか、さっきから髪の毛を弄っていけ好かない顔をしているそこのイタリアの成り上がり貴族は何を黙っていらっしゃいますの!?何か言ったらどうですの!?」

 

 何ともまぁ、酷い有様になったものだとマクギリスは嘆息した。だが、ここで黙っていては計画に支障が出てしまう。彼は、元々考えていた文句を口から再生した。

 

「……そうだな。まぁ、私自身日本人ではないし、日本に対して特別な感情も抱いていないからさっきの発言については聞かなかったことにしよう…………まぁ、外交問題に発展するかもしれんがな」

 

 マクギリスがそう言うとセシリアは何かに気づき恐怖からかワナワナと震えた。

 

「だが、私が言いたいのはそこではない。貴女が『イタリアの成り上がり貴族』と言ったところだ。悪いが、それは私の家への侮辱と捉えてもいいのだろう?ならば、その侮辱は私に対しての侮辱と同じだ」

「……だ、だったらなんですの!」

「……簡単な話だ。私は、貴女に決闘を申し込む。私が勝った場合、今の発言を撤回してもらおう」

「け、決闘!?ま、まさか私に勝てると思っているのですか!?」

「……最初から負けると思う奴がいるか?」

 

 バチバチと両者から火花が散る中、千冬は教卓に出席簿を叩きつけると話を強引に断ち切った。

 

「よし、決まったな。それでは勝負は一週間後の月曜。放課後、第三アリーナで執り行う。織斑とファリドとオルコットはそれぞれ用意しておくように。では授業に戻る」

「待ってくれよ、千冬姉!俺は……」

「知らん、それとここでは織斑先生と呼べ」

 

 また、教室に破裂音が鳴り響いた。

 

――――――

 

「マッキー、大丈夫なの〜?」

「……その名前はなんだ?」

「渾名〜、可愛いでしょ〜?」

 

 そうマクギリスを呼ぶのは布仏本音。いつも眠そうにしているマクギリスの同級生だった。

 

「……まぁ、構わない。それで、何が大丈夫なんだ?」

「セッシーに決闘なんて挑んで、大丈夫なのかな〜って思って」

「……まぁ、言った通りだ。確かに私は彼女に比べて戦闘経験は少ないだろう。だが、それでも負けると思ったら決闘を申し込んだりはしないさ」

 

 嘘だ。そうマクギリスは思った。彼女のような温室ぐらしの貴族に比べれば亡国機業の一員として後方の指揮官とはいえ戦闘してきたマクギリスの方が経験値ははるかに多い。だからこそ、負けるとは思っていなかったが、一つだけ未だに未知数のものがあった。

 それが、BT兵器だ。マドカから多少は存在を聞いているとはいえ、実際に動いているところを見ることはできなかった。セシリアの専用機である『ブルーティアーズ』はBT兵器を搭載したオールレンジ対応型機体と聞いているため、それに対しての対策が不自由な今少しでも経験値を積んでおこうというのが実際の理由であった。

 第一、彼女の言っていた侮辱はあながち間違いではない。亡国機業のポケットマネーでモンターク商会を建てて、金儲けでイタリア貴族の基盤を作っているのだから、成り上がりと言われても否定のしようがないのだ。

 

「そっか〜、じゃあ楽しみにしてるね〜……あ、チョコいる?」

「ああ、頂こう」

「はい、ど〜ぞ〜」

 

 そんな事を考えながらマクギリスは本音から貰ったチョコレートを口に放り込んで、すぐに顔をしかめた。

 

 

 

「…………苦い」




 どうも、ティッシュの人です。

 さて、次回はバトルシーンですよ、バトルシーン!マジ辛いっす。バエルくんの戦闘シーン、ほぼ格闘しかないから何書いても一緒になっちゃうのほんまにアグニカ・カイエル。

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#6 青い涙

アトラスに乗れと言われたので初投稿です。

ジャンプ派生ってなんじゃ


「じゃあ、頑張ってきてね〜」

「応援してるからね!」

「私が推薦してあげたんだから、負けることは許さないんだから!」

 

 色とりどりの声援を受け取ったマクギリスはニコリと微笑む。すると、黄色い声援が沸いた。

 

「えっと、ファリドくん。準備はいいですか?」

「ええ……来い、バエル……!」

 

 マクギリスが乞うと、黒いISスーツの上に見慣れたバエルの装甲が取り付けられる。後ろのスラスターの電磁砲はパッチで修正されたあとの低燃費型に変わっているために、多少なりともスラスターはスリムになった。

 フェイスアーマーのセンサーを光らせるとマクギリスはカタパルトに足を載せる。

 

「マクギリス・ファリド、バエル、出るぞ!」

 

 今、アリーナの空に伝説(アグニカの魂)が飛び立った。

 

――――――

 

「あら、逃げずに来ましたのね」

「流石に、自分から持ち込んだ決闘で逃げる訳にもいかないだろう?」

「ええ、そうですわね……でも、その自信は私が粉々に砕ききってあげましょう!」

 

 適当な挑発の応酬が終わると、ブザーが鳴った。セシリアがレーザーライフルである『スターライトMk.Ⅱ』を構えたのに対してマクギリスは、突貫を試みた。

 

「……馬鹿にしてるのですか!」

 

 セシリアは、問答無用でMk.Ⅱをマクギリスに撃つと、彼は右手のバエルソードの面を向けて受けようとしたが、レーザーには耐え切れずそのまま貫通して、バエルのSEを削った。

 

「……なるほど」

 

 マクギリスは、理解した。バエルソード等ではレーザー兵器の攻撃は受け止めきれないということに。前世ではナノラミネートアーマーの為に、ビーム兵器は効かないはずだったのだが、どうやら博士はそこまでは再現してくれなかったようだ。

 マクギリスは、戦術をシフトして逃げに徹した。後ろの羽根のようなブースターを吹かしてアリーナの中をグルグルと回るように逃げて行く。

 

「逃げるしかなくなったようですわね。行きなさい、『ブルーティアーズ』!」

「……あれが、BT兵器か……!」

 

 小さな細々とした4基の機械を見て、マクギリスは唸る。やがて、それらはマクギリスのバエルを囲って一斉にビームを放った。

 

「チィッ!!」

「踊りなさい、私とブルーティアーズが奏でるワルツを!」

 

 徐々に削られていくバエルのSE。だが、マクギリスはまた1つ突破口を見出していた。彼女がBTを動かしている間、彼女は身動ぎもしていない。恐らく、BTを使うのには集中力が必要だからだ。だからこそ、今は無防備なのだと。

 そう思ったマクギリスは、バエルの機体をブルーティアーズに向けると、羽根にマウントされた電磁砲を放つ。黄色い弾丸は無防備なセシリアの腹の部分に当たり、衝撃が彼女を揺さぶる。

 

「くっ……なんですの!?」

「……捉えたぞ……!」

 

 そのままバエルは機体を傾けながら左右に移動しつつ、突貫してくる。まるで残像を残しながら飛んでくるバエルにセシリアは手にあったレーザーライフルを撃つが、かすりもしなかった。

 

「もう、逃げられまい……!」

「なぁっ!?」

 

 弾幕を突破したマクギリスは、そのままバエルソードを突き出して彼女を打ち上げ、追撃を加える。袈裟斬り、逆袈裟斬り、蹴りを喰らわせると、そのままグルグルと回って二回斬り彼女をさらに打ち上げた。

 

「まだだ……!」

「くっ……!」

 

 彼女は焦っている。そう確信したマクギリスは機体をさらに反転させると彼女に追撃を喰らわせんと、剣を前にクロスさせて突撃した。

 だが、彼女は諦めてはいなかった。伏せていた顔を上げると堂々とこう告げた。

 

「ですが、私のブルーティアーズは6基ありましてよ!」

「……!?」

 

 マクギリスは内心驚いてはいたが、立ち止まることはしなかった。ここで立ち止まれば必ず撃ち抜かれる。そう考えたマクギリスは足を止めることはせず、目の前から射出された2つのミサイルを正面から受けた。

 爆風と煙が上がり、セシリアは勝ち誇ったような笑みを浮かべた。しかし――――――

 

「な……なんで、なんで!?」

 

 バエルは、剣をクロスさせたままこちらに突撃し続けている。慌ててセシリアは格闘武装である『インターセプター』を取り出そうとしたが、もう遅かった。

 マクギリスは、悲鳴(アラート)を鳴らす機体を無視してそのまま突撃した。剣はセシリアに直撃。そのままマクギリスは装甲の間に剣を突き刺すと正面へ引きずる。そして、上に持ち上げるとX字を描く様に切りつけた。

 セシリアのブルーティアーズが地面へと墜落した時、彼女のSEは0となり、マクギリスの勝利を知らせるアナウンスがアリーナに鳴り響いた。

 接戦に接戦だった試合のためか、最早セシリアの極東の島国発言を忘れきったかのように両者に盛大な拍手が送られた。マクギリスは、それを見ると自らが出てきたカタパルトに機体を走らせた。

 

――――――

 

「お疲れ様でした、すごい試合でしたね」

「ありがとうございます。あ、トイレはどこでしょうか。その時間くらいはありますよね?」

「え、ええ……トイレはあちらにありますよ」

「すみません、失礼します」

 

 そう言うとマクギリスは、バエルを白い首飾り(待機形態)に戻してトイレに消えていった。マクギリスを賞賛していた彼女は、このあとに起こる事にとてもショックを受けたそうな。

 

――――――

 

「ああ、問題はなかった。バエルソードも、今回は爆発のギミックは使わなかったにせよ、レーザー兵器の攻撃を受けると破壊されたから、スペアのものを使ったし、それの斬れ味も申し分なかった」

『そうかそうか……なら良かった。一度、調整をせにゃならんかと思ったが、そんな事はなかったな』

「……ちなみに、どんな調整をするつもりだったんだ?」

『……それは教えられ、コラっ何をする!?うわっ!』

「博士?」

『教えられないじゃねえだろ、ボケジジィ。マクギリス、いいか?こいつはお前の機体を魔改造して跡形も無く自分好みの機体に変えようとしていたんだぞ?』

 

 途中で無理矢理変わったオータムからのメッセージにマクギリスは溜息をつく。その溜息があちらにも聞こえたのか、博士が何か言ってくるが疲れた様な表情を浮かべ、電話を切った。

 次は、織斑春万との対戦だ。やる気は起きないが、やるしかないと自分を奮い立たせていたら、アリーナから新たな歓声が上がった。どうやら勝負がついたらしい。随分と早い勝利だなと思ってアリーナに仕掛けていたカメラから様子を見ると、どうやら春万が自爆したらしい。

 白式に付けられている単一能力は『零落白夜』で、自分のエネルギーをバカ食いする代わりに相手に絶対防御を無視した致命的な一撃を与えるという代物だった。ちなみに、亡国機業が1番危険視している機体がこの白式だった。

 絶対防御を無視した一撃を与えるということは、つまりISの搭乗者を守るシステムを貫通するわけで、簡単に人殺しになれるという大変危険なものなのだ。それに、織斑春万は姉である千冬のほぼ言いなりのようなものだったとマクギリスは記憶している。故に、千冬の一声で春万が人殺しになる可能性があるのだ。

 

(それに、先程の勝負で織斑春万は自爆した。つまり白式を扱いきれていない証拠だ。今勝負しては、最悪俺が死ぬ可能性がある)

 

 

 

 

 マクギリスは、この後の春万との勝負に、姿を現すことはなかった。




 どうも、ティッシュの人です。

 やっぱ戦闘シーンめっちゃ書きづらい。バエルくん、コンボ少ないし、単発攻撃にしたらしたでダサいし。

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(でもバエル使いこなせねぇんだよなぁ)


ps.ルーキー日間評価48位!?マジ!?アグニカ・カイエルの魂凄すぎへん???


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#7 闇の中で

シャア専用ゲルググ楽しいので初投稿です。

やきうの時間だァァァあぁああああ!!!!

ps.UA8000!?うせやろ!?


「あの……」

 

 次の日、マクギリスが昼食を学食で食べている時に唐突に声をかけられた。顔を上げるとセシリアが和食をトレーに乗せて立っていた。

 

「……なんだ?」

「その、相席構いませんか?」

「構わんよ」

 

 マクギリスが席に座るように促すと、セシリアは対面の席に座った。もじもじと、何かを躊躇うような素振りをみせるといきなり深呼吸をした。そして、意を決したようにマクギリスに言葉を発した。

 

「あの……この度は申し訳ございませんでした」

「ん?……ああ、侮辱の事か?」

「はい、そうです……ヒステリックになっていたとは言えど、あのような発言は許されざることですから」

 

 セシリアが切羽詰まったようにそう述べるとマクギリスは笑って自分のトレーのエスカルゴのオリーブオイル揚げを口に入れる。

 

「いや……言われてみて考えたのだが、実際私の家系は父の代でモンターク商会という会社を立て、大成功を収めて貴族の位を買った成り上がり貴族でな。正直反論の仕様がなかった」

「……で、ではなぜ……?」

「表向きは、侮辱されたままでは私の面子がボロボロのままになってしまうことだな。流石にそれだけは避けたかった」

 

 では裏は?と聞こうとしたセシリアを遮りマクギリスはこう続ける。

 

「ただ戦いがしたかったからだ」

「……は?」

「……そんな顔をするな。男性の操縦者だからという理由だけで入れられたんだ、戦闘経験なんて私にはほとんど無い。故に……」

「私と戦うことで経験値を得たかった、ということですわね……はぁ、利用されただけでしたか」

 

 セシリアはため息をつくと味噌汁を一気に飲み干した。

 

「……はぁ、全く貴方という人は……」

「私はこういう人間だからな、それでも良ければこれからも仲良くしてくれ」

「ええ……いつか私が弄んで差し上げますわ」

「……それは楽しみだ」

 

 ここに、二人の友情が芽生えたのだった。

 

――――――

 

 セシリアがクラスで受け入れられ、春万がクラス代表に持ち上げられ、授業が終わり、放課後になった時にはマクギリスは整備室に居た。セシリア戦の時に関節部をどうやらやってしまったらしく、今日の模擬演習で右肘が干渉しあってしまった。

 

「……うっわぁ、だいぶ酷い使い方しましたねぇ……これじゃあ機体も泣いてますよ?」

 

 泣きたいのはこっちだと叫びたい心を抑えて、マクギリスは整備士に話を聞く。

 

「そうか……何時ごろ直りそうだ?」

「まあ、この位なら2日あれば直りますよ」

「2日か、わかった。よろしく頼むよ」

 

 整備士に一礼して出て行こうと思った時、格納庫で一人ISに機材を繋げて調整をする少女が目に入った。

 

「……あれは誰だ?」

「あぁ、あの子ですか。あれ、あの子の専用機で未完成なんですよ」

「未完成?専用機なのにか?」

「ええ、どうやら織斑春万の機体である白式を作るために倉持技研が彼女の専用機の開発を途中で放り投げたとか何とかで」

 

 マクギリスはここで1つ気にかかることがあった。本来、専用機というのはその人の為に企業が一体となって取り組む、言わば技術の見せ所のようなもので、手短に言えば強ければ企業のイメージアップに繋がる一大企画なのだ。

 倉持技研が、なぜ彼女の機体開発を放り投げて織斑春万というド素人の機体を作ることに集中したのか。それがマクギリスには分からなかった。

 気になってしまったが故に、マクギリスは彼女の元へ近づく。

 

「……何をしているんだ?」

「……あなた、誰?」

 

 棘を過分に含んだ、正しく誰も寄せ付けようとしない冷たい声だった。マクギリスは前世で司令官の立場にあった以上多くの政敵や兵士たちと話してきたが、ここまで冷たい声を出す者はいなかったと記憶している。だが、マクギリスは怯むことなく話しかける。

 

「……機体を作っているのか、一人で?」

「……あなたには関係ないでしょ」

「まあ、無いといえばないのだが、ここでこうやって話している以上関係はあると言っても問題ないと思うが?」

 

 屁理屈をこねると水色の髪の少女はため息をついてマクギリスを睨みつけた。

 

「……邪魔」

「邪魔、か。言わせてもらうが、機体は1人で作るものでは無いだろう?」

「……煩い」

「なぜ1人で作っているんだ?」

 

 彼女はそう聞かれると立ち上がり、180cmはあるマクギリスを下から睨みつけた。

 

「……あなた達男性操縦者のせいで、私の機体の開発は凍結した!」

「悪いが、それに私を巻き込まないでくれるかな。生憎、私の機体はイタリア政府が作ったものでね」

 

 この発言自体イタリアの代表候補生に聞かれれば処罰モノなのだが、そんな人間は今の時間の格納庫には存在しなかった。水色の髪の少女はさらに続ける。

 

「それに、私には1人で作らなければ理由がある!」

「……意地、か」

「……そう、だから私に近寄らないで」

「いいや、断る。俄然興味が湧いてきた」

「……はぁ?」

 

 顔を顰めてこちらを見る水色の髪の少女。マクギリスは右手で携帯を操作しながらこう告げた。

 

「君がそこまでしなければならない理由、それが気になるし何より……」

「……何より?」

「君一人の力では確実にその機体は組みあがることは無い」

「……!」

 

 怒る少女を手で押し止め、マクギリスは「だが」と続ける。

 

「私の機体を作った博士に相談すれば、一発で解決するかもしれんな」

「……でも、お姉ちゃんは……!」

「……君には姉が居るのか。だが、君の姉は恐らくだが一人で作ってなんか居ないと思うが?」

「嘘を言わないで!」

「嘘ではないと思うがね。恐らくだが、それはプロパガンダと言われるヤツだろうな。一人でISを組み上げられるものなどよっぽどのメカニックの天才しか出来んよ」

「じ、じゃあ……」

 

 少女は顔を青ざめて、マクギリスを怯えたような目で見ている。マクギリスは、そのまま言葉を続けた。

 

「そう、君が追いかけ続けた姉の姿はただの幻想だったんだよ。だからもう、その幻想に怯えることなく誰かと協力し合っても問題ないはずだ」

「……協力」

「そうだ……折角だ、名前を教えてはもらえないだろうか。私はマクギリス・ファリド、君は?」

「……簪、更識簪」

「簪……確か、日本の髪留めだったか。よろしく頼む……では、始めようか。既に博士との電話は繋がっている、あとは君が覚悟を決めるだけだ」

 

――――――

 

 問題はすぐに解決した。マルチロックオンシステム『山嵐』を発動した瞬間機体出力が下がる問題を、博士は一瞬でCPUの問題だと見抜き、簪にどうすればいいかを指示した。

 それにより問題は解決したどころか、何故かカタログスペック以上の出力が出るようになっていた。マクギリスが博士に聞くと『いやぁ、無駄が多すぎてなぁ……コレばっかりは仕事の癖だ、許してくれ』と言われた為にしょうがなく許した。

 

――――――

 

 1-1の代表就任パーティーがあるらしいと、本音から誘われたマクギリスは丁重にお断りした。パーティーは嫌いではないのだが、如何せん主賓の織斑春万との折り合いが悪い為に急遽出ないで、トレーニングを続ける事にした。

 春万との対戦を休んだマクギリスは、その後千冬にこっぴどく叱られた。理由として、トイレに行ったら右腕が痛んだために休んだと説得したら巫山戯るなと一蹴され、反省文5枚という刑を喰らった。無論真面目にやるつもりはなかったマクギリスは、スコールに相談しすぐ様亡国機業に居る計画担当の人間に投げつけた。元々、書くのが好きな人種だから大して困っていないだろうというスコールの目論見だった。

 時計の針は20:00を指し示している。懐中電灯を片手に学園の敷地内を走り回っていたマクギリスは、謎の人影を見つけた。

 

「うー……この学校広すぎ……事務所は何処なのよ、もう!」

「……?」

 

 聞き覚えがあるようなないような声を聴いたマクギリスは首を傾げて、其方へと向かう。無論懐中電灯を付けることを忘れずに。

 

「おい、そこで何をしている」

「ひぇっ!?あ、怪しいものじゃありませんよ!ただ事務所がわからなくて迷子になっていただけで……」

 

 マクギリスは、たどたどしく言い訳を並べるその人を知っていた。小学校で編入してきて虐められていた中国人。凰鈴音、その彼女であると。




どうも、ティッシュの人です。

さて、今回はサイドストーリーっぽい感じでまとめてみました。
ちなみに、セシリアは鉄血のオルフェンズでいうカルタ・イシューのポジションです。まぁ、それっぽいよね。マッキーに恋心は抱いてないしどっちかと言えば友情に近いけど。
そして、簪ちゃんと楯無会長の和解シーンはこの作品にはございません。というか和解させちゃうとマッキーが興味を惹かれた理由が1つ減っちゃうからね。仕方ないね。
そして鈴ちゃん。可愛いよね、元気なツンデレっ娘は二次元属性としては最高だよね。現実だとめんどくさいことこの上ないないけど。

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マッキー面倒なこと絶対やりたがらないと思う。


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#8 アルミリア・ボードヴィン

交流会抽選漏れしたので初投稿です。

ワシもフリプやりたかった。(血涙)

ps.なんでこんな伸びてんだと思ったら宣伝されてるぅ!?
宣伝してくれた『みっつー』さん、ありがとうございました!頑張って完結まで書きます!


「ありがとう、助かったわ」

「そうか、帰り道は迷わないようにな」

「……子供じゃないんだから迷わないわよ!」

 

 鈴はツインテールを揺らしながらマクギリスに吠えた。マクギリスは笑うと手を振って、寮に向かって走り出した。それを見ながら鈴は気付くのだ。

 

「……あ、名前聞くの忘れた」

 

――――――

 

「クラス対抗戦?」

「うん、そうだよ〜。優勝すると半年スイーツ食べ放題なんだって〜」

「なるほどな、だからこんなに女性陣が色めき立っているのか」

 

 マクギリスが見渡せばクラスの女子生徒達が『食べるために痩せなきゃ!』『織斑くん頑張ってね!』と騒ぎ立てている。

 マクギリスは、確実に春万が優勝出来ないと踏んでいた。何せ、戦闘経験なんて皆無の男性操縦者な上に未だに機体を使いこなせていない。さらに言えば、彼のISの単一能力『零落白夜』は相手のSEを完全無効にして攻撃するという危険極まりない攻撃なのに本人がその危険性を理解していないのだ。

 

「マッキーは、スイーツ好き?」

「……チョコレートは好きだが、スイーツ全般となると話は違ってくるかもしれないな」

「そうなんだ〜」

 

「そういえば、2組に転校生が来たらしいよ」

「えー?こんな時期に?」

「こんな時期に来るからには操縦上手いんだろうなぁ」

「でも、織斑くんは男性だし、大丈夫でしょ?」

 

 そんなことを女子グループが言っていると、1組のドアがバァンという大きな音を立てて開いた。光の中にはマクギリスが昨日案内した彼女が立っていた。

 

「その情報、古いよ!」

 

 鈴がそうやってアピールすると、春万が立ち上がって嬉しそうな声を出した。

 

「鈴?お前、鈴なのか!?」

「久しぶり、春万。そして私は代表候補生とクラス代表になった、この言葉の意味わかるわよね?」

「……ま、まさか」

「そう、1回戦の相手はこの私よ!」

 

 無い胸を張って鈴は堂々と告げた。どうやら正面から勝つ気満々のようだったが、マクギリスはどうにも気になって仕方が無いことがあった。それは、鈴が春万と言葉を交わす度に一瞬嫌な顔をすることだった。すぐ笑顔になるから春万には分かっていないようだが、マクギリスにはそれが気になってしょうがなかった。

 後ろでは箒が鈴と何かを言っているようだったが、マクギリスはそんなことを気にすること無く、なぜそんな顔をしているのかを考え続けた。それは、千冬が鈴を威圧してクラスルームに入ってくるまで続いた。

 

――――――

 

「相席してもいい?」

「……君は……」

「そ、昨日のことお礼言いたくて」

 

 マクギリスがいつものようにスパゲティを食べていると麻婆豆腐丼を持ってきた鈴がそう述べてきた。マクギリスが構わないと言うとドカッと目の前の席に座って、彼をジロジロと見つめていた。

 

「……何だ?」

「……なんでもない。昨日はありがと、もし来てくれなかったら私道に迷ってた」

「……もしかして方向音痴か?マップを持っていたと思うのだが?」

「ち、違うわよ!ただ……初めての場所だからよく分からなくなっちゃっただけ!」

 

 世間ではそれを方向音痴と言うのではないだろうかとマクギリスは思う。確かにIS学園の敷地だけでもヴァチカンより大きいだろう。ただ、いくら転入生と言えどわかりやすいマップが提供されるはずなのだが……

 

「そうか」

「とにかく、私が言いたかったことはそれだけ!じゃあね!」

 

 鈴はマクギリスの前で急いで麻婆豆腐丼を食べる。それを見た他の生徒は皆思ったことだろう。『そんなに早く食べたら、口から火を噴くぞ』と。

 この後、鈴が辛さに涙した事は言うまでもない。

 

――――――

 

「一人部屋かぁ……はぁ〜、今日はいろんなことがあったわ……」

 

 真耶から受け取った鍵で自室の鍵を開けて、鈴は制服姿のままベッドへと飛び込んだ。フカフカのベットの中で色々考える。

 いきなり中国から日本に来て虐められ、それを助けてくれた(一夏)の事を。そして、彼が4年後には誘拐されて行方不明になってしまった事を。

 鈴は未だに、彼がどこかで生き続けていると信じている。それは、単純に自分を守ってくれた彼が消えてしまったことを信じたくないだけなのかもしれないと、自己嫌悪に陥る日もある。それでも彼の事を想わずには居られないのだった。

 

「…………一夏ぁ……」

 

 それに、鈴は織斑春万とその姉の千冬が気に食わなかった。一夏が自分を助けてくれた時、彼の服はシミだらけで所々にアザが出来ていたのを鈴は知っている。彼の家族である春万や千冬はそれを知っているはずなのにあえて無視し続けた。そして、誘拐事件の時も彼らはいつものようにただ日常を過ごしていた。

 普通、弟が誘拐されて行方不明になったとしたら学校になんて来れるはずがない。それなのに、彼らは来ていた。つまりは、彼は取るに足らない存在だったということだ。それが、鈴には許せなかった。でも、それ以上に一夏を失ったという悲しみが大きすぎた。

 だが、今日会った事でその憎しみが再燃した。彼等だけは許しておけない、そういう正義の塊のような物が鈴の心の中で燻っていた。

 

「……ま、考えてもしょうがないか。シャワー浴びちゃお」

 

 鈴は結局気づかなかった。自分が寝ていた隣のベッドの横に置いてある、別のキャリーバッグの存在に。

 

――――――

 

 マクギリスが夜のトレーニングから帰ってきた時には時計の針は9時を回っていた。自室を開けると中から女性の鼻歌が聞こえてきて、一緒にこっちに近づいてくる足音もしてきた。

 

「あー、貴女がルームメイトね。私は凰鈴音、よろし……く…………」

「…………」

 

 マクギリスと目が合う。二人に重苦しい雰囲気がのしかかってくる。いくらマクギリスと言えど、いきなり自分の部屋から女性が、それも一糸まとわぬ裸で鼻歌交じりでやって来たら何も言えなくなってしまう。

 

「あー……何も見てなかったことにするから、早く服を着たらどうだ」

「……い、いやぁぁああああああああああ!!!!!!」

 

 寮に女性の悲鳴と重い殴打の音、そして男性の呻く声が響いた。その声を聞いて真耶が向かうと、そこには目を回して壁にもたれかかっているトレーニングウェアのマクギリスと、バスタオルで身体を隠して顔を真っ赤にしている鈴が立っていた。そして、彼女は思い出した。

 

「あ……言うの忘れてました」

「なんで一番大事な事忘れてるんですかぁぁああああ!!!!!」

 

――――――

 

『ん……ここは……?』

 

 マクギリスが目覚めると、一面の白い世界に立っていた。そして、前を向くと目の前でユラユラと世界が揺らめいた。そのまま見続けているとその揺らめきは形を変え、見覚えのある形へと変貌した。

 

『……アルミリア』

 

 自らの婚約者だったアルミリア・ボードヴィン。彼女を幸せに出来なかったことが、マクギリスにとっては唯一そして最大の心残りだった。だが、この世界に来てから、こんな夢を見ることはなかった。それに、アルミリアはこの世界には居ないのだ。なのに、なぜいきなりこんな夢を見ているのだろうか。

 アルミリアはマクギリスへと振り向いて、ニコリと笑ってそのまま前へと歩いていく。振り向くことなく、ただ前へ前へと進んでいく。そして、急に止まると彼女はもう一度マクギリスを見てこう呟いた。

 

『……マッキーのバカ』

 

――――――

 

「……!?」

 

 マクギリスは飛び起きた。あんな夢はもう二度と見たくはない、それを裏付けるかのように彼の顔には汗がびっしりと張り付いていた。すると、横からあの声が聞こえてきた。声のした方向を見ればさっき自分に踵落としをしてきた彼女がいた。今度はちゃんと猫柄の寝巻きを着ていた。

 

「……あ、起きたのね。その……さっきはごめんなさい」

「いや、私も警戒せずに入ってしまったからな。ずっと自分一人だけだと思っていた私のミスだ、すまない」

「……その、さっき山田先生から連絡するの忘れたって聞いたけど、まさか貴方だと思わなかったしそれに……は、裸を見られちゃったから…………ええと、怪我は大丈夫?」

 

 マクギリスは、踵落としをされたであろう後頭部を触るとそこには小さなコブが出来ていた。触らなければ2日程度で治りそうな小さなコブだった。

 

「……まあ、大したことはなさそうだ。それで、君が私のルームメイト、という事になるのか」

「そういう事になるわね……じゃあ改めて、私は凰鈴音。貴方は?」

「私はマクギリス・ファリドだ。よろしく頼むよ、凰」

「鈴でいいわよ、私もマクギリスって呼ぶから」

「そうか、ならよろしく、鈴」

 

 適当な挨拶を交わすと鈴はすぐにベッドの中に入ってしまった。そそくさと電気を消すと、小さく「おやすみ」と呟いて寝てしまった。

 勝手な奴だなとマクギリスは小さく笑うが、眠っていられる暇などなかった。あの夢がいきなり出てきた以上、何故出てきたのかを考えずには居られない。横目でチラリと鈴を見ると、もう小さな可愛い寝息を立てて夢の世界に入ってしまっていた。

 もしかすれば、自分は鈴とアルミリアを重ねて考えてしまっているのかもしれない。体格的にも、身分は違えど性格的にも、彼女とどこか似通った所があると考えて、アルミリアを思い出したのかもしれない。

 

(……いや、まさかな)

 

 そんな下らない妄想を振り切るとマクギリスは目を閉じた。今度は、あの夢を見ることは無かった。




どうも、ティッシュの人です。

今回は、鈴ちゃんに重きを置いて書きました。ってか、言っちゃうとマッキーのヒロイン鈴ちゃんです。
この作品のプロットを考える前から鈴ちゃん≒アルミリアは頭の中にありました。だって体格的にも似てるからね。本音ちゃんは……その、マッキーの隣に立たせる上でアンバランスすぎてダメでした。ごめんよ本音ちゃん。

ということで、次回『#9 ギャラルホルンの笛の音は』お楽しみに!


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#9 ギャラルホルンの笛の音は

エピオン楽しいので初投稿です。

エレガントとは裏腹のHDループ。


「……あと5分……」

「そんなことを言っていると遅刻するぞ、頭にコブを作りたくなければ早く起きろ」

「コブ!?ごめん、マクギリス!」

 

 ベッドで眠りこけていた鈴はマクギリスの『コブ』発言で一気に覚醒した。あの事件以来、自分の中でどうも収まりきっていないのか『コブ』という単語にやたらと反応するようになったと鈴は思う。ただそれは、やましいとかそういうのではなく、純粋にマクギリスに対しての申し訳なさからだった。

 

「…………フッ」

「あー!今笑ったなー!?」

 

 そんな考えとは裏腹にマクギリスは微笑むように鼻で笑った。鈴はそのウザいルームメイトの胸板をポカポカと両手で殴りつける。残念ながら身長差のせいで顔には手が届かないのだった。

 

「……今日はクラス対抗戦だろう?こんな日に寝坊したら後世まで語り継がれるぞ」

「うー……分かってるわよ、着替えるから外出て待ってなさい!」

 

 その言葉を言うとマクギリスは「わかった」と述べて部屋を出てドアを閉めた。そんな彼の姿を見て鈴は少しは襲ってきてくれてもいいのにと思ったりする。ルームメイトになって1週間が立ったが、マクギリスは一向に鈴に対してアクションを仕掛けてくることはなかった。強いていえば時たま汗だくで帰ってくることぐらいか。本人曰く、トレーニングの帰りらしいが、あそこまで汗だくになるものなのだろうか。

 もし襲われたとしても追っ払う自信はある。何せ自分はここに来るまでに中国拳法はずっと習ってきていたのだ、男だろうと追っ払得ると思っていた。

 

(やっぱり……この小さな胸が悪いのかな)

 

 まな板だの絶壁だの言われては来たが、流石にここまでアクションがないと流石の鈴も自信が無くなってくる。そんなことを考えていたら、マクギリスから遅いと呼ばれた為に鈴は急いで服を着替える。

 両者の思いは、まだ交錯することは無い。

 

――――――

 

 アリーナの席はほぼ満席だった。今日は授業も休みで教員達の仕事も無いのか、チラホラと教員が座っている姿も散見された。マクギリスの横にはチョコレートやクッキーなど、あらゆるお菓子ををこれでもかと持ってきている本音がいた。マクギリスは彼女からチョコレートを貰って食しながら考える。

 

(今回の戦いは、クラスメートには悪いが鈴が勝つだろうな)

 

 身内贔屓という訳ではなく、単純に戦闘技術と経験値の問題だった。ISに限らずMSを含めあらゆる戦いにおいて、技術と経験は絶対的な価値となる。例えガンダムフレームに乗っていたとしても乗っている人間が戦闘初経験で、グレイズに乗っているのがベテランだとするならば、確実にグレイズが勝つだろう。それに鈴は代表候補生故に第三世代ISを所持している。つまるところ両者共にガンダムフレームに乗っているということと同じである。ならば勝つのは戦闘経験豊富な鈴だろうという冷静な判断だった。

 

「マッキーは、どっちが勝つと思う〜?」

「私か?私は恐らくだが、2組が勝つと思う」

「裏切るのか〜」

「裏切る訳では無い、だが戦闘技術からすれば一目瞭然だろう?」

「そうだけど〜」

 

 本音と他愛のない話をしていると唐突に携帯の電話が鳴った。画面を見ると、非通知電話だった。マクギリスは本音に断って、人気の少ない倉庫へと駆け込んだ。

 

――――――

 

「誰だ」

『……IS学園三年のダリル・ケイシーだ。一応これでも先輩なんだぜ?』

「……その先輩が何の用だ、非通知で来るということは何かイレギュラーな事なのだろう?」

 

 マクギリスが眉をひそめながら言うと、電話先のダリルは愉快な笑い声をあげた。

 

『そりゃそうだ。Dって言えば分かるだろ?』

「……ああ、泥棒猫のDか」

『違ぇよ!……で、まあ話を戻すぞ。今日の1組対2組の試合中に仕事が降ってくるってよ』

 

 『仕事』という言葉にマクギリスはさらに顔を顰める。そんな言葉が来るということは碌でもないことが起きるということだ。マクギリスは今までの亡国機業での仕事でそれを理解していた。

 

「厄介事が降ってくるのか、だがそんなこと事前に知らせないわけが無いだろう。何が起きた?」

『知らねえよ、クライアントがこのタイミングがどーだのなんだの言ってたらしいぜ?』

「タイミング?そのクライアントが誰かは分からないのか?」

『こっちが知ってる訳ねえだろ。とにかく合言葉は『……………………』だってよ、忘れんな』

 

 その声を最後に電話は一方的に切られた。だが、それ以上にマクギリスはクライアントが気になって仕方なかった。

 

(このタイミングでアクションを起こすクライアント……国際ISが我々に仕事を依頼するはずはない、ならば……)

 

 そうして、マクギリスはある結論に辿り着いた。確実に正解であろう結論に。

 

(…………天災(篠ノ之束)か)

 

 ISを開発し、世界を混沌に至らしめた張本人。直接的ではないにせよ、女尊男卑の世界を作るきっかけを作ったマッドサイエンティスト。そして、篠ノ之箒の姉。

 目的は恐らく、春万のISデータの収集だろう。自分とはもう何も関係ない。織斑一夏ならあるいはあったかもしれないがマクギリス・ファリドとなった今、彼女との接点は何も無い。故に、自分のバエルが危険にさらされることも無い。

 

(……彼女なら、我々に仕事を依頼するかもしれんな)

 

 マクギリスは、彼女のせいで世界がより混沌になることを心の底で望んでいた。

 

――――――

 

「はぁぁあああ!!!」

 

 ガァンという鋼鉄のぶつかり合う音と両者の声が観衆の声援の中で響いていた。戦況はやや鈴が有利、春万は謎の衝撃と二刀流に苦しめられていた。

 

「クソっ、何だよあの兵器は!」

「そんな事考えてる暇あるなら反撃してみなさい!」

 

 また、あの衝撃が春万を襲いアリーナの外周に設置されている壁へと激突させられた。SEの残量も3割程度しかなくなってしまった。こうなったら一撃必殺の零落白夜を出しっぱなしにするわけにもいかない。隙を見つけて差し込むしかない。

 そんな二人の様子を、マクギリスは上から眺めていた。鈴の甲竜(シェンロン)衝撃砲『龍砲』は空間を歪めて撃ち出すという正に初見殺し武器だった。それと同時に、鈴自体の格闘のポテンシャルの高さとそれを活かす双天牙月の二刀持ちは例え熟練した兵士であろうと厄介なことこの上ないだろう。マクギリスのバエルに戦法はかなり似ているがバエルがスピードで翻弄するのに対して、鈴の甲竜はパワーで押し進めるタイプの機体故にマクギリスでも勝てるかどうかは五分だと思っている。

 セシリア戦に関して言えば、相性の問題がやはり大きい。射撃をメインとするブルーティアーズに対して、格闘メインのバエル。基本的には射撃機が有利なこの対面だが、バエルが高機動機であると見抜けなかったが為にセシリアは接近を許してしまった。そこまで来れば、格闘機の独壇場だ。いくら足掻こうと最後まで我慢した者の勝ちだ。だからこそ、次にやればどうなるか分からない。セシリアも技術を習得してきているのに対して、マクギリスはただ機体の機動力に身体を慣らすだけだったのだから。

 突如として、左手に握っていた携帯が震えた。どうやらメール(運命の時)が来たらしい。本音はお菓子を食べる手も止めて、試合に釘付けになっている。これ幸いとメールを開けばそこにはダリルから言われていた合言葉の片方が書かれていた。もう片方を書けということなのだろう。

 正直、鈴のバトルを台無しにしてしまうのは心苦しいことではあるのだが、いくらマクギリスとはいえ上の指示には逆らえない。片手でキーボードのパッドを入力して、送信した。

 

 

『ギャラルホルンの笛の音は』

「未だ聞こえず」

 

 10秒後、アリーナのシールドを貫通した鉄の塊が空から7個地面に突き刺さった。




どうも、ティッシュの人です。

さぁ、兎の影が見え始めました。さて、どっちに着くんでしょうねぇ?まぁ、兎ですからねぇ?
個人的には、鈴は昭弘と気が合いそうですね。機体も似てるし性格も割とど根性精神だし。ただお前のハサミは許さねえからな。

ということで次回『#10 白い悪魔』です。お楽しみに!


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#10 白い悪魔

読者とマッチングしたので初投稿です。

3030はマジ事故だから本当に何とかしてくれ。てか、俺が30乗ると味方に30引きやすいって思うの俺だけ?


「な、何よこれ!?」

「逃げないと!」

 

 マクギリスの想定通り、アリーナの観客席はパニック状態に陥っていた。だがそんなことは知らんと言わんばかりに7つの箱がバカン!という音を立てて蓋が空いた。中からはマクギリスも見覚えのあるシルエットが出てきた。

 

「……グリムゲルデ、だと?」

 

 マクギリスのもう1つの機体、それがグリムゲルデだった。兎の耳のようなアンテナを生やした高機動機だ。それが7体、ご丁寧にライフルとソードを持った状態で現れた。だが、それ以上にマクギリスが気になったのが肩のマークだった。間違えるはずもない、そのマークこそマクギリスが生前使用していたフェンリルの家紋。ほかの機体を見れば、スレイプニルやラタトスクの家紋が刷られていた。スコールら亡国機業がマクギリスの生前を知っているはずがない。恐らく偶然だろう。きっと、自分の部隊であるアリアンロッドから連想したに違いない。

 

「……不味いな」

 

 だが、それより遥かに問題があった。グリムゲルデは機動戦ならば確実に第三世代と同等或いはそれ以上のスペックを誇る。鈴や春万の機体との相性は最悪だ。攻撃一つ一つに溜めが入るが故に、そこを高機動で狙われては終わりだ。

 考えに耽っていると、さらに携帯に反応があった。ちらりと見れば『上にいる』との一言。マクギリスはISを起動させると割れたシールドの隙間を縫って上空へと飛び出る。出た先には見知った顔があった。

 

「よぉ、F。調子はどうだ?」

「……何故知らせなかった」

「おいおい、折角会ったってのに釣れねぇ奴だなぁ?」

 

 ケラケラと笑ったオータムは急に表情を締めると、任務の時と同じような声音で話し始めた。

 

「……つったって、私にも分かったもんじゃねえんだがな。まぁ、依頼したのがあのクソ兎(Fuckin' Rabbit)って時点で察してくれよ」

「……それで、目的は?」

「大方『織斑春万の機体の性能確認』じゃねえのか?……って、こっちもそれは知らされてねぇんだよ。ただあの鉄の棺桶を運べって言われただけだしな」

 

 ふむ……と考え込むとオータムのISに別の人間からのプライベートメッセージが届く。それを見た彼女は、直ぐにそれを閉じるとマクギリスの機体に正面を向けた。

 

「悪ぃ、もう撤退命令だわ。だから、いっちょ芝居に付き合え」

「……人使いの荒いやつだ」

 

 そんな軽口を呟くと2人の機体は上空で文字通り衝突した。その勢いのまま機体を離した両者は、近接武器を用意するともう一度突撃した。そのやり取りが何度か繰り返されるとオータムはアラクネから適当に射撃を繰り出して撤退した。

 マクギリスは、オータムの撤退を見送ると真下の戦闘へと突撃した。その姿は、まるで彗星のようだった。

 

――――――

 

「龍砲は効かないし、近接も一撃一撃が重いしどうなってんのよ!」

「あのライフルのせいで近寄りも出来ねぇ!」

 

 マクギリスがオータムと話している間に鈴と春万は追い詰められていった。もうここまでかと鈴が思ったその時だった。上空から、白い悪魔が堕ちてきた。その悪魔は、『グリムカンビ』『ヨルムンガンド』が刷られた機体を上からバエルソードを突き刺して同時に葬り去ると2人にプライベートチャンネルを繋げた。

 

『無事か?無事なら今のうちにピットに行った方がいい、奴らの相手は余裕がある私がやる』

「でも!」

『SEが3割程度でどうするつもりだ?引いてくれ、頼む』

 

 鈴はその事実を突きつけられると言葉を失った。そして、力なく頷くとそのままピットへと向かった。一方、春万は戦う気が満々のようでさっきのマクギリスの言葉に対しても『ふざけんな、ここで引き下がれるか!』と返している。

 

「そうやって、カッコつけるつもりだろ!」

『そんなことを言っている暇があるのか?』

「ど、どういうこ……ぐあっ!?」

 

 春万の言葉を遮るようにマクギリスは白式に飛び蹴りをかまして、そのまま反動で『ラタトスク』をX字斬りで葬り去った。春万の白式はアリーナの壁にぶつかると、SEが無くなったのかISは解除され、瓦礫の中で動かなくなった。邪魔が一つ減った、春万の様子を見てその程度にしかマクギリスは思わなかった。

 ピットに戻った後、鈴は隠れ見ていたのだがマクギリスの戦い方は我武者羅……いや、確実に相手を潰す以上それは悪魔の所業と言うべきか。とにかく、彼女にとってマクギリスの戦い方はある種の恐怖となると同時に部屋ではあんなに紳士的なのに、戦いではこんなに荒々しくなるのかというギャップも感じていた。そんな彼女の想いも知らずに戦いは終わりへと近づく。

 他のグリムゲルデもようやくマクギリスを敵性対象と認識したのか右手に持っているライフルをバエルに撃つが、高機動機であるバエルにライフルの弾は届かない。その勢いのまま、『スレイプニル』にバエルソードを突き刺し動作を停止させる。

 

「……ガエリオ……」

 

 あの時は悪い事をしたと、今では思っている。いくら自分の野望の為であるとはいえ、彼の信頼する部下を阿頼耶識の犠牲にし彼自身マクギリスという信頼していた親友から裏切られるという散々な目にあわせてしまった。その結果が自分の死だった。因果応報というべきか、マクギリスは自分のやった事からすれば当然だと思っていた。マクギリスに対して怒るのも、自分に対して反旗を翻すのも。

 だが、今はそんなことを考えている暇はない。機体に一気に接近すると『フギン・ムギン』に新たなバエルソードを突き刺し起爆させる。その爆風の中に左で掴んでいた『ファフニール』を投げ込めば残すは後一機を残すのみとなる。そのマークは『フェンリル』。奇しくもマクギリスの生前の家であるファリド家の家紋だった。

 

「……私は、もう過去を振り向かん。さらばだ、イズナリオ!」

 

 『フェンリル』を飾った偽物は、本物によって葬り去られた。

 

――――――

 

「……また反省文か」

 

 あの後、マクギリスは無断出撃を千冬に怒られ罰として反省文100枚を渡された。逆に春万にはお咎めなしであり、家族の甘やかしが存分に発揮されたところであった。

 

「……出すつもりは無いが、そうすると処分に困るな」

 

 シュレッダーにかければバレないだろうか、そんな考えを持っていると自分の部屋に着いたので、鍵でドアを開けると料理のいい香りが漂ってきた。どうしたものかとマクギリスが辺りを見回していると奥から猫柄のエプロンを付けた鈴が炒飯を2つ手に持ってやってきた。

 

「おかえり、マクギリス。その……さっきはありがとね」

「気にすることでもないだろう、自由に動けるのが俺だけだっただけだ。それで、これは?」

「うーん……お詫びになるか分かんないけど、とりあえず私の手料理食べてもらいたいなって。中華なら自信あるから」

「ほう?ならば、お手並み拝見といこうか」

 

 椅子に座ると炒飯、餃子、酢豚が置かれた。そして鈴はそのまま向かいの椅子に座って、「いただきます」と手を合わせて食べ始めた。マクギリスも礼儀に習って手を合わせて「いただきます」と呟くと、餃子を一つ頬張った。

 

「……むぅ、美味いな」

「ほ、ホント?」

「ああ、残念ながら嘘は付けない性格でな。本当に美味いぞ」

「よ、良かったぁ!」

 

 中の餡は肉汁はあまり無い代わりに噛めば噛むほど肉の味がこぼれ出てくるのと同時に皮のもちもちの感触とマッチしていてマクギリスの味覚を刺激する。炒飯に手を付ければ、ジャポニカ米では難しいパラパラの状態が綺麗に出来ていて、ゴマ油の風味が有りつつもそれでいてベタつかず油っこくない丁度いいバランスに作られていた。

 最後に酢豚を口に入れると、酸味が一気に口の中に広がった。しかしながら、くどく無くスッと抜けていく爽快感が口の中に残る。

 

「……いや、本当に美味いな。毎日でも作って貰いたいくらいだ」

「……まままままま、毎日!?さ、流石に無理だけど……1週間に1回くらいはいいわよ?でも、その代わりマクギリスの作った料理も食べさせてよ」

「……俺か?」

「うん、アンタイタリアの貴族なんでしょ?イタリア料理とか食べてみたいし」

「イタリア料理か……流石にピザとかは作れないぞ?」

「そんなこと期待してないわよ、ただスパゲティとか私の知らない味とかないのかなって思っただけ」

「ふむ……ならばカボチャのスパゲティでも作ろうか」

「カボチャ!?絶対美味しくない!」

「そんなことは無いぞ、1度食べてみるといい」

「いーやーだー!絶対美味しくないー!」

 

 2人の食卓は真耶がやって来て、料理をつまみ食いし始めるまで続いた。

 

――――――

 

「……あの、マクギリスって子……DNAパターンはどっかで見たことあるんだよねぇ……覚えておこっかな〜。それにしても、想像以上にはーくんが弱すぎるなぁ……ちーちゃんの弟だから機体提供はしたけど、あんな無能じゃどうしようもないよ。ま、とりあえず愛しの妹に渡す機体でも作ろ〜!」

 

 兎耳の少女は楽しそうに呟く。邪悪な思いは、マクギリスの知らないところで蠢き続けていた。




どうも、ティッシュの人です。

ちょっとずつ字数が増えてきて嬉しいところ。ただまあ、低評価貰ってる以上文才はまだまだ未熟ってことなんですかね。精進します。
さて、次回はあの二人が登場しますがマクギリスの洞察力から果たして逃げられるのか。

次回『#11 偽装』お楽しみに!


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#11 偽装

久しぶりの難産だったので初投稿です。

マジここら辺話うろ覚え。

あと、少尉☆2になりました。落ちないといいなぁ……


 結局、クラス対抗戦は闖入者によってお開きとなりスイーツ半年食べ放題の話も立ち消えになった。そんな中、1組は再び慌ただしい雰囲気を醸し出していた。

 片方はフランスからやって来た金髪の美少年、シャルル・デュノア。片方はドイツ軍から派遣された織斑千冬の元部下、ラウラ・ボーデヴィッヒ。戸惑うシャルルに対して我関せずを貫くラウラ。だが、マクギリスはシャルルに対して違和感、いや確信を抱いていた。

 

(シャルル・デュノア。彼は、いや彼女は男ではない)

 

 マクギリスが1番に気になったのは骨格や筋肉の付き方だ。マクギリスほど鍛えていないにせよ、男性ならば多少なりとも筋肉が付いているものだ。IS乗りの女性もまた然り。だが、シャルルの骨格はどちらかと言えば春万よりも鈴に近い付き方だった。

 それに、喉仏も出ていない。15、16の歳になれば多少なりとも喉仏の兆候が見えてもいいはずだ。しかしシャルルにはそれがない。この二つの点からマクギリスはシャルルを女性と見ていた。後は男装で学園に入ってきた理由だが……

 

(恐らく、俺や織斑春万のデータを奪う為だろうな)

 

 『イグニッションプラン』から外れてしまったフランスのデュノア社は何とかしてでも第三世代のデータを取らなくてはならない。そのためにシャルルを男装で忍び込ませたのだと確信した。男子ならば同じだと思って心を許すかもしれないからだ。

 何にせよ、警戒を強めなくてはならない。そう感じたSHRの時間だった。

 

――――――

 

 その日の授業は、2組との合同練習だった。故にマクギリスは着替えるため、更衣室へと向かうところだった。

 

「なぁ〜、ファリド!お前も一緒に行こうぜ?」

「断る。第一ただ着替えるだけなのに群れる必要は無い」

「そんなつれないことを言うなよ、なぁシャルル?」

「う、うん。そうだね」

 

 春万とシャルルという面倒な二人に絡まれていた。何が面倒かと言われれば……

 

「あ、あの三人発見!」

「シャル×マク、マク×春、春×シャル……ムフフ、夢が広がりますなぁ!」

「捕まえるわよ!」

 

 こうなる。タダでさえ男子が少ないIS学園だ。その少ない3人が固まっていれば、このように狙い撃ちされるのは必然だ。

 そんな中、マクギリスは春万の後ろに立つと女子の集団の中に春万を押し込んだ。

 

「な、何すんだよファリド!」

「……行くぞ、デュノア」

「う、うん……その、ごめんね、春万くん」

「この裏切り者ぉ!」

 

 その後、遅刻した春万が鬼と化した千冬に叩かれたのは語らずもわかるだろう。

 

――――――

 

「凰、オルコット、ISを展開しろ」

 

 千冬に言われると二人はすぐ様ISを展開して、火花をバチバチと散らす。二人とも代表候補生のためか対立心が強いようで、売り文句に買い文句と言わんばかりに口撃をしていた。

 

「馬鹿者、お前らはタッグだ。そして戦ってもらうのは……」

「う、うわぁぁああああ!!!退いてくださいぃぃいいいい!!!」

 

 そんな声とともに上から降ってきたのは二つの巨大な双丘を揺らした山田真耶教諭だった。そのまま地面へと追突したのか物凄い音と衝撃、そして土煙を上げた。だが不思議と中からは喘ぎ声のようなものが聞こえてくる。

 

「あっ、あのですね?そ、そういうことは、二人っきりとか……あん、そういう場所でするものであって、こんな皆に見られたところでは……」

 

「春万ぁ!」

「ち、違う!これは不可抗力でぐぁっ!?」

 

 くだらないと思ったのか、マクギリスはため息をついた。そんな彼の様子を見ていたのか、千冬は彼に対してある命令を出した。

 

「ファリド、お前が彼女とタッグを組め」

「……私が?」

「そうだ、わかったな?」

「……了解です」

 

 まさか、彼女とタッグを組むとは……と思うと同時に、鈴と戦うことになるとは……とも思っていた。ルームメイトで気が知れている仲とは言えど、このように戦うとは()()考えてもいなかったのだから。

 

「マクギリスさん、容赦はしませんことよ?」

「マクギリス!アンタ負けたら私に今日の晩御飯奢ってもらうからね!」

「……やれやれ、お転婆なお嬢様だ」

 

 だが、やはりそんな鈴の様子を見ているとどうも、アルミリアを思い出してしまう。それは元々染み付いたものなのか、それともマクギリスが意識しすぎているだけなのか。

 そんなことは露知らず、千冬が開始のホイッスルを鳴らすと鈴がマクギリスの方に突っ込んできた。マクギリスは剣で弾き返すと蹴りを入れて鈴を元の方向へと戻す。

 

「くぅ……やっぱり近接じゃあ勝てないわねぇ!セシリア、援護お願い!」

「その上からの態度は気に入りませんが……いいでしょう!行きなさい、『ブルーティアーズ』!」

 

 流石は代表候補生。何の示し合わせもなく多少の連携が出来るのは凄いことだ、とマクギリスは思う。だが、そんなことで挫ける彼ではない。マクギリスは真耶へ指示を飛ばすと自分は、鈴の方へと飛び込んで行く。

 

「ふん!私を舐めすぎじゃないかしら!セシリア!」

「……くっ!」

「……セシリア?」

 

 鈴は嫌な予感を感じ、セシリアの方を向いた。すると彼女は真耶にタイマンの状況を作られていた。インターセプターを取り出したセシリアはかなり不得手な格闘戦を強いられているようだった。だが、大事なのはそこではない。タイマンを作られている彼女の援護が飛んでこないということは、こちらも1対1のタイマン状態となってしまっているのだった。

 

(不味っ、逃げないと!)

「余所見をする暇があるのか?」

「なぁ!?」

 

 秒数およそ2秒ほどか。その程度しか鈴はセシリアを見ていなかったのにも関わらず、マクギリスは一気に距離を詰めると両手の剣を横一文字に振り払う。鈴は何とか双天牙月で受け止めて、反撃の布石になる龍砲を撃とうとするが、目の前にマクギリスはもう居なかった。

 

「ど、何処よ!?」

「……遅い!」

「う、上っ!?」

 

 マクギリスは空中で一回転すると一気に下に剣を突き刺す。鈴は後退して避けていくが、そのままマクギリスのラッシュを受け流すだけでドンドン後ろに逃げてしまっていた。そして、その先には。

 

「鈴さん!?」

「セシリア!?……って、がぁ!?」

「……終わりだ!先生!」

「はい!ご、ごめんなさい!」

 

 二人が驚いている隙にマクギリスが両手のバエルソードを投げて二人を拘束、そこに真耶がグレネードを撃ち込むという完璧な連携を見せたのだった。セシリアと鈴のSEが無くなったため、二人のISが粒子化されるのを見ながら、マクギリスは真耶の方向を見るとお辞儀をした。

 

「態々ありがとうございました、こんな無茶な作戦に付き合っていただいて」

「え、えぇ!大丈夫でしたよ!私だって先生なんですから、これくらい大丈夫です!」

 

 真耶は二つの巨大な双丘を思いっきり揺らしながら自慢げに答えた。マクギリスが真耶に提案した作戦というのは所謂分断作戦だった。バエルの機体性質上、1対1は得意だが2対1の状況を得意としない。何故ならばバエルの射撃は格闘レンジへの布石なだけであり、射撃戦自体を得意としないからだ。この作戦は相方に対してかなりの無理を強いる作戦であったが、マクギリスは真耶ならばやってくれるだろうと確信していた。

 それは真耶のラファールリヴァイブを一目見たときから気づいていたことだが、彼女の機体は現行機のスタンダードタイプに較べてかなりのチューンが施されていた。チューンが施されているということは、機体のことをよく知っているという証拠だ。伊達に日本の代表候補生をやっていなかったということだろう。

 

「これが教師の実力というものだ。これからは教師を甘く見ないように」

 

 千冬がこれ見よがしに綺麗に締めると、見ていた生徒達は歓声を上げた。しかしながら、箒と春万はあまり良くは思っていなかった。

 

「……またアイツだけ目立ちやがって……」

「春万に何故戦わせないんだ……!あんないけ好かない男よりも遥かに強いというのに……!」

 

 少年少女達のそんな考えは誰の耳にも届くことはなかった。無論、鈴やセシリアと戦いの振り返りをしているマクギリスの耳にも。




どうも、ティッシュの人です。

長らくお待たせしました、#11となります。さて、次回はタッグマッチ戦の途中までは進めたいと思います。#25で終わらせたいからね!オルフェンズ1期と同じように!というか、展開は決まってるけどそれを書く文才が無いです、悲しいかな。

ということで次回『#12 ヴァルキリートレースシステム』お楽しみに!


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#12 ヴァルキリートレースシステム

風邪引いたので初投稿です。

皆様も体調管理にはお気をつけて……


 あの合同授業から数日が経った。どうやらシャルルもラウラも問題を起こさずに過ごしているらしい。

 

「マクギリス〜、そこにある炭酸水取って〜?」

(このダメ人間は……)

 

 今日は日曜日である為に授業もなく、出掛ける予定も無いために部屋でゴロゴロする鈴と部屋で出来るトレーニングをするマクギリス。鈴はさも当たり前であるかのようにマクギリスを小間使いの様に使い、マクギリスは渋々といった感じでその指示に従う。時計を見ればもう夕飯時に近い時間だった。思えば昼食も食べていない。

 

「鈴、グダグダするのも構わんがもう夕飯時だぞ?」

「……嘘!?もうそんな時間!?」

「残念ながらもうそんな時間だ、いい加減食堂に行こう」

 

 面倒くさいと言わんばかりの目をマクギリスに向けるがマクギリスは鈴の方向を出来るだけ見ないようにしていた。部屋着がタンクトップにホットパンツと露出度高めな服な上に、鈴自身のズボラな性格が出ているがために時々見えそうになって非常に危ない。無論、鈴は気にしていないようだが。

 

「……鈴」

「何よ?」

「そう言えば、前のタッグマッチの時に何か言っていなかったか?」

「あぁ……晩御飯奢ってもらうってことだっけ。でも私負けたからあの話はなしよ?」

「いや、君が一方的にそういう約束をするのは卑怯ではないかなと思ってな」

 

 嫌そうな鈴を尻目にマクギリスは見たこともないような爽やかな笑顔を浮かべてこう言い放った。

 

「今日の俺の夕食を奢ってもらおうじゃないか」

「嫌よ!アンタ馬鹿みたいに食うじゃない!」

「失敬な。アレでも大分抑えている方だぞ?」

「……じゃ、じゃあ今日何奢ってもらうつもりだったのよ」

「…………カルボナーラ特盛半熟卵付きスープセット」

「バっ、バカじゃないの!?1000円超えるじゃない!」

 

――――――

 

 結局、鈴が折れてマクギリスにカルボナーラ特盛半熟卵付きスープセットを奢ることになった。軽くなった財布を眺めて鈴はため息をつくが、食事を美味しそうに食べるマクギリスを見るとどうも腹が立たなかった。

 

「またバイトしなきゃ……」

「……美味い」

「アンタのせいよ!……って聞いちゃいないか……」

 

 マクギリスの態度にまたため息をつく。だが、直ぐに鈴はマクギリスを見つめるとポケットから紙を取り出した。

 

「マクギリス、これ見なさい」

「……ん?『学年別タッグトーナメント』だと?」

「そう!アンタには私と組んでもらうから!」

 

 鈴はさも当たり前であるかのようにマクギリスにそう言い放った。マクギリスは知らなかったが、優勝者はマクギリスか春万のどちらか一人に告白することが出来るという噂が流れていて、鈴もそれを聞いた内の一人だった。

 正直鈴にはマクギリスが『IS学園で初めて会った男性』とは思えなかった。どこかで会ったような男性が綺麗さっぱりイメチェンして自分の目の前に現れたとしか思えなかったのだ。もしかしてあの幼なじみかもしれない、そんな一途な想いに賭けるつもりでマクギリスにタッグの提案をしたのだった。

 

「……別に構わないが、戦略は練っているのか?」

「も、勿論よ!えーと……ゴリ押し!」

「……なるほど、つまり無計画だったと」

 

 マクギリスは鈴に負けないくらいのため息をつくが、この程度イオク・クジャンを相手にしている時よりも遥かにマシだった。イオクに比べ、鈴は実力はあるのだ。それに理解力もある。

 

「タイマンだ」

「た、タイマン?」

「そうだ。我々の機体は両方とも近接機体だ。だからこそ二人で相手を分断して各個撃破する、この戦法しかないだろう」

「……そうね。アンタも中々賢いじゃない!」

「この程度、誰でも考えつくような作戦だと思うが……?」

 

 この後、マクギリスは変にイラついた鈴に思いっきり頭を叩かれた。

 

――――――

 

「ふっ!」

「はぁっ!」

 

 タッグを組んでからというもの、二人は訓練場でひたすらに組み手をしていた。タイマンにする為には各個人が1:1ならば勝てる戦力まで持ち上げなければならない。つまるところ、鈴の近接能力の底上げだった。ちなみに、現在の対戦成績は16戦15敗1分である。

 

「……鈴!君の衝撃砲の照準は直線的すぎる、目も同じところを向いていたら意味は無いだろう?」

「う、っさいわね!分かってんのよ!」

 

 今やっていることは、龍砲と双天牙月の同時使用だった。マクギリスの言う通り鈴の龍砲は照準する迄に時間が掛かりすぎていた。それは龍砲自体の問題もあるが、それ以上に鈴のガサツな所も出ていた。元々鈴は細かい作業が好きではない為に、そのような照準を定めることも面倒だと思っているのだ。だが、マクギリスから言われた『龍砲を使ったフェイント』を聞いた時どうにも克服しなければならないという気持ちになった。今までそんな考えに至りもしなかったということへの悔しさとマクギリスにいい所を見せたいという何とも知れぬ気持ちが渦巻いていた。

 

 

「おっ、らぁ!」

「……!そうだ、その感覚だ!」

「で、出来た……」

 

 始めてから20回程だったか、マクギリスに龍砲の弾を当てた直後に甲竜の瞬間加速で一気に距離を詰めることに成功した。二人はその感覚を忘れないように何度も特訓した。

 だが、それを見つめる怪しい影が二つあった。片方は鈴と仲良く訓練をしているマクギリスが本当に気に食わないと言わんばかりの目で恨めしそうに見つめる織斑春万と、彼が目の敵にしているからという便乗で一緒に憎む篠ノ之箒である。

 もう一方は、その場には居なかった。予め取りつけたカメラを通して生徒会室から彼女は見つめていた。その手にある扇子には『好奇心』と達筆な文字で書かれていた。

 

――――――

 

 トーナメント当日、マクギリスと鈴のタッグは一回戦を難なく突破して二回戦で戦う相手を確認していた。当日まで練習していた分断作戦は見事に成功し、ISをほとんど扱ったことの無い生徒達は二人のなすがままになってしまったのだった。

 

「……相手は、デュノア・織斑組かボーデヴィッヒ・篠ノ之組か」

「マクギリス、アンタはどっちが勝ち上がってくると思う?」

「……普通に考えればボーデヴィッヒの方だろうな。篠ノ之箒という足枷を付けてでも二人を圧倒する力は持っているはずだ」

「…………アンタ、割とえげつないこと言うのね」

 

 軽口を言っているとモニターに現在の状態が映し出されていたが、それは二人が考えうる状態ではなかった。モニターの先では、黒く粘着質なISのような何かがシャルルのISであるラファール・リヴァイブ・カスタムを持ち上げて叩きつけている真っ最中だったのだから。

 

――――――

 

「こんなものだと……!?」

 

 ラウラは憤慨していた。自分が心酔してきた織斑千冬の弟がどれほどの物かということは、タッグ相手の篠ノ之箒から聞いていたが聞いていたものよりも遥かに劣っていた。踏み込み、剣の鋭さ、速さ。何を取っても千冬は愚か、自分やクラリッサにも劣るだろう。

 無理もない。ラウラは知らないが春万は中学時代には剣道を一切やらずに帰宅部一筋だったのだから。だが、それを知らない彼女は春万が期待外れのゴミであったことに憤慨していた。

 

「……下らん、これならばまだファリドという男の方が遥かにマシだったな!」

「てめぇ……その名前を出すんじゃねぇ!アイツはカッコつけるだけカッコつけるクソ野郎だ!」

「……その言い草だと、お前は奴に嫉妬しているのだろう?自分にはない()()を持っているのだからな」

 

 ラウラがそう言うと春万は顔を歪めながら自分の得物を向けて突撃してくるが、ラウラはAICを起動して白式の動きを止めてレールカノンで撃ち抜いて吹き飛ばす。仲間である隣の箒を見ればどうしたものか彼女も恨めしそうにラウラを睨んでいた。シャルルだけはどうすればいいのか手をこまねいていた。その三人の様子を見たラウラは憤慨を通り越して、落胆していた。根性無しの人間しかいないと、もうそう思うしか無い。何故こんなところに教官は来てしまったのか。こんなところは教官には相応しくない。ここに縛り付けているのは彼の存在である。

 そう考えていくとラウラの頭は徐々に怒りに支配されていく。自らの力を振るった上で完膚なきまでに破壊してやると思い、トドメのレールカノンを構えたその時だった。

 

『オマエハ―――』

「な、なんだ……!?」

『シッパイサクハ―――』

「や、やめろ……!?」

 

 ラウラの脳内に声が響く。底冷えするような声をラウラは聞きたくなかった。それは自分が研究所にいた頃の研究員の声に酷く似ていたから。

 

『ヨウズミダ―――』

「やめろーーーーー!!!!!」

 

 ラウラの声も虚しく、自分のISが黒く染っていく。自分の視界も、意識も黒に染っていく。もう助からないと思ったラウラは微かに残っていた意識を手放した。

 

 アリーナにはただの怪物が残された。




どうも、ティッシュの人です。最近どうも関節痛が酷いです。インフルエンザかな。

マッキーは天然ボケ出来る人だと思う。チョコレートの人とか、モンターク仮面とか、『変えてみたりしとくぅ〜?』とか。
あと龍砲ってアレ食らってもサブで受け止められるんじゃないですかね、強制ダウンじゃないでしょ?
次回はヴァルキリートレースシステム撃破までやります。

ということで次回『#13 ガエリオ・ボードヴィン』お楽しみに。


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#13 ガエリオ・ボードヴィン

エクバ2の稼働日が発表になったので初投稿です。

10/30!?早ない!?


「ちょっと、マクギリス!?」

「……っ!」

 

 鈴に呼び止められるが、マクギリスはあのモニターの映像を見ただけで形容し難い嫌悪に襲われた。アレだけは出してはならない、アレを自分は受け入れてはならない、アレの存在を認めてはならない。そんな思いが只々頭の中を駆け巡った。

 気づいた時にはアリーナに走っていた。アレを止めなくてはならない。そして、『織斑千冬』という呪いから自らを解放しなくてはならないのだから。

 

――――――

 

「シャルル!」

「僕は……大丈夫だから……!」

「大丈夫じゃねえだろ!待ってろ、今助けてやるから!」

 

 そんな二人の様子を見たマクギリスは上の観客席から飛び降りるとそのままバエルを起動して黒い塊に一撃加えた。黒い塊は一瞬怯んだ様子を見せると形を成型して誰しもが見覚えのある形になった。

 

「……暮桜……なるほど、確かに『ヴァルキリートレース』だな」

「……あれは、存在しちゃならねえ!あれは千冬姉の……」

『邪魔だ』

 

 春万がその形を見ると突貫しに行こうとしたのに対し、マクギリスは冷静に白式のボディに電磁砲を撃ち込んで吹き飛ばす。春万は吹き飛ばされた先でマクギリスを睨みつけた。

 

「てめぇ!また俺の邪魔をしてカッコつける気だろ!そうやって、千冬姉の御機嫌を取ろうってか!?」

『……これだから馬鹿の扱いには手を焼くのだ』

「馬鹿だと……!」

『いいか、織斑。私は別に織斑千冬の御機嫌取りをするつもりは無いし、そんなことに興味はない。それどころか私は彼女のことが嫌いだ』

「なっ……!」

 

 春万にとっては衝撃的だった。春万が予測していた答えはマクギリスが千冬に惚れているから彼女の御機嫌取りをするというものだったのだが、まさか嫌っているなどと誰が予想出来ただろうか。

 春万が固まっている間、マクギリスと偽暮桜は剣を打ち付け合う。だがマクギリスの頭にはパルスのようなものが流れ続けていた。それも打ち付け合う度に強くなっていくのだった。

 

(なんだ、この感覚は……!)

 

 そのまま打ち付け合い続けていくとマクギリスの意識が白く染っていくのだった。

 

――――――

 

「……ここは」

 

 マクギリスが目を開くとそこは()()見覚えのあった貴族の部屋であった。ドアを開ければ様々な調度品とソファ、そしてそこに腰掛けている人間が一人だけいた。

 

「……お前は」

『久しぶりだな、いや……ここでは初めましてって言うのが正しいのか、マクギリス』

「ガエリオ、ボードヴィン……だと?」

 

 鉄の仮面を外したその傷の付いた顔は自らを殺した盟友、ガエリオ・ボードヴィンその人であった。マクギリスはまたかと思った。前にもアルミリアに会ったような気がしたのだ。その時も同じような感覚だったと記憶していた。

 

「何故お前が……いや、それより」

『ああ、あの事については俺は怒ってないしもう許している。アルミリアには嫌われてしまったけどな。全く……お前があんな小さい妹を嫁に迎えようとするからだぞ、お陰で拗らせに拗らせて手に負えない。そして、俺がいる理由だがどうやらISのコア人格というのは初めに話しかけた人間が思う人物像になるらしい。つまり……』

「俺が考えた人物像がお前だったということか。なるほど、数奇な運命もあったものだ」

 

 そうやってマクギリスが物思いに耽っていると目の前にいるガエリオはマクギリスに対して頭を下げた。

 

『マクギリス、頼みがある』

「……どうしたんだ?」

『どうかこのシュヴァルツェア・レーゲンとラウラ・ボーデヴィッヒを救ってほしい!』

「……どういうことだ、ガエリオ。お前がそこまで言う理由はなんだ?」

 

 マクギリスがそのように問い詰めるとガエリオか顔を上げて語りだした。その様子はマクギリスから見てもとても切羽詰まっている様子だった。

 

『マクギリスはVTシステムについてはどれほど知っているんだ?』

「確か……歴代ブリュンヒルデの動きを模倣するシステムだったか。危険だからという理由でアラスカ条約で禁止状態になっていたはずだが?」

『そうだ、故にドイツは国所属の全てのISからVTシステムの起動シークエンスを削除した。だからもうVTシステムは起動しないはずだったんだ』

「……だが、今回起動してしまった。何故だ?」

『…………外部アクセスによるものだ、そうとしか言い様がない。そしてドイツにはその手段はない……あったとしても封印しているはずだ』

 

 マクギリスは考え込んでしまう。ドイツが封印しているとは言え起動シークエンスの情報を持っているのならば、あとは遠隔で発動さえ出来ればドイツは手を一切汚さずにVTシステムの実験ができる筈なのだが……ガエリオの言葉を信用するとするのならば答えは一つしかなかった。

 

「……篠ノ之束か」

『恐らく俺もそう思っている。彼女ならばISのコアに直接干渉してVTシステムを起動することは容易のはずだ』

「……なるほど、これでピースは全て揃った訳だ。だが、お前がそこまでしてラウラ・ボーデヴィッヒを救おうとする理由がわからん。何故だ?」

 

 マクギリスがそう問うとガエリオは目を伏せて声に悲壮な感情を乗せてこう述べた。

 

『……彼女はデザインチャイルド、つまり造られた存在なんだ。その上彼女はIS適合手術に失敗して「出来損ない」の烙印を押された少女なんだ』

「……ほう、昔のお前ならば見向きもしなかったはずだが?」

『ああ、だが鉄華団のあの事件があって、アインの件もあって考えたんだ。本当に今まで俺が思ってきた阿頼耶識のイメージは正しかったのかって。無論、阿頼耶識適合手術を全て認めるわけじゃないが、受けた本人は仕方なく受けたんだ。だから、彼らに罪は無い。それなのに俺は今までその事実から目を背け続けてきたんだ』

 

 ガエリオはそこまで言うと目をカッと開くとマクギリスを見つめた。

 

『だから、俺は彼女を受け入れた!だが、こんなことは想定外だ!だから頼む、どうか彼女を救ってほしい!』

「…………」

 

 マクギリスは熟考する。幾ら盟友のガエリオの頼みだからと言って見ず知らずのクラスメートを助けるのが果たしてつり合うのか。今のあの怪物に立ち向かえば自分は死ぬかもしれない。だが、どう考えても答えは一つしかなかった。

 

「わかった。他でもない盟友(とも)の頼みだ。今度こそ果たして見せよう」

『ほ、本当か!?』

「ああ、俺は嘘は得意じゃない」

 

 ガエリオが喜ぶ素振りを見せると徐々に部屋の片隅がポリゴン片になって消え始めた。どうやら、あちらの世界からお迎えが来たようだった。

 

『マクギリス、お前は本当に親友だ!これまでも、そしてこれからも!』

「……存じているとも。ありがとう……ガエリオ」

 

 懐かしい世界は消えた。あとは、盟友との約束をあちらの世界でも果たすだけだ。マクギリスはその一歩を踏み出した。それは、マクギリスが今まで経験したことのないような清々しい気分を抱かせた。

 

――――――

 

「……ガエリオ、私はお前との約束を果たそう。今、ここで!」

 

 マクギリスがガエリオと話している間、どうやらこちらの世界は動いていなかったらしい。不思議なこともあったものだが、この世界に来てからそんな事は山ほど経験しているので大して驚きもしなかった。

 

「ふざけんな!千冬姉が嫌いだと!?千冬姉を馬鹿にすんじゃねぇ!お前はあの人がどれだけ努力したのか知らねえクセに!」

『努力だと?……今まで姉の威光だけを背負って生きてきた人間の言う言葉は重みが違うな。それに、お前はそんなボロボロの機体でどうするつもりだ』

 

 マクギリスの言葉は今まで聞いたことのないような冷たい刃を帯びていたが、言っていることは確かに真実だった。春万が千冬の威光だけで生きてきたのは事実だし、白式はもう戦えるような状態じゃなかった。だが、春万のプライドが『戦えない』という事実を許さなかった。マクギリスに負けているという負い目を拗らせた彼の頭はただ『マクギリスをどんな手段を使ってでも引きずり落とす』という考えしか残っていなかった。

 

「黙れぇぇぇえええええ!!!!!」

『……手が焼ける!』

 

 怪物の復活を背景に、白い二つの機体はぶつかり合う。だが実力差は歴然だった。ぶつかってすぐに白式の装甲が悲鳴をあげ始めたのだ。ギシギシという音と時々装甲が崩れ落ちていく音が混ざり合い、まるで『もう辞めてくれ』と言わんばかりだった。そのままマクギリスはバエルソードで押し込むと両手の剣を白式の装甲に突き刺し、頭部装甲を握りしめると放り投げた。白い塊はきりもみ回転をすると爆風に包まれ、その僅かなSEを散らして中にいた春万をゴミのように地面に放り捨てた。もう彼の口から下らないプライドに彩られた言葉は無く、ただ息をする様子しか見えなかった。

 マクギリスは回復を完了させた怪物に向き直すと獰猛に歯を剥き出しにして怪物を睨みつけた。その目は好敵手を見つけた獣のような目をしていた。

 

「さぁ……6年前の呪縛から解き放たれる時だ……!」

 

 怪物は応えない。いや、その眼をギラリと光らせたのが応答なのか。それを合図に二つの機影は最大速度でぶつかった。その衝撃は誰も居なくなったアリーナを揺らし、所々の椅子が崩れ落ちる程だった。

 バエルの体勢を立て直したマクギリスは力の差を感じていた。純粋な腕力では確実にあの怪物には勝てない。ならば、どうすればいい。どうすれば勝てる。どうすればあの怪物から彼女を解放できる。その考える時間は、怪物に対して奇襲の時間を与えてしまっていた。マクギリスに対して叩き込まれた凶刃を何とか受け止めるが、その体勢が不味かった。

 

「……ぐぅぅぅううううううう!!!!」

 

 マクギリスにしては珍しい呻き声。それは、右手で直にその凶刃を押さえ込んでいる事だった。ガリガリとバエルのSEを削られると同時にマクギリス自身の腕の骨を痛めつけていた。

 だが、その窮地を救ったのは――――――

 

『マクギリス、アンタ馬鹿じゃないの!?自分一人で抱え込んで!私達は、「パートナー」でしょ!?』

「……鈴」

 

 マクギリスは彼女が龍砲で作ってくれた大切な時間の間にバエルソードを後付武装から取り出す。右手はまだ動く、ならば止まってはならない。止まらない限り、解決する道は目の前に続いているのだから。

 

「そうだな……俺達はパートナーだ」

『二人で、アイツを倒してあの女を救ってやろうじゃないの!』

 

 それ以上の言葉は二人には必要なかった。ただ、目の前の怪物に一太刀をぶちかました。怪物はそのドロドロとした装甲を外へ吐き出した。その中にマクギリスはラウラの存在を目視で確認した。

 

「鈴!俺が今からラウラを外へ引き摺り出す、その後の彼女を頼む!」

『……仕方ないわね、後で晩御飯奢りなさい!今日は目いっぱい食べてやるんだから!』

「……フッ、分かっているとも!」

 

 マクギリスはバエルのスラスターを吹かし、一気に怪物に肉薄しバエルソードで水平切りを怪物にかました。怪物は体勢を崩し、中のラウラはより一層外の空気に身体を晒した。

 マクギリスは両手のバエルソードを怪物のその黒い装甲に突き刺すと素手でラウラを掴んだ。怪物の粘着質な装甲がバエルの腕に干渉するが、最早そんな事は関係ない。マクギリスの胸には盟友(ガエリオ)と結んだ約束がある。その約束は、鉄の結束よりも堅い。

 

「う、うぉぉぉおおおおおおおお!!!!!」

 

 マクギリスが懸命に引っ張ったおかげか、ラウラは一気に引き抜くことが出来た。主を失った怪物は苦しそうにもがいていたが、その間にマクギリスは巴投げの要領で鈴へとラウラを投げ飛ばした。マクギリスからのパスを受け取った鈴はラウラを抱えてカタパルトの方へと戻っていく。

 その様子を横目で見たマクギリスは怪物に向き直って突撃し、突き刺した剣をさらに深く突き刺した。信管のカチリという感触を手から感じたマクギリスはそのまま怪物を蹴り飛ばした。だが、怪物は最後の力を振り絞り蹴り飛ばされた所を固い装甲へと変貌させた。

 

「ぐぅっ!?」

 

 バエルの装甲と自分の骨が軋む音がする。だが、こんな所では止まれない。痛みに耐え、そのまま怪物を踏みつけるようにして再度蹴り飛ばした。今度は間に合わないのか怪物はその勢いのまま吹き飛んで行き――――――爆発の中に巻き込まれた。炎が晴れた先には、最早その怪物の影は存在しなかった。それを見たマクギリスの体から一気に力が抜けると同時に、今まで無茶な機動をしてきたツケが回ってきたのか身体に一気に痛みが迸った。マクギリスはその痛みに耐えられずに膝をつき、そのまま倒れ込んでしまう。バエルを何とかして粒子化させたマクギリスは虚ろになった意識の中、最後にガエリオからの約束のことを考えていた。

 

「…………ガエリオ……約束は……果たしたぞ……」

 

 そして、マクギリスの意識は闇に閉ざされた。

 

――――――

 

 マクギリスが目を覚ますとそこは保健室のベッドの上だった。そのまま連れていかれたのか、ISスーツを着たままベッドに寝かされていた。

 

「起きたか」

「……誰だ?」

「……自分の担任を覚えていないとはな……!」

 

 どうやら声をかけたのは千冬らしかったが、その声音には怒りが含まれていた。マクギリスは自分のやった事を思い出し、一人で勝手に納得していた。

 

「貴様……無断出撃、教師である私に対しての侮辱、果ては仲間であるクラスメートへの攻撃……一歩間違えれば退学処分だぞ、分かっているのか!」

「…………」

 

 マクギリスは応えない。確かにそれは罪かもしれないが、春万に任せていれば確実にあの怪物による被害が出ていたはずだ。だが今の彼女……いや、彼女に言えばどんな理由があろうとも更なる怒りの引き金を引くことが確定だった。

 

「……応えないのか、ならば構わん」

 

 千冬はマクギリスの襟首を掴むとベッドから持ち上げた。マクギリスの身体の節々が悲鳴を上げるが、何とか耐える。

 

「教育的指導でお前の懺悔を引き摺り出してやる……!」

「……お言葉ですが、周りを見たらどうでしょうか?」

「周り……!?」

 

 千冬がマクギリスの襟首を掴んだまま周りを見るとそこには何か手紙のようなものを持ってきた本音と彼女と何時もつるんでいる女子生徒たちがいた。千冬はハッとなってマクギリスをベッドに下ろして、何も言わずにそのまま保健室を立ち去った。

 

「……助かった。ありがとう、布仏」

「ううん、大丈夫〜」

「っていうか、今の織斑先生だよね……?」

「生徒の襟首掴むってヤバくない……?」

 

 どうやら彼女達の感性は普通のようだった。他のクラスメートの中には織斑千冬を盲目的に信じる生徒もいる為に、もしそのような生徒に見られていたらどうしたものかと思っていた。

 

「そうだ〜、リンリンから手紙預かってるよ〜」

「リンリン……鈴の事か?」

 

 マクギリスが怪訝そうな顔をする中、掛けていた布団に手紙を置くと三人はそのまま保健室を出ていった。

 

(そう言えば、奢るという約束を破ってしまっていたか)

 

 マクギリスがヤレヤレと溜息をつく中、開いた手紙には殴り書きでこう綴られていた。

 

 

 

『来週の日曜日、私の買い物に付き合いなさい     凰鈴音』




どうも、ティッシュの人です。

いやぁ……6000字超え……まさかここまで筆が乗るとは思わなかった。いやまあ、場面数かなり多めに構成してるのでまあ、仕方ないんですけどね。
次回はサブストーリー回……というか、マクギリスがデートします。マクギリスってもしかしてアルミリアとデートした事ないからデート童貞なのでは?(名推理)

ということで次回『#14 凪』お楽しみに。


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