ウェウェってGO! (九十九夜)
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目覚めて牢屋

「なんでギルガメッシュ成り代わりとかガワだけみたいなのはあってもオジマンディアスのはそんなにないんだろうね」

知人M氏「そんな気になるなら書けば?」

「」




嘔吐描写があります。注意。


カタリ

 

光が一切差し込まない地下牢に一筋の光が差した。

そこ……扉に取り付けられた食事の差し入れ口から今日の食事が届けられたようだ。

それを視認するとともに身じろぎをする少年が一人。

この部屋に一人きりで幽閉されている少年は、差し出されたそれに泣きも喜びもせずに近寄っていくと、震える手でそれを一口。

 

口に含んだ。

 

咀嚼。

 

咀嚼、咀嚼。

 

数瞬の沈黙。

 

咀嚼、咀嚼咀嚼。

 

嚥、下……とともに少年は何やら部屋の脇。

水の流れる音の聞こえるそこへと駆け寄っていく。

 

 

「オロロロロロロロロロロッ」

 

ビチャビチャビチャッという汚らしい音とともに何かが水とともに排水溝へと流されていく。

この作業を食事の回数分こなすのが少年の日課だった。

グイっとおもむろに自身の顎を伝った耐えがたい異臭を放つ液体を拭って少年が呟いた。

 

「もう嫌だ。日本に帰りたい。」

 

そう言った少年の眼は死んだ魚の様だった。

 

 

 

***

 

 

 

俺の名は■■■。今世の名はまだない。つけられる予定もない。

さて諸君。俺がこうして囚人()になった経緯を説明しようと思う。

え?聞きたくない。まあ待て、多分暇つぶしくらいにはなるはずだから聞いていけ。

 

まず、俺は此処古代エジプトに生を受けた。元々いたのは平成という年号の時だから一応現代からのトリップというか転生という類のものになると思う。

そう、あの日俺は毎年恒例のコミケとかいう行事に友人の頼みでコスプレをして売り子をしていたのだ。

なんだっけあの……オジマン、オジサン?忘れた。

なんかそんな感じの名前のキャラクターの格好をしていた。

冬なのに、冬なのに。このクソ寒い中でほぼ半裸マントとか……辛い。

友人はギル何とかの格好してた。その上着よこせ。つか鎧全部よこせ。

そんなこんなで背中とかにホッカイロめっちゃ張ってソリッドブック(って友人が言ってた)売ってたらいつの間にか牢屋に入ってた。

 

最初は俺気付かぬうちに犯罪者?と涙目になっていたがどうやら違うらしい。

なんか覗き窓から見える見知らぬおっさん方が会話しているのを聞いたら俺(正確にはこの子が)は何やらメンドクサイ所の産まれらしく、そんな高貴()な生まれのくせに何やら得体のしれないものにつかれているらしい。で、気味悪くなったけど安易に捨てるわけにもいかず此処に押し込められたのだそうな。

あれ、とかアイツとか言われてるところを見ると本当に名前はないらしい。

人生ハードモード()という奴らしかった。

 

取り敢えずここまでが粗方あったことだ。

うん、別に人生ハードモードかもしれんが俺としては別にいい。

だって、俺にとってはこの時代の子どもの様に幼少期から何らかの仕事をしたり身分に縛られるなんてことはないのだからこれほど素晴らしいことはない。

日がな一日ゴロゴロと怠惰を貪っていても気にしなくていいのだ。

ヒャッホウ!まるで夢の様なニート生活である。

 

……のだが、問題点が一つほど。

ここの、飯が、まっずい。

超、マズイ。

それはもう、食事毎に吐き戻すほどマズイ。

え?パソコンと漫画?ゲーム?

ああ、そのあたりは大丈夫だ。脳内検索でなんとかなったから。

なんかよくわかんない連中がそれはしちゃいけないことだって何度か注意しに来たけどライオン頭のやつ追っ払った辺りから誰も来なくなったから。

……話し相手がいなくなって寂しくなったりなんてしてないぞ……違うかんな。

 

ともかく、目下俺の悩みはこの出される飯をどうにかしてうまくしてほしいという事だ。

 

ああーモ〇バーガー食べたい。叙々苑行きたい。

ジャンクジャンクジャンク。

三回言ったら叶う気がした。嘘だけど。

 

あーあ。誰か腕のいい料理人はいんないかなー。

 

 

 

***

 

 

「おねがいじばずうぅぅぅっ、だ、だづげでくだざい゛ぃぃぃっ」

 

あ゛あ゛あ゛アアァァとまるで猛獣の雄たけびか何かの様なけたたましい叫び声が、狭い地下牢の回廊に響き渡る。ついでに俺のいる独房の扉がものっそい叩かれてる。怖い。

その叫びがほんの少し弱くなるとすかさず「うっせーぞ!!ぶち殺されてーのか!!」とどこぞの牢屋から怒鳴り声が聞こえた。

どうやら他の囚人も相当堪えているらしかった。

しかし、その心情を察せるほどの余裕がないのか雄叫びの主は今度は「じぬのばい゛や゛ああああああああああああっ」と泣き叫びだした。

煩さ倍増である。なんということだ。声からして自分と同じくらいの女のものだがどうなんだろうこれ。

騒ぎを聞きつけた若手の兵士が駆けつけてきたようだが、あまりにも少女()がお話にならないという事で幾度かの会話の後めんどくさくなったらしい。

久々に扉が開いたかと思うと何かが放り込まれた。

ドシャっという音とともにまた「うえ゛え゛っ」と泣きそうになっているそれはおそらく、というか確実にさっきまで泣き叫んでいた少女()であろう。

しゃくり上げる少女は髪は既にボロボロで、散々泣いたせいか施されていたであろう化粧もぐちゃぐちゃ、そこに涙と鼻水と唾液ぶったらしである。

最早悲惨とか通り越して凄惨というか軽くホラーの類だ。

妙に上等な服を着ているのが気になったがそれは置いておいて。

まず少女を落ち着かせようと変化()する。

 

「ワンっ」

 

一声鳴いて少女にすり寄る。

 

「え?犬?」

 

そういえば普通の人って夜目そんなに聞かないんだっけ?この身体になってから暗闇でも普通に見えるから忘れていた。

わざとらしく荒く呼吸してごろんと寝っ転がって腹を見せる。

少女はバッはなした腕を恐る恐る辿る様に伸ばし、ゆっくり撫でてくれる。

俺はというとされるがままである。

どうだ?俺可愛かろう?撫でたいだろう?撫でてもいいんだぞ?もっと撫でるがいい!!

そんなこんなで少女と戯れてみることにした。

暫く戯れていると少女は大分落ち着いたらしくへにゃりと笑って言った。

 

「お前はいい子ね。飼い主は……いないか。じゃあ、お近づきのしるしに私が名前つけてあげる。」

 

んーと考え込んでから少女が一言。

 

「お前はハチ。なんかすごく頭がよさそうだから、きっと未来のハチ公並みの名犬になると信じてハチと名付けよう。よろしくね。」

 

待てってか?雨の日も風の日も雪の日も待ってろってか!?

てかこれ犬じゃねーよ!!コヨーテだよバカ!!

 

「いやあの……流石にハチはちょっと……。」

 

「ぎゃああああああっ犬が喋ったああああああああっ」

 

一瞬の沈黙ののち少女がまたもや騒ぎ出す。

賑やかだなおい。

 

「そもそも俺は犬ではないぞ。」

 

言って変化を解く。

とやっと夜目が効いてきたらしい少女が一言。

 

「え……オジマ。えちょっ嘘でしょ!?オジマンディアス!あ、や、まだ子供だからチビマンディアス!?本物!?」

 

いきなりテンション上がったぞこの子。てかそうか、あの時のコスプレの格好オジマンディアスか。

うんでも残念ながらそれはない。今でこそ来なくなったけど彼はもっと小さなころに此処の常連だったから。

残念なことに俺は彼ではないのである。今までラーメス呼びだったから気付かんかった。

 

「で?貴様はなぜここまで来たんだ?何か助けが必要で来たのだろう。」

 

そうでした。とお口アングリ状態になってしまった少女は固まった後俯いて口をもごもごと言いずらそうに動かした。

このままでは埒が明かないので助け舟を出してみることにした。

 

「まあ、無理にとは言わん。何もないが取り敢えずこれでも食っていけ。」

 

そう言って少女の前に先程運ばれてきた食事を差し出す。

どうやら若手神官もあんまり俺の案件には首を突っ込みたくないらしく、そのまま帰っていったようだ。

ありがとうと言って少女が器を受け取り、スープをおもむろに飲み干し、て。

 

「んぐ、ぐ。え……う゛っ」

 

あ、そろそろだなと思った俺はそのまま流れるような動作で少女を脇の排水(兼水飲み場?)の方に連れていく。

 

「【規制音】」

 

きらきらと流れ出るモノがキレイな虹色の何かに加工されている。漫画効果ってやつか。すごいな。

俺のはかからなかったのに。それともよそから見たら同じようにかかっているのだろうか?

それにしても

 

【―――しばらくお待ちください―――】

 

「日本、帰りたい。」

 

数十分後、レ〇プ目の美少女()がそこにいた。

ね?だから不味いんだってこれ。

 




書いた後にちょっと噴き出してしまった。
でも後悔はしてない。


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少女()の身の上

さてさて、今回はゲロインの身の上話をしようと思う。

女の話をしよう(略


「私の名前はイシスネフェルト……という事になっています。本名はネフェルティティ。」

 

さっきまでハイライトの入っていなかった瞳に光を戻した少女()がおもむろに口を開いた。やっと始まったまともな会話に俺はただうんうんと頷いて見せる。

余計なことを言って話が脱線何てごめんである。

 

「私はかのラムセス2世の花嫁……側室として王宮に上がりました。姉の代わりに。」

 

なるほど、だからあんなドロドロになる様な化粧と妙に上等で煌びやかな服を身に纏っていたわけだ。そうか、あの王子の花嫁()だったのか。

そこから少女、ネフェルティティが小刻みに震えながら言葉を更に重ねだした。

いつの間にか戻ったと思ったハイライトは消えているし、剣呑な雰囲気が漂いだしたんだが……。

 

「そ、そもそも……姉が、その……王宮に上がる3日前に置手紙を残して失踪してしまって……で、でもお……ひっ……私、思い出してしまったんですうっ……この先、このまま私が、妃になったらあ……っひっ、ヒッタイトとのことで…じ、自害、しなきゃっならなくうう、うえっ。」

 

お渡りはまだだけどそろそろ私に回ってきそうだし……とめそめそとネフェルティティが泣く。

あ、そうか。イシスネフェルトって確かオジマンディアスの第二妃の事か。

確か跡継ぎ産んだけどヒッタイトの王女の輿入れの件で自害せざる得なくなった人。

……だったような。あれ?あってる、よな?

 

「うんうんそれで?」

 

「わ、わたしぃ、し、死にたくないんでずうううっ。前だって二十歳手前で死んじゃうしいいいいっ。確かにったしかにオジマンディアスはかっこいいけど、かっこいいんだけどおおおっピッグアップには諭吉出すくらい課金したけどもおおおお、それとこれとは別問題なんですううううっ。」

 

うわああああああっとまた加減を知らない子どもの様にネフェルティティがしゃくりあげながら泣き出した。というかあれか、貴様俗に言う廃課金勢だったのか。俺の友達にもいたぞ、廃課金勢。事あるごとに爆死?だったか?したとか言ってたが。

確かFGOとかいうソーシャルゲームだったか?よくわからんけど。

 

「あーうん。わかった、取り敢えず死にたくないのとお前が廃課金勢なのは分かったから。」

 

というか君どうやってここ来たの?と聞くと素直に何でも願いを聞いてくれる何かの噂を聞いてきた。とのことだった。……別に願い事きいてるわけじゃなくて悩みとかの一方的な相談に乗ってるだけなんだけど、なんか酷い誤解されてね?

 

「それなのに、それなのにぃっ……犬がいると思ったらオジマンディアスのパチモンってどういう事なのオオオ!?喜べばいいのか泣けばいいのか怖がればいいのかもう訳わからないんだけどおおおおっ」

 

「俺の方が訳わからんわ、阿呆。」

 

混乱してたらよくわからない生臭い汁物のまされるし……と今度こそハイライトを失った目に戻ったネフェルティティがはあああっという溜息とともに黄昏ながら言う。

 

「初対面の男の人の前で嘔吐とか……もうお嫁にいけない……いや、もう形式だけなってるけども。」

 

うん、その件は悪かった。ごめんと心の中のどこかで言っておこう。

誰かに知ってほしかったんだあの味を、あわよくば外に出て広めてほしい。

あそこで出される料理は不味いって。

不味いって……あれ?

そうだよ。うまいご飯を食べる手段あるじゃん。

 

「……おい、ネフェルティティ。お前料理できるか?」

 

「?い、一応?前世は一人暮らしで自炊もしてたから……。」

 

「よし、じゃあお前今日から俺の料理番な?」

 

「え゛!?」

 

「その代わり此処にいれば王宮の奴は大概素通りするし、絶好の隠れ場所だと思うが。」

 

「ぐ、確かに、誰も入っていきたくなさそうだし……。」

 

「さらに言えばここには隠し通路があって自由に外と此処とを行き来することが可能だが?」

 

「で、でもこんな暗いところに年頃の男女が二人っていうのは……。」

 

「あっはっはっ。安心しろ、こう見えて俺は童貞ヘタレだし。生憎お前は俺の趣味に掠ってすらいない。手を出すようなことはまずないだろうさ。」

 

「」

 

かなり自虐入ったが、まあ仕方なし。

食べるという娯楽には替えることが出来ないものだ。

俺の中の何かがちょっとすり減った感じがしなくもないが。

 

「よ、よろしく。お願いします。」

 

おずおずとネフェルティティが手を差し出してくる。

俺はその手をしっかりと掴んで振り回した。

 

ヨッシャ、手下…んんっ料理人ゲットだぜ!!

 

「ええー…と食材の方は?」

 

「ん?現地調達。」

 

「は!?」

 

「?そのための隠し通路だろ?」

 

「ふぁ!?」

 

 

おまけ

 

十数年後の彼彼女。

 

「まあ、今思えば二人ともヤバい奴でしたよね。僕ら。」

 

「うむ。極限状態だったが故の奇跡の様なものだろう。」

 

「初対面で自分のこと童貞ヘタレっていう奴初めて会いましたよ。あのときから既に変態だったんですかね?」

 

「小生が変態だという事は置いておいてだ……そんな奴に何度も遭遇する方が逆にヤバいのではないか?」

 

「……それもそうですね。」

 




まあ、ちょいちょい触れてはいるんだけど、このヒロイン(ゲロイン)肝心の夫とは全く面識が無い。
これからお渡り()も抜け出したりするので、そもそも存在そのものが空気とそんな変わらない。
え?そんな奴いたの?みたいな。


因みに肝心のヒロインのねーちゃんは男と駆け落ちしたパターン。


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教師と囚人()とそれから凄女見習い

一気に飛ぶよ。
多分これからも飛び飛びになるかもだよ。
・・・たぶんね。


「……こ…てる。……ですよ。」

 

何処かで誰かの声が聞こえる。

とともに何かが口の中に突っ込まれた。

 

それを咀嚼するとみるみる内に芳醇な果物の香りと甘みとふわふわのパン()の食感が口の中を満たしていく。

とともに脳がその味を理解しようと急激に覚醒していく。

 

「……ネフェルティティ?」

 

「はい。おはようございます。取り敢えずはよ起きろ。」

 

目が覚めると同居人が既に身支度を整えていた。

早すぎませんかねネフェルさんとか思っていると口に出ていたのか「早くないです。貴方が遅いんですよウェトル。」と返ってきた。すんません。

口の中に残っているネフェルティティ特製のパン(ジャム付き)を頬張っているとズイッと目の前に残りの朝食が差し出される。超うまい。思わず子供姿になって食べたいくらいうまい。

え?動物の方が質量的に味わえるんじゃないか?いやいや味覚も動物に寄っちゃうから駄目だダメ。

 

「……相変わらずお前の作る食事は美味いな。」

 

「褒めても何も出ませんよ。あ、こないだ取ってきた果物のコンポートが氷室の方に入ってますので食べちゃってくれていいです。じゃ、行ってきます。」

 

行ってらっしゃいと言って手を振って相方を見送った。

 

「ウェウェコヨトル。」

 

「どうした?改まって。」

 

「今日、もしかしたら見知らぬ子がここら辺に来るかもしれませんが、それとなく追っ払ってください。あと、決して悪戯したり、知恵を授けたりしないこと。いいですね?」

 

「……。」

 

「返事。」

 

「はい。」

 

よろしい。と言って今度こそ外に出て行った相方にほっと胸を撫で下ろす。

取り敢えず今日は一日動かずにぼーっとしてよう。流石に飯抜きとか泣く。

 

■■■改めウェウェコヨトル。

あれから何年か経ちましたが、今も相方と一緒に地下牢に住んでいます。

 

P.S 胃袋は完全に相方に掴まれてしまいました。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「今日こそこの先に行ってみせる!!」

 

そう果敢にも言ってのけるのはまるで砂糖菓子の様な母親譲りの外見に父親譲りの豪胆さを持つ王女メルトアトゥムだ。

彼女は今地下迷宮(という名の牢獄)の入り口に来ていた。

さて、何故彼女の様な俗に言う尊い御方がこのような場所に来ているのかというと……。

 

「(先生の秘密。必ず暴いて見せる!)」

 

このように普段自身の家庭教師をしてくれているイシスネフェルトという女性への知的好奇心を満たすためである。

誠に身勝手ながらも、彼女にとってはかなり重要なことなのであった。

 

始まりはそう、些細なこと。

何かの記録で憧れの家庭教師である彼女の名を見つけた所からだった。

それは彼女の他にもたくさんの女性の名が記されていて、何気なくこれは何かと近くにいた文官に聞いたのだ。

驚くべきことにそれは王の側室の方々のお名前ですよと言って、聞いていないのにけれどネフェルタリ様のことは~などといかに父が母を愛しているのかの話が出てきたので既にそこにいるだけで惚気の塊の様な両親を常日頃見ている彼女としては遠慮したく、気になっていることを真っ先に質問するのであった。

 

「それよりもここ。この名前の人物は?」

 

何故、彼女の名前がそこにあるのか、少女には理解できなかった。

だって、彼女、イシスネフェルトの部屋らしき部屋はこの王宮及び後宮には存在しない。

それにそういった身分の人であるなら幼少のころから既にそれとなく見知っていなければおかしい。

王宮も後宮も広いようで狭い。どんなに序列の遠い人でも何回か顔は合わせているはずなのだ。

が、彼女とメルトアトゥムが顔を合わせたのは数年前に彼女が教師として来てからである。

 

「ふむ?イシスネフェルト様。ですかな?……ううむ。確かに王宮……後宮に上がられたと記憶は残っていますが……。」

 

ふうむ?と文官は首を傾げるばかりで心当たりはなさそうだった。

しかし、そこでハイ終了ではメルトアトゥムは納得できない。

そうして彼女はごく単純なことに思い至った。

 

そうだ、先生の後をつけよう。

 

こうして、彼女は地下迷宮の入り口までたどり着いたのである。

そう、不自然なまでに自然に。

メルトアトゥムは意気揚々と地下迷宮へと降りて行った。

 

 

 

***

 

 

 

「おい!見つかったか?」

 

「いいや、まだだっ」

 

「探せ!まだそう遠くには行っていないはずだ!!」

 

何やらあわただしい外にウェウェコヨトルが聞き耳を立てる。

 

「誰だ、奴の牢のカギを閉め忘れたのは!」

 

「大変だ!メルトアトゥム様の安全がまだ確保されていないらしいっ」

 

「くそっこんなときに……。」

 

どうやらこの牢獄の何処かに脱獄を企てた何者かがいるらしい。

それと、メルトアトゥムとかいう人物が行方不明という同時進行で二つの出来事が起きているらしかった。

ネフェルティティの作り置きしていってくれたコンポートに舌鼓を打ちつつもしやメルトアトゥムとやらが件の子供だろうか?などと思考を巡らせていると、兵士たちが遠ざかるとともになにやら子供の泣き声が聞こえてきた。

あれ?これなんかデジャウじゃね?などと思いつつそちらに目を向けると、いつだったか遠目から見た現王の正妃ネフェルタリそっくりな少女が半泣きになりながら何かから逃れるかのように走ってきていた。

 

 

 

***

 

 

 

何かにけつまずいて派手に転ぶ。

 

「いっ」

 

思わず泣きそうになるが、必死に堪えた。

自分はあの誇り高いラムセス2世の娘であるし、何よりもそんなことをしている暇が今は惜しい。

 

風を切る音とともにがんっと先程までメルトアトゥムのいた場所に兵士から奪ったであろう剣が叩きつけられる。

振り返る間のなくまた、彼女は走り出した。

 

「っ……だから、あれほど!護身の術位、教えて欲しいと!なんども!お願い、しましたのに!!」

 

走り、息を切らしながらも心配性な兄や父への恨み言を溢す。

母や姉たちもだか、特に男性陣は母親と瓜二つと言っても相違ない彼女には甘く、同時にそういった荒事やらに関わらせることをよしとしなかった。

その結果がただ逃げ回ることしかできないというこの体たらくなのだから全くもって論外である。

 

と、どんと今度こそ何かにぶつかった。

弾みでよろけそうになって何かに支えられる。

遂に捕まってしまったのだろうかという恐怖が背を這うが、それが彼女になにかしてくるという事はなく、逆に先程まで彼女を追い回していた巨漢の悲鳴が轟いた。

が、何かが風を切る音がしたかと思うとすぐにその悲鳴も途絶える。

 

「全くもって、此処に来る者は揃って騒がしいモノばかりなのか?」

 

頭上から聞こえてきた何処かで聞いたことのある声に思わず顔を上げる。

そこにいたのはメルトアトゥムを抱きかかえるようにして支えている黒髪金眼の美丈夫だった。

声同様に何処かで見たことのある容姿に首を傾げつつ断りを入れて離れる。

 

「あ、あの。先程はありがとうございました。助かりました。」

 

「ふむ、珍しく礼儀を弁えている者だな。が、いいのか?王族がそんなに簡単に頭を……」

 

下げて、と男が言ったと同時に男に向かって矢が放たれた。

 

「っく、姫様から離れろ!!得体のしれぬ囚人風情が!!」

 

戸惑いとともに振り返ると年若い兵士がかの恩人に向かって矢をつがえていた。

名前も聞いたことが無いのでわからないが、たしか歳はメルトアトゥムと近く、妙に馴れ馴れしかったことは覚えている。

 

「え、ちょっと、お待ちなさい!彼は先程助けていただいた恩人です。そのような無礼は「姫様は騙されているのですっ」は!?」

 

騙されているとか以前にじゃあ何でこのタイミングで駆け付けたお前は私を助けなかったのかとか騙すとかそんなことする間すらなかっただろとかいろいろ言いたいことはあったがありすぎて逆に何も言えなくなったメルトアトゥムは閉口する。

 

「騙す、騙す、か。まあ、確かにそれは割と小生の在り方にはあっているとは思うのだが……。」

 

今も尚続く兵士からの罵詈雑言に特に気にした素振りもなくクスリと笑う男に一抹の得体の知れなさを感じ取っているとまた男に腕を引かれた。

 

「ああ、だか騙すというのならこのようなやり方もアリだな。」

 

次にメルトアトゥムが目にしたのは清潔感溢れる、質素ながらも気品あふれる何処かの一室であった。

だが、扉の向こう側から先程の兵士の声がギャーギャーと聞こえてくるあたり此処も先程の地下迷宮の何処かなのだろう。どうすればいいのかわからずおろおろしているメルトアトゥムに平然と男は何やら汁の滴る見たこともない色の……果実、だろうか?を進めてきた。

 

「食え。果物のコンポートだ。美味いぞ。」

 

「こ、こんぽーと?」

 

本来なら毒物やらの心配をしたのだろうが余りの空腹と張りつめた緊張からの疲れから遠慮なくそれを頂くことにした。一口食べると途端にみずみずしい果物と恐ろしいほどの甘さが口いっぱいに広がり止まらなくなった。

少し下品だが汁の付いた指先すら惜しく、舐めとる。

 

「美味いか?」

 

コクコクと口の中をそのままに必死に頷く。地位故に今までいろいろな果実。それこそ高級品を意のままに食してきた彼女だが、こんなにおいしいものは初めてだった。いったいどんなものなのだろう。

そんなやり取りをしているとさっきまでひどく煩わしかった騒音が止んでいることにはじめて気づいた。

それとともに控えめな扉を叩く音が聞こえる。

 

「ああ、どうやらお前の迎えが来たようだ。」

 

ふふふと男が穏やかに笑うと扉の向こう側から「メルトアトゥム?」と聞き馴染んだ声が自分の名を呼んだ。

改めてメルトアトゥムの中に安堵の感情が湧き上がり思わず「はいっ」と大きめに返事をしてしまった。

 

「どうやら無事……だったみたいですね。」

 

ホッとした様子で事も無げに扉から入ってきたのは元々の発端というかなんというかになっていた家庭教師のイシスネフェルトその人であった。

「先生!」と言うが早いかメルトアトゥムは一目散に駆け寄っていく。

そして駆け寄った時に気が付いた、何故騒音が止んだのか。

それは一重にイシスネフェルトがその手で件の兵士とその増援部隊をボコボコに伸したからに他ならなかった。

 

「(学問だけでなく荒事にも精通しているなんて、流石先生!私も頑張らなくては)」

 

と何やら憧れとともにちょっとアレな方向に向かっている彼女に気付かぬままに何やら男と二、三言交わし、そのまま帰りますよと手招きされる。

はい!と返事をしようとして恩人の男の方を振り向いた。

 

「あ、あの、本当にありがとうございます。あと、ごめんなさい。不快な思いをさせてしまって。」

 

ほんと恩人に対して何て態度を取ったんだあの兵士。と内心で思いつつ謝罪してみると、恩人はただきょとんとこちらを見るだけだった。

 

「ふ、む……まさかここまで素直というか義理堅いというか……おい、王族の娘。悪いことは言わん。もう少しずるくなれ、でなければこの先大変だぞ。」

 

そんな男の言葉に憧れの家庭教師は余計なことは言わんでよろしい!!と何かを叩きつけていた。

それでも答えた様子もなく笑う男と先生に戸惑いを隠せずにいるメルトアトゥムは最後に勇気を出してもう一度男の方を振り返った。

 

「あ、あのっ貴方の、お名前は?」

 

またも目を見開いたのち、笑って男が言う。

 

「ウェウェコヨトル。それが小生の名だ。」

 

「ウェウェコヨトル……。」

 

王宮に戻った帰り道でその名を呟いた。

 

「……変な名前。」

 

もっともその名が、ではなく発音の組み合わせ的に、であったのだが。

それを知ってか知らずか隣を歩く先生が小さく笑って頷いてみせた。

 

(出来ることならもう一度会いたいなあ……。)

 

 

これが後にエジプト版ステゴロ系聖女と呼ばれることになるメルトアトゥムとウェウェコヨトルの出会いであった。




という訳でタイトルの意味は此処にあったのです。
何故ウェウェコヨトルなのかは……まあ、また今度、書けたら、いいなあ……。


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嫁いだ娘が劇物を連れて出戻ってきた

zeroイベどのクエがどう繋がんのかわっかんね……泣。


「ぐっくそっ、戦車が足りん!!別動隊はまだか!!」

「そ、それがっ……先日の長雨のせいで地面がぬかるんでおりまだ……。」

「ほ、歩兵隊前えーっ」

「絶対に通すな!この際荷車でもいい!!道を塞げ!!絶対に通すなっ」

 

そんな伝令に怒鳴りつけているであろう指揮官たちを尻目に、不思議なことに剣戟による金属音は一切聞こえず打撃音がいくつも繰り返される。

 

「ふはははははっ。惰弱惰弱うっ!!」

 

それとともに聞こえる聞き覚えのある大声。

力強く何処か高貴ささえ感じさせるそれは戦場にて何度も自身たちの行く先を照らし導いた者と、認めたくはないが瓜二つであった。

ビョウッと一際強く吹いた風が、一瞬砂埃を浚い認めた気は無い現実がその姿を顕わにした。

 

「さあ、決死の覚悟で挑むがよい!戦士たちよ!!」

 

その男、地につくかとばかりに伸ばされた黒髪をまるで綱の様に首下で編んで括り。

その端麗な貌に填め込まれた金眼を太陽を思わせるかの如く煌めかせ。

その在り方の堂々たる様や、かつての若き太陽の王の生き写しの如き……

 

いや、いいや。如き、何ぞでは言い表せない。

 

 

「し、神官どもめ!!緊急の令だからと出向いてみればっ」

 

「これはどういうことか」と、若手はともかく戦場を駆け抜けてきた歴戦の古参たちは苦虫を噛み潰した顔をする。

彼らは神官たちからの依頼を受けて(正確には王がその依頼を受理して)「地下迷宮の化け物」とやらの脱獄に伴う捕縛、もしくは殺害の任を請け負ったのだ。

神官たちが珍しく熱心に男たちに頼みごとをした時点で、普段の高圧的な態度が、その余裕がなくなっていた時点で察しておくべきだったのである。

 

「……私たちは嵌められたのか」

「あれが、あれが化け物なものか!!むしろあれはっ……あれでは、我らが王の生き写しではないか!!」

 

古参のうちの一人が金切り声で言う。

 

「いったい!いったいどうしろというんだ!!」

 

 

 

***

 

 

 

ぐつぐつと子気味いい音を立てながら徐々にとろみの付いてきた鍋を確認しつつ、かき混ぜていた女性。イシスネフェルト改めネフェルティティは溜息を吐いた。

 

「ね……イシスネフェルト様っ。そのようなことは私たちがします故どうか……。」

「ああ、大丈夫です。むしろこれを僕がしないと奴がどうなるか……。」

 

そんな会話を顔見知りの侍女や料理人としているとガシャンとかバリンとかなにかが暴れているかのような音が遠くから響いてくる。

その音が響くたびに「あーまたやってるなー」と思いつつ半眼になってひたすら料理を作り続ける。罵声も同時に響いてくるが自分には関係ないと思い無視を決め込むことにした。

 

事は数日前に遡る。あの王女地下迷宮侵入事件を機にどうやらメルトアトゥムがウェウェコヨトルに惹かれてしまったらしく上の空になることが増えた。

そりゃ年頃になればそう言ったことに重きを置くようになるのは当然だろうし、それを利用して自己を高めたりというエネルギー的なメリットもあるのでネフェルティティも敢えて何も言わなかったし触れもしなかった。が、親兄弟はそうもいかなかったようだ。

王も兄たちも姉たちもやはりというかメルトアトゥム自身中身はともかく外見はネフェルタリにそっくりな美少女である。悪い虫が着くんじゃないかと心配ではあるし、且つ例え兄弟でも男どもに至っては見目の良い聡明な彼女を是非妻にと思っていたりするやつも多かった。

それをどこの馬の骨ともわからぬ輩に横から掻っ攫われるなど我慢できようはずもなかったのだ。

唯一実母であるネフェルタリだけは「政略も大事だけれど出来れば好きな人と添い遂げて欲しい。」と優しく見守ると宣言していたが、神官たちの口出しもあってそんなものは焼け石に水程度だった。

神官たち曰く王女は地下迷宮に住む怪物に魅入られてしまったのだ。おかわいそうに。

神々もお嘆きでしたよ。と悲し気に伝えた。

そこで地下迷宮の封印をもっと強固なものにしたいと王に持ち掛けた次第だった。

しかし、流石神王。彼はその辺とても苛烈だった。

彼が出したのはその怪物とやらを引っ立てて来いとか迷宮への神官の立ち入り許可なんかではない。

地下迷宮そのものというか、監獄そのものの焼き討ちだった。

で、可能な限り逃げ出してきた奴ひっとらえてこい、抵抗したらぶっコロっと。

色々ダイナミックすぎる。お前は織田信長か。などと間近で聞いていたネフェルティティは呆れたが、アレな神官たちは流石にそれはと焦ったのか何なのかネフェルティティにも飛び火……というか方向性を変えてきた。

 

「それもこれも、そこな女が手引きしたからなのですっ。」

「はあ。」

「なに?それは誠か、イシスネフェルト。」

「まあ、あえていうなら彼には(料理と武術の)実験台になってもらっているとしか……。」

 

そこに神官たちが「なんと!王に許可なく実験などと!やはりこやつは魔女だ!悪しき魔女に違いない!」とヒステリー気味に叫びだした。

早々に面倒になってきたイシスネフェルトは「なんかもう、それでいいです。」とでもいう様な態度でその場を粛々と進め、結局暇を出された。

というか取り敢えず王的には惜しい人材だしこの神官たちをどうにかするまでは保留といった所だったのだが、このご時世思い通りにならなかった人間がどういった行動をとるのかをいやというほど見てきた彼女としてはだるいことこの上なかったので引き留められてもやめるという意思を変えなかった。

結果、仕事を辞めて、彼女は無職になったのだった。

 

そうして彼女が真っ先に向かっていったのは……先ほど焼き討ち案の出た地下牢だった。

 

「ただいま。取り敢えず荷造りしましょうか。」

「おかえ、は?」

 

早々の荷づくり宣言に驚く相方を余所にてきぱきと作業を進めつつ冷静に先程の出来事を話す。聞いていた相方も大して驚くこともせずに作業を進めていった。

そのままウェウェコヨトルの力を頼りに王都を脱出して逃亡し、行く当てもなかったので適当にネフェルティティの故郷を目指した次第だった。

 

此処までをさらっと思い出したイシスネフェルトはまた溜息を吐く。

眼下では既に古代エジプトにはまだないであろうカレーが仕上がっていた。

 

ガッゴロゴロゴロと誰かが厨房へと転がり込んでくる。

 

「いかがなさったんですか?父上。」

「お……なっ……あ……げほっ」

 

それに振り返ることすらせずに平然とイシスネフェルトが問いかける。

対する男性……彼女の父親らしい。は、ガタガタと身震いしながら口を魚の様にパクパクと開閉させるだけだ。呼吸すらままならないらしく時折咳き込んですらいる。

そこに急いで侍女が水を持っていくと一気に飲み干した。

 

「おおおおおまえ、お前、一体何をっ」

 

父親がそのまま勢い余ってイシスネフェルトに駆け寄ろうとするもそれを本人に手で制される。

 

「聞きたいことがあるのはわかりましたが、そろそろお昼です。なので僕はこれで失礼します。」

 

そう、言いたいことだけを言って皿に何やらドロドロとしたお世辞にも食事とは思えないものと何やら変わった形のパン……?の様なものをバスケットにいれて持っていく娘に思考が追い付かない父親は取り敢えずこう叫んだ。

 

「あ、あの方にそのようなものを……こ、こらっ戻ってきなさい!!ネフェルティっイシスネフェルトおおおおおっ!!」

 

父親の怒号が響き渡るのとほぼ同時に屋外にてただ一人立っている相棒に女が叫ぶ。

 

「昼ごはんの時間ですよー。」

 

その言葉に男が振り返る。その瞳は爛々と、普段の3割増し位輝いていた。

どんだけ食い意地張ってんだと内心呆れつつもう一度叫ぶ。

 

「今日はカレーを作ってみましたー。」

 

言って、バスケットを高々と掲げる彼女の姿に、青年はその姿を一瞬でコヨーテへと変貌させて少女の元に駆けてくる。

ネフェルティティの周りをグルグルと回った後、肩に飛び乗ってキューキューと甘えたように鳴くコヨーテを撫でながら「さて、」と彼女は現場に向き直った。

 

「……まあ、見せしめにはなりますし、結局蘇生してあるんだから手出しは無用ですよね。」

 

辺り一面血の海。そこに転がる複数の心臓をぶち抜かれた身体。

しかし、不思議なことに徐々にその空洞が埋まっていることを確認した彼女はうんとひとりでに頷いてその場を後にした。

尚、その死に体の蘇生体は何処かから集まってきたコヨーテたちの群れの手によって何処かへと運搬されていったのだが、行先はたぶんネフェルティティにすり寄っていったコヨーテくらいしか知らない。

 

 

***

 

 

ある一人の男が頭を掻きむしっていた。

彼はイシスネフェルト。否、姉イシスネフェルトに扮しているネフェルティティの父親である。彼は今非常に焦っていた。

 

(なぜ、何故だ……おお、神よ、我が王よ。私が何をしたというんですか。)

 

正確には自分の娘が、だが、そもそも失踪した娘の身代わりにと他の娘をあてがった時点で非が無いとは言えなくなってしまっているので男に逃げ道はないのである。

それにしても綺麗になっていたなと現実逃避交じりに娘のことを思い出した彼は、いったん落ち着くためにその場にドカリと腰を下ろした。そうして、溜息を吐く。

 

だいたい、男だってできることならあのよく出来た次女を仕方がなかったとはいえ王に嫁に出したくなんてなかったのである。出来ることなら近隣の、頻繁に行き来が可能な貴族のところに嫁にでも行ってこの父の助けをしながら家の基盤を強固なものにするという計画があったのだ。もちろん王の嫁、牽いては世継ぎのうまみも捨てがたいが、後継やらの問題の現状を見るにイチかバチかというより最早万が一くらいしか勝率が無かった。

だからこそ、王宮との繋ぎとしては多少我儘すぎるのが目に余るが根っからのお嬢様としてしか教育してこなかった長女を上げようとしたというのに……。

結果、迎えが来る3日ほど前に「真実の愛を知った。探さないでください。」という置手紙とともに長女は失踪。残るは次女と長男、三女だが次女を覗けば女は三女のみ。

しかし、この三女がまだ齢10にも届かぬ幼子でどうしようもなかった。

それから十数年の月日が流れ、突如連絡もなしに娘が帰ってきた。

 

王宮に召し上げられたはずの次女が、男が何度か見たことのある尊き者そっくりの青年を連れて。

 

その尊顔を見た時、不敬にも男は絶叫し、その場で気絶した。

後で妻に聞いたところ、そのまま青年に抱えられてベッドに横たえられたのだと教えられたときは本当に絶望した。

その件の青年は現在このあたり一帯の住民に慕われ、何故かよこされる武装集団を千切っては投げを繰り返しているが……。

男は他の民衆とは違い、一時期王宮に詰めていたこともあるからこそわかる。

 

(なぜあなた様が此処にいらっしゃるのですかああああっオジマンディアス様あああああっ!?)

 

何故か数年前に見た時と姿が変わっていないが、神王と称される彼の事である、きっと極当たり前に何らかの力が働いているのだろう。

この出来事の更に数日後に自称真実の愛に破れてこれまた出戻った長女の姿を見てぶっ倒れることになる。

男の心労はまだ始まったばかりであった。

 




太陽王と主人公の外見について

少々ぶっ飛んだ説明になりますが、主人公は一応余所の神話の神様なので現在の枠組みは人間ではなく神様枠になります。オジマンディアスは、というかオジマンディアスの神性はどっかの神性の説明書きのとこにもありましたが生前神の子として信仰されたから高い神性を獲得できた。らしいので一応生前はちゃんと歳をとっていくという事にしたいと思います。

……ということで現在は主人公は青年姿ですが太陽王自身はあの青年姿からいくらか歳くった姿をしてるってことで。


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神のまにまに

前半と後半の差が酷い。
一応閲覧注意


「ではではー。どきっ年季入りすぎ??神様だらけの親族会議を行いたいと思いまーす。」

 

ドンドンパフパフという効果音がしんと静まり返った空間にやけに大きく響き渡った。

空気の重い神々をそのままに進行役である知恵の神トト神が更に平坦な声で議題を挙げた。

 

「まず最初に現在最も重要な議題ですがー……ええと、下エジプトで話題になっているらしいジャッカル……?まあいいやジャッカルっぽい何かとイシス女神の信者の件ですが……」

「意義あり!!あれは断じてジャッカルなどではありません!訂正を求めます!!」

「じゃーなんだつーんですか。別にジャッカルじゃないのはわかりますが他に形容できるものが無いんですよ。私嫌ですよ、形容し難き者とか言うの。なんかあれっぽくて。もうジャッカル(仮)でいいじゃないですか。」

 

言われて抗議したアヌビス神が黙り込む。

残念ながらエジプトにはコヨーテがいなかったため例え知恵を司る神でもすぐにはわからないらしかった。

単純に多方面からの相談事が多すぎてもうめんどくさくなっているのかもしれないが。

 

「好きにさせとけばいいじゃねーか。鼻高々になったとこで叩きゃもう悪さしようとする気も起きねーだろ。」

 

ニヒルな笑みを浮かべながらセト神が何処か投げやりに言ってみせる。

一部の神はそんな彼の様子を見て怪訝そうに眉を寄せるがそれに対応するトト神は何処までも冷静だった。

 

「ふむ……分かりました。では貴方の聖域は割譲という事で、そうですねー具体的にはオンボス辺りとかどうでしょう。あ、民の方は安心してください。貴方の名を出せば一発なので、ハイこれ契約書。」

「なんでだあああああっ!?」

「若かりし頃の貴方みたいにならないとも限らないでしょう?ですから保証人は必要という事で、前金というか、担保というか……取り敢えずはよ出せや。」

 

まさかこのような形で自分に返ってくるとは思っていなかったセト神はちらりと俯いて両手で顔を覆っている女神……イシス女神の方を見やるとわざとらしく話をイシス女神に移そうと試みた。

 

「そ、そう言えばよー、イシスんとこの自慢の信者……ほら、あのーなんだっけ。「イシスネフェルト」そう!そいつに楔になってもらったらいいんじゃねーか!な?」

「……。」

 

対するイシス女神はというとぼそりと少女の名前を呟いた後はそのまま沈黙を貫いており、その表情をうかがい知ることはできなかった。ただし、何かしらの変化はあったようでカタカタと震えている。

古参の神たちはこれで大体は察した「あ、これ触れちゃいけない案件だ。」と……しかし、なんだかんだあって激闘を繰り広げたりとかしていた(要は立ち位置がだいぶ違った)セト神はそれに気づかず、イシス女神に言っても無駄だと思ったのか今度はラー神に同意を求めようとする。

すると、他の神々が止めようとするよりも早くバンっという音とともにテーブルをぶっ叩いたイシス女神が肩で息をしながらぎょろりと目だけをセト神へと動かしてシッカとかの神を捕捉した。

 

「私だってねえ……。」

 

髪は衝撃故なのか気性故なのか振り乱され、これでもかとかっぴらかれた目は充血し、元がかなりの美女のためもあってか般若もかくやとも言うべき恐ろしい形相がそこにはあった。

思わずセト神だけでなく彼女の夫であるオシリスや息子であるホルスまでもがたじろぐ。

 

「わたしだってっ私の信者じゃなければあああっというかあのこじゃなければそうしてたわよおおお!!!」

「っひ」

 

言って猛禽を思わせる迅速さでセト神へと飛び掛かる。

そのままマウントをとったかと思うと拳を硬く握りしめ、グーでたこ殴りにし始めた。

 

「おらっおらっ私のっ愛し子をっあのっよくわかんねー野郎のっ伴侶にっだと!?もうっ一遍言ってやがれ!このくっされがアアアアア!!」

 

おらあああっといってその言葉の節目節目にセト神の顔に拳がめり込む。

粗方相手を殴った彼女は何を思ったのか何処からともなく自身のウアス杖を取り出した。

それを一片の躊躇もなくビクンッビクンッと痙攣しているセト神に向かって振りかぶる。

その先を察したらしき夫と息子二人掛かりで羽交い絞めにされ杖を奪われた彼女はそれでもまだ足りないようで届かない両腕をそれでもブンブンと振りまわしている。

まって、その役割は少なくとも貴方ではなくセクメト神あたりでは?

残念ながら両名がそろっているこの空間でそう突っ込めるモノは誰一人としていなかった。

 

「……イシスよ。」

「あ゛?」

 

事態を収拾しようと見兼ねたラー神がイシス女神へと声を掛ける。

と、どこぞのヤンキーか何かの様な返しが返ってきて流石の主神も慄いた。

 

「い、イシスよ。我が娘よ。何故あの娘に肩入れするのか。この父に教えてはくれぬか?」

「はい!もちろんでございます!お父様!!」

 

先程とは別人の様に、しかし、テンションはいつもの六割増しくらいで愛し子である少女について語りだす。

曰くどの魔術が得意で直々に指南したとか、複雑な家庭事情で自分の名を使うことを特別に許したとか。

止まらない、止められない。

 

「あのような敬慮な子は他に観ません。少々他の人間と価値観にずれがあるようですが……ああ、本当にゆくゆくは私の神官になってほしかった……だというのに……。」

 

手にしたウアス杖がミシリと軋んだ。

いつの間にか杖を奪われていたホルスは驚愕の眼で母の手元と自身の手を交互に見る。

そのままあらん限りの力でセトを撲殺せんとその杖を振り上げた。それ殴打武器違う。

これを見ていられなくなったネフティス女神がすかさず止めに入る。

 

「ま、待ってください姉さま!!これでも!こんなだらしなくてどうしようもない人でもいいところもあるんです!!。」

 

そんなフォローにならないフォローをしながら前に歩み出る。

 

「た、例えばこんな案はどうでしょう。形だけセクメト神の化身に変えてもらって隙を見て惨殺するとか!」

「あら?いいの?そんなことしたら私、今度こそ止まらないわよ?」

 

いってベロリと自身の口周りを舐めるセクメト女神に周囲はナイナイと首を振った。

 

「で、でも!他の神の化身というのはいいですね。流石にこの星の神性がまとわりついているのなら、それも化身ならなおさら遠ざけたがるでしょうし。」

「というか私たちの誰かの力を使って殺したとして、本当にその程度で死ぬのか……?」

 

しんと再び静まり返る場にんんっというラー神の咳払いが響く。

 

「あー、ではトトよ。貴様から結果を発表せよ。」

「結果って何ですか。何一つ決まってないでしょ。イシス女神がバーサークしたのと襤褸雑巾が出来ただけでしょ。というかあんたが主神なんだからあんたが決定しろや。」

「ふむ……私は今耳が遠くてな。なんせもう夜だから。」

「まだ昼だぞ、クソ爺。」

「あんだって?」

「……はーいみなさーん。判決出ましたー。我らがラー神が皆さんの不安を取り除いてくださるそうでーす。具体的にはあの二人の後継人になって末永く見守っていくんだとかー。ハイかいさーん。「待て待て待て待て」……今度はなんですか。もう会議は終わったでしょ。おじいちゃん。」

「いや見守ってくってお前……そりゃないだろう。私にはただでさえラメセス二世というだな。」

「ほら、もう一人見守ってるんだから一人も二人も三人も一緒でしょう。はいじゃあ話は終わりという事で。」

「しゅうごーう!!まて、私が悪かった。ちゃんと指名するから!!じゃあセクメト……はヤバいし……ハトホル……もちょっと騒がしくなりそうだし……イシス……は元からあれだ「あ゛?」今回は遠慮してね。という訳でバステト。お前がしなさい。」

「えええええええ!?」

 

こうして不運にも巡り巡って役割が回ってきたバステトは耳と尻尾を垂らしながら渋々といった態で少女の夢枕に立ちに行ったのであった。

 

 

***

 

 

「……というわけでこれからは私が貴方付きの女神になります。」

「はあ。」

 

目の前で泣きながら説明する女神に対して何を思うでもない。

というかイシスネフェルトは何も考えられなかった。

今までずっと信心深く、それこそ妃騒動はあったもののそれも回避して、今まで信仰を貫き通してきたというのにこの仕打ちはなんなのだろう。

しかし、此処で事の間接的な要因になった相方のことを恨むとか、目の前の猫頭の女神に当たり散らそうとかしないあたり彼女はかなり冷静だったのだ。

彼女はその冷静な状態のままとんでもないことをしたためた羊皮紙をその場で作成。

女神に渡す。

 

「これ、主神に渡しておいてください。では、開始は今日の夜中辺りなのでよろしく。」

 

しかし、その書簡をその日のうちにラー神が読むことはなかった。

バステトが怖気づいて返ってきたものと勘違いして御所に入れなかったからである。

バステトは必死に訴えかけたがなかなか聞き入れてもらえず、結局書簡が渡ったのは三日後の昼。通りかかったセト神に訳を話して入れてもらったのだ。

その書簡を読んだラー神は「何でもっと早く伝えなかったのか。」とバステト神を咎めようとしたがトト神に「いや、あんたが話聞かなかったんだろ。」と言われついでに強く後ろから引っ叩かれて脳震盪を起こしたので泣き寝入りせざる得なかった。さらにこの後事情を聞いたイシス女神から吊るし上げにされたのは言うまでもない。

書簡にはこう書かれていた。

 

『もし今日の夜中までにこの結果を覆さなくばお前たちが人間(労働力)を100増やす間に僕は600の邪神の子を増やしますよ。ではよりよい返事をお待ちしています。』

 

***

 

 

所変わってある寝室。

対面するようにベッドに座る男女が一組。

 

「大事な話があります。今日を持って僕はイシス女神の信者をクビになりました。」

 

「今日付けで僕はバステト神の化身になるそうです。」と真面目な顔で言う彼女にそもそも信仰は自由なのではとか思いながらウェウェコヨトルは適当に相槌を打つ。

一応書簡は送ったんですが……来ませんしねとイシスネフェルトが溜息を吐いた。

 

「という訳で。」

 

先程とは打って変わって美しい微笑を浮かべて彼女は言った。

と、同時にトンと軽く胸元を押されてそのままベッドに倒れる。

その時点で逃げていればよかったものを「あれ?」と思っただけでウェウェコヨトルは微動だにしなかった。

自身に馬乗りになった彼女は言う。

 

「僕と×××しましょう?」

「」

 

耳を塞ぎたくなった。

気付けば両腕は無事だが首と両足に鉄枷が嵌っていた。外れない。

 

「ああ、それはヒッタイトの神鉄を加工したものなのでちょっとやそっとじゃびくともしませんよ。」

 

「例え君が外宇宙の■■の類であっても、時間稼ぎぐらいなら、ね?」

 

耳元で甘い声が囁く。

 

「いいいいいやだがしかしだな。小生とそれをするという事は」

 

言い募る、言い募れ。

何としても彼女をこちら側に引き入れるわけにはいかないし、そうさせたくはないのだ。

 

「大丈夫。狂気(それ)に関してはもう対策済みですので、安心して身を任せてください。」

 

その手にはヒッタイトの神鉄やらラピスラズリやらが織り込まれた凝った作りの紐が握られていた。

 

「ま、待て待て待てえええええああああああああっ」

 

 

 

「……それで、肝心の書簡とやらには何と書いたのだ。」

「んー?別に、豊葦原の中つ国の基盤を作ったヤンデレ女神染みた嘆願書を送っただけですよ?」

「......。」

 

それは嘆願書ではなく脅し文句の類いではないかと日本神話を知るウェウェコヨトルは思ったが心無し機嫌良さげな相方にまあいいかと全て赦すことにした。

 

その数年後、その村は野性味と異界の閃きをたたえた瞳の猫が闊歩する猫にまみれた村とかすのだが、それがエジプト世界を震撼させたかどうかはまた別の噺である。




ヒロインは猫への変身能力を習得した。

......バステトにしたのが裏目にでた神様勢。

因みに子供たちを集めると猫の集会染みてる。

*バステトは音楽の他に多産等も司る神様


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女神さまは結婚したい!!

明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。


とある一室にて、複数の侍女から装身具を着付けてもらう女が一人。

身支度を整え終わった侍女たちが退出すると、女は一人鏡の方へと立ち、自身の爪先から頭までじっくりと目を通していく。

 

「うむ、我ながら今日も美しいな。」

 

流石妾、と女が言う。常人が言えばただのナルシストだろうが女は確かに美しかった。

それもその筈、なんせ彼女はあの暴君ギルガメッシュの実妹にあたる、マトゥルという名の女神であった。

半神半人の兄なのに神の妹とはそれ如何に?と思う人もいるかもしれない。が、だいたい神代なんてこんなもんである。

そのまましばし鏡を見入っていたマトゥルはその瞳に大粒の涙を浮かべて突如として泣き出した。

 

「……だというのに、だというのにぃっ」

 

わなわなと震えたかと思うと途端に先程まで使っていた鏡を頭突きで割り砕いた。

どうやらその時に額も切れてしまったらしい。

だらだらと真っ赤な血が額から顔にかけて流れ出て最早ホラーである。

 

「何で妾には年の近い求婚者の一人も来ない!?更にはフンババの嫁だと!?」

 

うわあああああ!!と言いながら寝台にダイブする。

そう、何を隠そう彼女は未だに誰とも結婚どころか男女の付き合いすらしたことが無かった。

……現代で言う喪女とかいう類の、女神であった。おかげでイシュタル辺りには行き遅れやらなんやらと馬鹿にされまくっている。

とは言ってもこれにはちゃんと……しているかどうかは定かではないが理由があるのだ。

 

「どうした?我が妹、そんなに我のセッティングした結婚が嬉しかったか?フハハハハハっ」

 

マトゥルが寝台の掛布を握りしめて憤怒の形相を浮かべていると背後から聞きなれた声が降ってくる。

そう、何を隠そうこの男、自らの兄であるギルガメッシュがその要因であった。

皆、ギルガメシュ叙事詩を知っているだろうか?え?知らない?まあ、あれだ。要はギルガメッシュの生涯の彫ってある石板の事だよ。

そして、そんな石板の文の中でギルガメッシュは大体暴君として描かれている。

大体は民衆の夫婦関係に亀裂入れるような法を敷いたり、税率上げて市民を困窮させたりとか……いろいろ、それこそやらかしたことだけでテレビ出れそうな感じの人物であった。

そんな感じの兄を持った妹、自ずとすり寄ってくるのは王に取り入りたいおっさん連中くらいであり、男女ともに何かあってはと姿を隠したのである。

兄の風評被害で孤立してしまった可哀そうな子なのであった。

更に肝心の兄はというと散々好き勝手しておいて見目麗しい友人を得たのだから、恋人どころか友人すらいない自分がますます惨めになるようでマトゥルは内心かなり複雑だった。

そして此処にきてのフンババ嫁騒動である。

確かにいつまでたっても独り身の自分を(良くも悪くも)気にかけていたのは知っていたがまさか同性と結婚させられるとは思ってもみなかった。

此処で、マトゥル女神の堪忍袋の緒は切れた。

 

兄の首を強打して昏倒させた後、やっと気づいた額から流れる血を丁度いいと言わんばかりに指につけて、掛布に殴り書きする。

 

私の伴侶は私が決める

自由恋愛の旅に出るので探さないでください

 

P.S

貴方の女性の口説き方は同じ女としてちょっと無いと思う

 

こうして、彼女は天翔ける天船……というか戦車に乗って国を出て行った。

 

 

 

***

 

 

ところ変わって下エジプトのどこか。

昼食のバスケットを片手に密林の中を進むとそこは……工事現場でした。

にゃあという鳴き声とともに足元にすり寄る暖かな何かを感じて下を向くと可愛らしい子猫がいた。

 

「あら、今日は貴方なんですね。ルシエラ。という事は誰か新入りでも入ったんですか?」

 

《はい。お母様。昨日の夕刻より一個小隊が進軍してきましたので撃破後こちらに運搬して……現在回復経過を監視しています。》

 

お行儀よくちょこんと座っていた猫が頭を垂れる。

この猫の名をルシエラ。彼女は兄弟の中でも特に嗅覚が過敏で動きも早い。

故に彼女が主にしているのは捕虜の監視であり、違反者への懲罰もある程度は許されている。

因みに彼女の好物はイシスネフェルトお手製のカリカリである。

さらに言えば彼女の兄も、彼女の双子の妹もお手製カリカリ派である。

肉の方が好きなようだが最近は良くも悪くも人間に近くなってきたのか肉をおかずにカリカリを主食として食べるようになった。せめて人間と同じ主食にしてほしい。

そう思いながらバスケットの中からカリカリを数粒取り出して口元に持っていくと、目を輝かせて夢中で食べる猫に相棒の姿を見た。

 

他愛のない話を続けながら進んでいくと行く先々で挨拶やら会釈やらを返され、ふとした疑問がイシスネフェルトの口をついて出た。

 

「そう言えば、此処で作業をしているのは皆元は向かってきた者たちだったのですよね?」

「はい、お母様。その通りです。それ以外の者は私と、妹と、兄と、お父様しかいません。」

「……の割には、何か……すごく従順ですね。」

「きっとお父様と兄の人望ですね。」

 

うふふといつの間にか人型になって笑うルシエラの言葉にイシスネフェルトは内心で「いや、それは絶対ない。」と断言する。あの台風みたいな奴についてくるものはいたとしても振り回されて尚ついてこれるものなど早々いないことを知っているからだ。

それこそ長兄のイースレイくらいだろう。

いったいどうやって統率を取っているのだろうかと首を傾げると、丁度良く件の人物がこちらへと駆け寄ってきた。

さっきのルシエラと同じようにその瞳を輝かせて。

 

「今日はサンドイッチと、お茶と、フルーツ寒天です。」

 

言ってその場にレジャーシート……というにはいささか原始的な植物の葉を編んで作ったゴザの様なものを敷こうすると止められて、別な場所へと案内される。

再度ゴザを敷いてその場にいなかった妹の方……ラファエラとイースレイが来たことを確認してそれぞれ座り、家族の団欒が始まった。もちろん子供たちの方には人間の食事とともにカリカリも用意されている。

 

「そう言えばさっきルシエラと話してたんですが、なんでここの捕虜たちはこんなにも従順なんですか?もう少し反乱とか起きるかとばかり思っていたんですが。」

 

訝し気なイシスネフェルトの問いにウェウェコヨトルとイースレイはきょとんとした後顔を見合わせて笑いあう。

と、イースレイが立ち上がり、おもむろに近くの地面に何やら図のようなものを書いていく。

暫くしてパンパンと手の汚れを払ったイースレイがにっこりと笑った。

 

「実はこのような制度を設けたらみるみる態度が改善しまして、現状叛逆者は0です。」

 

言われて図を見てみると端の方には草と書かれ、もう一端には特と書かれていた。

その間にはそれぞれ枠とともに1,2,3,4,5と数字が振られており、肝心のタイトルらしきところには今日の献立とハートマーク付きでデカデカと書かれている。

 

「……?」

「要はなんだ、勤務態度が直に生活に響くようにしてみたという訳だな。」

 

フハハハハとウェウェコヨトルが笑う。

じゃあなんだこの草、特というのは……。

 

「1が一番低く食事はその辺の自生している草。

2が我が娘ルシエラの手料理(暗黒物質(ダークマター)

3が我が息子イースレイの手料理(見た目はいいが食べた後腹を下す)

4が我が娘ラファエラの手料理(普通の料理)

5が小生の料理(なんか美味い料理)……となっている。

努力すればするほど待遇が良くなるぞ!!」

「いやなんかもうまともなの4,5しかないんですけど。道が険しすぎるんですけど。」

「大丈夫ですお母様!反抗的なのも最初の二週間くらいです。後は何かを手放したかのように労働に力を入れ始めますから!!」

「……あの、ちなみにこれで懲りなかった人はいったい……。」

 

そうイシスネフェルトが問うのとほぼ同時にバサッと近くの材木の覆いが風で一瞬捲れる。

そこにあったのは、否。居たのは材木なんかではなく目に精気の無い男性だった。

何をするでもなく、ただじっと水の張られたバケツを覗いている。

その唇は絶えずなにかを呟いていた。

 

「え......。」

 

ここで「おっと」と言ったウェウェコヨトルの手でその覆いは元に戻され、イースレイの手によって完全に縫い合わせられてしまった。

 

「ちょっさっき何か見えましたよ!?」

「さあ?何か見えたか?イースレイ」

「いえ、俺は何も」

 

可笑しい昔はもっと常識的だったはずなのに......

時間の流れは残酷だった。

そしてそんな和やかな雰囲気をぶち壊す悲鳴が、空から降ってきた(・・・・・)

 

「あああぁぁあああっ」

 

その悲鳴の発生源がそのまま、現在建設中だった神殿?のようなものに突っ込んでいく。

派手な音と共に上部が崩壊した。

 



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FGO
召喚したら犬が応じた件


fgoのはじまりはたぶんこんなん。


「おーい。そろそろレイシフトはじまるぞー。手元の菓子とか隠せよー。」

「うーい」

「あーとうとうかー」

 

そんな緩い掛け声とともにガサガサと比較的下っ端のカルデア職員たちが身支度やら自身の担当場所を粗方綺麗にしていく。もちろん飲みかけの栄養ドリンクやらカロリーメイトやらもだ。

 

「血統書付きの魔術師連中は大体潔癖だもんね」

「あれ?おかしいな。俺たちも魔術師なんだけど?」

「こここれただけでもめっけもんでしょ。」

 

そんなことを愚痴りながら始まったレイシフト。

そこで仕組まれた爆発が起こる。

そしてそこにはやはりというか各種機材も無事ではない。

そんな中でサーヴァント召喚システムフェイトを担当していた機材の一部。

そのテーブルには何故か栄養ドリンクの雫が滴り落ちていた。

 

バチチッと混乱を極める管制室に不自然な電子音が響いた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「ウ゛うぅぅっ」

「あ、こら!そっちじゃないぞ!!」

 

言ってぐいっと立花は即席のリードを目一杯引っ張る。

「キャンっ」と言ってそれに繋がれた黒い犬が引き摺られるように立花の元に寄ってきた。

 

「ふう、これじゃあ合流どころじゃないよ……。」

 

はあっと立花が溜息を吐く。

先程からこのやり取りを繰り返すこと既に10回を超えており、恐らくまだ3メートルも進めていないのではないかと思うと気が重くなった。

とそこにじゃりっと自分ではない誰かの靴が地面を踏みしめる音が聞こえる。

 

「先輩!所長ー先輩がいらっしゃいましたー!」

 

そう言って後方へと手を振るマシュにやっと立花は一息ついた心地になったのだった。

 

 

スタスタと隣を歩く所長が「ところで……。」と立花の隣を渋々と言った態で歩く犬を見た。

 

「その犬。サーヴァントよね。」

 

こころなし、その顔は引き攣っていた。

冷や汗も尋常ではない。

 

「え?サーヴァント?違いますよーきっと召喚陣に入っちゃったバカい、もが!?」

 

最後まで言い切る前に所長に口を塞がれた立花は忙しなく両腕をバタつかせるが、それでも所長はその手を離すことなく立花に耳打ちする。

 

「いい、藤丸立花。貴方がサーヴァントにどんなイメージを抱いているかはこの際聞かないわ。けど、恐らくあの犬は並大抵のサーヴァントじゃない。気付かなかったの?今まで私たちの周りを徘徊していた敵たちがいなくなったのを、どうして(・・・・)こんなにうろついているのに(・・・・・・・・・・・・・)一切攻撃されないのかを(・・・・・・・・・・・)。」

 

「敵?そんなの……。」

 

「ええ、そうね。貴方はあれと一緒だったんだもの。出会ってすらいないと、そう思うわよね。けど、私とマシュは違う。少なくとも私は、あの子がいなければとっくにスケルトンたちの餌食だったわよ。悔しいことにね。」

 

ギリッと所長が指を噛んだ。

 

「というかなんでサーヴァントに首輪なんてつけてるの!?そもそもサーヴァントが大人しく繋がれるような紐なんてどこで……。」

 

「え、や、だって一応犬ですし……あ、紐の方はばあちゃんが昔エジプトの知り合いから貰ったらしい帯紐です。なんでも王家の誰かが使ってた装身具の一部とか……まあ、眉唾物なんですけどね。」

 

出会い頭に牙剥かれてほんと怖かったんですよ……とその時を思い出して少し半泣きになった立花に今度はマシュがそれとなく唇に人差し指を宛てて静かになるよう促す。

 

「■■■■■!」

 

まるでその声量だけで木でも薙ぎ倒せるんじゃないかと思わせるほどの轟音が辺りに響き渡った。

それとともに立花たちより遥かに重い何かがどしんどしんと地面を踏んでゆく。

丁度立花たちが瓦礫の陰で息をひそめているそのすぐ横を冬木で行われた聖杯戦争のバーサーカー……ヘラクレスが通り過ぎていった。

 

確かに過ぎ去ったことを確認した一同が息を吐く。

 

「……さっきのみたいな奴が、あと6体も……。」

 

「どうやら私の認識も甘かったみたい。立花、サーヴァントをせめてもう一体、いいえ2体召喚するわよ。」

 

ちらりと犬の方を見遣って所長が言った。

 

 

***

 

 

 

「ワンワンワンっ!!」

 

ウウウウウっと唸る犬を召喚陣の内側にセット(この言い方でいいのかは不明だが)してみんなが一斉に頷くと立花はそのサークルの中に呼び符を投げ入れた。

サークルは虹色の光に包まれ、そうして光が止む……ことはなく、尚も回転し続けている。

あれ?と思う一同を置いてきぼりにして、乱暴に何かが吐き出された。

 

「「!?」」

 

ドシャっとその場に倒れ込んだのは見目麗しい10代後半くらいの少女二人だった。

 

「っ……随分と乱暴な召喚で……いいえ、まあいいでしょう。僕はイシスネフェルト。クラスはアルターエゴ。ええと、此処に黒髪金眼の、なんか妙に犬っぽい男は来ていませんか?」

 

「いったたたた……酷い目に遭いました。あ、お見苦しいところをお見せして申し訳ありません。私はラムセス二世の子が一人メルトアトゥムと申します。クラスはルーラー。何やら懐かしい気配がするのですが……?」

 

少女がそれぞれ室内を見渡していると続いて「ギャンッ」という鳴き声とともに回転の中から吐き出されてきた毛玉が一匹。それをキャッチした立花を見て少女たちは目を見開いて固まった。

 

「首輪に、黒焦げ……いったい誰がこんなひどいこと……。」

 

黒髪のまるで陽だまりの様な少女が瞳に涙を溜めて言う。

 

「……仇は取ります。だから、それまでゆっくり休んでください。」

 

もう一方の怜悧な美貌の少女は言葉は少々硬質ながらもその手で優しく毛玉の毛並みを梳く。

そんな二人の様子に冷や汗を流す立花。マシュとオルガマリーはどうすることもできず見守るのみだ。

 

「「さあ、行きましょう。マスター。」」

 

そういった二人の目は、恐ろしいほど澄んでいた。

 

 

 




犬の正体は……もうお分かりですよね?


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その犬、特例につき

ジュワリ

 

何かの焼ける音がする。

次いで何か有機物の焼ける匂い……。

 

途端にまだ夢見心地な脳裏に在りし日の食卓が思い出された。

あの日は確かネフェルティティがステーキを出してくれたんだったか……。

でも個人的にはあの時一緒に出た煮しめの方が美味しかったなあ……いやステーキも美味しかったんだけど。

ああ、ネフェルティティ、ネフェルティティ……。

叶う事ならもう一度ネフェルティティの料理が食べたい。

 

そんなことを思考していると鈍くなっていた痛覚が戻ってきたのかシャレにならない痛みが背面を襲う。

思わず悲鳴を上げて力を込めて形態を変容させた。

 

「っ!?!!!?……たかだが術式の末端の分際で……おのれぇっ」

 

 

 

***

 

 

 

「ちょっ!え!?これ……。」

 

鬼気迫る勢いで管制室で指示を出していたロマニ・アーキマンが席を立ちあがり、計器の画面を食い入るように見つめる。

と、他への状況確認作業を取るよりも先にレイシフト先への連絡装置へと接続し直した。

 

「も、もしもし!立香君!マシュ!聞こえるかい!?」

 

機械越しとは思えないほどクリアな音声で「は、はい。」と向こう側から慌てたような返答があった。

 

「さっきから映像がショートしていてそっちの様子はよくわからないんだが、その、計器の方にちょっとおかしな数値が記録されているんだけど……そっちで何かこう……あまり考えたくはないが聖杯みたいなものがあったりとかしないかな?」

 

『聖杯……ですか。すみません。それは見つかりませんでした。ですが、あの、先程まで一緒に行動していたフォウさんの様な黒い……あれは犬なのでしょうか、狐なのでしょうか何と言ったらいいのか私にはわかりませんが、その方が所長とともにレフ教授の手によってカルデアスに接触しまして……。』

 

「か、カルデアスに接触!?そ、それで……。」

 

『は、はい。接触とほぼ同時に何やらサーヴァント召喚時と同じ輝きが広がったかと思うとその姿は褐色肌の少年に変わっていたのです。《ドガッバギッ「グっこ、こんなこぎゃぶっ!?」ベギャッ》……。』

 

偶然なのか、はたまたは故意になのかマシュが報告すると同時に回復した映像では丁度大変見目麗しい青年の手で事の元凶(今のところ)とされる男、レフ・ライノールが吹っ飛ばされるところであった。

そうして計器の様子を見て「ああ……。」と力なく目元を覆って天を仰いだ格好になったロマニは深呼吸をして、精一杯落ち着きを取り戻してから、画面へと目を向ける。

 

「……落ち着いて聞いてくれ。マシュ、立香君。今君たちの目の前にいる彼。動物の様な外見に擬態していた彼はおそらくサーヴァントでも神霊でもない。いったいどんな理屈でそこに在るのかはわからないけれど、彼は正真正銘現代を生きる神だ。」

 

驚きの声は上がらなかった。

代わりに管制室の何処か複数個所からはボールペンの落ちる音が聞こえ、画面を挟んだ向こう側ではうんうんと何処か嬉しそうに頷く神の化身と思しきサーヴァント2名と曖昧な表情でその戦闘へと目を向ける2人の姿があった。

 

 

***

 

 

「フハハハハッ。そらそらそらぁっどうした?まだ終わりではあるまい?」

 

「ぎゃっぎっいぎゃああっ」

一方特異点Fの方では先程の犬だと思われる青年とレフ教授()との戦闘が繰り広げられていた。

……というか先程から青年の拳が人体の急所とも言うべき個所にクリーンヒットしてばかり、レフ教授自体はえずいて吐き、悲鳴を上げてばかり。

ずっと青年のターンである。最早どちらが悪役なのかわからない。

この繰り返しの行為に飽きてきたのか、青年は止めと言わんばかりにレフ教授をカルデアスのところまで引き摺り飛躍。後、レフ教授の髪を乱暴につかみ上げると……その側頭部をカルデアスに押し付けた。

 

「ばあああああああっ!?」

 

悲鳴とともに何やら肉の焼けるいい匂いと煙が上がる。

立香とマシュは思わず顔を逸らした。

ある程度焼けたことを確認した青年はそのままレフ教授から手を放して落下させた後、倒れ切るより先に粗末になった髪を掴んでニコニコと美しく微笑みながら言った。

 

「それで?何か言い残すことはあるか?」

「が、あ゛……き、貴様なぞおべええっ」

 

どうやら答えが気にくわなかったらしくその辺にあった泥水……?なのだろうかいろいろと混ぜっているのか緑がかったヘドロの様な様相の水溜まりに思い切りその頭を叩きつける。ある程度沈めてバタつく様を鑑賞したのち、まるで見計らったかのように勢いがなくなってきたタイミングで再度その頭を持ち上げた。

 

「それで?言い残すことはあるか?」

「ひゅー……わ、私が誰かわk」

 

また、水溜まりに押し込まれた。

 

そして、繰り返すこと7回。

 

「それで、言い残すことはあるか?」

「ず、ずびばぜんでじだ……ゴホッ」

「うむ、解ればよろしい。顔も見飽きた故帰っていいぞ。」

 

爽快なまでに言い切ってズルズルとマンホールらしきところにまで教授を引き摺って行くとおもむろに手を宙で振る。そうするとひとりでに蓋が開いて、下水道が開いた。

「ちょっま!?」などと教授は抗議の声を上げていたが、これも青年が丁寧に「大丈夫だ。今小生は機嫌がいい。故に傷は回復させておく。」「ん?何故そこなのか?ああ、転移門をあの下水の3Kmほど下流に設置したからだが……意味?特にないな。ハハッ」そんなことをまるで談笑するかのように笑いながら話、とうとうマンホールへとたどり着く。

 

「さてではどこぞの言葉通りお前は小生にしたことを、小生はお前を罰したことを水に流そうではないか。そうすればお前もどこぞの魔王になった高校生の如くどこぞへとたどり着くかもしれんぞ?」

 

地表が熱せられた故か匂いが上がってきているらしく、はっきり言って臭い。

そこに乱暴に教授を投げ入れた。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ」という悲痛な断末魔に「達者でなあーフハハハハっ」という軽快な高笑いが響く。と今度こそ蓋は閉じてしまった。

 

余りの所業に呆然としたマスターはぽつりとつぶやいた。

 

「神様ってか、ヤーさん…?」

 

そんなマスターの袖を引っ張ってデミサーヴァントの少女が更に一言。

 

「というか、あのような方を、知らなかったとはいえフェイトに掛けてしまった私たちはいったいどうなるのでしょうか……。」

 

その言葉に今まで会話に入ってこなかった所長とマスターは「あ……。」と顔を見合わせて、今度こそ、三人とも半泣きになった。

と、カタカタと震えて俯く彼らの前にあの青年が降り立つ。

何をされるのかとまるで枝肉にされる牛にでもなったかのような心地で次の行動を待った。

ポンと立香の頭に暖かな手が置かれた。

 

「何をしょげている。少しは喜ばんか。」

「へ?」

「まあ、貴様にされたことは腹が立つことばかりであった。特に小生の妻の遺品を持っていたことはな。これは返してもらおう」

 

言って、リードと首輪代わりの紐を取られる。

 

「だが、小生の妻と小生を引き合わせたことで帳消しにしてやる。よかったな。命を永らえたぞ、マスター?」

「へ?あ、え?」

 

ではなと言いたいことだけを言って手を振りながら他のサーヴァントのところにまたあの犬の姿になって寄っていく姿を呆然と見送る。

ガクガクと膝が笑って、座り込む。

 

「は、はは。とりあえず、命拾い、ね……はは。」

 

駆け寄ってくる後輩と所長を前に目を閉じた。

 




こうしてウェウェさんは鯖()としてカルデアにいつくのでしたー。

次回はそんなこんなでフレンド関係の噺を準備してます。

あ、もちろん、エジプトも続けるよ。


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サーヴァントステータス(犬)

大事なものを忘れていました。


ウェウェコヨトル

 

大元はしがない転生者だった、とあるファラオの双子の兄弟にして影武者。

転生前は太陽王に似た顔面やら体格やらを生かして友人の手伝いとしてコスプレしつつコミケでソリッドブックを販売したりしていた。型月はそん時の名残くらいでしか知らない。

産まれた時から何故かウェウェコヨトルとしての神核を保持しているが……。

そのこともあってか神官たちからよくわからない危険物として扱われており生まれて間もなく幽閉された。そのまま地下牢の化け物として収監されていたが姪の一件から脱走。いろいろあって下エジプトを治めることになった。

現在はいろいろな世界を渡り歩いて暇潰しをしているが、肝心の南米方面には同一視されているショロトルの件もあってか行く気は無い。

因みにエジプトでの誕生名はなく、詰まる所本名というものが存在しない。

姿は兄弟瓜二つだが髪が滅茶苦茶長い。野性味と異界の閃きをたたえた瞳が印象的な美人。

再臨していくとコヨーテ→子供→大人と変化していく。お気に入りはコヨーテ。

ウェウェコヨトル自体は伝承保菌だが、彼の特異な魂、肉体、精神に溶け合った結果彼で打ち止めとなってしまった。

最強ではないが、殺されるという事がまずない。マーリン並みにしぶとい。

器楽は全般的に上手い。ダンスも得意だが戦闘も踊りとして捉えている節があり積極的。

品行方正より奇形を愛しておりそれは内外問わない。

凜と士郎なら聖遺物使って十全の状況にでもしない限り凜の呼びかけには答えないが比較的安易に士郎の呼びかけには応えてくれる。

愛妻家で結構一途。多分このあたり人としての血縁に似たのかもしれない。

本人の好みのタイプは背が高くて大人びた女性。奇形であれば尚よし。

肉体の兄が万人の王であれば彼は日陰者の王と例えられるであろう存在。

異常も異端も、そう言った唯一性のあるモノが大好き。

イシスネフェルトが懐かしの日本語で土下座紛いのポージングで頼んでくるのを見て丁度いいからと料理番を命じたがいいもの拾った感が半端ない。

好物はイシスネフェルトの料理。苦手なものはケツァルコアトル。

後に正式にイシスネフェルトを第一妃に迎えることになる。

その他に兄の子であるメルトアトゥム、バビロニアの女神マトゥルを妻に持つ。

 

 

サーヴァントステータス

 

真名:ウェウェコヨトル

クラス:アルターエゴ

属性:混沌/悪(天)

身長:179cm

体重:65kg

※尚、体重身長の数値は青年体のものである。

 

筋力:B+耐久:C敏捷:A魔力:EX幸運:A+宝具:EX

 

クラス別スキル

領域外の生命:B+

自己改造:EX

神性:A+

 

固有スキル

楽神の舞踏EX

音楽とダンスの神としての在り方がスキルに昇華された物。

彼は一見華々しいダンサーの様に踊りながらも徹底した合理主義者であり隙も無駄も一切なく、的確に相手の致命傷を取る。そもそも彼から与えられるそれは精神であれ肉体であれ何であれ、一撃一撃が致命傷である。

本来は固有スキル(アクティブスキル)ではなくクラススキル(パッシブスキル)にあたる。が、本人のそんな土台からして違い過ぎるなんてフェアじゃない。という考えからかなり希釈した解釈にされている。

効果は自身を含む味方のカードにクイック効果付与、自身のクイック威力大幅アップ。自動でスターを10獲得。

 

黒き森の囁きB+

トリックスターとしての彼の力。カリスマやらの複合スキル。

本来は南米の神由来ではなくもっと別の何かがトリックスターとしての在り方に混入した末のスキル。

1%の希望に縋って奮い立つ人間。そんな姿を見るのが彼の愉しみ……なのかもしれない。

敵からのターゲット集中効果付与、3ターン回避効果付与。

3ターンの間味方全体の攻撃力上昇

 

無為式

黄金の杯とは似て非なる「全てをなかったことにする」力。

本来は狂気と争乱を呼び込み、代わりに豊穣を約束するものだが対象を指名することでそのあたりを緩和させ、スキルをこの形に落とし込み変質させている。

南米の神でありながらエジプトの王弟であり■■=■■■■の■■であるからこその彼の権限(権能)、その一部。

効果は任意の対象の状態を(HP及びスキルターンのみ)戦闘開始時の状態に戻すというもの。

 

 

セリフ

召喚

「わんわん、わん!」

 

レベルアップ

「わんわん!キューン。」 

第一再臨後

「うむ、よいぞ。だだその……目立たない程度で頼む。」 

第三再臨後

「ん?ああ、もうよい。もう隠れることは諦めた。ハハッ」

 

霊気再臨1

「さて、改めて、小生はウェウェコヨトル。まあ、傍迷惑ぶりはどこぞの金星勢ほどではない故安心するがいい。恐らく、な。」

霊気再臨2

「召し変え?……この姿は特別故、あまり変わりたくはないものだな……何?大概次は変わる?そうか……。」

霊気再臨3

「ふむ……どのような姿になるかと思えば、まあ良いか。何か障るモノなどないか?マスターよ。」

霊気再臨4

「いやはや、まさかここまで小生に手を尽くそうとは思わなかった。よいぞ、とく見ることを許す……ああ、目は見るなよ、気が触れてしまう故。見るならもう暫し待て。」

 

バトル開始1

「うむ、よいぞ。その風体で我が前に立つことを許そう。」

バトル開始2

「さあ、祭りの時間だ。精々踊り狂うがいい。フフ……フハハハハっ!」

スキル1

「我こそは黒き……いや、止めて置こう」

スキル2

「こ、この高鳴りは!!」

コマンドカード1

「これにするか」

コマンドカード2

「ならばこれだな」

コマンドカード3

「ふん、まあいいだろう」

宝具カード

「速やかに終わそう。具体的には、そう。目を抉られる前に。」

アタック1

「そうらっ!!」

アタック2

「ふはははははははっ」

アタック3

「惰弱惰弱ッ!」

エクストラアタック

「ハハッ!楽しいなあ!!」

宝具

「さあ、幕引きだ。死にたくないものは目を閉じるがいい……顕現せよ大いなる豊穣よ。 『千の雄羊をつれた雄羊(クタート・アクアディンゲン)』!」

ダメージ1

「……ふむ、これが痛み、か?」

ダメージ2

「ほほう!」

戦闘不能1

「これが……敗北。か……。」

戦闘不能2

「ああ、これで、よいのかもしれんな……。」

勝利1

「そら、立つがいい。まだまだこんなものでは……は?終わり?」

勝利2

「これからだというに、存外脆いのだな。」

 

会話1

「そこにいるのは貴様だけか?他には誰もいないな?具体的にはルチャ好きのフットワークの軽い女神とか……。」

会話2

「マスターには兄弟などは……いや、いい。なにか思い出したくないものを思い出しそうだ。」

会話3

「なんだ?動物姿の方が良かったか?」

会話4

「ふ、む……いや、何でもない。なんでもないが……ここまで行くと最早呪いの域としか……いや、だが……。」

(オジマンディアス、ケツァルコアトル 所属)

会話5

「そうか、奴も来たのか……うむ、やはり奴は笑顔で無くてはな。マスター、くれぐれもあやつを頼む。む?ラーメんんっオジマンディアスも同じことを?そうか……。」

(メルトアトゥム 所属)

会話6

「この気配はっ!!す、少し待っていろマスターっ小生は少し用が、ネフェルティティいいいっ!!」

(イシスネフェルト所属)

会話7

「ぜえ……はあ……ひ、酷い目に遭った……。マスター、匿ってくれて感謝する。」

(マトゥル 所属)

好きなこと

「やはり食事は基盤となるモノ故、大切よな。時に貴様、ネフェル……イシスネフェルトの料理を食べたことはあるか(略」

嫌いなこと

「特にはないが……敢えて言うなら突拍子のない行動をとる年長者、か?いきなり目つぶしされて生贄にされたり、どう考えても怪しい戦いに喜び勇んで行った結果無茶ぶりな応援要請とか……はあ……。」

聖杯について

「別に何とも。小生にとってそれはただの器以外の何物でもない故な。……なんだ、欲しいのか?ふむ……。」

絆Lv.1

「小生がファラオか、だと?ふ、ふははははははっ何を言うかと思えば……残念ながら全くもってはずれだ!……はずれ、だ……?」

絆Lv.2

「たまにはこうして人間の姿でいろ?そうしたいのはやまやまなのだが……ふむ、考えておこう。」

絆Lv.3

「いいか、太陽系列の妙にフットワークの軽い女神とか、同じく太陽系列のテンションがちょっとアレな見た目小生と同じ男が現れても小生の事は内密にせよ。いいな?」

絆Lv.4

「ふむ…てっきり安全地帯は奴の傍のみだと思っていたのだが、案外貴様の隣も悪くはないものだな。少々心もとないが……。」

絆Lv.5

「マスター、マスター。この間の礼だ……ほう、酒はのめんと……そうか、なら……と、特別に肉球触るか?」

イベント開催中

「ほほう。イベントらしい。行くぞ、マスター!!……一応聞こう。その手に持っているリードと首輪はなんだ?」

誕生日

「誕生日……そうか、貴様が生まれた日か……何か欲しいものはあるか?一応作れぬものはないとだけ言っておこう。」

 



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うちのサーヴァントをいじめないでください

たぶんこんな話もあると思うんだよね……。


ブチッ 「ギャンっ」

 

痛みとともに帰還の光に包まれる。涙目になって振り返るとすごくいい笑顔の余所のマスターと、少し申し訳なさそうなサーヴァントたち。

いや君達ね。毛が欲しいなら欲しいって言いなよ。ちゃんとしたのあげるから!!

そんな思考を最後に拠点にしているカルデアに送還された。

 

酷い目に遭った、疲れた……。

そんなことを考えながらふらつきつつ自室を目指していると偶然ネフェルティティと遭遇する。

 

「お帰りなさい。ご飯もお湯も準備済みですが……。」

 

そんなふうに微笑むネフェルティティに安心したのか自然と全身の力が抜けていく。

 

「きゅうぅ……。」

 

慌てた様に駆け寄ってくるネフェルティティの姿を最後に小生は意識を手放した。

 

 

「ちょっこんなところで倒れないでください!というかいったい何が!?」

 

そんなことを言いながらウェウェコヨトルを抱えようとするイシスネフェルト。

しかし彼女の夫は現在動物型とは言え腐ってもコヨーテ。やはりというか……重い。

どう持とうかと試行錯誤してわき腹あたりに手を添えた時にそれを発見した。

 

スス……ス……ズボッ

 

「え……?」

 

思わず腹の方を見る。

 

「こ、これは!?」

 

 

 

***

 

 

 

【月夜ばかりと】うちの旦那をいじめないでください【思うなよ】

 

1名無しの英霊

スレッド……立ちました?

 

2名無しの英霊

大丈夫。立ってます。

 

3名無しの英霊

大丈夫です。

 

4拳系

ありがとうございます。

確かコテハン?とやらとスペックを書かなきゃなんですよね?

コテハンはこれで

 

5名無しの英霊

拳系……この丁寧な感じ……まさか。

 

6名無しの英霊

しっ!!わかっても言わない!!

 

7拳系

お待たせしました。

 

拳系

女。容姿は十代後半くらいかと……。

とある方の第三妃。

色々あって余所のカルデアの英霊とマスターへの不満が溜まっています。

うふふふふふふふふ、どうしてくれましょう。

 

お姉様

お師匠様、先生とも……。

生前の私の家庭教師で我が夫の第一妃にあたる方です。

このスレッドを立てる原因を発見された方でもあります。

現在何らかの術式を弄っています。

 

お兄様

私たちの旦那様です。

現在の見た目は黒いコヨーテですが……。

私やマスターのために出稼ぎに行ってくれています。

この方が今回の被害者です。

許すまじ、余所の英霊とマスター……。

 

8名無しの英霊

ち、違ったー!!

 

9名無しの英霊

盛大に滑った

 

10拳系

事は3日ほど前に遡ります……。

あれはそう、お兄様がいつもの様に出稼ぎに行ってくださったとき。

その日のお迎え係だったお姉様がいきなりお倒れになったお兄様を抱え上げた時です。

何やら不自然なまでに沈み込む手に違和感を感じた姉さまはそのままその部位を捲ってみました。

 

すると……

何という事でしょう。そこには点在するように4つのパゲが……。

私もお姉様もこんな扱いを受けていたのかと涙を溢しました。

此処にはいないマトゥル姉さまがいればきっと怒り狂って突撃していたことでしょう。

いくら私たちでもこのような所業許しておけません。

……という事でスレッドを立てるに至ります。

 

11名無しの英霊

お、おう……。

 

所変わってマスター掲示板

104名無しのぐだ

お願いです。うちのサーヴァントをいじめないでください。

 

105名無しのぐだ

ちょ!?いきなりどうした

 

106名無しのぐだ

鯖が可哀そうって……よくいる異常なまでの愛護精神からとかじゃないよな……腐っても俺たちだし……。

 

107帯

コテはこれで。突然すいません。

でも誰だかわかりませんが、妙な噂が流行ったせいでうちのカルデア内でストライキが起きてるんです。

お願いですから妙な噂を流すの止めてください!!

 

108名無しのぐだ

妙な噂?

 

109名無しのぐだ

2時教とか?アプリインスト教とか?

 

110名無しのぐだ

でも別段迷惑かけてるわけじゃ……。

 

111帯

URL張ります。

【幸運の黒いコヨーテ!これで私は金枠だした!!】

 

112名無しのぐだ

あーそう言えばそんなんあったわ

 

113名無しのぐだ

そもそもこの数多のマスターの中からそんなレアなサーヴァント探し出す方が無理って話……てまさか

 

114名無しのぐだ

ああ、あれね。

オジマンディアスが何故かアルターエゴ枠でいたから試しにフレで使ってきたのがコヨーテだった。

から始まるやつ。でもそんな奴何処にもいなかったから詐欺扱いされてたやつでしょ?

そいつの毛一本につき一体金枠かピッグアップ鯖が確定するとか

 

115名無しのぐだ

てっきり釣りかと……。

 

116帯

はい。そのコヨーテ()のマスターです。

あの……できるだけこのスレのことを拡散してください。

そのコヨーテうちの鯖の主力部隊で……すごく頼もしいんでフレ枠入れてたんですけど

この度奥さんたちから抗議の声がありまして……。

もうこの子の毛を毟ったりしないでほしいんです。

肉体は帰還したら治りますが精神的なものは治らないんです。

この子もうハゲが四つも……

 

117名無しのぐだ

ハゲ……

 

118名無しのぐだ

そりゃ深刻だ……

 

 

***

 

 

 

此処は某カルデア。

 

「さて、では今日も今日とて周回行きましょう!!」

 

そう言ってそこのマスターはフレンドのサーヴァントを指定する。

そう、例の真名の隠されたオジマンディアス絵のコヨーテのところを。

その光景を見ていると何名か……主にそのコヨーテと何度か戦場を共にしたサーヴァントが気まずそうにそれをちらちら見る。

このマスターはわかっているのだろうか。自分が毎度の様に頼っている存在が明らかに自分達英霊とは異なる強大な何かだという事に。実は何度もその首筋に刃を滑らせられる様な行いを見過ごされているという事実に。

それでも何も言わず何もせず、むしろお前たち大変だなと言わんばかりに気を使ってくれるコヨーテには感謝しっぱなしである。

取り敢えずこの破天荒マスターをどうにかしてくれ。

 

そんなことを思いながら召喚陣を見ると、立っていたのは怜悧な美貌の少女と、いつものコヨーテであった。

少女はその能面の様に無表情な顔でぺこりと一礼する。その表情は笑顔で挨拶をしに来たマスターを前にしても変わることはなかった。

 

戦闘に関してはすぐに終わった。

幾分か変質してはいたもののコヨーテのスキルに少女のスキルが合わさったのかクイック、アーツ両方の強化が出来割と頼もしい戦力ではあった。

そうして戦闘が終了した後に何故か杖を振り上げた少女がポツリと呟く。

 

「いつも夫がお世話になっています。とてもよくして頂いている様ですから……私からも何かお返しをさせていただきますね。」

 

言って思い切り杖を地面にたたきつける。

瞬間股のあたりが開放的になった。

顔を真っ赤にする一団に向かってクルリと振り返り更に一言。

 

「そうそう。今後も前回までの様な事が続くようでしたら今後の付き合いは控えさせていただくとマスターが申しておられました。では」

 

そう言って送還されていく。

 

 

この数日後。緊張しながらコヨーテを選んできたのがオジマンディアスそっくりの長髪イケメンだったことにマスターのメンタルがブレイクした。

 




因みにこの組み合わせは日替わりでマトゥルさんが入ったら加わると思う。
で、落ち着いたらまた元に戻すと。

更に言えば父子で一緒になっても某カルデアの人だったら「お兄様に意地悪するところのお父様は嫌いです。」みたいなことを言われてショックを受けたオジマンがぐだに抗議することがあったりなかったり……。


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うちのカルデアなんかおかしくね?

実際良くああもうまく運用出来てるってすごくね?
初期カルデア。だって、ほら管制室爆破されてるってほぼほぼ制御不能ってことじゃ(ry


ピーンポーンパーンポーン

『召喚システムフェイトよりサーヴァント反応を感知しました。マスター藤丸立花、至急召喚ルームに向かってください。繰り返します。―――』

 

食堂に鳴り響く軽快なチャイムと平静を保った音声に向かい合うように座ってお茶を啜っていた立花とマシュはしばしの沈黙の後、深いため息を吐いた。

 

「……また、来ちゃったね。マシュ。」

「はい。ついに来てしまいましたね。先輩。」

 

これから始まるのはサーヴァント召喚。普通なら戦力増強につながるのだから喜ぶべきことである。

だというのに二人の動作は重く、ぎっくり腰でももう少しましではないのかと思うほどにその動きは遅かった。

 

「……今度の被害者は、誰なんだろうね……。」

 

遠くで「わん!」と何かが元気よく鳴いた気がした。

 

 

***

 

 

シャンシャンシャンシャン

 

入室時、正確にはグランドオーダー開始からここ、ずっと回転を続けているフェイトを前に担当しているカルデア職員も、ロマニも、立花も、全員が全員死んだ魚のような目を向けている。

 

「今度は誰が出てくるんでしょうねー。」

 

「というか今回はちゃんと出てくるんですかねー。」

 

「ははは、大丈夫だよ立花君。今回はサーヴァント反応があったから君を呼んだんだ。こないだみたいに呼び符や貴重な石を無駄に不発召喚なんかにはさせないさ……あれ?まてよ、もしかしたらこないだの石分が今回の……?」

 

そう、何を隠そうこのフェイト。先程も言った通り絶えず稼働しており、止まること……サーヴァントや礼装を排出するという事がほぼ無い。石や呼び符を使えば一時は虹色の光に包まれたりと変化はあるモノの、再度回転が始まるのみだ。不発である。最初に星5というか規格外レアと星4が2体来てしまっていたこともあってかまさか俺のラックが低すぎて召喚にすら応じてくれなくなった!?と立花はかなり落ち込んだ。

が、それから数日後に奇跡が起こる。

その日の朝からフェイトの様子がおかしい(元々おかしいが)という事で点検に立ち寄っていたのだが、いきなり閃光が奔ったかと思うと緑のローブの誰かが召喚陣上に立っていた。

思わず呆ける立花を前にその人物は余裕ありげに召喚の口上を口にした。此処までは良かった。

 

「ほいほい。呼ばれたからにはそれなりに働きますよっとおおおお!?」

 

が、次の瞬間。男が口上を言い終わるかどうか辺りで再び陣が輝きだし、無理矢理再稼働し始めた。

突然のことに男がつんのめるかのように前方に跳躍して陣から出る。

出るのが少しばかり遅かったのかフェイトの回転に巻き込まれたらしきローブの布の端は焦げ付いていた。

あと少し反応が遅れた時のことを考えると背筋にゾッと冷たいものが伝う。

 

「だ、大丈夫?」

「あ、ああ。此処の召喚は随分変わってるんですね。」

 

皮肉る様な口調のわりに先程とは違う呆然とした表情で背後を見た男……ロビンフッドは現在、この前述した召喚システムによる慢性的な人員不足のためもあってか積極的にパーティーに加わり、今ではなくてはならないスタメンメンバーの一人である。

 

そんなことを遠い昔を懐かしむかのように思い出していた立花だったが、遂にフェイトから閃光が上がったことで気持ちを切り替える。次なる被害者のためにも。

そうして見えたのは青い衣服を身に纏った懐かしの―――。

思わず立花が目を見開いた。

対する相手は愛想のいい笑顔で口上を―――

 

「よう! サーヴァント・ラってうおおおおおおお!?」

 

……述べようとした瞬間例によって例の如くフェイトが動き出した。

このランサー……恐らく特異点Fでであったであろうキャスターと同一人物は敏捷が高かったが故か反射的に跳躍しようとしたらしい。が、まるで問答無用とでも言うかのように口上開始直後に再稼働が始まったために逃げ遅れたらしく、片足が中途半端な高さでフェイト内に引っかかってしまったようだ。

ルーンなのかその特徴的なスーツ故なのかやけどなどは無さげだが、それ以上に片足をフェイトに巻き込まれて空中を振り回されているその姿は酷く滑稽で、一同に同情を禁じ得ないものであった。

 

「ああああああああ!!」

 

「ね、ねえドクター。あれ……。」

 

「うん。一応不定期であるけれど、石を入れた分は必ず何かしら出ては来ているみたいだね。この法則性を解明すればきっと……!!」

 

「いやあの、そうじゃなくてあの人は、どうすれば。」

 

現実逃避気味に微笑みを浮かべるロマニに立花が恐る恐ると言った態で尋ねる。

と、彼はそんな微笑みのまま、えげつないことを口にした。

 

「ん?あー……残念だけど非常停止ボタンが例の爆発でオシャカになっちゃったから無理かなー。」

 

「え……。」

 

頑張れ!ランサー!!

 

 

 

***

 

 

「お疲れ様です。先輩。」

 

「マシュー!!」

 

召喚ルームの外で待っていてくれた健気な後輩に自然と頬が緩む。

さっきまで見ていた悲惨な光景が何処か遠くの出来事の様だ。

そんなことをだらしのない顔で考えていると向こう側から黒いコヨーテが姿を現した。

 

「あ!ウェウェ様!」

 

「わん!」

 

呼ぶと、嬉しそうに尻尾を振ってこちらへとやってくる姿に、立花は感慨深いものを感じた。

このコヨーテ……前述していた規格外サーヴァントなのだが。は、当初立花にされたことから酷く立花を警戒している節があり、牙をむかれかけたのも一度や二度では済まされない。

その度にそれとなく近くに待機していたイシスネフェルトが助け舟を出してくれていなければ今頃立花は無事ではなかっただろう。それが今では紆余曲折の末にこうして気安い(?)関係まで修復することが出来たのだから本当にイシスネフェルトには感謝である。

 

「今から管制室に行きますけど一緒に行きますか?」

 

返事をするかのようにパタパタと機嫌よさげに揺れる尻尾に思わず頬を緩めると一人と一匹を伴って立花は管制室へと向かった。

 

 

 

「……珍しく管制室に呼びだされたと思ったらこういうことだったのか……。」

 

目の前に広がる阿鼻叫喚の地獄絵図と、その中心となっているであろうカルデアス、だったコールタールの様なもので覆われた何か。コールタールの様なものは若干の粘度があるのか一定の間隔を空けてボタッボタッと下に落ちている。正直触りたくないというか触ってはいけない気がする。

そんなこんなでみんながみんなじりじりと間合いを取っていると、そんなことはお構いなしと言わんばかりに犬……ウェウェコヨトルがテコテコと近づいていった。

 

「ああ!ウェウェ様!危ないよ!!」

 

必死に止めようと呼びかけるも何があるかわからないため近寄ることが出来ず、更に言えばここの最高戦力でありいろいろと訳知り顔な彼に頼っていることもあって今回も彼ならなんとかしてくれるのではないかという期待を皆抱いた。

一方近づいていった本人はというと、本当に滴り落ちている場所ギリギリでその歩みを止めて鼻を近づける。

 

「ヘプシっ!!」

 

可愛らしいくしゃみをした。

と、同時に黒い何かがそれに誘発されたかのように蠢く。

もぞもぞと動いたそれはところどころに穴をあけると突如そこから何か音が鳴り響いた。

 

「メエェェェェェエッ」

 

可愛らしい羊のような鳴き声だが、何処か恐怖を感じさせる。

この場に居たら頭がおかしくなりそうだ。

その様子をじっと見ていたウェウェコヨトルはおもむろに口を開くと、その黒い塊の一部を、食いちぎった。

 

「ベエエエエエエェエっ!!」

 

先程とは比にならない絶叫染みた鳴き声が部屋を満たす。

しかしそんなこと知ったことかと言わんばかりに彼は捕食を続けていく。

だれかが慌てた様子で「イシスネフェルトさん呼んできます!」と部屋を出て行った。

 

 

***

 

 

 

「ああ、これは元はこの人の一部だったものですね。」

 

この人に任せておけば大丈夫ですよ。と、事も無げに肉塊を食いちぎってガツガツ食べているコヨーテの頭を撫でながら彼女は言う。夫婦というよりさながら飼い主とペットである。

 

「正確には第三妃……メルトアトゥムを娶る際に不要だった力の一部をどこぞの剪定事象……ああ、あそこはある種の■■■になったんでしたっけ?に不法投棄してきたやつの一部ですね。メソポタミアの神々と遊星の巨人を盛大に巻き込んだ処理の仕方に思わず僕もこの人を叱り飛ばしてしまいましたが……。」

 

綺麗に食べ終わったコヨーテは息を吐くと、すぐにその姿を変容させる。

 

「ごちそうさまでした。……なるほど、なるほど。向こうはそんなに面白いことになっているのか。」

 

「?面白い?」

 

「ん?ああ、小生個人としては鼻持ちならないところもあった故にどちらかと言えばざまあとかウケるーとかいう展開だったが。」

 

まあこの力を送ってきたのは系列は大体一緒でも余所だが。と付け足す様にいう。

一方のマシュと立花は聞きなれぬ単語の羅列に目を白黒させて首を傾げていた。

 

「せ、剪定、事象?」

「遊星の巨人……ですか?」

 

そんな二人の方に笑顔で近づいてきたウェウェコヨトルはおもむろに二人の頭にそれぞれ手を置くとクシャクシャと優しく撫でた。そのまま二人の頭を抱きかかえるかのように抱き締めて、耳元に唇を寄せる。

 

 

「クククッ。なあに、安心せよ。小生がいる限り人類(お前たち)をかの王を名乗るモノたちにも外側より来たる何かにも譲りなどしないとも。」

 

優しくも何処か甘やかで淫靡な声が鼓膜を擽る。

そして、二律背反の様にどうしようもない不安と、まるで内側からドロドロに溶かされているかのような気怠さも。

立っているのがやっと。立たなければ、立っていなければ。

何処か他人事のようにも思いながら立花が己を叱咤し、何とか踏ん張って声の方を見る。

と、ウェウェコヨトルが優し気に微笑んでいた。

男性のはずなのに、まるで母親の様な安心感のある優しい笑みだ。

 

「大丈夫、大丈夫だ。」

 

 

……人理修復はまだ始まったばかりだ。その筈である。

立花はおぼつかない思考の中でぼんやりとそんなことを考えた。

 




ちょい作者の他作品の事とか入れてるけど別に気にしなくていいです。
気にしなくていいったら気にしなくていいです。
作者が勝手に繋げてるだけだから。


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人生ははーどもーど

暴挙に出ようと思う。

更木剣八VS黒崎一護。ただし、一護は代行初期、みたいな。

そんなとんでもない暴挙に出ようと思う。


―――漣の音が聞こえる。

余計なものを運んでくる音だ。

懐かしい音だ。

 

いつの間にか重くなっていた身体を起こして浜へとゆっくりと歩を進めた。

無論、獲物を殺すために。

 

―――さて、今回はどんな風に殺してやろうか。

 

そんなふうに真っ先に考えるようになった自分に内心でここまで堕ちていたのかと自嘲する。

ふうと溜息を吐いて前を向くと、既にそれは自分の方へと視線をよこしていた。

 

「     」

 

男が放った一言に思わず面食らう。

その一言が何だったのか、既に私にはわからない。

だが、その一言があったからこそ、より残酷に、より凄惨に殺そうと、そう思って

 

そう思って、私は口を開いた。

その筈だ、その筈だった。

 

その筈だったのだ。

 

 

……殺すつもり、だった。

 

 

 

***

 

 

 

カタカタ、カタカタカタ。

 

キーボードを叩く音が室内に響く。

 

「うーん、これでもダメか……。」

「お疲れー。これ、差し入れのコーヒー。」

 

栄養剤もあるわよー。とフリフリのメイド服に身を包んだ職員(どうやら()の趣味らしい)が各席を回ってコーヒーを渡していく。

 

「ほい。熱いから気を付けてね~。」

「さんきゅー。」

「また解析?凍結保存されてた既存のデータと照合させればいいって話だったけど……思ったより難航してるわねえ。」

「ん?ああ、まあな。そもそもその既存のデータとやらの実証証明の再認もしなきゃなんねーからなあ……マスター君には悪いがもうしばらくシュミレータにこもってもらうことになりそうだあっっづっ。」

 

思わず取り落としてしまったコーヒーがバシャリと無残にも床に転がる。

「んもーだから言ったじゃない。」と言って懐からハンカチ……ではなく雑巾を取り出す様にいったいこいつは何処を目指しているんだと訝しんでいるとモニターには乱数がシャラシャラと絶え間なく、画面いっぱいに移しだされる。何事かと思って男が周辺機器の確認をしていると……足元に設置されたデバイスの一部に、先程のコーヒーが付着していた。

 

「「あ」」

 

未だ赤く燃え盛るカルデアスの一点が突如として表示される。

そこは―――

 

「至急、マスター君とマシュとサーヴァント各位に連絡を。」

「は、はいっ。」

 

現在の指揮官であるロマニ・アーキマンが冷静に言い放つと、慌てて職員が駆けていった。

 

カルデアスに表示された一点。

このカルデアにおいて最初の(・・・)特異点として観測されたそこは―――

 

 

【絶対魔獣戦線バビロニア――人理定礎値A++】

 

 

***

 

 

「いーやーだ!!小生はいかん!!」

「や、でも君いないと定員足りないから。」

「いやだ!!」

 

さっきから繰り広げられる不毛な争い、既にこれで五回目である。

それでも両者とも諦めることなく(諦められたらそれはそれで困るが)ウェウェコヨトルとロマンの会話は平行線を辿っていた。

 

「マスター。準備はよろしいですか?」

「え?ああ、うん。でもウェウェ様が……」

「ああ、大丈夫です、」

 

そう言ってスタスタと背後に近づいていくとおもむろに襟首をひっつかんでコフィンのところへと旦那を引き摺ってくるイシスネフェルト。

叫ぶ旦那を余所にそのままコフィンへと荷物か何かの様にぞんざいな仕草でソレを放り投げ自身も乗り込んでレイシフトを開始した。

 

「嫌だアアアアアっ」

 

ウェウェコヨトルの悲痛な叫びをそのままに初めてのレイシフトは開始してしまった。

 

 

 

 

「どうせその内、太陽みたいな奴に両目潰されるんだ。どうせそのあたりから出てきた酔っ払いに両の眼抉られるんだ。」

 

ブツブツと上の空で独り言を連発し、心此処に在らずといった態のウェウェコヨトルを最後尾に一行は杉の森の中を進んでいた。

 

「あの、ウェウェ様。」

「どうせ、どうせ……。」

「あの「うるさいですよ。そんなにその目が心配なら酔っ払いの前に僕が抉り出してあげましょうか?」

「……。」

 

静かになった。

例え嫁相手でも流石に目を抉られるのはいやらしい。いや、当たり前なのだけれども。

 

「あ、あの。ウェウェ様。俺でよければ相談に乗りますよ?」

 

静かになったウェウェコヨトルに立花が声を掛ける。

初対面の時は出来なかっただろうが日々シュミレータにもぐったり、日常生活を共にする中でそれなりに絆は深まっていると思っているし、何より彼はそう気難しい質ではない(と立花は思っている)ので応えてくれるだろうと思って、思い切っての事だった。

 

「う、む。」

 

よくよく見てみると良くも悪くも正気を取り戻してしまった彼はうっすらと冷や汗をかいており、顔色もだいぶ悪いことが見て取れた。明らかに異常だ。

 

 

「大丈夫だ。何やら動悸が止まらんのだが、たぶん大丈夫だろう。」

 

いいながらその手は立花の服の裾を掴んで離さない。

そのまま再度顔の方に視線を戻すと瞳にはうっすらと涙の膜が張っていた。

 

ドシュッっと立花の中の何かに何かが刺さったような気がした。

 

―――あ、あれ?

こころなしウェウェコヨトルがきらきらして見える、なんかこう……。

 

そんなことを考えているとふとマシュが思い浮かび何故マシュ?と思った矢先に彼の心の中のマシュがこう言った。

 

「不潔です。先輩。」

 

今度はぐさぁっと違うものが刺さった気がする。

ここから、どうすればいいんだああああというぐだおの苦悩が始まるのだが、その苦悩は取り敢えずは緑の髪の麗人の登場によって一端中断させられることとなる。

そんな悩み苦しむ青少年の姿をちらりと見遣ってクスリと笑うものの姿があったのは此処だけの秘密である。

 




リアル友人から
「ねえねえこのひとそんなに嫁が何人もいるならいっそ男の子も一人くらいいてもいいんじゃない?ぐだ男君とか!」
と言われた。

……のだが、
「え?何人もじゃなくて3人だよ。もしかしたらひとりそれっぽいの増えるかもだが……。」

そして、期待に目を輝かせる友人に一言。
「うん、でもマシュがいる限りぐだ男君のヒロインは(ヒーローは)マシュだけだと思うよ。」
「え」

いやだって……あのヒロイン/ヒーロー力には勝てないと思うんよ……。


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