【艦これ】ガトー提督のお題短編集 (g@to)
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理不尽の先に―響―

今回のお題は

提督×響を書くガトーさんには
「私達は人間でした」で始まり、
「そして大人になってゆく」で終わる物語を書いて欲しいです。


 

 

 

私達は人間だった。

今は…艦娘と呼ばれている、兵器。

深海棲艦と戦う為に生きる鋼となった、少女。

 

元々私の両親は仲が悪く、事あるごとに喧嘩をしていた。

そして、機嫌が悪いと私に暴力を振るった。

抵抗することの出来ない私に、一方的に。

学校でもなじむことが出来ず、友達もいなかった。

何処にも、居場所はなかったんだ。

私はこんな日々を抜け出して、早く大人になりたいと願っていた。

大人になれば、こんな理不尽は自分の力でひっくり返すことが出来ると。

 

そんなある日、海軍から手紙が届いた。

突如現れ、世界の海を我が物顔で支配しつつある深海棲艦。

それらと戦う為に海軍が開発した、艦娘という存在。

適合するのは一定の年齢までの少女のみ。

その手紙は、私が艦娘に適合したので志願して欲しいというもの。

通称、赤紙。

両親は喜んで私に行ってこいと言った。

決して、国を守るためや海を取り戻すためなどというきれいごとではない。

艦娘に志願させた親には、国から支給金がある。

両親は金に目がくらんだだけだというのはすぐにわかった。

私には拒否権などなかったが、これで大人に近づけると前向きだった。

 

私には、響という艦娘名が与えられた。

あの第二次大戦を終戦まで生き延びた、特Ⅲ型駆逐艦二番艦響。

竣工と称した手術のあと目覚めると、私は混乱した。

今まで生きてきた自分の記憶以外に、もうひとつの記憶があったから。

思い出そうとすると、鮮明に見えるそれは…海原を駆ける艦。

海軍の将校には、元となった艦の記憶だと言われた。

響と呼ばれた、駆逐艦の記憶。

これで、大人に近づけたのだろうか?

 

「響だよ。

 その活躍ぶりから、不死鳥の通り名もあるよ」

鎮守府に着任したその日、司令の前で敬礼した。

「頼りない司令官かもしれないがよろしく頼む!」

私の親より若いであろう司令が握手を求める。

握り返すと微笑んでくれた。

「よろしくなのです、響ちゃん!」

隣に居た秘書艦も笑顔で腕にしがみついてきた。

特Ⅲ型駆逐艦四番艦電。

同じ型の駆逐艦で、言ってみれば姉妹だった。

 

こんなに暖かく迎えられたことは、初めてだった。

誰からも優しくされず、誰からも興味を持たれなかった。

居場所のなかった私に、初めて居場所が出来たと思った。

 

特Ⅲ型の他の姉妹も着任し、私達は第六駆逐隊として活動した。

一緒の部屋で生活し、一緒に訓練で汗を流し、一緒に敵と戦った。

暁はおっちょこちょいで、よく皆でフォローをしてあげた。

雷はしっかりものだが、頑張りが空回りすることもよくあった。

電はこの鎮守府の初期艦としての経験を生かしてよく皆にアドバイスをくれた。

司令は常に皆のことを気にかけてくれ、私にもよく話しかけてくれた。

私はそんな彼女達に囲まれ、司令にも優しくされ充実していた。

 

――時が経つにつれ、私は心の隅にモヤモヤしたものを抱え始めていた、

電は、司令とケッコンカッコカリを結んでいる。

秘書艦として司令の傍に寄り添い、支えていた。

付き合いが長いこともあり、阿吽の呼吸を見せ付けられるときもあった。

たまに夜、部屋を抜け出して司令と会っているのも私は知っていた。

そういった電の行動を見るたびに、心にモヤモヤとしたものが浮かんだ。

でも私にはこれが何なのかわからない。

司令と話したりすれば、そのモヤモヤは霧散する。

その思いの正体が知りたかったが、誰にも聞かなかった。

私達は艦娘。戦うことが仕事なのだと、そのモヤモヤを押し殺した。

それが大人なんだと思っていたから。

人間であった頃を思えば、自分を押し殺して生活するのはたやすいことだった。

 

ある日の晩、第六駆逐隊は輸送艦の護衛任務についていた。

先頭を、警戒しながら海を駆ける私。

後方には輸送艦、さらにその後方から暁が護衛していた。

「響ちゃん」

警戒に集中していた思考が、その声で途切れる。

「もう、交代の時間かい?」

振り返りながら、近いづいてくる艦娘を見据えた。

ゆっくりと接近するは、電。

「後方警戒は雷ちゃんが行ってくれたので、電が前方警戒なのです」

「そうかい。特に異常はなかったけど気をつけて」

「勿論なのです。響ちゃんと暁ちゃんはしっかり休んで欲しいのです」

輸送艦の方へ舵を取り、警戒位置から外れる。

代わりに電がその位置へ入り、周囲に気を配り始める。

 

 

 

――あれ?

 

 

 

おかしい。

 

 

 

物凄い既視感と同時に悪寒が走った。

「――いなづ…」

振り返りながら、名前を呼ぼうとした。

 

その先には大きな爆音と同時に水柱が上がっていた。

 

「…なっ!?」

全速で電の元へ駆ける。

目の前には、艤装が火を上げながら海に没していく電の姿。

私が近寄ったときにはすでに――海の底へと消えていた。

 

「あ……あああ…」

 

あの既視感と悪寒の答えは、記憶にあった。

第二次大戦中、輸送船護衛中に持ち場を変わった電は…。

 

大人になったらこんな理不尽はひっくり返せると思っていた。

…私はまだ大人になれていないのだろうか。

 

 

 

「うああああ…電ぁ、電ぁあ…」

司令はその報を受け、泣き崩れた。

「…司令、すまない…」

「ううう…電ぁ…」

沈痛な司令の姿を見て、胸が痛んだ。

こんな私に居場所をくれた人を泣かせてしまった。

こんな私を姉妹だと慕ってくれた電を沈めてしまった。

どうしようもない理不尽を前にして、私に…今何が出来る?

 

「…司令」

地面にくず折れた司令をやさしく抱きしめた。

「これからは…私が守って見せるから…。

 だから、泣かないで」

「ひ、ひびき…。俺は…俺は…」

情けない顔をした司令が、私を見ている。

私だけを見ている。

 

「大丈夫だよ…私は沈まない。

 だって、不死鳥と呼ばれた艦なんだから」

 

私に居場所をくれた司令に恩返しをしよう。

これからは私が電の代わりなろう。

悲しい顔の司令が、昔の自分と重なったから…。

 

直後、司令は私を押し倒していた。

 

 

 

 

未だに私は理不尽をひっくり返すことは出来ない。

守ると言ったのに、また今日も一隻守れなかった。

でも…少しずつ、歩み続ければ…できるかもしれない。

――そうして大人になっていくのだろうか。

今の私には、よくわからない。

 

 

 




駆逐艦響というキャラに焦点を当てたものの
お題に振り回されてしまった印象…。
もっと精進したいものです。


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