戦姫絶唱シンフォギア≠忘却の戦士 (みすちー)
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終着点

不定期ならと書いてみました。


 

 

終着点

 

 

何処にでもある日常

この世界の地球の何処か、開けた自然が多く場所にて、非日常の少年と奇妙な格好をした男性らしき人がベンチに座っていた。

どちらも服がボロボロで、傷だらけだ、まるで先程激戦を繰り広げたかの様に。

 

「悠斗……終わったな…終わってくれたんだな…!この世界の戦いが…!!」

 

「…ああデネブ、終わったよ。毎回の事だけどな…。」

 

周囲には誰も居ない、誰も存在しない。

デネブと呼ばれた鴉天狗の様な格好をした人ーーというより、少年の相棒である彼はむせび泣き、これを喜んだ。それはもう、オリンピックで金メダルを獲得した選手並どころか、それを上回る勢いだった。

悠斗と呼ばれたデネブの相棒である彼は安堵の息をつき、しかし憂鬱な顔を浮かべた。

 

 

もう“時間”は無い、少年悠斗とデネブが“この世界”に居られる時間はもう数分を切った。

 

「…デネブ。」

 

「何だい悠斗?今日のご飯はカレーだぞ。」

 

「…いや、違うんだ。ちょっとな…。」

 

「悠斗?」

 

悠斗はベンチに完全にもたれかかり、空を仰ぐ。

青く綺麗な空が広がっていた。

 

「ーーやっぱ辛いな。ずっとやってきた事だけど未だに慣れないや、人から忘れられるのは。」

 

「……悠斗…ゴメン。」

 

それに反比例して、二人の心は曇っていた。

 

デネブが申し訳なさそうに謝るのを見て、更に悠斗は悲壮な顔を浮かべた。

 

「……デネブが謝る必要は無いさ、むしろ俺がデネブに謝りたいよ、デネブには感謝してるんだからさ。」

 

「だが……。」

 

「いいんだ、ちょっと愚痴を漏らしただけだ。

そうだな…。そうだ、デネブは次の世界はどんな所がいい?」

 

切り替え、笑顔で悠斗は“毎回”ながらもデネブへ同じ質問をする。

 

だが、デネブは決まって同じ返答を悠斗へする。

 

「決まってるぞ悠斗。…….悠斗の世界、悠斗が受け入れられる世界だ!」

 

デネブは勢いでベンチから立ち上がり、両腕ガッツポーズを決める。

デネブは“人間ではないので”表情は鴉仮面のみだけだが、その心はとてもわかりやすい。

 

「…ありがとな、デネブ。」

 

「なぁーに私だって悠斗の世界が見てみたいんだ。」

 

 

やがて、二人の身体は足元から段々砂となり崩れてーーー

 

ーー消えた。

 

 

 

 

 

 

ある世界に、一人の戦士が誕生した。

戦士は人々を襲う“敵”を倒す事をいつからか始めた。

 

しかし、その世界は彼を拒絶した。世界は戦士を消し去ろうとし、戦士に呪いをかけた。

 

その世界は戦士の居場所ではなかったのだ。

 

その呪いは戦士を蝕むものではない。

戦士が戦う度、人々から戦士の記憶を奪ってゆく呪いなのだ。

 

だが戦士は諦めなかった。その世界に存在する“敵”を倒していき、人々から記憶が消えたとしても自身の“居場所”を見つける為に戦い続けた。

 

やがて戦士の記憶は人々から忘れ“去られ”、戦士はその世界から消え去った。

 

それでも戦士は諦めなかった。

呪いはその世界から消え去っても続くものだったが他の世界へ飛ばされてもやる事は一つ、戦士として戦い、人々を守り続ける事だった。

 

そうしていく内に戦士には本当の“絆”が繋がった相棒が出来た。

戦士はそれをとても喜んだ。

相棒は人間ではなく“敵”の仲間だったが情が深い性格をしており、一人孤独に戦う戦士に感動し、戦士の相棒として共に戦うことを決意したのだ。

 

そうして戦士と相棒は戦士が受け入れられる、戦士の世界を探す為、再び戦いを始めた。

 

 

これは忘却の戦士の物語。

 

忘却の戦士が、自分の世界を探す物語である。




ネタがない…


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出発点・休憩室・1

出発点・休憩室は本編の途中途中に挟む予定です


出発点・休憩室・1

 

 

 

 

少年悠斗には、夢があった。

 

それは幼い子供が思い浮かぶ様な夢想と想像の世界から飛び出したかの様な“皆のヒーローになりたい”事だが、“本気で”それを実行する事を目指し、その為ならどんな苦労、努力も厭わなかったし実行していた。

子供の“ごっこ遊び”ではない、勇気と決意を胸に秘めていたのだ。

 

悠斗の両親もそれを見て『私達は良い子を持った、この子は将来職務に関わらず、素晴らしい男性になるだろう』と確信していたし、実際悠斗自身もその期待に持ち合わせたポテンシャルを持っていた。

 

小中と勉学を重ねる内に友も増えた。

自分の夢を馬鹿だ、無駄と嗤う輩もいたが悠斗はそれを馬鹿だとは思っていたが無駄だとは一切思わなかった。

夢は叶えられる。叶えるチャンスと叶え方は人によって変わってくるが0という事は無い、悠斗はそれを知っていた。

 

“警察官”、悠斗の夢の目標は警察官になる事を決め、それに向けて猛勉強を始めた。

勿論身体を鍛える事も忘れていない。

 

両親と周りの人々は悠斗が警察官なると言い出してからというものの以前よりも悠斗に期待を持ち、将来日本の安全を背負う一人となる事を待ち望んだ。

悠斗は一躍近所の有名人となったのだ。

 

悠斗は幸せだった。

何一つ不自由無い生活、暖かい温もりが側にあり、自分自身も夢がありそれに向かい走り続けられる。

しかも自身には夢に向かい走り続けられる素質もあるのだ。

 

 

だが、その日常も長くは続かなかった。

突如、怪人が街に現れ人々を襲い始めたのだ。

怪人が何故現れたのか、何故人々を襲い始めたのかは誰もわかっていない。

人の形を異形。

当然人々は混乱した、向こうはこちらを殺して回っているのだから。

悠斗はそんな中、成長期の身体で果敢に勇気で怪人に立ち向かった。

だが当然の如く結果は惨敗、軽く怪人に弾き飛ばされ。自衛隊員に危機一髪助けられる形として命拾いした。

 

被害は負傷者数十名、死亡者が4名。

怪人が単体だったのが唯一の救いだった話だ。

 

悠斗は軽傷で済み、生活や夢にも支障は無かったが自身を“情けない”と責めた。

『何の為に自分は今まで鍛錬を積んできたんだ?』とーーー

悠斗は哀しくなった、自身を恨み、激怒した。

『自分が守るべきだった人が襲われ、挙句自分は軽傷で済んでしまった。』とーーー

 

両親と周囲の人物は勿論悠斗を心配し、気を配り、悠斗を慰めようと試みたが全く効果は無かった。

悠斗は既に年に似合わぬ精神を身につけてしまっていたのだ。

 

怪人はこれっきりで去ってしまったが悠斗は今まで以上に鍛錬、勉学に励む事を決意し直ぐに行動へ移した。

 

友といつもの会話も、趣味だったゲームセンターに入り浸る事も捨て、楽しかった事すらも捨て、まるで何かに取り憑かれたかの様に、魂が抜け作業ロボットになったかの様に鍛錬、勉学を積んだ。

 

『もっと自分に力があったら…』

『強くならなければならないんだ、俺は』

『もっと、もっと、もっと……』

 

 

 

 

 

 

 

そして、ある時悠斗が目を覚ました場所は病院の一室のベッドの上だった。

長時間の激しい運動、睡眠不足による過労だと医師は悠斗に告げ早々と自分の仕事へと戻っていった。

 

悠斗は自省した。

『ああ、俺も人間なんだな。』

とーーー

 

しばらく大人しくベッドで休息を摂っていると両親が来た。

手には木製の籠に入った果物。

二人共元気そうな悠斗の顔を見て安堵していた。

 

『悠ちゃんは果物だと林檎が好きだったからね、きちんと持って来たわよ。』

『母さん俺はもう中学生だよ、いい加減“悠ちゃん”は止めて欲しいな。』

『何言ってるのよ、まだまだ悠斗は“悠ちゃん”よ。……あらやだ、私果物ナイフを忘れちゃったわ…』

『お前は忘れっぽいからな、ほら、きちんと私が持ってきているぞ。』

 

 

両親は決して悠斗の過剰な鍛錬についてとやかくは言わなかった。

放置主義という訳じゃない。

両親は知っていたのだ。悠斗が既に己の過ちを認めた事を、悠斗が他のやり方を探し始めた事を。

 

『…もう少し、ゆっくりしよう。』

 

その後は以前より少しペースを落とした鍛錬にし、主に格闘技や剣道等の型の稽古といった様なものにした。

もう前の様に滅茶苦茶なだけの事はしない、前より今を磨く。

 

未だに病院からは余り出る事を勧められなく、激しい運動は禁じられていたが最大限にして最低限の運動はしていた。

ゆっくりと動き、型の練習を行うのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日の事だ。

病院の退院予定日の朝起床し、ふと横のテーブルを見ると昨日の食べかけのカロリーメイト(チーズ味)の代わりに“桜井悠斗へ”と紙製のプレートが飾られたバスケットが置いてあった。

 

何だろうと思い、悠斗はカロリーメイト(チーズ味)は忘れベッドから身を起こしマスケットの中を覗く。

中には“奇妙な物”がむきだしで入っていた。

まず、黒を基調とした長方形に6面の内1面のみが反っていた。

中央には回転しそうな丸が出っ張っており、緑と黄色のラインが引いてある。

赤いスイッチ、銀色のライン。

 

意味がわからない。玩具か何かだろう。

そう悠斗は考えーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーられなかった。

 

まず、どうみても玩具に使う様な素材が使われていないし、何処を見ても製造者等の情報が載っていなかった。

肌触りと光沢から金属に見えるがプラスティックの様にも感じる。

全くよくわからなかった。

 

悠斗は他に何かないかとマスケットをひっくり返すとカシャンと音を立て、無機質なテーブルへやや厚みのある茶封筒が落ちた。

 

 

茶封筒自体に何も書いていない事を確認すると、何の躊躇いも無くそれを破り、中身を取り出す。

 

茶封筒から出てきたのは一枚のカードと星が印刷されている付箋だった。

 

茶封筒の厚みとなっていたカードを見てみる。

これも黒を基調とした表面に緑と黄のラインが引いてあり、凹凸がある。

だが何に使うのか全く理解出来ない。

 

仕方なくまだ理解出来そうな付箋へと目を向けた。

“僕と過去の僕の戦いは終わった。これから戦いが始まる君へこれを託す、上手く使ってくれ”。

と、星の付箋にはやたら上手に書かれていた。

 

“ダメだ、全くわからない。”

 

これが悠斗の感想だった。

唯一理解出来るのは“これから戦いが始まる君へこれを託す”、つまりこれが自分の物だという事のみだ。

 

 

 

 

 

お昼過ぎ。悠斗はメールで『今から帰る』とだけ母へ連絡し病院から退院した。

 

もう病院着ではない。慣れ親しんだベージュのズボンと白い無地の長袖Tシャツ、そしてツヤのある黒いジャケットだ。

 

 

 

病院から出て、目の前にあるバス停にて家方面のバスを待つ。

 

 

 

 

 

 

 

ーーー先程の奇妙な物とカードはバッグか何かが無い為にポケットの中でぎゅうぎゅう詰めになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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出発

コレジャナイ感が半端ないです


出発

 

 

 

 

 

“気がつくと”、悠斗は既にその世界に立っていた。

 

ぼんやりとした視界が段々はっきりしてきただとか光に包まれながらだとか、そのようなものはない。

“既に立っていた”のだ。

 

ハッキリした視界ののみが悠斗の目に映る。

 

「んっん〜。さて、デネブを探すかな。」

 

もう何回目かは忘れたが何故か悠斗とデネブが世界から消え、他の世界へ飛ばされる時は必ず悠斗とデネブ、二人共少し離れた違う場所に飛ばされる。

理由は良く解っていないがまぁそういう事だ。

 

悠斗は意気揚々と相棒を探す為、歩き始めた。

 

その裏腹に、不安を抱えて。

 

この世界が自分の世界であるかは後回しにして。

 

 

 

 

 

 

 

「(はてさて、どうしたものか…)」

 

一方、少し離れた場所にて黄色の鴉仮面に武蔵坊弁慶の様な格好、デネブはこれからの事を考えていた。

 

まずお金はあるが暫く寝食を過ごす住居がない、それを探さなくては。

 

次にこの世界について調べなくてはいけない。

 

後悠斗のピーマン嫌いも今度こそ直して……あれをやってこれをやって……。

 

「(悠斗は良い子だけど素直じゃないからなぁ…)」

 

それはまるで反抗期の子に対する親の様だった。

過保護さが目立つが過保護というよりお節介に近い。

 

「よし!とりあえず悠斗を探すぞぉ!」

 

未知の世界。気合いを入れ、デネブはややがに股走りでその場を去った。

 

 

 

 

 

 

 

暫く歩いていると、悠斗は大体“この世界”についてわかってきた事があった。

 

一つ目は直ぐに気づいた。

この世界は近未来的で、道の脇にニュースを流すディスプレイがある事など、発展している事。

 

二つ目はそのディスプレイを閲覧して解った。

この世界には“ノイズ”という怪人……というより怪物がごく稀に現れ人々を襲っているらしい。

“ノイズ”がどんな姿で、どんな能力があるのか等はわからなかったがこれはそのうち解るだろう。

 

 

「…それにしても腹が減ったな……。」

 

 

よく考えたら前の世界で最後の戦いをしてからというものの悠斗は何一つ飲み食いしていなかった。

最後に食べたのはデネブの手作りシチュー。

 

「腹減ったぁ…。」

 

デネブのシチューを思い出すと余計に空腹感を感じた。

デネブの料理は大体が美味しいし、下手なレストランに行くよりずっとずっと良い。

 

久しぶりに食べた大嫌いなピーマンが入っていなかったあのシチューはアツアツで、まろやかで、美味しくて……

 

 

 

「何か食うか…。」

 

デネブを見つけるまでもう少し時間がかかるだろうと悠斗は考え、何処かの店か何かで腹を満たす事にした。

 

 

 

 

 

 

 

その頃、デネブはある大きな建物に目を奪われていた。

学校のようだがとても綺麗で、学校というより生徒が居なければ国際美術館だとかではないかと見間違えそうなものだ。

 

「うわぁー、おっきいなぁー…。私立リディアン音楽院かぁ…。」

 

しかもそのリディアン音楽院から聞こえてくる校歌、とても温かいような歌でそれもまたデネブを引き止めていたものの一つだった。

 

 

「(悠斗も高校に通えていれば友達も沢山出来ていたのかなぁ…)」

 

と、感慨深くなっているとそこであっと気づいた。

 

「ってそれよりも悠斗だ!悠斗を探さないと!」

 

デネブはすぐさまリディアン音楽院から走り去って行った。

やはり少々ガニ股気味で。

 

 

 

 

 

 

「“お好み焼きふらわー”か。いいな、ここにするか。」

 

適当にウロウロしていると、花丸と共に“お好み焼きふらわー”と描かれた看板を見つけた。

気まぐれで近づいた所、ソースとマヨネーズ、肉の焼ける美味しそうな匂いが悠斗の胃袋を直撃する。

 

堪らず悠斗はニヤケ顏で暖簾をくぐり店内へ入った。

 

 

暖風が新春のまだ冷たい風を遮り、悠斗を暖める。

 

「あらいらっしゃい。」

 

迎えてくれたのは初老の女性の笑顔と二人の女子高生のふとした目線だった。

 

「 おばちゃん、豚玉二つ。」

 

悠斗は適当なカウンター席に座り、注文する。

 

おばちゃんは鉄板のカスをヘラで片付け、慣れた手付きで準備を始め出した。

 

「はいよ、見ない顔だけどこの辺は初めてかい?」

 

「当たり。今さっき来たばかりでこの街についてあんまり知らないんだ。」

 

店の規模と様子からして彼女一人で切り盛りしているのだろう。

 

 

「へぇ、最近よくノイズがこの辺りに出てるっていうのに。物好きだねぇ。」

 

「少しやっておく事が出来たんだ。」

 

そこで悠斗はあっと気づき、彼女へジャケットの内ポケットから取り出した、ケースに入れられた自分の相棒が写った写真を見せ。

 

「そうだおばちゃん、こいつを見てないか?今探してるんだ。」

 

写真にはデネブのバストアップ姿がのっている。

 

「うーん……こんなに目立つ人見てないねぇ…。未来ちゃんと響ちゃんは知らない?」

 

 

おばちゃんが目を向け未来ちゃん、響ちゃんと呼んだ女子高生二人へと悠斗も写真をその女子高生二人へと渡す。

 

「俺の仲間なんだけどはぐれたんだ、知らないか?」

 

響ちゃんと呼ばれた、クリーム色でまるで鳥の様な髪をした少女は「うむむ……」とうなった後に。

 

「ごめんなさいッ!全く知りませんッ!!」

 

キリッと、大声で悠斗へ返答した。

 

「お、おう…。」

 

あまりにも迫力のある返答だったので、思わず悠斗は尻込みしてしまった。

 

 

「うーん……あれ?」

 

一方、“未来ちゃん”はデネブの写真を見て何か思いついたらしい。

 

「見覚えがあるか?」

 

“未来ちゃん”から返して貰った写真をジャケットの内ポケットに仕舞う。

 

「はい、確かさっきリディアンーーーー私立リディアン音楽院の付近をウロウロしていました。」

 

「本当か!ありがとな。」

 

 

「はい、お待ちどうさま。」

 

丁度その時、おばちゃんがお好み焼きを焼き終えたらしく、悠斗の前に二枚のお好み焼きが乗せられた皿が置かれた。

 

香ばしいソースや肉の匂いが先程と違い、今度は間近から悠斗の胃袋に腹パンを入れる。

たまらない感覚だった。

 

「うおっ、うまそー!いただきますっと。」

 

 

箸を受け取り、悠斗ははふはふもぐもぐもお好み焼きを食べ始める。

 

「二人共ありがとな、お陰で直ぐにデネブを見つけられそうだ。」

 

「い、いえいえ!偶然見かけただけですから…。」

 

「いやぁ小日向君、お手柄だよ。」

 

 

“未来ちゃん”は悠斗の褒めに少々頬を赤らめ、“響ちゃん”はポンポンと“未来ちゃん”の肩を叩く。

 

「良かったわねぇ、お友達が見つかったみたいで。」

 

「おばちゃんもありがと。今度はデネブを連れて来るよ、期待しといて。」

 

お好み焼きの鰹節やら海苔を口元に付けながら悠斗はお冷を飲み干す。

それを見た“響ちゃん”は「いい食べっぷりですねぇ!」と煽り“未来ちゃん”は「私達以外にここに来る常連さん以外、多分初めてなのでは?」とおばちゃんに話かけていた。

 

 

「何言ってんだい、他にも来る人は来るよ。」

 

「ほぉ…。」

 

「あ、おばさん。おかわりください。」

 

「それにしても美味いな、今迄色んなせkーーー色んな場所で飯を食ってきたがこの店のお好み焼きは間違いなくトップクラスに入ってる。」

 

「あら、嬉しいねぇ。」

 

「へぇーっ!もしかして旅人ってやつですか!?羨ましいなぁ〜。」

 

「旅人っていうか、ただの物好きかな。」

 

「へぇ…あの、お名前をお伺いしても宜しいですか?」

 

悠斗も“響ちゃん”もお好み焼きを食べ終え、話を弾ませている所で“未来ちゃん”が悠斗と名前を聞いてきた。

 

 

…悠斗は“名前を聞かれて”少し……ほんの数瞬のみ顔を苦しそうに歪めたが直ぐに笑顔に戻り

 

 

「悠斗、桜井悠斗だよ。」

 

「桜井さんですか!よろしくです!私は立花響、好きなものはご飯&ご飯です!」

 

お好み焼き屋でその自己紹介は無いだろうと悠斗は心の中で苦笑する。“未来ちゃん”は表情に浮かべ、立花の自己紹介に苦笑していた。

 

「もう響…。私は小日向未来です。響はこの通り残念な子でして……。」

 

「あっ、ひどいよ未来〜!」

 

 

仲がいいんだな、と悠斗は立花と小日向の漫才を見る。

 

 

 

「(……ま、これが最初で最後の話だろうけどな)」

 

会おうが会わまいが、話そうが話さないが、自己紹介しようがどうが二人……いや、おばちゃんを含め“三人”共、悠斗に関する記憶がすっぽり抜け落ちる。

今度もし会っても“この人、何処かで会ったかな?”と感じるぐらいだ。

 

そして時が経てば三人に限らず悠斗を知らない人すらも悠斗について“忘れる”。

 

 

「ありがとおばちゃん、ご馳走様。」

 

忘れる存在と別に深く関わる必要もない。悠斗は丁度の金を置き店を出ようと席から立つ。

 

 

「あっ、あの!!」

 

と、立花が悠斗の腕を掴んできた。

やれやれといった具合で悠斗は振り向く、これ以上関わりたくないと心で考えながら。

 

 

「リディアンまで案内しますよ!この辺りは結構知ってます!」

 

 

…どうやら、まだ彼女達と関わらなければならないらしい。

 

 

 

立花の向日葵が咲いた様な笑顔を見せられ、悠斗はやや引きつった笑顔で立花にリディアン音楽院まで案内を頼んだ。



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