【けものフレンズ】すとろんぐぜろ・ぱんでみっく 【二次創作】 (はらだいこ)
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第一話 禁断の味

サンドスターには食べ物の賞味期限を延ばす効果もあるので、ストロングゼロも問題なく飲めるはず。


暗闇の中、ツチノコの双眸が鬼火のように妖しく光る。ここはジャパリパーク内遊園地の地下倉庫。”異変”の影響か、ダンボールが散乱して、足の踏み場もないが保存状態はよく、ツチノコの期待通りの状況といえる。

 

「これはヒトの飲食物か?保存食ならまだ食べられるものがあるかもしれないなぁ」

 

 巨大セルリアンを撃退して数日。戦勝とかばんの無事を祝うためのパーティーのために、フレンズたちは準備に奔走していた。体力バカのアライグマやフェネックのコンビはジャパリバスのタイヤ探しをしているらしいが、ツチノコは宝物探しに一家言ある。かばんが作ったというカレーなる料理が提供されると聞いて、ジャパリまんしかしらないフレンズは大いに盛り上がっているが、ツチノコはさらなるインパクトでみんなをあっと言わせたかった。

 

「さぁて、腕がなるなぁ」

 

 人間であれば文字通り一寸先も見えない真っ暗闇の中でも、ツチノコは自慢の一本下駄で器用に足の踏み場もないダンボールの山を踏み越えて、次々と目ぼしいダンボールを改めていく。ツチノコ由来のピット器官で赤外線を感知できるため、懐中電灯いらずである。

 

「これはガスで膨らんでるな、ダメと、ん?これはなんだ」

 

 ツチノコが手に取ったのは、表面に果実が描かれた銀色の円筒。ほかのフレンズなら頭を傾げるところを、ツチノコはそれが飲み物が入った缶飲料であると認識する。

 

「これはジュースかぁ?アルパカのお茶とタメが張れるかもしれん」

 

 人見知りではあるが、自分の発見でみんなを驚かせたいという願望は強いツチノコは、大物の予感とともにプルタブに指を掛けた。

 

 ぷしっ!

 

「ん?ガスが抜ける音?中で泡が立ってる。こりゃ炭酸ってやつか?」

 

 あくまで用心深く、自分の中にある知識と照らし合わせながら見極めていく。匂いを一嗅ぎした後、一口、飲んでみる

 

 ぐびっ!

 

「ぺっぺっ!うぇぇっ!なんだこりゃっ!舌がビリビリする。まずぅぅぅぅいっ!」

 

 新鮮そうな果物のイラストから甘いジュースを想像していたツチノコの予想は裏切られた。強炭酸が舌を刺し、人工甘味料の不自然な甘さと、スピリッツ由来の低質なアルコールが咽頭を焼き、思わず噎せる。

 

「ごほごほっ!ど、毒かこれは……て、あれぇ?」

 

 胃に不思議な熱が生じ、全身に広がっていく。頭がぽぉーっとして、訳もなく楽しくなる。

 

「……も、もう一口」

 

 ぐびっ!

 

 最初に飲んだ時ほどの抵抗は感じない。飲めるまずさとでも言おうか、なんだか癖になってくる。勢いで、もう一口呷る。

 

 ぐびっ!ぐびびっ!

 

「な、なんだこれはぁ、た、たまらん!」

 

 一口のつもりが二口、三口、ついには一本飲み乾してしまった。身体がポカポカと火照り、筋肉が解れて身体が軽くなる。スキップでもしたい気分だ。

 

「これなら……ひっく!みんな、よろこんれくれるぞぉ……」

 

 足元はふらふらとおぼつかず、暗くてジメジメした場所を好む習性ゆえに色白な顔も真っ赤に染まっている。いわゆる酔っぱらっているわけだが、流石のツチノコも自分の状態がなんであるかを形容する知識はない。

 

「歌でも歌うかぁ~~、雨が降りそなぁ~~ 山道でぇぇ、ばったり出あった~~」

 

 トキといい勝負な歌唱力のツチノコの陽気な歌声が暗い地下倉庫に木霊する。ツチノコが口にした缶飲料の名はストロングゼロ(ダブルレモン味)。低価格で二本も飲めばへべれけになれる高アルコールゆえに人々から愛されたチューハイである。酒の味を知ってしまったツチノコ。偉大な発見は皆に知らしめるのが探検家の責務。しかし、この”発見”がジャパリパークに一波乱巻き起こすことになることを、ツチノコはまだ知らない。

 

つづく



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第二話 初めての宴会

アニメけものフレンズの二次創作です。長い沈黙を破り地上に持ち出されたストロングゼロ。ツチノコの最初の飲み仲間となったスナネコ。酔っぱらいの楽しげな雰囲気に誘われて、フレンズたちが集まってきました。こうしてストロングゼロという禁断の酒がジャパリパークへと解き放たれたのです。応援よろしくお願いします。

pixiv:https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10109207


ダブルレモン味、まるごとラ・フランス、ダブルグレープフルーツ味、ビターシトラス味、ドライ味と熱しやすく冷めやすい性質そのままに、スナネコは缶を手にとっては眺めすぐに次の缶を眺めていく。

  

「これがツチノコが見つけたっていう、珍しい飲み物ですか?」

 

 キラキラして綺麗なので、殺風景な洞穴の置物にぴったりというのがスナネコの第一印象で、飲み物だと言われてもピンとこない。

 

「そーだ、同じ砂漠住まいということで、真っ先に、おまえに見せてやってるんだぞ」

 

 酔いが醒めたツチノコが、スナネコに手伝ってもらってとりあえず地上に運び上げたストロングゼロ。350ml缶を24本入れのダンボールを五箱で百二十本。現在、ゆうえんちにいるフレンズで分け合うには十分な量だろう。

 

「これを飲むと気持ちがよくなるんですか?」

「ああ、ふわふわと体が軽くなるんだ。おまえも一本飲んでみろ!」

 

 人見知りなツチノコが自信満々に何かを勧めてくるのは珍しいことで、早くも関心を無くしつつあるスナネコは、とりあえず一本(まるごとラ・フランス味)、開けてみることにした。

 

ぐびっ!

 

「うーん、あんまりおいしくないです」

「そーいうな。もう一口いってみろ」

 

 口をへの字に曲げながら、ツチノコの熱意に負けてもう一口。アルコールが胃の腑に染み渡り、独特の匂いが鋭敏なスナネコの鼻を突き抜ける。

 

「あっ……なんか変な気分……」

 

 頭がくらっときて、ツチノコが言う様に身体が軽くなったような気がする。

 

「そっから、だんだん気持ち良くなってくるんだよなぁ!ひひっ!」

 

 未だかつてない奇妙な感覚に戸惑うスナネコをを安心させるべく、自分もストロングゼロ(ダブルグレープフルーツ味)を開けて、豪快に呷って見せる。

 

「ぷはー!このしゅわしゅわも慣れれば結構、癖になるぞぉ!」

「ツチノコ、なんか明るいです」

 

 いつもとは違うツチノコのノリにつられてスナネコもストロングゼロを口にする。スナネコの言う通り、少しずつ気持ちよくなってきた。ツチノコとスナネコの楽しそうな雰囲気に誘われるようにフレンズたちが集まってきた。

 

「わーい。なにしてるのー!」

「二人とも、なに飲んでるんすか?」

「興味深いのであります!」

「むむ、見るからに怪しげな……わたしが確かめさせてもらうわ!」

 

 PPPマネージャー、マーゲイの指導のもと、ライブステージ設営の手伝いの帰りのコツメカワウソ、アメリカビーバー、オグロプレーリードッグたちは二人が飲むストロングゼロに興味津々。学者肌のツチノコはおほんと咳払いをして、ストロングゼロに対する自分なりの知見を述べようとするが、好奇心旺盛なコツメカワウソと探偵気取りのアミメキリンがためらいもなくストロングゼロを手に取った。

 

「きらきらしてきれいだぞー!」

「表面がつるつるして、地面におけばフレンズを転ばせることが可能……危険だわ」

 

 フレンズの中でもとくに頭が軽い二人の、文字通り軽率な行動にツチノコは怒髪天。価値ある遺跡で爪とぎをするサーバルしかり、ジャパリパークにはモノの価値というものが分からないフレンズが多すぎる。

 

「こらー!人の話をきかんかー!」

「ここをこうすれば、蓋が開くんですよ」

 

 興味が新しく来たフレンズたちに移ったスナネコは簡単に飲み方を説明して回ると、純粋な好奇心を抱く者から、半信半疑な者まで、それぞれストロングゼロを口にしていく。

 

 ぐびっ!

 

「うぅ、ジガジガする!口の中が痛いわよ!」

 

 ぐびびっ!

 

「うぇー、へんなあじー!」

 

 ごくっ!

 

「甘いのか苦いのか、よく分からないっす」

 

 ごっくん!

 

「ジャパリまんの方がおいしいのです」

 

 初めてのストロングゼロの味にフレンズたちの評価は最悪。せっかくの発見を共有できないのでは意味がないと、さも美味しそうにストロングゼロを飲んで見せて、酔いが回るまでフレンズをなんとか場に繋ぎとめる。

 

 

「まぁ、まて!みろみろ!飲んでいくうちによくなってくるんだよぉ!」

 

 ぐいぐいっ!

 

「ぶはぁー!お前らも嘘だと思って、もう一口いってみろぉ!」

 

 味はいまいちだが、ツチノコの飲んでれば楽しくなるという言葉に嘘はなさそうなので、フレンズたちはちびちびとストロングゼロを舐めていく。

 

 ぐびびっ!

 

「あっ!なんか、身体がポカポカしてきたっす」

 

 ぐいっ!ぐいっ!

 

「わー!たーのしー!」

 

 ごくくっ!

 

「お~~!なんかふらふらするのです!」

 

 ごきゅきゅっ!

 

「これはっ!なんだか気分がよくなてきたわ!怪しい!もっと飲んで捜査しなければ!」

 

 酔いが回れば味覚も鈍くなって、まずい味も気にならなくなり、徐々にピッチも上がっていく。フレンズたちの頬に赤味が差して、なんだか浮かれた空気が流れだした。気をきかせたスナネコが溜め込んでいたジャパリまんを持ってきた。

 

「おぉ!スナネコいいぞ!何か食べた気分だったんだ!」

 

 一番酔いが回っているツチノコが真っ先に手を付けて頬張る。他のフレンズも一日の労働の疲れとアルコールの高揚からジャパリまんの登場に歓声が上がる。

 

「わーい!ジャパリまん!ジャパリまん!!」

「オレっちももらうっす!」

「飲めば気持ち良くなるけど、やっぱりまずいから、口直しにいいかもしれないわね」

「これだけ飲んでると、なんだか口さみしいから、ちょうどいいのです!」

 

 ストロングゼロを飲みながらジャパリまんを食し、みなで肩を組み、手を取り合って、歌い踊る。ヒトがいた頃はこれを”宴会”と呼んだがツチノコをはじめ、フレンズたちは知る由もない。こうして、ストロングゼロはジャパリパークに解き放たれたのであった。

 

つづく



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第三話 飲み会

仕事帰りのアラビアオリックスとオーロックスが繰り出したのはヒグマ経営の串焼き屋。熱々の串焼きをストロングゼロで流し込む快感に酔い痴れる。しかし、ストロングゼロのあまりの流行振りに不安を覚えるかばんちゃん。ここからストロングゼロの弊害とフレンズが向き合っていきます。


 地平線に夕日が地平線の向こうに消えていく。空の主役が太陽から月に代わり、草木も眠る夜がやってくる。

 

「ふぅ、今日も一日働いたなぁ」

 

 ステージ設営の資材を運び終えたオーロックスはぐいっと伸びをして、凝った腰を裏拳でぽんぽんと叩く。

 

「そうだな。そろそろ戻ろうか」

 

 アラビアオリックスも肩をならし、一日の仕事をやり遂げた満足感に笑みを見せる。ライオン陣営の主戦力である二人は力仕事でも八面六臂の活躍。ライブステージの機材の運搬や瓦礫の撤去などで汗をかいた二人は、この上なく空腹だった。

 

「身体を動かしたあとのジャパリまんは格別だからな」

「そうだな。今日もいっぱいひかっけていくか」

 

 仕事終わりの解放感からか二人の足取りも自然と軽くなる。向かう先はゆうえんちのフードコート。異変の影響や長い間、放置されたおかげで、荒れ放題になっていたが、かばんやはかせの指導の下、壊れた椅子やテーブルを撤去して、遊園地の施設内から椅子やテーブルを持ち出して復旧作業をつづけた結果、かつての姿を取り戻しつつある。

 

「「「「かんぱーい!」」」」

 

 がちちっ!!かちっ!ちんっ!

 

 フレンズたちが集まったテーブルからは、乾杯の音頭とともに、コップを打ち鳴らす小気味のいい音が聞こえてくる。フードコートの中央からは野菜の焼けるいい匂いが漂ってくる。元は軽食販売用の屋台コーナーだが、現在は火が平気なヒグマによってプチトマトやカボチャ、ブロッコリー、パプリカ、ピーマン、シイタケ、ミョウガ、タマネギ、スイートコーン、ナス、アスパラガス、アボカドなどの色鮮やかな野菜が串に刺されて網の上で焼かれ、フレンズたちの目と舌を楽しませている。

 

「相変わらず、いい匂いがするな」

 

 甘く香ばしい食欲を誘う匂い。長い間、調理不要なジャパリまんでの食事に慣れきっていたため、野菜を火にかけて塩湖沼やソース、味噌で味付けした串焼きに、フレンズたちは病みつきになっていた。

 

「そうだな。焼き立てを頬張ってはふはふしながら、ストロングゼロで流し込む……くぅ!たまらん!」

 

 最初に食べた時は火傷しそうでとんでもない料理と思って敬遠したが、今は熱々の野菜を咀嚼して汁が口の中に溢れる汁を想像するだけで、口の中に唾がたまる。

 

「今日はどのストロングゼロを飲もうか……まずは、甘いプチトマト串とドライでいってみるかなぁ」

「いやいや、ピーマン串の苦みを桃ダブルでいくのがいい」

 

 席につくなり、自分の考えた最高の食べ合わせを議論しつつ、”おとおし”のピーナッツをつまみながら、氷がぎっしり詰まったコップに注がれたストロングゼロをちびちびと舐め、串焼きが出来上がるのを待つ。

 

「それにしてもかばんさんは本当にすごいな。コップに注ぐだけで、こんなに飲みやすくなるとわな」

 

 炭酸の泡がが氷の間を潜り抜けて立ち昇る芸術的な光景にオーロックスが目を細める。ジャパリパークに急速に飲酒文化が定着したのはかばんのアイデアによるところが大きい。炭酸が強すぎて飲めないフレンズがいれば、アルパカのカフェでは熱湯に耐えられないと使用されなかったガラスのコップにストロングゼロを注ぎ、さらにゆうえんちで生きている機能の一部をはかせやラッキービーストの助けを借りて製氷機を稼働させて作った氷を使うことで、キンキンに冷えた状態でストロングゼロを楽しめるようになった。

 

「本当だ。ストロングゼロに合うくしやきや、焼けるまで待っている間のおとうし……想像だにしなかった」

 

 アラビアオリックスはピッチが早くピーナッツをつまみに桃ダブルを一本開けようとしていた。かばんは、ジャパリ図書館ではかせのお願いから野菜カレーを作った時の要領でジャパリまんの原料を使った”くしやき”を考案。さらに焼けるまで待っていられないと生焼けの串焼きを頬張るアライグマの姿を見て、妬き上がるまでの間、軽くつまめる”おとうし”を考えたりと、かばんの発想力には素直に尊敬の念を抱かずにはいられない。

 

「かばんさんがいれば、楽しいことがどんどん増えていくな」

「あぁ、かばんさんに乾杯!」

 

 ちんっ!とコップを打ち合わせると、ちょうど串焼きが焼き上がった。熱々の串焼きとキンキンのストロングゼロの組み合わせに、酔い痴れ至福の時。

 

「みんな楽しそうでよかったね。かばんちゃん!」

 

 フードコートのテーブルの一つにサーバルとかばん、ラッキービーストのトリオの姿があった。ラッキービーストは中枢部のみの姿だが、かばんの腕に嵌った姿は、すっかり様になっている。

 

「……そうですね。うれしいです」

「どうしたの?かばんちゃん」

 

 口ではうれしいと言いつつも、その横顔には色濃い不安の色が浮かび上がっている。ストロングゼロでみんなが楽しそうにしているのが純粋に楽しいサーバルは、自分には想像だにしない問題があるのではないかと不安になる。

 

「ううん、ストロングゼロは飲んで気持ちがよくなるけど、ただそれだけじゃない気がして……」

 

 飲酒文化は根付いたばかり、コップの使用やくしやきなど、ストロングゼロをより楽しむ仕組みは考案した。しかし、”酔っぱらう”という現象はただ楽しいだけなのか?万が一のトラブルを避けるための、なにがしかのルールやマナーがまだ何も定まっていないというのが、かばんが漠然とした不安を覚える理由だった。  

 

「ボクの考え過ぎなら、いいんだけど……」

 

 深刻なかばんの表情にサーバルは首を傾げるばかり。そして、かばんの不安は遠からず的中することになる。

 

つづく



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第四話 アルハラ

アニメ”けものフレンズ”の二次創作となります。ヘラジカ陣営の飲み会。串焼きにストロングゼロで大いに盛り上がりますが、下戸のパンサーカメレオンに善意でストロングゼロを勧めてしまったがために大パニックとなります。アルハラダメゼッタイです。

pixiv:https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10151863


 今日もフレンズたちが集い、賑々しいゆうえんちの夜のフードコート。余興としてアルパカの紅茶でだいぶマシになったトキの歌声が流れ、パーティーの予行練習がてら行われるPPPのゲリラライブを肴として、大いに盛り上がっている。

 

「ぶはー!今日もストロングゼロが美味いなぁ!」

 

 ヘラジカは乾杯の音頭と同時にダブルレモンが並々のジョッキを一息にぐいぐいと飲み乾して酒豪ぶりを部下たちに見せつける。おおー!と感嘆の声が上がり、景気のいい飲みっぷりに、他のテーブルからもぱちぱちと拍手が巻き起こる。

 

(うぅ、今日も飲みでござるか……ストロングゼロは少し苦手でござる……)

 

 下戸気味のパンサーカメレオンは比較的飲み口が柔らかい桃ダブル味をちびちびと舐める。本当はストロングゼロよりもジャパリまんの方が好きなのだが、生来の気弱な性格のために、どうしても言い出せない。

 

「このまるごとラ・フランスは上品な味わいですわ~~」

 

 すっかり通気取りなシロサイはワイングラスに注いだまるごとラ・フランスをくゆらせて、芳醇な匂いを楽しむ。

 

「こっちもいける……」

 

 無口な分、ピッチが早いハシビロコウは一杯目のビターオレンジを飲み乾して、さっそく二杯目のダブル完熟梅に口をつける。ストロングゼロは味の種類が豊富なのでまったく飽きがこず、いくらでも飲めてしまいそうだ。普段は他者を威圧する鋭い眼光もこの時ばかりは少しだけ柔らかくなる。

 

「串揚げおいしねー!」

「串揚げっていえば、ドライ味が合うですぅ!」

 

 オオアルマジロとアフリカタテガミヤマアラシは串揚げをはふはふと頬張りながら、キンキンに冷えたストロングゼロを交互にやって至福の時。

 

「ん?どうした?パンサーカメレオン?元気がないな?」

 

 盛り上がっている面々の中で、明らかにパンサーカメレオンのピッチが遅いことがヘラジカは気になった。猪突猛進で回りが見えないと言われるヘラジカも、こと信頼している部下の様子については、よく気が付く。

 

「え?いや、そんなことはないでござる!」

「遠慮するな!ぐいぐいといけ!今日はぶれいこーだ!」

 

 引っ込み思案なパンサーカメレオンのこと、きっと遠慮しているのだろうと考え、やっと半分減ったグラスに自分がキープしていたストロングゼロをつぎ足す。

 

「そうですそうですぅ!どんどんいくです!」

 

 アフリカタテガミヤマアラは自分の串焼きをパンサーカメレオンの皿に置いていく。ヘラジカもパンサーカメレオンも自分を思ってのことだと思うとパンサーカメレオンは断れない。

 

「じゃ、い、いただくでござる」

「よぉし!その意気だ!みんな!今日は飲み明かすぞぉ!」

「「「「「おー!」」」」

 

 また掛け声が上がり、乾杯の音頭とともに、グラスがかち合わされる。引くに引けなくなったパンサーカメレオンはヤケクソ気味に一息にぐいぐいと呷り、あっというまにグラスを開けてしまう。

 

「いいのみっぷりだぁ!ん?どうした、大丈夫か」

「も、もぅ、のめまひぇん……」

 

 一気に高アルコールを体内に摂取したおかげで耐性のないパンサーカメレオンは猛烈に酔いが回った。視界がぐるぐつと回り、平衡感覚がおかしくなり、呂律もろくに回らなくなる。少し横になろうと席から立ち上がろうとした拍子に、パンサーカメレオンはのめくって、地面にばたんと仰向けに倒れて立ち上がれなくなる。

 

「!おい、大丈夫か?」

「しっかりするですぅ!」

「みなさま、落ち着きなサイ!で、でもこういう時はどうすれば……!」

「はかせ、呼んでくる」

「どうしよう、どうしよう!」

 

 パンサーカメレオンの昏倒で、楽しかった飲みの雰囲気はふっとびヘラジカ陣営は大混乱の様相。ほぼ同時刻、別のテーブルでも、一騒動が起こっていた。

 

つづく



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第五話 イッキ飲み

 ストロングゼロ スーパーショットで危険なイッキ飲み対決をするライオンとツチノコ。しかし、飲み続けるうちに二人の様子が……!急性アルコール中毒の危険があるイッキ飲みはダメ絶対です。作品に出しておきながらまだスーパーショットは飲んだことがありません。近所に売ってないんだもの。次回はゆうえんちの外にもストロングゼロが流行します。


 弾ける水滴、色鮮やかな輪切りのフルーツ。ここまでは通常のストロングゼロと変わりないデザイン。しかし、缶の上部の黄色いカラーリングとALC12%という表示がなんともデンジャラス。しかし、今のツチノコとライオンには関係のないことで、喉を刺す強炭酸をものともせずに一滴残らず飲み干す。

 

 ごきゅっ!ぐびびっ!ぎゅごごごごっ!

 

「ぶはー!どぉーだぁ!まだまだ、いけるぞぉぉぉっ!」

 

 じゅるるるっ!ごきゅきゅっ!ぎゅるるる!

 

「にゃはははっ!やるねぇー!こっちはまだほろ酔いだよ~~!」

 

 双方、ほぼ同時に空になった500ml缶をドン!とテーブルに置くと、首まで赤くなった二人は強敵に余裕を見せつける。

 

「すごーい!二人ともあんなに飲んでもよゆー!」

「あのスーパーストロングゼロをあれだけ飲んで平気とは、流石、大将……!」

「ツチノコのやつも、中々やるな」

「ツチノコー、がんばれー」

 

 ライオン陣営の面子と、若干やる気のないスナネコがテーブルを囲んで、ライオンとツチノコの一騎打ちを固唾を飲んで見守っている。自分の酒の強さを自慢していたツチノコにライオンが勝負を仕掛けて始まった一気飲み勝負。部下や友人にいいところを見せるべく、次々とプルタブを開けていく。

 

 ごっごっごっ!じゅるるるるっ!ごくくん!!

 

「ぶはー!へへへへ、サケの強さならだれにもまけないぞぉぉっ!」

 

 古代メソポタミアの時代から宴席の友として愛され、様々な歴史、伝統、文化を育んできた”酒”。しかし、ただ酩酊するという目的のために数千年の歴史をそぎ落としたあだ花の先端。アルコール度12%の衝撃を人工甘味料で緩和したストロングゼロ スーパーショット。

 

 ぎゅごごごごっ!ぐびびっ!じゅるるるるるっ!

 

「くぁぁぁぁっ!きくぅぅぅっ!がおぉぉぉぉっ!!!」

 

 虚無の酒と呼ばれた退廃の象徴に相応しくジャパリパーク一の酒豪はだれかを決めるべく、ツチノコとライオンは三本目を開け、四本目、五本目と次々に喉に流し込まれ、刹那的に消費される。

 

「は、はははっ!もーおわりか!ひゃくじゅーのおう!」

 

 ツチノコの喉を強烈な炭酸が刺し、胃壁が燃え上がる。胃の底に灯った火が全身の細胞に伝播する。身体を包み込む心地よい浮遊感にパーカーからはみ出た縞模様の尻尾がライオンを威嚇するように地面をしきりに叩く。

 

「にゃーはははっ!まらまらっ!がおーっ!よふぅーだぁ!」

 

 ライオンの目がとろんと座り、しだいに呂律が回らなくなる。ツチノコに負けじと言わんばかりに、尻尾が蛇のようにうねる。

 

 二人がそれぞれ、一滴残らず飲み乾した六本目をテーブルに叩きつけるように置く。缶を開ければ即座に次の缶に手を伸ばしていた二人は酒臭い息をげっぷとともに吐きながら、弛緩した表情筋を歪めて余裕の笑みを形作って勝負相手に誇示する。

 

「はぁぁぁぁ……ろ、ろーしたぁ、ほれでおわりかぁぁぁぁっ!

「ぶひゃぁぁおぉぉ!じぇーんじぇん、じぇーんじぇん、よゆぅぅぅぅっ!」

 

 余裕を見せつける言動とは裏腹に、いい加減、足元がおぼつかなくなってきた。動作がいちいち大ぶりになり、あやうく缶を落としかけたり、口の端からだらだらとこぼして毛皮を汚す。

 

「お、おいっ!大将の様子が変だぞ……」

「し、しかし、真剣勝負に水を差す訳には……」

「ど、どうなっちゃうの?」

 

 尋常ではない酔い方のライオンにアラビアオリックスとオーロックス、ツキノワグマが右往左往している間に、とうとう七本目に手を付ける。とうに自分が分からなくなっているライオンもツチノコは排水溝に捨てるがごときぞんざいさで喉に流し込む。

 

 ぎゅるるるるるるっ!じゅるるるるる!ごっくん!

 

「ぎゃははは!これがさいごのしょーふになりしょうらなぁ!」

 

 ごきゅっ!ぐびっ!じゅるるるるるるるっ!

 

「にゃははは!あらひがかちゅぅぅぅぅっ!……きゅ~~」

 

 七本目あと一口で飲み干すというところでライオンが仰向けにばたんと倒れた。残った分をこぼしながら缶が転がっていく。突然の事態に泡を食ったアラビアオリックスとオーロックスが駆け寄る。

 

「だ、大丈夫ですか?大将!」

「しっかりしてください!」

「うぃ~~、もう飲めないにゃぁぁ~~」

 

 自力で立つこともできず、プライドの長としての威厳を忘れ、ゴロゴロと地面に身体をこすり付ける。アラビアオリックスとオーロックスに介抱されるライオンの姿を見て、ツチノコが高らかに勝鬨を上げる。

 

「ひゃはははははっ!どーだぁ!おへのかちらぁーっ……!?うぶぅぅぅっ!」

 

 仁王立ちで呵々大笑のツチノコ。しかし、唐突に笑い声が止り、急速に顔から血の気が引いていく。呻き声とともに、大急ぎで雑木林の中へ駆けるツチノコの背中をスナネコが追う。いい加減、応援にも飽きてきて賑やかなヘラジカ陣営のテーブルにでも移ろうとしていたので、新しい刺激に飢えていた。

 

「ぼぶぇぇぇ!おろろろろろろろろっ!!」

「だ、大丈夫ですか!ツチノコ!」

 

 これは暇つぶしどころではない。文字通り滝のような反吐を吐くツチノコの背中を撫で擦る。胃の中が空になっても、吐き気は収まらない。

 

「うにゃぁぁー、こいつめぇ!くってやる」

 

 がぶっ!

 

「うわぁ!や、やめてくださいっ!」

 

 絡み上戸のライオンはアラビアオリックスに赤ん坊のように抱き付いて頭に自慢の丈夫な歯でかじりつく。ベロベロに酔って加減を見失ったライオンの怪力と咬合力にアラビアオリックスは悲鳴を上げる。ツキノワグマとオーロックスは自分たちの手には負えないと、判断してかばんとサーバルを呼びに大急ぎで駆けていく。

 

「これは異常事態なのです」

「ストロングゼロ……早急に対策をうつのです!」

 

 長の務めとしてフードコートでトラブルがないか空から見回っていたアフリカオオコノハズクことはかせと助手ことワシミミズクがライオンとツチノコに頭をひねる。しかし、ストロングゼロはゆうえんちの外にまで蔓延し、様々なトラブルが続発していた。

 

つづく



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第六話 ポイ捨てからの酔っぱらい喧嘩

pixivにも投稿しています。
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10333703


 鬱蒼とした熱帯雨林が生い茂るじゃんぐるちほー。数多くのフレンズが仲良く暮らす地の一角で険悪な空気が広がっていた。

 

「おい、ミナミコアリクイ!おまえ、あたしの縄張りに缶空、捨てただろ!」

「な、なんだとー!言いがかりだー!」

 

 牙を剥くタスマニアデビルに両手を上げて威嚇するミナミコアリクイ。きっかけは些細なことで迎え酒と言わんばかりに朝っぱらからストロングゼロ(シィ―クワーサー味)で飲んだくれていて千鳥足のタスマニアデビルがストロングゼロの空き缶につまずいてすっころんで拍子に後頭部をしたたかに地面に打ち付けた。つまづいたストロングゼロは隣の縄張りのミナミコアリクイが愛飲している桃ダブル味ではないか!これはミナミコアリクイのせいに違いないと獣時代からの気性の荒さで食って掛かったわけである。

 

「こ、このやろー!や、やるのかー!」

 

 拳を握りしめて頭上に掲げたものの、ミナミコアリクイの目には涙で潤んでいる。弱い犬ほどよく吠えるの典型で生来の臆病さゆえにすぐに威嚇する悪癖が冷静な話し合いの機会を奪ってしまっている。

 

「どうしたの?」

「えっ?なに!ケンカ?」

「たいへんだー」

 

 騒ぎを聞きつけ周囲から次々とフレンズが集まってきた。一触即発のピリピリした空気にフレンズたちが一歩引いて様子を見る。ケンカの発端の原因が分からないので仲裁の出方が分からない。

 

「う、うわぁぁぁっ!!」

 

 ことが予想を超えて大事になっていることに追い詰められたミナミコアリクイが唐突に暴発した。やけっぱちの雄叫びとともに両腕を滅茶苦茶に回転させてやみくもにタスマニアデビルに突っ込んでいく。

 

 ぽかぽかぽかぽかっ!

 

「うわぁぁっ!いたたっ!やめろぉっ!」

 

 ざしゅっ!

 

「のわーっ!」

 

 へっぽこグルグルパンチかと思いきや予想以上の攻撃力に面食らったタスマニアデビルは、一瞬、野生を解放した本気の爪の一撃で迎撃するとミナミコアリクイはまるで紙の人形のようにふっとんでしまった。

 

「だ、大丈夫!つい本気で!」

 

 フレンズの中ではどちらかといえば好戦的なタスマニアデビルとはいえ、本来なら格下相手に本気を出すはずはない。しかし、酔った勢いで力の加減ができなかった。

 

「きゅぅぅぅ~~」

 

 伸びてしまったミナミコアリクイを前にタスマニアデビルは半泣き。傍観していたフレンズもダウンしたミナミコアリクイを介抱するために近づいてきた。

 

「わ、わたし、どうしてこんなこと……」

 

 そもそもミナミコアリクイが缶を捨てた証拠なんてない。酔っていてかっと頭に血が上ってしまった。挙句に野生を解放までするなんて、どうかしている。フレンズとしてあるまじき行いにタスマニアデビルは公開に項垂れがくりと肩を落とした。

  

「はぁ、ストロングゼロが来てからこんなトラブルばかり……」

 

 じゃんぐるちほー生息のフレンズの中でもひときわ大柄なインドゾウは物憂げな目であたりを見渡して、深くため息をつく。

 

「こんなに散らかってたら誰だって転んじゃうわ……」

 

 そこら中にストロングゼロの空き缶が散乱し、美しいじゃんぐるちほーの景観は見る影もない。ジャパリマンの包装は自然分解されるので、およそゴミ問題などなかったジャパリパーク。フレンズたちはこの問題に対処しかねていた。

 

「あのかばんって子ならなんとかしてくれるんだろうけど……」

 

 今やジャパリパークで知らぬものはいない知恵者の存在に思いを馳せながら空を見上げると、二つの影が錐揉みしながら落下してくるのが見えた。

 

つづく



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