Change yourself,Keep yourself. (バーテックスケベ)
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設定の章
設定1


今更、設定をあげるという暴挙。

これも全て、見切り発車というやつの仕業なんだ!


名前:最上 翔一(もがみ しょういち)

 

年齢:14歳(中3)

 

身長:174

 

誕生日:11月26日

 

好き:麺類、みかん

 

苦手:辛いもの

 

趣味:散歩、読書

 

肩書き:勇者部副部長、アギト

 

象徴花:ビオラ(紫)

 

備考

・本作の主人公。風のクラスメイト兼お隣さん。

・オレンジ寄りの茶髪でブラウンの瞳、能天気な性格。

・記憶喪失

・勉強はするけど悩んだら直感タイプ。

・一人暮らし故に主夫スキルが高め。

・勇者部の設立に関わっているが、訳あって部員の勧誘は風が行った。

・依頼は主に男子運動部などに助っ人したり、力仕事を任される。

 

 

モデル:アギトの津上翔一とエグゼイドの宝条永夢。

 

 

 

 

勇者部員たちとの関係

 

結城友奈

←部活の先輩。ときどきお菓子とかくれる良い人。東郷さん以外で自分の説明を理解してくれる人。

 

→部活一の元気っ子。かわいい後輩で結構甘やかしがち。何故か彼女の擬音だらけの説明が理解できてしまう。

 

 

東郷美森

←部活の先輩。洋菓子作りが上手い。何度か助けられていて、気になっている人。

 

→部活の後輩。和菓子作りが上手い。国防関連の話題は長くなると学習した。ぼた餅。

 

 

犬吠埼風

←クラスメイト 兼 副部長 兼 お隣さん。主人公の女子力の高さには驚いた。樹が結構懐いててちょっと複雑。

 

→クラスメイト 兼 部長 兼 お隣さん。いっぱい食べる君は好きだけどそんなに食べて大丈夫?(100%の善意)

 

 

犬吠埼樹

←頼りになる先輩。姉とは違った優しさの人。手作りのプリンが好き。料理を教えてもらい、おにぎりなら作れるようになった。

 

→癒しになる後輩。妹のような存在。以前に料理を教えてほしいと頼まれた……頑張っておにぎりを作れるまでにした。

 

 

 

 

その他のオリキャラ設定

 

 

名前:高嶋 友兎(たかしま ゆうと)

年齢:14(中3)

身長:175

誕生日:11月25日

備考

・主人公の友人、青の幼馴染。

・赤錆色の短髪、ブラウンの瞳。

・文武両道を掲げる努力家。

・4人兄妹の三男(成人長兄、高校生次兄、小学生妹がいる)

・実家は道場をやっているらしく武術の心得がある。

・目つきが鋭く初対面の人に怖がられるのを気にしてる。

イメージCV:小野友樹

 

 

名前:郡 青(こおり あお)

年齢:14(中3)

身長:163

誕生日:10月27日

備考

・主人公の友人、友兎の幼馴染。

・青みがかった短い黒髪、紺色の瞳。

・学校随一の天才。

・3人姉妹の末っ子(成人姉、高校生の姉がいる)

・ただし運動は平均以下。

・ジャンルを問わずゲームが得意。

イメージCV:小松未可子

 

 

安芸 伸一郎(あき しんいちろう)

通称おやっさん

主人公と犬吠埼姉妹の住むアパートの大家さん。

時々、みかんをくれる。

既に自立したが教師をしている娘がいる。

 

モデルはウィザードの輪島繁

 

 

伊予島 明(いよじま あきら)

主人公の担当医。27歳。

ゆるふわ系オトメンドクター。

子供や年配の患者さん、看護師らに親しみやすいと人気がある。

2つ年下の奥さんがいる既婚者。

 

モデルはFGOのロマ二・アーキマン。

 

 

 

 

 

 

 

活動報告の方にリクエストボックスを作っておきます。

 

何か主人公にしてほしいこと、他のキャラとの絡みなどございましたら、そこにぶち込んどいてください。

 

ただ、実現はかなり遅くなる可能性が大きいので、どうか気長にお待ちください。

 

 

 

 




本当に今更で申し訳ナス




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結城友奈の章
Count 3 出会い


プロローグです。
物語を書くって難しい。


夢を見た。

 

古い映画のような、セピア色に褪せた夢。

海に面した崖に立ち、その先を見つめる。

ずっと遠く、海の向こうにそびえる壁。

全てが死に絶える外の世界と、命が残った内の世界とを隔てる希望の壁。

その上空、何も無いはずの虚空からそれは出てきた。

仏像の後光を模したようなものを筆頭に、秤のようなもの、鋭い尾をもつもの、六枚の盾をもつものなど、大小様々な数多の異形が現れた。

 

誰かに呼ばれたのか後ろを振り返る 。

そこには少女が二人。

一人は自身の近くに立っていた。

巫女服のような、どこか神聖さを感じる睡蓮の意匠が施された服に身を包み、同じく睡蓮の意匠の槍を携えていた。この子が呼んだらしい。

もう一人はその奥に倒れ伏していた。

綺麗な黒髪で見覚えのある制服だった。

その右手には少女のものらしきリボンが結ばれていた。

傍に睡蓮の少女が並び立つ。

少女の口が動く。しかし音は聞こえない。

視界が軽く上下に動く。頷いたようだ。

再び壁の上の異形を見つめる。

 

 

そこで夢は終わる。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

カーテンの隙間から差し込む朝日で目がさめる。

重たく感じる体を起こし、腕を伸ばす。

こちらを離そうとしないベットの吸引力からなんとか脱出、立ち上がって欠伸を一つ。

今は春休み、3日後には新学期が始まる。

 

「ふぁ……はぁ、そろそろ起きる時間を調整しないとなぁ」

 

住み始めて1年程になるアパートの部屋は、物が少ない。僕は嫌いでは無いのだが、お隣さん(年下)に言わせれば『寂しい』そうだ。

 

「……スッキリしてて、いいと思うんだけどなぁ」

 

ポツリと零した言葉は空気にとける。気分を切り替え、机に向かう。ノートを取り出し、先程見た夢の内容を完全に忘れる前に書き記す。1年程続けている習慣だ。

 

「しっかし律儀にやってるけど、これで何がわかるんだろう?」

 

夢の内容を記録する。これを提案してきた先生曰く、就寝中に見た夢で自分の過去や精神状態が分かるらしい。正直、今でも半信半疑である。試しに読み返してみるも我ながら訳の分からない夢ばかりだ。特に今日のとか。

 

「うーん、分からん!さて、朝飯にしようか」

 

分からないものを考えていてもしょうがない。時刻は午前8時半過ぎ、少し遅めの朝食だ。

記録したノートをしまい、台所へ向かう。

冷蔵庫を開け、中身を確認する。

 

「卵は大丈夫。あっ、牛乳が最後の一本……帰りに買うか」

 

残りが少なくなったものをスマホのアプリでメモする。

今日の朝食はソーセージとスクランブルエッグ、トーストとシンプルにいこう。

コンロに火をつけ、フライパンを温める。

ふと、今日の天気が気になりテレビをつける。

 

『……続きまして、今日の天気です。今日は一日中晴れ、風も穏やかで過ごしやすい日となるでしょう……』

 

タイミングがバッチリで少し嬉しくなるのは単純な性格のおかげか、今日はいい日になりそうである。

 

なにせ今日はちょっとばかり脚を伸ばして、お隣の大橋市のイネスに行く予定なのである。

 

 

……てことで電車に乗り、大橋市のイネスに到着。中に公民館が入っているらしく大きい。それに、春休みとあって家族連れも多い。

 

「ほら姉ちゃん、はやくはやく!」

「あ、おい、ちゃんとついて行くから引っ張るなよ!」

 

現に店内に入ってすぐに小学生ぐらいの男の子と

その子に左手を引っ張られる中学生ぐらいで髪がミディアムショートのお姉さんらしき子と、

その後ろを微笑みながらついていく母親らしき人、

幼稚園児ぐらいの男の子を抱える父親らしき人が右から左へと横切っていった。

 

一瞬、寂しさが心を過ぎる。

 

「……なんだろうこの感じ」

 

釈然としないまま歩き出す。考えたって分からない。気分を切り替え、まずは4階にある本屋に行こう。

 

 

〜〜〜〜〜 イネス 4F 〜〜〜〜〜

 

 

「おぉ、なかなか広いし、種類も多いな」

 

やってきた本屋は新しめで、どこにどんな本があるか見やすいレイアウトになっていた。

実は特に目当てもない。こういう大きなデパートなりに来た時は、自然と足は本屋に向かう。僕は割と本が好きみたいだ。

 

「ん?あれは……」

 

ふと児童書コーナーの一角、おすすめ本の中のある一冊に目がとまった。

タイトルは『花の勇者とアギトの戦士』

紹介タグに不朽の名作とあり、気になったのでスマホでタイトルを検索してみると、だいぶ以前からあり、幅広い年齢層で人気のファンタジー作品らしい。ちなみに上中下の3巻構成である。

 

表紙を開き、読んでみる。

 

ある日、平和な世界に突如として魔王と名乗る存在が現れ、世界中に魔物を送り込んできた。

それに対して人々は抵抗するも微々たるものでしか無く、多くの人と国が滅んだ。

やがては創造神に護られていた王国と、

山々に囲まれた隠れ里や南の海に浮かぶ孤島、

猛烈な寒さの北の大地など、

自然に守られていた諸国を残し、世界のほとんどは魔王の手に堕ちていた。

そんな中、魔王襲来の日から人々の為にと立ち上がり、戦い続ける少女達がいた。

彼女たちは生まれつき身体の何処かに花の形をした痣を持っていた為、『花の勇者』と呼ばれ敬われていた。

王国に5人、

隠れ里、南の孤島、北の大地にそれぞれ1人ずついた。

また王国の教会には創造神の神託を受け取れるシスターがおり、勇者たちをサポートしていた。

それでも人類は日に日に………………

 

「なぁなぁ、にいちゃん」

「ヴェイ⁉︎えーと、な、何かな?」

 

思いの外、面白く引き込まれる展開についつい読み込んでしまい、本を見にきた男の子に声を掛けられてしまった。

 

「その本、『花の勇者とアギトの戦士』だろ⁉︎兄ちゃんもその本好きなのか⁉︎」

「あ、うん。初めて読んだけど面白いよね」

「そうだよな!じゃあさ兄ちゃんはどのキャラが好きなんだ?オレは断然、アギトだな!」

「アギト?」

 

まだそのキャラが登場するところまで読んでいないが、タイトルにあったアギトの戦士のことだろうか。

 

「ん?兄ちゃん、アギト知らないのか?ちょっとその本貸してくれるか?」

 

渋る理由もないので、彼に見やすいように渡す。

 

「えーっと……あった。はい、このページだよ」

 

教えられたページにはアギトの外見についての描写と、背にした少女を守るように構えるアギトを正面から描いた挿絵があった。

アギトは全体的に黒を纏い、

中央部に黒い長方形の石がはめ込まれた金色のチェストプレート、

力強く、竜を想起させる仮面、

中央に金色、右側に赤色、左側に青色の宝石のついたベルトを着けていた。

これは男の子なら好きだろ、かっこいい。

 

「これがアギト……、確かにかっこいいね」

「そうだろ!オレも姉ちゃんもアギト好きなんだ!」

 

自分の好きなものを理解してもらえたのが嬉しいのか目を輝かせる男の子。

その時、店の外の通路から声がした。

 

「おーぃ………つぉー……どこだー」

「やべっ、姉ちゃんが探してる。ごめん!兄ちゃん、オレもう行かなきゃ。また会えたらもっと話そうぜ!約束だぞ!」

「あ、あぁ、約束だよ」

「言ったな!絶対だからな!じゃあ、またな!」

 

そう言って彼は嵐のように去っていった。どうやら気に入られてしまったらしい。終始、彼の勢いに押されてしまった。子供って、すっごくパワフル。

 

「って、僕もまだまだ子供だけどね」

 

彼とのやりとりは不思議と懐かしさに満たされて、悪くない気分だった。それにしても、この本……

 

「うーん、続きが気になるし買っちゃおうかな」

 

最後の一冊というわけでもないが、出会いがあったら即購入、と心が唆かすので乗ってみることにした。

 

「あっ!コミック版もあるのか!」

 

 

〜〜〜〜〜 イネス 1F フードコート 〜〜〜〜〜

 

 

結局、原作とコミック版の両方を買ってしまった。

 

その後には、ゲームコーナーを物色したり、ガチャガチャコーナーでまたもや心に唆され、カレーネコなるヘンテコなキャラクターを手に入れた……これは友奈にあげよ。個人的にはソバタヌキが欲しかった。

 

時間的には少し早いが、昼食を食べようとフードコートにやってきた。

しかし、考えることはみんな同じなのか、意外と混んでいた。

だが、1人で来ている身には大して関係ないので気ままにメニューを見る。

やはりうどんが多い。しかし、せっかくの遠出なのだ、そのときの変わり種を食べてみたい。

というわけでもう少し見てみると、あった。旭川醤油ラーメンと沖縄そば。

これは……どちらも心惹かれる素敵ワード。

醤油ラーメンは、トッピングは定番のものだが、うどんに使うつゆとは違う黒の強いスープ。名前から推測するに醤油なのだろうか。食べたことのない見た目にベースは魚介か鶏ガラかなどと未知なる味の想像を掻き立てられる。美味しそう。

反対に、沖縄そばは白めの澄んだスープ。これはおそらく魚介ベースだろう。麺はうどんより少し細いぐらいか。そして何より目を引くのが、分厚く切られた焼豚のような肉と鮮やかなネギの緑と紅生姜の赤がなんとも美しい。美味しそう。

 

「うーん、迷う……よし、迷ったら運に任せよう」

 

そう決めて、迷惑にならない場所まで離れてから500円玉を取り出す。

 

「表なら醤油ラーメン、裏なら沖縄そばで、いざっ!」

 

出目を決めて弾く。勢いよく真上に飛んだ500円玉はクルクルと高速で回転しながら落ちてくる。それをタイミングよく左の手の甲と右の手のひらで掴む。僕のお昼はどっちだ!

 

 

 

「ズルズル……ぷはぁ、これはこれで当たりだな!」

 

結果は裏でした。沖縄そば美味しい。

白いスープはあっさりとした塩味で、麺は表面は硬めだが中はうどんの様なもっちりとした独特の食感だった。例の焼豚のような肉はラフテーというらしい。角煮とはまた少し違う味わいだった。紅生姜の辛さとネギのしゃきっとしたアクセントで味と食感が変わるので食べ飽きることもない。

 

「あのー、すみません」

「あ、はい、なんでしょうか?」

 

1人食レポで沖縄そばを楽しんでいたら、なぜか男性に声を掛けられた。顔を上げ、その人を見るとどこか既視感を感じる顔だった。

 

「その、他に席がないので相席させていただきのですが……」

「あぁ、構いませんよ。混んで来ましたからね」

 

彼の相席の申し出を快く承諾する。元々ここしかなかったとはいえファミリー席を独占するのは心苦しかったし。人助けは日常だ。

 

「ありがとうございます。おーい、こっちで待っててくれ」

 

僕の返事に対しお礼を言うと、彼は遠くで席を探していたのであろう家族を呼んだ。

すると見覚えのある顔が一つ。先ほど本屋で嵐のように絡んで来た男の子だ。向こうもこちらに気付いたようで、驚きを表情だけでなく身体も使って表現する。

試しに手を振ってみる。

 

「あーっ!兄ちゃん!また会ったな!」

「そうだね。だいぶ早い再会だね」

 

手を振ると男の子は駆け寄って来て、嬉しそうに話す。その様子に彼の家族は驚き固まっている。特に、彼のお姉さんらしき子が1番驚いている。

 

「あの、息子が何か失礼なことをしませんでしたか?」

 

驚きから復帰した父親がそう聞いてくる。

 

「いえいえ、そんなことはありませんでしたよ。ただ、本屋でおすすめの本を教えてくれたんです」

「そうだぜ父ちゃん。オレはめーわくなんてかけてないぜ」

「そうですか、それは良かった」

 

その後、二言三言交わすと彼の両親はお姉さんに末の弟を預けて注文した料理を取りに行った。

 

「……すごく今更だけど少年、君の名前はなんていうんだい?」

「え?あれ?言ってなかった?……あっ、そういえば兄ちゃんの名前も知らなかったや」

「だよね。ちなみに僕は最上 翔一(もがみ しょういち)っていうんだよ。よろしくね」

「オレは三ノ輪 鉄男(みのわ てつお)っていうんだ。こっちが銀姉ちゃんで、こっちが弟の金太郎だ」

 

そう言って姉弟の名前も教えてくれた。姉弟全員、金偏の字が入っている。変わった名付け方だ。

対面して気付いたが、銀ちゃんは右腕がなかった。驚きを飲み込み、せっかく紹介してもらったので話しかけてみる。

 

「銀ちゃん、でいいのかな?」

「はい、なんですか?」

「えっと、覚えてなくて悪いんだけど、僕と何処かであったことあるのかな?」

 

そう、何故か先程から銀ちゃんにすごく見られてる。片腕で器用に金太郎くんをあやしながらこちらを伺うように見てくる。まるで記憶の中の何かと確かめるように。

 

「不快に感じたのならすみません。……昔の知り合いに似ていたもので、つい」

「知り合いに、似てた?」

「はい、とても」

 

それっきり黙り込んでしまい、金太郎くんのお守りに専念してしまった。雰囲気が重くなり始める。沈黙に耐えかね鉄男くんに話題を振る。

 

「そ、そうだ鉄男くん。君のおすすめの本を早速買ったんだ」

「んお?兄ちゃん行動はぇな。で、どうだったんだ?読んでみてどのキャラが良かった?」

 

ぼーっとしてたからか反応が薄く、なぜか上から目線な返事をする鉄男くん。しかし、反応が返って来たのは嬉しい。

 

「そうだねぇ、やっぱりアギトは欠かせないね。あと、勇者ならヤマザクラの勇者かな」

「えー、勇者ならヒメユリの勇者だろ」

「おぉん?勇者バトルかな?受けて立つぞ?」

「うへぇ、兄ちゃん大人気ねぇな」

「人聞きの悪いことを言わないでくれよ。僕は少年の心を忘れてないだけさ」

 

小学生と同レベルで話す中学3年生。確かに大人気ないが、先程よりは幾分か雰囲気が明るくなったので意味はある。

その後、料理を持って戻って来た彼らの両親と入れ替わるように席を立つ。

 

「それじゃあ僕はそろそろ行くよ。鉄男くん、またね」

「あぁ、兄ちゃん、またな!」

「銀ちゃんも、またね」

「っ!……はい、また」

 

話しかけられるとは思わなかったのか、驚きながらも返事をしてくれる銀ちゃん。やっぱり良い子じゃないか。

彼らの両親にも一言告げ、その場を立ち去る。

 

今日は帰ってからのお楽しみがあるからか、足取りは軽い。

帰宅の道中、自転車を倒してしまった人を手伝ったり、お婆さんの荷物を持ってあげたりと道草を食ったにも関わらず、帰りの電車に間に合うミラクル。今日の僕は神樹様に気に入られてるらしい。

 

朝とったメモの物も忘れずに買い足し帰宅。

お風呂と夕食を済ませて、いざお楽しみタイム!拝読しませう!

 

 

 

 

 

結局、僕は日付けが変わる前に寝落ちした。




はじめまして。バーテックスケベです。
園子大先生様の御言葉により描きたい欲が高まったので、前々から考えていたゆゆゆ×アギトを描いた次第です。無かったし。
n番煎じを恐れるくらいなら先駆者になれとも俺の中の俺が言ってました。

オチをつけるのが難しい。難しくない?

今月以内にもう一話は投稿する(鋼の意志)




現段階での書き溜めはありません。頑張る(小並感)


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Count 2 変化

お待たせしました。
初めてのしっかりと原作キャラとの絡み
胸に感じる、これでいいのか?感

いや、これでいいのだ(名言)



夢を見る。

 

蒼く揺らめく視界、海の中なのだろうか。

冷たくもあり温かくもある。

不思議な心地よさがあった。

誰かが海の中は落ち着くと言っていたけど、確かにその通りだった。

このまま漂っているのも良いのかもしれない。

海の底で静かに眠るのも良いのかもしれない。

 

そんな気分に微睡(まどろ)んだとき、誰かに呼ばれた気がした。

耳をすませど聞こえるのはくぐもった音だけ。

しかし確かに呼ばれた気がした。

……今度はさっきよりもはっきり聞こえた。

海面からだ。光が揺らめく海面から、誰かが呼んでいる。

行かないと、そう思い手を伸ばすも届かない。

むしろ、さっきまで平気だったのに少しずつ息苦しくなってきた。

もがけばもがくほど、息苦しくなり、海面が遠のく。まるで行かせまいとするかのように暗闇が広がる。

 

突然、伸ばしていた手を誰かが掴む。

その手に掴まれて、何故だか安心できた。

そして、その手はゆっくりと海面へ引っ張り上げてくれた。

あぁ、よかった。やっと……

 

 

 

やっと夢が終わる。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

気が付くとカーテンレールの付いた天井を見上げていた。

 

「えっと……なんで保健室?」

 

天井を見上げたまま、疑問をつぶやく。

確か今は体育館で全校集会をしてて、確か校長先生の話を聞いていたはずだ。

 

「それはアンタが突然倒れたからでしょ」

「んぁ?あ、風いつからそこに……」

 

予想外の応答につい間の抜けた声が出る。仕切りのカーテンを開けて、こちらを心配そうに見ているのはクラスメイト兼お隣さんの片割れ、そして僕が所属する部活の部長である、犬吠埼 風(いぬぼうざき ふう)だった。

 

「『なんで保健室?』のあたりからよ」

「最初じゃないか。声を掛けてくれて良かったのに」

「アンタがうなされてたから、これを取りに行ってたのよ」

 

そう言って掲げた右手には濡れたタオルが握られていた。

体を起こし、ベットに腰掛けながら話す。

 

「ありがとう。でも、もう大丈夫だよ」

「……そうみたいね。あ、でも今日の部活はお休みだから」

「え⁉︎なんで……」

「なんで、じゃないわよ。副部長が倒れたんだからお休みにぐらいするわよ」

「倒れただけで大袈裟だよ。ほら、もう全然動けるよ」

 

流石に倒れたくらいでお休みにしたら、友奈達がビックリするだろうし。いや、倒れたことにも驚くだろうけど。

風にお休みにしなくて平気だよアピールをしていると呆れ顔でため息を吐かれた。

解せぬ。

 

「あんた、気づいてないの?」

「ぇ?何が?あ、寝癖とかついてる?」

「ついてないわよ。なら問題、今は何時でしょう?」

「何時って、一限目の終わりくらいかな?」

 

再度のため息。さっきよりも大きめの。なにゆえ。

 

「はぁ、やっぱり気付いてないじゃない。今はお昼休みよ」

「へー、お昼休みだったのか……ん?お、お昼休み⁉︎僕は4時間以上寝てたってこと⁉︎」

「そうよ、だから大事を取って今日は部活はなし。分かった?」

「あ、はいワカリマシタ」

 

たしかに4時間も倒れてた人の大丈夫は信用できないなぁ。

これは僕が悪い。悪いといっても倒れたことに心当たりが全くない。

まさか……校長先生が、僕を倒れさせたのか?

なんて、くだらないことを考えていると、風がベットに腰掛けてきた。

 

「それに今日は東郷が検査で病院に行くし、友奈も家族でお出掛けだから早く帰らないといけないらしいし、どっちみち休みだったのよ」

「そうだったのか……まぁ、それならよかったよ」

 

友奈は部活が楽しいみたいで、部室や出先でもいつも笑顔だ。その笑顔を一瞬でも曇らせるとなると、怖い人が約1名。僕の大丈夫アピールは無駄だったけど怖い目に遭わ(つるされ)ずに済んでよかった。

あの子は本当に年下なんだろうか?

 

「で?一体何したら突然倒れるのよ。おねえさんに話してみなさい。ほら、勇者部五カ条は?」

「悩んだら相談。っていっても、本当に心当たりが無いし……うーん、何でだろうね」

「そうなの?夜更かししたとか、水分の取り忘れとか、何気ないことでも良いから普段と違うことは無かったの?」

「いやー、昨日は大人しく家で本読んだり、むしろダラダラしてたぐらいだし。今朝だって朝ごはんは食べたし、水分だってちゃんととったよ?」

 

普段と何も変わらない休日の過ごし方だったはずだ。強いて言うなら寝るのがいつもより早かったぐらいだ。

すると考え込んでいた風が何かを決めたのか口を開いた。

 

「よし!翔一さんや」

「……なんだい?風さんや」

「あんた今日はうちで夜ご飯食べていきなさい」

「んー?」

 

聞き間違いかな?

やっぱり僕はまだ体調が悪いみたいだ。

 

「ごめん、ちょっとよく分からない」

「ん?だから、今夜はうちでご飯食べていきなさいって」

「聞き間違いじゃなかった⁉︎……いや、嬉しいけど、女の子が気安く男の子を家に誘っちゃいけません!」

「何東郷みたいなこと言ってんのよ。ていうか、もう何度か家に来たことあるでしょ」

「いや、そうだけども!毎回そう思ってるの!」

「ふーん……」

 

なんで興味なさそうなの。こっちは今でも結構緊張するっていうのに……。

 

「おーい、ショウ、起きてるかー」

「ばか、保健室では静かにしろ」

 

そう言い合いながら保健室に入ってきたのは、去年同じクラスで仲良くなった郡 青(こおり あお)高嶋 友兎(たかしま ゆうと)の2人だった。

青には気に入られたのかあだ名で呼ばれている。

僕もノってるときはあだ名で呼んだりする。

ちなみに青は女子、友兎は男子だ。

2人は幼馴染みらしく、わりと一緒に行動してる。

 

「あれ、ショウが起きてて風がいる……はっ‼︎なるほど風がショウの王子様だったか!」

「へ?ちょっと青、それってどういう意味?」

 

また青が変なこと言い出した。風は王子様じゃなくて、ちゃんとお姫様してるでしょ!少しは君も見習いなさい!

 

「ん?眠り姫は王子様のキスで起きるんだろ?」

「き、きき、キスなんか、し、してないわよ!」

 

当然だろ?とでも言いたげな顔で説明する青と、なぜか顔を赤くし噛みまくる風。

てか、その説明だと僕が姫になるんだけど……。

 

「え?じゃあキス以上で起こしたのか!やるな、風!」

「違うから!そ、そういうことはしてないからぁ!あたしが来た時にちょうど起きてたの!」

「ふっふっふっ、そんなこと言ってぇ本当はぁ、ナニをy」

「おいこら青、流石にいじり過ぎだ。ステイッ!」

「ふぎゃあ⁉︎」

 

登場時からのハイテンションに呆然とし話せずにいると、

友兎のつっこみ(物理)を受け、女の子にあるまじき声を上げて大人しくなる青。ショギョウムジョー。

 

その後、戻ってきた保健室の先生と相談して午後はとりあえず出席することになった。

教室に戻ると、倒れたからかクラスメイト達や担任の先生からも心配の声をかけられた。担任の先生には保健室の先生とのやりとりを伝えておいた。

そして、何事もなく放課後。帰りのHRでは気をつけて帰るようにと、ありがたいお言葉を頂いた。

 

 

〜〜〜〜〜 通学路 〜〜〜〜〜

 

 

下校時間になり駐輪場で、風の妹で新入生である(いつき)ちゃんと合流しする。

途中でスーパーにより今晩の食材を買っていく。勿論、代金は出した。

自転車を押しながら3人で一緒に帰る。最近、当たり前になりつつある光景だ。

 

「あの、翔一さん、お怪我はありませんでしたか?」

「うん。ギリギリのところで友兎、友達が支えてくれたからね。保健室の先生は貧血か何かだろうだってさ。心配してくれてありがとう、樹ちゃん」

「そう、だったんですか。怪我が無くてよかったです。」

 

そう言ってふんわりと柔らかく微笑む樹ちゃん。天使かな?

すると前の方を歩いていた風がニヤニヤしながら振り返る。悪い顔してるなぁ……。

 

「なぁに、樹ったら翔一のことがそんなに心配だったの?」

「ふぇ⁉︎も、もうお姉ちゃん‼︎」

「あら、アタシは何も変なことは言ってないけど?」

「む〜〜〜⁉︎」

「あっ、ちょっ、樹、お腹はやめっ」

 

顔を赤くした樹ちゃんをからかって脇腹に反撃をくらう風。両手で自転車を押しているから樹ちゃんのつつく攻撃をうまく防げずにいる。

 

「はひいっ、ごめん、ごめんって樹ぃ‼︎」

「だめ、ゆるさないんだから」

「ひいーーーっ‼︎」

 

防げない風がくねくねと変な動きをするも、冷静に指で突く樹ちゃん。

なかなか愉快なことになっているがそろそろ止めないと買った食材が危ない。

 

「樹ちゃん、そのぐらいにしてあげなよ。ほら、風の自転車にも食べ物積んであるでしょ?」

「むぅ……翔一さんが言うなら」

「ふぅ……ふぅ……た、助かったわ。ありがとう翔一」

 

風が息を整えながら仲裁に入った僕にお礼を言う。勘違いしないでよね、食材が心配だっただけなんだから。

 

「余計なこと言う風が悪い。よって今夜のデザートのプリンは風だけ無しです」

「そんなぁ⁉︎あたしのプリンがぁ……」

 

そう言っておどけてみせる風。

この何気ない日々が今はとても楽しくて愛おしい。出来ることなら今日の様な事で心配はかけたくない。

 

 

 

「「「ご馳走様でした」」」

 

夕食を食べ終わり、一息つく。

この満腹感と満足感に満たされた時間が好きだった。

しばらくの間2人と談笑し、お腹を落ち着かせる。

 

「よし、それじゃあお待ちかねのデザートタイムだ!」

「わぁ、翔一さんのプリン、楽しみです!」

「じゃあ、ちょっとプリンを取りに戻るね」

 

そう言って犬吠埼家を出てすぐの自分の部屋に入る。

部屋に入り、靴を脱ごうとした瞬間に目眩がし咄嗟に壁に寄りかかる。

 

「嘘だろっ、こんな時にっ」

 

目眩だけでなく頭痛や耳鳴りもしだし、尋常じゃないほどの汗が出はじめた。

 

「がぁ……くっ……」

 

痛みが、耳鳴りが激しくなり足元がおぼつかない。

視界が歪み、焦点も定まらない。

物が動きだす幻覚まで見えはじめた。

ついに足に力が入らなくなり、前のめりに倒れる。

咄嗟に何かを掴もうとした手が物を弾き、玄関の姿見を割る。

床にぶつけた体が痛いが、床の冷たさが気持ちいい。

すでに立ち上がる気力も、体を動かす体力さえも無かった。

朦朧とする意識の中、呼び鈴の音と誰かが名前を呼ぶ声を聞いた気がした。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「じゃあ、ちょっとプリンを取りに戻るね」

 

そう言って出て行く背中を見送る。ここのところ心配しか感じない背中。

……本当にちょっとで済むのだろうか。

 

「お姉ちゃん、翔一さんのことが心配なの?」

 

私の不安を感じ取ったのか樹が聞いてくる。

 

「ん?そうね。今日のこともあるし、少し気にかけておかないとって思うの。妙な胸騒ぎがしたから家に呼んだけど……まだ何かありそうなのよね」

「そう、なんだ」

 

そうなのだ。初めて会った時から倒れるだなんて事は一度も無かった。

部活でも力仕事なんかは進んで手伝ってくれたし、体力に自信があると言っていた。

だからこそ、ここのところの彼の様子が変でどうしようもなく不安が募る。

 

「まぁ、でも沢山食べてたし、あの様子なら」

 

大丈夫でしょ、そう言いかけた時、隣の部屋からドスっと大きな物音がしてガラスの割れる様な音がした。

一瞬、思考が止まり動き出した頭にまさかが過ぎり不安が止まらない。

 

「お、お姉ちゃん……」

 

樹が不安げな顔をして消え入りそうな声で私を呼ぶ。……そうだ、私は姉なのだ。

ここでしっかりしなくちゃいけない。

溢れそうな不安にふたをし、気を引き締める。

 

「……樹は救急車を呼べる準備をしておいて、私が見てくるから」

 

そう言って樹を部屋に待たせて外へ出る。出てすぐ隣の部屋の扉は閉まっていた。

 

「翔一、大丈夫なの?」

 

そう言って呼び鈴を鳴らすも反応が無い。

ドアノブに手をかけると鍵は空いていて、あっさりと下がる。

 

「翔一、入るわよ?」

 

一声かけて恐る恐るドアを開ける。

いやに心臓がうるさい。

意を決して中を見ると、整理されていたであろう玄関は、割れた鏡の破片が飛び散っていた。

 

その中心にうつ伏せの翔一が倒れていた。

 

「しょう……いち?ねぇ、ちょっと翔一ってば」

 

話しかけてもピクリともせず、破片に気をつけながら揺すっても返事が無い。

呼吸は浅く、薄く開いた瞳も虚ろでどこも見ていない。

 

胸騒ぎと嫌な予感が的中した。

 

 

 

「っ‼︎樹、救急車呼んで!翔一、しっかりしなさい!翔一‼︎」

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

ここまでで既に難産気味。
登場予定のないオリキャラ出すからだろうなぁ……。

もしかしたらもう一話いけるかも……頑張ります。



ところで、主人公が呼ぶ郡さんのあだ名はなんだと思う?(星狩り族風)


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Count 1 覚悟

ちょっと気分が乗ってしまったので長めです。

だいたい7000字ぐらい。



夢だった。

 

絵本のヒーローのようになることが。

手を取り合い、共に困難を乗り越えられる友人に出会うことが。

大切なものを守れる強さを持てることが。

 

夢だった。

 

でもそれは叶わない。赦されない。

 

 

なぜなら

 

 

なぜなら俺は失敗(しかばね)犠牲(いけにえ)の上に存在するのだから。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

病院で目覚めた僕を待っていたのは、今にも泣きそうな樹ちゃんと口元をきつく結び泣くまいと堪えている風だった。

今度は倒れた記憶もあって、あぁやらかしたなと思った。

1日に2回も倒れるなんて胃にダイレクトアタックどころの騒ぎじゃない。

もはやギガドリルブレイクをかましたようなものだ。

結局その日は検査入院ということになった。

 

後日、医師の先生によると身体が極度の疲労状態つまり過労だったという。

流石に幻覚まで見るのはおかしいと思うが、専門的な知識のない中学生がとやかく言ったところで原因は判らないので無理矢理納得した。

 

 

 

救急搬送騒ぎから約2週間。

現在は3限目の体育の授業でバスケをしていた。

いままでの体調不良が嘘のように無くなり、むしろ調子が良くなっていたが、先生と友人らのストップにより体育などの激しい運動にはあんまり参加できないでいる。

まぁ、善意であるが故に断れないし、罪悪感で踏み切れないのも事実。

だから、大人しくしているがする事がないから、気になっている事を考える。

 

「一体あの体調不良はなんだったんだろうか……、それにあの時の」

 

あの時、意識が遠のく一瞬、割れた鏡の破片に写ったアレは、一体何だったんだろうか。

写った鏡がバラバラであまりよくは見えなかったけど、黒い全体に金の角に赤い目、腰元に金のベルトの様なものもあった気がする。

少し引っかかる事があるが何に引っかかっているのか分からない。

 

「よぉ、何考え込んでんだ?」

 

気付くと1試合終わったのか額に汗を浮かべた友兎が話しかけてきた。

 

「ん?あぁ、この前倒れた時のことを、ちょっとね」

「あぁ、救急車に乗ったやつか」

 

隣に腰掛けた友兎にタオルを渡し、話す。

 

「そうそう、はじめての経験だったよ。ちょっとシャレにならなかったけど……」

「全くだ。お前、翌朝のHRがどんな空気だったと思うよ」

「いやぁ……、お通夜状態かなぁ……なんて」

「その通りだよ!バカ野郎。心配ばかりかけさせやがって……青だって心配してたぞ」

 

うりゃあ!っと絡んできて、髪をぐちゃぐちゃにされる。前が見えなくなったが声のトーンから真面目に心配してくれていたのだろう。僕は優しい友人を持った。

 

「ほんっとに申し訳ないと思ってるよ。でも、医者は倒れた原因が過労だって言うんだよ。流石におかしくない?」

「そうだな、その前に4時間も寝てる訳だし、過労は無いよな」

「それに……」

「それに?」

 

あの影のことをそのまま伝えるか迷い、あるがままに見たことを話した。

 

「全体的に黒くて、金の角が生えてて、赤い目で、腰に金のベルトかぁ……」

「いやね、それをどっかで見た様な気がして、ずっと引っかかってるんだよね」

「う〜ん……悪りぃ、俺にはちょっと思いつかねぇな」

「いや、いいんだ。相談できただけでも少しは軽くなったよ。それにもしかしたら自分で気付かなくちゃいけないのかもしれない」

「……そっか」

 

それきり会話が途切れるが十秒と経たずに授業の終了を告げるチャイムが鳴る。

 

 

〜〜〜〜〜 翌日 〜〜〜〜〜

 

 

現在は2限目で数学の授業中。

今日は、昨日勇者部のみんなで話し合った文化祭での出し物について頭を悩ませていた。

 

(う〜ん、なかなかに悩む問題だ。出店をするにしても人数が少ないから無理か。

……そういえば、この前やった人形劇のシナリオをいじって演劇なんかはどうだろうか?

配役はそのままにすれば台詞も覚えやすい!)

 

頭の中で一気にアイデアがまとまりテンションが上がる。

 

「よしっ!これだ!」

 

「ほう、最上君はもう解けたのか。それでは、前に出てきて式と答えを書いてくれないかね?」

 

「へ?あっ、はいっ!」

 

や ら か し た。

テンションが上がりすぎて先生の目にとまってしまった。

周りを見ると、風と友兎が呆れて額に手をやり、青がニヤニヤしながらこちらを見ていた。

いや、まだだ!この土壇場で解いてやる!

黒板に向かいながらそう意気込む。

チョークを掴み、式を書こうとした瞬間。

 

 

突如として日常を壊す(アラーム)音が響いた。

 

 

教室に聞いたことのないアラームが鳴り響く。僕のスマホが震えている。

 

「む、誰ですか、授業中は携帯の電源を切っておきなs……」

 

教師の言葉が突然止まる。

あまりの出来事に呆然とし周りと同じく動きが止まる。

その間に焦った様子の風が勢いよく教室を飛び出した。

激しく開かれた扉の音にハッと我に帰る。

 

「なんだ、これ?おーい、起きてる?」

 

そう言って近くの級友の目の前で手を振ってみるが、マネキンのようにまばたきもせず反応がない。

それだけでなく窓から見える鳥も雲も時間さえも全てが止まっていた。

 

「うへぇ……、何k」

 

すべてを言い切る前に空に真っ直ぐな亀裂が入り、そこから光が溢れ出す。

溢れ出した光によって世界は白く染められる。

 

「……へ? どこ、ここ」

 

光が収まると辺り一面が植物の根のようなもので覆われた場所にいた。

そのどれもが普通じゃありえない色をしてたのに不思議と気味悪くは感じなかった。

辺りを見回しながら途方にくれていると、飛び出して行ったはずの風から電話がかかってきた。

 

「もしもs」

『翔一!あんた今どこにいんの!』

 

突然の大音量にキーンと耳鳴りがする。

 

「ォゥ……風さんや、聞こえてるからもうちょっと声量を抑えて。耳がキーンってする」

『あ、あぁ、ごめん。で、どこにいんのよ』

「どこって言われても……これだと樹海?かな」

『っ⁉︎あんた、知って……いや何でもない。とにかくアプリを開いてそこにマップがあるから、私たちの名前があるところまで来て!』

「お、おぅ分かった」

 

風が電話で言っていたアプリとは、部活に入るときに入れたSNSアプリのことだろう。

 

「あ、いた……て、東郷たちもいるの?」

 

マップを開くと勇者部の部員である、結城 友奈(ゆうき ゆうな)東郷 美森(とうごう みもり)、風と樹ちゃんの名前が青色の点の上に表記されていて、少し離れたところに自分の名前と点があった。

 

 

〜〜〜〜〜 少年移動中 〜〜〜〜〜

 

 

「おっ、いたいた。おーい風、みんなー」

「あっ、翔一先輩!先輩もいたんですね!」

「……よく来たわね翔一。じゃあ、今から状況を説明するわ」

 

みんなと合流してすぐに風から現在の状況についての解説が入る。

 

それによると、ここは樹海と呼ばれる神樹様が創り出した特殊な結界の中。

ここに入れるのは神樹様に選ばれた勇者のみ。

そして、勇者はここに攻めてくる敵を神樹様に近づけないように倒す事が役目なのだそうだ。

 

「ふ〜ん……あれ?でも風、武器みたいなのも無しにどうやって戦うの?もしかして素手で?」

「いいえ、これを使ってよ」

 

そう言って風はスマホの画面を見せてきた。そこには芽吹いた種が描かれた大きめなアイコンが表示されていた。

自分のを確認してみると風たちとは違い、灰色でタップしても反応が無かった。

 

「これは……」

「戦う意思を示せば、このアプリの機能がアンロックされて、神樹様の……勇者となるの」

「勇者……」

 

あまりに突飛(とっぴ)な出来事に皆一様に言葉を失っていた。

そのとき、東郷が何かに気付いた。

 

「みんな、あれ」

 

そう言って指差した方向で何かがオレンジ色にきらめく。

 

「っ‼︎危ない‼︎」

 

そう叫ぶ風。次の瞬間、襲いくる衝撃と土煙に身をすくませた。

 

「けほっ、けほっ」

 

思わず咳き込む。

 

「攻撃された?」

「私たちのこと狙ってる……?」

 

再びバーテックスなる怪物の腹部が光りだす。

 

「……こっちに気が付いてる」

「そんな……っ⁉︎東郷さん⁉︎」

 

友奈が東郷の異変に気付く。東郷は青白い顔で自分の肩を抱き震えていた。

 

「だめっ、こんな、戦うなんて、できるわけない」

「東郷さん……」

 

そんな友奈と東郷のやりとりを見て、風の表情が申し訳なさそうものから決意したものへと変わる。

 

「友奈、東郷を連れて逃げて」

「で、でも風先ぱっ」

「早く!」

「はっ、はい」

 

風の気迫に押されて頷いた友奈は東郷の後ろに回り、車椅子のハンドルを握る。

 

「お姉ちゃん?」

「樹も一緒に行って!」

「ダメだよ!お姉ちゃんを残して行けないよ!」

「樹……」

「ついていくよ。何があっても」

「っ……よしっ、樹、続いて!」

「うんっ」

 

そして2人がスマホのアイコンをタップすると、画面から黄色と薄緑の花びらが溢れ出した。

花びらが収まると、制服姿であったはずの2人がそれぞれ黄色と緑の不思議な服装になっていた。

うまく思い出せないが、どこか神聖さを感じるそれを僕はかつてどこかで見た気がした。

 

「友奈!翔一!東郷を任せた!」

「はい!」

「わかった、ちゃんと樹ちゃんと一緒に帰ってきてね。行こう友奈、東郷」

 

そう言って友奈と東郷を連れて2人とは反対方向に進む。

爆発音が響くたびに肩を跳ねさせる2人。

年上の僕がしっかりしなくては。

しばらく進むと、そこそこ広く平坦な場所に出た。ここから風たちが戦っているのも確認できた。

 

不意に友奈のスマホが鳴る。

 

「風先輩?……風先輩!大丈夫なんですか⁉︎今戦ってるんですか⁉︎」

 

どうやら戦闘中の風からだった。

 

『こっちの心配より、そっちこそ大丈夫⁉︎』

「はいっ」

『……友奈、東郷、翔一、黙っててごめんね』

「風先輩は、みんなの為を思って黙ってたんですよね?たった1人で打ち明けることも出来ずに。それって……それって勇者部の活動目的通りじゃないですか!風先輩は、悪くない」

 

そう言い切った友奈の顔は実に晴れ晴れとしたものだった。

 

『友奈…………っ⁉︎やっちゃった‼︎』

 

突然通話が途切れ、見えていた2人が煙に覆われる。

 

「風先輩‼︎樹ちゃん‼︎」

 

先ほどとは一転した悲痛な面持ちで、目尻に涙を浮かべ2人の名前を呼ぶ友奈。

 

「……⁉︎」

 

薄れてきた煙の中からバーテックスがこちらを向いていた。

 

「こ…こっちにくる…?」

 

意を決したように東郷がこちらを向く。

 

「友奈ちゃん、最上先輩、私といたら2人が危ない……ですから、私を置いて逃げてください!」

「東郷⁉︎何言ってるのさ!」

「なっ、何を言ってるの東郷さん!」

 

その時、再びバーテックスが光りはじめた。

 

「お願い逃げて!2人とも死んじゃう!」

 

東郷の叫びが響く中、友奈がバーテックスへ向かって走り出した。

 

「友奈ちゃん!」

「友奈っ!」

 

僕は友奈の手を掴もうと伸ばすが、伸ばした手は空を切る。あと1歩届かなかった。

飛び出して行った友奈をバーテックスの飛ばした爆弾が襲う。

爆風と衝撃がこちらまで届いた。

土煙が上がり、友奈の様子が分からない。

 

「友奈ちゃん!」

「友奈ぁっ!」

 

かすむ視界に桜色の光がうつる。

その光は煙を晴らし、桜色の花びらを舞い上げる。

友奈は無傷で、突き出した左手のみが風たちと同じように制服でなかった。

 

「ここで友達を、誰かを見捨てるような奴は勇者じゃない!」

 

「……友奈ちゃん」

 

「嫌なんだ」

 

飛んでくる2弾目を右の大上段で蹴り抜く。右足が変わる。

 

「誰かが傷つく事、辛い思いをする事」

 

続く3弾目を勢いそのままに体を回転させ、右足を軸にした回し蹴りで蹴り抜く。

左足が変わる。

 

「みんながそんな思いをするくらいなら、私が頑張る!」

 

そしてバーテックスへと跳躍し全身が変わり、途中で4弾目を殴り落とす。

 

「お"ぉ"ぉ"ぉ"、勇者ぁ、パァァァァンチ!」

 

そう雄叫びを上げ、バーテックスの袋状の胴体部を3分の1程殴って消しとばす。

友奈の正しく勇者という行動を見て、東郷は震えていた。

今の東郷は勇気を出せない事への自己嫌悪、行かせてしまった親友への罪悪感、理解不能な敵への純粋な恐怖などが心の中で暴れまわっているのだろう。

気づかれている以上ここに留まれないし、東郷の事を考えるなら留まっちゃいけない。

 

「友奈ちゃん……」

「東郷……行こう。向こうには風たちがいる。今のは友奈のおかげで助かったけど勇者になれない僕と今の君じゃ、次は無い」

 

辛辣だけどここから動く理由を話し、東郷の車椅子のハンドルを握る。

 

(いつもは友奈の特等席だが今だけは許してくれよ)

 

そう心の中で謝って車椅子を動かそうとした時、ペタッと足音が聞こえた。

咄嗟に東郷を庇うように車椅子の前に出る。

 

「……最上先輩?」

「しっ、東郷、ゆっくりと後ろへ下がって」

 

そう東郷に告げて、警戒しながら辺りを見回すと、先ほど友奈が殴り落とした4弾目の落下地点のあたりで人影が動いた。

その人影はゆっくりとこちらへ向かってきていた。

こちらに向かってくるにつれて、明るくなり人影が照らされ始める。

 

「……くっ」

「……ひっ」

 

そして遂にその全貌が見えた時、僕の本能は全力で警鐘を鳴らしはじめ、東郷はその見た目に顔を蒼白にし音にならない悲鳴をあげた。

 

それは怪物というにはあまりに人間に近い形をしていた。

人間に近かったが人間には似ても似つかない。

顔のパーツは大きく裂けた口以外なく、表皮は新品の紙のように白かった。

猫背気味な姿勢にダラリと垂らした腕、微笑むようにうっすらと口角が上がっている口。

その姿、その動作すべてがこちらを狂気と錯乱へと誘うものだった。

 

耐え切れたのは背中で恐怖に震える後輩がいたからだ。

守るという意思がギリギリのところで恐怖を抑えていた。

 

怪物はまるで何かを探すように辺りを見回している。

まだ気づかれていないようだ。

怪物を視界から外さないようにし、東郷に小声で話しかける。

 

(東郷、東郷っ!)

(は、は、はいっ)

(アレはまだこっちに気付いて無いみたい。今のうちに下がって左の根の陰に隠れよう)

(わ、わかりました)

 

そうして2人でゆっくり後ずさる。音を立てないように慎重に。

 

目的の根の陰まであと少しとなった時、地面のくぼみに東郷の車椅子の車輪がはまり、カチャンと小さく鳴ってしまう。

思わず後ろを振り返ると青ざめた顔の東郷がいた。

ハッとし急いで視線を前に戻すと、怪物がこっちを向いていた。

目がないのに目があったような気がした。

怪物が見つけたと言わんばかりにニタリと笑みを深める。

直後、怪物は力を溜めるように姿勢を低くして、一気にこちらへと跳躍し僕らの10m程手前に着地した。

そこからは口に笑みを浮かべながら、ゆっくりと1歩ずつ近づいてきた。

 

「いや……いやぁっ⁉︎、きゃあ」

「東郷⁉︎くそっ‼︎」

 

恐慌に陥った東郷が急いで逃げようとして車椅子を動かすが、窪みのせいで倒れてしまう。

僕は急いで東郷を助け起こし、横抱きで逃げる。やったことのない事をしてすぐに体が悲鳴を上げはじめるが根性で動かす。

 

「ぐぁっ‼︎」

「きゃぁっ!ぐっ!」

 

あと少しで茂みに入るというところで不意に首を鷲掴みにされ持ち上げられる。急にかかったブレーキで東郷が手からすべり落ちてしまう。

いつのまにか怪物は僕らのすぐ後ろ、手が届く距離まできていたのだ。

 

「ぐっ……、がっ‼︎」

 

怪物は確認するかのように持ち上げた僕に顔を近づける。

しかし僕は探してたのとは違うのか無造作に投げ捨てられる。

かなりの勢いで樹の幹に叩きつけられ、意識が一瞬とぶ。

 

「いやぁ‼︎来ないでぇ‼︎」

 

東郷の悲鳴が聞こえる。

行かなくちゃいけないのに、助けなくちゃいけないのに体が言うことをきかない。

打ち付けられた痛みで四肢に力が入らない。

 

ぼやける視界に東郷を捉える。

頭を守るように丸まった腕の隙間から東郷の表情が見える。

ぎゅっと目を瞑り、その目尻には恐怖からか涙が流れていた。

東郷の震える唇が音を紡ぐ。

 

『 た す け て 』

 

その瞬間に僕の見ている世界が色を無くし、動きを止める。

目の前に誰かが立っていた。

足元しか分からないが子供のようだ。

 

 

 

きみはそれでいいの?

 

良いわけないだろ

 

みているだけのきみでいいの?

 

良いわけないだろ……!

 

なら、もうわかってるでしょ?

 

……あぁ、分かってる 使えって言うんだろ?◼️◼️を

 

うん じゃあがんばってね、◼️◼️

 

 

 

そう言った瞬間に子供は消え、世界は色を取り戻す。

先ほどまでの全身の痛みは引いていた。

四肢に力が入る。

少しフラつくが歯を食いしばって立ち上がる。

 

腰元が熱くなり、陽炎のように揺らめいている。

エンジンを蒸すような音が一定のリズムで聞こえる。

 

怪物がこちらを(いぶか)しむように顔を向けている。

奴の顔に笑みは無い。

やがてゆっくりと東郷から離れ、僕の方へやってきた。

 

5歩分ほどの距離になった時、怪物が両腕を振りかぶり、降ろす。

それを姿勢を低くし、左に抜ける事で避ける。

すかさず避けられた事で隙だらけの怪物の膝裏に左のローキックを加えて体勢を崩す。

蹴り抜いた勢いを返すように脚を入れ替え、今度は怪物の喉元を狙ってすくい上げるように右のハイキックを叩き込む。

 

怪物は突然のことに驚いたのか、されるがままに宙高く蹴り飛ばされ遠くに落ちる。

 

その間に東郷のもとに行き、しゃがみ込む。

未だに恐怖で震える東郷を抱え上げると、近くの樹の根元に寄りかからせる。

 

「も、最上せんぱい……」

 

立ち上がると制服の裾を東郷に掴まれる。

行かないでと言わんばかりに強く握られていた。

固く結ばれた指をそっとほどき、再びしゃがみこみ東郷と目を合わせる。

 

「東郷、大丈夫だ。俺は必ず帰ってくる。あいつを倒して、必ず戻ってくるから。な?」

 

それでも駄々をこねるように頭を横に振る東郷。

安心させるようにその綺麗な黒髪をそっと撫でる。

 

「……だから、またな」

 

そう言って素早く立ち上がり東郷から離れる。

 

蹴り飛ばされた怪物は立ち上がり、その場から動かずこちらを警戒するように唸っていた。

 

陽炎のような揺らめきを纏う腰元に両手をかざす。

 

するとそこには、あの日見た

 

 

光り輝く金のベルトが現れた。

 

 




原作第1話に相当する回です。難しかった。

出てきた白いのは量産型エヴァをイメージすれば分かりやすいです。

次でプロローグ、主人公の覚醒までの話は一段落です。
てな訳で、真面目な次回予告。



出会いを経て、変化して、覚悟はここに定まった

次回、『Count 0 魂の目覚め』

ここから伝説が始まる。


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Count 0 魂の目覚め

お ま た せ し ま し た


ようやくの変身回なのに前話の半分くらいの文量になってしまった……。

もうすぐでUAが1000にいきそうでドキドキが止まらない。


夢じゃない。

 

遥かに広がる、色彩溢れる樹海の光景。

死の恐怖に怯えて、流れる後輩の涙。

距離を開け、威嚇するように唸る怪物。

その怪物に投げ飛ばされた背中の痛み。

その怪物を蹴り飛ばしたこの脚の痛み。

 

そのすべてが夢と笑うにはあまりに()()()

 

だからきっと

 

 

 

この力も(うそ)じゃない。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

腰元に確かな存在感を放つ金のベルト。

これが何なのか、何をする為のもの分かる。

頭でなく、魂が分かっている。

 

「フゥゥー…………」

 

本能に従って左手を左のスイッチに軽く添える。

反対に、引き絞った右手を息を吐きながら前へと突き出す。

感覚を、精神を、魂を研ぎ澄ます。

 

一気に空気を吸い込み、叫ぶ。

 

 

変 身 っ ‼︎

 

 

叫ぶと同時にベルトの両サイドのスイッチを叩くような勢いで押し込む。

 

ビリっとした痛みが全身に走った後、ベルトから光が溢れ出し世界を一瞬白く染める。

光がおさまった時そこには、

 

 

輝く2本の金の角を冠し

 

炎の如く赤い瞳が燃え

 

黒き肌に金の鎧を身にまとい

 

黄金のベルトが光の渦を巻く

 

 

異形の戦士(アギト)が立っていた。

 

 

 

 

 

不思議と冷静だった。

背中はあんなに痛みを訴えていたのに、大人しかった。

心臓はあんなにうるさかったのに、落ち着いている。

身体の奥から溢れるこの力のお陰なのだろうか。

 

……まぁいい、今そんな事は些事(さじ)だ。

 

今は目の前の、後輩を傷つけ泣かせたクソ野郎をこの力で倒す。それだけを考えろ。

 

『・・・・・・・・・』

 

未だに警戒するように此方を向いて唸る白い怪物。

改めてよく見るとなんとも悪趣味な造形である。

人型でやや猫背気味の真っ白な体に、

大きく裂けた口以外が無いのっぺらぼう。

 

その口も先程までは嗤う様に上がっていた口角が、今は忌々しげに下がっている。

 

『ァ…………ォ…………』

 

怪物が何やら声らしきものを発する。

 

『ア"…………ィ……ォ……』

 

呟きだったそれは

 

『ア"ァ"……ギ……オ……』

 

次第に大きくなり

 

『ア"ァ"ァ"ァ"キ"ィ"ィ"ィ"ト"ォ"ォ"ォ"‼︎』

 

咆哮へと変わる

 

 

怪物は大気を震わす雄叫びを上げ、一直線に向かってきた。

こちらも一歩一歩踏み締めて歩き出す。

 

『コ"ア"ァ"ァ"ァ"』

 

間合いに入り、怪物が叫びながら飛びかかり右腕を振り下ろす。

 

それを体を後ろに逸らすことで避ける。

 

右腕を振り下ろした体勢から今度は左腕を振り上げる。

 

それを屈み、腕をくぐるように右にずれることで避け、無防備な怪物の左脇腹に蹴りを入れる。

 

怪物が蹴られた方向によろける。よろけた怪物は体勢を立て直すと、じりじりと周りながらこちらの様子を伺う。

怪物の動きに合わせ正面を保つ。

 

『カ"ァ"ッ"!』

 

短く叫び、左で殴りかかってくる。

 

それを右の掌底で左に弾き、そのまま体を一回転させ左の裏拳を怪物の横っ面に叩き込む。

 

怪物は2、3歩下がって踏みとどまると、右ストレートを繰り出してきた。

 

スローで見えるその攻撃を右足を下げて半身になり浅く腰を落とし、左の前腕でななめ下から押し上げてそらし、から振ってがら空きの胴体に1歩踏み込んで右の正拳突きを心臓の位置に叩き込む。

 

「フンッ!」

 

ドズッと鈍い音がして、怪物が仰け反り後ずさる。

 

「ハアッ!」

 

そして体を半回転させ、右足を軸に左足で怪物の胸元を蹴り飛ばすことで彼我(ひが)の距離を離す。

怪物はされるがままに蹴り飛ばされ、地面を削りながら遠のき止まる。

 

怪物が起き上がろうともがいている間に決めにかかる。

 

2本の角を6本に展開し左足を前に出す。右の掌を上に、左の掌を下に向け広げる。

 

「ハアァァ……」

 

すると地面にアギトの紋章が現れ、淡く光る。

前に出した左足を後ろに下げ、左腕を体に寄せ、右手を返し腰を落とし溜める。

紋章を介してエネルギーが両足に宿る。

 

「フッ、ハアッ!」

 

どうにか立ち上がるもダメージでフラつく怪物へ跳躍し、必殺の蹴り(ライダーキック)を放つ。

蹴りの反動で着地した後も剣道の残心のようにしばらく構えたままでいる。

防ぐ事も出来ず、もろに蹴りを受けた怪物は地面を削りながら吹き飛び、やがて仰向けに倒れたまま動かなくなった。

 

「……凄い」

 

いつの間にでかい方の怪物を倒したのか、東郷のいる場所から友奈の呟きが聞こえた。

あれだけ激しく動いたのに息切れひとつしない。

どうやらこの体は大分強化されているようだ。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「……凄い」

 

思わず口から言葉がこぼれる。

風先輩と樹ちゃんと一緒にバー……バーなんとかを相手していた時、ふと見たら東郷さんと翔一先輩が変な怪物に襲われていることに気付いた。

このことを風先輩に伝え、バーなんとかを3人で協力して、急いで倒し東郷さんと合流する途中。

突然、翔一先輩がピカーってしたと思ったら、シャキーンって変身していた。

変身した翔一先輩は、お父さんから武術を習っている私から見てもセンレイ?された動きをしていた。まるで昔見せてもらった演舞のようになめらかな動きでつい見入ってしまった。

終始怪物を圧倒し、あっという間に倒してしまった。

 

「……翔一?何よ、あれ」

 

隣の風先輩がそう呟く。樹ちゃんも無言で見つめている。

東郷さんは未だに恐怖が収まらないのか、私の腰元に抱きつきながら時々震えている。

私はあの姿をどこかで見たような気がする。でも、なかなか思い出せない。

うーん……どこで見たんだろう?

 

そうこうしているうちに翔一先輩は変身した姿のまま私たちのいる場所まで来た。

 

「翔一…アンタ、それは一体、なんなの?」

「これ?俺もよく分からないけど『アギト』っていうらしい、アレがそう叫んで攻撃してきたからね」

 

そう言って、遠くで倒れている怪物を親指で差す。

 

「アギト?それって、あの?」

「あの?あのって事は風は何か知ってるの?できれば、くわs」

「あーっ‼︎」

「「「「 ! ? 」」」」

 

思い出せたことに声を上げる。

そうだ!翔一先輩の姿はあの本のアギトと同じなんだ!かっこいいなぁ。

 

「ど、どうしたのよ友奈、突然大声なんて出して」

「ご、ごめんなさい風先輩。あの、翔一先輩のその姿って『花の勇者とアギトの戦士』に出てくるアギトに似てませんか?」

「そうなのか?自分では見れないから判断のしようがないんだが……」

「そうなのよ。私も見た目が本の記述通りだったから、もしかしたらって思ったの」

「そうなのか……」

 

あの本はこの前幼稚園での部活で、園児たちへの絵本の読み聞かせで読んだのだ。

絵本のイラストとそっくりだから間違いない!

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

怪物を倒し、東郷のもとに戻るとやはり友奈たちがいて、東郷は友奈の腰元に抱きついていた。

ちらっと横顔が見えたが……もう大丈夫そうだった。

 

「翔一…アンタ、それは一体、なんなの?」

「これ?俺もよく分からないけど『アギト』っていうらしい、アレがそう叫んで攻撃してきたからね」

 

風が困惑した顔でそう質問してくる。

正直、自分でもよく分からない。

でも、この力があれば風たちだけを戦わせずに済む。

 

「アギト?それって、あの?」

「あの?あのって事は風は何か知ってるの?できれば、くわs」

「あーっ‼︎」

「「「「 ! ? 」」」」

 

そして何やら意味深なことを呟く風。

この世界やでかい方の怪物、バーテックスのことも知っていた彼女なら、この力についても何か知っているかもしれない。

そう思って聞き返したら、横から友奈の大声が飛んできた。

 

突然の大声には驚いたが友奈曰く、俺の今の姿は春休みに出会った鉄男くんからおススメされた本、『花の勇者とアギトの戦士』のアギトにそっくりらしい。

自分からは変異した手と下半身ぐらいしか見えなくて、かもしれない程度の認識だったが、風もその意見に同意したので信憑性は高い。

ふと写真を撮ってもらえば全身が見れる事に気付き、風に写真を撮ってと頼もうとした時

 

「お、お姉ちゃん……!」

 

樹ちゃんが風の服の裾を引っ張り呼んだ。

不安げな表情の樹ちゃんはある一点を指差していて、その先には謎の光の球体が浮かんでいた。

 

「あれって……」

「バーテックスの御霊を壊した時に出てきた光、かしら?」

「てことは、敵の?なんでそれが……っ!」

 

ふわふわと浮かんでいた光がいきなり高速で渦を巻く。

 

「な、なに、あれ⁉︎」

「ごめん樹、お姉ちゃんも分かんない!」

 

その渦はどんどん速さを増しながら小さくなっていく。

そしてバスケットボール程の大きさでピタリと止まり

 

 

光の奔流が降り注ぐ

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

これにて覚醒までのカウントは終わりました。
次回から第1話となります。
(変なところから第1話だな、おい)



文字数に納得できず、投稿を渋る……

皆さんはどのくらいが読みやすいですかね?


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第1話 竜巻の機馬

祝 通算UA1200突破!

この小説を楽しんでもらえるように精進せねば(使命感)


あまりに突然の出来事に呆然としてしまった。

 

「な、なに、あれ⁉︎」

「ごめん樹、お姉ちゃんも分かんない!」

 

光が降り注いだ場所には、先程倒した怪物がいたはず。

そのことを思い出した時、本能が警鐘を激しく鳴らす。

 

「3人とも、東郷を守れ!まだ、終わってなかった!」

 

そう叫び、数歩前に出て身構える。

降り注いだ光は倒れている怪物の体に入っていく。

やがて全ての光が収まると、倒したはずの怪物がビクリと動き出し、グチャグチャと不快な音をたてながら変形し始めた。

 

人型だった体は2回りほど大きくなる。

首が伸び、額に刃物のような1本角が生え、口が飛び出した。

腕が伸び、分裂し、飛膜が生えた。

脚が伸び、関節が逆に折れ、鳥のような脚は太く逞しくなった。

背骨を延長するように刺々しい背びれと棘のある尾が生えた。

 

それはまさに物語における竜の姿だった。

 

『Gyaaaaaaaa‼︎』

 

変形の終わりを告げるように全身にピンク色の紋様が浮かび、竜が産声を上げる。

 

「「ひっ⁉︎」」

「流石に……これはないわー!」

「アイツ、竜になりやがった!」

 

驚きながらも風は友奈たちを庇うように前に出て大剣を構える。

その前に立ち竜と対峙する。

 

竜はこちらをじっと見ると、ゆっくりと首を後ろにそらした。

すると、竜の腹部が光り始め、口の端から火が漏れ出す。

 

「風っ!剣を盾にしろ!」

 

咄嗟にそう叫び竜へと駆け出す。

その時、竜が翼を羽ばたかせ浮かび上がる。

その途中で溜めていた火球を吐き出してきた。

走る足を止め、その火球を迎撃する。

 

「フッ!」

 

1つ目を右の拳で砕き、確かに感じる熱と降りかかる火の粉を無視する。

 

「ハァッ!」

 

2つ目を右のハイキックで打ち返し、その見た目に対する手応えの軽さに少し驚く。

 

「テリャァ!」

 

3つ目を左の回し蹴りで蹴り砕く。

 

迎撃のために足を止めたそのわずかな間に、竜は空高くに陣取り、その顔に人型だった時のような笑みを浮かべて、こちらを見下ろしていた。

 

 

竜を見上げ、どうやって奴を倒すかを考えていると、再び奴の腹部が光りだした。

先ほどより倍近い火球を俺目掛けて飛ばしてくる。

殴る蹴るですべての火球を砕く。

まだ体力に余裕はあるが、このまま持久戦を続ける訳にはいかない。

既に奴の真下の地面から徐々に枯れてきている。

あれが何を意味するのか分からないが少なくとも良くない事だというのは分かる。

 

 

ジャンプじゃ届かない高さに届かせる術が、()()()()()()()()()()

 

 

そう考えた時、竜の後方から何かが飛来するのが見えずとも分かった。

 

『Gyaaa!?』

 

その何かが竜を弾き飛ばし、こちらに一直線に向かって来た。

 

「ま、また何か来たよ⁉︎」

「あー、もう‼︎次から次へと何よ‼︎事前の情報ぐらいしっかりしなさいよ、大赦ァ‼︎」

 

……避けようにも背後には風たちがいる。

選択肢は1つ、角を展開して力を解放し、やや前傾な姿勢になり両手を前に出し、受け止める構えを取る。

 

「スゥ…ッ」

 

浅く息を吸い込み止め、来たる衝撃に備える。

必ず受け止めてみせるという意気込みとは反対に、飛来した何かは1mほど手前でピタリと止まり、乗れと言うかのように横向きになった。

 

飛来したそれは一言で言うなら赤いホバーボードだった。

赤いボディの所々に金のフレームがあり正面には小さくアギトの紋章が刻まれていた。

 

「お前は一体……」

 

少なくともあの怪物のようにアギトに敵対するものではなさそうだが……。

そう考えていると頭の中で声がした。

 

『……走らせて』

「ッ⁉︎な、なんだコレは!頭の中に声が」

 

囁く声は変声期を迎える前の少年のような声だった。

 

『もう一度、止むことのない鼓動のように、あの彼方まで風を巻き上げて、走ろう』

 

願うように囁く声に目の前の存在の正体を悟る。

 

マシントルネイダー、アギトと共に駆ける竜巻の機馬。

 

「そうか、お前はアギトの……よし、行こう!アイツを倒すためにはお前の力が必要だ!やるぞ、相棒!」

 

そう言って飛び乗ると、まるで磁石が鉄にくっつくようにカチッと固定された感覚があった。

 

徐々にうかび上がる機体、微かにだがワクワクしているような感覚が伝わってくる。

 

「ちょっ、翔一⁉︎何それ⁉︎ってかどこ行くのよ!」

「こいつと一緒にあの竜を倒してくる。風、悪いけど3人を頼んだ!」

 

一言言って飛び出す。ぐんぐんとスピードが上がるが風の抵抗を一切感じない。

 

ついに竜と同じ高さにたどり着いた。

 

『Grurururu……』

「……よう、また会ったな」

 

弾き飛ばされたからか、優位をとったはずの敵が己と同じ場所にいるせいか分からないが、口元から笑みは消え、牙を剥き出し、忌々しげに歪めていた。

 

竜と対峙して数秒は互いに睨み合っていたが、しびれを切らしたのか竜から仕掛けて来た。

 

今までよりも2回りほど大きな火球を連続で吐き出す。

 

飛んでくる火球で直撃するものを砕きつつ、スピードを上げて竜へと突っ込む。

 

距離を詰め、そのままのスピードで機体を横滑りさせて、体当たりを当てようとするが下にくぐられ躱される。

 

横滑りさせた機体を90度回転させ追いかける。

 

真後ろを取った時に加速を使い、より速い蹴りを打ち出してみたがギリギリで躱され、回り込んだトルネイダーに着地し再び追いかけっことなる。

 

その後も縦横無尽に飛んで逃げる竜の後ろになんとか食らいつくが、なかなか一撃を入れる隙がない。

 

まぁ、隙がないなら作ればいい。

 

手のひらに意識を集中して、スマホを呼び出し風に電話をかける。

 

「風、頼みたいことがある」

『…色々と言いたいことはあるけど、いいわ。なにかしら?』

「風の大剣は大きく出来るか?出来るなら合図を出すからそれに合わせてやってくれ」

『分かったわ、やってやるわよ!』

「ふっ……ありがとう、風」

『お礼なら、今日の夜は翔一に作ってもらおうかしら』

「分かった。期待してなよ」

 

 

 

逃げ回る竜を先ほどのような加速からの蹴りなどを繰り返し誘導する。

何度目かのときに竜の逃げた方向に大剣を構える風の姿を確認し、そのまま追い込む。

 

「誘導した、合図する!3…2…1…今だっ!」

 

合図の掛け声と同時に突如として現れる壁、否、巨大な剣が竜の逃走を阻む。

突然の出来事に動きの止まる竜。

その隙を逃すわけもなく、構え、角を展開し力を解放すると、竜との間にアギトの紋章が現れる。

その紋章を通過するように機体の上から飛び出し、超加速の蹴り(ライダーブレイク)を放つ。

その蹴りは竜を突き抜け、風の大剣を轟音と共に弾く程の予想以上の威力だった。

 

竜は断末魔を響かせながら、砂へと変わって散り散りになった。

竜を倒した後、重力に引かれて頭から落下中にトルネイダーが走りこんで来た。

空中で体勢をなんとか立て直し、トルネイダーに乗ることで落下死は防がれた。

トルネイダーを操作して、風たちの近くに着陸する。

地面に足をつけるとトルネイダーは再び浮き上がり、何処かへ去っていった。

 

「助かったよ。ありがとうなトルネイダー」

 

変身を解除すると、ドッと疲れが押し寄せ少しフラついたがなんとか踏み止まる。

男の子の意地だ。

 

「あっ!翔一せんぱーい!」

「ちょっと翔一、あの蹴りは何よ!すんごい手が痺れたんですけど⁉︎」

「あはは……ほんと、ごめん。僕もあんなに加速するとは思わなくて」

「まぁ、でもナイスよ、翔一。私たちじゃあの怪物は倒せなかったわ」

 

合流した風たちと何言か話すと、この世界に入って来た時と同じように、空中に真っ直ぐな亀裂が入り、そこから光が溢れ出す。

その眩しさに腕で顔を庇う。

 

 

 

光がおさまるとそこは神樹様の社がある校舎の屋上だった。

 

「あ…あれ?ここ…学校の屋上?」

「神樹様が戻してくださったのよ」

 

風たちは制服に戻っており、見渡す街並みはいつも通りのものだと思う。

ハッと思い出し、東郷のもとに向かう。

 

「東郷、どこか痛むところはない?」

「い、いえ、大丈夫です、最上先輩」

「大丈夫って…転んだりしたでしょ。ほら、こことか、擦りむいてるじゃないか」

 

そう言ってタイツが破け、微かに血の滲む左膝を指差す。

 

「あ、こ、これは……」

「もう安全だから、我慢しなくていいんだよ。……ちょっと失礼」

 

一言断りを入れてから近くに屈み込み、東郷の怪我した膝にそっと手を重ね、傷に意識を集中する。

数秒経って手を離すと、東郷の膝の傷は()()()()()()()

 

「……ん、これでどう?まだ痛い?」

「痛く…ありません」

「そっか、なら良かった」

 

そっと笑いかけ、()()()()()()を無視して立ち上がる。

 

 

〜〜〜〜〜 放課後 駐輪場 〜〜〜〜〜

 

 

授業中に突然消え、屋上にいたということで一悶着あったが、なんとか放課後になった。

当然、あんなことがあったので今日の勇者部の活動はお休みとなった。

 

「え…えぇー⁉︎」

「うん?どうしたのよ翔一、そんな驚いて…って、えぇー⁉︎」

 

僕の驚いた声を聞き風が見に来るが、風も驚きの声を上げる。

自転車を停めていた場所にそれはいた。

異彩を放ちながら、当たり前だと言わんばかりに。

マ シ ン ト ル ネ イ ダ ー が。

 

「あれ、僕の…自転車は?てか、なんでトルネイダーがいるの?君、クールに去っていったじゃん。『また、戦場でな』って感じに消えたじゃん。それより僕まだバイクの免許取れないんだけどぉ⁉︎」

 

そうつっこむも答えてくれる人はいない。

ただいたずらが成功した子供にように、嬉しそうにトルネイダーの赤が光った。

 

非日常はまだまだ終わらない。




突破記念に何かやりたくもあるけど、ネタバレを控えるために番外編は書けない。
話が進めば、そのうち書けるはず(汗)


あっためてたネタを出せばいいのか?


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第2話 初陣の後

1週間以上も更新が遅れてしまって申し訳ナス。

オリジナルを書くとなると途端に遅筆になる。
それでも日常的な描写は書いておきたい。

まぁ、不定期更新タグあるしへーき、へーき(震え声)



風のスマホを使い、大赦に問い合わせてみたがいくら待っても返信が来なかった。

流石に頭にきたのか、その形のいい眉を(しか)めて(いきどお)りを露わにする風。

 

「こんの、大赦ァ……!」

「どうどう、抑えてよ風。お役目が始まったから、向こうも何かしらで忙しいんでしょ」

「……はぁ、ならこのバイクはどうするの?私たちは中学生だから乗れないわよ?」

「まぁ…手は1つしかない、かな」

 

トルネイダーをこのまま学校に置いて行くわけにもいかない。

かといって代理を頼もうにもそんな伝手はないし、コイツが他の誰かに乗りこなせるとは思えない。

というか鍵は持ってない、よく見たら鍵穴も無かった。どうやってエンジンかけるの?

 

 

結局、学校から自宅のアパートまで押して帰るしか無かった。

途中、巡回中のパトカーとすれ違い、すごくドキドキしたけど、パトカーは何も言わずに通り過ぎていった。

 

「……プフッ、翔一、すごい顔してたわよ」

「う、うるさいな!まさか自分の自転車が不思議なバイクに変わってるとは思わないだろ!」

「普通はそんな事自体が起こりませんけどね……」

 

パトカーとすれ違った際の緊張した僕を笑ったので、風を今夜のデザート抜きの刑に処すことに決めました。

 

「それはそれとして、この事をおやっさんにどう説明しようか……、ここは勇者部に頼るしかないなー。ねぇ、どうすればいいと思う、部長さん?」

「あー……大家さんへの説明があったわね」

 

そう、このまま帰れたとしてもアパートの駐輪場に見たことのないバイクがあったら不審に思うだろう。

最悪、警察に持っていかれてしまうかもしれない。……勝手に帰ってきそうだけど。

そんな事態を防ぐためにアパートの大家で、僕の後見人である通称おやっさんこと、安芸 伸一郎(あき しんいちろう)さんに事情を話さなくてはならない。

恩人に嘘をつかなくてはならないのは心苦しいが無用な混乱を避けるためだ。

御役目に選ばれた身としては、この辺とか大赦がサポートしてくれないのだろうか?とは思う。まだ返信来ないし。

 

「ちなみに僕は全く思いつかない。知恵を貸してくれ、部長!」

「しょうがないな〜、翔一くんは。んー、そうね例えば……」

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

ああだこうだと話していると、いつの間にかアパートに着いてしまった。ちなみに答えは出ていない。

 

「あ、もう着いちゃった。どうしようお姉ちゃん……」

「……一先ず、駐輪場にとめましょう」

「そうだね」

 

とりあえずトルネイダーを駐輪場に置いてみたが、違和感というか主張がすごい。

 

「うわぁ……」

「すごいわね、どう見ても怪しい」

「怪しいというよりは、主張が激しいね」

 

真新しく鮮やかなトルネイダーの赤が年月により少しくすんだアパートの白と対比となり、より存在感がある。

端的に言えば周りからすごく浮いている。

トルネイダーと入れ替わった自転車も赤くはあったが、もっと落ち着いた色味だった。

 

「ほんとに…どうしようかしら」

「そうなんだよね、トルネイダーが元の自転車になれるなら解決するんだけど……」

 

そう呟いた時、まるで分かったとでも言うようにトルネイダーのヘッドライトが点滅した。

その点滅は急に激しくなり、今日何度目かの視界が白く染まる。

目の調子が戻ると、トルネイダーのいた場所には僕の使っていた自転車があった。

 

「うえぇ⁉︎」

「なんだ、初めからこうすれば良かったじゃない」

「そうだね。結構悩んだけどこれで解決したね」

「って、なんでお姉ちゃんと翔一さんは平然としてるの⁉︎」

「樹、世の中色々あるのよ」

「樹ちゃん、世の中色々あるんだよ」

「色々って何なのぉ〜」

 

色々は色々だよ。いきなり変なところで戦わされたり、よく分からない力に目覚めちゃったり、今日1日で驚きが飽和気味だよ。

 

「今のは何だ?…って、おや?翔一君たちか、おかえり」

「おやっさん、ただいま」

「ただいまです、大家さん」

「た、ただいま、です」

 

トルネイダーが放った光に驚き、確認に来たおやっさんと鉢合わせる。

初めは驚いた表情だったが僕らに気付くといつもの柔和な表情となり、おかえりと言ってくれる。ただ……

 

「ところで翔一君、最近、体の調子は大丈夫かい?気分が悪くなったりとかはないかい?」

 

先月、自分の部屋で倒れてから過保護気味になってしまった。

 

「大丈夫ですよ、むしろ以前より調子が良いぐらいです。…って、一昨日も同じ事言ってましたよ」

「そうかい?でも無理だけはしないようにね。風ちゃん、翔一君を頼むよ」

「はい、翔一は見張ってないと危なっかしいので」

「ちょっと風、ひどくない?倒れたのだってもう先月のことだよ」

()()、先月のことなのよ。だいたい1日に2回も倒れるだなんてよっぽどの事なんだから!」

「ふ、2人とも私から言ったけども、そのくらいにしたらどうだい?この時間はまだ冷えるし、ほら樹ちゃんが慌ててるよ」

 

声が荒くなり始めた僕らをおやっさんが仲裁し、そのまま一先ず互いの部屋に帰る。

 

部屋に戻り、冷静になった僕はメッセージアプリのNARUKOで風に一言謝りのメッセージを送っておき、シャワーを浴びて部屋着に着替え、夜ご飯の準備に取り掛かる。

おやっさんが言っていた通りまだまだ夜は冷えるので今夜は鍋にしようと決めていた。

 

夜ご飯の鍋の準備をしながら考える。

 

 

世界を滅ぼそうとする人類の敵、バーテックスの存在。

それに対抗する為の人類の戦士、勇者とアギトの存在。

大赦によって秘匿されていた真実は、僕らの日常が誰かの頑張りの上に成り立っていた事を示唆している。

そうじゃなかったらとっくに世界は滅んでいる。

ただ、そうなると僕ら以前の勇者たちは一体何処で何をしているのだろうか……

 

 

更に沈み込もうとする思考をチャイムの音が呼び戻す。どうやら2人が来たようだ。

一旦コンロの火を止め、玄関へと迎えに行く。

 

「いらっしゃい2人とも。さあさあ入って」

「じゃまするわよー」

「お、おじゃまします」

 

部屋の構造自体は変わらないし、何度か僕の部屋に来たことがあるので迷わず洗面所へ。そこで手を洗ってからリビングに向かう2人。

リビングにはシンプルなローテーブルがあり、それを囲むように座る。

ちなみにこのテーブルは冬の時期はコタツになる。

 

「あの時言ってたからね〜、期待してるわよん」

「お姉ちゃんの料理もですけど、翔一さんの料理も美味しいですから楽しみです」

「うわっ、ハードル高そうだなぁ」

「で、一体何が出るのかしら?」

「本日の料理は、鶏の豆乳鍋となっております」

 

鍋の中にはネギに白菜、一口大に切った鶏むね肉と鶏団子が入っている。シンプルだけどこれがまた美味しい。

 

「ほほう、これはまたなかなかな女子力ですなぁ」

「お褒めに与り、恐縮でございます」

「お姉ちゃんも翔一さんも一体何キャラなんですか……」

「と、おふざけはここまで。どうぞ、冷めないうちに」

「「「 いただきます 」」」

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

2人が帰った後、歯を磨き明日の準備をしているとNARUKOの通知音が鳴った。

送り主を確認すると風からだった。何だろう?

 

[明日なんだけど、大丈夫かしら……]

[大丈夫かしら……って、テストか何かあったっけ?]

[違うわよ!……友奈と東郷のことよ]

[明日、ちゃんと説明すればいいんじゃない?あの2人なら許してくれるよ]

[でも……]

[あの2人に限ったことじゃないけど、普段の風を見てれば風がわざと黙ってた訳じゃないって分かるよ。だから大丈夫じゃないかな。なせば大抵なんとかなる、でしょ?]

 

すぐに既読がつくが返信に間があく。

 

[ありがとう、翔一]

[どういたしまして]

[まぁ、骨は拾ってあげるから]

[いや、死なないからね⁉︎]

[……東郷なら吊るしてくるかもしれない]

[はっ!そうだった!]

 

打てば響くようなテンポのいいやりとりにふと口角が上がるのが分かる。その後も他愛ない会話が弾む。

ふと、時計を見るともうすぐで10時になるところだった。

 

[そろそろ寝るとするよ、おやすみ風]

[あたしもそうするわ、おやすみ翔一]

 

文面からしか分からないが、とりあえず調子は戻ったようなので、後は寝たらそれなりに気持ちの整理がついているだろう。

五箇条が実行できているようで何よりだ。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

とある部屋、照明の点いていない真っ暗な中で、青白く光るパソコンの前に座る人影。その人影は携帯電話を取り出すとどこかへ電話をかけた。

 

『……なんだ』

 

数回のコールの後に携帯のスピーカーから聞こえる不機嫌そうな男の声。

 

『ターゲットは無事、覚醒した模様です。例の物もターゲットのもとに現れました』

『そうか……、引き続き監視を怠るな』

『承知しました。失礼します』

 

そう言いきる前に電話を切られる。人影はため息をつき画面を見る。

その見つめる先のパソコンの画面には、どこかのアパートの駐輪場で赤いバイクの前にたたずむ制服姿の3人の少年少女が映っていた。

 

 

 





ここにあったオリキャラ設定は、設定2の項目へと移りました。


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第3話 ろうたけた青

べ、別にツイッターで流行ってたカスタムキャストなんかで銀ちゃんを作って遊んでなんかいませんよ(目そらし)





花の髪飾りの再現に苦労しました(小声)


 

翌朝、いつものように朝食の準備をしながら点けたテレビのニュースを流し聞く。

 

『……次のニュースです。昨日、讃州市にて起こりました車3台が絡む男女10人が重軽傷を負った交通事故につきまして、警察の発表では……』

 

「10人が怪我ってだいぶ大きいな」

 

近頃はあまり起こらなかった大きな事故。

昨日の事と何か関係がありそうで、モヤモヤした気分になる。

眠気覚ましに淹れたコーヒーがいつもより苦く感じた。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

風たちと登校し昇降口前で樹ちゃんと別れる。

 

朝の教室では各々が好きなように過ごしていた。

仲のいい者同士でおしゃべりに興じたり、寝足りないのか腕を枕にして机に伏している者もいる。

目的の人物は……いた。

自分の席に行き、鞄から教科書類を取り出し机にしまい、ある人物の席に向かう。

 

「おはよう友兎、青」

「あぁ、おはよう翔一」

「おっはー、ショウやん、どしたん?」

 

目的の人物とは青のことだ。普段の彼女はその言動からアホの子と勘違いされるが、実際は讃州一といっても過言ではないくらいの天才である。

……まぁ、ナントカと天才は紙一重って言うし。

 

「ちょっと2人に聞きたいことがあってね」

「ほほう、して何を聞きたいのかな?あ、スリーサイズはダメだよ?」

 

ふざけながら聞き返して来る青を無視して質問する。

 

「2人はアギトって知ってる?」

「「 アギト……? 」」

「うん、ほら絵本とかに出てくるアギト。今度部活で幼稚園に行くんだけど、その時に男の子を相手にするのに使えないかと思ってさ。……何か知らないかな?」

「うーむ、そうであったか……アギトねぇ、そういえば友兎はあの本好きだったよね〜。暇になったらすぐ開いてさ」

「確かにそうだったが、小さい頃の話だろ?今は……そうでもない」

「またまたぁ、5歳の時におじさんからプレゼントしてもらった絵本をめっちゃ大切にしてるじゃん」

「お、親からのプレゼントなんだから大事にして何が悪い!」

「べーつにー、何も悪うございませんけど?」

「こ、こいつ……!」

 

いきなり置いてけぼりを食らったので、呼び戻すために咳払いを一つ。

 

「あー……んんっ!」

「おっと、ごめんごめん脱線しちゃったね。えっと、アギトだったね。そうだなぁ……確かベルトみたいなのがオルタリングっていう設定だっけ?」

「俺に聞くな……あと、その両サイドの装飾はドラゴンズアイって名称だったな」

「って言いながらだいぶ読み込んでんじゃん」

「青、茶化さない。友兎、他にもある?」

「はーい、ショウせんせー」

「そうだな…………」

 

その後も朝のHRまで時折脱線しながら、色々と教えてもらった。

好きなものを話す時の友兎は普段より表情が柔らかく、いつもこうなら良いのでは?と思ったのは内緒。

 

 

 

〜〜〜〜〜 放課後 〜〜〜〜〜

 

 

 

職員室で部室の鍵を借りて待たせていた風の元に戻ると、樹ちゃんがいたので一緒に部室まで行く。

それぞれ荷物を入り口近くの長机に置くと、風は黒板に何やら模様を書き始めた。

…イラストをつけて説明するのかな?

あれ?そういえば風は美術の成績があまり良くなかった気が……。

チラリと黒板のイラストを見てみると、案の定の画伯っぷりを遺憾無く発揮していた。

 

「こんにちは、友奈、東郷、入りまーす」

 

窓際の丸椅子に座って犬吠埼画伯の作画風景を後ろから眺めて居ると、ようやく友奈と東郷がやってきた。

2人とも荷物を置き、自然と風のもとに集まる。この様子なら大丈夫そうだ。

 

友奈が置いてあった丸椅子に座るとスマホが光り、花びらと共に中から薄いピンク色の牛のようなものが飛び出し、友奈の頭の上にぐでっと乗っかる。

 

「その子、懐いてるんですねぇ」

「えへへ、名前は牛鬼っていうんだよ」

「かわいいですねぇ」

「ビーフジャーキーが好きなんだよね」

「牛なのに⁉︎」

 

まさかの好物に驚く樹ちゃん。するとちょうど書き終わったらしい風が手を叩いてこちらに振り返る。

 

「さてと、みんな元気でよかった。早速だけど昨日のことを色々説明していくわ」

 

言いながらスマホを取り出す風。

 

「戦い方はアプリに説明テキストがあるから…今は、なぜ戦うのかっていう話をしていくね。こいつバーテックス」

 

そう言って黒板の前衛的なイラストを指差す風。それこの前の敵だったんだ……。

 

「人類の敵があっち側から壁を超えて、12体攻めてくることが神樹様のお告げで分かったわけね」

「あ、それこの前の敵だったんだ……」

「き、奇抜なデザインをよく表した絵だよね!」

 

樹ちゃんが僕と同じ感想を口にし、それに友奈がフォローを入れた。

 

「目的は神樹様の破壊」

「神樹様の破壊?」

 

なかなか壮大な敵の目的につい、オウム返しで聞き返してしまう。

 

「そ、以前にも襲って来たらしいんだけど、その時は頑張って追い返すのが精一杯だったみたい」

 

今度は黒板に大きく書かれた大赦の文字から線を伸ばし、その下の人?を丸で囲む。

 

「そこで大赦が造ったのは神樹様の力を借りて勇者と呼ばれる姿に変身するシステム。人智を超えた力に対抗するには、こちらも人智を超えた力ってわけね」

 

人智を超えた力……それに対抗できた僕の力は一体なんなんだろうか。謎は深まるなぁ。

 

「注意事項として、樹海が何かしら形でダメージを受けるとその分日常に戻った時に何かの災いとなって現れる、と言われているわ」

 

何かの災い……おそらく今朝のニュースでやっていた事故がそうなのだろう。

友奈もそのことに思い当たったのかハッとした表情をする。

 

「派手に破壊されて大惨事、なんてならないようにアタシたち勇者部が頑張らないと」

「……その勇者部も先輩が意図的に集めたメンツだったという訳ですよね」

 

今まで黙って話を聞いていた東郷が口を開く。

 

「……うん…そうだよ。適性値が高い人はわかってたから。アタシは神樹様をお祀りしている大赦から使命を受けてるの……黙ってて、ごめんね」

「次は敵、いつ来るんですか?」

「明日かもしれないし、1週間後かもしれない……そう遠くはないはずよ」

「……なんでもっと早く、勇者部の本当の意味を教えてくれなかったんですか?友奈ちゃんも樹ちゃんも、最上先輩だって……死ぬかもしれなかったんですよ」

 

俯いて悲しむように話す東郷。心なしか膝の上に置かれた両手が震えている気がした。

 

「ごめん……でも、勇者の適性が高くてもどのチームが神樹様に選ばれるか、敵が来るまで分からないんだよ。むしろ、変身しないで済む確率の方がよっぽど高くて……」

「そっか、各地で同じような、勇者候補生が、居るんですね」

「うん、人類存亡の一大事だからね」

 

友奈の解釈を肯定する風。

 

「こんな大事なこと……ずっと黙っていたんですか」

「東郷……」

 

消え入るようにそう呟くと、東郷は車椅子を操作して出て行く。

 

「ぁ、私、行きます!」

 

部室を出た東郷を追いかけて行く友奈。後に残されたのは東郷たちの出て行ったドアを見つめる風と、不穏な雰囲気にあわあわと慌てる樹ちゃんと僕だった。

そんな空気を変えるために風に話しかける。

 

「ところで風、僕やあの怪物について大赦は何か言ってた?」

「…いや、大赦は翔一の力もあの白い怪物の事も知らなかったみたい。ただ、とりあえずの呼称として翔一の力を『アギト』、白い怪物を『ヒルコ』とするそうよ」

「ヒルコ、か」

 

何やら意味のある名付けに思えた。今度調べてみるか。

 

「それよりも……」

「ん?それよりも、何?」

「……どうしよう⁉︎東郷、すっごい怒ってるわよね、あれ!」

「へぇ?」

 

さっきまでのシリアスは何処へやら、突然慌て出す風。

つい、気の抜けた声が出てしまう。

 

「あー……いや、たぶんそうじゃないと思うけど……」

「あ、謝り方の練習とかした方がいいわよね⁈」

 

焦りからか、あまりこちらの声が聞こえないようだ。

 

「お、おーい風さーん?聞こえてる?」

「い、犬神ぃ、ちょっとここに来て!」

 

そう言ってスマホを操作し、精霊を呼び出す風と大人しく言うことを聞く犬神。

そこから、何パターンかの謝り方を犬神相手に繰り返すが納得いかないみたいだ。

 

「困った〜、どうやって仲直りしよう……樹、どうするべきか占えた?」

「今結果でるよ。いかにしてお姉ちゃんと東郷先輩が仲直りするか……えいっ」

「おっ、なんかモテそうな絵じゃない。他のは?」

「タロットの基準はそこじゃないでしょ……」

「え……とぉ、あ」

 

裏返されたカードが樹ちゃんの手を離れた瞬間、浮かんだ状態で停止する。

そして鳴り出す昨日と同じ()()()()()()

風の犬神がスマホを持ってフヨフヨと風の前に来る。

 

その画面には『 樹海化警報 』の文字が表示されていた。

 

「樹海化警報?……まさかっ!」

「まさか……2日連続でバーテックスが⁉︎」

 

 

 

〜〜〜〜〜 樹海 〜〜〜〜〜

 

 

 

目の前に広がる樹海は昨日とは少し違っていた。

昨日よりも開けた視界、遠目に今回攻めてきた敵の姿も確認できる。

 

「3体同時に来たか、モテ過ぎでしょ…」

「あわわわ……」

 

今回の敵は赤と青と黄色の異形3体だった。

アプリの表示と照らし合わせると、

ホームベースのような半透明の板が周囲に浮いている赤いのが蟹座、

数字の6のような形で、背部に背びれのような3つの突起物がある青いのが射手座、数珠状の尾の先に鋭い針を持ち、胴体部に何かの液体がある黄色いのが蠍座となっている。

 

「奴は、ヒルコはいる?」

「今のところは…見あたらないわね」

「ヒルコ?」

 

話を知らない友奈が聞き返してくる。

 

「ほら、昨日僕が倒した白い怪物いただろ?それの呼称だよ」

「こしょう?黒くてピリッとするやつですか?」

 

簡単に説明したら、友奈が首を傾げる。

えっと……友奈それはボケ、だよね?

 

「いやそれはペッパーの方の胡椒でしょ、コードネームの方の呼称よ」

「???」

「横文字苦手か!」

 

友奈の発言をボケと思った風が軽くツッコミを入れ、例えを交えて訂正するが、友奈は再び首を傾げた。

……まぁ、音だけじゃ分かりにくいもんな。

 

「と、とにかく今回はあの3体を倒せばいいんですよね!結城友奈、頑張ります!」

「あ、誤魔化した」

 

現実から逃避した友奈は変身してやる気を漲らせる。

 

「んじゃ、アタシたちも変身しますか!あ、友奈は後でお話しね」

「そんなぁ〜」

 

続く形で風と樹ちゃんも変身したので、僕も集中しベルト、オルタリングを呼び出すと前回のように変身する。

 

「……ん、大丈夫だ」

 

意外なほどすんなりと変身できた。

もっと、こう……手間取ったりするものでは?

手を握って開いたり、肩を回してみたりと体の調子を確かめてみたが前回のように力が漲っている。

 

「へー、改めて見るとなかなか、かっこいいじゃない」

「強そうですね!」

 

初めて間近で見た風と樹がそれぞれ感想を言ってくる。

 

「そう言われても俺からはよくわからないからなぁ……」

「なら、写真撮って後で見せてあげるわよ。ほいっと」

 

そう言って風はスマホでパシャリと写真を撮った。

 

「アイツらを倒して部室に戻ったら見せてくれ」

「オッケー、それじゃあみんな、行くわよ!」

「おう!」

「「 はい!」」

 

気合を込めて答え、比較的距離の近い2体に向かう。

 

「遠くの奴は放っておいて、まずはそこの2匹まとめて封印の儀にいくわよ!」

 

風の指示を受けて、2体を囲むように動いた時、突然風が吹き飛ばされる。

 

「うわっ」

「っ⁉︎風!」

「お姉ちゃん!」

「っと、大丈夫よ!」

 

明らかに近くの2体の攻撃ではない。

素早く遠くの射手座を見ると、開いていた上の口のような部位が閉じて、入れ替わるように下が開きそこから大量の矢が飛び出してきた。

 

「い、いっぱいきたあぁぁ〜〜」

 

迫り来る洪水のような大量の矢。

それが撃ち続けられればこちらが不利になるから、射手座をどうにかしないと。

そう考え、射手座へ向かって走り出す。

同じ事を考えたのか、少し離れた位置に友奈がいた。

 

「こい、トルネイダー!」

 

そう呼ぶと、どこからともなく現れて並走してくる相棒。

足に力を込めて踏み切り、飛び上がると下に滑り込んでくる。

そのまま足を下ろして騎乗し加速する。

 

「友奈さん、危ない!後ろです!」

「へっ⁉︎うわわわわわわわわ!」

 

樹の叫び声に後ろを振り返ると、友奈に向かって射手座の矢が飛んで来ていた。

それを咄嗟とはいえ全て叩き落とす友奈。

 

「すごいな、友奈……」

 

安堵したのも束の間、今度は蠍座の尻尾が迫り、友奈を弾き飛ばす。

 

「きゃあああああ!」

「っ、友奈ぁ!」

 

この事態につい、()()()()()()()()()

 

「…っ!しまっ、ぐっ‼︎」

 

敵がこちらの止まった隙を逃すはずもなく、射手座の風を吹き飛ばした一矢を受けてしまう。

咄嗟に体をずらし腕を盾にしたが、その威力にトルネイダーから弾かれ壁に叩きつけられる。

 

 

 

「痛っ!……はぁ、かなり飛ばされた」

 

一瞬、意識が飛びかけたが、地面に落ちた衝撃で目が冴え、なんとか立ち上がる。

しかし、盾にした左腕が痺れてあまり動かない。

あたりを見渡すと、蠍座が東郷のいる方へと友奈を弾きながら向かっていた。

走りながらスマホを取り出し風に繋ぐ、2コール目で出た。

 

「ちっ、風!そっちは無事か!」

『なんとか、ねっ!そっちは?』

「こっちもなんとかな。だが、蠍座が東郷のいる方に向かってる。悪がそっちはもう少し耐えてくれ。すぐ片付けて合流する」

『了解っと!あー、もう、しつこい男は嫌いなのよ!

 

通話を切り、走って跳んで蠍座を追いかける。

トルネイダーは近くにいない。どうやら射手座の射撃に巻き込まれて足止めを食らっているようだ。

相手は巨大ゆえにその速度は速く距離は少しずつしか縮まらず、なかなか追いつけない。

気付けば周囲の景色に見覚えが出てくる。

 

「くそっ、大分近づかれちまった!」

 

今回、東郷を1人に出来たのはバーテックスとの距離が大きくあったからだ。

なのに、ここまで近づかれたら変身できない東郷が危ない。

そんな焦りから悪態をつく。

 

 

突然、蠍座の移動が止まったが、尻尾の針を()()に執拗に叩きつけている。

 

 

最悪の事態が頭をよぎる。

まさか……やめろ、やめろおおお‼︎

 

 

「……友奈ちゃんを、いじめるなああああ!」

 

 

怒りに染まりかけた思考を、東郷の絶叫が吹き飛ばす。

蠍座に追いつき東郷を見ると、険しい顔で蠍座を睨みつけていた。

 

それは初めて見る東郷の怒りの表情だった。

 

東郷の叫び声にその存在に気付いたのか、蠍座の針が東郷へと迫る。

青い障壁がその針を阻み、弾き返す。

 

「私、いつも友奈ちゃんに守ってもらってた……」

「東郷……さん?」

「だから、次は私が勇者になって、友奈ちゃんを守る!」

 

 

そう力強く宣誓するともに、青い朝顔の花が舞いあがる。

 

 




やっと投稿出来たぁ!
ちまちま書いてはいたけど疲れてモチベをキープ出来ずズルズルと今日まで……。
そういえば今日ってわすゆのテレビ放送一周年なんですって!

……というわけで予告、どうぞ。



勇者であるシリーズ×仮面ライダーシリーズ
クロスオーバー第2弾


「俺か?俺は◼️◼️。◼️◼️◼️◼️だ」
「じゃあ、◼️◼️◼️◼️だね〜」

鷲尾須美は勇者である と

「だーかーらー、◼️◼️は入れんなって言ってんだろ!」
「好き嫌いしてたら、大きくなれないぞ?」
「お前は俺の母親か……!」

仮面ライダー ◼️◼️◼️◼️ が

「こんの、融通の利かない堅物が!」
「なによ!それでも大和男児なの⁉︎」
「「 なんだと! 」」
「やっぱり仲良しさんなんよ」
「「 なっ⁉︎誰と誰が‼︎ 」」
「そういうところだぞー」

夢のクロスオーバー!

「お役目、開始します!」

「よっしゃあ!勇者は根性!」

「みんな、いっくよー!」


「最初に言っておく、俺はかーなーり強い!」


鷲尾須美は勇者である 〜〜 忘れじの切符 〜〜


『みんな、◼️◼️をよろしく!』







投稿するかは…………ナオキです(未定です)(てか書いてすらない)(思いつき予告)

誰か書いてくれても、ええんやで(期待の眼差し)


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第4話 青の嵐

ひぃー、この回ムズカシスギィ!
アニメ本編でもコミックでも東郷さんが無双しすぎなんよ(白目)



注:今回、後半部分のほとんどが地の文となってしまいました。
一応、面倒になった人の為に後書きにざっくりとまとめておきました。




東郷が勇者に変身した。足の不自由さを補うためなのだろうか、4本の紐状の触手が東郷を支えていた。

 

「綺麗……」

 

友奈がポツリと零す。

東郷が静かに右腕を前に出すと、着物を着た狸の精霊とともに武器である小型の銃がその手に現れる。

サソリ座が再び尻尾を持ち上げ、針を振り下ろそうとする。

東郷は冷静に引き金を引き、打ち出された弾丸はその針を半ばから砕き折る。

 

「……もう友奈ちゃんには手出しさせない」

 

そう言うと精霊と武器が入れ替わる。

着物を着た狸の精霊が火の玉のような精霊へ、小型の銃がより大きい二丁の銃へと変わった。

それをサソリ座に向かって絶え間なく撃ち続ける。

 

「すごい、東郷さん…これなら……!」

 

百発百中の東郷に友奈の顔が明るくなる。

そして、ついに東郷の猛攻撃にサソリ座の巨体が揺らぐ。

そこではたと気付き、東郷の近くに跳躍する。その途中で念のため揺れているサソリ座の側面に蹴りを入れて転ばし、2人の近くに着地する。

 

「友奈、東郷!」

「翔一先輩……」

「最上先輩、私……私も一緒に戦います!」

 

そう言ってこちらを見る東郷。その翡翠色の瞳には確固たる覚悟があった。

 

「……分かった。背中は任せるぞ、東郷」

「はいっ!」

 

東郷は嬉しそうに頷いた。

 

「友奈」

「なんですか?翔一先輩」

「アイツを投げて向こうのカニ座にぶつける。方向を教えてくれ」

「分かりましたっ!」

 

倒れていた友奈に手を貸し、立たせて簡単に指示を出す。

東郷が勇者になれたが、アプリのテキストによると封印の儀をするには勇者が3人以上必要らしい。

それならこのサソリ座をぶつけるか、ぶつからずとも敵の動きが少しは止まるはずだ。

 

「友奈、どっちの方向だ」

「えーっと……あっちです!」

 

スマホのマップを見ていた友奈が、そう言ってある方向を指差す。

 

「ゆ、友奈ちゃん、流石にあっちだけだと先輩が分からないとおm」

「よし、あっちか……でりゃあっ!」

 

針の折れた尻尾を掴んで、友奈が指差した方向へ駆け出す。

すると尻尾がピンっと張る感覚が伝わってきた。

その瞬間に強く踏み込み、背負い投げの要領で尻尾を巻き込むように引っ張ると、サソリ座が浮かび上がる。

タイミングよく尻尾から手を離しサソリ座を投擲する。

 

「えぇ……」

「東郷さん、行こっ!」

「うん、友奈ちゃん」

 

何やら呆れたような声を出した東郷だが、友奈に手を差し出されると、瞬時に嬉しそうな顔になりその手を取って動き出す。

俺はサソリ座の飛んでいった方向を気にしながら2人の後に続いた。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

翔一からの電話が切れた後も私と樹はカニ座の反射する大量の矢から逃げていた。

ちょうど目に入った樹海の根の陰に隠れてひと息つくが、根の両側には今も矢が飛んできている。

 

「あ"ー、もう!ほんとに、しつこいんだから!」

「ど、どうしよう、お姉ちゃん……」

 

樹が困った顔で聞いてくるが、正直なところ私も困ってる。

この状況を打開しようにも、私の大剣は大きく出来るがその分動きが鈍くなるし、樹のワイヤーは敵の切断は出来るがそれ以外は全くの未知数だ。

 

『早く来てよ、翔一』

 

思わずそうこぼしそうになる。でもダメ、ここで弱音は吐けない。

 

「……ぅん?」

「どうしたの、樹」

 

樹が何かに気付いたのか小さく声をあげた。

 

「なんか地面が暗く……って、えええええ⁉︎」

「ほんとにどうしt……何か飛んでキタァー⁉︎」

 

次の瞬間、カニ座に向かって何かが飛来し、その何かとカニ座がもつれ合うように重い音を響かせながら倒れた。

 

「おーい、そのエビ、運んできたよーーっ」

「友奈ちゃん、あれはサソリよ」

 

何事かと根の陰から出てみると、そう言い手を振りながら友奈と変身した東郷が、少し遅れて翔一が近くに着地した。

 

「友奈、東郷、翔一……」

「……意外と上手くいったな、友奈」

「ばっちりでしたね、翔一先輩!」

「って、アレはアンタらの仕業かいっ!」

 

思わずツッコミを入れてしまった私は悪くない。

 

「東郷先輩……!」

「遠くの敵は私が狙撃します」

「……東郷、戦ってくれるの?」

 

私がそう聞くと、東郷は頷いてくれた。

 

「援護は任せてください」

「わかった。お願いするわ、東郷」

 

これでこっちの戦力が全て揃った。

 

「手前の2匹、まとめてやるわよ!散開っ!」

「「 オーケー 」」

「……不意の攻撃には気を付けて!」

「「 はいっ! 」」

「アタシのより、返事がいい……」

 

友奈だけでなく樹まで……っと、いけない切り替えなくちゃね。

さぁ、ここからは私たちの攻撃(ステージ)よ!

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

3人が封印の儀でカニ座とサソリ座を相手している間、俺は東郷の少し前の位置で警戒しながら、事の成り行きを見守っていた。

未だにヒルコが姿を見せていない事が引っかかっていたからだ。

昨日の襲撃であれほどアギトに攻撃的だったヤツが今回はいない、なんて事は無い。

必ず何処かにいる。

何故そう思うのかと問われれば、正直答えに窮するがどこか確信めいたものがあった。

 

射手座の攻撃の悉くを、東郷はその正確無比な射撃で撃ち落とし、反撃を加えている。

 

視界の端で虹色の光が立ち昇る。

どうやら風たちがあの2体を倒したようだ。

その光はしばらくあたりを漂うと、射手座に向かって飛んでいった。

 

「もしや……」

 

飛んでいった光は射手座の背部にある突起物にそれぞれ入り込んだ。

その現象で姿の見えなかったヒルコの居場所に見当がつく。

 

光が全て入ると突然、射手座がぐるりと体を縦に回転させる。

背部の突起物をこちらに向けると、その突起物は2つ、勢いよく放物線を描きながら飛んできた。

それは放物線の頂点を過ぎ、落下し始めるとピシリと真っ直ぐな線が入り、2つに割れる。

中には、奴らが入っていた。

前回のように変形してはいたがアレらはヒルコだ。

 

1体は全体的にずんぐりとした体格で、上半身はまるで鎧を着ているみたいだった。

特徴的な口は見えず、代わりに蟹の目のようなものが生えて両手は巨大な赤い鋏になっていた。

 

もう1体は反対にスマートな体格で、刺々しいフォルム、顔の半分が甲冑のような装甲で覆われ、その下に見える口は牙がむき出しになっていた。前腕部が膨れ上がり手の甲側に黄色の鋭い針があった。

 

おそらくずんぐりとした方がカニ座を吸収し、スマートな方がサソリ座を吸収したのだろう。

ずんぐりしたのを蟹ヒルコ、スマートなのを蠍ヒルコとしよう。

 

「なるほど、最初からあそこにいたのか」

「どうしますか?最上先輩」

「…東郷はそのまま射手座を。アイツらは俺がやる。風たちが射手座を倒し次第、俺の援護を頼む」

「わかりました……先輩」

 

いざ駆け出そうとしたところを東郷に引き止められる。

 

「なんだ?」

「御武運を」

「……ありがとう。行ってくる」

 

 

 

2体が落ちると予想される場所へ走ると、蟹ヒルコは見た目通りに重いのか既に地上に降りていたが、蠍ヒルコはまだ空中にいるのが見えた。

幸いなことに、2体ともまだこちらに気付いていないようだ。

このチャンスを逃さないように走りながら角、クロスホーンを展開し力を解放する。

 

「ハッ!」

 

蠍ヒルコの足が地に着く直前に踏み切り、その無防備な背中に必殺の蹴り(ライダーキック)を叩き込む。

 

『shaaaaa⁉︎』

 

背後からの奇襲に気付き、奇声を上げながら振り向くがもう遅い。

蹴りをもろに受けて吹き飛び、転がりながら砂へと還る蠍ヒルコ。

 

「……まずは、1」

『gigigi……‼︎』

 

向かい合った蟹ヒルコは泡を吹きながら、不機嫌そうに貝殻を擦り合わせるような音を出す。

 

蟹ヒルコに向かって駆け出し、真正面から攻撃をする……フェイントをかける。

 

右拳を引き絞り、左で軽く踏み込む。

 

それに対し蟹ヒルコは右の鋏を振りかぶる。

 

その鋏が振り下ろされる瞬間、踏み込んだ左足で跳躍して蟹ヒルコの上を飛び越え、背後に着地。

即座に体の向きを変え、その勢いも乗せたパンチで背中を殴る。

 

「っ……‼︎」

 

当てた直後に後ろへ飛んで距離を取ると、蟹ヒルコが振り向きざまに振るった左の鋏が空振る。

 

……まるで素手で鉄板を殴ったかのように硬く鈍い感触だった。

殴った手の痺れを、強く握ることでかき消す。

 

『 gi gi gi gi gi 』

 

今度は機嫌良さげに先程より高めの音を出す。

前回といい、さっきの蠍ヒルコといい、ヒルコ達はかなり感情豊かだ。

……今のは煽られているようで、正直、少しムカついた。

 

「なら、ハァァ……」

 

独特の構えを取り、クロスホーンを展開する。

地面に現れたアギトの紋章からエネルギーを右足に集約する。

 

「フッ、タァッ!」

 

驚いたことに蟹ヒルコは仁王立ちのまま蹴りをくらった……いや、受け止めた。

 

「ッ‼︎…グァ……ガハッ‼︎」

 

蹴りを止められ無防備になった俺を、蟹ヒルコは左の鋏で足を挟み、1度地面に叩きつけると無造作に投げた。

 

投げられた俺は空中で何かに跳ね返されて、蟹ヒルコのもとに戻され右の鋏で首を掴まれ持ち上げられる。

 

持ち上げられ、視界が上に向けられて気付いた。

俺と蟹ヒルコを囲むように大小様々な透明な泡が浮かんでいた。

 

「ゥァ……クッ……‼︎」

 

首を掴む鋏の力が少しずつ強まる。

 

『 gi!gi!gi!gi!gi!』

 

いたぶるように、弄ぶようにじわじわと力を強め、嘲笑のような音を出す蟹ヒルコ。

頭に血液と酸素が巡らず意識が薄れるなか、本能的にオルタリングの左のスイッチを押した。

 

すると突然、突風が吹き蟹ヒルコと奴の撒いた泡を吹き飛ばす。

 

「ゲホッ……ハァ……ハァ……」

 

乱れた息をなんとか整える。

オルタリングを見るとその中央と左のドラゴンズアイが青く輝いていた。

 

「なんだ……これ……」

 

オルタリングが一瞬強く光るとそこから棒状の何かが飛び出した。

その棒を引き抜くと、長く伸び両端にある刃が展開した。

それと同時に左肩のアーマーが丸く隆起し、胸部装甲とともに青色に変化する。

 

 

アギトの特殊形態が1つ、

 

風の力を宿す姿『 超越精神の青(ストームフォーム)

 

そしてその武器、嵐の槍斧(ストームハルバード)である。

 

 

 

「ははっ、これは……聞いてなかったな」

 

聞いていなかったが使い方はわかる。それなら好都合だ。

 

具合を確認するために2、3度ハルバードを振る。

振った影響か風が巻き起こる。

右足を引きハルバードの刃先を蟹ヒルコに向け、槍術における左前半身の構えを取る。

 

 

沈黙

 

 

相手を視て、出方を探る睨み合い。

それは数秒だったかもしれないし、数分だったかもしれない。

永遠にも感じた沈黙は泡の1つが弾けた瞬間、破られた。

 

『 g i i i i i i ‼︎ 』

「ハァァァッ‼︎」

 

互いの得物を構えて走り出す。

こちらはハルバードを、あちらは自前の鋏を。

あと1歩で奴の間合いに入るというところで風を操り、急加速する。

 

 

振り下ろされる右の鋏をくぐり抜け、槍斧の両断(ハルバードスラッシュ)

 

 

腰元から両断された蟹ヒルコは、不快な断末魔をあげながら砂へと還った。

 

「……これで、2」

 

 

ハルバードを杖にし、ひと息つく……流石に今の戦いは危なかった。

 

その時、直感的に地面に刺したハルバードを引き抜き、後ろへ降ると何かを弾く。

キンッと軽い金属音が鳴り、地面に鉛筆大の針が突き刺さる。

 

針の飛んできた方向を見ると……いた。

大胆にも隆起した根の上に左膝を立てた片膝立ちでこちらを狙う怪人、射手ヒルコがいた。

 

その右腕が現代的な形の青い銃になり、頭部はカメラのレンズのような1つ目へと変形していた。

 

外したことが分かったのか、銃口を天に向け1度だけ上下させると再び右腕を伸ばし構え、再びの狙撃。

 

分かりきったそれを体の前でハルバードを高速回転させ弾く。

そのままハルバードの柄を半分ほどで持って、右足を引き真半身になりハルバードを持った右腕を引く。

クロスホーンを展開し、力を解放する。

さらに風の力をハルバードに纏わせる。

 

しかし、敵はその隙を逃すほどバカではない。

 

素早く3度目の装填の動作をして撃つ。

その直前に横から放たれた青い弾丸が銃口に当たり、銃口をはね上げる。

 

そんな事をされると思わなかったのか一瞬硬直する射手ヒルコ。

今度はあちらが隙を晒した。逃す手は無い。

 

十分に狙いを付け、抑え付けられていたバネが跳ねるように、全身を使い渾身の力で投擲する。

 

当然立ち上がり避けようとする敵。

しかし、その右膝を青い弾丸が撃ち抜きその場に留める。

敵は最後の足掻きなのか腕を組み、ガードの体勢をするがそれは許さない。

 

投げられたハルバードは、ガードする為に組んだ腕ごと敵の上半身を貫いた。

 

「……これで、3」

 

そう呟くと世界が白く染まりだす。

樹海化が解けるようだ。

スマホを確認すると全員の反応があった。

 

 

()()()()()()()()()()()

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

樹海化が解けると、昨日と同じ校舎の屋上だった。

 

「東郷さん!かっこよかったよ〜、ドキッとしちゃった!」

 

そう言って車椅子に座る東郷に抱き付く友奈。

満更でもなさそうな東郷。

 

「……そんな、私……」

「本当に助かったわ、東郷」

「そうだよ東郷、最後の支援は助かったよ」

 

東郷は謙遜したが、銃口という小さな的に当てるなんて凄いとしか言えなかった。

 

「……風先輩、覚悟はできました。私も勇者として頑張ります」

「……東郷、ありがとう!」

「これからは一緒に国防に励もう」

「……国防……はいっ!」

 

国防の言葉に反応し、目を輝かせる東郷。

 

「あ、そういえば友奈ちゃん、課題は?」

「あッ⁉︎課題……明日までだった。アプリの説明テキストばっかり読んでて……」

「ふふ、そこは守らないから頑張ってね」

「そんなー」

「勇者も勉強も両立よ」

 

友奈とのやり取りで東郷は、憑き物が落ちたような晴れやかな笑顔を浮かべていた。

 

 

〜〜〜〜〜 駐輪場 〜〜〜〜〜

 

 

その後は祝勝会ということで、いつもの『かめや』に寄り道することになった。

ひとまず駐輪場にトルネイダーを回収しに行く。

 

「〜 ♪ ……ん?あれ?」

「何よ翔一、アンタまたなんかあったの?」

「いや、大丈夫なんだけど、なんて言うか…….その……なんかトルネイダーの色薄くない?」

「ぅん?そう言われれば……少し薄くなってるわネ」

「あ、ホントだ。ちょっとピンクっぽくなってますね」

 

どうしてだろうか……!、ひょっとして

 

「今日の戦いで活躍できなかったから落ち込んでるの?」

 

そう言うとトルネイダーの色が、さっきより薄くなった。

……どうやら当たっていたらしい。

 

「えぇ……」

「プフッ、なかなかかわいいとこあるじゃないの、この子」

「あ、また薄くなった」

 

何か言われるたび、徐々に薄くなる色。

トルネイダーはピンクを通り越して白くなり始めた。

 

 

その後、元の赤色に戻るのに10分ほど慰めるはめになった。

 

 




後半まとめ!

蠍ヒルコ(モデル:スコルピオワーム)
・背後からの不意打ち&着地狩りを食らうの巻。
・めぼしい活躍も無く退場。
・没にしたけど主人公を苦戦させる予定だった。
・多分、敵キャラで1番不遇なやつ。

蟹ヒルコ(モデル:ボルキャンサー)
・ライダーキックを耐えるカチカチ防御。
・でもストームハルバードには勝てなかったよぉ〜(泡ぶく)
・蠍ヒルコとタッグで主人公を苦しめるはずだったのにぃ……!
・その為の右手(鋏)

射手ヒルコ(モデル:トリガードーパント)
・同じ場所で狙撃し続けちゃぁ、ダメだろ。
・某13な女子中学生からの狙撃にびっくり。
・膝に矢(銃弾)を受けてしまってな……。
・ズガーン(胴体貫通)



なんだか主人公がゴ◯リンスレイヤーみたいに容赦無くなってた。
……まぁ、いいや(思考停止)。

次回はオリジナルの幕間になる予定です。








オオカミノさんに食べられたい


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第5話 不思議なそのこ

今回はオリジナルの幕間話となります。
あとかなり遅くなりましたが設定も投稿しました。



そういえば、これ"幕間"、「まくま」って呼んでたけど本当は「まくあい」なんですね。
また一つ賢くなってしまった……!


 

2度目の襲撃から2日後、世間は大型連休、ゴールデンウィークの初日である。

 

そんな一大イベントの最中、僕は香川で最大級の病院、円鶴中央病院に来ていた。

2日続けての戦闘や新しい力の発現などがあったので、大赦から1度詳しい検査を受けて欲しいとの通達があり、元々予定していた定期検診も兼ねての来院だった。

どうして病院に行く予定があったのか。

 

 

 

それは、僕には()()()()()()()

 

 

 

正確には保護される以前の約13年分のエピソード記憶、いわゆる"思い出"が思い出せない。

 

2年前、瀬戸大橋近くの海岸に打ち上げられているのを発見された僕はこの病院へと運びこまれた。

 

目が覚めたとき、自分がいる場所が病院だということは分かった。

けど、自分が誰なのか分からなかった。

分からないという恐怖以上に、ただただ虚無だった。

空っぽな"自分"に茫然とするしかなかった。

茫然としている間に受けた様々な検査の結果、他の病院の履歴から"最上 翔一"である事が分かった。

 

身元が判明したことにより親族に連絡を取ったところ、最終的におやっさんこと安芸伸一郎が後見人を引き受けて今に至る、という訳だ。

 

 

記憶喪失の事を知っているのは全員で7人。

後見人のおやっさん、中学校の校長、担任、保健室の先生そして風と樹ちゃん。

 

「……よし、これで今日の検査は終了だ。お疲れ様」

 

それと2年前からの付き合いになる医師の伊予島 明(いよじま あきら)先生もだ。

 

「ありがとうございました……ふぅ」

 

ちゃんとお礼を言って上げていたシャツを下ろしひと息つく。

心音を聴かれている時って意外と緊張する。

 

「結果待ちのもあるけど、今のところ前回とあまり変わらない。強いて言うなら筋肉がついてきてるってことかな……なに、好きな子でもできた?

 

そうまとめた後に目を輝かせながら小声で聞いてきた。

 

「ち、違いますって。部活の基本的な活動が運動なだけですよ。それに鍛えたってコレはあまり人に見せられるものじゃないし……」

「あー、ソレねぇ……初めて会った時も調べてみたけど、異常なかったのに全然消えないよね。その()

 

僕の胸の中央、だいたい心臓の位置にある、人の握り拳のような痣。

人に見られれば虐待でも受けているのかと誤解されそうなほど、はっきりとついている。

 

「消えない手形とか、なかなかホラーな話ですね……」

「まぁ、悪いものではないのは確かだから様子を見るしかないよ。……おっと、もうこんな時間か」

 

結論として様子見は当然だろう。

話していると伊予島先生のポケットからアラームが聞こえる。

どうやらかなり話し込んでしまったようだ。

 

「ごめんね、これから別の患者さんの診察に向かわないといけないんだ」

「いえ、こちらこそ長居してしまってすみません。今日はありがとうございました」

 

そうお礼を言って検診室を後にする。

 

 

 

検診室から廊下へ出てエントランスへ戻ろうとすると、どこかでチリーン、と小さく鈴の音がした。

 

「……うん?」

 

さっと辺りを見回しても気配も人影もない。

気のせいだと思い歩き出すと、再び鈴の音が聞こえた。

 

「気のせいじゃない……?」

 

今度はゆっくり見回してみると、廊下の突き当たり、エレベーターのあるあたりの壁から誰かが頭を出しこちらを覗いていた。

頭の高さからすると、入院している子供だろうか?

よく見ようと目を凝らすと、その子は壁の向こうに引っ込んでしまった。

引っ込む瞬間に短い黒髪と赤い布が見え、先程から聞こえていた鈴の音がした。

 

「あ、待って」

 

その時は何故だか追いかけなくてはいけない気がした。

エレベーターの前に着き、その子が消えた方を向くと階段があった。

検診室があるこの階は3階、下に行けば受付のあるエントランス、上の階からは一般病棟となっている。

 

「……どっちだろう?」

 

どっちに行ったか確認するために手すり越しに下を見たその時。

 

アハハハハ

 

上から女の子の笑い声がした。

急いで見上げると、2階ほど上の手すりから離れる赤い影と鈴の音。

 

 

僕は階段を駆け上がった。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「ハァ……ハァ……ハァ……」

 

不思議な子を追いかけて何階か上がると辿り着いたのは、薄暗い廊下になぜか1つだけある重厚な両開きの扉の前だった。

 

普段は閉じているであろうその扉は、片側だけが手前にズレていた。

あの子はここに入ったのだろうか。

 

「……フゥ、よしっ」

 

乱れた息を整え、意を決して扉を開けて中に入る。

 

「失礼しまーす……」

 

部屋の中は中央にベットが置かれ、そこだけに明かりが点いていた。

壁にいくほど暗くなり部屋全体を見ることは出来なかった。

ただ、扉から中央のベットまでカーペットのようなものが真っ直ぐ敷かれ道ができていた。

その道に沿ってベットまで歩いていると、コツッと何かが足に当たった。

 

「ん?なんだこれ」

 

拾い上げてみるとそれは人型にカットされた木製の板だった。

ただその人型は完全じゃなく、左右は分からないが片腕が無い状態だった。

 

「これって、確か」

 

確か歴史の授業で習った通りならこれは、

 

 

人形(ひとがた)

 

 

古来からある神道の儀式、(はらえ)で使われる人の形の道具。

多くは紙で作られ、それらに罪や穢れを移し、焼いたり、川に流したりする事で罪や穢れを祓うとされている。

時には祭りの際に神霊の代わりとして置くこともあるという。

 

つまりこれが意味するものは()()()()

 

「なんでこんなものが……」

 

正直、病院といえど似つかわしくない代物だ。

よく見ると明るくなっているベットの周りにも無数に置いてあった。

この様子だとおそらく暗くて見えないこの部屋の全体も同じだろう。

 

「なんだよ……これ」

 

まるで……まるで何かを祀っている、崇めているようであまりに不気味だった。

 

ここは人のいるべき場所じゃない。

 

思わず一歩後ずさるとパキッと足元から音がした。

ハッとして足元を見ると、人形の胴体から蜘蛛の巣状にバラバラになっていた。

 

「……ん、んぅ……誰か、来てたの〜?」

 

僕がたてた音で起きたのかベットの方から間延びした女の子の声がした。

恐る恐るベットの方を見ると、左目と口元以外を包帯で覆われ、一般的な患者衣とは違う薄紫の着物を着た少女がいた。

部屋の異常さとは対照的なあまりに儚いその雰囲気に驚いた。

……とりあえず挨拶をしてみる。

 

「こ、こんにちわ」

「……ぅう?……あっ…きー……?」

「あっきー?」

 

まだ寝ぼけているのか、僕を誰かと間違える少女。

 

「あの、僕はあっきーって名前じゃないですよ?」

「……ん?あ、ごめんね、人違いだったんよ〜」

「人違い、ですか」

「うん。ここってあんまり人が来ないから……ときどき間違えちゃうんだよね」

 

名前を訂正すると、少女はこちらに謝った。

謝罪とともに気になることを言って。

 

「……人が、来ない」

「そうなんよ。ちょっと事情があってね。ところで、あなたは誰なのかな〜?」

「あ、ごめんなさい。僕は最上翔一、中学3年です」

「うーん、それなら……もがみんだ!」

「も、もがみん?」

「えへへ、私、あだ名つけるのが好きなんよ。……私の名前は乃木 園子(のぎ そのこ)、中学2年生、になるのかな。私の方が年下だから敬語はいらないよ〜」

 

いきなりあだ名をつけたりと、マイペースに自己紹介する園子ちゃん。

 

「そっか、よろしくね。園子ちゃん」

「よろしくね〜……へいへい、もがみん先輩、そんなところにいないで、こっちに来なYO!」

「……オッケー、今行くYO!」

「おぉ、もがみん先輩ノリ良いね〜」

 

彼女のノリに合わせて答えると嬉しそうにする園子ちゃん。

さっき言っていた、あまり人が来ないというのは本当なのだろう。

 

お呼ばれしたのでベットの近く丸椅子を寄せ、彼女の右手側に置いて座る。

 

「して、お嬢様は何をお望みでしょうか?」

「それじゃあ、何か面白い話をしてくださらないかしら、セバスチャン」

「仰せのままに、お嬢様」

「「 ……ふふっ 」」

 

彼女のノリに合わせたら、お互いに何だかよく分からないキャラクターになってしまい、2人で小さく笑う。

 

それから彼女と色々話した。僕のことや、日常であったこと、勇者部のことなど、彼女が楽しめるように話せたと思う。

 

 

 

多分1、2時間話したと思う。

まるでこの時間に終わりを告げるように、突然、この部屋に来る前に聞いたものと違う鈴の音が響いた。

 

「この音……」

「あぁ、もう時間なんよ」

「時間……?」

「これは、そろそろ人が来るよ〜って合図なんだ」

「そうなんだ、じゃあ……」

 

やって来るのはきっと彼女の家族だろう。

この場合、僕は不審者だ。騒ぎになる前に帰った方がいい。

 

「うん、もがみん先輩はもう帰った方がいいかもね。多分騒ぎになっちゃうから」

「そっか、分かった……それじゃあ、園子ちゃん、()()()

「……うん、またね〜」

 

彼女に別れを告げ、僕は部屋を出た。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「……()()()……か。やっぱり、ちょっと苦手だなぁ〜」

 

冷たい胸にチクリとした痛みが走った気がした。

もがみん先輩がいなくなったからか、1体、また1体と精霊たちが現れる。

10体ほど出てきてその内の1体、座敷わらしのしーちゃんが近づいてきた

 

「ありがとうね、しーちゃん。久しぶりに楽しかったよ」

 

彼の話から目星はついていた。

この子が彼を私の元へと連れてきてくれたのだろう。

少しの間だったけど、彼がいてくれた間は私は人間の乃木園子に戻れた気がした。

冷えた心が温かかった。

 

「また、会いたいな〜」

 

近づいてくる複数の人の気配にうんざりしながら、私はそう呟いた。

 

 




今回の翔一くんは突然の奇妙な体験にも怯まず、中に突き進んで行きます。



ふへへ、ゆゆゆいで今ピックアップ中の防人組の3人とも1回の十連できたぜ‼︎(隙自語)やったぜ


その代わり、カスタムキャストで頑張って再現した樹ちゃんのデータが保存し忘れで消えました。ちくせう


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第6話 お悩みなあのこ


優しさ故に心は苦しく、
愛しさ故に心は痛む。

少女の苦悩は、ありきたりなモノ。
少女の苦痛は、あたりまえなモノ。

されど少年には分からない。

普通でない少年には、分からない。



ゴールデンウィークの2日目、僕は再び大橋市のイネスへと来ていた。

 

なんとこのゴールデンウィークの期間中に、イネスのフードコートではそれぞれの店が、うどん、そば、ラーメンの3つに分かれお客さんの投票で頂点を競い合うヌードルフェスなるものを開催している。

前回来た時は沖縄そばを食べたが、あの時食べなかったラーメンも気になり、再び足を伸ばしたのだ。

 

一応、他の人もそれとなく誘ってみたが、友奈と東郷は家族で出掛けるらしく申し訳なさそうに2人に謝られた。

 

ちなみに風と樹ちゃんは誘わなかった。

なにしろ明日は風の誕生日。

イネスに来たのは風に渡す誕生日プレゼントを選ぶためでもある。

そのため風は誘えないし、樹ちゃんだけとなると正直、風がついてきそうで悩んだので結局2人に内緒という事にした。

 

つまり今日のメインはプレゼント選び。

ついででイベントを楽しもうというわけだ。

 

 

〜〜〜〜〜 イネス 〜〜〜〜〜

 

 

というわけで、やってきましたイネス!

楽しみがあると自然とテンションが上がるね!

 

「と言っても、流石に考えることは同じかな……」

 

前回来た時は特に催し物などの無い日だったにも関わらず人が多かった。

今回はそれ以上の人、人、人……。

どうやらヌードルフェス以外にもヒーローショーなどのイベントもあるらしい。

 

「……ま、しょうがない。とりあえずプレゼントの候補を見ていこうか」

 

 

 

しばらくフラフラと商品を見て回り候補を選んでいると、ふと見覚えのある顔とすれ違い足を止める。

 

「あれ?もしかして……」

 

声をかけられた気がして振り向くと、鉄男くんと銀ちゃんが立っていた。

突然の久しぶりな遭遇だった。

 

「やっぱり、翔一兄ちゃんだ!」

 

そう言って嬉しそうに駆け寄ってきた鉄男くんを受け止める。

 

「おお、鉄男くんと銀ちゃんだ」

「久しぶりだな!翔一兄ちゃん」

「お久しぶりです、翔一さん」

 

鉄男くんを追いかけてきた銀ちゃんとも挨拶を交わす。

 

「うん、久しぶりだね。2人も買い物かな?」

「そうだぜ!ほら、母の日ってあるだろ?だから姉ちゃんと母ちゃんに渡すプレゼントの下見に来たんだ!兄ちゃんは?」

「僕は友達が明日誕生日でね、サプライズでプレゼントを渡そうかなって、見に来たんだ」

「なら、一緒に回ろうぜ!なぁ、いいだろ、姉ちゃん」

 

正直、一人で回るのには飽きがきていたので、鉄男くんの誘いは嬉しかった。

 

「こらっ、鉄男!翔一さんにだって予定があるでしょ!」

「あー……僕で良ければご一緒させてもらおうかな」

「やったー!」

「すみません、弟のわがままに付き合ってもらって」

「いいの、いいの、僕も1人はつまらなくなってきたところだったからね」

 

人は多い方が楽しいからね!

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「これとかどうだろう?」

「派手!」

「ちょっと主張が激しいような……」

「じゃあ、こっちは?」

「地味!」

「今度は弱いような……」

「うーん……よし、次!」

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「伊達メガネだって、どう?」

「変だな!」

「鉄男くんって、意外と毒吐くよね……」

「えっと……どう、ですか?」

「…………ッ!」

「やっぱ、姉ちゃんは赤が似合うな!」

「そうかなぁ……って、翔一さん!?」

ぎん……かわ……」

「あ、死んだ」

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「姉ちゃん!翔一兄ちゃん!見て見て、これかっこいい!」

「……え、何それ」

「えっと……キ、キング、ストネ?だって!」

「「 お い て こ い 」」

「じゃあ、こっちのリボルk」

「「 戻 し て こ い 」」

「ちぇー」

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

あれよあれよと言う間にすっかりお昼時になったので、3人で昼食を済ませた。

少しぶらつくと、変わったカートの出店があった。

 

「……オッティモ?ジェラート?」

「ぁん?翔一兄ちゃん、どうしたの?」

 

その店名と看板に、なんとなく見覚えのあるような無いようなそんな感じがして立ち止まると、気付いた鉄男くんが聞いてくる。

 

「いや、変わった店だなーって、ほらあの看板の"しょうゆ豆ジェラート"ってきいたことないn」

「っ⁉︎どこですか!

 

なんか銀ちゃんがすごい食い気味に聞いてきた。

その勢いに少し圧される。

 

「え、あ、ほら、そこの柱の近く」

「ちょっと行ってきます!」

「ちょ、銀ちゃん⁉︎どうしたの⁈」

 

突然、出店へと走り出す銀ちゃんに驚きつつ追いかける。

 

追いつき、事情を聞くとどうやら"しょうゆ豆ジェラート"なるものは銀ちゃんの大好物らしい。

 

とりあえず興奮気味の銀ちゃんを落ち着かせ、改めてジェラートを買いに行く。

銀ちゃんは当然のようにしょうゆ豆ジェラート、

鉄男くんはシンプルにミルク味、

僕はせっかくだからオススメのしょうゆ豆ジェラートを買った。

 

買う際に販売員のお姉さんに銀ちゃんとカップルと間違えられたのはご愛嬌。

 

 

 

 

ジェラートも食べ終わると、いい感じに時間が経ったのでヒーローショーを見るためにイベントホールに向かう。

 

鉄男くんは他にいた子ども達と同じようにステージ近くに行き、僕と銀ちゃんは少し離れたベンチに座った。

 

「……あの、翔一さん」

「ん?なんだい、銀ちゃん」

 

ヒーローショーが始まってしばらくすると、隣り合って座る銀ちゃんが話しかけてきた。

 

「さっきは、その、はしゃいでしまってすみません……」

「いやいや、はしゃぐ銀ちゃんは可愛かったから、寧ろありがとう」

「ふぇ⁉︎か、かわいいだなんて……」

 

素直な感想を伝えると、頬を赤らめる銀ちゃん。

しかし、すぐに険しい顔になる。

 

「…あの……相談が、あるのですが」

「ほほう、何の相談だい?僕に話してみタマへ」

 

気負わずに話し出せるよう少し気安い感じで答える。

 

「……実は私、記憶が無いんです」

「……え?」

 

隣に座る彼女からの突然の告白に驚き、気の抜けた声が出る。

周りの音が全て遠のいた気がした。

 

「ある日、目が覚めるとなぜか病院のベットに寝ていて、あなたは大きな事故に巻き込まれたって言われました」

「…………」

 

ポツリと零した言葉は、次第に堰を切ったように勢いを増した。

 

「……右腕が無くなってて、右耳も聞こえなくて、しかも事故のショックで2年もの記憶が思い出せなくなって……家族はこんな私を支えてくれるけど……ッ…ずっとお荷物なんじゃないかって、足手まといじゃないかって苦しくてっ……でも、こんな事…家族に言えなくて」

 

その言葉に嗚咽が混じり、目尻には今にも溢れそうな大粒の涙を浮かべていた。

 

 

「私は……どうすればいいですか?」

 

 

解け出すように、吐き出すように話す言葉に感情がのり、涙とともに溢れ出す。

 

あまりに重く、切実な悩み。

 

彼女はこれを誰にも相談できずに抱えてきたのだ。

お気楽だった数分前の自分を殴りたくなった。

 

「…………」

「あ、ご、ごめんなさい。いきなりこんな不快な話聞かせてしまって……」

 

中途半端な答えは出せない考えこむと、困惑していると勘違いしたのか銀ちゃんが謝ってきた。

流石に何も答えないのは勇気を出して打ち明けてくれた彼女に不誠実だ。

あやすように彼女の背中をさすり、自分なりの答えを伝える。

 

「ううん、謝らなくていいよ。それだけ僕を信用してくれてるって思うから。……正直に言うと、僕は君の求める答えをあげられないかもしれない」

「…………」

「年上といっても一つしか違わないし、そんなに人生経験が豊富ってわけでもない。ただ……」

「ただ……?」

「ただ、僕はもっと家族を頼ればいいと思う」

「家族を、頼る……」

「うん、君が家族に負い目を感じてるのは分かるよ。それはきっと君が優しいからなんだろうね。さっきも困っている子を見てすぐに動いたでしょ?誰かを助けようと動ける優しさが君にはある」

「優しさ……」

「そして、それは君の家族も同じなんだよ。支えて、支えられて、寄り添って……その人への優しさと愛しさがあって、家族ってそういうものなんじゃないかな」

「…………」

 

これは僕の理想であり希望でしかないけど、鉄男くんや以前会った銀ちゃんの両親はそんな感じがした。

 

「……ありがとうございます。少し楽になりました」

「そう、それなら良かったよ」

 

楽になった。そう言う彼女は先程よりも明るい表情をしていた。

 

 

 

「でも驚いたよ、銀ちゃんもだなんてさ」

「私も?」

「……実はさ、僕も無いんだよね、記憶」

「……へ?」

 

今度は銀ちゃんが驚く番だった。

まぁ、普通は悩みを打ち明けた人も記憶喪失とか思わないよね。

 

「僕はここ2年以前の記憶が無い。初めは名前も分からなかったんだよ?」

「名前も、ですか?」

「そ、だから僕は自分を見つける手がかりを探してる……って言うとなんかかっこよくない?」

「……それを言わなければ、かっこよかったですよ!」

 

しんみりした空気は好きじゃないから、とぼけてみせるとツッコミを入れてくれる銀ちゃん。

……ちょっとは元気が出たのかな?

 

「てな訳で、はいコレ」

「これは?」

「僕の連絡先。何かあっても無くても連絡してくれてオッケーだよ。今日みたいなお悩み相談、とかね」

「……ありがとうございます!」

 

お礼とともに花が咲いたような笑顔を向けられると、どこか照れくさくも懐かしい気持ちになった。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

その夜、なんとなくテレビを眺めているとNARUKOの通知音がなった。

 

[今日は相談にのっていただきありがとうございました。]

 

送信者は連絡先を渡した銀ちゃんからだった。

その日のうちにお礼を言ってくるあたり、やっぱりこの子は優しい子だ。

 

[どういたしまして。あと、そんなにかしこまらなくて良いよ〜٩( ᐛ )و]

[何ですかその顔文字っ⁉︎]

[なんか元々はいってたやつだよ?]

[そんなのがあるんですね……って、そうじゃなかった。]

 

ボケを拾ってツッコんでくれるのでこの子にはツッコミの才能がある。

しかし、なにやら本題があるらしい。

 

[どうしたの?]

[以前お会いした時に私、翔一さんが知り合いに似てるって言いましたよね?]

[あー、そういえば言ってたね。]

[その知り合いの名前は分からないのですが、何人かと一緒に写っている写真があったので、もしかしたらと思いまして]

[僕の手がかりかもってこと?]

[はい。髪の色とか違いますが翔一さんによく似ているんです。この写真です。]

 

そのメッセージとともに1枚の画像が送られてきた。

 

[この写真は私が事故に遭う数ヶ月前に撮られたものなんです。]

 

その写真には中央で仲良さげにくっついている体操服姿の銀ちゃんと、

恥ずかしげにしている後ろで髪をまとめた黒髪の少女、

見覚えのあるリボンをしている金髪の少女。

その後ろで3人を微笑ましく見ているキャップを被ったメガネの女性。

 

 

そして、苦笑いで満更ではなさそうな表情を浮かべる黒髪の少年。

 

 

「なに、これは……」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

[あの……翔一さん?]

 

どうやらしばらく固まっていたようだ。

心配した銀ちゃんがメッセージを送ってきた。

 

[ごめんごめん、いやー、銀ちゃん可愛いなぁ、って見惚れてた。]

[そそこしゃないてめす!]

[……すごい誤字ってるよ?]

[もう!寝ます!おやすみなさい!]

[あ、うん、おやすみ]

 

 

……怒らせちゃったかな?

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

布団にうつ伏せで寝転びながら今日あったことを思い出す。

かわいいだなんて、こんなに言われたのは今日が初めてだ。

思わず翔一さんの顔が浮かんでは頬のあたりが熱くなる。

熱さを誤魔化そうと枕に顔を埋め、足をばたつかせる。

 

「姉ちゃん、なに騒いでんの……って、顔真っ赤だよ!?母ちゃーん!姉ちゃんが……」

 

弟の鉄男が、私の騒がしさに部屋へとやってきた。

私の赤くなった顔を見て、風邪と勘違いしたのか母を呼びに行ってしまった。

 

「銀!大丈夫!?具合はどうなの!!」

「大丈夫だよ、お母さん。鉄男の勘違いだって」

 

すぐに焦った顔の母がやってきて矢継ぎ早にしてくる質問に答える。

 

「そうね、顔色も悪くないし、熱も無いわね。良かったわ」

「母ちゃん、姉ちゃんは?」

「大丈夫よ。アンタの勘違い」

「えー、でも、本当に真っ赤だったよ?……はっ、分かった!翔一兄ちゃんだな!」

 

変なところで鋭い弟である。

 

「ち、違うから。全然そんなんじゃないからね!」

「翔一くんって、この前会ったあの男の子のこと?」

「そうだぜ!今日またイネスで会ったから一緒に色々見て回ってたんだぜ!」

「へぇー、また会ったのねぇ……」

 

何やら母がニヤッと笑った気がした。

 

「もうちょっと詳しく教えてね、銀」

 

私の1日はまだ終わらなかった。

 

 




だってこれ かっこいいんだもん てつお


なんだかネタキャラみたいな鉄男くん。書いてて楽しかった。

そろそろ物語を加速させたいところ。
ちょっとリアルが大変だけど頑張ります!

あ、それと言い忘れてましたが、私は銀ちゃんとなっち、タマっち推しです。


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第7話 情熱の赤

あ^〜、誕生日イベントが尊みに溢れてるんじゃあ^〜


雀は肝が座ってるんだか、いないんだか。




5月も下旬に入り、暖かくなってきた。

休日の僕はなんとなくの思いつきでトルネイダー(自転車)に乗り、気の向くままにサイクリングをしていた。

 

公園のサイクリングロードを走る。風を切る感覚が気持ちいい。

 

ふと前方に木の根元にしゃがみこむ小学校低学年くらいの男の子と、その子の近くで慌てているツインテールの少女がいた。

 

「うぇぇぇぇぇん……」

「ちょっ、ほら、大丈夫だから泣き止みなさいよ……ど、どうしよう」

 

お困りな方発見、レスキュー開始!

トルネイダーを他の人の邪魔にならないところに留めて2人に近づく。

 

「うぇぇぇぇぇん……」

「やぁ、おふたりさんどうかしたのかい?」

「うぇ⁉︎な、何よアンタ、いきなり現れて」

「おっと、怪しい者じゃないよ……どうしたんだい僕、何か失くしちゃったのかな?」

 

警戒する少女に大丈夫だと伝えてしゃがみこみ、男の子と目線を合わせる。

 

「うぇぇ……ぐすっ……」

「もしかして、あのボールは君のなのかな?」

「ボール?……あっ」

「ぐすっ……うん」

 

男の子のそばには木があり、その枝の間にすっぽりと水色のボールが挟まっていた。

ざっと見ても僕が登って取るには枝が細くて折れる可能性がある。

かといって、何かを投げて取るのは他の人に危険が及ぶだろう。

 

しょうがない、ここは少しばかり力を使おう。

 

「お兄さんに任せて」

「ちょっとアンタ、登って取るのは危険よ!」

「別に、登るわけじゃないよ」

 

男の子から離れて、ボールへと手を伸ばし集中する。

ボールを取るには下からボールを外へと押す力を加えた方が良さそうだ。

 

物を投げる事は出来ない。

では何を使うか……危なく無く、この場にあるもの。

 

 

答えは"風"だ。

 

 

「ふぅぅ…………はっ!」

 

意識を集中して"流れ"をイメージする。

あたりを自由に行き交うソレの向きと強さを調整し、放つ。

 

枝が揺れてボールがはずれ地面を弾む。

それを拾って男の子に渡す。

 

「はい、どうぞ」

「にーちゃん、ありがとう!」

 

男の子はそう言って元気に広場の方へと走っていった。

 

「アンタ……一体何者よ?」

 

残された少女が訝しげに僕に問いかけてきた。

 

「通りすがりの超能力者さ、すごいでしょ?」

「なによ、それ……でも、まあ、助かったわ。私じゃ難しかったし……」

「どういたしまして」

「それじゃ、私は行くとこあるからもう行くわ」

 

そう言って彼女は凛々しく去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

と思いきや、なぜか引き返してきた。

 

「ね、ねぇ、この住所って何処……?」

 

なんとも締まらない彼女に苦笑すると、笑うなと顔を赤くして怒られた。解せぬ。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

6月のある日の放課後、急ぎの依頼も無く僕たちは久々に部室でまったりとした時間を過ごしていた。

 

「もぐもぐ……なんか、こういう風にのんびりするのも久しぶりだね〜」

 

東郷お手製のぼた餅を食べながら友奈がのんびりとした口調で言う。

 

「そうね、あれから何かと忙しかったものね……あっ、友奈ちゃん、ほっぺにあんこが付いてる……はい、取れたわ」

「えへへ、ありがとう東郷さん!」

「どういたしまして、友奈ちゃん」

 

放送部から送られてきた20通ほどの手紙を読みながらぼた餅を食べる。

うーん……ぼた餅って、こんなに甘かったっけ?

 

「お姉ちゃん達は何してるの?」

「ん?あぁ、これ?今度、放送部からお昼の放送の出演依頼があって、お悩み相談のコーナーでその時に解答するお悩みに目を通しているのよ」

「へぇ、そうなんだ。例えばどんなのがあるの?」

「例えば?そうね……『うどんにのせるトッピングといえば何ですか?』ね……ズバリお肉ね!これこそ女子力でしょ!」

「私もお肉がいいです!」

 

体育会系な2人がガッツリとした解答をする。

 

……女子力(肉)

「私は玉子でしょうか。あっさりとしていて食べやすいですよ」

「あ、私も東郷先輩と同じです」

 

お淑やかな2人は定番な解答をする。

 

「僕はエビ天かな。つゆの風味と衣のサクサク感が好きだな〜」

 

まさかの意見割れ、三つ巴の展開となってしまった。

 

「見事に割れたわね……よし、次!」

「あとは……『友人と映画を見る時、どんなジャンルが盛り上がると思いますか?』ね……」

「これは意外と難しい質問だね。定番だとアクションだと思うけど……みんなはどう思う?」

「コメディ系もセンスが問われるわね……」

「盛り上がる、といえばもうじき夏なので怪談という選択肢もありますよ」

「ひぃっ……」

 

東郷の怪談という言葉に風が情けない声を出す。

 

「怪談かぁ……あ、怪談といえば」

「といえば……?」

「この前、検査で病院に行った時にさ、そこで体験したんだけど……」

「ちょっと、翔一、アンタなに話す気……?」

「検査が終わって、帰ろうとした時なんだけど、気付いたら周りに人が全くいなくなって、シーンとしてたんだ。不思議に思ったけど特に気にせず歩き出そうとすると、何処からかチリーンって鈴の音が聞こえてきて……」

「⁉︎いやぁぁ、聞きたくないぃぃ!」

「あ、逃げた」

 

耳を塞ぎ、叫びながら部室から逃走する風。

その後を追いかけてなんとか捕まえる。

案の定、いじけていたので宥めると今日の帰りに、かめやで奢る事で許してもらった。

 

 

 

風と部室に戻る途中、ふと映画で思い出した事を呟く。

 

「そういえば樹海って、ラピ◯タっぽいよね」

 

 

 

〜〜〜〜〜 翌日 〜〜〜〜〜

 

 

 

前回の襲撃から約1ヶ月半ぶりにバーテックスが現れた。

 

「この光景も久しぶりだね」

「そうね……というか、昨日翔一が『樹海がラ◯ュタっぽい』とか言うからそういう風に見えるワ……」

「風先輩……私もです……」

「……僕、悪くなくない?」

 

風と東郷に何やら言われるが、お喋りもほどほどに各自が変身を済ませ敵を待つ。

今回の敵は進行速度があまり速くないようだ。

 

「あっ……来た!」

「……アレが、5体目」

「なんかタコみたい……」

 

友奈が気付き、東郷が銃をしっかり構える。

つるりとした上部、山羊の角を逆さまにして4本くっつけた足のような下部という見た目だった。

樹の言うように全体的にタコっぽいシルエットだ。

アプリのマップで確認すると、今回はヤギ座のようだ。

 

「今回はヤギ座か……」

「落ち着いて、ここで迎撃するわよ」

「1ヶ月ぶりだからちゃんとできるかな……」

「え、えーっとですね……ここを、こう、こう」

「ほう、ほう……」

「ええぃ!なせば大抵なんとかなる!しのごの言わずビシッとやるわよ!」

「「 は、はいっ! 」」

「勇者部ファイトぉ!」

「「 おーっ! 」」

 

風の掛け声に2人が答えた瞬間、突然ヤギ座の上部が爆発した。

 

「ちょっ……!」

「東郷さん!?」

「……私じゃない」

 

樹海の上の方から何かの気配がした。

 

「上から何かくるぞ」

「上から!?」

 

 

 

「ちょろいっ!」

 

そう言って赤が飛んできた。

 

 

 

「風先輩!空から女の子が!」

 

上空から飛んできた女の子を指差しながら、友奈が風へと振り返って叫ぶ。

 

「んふっ、友奈、は、今その台詞、ふふ、言わないでよ!」

「ゆ、友奈さん、ふ、ふふっ」

「あれ?私なんかおかしなこと言った?」

 

友奈の言葉に風と樹がたまらずと言ったように笑いをこぼす。

……今さっき話してたからな、◯ピュタ。

 

「……2人とも、今は敵に集中しろ」

「ふふっ、わ、分かってるわよ……ふぅ、よし!」

 

飛んできた赤の少女は、すでに着地して次の行動へと移っていた。

 

「思い知れ……私の、力ぁ!」

 

そう叫ぶと刀を数本呼び出して、バーテックスの下の地面へと投げて突き立てる。

 

「封印、開始!」

 

その掛け声と共に陣が浮かび上がり、封印の儀が始まった。

 

「ちょっ!あの子、1人でやる気⁉︎」

 

封印の儀により、ヤギ座の上部がめくれ上がると中から御霊が現れた。

このままいけるかと思いきや、御霊から大量の紫色のガスが吹き出して煙幕となり、視界を塞ぐ。

 

「全員、飛べ!」

 

俺は寸前で飛び退き、近くの根の上に立つ。

友奈達もそれぞれガスの上に出ている根の上にいる。

 

「ガスッ……⁉︎」

「ふぇ……何も見えないよぉ」

 

濃い紫のガスに覆われ、下の様子は窺い知れない。

一瞬、ガスの隙間にぼんやりと赤い光が見えた。

 

「そんな目眩し……気配で視えてんのよ!」

 

こんなもの無駄だと切り捨てると、赤い光は跳躍し一閃。

ガスの煙幕が晴れ、隠れていた御霊を見事に両断する。

 

「殲、滅」

『諸行無常〜』

 

結局、援軍らしき赤い少女は1人でバーテックスを倒してしまった。

すると友奈が少女の元へと向かい、それを残りの全員が追いかける。

 

 

友奈に追いつくと、少女は腕を組みこちらへと対峙していた。

赤い衣装に身を包み、短めなツインテールの勝気な顔をした少女は、つい先日遭遇した迷子の少女だった。

 

「えっと……誰?」

 

友奈が少女にそう問うと、彼女は全員を一瞥する。

 

「揃いも揃ってぼーっとした顔してんのね……、こんな連中が神樹様に選ばれた勇者ですって?」

 

そう評し、ハッと鼻で笑う。

 

「あ、あの〜……」

「何よ?ちんちくりん」

「ちんっ……⁉︎」

「私は三好夏凜。大赦から派遣された正真正銘、正式な勇者……つまり貴女達は用済み。はい、お疲れ様でした」

「「「「 えぇー⁉︎ 」」」」

 

……何やら終わったような感じになっているが、彼女は分かっているのだろうか?

樹海化がまだ解けていない。つまり、ヤツがいる。

 

「…………」

 

無言で彼女へ駆け出しオルタリングの左のスイッチを押して、青へとフォームチェンジする。

 

「え?翔一先輩?」

 

オルタリングから飛び出たハルバードを掴み、振りかぶる。

 

「ちょっ⁉︎翔一、何してんの⁉︎」

「な、何よ!あんた!」

 

驚きながらも刀を構える三好の横を通り抜け、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

まるで金属がぶつかり合うような甲高い音があたりに響く。

妙な手応えだったが力任せに振り、弾き飛ばす。

 

「まだ終わってないぞ、油断するな!」

 

 





実は私、今更アギト本編を見直しているのですが18話からキンタロスのてらそまさあきさんが出てたんですね。
聞いたことのあるいい声だな〜って思ってキャスト見たら驚きました。





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第8話 赤の炎

祝UA4000突破!ありがとうございますっ!

まだまだ未熟者ですが、頑張ります!




三好も含めた全員が再び武器を構える。

互いに出方を伺っている間にヒルコの姿を観察する。

 

頭に2本のねじれた角が生え、両腕に籠手らしきものを着け、そこに30cm程の鋭い爪が付いていた。

シルエットはより人型になり、まるで忍者のような服らしきものを着ていた。

大型バーテックスの特徴を受け継ぐだけという以前の4体とは明らかに違う変化だった。

 

「なによ、コイツ!」

「大赦から来たなら報告くらい受けてるでしょ!コイツがヒルコよ!」

 

ヒルコを見た三好が叫び、それに風が答える。

 

「なっ⁉︎コイツがヒルコですって⁉︎全然、報告と違うじゃない」

「おそらく既に変形したものかと……」

「っ、そういうことなのね」

「くるわよっ!」

 

東郷の返答に呻く三好。

しびれを切らしたのか、ヒルコが突進してきた。

 

『 m a a a a a ! 』

「コイツ、早いっ⁉︎」

「……フッ!」

 

真っ直ぐ突っ込んできたヒルコをハルバードで迎撃するが、両腕の爪で防がれる。

やはり打ち合った衝撃以上に腕が痺れるという妙な手応えがある。

 

「はあぁぁぁ!」

「おりゃぁぁ!」

 

俺と競り合い無防備なヒルコを両サイドから風と三好が斬りつける。

しかし、ヒルコはそれを後ろに飛ぶことで回避する。

避けられた風の大剣が地面にあたり土煙を立て、一瞬ヒルコを見失う。

 

「ハッ!」

 

すぐさま風を操り土煙を吹き飛ばすが、ヒルコはいない。

 

「なっ、いない⁉︎」

 

三好が驚愕の声を上げる。

 

「っ、おわっ⁉︎」

 

すると突然、友奈の声と金属音、バチっという何かを弾く音が同時に響く。

振り向くと友奈が尻もちをついていた。

 

「友奈っ、大丈夫⁉︎」

「平気です風先輩!……って、あれ?」

 

平気だと答え、立ち上がろうとして再び尻もちをつく友奈。

 

「友奈ちゃん⁉︎」

「あ、ありがとう東郷さん」

 

東郷が座り込んだ友奈のそばへ行き、体を支える。

あたりを警戒しながら、友奈のそばに駆け寄り彼女の目を見る。

 

「翔一、先輩……?」

「……なるほど、そういうことか」

 

こちらを見る友奈の瞳が小刻みに不規則に動いている。

そこにうまく立てないとくれば、友奈は目をまわしている状態なのだろう。

攻撃を防いだのにこうなったということは、相手の能力はおそらく振動に関するもの……振動で人は死なない。

だからバリアが発動したのに友奈がこんな状態になった。

 

「なるほどって……どういうことですか?」

「おそらく友奈はヒルコの能力でこうなったのd、っ!」

 

東郷の質問に答えている途中、ゴッという地面を蹴りつけるような音がした。

即座に振り向くと、心配そうに振り返って友奈を見る風の死角から、ヒルコが迫っていた。

 

「風、前だっ!」

「えっ、⁉︎しまっ、くぅっ!」

 

風へと叫ぶが、咄嗟のことで対応しきれず、そのままこちらへと吹き飛ばされる風。

それを走り込みなんとか受け止める。

風は大剣を支えにして立とうとするも、友奈と同じく座り込んでしまう。

 

「あはは……全然、立てないわね」

「無理はするな、後は任せろ」

「うん……え?」

 

立てない風の背中と膝裏に手を通して抱えると、呆けた声を出す風。

 

「ちょっ⁉︎しょ、翔一⁉︎」

「暴れるな」

「っ!は、はい……」

 

顔を赤くし、何やら慌てたように動くが危ないから一喝する。

大人しくなった風を抱え、友奈のそばに下ろす。

 

「東郷と樹で2人を援護してくれ、アイツは俺がなんとかする」

「ちょっと、私もいるんだけど?」

「なら手を貸せ」

「……上からなのは癪だけど、良いわ。手を貸してあげる」

 

どこか不機嫌ながらも協力すると言う三好。

そうして風と友奈を挟むように両側に樹と東郷を、さらにその2人を中心にして対称の位置に俺と三好という形の陣形になった。

 

 

全員がヒルコを警戒して張り詰めた静寂があたりを支配する。

 

 

不意にザッという音がして、正面にヒルコが現れた。

まるで抑えつけられているバネのように体勢を低くして力を溜めている。

その顔にニヤニヤとした憎たらしいほどの笑みを浮かべて。

 

「翔一先輩、前っ!」

 

同時に気付いたのか樹の声が後ろから聞こえる。

先程のように、ゴッという音とともにヒルコが迫る。

 

 

脳裏に赤色がちらつく。

 

 

「フゥゥゥ……」

 

青の力を解き、金へと戻る。

息を吐きながら右足を引いて腰を落とする。

右手をオルタリングの右のスイッチに添え、左手をオルタリングの前におく。

居合の構えのようなものをとり、ヒルコを迎え撃つ。

 

 

ヒルコが間合いに入った。

 

 

鯉口を切るように右のスイッチを押すと、右のドラゴンズアイが赤く発光し、右腕が熱を帯びる。

オルタリングから剣の柄のようなものが飛び出し、それを掴み真一文字に振り抜く。

 

「シッ……!」

 

その一閃は突進してきたヒルコの右手首を爪ごと斬り飛ばした。

斬り飛ばされた手首は燃え上がり、ボンっと弾けた。

 

熱を帯びた右腕の肩アーマーが隆起し、胸部装甲とともに赤へと変わる。

 

 

 

アギトの特殊形態が1つ、

 

火の力を宿す姿『超越感覚の赤(フレイムフォーム)

 

そしてその武器、赤炎の剣(フレイムセイバー)である。

 

 

 

「また、変わった……」

「今度は、赤色だ」

 

フォームチェンジした姿を見た友奈と東郷がそう零す。

 

『 A…aaaaaaaaaa!』

 

自らが傷付けられたことに怒ったのか叫び声を上げ、滅茶苦茶に飛び回るヒルコ。

まるで力いっぱい投げつけたスーパーボールのように不規則に動く。

 

剣を正面へと構えて耳を澄まし、ヒルコの踏み込む音を聞く。

 

 

トッ……トッ…トッ………トッ……トットッ…トッ…………トッ……()()

 

 

聞こえた位置は背後、ちょうど三好の正面。

 

「三好っ、正面!」

「分かってるわ、今度は視えた!ハァッ!」

 

三好にヒルコの位置を伝え、力を解放して駆け出す。

力を解放すると剣の(つば)がクロスホーンのように展開する。

 

 

三好は突進してきたヒルコを食い止めていた。

 

『 a a a a a a ! 』

「ぐっ、このぉ!」

 

歯を食いしばりながらもヒルコと競り合う彼女の背後へと走り寄る。

 

「横に飛べ!」

 

三好へとそう叫ぶと、彼女は一瞬身を押し引きしてヒルコの体勢を崩し離脱する。

ヒルコも逃げようとするが動けずよろける。

目を凝らせば見える、地面から生えヒルコの足に絡まる緑色の細い糸。

樹の武器であるワイヤーがヒルコをその場に縫い付けていた。

 

「ハァッ……!」

 

切り上げで防御のために組んだ両腕を弾き上げ、勢いそのままに体を回し無防備な胴を一閃する。

斬られた胴から炎が上がり、ヒルコを焼く。

 

『 aa…a……a…! 』

 

すぐそばで呻きながら砂へと還るヒルコ。

完全に崩れさった瞬間、樹海が淡く光り始め樹海化が解けた。

 

 

 

〜〜〜〜〜 校舎 屋上 〜〜〜〜〜

 

 

 

屋上へと戻され全員の安否を確認しようとあたりを見回すと、制服姿のみんなに混じって私服の三好さんがいた。

 

「お、終わったんですか……?」

「風、友奈、2人とも大丈夫?」

「あ、はい!私はもう大丈夫です……ほらっ!」

「……ごめん、アタシはもうちょっと休むワ」

 

ヒルコの攻撃で揺さぶられた2人に体調を確認すると、友奈はもう大丈夫だと言って勢いよく立ち上がったが、風はまだ目眩がするのか座り込んでいる。

 

「分かった、幸い今は放課後だからまだいても平気だと思う……それとも部室か保健室まで背負って行こうか?」

「い、いいから!大丈夫だから……ほらっ!も、もう平っ」

 

強がって立ち上がろうとしふらついた風を支える。

 

「やっぱり、まだダメじゃないか」

「うぅ……」

「はぁ……ほら、私が肩貸すからどきなさい」

「えっ、あ、分かったよ三よs」

「夏凜でいいわ。私、あまり苗字呼びは好きじゃないの」

「えっと、ありがとう夏凜ちゃん」

「ふんっ……」

 

この後、風を保健室に運んだが夏凜ちゃんの事を保健室の先生に聞かれたので、転校生に学校案内をしていたということにして乗りきった。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜 とある施設 〜〜〜〜〜

 

 

 

 

白衣やつなぎなどを着た人が慌ただしく行き交う中、1組の男女が壁際で佇んでいた。

 

「…………はぁ」

「どうかしたのですか?」

 

不意に男の方が見ていた端末を閉じ、ため息を吐く。

それに対し資料を読む手を止めて女が問う。

 

「上からの報告だ。勇者様方と戦部様が5体目を倒したようだ」

「そうでしたか……では、こちらも急がないといけませんね」

「あぁ……アレは最終調整のみだったか?」

「今日を含め、あと数回の演習を行い、3ヶ月以内には完成する予定です」

「そうか、もうすぐか……」

「はい……もうすぐ、です」

 

2人が見つめる先、

アレと呼ばれたモノ、

様々なコードが繋がった()()()()()()

 

「……あの日のような事は、もうごめんだ」

「それは……私もです」

 

噛みしめるように言う男に、女は哀しげに同意した。

 

 

 

数十分後、何者かが先ほどの鎧を纏い立っていた。

 

装着者(テスター)、聞こえますか?』

「……感度良好、問題無い」

『確認しました。演習、いつでも始められます』

「分かった。スゥ……ハァ……始めてくれ」

『了解。カウントダウン3秒前、3……』

『2……』

『1……』

 

 

 

 

 

 

 

『 G3、戦闘演習(マニューバ)開始』

 

 

 

 




先日のやりすぎ都市伝説の関さんパートを見てて思ったこと。

イエスと釈迦はアギトだった……?


閑話休題(それはさておき)


ふと、この小説の略称を考えてみると『ちぇきゆ』っていう略し方が気に入ったのですが、どうですかね?

……ちょっと写真部っぽい響きですけど。



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第9話 祝福を君に

一体、何がいけなかったんでしょうか……。
何故か筆が全然進まず、更新が滞ってしまいました。

すまない。
だが、これも全部乾巧って奴の仕業なんだ(責任転嫁)



ヤギ座の襲来から数日後の放課後、勇者部の部室には新しい部員がやってきていた。

 

「正直、転入生のふりなんて面倒くさいけど、私が来たからにはもう安心ね、完全勝利よ!」

 

自信満々といった様子で宣言するのは、先日の襲撃から仲間に加わった三好夏凜ちゃんだ。

 

「なぜ今このタイミングで?どうして最初から来てくれなかったんですか?」

「私だってすぐに出撃したかったわよ……でも、大赦は最強の勇者を完成させる為に、二重三重に万全を期したのよ」

「最強の、勇者……?」

「そ、あなた達先遣隊の戦闘データを基に完璧に調整された、完成型勇者……それが私」

 

東郷の質問に答えると、自慢げにスマホを取り出しこちらへ向ける。

 

「私の勇者システムは対バーテックス用に最新の改良を施されている。その上、お役目の為に戦闘の訓練を長年受けているわ」

「へぇー、なんだか頼もしいです」

「そうよ、だから大船に乗ったつもりでいなさい」

「よろしくね、夏凜ちゃん!ようこそ、勇者部へ!」

「ちょ……部員になるなんて話、一言もしてないわよ⁉︎」

「違うの?」

「違うわ、私はあなた達を監視する為にここに来ただけよ!」

「もう、来ないの?」

「うっ……く、来るわよ、お勤めなんだから」

 

友奈の子犬のようなしょんぼりとした顔にたじろぐ夏凜ちゃん。

 

「じゃあ、部員になっちゃった方が話が早いね!」

「ま、まぁ、そういうことにしておきましょうか。その方が監視しやすいでしょうしね」

「監視監視って、アンタね見張ってないと私達がサボるみたいな言い方やめてくれない?」

「……そうね、少し違ったわ。監視というよりは監督ね」

「あのー……」

「ん?何よ」

 

何やらおずおずと言った感じで樹ちゃんが夏凜ちゃんに話しかけた……あっ。

 

「夏凜さんの精霊が……」

「私の精霊……?、って、ああああ⁉︎」

 

夏凜ちゃんの武将のような精霊が友奈の牛鬼にむしゃむしゃされていた。

なんでも食べようとするなこの子。

 

「な、な、な、何するのよ⁉︎このくされチクショー!」

『外道め!』

 

急いで牛鬼を引き離し、自身の精霊を大事そうに抱きしめる夏凜ちゃん。

 

「外道じゃないよ、牛鬼だよ。ちょっと食いしん坊君なんだ〜」

「自分の精霊のしつけくらいちゃんとしなさいよ!」

「牛鬼に精霊をかじられてしまうから、みんな出しておけないの」

「じゃあそいつ、引っ込めなさいよ!」

「この子、勝手に出てきちゃうんだよ〜」

「はぁ⁉︎あんたのシステム、壊れてんじゃないの⁉︎」

「……ど、どうしよう夏凜さん」

「今度は何よっ⁉︎」

「夏凜さん、死神のカード……」

「勝手に占って、不吉なレッテル貼るんじゃないわよ!」

 

一気にツッコミを入れて疲れたのか肩で息をする夏凜ちゃん。

 

「はぁ……はぁ……、なんでこんな奴らが神樹様の勇者に選ばれたのよ……」

「なんでなんだろうね……あ、お茶飲む?」

「……貰うわ」

 

歓迎と労いの意を込めて飲み物を渡す。

 

「はい、どうぞ」

「……ありがと」

「どういたしまして……これからも、ツッコミ頑張ってね」

「っ、ツ、ツッコミちゃうわ!」

「おお、その意気だよ、夏凜ちゃん!」

「う、うがぁぁぁあ!」

 

僕に続くように友奈が励ましたら、夏凜ちゃんは突然頭を抱え、叫びながら部室を出て行ってしまった。

 

「あー、どこ行くの夏凜ちゃーん!」

「鞄、置いってってるよー!」

 

僕と友奈で走り去った夏凜ちゃんを追いかけた。

 

 

「早速、2人の洗礼を受けてるわね……あの子」

「ふむ……なかなか見込みがありますね」

「いや東郷、アンタもかいっ!」

 

 

その後、友奈が夏凜ちゃんを捕まえ入部届を書いてもらい、その日は解散となった。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜 翌日 〜〜〜〜〜

 

 

 

 

昨日と同じく夏凜ちゃんは再び勇者部の部室に来ていた。

 

「今日は情報の交換と共有よ!分かってる?アンタ達が私の足を引っ張らない為にもしっかり覚えなさい」

「……煮干し?」

「なによ、煮干しは完全食よ。あげないわよ……!」

「では、私のぼた餅と交換しましょう」

「……何それ」

「さっき家庭科の授業で……いかがですか?」

「い…いらないわよ」

 

返事の仕方からして、気になっていそうだけど……。

夏凜ちゃんは乱れたペースを整えるように咳払いを1つすると話し始めた。

 

「とにかく本題に戻るわよ!……バーテックスの出現は周期的なものと考えられていたけど、相当に乱れてる。これは異常事態よ……帳尻を合わせるため今後は相当な混戦が予想されるわ」

「確かに、1ヶ月前も複数体出現したりしましたね」

「さらにヒルコの進化も合わせると……最悪、命を落とすことになるわ。それぐらいは分かってるでしょうけど」

「…………」

 

改めて言葉にされて、全員が息をのむ。

 

「でも、こっちだって打つ手がないわけじゃない。戦闘経験値を貯めることで勇者はより強くなる、それを"満開"と呼んでいるわ」

 

"満開"……花が咲くとかの満開かな?

そういえばみんなの変身の時にも花びらが舞っていたような……。

 

「満開を繰り返すことでより強力になる、これが大赦の勇者システム」

「へー、すごい!」

「三好さんは満開経験済みなんですか?」

「……いや、まだ……」

 

夏凜ちゃんは前日にあれほど言った手前、恥ずかしいのか少し目を伏せる。

 

「なーんだ、私達と変わらないじゃない」

「なっ、基礎戦闘力が桁違いなのよ!一緒にしないでもらえる⁉︎」

「じゃあじゃあ、鍛えるために朝練しましょうか!運動部みたいに!」

「あ、いいですね」

「樹、アンタは朝起きられないでしょ」

「友奈ちゃんも起きられないでしょ?」

「「 ゔっ 」」

 

友奈の提案に賛成した樹ちゃんだが、互いに自分をよく知る人につっこまれ短く呻く。

 

「……はぁ……なんでこうすぐに緩い雰囲気になるのよ……」

「なせば大抵なんとかなる!」

「……なにそれ?」

「勇者部五箇条!」

「"なるべく"とか"なんとか"なんて随分とふわっとしてるのね……」

 

どこか諦めたような表情でため息を吐く夏凜ちゃん。

そこへ手を打ち、注目を促す風。

 

「はいはい、この話はここまで。それじゃあ次の話、勇者部は忙しいのよ?」

 

 

 

 

 

「……と、いうわけで今週末は子供会のレクリエーションをお手伝いします」

 

全員が樹ちゃんの説明をプリント片手に聞く。

 

「具体的には?」

「えーっと、折り紙の折り方を教えてあげたり、一緒に絵を描いたり、やることはたくさんあります」

「わぁ、楽しそう!」

「翔一と夏凜には……暴れ足りない子のドッジボールの的になってもらおうかしら?」

「的かぁ……」

「ふーん……っていうかちょっと待って、私もなの⁉︎」

 

大人しく説明を聞いていた夏凜ちゃんが風の発言に驚いた声を出す。

 

「昨日、入部したでしょ?」

「け、形式上……」

「ここにいる以上、部の方針に従ってもらいますからね〜」

「それはそうだけど……けど、私のスケジュールだってあるわ!」

「夏凜ちゃん、日曜日用事あるの?」

「い、いや」

「じゃあ親睦会を兼ねてやった方がいいよ、楽しいよ!」

「なんで私が子どもの相手なんかを……」

「嫌……?」

「ぁ……わ、分かったわよ!日曜日ね……その日はたまたま空いてるわ」

「やったぁ!」

「良し!これでみんな揃ったわね」

 

それから折り紙で教えるものを決めたり、劇の段取りを確認したりして、わいわいとしながらも話を進め、帰り際に折り紙の本を夏凜ちゃんにも渡しておいた。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

時間はとんで日曜日、今日お手伝いをする児童館の前に、夏凜ちゃん以外の全員がすでに集まっていた。

しかし、肝心の夏凜ちゃんが来ておらず、時間も後10分くらいで決めていた集合時間になる。

 

「うーん、夏凜ちゃん、遅いなぁ……」

「道に迷っているのでしょうか?」

「一応、学校からの地図はプリントの裏に描いといたけど……もしかして気付かなかった?」

「とりあえず、もう少し待ってみるワ。樹と友奈と東郷の3人は先に準備しててくれる?」

「「「 はーい 」」」

 

 

 

その後、時間を過ぎても夏凜ちゃんは来なかった。

 

「夏凜ちゃん、どうしたんだろう……」

「友奈が電話してみたんだよね、どうだった?」

「それが電話が切れちゃって……」

「私がかけ直してみたけどダメだったわ、電源が入ってないって」

「うーん……夏凜ちゃんって意外とおっちょこちょいなのかな?」

 

切れちゃったってことは充電し忘れたとか?

しかし、これはわりと困った事態になった。

 

「しょうがないけど計画変更! このお手伝いが終わったら様子見も兼ねて、夏凜の家を訪ねてみましょう」

「そうだね。それが良いかも」

「てな訳で、この後も頑張ること!オッケー?」

「「「「 オッケー! 」」」」

 

 

 

 

友奈と一緒に元気が有り余っている子たちを相手にドッヂボールをしていると、友奈がボールを取りこぼしてアウトになり、僕1人になってしまった。

 

「へへっ、後はにーちゃんだけだなっ!」

「オレたちの勝ちだな!」

 

相手チームの子らは、何やらすでに勝った雰囲気になっている。

 

「まだだ……来いっ!僕は絶対に、負けないっ!」

 

 

 

 

この後、滅茶苦茶ドッヂした。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜 とあるアパート 〜〜〜〜〜

 

 

 

 

三好と書かれた表札の部屋のチャイムを鳴らしまくる友奈。

テンションが高いのかときどきリズムを刻む。

 

「……流石に押しすぎじゃないかな?」

「そうかもね……友奈、ストップ!」

「はいっ!」

 

友奈がチャイムのボタンから指を離すと同時に扉が開き、中から木刀を構えた夏凜ちゃんが出てきた。

 

「誰よっ!」

「「「 うわーっ!? 」」」

「……あれ?アンタたち」

「アンタね、何度も電話したのに、何で電源オフにしてんのよ!」

「え? あ……そ、そんな事より全員揃って何の用よ?」

「何?じゃないわよ、心配になって見に来たのよ」

「……心配?」

 

夏凜ちゃんは今日の事に思い当たったのかバツの悪そうな顔をする。

 

「でも、よかったぁ、寝込んでたりしたんじゃないんだね〜」

「え、えぇ……」

「んじゃ、上がらしてもらうわよー」

「「「 おじゃましまーす 」」」

「うぇっ⁉︎ちょっ、ちょっと何勝手に上がってんのよ!」

 

夏凜ちゃんの返事も聞かずに入っていく4人。

同性の彼女たちと違って、女の子の部屋に勝手に上がるわけにはいかないので、部屋の主に伺ってみる。

 

「えーっと……入ってもいい?」

「…………いいわよ」

 

大丈夫だった。

 

 

 

 

「はぁ……殺風景な部屋」

「引っ越したばかりはこんなもんだと思うよ」

「どうだって良いでしょ」

「ま、いいわ、ほら座って座って」

「な、何言ってんのよ!」

「これ凄い、プロのスポーツ選手みたい!」

「勝手に触らないで!」

「わぁー!……水しかない」

「勝手に開けないで!」

 

みんなが好き放題している間に、買ってきてたお菓子や飲み物をテーブルの近くに下ろし、東郷が車椅子からソファへと移るのを手伝う。

 

「風の言う通り、買ってきて正解だったね」

「でしょ?これぞ女子力ってもんよ!」

「ちょっとさっきから何なのよ!」

 

我慢ならないといった様子で夏凜ちゃんが声を上げる。

 

「はいっ!夏凜ちゃん、ハッピーバースデー!」

「…………は?」

「「夏凜ちゃん、お誕生日おめでとう!」」

 

友奈のお祝いの言葉と同時に東郷が持っていたケーキの箱を開け、僕が手に持っていたクラッカーを鳴らす。

 

「 え? 」

「アンタ、今日誕生日でしょ? ほらここ、入部届に書いてあるじゃない」

「あ、うん」

「それ、友奈ちゃんが気付いたんですよ」

「えへへ、あっ!て思っちゃった。だったらお誕生日会しないと!って」

「歓迎会も一緒にできるねーって」

 

そう続けた樹ちゃんに頷く友奈。

 

「本当は子供たちと一緒に児童館でやろうと思ってたの」

「当日に驚かそうと思って」

「でも、当のアンタが来ないんだもの、焦るじゃない?」

「迎えに行こうかって話もしたんだけど、子ども達が激しく盛り上がっちゃってさ……」

「最上先輩もですよね……?」

「あははは……ごめんなさい」

「だから、こんな時間まで解放されなかったのよ、ごめんね」

 

夏凜ちゃんは俯きながら黙って話を聞いていた。

その様子に気付いた風が呼びかける。

 

「お?どうした?」

「夏凜ちゃん……?」

「ひょっとして、自分の誕生日も忘れてたー?」

「……バカ……ボケ……おたんこなす」

 

意外なことに返ってきたのは罵倒の言葉だった。

流石にいきなりは迷惑だったか……。

 

「な、何よそれ⁉︎」

「誕生日会なんてやった事ないから!……何て言ったら良いのか…分かんないのよ」

 

と思ったら、反応に困った末の言葉らしい。

全員が顔を見合わせ頷き合う。

 

 

「お誕生日おめでとう、夏凜ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

『『 かんぱ〜い! 』』

 

カツッというプラコップのぶつかる軽い音が部屋に響く。

 

「ハッハッハ、飲め飲め!」

「ちょっ、コーラで酔っ払うんじゃないわよ!」

「こういうのは気分なのよ、気分。楽しんじゃえるのが女子力じゃない?」

「その女子力ってなんなのよ……」

 

まるで典型的な飲み会の席の上司のような絡み方をする風。

 

「……ここと、ここは勇者部の予定と、あとここは私たちの遊びの予定、っと」

「勝手に書き込まないで!」

 

大人しいと思ったら、友奈は壁に掛けてあるカレンダーにこの先の予定を書き込んでいた。

 

「勇者部は土日に色々活動があるんだよ」

「忙しくなるわよー」

「勝手に忙しくするな!」

「そうだよ忙しいよ。文化祭でやる演劇の練習とかもあるし!」

「え?」

「え?」

「演劇?」

 

友奈以外の全員が疑問符を浮かべる。

文化祭の出し物で演劇かぁ……保育施設のお手伝いで子どもたち相手にやり慣れてるから悪い案ではないと思う。

 

「もしかして、私の中の勝手なアイデアを口走っちゃっただけ…かも……」

「それ良いじゃない!よし、勇者部の文化祭での出し物は演劇でいきましょう!」

「確かに。劇なら何度かやっているし、そう難しくはないんじゃないかな」

「というわけで、期待してるわよ夏凜」

「私を巻き込まないでー!」

 

夏凜ちゃんはそう風に言い返すがどことなく嬉しそうだった。

 

 

その後も、誰かがボケては夏凜ちゃんがツッコんだり、持ってきたパーティーゲームに白熱したりと、他愛なく楽しい時間は過ぎていった。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

「あいつらゴミを大量に増やしていって……まったく、どれだけ食べるのよ」

 

片付けながらつい独り言がこぼれる。

誕生日を家族以外に祝われるなんて初めてだった。

いや、家族に祝われたのだって随分と前の事のように思う。

ひたすらに自分を鍛える日々しか過ごさなかったから。

 

だからだろうか、アイツらの騒がしさにどこか心地よさを感じていた。

 

1人になり、静かになった部屋に物足りなさを感じた。

 

「……ハッ!別に寂しくは……ないし」

 

ふと気付くとスマホに先程入れさせられたメッセージアプリのグループへの招待が来ていた。

 

「なにこれ?」

 

アプリを起動するとメッセージが1件入っていた。

 

(風)[あんたも登録しておいてね。今日みたいに連絡の行き違いが無いように]

 

発信者は犬吠埼風からだった。

読んでいる間にメッセージが2件追加された。

 

(樹)[これから仲良くしてくださいね。よろしくお願いします。]

(東郷)[次こそはぼた餅食べてくださいね。有無は言わせない。]

 

今度は犬吠埼樹と東郷美森からだ。

 

「ぼた餅って……」

 

先日に断ったことを言ってるのだろうか?

 

また2件の追加があった。

おそらくまだメッセージの無い結城友奈と最上翔一だろう。

 

(友奈)[ハッピーバースデー夏凜ちゃん!学校のことや部活のことでわからないことがあったらなんでも聞いてね。]

(翔一)[Happy Birthday!ここから君の青春が始まるのだ!]

(東郷)[最上先輩、ここは友奈ちゃんに合わせてカタカナにするべきです。横文字を使うとはまだまだ愛国心が足りません!]

(翔一)[申し訳ありません、大佐!( ̄^ ̄)ゞ]

(東郷)[よろしい]

 

なんだか文字でも騒がしい連中だった。

 

「はぁ……了解、っと」

 

短く一言で返信する。

 

(友奈)[わ、返事が返ってきた]

(風)[ふふふ、レスポンスいいじゃない]

(友奈)[わーーーい]

(樹)[わーーーい]

(東郷)[ぼた餅]

 

返信をしたらいきなり送られてくるメッセージに慌ててしまう。

 

(夏凜)[うっさい!!]

(風)[ぶはははははは]

(東郷)[ぼた餅]

(翔一)[ぼた餅]

 

とっさに返してしまった乱暴なメッセージでも楽しげな反応が返ってくる。

 

「なんなのよ、もう」

 

つかみどころのなさに今日何度目かの疲れを感じる。

 

 

(友奈)[これから全部が楽しくなるよ!]

 

 

そんなメッセージとともに1枚の画像が送られてきた。

それは先程撮った私も含めた全員が写っている写真だった。

 

 

 

「『全部が楽しくなる』か……世界を救う勇者だって言ってるのに……バカね」

 

言葉とは裏腹に胸に感じる温かさは心地良かった。

 

 

もし、御役目が無事に終わったのなら…………

 

 










まぁ、実際に筆が進まなかった理由として考えられるのが、お絵描きしたり別の事してたので集中力がなかったせいですかね……。


アギトウォッチ欲しい。俺を仮面ライダーにしろ。


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第10話 変わるもの、変わったもの


ガチャを回したらゼロノスライドウォッチが出たので初投稿です。


ちょっとぶつ切り感が否めない……。



最近は朝起きてから寝ていた布団をチェックする。

 

「……うん、オッケーだね」

 

ここのところ夢見が悪く、変な夢を見る。

 

その夢で僕は周りが真っ暗な中、スポットライトに当てられたような場所にいて、次第に足元から花が咲き始める。

 

あまり花には詳しくないけど、たしか……バラや菊、桜、朝顔などといった様々な花だった。

 

それらの花が足元を埋めるなか、僕はそっとしゃがんで花に触れようとする。

 

触れようとする花は見るたびに変わる。

 

手が近づくほどに花は咲き誇り、やがて()()になる。

 

そして、指先が触れる瞬間ハラリと散りだす。

 

それは連鎖的に全ての花に起こり、終いには散って色あせた花びら以外何も残らない。

 

その花びらも最後は風に攫われて全て無くなってしまう。

 

そんな夢を見たせいなのか、目を覚ますと涙を流している時もあった。

 

涙を流す以外にも布団が吹き飛んで部屋の隅にあったり、着ているものなどが焦げていたりした。

 

何が僕の心をここまで掻き乱すのか分からない。

 

失った記憶に関するものなのかも分からない。

 

分からないから仕方がないと鎌首を持ち上げる不安を押し殺し、僕は日常を謳歌する。

 

 

 

 

みんなに心配はかけられない。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜 学校 〜〜〜〜〜

 

 

 

 

今は体育の授業中で、校庭にて2クラスの男子合同でサッカーをしていた。

僕のいる班はお休みで、グラウンドの端により友兎と一緒に他の班の試合を眺めていた。

ときどき校舎の方からピアノの音が聞こえる。

ふと隣で試合を見ていた友兎が口を開いた。

 

「突然なんだけどさ……」

「ん?どうしたの?」

「俺……転校することになった」

「 へー……へ? 転校!? 」

 

本当に突然の予告に自分が思っていたよりも大きな声が出る。

 

「ばっ、声がデカイって」

「あ、ごめん……でも、なんでこんな時期に?」

 

中3のこんな時期に転校なんておかしい気がする。

 

「一応言っておくが、実際に転校するのは夏休み明けだぞ」

「急だね……なんでか分かるの?」

「正直、俺もよく分からない。俺の家は転勤が多いし……だが、青もって話だからもしかしたら本家が絡んでるのかもな」

 

本家……?あ、思い出した。

去年の冬休み前に正月の話題でそんな話をした。

本家の集まりが〜とか、青がぼやいていた。

 

「そういえば2人とも名家の生まれってやつだっけ。忘れてたよ」

「……まぁ、だいたい合ってるぞ。何かあると集まらなきゃいけないから面倒ではあるがな」

「そっか……じゃあ、送別会しないとね! 」

「ふっ、楽しみにしてる」

 

1年と短かいけど転入してきてから仲良くしてくれた2人だから、プレゼントを贈りたいな。

 

またイネスでも行ってみようか。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

その日の放課後、部室に向かいながら風に友兎たちの転校を伝えようとしたら、風も青に聞いたらしくすでに知っていて、僕と同じ事を考えていた。

 

何をしようかと話していると友奈たちがやってきたので、一旦区切り部活を始める。

 

……といっても今は特に依頼も無いから部室にいるんだけどね。

 

 

 

「うーん……この写真はここで! うん!バッチリだ!」

 

友奈は勇者部の活動を記した新聞のようなものに貼る写真の位置を決め、納得の声を上げる。

 

「…………」

 

東郷は無言ながらもとてつもない速さのタイピングで勇者部のホームページを更新していた。

 

「ん〜……あー、もう、ストーリーが思いつかん!」

 

正面で原稿用紙に向かって文化祭での演劇のストーリーを考えていた風がうなる。

原稿用紙を覗き込んで書かれている文字を読んでみる。

 

「どれどれ、『四国湯けむり英雄事件〜瀬戸内海に消えた美人勇者の裏に隠された愛憎とカリスマの物語』……ナニコレ?」

 

ミステリーなのか、はたまたラブストーリーなのか……とにかく要素が多いせいで全く内容が分からない。

というかどちらにしても配役が大変になりそう。

 

「とりあえず、どんなジャンルにするか決めたら?いつもやる勇者と魔王のやつとかどう?」

「あー、その手もあるわね……てか、夏凜は何食べてんの?」

「? にぼし」

「学校でにぼしを貪り食う女子中学生は夏凜くらいね」

「健康に良いのよ」

「じゃあ、これから夏凜のこと"にぼっしー"って呼ぶ!」

「ゆるキャラにいそうな名前つけるな!」

 

煮干しでとった出汁をブシャァってやりそう。

 

「そういえばにぼっしーちゃん」

「待って!その名前定着させる気⁉︎」

「それより、飼い主探しのポスターは?」

「ん?そんなのもう作ってあるわ」

 

そう言ってポスターを取り出す夏凜ちゃん。

 

「わー、ありがとう!」

「ふふーん!」

 

自慢げな顔をしてるけど…これは……

 

「えっと……妖怪?」

「猫よ!」

「……まぁ、人間誰しも苦手なことくらいあるよ。にぼっしー」

「にぼっしーって言うな!」

 

正直、風と同じくらいの画伯っぷりだった。

 

「はぁ……」

「樹?」

「え、な、なに?」

「どうしたの?ため息なんかついて」

「うん……あのね、もうすぐ音楽の歌のテストで上手く歌えるか占ってたんだけど……」

 

テーブルには何枚かのタロットカードが三角形に広がっていて、その頂点の位置に馬に乗った骸骨の絵柄のカードがあった。

 

「死神の正位置。意味は破滅、終局……」

 

これはまたえらく不穏な結果だ。

 

「当たるも八卦当たらぬも八卦、って言うし気にすることないでしょ」

「そうだよ、こういうのってもう1度やってみたら全く別の結果が出るもんだよ!」

 

風と友奈がそう励ますが嫌な予感がする。

2人の助言を聞き、樹ちゃんがカードを集めて再び占いだした。

 

2回目、死神の正位置

 

3回目……死神の正位置

 

4回目…………死神の正位置

 

 

やり直しを言い出した2人は気まずそうにしている。

ここまでくると何を言ったら良いのか分からず全員が沈黙する。

 

「「「 ………… 」」」

「だ、大丈夫!フォーカードだからこれは良い役だよ!」

「死神のフォーカード……」

 

意を決した友奈がフォローを入れるが逆に落ち込んでしまう樹ちゃん。

 

 

 

「アタシたち勇者部は困ってる人を助ける。もちろんそれは部員だって同じよ」

 

てな訳で作戦会議になりました。

議題は『樹ちゃんを歌のテストで合格させる』こと。

 

「歌が上手くなる方法かぁ……」

「歌声でアルファ波を出せるようになれば勝ったも同然ね」

「アルファ波……?」

「良い音楽や歌というものは大抵アルファ波というもので説明がつくの」

「そうなんですか⁉︎」

「んな訳ないでしょ!」

 

夏凜ちゃんが東郷にツッコむ。

さっきからツッコミしかしてないんじゃ?

 

「あながち間違いではないんだけど、アルファ波を歌声で出すとなると難しいかな」

「そうですか……」

「樹、1人で歌うと上手いんだけどね……人前で歌うのは緊張するってだけじゃないかな?」

 

それを聞き友奈が納得したようにポンっと手を打つ。

 

「それなら『習うより慣れろ』だね!」

 

 

 

〜〜〜〜〜 カラオケ MANEKI 〜〜〜〜〜

 

 

 

「♪〜〜♪〜〜……いぇーい!聴いてくれてありがとう!」

「お姉ちゃん、上手!」

「ふふ、ありがとう」

 

ノリノリで風が歌い終わり席に戻る。さて、次は誰かな?

 

「ねぇねぇ夏凜ちゃん、この歌知ってる?」

「一応、知ってるけど……」

「じゃあ、一緒に歌おう!」

「な、なんで私が」

「そうだよねぇ、アタシの後じゃあ、 ご・め・ん・ね〜」

 

そう言って風は頬に手を当てながら画面を指差す。

そこには採点機能による点数で92点という高得点が映し出されていた。

 

「友奈、マイクをよこしなさい」

「え?」

「早くっ!」

「は、はい!」

 

 

『 ♪〜〜〜♪〜〜♪〜〜〜 』

 

 

「「はぁ……はぁ……」」

 

曲が終わり、全力で歌った2人が息を切らしながら座り込む。

採点結果は風に並ぶ92点だった。

 

「夏凜ちゃん、上手じゃん!」

「ふんっ、これくらい当然よ」

「次は樹ちゃんだね」

「は、はいっ」

 

既に緊張気味な表情の樹ちゃん。大丈夫かな?

 

音楽が始まり画面に歌詞が表示され、樹ちゃんが歌い出す。

 

結果は……まぁ……予想通りに緊張してたとしか。

 

「…やっぱり固いかな」

「うぅ、誰かに見られてると思ったらそれだけで……」

「重症ね」

「はぁ……」

「まぁ、今はただのカラオケなんだし、上手かろうと下手だろうと、好きな歌を好きに歌えば良いのよ」

「そうだね、楽しむことが1番だよ」

「そうそう、気にしない気にしない!さ、お菓子でも食べて……って、あれ⁉︎」

 

中身のないお菓子の包みと、満足げにテーブルの上に横たわる牛鬼の姿があった。

 

「牛鬼は本当によく食べますね」

「食べ過ぎだよ〜」

 

牛鬼にお菓子を全部食べられたことを友奈が嘆いていると、行進曲のような音楽が鳴り始める。

 

「「「「 ハッ! 」」」」

「えっ⁉︎ちょっ、なに⁉︎」

 

夏凜ちゃん以外の全員が立ち上がり敬礼の姿勢をとる。

 

 

 

 

「♪〜〜♪〜〜〜……ふぅ」

 

東郷が歌い終わると敬礼を解いて各々の席に座る。

 

「さっきのって、一体……?」

「東郷さんが歌うときは私たちいつもあんな感じだよ」

「そ、そうなの」

 

まぁ、初めてこれを見たら困惑するよね。

 

「あ、次は僕だね」

「お、待ってました!」

「ははっ、待たせたね。東郷、マイク貸してもらえる?」

「はい、どうぞ」

「ありがとう」

 

ようやく僕の番が回ってきたので歌います。

テンポはゆっくりめだが歌詞が韻を踏んでいて歌い手の滑舌が試される。

 

「♪〜〜〜♪〜〜」

「わぁ、翔一先輩上手です!」

「へぇ、やるじゃない」

 

風と友兎と青とは何回かカラオケにいったことあったけど、ちょっぴり心配だった友奈たちの反応は良いものだった。

 

「♪〜〜♪〜〜……ふぅ、いやー、久しぶりに歌ったよ」

「そういえば翔一が人前で歌うのって久しぶりじゃない?」

「そうかも。最近はカラオケとかきてなかったね」

「人前で上手く歌えるコツとかあるんですか?」

「んー……さっきも言ったけど、やっぱり楽しむのが1番だよ」

「楽しむ……」

「そ、難しく考える必要なんてないんだよ」

「が、頑張ります」

 

ちなみに僕の採点の結果は89点でした。

 

 

 

 

カラオケ屋から出ると既にあたりは夕日のオレンジに染まっていた。

ここから歩いてそれぞれの家へと帰る。

意外なことに途中まで全員帰り道が一緒だという。

 

「あ〜、楽しかったー!」

「歩いて帰るの久しぶりね」

「うん!でも、カラオケはあんまり樹ちゃんの練習にはならなかったかな……」

「でも、楽しかったですよ。みんなが歌うのを聞けて」

 

そう話しながら前を行く3人の後ろを歩きながら、隣の風を見る。

カラオケの途中、退室して戻ってきてから風の様子がどことなく変だった。

今もそうだ。ときおり考え込むような表情をしている。

 

「風?」

「お姉ちゃん?」

「……え?なに?」

「樹の歌の話よ」

「風先輩、何かあったんですか?」

「う、ううん、なんにも」

 

そう言って風はなんでも無いように笑った。

 

「樹はもう少し練習と対策が必要かな……」

「アルファ波出せるように」

「アルファ波から離れなさいよ……」

「あはは、東郷はブレないね」

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

翌日、日直で少し遅れて勇者部にいくと、テーブルの上には様々なサプリメントが並べられており、腕を組んでドヤ顔気味の夏凜ちゃんと困惑顔の友奈たちというちょっとよく分からない光景になっていた。

 

「な、なんか沢山ある……」

「布教活動?」

「違うわよ!……喉に良い食べ物とサプリよ」

 

そう言って夏凜ちゃんは並べられたものを順番に指差して説明していく。

 

「マグネシウムやリンゴ酢は肺に良いから声が出やすくなる。ビタミンは血行を良くして喉の荒れを防ぐ。コエンザイムは喉の筋肉の働きを助け、オリーブオイルとハチミツも喉に良い」

「……詳しい」

「流石です……」

「夏凜ちゃんは健康食品の女王だね!」

「夏凜は健康のためなら死んでも良いって言いそうなタイプね」

「言わないわよ、そんなこと。さぁ樹、これを全種類飲んでみて、ぐいっと」

「えぇ、全種類!?」

「全種類って多すぎじゃ?夏凜でも無理でしょ⁉︎」

 

これを全部は樹ちゃんでなくても酷なのでは?

樹ちゃんにそんな事はさせまいと風が夏凜ちゃんを煽るような大げさな反応をする。

 

「流石の夏凜さんだって……ねぇ?」

「なっ……いいわよ、お手本を見せてあげるわ! うっ」

 

案の定、風に煽られやけ気味に全種類を飲む夏凜ちゃん。

飲みきって数秒もしないうちに顔色が変わって、部室を飛びだしていった。

 

「あー……やっぱりそうなるわよね……」

「諸行無常〜」

「ぷふっ、ちょっと翔一、アンタ結構似てるわね」

「でしょ?実は練習してた」

 

僕の密かな特技として一言モノマネがある。

そうこうしているうちに先ほどよりはマシな顔色になった夏凜ちゃんが帰ってきた。

 

「サプリは1つか2つで十分よ……」

「だ、大丈夫……?」

「えっと、お茶いる?」

 

夏凜ちゃんの顔色もだいぶ落ち着き、試しにサプリを飲んでみた樹ちゃんがみんなの前で歌ってみるも、やはりまだ固い。

 

「喉よりもリラックスの問題じゃない?」

「そうね、次は緊張を和らげるサプリを持ってくるわ」

「やっぱりサプリなんですか⁉︎」

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

今日は以前から飼い主を募集していた子猫に貰い手が現れて、保護してくれている人のもとへ子猫たちを引き取りに行く予定だった。

 

しかし、僕だけ緊急の依頼でサッカー部の練習試合の助っ人に来ていた。

どうやら引退した3年生と残りの1・2年生で対決することになっていたが、3年生組の1人が足を怪我したらしくメンバーが足りないそうだ。

内容を聞いたら攻撃と防御の両方をやるミッドフィールダーをやってほしいとのこと。

 

頼られたからには全力でやりますとも!

 

 

結果はなかなかの接戦の末、3対4で勝利した。

 

 

 

 

試合の後、部室に戻ってはみたけど誰もいなかった。

 

流石に汗をかいてそのままなのは気分が良くないし、まだ戻ってきそうにないのでさっさと着替えようと思う。

更衣室を使ってもよかったけど、今は試合の終わったサッカー部の部員たちでごった返していたし、なによりもあまりこの痣を見られたくなかった。

 

ズボンを履き替えて上を脱いだ時、ふと部室の姿見に映った自分の姿が目にはいる。

 

「なんかムキってなったな……」

 

全体的に筋肉質になり、うっすらと腹筋も分かる。

いわゆる細マッチョみたいになってた。

 

「前まではこれほどじゃなかったような……部活のおかげ?」

 

試しに右腕に力を込めてみる。

 

「うわっ、固っ……」

 

その後も以前との違いを確かめていると、部室に近づく足音と話し声が聞こえてきた。

まずい!と思い鍵に手を伸ばす……が、

 

「でね、東郷さんの作るぼた餅がおいし…くて……」

「ふふっ、そんなに褒めてくれるなんて嬉し……あら?」

「ちょっと友奈?どうしっ……って、うぇ⁈」

 

間に合わず、上半身裸の状態で扉の向こう側にいた友奈と東郷、夏凜ちゃん達に鉢合わせる。

友奈は話している途中でフリーズし、東郷は笑顔だがなぜか圧を感じるし、夏凜ちゃんは状況を理解して徐々に顔が赤くなる、という三者三様の反応だった。

 

「し、失礼しましたっ!」

 

耳まで真っ赤にした夏凜ちゃんに勢いよく扉を閉められた。

てか、初めて敬語を使われたことの方が地味にショックだった。

 

「まぁ、僕が悪いんだけど……参ったな」

 

すぐに上も着替えて、3人に謝り倒し、お詫びとしてアイスを奢ることになったがこちらに全面的に非がある。

だから友奈たちがハー◯ンダッツを手に取っていても文句は、言えない……。

 

結局、友奈たちだけでは不公平だからと風と樹ちゃんの分も買い、家庭科室の冷凍庫に入れておいた。

 

 

ちなみに、その後しばらくは友奈や夏凜ちゃんと話すと、なぜか顔を赤くすることが続いた。

 

 

 

今度からは鍵はちゃんと確認しないとダメだね。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

ちょっと色々あったけど肝心の樹ちゃんの歌のテスト当日。

みんな気になるのか少しソワソワしている。

 

「樹ちゃん、テスト上手くいったかな……」

「大丈夫よ、だってあの子はアタシの妹なんだから」

「それにアレだってちゃんと仕込んだんでしょ?」

 

アレとは友奈が提案したみんながそれぞれメッセージを書く寄せ書きのことだ。

それを風が樹ちゃんの音楽の教科書に挟み込んで、樹ちゃんが教科書を開いたときに届くというサプライズなのだ。

 

「もちろんよ。抜かりないワ」

「なら大丈夫でしょ。樹ちゃんを信じよう」

 

しばらくすると樹ちゃんが静かに部室に入ってきた。

 

「あ、樹ちゃん!」

「歌のテストは?」

「……バッチリでした!」

 

そう言って樹ちゃんは嬉しそうにピースサインをする。

 

「「「 やったー! 」」」

 

友奈や東郷だけでなく夏凜ちゃんまでもが自分のことのように喜んでいた。

樹ちゃんが友奈、東郷とハイタッチをしていき夏凜ちゃんの番になったときに、なんだか複雑そうな表情の夏凜ちゃんだった。

 

まったく……素直じゃないんだから。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

樹ちゃんが歌のテストに合格したその日の帰り、僕は食材の買い出しの為、風たちとは途中で別れてスーパーに寄っていた。

 

ふと目に入った豆腐のコーナーで絹豆腐に1つだけ混ざっている木綿豆腐。

それを手に取ったとき、思い浮かぶのは僕以外が女子の勇者部。

 

元は同じものでも手が加えられているかいないかで違いがある。

 

勇者である風たちは神樹様の力を受け取るために衣装は変わるけど、見た目に大きな変化はない。

つまり、人の身で神の力を宿し戦う。

 

しかしアギトは変身する。

変身して変化して、戦うために最適化されている。

より強く……特に鍛えているわけでもないのに身体に筋肉がついていた。

より巧く……経験したことのないはずの格闘術を扱えるようになっていた。

より多く……戦う選択肢としてか超能力が使えるようになっていた。

つまり、人の身を辞めることで抗う。

 

 

手に取った木綿豆腐をちゃんとした位置に戻して歩きだす。

 

思考は止まらない。

 

風は自分がみんなを巻き込んだと思っていそうだけど、

 

 

 

 

 

もしかしたら…………

 

 

 

 

 

 

 

もしかしたら、僕がみんなを戦いに巻き込んだのかもしれない。

 

 




実はこの3日間北海道に行ってました。寒かった。
正直、雪花が帰りたくない派でもおかしくないなぁと感じる程度には試される大地でした。
早朝の気温がー12℃でしたし。

まぁ、道東部を巡ったのでカムイコタンには行けなかったのですが、アイヌの伝統舞踊だったり、網走監獄に行ったりなかなか楽しい旅行でした。
この時期のお狐様かわいい。






次回は連投する予定なのでまたまた間が空いてしまいます。
申し訳ナス。


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第11話 収・穫・体・験!

た だ い ま (激遅)


いやー、今日のジオウは熱かったですね!(満面の笑み)

やっぱりみんなアギトが好きなんやなって……




ある日、僕たち勇者部はバスに揺られながら『桜農園』へと向かっていた。

桜農園とは、広大な土地に季節ごとの旬の野菜や果物の収穫体験が出来きることで有名な場所だ。

今回の依頼はその桜農園で、子供会の収穫体験のお手伝いだそうだ。

 

「なんだか皆で遠足みたいでワクワクしますね」

「ふふっ、友奈ちゃん嬉しそうね」

「楽しむのは良いけど、これは勇者部の活動なんだから、そのことを忘れないように、ね?」

「「 はーい 」」

 

やがてバスは桜農園に到着した。

子供会の子たちとバスから降りて、2m程の樹木が並ぶ道を歩くと、円形に開けた広場に出た。

その中央には青々とした葉を茂らせる大木があり、反対側には大きな洋風の建物があった。

この大木は農園の名前の元になった桜の木なんだそうだ。

春には広場を一般開放して、花見をすることができるのだ。

そんな由緒正しき桜の木を横目に迂回して、そのまま建物の中へと入る。

先生たちの案内で着いた食堂のテーブルに子供達を座らせて、人数を確認する。

 

「こっちは全員いたわ」

「こっちも全員いました」

「オッケー、ありがと樹、夏凜。それじゃあ先生たちに報告してくるわね。少し頼んだわよ」

「僕も行くよ。友奈と東郷も頼むね」

 

「「 了解! 」」

「分かりました」

「分かったわ」

 

先生たちのもとへ準備が出来た事を報告に向かうと、先生たちは年配の女性と大学生くらいの男性と話していた。

年配の女性はこちらに気付くと、柔和な笑みを浮かべて話しかけてきた。

 

「よく来てくれたね。アンタたちが先生たちの言っていた勇者部かい?」

「はい。讃州中学勇者部、部長の犬吠埼です。本日はよろしくお願いします」

「同じく讃州中学勇者部、副部長の最上です」

「しっかりした子たちだねぇ。アタシはこの農園の管理をしてる猿渡 桜(さわたり さくら)だよ。それでこっちが孫の……」

猿渡 一実(さわたり かずみ)だ。今日はよろしく」

「よろしくお願いします」

 

一実さんの差し出された手を取り、握手に応じる。

おそらく農作業でできたものなのだろう、掌にはマメの跡があり、細身なのにがっしりとしていて頼もしさを感じた。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

食堂で今日の収穫体験の説明を終えて、案内されたのは僕の身長よりも高く伸びたトウモロコシ畑だった。

毎年このくらいは成長するそうで、注意をしていても畑の中で迷子になる人が必ず数人はいるのだとか。

今回の依頼にも子供たちが迷子にならないように注意してほしいとあった。

一応、畑の近くには物見櫓が立っていて、最悪はそれを目印に脱出できるのだ。

 

今回、場所が場所なだけに東郷と友奈、樹ちゃんは畑には入らず、その周りで戻って来た子の相手と写真撮影をしてもらい、僕と風は収穫の手伝い、夏凜ちゃんが撮影といった役割分担となった。

 

「……ちゃんと集合時間には集まること。それからトウモロコシは後で焼いて食べるので1人1つまで。それじゃあ皆、怪我には気を付けて楽しく収穫しましょう!」

「「「 はーい! 」」」

 

先生の諸注意が終わり、そんなこんなで始まった収穫体験。

話の間もうずうずしていた男の子達は、我先にと畑の中に入っていき見えなくてなった。

反対に女の子達は数人ずつで固まり、あまり畑の中には入らずにお喋りをしながら近場のトウモロコシを収穫していた。

 

僕も畑に入って直ぐ、目に入ったトウモロコシで教わった穫り方を試してみる。

左手は茎を持ち、右手は実の根元を持って、茎を折るように手前に引っ張って……こう!

 

「ふんっ!……おぉ、取れた!」

 

パキッという小気味いい音とともに、ずっしりとしたトウモロコシの実が手に収まった。

自分の分のトウモロコシを穫り、それを東郷に渡したらお仕事開始だ。

 

 

 

 

 

 

畑の外側に近いところを見回っている最中、近くでガサガサ聞こえて見渡してみたら、トウモロコシを穫ろうと悪戦苦闘している樹ちゃんの後姿があった。

なんだか、小動物が一所懸命に動いているみたいな可愛さがあった。

 

「ほら、ここはこうするんだよ」

「ふぇ!?しょ、翔一さん?」

 

流石に見かねた僕は樹ちゃんの後ろに回りこみ、左右それぞれの手を重ねてさっきと同じように動かす。

すると樹ちゃんが苦戦してたトウモロコシがあっさりと取れる。

 

「ほら、取れたよ。コツは横に引っ張るんじゃなくて、下に引っ張ること……って、樹ちゃん?」

 

何故か穫れたトウモロコシを見つめている樹ちゃん。

もしかして自分で穫れなかったのは嫌だったかな?

 

「おーい、樹ちゃん?」

「!は、はい!なんでしゅか?」

 

慌てて返事をした樹ちゃんがこちらを見ながら言葉を噛んでしまい、妙な沈黙が訪れる。

噛んだことに気付いたのか、樹ちゃんの頬は徐々に赤くなっている。

 

「あ、その、ちがっ」

「……ふふっ」

「!もぉー、なんで笑うんですか!!」

「ふふっ、ごめん、慌てる様子が可愛くて、つい」

「か、可愛っ、むぅぅぅ!」

 

からかわれたと怒ったのか、ポカポカと叩いてくるが全く痛くない。

 

「あははは、ごめん、ごめんって樹ちゃん」

「樹ー、どこー?っといたいた……2人して何してるの?」

 

樹ちゃんと戯れていると、トウモロコシを掻き分けて風が出て来た。

すると樹ちゃんはサッと風の後ろに隠れて、顔を半分ほど出してジトっとした目で見てくる。

 

「ん?どうしたのよ樹?」

「……お姉ちゃん、翔一さんが意地悪する」

「へぇ、翔一はうちの可愛い樹に意地悪したんだ。……これは東郷に言って吊るしてもらおうかしら」

「えっ、いや、それは……」

 

1回だけ勘違いで吊るされたけど、アレは色々ときついので遠慮したいところだ。

 

「……なーんてね。それよりもこんなところで油売ってないでちゃんと見回って来てちょうだい。もちろん樹も、ちゃんと写真を撮るのよ」

「「 ……はーい 」」

 

 

 

 

 

 

それからはときどき苦戦している子を手伝い、皆が次々とトウモロコシを収穫していき集合時間が迫っているなか、1人の上手く収穫できていない男の子がいた。

どうやら残っているトウモロコシが男の子の身長より少し高いみたいだ。

 

(ん〜……手伝ってあげたほうがいいかな?)

 

様子を見ながらその子の方に向かうと、なにやら茂みの方に声をかけた。

すると声をかけたあたりから2人の男の子が出て来て、3人でトウモロコシを引っ張ろうとしていた。

 

少し嫌な予感がして向かう足を早める。

 

あと少しでたどり着くというところで、3人が引っ張っていたトウモロコシの茎が折れてしまった。

いきなりトウモロコシという支えを失った3人が、後ろへと体勢を崩した。

 

「っ!危ない!」

 

踏み込んで飛び出し、3人の背後に滑り込むことに成功する。

服が汚れるのも気にせず、3人と地面との間に入り込みなんとかクッションの役割を担う。

 

「ぐへぇ……」

 

だがしかし、子どもとはいえ人3人分の重さはそれなりに重く、潰れたカエルのような声が出た。

 

「あ!ご、ごめんなさい……」

「っ、僕は大丈夫だよ。それより3人とも怪我は無い?」

 

心配させない為に笑顔で大丈夫だと伝え、彼らが怪我をしてないか聞いた。

 

「は、はい!大丈夫ですっ!」

「良かった。それじゃあ、そろそろ集合時間だからみんなのところに戻ろっか?」

 

そう言って男の子達を連れて、畑を出てみんなの元へ戻ると、案の定びっくりされたけど転んだということにした。

 

収穫したトウモロコシをカゴに入れ、そのカゴを積んだ荷車を交代で押して食堂の外に隣接されているバーベキュー場へ行くと、既に施設の人達で準備をしてくれていた。

 

「あぁ、おかえり。おやおや……これまた派手に汚れたねぇ。大丈夫かい?」

「あははは……ちょっと転んじゃいまして、派手に汚れてしまいました」

 

戻って来た僕たちに気付いた桜さんは、土で汚れた僕を見ても驚くそぶりも見せず、優しく心配してくれた。

 

「そうだったのかい。それなら……一実ぃ、ちょっと来な!」

「あ?なんだよ婆さん、準備ならもう終わる……って、そういうことか。坊主、ついてきな」

 

準備の最中だった一実さんを呼ぶと、呼ばれた一実さんは何かを察して、僕についてくるように言うと建物の方へと歩き出した。

何が何だかよく分からないまま一実さんについていくと…………。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「あの、着替えまで貸してくださって、ありがとうございます」

 

ついて行った先の事務所で職員用だというシャワーを借りて、身体に付いた汚れを落とした後にまた事務所へと戻る。

もらった着替えのシャツは、なかなか独特なデザインだけど、わりと好みだった。

 

「構わねぇよ。せっかく来てくれたのに泥だらけのままってわけにもいかねぇし、汚れたからシャワーを貸してくれって事はわりとあるしな。ほら、こっちに来い」

「?」

 

不思議に思いながらも、指示されたとおりに一実さんの正面に座る。

 

「向こうをむいてくれ、背中に怪我がないか見るから」

「あ、はい」

 

よく見たら一実さんの傍には救急箱が置いてあった。

僕は大人しく一実さんに背中を向けるように座り直した。

 

「服をめくるぞ」

「……分かりました」

 

いつもの定期検診で慣れているとはいえ、少し気恥ずかしくて黙ってしまう。

 

「……ふむ、多少赤くはなっているけど、どこも血は出てないな。一応、全体的に消毒するが痛かったら言えよ?」

 

「お願いします……それにしても、なんだか手慣れてますね」

 

「ん?あぁ、チビどもの相手をしていれば多少はな。アイツらはすぐ怪我してくるからよ」

 

「チビどもって……?そんな子たちは見かけませんでしたけど」

 

「今は全員学校だからな。……お前の着てるそれも元々はチビどもに買ってやったんだが、不人気だったしお前にやるよ」

 

そう言って小さく笑った一実さんは、上げていた服を下ろして僕の背中をポンっと軽く叩いた。

 

「ほい、終わりだ。とっとと外に行きな、お仲間さんが待ってるぞ」

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「……どうだった?」

 

翔一が出て行った後、入れ替わるように事務所のドアを開けて入って来たのは桜だった。

 

「どうって?あいつなら怪我なんざしてなかったぜ。チビどもと違って丈夫なんだな」

 

使ったものを片付けながら、桜の方を見ずに答える一実。

 

「はぁ、そうじゃないよ。あれが今の勇者様たちだ……本当ならあの子らと同じくアタシら大人が守らなきゃいけない子たちだよ」

 

一実の答えに、呆れたようなため息を吐く桜。

 

「またその話かよ。いい加減、次期()()としての自覚を持てってやつだろ?わかってるっての」

「ならいいけどね……」

 

そう言って、桜は事務所を出て行った。

残された一実は救急箱の中身を片付け終わると、近くの椅子に腰を下ろして背もたれに寄りかかり、天井を見上げた。

 

「……確かに同じだったよ、マサルやショウキチ達と同じまだまだ小さぇ背中だった。なのに世界だなんて重てぇもん背負ってんだよなぁ……腹ぁ括るしかねぇか……」

 

ポツリと呟かれた言葉は誰に届くでもなく、誰もいない事務所の空気に溶けていった。

そのままの体制で目を閉じる一実。しばらく事務所には外からの子供たちの声しか音は無かった。

しかし突如として、一実のポケットから電子音が鳴り響く。

 

「んだよ、こんな時に電話してくるアホは……っ!?」

 

一実は気怠げにポケットから端末を取り出して発信者を確認すると、慌てて電話に出た。

 

『あ、もしもし、かずm』

 

「はいっ!あなたのかずみです!御用はなんでしょうか、みーたんっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

一実さんに言われて外に出てみると、美味しそうな匂いがしていた。

 

「あ、来ました!おーい、翔一せんぱーいここでーす!」

 

事務所から出てきた僕を見つけた友奈がこちらに向かって大きく手を振っている。

その反対の手には焼かれたトウモロコシが握られていた。

 

「みんな、遅れてごめん。もう始まってるよね?」

「はい、どうぞ。最上先輩の分です」

「あ、ありがとう東郷。いただきます……ん〜、美味しい!」

 

東郷から僕の分のトウモロコシを受け取り、齧り付くと口の中にトウモロコシの甘さと焼けた醤油の香ばしい香りとが広がる。

 

「プチプチとした食感も良いし、止まらなくなりそうだよ」

「焦らなくても平気よ、まだ始まったばかりだから。それにしても……ナニソレ?」

 

なぜか微妙な表情でこちらを見る風。目線の先には僕の着ているシャツ。

みんなを見回すと東郷と樹ちゃんも似たような表情をしていた。

対照的に、友奈と夏凜ちゃんは興味がありそうな感じだった。

 

「何って……あぁ、これ?貸してもらった着替えのシャツだよ。余り物だからあげるって言われたけど。良いでしょ」

「なんていうか……独特なデザインですね」

 

そうだろうか?カッコいいと思うんだけどなぁ……。

シャツには、シンプルにデフォルメされた煮干しが三角形に並んでいて、その上下を円で囲むように『かるしうむ とりにてぃ』と印刷されている。

 

「そう?私は別にいいと思うけど?」

 

夏凜ちゃんがこのシャツに肯定的な意見を出した。

そんな夏凜ちゃんに驚いたような呆れたような目を向ける風。

 

「……夏凜は煮干しなら、なんでもいいんじゃない?」

 

「なっ!?違うわよ!完成型たる私のセンスをなめないでよね」

 

「いやいや夏凜、アンタ流石にそれは女子力無いわよ。……しょうがない、あたしが女子力のなんたるかを叩き込んであげるわ。光栄に思いなさい!」

 

「思うかっ!!わ、私にだって女子力の1つや2つあるに決まってるでしょ!」

 

「女子力って、1つ2つって数えるんだ……」

 

2人の言い合いに遠い目をする樹ちゃんを横に、風は夏凜ちゃんと女子力談義を始めてしまった。

……ただ、焼きトウモロコシ片手に飲み物を飲みながら話す姿は、女子力とは程遠い気がするけど。

 

「あ、私も似たTシャツもってますよ。お揃いですね!」

 

「友奈ちゃん、それはどんな服なの?参考までに教えてもらえないかしら」

 

いつのまにか、メモを用意していた東郷が友奈にシャツの詳細を尋ねる。

 

「?いいよ。えっとね、こうこの辺に煮干しのイラストが1つあって、かるしうむって平仮名で書いてあるシンプルなやつだよ。お母さんが買ってきてくれたんだ」

 

「へぇ、そういうのもあるんだ。このデザイン流行ってるのかな?」

 

「……どうなんでしょうね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに、子供会の子たちに聞いてみたところ、漏れなく全員から"ダサい"との返答をいただきました。……解せぬ。

 

 

 

 

 

 




お久しぶりです。バーテックスケベでございます。

更新が滞って申し訳ない。(五体投地)

完全に私事なんですけどちょっとメンタルをやられている時に仕事の繁忙期も重なり、手がつかなかったという……。

しかし!
ネタを練る事はしていたので、この先の展開はある程度決まってます。
あとは文章におこすだけ……頑張る。

個人的な意見ですが、日常回を上手に書いてる他の作者さん達が凄すぎ。その腕見習わせろ。焼肉食べに……これは神絵師になる儀式だった。


P.S 本当は先週に更新したかったけど、出来ませんでした……!
あと、かるしうむ とりにてぃのイメージはこちら

【挿絵表示】


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第12話 見舞いと妹とプレゼント

なんか月一投稿みたいになってる……




バスを降りて感じる日光の暑さ。6月も終わり、正午過ぎの日差しはすっかり夏だ。

 

少し足早に病院の入り口へ向かう。

 

タイミングよく自動ドアが開くと、涼しい風が吹き抜ける。

いつものように受付を済ませて、診察室へと向かうと、その前の廊下で見知った顔を見つけた。

 

「あれ?千夏(ちなつ)ちゃん、久しぶりだね」

 

「ぇ?あ、翔一さん、こんにちは!」

 

その見知った顔とは友兎の妹の千夏ちゃんだった。

友奈に近い赤みがかった茶髪をボブカットにし、前髪を兎を模したヘアピンで留めている女の子だ。

 

彼女の着ている襟が若草色の白いセーラー服は見たことないデザインだが、友兎曰く、全寮制の女子校に行っているらしいからそこの制服だろう。

声をかけるとこちらを見て、読んでいた本を閉じる千夏ちゃん。

 

「こんなところで会うなんて珍しいね。どうしたの?」

 

「えーっとですね……私じゃなくて、友達が足首を捻っちゃったみたいで、私はその付き添いです。翔一さんはどうしたんですか?誰かのお見舞いですか?」

 

そう返した彼女の目線は僕の持つ紙袋に向いていた。

その中には、園子ちゃんへのプレゼントが入っていた。

この前、商店街で見かけてなんとなく園子ちゃんが好きそうだなぁと思い買ったのだ。

 

「それもあるけど僕は定期健診。といってもほとんどカウンセリングみたいなものだけどね」

 

「え、翔一さん、どこか悪かったんですか?」

 

「んー……ちょっとね。それより、どう?準備は進んでるの?」

 

「……準備、ですか?」

 

間が空き、小首を傾げる千夏ちゃん。

 

「あれ?たしか引っ越すんだよね?友兎がそう言ってたけど、もしかしてまだだった?」

 

「ぁ、あー、引っ越しの準備ですか。ちょっとずつやってるみたいですよ。まぁ、私はまだ学校が休みじゃないので、全然手伝えてないんですけどね……」

 

そう言って、千夏ちゃんはあははと軽く笑った。

その後もお互いの近況など世間話に興じていると、診察室のドアが開いて千夏ちゃんと同じ制服の少女が壁に左手をつきながら出てきた。

 

赤味がかった黒髪をポニーテールにし、日焼けなのか肌は千夏ちゃんより褐色めで、少しツリ目がちな可愛いというよりかっこいいという言葉がしっくりくるタイプの女の子だった。

 

「あ、ヒナおかえり。どうだった?」

 

それに気づいた千夏ちゃんが彼女に近づき、その身体を支えて椅子に座らせる。

2人が並ぶと千夏ちゃんより彼女の方が身長が高いようで、腕を自分の肩に回させて支えた。

 

「ただいま。筋や筋肉は痛めて無いけど腫れてるから、しばらくは激しい運動は控えるようにって」

 

「そっかぁ、良かったね」

 

「うん……ところでさ、ナツさんや」

 

「ん?なに?」

 

結果を千夏ちゃんに呼びかけると耳元に口を寄せた。

 

「……私の居ない間にナンパなんて……やるね」

 

「なっ!?」

 

「くふっ、ンフフフ……」

 

千夏ちゃんは驚きの声を上げ、顔がほんのりと紅くなる。

僕もつい聞こえてしまい、笑い声が漏れる。

見た目によらず、お茶目なようだ。

 

「もう、何言ってんのさヒナ!翔一さんもなんで笑うんですか!」

 

「いやー、面白い友達だね。初めまして、最上翔一です。友兎……千夏ちゃんのお兄さんの友達なんだ」

 

「……初めまして、赤嶺 緋那乃(あかみね ひなの)です。ナツ、千夏にはヒナって呼ばれてますから、そう呼んでください」

 

「分かった、よろしくねヒナちゃん」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

そう交わした挨拶は丁寧なもので、先ほどの悪戯っ子な雰囲気とは真逆のお淑やかさを感じた。

風や僕も場面によっては言葉遣いとか切り替えるけど、彼女はそれがかなり上手い。

 

「最上さん、最上翔一さん、診察室へどうぞ」

 

「あぁ、ごめん、呼ばれたから行くね。友兎によろしく。あとヒナちゃん、お大事に」

 

「はい、伝えておきます!」

 

千夏ちゃんはそう元気よく返してくれて、ヒナちゃんはどこか嬉しそうに微笑んで御礼を言ってくれた。

 

「ありがとうございます ()()()

 

診察室のドアが閉まる一瞬、彼女が何か呟いた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

「さてと……まぁ、だいたい分かってると思うけど今わかる結果は問題なし、いたって健康だね。強いて言うなら、前より筋肉がついたって事だね」

 

「うーん、あんまりトレーニングとかはやってないんですけどね……なんででしょうか?」

 

あんまり実感がないと言うのが、正直な感想だ。

 

「今、翔一君は成長期だからね。普段の生活だけじゃなく、えっと……部活に入ってたよね?」

 

「勇者部のことですか?」

 

「そうそれ、多分だけどその勇者部の活動も要因の1つになってるんだと思う」

 

「あぁ、力仕事担当な部分がありますから、そうかもしれないです」

 

「まぁ、筋肉がついて悪いことはないと思うよ?僕なんて……珠美(たまみ)にも腕相撲で勝てないから、ハハハ……」

 

遠い目をして薄く笑う明さん。ちなみに珠美さんとは明さんの奥さんの名前だ。

 

「た、たしか奥さんの趣味はアウトドアでしたよね?それなら、仕方ないんじゃないですか?」

 

「……決めたよ。僕も筋トレを始める!」

 

「ぁー、まずは程々でお願いします」

 

正直、張り切りすぎて2日目くらいから筋肉痛で動けなくなりそうな気がする。

 

「そういえば、今日は荷物を持ってるんだね。いつもは手ぶらなのに」

 

話題を変え、明さんの目線は僕の足元の紙袋に向く。

紙袋の口からは中身のクッションの薄緑の布地がのぞいている。

 

「あぁ、これですか?これは知り合いへのプレゼントですよ。といってもこっちに来た時にしか会えないんですけど」

 

「とすると……この病院にいるのかな?」

 

「おぉ、正解です。乃木園子ちゃんっていうんですけど、もしかして明さんの担当だったりしますか?」

 

「…………いや、僕の担当の子じゃないなぁ。でも、驚いたよ翔一君がいつのまにか女の子と知り合っているなんて……はっ!まさk」

 

「違います」

 

「いや、でm」

 

「違います」

 

「そ、そんな食い気味に否定しなくても……」

 

明さんは時折口が軽くなるから、こうでも言っておかなければ下手したら病院内で噂になりかねない。

 

「僕はもう帰りますね。あんまり園子ちゃんを待たせるのは悪いですし」

 

「そうかい?それじゃあお疲れ様。気を付けて帰るんだよ」

 

「はい。ありがとうございした」

 

 

 

 

 

 

 

 

翔一の出て行った診察室、先ほどとは打って変わって険しい表情で何処かへと電話する明。

 

 

「……伊予島だ。そう、ここのところ園子様の機嫌が良かった理由が分かったよ」

 

 

 

「君の見立て通り、戦部様が接触してたよ。さっき向かったようだけど、ここから彼女の病室までは一体どれだけ離れてるのか……あぁ、今は向かわない方がいい」

 

 

 

「どうやって来ていた事を証明するか、か……そういえば今日は彼女への贈り物だとか行って何か持ってたな……良くは見えなかったけど、薄緑色のクッションのようなものだと思う」

 

 

 

「いや、警備はそのままで良いよ。むしろその方が彼女も精神的に安定するだろうし、今更下手に規制すれば怒りを買うかもしれない。触らぬ神に祟りなし、だよ」

 

 

 

明はそう言って一言二言交わした後、電話を切って力を抜くように軽く息を吐く。

 

「ふぅ……昭都(あきと)君、早く思い出してくれないかなぁ……そうすれば…………いや、いまは待つしかない、か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜 園子の病室 〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

ここにくるのは今日が3回目になる。

重厚な扉の前に立ち、ノックで合図する。

短く1回、連続で3回、また短く1回。

前回決めた2人だけの合図。

 

『入っていいよ〜』

 

扉越しだからか声はくぐもっていたが入室の許可がおりたので扉を開けて中に入る。

 

「久しぶり〜、待ってたよ〜」

 

「久しぶりだね、園子ちゃん」

 

もう何度目かになるけど、相変わらずな部屋の広さに反する息が詰まりそうな閉塞感を飲み込み、彼女のもとまで歩く。

 

「今日は園子ちゃんにプレゼントがあるんだ」

 

そう言って、手に持った紙袋を見せる。

 

「わぁ〜、ありがとう。実は私からもがみん先輩に渡したい物があるんよ〜」

 

「僕に?奇遇だね。それじゃあプレゼント交換だ」

 

「おぉ、プレゼント交換だ〜」

 

 

 

「まず僕からは……はい、これ」

 

紙袋から中の物を取り出して彼女の膝元に置く。

それは薄緑の猫を模したクッション枕だ。

他にも水色や薄紫色のものもありバリエーションが豊富で、それぞれに名前が付いているらしくこの子はベニータという名前だった。

ちなみにセットで買えば安くなるとのことで、僕もオレンジ色のアニータを買った。

 

「この前の部活の帰りに偶然通りがかったお店で見かけて、園子ちゃんが好きそうだなぁって……買っちゃった」

 

「わぁ、私の持ってないサンチョさんだ〜」

 

「サンチョ?確か……薄紫色のだったかな?その子はベニータっていうだ」

 

「うん、知ってるの?他にもね〜、アミーゴとアモーレがいるんよ〜。これからよろしくね、ベニータ」

 

本当はただの直感だけじゃなくて、僕がいつも来れる訳じゃないからこの子がいれば、少しは園子ちゃんが寂しくないかなって思ったからだ。

 

「ありがとう、もがみん先輩。大事にするんよ」

 

 

 

「じゃあ次は私なんだけど、えっとね……枕の下にあるんだけど、 取ってもらえるかな。私、動けなくて」

 

「いいけど……えっと、失礼します」

 

恐る恐る彼女の枕の下に手を入れる。

今も彼女が寄りかかっているから、少し重くて温かい感触がする。

さらに、手を進めると必然的に近づくことになり、近づくほどに彼女からは薬の匂いに混じって花のような甘い香りもする。

 

ふと視線を感じ、そちらに目を向けると彼女と目が合う。

なんとなく目を逸せなくて、目を合わせたまま近づくと突然目を閉じて少し顎を突き出した。

 

何故か分からないけど、その行為に心臓が跳ねた。

と同時に現在の状況を理解する。

薄暗い部屋で、男女が見つめ合って顔を近づける。

 

(これじゃあ、まるで僕は今から園子ちゃんに…………ん?)

 

思考が少しアブナイ方向に逸れ始めた時、指先に硬い感触が触れてハッとする。

それを指先でそっと掴み、入れる時より気持ち早めに手を枕の下から抜いた。

 

「こ、これ、かな……?」

 

「ぁ……うん、それだよ〜。開けてみて」

 

取り出した物があっているか彼女に聞くと、どこか不満そうな顔をしながらも合っていると返事をしてくれた。

それはいたって普通の木箱だった。

蓋を開けると中には銀色のブレスレットが入っていた。

赤、紫、青の順で角の丸い長方形の綺麗な石がはめ込まれていて、それらを繋ぐように金色のラインが装飾されていた。

 

「お、おぉ、かっこいいね」

 

いや、なんかすごく高そうなんだけど!?

 

「でしょ〜。試しにつけてみてほしいな〜」

 

「……分かったよ」

 

恐る恐るブレスレットに触れると、突然微かな頭痛と共に頭の中に映像が浮かんできた。

視界は一人称のようで、今持っている木箱とは違い、しっかりと黄色い包装紙に銀色のリボンでラッピングされた箱を両手で持ち、その中に収まっているブレスレットを見下ろしていた。

 

本当に良いのか?流石に、これは高かっただろ

 

不意に視界が上がるとそこには銀ちゃんとあの写真の黒髪と金髪の2人の少女が正面にいた。

周りの景色を見るとどこかの高台のようで、そこから青くきらめく海とその上に堂々と佇む大きな橋、おそらく2年前の事故で壊れたはずの瀬戸大橋が壊れる前の姿が遠目で確認できた。

 

大丈夫です。そのっちの知り合いにそういう細工が得意な人がいたんです

それで〜、教えてもらって3人で作ったんよ〜

 

視界の主が何かを話したのか正面の黒髪の少女の口が動き、金髪の少女に目を向ける。

見られた少女はどこか自慢気に視界の主に向けて話す。

 

まぁ、アタシは2人と違って全然役に立てなかったッスけど……

そんなことはないよ、ミノさんはこの石を選んでくれたでしょ

そうよ銀。私やそのっちじゃ決められなかったわ

須美、園子……そう言ってくれて嬉しいぜ

 

銀ちゃんが少し申し訳なさそうに後ろ頭をかくと、2人は首を振りそれは違うと否定するような反応を見せる。

 

俺の為にそこまで……ありがとうな3人とも。大切にする

 

もう一度、ブレスレットへと視線が落ちて気付いた。

鏡のように反射するブレスレットに映り込む黒髪と見覚えのある目元。

そんなはずはないのにその目はしっかりと僕を見ているようだった。

 

「…………っ、今のは?

「どうしたの?もがみん先輩」

 

僕を呼ぶ声で顔を上げると、心配そうな目をこちらに向ける園子ちゃんに先ほど見た映像の金髪の少女が重なる。

包帯の隙間から覗く髪の色は少し違うけど、目元が似ている。あの子が成長すればこうなると思うほどに。

もし……もし、あの子が園子ちゃんの幼い頃なら、今の彼女の状態はどうしてなんだ?

 

いや、それ以上に

 

 

 

君は何を知っているの?

 

 

 

彼女に口を開きかけたところで、来客を報せる鈴が鳴る。

 

「大丈夫、なんでもないよ……それじゃあ、僕はそろそろ行くね」

 

「…………ねぇ

 

立ち上がり、部屋を出ようとすると呼びとめられる。

初めて聞く弱々しい声の園子ちゃんに振り向く。

 

「どうしたの?」

 

「また……来てくれる?」

 

そう僕に訪ねる園子ちゃんは寂しげな目をしていた。なんだか頭と胸の奥が微かに痛む。君にそんな顔はして欲しくない。

 

「……うん、また来るよ。必ず、君に会いに来る、()()()

 

「そっか、やくそくか……うん、引きとめてごめんね〜」

 

だから唯一感覚が残っているという右手を握り、目を合わせて約束した。

その行動が功を奏したのか、彼女は笑ってくれた。

 

「構わないよ。それじゃあ、またね」

 

「うん、またね〜」

 

園子ちゃんに別れ際に手を振ると、笑い返してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

扉を出て、気がつくと1階のエントランス前の廊下にいた。

お昼過ぎぐらいだったはずが、だいぶ時間が経っていたのか廊下は電灯の白にオレンジが混じっていた。

 

靄がかかったようにどうやって彼女の部屋からここまで来たのか思い出せないけど、

キラリと光を反射する右手首のブレスレットが、先程までのやり取りが現実だったことを証明している。

それによくよく考えたら、樹海化という不思議体験を既にしているのだ今更驚くことではなかった。

 

ふと気付くと微かに聞こえていた人の声が全くしない。

さらに廊下の先の人影が不自然なポーズで停まっている。

 

 

 

けたたましく鳴り出す警報がヤツらの襲来を報せる。

 

 

 

「ついに来たのか……よしっ!」

 

パチリと両手で頬を軽く叩き、気合いを入れる。

勝って約束を果たす。それが負けられない理由になる。

 

 

 

正面の廊下の端から光が迫り、世界が極彩色の樹海に塗り替わる。




うん、まぁ、こんなもんでしょ(適当

2人も新キャラ出しやがって、どうするつもりなんだコイツは……?

千夏ちゃんはどっちかというと千景よりの顔立ち、
緋那乃ちゃんは棗っぽいイメージ。

珠美さんは容姿とか特に考えてないです(自白

一応、園子に貰ったブレスレットについている石は
青:アイオライト
紫:アメトリン
赤:ガーネット
です。


次回はアニメ本編だと総力戦。

どうなるかは……お楽しみに。

なるべく早く投稿するので許してください!(早く投稿するとは言っていない)



あ、そうだ。(唐突

実は私、若葉ちゃんと誕生日が一緒なんですよね。


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