あの娘の彼女です (まつりごと)
しおりを挟む

天真爛漫な少女と平凡少女

箸休めに書いて行く予定のSSです。メインは連載中の沙綾SSである支える君を支えたいの方ですのであしからず。それでもみさここを書きたい衝動が抑えられませんでした

まあ気楽に読んでいただければ幸いです。


「ねえ美咲」

「ん、なにこころ」

「恋人ってなんなのかしら」

「はい?」

 

定期テストに向けての勉強中の出来事。

唐突の質問にあたしは生返事と二度見。あのこころから急に「恋人」というワードが口から出たことが驚きだった。

 

「ど、どうしたの急に……」

「先日ね、お父様のパーティーに参加したの。その時のお客さまがね『恋人はいるの?』って聞かれたのよ。でもあたし、恋人なんていたことないの」

「いやあたしもいたことないし……」

 

恋人いない歴=年齢に加えて、今は女子校通い。「恋人」という2文字は脳内の予測変換の候補にすら挙がらない。そのくらい今は無縁な言葉だ。

 

「こころはその、恋人ってどんなものかわかる?」

「大好きな人のことよね!」

「ならさ、今こころは誰か好きな人とかいるの……?」

 

うわあ、こころとこんな話題で話すとは思わなかった。恋バナとか普段他の友達ですら滅多にしかしないし、周りがしてもノータッチか話を適当にあしらう側だし、自ら話題ふったの初めてかも。

 

「ええもちろん!世界中のみんな大好きよ!」

 

あーうん、ですよね。さすが弦巻こころ。らしい解答が返って来た。世界平和を願う少女を想像しろと言われたら弦巻こころを想像すればそれが満点解答。「世界を笑顔に!」も実際本気で思ってるからね。

 

「んーそれは好きな人ではないかな」

「あら残念。なら美咲。好きな人って呼べる人はどんな人なのかしら?」

「えっと、その人と特に一緒にいたい……とか?その人にもっと好きになってもらい……とか?まあそんな感じ」

 

いや、知らないけど。

 

頭を少し傾げながら考えるこころ。

こころに見合う恋人なんているのだろうか。いるならきっとその人は名家の子で、博識で、聖人のような心の持ち主なんだろう。

 

あたしとこころでは住む世界が元々違うのだ。住む世界も違ければ視ている世界も全く違う。私が10のことを知ってやっと1の発見をするなら、きっとこころは10も、20も、100も、新たに発見をして楽しむ。それが弦巻こころの魅力であり他一部が距離を置く理由でもあるけど。

 

「わかったわ!」

「へー、誰々?」

 

って聞いてもわからないか。もしくはなんとか大臣の子供とか。

この娘の答えはいつもあたしの斜め上を通る。今回だってきっとそうさ。

ペンを机に置いて勢いよくあたしのほうを向く。

 

 

 

「それは美咲よ!」

「へーあたしねー……ん?」

「美咲、恋人になりましょう!」

 

 

 

ひょっとしてギャグで言っているのか?んーわからない。こころが考え着いた先がよくわからない。斜めどころか真上。

 

「えっ、なんであたしなの?」

「……?だって美咲が言ったじゃない。特に一緒にいたい。もっと好きになりたい人が好きな人だって」

「今でも半分以上は一緒に居るし」

「あたしは美咲ともっと居たいわ」

「そもそもこころはあたしが好きなの?」

「ええ、もちろん大好きよ!」

 

こういうことを無意識で言いますかね。あたしは無理、言ったあと耳と顔赤くする自信ある……じゃなくて!この子、ライクとラブの違いがわかってないんじゃ。

 

「あのーこころさん?あなたの言ってる好きっていうのはlikeであってloveじゃない……」

「んーよくわからないわ。でも、好きっていう感情は本物よ?」

「……。それに!普通恋人って男の人と女の人のこと指すよ?あたし女、こころも女」

「確かにそれもそうね。でもね美咲、世界にはいろんな形の恋人がいるの!きっと恋人に性別も種族も関係ないのよ!」

 

なんでそんなこと言えてるのに肝心な恋そのものに対しては無知なのか……。

 

「ねえ美咲!美咲もわからないなら一緒に知りましょう!わたしと恋人になってわかりあいましょう!」

 

ここまできたらこころを手がつけられない。

 

……あたしだけじゃ視れない世界。こころとならみせてくれるのかな。

あたしの目に映る世界も、楽しく美しく見える時が来るのかな。

 

「……はあ、わかったよこころ。付き合うよ」

 

あたしもハロハピ色に染まっちゃったのか、それともヤケになってしまったのか。そのまた両方なのか。

あたしの返事に対して、こころは曇り1つのない笑顔を見せた。

 

「じゃあ美咲!恋人になる段取りを踏みましょう!」

 

勢いよく背を立つこころ。そしてしっかりとあたしを見つめる。

 

「美咲!あたしと恋人になってちょうだい!」

 

なるほど、段取りってこういうこと。こんな時だけ律儀だなあ。

乗りかかった船。あたしもつられるように席を立ち面と向かう。

 

「はい、お願いします」

 

告白した少女は、された少女よりも少し背丈の小さく、その少女は天真爛漫である。そして世界有数の名家の一人娘。対してごく普通の家庭の長女のあたし。特に取り柄もない。そんな少女が告白を受ける。

 

ここに、不釣り合いな女同士の恋人が誕生したのであった。




こころの知識の線引きクッソ難しい。どこまでは知ってるのかすら謎。

次回は未定ですが、忘れ去られないうちにあげたいと思います。是非感想や評価つけていただけると幸いです。

Twitterアカウント@p_maturigoto_v


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

手を握り、手を繋ぐ

忘れられないうちに投稿すると言ったな。あれは嘘だ。いや、嘘ではない

そんなわけで2話目。そんなわけで恋人?になってからすぐ後の話。

今回も短めです


うう、寝不足だ。テスト期間は寝不足になりがちになるものだけど、今回のは訳が違う。

 

「美咲!あたしの恋人になってちょうだい!」

 

何の前触れもなく告げられたあの日以来、あの言葉が頭の中から離れない。……いかん、勉強中に言われたフレーズが脳内されてしまう。そもそもなんで勉強中に告白しますかね……。しかも定期テスト前の大事な時に。

もしかしたら眠すぎて幻覚でも見ていたのかもしれない。

おかげで今回の定期テスト中は集中できず、無事爆死。

 

「はあー終わったあ〜……」

「おつかれ美咲ちゃん。ここ最近すごく眠そうだよね。そんなに勉強してたの?」

「んー?いや、ちょっとね」

 

ちょっとどころでもないですけど。でもあの件を○○さんに話でもしてみろ、○○さんに引かれ、拡散され、今後あたしはこのクラスどころか学校中にどんな称号の烙印を押されてしまうだろうか。考えるだけでも恐ろしい。

既に「花女の変わり者」の弦巻こころの仲間と認識されてる。俗に言うやべー奴の仲間……ああ、あたしの平々凡々な生活はどこへいってしまったんだ。

 

「あたし自身の今後どうしようかなって悩んでたの」

 

あれ、睡眠不足で考えてることと言ってることがしっちゃかめっちゃか。変なこと言わないようにと気をつけた瞬間にこれだ。今後ってなによ今後って。ボロがですぎで今の関係が知られてしまえば、あたしの平穏な学校生活は完全に消えてしまう。

 

「今後……?あーテスト終わったからこの後何しようか悩んでたってこと?」

「……あーうんそうそう!いやーテスト終わりって何しようか考えるの楽しくない?!」

「わかる〜!」

 

変に解釈してくれて助かった。でもこれ以上喋るとまた変なこと言い始めてしまいそう。さっさと帰って寝よう。極度の睡眠欲は無意識すら超えてくれると信じてる。

 

「んー、でもやっぱ寝るかも。あたしはもう眠くて眠くて……」

 

あ、今すぐにでも眠れそうな予感がする。この徐々に意識の糸が切れる感覚……嫌い……じゃ

 

「美咲ー!みーさーきー!」

 

ああ……眠気の元凶が元気よく迫り来る。極度の睡眠欲と言えど、本能の危険察知には勝てなかったよ。ああ、やっぱり今回もダメだったよ。

 

「……ん、なにこころ」

 

眠い目を擦りながらあくびをかみころす。あくびで生まれた微かな涙は視界がぼやけさせる。

瞳が涙を通して見せる世界。そのおぼろげながらにも見える世界でこころを捉えた。立ち上がりこちらを見るこころ。そして見上げるあたし。ハッキリと見えていない光景を脳が処理を施し、先日の状況に照らし合わせる。

ああ、あれはなにかのおとぎばなしでも、夢でもなく、本当のことだった。そう改めて理解させられた。

 

「一緒に帰りましょう!」

「……うん、いいよ」

「…………美咲ちゃんってさ、弦巻さんと仲良いよね。前見た時驚いちゃったもん。いつから友達なの?」

「あら違うわよ?」

「え、友達じゃないの?ならなに?」

「あたしと美咲はこいb」

「わー!わーー!!こころさんちょっと日本語間違ってるよ〜?!濃い人じゃなくて親友の方が確かなんじゃないかなー??じゃあごめん○○さん!先帰るね!!」

「あ、うん……?じゃーねー……?」

 

何しれっと言いふらそうとしてるの?!

勢いで全てを誤魔化し、こころをひっぱりながら勢いよくに教室を抜け出して踊り場まで駆け抜ける。

 

「びっくりしたわ美咲。だって急に走り始めるんだもの」

「ほら……今日はこんなにまだ時間あるんだから、早く家に帰ってやりたいことたくさんあるでしょ?」

 

早く帰って眠りにつきたい。

 

「……それもそうね!なら一緒に帰りましょう!」

「うん。でもあたし一直線に帰っちゃうよ?」

「別に構わないわよ!美咲と一緒だったら、どこでも楽しめるもの!」

「……」

 

思わずドキッとさせられた。

こころにとって地球上のどこにいてもそれはこころの庭のようなもので、世界の裏側でも楽しめるはず。それがあたしと帰るほんの数分の通学路でさえ変わらないことなのかもしれない。

 

「じゃあ、帰ろう」

 

そうこころに伝えて歩き始める。そうすると、自身の手のひらに何かしらの感覚があった。細くて小さい、柔らかな手の感触。教室から飛び出す際にこころの手を握って廊下に出たんだった。それを今の今まで気づかずにいた。

 

「ああ、ごめん。手、握ったままで」

 

そういいながら握っていた右手の力を緩め手をはなす。……こころの手、暖かかったな。

そうすると、今度は右手の甲に感覚がある。さっきまであたしが握っていたこころの手が今度はあたしの手を握っている。

 

「なんで美咲は手を放してしまったの?」

「なんでって、さっきまでは無意識で握ってたし」

「無意識だから握っていたの?意識して握っててくれてもいいのよ?」

「意識って……恥ずかしいし……」

 

学校内で手を握りながら下校。あたしにはそれをできる度胸はない。無意識だったさっきまでは別の話。

 

「なぜ恥ずかしくなるのかしら?あたしはちっとも恥ずかしくないわよ!」

 

こころに羞恥心というものがあるのかを疑う。それともあたしが単純に意識しすぎているだけなのだろうか。

ただ手を繋ぐことなんて友達との間でもなくはない。男女の間で手を繋ぐことはそれなりの意味だとは思うけど。

そう、ただ繋ぐだけ。それ以上でもなんでもない。あたしが異常に反応してしまっていただけだ、きっとそう。

心を落ち着かせながら口を開く。

 

「わかった。でもあんまり周りに見られたくないし、あたしから離れないで」

「ええ、わかったわ!」

 

繋いだ手で、肩が触れ合うまで数センチのところまでこころを引き寄せて歩き始める。こころの手をしっかりと繋ぎ、離さない。

歩き始め、一歩二歩と歩きながらこころの歩幅に合わせる。ゆっくりと、たまに早々と。歩き方でさえ弦巻こころはせわしない。

ただ身を寄せて手を繋ぐ。それだけで何か不思議な気分だった。不思議と言っても決して嫌な気分ではない。何処か懐かしく、落ち着くような気分に浸れる。

 

温もりと特別な気分を感じながら、あたしたちは学校を後にした。

 




手を握る。手を繋ぐ。この言葉にそれほど意味はないですけど、自分的には意味を少し含めて言い換えてます。

このシリーズは「小さな出来事を話しにする」と言うのが個人的なサブミッションに近いようなものを掲げており、今回は帰るまでのほんの数分の出来事を話しにしてみました。文化祭、夏祭り、クリスマス。ビックイベントは後々の話。

私ごとになりますけど、初評価を頂きまして嬉しい限りです(*´ω`*)
投稿のモチベーションになりますね(ちょろい)
是非感想または評価のほどよろしくお願いします

評価をつけてくださいました親指ゴリラさん、desk3180さん、Felishiaさん。ありがとうございました。

Twitterアカウント @p_maturigoto_v


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ごっこ遊び

30分の遅刻!(詳しくは活動報告を参照)

そして今回イチャつきません。そういう回はたまに挟むよ。
今回は学校から場所が変わってあの場所から。メンバーも初登場。


「みんなで音合わせするの久しぶりだね!」

 

CIRCLEのスタジオにて、ハロハピ印の元気っ子ことベース担当の北沢はぐみが声を大にする。

定期テスト期間中は個々での練習のみとしてバンドでの練習ははぐみの言った通り久しぶりだ。

 

「でもみんなごめんねー。テスト明けすぐはぐみがソフトボール部の試合があったからなかなか集まれなくって」

「いいのよはぐみ。いつでもまたこうやって集まれたもの」

「わーいありがとうこころん!」

 

この2人の会話は元気でとてもポジティブ。でもそれが仇となり疲れがたまってしまうこともしばしば。

 

「かのシェイクピアもこう言っている。物事に良いも悪いもない。考え方によって良くも悪くもなると」

 

はーいそこ追い討ちかけないの。

今そこでシェイクピアの言葉を引用しているシェイクスピア大好きウーマンのギター担当の瀬戸薫さん。あたしやこころ、はぐみとは違う女子校の羽丘女子学園に在籍しているけど、こころのスカウトで運命を感じたのかハロハピメンバーの1人となった。演技の天才であり、努力を怠らない秀才。でも引用している文がその時その時に合っていないことが多い。

こころ、はぐみ、薫さんを合わせて「3バカ」と呼び、その3バカが久しぶりに揃った。あたしはこの3人が集まるたびに参っております。

 

「ほ、ほら。スタジオの時間も長くないんだし、早く練習始めよ?」

「花音さん……ありがとう」

 

ハロハピ唯一の良心の松原花音さん。こころがバンドを始める際に初めて仲間……仲間?当初は被害者……まあいいや。仲間(?)になった人で内気。でもハロハピとして活動するにつれて少しずつ変わっているのがよくわかる。ドラム担当で、彼女が居なければあたしはすでにここから抜け出してたよ。

 

そしてクマのミッシェル。の中に入ってますあたし奥沢美咲、被害者2号です。ただアルバイトするためにミッシェルの中入ってたのに、今となってはDJになってます。

 

そんなこんなでハロー、ハッピーワールド!世界を笑顔にするために頑張ってます。多分。

 

 

 

テスト明け初の音合わせ終了。期間が空いていたにも関わらず基本的にメンバー全員腕は鈍っておらず、自主練はしっかりとしていた模様。行動が突飛な集団でも、やるべきことをやってくれるのは不幸中の幸いだ。

 

練習終わって即解散。ではなく、はぐみの提案によりCIRCLE近くにあるファミレスに向かうことになった。

 

ファミレスに到着。練習後に空調の効いた室内に移動すると少し寒さを覚える。

店員に五人で座れる席に案内してもらい、席についた順々に席に着いた。

 

「まずはメニュー頼みましょうか。みんなはなににするか決めた?」

「はぐみはねーチーズインハンバーグにドリンクバーセット!」

「私もドリンクセットをつけようかな。料理ではなくデザートを頂こうか、ケーキセットAを頼もう」

「あ、薫さんの頼んだやつ私も食べたかったやつ。んーでもセットのBも美味しそうだなあ……」

「なら花音、私の分を分けてあげるよ」

「本当?ありがとう薫さん。ならわたしはケーキセットBで。ドリンクバーも付けるよ」

「はいはいチーズインハンバーグにケーキセットAとBねー。あたしはナポリタンでセットドリンクバーにしようかな。こころはなににするか決めた?」

「このお店にある食べ物全部にしましょうかしら!」

「はいはい、ポテトフライにドリンクセットでいいね」

 

ボケのような本気のような発言を軽くあしらい注文をする。無茶無謀な注文はダメ。ゼッタイ。

 

各々ドリンクを選び、料理がとどくまでの間はテストの結果で一喜一憂。届いた後は食べさせあいっこなどをしていた。

 

「あ、みんなに伝えなきゃいけないことがあったわ!」

 

突然にこころが立ち上がりみんなに目を向ける。そしてそのこころを見るあたしたち。

何かと発的なアイデアでも浮かんだのだろうか。今度はライブは武道館でやるなんて言うのかな、さすがに言わないよね?……いや、黒服さんたちが本気を出せば、その程度の願いなら叶ってしまいそう。もし本当に言われたらこっちも全力をもって阻止せねばならない。

 

「どうしたのこころちゃん?」

「あたし、最近美咲t」

「はいストップこころ!ちょっとドリンクのおかわり取りに行こう?!ね!?あーみんなの分も取ってくるよ。こころと、ね」

 

何このデジャブ。今日といい、このまえといい、この娘は本当に目を離すと危険だ。

というか最近、反応速度が上がってる気がする。この前もテスト明けだったのけどテニス部でいい反応できてたし……もしかしてこれのせい?

 

「みんななに飲むー?」

「はぐみはコーラ!」

「私はコーヒーにしようかな。ミルクはつけてくれると嬉しいな」

「私は紅茶にしようかな」

「はーい了解。さ、いこうこころ」

「美咲ちゃん……?」

 

後ろを気にせず、ひたすらこころをドリンクバーコーナーへと連れて行く。とりあえずは離れられた……。

 

「急にどうしたの美咲?あんなに慌てて」

「ねえこころ、1つ約束つ作ろう?」

「約束?」

「そう約束。あたしと付き合ってることを内緒にして」

 

あらかじめ言って手を打たねばならない。そうしなければ今後もこんな状況が続いてしまい、いずれバレてしまうかもしれない。本当ならあの日に約束しておくべきだったけど、そこまで頭が回ってなかった。

 

「……美咲はなぜそこまで周りに教える事を嫌がるのかしら?このまえもそうだったわ」

 

○○さんとの時ことか、こころが気にかけていると思わなかった。正直あの出来事のことさえ忘れているのかと思ってたから。

何度でも言えることだし、確認しなければいけない。あたし奥沢美咲と弦巻こころは女同士なのである。あたしたちが仮に日本一幸せカップルであっても女同士。ここは日本だ、他の国と違ってまだ批判的、軽蔑的視線は少なからず存在する。むしろ歓迎される方が少ないまである。その環境下で、公にするメリットよりもデメリットのほうが多いことは誰が見ても分かることだった。

 

それに、それにだ。あたしたちは恋人と呼ぶにはまだ相応しくない。「恋人ごっこ」とでも言うのだろうか。ごっこですらおこがましいかもしれない。

こころ自身が恋を理解するか男の人に好意が芽生えれば、この関係はきっと終わる。それなら尚更、他人に恋人であると知らせるだけ後処理も面倒というもの。知られず過ぎて終わればいい。

……と、言ってもこころはきっと理解してくれない。頭にはてなマークを浮かべながら首をかしげる。今の話で理解できないなら、こころが理解するよな言い訳を言ってあげよう。

要はあたしは、今から弦巻こころに嘘をつく。

 

「恋人だってことはまだ言わないでおいて、もうすこししたら言って驚かせよう。要はドッキリ」

 

嘘も方便とも言う。この先も笑顔でいるための嘘だ。

 

「……ドッキリ!いいわねそれ!」

「しっ、声抑えめにして。付き合ってたの知らなかった〜って思わせたら楽しそうじゃない?」

「楽しそうね!わかったわ。そのことは内緒にしておきましょう!」

「絶対だからね?ほら指切りげんまん」

 

指切り拳万、嘘ついたら針千本飲ます。指切った。約束事した時に小さい頃やってたけど今思うと凄く怖い。1万回殴って針千本飲ませるのだから。約束は守ることが前提とはいえ、極端すぎるでしょ……ちなみにこの歌の後は「死んだら御免」らしい。余計怖い。

 

「あんまり時間かけると疑われるし、さっさとドリンクとって席に戻ろう」

 

えっと、コーラにコーヒーに紅茶……紅茶とコーヒーならマグカップだよね。

 

「……」

「……ねえ美咲?」

「……なに?」

「コーラー持つわよ?」

「…………お願いします」

 

自身の含めて4人分。1人で持つのはちょっと無理でした。




アフグロ2章始まりましたね。自分はガチャに70連敗くらいしてる最中です。当たらないなあ……
MVのワンシーンを見て一瞬新宝島を連想したのは自分だけではないと思う

さて本編に関してお話を。
今回は前書きの通りイチャコラはなしです。でも今回の話には一応テーマ的なものは組み込んでいます。後書きではお話しませんが、気になった場合にはTwitterにて返答します。もちろん「こうなんじゃね?」と思ったら感想にて書いてもらっても構いません。

次回は土曜日投稿。投稿切らさないよう頑張ります!まあでもその前に金曜日に沙綾SSの方を投稿させていただきます。

Twitterアカウント @p_maturigoto_v


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

寄り道の眠り姫

残すはハロハピ2章となりましたね。美咲が☆4枠なら全力でお迎えしにいきたいなあ


出会いと別れの季節が過ぎ、華やかな色合いから目に優しい色へと移り変わる薫風の候も過ぎ、入梅の候へと入った。

教室の窓から空を見つめる。

そこには晴々とした空がこちらに顔を覗かせる。もう時期梅雨に入るというのにそれを一切匂わせない空模様をしている。

 

「いい天気」

 

ひとりでに呟く。誰に返事を求めるでもなく、ただただその場に言の葉が溢れでた。

部活日和だし今日も頑張ろう。梅雨になったら室内練習が続いていくから、コートで目一杯練習できるのもこの先当分はないだろうし。

 

「ホームルーム始めるぞ〜」

 

担任が教壇の前に立ち生徒に呼びかけ生徒は自身の席にすわる。

 

「えー突然なんだが、本日この後緊急の職員会議があるので全部活中止となります。では挨拶してみなさん帰りましょう」

 

やったー!と歓声が教室を響き渡らせる。

んーせっかくやる気だったのに。でもまあバンドの練習もないし、久しぶりにゆっくりできそう。

 

「こころ一緒に帰ろ。アンタも天文部の活動ないし」

「ええ一緒に帰りましょう!」

 

特に学校に用事もなく、こころを呼び寄せた後すぐさま教室を抜け出した。

 

 

 

こころと一緒に帰るのはテスト明け以来だっただろうか。あの時はひたすら寝不足で帰りたい一心だった。そのくらいしか覚えていない。

あと一つ覚えているとしたらあれだろうか。こころの手の温もり。これだけは鮮明に覚えている。あたしより少し小さく細い指を。あたしの指は親指から小指全てがそれを感じていた。あたしよりも体温が高く、温かさと共にエネルギーのようなナニかが身体全体を巡りゆく感覚があった。幼い頃に握っていたお母さんやお父さんとはまた違う気持ちになった。

職員会議によって一斉に生徒が下校しているために、いつもよりも帰り道に同じ制服の姿をちらほらと見かける。

 

「今日はあの公園に行ってみたいわね!」

「はいはい、今日なら付き合ってあげますよー」

 

こころとはハロハピ結成後何度か帰ることはあった。その毎度、こころは楽しいもの探しを途中でし始める。

 

「でもあそこ、何かあったかな」

「別に問題ないわ!」

 

この子は人並み以上に感受性が豊かで、きっとアスファルトの割れ目に咲く花でさえ美しく素晴らしいものだって思っている。そこまでいけば、さぞかし世界が明るく見えることだろう。今回もきっとなにかしらを見つけるんだろうな。

 

「ねえ美咲」

「ん?なにこころ」

「今日は手を繋がないのかしら?」

「……えっと、この前言ったことは覚えてる?バンド練習の時の」

 

大まかに言ってしまえば付き合っていることバレないように過ごす。というのがあたしとこころのあいだで決めた約束事だった。

 

「今ここで手なんか繋いだら周りの同じ学校の人にバレちゃうから」

「全く知らない人でもバレたらダメなの?」

「いや……それは……」

 

恥ずかしい。この一言で理由は説明できてしまうほど他人の目を気にして恥ずかしがってしまう。

 

「……あたしは美咲と手を繋ぎたいわ」

 

いつも元気で周りをも巻き込むような声で話す彼女が、ねだるように小さな声であたしにだけ聞こえるように言漏らす。

 

「手、出して。……これが限界だから。これ以上は無理」

 

こころの左小指をそっと自分の右小指に絡める。いわゆる小指繋ぎである。

これならまだギリギリ自然に見える……はず。そう信じたい。

 

「ねえ美咲?」

「……なに」

「どうしてそっちのほうばかり見ているの?」

「……なんでもない」

 

アンタがズルいからよ……バカこころ。

顔を見られないように、こころよりも少しだけ早歩きで歩く。

 

 

 

学校から約15分ほどで着く位置に公園がポツリと存在する。子供の遊べる遊具に自販機、そして球技を少し楽しめる程度のスペースと公園の隅にあるベンチ。至って普通の公園だ。ここにこころは何かしらの楽しいことがあると思ってやってきたのだろうか。

 

「あそこのベンチに座りましょう!」

 

指をさした先には2人掛けのベンチ。特になにか特別な仕掛けなど一切ないただのベンチ。周りにももちろんなにも存在しない。それにこころは一体どんな魅力を見出したのか、まるっきりわからない。

 

「なんかこのベンチに面白いことでもあるの?」

「それはね、美咲とお話しすることよ!」

「え、いつもの楽しいこと探しは」

「今からするんじゃない。美咲とゆっくりお話がしたいの!」

「ふふっ変なの。いーよ、お話しよっか」

 

まっすぐに見つめる瞳。その大きな瞳を鏡となってあたしを映していた。

しかし瞳を覗いていると、なにやらこころの瞳は何かを捉えたように別のものを映し出した。

 

「こころなに見てるの」

「あそこの親子よ」

 

公園の遊具で遊ぶ元気な子供と、それを見守るように座る母親の姿があった。

 

「楽しそうだね。あの子」

「そうね、とても楽しそうね」

「こころは親に休みの日とか遊んでもらってた?」

「普段はお母様に遊んでいてもらっていたけど、お父様とはたくさんは遊べなかったわ。でも空いた時には遊んでくれたり、誕生日のような大切な日は必ず家族と過ごしてくれていたわ」

 

大切に、大事に親2人から育まれていたんだな。話している姿だけでわかる。

いろいろ常識知らずなところはあっても、決して非常識ではなさい。人から少し近寄りがたい存在と思われても、人を惹きつける魅力がある。

弦巻こころは、親の愛情で今の弦巻こころがあるんだ。

 

「こころ、ちょっとあたし飲み物買ってくるね」

 

さっきの話を聞いていてあたしは弦巻こころの本質。こころの中身に興味を持った。

ただ表の顔だけではきっとわからないことがある。表の顔、と言ってもきっとこころは裏も表もない。言っていることやっていることは紛れもなく本心。そんな彼女を、全て知りたい。

 

「あたしのはこれで、こころのもなんか買っておこう」

自分の分にお茶を買い、こころにはカルピスを買ってベンチに戻る。

 

「おまたせこころ……こころ?」

 

寝てるし。この数分にも満たない時間席を外しただけなのに喋りたがりなお姫様はいつのまにか眠り姫になっていらっしゃるようだ。

 

「ほらこころ起きて。起きないとほっぺツンツンするよ」

「……」

 

起きない。……本当に触ってみよう

人差し指でほんの少し触れてみる……柔らかっ!え、なにこの柔らかさ。マシュマロみたいな柔らかさと例えがちだが、それ以上に柔らかい。女として羨ましいし、少し悔しさがあるの。

そんなことをしているとこころの髪が揺れる。揺れた正体はどこからとなく吹いた風だった。心地よい風に、程よく暖かい陽の光が木漏れ日としてベンチにいるあたしたちに射し込む。この環境で昼寝ができたら最高、と言わんばかりの快適な空間が誕生していた。

なるほどね、これはウトウトしてしまいたくなるのもわからないでもない。

そっとこころの横のに戻り横顔を見つめる。気持ちよさそうに寝てるなあ。

風が吹くとともにこころの身体も少し揺れる。座りながら寝るのってわかってることだけど、後々身体が痛くなることもある。それに公園のベンチだし。

 

「……ほら、こっちおいで」

 

自分の太ももへと、こころを横に倒す。身体をこんなに動かしても眠り続けるところも、なんら子供と変わらない。

学校の授業が終わった後の身体は少し眠気を覚えている。運動していたら別だが、こんな気持ちいい風を浴びながらゆっくりとすごしていて、加えてすぐそこで寝ている人がいるとなるとつられて眠くなる。

 

あたしも少し寝ようかな。

 

少しずつ視界が閉じていく。全て暗闇にならず、ほのかな光によって淡い白色が混じっているようだ。

晴れたの放課後の寄り道。これも案外、悪くないものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みさき……?」

「……」

「…………♪」




作者の手によって部活は休み(暴論)

改めて思ういますけど、部活やったり一部では生徒会に所属していながらバンドの練習って相当ハードですよね。休みの日とか全くなさそうですけど、これもまた青春。なんでしょうかね

ふと思いましたが、後々この小説の季節は現実世界の季節に追いついて、追い越して、また追いついてしまう時が来るかもしれませんね。現実では真冬なのに海回。うーん寒い


感想などお待ちしております
Twitterアカウント@p_maturigoto_v


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

奥沢美咲の休日

今回はこころでないよ!
そして今回はかなり美咲の語りが多く、いつもとはまた変わった文章が多めです。読んだ本に影響されがち系な人なので……




妹の頼みで水族館に向かうために都営荒川線三ノ輪橋行きの各駅停車に揺らされている、休日の昼下がり。

学校への通学手段に電車を必要としないあたしにとっては、普段利用しないICカードを久しぶりに家の物入れから取り出してきた。

妹と同じ頃の年齢ではICカードそのものが存在せず、毎回運賃表を確認して親に切符を購入してもらって、家族でお出かけしていたこと懐かしく思い出す。

都電荒川線早稲田駅から出発し、東池袋駅が最寄となる水族館へと目指す。

 

「お姉ちゃん水族館楽しみだね」妹は楽しそうに話しかける。

「そうだね」と妹と違ったのか、感情の波がたたずに素っ気なく答える。

妹のワガママに仕方なく付き合ったような形で来たためにさほど乗り気もせず今ここにいる。最後に来たのいつだったかな、よくあんまり覚えてないかな。

 

普段の朝方は利用者に比べて車両が小さく、満員電車と化すと、よくクラスメイトから話を聞いている。しかし今は土曜の午後1時。自分たちは早めのお昼を済ませているが、時間帯的には腹が空き始める人がちらほらといるはずだ。

人としての性故なんだろうが、座席の端っこが埋まりそこから間を開けて席が埋まっていく。そしてたまにその間に人が入り込む形が出来上がっており、程よい数の利用者という感じだ。

あたしと妹の会話が耳に入ったのか、背広姿の自分たちの親世代と同じ年齢を感じさせる男性が無言で一つ開けていた隙間を横に移動し、二つの隙間を作ってくれた。

会釈しながら「ありがとうございます」と男性に向けて言い表しながら、お勤めご苦労様ですと、心の中で労いの言葉を並べた。

 

ガタンゴトンと電車は喧騒のパレードを鳴り響かせながら進み続ける。

偶の対向車とすれ違えば、風の太鼓を景気良く鳴らす。その度に妹は身体をビクつかせいて、まだまだかわいいお年頃なことだなと思わせる。だから水族館についていのだけれど。

他にもある。駅に近づくたびに指揮者が鳴らす笛。

到着し、発車する度に聞こえるメロディー。

電車一つそのものがまるでマーチングバンドだった。

騒がしさだけで言えばうちのハロー、ハッピーワールドも負けていない。いやおかしい話だな。

まあ都電荒川線の場合はこれらに当てはまらなかったりするけど。

 

あはは、と少し乾いた笑いがでた時、ふと自分たちから対照的に位置する座席に視線が向いた。

そこには席に座っている女性とそれを見上げる形でつり革を掴んでいる男性の姿があった。

これはデート中のカップルかもしれない。まあこれで間違っていたらごめん。としか他に言えることはないが、休日のお昼に、女性は服装と化粧はきっちりと準備してある様子。それでいて男性と居る。デートじゃない以外に何があるのだろうか。

ホワイトカラーのフリルブラウスにネイビーカラーのミディスカート。そしてブラウスと色合いを合わせられたバッグと、綺麗にまとまってるファッションの女性は、美麗といった美しさよりも輝いて見える。きっとデートが楽しみだったのだろうか。

話し声はこちらに届くことはないが、表情から察するに楽しい話題で盛り上がっているはず。

 

羨ましい、という感情は少なからずある。

あたしも親に育てられて早15年、未だにデートは未体験である。女子同士特有の「デート」と冗談に称して出かけることは何度かあっても、ああやって実際恋人同士でどこかへ出かける、というのは一切ない。

あたしもいつかはあんな風になる時が来るのだろうか。2人で電車で遠出して、2人で楽しいことをたくさんして、2人で美味しいものを好きな人と一緒に話しながら食事をする。そんなごく普通のデートをする時が……。

 

「次は東池袋、東池袋です。お忘れ物無いよう、ご注意ください」

 

車掌さんのアナウンスが入る。「お姉ちゃん降りるよ」と妹に袖を軽く摘まれ、先程譲っていただいた男性に改めて会釈しながら席を立ち電車の中から抜け出した。

 

 

 

水族館へ最後に行ったのは遠足以来だろうか。行きで思い出せなかったことを帰りになって思い出しす。そしていつも水族館の水槽に使われているガラスが見ている最中に割れないか、なんてヒヤヒヤドキドキしながら自由に泳ぐ魚を見つめていたことも思い出した、夜の7時。妹は疲れからか席に座りながら眠っている。

長いこと歩き回り、お腹を空かせたあたしと妹はそのままファミレスで早めの晩御飯も済ませ、今帰りの電車に乗っている。

 

この歳になっても、いや。この歳だからこそ、水族館で今日見ていた世界は小さい時に感じたものとはまた違った感動を味わえた気がする。全く未知で好奇心の塊だった子供の時とは違って、少しだけ知識を得た今だからこそまた違った形で見えることもあった。もちろん、今でも未知な部分は存在する。神秘で形成されているような水の世界。神秘的だからこそ、人は魅了され続けているのかもしれない。

 

あの水族館にもクラゲいたし、花音さんに教えてあげよう。もうすでに知っているかもしれないけど。それにこころにも教えてあげよう。楽しいこと探しにうってつけの場所だった。なんならハロハピメンバーで今度いつか水族館に行くのもいいかもしれない。きっとはぐみは魚を見て刺身を食べたい、とか言い出しそうだ。薫さんは魚よりも女子からの視線を集めそうだな。

 

もしどうなるかなと、暗くなった町の景色を見つめながら考え始める。

行きの電車の時は違い、水族館で見た様々な光景があたしを興奮させている。

 

今日は沢山のことがあったな。

そう振り返っている時、ふと視界の隅に見覚えのある格好した女性が、ドアの手前にある手すりにつかまりながら立っているところを見つける。

今日の昼に楽しそうにしていたカップルだ。しかし違和感がある、なぜだ。

そしてすぐに答えは見つかった。居たはずの男性がどこにも見当たらないのである。行きの電車で一緒に居て帰りには別れて帰宅。というのは不自然である。

そして電車のガラスは悪戯なことに、向かいの席に座っていたあたしに背を向けていた女性の顔が反射して見えてしまった。

泣いていた。人に見られないように背を向けながら目を擦る女性の姿をあたしは見てしまったのだ。綺麗な白を基調としたバッグが汚れることなど気にせず床に置き、両手で目を擦っていた。

昼には笑顔だった女性が今泣いている。このことに頭は思考を止めた。

「これ、使ってください」

あたしは何を思ったのか、席を立ち上がり、泣いていた女性に対してハンカチを差し出した。

女性はビックリし、恥ずかしながらも小声で「ありがとう」と俯きながら感謝を述べる。

理由は聞かまい。いや、聞けまい。大方の理由は察しがつくし、それを聞いて女性に思い出させることも、悲しませることもあたしに一切の権利はない。

「それあげますよ。じゃあ、あたしはこれで」

ハンカチを渡してすぐに座っていた席に戻る。そして女性もまたすぐに後ろを向いてハンカチを使っている。

 

ああいうのに羨ましさはあるし、憧れももちろんある。でも、この瞬間が来ると考えただけで胸が痛くなってしまう。

恋人ごっこをしている今のあたしでも、別れようと言われただけで心が傷ついてしまうのではないか、そんな不安が今日の楽しさを薄れさせてしまった。

 

「次は終点。早稲田、早稲田です」

 

車内アナウンスで到着することを知らされ、車内に居た人たちは次々と席を立ち上がり出る準備をする。あの女性は泣き顔を見られたくないのか必至に一番前をキープしていた。

電車は完全に停車して人々は改札へと向かった。

「ほら、降りるよ」寝ていた妹を起こしながら手を引く。

 

その時に一瞬見えたガラスは、水族館で見たガラスとは違い、曇って見えた。




ギリギリなんとか定期投稿保ちながら頑張ってます。楽しいからいいけど、自分のペースがまだまだ遅いばかりで。精進して行きます。

今回は美咲1人(妹いるけど)の回でした。こういうのもありかなあとか思いながら書いてました。水族館の描写?そこはみなさんの想像力にお任せします()
都電荒川線には乗ったことないので、乗ってみたいのと聖地巡礼してみたいなあ

ご意見ご感想待ってます!Twitterの方も是非フォローお願いします!

Twitterアカウント@p_maturigoto_v


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

雨とフェルト

一番好きな自然の音は波の音です


「梅雨の時期になってきたね、ソラジ○ー」今朝のお天気コーナーで男性がマスコットキャラに対して投げかけていたこと朝のテレビを思い出した。

シトシトと降る雨は嫌いじゃない。適度な雑音は何かしらに取り組む時に丁度いい。傘や葉に雨が弾き合う音なんかが特に好きだったりする。

 

「あちゃー……」

 

それでも物事には限度というものがある。

見事なまでの降る様にため息がでる。

雨音は好きでも雨自体好きではない。濡れるし、洗濯物乾かないし、部活もロクにできない。雨水が靴の中に染み込んでいく瞬間なんて嫌で仕方がない。

 

「少しくらい弱まってくれないかな~バイトあるから無理にでも帰るけどさ」

「うあ、それは災難だね」

「まあ室内のバイトなんだけどさ、普段から行くまでが億劫なのに雨だとさらにだるさ増すよね」

 

こんな日にミッシェルの中に入ってバイトしたら湿気と不快感で参ってしまう。

 

「美咲ちゃんは帰らないの?」机の中にしまっていた教科書を鞄にしまいながらクラスメイトが話しかけてる。

「あたしはコレをしながら弱まるのを待つよ」

 

物をしまうクラスメイトに対してあたしは鞄から羊毛フェルトを取りだした。

必要なものはごくわずかで小さなスペースで事足りる。そしてやめ時も自分で決められる。時間をつぶすにはうってつけの趣味。でも完成した作品はあたしが身に着けるにしては少し可愛すぎるために、基本的に妹にあげてる。

じゃあね。と声をかけてクラスメイトはバイトへと向かった。

一人、また一人とクラスメイトは減っていく。バイトに行く者。部室へと足を運ぶ者。雨の中遊ぶ約束をして放課後を満喫する者と、あっという間に教室は静かになった。ただする音は校舎の外から大きな雨粒がノックする音のみ。

捗る。誰からか話をかけられてしまうと集中が乱れてしまって話し込んでしまう。

時間が経ち各部活が活動を始めた頃。吹奏楽部の演奏音や、廊下で練習をする運動部の賭け声。先程からノックをし続ける雨の音と混ざりながら教室の中が静かであっても教室の外からいろんな音が流れてくる。

 

教室の中は静かだ。そう静か過ぎるのである。熱視線が送られながらも静か過ぎるのである。

 

「……なにこころ。さっきからずっと見てて」

「一緒に帰ろうって誘おうとしたら、何かやってたから気になっていたの。これは何かしら?」

「羊毛フェルト。家庭科の授業とか、フェルトで小物作りやらなかった?」

「んー……」記憶にないようだ。

「こころってさ、どんな中学生だったの?」

「特別今と変わらないわよ?楽しいことを探して目一杯楽しんでたわ」

「なんかそれっぽい。むしろ今と違うイメージ湧かないな」

 

こころが礼儀正しいお嬢様キャラ……とかイメージ湧かない。

もしかしたら社交の場ではそうなのかもしれない。けど、普段のイメージが強すぎてね。でもそういえば、豪華客船の時に着てた赤いドレスは似合ってたな……本人には言わないけど。

 

「こころもやってみる?羊毛フェルト」

「あら、あたしもやっていいの?」

「うん。見てるだけじゃつまらないでしょ?一緒にやろ」

「ならやってみようかしら♪」

 

真正面にいたこころは、すぐさま隣の席をあたしの座る席にくっつけて準備を整える。

 

「それでなにを作るのかしら」

「簡単に作れるやつで……ネコとかどうかな」

「ネコね!それじゃあ始めましょう!」

 

 

 

最終下校のチャイムが鳴った。ネコを作り始めておよそ2時間が経過していたようだ。

 

「今日はここまでにしよっか、こころ」

「ええ、そうね」

「こころっていろんなことすぐできるようになったりするよね。前に薫さんの愛馬乗りこなしてたし」

「そうかしら?あれはシルバーが懐いてくれたからよ」

 

最初はこころに対して説明するのが難航していたが、工程が進むにつれてこころの手際が良くなっていった。初心者にしては十分な進捗だろう。

奇行や突発的な発想が印象に強く残るところだが、バンド活動の中でもあらゆるものに対しての成長速度が早い節は何度か目にしている。

 

「羊毛フェルトも楽しいわね♪またやってみたいわ!」

「なら今度あたしが持ってる初心者用の本貸してあげようか?それでネコの途中もできるし」

「それもいいけれど、あたしは美咲と一緒にまたやりたいわ」

 

その意味は一人ではやらないからなのか、あたしとやるから楽しかったのか……

後者だったらいいな。同じ趣味を共有できる人がいたら、もちろんあたしも嬉しいし楽しい。

 

「なら、また今度やろっか」

「ええ♪」

「で、本来の目的の時間つぶしはできたところだけど……」

 

窓を見ずともわかる。2時間前に比べてもそれほど変わらずに雨音が聞こえる。

もうこれは靴が濡れること覚悟で帰らないといつまでも経っても帰れなさそうだ。

 

「仕方ない。帰ろう、こころ」

「そうね帰りましょう。でもまず先生に課題を出さないといけないんだった。羊毛フェルトに熱中していたからすっかり忘れていたわ」

「いや、忘れちゃダメでしょ……」

「あたしは職員室に行ってくるわ。下駄箱で合流しましょ!」

「ん、わかった」

 

先に階段を降りて下駄箱へと向かう。周りを見渡してみると部活の道具を片付けている生徒たちの姿を目にした。久しぶりに部活以外で学校にこんな時間まで残ったな。羊毛フェルトに熱中しすぎていたことをチャイムと周りの姿で認識する。

 

待ち合わせるってことは、一緒に帰るのか。でもそもそもこころは傘を持っているのだろうか。持ってなかったらあたしの傘の中に入れるけど、さすがに雨の中傘をささずに暴れたりはしないだろう。そう願いたい。

 

後者の正面に位置する中央玄関からは校門までを見ることができる。その中に一台の車と黒服を着た女性が扉付近に立っていることも視認できる。

学校に生徒ではなく、黒服の人物。間違いなくこころのところの黒服さんだ。

 

「こんにちは美咲様。お嬢様は今どちらに」

「いま職員室にいます、課題提出のために。たぶんそろそろくると思いますよ」

「そうですか。学校へ登校される際に傘を持っていないと他のものから報告を受けていたので参りました」

「こころ天気予報くらい見ようよ……それはお疲れ様です。でもタイミングバッチリですね。こんな時間に帰るっていうのに」

「いえ、授業が終わる時間と同時にこちらに到着していたので」

「……本当にご苦労様です」

 

2時間も玄関で待ってたのか。黒服さん、申し訳ない。

 

「私の方でお嬢様を家まで送り届けますので、美咲様は心配せずにお帰りになってください。それとも車でご自宅まで送り届けましょうか?」

「いえ結構です。お気持ちだけ受け取っておきます。ではあたしはこれにて帰るのでこころによろしく伝えといてください」

 

黒服さんに軽く会釈をして扉を開けて外に出る。

6月といってもやはり雨が降ると少し肌寒い。コンビニで買えるワンタッチ式の黒い傘を取り出して、後者の屋根で濡れていない地面と雨で濡れた地面の境目を踏みしめる。

ああ、この感じだと帰る頃には靴下は濡れていることだろう。

帰ってまずお風呂入って身体をあたためよう。そしてその後に小テストの勉強を済ませてから、続きの羊毛フェルトでもやろうかな。

 

大きな雨粒が革靴に弾かれ、そして革靴は水滴を払う。

 

シトシトと降る雨は嫌いじゃない。適度な雑音は何かしらに取り組む時に丁度いい。傘や葉に雨が弾き合う音なんかが特に好きだったりする。

それでも物事には限度というものがある。

見事なまでの降る様にため息がでる。

それでも。こころと羊毛フェルトをやれるきっかけになった雨は、たまにはいいことするんだなとちょっぴり思えた。




本当にお久しぶりです。久しぶりすぎて申し訳ない。
アイデア決めてから書くまでのスパンが長すぎて本当に定期投稿向いてないんだなと思いました。でも諦めない。なので、温かく見守ってください

ハロハピ2章も終わって全てのバンドの2章が終わりましたね。果たして3章は出るのでしょうか?たぶんその前にアニメ二期三期のシナリオを軸にしたストーリーが来そうですけどね。
ハロハピ2章イベ期間中に単発でピックアップこころ引いた後にもう一回単発でピックアップ美咲引いた時は涙が出ました。みさここは運命なんだなって(そこ)

遅いながらも投稿はします!失踪はしないぞ……っ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 10~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。