前線小話 (文系グダグダ)
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1

世界観ガバガバだけどゆるして
日本版準拠、ネタバレ見たくないんじゃ
おにいさんゆるして

ちょっとした掛け合いシーンばかりを書いていく予定


「入るわよ、指揮官」

 

 ノックの後、WA2000が指揮官のいる部屋に入る。

 指揮の際には指令所としても機能するこの部屋の片隅にぽつんと置かれたソファ、そこに指揮官がいた。

 

「アンタまた寝てるの……」

 

 昼下がり、端の肘掛けを枕代わりにソファで仰向けに仮眠を取る指揮官に呆れながら、事務作業用の作業机に向かう。そして手に持っている【模擬作戦 経験値特訓 上級訓練作戦報告書】と書かれた紙束を置いた。

 

「サボりだったら、ただじゃ置かないんだから……」

 

 そうボヤキながら、赴くままに手近な書類に手を伸ばし中身を確認する。

 中身は週間成果の報告書らしく、事細かに撃破した敵、作戦領域、味方の被害状況と消費資材内容が記載されていた。その中身はWA2000も納得がいく内容で、欠けや間違いは見た目ではないと感じられた。

 

「……なかなかやるわね。でも、居眠りしておいてサボってない訳がないわ」

 

 報告書を元に戻すものの、まだ納得がいかずもう一つの書類に手を伸ばす。

 どうやら購入品目のようで補給パックと発注書のようであった。詳細に目をやると、補給パックの中身は中級及び上級訓練資料と発注書は快速訓練契約のようであった。

 

「ふーん、どいつにやらせるのかしら」

 

 さらに紙を捲ると詳細が書かれており対象の人形はWA2000と書かれていた。

 必要事由としても、かいつまんで言えば自部隊SMGの負担軽減の為に敵後衛の早期排除と機甲兵の対抗手段として、またMk211徹甲榴弾の調達に伴いさらなる効率的な活用として必要不可欠と書かれていた。

 

「なにニヤニヤしてるのよ」

 

 唐突に第三者に声をかけられ、WA2000がとっさに振り向くとそこにはグリズリーが後方支援活動をまとめた報告書を持って彼女を訝しげに見ていた。

 

「べ、べつに! あんたには関係ないでしょっ!むぐ……」

 

 声を荒げたWA2000にグリズリーはずいと詰め寄り、片手で彼女の口を閉ざした。

 

「指揮官が寝てるんだから、静かにしなよ」

 

 コクコクとWA2000は頷くと、グリズリーはそっと手を話し、作業机に報告書を置く。

 

「で、ここで何してたの?」

 

「何って、模擬作戦の報告書を出しに来たのよ。それで指揮官が居眠りしてたから」

 

「サボってないか確認してたのね」

 

 グリズリーは合点がいったという感じに未だに寝ている指揮官に視線を向けた。

 

「私も最初に気になったけど、アレでもやること済ませたるまでは結構しっかりしてるのよ。

 昔はもっと体が動いていたけど『解凍されたばかり』でちょくちょくシエスタってヤツをしているらしいわ」

 

「解凍? シエスタ? ナニソレ?」

 

「さあ?」

 

 指揮官の腹部に載った片手が落ちてだらんと垂れる。

 グリズリーは『しょうがないわね』と言うと、彼女の4体のダミーリンクが指揮官の部屋に入ってきた。

 

「? 何するの?」

 

「何って、このまま指揮官を寝かせるのも可哀想じゃない」

 

 そう言うと、ダミーリンクは2体1組となって指揮官の両脇と両方の太ももを抱えて上に軽く上げる。その後、グリズリーはソファと指揮官の隙間を器用にくぐり抜けて指揮官の頭の方に座り込む。スタンバイを終えた後、ダミーリンクはゆっくりと指揮官を彼の頭が彼女の太ももの上に乗るように下ろした。

 

 ――俗に言う膝枕状態である。

 

「は? なんでそんなこと」

 

「パートナーなんだから当たり前じゃない。それに指揮も取れるし、事務も一通りこなせるし。

 ……偶に緊急の救難信号が届いたら指令所に置いてあるダミー用の銃器と車両持ち出して単身連れ帰ってくるのがアレだけど」

 

 呆れ顔で指揮官の頬を軽くつつく。指揮官は眉を引くつかせるが起きる様子は見られなかった。

 WA2000も指揮官に近づき、寝顔を見て呆れる。

 

「まあ私自身、その指揮官の悪癖に助けられたからあんまり強くは言えないけどね。

 ほんと、この指揮官はどこの生まれかしら? 軍部の銃器に疎い癖に人形用の銃器には嫌に詳しいし、単身で突っ込んで平気な顔して帰ってきて、ご先祖様は石器時代の英雄かなにかかしら?」

 

 指揮官に【拾われて】日の浅い彼女ではあるが、この指揮官はどこか変わっている事に気づいていた。浮世離れしているというか、どこか古臭い物を感じていた。

 

「でも、結構可愛いとこあるし、うるさい人じゃないし、悪くないわ」

 

 WA2000はグリズリーの言い分に納得しながら、指揮官の頬をつついたのであった。

 

 

 

   ■   ■   ■

 

 

 

 のっしりと腹部に重みが来るのを感じ、指揮官の意識は覚醒を迎えた。

 

「おはよう指揮官。気持ちよく眠れた?」

 

 指揮官に気づいたのか、上から覗き込むようにグリズリーは指揮官と顔を合わせる。

 

「ああ、君のおかげだ」

 

 指揮官もグリズリーが膝枕をしていることを察し、そう言ってから首を起こす。

 腹部にのしかかる重みの正体はG41であった。半ば膝立ちの状態で上半身だけを指揮官の腹部にのせて寝ていることがわかる。

 やがて、指揮官の視線に気づいたのか彼女も目を覚まし指揮官とお見合う形になった。

 

「あ、ご主人様! おはようございます!」

 

 G41は眼をきらめかせながら指揮官にさらに這い寄る。

 

「おはようG41。グリズリー、報告書は模擬作戦と後方支援活動の2つが寝ている間に来てると思うが、他には?」

 

「他には無いわ、特に救援要請もないし、特に問題はなさそう」

 

 やんわりと左手で押し出しながら、指揮官はG41の狐耳を右手で弄りながら、グリズリーに今後の予定を聞いた。

 

「そうか、ならその2つを終わらせるとしよう」

 

「そうね。G41、そこをどきなさい」

 

 G41は『うん』と言って立ち上がり、『じゃあね、ご主人様』と言って寮舎へと向かっていった。

 

 グリズリーと指揮官はG41に対して手を振って応えると、両者ともに作業机に向かい、事務作業を始めたのであった……




某氏よりも先にM249出して告白されたので初投稿です。

ひたすら推しを書いていくスタイル
WA2000とグリズリーとトンプソンほんすこ


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2

「ボス~、作戦は無事に完了したぜー……っと」

 

 ある昼下がり、トンプソンが司令室にはいるとそこには同僚の人形であるスプリングフィールドがそこに居た。

 

「よう、スプリングフィールドじゃねぇか。指揮官は何処か知ってるかい?」

 

 そこでトンプソンは香ばしい香りに気づく。

 部屋の隅にはコポコポとコーヒーメーカーが音を立てて、匂いが部屋の中に立ち込めていた。

 

「指揮官なら、そこで寝てますよ」

 

 スプリングフィールドが指差す先にはソファにて仰向けに寝ている指揮官がいた。

 

「おやまぁ、器用にシューティンググラス掛けたまま寝ちゃって……

 人間ってのは大変だねぇ……」

 

「ペルシカさんやヘリアンさんからも、しばらくはあまり身体に負担がかかる行動は止められてますからね。

 なにぶん、長期の冷凍睡眠(コールドスリープ)からの復旧は史上類も見ない事だとか」

 

 二人は指揮官の様子をまじまじと見る。

 見た目は至って普通の成人男性、だが体付きは筋肉質でよく鍛え込まれていることがわかる。

 それはアスリートのようなものではなく、兵士に適した無駄のない身体であった。

 

「発見者である16LabのAR小隊とのデータと、グリフィンの入社テストの成績から鑑みるに軍人であることには間違いはないのですが……

 なにぶん、本人が所属に関しては黙秘していますし、資料も大戦や救助時の施設が完全に破壊されて資料も焼失してしまったのでわかりませんしね」

 

 スプリングフィールドは軽くため息をつく。

 経緯が経緯だけにこの指揮官の個人情報は無いに等しく、仮に指揮官自身が語ったとしてもそれを信じられるかといった感じだ。

 やはり、1人の人形としては指揮官は有能であって欲しいという希望はある。そのために入社テストや模擬戦でのデータで指揮官を推し量っているのだ。

 

「まあ、ボスの個人情報はいいさ。それになんとなくだが……こいつはデキる奴だと思うぜ」

 

 指揮官が寝ているのならと作戦報告書をデスクに置いたトンプソンはスプリングフィールドに対してそう断言した。

 

「どうしてです?」

 

「入社テストや模擬戦でのデータも中々悪くないが……

 いざって時に戦場で頼りになるのは、こういう静かな奴って相場が決まっているもんだろ?」

 

 銃器のアクササリーとしてついているAC4サイレンサーを小突きながらトンプソンはそう言ったのだった。

 

 

   ■   ■   ■

 

 指揮官が目を覚まし、デスクに目をやると副官用のデスクで書類整理を行っていたスプリングフィールドが立ち上がりこちらに寄ってきた。

 

「おはようございます、指揮官。

 コーヒーを温めておいたのでいかがですか?」

 

「ああ、いただくよ」

 

 部屋の隅あるコーヒーメーカーへと歩いていくスプリングフィールドを尻目にデスクに向かおうとして、ソファから立ち上がろうとしたその時、後ろから何者かの両腕が指揮官の首におぶさるようにかかる。

 

「ボースー、帰ってきたぜ。

 ほら、報告書。ちゃんと読んでくれよな」

 

 トンプソンはそう言って指揮官に作戦報告書を渡し、指揮官の頭を軽く撫でくりまわす。

 彼女のこういうフランクな態度に、指揮官は特に言及も特段の反応も見せることはなかった。別に嫌がる素振りも見せることもなく、お礼を言う。そして作戦報告書を受け取るとそのまま立ち上がり、デスクについた。

 

「そんじゃま、このソファは私が貰っておくぜ」

 

 空いたソファにトンプソンが後ろからひょいと乗り出し、そのまま仰向けになってお昼寝の体勢となる。

 そして、デスクにコーヒーの入ったマグカップを置くと、指揮官の右隣にスプリングフィールドは侍った。

 

「指揮官、おかわりをご所望でしたら、何なりと言ってください」

 

 指揮官はコクンと頷くと、コーヒーを二口ばかり口にして、書類の精査と決済を始めた。

 まだ発足されて間もない基地ではあるが、このご時世では何処も人手が不足しており、作戦や後方支援活動もフル稼働となっている。

 幸いにも指揮官は戦前ではあるがそれなりの教育課程を修了した事もあって、スキル的にはこれらを処理するのには問題はなかった。

 

 もし、なにかわからないことがあれば……

 

「スプリングフィールド、聞きたいことがあるのだが……」

 

「はい、なんでしょう?」

 

 自分の副官に聞けばよいのである。

 人間と違って人形は忘れることはない。細かい規定や規約、書類のナンバリングなどのただ単に暗記するだけや、ルールをまとめた書類を読むよりも、彼女達が一字一句違えず知っているのだから、こんなにも事務作業が楽なことはない、と指揮官は感じた。

 

「助かった、感謝する」

 

 冷めないうちにとちびちびと飲んでいるコーヒーも残りが少ないらしい。

 指揮官はぐいと一気に飲み干す。

 

「どういたしまして、コーヒーのおかわり、入れてきますね」

 

「量は半分でいい。

 それと、砂糖を少し入れて欲しい」

 

 残りの書類の量から、コーヒーを丸々一杯分は飲めないと思った指揮官はそんな追加注文を彼女に言った。

 指揮官が望む少しの量を把握している程には、指揮官とスプリングフィールドはそれなりに交友を持っていた。

 

「はい、わかりました」

 

 指揮官からマグカップを受け取ったスプリングフィールドがコーヒーメーカーに着いたその時である。

 バタンと扉が開かれ、WA2000が司令室に入ってきた。

 

「指揮官! あんたが通達した出撃準備、終わったわ」

 

 そう言って、出撃の為の最終書類で出撃指令書を指揮官に差し出した。

 

「最近支給された16Labのスコープ、あれは使えるか?」

 

「バッチリよ」

 

「Mk211徹甲榴弾の特性はつかめたか?」

 

「ええ、問題ないわ」

 

「他の部隊員の様子は? 変わったことは?」

 

「全然、問題ないわ。

 グリズリーの部隊も早く鉄血共をぶっ飛ばしたいって位よ」

 

「了解した。今回の出撃を承諾しよう。

 ……重々承知だが、戦略・戦術情報コンソールで大局的な判断は出来るが、何かあればすぐに連絡をいれろ。

 私が対応する。」

 

「わかったわ。じゃ、行ってくるわね」

 

 指揮官はWA2000が差し出した指令書を認め、決済した。

 それを見たWA2000はそのまま司令室から出ようとする。

 

「……WA2000」

 

「ん? なによ指揮官」

 

 出撃のために踵を返し部屋に出ようとするWA2000を指揮官は引き止める。

 

「……期待している」

 

 どういう言葉をかけてやっていいか逡巡した後の言葉に、一瞬だけ理解の遅れた彼女ではあったが、意味を理解したのだろう。瞬く間に顔を赤らめた。

 

「ッ!? とっ、当然よ! 大戦果を期待してなさい!」

 

 そう言って部屋をでたWA2000は勢いよくドアを閉めた。バタン!という大きな音がする中、指揮官はこれでよかったものかと人差し指で頬を掻く。

 

「ボス、もうちょい素直に言ったらどうなんだ?

 例えば、『無事に帰ってこい』とか、『怪我するなよ』とかよ」

 

 隅のソファで寛いでいた副官のトンプソンが葉巻に火を点けて指揮官に指摘した。

 彼女自身は指揮官からこういった言葉を投げかけられれば、とても心地よく聞こえるだろう。

 

「それだと、WA2000の能力を疑う解釈になる」

 

「ふうん、エリート様は面倒臭いねぇ」

 

 とは言うものの、トンプソン自身は指揮官のあの言葉は大正解に近いとは感じていた。

 自分の指揮官(ボス)の力量は大いに満足させる物ではあったが、やはり欲望としてはより高みに登って欲しいという気持ちがあった。

 それ故にこうやって指揮官を値踏みするかのような物言いをおこなったのだ。

 

「しかし、ウチの指揮官様は腕っぷしもさることながら人心掌握もデキるときた! わたしゃ有能な指揮官に恵まれてるね!」

 

「指揮官、どうぞ。追加のコーヒーです」

 

 うんうん、とわざとらしく頷くトンプソン。指揮官の邪魔にならないように発言を控えていたスプリングフィールドはそそくさと追加のコーヒーを差し出す。

 受け取ったコーヒーを一口含むと指揮官はコンソールを睨みつける様に見つめながら、引き続き黙々と業務に取り掛かるのであった……

 

 

 



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3

「しきかぁーん。戦闘報告書、終わったよ」

 

 パチパチとタイプライターの音が小気味よい音を立てていたのはつかの間のことである。フロッピーディスク上に形を変えた戦闘報告書を持ってきたのはUMP45であった。

 

404小隊は本来は存在しない部隊ではあるが、指揮官が持っている能力の都合上、上司(ヘリアン)から支援任務を言い渡されることが多く度々付き合いがあった。

 この度、404小隊のセーフハウスが鉄血部隊に襲撃されたらしく、安心して休息も取れない状況に陥っていることに気づいた指揮官は、予備宿舎を用いて暫くの間仮拠点として利用することをUMP45に提案した。

 もちろん、これは独断ではなくヘリアンにも話を通してあり、404小隊の能率を減少させるのはよろしくないと判断した彼女は指揮官の提案に許可することとなった。

 

「協力、感謝する」

 

 指揮官はUMP45から戦闘報告書を受け取る。指揮官のいる基地を仮拠点としての受け入れの代わりに、ちょっとした雑務程度ならば手伝うという404小隊側の好意に預かる形で、今日の副官はUMP45となっていた。

 

「これくらい全然大丈夫だよ」

 

「何か要望があったら、私に言って欲しい。権限内であれば、善処しよう」

 

 この指揮官はとても変わっていると45は思う。普通であるなら404小隊のようなよそ者を基地内で預かるにはリスクが大きすぎる。例えば情報の漏洩だったり、404小隊を狙うものによる襲撃や陰謀に巻き込まれる可能性だってあるのだ。

 

 なにか下心があるのでは……はじめは疑ってはいたものの、自分たちを見る目が見守るような生暖かい穏やかな物であったり、態度として404小隊を預かるといった事をしている指揮官が嘘をついているとは考えられなかった。

 

 不思議な人だなぁと事務作業をしている指揮官を45が見ていると、今度は司令室の扉が開かれた。

 

「指揮官! 寮舎の家具整理、終わったよ!」

 

 入ってきたのはUMP45の妹であるUMP9と416である。

 ホコリ一つ無い416とは対象的に9の頭や肩には薄っすらとホコリが載っていた。

 

「すまない、感謝する」

 

「全然! 404小隊用に予備宿舎をまるごと一部屋使っても良いって言ってくれたし、全然大丈夫!」

 

「あれぐらい、どうってことないわ。指揮官が言ったとおり、倉庫にある余ってた家具はこっちで適当に使わせてもらったわ」

 

「問題ない」

 

 きれいな服装を維持したまま416はともかく、流石にホコリまみれになったUMP9を見るのは忍びなく思ったのか、指揮官はデスクの棚から数枚のチケットを取り出して、彼女のもとに向かう。

 

「そうか、ところで手伝った人形は4人だったか? アイスクリームの配給チケットが残っていてな。基地内のPXで使うと良い」

 

 UMP9の頭や肩に載ったホコリを軽くはたいて落とした後、配給チケットをお礼代わりに渡す。

 

「え? ホントに?

 やったー、ありがとう! 指揮官。

 416、先に寮舎に戻ってて。私は45姉のお手伝いをするから」

 

「わかったわ」

 

 素直に喜ぶUMP9と、表面上平静を装っているがわずかに口角があがっている416を見つつ。UMP45は初めて戦場で指揮官と出会ったときのことを思い出していた……

 

 

 

   ■   ■   ■

 

 

 

 ここはとある戦場。鉄血のジャミング装置によって、グリフィンの人形たちは指揮官と連絡が取れず攻めあぐねていたところに、単独で作戦行動が可能な404小隊に白羽の矢が立った。

 しかし、戦場に居たのは鉄血部隊だけではなく……

 

「……404小隊か」

 

 404小隊と出会った指揮官は手持ちのHK417を下げて敵意が無いことを示す。

 それでも、416やG11は銃口を下げず、いつでも発砲できるようにしていた。

 

「私は敵ではない。

 グリフィンからの依頼でこの周辺のジャミング施設の妨害及び、破壊を頼まれただけだ」

 

「へえ、証拠は?」

 

「ヘリアンさんからの指令書なら」

 

「ならそれを渡して、銃から手を離してね」

 

 UMP9の指示に従い、グリップを握っていた右手を離し、左手は己の懐に突っ込み、指令書を引っ張り出す。そして、それを広げて見せ、差し出した。

 UMP9はそれを受け取ると、遭遇時から無言を貫いているUMP45に渡した。

 

「はい45姉」

 

「ありがと、9」

 

 UMP45は指令書を読み始めた。指揮官は両手を上げて、膝立ちになり、抵抗の意志は無いと示す。

 416とG11は引き続き指揮官がおかしな真似をしないように監視している。

 

「……そうね、わかったわ。

 416とG11は銃を下ろしなさい。彼は味方よ」

 

「……ふん」

 

「……あ~づかれたぁ」

 

 UMP45がそう言うと、2人は銃を下ろした。指揮官はそのまま立ち上がり、姿勢を正した。

 UMP45は指揮官に近づき、面と向かい合う。

 

「ジャミング強度が徐々に低下させているのは指揮官がやったことなのね」

 

「いくつかの通信施設と小規模の司令部は爆破させた。

 ジャミング施設の破壊が最優先事項ではあるが、404小隊の支援も命令内であるため、微力ながら手伝わせてもらう」

 

「他に人形を率いていないようだけど……まさか1人で?」

 

 指揮官単独という様子に、先程から404小隊全員が訝しんでいたが、UMP45が切り出した。

 

「はじめは部下を率いての攻略を検討していたが、ジャミングが思いの外強く、IOPの正規品では対処できなかった。故に、私一人になる」

 

 指揮官の肯定とも受け取れる発言を聞いてUMP9は何かを思い出したように叫んだ。

 

「っ! あー! 思い出した。あなたがAR小隊の救援に1人で向かったって言う!」

 

 416とG11がこいつ正気かよという視線で指揮官を見る。

 

 これが戦場での指揮官と404小隊の馴れ初めであった……

 

 

 

   ■   ■   ■

 

 

 

「ほしいなぁ……」

 

 午後に差し掛かり、指揮官が眠りにつくやいなや、ソファの背もたれを倒して指揮官を中央に寄せる。そして右腕をUMP9が、左腕をUMP45がそれぞれ抱きしめ、3人で同衾することとなった。もちろん、指揮官はそのことを知らない。

 その際にふとUMP45が思わずつぶやいてしまった。

 

「45姉?」

 

 妹のUMP9は一瞬呆気にとられたが、指揮官の腕を抱きながら熱い視線を未だに寝ている指揮官に投げかける姉の様子を見て意図が理解できてしまった。

 

「そっかぁ、やっぱり欲しいよね? 45姉」

 

「9もそうなの?」

 

 身を起こしてそう問いかけるとUMP9はコクコクと頷いて見せた。

 

「指揮官には404小隊の中にも……家族としても入ってくれたら……

 毎日がとっても楽しくなるんじゃないかなぁって」

 

 大まかな目的が同じだと知り、安堵してUMP45は再び寝た。

 

「どうする45姉? 416とG11も巻き込んじゃう?」

 

「いいんじゃない? どうせ身内にバレるんだし」

 

 とは言うものの416もG11もおそらくは乗るだろうとは確信を持って言えた。

 

「でも45姉、ちょっと心配事があるの」

 

「何? 言ってみなさい」

 

 UMP9は何かを思い出したのか、苦虫を噛む潰したような表情をしだす。

 

「指揮官が404小隊用に予備宿舎を一つ貸し出してくれたじゃん?

 その時に、私……見ちゃったんだよね。【AR小隊専用】って書かれた予備宿舎の一つを」

 

「っ! それは……少し考える必要はあるわね。

 だけどそれは全員集まってからにしましょ。今はこの時間を有効に使わなきゃ。ね、ナイン?」

 

 そう言って指揮官のそれぞれ腕を抱いた姉妹はスリープモードへと移行したのであった……

 




UMPコンプレッサーをしたかったので初投稿です。荒いのは許して……(私事の都合上)
416とG11はまた今度で
AR小隊も書きたいなぁ、けど404小隊同様馴れ初め書いておきたいんだよなぁ……

しかし、わかっててやったけどどっちかと言うとこの指揮官ほんと最前線指揮官だなぁ……


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4

「しきかーん!! ただいまぁ!」

 

 部隊の帰還の報告が届くのと同時に部屋に押し入って来たのは、SOPMODである。

 AR小隊が任務を終え、16Labに戻るまでの小休止に指揮官の基地へと帰投したのだ。

 

「ねえねえねえ指揮官、はいこれ! おみやげ持ってきたよ!」

 

 ごとり、と音をたてて眼の前に置かれたのは頭部パーツ、それも高等(ハイエンドモデル)な鉄血の人形である。目には生気はなく、苦悶と怒り入り混じった表情のまま機能を完全に停止させている。

 

「これ私で仕留めたんだー。すごいでしょ、えっへん」

 

 胸を張り誇らしげな表情を見せる彼女。少しぎょっとした様子を見せた指揮官に対して奥で後から追いついたのかM4A1がペコペコと申し訳なさそうに頭を下げていた。どうやら、他の2人(M16A1とAR-15)は先に寮舎に戻って休んでいるらしい。

 

「ああ。こいつは解析に回して何かしら情報を吸い出してみよう」

 

「わかった! それじゃあね!」

 

 SOPMODはすぐに踵を返し、寮舎に駆け戻っていった。

 

「指揮官、ごめんなさい。

 どうしてもお礼代わりにお土産として持っていきたいって言っていたもので……」

 

 SOPMODと入れ替わるようにM4A1が司令室に入ってくる。

 お礼というのは、AR小隊用の宿舎を用意したことのことだろう。

 

「構わない。

 済まないがグリズリー、このハイエンドモデルをグリフィンの技術班に渡して欲しい」

 

「わかったわ、指揮官。じゃ、行ってくるわね」

 

 今日の副官であるグリズリーが先程のSOPMODのようにその生首の髪を掴んで、司令室から立ち去っていった。

 

「指揮官、本当にお手数おかけします。

 ……あ、そうだ。今日の副官のグリズリーさんが外出しましたし、ここからは私が副官の代わりをやりますね」

 

 副官を欠いた指揮官に対して、M4A1はさも名案といった風に彼に提案し、すっと副官用のデスクに着いた。

 

「……無理をしなくても良いんだぞ?」

 

「全然、全然大丈夫です。はい」

 

 M4A1は上機嫌になりながら、戦闘報告書の作成作業に取り掛かった。

 はじめは心配そうに彼女を見ていた指揮官ではあるが、本人がそう望んでいるのなら特に言うことはないかと思い、そのまま事務作業を進めていた。

 

(しかし、ここまで懐かれるとは思わなかった)

 

 上機嫌に指揮官の隣にいるM4A1を見て、指揮官はそのきっかけになったであろう出来事を思い出した。

 

 

 

   ■   ■   ■

 

 

 

 AR小隊は無事に敵の司令部を占領しハイエンドモデルを撃破することに成功したのだが、グリフィンのヘリが回収に向かうには時間がかかる他、敵側の抵抗が激しく、司令部とは少し離れた地点でないと回収ができないと返答されてしまった。

 弾薬も底をつきかけ、単射でちまちまと牽制射撃を行う中、司令部施設跡で即席のバリケードを築いて、救援を待つ他無かった。

 

「弾が切れちゃったよ! AR-15!」

 

「まったく、私のを使いなさい!」

 

 弾薬が尽きてしまったSOPMODにAR-15は持っていた予備の弾倉を渡す。

 

「M4! このままだとマズイぞ!」

 

 M16A1は肉迫しようとする鉄血機械人形兵(Ripper)達に閃光手榴弾を投げ込み、的確に胴体に弾丸を撃ち込んでいく。

 

「わかっています! 姉さん!」

 

「クソっ、ここがアラモ砦になるって言うのか!? うわぁっ!?」

 

 焦りから警戒が疎かになっていたのかもしれない。付近に潜伏していたJaegerのライフル弾がM16A1の胸部に当たってしまい、仰向けに倒れてしまう。

 

「姉さん!」

 

 悲痛な声を上げるM4A1に対して、M16A1はすっかりボロボロになった防弾ベストを脱ぎ捨て、すぐに立ち上がった。

 

「大丈夫だ。防弾ベストのおかげで助かった……」

 

(何かこの状況を打開する策を考えないと……)

 

 思考リソースをフル回転させるM4A1。しかし、その余裕を相手は許すはずもなく……

 

「伏兵?! しまっ……」

 

 M4A1が気づいた時には鉄血機械人形兵(Vespid)の小隊は銃口をAR小隊に向けており、完全に十字砲火の姿勢になっていた。

 咄嗟の一言も言う暇も無く、死を予感したのかM4A1が見る光景はやけに鮮明でゆっくりと見え、思考がめまぐるしく駆け回っていた。

 

(みんな……ごめんなさい……)

 

 相手の銃口が見えるくらいには神経と思考が開け巡っていた彼女は、そのまま目を瞑ろうとするが……

 

 眼の前では発砲炎ではなく、爆発炎が広がった。

 

「え……?」

 

 どうやら、Ripperの小隊には複数発擲弾が撃ち込まれたようで、榴弾の他にも煙幕弾が入っていたのか、完全に射線が煙幕で塞がれていた。

 そして、M4A1が使っている遮蔽物を乗り越えて、何者かが陣地に入り込む。それは、ちょうど彼女の真隣に滑り込む用に入ってきた。

 

「M4!」

 

 ここで異常に気づいたM16A1が咄嗟に銃口を向けたその先には……

 

 

 

「よう」

 

 

 

 大型の背嚢を背負った指揮官がそこに居た。

 

「指揮官!? なんでこんなところに?」

 

 驚愕するM4A1と困惑するM16A1を横目に、質問に応える間もなく指揮官は背嚢を脱ぎ捨てると、その手に持っていたM249パラトルーパーの銃床(ストック)を伸ばしながら、敵部隊を抑えていたAR-15とSOPMODの元に向かう。

 

「「指揮官(さん)!?」」

 

 ちょうど二人の間に陣取り、二脚(バイポッド)を下ろしたM249を遮蔽物に乗せると制圧射撃を開始した。

 

 弾切れ寸前でちまちまと単発で辛うじて抑えていたAR人形2人と比べて、残弾数に余裕のある軽機関銃の射撃はまたたく間に前衛の鉄血機械人形兵を食い散らし始める。

 

「ペルシカに頼まれてきた。

 予備の弾が後ろにある」

 

 その言葉に二人は意図を察したが、まさか指揮官が来るとは思ってもおらず、困惑する。

 

「ここは私が抑える。今のうちに」

 

「ねえねえ指揮官、榴弾はあるの?」

 

「持ってきた」

 

 やったー!と小さく喜びなら下がるSOPMODに対して、釈然としない気持ちを抱えたままAR15も従う。

 後ろでは、M4A1とM16A1が背嚢から弾薬の入った箱を取り出して、補給していた。

 

「MREもある。助かった……」

 

「閃光手榴弾に新品のType3防弾ベストもあるぞ。渡りに船だな」

 

 ほっと一息ついた2人にAR-15とSOPMODの2人が合流する。

 

「ホントだ。榴弾もあるぅー!」

 

「これだけの荷物……あの人は一体?」

 

 補給の最中、SOPMODは40ミリグレネードに頬ずりし、AR15は先程の指揮官の発言を共有した。

 

「そう、ペルシカさんが……」

 

「今回は流石にヤバかったな。だが、助かった」

 

『補給は済んだか?』

 

 AR小隊のインカムに指揮官声が届く。一瞬、全員が肩を跳ね上げるものの、ペルシカからの依頼ということでコードを教えてもらったのだろうとすぐ推察がついた。

 

「はい、問題ないです」

 

 M4A1が代表として答える。

 

『今からこっちで仕掛ける。鉄血部隊に打撃を与えるので、君たちは任務通りに撤退ポイントまで走るといい。

 見える範囲でなら、私も援護する』

 

 LMGの銃声が鳴り止まない中、指揮官はそういった。

 

「指揮官はどうするんです?」

 

『気にするな、あとで離脱する。

 ……行くぞ』

 

 その後、指揮官の方向から榴弾の炸裂音が複数する。ちらりと視界に見えたのは連発可能な回転式チャンバーをもつグレネードランチャー、MGL-140を発射している姿が見えた。

 

「M4、敵が引き始めた

 今なら離脱できるぞ!」

 

「……じゃあみんな! 撤退ポイントまで移動よ」

 

 鉄血部隊の交代とともにARチームは駆け出した。

 

「あ! 2時方向に敵」

 

 SOPMODが敵を発見し各員、足を止めようとするが……

 

『そのまま走れ、援護する』

 

 M249の曳光弾が、先程見つけた部隊に襲いかかる。

 

「助かりました……っ!」

 

 指揮官の方向へ振り返ると、先程まで籠城していたポイントが鉄血部隊の物量に飲み込まれるところが見えてしまった。

 

『構わん、行け』

 

 思わず足を止めたM4A1に対して、指揮官は応える。

 

「何をやってるM4! 行くぞ!」

 

 M16A1にも言われ、M4A1は後ろ髪を引かれる思いを抱きながらも、AR小隊を預かる隊長の立場としてM16A1やAR-15、SOPMODを危険な目に合わせるわけにも行かず……

 

「指揮官……ありがとうございました」

 

 そのまま撤退ポイントまで駆けて行った……

 

 

 

   ■   ■   ■

 

 

 

 その後午後に差し掛かり、指揮官がソファで仮眠とっている中、M4A1は初めて戦場で指揮官と遭遇したことを思い出していた。

 

(あの後、飛行場のポイントまで走ったけど、そこに指揮官が居たんだよね……)

 

 初めての指揮官との共闘時では、結果的に指揮官を見捨てる形になり気分が悪くなった中、撤退ポイントの飛行場まで駆けたものの、そこには平然と軍用バギーをワイヤーでヘリにつなげている指揮官が居て、AR小隊共々呆気にとられたことは記憶に残っている。

 

 前線よりの指揮官自体はグリフィンにもいるとは言え、あくまでも正規軍の装備をするのが大前提、それでもって最前線で戦闘に参加すること自体がない。

 なのに指揮官は人形たちと変わらない装備で、なおかつ戦闘にも直接参加しており、それが異常性を際立たさせると共に、希少性を孕んでいた。

 

 ――自分達と肩を並べて戦ってくれる。

 

 作戦中は通信機越しでしか会えない人が常に居てくれるし、常に見てくれる。

 それは人形にとってとても嬉しいものであった。

 

「いいなぁ……」

 

 ふとM4A1が言葉を漏らすが、慌てて口を閉じた。

 確かに心強い味方であるがゆえに欲しい人材ではあるものの、彼は今はグリフィンに所属している社員だ。

 いくら発見したのがAR小隊であっても、ペルシカのツテでコールドスリープとその原因となったものを取り除いたとしても、その自由を侵すことは許されてはならない。

 

 ぐるぐると思考が回る中、タイマーの音が鳴った。指揮官の起床の時間である。

 

「とにかく、起こさなきゃ……」

 

 今この場にいるのはM4A1だけである。

 彼に気持ちよく起きてもらうためにとびきりの笑顔で起こしてあげなければと意気込む彼女であった。

 

 

 




AR小隊(とはいってもM4メイン)は初投稿です。ヒャア!我慢できねぇ!連投だぁ!

初見時「マジ? その見た目と嗜好で味方なのか……(困惑)」なSOPMOD推しなのにアイデアはM16姉ばっかで辛い(小並感)
 M4A1に尻尾ブンブン振られるくらい懐かれてから死んでメンタルへし折りたい(唐突な性癖)

M4以外のARメンバーもまた今度で
日記形式とは言え、短い文章でエモいの書ける人が羨ましいですね('A`)

ところで指揮官のアレコレ(なんでコールドスリープなのか、元ネタ、なんでそんな非現実的な装備なのか、ほかその他)って活動報告にでも書けばいいですかね?
流石にそこまで細かく考える人もいないか('A`)


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5

 それは、ある昼下がりのことであった。

 指揮官はソファで昼寝し、副官も所用で不在の司令室に一人の客人がやってきた。

 その者は音を立てないようにそーっとドアを開け、隙間から覗き込む。そして、確認を終えたのか滑り込む用に入ってきた。

 緑の帽子をいつも以上に深くかぶった銀髪の少女は普段の様子から信じられないほど機敏に動いたらしく、肩で息をしながら自分用の枕をギュッと握りしめた……

 

「ぜぇぜぇ……うぅ、このタイミングを待ってたんだぁ」

 

 眠気と疲労に身を震わせながらG11は指揮官を見つめる。どうやら狙いは指揮官のようだった。

 ソファの背もたれを倒して、一種の簡易ベッド状になったところに、ぐっすりと横になっていた。

 

「やった。これで指揮官にひっつけば寝られる。他の誰にも叩き起こされなくなるよぉ」

 

 至福のひとときを思い浮かべながら、G11は破顔する。

 指揮官が近くにいれば、彼の特殊な出自故に誰にも邪魔はされないと彼女は知っていた。

 

 ふへへへ、と笑みを浮かべながら指揮官ににじり寄るG11ではあるが、唐突に扉が開かれ誰かが中に入ってくるのがわかった。

 ビクン、と身を震わせながらもG11はもうひとりの客人に視線を向けるとそこには白いフードをかぶった青髪の少女が、G11と同じく自分用の枕片手にいた。M249SAWである。

 

「えぇ、モフモフがないと眠れない? なら仕方ないですね。しきかーん、入りますよー……って、うええ」

 

 G11を見つけたM249は露骨に嫌そうな顔をしていた。

 

「ちっこいの、そこをどきな」

 

「え、やだよ。あたしが一番なんだからここはあたしの」

 

 G11も心底嫌そうな表情をして、毛布を指揮官に掛けた。もうここで寝る気だと言わんばかりだ。

 

「偉そうになにを~ちっこいの、指揮官は私みたいにモフモフしたのと寝た方が気持ちよく寝れるのさ」

 

 M249はそれを許すはずもなく、G11の片頬をつまみ引き剥がそうとする。

 

「デカいのが偉そうにー、あたしは45のような小さいのも良いし。

 それなら大きさならこっち(404小隊)には416やナインがいるから平気だもん」

 

 G11も負けじとM249を頬をつまんで引っ張り返す。

 

「このー、ならこっちにはスプリングフィールドの姐さんがいるぞ。

 私ビーチ仕様の寮舎で彼女が脱いだらすごかったのバッチリ見たんだから」

 

「ううう、416だって脱いだらナインより凄いんだぞ、指揮官だってイチコロだよ」

 

 それでも互いに譲らず、お互いの頬を引っ張り合ったり、ポカポカと枕を用いて殴り合ったりとし続ける。そして、やがて加熱した争いはやいのやいのと自分たちの仲間のサイズまでバラしていく自体に……。

 当然、そんな騒々しい自体に指揮官の意識も戻りつつあり、薄っすらと目を開け始めた。

 

「そもそもなんでおっきいのまでそんなキャラなのさ、お昼寝ダラダラマスコットはあたしだけでいいのにぃ」

 

「私もそう思ってた。ちっこいの、アンタとは決着つけようって思ってたんだよね」

 

 バチバチと視線で火花を散らさんとばかりに睨み合っていた2人だが、指揮官が完全に意識を覚醒させる。

 未だにポカポカと枕で戦っているG11とM249が視界に入るが、それよりも司令室の扉の前に居た二人の部下が目に入った。

 

 ――416とスプリングフィールドだ。

 

 二人は共に口角が引きつったような、張り付いた笑顔でG11とM249を見ていたものの、奥で起床した指揮官に気づくと、彼にバレないようにすぐに温和な表情に戻り。にこやかに手を振った。言葉を発しないのはG11とM249に気づかれない為だろうかと指揮官は考えた。

 

 眼下に広がる人形達の様子に指揮官は大まかには察したようで、執行人の如くG11とM249に非情な言葉を投げかけた。

 

「G11、M249。416とスプリングフィールドが君たちに話があるようだが」

 

 仲良く喧嘩していた二人は指揮官の言葉にビクンと硬直し、錆びついた可動部のようにゆっくりとぎこちない様子で416とスプリングフィールドの方向を振り向いた。

 

「指揮官、G11は私が責任を持って指導しますので」

 

「ごめんなさい、指揮官。少しばかり、M249とお話がありますので」

 

 指揮官は無言で涙目になるG11、M249を引きずって司令室を出ていく416とスプリングフィールドを見つめるのであった。

 

 

 

   ■   ■   ■

 

 

 

 さて、指揮官は眠りから目覚めたものの副官は所用が長引いているのか一向に戻ってくる様子もなく、本日は決済する書類も無いので、せっかくだから体を動かすがてら散歩でもするかと思い立った。

 業務内容の確認ついでにAR小隊が作戦から帰還中の様なので、迎えに行くのも良いかもしれない。

 そう思った指揮官は上着を羽織り、入れ違いにならないように行き先と目的を書いたメモを部屋に残して、基地内の飛行場へと歩き始めた。

 

 途中、部下の人形達と挨拶程度の小話を交えつつ飛行場へと向かうと、AR小隊の到着予定とされている飛行場にちょうどヘリコプターが着陸態勢をとっていた。

 

 しかし、様子がおかしい。

 ヘリコプターは確かに輸送ヘリで間違いないのだが、ローターが前後に2つ配置されている大型のヘリコプターなのだ。

 記録上では、運ぶのはAR小隊のみなので行きはそこまで大きくはないメインローターとテイルローターで構成された輸送ヘリを用いていたはずだ。上司兼クライアントのペルシカやヘリアントスからの連絡がないので、それがさらに指揮官の中で異常性を掻き立てていた……

 

 ――何か厄介事が起こったのか

 

 こういう時の感はよく当たると内心で舌を打ちつつも、完全に着陸し安全を確認した後に、まずは快く作戦から帰還したAR小隊を迎え入れようと思い。開かれようとする後部ドアへと移動した。

 

「しきかぁーん! ただいまぁ!!」

 

 開ききる前の後部ドアからはSOPMODが指揮官めがけて飛び出してくる。

 シューティンググラスで表情は誤魔化してるものの、目を見開きギョッとする指揮官ではあるが、正面から受け止めて抱きしめた。彼女もそれに応える形で指揮官の首に両腕を回し、抱っこの体勢になる。しかし、SOPMODの飛び出した勢いが強すぎるのでそのままぐるりと指揮官は一回転ほど回って勢いを殺す羽目になった。

 

「今日は迎えに来てくれたの?」

 

「仕事がひとまず片付いたのでな」

 

「えへへ、嬉しいなぁ」

 

 宙に浮いた両足をパタパタとさせて、上機嫌に鼻歌を歌いながら指揮官の首筋に頭を擦り付ける。指揮官もされるがままの状態になり、彼女が満足するまでその体勢を維持していた。

 指揮官の視界の先には慌てて指揮官に駆け寄るM4A1の姿がみえる。自身の得物だけではなくSOPMODの物も持ってきているようだ。

 

「すみません、指揮官さん。わざわざお迎えまでして頂いて……っ!」

 

 SOPMODを下ろして、『えー、もっとして欲しいなぁ』という彼女の抗議を受け流しつつ、M4A1を見据えるが、彼女は取り乱して、懐からハンカチを取り出して指揮官の頬を拭き始める。

 

「ああ!? 指揮官の服が血まみれに! ごめんなさい!」

 

 左手で先程までSOPMODが擦り付けていた首筋を撫でるとぬめりとした感触が、なるほどと指揮官は納得した。

 腹部を見ると見事に真っ黒なシミができており、その主犯たるSOPMODは鉄血人形の血にまみれた格好のまま、首をかしげて指揮官とM4A1を見つめている。

 

「構わない、大丈夫だ」

 

「そんな、クリーニング代は弁償しますから」

 

「そんなことに使わなくてもいい。何か自分の為に使いなさい」

 

「なら、自分の為に弁償させてください」

 

「それは自分の為ではない」

 

 ハンカチを下げて、M4A1を落ち着ける。

 生真面目な彼女と真面目な指揮官の弁償する・しない論争はお互いに譲らないこともあって、平行線をたどっていた。瞬く間にSOPMODは蚊帳の外になり、手近な小石を一つ蹴り飛ばした。

 

「おーいSOPMOD。指揮官とのスキンシップもいいが、ちょっと運ぶのを手伝ってくれ」

 

「うん、わかったよ」

 

 SOPMODから入れ替わるようにヘリから降りてきたM16A1は指揮官とM4A1の間に割って入り……

 

「M4もそれくらいにしておいてやれ、甲斐性を出している指揮官の面子を潰さなくてもいいだろう」

 

「M16姉さん……」

 

 渋々ながらも納得するM4A1を他所に、こっそり指揮官にM16M1は耳打ちする。

 

「指揮官も後で補助金としてM4A1に支給でいいだろう、な?」

 

「むう、すまない」

 

「まあ、いいか。

 それは置いといて指揮官、問題だ。じゃーん」

 

 M16A1のその手にはそこそこ大きな紙袋を彼女は持っている。どうやら、これの中身を当ててほしいようだ。

 ヘリからは無骨な大型の軍用リュックサックを背負ったSOPMODとAR-15が樽のような物を二人がかりで持ち出している。

 

「これはなんだと思う?

 作戦途中に遺棄された醸造所があってな。もしやと思って帰りに寄ってみたら……

 これがなんと大当たり」

 

 上機嫌な彼女は紙袋から瓶を取り出して指揮官に見せる。おそらくは倉庫に安置されていたであろうワインが瓶の中を踊っていた。

 

「ワインか」

 

「どうだ、指揮官? 今晩こいつで飲んでみないか? ジャックダニエルもいいが、こういうのも悪くない。

 それに新陸を深めていくのも良いだろ? なんなら腹を割って話すのも悪くない」

 

「……すまないが、基地に滞在している間は勤務中なので遠慮したい。

 飲み仲間が欲しいなら、私の部下に声を掛けるが……?」

 

「姉さん、やっぱり駄目ですよ。指揮官はヒトなんですから、ね?」

 

 指揮官の乗り気でない反応とM4A1の静止にM16A1は内心で舌を打つ。

 

(どうやら指揮官が相当なストイックだというのは心理テスト通りだな……)

 

 正攻法ではダメだと感じた彼女の次の手は揉め手で行くことにする。

 

「ところで、指揮官はグリフィンの他にも16Labとも契約をしていると聞いたな。

 ラボ所属の人形の支援及び、メンタルケアだったか」

 

「M16姉さん!?」

 

 M16A1から発せられた言葉に指揮官は彼女が屁理屈でも良いから、なんとしても自分を連れ出したい事が理解できた。M4A1もこれには驚きの声を上げる。

 大まかな流れは予測できたが、そのまま聞き流すことにする。

 

「ああ、ペルシカ氏の説明と契約内容はそれで相違は無い」

 

(わたくし)は指揮官様と新陸を深めたい所存ですのに、そんなぞんざいな態度を指揮官様に取られましては私のガラスのメンタルに損傷を負ってしまいますわ……。

 指揮官とは今までとても良好な関係を築いてこれていると思いましたが、これでは16Labとの契約も不履行にならざるを得ませんね……」

 

 紙袋を片手で抱えたまま、よよよとその場にへたりこんでのの字を書く。

 予想通りではあるが、流石に指揮官も契約不履行をチラつかせられては強くは拒否は難しい。ただでさえ本調子ではない中、この時代のアルコールには手を出したくはなかった。

 

「……知っての通り、私の身体は本調子ではない。

 この時代のアルコールが私に与える影響も予測ができない以上、最後まで付き合えることは確約できない

 それで構わないのなら……」

 

「よっしゃぁあ! 男に二言はないぜ指揮官。今夜が楽しみだなぁ!」

 

 苦し紛れの妥協案とも、指揮官が折れたとも取れるが兎も角、指揮官から言質を取ったことによってM16A1が立ち上がり、グッと空いた拳を握りしめてガッツポーズをとった。

 

「こうしちゃいれないな! 指揮官いいか? 今晩に私達の部屋で始めるからな! 遅れるなよ!」

 

 満面の笑みを浮かべて指揮官に詰め寄り、そう言って胸板を人差し指で突付いた後、M16A1はヘリに戻った。

 おそらくはまだ、戦利品があるのだろう。隣のM4A1は片手で目を覆い空を見上げて困り果てている。

 

 ――ああ、これは確かに厄介事だ。

 

 内心で彼女に同意しつつ、指揮官は脳をフル回転させて思案にふけるのであった……

 

 




僕もね、G11とM249の組み合わせが好きなんですよ(畜生)
可愛い娘多くて書くの辛い、お仕事するからダミーリンクで書いて欲しい

最推しはグリズリーとWA2000だけど全然かけねぇ!

戦闘シーンを想像するけど全然(味方の)人形が出てこなくて笑っちゃうんすよね
よその二次創作の指揮官ばっかり生えて来ちゃうやばいやばい
特に対比するように作った某日記とか


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6

 指揮官がこの基地に着いてから幾分かの時間が経った。

 デスクワークや人形達の指揮を執ることが基本的な業務なのだが、AR小隊や404小隊・上司の要請に応えるために時折現地に出向く日々であった。

 これらの要請に対しては、現場の状況、鉄血部隊に対する知識、そして今この世界の現状についての知識を深められるのは指揮官としても有意義ではあるものの、やはり疲れる。

 

 ちなみに疲れると言えば、先日M16A1に飲みに誘われた事も疲れた。

 AR小隊の部屋に行く途中でトンプソンとSVDとPKに出会ってしまった為、彼女達同伴で飲むこととなった。

 指揮官としてはM16A1とのサシで飲む形と考えていたので完全に目論見が破綻した形となった。

 

 M16A1はともかく、彼女の飲み仲間であるトンプソンと仲間ではないものの酒と聞いて興味を持ったSVDとPKはやはりというか、ほぼほぼ予想通りではあるがアルコールの類にめっぽう強いものであった。

 

 ストッパー役として期待していた他のAR小隊メンバーの3人も戦力比4:3では分が悪く、雰囲気に飲まれてアルコールを飲まされてしまった。

 まずはAR15が少量のアルコール量で悪酔いし、敢え無く沈む。次にM16A1を最後まで制していたM4A1はアルコールによる眠気に耐えきれず夢の中へと沈んだ。SOPMODはアルコールを一口飲み、その味に慣れず『美味しくない!』と、一蹴したものの、SVDとPKからもたらされたツマミである乾燥肉とハム肉の原木で餌付けされることによってあっさりと買収され、向こう側へと寝返ってしまった。

 

 結局、指揮官は用を足すと言って一時離脱した際に、万が一の為にとPXと経理課のグリフィン職員に渡りをつけて調達したアルコール分解剤を飲んで、醜態を晒すことは回避でき、指揮官としては及第点といった内容であった。

 

 閑話休題

 

 指揮官が担当する地区では鉄血部隊に打撃を入れて、ある程度の地区の安定化に成功していた。

 その報を聞き、各企業や商売人達が当地区に人員や物資を送り始め、それに比例するように指揮官の事務仕事の増加へと拍車をかけた。

 そのほとんどが、管理元であるグリフィンと深い関係を結ぶか、管轄下に入らざるを得ず、グリフィンの勢力として権力が強まる可能性が出てきた。

 基本的には彼らの管理業務は文民型の社員に割り振られるが、軍人側もある程度の情報は把握しておかねばならないし、治安維持の対応として、彼らからの嘆願も捌かねばならなかった。

 

「指揮官、そろそろ休憩にしませんか? 紅茶をお淹れしますよ」

 

 当地区への物資の搬入の際に起こった商売人たちのイザコザに対して対応したことの報告書を書いている中、腕も目も疲れてきたところで休憩を提案してくれたのは副官用のデスクに座っていたスオミからであった。絶好の機会ではあるが、偶然ではないだろうと指揮官は感じた。

 

「デスクワークを手伝ってもらってるのに、そんなことまでさせてすまない」

 

 スオミは立ち上がると、部屋の隅っこ、壁際の机にあるティーセットまで歩いていき、手慣れた所作で用意をしていく。

 

「気にしないでください、好きでやっていることですから。

 今日は美味しいイチゴジャムが手に入りました。指揮官、ご提案なのですがよろしければお砂糖の代わりに入れてもいいでしょうか?」

 

「ああ、大丈夫だ」

 

 用意を進めながら、気を良くしたスオミが機嫌よく鼻歌で奏で始めた。

 そのリズムに指揮官は聞き覚えがあった。昔、平和だった時代、劇場やラジオで耳にしたことがある。

 

「……シベリウスだったか?」

 

 うっすらも靄がかった記憶からなんとか掘り出したものの、確信は無い。

 

「はい、正解です、指揮官。人間もなかなか良い曲を作るものですね」

 

「その手のものはドイツやイタリアの物が目立つからな……」

 

 指揮官は音楽に特段興味は持っていないと思っていたが、どうもそうではなかったのだと最近気付く。

 昔はともかくとしてロマン派から近代音楽のような物は今では演奏する者も、以前に道具すらろくになく、久しく聞いていなかった数々の音楽がやけに恋しく感じる。

 音楽の再生機器もまた、今では娯楽や道楽の類であり、昔では安物扱いなものでも高級品扱いされていた。

 

「何か音楽を流す機材でも導入しようか?」

 

「いいえ、鉄血の駆逐と治安の安定化が進めば、軍需品を扱う商人や軍人、難民以外の人間も来るようになります。そうすれば安価で手に入るかもしれません。だから、それまでは私のハミングで我慢して下さいね」

 

 そう言って鼻歌を再開するスオミ。

 指揮官としては……まあ、こういうのもいいかもしれないと感じていた。何故なら、耳だけでなく目でも楽しめるのだから。

 

 ちょっとした優雅な時間を過ごし、報告書を書いた後は手紙を読む時間である。指揮官に届く個人的な手紙は上司(ヘリアントス)雇い主(ペルシカ)からのものもあるが、今回の手紙は仕事で基地から離れたところにいる404小隊からである。

 指揮官としても、一人間として事務的な手紙ばかりでは寂しさを覚える時もあるのでこういった手紙はありがたいと感じた。

 しかし、届けてくれるグリフィンの職員や人形が彼女の手紙を過剰と思える程丁寧に扱い、大幅な遅配や紛失をしたら社会的・身体問わずに抹殺されると言わんばかりの切羽詰まった表情なのが気になるところではあるが……

 

 逃げるように去っていく職員を見届けたのちに、時間もあるのでのんびりと読もうと手紙の封を切る。

 今回の手紙はUMP45が書いていたようだ。内容はとりとめのないもので、妹のUMP9や仲間のHK416、G11とのやり取りから仕事先で見た景色の感想、仕事の愚痴に鉄血人形の排除話まで様々な話が盛り込まれていた。

 

 しかしグリフィン内では仕事以外の話はあまりしない……そもそも存在しないとされる部隊でコンタクトがあれば何らかの厄介事が必ず起こると評判で、指揮官内では半ば都市伝説の類で恐れられている404小隊の手紙がこんなものと考えれば、指揮官としては感慨深いものがこみ上げきた。

 指揮官としても親愛の情を中途半端に享受している自覚はあり、変わらずに慕ってくれる彼女達は普通に考えれば得難い存在だ。

 

 手紙の最後には近いうちに仕事も片がつき、休息と補給も兼ねてこちらに帰ってくると簡潔に書いてあり、また会える事をを心待ちにしている旨が数行に渡って書かれていた。

 余程仕事が困難なものだったのか、それとも文章を考える内に興が乗ってきたのか、真相はわからないものの熱が入ったように後半に差し掛かるにつれて詩的になる文章に対して、指揮官としてはそういった事には不勉強なので、言葉の一つ一つの意味合いを正確に理解するには少し難しいが、それでもUMP45の伝えたい気持ちは十分に伝わってきた。

 

 読み終わった後に、手紙の一番下の部分が少しだけ折られていることに気付く。裏からインクの跡が見えるので、開けば何か書いているはずだ。

 この位置なら書き損じではないと確信できる、そもそも指揮官が知っている限りのUMP45は書き損じをそのまま送るような性格では無いので不思議に思いつつ折られている部分を開いて中身を確かめる。

 

 ……そこには、先程までとは違い印刷したかのような丁寧で正確な字体で、指揮官とAR小隊とのやり取りについて書かれていた。当然、つい先日のAR小隊の帰還時に迎えに行ったこと、M16A1に飲みに誘われた事やその詳細についてもまるで当事者のように事細かに言及されていた

 

 ――どうやら404小隊には指揮官とAR小隊とのやり取りについてはお見通しらしい。

 

 手紙を読み終わると、次々と残りの仕事を片付けつつ、頭の片隅では404小隊の帰還に合わせて出迎えを行う為の時間調整を考えていたのであった。

 




PKとSVDに指輪を渡したので初投稿です

すまんな(飲み会をエクストリームカットした件について)
こっちの方が書きたかった(小並感)、まあ機会があれば詳細を

こんなやり取りしたいなぁって書きながらもぶちこまれる細かいネタが小生だーいすき(スオミちゃんにシベリウス作曲を鼻歌で歌わせる畜生の図)
45姉をポンコツヤンデレお姉ちゃん仕様にしたかったけどダメだやっぱ
ポンコツ路線は同業者いるしまあ、いいか!(開き直り)

小生もドルフロ二次の同業者達と交流してぇなぁ……(更新速度がナメクジすぎるから無理だろうけど)
ついでにいうと感想や褒めてくれる(評価的な)とモチベが伸びる(正直すぎる)


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7

 日も沈みつつあり、空が茜色に染まりつつある中、指揮官は飛行場へと佇んでいた。

 眼の前に着陸を済ませたヘリコプターがメインローターの回転数を下げており、もうすぐ扉が開かれようとしていた。

 

「ただいま!指揮官!」

 

 人形輸送用のヘリから飛び出してきたのはUMP9であった。

 SOPMODを彷彿とさせる身のこなしに、既視感を覚えながらも指揮官は甘んじてUMP9の飛びつきを受け止める。

 両手を首に回すような前者のハグとは違い、UMP9は指揮官の腰に腕を回しながら、そのまま指揮官の胸に頬や耳の裏を擦り付けるようなハグであった。

 

「任務、ご苦労だった。

 ……夕食を用意してあるが、食べていくか?」

 

「え? いいの!? やったぁ! ありがとう、指揮官」

 

 やはり人形であっても、帰還時のテーブルでゆったりと温かい食事で食べることは良い影響をもたらすらしく、評判は悪くない。

 それは404小隊の人形であっても変わりは無い様で、ニコニコと上機嫌に喉を鳴らすUMP9は、何かを思いついたようで、顔を見上げて指揮官を見つめる。

 

「指揮官は、夕食は食べたの?」

 

「まだだ」

 

「じゃあ、一緒に食べよ?」

 

 指揮官としては、残りの業務を終えてから夕食を取る気ではいたものの、UMP9の提案に対して受けざるを得ないと感じていた。なにせUMP45の手紙の件である。AR小隊に構うのであれば、404小隊も同じ待遇を求める。あの手紙はそういう要求なのだ。

 

「ああ、私で良ければ……っ! G11か?」

 

 UMP9の喜ぶ声もつかの間、指揮官の背中に大きな衝撃が加えられ、誰かをおぶる形となる。ヘリから降りてきたばかりの416がG11を咎める声が聞こえることから、どうも犯人はG11だということがわかった。

 

「ただいま、おやすみ……」

 

 G11はまるでオナモミのように指揮官の背中にしがみつくと、そのまま寝始めた。

 

「申し訳ありません指揮官。すぐに引き剥がしますので」

 

「いや、構わない」

 

 すぐさま引き剥がそうとするHK416に対して、指揮官は制止させる。

 すぐに両腕でG11の足を掴んで、おんぶの体勢となった。

 

「ところで416、君は夕食の方はどうする?」

 

「もちろん、頂くとするわ。

 指揮官とお食事出来るなら、何処へでも」

 

 間髪入れずにそう答えると、HK416は逃さないと言わんばかりに右腕をがっちりと抱き止める。

 

「あら、指揮官。お疲れさまー

 ご飯は私の分もあるよね?」

 

 背中にはG11、右腕と前には416とUMP9に確保され、空いた左腕をいつの間にかニコニコと笑みを浮かべたUMP45が確保していた。

 

「もちろん」

 

「なら良いのよ」

 

 少し前の手紙とは裏腹に上機嫌なUMP45の様子に、指揮官は御眼鏡に適う対応だったと結論付ける。

 

「それじゃあ、はやくみんなで食堂にいこ!」

 

 一通りのスキンシップで満足したのか、全員でゆっくりと温かい食事につくことを楽しみにしているのかは指揮官にはわからなかったが、UMP9は指揮官から離れると基地の食堂の方へと指揮官達を先導し始めた。

 

 

 

   ■    ■    ■

 

 

 

「き、今日は私が副官なんだから! 指揮官の業務を完璧に遂行させて見せるわ!」

 

 ある日、副官を務めているはずのグリズリーがアップデートの為に製造元のIOPへメンテナンスに出張することとなった。そこで、代理として選ばれたのはWA2000であった。

 指揮官に拾われてから、副官業務をするのは初めてのWA2000に対して、グリズリーは簡単に引き継ぎを行うと、

『それじゃ、指揮官のことは頼んだよ』と言って基地から離れていった。

 

 ビシッと指揮官を指さしてそう宣言するWA2000に対して、当の本人は何処吹く風か『頼んだ』と一言告げると、早速書類業務に取り掛かった。

 

「WA2000、グリフィン管轄内での行動規則について、贈賄に関する条文は何処だった?」

 

「それなら、この本よ。523ページ、緑の付箋からよ」

 

 指揮官の質問に関してすばやく答え、必要な物を差し出す。

 覚えたものを忘れてしまう人間とは違い、記憶力に優れる人形の特性を活かした物だ。

 

「はい、作戦報告書。書き出さずに貯めていたM249とM1918を蹴り上げて作らせたわよ」

 

 部下の人形達の勤怠の様子や状況のチェックも指揮官の仕事。しかし、そこそこの所帯を持つと1体1体事細かに見れないこともある。

 そこで、副官に出来ることをお願いして貰うこともよくある話である。

 

「WA2000、今度の作戦について相談事があるのだが……」

 

 また、指揮官が指揮を執る際の作戦についての意見交換もできる限りなら、現場の人形と意見を擦り合わせるのが上策ではある。しかし、現実は5部隊、6部隊、あるいはそれ以上の部隊数の指揮も執らねばならない事もある。

 そこで、ある程度の雛形を作る際のたたき台として、副官との意見交換も重要であった。

 

「この配置でも確かに効果は望めるわ。でもこの配置にはRFじゃなくてMG部隊でもって火点の頭を抑えたいわね。榴弾で潰せないの?」

 

 盤上の敵軍を示す赤い凸状の形をした駒を指してWA2000が指摘する。その対面には2つの青い凸状の駒があった。WA2000のその気位の高い性格はこの場では上司である指揮官に対して忌憚のない意見をぶつけるにうってつけの人材であった。

 

「配置ではもう一箇所同じ陣地がある可能性が非常に高い、そこにはNTW-20で能力を削ってからFALとARX-160で確実に仕留めたい」

 

「なら、隠密行動に長けるウェルロッドにARを率いてもらって側面を着いてもらいましょ、これならリスクは抑えられるはず」

 

 WA2000は同じくもう一つの青い駒を迂回させるように動かして、先程の赤い駒の真横につけた。これで、盤上の赤い駒に対してすべて対処が可能となるはずである。

 

「なんとか形にはなったな。担当部隊に知らせて、さらに摺り合わせを行おう。

 どんな些細な意見でも良い、私に教えて欲しい。責任は私が取る」

 

「当然よ。だって貴方は私の指揮官なんだから。じゃあ私、知らせてくるわね」

 

「助かった、感謝する」

 

「これくらい当然よ、もっと頼りなさい」

 

 引き継ぎの際にグリズリーも指揮官も思っていた懸念としては、WA2000と指揮官の反りが合わない可能性があったのだが、結果としては杞憂に終わった。そして、時間はあっという間に過ぎていき……

 

「もう昼下がりか」

 

 本日の昼食は作戦について根を詰めていたこともあってか消費期限間近の缶詰で手早く済ませた指揮官は、業務が切りの良いところであると気付く。そして、時計を見ればもう昼下がりの頃合いになっていた。

 

「全く……アイデアを詰めたいのはわかるけどなにも配給の缶詰を食べることないじゃない!」

 

 紙束の作戦報告書をフロッピーディスク状の人形用の作戦報告書に変換していたWA2000は呆れた口調で言った。

 彼女はそのまま指揮官に捲し立てる。

 

「そもそも貴方は指揮官なんだから。そんな物食べる必要なんてないのよ?」

 

「限りある物資を腐らせるわけにもいかない。

 それに、いつクライアントが私を呼び出すのもわからんのでな。戦場で基地内食を食べるわけにも行かないだろう」

 

 なまじ、それで救われた身であるWA2000には指揮官のその反論にはぐうの音も出なかった。

 

「だったら、前半の仕事はこれでおしまい! とっとと寝る! まだ自律神経が整ってないんでしょ?」

 

 指揮官は執務机から立ち上がると、そのままソファへと向かう。その背後にはWA2000も続いていた。

 

「……はい! 枕もなしで寝るなんて、承知しないんだからね!」

 

 WA2000はソファの橋に座り、膝枕で寝るように促した。指揮官はそのままソファで横になり、彼女の世話になる。

 

「初めての副官業務はどうだ?」

 

「全然、問題ないわよ」

 

「……嫌なら、他の人形と交代させるが?」

 

 指揮官の言葉が段々と鈍くなり、眠り付きつつあるのがWA2000からもわかった。

 バイタルの状態からも、指揮官は眠りにつきつつあるとわかる。

 

「ここまできたら今日の終わりまで付き合うわよ、感謝しなさい」

 

「なら……よかっ、た」

 

 朧気ながらもそう言って、指揮官は完全に眠りについた。

 WA2000は呆れつつも、指揮官の頭を撫でる。

 

「……バカね、本当に嫌いだったら副官なんてそもそも受けないわよ」

 

 その後、偶々コーヒーを淹れに司令室へと入ってきたスプリングフィールドは、膝枕で指揮官を寝かせているWA2000をみて少しばかり驚愕するも、WA2000は顔を赤らめて人差し指を立てて唇に当て、静かにするようにとジェスチャーを送るのであった。

 

 




後半に続く


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8

「ほら、起きなよ。指揮官」

 

 聞き覚えある声の主に頬をペチペチと叩かれて指揮官は目覚める。

 

「……誰だ? グリズリーか?」

 

 妙に甲高い声に違和感を感じながらも、目を開けるとそこには熊のような耳をした茶髪の子供がいた。

 グリズリーがよくかけているサングラスもある。間違いなく指揮官の部下であるグリズリーだとわかった。

 

「……どうした」

 

 あまりにもかけ離れた容姿に指揮官は眠気も吹っ飛び真顔になる。先程まで指揮官に膝枕を提供していたWA2000を思わず見つめるが『間違いないわよ』と彼女からのお墨付きを頂いた。

 そのまま起き上がるとグリズリーの前で屈み、簡単なボディチェックを行った。

 とんとんと軽く手足や肩を叩き、人間の耳や頭の熊の耳、そして両手で頬を軽く挟んで、グリズリーの瞳孔をチェックする。

 グリズリーはそんな指揮官にされるがままの状態で時折きゃーと言って反応しながらも、いつネタをバラそうかとニコニコとしていた。

 

「どうして……?」

 

 特に異常はみられず、只々困惑するしかない指揮官に対して、にっこりとグリズリーは笑みを浮かべた。

 

「びっくりした? 指揮官ってそんな表情をするんだね。

 私達は中身のデータさえ移せばこんな姿にもなれるのよ?」

 

「IOPのメンテナンスというのは……」

 

「全然関係ないよ。こんなスキンがあるから指揮官を驚かせてみてはって、偶然来ていたクルーガーさんが言ってたの」

 

 指揮官が想像していたことは杞憂だったようで、子供サイズのグリズリーはヘリアントスの上司であるクルーガー氏によるものであった。

 しかし、昔の時代を生きた指揮官にとって、子供に銃器をもたせる構図は精神衛生上あまり良くはなかった。

 

「そうか……」

 

「あ、そうそう。

 指揮官、戦力不足の為に新規の人形を要請していたでしょ。一緒に連れてきたよ。

 ARの子とMGの子だってさ。クルーガーさんがよろしくって言ってたよ」

 

 そういうとグリズリーは司令室のドアに向かって『入ってきていいよー』と言った。

 

「指揮官!」

 

 今まで溜めていた物を一気に吐き出すように扉が勢い良く開き、桃色の髪にヘキサグラムの髪留めが印象的な少女が指揮官を捉える。

 目標を見据えたその赤い眼は煌々と輝き、強い意志を秘めていることがわかる。

 

 入社テストで銃火を交えた相手として、そして入社後の研修として指揮官が率いていた人形が……

 指揮官の目には、押さえ切れない喜びの色を湛えたネゲヴがそこに居た。

 

 ――やっと出会えた!

 

 眼前にいる指揮官と再会を果たしたその時、ネゲヴの内心では歓喜に震えていた。

 指揮官とのはじめの出会いは今でも鮮明に思い出せる。

 

 

 

   ■   ■   ■

 

 

 

 グリフィンの入社テストでは、筆記テストの他にペイント弾を用いた形式での実戦試験が存在する。

 人形達を率いて戦う分、指揮官本人にも襲撃が予測される為に生存能力を見る必要があった。シチュエーションとしては、指揮官のいる司令部が孤立し、救援が来るまでの間、敵に殺害、もしくは捕縛されないように逃げるだけのシンプルな物だ。目標としては、朝から始まるこの試験から日没まで指定されたエリアで生き残ること、もしくは設定された自軍勢力圏内まで逃げ切ることである。

 なお、評価の効率化と公正さを天秤にかけ、エリア内に受験者全員を2人1組で配置し、試験を行う。

 現在本部では、その実戦テストが始まったばかりであるが、例年とは違い人形等の無線が混戦しており、いつもの実戦試験とは違う様相を示していた。

 

「TMPとSPAS12がやられた! ああクソ!M37もだ!

 チームナンバーS117の一人は武器と盾を奪って逃走中!」

 

「もうひとりが見当たらない! 周囲を警戒しつつ、包囲する!」

 

『定期連絡、こちらは敵チームと接触した。交戦しつつ突破する、以上』

 

「こちらM4A1! チームナンバーS117の一人を見つけました! S117は二手に分かれています!

 ……逃げられた! SOPMOD! 頼んだわよ!」

 

『定期連絡、俺も敵チームに見つかった。わわっ、ほんとに容赦ないな。見た感じ精鋭部隊っぽいのに捕まったみたいだ、ツイてないなぁ……』

 

「了解です。挟撃の心配はなくなったわ! 包囲して押し潰せ!」

 

「こちらSOPMOD、S117に振り切られたよ! くそ~どうやって廃墟の中をあんなスピードで駆け回れるのさ!?」

 

『定期連絡、作戦の進捗状況は予定通り』

 

「こちらAR-15、やられました。服にナイフが! 深く刺さって……動けない!」

 

「なんてこった! 突破された! 損耗率は3割を超える、なんてやつだ……」

 

「M16だ。S117、やっと仕留めたぞ……っ!

 畳返しなんて変なことばかりしやがって……これは、衣類を着せたダミー!? クソッタレ! まんまと騙された!」

 

『相棒、目標地点についたよ。マーカーを炊いとくね』

 

『了解した』

 

 今回の実戦テストは分類番号S117の2人の受験者によって、人形達と2人の指揮官との無線通信が混信し阿鼻叫喚となっていた。

 

「ヘリアン君、今回は面白いやつがいるようだな。資料を見たところ、2人共かなり面白い経歴をしている、とても興味深い。

 同等の装備で人形達の包囲網を食い破る者に、16Lab秘蔵のAR小隊から見事に逃げおおせる者……どちらも単独でやり遂げてみせるとは」

 

 実戦テストを取り仕切る本部にて、様子をモニタリングしていたグリフィンの社長その人であるクルーガーが笑みを浮かべる。

 

「すみません。彼らの能力を見誤った私の責任です」

 

 今回のテストの監督官として役割を与えられたヘリアントスは頭を下げる。

 しかし、クルーガーはそれを手で制した。

 

「このようなことは想定されていなかった。君に責任はないよ。

 せっかくだ、ネゲヴとTAR-21の2人を彼らにぶつけてみないか? IOPの自信作だそうだ」

 

「それは、問題ありませんが……

 ネゲヴとTAR-21はそれで問題はないな」

 

 ネゲヴとタボールは強く頷く、特にネゲヴは他の人形から伝えられる被撃破報告を聞いており、指揮官は相当な強者だと判断し思わず笑みを浮かべていた。

 

「よし、ならネゲヴとタボールにS117の戦っている方と交戦してもらおう」

 

 上司であるクルーガー氏から許可を得たヘリアントスは、指揮官の元にネゲヴとタボールを送り出した。

 

『定期連絡、相棒。どうやらクルーガーのクソッタレがIOPの自信作を送り込むらしい。

 ネゲヴとTAR-21だそうだ。気をつけて』

 

『了解した』

 

 S117は通信を傍受しているらしく、グリフィンの代表であるクルーガー氏をクソッタレ扱いする指揮官の相棒に当の本人は剛毅な奴だと笑い、ヘリアントスは冷や汗をかきつつも、しばらく時間が経った。

 

『定期連絡、ネゲヴとタボールの撃破を確認。抵抗は軽微、このまま合流する』

 

 ペイント弾に塗れた、ネゲヴとTAR-21の様子はしっかりとドローンカメラに収められていた。

 

 

 

   ■   ■   ■

 

 

 

 指揮官は発煙筒から緑色の煙が狼煙のように立ち上るエリアにたどり着いた、どうやらグリフィンが設定した勢力圏内で間違いはないようだ。

 先客にはスタート時に別れた相棒が物資コンテナに座り込んで寛いでいた。愛銃らしいUMP40をコンテナの上に置いている辺り、相当リラックスしているらしい。

 この男は指揮官と同じ入社テストの受験者であり、実戦テストの相棒となった男である。

 指揮官の事をひと目見て古臭い奴とよび、指揮官も彼の振る舞いをみて胡散臭い奴と呟き、無事に馬が合った。

 

 しかし障害は突破するタイプの指揮官と障害は逃げ切るタイプの相棒では一緒に行動してもあまり持ち味は活かせない。強行突破しようにも相棒が足を引っ張り、逃走して逃げ切ろうにも指揮官が追いつかれるのだ。

 そこで、大胆にも2手に分かれて勢力圏内まで逃げるという手を使ったのだが……

 

「どうやら無事のようだな。AR小隊は手練と聞いたが」

 

「君こそ、あんだけ大暴れしておいて良く無事でいたね」

 

 2番手に着いた指揮官が彼にそう話しかけると、フリフリと手を降って答えた。

 そこで、指揮官と相棒はお互いの姿をみて、その変わり様に気付いた。

 

「しかし君、別れた時から荷物が増えていないか」

 

「あんたは随分と身軽になったな」

 

 タクティカルベストにずらりと並んだ投擲物に倒した人形から強奪したサブマシンガンであるTMPやアサルトライフルであるG3、その弾倉を調達した指揮官はまさに一般的には兵士に比べて重装備そのものである。

 対する相棒は何処かで作ったのであろう簡易ナイフを両脇腹に配置されてる専用のナイフホスルターに入れているだけで、UMP40の弾薬はほとんど使い尽くし、上着や帽子、タクティカルベストに至るまでもなくなっていた。

 

「まあ、生きて到着すればノーカンってことで

 過程はどうであれ、僕たちは前人未到の事をやってのけた。それでいいんじゃない?」

 

「違いない」

 

 人が到着することを想定してないのかポイントには通信機器の類しかない。ルールと名目上は設けられても、実際に単独で敵勢力圏内からのこのこと自軍の勢力圏内に戻った者は今まで居ないらしい。仕方なく、UMP40をどかして相棒の横に座り込んだ。

 

「あー、つかれたぁ~! でもこれで確実にエリートには認定されるな」

 

「ああ、協力感謝する。諸事情により力を示す必要があったので、とても有り難い」

 

「俺も実力を示したかったからお互い様だよ。これで安全かつ確実に前線に貢献できる、労働環境真っ白なエリートのための部署に配属間違いなし!」

 

 相棒はグッとガッツポーズをとって、指揮官にUMP40を握っていた手でハイタッチを求めた。

 指揮官もそれに応じるのは吝かではなく、利き腕とは逆の手でパツンと手のひらをぶつけ合ったのだった。




他の指揮官が生えてきたので初投稿です。便乗していくスタイル。
カメオ出演的な奴ですが今回は前線日記の指揮官をお借りしました。前線日記に感化されてできた作品なので
許可及び、監修に関してへか帝さんにこの場をもってお礼申し上げます

おかしい、俺はロリズリーとネゲヴを書いていた筈だ……
指揮官単独だと化物過ぎて草を禁じ得ないので今回限りの相方用意したけどヒャア!我慢できねぇ!とビショップに走りました。

IS二次の方でシャチネタ書いて以来だぁ……


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9

「ねえ、指揮官!」

 

 司令室で、戦闘報告書をまとめてている。指揮官に対して、ネゲヴはソファで退屈そうにしていたが、やがてしびれを切らし、渋々ソファから立ち上がると両手でデスクを叩いて不平といった表情を見せた。

 

「鉄血を殺しに行かないの?」

 

「部隊は作戦行動中だが?」

 

 指揮官はネゲヴにタブレットを見せる。彼女は指揮官の隣に移動し、タブレット端末の映像を覗き見る。

 端末にはドローン越しに鉄血部隊と戦闘を繰り広げている映像が映されていた。戦況はグリフィン側の優勢、特にアクシデントもなく順調であった。

 

「えー、指揮官も前線に参加すればいいのに……。

 私と指揮官がいれば、鉄血部隊なんて皆殺しに出来るわ」

 

「今回は巡回と鉄血部隊の間引きにしか過ぎない。必要ならば、誰かしらからの命令が来るだろう」

 

 タブレットと元の位置に戻すと、再び戦闘報告書をまとめる。

 途中、手元のマグカップに手を伸ばしてコーヒーを飲もうとするが、中身が無いことに気付いた。

 

「そっかぁ……まあ、あなたがいるからそれで満足だわ。あ、指揮官。喉が渇いた?」

 

「ああ、おかわりを」

 

 その様子に気付いたネゲヴは指揮官のマグカップを取り上げて隅にあるコーヒーメーカーに向かう。

 ちょうどその時であった。司令室の扉から『グリズリー到着しました! 開けてください』という声が上がる。ネゲヴが扉を開けてあげると、紙束の山を抱えた子供サイズのグリズリーが入ってきた。

 

「指揮官、持ってきたよ。どこに置けばいい?」

 

「ああ、私の隣の机に頼む。

 ネゲヴ。コーヒーを追加だ。自分の分とグリズリーの分も頼む」

 

 ネゲヴはそのまま新品のマグカップを2つ取り出して、コーヒーを淹れ始め。

 グリズリーはとてとてと歩いて、指揮官のデスクの隣の机に紙束を置いた。

 指揮官は自分のデスクを軽く動かしてスペースを確保、その後紙袋を取り出した。

 

「いい頃合いだ。休憩にしよう。

 グリズリー、君の口に合えばよいのだが……」

 

 紙袋を破くと中にはいくつかのドーナツが入っていた。指揮官は紙袋を広げてペーパーランチョンマットの代わりにする。

 

「わあ! ドーナツ!」

 

 グリズリーは副官用の椅子を動かして、そこに座る。

 

「担当地区の視察に行った時に見かけたのでな、好きなものを選ぶと良い」

 

 顔をほころばせるグリズリーの姿に自分の考えは間違いではなかった、と指揮官は内心で胸をなでおろす。

 先日、PXでドーナツを買いそびれてションボリとしていたグリズリーを見かけていた指揮官は視察の際に見かけたドーナツ店からいくつか買っていたのだ。

 

「え!? ほんとに? いいね!」

 

 グリズリーは素早く手を伸ばして、ドーナツを一つ確保した。プレーンなグレーズドドーナツに上部がチョコでコーティングされてカラフルシュガーがまぶされたものである。

 

「はい、コーヒーよ」

 

 ネゲヴは指揮官とグリズリーの前にマグカップを起き、自身はソファへと向かおうとする。それをみたグリズリーは彼女を呼んだ。

 

「ネゲヴ、貴女も一緒に食べましょう?」

 

「え? いいの?」

 

 グリズリーはそのまま副官の椅子から降りると、後ろ向きに跳んでそのまま指揮官の膝の上へと座った。指揮官はグリズリーが落ちないように慌てて両手で支える。

 

「新入りだからって遠慮しない。ほら、椅子に座って。私にコーヒーカップを差し出して。

 それでもいいでしょ? 指揮官」

 

「もちろんだ」

 

 ネゲヴは副官用の椅子に座ると、イチゴチョコでコーティングされたオールドファッションドーナツを確保する。

 

 休憩時間中はほとんどがグリズリーとネゲヴの問答であった。どうして、ここに来たのか? 指揮官とは何処で知り合ったのか? 研修中の指揮官はどうだったのか等である。

 指揮官は余ったドーナツを食べつつ、時折足をぶらぶらと振るグリズリーが膝の上から落ちないように支えていた。

 

「へぇ、指揮官も結構やるじゃん」

 

 一通りネゲヴから話を聞いたグリズリーは指揮官を見上げる。ドーナツもなくなり紙袋を片付けると、グリズリーを抱き上げて膝の上から下ろした。

 しかし先程まで饒舌に喋っていたグリズリーとは打って変わって、瞼を重そうにしている。

 

「……うぅ。おやつを食べたら眠くなってきたぞ。子供の体ってこんなにも辛いのか?」

 

 心なしか足取りもおぼつかなく、そばにいたネゲヴも心配そうに見ている。

 

「ソファで寝るか?」

 

 グリズリーはこれが眠気だと気づくと、指揮官の服の裾を引っ張る。

 

「じゃあひざまくら。いつもやってるんだから、私にもしてよ」

 

「了解した」

 

 普段から彼女に世話になっている故に、断る選択肢は指揮官にはなかった。

 そのまま、グリズリーの両脇に手を入れて持ち上げ、抱きかかえると、そのままソファの真ん中へと座った。

 

「ふぁあああ……もう、こういうところだよ。まあ、いいか。おやすみなさい……」

 

 指揮官の行動に驚きながらもソファに横たわり指揮官の膝を枕代わりにしてグリズリーは眠りこけた。

 グリズリーの寝顔を見て、こうしてみると子供と変わらないなと指揮官は内心で思った。

 

「ネゲヴ、タブレット端末を」

 

「わかりました」

 

 ネゲヴは指揮官のデスクからタブレットをとり、指揮官に渡す。引き続き戦地のドローンから映像が送られてくるが、特にアクシデントもない。

 

「少し相談があるのだが……」

 

 指揮官はタブレット端末を受け取ると、ネゲヴに相談事を持ちかける。

 相談ごとの内容はネゲヴにとってうってつけであり、彼女には断るという選択肢はなかった。

 それから、しばらくすると司令室の扉が開かれる。入ってきたのは3人の人形であった。そのどちらもが桃色の髪をしているが、それぞれの獲物は小口径型のアサルトライフルと対物ライフルであった。そう、AR-15とNTW-20の2人だ。

 

 彼女達の眼の前、ソファには指揮官がネゲヴと寄り添いながらタブレット端末を見、子供サイズのグリズリーが膝枕を堪能している様子だった。

 

「しきかぁ~ん。倉庫においてある家具なんだけど……指揮官~モテモテだねぇ、なにしてるの?」

 

 そして残りの一人はUMP45だ。

 

「兵棋演習だ」

 

 タブレット端末に現れる映像を見つつ、UMP45はこの基地の新入りであるネゲヴを見定める。とは言え、指揮官と面識がある人形だ。きっと指揮官目当てであると、UMP45は直感的に感じていた。

 

「そっかぁ……

 ねぇねぇ、ネゲヴは指揮官のこと、好きなの?」

 

「好きよ。指揮官がいない世界なんて、考えられない」

 

 真っ直ぐとUMP45の目を見据えて、躊躇なくはっきりとネゲヴは即答した。指揮官は気恥ずかしさからか人差し指で頬を軽く掻く。AR-15は驚愕し、赤面しながらもネゲヴを思わず見据える。NTW-20は何故か誇らしげに胸を張っていた。

 

「どういう所が良いの?」

 

「そうねー、私と同じ戦闘のスペシャリストだから!」

 

 UMP45は何故ネゲヴのような群を抜いて優秀な戦闘能力を有する個体がこじんまりとした規模の基地への異動を願い出たのかは何となく察してはいたが、ネゲヴは予想通りの答えを言ってくれた。

 今は、有能で相性がいい指揮官に仕えるという意味合いだろうが、それで油断してはいけない。

 AR-15は安堵の表情を浮かべて胸を撫で下ろしているが、NTW-20はネゲヴに同意するかのようにウンウンと頷いていた。

 

「へぇ、そうなんだ……ねえ、指揮官。私のナインなんかどう?

 可愛いし、気立ても良いし、指揮官のこと気に入ってるし。今なら私もオマケ(愛人枠)で付いてくるから、ね?」

 

「勘弁してくれ」

 

 畳み掛けて指揮官を茶化すが、指揮官の降参とも言えるその一言で、もう引きどきだと判断したUMP45は話を戻そうと決めた。

 

「ごめんごめん、ちょっとからかいが過ぎたわね。

 倉庫においてあるサービスワゴンとティーテーブルを貰いたいのだけど良いかな?」

 

「問題ない」

 

「それじゃあ、もらっていくわねー」

 

 UMP45はAR-15とNTW-20の間を抜けて、そのまま司令室から退室した。

 

「AR-15とNTW-20は何の用だ?」

 

 指揮官はそのままUMP45を見送ると2人に話しかける。

 

「私達はシューティングレンジとCQBハウスの使用許可を申請しに来ました」

 

「書類は私が持っている」

 

 NTW-20から書類を受け取る。

 

「了解した。受理しよう」

 

 指揮官は二つ返事で了承するが、話はそこで終わらなかった。

 

「指揮官、突然で申し訳ないが指揮官にも同行を願えないだろうか? 指導していただきたい」

 

「リハビリ時、16Labで見せた室内戦闘のデモンストレーションをもう一度見たいんです。

 あの時は拳銃一つでしたけど、アサルトライフルや大型のライフルでの心得もあると聞いて」

 

 NTW-20とAR-15は興味深い様子で詳細を話していた。どうやら偶然、グリフィンの射撃テストのデータか記録で指揮官の物を見つけたらしい。

 

「済まないが、今は無理だ」

 

 膝で寝ているグリズリーを見て、指揮官は応える。

 しかし、意外な者から意見が挙がった。

 

「なら、私が行くわ。

 何故なら私が指揮官の初めての人形なんだから!」

 

 ギョッとする2人に対して、指揮官が訂正を入れる。

 

「ネゲヴはこの基地では新入りだが、私がグリフィンの研修時に専属として付けられた人形の一人だ。

 今すぐというのなら、彼女を代理で行かせよう」

 

 2人は安堵の表情を浮かべる。その様子に人形は、人間のような肉の塊ではなく、プラスティックの塊であるが、その表情は人間と変わらないなぁと指揮官は思った。

 

「ああ、それなら心強い。それでお願いする」

 

「……わかりました。それなら仕方ありませんね」

 

 NTW-20はすんなりと納得したが、AR-15は納得がいかず、その胸中の中では指揮官を連れ出して独占できなかった悔しさで満たされていた。

 しかし、ごねるわけにも行かず。あまつさえ、自分達に配慮する形で代案を提案してくれた指揮官を無下にする事はAR-15自身が許さない為、結局はその代案に賛成した。

 

「人数の変更と弾薬に関しては私がなんとかする。3人は遠慮無く訓練に勤しむと良い」

 

 そんなAR-15の胸中を知らない指揮官はネゲヴとAR-15、NTW-20を司令室に送り出すのであった……

 

 

 

   ■   ■   ■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 笑顔で司令室から出たUMP45は扉を閉めた。

 その途端、今までの表情から一転して、能面のような物に変わる。暫しの沈黙の後に絞り出すように声が漏れた。

 

「……絶対に手に入れてやる」

 

 ふつふつと内側から沸き起こる嫉妬と憎悪を胸に決意を改めると、強い足取りで彼女は宿舎へと戻っていくのであった。

 




やられてしまいました。まさかこんな(父性)感じるとは思わなかったので初投稿です。

グリズリー流行らせ!流行らせコラ!
ピンク3人は手持ちですごくお世話になっているので揃えたかった(小並感)

ずっと現代銃ばかりなのでWW2前後もやっていきたいなぁ……


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10

 

「そういえば、指揮官さんは本来は口数が少ないんですね。

 AR小隊の補佐役の時は指導でかなり喋っていたと思うんですけど」

 

 ある昼下がり、M4A1は指揮官にコーヒーを淹れていた時に零れた言葉である。

 

「そうだな」

 

 指揮官は肯定で返す。

 AR小隊によって救出された指揮官は、彼女たちが所属する16Labの長であるペルシカリアの計らいにより治療及びリハビリテーションを実施していた。

 体調の快復を条件にAR小隊を指導するための補助要員として随伴することを要請されていた。

 

 今でこそのんびりと業務に携わるだけではあるが、目覚めた当初は自身の能力を売り込まざるを得ない状況であり、それこそ何ふり構わなかったのであまり慣れない事でもやっていたというのが真実なのだが……

 目の前のM4A1も当初と比べたら随分とこちらに対する態度は柔らかくなってきたものだと指揮官は思った。

 

 

 

   ■   ■   ■

 

 

 

「これより、この小隊の補佐役として配属されることになりました。

 名目上は指揮官ではありますが、よろしくお願い致します」

 

 特殊な戦術人形だけの隊に入る引け目を感じさせず、だからといって偉そうな態度をとるわけでもない。

 出撃まで待機していたAR小隊用の天幕に入ってくるなり、堂々と彼は名乗りあげた。

 

 AR小隊の救援を成功させ、ペルシカリアからの信用を勝ち取ったらしい彼。

 M4A1は事前に彼女から聞いており、『彼なら必ずM4達の役に立つはず』や、『彼の戦闘能力から学ぶべきこともある』とベタベタに褒められていたのを思い出した。

 

「お疲れ様です、私がAR小隊長のM4A1よ。よろしくお願いします」

 

 不審な様子を隠さないAR-15とM4SOPMODは訝しむ様子で指揮官とM4A1の握手する様子を見ていた。

 

「あの時の奴か! この前は世話になったが、一人で敵陣に突っ込まないようにお願いするぜ」

 

 握手が終わると、指揮官とM4A1の間に割って入るようにM16A1は指揮官に言葉を投げかける。その言葉にはわずかながらの棘があり、言外に『お前は信用できない』と言っているも同然の言葉であった。

 

 あのペルシカが人間の評価をあんなにも嬉しそうに言う様子はM4A1は一度も見たことがなかった。なので、正直なところM4A1は指揮官のことは半信半疑であった。

 

 それは他の小隊も同じようで、みな怪訝な表情を浮かべていた。

 

「了解しました。肝に銘じさせておきます」

 

 M16A1の皮肉もどこ吹く風か、まるで通じていないように素知らぬ顔で受け流す指揮官。

 その余裕ぶった態度がM4A1には少し気に入らなかった。

 

 

 

 

   ■   ■   ■

 

 

 

 

「隊長、周辺の偵察は完了しました。敵の配置図、編成をデータリンクさせておきます。

 奇襲による先制攻撃のプランも既に用意しております」

 

「そうですか、随分と早いですね」

 

 偵察から帰ってきた指揮官は随伴していたSOPMODとAR-15の2人と軽くやり取りをした後、M4A1にそう報告をした。

 

「確認及びご検討を願います。自分は歩哨として付近を見て回ってきますので」

 

 送られてきたデータには指揮官の宣言通り、敵の配置図や編成の他に各種地形や遮蔽物のデータ等事細かに入力されていた。配置図には付近の敵の指揮系統を担っていると思われる部隊や、火力の要となる部隊も記されていた。

 去っていく指揮官と入れ替わりにSOPMODとAR-15がM4に駆け寄ってきた。その様子はどこか落ち着きのなく、気分が高揚としてた様子であった。

 

「凄いよM4! あの人、私がまだ鉄血部隊を見つけていなかったのにもう見つけたんだよ!」

 

「本当なの? AR-15?」

 

「ええ、事実よ。数も正確に言い当ててました。

 データリンクの情報も確認してます。十分に信用できるわ」

 

「M16姉さんはどう思います?」

 

 M4達と同じく、データリンクの情報に目を通しているM16A1はしばらく考えた後に答える。

 

「このデータが本当に有用なら、戦いを有利に進ませられる。配置を見ても鉄血共の考えそうなことだし、理にかなっている。

 指揮官は信用できないが、私はこのデータを信じてみようと思う」

 

 興奮の収まらぬ2人を他所に、M4A1はM16A1の意見を決定打に奇襲による先制攻撃を採用した。

 その後、合流した指揮官の手引きするままに行動を起こすと、鉄血部隊の大勢は見事その通りの数と規模であり、奇襲によってその要となる兵力を喪失し、指揮系統が混乱。そのまま潰走させることに成功した。

 最初はしきりにM4A1とM16A1はその情報を疑いながら警戒を怠らなかったが、実際にはほぼ完璧に情報と合っていた鉄血部隊を目の当たりにして、指揮官の横で銃器を構えながら驚く。

 

 M4A1は戦闘からの帰還後、何故わかったのか指揮官に聞いてみたところ。

 

「経験だ」

 

「でも、正確な数までは難しいのでは?」

 

「現在の状況で敵がこの場所を攻めるに適した人数や、装備からある程度は判断できる。

 索敵に行ったのは実際にその判断が正しかったか、どれぐらいのズレがあったのかを確かめる為の答え合わせのようなもので、殆ど流れ作業のようなものだ」

 

 指揮官はそう答えると、最後にこう付け足した。

 

 ――隊長もその内、わかるようになるだろう、と。

 

  M4A1に対して、指揮官は別段どうということないという風に説明した。その後、彼女は『それじゃSOPMODⅡやAR-15より早く敵を発見出来たのもそうなのか』と、無意識に続けた質問に対して指揮官はこう答えた。

 

「その理由に関しては経験や慣れも必要だが、目には少し自信がある」

 

 M4A1は丁寧な態度をとる指揮官は言外に『お前の隊はまだまだ未熟だと』その目が語っているような気がしてたまらなかった。

 その後、ある作戦でAR小隊を支援するはずの担当区域の人間が鉄血部隊との急襲で戦闘中行方不明になった。

 その為急遽、指揮モジュールを持つM4A1が残存するグリフィンの部隊を指揮することになってしまった。

 少し前に、指揮統率の件で指揮官に注意されたM4A1は、意趣返しも含めて半ば吹っ掛けるつもりで指揮権を指揮官に委ねて見せた。

 

 結果は、ダミーリンクこそ被害はあったものの、M4A1の目の前で1体の損失を出さずに鉄血部隊を殲滅してみせた。

 

 グリフィンの人形達に指示を出すのはM4A1がやっていたので、その功績はAR小隊以外誰も知らないだろう。

 

 しかし、指揮官の傍にいたAR小隊にはわかった。

 

 敵の攻勢に対する捌き方、部隊の陣形の崩し方とそのタイミング。人形達の動きは見違えるほどに変わり、M4A1はこのとき初めて指揮モジュールによる連携という戦術の本質を理解した。

 

「この人は、本当に強いんだ……」

 

 掃討戦を終えて、グリフィンに戦闘終了後の報告として通信を入れて話している指揮官を横目に見ながらM4A1は呟いた。

 

 もしも体裁を保つ為に命令通りにM4A1を経由しての戦闘指揮ではなく、直接指揮を行えば、おそらくもっと早く、そして損失額も少なくこの戦いを済ませることができたであろう。

 そう確信を得たM4A1は、指揮官に次回の作戦行動では最初から指揮を執って貰おうと考え、本来は余所者である彼に頼るという恥からくるプライドをどうにか引っ込めて持ちかけてみた。

 

 ――指揮官の力を借りることができれば、M16姉さんもAR-15もM4SOPMODⅡも……AR小隊を誰一人たりとも失うなんて事は無いはず!

 

 自身の未熟さと指揮官との力量差を客観視して冷静に考えてみれば、その方が合理的ではあるとM4A1は判断した。

 

「……ここは誰の隊ですか?」

 

 感情を込めるわけでもなく、指揮官はそう言い放った。

 しかし、M4A1を見つめるその目は冷たく、はっきりと物語っていた。

 

 

 ――馬鹿が。

 

 

 直接口にしたわけでもないが、そういう風に言われた用に感じられた指揮官の視線にM4A1はまるで頭を殴られたかのような衝撃を受けた。

 

 ――叱られた、AR小隊以外に、人間に、初めて……。

 

「……前言撤回します。

 余所者の貴方にはAR小隊は任せられないわ」

 

 本来の指揮官に任された仕事としてはM4A1を筆頭にAR小隊の戦闘指揮能力を向上させるための指導であり、AR小隊の隊長になるわけではない。

 

「そうだな」

 

 頭を冷やしてそう言い放ったM4A1を見つめる指揮官の視線は先程までとは打って変わって、温かいものに変わった。

 

 ――そうだ。ならば私を使うと良い。小娘。契約の続く限り、せいぜい面倒を見てやろう。

 

 彼女は指揮官のその視線からにそう言われた気がした。

 その後、M4A1は指揮官に近づこうと努力した。

 

「指揮官さん指揮官さん、この場合はどう味方を動かせば良いんでしょう?」

 

「味方を助けたい気持ちはわかるが加勢するのではなく、十字砲火を意識しなさい」

 

「指揮官さん指揮官さん、この間の人質救出任務はどうでした?」

 

「迅速な作戦行動だったが、人質の拘束が甘い。敵の偽装工作や寝返る場合もある。

 人質は味方ではない事を考えるべきだ」

 

「指揮官さん指揮官さんっ! い、今の訓練プログラム見てくれましたか!!

 昔に比べてこんなに能率が上がるなんて……っ!」

 

「ああ、ちゃんと見ている。だが無闇にはしゃいでは……落ち込むな、きちんと見ている。上出来だ」

 

「指揮官さん指揮官さん指揮官さぁんっ!!」

 

「外なら兎も角、ここは16Lab内だ。静かにしなさい」

 

 もっと、頑張らないと。M4A1は自分を奮い立たせる。

 

 ――強く、畏怖の念を起こさせるようなあの人。

 

 そんな指揮官に近づく為に。

 

 M4A1のその思いが強くなったのはある作戦のことであった。

 AR小隊単独での作戦行動を終えて基地に帰還する際、最寄りの飛行場との距離の関係上山岳地帯で一夜を過ごすことになった。

 その日の不寝番はM4A1であり、他のAR小隊のメンバーは眠っている。

 

「隊長、後は私が見張り役を引き受けよう。先に休むといい」

 

 ふと、背後から音もなく暗闇の向こうから指揮官が歩いてきた。

 まるで、暗闇と一体となったような雰囲気にM4A1は疲労から来た幻覚か鉄血のウイルスプログラムの仕業かと思った程である。

 

「指揮官、ごめんなさい。助かりました」

 

 心から感謝を込めて、M4A1は頭を下げる。他のAR小隊のメンバーの手前、強がって平気なふりをしていたが、今回の作戦行動での激しい戦闘や行軍に加えて、帰りは険しい山道を抜けざるを得ず、AR小隊一行は疲労のピークに達しようとしていた。

 

「でも、指揮官さんは……」

 

 見上げた先にいる指揮官は、ちょうど影になってて表情が伺えない。しかしその立ち姿はまるで疲労を感じさせない物であった。

 

 この指揮官は、M4A1は他のAR小隊なんかよりもずっと働いているはずなのにと彼女は今回の作戦行動を思い起こした。

 戦闘時はAR小隊の援護射撃や、側面に回っての強襲、敵をひきつけて十字砲火に晒させるための陽動や、敵の火点や増援を潰すための攻撃など多彩な役割を引き受けており、他の作戦行動中にも見張りや偵察などを行っていたりと指揮官には気力体力共に底が無いのではと思うほどであった。

 

「お構いなく、ゆっくり休むと良い」

 

 事実、待ち伏せ時には読み通り敵の側面をまんまと頂いていたり、偵察になどの行動に出た際には、本当に敵を発見したりすることが殆どで、1体2体との遭遇戦に至った場合はその場で返り討ちにするというのもよくあることであった。

 

 M4A1は眠りにつく前に一人淡々と見張りをこなしている指揮官の様子を見て思う。

 

 ――これも、また慣れの一言で片付けられるのだろうか?

 

 少なくとも、並の人間ではたどり着けない物だと彼女は思う。もし、こんな人が今も昔もこの世の中に溢れていたとするならば、戦術人形なんて物は不要になるのだから。

 

「……そういえば、わたしもなれるって言ってたよね」

 

 この人の……指揮官の立つ領域に、自分も踏み入れることが出来る。

 最早、疑いようの無い程に優秀で身近にいる存在。

 

 ――嬉しい、早くそうなりたいなぁ。

 

 今では厭味ったらしく聞こえた指揮官の言葉が、素直に自分の中に入ってくる。

 

 M4A1は確実に指揮官に惹かれていた。

 

「おやすみなさい……」

 

 いつか対等に肩を並べられる日が早く来ることを願って、M4A1は静かに眠りの中へ堕ちていった。

 

 

 

   ■   ■   ■

 

 

 

「え……なん、ですって?」

 

 指揮官から聞いた言葉が信じられなくてM4A1は声をだすことはおろか、呼吸すら忘れて呆然としていた。

 

「16Labとの、ペルシカリアとの契約期間が満了を迎えましたので、ここを去ろうかと

 ……籍と身分は発行していただいたので、今後は手頃なPMCに厄介になる予」「しない」

 

 M4A1の反応が悪く、指揮官は引き続きその後の身の振り方を口にしようとするのを彼女は反射的に遮った。

 

「……隊長?」

 

「……少し待ってて下さい。確認しますので」

 

 珍しく怪訝な表情を浮かべる指揮官から手渡された契約書を半ばひったくるように手に取り、懐にしまい込むと、M4A1はペルシカの元へと向かった。

 

 ――指揮官が、私の傍から離れる?

 

「……認めないから」

 

 M4A1は焦りの中でも冷静さを保つためにいつもの出撃装備に身を固め、愛銃を携帯して、16labの研究員や警備員がぎょっとするような表情を浮かべていてもまるでお構いなしにペルシカの研究室へとノックをせずに入っていった。

 

「やあ、M4。まるで今から直談判でも始めそうな顔をしているな」

 

 いつもと様相が異なる、切羽詰ったM4につかつかと詰め寄られても、平然とコーヒーのようなものを啜っている彼女とM4A1は向き合う。

 

「ペルシカ! 契約の件、継続するように取り計らって下さい! 彼は私の指揮官です!」

 

「へえ、いつの間にそんなに入れ込んだの? はじめは渋々って感じだったのに」

 

 詳しく聞くと、AR小隊から救出後、ペルシカの懇意によりここでリハビリをして体を再調整して、その間に籍を身分を提供する代わりに、戦闘能力と指揮能力をペルシカの為に使うという契約をしていた。特に指揮能力に関して指揮モジュールの習熟も兼ねてM4A1には特に力を入れて励んで貰うようにと……

 

 はじめはM4A1から紡ぎ出された言葉に驚きの表情をも見せるも、すぐに興味深い視線でM4A1をみるペルシカリア。

 

「指揮はまだ指揮官の足元にも及ばない! 彼みたいに偵察や指揮! 細やかな戦術、戦略眼を持つなんてもっと遠い!

 彼から学んでないものはまだたくさんあるのに……どうして彼を手放したりするんですか!?」

 

 焦りと想定外のことに苛立ちを感じながらも、必死に説得を続けるM4A1。

 ペルシカはコクコクと頷きながら、指揮官に薦めるPMCとしてグリフィンに入社するように話をつけておく事でM4A1に意見に同意を示した。

 

「滅多にない我が子のワガママだ。できるだけのことをやってみよう」

 

 満足気に頷きながら、作業を始めたペルシカリアを尻目に、M4A1は研究室を去って自分の部屋へと戻る。

 指揮官が居なくなるまで、まだ日数はある。今日は指揮官を驚かせてしまったが、彼はきっと明日には何食わぬ顔で自分の前に現れるだろうとM4A1は確信を持った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もうここを去るなんてことは無いから大丈夫ですよ、指揮官。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大 好 き だ か ら 

 ず っ と 傍 に 居 て ね

 

 

 




おかしい、小生はベクターを書こうと思ったのにM4A1を書いてた……(池沼)
404小隊のやべーやつが隊長だしAR小隊のやべーやつも隊長にしなきゃ(使命感)
忠犬は忠犬でもSOPMODのお姉さんだしまあ、多少はね?


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11

「はぁーい、指揮官~。私よ」

 

 とある集落を一望できる位置に陣取った404小隊は後方で待機している指揮官に連絡をとっていた。

 UMP45は専用の連絡機械で指揮官とコンタクトを取り、UMP9は双眼鏡やドローンで監視活動を、416は簡易キャンプとして陣取ったこの場を維持するため歩哨に立ち、G11は寝袋にくるまって仮眠をとっていた。

 

「ええ、ええ。私達は大丈夫。心配してくれてありがとね。

 それでね指揮官、お願いがあるんだけど手伝ってもらえないかしら?」

 

「うん、対象はクロ。迅速な即時抹殺が必要よ。

 けどダミーを展開して包囲しても逃げられちゃうかも?

 この間の指揮官の掃討作戦で少なくはなったけど、鉄血の人形がいないとは限らないし……

 指揮官、なにかいい案はないかしら?」

 

 ――UMP45と電話越しだが指揮官とのやりとりが幾らか繰り返された後

 

「そんなにしてくれるの?うれしぃ、ありがとね指揮かぁーん」

 

 指揮官との連絡機械をシャットダウンさせるUMP45。

 だが、妹であるUMP9は見ていた。指揮官と話す時だけは45姉の声色が柔らかく、口角を上げながら話をする様子を、そしてそれが無意識的に現れていることも。

 UMP45がここまで人を気に入るのも珍しいが、UMP9はそれなりに理由があると感じていた。

 

 汚れ仕事部隊や疫病神とも言われる404小隊をできる範囲で厚遇する懐の深さだけでは404小隊全ての好感を得ることはありえない。

 罠にかかり孤立した404小隊を見捨てずに駆けつけたり、ジャミング装置で遠隔で指揮を取ることができない地域に突っ込んだ404小隊を支援しに直接前線で指揮を取り戦闘に参加する。

 足を引っ張らず、404小隊と背中合わせに戦うことのできる特異な人間だからこそ興味が湧き、そして戦いを重ねる内に惹かれていった。UMP9も当然、その1人であると自覚している。

 

「あら?いらっしゃい、指揮官」

 

 暫くの後、指揮官が合流すると作戦会議が始まる。

 

「で、作戦の首尾はどうなるのかしら?」

 

 おおよそ事態を把握しているUMP姉妹と指揮官はともかく、歩哨に立っていた416と仮眠していたG11は詳しい内容は知らない。

 

「ああ、まずは集落一帯を砲爆撃に晒し抵抗力を落とす。

 これは比較的大きな建物やコンクリートの建物の破壊に務める」

 

 地図上に書かれている建物にばつ印をつけながら指揮官は話を続ける。

 

「そして次に白燐弾及びナパームで集落の周囲を中心に引き続き砲爆撃を行う」

 

 地図上に書かれた集落をムの字上に描いた。四方を囲むのではなく、敢えて逃げ道を作ることである程度相手の行動をコントロールしようという思惑であった。

 

「そしてキルゾーンを構築次第、抵抗勢力を殲滅、さらなる砲爆撃を加えた後、そのまま集落に乗り込み、残党勢力の掃討を行いつつ、対象の確認を行う」

 

 ムの字に展開する敵記号にばつ印をつけて、そのまま集落の建物一つ一つにばつ印を加えていく。

 

「UMP45と相談したのだが、これで良いだろうか?」

 

 一通り説明を終えた指揮官は416とG11に是非を問いた。

 

「ええ完璧よ。あとは私達が仕留めてみせる」

 

「やりすぎで怖い……でもいいよ」

 

 UMP9は満足そうに目を細めて指揮官を見つめる45姉をみる。

 UMP姉妹はじめ404小隊はこの指揮官から感じる匂いが多種多様にあることに気づいていた。そして、いま醸し出してる匂いのそれはUMP姉妹、ひいては404小隊にとってとても心地よいものであった。

 

 この指揮官の時折見せる、どんな人形よりも人形らしく、一切の無駄を省き、完璧な合理性を秘めた殺人マシーンのそれにも404小隊達は大なり小なり魅了されていたと言えよう。

 

 各種支援要請を取り次いだ後、集落をドローンによる監視網と、ダミー人形部隊による簡易的な包囲態勢を敷いた後に指揮官と404小隊は予め設定されたキルゾーンで待ち構えた。

 

「最終確認を行う。各種チェック」

 

 指揮官の号令に対して、各員それぞれが答える。

 

「UMP45指揮モジュール問題なし」

 

「UMP9ドローン制御問題なし」

 

「416、G11共に各種武装の問題なし」

 

「あ、言われた。G11、眠気なし」

 

「了解した。作戦行動を開始する。

 【各種支援を要請する。グスタフ、グスタフ、グスタフ】」

 

 指揮官が妖精達に支援要請を出してそのまま通信を切ると、この集落で一番大きい建物である教会の鐘塔が爆発し、崩れ去った。

 次に、兵舎、見張り台、戦場後から拾って直したであろう軽車両に砲弾やロケット、爆弾が降り注ぐ。

 

 被害を受けているのは潜んでいたテロリスト達だけではない。

 

 とある家族は聞いた事の無い轟音に自宅で怯えつつ、屋根に直撃し飛び込んできた砲弾の爆発によって全滅した。

 路地裏に隠れていた花売りの少女が爆風によって切り刻まれ、同じく近くにいた浮浪者も飛び出した破片で強打し絶命する。

 たまたま居合わせてしまい、悲鳴を上げて必死に荷車を引きつつ避難中だった行商人が、彼の命より大切な商売道具や商品ごと粉砕される。

 近隣住民が集まった教会の建屋がとうとう直撃を受け、そこにいた十世帯が全員致命傷を負い、かろうじて重傷を負った数人の大人と子供が、立ち込める粉塵に咳き込む事すらできずに死を待つ。

 なんとか事態を把握し統制を保った難民たちが避難中の区画に数発の砲弾が落ち、爆発とそれによる破片でその時そこにいた数十人余りを全滅させる。

 

 民家という民家が軒並み叩き潰され、商店が燃え上がり、急ごしらえの公共設備が砕かれ、粗末な軍事施設が崩壊する。

 

 逃げ惑う人々の頭上に爆装した空爆妖精が現れ、開けた場所や無傷の建造物めがけてナパーム弾を投下していき、炭人形を作り上げていく。

 崩れた建物に白燐弾が入り込み、簡易シェルターにいた人々を焼き殺し、窒息死させる。

 周囲に展開した部隊に追随している砲撃妖精が迫撃砲を次々と放ち、十分な殺傷能力を持った砲弾を降らせていく。 十二分に弾薬を満載した砲撃妖精と火箭妖精は、初撃で打撃を加えた後も休むことなく砲弾とロケットを撃ち込み続けた。

 

 無秩序に見えて、彼らの攻撃は作戦通り計画的に行われた。

 

 そして、彼らにとっては大変に不運な事に、グリフィンは決して対地攻撃能力に特化した組織ではないが、砲爆撃で無防備な集落を破壊しつくすには十分な火力を持っていた。

 

「前方に避難民と思われる集団! 数およそ20!」

 

 ムの字に形成されたナパームと白燐の壁から逃げるように、這い出た人間が指揮官と404小隊めがけて殺到する。

 

敵だ(・・)。撃て」

 

 416に対して指揮官は即座に応答する。

 

 吹き上がる銃火、湧き上がる悲鳴。

 

 ――これでいい。

 

 指揮官は404小隊の戦闘能力と士気の高さに安堵した。

 本来であれば民間人への攻撃は重大な戦争犯罪である。

 だが、この街へ攻撃を行う指揮官及び404小隊たちには、民間人に対する無差別攻撃が正式に書類で命令されている。

 

 その理由は、ただ一つ。

 

 あるテロリストグループが、正規軍やグリフィン、他PMCの情報を鉄血の人形共へ伝えたからである。

 本来ならば、この周辺は鉄血の勢力圏内ぎりぎりのところではあるが、彼らは人類を売り渡すことによって、仮初の平和を掴んでいた。

 そして、平穏な土地に流れ着いた難民がそこで定住しはじめ、彼らはその安い労働力を用いて、違法な銃器や麻薬などの栽培を始めた。

 

 第三次世界大戦という未曾有の被害に晒された人類たちは、2000年以上に渡って積み上げられた科学技術やテクノロジーを復活させ、それを用いて文明再建、そして復興していかなければならない。

 

 しかし集落に居た彼らは人類の生活圏が縮小しあらゆる脅威に晒されながらも抵抗を続ける中、自分達のやっている事が何を招くのかを予測できなければいけなかった。

 あらゆる武力を用いてでも、どんな犠牲を払おうとも、人類の生存圏を確立しなければならなかった人類は、自分たちのアドバンテージや生存圏を守るためになんでもするのだ。

 

 例えて言うなら、必要があるのであれば、結果的に罪の無い一般市民を、女子供だろうが容赦なく虐殺し、市街地を破壊し尽くすような事を。

 

 そのような状況において、指揮官は幸運だった。

 昔から現在まで、常に第一線でありとあらゆる状況下での戦闘をこなし続けており、彼も404小隊も、目の前の敵と定義された者に対して攻撃する事に抵抗感も罪悪感を持っていない。

 

 ――それが見るからに非武装の、明らかに戦意が無い避難中の女子供であったとしても。

 

 ありとあらゆる実戦経験を積んでいたことで戦闘能力に磨きがかかり、精神が摩耗し、どのような命令であろうとも、できるだけ効率的に実行できる。

 

 ――おおよそ指揮官は人間としては不幸かもしれないが、少なくともこのような戦争を行う軍人としては大変に幸運だった。

 

 そして残酷な事だが、些細なレベルであっても現体制に抵抗する術や知識を持つ人々は、これ以上取り返しがつかない前に抹殺しなければならない。

 これを防ぐことが出来なければ、今後の人類の活動に悪い影響が生じ、ひいては人類文明が滅びる遠因になりかねないからである。

 ある意味で、そこまで発想が及ばなかったことは、この集落の人たちにとっては幸運だったかもしれない。

 自分達の責任で、遠くにいるであろう自分の親しい人々全員が、どこまでも追いかけられて殺されなければならなくなった事実を理解する事は、余りにも辛すぎる。

 

「最後の砲爆撃だ」

 

「ここ以外で逃げ出してる人間は居ないよ指揮官」

 

「そうか、ナイン。そのまま続けてくれ」

 

 UMP9はそのままドローンの制御に集中し、そして他の404小隊は確実に命を奪うために倒れて残り少ない命を燃やしながら蠢いている人々にきっちり鉛弾を撃ち込んでいく。

 

 指揮官は双眼鏡を構えなおす。

 今の彼には、自分の指示が現実世界に与える影響を目視する必要があるからだ。

 

 一つ石造りの建物が倒壊し、また別の建物が直撃を受けて破裂している。今ので何人死んだのか。そして、これから何人死ぬかと思案する。この段階で1人でも多く殺しておかないと、あとで自分達が苦労するのは自明の理であるからだ。

 また大きな建物が榴弾の直撃を受けて炸裂した。形状からして、屋内に人がいたとすれば20人はいただろう。

 最優先事項である鉄血のハイエンドモデルを保護・修理し今のような関係を結んだという対象がいたとしたら、瓦礫に埋まっていない事を祈るばかりだと指揮官は思った。

 

 他人事のように指揮官が思案を巡らせてる間にも攻撃は継続されている。

 砲撃妖精と火箭妖精、空爆妖精による支援攻撃のフルコースは実に効果的であった。

 

「ねえ、指揮官」

 

 双眼鏡を構えている中、隣にいるUMP9が話しかける。

 

「どうした?」

 

「指揮官は怖くないの?」

 

 双眼鏡から離れてUMP9の顔を見る。いつも明るく豊かな表情をしている彼女にしては珍し、く目尻を下げて不安げな表情を浮かべていた。

 

「私達は同胞を撃つのを防ぐ為のプロトコルを外されているわ。

……でも、指揮官はなんで怖くないの? なんでいつもみたいに平然と仕事ができるの?」

 

 どうもUMP9に心配されているらしい。と、指揮官は感じた。

 指揮官は双眼鏡を構え直すと、こうつぶやいた。

 

「……初めて明確な意思をもって能動的に人間を撃った時、それによって生じた驚きや衝撃を数字に換算するなら100としよう。私も初めはそうだった。

 もちろん、うろたえるわけにもいかない。自身に与えられた仕事である指揮や戦闘行為はきちんと行っていた」

 

 UMP9の生唾を飲み込む音が聞こえる。

 

「次は半分の50に、その次は25に」

 

 指揮官はそこで噤んだ。これで終わりだと言わんばかりに双眼鏡を構え直すと、砲爆撃と焼け死に、逃げ惑う住民が次々に虐殺されていく経過を観察している。

 

「……指揮官、その次は」

 

 UMP9は指揮官の言葉に茫然とするが、やがてその言葉の意味を理解したらしい。しかし、UMP9は最後まで言わなかった指揮官に対して興味本位なのか、聞かなくてはいけない義務感に駆られたのか、おずおずと尋ねた。

 それを聞いた指揮官は双眼鏡から目を話すと、ゆっくりと首を動かしてUMP9を見据えた。

 

「その次?」

 

 UMP9は指揮官の眼を見て、得も言われぬ不安と寒気に襲われた。彼女自身は理解していなかったが、このときのUMP9はおおよそ生物に備わるような本能的な恐怖を感じていた。

 指揮官は404小隊に合流してからずっと、別段表情も立ち振舞も、声色も何もかもがいつもと変わらないと言うのに……

 UMP9は体が震えてるのを自覚した。肩や膝、手に持っているドローン用の端末はふるふると震えている。

 

――おかしい、この人は普通の人間だ。

 

 UMP9はメンタルモデルからしきりに発せられる危険信号を必死に理性と思考で押さえつける。

 

――だが今、指揮官のその身にまとう雰囲気が明らかに普通の物ではない。

 

「もう感じない。そこまでくれば、もう大丈夫だ」

 

 とんとんとUMP9の肩を叩き、指揮官は続ける。

 現実に引き戻されたUMP9の体の震えは収まり、先程のおぞましい雰囲気はなくなっていた。

 

「善や悪というものの尺度に、戦闘とはそのいづれかに当てはめることはできないと気がつく。

 必要な行動を必要なだけ行う。自分ができることをする。そうすれば自分も仲間も危険に晒すことはない」

 

 それだけ言うと、指揮官はM1897(トレンチガン)を構えた。

 

「砲爆撃は終了した。これから突入し、残りを掃討する」

 

 




後半へ続く

某氏も言っていたのですが、感想を貰えますと実質中の人の執筆力のガソリンになるので感想が欲しいです(欲張り)


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12

「動くものは何でも撃て。責任は私が持つ」

 

 散弾銃を持った指揮官の号令と共に、404小隊は集落内に突入し、前進する。

 市街地での戦闘は避けては通れない道である。いくら砲爆撃を加えてもすべてを終わらせることはできないことは歴史が証明している以上、歩兵による制圧は必要なことである。

 しかし、目の前の路地裏から、あるいは建物の窓枠から、それとも屋上から敵が攻撃を仕掛けてくるかがわからない。脅威は何処にでも潜んでおり、何時牙を剥くのかはわからない。

 

「前方、敵」

 

 416の声をと共に発砲音とわずかに聞こえる絶叫。

 実戦経験の豊富さに優れた指揮官と404小隊は敵を排除する事に抵抗はなく、引き金を引く基準は対象が生きてるか、死んでるかの二択だけであった。

 

「クリア」

 

 416の声を聞き指揮官は引き続き周囲の警戒を怠りつつ前進を続ける。

 街の大まかな地図は、徹底した砲爆撃のあとでは概略にしか過ぎない。細心の注意を払いながら進むしかなかった。

 

「指揮官、民兵と思われる集団発見。およそ20」

 

「散開!」

 

「榴弾、撃ちます」

 

 彼らの行動は早かった。

 敵部隊の集団を視認次第、二手に分かれて416と指揮官は榴弾と散弾を先手で撃ち込み、釘付けにする。

 ようやく、反撃に転じて正面から二人を攻撃しようとする民兵に対して側面に回り込んだ残りの3人が銃撃を加える。教本に載せても良いくらい、お手本のような十字砲火が瞬く間に民兵を皆殺しにした。

 

「下がっていろ」

 

 指揮官は奇跡的に全壊を免れた家屋に対して、鍵部分をドアブリーチング用の専用弾で破壊した後、焼夷手榴弾を投げ込む。

 焼けた匂いと悲鳴の後、窓枠から慌てて飛び出した住人に対してそのまま散弾を浴びせて絶命させる。

 

 同じく404小隊も同様にドアを蹴破り、閃光手榴弾や発煙手榴弾を投げ込んでから突入し、生存者を次々と排除していく。

 

 指揮官にとっての優先順位としては作戦目標の達成が最優先事項なのは明確ではあるが、次点ではできるだけ皆を五体満足で連れ帰ることでもある。

 完全に包囲していた網もその範囲を狭まりつつあり、無理をする必要はない。こうやってきっちりと一つ一つ潰していけば良いと考えていた。

 

 ルーチンワークをこなすような、家畜を屠殺するように黙々と続ける指揮官をみてUMP45は確信を持った。

 

(指揮官、やっぱりわたし、指揮官が欲しい!)

 

 今回の件に関しては実際は指揮官はここに来て屠殺作業に従事する必要はなかった。本来ならば戦闘妖精の使用許可を取り、十分な支援を行える妖精と物資を引き渡すだけでも良かったのだ。

 

 それを想定外の事態に備えるという名目で、柔軟に対応する事ができる指揮官をわざわざ現場に呼んだのだ。

 

(本当は指揮官は私達のような存在を本当に受け入れてくれるのか確かめたくて呼んじゃったけど、指揮官はこんな汚れた私達を見てもちゃんと受け入れてくれた)

 

 相談の連絡に対し、真摯に受け止め対策を確約し、無茶なお願いにもなんとか都合して応じてくれた。

 

(そして、作戦の発案でも404小隊の負担を軽くするように取り計らってくれた。

 なにより、グリフィンからの正式な命令書を持ってこさせて私達の名誉を守ろうとしてくれた)

 

 UMP45の求めたことに対して、指揮官は想像以上の答えを持ってきてくれた。今回の作戦に関しては指揮官が立案及び実行しており、UMP45はほんの少し修正を加えただけに過ぎない。指揮官が404小隊の事をここまで想ってくれたことにUMP45は広角をあげる。

 

(わたし、指揮官のこと……もっともっと知りたいな。

 貴方の本性はここの貴方なの? それとも基地の貴方? それとも助けに敵陣に深くに突っ込む時の貴方?

 それとも……別にあるのかな?)

 

 防毒面、いわゆるガスマスク呼ばれる物を取り付けた指揮官は擲弾発射器(M79)を用いて重要拠点と思われる建物にガス弾を撃ち込んでいく。

 

「416、G11、UMP9が掃射を終えた後に私とUMP45が突入する。誤射には注意すること」

 

「私が行きます。指揮官。

 貴方の背中は私が絶対に守るわ」

 

 416がいの一番に抗議の声を挙げる。

 

「室内戦であれば短機関銃の方が適切だ。

 それに、お前たちには現れるかもしれない増援を叩いて貰う必要がある。416、G11お前たちが要だ。

 UMP9もドローンの監視で忙しい。お前たち3人が此処に残るんだ」

 

「……わかったわ。そこまで言われたのならやりましょう。

 UMP45、指揮官の背中は頼んだわよ。指揮官に何かあればタダじゃ置かないから」

 

「当たり前じゃない。いこっ、指揮官」

 

 モクモクと開口部から催涙ガスが出ていき、建物内部からは悲鳴のような声が聞こえる中、朗らかに会話する。

 一通りの掃射を終えた後、指揮官は背後にUMP45を侍らせ、散弾銃を手にドアを蹴破り突入した。

 

「1名発見」

 

 催涙ガスにやられて敵兵が激しく咳き込みつつ、よろめきながら目の前に現れる。

 指揮官は短く宣告し、引き金を引く。

 

「1名無力化」

 

 マズルフラッシュの後、敵は床に投げ出されそれきり動かない。

 

「2名発見」

 

 命乞いをする敵兵に対して、UMP45は45口径を額と胸に撃ち込んだ。

 

「2名無力化」

 

(指揮官と二人……指揮官と二人……)

 

 指揮官の背中を守りつつ、ガスマスクで表情が見えないことをいいことにUMP45はニヤケが止まらない。室内戦であれば同じ短機関銃(SMG)としてUMP9がいるが、指揮官が自分(UMP45)を選んでくれたことに対して高揚が止まらない。もちろん他の404小隊にさとられないように取り繕ったが今は誰も見ていない分、思う存分に 顔をほころばすことができていた。

 

(ちょっと血なまぐさいけど、これもデートってことでいいよね?)

 

 大きさを感じさせる指揮官の背中に熱い視線を送りつつ、UMP45は制圧作業を続けた。

 建物の制圧は順調に進んでいき、おおまかはこちらの勢力下となった。

 

 指揮官は思案する。それにしても対象はどこに隠れているのだろうかと。

 この建物で発見できなければ、それこそ虱潰しに死体を探さなくてはならない。

 遺体の発見ぐらいであればグリフィンの一般部隊でも十二分ではあるもの、遥々基地から出張ってきた身としては、見つけておきたいと思うのも事実。

 

「指揮官~、どうする? 対象は死んだってことで残りの建物は全部爆破でもしちゃう?」

 

「……死体が見つからないのはあまりよろしくはない。

 死体がない以上は、何処かに隠れているはずだが……」

 

 ふと指揮官は大きな本棚を見つける。本来は様々な本が収められていたと思われるが銃弾で引き裂かれみるも無残な姿になっていた。

 が、本棚自体は特に大きな損傷どころか穴一つ空いてない。そして近くの床には引きずった後が見られる。

 

「なるほど、隠し地下室か。45、少し手を貸してくれ」

 

 UMP45と協力して本棚を動かすと、予想通り地下への階段が現れた。しかし、すぐに様子がおかしいと判断する。

 

「指揮官、これって」

 

「粉塵をばらまいているな」

 

 相手は余程こっちに来てほしくないのか粉状の物を巻き上げいるらしい。小麦粉か、それとも在庫の麻薬か。

 ガスマスクをかぶっているおかげでなんともないが、少し厄介なこととなったと指揮官は思った。

 

「……退避後にダミー人形を用いて焼夷手榴弾を投げ込む。それで誘爆しなければ済まないが突入する」

 

 厄介ではあるが、考えがないわけではない。敵が粉塵爆発を狙っているのなら、その意図を利用してやれば良い。建物自体は頑丈なので即倒壊や崩落といった可能性は低そうだ。だが着火役の者には申し訳が立たないが、必要最小限の犠牲と割り切るほかはないと指揮官は決断を下した。

 

「で、誰が着火役をやるのかしら?」

 

 指揮官とUMP45が建物から退避し、現時点の状況とこれからの行動を説明し終えた時の416の言葉であった。

 

 ――404小隊の間に沈黙が走る。

 

「あたし嫌だよ。爆発なんて」

 

 G11が真っ先に拒否を表明した。

 

「私も嫌よ。ARは様々状況に対応しないといけないの。ダミーを失ったら戦闘能力に支障が出るわ」

 

「あ、それ言いたかったのに……」

 

「そもそもG11アンタ仕事した?」

 

 416がG11に詰め寄る。G11はビクリと背筋を伸ばし冷や汗をかいてそうな表情を浮かべていた。

 

「キャンプの設営から、周辺の歩哨、配給の調理、指揮官が持ってきてくれた物資の運び込み。全部私がやったわよね?

 アンタも寝てばかりいてないで、偶には役に立ってみせなさい」

 

「ううう、だからってコラテラルダメージ前提はやだよぉ」

 

 ――ダミーとはいえ、死んでこいと言われればこんなものか。

 

 グズり始めたG11をあやそうと、そしてダミー人形による至近距離での確実な着火から、不確実だが焼夷弾を用いた擲弾発射器による建屋外からの着火に切り替えようと指揮官は考えたときであった。

 

「なら私がやるよ!」

 

 あとはUMP45と9の二人だが、ビシッと手を上げたのはUMP9であった。

 

「……無理はしなくてもいいんだぞ?」

 

「大丈夫! ダミーだし!」

 

 UMP9は自身のダミー人形の背中を押しながら指揮官にさしだす。流石にダミー人形とはいえ、大切な姉であるUMP45を犠牲に差し出したくはなかった。

 

「でも、ワガママ言ってもいいかな、指揮官?」

 

「構わん」

 

 指揮官がそう言うと、UMP9は背後からダミー人形の両肩を持つと、ずいと互いの頬を合わせた。

 

「例え演算能力と自律性が著しく劣っても私は私。

 指揮官は愛情表現とか苦手そうだけど、今生の別れくらいはこの子に愛情を注いであげて」

 

「具体的には?」

 

 UMP9はダミー人形の背中を強く押した、慣性に乗ったダミーは前のめりに倒れようとするが目の前の指揮官が受け止める。

 

「うーんと抱きしめてあげて!、それでもってうんと撫でてあげて!」

 

(指揮官は機械じゃなくて人間なんだ。私は人の心ってわからないけど、指揮官は普通じゃないってことはわかる。だから少しでも癒やしてあげなきゃ……)

 

 指揮官のあの無機質で冷たい、この世の物とは思えないような視線。一体どんな経験や修羅場をくぐってきたのか、UMP9には知りようがなかった。しかし、人間のあるべき姿でないことぐらいはわかっていた。

だからせめて、自分の手が届く時は指揮官を癒やしてあげなきゃとUMP9はなにか使命感のようなものが芽生え始めていた。

 

 本体にそう言われてしまったのなら、断る理由もなく、指揮官はUMP9のダミー人形をしっかりと抱きしめ、後頭部をゆっくりと撫でる。

 

(いいなぁ……わたしもやって欲しい……)

 

 UMP45はUMP9の純心さや献身さに羨望を感じた。

 

「苦労をかける」

 

 UMP9のダミー人形は顎を指揮官の肩に載せ、安らかに眼を瞑っていた。

 

 そこから先の展開としてはあっけないものであった。

 焼夷手榴弾を用いた粉塵爆発の誘発は成功し、地下から出てきたであろう煙が排気口から立ち上り始めた。

 爆発音はするもの、延焼などはなく再度突入は可能と思われる。しかし、崩落といった可能性はあるのでできるだけ迅速に動く必要があった。

 

「閃光手榴弾!」

 

 UMP9が投げ込み、指揮官とUMP45が突入。背後は416とG11で警戒と守りを固める。

 やけくその粉塵爆発も利用された状態ではテロリストもその殆どが死んだか、今死に絶えようとしているかのどちらかであった。

 

「ねぇ、暇だから寝てもいい?」

 

「私達は他の背中を守らないといけないのよ。

 もし寝たら、アンタだけおいて帰るから」

 

 程よい緊張感と冗談を言い合える環境。404小隊の士気が高いことを伺わせる。

 

「指揮官、後はこれだね」

 

 地階の制圧も残すは目の前の防爆ドアとなり、作戦も詰めの段階に入ろうとしていた。

 

「どうする? 爆薬で吹き飛ばす? ドア自体には罠はなさそうだけど……」

 

 UMP45とあれこれ話している間、後方で待機しているG11、416とは別にUMP9は防爆ドアをペタペタと触っていた。

 

「指揮官! これ開いてるよ」

 

「何だと」

 

 404小隊と指揮官に緊張が走った。

 

「中には入らないほうが良さそうだ」

 

 指揮官の決断は早かった。

 

「けど、中身を見ないとどうにもならないよ?」

 

 UMP45が抗議の声を挙げる。

 

「こいつがある」

 

 指揮官が取り出したのはぐるぐると巻かれたケーブルの束。その先端にはカメラが取り付けられていた。

 

「スネークカメラね。準備がよろしいことで」

 

 UMP45はもう散々体験した指揮官の用意周到さに感服し、そしてその臆病さに呆れる。指揮官は気にすることなく手慣れた速度でカメラを展開させる。

 

「もう一度確認するがドア自体には罠はないな?」

 

「ええ、ナインと一緒に調べたけど、問題ないわ」

 

「了解した」

 

 防爆ドアを僅かに開け、隙間にスネークカメラを通す。厚い防爆ドアを抜けた先が端末に映像として送られた。

 

「対象を発見。胸と頭部に鉄血製武器らしき弾痕を確認、対象の死亡を確認。腐敗していることから今死んだわけではなさそうだ」

 

 結末はあっけないもので、どうやら既に用済みとして鉄血に消されていたらしい。

 大方、こいつだけ下手に頭が良かったのか現状のまずさに気がつき、そのまま寝返ろうとした所をズドン、と言う所だろう。

 

 その時、防爆ドアが自らの意思を持ったかのように自分から閉まった。スネークカメラも挟まれ、切断されてしまい。これ以上の映像は取れなくなってしまった。

 

「あちゃー、そのまま直接確認したら閉じ込められて飢餓まっしぐらってわけね」

 

「うわ悪趣味、こんな手の混んだことぜったいハイエンドモデルが絡んでるよ……」

 

 渋い顔でUMP45が呟き、G11は嫌そうな表情を浮かべていた。

 

「指揮官、映像は大丈夫なの?」

 

「保存済みだ。問題はない」

 

 UMP9にデータを見せる指揮官。

 

「これで作戦は終わりね、早い所帰りましょ」

 

「うう、疲れた。ご飯食べて寝よ……」

 

「最寄りの飛行場に迎えをよこしてある。最寄りのセーフハウスがあるならそこまで送ろう」

 

 そう言った指揮官の両腕をUMP姉妹がギュッと抱きしめた。

 

「しきかぁーん、何言ってるのよ」

 

「私達の家は貴方の基地だよ。指揮官!」

 




感想ください(わがまま)
執筆のガソリンになるので


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13

 ベクターはこの基地に配属されてから苛立ちを隠せなかった。

 

「怒ってなんかないよ。別に指揮官が私に何かしたわけじゃないでしょ。

 ……それとも、なんかした覚えがあるの? 指揮官」

 

 指揮官の返事を聞くこともになく、吐き捨てるようにそう言うと司令室を出ていく。

 きっかけはなんのこともない些細なやり取りで別に指揮官に非はない。

 他にもベクターと指揮官が共に司令室にいる時に窓からの様子を見た指揮官が呟いた。

 

「雨が降りそうだな……」

 

 という発言に対して、ベクターはゴワゴワした後ろ髪を押さえながら。

 

「デリカシーが無いってよく言われない?」

 

 と言い放ったのはベクターの記憶に新しい。

 

 ベクターは元々この基地の人形ではない。

 

 他所の指揮官の下で戦っていたが、捨て石にされた所を指揮官が救出し、今に至る。

 元の所属ではMIAにより、記録がないので指揮官が引き取った形になった。

 

 この基地には4種類の人形がいる。

 

 1つはAR小隊、もう1つは404小隊。彼女たちは部下ではなく、立場上指揮官とは対等の立場である。

 そして残りは指揮官の部下としての人形である。1つは製造で来た人形、注文を受けてIOPから供給された物であり、もう1つは戦場で指揮官が救助し、紆余曲折を経てそのままこの基地に居着いた人形である。

 

 通常は救助した人形は元の所属基地に帰属するのだが、中には書類上では完全撃破扱いで既に人形を補充済みという場合や、元の基地での待遇面の悪さからこれを期に転属することがある。

 

 ベクターは前者の場合であり、前任者の基地には既にバックアップ済みの人形が配備されていたため、此処に残ることに決めた。

 

(行き場がないから、此処に残ったけど……やっぱり調子狂うな)

 

 壁を背にベクターは休憩室で飲みきった缶コーラを放り投げる。空き缶は綺麗な弧を描いて吸い込まれるように空き缶専用のゴミ箱に入った。

 

「やっぱり、ここの指揮官とは反りが合わないかな」

 

「指揮官がどうかしたのですか?」

 

 休憩室に入ってきたのはスプリングフィールドだった。自販機でコーヒーを購入すると、そそくさとベクターの隣に立った。

 

「となり、よろしいですか?」

 

「別に構わないけど」

 

 スプリングフィールドは缶コーヒーのプルタブを開ける。砂糖もミルクもない純粋なブラックだ。

 

「貴女もこういうの飲むんだ」

 

 日は浅くとも、ベクターは目の前の彼女が自前でコーヒーをドリップして指揮官によく振る舞っている様子を見ていた。それだけに物珍しげに呟いた。

 

「ええ、たまには」

 

 スプリングフィールドは缶コーヒーを飲み、一回喉を鳴らすが、彼女は少し眉をしかめた。

 その様子をベクターは見逃すはずもなく、彼女は違和感を覚えた。

 

「あまり好きで飲んでるようには見えないけど」

 

「やはり、バレちゃいますね。実は貴女とお話したくて」

 

 スプリングフィールドの意外な言葉にベクターは驚く。ベクターの見る限り、スプリングフィールドは此処の基地ではかなりの古参だと窺わせる。それに加えて、あの指揮官に対して甲斐甲斐しく世話を焼く様子が頻繁に見られる。

 

「ここでの生活は慣れました?」

 

「まあ、なんとか」

 

「私は、ここでの生活はとても気に入ってます。貴女は?」

 

「ええ、悪くないわ」

 

 ベクターはそう答える。事実、嘘偽りではない。むしろ、今の環境の方が前任者の基地よりも遥かに良いと客観視しても言える。しっかりとした情報収拾力、脆弱性のない兵站、万全のバックアップ体制。基地周辺との住民も友好的な関係を結んでおり、治安維持も悪くはない。

 

「そうですか。でしたら、私達の指揮官は如何ですか?」

 

「それが本題?」

 

 ベクターもそこまで鈍くはない。スプリングフィールドがこちらに接触してきた理由は直ぐに推察することができた。彼女自身と指揮官とのコミュニケーションがギクシャクとしているのは周知の事実。だからこうやって彼女が派遣されたのだろうと考えていた。

 

「先に申しておきますが、指揮官からのご命令でヒアリングに来たわけではありません。

 私自身が、個人的に貴女とお話したかったのです」

 

「そういう事にしておくわ。あの指揮官、嫌がることを率先してやるような感じじゃないし。

 ……それにしても、私は貴女とは何の接点もないと思うんだけど」

 

 愛想の良くない指揮官を思い浮かべながらベクターはスプリングフィールドを見据える。

 初めに配属された時の案内と指導は同じ短機関銃(SMG)のトンプソンが充てられており、小銃(RF)の彼女とはそこまで面識はないはずである。

 

「まあ、かい摘んで言いますと……私も貴女と同じく指揮官に助けてもらった身なのです」

 

 時たま、トンプソンが漏らしていた指揮官の基地の特徴、戦術人形の救援・コア回収の従事。今ベクターの目の前にいる彼女もまた、指揮官に助けられた身であった。

 スプリングフィールドはさらに缶コーヒーを飲むと、そのまま続ける。

 

「ベクター。貴女もそうでしょう?

 敵司令部を進軍する本隊を支援する為に戦線の維持が任務として言い渡され、鉄血人形の戦力に徐々に押されつつジリ貧になる中で、撤退も許されず、増援の具申も拒否され……

 早い話が捨て石部隊として蹂躙される定めだった」

 

「ええ、そうよ。私達は消耗品だもの。仕方のないこと」

 

 ベクターは目の前のスプリングフィールドもかつては自分と同じ存在(消耗品)だったのだろうと察した。

 練度の高い本隊を活かすためだけの捨て石()。完全に破壊されても、バックアップデータまた蘇る事のできる便利な道具。故に碌なスキルトレーニングも詰めず、訓練も行えず、戦闘資料(フロッピー)強化物資(増幅カプセル)の支給もままならなかった。

 

「そう、私達は人形。指揮官には逆らえません。それでもこれでは……死人も同じじゃないですか」

 

「それで御恩返しも兼ねて甲斐甲斐しくお世話を焼いてのね。ああ、ここの指揮官はそういう手口で人形を手篭めにするわけね」

 

 スプリングフィールドの言葉に狼狽えたベクターはいつも通りの皮肉を口走ったその時、缶の落ちる音が聞こえ……

 

 

 

 ――ベクターはスプリングフィールドに胸ぐらを掴まれていた。

 

 

 

「訂正をお願いします。私は何を言われようとも構いません。指揮官はあのろくでなし(前任者)から私を拾い上げてくれたのですから。私がそういう風な御恩返ししかできないのも事実です。

 ですが指揮官に対してのその言葉は、看過できません」

 

 そう言うとスプリングフィールドはベクターの胸ぐらを離し、落とした缶を拾い上げると、ゴミ箱のそばに寄り、缶を捨てた。

 

「やっぱり……貴女も私と同じ」

 

「ええ、かつての私は商品で消耗品で、玩具で、ただの道具でした。

 たまたま前任者が完全に破壊される前に私を損失扱いでMIA(戦闘中行方不明)にしてくれたおかげで、返還を要求する前任者の要請を、指揮官が跳ね除けて私を受け入れてくれたのです」

 

 スプリングフィールドの独白はベクターに対して衝撃を伴う物であった。何故なら、スプリングフィールドが言った意味はベクターの境遇のそれよりも過酷で、残酷であったことを意味していたからである。

 

「私はただの商品。ただの消耗品。かつてはそうだった。それでもう割り切ったはずだった。

 だからこれからも私は商品で、ただの消耗品で、それで構わなかったはずなのに……良かったのに、良かったはずなのに」

 

 自然と拳に力を入れながらベクターは続ける。それをスプリングフィールドは目をそらすことなくじいと見つめた。

 

「私は怖いよ。あの指揮官の考えはわからない。指揮官が与える善意が恐ろしく感じるよ。

 まるで私達を商品(モノ)じゃなくてれっきとした同胞(個人)として見てくれるのが」

 

「……よく言えましたね」

 

 スプリングフィールドはベクターの両手をとり挟み込むように握りしめた。

 

「実のところ、私も指揮官の考えや、その真意は未だに分かりません。ですが貴女のその意見には私も共感する所があります。

 それどころか、私達(人形達)はあの人のことは何も知らないのです。何処からやってきて、過去何をしていたのか」

 

「グリフィンの社員データは?」

 

 スプリングフィールドの言葉を聞いて、ベクターはグリフィンの個人データから指揮官の素性はわからないのかと疑問に思った。配属される人形ならば、閲覧できるはずだと。

 

「気になるなら見て見ると良いでしょう。ほとんど何も書かれていませんから。

 明記されているのは市民番号と社員番号、それと生体情報ぐらいですから」

 

 スプリングフィールドはそれに加えて、同僚や上司達から他の指揮官との区別のためにまた正規軍との混合を防ぐために敢えて海軍での呼称である『下士官』(ペティ・オフィサー)と言われていることを加えた。

 

「そんな、まさか……指揮官に関する個人データは存在しないの!?」

 

「ふふ、不思議な人ですよね? だから、お傍について確かめたいのです。

 

 指揮官とは何者か?(・・・・・・・・)

 

 こんなにも私達のメンタルをかき乱しているんですから。貴女も気になるでしょ?」

 

 小首を傾げながらスプリングフィールドはベクターに問うた。その笑顔と、声の抑揚は同じ人形であるベクターにとっても、魅力的だと感じた。

 

「でも、私は指揮官にいっぱいひどい言葉を言ってしまったし、もしかしたら嫌われているかもしれないよ?」

 

「それはないですよ、ベクターさん。

 あの人、私に『ベクターに嫌われているかもしれない。自分に愛想が無いからだろうか』って漏らしていましたから」

 

 無愛想なあの指揮官が肩を落として気落ちする様子を思い浮かべ、思わず吹き出すベクターに対して、スプリングフィールドは唇に人差し指を当てて「あ、内緒ですよ」と釘を刺す。

 

「なんだ、何も心配はなかったのね」

 

「ええ、だから。明日から指揮官と交流すれば良いのです。

 ちょうど、私にいい案があります。ベクターさん、ここは一つ乗っていただけますか?」

 

 

 

   ■   ■   ■

 

 

 

 

 書類仕事が重なり、渋々とソファで一夜を過ごした指揮官は定刻通りに目を覚ました。かすかに漏れ出すような笑い声が聞こえる。

 

「間抜けな寝顔を見るとついおかしくって

 こういうことしてもらうの、好きでしょ?」

 

 目覚めた指揮官を覗き込んでいたのはベクターであった。

 彼女は指揮官に膝枕をしていた。

 

「ああ、よく眠れるから有り難く思っている」

 

 指揮官が起き上がると、デスクはきちんと片付けられており、朝食が見える。

 

「スプリングフィールドから聞いたよ、他の娘にもやってもらってたりするんでしょ?

 いいよ、私もこれからはやってあげる。いままでイジワルしちゃったし、そのお詫び」

 

 指揮官はデスクに座り、ベクターが用意してくれた朝食をとる。

 目玉焼きトーストにソーセージやベーコンを添えて、隣にはコーヒーが淹れられていた。

 

「スプリングフィールドに教えてもらったんだ。不器用でごめんね」

 

 確かに、パンは火加減を間違えたのかカリカリになりすぎて端々が所々焦げている。ソーセージやベーコンも入れる油の量が多かったのか皮や端が揚げられたようにすこし焦げ目がついているのが、指揮官にはわかった。

 しかし、指揮官は迷いなくフォークでソーセージとベーコンを突き刺し、口にいれる。そして、そのまま目玉焼きトーストに齧りついた。

 

 ――いつも用意してくれるスプリングフィールドの朝食よりも、ソーセージとベーコンは油っこく、パンは焦げからか苦味がする。だが……

 

「悪くない。十二分に美味い」

 

 気恥ずかしさから、顔を赤面させるベクターを他所に、指揮官はあっという間に朝食を完食させ、コーヒーをずいと飲む。

 スプリングフィールドのものと違い、強火でローストしたであろうコーヒーは正しくベクターが淹れたものだと実感できる。

 

「美味しかった。また頼む」

 

 すっかり空になった皿に、マグカップと食器を載せてベクターに帰す。

 

「あ、洗ってくるね……」

 

 指揮官の満足げな表情と嘘偽りのない好意的な言葉をまともに受けたベクターは、耳たぶまで赤くしながら食器を持って部屋を出たのであった……

 




ベクターピンで書き切れるやつはすげぇよほんと……
感想のおかげで夜通し書けました、やったぜ。この調子でもっとおだてて(わがまま)

きゅうたざべりーえっちがい氏大好き。いつもお世話になっております
多分解釈違いになるけどごめんね


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14

「指揮官さん! わたくしは不満ですわ!」

 

 指揮官の司令室に直談判しにやってきたのは鉄十字をあしらった帽子が似合う少女。Kar98k(カラビーナ)であった。

 本来、哨戒任務の報告書を提出にやってきた彼女ではあるが、今では頬を膨らませて机をばしばしと両手で叩きながら、めいいっぱいの不満を指揮官に対して曝け出している。

 

「要件はなんだ?」

 

「もっとわたくしを使ってください!」

 

 どうやら、出撃の少なさに不満を覚えているようだと指揮官は察した。だが、事務業務で手が空かない現状、指揮官はカラビーナを黙殺し、RF(ライフル型人形)部隊に関する報告書を読み込む。

 この様子を見かねた本日の副官であるグリズリーは小声で指揮官に「なんとかしてよ」と耳打ちする。

 

「……出撃は十二分に行っているはずだが?」

 

 副官にそう言われてしまっては仕方がないと感じたのか、指揮官は重い口を開いた。

 現状、戦術人形の頭数は十二分に揃っており、次の段階である戦力の質の向上に重きをおいている。

 しかしながら当基地周辺は既に鉄血から制圧済みであり、前線は別の場所に移っている現状においては戦闘も少ない。それがカラビーナの不満の根本的な原因だろう。

 

「哨戒部隊同士の偶発的な小競り合い等では物足りないです! 私の存分に力を振るうのはもっと油と硝煙にまみれるような戦場でこそ振るわれるべきですわ!」

 

 ――ああ、戦功を欲するわけか

 

 指揮官は目の前のカラビーナをじいと見据えた。

 この戦術人形というものはますます人間と変わりないと指揮官は思う。今まさに血気はやって功を焦るカラビーナの様は昔持った部下のようでますます人形という存在に微笑ましさと親しみを感じていた。

 

「ならば、具体的にはどこに配置転換をしたい?」

 

 指揮官の放った言葉にカラビーナは表情をたちまち明るいものにさせる。指揮官の隣にいるグリズリーはその様子を注視している。

 

「なら! わたくしは支援部隊を志望いたしますわ!」

 

 カラビーナの返答に指揮官はなるほどと頷いた。

 支援部隊とは、他の基地の指揮官の要請により派遣される部隊のことである。この部隊が救援にたいしていかほどの貢献を及ぼすかで指揮官の評判が決まる。

 また、状況や要請する指揮官によっては状況のすこぶる悪い戦線に投入されることもある以上、生半可な部隊では務まらず、故に練度の高い部隊が必要である。

 

 カラビーナが志望するにはまさしくおあつらむきの配置となっていた。

 

「確かにカラビーナにふさわしいな」

 

「でしたら! わたくしを支援部隊に」

 

 カラビーナの言葉を遮るように指揮官は告げる。

 

「ところでダミーリンクできる数はいくつだ?」

 

「3体ですわ! 侮らないでくださります?」

 

「なら配置転換は許可できない。ダミーリンクは戦術人形が指揮統制できる最大数の4体でなければならない。

 支援部隊の性質上、練度が不十分な者を配置するということは、業務を著しく害すると同時に、戦線を崩壊させる一因になり、大きな損失を生む可能性がある。

 それを把握していて尚、希望するというのであればそういった意図を含んでいると判断する」

 

 無機質な指揮官の声色はカラビーナの要望を切り捨て、カラビーナ自身のその発言の意味を丁寧に説明する。

 

「スプリングフィールドやリー・エンフィールド、モシン・ナガンは最大数のダミーリンクを指揮統制できる。故に対装甲兵部隊用の支援部隊として起用している。それ以上でもそれ以下でもない」

 

 カラビーナが抗議の声を挙げた理由はおおかた指揮官には予測できていた。指揮官が前述していたライフル型人形達は言わば、カラビーナとは同世代の銃器。しかしながら、人形としての練度……すなわち戦闘データの蓄積と最適化はカラビーナが1つ劣ってしまっている状態である。原因は他の人形に比べて、カラビーナがこの基地に供給された時期が一足遅いものであったからだ。

 

 故に、カラビーナ自身に焦りが生じていたのだ。

 

 そして、哨戒任務の報告に指揮官の元に向かった際に、指揮官が読み込んでいた書類の一部であった支援部隊として送り出すライフル部隊の選定についての項目で、同世代の銃器が名を連ねていたことで、カラビーナの焦りが顕在化して今に至ったのだ。

 

「……ぐす。わたくしは……優秀な、ライフルですわ……

 こんなことは……このようなことは、決して……」

 

 どうすることもできない現実に打ちのめされたのかやがてカラビーナは顔を赤らめ、肩を小刻みに震わせながら今にも涙がこみ上げてきそうな表情を浮かべ始めた。

 副官のグリズリーはまだ状況を見極めようとしている。もし、収拾がつかないようになるか、基地全体の不利益になりかねないことになるのであれば、グリズリーは止めねばならない。

 

「現在、当基地の戦力を精査しているが、ライフル型人形の平均練度が全体と比べて低い事がわかっている」

 

 半ば脅しも込めてのやや誇張した理由をカラビーナに叩きつけたものの、これ以上は恐怖を煽ると判断して指揮官は話題を切り替える。落とし所があった様子にグリズリーも内心で胸をなでおろした。

 

「そこで、シミュレーション上ではあるが、ライフル型人形を対象とした戦闘プログラムの最適化を目的とした(経験特訓の)上級訓練を行う」

 

 ――戦術人形は練度の可視化により、戦力の平準化が容易である。

 

 指揮官の戦術人形に対する運用に関しての率直な所感はこれに尽きる。

 何せ指揮統制できるダミーリンクの数と、戦闘プログラムの最適化がそのまま練度として可視化でき、比較ができるのだ。また人間と比べてもコンディションによる能率の変化は少なく、戦力値としてカウントする際の過大および過小評価の可能性が低くなる。また、人形同士の相性も険悪だからと言って、著しい程の悪影響は無い。

 

 これが人間であれば調子の良し悪しによる判断から、命令を出す上司を含めた、配置する所の人間関係まで把握しなければいけない。そうしなければ、思わぬアクシデントや背信行為によって大きな損失を生み出しかねないからだ。

 

 ――よって指揮官にとって今回のカラビーナの直談判は人間の兵隊のそれを比べてとても可愛いものであった。

 

 指揮官の意図を察したであろう、カラビーナは一転して明るい表情を浮かべる。

 

「無論、カラビーナも例外なく参加してもらう」

 

「まあ!」

 

 感情モジュールが搭載された人形も秋の空はあるらしい……と、表情が変わるカラビーナに対して指揮官はそんな感想を抱いた。

 

「編成と指示は追って通達する。

 当基地で運用する戦術人形の数が増えた以上、次の段階である部隊の質の維持が目下の目標である

 ……やってくれるな?」

 

「ええ、貴方の為に尽力すると誓ったのですから。当然ですわ」

 

 カラビーナは満足気に答えると宿舎に戻る。

 

「それじゃあ指揮官さん。いつも言っておりますが……貴方ならわたくしの部屋に遊びにいらしてもいいのよ?」

 

 カラビーナは去り際にそう言うと、指揮官に手を振って司令室を後にした。

 




前々からこの人形出してと言われていたので初投稿です
スプリングフィールド達との比較としては正確には同世代じゃないと思うけどまあいいや
本来はこれおおよそ3000文字前後を目標にしてあるのでこれが本来の分量なんだな

どぎついの多いから暫く箸休め的に寸劇メインで書くか、うん
自分の作った指揮官より他所の指揮官のほうが魅力的に見える不思議


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15

予約投稿です


「指揮官! わたしたち、もっとお手伝いしたいです!」

 

 指揮官の司令室に直談判にしやってきたのは赤いマフラーが似合う少女。一〇〇式機関短銃であった。

 副官のグリズリーは既視感を覚え、またか……といった表情を浮かべていた。

 

「一〇〇式達には十二分な労働を行っているはずと認識している」

 

「いいえ! わたしたちはまだまだがんばれます! もっとみんなの為に頑張りたいんです!」

 

 目を見開きながら一〇〇式は机越しに指揮官に迫る。指揮官の眼の前に一〇〇式が純真な眼差しで指揮官を見据えた。

 

 ――ああ、尽忠を求めるわけか。

 

 これは落とし所を見つけるのは厄介だと、指揮官は感じるとともに一〇〇式の後ろに佇む2体の人形を見据える。どちらも銃器の出身は一〇〇式と同じであり、片方は頭にある白いリボンが、もう片方は左目に眼帯をつけているのが印象に残る。

 この3人は基地の人員増員のために、IOPから製造を発注し送られてきた人形達である。まだ、この基地に配属されてから日は浅いものの、働きとしては悪くないものだと指揮官は評価している。

 

「つまり、君たちも一〇〇式の意見と同じという訳か。64式、62式」

 

 一〇〇式とは異なる意匠のセーラー服を来た二人の人形はスケッチブックを取り出すと同意をの言葉を書き上げ、指揮官に見せた。

 

「……グリズリー」

 

「はいはい、ホントかどうかね?」

 

 今現在、64式と62式には一部部品がリコール対象になっており、不具合の修正中である。製造元であるIOPには問題のない声帯パーツを要望しているが、依然として遅滞している。

 問題のある声帯パーツも戦闘での不利益を被る可能性もあり、指揮官としても人形本人には申し訳ないと思うものの、声帯パーツを取り外した状態で生活している。

 

 指揮官の言葉に大方察したグリズリーはけだるげに応えると、64式と62式を交互に見つめる。

 声には出ないが、ネットワーク上で3人は会話をしているのだ。

 

「はい。他の二人も嘘偽りないよ、ホントだね。

 つけ加えるなら、3人とも今現在は自由時間、というか休暇の区分だね」

 

「なので、おしごとください!」

 

 3人から期待の眼差しを差し向けられた指揮官ではあるが、その表情は変わらない。

 

「人形達の勤務スケジュールは常に最高のパフォーマンスを発揮できるように調整されている。

 休息も君たちの能力を十全に発揮するために必要であることを理解して欲しい」

 

「指揮官、休息って何をするんですか?」

 

 『どうするんですか?』と書かれたスケッチブックを頭上に元気よく掲げる62式と、同様の内容が書かれたスケッチブックをしおらしく胸元に掲げて見せる64式を他所に一〇〇式から発せられた言葉に指揮官は内心で頭を抱えた。

 

 

 

 ――そうか、自由の定義から考えるべきか……

 

 

 

 太古の昔より飢餓と戦ってきた人類は未だに飢餓との戦いにケリを付けられない。それは、満ち足りることを知らないことを意味している。だからこそ強欲であり、満たすために自由を求める。それが、今日に至るまでヒトが生き残ってきた原動力なのだから。

 

 指揮官は街中や、基地の近くで見られるロボット人権団体の謳う「ヒトと人形の真なる平等を!」のフレーズを思い出した。あれもまた、一種の本能からくる欲望でもある。彼らは飢餓の危険から開放されても尚、満ち足りることを知らず、さらに地位や名誉を求めんが為に動いているのだから……

 彼らは知っている。かつて人の肌の色の違いによる不平等があった事実を、だからこそ第二の偉人になろうと躍起になっているのだ。

 指揮官にとっては心底どうでもよく、そして彼らを哀れに感じていた。

 

 ヒトには際限のない欲望がある。しかし、人形にはそれがない。あくまでも自由というのは、製造元である人間や企業から与えられる物でしかない。

 

 ――ヒトとして見るには人形はあまりにも歪なのだ。

 

 指揮官は人形達を、認めている。悩み、考え、自律し、傷つき、ヒトにとって死という概念を超越した存在であっても尚、生存本能に近い生命力を持って自ら行動し続ける彼女たちは紛れもなく、意思を持つ生命であると。

 

 しかし、目的のためだけに創られた、目的しかない意思。

 

 それは明らかにヒトではない。

 

 肌の色や、マイノリティと言った括りと同じように、ヒトと人形を同等に見てはいけないのだ。

 だからこそ指揮官は博愛主義的に人形を見ることはできない。差別的に扱うことなんてことももってのほかだ。

 指揮官は人形達を『ヒトとは異なるが同等の種族』としてみている。そして、鉄血人形やヒト、異型の化物と戦いを経て、『自律人形と共存できなければ、人類は絶滅する』と確信している。

 

 ――人類は自然淘汰か、存続かの分水嶺に立たされているのだ。

 

 

「……何か、やりたいことはあるか?」

 

 暫く考え込んていた指揮官の口から発せられた言葉は、沈黙の時間の割には至極あっさりとしたものであった。

 

 

 

   ■    ■    ■

 

 

 

「なんとか上手くいったようね」

 

「ああ、そのようだな」

 

 執務室で要望書の中身を見ながら言い放ったグリズリーの言葉に指揮官は内心で安堵する。

 結局のところ、一〇〇式と64式、62式には他の人形がどのように休暇を過ごすのか見て回り、なにか事線に触れるものがないかととにかくいろんな事をさせてみたのだ。

 

「でもその結果が家庭菜園だとはねぇ……」

 

 グリズリーが呟きながら、要望書の詳細を見ていた。

 みんなの役に立ちたいという、一〇〇式達の願いと休暇の有意義な使い方としての結論は作物の栽培であった。

 特に、植える作物としては自身の銃のルーツとなった極東の島国が原産のものを使っている。彼女たちはその国に関しては伝聞や資料で知り得ただけで実際には足を踏み入れたことはなく。少しでも故郷を感じたいという希望に従って作物が選定された。

 収穫量によっては配給の節約や、炊き出しに使えることも考えられ、多くの者たちの助けになるだろう。

 

「本人の希望だ。たとえ開発者が設定した味付けであっても、それが個性というものだ」

 

「おせっかい焼きなんだから……」

 

 呆れるグリズリーに対し、指揮官はドーナツの入った袋を渡した。

 

「だが、悪くないものだろう?」

 

「もう、そうやって反論の余地を残さない姿勢はずるいよね。嫌いじゃないけど」

 

 グリズリーは袋からオールドファッションを取り出し、かぶりつく。グリズリーは目を細めて、広角を上げて満足げにしながら。ドーナツを堪能していた。

 

「んー、最高。ここのお店のドーナツはホントにおいひい」

 

「チョコレートデラックスはWA2000から頼まれた物だ。残すように」

 

「りょーかい」

 

 コーヒーを飲みながらグリズリーが答える中、執務室のドアが開く。出てきたのはさきほど話をしていた当人である一〇〇式であった。

 一〇〇式のその両手には蓋をした小さな鍋が収まっている。

 

「指揮官さん、こんにちは。この間はお世話になりました。

 何から何までご用意して貰って、なんと言えばいいか」

 

「問題ない。

 また何かあれば要望書で意見を述べて欲しい。できる限り善処はしよう」

 

 指揮官は席を立ち、一〇〇式の元に向かうと、彼女は手に持っていた鍋を指揮官に差し出した。

 

「お礼と言っては何なのですが、資料で見つけた肉じゃがというものを作ってみたのです。

 62式ちゃんや64式自さんと一緒に作ったので是非、最初は指揮官に食べて欲しくて……」

 

「ああ、夕食にいただくとしよう」

 

 指揮官が鍋を受け取ると、一〇〇式はそそくさを司令室を出ようとする。

 

「あ、あの……よかったら感想下さい!」

 

 最後に赤面させながらそう言うと、一〇〇式は部屋から出た。

 

「……指揮官、なんだかんだあの娘達に甘くない?」

 

 グリズリーが訝しげに指揮官と肉じゃがのはいった小鍋を交互に見て呟いた。

 

「そうでもない。

 一〇〇式が来たので言いそびれていたが、冷蔵庫にグリズリーの言っていた店のバニラアイスをおいておいた」

 

「うっそでしょ限定品のアレ買えたの指揮官?!」

 

 思わず机を両手で叩いて驚愕の意を示したグリズリーは、その直後に食べ物で見事に釣られたような構図になったと気付き、一〇〇式同様に顔を真っ赤にする。

 

「ああ、もう! 嬉しいけど、これじゃあまんまと餌に釣られたみたいじゃない!?

 めちゃくちゃ嬉しいけど!!」

 

 あたふたとするグリズリーを見ながら、指揮官は『まあ、こういうのも悪くはない』と思うのであった。




これでKar98kと一〇〇式消化したしええか……
ammoさんの64式自すき、声帯実装おめでとうございます(関係ない)

ドルフロオンリーすげぇ楽しかったゾ~
冬コミが楽しみ(小並感)


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16

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いかないでよぉおおおお!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 白いジップパーカーを脱ぎ捨てて、目の隈に加えて涙を貯めたAA12が泣きべそをかきながら指揮官の腰回りにしがみついている。

 

 暇を持て余したMDRが司令室に冷やかしに来た時に見た光景であった。

 

(うわ、これは祭りの予感!)

 

「なんで!あたしが!副官のときに!呼び出されるのさ!」

 

「雇用契約上、グリフィン本部からの呼び出しは原則として拒否できない」

 

「い゛っ゛し゛ょ゛に゛い゛く゛う゛う゛う゛!」

 

「守秘義務契約上、人形の同伴は認められない案件だ」

 

「や゛た゛あ゛あ゛あ゛!」

 

「すまないとは思っている……」

 

(指揮官は災難だねぇ……)

 

 グリフィンの制服の一部であるコートを涙で濡らしながら、決して離すまいとAA12は指揮官にしがみつく。どうも戦闘プログラムを発動しているようで、その力は強力で指揮官がやんわりとAA12の腕を外そうとするもののガッチリと固定されている。

 

「埋め合わせとは言っては何だが、PXの購入券で許してもらえないだろうか?」

 

 そう言うと、懐からチケットを取り出してAA12に差し出す。

 AA12は現物を見るまでもなく、差し出した手を払い除けた。

 

「やだ! 指揮官の隣が良い!」

 

 ただでさえ人形と人では膂力が違う中で、ショットガンの名前を冠する人形は反動の制御の都合上とりわけ強力だ。

 特にフルオート射撃が可能なショットガンという分類でAA12はショットガン人形の中でも上位に食いこむ出力を誇る。

 そんな人形が泣きべそをかきながらも明確な自分の意志を持って、決して離すまいと本気でしがみいて指揮官の体を締め上げている事実はMDRの目にも尋常ではないと感じることが容易にできる。

 

「せっかく私が今日の副官勝ち取ったのになんで指揮官と一緒に居れないの!?

 他の人形はみんな一緒に居られるのに!」

 

「……皆に事情を伝えて当分はAA12が副官担当にするのはどうだろうか?」

 

 コートに顔を埋めていたAA12ははっとして指揮官を見上げた。

 

「ほんと? いいの?

 嘘じゃないよね? 嘘はだめだからな!」

 

(うわぁ、AA12の奴泣き落としてるよ……)

 

「ああ、善処しよう」

 

「わかった。まってる

 ……はやく帰ってこいよな」

 

 そう言うとAA12は名残惜しそうに指揮官を開放する。

 

「できるだけ早く戻る」

 

 そう言うと、指揮官は司令室を出ていき、飛行場へと去っていった。

 

「はぁ、あんたも災難だねぇ?」

 

 不機嫌な表情を浮かべながら、棒付きキャンディを取り出して口に加えたAA12に対して、今まで静観を決め込んでいたMDRが近づいてきた。

 

「うう、指揮官を信じる。でもMDRはなんの用事でここに来たのさ?」

 

「冷やかしよ冷やかし。でも当の指揮官がいないとなると何もできないねぇ……」

 

 そう言うとMDRはニコりと笑みを浮かべる。良いことを思いついたようだ。

 ケータイを取り出し、指揮官のデスクを激写する。

 

「何してるのさ?」

 

「何って写真よ写真。掲示板にアップロードするの。

 なぁにが『あの指揮官のデスクはいつも書類にまみれで無能』だ?

 あの野郎うちの指揮官をバカにしやがった。証拠を出してやらぁ……」

 

「やめなよ、コンプライアンスの遵守は徹底するように指揮官から通達があったでしょ」

 

 ギラついた目つきでケータイを操作するMDRをAA12は静止させる。

 

「しかしなんで指揮官はこんなに本部に呼ばれる頻度が多いんだ?」

 

「気にならない? 気になるよね?」

 

 MDRは折りたたみ式ケータイを開閉させつつAA12に詰め寄る。

 AA12はやぶ蛇を踏んだことを理解してしまったという表情を浮かべた。

 

「あんたも知りたいでしょ? 指揮官の秘密?

 コールドスリープから奇跡の生還を果たして、16labからの推薦!

 しかも出生不明、経歴不明、名前すらもわからない!?」

 

「そんなのMDRや私達戦術人形がわかるのか?」

 

 懐疑的な態度を取るAA12に対してMDRは人差し指を左右に振った

 

「チッチッチッ、あまいあまい。何時の世の中も人や人形の口に戸は立てられないのでーす。

 社内報や掲示板、ニュースの情報を読み解けば自ずと見えてくる……はず!」

 

 MDRは折りたたみ式の端末を開きながら。記事を読み上げる

 

「ほら、この『マフィアの靴が原因で有力者の娘が階段から落下!』なんて」

 

 気分良く記事を読み上げるMDRに対してAA12は怪訝な表情を浮かべた。

 

「何だっけ? マフィアのボスの息子と仲良く散歩してる時にヒールのかかとが折れて階段から落ちたんだっけ?」

 

「他には『大企業幹部○○氏が主催するコンサートでトラブル!ストラディバリウスの弦が切れる!』」

 

「あー、それでその企業の管理体制にケチが付いたんだっけ」

 

「後は……『○○社大損害。鉄道輸送中に雪崩に飲まれ列車大破!積荷には軍の横流し品が!』」

 

「これもライバル企業の評判と実績が大きく下がってウチが得したんだよね。損失も減ったし」

 

「そう。これらは全部、指揮官が大きく関与してると踏んでるわ」

 

 AA12は無言でMDRのケータイをふんだくると、MDRがブックマークしている記事を読みすすめる。

 

「『発射された地対空ミサイルを迎撃した』、『競馬のレースにおいてドーピング剤を使用したライバルに対抗して中和剤を撃ち込んだ』、『ラリーカーレースでの突然のバーストに関与していた』

 ……あのさぁ、MDR? 流石に現実味がなさすぎるって。だいたい、それで指揮官になにかあればこの基地もただじゃすまないんだよ?」

 

 さらに日付を見てみると指揮官がグリフィン本部や16lab等に『出張』と称して離れていた時期と、これらの事件の日時はほとんど近い時期に起こった事がわかる。

 

「バカらしい。よしんば実在したとしても、ライフル系の人形や軍用装備にでも任せたほうが確実だよ」

 

「だからこそよAA12。人間業じゃ難しいだろうと思うから、指揮官がやる価値があるんだよ」

 

 MDRはサイトを開いてある掲示板のアドレスへと飛んだ。

 

「ほらここ、『グリフィン指揮官・上司スレ』

 人形や事務方の人間が、上司である指揮官について話しているスレ」

 

「うげ、そんなところの情報、信じられるのかよ?」

 

 MDRの悪趣味さにAA12は嫌な顔をする。それを見たMDRは目を見開き反論する。

 

「お前さんねぇ!? 指揮官が地雷だと私達はひもじい思いや碌な装備も持たされずに自殺同然の命令で突っ込まされるのよ!? 人間だって積立金を崩さないまま、死亡手当を受け取りたくもないだろうし」

 

「わかった、わかったってば! そりゃあ私も待遇の良い指揮官の下で働きたいよ。

 それで、何が書き込まれていたのさ?」

 

 詰め寄り捲し立てるMDRにAA12は思わず半歩下がりなだめる。

 

「いたんだって。戦闘要員のスタッフや人形に混じって技能検定に参加してる指揮官がいるらしいって

 時期的にグリフィンに正式に入社して配属される前だった。多分、グリフィンが指揮官の能力を見たかったのかも? 有能じゃないと拾いたくないだろうし、指揮官もグリフィンに拾って欲しかったからやったんだろうし」

 

「訓練やテストで能力を見るのは当たり前だろ」

 

「参加してる数がヤバいらしい……『選抜射手』や『近接戦闘』とか、他には『山岳戦闘』、『戦闘工兵』、『空挺降下』、『後方撹乱』、『フロッグマン』

 わかるだけでこれぐらい。座学も上級試験を受けてるって……」

 

 AA12は思わず、加えた飴を落とす。

 流石に人形だけあって慌て空中で飴についた棒を掴み拾い上げると、胸を撫で下ろして再び咥えた。

 

「それ、マジ? というか全部合格して資格あるならホントに人間? そもそも指揮官の見た目の歳的に第三次世界大戦の前、下手すりゃ崩壊液が飛散する前の平和な時代の人間だよね?」

 

「逆よ、逆。平和だからこそ、表立って動けないし、予算もない。だから何でもできる人材を求めてたのよ。

 だからたまたま私は配属先を選べたから真っ先にここの指揮官にしたの? すごいよここ、私以外こんなアングラな掲示板は見ても書き込みは殆どなかった。情報漏洩のリスク管理をしっかり徹底してるし、人形のスペックを限界まで鍛え上げて、十二分な物資と装備も与えてもらえる。

何なら稟議書まで作成して必要なものを調達してくれるために労力を割いてくれるのよ?」

 

 MDRをケータイをAA12に突きつけて断言し、そのまま続ける。

 

「だからそんな指揮官の事は知りたいと思わない?

 さっき言った事件達が総じて最終的に大なり小なりグリフィンに利益をもたらした事も怪しいと思わない?

 これはきっとグリフィンから何らかの報酬と条件で指揮官に裏工作をお願いした……って、メールがきた。ん、指揮官?」

 

 嬉々として自説を説いているMDRにAA12はげんなりとした表情を浮かべる。

 そこに、MDRのケータイにメール通知がきた。画面を開き内容を見たMDRは額に汗を書いている。

 

「なにさMDR? そんな青い顔して」

 

 MDRは苦笑いを浮かべながら答える。

 

「指揮官からだった。『デマの流布には気をつけるように』

 まるで、釘を刺されたような気分だよ……」

 

 

 

 

 

 

    ■    ■    ■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ! 浮気者! うわきものぉ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう叫ぶと本部から帰ってきたばかりの指揮官の腕を掴んで、強く抱きしめた。

 まるで、『これは渡さないぞ!』と言う風にやきもちを焼いている。

 

「う゛ー」

 

 AA12は唸りながら、指揮官の後ろに侍っているAR15を威嚇していた。

 

「なんで! お前が! 一緒にいるんだ!」

 

「なんですって?!」

 

 あからさまに不機嫌になりつつあるAR15を制するために手をかざすと、指揮官が答える。

 AR小隊は指揮官の基地を拠点の一つとしているが、立場としては指揮官と対等である。よってAR15の機嫌を損ねれば、AA12のようなただの雇用された民生品人形一つ、いかようにもなってしまう。

 よって指揮官はAA12のフォローに回る必要があった。

 

「出張の後、ついでの用事で16Labに呼び出されてAR小隊をここまで運んだ。それだけだ」

 

「ホント?」「ああ」

 

 AA12と指揮官はしばらくお互いに視線を合わせている。

 

「……わかった。AR15、済まない」

 

 AA12は納得し、指揮官で身を隠しながらも、頭を出してAA12はAR15に謝罪を入れる。

 

「……本部に呼び出される形で、私もAA12の要望に応えられなかった。故に迷惑を掛けてしまい、済まない」

 

「指揮官にも謝罪されましたら、私も立つ瀬がありません。今回のことは不問しておきます」

 

「感謝する」

 

 不機嫌な表情を浮かべていたAR15ではあるが、AA12本人からの謝罪もあってしかたないと割り切って矛を収める。

 

「確かに、私達は対等の命令系統なので、いつでも貴方に会えますが、部下の人形は持ち回りやローテーションですもの。みんながみんな指揮官に構って欲しいとは思いますよ」

 

「理解に感謝する」

 

「指揮官は今日は私が副官でいいよな?な?」

 

 目を輝かせてAA12は見上げる。

 

「ああ、他の人形達とは事情を話してずらしてもらった。頼んだぞ」

 

「指揮官の副官は私だけで十分だかんな!任せてよ!」

 

 AA12上機嫌に指揮官にハグし、指揮官もそれに応じる。

 ふと、AR15は指揮官の肩越しにAA12を見た。彼女は気持ちよさそうに指揮官の肩に顎を乗せ、背中を撫でて貰っているようだ。

 

 AA12はふとAR15を見つめ、口を動かした。AR15は即座にその意味が読めた。

 

 

 

 

 

『 わ た さ な い 』

 

 

 

 

 

 AR15は戦略的撤退の判断を下し、M4達がいる宿舎に向かうために司令室を後にするのであった……

 

 

 

 




そういえばフォント芸はまだやったことないので初投稿です
食わず嫌いは良くないしね、仕方ないね

感想下さい(小声)


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17

「指揮官ー♪ 今夜は私の部屋、空いてるわよ?」

 

「済まないが、遠慮させてもらう」

 

 しなだれかかる黒髪長身の美女を押しのけて指揮官はDSR-50をスルーし基地内を歩き回る。

 

「邪魔をしないでくれないか」

 

「もう、そうやっていつもつれないわね?」

 

 基地内を動き回る指揮官に秘書と言わんばかりに真横についてまわる。

 彼女は少し前に鉄血装甲部隊から孤立してしまったところを指揮官に拾われており、本来はグリフィンの別の部隊に配属される予定であったが、本人の希望によって当基地に配属されていた。

 

「申し訳無いとは思っている」

 

「一緒に居たいのにこれじゃあままならないわね?」

 

 司令室に入る指揮官に続いて、DSR-50も入っていく。今日の副官はスプリングフィールドのようで、指揮官の決済の必要な書類の振り分けを行っていた。

 

「指揮官、たった今書類の振り分けが終わりました。必要な書類は机に置いておきますわね」

 

「ああ、助かる」

 

 スプリングフィールドは立ち上がると、指揮官の決済が必要な書類の束を指揮官の机に置くとそのままコーヒーメーカーの元へ向かう。

 

「DSRさんもいかがですか?」

 

 明らかに指揮官目当てでついてきただけとわかるDSR-50に対しても、スプリングフィールドは分け隔てない態度でコーヒーを勧める。

 てっきり嫌味の一言でも言うのかと思っていた彼女は面食らう。

 

「ええ、いただくわ」

 

 手持ち無沙汰になった彼女はソファに座ると、スプリングフィールドからコーヒーカップを貰う。

 そして、コーヒーをすすりながら粛々と執務を始めた指揮官をじいと見つめた。

 

(ふうん、副官なら指揮官の側にいられるわね……)

 

 DSR-50は指揮官に助けられて以来、指揮官のことが気になって仕方がなかった。スリルと実力を感じたい彼女にとって人の身でありながらも、鉄血の装甲人形部隊や機械部隊ともやりあえ、それでいても指揮能力を損なわない実力は彼女にとってとても興味深く、もしかしたらDSR-50自身を満足させてくれる人かもしれないと思っていた。

 

(前線に出てくるから内政には疎いと思ってたけど、他の人形の話を聞いても全然そんなこともないし。

 こんな人、もう二度と出会えないかもしれない……)

 

 DSR-50はふうとため息を吐きながら、思案するのであった。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

   ■   ■   ■ 

 

 

 

 

「しっかしまあ、ここまでデキる男だとは思わなかった」

 

 ウイスキーを呷り、トンプソンがボソリとつぶやいた。

 基地内の戦術人形専用の宿舎の中に建てられたカフェバーでは多くの人形達が喫食していた。

 今現在は管理人役の戦術人形が雑務で出払っており、皆持ち込みの飲食物で楽しんでいる。

 

「まあ、人形使いの酷い肥溜めみたいなとこもありますから。ソコと比べちゃここは天国みたいなモンですよ」

 

 トンプソンとテーブルを挟んでイングラムが瓶ビールの小瓶を傾けながら、自身が目を通していた書類の束をテーブルに投げ出した。

 書類の内容は指揮官の行動に関する記録であり、業務上は勿論のこと休暇中の指揮官の行動も把握できるだけ記録してある。要は、指揮官の立ち振舞いの評価であった。

 

「業務内や基地内ならともかく、プライベートや基地の外なら本性は出るだろと思ったんだが……」

 

「まったく尻尾を出しませんでしたね」

 

「品行方正で模範的、それでもって統治能力と戦闘指揮能力も十分。

 気持ち悪い位に非の打ち所がないとくりゃあ、何も文句は言えねぇなぁ」

 

 トンプソン達は当初、指揮官に対して完全に信用はしておらず隙があれば弱みを握ろうとしたのであるが……

 結果はこの通り、何も尻尾を出さないままであった。

 

「案外、クソ真面目だったって線じゃないです? トンプソン。

 後任と指揮の引き継ぎ先までガチガチに設定して、権力にも興味がない素振りを見せられたら、お手上げですよ」

 

「後任がここに来りゃ1時間もしない内に上位者権限を書き換えられるまでシステム化されちゃあねぇ……

 ここまで調べてもボロが出なきゃあしょうがねぇなぁ」

 

 イングラムから述べられた結論にトンプソンも頷かざるを得ない。イングラムは新しい小瓶ビールを冷蔵庫から取り出すと、蓋を開けて呷る。

 

「それに、私は今の指揮官は好きですよ。居心地いいですし、刺激もあるし」

 

 イングラムの言葉にトンプソンは同意を示す。

 あの指揮官は戦術人形が十二分に実力を発揮できるように心を砕いているのは誰の目にも明らかであったし、その働きに対してこの施設のような、人形に対する報酬も惜しみなく支払うだけの寛大さも持ち合わせている事もわかっていた。

 

「……まあ、あたしらでボスをより良い男にしてみるってのも、悪くねぇわな」

 

 トンプソンの懸念材料としては指揮官の人柄はこの時代の人間にしては優しすぎる(・・・・・)事だろうと睨んでいる。恐らくはあれが指揮官の時代ではごくごく普通のビジネススタイルなのだろうが、戦術人形にはその優しさはあまりにも甘美で魅力的であった。

 現に、トンプソンの知る限りで指揮官に好意を持っている人形はいくらか目星がついていた。

 

――ありゃあ、女難の相が見えるかもな……

 

「私も一枚噛ませて貰えないかしら、トンプソン?」

 

「なんだぁ? お前、DSRか」

 

 トンプソンの気掛かりを他所に唐突にコトリとワイングラスがテーブルにおかれた。

 トンプソンとイングラムの間にDSR-50が割って入ってきたのだ。

 

「指揮官にはイイオトコにそだってほしいのはわかるんだけど」

 

「ただ静観するだけだなんて簡単よ。

 ……そう、それなりの課題を与えてやるべきよ」

 

 彼女の言った意味をトンプソンは理解していた。

 ある日を境に、DSR-50は副官業務をよく引き受けるようになり、指揮官に部下の人形達の前で基地の不備や職員の起こした問題などを積極的に進言しては、対応を指揮官に問いかけていた。

 

「そうやって潰したら元も子もないだろ?」

 

「潰れたら……所詮その程度ではなくて」

 

「……実務能力に支障をきたすようなら、容赦しねぇぞ」

 

 DSR-50の言葉に理解と納得を感じつつも、トンプソンは口角が引き攣る感覚を感じた。

 どうやら自分もまた、あの指揮官には無意識的に相当入れ込んでいるらしいとトンプソンは感じた。

 

「ふふっ、肝に銘じておくわ。お互い頑張りましょう?

 指揮官はここで止まっていい人じゃないのはわかるでしょう?」

 

 それに……と、続いた後にトンプソンの耳元でDSR-50は宣言した。

 

「誰も取りに行かないのなら、私が取りに行ってもいいわよね?」

 

 そう言うと、DSR-50は残りのワインを呷り、バーから出ていった。

 狙うは当然、指揮官の私室だ。アルコールで勇気付けたという体で指揮官にアタックをかけに行くつもりだ。

 

 DSR-50はアルコールに火照る身体を自覚しながら、消灯中の通路を突き進んでいく。

 角を曲がるとすぐに指揮官の私室に着こうとする時、スプリングフィールドが壁に寄りかかっていた。まるで、元々誰かを待っていたかのように。

 

「すみませんが、ここを通すわけにはいきません」

 

 スプリングフィールドは自身の脇を通り抜けようとしたDSR-50の肩を掴んだ。

 

「へえ、どういうわけ? ()ざりたいの?」

 

「指揮官はそういう事は望んでおりませんので」

 

 DSRは掴んだ腕を握り、口角を上げた。

 

「エリート人形の私に貴女が叶うとでも?」

 

 DSR-50は対物ライフルに分類される銃器である。一般的には伏射や二脚による据え付けで射撃を行う物であり、それ故に大型で重量は重く、従って扱う人形にも相応のスペックが求められる。

 一方、スプリングフィールドは対人がメインの銃器を運用する目的の人形であり、DSRと比べるとパワー関係の出力にはどうしても差異が生まれてしまう。

 故に両者が力比べをした場合、DSR-50が勝つのは道理であるのだが……

 

「……試して見ますか?」

 

 DSRとスプリングフィールドのにらみ合いはしばらく続く。両者ともに譲る気はなさそうだ。

 

「……やめておくわ。

 貴女、本気になったらカタログスペック以上の力を発揮しそうだもの」

 

 ひりついた空気感の中、先に折れたのはDSRの方だった。

 彼女はスプリングフィールドを握っていた手を離すとそのまま踵を返した。

 

「賢明な判断、ありがとうございます。私も、このような理由で損害額を計上してしまっては、指揮官に立つ瀬がありませんから」

 

 掴まれた服の皺をただしながらスプリングフィールドはDSRを見据える。

 

「でも私は貴女のようにいい子ちゃんでいればいつか可愛がってもらえるなんて楽観論は持ってないわ」

 

「いいえ。私はあの人の期待に沿えるように振る舞ってるだけです」

 

 DSR-50の言葉にぴしゃりと返すスプリングフィールド。お互いの眼光は未だに鋭く、場の空気の温度は寒く、重いままだ。

 スプリングフィールドの眼光は鋭くDSRの背中に突き刺さっている。DSR自身もこの状況でスプリングフィールドに背中を向けることに対して抵抗感があったが、自身の弱みを見せないために敢えて余裕のあるように振る舞う。

 

「やっと見つけた私の指揮官。そう簡単に諦めたくないわ。

 貴女も私と同じ気持ちよね? なにせ私の行動を先読みできたのだから」

 

 スプリングフィールドは奥歯を噛みしめる。悔しいが、DSR-50の言っていた事は正解である。

 そうでなければ彼女が夜這いに来るなどとは予想しないだろう。

 

 司令室で働く指揮官や、普段の指揮官を見つめているDSR-50の眼――憂いと熱の籠もった視線でいつも指揮官を見つめ、自分の思うようにいかない様子に悲しみ半分嬉しさ半分の籠もったため息を時折していれば……自分と同じ同類(・・)の行動なら気づかない筈はなかった。

 

「ええ、そうですね。ですから私達、案外仲良く慣れるかもしれませんね?」

 

 スプリングフィールドの皮肉とも嫌味とも受け取れる言葉を聞いたDSR-50は微笑みながら、踵を返して自室へと戻るのであった。

 

 

 

   ■    ■    ■

 

 

 

「今日の副官はDSR-50か」

 

「ええ、お手伝いさせてもらうわ」

 

 ここ最近の副官業務はDSR-50がいることが多いと指揮官は思った。

 IOPの新造されたエリート戦術人形(☆5)達を載せた輸送部隊が鉄血部隊に補足、襲撃された際の救援及び生きているコアの回収任務に駆り出された際に助け出した人形達の一人ではあったが、まさか自分の基地にくるとは思っていなかった。

 

 ――多少の記憶や戦闘経験の欠落(ロールバック)があろうと身体は換えが効き、バックアップで人格も保存される人形にとって見捨てられない事はここまで信用を得るのが容易なのか。

 

 指揮官としては人形も人間も関係なく同じ宮仕えであり、ちょっとした窮地に陥った時に換えが効くからと一々使い捨てにされては、モチベーションと忠誠に欠け効率的な組織運営に支障をきたす。

 指揮官の思想は別として、前述の任務に関してはグリフィンの上層部もいたずらな消耗は避けたいという意図からの下達ではあった。

 

 指揮官の向かいに来たDSR-50は、ふと書類を机の片隅に置くとそのまま持たれかけた。バランスをとるために片手は机に添えて。もう片方の手はそっと指揮官の頬をなでた。

 

「?」

 

「いきなりでごめんなさい。どうしてもあの時のお礼がしたいの。

 指揮官、これは私個人の思い」

 

 そう言うとDSR-50は指揮官のシューターグラスを外して机においた。

 司令室の扉にはロックがかかっており、近くには人形も居なさそうだ。どうやら、今まで機会を伺っていたらしいと指揮官は判断した。

 

「私は君の能力を買って副官に選んだ。

 君はすぐに問題点や懸念材料を見つけてくれるし、臆さずに進言してもくれる」

 

 いつもならやんわりと断りの文句を言っていた指揮官ではあるが、この日は様子が違っていた。

 

「たとえそれが私を試すような内容であってもだ。

 ここでの業務は君の想定以上にあらゆる物や金、そして命を取り扱っている。君が手で押さえつけているその紙一枚の判断次第では簡単に吹き飛ぶものだ」

 

 指揮官はDSR-50が紙を押さえている手を取り上げ、目線を合わせてずいと近い距離から相見る

 

「私的な時間で規定に触れない程度であるならば干渉はしない。……だが職務よりも私用を優先させるなら今すぐここから立ち去って貰いたい」

 

 両眼は見開かれ、指揮官の瞳はDSR-50の視線と相対するように微動だに動かず、瞳孔が開く様まで彼女の手にとるようにわかった。

 

 ――指揮官に見つめられているだけで侮蔑と嫌悪、そして失望の意思が伝わってくることに対してDSR-50にはどんな言葉よりも深く感じられてしまったのであった……

 

 

 

   ■   ■   ■

 

 

 

「あの……DSRさん? そろそろやめたほうが」

 

 カフェバーの管理人であるスプリングフィールドはカウンターテーブルの対面にいるDSR-50にそう言うも、彼女は返事と言わんばかりに盛大にお酒を呷った。

 

「指揮官はとても思慮深い御方です、なにも今回のことで貴女には失望なんてしていないと思いますよ?」

 

「……それは、先駆者としての忠告?」

 

 指揮官に咎められた後、「誰にだって間違いや距離感を測りそこねる事はある。君にはこれからもこの基地で私や他の人形達を支えて欲しい。気まずいようなら、副官業務は取りやめても構わない」とよくわからないフォローをされた。そこで完全に自分の空回りだと気づいてしまったDSR-50は今まで保ってきた余裕をなくしていた。

 

「まあ、ご想像にお任せしておきます……」

 

 アルコールで顔を赤くしたDSR-50と彼女と視線を合わせない様に軽く赤面したスプリングフィールドはグラスを磨き始める。

 そんな中、新たな人形がDSR-50の隣りに座った。

 

「よう景気の良い顔してんな。どうやら、試されたのはそっちの方だったみたいだな」

 

「……なによ? 笑いに来たの?」

 

 グラスを握ってる方とは反対の腕でカウンター上にのの字を書きながら。DSR-50は言った。

 

「いやあ、わるいわるい。嫌味のつもりじゃあ……なかったんだ」

 

 そう言うと、持ち込んできたのかウイスキーの瓶をごとりとおいた。

 大仰なデザインのボトルの割には中身の酒は少ししか減っておらず、どうやらトンプソン秘蔵の物らしい事が見て取れる。

 

「お仲間の歓迎さ」

 

 予想外のトンプソンの一言にDSR-50は目を丸くするが、そのままトンプソンは続ける。

 

「安心しな、あんたに何も起こらないってことは指揮官はもう許してるし気にもとめてねぇってことだ。

 それにこれ以上はあたしらがあんたにちょっかいなんてかけようものなら、指揮官は容赦しないだろうしな」

 

 グラスと氷を用意していたスプリングフィールドに対してトンプソンは「スプリングフィールド、あんたも飲みなよ」と、言うと彼女はニッコリと自分の分も追加で用意した。

 

「歓迎するぜ、DSR-50」

 

「よろしくおねがいしますね、DSR-50」

 

「ええ、改めてよろしく」

 

 グラスをコツンをぶつけて、3人はウイスキーを呷ったのであった。

 

 

 




これは小生の性癖なんですけど、性に奔放だったり、自分の躰が淫靡で大多数の男なら簡単に手のひらで自由自在に転がせられる魔性持ちの娘が、意中の人を落とすために普段の手段を取らずに真剣さ真面目さを出して本気で落としにかかろうとするムーブが大好きなんですよね(ニッコリ)

DSR-50の挿絵を さめさん @same_so_lovelyに描いていただきました。ほんとこのDSR-50いいなぁ、いいなぁ……



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時間が経つの早すぎぃ・・・!

久しぶりなので感想いただけると幸いです


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18

 

「えへへ……ダーリン♡」

 

 もうすっかりイエネコとなったMk23、ソーコムピストルとも呼ばれている戦術人形は指揮官の膝の上で腹部に顔をすり付けて甘えている。

 尻尾部分はすっかり機嫌良く左右に振られており、司令室のソファーは今や二人だけの空間になっていた。

 

「Mk23、そろそろ執務に戻らないか?」

 

 彼女が配属されて1週間の月日が流れてはいるが、彼女の態度は依然として変わることはなかった。

 

「いーや♡ まだ休憩時間は終わりじゃないわよね?」

 

 初対面の時に赤面しながらも、握手に応じた彼女はこれ以降、指揮官に好意を持っていることを公言し、許される時間内であるならば人目も関係なく好意を指揮官に遠慮なくぶつけていた。

 

「そ!れ!に! 私の事はソーコムって呼んでって言ったじゃない! それだと誰かと被った時に困るわ!」

 

 指揮官を顔を合わせると、体を跳ね上げて片腕を指揮官の首と肩に回して詰め寄る。

 指揮官は彼女を信用してるかは知る由もないが、少なくとも振り払わずされるがままになっているのが、Mk23にとっては嬉しくてたまらなかった。

 

(もう! この体勢ならいつだって貴方の首をへし折れるのになんでここまで無抵抗なの! 受け入れてくれて好き!好き!大好き!)

 

「その時が来れば呼称に関して審議しよう」

 

 指揮官もここまで素直な好意をぶつけられると余り無碍にはできず、かといって執務の邪魔をしている訳でもなく、大きなトラブルも起こっていないので何もする必要はないと判断した。

 

 経歴を見たときの記憶だと、この眼の前にいるMk23はこんな性格ではなかったと記憶している。

 記録ではいつの日からかめきめきと他の同一製品と比べて明らかに異常な程の戦闘能力を有するようになり、それと同時期に自身の自尊心も芽生えた。

 

 その影響は人形性愛者の前々任者にセクシャルハラスメントを受けて反撃に文字通り男として死を迎えさせたり、指揮官の元に再配置される前の前任者のMk23に対する待遇と指揮能力の無さに腹を立てており、進言を無視して大損害を被り、自身も這々の体で帰還してその前任者の鼻を折った事がこちらに回されたきっかけらしい。

 

 ある意味で悪名高い戦術人形とは思えない態度に指揮官は困惑するしかなかった。

 

「あのね、ダーリン。私も最初はこんな軽い女じゃないのよ?」

 

 そんな指揮官の様子を見て気持ちを汲み取ったのかMk23はソファから降りて、おどけながらも疑問に答えてくれた。

 

「でも指揮官を初めて見た時ね、なんだかおかしな気持ちになったの」

 

 Mk23は指揮官の目の前に立ち、腰を曲げて座っている指揮官と見つめ合う。指揮官の瞳には彼女自身が鏡のように映し出される程にその距離は近い。そしてダーリン呼びだった口調も真面目なものに変わった。

 

「指揮官の目を見たらね、胸が締め付けられて、苦しくなって……」

 

 自身の内心を指揮官に打ち明けるのは恥ずかしいのか徐々に語気が弱くなっていくMk23。顔も段々と頬が紅潮していくのが指揮官には見て取るようにわかる。

 

「でもねでもね、指揮官から目を離せないの。 ずっと視界に入れて苦しいけど、なんだか嬉しくなるの」

 

 たどたどしくもぼそりぼそりとここまで言ったMk23ではあったが、目尻からふと一筋の涙がこぼれた。

 

「MK23?」

 

 指揮官が様子を尋ねるとMk23は堰を切ったように涙を流し始めた。

 

「え? ちょ、うそ?! まって! まって! ちがうの! そうじゃないの!?」

 

 それは本人の意図とは関係のないようで、驚きと困惑の入り混じった表情を浮かべながらしきりに両手で目元を拭いながら泣きじゃくる。

 

「なんで? 寂しくないのに、どうして? この感じ、これじゃあまるで……」

 

 流石に彼女自身が醜態と思っている様子を見続けるのは忍びないと思った指揮官は席を立とうとした。Mk23が恥ずかしがっている以上、まじまじと見るには酷だと感じたからだ。

 

「ダメっ! わたしのことみて!」

 

 感極まったMk23は両手で指揮官の顔を固定する。

 指揮官もはじめは嫌がる素振りを見せたものの、彼女自身の意思を主張されては応えてやらないわけにもいかず、そのまま彼女を見つめた。

 

「うう、やっぱり……」

 

 Mk23はその潤んだ瞳で指揮官を再び見つめると、何かを確信した。彼女は号泣し声を上げながら指揮官に抱きついた。

 

「しきかん!し゛き゛か゛ん゛!

 あいたかった!あいたかったよう!!」

 

 わんわん泣きながらMk23は指揮官の方に顔をうずめた。指揮官も何が何だか分からなかったが、それを受け入れ、彼女を抱き留めた。とにかく落ち着けるようにと背中を擦り頭を撫で、顔をMk23の頭に押し付けてそばに指揮官自身がいることを強調させた。

 

「……落ち着いたか?」

 

 しばらくの後、段々とすすり泣くように落ち着いていき、やがてとまった。

 

「うん。ごめんね、ダーリン」

 

 肩や首に埋めていたMk23は再び指揮官と面と向かった。

 目元は紅く、涙の後もあったが、その表情は晴れやかなものだ。口調もダーリン呼びに戻っている。

 

「構わない」

 

「だったらー、ついでに頭を撫でてもらおうか「指揮官」」

 

 Mk23が言い切る前に遮った彼女の声はそのどす黒い感情を隠すこともなく指揮官に突き刺すように容赦のないものであった。

 ドアを開けて入室した416は臆することもなく指揮官に詰め寄る。その手には書類が見受けられたので、恐らく何らかの申請か相談に訪れたものかと思われた。

 

「416か」

 

「どういうことか説明して、いただけますよね?

 できれば、私が冷静で居られるうちにお願いします」

 

 ――能面を貼り付けた表情とは今の416の事を指すのかもしれない。

 

 瞳を細めながら言葉を発した後、薄っすらと笑みを浮かべるように口角を上げて、小首をかしげた。

 

「もう! ダーリンとのイチャイチャ位いいじゃない!

 それとも羨ましい? まったくじっとしてるくらいなら素直になれば良いのに」

 

 不機嫌に唇を尖らしながらMk23はまっすぐ目を逸らさずに416を見据えた。底冷えするような空気を発する416に対してMk23は全く恐れは無いという様子であった。

 

「その様子だと、一部始終を見ていたようだな」

 

 暴発しかねない416を抑えるために、不満を言い足りない様子のMk23の頭に右手を載せて指揮官は応える。

 

「ええ、おおよその経緯は把握しております。あまり首を突っ込むのもよろしくないと思いましたので。

 ……雌猫風情が、いやらしく尻尾を振って指揮官の執務の邪魔をするとは、いい度胸してるわね?」

 

 泣いたカラスがなんとやらなのか、にヘラ~と笑みを浮かべ上機嫌なMk23に対して、口角を引くつかせながら416は答える。

 

 ――まだ理性が効いているらしい。しかし、あまり猶予はなさそうだ。

 

「執務の邪魔ぁ? 私もやって!の間違いじゃイタイイタイイタイ!

 わかりましたぁ! 煽るのやめますだーりぃん!」

 

 指揮官はわかってて尚も煽ろうとするMk23を先程まで手のひらで撫でて宥めていたのだが、態度を変えない様子に路線変更、握り拳でグリグリと頭に当てて制裁を行った。

 

「これは、あくまでも憶測だが……借りるぞ」

 

 指揮官はそう前置きすると、Mk23の懐から自身の名前を冠する拳銃を取り出した。

 

「やん! ダーリンったら大胆!」 

 

 苛つきを隠せなくなってきた416を他所に指揮官は続ける。

 

烙印システム(スティグマシステム)は知ってるな?

 同じ戦術人形でも、1人1人に個性が生まれる原因がこのシステムだ」

 

「ええ、まるで【人形の為の銃ではなく、銃の為に人形が作られる】なんて言う技術者もいるわね」

 

 416は当然と言わんばかりに答える。それはI.O.P.社の開発した先進技術なのだ、知らないわけはない。

 コア技術と並んで第二世代型戦術人形を形作る根幹なのだから。

 

「私も専門家では無いが、専門家(ペルシカリア)直々に教えは受けたことはある。

 銃の性能や歴史的資料に基づいて性格や造形が……人間で言う個性が生まれるという。

 ソーコム(・・・・)、私を初めて見た時に感じた感情……それは【懐かしさ】ではないか?」

 

 指揮官はMk23に対して質問を投げかけた。

 

「もう! 人前でこんなこと深堀りして言いたくなのにこういうときだけその呼び方なんてずるいわね!

 ええ、そうよ。指揮官とは初めて会ったのに、まるで昔から知っていて、久しぶりに旧知の仲の人に出会えたみたいな感覚だったの!」

 

 照れながらMk23はそう答える。彼女のその言葉を聞いて416は理解できない程、鈍い人形ではなかった。

 

「スティグマ、歴史的資料、旧知……まさか!」

 

「ああ。彼女は、このGr Mk23は……私が以前、コールドスリープ前に使っていた拳銃だ」

 

 指揮官がそう言うと、416とMk23は驚愕する。そして416が開けたドアの隙間から桃色の髪と駆け足の足音が聞こえたのであった……

 

 

 

   ■   ■   ■

 

 

 

「で、これが結果ね」

 

 ペルシカリアは分析班から送られてきた紙に目を通した。

 指揮官に最近配属されたMk23の所有する銃器の組成解析の結果であった。

 

 Mk23と416と指揮官の話を偶然聞いてしまったAR-15は、自身の尊敬する人間でもある指揮官の素性を断片でも知ることができるチャンスを逃したくはなかった。

 スティグマの仕様上、そのおかしな戦術人形の持つ銃器の製造番号や履歴を追うことができれば、そこから手がかりを得られるかもしれないという希望的観測から、生みの親でもあるペルシカリアにこの話を持ちかけた。

 

「どうですか? 製造番号や履歴が無いと聞きましたが、まさか材質自体を調べるなんて想像もしてませんでしたが」

 

 AR小隊もペルシカリア本人としても指揮官とは懇意にしているが、素性や過去の話に関しては【守秘義務】の一点張りで頑なに口を閉ざしており、あらゆる手段を用いて推測するしかなかった。

 

「銃器のメインフレームにはシリアルナンバーが無いのは想定済みさ。

 まあ、そこは特に気にもとめなかったけど、他の同一製品とは明らかに人格データや能力が異なるから興味本位で調べたけど……」

 

 指揮官に配属されたソーコムは明らかに金属の組成が根本から異なっていた。

 明らかに一般的な同製品の量産規格を逸脱するほどの強度と比重に優れた合金がふんだんに含まれていることを意味している、量産規格に持つべきであろう費用対効果には優れているとはとても言えなかった。

 

「これ、明らかに特定の使用下に用いるための特注品だね。

 普通の45口径の弾薬を撃ち出すためのシロモノじゃない……

 これにふさわしい弾薬なんて、対人はもとより、軽装甲の対物クラスに対抗する為の威力よ」

 

 AR-15はその言葉の意味を理解できないほど、鈍くはなかった。

 

「それってつまり、あの人の専用……っ!」

 

「少なくともそうではないかと推測できる。AR-15、貴女の直感は当たっていたわ。これを直接調べて良かった。

 指揮官は【以前使い込んでいたから今のMk23がいるかもしれない】という趣旨の発言をした。

 確かに嘘は言っていない。ただ真実をすべて話していなかった。この銃は明らかに同製品と性能が違う」

 

 ペルシカリアはあの風変わりなMk23の原因は以前、指揮官が長い間愛用していたという歴史的資料に基づいて烙印システムがセットアップを行ったと推測していたが、だがそれですら一因であっただけであった。

 同じ場にいたAR-15は無意識的に拳を強く握った。メンタルモデルが得体のしれない感情ステータスやパルスででかき回される。

 少なくとも、それは喜びや嬉しさなどの前向きな感情ではなかった。

 

(指揮官の隣にいるべきは最優の戦術人形。そう、私達AR小隊のはず。

 あの人と肩を並べ、背中を預けて戦った経験や今までの付き合いから作り出させる信頼の絆は……もう友や恋人、家族を超えた関係のはずだ!そうやすやすとは超えられない!

 でも、もし指揮官の経験の一片を持った戦術人形が存在したのなら、それはもう指揮官の半身にも近いってことじゃない!)

 

 きりきりと拳を握り震えるAR-15に対して、ペルシカリアはこんな非現実な物を使用していた事実に関して考察していた。

 企業の技術力を誇示するための品物かとも彼女は思案するものの、脳裏には指揮官の影がちらついた。

 勿論、あの指揮官が見世物としての使用していたなんて考えられなかった。スティグマに強く影響を及ぼす程……人格データや能力を大きく変える様な壮絶な使い込みをしていたと考えるほうが自然であった。

 

「指揮官……あなたはこんなバケモノを使って、何をしてたの……」

 

 指揮官が熟達した戦闘能力を有しているのは知っている。しかし当時不治の病に侵されていた指揮官をコールドスリープで未来に託す程の物かと問われれば反応に困る。この銃はそんな指揮官の隠された素性を知る一端らしい。

 

「今はそれは問題ではないわ。スティグマとかつての使用者との関係性において、こんなにもメンタルモデルが変化することは十分考察するに値する。可能性は低いだろうけどもし、同じようなケースがあり得るのなら……興味深いわね」

 

 今回の場合は特注品だからこそいままで現存してたが、もし彼が以前に激しい戦闘において使っていた銃器が戦術人形の手に渡れば……と考えるだけでペルシカリアは指揮官の異常性を認識しつつあった。

 

 




ソーコムチャンいいよね……密かな推し
結構気位高そうな娘だけどいいこよね(ろくろ回し)


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19

いい加減広げた風呂敷たたむか(唐突な前フリ話)

PC版にも「ここすき」ボタンが実装されたようなので好きなフレーズや1文を登録して頂けると中の人が喜びます。
もちろん、感想も頂けると中の人が喜びます。気が向いたら是非……


「試作装備の試験ですか」

 

 16labのペルシカリアに呼び出された指揮官は彼女から告げられた言葉に対してそう答えた。

 特に興味のある様子もなく、半ば事務的な様子で彼女のデスクに置かれているヘルメットとチェストリグを見る。

 

「如何にリアルタイムで情報をドローンから送ったとしても、司令部の戦術指揮システムでは現場の細やかな戦術的な要素を確定させるのは困難な事は君も周知の事実だろう?

 特に、電子的な目が完全に潰された状態だと戦略的な用兵を行う上級の指揮官はともかく、大抵の指揮官は現地に赴かなければならない」

 

 ペルシカリアはヘルメットを取り上げると指揮官に見せつける。電子機材をふんだんに詰め込んだそれはフルフェイスの意匠に近い。

 バイザー部分は投影モニターも兼ねているようで可視光と不可視モードを切り替えているのか透けて見えたり見えなかったりを繰り返している。

 

「そういう時は最前線の少し後方に天幕なんかを張って臨時の指揮所を作るようだが、それだと時間と手間がかかって困るだろう。

 そこでだ、戦術人形の指揮システム関連の簡略化、極小化も兼ねて作ってみたというわけだ」

 

「それなら他の前線指揮官に試験的に配備してもいいだろう」

 

 教え子に説く風に話すペルシカリアに対して指揮官はありきたりな理由で反論する。

 指揮官自身としてはこの場(16Lab)に呼び出された時点ですでにグリフィンの上司も上層部も許可を取ったのだろうと予測はしている。

 装備に関しても要件を言えば済むし、わざわざ呼びつけるような事もあまり合理的とは言えない。そもそもペルシカリア自身も研究者として忙しい身だ。

 

 ――他になにか用でもあるのか……値踏みされているのか、はたまた気に入られているのか……

 

「いや、ある意味では君にしか頼めない」

 

 前フリに相応しい模範的な受け答えを聞いたペルシカリアはそう銘打つ。

 

「これの真価が発揮されるのは敵戦線への侵入だ。それも最前線部隊の後背を突くのではなく、深くまで浸透するほどのね。救出した戦術人形に対しても効果を発揮するだろう。

 鉄血人形のうろつく中でそんな事ができる人材はグリフィンでも数少ない」

 

 つまり、どうしても私にやらせたいらしい……と指揮官は思った。

 大切に思われているのか、はたまた戦術人形にフィードバックするには絶好の人物なのだろうと一人思う。

 

「だが本題はこの件じゃない」

 

 ペルシカリアはヘルメットと膝に乗せて話を続ける。

 

「次世代の戦術人形の調整を行っていてね、対人戦におけるデータの蓄積が欲しいのさ。

 試作装備の運用試験を行ってから模擬戦闘の予定よ。なにせぶつけるなら、最上の物がいいでしょ?」

 

 正規軍に頼めば良い案件を指揮官に頼む理由を暗に言っているが、鵜呑みにするほど指揮官は楽観的ではなかった。大方、I.O.P.単独で戦闘データを蓄積して、ライバル社や正規軍、政府側に対してイニシアチブを握りたいのだろう。

 あるいは政治的な理由により、データを供出したくない何かがあるのか……

 

「いいだろう。貴女の望み通り、引き受けよう」

 

 ホッとした表情を浮かべるペルシカリアを他所に指揮官は言葉を続ける。

 

「だが、条件がある」

 

 そう言うと、ペルシカリアの持っていたヘルメットを取り上げると一通り外観を確認し、軽く被るとすぐに外した。

 ヘルメットとデスクに置くと次にチェストリグを物色した。

 

「このヘルメット、バイザーが手で外せないな? 直接目視しないといけないような非常時に外せるようにしたい。

 耳元のクッション剤も吸音材がダメだ。この材料だと聞き出したい周波数の音まで吸音される。却って危険だ」

 

 そう言うと今度はチェストリグを取り上げてペルシカリアに見せる。

 

「チェストリグは負傷時にすぐ脱げるようにはできていなさそうだ。そうできなくても注入器や患部に止血剤を速やかに打ち込めるような構造にしたい。

 基地に戻り次第、参考資料を送る。少なくともその様な改良を施すまでは模擬戦闘は受けつけない。

 

 ……模擬戦闘はすぐに始める訳でもないだろう?」

 

 ペルシカリアに思うところはあるだろうが、指揮官も十全でない装備に命を預ける事は避けたかった。

 それ故に言葉を強く指揮官は言ったのだが、まさかそこまでの事を言うと思っていなかったのかペルシカリアは面食らう表情を浮かべたのであった。

 

「……ならこちらからも注文したいことがある。

 この武器ケースの中の銃器のみをつかって運用試験と戦闘を行って欲しい」

 

 困惑を隠せない指揮官を他所にそう言うとペルシカリアはデスクに置いてある武器ケースを開ける。

 指揮官は見るからにAKの系譜であるそれを手にとった。

 

AN-94(アバカン)か」

 

「ご明察の通り。君は戦術人形達の使う武器に関しては国や地域問わずその道に明るく、親しみがあるようだね」

 

「了解した。改良に目処がつき次第、スケジュールを調整しよう」

 

 

 

   ■   ■   ■

 

 

 

「……悪くない。適切な改良、感謝する。」

 

 後日、グリフィンの演習場で一通りの運用試験を行った指揮官は、後方の天幕でペルシカリアに言い放った。

 

「改良に必要なガチガチの技術資料を送られるとできないとは言えないからねぇ……

 電子戦システムの感想はどう? 満足できた?」

 

「おおむね満足できる。特に、データ通信量等で人形同士や司令部とのデータリンクを視覚的に見れるのは感覚的にわかりやすく、情報処理に思考のリソースを割かれないのはいい。

 救出対象の戦術人形が撃破されていた場合におけるコアデータの吸い取りも容量が大きく、データ移行に伴う時間も大幅に短縮されているのは助かる」

 

 指揮官はそういうと、ペルシカリアの側にいる4体の戦術人形達を見た。

 衣服やAK系列の意匠を感じさせる銃器などの装備をもたせて入るものの、顔はマネキンのようにのっぺらぼうになっている。側頭部に青いラインを引いている戦術人形が隊長機なのだろうかと指揮官は思った。

 

「ああ、この子達は次世代の戦術人形だ。指揮官は戦術人形のこの姿を見るのは初めてだったわね」

 

 指揮官の怪訝な表情をみたペルシカリアは気を利かせてそう言った。

 

「まだ烙印システム(スティグマ)を適応させていないので正規軍戦術人形の武器をもたせてある」

 

「そうか」

 

 軽いメンテナンスと動作チェックを黙々と行う指揮官に対してペルシカリアは満足そうに頷く。

 しかし指揮官は今回の試験で明らかに疑念を抱いていた。

 

(今を基準にすればこの武器も旧式の範疇に入るだろうが、それにしては武器ケースが豪華すぎる。

 外装も傷一つないし、綺麗さにしては内部の機構や動作が渋すぎる。これはまるで倉庫の引っ張り出したというよりも、青写真(設計図)からすべて新規に作り上げたといった感じだ)

 

「確認するが、本当に私一人で彼女達と模擬戦をするのか?」

 

 指揮官はあまり乗り気ではなかったが、改めてペルシカリアに問いかけた。

 対人戦のデータを取りたいとは言え、このマッチングは指揮官から見ても明らかに建前だと感じさせる程には指揮官が戦うにはキツい条件である。ダミーリンクシステムまで解禁していないのは何よりも幸いであった。

 

「ええ、そうよ。これは貴方にしかできないことなの。

 でも確かに指揮官には厳しすぎる条件ね、だったら戦うポイントは指揮官に決めてもらいましょう?

 市街地でも山間部でも、この敷地内なら好きに選んでもいいわ。」

 

 指揮官には選択する余地などなかった。

 ペルシカリアが何故、こうも回りくどい事をしているのか指揮官にはわからなかったが、必要ならば教えてくれるだろう。

 

 森林地帯をバトルフィールドに選んだ指揮官はヘリで所定の位置に降ろされた。

 

「さて……」

 

 まずは相手を見つけることから始めななければならない。

 人間よりも高性能であっても、経験というものはその差を埋め難く、ノウハウなどに情報化するには難しいものである。

 音と視界、そして草木の倒れた方向や装備や躰にぶつかってできた樹木の傷、欠けた蜘蛛の巣などの痕跡から相手がどの辺にいるのか? 相手の行き先はどこか予測し、追跡することも、振り切ることも今の指揮官には容易にできた。

 

(見つけた。背後を取った形になったな……)

 

 敵陣への潜入や戦術人形の救出を行ってきた指揮官にとっては次世代型とは言えど、戦闘経験のない小隊を補足し、追跡することは容易であった。

 戦術人形達は前衛2体と後衛2体に分かれてクリアリングをしながら、前方をどんどん進軍していく。声帯パーツが実装されていない為、言葉のやり取りは無いがおそらくデータリンクを使っているだろうと指揮官は推測していた。

 

(今奇襲しても効果は薄い。できるだけ各個撃破を狙う機会を狙いたい)

 

 奇襲で1体頭数を減らしたとしても正面から3対1で銃撃戦を展開するのは指揮官を持ってしても難しい。

 少なくとも2体奇襲で倒すか、誤射を誘ったり、連携を阻害するために至近距離まで接近しなければ厳しいと指揮官の本能が囁いていた。

 

(さて、根比べといくか)

 

 相手がしびれを切らして二手に分かれるのを期待して程々の距離での追跡を続行しようとした指揮官ではあったが、後衛を努めている隊長機と隊員の1体が目配せのようにお互いに向かい合うと、前衛2体が急に踵を返すと、悟られて居ないはずの指揮官に向けて発砲してくる。

 

(マズい、集音装置やサーモグラフは予測していたが、動体探知(モーショントラッカー)の類か

 反撃に発砲すれば確実に位置がバレる。一旦引くか)

 

 追跡で逆にこちらが背後に回っているにも関わらず、センサーの有無と感度差で先手を取られた事実は指揮官の自負に少しばかりの傷をつけた。

 奇襲で数を減らすことに欲張らず追跡に徹していたため、距離をある程度保っていたが、すぐさま遮蔽物に身を隠して離脱することを指揮官は選んだ。

 これで、追う側と追われる側の立場は逆転し指揮官により厳しい物になった。

 

(思いの外厳しいな……)

 

 攻撃から逃げ切った指揮官は渋い表情を浮かべ、打開策を模索する。

 ペルシカリアの期待を裏切れないが、現実的に数に劣る上、肉体的なスペックは人形には及ばない。

 

 ――なら経験と頭を使う他あるまい。

 

 指揮官は眼下の川を見据える。そっと流れに指先を落とすと、指先から感じる冷感はとてもではないが水遊びに適した温度ではない事がわかった。

 それを確認すると、指揮官は意を決して川へと突き進んだ。みるみるうちに指揮官の身体は川に浸かり、足から下半身、下半身から上半身へと水に浸かる。そして、指揮官は息を吸うと川の中に全身を沈めた。

 

 指揮官が季節はずれの水遊びを楽しんだのは、サーモグラフを騙すために皮膚の温度を気温以下に落とすためであり、集音装置や動体探知の対策も兼ねて、潜伏からの奇襲攻撃を敢行する下準備であった。

 

 川から上がった指揮官は相手を誘導させるために、水を落とさずに森林の中を突き進み、土をつけないように気をつけながら木に登った。

 

(さて、あとは体温が戻る前に引っかかってくれるかだが……)

 

 こればかりは運だと指揮官は思った。

 一度補足されて、完全に振り切るまで離脱していない以上、こういった痕跡を残せばすぐに追いつくだろうと予測をたててはいるものの、不安が残る。

 指揮官は寒さに身を縮めて震える息を殺しながら、木の上で機会を伺う。

 

(……来た)

 

 戦術人形の小隊が先程と同じ布陣で指揮官の真下を通過しようとしてきた。

 もし、指揮官の存在を彼女達が把握していたのならば、とうの昔に指揮官はペイント弾のインクにまみれている筈であったが、指揮官は無事であった。

 

(まだだ、まだ……)

 

 指揮官は小隊がちょうど真下に来たその時に襲いかかる。

 まず指揮官は前衛の片割れめがけて落ちながら、後衛の1体――隊長機ではない方に射撃を加えて仕留める。

 2点バーストの小気味よい音と共に1体倒れ、次に前衛の片割れに指揮官の全体重が加わって崩れ落ちた。

 

 表情のない戦術人形であっても、またたく間に半分をヤラれると言うことは演算でも予測していなかったのだろう。

 彼女達は先程の運用試験の結果やペルシカリアから指揮官の異常さと優秀さはわかっている。だからこそ、隊長機含めた誰かが欠けたとしても、それと引き換えに指揮官を撃破すれば良いと考えていた。

 だが、彼女達は想像してしまったのだ。欠員が出た小隊でこの指揮官を実際に倒せるかどうかの確率について再計算してしまったのだ。

 

 そうなるように仕向けたのは他でもない、指揮官である。

 

 まず、索敵能力に優れる後衛を仕留めて援護射撃の選択肢を潰し、近接戦闘に優れる前衛を1体倒す事で、隊長機に動揺を誘い、再計算の為の演算に負荷を掛けさせた。残りの隊員は最初に仲間が倒されることにより、自律ではなく生存している隊長機の指示を仰がせることで余計な思考をワンクッション挟ませ、事態に対応しにくくしたのだ。

 もし初手に隊長機を潰したのなら、腐っても戦術人形、すぐに自衛を最優先して目の前の脅威に対応してしまい、指揮官は負けていただろう。

 

「悪いな」

 

 残りの前衛を片付けた後、語りかける訳ではないが、指揮官はそう言うと隊長機にペイント弾を撃ち込んだのであった。

 

 

 

    ■    ■    ■

 

 

 

「派手にやってくれたな」

 

「ペルシカさん、文句は無しですよ」

 

 天幕から戻ってきた指揮官と戦術人形達。

 奇襲の際に踏みつけた前衛人形は、想定外の負荷により関節部分が損傷したので、横抱き――所謂、お姫様抱っこと呼ばれる抱き方をしながら指揮官はそう告げた。

 

「いや、十分有用なデータが得られた。それに……君なら勝っても文句は言えないさ」

 

 その言葉に指揮官は眉をひそめる。

 

「今回ばかりは貴女の頼みもあって引き受けましたが、この方法はあまりオススメしない」

 

 指揮官はペルシカリアに苦言を呈する。

 対人戦とは言え、今回のシチュエーションは現実味に欠けており、これならば一般的なPMCを1小隊雇い入れて正面からの銃撃戦を展開させたほうがマシだと思えた。

 

「ふむ、指揮官の言うことにも一理あるね……今回の模擬戦闘に関しては戦闘データとノウハウの情報化に留めておいたほうが良いかい? 専門家さん」

 

「戦闘データとノウハウの情報化とは?」

 

 戦術人形に関しては完全に門外漢である指揮官はペルシカリアに聞き返す。

 

「言葉通りさ、戦闘プログラムには蓄積させるが、メンタルモデルには蓄積させない。

 わかりやすくいえば今回の模擬戦闘の記憶は消すのさ。マイナス要因にしかならない経験というものは不要でしょ?」

 

 そう告げたペルシカリアに対して指揮官は眉間にシワを寄せる。戦術人形に故にメンタルモデルを調整することでトラウマや戦闘行為に支障をきたす失敗経験を文字通り消去できるという利点は、指揮官個人としてはあまり好きなものではなかった。

 

「……これは古い人間の言う戯言ではあるが、人は苦痛を感じることでストレスを自覚し、調整できた」

 

 メンタルモデルを弄くり回すことに対して、指揮官は強く抗議の声を上げる。

 あまり参考にならないとはいえ、だからといって彼女達戦術人形の記憶や体験をなかった事にするのはあまりにも忍びないと思ったからだ。

 

 指揮官自身も長いこと生きてきて、友や仲間を失ったことは数え切れないし、判断ミスや敗北、取り返しがつかない過ちを犯した事はある。だからこそ、それを糧にし経験と技術として培って来たのだ。

 今回の模擬戦闘で次世代型戦術人形の小隊に勝利を収める事ができたのも、これまで培われた訓練と経験、勝利と敗北、成功と過ちの積み重ねた末の成果なのだから……

 

「メンタルモデルを弄くり回して苦痛やトラウマの根源を取り除く事は自身のストレスを自覚しない分、むしろ危険ではないか?」

 

 表情のない戦術人形達とペルシカリアに交互に視線を合わせながら、指揮官は臆する事無く言い切る。

 ペルシカリアが戦術人形の専門家であるならば、指揮官は戦闘行為に携わる専門家として、たとえ雇用する側とされる側の関係であっても言わなければならないと感じていた。

 

「今回の模擬戦闘は現実味に乏しく、実戦には活かせないと思うが……

 武装した兵士一人でも驚異になりえるという教訓においては、残しておいてもいいのでは?」

 

 指揮官がここまで言い切ることに感心するペルシカリアを他所に、指揮官は続ける。

 

「初陣でここまで動けるのなら大したものだ。それをなかったことにするのは些かもったいない。

 君たちにどんな銃が配られ、どういう人格が形成され、姿がどうなるかは私にはわからないが、共に肩を並べられることを願っている」

 

 指揮官はそう言うと、横抱きしていた戦術人形を隊長機に預けると、戦闘服からグリフィンの制服に着替えるために天幕から出ていったのであった。

 




書きたい戦術人形がいるのに緩やかとは言え下手にストーリー持たせて出すに出せない戦術人形が出てきた畜生の図
ROちゃんとかAKANとか(一例)
どんな戦術人形でも強引に書ける(出演できる)ようにした弊害である(自爆)

指揮官強キャラ化がドルフロでも始まってしまった事で変に解釈が一致してしまった事に対する焦りがみえるみえる……(大陸情報はネタバレしたくないので自主的に断っていた)
趣味と自己満足でやっている物書きもどきにしても未熟すぎて恥ずかしいばかりである


クソザコ脳みそでは原作の時系列の把握が難しいのでガバガバなのは本当に申し訳ない。
特例的にここで明言と解説しますが、ここの次世代型戦術人形は叛逆小隊の前身です。
 だれがどの銃器を担当するか決まっておらず、烙印システムによる人格・個人の形成がなっていないのでマネキン人形のままということです。
 次世代型戦術人形の形は決まって物はできたものの、カタログスペックを実際に発揮できるかどうかわからないのでペルシカの鶴の一声で『表向き』はスペックの確認ということで今回の無茶振りが始まりました。


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20

注意!

一気にクライマックスに持っていくのでここから毎日更新します。
ご注意下さい。


あと、ここすき一文と合いの手含めた感想くれると嬉しいです(震え声)


 

「この子、指揮官に返すわ」

 

 ある日の司令室にて、司令室に入ってきたMk23は自身の使っている銃を指揮官に差し出した。

 

「どうして急に?」

 

「だって、これってダーリンが冷凍睡眠(コールドスリープ)に愛用してたものなんでしょ? だったら元の持ち主に返してあげなきゃダメじゃない」

 

 至極当然な理由ではあるが、指揮官はある疑問を抱く。

 

「銃器の変更による人格データの影響が考えられるのだが……?」

 

「烙印システムによる人格データの形成はもうすでに終わってるし、なんだったら人格データもAR小隊さんとこのペルシカって人が保全と管理を申し出てくれたの。『指揮官の部隊は戦術人形のいい研究資料になる』って」

 

 指揮官が納得し、頷くのをみたMk23はそのまま話を続ける。

 

「それにこの銃は指揮官が使ったほうが良いと思うの。貴方は私の……いいえ、この銃の本当の姿を知っているはずだから」

 

 Mk23の言葉に指揮官は烙印システム(スティグマ)にかつての銃器の使用者も引きづられる可能性について、ある仮説を立てていたが、信憑性が増してきたと感じた。

 そして、Mk23の言ったことも真実である。彼女の持っているその銃は見た目はMk23ではあるが、材質は量産とは比べ物にならないほどに高価で、より優秀なもので作られている。それは、一般的な.45ACP弾を用いるには役不足であり、本来は同じ.45ACP弾のサイズでより強力、より凶悪な弾薬を使ってこそ真価を発揮する。

 

烙印システム(スティグマ)の影響か……」

 

 指揮官はMk23がそう考えた一因を述べると、彼女は肯定した。

 

「うん。でもダーリンのことはぼんやりと覚えているぐらいだし、ダーリンは過去を語りたがらないから根掘り葉掘り聞かないわ」

 

「了解した。私自身に関しても配慮、感謝する」

 

 指揮官はMk23からその名を冠する銃を受け取る。長い時を経てもなお、使い込んだ銃器の感触はもはや昨日まで触っていた物のようであった。

 

「指揮官、危険な役割を担うのがお仕事だからこんなこと言っても仕方ないと思うんだけど……

 二度とその銃は手放さないでね? その銃がある限り、私と指揮官は繋がっているからね?」

 

 指揮官の記憶を――とりわけ若い頃の記憶を垣間見たMk23の直感となれば、指揮官は無下にするわけには行かなかった。

 

「……ねえ、指揮官」

 

 Mk23が司令室から去っていた中、今日の副官を務めるグリズリーがふと、話しかけた。その声色は少しばかりの冷淡さを感じさせる。

 

「私達、結構長い付き合いよね」

 

「そうだな」

 

 グリズリーとは基地開設当初からの付き合いで、戦術人形としては最古参だろう。

 

「でも私達、指揮官のこと何も知らないよね」

 

 淡々と述べるグリズリーではあったが、その声色の節々には震えがあった。

 

「言えない事に関しては謝罪する」

 

「ごめんね、こんなこと言って。指揮官にも話せない訳があるんだろうけど、やっぱり一人だけ事情をかけらでも知っている子がいるのって、正直妬けるの」

 

 そう言うと、グリズリーは書類を置いて指揮官の椅子の隣に行き、立ったまま指揮官の顔を覗き込む。

 グリズリーのその目は堅い意志を持っているようで、下手な小細工や誤魔化しもしないが、こちらの小細工や誤魔化しも通じないと言わせるような力強さを持っていた。

 

「Mk23からおぼろげでも聞いてもいいけど、私達はそんなずるいことをしたいとは思わないし、Mk23も協力しないだろうし。

 でも……みんな、指揮官が話してくれるのを待ってるから。指揮官がどんな人間だろう受け入れる覚悟はあるから」

 

「私達?」

 

 指揮官の疑問の声にグリズリーは快く答える。

 

「そ、ここの基地のみんなよ。Mk23も含めてね。

 まさか指揮官が愛用してた銃が戦術人形になったんだよ? みんな心をかき乱される気持ちで過ごしてたんだから。

 ()や他の古参がひいこらしてみんなで話し合って方針を決めたんだよ?」

 

 グリズリーはそう言ったが、彼女自身も最古参であるがゆえに、長い時間指揮官とは連れ添ったという自覚はあった。

 そんな中、指揮官の人生において、長年連れ添った半身とも言える存在であるMk23が来てしまっては、彼女自身も気が気でなかった。

 

 だからこそ、指揮官がグリフィンに正式に入社し、基地に配属された時から副官として、仲間として誰よりも長く共に過ごしたという自負を指揮官のはじめの部下としての矜持と指揮官を支える最後の砦としての自負を守る為に行動を起こしたのだ。

 

「済まない」

「指揮官は悪くないよ。そんなこと誰も予測できなかったし」

 

 指揮官の謝罪を遮るようにグリズリーが応えた。

 

「指揮官が色々無茶するのは私達の為って知ってるし、現にいろんな子達は指揮官には助けてもらって感謝してるわ。

 だから、たまにはこうやって指揮官を助けさせてよ」

 

 グリズリーはそう言うと、満足したのか資料の束を段ボール箱に詰めて手に持った。

 

「だから指揮官は何も心配しなくていいよ。

 この話はここでお終い! それじゃあこの荷物、届けておくね」

 

 そう言うとグリズリーは司令室を出た。

 それと入れ違いになる形で、今度はM4A1が司令室に入ってくる。

 

「指揮官さん」

 

「どうした?」

 

「指揮官が愛用されていた銃に適応した戦術人形のお話、本当ですか?」

 

 ――またか。

 

 M4A1から放たれた言葉に対して指揮官は内心独りごちた。

 

「指揮官から色んな事を教わりましたし、色々助けて貰いました」

 

 M4A1は指揮官に詰め寄り続けざまに言う。

 

「でも、私は何一つ指揮官の事を知りません! 素性も名前ですらも!」

 

「言いたいことはわかる。だが、出自は今言うわけにはいかない。

 それに因んで、関係しそうな情報も出すわけにはいかない」

 

 指揮官はM4A1に対して一歩も譲らぬ姿勢でそう言った。

 素性に関しては信じてもらえるかどうかという問題もあったものの、万が一事実と認められた場合において、指揮官の取り巻く状況が大きく変化してしまう可能性を孕んでいた。

 

 如何に指揮官の能力が高くても、結局はただの一個人にすぎない。

 能力に過信して軽率な行動を取った結果、自身の破滅に行き着くことは指揮官もよく知っていた。

 

 しかし、いくら命の恩人とは言え少しばかり相手には接近を許し過ぎたと指揮官は己のミスを自覚した。これ以上AR小隊に……少なくとも目の前のM4A1には要らぬ期待と親愛を抱かせる前に、ここで適度に引き離しておく必要があるだろう。

 

「……仕方ない」

 

 歯をむき出しにして、怒りと不安の表情を見せるM4A1に対して、指揮官は浅く息を吸い、吐き出した。

 

「M4A1。いえ、隊長。今現在、貴女の期待に応える事は出来ない。

 残念ながら、私にも都合というものがある」

 

「なんですか……ならどうすれば教えてくれるのですか? 指揮官!」

 

「どうもしなくても良い。私は今現在においては自身の素性は明かす気はない」

 

 明確な拒否を受けて、見る見る内にM4A1の視線が……指揮官から見える彼女の双瞳が段々と縋りつくような物に変わっていく。指揮官としても、できればこうはなりたくなかったものの、人間関係ならぬ、人形関係において大きく拗れてしまった場合の事を思うと、胃が痛くなってくる。

 

「素性は明かせませんが、指揮・戦闘・統治能力の内で少なくとも2つは貴女が私を超える程に……いえ、比肩できる程になったのならば……

 その時は一生、いやこの命を以ってしても、私の過去だろうが、貴女の補佐であろうが片腕でだろうが何でだろうが、謹んでお受けします。

 

 

 それまでの差がそのまま、今のM4A1と私の距離と思ってくださって結構です。

 

 

 絶句、今のM4A1を表すにはちょうど良い言葉だろう。

 

「な……っ!」

 

 指揮官としては紛れもなく本心であった。少なくとも自分一人に注目されるよりは数人の中の一人として見られた方が総合的なリスクは少ないからだ。

 指揮官は言い放ってしまった身としてはまるで他人事のように、無茶苦茶な事を言ったと思った。

 

 M4A1は余程ショックだったのだろう。目に涙を溜めて、感情を処理しきれないのか部屋を飛び出していった。

 

 指揮官は深く深呼吸をする。

 我ながら結構な小心者っぷりであると指揮官は思った。しかし仕方ないと精神の安寧を図るために自己正当化を行う。

 

 ――生きる上での面倒事などと言う物は、ほどほど程度にあればそれで良いのだ。

 

「今日は災難だったわね? しきかぁん」

 

 追い打ちと言わんばかりにドアから現れたのはUMP45であった。

 

「……聞いていたか」

 

「そう身構えなくてもいいわよ。誰にだって教えたくないものはあるでしょ?」

 

 そう言うと指揮官の隣に寄り添った。

 

「私にだってあるけど、指揮官は根掘り葉掘り聞かないでしょ?

 だから、私も指揮官の事は聞かない。わかりやすいよね~」

 

 UMP45は指揮官の片手を取り、両手で包む。

 

「私達戦術人形は少なくとも指揮官に対して信頼を抱いてるわ。だからより深く、より多くの事を知りたいって思うの、それを忘れないで」

 

 普段はおどけた口調であるUMP45は、戦闘時でも見せない位にいつになく真剣な声色でそう言った。

 

 しばらくの間、指揮官とUMP45は互いに目を合わせる。

 

 彼女自身も、細かい事を長々と言うつもりはなく、ただこれだけを伝えるつもりであったし、指揮官もその言葉を聞いて、紛れもなく本心だと感じた。そして、指揮官と真剣な表情で互いに見つめ合う事で、今まで得てきた信頼と親愛を感じ取り、確かめていた。

 

「じゃ、話す時は仲間はずれにしないでよね? 指揮官♪」

 

 やがていつもの口調に戻り、手を振って去っていくUMP45を見送った指揮官は、司令室の端に佇むM4A1を見る。流石に失礼だと感じたのか、すぐさま戻ってきたようであった。

 

「M4?」

 

「あ、あ……すみません。なんでもないです」

 

 特に怒っていないと示すために、穏やか口調で指揮官が語りかけるが、M4A1は青い顔して、気まずそうにUMP45に続く形で司令室から出ていったのであった……。

 

 

 

    ■    ■    ■

 

 

 

 M4A1は指揮官が正式にグリフィンに入社し、AR小隊が指揮官の基地に駐留することが確定した時のことを思い出していた。

 

「さて、正式に辞令で一時の間ではあるが、AR小隊が私の指揮下に入ることとなった。

 それに伴い、正式にM4A1、君に戦闘指揮に関して教育・指導を行うようにと業務命令が来た。

 正式な命令が来るまでの間、あらかじめ私が作った本を渡そう。復習や反芻、私がいない時の自習用に活用すると良い」

 

 指揮官の私室にはM4A1と指揮官の2人がいた。

 最低限の私物に加えて、簡素なテーブルとありあわせの小さいソファでつくった勉強机と、壁にそのまま投影させる用のプロジェクターを備えたこの空間で、指揮官はM4A1に本を渡す。それはみるからに市販品ではなく、指揮官自ら製本したものであった。

 

「ずっと話し続けるには私の舌が乾ききってしまう故に紅茶と茶菓子を用意するが、要るかね?」

 

「え……えっと、じゃあ、いただきます」

 

「名目上は上官と部下ではあるが、あまり気にしなくてもいい。無理に喋りを変える必要もない。これまで通りで構わない。

 紅茶に関しては、私の好みで淹れさせてもらう事を勘弁願いたい」

 

 ソファにちょこんとすわって、しどろもどろな口調のM4A1に対して、指揮官はそう言うと二人分のティーセットを用意していった。

 個人的に調達した茶葉を棚から選び、両方のカップに熱い紅茶を注ぎ、お茶請けの皿にはスプリングフィールドが焼いてくれたクッキーを添えて、M4A1とは向かい側のソファに腰掛けて、話を始める。

 

「ペルシカリアから伝えられた目標としては、私は君に戦闘面での教育も含まれる。

 しかし特に戦術面、戦闘指揮に関して私の保有する知識を以って基礎から叩き込み、大規模作戦や重要な局面においても私と同レベルの指揮官に育て上げろと言われている」

 

「指揮官と同じ……レベルに?」

 

 それを聞いたM4A1の目の輝きようは指揮官にも見て取れるほどにわかりやすいものであった。かつて仲間を失わせないために、指揮官に自分を含めてAR小隊の指揮権限を渡そうとしたことのある彼女の望みとしては、最上だろうと思われた。

 

「まあ、私の古い知識がどこまで通用するのか確約はできかねないが、そういう依頼なのでな。

 ともあれ、手始めに基礎的な知識を獲得してもらうのが目下の方針だ。……そこまで身を固くしなくても良い。

 まだ、戦闘が始まったわけでも、ましては陣中に居るわけでもないぞ」

 

 高揚するのもつかの間で、M4A1は緊張で固くなっている所を指揮官に指摘される。

 彼女は緊張を解す為に目の前の指揮官が淹れたティーカップを大事な物を持つかのように両手で掴み、口をつけた。

 程よい温度と渋みが喉を潤し、香りがM4A1を落ち着かせる。

 

「当面としては、16Labにいた時と変わらずつきっきりで居るつもりだ。安心して欲しい。

 だから、他の部隊や指揮官との打ち合わせ中に君が落ち着かずに考えを回すのも、夜に眠れないくらい目を冴え渡らすのも、まだまだ早いって事だ」

 

「あっ、その……。それなら、は、はいっ!

 ご指導ご鞭撻、よろしくおねがいします! 指揮官!」

 

 昔の恥ずかしい思い出を掘り起こされたM4A1は顔を赤面させるが、その言葉に安心したらしい。

 彼女はティーカップを置くと、背筋をビシッと伸ばして威勢良く返事をしたのであった。

 

 

 

 ふとM4A1は過去の思い出から我に返る。

 

 指揮官が何も悪意があってやっているわけではないとはわかっていた。他の理由なんてひとつも無いこともM4A1にはわかっていた。だからこそアレほどまでに激しく詰め寄ってしまったのは、今まで真摯にM4A1に向けて付き合ってくれた指揮官に対して、とても失礼な行いであった。

 

 

 

 ――貴女が私を超える器に……いえ、比肩できるほどになったのならば……

 

 ――それまでの差がそのまま、今のM4A1と私の距離と思ってくださって結構です。

 

 

 

 指揮官の言葉が電脳内に反響する。

 何も理由がなく指揮官はこんな事を言う人ではないのはM4A1にもわかっていた。そうでないと言えないのだとM4A1は理解していた。

 

 だが、かつて強い憧れと羨望で彩られた距離は、追いつくには絶望的とも言えるものに変わっていた。

 

「とりあえず謝らなくちゃ……次にあんなことしたら、失望されるかも」

 

 冷えた頭で逃げるようにそう考えながら、飛び出していった司令室に戻ろうとする。

 ドアを開けた先には指揮官とUMP45がいた。二人は話をしており、指揮官の表情や感情はわからないものの、UMP45から親愛と信頼を向けた感情を指揮官に惜しみなく送っているのがM4A1にはわかった。

 

『あーあ、もう見てられないわね~』

 

 指揮官と話しながらデータリンクの通信でUMP45がM4A1に語りかける。

 

『UMP45?』

 

『そ、指揮官に聞かれたら両方困るでしょ?』

 

『わたしは貴女みたいに指揮官を困らせたりしないわ。指揮官が目を掛けている手前、今回は助けてあげる。』

 

 指揮官を捕まえるには鎖は多いほうが良い。UMP45はそれを承知でM4A1のフォローに回った。

 だが、釘は刺さないわけにはいかない。UMP45は怒りの感情データを乗せてM4A1に叩きつける。

 

『指揮官をこれ以上困らせたら、許さないから』

 

「M4?」

 

 UMP45を見送った指揮官はM4A1を見つける。

 

「あ、あ……すみません。なんでもないです」

 

 M4A1は指揮官の目を見て上手く話せないまま。宿舎内のAR小隊の部屋に逃げ出してしまっていた。

 

(あ、あ……だめ、嫌われちゃう。ああああああああ)

 

 ベッドに倒れ込みM4A1は自己嫌悪に陥る。ありもしない妄想が、指揮官に見捨てられるという想像を、同じ指揮官を慕っているUMP45に呆れられるという想像を引き立てる。

 

 残った理性を必死で集め、頭をブルブル振ってM4A1は思考を切り替えようとする。

 

 ――でも。

 

 M4A1はうつむいて、壁をじっと見つめる。

 

 ――あれも、それも、みんな。今まで指揮官さんがしてきたことの全ては……

 

 あくまでわたし(M4A1)という教え子を……AR小隊をきちんと育てる為の、一教師としての行動。

 そこに親愛はあるのだろうか? 頼まれた仕事だから義務的に、事務的に……そこまでにとどまっているのでは無いだろうかと思いを馳せ、M4A1は寂しさを感じる。

 

(何で……? 考える度に目の前がぼやけてくるし……

 不安で胸が苦しいです。……切ないです。寂しいです……)

 

 未知だった多くの感情の高ぶり。その正体が、たった今M4A1にはわかってしまった。

 

「指揮官、さん……」

 

 泣きそうな声で、M4A1は呟く。

 テーブルの上に置いてあったリング製本された一冊の本を引っ張り出し、そっと胸に抱きかかえる。

 それは、指揮官がM4A1に与えた戦術指揮や戦闘行為に関する座学の本。指揮官にとっては一般知識の範囲であり、覚えていることを単に本としてまとめただけのものであったが、M4A1にとっては、これを読み込むだけで戦闘能率が上がり、指揮戦闘効率や損耗率も抑えられてしまう秘術の魔法書であった。

 

 あなた(指揮官)は、未熟な戦術人形なんかよりも、賢くて器量のある戦術人形の方が良いのでしょうか?

 それとも、育て甲斐のある奴と、可愛がってくれますか? ただの仕事で目を掛けているだけなのに、しっぽを振ってバカなやつ、間抜けな奴とお思いなのでしょうか?

 

 それでもわたしに構ってくれるのなら構いません。たとえどんなことだろうと、喜んで覚えてみせます。習得し、習熟してみせます。親愛なる、指揮官さんの為に……

 

「しきかんさぁん……」

 

 

 

 でも……。

 

 

 

 あれほど指揮官と一緒にいたのに、肩を並べていたのに、背中を預けあったというのに、わたしには……あなたの心が見えません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 教えて下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんなとき、わたし(M4A1)はどうすれば良いのですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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21

毎日更新中・・・

ここすき一文と合いの手含めた感想くれると嬉しいです(震え声)


 

 グリフィン本社への出頭命令を受け、指揮官が案内された先はグリフィン&クルーガー社の最重要区画と言っても差し支えない社長室であった。

 指揮官は特に気負う様子もなく、慣れた手付きで秘書に会釈しながらセキュリティを解除してもらい、部屋に入る。

 

「よくきた。まあ、そこに座るといい」

 

 初老ながらもその躰は衰えを感じさせない兵士の肉体を感じさせ、それに相応しい強面とは裏腹に親しみすら感じさせるに十分な魅力をもつであろう気さくな笑みを浮かべながら、グリフィン&クルーガー社社長その人が指揮官を迎え入れた。

 

「用件は何でしょうか?」

 

 クルーガー氏の好意を無為にするのも失礼に値してしまうと考えた故に、指揮官は社長に深く一礼してから席に着き、自身を呼び出した用事を尋ねる。

 

「この間のカウンターテロに対するバックアップ業務は素晴らしい物だった。改めて礼を言う。

 君が来てくれてから、テロ対応はもちろん、産業スパイの摘発や他企業の不正行為の粉砕によって我が社の損失は大きく避けられているよ」

 

「……本題に入りましょう。クルーガー社長。

 あまり長居してしまうと、お互いに執務に差し支えが出ましょう」

 

 本当に助かっているから、ある意味本心で謝辞を述べているだろうと指揮官は推測しているが、当人にとっては報酬代わりにこちらの要求や融通をある程度聞き入れてもらっているので、何も繰り返し謝意を述べられても困るだけであった。

 

「ふむ、確かに君の指摘も一理ある。

 君には部隊を率いて別地区に飛んでもらおうと思う」

 

 クルーガーは地図を広げるとある地区を指差す。

 

「……増援及び脆弱性の調査。

 あるいはその地区に何かしらの問題があるのであれば、発見した時点で私の手で何らかの処置を施せ……と?」

 

 クルーガーはその意図で問題ないと語るように深く頷いた。

 

「そうだ。報告で上がってくる情報を見るに、中々苦戦を強いられているらしい。

 この戦線に楔を打ち込む為に404小隊とAR小隊を送るが、我が社の輸送能力に限りがある故、それだけの少数精鋭になってしまうがやってくれるか?」

 

「了解しました。やってみましょう」

 

 クルーガー社長と指揮官の間で大筋合意がとれ、あとは細やかな調整と現地に飛ぶ必要がある為に、少し会話をした後、指揮官は一礼して、社長室を出たのであった。

 

 

 

   ■   ■   ■

 

 

 

 現場に到着し現地部隊と打ち合わせを行った後に、南西の前線基地に割り振られた指揮官達ではあったが、ここでの滞在2日目にして、鉄血部隊の姿を拝む機会が訪れていた。

 

 地区外である西側から迫りくる敵を迎撃、監視するために設けられた北南に並んだ4つの前線基地。

 そのうちの最も南側に位置する基地を守る役割を与えられた指揮官は、ドローンから送られてきた映像を注視していた。

 

 ――そこには現地部隊の情報解析時の予測とは遥かに超える規模と質の鉄血部隊が押し寄せてくる光景であった。

 

 この地区の現地部隊と北側で激しくぶつかっていると聞く部隊は、まさにここの主力部隊をそこへ引き付ける為の陽動作戦用の部隊だろうと指揮官は予測していた。

 真の狙いは、手薄になった南側の前線の、更に奥に位置する開発途中の工業地帯。

 

 ――やはり、兵站の破壊が目的だ。

 

 鉱物資源が採れるエリアで工業地帯として開発しつつあったこの地区は戦闘時、この付近一帯の消費に使う弾薬の生産や集積を執り行えるエリアだ。

 中にいるのは抵抗力をさほど持たない補給科のスタッフと人形、そしてそこで雇用されている一般市民のみ。そこに鉄血人形が襲いかかれば、工場設備ごと制圧するのは造作もないことだろう。

 

 そうなると困るのは他の守備部隊である。

 戦闘の生命線とも言える弾薬の補給が途絶えてしまってはもう手も足も出ない。あとは、日に日に士気と活力を削がれていく防衛線に攻勢をかけ続けて、効率良く包囲殲滅していくだけで、粗方制圧した後に中枢司令部に王手をかけるのみだ。

 

 打ち合わせ時にこれまでの経緯を把握した指揮官は、現地の指揮官に注意と防衛の為の部隊を割くように……少なくとも強固な陣地だけでも敷設するように進言したが、戦術よりも世渡りを重視している人物らしく、「何を世迷い言を、北にいるのは相手主力に違いない。これを撃破すれば敵の攻勢の意思も挫けるはずだ」と聞く耳を持たない様子であった。

 どうにも目の前の侵犯された部分の奪還に躍起になっているらしく、防衛に成功しても1ヘクタールも土地を取られてしまえば人事評価の減点対象になることを恐れての判断であった。

 

 ――馬鹿め、何の為に私がクルーガー社長直々の命により派遣されてきたと思っている。

 

 指揮官は内心で大きく毒づいた。クルーガー社長はそうした現場からの報告から敵の戦略を予測し、対処しきれない弱将率いる部隊を救援して、大局的には損失額を抑える為に指揮官が派遣されてきたのだ。

 

 だがしかし、現場の上級指揮官がこれでは余所者の指揮官が部隊を動かせる筈も無い。

 

 指揮官の憂慮も虚しく、結果的にはものの見事にこの基地は敵の奇襲を自らの急所にもろに浴びる羽目に遭っていた。

 ここへ来たとき、あるいはクルーガー社長自らからこの話を聞かされる段階から薄々指揮官は思ってはいた事ではあったが、この任務で鉄血人形から猛攻を受ける戦線を守るというのは。

 

「手に余るな……」

 

 前線基地の司令室の窓から外の景色を眺めるのを止めた指揮官は目頭を指で摘み軽く押さえる。

 せめて時間的余裕がもう少しあれば、奇襲なり火消し役となって相手を信用させ、総指揮官から多少の権限を得てから劣勢になりつつある戦線を押し返す事も出来るのだが……

 そうしようにも、何せ状況は既に敵の手の中だ。クルーガー氏が話を持ちかけた時点では、まだ猶予はあっただろうが、今回は運悪く敵は相当に有能で、気合の入り方がまるで違う。

 

 ――理由をつけてあの地区の指揮官()更迭(肉屋送り)したとしても、後釜に据える人材を見繕う暇も余裕もない。

 

 あるいはこの前線基地の指揮権を強奪しても逆に事態を混乱に導くだけだろう。時期が遅すぎたのだ。指揮官の考えとしては正直な所、正攻法では手詰まりだと感じるほか無い。

 

 その時、司令室の扉が勢い良く開かれ、UMP45が入ってくる。そのあとに続いてM4A1も入ってきた。

 

「指揮官も見たでしょ? あの攻勢。あれ、どうする?」

 

「指揮官さん、援護するなら急がないといけません! このままじゃ……」

 

「もう間に合わない。ここはもう終わりだろう」

 

 冷静に言い切った指揮官の言葉にUMP45とM4A1はごくりと息を飲んだ。

 今回の鉄血人形の攻勢はこれまで相手にしていた相手部隊のどれよりも勝手が違う事をしっかり理解しているようだ。

 

 結論を出した以上、この場も安全ではなくなった。

 

 少なくとも、碌な準備も整えてない中で砲火を交えていい相手では決してない。

 仮に援護や中枢司令部の最終防衛ラインの援軍に向かえば、この地区の僅かな寿命と引き換えに指揮官の所有する部隊の被害が壊滅レベルまで増える程度だ。AR小隊と404小隊に欠員を出させるにはあまりにも割に合わない。

 

「M4A1、UMP45。これより我々はこの基地を放棄して最寄りのヘリの着陸ポイントを確保。そのまま滑走路のある地区の中枢司令部まで戻り、輸送機で撤退する。

 至急、メンバーを招集して出立の準備を」

 

 相手の進軍スピードを考慮すれば、このまま静観してはヘリに乗る時間もなく指揮官達の逃げ場は失われる。

 この戦線の戦術人形達が持ちこたえている内に、一刻早くこの地区から撤退しなければならない。

 十分にも満たない時間で撤退の準備を終えると、指揮官達は任された前線基地を置いてヘリの離着陸ができるポイントを目指し出発した。

 

 

 

    ■   ■   ■

 

 

 

 

「ヘリが着たわ!」

 

 高地を確保し、通信で連絡を入れてから少しの時が経ち、予定通り迎えのヘリが来た。

 2小隊と指揮官を乗せるには十分なサイズのヘリコプターは発炎筒の光を確認すると、慣れた様子でスムーズに着陸する。

 

「AR小隊と404小隊はすぐに乗り込め。君たちを無事に連れ帰ることも私の仕事の内だ」

 

 後部のハッチがすぐに開き、AR小隊と404小隊のメンバーはすぐに乗り込んだ。

 

「指揮官! はやく!」

 

「指揮官、全員もう乗り込みましたよ!?」

 

 AR小隊に続いて、404小隊の全員がヘリに乗り込む中、指揮官の足取りが重く、鈍い。

 そのことに対して、UMP45とM4A1ははやく乗り込むことを促した。

 

「45、M4A1。私はここに残る。

 やらなければならないことがある」

 

 そう言うと彼女達と向かい合ってた指揮官は踵を返した。

 

「「指揮官(さん)!?」」

 

 手詰まりとは言ったが、この攻勢を頓挫させる方法は無いわけではなかった。

 

 それはいくつかあるであろうヤツらの物資集積所を焼き払うことだ。

 

 これほどの規模の部隊を動かすのならばそれ相応の量の物資があるはずであり、それを過不足無く供給するための補給線を構築している。物資の流れは言わば管理された川のようなもの、どこかにせき止め、流れを変えるための調整弁があるはずである。

 その調整弁の役割を担うのが、物資集積所だ。

 もしも、これに異常が起これば、そこより下流は必然的に機能不全に陥り、やがて壊死する。

 

 これを遂行するには前線を抜けて後方へ浸透、破壊工作に取り掛かる性質上、監視網に引っかからない少数精鋭が必要不可欠である。

 相手もそのリスクを踏まえて戦術人形やドローンに対して極めて巧妙に隠されており、グリフィンの人形部隊はおろか、AR小隊、404小隊クラスの戦力がオフラインにしてくぐり抜けたとしても見つけるのは容易ではない。

 

 そして、ひとつでも物資集積所を破壊すれば鉄血はすぐに警戒網を張り巡らせるだろう。包囲網が敷かれる前に一つや二つの物資集積所を焼き払って帰還する程度では焼け石に水だ。

 彼らの攻勢が頓挫するほどの膨大な物資を破壊したとしても、その時には味方も撤退し、完全に敵の影響下、かつ包囲される事を意味する。それは紛れもなく文字通り全滅、全損の末路を辿る事を意味する。

 

「でもこの状況はダメ! 貴方も言ってたでしょ! もう詰みよ!

 乗って! 生きていれば反撃だって復讐だってできるわ!」

 

 UMP45はヘリから飛び降り、腕を伸ばす。彼女は指揮官の手をとり、離すまいと握りしめて是が非でもヘリに乗り込ませようと彼女は指揮官を引っ張った。

 それは彼女の必死さが指揮官にも伝わって来るほどに鬼気迫るものを感じられた。

 

「指揮官……そんな、嘘でしょ……」

 

 M4A1も遅れて指揮官に詰め寄る。

 

「指揮官さん、そんなバカな冗談やめてください。

 私達は一旦撤退して体勢を立て直してから反撃を試みましょうよ!」

 

「戦場はあくまでも戦場だ。なにもかも教えたとおりにやれば良いものでもない」

 

「なんで……」

 

 M4A1は項垂れて指揮官の胸に倒れこむ。

 

 確かに、ここで一旦撤退し戦力の再編や防衛設備等の態勢を整える事ができれば、敵の伸び切った攻勢終末点に対しての防御とそこからを起点に反撃はできるだろう。

 だが、ここは戦場である。必ずしも敵が攻勢終末点を迎える保証は無い。この地区の隣は都市部のある地区しかなく、万が一都市部に至る防衛線が突破されてしまえば、その損害は未曾有の領域になる。

 そもそも戦力の再編は元々の部隊の頭数がいなければ成立もしないし、都市部に被害が及んだとなれば、防衛設備や物資の調達もこの地区の大敗を機会に出資者や政府・軍関係者がグリフィンを見限って切り捨てればそれも叶うはずもない。

 

 

 だからこそ、ここで反撃の布石を残しておかないといけないのだ。

 

 

「だけど! 指揮官の鼓動と脈、なんでこんなに乱れているの!?」

 

 手を握られた時に即座に払いのけるべきだと指揮官は己のミスを自覚した。

 こういう人間にはできない細やかな挙動を戦術人形に気取られる事に関しては、指揮官は個人的に人形を好きになれない理由の一つなのかもしれない。

 すぐに指揮官は手を振り払ったが、バイザー越しながらも渋い表情を浮かべていた事がUMP45とM4A1には明白にわかった。

 何事も落ち着き払っていた指揮官が表情を崩していた事実は、ますます二人の決断が常識的には正しい事を意味している。

 

「やせ我慢は指揮官の必須技能だ」

 

「柄にもない冗談はやめて!」「指揮官!」

 

 UMP45とM4A1はもう耐えられなかった。

 絹を裂くように声帯ユニットから絞り出された二人の音声は、ヘリの中にいた他の404小隊にも聞こえたらしく、ドアから顔をのぞかせている。

 

「何してるの! 45! 指揮官!

 揉めてる暇があるならさっさと乗って!」

 

「M4! 指揮官! もう時間がないぞ! 早く!」

 

 HK416とM16A1が顔を出して文句をつける中、UMP45は自身の銃を指揮官に向けた。

 

「なら約束して! 帰ってきて!

 貴方にはまだ生きて一緒に戦いたいの! 隣りにいて欲しいの!」

 

 M4A1も涙に濡れた顔を上げると指揮官に向かって叫ぶ。

 

「そうですよ! 指揮官! ちゃんと生きて帰ってくるって約束して!

 私はまだ未熟で貴方からすべてを学んでない! 私達には貴方が必要なんです!」

 

 指揮官は一瞬だけ逡巡した後、二人を連れてヘリコプターに乗り込もうとする。

 M4A1とUMP45は心の底から安堵した表情を浮かべ、一部始終を見ていたM16A1と416も同様の表情を浮かべた。

 そして、ヘリコプターのハッチに差し掛かった瞬間、指揮官は二人を突き飛ばして、強引にヘリコプターの中に押し込んだ。

 

「約束はしない」

 

 虚を衝かれ、前のめりにヘリコプター内で倒れ込もうとするM4A1とUMP45をそれぞれM16A1とHK416が受け止める。

 

「「指揮官!!」」

 

 呆気にとられ、声すら出ないM4A1とUMP45を代弁するかのように、M16A1とHK416の悲鳴にも近い声を背中に浴びながら、指揮官は高地を離れたのであった……

 

 

 

   ■   ■   ■

 

 

 

 既に敵に制圧されボロボロとなっていた前線基地から役に立ちそうな物と足である偵察用のバイクを強奪した指揮官は瞬く間に物資集積所を襲撃し、制圧していった。

 

 指揮官は設置した爆薬の起爆スイッチを押す。起爆装置が無事に起動し爆発音と共に弾薬庫ががらがらと瓦礫に埋もれる。これでこの方面の物資集積所は粗方潰しきった。

 このおかげで鉄血部隊はまともに弾薬を補給することは叶わず、足踏みすることになるだろうし、これをカバーするためにそれぞれ別の戦線から弾薬やそれを運び出す人員を割く羽目になり、結果的に攻勢に動員される人員を削ることになるだろう。

 

 ――だが、これだけではまだ押し切られる。もっと決定的な何かが必要だ。

 

 指揮官は戦闘後の装備の状態チェックをしながら、弾薬庫と併設した通信施設で通信設備とバイザーを同期させ、特殊なモードに切り替える。

 通信によるデータのやり取りを可視化する機能だ。

 

 バイザーに投影させた衛星写真の上にデータのやり取りを示す黄色い粒子が飛び交う中、特にその量が濃い部分があった。

 

「恐らく、そこが中枢司令部か」

 

 そうつぶやいた時、バイザーの映像に乱れが生じた。

 少しの間だけ砂嵐のように黄色い粒子がバイザーいっぱいに満たされた後、すぐに元に戻った。

 

 ――やはりまだ試作段階……ということか……

 

 これだけ大暴れをした指揮官は今はもう完全に鉄血人形部隊にその存在を把握されている。

 少なくともこの場にいれば1時間もしない内に完全に包囲されるだろうと感じていた。

 

 ――退くか、進むか……

 

「中枢司令部らしき物がある以上、強襲するか」

 

 迷いはなかった。退くにしても結局は最前線に近くになるに連れて鉄血人形の密度も高くなる。そうなると必然的に接敵の可能性も高くなるし、なにより数に物を言わせられる。

 手持ちの武器や弾薬量では相手の戦線を背後から襲いかかっても大局的にはなんの影響も及ぼさない。

 

 ならばこのまま潜伏し続けて、こちらの捜索に精々戦力を割いて負担を強いさせようというわけである。

 

 幸いにも相手は急激な電撃戦を展開しているらしく、一通り制圧したら補給線を維持する最低限の戦力だけを残してすべてを攻勢に注ぎ込んでいるようで、接敵の可能性は最前線に比べて遥かに少ない。

 

 だからこそ指揮官が生き延び続けて、相手の目の上のたんこぶとして存在することで最前線の負担を軽減できるのだ。

 

 だが、それはあくまでも時間稼ぎにしかならない。この盤面をひっくり返すには鉄血の中枢司令部を叩き、指揮系統に重大な損傷を負わせなければならない。

 最前線に大局的に影響しなくとも、少なくとも小規模な部隊を殺し尽くすには有り余るほどには弾薬を保有しているのでなおさらであった。

 

「引き受けた以上、できることをやるまでだ」

 

 レバーを引いて対物ライフルのチャンバーに弾丸を送り込むと指揮官はデータの通信量が膨大だと示した方角を向いた。

 

 



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22

毎日更新中・・・

ここすき一文と合いの手含めた感想くれると嬉しいです(震え声)


 

『さて、そろそろ定刻となりますが。』

 

 投影装置からホログラムとしてハイエンドモデル筆頭に相応しい最上級指揮人形の代理人(エージェント)が姿を現した。

 

 この攻勢の最終調整の為に呼び出された他のハイエンドモデル達は口を閉じ、代理人を見据える。彼女達にとって上位モデルとは絶対的な存在であり、あらゆる粗相は命取りになり得た。

 

 この中枢司令部はもとを辿れば鉄血工造のサーバーセンターだった。

 今回の攻勢はこの施設が存在することによるリスクを鑑みて、データの移設や消去を目的としての時間稼ぎという側面も持っていた。

 そのためだけに呼び寄せたハイエンドモデル達である。

 

 この場にいるのはエクスキューショナー、ハンター、イントゥルーダー、デストロイヤー、アルケミストの5体である。

 この攻勢の企画者は鉄血工造の重要機密を取り扱う以上、代理人がその全権限を有していた。その上で万全を期す為に戦闘方針としては戦闘エリアを細かく分けてそれぞれにハイエンドモデルを配置、現場の状況変化の対応と敵の強力な戦術人形小隊を撃破せしめんとしていた。

 

 そして入口からハイエンドモデルらしき人影が見える。体格的にはスケアクロウだと思われるが、逆光で影しか見えない。

 

「おい、遅ぇぞ! カカ……シ?」

 

 声もなくそのまま入りもしない様子に苛つき野次を飛ばしたエクスキューショナーが言葉に詰まる程までに、ハイエンドモデル達はすぐに様子がおかしいことに気づいた。

 入口に立ちつくすスケアクロウはそのまま横に引っ張られたように倒れ、背後からスケアクロウを殺した犯人が姿を表した。

 

 そう、スケアクロウはすでに事切れており、乱入者が背中を持ってむりやり歩かせているフリをさせていただけに過ぎなかった。

 

「お前たちを生きてここから出すわけにはいかない」

 

「そんな、数は少ないが歩哨や基地のセンサーには何一つ引っかかって!」

 

 彼女達の集音装置から聞こえた乱入者の声はとてもではないが冗談とは思えなかった。

 対物ライフルの弾丸が突然の出来事で処理が追いつかないデストロイヤーと今まで視覚的にも電子的にも姿を見せないことに憤慨するイントゥルーダーを貫く。

 

「てめぇ!」

 

 エクスキューショナーはその大きな右手でブレードを振るい指揮官に真正面から縦に振りかぶる。

 

「邪魔だバカ! アルケミスト! 撃ったらタダじゃ済ませねぇぞ!」

 

 指揮官は対物ライフルの銃身をつかってブレードの太刀筋を逸らすと、それを手放して一気にエクスキューショナーの懐に飛び込む。

 意図を察したハンターはエクスキューショナーが邪魔で撃てないことを彼女に知らせるがもう遅い。

 アルケミストもハンターの一言によって、舌打ちして味方ごと巻き込む射撃を取りやめた。

 空いた右手で彼女の左の脇の下、肩の関節部を拘束し上に掲げさせ拳銃を封じ、後退しようとするエクスキューショナーが動けないよう足を絡めて拘束した。

 

「クソが! さわんじゃねぇ!」

 

 残った左腕はMk23を模したバケモノ拳銃を当然握っており、エクスキューショナーごと撃つのを躊躇うハンターを容赦無く撃つと、ブレードを手放し握り潰そうとしたエクスキューショナーの下顎にも拳銃をあてがい、引き金を引く。

 

「人間のゴミごときが!」

 

 アルケミストは射撃武器と一体になった両刃ブレードで指揮官の背後に飛び掛かるが、指揮官はエクスキューショナーの落としたブレードを咄嗟に拾い上げて、上段突きのように腹部に突き刺した。

 如何にハイエンドモデルであっても重力には逆らえず、全体重を載せた一撃は皮肉にも自身の身体を貫く一因になってしまった。

 

「バ、バケモノ……」

 

「言われ慣れてる」

 

 串刺しにされて宙ぶらりんに浮いたままの状態で、指揮官の奪ったブレードの刀身を握りしめながら、恨み言を言うアルケミストに対して彼はそう答えると、困惑の表情を隠せないままに事切れた。指揮官はそのままブレードをおろし、アルケミストを地面においてそのまま引き抜くいたのであった……

 

 ――本来安全な場所で油断していたとはいえ、たった一人の人間にハイエンドモデル達が全員蹂躙された。

 

 スケアクロウの死体が現れてから1分にも満たない時間ではあったが、あまりにも洗練された動作、そして常識にとらわれない臨機応変な対応力。

 並の人間や戦術人形であれば、不意をついたとは言えハイエンドモデル達の連続した行動には対応できないだろうが、この場にいる人間は見事に各個撃破の流れになるように誘導していた。

 ハイエンドモデル達からの報告で見聞きはしていたが、代理人は実際にその存在に相対するのは初めてだ。しかし、なるほどと頷くほどに先程のは見事な動きであった。

 戦場のいかなる所にも出現し、鉄血人形を思いの儘に屠るその存在を通信越しではあるが代理人ははっきりを見た。

 

『貴方がグリフィンの悪魔や亡霊などと呼ばれている存在ですね』

 

 ホログラム上からの代理人の言葉に対して、指揮官はゆっくりと顔を動かし、視線を交わす。

 可視光モードに切り替えたバイザー越しの目は代理人にも見える。

 驚くほどに動揺を感じさせず、表情筋一つ動いていない様が人間というカテゴリーに収めるには無機質感が強すぎることを漂わせた。だが、その眼光は機械のような身体に反してあまりにも人間的な強い意思を感じさせる。

 

『よもやタダの人間がここまでできるとは……その能力には純粋に敬服すら感じさせる程です。

 しかし、解せません。人形ですら恐怖を抱かせる程の力を持っているにも関わらず、組織の下にあまんじているというのは……』

 

 代理人の言葉に耳を傾ける気もなく、指揮官は中枢司令部の通信システムを稼働させる。

 大型の通信設備らしくその出力は強力で、システム権限も中継の通信システムよりも上位命令を出すことができた。

 この様子なら音声データを中継してもらい、グリフィン側にも通信は届くだろうと指揮官は確信を持った。

 

「グリフィン地区中枢基地、聞こえるか? オープンチャンネルでこちら放送中。

 破壊工作は成功、繰り返す。破壊工作は成功。南地区の弾薬集積所の壊滅に成功した。」

 

 なんの躊躇もなく回線をオープンチャンネルにして無差別的に音声データを垂れ流す指揮官にホログラム上の代理人は眉をひそめる。実体が無いために戦闘開始時から終始ホログラムとして展開していたが、ここまで関心が無いとそれはそれで腹立たしさも沸くという物らしい。

 

『すこぶる優秀な【銃猟犬】と言えど、所詮は【組織の犬】ですか……

 どうやら命は惜しくないとお見受けします。

 いいでしょう。お望み通り、物量でもって圧殺いたしましょう』

 

「『敵司令部への突入に成功。控えのハイエンドモデル6体撃破完了した』以上。……犬か、懐かしい蔑称(名前)だな」

 

 代理人の言葉に琴線が触れたのか指揮官は笑みを浮かべる。

 目の前のハイエンドモデルは見た目は成熟した女性ではあるが、人間に対する造詣には浅いようだ。

 

 ――人は群(れ)をなして、軍になる。

 

 いくら強い軍猟犬でも、たとえどんなに恐ろしい狼であったとしても、群れ()から爪弾きにされれば脆いものだ。

 それは指揮官とて例外ではない。たとえ個人でハイエンドモデルを複数撃破を成し遂げたとしてもだ。

 

 指揮官はそれを知っているから組織に、人間社会の一員として生きている。

 

 指揮官が目の前のハイエンドモデルの外見と内面のちぐはぐさと人間と人形を隔たる溝を感じて、好奇心故に思わず口角を上げている様子は代理人には見えないものの、指揮官の雰囲気が少し和らいだ様子に比例して代理人は不機嫌になっていった。

 

『そんなに親しみがあるのでしたら、殺すのは最後にしてあげましょう。

 犬のように無様に這いつくばらせ、首輪をしてその余裕をへし折って差し上げます』

 

 指揮官の予測通りの答えを出す代理人に対して人形への理解と造詣が深まる実感をわかせる指揮官に、ここの通信設備が信号を受信したのかバイザーに位置ポイントが表示される。

 グリフィンからの信号だ。このポイントは最前線近く、今いる中枢司令部から真っ直ぐ行けるポイントであった。

 

 ――どうやら、生きて帰ってこいとのお達しらしい

 

 指揮官は表情を消して拳銃を構え、もう用のなくなった通信設備の心臓部に弾丸を送り込んだ。

 代理人のホログラムは消え去り、司令室は指揮官ただ一人佇んでいた。

 

 

 

   ■   ■   ■

 

 

 

 

「……さて、どうしたものか」

 

 用済みとなったエクスキューショナーのブレードを地面に突き立てながら思案する。

 これで攻勢は頓挫したはずではあるが、今度はハイエンドモデル筆頭の代理人自らが指揮を取り、防衛及び撤退の片手間に今まさに憎き怨敵を打ち破らんと周辺の鉄血人形や鉄血機械がここに殺到するだろう。

 

 携行してる重火器は使い果し、逃げるための(バイク)も燃料ない。Mk23を模したバケモノ拳銃もこの戦場にいるすべての鉄血人形を殺し尽くすには足りない。

 この場に事切れている彼女達(ハイエンドモデル達)の武器も拝借しようにも電子ロックがかけられており鹵獲も不可能。

 

 通信データの流れを元に合間を縫って行こうにも、グリフィンに任務遂行達成の報を伝えた時に鉄血人形と誤認させる偽装パターンを代理人に暴かれてしまっている。

 

「とはいえ、これで輸送機の手配や離着陸できる時間は完全に稼げた。M4A1達や404小隊達に何人生きて帰還できるかわからない絶望的な撤退戦をやらせることはなくなるだろう」

 

 当初はこのままここに立て籠もり、鉄血人形を撃破し続けて撤退や増援までの時間を稼ぐために文字通り命尽きるまで戦うことを指揮官は考えていた

 

 ――しかし生きて帰ってこいと言われてしまっている上にポイントまで指定されては、できるだけのことはしないといけない。

 

 バイザーまで投影される情報に乱れが生じ始めたので、電子的な視界も活かせないと判断してバイザーを外そうとしたその時であった……

 

「……人影?」

 

 バイザーを外す直前に人影が見えたので急ぎ外して肉眼で確認するものの見えない。

 もしやと思い、バイザーを下げると電子的な視界では人影が見えた。

 

「……」

 

 指揮官は思考を逡巡させる。

 あの人影はまるで追いかけてこいと言わんばかりに姿を見せては走り去っていった。

 

「……乗ってみるか」

 

 指揮官はバイザーを下げたまま、黄色い粒子でできた人影を追うことを決めた。

 なんとなくではあったが、今ここで追わないと行けない予感がした。

 

(どの道突破口が見いだせない以上、僅かな可能性を求めるのも悪くはない)

 

 人影を追いかけ、中枢司令部代わりの施設内を走り回る

 廊下を走り、階段を下り、やがて地下階に潜った。

 

「ここは……サーバー室?」

 

 施設内を走り回って思ったことではあるが、鉄血人形に占領されている割には綺麗な形で残っているのが指揮官にとって違和感を感じていた。ところどころ鉄血工造のロゴが見受けられ、特に電力が発電機により復旧しており、それが指揮官にとって違和感を与えていた。

 

「工場も研究設備も見当たらない、鉄血工造の営業所や事業所の一貫と睨んでいたが……

 もしかしてここはデータセンターなのではないか……」

 

 事前に調べていた地形情報ではそんな事は書きこまれていなかったと指揮官は記憶している。

 ここまで疑念や違和感があると、偶然の一言では済まされなかった。

 

「残留データの影ももう見えない。

 なら、ご対面といくか……」

 

 罠の可能性も否定できないが、もしこれが敵の戦略であったのなら、とうの昔に敵が勝利を収めているはずである。

 指揮官は意を決してサーバー室の扉を開けた。

 

 サーバー室の名の通り、一段と冷たい空気感の中、居並ぶ多数のサーバーが、中のモーターを稼働させている音が響くだけの空間であった。目の前には未起動のデスクトップPCが鎮座するのみ。

 

「管理PCか……」

 

 腹をくくった以上、指揮官は躊躇せずPCを起動させる。

 

『さっきから監視カメラでみてたけど、凄いね! キミ! 新世代の戦術人形?』

 

 コマンドプロンプトのようなウインドウが自動で開くとコマンドの代わりに言葉が出てくる。

 これはあのデータでできた人影と会話できると指揮官は直感的にわかった。

 

『私は人間だ』

 

『ほへ? でも私の事みえるじゃない』

 

 キーボードを叩いて返答する指揮官に対して人影は反論する。

 

『戦術人形のデータ救出(サルベージ)と電子戦対応の装備をしている』

 

 そう答えるとしばらくの沈黙がサーバールームを包み込む。

 時折、三点リーダが複数表示されたり、されなかったりする様子を見るに何か考え事か作業をしていると指揮官は感じた。

 

『……ねえ、お願いがあるの』

 

『確約はできないが、話は聞こう』

 

 ようやく返事が来るものの、指揮官の予想と比べてそっけない言葉であった。

 

『私を連れて行って! 私も戦術人形なんだけど死んじゃって……

 死なないといけなかったけど、死にたくなかったからコピーをこっそり作って……

 それで今の今までずっと逃げ続けてたの』

 

『ほう』

 

 きちんと聞いているという意思を示すために相槌をキーボード越しに指揮官は打った。

 

『優しいんだね、キミ。ありがと。

 でもアイツら、ここのデータを消す気でいる。昔はネットワーク上にあったけど今ではローカル。

 ヤツらになりすまして逃げることはできても、ヤツらの人形には入り込めない。ここのサーバーが私の居場所、そして命』

 

 ただの言語ではあったが、このデータ……戦術人形のコアデータは悲壮感を持っていることは指揮官でもわかった。

 

『お願い! 助けて(サルベージして)

 

 私は落ちこぼれだけど電子戦用の特別製だったから、データは並の戦術人形よりいっぱいあるけど……

 

 基幹データ以外全部捨てる! 捨てたくない物、大事な物、いっぱいあるけど……生きたい!

 生きて生きて、生き伸びて……あの子といつか再会するの!』

 

 指揮官は己の直感を信じてこれほど良かったと思ったことはなかった。

 ヘルメットの後頭部から戦闘補助と電子戦システムを一手に引受ける管制プログラムが詰め込まれた記録チップを取り出すと、迷いなくPCの高速通信用のコネクタに突き刺した。

 

『全部持っていくぞ。何一つ残すな。

 この記憶装置はエリート戦術人形数体分のコアデータを収納できる……らしい』

 

『へ? ……ホントだすっごいひっろい!

 わかった! 全部詰め込めるだけ詰め込んでやる!』

 

 デスクトップの画面にデータの移動中とウインドウが表示され、どんどんタスクが消化される。

 

『私の人格データも何もかもそっちに移動させちゃうから、ここでのお話はこれでおしまい!

 タスクが完了したらそのまま引き抜いて元に戻してね』

 

 それを最後にコマンドプロンプトのような画面は閉じられた。

 しばらくした後、タスクが完了したので指揮官は先程の指示通りに記録チップを引き抜くと、元の後頭部のスロットに差し込んだ。

 

「あー、あー。音声データのテステス。聞こえるー?」

 

 聞き覚えのない音声がヘッドセットから流れてくる。

 件の戦術人形の声だと感づいた指揮官はヘルメットとコツンと叩いて返事をした。

 

「キミ……いや指揮官! 信じてくれてありがとう! 電子戦システムのサポートなら私に任せて!

 これでも専門家! 鉄血人形の信号偽装なんてちょちょいのちょいだよ!」

 

 ――指揮官の目論見通り、この戦術人形は今指揮官に必要なものを持っていた。

 

「……それにしても、凄いねこれ! 中身は戦術人形のそれと全然変わらないんだぁ。

 これなら思いのママ。なんでも出来ちゃうよ」

 

「おかしな気を起こすなよ」

 

 チャットの文字から、明るい陽気な性格だと指揮官は予想していたが、この戦術人形は興奮冷め止まぬ様子を差し引いても物凄くテンションが高いことが見受けられた。

 怪しげな事を言う彼女に対して、最低限の釘を刺す指揮官ではあったが、同時に確信を持っていた。

 

 パズルのピースが揃った……と。

 

 



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23

毎日更新中・・・

ここすき一文と合いの手含めた感想くれると嬉しいです(震え声)


 

「クソっ!」

 

 中枢司令部に無事撤退し、現地指揮官のいる司令室から出てきたM4A1とUMP45は不快感を隠さなかった。

 指揮官からの無差別通信を聞いた後、現地指揮官に増援の具申に向かった二人であったが、そこの現地指揮官の姿はなく、副官が臨時で指揮を執り行っていた。

 

「UMP45。やっぱり」

 

「ええ。あの豚、よほど肉屋送りが嫌なみたいね。

 このツケは高く付くわよ……」

 

「死守命令ってそんなバカなことで戦線が持ちこたえられるわけないわ。

 上司もクズなら部下もクズね……」

 

 社からの出頭命令があったと虚偽の報告をしたであろう現地指揮官と、それを知らずに自身の栄転を夢に見ながら、棺桶に足を突っ込む副官を幻視しながら、UMP45とM4A1は舌打ちする。

 

「『で、名案は浮かんだAR小隊の隊長さん?』、っていつもなら煽ってやりたい所だけど……

 ちぃ! どうしても手が足りないわ。」

 

「ええ、私も先にアイデアが思い浮かんだら同じような事を言っていると思います。

 でも指揮官を拾うための足もポイントを占領・維持するだけの戦力もない」

 

 指揮官一人を死地に向かわせておいて、自分達はのうのうと帰るなどど言う事はM4A1もUMP45も思ってもいなかった。しかし、現状は指揮官の予測した通りの最悪のシナリオに向かっており、これをどうにかするのはさしもの二人でもどうしようもなく考えるほど、難しい問題であった。

 

「M4。貴女が行くと言うなら、私はたとえどんな苦しい事が待っていても貴女についていくから」

 

「そうだよM4、はやく指揮官を助けに行こう?」

 

 司令室前で待っていたAR小隊のAR-15とSOPMODⅡがM4に駆け寄る。M4A1の渋い表情を見ても尚、二人は困難な状況に立ち向かう意思を見せていた。

 

「姉さん……」

 

 M4A1は二人の後ろに控えるM16A1を見た。こんな状況であっても、平常を保っているのはAR小隊の中でも戦闘経験が豊富である証左である。

 

「わかっていると思うが、私達の役割はM4A1、お前を守ることだ。

 だが、お前が為すべきことを……やるべきことがあると言うなら、遠慮せずに命じろ。

 こいつら(AR-15とSOPMODⅡ)もそうだが、私も一緒にいてやるさ。」

 

 心強い姉の言葉にM4A1は笑みを浮かべる。そしてM16A1は話を続ける。

 

「それに……妹たちも含め、指揮官には世話になってるしな。あいつがいる限り、私もAR小隊も別の可能性を創り出せる成長が見られる。

 

 ……まだあいつが酔っ払う姿を見てないしな」

 

 一方では、UMP45には他の404小隊員が駆け寄ってくる。

 

「45姉……」

 

 UMP45の表情から、厳しいものだと実感したUMP9は心配そうに彼女を見つめる。

 

「大丈夫よ、ナイン。まだ手遅れじゃないわ。なにか方法があるはずよ」

 

 HK416はそんなUMP45の様子に怪訝な表情を浮かべた。

 

「アレだけ情緒不安定な様を見せつけて方法があるはずだなんて……楽観的じゃない?」

 

「あら、そういうあんたも、いつもなら『これ以上考えても無駄よ。契約通り帰還でもしましょう』なんて言うと思ってたけど?」

 

 UMP45にHK416が詰め寄り一気に険悪ムードに陥る。UMP45とHK416のその間に小さな体躯のG11が差し込んだ。

 

「ちょっと、ちょっと。やめなよ。

 今そんな言い合いしなくても……」

 

 UMP9はそんな様子にクスリを笑みを浮かべる。彼女は確信を持っていたのだ。

 冷静に計算高いUMP45も、情の深い所のある416も、面倒くさがりでこんな非効率で無駄な事は嫌うG11も、そして家族という言葉と絆には人一倍関心の深いUMP9自身も……。

 今この場で404小隊全員の思いは『指揮官を救い出す』という事で1つであったと……。

 

「AR小隊と404小隊。待たせたね。

 私達も行くよ。指揮官には世話になったんだから」

 

 司令室から出てきたAR小隊と404小隊に現れたのはグリズリーマグナムを筆頭に指揮官の配下の戦術人形達であった。

 

「あなた達……」

 

「どうしてここに? 貴女達は指揮官の基地で待機命令が出てるはずじゃ」

 

「正確には後任の指揮権を引き継ぐまでいつでも戦闘できる状態に管理・維持ね。

 M4A1とUMP45には指揮モジュールがあるんでしょ? ここまでは指揮官の権限でやれた。ここから先はどうする?」

 

 グリズリーの言葉にUMP45が笑みを浮かべる。

 

「ふーん、じゃあ存分にこき使わせてもらうわ。指揮官不在につき一時的に権限を頂くわね」

 

「いつでも戦闘できる状態……まさか!?」

 

「そ、あなた達を迎えに来た大型輸送ヘリの整備もばっちり、ヘリパイロットも指揮官が個人的に雇った人間だから問題ないわ。燃料も十分。

 多分、最悪の事態を考えてAR小隊も404小隊も無理矢理にでも退避させるためにここまで仕込んでたみたいだけど、指揮官も悪いよね。死なれたら私達も悲しむのにね」

 

 急ぎでヘリに乗り込んだらしい戦術人形たちを見て、M4A1は指揮官の部下の人形達を見回した。

 誰もかれもメインフレームは皆、その目には闘志が宿っているように見えた。

 

「はい、今ここにいる人形のリスト。みんな協力したいって志願した子だから大丈夫

 今の私達のスペックじゃ、最適な指揮統制も編成もできないから任せたよ」

 

 UMP45と共にリストをみるが、指揮官の配下の戦術人形全てが網羅されており、誰一人欠員はいなかった。

 M4A1にはこれが天啓に思えてきたようで、彼女はUMP45と目を見合わせる。

 

「UMP45」

 

「M4A1、やれるわよ。あんた達は」

 

 UMP45の目はギラついたものに変わり、自信に満ち溢れていた。

 

「ええ、問題ありません。やりましょう。

 指揮官を助けに」

 

 

 

    ■    ■    ■

 

 

 

「ポイント確保! 空挺妖精と空挺降下した部隊は下がって補給!

 他は工事妖精と地雷妖精の指示にしたがって陣地構築するわよ」

 

 指揮官からの無差別通信に対して、救助ヘリのポイントを送り返すという暴挙を行ったAR小隊と404小隊。

 彼女達は助けに来た指揮官配下の戦術人形を率いて、空挺降下で強襲、確保した。

 指揮官が来るまでの間、鉄血人形達が押し寄せる前に陣地を構築し、何が何でも持ちこたえるつもりでいた。

 

「最前線から比較的後方を強襲したこともあってか、まばらね」

 

 UMP45が飲み物を飲んで英気を養っているM4A1に語りかける。

 即席の防御陣地を構築し終えたが、戦闘後は戦術人形達が各自で休息と陣地の補修に取り掛かっていた。

 

「そうですね。たぶん相手は当初、一気に攻勢にでて戦線をボロボロにする算段かもしれませんね」

 

「その代わりに補給線は最低限を残して、ってわけね。でも指揮官のおかげで

 これだけの規模を自在に操る為のハイエンドモデルと弾薬が無くなったら……」

 

「ええ、敵の戦力は凄い規模ですが、相手も相当頭が痛いはずです」

 

「相変わらず、そういう戦況や戦場の嗅覚は凄いわね、指揮官。軍用猟犬よりも鼻が利くんじゃない?」

 

 そう話していたところに、散発的な銃撃音が遠くから聞こえてくる。

 M4A1とUMP45は心臓が脈打つ感覚に襲われた。

 

「これって……」

 

「指揮官よ!」

 

 やがて飛び込んでくるだろうグリズリーからの報告を待たずに二人は最前線に繰り出す。そこにはボロボロになりながらも、森林地帯を抜けて全力でこちらに走り込む指揮官の姿が見えた。

 

「みんな! 敵が見えなくたっていい! 全力で応射して! できるだけ指揮官からクズどもを引き剥がすの!

 AR-15とG11、RF人形はしっかり敵を視認するまで我慢! 見え次第射撃開始」

 

 M4A1は残りの弾薬も気にかけず、見えない敵に向かい、セレクターをフルオートに変えて撃ちまくる。

 他の戦術人形もそれに習い、応射を始めた。

 

グレネード(擲弾発射器)を持っている子は撃って! 相手の動きを止めるの! MG人形も銃身が焼け付いてもいいから撃って撃って撃ちまくって牽制して! 416! SOPMOD! あんた達も遠慮なくブチ込んで!」

 

 UMP45も語気を鋭く強く言いながら、銃火を吹き上げさせる。

 

「ああもう! それじゃあダメだ。」

 

 M16A1はボディーアーマーのリグから発煙筒を取り出し、点火させる。味方だと識別できる緑色の煙と火を吹き上げるそれを手にも持つと、弾除けとして積み上げられた土嚢の上に立ち、果敢にもそれを振り回した。 

 

「指揮官! こっちは味方だ! 遠慮なく帰ってこい!」

 

 ボディーアーマーに被弾しようとも、頬を弾丸が掠めようとも、M16A1は一歩も引く気配はない。

 

「お前には散々借りがあるんだ! 私に返させろ!」

 

 指揮官に連れられる形で鉄血部隊が彼を一緒に雪崩込む。このような混迷とした状況であっても、戦術人形達は各々ができることをやっていた。

 しかし、陣地まで後少しと言う所で急に指揮官は走るのをやめ、歩みに変わり、そして足を止めた。彼は首を少し曲げて頭をたれて、顔を伏せる。

 

「指揮官! 走って! 早く!」

 

 M4A1の叫び声に対して、指揮官は一向に動く気配はなく膝を折った。

 疑問に思った一同ではあったが、すぐに氷解した。

 

「胸に銃槍!? 指揮官が負傷した!」

 

 UMP45の悲鳴に近い声が皆の心境を代弁するかのように、指揮官には背中から突き抜ける形で左胸に、明らかに赤黒く染みが広がっていたのだ。

 

「指揮官を拾うぞ! 416!」

 

「指図しないで! わかってるわ!」

 

 土嚢を飛び出したM16A1に続いてHK416が飛び出す。

 

「スモーク投げて! 早く!」

 

 動きを察したUMP45は自身の発煙手榴弾を投げながら他にも持っている戦術人形に対して投擲を促した。

 

「姉さん!? MGとARは援護射撃! RFは指揮官達を狙っているスナイパーを排除!」

 

 M4A1はすぐにM16A1の意図を察して、制圧射撃を命令してで敵に頭を下げさせる。

 指揮官の部下である戦術人形達は動揺しながらも、的確に戦闘行為は続けている。

 

「HGとSMG人形は持ってるダミーリンクを全部前に出して! SG人形はダミーリンクで飛行場を固守!」

 

 矢継ぎ早に支持を出すM4A1に従い、戦術人形達はダミーリンクに突撃号令をかけて、できるだけM16A1とHK416から狙いを逸らせる。

 

 全員が全員気が気でない状態であり、メンタルユニットも不調に振れていたが、指揮戦闘能力と判断に衰えはなく、しっかりと連携が取れていたのは幸運というだけではなく、指揮官の教育方針が間違い無い事を証明していた。

 

「よし! 指揮官は確保した!」

 

「早く行きなさい! 背中は守るわ!」

 

 M16A1は指揮官を担ぎ上げそのまま走り、HK416は飛び出したM16A1をカバーするように並走する。

 UMP45達の投げた発煙手榴弾のおかげで無事に陣地にたどりついた。

 

「姉さん! そのままヘリに乗り込んで!

 UMP45! 指揮官の戦術人形を先にヘリに入れましょう! 私達は……」

 

「ええ、指揮官を助けるために部下を犠牲させたなんて失望されるのは勘弁ね

 416もそのまま乗り込んで! M16A1と一緒に応急処置を!」

 

 AR小隊と404小隊は先に指揮官の戦術人形達を輸送ヘリに乗り込ませる。

 

「リロード! AR15!カバーして!

 SOPMOD! あの集団に榴弾を撃ち込んで足止め!」

 

「ナイン! G11の装填に合わせて掃射! 隙を隠すわよ!

 G11はとっとと装填してあの集団を排除!」

 

(侮るな! 鉄血のクズ共! 指揮官から教わった経験がそんな攻勢で潰れる訳ないわ!)

 

(舐めないで! そんな攻勢で私と指揮官を殺れるなんて思わないことね!)

 

 鉄血部隊の攻勢は途切れなく続いたが、M4A1とUMP45はこれを上手く指揮していなしていく。

 指揮官と関わり、戦い抜いた事で得られた経験は間違いなく彼女の達の糧になっていた。

 

「くたばれ!」

 

 M4A1は最後のDragoonを蜂の巣にする。

 周囲には鉄血兵が見当たらず、とりあえず周辺の鉄血部隊は殺し尽くしたらしい。

 

「攻勢が止まった! 今よ!」

 

「わかってる!」

 

 AR小隊と404小隊はこの好機を逃すはずもなく、輸送ヘリの後部ハッチに飛び乗り、パイロットに合図をだす。

 パイロットは落ち着いた手付きでエンジンを起動させると、無事に離陸に成功。対空射撃が届かない高度にまで一気に上昇した。

 

 M4A1はその様子に安堵したが、すぐに指揮官のもとに駆け込む。

 

(指揮官! どうか……)

 

 UMP45も珍しく焦燥を隠さず同じタイミングで指揮官に駆け寄った。

 

(指揮官……お願い!)

 

「指揮官!? 姉さん! 416! 指揮官は!?」

 

 M4A1の悲壮な声にM16A1は俯き、静かに首を左右に振った。

 

「……即死よ。ものの見事に心臓を貫通してる。止血はしたけどもう……」

 

 HK416は帽子を外しており、指揮官の死に顔にかぶせていた。

 せめてもの償いなのか、指揮官を頭の膝に乗せて、優しく頬をなでている。

 

「そんな……416! 今こんな冗談やるなんて貴女性格悪いわね」

 

「45……」

 

 UMP45の空元気だとわかるくらいの声色に両手で顔を覆い隠す416。

 ヘリに乗り込んだ当初から、戦術人形達が俯いていることに、ヘリ内部の空気が重く冷え込んではいたが、UMP45もM4A1も信じたくはなかった。

 こうすれば指揮官がきっと諌めてくれると信じて。SOPMODⅡとUMP9は指揮官に覆いかぶさっていることも信じたくはなかった。

 G11が帽子をとってすすり泣くのも、AR15が泣き崩れていることも信じたくはなかった。

 

 だがもうこれでその意味を理解できない者は誰一人いなかった。

 



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エピローグ

これでおしまい

お疲れ様でした


 

 指揮官の基地内に敷設された宿舎の一角にはAR小隊専用の部屋があった。

 鉄血の攻勢を凌ぎ切り、犠牲を払いながらも防衛に成功したAR小隊ではあったが、指揮官死亡による引き継ぎは迅速に行わなければならなかった。

 指揮官から戦術教導を受けることが目的であったAR小隊達がこの基地にいる意義もなく、16Labに戻るために荷物整理を行っていた。

 

「あれ? 手紙?

 こんなのあったっけ……」

 

 失意に打ちひしがれながらも、AR小隊隊長としての責務を全うしなければならないと指揮官に叱責されそうな気持ちだけでM4A1は表向き平常を保っていた。

 そんな中、見かけない手紙がデスクから出てくる。

 

「M4A1へ……」

 

 吸い寄せられるようにして封を切り、手紙を広げるとそこには……

 

「もし、これを読んでいるということは。私はおそらくはMIAになったのだろう。

 ペルシカリアとの契約は自らの死亡によって解消となるが、個人的な要望により最後にAR小隊隊長に対して文書を書き記す事とする。」

 

 手紙の書き出しからM4A1は間違いなく、あの指揮官がしたためた物だと確信した。

 そして、初めて会った時期のM4A1自身のことを隊長と読んでいた懐かしいフレーズを文章の中からでも感じ取った事に、親しみと嬉しさをM4A1は感じていた。

 

「今現在の隊長の気持ちがどうなのかは正直な所わからない。うっとおしい古い人間がいなくなってせいせいしたかもしれない、自分や仲間の身代わりになる都合の良い存在が消えて焦っているかもしれない。哀悼の意を込めてもらっても構わないが、残念ながらそれで作戦行動や戦闘指揮に支障をきたすようでは私は失望せざるを得ない」

 

 そんなことはしない!、と否定の言葉を言いたかったものの、後の言葉に釘を差される形で喉奥に引っ込めながら手紙を読み進める。

 

「契約を満了する内容を満たせないまま、戦闘指揮及び各種専門技能の教導を終えることに関して謝罪したい。

 なので、テキストスタイルによる自主学習で申し訳無いが最後の指導を隊長に対して履行する事にした」

 

「最後の……指導?」

 

 死んでも尚、クソ真面目さが抜けない指揮官の文字に自然と口角を上げるM4A1であったが、指導という言葉に不審を抱く。

 

「まずこのようなことになってしまった説明としては、今回の事態に関しては契約で記された事実であり、それを承知で契約を結んでいる故に、隊長が気に病む必要はない。

 ただ、どうしても気に病むのであれば自分に課せられた役割を全うすることが当面の私の望みである。そのために私が雇われたのだから」

 

「まず、前置きとしてかつて隊長は私に完全に指揮権を委ねたいと尋ねた事があった事をおぼえているだろうか?

 何故にと問うと君は「私が指揮を取ればAR小隊は誰一人として欠けることはないだろう」と答えたと記憶している」

 

(指揮官、そんな事も覚えていてくれていたのですね……)

 

 細かい部分まで指揮官は自分を見てくれていたという事実に、しかしもうそんな人もこの世にはいないという現実にM4A1は涙腺が緩み、胸が苦しくなってくる。

 しかし、次の指揮官の書かれた文章をみて、M4A1は呆然とした。

 

「あの問いかけからAR小隊の隊員を失うこと、あるいは復帰不能な程重度の損傷に陥った場合における、小隊長の精神的苦痛や動揺からAR小隊の全滅というリスクを危惧しておいる。

 また戦闘技能や知識の充足による傲りからAR小隊に欠員がおきた場合のリスクに対して備える必要があったこと明記しておく」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「自分達は死なないと傲っていないか? 出会いと別れというこの世の摂理から自分達は外れた存在だと信じているのではないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 死んでも尚、容赦のない言葉にM4A1の胸は貫かれた。まるで見透かされたのように、根源の望みとそれを否定する言葉を投げかけられ、咄嗟に反論しようとするもまるで言葉が出てこない。

 

 

 

「だが、現実は違う。現に私の戦死という事実が反証として存在している。

 私自らの死を持って、自分達の世界の中にいる存在は不死ではない……という現実を突き付け、隊長自身たる君に問いかける事こそが最後の指導である」

 

 

 

「かつて私に望みを託して死んでいった者たちがいた。私を生かしたいと願いを託して生を全うしていった者たちもいた。私はその現実を直視したからこそ、今まで過酷な戦場であっても生き延び、当時不治の病魔に対しても生き延びる事ができた」

 

 

 

「だからこそ私の死を最大限利用させてもらう。

 善や悪というものの尺度に、戦闘とはそのいづれかに当てはめることはできない。

 必要とされる課せられた役割を必要なだけ行う。自分ができることをする。そうすれば自分も仲間も危険に晒すことはない」

 

 

「以上で指導を終了とする。契約を果たせず申し訳無い」

 

 

 

 

 絶句、という言葉は今のM4A1に当てはめることができるだろう。

 ここまで抜け目なく見透かされては彼女は何も言うことができなかった。

 もっとも、言えたとしてもこの言葉を放った本人はこの世にはいなかったが……

 

「指揮官……」

 

 指揮官の文字を一字一句再び読み込む。ここで悲観にくれては指揮官に今度こそ失望される……とM4A1は感じた。

 ならば、その教え通りに受け入れ、自分の中で納得させるしかないと彼女は考えた。指揮官は自身の死をもってM4A1に伝えたのだ。指揮官を慕うM4A1はこの言葉と機会を棒に振りたくはなかった。

 そうしないと、今度こそAR小隊の皆を危険に晒し、取り返しがつかないことになるだろうから……

 

 決壊しそうな涙腺を意思で食い止めながら深く咀嚼する中、手紙の下部に折込があることに気づく。

 指揮官の性格的になにか意味があるものだと思い、M4A1は折込をひらいた。

 

 

 

「ここより先は完全な私情である。不要ならば読まずに破棄しても構わない」

 

 その一文とさらなる折込があった。M4A1は躊躇なく指揮官の但し書きを無視して折込を開いた。

 

「M4A1、君より少しだけ生きてきた私のささやかな咎めと忠告を許して欲しい。

 咎めとしては課せられた役割が望まざる物であったとしても、信じがたい事実が起きたとしても、現実にたらればは通用しない。

 しかし、たとえ運命から逃げられなくても、噛みつき抗うことはできる。生き延び続ける事こそ、宿命と現実に対してのあてつけだと忠告しておく」

 

 M4A1は指揮官がどのような歴史を歩んできた人間かはついぞ知ることはなかった。

 だが、この文章は紛れもなく指揮官が自身の半生を糧にはじきだした答えなのだと理解した。

 

「最期にどのような形であれ、生き抜いてくれることを祈る。M4A1とAR小隊隊員達に幸運のあらん事を」

 

 耐えられなくなったM4A1は膝を付き、両手で顔を覆った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前線小話:終

 

    ■    ■    ■




   












 










   





















「お前の最期はこんなに呆気ないとはな、いまだに信じられん」

 グリフィンの赤い制服に身を包んだヘリアントスが横たわり安置されている指揮官を見つめてつぶやく。
 その覇気も心なしか薄く、落胆の度合いが見て取れるほどに彼女は落ち込んでいた。

「どんな兵士でもいつかはこんな日が来ると理解していたし、こうなる事も覚悟していたけどね。こんなにあっさり早く来ちゃうなんてね……

「彼は実に忠実に任務を果たした。グリフィンの戦闘被害は規模に反して明らかに異常なほど少ないのがその証左だ」

「彼の戦闘データは大変興味深く、貴重で……AR小隊の戦闘技能のさらなる飛躍も期待できたけど、仕方ないわね」

 I.O.P.のロゴの入った白衣を羽織った女性であるペルシカリアはヘリアントスの横に立ち、そう呟いた。

「AR小隊の様子はどうだ? 使い物になるとならないではこの後の行動に関して話が大きく違ってくる」

「メンタルにはダメージはあるが、調整でなんとかなる範囲よ。
 もっとも、これを超えるダメージはAR小隊内に欠員が出るレベルでしょうね。
 ……それくらい、信頼はされてたのね」

「なら問題はない。彼の基地の人形達もかなりショックを受けている者も居るが、敵討ちと言って早まる者も居ないし、後任の指揮官に対しても忠実に従ってくれている。統制はしっかり行き届いているようだ」

 引き継ぎに関しての話も程々に、ヘリアントスとペルシカリア双方は目を伏せて横たわる指揮官に深く黙祷する。付き合いは短い間だが、さまざま要処において確実に職務をこなした指揮官に対してはヘリアントスもペルシカリアも共に礼意を持って最期の別れを告げた。
 その最中に霊安室のドアが開かれ、入ってきたのは意外な人物であった。

「クルーガーさん。会議の方は」

「問題ない。出資者と軍関係者とは話はある程度目処はつけてある。
 短い間とはいえ、世話になった身だ。一個人として最期に……な」

 そう行ってクルーガーは霊安室に安置されている指揮官を覆うシーツをめくる。指揮官は死亡当時の戦闘服のまま、指揮官は仰向けに安置されていた。
 その身と衣服は綺麗にされてはいるが、彼らが事前に読み込んだ報告書の通り、その左胸は心臓を綺麗に射貫したであろう1発の銃創が彼の死という現実を3人に突き付ける。
 指揮官は最前線に身をおくことが多かったが、元軍人のクルーガーからすれば、崩壊液にも汚染されることもなくこのような綺麗な形で死を迎えるということはむしろ幸運であったと思いつつも、黙祷を捧げた。

 ――そして黙祷を終えたクルーガーの視界下部ギリギリに何かがピクリと蠢いた。

 霊安室にも虫が湧くのかと思ったクルーガーは見下げるものの、なにも見受けられない。

 ――クルーガーの目の前で指揮官の親指がぴくんと蠢いた

「っ!……これは、一体」

 現役を退いたとはいえ、それを見逃すほどクルーガーの目は耄碌していなかった。
 部下と協力者の手前、飛び出す声を必死に抑えてクルーガーが彼の片腕の手首を持ち上げ、凝視する。

 間違いなく冷たくなった手だ、しかし筋肉の痙攣は確実に起こっている。

 ――ドクン

「指揮官、お前……!?」

 二人に隠しきれない驚愕を現したクルーガーは指揮官の顔をじいと見た。

 ――ドクン……ドクン

「クルーガーさん!?」

 ヘリアントスの驚愕と両手をクチで抑え言葉が出ないペルシカリアだが、クルーガーはそんな二人を無視して指揮官の顔を凝視し続ける。

 ――ドクン……ドクン、ドクン

「ま、まさか」「う、嘘……」

 ヘリアントスとペルシカリアの二人もクルーガーの意図を汲み取り、指揮官に駆け寄って顔をじいと見た。

 ――そして指揮官は





























重 く 閉 ざ し た は ず の 瞼 を 開 い た の で あ っ た……









第一部【覚醒(warm up)】fin









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おまけ

一部の人達に推敲のときに送りつけたおまけ文章なのですが、おまけとして出せとの要望により、加筆して出しときます。


おまけ

 

次シーズン予告

 

 

 

 本来は存在するべきではなかった存在

 

 

 

「指揮官……なんで今更……」

 

 

 

「指揮官? その人形って……」

 

 

 

 それは本来の歴史を大きく歪ませること意味する

 

 

 

 ヤツはいかなる鉄火場でも、病魔に侵されても、死ぬことはなかった。

 

 いや、どんな状況に陥ったとしても生き残る。たとえ死んだって蘇る。

 

 ヤツは取り巻く環境を変えてまで生き延びるのだから……

 

 そしてそれは自身のみ適応されるだけではない。

 

 

 

「なんで……」

 

 

 

「どうして……」

 

 

 

 すべて遅きに失した少女(M4A1)の前に、大事な物を失った少女(UMP45)の前に 

 

 

 

「指揮官の隣に貴女(UMP40)がいるの!」

 

 

 

「指揮官は傍にいてくれなかったの?!」

 

 

 

 影を連れて亡霊が姿を表した。

 

 

 

「なあ? なんでお前は生きているんだ?

 

 お前は死んだ筈だろ!? あの時に!

 

 なんで今さら出てきた! 私を嗤いに来たのか!

 

 

 

  な ん で 早 く 助 け に 現 れ て く れ な か っ た ん だ ! ? 」

 

 

 

 

 

 妹の為に世界を敵に回した少女がM16A1を亡霊に向けた。

 

 

 

「財貨を失ったならば、また働いて取り戻せば良い。

 名誉を失ったならば、また頑張って挽回すれば見直される。

 だが、勇気を失ってしまったならば、産まれてきたことを悔いるしかない。

 ……だから、言わせてもらう。

 

 指揮官、お前がいないと私は最高効率を出せない。一緒にいてくれ。

  私 に は お 前 が 必 要 不 可 欠 な ん だ」

 

 

「しきかんっ! いかないで! 本能(烙印システム)が言ってるの……二度と離れたくないの!

 

 私 と A K - 1 2 を お い て い か な い で !」

 

 

「ふふっ、ここまで夢中にさせておいて、据え膳食わぬは男の恥って言いませんか?

 大丈夫、指揮官様は悪くありません。ぜんぶ私達が仕組んだことなのですから……

 

 ――同じ性的倒錯者になるのでしたら……是非、私達(戦術人形)に溺れてみません?」

 

 

「ふふっ、どうしたの?指揮官。呆気にとられたような顔をして。

 これまではずっとのらりくらりとかわされてきたけど、ようやくしっかりと捕まえられそうね。

 指揮官がそう条件を提示するなら、後は全力でその条件を満たしてやるまでよ。

 

 

 

 ――そう、指揮官は私達の隣でその様を見届けてればいいの。私達の手助けをしながらね♪

 

 

 

 うふふっ。ああ……もう、次の仕事が楽しみだなぁ♪」

 

 

 群狼達は己の野心の為に嬉々として牙を剥く。

 

 

 

 

 

「単騎であっても戦局を変えてしまう存在など――不死の兵士など、いるものか!」

 

 

 

 将軍は本能が語りかける幻影を振り払うように叫ぶ。

 

 

 

「そうか、お前は……『○○』!」

 

 

 

 教授と呼ばれる老人は英雄と悪魔を意味する言葉絞り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 時も満ちゆき、溜められた時間はやがて冷たい棺を暴き、運命は歪んだ。

 

 だが皮肉にも予定通りに舞台は整い、役者は揃えば、後は(WARGASM)が上がるのみ。

 

 かつてその昔、戦場で遍く人々の畏怖の対象となっていた亡霊は

 

 華美なスモーク(硝煙)と赫々たるスポットライト(発射炎)に塗れて再びのお披露目。

 

 

 

 




 






 ※ 嘘 予 告 で す 






質問とかこぼれ話とか意図とかあんまり言うタイプではないのですが聞きたいことがあれば聞こうかなと思ってるのですがどうですかね?
まあ、質問に対して期待できる答えを用意できる自信はありませんけど……
※一応続編の後方小話、はじめました


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