冷泉麻子、行きまーす!! (わんたんめん)
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1話

これはリハビリ作です。
もしかしたら続くかもしれないし、続かないかもしれません。
ちなみに私、わんたんめんはガルパンはアニメ未視聴です。ニコニコ百科事典など駆使していますが、齟齬が生じる可能性があります。
ご了承ください。


「離れろっ!!ガンダムの力はっ!!」

 

自身の乗っているモビルスーツ、『νガンダム』の装甲のあらゆる隙間から緑色の光が溢れ出る。

普通であれは異常を疑うが、その光に触れているとむしろ暖かさ、一種の安心感を感じる。

 

『こ、これは・・・サイコ・フレームの共振・・!?』

 

通信機越しに奴の声が聞こえてくる。奴自身、この現象には驚いているようだ。

だが、この優しい光を感じながらも奴はこの優しさこそが人を滅ぼすのだと言ってきた。

 

「だから人の心の光を見せなければならないんだろ!?」

 

シャア、お前は急ぎすぎたんだ。人は、人の智慧はどんなものだって乗り越えられるんだ。だから――

 

そこでサイコ・フレームの光に包まれて俺の意識は暗転した。

 

次に目が覚めたのは見知らぬ天井だった。

だが、雰囲気からなんとなくだったが、ここが病院であることは察することができた。できたのだが――

 

(何か妙だな・・・。体の感覚が違いすぎる。さながら赤ん坊のような――)

 

そこまで考えたところで視界に女性が入った。ピンク色の看護服を着ていたため、看護師か何かの病院の関係者なのだろう。

とりあえずここがどこか聞いておこう。・・・何か目の前の看護師が妙に大きく見えるのが一抹の不安を抱かせるがな。

 

「・・・・・ぅ。」

 

・・・・・声が出ないんだが。俺の体はどうなっているっ!?

看護師に訴えるように体をジタバタさせていると看護師が表情を緩ませながらこちらを見つめた。

 

「マコちゃんは元気だね〜。将来は活発的な女の子になりそうですね〜」

 

といっておどけた表情をしながら手を振ってきた。

待て、今『マコちゃん』といったか?それに、女の子、だとっ?

俺は男だ!!そう思うがやはり声が出ない。

どうしたものかと思っていると、自分が入っているショーケースの中にラベルが貼ってあった。

そこには人の名前らしきものが書かれてあった。字が反対になっていたから読みにくかったがそのラベルには『冷泉麻子』と書かれてあった。

 

(ど、どういうことなんだ・・・?)

 

そう思いながらあたりを回してみると自分と同じようにショーケースがいくつもあった。そしてその中にはどれにも赤ん坊が入っていた。ここから考えられるのは自分もそのショーケースの中に入れられているため例外ではないこと。

つまり――

 

(俺は、赤ん坊になっているのか?それも女の子に・・・?)

 

俺は・・・どうなってしまうんだ・・・。

 

 

・・・・あれからはやくも7、8年経って、この体にも慣れてきた。ここはどうやら俺のいた宇宙世紀とは大きく時代が異なるらしい。自分が今いるこの『大洗女子学園艦』がその異常な点の一つだ。何せ高さが500メートル近くもある船だからな。・・・まぁ、町が丸々一つ乗っかっているんだ。これほどの巨体になるのもしょうがあるまい。

話が逸れたな。私は家族にも恵まれていた。ずっとガンダムを作っていた向こうの父さんとは大違いだった。

この体が成長して立てるようになった時は父さんと母さんにはとても喜んでもらえた。二人ともとても優しく、まさに理想の両親だった。・・・申し訳ない思いもあったがな。

そんな二人だったが、ついさっき突然二人とも亡くなってしまった。本当に突然だった。

訃報の一報を聞いたとき本当に呆気にとられてしまった。

だが湧いてくるのは悲しみというより申し訳なさだった。結局俺自身のことは何も言えずじまいになってしまった。二人には申し開きのしようがない。

体はたしかにあなた方の娘だ。だが、心の方はどういうわけか俺が入ってしまった。

 

「これはせめてもの罪滅ぼしだが・・・。もし天国があるのなら・・」

 

そういい、空を見ながら敬礼をする。船の淵に立っているためか吹き流れる海からの風が特徴的な黒髪をたなびかせる。

 

「そこで見ていてほしい。俺はあなたがたの娘として精一杯生きようと思う。」

 

天国へと逝った両親に別れを告げ、祖母がいる家へと帰ろうとした時。

 

「駄目ッーーーー!!!!」

「な、なんだっ!?」

 

突然背後から制止の声がかけられ、思わず後ろを振り返る。

そこには茶色の髪をセミロングくらいまで伸ばした可憐な女の子がいた。

その少女は麻子に悲痛な表情を向けながら引き止めるように言った。

 

「貴方、確か冷泉麻子さんだよね!?今すぐに考え直して!!」

「か、考え直す?状況があまり見えてこないのだが・・・?」

 

これには思わず困惑した表情を上げざるを得ない。何か盛大な誤解を受けているのは分かるのだが・・。一体なんなんだ・・・?

・・・・まさか。

 

「まさかとは思うが、私が飛び降り自殺を図っていると思ったのか?」

「えっ!?そ、そうじゃないの!?」

 

案の定、彼女はどうやら勘違いをしていたようだ。ふぅ、と少しため息を吐くと彼女を安心させるために軽く笑顔を浮かべながら説明を行う。

 

「な、なんだぁ・・・。」

 

説明を終えると彼女、武部沙織は緊張の糸が切れたのか脱力するようにへなへなと地面に座り込んだ。

 

「ところで、君はどうして私のところに来たんだ?あまり接点などなかったはずだが・・・。」

「クラスメートだからに決まってるでしょ!!その、両親が死んじゃったのは先生からちらっと聞いただけだったけど。学園艦の淵に立っている冷泉さんを見てまさか、って思って・・・。」

「・・・・武部さんは優しいんだな。」

 

麻子にそう言われると沙織は顔を真っ赤にしながら狼狽した様子で首を横に降る。

 

「いやいやっ!!そんなことないよ!!」

「そうか・・・。とりあえず、心配してくれたことには感謝する。ありがとう。」

 

武部に手を差し伸べ、立たせると私は祖母の待つ家へと歩を進める。

 

「あ、ねぇねぇ。冷泉さん!!」

 

背後から再度武部さんの声がする。

何事かと思い、振り向くと彼女は笑みを浮かべた様子で手を振っていた。

 

「私のこと、沙織って呼んでね!!私も冷泉さんのこと麻子って呼ぶから!!」

「ああ。わかった。さっきも言ったが、今日は感謝する。沙織。」

 

麻子の姿が見えなくなった後、沙織はポツリと呟いた。

 

「なんか、すごく大人びた子だったなぁ・・。麻子って。」

 

そりゃあ見た目は子供でも中身は30超えた軍人ですからね。

 

「・・・そうか。俺はもう精神年齢は三十路を超えているのか・・・。」

 

そう思うとなんとなく気分がうなだれる麻子であった。

 

 

 

 

 

 



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第2話

はい、というわけで二話目です。
こうなったらいけるところまで行きましょうっ!!


アムロ、もとい冷泉麻子だ。

季節の巡りは早く、この体の年齢でもう高校生になってしまった。

おばぁ、もとい祖母からは進学に関して気にすることはないと言っていたが、

やはり家族だから心配になってしまい、近所の『大洗女子学園』に通うことになった。

今日はその学校への始めての登校日、つまるところ入学式だ。

白を基調に、ところどころに緑色の線の入った制服を着こなす。

・・・スカートには未だ慣れないがな。というか慣れてはいけない気がする。

 

昔の俺は学校にはよくフラウに付き添ってもらったな。そんなことを考えながら革靴を履き、いざ扉に手をかけようとしたがーー

 

「うっ・・・。立ちくらみが・・・。」

 

立ち上がった際に起こった立ちくらみの所為で扉に支えてもらうように手を当てる。祖母が心配そうな視線で見ている。

 

「大丈夫かい?麻子。アンタは低血圧なんだから無理はしなさんな。」

「・・・いや、大丈夫だ。流石に初日から遅刻をするわけには、いかないからな。」

 

祖母から心配されている通りだ。いつからかは知らないが、この体は朝に馬鹿にならないほど弱い。

布団から出るのもかなり億劫な感じだ。 正直に言って布団に入っていたい。

それでもやはり学校に遅刻するわけにはいかないため、意地と気合で家の扉を開けはなつ。

玄関から出たら足取りはフラフラとしながら通学路を歩く。

 

(な、情けない。たかが低血圧でここまで体が悲鳴をあげるとは・・・っ!!)

 

家の塀などに手をつきながら一歩一歩、ゆっくりと進んでいく。

しかし、その重い足取りのせいかこのまま行けば確実に遅刻だと麻子は直感する。

不味いな、麻子がそう感じたとき。

 

「あれ、麻子?大丈夫?肩貸そうか?」

「沙織か・・・。すまない。そうしてくれると助かる。」

 

たまたま通りがかったのか沙織が声をかけてくれた。

男として女性に頼るのはどうかと一瞬考えたが俺自身、今は女性だから特に気にしないことにした。

 

「・・・ホントに大丈夫?かなり顔が白いけど?」

「・・・問題ない、と言いたいがこの低血圧は筋金入りでな。朝はずっとこの調子だ。」

「うっわぁ・・・。よく学校に来ようとするね。」

「遅刻して、いい大学に行けなくなるのは困るからな。それでもこの調子だと何十回はくだらないだろうな。遅刻の回数は。」

 

沙織の肩にもたれかかりながらなんとか時間内に学校に着いた。それでも時間ギリギリで風紀委員のような人物からかなり急かされたが。彼女には何回も世話になりそうだ。

 

「ん?この感覚・・・。まさか、な。」

 

誰かが俺のことを見ていたような感覚がしたが、低血圧でそれどころではなかった。

 

入学式の後、教室でクラスの皆との顔合わせがあった。残念なことに沙織とは離れ離れになってしまったため、全員とは完全に初対面だ。

さらにこれは予想できていたことなのだが、周りとの趣味が合わずに孤立してしまった。

 

(ふぅ、まさかここまで話が合わないとは・・・。やはりチェーンのような機械に興味のあるタイプは珍しいのかもしれないな。)

 

教室の居辛さに思わず席を立ち、教室を後にする。

窓枠に肘を乗せ、風を浴びているとーー

 

「やぁ、そこの君。少しいいかな?」

 

声をかけてくる人物がいた。振り向くとそこには赤みがかった茶髪をツインテールにした小柄な少女がいた。・・・あまり人のことは俺も言えないが。

入学式のときには見かけなかったが、大洗の制服を着ているということはーー

 

「上級生か?何か私に用でも?」

「いや、なにやらスカートを履いているのが苦痛のように思っていると感じてな。」

 

こいつ、中々鋭いな。俺が思っていることを見抜くとは。

しかし、なんだ?こいつとは初対面の様な気がしないな・・・。どういうことだ?

 

「ああ。そうだよ。おそらく一生慣れないだろうさ。」

「そうかな?存外に似合っていると私は思うが?」

 

・・・面白がっているのか?だとすれば気にくわない奴だ。

 

「冗談なら止してくれないか。『シャア』」

「・・・・ほう?」

 

待て、今俺はなんていった?シャア?シャアと言ったのか!?

 

「なにやら懐かしいような感覚がすると思ったが、やはりお前か、アムロ。」

「馬鹿なっ!?シャア、だと?まさか俺と同じーー」

「アムロ、今はそれ以上のことは言うな。周りの目につく。」

 

・・・確かに周りからも視線を感じる。シャアの言う通りだな。

 

「ーーわかった。」

「詳しいことは放課後に話そう。私自身、驚きはあまり隠せていないからな。」

 

シャアの言葉に俺は無言で頷くしかなかった。

シャアは俺が頷いたのを見ると踵を返し、おそらく自身の教室に戻ろうとする。

 

「そうだ。名乗ってなかったな。2年の『角谷杏』だ。君の名前は?」

「・・・冷泉麻子だ。」

「そうか。いい名前だな。それではまた放課後に会おう。」

 

そう言うとシャア、もとい杏はその場を後にした。

 

「えっ!?ちょっ!!麻子ってばさっきの人、もしかして角谷杏さんだよねっ!?」

「さ、沙織?どうしたんだそんなに興奮して。そんなに有名人なのか?奴は。」

 

シャアのことを考えていると背後から沙織が興奮冷めやまぬ様子で近づいてきた。

 

「この大洗女子学園じゃすごく有名だよ!!成績がとても優秀でしかも人望もあって、次期生徒会長って言われてるレベルだよっ!?」

「・・・・まぁ、そうだろうな。奴はカリスマだからな。」

 

ネオ・ジオンの総帥もやっていたんだ。その程度なら容易いことだろうな。

 

「あー!!もしかして麻子ってあの人の凄さ、よくわかってないでしょ!!」

「・・・いや、よくわかっているさ。嫌と言う程な。」

 

そこまでいったところで、次の授業の開始を知らせるベルが響いた。

 

「時間か。沙織、お互い頑張ろうな。」

「あ、うん。」

「・・・・なんか、杏さんの話出したら、麻子、なんか悲しそうな目をしてたような・・・。」

 

そう思いながらも急かすように鳴り響くベルに沙織も自身の教室へと戻っていった。

 

放課後

 

帰ろうとした時に校門の前に奴はいた。

 

「遅かったな。」

「うるさいな。こちらにはこちらの事情があるんだ。」

 

奴と帰ると言って、私も一緒に行きたいと駄々をこねた沙織を説得するのに時間がかかっただけだがな。

 

「さて、何から話すか。」

「単刀直入に聞くが、お前はまだ人類に絶望しているのか?」

 

俺がそう聞くと杏は少しばかり困った顔をした。

だが、その顔はすぐに軽い笑みを含んだものに変わった。

 

「いや、絶望などせんさ。そもそもの話だ。ここは我々の知る宇宙世紀とは大きくかけ離れている。過去の悔恨など持ってくるのはそれこそ門違いも甚だしいところだと思うが?」

「・・・そうか。ならいいんだ。」

「顔の緊張がほぐれたな。それほど気になっていたのか?」

「・・・あれほど常軌を逸脱したことをされれば、誰だってそうする。」

「それもそうか。すまない、無粋な問いだった。」

 

そこで一度会話が途切れ、少しばかりの沈黙が始まる。

 

「む、そうだ。麻子、だったな?お前はこの世界についてはどれほどまで知識があるんだ?」

「この世界、か?よく知らないな。勉強などで忙しかったからな。」

「それは少し不味いな。我々の常識とは一風変わったスポーツが女性の間で流行っているからな。」

「というと?」

「戦車道だよ。」

 

戦車道?聞きなれない単語だ。戦車という言葉がある以上、おそらくはそれを用いるのだろうがーー

 

「戦争の道具だぞ?スポーツにするには無理がある気がするのだが。」

「それが、安全はどうやら確立されているらしい。怪我はともかく死亡者はゼロ、とのことだ。」

「そ、そうなのか。」

「これは小耳に挟んだことなのだが、今日その戦車道の全国大会の決勝があったらしい。」

「そう言われてもだな・・・。」

「私も無理に知れとは言わん。ただこの世界にはそういったものがある。ではな。私の家はこちらだからな。」

 

杏はそういうと手を振りながら、帰っていった。

 

「シャアのやつ、学生生活を楽しんでいるな・・・。」

 

なんとなく悔しい思いをする麻子であった。

 

「しかし、戦車道か・・・。妙な予感がする。」

 

そして、一年後、麻子のもとに心やさしき軍神が現れる。

 




余談

杏は普通に生徒会長になりました^_^


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第三話

「・・・就任したばかりの生徒会長に任せるような案件ではないような気がするのですが。」

「それは私も重々承知している。だが、話が回ってきてしまった以上仕方のないことなんだ。すまない。」

 

生徒会長となったシャア、もとい杏は理事長室に呼ばれていた。

いつもは人が良さげな顔をしている理事長も今回はかなり思いつめた顔をしている。

 

「大洗女子学園の廃校。よもや会長に就任して早々このような難題を突きつけられるとは、私も中々運がない。」

 

杏は苦い顔をしながら理事長に聞こえないほどの声量で呟く。

 

「理事長、この廃校は免れないものなのですか?」

 

杏が問うと理事長はまたもや苦々しい表情をする。

 

「ない、といえば嘘になる。だが、ほぼ無理難題にも等しい内容だ。」

「と、いいますと?」

「戦車道の全国大会にて優勝。これを成し遂げば考えてくれる、とのことだ。」

 

考えてくれる。このフレーズで杏は察した。向こうは仮に大洗が優勝しても廃校を覆すつもりはない、と。普通、こういうのは誓約書を書かせるものだが、大洗に廃校を言い渡した文科省に問い詰めてもそれを手にすることはできなかった。

つまりは所詮は口約束、その一言でその約束はなかったことにされてしまうだろう。

 

「確かにほぼ無理難題にも等しい内容ですな。この大洗には戦車道はおろか、戦車すらないのですからな。仮にあったとしてもせめて一人は戦車道の経験者が欲しいですがーー」

「いや、それはなんとかなる。」

「なんと、いるのですか。この大洗に。」

 

いないでしょうなーーそう言いかけた言葉に割り込んだ理事長の言葉に杏は驚いた表情をする。

理事長は一枚のプリントを杏に差し出す。

 

「『西住 みほ』?どこかで聞いたような・・・。黒森峰?」

 

黒森峰。戦車道の全国大会の常連校で9連覇の偉業を成し遂げた高校だ。

前回の大会で10連覇を目の前にして、決勝で敗れたと聞いている。

ゴシップでいくつか見たがその原因は副隊長にあるとも書かれてあった。確か、その副隊長の名前はーー

 

「・・・・彼女をまた戦車道に引き込むのですか?」

 

杏がそう尋ねると理事長は重い顔をしたまま頷く。

 

「確認のため聞かせてもらいますが、彼女はおそらく戦車道をやりたくないがためにこの大洗に転校してくるのでしょう。そんな彼女の願いを踏みにじっている。その認識はおありで?」

「ああ。頼めるかな?」

「・・・了解しました。私も全力を尽くします。」

 

理事長に一礼をし、理事長室を出る杏。

 

「ふぅ、・・・やはり気が引けるな。しかし、こちらも廃校がかかっている。やれることはやらせてもらう。」

 

理事長に渡された紙を握りながら、杏は生徒会室へと向かった。

 

次の日、麻子はいつも通り低血圧にうなされながら登校していた。

 

「くっ・・・!!そろそろ遅刻回数が3桁に突入しそうだというのに、なんなんだこの低血圧はぁ・・!!」

 

それでも本来の冷泉麻子よりは回数は少ない。フラフラとした足取りで学校に向かっている時、

 

「あ、あの〜。大丈夫ですか?」

 

声のした方向を振り向くとこちらを心配そうな視線で見つめている人がいた。

茶髪のショートカットにした優しげな雰囲気を纏った女子だ。

大洗の制服を着ている以上、生徒なのは確実。だがーー

 

(あまり見かけない顔だな・・?新入生か?)

「か、肩、貸しましょうか?」

 

若干おどおどした様子で質問してきた。人の好意を無下にするとあとあと苦労するからな。ここは素直に応じておこう。

 

「すまない、助かる。低血圧で朝はどうにも堪えるんだ。」

「そ、そうなんですか。大変ですね。」

「重くないか?少し鍛えてるから君には重く感じると思うのだが・・。」

「い、いえ。この程度でしたら大丈夫ですっ!!」

 

彼女の肩に乗っかりながらなんとか学校にたどり着いた。が、門は既にしまっており、案の定おかっぱ頭が特徴的、というかなぜか全員おかっぱ頭の風紀委員会の長『園みどり子』が正門前で仁王立ちしていた。

 

「冷泉さん、これで通算100日目ですよ。成績がいいからって、このままだと留年ですよ?」

「こればかりは体質なんだ。もう少しくらい融通を利かせてくれてもいいんじゃないか?」

「遅刻は遅刻ですー。えっと、西住さん、だよね?あなたも冷泉さんを無理して連れてくる必要はないからね。」

「え、えー・・・。」

 

この子は頭は硬いが、何だかんだ言って悪い奴ではないのは分かっている。

よく遅れてくるが、いつも校門は閉めないでいてくれているからな。

 

「巻き込んで悪かった。ここから先は私でなんとかするから君は自分の教室へ向かってくれ。えっと西住さん、だったか?」

「あ、はい。2年A組の西住 みほです。冷泉さん、でいいんでしたよね?」

 

A組・・・。沙織と一緒のクラスか。彼女に西住の話し相手になってほしいと根回しでもしておくか?この子、何か妙なもの抱えている気がする。

 

「冷泉麻子だ。クラスは別だがいつでも気軽に話し相手になろう。今回の礼だ。」

「あ、はい!!ありがとうございます!!」

 

礼を言うと西住は学校へと走り去ってしまった。

 

「おい、別にそんなにかしこまった言い方はしなくていいのだが・・・。」

 

咄嗟に声を掛けたが、西住はもう校舎へと向かってしまい、声が届かなかった。

 

「全く・・・。なぁ、そど子。彼女の今回の遅刻、私の方につけておいてくれないか?」

 

そど子が面を食らったような顔をしている。そんなに驚くことか?

少し傷つくな・・・。

 

「これは私の責任だ。それに今更遅刻の一回や二回、どうとも言うまい。」

「最後のその一言がなかったら考えてた。」

「・・・・手厳しいな。」

 

その日の授業もなんとか眠気など耐えきった。

本当にどうにかできないものなのか・・・。

 

『大洗の全生徒に告ぐ。今すぐに体育館に集合せよ。』

 

何だこの放送は・・・。いきなりにも程があるぞ・・・。

襲いかかる眠気に耐えながら体育館に集まる。

ざわざわした空気が体育館を包み込んでいる中、杏ら生徒会を確認できた。

 

「・・・・何が始まるんだ?」

 

そう思っていると杏が壇上の机の前に立ち、今回の集まりの理由を述べた。

なにやら新しい選択科目のレクリエーションらしい。

杏の背後にあるスクリーンにその新しい選択科目の説明映像が流される。

そいつの名は『戦車道』。

 

「戦車道・・・?シャアが言っていたあの女性に流行っているとか言う奴か?」

 

映像では生徒会副会長の小山の説明と一緒に女性が戦車に乗り、主砲を発射しているシーンや凱旋シーンが取り上げられていた。

 

「戦車道、か。シャアは安全性が確立されていると言っていたが、どうなんだ?

調べていない以上、あまり推測の域を出ないが・・・。」

 

少なくとも、俺はあまりやりたくないな。スポーツとは言え、やっていることは戦いだ。

それに授業の時間も取られそうだ。ただでさえ遅刻回数を重ねているのだから頑張らなければならないというのにーー

 

「そして、戦車道の履修者には遅刻回数200回を免除、さらに通常の三倍の単位が付与されます。」

 

なん・・・だと・・・っ!?おのれシャアめ、そんなものをつけてしまえば、誰だって戦車道を履修するぞ・・!!

しかし、同時に妙だな。なぜたかが一つの選択科目にそこまでのメリットをつけるんだ。

そう思いシャアを見ていると奴の視線が一点に向かっていることに気づいた。

その視線を辿っていくとーー

 

「西住?なぜあそこまで沈んだ顔をしているんだ?」

 

先程世話になった西住にあたった。隣に沙織がいるが、彼女は戦車道の説明に目を輝かせて食い入っている。その沙織とは対照的な西住の顔に麻子は少なからず引っかかるような感覚を覚える。

 

「・・・・一番は彼女に聞くのがいいのだろうが、そう安々と聞いてもよいことなのだろうか?」

 

おそらく西住は戦車道の関係者だ。俺と同じ2年にも関わらず見かけない顔だったのは転校生だからか。そして転校してきた理由は前の学校における戦車道のトラブルが原因か。そうじゃなければ、戦車道と聞いてあそこまで絶望的な表情をするはずがない。

 

(いや、待てよ。そうであればただ単に別の選択科目を選べばいいだけの話だ)

 

ではなぜ・・・。そう思っていると、再度杏の顔が目に入る。そこで麻子ははっとする。

 

「まさか・・。シャアの奴、無理矢理西住に戦車道を履修させるつもりか・・!!」

 

レクリエーションが終わった後、選択科目の用紙が配られた。

・・・戦車道の欄だけ大きすぎる・・・。どれだけやらせたいんだ・・・。

俺個人としてはなんでもいいのだが・・・。だが、仙道とかなにやら訳の分からないものもあるからな・・・。

それに遅刻日数の免除か・・・。

 

「奴の口車に乗せられているような気持ちだが、背に腹は代えられないからな・・・。」

 

かなり苦い顔をしながらだが、俺は戦車道の欄に丸をつけた。

 

次の日、できる限り余裕を持って学校に来ると案の定、西住が生徒会室に呼ばれた。おそらく戦車道を履修させるためだろう。あの表情のうちだと戦車道を選ぶことはしないだろう。

俺はクラスのみんなに体調が悪いと伝え、一人、生徒会室に向かった。

 




ようやくアニメ一話と言ったところですかね・・・
ちゃんとアニメを見なければ・・・


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第4話

この小説は基本的には原作を沿っていくつもりですが、微妙に原作と差異があったりします。(すっごく今更)


生徒会室の前に着くと部屋の中から言い争う女性の声が聞こえた。

主に言い争っているのは、沙織と生徒会広報の河島 桃。それに副会長の小山 柚子。そして、最後の一人は・・・ああ、思い出した、一度沙織と顔合わせをした五十鈴 華か。

生徒会室での言い争いはヒートアップしていく。会話を盗み聞いていると、内容はやはり西住をどうにか戦車道に履修させたいようだ。生徒会の奴らは。それを沙織と華が職権乱用だとして抗議しに来ているようだ。

・・・杏の声が一切届いてこないのが気になるが。

西住は、だいぶ思い詰めているようだ。扉越しでも彼女の感情が流れ込んで来る。

 

「・・・このままだと君たちはこの学園にいられなくなるが、それでも構わないかね?」

 

俺の中で怒りが込み上がった。シャアの奴、西住に脅しをかけたな・・っ!!

ふざけるなっ!!そこまで堕ちたか、シャア!!

居ても立っても居られなくなった俺は生徒会室の扉を蹴破り、杏を含めた生徒会に怒りの視線を向ける。

突然の出来事に小山と河島は呆気に取られた表情をしている。

 

「シャアっ!!貴様ほどの男がなんて器量の小さい!!」

「やはり来たか。アムロ。だが、大洗が保たん時が来ているのだ。それをわかるんだよ。」

「貴様の理屈などっ!!なぜそこまで西住に戦車道を強要させるっ!!彼女が戦車道について何かしらの負い目を感じているのは、わかっているはずだ!!」

「ああ、分かっているとも。だが、彼女個人の事情に構っていられるほど時間は待ってくれんのだよ。」

「っ・・・!?貴様ぁ!!」

 

奴の言い分に俺は思わず駆け出しそうになった。そのまま行けばおそらく、奴に殴りかかっていただろう。だがーー

 

「冷泉さん!!やめてっ!!」

 

西住の悲痛な叫び声が生徒会室に響く。突然の介入に俺の駆け出しそうになった足も途中で止まった。西住は意を決したような目で宣言した。

 

「私、やります!!戦車道、やります!!」

 

突然の宣言に沙織と華は驚いた表情をする。杏と小山 柚子はホッとした顔を上げ、河島 桃はなぜかへなへなと腰を抜かしたように座り込んでしまった。

しかも涙目で。

 

「西住、いいのか?君はおそらく、戦車道に何かしらトラウマを抱えているのだろう?」

「う、うん。でも冷泉さん、あのまま行ってたらすごいことをしそうだったから・・、思わず・・。」

 

西住にそう言われ、俺は苦い顔をした。図らずもだが、結果的にシャアの計画にのせられてしまったのだからな。

俺は居心地の悪さから生徒会室から出ようとしたがーー

 

「麻子、少し待ってくれないか?話したいことがある。」

 

杏の言葉に怪訝な顔をしながら振り向く。西住達も不安気な顔をしている。

 

「君達も教室に戻ってくれて構わない。それと、西住君。このような手段をとって申し訳なかった。」

 

杏はそう言うと立ち上がり、西住に対して頭を下げて謝罪した。

 

「えっ、い、いや。謝られることはありませんよ。私もやるといった以上、全力を尽くしますので。」

「・・そう言ってもらえると助かる。」

 

西住達は生徒会室から退室していった。その際、俺に対して不安気な視線を向けていたが、俺がぎこちない笑顔で返すと、少しばかり表情を緩めて扉を閉めた。

 

「・・・それで、話とはなんだ?生徒会長に歯向かった私を退学させるか?」

「はは。私にそれほどまでの権力はないさ。」

「よく言うよ。全く。」

「か、会長〜。なぜさっきまであんな剣幕で言葉をぶつけていた者とそんなに普通にはなせるんですかぁ〜?」

 

河島 桃が杏に涙声で問いかける。気持ちが落ち着いたことでわかったが、コイツは俺に対して恐怖の感情を向けている。・・・怖がらせてしまったか。

 

「それで、なぜ西住にあそこまで強要させたんだ?それに戦車道履修者に対する高待遇もだ。あれはやってほしいと言っているようなものだぞ。」

「そうだな・・。やはりお前には話しておいた方がいいだろうな。」

 

杏はそう言うと俺に事の顛末を話してきた。

内容はいずれも衝撃的なものであった。

 

「大洗が、廃校・・・?馬鹿なことを言うな。ここには生徒だけで9000人いるんだぞ。」

「残念だが、事実だ。文科省の者どもは本気でここを潰しにきている。」

「それに廃校されたくなければ戦車道の全国大会で優勝しろなど、無理にも程があるっ!!」

「だが、この無理難題を熟さなければ、大洗に未来はない。」

 

杏にそう言われ、俺はため息をつきながらソファに座り込んだ。

 

「お前があそこまで強硬な手段をとった理由が分かったよ。」

「やはりお前ならわかってくれると思っていたよ。」

「私だってここが廃校になるのは困る。祖母はあまり動くことが叶わないと思うからな。」

「この話は基本的には他言無用にしておいてほしい。戦車道を取ってくれた者にこの学校の未来がかかっていることを伝えるには早すぎるからな。」

「そうだな。わかった。」

 

シャアの言っていることは正しい。いきなりこの学校の未来を託されたと言われても困惑するだけだろうだからな。

 

「あの・・・一つ聞いてもいいですか?会長。」

「ん?どうかしたかね?小山君。」

「先程冷泉さんと言い争っていた時、お互いを別の名前で呼び合っていたような気がするんですけど・・。」

 

・・・・不味いことになった。そういえば思い切り杏のことをシャアと呼んでしまっていた。いや、奴も俺のことをアムロと呼んでいたな・・・。

軽く視線を杏に向けると奴も困った顔をしている。

 

「・・・・あだ名だ。私と麻子はそれなりに付き合いがあったのでな。」

「なるほど、幼馴染だったんですか。それであれば納得です。」

 

杏がそう言うと小山は納得したという顔をした。解決、でいいのか?

 

「それよりもだな。まずお前が戦車道を履修してくれるとは思わなかったぞ。」

「・・・私だって一人の学生だ。単位が得やすくなるのであればそれに越したことはない。それにーー」

 

少々気恥ずかしいため、視線を逸らしながら言う。

 

「遅刻日数が、減るのはこの上なく有り難いからな。」

「・・・・中々邪な理由で履修するのだな。」

「言うなっ!!私だって出来れば遠慮したかったんだ!!」

 

杏に微妙な視線を向けられ、思わず顔を赤くしてしまう麻子なのであった。

 



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第5話

昨日の夜、今日の朝と評価を確認したらとんでもないことになっていて、思わず乾いた笑いが出たわんたんめんです。

まさかこのような異色極まりない作品にこれほどの評価をいただけるとは思ってなかったです。

これからもこの作品を読んでいただけると有り難い限りです^_^



「ふむ、集まってくれたのは22人か。」

 

杏が手を顎に当てながら吟味するように見つめる。

視線の先には戦車道を履修してくれた者達が全員倉庫のような場所に集められていた。

生徒会の小山と河島のほかに、おそらく一年生のグループに6人。そして明らかにバレーボールのユニホームを着ているのが4人。さらに歴史が好きなのかと思われる集団に4人。そして俺、沙織、華、西住、それと少し離れた場所にいる奴と杏で22人だ。

・・・俺がいうのもなんだが、大丈夫か?このチーム。結成早々バラバラになりそうな気がするのだが・・・。

 

「まぁ、はじめはこれくらいのものだろう。」

「会長ー!!戦車道でいい成績残したらバレー部を復活させてくれるって約束、本当なんですよねーっ!!」

「ああ、勿論だとも。」

 

杏の奴、また餌で履修者を釣ったな・・・。思わず眉間に手をあててしまった。

だが、廃校がかかっている以上、奴の言う通り手段を選んでいる訳にはいかない。

まず、目前の問題としてーー

 

「会長。根本的な問題なのだが、戦車はあるのか?そもそも戦車がなければどうにもならないぞ。」

 

一応、公然の前だから杏のことは当面、会長呼びだ。

杏はふっ、と軽く笑みを浮かべると背後にあった倉庫の鉄製の巨大な扉が開かれる。

そこにはオンボロな戦車、見た限りだと動きはするようだが、外装が汚れている戦車が一両ポツンとあるだけだった。

西住がその戦車の近くに近づき、確認するように手を置く。

周囲からはあまりに汚れていたからか動くのかどうかの声が飛んでくる。

 

「うん。転輪も大丈夫だし。いける。」

 

西住が確認し終えたのか、こちらに笑顔を向ける。周囲では感嘆の声が響いていたが、俺は再度根本的なことを杏に聞いた。

 

「・・・・一両しかないのか?他はどこにあるんだ?」

 

俺がそう聞くと杏は視線を逸らして、顔が見えないようにそっぽを向いた。

・・・・まさかとは思うが。

 

「これしかなかったのか?」

「・・・・すまん。」

 

その一言で十分に察してしまった。この倉庫には稼働できる戦車はこれしかないのだ。

一機だけでは天地がひっくり返っても全国大会を優勝するのは無理だ。

どうしたものかと思っているとーー

 

「だったら探してみませんか?」

「西住、戦車はそこら辺に落ちているものじゃないんだぞ・・・。」

 

西住の言葉に思わず苦笑いを浮かべてしまった。一応、大洗も20年程前までは戦車道をやっていたと杏から聞いてはいたが、そう簡単に見つかるはずはーー

 

 

 

 

 

・・・・あった。

 

結論から言えば学園艦中をくまなく捜索した結果、なんとか倉庫にあったⅣ号戦車(西住曰く)の他に38(t)、Ⅲ号突撃砲、八九式、M3、三式の合計5両を見つけることができた。できたのはいいんだが、それぞれ見つけた場所がまた奇抜なものでな・・。

 

「森や洞窟はともかく、なぜ池の底と沼地、ましてやウサギ小屋にあるんだ?」

「・・・私に聞かんでほしい。私とてこの大洗の全景を把握しているわけではないのだ。」

 

杏もこの結果、というか過程には困惑気味のようだった。

特にM3の見つかったウサギ小屋だ。そこにウサギ小屋を建てた奴もそれが戦車だと気づかなかったのか?というか、探した一年生チームもそうだな。よくそのようなところを探そうと思ったな。普通は探さないだろうそんなところ。

 

「あはは・・・・。とりあえず全部揃って汚れたりしているので、ひとまず洗車しましようか。」

 

西住が苦笑いを浮かべながら掃除用具を片手に掃除をするように促す。

麻子も制服の袖を捲り、掃除に取り掛かった。その際に西住達が制服を脱いで、ジャージに着替えてたが、彼女たちの柔肌を見て何にも思わなかった自分に対し、自身が年を取っていることを自覚する。

アムロ・レイ、もとい冷泉麻子。精神年齢だけを言えば既に45歳という世間一般に言えばおっさんである。

 

(・・・すっかり老けたな・・・。俺も。)

 

戦車は結局、縁を理由にしてⅣ号戦車となった。残念ながら残ってしまった三式は倉庫行きだ。そのうち乗り手が現れるといいが。

今日のところは戦車のメンテナンスだけで終わってしまった。

そういった機械に触ること自体が久しぶりだったから中々疲れた。

 

次の日、眠気に苛まれながら戦車のおいてある倉庫に向かうとちょうど飛行機のようなエンジン音が聞こえてきた。

 

音源の思われる方向を向くとそこにはこちらに向かって飛んでくる輸送機が見えた。その輸送機は後部ハッチを開くと中から一両の戦車を空中から降ろし、飛び去っていった。飛び去っていくのは別として、俺の視線が釘付けになったのは、その戦車が降りたあとであった。その戦車をグランドの砂を巻き上げながら進んでいく。

ブレーキは掛けているようだが最初の空中降下の勢いが大きすぎたのか、止まりきれずに一台の高級車をスクラップにしてしまった。

俺の記憶が正しければ、あれは理事長の高級車だった気がするのだが。

西住達もあまりの出来事に言葉を失っている。

杏に至っては無表情だ。

ただ、なんとなくだが、奴はなにか企んでいることは察せた。まぁ、この状況からやることと言ったらーー

 

「その、真面目にごめんなさい。」

 

杏がやったことは至極単純だ。こちらに頭が上がらないようにした。

理事長の高級車をスクラップにした10式戦車の車長、蝶野亜美はどうやらカッコいいところを見せたかったらしい。その結果があれではなぁ・・・。

いくらなんでも看過できる範疇を超えている。何しろ、自衛隊隊員が民間人の所有物を壊しているのだからな。

普通であれば器物損壊とかの罪に問えるのだろうが、杏はそうはせずに示談に応じることによって向こうがこちらに頭が上がらないようにした。

なぜそうしたのかは奴のみぞ知るところだがな。

 

「そもそも、なぜ彼女はこの大洗に?」

「理事長が教官として呼んでくれたらしい。」

「・・・それをお前はよく脅せたな。」

「私はただ事実を述べただけだ。あとは向こうが勝手にやったことだ。」

「お前という奴は・・・。」

 

腰に手を当てながら、ため息をついていると蝶野亜美の視線が西住に向けられていることに気づく。

 

「あら、あなた・・・西住流の・・・?」

 

そこまで言いかけたところで俺は西住と彼女の間にかばうように割り込んだ。

西住の目が不安気なものに変わったからだ。

 

「教官、今日の訓練はなにをするんだ?」

 

割り込んだ俺の目を見て察してくれたのか彼女は少しオーバーなリアクションを取りながら今回の訓練の内容を教えてくれた。

 

「バトルロワイヤル・・・。いきなり実戦か・・・。」

 

俺は悩まし気な顔をしていた。教官はいきなり実戦を行う旨を伝えてきた。

まぁ、全国大会まで期間がないし、もはや習うより慣れろな状態なのは否めない。

 

「あ、あの、冷泉さん。」

「なんだ?どうかしたか?」

 

Ⅳ号に乗り込みながら西住が沙織や華に聞こえない程の声量で話しかけてくる。

俺は振り向きながら彼女に声を返す。

 

「その、さっきは・・・ありがとう・・・。」

 

おそらく先ほどかばってくれたことを言っているのだろう。

俺としてはさほど大したことはしてないのだがな。

 

「なに、気にすることはない。人には何かしら言われたくないこと、聞かれたくないことの一つや二つはある。私は君のそれをある程度察しているからやっただけだ。」

 

そういいながら俺は無意識に彼女の頭の上に手を置いていた。なんとなく西住に小動物的なナニかを感じたからだろうか。

突然の行動だったからか、西住も反応出来ずに顔を赤くしている。

 

「・・・・すまない。無意識だった。」

「えっ!?あ、ああいや、その・・き、気にしないでください!」

「麻子ー?西住さーん?何やってるのー。早くー。」

 

Ⅳ号の中から沙織の呼ぶ声がする。俺は手早く戦車の中に駆け込んだ。

西住は数秒遅れてやってきたが、戦車の入り口のキューポラを閉めた際に頭をぶつけたりしていた。

 

「・・・大丈夫か?」

「だ、大丈夫・・です・・!!」

 

心配する声をかけたがそれは無用だったらしい。

ちなみに誰がどこに座るかのことは戦車に乗る前になぜか沙織が持っていたくじで決めた。おそらくある程度、事を見越して作っていたのだろう。

くじの結果、沙織が車長、西住が装填手、華が操縦手、そして、茶髪のボブカットが印象的な少女、秋山優花里が砲手、そして、俺、冷泉麻子が通信手だ。

・・・俺個人の印象としては沙織が通信手の方が適任だとおもったが、くじで決まってしまった事だから割り切ることにした。

というか、このバトルロワイヤル、通信手がいる意味はあるのか・・・?

そう思ったが、教官がバトルロワイヤル開始の合図を挙げる。

 

(仕方がない。やれることをやるだけだ。)

 



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第6話

「どどどどどうしよう!?ねぇ麻子ー!!」

「まずは落ち着け!!車長が慌てふためいてどうするんだ!!」

 

非常に不味い状況になった。バトルロワイヤルが始まって程なくして、バレー部の駆る八九式と鉢合わせた。そのあと、今度は歴女チームとも接敵してしまった。まぁ西住曰く、八九式の主砲ではⅣ号の装甲に大したダメージは与えられないとのことだったが、問題は歴女チームが乗っているⅢ号突撃砲、略してⅢ突だ。これはⅣ号の装甲にダメージが入るため、車長である沙織の指示に従ってとりあえず逃げることにした。

そこまではいい。向こうは両方初心者だから砲弾が当たることはそうそうないと考えている。

だが、こちらで問題が発生した。途中、吊り橋を渡っている最中、操縦手であった華が操縦ミスをし、吊り橋のワイヤーを傷つけた。橋が落ちることはなかったが、そこに付け込みⅢ突の主砲がⅣ号に命中、撃破判定は出なかったものの、衝撃で華が気絶してしまった。

 

「こうなったら、私が操縦をーー」

 

西住が代わりにと操縦桿に手を伸ばそうとするが、俺はその手を掴んだ。

 

「れ、冷泉さん?」

「君が装填手の持ち場を離れると攻撃が秋山に任せっきりになる。操縦は私がやるから、西住はそのまま装填手をしてくれ。」

「で、でも、冷泉さんは戦車の運転は・・?」

「沙織!!そこにマニュアルがあるな!!それをこちらに寄越してくれ!!」

「ま、麻子が運転するのっ!?そんな無茶な!!」

「やってみなければわからん!!」

「わ、分かったよー!!はい!!」

 

沙織からⅣ号のマニュアルを受け取ると迅速に気絶した華を抱え上げ、通信席に座らせる。

操縦席に座った俺は太ももの上でマニュアルを広げる。ペラペラとページをめくっていくと操縦のページに差し掛かった。

 

「これだな・・・!!」

 

俺はページを凝視する。よし、この程度であれば・・・。

 

「ガンダムよりは簡単なんだ・・・!!やってやるさ。」

「冷泉さん・・・?何か言いました?」

 

俺のつぶやきを西住が聞いていたのか心配そうな視線を向ける。

俺はそれに対し、悟られないように一応、サムズアップをしておく。

 

「Ⅳ号戦車、出るぞ!!準備はいいなっ!!」

 

俺の確認の声を西住達は大きく頷く。それを見た俺はまずⅣ号の体勢を整える。

ワイヤーを擦らないように姿勢を整え、Ⅳ号をまっすぐ正面に向かせる。

 

「おおっ!!流石学園首席!!」

 

沙織が流石といった表情で見つめる。そういうのは終わってからにしてほしい。

操縦席に座ったからか、俺のニュータイプとして感性が鋭くなる。

背後から感じる敵意、今のところはこちらの様子を伺っているようだが・・・。

 

「秋山、Ⅲ突に向けて主砲を回してくれ。」

「え?はい、分かりました。」

 

秋山が俺の言う通りに砲塔をⅢ突に回頭させる。このまま焦って先に撃ってくれるとありがたいのだが・・・。

 

「ほ、砲塔がこっちに向きかけているぜよっ!?」

「カエサル!!撃て!!」

「わ、分かった!!」

 

車長であるエルヴィンに急かされ、Ⅲ突の主砲を発射するカエサル。しかし、焦りからか照準がズレ、放たれた砲弾はⅣ号を通り過ぎる。

 

「今ですっ!!撃ってください!!」

「了解です!!」

 

西住の指示により秋山が放った砲弾は見事、Ⅲ突に命中し、白旗が上がる。

撃破したのだ。Ⅲ突を。

 

「Ⅲ突、撃破しましたっ!!」

「次は八九式を狙ってください!!」

 

秋山は西住に言われた通りに今度は砲塔を八九式に向ける。

八九式はⅢ突がやられたことに驚いて、こちらの状態を掴んでいないようだ。

西住の砲弾の手際も良く、ものの数秒で装填が完了してしまった。流石は経験者だな。無駄がない。前の学校では余程の練習をしてきたのだろう。

 

「やばっ!?前前!!」

「撃つ!?避けるっ!?」

「根性で避けろー!!」

 

八九式は回避行動を取っているが、やはりまだ慣れていないのか覚束ない様子だ。

その八九式に秋山は正確に砲弾を直撃させる。黒い煙をプスプスとあげた八九式から撃破を示す白旗が上がった。

 

「やったーっ!!二両撃破ーっ!!」

 

沙織が体を使って喜びを表現する。一応戦車の中は狭いのだから騒ぐのはやめた方がいいと思うのだがーー

 

ガンッ!!

 

・・・案の定手をぶつけたな・・・。自業自得だが、一応声をかけておくか。

 

「大丈夫か?」

「一つだけ忠告があるよ・・・。死ぬほど痛い・・・。」

 

ぶつけた手を抑え、涙目をしているが、冗談が言えるのであれば問題ないか。俺は少し気になったことがあるため戦車を前進させながら秋山に視線を移す。

 

「そういえば秋山、君は戦車道は初めてだったな?その割には当てられているが、独学か?」

 

そう言うと秋山は恥ずかしそうに視線を逸らした。

 

「そ、そうですね。実は昔から戦車に嵌っていまして・・・。その時に砲撃とかの知識を・・・。ただ、一度戦車の話題になってしまうと止まらなくなりますね。」

「・・・・乗った直後の豹変ぶりもそういうことか?」

 

実はこのバトルロワイヤルが始まった直後に突然秋山が人が変わったかのように

 

「ヒャッホーっ!!サイコウだぜー!!!」

 

と戦車の中で叫んだ。俺もその時は大分驚いた。西住は乾いた笑いをしながらパンツァー・ハイとか言ってたな。

秋山はその時のことを思い出したのか、顔を暗くしながら下を俯いてしまった。

 

「・・・そうですね。このせいでクラスメートに微妙な顔をされてしまうのも度々です・・・。」

「まぁ、普通のクラスならそうなるだろうな。女子がそういった男のような趣味を持つのは稀有だからな。かくいう私もその1人だ。だが、ここは戦車道のクラスだ。1人くらいは話の合う奴はいるはずだ。いないか?話が合いそうな人は。」

 

俺がそういうと秋山は1人の人物を思い浮かべる。

 

「そうですね・・・。先ほどのⅢ突の車長殿なら・・・。名前は確か・・・。」

「エルヴィンか。そういえば、彼女の服装もコスプレなのだろうが、元がなんなのか分からなかったな・・。」

「彼女が被っている帽子はエルヴィン・ロンメル少佐が被っていた帽子でーー」

 

秋山がエルヴィンのコスプレの話を話し始めたところで俺は突然感じた敵意に咄嗟に操縦桿を操作し、思い切りバックした。その直後、Ⅳ号がさっきまでいた場所に砲弾が撃ち込まれた。

突然の加速に西住や沙織も驚いた様子で状況の説明を求める。

 

「ま、麻子ぉっ!?なになにどうしたの!?」

「れ、冷泉さん?もしかしてーー」

「敵戦車だ。しかも搭乗しているのはーー生徒会か。」

 

「ほう。悟られていないと思っていたが、直前で避けたか。それでこそ私のライバルだ。アムロ。」

 

茂みの中から顔を覗かせる38(t)、それには生徒会のメンバーが乗っていた。無論杏も搭乗していた。ただし、車長兼装填手としてだが。

 




切りのいいところ探してたら、短くなってしまったであります・・・。

9/21 秋山さんの口調を改訂しました。


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第7話

「しまった・・・。迂闊だった・・・。」

 

俺は苦い顔をした。38(t)から放たれた砲弾は直前に敵意に気づけたからよかった。だが、避けた先が悪かった。

せっかく橋を渡りかけていたのに先ほどのバックで元に戻してしまった。

つまり現在は橋の真上。これでは避けるにも避けられないぞ・・・。

 

「麻子さん!!早くこの橋を渡りましょう!!このままだと・・・!!」

「分かっている!!次弾まではまだ時間はあるはずだ!!」

 

西住の声になるべく迅速に橋を渡ることで応えようとする。

Ⅳ号が橋を渡ろうと靭帯を動かす。

しかしーー

 

ガクンッ!!

 

突如として起こった揺れに思わず俺はⅣ号を止めてしまう。

 

「な、なんだっ!?今の揺れは!!」

「麻子さん!!38(t)がっ!?」

「しまったっ!?」

 

咄嗟に備え付きの窓をみるとそこには既にこちらに主砲を向けている38(t)の姿があった。

この時、俺は知りもしなったが、後で確認してみるとどうやら華が傷付けた橋のワイヤーが負荷に耐えきれずピンポイントで切れてしまったらしい。

ここまでか・・・・!!

奴に負けるのはとてつもなく癪だが・・・!!

 

38(t)の主砲が火を噴いた。放たれた砲弾はⅣ号に真っ直ぐとーー

 

 

 

進むことはなく見当違いの方向へと着弾した。

Ⅳ号と38(t)の間で沈黙の空気が漂った。

 

「そこで外すのかっ!?」

 

俺は思わずそう叫んでしまった。

 

「ふはははっ!!ここがお前らの死に場所だぁっ!!」

 

杏だ。アクシデントで動きが止まったⅣ号をみて38(t)の砲手である桃が嘲笑とも取れる笑い声をあげる。まだ勝ったわけではないのだがな・・・。

とはいえ、ここに来る途中一年生チームが乗っていたM3は倒しておいた。

ほかの戦車は奴が乗るⅣ号が撃破しているのを見ていたため確かにⅣ号を倒せばこちらの勝ちなのだが・・・。

いかんせん、M3と戦った時に分かった。桃はある意味天才的な技能を持っている。いや、天災か?

砲弾が狙ったところに一切向かわない。むしろどうやっているのか尋ねたいレベルで砲弾が見当違いの方向に吹っ飛ぶ。

M3を撃破した時にも私の指示がなければ当てられなかっただろう。

 

「桃、しっかり照準は合わせているな?」

「はいっ!!見ていて下さい会長!!奴らを倒して、会長に勝利の美酒を捧げましょう!!」

 

本人はすごく意気込んでいるのだが、いかんせん不安しかない。

指示したとはいえ、最終的に撃つのは桃だ。それ故に彼女が何をやらかすか分かったものではない。

そうこうしている間に桃が主砲のトリガーを引いた。放たれた砲弾は、私の不安の通りに照準通りに飛ばず、Ⅳ号に掠めることもなく川に着弾した。

 

38(t)の中で沈黙が続く。

 

「桃ちゃん、ここで外す〜?」

 

小山の呆れとも取れる言葉と共に衝撃が38(t)を襲った。

十中八九、こちらのミスに付け込んでⅣ号が主砲を放ったのだろう。

直撃を受けた38(t)は黒煙を吐きながら白旗をあげる。

私は38(t)の中で軽い笑みを上げた。

 

「ふっ、真の敵は身内にあり、か。よく言ったものだな。」

 

まさか動いていない敵にも当てられないとはな・・・。桃のコントロール性のなさは化け物か?

 

『勝者、Aチーム!!さすがね!!』

 

38tを倒した瞬間、通信機から教官の蝶野亜美の声が響く。

一年生チームのM3とは会わなかったが、おそらく38tが倒していたのだろう。

 

「か、勝ったっ!?」

「そのようだな。一先ずおつかれだな。華は、体調は大丈夫か?」

「はい・・。ですが申し訳ありません。お役に立つことができなくて・・・。」

 

通信席で申し訳なさげに俯く華。

むしろ俺個人としては初心者でありながらよく動かせた方だと思うのだがな。

 

「いや、むしろ君はよくやれていたよ。今回は通った場所が悪かっただけさ。」

「そうでしょうか・・・。」

「西住もそう思わないか?」

 

援護が必要だと考えた俺は西住に話を振った。突然振られたため当然西住は驚くだろうが、やはりここは友人の言葉が頼りになるだろう。

 

「はい。華さんはよく動かせてましたよ!!」

 

西住の笑顔が移るように華もそれを見て笑顔になった。

こうした人の良さが西住の魅力なのかもしれないな。

 

「ですが、私少し考えていたんです。私にはどの役割があっているのかって。」

「操縦手でも別に構わないぞ。」

「いえ、それは冷泉さんの方が適任でしょう。貴方の方が私より断然上手でしたもの。」

「はい!!私も冷泉殿が適任かと!」

 

秋山につられるように西住と沙織も同意の頷きをする。

 

「わ、私か?いいのかそれで。」

「もう、ノリが悪いよ麻子!!そこはもうドーンと引き受けたら?」

「・・・・分かったよ。それで華はどうするんだ?」

 

観念した口調で了承する。そのまま華にどうするかを尋ねた。

 

「はい。私は集中力が取り柄なので、砲手をやりたいですね。」

「でしたら、私が装填手をやりますよ。」

 

俺が尋ねるより先に秋山が譲り、自身で装填手をやると言った。

 

「私はどうしようかな・・・。車長は絶対に向いてないし・・・。」

「なら通信手か?沙織の人付き合いの良さならいけるんじゃないか?」

「・・・・うん。それがいいかも。それじゃあ残っているのは・・・。」

 

そういいながら俺たち4人は西住に視線を向ける。

西住はおろおろした様子で見回す。

 

「わ、私が車長ですかっ!?」

「正直言って君が適任だろう。皆もそう思うだろ?」

 

俺がほかの3人に同意を求めると今度は西住に向けて顔をうなずかせる。

外堀を先に埋められてしまった西住は困りながら、それでいてどこか嬉しそうな顔で頷いた。

 

とりあえず、俺たちの初陣は勝利で飾れたようだ。

 




今回も少しばかり短いですね・・。
そして、どう見たって父親ポジションに落ち着きつつあるアムロ・・・。


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第8話

試合が終わったのち、俺たちⅣ号に乗っていたグループは大洗女子寮の大浴場に来ていた。

立ち込める湯気の中、西住達が湯船の中でお湯に浸かりながら談笑している。

俺か?俺は西住達から少し離れたところでゆったりと浸かっている。女性の会話に俺みたいな中身が年寄りを加えるわけにはいかないからな。

だが、ここの湯船はちょうど頭も乗せられるところもあるから中々気持ちいい。

 

「冷泉殿、隣、いいですか?」

 

リラックスしていたところに秋山が俺が入っていたスペースの隣に入ってきた。

 

「秋山?いいのか、西住達と話してなくて。」

「はい。冷泉殿には聞きたいことがあったので。」

 

聞きたいこと?何かあっただろうか・・・。

そう思っていると、秋山が内容を話し始めた。

 

「その・・・。私の趣味についての話をしていた時、冷泉殿も女の子らしくない趣味を持っていると言っているような節がありましたので・・。」

「ああ、そのことか。」

 

要するに俺の趣味を教えてほしいということか。

まぁ、別段減るものでもない。教えても差し支えはないだろう。

 

「私は機械いじりが趣味でな。とはいえ、ここ最近はからっきしだ。この前、戦車のメンテを行ったのが久しぶりの機会だった。」

「機械いじりですか・・・。それは戦車ですか?」

「あたらずとも遠からず、だな。だが、戦車の仕組みはおおよそわかる。」

 

俺の趣味を話すと秋山は意外そうな顔をする。

まぁ、そうだろうな。ある意味戦車より異質かもしれない。

 

「意外か?」

「い、いえ!!まぁ、珍しいとは思いましたが・・・。」

 

そういいながら、秋山は焦った表情で弁解をする。

多分、俺の気に障ったと思ったのだろう。

別に気に障られたとはおもってないのだがな。

 

「冷泉殿はこっちでお話しとかしないんですか?」

「・・・少しばかり気恥ずかしさを感じてしまってな。」

「気恥ずかしさ・・・ですか?」

「ああ。私自身、かなり大人びてしまっている節があるからな。同世代との交流となるとどうしても一歩引いてしまう。」

 

俺がそういうと秋山はどこか納得した様子を見せる。

 

「こういうのは失礼かもしれないですが、確かに冷泉殿は何というか、父親みたいな感じがありますよね。」

「・・・よりによって父親か。そこは母親とかじゃないのか?」

「いえ、冷泉殿の口調も相まって母親というより完全に父親ですね。」

 

そう言われてしまうとどうしようもないな・・・。視線を逸らし、苦笑いを浮かべながら俺は口調を変えるか否かを考え始めた、がどうあっても口調を変えることはできないと即決した。

 

「麻子ー!!あなたはどうするのーっ!!」

 

向こうから沙織が自分を呼ぶ声がする。しかし、どうすると突然言われても何のことか検討もつかないため表情は疑問符を挙げたままだ。

 

「わ、忘れてました!!実はこのあと買い物に行くのですが、冷泉殿はどうするのかと聞きに来たんでした!!」

「そういうことか。私は別に構わない。行くなら行くとするさ。それとだがーー」

 

俺は秋山の方を向き、湯船を上がるついでにこう告げた。

 

「私のことは麻子呼びで構わない。その方が親しみが湧くだろ?」

 

俺がそういうと秋山は表情を輝かせた。本当に嬉しいのだな。表情を見るだけでそれが分かるレベルだ。

 

「はいっ!!よろしくお願いします!!麻子殿!!」

「殿呼びは抜けないのだな・・・。」

 

風呂で汗を流し、さっぱりした後は全員で買い物へと向かった。

そういえば、何を買うんだ?聞いていなかったな。

 

「そういえば、ここに来て何を買うんだ?」

「戦車に置くものを探してるんだよ。」

 

沙織に聞いたらそんな答えが返ってきた。戦車に置くもの・・・?双眼鏡とかそこら辺の競技で役に立ちそうなものか?

その割には芳香剤とかクッションとか家に置くものばかりまわっている気がするのだが・・・。

沙織は何か良さげなものが見つかると、これでお尻が痛くなくなるとか言っている。

 

「なぁ、西住。まさかとは思うが、沙織は戦車の内装をデコレーションするつもりか?」

「あ、あはは・・・。匂いとかがきついって・・・。」

 

俺が西住に耳打ちすると、西住は乾いた笑いを上げながら頷いた。

 

「・・・・まぁ、内装だけなら問題ないか・・・。」

 

俺と西住は共に苦い笑みを浮かべながら沙織の買い物に付き合っていた。

秋山も微妙な顔をしていたな。

 

次の日、私はバックを担ぎながらグランドへ向かっていた。

 

今日は初めての訓練だ。気を引き締めていかないとな。

そう思いながら戦車庫に向かうと、目を疑うようなものが飛び込んできた。

 

そこには金色にペイントされた38tがそこにあった。陽の光が反射して正直言って眩しい。

その周辺には満足気な生徒会メンバーがいた。俺は思わず杏に話しかけた。

 

「・・・・会長、これは?」

「見ての通りだ、戦車をペイントした。」

「・・・戦車は普通、迷彩色が基本じゃないのか?ほら、向こうで秋山が絶句しているぞ。」

 

俺が指差す先にはワナワナと震えている秋山の姿があった。

 

「そういう君たちのⅣ号も内装を変えているようだが?」

「私達のは外装には手をつけない約束だったからな。しかし、お前にしては珍しいな、金色なんて。いつもは大抵赤だっただろう?」

「先客がいたからな。向こうを見てみるといい。」

 

そう言われ、向けた視線の先には色鮮やかに染色された戦車達があった。

ピンク色に可愛く塗装されたM3、装甲にデカデカと『バレー部復活』の文字が描かれた八九式、そして、赤く染め上げられた装甲に4本ののぼり旗が上がっているⅢ突があった。

 

「・・・・・なんだこれは。」

「それに比べれば、ただ単純に金色にしただけの38tは軽いものだろう。」

「十分に問題だ!!隠密性が皆無じゃないか!!主に!!」

「そう堅苦しく考えるな、麻子。むしろ好きにさせた方が、変に緊張感を持たれるよりはマシだと思わないか?」

 

シャアの言葉に俺は言い淀んだ。まぁ、お前の言うことももっともか。

俺たちは強豪校でもなんでもない寄せ集め集団だ。右も左もわからないまま、全国大会優勝を目指さなければならないおそらく前代未聞の集団だろうな。

むしろこうした方がらしくはなるか。

 

「はぁ・・・わかったよ。」

 

渋々だが、俺も納得をしておくことにした。

 

「よし、これから訓練を開始する!!各員は自身の戦車に搭乗しろっ!!」

 

河島の号令とともに全員が各々の戦車に搭乗する。そんな中、杏だけ38tに乗らずに校舎へと戻っていく姿が見えた。

 

「会長?どこへ行くんだ?」

「私には私の仕事がある。桃には訓練の内容は伝えてあるから彼女の指示に従ってくれ。」

 

杏はそれだけ言うと足早に校舎へと戻っていった。

俺はそれ以上は何も言わずにⅣ号に乗り込んだ。

ああいう口調の時の杏、というかシャアはおそらく上の者としての仕事を行うからだろう。

 

訓練の内容は横、および縦一列での行進や的に向けての砲撃など基本的なものがほとんどであった。

しかし、やはり初心者ばかりなためか、横一列に並べなかったり、隊列を乱したりなど、一朝一夕では行かない課題ばかりが浮き彫りとなる。

砲撃も中々当たらないものがほとんどであったが、西住の指導で華は的に直撃させることができた。持ち前の集中力の高さが功を奏しているのだろう。

 

「よし!!今日はここまで!!」

 

桃の訓練終了の掛け声と共に、ゾロゾロと戦車庫へと戻って行く。

だが、俺は少し考え事をしていて、Ⅳ号を動かしていなかった。

 

「冷泉さん?どうかしました?」

「西住、それと皆。少し自主練に付き合ってもらっていいか?」

 

自主練と言われて、西住達は疑問符をあげるが、すぐに笑顔に変わる。

 

「ええ、いいですよ。少しくらいなら大丈夫です。でも何をするんです?」

 

俺は西住達の了承を聞届けると前を向き、操縦桿を握りしめる。

 

「・・・少し、コイツの限界が知りたくて、な!!」

 

一気にアクセルを吹かし、Ⅳ号の最高速まで速度跳ね上がる。

突然の加速に西住達から驚きの声があがるが、今回はお構いなしでやらせてもらう。

 

「舌を噛むかもしれないから気をつけろよ!!」

「そう言われても無r きゃあーーーっ!!!?」

 

沙織かが悲鳴をあげたのはおそらく俺が戦車でトップスピードのままドリフトしたからだろう。Ⅳ号のキャタピラが曲がるために土煙を上げまくる。

だが、思った以上に滑ってしまい、旋回に時間がかかってしまう。

 

「ちぃっ!!もう少し早く旋回してくれ!!」

 

思わず悪態をついてしまう。他にもジグザグに進んだり、悪路を無理やりトップスピードで走破した。

しかし、やはりというか無茶な動きをしたからか、はたまたⅣ号の経年劣化が激しかったのもあったのかーー

 

 

バツンッ!!

 

何かが切れる音がした。だが察しはついていたため、すぐさまⅣ号を停止させる。

 

「れ、冷泉さん・・・?どうかしましたか?」

 

砲手の座にいた華が俺が急に停止した理由を尋ねてくる。

理由は簡単だ。

 

「履帯が切れた。」

「り、履帯がですかぁ!?」

 

秋山が驚いた表情で外へ出て確認しにいった。

 

「やはりメンテナンスしたとはいえ、長期間放置された状態では厳しかったか・・・。」

「ほ、本当に切れてますぅ!?」

 

だろうな。ほかの乗員は気づいていなかったようだが、俺が操縦している中でも聞こえたんだ。

そういえばさっきから一番文句を言いそうな沙織が静かだな。

 

「沙織、先ほどからだんまりだがどうかしたーー」

 

そう思いながら沙織のいる通信席を見るとそこには顔面蒼白で口を手で塞いでいる沙織の姿があった。

 

「し、死ぬかと思った・・・。」

「・・・・すまない。手荒い操縦をしてしまったようだ。」

「沙織さん、大丈夫ですか?その、戻しそうですか?」

 

西住が心配そうに声をかけると沙織は手で制しながら大丈夫な様子をアピールする。一方で俺には抗議の視線を向けているが。

 

「そ、そこまではいってないから大丈夫。でも、麻子ー、さすがにやりすぎだよ。」

「・・・申し開きのしようもないな。」

 

俺は髪を掻きあげ、謝罪の意識を表す。

それを見た沙織は表情を緩ませる。

 

「まぁ、自主練に付き合うって言ったのは私たちだから私たちにも自己責任ってのがあるし・・・。でも、本当にびっくりしたんだからね!!そこら辺のジェットコースターより怖かったよ!!」

 

沙織に説教されていると、後ろから何かの気配を感じた。

気になった俺は思わず振り向いた。その瞬間。

 

「冷泉センパァーイ!!」

「ごふっ!?」

 

茶髪の弾丸が腹に直撃する。思わず悶えながらもその弾丸を受け止めた。

 

「き、君は・・・阪口、桂利奈、か?」

「わ、私の名前、もう覚えてくれたんですか!?」

 

そう言って、すごーい!!と言いながら無邪気に俺に抱きつく桂利奈に対して、俺は困惑するしかなかった。

 



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第9話

「お、おい。阪口?いきなりどうしたんだ・・・?」

 

突然M3の操縦手、阪口 桂利奈に抱きつかれて、困惑気味な表情を上げてしまう。

どうしたものかと思っているとーー

 

「かっこよかったですっ!!」

 

開口一番、目をキラキラさせてただその一言だけを俺に言ってきた。

かっこよかった?何がだ?なんのことを言っているのか分からん・・・。

 

「冷泉センパーイ!!」

 

そこに息を切らした様子で一年生チームが駆け寄ってくる。

ちょうどよかった。彼女たちに聞くか。

 

「・・・彼女、突然どうしたんだ?」

 

俺がそう聞くと一年生チームのリーダー格、澤 梓が息を整えて理由を述べた。

 

「えっとですね・・・。冷泉先輩の運転を見て、桂利奈が目を輝かせてカッコいいって言って、駆け出しちゃって・・・。私たちは止めようとしたんですけど・・・。」

 

かっこよかったとは俺の操縦のことだったのか・・・。俺自身としてはかなり無茶な操縦をしただけだったのだがな・・・。

 

「冷泉センパイ!!どうやったらさっき見たいに戦車を動かせるんですかっ!?

こう、グワンってやったり、ガッ、ガッって!!」

 

阪口はかなり興奮気味なのか、擬音を交えて俺に先ほどの戦車の動かし方の説明を要求してくる。

教えてやってもいいのだが・・・。いきなり俺がやっていることを教えてもどうしようもあるまい。

とりあえず、やるにしても基本をマスターしてからだな。

 

「とりあえず、まずは基本的なことを覚えた方がいい。教えるにしてもまずはそれからだ。」

「えっ!?いいんですか!?桂利奈のわがままに付き合ってもらっちゃってっ!?」

 

金髪のツインテールに丸眼鏡、驚きの表情を上げているのは、確か『大野 あや』か。

 

「ああ、構わないさ。ただ、現状としては自動車部の面々を呼んできてくれないか?戦車の履帯が切れてしまってな。」

「あいっ!!分かりました!!」

 

桂利奈が元気よく返事すると駆け足で戦車庫へと走っていった。

そんなに早く走るとこけるぞ・・・。

 

「あの、重ね重ねごめんなさい。・・・本当に良かったんですか?桂利奈の指導を受け持って。」

 

一年生チームで比較的身長が高く、ボーイッシュな印象を受ける『山郷 あゆみ』が申し訳気味な表情で語る。

 

「ああ、大野にも言ったが問題ないさ。こちらとして頼られるのに悪い気はしないからな。だからそんなに申し訳なさげな顔はしなくていいぞ。山郷。」

(それに覚えて少しでも戦車を巧みに動かせる奴を増やしていかないと後々厳しいからな)

 

内心そんなことを考えていると山郷が驚いた顔をしていた。

 

「え・・・・。私の名前、覚えてくれたんですか?」

 

その言い草だと、私がまるで覚えられていないような感じだな・・・。

覚えているに決まっているだろう。なぜならーー

 

「仲間だからな。覚えていなければ逆に失礼だろう?当然のことだ。」

「仲間・・・ですか。」

「ああ、期間は短いかもしれないが、仲間であることに変わりはない。」

 

そう言って視線を別の方向に向けるとちょうど運搬用のトラックに自動車部の人物が乗ってやってくるのが見えた。

ここは法律上は私有地だから道路交通法には違反しないのだろうが、果たして高校生が車を運転してもいいのだろうか・・。しかもトラックだぞ?

 

 

「突然の電話、申し訳ない。私は大洗女子学園生徒会長、角谷杏という者です。」

 

杏だ。私は今、生徒会室である人物に電話をかけていた。

 

「この度、大洗女子学園は20年ぶりに戦車道を復活しましてーー」

 

私がそういうと電話の相手は戦車道を復活させたことについて祝いの言葉を述べてきた。

まさか、祝いの言葉を言われるとはな。

 

「つきまして、そちらと戦車道の親善試合を組ませて頂ければと思い、お電話させて頂いた所存であります。」

 

さて、向こうはどうでる・・・?正直に言って厳しいとは思うが・・・。

あまり期待しないでいると向こうからの返答が帰ってきた。

結果は、YESだった。

 

「なんと、受けて頂けると?」

 

驚いたような反応を見せると向こうは受けた勝負は断らない、とのことだ。

 

「ありがとうございます。では日程の方は2日後に。ええ、なにぶん急な日程であるのは承知しています。我々には時間がありませんので。それで試合の内容ですが、5対5の殲滅戦でお願いしたい。」

 

試合内容、そして日程を伝えると、向こうから改めて承諾の返事が帰ってくる。

 

「ありがとうございます。お互いにいい試合を行いましょう。」

 

そういい、電話を切った。電話を終えるとふぅ、と息を吐きながら椅子にもたれかかった。

 

「・・・・まさか、強豪校が受けてくれるとはな・・・。」

 

虚空を見つめながらそう言葉を漏らす。西住たち、というより他の戦車道の履修者に実戦経験を積ませるべく他校との練習試合を画策していた。

正直に言って可能性が低いものであった。今年、復活したばかりの学校との練習試合など、どこが受けてくれるのだと。

だが、これは思わぬ収穫だ。

全国大会の常連校、『聖グロリアーナ女学院』と組めたのだから。

聖グロリアーナ女学院は文字通りのお嬢様学校だ。優雅にお淑やかに紅茶を嗜む貴族風な学校だ。そのレベルは戦車の中で紅茶を嗜むほどらしい。おそらく戦車も履修者も大洗とは比べものにならんだろう。

そして、今私と電話をしていた相手、『ダージリン』はそこの部隊の隊長、かつ戦車の中で紅茶をこぼしたことがないらしい。体幹とか鍛えているのか?

とりあえず、一種の不敗神話を持っているほどの実力者だ。

 

「おそらく、勝てはしないだろう。だが、問題は皆がこの試合をどのように糧にしてくれるかだ。」

 

私は夕日が沈んでいく空をまじまじと見つめていた。

さて、理事長に結果を伝えに行くとしよう。

 

 

夕日が沈み、街灯が点き始めた。時刻はおおよそ6時。

俺は人の気配があまりしない学校の中を歩いていた。

 

ただいつもと違うのは手にケーキの入った箱を持っていたことだ。

このケーキは今回迷惑をかけた自動車部への詫びの品だ。杏曰く、自動車部も女子しかいないようでとりあえず、甘い物を持っていくことにした。

それにこれは俺が勝手にやっていることだ。俺は足を止め、一つため息を吐いた。そして、後ろにいるであろう人物に声をかけた。

 

「西住、尾行するならもう少し上手にしろ。丸わかりだぞ。」

 

後ろの電柱に隠しきれていない体をビクリと震わせながら西住が出てくる。

 

「わ、分かってたんですか・・・?」

「割と始めからだな。付いてくるなら素直に言えばいいものを・・・。」

「え、えへへへ・・・。」

 

西住がバレていたのを恥ずかしがるように顔を軽く赤らめる。

 

「それに君まで来ることはないと思うのだが?あれは私がやらかしたことだ。」

「私はⅣ号の車長ですから。」

 

・・・なるほど。付いて来るのは当然、ということか。責任感の強い奴だ。

 

「分かったよ。」

 

そう一言言うと西住が小走りで俺の隣に並ぶ。

そして2人揃って自動車部が整備しているであろう戦車庫へと向かう。

 

戦車庫まで来ると幸いまだ整備を行っているようで中の電気が点いていた。

巨大な鉄扉を開けると切れた履帯を直している自動車部の姿が見えた。

 

「んー?誰・・・?って、あんたらか。」

 

いの一番に俺たちが入ってきたのに気づいたのは程よく焼けた褐色肌にタンクトップがトレードマークの、ホシノか。確か。

 

「すまない。私のせいで苦労をかけたな。」

「そ、その、壊してしまってごめんなさい!!」

 

軽く謝る俺に対して、思いっきり頭を下げて謝る西住。それを見た俺もつられるように頭を下げた。

 

「気にすんなって。むしろあんた、いい走りっぷりだったぜ。どうよ、今からでもうちに入ってレースでも出て見ないか?」

 

まさか、怒られると思っていたのに逆に誘われるとはな。俺と西住は揃って呆気に取られた顔をしているだろう。

だが、俺にはやることがあるからな。

 

「悪いな。私には戦車道でやり遂げなければならないことがあるからな。」

「そっかー。んー残念。それで、今回どうしたんだい?」

 

ホシノにそう問われた俺は手に持っていたケーキの箱をホシノに手渡す。

 

「今回の詫びと修理の礼だ。君たちの好みが分からなかったから適当なのを選んだが、味は保証する。」

「マジでっ!?よっしゃあ!!ナカジマさーん!!ケーキのおすそ分けだよー!!」

 

ホシノのはしゃぐ声に気づいたのか、自動車部の面々がⅣ号の様々な部分から顔を出す。

 

「んー?ケーキの差し入れー?一体誰・・・って、君たちかー。ありがとね。」

 

Ⅳ号のキューポラから顔を覗かせているナカジマがこちらに笑顔を向ける。

 

「礼を言うのはこちらの方だ。手を煩わせてしまって悪いな。」

「いいっていいってー。むしろこっちも直しがいがあるってものだよ。」

「そういえば、なぜⅣ号の中を?履帯を直すだけじゃないのか?」

 

そういうとナカジマはうーん、と唸るような声をあげた。

 

「なんていうか・・・。コイツが君についていけてないって言うのかなぁ・・・。なんかそんな感じがしてね。なるべくⅣ号の反応が上がるように中も少しいじってるんだ。」

 

女の、いや技術者としての勘か。凄いな、そういったことができるということは彼女は技術者としてかなり腕が立つのだろう。

 

「そうか・・・。何から何まですまないな。」

 

俺はナカジマに対して礼を言ったのち西住は連れて戦車庫を後にした。

その際ナカジマたちが手を振っているのが見えたため、一応、返しておいた。

 

「ふぅ、怒られるのを覚悟していたのにまさか逆に誘われるとはな・・・。」

「あ、あはは・・・。本当にまさかでしたね・・・。」

 

帰り道、微妙に空を照らしていた夕日も今もうすっかり沈み、家々の明かりが暖かさを感じさせる。

 

お互い話すことがないのか、無言で歩いているとふと、西住がポツリとこぼした。

 

「あの・・・。冷泉さん・・・。」

「ん?どうしたんだそんな小さい声で。」

 

思った以上に細々とした声だったが、近かったため聞き取れたため返答したが、西住は聞こえているとは思ってなかったのか、驚いた顔で俺を見た。

 

「ふぇっ!?き、聞こえてました!?」

「あ、ああ。聞こえてたが・・・。」

 

まさかそんなに驚かれるとは思ってなかったため、俺自身も言葉を若干詰まらせてしまう。

 

「その、もし失礼だと感じさせたらごめんなさい。」

「いきなりどうしたんだ?」

 

西住が前置きと言わんばかりの言い方で謝ってきた。

俺は怪訝な顔をせざるを得なかった。

 

「冷泉さんは練習の時全力を出されてますか?」

 

西住の質問に俺は思わず顔を強張らせざるを得なかった。

 



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第10話

「冷泉さんは練習の時、全力を出してますか?」

 

そう西住に問われた俺は思わず顔を強張らせる。

まさか、加減しているのが悟られるとは思いもよらなかった。

 

「全力、か。出すには出しているが・・・。私が練習の時にサボっていると言いたいのか?」

 

若干怒気の含んだ視線で西住を見つめると西住は目を白黒させて、慌てた様子を見せる。

まぁ、西住がすでに失礼だったら、と先に言っていたからそれほど怒りはなかったがな。

 

「そ、その、冷泉さん、履帯が切れた音に秋山さんや華さんは気づいていなかったのに冷泉さんは気づいていたので、ある程度余裕があったのかなぁ・・って思って・・。」

 

・・・正直言って、西住の言う通り余裕は十分にあった。だが、MSでの戦闘を続けてきてしまった俺は逆に戦車の動くスピードに合わないようになってしまった。

 

「・・・たまたま切れた箇所の近くにいたからだ。余裕はそんなにないし、Ⅳ号に合わせるのがやっとさ。」

 

・・・嘘は言ってないよな?とはいえ、俺自身の素性を明かしてもどうとなるわけでもない。むしろ余計に混乱させるだけだ。ここは言わないのが最善だろう。

 

「ですが、あの戦車の動かし方は初心者ではとても・・・。どこかで戦車道をやってたんですか?」

「いや、全くの初心者だ。構造は知っているが、動かしたのは初めてだ。」

「そ、そうですか・・・。ごめんなさい。こんなことを聞いてしまって。」

 

あまり納得はしていないといった表情だな・・・。

俺のこんな答え方では納得しろというのも無理だろうな。戦車道をやっていた西住ならなおさらだ。

 

そうこうしている間に家の近くまで来てしまった。

 

「私はこっちなんだ。西住は?」

「えっと、私はもう少し向こうですね。」

「そうか。なら、また明日だな。明日もよろしく頼むよ。」

 

そういい、俺は少しばかり早歩きで家へと向かった。

 

 

 

 

冷泉さんを見送った後も私は考え事をしていた。

 

「うーん、やっぱりあの戦車の動かし方・・・。初めての人には難しいと思うんだけどなー。」

 

冷泉さんの操縦技術は純粋に凄いって感じた。悪路を猛スピードで走ると車体の制御が難しいのに、いとも簡単に暴れる戦車を御してみせた。

正直に言って今まで会ってきた操縦手の中で群を抜くレベル、それも私が去年いた黒森峰よりも凄い。

 

でも、そのレベルまで達しているのなら絶対一度は聞いたことがあるはず。なのにーー

 

「一度も聞いたことないんだよね・・・。冷泉さんの名前・・・。」

 

冷泉さんのことを考えていると、さながら自分が迷宮に迷い込んだような感覚になる。まるで、答えなどそこにはないと言われているみたいにーー

 

ガンッ!!

 

「きゃうっ!?」

 

考え事に耽っていると電柱に頭をぶつけてしまった。ううっ・・・すごく痛い・・・。

 

「・・・考えていても仕方ないか・・・。」

 

頭をさすりながら家の前まで辿り着く。どんな事情があるかは知らないけど、冷泉さんは同じ仲間だ。あまり疑うようなことはしたくない。

 

「もしかしたら、本当に初心者かもしれないしね。」

 

そんなことを言いながら家の鍵を開け、誰もいない自分の部屋に戻った。

 

 

 

 

次の日、いつも通りに戦車道の授業を終えると、桂利奈がパタパタと近づいてきた。おそらく指導をもらいにきたのだろう。

 

「どうだ?戦車の動かし方は覚えられたか?」

 

そう聞くと桂利奈は顔を縦に振った。やるじゃないか。そう思っていたが、桂利奈の表情は沈んだ顔になる。俺が理由を尋ねるとーー

 

「頭では分かっているんだけど、本番になるとなんかこんがらがっちゃって・・・。」

 

なるほど、よくある体がついていかなくなるパターンか。

 

「そういう時はあまり焦らないことを意識した方がいい。落ち着き、そして自分が出来ることをやっていけばいい。」

「焦らないこと・・・?」

「ああ。試合とかだと状況が目まぐるしく変わる時がある。そんな時にいちいち焦っているようでは相手のいい的だからな。落ち着いて自分が何を成すべきか考えるんだ。」

「うん!!分かった!!ありがとー!!」

 

ちょうど切りの良かったところでなぜか河島の集合の声が響く。

何かあったのか?俺は西住達や桂利奈と共に集合場所に集まった。

そこには杏の姿もあった。

皆が集まったのを確認するように杏が視線を回すと、口を開いた。

 

「突然のことで申し訳ないが、明日親善試合を行うこととなった。」

 

全員の間で驚きの声が上がる。急、というのもあるのだろうが、意外性の方もかなり高いだろう。俺自身、試合を組ませてもらえるところがあるとは思ってなかったからな。それで、肝心の相手はどこなんだ?

 

「相手は、全国大会の常連校、聖グロリアーナ女学院だ。」

 

聖グロリアーナ女学院?俺は戦車道には詳しくないからどう言った学校なのかは知らないが、全国大会の常連校!?

 

「初戦の相手にしては豪勢すぎるな・・・。」

 

俺は思わず苦笑いをしていた。まさか、俺たちの初陣が全国大会の常連校になるとは・・・。

 

「集合時間は朝の6時だ。遅れることのないように頼む。それでは解散だ。」

 

杏が最後に言った言葉に俺はしばらく表情を固めてしまった。

待て・・・。アイツは今6時と言ったのか?不味い・・・。かなり不味い。

俺の低血圧は伊達ではないというのに・・・!!なぜその時間に指定した、シャア!!

だが、指定されてしまった以上は仕方ない。どうにか打開策を見つけるしかない。

どうする・・・?どうする・・・!?

打開策を模索しているうちに俺はあることに気づいてしまった。

集合時間が6時ということは起床時間はそれよりもっと早い5時ほどにしなければならないのではないのかと。

俺は戦車庫の壁に手をついて、軽く絶望しかけていた。

 

「あ、あの・・・冷泉さん・・・?」

 

西住達が不安気な視線で俺を見つめる。沙織は俺が項垂れている理由を察しているのか、苦笑いをしている。

 

「沙織、私は君にとてつもなく情けない頼みをするんだが、聞いてくれるか?」

「あー・・・うん。いいよ。わからないわけじゃないし・・。」

「そうか・・・。手段は問わないから、私をどうにか叩き起こしてくれ。」

 

その時、沙織がしていた『デスヨネー』と言っているような顔を俺は忘れることはないだろう。

 

 

 

 

杏だ。練習の後、各戦車長を集めて、明日の試合についての話し合いをする。

 

「始める前にだが、急な試合を組んでしまったことは皆に謝らなければならない。申し訳ない。今回の試合における作戦だが、桃に一任してある。頼めるか、桃。」

「はいっ!!任せてください!!」

 

桃が気合の入った表情を浮かべ、自身作戦の説明をしながらホワイトボードに書き込んでいく。

内容は単純に囮を使ってこちらのキルゾーンに誘い込み、一網打尽にする作戦だ。初心者の者にもわかりやすく、短期決戦を望むのであれば悪くない作戦だ。

エルヴィンや磯部といった面々はイケるといった賞賛の表情を上げており、立案者の桃は鼻が高いといった感じだ。だが、その作戦は同レベルでの試合を行った場合で成功するだろう。その高くなった鼻を折るようで申し訳ないが正直言って、成功するビジョンが見えんのが現実だ。

相手は全国大会の常連校、聖グロリアーナ女学院だ。この程度の作戦は楽に看破してくるだろう。やってもいいが、何か別のプランを考える必要がある。西住も私と同じ感想を抱いているのか、微妙そうな顔をしている。

 

「ん?西住、何か言いたげな顔をしているが・・・。まさか、私の作戦にケチをつける気かっ!?」

 

・・・桃の奴・・・。あれほど高圧的な態度はやめておけと言ったのに・・・。

おかげで西住が怖がっているではないか。

 

「西住くん。君が思うことを言ってもらって構わない。おそらく私も君と同意見だからな。」

 

私が促すと西住が作戦についての欠点を上げ始めた。

おおよそ、私が思ったことと同じことだった。私は納得した顔をしていたが、肝心の桃はケチをつけられた怒りからか、顔を真っ赤にして金切り声をあげる。

 

「ならお前達のⅣ号が囮をしろっ!!」

 

おい、その言い方は流石にどうかと思うのだが・・・。だが、Ⅳ号に囮を任せるのはいいかもしれない。Ⅳ号には麻子、というかアムロがいるからな。囮が途中でやられては元も子もない。奴の腕はこの上なく信頼できる。

 

「西住くん、私からもⅣ号に囮をお願いしたい。囮がキルゾーンに辿り着く前にやられては意味がないからな。」

「・・・分かりました。」

「それと、試合中の全体指揮は君に一任する。好きに我々を動かしてくれて構わない。」

「ええっ!?いいんですか!?私なんかでっ!?」

 

一転して西住は驚いた表情で目を丸くする。私がやってもいいかもしれないが、戦車に関しては全くの初心者だ。ならば、戦車道をやっていた西住の方が適任だろう。

各戦車長も納得といった表情をしている。これなら問題はないだろう。

 

「では、各員は解散だ。明日は朝早いからな。夜遅くまで練習して遅刻することがないようにな。」

 

そういい、私は磯部に視線を向ける。向けられた磯部は逃げるように視線を逸らした。噂だが、バレー部が夜遅くまで練習しているというからな。釘は刺させてもらおう。

 

 

 

 

 

「ほらー!!麻子ー!!起きなさーい!!」

「ううっ・・・ぐっ・・・おおっ・・・!!」

 

開かれたカーテンから差し込む日の出直後の光が自分を照らす。正直言って、眩しすぎて若干憂鬱になる。

試合当日、時刻はおよそ5時、眠気に抗いながらぼーっとする頭でなんとか布団から這い出る。沙織は俺を起こすためにそれより前に起きているのだからな。迷惑をかけるわけには行かない。しかし、よく起きれるな・・・。沙織のやつ。

 

「眠い・・・。」

「ほらシャキッとする!!」

 

スパンと背中を叩かれ、思わずうめき声を上げてしまう。

 

「お前は私の母親か・・・。」

「自分でお願いしたんだから、少しは頑張りなさいよ。」

「うぐっ・・・。」

 

言い返せずに覚束ない足取りで自宅の洗面所へと辿り着く。

歯磨きと洗顔を済ますと制服に袖を通す。・・・・ボタンを掛け違えた。

頭が回らないとろくなことにならないな・・・。

そういいながら、掛け違えたボタンを直そうとするとーー

 

パパパーーー!!

 

外から突然、ラッパのような音が響く。俺も特に外に意識を向けてなかったため不意をつかれた形で思わず体をビクつかせる。

 

「な、なんだっ!?」

 

音のした方向を振り向くとそこには秋山がいた。彼女の手にはラッパが握られていたため、先ほどのラッパは彼女が吹いたものだろう。

 

「おはようございます!!麻子殿!!」

「あ、ああ・・・。おはよう・・。」

 

眠気など知ったことかという声の大きさで秋山が軍隊式の敬礼をする。

元気だな・・・。なぜそんなに朝早くから元気でいられるんだ・・・。

そして、ほどなくして地面が揺れる感覚が起き始める。

 

「え、な、何これっ!?」

 

沙織が驚いた様子で辺りを見回す。だんだんと揺れが大きくなってくると、秋山の背後にそれの正体が現れた。

 

「Ⅳ号っ!?みぽりんそれで来ちゃったの!?」

「そのようだ・・・。全く、私1人のためによくもそこまで・・・。」

 

私が困り顔でいると、Ⅳ号のキューポラから西住が顔を出す。

 

「こうした方が時間短縮になりますので。冷泉さん、早く乗ってくださいー!」

 

西住が手を振っているのをみて、俺と沙織は駆け足でⅣ号に向かう。その時、操縦席から不安気な顔で覗かせている華の姿が目に入る。

 

「華?どうかしたか?」

「その・・・。Ⅳ号がこの前動かした時と比べてとてつもなく敏感になっていて・・・。冷泉さん、代わっていただけますか?」

 

自動車部の人たちは一体どういう改造を施したんだ・・・。

訝しげな視線を浮かべながら華から操縦桿をもらい、狭い路地の中を進む。

・・・なるほど、前回より反応は良くはなったがもう一押しだな。

だが、これだけでも自動車部には感謝しなければならないな。

またケーキを買っていくか・・・。

 

住民達が路地を行くⅣ号をみて懐かしいという声をあげる。

・・・みんな凄い戦車道に関して寛容だな・・・。普通は地響きとかで驚いたりしないのか?

 

そうこうしているうちに大洗女子学園艦の隣に巨体が停まっているのが見えた。

大洗学園艦より倍近くの巨体を見せつけるようにしているのは今回の試合相手、聖グロリアーナ女学院だ。

・・・俺たちの初陣がこれほどの規模を誇る相手とはな・・・。やれることをやるしかあるまい。

 



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第11話

「・・・凄い大きさだ。全国大会常連校の名だけはある。」

「麻子か。時間通りに起きた。いや起こされたようだな。」

 

試合会場にて、俺は杏とともに遠くに見える聖グロリアーナ女学院の学園艦を見つめていた。

 

「言うな。情けないが、自分ではどうすることもできん。現状、眠気が未だ収まらん。」

「・・・頼むから試合中に寝るなどという珍事はやめてほしいのだが・・・。」

「・・・試合になれば、いやでも起きてるさ。」

 

試合会場の観客席には20年ぶりの戦車道の試合ということで大洗の人々がたくさん来ていた。

 

「・・・これは・・・中々負けられない戦いだ。」

 

俺は観客席をみてそう呟いた。人に見られる戦いというのは初めての感覚に俺の心はまだ挙動不審を起こしているようだ。

 

「アムロ、これは戦いではなく試合だ。そう気を張りつめずに気楽に行くといい。」

「そうは言われてもだがな・・・。お前はこの試合、どう見ている?」

「はっきり言って、厳しいの一言に尽きるな。」

「私も同じだ・・・。やれるだけやるが、私達が頑張っても周りが頑張ってくれなければ意味がないぞ?」

「なに、何も勝負の勝ち負けが今回の目標ではないからな。私はどちらかというと勝ち負けに拘らず、糧にしてくれることを期待しているからな。」

「糧・・・か。試合から何を学ぶことか。」

「そういうことだ。」

 

その時、選手整列を知らせる合図が打ち上がった。始まるのか・・・。俺たちの初陣が。

 

「時間だな。行くぞ。」

「ああ。わかった。」

 

 

大洗、聖グロリアーナ、両チーム5輌が出揃った。

大洗の色鮮やかな戦車五輌に対して、聖グロリアーナは秋山の知識曰く、『マチルダⅡ』と呼ばれる薄い茶色のような色合いをしている戦車が四輌、深緑色の先述のマチルダより重厚な装甲を持っているように感じる『チャーチル』が一輌。

おそらくこいつが聖グロリアーナの隊長の戦車だろう。

というか、やはり戦車は普通目立たない色だろうな・・・。

 

「中々、ユニークな戦車ですわね。」

 

・・・向こうの隊長も笑ってしまっているぞ・・・。

 

「急な試合のお願いにもかかわらず、感謝する。」

「私達は受けた勝負は断らないので。」

 

そういい、相手の隊長と杏は握手を交わしていた。

なるほど、この前練習に参加していなかったのは向こうの隊長と連絡を取っていたからか。

 

『それではこれより、大洗女子学園vs聖グロリアーナ女学院の試合を行います!!』

 

戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

さて、我々大洗と聖グロリアーナ女学院の試合が始まったのだが、

どうやら俺たちⅣ号は囮となって敵を指定ポイントまで誘導する役割らしい。

その役目を果たすべく、高所から偵察を行い、聖グロリアーナの動向を探っている。

いるのだが・・・・。

 

「・・・・眠い。」

 

天候は雲一つない快晴。先ほどは恨めしいと思った太陽も今は暖かな光を降り注いでいる。そんな暖かな光を浴びてしまうと低血圧の眠気も相まって、無性に眠くなる。

とはいえシャアに寝るなと念を押されてしまっている以上、そうウカウカと寝る訳にはいかないため、気合、バレー部的に言うと根性で耐える。

 

「ちょっと、麻子ー?寝ちゃダメだからねー?」

「あぁ。分かっている・・・。」

 

沙織に釘を刺されていると偵察に出ていた西住と秋山が駆け足で戻ってくるのが見えた。戻ってきたということはーー

 

「敵か?」

「はいっ!!冷泉さん、準備を!」

「了解した。エンジンはどうする?普通に動かして問題ないか?」

「エンジンはなるべく音を立てずに動かしてください!!」

 

戦車に乗りながら西住が俺に指示を飛ばす。

Ⅳ号を静かに動かしていくとちょうど荒野を聖グロリアーナ女学院の戦車が行進しているのが見えた。その様子は整然としていてズレといった隊列の乱れも見られない。一目で相手の練度が分かってしまうほどであった。

 

「流石は全国大会常連校、隊列にも乱れはない。相当な修練を積んでいる。」

「そ、そんな一目でわかっちゃうものなの?」

「嫌でもわかってしまうものさ。一見、簡単にこなしているように見えるが、それこそ強さの表れだ。我々だってしっかり並んで行進することすらままならないだろ?」

 

俺がそういうと沙織は苦い顔を浮かべる。やはり簡単そうに見えてもいざやってみると難しいものだ。

 

「つまりはそういうことだ。私達と相手の差は歴然。だが、その程度で勝ち負けが決まるわけではない。そうだな?西住。」

 

俺が西住に視線を向けると、西住は大きく頷いた。

 

「はい。まずは私達が囮となって相手をキルゾーンに誘い込みます。華さん、砲撃準備!!」

「はいっ!!」

 

華が先頭のチャーチルに向けて、照準を合わせる。戦車の砲撃において『シュトリヒ』という特殊な単位を使うらしい。華は西住からその計算方法を教えてもらったのか、そのシュトリヒを考えながら照準器を合わす。

 

そして、華がトリガーを引いた。

轟音と共に放たれた砲弾は弧を描きながら飛んでいく。

しかし、狙ったチャーチルに当たることはなく、近くの地面を抉るだけだった。

 

「あっ・・・・。外してしまいました・・・。」

「私たちの今の役割は囮だ。そこまで気にすることはないさ。」

 

華の砲撃によりこちらの存在に気づいたのかチャーチル、およびマチルダ全輌がこちらに向けて回頭を行なっていた。

 

「こちらに気づいた!!始めるぞ、西住!!」

「はい!冷泉さんは向こうが離れすぎないように速度を調整して進んでください。」

 

西住に言われた通り、聖グロリアーナの戦車群と近すぎず離れすぎずの距離を保つ。

無論それなりの距離しか離れていないためチャーチル、マチルダから砲撃が飛んでくるがそれはジグザグに進むことで的を絞らせない。

 

「西住、指定ポイントまではあとどれくらいだ?」

「あと3分ほどです。頑張ってください!!」

「分かった!」

(シャア・・・うまくまとめろよ・・・!!)

 

 

 

「あと3分程でⅣ号がやってくる。各員は戦車に搭乗しろ。」

 

Ⅳ号からの報告を受け、戦車に乗るよう指示を飛ばすと主に一年生から残念がる声が上がる。トランプで大富豪をやっていたからおそらく中々切りが悪かったのだろう。だが、そこは車長である澤が急かすことで何とかなった。

私も38tに搭乗し、囮であるⅣ号を待つ。ただ・・・一つ懸念がある。

 

「桃。そこまで肩肘を張る必要はない。自然体を意識できないか?」

 

砲手である桃の緊張の度合いがいかんせん気掛かりだ。桃が砲手をやってみたいというからやらせているのだが・・・。

表情は強張り、緊張している様子で既に汗も垂れてきている。

 

「だ、だだだ大丈夫ですすすっ!!かっかか会長っ!!私がこの手で敵を、やりますからっ!!」

 

・・・不安しかない。

 

すると、岩陰からⅣ号が現れた。と、いうことは聖グロリアーナの戦車も後ろにいるのだろう。各戦車に砲撃準備を伝えようとするとーー

 

「来たっ!!撃てっ、撃てっ!!」

「「桃(ちゃん)っ!?」」

 

緊張のあまりⅣ号を敵と誤認したのだろうか。桃がⅣ号がキルゾーンに入ってきたやいなや思いっきりトリガーを引いてⅣ号に砲撃を始める。

 

「桃!!砲撃を中止しろ!!あれは味方だっ!!」

「撃て撃て撃て撃ちまくれーっ!!!」

 

制止の声を上げるが、桃は錯乱しているかのようにまるで私の言葉を聞こうともしない。さらにまずいことに聖グロリアーナの戦車もこちらの射程圏内に入っていた。

 

「ええいっ。完全な作戦にもならんとは・・!!」

 

思わず歯噛みをするしかなかった。桃を責めるつもりはないが、完全に作戦は総崩れだ。

仕方ない。まずは立て直すことを最優先としよう。

 

「桃。悪く思わないでほしい。」

 

私は桃の首筋に当て身を放つ。極度の緊張状態だったのも幸いして、桃は簡単に落ちた。

 

『会長、どうかしましたか?』

 

通信機から西住の落ち着いた声が聞こえる。一歩間違えればフレンドリーファイアは免れなかったのに叱責の一つもないとは、正直言って有難い。ひとまず状況説明だ。

 

「すまない。こちらのミスだ。桃が緊張のあまり錯乱状態に陥ってしまった。」

『さ、錯乱状態っ!?それで河島先輩は・・・?』

「止むを得ず、気絶してもらった。それで、どうするんだ?完全にこちらの作戦は総崩れになってしまったが。」

『まだ有利がなくなったわけではありません。作戦通りに砲撃を行ってください。それと出来るだけ履帯を狙ってください。』

「了解した。」

 

西住との通信を終えると各戦車に通達を送る。

 

「各戦車、このまま引き続き砲撃を行え。狙いは戦車の履帯だ。よく狙ってくれ。」

 

そういうと各戦車から砲弾が飛ぶ。桃が錯乱して乱射してしまった時、釣られてⅣ号を撃たなかったのは不幸中の幸いだった。

しかし、やはり付け焼き刃ではそう簡単にはいかないのか、各戦車の砲弾はことごとく外れてしまう。

 

「か、会長、私達も何かしら撃たないと・・・。」

「小山はそのまま操縦に集中してくれ。砲撃は私がやる。」

「えっ!?会長がっ!?」

 

驚く小山を置いて、砲弾を装填する。砲弾自体は重いが、持てないわけではない。

装填が完了すると、照準を操作する。見よう見まねだが、やってみるしかあるまい。

 

「・・・狙いは履帯だったか。」

 

感覚を研ぎ澄まし、精神を集中させる。

向こうの戦車の機動を予測するとーー

 

「そこかっ!!直撃させるっ!!」

 

トリガーを引く。爆発と共に放たれた砲弾は寸分狂いなく、一機のマチルダの履帯に直撃した。履帯を破壊されたマチルダは動くことが出来ずに隊列から落伍する。

 

「今だ!!隊列から外れたマチルダを狙え!!」

 

通信機にそう指示を飛ばすと各戦車の砲撃が動けないマチルダに集中する。

各戦車の主砲の威力はそれほどでもないが、複数回当たるとさすがに辛いものがあったのか装甲が黒く燻んだマチルダから白旗が上がる。何とか撃破したようだ。

 

 

 

『申し訳ありません!マチルダⅡ撃破されてしまいました!!』

 

通信機から聞こえてくる撃破された報告を聞きながら紅茶を啜る。

まさか、先ほどまで狂ったかのように乱射していたというのに急に精度を上げ、さらにこちらが先に1輌撃破されるとは。

 

「あの38t。砲手が落ち着きを取り戻したか、それとも、砲手自体を変えたか・・・。」

 

今は考えることではありませんわね。1輌撃破されたとはいえ、そのようなことで焦っては聖グロの名が泣きますわ。それにこの程度の策を見抜けない私ではありません。

 

「各戦車、砲撃を開始して。」

 

さて、どう足掻くか、見ものですわね。

 

 

 

聖グロリアーナの戦車から飛んでくる砲弾は正直言って正確だった。

高いところにいなくちゃすぐにやられていたと思う。さっきは会長の指示で1こはなんとか倒せたけど、動いている戦車には中々当てられなくて、こっちの見えないところ、つまり足元まで入られてしまった。

 

「ど、どうしよう・・・。相手に懐まで入られちゃったよ・・・。」

 

砲手をやっているあゆみが不安気な声を挙げている。

手も怖いのか震えているようにも見える。

 

「私、戦車道がこんなに怖いなんて思わなかった・・・。」

 

もう1人の砲手をやっているあやも声にいつもみたいな元気がない。

みんなも顔が沈んでいて、いつも遊んでいる時みたいに元気じゃない。

 

「あ、隊長のⅣ号だ・・・。」

 

梓がそんなことを呟いたため操縦席から覗ける穴を見るとちょうどⅣ号が坂を登りきったところだった。でも、安心したのもつかの間。

 

「うわぁ・・相手の戦車だぁっ!?」

 

あゆみの悲鳴とも取れる報告と一緒に坂道を登りきった敵の戦車が砲弾を撃ってくる。運が良かったのか、砲弾が私達の戦車に当たることはなかった。

でも砲弾が地面に当たった衝撃と次は当たるかもという憶測が恐怖心を煽る。

 

「わ、私もう無理・・!!逃げる!!」

「わ、私もっ!!」

 

あゆみとあやが限界と行ったような声を上げて、外に出ようとする。みんなも、いや梓はどっちかというと止めようとしたのかな?でもみんな外に出ようとしてた。でも、でもわたしには、そんな気持ちは湧かなかった。だからかな?

 

「わたし、逃げないよ。」

 

こんな声が出たのは。みんながわたしに向けてキョトンとした顔を挙げる。

 

「に、逃げないの?桂利奈?怖くないの?」

 

あゆみが涙声で尋ねてくる。怖いって言われたら、確かに怖いよ。当てられたらどんな衝撃が来るか分かんないし。いつも見ている特撮で戦車が出てきて、やられるシーン見たいに吹っ飛んで、怪我しちゃうかもしれない。

でもーー

 

「冷泉センパイの方がもっと怖い思いをしてたと思うから。」

 

だって、相手の5輌全部から砲撃を受けていたんだよ?囮だったとはいえ怖かったに決まっていると思う。

それにここで逃げちゃうってことはーー

 

「私はあんまり仲間を見捨てるなんてことはしたくない。」

 

私は恐怖に震える手を抑えるために操縦桿を握りしめる。でも震える手は止まらなかった。あはは・・・、やっぱり怖いや・・・。

 

そんな手に誰かが手を乗っけてくれた。

驚いて振り向くとそこには口角をほんの少しだけ上げて、薄く笑みを浮かべている紗希の姿があった。いつも無口であまり表情を浮かべることのない紗希が笑った。

 

「・・・・私、もう少し頑張る。」

 

いの一番に逃げ出しそうになっていたあゆみが赤くなった目をこすりながら砲手の席に戻る。

 

「ここでにげちゃったら、仲間だって言ってくれた冷泉センパイに顔向けできない・・・!!」

 

意を決したという表情で取手に手をかける。

 

『こちらⅣ号です。各戦車、状況を報告してください。』

『こちら八九式!!なんとか無事です!!』

『Ⅲ突だ。問題ない。指示を頼む。』

『38tだ。すまないが、履帯が外れた。我々のことは気にせず行動に移してくれ。』

『M3、M3。状況を知らせて。』

 

隊長機であるⅣ号から通信が飛んでくる。

梓は通信機を手に取って嬉しそうな口調で返した。

 

「こちらM3!!なんとか無事です!!隊長、お願いします!!」

 

 

 




・・・・あれ?これ。ワンチャン勝っちゃう?
どうしよう、士気が妙に高い・・・


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第12話

聖グロリアーナの反撃をなんとか切り抜けた俺たちは市街地へと向かっていた。だが、シャアの乗っている38tに履帯が外れるというアクシデントが起こってしまい、さっきの待ち伏せしたところに取り残された。

まぁ、撃破報告が上がっていないからおそらく運良く聖グロリアーナから見逃されたと思うのだが・・・。

だが、履帯が元に戻せるまで38tは戦力として換算することはできない。

だから実質、4対4の互角と言ったところだ。現状はな。

 

「西住、これからどうするんだ?」

 

Ⅳ号を走らせながら、俺は西住にこれからの動向を尋ねる。

 

「今のところは4対4で数の上では相手と互角です。ですが、向こうとの練度の差はやっぱり無視できないものが多いです。」

 

だろうな。むしろ、あそこで一つも脱落者が出なかったのはまさに奇跡だ。

それに西住の言う通り、練度の差も否めない。これはもうどうしようもない。

 

「となると、相手の練度との差が浮き彫りにならない方法を取るか?例えば、ゲリラ戦による奇襲とかはどうだ。」

 

俺がそういうと西住は頷いた。どうやら同じことを考えていたようだ。

 

「はい。そのつもりです。ここは大洗の市街地です。地の利もこちらにあるはずです。」

 

西住は各戦車に通信機で作戦の意向を伝える。西住の指示を受けた各戦車は大洗の市街地に散開していった。ただ火力面を考慮して八九式は一年生チームのM3と行動を同じにしていたが。八九式は火力に難がありすぎるからな・・・。

 

「これより、『もっとこそこそ作戦』を開始します。」

「さて、相手はどうでる・・・?」

 

俺は操縦に集中しながら、後ろの聖グロリアーナにも意識を向けていた。

というか、作戦名がすごく可愛らしいな。『もっと』ということはさっきの待ち伏せ作戦は『こそこそ作戦』か。名前は。

 

 

「・・・Ⅳ号しか見当たらなくなりましたね。どうしますか?ダージリン。」

 

砲手の席から大洗の様子を観察していたアッサムから報告が入る。ここは大洗の市街地、地の利は無論、向こうにある。となると仕掛けてくるのはゲリラ戦による奇襲・・・。見失わないうちに各戦車に追わせるのもあり。しかし、おそらく指揮官はあのⅣ号・・・。ここで討ち取りに行くのも一つ・・・。

 

「こんな格言を知ってる?『先を見過ぎではいけない。運命の糸は一度に一本しか掴めないのだ』」

「ウィンストン・チャーチルですね。」

 

自分に言い聞かせるように言った格言にいつものようにオレンジペコがその格言を言い当てる。笑顔を浮かべながら紅茶に口をつける。

 

「ええ。それじゃあーー」

 

通信機を手に取って聖グロの戦車4輌に通達を出す。

 

「各戦車、あのⅣ号を狙いなさい。あれが指揮官の乗る戦車よ。」

 

 

 

 

聖グロリアーナの戦車が分かれた他の戦車には目もくれず、全て俺たちのⅣ号目掛けて砲撃を仕掛けてくる。

 

「くっ・・・!?私達が指揮車両だと断定されたかっ!?」

「冷泉さんっ!!入り組んだ路地に入ってください!!相手を翻弄しますっ!!」

「了解したっ!!」

 

 

狭い路地をⅣ号が突き進む。自動車部が改造してくれたのが功を奏しているのか、中々いい反応で直角カーブなどを曲がってくれる。

あるコーナーの一角を曲がるとマチルダの1輌が曲がりきれずに店舗に突っ込んだ。

 

『う、ウチの店がぁっ!!』

 

そんな声が聞こえたのは幻聴だろう。取り敢えず、1輌振り落とすことはできた。

 

「よし、1輌は振り落とせた!!」

「一年生の皆さん、誘導、お願いします!!」

『了解です!!』

 

ドッグレースから振り落とされたマチルダにちょうど近くにいたM3が接近する。

 

「あや、あゆみ、撃って!!」

「はいはーい!!」

「当たれーっ!!」

 

M3の主砲と副砲が火を吹いた。砲弾はマチルダの後部装甲に直撃する。しかし、大したダメージには至っていないのかマチルダは砲塔をM3に向ける。

 

「し、仕留めきれてないよっ!!」

「桂利奈!!後退後退!!」

「あいあい!!一気に下がるよ!!」

 

桂利奈がM3をバックで路地に入り込む。マチルダは逃げるM3を追うように路地に入り込む。

最初こそは捉えきれていたが、土地勘を持っている者と持っていない者の差が現れたのか、程なくしてマチルダはM3を見失ってしまう。

 

「くっ・・・!!あのM3・・・どこに・・・!!」

 

マチルダの車長である『ルクリリ』は若干イラついた様子で辺りを見回す。

すると、近くの立体駐車場のエレベーターから注意を喚起するブザーが鳴り響く。それを聞いたルクリリはしたり顔をする。

 

「ふふ・・・!!あそこね!!」

 

すぐさま移動し、満を持ってエレベーターの扉の前でガン待ちをするルクリリのマチルダ。

そして、扉が開かれる。ルクリリの中ではそこには追い詰めたうさぎ、あるいはアヒルのようにいるM3が浮かんでいたが、そこはもぬけの殻で戦車など形もなかった。

 

「うっ嘘っ!?」

「根性ーーーっ!!」

 

そんな声が外から聞こえたような気がした瞬間、後部装甲と右側面の装甲から衝撃が走る。エレベーターの向かいの側にある駐車場に隠れていた八九式と立体駐車場からの退路を塞ぐように現れたM3がマチルダに同時に砲撃を仕掛ける。

 

「やったー!!作戦成功ー!!」

 

バレー部達が喜びの声を上げている中、一年生チームも作戦が成功した喜びをかみしめていた。

 

「す、すごいよ・・・!!私達、強豪校の戦車をやっつけたんだよ!!」

 

M3の中で宇津木 優季が飛び上がる。桂利奈や梓も例外ではなくガッツポーズをするなどそれぞれ喜びの表情を挙げていた。

しかし、そんな桂利奈の肩をつつく者がいた。気になって桂利奈が振り向くと、そこには紗希がいた。いつもボーッとしていてどこを見ているかわからない紗希が指をさして、明確に方向を示していた。その方角はちょうど煙に隠れて見えないマチルダ。なんとなく嫌な予感がして、操縦席のハッチを開けて煙を見つめる。

 

煙が微妙に晴れてくると、煙の中からさっきまで立体駐車場に向いていたはずのマチルダの砲塔が後ろを向いている。

 

「や、やばっ!?」

『M3、悪いけど逃げて!!』

 

桂利奈が焦った様子で操縦席に戻ったのと梓の通信機から八九式の車長の磯部の急かすような声が飛んでくる。

 

「えっ!?磯部さん、どうかしましたっ!?」

『マチルダ?だっけ。取り敢えず、相手仕留めきれてないよ!!』

「だったらもう一度ーー」

『根性ー!!って言いたいところだけど無理。だって私達、ほぼ逃げられないし・・・』

 

参ったような口調で磯部が言ったのと、マチルダが八九式に砲撃を撃ち込んだのはほぼ同時であった。

梓が思わずキューポラから顔を出すと八九式が火を上げながら白旗を上げているところが目に入った。呆然としているとマチルダはこちらに主砲を向け始める。さながら、次はお前の番だと言わんばかりである。

 

「か、桂利奈!!逃げて!!」

「合点承知ー!!」

 

梓の悲鳴とも言える指示に桂利奈は冷静に対応し、あらかじめ予想していたのも相まってその場からの離脱を成功させる。

 

 

 

『すみません!!八九式、撃破されちゃいましたー!!』

「だ、大丈夫ですかっ!?」

 

八九式から大洗初の被撃破報告が飛んでくる。西住は心配する様子で通信を返す。

 

『はい!!なんとか怪我とかは問題ないです!!んー、もう少し根性が足りなかったかなー?あ、それとM3なんですけど、なんとかその場を切り抜けたみたいですー!!』

「わかりました。バレー部の皆さん、お疲れ様でした。」

 

バレー部との通信を終えると西住は今度は別の方へ通信をかける。

 

「Ⅲ突の皆さん、聞こえますか?」

『こちらⅢ突。どうかしたか、隊長殿。』

 

西住の通信にエルヴィンが疑問を上げながら返答する。

 

「今どこらへんにいますか?」

『そうだな・・・。今はのぼり旗の偽装をつけて身を隠しているが、戦車が駆動する音は聞こえるからそれほどⅣ号との距離自体は離れていないと思う。』

「のぼり旗・・・?沙織さん、この辺りでのぼり旗が立っているような場所はありますか?」

「のぼり旗ー?うーん・・・ちょっと待って・・・。」

 

西住にそう問われた沙織は少し思案に耽る。程なくして考え込んでいた表情が明るいものに変わった。

 

「オッケー。大体わかったよ!!」

「冷泉さん、沙織さんの指示に従ってください。Ⅲ突はこれからⅣ号が誘導を行いますので、そこを通ったら後ろのマチルダを狙ってください。」

「わかった。頼むぞ、沙織。」

「うん。任せて!!」

『了解だ。任せてくれ。』

 

 

沙織の道案内通りに戦車を進めていくと彼女の言う通りにのぼり旗の上がっている店が見えてくる。その奥にわずかにだが、細い路地が見えるためおそらくそこにⅢ突が潜んでいるのだろう。

聖グロリアーナに気取られないように、そのままのスピードで店の前を通過する。その時にわずかにだが、装甲を真っ赤に染めたⅢ突が見えたような気がした。

店の前を走りすぎると後方から砲撃音が鳴り響く。それと同時にーー

 

『こちらⅢ突!!マチルダ撃破ー!!』

 

通信機からさながら勝どきを上げているような声が上がる。よし、これで4対3。

数の優位は取った!!・・・・総数ではな。

Ⅲ突は流石に同じところにはいられないため、撃破したマチルダを盾にして俺たちとは反対方向に向かっていった。

 

 

 

パリィィィンっ!!!

 

走行中のチャーチルの中で何かが割れる音が響く。

何事かと思ったオレンジペコが音のした方を振り向くと目を見開く光景が広がっていた。

割れたティーカップからチャーチルの中を紅茶で濡らしていた。

それだけであれば問題はない。戦車の中は揺れるし、紅茶をこぼしてもしょうがない。だが、オレンジペコが驚いたのは紅茶のティーカップを落とした人物が原因であった。

 

「ダ、ダージリン様・・・っ!?」

 

そう、ティーカップを落としたのはダージリンである。ダージリンには一種の不敗神話がある。それはいかなる状況下に置いてもダージリンは絶対に紅茶を零すことはない、というものである。

そのダージリンがティーカップを落としたのである。つまり彼女自身、とても驚いているのだろう。その証拠にーー

 

「お、おやりになりますわね・・・!!」

 

滅多にすることのない悔しげな表情を浮かべていた。ダージリンは通信機を取るとーー

 

「ルクリリ。今どこにいるの?」

 

通信相手はどうやら隊列から離れたルクリリのようだ。だが、側だけみれば冷静のように聞こえるが、その言葉の端々にはその悔しさからくる闘争心が滲み出ていた。

 

『ダ、ダージリン様・・・?えっと・・・その・・・』

 

ダージリンの闘争心ような威圧に圧されたのか、タジタジになるルクリリ。

オレンジペコはなんとなく心中お察ししますのような感覚になっていた。

ルクリリ自身、いつもと違う様子のダージリンに視線を右往左往させていた。

するとその視界にあるものが映った。

 

『あっ!!えっと、う、動いているのぼり旗がありますっ!?」

 

ダージリンはそれを聞いて、したり顔をした。ならばーー

 

「なら、ルクリリ。あなたに指示を出します。そののぼり旗は敵です。貴方に任せるわ。」

『は、はいっ!!りょ、了解しましたぁー!!』

 

ダージリンの雰囲気に完全にビビったルクリリは涙声で了解の意思を示した。

彼女との通信を終えたルクリリの額には脂汗が出ていた。

流石に気になったのか、ルクリリの搭乗するマチルダの操縦手が理由を尋ねた。

 

「えっと、大丈夫です?」

 

すると、ルクリリが突然ゆらりと幽霊のように立ち上がると操縦手の肩を思い切り掴んだ。

 

「う、うひぃっ!?」

「全力であののぼり旗の敵を追いなさい!!そして、倒しなさい!!でなければ、私達・・・。」

 

様子の明らかにおかしいルクリリの様子に操縦手は恐怖のあまり体を震わせるだけで何も言えなかった。

 

「ダージリン様に・・・こ、殺されるわ・・・!!」

 

その言葉にマチルダの中で沈黙が走る。それは冷たくさながら氷水を頭からかぶったような感覚であった。

 

「行きなさい!!私達が明日の陽の目を見るために!!」

『はいっ!!!』

 

ルクリリのマチルダは全速力でお嬢様という体面をかなぐり捨ててのぼり旗の麓、つまるところⅢ突の下へと向かった。

 

 

 

俺たちⅣ号は未だチャーチルとマチルダに追っかけ回されていた。

なんとなくだが、聖グロリアーナの戦車、正確にいうとチャーチルから凄まじいほどの凄みを感じた。具体的に言うと、『ただではすまさん』と言った感じだ。

 

「ちいっ!!いつまで追ってくるつもりだ!!流石に鬱陶しいぞ!!」

「で、でもここで止まってしまえば撃たれるのが関の山ですよー!?」

「もーやだー!!向こうの戦車かなり鬼気迫ってるって感じだよー!?」

「このような路地では砲塔を回すこともままなりませんし・・・。」

 

いつまでカーチェイスを続けるつもりなんだ・・・。若干気が滅入っていたとき、通信機から声が入った。

 

『こちらⅢ突!!申し訳ない!!撃破されてしまった!!』

 

Ⅲ突からの被撃破報告であった。不味いな・・・こちらも後が無くなってきているぞ・・・・。これが強豪校の実力か・・・。

一応、総数では同数だが、未だシャアの38tからは連絡はない。となると現状、俺たち大洗が不利だ。

だが、この時に最悪の展開で戦車でのカーチェイスは終わりを迎えた。

ある曲がり角を曲がった瞬間、俺はⅣ号を無理やり止めた。

慣性の法則に従って西住達の体も前のめりになるがなんとか態勢を立て直す。

何事かと思った西住達だったが、外の様子を見て、息を飲んだ。

 

「こ、これは・・・!!」

 

西住は目を見開いていた。目の前には工事中の看板が陣取っており、その先は陥没した道路が広がっていた。

 

「・・・最悪だな。先ほど逃げ込めそうな路地もあったが・・・、この様子ではな・・・。」

 

後ろを軽く見やると既にチャーチルとマチルダがジリジリと距離を詰めていた。

絶体絶命だな・・・。これは。

 

 

 

 

 

 




ダージリンの口調ってこれでいいんでしょうか?
というかむずいっす・・・。


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第13話

・・・・どうする?これは本当にどうしようもなくなってきたぞ。

 

前からはチャーチルとマチルダがじわじわと近づいてくる。後ろは工事中の道路がある。逃げ場は、ないわけではない。視線を横に晒すとすぐそこに路地がある。

ただそこに逃げ込むだけの時間を向こうがやすやすとくれるとは思えん。

西住も思案を巡らせているようだが、はっきり言って、こちらが詰んでいる。

どうしようもないといった雰囲気がⅣ号の中で充満し、沙織や秋山も表情が沈んでいる。

ここでは動くことは叶わない。動いたところですぐさまチャーチルにやられるのは目に見えている。ならば、別ベクトルからの介入が必要。だが、そのようなものはそう簡単にはーー

 

『センパーーイっ!!!!』

 

現れた。Ⅳ号とチャーチルの間にあった路地から装甲をピンク色に染め上がったM3が間に割り込むように現れた。あれは、一年生チームだ。

 

「梓かっ!?無茶はよせ!!」

『あや、あゆみ、やるよ!!』

 

通信機から梓の声が響く。その瞬間、M3の二門の主砲が火を噴く。しかし、放たれた砲弾はチャーチルの厚い装甲に阻まれて弾かれてしまう。

 

『は、弾かれたっ!?』

 

梓が狼狽している間にチャーチルとマチルダから同時に主砲を撃ち込まれ、M3が吹っ飛んだ。そして、白旗があがる。撃破されたのだ。

 

「み、みんな!?大丈夫っ!?」

『だ、大丈夫、です・・・!!あとは、頼みます!!』

「梓さん・・・。」

 

西住が言葉を出せないでいる中、俺はⅣ号を発車させる。マチルダとチャーチルが撃っているのを確認できたからな。今なら攻撃を受けることもなく路地に逃げ込むことができる。再び路地でのドッグレースを繰り広げながら俺はやれやれといった表情をあげる。

 

「これで、余計に負けられなくなったな。梓たちは私達を守るために盾になってくれた。・・・彼女らの期待に応えるためにも最後までやり通すぞ。切り替えていけ。」

 

俺がそういうと先ほどまでの暗い雰囲気は無くなり、再度表情が引き締まったものに変わる。

 

「西住、君の戦術を教えてくれ。私は君のどんな無茶な指示にも応え、全力で支えよう。」

 

あそこまでやってのけてくれたんだ。俺も本気を出さざるを得ないな。

Ⅳ号のスペック。限界以上に引き出させてみせる。

西住はキューポラから体を出し、辺りを見回す。しばらくすると、再度Ⅳ号の中に戻る。

 

「冷泉さん、次の路地を左に曲がってください。」

 

西住の言う通り、路地を左に左折する。次の路地も左に曲がると、ひらけた道路へと繋がる道へと出た。

 

「そこのT字路を左折してください!!」

 

西住の言う通り、俺はそこのT字路を左折するつもりでいた。しかしーー

 

(ん?この感覚・・・)

 

 

そのT字路から気配がした。それはとても、奴に似ていた。俺はため息を一つついた。

 

「全く、連絡の一つぐらいよこしたらどうなんだ・・・。」

「冷泉さん?」

「すまない。さっきの発言を反故にするようで悪いがそこのT字路は右に曲がらせてもらう。」

「ええっ!?」

 

西住が説明を求めるような驚きかたをする。説明してやってもいいが、T字路が目の前に迫ってきているから時間もないし、何より見た方が早い。

俺は西住の指示には従わず、T字路を右折した。

チャーチル、マチルダもそのT字路を右折する。しかしーー

 

ドゥンっ!!

 

突如として、マチルダの左側面に衝撃が走ると、そのまま白旗を上げマチルダは動かなくなった。

 

西住が呆気に取られた様子で後ろを振り向く。そこにはーー履帯が外れていたはずの38tがいた。

 

「か、会長っ!?直し終わっていたんですか!?」

『すまない、西住君。いかんせん桃が中々起きなくてな。2人で履帯を治していた分、遅れてしまった。』

「れ、連絡の一つくらい寄越していただければ・・・。」

『敵を騙すにはまず味方から、というだろう?今回はそれで許してはくれないか?』

 

報告しなかったのは置いといて、現状、シャアの38tが戦線復帰してくれたのはありがたい。戦況が一対一のタイマンからニ対一に変わるだけでこちらの有利の度合いは著しく変わる。ここであのチャーチルを墜とせば、この試合、勝てるかもしれない。そう思い、路地から出てくるであろうチャーチルと対峙するために戦車を回頭させる。すると、思わず目を見張った。

シャアの38tの先にマチルダが1輌、こちらに主砲を向けていた。消去法でしかないが、あれはおそらく八九式とⅢ突を撃破したマチルダか!!

そのマチルダの主砲がシャアの38tに向いていることに気づくとーー

 

「シャア!!後ろだ!!」

 

思わず身を乗り出して叫んでいた。38tには届くはずもないが、奴には届くはずだ!!

 

 

 

「ふっ、そう焦るな。私とてあのマチルダに気づかないわけがないだろう。」

 

無論、後ろにいるマチルダには気づいている。だが、今から回頭したところで到底間に合うはずもない。

ならばーー

 

「小山、すぐさま回頭を開始しろ。」

「は、はいっ!!」

「桃、装填は?」

「も、もう済ませてます!!」

「上出来だ。」

 

気絶から復活した桃に装填を任せ、私は砲手の役割に集中する。

小山の操縦で38tがマチルダに向けて回頭を開始する。回頭は敵の前で行うと横腹を見せているもの同然だ。聖グロリアーナがそれを逃すこともなく回頭している最中に側面に砲弾が叩き込まれる。

38tは軽戦車に部類されるためか砲撃をまともに食らってしまえば、もれなく車体が吹き飛ばされるだろう。

だが、今回ばかりはそれを利用させてもらう。

マチルダの砲撃を側面に食らった38tは横回転を起こす。

 

「この横回転を待っていた・・・・!!」

 

横回転をすることで回頭の時間を短縮する。チャンスは一度きり、側面に当てられたから履帯も破損しているだろうしな。

 

未だ回転しているなかで私はマチルダに照準を合わせ、トリガーを引いた。

 

 

 

「か、会長の38tが・・・。」

 

沙織が振り絞ったような声を出した。シャアの乗る38tが吹っ飛んでいく様子を見て、秋山達は呆然としている。そして、シャアの乗る38tから白旗があがる。

 

「うう・・・せっかく数で有利が取れたと思ったのに・・・。」

「いえ、数の上では同じです。」

 

秋山が悔しげな声をあげている途中で西住が遮った。

 

「で、ですが、会長さんたちはやられてしまいましたし・・・。」

「いや、マチルダをよく見てみろ。さっきから一向に動かないだろ?」

「い、言われてみればそうですね・・・。ってああー!!」

 

秋山がマチルダを凝視するとあることに気づいた。

 

「ま、マチルダから白旗が上がってますよっ!?ど、どうして・・?」

「話は後だ。チャーチルが路地から出てくる。」

 

俺は話を切り上げ、路地から出てきたチャーチルに意識を集中させる。

チャーチルが路地から出てくると俺たちのⅣ号と対峙する。

Ⅳ号より巨大な緑色の装甲が迫ってくるのは中々威圧感があるな。

 

「・・・相手の装甲はそう簡単には貫通できそうにない。どうする?」

「前面の装甲に撃っても、Ⅳ号の主砲で抜くことは難しいです。」

 

やはりか。相手のチャーチルの装甲は硬い。そう簡単には抜けないか。なら、比較的装甲の薄いところを狙うしかあるまい。

 

「冷泉さん、側面に回り込んでください。比較的装甲の薄いそこを狙うしかありません。」

 

側面か・・・・。普通にまわり込もうとしても対処されるのが目に見えるな。

となるとーー

 

「履帯が壊れるかもしれないがそれでも構わないか?」

「お願いします!!」

「了解した。華、いつでも撃てるようにしていてくれ。」

「わかりました。」

「それじゃあ、パンツァー・フォー!!」

 

西住の掛け声とともにⅣ号を前進させる。普通にやっても無理ならーー

 

「普通じゃない手段を使うだけだっ!!」

 

俺は操縦桿を操作し、Ⅳ号をドリフトさせる。一応、不意をつくような形で行ったつもりだが、チャーチルは砲塔を回転させるだけでこちらについてくる。冷静だな。向こうの指揮官はかなりのやり手のようだ。これは・・・こちらが撃つ前にやられるか?なら、もう一つ手を打つか。

 

「秋山、チャーチルの砲塔の長さはⅣ号のそれより長いか?」

「えっ?チャーチルのですか?は、はい。確かにⅣ号の砲塔より長いですけど・・・。」

 

ならばやってみる価値はあるか。俺はⅣ号をそのままドリフトでチャーチルに接近させる。履帯が壊れていくが御構い無しだ。それより気にしなければならないのチャーチルの砲塔は・・・車体から出ている!!

 

「もらった!!」

 

チャーチルの砲塔を押す形でゼロ距離にⅣ号をつけた。チャーチルはそのまま砲塔を俺たちに向けようとするが、

 

「っ!?砲塔が・・・!?」

「やられたわね・・・。Ⅳ号の車体に引っかかって砲塔が回せなくなっているわ。」

 

ダージリンが苦々しい表情をする。

アッサムは砲塔を動かそうとするが、引っかかるように置いたⅣ号の車体がそれを許さない。敵の武器は弾いた。

後は鎧に叩き込むだけだ。

 

「華、撃て!!」

「撃ちますっ!!」

 

華の指がトリガーを引く。放たれた砲弾は距離がほとんど離れていないためにすぐ着弾する。しかし、チャーチルの堅牢な装甲はかるく黒ずんだだけだ。

だが、装甲にへこみができている。しっかりダメージは与えている。もう一撃。

 

「もう一度です!!装填急いで!!」

「まだやられてないわ!!すぐ下がりなさい!!」

 

2人の指揮官の声が響く。Ⅳ号では砲弾の装填を、チャーチルでは砲塔をⅣ号に向けるべく。Ⅳ号の履帯が破損してしまったため、移動することは叶わない。

この時点で、操縦手としての俺の役目はない。はっきり言って黙って見ていてもよかった。だがーー

 

「華、狙いは変わらん!!落ち着いていけ!!」

「はいっ!!」

 

Ⅳ号に乗っている者として、ここで声を上げないわけにはいくまい。

 

「装填・・・終わりましたぁ!!」

 

秋山から装填が完了した声が届くやいなや、すぐさまトリガーを引く華。

時をほぼ同じくして、チャーチルからも砲弾が発射される。

 

Ⅳ号とチャーチルが砲弾が直撃した爆発の煙に包まれた。

 

 

 

 

 




・・・この試合、一番の金星あげてんのルクリリちゃんですね。(八九式、Ⅲ突、シャア搭乗(ここ重要)の38t)


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第14話

「・・・・・・。」

 

自動車部によりトレーラーで移送されていくⅣ号や38tといったボロボロになった大洗の戦車を見送っていた。

結論から言えば、俺たちは負けた。

敗因は、こちらの練度不足かもしれないな。全く、練度の差が浮き彫りにならない戦い方をしようとしたのに、結局の敗因が練度不足では本末転倒だな。

チャーチルに砲撃を叩き込もうとしたが、向こうの方が一歩早く、こちらの撃破判定が先に出てしまった。あと少しだったというのに、惜しい戦いだった。

とはいえ、負けは負け。取り繕ってもどうにもならん。と俺は割り切れているが、他の西住や華といった面々の空気が重い。というより放心状態か、これは。

やはり、高校生には負けの重みはまだ辛いか・・・。

どうしたものかと思っていると金髪の二人組とオレンジ色の髪が印象的な赤い服に身を包んだ女性達がやってきた。あれは、確かーー

 

「聖グロリアーナ女学院の隊長か?」

「ええ。ダージリンと言いますわ。先ほどの戦い、見事なものでしたわ。」

「負けた身としてはどう聞いても皮肉にしか聞こえんのだが?」

 

そういうとダージリンは微笑を浮かべるだけであった。気に食わん奴だ。

腹に一物を抱えているタイプだな。

 

「ところで、先ほどのⅣ号の車長は貴方が?」

「いや、わたしは操縦手だ。車長は彼女がーーー」

 

そういい、視線を向けると未だ放心状態の西住達が目に入る。多分あの様子だとこちらの会話の声も届いてないな。俺は手で目を覆いながらダージリンに向き直る。

 

「すまない。見苦しいところを見せた・・・。」

「いえ、気になさらずにして結構ですわ。大洗の会長から今回が初めての戦いであることは聞いてましたので。よほど勝ちたかったのでしょう。」

「そう汲み取ってもらえるとありがたい。おい、いつまで放心しているつもりなんだ。」

 

そういいながら各々の脇の肉をつまむ。突然の出来事に全員が素っ頓狂な声をあげる。

 

「ま、麻子っ!?いきなり何するのよっ!?」

「聖グロリアーナの隊長が来てるぞ。君に会いたがっているそうだ。」

 

沙織の言葉を無視して西住に要件を伝える。そこでようやく気づいたのかダージリンを見ると驚いた声をあげる。

 

「えっ!?ああ、どうも・・・。えっと。」

 

・・・割と西住は人見知りをするタイプか?さっきから口調がしどろもどろになっている。戦車の中ではかなりハキハキとしているのにな。

 

「あなたが、Ⅳ号の車長?」

「あ・・・、はい。」

「お名前を聞いても?」

「西住・・・みほです。」

 

西住が名を名乗るとダージリンは何か心あたりがあったような表情をする。

 

「もしかして、西住流の・・・?」

 

ダージリンにそう言われると西住は表情を暗くさせる。

西住流・・・か。確か、戦車道の名家だったか。それ以上は特に知らない。西住がその流派の関係者であることは知ってるが、変に調べて彼女の預かり知らぬところで彼女の戦車道に対する後ろめたさの理由を知るわけにはいかないからな。

こういうのはやはり彼女自身の口から話してもらうのが一番だからな。

 

「・・・・まほさんとはだいぶ違うのですね。」

 

ダージリンが何かを呟いたと思うと、今度は俺に視線を向けてきた。

 

「貴方のお名前も聞いてもよろしいかしら?」

「私もか?冷泉 麻子だ。」

 

一応名乗ったが、ただのしがない一操縦手の名前なんぞ聞いてどうするんだ?

戦ったあとに名前を聞くのは聖グロリアーナの伝統か何かなのか?

俺が名乗ったあとにダージリンは少し考える仕草を見せる。少しすると、隣の大きな黒いリボンが印象的な女性に耳打ちをする。

内容はよく聞こえなかったが、黒いリボンの女性がダージリンに再度耳打ちを行うと驚いた表情をした。

 

「今回はとても良い試合でした。また試合をするのであれば承りますわ。それでは。」

 

そういうとダージリン達は帰っていった。なんだったんだ?人の名前を聞くだけ帰っていったぞ。

 

「ひとまず、皆無事のようだな。」

 

突然聞こえた声に後ろを振り向くと生徒会のメンバーがいた。シャア含め、皆揃いも揃ってススだらけだ。

 

「会長・・・。ごめんなさい。負けてしまいました。」

「なに。君が気を負う必要はない。結果は結果でしかない。ただ認めて、次の糧へとすれば良い。それが大人の特権だ。」

「お、大人ですか・・・。」

 

秋山が微妙な顔をしているぞ。慰めのつもりで言ったのだろうが、どうしてくれるんだ。

 

「なるほど!!恋愛と一緒ですね!!失敗しても次に活かせばいい!!会長さん、流石!!」

「ん・・んん?恋愛・・・?まぁ、君がそれでいいのであればいいんだが・・・。」

 

沙織・・・お前の頭は相変わらず彼氏募集中か・・・。

料理も家事も出来るのに、なぜアイツには男が出来ないんだ?あれか、沙織は結婚できない星の下に生まれたのか?

 

「それで、なにをしに来たんだ?」

「えっと、まだ近くで屋台とかやっているから行ってみたらどうって言おうとしたんだけど・・・。」

 

屋台か・・・。気分転換にはちょうどいいな。

ここは小山の提案に乗せてもらうとしよう。

 

「行こうか。気分転換にはちょうどいいだろう。なんなら何かしら奢るよ。」

「・・・麻子がそんなこと言うなんて・・珍しい。」

「沙織、お前は抜きにしてもらいたいか?」

「わーっ!?ご、ごめんってばぁっ!!」

 

沙織の変わりように西住たちも笑顔になる。なら、屋台に向かうとしよう。

 

 

 

 

「ダージリン様、先ほどアッサム様と何をお話なさっていたので?」

 

隣を歩いていたオレンジペコから疑問があがる。話す内容なのかしら・・・、これは。まぁ、いいわ。可愛いペコのためにもね。

 

「さっきのⅣ号の操縦手の名前、覚えているわね?」

「はい。冷泉 麻子さん、でしたよね。」

「ええ。彼女の技量、どう感じたかしら?教えてくれる?」

 

私がそう尋ねるとペコは厳しい表情をした。

 

「正直に申し上げて、とてつもないの一言でした。車長である西住さんの指示を忠実以上にこなし、なおかつ我々聖グロをあそこまで追い詰めるのははっきり申し上げて並大抵の技量ではできないことです。彼女は一体どこの強豪の中学にいたのでしょう?アッサム様、ご存知ありませんか?」

 

私が思ったことをほぼ同じことを言ってくれて、少しばかり得意気になる。

 

「その通りね。ペコ。それで私もさっきアッサムに聞いてみたんだけど・・・。」

 

アッサムに視線を向けるといつもはどんなデータでも揃え、伝えてくれるアッサムの表情は申し訳無さ気なものに変わっていた。

 

「申し訳ないのですが、彼女、冷泉 麻子に関してのデータは一つも見つかりませんでした。」

「デ、データが見つからないんですかっ!?そ、それじゃあ、あの人は・・。」

「一番現実的な考え・・・これでも結構ありえないんですが、彼女はまだ戦車を始めて間もないかと・・・。」

「あ、あれほどの技量を見せていて、彼女は始めて間もないとおっしゃるんですかっ!?」

 

アッサムが困ったような表情をしている。ペコはいつもは割とだんまりな口もありえないといった表情で矢継ぎ早に言葉を紡ぐ。おそらく、それには彼女、冷泉 麻子に対しての敵愾心もあるのかもしれない。気持ちはわからないわけではない。私もアッサムのその結果を聞いた時、冗談だと言いたかった。

でもそれは聖グロリアーナの気品には似合わないわ。

 

「ペコ、こんな格言を知ってる?」

 

あ、ペコの顔が『またいつものですか?』って言ってるような感じがするわ。

正直言って傷つきそうだけど、耐えるのよ。ダージリン。

大丈夫、あれはペコが怒りからつい出てしまった表情にちがいないわ。ええ、きっとそう。

・・・・ってあら?それってペコはいつも私の格言に対してそう思ってるっていうことよね?

 

「ダージリン様?どうかなさいましたか?」

「いいえ、なんでもないわ。」

 

心はちょっと泣きそうだけどね。

 

「不可能を消去して、最後に残ったものが如何に奇妙なことであっても、それが真実である。」

「アーサー・コナン・ドイルの小説、『シャーロック・ホームズ』ですね。」

「つまりはそういうことよ。彼女はとても強いわ。でもその力は未だ底知れず。」

 

私は後ろを振り向き、大洗の仲間達と楽しく談笑する冷泉 麻子の姿を見ながらこう呟く。

 

「おそらく、彼女らも全国大会に出てくるのでしょうけど・・・。一番の鬼門は、プラウダや黒森峰でもなく、彼女たちかも知れないわね。」

 

 

 

 

 

大通りに出てみると親善試合の熱狂が未だ残っているのか、屋台などで賑わっていた。

 

「わー!!すごい賑わっているね!!」

 

沙織が半ばお祭り騒ぎになっている屋台を見て目を輝かせる。

さて、今回ばかりは財布の紐を緩くするか。

そう思い、皆に何が欲しいか尋ねている。不味い、そういえば華は健啖家だった・・・。これは財布ごと持っていかれるか・・・っ!?

そう思っていると、しゅんとした雰囲気の西住が目に入る。アイツ、まだ引きずっているのか・・・。

俺は一つため息をつくと、屋台で見つけた手頃なあるものを買う。

目的のものを買うと西住に駆け寄る。

 

「西住、これでも食べて元気を出せ。」

 

そう言って、俺は近くの屋台で買った串に刺したバナナにチョコをコーティングした屋台定番の食べ物、チョコバナナを西住に差し出す。

 

「あ、ありがとう・・・。」

「・・・君はよくやっているさ。あの結果は確かに悔しいものでもあったが、現状ではこれ以上ないものだったと思うぞ。」

「でも・・・勝てなかったし・・・。」

「何も勝ち負けが全てなわけではない。まぁ、戦争では負け=死だが、これは戦車道だ。戦車道は有り体に言ってしまえば勝負だ。戦争とは違う。勝負であれば例え負けようがまた次がある。会長も言っていただろう?次の糧にすればいいと。」

「次の、糧に・・・・。」

「なんだ?鳩が豆鉄砲で撃たれたような顔をして。」

「ううん。その・・・、負けてもいいなんて、言われたことがなかったから・・・。」

「どういうことだ?」

 

怪訝な顔をしていると西住は俺の手からチョコバナナを手に取って、静かに語り始めた。

 

「えっと、冷泉さん、私が大洗に転校してきた理由って詳しくは知らなかったよね?」

「ああ。何か戦車道に対して後ろめたい思いがあるのは分かっていたが、それ以上の詮索はしなかった。君自身の口から語ってもらった方がいいと思ってな。」

 

俺がそういうと西住は小さくありがとうと言った。流石に秋山たちと離れるわけにはいかなかったため、祭囃の喧騒の中を話しながら歩く。

西住が話してくれた内容ははっきり言って反吐が出るかと思うほど、痛々しいものであった。

ある程度説明を掻い摘むと、西住は一年前まで、全国大会9連覇を果たした黒森峰に在籍していた。しかも姉の隊長とともに一年生ながら副隊長を務めていたそうだ。この時点でかなり将来を嘱望された人材だったのは目に見える。

だが、黒森峰の10連覇のかかった全国大会での決勝、西住はフラッグ車の車長の役割を受けていながら転落した仲間の戦車を助けに行き、その間にフラッグ車が撃破。

結果として黒森峰は10連覇を逃してしまった。

これだけ聞いていると西住の行為は人の命を最優先にしたものとして褒められるべきものだ。スポーツマンシップに乗っ取られるスポーツとしての戦車道ならなおさらだ。

 

だが、世間はそうは行かなかった。

 

黒森峰が決勝戦で敗北すると、人々は勝手な行動を取って黒森峰を敗北へと導いたとして西住を責め始めたのだ。各週刊誌も西住を糾弾するような記事をあげ、

その記事を見た無関係の一般の人々が陰口を西住に叩く。黒森峰での彼女の居場所はもはやないにも等しかった。

 

「・・・惨い話だ。たかが一度負けた程度でそこまでやるか?」

「その、黒森峰は西住流の教えが深く根元まで入っている節があるから・・・。」

「西住流の教え?どんなものなんだ、それは。」

「・・・簡単に言うと・・・。勝利至上主義って言うのかな・・・。」

「終わりよければ全て良し、などと言う希望的観測ではないんだろうな。」

 

俺が軽い冗談を言うが、西住の表情は重く、頷く仕草にもその重さが滲み出ている。西住流のことに関しても西住の口から語られた。その内容もまた頭が痛くなりそうな案件でな・・・。

なんでも勝利のためであれば仲間の犠牲さえも厭わない、と言う内容であった。軍人ではともかくまだ若い高校生、それも感受性の高い女の子にやらせることではない。西住流を打ち立てた奴はどう言う考え方をしているんだ・・・。思わずため息が出てくる。

 

「はぁ・・・。そんな息苦しそうなところによく居られたな。大変ではなかったのか?しごきやそういうので。」

 

そう西住に聞いたが、首を横に振った。意外な反応に少し驚く。

 

「ううん。確かに、キツいって感じることはあったけど、お姉ちゃんもお母さんも優しかったし・・・。でも、私のせいで10連覇を逃してから、何となく、2人から冷たく接されるようになって、最終的に大洗に転校する形で、追い出された・・・でいいのかなぁーーー」

 

それを区切りにして西住の声が聞こえなくなった不思議に思い、彼女の方に顔を向ける。

 

「あ、あれ・・・?なんでだろ・・・、涙が・・止まんない・・。とまんないよぉ・・・!!」

「っ!?西住・・・っ!?」

 

目に大粒の涙を浮かべさせている西住の姿があった。崩れ落ちそうになる西住の体を咄嗟に支える。西住は堰を切ったように涙を流し、嗚咽をこぼしている。

 

「西住、立てるか?ひとまずこっちだ。ここでは悪目立ちする。」

 

西住の肩を担ぎながら、祭りの喧騒から外れた歩道に駆け込む。

なんとか人目には付かなくなったが、西住は変わらず大粒の涙を浮かべて、嗚咽をこぼしている。一応、慰めの声はかけているが、西住は一向に泣き止まない。

泣き止まない理由はおそらくーー

 

(家族と離れ離れになっていて、今まで溜め込んでいた感情が爆発したか・・・!!)

 

俺は苦虫を噛み潰したような表情をする。どうする、こういった時はどうすればいい・・・っ!?くそ、全く分からん!!

だが、これ以上西住の泣く様子を見て手をこまねいているわけにはいかない。

俺は意を決して、西住の頭に両腕を回し、自分の胸に押し付けるように抱きしめた。

 

「っ!?冷泉さん・・・?」

「すまない。驚かせたのは謝る。だが、こうした方が早く泣き止むと思ってな。」

 

とりあえず、不安がらせないように笑顔を浮かべておくか。ぎこちないのは否めないが、無愛想な顔をしているよりはマシだろう。

あとは何をするといいんだ?とりあえず、頭を撫でておこう。

・・・自分でやっておいてあれだが、さながら小動物を撫でているような感覚だ・・・。

 

「・・・・確かに家族と離れ離れになっているのは辛いだろうな。俺、いや私も両親を失っていてな。気持ちはよくわかる。」

 

危なかった・・・。つい男としての一人称が出てしまった。

西住は驚いた表情を上げているが、大丈夫か?

 

「一応、1人でもなんとか立ち直れはしたが、私のそばには沙織がいてくれた。それだけでもありがたいものがあった。誰かの支えというのは君の思っている以上に力を持っている。君にもいるはずだろう?家族以外にも支えてくれる人が。」

 

涙を浮かべてぐずっている西住をみながら話しを続ける。

 

「沙織や華、それに秋山といったⅣ号のメンバーでもいい。もしくは会長といった生徒会の面々でも構わない。・・・河島は厳しいな。アイツは駄目だ。」

 

河島はまだ子供っぽいところがあるからな。アイツにははっきり言って無理だな。

小山が一番適任か?こういうことは。

 

「とにかく、辛いことがあったら素直に甘えろ。吐き出さずに溜め込んでも君の重荷になるだけだ。」

 

そういったら西住が俺を掴んでいる手に力を込める。なんだ?まだ辛いのか?

そう思っているとーー

 

「れ、冷泉さんに・・・甘えちゃ駄目・・・ですか?」

 

は?俺か?・・・物好きな奴だな・・・。俺なんかに甘えてもどうしようもならんだろうに・・・。とはいえここで断るのもな・・・。

私を空を仰ぎながらポツリと呟いた。

 

「・・・・私なんかでよければな。」

「じゃあ・・・早速、甘えさせてください・・・。」

 

そういうと西住は再び俺の胸に顔を埋めて泣き始めた。

俺は無言で西住の頭を撫で続けた。しばらくすると泣き疲れたのかそのまま寝てしまった。普通であれば微笑ましいのだが、ここは外。はっきり言って動けないため少しばかりキツい。

どうしたものかと悩んでいるとーー

 

「・・・・何をやっているんだ?」

 

背後から声が聞こえ、西住を起こさないように顔だけ向けると、そこには杏、というかシャアがいた。屋台で買ったのかどうかはわからないが干し芋の入った袋を取り出して、食べている。

だが、正直言って奴が来たのはありがたい。俺はシャアに事情を説明する。

 

「・・・そうか。大方の事情はわかった。しかし・・西住流とも一悶着があったとはな・・・。」

「お前も予想はしていなかったのだな。」

「ああ。はっきり言ってその決勝戦における事件だけだとタカを括っていた。」

 

シャアが西住に対して悲しげな表情をあげる。

 

「よく寝ている。あやし方がなっているからかな?」

「茶化すなよ。全く、慣れないことをしたものだから存外に疲れた・・・。」

 

西住の顔を見てお互いに微笑んでいると、そこに駆け込む人物が現れた。

 

「あっ!!冷泉殿ーっ!!良かったですー!!って、西住殿っ!?」

 

秋山がバカにならない声で駆け寄ってきたため思わずシャアと2人で静かにするようにジェスチャーをする。秋山はボリュームを下げてくれたが、表情は何か焦っているようだ。

 

「どうかしたのか?」

「は、華さんがっ!!親御さんに連れられてそのっ!!」

 

かなり焦った様子の秋山の説明からはうまくわからなかったが、ひとまず華が緊急事態に陥っているのは確かなようだ。俺はシャアとアイコンタクトで言いたいことを伝える。

 

「西住君は私に任せろ。麻子は五十鈴君のところへ向かってくれ」

「すまない!!恩にきる!!秋山、案内しろ!!」

「りょ、了解ですっ!!」

 

俺と秋山は祭囃子の喧騒を全速力でくぐり抜け、華のところへ向かった。

 




今回の話ではあんこう踊りはやらずに普通?にお祭りを回っています^_^


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第15話

秋山に案内されたのは華の家であった。秋山曰く華道の名家らしい華の家は純和風のお家で雅な雰囲気を感じさせる。

・・・・そんな家の品評を述べている場合ではなかったな。

 

どうやら西住の話を聞いている間に秋山たちは華の母親と鉢合わせたらしい。

それだけなら良かったのだが秋山が口を滑らせ、華が親に隠れて戦車道を履修していたことがバレてしまう。さらに運の悪いことに華の母親は華が戦車道を履修することに反対だったようで、今は華と母親2人で話し合っているらしい。

 

「なぁ、秋山。これは流石に私たちが介入してはいけないんじゃないか?」

「ええっ!?は、華殿が心配ではないのですかっ!?」

「いや、そういうわけではない。これは華と母親の、家族の問題だ。家族の問題である以上、2人で解決するのが筋だと思うのだが?」

「で、ですが、華殿のお母様、戦車道をやっていると聞いたとき凄い形相でしたよ?」

「・・・それほどだったのか?」

「それはもう・・・一瞬白目向いて卒倒するレベルでしたね・・・。」

「・・・わかった。万が一に備えて側にはついておく・・・。」

 

靴を脱ぎ、手早く整え、厳かな雰囲気の廊下を進むとある部屋の襖に沙織がへばりついているのが見えた。

 

「沙織、来たぞ。」

「お、遅いよっ!!どこ行ってたの・・・ってあれ?みぽりんは?一緒じゃないの?」

「諸事情で先に学園艦に戻ってもらった。それで状況は?」

 

俺が沙織に現状の報告を求めるが、沙織は首を横に振った。

 

「わ、分かんないよ・・・。中の部屋がおっきすぎるし、華とお母さんの会話が奥でやってるから全然聞こえない!」

 

・・・参ったな・・・。中の状況は把握できないのであれば突入のタイミングも掴めないぞ・・・。

 

襖のそばで動向を探っていると、突如として襖が開かれた。

部屋の中から出てきたのは意を決したように表情の硬い華であった。

他に何か分かるものはないかと視線を動かすと目に涙を浮かべた付き人と思われる男性の姿が見えた。どうなったんだ・・・?

 

「あら・・・?麻子さん、どこにいたんですか?探したんですよ?」

「その・・・すまなかった。それで、どうだったんだ?母親への説明は・・・?」

 

華の様子から見るに思ったより深刻ではなさそうに見えるが・・・。納得してもらえたのであればいいのだが・・・。

 

「はい。金輪際、家の敷居を跨ぐなと言われました。」

 

・・・前言撤回。想像以上に深刻だった。秋山と沙織も言葉を失っているぞ。

俺も眉間に指を当ててしまう。

 

「お、おい。大丈夫なのか?それは。」

「ええ、大丈夫ですよ?」

「そ、そうか。強いんだな・・・。君は。」

 

華は本当に肝が据わっているな・・・・。ほぼ勘当を言い渡されたものではないのか、それは。本人が然程気にしてないからそれ以上は何も言わなかったが・・

 

華の実家を後にして、学園艦への帰路につく。帰りは先ほどの付き人の様な男性、確か、華が新三郎と呼んでいたか。彼が人力車で学園艦まで涙を流しながら送ってくれた。しかし時刻はすっかり暗くなり門限は確実に過ぎている。風紀委員に怒られるなこれは。

やっとの思いで学園艦の入り口につくと案の定風紀委員のそど子が待ち構えていた。そして、そのそばには西住が手を振って出迎えてくれていた。

 

「もう門限過ぎてるんですけどー。」

「すまない。少し、面倒なトラブルに遭ってな。」

 

そど子がジト目で俺たちを見つめてくる。俺はそど子との会話を手早く済ませ、西住に視線を向ける。

 

「もう大丈夫か?」

「はい・・・。その、迷惑・・かけちゃいましたね・・・。」

「気にするな。・・・行こうか。皆が待っているからな。」

 

お互い言いたいことはわかっているため必要最低限の会話で済ませる。

階段を上がり、学園艦の甲板に出ると杏を中心にして戦車道履修者が集合していた。

 

「・・・何をやってるんだ?揃いもそろって。」

 

俺がそう尋ねると皆から帰ってきたのは嬉々とした表情であった。

 

「む、今回の主役が来たようだな。」

「何の話だ?全く見えてこないのだが・・・。」

 

杏にそう言われるも状況がよく掴めていないため疑問符を上げざるを得ない。

そこに杏の手に何らかの箱があることに気づく。

 

「会長、その箱はなんだ?」

「ああ。これか。これはティーセットだ。」

 

杏か箱の蓋を開くと中には中々高そうなティーセットが入っていた。それと一緒に一枚の手紙が同封されていた。文字をよく見ると達筆な英語で『Dear friend』と記されてあった。

 

「こんな高価そうなもの、どうしたんだ?」

「聖グロリアーナからの贈り物だそうだ。」

「せ、聖グロからのティーセットですかぁ!?」

 

秋山が何やらとても驚いた様子で杏の持つティーセットを見つめる。

 

「何か知っているのか?」

 

俺がそう尋ねると秋山はとても興奮した様子でこのティーセットについて説明を始める。

 

「聖グロリアーナにはライバルと認めた相手にはティーセットを送るという伝統があるんです!!」

「・・・つまり、私たちは聖グロリアーナにライバル認定されたということなんだな?」

 

俺が確認がわりに聞くと秋山はものすごい速さで顔を上下させる。興奮冷めやまぬ様子はさながら犬のようだ。妙だな、秋山に犬の尻尾と耳がついているような・・・。疲れているのか?

まぁ、それはともかく、聖グロリアーナにはそんな伝統があるのか・・・。

 

「で、そのライバル認定された際にもらえるティーセットと一緒に何故かもう一つ箱もあってだな。」

『は?』

 

小山が持ってきたもう一つの箱を見て全員が変な声をあげる。

 

「え、でも・・ティーセットはチームに対して与えてくれるものなので原則一つではないんですか?」

 

秋山が首を傾げながら疑問を口に出す。確かにチームに対してであれば基本は一つのはずだ。どうしてだ?

 

「わたしにも分からん。いかんせんまだ開けてないからな。中身がティーセットであるという確証もない。」

「なら会長ー。今開けましょうよー。」

「そうだな。ここはもったいぶらずに開けてしまうのはどうだ?会長。」

 

杏がまだ開けてない意図を言うと桂利奈が要求し、エルヴィンが同調する。

それを基点にみなの間で箱を開けようとの声が上がる。

 

「ならここで開けてしまおうか。」

 

杏の声に皆の声が期待するものに変わる。箱の中身について、各々から様々な憶測が飛び交う。

 

「中身、何が入っているんでしょうか?」

「大方、ティーセットじゃないのか?箱の外見も然程変わらないしな。」

「ええー。同じものを二つも送るのー?」

 

華の疑問に俺は外見からティーセットだろうと推測する。沙織はなんだが不満気だが、流石に菓子折りなんざ送られても困る。

 

「むー・・・。何故聖グロリアーナは二つのティーセットを送ってきたんでしょう・・・。」

「秋山はもうすでにティーセットだと見切りをつけているんだな。」

「まぁ、そうですね。わたしの事前知識から言わせてもらうとやっぱりティーセットが妥当じゃないんでしょうか?」

「疑問は、どうして聖グロリアーナは二つのティーセットを送ってきたんだろう?」

 

西住の疑問はすぐに解決されるだろう。杏が箱の蓋に手をかけたからだ。

そして、杏がその箱の蓋を開いた。

開いた瞬間、我先にとみんなが中身を確認しにいく。おい、これでは見れないではないか。・・・まぁ、減るものではないから後でも構わんが。

・・・・妙だな。箱を覗いているメンバーからのリアクションが全然ない。

 

「あれ・・・?これなんて読むの・・・?字がぐちゃぐちゃで読めないよー。」

「わ、分かんない・・・。こ、根性でなんとか・・。」

「根性じゃあ無理があるんじゃ・・・。会長ー、読めますー?」

「むー、伴天連語は読めん。エルヴィン、お主なら読めぬか?」

 

歴女チーム、一年生チーム、バレー部チームが殺到して箱の中身が見れないため、置いてけぼりを食らってしまう。

何やら文字が書かれた紙が中に入っているようでバレー部の、おそらく河西 忍に聞かれた杏が伴天連語を理解していると思われる歴女チームのエルヴィンに解読を依頼している。

 

「ふむ・・・?ほぉ・・・。」

 

・・・・奴の反応の所為で何やら嫌な予感がし始めた・・・。

おい、なんでこっちを見るんだ。あとそのニマニマした顔をやめろ。その顔のせいで嫌な予感が倍増したぞ。

 

「これは筆記体、それもかなりの達筆で書かれているから分かりにくいかもしれないが、こう書かれてある。」

 

奴は少し間を空けて、紙に書かれてあった内容を読み上げた。

 

「Dear、マコ・レイゼイ。つまり、このティーセットはお前宛のようだ。」

 

空気が止まった。静寂が俺たちの間を包み込む。そして、油をさしていない機械のように俺に顔をゆっくり向ける西住達がいやに目につく。

そして、俺は何となく予想できてしまった。この後のことを。

 

「ティ、ティーセットが、送られたということは・・・聖グロリアーナに、ライバル認定されたこと・・・。」

 

秋山、それ以上はできれば言わないでほしい。だが、何故かその制止の言葉が出てこない。

 

「麻子殿は、個人でありながら聖グロリアーナのライバル認定されたんですかっ!?」

『すげぇー!!!!!』

 

秋山がそう叫んだまさにその瞬間みんなが雄叫びをあげながら俺に駆け寄ってきた。

俺は思わずたじろいでしまい、逃げるタイミングを逃してしまう。

その後の俺は・・・強いて言うならみんなからもみくちゃにされた。

色々賞賛の声をあげてくれているのは分かるのだが、振り回されすぎて聞いているどころではなかった。それはもう、次の日は疲れ果てていた上にいつもの低血圧のも相まって起きられないほどであった。案の定、その日は沙織に叩き起こされた。

・・・もうこういうのは勘弁してほしいものだ・・・。

というより、女子高生のテンションを舐めていた・・・。中身が五十路に近い俺には厳しすぎる・・・っ!!

 




今回のアムロ、聖グロに目をつけられた。

次回から全国大会編、突入です!!


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第16話

┌(┌^o^)┐ユリィィィィ


聖グロリアーナにライバル認定されてしまってしばらく面倒なことになりそうだと項垂れ続けること数日。俺や西住達はⅣ号に乗っている……いや、今は『あんこうチーム』だったな。聖グロリアーナとの練習試合が終わった後、みなの間で意識改革が起こったのか、奇抜だった戦車の塗装をなくし代わりに各戦車に動物をモチーフにしたマークを取り付けた。38tは『カメさんチーム』、Ⅲ突は『カバさんチーム』、八九式には『アヒルさんチーム』、M3には『ウサギさんチーム』の試合中でのコードネームのようなものがつけられた。

 

・・・話が逸れてしまったな。

 

それで俺たちあんこうチームは現在本土で行われる戦車道全国大会の抽選会場に来ていた。会場では練習試合を行った聖グロリアーナなど各地域の強豪校が揃い踏みしていた。おそらく、この中に西住のいた黒森峰もいるのだろうが、今は意識から外しておく。隊長である西住が壇上に上がって抽選をするからな。

西住の抽選箱から引いた番号が司会の担当者に読み上げられる。

すると、その番号の中に大洗女子学園の名が入れられる。

そして、その反対側にある一回戦の対戦校の相手は、『サンダース大学付属高校』。

 

俺はそれが目につくと戦車道に関しての知識が豊富な秋山に声をかける。

こういう時の彼女の知識量の多さは頼りになる。

 

「秋山、知ってるか?サンダースのこと。」

「はい、もちろんです。サンダースは一言で言ってしまえば、『マンモス校』です。」

「マンモス校、か。人材が豊富、ということか?厄介だな・・・。」

「それもそうですが、経済面でも潤沢です。サンダースの保有する戦車の台数は隊を一軍、二軍、三軍までわけるほどであって、全国でもトップを誇るほどです。」

「そ、それじゃあ私達に勝ち目なんてあるの・・・?」

 

俺と秋山の話を聞いていた沙織が顔をひきつらせる。

まぁ、確かにこっちは五輌に対して向こうは数倍、最悪何十倍もの台数を持ってこられる可能性がある。そうなった場合、こちらの勝率は万に一つもないだろう。

 

「い、一応、全国大会の一回戦では戦車の台数は10輌までと決められていますので。流石にサンダースの全車輌が駆けつけるなんてことはないですよ。」

「10輌ですか・・・。それでも二倍の差はあるんですね・・・。」

「それでもマシな方だ。残りの埋め合わせは腕と戦術でやるしかないな。」

 

俺の言葉に秋山達が頷いた。すると秋山がふっと思い出したように俺に話しかけてきた。

 

「あ、でしたら麻子殿、学園艦に戻ってから頼みたいことがあるんですが・・・。」

 

俺は疑問符をあげながら秋山の頼みごとを聞いた。

なるほど、秋山達も少なからず戦車道に対する意識が変わったようだな。

 

「お安い御用だ。いくらでも付き合うさ。というより、断る理由もないな。」

 

俺は笑顔でその頼みごとを承諾した。

 

 

 

全国大会の抽選会が終わった後、俺たちは『せっかく本土に上陸したから観光でもしない?』という沙織の提案で戦車カフェなるものに来た。

見た目は普通のカフェと変わらないが、随所に戦車的なインテリアが置かれている。

メニューを開いてみれば、ケーキの形が戦車の形をしていたりと、本当に店内が戦車一色で染まっているようだ。

 

「ある意味、凄いな・・・。この店は。」

「冷泉さんはどうしますか?」

 

俺は驚愕しながらも華に頼むものを聞かれてしまい、ひとまず目に付いたチョコレートケーキを頼むことにした。

秋山が戦車のような形をした呼び鈴を押すと、辺りに戦車の砲撃音が鳴り響いた。

 

「・・・・なぁ、うるさくないのか?」

「そうですか?私は寧ろ心地よさを感じますけど・・・?」

「・・・まさかのカミングアウトだな・・・。」

 

華のその言葉に別の意味で驚きの表情をあげてしまう。まぁ、変な意味ではないと思うのだが・・・。

そのあと店員さんがやってきて、各々の注文を取り付け、少し待っていると頼んだケーキがおもちゃのトラックに乗せられてやってきた。

あまり聞いてはいなかったが、秋山が言うにはこれも軍事利用された代物らしい。

俺は注文したチョコレートケーキをフォークを使って口に運ぶ。チョコの甘さが口の中で広がっていき、とてもうまい。ただ、戦車の形を模しているからか、普通のケーキよりは質量が高い気もするがな。

西住達も各々が頼んだケーキを食べて、表情を緩ませている。華に至っては4つも頼んでいる。・・・太らないのか?

 

「麻子ー。今、華に対して絶対太らないのかって思ってるでしょ。」

「っ!?」

 

沙織の突然の指摘に思わず表情を強張らせる。そこで俺は自身の失態に気づく。

これでは俺が華に対して太らないのかと思ってると言っているようなものではないか。

俺の表情を見て確信を持ったのか、沙織が頬を膨らませて怒りを表す。

 

「もうっ!!女子に対して体重のことはタブーなんだからね!!」

「・・・・私も女子だから問題ないんじゃないのか?」

「麻子はなんか女子っぽくないから駄目っ!!」

 

り、理不尽だ・・・!!とはいえ、沙織の言っていることは事実だ。外見は女子だが、中身は男なのだからな・・・。とは言え、女らしさを出すのはな・・・。俺には無理な話だ。

俺は特に何も言わずに苦笑いだけを浮かべてチョコレートケーキを口に頬張る。

む、砲塔部分は中までチョコたっぷりなお菓子を使っているのか?

そしてしばらく甘いケーキを肴に西住達と談笑をしているとーー

 

「副隊長……?」

 

誰のことを呼んだのかわからなかったが、どう聞いてもこちらに対する呼びかけだっため、とりあえず振り向いた。

そこには灰色っぽい制服と黒いスカートに身を包んだ銀髪の目つきが鋭い女子と、茶髪のストイックな印象を受ける女子の二人組がいた。そして、なんとなくだが茶髪の方からは西住と似たような雰囲気を感じる・・・。まさかとは思うが、コイツが姉か?

 

「あ、今は『元』副隊長でしたね。」

 

と、銀髪の女子は西住に向けて『元』の部分の強調しながら明らかに嘲笑っているような表情で話しかける。確信した。この二人組は黒森峰か。しかも黒森峰の隊長、『西住 まほ』が直々に来るとはな。

 

「お、お姉ちゃん……。」

 

西住がかろうじて振り絞ったように聞こえる声に俺は西住 まほに視線を移す。

 

「・・・まだ戦車道をやっているとは思わなかった。」

「・・・うん・・・。」

 

西住はーーこのままだとごちゃごちゃになるな。みほは西住 まほの言葉に対して、憔悴したような声量で答える。今にも消え入りそうだ。だが、それよりも気がかりなのはみほより西住 まほの方だ。一見すると意外性を含めた嘲笑のように聞こえるが彼女からは後悔と……無力感か?この感覚は。そのような感覚を受けた。ちなみに銀髪の方からはこの二つの他にみほに対する怒りも感じられた。なるほど、コイツの場合は感情の裏返しか。あくまで2人の態度は表面的なもの、本当は2人ともみほのことを心配しているのか。

 

「お言葉ですが!!あの時のみほさんの判断は間違っていませんでした!!」

「部外者は黙ってて。」

 

秋山の奴、みほの事情を知っているのか?だが、勇気を振り絞って言った秋山の言葉も銀髪の奴に一蹴されてしまう。秋山は銀髪の奴の威圧に圧されてシュンとした表情をしてしまう。・・・流石に見過ごせないな。

 

「すみませ「秋山、謝ることはない。君は間違ったことは言っていない。」ま、麻子殿っ!?」

 

謝りかけた秋山の言葉に無理やりかぶせる形でそれ以上言わせないようにする。

俺は立ち上がり、銀髪の奴を睨みつける。ひとまず、西住 まほは後回しだ。

 

「貴様の勝手な視線で部外者だと決めつけないでもらおうか。」

「っ!?」

「ま、麻子・・・?」

 

・・・コイツ、思ったよりメンタル弱いか?割と虚勢を張っている、河嶋と同タイプの人間か。なら、このまま押し切るか。

 

「ただの西住と仲良しこよしでいる連中ならともかく、私達は西住と共に戦車道をやっている仲間だ。それを貴様はただの部外者だと罵った。」

「うぅ・・・。」

「それに戦車道はスポーツだ。スポーツである以上、スポーツマンシップが尊ばれるのは自明の理だ。だが貴様のその発言はとてもではないが、そうとは思えん。」

 

俺はちらりと視線を向けると西住 まほの表情が暗くなっているに気づく。彼女には悪いがここはやらせてもらう。

 

「9連覇だか王者だかは知らないが、自身の身の程を弁えない奴は―――」

 

・・・自分でもまさかここまで冷徹な声が出せるとはな・・・。

どうやら俺自身、知らないところでかなり腹が立っているようだ。

 

「調子に乗るなよ。」

 

さて、言いたいことは言ったーーのだが、いかんせん、俺も調子に乗ってしまったようだ。カフェの雰囲気が凍りついている。やってしまった・・・。

とはいえ、ここでボロを出すわけにはいかないため、顔はあくまで平然としている。やれやれ、身の程を弁えてないのはどちらだか・・・。

 

「ふぅ・・・・。エリカ、帰るぞ。」

「は、・・・はい。」

 

自分自身に呆れていると一つ、ため息をついた西住 まほは銀髪の奴、エリカと呼んでいたか。

彼女に声をかけ、カフェを後にしようとする。

 

「それと、ウチの副隊長がすまなかった。」

「っ!?た、隊長っ!?」

 

こちら、というか俺に顔を向けると謝罪の言葉を述べた。

隣のエリカが驚いた表情をする。というか、副隊長だったのか、彼女。

 

「いや、こちらも少々熱くなった。そこはお互い様だ。それと、これはお節介だが、思っていることは素直に言った方がいい。人はそううまくはできていない。伝えるべきことはしっかり言っておかねば後々、後悔するぞ。」

「・・・忠告、ありがたく受け取っておく。」

 

そう言い残して、黒森峰の二人組は店を後にした。

 

「・・・ふぅ、やってしまったな。」

『やってしまったな、じゃないでしょうがー!!!!』

「うおっ!?急に驚かさないでくれ!!」

 

修羅場を越えたと思って一息つこうとしたら、今度は西住達4人から攻め立てられる。俺はひとまず落ち着かせようとしたが、あれよあれよとしている間に会計を済ませて店の外へ出てしまった。・・・まだチョコレートケーキ、残っていたんだがな・・・。というか、西住に攻め立てられるとは、かなりのレベルでやらかしたか?

 

「お、おい。そんなに引っ張らないでくれ、服が伸びる。」

 

先ほどのカフェから程よく離れたところで西住達は俺を掴む手を放してくれた。

やれやれ、中々手荒に店から連れ出された。4人から引っ張られたのもあって若干の苦しさもあった。

 

「もうー!!麻子ってばどーしてそういうことをしちゃうのよー!!」

「そうですよ!!一歩間違えれば新聞沙汰です!!」

「私のためでは無くて西住殿のために怒ってくださいよ!!」

 

おい秋山、お前はそれでいいのか。お前だけ論点がズレているんだが・・・。

ん?西住だけ何もないな・・・。そう思い、視線を西住に向けるとーー

 

「むー。」

 

頰を膨らませて、怒りの表情をしている西住がいた。かなりご立腹のようだな・・・。

そして、そのまま沙織、華、秋山の3人に包囲網を敷かれてしばらくこってり絞られた。情けない構図だ・・・。

今日は理不尽なことが続くな・・・。厄日だな、今日は。

 

 

そして、3人に絞られたのち、学園艦へと向かう船で俺は西住に呼び出された。

・・・予想していなかった訳ではない。なぜなら3人に絞られているところに西住は顔はご立腹の様子だったが、これと言って発言していなかったからな。

 

「あ、冷泉さん。」

「む、すまない。待たせてしまったか?」

 

指定された場所に向かうと既に西住と、なぜか秋山がいた。秋山はなんか口から魂が抜けているようにこう、白くなっているという表現でいいのか?それは置いといて、現在の時刻は夕方。日が沈んで、辺りの気温も下がり始める。それに今は船の上というのもあって体感温度はさらに下がるはずだ。何かあったかいものでも買ってくるべきだったか。

 

「ううん。大丈夫。」

「それで、話とはなんだ?また説教か?」

 

俺が西住にそう聞くと彼女は首を横に振った。

 

「えっと、あの時は私もエリ・・逸見さんにすごい剣幕で話していってたから怒ろうとしたけど、本当は冷泉さんに標的を向かせるために言ったんですよね?」

「・・・・流石だな。まぁ、あのまま彼女に言わせていたら君にいらない気苦労がかかると思ってな。」

 

西住の言う通り俺は奴の、逸見 エリカのヘイトを俺に向かせるために秋山が部外者だと言われた時点で介入した。

まぁ、結果は見ての通り、奴のヘイトは俺に向いただろうな。あそこまでコケにしたんだ。奴の性格も相まってかなりご立腹だろうな。

 

「あ、そういえば、麻子殿は西住殿の…その、事情は知っているんですか?」

「本人から聞いたからな。だから秋山が何の事を訴えているのかはすぐにわかった。」

 

いつのまにか復活した秋山の問いに頷きながら答える。隠す要素もないからな。

そう言うと秋山は嬉しそうな表情をした。

 

「そうですか・・・。その、逸見殿に部外者だと言われた時、正直言ってそこで引いてしまっても良かったんです。でも、麻子殿が声を上げてくれた時、嬉しかったんです。」

 

「人というのは、支えがあるというだけであそこまで救われるものなんですね。」

 

秋山の屈託のない笑顔を見せてくれて、こちらとしても嬉しい気持ちとなる。

 

「・・・そうか、なら私もあそこまで啖呵を切った甲斐があるというものだ。」

 

私が噛みしめるように頷いていると側から何やらモヤモヤしたような感覚を覚える。視線をそちらに向けるとジト目で俺と秋山を見つめている西住の姿があった。

 

「・・・冷泉さんと優花里さんだけいい雰囲気になってズルイ。」

 

・・・何を言っているのかよくわからないのだが・・・。

 

「お、おい、西住どうかし――」

 

そこまで言ったところで西住が俺の胸に飛び込んできた。

突然の衝撃にのけぞりながらなんとか支える。

 

「に、西住、流石にあぶないから突然はやめてくれ・・・!!」

「あー!!麻子殿何やってるんですかー!!西住殿の柔肌に触れるなんて、麻子殿でも許しませんよー!!」

「あ、秋山!!待てーー」

 

俺の制止の声は届かず、秋山が飛びかかってくる。流石に2人分の体重を支えるほどの筋力は高校生の俺にはないため、どう抗っても崩れてしまう。

そのまま3人揃って船の甲板に体を叩きつけてしまう。

 

「いったたた・・・。うう・・ちょ、調子に乗りすぎました・・・。」

「もう、優花里さんってば、急に飛びついてくるんだから〜。」

 

西住と秋山が楽しそうに笑いあっている。その光景はとても微笑ましい。微笑ましいのだが・・・

 

「お、おい。2人とも、頼むからどいてくれないか・・・。」

「あ、冷泉さんっ!?ご、ごめんなさーー」

 

秋山が前から飛びついてきてしまったため必然的に俺を押し倒す形で倒れてしまう。俺は2人にどいてほしいというのだが、何故か2人は顔を真っ赤にしたまま動こうとしない。

 

「こ、このシチュエーションは、何というか・・・。」

「う、うん。なんかドキドキする・・・。」

 

・・・なんか2人の目がイケナイものに変わってきた気がするのだがっ!?

不味いぞ。何が不味いのかは分からないが、俺のニュータイプとしての勘がこの状況に対して危険信号を上げている!!

何か、何かないのか!!視線を右往左往させていると―――

 

「・・・・・・・・。」(モグモグモグ)

「・・・・・・・・。」

 

なぜか、杏がいた。袋から干し芋を取り出して食べている様はひどく変に見える。だが、今はこの上なく有難い。西住と秋山も杏の登場に固まっている。しかし、押し倒されている状況は変わらないため、出来ればどいてほしい。

俺が杏にアイコンタクトで助けを呼ぶと奴は察してくれたのか――

 

「ふむ、お楽しみ中だったか。別に私としては構わんが風邪だけは引かんようにな。」

 

妙にいい笑顔でそう言うとただでさえ赤かった2人の顔が真っ赤へと変わって――

 

『ご、ごめんなさーい!!!』

 

と、真紅の稲妻もびっくりなスピードで何処かへ走り去ってしまった。

 

「ふぅ・・・。すまない、助かった。」

 

額の冷や汗を拭いながら、杏に礼を言う。だが、杏は妙にいい笑顔を続けたままだった。殴りたくなるようなニヤニヤした笑顔だな。

 

「・・・なんだ?何か俺に用か?」

「いや、なに。モテているではないかと思ってな。」

「あれは不慮の事故だ。俺もそうだし、2人もそのつもりは一切なかっただろう。」

「ほぅ・・・。果たしてそうかな?」

「おいおい、冗談はほどほどにしてくれ。」

 

俺は乾いた笑いをあげながらいつのまにかついていたのか、学園艦へと戻った。

 




あ、ありのままに今起こったことを話すぜ!!俺は黒森峰に因縁をつけられたアムロの話を書いていたはずなのに気づけば俺は百合百合しい気配を放つ話を書いていたっ!!
な、何を言っているか分からねーと思うが俺も何が起こったのか分からなかった・・・!!
頭がどうにかなりそうだった・・・!!
催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねぇ・・・。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ・・・!!


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第17話

「ん?秋山の姿が見えないな・・・。」

「あれ、ホントだ。ゆかりん、今日休んでるのかな?」

 

抽選会が終わった次の日、いつものように戦車道の練習をしようとした時に秋山がいないことに気づく。沙織も怪訝な表情をしながら辺りを見回しているが、一向に秋山の姿は見えなかった。昨日、最後にいたのはーー

 

「西住、秋山が見当たらないんだが、何か事情とか知らないか?」

 

何か手がかりがあればと思い、昨日はおそらく最後まで居たであろう西住に聞いた。西住は俺に声をかけられたことに驚いたのか、一瞬体をビクつかせると顔を微妙に赤くしながらーー

 

「え、えっと、途中で別れちゃったから、分からない・・です。」

 

たどたどしい口調だったが、西住の言葉に嘘はなかった。

ふむ、そうか。なら他に見かけた者がいないか他を当たるか。

そう思い、別のやつに声を掛けようとするとーー

 

「あ、あの、冷泉さん。」

「ん?なんだ?」

「その、昨日は・・ごめんなさい。」

 

昨日・・・?ああ、押し倒されたことか。まぁ、突然のことだったから驚きはしたが、お互い怪我はなかったからな。

 

「なんといえばいいか・・・。そう、若さ故の過ちというやつだ。あまり気にしなくてていいぞ。」

 

そういい、西住に笑顔で手を振って、俺は別の人に聞き込みを始めた。

 

「わ、若さ・・・故の、過ち・・・・っ!?」

 

 

 

結局、戦車道の練習が始まっても秋山の姿が現れることはなくその時の練習は秋山無しで済ませた。

一応、杏にも聞いたが、アイツも秋山の動向は知らないらしい。

そして現在、俺たちは一応、風邪の線も疑ってひとまず見舞いの品を持って秋山の家へと向かっている。

 

「で、沙織。秋山の家はどこなんだ?」

「えっと、確かここら辺・・・。あ、あった。」

 

沙織が指をさした建物には『秋山理髪店』の文字が書かれてあった。

 

「理髪店を営んでいるのか。秋山の家族は。」

 

とりあえず、理髪店の中に入ると新聞を読んでいる父親と思われる人物と椅子に座っている母親と思われる人物がいた。

 

「ん?いらっしゃいませ。」

 

父親と思われる人物が俺たちに気づくと声をかけてくる。おそらく客と勘違いしているのだろう。あいにくだが、今回は客として来たわけではない。西住が一歩前へ出て、俺たちがここにきた要件を伝える。

 

「あの、優花里さんはいますか?」

「優花里・・・?」

「私たち、友達なんです。」

「友達・・・友達っ!?」

 

沙織の発言を反芻するように呟いた父親と見られる男性は慌てふためいた様子で

立ち上がる。・・・そんなに驚くことか?

 

「お父さん、落ち着いて・・・。」

「だってお前!!優花里のお友達だぞ!?」

「わかってますよ。いつも優花里が世話になっています。」

「お、お世話になっております!!」

 

そう言って、秋山の母親は頭を下げる。ふむ、秋山は母親似か。髪色とかは彼女を彷彿とさせる。それよりも、お父さん、貴方は父親だろう・・・。いきなり土下座は……ほら西住達も若干引いているではないか・・・。

 

「優花里はね、朝早くから家を出て、学校からまだ戻ってきてないんですよ。」

 

優花里の母親の言葉に、俺は眉をひそめる。妙だな、俺は秋山の姿を学校で見てないんだが・・・。

俺の中で嫌な予感がよぎったが母親に家に上がって欲しいと言われ、断りきれずに秋山の部屋にお邪魔させてもらった。

秋山の部屋はこの前の戦車カフェより凄まじいほどの量の戦車関係のものが置かれており、秋山の戦車に対する造詣の深さが垣間見えた。

戦車が大好きなのは分かるんだが・・・。砲弾を置くのはどうなんだ?レプリカにしてもかなりのクオリティの高さだぞ。というか、どこで手に入るんだ?あんなもの。

 

「良かったらお茶をどうぞ。ごめんなさいね、お父さんたら優花里が初めて友達を家に連れてきたから舞い上がっちゃったみたい。」

 

秋山の母親がお茶を出しながらそんなことを言う。あまり社交性の高い子ではなかったようだ。父親が初めて友達を家に連れてきたというほどだったのだろうな。

俺も、ガンダムに乗り始める前は社交性のカケラもなかったな。家に友達を招くなどということはなく精々、フラウがいいところだったか。彼女にはよくご飯を届けてもらっていたな。とはいえ、せっかく甲斐甲斐しく世話をしてもらっていたというのに、その時の俺の対応には目を逸らしたいものがいくつもあるな・・・。確か、ハヤトの子供を身ごもっていた気もするが、今はどうしているだろうか。

・・・・いや、考えるのはよそうか。今の俺は冷泉 麻子なのだからな。

 

「・・・冷泉さん、どうかしました?さっきからだんまりですけど・・・。」

「・・・すまない。少し、昔のことを思い出していた。」

 

どうやら考え事をしている間に秋山の母親は部屋から退室していたようだ。

心配そうな顔を向けている西住に対し、俺は少しばかりの嘘で包んだ答えを返す。その時、沙織が悲しげな顔をしていたが、それについては言わないでおく。

さて、話は変わるが、さっきから窓から感じている気配について正体を明かしてもらおうか。

俺はおもむろに立ち上がると窓に一直線に向かう。西住達は怪訝な表情をしているが、俺はそれを気にしないで窓を開け放つ。部屋に心地良さ気な風が吹き込むが俺は気にも留めないで、どこかのコンビニの制服を着て、屋根に座り込んでいる秋山に視線を向ける。

 

「さて、今日何をしていたか話してもらうぞ。秋山。」

「ま、麻子殿ぉ・・・!?これは、その、やましいことではなく・・・。いや、やましいことはあったのですが・・・!!」

 

秋山の言葉に俺は考えを張り巡らすが答えに至ることはなく、ひとまず家に入るように促す。

窓から現れた秋山の姿に西住達は驚きの表情をする。

 

「優花里さんっ!?心配したんですよっ!?」

「ゆかりん。その制服、コンビニのだよね?バイトでも始めたの?」

「優花里さん・・・。まさか、私たちの知らないところで借金をしていて、それを少しずつ返すために・・・。」

「華、いくらなんでもそれはないと思うのだが・・・。で、秋山、もう一度聞くが、学校にも行かず今日何をしていた?」

 

華の想像力豊かな発想にツッコミを入れながら秋山に尋ねると制服のポケットからUSBメモリを取り出し、テレビに繋いだ。しばらくするとテレビの画面に内蔵されている映像が再生される。

 

まず始めに映し出されたのは『実録!突撃!!サンダース大付属高校』のテロップ。西住達は何の映像を見せられているのかわかってなかったようだが、軍人上がりである俺にはすぐわかった。秋山のやつ、サンダースにスパイしに行っていたのだ。危険なことを・・・。見つかったらどうするつもりだったんだ?

映像はコンビニの定期船に潜入したシーンから始まる。やっていることはどう見たって密航だ。

 

サンダースの内部や戦車倉庫の映像に何回か切り替わると何やらサンダースの生徒が集まっている映像が映し出される。すると、画面の端から隊長と思われる金髪のどう見ても外国人のような人物………いや、今の言葉は取り消しだな。ダージリンがいたなそういえば。さて、話を戻すか。映像では濃い茶髪のツインテールの短い女性と女性にしては比較的に身長の高いショートカットの女性が出てきた。

どうやら話の内容的に俺たちとの試合についてのミーティングのようだ。

 

「・・・よく潜入できたな。」

「そこは、その、マンモス校の弊害、みたいなところでしょうか。人数が多すぎて一人増えても気づかれない、的な・・・。」

 

映像の中でサンダースのミーティングが進んでいく。戦車の編成内容も秋山が撮ったビデオの中にしっかり収められており、知ることができた。

 

「ファイアフライを初めから投入してきた・・・。」

「性能のいい戦車なのか?」

「そう、ですね。ファイアフライはサンダースの保有する戦車の中で一番性能のいい戦車です。」

「向こうは手を抜くつもりはない、ということですね。」

「つまり、相手は最初から本気・・・?」

 

映像は続き、隊長と思われる人物が質問を聞くとなんと秋山が手を挙げて質問をしてしまう。スパイが目立つ行動をとってどうするんだ・・・。

まぁ、とりあえず敵の陣形をある程度知れたのはいいが、流石にバレたのか後は秋山の逃走劇が収められている程度であった。

ビデオが終わったのち、俺は秋山に視線を向ける。秋山はオドオドした表情をしばらく見せていると感情が吹っ切れたのか、俺に向けて笑顔でピースをしてきた。

 

「・・・・・・・。」

「アイタッ!?」

 

それに俺は軽くチョップを叩き込む。秋山は叩かれた額を抑え、疑問の視線を俺に向ける。

 

「全く、学校にも来ないで何をやっているかと思えば・・・。みんな心配したんだぞ。」

 

俺が悩ましげにため息を吐くと秋山は再度疑問の視線を向ける。

 

「え・・・。心配・・・?」

「当たり前だ。急に連絡付かずになったんだ。普通は心配するものだろう。」

 

俺にそう言われた秋山はほかの3人に視線を向ける。

 

「優花里さん、急に練習来なくなったから戦車道辞めちゃったかと思ったんだよ?」

「そうだよ!!みんな心配したんだよ!!」

「せめて、連絡の一つくらいはしてほしかったです。」

 

3人から心配されていた事実に秋山は顔を俯かせる。

 

「その・・・心配かけてしまい、申し訳ありません・・・。」

「・・・うん。だけど、今度からは一声かけてくださいね。」

「は、はい!!分かりました!!」

 

秋山の家を後にし、沙織と華と別れた帰り道。俺は西住と一緒に歩いていた。

 

「戦術、立てれそうか?」

「うん。優花里さんが撮ってきてくれた映像があればなんとかなりそう。」

「そうか・・・。ならひとまず安心できそうだ。情報は大事だからな。」

「そうだよね。私が黒森峰にいた頃もよく昔の資料を見ていたからね・・。」

「得ようと思えば試合中でも手に入れることは可能だがな。」

「え・・・・?」

 

俺の言葉に西住は怪訝な顔をする。しまった。つい軍人視点で戦車道を見てしまった。流石に俺の考えた発想は戦車道の理念から外れるか。

 

「いや、忘れてくれ。あまり戦車道では推奨されるような行為ではないと思うからな。」

「因みに、聞いてもいいですか?」

 

西住に問われ、俺は言ってもいいかと逡巡するが、言うだけなら大丈夫か。

 

「・・・通信傍受だ。機材さえそろえれば可能だとは思うが・・・。」

「それは・・・確かに規定にも書かれてないけど・・・。」

「暗黙の了解、というやつか。とにかく、妄言だと思ってくれ。」

「う、うん。それじゃあ・・・話を変えるね。冷泉さんは優花里さんに編成を知られたサンダースは変えてくると思う?」

 

ふむ、編成を変える可能性か・・・・。確かに編成を相手に知られているのは俺たちにアドバンテージを与えている。それをなくすために編成を変えてくる可能性もあるが・・・。

 

「可能性はどちらにもある。だが、変えてこない確率の方が高いだろう。」

「えっと、理由は?」

「変えた際のメリットが少ない。相手にはファイアフライという最大火力を組み込んでいる。だから、変にそこを換えてしまえば、サンダースの火力ダウンは否めない。みずから優位性を捨ててしまうようなものだ。」

「うーん。やっぱりそう思いますよね・・・。」

 

まぁ、それは俺たち大洗とサンダースが同じ条件の上であればという前提もあるがな。流石に隊長である西住を不安にさせるような発言をするわけにはいかないため口にはしないが。

 

その後は他愛もない話をして、西住と別れた。しかし、西住は妙なものが好きなんだな・・・。ボコなど聞いたことないぞ・・・。

 

 

そして、しばらく練習の日を挟んで俺たち大洗女子学園は戦車道の全国大会初戦の日を迎える。ちなみに、この時期から朝練が入り、しばらく俺は試合当日まで死んだように練習していた。




あとがきと言う名の都合のいい謎空間

「そういえば、秋山。なぜ突然サンダースに偵察をしたんだ?」
「えっと・・・その・・・。は、恥ずかしかったからです・・・。」
「恥ずかしかった?」
「というか、麻子殿が鈍感すぎるんですよ!!普通あんなことがあったらしばらく顔が合わせづらくならないんですかっ!?」
「・・・・え、私が悪いのか?」


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第18話

「全く、突然体育館に集合と言われて来てみれば、ただの測定だと?」
「つべこべ言わないの。さっさと測らせなさいよ。」
「分かったよ・・・。」
「・・・・・・。」
「なんだ?私の顔をまじまじと見て・・・。」
「貴方、低血圧で毎回遅刻してくるわりには背高いのね・・。何センチなのよ。」
「160だ。まぁ、食べるものは食べて、寝るときにはしっかり寝ているからな。例え、眠くなかろうと意地と気合で寝る。」
「それが入ってると逆に寝れなくなるんじゃないの・・・?」
「案外寝れてしまうものなんだ。さて、これで測定は終わりか?」
「あ、待って。貴方だけ特別メニューあるから。脚出して。」
「脚?まぁ、構わないが・・・。」
「ふぅん・・・。はい終わり。これで全部よ。」
「脚の長さなんぞ測ってどうするんだ?」
「さぁ・・・?会長の指示だったし。」
「そ、そうか。・・・杏の奴、何を企んでいるんだ?」



サンダースとの試合の日、いつものごとく戦車倉庫の前に集合すると、何やら複数の袋を持って生徒会が待ち構えていた。

 

「さて、今日はサンダースとの初戦だ。皆にも様々な思いがあると思う。だが、全国大会でも制服で出場するのは示しがつかん。そこでだ―――」

 

杏が袋から取り出したのは濃い藍色をした制服のような服であった。

 

「パンツァージャケットだ。これは戦車道の試合で着る服、いわばユニフォームだ。各員には試合時にこれを着て出てもらう。安全の意味も兼ねているから必ず着て欲しい。」

 

そう言うとチーム全員に生徒会からパンツァージャケットを渡される。

なるほど、この前の身体検査はこれの採寸でもあったのか。

俺もパンツァージャケットを受け取り、着心地を確かめる。見た目はほとんど普通の服と大差ない。

 

「麻子、お前にはこれもだ。」

 

そう言われると、杏から袋が手渡される。中身が入っているのが分かるととりあえず中身を確認する。中に入っていたのはベージュ色のズボンであった。

 

「これは?」

「パンツァージャケットと同じ素材でできたズボンだ。スカートはあまり慣れんと言っていただろう?」

「よく覚えていたな。一年以上も前のことだっただろう?」

「私もスカートに関しては思うものがあったのでな。因みに私の分もある。ひとまず、履いてみてくれ。」

 

奴にそう促され、履いていたスカートからズボンへと履き替える。

うん、悪くない。脚が涼しく感じないのはとてもありがたい。

 

「似合ってるじゃん!!麻子!!」

「ええ。とてもよく似合ってますよ。」

「か、カッコいい・・・・。」

「・・・最近、麻子殿が女性として見れなくなってきました・・・。」

 

前半の沙織と華はともかく、後半の西住と秋山はじっくりと俺の姿を見てくる。見世物ではないんだがな・・・。と言うか秋山、それは言わないでほしい。俺自身、女子としての体面をかなぐり捨てているのは自覚しているんだ。

 

「冷泉センパイかっこいいー!!」

「具体的に言うと、クールビューティー!!その黒くて長い髪にとっても似合ってる!!」

 

今度はウサギさんチームの桂利奈と優季が駆け寄ってくる。

二人はこの腰辺りまで伸びた髪を褒めてくれているが・・・・

 

「これか・・・。正直に言うと切るのが面倒で伸ばしているだけなんだがな・・・。」

 

そういい、髪の毛をたなびかせているとふと視線を感じ、そちらに顔を向ける。

そこには歴女チームが神妙な顔持ちで見つめていた。

 

「むぅ・・・。ドイツには黒髪の美貌を持つものは思い浮かばんな・・・。」

「ローマにもだな・・・。特にこれといった人物は思いつかないな・・。」

「新撰組一番隊隊長の沖田総司はどうぜよ?」

「いや、ここは内面的な美貌の持ち主として明智光秀はどうだ?」

 

『それだっ!!』

 

・・・彼女らは何をしているんだ・・・?

俺は歴史はあまり詳しくないからな。名前だけなら知っているが、それまでだ。

 

「では、試合会場へ向かうとしようか。隊長、号令を頼む。」

「わ、私ですかっ!?・・・では、試合会場へ出発してください!!」

 

 

 

さて、時間は少し進んで、俺たち大洗女子学園は試合会場に来ていた。

試合会場は緑豊かな自然が広がる草原で所々にちょっとした森も確認できる。

今はとりあえず、戦車の最終確認をしている、といったところか。

 

「ふむ・・・自動車部の整備技術には脱帽物だな・・・。アストナージとレベルは然程変わらんか・・・?」

 

俺は確認を手早く済ませ、Ⅳ号の中でくつろいでいると、外からーー

 

「Hey!!オッドボール三等軍曹!!」

 

誰かの声が聞こえた。Ⅳ号の中に聞こえるということはそれなりに近いところにいるのだろう。だが、オッドボール?オッドボール・・・。秋山の撮ってきたサンダースのビデオにそんな名前が出てたような。・・・・思い出した。サンダースのミーティングで名前を聞かれた秋山が咄嗟に出した名前か。

となると外から聞こえる声はサンダースの生徒か?

 

気になった俺は操縦席の出入り口から顔を出すとちょうどビデオに映っていたサンダースの隊長格の3人組が秋山と一緒にいるのが見えた。

一瞬、いちゃもんでもつけにきたかと思ったが、隊長と思われる人物のフレンドリーな笑顔と秋山の様子をみて、少なくともそういうのを付けに来たわけではないと一安心する。

秋山とサンダースの会話を眺めているとサンダースの3人のうち、ツインテールのやつと目が合うと隊長の肩をつつきながら俺の方を指差す。

そのツインテールのやつの告げ口で俺の方を見るとそのフレンドリーな笑顔をこちらにも向けてきた。豪快に手を振るというセット付きでだ。

とりあえず、それに関しては手を振り返しておく。

だが、サンダースの隊長は俺の対応に不満だったのか、なぜか顔を膨らませている。

疑問に思っているとツインテールとは別の側にいたベリーショートの奴が軽く手でこちらに来るようにジェスチャーをする。なるほど、さっきのはそういうことか。

俺はⅣ号から降り、秋山とサンダースの隊長たちの場所へと向かう。

 

「私に何か用か?」

「アナタが冷泉 麻子よね?」

「ああ、そうだが・・・。なぜ私の名前を知っている?」

「しらばっくれたって無駄だよ。アンタ、聖グロからティーセットもらったんでしょ?しかもチーム名義ではなく個人名義で。」

 

ツインテールの奴の言葉に俺は驚きの表情をする。まさか、あの親善試合の情報が流れていたとは・・・しかも俺が聖グロリアーナからティーセットをもらったことまで知っているとは。かなりの情報収集力を持っているようだな。

 

「ああ、そうだよ。まさかそんな大層なものを私なんかにくれるとはおもわなかったがな。」

 

隠してもしょうがないのは事実だから素直に認める。その言葉にほかの二人は目を見開いた。

 

「ワォ!!アリサの言ってたことは本当だったのねっ!?」

「そいつは凄いな・・・。今回ばっかりはガセだと思っていたが・・・。」

「ふっふん!!ワタシの情報はいつも正確よ!!」

 

金髪とベリーショートの二人の驚いた表情にツインテールのやつが勝ち誇ったような笑みを浮かべる。まぁ、別にバレていてもいいが。しがない一操縦手のことなどあまり気にしないだろう。

それに情報が少なすぎるからな。例え、知ったとしても先ほどの二人のようにガセだと思うのが普通だろう。

 

そんなことを考えていると選手集合のアナウンスが流れた。

 

「時間ね。それじゃあ、お互いいい試合をしましょうね。」

 

そう言い残すとサンダースの3人組は帰っていった。

そろそろか。どこまでやれるかはわからんが、やるだけやるさ。

 

 

 

 

『両校、代表者、前へ!!』

 

杏だ。大洗の代表者は名目上は私ということになっているためサンダースの隊長、ケイだったか。彼女と対面し、握手を交わす。

 

「代表の角谷杏だ。よろしく頼む。」

「ケイよ。今日はよろしくね。アンジー。」

「アンジー?それは私のことか?」

「ええ、そうよ。どうかしら?今考えたんだけど。」

「・・・悪くない。あまり、そういったことに縁がなかったのでな。」

「なら良かった。お互いいい試合をしましょうね。」

 

 

 

代表通しの挨拶から杏が戻ってくると、程なくして試合開始の合図が上がった。

 

「全車、パンツァー・フォー!!」

 

西住の号令で大洗の五輌が草原を駆け始める。作戦の根っこの部分は敵車輌を一番火力のあるⅢ突の前におびき寄せることだ。

そのため敵の配置を探る必要があるため、試合が始まって少し経つと西住はウサギさんチームとアヒルさんチームをそれぞれ右翼と左翼に偵察へと向かわせる。

機動力に長けているM3なら偵察の役目をこなせるだろう。八九式も言わずもがな。

そう思いながら2輌からの連絡を待ちながら、今回のフラッグ車であるカメさんチーム、早い話、シャアの乗っている38tを護衛しながら進んでいるとーー

 

『こ、こちらウサギさんチーム!!敵の戦車9輌に囲まれてますっ!!』

 

て、敵の戦車9輌だとっ!?ほぼ全車輌と鉢合わせたのかっ!?

いや、待て。梓は囲まれたと言っていた。となると、偶然ではなく意図的にそこに9輌を投入したのか?・・・妙なものを感じるな・・・。さながら俺たちの行動がわかっていたかのような戦力のつぎ込み方だぞ・・・。ん?まさか・・・。

 

「冷泉さん!!アヒルさんと一緒にウサギさんの援護に向かいます!!」

「・・・・了解した。」

「えーと。9輌ですか・・・。凄いです。ほとんど車輌がそこにいますよ。」

「そんな呑気なことを言っている場合かっ!?」

 

西住の指示にひとまず、思考を打ち切る。だが、俺の中では一抹の不安が渦巻いていた。少し、不味いかもしれない。が、確証がない。その上、その可能性を全車に伝える手段も封じられている。

 

(どうする・・・・?Ⅳ号の中だけで共有しても無駄だぞ・・・。)

 

そう思っていると太もも辺りから突然振動が伝わる。これは・・・携帯のバイブ音か?

 

「誰だ?こんな時に・・・。」

 

運転中に携帯をいじるのはあまり良くないが、せめて誰から来たのかだけでも確認する。そこにはーー

 

「・・・シャアからのメール?どういうことだ?」

 

携帯の画面には杏の名前が映し出されていた。気になった俺は運転しながらメールの内容を確認する。

題名は、『西住君に伝えて欲しい』

 

運転中だろうから単刀直入に言う。通信傍受の可能性ありだ。

 

 

・・・やはりお前もそう思うか・・・。しかしなぜメールで・・・?

いや、なるほど、そう言うことか。メールであれば傍受されることはない。

考えたな、シャア。とは言え、これはレギュレーション違反ギリギリだと思うんだが・・・。まぁ、仮に相手が通信傍受しているならおあいこだがな。

 

「秋山。西住にこれを渡してくれ。」

「えっ?け、携帯ですか?どうして―――。」

「とりあえず、渡してくれ。」

「は、はぁ・・・。西住殿ー。」

「あと一つ伝言を頼む。内容は口に出さないでほしい。」

「え、ええー・・・。」

 

怪訝な顔をしながらも秋山は西住に俺の携帯を渡し、伝言も伝える。

西住は疑問気な表情で俺の携帯を見るとすぐに厳しい顔に変わる。

 

「冷泉さん、これは・・・。」

「・・・私は会長の言葉を信じるぞ。というか、私自身もその線を疑っている。」

「・・・分かりました。沙織さん、通信機を外して。」

「うぇっ!?いきなりどうしたの!?」

 

沙織の驚く表情に西住は小さく耳打ちをする。

それを聞いた沙織は納得した表情をあげる。

 

「・・・うん。分かった。一応、みんなとのメルアドは持っているから、やれるよ。」

「お願いします。」

「西住、現状は通信機を使って構わない。まだ確証がある訳ではないからな。」

「分かりました。ひとまずこのままウサギさんチームと合流します。」

 

しばらく木々の中を突き進むとサンダースの9輌に追っかけ回されているM3が目に入った。本当に9輌を投入しているな・・・。

 

「合流したら南西方面へ向かってください!!」

 

西住の指示通りにM3と八九式は合流すると俺たちと一緒に南西方面へ向かう。

だが、俺とシャアの予想が正しければーー

 

『ま、待ち構えられてるっ!?』

 

梓からそんな悲鳴のような声が響く。・・・決まりだな。敵は確実にこちらの通信を傍受している。だが、待ち構えているのは2輌だ。大した問題ではない。

逃走を優先すれば余裕を持って突破できる。

 

「このまま突破します!!」

 

俺たち大洗の三輌は敵のシャーマンとすれ違うように包囲を突破する。

混戦状態に持ち込まれたからか自然と後ろからの砲撃は止んでいた。

ひとまず危機は乗り越えたようだ。

 

「ふぅ、追っては来ないな。とりあえず状況を整理した方がいいかもしれないな。」

「はい。敵はやっぱり通信傍受をしています。」

「みぽりん、それってやっていいの?」

「暗黙の了解、というところですね。ルールというよりマナー面の問題と言ったところです。」

「抗議した方がいいのでは・・・?」

「いや、華、逆だ。むしろアドバンテージを得ている。敵は私たちが通信傍受を察していることを知らない。ガセネタを流せばそのまま動いてくれる可能性もある。」

「な、なるほど・・・。でも、ガセネタはどうやって流すのですか?通信傍受されている以上、意思疎通の手段が・・・」

「そこは文明の利器を使わせてもらう。目に目を、歯に歯を、というやつだ。」

 

そう言って西住から携帯電話を返してもらう。それをみた秋山は目を見開く。

 

「ま、まさか、さっきの携帯はそのための・・・。」

「そういうことだ。ま、もっとも会長のやつはもうやっているがな。」

 

そういいながらシャアからのメールを見せる。

 

「沙織さん、今回の作戦は沙織さんが重要なポジションになっています。お願いします。」

「オッケー!!私のメールの早打ち技術、見せてあげるんだから!!」

 

さて、反撃開始と行くか。

 




外見はほぼ原作通りと言ったな?あれば嘘だ。(意訳 ごめんなさい)


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第19話

この前ですが、少し確認してみたら10万UA超えていました!!
まさか自分のにこれほどまでの評価を頂けるとは思いもしませんでした!!
ありがとうございます!!
これからもこの小説をよろしくお願いします!!


「ねぇねぇみぽりん、相手が通信傍受しているのは分かったんだけど、具体的にどの車輌がやってるとか分かるの?」

「そういえばそうですね。いくらやっているのが分かったとはいえ、どの車輌が行なっているかを明らかにしないと・・・。」

「沙織、M3にメールをしてくれ。包囲してきた部隊にフラッグ車はいたか、と。」

「ええ?いいけど・・・。」

 

沙織は怪訝な表情をしながらM3にメールを送る。程なくしてM3からメールが返ってくる。

 

「えっと、いなかったみたいだよ。」

「なら、都合がいいな。通信傍受をしているのは敵フラッグ車だ。」

「ど、どうして分かるんですか!?」

「えっと、通信傍受をしている時は大抵は動かないことが多いんだよね。そういうことを留意して考えるとその場に居なかった車輌、つまり今回だとフラッグ車が通信傍受をしているって消去法で分かるんです。」

「そうだな。イメージするとしたら偵察兵はその場からあまり動かないことを例に挙げるといいか。」

「な、なるほど!!」

「ほへ〜。そんなに分かっちゃうんだ・・・。」

「となると、後はフラッグ車がどこにいるか、ですね?」

 

西住と俺の説明に秋山と沙織が驚きの声をあげる。華は既に次の問題点を挙げてくる。流石だな、既に標的を見据えているか。

 

「そうだな。ここは隊長、君の出番だ。」

 

俺がそういうと西住は頷きながら試合会場の地図を広げる。

西住は地図に描かれている小さい森を指差しながら説明を始める。

 

「草原で行えば確実にバレるので、おそらく敵のフラッグ車は森の中にいると思われます。森自体の数は少ないので、しらみつぶしに回れば見つけることは可能です。」

「・・・だが、問題は向こうがこちらが通信傍受を看破していることをいつ悟られるかだ。ガセネタを流すにも三回、いや二回もやれば流石に気づくぞ。」

「ひとまず、最初の一回は本来の作戦のⅢ突の前に誘き出すことにしましょう。」

 

西住は通信機に地図に表示されている道の集合地点、すなわちジャンクションにて一度集まる旨の通信をする。もちろんそれは嘘の情報だ。本命はⅢ突を中心とした半包囲を行い、擬似餌にかかった敵を喰らう内容だ。

 

「さしずめ、『あんこう作戦』と言ったところか。」

「あ、いいですね、それ。確かにやっていることはあんこうそのものですね。」

「それじゃあ、吊るし切りと行きましょう。」

「華ー。それじゃあわたし達が食べられちゃうんだけどー。」

「た、確かに、私達、あんこうチームですからね・・・。」

 

指定したジャンクションを見下ろせる高台に来るとサンダースの戦車が続々とポイントに集結してくるのが一望できた。

やはり敵は通信傍受をしていることは間違いないようだ。

 

「囲まれた!全車後退!」

 

西住が合図となる後退の声をあげると集合場所にいた八九式が異常な土煙を巻き上げながら発進する。無論、西住は全車と言っているが全くのハッタリだ。

異常な土煙の正体はそこら辺にあった草木を束にしたただのこけおどしだ。

 

「さて、かかった獲物の一本釣りと行こうか。」

「見つかった。みんなバラバラになって逃げて!38tはーー」

 

敢えてこちらのフラッグ車の居場所を出すことで相手をこちらのキルゾーンに誘い込む。とはいえ、こちらは数が少ないため、あまり一気に来られても困るのだがな・・・。

 

「みぽりん、餌に引っかかったのは二輌だって!!」

 

二輌か。こちらがただの弱小校だと思っているなら痛い目を見てもらうぞ。

 

「Ⅲ突からメールだよ!1輌逃しちゃったみたい!!」

「深追いはしないように、と!!」

「作戦成功ですね!!」

 

ひとまず先手はこちらが取れたようだ。ただ問題はやはり敵のフラッグ車だろう。この試合がフラッグ戦である以上、フラッグ車を叩かなければこちらの勝ちにはならない。

 

「西住、次はどうする?打てるのであれば早目に手を打った方がいい。」

「そうですね・・・。次はフラッグ車を探します。そのために敵の戦車には少し遠くへ追いやります。」

「・・・まるで、敵のフラッグ車の目星が付いているようだな。」

 

俺がそういうと西住は二箇所のポイントを指差す。

西住曰く、この二箇所のどちらかに敵フラッグ車が潜んでいるはずだという。

 

「時間との勝負だな・・・。こちらがフラッグ車の捜索か撃破を手間取れば、最悪挟み撃ちだな。」

「ですが、これしか方法はないんです。沙織さん、お願いします。急かすつもりはありませんが、なるべく手早く見つけられるようにお願いする旨も伝えてください。」

「オッケー!!」

 

お得意のメールの早打ちで瞬く間に各車輌への通達を済ませる沙織。

西住は通信機で嘘の情報を流す。

 

「・・・各戦車了解っと・・・ってあれ、会長からメールきてる・・・?」

「沙織さん、どうかしましたか?」

 

沙織が疑問気な表情を挙げているのに西住が気づき質問をする。

何かあったのか?

 

「えっと、会長からメールが来てて・・・。ってうぇえっ!?」

「さ、沙織さん!?どうかしましたか!?」

 

シャアの奴、メールで何を送ったんだ?

沙織に母性を感じたとか言い張るんじゃないんだろうな・・・。

 

「か、会長が、時間を稼ぐって・・・。」

「じ、時間を稼ぐって・・・。まさか。」

「・・・囮をやるつもりか?」

 

シャアの奴、大胆な行動に出たな。38tは今回の試合ではフラッグ車を務めている。つまりシャアがやられればこちらの敗北。はっきり言って悪手以外の何者でもないがーー

 

「・・・時間を稼ぐだけならいいかもしれないな。」

「ええっ!?麻子殿、なにいってるんですかぁ!?」

「そ、そうだよ!!会長の38tはフラッグ車なんだよっ!?やられたら私達の負けなんだよ!!」

「流石にそれは素人の私でも分かります。無謀以外の何物でもありません。みほさんも同意見ですよね?」

「うん。流石にフラッグ車にそんな無茶はやらせられないよ・・・。」

 

まぁ・・・。そういう反応をされるだろうな、普通。だが、どれほどの時間がかかるかわからない以上、できる限り時間に余裕を持たせておきたい。

 

「なら、この条件を付け足す。会長が私と同等の技量を持っているとしたら、どうする?」

「か、会長が麻子とおんなじ技量を持っている・・・!?」

「つ、つまり、それは、聖グロに一目置かれるのと同等・・・。ということですよね!?」

「アイツとは色々やらかした仲だ。会長の、杏の実力は私が一番知っている。言葉だけでは納得してもらえないかもしれないが、杏を信じてやってはくれないか?」

「みほさん、どうしましょう・・・。」

 

西住は険しい表情をしている。だろうな。本来守らなければならないフラッグ車を囮に使うなど前代未聞の作戦だろう。捨て身の作戦と言っても過言ではない。

 

 

 

(・・・会長を呼び捨てにするって、かなり親密さがないとできないよね・・・)

 

はっきり言って冷泉さんの言っていることは華さんの言う通り、無謀にも等しい。

フラッグ車を囮に使うなんて、黒森峰では絶対にできないことだ。

でも、仮に冷泉さんの言う通り、会長が冷泉さんと同等の技量を持っているとしたら……もしかしたらーー

 

 

 

「・・・私、信じます!!」

「ま、真面目に言ってるっ!?だ、大丈夫なのっ!?フラッグ車を囮に使って!!」

「フラッグ車を囮に使えば、相手は確実に狙ってきます。冷泉さんの言う通り、時間がかなり稼げるのは事実です。」

「で、ですが、もし会長がやられてしまえば・・・。」

 

秋山の言葉に西住は強い表情で頷いた。まさか、西住の許可が下りるとはな・・・。

 

「沙織さん、会長にメールを!!」

「い、いいんだよね?本当にいいんだよね!?」

「お願いします!!」

「いいのか・・・?」

「ええっ!?今更なに言ってるんですかぁっ!?」

 

俺が零すように言った言葉に秋山がびっくりした表情で見つめる。

いや、まさか受けてくれるとは思わなかったからな。

 

「・・・私は会長さんを信じた訳ではないんです。」

 

西住のその言葉にⅣ号の中が静寂に包まれる。沙織の携帯が鳴らすメール送信したことを示す音が虚しく響く。

 

「・・・中々の爆弾発言だな・・・。それではなにを信じて許可を出したんだ?」

「私が信じたのは、会長さんを信じている、冷泉さんを信じたんです。」

 

西住の真っ直ぐな視線を見て、俺は思わず困った顔をしてしまう。

・・・まさか、ここまで信頼してもらえるとはな・・・。

 

「ふぅ・・・、ならその信頼に応えるとしよう・・・。」

 

俺は操縦桿を握りしめる。やれやれ、責任が俺まで飛び火するとはな・・・。

シャア、頼んだぞ・・・。こっちは任せてくれ。

 

 

 

「西住君から許可が降りた。柚子、桃、覚悟はいいな?」

 

私は携帯を閉じて38tの乗組員の二人を見る。柚子は決意の固まった顔をしているが、桃はすでに半泣きだ。

 

「か、会長〜。ほ、本当にやるんですかぁ〜!?」

「桃ちゃん、泣かないの。会長だって何も無策で挑む訳じゃないんだから・・。」

「すまないな。このようなことに巻き込んで。だが、こうでもしなければ西住君たちが敵のフラッグ車を見つける時間を確保できないと思うのでな。そもそも、勝たなければ我々に未来はない。この程度で泣きを見せては後々困るぞ。」

 

私がそういうと、桃は零しそうな涙をなんとか堪えた。だが、今度は鼻水が出てきてしまったがな。

 

「では、道化師を演ずるとしよう。柚子、サンダースをおびき寄せたポイントまで移動してくれ。」

 

少し移動すると小高い丘の上にサンダースの車輌が集結している光景が目に映る。中々滑稽な光景だな。

 

「ではここから先はかけっこだ。準備はいいな?」

 

覗いている砲塔から視線を外すと決心した様子で頷く二人の顔が見える。

1輌のシャーマンからケイが顔を覗かせているのが見えるが、別の車輌が盾になって撃破は無理か。

 

「ならば、別の車輌を狙うだけだ。」

 

私は履帯が丸見えになっているシャーマン・ファイアフライに照準を合わせる。

 

「外しはしない。直撃させる。」

 

トリガーを引き、砲弾が放たれる。悪いが、一番火力があるのは君の駆るファイアフライのようなのでな。鬼ごっこからは退場してもらおう。

 

 

 

アリサの指示…というか、あの子多分だけど通信傍受してるんだろうけど、それに従って指定ポイントまでやってきたけど、突然ファイアフライが砲撃を受けた。

 

「ナオミっ!?大丈夫っ!?」

「っ・・・・履帯がやられました。」

 

発射源をすぐさま探すと森の中から顔を覗かせている38tが目に入る。

しかもアリサの情報が正しければ、38tはフラッグ車。フラッグ車の証である旗は風に揺られてたなびいている。つまり、これを倒せば私達の勝ち。

でもーー

 

(護衛が1輌もいない・・・?)

 

本来フラッグ車は何がなんでも絶対に守らなければならない車輌だから護衛は少なくとも1輌や2輌は必要だ。でも大洗の戦車の総数は5輌。割かれるほどの戦力がないのはわかっている。

 

(たまたまエンカウントした?でもここは大洗の通信を傍受して集合するポイントだと・・・。)

 

何か裏があると感じて考え込んでいる間に38tは森の中へと入り込んでいく。

ほかのメンバーからも追撃するかNOかの指示を待っている。

ここはーー

 

「やっぱり逃すわけにはいかないわっ!!各戦車、GO AHEAD!!」

 

あまり1輌をよってたかって甚振るのは主義に反するけど、ワタシだって勝ちたいのよ!!

 

 

 

「よし、来たか。ファイアフライは・・・うまく落とせたか。」

 

森の中を駆け抜けながらキューポラから顔を出し、サンダースの車輌を確認する。砲撃がサンダースから飛んでくるが、行進間射撃をしているからか命中率はおざなりだな。

 

「会長。振り落とされないでくださいね?」

 

柚子が心配するような声で話しかけてくる。桃に至っては既に嗚咽をこぼしていて何も喋れないでいた。しかし、彼女の様子から心配してくれていることは見え見えだがな。

 

「ああ。そこは気をつけるさ。では、頼むぞ。」

 

私はそういうとキューポラから身を乗り出して、38tの車体に腰掛ける。

振動とかが直に伝わるが、そこは気にしないでおく。

こうした方が見やすいからな。ふっ、ケイの驚いている表情も丸わかりだな。

 

 

 

「ちょ・・・アンジー?何やっているの・・・?」

 

突然38tのキューポラが開いたと思ったらアンジーが出てきた。

何をするのかと思えば車体上部に腰掛けて、こちらをじっと見ている。

驚いた表情でそれを見ているとアンジーが不適な笑みを浮かべた。

その瞬間ーー

 

「っ・・・・・!?」

 

全身に鳥肌が走るような寒気が肌をなぞった。

な・・・なに、今の感覚・・・。今まで感じたことのないような・・・黒森峰のマホや聖グロのダージリンでもない二人とは一線を画している、さながら、到底手が届かないような場所にいるナニカ。

 

「アンジー・・・アナタ、何者・・・?」

 

ポロっと零すように出した声も戦車の駆動音にかき消されてしまい、彼女に届くことはないでしょうね。

でも、それでも構わないわ。なぜならーー

 

「まさか、一回戦からアナタのようなストロングな学園と当たるなんてね。」

 

今は強者に出会えた嬉しさでいっぱいなんだから!!

 

 

「来るか。相手にはならんだろうが、競争には付き合ってもらおうか。」




うん、どんどん原作から離れてきている気がしてきた・・・。


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第20話

「左だ!!」

 

私が柚子に指示を飛ばすと38tの車体が左にずれる。その直後先ほどまでいた場所を砲弾が通過する。

 

「今度は右に車体を!!」

 

今度は右に車体を動かすことで再度飛んでくる砲弾を避ける。

今のところ、相手の敵意を感じることと砲塔の向きを見切ることでなんとかサンダースの砲撃を凌いでいる。

とはいえいつまで保つか・・・。表情には出さんが、私は内心不安に思っていた。アムロ、できれば早めに片をつけてくれると助かるのだが・・・。

 

 

 

「っ・・・・!!まさか、ここまでかわされるなんて・・・!!」

 

思わず苦々しい表情を挙げてしまう。

目の前のフラッグ車に一発でも当てればサンダースの勝ちなのに、その一発が想像以上に遠く感じる。

いくら狙ってもアンジーの指示一つで発射の直前に射線から外されてしまう。

 

(どうすれば当てられるの・・・?どうすれば・・・。)

 

単発で撃っても避けられるのは目に見えている。砲撃が連続とか一気に撃てたらまだイケると思うけど、そんなに都合のいいことなんてーー

 

(あ、いいこと思いついちゃった。)

 

そうよ、それよ。一人でダメならみんなでやればいいじゃない。

 

「各シャーマンに通達よ。ワタシのオーダー通りにやりなさい。」

 

 

 

 

 

・・・・ケイの雰囲気が変わった。何か仕掛けてくるようだな。

用心したいところだが・・・正確には分からんから対処のしようがない。今のところな。

 

「むっ?砲撃が止まった?こちらが通信傍受を看破していることに気づいたか?」

 

だとすればいくらかフラッグ車に向かわせるはずだが・・・未だに私の目の前のシャーマンは7輌のままだな。

となるとその線は薄いか。他の可能性はーー

 

「こちらを仕留めにかかる、か。」

 

正直言って当たって欲しくない予感だったが、どうやら本当のようだ。

シャーマンの砲塔が全車輌、揃いもそろってこちらを向いている。

一斉攻撃で仕留めにかかるようだ。それにここは道の狭い森の中。逃げ場はほぼない。

 

「か、会長。砲撃が止んでますけど、どうかしたんですか?」

 

外の様子が気になったのか桃が尋ねてきた。・・・・彼女に任せてみるか。

 

「桃、砲撃準備だ。狙いは、地面だ。」

「ええっ!?地面ですかぁ!?」

「早くしろ!こちらがやられるぞ!!」

 

少し声を荒げると桃はびっくりした様子で砲弾を装填する。

やはり桃は装填手が適任だな。何だかんだ言って手際がいい。

 

「柚子。私の合図で急停止をしてほしい。頼めるか?」

「分かりました!!」

 

柚子に頼みごとを済ませたあと38tの砲塔が回り始める。

流石に砲撃の時まで外に出ている訳にはいかないのでキューポラから顔を覗かせる程度にとどめておく。

砲撃のタイミングはケイが通信機に手をかけたまさにその時だ。一斉攻撃するのであれば必ず各戦車にそのタイミングを伝えるために連絡をする必要がある。

 

(そこであれば、不意をつくことができるはず・・・。)

 

そして、私の予想通り、ケイが通信機に手をかけようとしたまさにその時。

 

「桃!!主砲、放て!!」

「は、はいっ!!」

 

桃がトリガーを引く。いくら命中率がゼロに等しい桃の砲撃でも地面に砲弾を撃ち込んで土を巻き上げることくらいはできる。38tの砲撃により巻き上げられた土はケイとの間の視界を塞ぐ。

 

「柚子っ!!緊急停止だ!!」

「行きますっ!!」

 

柚子が38tのブレーキを力一杯踏み込む。慣性の法則に則って、38tの車体が一瞬浮いた気がしたが、なんとかその場に止まることができた。

その瞬間、土煙をシャーマンの集団が突っ切ってきた。私の予想通りだ。

そしてーー

 

「What!?」

「各員、衝撃に備えろっ!!」

 

無論、シャーマンが38tの周りを通り抜けていく、ということはなく、ケイの乗るシャーマンと思い切り衝突する。衝撃で38tの中で振り回されるが全員怪我なく済んだ。思った以上の衝撃だな・・・。

だが、他のシャーマンとは衝突することはなくそのまま通り抜けていった。

 

「イッタタタ・・・。ちょっとアンジー!!危ないじゃないの!!」

 

どこかをぶつけたのかケイが怒った様子でこちらに話してくる。

敵同士なのに話しかけてくるとはな。これが戦車道の為せる事なのか、はたまたケイの人柄なのか・・・。

 

「こちらには引くに引けない事情があるのでな。そういうことでよろしく頼む。柚子、エンジン再起動だ!反対方向へ逃げるぞ!!」

「逃がすわけないでしょ!!」

 

柚子にここからの逃走を指示すると同時にこちらを討たんとケイがシャーマンの砲塔を旋回させている。さて、間に合うか?

 

 

 

「冷泉さん!!ポイントまで急行してください!!」

「ああ、任せてくれ!!」

 

俺たちは、森の中を全速力で駆け抜けていた。シャアが囮をしている間、二つの森の中をしらみつぶしに回っていた。

そしてついに、アヒルさんチームが敵のフラッグ車を探し当てた。

八九式は火力が心許ないため、バレー部にはこの先にあるひらけた場所に敵のフラッグ車をおびき寄せてもらっているところだ。

しばらく森の中を走っていると指定のポイントに辿り着いた。

 

「着いたぞ!!」

「敵のフラッグ車はっ!?」

『まだ森の中ですー!!でも多分そろそろ抜けると思います!!」

「森の中を抜けたらすぐに射線を開けてください!!」

『了解ですっ!!』

 

通信傍受の恐れは少ないため普通にアヒルさんチームと通信を行う西住。

その通信から少しすると森の中から八九式が飛び出してきた。

何やら機銃掃射を受けているように見えたため、おそらく後ろには敵のフラッグ車がいるだろう。

まさにその時、煙に包まれた状態で敵のフラッグ車のシャーマンが姿を現した。

シャーマンの進行方向の先には待ち構えるようにM3とⅢ突が砲塔を向けている。

既に八九式は2輌の射線からは退避している。あとは撃つだけ、と言いたいところだが、実を言うと本命は俺たちのⅣ号だったりする。

ちょうどシャーマンの側面を叩ける位置についているから俺たちが撃った方が討ち取れる可能性は高い。

 

「華、砲塔を動かす必要はない。照準に入ったら撃ってくれ。」

「分かりました。」

 

ほとんど相手の詰みの状況だったが、何が起こるか最後までわからないため気を張っておく。そして、その気を張っていたのが功を奏したのか、シャーマンから一瞬、視線を感じたのを俺は見逃さなかった。

 

(気づかれたかっ!?)

 

俺の中で生まれた不安は見事に的中した。シャーマンは急停止したのだ。しかもあの感じだとこちらの照準にはギリギリ入っていない。それにおそらく向こうは動きはしないだろう。

だが、向こうが動かないのであればーーこちらから動くまでだ!!!

 

「逃がすものかっ!!」

 

俺は操縦桿を操作して左右のキャタピラをそれぞれ逆に動かし超信地旋回をして、Ⅳ号の車体をわずかに右に旋回させる。

華はそのままトリガーを引く。わずかに車体を旋回させたことで本来外れるはずだった砲弾は、シャーマンの側面に直撃し爆発を起こす。

そして、炎上しているシャーマンから白旗が上がった。

 

『シャーマン、戦闘不能。大洗女子学園の勝利!!』

 

「勝った・・・・?私達、勝ったんだよね・・・?」

「ああ、そうだな。さっきの放送が嘘ではなければな。」

「や、やりました!!勝ったんですよ!!サンダースに!!」

 

秋山の喜びの声に誘発されたのか沙織もさっきのまるで信じられないといった表情から一転、喜びの表情へと変わり、秋山とハイタッチをしていた。

ふぅ、どうやら第一関門は突破したようだな。

俺は俺で表情を緩めることで勝利を噛みしめているとーー

 

「あの、冷泉さん?」

「華か?どうかしたか?」

 

華が声をかけてきた。何事かと思っていると、

 

「その、先ほど、フラッグ車を撃つ時、冷泉さんが車体を動かしてくれなければおそらく……いえ、確実にあの砲撃は外れていました。」

 

フラッグ車を撃破した時のことか。気にすることはないと思うのだがな。

あれはしょうがないだろうな。突然止まられて、それに対応しろというのも難しいことだ。

 

「たまたま気づけただけだ。それにちょっと手を加えただけ、9割がた君の実力で当てたようなものさ。」

「それでも冷泉さんがその手心を加えてもらえなければ外していたのは事実です。ですので―――」

 

そこまで言ったところで一度言葉を切った華。

 

「ありがとうございました。」

 

・・・全く、何を言い出すのかと思えば・・・。屈託のない笑顔で言われてしまえば何も言えないではないか。

 

 

 

「ふぅ・・・・どうにか間に合ったか。」

 

シャーマンの主砲を向けられてまさに万事休すと言った様子の中で大洗が勝利したことを伝えられる。全くこれではどっちが勝ったのかわからんな。

 

「まさか、フラッグ車が狙われていたなんてね・・・。アナタのやっていたこと、全部時間稼ぎだったのね。」

「そういうことだ。フラッグ車が出てくれば確実に狙ってくるだろうと思ってな。」

 

私がそういうとケイはうなだれた様子でシャーマンの車体に上半身をさらけ出す。

 

「Oh・・・・。その様子だと通信傍受も気づいていた感じよね?」

「ああ。序盤の方から薄々は感じていた。あれは君の指示かね?」

 

そう聞くとケイは首を横に振った。つまり部下の勝手な行動か。

 

「あれはアリサの……ああ、私のそばにいたツインテールの子ね。あの子、割と手段を選ばないから・・・。はぁ、この後反省会ね。私も含めてだけど。」

「ん?何故反省会なんだ?」

「フェアじゃないことは好きじゃないのよ。通信傍受って、相手の通信を盗み聞きすることでしょ。あまりやりたくないの。」

 

ふむ、どうやら彼女はフェアプレイ精神が強いようだな。スポーツにおいてその精神には驚嘆に値するものがある。

 

「そのアリサという人物を責めるのか?」

「そんな訳ないじゃない!あの子だって本当はいい子だって分かってるわ。ただ、勝手にやったことをちょっと問い詰めたいだけ。」

「ふむ、まぁ、部下の勝手な行動を戒めるのは隊長の役目だ。だが、そう彼女に怒らないでやったらどうだ?」

「Why?どうして?」

「今回彼女が君にも相談せずに君の主義にも反して通信傍受をしたのは、まさに君を思ってのことだったのだろう。」

「ワタシを思って・・・?」

「おそらくだがな。その人物はわかっていたんだろうな。君の主義に反するのは。」

「ふーん・・・。」

 

ケイは腕を組み、考え込んでいる。あとは特に言う必要はないだろうな。

 

「あとは君自身が知ることだ。これ以上はただのお節介になりそうなのでな。」

 

私は柚子に指示して、その場を後にした。

 

「ワタシのため・・・ね。」

 

 

 

 

私が試合用の陣地に戻ってくるとすでに大洗の面々は一種のパーティー状態であった。

 

「ふむ、賑わっているようだな。」

「遅かったな。道草でも食っていたのか?」

「少しばかり、お節介をな。」

「そうか。それはいいんだが、お前はこの風景をどう思う。」

 

アムロに言われ、大洗のみんなの様子を見ると未だ興奮冷めやまぬ様子で騒ぎまくっている。はっきり言ってこれはーー

 

「居辛いものがあるな・・・・。女子高生のテンションとは凄まじいものだな・・・。」

「なら、向こうへ行くか?」

「・・・そうさせてもらおう・・・。」

 

 

 

大洗女子の喧騒から少し離れたところで静かに勝利を喜ぶ。

 

「勝ったな。」

「ああ、勝ったな。しかし、よくフラッグ車を囮に使うことを許してくれたな。」

「それに関して、後で西住にお礼でもいっておいたらどうだ?」

「ふっ、そうだな。」

 

確かに西住君には後でお礼を言っておかねばならんかもな。フラッグ車を囮に使うなど中々やらないだろうからな。

とりあえずそこら辺の自販機で買ったお茶を飲む。

私とアムロ、二人でまったりしているとーー

 

「あ、冷泉さんと会長。こんなところに居たんですか。」

「Hi!!アンジー!!探したわよ!」

「・・・アンジーってお前のことか?」

「ああ。試合前の挨拶の時にあだ名をつけられてしまってな。」

 

西住君とケイがやってきた。しかし、二人揃って何用なのだ?

 

「どうかしたのか?」

「その、ケイさんと話していたら共通の疑問を持っていたようなので一緒に二人を探していたんです。」

「共通の疑問・・・・?」

 

・・・あまりいい予感がしなくなってきたな・・・。

 

「アンジー、アナタ、タンカスロンでもやっていたの?」

「タンカスロン?知らない名だな。」

「・・・本当に?じゃあ、何処で戦車道をやってたの?」

 

ああ、なるほど。ケイは私が戦車道の経験者だと思っているのか。

 

(・・・俺も西住に似たような内容の質問を受けたがその時は初心者で押し切った。だが、技量は俺と同レベルだと言ってしまっている。)

 

アムロが隣で私にしか聞こえないレベルの声量で情報をよこしてくれる。

ふむ、なるほど。その発言を考えて矛盾の少ない解答の仕方は・・・

 

「私は初心者だよ。とはいえ、戦車を動かす機会がなかった訳ではない。

イベントとかでたまたまそういった機会があってな。それで動かし方は学んだ。」

「ふーん・・・。」

「イベントですか・・・。」

 

いい感じにはぐらかせたとは思うが、まだ疑いの線を消せていないようだな。

とはいえ、これ以上はなにも言えることはないのだがな・・・。

 

「大洗の会長がおっしゃっていることは事実ですわよ。」

 

何やら面倒な雰囲気が漂ってきたと同時に車のエンジン音と共にピンク色のオープンカーが現れた。

紅茶片手に育ちの良さそうな感覚を覚える人物と言ったらーー

 

「ダージリン。来ていたのか。」

「ええ。友人の試合を見に行くのは当然のことでしょう?そして、一回戦突破、おめでとうですわ。」

 

・・・対戦した相手の目の前でそれを言うのか・・・。

内心、頭を抱えてしまう。ケイも不機嫌な顔つきに変わっている。

 

「それで?アナタは何の用なの?それと、アンジーの言っていることが事実ってどういうことなの?」

 

どこか怒気の含んだ口調でダージリンに話しかけるが、当のダージリンは優雅に紅茶を嗜んだ後に口を開いた。

 

「聖グロの誇る諜報機関、『GI6』からの情報ですわ。一通りのタンカスロンの非公式な試合や小学校から中学校に至るまで戦車道チームの名簿など確認したが、お二人の名前はかけらもなかった、とのこと。」

 

・・・聖グロには諜報機関まであるのか・・・。どこまで戦車道に力を入れているんだ・・・。

 

「つまり、彼女らは正真正銘、全くの初心者ですわ。」

 

これは思わぬ援護射撃が入ったな。しかしだな・・鵜呑みにするのは不味い感覚がする。聖グロはイギリス風な校風。歴史を鑑みるに二枚舌や三枚舌にもなるからな。

 

「うーん。GI6ねぇ・・・。それなら事実かもね。となると凄いセンスの持ち主なのね。アンジーたちは。」

「そうですね。冷泉さんは乗り始めた初日からドリフトとかしてましたからね。」

「Reallyっ!?センスの塊じゃないの!!」

「あら、そこまでの技量をお持ちなのね。ますますお二方が気になりますわね。」

「・・・確か、こんな状況を表す諺がなかったか?」

「・・女三人寄れば姦しい、じゃなかったか?」

「それだな。」

 

各校の隊長の三人が会話で盛り上がっている中、お茶を口に含む。

お茶の渋みが口の中に広がって心が落ち着く・・・。

 

「みほ?」

「・・・お、お姉ちゃんっ!?」

 

そんな声が聞こえたので顔を上げると、そこには戦車道をやっているものなら誰でも知っている人物がいた。

 

「なぁ、私の見間違いか?」

「いや、あれは本物の西住まほだな。」

 

・・・・なんだこの混沌と化した状況は。

 

 

 




サンダース戦、終わりましたー!
だがしかし、アムロたちの心労はまだ続きそうです^_^


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第21話

なんなんだこの状況は・・・。

シャアと共に喧騒から離れて飲んでいたら西住とサンダースの隊長、ケイとシャアが言っていたか?まぁ、とりあえず二人からシャアについての質問をしているとそこに聖グロのダージリン、挙げ句の果てに黒森峰のまほまで現われ、包囲網を形成されてしまった。

 

「お姉ちゃん・・・どうしてここに・・・。」

「え、あ、その・・・だな・・・。」

 

ん?妙にたどたどしい口調だな。それに視線を右往左往させている。ほかの三人と同じように俺とシャアに直接聞きに来た訳ではないのか?

それに少し様子を見ているとなんとなく俺に頻繁に視線を向けているような気がする。

 

(まさかとは思うが・・・。)

 

俺は半信半疑の状態のまま彼女に駆け寄った。

 

 

 

い、言える訳がない・・・!!みほと話したいのだが、話題の広げ方をどうすればいいかわからなくて、彼女に聞きに来たなど、言える訳がない・・・!!

 

一応、人気のいない時を狙ったつもりではあったが、まさかサンダースはおろか聖グロまでいるとは・・・!!ど、どうする・・・。

軽いパニック状態になっていると誰かが私の手首を掴んだ。

思わずびっくりしてーー

 

 

「ひゃうっ!?」

 

駆け寄って、彼女の手首を掴んだのはいいが驚かせてしまい、そんな声が辺りに響いた。全員が呆気に取られた表情をしている。彼女自身も目を白黒させている。

・・・こういう時は触れないし触れさせないように俺が切り開くのが最適か?

 

「まさかとは思うが、私に西住との話題の広げ方を聞きに来たんじゃないだろうな?」

「うっ・・・その、す、すまない。」

「ハァ・・・・やはりか。」

 

・・・図星か。全く、こういう中々一歩を踏み出せないのは姉妹だな・・・。

俺はため息をついた。この姉妹は多少強引に行かないと駄目なのか・・・。

 

「前に話せる時に話して置かねば後々後悔すると言ったはずなんだがなぁ・・・。ほらこっちだ。」

「えっ!?あ、ちょ、ちょっと待て!!こ、心の準備が・・!!」

「四の五の言っていられるか!!せっかくの機会を君は逃すのか?黒森峰の隊長にしてはらしくない。」

「う・・・うぐっ・・・。」

 

よし。これで彼女が逃げるルートは封鎖できたはずだ。あとは・・・。

 

「会長!!そこの二人を下がらせてくれ!!」

「ん?ああ、そういうことか。ケイ、ダージリン、我々はどうやらお邪魔虫のようだ。ここは引き下がってはくれないか?」

「オッケーよ。まぁ、家族の方が優先だものね。」

「承りましたわ。」

「それとダージリン、いくら面白いものが見れたからとはいえ、あまり黒森峰の隊長をからかわないようにな。後々痛い目を見ても知らんからな。」

「・・・・・。」

 

ケイやダージリンといった各校の隊長を杏が下がらせることで今この場にいるのは俺と西住姉妹の三人だけとなった。世話が焼ける姉妹だ・・・。

二人は突然の状況にどうすればいいのかよくわかっていないのか困惑の表情をあげたまましばらく無言だった。

 

「・・・なぁ、みほ。」

「な、何?お姉ちゃん。」

「その・・・今の日々、大洗での毎日は、楽しいか?」

「・・・うん。よくしてくれる友達もいっぱいできたし、それに、頼れる人もできたし。」

「頼れる人、か。つまり甘えられる人、ということか。」

「やっぱり、西住流的には駄目・・かな?」

「いや、そうは思わない。お母様だってお父様によく甘えていたからな。ただ……」

 

一瞬表情を緩めたかと思ったらすぐさま沈んだ表情に変わった。まほから感じるのはーー無力感だ。

 

「あの時、みほに必要だったのは側にいてくれる人だった。だが、私含め、誰も側にいてやることができなかったのはすまなかったと思っている・・・。」

「で、でも、あの時の私の行動は勝手にやったことだし・・・。」

「そんなわけない!!抽選会の日、戦車カフェで鉢合わせた後、彼女に言われたことを戻ってからもずっと考えていた。」

「戦車道はスポーツだと言ったことか?」

 

俺がそう確認するとまほは頷いた。ただその表情はとても憔悴していた。

 

「戦車道は確かに戦車という兵器を使っている。だが、スポーツと銘打っている以上彼女の言う通り、スポーツマンシップが尊ばれなければならない。」

「だから、西住は悪くないと言いたいのか?」

「ああ。悪いのはみほをそこまで追い込んだ、私や黒森峰だ。」

 

まほがそこまで言い切ったのを見て、俺は再度頭を抱えた。

理由か?それはもうーー

 

「はぁ・・・君たちは本当に姉妹だな。自分一人のせいにするところまで同じか。」

「え・・・?」

「これは私個人の所感だ。どう思うかは君達次第だ。」

 

はっきり言ってこの二人はお互いにお互いを思うあまりすれ違いを起こしてしまっているんだろう。

 

「まぁ、あの時は言わなかったが、西住。君は確か川に滑落した仲間の戦車を助けに行ったんだったな、雨の中。」

「え・・・、うん。そうだけど・・・」

「雨の中、ということは、十中八九川の水は増水していただろうな。そこに飛び込むのは正直に言って自殺にも等しい行動だぞ。君が仲間思いなのは知っているがそれで死んだら元も子もないだろう。仲間を助けるなとは言わないが、自身の安全を損なった面では君にも責はある。」

「あう・・・ごめんなさい・・・。」

「そして、まほ…失礼、貴方の方だが、西住に対するリカバリーの少なさが如実に現れている。貴方が一声あげればマスコミや外部の人間はともかく内部の隊員くらいは御せるのではないか?」

「あの試合の直後は・・言い訳にしかならないがOGからの対応に追われていて私も自分自身のことで精一杯だった・・・。」

 

彼女の言葉を聞いて、思わず舌打ちをしてしまう。どこの時代も老人はどうしようもないことしかしないな。未来を作るのはその時代を生きる若者だろうに。

 

「・・・そうか。それは辛い言葉もあっただろうな。名門のOGというのはどこも何故か自分達と同じ結果を出さねば不満をあげるからな。そんなにことはうまく行かないと言うのに・・・。」

 

ちなみにこれはテレビとか見てるとたまに映る光景だったりする。

何故自分達と同じ結果を求めるのか理解に苦しむ時が結構ある。

 

「お姉ちゃんはお姉ちゃんで大変だったんだね・・・。私、てっきり見捨てられたかと思ってた。」

「・・・すまない。気を配らなかった私の責任だ。」

「ううん。私も私で本当に余裕がなかったから。多分その時はかなり卑屈になっていたと思う。本当に何もかも悪いようにしか捉えてなかった。」

「・・・私は何で悩んでいたんだろうな。こうして一歩踏み出せばこうして笑いあえるのにな。」

「うん。なんでだろうね。」

 

 

最初はお互い困惑な表情を挙げていたが、今は二人とも笑顔を挙げている。

絡みに絡まった糸のように複雑にこじれてしまった姉妹の絆。糸は自力で解くことは出来ないが、そこに手が加われば時間がかかるかも知れないが解けないものはない。

人と人の関係は難しそうに見えて、案外簡単なものなんだ。俺もアイツと何だかんだ言ってつるんでいるからな。

そう感慨深く思っていると、突然ポケットに入れていた電話が鳴り始めた。

・・・中々不粋なタイミングだな・・・。

 

「悪い。少し席を外す。」

 

俺がそう言うと二人は頷いて、再び談笑を始めた。

無理やり会話を取り付けたがうまく行ったようで何よりだ。

さて、携帯はだれからーーん?知らない番号だな・・・。

 

「もしもし?」

 

通話ボタンを押して電話の相手と会話を始める。電話の主は大洗の病院の看護師だと名乗った。病院?何故急に・・・。

 

『貴方の祖母の冷泉 久子さんが倒れました。』

 

何っ!?祖母が倒れただとっ!?思ってもいなかった内容に動揺の色を隠せなかったが、声には出さなかったのは不幸中の幸いだった。

 

「それで、容態はっ!?」

『はい。意識は失っていますが、容態は安定しています。』

 

そ、そうか。容態は安定しているのか。なら良かった。ふぅ・・・中々焦った。

そのあとはしばらく看護師と会話を行ったあと電話を切った。

 

「冷泉さん、どうかしましたか・・・?」

 

電話をポケットに戻して西住達の方を振り向くと二人が疑問気な表情を挙げていた。

・・そういえば、容態を聞く時に声を荒げていたな。

 

「・・・祖母が倒れた。」

「えっ!?それって今すぐ戻らないといけないんじゃ・・・!!」

「いや看護師に聞いたら容態は安定しているとのことだ。ただ、なるべくなら早めに戻りたいのが正直なところだ。」

「そ、それじゃあすぐ戻らないと!!お姉ちゃん、また今度!!」

 

そういいながら西住と共に学園艦に戻ろうとした時ーー

 

「待って!!」

 

まほに呼び止められた。俺と西住は突然の大声に思わず振り向く。

 

「お、お姉ちゃんっ!?どうかしたの!?」

「うちのヘリコプターを使ってほしい。そちらの方が早いだろう。」

「いいのか?」

「みほとの仲を取り持ってくれたお礼だ。これくらいはさせてくれ。」

「・・・わかった。恩にきる。西住、君は学園艦に戻って事情を伝えておいてくれないか?」

「うん!!分かりました!!」

 

俺の頼みに西住が強く頷くと駆け足で戻っていった。

 

「よし、こっちだ。ヘリでエリカが待ちわびているからな。」

「個人的には彼女と顔を合わせるのはごめん被りたいが・・割り切るしかないか。」

「そこの心配は必要ない。エリカが何かしそうだったら私が抑えておくから。なら、急ぎで行こう。」

「ああ。了解した。」

 

俺とまほも急ぎ足でヘリポートまで向かった。

少しするとヘリポートで一機のヘリコプターが停まっていた。

操縦席には彼女の言う通り逸見エリカが座っていた。というか、高校生がヘリコプターまで操縦しているのか・・・。

 

「隊長、遅かったですね。それほど急用は時間がかかること―――え。」

 

俺の顔を見た瞬間、驚愕といった表情をする。まぁ、こうなるよな。

彼女がワナワナと顔を震わせると人差し指で俺のことを指差した。

 

「な、なんでアンタがいるのよー!!?」

「君の隊長がご厚意でヘリコプターを貸してくれるそうなのでな。」

「はぁっ!?隊長!!どういうことですかっ!!」

「彼女の家族が倒れたんだ。早くヘリを飛ばしてくれ。行き先は大洗の病院だ。」

「え・・ええっ・・・。わ、分かりましたよっ!!」

 

追求を諦めたのか観念した様子で逸見はヘリを起動する。ローターが高速回転を始めるとヘリは空へと飛んだ。

始めは高校生が運転しているというのもあって内心不安だったが、安定した操縦をする逸見の様子を見て、不安は安堵感へと変わった。

 

「いい腕をしているな。彼女。」

「戦車の腕も言わずもがなだ。何せ、次の隊長を任せようと思っているからな。」

 

次の隊長・・・か。確か西住が黒森峰にいた時、副隊長を務めていたといっていたな。となるとーー

 

「仮に、西住が黒森峰に戻っていたら次期隊長は彼女だったわけか。」

「まぁ、そういうことになる。とはいえ、それはもしもの話だ。」

 

彼女の表情にさっきまであった憔悴したようなものは見えなかった。

 

「どうやら吹っ切れたようだな。」

「ああ。君のおかげだ。憑き物が落ちた気分だ。」

「そうか。お役に立てたようで何よりだ。」

 

数十分すると大洗の市街が見えてくる。病院から一番近いヘリポートに降ろしてもらうと飛び出るようにヘリコプターから出る。

 

「すまない!!助かった!!」

 

ローター音にかき消されないように大声でお礼をいう。だが、まほは首を横に振る。

 

「いや、お礼を言うのはこちらの方だ。君には感謝してもしきれない。」

「大したことはしていないさ。ただ貴方の様子にもどかしさを感じただけだ。」

「・・・それはあまり言わないでほしいな・・・。それと今更だが、一回戦突破おめでとう。」

「それは西住に言ってやってくれ!!そっちの方が彼女が喜ぶ!!それじゃあ私はここら辺で!」

 

最後にまほに対して手を振ると一目散に病院に向かった。

 

 

 

 

 

「あの・・隊長。急用とは結局何だったんですか?」

 

彼女を病院に送り届けたあとのヘリコプターの中でエリカが質問をしてきた。

・・・どう返答すべきか悩むな・・・。みほと話してきたと言ってもいいが、それだとエリカが不満気な表情をするのは目に見えている。彼女も私と同じようにみほに対して負い目を感じているからな。

ここは恩人を盾にするようで申し訳ないがーー

 

「大洗の冷泉麻子と角谷杏に会ってきた。二人の技量には目を見張るものがあるからな。エリカもかなり驚いていただろう?」

「・・・まぁ、先に1輌撃破するどころか、無傷でサンダースを下すとは思いませんでした。」

「そうだろうな。それにエリカは冷泉麻子と戦車カフェで一悶着起こしただろう。流石に会わすのは険悪な雰囲気になると感じたから急用ということではぐらかせてもらった。」

 

嘘は言っていない。事実、その二人には会ったし、エリカが彼女と会うのは少々不安要素があったからな。

 

「・・・あまり気を使わなくてもいいんですけどね。」

 

エリカが呟いた言葉は聞こえていたがどちらのことを言っているのかは分からなかったためそれ以上は何も言わなかった。

その後はお互いに話すことはなく黒森峰の学園艦へと帰還の道へとつく。

 

・・・冷泉麻子と角谷杏・・か。

 

一体、二人のあそこまでの強さはどこから来ているのだろうな。

サンダースのフラッグ車が急停止したのは私でも直前まで気づかなかった。

だが、彼女の乗るⅣ号は気づくどころか冷静に対処し、大洗を勝利に導いた。

まぁ、私はその場にはいなかったのだから彼女の咄嗟の判断だったのかみほの指示だったのかどうかは知るよしもないがな。

そして、今回目を見張ったのは角谷杏の逃走劇だ。7輌のシャーマンに追撃されながらもその射撃を悉く見抜き、機転を利かせて大洗がフラッグ車を撃破するまでの時間を稼ぎ切った。あそこまでの実力や判断力、並大抵のものでは身につかないぞ・・・。

 

「一体、貴方達は何者なんだ・・・。」

 




んー、どんどんアムロとシャアに対する疑念が各校の隊長を中心に広がって行く〜^_^


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第22話

おばあちゃんの性格がだいぶ軟化しています。


まほの計らいによりヘリコプターで病院の最寄りのヘリポートまで送ってもらったあと、途中の道にあった花屋で適当な花束を買って、病院に駆け込んだ。

病院に着いた時点で時刻はおよそ6時過ぎ、日は沈みかけていた。

 

受付で祖母の病室の場所を聞くとなるべく急ぎ足で向かう。

 

「おばぁ、大丈夫か?」

 

病室の扉の開け、開口一番に祖母の安否を確認する。返事は無かったが、医師曰く、容態自体は安定しているとのことだったので、おそらく寝ているんだろう。

俺は買ってきた花を窓の近くに置いてあった花瓶に入れると備え付けの椅子に腰かけた。

 

「学園艦が大洗に寄港するのは確か明日のはずだから、今日は病院にいさせてもらうか。」

 

俺は何があるかまだ分からないので祖母の病室の階のナースセンターから毛布を借り、特にやることもなかったため、そのまま椅子で寝た。

まぁ、パイロットのころは無重力状態の中で寝るのもザラだったため、特に問題なく寝れた。

 

次の日の朝、半日近くも寝たからかいつものようにうなだれるような低血圧もなく意外とスッキリ起きれた。

下を向いていた顔をあげるとそこには上半身を起こした祖母がいた。

 

「おはよう、おばぁ。体調はどうだ?」

「・・・心配かけちまったみたいだねぇ・・。お前さん、昨日は戦車道の試合とか言ってなかったかい?」

「まぁ、そうだが。何より家族の心配をするのは当然のことだろう。」

「タクシーで来たのかい?」

「いや、そこは他校のヘリコプターを使わせてもらった。ご厚意だったから運賃もゼロだ。」

「アンタ、何だかんだ言って知り合いの輪が広いじゃないか。小中のころは沙織ちゃんくらいしかいなかっただろうに。」

「まぁ・・・そうだったな。」

 

その知り合いの輪が広がったのも高校生になってから、それも戦車道を始めてからだけどな。

たまたまテレビをつけるとちょうどニュースをやっている時間帯だったのか、画面の中でニュースキャスターが報道を行なっていた。内容はこの前の全国大会の一回戦についてだ。勝ち負けの結果しか表示されていないが、黒森峰や聖グロといった常連校は順当に一回戦を突破している。そして、トーナメント表をみる限り、俺たち大洗の次の相手は『アンツィオ高校』か。

 

「へえ。一回戦突破かい?初出場にしてはいいんじゃないのかい。」

「だが、せっかく出場するんだ。目指すなら優勝だがな。」

「中々大きい目標だねぇ。」

「目標はなるべく大きい方がいいとか誰かが言っていた気がしたからな。」

 

一回戦だからか大した特集もなくニュースはそのまま全国のものへと移った。もう少し情報とかあるとありがたかったがな・・・。

そう思っていると携帯のバイブ音が響いた。携帯を開いて確認すると画面には沙織からのメールが届いていた。

内容は祖母のお見舞いに行きたいから部屋番号を教えてほしいとのことだ。

 

「おばぁ、沙織がお見舞いに行きたいと言っているんだが、部屋番号を教えても構わないか?」

「別に構わないよ。久しぶりに沙織ちゃんの顔も見たいしね。」

「わかった。」

 

俺はメールの返信に祖母の部屋番号をつけて送った。

そして、そのメールを送ってしばらく時間が経つとーー

 

「おばあちゃーん!久しぶりー!!」

 

病室の扉が開いて、私服姿の沙織が現れた。さらにその後ろからーー

 

「麻子殿ー!!お見舞いに来ましたよー!!」

「優花里さん、それでは冷泉さんへのお見舞いになってしまいますよ?」

「み、みんなで来たのかっ!?」

「えへへ、駄目・・だったかな?」

「いや・・・駄目とは言っていないが・・・。」

「誰だい?この子達。」

 

沙織の後ろから西住達が私服姿で現れた。すると祖母が疑問符をあげながら俺に尋ねてくる。まぁ、そうなるな。俺は微妙に困った表情をしながら説明を始める。

 

「戦車道で同じ戦車に乗っている仲間達だ。」

「西住みほです。」

「五十鈴華と申します。」

「秋山優花里です!!」

「ふぅん。麻子が世話になっているね。迷惑とかかけていないかい?」

 

祖母が軽くお辞儀をしながら、近況を尋ねるとーー。

 

「そ、そんな訳ありません!むしろ凄く頼りにしてもらっています!!」

「そうですね。冷泉さんの操縦技術にはいつも頼らせてもらっています。」

「いつも色々お世話になっています!!」

「そういう訳だから迷惑とか一切ないから安心してね、おばあちゃん。むしろ頼りになりすぎて見てるこっちが申し訳なくなってくるレベル。」

「そうかい。そうであれば構わないんだけどね。」

 

西住達からそう言われると祖母は表情を和やかなものに変える。

 

「とはいえ、アンタは大体おんなじような立場に収まっているねぇ。毎回、アンタがどうしているか聞くと大抵、返ってくる答えが『頼りになっている』なんだよねぇ。」

「そ、そうなんですか?」

 

西住がそう聞くと祖母は嬉々とした表情で頷く。

 

「そうだよ。この子ったら自分からはあまり関わりはしないくせに、要所要所に対する気遣いができているんだよ。」

「そ、そういえば麻子ってよくほかのクラスメートを慰めていた気がする・・・。」

「そういえばそうですね・・・。」

 

祖母の言葉に昔のことを知っている沙織と華が同意の言葉を零した。

 

「頼む・・・。それ以上は何も言わないでくれ・・・!!流石に恥ずかしいものがあるから・・・!!」

 

気恥ずかしさから思わず止めのサインを出してしまう。

こういうのは止してほしいんだ・・・・っ!!

 

 

 

西住達がお見舞いに来てから数十分するとーー

 

「そういえば、麻子。沙織ちゃん達が来てくれたんだから市街でも回って見たらどうだい?せっかくの休日、こんな病人の世話になんざ使っちゃいかんよ。」

「・・・おばぁがそれでいいのであればいいんだが。」

「そもそもここに来た理由がちょっと体調崩しただけさ。あたしゃ大丈夫だから行ってきな。」

「ふむ・・。ならその言葉に甘えるか。」

 

祖母のお見舞いを済ませて、制服から自分の私服に着替えるために一度学園艦の自宅に戻る。

 

「そういえば、麻子殿の私服を見るのは初めてですね。」

「そうだね。一体どんな服持ってるんだろう?意外に可愛いものを着てきたり・・・?」

 

秋山と西住がそんなことを言っていると沙織が少しばかり困った顔をする。

 

「あー。みぽりん。麻子にそれは期待しない方がいいと思うよ。」

「そうなんですか?沙織さん。」

「まぁ、見たほうが早いと思う。」

 

華の質問に乾いた笑顔で答える沙織。その瞬間、扉が開かれる。

 

「すまない。待たせたな。」

 

俺が着てきた服はジーパンに大した柄のない地味な半袖にスニーカー。それに必要最低限の持ち物が入る肩掛けバックを下げている。

ちなみにほとんどユ○クロで買った。

 

「相変わらずのファッションセンスのなさよねー。」

「・・・服なんて適当なものを着てればそれでいいんじゃないのか?」

「本人がこれだからねー。」

 

沙織にため息混じりで呆れられる。服なんざそんなものでいいだろう。

 

「というより冷泉さん、そんな薄着では中のブラが―――ってあら?冷泉さん、まさかとは思いますけど・・・。」

「ブラのことか?付けてないが?つけるほどの大きさもないからな。」

 

そう言った瞬間、沙織達の空気が変わった。なにやら怒っているように感じるが、表情は何故か笑顔だ。

 

「・・・こぉれは徹底的な教育が必要みたいだねー。」

「ですね。流石にここまで来ると些か矯正が必要だと思います。」

「みぽりんとゆかりんもやるよね?」

「はい!!手伝いますね!!」

「不肖、この秋山優花里、手伝わせていただきます!!」

「待て待て待て待て。一体何をするつもりだっ!?」

 

何やら瞬く間に何かしらのプランが組み上げられている気がするのだがっ!?

それとこのまとわりつく嫌な予感はなんだっ!?

 

「麻子ー。今日はちょっと覚悟してもらうからねー。」

「覚悟だとっ!?それと皆揃いもそろって手をワキワキさせているのをやめないかっ!!何故か寒気がする!!」

 

静止の声を挙げるが、西住達はジリジリと近寄ってくる。な、なにやら本能的な恐怖を感じる・・・!!思わず後退りしてしまうが、程なくして家の壁に追い込まれてしまう。

 

「し、しまっ―――」

 

俺が最後に覚えているのは西住達の手が目の前まで迫っていることだった。

そこから先は・・・あまり覚えていない。とりあえず市街をたらい回しにされて着せ替え人形にされたという大まかな部分だけは覚えている・・・・。

夢だと思いたいが、家に見覚えのない女物の服が袋詰めで置かれているのを見て、さっきのが現実だと認識させられる。

今日だけでかなり精神が持っていかれたぞ・・・!!

 

 

次の日、いつものごとく低血圧に魘されながら学校に来た。沙織や西住に肩を借りるなどということはなかったが、案の定遅刻ギリギリとなりそど子に苦言を呈された。

 

「ねぇ麻子ー。みぽりん知らない?」

「ん?教室にいるんじゃないのか?」

「それが、教室で姿が見当たらないんです。」

 

昼時になると沙織と華が西住の行方を俺に尋ねてきた。

と言われてもな・・・。俺も西住の行方は知らない。

そう答えようとした時、視界の端に気になるものが見えた。

そちらに目を向けると秋山が戦車倉庫に向かっている様子が見えた。

ふむ、俺の直感にかけてみるか。

 

「戦車倉庫にいるかもしれない。ちょうど秋山がそこに向かっている様子が見えるからな。」

 

俺が指差した方向を沙織と華が見る。すると合点のいった表情を挙げてくれた。

やはり沙織達も秋山がいる場所=西住がいる場所みたいな感じになっているのか・・・。

 

「そうかもしれないね。あ、いいこと思いついた。戦車の上でご飯食べるのはどう?」

「またヘンテコな発想をするな・・・。だが、状況的には悪くないかもな。せっかく全員集まるかもしれないんだ。」

「ええ、そうですね。ところで冷泉さん、お昼はありますか?」

 

・・・しくじった。そういえばまだ買ってなかったな。早く買いに行かなければ西住達がそこを離れる可能性もある。

 

「・・・急いで買ってくる。」

「そ、それじゃあこれあげるから!!」

 

駆け出しそうになったところを沙織が俺にメロンパンを差し出てきた。

 

「いいのか?」

「せっかくの機会だもん!!」

「わざわざ今買いに行くよりはいいと思いますけど・・。」

 

それもそうだな。わざわざ買いに行かなくても今メロンパンをもらって足りなければ後で買えばいいか。

 

「ありがとう。助かる。」

 

メロンパンを受け取ったら俺たちは戦車倉庫へと向かった。

戦車倉庫にたどり着いて扉を開けてみると予想通り、秋山の他に西住がいた。

 

「やはりいたか。秋山のいる場所に西住あり、いや逆か?」

「れ、冷泉さんっ!?」

「やっほー、みぽりん。」

「沙織殿に華殿まで?もしかして、お三方もここで昼食をですか?」

「そうですね。せっかくの機会だと思いましたので。それに『も』ということは秋山さんも?」

「はい!私、時々戦車の上で昼食を取っているんです!一緒に食べますか?」

「元よりそのつもりで来たんだ。西住、君も一緒にどうだ?」

 

俺の誘いに西住は首を縦に振ったことで戦車の上で昼飯パーティが始まった。

西住達は自前だったりコンビニで買った食べ物を戦車の車体の上に広げている。

俺は少々スペースが足らなかったため砲塔に腰掛けて沙織からもらったメロンパンを頬張っている。そこで俺はふと気になったことを尋ねた。

 

「そういえば西住、今日はなぜここに?いつもは沙織達と一緒に食堂で昼飯を食べていなかったか?」

「あ、それは思った。みぽりんどうして?」

 

そう聞くと西住は少しばかり恥ずかしげな表情で話し始めた。

 

「えっと、その。ちょっと今までのことを思い出してて。」

「今までのこと?この大洗に来てからか?」

「うん。そんな感じかな・・・。黒森峰にいた頃は試合には絶対に勝たなきゃいけないっていう雰囲気だったけど、ここに来てからは試合に無理に勝とうとする必要はない、むしろ負けた後にどうするかが大事ってことに気づけた。それからは最近、戦車道が面白いって思うようになってきたんです。」

「私もそうだよ!最近は戦車道がとっても楽しく感じるもん!」

「私もですよ。中々感じることのない感覚に新鮮な思いを抱いています。」

「今までやってみたいと思っていたことができているのですっごく楽しいって感じてますよ!!」

 

西住の最近は戦車道が楽しいという言葉に他の三人が同調の意思を示す。

言わずもがな、俺もそうだがどちらかというと華の新鮮な気持ちというのが俺の戦車道に対する思いだ。戦争の兵器をスポーツに使うなど思ってもいなかったからな。

 

「それにこっちに来てからお姉ちゃんと話すことができたし。」

「お姉ちゃんって、戦車カフェで会った黒森峰の隊長さん?」

「西住 まほさんですね。個人的な見解をすると、割と厳格な性格の持ち主だと感じましたけど・・・。」

「そういえば、冷泉さんを送ったのは黒森峰のお姉さんだと言っていた気がしますけど・・・。どうしてそのようなことに?」

「あれは・・・本当にびっくりしたんだよね・・・。いきなり冷泉さんがお姉ちゃんの手を掴んで私の所に連れてきちゃうんだもん。」

 

西住の言葉に他の三人の驚いたような視線が俺に向けられる。

俺は大したことはしていないのだがな・・・。

 

「ま、麻子って大胆なことするよね・・・。」

 

沙織がこぼした言葉に秋山と華が無言で頷く。

・・・・そんなにか?

 

「あれはあまりに彼女の様子がもどかしく感じたからやっただけだ。」

「そ、それは具体的に言うと・・・?」

「どうやら彼女はあの場で西住に会うつもりではなかったらしい。」

「と言うことは何か別の理由で?」

「ああ、それこそ彼女に対してもどかしいと感じる一因にもなったのだが、どうやら私に西住との話題の広げ方を聞きに来たらしい。」

「え、お姉ちゃん、そんな理由で冷泉さんの所に来てたのっ!?」

「そんな理由だ。自分が当事者だとしたらだいぶもどかしく感じるだろう?」

「何というか、姉妹ですねー。」

「秋山もそう思うか。私もその場にいた時はそう思ったよ。」

「冷泉さん・・・。ものすごく私とお姉ちゃんのこと姉妹だって言ってたもんね・・・。」

 

西住が苦笑いを挙げている。まぁ、他人からそんな姉妹だと言われれば例え実の姉妹でも恥ずかしいものがあるかもしれないな。

そこら辺で昼飯も食べ終わり、時間もちょうどいい感じだったため沙織達とはそこで別れて自分の教室へと向かった。

 

 

そして、時間は進み、戦車道の時間になった。

一回戦を勝ち抜いたからか皆気合いの入った様子で練習に打ち込んでいる。

それは練習の終わったあとでも例外でなく・・・・。

 

「隊長ー。躍進砲撃のことについて―――」

「彼氏に逃げられちゃって―――」

「装填のコツについてなんですけど―――」

「あ、えっとその・・・。」

 

気合いが入っているのはいいんだが・・・。いかんせん皆揃って西住に聞きに行ってしまっているな・・・。あのままだとパンクするぞ。

 

「沙織、秋山と華の三人でカバーしてやってくれないか?それぞれ担当分野は合っているだろ?」

「麻子は―――って無理か。」

「ああ、私には私でやることがあるからな。」

「冷泉センパーイ!!そろそろ教えてくださーい!!」

「分かったから少し待ってくれ。」

 

桂利奈の声に急かされ、八九式の下に向かうと私の周りにはすでに各戦車の操縦士達が集結してしまっている。桂利奈を筆頭に操縦のコツを教えてほしいとせがまれてしまったのだ。

 

「さて、始めるか。教えるのはそれほど得意ではないが・・・。」

 

俺はそうこぼしながらも八九式の操縦席に座り、マニュアルを速読する。

操縦の仕方だけ見て、八九式の操縦桿を握りしめる。

操縦桿を操作すると八九式をバックさせたり倉庫の中を走らせる。

さすがに狭い倉庫の中で走り回すのは危ないため、すぐに停止させる。

 

「どうしたらそんなに動かせるんですかっ!?」

 

手本を見せ終えて、操縦席から出るとバレー部の磯部 典子を中心に操縦手達が駆け寄ってくる。ん?磯部、君は車長じゃなかったか?まぁ、いいか。

 

「基本的な動かし方はマニュアル通りにやれば出来るさ。ただ、戦車は走りに関しては中々デリケートな部分が多い。周りの環境に左右される時があるからな。」

「え?戦車って元々は悪路とか走るために造られたんじゃあないんですか?」

 

俺の言葉に八九式の操縦手である河西 忍が疑問をぶつけてくる。

まぁ、確かに戦車はオフロードとかの悪路を走破するために造られた節もあるが、それはそれだ。

 

「確かに戦車は悪路を走ることはできるさ。しかし、試合では泥や雪の上でもスピードを出さねばならない場面があるはずだ。キャタピラ装備されているとはいえスピードを出して走ってみろ。あっという間にスリップを起こして隊列から落伍するぞ。」

「た、確かに。冷泉殿の言う通りぜよ。じゃが、それだとどうしてもスピードを出さねばならん時はどうすれば良いぜよ?」

「泥や雪はもちろん、アップダウンの激しい丘のある草原など、試合会場によっては悪環境が出てくる。そう言った環境下でスピードを出さなければならない状況に陥った際は自身の周りの環境を把握しておく必要がある。」

「周りの環境を、はあく・・・・?」

「記憶ないしは理解しておく、ということだ、桂利奈。これを踏まえておけば泥の時はこう操縦する、雪だったらこのくらいで操縦するという加減が出来るはずだ。」

「周りの環境を把握する・・・。」

「バレーと似ていますね。コート全体を把握しておかないと点数なんて取れませんもんね。」

 

河西が呟いた言葉に八九式の砲手の佐々木 あけびがバレーと似ているという言葉をかける。

バレーボールには詳しくないから特に言及はしないがな。ただ、これだけは伝えておかねばな。

 

「八九式には攻撃力に難がある。だから西住は君たちに偵察などを任せる時が多くなるかもしれない。最悪、逃走を命じられる時もあるだろう。そんな時、この事を覚えておけば、どんな環境にも満足にとは言わないが、走り方がマシにはなるはずだ。

重圧をかけるつもりはないが、君は一層の努力をした方がいいかもしれないな。」

「は、はいっ!!分かりました!!」

 

河西の様子に表情を緩ませると今度はⅢ突の操縦手、おりょうに目を向ける。

 

「Ⅲ突は砲塔がなく、操縦手は砲撃時にも車体を回転させるという形で参加せざるを得ない状況がある。そこで重要になってくるのが、Ⅲ突内でのコミュニケーションだが、君たちの様子だとそれほど心配はいらないはずだ。縁の下の力持ちだが、仲間の声を聞いて、彼女たちの望む場所へとⅢ突を導いてやってくれ。坂本龍馬を敬愛している君ならできるだろう?」

「言ってくれるぜよっ!!任せるぜよ!!」

 

気合いの入った様子のおりょうを見て、思わず頷いてしまう。

 

「ねぇねぇ!!冷泉センパイ!!私はっ!?」

「あ、ああ。そうだな、M3は砲門が二つあるという他の戦車にはあまり見られない特徴がある。使い方によってはスペック以上の性能を見せることも可能なはずだ。」

「そ、それってあゆみやあやに言うべき言葉じゃ・・・!!」

「分かってるから少し待て・・・。そうだな・・・。サンダースでフラッグ車以外の9輌から追い回された時、よく私たちが援護に行くまで逃げ切ったな。前言ってたように慌てずに対応することはできたか?」

「あ・・・どうだろ・・・。割と騒ぎながら逃げ回ってたかも・・・。」

「それなら次はうまく落ち着いてやれるようにな。」

「ゔー・・・・。なんか悔しい・・・。」

 

まぁ、言うべきことは言ったか。そう思い、周りを見渡すと先ほどまで他のみんなにもみくちゃにされていた西住の姿が見当たらない。

 

「西住はどこに行ったんだ?」

「それなら華先輩と一緒に生徒会室に向かったそうですよ。何やら書類の整理を手伝うとか・・。」

 

西住の所在を聞くとバレー部の近藤 妙子が答えてくれる。

ふむ、生徒会室か。ならいいか。

しかし、書類か・・・。何をするつもりなんだ?



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第23話

なんだこの鈍感なアムロ大尉・・・・
┌(┌^o^)┐ユリィィ



「ふむ、やはり書類を見る限りまだいくつかの戦車が大洗に眠っている可能性は大きいな。柚子、そちらはどうだ?」

「はい。購入記録を見る限りルノーB1bisとポルシェティーガーがあったようです。」

「ほお・・・ポルシェティーガーか。確か、ティーガーⅠと製造競争を繰り広げて敗北した戦車だったか?西住君。」

「えっと、大まかなところはそんな感じで大丈夫です。でも、あるんですか?」

「売却の書類がないからどこかで眠っていると思うんだけど・・・。」

「会長、明日の戦車道の時間は学園艦中を探してみるのはどうでしょう?」

「ふむ、それもそうだな。我々の慢性的な火力不足は今後の最優先の課題だ。ルノーB1bisもポルシェティーガーもその問題を切り開いてくれるはずだ。

桃、明日は学園艦中の捜索だ。各員にもそう伝えておいてくれ。」

「はっ!!了解しました。」

「よし、なら今日はここまでにしよう。西住君、五十鈴君、手伝わせてしまってすまなかった。おかげで効率的に書類を捌くことができた。」

「いえいえ、お役に立てたみたいで良かったです。」

 

手伝ってくれたことに関してお礼を言うと、二人は笑顔を浮かべながら生徒会室を後にした。

 

「桃、それに柚子も今日はもう帰ってもらって構わない。明日は明日で忙しくなるからな。」

「分かりました。それじゃあ、お先に失礼しますね。」

「失礼します!」

「ああ、おつかれ様。」

 

柚子と桃も生徒会室から退室し、今この場にいるのは私だけになった。

私にはまだ時間があるためもう少しだけ書類漁りをすることにした。

少し書類を読み進めていくとある項目が目に留まった。

 

「む?これは・・・・。」

 

私は先ほどまで柚子が見ていた戦車の売却記録を記した書類を目に通す。その書類にもその戦車の名前はーーない。

 

「これは、あったとしたらかなりの戦力の上昇が望めるな・・・。」

 

だが、見つかるだろうか。おそらく大洗の持ちうる戦車の中で一番新しい代物だが・・・。

 

「・・・あまり淡い期待は持たせん方がいいかもしれないな。それに仮にあったとしてもこれは最後の切り札だ。」

 

私はその書類を会長の机の引き出しに押し込んだ。

全国大会にこの車輌はいらないと直感で感じる。ならばどこで使うか・・・。

いや、それもそうだが・・・

 

「人員を確保せねば不味いな・・・・。」

 

 

 

 

 

「そう言うわけで今日は会長の提案で戦車を探すことになった。」

 

次の日、戦車倉庫に来ると河島からそんな言葉が告げられた。

 

「戦車を探すと言ってもどのような戦車を探すんだ?」

「えっと、主に探すのはルノーB1bisとポルシェティーガーです。」

 

俺がそう尋ねると西住が代わりに答える。俺は戦車に関しての知識は乏しい。

そのため、いつものように秋山に聞こうとしたら、既に目がギラッギラに輝いていた。

 

「ルノーB1bisとポルシェティーガーですかぁっ!?どちらも有名な戦車じゃないですかぁ!!」

 

・・・・後で聞くか。今聞くと長くなりそうだ。

戦車を探すに伴いメンバー分けをした。それぞれ、沙織はウサギさんチームと、秋山はカバさんチームと、そして、俺と西住はアヒルさんチームと行動を共にすることになった。

 

そして現在俺たちは古い部活棟が建っているエリアを練り歩いていた。西住曰く、ここは昔に移動した区域らしい。

こんなところにあるのか?窓は割れているし壁には隙間が出来ていたりとボロボロだな。

 

「とりあえず、何か手がかりはないのか?そこから探そう。」

「冷泉センパイ、なんか刑事みたいですね。」

 

冗談などを交えながらボロボロな部活棟の間を進んでいくが、戦車と思しき形は一向に見当たらない。

 

「この様子だと戦車は諦めた方がいいかもしれないな。」

「ええっ!!諦めるんですかっ!?まだ中とか探してないのにっ!?」

「河西、私は何も捜索自体を諦めたわけではないからな?中を探して、戦車のパーツを探してみるのもいいだろう。」

「流石に手ぶらで帰るわけには行きませんからね。」

「そう言うことだ、それじゃあ部活棟内部の探索を始めるか。」

 

俺たちが部活棟の建てつけの悪くなった扉を開けて中の探索を始めた。

が、やはりある程度撤収済みだったのか中は片付けられていてそれらしいものを見つけることはできなかった。

 

「参ったな・・・。まさかここまで見つからないとは・・・。」

「うーん・・・やっぱりないのかな・・・。」

 

西住と少し疲れた様子でいると未だに体力が有り余っているのか縦横無尽に部活棟内を散策しまくっているバレー部の姿が目に入る。

・・・すごい体力だな、彼女達。

とはいえ、駆け回っているせいかあたりの埃が舞い上がり、少し息苦しい思いをする。

 

「西住、そこの窓を開けに行くか。さすがに埃臭い。」

「う、うん。」

 

西住と一緒に窓際に駆け寄り、思い切り窓を開け放つ。

中の埃臭い空気が抜けていき、代わりに入ってくる新鮮な空気を味わう。

空気がうまいとはこのことか・・・。

 

「あ、あれ!!冷泉さん、あれ見てください!!」

 

西住に肩を叩かれ、外をみる。そこには洗濯物が掛けられている光景であった。

 

「・・・誰だ?こんなところで洗濯物を干しているのは。」

「そ、それもそうですけど、洗濯物が掛けられてある棒です!!あれは戦車の砲身です!!」

 

そう言われ、目を見開いて洗濯物が干されてある棒に注目する。

確かに先端部分は戦車特有の形をしている。

どうやら手持ち無沙汰で終わることはないようだ。

 

 

今回の大捜索の結果は俺たちが見つけたⅣ号戦車の砲塔と秋山たちが見つけたルノーB1bisであった。ふむ、ポルシェティーガーは見つからなかったようだな。

だがまだ見つける機会がなくなったわけではない。そちらは首を長くして探すとしよう。

だが、問題は沙織とウサギさんチームがいつまで待っても帰ってこないことだ。

 

「遅いな・・・。何かあったのか?」

 

西住と秋山も不安気な表情を挙げている。俺も表情には出さないが内心では不安がっている。できれば連絡の一つぐらいほしいものだが・・・。

そう思っているところに俺の携帯がバイブ音を響かせた。

まさかと思って確認してみると、沙織からのメールが1通届いていた。

俺はひとまず安心するがメールの内容を見て、困った顔をする。

 

「な、何かあったんですか?」

「・・・船の底で遭難して動けなくなったそうだ。」

「ケガをした、とかは無いんですね・・・?場所は―――」

「さっきのメールにはどこにいるかわからないとあったがどこかに表示があるはずだからそれについてのメールを送った。それと誰かが怪我をしたとかは書かれていなかった。つまりはとりあえず無事なんだろう。」

「よ、よかった・・・。」

「何かあったのか?」

 

秋山と西住が安堵の表情を挙げているところにシャアが話しかけてきた。俺はシャアに事情を説明する。

 

「ふむ、なるほど。事情は理解した。なら私とお前で行くとしよう。ちょうどここに学園艦の大まかな全体図がある。後は場所さえある程度絞り込めればいいのだが・・・。」

 

シャアがそこまで言ったところで再度俺の携帯がバイブ音を響かせる。

確認するとそこには沙織からのメール、内容はーー

 

「第17予備倉庫だそうだ。」

「わかった。ならすぐに向かおう。君たちはここで待っててくれ。」

 

場所を特定できたため、俺とシャアで速やかに沙織達の下へと向かった。

 

 

 

「け、決断が早いです・・・。あっという間に行っちゃいました・・・。」

「う、うん。早かったね・・・。」

「あの〜、一つ気になったんですけど・・・。」

「華殿?どうかしましたか?」

「船の底って大抵暗いのではないでしょうか・・・?」

「・・・・・に、西住殿・・・。」

「は、走ろう!!早く追いつかないと二人まで迷子になっちゃう!!」

「ええ、急ぎましょう!!」

 

 

 

 

「シャア、沙織やウサギチームの気配は?」

 

街中を駆け抜けながら俺はシャアと沙織の位置の確認を行う。

するとシャアは手に持っていた地図を広げ、ある一箇所を指差した。

そこは『第17予備倉庫』だった。

 

「地図と照らし合わせるとその第17予備倉庫とおおよその位置は重なる。彼女の情報に間違いはない。」

「ならいい。俺のニュータイプとしての力もまだまだ捨てたものではないな!」

「そういえば、アムロ。お前は今年でいくつだ?」

「17だが・・・?」

「外見ではなく中身だ。まぁ、有り体に言えば精神年齢か。」

 

ああ、そういうことか。そういえばあまり考えたことがなかったな。

確か、アクシズの時が29だったから・・・。

・・・・あまり直視したくない数字が出てきたな・・・。

 

「・・・・46だな。」

「・・・そうか。やはりそれくらいか。」

「・・・・そういうお前はどうなんだ?」

「・・・・・51。」

「・・・・これ以上はやめておこう。年の話も予想以上に傷つくものだな・・・。」

「・・・・ああ。」

 

長い沈黙。そのまま学園艦の内部へと向かう階段を降りようとした時ーー

 

「れ、冷泉さん!!待ってーーー!!!」

 

突然響いた俺を呼ぶ声に思わず足を止める。そして振り向くとそこには焦った様子の西住達三人がいた。

 

「どうしたんだ?そんなに焦った様子で。」

 

俺がそう尋ねるも西住達は息を切らしていて、事情を話してくれるにも少し時間がかかりそうだ。

 

「えっと・・・その、か、懐中電灯とか、いらないのかと、思いまして・・・。」

 

秋山が息を切らしながら取り出したのはヘッドライト付きのヘルメットであった。

・・・どこから取り出したのか問い質したいところもあるが、懐中電灯に関してはあまりいらないと考えていた。

まぁ、あるのであればそれに越したことはないのだが。

 

「持ってきてくれたのか。わざわざすまないな。」

 

秋山からヘルメットを受け取り、頭にかぶる。若干サイズが合わなくて緩いが、そこは我慢だな。

そのまま西住達を置いて中に入ろうとした時ーー

 

「あ、あの、私達もついていっていいですか!?」

「ついてくるに関しては別に構わないが・・・。どうかしたのか会長。」

 

別に構わないと思っていたが、シャアが微妙な表情をしていたのに気づいて、その理由を尋ねる。

 

「いや、下層の方には素行のよくない生徒がいると聞いていてな。大人数で行くと目をつけられてしまう可能性もある。それでも来るか?」

「そ、それって早く行かないと沙織殿達が危なくないですか!?」

「行きます!なおさら早く行かないと・・・!!」

「ご同行させてください!!」

「どうするんだ?判断は任せるが・・・・。」

「・・・・わかった。ついてきて構わない。」

 

シャアの言葉に西住達の表情に笑顔が映る。

西住達を伴って学園艦の内部を進んでいく。

階段をいくつか降りていくといつのまにか電気もつかない空間へとたどり着いた。

 

「ふむ、地図と表示を見る限り件の第17予備倉庫はここら辺のようだな。」

「そのようですね。沙織さん達、無事だといいんですけど・・・。」

 

シャアと華が先導して歩いている。華はこういった暗い空間に耐性はあるんだろう。俺ももちろん暗い程度で怖じけづいたりはしないが・・・

 

ガランッ!!

 

どこかで鉄パイプみたいなのが落ちる音がした。まぁ、別段驚きとかもしないのだが・・・・。

 

『キャアアアっ!?』

 

さて、ここで各人の立ち位置とかを説明しようか。

シャアと華は俺のヘッドライトからの光を頼りに列の先頭に立っている。

で、西住と秋山は俺を挟むように廊下を進んでいる。

それで視界の端にはなんとなく西住と秋山の頭がそれぞれ左右に見えた。

 

つまり何が言いたいのかというとーー

 

「ゴフッ!?」

 

びっくりして飛びついてきた秋山と西住に板挟みの形で突撃された。結果として思わずその場にうずくまる。

 

「・・・・無事か?」

「無事じゃないぞ・・・・。」

「わ〜!!?ご、ごめんなさいー!!」

「大丈夫ですか麻子殿ー!!?」

 

しばらく身体の両脇の鈍痛が続いていたが程なくしてそれは治った。

 

「まったく・・・。怖いなら最初からそう言っておけばいいものを・・・。」

「ご、ごめんなさい。」

「申し訳ないです・・・。」

 

西住と秋山が申し訳なさ気な表情で俯く。そんなところにシャアの顔が目に入った。

それは何か閃いたような表情をしていた。また変なことを考えているな、シャアの奴。

 

「そういえば、恐怖は誰かと手を繋げば緩和すると聞いたことがあるな。」

 

シャアのその言葉を聞いた瞬間、西住と秋山の顔が凄まじいスピードであがった。

な、なんだ?いきなり表情に生気が戻ったぞっ!?それに俺の顔を見て、一体なんなんだ?

 

「えっと、手、繋いでくれませんか?」

「わ、私もいいですか?」

 

二人とも微妙に頰を染めながらそんなことを聞いてくる。

それで恐怖がなくなるという確証はないんだがな・・・・。

 

「まぁ、別に構わないが・・・。それで本当に恐怖がなくなるのか?」

 

そう言いながらも渋々両手を差し出すと西住は右手、秋山は左手を握ってくる。

俺の手を握った後は妙に恥ずかしげな表情を浮かべていたが、まぁ、怖がっていないのであればいいか。

 

「さて、捜索を進めるとしようか。」

「ええ、ですがゆっくりでもいいのではないでしょうか?」

「そうかもしれないな。」

 

シャアの奴、なぜそんなに妙な笑顔を浮かべているんだ。それに華も口元に手をあてて、シャアと似たような笑顔を浮かべている。なんなんだ、二人揃って。

 

 

少し歩いていくと沙織達のいるはずの第17予備倉庫へとついた。

ヘッドライトで照らしてみると物が散乱していて歩きづらい印象を受ける。

 

「沙織ー!!いるかー!?」

 

試しに声を張り上げて沙織達の安否を確かめる。

さて、何かしらの反応を示してくれるといいんだが・・・・。

 

「麻子っ!?こっち!!こっちにいるよー!!」

 

沙織からの返答が返ってくる。それとおそらくだが一緒にいるウサギさんチームの声も聞こえた。

 

「ふむ、声のした方向から逆算すると・・・こっちか。」

 

シャアの先導に従って散らかった荷物の間を進んでいくと、沙織とウサギさんチームが座り込んでいる様子がライトで照らし出される。その瞬間無事を確信したのかウサギさんチームが泣きながら沙織に飛びついた。余程怖かったみたいだな。

 

「む?会長、沙織達の奥にあるのは戦車じゃないか?」

「・・・・どうやらここへ来たのは無駄ではなかったようだな。」

「あれ、ポルシェティーガーです!!」

 

秋山が言うのであれば確かなのだろうな。沙織達の奥に鎮座にしていたのは紛れもなく俺たちが探していたポルシェティーガーのようだ。こんなところに置いてあったとは・・・。とりあえず、自動車部に連絡して取り出してもらわなければな。

 

「ねぇ、そういえば麻子、なんで二人と手を繋いでいるの?」

「ん?これか?これは二人が手を―――」

「な、なんでもありませんから!!ね、そうですよね西住殿!!」

「う、うん!!何もないから、そこは安心して、沙織さん!!」

 

理由を話そうとしたら西住達に止められてしまった。

なんなんだ?そんなに切羽詰まったような顔をして・・・。

別段、隠すようなことでは無いと思うのだが・・・。

 

「・・・・・鈍感。」

「さ、紗希が喋ったぁっ!?」

 

今のまさか俺に対して言ったのか?

 




こんなのガルパンじゃないわ!!ただのラブコメよ!!

だったら戦車を出せばいいだろ!!(暴論)


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第24話

この間の探索でルノーB1bisとポルシェティーガーという重装甲で高火力な戦車を見つけた大洗。とはいえ、自動車部によるレストアが不可欠なため実戦投入するのは準決勝もしくは決勝のあたりになってくるだろう。

ただ、シャア曰くポルシェティーガーに関しては自動車部が発見場所から持ち出す際にミスで落としてしまったようだ。

まぁ、自動車部の技量は純粋に眼を見張るものがあるから大丈夫だと思うが。

 

そんなことを考えてながら歩いていると前方に西住と沙織と華の三人の話している姿が目に入った。

別段話しかける用もないためそのまま後ろを歩いていると彼女らに近づく人がいた。

金髪のロングな髪型に特徴的な丸メガネは何故か渦を巻いているようでその先が見えず、さらに何故か猫耳をつけているという中々奇抜な格好をした人だった。

その人はどうやら西住に話しかけようとしているのか手を挙げたが何故かそのまま固まった。

西住達も話に熱中していたのか彼女の動向に気づくこともなくスルーしてしまった。

・・・・・これは俺が話しかけなければ不味いか?

 

「また声を掛けれなかった……。もう駄目だ……チキンハートのボク……。次は頑張るんだ、ねこにゃー!」

「次ではなく今頑張ったらどうだ?」

「うわっ!?び、びっくりした……あ、貴方は・・・?」

「冷泉 麻子だ。さっき君が話しかけようとしてた西住の友人だ。」

「ね、ねこにゃーです・・・。」

 

またあだ名か何かか?この学園、自己紹介であだ名を名乗る奴が多すぎないか?

まぁ、それは今は置いておくか。

 

「さっき何を西住に話そうとしたんだ?私でよければ話し相手になるが・・・。」

 

そう聞くと彼女、ねこにゃーはたどたどしい口調だったが話し始めた。

要約するとゲーム仲間三人で戦車道を履修したいらしい。

 

「こちらとしては万年人手不足なのは否めないからいつでも歓迎だが、いかんせん、二回戦が近いんだ。流石に今入ってもらっても少しばかり厳しいものがある。」

「そ、そうなんだ・・・。なら、また今度お願いするよ・・・。」

「すまない。だが、入りたいのであれば今からでもやれることはあるぞ。」

「え、あるの・・・?」

「ああ、あるさ。少し待て。」

 

俺はたまたま持っていたノートのページを破くとそこに二回戦の場所を書き記す。それをねこにゃーに手渡すと渋々と言った様子で彼女は受け取った。

 

「ほら。これは二回戦の場所が書かれてある。見て学ぶのもいいと思うぞ。まったくの素人から始めるよりはいいと思うんだが・・・。」

「うう・・・外かぁ……。ボク、インドア派だからなぁ・・・。」

「慣れないのは仕方ないかもしれないが、一歩出てしまえば案外楽だぞ。私も引きこもりの経験があるからな。」

「え、そうなの・・・?」

「ああ、とはいえ昔のことだがな。それじゃあ私はそろそろ戦車道の練習が始まるのでな。」

 

俺は自虐的な笑みを浮かべながらねこにゃーに別れを告げて、戦車道の練習へ向かった。

 

「元引きこもりでも、あんなに話せるようになるんだ・・・。」

 

 

 

 

学園艦の大捜索から数日挟んで二回戦当日へと差し迫った。

相手はイタリア風の高校、『アンツィオ高校』。

生徒会による事前調査によるとノリと勢いに乗られると厄介とのことだ。

中々面倒な相手だ。実力が測りづらいんだ。そういう気分屋な連中は。

それと秋山がアンツィオ高校に偵察しに行った結果、『P40』と呼ばれる重戦車を導入していることが明らかになった。今回はちゃんと事前の連絡はあった。

 

「さて、今回はどう思うんだ?シャア。」

「はっきり言ってセモヴェンテとP40さえ気を付けておけば負けはしないはずだ。だが、それは向こうも分かりきっていることだろう。カルロ・ヴェローチェによる妨害をどうやって切り抜けるか。それが今回の要所だろう。」

 

二回戦の試合会場である木々が生い茂る山のようなステージでシャアとそんなことを話していると向こうから車の音が聞こえてくる。

何事かと思っていると薄い緑色を縦巻きパーマにした人物がジープのフロントガラスに足をかけながらやってきた。

 

「はぁ・・・やはりお前か。千代美。」

 

シャアが微妙に項垂れた様子でやってきた人物の名前を言った。

知り合いなのか?

 

「アンチョビだ!!だが、久しぶりだな!杏!あれからちゃんと少しは女の子らしいことしてるんだろうな?」

「多少はな。」

 

車から飛び降りて開口一番にそんなことを聞いてきた。やはり、知り合いのようだな。俺は初対面だから、中学かそこら辺の知り合いなのだろう。

 

「ならいいんだ!もし変わってなかったら小山と一緒にまた引きずり回すつもりだったからな!」

「あれは二度とされたくないのだがな・・・。」

「お前がおしゃれに気を使わなすぎるのがいけないんだ!お前は大抵男っぽいものしか着てこなかったじゃないか!ブラもしてないとか前代未聞すぎるだろ!!」

「はぁ・・・それで、何用かね?」

「試合前の挨拶に決まっているだろ!」

 

そう言うと千代美とーーいやアンチョビだったか。彼女は手にしていたムチをこちらに向けて意気揚々と自己紹介を始めた。

 

「私はドゥーチェ、アンチョビ!!そっちの隊長は誰だっ!?」

「西住。呼ばれているぞ。」

「あ、はい。」

 

指名を受けた西住がアンチョビと対面する。

二人が話している間に戻ってきたシャアに俺は質問をした。

 

「彼女とは知り合いなのか?」

「中学のころにな。戦車道でどこかにスカウトされたことは聞いていたが、まさかアンツィオだとは思わなかった。」

「ちなみに引きずり回しというのは・・・。」

「あれは、あまり覚えていないのだ。気づいたら、部屋には女物の服が袋詰めであった。」

「安心しろ。俺もつい最近同じ目を西住達に遭わされている。」

「・・・・そうか、お前もか。」

 

二人揃って疲れた目をしているといつのまにかカエサルと、アンチョビが乗ってきたジープの運転手が仲睦まじげに話しているのが視界に入った。

あそこも知り合いだったのか。ただ、カエサルは知り合いとの会話が終わった後思い切りエルヴィン達からいじられていたが。

 

 

 

「全車、前進してください。Panzer vor!!」

 

試合開始の合図とともに西住が前進の指示を出す。大洗の車輌は山間にある山道を進んでいく。

 

 

 

「は、始まった・・・・!!」

「や、やっぱりゲームとリアルは違うなもし・・・。」

「相手のCV33は豆戦車って呼ばれててほとんどゲームだと勝てない戦車だぴよ・・・。」

「で、でもそれでも数だと向こうのほうが上だし・・・。」

「ど、どうなっちゃうんだろ・・・。」

 

 

 

「アヒルさんチームとウサギさんチームは偵察をお願いします。」

『了解です!』

 

西住が2輌に偵察の指示を出すと隊から離れてそれぞれ右翼と左翼に向かっていく。

 

「さて、相手はどう出てくるのだか・・・・。」

「麻子さん、まだ偵察も帰ってきてませんのに相手の出方を気にするのは流石に早くないですか?」

「まぁ・・・そうかもしれないがスペックだけを見ても相手がどう出てくるかは案外分かるものだぞ。特にあのCV33はな。」

「確かにCV33は名前に『快速』がつくほどですし、使ってくるとしたらスピードを活かして試合を引っ掻き回すことぐらいですか?」

「それも戦法の一つだ。だが、あるとすれば・・・・。」

 

俺は頭の中で方法を組み立てながら説明を行う。

 

「例えば、複数車で履帯を全力で狙ってさっさと逃げるヒット&アウェイ。あとはCV33特有の車体の軽さを利用したゾンビ戦法か?」

「ぞ、ゾンビ戦法!?な、何よそれっ!?」

 

ゾンビという言葉に反応した沙織が驚いた表情を挙げている。まぁ、理屈は至って簡単なのだがな。

 

「ゾンビというのは言葉の綾だ。車体が軽いということはある程度以上の衝撃を受ければすぐ吹っ飛ぶ。だがそれは逆に言うと余計な衝撃は吹っ飛ぶことで受け流すことができる。仮に砲撃を受けて車体が転がっても高校生が二人もいればすぐに車体は元に戻せて試合に復帰できる。衝撃を受け流しているから大したダメージもないからな。

落ち着いて鑑みれば分かることだが、何も知らない者が見ればはたまたそれはゾンビのように見える。」

「な、なるほど・・・・。え、それじゃあCV33を倒すにはどうしたらいいの?」

「ウィークポイントを的確に狙って走行不能にしてやればいい。某ゾンビゲームでも頭を撃ち抜けば大抵の敵は倒せる。だが、流石にそこは分からないから西住頼りになるがな。」

 

『こちらウサギさんチーム、山道の合流地点の左にセモヴェンテ2輌とCV33を4輌確認!』

 

山道の合流地点の左に6輌か。となると右にもいるか。数のバランスが悪い気もするがP40が右側にいるのであれば火力的な面はカバーしきれる。となるとちょうど道の合流地点で袋叩きにする作戦か。

 

『こちらアヒルさんチーム!山道の合流地点の右にセモヴェンテ2輌とCV33が3輌見えました!』

 

・・・おかしい。その報告の通りだと敵のフラッグ車であるP40を入れれば向こうは11輌だぞ。いや、使っていないという路線もあるが・・・。

 

「秋山、二回戦も戦車の数は10輌までだったよな。数が合わないんだが・・・。」

「は、はい。そうですけど・・・。もしかして向こうは何かしらの不正を・・・?」

「・・・・西住、会長に聞いてみてほしい。アンチョビはああいうことをするような人物かと。」

「そうですね・・・。聞いてみます。」

 

西住は通信機を手にとってシャアの乗る38tに連絡をとる。

 

「会長、少し聴きたいことがあるんですが・・・。」

『どうかしたか?藪から棒に。』

「えっと、アンチョビさんはズルとかそういうことをする人ですか?」

『いや、そういうことは好まないはずだ。中学の頃によくあいつの作戦に口を出していたが、ルールに反するような手を使おうとしたことは一度もなかった。』

「そうですか・・・・。それなら会長はこれをどう思いますか?」

『・・・そもそもの話、数が規定数を上回っているのであれば審判団が即刻中止のサインを出すはずだ。だが、それがない。ということはあれは偽物だ。』

「っ!!分かりました。ありがとうございます!」

 

 

「ウサギさんとアヒルさんは攻撃を開始してください。その戦車は偽物です。」

『に、偽物なんですかっ!?』

「その可能性が高いです。」

『わ、分かりました!あや、あゆみ、撃って!!』

 

偽物か。確かに仮に数が規定数からオーバーしているのならすぐに審判団から中止の指示が下るだろう。

 

『こ、こちらウサギさんチーム!!やっぱり偽物でしたぁっ!!』

『こっちも同じですー!!見えていたものはパネルでしたー!!』

 

パネルか・・・。となると前方にいるはずの本隊はどこに・・・。

 

「・・・まさか、後ろか?」

 

俺がそんなことを呟きながら後ろを振り向くと西住は何か閃いたのか通信機に指示を飛ばす。

 

「アヒルさんとウサギさんはそのまま道なりに進んでください!」

「相手の出方が分かったのか?」

「いえ。ですが、次の報告次第で相手がどういう行動を取ろうとしているのかはっきりさせることができます。」

 

ふむ、西住がそういうのであれば気長に両チームからの報告を待つとするか。

すると程なくして両チームからの報告が通信機に入った。

 

『こちら、アヒルさんチーム!CV33を5輌見つけました!!』

『ウサギさんチーム!セモヴェンテを2輌見つけましたけど、間違えて砲撃してしまいました。ごめんなさい!』

 

それを聞いた西住は地図にそれぞれ右と左に大きく迂回した矢印をつけた。

その矢印は最終的に俺たちの背後を取る形になっている。

 

「相手の出方が分かりました。おそらくあのパネルで足止めを受けている間に背後から強襲、逃走したところを待ち構えているP40やセモヴェンテで全周包囲をするつもりです。おそらく、それぞれ西と東に方向転換をした時がそれの合図だと思われます。」

「ふむ、両チームはそのまま追跡させるとして、私達はどうするんだ?」

「あんこう、カメさん、カバさんはこのまま直進します。」

 

そうだな。それが一番いいか。左舷にCV33が5輌、右舷に2輌だとすれば、フラッグ車の周りにいるのは2輌か。ある意味好機か。

 

「了解した。このまま直進でいいんだな?」

「はい、お願いします!」

「それと西住、アヒルさんチームにCV33のウィークポイントを教えておいてくれ。」

「あ、そうですね。分かりました。」

 

西住の指示通りにそのまま直進する。少し道なりに進んでいくと進行方向から複数人の気配を感じた。

・・・当たりか。

 

「華。砲塔を右に回しておいてくれ。」

「え・・・・?はい。分かりました。」

 

華は俺の指示に従ってくれて砲塔を右に旋回させる。

その様子に西住が疑問の表情を浮かべる。

 

「華さん?どうかしたんですか?」

「えっと、冷泉さんが砲塔を回しておけと・・・。」

「西住は発射のタイミングを頼む。そろそろ敵と接触すると思う。」

「そうなんですか?」

 

西住はそういうとキューポラから顔を覗かせる。

少しすると、焦った様子で戻ってきた。

 

「ほ、本当です!!華さん、すれ違いざまに砲撃をお願いします!」

「わ、分かりました!!」

「ほ、本当に向こうから来たんですかっ!?」

「なんで分かっちゃうの、麻子!!」

「・・・普通に覗き穴から見えたからな。」

 

本当はニュータイプとしての能力を使ったがな。

そして、程なくしてアンツィオのフラッグ車であるP40が俺たちの車輌群とすれ違った。P40の周りにはセモヴェンテとCV33が1輌ずつ走っていた。

 

「華さん、撃ってください!!」

「撃ちます!!」

 

すれ違いざまに撃った華の砲弾はーーP40には当たらなかった。やはり行進しながらの砲撃では命中率は激減するか。

 

「申し訳ありません。外してしまいました・・・。」

「行進間射撃でしたので仕方ありません。冷泉さん、斜面を下ってください。」

 

外してしまったのであれば仕方ない。とりあえず西住の指示に従い、すぐそばの斜面を下る。シャアの乗る38tや向こうのP40もついてくるがこちらの最大火力であるⅢ突はセモヴェンテに足止めされてしまった。

 

『西住君、Ⅲ突がセモヴェンテに足止めされてしまった。2輌で片をつけるしかないぞ。』

「大丈夫です!!ひとまずこのまま斜面を下ってください!!冷泉さん、カメさんチームの左につけてください。私達が盾になります!」

「了解した!」

 

アイツの盾になるのは少しばかり癪だが・・・。

まぁ、いいか。シャアの38tは今回もフラッグ車だからな。

 

 



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第25話

「冷泉さん!カメさんチームを護衛しつつ斜面を下ってください!」

「分かった。」

 

斜面を下りつつ、フラッグ車であるシャアの38tをⅣ号の車体で覆い隠す。

斜面ではスピード調整をうまくやらねばすぐ速度が出るからな・・・。

と、言っているそばから38tの車体がⅣ号からはみ出たな。

覗き口からは微妙に見えないが、感覚でわかる。

相手のP40からすかさず砲撃が飛んでくるだろうからわずかにⅣ号のスピードを上げる。

 

カァン!

 

Ⅳ号の装甲が何かを弾いた音を響かせる。

その何かとは大方P40の砲弾だろうな。こちらのスキを見逃さないとは中々やるようだな。向こうの砲撃手は。いやアンチョビの指示もあるか。

だが、狙いは正確だがそれ故に読みやすいがな。

 

ん?シャアの奴、何かするつもりなのか?

何か邪魔だからどいてほしいと言っているような気配を感じる・・・。

・・・タイミングはこちらで取らせてもらうぞ。

狙いはP40が砲撃を撃った瞬間だ。要するにカウンターだ。

そして、P40から放たれた砲弾がⅣ号の装甲に弾かれた瞬間、

 

「西住、少しブレーキをかけるぞ。」

「え、は、はい。」

 

西住に一応通達しながら俺はわずかにブレーキをかけた。わずかとはいえスピードは落ちるものなので必然的に38tはⅣ号の車体からはみ出る。

その瞬間、38tの砲塔が火を吹いた。

放たれた砲弾は護衛のCV33の履帯に山の木々をすり抜けながらピンポイントで直撃し、白旗をあげながら吹っ飛んでいった。

流石だな。聖グロとの試合の時もそうだったが、まだ衰えてはいないようだな。

さて、手早くスピードを元に戻しておくか。

 

 

 

「す、すごい・・・。」

 

私は冷泉さんの操縦を見ながらそんなことを呟いていた。

今はキューポラから身を乗り出して周りの状況を把握しているけど、冷泉さんは操縦手というあまり周りの状況がわからない立場にいるはずなのにまるで見えているような動きを見せていた。さっきのカメさんチームを守った時も私は指示を出そうとしたけど、その前に冷泉さんが実行に移してしまった。

冷泉さんのおばぁさんも言っていたけど、本当に頼りになる人だなぁ・・・。

同い年なはずなのにどうしてこんなにも頼りにしたくなるんだろう・・・。

 

「西住、そろそろ斜面を下りきるが、どうする?」

「あ、はい。わかりました!」

 

冷泉さんの言う通りそろそろ斜面を下りきる。とりあえず、今はこの試合のことを考えなきゃ・・・!!

 

「冷泉さん、こちらが追う形にできますか?」

「やってみせるさ!!」

 

冷泉さんはそう言うと斜面を降り切ると操縦桿を左に切って、同じく斜面を降り切ったP40とすれ違う。

その瞬間、操縦桿を操作してすぐさまUターン。私達がP40を追いかける形を作った。38tも少し遅れてだけど私達に追従する。

なんとかこっちに有利を持ってくることはできた・・・。

あとはP40の重装甲をどう撃ち抜くか・・・。

普通に撃ってもⅣ号と38tの主砲だと難しい・・・。なら・・・。

 

「会長、また囮をお願いできますか?」

 

私は通信機で会長にサンダース戦の時と同じように囮をお願いすると共に作戦の内容を伝える。

 

『・・・了解した。うまく引きつけるとしよう。』

「お願いします。」

 

 

 

「あいあいー!!」

 

操縦桿を右に切って、セモヴェンテから飛んでくる砲弾をなんとか避ける。

 

「おー。避けてる避けてるー。」

「凄いよ桂利奈!!」

「流石やれば出来る子!!」

「桂利奈、そのまま相手のセモヴェンテと付かず離れずの距離を保って!」

「あいあいー!!」

 

セモヴェンテの砲撃ははっきり言ってM3の装甲では受け止めることはできない。

だから、一発でも当たればやられちゃう。いつもなら焦っちゃうけど、冷泉センパイに言われたみたいにこういう状況でも焦らないように気をつける。

するとなんとなくだけど、後ろからの視線?っていうのかな。それっぽいものを感じるようになってきた。この調子ならなんとかーー

 

「っ!?な、なんか嫌な予感がする・・・。」

「か、桂利奈!!前前!!」

 

妙な寒気を一瞬感じたその時、梓の焦った声が聞こえた。覗き穴から前を見ると向かい側からCV33とそれを追っている八九式が突っ込んできた。

 

「う、うええっ!?」

 

咄嗟に操縦桿を切って追突しそうだった八九式を避ける。でも操縦桿を切りすぎたのか、M3が少しばかり片輪走行の状態になる。

 

「わわわわわ!!」

「か、傾いてるー!?」

「このままだと横転しちゃう!桂利奈、戻せる!?」

「あ、あいー!!」

 

なんとかバランスを保ちつつ、M3の車体の角度を元に戻す。

キャタピラが再び地面についたのを確認するとM3の中でみんなの安堵した息が揃った。

 

「し、死ぬかと思った・・・。」

「正面から衝突してたらメガネだけじゃ済まないよー!!」

 

 

 

 

 

「あ、危なかったー・・・。」

 

思わず額の汗を腕で拭う。一歩間違えれば大惨事は免れてなかっただろうから仕方のないことだと思う。

 

「キャプテン、大丈夫ですか?」

「こっちは大丈夫!気を取り直してもう一回気合いを入れ直すよ!!バレー部ファイッ!!」

『オーっ!!!』

 

八九式の中で気合いを入れ直してCV33を追いかける。隊長からCV33のウィークポイントを教えてもらったけど、試しに普通に5輌のうちの1輌に砲弾を撃ち込んでみた。

結果は隊長の言う通りしばらくするとその1輌は戻ってきた。やっぱり的確に砲弾を撃ち込まないと倒すのは難しいみたいだ。

 

「よーし、隊長に言われた通りに相手の弱点を狙っていくよ!まずはエンジン冷却部!!」

 

CV33の後ろに見えるエンジン冷却部に砲弾を撃ち込む。直撃を受けたCV33は火をあげながら白旗を出した。

 

「よし!どんどん行くよー!!次はフロントライト!!」

「はいっ!!」

 

フロントライトに砲撃を撃ち込むとCV33はさっきと同じように炎上して白旗を出した。

よし、この調子なら・・・!!

 

「次はバックライト!!」

 

続けて砲塔を旋回させて、前方のCV33のバックライト部分を撃ち抜いた。

確実に減らせてる。あと2輌・・・!!

 

「ここも弱点・・・・!!」

 

横にいたCV33は排気口部分に砲弾を当てることで撃破する。

最後に残った1輌を撃破しようとしたが、そのタイミングで残ったCV33が西に進路を切った。

 

「あれ?確か、これって・・・・。」

 

それが集合の合図だと思い出した瞬間、河西に指示を出して、逃げたCV33を追い始めた。

 

 

 

 

「さてと、そろそろだな・・・。」

 

私は今、木の陰に隠れてP40を待ち伏せている。これでアンチョビが何も気づかずに行ってくれるとありがたいのだが、そう易々と罠にハマる彼女ではない。

追ってこないことに気づけばすぐに待ち伏せを警戒するだろう。

 

「む・・・来たか。」

 

P40が視界に入ったが、すでに砲塔はこちらに向いている。やはり看破されているようだな。

だが、待ち伏せをして、失敗したと思わせるために一応攻撃はしておくとしよう。装甲に弾かれるだろうがな。

 

「そこか。」

 

P40の動きを予測して砲撃を行う。とりあえず当たればいいという大雑把な撃ち方をしたため放った砲弾はP40の車体上部に当たり、堅牢な装甲に弾かれる。

P40はこちらに針路を変更して向かってきた。

 

「こちらの誘いに乗ったか。柚子、指定ポイントまでの移動を頼む。」

「はい。わかりました!」

 

サンダースのときと同じように鬼ごっこを開始する。しかし、前回と違うのは目的が時間稼ぎだったのに対して、今回は敵をキルゾーンまで誘導することだ。

Ⅳ号はそこに先回りしている。

 

「桃は装填をしておいてくれ。定期的に撃っておかねば、向こうが不審がるからな。」

「了解です!」

 

そういえば、サンダースのときは泣きべそをかきながら装填していたが、今回は特にないのだな。

 

「前回のように泣きべそはかかないのだな。」

「ま、まぁ・・・サンダースのときと比べたら・・・。」

「それもそうか。君も成長しているようで何よりだ。あとは高圧的な態度だな。」

「そ、それは言わないでくださいぃぃ・・・。」

「それが桃ちゃんらしさでもあるけどね。」

「桃ちゃん言うなー!!」

 

柚子の『桃ちゃん』という呼び方に声を大きくするがその様子に嫌がる様子はあまり見えなかった。なんだかんだであまり嫌とは思っていないのだろうな。

 

「さて、茶番はここまでにしておこう。報告によると既にセモヴェンテとCV33が1輌ずつP40の許に向かっているらしいからな。時間との勝負だ。このわずかな時間でカタをつける。」

 

私がそういうと二人の表情が引き締まったものに変わった。

よし、なら行こうか。

柚子の操縦で山の森の中を駆け抜ける。途中砲撃が飛ぶが運よく一度も当たることはなく進んでいく。しばらくすると森を抜け、切り立った崖に到着する。

一見、私たちが追い詰められたように見えるが、ここが大洗のキルゾーンだ。

重戦車は確かに装甲が硬いがそれは横から当てればの話だ。狙い所によっては装甲が薄い箇所もある。

だが、その前に今までの砲撃の間隔を考えるとそろそろ向こうの装填は済んでいるはずだ。

ならばーー

 

「柚子、前に出ると見せかけて後退しろ!フェイントをかける!」

「はい!!」

 

柚子が38tを前に出す。そして、すぐさま操縦桿を後ろに引き、後退する。

その瞬間、先ほどまで38tがいた場所に砲弾が撃ち込まれた。

 

「今だ!撃て!!」

 

私は切り立った崖の上にいるⅣ号に向けて声を荒げた。

 

 

 

 

「華!敵の足が止まったぞ!」

「華さん、撃ってください!!」

「一意専心。外す訳には、いきません!!」

 

意気込んで放たれた華の砲弾はP40の装甲の薄いはずである排気口付近に着弾した。

いくら重戦車といえど、排気口付近に砲弾を叩き込めば・・・!!

そう思いながらP40の様子を伺う。煙が晴れてくるとそこには白旗の上がったP40の姿があった。つまりーー

 

『P40、行動不能。大洗女子学園の勝利!!』

 

勝ったか・・・。これで準決勝に進出か。

 

 

 

 

みんなで勝った喜びを陣地で噛み締めていた。皆、ハイタッチなどで思い思いの反応で勝利を喜びあっていた。

 

「やりましたね、西住殿!次は準決勝ですよ!」

「うん!順調に行けば決勝に行けるかも。」

 

西住と秋山も笑顔を浮かべている。その様子を見ているとーー

 

「いや〜、今年こそは勝てるとおもったんだけどな〜。」

 

アンチョビがやってきた。その様子はどこかやりきったような表情をしている。

隊長として西住が近づくと互いに握手して、イタリア式の挨拶をした。

 

「決勝まで頑張れよ。私達も全力で応援するからな!だよなぁ!?」

『おーっ!!!』

 

アンチョビが振り向いて手を振るとそこにはアンツィオの生徒達がいた。

彼女らは笑顔で腕をこちらに振っている。本当に応援してくれているようだ。その様子に慣れていないのか西住は若干引き気味な笑いを挙げていたが。

するとアンツィオの生徒達はトラックから何やら机などを出して準備をし始めた。

 

「・・・・何をやっているんだ?彼女らは。」

「アンツィオの生徒は試合の勝ち負けに関わらず、終わったあとは試合相手も引っくるめてパーティーを行うんですよ。」

 

俺がふと思った疑問に秋山が答えてくれる。パーティーか。中々食費がかかりそうなことをするのだな。

パーティーの準備を見ているうちに彼女らの作る料理のクオリティがとても高いことに気づいた。これは、悪くないかもしれないな。

瞬く間にパーティー準備が整えられ、机の上には綺麗なイタリアの料理が並んだ。

俺もアンツィオの生徒に用意された机の前に案内された。

 

「せーの!!」

『いただきまーす!!』

 

アンチョビの音頭と同時に試合後のパーティーが始まる。俺もパエリアやピッツァといった料理に手をつけた。こういう論評は苦手だからあまり具体的には言えないが、とりあえずうまい。

舌鼓を打ちながら食べること、体感時間で一時間ほどたったころ、俺は少しパーティーの喧騒から離れて、置いてあった椅子に座っていた。

 

「ここにいたか。」

 

そこにシャアがやってきた。手にはお茶のような色合いをした二つのグラスがあった。シャアはその内一つを俺の前に置いた。

 

「持ってきてくれたのか。すまないな。」

「今回も見事な活躍だったな。」

「よせよ。お前の方が今回は活躍しただろう。」

「ふっ、お前の口からそういうのが出るとはな。」

 

そういうとシャアも置いてあった椅子に腰かけた。

俺は奴の言葉を無視して用意してくれた飲み物に口をつけた。

だがーー

 

「っ!?おい、これお茶じゃないなっ!?」

「ん?違うのか?」

「これはウイスキーだ!!一応未成年の俺たちが呑んでいいものじゃないぞ!!」

 

俺の剣幕に圧されたのかシャアも自身のグラスに入った飲み物を口につける。

すると奴は困った顔をしだした。

 

「すまん。どうやら紛れ込んでいたようだ。私がアンチョビに処理を聞いてくるから渡してくれ。」

「ったく。気をつけろよ。」

 

俺は奴にグラスを返して料理に手をつけ始めた。

 

 

 

 

 

まさか、ウイスキーが紛れていたとは・・・。気づかなかったな・・・。

とりあえずアンチョビに伝えるとするか。

 

「アンチョビ、少しいいか。」

「ん?杏じゃないか。楽しんでるか?」

 

アンチョビに声をかけると彼女は屈託のない笑顔を向けてきた。

 

「ああ、楽しんでいるとも。だが、少し不味いものがあってな。」

「何!?口に合わないものがあったか?」

「そういうワケではない。」

 

私はアンチョビの前に件のウイスキーの入ったグラスを置いた。

アンチョビは疑問符を浮かべている。

 

「どうやら酒が紛れていたようだ。これはそれの入ったグラスだ。」

 

それを耳にしたアンチョビは一転して青ざめた顔をしだした。

 

「な、なんでそんなものが!?の、呑んだんじゃないだろうな!?」

「一口付けたが、それ以上は呑んでいない。」

「す、すまない!!多分ウチの誰かが持ってきてしまったんだと思う!それはこっちで処分するからそこに置いといてくれ!」

 

そう言われたため、私はアンチョビのそばの机にグラスを置いた。

だが、私はその時点で知らなかった。まさかあんなことになろうとは・・・・。

あのときのアンチョビの顔は今思い返すと傑作だったな。

 

 

 

うーん・・・。ずっと誰かと喋っていたから少し喉が渇いちゃった・・・。

 

「ん?大洗の隊長さんじゃないっすか。どうかしたっすか?」

「あ、えっと・・・。」

「ペパロニっす。それでどうかしましたっすか?」

「少し喉が渇いちゃって・・・。」

 

そういうとペパロニさんはアンチョビさんが座っていた机に置いてあるお茶のような液体の入ったグラスを私に寄越してくれた。

 

「はい!お茶っすよ。これで大丈夫っすか?」

「はい。ありがとうございます。」

「いいってことっすよ。」

 

ペパロニさんから受け取ったグラスを口につける。

口に含むと変な味のするお茶だったけど、多分イタリア特有のお茶なのかなと思い、全部飲み干した。

って、あれ・・・?なんか頭がポヤポヤしてきた・・・。

 

 

「ああっ!?ペパロニー!!お前何ていうことを!!」

「うぇえっ!?姐さん、どうかしたっすか?」

「どうもこうもあるかー!!よりによってお前はなんていうことをしでかしたんだ!!」

「え?何って、お茶を渡しただけっすよ?」

「あれはお茶じゃなくてウイスキーだ!!お、おい西住っ!?どこに行くんだーっ!?」

 

あー♪れいぜいさんだぁー♪ヒック。

 




戦犯、ペパロニ

忠告だけしておく。次の回は死ぬほどイタいぞ。



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第26話

┌(┌^o^)┐ユリィィィィィィィィ!!!




シャアがアンチョビにウイスキーの入ったグラスを渡しに行ってから数分すると奴が戻ってきた。その手には別の飲み物が入った紙コップがあった。

 

「今度は普通の飲み物なんだろうな?」

「ああ。ちゃんと飲んで確認した。今度は普通のフルーツジュースだ。」

 

ならいいのだが・・・。そう疑いながらも持ってきた紙コップに口をつける。

・・・・普通のフルーツジュースだな。

 

「それで、酒が混入した理由はわかったのか?」

「アンチョビ曰く、アンツィオの生徒の誰かが持ってきたのだろうが、それ以上は分からないとのことだ。」

「お得意のノリと勢いか?それが取り柄というのも考えものだな・・・・。」

 

ため息を吐くと、そこから先はパーティーの喧騒を背景に静かにジュースを嗜む。

しばらくそのジュースと一緒に料理を食べているとーー

 

「・・・・・ん?」

 

後ろから何かの気配を感じた。それと何やら騒がしい雰囲気になっている。

何事かと思い、後ろを振り向こうとしたがーー

 

「れいぜいさーん♪」

 

それよりも先に後ろから飛びつかれて衝撃が体を襲うが、なんとか持ちこたえる。

飛びついてきた人物ははっきり言って、さっきの声で察しはついていた。

 

「・・・・どうした?西住。」

「えへへー♪」

 

何かあったのかと思ったが、西住は妙な笑顔を浮かべたまま俺の肩を腕を回して抱きついてくる。

そして、その西住からほのかに感じた酒のような匂い。これはウイスキーか?

 

「・・・・まさか、呑んだのか?」

「・・・アンチョビ?まさかとは思うが・・・。」

 

俺の発言に驚いたのかシャアはアンチョビに問い詰めた。返ってきたのは、申し訳なさげに手を合わせるアンチョビの姿であった。

本当に呑んでしまった上に酔っ払っているのか・・・。

 

「どうする?引き剥がすか?」

 

シャアが西住を引き剥がすかどうかを尋ねてくる。それでもいいかもしれないが・・・。

 

「いや、このままで構わない。変に引き剥がそうとして西住が何をしでかすか分かったものではないからな。」

「れいぜいさーん♪わたしがんばったんですよー♪」

「ああ。君はいつも頑張っているよ。」

「お前がそういうのならいいのだが・・・。」

 

いつもの労いを兼ねて褒めると西住は嬉しそうな表情をしながらすり寄ってくる。猫か?君は。

しばらくじゃれてくる西住に適当に相づちを打っていると眠くなってきたのか頭をかくつかせて舟を漕ぎ始めた。流石に後ろから俺に腕を回している体勢で寝られると、西住自身が危ない。どうしたものか・・・。

 

「西住君、そのまま麻子の太ももの上に乗っかるのはどうかね?」

「ふにゅ・・・?」

 

し、シャアの奴、余計なことを・・・!!西住は眠たそうな目をこすりながら俺の太ももの上に乗っかってくる。

くっ、西住が酔っ払っているから迂闊な対応を出来ないことをいいことに・・・!!

西住は微妙に熟れた瞳を俺に向けて見下ろしている。

・・・・いろんな意味で大丈夫か?これ、社会的に死なないか?

そう思っていると西住が座っている俺に抱きついてきた。

 

「れいぜいさーん・・・・♪だいすきです・・・♪」

 

誰か止められる人はいないのか?

そう思って辺りを見渡すが、皆揃って顔を赤くしてその状況を目を見開いてじっと見つめてくる。見世物ではないんだがっ!?

 

「な、なぁ、杏。あの二人、その、できてるのか?」

「二人が付き合っているという意味であれば答えはNOだ。」

「あ、あんな激甘空間を形成しているのにか・・・?周りはみんな顔を赤くしてるんだけど・・・。」

「アンチョビ、手で顔を覆い隠しているように見えるが、やけにじっくりと見ているんだな。指と指の間が開いているが。ああいうのは好きではなかったか?」

「お、お前、何でそのことをっ!?」

 

視線を元に戻すと西住が穏やかな寝息をたてていることに気づく。

寝てしまったか・・・。これからどうしたものか・・・。

そう決めかね、悩んでいるとーー

 

「あー、その、取り込み中悪いんだが・・・。」

「・・・別に取り込んでいるわけではないのだが?」

 

アンチョビが話しかけてきた。こちらとしては別に何かしていたわけではなかったから普通に対応をする。

アンチョビは何か予想とは違ったのか拍子抜けな表情をしていたが。

 

「え、あ、そ、そうか。ならいいんだ。今回酒が混じってしまったのはこちらの手違いだ。すまなかった。」

「ああ、どんなことにも不都合や不備は出るものだからな。こちらとしては気にしてないからそちらもあまり気にしなくて構わない。というより穏便に済ませないと色々と不味いことが・・・。」

「それもそうなんだよな・・・。だが、それではこちらの面目もないのでな。せめてもの詫びで学園艦まで先に送らせてくれないか?」

「それだとⅣ号は誰が戻すんだ?」

「うちのペパロニにやらせる。今回の騒動の原因だからな。」

「姐さん、ちゃんと迎えにきてくれますよね・・・?置いていったりしないっすよね?」

「そこまで非情じゃないから安心しとけ。」

「・・・それじゃあ、よろしく頼む。この様子ではしばらく起きないだろうからな。」

 

スヤスヤと寝ている西住を横目に見ながら俺はアンチョビの提案を承諾した。

試合の挨拶のときにアンチョビと一緒にいたカエサルの友人、カルパッチョの運転でほかのみんなより先に学園艦へと戻った。

ただ、西住が離れてくれなかったため、アンチョビとカルパッチョの二人からの視線は痛いものがあったがな。

 

「なぁ、学園艦までとは言ったが、西住を担いだ状態で家まで大丈夫なのか?」

 

道中、アンチョビがそんなことを聞いてくる。ふむ、それもそうか・・・。

学園艦自体、とても広いから西住を担いだまま家まで帰るのは無理があるかもしれない。

 

「・・・・厳しいものがあるな。家まで頼めるか?学園艦内の案内は私がする。」

「任せてくれ!カルパッチョ、予定変更!学園艦の中に入ってくれ!」

「了解です。ドゥーチェ。」

 

アンツィオのジープは大洗学園艦に入り、しばらく俺の道案内で市街を進んでいくと西住の住むマンションに到着する。

 

「すまない。今回は助かった。」

「礼には及ばないさ。あ、そうだ。もし何かあったら連絡してくれ。私達はペパロニを拾わなければならないから、ここら辺をうろついている。これ、私の連絡先。」

 

アンチョビは俺に携帯を渡して連絡先の交換を行う。確かにもしかしたら俺一人ではどうにもならないときがあるかもしれない。これは有難いな。

 

「ありがとう。何かあったら頼む。」

「ああ、任せてくれ。だが、いいのか?西住を置いた後、家まで送らなくて?」

「家自体、それほど離れているわけではないから大丈夫だ。」

「そうか。わかった。それじゃあな。頑張れよ、準決勝。」

「元よりそのつもりだ。」

「・・・・何というか、シュールだな。西住を抱っこしている光景は。」

「・・・あまり言わないでくれ。」

 

俺の言葉に乾いた笑みを浮かべたアンチョビは手を振りながらジープに乗ってそのまま去っていった。

俺はそれを見送った後、マンションの階段を登り、西住の部屋の前に到着する。

部屋自体は全国大会前に来たことがあったため特に調べることはない。

俺は西住のバックから部屋の鍵を拝借して中に入る。

 

「西住ー。部屋に着いたぞ。大丈夫か?」

「う・・・う〜ん。」

 

俺の声にも曖昧な反応を示すだけでまだ意識がはっきりしていないことを察する。

とりあえず、ベッドに寝かせるか。

俺はベッドに向かい、西住を寝かしつける。西住が俺に回していた腕はすんなりと解け、晴れて俺は自由の身になる。

とはいえ、すぐに西住の家を出るわけにはいかなかった。

あまりないとは思うのだが、急性アルコール中毒とかあるからな。

もしものことを考えて水を持ってこようとしたがーー

 

グイっ

 

「ん?なんだ?」

 

ズボンを引っ張られるような感覚を覚えたため、何事かと思って振り向くと、西住が俺のズボンを摘んでいた。

その摘んだ手からは何となく行かないでほしいと嘆願しているようにも思えた。

 

「・・・・寂しいのか?」

 

俺は困った顔をしながらしゃがんで、ズボンを摘んでいた手を握りしめる。

手を握りしめると西住はしっかりと握り返してきた。心なしか表情が穏やかなものに変わったと感じられる。

 

「・・・とりあえず、俺はここにいる。まぁ、こんな中身がおじさんな同学年では大した支えにもならないだろうけどな。」

 

とはいえ、どうしたものか。西住の様子をしばらく見たら帰ろうとしたのだが、その西住が手を握りしめたまま離そうとしてくれない。

これでは帰れないな・・・・。

それに今日の夜は夏が近づいてきた割には中々冷えている。

そのまま何も対策を取らなければ最悪風邪を引くだろうな。

 

「・・・・・いや、流石にそれは不味くないか?」

 

ふと視界に入ったのは西住のベッド、頭の中をよぎったのはつまるところ西住の隣で寝るということ。思わず自問自答してしまったが、ダメじゃないか?年頃の女の子の隣で寝るのは。

 

「とはいえ、おそらく離してはくれないだろうしなぁ・・・・。」

 

毛布を取りにいかせてもくれないらしい。行こうとしても掴んだ手に力が込められていて、離してくれない。

 

「・・・・腹をくくるしかないのか・・・。」

 

観念して、制服の状態で西住の布団に潜り込んだ。現在進行形で何かやらかしている気がしてならないが、ほかに手が思いつかないため頑張って寝た。

 

 

 

 

 

ん・・・んん・・・あれ?ここは・・・私の家?

どうしてだろう。昨日はアンツィオ高校と戦って、勝って、パーティーに誘われて、何かお茶みたいなものを飲んでからの記憶があんまりない・・・・。

あれ?何か手に感触がーー

 

「ん・・・んん?・・・・起きたか。おはよう。」

 

・・・・え?冷泉さん?どうしてここに・・・・?

そこで、自分がここに至るまでの経緯を一部分、思い出した。

 

『れいぜいさーん♪わたしがんばったんですよー♪』

『れいぜいさん・・・だいすき・・・。』

 

(・Д・) ( ゚д゚)(´・ω・`)\(^o^)/

 

 

「西住、どうした?先ほどから固まっているが・・・・。」

「き・・・・・。」

「き?・・・・あ、待て!!」

「きゃ「ストップだ、西住!!」むぐっっ!?」

 

 

 

あ、危なかった。ここで悲鳴を上げられては近所の住民に多大な迷惑がかかってしまう。咄嗟に西住の口を塞げたが、西住は未だに顔を真っ赤にしてパニック状態になっていた。

 

「むぐんぐぐっ!?」

「に、西住、まずは落ち着いてほしい。ここで叫ばれては最悪警察沙汰だからな。」

 

俺の言葉に気付かされたのか、西住はひとまず落ち着いた様子を見せ始めた。

な、なんとかなったか・・・・。冷や汗をかいたぞ・・・・。

 

「あ、あの・・・冷泉さん、どうして私の隣で?」

「まずはそれについては謝る。だが、これには中々深い事情があってだな・・・。」

 

そう言って、俺は西住に事のあらましを包み隠さず話した。

それを聞いた西住はーー

 

「・・・・穴があったら入りたいよぉ・・・・!!」

 

布団に顔をうずめてしまった。自身の失態を言われるのはかなり恥ずかしいものがあるのはわかる。だから仕方ないのことだろうな。

 

「あの・・・。冷泉さん?ちなみにそれは、みんな見てました?」

 

・・・・中々答えづらい質問をしてきたな・・・・。

どうする・・・。どう答える。言い方に寄っては後々大変なことになるな・・・。

 

「・・・私はあまり周りを見てはいなかったが、ほぼ全員が見ていた、と思う。」

「・・・・・。」

 

そう答えると西住は顔をふとんにうずめたままピクリとも動かなくなった。

・・・西住の顔を伺えないが、なんとなく感じさせている雰囲気はわかる。

非常に不味い。

 

「・・・フ、フフ・・・。」

「に、西住?」

「フフフフフフ、アハハハハハ!!!」

 

突然、顔をガバッとあげて不敵な笑みをすると狂ったように笑い始めた。

その時始めて西住の顔が見れたが、その目は濁っていたように見えた。

そして、この西住から感じる黒いオーラは・・・!?

 

「西住!!お前の纏っているソレは危険だ!!抑えるんだ!!」

「ダァメなんですよ・・あんなのをみんなに見られて平静を保っていられるわけがないじゃないですかぁ・・・!!」

 

西住がさながら何かのシステムの制御に失敗して暴走を始めたような状態になってしまった。まぁ、ただの羞恥心が限度を超えてしまって感情が暴走しているんだと思うのだが。とはいえ、このまま放置したら本当に不味いことになりかねない。

 

「西住、それ以上はよせ!自分の黒歴史をこれ以上積み重ねる気かっ!?」

「ううっ・・・で、でも・・・!!」

「あれは酒のせいだとみんな分かっている!君が心配することはないんだ!!だからもうよせ!!」

 

そこまで言ったところで西住は纏っていた黒いオーラを引っ込めた。

なんとかなったようだ・・・。

 

「・・・今考えてみれば冷泉さんもだいぶ恥ずかしかったよね・・・。それなのに私を止めに来てくれて・・。」

「恥ずかしいという気持ちはわからないわけではない。だが、周囲に当たり散らすようではどうしようもないのでな。」

「その、ごめんなさい。」

 

さて、一段落したところで、体調の確認とかしておくか。

 

「西住、体調とかはどうだ?二日酔いなどはあるか?」

「それは・・大丈夫みたい。そもそも飲んだ量が少なかったからかな。」

「ならいいんだ。朝飯だが、コンビニで適当なものを買ってくる。少し待っていてくれ。」

 

そういいながら靴を履き、扉を開け、コンビニへと向かった。

 

 

 

 

「・・・・・はぁ・・・どうしてあんなこと言っちゃったんだろ・・・・。」

 

ベッドの上で体育座りをして顔を隠すように自分の膝を抱く。

あれは、誰がどう見たって告白だよね・・・・。

 

「まぁ・・冷泉さん、本当に頼りになるからなぁ・・・。その、甘えさせてもらっても普通に応えてくれるし。お姉ちゃんとのわだかまりをなくすきっかけも作ってくれたし・・・。

 まるで、大人の人みたい・・・。沙織さん曰く、本人はだいぶ気にしているみたいだけど。」

 

冷泉さんのおばぁちゃんも冷泉さんは小学校の頃からクラスで頼りになっていたみたいだと言っていたし、もうその時点で精神が成熟していたんだよね・・・。どうしたらそうなるんだろ?

 

「西住、戻ったぞ。適当なものを買ったから好みに合うかは分からないがそこは割り切ってくれ。」

 

あ、冷泉さんが戻ってきた。とりあえず朝ごはんを取らなきゃ。

 

「今日も学校だからな。手早く済ませられるものにしてきたが・・・。」

「・・・・・忘れてた。」

 

そ、そうだった。今日も今日で学校だったんだ。

ってあれ?そういえば、昨日って冷泉さんは私につきっきりだったよね?

 

「冷泉さん、学校の荷物は・・・?」

「自分の家だが?」

 

・・・・急いで食べなきゃ・・・!!私のせいでこれ以上迷惑をかけるわけには・・・!!

 

「お、おい西住、そんなに急いで食べることはないんだぞ?」

「で、でも・・・早くしないと・・・冷泉さんが・・・ングッ!?」

「だからそれほど急いで食べる必要はないと言ったのに・・・。」

 

へ、へんなところに食べ物が入っちゃった・・・。

あ、お水だ。何か何まで申し訳ないです・・・・。

 

 

 

 

 

西住がなんとか朝食を済ませたあと、学校の荷物を取りに家へと向かう。

時間自体には余裕があるためゆったり行っても間に合うだろう。

 

「あー!!冷泉センパイと西住隊長だー!!」

 

後ろから俺たちを呼ぶ声が聞こえたため振り向くとそこには登校途中なのだろうか、バックを片手にこちらに駆け寄ってくる桂利奈と紗希の姿があった。

 

「桂利奈に紗希か。朝早くからもう学校に行くのか?」

「あい!そういえば、冷泉センパイは昨日はあのあとどこにいたんですか?」

 

桂利奈の質問に西住が思わず顔を真っ赤にしている様子が目に入る。

・・・ぼかした言い方をした方がいいみたいだな。

 

「西住を家に送ったあと、自分の家に帰ったぞ。」

「そうですか!それじゃあ私達はこれで!」

 

桂利奈はそういうと元気よく走り去っていった。

よくもまぁ、あそこまで元気はつらつに動けるものだ。

あと、それと後ろから感じるのは紗希か?

俺は後ろを振り向くとそこにはやはり紗希がいた。

あいかわらずの仏頂面な顔だな・・・。

 

「・・・・・(グッ」

 

紗希はなぜか親指を上に立てたハンドシグナルをして、一瞬だけいい笑顔を見せると桂利奈を追って走っていった。

・・・思ったより感情豊かなんだな。

とはいえ、あれはおそらくこちらの嘘を見抜かれていたようだな。

西住にもそれはなんとなくわかってしまったらしくーー

 

「ふ、ふぇ・・・!?」

 

口をパクパクさせて、顔を真っ赤にしていた。

・・・・なぜ顔を赤くしているんだ?

 



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第27話

あかん、書いてたらすっごく長くなった・・・。文字数が大体いつもより倍近い・・・。


家に学校の荷物を取りに行った後、いつも通り学校へ登校して授業を受けた。

ただ、西住が桂利奈と紗希と出会った時からずっと顔を赤くしていて、登校した際にそど子に変な言われ方をされてしまったが。

そして戦車道の時間となり、倉庫へ向かうとーー

 

「あ・・・・冷泉さん・・・。」

 

猫耳をつけた金髪にグルグルと模様を描いたメガネをかけたねこにゃーがその場にいた。後ろに二人ほど連れがいたが、ひとまずここにいたということはーー

 

「戦車道、受けてくれるのだな。」

「う、うん。その、二回戦、見に行ったよ。凄かった・・です。」

「戦車ってあんなに動かせるんなもしな!」

「ねー。そんなに早くないイメージだったぴよ。」

「君たちがねこにゃーが言っていたゲーム友達か?」

 

俺がそう尋ねると思い出したようにねこにゃーのゲーム友達が自己紹介を始めた。

 

「ももがーです!!」

「ぴよたんです。」

 

なるほど、ピンク色のオールバックの髪型に特徴的な桃の眼帯をつけているのがももがーで、おっとりとした印象を受ける灰色がかった髪のロングヘアを後ろで束ねているのがぴよたんか。

というか二人ともこれ本名ではなくハンドルネームだな。今更些細なことか、本名不明の奴らがだいぶいるしな。聖グロとかサンダースとかカバさんチームとか。

 

「冷泉麻子だ。Ⅳ号戦車の操縦手をしている。よろしく頼むよ。」

「Ⅳ号戦車って、もしかして二回戦の相手のボスを倒した戦車なりか?」

「ボス?・・・ああ、フラッグ車のことか。まぁ、そうだな。」

「あの戦車、冷泉さんが運転してたんだ・・・。凄かったよ・・・。戦車であんな動きができるんだってみんなで驚いていたよ・・・。」

 

ねこにゃーの言葉に二人がうんうんと頷いていた。

そうか・・・。そんなに俺の操縦は凄いのか・・・やれることをやっているだけなのだがな。

 

「ところで、君たちは戦車は何に乗るのかは決めたのか?」

「う、うん。会長が三式中戦車とルノーB1bisのどっちにするか聞いてきたけど、ボク達は三式にしたよ。」

「そうか。ところで誰がどの役割をするのかは決めたのか?」

「ボクが車長と通信手で・・・。」

「操縦手なり!!」

「私が装填手と砲手をするぴよ。」

 

ふむ、ももがーが操縦手か。まぁ、このチームはみんな初心者だからな。準決勝まで期間は短いがどこまでできるようになるかは、俺たちの援助次第か。

 

「ももがー、三式のマニュアルはしっかりと読んでおいてほしい。その上で分からないことがあればすぐに周りを頼ってくれて構わない。私とかが教えるからな。」

「お、お願いしますなりっ!!」

「ももがー氏、良かったですな。冷泉さんはⅣ号戦車の操縦手、ゲームで役立つこともあるかも・・・。」

「はは・・・・。ゲームの方はあまり期待しないでくれ。」

 

ゲーム仲間というのは本当の様だな。ゲームの話題になると三人の目に闘志のようなものが見えるからな。

少し乾いた笑いを挙げていると、河島の号令が倉庫内に響く。

 

「練習の時間か。初めてだから慣れないだろうが、気をつける様にな。」

 

 

俺はねこにゃー達にそれだけ言って、Ⅳ号戦車の下へ向かった。

 

「ねぇねぇ麻子、新しく入ってきた人達と知り合いなの?」

「ん?アンツィオ戦の前に少しだけだがな。」

「あ、それと、今日一日みぽりんが上の空だったんだけど。麻子何か知ってる、というか絶対何か知ってるよね。」

 

沙織にそう言われて思わず冷や汗をかいてしまった。そういえばと思い、西住の方を見ると顔がほのかに赤い。風邪、ではないのだろうな。

 

「んー・・・。昨日の酒がまだ残っているんじゃないのか?すまないが、私には見当がつかないのだが・・・。」

「お酒ってそんなに残るものでしたっけ・・・?優花里さん。」

「私に聞かれても・・・。そもそも飲む機会がありませんし。」

 

華が疑問気に秋山に尋ねているが、秋山は首を振るだけだった。

その時はなんとか押し通すことができた。

そういえばねこにゃー達は・・・別の場所で練習しているな。

流石に初心者に行進とかやらせる訳には行かないからシャアあたりが別メニューの指示を出したか。

西住は若干上の空なところが目立ったが指示自体には特にこれといったことはなかった。

 

 

そして、次の日、また戦車道を新しく履修してくれたものが現れた。

その人物が中々意外な人物でな・・・。

 

「まさか、そど子達風紀委員が入ってくるとはな・・・。」

「うるさいわね。あとそど子言わないでよ、今更だけど。私にはみどり子って言う名前があるんだけど?」

「そちらの方がなんとなく呼びやすいのだが・・・。それはそれとして、なんで戦車道を?風紀でも正しにきたか?」

 

俺がそういうとそど子は周りの視線を気にしながら俺に耳打ちしてきた。

 

「・・・会長から聞いたんだけど、全国大会に優勝しないと廃校になっちゃうんでしょ?戦車道の履修者も少ないみたいだから少しでもって思って・・・。」

 

・・・そうか。そど子達は俺たちの手助けをするために履修してくれたのか。

風紀を正しにきたなどと失礼なことを言ってしまったな。

 

「・・・ありがとう。今は少しでも人員が欲しいから助かる。」

「私たちはルノーB1bisっていう戦車に乗るわ。それで操縦手はゴモヨがやってくれるんだけど、会長があなたに預けるのが一番手っ取り早いって言ってたから練習中はあなたに預けるわ。だから、準決勝までに戦車を自由に動かせるようにしておいて。」

「・・・・了解した。なんとかそこまで持っていけるようにする。」

「・・・もし、優勝したら今までの遅刻の記録は無くしてあげるわ。」

 

どうやらなんとか、という答え方では不満だったようだ。

そこまで必死になってくれるのであればこちらもそれに応えるしかないな。

 

「わかった。そこまでの条件を言ってくれるのであれば、必ず、そこまで持っていく。だが、その分こちらもスパルタにならざるを得ないが、そこは了承してほしい。」

「大丈夫よ。ゴモヨは気は弱いけど我慢強いから!」

「が、頑張ります!!」

 

その日からはしばらくはももがーとゴモヨの指導に掛り切りになっていた。

練習が終われば30分から一時間程残って練習を行っていた。俺も多少熱が入ったのもあったが、なんとか試合の前日までには二人とも隊列から遅れない程度には操縦できるようになった。そんなチームメイトの成長ぶりに触発されたのかアリクイさんチームと名付けられたねこにゃー達、カモさんチームと名付けれたそど子達も普段の練習の後にも俺たちと同じように居残って練習する姿が目立つようになってきた。

それと、これはある意味余談なのだが、Ⅳ号の砲身をこの間の戦車探しの際にルノーB1bisと同じ時期に見つけたものと取り替えた。砲身が長くなったことにより貫通力が上がり火力を底上げされた。

 

「明日はいよいよ準決勝だが。相手は去年の優勝校、プラウダ高校だ。今までサンダースやアンツィオと戦って勝ってきたが、プラウダは実力と戦車の性能共々黒森峰と同等のレベルだ。迂闊な行動はすぐに撃破されると思った方がいい。各員は気を引き締めて望んでほしい。」

『はいっ!』

「それと、準決勝のステージは雪が降り積もった雪原だ。カイロやマフラー、それに上着といった防寒対策もしっかりとしておいてほしい。試合の途中で風邪などひかれたら目も当てられないからな。」

 

シャアが明日の試合についての大まかな説明を行う。

プラウダ高校か・・・。去年の優勝校ということは西住が大洗に飛ばされる要因となった試合の対戦相手か。これは、かなり苦戦を強いられるだろうな。秋山曰く、準決勝からは車輌の制限が15輌までに緩和されてしまうため三式中戦車とルノーB1bisを加えても総数はこちらの倍はある。

今まで以上に気を張らねば、すぐにやられるだろうな。

 

「プラウダ高校・・・。」

 

西住が重い顔をしたまま俯いている。おそらく去年の光景がフラッシュバックしているのだろう。

そんな西住の肩を俺は軽く叩いた。

 

「あ・・・。冷泉さん・・・。」

「今の君は大洗の生徒だ。黒森峰じゃない。それほど思いつめた表情(かお)をする必要はないんだ。いつも通り、君らしく、君の戦車道をやればいい。」

「・・・・・はいっ!!」

 

西住の表情が軽くなったのを見届けると俺は最終確認ということでももがーとゴモヨの下へと向かった。

彼女らにも何かしらの不安はあるだろうからな。精神面で支えてやらねばな。

 

 

「・・・私の戦車道・・・。やるよ、私!!」

 

 

 

そして、試合当日、準決勝の舞台である雪原ステージは軽く雪が降るだけという比較的優しい天候だった。それでもやはり気温は低いため、息は白くなり、肌には突き刺さるような風が吹く。

 

「けっこう寒いな。中に色々着てきたつもりだが、それでもくるものがあるな。」

 

独り言を漏らしてあたりを見回していると、ウサギさんチームが楽しげに雪合戦をしているのが目に付いた。

準決勝なのだから、そろそろ緊張感を持ってほしいのだがな・・・。

と、いうのも野暮な話だな。変に緊張した面持ちでいられるより笑顔でいてもらうほうが一番彼女達に似合っているからな。

俺の視線に気づいたのか梓が申し訳なさげに頭を下げてくるが俺は気にしてないという意味合いで笑顔を返しながら手を振った。

そのまま辺りを歩いているとそれぞれのチームが皆雪に対して思い思いの反応を見せていた。

カバさんチームは安定の歴史関係のことで盛り上がっているのか雪で鎧武者の雪像を作り上げていた。あの軍配の持ち方を見る限り、武田信玄かそのあたりか?

アリクイさんチームは元々こういったアウトドアなことはしたことがないのかブルブルと体を震わせて身を寄せ合っていた。

 

「・・・大丈夫か?」

「あ、ああー・・・。冷泉さん・・・。冬って、こんなに寒かったんだねぇ・・・。」

 

思わず声をかけるとねこにゃーが歯の根をカチカチと鳴らしながら答えてくれた。

 

「試合が始まると戦車の中はエンジンの熱であったまるはずだ。それまでの我慢だ。」

「うう・・・。早く試合始まらないかなぁ・・・。ボク寒さで固まりそう・・・。あー・・・なんか、川が見えてきたよー・・・・。」

「ねこにゃー氏ー!?頑張るなりよー!?」

「それは渡ったらダメなやつぴよー!!?」

 

「これは・・・無事を祈るしかないな・・・・。」

 

俺はその場を後にして今度はカモさんチームの下へ向かう。

ルノーB1bisの下に向かうとそど子が厳しい表情をしていた。

 

「ちょっと、大丈夫なんでしょうね?みんななんか凄い気楽な顔になっているけど、負けたら廃校なんでしょ?」

「私達はいわゆる寄せ集め集団だからな。変に規律に厳しくするよりそっちの方がらしくはなるだろう?風紀委員的にはもどかしく思うだろうがな。」

「ええ・・・!!さっきから血が疼いて仕方がないわ・・・!!」

 

そういうとそど子は目に炎を宿しながら手のひらを握っている。どうやら風紀を正しくしたくてしょうがないようだ。ある意味平常運転のようで安心した。

 

「・・・お前も案外それに染まっていることを忘れずにな。」

 

俺がそういうとそど子は「はぁっ!?」と声を荒げながら追求してくるが、俺はそれをスルーしてゴモヨの下へ向かう。

 

「ルノーB1bisは重戦車に分類されている。その重さ故にこういった雪といったコンディションの悪さの影響を受けやすい。そこには細心の注意を払って動かしてくれ。」

「わ、分かりました。」

 

ゴモヨが若干不安気な表情をしながら頷く。その表情を見ながら、俺は頰をあげ、表情を緩ませる。

 

「そんなに硬い顔をする必要はない。もしものことがあればすぐに助けを求めてくれ。すぐに向かうからな。」

「あ、ありがとう・・・。」

 

 

それだけ伝えると俺は自分の乗る戦車であるⅣ号戦車の下へ向かった。

途中、バレー部の姿が見えていたが、こんな寒い場所でもバレーボールの練習に勤しんでいた。頑張りどころをあまり間違えて欲しくはないのだが・・・。

風邪を引かないようにな、と心の中で心配しながら俺はⅣ号と38tの下へ向かった。

その場所には既に西住達とシャア達カメさんチームがいた。ちょうど俺がそこに着いたタイミングで雪原の向こうから車で何かやってくるのが見えた。

その車は俺たちの前で停車するとドアが開いて、中から三人組が現れた。

白銀色の髪を肩まで下げた外国人のような女性と艶やかな黒髪を同じように肩まで下げたクールな印象を受ける女性にしてはかなり高身長な二人組に挟まれて、小学生みたいな女の子が現れた。

 

「誰だ、彼女ら。大方隊長かそのあたりなのだろうが。」

「あ、冷泉さん。戻ってきていたんですね。冷泉さんの言う通り、あの人達はプラウダ高校の隊長と副隊長です。」

「黒髪か白銀色の髪のどちらかか?」

「いえ、隊長は真ん中のカチューシャさんです。隣の黒髪の人は副隊長のノンナさんです。ですが・・・。」

「隣の白銀色の髪の人は見覚えがありませんね・・・。」

 

・・・・隊長ということはあの子供みたいな女の子も高校生なのか。

流石に身長が低すぎないか?だが、それよりも隣の白銀色の方が気になる。秋山も知らないとなれば・・・何者だ?

 

「外国人、という可能性が挙げられるが、いかんせん他にも外国人のような見た目で日本人というのを見てきたからなんとも言えんな・・・。」

 

シャアが彼女が外国人であるという可能性を挙げるが全くをもってその通りだ。

ダージリンとかケイとか、一見して外国人のような見た目をしているやつが多いんだよな・・・。それはそれとして、俺はシャアに鋭い視線を向けた。

 

「おい、私は気づいているからな、ロリコン。さっきから真ん中の子供に視線が向いているのは分かっているからな。」

「それは誤解だ、麻子。確かに視線を向けていたのは事実だが私は子供に欲情するような外道ではない。」

「よくいうよ・・・。」

「アッハハハハハッ!!」

 

そんなことを話していると突然響いた笑い声に視線を持っていかれる。

その声の主はカチューシャだ。

 

「このカチューシャを笑わせるためにこんな戦車を用意したのね!!」

 

・・・仕方ないだろ。戦車がこういうのしかないんだから・・・。

とはいえ、ああいう言い方をされると少なからず嫌悪感を抱くな・・・。

身長だけでなく性格まで子供だな。思ったことをストレートに話して、周りに嫌悪感を抱かせる。・・・・あまり思い出したくない人物を思い出してしまったな。

 

「・・・彼女を見て、誰を思い出した?」

 

シャアが険しい表情をしながらそんなことを聞いてくる。そう聞いてくるということはシャアの中でも俺と同じ人物が思い浮かんでいるのだろう。

 

「・・・・クェス、だな。」

「・・・・やはりか。私も同じだ。」

 

クェス・パラヤ。俺がまだガンダムのパイロットだったころの連邦軍の高官の娘だった彼女。

彼女は確かにニュータイプの素質を持っていた。だが、まだ子供というのもあったのか情緒が不安定で周りと衝突することも多かった。何より、彼女には父親がいなかった。別段彼女自身が父親を知らずに育った訳ではない。しっかりとあの時はまだ父親は存命中だった。だが、父親はあろうことかクェスに対して親として何一つしてやっていなかった。その結果、彼女は俺とシャアに父親を求めーー

彼女があの闘いでどうなったかはわからない。仮に生きていたとすれば、ハサウェイあたりがそばにいてくれるとありがたいのだが・・・。

 

「彼女も父親から何ももらっていないのだろうか。」

「それは・・・私達が知ることではないな。だが、クェスのようにはならんだろう。彼女のそばには支えてくれているものがいるからな。」

 

軽くノンナの方に視線を向けたシャアは代表としての挨拶をするためにカチューシャの下へ向かう。

 

「私は角谷 杏だ。よろしく頼む。」

 

そういいながらシャアはカチューシャと視線を合わせるためにしゃがみながら握手を求めた。

対応が完全に子供に対するソレだが、大丈夫か?

ああいうタイプは対応を間違えると面倒なことになるぞ。と言っているそばからカチューシャの目つきが不機嫌なものに変わる。

 

「ノンナっ!!」

 

傍にいたノンナを呼びつけると彼女はかがんだノンナをよじ登り、肩車を姿勢をとり、勝ち誇ったような顔を浮かべた。

やはり身長に対してコンプレックスを持っていたか・・・。

 

「貴方達はね、全てにおいてカチューシャより下なの!戦車も技術も身長もね!」

 

子供だ・・・。どうみても子供だ・・・!!肩車をしてもらってようやく俺たちを見下ろせる身長だと言うのに、凄い言い草だな・・・。まぁ、身長はともかく戦車と技術が下なのは認めざるを得ないがな。

 

「肩車してるじゃないか・・・。」

 

河島の思わず漏らした言葉に眉間に手を当てる。そういうのは指摘しない方が良かったというのに・・・!!

ああいうのは言わせておくのが一番対応がしやすいんだがな・・・!!

 

「っ!?聞こえたわよ!!よくもカチューシャを侮辱したわね!!粛清してやるわ!!」

 

ほらみたことか・・・。余計に話がこじれていく・・・。

カチューシャは怒り心頭といった様子でノンナに命令をし、車へと戻ろうとする。そのまま帰るのかと思ったがーー

 

「あら、西住流の・・・。」

 

西住の存在に気づいたのかそんなことを言ってくる。

なんだ、まだ何かあるのか?

 

「去年は勝たせてくれてありがとう。貴方のおかげで私達は優勝できたわ。」

 

・・・ここは我慢だな。ここで怒りに身を任せてしまえば試合で見えることも見えなくなる。

リラックスするには深呼吸だったか?

深呼吸を数回繰り返すとフツフツと煮えていた怒りが静まっていくのを感じる。

 

「今年もよろしくね。じゃあね、ピロシキー。」

 

ノンナの上から手を振って帰っていった。その際、ノンナと白銀色の髪の女性からはダビスターニャ。つまるところロシア語でさよならの言葉が聞こえた。

だが、最後のピロシキとはなんだ?確かロシアの伝統的な料理だったような気がするのだが・・・。

よし、なんとか心の平静を保つことはできたか。

そして、西住は・・・。やはり沈んだ顔をしているか・・・。秋山達も先ほどの言葉に思うものがあったのかカチューシャに対して敵愾心を露わにしている。

不味いな・・・。さっきのは精神的に揺さぶりをかけるためだったか。

試合は既に始まっている、そういうことか。

ひとまず西住に声をかけておくか。

 

「西住、大丈夫か?」

「あ・・・冷泉さん・・・。うん、大丈夫。ご、ごめんなさい。気を遣わせて・・・。」

「気にすることはない。むしろあのようなことを言われて動じないというのも難しい。だが、これはやられたな・・・。」

「え、どういうことですか?」

「・・・・とりあえず、作戦の最終確認だ。おそらく、そこでわかるかもしれない。」

 

 

西住はひとまず、メンバーを全員集合させ、作戦の最終確認を行った。作戦はやはり戦車の性能の差が激しいためフラッグ車である八九式を守りつつゆっくりと前進し、相手の出方を探る。流石だな、西住は。

少しくらいは動揺していてもおかしくはないと思うが、しっかりと状況把握ができている。

だがーーそれは西住だけの話だ。

 

「ゆっくりというのもいいが、ここはやはり一気に攻めるのはどうだろう。」

「え・・・?」

 

カエサルからそんな声が挙がる。思ってもいなかった言葉に西住は言葉を詰まらせてしまう。っ・・・!!不味いな。やはり俺が一番危惧していた状態になっているか・・・!!

カエサルの言葉に続いてカバさんチームがカエサルの言葉に同調の意志を示した。

 

「気持ちは分かりますが、リスクが―――」

「大丈夫ですよっ!!」

「私もそう思います!」

「勢いは大事です!」

「ぜひ、クイックアタックを決めに行きましょう!」

 

反論しようとした西住の言葉にバレー部の言葉がかぶせられてしまう。

続けて一年生達も負ける気がしないといった、楽観的な言葉を飛び出してくる。

一見すると士気が高いようにも見えるが、はっきり言って状況がみんな揃って見えていない。カチューシャに自分たちを侮辱されたことにより怒っているのだ。

だが、思った以上に深刻だ。俺が言ってもいいが、それではチームの間で亀裂が生じる恐れがある。どうする?止められないにしても出来る限り削いでおきたいが・・。

 

パンッパンッ!!

 

そんな乾いた音が俺たちの間で響いた。全員の視線が音源に集中する。先ほどの音はシャアが手を叩いた音だった。

 

「みんな、ひとまず落ち着いてほしい。カチューシャに侮辱されて怒っているのは分かるが、それで相手の思う壺になってどうする。」

「だが、会長。相手は舐めていると思うのだが・・・。」

「それこそ相手の思う壺だと言っているんだ、カエサル。相手の戦車はこちらより性能がいいのは火を見るより明らかだ。そんなところになんの調べもなしに突っ込んでどうする。相手の砲撃に晒されて、撃破されるのが落ちだ。

少しは現実を見てもらいたいものだ。」

 

シャアはカエサルにそう言い放つと今度は一年生チームに目を向ける。

 

「一年生もそうだ。勝てる気がする、などという甘い考えはそろそろ捨てた方がいい。相手は去年の優勝校だ。戦車の性能も技術も向こうが上。むしろ舐められて当然だ。楽観視するのも程々にしてもらいたい。バレー部もだ。君たちはフラッグ車という大役を背負っているんだ。君たちがやられてしまえばいくらこちらが優勢だったとしても敗北が決まってしまう。大局を見失うな。」

 

シャアがそこまで言い切ったところで、チーム全体に沈んだ雰囲気が漂う。

士気は下がってしまったが、油断して罠にはまってしまうよりはよっぽどマシだな。

まぁ、こんなものかと思っているとーー

 

「今は西住君の指示に従ってほしい。だが、ゆめゆめ忘れないでほしい。君たちをここまで連れてきたのは西住君の作戦あってこそだと言うことを。」

 

そこまで言ったところでカバ、アヒル、ウサギチームのメンバーがはっとした表情をする。

 

「私たちは西住君の指示の下、性能が上の戦車を倒してきた。今回もそれを繰り返すだけだ。やることは変わらん。わかったか?」

『はいっ!!』

 

・・・見事だ。流石はネオ・ジオンの総帥をやっていただけのことはある。

一気に士気の高さを元に戻したか。

 

「助かった。私が言っても士気の低いまま試合をさせるだけだと思ったからな。」

「構わんさ。この程度であれば造作もない。」

「あの・・・ありがとうございます。」

「お膳立ては出来る限りした。あとは君次第だ。カチューシャに言われたこともあるだろうが、気に止めることはない。子供の癇癪程度だと思っておけばいい。」

 

西住がシャアに対して頭を下げた。シャアは軽く笑みを浮かべ、38tへと乗り込んだ。

 

「よし、西住。私達も行こう。士気はいい方向に向いたが、いつ暴れるかはわからないから手綱はしっかりと握っておいた方がいい。」

 

俺がそういうと西住は無言で頷いた。

ここまで来たら、負けるわけには行かないな。

 

 




原作との相違点

アリクイさんチームの早期合流。及び士気の高さの調整。



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第28話

プラウダ戦前日


「・・・シャア、廃校のことはいつ話すんだ?いつまでも隠し通せるとは思ってはいないのだろうが・・・。」
「それは・・・もちろんだ。だがはっきり言って決めかねているのが現状だ。彼女らは兵士ではないのだ。いらんことを言って士気に関わるのは困る。」
「だが、隠していても何かしらのことで漏れる可能性だってある。そうなればこちらから進んで明らかにするより士気に関わるんじゃないのか?河嶋辺りが思わず漏らす予感がするのだが・・・。」
「・・・・わかった。準決勝が終わった後、遅くとも決勝前には話すとしよう。」



ひとまず、シャアの檄によって悪い意味で高かった士気を元に戻した大洗は西住の当初の作戦であったゆっくり進んで相手の出方を探ることにした。

現在は雪原をおよそ10kmの速度で走っている。

 

(・・・・左から視線を感じる・・・・。偵察か。)

 

走行中に左から視線を感じる。おそらくプラウダの偵察がいるのだろう。

となると、さほど敵の先遣隊と距離は離れていないか。

 

「西住、そろそろ気をつけた方がいいかもしれない。」

「えっ?敵、ですか?まだ敵の戦車は見当たりませんが・・・。」

「意識の隅に置いておくだけで構わない。ただの勘だからな。」

「か、勘なんだ・・・。」

 

俺の言葉に沙織が引きつった笑みを浮かべている。仕方のないことだろうな。

ニュータイプといっても通じるのはシャアくらいしかいないからな。

しばらくそのまま雪原を慎重に進んでいるとーー

 

『西住君、カモさんチームが雪でスリップを起こして進めなくなっている。麻子を向かわせてはくれないか?』

「わかりました。冷泉さん、向かってくれますか?」

「了解した。」

 

操縦席のハッチを開けて、一面雪景色の雪原へと足を踏み入れる。

試合中でなければじっくりと見ておきたいものなんだがな・・・。

俺は駆け足でスリップを起こして動けなくなっているルノーB1bisへと駆け寄る。

 

「ゴモヨ、大丈夫か?」

「れ、冷泉さん・・・!!」

「少し代わってくれるか?」

 

操縦席のハッチを開けるとそこには涙目になっているゴモヨがいた。

ゴモヨに操縦席を開けてもらうと席に座り、代わりに操縦桿を握る。

操縦の仕方は練習中に教えるついでに覚えたから問題はない。

そのままルノーB1bisを操縦して隊列に戻す。

 

「あ、ありがとう・・・。」

「雪原では変に操縦桿を切ったりするとスリップを起こしやすい。だからゆっくりと動かすことを意識しろ。そうすればスリップを起こす確率は格段に減る。そのあたりを気をつけるといい。」

「う・・うん。」

 

ゴモヨに軽くアドバイスを済ませてルノーB1bisから出ようとすると、そど子の顔が目に入る。

 

「その・・・助かったわ。私からも礼を言うわ。」

「気にすることはない。むしろ助かっているのはこっちだ。人数が足りなくて戦車を持て余していたからな。だから、ありがとう。」

 

そど子の言葉に笑顔を見せながら、それだけ言って俺はルノーB1bisを後にした。

 

「何よ・・・。先輩に対して『ありがとう』って・・・。か、かっこよくなんて思ってないんだからね!」

「ツンデレだねぇ・・・。」

「うっさいわよパゾ美!!」

 

 

 

 

「カチューシャ、偵察隊から報告です。大洗は雪原をおよそ10kmの速度で進行中だそうです。」

「ふん、カチューシャたちの出方を見ているのね。だけど、やることは変わらないわ。そっちが積極的に出てこないなら、こっちから焚き付けてやるまでよ。」

 

 

 

ルノーB1bisを隊列に連れてきた後、再びⅣ号に乗り込んで雪が降り積もった雪原を進んでいく。

途中、壁のように積もった雪を榴弾で吹っ飛ばしたりした。

しばらく何事もないまま進んでいくとーー

 

「11時に敵戦車!!各車、警戒!!」

 

ふむ、11時の方向か・・・。操縦席の覗き穴からは雪の丘の上で群生している木々の近くにプラウダの戦車が何輌かいるのが確認できた。

 

「どうする?あの部隊は先遣隊の可能性が高いが・・・。」

「敵が3輌だけですので・・。確かに外郭防衛線だと思いますけど・・・。」

 

西住と話していると件の敵戦車から砲撃が飛んできた。気づかれたか。

 

「華さん、砲撃用意してください。カバさんチーム、砲撃!」

 

西住が指示を飛ばすと始めにⅢ突が砲撃を開始する。放たれた砲弾は敵戦車、『T-34/85』を撃破する。

 

「あんこうチームも砲撃を行います。」

 

砲撃を行うためⅣ号を停止させると、華がトリガーを引く。砲身を長い代物に換えたことにより貫通力が向上したⅣ号の砲撃はもう1輌のT-34/85に撃破判定を上げさせる。

 

「命中しました!!」

「すごい!!一気に2輌も!!」

 

敵の戦力を削いだことによりⅣ号の中で秋山と沙織が喜びの声をあげる。

秋山に至ってはⅣ号でT-34/85を倒すことは凄いことだと言って表情を歓喜そのものにし、興奮を露わにしていた。

ただ、俺は先ほどの撃破に妙なものを感じ、素直に喜べなかった。

 

「・・・・冷泉さん。」

 

西住に声をかけられたため、振り向くとそこには険しい表情をした西住の顔が視界に入った。

なるほど、俺と同じ妙なものを感じ取ったか。

 

「・・・私も同じだ。考え過ぎかもしれないが、事がうまく進み過ぎている。」

「やっぱり・・・。ありがとう。冷泉さんがそう言ってくれると、私も自信が持てます。」

「それはそれで困るものがあるのだが・・・。できれば自分の判断に自信を持ってほしい。」

「そ、そうですよね。ごめんなさい・・。」

 

困った顔をしながら前を向くとちょうど残ったT-34/85が逃走をしている様子が目に入った。

 

「全車輌、前進してください!追撃します!」

「いいのか?」

「できる限り、戦力が削げるのであれば削いでおきます。」

「・・・わかった。」

 

西住の判断を信じて、逃げたT-34/85を追撃する。

他の戦車がT-34/85に砲撃を行うが、行進間射撃だからか直撃弾はなかった。

シャアあたりにお願いするかと思ったが、そもそも38tではT-34/85にはギリギリまで近づかないと効かないことが明らかになりそのまま追撃戦を続けるしかなかった。

 

「なんで逃げるのかな?」

「決まっている。仲間の援助を受けるためだ。ちっ・・・。タイムリミットか。」

 

沙織の質問に答えている途中に思わず舌打ちをしてしまう。

なぜなら追っているT-34/85の先に5輌のプラウダの戦車が待ち構えていたからだ。

 

「あ、ホントだ。でも、5輌だけ?」

「5輌だけでも十分脅威だがな。」

「まぁ、T-34/85は当時ではかなり革新的な性能を持った戦車でしたしね。強すぎてドイツが戦車性能の底上げを図ったほどですし。『T-34ショック』とも呼ばれていますよ。」

「そうなのか・・・。」

 

秋山の相変わらずの戦車知識に舌を巻いているとーー

 

『こちらウサギさんチーム!!敵のフラッグ車を確認!!』

 

っ!?なぜこんなところにフラッグ車がっ!?普通は陣形の後ろに置いておくものだろう!!

フラッグ車を捉えたことを千載一遇のチャンスと捉えたのか他の戦車はフラッグ車に向けて砲撃を開始する。

無論、向こうはフラッグ車を守るように2輌のT-34/85で壁を形成しながら後退していく。

 

「西住!!フラッグ車を追わせるな!!あれはどう見ても罠だ!!」

「皆さん、停車してください!!」

 

西住が通信機に呼びかけるが、シャアの38t以外の全車輌がフラッグ車を追っていってしまう。

くそっ!!止められなかったか!!

 

「ひとまず追うぞ!!あのままではみんなやられる!!」

「う、うそぉっ!?」

「冷泉さん、お願いします!!カメさんチームも続いてください!!」

『了解した!!』

 

Ⅳ号と38tが追撃する他の戦車の後を追う。西住が果敢に通信機に呼びかけるが聞く耳を持っていないように目の前の勝利に縋り付く。

そのままズルズルとひきずられていき、最終的に建物群へとたどり着いてしまう。その直前で何かを察知したのか、三式だけが止まっていたが、それ以外は建物群の中へと入ってしまっていた。

あれではもうどうしようもない・・・。

おそらく、敵の出方は・・・。

 

「西住、敵はおそらくあの地点で包囲殲滅をする気だ。建物の影に戦車を隠している。」

「そ、そんな・・!!」

『に、西住さん・・・。少しいいかな・・・?』

 

俺の言葉に西住が驚いていると建物群の直前の小高い丘で止まっている三式のねこにゃーから通信が入る。

 

「ねこにゃーさん、どうかしましたか?」

『えっと・・、まずは勝手に行動して、ごめんね・・。流れるままに付いていっちゃった・・・。』

 

勝手に行動した件について、ねこにゃーが謝罪の言葉を口にする。

というか、よく直前で止まれたな。何か理由があるのか?

そう思っているとねこにゃーの口から理由が告げられる。

 

『えっと・・これはボクのゲーム知識からなんだけど、あの家屋でギリギリ戦車を隠せるって感じたら、咄嗟に待ち伏せの可能性が頭をよぎってね。それで、なんとか止まれたんだ・・。でも、みんなを止められなかった・・・。』

 

ねこにゃーから後悔するような声が溢れ出る。

それでも止まれただけで上出来だ。だが、問題は突っ込んでしまったチームをどうするかだ。あのままではやられるのは目に見えている。

 

「・・・西住、少し通信機を貸してくれないか?」

「そ、それは構いませんけど・・・。」

 

困惑しながらだが、西住は俺に通信機を寄越してくれる。俺は受け取りながらも西住に頼みごとをする。

 

「西住、逃げ込むスペースを探しておいてくれ。伝えるのは私がする。」

「え、それはどういう―――」

 

西住の問いに答えることはできなかった。なぜなら各方面からプラウダの戦車が顔を出し始めたのが見えたからだ。そして、包囲された他のチームたちは砲撃の雨に晒される。

 

「すまない!!説明する間も惜しい!!」

 

通信機をつけるとⅣ号のエンジンをフルスロットルにして、一気に加速する。

その際、そばにいた38tに通信を入れる。

 

「シャア!!手伝え!!」

『む・・・。なるほど、分かった。』

 

最低限どころか聞く人が聞くと足りなすぎる会話だが、俺の考えていることはシャアには伝わったようだ。

坂道を下ってさらに加速するとシャアの38tも追従してきてくれているのがわかる。

 

 

 

「柚子、運転を少しだけ代わってくれ。」

「え、会長っ!?ど、どうしてなんですかっ!?」

「今は時間が惜しい。頼む。」

 

そういうと柚子は怪訝な顔をしながらも操縦席を空けてくれる。

私は柚子に感謝の言葉を送りながら操縦桿を握りしめる。

 

「やってみせるさ!!」

 

 

「各戦車、砲撃を中止!!今すぐに逃げる準備をしておけ!!まったく、みんな揃いも揃って目の前の勝利に目がくらみすぎだ!!少しは反省しろ!!」

 

そう通信機に怒鳴りつけながら、砲火に曝されているⅢ突とM3の間を通り過ぎる。砲弾を避けながらⅣ号と38tはそれぞれ左右に分かれて曲がる。

 

『ま、まさか、1輌であの数を相手取るのかっ!?』

「救出を最優先だ!今はやらん!!」

 

エルヴィンにそう返しながらⅣ号を左からドリフトさせる。雪原でやったため、地面の雪が一気に巻き上げられる。

だが、俺の狙いはそれだ。巻き上げられた雪は俺たちとプラウダの戦車の間に天然のカーテンとなって、視界を塞ぐ。

だが、これではまだ薄い。だからシャアにも頼んだんだ。

シャアの38tも同じように右からドリフトすることで雪を巻き上げ、二重の雪のカーテンを形成する。

これで、少しの間だが、プラウダの砲撃をしのげるはずだ。不意をついたはずだからな。

さらにちょうどそのタイミングでーー

 

「冷泉さん!!あそこの建物に逃げ込みます!!」

 

西住が指差した先には教会のような建物があった。

 

「大丈夫なのかっ!?」

「ですが、現状ではこの包囲網を突破するのは・・・。」

「っ・・・仕方がないか。各戦車、Ⅳ号に続け!!」

 

その教会に向かって全速力で駆け込む。Ⅳ号に続いて、他のチームの戦車も続いていく。途中砲撃に晒され、比較的列の後方にいたⅢ突に直撃し履帯が外れるが、そこはシャアの38tが砲塔に損傷を受けながらも押し込んでくれたことによりひとまず教会の中に入り込むことはできた。

だが袋小路に等しく、外では砲撃音が飛び交っていた。建物にも直撃し、空気が震える感覚を受ける。

しばらくその感覚を味わっていると、砲撃音が止んだ。

 

「砲撃音が、止んだ?」

 

ひとまず通信機を西住に返しながら、外の砲撃が止んだことに疑問を露わにする。

外の様子を確認するために操縦席のハッチを開けると、向こうからプラウダの生徒が二人ほどこちらに徒歩で向かってきているのが見えた。そのうちの一人の手には白旗が握られていた。

・・・・こちらに降伏勧告をしにきたか。

まぁ、こんな状況では勝ちを確信するのは普通だろうな。

 

「カチューシャ隊長の伝令を伝えに持って参りました。『降伏しなさい。全員土下座すれば許してやる。』だそうです。」

 

ちっ、土下座させることで自分より身長を低くさせる算段か。

それだけで優越感に浸ろうとするとは・・・子供だな・・・。とはいえ、戦術のセンス自体は認めざるを得ないものがある。

こちらが止められなかったとはいえ、見事に焚きつけられて包囲殲滅に移行。

撃破された車輌はなかったもののほぼほぼ詰みの状態にされた。

降伏するかどうかを考えるために三時間の猶予を与えることを告げたあとそのプラウダの二人が自陣へと戻っていった。

三時間か・・・。修理に全力を尽くせばⅢ突と38tの砲塔は直せるか?

 

「隊長!!ここは徹底抗戦だ!!」

 

カチューシャの言い草に思うものがあったのか各チームからはそのような声が挙がる。まぁ、廃校の事情を知っている俺としては戦意がまだ折れていないのは有難い。

だが、当の西住は難しい表情を浮かべている。

無理もないだろうな。完全に包囲されたこの状況で外に出れば、すかさずプラウダ高校からの砲火の嵐に晒される。そうなったら最悪、怪我人が出る可能性だってある。

仲間を大事にしている西住からすればとてもじゃないが看過することはできないことだろう。

 

「私は西住殿の判断を信じますよ。」

「そうだよみぽりん。土下座だってなんだってするよ。」

「あまり無理はなさらない方いいかと思いますよ。」

 

・・・やはり西住の性格を知っている沙織たちならそういうだろうな・・・。

完全に負けムード、次の機会を頑張ろうといった雰囲気が出ている。

どうしようかと考えているとーー

 

「それじゃあダメなんだ!!」

 

河嶋が突然怒鳴り声を挙げた。建物の中で静寂の空気が流れる。呆気に取られたみんなだったが、西住が説得にかかる。

西住は河嶋に対して、今回のことを糧にして自分が大好きなこの学校とみんなでまた来年頑張ればいいといった。

シャアが西住に対していった言葉が彼女自身の口から出てきたことに戦車道に対する考えを改めていることに表情が綻ぶ。が、河嶋の言う通り、来年じゃあダメなんだ。ここで負けてしまえば、文字通り俺たちに次はない。

西住、君の言う大好きな大洗女子学園も無くなってしまうんだ。

だからーー

 

「会長、もう限界だろう。あのままでは河嶋は確実に喋るぞ。」

 

俺が視線を向けながらそう言うとシャアは困った表情を挙げる。

事情は知らない西住はキョトンとした顔をしている。

 

「・・・あまりこういう使い方で発破をかけたくはないのだがな・・・。」

「そうは言っても、このまま河嶋にボロを出させるよりはマシだろう。」

「私にもツケが回ってきたか・・・。」

「そう考えるのが妥当だろうな。まぁ、私とお前は共犯者だ。咎は一緒に受けるさ。」

 

難しい顔をしながら腕を組む。壁に寄りかかって、この後のことを考えていると不安気な表情をしている西住の顔が目に入る。まるで事情を説明してほしいといった感じだ。

 

「冷泉さん、それに会長・・。一体、何を隠しているんですか?」

「隠している、か。そう言われてもしょうがあるまいな。みんな、心して聞いてほしい。この全国大会で優勝しなければ、大洗女子学園は廃校となる。」

 

大洗女子学園の廃校、その言葉を聞いて西住たちは言葉を失っているのか、目を見開いて、驚きの表情を挙げたまま何も言えなくなってしまった。




あー、結局原作アニメとおんなじ展開になってしまうんじゃあー(白目)


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第29話

ただの激励回・・・。


「お、大洗が廃校って・・・なくなっちゃうんですかっ!?」

 

みんな驚きの表情をしていて声を出させない中、かろうじて沙織の声が建物の中で響く。シャアはそれに頷きながら廃校になるまでに至った経緯を説明し始めた。

学園艦の経営には莫大な費用がかかる。まぁ、そうだろうな。あんな巨大な船を維持していくにはとてつもない金額がかかっているだろうな。

そこで文科省は、費用削減のために学校の統廃合を進めているらしい。そこでまずは大した成績も残せていない学校をなくすことにした。そこで白羽の矢が立てられてしまったのが、俺たちの大洗女子学園ということだ。

 

「は、廃校になったら、私達、どうなっちゃうんですかっ!?」

「・・・大方、他の学園艦に転校扱いでバラバラになってしまうだろうな。」

「そ、そんな・・・!!」

 

梓も表情をうつむかせてしまう。他の面々も似たような表情を挙げている。

 

「バレー部の復活どころか、学校がなくなっちゃうなんて・・・!!」

「なんとかならないんですか!?」

「それをなんとかするために私達はこの大会に出場しているんだ。会長も言っていただろう。優勝しなければ、と。」

 

河西の言葉に俺がそう返すとみんなの間でキョトンとした顔を挙げられる。

 

「実績がないのであれば作ってしまえばいい。何も、戦車道の全国大会で優勝した高校を廃校させるとは中々言い出せないだろうな。」

「な、なるほど・・・!!ですが・・麻子殿はいつ廃校のことを・・・?」

「そ、そういえばそうだよ!!どこで知ったのっ!?」

 

秋山の言葉に沙織が同調する発言をし、視線が俺に集中する。

 

「私が、会長から戦車道の履修を迫られたあとですね?」

「流石だな、西住。そうだな、その時に私は会長から廃校のことを告げられた。」

「それなら、みんなに話してもらっても良かったのでは?」

「それは厳しかったのが現実だ、華君。せっかく受けてもらったみんなにいきなり学校の未来を背負わせるのは酷なのでな。」

 

華の言葉にシャアは首を振る。その理由にも納得するものがあったため、華はそれ以上は何も言わなかった。

 

「では、廃校がかかっている手前だが、ここで諦めるか、否か。この場でみんなの意見を聞きたい。」

 

そう質問したシャアに皆の返答はーー無言であった。だが、その目には揃ってまだ諦めないと言った闘志が見えていた。

言葉は不要か。シャアもそう思ったのか、軽い笑みを浮かべる。

 

「皆の総意はこう言った感じなのだが、西住君、君はどうする?君は大洗の隊長だ。意見を尊重するのも良し、反対を押し切って安全を確保するのも選択の一つだ。」

「え、この状況で私に聞くんですかっ!?」

「全権を担っているのは西住だからな。決定権は君にある。」

 

シャアに突然話を振られて困惑している西住にちょっとした追い討ちをかける。

 

「・・・私も皆さんと同じです。私はこの大洗に来て本当に良かったって思っています。だから、これからもみんなと一緒にいるために私もまだ諦めません!」

 

西住の決意の固まった強い声を聞いて、俺とシャアは軽い笑みを浮かべながら顔を見合わせる。

 

「であれば、時間はかけていられないな。損傷を受けている車輌は修理が可能な範囲であれば直ちに作業にかかってくれ。その他はこの寒さでエンジンがかかりにくいはずだ。不調を訴えないように調整しておいてくれ。」

 

シャアが迅速に指示を飛ばすと、みんなそれぞれ自分の戦車に戻って作業に取り掛かる。

 

「会長、作戦の立案を手伝ってくれませんか?」

「それでは38tの修理がな・・・。先ほど逃げ込む時に砲塔が故障してしまっているんだ。」

 

シャアが西住に作戦の立案を手伝って欲しいという要望に難しげな顔を挙げている。

そういえば、38tは砲塔に損傷を受けていると言っていたな。

なら、俺が代わりにやるか。

 

「なら、私がそっちへ回ろう。Ⅳ号は大した損傷は受けていないからな。秋山が居てくれればエンジン周り程度なら問題はないはずだ。」

「分かった。ならば私も作戦の立案に回るとしよう。」

「冷泉さん・・・修理出来るんですか?」

「自動車部程ではないがな。大きく破損しているならともかく、ちょっとしたものならどうにかなる。」

「・・・わかりました。お願いします。」

 

俺は常備されている工具を手にとって38tの確認を行う。

なるほど、砲塔が回らなくなっているのか、衝撃で部品が外れたか?

そんなことを考えながら、俺は38tの整備に取り掛かり始めた。

 

 

 

 

「それじゃあ、この紙に書いていきましょうか。」

 

西住君は机に用紙を広げるととりあえず、ここから見える範囲の敵車輌の位置と建物の配置を記していく。

 

「情報が足りなすぎるな・・・。だれかを偵察に出した方がいいかもしれん。」

「二人一組で両翼から偵察を出しましょう。とりあえず、秋山さんと・・・。」

「エルヴィンあたりでいいだろう。エルヴィン君、偵察を頼みたいのだが、請け負ってくれるか?」

「了解だ。グデーリアンと共に偵察に行けばいいのだな?」

 

グデーリアンという言葉に疑問気な表情を挙げざるを得ない。会話の展開から察するに秋山君のことを言っているのだろうが・・・。

 

「あ、グデーリアンっていうのは私のことです。戦車の捜索のときにエルヴィン殿につけてもらったんです。」

「いや、会話の内容から君だと言うことは察せてはいるのだが・・・。ところで、Ⅳ号のエンジン周りの調整は済んだのか?」

「大丈夫ですよ。それで西住殿、偵察ですか?」

「うん、左翼から敵の陣形確認のための偵察をお願いします。」

「わかりました!!エルヴィン殿、行きましょう!」

「ああ!!」

 

秋山君はエルヴィンを伴って外へと偵察に行った。さて、もう一組は・・・・彼女らでいいか。

 

「園。偵察を頼まれてはくれないか?君の視力は確か2.0だった気がするのだが。」

「わ、私?良いけど・・・。」

「なら頼む。カモさんチームからもう一人連れて、この建物を出てから右周りに偵察をしてきてほしい。」

「分かったわ。パゾ美、行くわよ!」

「ん〜。分かった。」

 

気怠げな声を上げている彼女を連れて指示通りに偵察に行ってくれた。

ひとまず、彼女らの報告を待つとしよう。

しばらく暖かい飲み物や毛布にくるまって暖をとりながら待っていると外から何やら楽しげな歌声が聞こえてきた。

声を聞く限り、秋山君とエルヴィン君か。どうやら無事に帰ってこれたようだな。

 

「ただ今戻りました!!」

「こっちもなんとか偵察を済ませてきたわ。」

 

秋山君達が帰ってくると彼女達が仕入れてきた情報を直ちに紙に書き記す。

すると、一箇所だけ包囲が薄い部分があった。だが、これはどう見てもーー

 

「一箇所だけ包囲が甘いが、罠だろうな。」

「罠ですね。おそらく突破したとしても挟み撃ちになるはずです。」

 

西住君がそういうのであればそれで確定だろうな。包囲網の緩い箇所の反対にはフラッグ車がいるが、奥にいる『街道上の怪物』KV-2による足止めを食らって、同じように挟み撃ちになりこちらの敗北。となると、ほかに突破口になりうるのは・・・。

 

「消去法だが、ここを狙うしかないようだな。」

 

そういいながら指を指したのは一番包囲の厚い部分だ。

 

「ええっ!?ここですかっ!?一番包囲の厚い部分ですよ!!」

「だからこそだ。包囲が一番厚いということは逆にここを抜けてしまえば後続が待ち構えている可能性は低いし、相手の不意をつける。私個人としてはここ以外にはないと考えるが、君の視点からはどう考える?」

「・・・確かにあえて一番堅い場所を狙ってみるのも良いかもしれません。」

「なるほど、『島津の退き口』か。」

 

秋山君に驚愕といった表情をされるが、西住君とエルヴィンには好意的な反応を見せてくれる。

『島津の退き口』か。確かにそういう言い方もありだな。

 

「やっぱり会長の言う通り、この包囲が一番厚いここを狙うのが最善手だと思います。」

「なら、決まりか。我々はこの一番包囲の厚い箇所に突撃を仕掛ける。」

 

よし、作戦の方は決まった。あとは戦車の整備の方だが・・・。

そう思いながら戦車の方を振り向くと、ちょうど一息ついたのかふぅ・・・と息を吐くアムロの姿が見えた。

 

「おーい!!こっちも手伝って欲しいぜよー!!」

「分かった。今そっちに行く。」

 

おりょうに人手が足りないのか呼ばれたアムロは工具箱を持ってⅢ突の方へと向かっていった。

 

「私も行ってくる。流石に私だけやらないわけには行かないからな。」

「何か温かいものを持っていくといい。体を冷やさんようにな。」

「ああ、お気遣い、感謝する。」

 

Ⅲ突に向かっていくエルヴィンを見送って西住君と最後の確認を行う。

ちょうどその時、外の風景が白くなってきた。天気が崩れてきたようだ。

 

「・・・余計に寒くなるな・・・。プラウダは東北地方の高校だからこの手の寒さには慣れているのだろうが・・・。」

「私たちには少し、こたえますね・・・。」

 

士気に関わらんといいのだが・・・。

それはそれとしてーー

 

「西住君、実は一つ頼みごとがあるのだが・・・。」

「はい?なんでしょうか。」

 

 

 

 

「学校、なくなっちゃうのかな・・・・・。」

 

建物を見てみるとプラウダ高校の人たちが焚き火を囲んでなんか踊っている姿が目に入った。正直言って楽しそう。

 

 

「そんなの、いやです・・・。私はずっとこの学校にいたい。みんなと一緒にいたいです!」

 

それは私もおんなじ。私だって、できればみんなと一緒にいたい。でも、私たちの学校はこの全国大会で優勝しないと廃校となってなくなっちゃう。

さっきまでは廃校のことを伝えられて、やる気はあったけど、時間が経つにつれてどうしようもないっていう気持ちが押し寄せてきて、今はもう、気持ちを上げることもできない。

 

「どうして、廃校になってしまうんでしょう・・・。ここでしか咲けない花もあるのに・・・。」

 

華の言う通りだよ・・・。確かにこの大洗女子学園が無ければみぽりんやみんなと出会うことはなかったと思う。

本当にどうして・・・!!

 

「おおっ!!さっすがは麻子殿じゃか!!履帯が完璧に元に戻ったぜよ!!」

「Ⅲ突は現状、大洗の最高火力だからな。おそらくそれに頼らざるを得ない。頼んだぞ。」

「任せるぜよ!!」

 

顔にススをつけた麻子がⅢ突の修理を終えたのか、カバさんチームからお礼の言葉を受けている。それに軽く手を振ると今度は何か目に止まったのか工具箱を持ったままそこに立ち寄った。

そこにはウサギさんチームがいた。でもそこにはいつもみたいに笑顔を浮かべてはいなくて、完全に表情が沈んでいた。

 

「大丈夫か?いつもみたいな無邪気な笑顔はどうしたんだ?」

「れ、冷泉センパイ・・・。負けちゃったら本当に廃校になっちゃうんですか?みんなと、離れ離れになっちゃうんですかっ!?」

「・・・・ああ。その通りだ。」

 

桂利奈ちゃんにそう問い詰められた麻子は表情を取り繕うこともなく事実を言い切った。その言葉に桂利奈ちゃんは涙目になってしまう。

 

「そうだな・・・。少し例え話をするか。」

 

突然麻子が例え話をするという訳の分からない状況にみんなの視線が集中する。

いや、ホントにどうしてそうなった!?

 

「もちろん、例え話だからな。全部鵜呑みにする必要はない。」

 

あ、ああ・・・。そういうこと、桃太郎とか浦島太郎とかそっち方面の昔話ね。

いや、それでも突然どうしてっていう気持ちもあるけど・・・。

 

「ある日、君の目の前に大きな岩があったとしよう。普通であれば逃げるが君自身の後ろには大切な人、ないしは守りたいモノがある。君はどうする?その大切なモノを守るために大きな岩を止めようと立ち向かうか、はたまた目もくれずに逃げるか。」

「それは・・・やっぱり止めようとするよ。」

「無理だと分かっていてもか?」

 

麻子がそう聞くと桂利奈ちゃんは強く頷いた。これ、もしかして私たちの今の状況に当てはめているのかな・・・・。大きな岩は廃校という現実、そして、守りたいモノは大洗女子学園。

 

「でも、やっぱり無理だよ・・・。一人じゃあ止められっこない・・・。」

 

無意識で溢れた自分の言葉にハッとする。気づいたときにはみんなの視線が私に集中していた。は、恥ずかしい・・・!!多分今私は絶対に顔が赤くなっている。でも、そんな中でもわかったのは麻子は笑顔を浮かべて頷いていた。

 

「そうだな。一人では無理だ。それははっきりしている。だが、その現実に諦めずにみんなでそれに立ち向かうことができれば、活路を見出せるかもしれない。」

「みんなで・・・?」

「ああ。一人では無謀だ。馬鹿だと言われても、その馬鹿が二人、三人と集まっていけばどんなことだって乗り越えられるはずなんだ。」

「そして、その馬鹿が集まる時は今まさにこの瞬間。そうだな?麻子。」

 

作戦会議が終わったのか会長がフッと笑みを浮かべながら麻子の後ろに立っていた。麻子は頷きながら私たちに向き直った。

 

「ああ、みんな、諦めるにはまだ早い。まだ試合も、私達の学校も、なにもかも終わったわけではない。むしろ、これからだ。これからが勝負なんだ。」

「各員、自分達の学校を守りたいという意志があるのであれば、ぜひ立ち上がって欲しい。君たちの底力を見せつける時だ。」

 

二人がそう言い切った瞬間、今まで荒れていた外の吹雪が止んだ。

まるで、本当に私たちはまだ終わっていないというようにーー

 

「お、おお・・・!!吹雪が、止んだ・・・!!」

「て、天啓ぜよ・・・!!錦の御旗は、こちらで翻っているぜよ!!」

「お、お二方はかの第六天魔王、織田信長であったかっ!?」

「いや待つんだ左衛門佐!!それでは二人が最終的に死んでしまう!!ここは、専門外だが、こういうしかない・・・!!まさに、かの三国志の『赤壁の戦い』!!まさしく東南の風!!」

『それだぁーー!!!!!』

 

カバさんチームが興奮気味で過去最大級の掛け声を上げていた。まさにその通りだと思う。

ウサギさんチームや他のチームもカバさんチームの気迫が移ったのか、闘志が目に舞い戻ってきた。

 

「ふっ、お前もやってみれば案外やれるではないか。」

「私一人では無理さ。根気よく、一人一人回って元気づけるのがせいぜいだ。」

 

その時の二人の姿は疲れているのかわからなかったけど、金髪のオールバックの人と茶髪の天然パーマな人の姿がそれぞれ二人と重なって見えたように感じた。

目を軽くこするとその姿をすぐに消えたから多分幻覚だったのだろう。

 

「す、凄い・・・。まるで映画でも見ているみたいです!!」

「ええ、おふたりのまさに奇跡とも言える御技、思わず言葉を失ってしまいました・・・。」

「奇跡・・・か。それはこの戦いを乗り切ってからにして欲しいな。」

「それもそうですね。私、この試合、絶対に勝ちたいです!!」

「沙織さんもそうですよね!!」

 

ゆかりんが私にそんなことを聞いてくる。今は、とりあえずいっか。私も二人の言葉に触発されて今までになくやる気に満ち溢れているんだから!!

 

「うん!!私もまだ諦めないよ!!」

 

 

 

「ふぅ・・・・、なんとか調子を元に戻すことができたか。」

「・・・・若干士気が高すぎる気がするが、まぁ、許容範囲内か。」

「あはは・・・・。でも凄いですね。あんなちょうどいいタイミングで吹雪が止むなんて、まるでアニメみたいですね。」

「あれに限っては完全に運に恵まれたがな。」

「同じくだな。あんな完全に狙ったようなタイミングで晴れるとは思わなかった。」

「それで、西住君、先ほどの頼みごとだが・・・。」

「はい。それでしたら大丈夫だと思います。この調子だと、むしろ会長の提案の方がいいかと・・・。」

「何か西住に頼みごとでもしたのか?」

「冷泉さん、会長と河嶋さんと一緒にⅣ号に搭乗してください。」

 

・・・・シャアと一緒に乗るのか・・・・。河嶋がついていけるかどうかが疑問だが・・・。

 

「桃は装填手に集中させる。心配はいらんよ。装填は一流だ。」

 

装填『は』か。まぁ、いいか。

 

「わかった。となると西住や華は38tに乗るんだな?」

「はい。それで冷泉さん達は先陣を切って敵を引きつけてほしいんです。」

 

西住が敵の陣形を描いた地図を見せながら、引きつけて欲しい敵を指さす。

それは陣形の一番厚い箇所、前後に4輌ずつの計8輌、その後ろの方、T-34/85が2輌とT-34/76が2輌の部隊だった。

 

「わかった。任せてくれ。時間なら幾らでも稼いでみせるさ。」

「お願いします!」

 

西住の頼みを承諾すると、視界の端に先ほど降伏勧告をしてきたプラウダの二人組が来ていた。そうか、もう三時間たったのか。

 

「西住、言ってくるといい。私たちはまだ終わっていないとな。」

「はいっ!!」

 

西住は笑顔を浮かべながらプラウダの生徒へと近づく。

一応、俺たちも後ろについておくか。

 

「もうすぐタイムリミットです。降伏は―――」

「しません。」

 

西住がきっぱりと降伏勧告を突っぱねた。

 

「私たちは最後まで戦います。」

『オーッ!!』

 

西住の言葉に乗っかってみんなが声を張り上げた。

さて、まだ試合は終わっていない。それを証明しに行くとしよう。




プラウダに彗星を伴った悪魔が襲いかかる。

彗星は古くから厄災を告げる不吉な星と呼ばれている。それを伴ってやってくる人物など、悪魔以外のなんと表現できようか。



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第30話

うーん、皆さんの期待に応えられているか微妙っすね・・・。

あ、ちなみに処刑BGMはIGLOOの『進出ス!』辺りがいいかもしれないです。
それと、そろそろ戦車がおかしい機動をしはじめますが、アムロとシャアだから、ないしはガルパンだからと思ってください(白目)


「さてと、ここら辺が正念場か。今更手を抜くつもりはないだろうな?シャア。」

 

河嶋は俺とシャアの幼馴染設定を聞いているからな。ある程度は気を使わずにシャアに話しかける。

 

「無論だとも。未来ある若者達の萌芽を摘ませんためにも全力を尽くすさ。」

「会長・・・。年寄り臭い発言ですけど・・・。それはそれとして、私はこちらで良かったのでしょうか?」

「桃は装填にだけ集中してくれ。それ以外のことは考えなくていい。麻子の運転が荒くならざるを得ないからな。」

「わ、分かりました。」

 

シャアの言葉に河嶋の顔に気合いの入った表情が映る。

俺はそれを見届けると通信機に口を当てる。

 

「西住、こちらの準備が完了した。前進のタイミングは任せる。」

『分かりました。・・・・・あの。』

「どうした?」

『ケガ・・・しないでくださいね。冷泉さんがケガしちゃうと、私・・・。』

「心配なのか?戦車道で扱う戦車は特殊なカーボンで覆われていて、安全は保証されていると聞いているのだが・・・。」

『そ、それでもです!!』

「そこら辺は安心してくれ。適当に時間を稼いだら、そちらに合流する。できないことはしないさ。」

『・・・お願いします。』

 

西住との通信を終えると一つため息を吐いた。

やれやれ、疑われるようになってしまったな・・・・。

困った顔をしながら髪を掻き分けているとーー

 

「彼女はお前のことが心配なのだよ。そう変な表情は止した方がいい。」

「・・・・勝手に表情を読まないでくれないか?」

『では、作戦開始します!パンツァーフォー!!』

 

シャアにジト目を向けていると西住から作戦の開始を合図する指示が飛ぶ。

俺はⅣ号で大洗の先陣を切る。建物から顔を出し始めた瞬間に待ち構えていたプラウダの戦車から砲撃が飛んでくる。砲撃は苛烈を極めたが、大洗の車輌には当たることはなく、一度、包囲の一番薄いところへ向かうーー

 

「ふふっ。やっぱり包囲の一番薄いところへ向かったわね。」

 

と思わせて、操縦桿を右へきって一番包囲の厚い真正面へと向かう。

 

「ちょっ!?馬鹿なの!?一番厚いこっちを狙ってくるなんて!!」

 

フェイントには、引っかかってくれたようだな。カチューシャの驚いた表情がわずかに見えた。

 

「シャア、まずは包囲に穴を開けるぞ。」

「了解だ。」

 

そう言ってシャアはⅣ号のトリガーを引く。放たれた砲弾はカチューシャの近くにいたT-34/76に直撃し、白旗を上げさせる。

 

『包囲に穴が開きました!各戦車はⅣ号に続いてください!!』

 

西住の指示のもと、包囲の第一陣を通り抜ける。

あとは奥に控えている第二陣だが、これを俺たちは抑えるなり、撃破しなければならない。どう切り崩そうか・・・。

 

「やったわね!!クラーラ!!なんとしてでも止めなさい!!!!」

『了解です。カチューシャ。』

 

プラウダの包囲網を突き進んでいると前方から戦車のマズルフラッシュが四つほど確認できた。プラウダの第二陣が攻撃を仕掛けてきたか。

 

「西住、敵の第二陣が見えてきた。私たちは隊列から外れて迎撃を行う。敵のフラッグ車は、任せた。」

『はい。冷泉さんたちも気をつけて。』

 

その言葉を皮切りに俺たちを除いた大洗の車輌が右方向に進んでいく。

しばらく通信機はいらないな。そう思って通信機を取り外そうとするとーー

 

『こちらカバさんチームだ。武運長久を祈る。』

『冷泉センパイ!!お気をつけて!!』

『冷泉さん、最後まで根性です!!』

『アンタ達がやられたら私達、結構まずいんだからね!!』

『が、頑張って・・・・!!』

 

各戦車から応援の言葉が聞こえてくる。まったく、こちらのことは気にしなくていいというのに・・・・。

 

「ふっ。みんなからだいぶ好かれているではないか。」

「嫌われているよりはよっぽどマシだがな。さて、こちらも始めるぞ。準備はいいな?」

 

通信機を外しながら後ろを振り向くと意を決したシャアと河嶋の顔があった。

それを見届けた俺は前を見据える。目標は4輌全ての撃破だ。やってみせるさ。

 

「突撃する!!シャア、砲撃タイミングはそっちに任せるっ!!」

「任せておけ!桃、一瞬たりとも気を抜くな!!」

「はいっ!!」

 

俺はⅣ号のアクセルを全開にして、敵の第二陣に突撃する。

 

 

 

 

「敵車輌は、Ⅳ号だけ・・・?囮、いや足止め・・・?」

 

カチューシャ隊長から敵を押しとどめるように命令された。

でも、敵車輌はⅣ号を残して、揃って右へ旋回していった。となるとあれは、足止め、それであっている、はずなのに・・・。

 

「何・・・!?あのⅣ号から出ている気迫は・・・っ!?」

 

あれは、確実にこちらを仕留めるつもりなの・・・っ!?

あのⅣ号に乗っているのは・・・一体、何者・・・!?

 

 

 

敵車輌はT-34/84と76がそれぞれ2輌ずつ。砲身が長い代物に換装されたⅣ号の火力ならあの装甲を抜くことはできるはずだ!!

 

「まずは1輌、頂く!!」

 

シャアがⅣ号のトリガーを引く。放たれた砲弾は正確にT-34/76を捉え、白旗を上げさせる。

まずは一つ!!

 

「っ!?各車、散開して!!あの戦車をここで仕留めるわ!!絶対にアレをカチューシャ隊長のところに向かわせてはダメ!!」

 

残った3輌はこちらに向かって前に1輌その後ろから2輌が追従する形の陣形を取ってくる。包囲するつもりか?

そう思いながら、T-34/85と76から飛んでくる砲弾を避け続ける。

 

「は、速いっ!?こちらが砲撃した瞬間にはもう照準から外れているっ!?」

 

砲弾の雨を縫うように避けているとシャアが第二射を放つ。

 

「っ!?よ、避けなさいっ!!」

 

しかし、シャアの放った砲弾は今度は直前で避けられてしまう。

 

「むっ・・・。外したか。あのT-34に乗っているのは・・・あの白銀色の髪の女性か。中々やる。」

「そんなことを言ってないで、早く次を撃ったらどうだ?」

「分かっているさ。そろそろ左右から砲撃が飛んでくるぞ。避けれるな?」

「言われずともっ!!」

 

目線は前を向きながらも俺の死角から砲撃をしてこようとする車輌の気配を読んで撃たれる直前に射線から退避する。

 

「そ、そんな、今の完全に死角から撃ったのに・・・っ!?」

 

白金色の髪を持つ女性が驚愕と言った表情をする。相手が悪かったな。死角からの攻撃など日常茶飯事な戦場を戦い抜いてきたのでな。この程度、造作もない。

そのまま砲弾を避け続けながらその女性が駆るT-34/85の目の前まで接近する。

表情には何か企んでいるように見える。何か仕掛けてくるかっ!!

 

「この距離なら・・・!!」

「甘いっ!!」

 

直前まで接近したところに最後の足掻きなのかT-34/85が砲撃をする。だが、その砲弾を読めていた俺は操縦桿を切り、一瞬だけドリフトし砲弾を回避、T-34/85の真横につける。

 

「流石だなっ!!」

 

シャアがそういいながらトリガーを引いて、T-34/85を仕留める。

その仕留めたT-34/85が分隊長だったのか、残りの2輌は狼狽えるような反応を見せる。悪いが後の懸念となりそうなものは撃破させてもらう。

俺達は速攻でその残った2輌を片付けた。

 

 

 

 

「そ、そんな・・・クラーラがやられちゃったのっ!?」

「はい、敵のⅣ号に一発も当てることが出来なかったそうです。」

 

クラーラはロシアから留学してきた外国人よ・・・!!実力は分かっている。そのクラーラが手も足もでなかったなんて・・・!!あんな弱小校にあんな強いやつがいたなんて・・・!!

 

「カチューシャ、おそらくそのⅣ号を動かしているのは、冷泉 麻子でしょう。」

「・・・アイツね。あの妙に大人ぶったような目をしていたやつ!」

「はい。彼女は我々にとって一番の脅威となりうる存在・・・。私がここで仕留めます。」

「・・・・ダメよ。ノンナはここで向こうのフラッグ車を狙って。ここであのフラッグ車を仕留めるわ。」

「・・・よろしいのですか?」

「はっきりいって博打だわ。クラーラを含めた4輌を瞬殺しちゃう相手なんて、ノンナ一人だと難しいと思う。まぁ、勝てるとは思うけど、わざわざそいつを倒さなくても先にこっちが仕留めれば勝ちなんだから。」

「・・・あなたがそういうのであれば、私は従うだけです。」

「お願いね。」

 

 

 

 

 

「こちら、Ⅳ号だ。西住。そっちは今どうなっている。」

『よかった!なんとか倒したんですね!』

 

一段落ついたため西住に判断を仰ごうと通信を入れると嬉しそうな西住の声が耳に入る。まったく、こちらまで表情が緩くなってしまいそうだ。

とりあえず西住から状況を訪ねるとフラッグ車を捜索するために38tとⅢ突はこちらのフラッグ車であるアヒルさんチームから離れたとのことだ。

 

「それで私達はアヒルさんチームの援護に向かえばいいんだな?」

『はい、お願いします!もう少し・・・もう少しだけ時間を稼いでもらえたら・・・!!』

 

西住の切羽詰まった声からももう少しでフラッグ車を発見、ないしは撃破が出来ることを察する。ならば、俺たちは西住の指示通りにアヒルさんチームの援護に向かうべきだと考え、Ⅳ号をアヒルさんチームのいる方向へと向けて走り始める。

 

「よし、ならば急ぐぞ。こちらのフラッグ車は既に射程に捉えられている可能性が高い。」

 

シャアの言葉に思わず操縦桿を握る手に力が入ってしまう。

急がないとまずいかもな・・・!!

 

「時間との戦いか・・・。」

「ま、間に合うんですか?」

「間に合わせる!!行くぞ!!」

 

俺は1秒でも速く援護に向かうため、Ⅳ号のスピードを上昇させる。

保ってくれよ・・・っ!!

 

 

 

 

「っ・・・・!!キャプテン!あと私たちしかいません!!ほかの車輌はみんなやられちゃいました!!」

 

私たちの周りを守ってくれていたカモさんチームやアリクイさんチーム、それにウサギさんチームはみんな自分達を庇ってやられてしまった。もうあとはない。

相手の砲撃は正確無比、必殺必中そのもので、はっきり言って、避け切れる自信はない。河西の声にも不安な声色になっている。でもーー

 

「まだ諦めちゃダメ!!ここで私達がやられたら、バレー部どころか学校がなくなっちゃうんだから!!ここが私達にとっての東京第1体育館、もしくは代々木体育館!!気持ち上げていくよー!!」

『はいっ!!』

 

 

まだ終わるわけには行かないっ!!私はまだみんなと一緒に居たいんだから!!

 

「河西、ガンガン行くよー!!相手の砲撃がなんだっ!!そんなの殺人スパイクと比べたら、屁でもないでしょっ!!」

「分かっていますっ!!」

 

河西の操縦はプラウダからの砲撃を掻い潜っていく。衝撃とかが体を揺らすけど、その程度でビビってたら、どうしようもない。

でも、それも少しの間だった。

ふと視線をプラウダの方に向けるとちょうど1輌の戦車、確か、『IS-2』がこちらに砲塔を向けているのが見えた。

 

(やば―――。これ、避けられない?)

 

直感的にそう察してしまった。それほどに相手の技量はとんでもないものだった。そして、IS-2の砲塔が火を吹いた。その瞬間の光景はなぜかスローモーションに見えて、飛んでくる砲弾も見えてしまった。この砲撃は確実に当たる。ここまでかーー。

 

 

『アヒルさんチーム、よく頑張った。後は私たちが引き受ける。』

 

待ち望んでいた声が通信機から聞こえた瞬間に、八九式の目の前で爆発が起きた。

一瞬何が起こったのか分からなかったが、視界に入っていた別方向からの砲弾を思い出した時、察したと同時に戦慄してしまった。あの人達は味方であるはずなのにだ。

 

「まさか、砲弾に砲弾を直撃させた・・・?」

 

でも、今はそんなことはどうでもいい。何より来てくれたことが嬉しかったから。

 

「会長!!それに冷泉さんも!!間に合ったんですね!!」

『無事のようで何よりだ。ここは任せてくれ。アヒルさんチームは後退を。」

「はいっ!!でも、大丈夫なんですか?あの数を相手に・・・。」

『できないことはやらないさ。早く行ってくれ。すぐに攻撃が再開されるぞ。』

 

冷泉さんからそう言われ、河西にこの場からの離脱を指示する。

離脱している最中にもプラウダからの砲撃は相次いでいたけどーー

 

 

 

 

「それ以上はやらせんよ。」

 

シャアが八九式に砲撃をしていたT-34/76を一撃で行動不能にさせる。

その間にも八九式にも砲撃は向かっていたが、なんとか有効射程圏内から脱することはできた。

次第に砲撃はこちらへと向いていった。

 

「アムロ、あのIS-2はかなり厄介だ。できれば最優先で狙って欲しい。」

「了解だ。正面から履帯を破壊することはできないのか?」

「あのIS-2は装甲、火力共々、T-34を上回る。この改装されたⅣ号でも正面きっての戦闘は難しい。側面からであれば、後は私がなんとかする。」

 

シャアの言葉に理解を示して、俺は操縦桿を操作して砲撃を回避する。

 

「っ・・・!!なんていう馬鹿みたいな機動力なのよ!!こっちの砲弾が一発も当たんないじゃないっ!!」

「いえ、それは違います。あれはどちらかというとこちらの射線を見て回避行動を取っています。」

「はぁっ!?そんなとんでもないやり方で避けているのっ!?」

「はい。彼女らは一筋縄では行かないことはお分かりでしょうが。」

「それは・・・分かっているわよ。どう見たってあのⅣ号、真面目にここでカチューシャ達を押しとどめるみたいだし。」

 

視線を向けるとⅣ号が放った砲撃がT-34/85を撃破していた。

これで、あとはカチューシャとノンナだけってわけね。

 

「さっさとコイツを潰して、フラッグ車を叩きに行くわよっ!!」

「了解です。」

 

 

(・・・・あのⅣ号、砲弾に砲弾をぶつけてきた・・・。そんな神がかり的な技量、今の私にはありません。私はあのⅣ号に勝てるのでしょうか?)

 

 

 

「どうやら向こうはここで私達の相手をするようだ。まだ狙いに行ってくれた方がやりやすいのだがな・・・。」

「それはそれだ。どのみちやることは変わらんよ。桃。まだ行けるな?」

「は・・・はひっ・・・・。」

 

・・・大丈夫か?彼女。かなり顔面蒼白だが・・・。まぁ、いいか。

俺は視線をプラウダの2輌に向ける。残っているのは隊長のカチューシャが乗っているT-34-85とIS-2。まずは比較的手頃なT-34から倒しておきたいところだが・・・。IS-2が守るように配置についてしまっているため、砲撃が通らない。

だが、懐に入り込めば、まだなんとかなるか。

 

「懐に飛び込む。砲撃の準備を頼む。」

 

俺がそういうとシャアはアイコンタクトで河嶋に装填をさせる。

とりあえず、T-34から狙うか。

そう思い、前進させる。IS-2から砲撃が飛んでくるが、そこで一点、気になることがあった。

 

(T-34からの砲撃がないな。IS-2と一緒になって撃ってくると踏んでいたが―――)

 

視線をIS-2の先にいるT-34に向けていると、IS-2の陰からT-34が飛び出してきた。砲塔を見ている限り、狙っているのはⅣ号の比較的右側。

これを左に避ければいいがーー

 

(本命は、装填が済んだIS-2の砲撃か。中々いいコンビネーションだ。)

 

IS-2の砲塔が俺が避けようとした先の左方面に向けられている。おそらく避けたところを狙っているのだろう。そして、狙いは右側の履帯。Ⅳ号の機動力をなくすつもりか。

ならばーー

 

「シャア、砲塔を右に回しておいてくれ。それと砲身は地面に向けてくれ。」

「なるほど、相手を釘付けにさせるにはいい手かもしれんな。いいだろう。」

 

シャアが砲塔を右に旋回させる。その瞬間、T-34から砲弾が飛んでくる。

それを俺は左に避けることで砲弾をやり過ごし、再度IS-2と正面で相対する。

そして、IS-2からの砲撃はーー

 

「シャア、頼んだぞ!!」

 

シャアが地面に向けていた砲塔に火を吹かせる。

砲撃の衝撃と風圧が合わさった力はⅣ号の右側のキャタピラを浮かせる。ちょうど、浮かせたタイミングで右の履帯の真下をIS-2の砲弾が通り過ぎていった。

 

「う、嘘でしょっ!?」

「っ・・・!?読まれていた・・・!?」

「狙いは正確だが、もう少しフェイントを織り交ぜた方がいいな。」

 

キャラピラが片方浮いた状態でそのまま片輪走行をする。とはいえ、片輪では方向転換がままならないし、装填もまだ済んでいないため、プラウダの2輌のそばを通りすぎ、回り込む程度にとどめておく。

浮いていたキャタピラを地面につけると、装填が完了したⅣ号の砲塔が再度火を吹いた。砲弾は対応が遅れたT-34/85の後部装甲に直撃し、白旗を上げさせる。

 

「や、やられちゃったのっ!?」

「残りはIS-2だけだ!!このまま仕留めるぞ!!」

「アムロ、はっきり言って、残弾は残り1だ。」

 

シャアの突然の発言に思わず驚く。何があったのかと問い詰めようとするとー!

 

「桃がダウン寸前だ。やはり彼女には少々荷が重かったようだ。」

 

顔面を真っ白にして、口に手を当てている河嶋の姿があった。

しまった。河嶋のことを一切考えていなかった。俺の運転についてこれなくなって酔ってしまったようだ。

 

「どうする?側面から叩くか?」

「いや、このまま直進でいい。ゼロ距離射撃を試みる。」

 

ゼロ距離射撃か。それであればいくらIS-2でも前部装甲は確か120mm。聖グロのチャーチルよりは30mmほど薄い。まだなんとかなるかもしれないな。

向こうもやる気なのか、俺たちと少し距離を取ったあと、反転して突っ込んできた。近距離戦闘に持ち込ませるつもりか。

 

「わかった!操縦は任せてくれ!!一発あれば十分だな!?」

「ああ。頼んだぞ。」

 

突っ込んでくるIS-2に向かって、Ⅳ号も突撃させる。その間、両方ともに砲撃は一度もなかった。どうやら向こうも一撃で俺たちを仕留めるようだ。

状況としてはこちらの方が不利だ。河嶋がダウンしてしまっている以上、これ以降の砲撃は見込めないし、向こうの方が全体的に性能は上。ここで仕留め損ねたら、こちらの脱落は否めないだろう。だいぶ時間は稼げたと思うが、出来ればここで仕留めて、勝利を確実のものにしておきたい。

 

「ん?シャア、何をしているんだ?」

「砲塔を旋回させている。」

 

そこまで考えたところでシャアがⅣ号の砲塔を右に回しているのが見えた。

何をやろうとしているのかは、まぁ、察せた。俺は呆れた視線を向けながらIS-2に向き直る。

 

「正面衝突するが、それで意識が飛んだなんて言うなよ。」

「愚問だな。遠慮なくやってくれ。」

 

そして、一種のチキンレースと化したこの一騎打ち。Ⅳ号とIS-2が衝突しかけたその瞬間ーー

 

「ここだな!!」

 

シャアが一気に砲塔を回転させる。遠心力がついたⅣ号の砲塔はIS-2の砲身を正確に捉え、野球のバットのように吹っ飛ばした。

そして、直後に砲撃音と衝撃音が鳴り響いた。衝撃でⅣ号の中で振り回されるが、なんとか無傷でやり過ごした。

そして、肝心のIS-2はーー白旗を上げていた。

 

『IS-2、T-34/76、戦闘不能!!よって、大洗女子学園の勝利!!』

 

どうやらちょうどいいタイミングで西住達が敵のフラッグ車を仕留めたようだな。

 

「見事な操縦だった。流石だな。未だ技量は衰えず、と言った具合か。」

 

そういいながらシャアが拳を突き出してくる。俺は軽く笑みを浮かべながらその拳に拳を突き合わせた。

お互いらしくないことをするもんだ・・・。ある意味戦車道をやらねば、奴とここまですることはなかったかもな。

 




とりあえず、プラウダ戦、完結です。
だいぶ駆け足気味だけど、OVAのあたりとか出してみようかな・・・・。


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第31話

ありふれた日常回。


「やったー!!勝ったよみぽりんー!!!」

「う、うん。あの小山さん、ありがとうございました。」

「ううん。西住さんの作戦のおかげよ。むしろお礼を言うのはこっち。ありがとう。」

 

陣地に戻ってきて、沙織さんから飛びつかれたところで、ようやく自分たちが勝ったことを認識できた。

フラッグ車を見つけたあと、向こうは時間稼ぎに徹していることに気づくと、Ⅲ突を家屋と家屋の間の道に埋めて、そこに誘い込ませるように誘導させた。

結果としてはうまく作戦がいって、私たちはフラッグ車を倒せたけど何より今回お礼を言いたいのはーー

 

「あ、冷泉センパイ達が帰ってきた!!」

 

阪口さんが指を指した方向を見るとⅣ号が戻ってくる様子が見えた。

砲弾が直撃したような損傷はなく、あるとすれば敵の戦車と正面衝突したのだろうか、前部の装甲が大きく凹んでいるくらいだった。

 

「冷泉さん!!」

 

自分を筆頭にⅣ号へ駆け寄ると操縦席のハッチから冷泉さんが顔を出した。

ただ、その表情は少し焦ったような顔をしていた。

 

「西住、今すぐにバケツと飲み物を頼む。」

「え?どうかしたんですか?」

「桃が吐きそうなんだ。下手に動かすと暴発してしまう。」

 

冷泉さんの代わりに砲塔の出入り口から顔を覗かせていた会長が答えてくれた。

うん、それは焦るよね・・・。

私はみんなにすぐさまバケツと飲み物を持ってくるように指示を出した。

用意が完了すると慎重に河嶋さんを引っ張り出してバケツの前まで連れ出した。

そして、河嶋さんがバケツに手をかけた瞬間ーーー

 

ーーーーーしばらくお待ちくださいーーーーー

 

 

「あー、スッキリしたぁー・・・・。」

 

清々しい顔をしながらもらった飲み物を飲む河嶋さん。なんか一緒に悪いものを吐き出したのか今なら怒るなんてことはなさそうな感じがする。

 

「吐いちゃうほど冷泉さんの運転がめちゃくちゃだったんですか?」

「んー・・・。私自身、ついていくので精一杯だったからな・・・。もう一心不乱に装填だけをしていた。辛うじて言うなら―――」

「辛うじて言うなら?」

「えげつなかった。」

 

澤さんの言葉に河嶋さんが苦笑いを浮かべながらそう答えた。ただ、その一言だけではよく伝わらなかったのか、みんなの間でも疑問符が浮かび上がった。

冷泉さんにどういう操縦をしたのか聞こうと思って声をかけようとするとーー

 

「せっかく包囲の一部を薄くして、そこに引きつけてぶっ叩くつもりだったのに、まさか、包囲網を突破されるとは思わなかったわ。」

 

カチューシャさんがノンナさんに肩車されながらやってきた。

カチューシャさんは包囲網を突破されたことを驚いていたけど、突破できたのは冷泉さんや会長さんが先陣を切ってくれたからだと思っている。

だからーー

 

「私自身突破できるかは半信半疑でした。あそこで一気に攻撃されていたら負けていたかも―――」

「それはどうかしらね〜・・・・。あ、一つ聞くけど、あなたが足止めとしておいたⅣ号って誰が乗っていたの?」

「えっと、冷泉さんと会長と河嶋さんです。」

 

そう言うと二人とも、特にノンナさんがまるで越えるべき目標とでも言うような視線で冷泉さん達を無言で見つめていた。

 

「冷泉 麻子さん、あなたの操縦技量の高さは全国大会を勝ち進む度に耳にしていました。ですが、今回目を引いたのは、あなたです。角谷 杏さん。一応、確認ですが、あなたはあのⅣ号に砲手として乗っていましたね。」

「ああ、そうだが?」

「・・・あなた方の技量は一体どこで会得したのですか?砲弾に砲弾をぶつけたり、片方だけの無限軌道で走行するなど、正気の沙汰とは思えないのですが。」

『は?』

 

 

ノンナさんの言葉に思わずみんなの言葉がかさなった。そんなことしてたの・・・?冷泉さん達・・・・。

 

「いやいや〜砲弾に砲弾をぶつけるなんて・・・。いくらなんでも冗談―――」

「いえ、会長さんはやっていましたよ。私達をIS-2からの砲撃を守った時、そのやり方で放たれた砲弾をブロックしてました。」

「ど、道理でノンナが八九式に撃った時、爆発した割には損傷が少ないと思ったら、そんなことしてたのあなた達!?」

 

沙織さんの言葉が磯辺さんの言葉で遮られる。磯辺さんは少なくとも嘘をつくような人物ではない。となると、本当にそんな荒技をやったと思っていい。

カチューシャさんの反応を見てもほぼ真実と思ってもいいだろう。

 

(冷泉さんが会長はほぼ同じ技量を持っているって言っていたけど、それって会長ができることは逆に冷泉さんもできるってことだよね・・・?)

 

ほ、本当に何者なんですか、おふたりは・・・。

 

 

 

 

「まぁ、あれは一か八かだったがな。IS-2の装甲が抜けない以上、ああするしかなかった。」

「そんな常識の範疇にないことを一か八かで済ませるあんた達何者なのよ・・・・。」

「大洗女子学園生徒会長、角谷 杏だ。それ以上でもそれ以下でもない。」

「そう言うことを聞いてるんじゃないわよっ!!グーで殴るわよっ!!」

「・・・・戦車道のイベントによく顔を出していたからな。砲撃のコツはそこで学んだ。」

 

シャアにケイの時と同じ返答をされ、はぐらかされたカチューシャは怒り気味だが、『まったく・・・』と言いながらノンナに降ろすよう指示を出すと西住の前に立った。

そして、手を差し伸べた。カチューシャが西住に握手を求めたのだ。

少しばかり理解が追いつかなかったのか、西住は呆けていたがカチューシャが差し出した手を握って、握手した。

 

「決勝戦、見に行くわ。カチューシャをガッカリさせないでよ。」

「・・・・はいっ!!」

 

握手を交わしたカチューシャは再度、ノンナに肩車をさせながら常套句なのかピロシキ〜と言いながら帰っていった。

なんだ、ちゃんとしているじゃないか。

彼女のことは子供だと心の中で思っていたが、認識を改めておいた方がいいな。

 

 

 

「・・・・・ねぇ、ペコ。」

「・・・はい、なんでしょう、ダージリン様。」

「・・・・私達、一応大洗に勝ったわよね?」

「・・・・はい。それは間違いないです。」

「・・・あの動き、どう感じたかしら?感想を聞かせてくれる?」

「・・・彼女らが動かしていたのは戦車なんですかね?」

「・・・・私も同じよ・・・。あんなの見せられたら、なんで私達、大洗に勝てたのか疑問が浮かんでしまいそうだわ・・・。麻子さん、それに杏さん、一体どこまでの実力を隠し持っているのかしら・・・・。」

 

 

「アンビリバボー・・・。思わずトリハダが立つような試合だったわ・・・。」

「八九式、IS-2の砲撃を受けた時、妙に損傷が少ない気がしたんですが・・・。」

「あれは、IS-2が放った砲弾が八九式に当たる直前で爆発したからだな。」

「え、どういうこと、ナオミ?」

「別の角度から放たれた砲弾がIS-2の砲弾に直撃したんだ。おそらくやったのはあのⅣ号だろう。」

「はぁっ!?砲弾に砲弾をぶち当てるとか、ありえないんだけどっ!?」

「だけど、事実としてはその砲弾が八九式の窮地を救った。」

「ふぅーん・・・。ナオミは出来る?私がアレをやれっていったら。」

「そんなまさか、私でもそれは無理ですよ。でもいつかはやれるようになりたいかな。」

「ふふっ、オーケー。ナオミのやる気に満ちた表情を見るのは久しぶりね。」

「あんなのを見せつけられたんです。砲手としては燃えてこない方がどうかしてる。」

 

 

 

「・・・・まるで軍人ね。」

「お母様?」

「あのⅣ号からは何がなんでも守りたいという意志を感じた。さながら自分の国を護ることが義務の軍人。まさか、高校生ながらあんな強い意志と実力を有しているなんてね。でも、あの足止めの部分だけはみほが考えたとは思えないわ。」

「あ、お母様、どこに。」

「帰るわ。そして、まほ。邪道は正道を以って叩き潰しなさい。」

「っ・・・・。わかりました。西住流として、必ず大洗を叩き潰します。」

 

 

準決勝の舞台から学園艦に戻って海を航海している途中、俺は海の景色が一望できる公園のベンチに座っていた。外の空気はまだ冷えていて、上着をしていなければ少々堪える。

 

「ふぅ・・・。準決勝もなんとか勝利を収めることができたか・・・・。だが、ただでさえ実力を疑われているというのに、余計に疑われるようになってしまっただろうな・・・。」

 

そのうち、俺とシャアのことも話さねばならない時とかも来るのかもしれないな。

それだけのことを、俺たちはやりすぎたのだから。

 

しばらくして、温暖な気候の海域まで戻ってきた。上着を着る必要もなくなって普通の夏服で学校に登校する。

そういえば、最近低血圧が鳴りを潜めてきたな。俺としてはかなり頭を悩ます問題だったから嬉しいことこの上ない。

 

「それで、今日の練習は無しにして明日は皆の労いを兼ねてキャンプに行こうと思っているのだが、君たちはどうしたい?」

『行きます!!』

 

戦車道の時間となったため、戦車倉庫に向かうとシャアが開口一番にそんなことを言った。

キャンプ、つまるところ休息だ。まぁ、ここ最近は根を詰めていた気がするから息抜きにはもってこいかもしれないな。

そんなシャアの提案に口を揃えて行く意志を伝えたため、今日の練習は取りやめにして、次の日、寄港した港からキャンプ場へと向かった。キャンプ場では木々が生い茂り、風は学園艦でいつも浴びている海風とは違って新鮮な感じがして、中々心地よい。

ただ移動手段が戦車だったのが気になる。それにこの場所・・・俺の記憶が正しければ自衛隊の演習場だった気がするのだが・・・。

 

「なぁ、会長。ここ、どうやって借りたんだ?」

「・・・教官のご厚意で貸してもらった。」

 

シャアに尋ねるとそう言った答えが返ってきた。教官、となると蝶野教官か?

まさかとは思うがーー

 

「・・・脅したのか?」

「人聞きが悪いことを言わんでほしい。私は丁寧に『お願い』しただけだ。」

 

お前という奴は・・・。思わず眉間に手を当ててしまう。今度会ったら謝っておかねば・・・!!だが、蝶野教官に連絡を取ることで取れる場所など十中八九、ここは自衛隊の演習場で間違いないようだな。

 

「このキャンプが終わったあと、練習するのか?」

「そのつもりだ。せっかくご厚意で貸してくれたんだ。使わない訳にはいかんだろう。」

 

それもそうか。この演習場はおそらくいつも学園艦で使っている場所より広い。

練習にはもってこいかもしれないな。

 

「だが、今は純粋に楽しんでもらいたいの一心だ。」

「まぁ、最近まで息をつく間もなかったからな。」

 

ふと視線を向けるとすぐそばの川に飛び込んだら足が攣ったのか溺れているウサギさんチームがいた。それも六人全員だ。

 

「準備運動していなかったのかっ!?」

「どうやらそうらしい。手早く助けるぞ。」

「ったく、世話の焼ける・・・!!」

 

俺とシャアでさっさと救助する。だが、そのおかげで着てきた服がずぶ濡れになってしまい、西住達に着せ替え人形にされた時に買わされたと思われる水着でしばらく過ごした。無論、女物だったために中々辛いものがあった。

唯一の救いが水着の種類がビキニではなく短パンのようなものにノースリーブのタンクトップのような感じだったことだ。ノースリーブはシャアあたりが着るものだと思っていたら、シャアも水着の上はノースリーブだった。

一回ふざけてクワトロ大尉と呼んでみるか?

 

その後何だかんだ言ってみんな水着を持ってきていて、それに着替えてからテントの設営をすることにした。

テントを留めるための杭を地面に打ち込んでいると、何やら秋山の周りに人だかりができているのが見えた。

会話を聞いているとどうやら第二次世界大戦中の雰囲気を味わいたくて当時のテントを持ってきたらしい。それも人数分。

毎回思うのだが、どこからそんなのが出てくるんだ?あのテント一式以外にも色々持ってきているみたいだが・・・。

 

「まったく、そう準備をされてしまうとこちらも付き合わざるを得なくなってしまうな・・・。」

「ま、麻子殿・・・?」

「せっかくキャンプに来たんだ。こういうのも、悪くない。それに向こうよりはマシだからな・・・。」

 

そういいながらテントのボタンをつけていると自然と目につくものがあった。

戦国時代の本陣を再現したようなものに各々の歴史の得意分野の服装に扮したカバさんチームがそこにいた。

 

「こらー!!キャンプにそんなの持ち込んだらダメでしょー!!というか、どうやって持ってきたのよ!!」

「まぁそう怒るな、園。ここはキャンプ場だ。学校ではない。風紀委員としてではなく一個人として楽しんだらどうだ?」

 

水着姿のそど子がカバさんチームに怒っているがシャアが諭すと、唸りながらもそれを承諾した。

 

「でも、流石に過度なことは注意していいですよね!?」

「まぁ、君が危険だと判断したら、それで構わない。」

 

少しするとなんとか人数分のテントを仕上げることができた。

そして、テントの設営が終わるがいなや、みんな揃って川に入って水遊びをし始めた。それぞれ水鉄砲で遊んだり、お互いに水を掛け合ったり、はたまた川の流れに身を任せて、ゆらゆらと漂ったりと、思い思いのことをしていた。

まぁ、川の流れに身を任せていたアリクイさんチームは流石にどこかに行きそうだったため、そど子達風紀委員が止めにいっていたが。

そして、一頻り川の中で遊んだらキャンプの定番、バーベキューが始まった。

腹が先に空いていたのかウサギさんチームが一足先にあらかじめ準備しておいた野菜や肉の刺さった串を焼こうとしたが、そこはたまたまそど子達が見つけたため、普通にみんな揃ったあとに焼き始めた。

 

「む、少々材料が余っているようだな。」

「そうらしいな。沙織あたりでも呼んで、何か作ってもらうか?」

「いや、私が腕を奮うとしよう。」

 

その発言に思わず驚いた表情をしてしまう。料理ができたのか・・・っ!?

シャアは鉄板を用意するとその上に余った食材を乗せて炒め始めた。

 

「・・・・どこで学んだんだ?」

「母親にしこたま仕込まれてしまってな。気づけば簡単なものは自在に作れるようになっていた。」

「なるほど、母親か・・・・。」

 

シャアは適当に炒めた野菜と肉に塩、こしょうを振りかけて、味見をした。

どうやら納得をいく味ができたようで、手早く皿に盛ると俺に渡してきた。

 

「すまないが、運んでくれないか?」

「ああ、分かったよ。」

 

シャアが作った野菜炒めを持っていくと、みんなもシャアが料理をできることは意外だったのか、驚いた様子を露わにしていた。

安心してほしい。俺もおんなじ気持ちを味わった。

皆がご飯を食べ終わった頃には既に日は沈み、月の光が代わりにあたりを照らしていた。周りに都会特有の人工的な光もないからか空には星の光が天の川を形成していた。

 

「わぁ・・・・綺麗・・・。」

 

西住が空の光景を見て、感激といった声を上げる。俺も純粋に星空を楽しんだのは初めてかもしれないな。

 

「なんというか、幻想的だな。」

「そうだね・・・。ここで戦車を動かせたら、気持ちいいんだろうな〜。」

「その願いは、案外すぐ叶うかもな・・・・。」

「えっ?どういうことですか?」

「会長のやつ、おそらくここで練習するために借りたんだと思うぞ。ここは私の記憶が正しければ、『東富士演習場』。自衛隊の演習場だった気がするからな。そうなんだろ?会長。」

「そうだな。そうでなければ、わざわざ戦車でここに来させたりはせんよ。」

 

シャアの言葉に全員が驚愕といった表情をした。

 

「明日から本格的にやるつもりだったが、今でも別に構わないぞ。」

「どうする?動かすか?」

 

西住にそう尋ねると、少し逡巡した後、表情を緩ませながらーー

 

「それじゃあ・・・お願いします!!」

「了解だ。暗いからそれほどスピードは出せないが、むしろそっちの方が風景を楽しめるか。」

 

そういうとすぐさまみんなを集めて星空の下で、戦車を動かした。

静寂な風景の中を戦車のエンジン音だけが響いて突き進んでいく。

今回のことはかなりいい息抜きになったな。

そういえば、ふと気になったが、ポルシェティーガーはそろそろレストアが済んでもいい時期だろうか?

決勝まではそれほど時間がないのだからな。そろそろ試運転でもしとかないときついものがあるぞ。

まぁ、今は気にすることではないか。

そう心の中で思いながら、西住の指示のもと、星空の下で戦車を走らせた。

 




もう少しだけ日常回が続くかもしれないっす。


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第32話 |┌^o^)┐

┌(┌^o^)┐ユリィィィィ・・・・・

百合の 波動を 感じるっ!!




東富士演習場の広大なフィールドを使った練習は想像以上にいいものとなった。

地平線の向こうまで続く草原や木々が生い茂る森の中限定でチーム戦を行ったりと自然をふんだんに使った練習はサンダースや聖グロほどの学園艦の規模がない俺たち大洗にとっては中々できないことだったからな。

そして、その練習から数日経ったのち、眠れる虎がついに姿を現した。

ポルシェティーガーのレストアが完了したとの報告がシャアから告げられた。

 

 

「・・・・改めて見てみるとやはり大きいな、ポルシェティーガーは。虎の名を冠しているだけのことはあるな。」

「ポルシェティーガーは確かにティーガーⅠとの競争に負けはしましたが、ポルシェ博士の発想自体は後の戦車にも受け継がれているんです。確か、エレファントと呼ばれる重駆逐戦車にはポルシェティーガーに搭載されている電気駆動式のモーターが使われていますよ。」

 

戦車倉庫の目の前のグラウンドでポルシェティーガーが試運転をしていた。

俺はその様子を秋山と一緒に見ていた。

ただ、後で開発された戦車にも搭載されているということはそれだけ性能がいいという裏付けのはずだが・・・。

よほどの欠陥があのポルシェティーガーにはあったのだろうか?

例えば、稼働時間を越すとエンジン部分が自爆するとか。

 

「何故それほどのモーターを搭載しながら競争には負けたんだ?」

「それは・・・採用試験の時に突貫工事のツケが出たのか、自重で地面にめり込んだり、エンジンが過熱で発火したりと、色々不具合が生じて、散々な結果になりました・・・。」

「なるほどな・・・。即戦力を求められた結果、振り落とされた訳か。ある意味、アレ(ポルシェティーガー)は時代の被害者と言った具合か。

人間、切羽詰まると物事を長い目で見れなくなってしまうのは、いつの時代も変わらないか・・・。」

「時代の被害者・・・。中々深い言い方をしますね、麻子殿は・・・。」

「年甲斐にもないことを言ってしまったな・・。」

「いえいえ!!気にしないでください!もう慣れましたから。」

「それはそれで傷つくな・・・。」

 

他愛もないことを話しているとポルシェティーガーが突然停車した。

何事かと思って様子を伺っているとエンジン部分から出火した。

なるほど、あれがポルシェティーガーが不合格になった理由か。

そう思いながら駆け寄ろうとしたが、この程度のアクシデントは予想できていたのか運転していた自動車部がすぐに消火器を持参してきて事なきを得た。

 

「もうこれ以外戦車は無いんですよね・・・・?」

「仮にあったとしてもレストアが間に合わんよ。自動車部も万能ではないのだ。」

 

項垂れる小山にシャアが難しい顔をした。俺はそのシャアの表情に少し違和感を覚えたが、問い詰めるなどはしなかった。大洗の害になるようなことをしないだろうしな。

シャアは消火作業に追われている自動車部に近づくとナカジマに話しかけた。

 

「感じはどうだ?決勝には間に合いそうか?」

「うん、こっちには持ち前のドラテクがあるからね。あと少し動かせば、問題ないよ。」

「なら、本番は頼んだぞ。ポルシェティーガーは黒森峰の戦車に対して唯一まともに張り合える戦車だからな。」

「そこら辺は任せてよ!」

 

会話の内容を聞く限り、ポルシェティーガーには自動車部が乗るようだな。

あの様子だと俺が何か言う必要はあるまい。

 

「あ、冷泉さん、少しいいですか?」

 

そう思っていたところに一緒にポルシェティーガーの様子を見ていた西住が話しかけてきた。

何かあったのだろうか?

 

「どうした?」

「えっと、生徒会の方で今まで義援金を募っていたんですけど、集まったお金でⅣ号にシュルツェンが取り付けられることになったんです。」

 

シュルツェン?聞き覚えのない言葉だな・・・・。

そう疑問符を挙げていると代わりに秋山が嬉々とした表情を挙げた。

 

「シュルツェンですかぁっ!?ということはマークⅣスペシャルになるんですねっ!?」

「うん、そうなるね。」

「お、おい。すまないのだが、私にも分かるように教えてくれないか?」

「うーん、こればかりは見た方が早いですね。というわけで行きましょう!」

「そうですね。あ、華さんと沙織さんも来てもらっていいですか?」

「わかりました。」

「おっけーだよ!」

 

あんこうチームの皆で戦車倉庫のⅣ号の前に来ると、そこには何やら巨大な板が置いてあった。秋山は見た方が早いと言っていたが・・・。あまり使い道が見えないな・・・。

 

「これを・・・どうするんだ?」

「これを砲塔と車体の側面に取り付けます。」

 

砲塔と車体の側面・・・。なるほど、漸く理解した。盾なのか、この板は。

外付けの装甲で耐久力を増やすんだな。

西住は砲塔に登ると手本を見せるためにシュルツェンをつけ方を教えながら砲塔に取り付け始めた。西住がつけ終えると俺たちもそれに続いて各所にシュルツェンを取り付けた。

シュルツェンを取り付け終わると今度目に入ったのは、何やら小型クレーンに釣り上げられている戦車の砲塔部分であった。

小山の指示のもとそれが徐々に降ろされていくと下に置いてあった戦車の車体部分と合体させられた。

何をやっているんだ?車体の部分は38tのように見えるが・・・。

 

「あれは、集まった義援金を使って38tをヘッツァーに改造しているんです。」

「ヘッツァー?砲塔を見る限り自走砲のように見えるが・・・。」

「はい。冷泉さんの言う通り、ヘッツァーは75mmの主砲を持つ自走砲です。38tでは流石に厳しいものがあったんですけど、ヘッツァーは幸い、38tと足回りが似ているのでヘッツァー改造キットを買って自動車部に改造してもらったんです。」

 

本当に自動車部様様だな・・・・。彼女らがいなければどうしようもなかったな。この大会。

しかし、75mmか。ほかの戦車の主砲とだいたい同じ口径か。これならシャアも当てても装甲が貫通できないという歯がゆい思いはしなくなりそうだ。砲塔が回転しないからそこら辺の面倒くささはあるがな。

 

「みほさん。私、今日はここで失礼させていただいてもよろしいですか?」

 

華が何か用事を思い出したような表情をすると、そんなことを聞いてきた。

 

「何か用事でもあるのか?」

「実は、土曜日から生花の展示会が・・・。」

「華さんが生けた花も展示されるの?」

「はい。」

「わぁ〜!私も見に行くよー!」

「本当ですか!じゃあ、是非!」

 

生け花の展示会か・・・。時間もあるから行ってみるか。何より華が生けた花も展示されるんだ。行かないとは言えないな。

 

「麻子殿はどうしますか?私は行きますけど。」

「ああ。私も行くさ。それで、その展示会はどこで行われるんだ?」

「それでしたら―――」

 

華に展示会の場所を教えてもらい、約束の土曜日に展示会が行われる建物にやってきた。

中に入ると何本もの様々な花で生けられた作品がたくさん展示されてあった。

そんな作品がたくさんある中、華の作品を探そうとすると、俺自身は存外手早く見つけることができた。

あんな花瓶を使うのは現状、華くらいのものだろうからな。

 

「華の作品、見つけたぞ。こっちだ。」

 

西住達をある作品の前に呼び寄せる。その作品はオレンジを基調とした、全体的に蛍光色の多い、晴れやかな印象を受ける生け花だった。

まぁ、力強い印象もあるのだが・・・・。花瓶がな、戦車の形をしていた。

西住達は華の作品を見て、感嘆の声を上げている。だがこれでは、一見すると戦車が爆発しているように見えてしまうのは俺が生け花について造詣がないからだろうか。

 

「来てくれてありがとう。」

 

声が聞こえた方向をみるとそこには黄色い着物で着飾った華がいた。

やはり元々大和撫子的な印象を受けた華には着物はとてもよく似合うな。

 

「華さん、この花、凄く素敵です。力強くて、でも優しい感じがする。まるで華さんみたい。」

 

西住・・・。そんな感想が出てくるのか・・・・。

やはり俺の感性では邪推なものしか出てこないな・・・・。

 

「ん?どうしたの麻子?そんな難しい顔をして。」

 

思わず顔に出てしまっていたか・・・。だがな・・・ここで沙織に言うのは憚られるな・・・・。

 

「いや、なんでもない。」

 

ここは誤魔化させてもらうか。俺の返答に多少懐疑的な顔をする沙織だったが、

俺への追求はやめてくれた。

 

「この花は皆さんが生けさせてくれたものなんです。」

「そうなんですよ。」

 

華の声とは別の人物の声が響いた。華が自身が驚いた様子で振り向くと、そこには華の母親がいた。

 

「この子の花はまとまってはいるけれど、個性と新しさに欠けるものでした。

こんなに大胆で力強い作品が出来たのは戦車道のおかげかもしれないわね。」

 

なるほど、オリジナリティに欠けると言った具合か?今までの彼女の生ける花は従来通りのセオリーでしかない花だった、そういうことか?

まぁ、それはともかく華が戦車道を履修することに反対だった華の母親がそのようなことを言ってくれるとはな。

厳しかった表情も少しすると、和やかなものに変わり、華の作品について、彼女と談笑をし始めた。

その瞬間、俺は西住が軽い笑みを浮かべてはいるものの、華と彼女の母親の会話に何かを思い出したのか僅かに悲しげな表情をしたのを見逃さなかった。

 

そして、日をしばらく跨ぎ、決勝戦の前日。いつもの、というよりは最終調整に等しかった練習だったが、それでも皆、気合いの入った様子で練習に打ち込んでいた。

ポルシェティーガーもとりあえずはなんとかなりそうな様子だった。

 

 

「さて、明日はついに決勝戦だ。相手は皆分かっているだろうが、黒森峰女学院だ。彼女らは戦車道の全国大会を九連覇、我々とは成績も戦車の性能、何からなにまで桁違いだ。」

 

まぁ、黒森峰は栄光への架け橋のようなものだからな。戦車道で大成したい奴は悉くそちらに向かうだろうな。だから一人一人が天才的な技量の猛者と考えていいだろう。

そして、その天才達を統べているのが、西住流の体現者であり、みほの姉でもある西住 まほだ。彼女は凄腕揃いのあのチームを二年生からまとめあげている。まさに戦車道の申し子のような人物だ。

そんな堅物で完璧な人間のように見えるが、実のところはなんかポンコツなところもあったがな。

不器用というかなんというか。彼女、もしかしたら戦車道以外ロクにできないというオチもあるか?

 

「だが、君たちはこの言葉を高らかに上げるべきだ。『それがどうした』とな。

君たちは黒森峰にはないものを持っている。性能が上の戦車との戦い方やどんな時にも諦めない気持ち、そして君たちの周りにいるかけがえのない仲間達だ。これまでのことを思い出して欲しい。辛い時、怖い時などあっただろうが君たちのそばにはいつもその仲間達がいたはずだ。」

 

シャアのその言葉にチームのみんながお互いの顔を見合わせる。

 

「その仲間達を信じて、明日の決勝、勝利を収めよう。そして大洗女子学園の未来をこの私たちの手に引き寄せる。これは言うまでもないだろうが、各員、全力を尽くしてくれ。」

『はいっ!!』

「よし、では解散だ。明日に備えてしっかりと睡眠は取るようにな。」

 

そこで練習の終了を告げ、他の人達は思い思いに明日に備えるために帰っていった。

 

「ねぇ、みぽりん。みぽりんの家でご飯会やらない?」

「あ、いいですね。沙織さんの作るご飯食べたいです。」

「前夜祭ですね!」

 

沙織の提案に華が同調の意思を示した。というか、沙織が作ること前提なんだな。沙織自身特に気にしてない様子だからとやかくは言わないが。

 

「秋山、祭りではないのだから、前夜祭とは言わないと思うのだが・・・。」

「ものの例えですよ〜!!」

 

なんやかんや言いながら俺たちは西住の家へと上がり込んだ。

途中材料を買って、沙織を中心にして作ったのはヒレカツだ。

なるほど、ヒレカツの『カツ』と勝利の『勝つ』をかけた願掛けか。

俺は西住のテーブルには人数的に収まり切らなかったため、西住の勉強机を借りて、作ったヒレカツを口の中に運んだ。肉汁とともに味が口の中に広がってとてもうまい。

西住達もうまい、美味しいと言った感嘆の声を上げている。

そんな中、沙織は何やら厳かな雰囲気というらしくないものを醸し出していた。

 

「私、重大な発表があります。」

 

なんなんだ、藪から棒に・・・。しかし、何かあったか・・・?仮に彼氏ができたのであれば大々的に言いふらしそうな沙織だが・・・。

そういえば、アレの結果発表はそろそろだったか?

 

「婚約するんですかっ!?」

「まだ彼氏もいないのに?」

「違うわよっ!!」

 

二人とも、沙織にそれは言うな。それはそれとして、日本の法律上、女性が結婚していいのは・・・16歳だったか?一応してはいいのか。

そう思っていると、沙織が何かを取り出した。それは何かのカードだった。表面を西住達に向けてしまっているため、俺はそれを見ることはできすに沙織の背中を見ているだけに終わった。

 

「アマチュア無線二級に合格しましたー!」

 

どうやら無事合格してくれたようでなによりだ。実はというと西住達には内緒で沙織は無線の資格を取るために勉強していたのだ。なぜ知っているのかと言うとーー

 

「いやー、大変だったよー。麻子にも勉強教えて貰ってねー。」

 

俺が沙織の講師役を請け負っていたからだ。時期は大体、アンツィオ戦のあとだったか?突然沙織が泣きついてきて勉強を教えて欲しいと言ってきたのだ。

こちらとしても中々慣れないところもあったからお互い悪戦苦闘していたがな。

ともかくーー

 

「ひとまず、おめでとう、だな。沙織の努力が実った証だ。」

「凄いよ沙織さん!」

「通信士の鑑ですね!!」

「明日の連絡、指示は任せて!どんなところにも電波飛ばしちゃうから!!」

「変に意気込んで手違いで敵に通信を送らないようにな。」

「あー!?麻子ってばさっき褒めてくれたのにひどーい!!」

 

俺と沙織のやりとりがうけたのか西住達は笑ってくれていた。

その様子に俺と沙織も自然と笑顔になっていった。

その後もしばらく沙織が決勝戦を勝ったら婚約すると言い張ったり、そのままのノリで西住に彼氏作れといびり始めて、西住が困惑気味な表情を浮かべたりと、楽しい時間を過ごした。

 

そして、大体七時ぐらいだっただろうか。そのあたりでお開きとなり、俺は家へと帰った。いつもだったらこの後少しくらいは勉強をしたりはするのだが、明日は早目に起きねばならないからな。最近低血圧がなりを潜めているとはいえ夜更かししていいと言うわけではない。

いそいそとシャワー浴びたり、布団の準備や目覚まし時計をかけているとーー

 

ピンポーン

 

玄関のチャイムが鳴る音が響いた。一体誰なんだこんな時間に・・・。

とはいえ来客が来たのは事実だ。今の服装は青と白のトランクスのパンツ一枚だ。流石にこの格好で出るわけには行かないから適当に制服を着て、扉を開け放つ。

そこにはーー

 

「・・・西住?」

「あ・・・冷泉さん・・・。ごめんなさい・・こんな時間に・・・。迷惑・・・だったよね?」

 

玄関先には申し訳なさそうな雰囲気を醸し出している西住がいた。

とりあえず、いつまでも玄関先に居させるのはよろしくないため室内に上げさせる。

 

「あ・・・。布団敷いてる・・・。もう寝るところだったんだね・・・。」

「気にするな。まぁ、布団の上に腰掛けて構わない。」

 

西住は少々まごつきながらも俺の布団に腰掛けた。

さて、早速本題に入るか。

 

「それで、来た要件は母親のことか?」

「ふぇっ!?ど、どうしてそれを・・・!!」

「君が、華と彼女の母親が談笑している時、なんとなく羨まし気な視線で見ていたからな。察しはついていた。」

 

俺がそういうと西住は恥ずかし気に顔を赤らめて、俯いた。

 

「そ、それもあるけど・・・。」

「なら逸見エリカか?」

「・・・・やっぱり凄いですね、冷泉さんは・・・。なんでもお見通しなんですね・・・。」

 

今度は顔を赤らめることはなく、深刻な表情をしながら顔を俯かせる。

どうやらこちらが本命のようだな。ちなみに俺が西住の悩みの原因が逸見エリカだと思った理由は彼女を見ているとどうにも親しい人物は下の名前で呼ぶ癖がある。

そこで、戦車カフェで逸見エリカを言い負かした後の連絡船で西住は彼女のことを『エリカ』と下の名前で言いかけた。これの意味することは西住はかつて黒森峰にいたころ、逸見とは仲が良かったことを指し示している。

だが、戦車カフェでの彼女の発言は少なからず西住の心に傷を負わせたのだろう。そのことが西住の心の中で心残りになっている。

 

「それで、西住はどうしたいんだ?」

「どうしたい・・・ですか?」

 

おいおい、それも考えずに俺のところに来たのか・・・?

俺は困った顔をしながら西住に選択肢を指し示した。西住がどちらか選ばなければならない選択肢は二つ。

 

「逸見と仲直りしたいのかどうかだ。」

「・・・・私は・・・・。」

 

それからしばらく西住は黙りこくってしまった。が、俺から特にこれといったアプローチはかけない。

これは彼女自身の問題だ。これは絶対に彼女自身で進退を決めなくてはならない。

俺はその選んだ選択を後押し、ないしは確認するだけだ。

しばらく時計の針が進む音だけが部屋の中で響く。

そして、西住が口を開いた。

 

「私は、逸見さんと、仲直りがしたいです!!」

 

意を決した表情で西住は逸見と仲直りをしたいという意志を示した。

 

「でも、逸見さんは許してくれないかもしれない。あの時、逸見さんは黒森峰で一番私を気にかけてくれていました。私はそれに気づくこともしないで、黒森峰を出て行った。逸見さんからしたら多分、黒森峰を捨てたと思っている。

でもそれでも、せめて謝罪とお礼をいいたいんです!!」

 

西住は自分の道を選んだ。最初のころは絶えずオドオドしていたような印象をしていた彼女だったが、大洗のみんなとの交流を経て、彼女は変わった。

その変わった上での選択を、私/俺(同級生/大人)は後押しするだけだ。

 

「・・・・・そうか。そこまで決意が固いのであれば、私としては特に言うことはない。君のやりたいようにやればいい。」

「・・・・・はいっ!!」

 

西住の屈託のない笑顔を見ながら時計を見ると既に時計は8時を過ぎて半あたりまでにさしかかっていた。

む、時間が時間だったためどうしたものかと考えているとーー

 

「あ、あの、冷泉さん。」

「ん?どうかしたか?」

 

西住が何やらモジモジした様子を見せながら顔を俯かせていた。表情は伺えないがなぜか耳まで真っ赤にしているのだけはわかった。

 

「あの、一つだけ、我儘を許してくれますか?」

「・・・・まぁ、内容によるが、やりたいようにやれと言った手前、反故にするわけには行かないからな。別にいいぞ。」

「わ、わかりました・・・・。その・・・あの・・・。」

 

先ほどからモジモジしているのはなんなんだろうな・・・・。

 

「こ、今夜、私と一緒に、寝てくれませんかっ!?」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?

一緒に・・・・・寝てほしい、だと?

俺はその時めちゃくちゃ微妙な顔をしていただろう。自分でもわかるほどなんだ。確実にしていた。

 




「よし、だいたいこんなものかな・・・。」

額についた汗を拭いながら一息ついた。明日は大事な決勝だからね。念入りにチェックしておかないと・・・。
せめて雨でも降ってくれたらもう少しテンション乗るんだけどなぁ・・・。

そんなことを思いながらⅣ号の前を通ったとき、ふと、なんとなく違和感を感じた。

「あれ・・・・?」

感じた違和感の正体はちょうど操縦席の出入り口だ。よく目を凝らして見てみると出入り口の蓋の接合部が微妙に破断しかけているのが見えた。

「ナカジマー。ちょっとこっち手伝ってもらっていい?ポルシェがちょっとぐずっちゃって・・・。」
「・・・・うーん、分かったよ。今行くー。」

結局、そのⅣ号の破損は治す時間が作れずにそのまま放置した。



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第33話 ┌(┌^o^)┐

┌(┌^o^)┐ユリィィィィィィ!!!

あ!やせいのユリィが あらわれた!!

でも過度な演出はないよ!!残念だったな、トリックだよ。(意味不明)


「ま、待て、西住。一緒に寝てほしい、だと?それはつまりここに泊まるということだな?荷物や寝間着はーー」

「全部これに入れてきました!!」

 

なんとか西住を考え直そうとさせるが、どうやら正攻法で対処されることは織り込み済みなのか、パンパンに膨れたカバンを出してくる。

だが、それでも年頃の女の子と一つ屋根の下で寝るのはな・・・。

良心の呵責というものがある。

 

「とはいえな・・・。そもそも、なぜ突然私と一緒に寝たいなどと・・・。」

「ダメ・・・ですか・・・・?冷泉さんの前なら、隊長としてじゃなくて、自分としていられるんです・・・。沙織さんや華さん、信頼できる人はたくさんできたけど・・甘えさせてくれるのは、冷泉さんだけなんです・・・。」

 

俺が訝しげな感情をしながら困った顔をしていると、西住が微妙に熟れた視線で上目遣いをしてくる。

 

「やっぱり・・・ダメですか?」

「・・・・ったく・・・。わかった。」

 

俺は、その視線に情けないながらも折れてしまった。

ため息をつきながら承諾すると西住はとても嬉しそうな表情を挙げた。

俺なんかと一緒に寝てなにが楽しいのだか・・・。

 

「なら、布団をもう一式出さねばならないな・・・。あったか・・・?」

「えっ・・・?布団、出しちゃうんですか?」

「当たり前だろ。まさかとは思うが、一枚の布団に二人入るつもりか?狭いだけじゃないか。」

 

冗談を言いながら襖の奥にある布団を引っ張り出そうとすると、なぜか西住は頰を膨らませて、無言で抗議してきた。

まさか、先ほどの冗談を本当にするつもりか・・・・?

・・・・もしかしたら・・・。

 

「西住・・・。この前付き添いで寝た時に味を占めたな?」

 

俺がそういうと西住はあまり悟られたくないことを知られたのか顔を真っ赤にした。

やはりか、つまり西住は俺に添い寝を求めてきたのだ。

できればお断りしたいのだがな・・・。

そう思いながらも布団を出す手を止めているとーー

 

「・・・・・。」

 

西住が顔を真っ赤にしながらも再度、頰を膨らませている様子が目に入った。

あれはもうテコでも動かないな・・・・。はぁ・・・・。こちらが折れるしかないか・・・。

 

「今日だけだぞ・・・。とりあえず、風呂はまだ暖かったはずだから入ってくるといい。」

 

そういうと西住は表情を輝かせながら、風呂へと向かった。

さて、俺は寝間着に着替えるか・・・。流石に男物の下着を履いていることが見つかったら、何を言われるかわからないからな・・・。

そう考えながら着ていた制服を脱いで、寝間着に着替えようとするとーー

 

「あ、冷泉さん、バスタオルはどこーー」

 

・・・・西住が、戻ってきてしまった・・・・。

よりによって下着が見えているこのタイミングでか・・・・。

 

「ご、ごめんなさいっ!!?」

 

顔を真っ赤にしながら勢いよく襖を閉めた。よし、運がいいのか悪いのかはわからないが、とりあえず窮地は脱したようだ。

 

「って、冷泉さんっ!!今、どうみたって男物の下着履いてましたよね!?」

「戻ってくるなっ!!」

 

再度、襖を勢いよく開けて部屋に入ってきた西住に思わずそう叫んでしまう。

一応、既に女性ものの寝間着には着替えたため、大丈夫だと思うが・・・。

 

「あれ?ちゃんと女性もののパジャマ着てる・・・。」

「・・・・とりあえず、バスタオルだったか?洗面台の上の棚にあるのを使ってくれて構わない。」

「あ、はい・・・。わかりました・・・。」

 

俺がそういうと西住は今度こそ風呂に向かった。一応、しばらく警戒していたが、風呂の扉が閉まる音が聞こえると、ようやくその警戒を解いた。

 

「ふぅ・・・・。なんというか、疲れた。」

 

い、色々ありすぎて、疲れがどっと押し寄せてきた・・・。

とはいえ、西住が俺の家に来た理由はなんとなく察しがついてはいた。

明日の決勝が不安なのだろうな。先ほどは逸見と仲直りすると決心はついていたものの、相手は自身の姉である西住 まほ。肉親が相手などやりづらいことこの上ない。

その上、ここで負ければ、俺たちの頑張りはすべて水の泡となり、大洗女子学園は廃校を迎えてしまう。

一種の板挟み状態になっているのだろうな。

まぁ、そんな状況に置かれてしまえば、誰かに甘えたくなるのは仕方ない。

ただ、本当に何故俺なんだ・・・。秋山あたりでもいいだろうに・・・。

彼女であれば嬉々とした顔で入れてくれるだろうに・・・・・。

西住が風呂から上がってくるまで寝るわけにはいかないため、少しばかりキッチンであることの下準備を始める。

大したことではないがな。少しすると西住が寝間着に着替えて、風呂から出てきた。

 

「ドライヤーを置いてある。好きに使ってくれて構わない。」

「あ、うん。ありがとう。」

 

キッチンで下準備をしているとしばらく西住が使っているドライヤーの音だけが響く。その途中、ドライヤーとは別の、下準備を終える音が響いた。

俺はそれを聞くと予め用意したコップに濃い茶色をした粉を入れる。

それに先ほどの『下準備』を入れると、そのコップは甘いチョコレートの匂いが沸き立つ暖かな液体に満ち溢れた。

まぁ、有り体に言うとココアを作っただけだ。下準備の音はやかんが水を沸かした音。

その作ったインスタントのココアを西住に手渡す。

 

「ココアだ。少々時期的に合わないかもしれないが、リラックスにはもってこいだろう。」

「ありがとう。冷泉さん。」

 

西住は俺が渡したココアを冷ましながらゆっくりと飲んでいった。

 

「暖かい・・・・。」

「お湯を使ったからな。暖かくて当然じゃないのか?」

「・・・・冷泉さん。そういうことじゃないんですけど・・。」

 

ん?違うのか?まぁ、いいか。

とりあえずこれで少しでも気が楽になってくれるといいのだが・・・。

 

「明日、頑張るぞ。」

「・・・・はい。」

 

それだけ言うと西住から飲み干したコップを預かり、適当に洗って片付ける。

部屋に戻ってくると西住がもう布団に潜っていた。

俺も部屋の電気を消して、西住と一緒に一枚の布団に入り込む。

 

「おやすみ。」

「おやすみなさい。冷泉さん。」

 

お互い、布団に入り込むとそのまま睡魔に襲われて意識が暗転ーーすることはなかった。

何故か妙に西住が忙しない様子で布団の中で蠢いているから寝るに寝られない。

 

「・・・・寝られないのか?」

「ふぇっ!?お、起きてたんですか・・・?」

「・・・・一緒の布団に入っている中でモゾモゾと動かれればいやでも耳に入るからな。」

「ご・・・ごめんなさい。」

 

そう言って、西住は微妙に申し訳無さげな表情をしてしまう。

・・・・まぁ、今日一日だけだぞ。

心の中でそう思いながら、俺は西住の手を握った。

 

「れ、れれれ、冷泉さんっ!?」

「今日だけだからな。」

 

そういいながら西住に微笑みかけると、西住は顔を真っ赤にしながら小さな声でありがとう、といった。

 

「不安は尽きないだろうが、君はいつもどおりのことをやり通せばいい。微調整は私や他のみんなでやるからな。」

「・・・・はい!」

 

 

そして、そのままその夜は過ぎて行き、朝日が昇った。

すんなりと起きれた俺と西住は手早く朝食を済ますと、身支度を整えた。

 

「さて、行くか。」

「はいっ!!」

 

決勝戦が行われる会場には列車で向かうことになっている。

貨物スペースに戦車を乗せて、俺たちは乗客用の車両に乗った。

電車の中では皆、変に緊張した様子はなく、風景を楽しんだりと思い思いの過ごし方をしていた。

 

そして、決戦の場である草原へとやってきた。付近では決勝戦ということもあるのか、屋台や戦車の展示会などで観客が賑わっていた。ちなみにここは富士山が見える場所だが、この前教官の厚意で訪れた『東富士演習場』とは違う場所のようだ。

あんこうチームの皆で少し風景を見ていた。秋山がここは戦車道の聖地と言っていたが、結局どこなんだ?ここは。

まぁ、それはそれとして、俺たちは戦車の最終チェックに入っていた。

履帯、転輪といった駆動系などを入念にチェックしておく。途中で故障などしたら目も当てられないからな。今回Ⅳ号がフラッグ車を務めるためなおさらチェックに力が入る。

 

「ん?ここ、少し破断しかけているようだな・・・・。」

「あー・・・。やっぱり気づかれちゃうか・・・・。」

 

ふと操縦席のハッチに視線が向かった。ハッチの接合部に少し亀裂が入っていた。

特に駆動系には関係ないからそのまま見逃そうとしたが、ナカジマが申し訳無さげな顔で近づいてきた。

 

「実はそこ、昨日見つけたんだけど、時間がなくて手が回らなかったんだ。ごめんね。」

「・・・いや、気に病む必要はない。ポルシェティーガーに掛り切りだったのだろう?」

「まぁ・・・・。そうだね。言い訳みたいで不甲斐ないけどね。」

「とんでもない。むしろ自動車部には感謝してもしきれない。これまでの礼として今度、またケーキを買ってくるよ。何かリクエストはあるか?」

「そうだねぇ・・・。とりあえず、試合に勝ってからにするよ。」

「それもそうか。わかった。」

 

そこまで話したところで、俺はナカジマから視線を外に向けた。

ちょうどそこにはダージリンにケイ、それにカチューシャと、これまで試合をしてきた相手の隊長が激励に来てくれていた。わざわざ俺にも激励をしてくれるというおまけつきでだ。

・・・・そういえば、アンチョビだけ見当たらないな。思い返してみるとアンツィオの生徒も屋台で一人も見かけなかった。万年金欠なアンツィオがこんな機会を逃すとは思えない上、アンチョビ自身があれだけ応援すると言っていたが・・・・。

試しに電話をかけてみるか。

俺は携帯を取り出して、アドレス帳からアンチョビに電話をかける。

長いコールの後、出ないと思ってそろそろ切ろうかと思った瞬間ーー

 

『んー・・・?おおー、冷泉かー。どしたー?』

 

コール音が途絶え、代わりに聞こえてきたのは寝ぼけ気味なアンチョビの声だった。寝起きのところだったか?

 

「いや、すまない。寝ていたところを起こしてしまったみたいだな。」

『まぁ、寝てたけどーーー』

 

その言葉を皮切りに電話からアンチョビの声が聞こえなくなった。

何かあったのだろうか?そう思っているとーー

 

『な、なぁ・・・。冷泉。今何時だ?』

「時刻か・・・?確か、9時を回ったころだと思うぞ?」

 

時計を軽く確認しながらそういうと、アンチョビは携帯越しでも感じるほど焦った様子で話し始めた。

どうやらアンツィオは既に昨日から現地入りしていたのだが、調子に乗って宴会を始めてしまい、皆潰れてしまったらしい。

アンツィオらしいというか、なんというか・・・・。

 

『いやー、危なかったー!!資金を稼ぐにまたとない機会を逃すところだった!!ともかく!起こしてくれてありがとな!!それと西住に伝言!!決勝、頑張れよ!!』

 

それだけこちらに伝えてくると、アンチョビは携帯の通話を切った。

 

「麻子ー?誰と電話してたの?」

「いや、これまでの対戦校の隊長が来たが、アンツィオだけ来なかったからでない覚悟でアンチョビに電話したら、彼女ら、この辺りで前日から夜通し宴会して、先ほどまで寝ていたようだ。」

「アハハ・・・。アンツィオらしいというかなんというか・・・。」

 

沙織に通話相手を聞かれたためそう答えると沙織も苦笑いを浮かべてしまう。

さて、アンチョビの伝言を伝えに行くか。

 

「西住、アンチョビから伝言だ。」

「アンチョビさんからですか?」

「決勝、頑張れよ。とのことだ。」

「・・・・はいっ!!」

 

西住にアンチョビに伝言を伝えるとそばにダージリンといつも一緒にいるチャーチルの装填手がいた。

一応、顔を合わせたし、挨拶しておくか。

 

「ダージリン・・・・・さんか。」

 

一応、年上だから敬称をつけてダージリンを呼ぶと彼女が口に手を当ててクスクスと笑い始めた。

基本、呼び捨てだから非常に言いにくいな・・・。

 

「ふふ、無理して敬称をつけなくてもよろしいですわ。むしろ、つけない方があなたらしいですわ。」

「・・・本人がそういうのであればそう呼ばせてもらおう。それでダージリンと・・・・すまない。顔は知っているのだが、名前を聞いていなかったな。」

「オレンジペコです。冷泉さんの操縦技術にはいつも驚かされてばかりです。黒森峰戦も頑張ってください。」

「あまり期待には応えられないだろうが、頑張るよ。」

 

なるほど、オレンジペコというのか、彼女。

 

「わたくしもペコと同じですわ。あなたがどんな奇想天外な操縦を見せてくれるのか楽しみにしてますわ。それでは、吉報をお待ちしてますわ。」

 

そう言って、ダージリンとオレンジペコは帰っていった。

ちょうどそのタイミングで選手の集合を告げるアナウンスが流れた。

俺たちは集合場所である平原へと向かった。

集合場所に到着すると、黒森峰の生徒が整然と並んでいる様子が目に入る。

かなり規律が厳しいところのようだ。微動だにしないな。

 

『両チーム、隊長、副隊長、前へ!』

 

放送がかかると隊長である西住と副隊長のポジションにいるシャアが前へ出る。

黒森峰も隊長、副隊長である西住 まほと逸見エリカが前へ出る。

お互い相対している様子を俺は腕を組みながら傍観していた。

 

「本日の審判を務めさせてもらいます。蝶野 亜美です。よろしく。」

 

どこか見覚えのある人物だと思っていたら蝶野教官だったのか。教官が挨拶をすると両隊長格の人物が軽くお辞儀をした。

 

「両校、挨拶!!」

 

『よろしくお願いします!!』

 

さて、挨拶は済ませたことだし、Ⅳ号に戻るか。

Ⅳ号に向けて、歩を進ませようとした時、西住に黒森峰の生徒が一人、話しかけている様子が見えた。

少し西住と話し込んでいるとその人物は嬉しそうな表情をし始めた。俺は西住と話している人物について少しばかり考察を始めた。

黒森峰で西住と仲が良かったのは、姉と逸見エリカだ。その二人以外、特に交友関係は薄かったはずだ。

となると、彼女には何かしらの接点があるはずだ。あるとすれば・・・・前回の戦車道全国大会の決勝か?

そう仮定すると、なんとなくだが、読めてきたな。おそらく彼女は滑落した戦車のメンバーだったのだろう。

まぁ、そこまであたりをつけたところで考察はよしたがな。

 

「西住、そろそろみんな待っている。話し込むのもいいが、ほどほどにな。」

「あ、はい!!」

 

俺がそう西住に言うと彼女は先ほどまで話していた黒森峰の生徒に別れを告げて、こちらへ駆け寄ってきた。

 

「さっきの彼女、滑落した戦車のメンバーか?」

「よ、よくわかりましたね・・・。」

「まぁ・・・色々と仮説を立てた上での予想だったがな。それはそれとして彼女、笑顔だったな。君のやったことは間違いではなかったんじゃないか?」

「・・・・本当に正しかったかどうかは今でもはわかりません。だけど、私はただ、チームメートを助けたかっただけだと思うんです。」

「・・・なら、それでいいんだ。ことの善悪など状況や環境によって一変するからな。だが、自分で自分がやったことを後悔だけはするな。」

「・・・・はいっ!!」

 

おれが言えたことではないけどな・・・。後悔どころか、未練をひきずりまくっていたからな・・・・。

西住の笑顔の傍、俺は内心苦笑いを浮かべていた。

そして、俺はⅣ号に搭乗して、操縦桿を握りしめる。

ここまで来て、負けるわけにはいかない。俺の出せる限りの全力を出させてもらう。

試合開始を告げる打ち上げ花火が上がる。

 

「全車、パンツァーフォー!!」

「Ⅳ号戦車、出撃()るぞ!!」

 

決勝戦の火蓋が切って落とされた。




さて、黒森峰戦、突入です!!
本編もそろそろおわりですなぁー・・・・。
あと劇場版か・・・・見なきゃ(使命感)


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第34話

黒森峰戦、始まります!!


黒森峰との試合が始まった。西住の作戦は相手との火力の差は明らかなため、相手と接敵する前にこちらが有利な場所に駆け込んで、長期戦に持ち込むという趣旨のものであった。

相手と接敵する前にこちらが有利な場所に駆け込んで、長期戦に持ち込むという趣旨のものであった。

ただ、この作戦、個人的な懸念が一つある。いや別段、西住の作戦に穴があるといいたい訳ではない。むしろ相手が火力にものをいわせてくるのであれば正面切っての戦闘は愚策だ。

俺が懸念しているのは、相手の隊長が肉親である西住 まほだという点だ。

肉親というのは自分が思っている以上に自分のことを知っている可能性が高い。

もしかしたら、この西住が想像した作戦とは違う形で仕掛けてくる、ということもある。

 

「こちらはあんこうチーム。207地点まであと2km。今のところ黒森峰の姿は見えません。ですが、皆さん、油断せず、気を引き締めていきましょう。交信終わります。」

「だいぶ様になっているんじゃないか?」

「ふふーん、どうよー!!」

 

沙織の通信に余裕さを感じられる。通信士には部隊の動きを通達する他にも士気を高める役割もある。やはりコミュニケーション力が高い沙織にはもってこいの役割だったようだ。

秋山や華も同意見といった様子で沙織の通信を褒めていた。

和気藹々とした雰囲気の中、草原を行進していくとーー

 

(っ!?敵意っ!?これは、森の中からっ!?)

 

右舷の森の中から敵意を感じた。操縦席からは見えない以上、確証を持って西住に伝えることはできない。

 

『西住君!!右舷の森に黒森峰の車輌を確認した!!砲撃が来るぞっ!!』

「っ!?森の中を走破してきた!?」

 

流石シャアだ!!俺と同じように敵意を感じ取っていたか!!シャアの報告が通信機から聞こえた瞬間、俺は操縦桿を右に切った。その瞬間、Ⅳ号のすぐそばに砲弾が着弾した。

 

「ちっ!!至近弾か!!流石は全国大会の優勝常連校だな!!」

「各車輌、前方の森に向かってください!!」

 

とりあえず、こんな遮蔽物もない空間では袋叩きに合うだけか!

俺は西住の言う通りに前方の森に駆け込むためにエンジンを噴かして、スピードを上げる。その途中、突き刺さるような敵意を感じる。どうやらフラッグ車のⅣ号に狙いを付けている車輌があるようだ。そしてこの感覚ーー

 

「逸見エリカかっ!!そう易々と私たちを倒せると思ったら、大間違いだっ!!」

 

敵意が最大級に大きくなる瞬間、つまり、砲撃の瞬間に俺は操縦桿を左に切って射線から逃れる。そのままいたら直撃弾だったが、砲弾はⅣ号の右側面を通り過ぎていった。

 

 

「っ・・・・!!ホントォにおかしい動き方するわね冷泉麻子!!どうすれば後ろからの砲撃を避けられるのよっ!!後ろに目とかついてるわけっ!?」

 

絶対に当たると思っていた攻撃は寸前で回避された。思わず癇癪をおこしてしまう。隊長にプラウダ戦のビデオでアイツの操縦を見させてもらったが、はっきりいって常軌を逸脱しているといっても過言ではなかった。死角からの砲撃は避けるわ、片方だけの無限軌道で操縦をするわでバカなんじゃないのっ!?

 

「でも、そいつの操縦についていかなきゃ、絶対にこの試合は勝てない・・・!!」

 

ああもう!!なんであんな逸材が大洗なんていう弱小校にいるのよっ!!

 

 

「なんとか、あの強襲を脱落なしで切り抜けられたようだな。」

「ですが、まだ振り切れてはいません。沙織さん、各車に『もくもく作戦』の発令をしてください。」

「わかったよ。各車、もくもくの準備をしてください。」

 

沙織が各車輌にもくもく、つまるところ煙幕を張る準備をさせる。

各車の準備が終わったことを沙織が告げると西住は手元のスイッチを押す。するとⅣ号の後部から煙が上がり始める。それに続いてほかの車輌の後部からも煙が吐き出される。

各車輌の後部から吐き出される煙は俺たちの周りを包み込んだ。それと同時に黒森峰の砲撃は一時的だが、なりを潜めた。砲弾とか浪費してほしかったが、流石にそこまでの愚を犯したりはしないか。ならば当初の目的をするだけだ。

 

「冷泉さん、ポルシェティーガーにワイヤーを繋げて引っ張りあげます。」

「了解だ。」

 

本来の目的は登攀能力の低いポルシェティーガーをⅣ号、Ⅲ突、M3、三式の4輌で煙が立ち込めている間に引き上げる作戦だ。

しかし・・・やはりというか、ポルシェティーガーは重い・・・。アクセルを踏んでも思ったより前に進まん・・・。

 

「・・・・西住、すまない。煙が晴れてしまった。」

「大丈夫です。『パラリラ作戦』を開始してください。」

 

目標の地点まであと少しだと言うのにそこで煙が晴れてしまった。

が、織り込み済みだったのか、西住は次の作戦の指示を飛ばす。

前を走っていたM3とルノーが再度煙を吐きながらジグザグに進んでいく。

さながら蛇行運転を繰り返す暴走族のバイクのようだ。

この作戦のおかげでなんとか坂道を登りきるまでの時間は稼いでくれたようだ。

さて、そろそろだとは思うのだが・・・。うまくやれよ、シャア。

 

 

 

「さて、煙幕に乗じて草むらに駆け込んだが、黒森峰の車輌はそろそろだな。」

 

現在私たちカメさんチームは本隊から離れて坂道に差し掛かるポイントで機会を伺っていた。

これももくもく作戦の一環だ。できる限り、ここで黒森峰の車輌を落伍させる。

少し砲塔の前で待っていると照準に黒森峰の車輌が写り込んだ。フラッグ車を先頭にして次々と坂道に向かっていく。

では、始めるとするか。

 

「まずは1輌。」

 

トリガーを引いて、隊列の左端、一番近い車輌の履帯を破壊する。

続けて、その履帯が破壊された車輌に進路を阻まれて止まった車輌の履帯を狙撃する。

もう1輌狙いたかったが、何輌かが、こちらに気づいたのか砲塔を向け始めていた。

 

「流石は優勝校といった具合か。対応が早い。柚子、後退だ。」

「わかりました。」

 

柚子がヘッツァーを後退させると先ほどまでの草むらに砲弾が撃ち込まれた。

 

「・・・やっぱり、撃破したかったですか?」

「高望みはせんよ。我々の役目はこれからなのだからな。」

 

柚子にそう言われるが、私としては特にこれといったことは考えていない。

さて、あとは西住君の指示を待つとしよう。

 

「柚子、黒森峰が陣地に対しての攻撃を始めたら、我々も陣地に近づくぞ。

いつでも指示をこなせるようにな。」

「了解です。」

 

 

 

 

よし、なんとか陣地を作り上げることができたようだな。

高地にたどり着いた俺たちは履帯が隠せるほどの穴を作り、そこに戦車を配置することで黒森峰の砲撃を凌ぎながら車輌を潰す作戦に出た。

しばらく俺の仕事はないようだが、警戒は緩めないようにしておく。

状況としてはこちらが有利だが、向こうにはこの条件を度外視できるほどの車輌があるからな。いつ撤退の指示が出てもおかしくはない。

黒森峰も高地に差し掛かった部分で停止し、こちらを包囲する陣形を取ってくる。

しばらく睨み合いの状況が続く。先に動いたのはーー黒森峰だ。

 

「西住!黒森峰が動いた!!フラッグ車を別の車輌で守りながら仕掛けてくるぞ!」

「各車輌、敵フラッグ車の前に出た車輌を攻撃してください!!」

 

西住の指示通りにこちらの砲撃はフラッグ車の目の前に集中する。

なんとか1輌撃破するが、無論反撃と言わんばかりの砲撃が黒森峰の車輌から飛んでくる。

砲撃は苛烈を極めて砲弾が着弾するたびに振動がⅣ号を襲った。

その状況でも華が1輌仕留めるが、はっきりいって焼け石に水だ。

 

「これでは、時間の問題だな・・・。ん?」

 

視界に気になるものが入った。敵のフラッグ車の前にこげ茶色の装甲を持った明らかに重装甲を持つ戦車が立ちはだかった。

 

「秋山、こげ茶色でドイツ製の重戦車といって、なんの戦車かわかるか?」

「それは・・・ヤークトティーガーです!!こちらの砲撃ではポルシェティーガー以外で装甲を抜くことは不可能です!!」

 

秋山からそれを聞くと俺は西住に視線を向ける。こちらの作戦の意図が知られた以上、これ以上は危険だ。

 

「西住、そろそろ会長を呼び寄せた方が無難だ。」

 

俺がそういうと西住もそう考えていたようで、頷きながら通信機に手をかけた。

 

 

 

 

「・・・・了解した。引っ掻き回すのは任せてもらおう。」

 

西住君から指示が降った。このながれに突撃して、指揮系統をめちゃくちゃにする算段だ。作戦名は『おちょくり作戦』らしい。

 

「柚子、黒森峰の隊列に突入だ。」

「こ、この中に突撃するんですかぁ・・・?」

「この中では敵は満足に攻撃はできんよ。同士討ちの可能性もあるからな。桃、この程度で泣き言は言わないだろうな?」

「はっきり言いますと、冷泉の運転の方が今では恐ろしいです。」

 

私がそういうと桃は乾いた表情をしながらそう返してきた。

思わず吹き出しそうになったが、なんとか表情筋が震える程度に抑えておいた。

 

「言うようになったな。では、敵の脇腹をつつくとしよう。『おちょくり作戦』のごとく、嫌らしくな。では、手始めに敵の財布を痛めるとするか。」

 

視線を向けると先ほど履帯を破壊した2輌のうちの片方が高地にさしかかろうとしていた。

その車輌の背後を取って、すぐさまもう一度履帯を破壊する。

 

「このー!!ウチの履帯、重いんだぞーー!!」

「ふはは!!君に恨みはないが、運がなかったな。万年金欠の辛さを、君に。」

 

癇癪をおこしている黒森峰の車長に対して、キューポラから顔をだしながら、敬礼つきで煽る。

その車長は顔を真っ赤にしながら憤慨していた。

それを見届けながら、再びヘッツァーの中に戻る。

 

「よし、では突撃だ。規律と戒律に飲み込まれた黒い森に風穴をあけるとしよう。」

 

柚子の操縦で黒森峰の陣形の間につける。これは相手に敢えて気づかせる必要があるからな。

少しして、こちらの存在に気づいたのか黒森峰の車輌が砲塔を回している様子が目に入った。

 

「よし、こちらに気づいたな。柚子、このまま前進。本隊と合流をする。」

「了解です!!」

 

柚子にそのまま前進させる。黒森峰の車輌はやはり同士討ちを警戒しているのか撃とうとはしてこなかった。少しくらいは混戦状態でも撃てるほどの気力を持ち合わせてほしいものだな。

前方にいた他の黒森峰の車輌がこちらに砲塔を向けようとしていたが、それはカバさんチームやほかのチームが撃破してくれた。高地に陣取っていた本隊が攻めてきたため、黒森峰は混乱状態に陥り、陣形がめちゃくちゃになり始める。

『おちょくり作戦』は黒森峰に見事にハマってくれたようだな。

黒森峰は隊列を組んで正確に射撃をしてくる。たしかにそれは強みだ。

だが、その分突発的な行動やマニュアルにないことをされるとたちまち崩れる。

マニュアル通りにやっているなど、素人の言うことだ。

 

「よし、このまま引っ掻き回すぞ。柚子、敢えて黒森峰に見えるように動き回れ!そうだな、言い方は悪いが、ゴキブリのようにな!!」

「言い方が悪いって自覚あるなら言わないでくださいよ〜!!」

「むしろ、色合い的にゴキブリは向こうでは?」

「桃ちゃーん!?女の子がそんなこと言っちゃダメでしょーっ!?」

 

 

 

ヘッツァーがカサカサと黒森峰の陣形と陣形の間を動き回ることで、向こうはパニック状態に陥っているようだ。

この好機、逃すわけにはいかないな!!

 

 

「このまま突っ込みます!!続いてください!」

 

西住の指示のもと、俺はⅣ号をもはや陣形の形を失った黒森峰の集団に向かって突っ込んだ。

装甲の分厚いポルシェティーガーを先頭にすることで黒森峰の砲撃を防ぎながら集団を突破する。すれ違いざまに煙幕を巻くというおまけつきでな。

 

「ふぅ・・・。スリル満点の行進だったな。」

 

一山超えたことに安堵していると、先頭を走っていたポルシェティーガーのスピードが落ちていることに気づく。

西住に声を掛けようとすると、中からナカジマが出てきて走行中にも関わらず修理を始めた。

・・・・つくづく、自動車部には頭が上がらないな・・・・。

 

「西住、ポルシェティーガーの後ろにつけるが、構わないな?」

「はい!お願いします!」

 

後ろから黒森峰の車輌が1輌付いてきているが、少しすれば付いてこなくなるだろう。

理由としては黒森峰の戦車は総じて足回りが脆弱だ。少し足場が悪いところを走らせれば、すぐに調子が出なくなる。

後ろから視線を感じていたが、それも河川のところまで走らせると感じなくなった。どうやら完全に振り切ったようだな。

 

「西住、この川を渡るんだな?」

「はい。レオポンチームを上流に、アヒルさんチームを下流にして一列になって渡ります。」

 

なるほど、重量の軽い戦車が流されないようにするためか。

すぐさま上流に対して重量順に並ばせると一列になって川を渡り始める。

順調に川を渡れると思っていたがーー

 

「みぽりん!!ウサギさんチームがっ!!」

「何かあったのかっ!?」

「エンジンストップで動けないって!!」

 

沙織に状況を尋ねると、そんな答えが返ってくる。エンジンに水でも入り込んだか・・・!!?

理由はともかく中々、不味いタイミングだな・・・!!

このままもたもたしていると黒森峰に追いつかれる可能性だって出てくる。

西住にどうするかを確認しようとすると、何やら神妙な面持ちで俯いている西住の姿があった。何やら悩んでいるように感じられる。

・・・・・なるほど、そういうことか。西住はこの状況を去年の出来事と重ね合わせているのか。もしかしたら、黒森峰に追いつかれてしまうが、そのまま放置するとウサギさんチームに何が起こるかはわからない。

おそらく、隊長としての自分と普段の自分がせめぎ合って、判断を決めあぐねているのだろう。ならばーー

 

「西住、行ってこい。自分が成すべきと思ったことを信じるんだ。」

「冷泉さん・・・。」

「行ってきなよ、みぽりん。」

 

俺の言葉に沙織が後押しをかける。西住は確認するように俺と沙織の顔を見るが、それには無言で頷くだけにする。それを見た西住は一度深呼吸をするとーー

 

「優花里さん!!ワイヤーとロープを!!」

「っ・・・・!!はいっ!!」

「黒森峰はこちらで見ておく。沙織は各車に通信を入れてくれ。」

「わかってるって!!麻子は麻子で黒森峰が近づいてくるのを見逃したりしないでよ!!」

「・・・・お願いしますっ!!」

 

西住が外に出て行くとⅣ号の中で皆が揃って微笑みの笑顔を浮かべる。

 

「やっぱり、みほさんはみほさんですね。」

「それだからこそ、私たちはここまで来れたし、ついてくることができたんです。」

「そうだね・・・。」

 

秋山、華、沙織の三人が西住がいたからこそ、自分たちはここまで来れたのだと言った。

実際問題、西住でなければここまでは来れなかったと思う。

彼女には俺やシャアにはない他人を気にかけたりする心で溢れている。

それが、俺たち大洗女子学園をまとめ上げ、この決勝まで来ることができた。

これが彼女の人徳が成し得た業だ。

だからこそーー

 

「この試合、必ず勝つぞ。」

「ええ、存じ上げています。絶対にみほさんの戦車道が間違っていないことをここで証明させるためにも、この試合、絶対勝ちたいですっ!!」

 

華の言葉に俺も思わず頷いてしまう。そうだな、一度は西住の他人を鑑みることを否定した黒森峰に見せつけてやるさ。

 

「沙織と秋山も同じ気持ちだよな?」

「もちろんです!!」

「当たり前でしょっ!!」

 

 

「・・・・行くといい。西住君。君の行動に私は敬意を表する。」

「会長・・・・。」

 

願うならば、黒森峰が来ないことを願うが・・・・。

そうはいかないようだ。ちょうど身を隠していた草むらから黒森峰の集団が本隊がいる河川へと向かっていた。

 

「各戦車、分かっているとは思うが黒森峰がそちらへ向かっている。回転砲塔を持っている車輌は西住君を援護してくれ。」

『か、会長!!我々も攻撃に参加してもいいかっ!?というかさせてくれ!!』

 

通信機からカバさんチームのエルヴィンの声が飛んでくる。

ダメ元で聞いているのだろうな。Ⅲ突は回転砲塔は有していない以上、攻撃に参加させるわけにはいかない。

 

「気持ちは有り難いが別の機会にしてほしい。」

『くぅ・・・!!これほどに回転砲塔が欲しいと思ったことはない・・・!!』

 

悔しさをにじませながらエルヴィンは通信を切った。

さて、我々も援護に加わるとするか。

 

「柚子、前進だ。黒森峰の後方から仕掛ける。」

「わかりました。」

 

草原から車体を出して、黒森峰の背後を突こうとする。

柚子が車体を回転させて、砲塔を黒森峰に向けている途中に視線を感じた。それと同時に視界に既にこちらに砲塔を向けている黒森峰の車輌があった。

 

「柚子!!すぐさま後退だ!!」

「は、はいっ!!」

 

咄嗟に柚子に指示を飛ばしてヘッツァーを後退させ、砲弾をギリギリのところで避ける。

 

「流石に二度あることは三度あるとはいかんか・・・・。しかし、ろくな足止めにもならんとは・・・!!」

 

歯痒い思いを抱かせる・・・!!

しかし、この場にいるわけにはいかないため、すぐさま柚子にこの場を離れるように指示を出した。

とりあえず、本隊と合流するとしよう。これ以上おちょくるのは不可能のようだ。

 



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第35話

最近めっちゃ筆の進み方がえぐいなぁ・・・・(白目)


「冷泉さん、前進してください!」

「わかった!」

 

エンストを起こしたM3とほかの車輌をワイヤーで繋げるとV字の陣形を組みながら、川を横断していく。シャアからの通信の通り、俺たちが通ってきた背後の小高い丘の上で土煙が上がっている。

このままでは狙い撃ちにされるな・・・。

 

『エンジンかかったぁ!!』

 

通信機から桂利奈の声が響いた。なんとか浅瀬まで来れたからエンジンが再始動してくれたか!

 

「各車、ウサギさんと歩調を合わせてください!」

 

西住の指示に従ってM3の進行速度に合わせて川の中を進行する。

そして、全車輌が川を横断しきった瞬間、背後で大爆発が起こった。

射程圏内に捉えた黒森峰が砲撃を開始してきたのだ。

 

「間一髪、と言った具合か。」

「よ、よかったぁ〜。」

 

背後の爆発を気にしながらそういうと沙織が脱力した声で安堵の表情を浮かべる。

 

「冷泉さん、このままカメさんチームと合流して市街地へ向かいます。」

「了解した。市街地だな。」

 

黒森峰の砲火にさらされながらもなんとか森の中へ身を隠しながらシャアたちカメさんチームとの合流地点である橋まで進んでいく。

 

「どうやらそちらも無事のようで何よりだ。」

「会長。陽動役、ありがとうございました。」

「構わんよ。むしろ、これから本番だ。そうだろう?」

 

シャアの言葉に西住が険しい表情をしながら頷く。敵の攻撃は整った状況では比類ないレベルまで達する。整った状況で真価を発揮するのであれば満足にそれが出せない状況下で戦うしかない。市街地戦はそれに持ってこいだ。広い空間はそれほど存在しない以上、黒森峰は遊兵を出しながらこちらと戦わざるを得ない。

つまり、数の優位性が失われるという訳だ。まぁ、完全になくなるという訳ではないがな。

 

「しかし、これからどうするんだ?私たちにはフラッグ車をピンポイントで狙うしか勝ち目がないが・・・。」

 

疑問を浮かべながら西住にそう尋ねるとマップのある一点を指差して説明を始めた。

西住が指差した場所は廃校舎の中庭のような場所だ。その建物をよく見ると出入り口が一箇所しかない。つまりここをどうにか封鎖してしまえば、この建物の内部に入ることはできなくなる。

 

「ここにフラッグ車を誘い込んで一対一の状況を作ります。」

「タイマンを張るのか。まぁ・・・そこにたどり着くまでに何輌やられているかわからない以上、頭数の少ないことの影響力を鑑みればそうなるか。」

「冷泉さんには苦労をかけるかもしれませんが・・・。」

「西住、私は君の指示についていくといったはずだ。今更苦労など、気にすることはない。君は君のやりたいようにやってくれ。私が必ずそこまで連れて行く。」

 

西住の言葉を途中で遮りながらそう伝える。すると西住は軽く笑みを浮かべた。

 

 

「・・・・そうでしたね。ごめんなさい。各車は市街地に向かってください。」

 

西住が通信機に声をあてているのをみながら、操縦桿を握る。

順番に1輌ずつ橋を渡っていく。そして、最後にポルシェティーガーが渡ったのだが、急加速したかと思ったら橋を落としながら俺たちを抜き去っていった。

 

(・・・・どういう改造を施したんだ・・・?個人的に気になるな・・・。)

 

そう考えながらも程なくすると林道を抜け、舗装された道路を進んでいく。

市街地が見えてくると建物の影から黒森峰の車輌が1輌、顔をのぞかせているのが見えた。

 

「なんかいるが・・・。どうするんだ?」

「・・・・1輌だけなら、撃破に向かいましょう。」

 

市街地へと潜り込んだ車輌、『Ⅲ号戦車』を全車輌で追い始めた。

各車輌が逃げているⅢ号戦車に向けて砲撃を放つが直撃弾は生まれない。

シャア辺りが堕とせると思ったが、どうやらタイミングがいいのか悪いのか微妙なところだったが、ちょうど砲塔を向けたタイミングでⅢ号戦車に角を曲がられてしまい撃とうにも撃てないという状況だった。

そんなこんなで追っているとある路地に入り込んだところで、突然停車した。

・・・・誘い込まれたか?そう思った瞬間、一発の砲撃音と共に『壁』が地響きを轟かせながらⅢ号戦車を隠すように現れた。それは路地を封鎖するとこちらの戦車並みのでかさのある砲塔をこちらに向け始めた。

 

「・・・・・でかいな。装甲も重戦車より分厚いと見える。」

「あ、あれは、『マウス』です!!う、動いているところなんて初めて見ましたよ!!」

 

秋山がその『マウス』が動いている様子を見て興奮気味になっていた。

あんな図体を誇っているのに『ネズミ』なのか・・・。設計した奴は一回ネズミの意味を辞書で引き直してきたらどうだ?

とりあえず、この場を離れることを優先させよう。あまりの予想外の代物の登場に西住含めて硬直してしまっている。

 

「西住!!後退を最優先だ!!このままでは何輌かやられるぞ!!」

「はっはい!!各車、全力で後退してください!!」

 

俺の声に正気を取り戻した西住の指示で全力で後退させ、路地からの脱出を図る。

が、一番先頭にいたカモさんチームが動かずにいた。

何をするつもりだっ!?

 

「そど子!!急いで後退しろ!!」

 

通信機を持っている訳ではないから声は届かないがマウスの前で止まっているルノーB1bisに向けて叫んだ。

 

「カモさんチーム、急いで後退してください!!」

『私たちはここで壁になるわ!!一発くらい凌いでみせるから!!デカいからっていい気にならないでよねっ!!』

『風紀委員ってのは校内の風紀を守るだけじゃなくて、治安も守るのよ!!

だから、私たちはマウスとかいう悪者からみんなを守るために、ここで壁になるわ!!』

 

そんなやりとりが聞こえるとルノーB1bisはマウスに砲撃を仕掛けた。

しかし、砲弾は予想していた通り、硬い装甲に弾かれる。

そして、マウスはまるで鬱陶しい虫を払うかのようにルノーB1bisに砲弾を撃ち込んだ。

砲撃を受けたルノーB1bisは重戦車であるにもかかわらず、衝撃で吹っ飛んでしまう。

なんて威力だ・・・。図体のでかさからある程度は予測していたがそれ以上だな・・・!!

 

『みんな!!あとは頼んだわよ!!』

 

大破したルノーB1bisからそど子のそんな声が響いた。マウスの砲撃はとてつもないものだった。だが、再装填まで時間がかかるのか、すぐさま第二射は飛んでこなかった。その間になんとか路地から脱出する。

俺は大破したルノーB1bisを見ながら操縦桿を握りしめた。

 

そど子、お前の頑張り、無駄にはしない。

 

 

「まさか、黒森峰があんなデカブツを引っ張りだしてくるとはな・・・。完全に予想外だった。」

「みぽりん、どうするの?あんなの普通に戦っても倒せないよ・・・。装甲もプラウダのIS-2の二倍近いし・・・。まるで戦車が乗っかりそうな戦車だよ。」

 

戦車が乗っかるような戦車か・・・・。沙織の言う通りまともに戦っても硬い装甲に阻まれるだけだろうな・・・。

現状、砲弾を雨あられのように浴びさせたがマウスは健在。ポルシェティーガーの砲弾でも弾かれている始末だ。

まるでソロモンで戦った『ビグ・ザム』のようだな・・・・。アレを倒した時のようにこちらも捨て身で戦わないと厳しいか・・・?

 

「・・・・手はあります。」

 

西住のその言葉に俺も含めてあんこうチーム全員の驚きの視線が西住に向けられる。

 

「驚いた・・・。アレを倒せる算段がついたのか?」

「はい。ですが、こちらはほぼ捨て身で行くしかありません。最悪、1輌犠牲にしてしまうかもしれません・・・。」

「・・・言い方は悪いが1輌を犠牲にしてあのデカブツを倒せるのであればおつりは余裕で戻ってくる。あれが健在のうちは仮に廃校舎でタイマンの状況を作れても無理やり突入してくる恐れもある。」

「つまり・・・ここでマウスを倒すしかない、と?」

 

秋山の言葉に俺は無言で頷いた。それでも西住の表情は未だに晴れなかった。

何か理由があるのだろうか?

 

「西住、まだ懸念材料があるのか?」

「・・・そばにⅢ号戦車がいましたよね?あれがいる限り、厳しいんです・・・。」

 

ん?ああ、そんなことか。というか、気づいていなかったのか。

あのⅢ号戦車なら既にどうにかなっている。

 

「あれなら既に会長が倒してたぞ。」

 

実はマウスが出てくる直前、Ⅲ号戦車が少しばかり停車しただろう。

あんな隙だらけな姿をシャアが見逃すはずがない。

普通に止まった瞬間を狙って、普通に撃破していた。

俺の言葉が信じられないのか西住は呆けた顔をしていた。

 

「え・・・?本当ですか?」

「会長に聞いてみるといい。私も撃破したところを見ていたからな。」

 

俺がそういうと西住は通信でシャアに確認を取り始めた。

 

「えっと、会長?マウスの後ろにいたⅢ号戦車は倒したって本当ですか?」

『気づいてなかったのか?まぁ、マウスのインパクトがあれば記憶が飛んでしまうのも致し方なしか。質問に答えるが、その通りだ。既にⅢ号戦車は撃破済み。今はあのマウス1輌だ。』

 

シャアからの報告を聞いた西住は意を決した顔で再度通信機に声を当てる。

 

「カバさんチームとアヒルさんチーム。少々無茶ですが、今から私の指示通りに動いてください。」

『了解した!!』

『任せてください!!』

 

 

 

マウスからの砲撃を避けながら少し開けた道路に出る。

堤防のあるそこをマウスと戦う場所と定めて、一列に整列し、マウスを待ち構える。

そして、マウスが現れ、こちらに車体を向けた瞬間ーー

 

「全車輌、突撃してください!!」

 

大洗の全車輌がマウスに向かって突撃を始めた。

マウスからの砲撃をよけ、先陣を切ったのは先ほど西住からの指名を受けたカバさんチームのⅢ突だ。

 

「未来への水先案内人は、このカバさんチームが引き受けた!!」

「武士道とは死ぬことと見つけたり・・・・!!!」

「キャラではないが、敢えて言わせてもらうぜよ!!今の我々は阿修羅すら凌駕する存在ぜよっ!!」

「これは脱落ではない!!大洗の未来のーー」

 

『私達の明日を守るためっ!!』

 

一直線にマウスに向かうⅢ突は車体の下に無理やり潜り込み、押し上げた。

Ⅲ突がマウスの車体に押しつぶされそうになって、悲鳴をあげるような音がⅢ突の車体から響くがお構いなしだ。

 

「ウサギさん、レオポンさん、カメさんチームは陽動を!!」

 

西住の指示の元、マウスの意識を逸らすためにマウスの右舷から砲塔に機銃を浴びせる。するとマウスは砲塔をウサギさんチームの方に回して砲撃を行う。

しかし、その砲弾は砲塔が回り始めた時点で3チームともに退避していたため、

直撃を受けることはなかった。

 

「アヒルさんチーム、行ってください!!」

 

今度はⅢ突の後ろから八九式が突撃をかける。八九式はⅢ突に乗り上げ、さらにマウスの車体を使って砲塔の目の前に陣取った。

マウスは砲塔を回そうとするが、八九式が壁となって動かせないでいた。

今なら、なんとかマウスの比較的装甲の薄い車体後部のスリットを狙える!!

 

「よし!!アヒルさんチームがマウスに乗っかったぞ!!」

「冷泉さん、マウスの近くの堤防につけてください!!」

「了解だ!!」

 

俺はⅣ号をマウスのすぐ近くの堤防の斜面につける。

あとは華に頼むだけだ。

 

「華さん、撃ってください!!」

 

西住の指示で華がトリガーを引く。放たれた砲弾はマウスの後部スリットを正確に撃ち抜いた。

黒い煙を立ち上げたマウスはそのまま動くことはなく、代わりに白旗をあげた。

 

「マウスの撃破確認した!!やったな、西住!!」

「よ、良かった・・・。」

『に、西住さん、マウスを倒せたみたいだね・・・。』

 

皆で大物を倒した達成感を味わっていると偵察に出ていたねこにゃー達アリクイさんチームから通信がかかる。

 

『黒森峰の戦車があと3分くらいでこっちにくるよ・・・。』

「わかりました。各車は次の行動に移ってください。」

 

撃破したマウスをあとにして、移動しようとすると、突然Ⅲ突が煙を上げながら

停車して、白旗をあげてしまった。流石にマウスを持ち上げるのは車体に負荷がかかりすぎたか・・・!!

 

『我々を気に留めることはない!!そのまま行ってくれ!!』

『むしろよくやった方ぜよ。なんとなくじゃが、カバさんチームはマウスとの初会合の時点でやられていたような気がするぜよ。』

『西住隊長、あとは頼んだ!!』

『吉報を待っている!!』

 

黒煙を上げているⅢ突でこちらに向けて手を振っているカバさんチームをあとにしながら俺たちは黒森峰を待ち構える準備を整える。

まず、確認できる限り一番面倒なのは重戦車である『ヤークトティーガー』と『エレファント』だが、これはウサギさんチームが単騎で受け持つことになった。

 

「大丈夫なのか?そちらに援護に向かっても差し支えはないと思うが・・・。」

「大丈夫です!!私達、昨日考えたやってみたい作戦があるんです。重戦車は私たちに任せてください。」

「・・・・わかった。そこまで言うのであれば君たちに任せる。だが、無茶はしないでほしい。」

 

シャアの提案を梓は拒否した。その表情にシャアは笑顔を浮かべながら西住の作戦の通りにポルシェティーガーと行動を共にすることにした。

 

「アリクイさんチームはアヒルさんと一緒に行動してください。」

「わかったよ。西住さん。」

「任せてください!!」

 

西住の指示にねこにゃーと磯辺は気合の入った返答をする。

いつもはたどたどしい口調のねこにゃーだが、今回は違うようだな。

言葉に迷いがない。

 

「冷泉さん・・・・。」

「なんだ?」

 

運転に集中しているため、西住の方に顔は向けないでおく。

なぜか知らないが、秋山や華、それに沙織といったあんこうチーム全員の視線が向けられているような感じがする。

 

「私達を、大洗のみんなを優勝まで連れて行ってください。私たちは冷泉さんの操縦に全力で食らいつきます。」

 

気持ちのこもった西住の言葉が俺の耳に入った。

・・・・そうか、いいんだな。俺はここで全力を出してもーー

俺は一瞬、目を閉じ、開ける。そして、大きく息を吸い込んでーー

 

「了解したっ!!私は君達を必ず優勝まで連れて行くっ!!その途中、どんな障害があろうと突き進んでやるさ!!」

 

操縦桿を握りしめながらⅣ号の中でそう声を張り上げた。

だが、一つ、最終確認だ。あまり必要はないと思うがーー

 

「ついてこれる奴だけついてこいっ!!途中で吐いたりしてもことごとく無視させてもらうっ!!」

「あったりまえでしょっ!!」

「やってやりますよ!!ここまできたらっ!!」

「必ず、あなたの操縦に食らいついていきます!!」

「各車、最後の作戦、『フラフラ作戦』を始めてくださいっ!!」

 

俺の出せる全力。文字通り、命に代えても黒森峰にぶつける・・・。

それが、大人としての、大洗のチームメイトとしての俺の責務だ!

 




そろそろ原作アニメの最終決戦かぁ・・・・。


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第36話

今回、割とふんだんにガンダムネタをぶち込みました!!
探してみてください!!(白目)


「黒森峰と接敵しました!麻子さん、お願いします!」

「任された!沙織、ナビゲートを頼む!!」

「任せて!!」

 

しっかりと言質は取ったからな。加減なしでやらせてもらう!!

先ほど黒森峰の本隊と接敵して、いつぞやの聖グロとの練習試合のときのような市街地でのカーチェイスが始まった。

接敵した時点でウサギさんチームとは離れ、側にいるのはあんこう含めた5チームだ。

現在は車列の後部にいるアリクイさんとアヒルさんが蛇行運転をしながら牽制射撃を行なっているところだ。

市街地の路地に入り込むと俺は曲がり角をノーブレーキで曲がったりするなどをして、黒森峰を翻弄する。

 

「こ、この路地の中をノーブレーキで爆走するなんて・・・。流石麻子殿です!!」

 

秋山、下手すると舌を噛むから喋るのはやめておいた方がいい。

 

 

 

「はえー、冷泉さんのハンドリング捌き、えげつないねー。」

「こりゃあこっちも自動車部としては負けてられないね!!ツチヤー、Ⅳ号に全力で食らいついていくよー。」

「ここが腕の見せ所、ってね!!」

「そのうち冷泉さんとレースでもしてみたいな!!大洗一早い女としての血が騒ぐ!!」

 

 

しばらく曲がりくねった路地を進んでいくと、他の4輌と離れ、俺たちは単独行動をとる。

 

「レオポンさん、カメさん373を左折。ウサギさんとアリクイさん、373を右折してください。」

 

沙織の通信がⅣ号で響く。その間にも黒森峰の車輌、先頭を走っているのは西住 まほが乗っているティーガーⅠが追ってくるが、無論的を絞らせるつもりは微塵もないため、ちょこまかと路地の中で蛇行運転をしながら切り抜ける。

さて、あとは廃校舎へと向かうだけだが・・・・。他はどうなっているのだろうか?

 

 

 

「M3でヤークトティーガーを押すんだよ!!」

「桂利奈ちゃん無茶言わないで!?」

「大洗がダメになるかどうかなんだよ、やってみる価値はあるよ!!」

「あゆみまで何言ってるのーっ!?桂利奈ちゃんもエンジンがオーバーフローしちゃうからやめてよー!?」

 

 

桂利奈とあゆみがなんか暴走気味で優季が悲鳴みたいなのをあげているけど、とりあえずエレファントを紗希の機転で薬莢を吐き出すところを撃つことで撃破した。

今は多分さっきのマウスを除けば、黒森峰の車輌の中で一番面倒なヤークトティーガーを相手にしている。

とはいえ、ヤークトティーガーから押されまくっていて、はっきり言ってギリギリのところ踏ん張っているような感覚がする。

でも、ここで倒さないと、絶対に西住隊長達の向かって猛威を奮うと思う。

だからーー

 

「ここでヤークトティーガーを倒そう。絶対に西住隊長のところへ向かわせたらだめ!!」

「いいね!やろう!!でもどうするの?」

 

あやが乗り気になりながらも手法を尋ねてくると、私は優季から地図を借りる。

 

「この路地の先にある川の堀にヤークトティーガーを落とす。それしか火力が足りないM3で倒せる方法はない。」

「で、できるの?」

「やってみなきゃわからないでしょ!!お願い、桂利奈。合図をあげたらすぐ避けて!!」

「あいー!!」

 

こういう時に桂利奈ちゃんのいつも通りな感じは頼りになるなー・・・。

まぁ、何も考えていないってのもあるかもしれないけど・・・。

そう思いながら、桂利奈ちゃんに合図を伝えるために覗き穴から後ろの様子を探る。

あと数メートル・・・・!!

 

「今!!桂利奈ちゃん、避けてっ!!」

 

桂利奈ちゃんの操縦で路地から出た瞬間、左に避けようとするが、ヤークトティーガーの砲撃が当たってしまい、横転する。

しかし、転がった車内でもはっきりとヤークトティーガーが勢いあまって川の堀に落ちていくのが見えた。

やった・・・・。でも、これ以上は私たちは無理みたい。そう言った意味では、悔しいなぁ・・・・。

 

「西住隊長、ごめんなさい。M3撃破されました。あとは頼みます・・・!!」

 

もう、私達にできることは西住隊長、そして冷泉センパイにエールを送ることだけだった。

 

 

 

 

 

「よーし、やるよ!!!みんな!!アリクイさん達も手伝ってくださいね!!」

『任せてよ。全力で、ボク達も手伝うから。』

 

引きつけた敵は三輌。これくらいならなんとかいける!!

 

「まずは懐に潜り込む!」

 

八九式と三式で敵の車輌の間に潜り込む。黒森峰の車輌はその巨体で押し潰そうとしてくるが、これを直前で避ける。標的を失ったため、黒森峰の車輌はお互いお互いをぶつけ合う。

 

『今だよっ!!』

「ピヨたん氏、撃って!!」

「撃つだっちゃ!!」

 

三式がちょうど黒森峰の車輌の履帯が接しあっている部分を砲撃すると、いい具合に二輌とも履帯が破損して動けなくなる。

 

「ワンショットダブルキルだっちゃ!!」

「おお!!ピヨたん殿、やりますなぁー!!」

「ここまで来たら、もう勝つしかない・・・!!やるんだ、ねこにゃー!!」

 

みんな頑張っている中でボク達もいつまでもお遊び気分でいるわけには行かない・・・!!

ボクはいつもかけている眼鏡を外して、前だけを見据える。

 

「おおっ!?ねこにゃー殿がメガネを外したなりっ!?」

「本気、ってことだっちゃ?」

「・・・・覚悟はある。ボクは、戦うっ!!」

「なるほど・・・なら私達もやるしかないなり!!せっかく会えた戦友達と別れたくはないなり!!例え、廃校と言われても、それでもと言い続けるっ!!」

「ピヨたん達はゲームの中で不可能を可能にするチームって言われてきただっちゃ!!現実でも、ゲームでもそれは変わらない!!」

「行こう!!みんな!!ボク達の終わらない明日へっ!!」

 

 

「向こうも気合十分って感じだね。こっちも負けてられないよ!!河西、そこの歩道に乗り上げて!!」

「了解です!!」

 

車道のすぐそばの歩道を進んでいくと残った黒森峰の車輌の砲塔がこちらへ向けられる。

 

「河西!!スピード落として!!」

 

河西にそう呼びかけるとすぐさま八九式の速度が落ちる。その瞬間、目の前に砲弾が撃ち込まれる。

歩道から車道に降りると、後ろの黒森峰の車輌が妙な動きを見せ始めた。

何やらフラフラとして、車道をくねくねと動き回っていた。

 

「キャプテン、もしかして向こうはアリクイさんチームとの挟撃を気にしているんじゃ・・・?」

 

近藤からの言葉に改めて黒森峰の車輌を確認する、確かにそうかもしれない。ちょうど今の状況はアリクイさんチームと自分たちで黒森峰を挟んでいる。

 

「・・・なるほど、そういうことか・・・。なら・・・。」

 

私の中で、一つの手段が思いついた。でも、はっきり言って危険だ。

だけどーー

 

「なりふり構ってはいられないね!!多少の無理はこじ開けるまでっ!!」

 

八九式の中にある発煙筒を取り出して、空中に放り投げる。

そこから、いつも練習してきたサーブの要領で黒森峰の車輌に向けて打つ。

発煙筒がうまいこと引っかかるとたちまち、黒森峰の車輌は煙に包まれた。

 

「河西!!八九式を横にして急停車!!大丈夫、前に会長がやってた戦法だからっ!!」

「わかりましたっ!!」

 

河西は信じてくれたことで八九式は煙のすぐそばで急停車する。

程なくして、煙を警戒したのか、それほどスピードを出していない黒森峰の車輌が現れた。

 

「みんな、衝撃に備えてっ!!」

 

そう言った瞬間、黒森峰の車輌と八九式が衝突する。車体の中で振り回されるが、なんとか黒森峰の車輌を無理やり止めることができた。

 

「撃てーー!!!アリクイさんチームっ!!!」

 

私はアリクイさんチームに届くように八九式の中で思い切り叫んだ。

 

「ピヨたん氏、主砲、てぇーーっ!!!」

「行っけーっ!!!」

 

ピヨたん氏が三式のトリガーを引く。その瞬間、三式に衝撃が走った。多分、履帯を壊した車輌が反撃してきたんだと思う。

だけど、放たれた砲弾は一直線にアヒルさんチームが気合で押しとどめた車輌の履帯に向かっていく。

そして、着弾。その車輌は履帯が壊されて、動けなくなった。

 

「やったーっ!!とりあえず足止めは完了なりっ!!」

「でも、ボク達はここまでかぁー・・・。アヒルさんもそれは同じみたいだね。」

 

ふと視線を移すと八九式では厳しいものがあったのか装甲がひしゃげて白旗を上げている様子が見えた。

 

西住さん、冷泉さん、あとは頼んだよ・・・。

 

 

 

 

「ウサギさん、アリクイさん、アヒルさんが撃破されたって!!」

「皆さんに怪我はっ!?」

「ひとまず、大丈夫みたい。」

 

沙織からその報告を聞いて西住がひとまず安堵の表情を浮かべた。

そろそろ、例の廃校舎に差し掛かる。ここの入り口の封鎖はポルシェティーガーとシャアの乗るヘッツァーが請け負っている。

 

「件の廃校舎だ!!みんな気を引きしめろよ!!」

 

校舎の敷地内に入ると黒森峰から砲撃が飛ぶがそんなものに当たる俺ではない。余裕で切り抜けると、ちょうど戦車がギリギリ入れるくらいの入り口に決戦場としている校舎の中庭が見えた。

そこにⅣ号が潜るとそれに西住 まほの駆るティーガーⅠが続く。

時間稼ぎ、請け負ってくれるな?シャア。

 

 

 

「そこから先は通さない、と言っておこうか。」

 

相手のフラッグ車であるティーガーⅠがこの廃校舎へと潜り込んだ瞬間にポルシェティーガーが壁として入り口に立ちはだかった。

動揺する黒森峰の車輌の背後から挟み撃ちの形で悠々と姿を現しておく。

すると、そのうちの1輌のキューポラから副隊長である逸見エリカが顔を出した。

 

「ちょっと、邪魔よっ!!」

「なら、押し通ってみせるがいい。もっとも君にそれができればの話だがな。」

 

私がそういうと彼女は嘲笑うかのような表情を浮かべた。

 

「はんっ!!そんな弱小戦車と失敗兵器で王者を止められるなんて思わないことねっ!!」

「なら、君に一つ教えてあげよう。戦車の性能の違いが、戦力の決定的差ではないことをな!!」

 

そう言いながらヘッツァーに戻るとすぐさまトリガーを引く。ポルシェティーガーも同じように砲塔から火を吹いた。

ポルシェティーガーの砲弾は近くにいた車輌を一撃で沈め、ヘッツァーの砲弾は別の車輌の履帯を撃ち抜く。

 

「っ・・・・。やってくれるじゃない・・・!!各車は前方のポルシェティーガーに砲撃を集中させなさい!!」

「やらせはしないと、言ったはずだっ!!」

 

黒森峰の車輌がこちらを無視してポルシェティーガーに砲塔を向けようとさせるが、ヘッツァーで砲撃をしたり、ぶつけることで徹底的に邪魔をする。

ここで出来る限り時間は稼ぐ。行け、アムロ。お前達の手で勝利を掴みとってこい。

 

 

 

 

校舎と校舎の間を進んでいくと広場のような場所にたどり着く。

俺はⅣ号を操作してついてきたティーガーⅠを迎え討つように停車させる。

 

「・・・・あなたには多大な恩がある。だが、これとそれとは別だ。許してほしいとは言わない。私は全力でみほとあなた達を迎え撃つ。」

「・・・冷泉さん。おそらく冷泉さんのことを言っています。」

 

俺に多大な恩、か。そんなに大したことはしていないのだがな・・・。

まぁ、何かしら返しておいた方がいいだろうな。

俺は西住の言葉に頷きながら操縦席のハッチを開けて西住 まほと相対する。

 

「むしろ、当たり前だな。こちらに恩があると言って手でも抜かれたら、それは私たちにとっては恩を仇で返すようなものだな。仮にそれをされたら虫唾がはしる思いだ。」

「・・・・そう言ってくれると助かる。」

 

俺は彼女の朗らかな表情を見届けるとすぐさま操縦席を戻った。

 

「西住流に逃げるという道はない。こうなったらここで決着をつけるしかない。」

「・・・・受けて立ちます。」

 

 

しばらく睨み合いの時間が続いた。風が吹く音などもなく、まさに無音の時間だった。

その静寂を先に破ったのはーーティーガーⅠ、西住 まほだ。

 

「動いたかっ!!」

「冷泉さん!まずは相手の出方を伺います!ここを数周した後、通路へ出てください!」

 

西住の言う通りに何回か円を作るようにティーガーから逃げると建物の間の道に入り込む。

 

「西住、ティーガーが撃ちそうだったらすぐに言ってくれ!必ず避けてみせる!!」

「わかりましたっ!!」

 

しばらく廃校舎の敷地内を駆け抜けていると後ろから一発の砲撃音が響いた。

なんだ?ただ闇雲に撃った訳ではあるまいし・・・。

 

「榴弾・・・?冷泉さん、止まってください!!」

 

最初こそ理由が分からなかったが、すぐそこにあった曲がり角を曲がった瞬間、先ほどの砲撃の意図を察した。

建物が崩れて、瓦礫となって通路を塞いでしまっていたのだ。

 

「ちっ!!中々やるな!!」

 

西住からの指示がなくてもわかる。すぐここから出ないと、既に砲塔をこちらに回しているティーガーにやられる!!

そして、そこから考えるに西住がやりそうなのはーー

 

「全速後退!!」

「その指示を待っていたっ!!」

 

俺の思っていた通りの指示をしてくれた西住に感謝を述べながら、一気にエンジンをふかし、加速しながら後退する。

その瞬間、後ろから衝突した時のような衝撃と砲撃音が響いた。おそらく曲がり角から出てきたティーガーとぶつかったのだろう。

砲撃音がしたということは、やはりここで仕留める気だったようだな。

そこまで考えたら、すぐさま方向転換を行い、再びティーガーから離れる。

 

「冷泉さん!!砲撃、来ます!!」

 

西住からの報告を受けた瞬間、回避行動をとる。ティーガーから放たれた砲撃は車体側面のシュルツェンを掠める。

くっ・・・情け無い。十分な隙間がないとはいえ当てられるとは・・・!!

 

「あ、当てられたっ!?」

「たかがシュルツェンをやられただけだっ!!実質問題はない!」

 

悲鳴のような秋山の声に大丈夫だと返しながらも苦虫を噛み潰したような表情をする。

 

「冷泉さん、もう一度来ますっ!!」

「二度も当てられてたまるものかっ!!」

 

ティーガーから再度砲撃が飛ぶ。今度は気配をしっかりと読み、それに基づいて回避行動をとる。

放たれた砲弾は砲塔側面のシュルツェンを破壊されない程度に掠めるだけで、通り抜けていった。

そこからは建物を挟んだ状態での砲撃の応酬が始まった。

しかし、お互いこれといった直撃弾はなく、先ほどの広場へと戻ってくる。

 

「やはり硬いな・・・。比較的装甲の薄い後部、ないしは側面・・いや、側面はさっき弾かれていたか。」

「やっぱり、一撃を交わして回り込むしかありません。」

 

やはり、その結論に至ってしまうか・・・・。

とはいえ、一筋縄では行かない相手だ。かなりギリギリを求められるぞ・・・。

だが、西住の表情に暗いものはなかった。おそらく信じているのだろう。俺たちのことを。あんこうチームの仲間たちを。

そのような表情をされれば、こちらも俄然やる気が出るというものだ。

西住は秋山に今までよりも早い装填を求め、華は行進間射撃でも構わないが少しでもいいから停止射撃の時間を求めてきた。

そちらはなんとかできるから問題ない。

 

「冷泉さん、正面から全速力で一気に後部に回り込むことはできますか?」

 

ふむ、つまりドリフトしろということか。

俺は心の中で軽く笑みを浮かべていた。なぜならーー

 

「それは、君の目の前で何度もやってきた。今更聞くのは野暮というものではないか?」

 

俺がそういうと西住は呆気に取られた表情をするが、すぐさま笑顔へと変わる。

 

「・・・そうでしたね。思えば、聖グロとの練習試合の時点でやっていましたね。まだそんなに時間が経っていないはずなのにずっと昔の記憶みたいです。」

「それは、今までの日々がそれだけ思い出深かったことの裏返しかもしれないな。」

「・・・そうかもしれないですね。」

 

そう微笑みながら、西住はキューポラから身体を出した。

表情は伺えないが、おそらく意を決した表情をしているだろう。

 

「さて、正真正銘これが最後の一撃だ。気張っていくぞ。」

 

俺が沙織たちに振り向きながらそういうとみんな揃って無言で頷いていた。

そしてーー

 

「前進っ!!」

 

西住の今まで指示を飛ばしてきた中で一番大きな声の指示が飛ぶ。

俺はその気持ちの入った指示に答えるべく、Ⅳ号を前進させる。

 

「グロリアーナの時は失敗したけど、今度は必ずーー」

「西住!!君が余計なことを考える必要はない!!振り返るな、前だけを見ろっ!!後はーー」

 

西住が不安げな雰囲気を醸し出していたため、思わず声を張り上げてしまう。

Ⅳ号の操縦桿を操作しながら俺は最後に叫んだ。

 

「私が連れて行くっ!!君にそうに誓ったっ!!だから、私に任せろっ!!」

 

ティーガーに回り込もうとすると、超信地旋回をすることで対応してきた。

それはいい、問題はこの後だ。

俺は一瞬ドリフトさせて、Ⅳ号をティーガーと向き直らせ、一直線に突撃させる。

 

「撃てっ!!」

 

西住の指示が飛ぶ。華が放った砲弾はティーガーの装甲に弾かれる。

そして、反撃と言わんばかりのティーガーの砲撃はーー

 

「あんこうチームは……大洗女子学園は伊達じゃないっ!!!」

 

まさに当たる直前、寸前のところをもう一度ドリフトをすることで避ける。

そして、そのまま背後を取りに行く。

こちらが前回ダージリンに対してドリフトで後ろを取ろうとした時は砲塔だけを回すという合理的な判断をされたが、今回はどうだ?砲塔も長いものに変えてしまったから密接して砲塔で回すのを止めるという荒業はできない。

つまり、ここの西住 まほの判断が明暗を分ける。

俺は操縦席からの覗き穴からティーガーの動向を伺う。

さて、どうするーー

 

彼女が取った選択はーー超信地旋回だった。

それを見た俺は思わずーー

 

「行けぇぇぇぇぇーー!!!」

 

年甲斐にもなく叫んでしまっていた。そして、履帯が壊れて行く音を響かせながらⅣ号は対応が遅れたティーガーの背後を取った。

このまま行けば勝てる、それは変わりない。だが、操縦席の覗き穴、というか俺の目にはあるものが飛び込んできた。

それはーーティーガーⅠの砲身。

 

「っ!?」

 

俺は顔と頭を守るために咄嗟に操縦桿から手を離してガードした。

だが、それがいけなかったのかもしれないーー

 

響く二つの砲撃音、耳をつんざくほどの音が響く。

そんな中、俺は自分の身体に起こった突然の異変を感じていた。

 

 

 

 

思わず耳を塞いでしまうほどの爆音が鳴りやむとまず確認したのは結果だった。

通信機を外してティーガーⅠの様子を見る。目に飛び込んできたのは、かなり損傷を受けてはいたけどとりあえず白旗は挙がっていないⅣ号。それに対して、白旗を挙げているティーガーⅠ。

これが意味しているのはーー

 

『黒森峰フラッグ車、行動不能。よって、大洗女子学園の勝利!』

 

審判団によるこちらの勝利を告げるアナウンスが流れて、ようやく張り詰めていた緊張が途切れていたのか通信手の席に倒れるように座り込んだ。

勝ったことを伝えるためにまずは目の前の麻子(幼馴染)に声をかけようとしたが、思わずその声を詰まらせてしまった。

なぜならそこには想像もできない光景が広がっていたからーーなぜならーーその友人の腹に鉄板が突き刺さっていたのだから。

 

「・・・え・・・・?」

 

目の前のとんでもない光景に声が出てこない。とりあえず、後ろで優勝したことを喜びあっている仲間達にこの事実を伝えようとすると、携帯のバイブ音が鳴った。

思わず確認すると、それは目の前で腹から血を流している麻子からであった。

 

『なにもいわないでくれ。とくににしずみにはな。かのじょはこれからかこのわだかまりとむきあおうとしている。そこにわたしなんかのことでぼうにふらせるわけにはいかない』

 

文字変換する余力もないほどに衰弱しているのだろうか、そのひらがなのメールからはいつもの麻子からは感じられないほどの弱々しさが滲み出ていた。

 

「え・・・・まこ・・・?」

 

恐る恐る、視線を挙げると、辛そうな顔をしながらもやせ我慢で笑顔を浮かべ、頷いている麻子の姿があった。

 

「沙織さん?どうかしましたか?」

 

現状一番話しかけられたくない相手に話しかけられて、思わず挙動不審になりかける。

どうしよう・・・、伝えるか、そうしないかーー

 

わたし、どうすればいいの・・・・!?

 

困惑する頭の中で私が出した結論はーー

 

「う、ううん。大丈夫、大丈夫、だから・・・。」

 

その言葉はまるで、自分に言い聞かせているようだった。

 




さて・・・・色々とかなりヤバイ(白目)


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第37話

血が腹部から流れている感覚がする。刺さっている鉄板、おそらく破断しかけていた操縦席のハッチだろう。それを刺さったまま放置しているから過度な流血はなんとか避けている。

なぜこうなったのかは、正確なことは分からない。だが、推測としては、ティーガーⅠが最後に放った砲弾が運悪く操縦席のハッチに直撃したのだろう。

元々破損しかけていた操縦席のハッチは見事に破断、勢い余って俺の腹部に突き刺さったというのが、一番現実的だろう。

つまるところ、これは事故だ。色々な不運が重なって、おきてしまった事故。

普通であれば、すぐさま周りに伝えるべきなのだろうが、俺にはできなかった。

なぜなら、西住のことが気がかりだったからだ。

彼女はこれから過去の出来事で仲がこじれてしまった逸見エリカと対話をする。

そこに俺なんかのことで引き止める訳にはいかない。

咎は、受けるさ。だが、それで彼女らの仲が取り持てるのであれば、本望だ。

 

「ーーぜいさん。」

 

・・・・だれかの声が聞こえる。血を流しているからか意識が朦朧としてはっきりとしない。

 

「冷泉さん?」

 

どうやら西住が俺に声をかけていたようだ。いかんな、なんとか意識を保たせなければ、悟られてしまう。

気づけば、先ほどから感じていた振動、Ⅳ号を運んでいた回収車の駆動音は無くなっていた。

陣地に戻ってきたのだろうか?

 

「・・・ああ、すまない。ボーッとしていたようだ。ここに来て低血圧が再発してしまったようだ。」

「大丈夫なんですか?」

「みぽりん、とりあえず外に行ってていいよ。私たちも後から行くから。」

 

沙織が西住に対してそう言ってくれる。すまないな、沙織。君に苦労をかける。

沙織の言葉に促されて、ひとまず西住達三人はⅣ号の外へと出て行った。

華辺りに匂いで感づかれると思ったが、血の匂いと戦車特有の鉄と油の匂いが混ざって察知されなかったのか?

まぁ、今は考えることではないかーー

沙織は西住達がⅣ号から出て行くのを見届けると不安げな顔をしながら俺に詰め寄った。

 

「ね、ねぇ・・・麻子・・・大丈夫なんだよね・・・?死んじゃったりしないよね・・!?」

「・・・感覚的には、大腸辺りに刺さってる。まぁ・・・それだけだな。」

「そ、そういう問題なのっ!?血が、制服とかズボンとか、血だらけだよっ!?」

 

自分の服を見てみると沙織の言う通り傷を負った腹部を中心にして、服が真っ赤に染まっていた。

思わずまじまじと眺めてしまっていたのは思考能力が落ちていることの現れだろうか。

 

「・・・全く、妙な胸騒ぎがすると思えば・・・!!生きているんだろうな!?」

「えっ・・・!?か、会長っ!?」

 

沙織が俺の上から響いてきた声を驚きの表情をする。

壊れた操縦席のハッチから顔を覗かせていたのは苦々しい表情をしていたシャアであった。

シャアは壊れた箇所からⅣ号に入ってくると俺の傷を見ると厳しい顔をしてきた。

 

「これは・・・我々の手には負えないな・・・!!」

「そ、そんな、せめてこの刺さった鉄板を抜く事くらいは・・・!!」

 

沙織の言葉に俺とシャアは同時に首を横に振った。

 

「ダメだ。迂闊なことをして、ほかの臓器に損傷を与えてしまえば、最悪大量出血だ。そうなってしまえばそれこそ麻子の死は免れなくなる。それに、仮に臓器に損傷を与えずに抜けたとしてもこの鉄板は言わばダムだ。これを抜いたが最後、今まで堰き止めていた血が一気に放出される。十分な医療設備がない以上現状としては放置が最適解だ。」

「そ・・・そんな・・・!!」

「だが、それ以外ならまだどうにかなる。武部君、各操縦手達にメールを送ってほしい。無論西住君にもだがーー」

 

シャアがその言葉を喋った瞬間、俺は奴の衣服を引っ張った。

予想外のような顔をされるが今回ばかりは止めさせてもらう。

 

「頼む・・!!西住にだけは、伝えないでくれ・・!!」

「・・・なぜそこまで西住君には伝えたくないのだ・・・?」

「西住は、今過去と向き合おうとしている・・・!!そこに私なんかのことで、棒に振らせる訳にはいかないんだ・・・!!」

 

痛みからか息も絶え絶えになりながらもシャアにそう訴える。

俺のその様子を見たシャアはため息をついた。

 

「・・・・わかった。お前がそこまで言うのであればそうしよう。だが、そのあとのことはそれなりに覚悟しておいた方がいい。確実に彼女らには泣かれるぞ。」

「わかっている・・・っ!!」

 

 

 

 

(さて、どうしたものか・・・・。)

 

アムロが負った傷ははっきりいってかなり重傷だ。今は刺さったハッチが流血を防いでくれているがそれでも長くは持つまい。それにここは比較的内陸だ。救急車を呼んだとしても時間がかかりすぎる。他校のヘリを使わせてもらうのも同じ理由で難しい。

何か最短で病院へ運べる手段はないだろうか・・・!!

・・・・一か八かだが、彼女に賭けてみるか。

 

「・・・武部君、各操縦手にメールを送ってくれ。内容はーー」

 

 

「ん?メール、だよね?」

「誰からだろう・・・?」

「武部殿からぜよか?」

「一体なんだろう・・・・。えっ?」

 

それぞれの車輌の操縦手の携帯にバイブ音が響いた。送り主は揃って沙織からのものであった。

全員が疑問に思いながらもそのメールを開いた。そこにはーー

 

『各操縦手に通達します。今、麻子がお腹から血を流して衰弱しています。

応急処置を施すために各チームはこのメールの通りに行動してください。

それとこれは麻子自身からの伝言でもありますが、隊長には見つからないようにお願いします。』

 

それ以降はそれぞれのチームに与えられた指示と、一枚の写真が添付されていた。

そこには腹部から血を流している自身の恩人の姿があった。

 

「そ・・・そんな・・・!!」

「冷泉殿・・!!」

 

それぞれ狼狽するような反応を見せる中、誰よりも早く行動に移したのはーー

 

「梓!!大会の運営ってどこっ!?」

 

桂利奈だった。まさに鬼気迫るといった表情で突然質問をされた梓は困惑気味の表情を浮かべる。

 

「え、突然どうしたの、桂利奈。そんな顔をしてーー」

「は、早く教えてよ!!早くしないと冷泉センパイが……!!」

 

そう言って涙を流し始めた桂利奈を見て、梓はただならぬ状況であることを察する。

 

「わ、わかった!!とりあえず、こっちだよ!!ついてきて!!」

 

泣きじゃくる桂利奈の手を引っ張りながら梓は大会の運営所が置かれている場所へと駆けて行く。

突然の様子にウサギさんチームがなし崩しのような形でついていった。

 

「ねぇ、桂利奈。冷泉センパイに何があったの・・・?」

 

走りながら梓が質問をすると、桂利奈は無言で携帯を手渡してくる。

それを受け取って、沙織からのメールを見た梓は思わず口に手を当てる。

 

「そ、そんな、冷泉センパイが重傷・・・!?」

 

梓が思わず漏らした言葉に一年生の間で動揺が走った。

ちょうど同じタイミングでバレー部のアヒルさんチームと風紀委員のカモさんチームが合流する。

 

「ねぇ、桂利奈ちゃん!!君もあのメールをっ!?」

 

河西の質問に桂利奈は走りながら無言で頷く。

それを見た河西は苦々しい表情をしながら走るスピードを上げる。

 

「ねぇ!!冷泉さんが怪我をしたって本当なのっ!?」

「園センパイがあの写真を見たなら、それは絶対事実です!!あんなタチの悪い冗談、あの人達がやるわけない・・・!!」

 

合流してきた園が悲痛とも取れる質問を河西が答える。その答えに驚きを隠せないが、すぐさま表情を厳しいものに変える。

 

「なら、さっさとその教官ってのを呼ぶわよ!!時間がいつまであるか分からないんだからっ!!」

『了解っ!!』

 

園の全員を仕切る声にウサギ、アヒル、カモさんチーム全員の声が揃った。

全ては世話になった人を助けるためーー

 

しばらく疾走していると、目的の人物が目に止まった。

 

「あっ!!いたーっ!!」

「蝶野教官ー!!!」

 

その人物、蝶野亜美は桂利奈達の姿をみると嬉しそうな表情をしながら手を振ってきた。

 

「あら!貴方達、優勝おめでとう!!すごかったわよ、さっきの試合!!」

「そ、それはいいんです!!今、大変なことになっているんです!!」

 

梓の様子に疑問気な表情をしていた彼女だったが、ほかの生徒達の様子にただならぬものを感じたのか、表情を険しいものに変えた。

 

「どうかしたの?」

「これ!!見てくださいっ!!」

 

桂利奈が蝶野に携帯の画面を見せる。それを見た蝶野は驚きを露わにしながら桂利奈達と目を見合わせる。

 

「会長が、教官ならなんとかしてくれるかもしれないってーー」

 

その言葉を耳にした瞬間、彼女はシャアの目的を察した。ここは内陸部、救急車を呼ぼうにも時間がかかることは明白。

だったら自分のすべきことはーー

 

彼女はすぐさま携帯を取り出すと誰かに電話をかけた。

 

「もしもし?すぐさま応急キット積んだ10式を1輌、大洗女子学園の陣地に回しなさい。」

『ど、どうしたんですか?突然・・・。それに10式だって私的で使うのはーー』

「いいから早く!!人の命かかってんのよ!!人命救助は自衛隊の役目でしょ!!それに、責任は私が持つわ。」

『・・・・わかりました!!すぐさまそちらに向かわせます!!』

 

通話が終わると携帯を閉じながら桂利奈達と再度向き直す。

 

「彼女は私たち自衛隊が責任持って病院に連れて行くわ。」

 

 

 

 

「・・・・まさか、こんなことになるなんて・・・!!」

「仕方ないって言葉で片付けるのは不躾だけど。ナカジマ、今は私達に出来ることをやろう・・。」

 

項垂れるナカジマの背中をスズキが優しくさする。

とはいえ、自分が少しでも早くその損傷箇所を見つけていれば、直せていたかもしれない。

だが、既に後の祭りである以上、後悔の念は絶えない。

 

「うん・・・。そうだよね。えっと、とりあえず、Ⅳ号を車庫に入れればいいんだっけ?」

「一応、メールにはそう書いてある。っても、隊長さんに気付かれずにか・・・。」

「多分、隊長さんは隊長さんで何か大事なことをやろうとしているんだと思う。」

 

そう言ったツチヤの視線の先にはみほと黒森峰の副隊長、逸見エリカが顔を向き合わせていた。

 

「冷泉さんはもしかしたらそれを邪魔したくないんじゃないのかな・・・?」

「でもさ。自分のことよりも他人を優先するってのは、中々出来ねぇことだよな・・・。」

「ひとまず、今は冷泉さんを助けることだけを考えよう・・・!!」

 

項垂れた表情から一転、張り詰めた表情をしていたナカジマの様子に三人は無言で頷いた。

 

「ねこにゃー殿!!救急箱は見つかったぜよかっ!?」

「今こっちでも全力で探してる!!でも、あんなキズ、ボク達には施しようが・・・!!」

「だが、ただ見ているだけというのは夢見が悪すぎる!!それはアリクイさんチームも同じだろう!!」

「それは、そうだけど・・・!!」

「ねこにゃー氏ー!!Ⅳ号がこっちにやってくるなりー!!」

 

カバさんチームとアリクイさんチームは陣地で応急処置に成り得そうな綿や消毒液といったものをかき集めていた。

そこにレオポンさんチームが回収車を操作して、Ⅳ号を車庫まで運んできた。

 

「Ⅳ号、持ってきたよ!!手当の準備はっ!?」

「すまない!!これが精一杯だ!!」

 

車庫に入れるなりナカジマの切羽詰まった声が車庫に響き渡る。

それを聞いたエルヴィンは一通りの医療道具が入った袋をナカジマに手渡す。

それを受け取ったナカジマは颯爽とⅣ号を駆け上り、シャアに手渡す。

 

「会長!!これでどうですかっ!?」

「・・・上出来だ。とりあえずこの鉄板を外すことは出来んが、傷が化膿して病気を併発するという最悪の展開だけは回避出来る。」

「・・・あの・・・これはやっぱり、操縦席のハッチですか・・・?」

 

消え入るようなナカジマの声にシャアはタンポンに消毒液を浸しながら難しい表情をした。

 

「・・・その可能性は高い。どういう経緯でこうなったかはわからないがな。」

 

その言葉にナカジマは表情を重いものに変える。さながら自責の念に囚われて、今にも押し潰されそうだ。何かこちらから言っておくべきか・・・。

 

「ナカジマ・・・・。」

「っ!?冷泉さんっ!?」

「麻子っ!?喋らなくて大丈夫だからねっ!?」

「元はと言えば・・・。私の無茶な操縦が祟ったんだ・・・。度重なるスペックを度外視した機動や、さらにはIS-2との正面衝突・・・。Ⅳ号に掛けた負担は計り知れない・・・。それを、貴方たちは悉く直してくれた・・・。だが、貴方たちも人間だ・・・。見逃しの一つや二つもある・・・。今回は、それが変な方向に作用しただけだ・・・。それほど、気に留める必要はない・・・。」

「そ・・・そんなの・・・!!どうして、どうして君は・・・そんな態度でいられるの・・!!少しくらい、怒ってくれたっていいじゃない・・・!!」

 

そう言って目に涙を溜め始めたナカジマの姿を見て、俺は困った顔をしてしまう。

 

「悪いが、こればかりは性分でな・・・。今まで生きてきて、あまり怒ったことはない・・・。そうだな、真面目に怒ったことがあったとすればーー」

 

そういいながら、俺はシャアに視線を向ける。

 

「会長くらいのものだ・・・。色んな意味でな・・・。」

「まぁ・・・・思い返せば、そうだったかもしれんな・・・・。」

 

俺の傷口に消毒液の染み込んだ綿を当てているシャアが微妙な顔をしているが頰が僅かにあがっているのを見ると奴も笑ってはいるのだろう。

だが、そのタイミングでーー

 

「っ!?ゴフッ!?」

 

突然の嘔吐感が襲ってきて、思わず口に手を当てる。

手を口から離すと逆流してきたのか鮮血が手のひらについていた。

 

「まっ、麻子っ!?大丈夫っ!?」

「不味いっ!!血が行き場を失った結果吐血したか・・・!!そろそろ本格的な処置を施さなければ・・・!!」

「会長!!なんとかならないんですかっ!?」

「ここではこれが精一杯だ!!あとは病院に任せる他はないっ!!」

 

沙織やシャア達三人が狼狽したような雰囲気を見せ始めたその時、通信機から声が響いた。

 

『そこのⅣ号!!聞こえる!?』

「えっ?この声・・・誰・・?」

「この声、蝶野教官っ!?」

「間に合ってくれたか・・・!!」

 

Ⅳ号のそばに10式が急停止した。シャアがⅣ号から顔を出すと蝶野教官が険しい表情をしながら、こちらに駆け寄ってくる様子が見えた。

 

「容態はっ!?」

「ついさっき吐血した!!本格的な処置を施さなければ確実に出血多量で死んでしまう!!」

「教官!!お願いします!!麻子を助けてください!!」

「お願いします!!」

 

沙織とナカジマがともに頭を下げた。

蝶野教官は安心させるために笑顔を見せながら自身の胸を叩いた。

 

「任せなさい。人命救助は自衛隊の使命だもの!!」

 

そう言って俺をⅣ号から連れ出そうとしたその時ーー

 

「あのー。なにかあったんですか?」

 

西住の声が外から聞こえてしまった。それにそばに秋山や華がいるのはもちろん、挙げ句の果てに逸見エリカや、西住まほまでいるように感じる。

 

「えっ!?彼女、何も知らないのっ!?」

「麻子の要望だったのだ。彼女には、知らせるな、と。」

「冷泉さん・・・?冷泉さんに何かあったんですかっ!?」

 

気まずそうな雰囲気が流れているなか蝶野教官とシャアは顔を見合わせる。

 

「・・・私が説明する。教官は、早く病院へ。」

「・・・わかったわ。」

 

教官が俺を運び出す準備をしているなか、シャアはⅣ号から降り、西住達と顔を見合わせる。

 

「そこの二人、私が彼女の脇を持つから、引き上げるのを手伝いなさい!」

『わかりましたっ!!』

 

蝶野教官に脇を羽交い締めのように掴まれ、沙織とナカジマに足を持ち上げられるようにしてⅣ号から引き上げられる。

そして、西住達と目があってしまったーー

できれば、彼女だけには知られたくなかったが・・・致し方ないか・・・。

西住達は俺の姿を見ると驚愕といった表情をし、その痛ましさに口を覆うように手を当てた。

 

「嘘・・・・・っ!?冷泉さん・・・?冷泉さんっ!!」

「麻子殿っ!?そんな・・・どうして!!」

 

西住と秋山が揃って俺に向かって駆け出しすように足を踏み出す。しかし、それを阻む者がいた。

 

「待たんか!!二人とも!!」

 

シャアが腕を広げ体を張りながら西住と秋山の前に立ちふさがる。

 

「会長どいてください!!なんで・・・なんで冷泉さんがあんな重傷を負っているんですかっ!?」

「それは・・・。」

「まぁ・・・誇張表現もなしに言えば、運がなかった、と言うべきなのだろうな・・・。」

 

 

全員の視線が言葉を発した俺に集中する。

 

「麻子っ!!それ以上喋るなと言ったはずだぞっ!!」

「いい・・んだ。お前だってどうして私がこうなったのか見当が付いていないのだろう?」

「っ・・・・!!お前という奴は・・・!!」

 

苦虫を噛み潰したような表情のシャアは置いといて、俺は教官に担がれたまま経緯を話すためにⅣ号から降りる。

 

「・・・出血量から鑑みて、少しが限度よ。それ以上はホントに危険なラインに入るわ。」

「・・・すまない。手早く済ませる。」

「冷泉さん・・・!!なんで・・・!!」

「・・・・単刀直入に言うと最後のティーガーⅠの砲撃で元々破損しかけていた操縦席のハッチが破断して、その破片が刺さった。」

「なっ・・・・!!」

 

俺の言葉に西住 まほと逸見 エリカが驚きの表情をする。

 

「そんな・・・!!ありえないわよそんなこと!!だって戦車道で扱う戦車は特殊なカーボンで覆われている!!そんな装甲が破断して、破片が刺さったなんて・・・!!」

「エリカ、彼女が言っているのは、装甲じゃない。操縦席のハッチだ・・・。

操縦席のハッチは他の装甲と比べて格段に薄い・・・。特殊カーボンが施されていたとはいえ、そこにティーガーⅠの高火力の砲撃、しかも至近距離だ。

破断したとしても、無理は、ない・・・。」

 

流石だな・・・。理解が早くて助かる・・・。しかし、そこまで憔悴した表情をされるとこちらとしても後味が悪い。

 

「それで・・・西住。彼女とは、逸見エリカとは仲直りできたのか・・・?」

「はぁっ!?アンタ、何言って・・・!!まさか・・・!!」

「冷泉さん・・・。まさか、私とエリカさんが仲直りするまで、待っていたんですかっ!?そんな重傷を負ったなか・・!!」

「まぁ・・・そうだな・・・。君の決意に水を差す訳にはいかないからな・・・。」

 

彼女が逸見エリカのことを『エリカ』と下の名前で呼んでいるということは、確かに仲直りができたのだろう。そうであれば、俺としては本望だ。

そう思って、軽い笑みを浮かべているとーー

 

「アンタっていう人は・・・・!!!筋金入りのバカなのっ!?」

 

突然、エリカが顔を怒りで染めながら、俺に指を指してきた。

 

「否定は、しないさ・・・。自分の対応がどう考えても、間違えているのは分かっている・・・。だが、いつまでも君たち二人の仲がこじれているのは見るに耐えなかったのでな・・・。」

「っ・・・・!!だったら、自分の命がどうなってもいいってわけなの!?」

「・・・・そこら辺はどうなのだろうな・・・。」

「なら、絶対に生きてなさいよっ!!それくらい、やってみなさいよ・・・!!そうじゃないと・・・せっかくわだかまりが解けたのに後味が悪くなるじゃない・・・・!!」

 

目に涙を溜めながら俺にそう言ってきた彼女。ふむ、思っていたより人に優しくなれるのだな・・・。

 

「冷泉さん・・・!!絶対に、絶対に生きてください・・・!!お願いです・・・!!」

 

そこは、病院の執刀医の腕次第だな・・・。そう言おうとしたが、どうやら体力がかなり限界に近いようだ。

だが、せめて、これだけは彼女に届けたい。息を切らしながら俺はその彼女の目を見つめる。

 

「西住、まほ・・・。」

「な、なんだ・・・?」

「・・・・過ちは繰り返すな・・・。貴方に・・・みほと同じ轍を歩んで欲しくはない・・・。辛いことを一人で抱え込むな・・・。誰にだって甘える相手が必要だ・・・。それは貴方にだって例外では・・・ない。」

「だが・・・私は・・・!!私などに、甘える相手など・・・!!」

「貴方だからこそだ。それだけは言える。貴方のような抱え込むような性格の持ち主は拠り所というか、吐き出す場所が無ければ、すぐに潰れる・・・。」

 

最後に彼女にそれだけ伝えると蝶野教官にお礼の意思を示しながら10式戦車に担ぎ込まれる。

俺を乗せた10式戦車はエンジン音を響かせながら病院へと向かった。

さて、俺も気力を振り絞るとしよう。約束した手前、コロっと死ぬ訳にはいかないからな。

 



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第38話

これでリカバリー効くかな・・・・。


・・・・・・見慣れない天井だ・・・・。

俺が『冷泉麻子』として生を受けてしまった時のことを思い出す・・・。

周りを見るとたまたま点滴の入れ替えをしていた看護師と目があった。

その看護師は俺が目が覚めたのを確認すると忙しない様子で誰かの名前、ーーおそらく主治医だろうーーを呼びながら部屋を出て行った。

 

どうやら、峠は越えていたようだな。

 

 

「まったく!!心配したんだからね!!」

「それは・・・本当にすまなかったと思っている・・・。」

 

目が覚めた俺に最初に降りかかったのは祖母からの怒声であった。

目が覚めたとはいえ、手術をした時の麻酔が残っているのか意識がはっきりしておらず、しばらくボーッとしていると病室のドアを勢いよく開けながら祖母が飛び込んできた。

 

「はぁ・・・。アンタが重傷で倒れたってときは肝が冷えたよ・・・。」

「・・・それは本当にすまなかったと言っているだろう・・・。それで、主治医はなにか言っていたか?」

「そうだねぇ・・・。ひとまず内臓の縫合手術も問題なく済んだらしいし、比較的快方へと向かっているそうだね。ただ、傷跡は残るそうだけどね。」

 

祖母にそう言われ、患者用の服をめくると破断したハッチが刺さっていた箇所には縫合の後が痛々しく残った皮膚が見えた。

まぁ、このくらいで済めばいいほうか。

 

「それと、西住ちゃんたちにはもう麻子が起きたことは伝えてあるからね。

そろそろ来るんじゃないかい?」

「ふむ・・・。そうか・・・・。」

 

そう言われて、何故か妙に嫌な予感がするのは気のせいだろうか・・・?

しばらく祖母と話し込んでいると何やら気配を感じた。

見知ったものだったため多分、西住たちだとは思うのだがーー

数が多い。20どころか、30近くいないか?

待てよ、大洗の戦車道履修者は何人だった?確か、30くらいだったはずだから・・・。まさか、ほぼ全員で来ているのか?

そして、俺の病室のドアが開かれた。俺の予想通りに扉の先には私服姿でそれぞれ思い思いの見舞いの品を持ってきたのか果物や花束など様々なものを手に持っていた。

俺は引っつらの笑みを浮かべながら、とりあえずーー

 

「よく来たな。」

 

手を挙げて元気であることを示した。先頭にいた西住は俺のその様子を見るや否や涙をくずらせ、その目を擦りながらーー

 

「グスっ・・・!!冷泉さーん!!」

 

飛びついてきた。それも思い切り病院のベッドにダイブしてくるような形でだ。

俺は驚きながらもその西住の体をなんとか腕だけで支える。

 

「お、おい西住!!危ないじゃないか!!」

「だってぇぇぇぇ!!だってぇぇぇ!!!」

 

いきなり病人にとんでもないことをさせてきた西住を咎めるが、当の本人は嗚咽を零しながら、俺の胸に顔を埋める。

困った顔をしながら、他の駆けつけてくれたみんなの方を向くと、これまた揃ってみな目に涙を浮かべていた。

・・・うん、まぁ、これでは俺が悪かったと言わざるを得んな・・・。

俺はワンワンと大泣きをしている西住の頭を撫でながら柔らかな笑みを浮かべる。

 

「一番心配していたのみぽりんなんだからね。麻子が病院に送られた後、気が気でなかったみたいで、表彰式でも常に忙しなかったんだから。」

 

沙織の言葉に俺は目の前の西住に申し訳なさが出てきてしまった。

だが、同時にほかのみんなにも迷惑をかけてしまっていたことに関して謝らなければならないな。

 

「みんな、心配をかけてすまなかった。私はこの通り、生きている。」

 

その言葉を皮切りに堰を切ったように俺のベッドの周りに駆け込んできた。

ちょ、ちょっと待て。頼むから一気に来るのだけはやめてくれ・・・。

 

「それはそれとして、西住。私の祖母が目の前にいることは忘れないでほしいのだが・・・。」

 

そういうと西住は顔を真っ赤にしながら飛び起き、そそくさとベッドから降りた。

その間祖母もニヤニヤと妙にいい笑顔でいたのだがな・・・・。

というか、河嶋と小山の姿はあるのにシャアと自動車部の面々の姿がないな・・・・。

 

 

「すまんな、せっかく麻子が目を覚ましたというのに、付き合ってもらって。」

「まぁ・・・行きたいっていう気持ちは山々ですけどね。」

「それで、いきなりどうしたんですか?こんな学園艦の底に連れてきて。」

 

現在、私と自動車部は大洗女子学園艦の艦底部に来ていた。具体的に言うと武部君と一年生達が迷子になった場所より、さらに深い場所だ。

 

「目的は、そうだな・・・。戦力の増強といったところか。」

「来年の全国大会に向けてですか?」

 

スズキが疑問符をあげながらそう尋ねてくる。まぁ、間違いではないがーー

 

「いや、確かにそれもある、が。これは私の所感なのだが、まだ戦いは終わっていないように感じる。」

「まさか・・・!!まだ廃校の話があるんですかっ!?」

 

ナカジマの声が学園艦の中で反響する。その表情は心なしか沈んでいる。

 

「せっかく、せっかく冷泉さんが命を張って守ったっていうのに・・・!!まだ何かあるんですかっ!?」

「・・・すまん、君にとっては辛いものだと思う。だが、文科省の奴ら、役人がそう簡単に廃校の話をなしにしてくれるとは思えんのだ。」

「・・・理由を聞かせてもらってもいいですか?」

 

面倒くさそうに髪の毛を掻き分けながらホシノがそう聞いてくる。

 

「これは、戦車道を復帰させる前の話だ。会長に就任し、三年になった時、私は廃校の話を理事長から聞いた。当然、抗議する意向を伝えたのだが、向こうはこれと言った反応を示してはくれなかった。だが、ある条件を達成すれば考えてくれるという約束だった。それが、戦車道の全国大会で優勝することだった。」

「え・・・。でもそれだと一応条件は達成してますよね?」

「・・・・いい機会だから君たちに教えておこう。役人などポストに就いている奴らの『考えておく』というフレーズはほとんどの場合、反故にされる可能性が大きい。」

「それってズルくないですか?約束は約束ですよね?」

 

不服といった様子でナカジマが不満げな表情をする。

君のいうことももっともだが、大人というのはそう都合よくは動いてはくれんのだよ。

 

「・・・実はというと、その約束事は正式な書面上でなされていないのだ。つまり、向こうが所詮は口約束としらばっくれてしまえば、まかり通ってしまうのが現状だ。」

「そんな・・・!!私たちの戦いは無駄だって言うことなんですかっ!?」

「無駄にはならんさ。いや、無駄にはさせないといった方が適切か。何も優勝校を廃校にさせるなどという暴挙を行おうとするのだ。必ずどこかしらに綻びが生じる。そこを搦め手でやらせてもらう。」

 

 

ある程度進んでいくと目的の代物がある区画へとたどり着く。

暗くてしっかりと目を凝らさなければ見えづらいが、そこにあるのはもはや見慣れてしまったものであった。

 

「これ、戦車・・・ですか?」

「ああ。そうだ。君たちにはコレのレストアを頼みたい。役人どもがいつ手を下してくるか分からんからなるべく迅速にやってほしい。できるか?」

「・・・・一つだけ、約束してください。」

「・・・・なにかね?」

「絶対に廃校を取り消し、もしくは何かしらの条件付の約束を取り付けて来てください。」

「・・・そちらは任せておけ。ああいうタイプには慣れている。ああ、それと、これは余談なのだが、この前戦車道の規定を熟読したのだがモーターに改造を施してはいけないなどというルールは明記されていなかったな。」

 

それを言うと自動車部の面々が目を輝かせながらこちらを振り向いた。

 

「あの、それ、ポルシェティーガーにやっていいですか?」

「ああ。存分にやるといい。できればこちらの戦車のエンジン周りもいじってほしいものだが、流石にそれは禁止されているからな・・・。まぁ、ヤツならなんでも乗り回すか。」

「ヤツって・・・。えっ、まさか?」

「そのまさかだ。というより、こんな無茶苦茶な話を聞いて、ヤツが動かんはずがない。」

「・・・・あの人って結構自分のこと、省みないんですか?」

「・・・どうだかな・・・。まぁ、割とあるかもしれんな。多少の無茶など気にも留めんヤツだからな。」

 

私が微妙な顔をすると自動車部のメンバーも揃って困った顔をしていた。

 

 

 

「・・・・疲れた。」

 

疲労感から思わずベッドに埋もれるように体重を預ける。

その俺の様子に祖母は表情を柔らかいものに変えている。

 

「まぁ、いいんじゃないのかい?麻子が好かれているという何よりの証拠じゃないか。」

「それは有り難いものなのだが・・・。」

 

俺は、西住が飛びついてきたあと、みんなから色々と言いたいことがあったのかそれぞれのチームからお説教のようなものをしこたま受けてしまった。

一番長かったのは西住達あんこうチームで次点でそど子達カモさんチームだった。

説教に次ぐ説教で俺の精神はノックアウト寸前だ。特に梓達ウサギさんチームに泣きながら色々言われたのもかなり堪えるものがあった。

 

しばらくベッドに寄りかかっていると病室のドアを開く音が響いた。

なんだ・・・?まだ何かあるのか・・・。できることなら勘弁してほしいのだが・・・。

そう思いながら扉に目を向けるとそこに立っていたのは予想とは全く異なる人物達であった。

 

「冷泉さん?具合の様子はいかがですか?」

「ん?ダージリンか。わざわざ来てくれたのか。」

「友人が入院したと聞いて、見舞いに来ない訳がないですわ。」

 

やってきたのはダージリン、オレンジペコと・・・アッサムだったか?とりあえず、聖グロの面々であった。ただ、オレンジペコとアッサムが死んだ顔をしているのが妙に気になったが。

彼女らの代名詞である紅茶の入ったカップは流石に病院で飲むわけにも行かないのか、手にはしていなかったが。

ダージリンは俺の祖母を見かけるとお嬢様らしく一礼してから自己紹介を始めた。

 

「お初にお目にかかります。わたくし、聖グロリアーナ女学院の隊長を務めさせておりますダージリンですわ。」

「・・・麻子が世話になっているね。しっかし、麻子や。いつのまにお嬢様と仲良くなったのやら・・・。」

「まぁ・・・向こうから交流を持ってきたというのが正しいがな。」

「ふふっ。それはそれとして、見舞いの品ですわ。」

 

ダージリンは俺に箱に詰められた何かを手渡してきた。

 

「これは?」

「わたくしが腕によりをかけてつくったスターゲイジーパイですわ。」

 

・・・・・ちょっと待て。スターゲイジーパイってあの魚の頭が突き刺さった見るからに地雷のイギリスの伝統的な汚料理か?

俺は唾を飲み込みながらその箱を開けると、パイ生地に突き刺さった魚の頭が開けた蓋の隙間から覗かせた。

俺はそれが見えた瞬間そっと蓋を閉じ、誇らしげに胸を張っているダージリンーーをスルーして背後に立っているオレンジペコとアッサムに無言で視線を向ける。

 

(・・・・すみません・・・。止めたんですけど・・・。)

(力及ばす、と言った具合です・・・。本当に申し訳ないです・・・。)

(・・・・そうか。君たちは悪くない・・・。悪いのは、よりによってこれをチョイスしたダージリンだからな。)

 

今、二人と通じ合えた気がする。アイコンタクトだけで彼女らが何を言っているのかわかった気がする。

 

「まぁ・・・ありがとう。後で食べておくよ・・・。」

「そう。お気に召したようで何よりですわ。それではわたくし達はこれで。後続がつかえていますので。それでは。」

 

うん。お気に召したとは一言も言っていないのだが・・・。

どう考えても今の俺は死んだ目をしている気がするのだが・・・。

ん?待て、後続がいる・・・だと?

 

最後に一つ礼をしてダージリン達が病室を後にすると、次に入ってきたのはーー

 

「HI!!マコー!!元気してるーっ!?」

 

勢いよくダージリン達が出て行った扉から入ってきたのはアメリカ風のジャケットを羽織ったケイ達サンダース組であった。

変わらずのハイテンションぶりだな・・・・。

 

「貴方がたも来ていたのか・・・。」

「まぁ・・・成り行きと行った具合かな。君たちが今まで戦ってきた相手校の隊長格がみんな来ているからね。」

 

ケイのそばにいたベリーショートでボーイッシュな印象を持っていた女性、ナオミの言葉に俺は目を見開く。

 

「全員・・・?プラウダや黒森峰からもか?」

「ええ、来ているわよ。なんなら全員呼んでくる?」

「あ、ああ。」

 

なし崩しのように答えてしまうと、ケイは病室の外に一旦出て行った。

程なくして再び病室に戻ってくるとプラウダのカチューシャとその彼女を肩車しているノンナ。

そして、黒森峰の西住 まほと逸見 エリカが入ってきた。

 

「ちゃんと生きてるのね。」

「開口一番にそれか・・・。まぁ、とりあえず、だな。」

 

病室に入るなりそんなことを言ってきた逸見に対して、俺は笑顔を向ける。

悪態はつかれてしまっているが、彼女の言葉に刺々しいものは感じず、朗らかなものを感じる。

ただ、そんな逸見のそばにいるまほからは妙に暗いオーラがにじみ出ていた。

 

「・・・その、傷跡はどうなんだ?」

「どう、と言われても、な。私には専門的な医療知識がない以上、みてもらった方が早いと思うのだが・・・。」

 

まほからそう言われるが俺は言葉を濁しながらカチューシャとノンナの方を見る。視線を向けられたカチューシャは疑問げな表情を挙げていたが。

 

「その、ノンナ。カチューシャに見せても大丈夫か?」

 

親代わりであるノンナに聞こうとしたが、カチューシャに俺が子供扱いしているのを悟られたようで、不満げな顔をされてしまう。

 

「もう!!カチューシャを子供扱いしないでよね!!普通だったら25ルーブルくらいシベリアへ飛ばすけど、カチューシャは大人だから今回は見逃してあげるわ!!」

「カチューシャがそう言っているので、気にしないでください。仮に気分を悪くしたのであれば、私が勝手に退室させておきますので。」

「・・・わかった。とはいえ、あまり見せびらかすものではないがな・・・。」

 

そういいながら、カチューシャからの承諾を得た俺は患者服を捲り上げて、傷跡を見せる。

縫合として縫った糸が傷の痛ましさを助長してしまっているだろうな。

 

「Oh・・・・。何にも言葉が出ないわ・・・。」

「これは・・それなりに深く行ってないか?」

「何針刺してんのよ・・・これ。」

「う・・・中々エグいわね・・・!!」

「カチューシャ、大丈夫ですか?」

「大丈夫・・・。だけど、特殊カーボンに覆われているのにこんな風になったの?」

 

カチューシャからの疑問に俺は困った顔をしてしまう。これには込み入った事情があるため、できれば話したくはないのだが・・・。

 

「まぁ、こちらの整備不良だな。元々ハッチが破損していてな。そこに運悪くティーガーⅠの砲弾が当たり、あとはお察しだ。」

「ちょっと待って!!貴方、そのケガをした時すぐにはミホーシャには伝えてなかったってことっ!?」

「ええ、そうよ。だから私はコイツのことを筋金入りのバカだって行ったのよ。この馬鹿は私がみほと仲直りするまで乗員にも告げずに刺さったハッチをそのままにしていたのよ。」

 

俺が答えようとしたが、逸見に先に言われてしまう。

おい、俺が馬鹿なのは認めるが、乗員には言っていたぞ。沙織にだけだがな。

 

「まぁ・・・麻子が元々そういう子だと言うのはわかっていたけどねぇ・・・。」

「えっ!?おばぁさん。マコーシャって元からそういうことばかりしていたの?」

 

祖母の呟きにカチューシャが驚きの表情をしながら尋ねた。

というか、その○○ーシャという呼び方、俺にも付いていたのか。

 

「昔から自分のことは割と二の次な子だったよ。十七年この子を見続けたけど、一度たりとも自分を優先する、なんてことはなかったねぇ・・。」

 

祖母の言っていることは最もだ。まぁ、何というか、中身が大人なわけだからな・・・。自然と年下に関しては見守らなければならないみたいな、一種の責任感のようなものを覚えてしまう。

 

「つまり、マコは自分を一切省みないってわけね。流石にそれは少し反省が必要らしいわね・・・。」

 

ケイのその言葉を聞いた瞬間、他の面々、正確にいうとまほ以外の人たちの雰囲気が変わった。

具体的に言うと西住達に受けた説教と同じような感じの気配だ。

 

「・・・・・・。」

 

俺は嫌な汗をかきながら、せめてもの抵抗で医療用ベッドの布団を頭まですっぽりと被る。我ながら情けない姿だ・・・。

 

「逃すかぁ!!」

「お、おい!!説教はもうこりごりなのだがっ!?」

「みほを悲しませたから言語道断よっ!!潔く説教を受けなさいっ!!」

 

逸見に布団を剥ぎ取られ、身を隠すものがなくなってしまう。

その後はお察しで再び説教を受けてしまった。勘弁してくれ・・・。

 

 

 

「あの・・・・。」

「ん?なんだい?」

 

彼女が各校の隊長格の人物やエリカに怒られている間に私は彼女の祖母に話しかけた。

彼女がいくら怒っている様子がないとはいえ、家族であるこの人が怒っていないとは限らない。

 

「その、私は彼女を怪我させたティーガーⅠの車長の西住 まほといいます。」

「西住・・・?西住ちゃんと姉妹かい?」

「そう・・ですね。一応、私が姉です。その・・・彼女を怪我させたのは私の所為でもあります。だから、その。申し訳ありません。」

 

私は彼女の祖母に対して、頭を下げた。

許されなくても構わないが、最低限、謝っておかねば、私の気が済まない。

最悪、どんな罵声でも甘んじて受けるつもりだったがー!

 

「顔を、上げてくれないかい?」

 

彼女の祖母からそう言われ、私はゆっくりと顔を上げた。

怒りの表情をしていると思っていたその表情には彼女と同じように怒りの表情は見られなかった。むしろ優しそうな表情をしていた。

 

「まぁ・・・普通であれば、孫を傷つけられたから怒るべきなんだろうけどね。

ここでアンタを怒ることは何より怪我を負った麻子自身が望んでいないことなんだと思うのよ。アンタ、麻子にはしっかり謝ったんだろうね?」

「う・・・。すみません。その時は気が動転していて、正直に言ってしまうと、まだです・・・。」

「ハァ・・・。状況が状況だったと言ってしまえばそれまでだけどね。とりあえず、怪我を負った時、アンタに麻子は怒っていたかい?」

「い、いえ。むしろ、こちらに気を遣ってくれていました・・・。」

 

私がそういうと彼女の祖母は再度、ため息を吐いた。だが、その表情には呆れのようなものもあったが、微笑んでいるように見えた。

 

「まぁ、さっきも言ったけど、そういう子なんだよ。あの子は。いくら自分が怪我を負わされたとしても絶対にその怪我を負わせた相手を怒ったりしないのさ。

無論、当時は私だってそりゃあ怒りはしたさ。唯一の家族だからね。でも、そんなあの子を見ている間に変わっちゃったのさ。」

「変わった、ですか?」

「そう。あの子が人を咎めはしても絶対に怒ったりしないのは、憎しみとか、そう言った感情を下らないって思っているからさ。まぁ、そもそもかなり大人びているっていうのもあるかもしれないけどね。全く、どこでそんな風になっちまったのかねぇ・・・。」

 

困り顔の彼女の祖母を置いて、私は視線をまだ説教を受けている彼女に向ける。

憎しみといった感情は下らない・・か。これでは、思いつめた表情でここにきた私が馬鹿みたいじゃないか。

 

「だから、アンタもそんなしけた顔なんかしないで笑顔を見せなさいな。どんな性格なのかは知らないけど、西住ちゃんと同じくらい顔はいいんだからね。」

「・・・はいっ!!」

「あ、でも、しっかりと麻子にガツンと言ってやっても構わないからね。相手に怒りを撒き散らさないのはいいとして、周りの心配を無下にしたのは頂けないからね。」

「お、おばあさん・・・。ものすごく悪い顔してますけど・・・。」

「孫の今後を心配して何が悪いんだい?ほら、アンタも言いたいことがあるなら加わってきな。」

「ほ、ほどほどにしておきますね・・・。」

「麻子はあれくらいで潰れたりはしないよ!」

 

彼女の祖母からの後押しを受けて、私も彼女の説教の列に加わった。

まぁ、私も色々と後になってから言いたいことがあったからな。

だが、まずは謝らなければならないな。

 




とりあえず、色々な意見もありましたが、頑張っていきたいと思います。

12/11

自分が戦車についての知識ロールが致命的失敗してたのでシャアと自動車部の辺りを大幅修正しました(白目)


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第39話

今回は少なめです。
さて、そろそろ劇場版ですね・・・。どう選抜チームを調理してやりましょうか・・・。(暗黒微笑)


「暇だ・・・・。先ほどまで飽きるほど説教を受けていたにも関わらず、それがいざ終わってしまうと、味気ないと感じてしまうほどに暇だ・・・・。」

 

各隊長からーーそういえば、思い返してみればアンチョビだけいなかったがーーとりあえず身が縮こまる思いで説教を受けた。

ただ、特にまほなんだが、彼女に関しては笑顔を浮かべながら説教されたため、怒っているのか、笑っているのかはっきりしなかった。

あれか、彼女は実は真性のサディストなのか・・・?

まぁ、それは置いといて、先ほども行った通り、現在俺はかなり暇を持て余している。

溜まりに溜まった見舞いの品を減らそうにも主治医から固形物はまだ口にしないでほしいと釘を刺されているため、それは叶わない。

祖母も帰ってしまったため、病室には誰もおらず、外から聞こえるカラスの鳴き声だけが今の時刻が夕暮れという哀愁漂う空気を余計に増幅させる。

どうにかして暇を潰そうと模索していると、病室の扉が開かれた。

他に来客があっただろうか?あるとすればアンチョビ辺りだと思いながら扉の方に視線を向ける。

そこいたのは薄緑色のドリルヘアーをしたアンチョビではなくーー水色のジャージに身を包んだ三人組と茶色い軍服のようなものを着用した人物であった。無論、面識はない、はずだ。

まさか初対面の人という想像もしていなかった人物の来訪に俺は少しの間言葉を失ってしまう。

 

「・・・・誰だ?君たちは。」

「ほ、ほらぁ・・・。やっぱり帰ろうよ、ミカぁ・・・。すっごい変な目で見られてるよぉ〜・・・・。」

 

ブロンド色の髪を二つ結びでおさげにしている女の子が隣の『ミカ』と呼ばれたジャージと同じ水色のチューリップハットを被り、何故かカンテレ、だったか?それを軽く爪弾いている女の子に詰め寄る。

しかし、そのミカという女の子は表情を崩すような素振りは見せず、手にしていたカンテレを軽く爪弾くとーー

 

「周りの視線など、それほど大事なものなのかい?」

 

・・・・コイツ・・・厚かましいと思う。

冷めた目を向けていると、隣にいた茶色い軍服のようなものを着た女の子が敬礼をしてきた。

 

「突然の訪問、申し訳ありません!!自分は知波単学園、戦車隊隊長を務める『西 絹代』と申します!!此度の大洗女子学園の優勝、誠に素晴らしきものでした!!」

「中々肝が座っているねぇ〜。それじゃあアタシも便乗しようかね。継続高校のミッコだよ。よろしく。」

「えっと・・・同じくアキですぅ・・・。その、突然押しかけてしまってごめんなさい・・・。」

「私は『名無し』だよ。どうしても呼びたければ、ミカだ。」

 

俺は名乗ってきたアキという女の子に視線を向ける。この子からは苦労人オーラが出ているように感じる。

俺はこの押しかけ人たちをどうすればいいんだ?

 

「・・・冷泉 麻子だ。それで、こんな怪我人に何の用だ?」

「いえ、私自身は挨拶程度と軽いお見舞い品をお届けするだけだったのですが・・・。継続高校の皆さんとバッタリと。」

 

バッタリと、か。そもそもこの子たちはどこで俺の病室の番号を・・・?

少し尋ねてみるか、俺のプライバシーにも関わるからな。

 

「そういえば、どこで私の部屋番号を聞いたんだ?」

「ああ、これは失礼しました。こちらが一方的に知っているだけで確かに冷泉殿と私は初対面ですね。大洗女子学園の会長である角谷 杏殿から教えて頂きました。」

「風に誘われてね。それと、そこのお見舞いの食材たちが囁くんだ。私に食べてほしいってね。」

 

ふむ、この知波単学園の隊長は大丈夫だな。しっかりと合法的な手法を取ってきている。

まぁ、シャアのヤツから連絡の一つくらいはよこせと言っておきたいが今は置いておく。

問題はこっちの継続高校の方だ。・・・・・・・・・コイツ、厚かましいってレベルではないな。厚顔無恥の『こ』の字も知らないな。

なんだその身も蓋も無い理由は。だが、それとそれはして、少々どうしようか迷っていた代物があったからな。

よし、ならコイツに悟られないようにやるか。

 

「・・・・要するにお見舞いの品をたかりにきたわけだな?」

「たかりに来た訳じゃないさ。食材たちの声を聞いただけさ。」

「言葉の綾だな。そもそも、何故たかりに来たんだ?」

 

 

俺とミカの間に何やらただならぬ雰囲気を察したのか、表情を慌てているものに変え始めたアキを見る。彼女にはすまないが、理由を聞くまではこちらとしても引くに引けん。

少しの間飄々とした態度をとっているミカを睨んであるとーー

 

グゥゥ〜

 

と、中々間の抜けた音が響いた。音の発生源を辿っていくと、お腹をさすっているミッコの姿があった。

 

「・・・・・単純にお腹が空いていたからきたのか?しかし、飲食店もあるはずだが・・・。まさかとは思うがそういったのを買う金もないのか?」

「うう・・・・そうなんです・・・・。」

 

顔を赤らめながら恥ずかしそうにするアキの様子を見て、俺は困った顔をしてしまう。

まったく、そんな理由であれば最初から素直に言えばいいものを・・・。

仮にそうしていたとしても最初はいい印象は受けないがな。

 

「まぁ・・・、色々もらいすぎてどうしようか困っていたのは事実だからな。

渡してくれた人には申し訳ないが、そのまま捨ててしまうというのはさらに申し訳ない。しょうがないから少しやるよ。」

「えっ!?いいんですかっ!?」

「ああ。だが、今回だけだからな。普通はいきなり現れて見舞いの品をたかりにきた奴など、相手にするのも面倒だがな。」

「あ、あはは・・・。本当にごめんなさい・・・。」

 

頭を下げているアキを置いておいて、俺は適当な見舞いの品を探す。

まぁ、ミカにあげるのはこれで確定だとして・・・。

適当に果物などいいか。どういうのがあったかな・・・・?

 

「知波単学園の隊長はどうする?持っていくか?」

「アハハ・・・・私は結構です。彼女らほど食に飢えている訳ではないので・・・。」

 

微妙な顔をあげる彼女の様子を見て、それが普通だろうなと思いながら見舞いの品の選定をする。

とりあえず、アキとミッコには果物の類でいいか。贈り物としてもらった果物のバスケットの中身を適当に入れ替えながら二人に手渡す。

 

「ええっ!?いいんですかっ!?こんなに貰ってっ!?」

「ああ、気にすることはない。さっきも言ったが来た理由はどうであれ、この量は流石に私一人では持て余してしまうからな。」

「へぇー、結構気前がいいんだね、アンタ。」

「正確に言えば食べられないといった方が正しいな。主治医から固形物は止められているんだ。」

「確か、大腸辺りを怪我しているんでしたっけ?」

「ん?そこまで情報が出回っているのか?」

「ええ、そうですね。今回の一件は戦車道界隈でかなり話題になっています。なにせ安全を謳っている特殊カーボンで防護されている乗員が重傷を負ったのです。今回の一件を鑑みて、戦車道大会の運営委員会は救護班の設置や第三者による試合前の戦車の点検を考えているそうですよ。」

 

アキの発言に俺がそう尋ねると西がそのように答えてくれる。

何というか・・・。今更感が否めんな・・・。前回の全国大会の時点で置いておくという考えはなかったのだろうか・・・。

そう考えていると病室にカンテレの音が響く。どうやらまたミカが弾いたようだ。

 

「この世に絶対なんて言葉は存在しない。それは歴史が何回も証明してきた。どうして人間は同じことを繰り返すんだろうね?」

「それはそうだが、ここは公共施設だぞ。綺麗な音色だが、あまりのそのような音は鳴らさない方がいい。」

「それはそれとして、私にはまだかい?」

 

・・・・本当にマイペースな奴だな・・・・。

まあ、それは置いておいて、俺はため息をつきながらミカに白い箱を手渡した。

 

「これは、なんだい?」

「パイだ。手作りで作ってくれたのはありがたいが、先も言った通り、今の私は固形物がダメな身でな。食べられない私より食べたいと思っている君の方がいいだろう。食材の声が聞こえるのであれば、大方そう言っているんじゃないのか?」

「ふふっ、そうだね。このパイは私に食べてほしいと言っている。そう言われてしまえば、食べないわけにはいかないね。」

「なら、残すなよ。まぁ、お腹がすいてるのであれば残すはずもないか。」

「それじゃあ、私たちはそろそろ行こうとしよう。アキ、ミッコ、帰ろうか。」

「その、ありがとうございました!」

「じゃあ〜ね〜。」

 

俺が挙げた箱と果物のバスケットを大事そうに抱えながら継続高校の面々は帰っていった。

 

「ふぅ・・・・まさか初対面の奴に物をねだるとはな・・・。」

「あの・・・先ほどの箱、何が入っていたんですか?」

「パイなのは確かだ。そこについては嘘は言っていない。」

「あ、やはり嘘が含まれていましたか。」

「そうだな・・・。イギリスの食べ物はいくつか知っているか?」

「いえ・・・申し訳ありませんが、そういった外国の料理には疎くて・・・。」

「あの中に入っているのはスターゲイジーパイという料理なのだが、ざっくりというと魚の頭が突き出たパイだ。」

「・・・・・・はい?」

 

まぁ、何も知らなければそういう反応をするのが普通だな。イギリスの食文化は色んな意味で独特だからな。うなぎゼリーやスターゲイジーパイはその一例だ。

・・・フィッシュ&チップスなどちゃんと食べられるものもあるがな。

 

 

「グフぅっ!?」

「・・・・おーい、ミカー?大丈夫ー?」

「ふふっ・・・なんて声、出してるんだい・・・ミッコォ・・・!!」

 

あ、これ面倒くさいことになる奴だ。あの人から貰った魚の頭のぶっ刺さったパイをミカが口に入れた瞬間、吹き出した。

思わずパイの方を見ようとすると、これでもかと言うほどの匂いがそのパイから溢れて出ていた。

これは・・・紅茶の匂い・・・?ということは、これって聖グロの誰かの手作りってことだよね・・・?

一体誰なんだろう・・・ミカにあんな表情をさせるほどの劇薬を作る人は・・・。

 

「だからね・・・止まるんじゃないよ・・・!!」

 

一回ミカはああいうひねくれた言動を辞めた方がいいと思うんだ。うん。

多分、普通に言っていれば普通のをくれたと思うよ。あの人。

 

「で?味はどうだった?」

「・・・・殺人的な不味さだよ・・・!!クフっ。」

 

あ、ミカが落ちた。本当に死ぬほど不味かったんだね。

 

 

 

 

「っ!?今誰かがわたくしの料理の腕を褒めてくださったような声が・・・・!?」

「それだけは絶対にありえませんね。」

「ええ、むしろ何故紅茶をとりあえずありったけぶち込んだパイが何故美味しくなると思っているんでしょうね?」

「ねぇ、二人とも最近私に対して辛辣すぎじゃないかしら?」

 

 

 

次の日、朝起きるとそれほど時間を経ずに病院で支給される流動食を食べている。

何というか・・・。味気ないな・・・。まぁ、医者から止められている以上固形物を摂取するわけにはいかないがな。

その流動食を完食し、華が見舞いとしてくれた生け花を暇潰しとして、見ていると病室のドアが開いた。

誰が来たかは気配で分かっていた。

 

「だいぶ、暇を持て余しているようだな。」

 

現れたのは私服姿のシャアであった。奴にしては比較的ラフな格好だが、時刻はまだ10時を回った辺りだ。シャアが置いてあった椅子に座ったところで俺は奴に気になっていたことを尋ねた。

 

「学校じゃないのか?」

 

俺がそう質問すると奴は椅子の上で腹を抱えて笑い始めた。

俺が訳がわからないといった表情をしているとーー

 

「すまんすまん、お前の質問があまりに滑稽すぎてな。今日は土曜日だぞ。学校は休みだ。」

 

シャアにそう言われて、俺は初めて自身の時間感覚が狂っていることを自覚する。

まったく。病院内では変わらない日々を繰り返しているからか今日が何曜日だかを忘れてしまう。

 

「それで、最近はどうなんだ?みんなの様子は。」

「そうだな。お前がとりあえず一命をとりとめたことに安堵したのか、チーム全体の上の空といった雰囲気はなくなったな。」

「そうか。それはそれで良いのだが。ところでⅣ号は誰が動かしているんだ?」

「柚子に任せている。お前が戻ってこれない間に中々面白い試合の要請があったからな。」

 

そうか、小山に任せているのか。それはそれとして面白い試合とは一体何のことだろうか。

 

「簡単に言えば、大洗・知波単連合と聖グロ・プラウダ連合のエキシビションだ。」

「4つの学校でまとめて試合をするのか。それも合同チームを組んでか。」

「まぁ、私は出れないがな。操縦手にまわっても構わんがヘッツァーの砲手を桃に任せるわけにもいかんからな。」

「・・・・仕方ないか。砲手はずっとお前がやっていたからな。そういえば昨日知波単の隊長が来ていたな。いきなり来たから驚いたぞ。」

「ああ、そういえば彼女から教えてほしいとの連絡が来ていたな。彼女の性格から教えても問題はないと思ったが・・・。」

「まぁ、今となっては別にいいがな。ただ、連絡の一つくらいは寄越してほしいものだ。」

 

その後はお互いに和やかなムードで話し合いながらシャアは帰っていった。

その日はあとはこれといった来客は祖母以外は特になくしばらくは暇な日時を過ごした。

転機が訪れたのは、時期的にシャアが先ほど言っていたエキシビションが終わったほどの頃であった。

いつもみたいに暇を持て余しているも突然傍らに置いてあった携帯のバイブ音が響いた。

何事かと思って携帯を開くと、そのには西住からのメールが一通届いていた。

題名は『どうしよう』

妙な胸騒ぎがした俺はそのメールを開いた。そこにはとんでもない内容からが記されてあった。

 

『どうしよう。冷泉さん・・・。エキシビションが終わって学校に戻ってくると校舎に立ち入り禁止のテープが貼られてあって・・・。

そこにいた役人さんから大洗は8月31日をもって廃校するって言われて・・・。

私たち、どうすればいいの・・・?』

 

 

「大洗女子学園が・・・!!廃校だと・・・!!」

 

俺はその内容にただただ驚くしかなかった。

 




「すまない。角谷 杏だ。」
「急な頼みだが、やってもらいたいことがあるのだ。君に頼んでも構わないかね?」
「やってもらいたいことはーーーーーだ。」
「ああ、手段は問わんよ。こちらで、なんとか誘導はしておくが、大方勝手に出てくるだろうな。」
「そういう奴なのだよ。アイツはな。」


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第40話

西住からのメールを見た俺はすぐさま電話をかける。相手はもちろん、シャアだ。

何回かコールした後に携帯からシャアの声が聞こえる。俺は間髪入れずに携帯に向かって叫んだ。

 

「シャア!!いったいどういうことだ!!大洗が廃校になるなど聞いていないぞっ!!全国大会で優勝すれば廃校の取り決めはなくなるんじゃなかったのかっ!?」

『お前の言いたいことはよくわかる。だが、文科省の奴らはどうやっても大洗を廃校にしたいらしい。』

「どういうことだ?」

『元々廃校は来年の3月末の予定だったのだ。だが、文科省の役人どもが、それでは遅すぎるとして、急遽8月31日に廃校になることが決まってしまったのだ。』

「約束を反故にしているじゃないか!!そんな勝手が許されるのかっ!?」

『・・・・実を言うと約束は書類上でなされておらんのだ。向こうが適当にしらばっくれれば、通ってしまうのが現状だ。』

 

シャアのその言葉を聞いて、俺はベッドに脱力しながらもたれかかる。

くそっ・・・!!それじゃあ俺たちは何のために・・・!!

・・・そういえば、シャアは廃校の事実が伝えられたにもかかわらず落ち着いているな・・・。

 

「そういえば、妙にお前は落ち着いているように見えるが、何か策でもあるのか?」

 

俺がそう尋ねると携帯の向こうからシャアのフッ・・・という軽い笑みが聞こえた。

 

『流石だな。無論、ただで終わるつもりは微塵もない。こちらでもあらかじめある程度の対策はしてある。すまんが、電話を切っても構わないか?そろそろ来るはずなのだが・・・。』

「来るって・・・何のことだ?」

 

その質問をした瞬間、携帯から何かのエンジンの噴出音が聞こえてきた。

これは・・・飛行機か?

 

『我々の戦車を一時的にサンダースの輸送機に預ける。紛失した、という形でな。』

「そうか・・・。廃校になる以上、学校に戦車を置いておくわけにはいかないからか。」

『そういうことだ。だが、私はしばらくこれから忙しくなる。電話に出ることは難しくなるが、これだけは約束する。必ず何かしらの条件を取り付けてくる。』

「・・・・わかった。お前を信じるよ。」

 

そういい、俺はシャアとの通話を終えた。

・・・・俺は、西住達のために何ができる?まだできることがあるはずだ。

 

 

 

 

 

「ふぅ・・・・。さて、まずはケイ達に礼を言わねばならんな・・・。」

 

アムロとの通話を終えると、サンダースの所有する輸送機、『スーパーギャラクシー』から降りてきたケイ達に向かって、手を振る。

それに気づいたケイはこちらに向けて、笑顔で手を振り返してくる。

 

「さて、自動車部。アレのレストアは済んでいるな?」

「もちろんですよ!!アレを持っていかないわけにはいかないからね!!」

 

ナカジマからの報告に笑顔を浮かべながら、例の代物を持ってくるように指示を出す。すると、西住君が不思議そうな視線を私に向ける。

 

「あの、会長。アレとは・・・・?」

「そうだな・・・。今にわかるさ。」

 

自動車部が向かった戦車倉庫に視線を向けるとその方角から聞き慣れた駆動音が辺りに響いた。

戦車の駆動音だ。そして、我々の最終兵器が戦車倉庫から姿を現した。

 

「あ・・・・あれはっ!!」

「せっかく見つけたのでな。持っていかない訳にはいかんだろう。」

 

全員の視線がその戦車に注がれる。まぁ、無理もないか。

さて、最初で最後の一働きをしてもらうぞ。お前がその名を冠するのであれば、私はお前のその名に恥じぬ戦いぶりをするとしよう。

なぜなら、私はかつて『赤い彗星』と呼ばれていたのだからな。

 

 

 

 

戦車をケイさん達のスーパーギャラクシーに預けた後、家に戻った。

はっきり言って、帰ってくる時の足取りは重かったと思う。せっかく廃校から救うために冷泉さんやみんなが頑張って優勝したのに、現実としては学校には立ち入り禁止のテープが貼られ、明日の朝には船を降りて、転校手続きが済むまでの仮の宿舎に移動させられる。

 

(みんなの努力は全部無駄だったの・・・?)

 

部屋に着くと電気もつけずに布団に倒れこんだ。正直言って何も考えられない。

そのまま睡魔に任せようとした瞬間、携帯が鳴り響いた。

こんな時間に誰だろう、そう思いながら携帯の画面を見る。そこにはーー

 

「冷泉さん・・・!?」

 

思わず飛び起きて携帯の通話ボタンを押して、通話口を耳にあてる。

 

「もしもし・・・!?」

『こんな夜分にすまないな。寝るところだったか?』

「う、ううんっ!!ちょうど部屋に帰ってきたところだから。」

 

嘘は言っていない。でもびっくりしながらだったから、人の気持ちに聡い冷泉さんには筒抜けかもしれない。

 

『会長から廃校に関しての詳しい話を聞いた。到底納得できるものではないな。』

 

もちろん、私だってそう思っている。でも、私たちが素直に従わないと学園艦に住んでいるみんなの迷惑になっちゃう・・・。あんなことを言われてしまえば、もう指示に従うしかなかった。

しばらくお互いに通話を続けたまま押し黙ってしまう。

 

『そうだな・・・・・。会長の様子はどんな感じだった?』

 

静寂を打ち破ったのは冷泉さんだった。会長の様子はどうだったという質問の内容に私はその時の会長の様子を思い浮かべた。

そういえば、廃校を告げられた割には表情に暗いものはなかった。今になってみれば自動車部もだったが、もしかしたらあらかじめ予想していたのかもしれない。

会長のことだから、もしかしたら、もある。

 

『・・・・会長は会長でまだ諦めていない。アイツは必ずきっかけを持ってくる。その時、アイツがもたらしたわずかな希望を使って大洗の、みんなの未来を切り開くのは君の役目だ。』

 

会長がまだ諦めていない・・・。そうだよね。そうじゃなければ、戦車を紛失届けまで作って手元に残すはずなんてない。

それにサンダースのアリサさんが言っていた。戦車道を続けなさいって。

 

『君のなすべきことを見失うな。まだ可能性は潰えたわけではない。こんな怪我人の言葉では大した激励にもならないだろうが・・・。』

「ううん、そんなことないよ。・・・・いつもありがとう。冷泉さん。私、やるよっ!!」

『そうか・・・。だが、会長がそのきっかけを持ってきたとしてもかなり厳しい道のりになる。いつも以上に苦境が待ち構えている可能性が高い。』

「大丈夫です。みんながいれば絶対に・・・!!」

『・・・・無理はするなよ。』

「それ、冷泉さんが言うんですか?」

『・・・・ぐうの音も出ないな。』

「・・・・あの、冷泉さん……」

『どうかしたか?』

 

冷泉さんを呼び止めたところで私は次の言葉を詰まらせてしまった。

冷泉さんも居てくれたらいいな、そう言おうとしたが、今の冷泉さんは怪我人だ。到底戻ってこれるはずがない。私は冷泉さんに何を不躾なことをしようとしているんだろう。

私は出し掛けた言葉を飲み込んで冷泉さんになんでもないと伝えた。

・・・・本当はいてほしい。そばにいてくれるだけで、心の支えになるから。不安で押しつぶされそうになった時も何回も冷泉さんの背中を見ていた。この人なら絶対になんとかしてくれるって。そう自分に言い聞かせながら、ここまで来た。

でも、いつまでも甘える訳にはいかない。今度は私が冷泉さんを引っ張るんだ。

 

 

 

 

 

「さて・・・・行くか。」

 

翌朝、操船に最低限の船舶科の生徒以外誰もいなくなった大洗女子学園艦を見送ったあと、バスに乗って仮宿舎へと向かう。生徒の人数が多いため仮宿舎はいくつもあるが、戦車道履修者はなんとか一箇所に集めることはできた。

私は仮宿舎である程度の業務を終えると、荷物をまとめ始める。

役人どもに条件を取り付けさせるためだ。

 

「あの・・・会長。本当に行くんですよね?」

「ああ。もちろんだとも。まさか大洗は廃校になってもいいというのかね?」

「い、いえ!!そんなことは一切ありません!!」

 

桃の慌てふためいた様子を見て、私は表情を緩ませる。

 

「桃、柚子、留守を頼む。必ず役人共に条件を取り付けさせてくる。」

「でも・・・本当に大丈夫なんですか?」

「そうだな、確かに難しいかもしれん。直談判したところで門前払いがいいところだろう。だがーー」

 

私はそう言ってパソコンを開いて、あるページを開く。

そこには我々の廃校の一件がネットの新聞として乗せられていた。

記事の見出しには大洗を廃校にした文科省への批判の言葉が乗せられていた。

 

「世論は比較的こちらに向いている。やってみる価値は幾らでもある。」

「・・・わかりました!!会長がいない間、我々二人でなんとかします!!」

 

桃の意気のいい言葉に私は軽く笑みを浮かべる。

ふっ、てっきり泣き叫ぶものだと思っていたが、桃なりに成長しているようだな。

 

「では、行ってくる。」

 

二人に手を振りながら私は仮宿舎を後にする。

 

(さて、文科省に行ったところで、門前払いは目に見えている。どうしたものか・・・。)

 

 

役人の言ってきた学園艦の住民の職業斡旋をしないなど、どうみても脅しにしか聞こえない。そちらが脅しに来るのであればこちらもそれ相応の対応をさせてもらう。

それはさておき問題は私一人の力では難しいということだ。少なくともそれなりの政治的なポストに就いている人物をこちらにつける必要がある。

そうならば、日本戦車道連盟辺りが良いのだろうがーー

 

 

「・・・・また彼女の世話になるとするか。」

 

私は携帯を取り出すと目的の人物に電話をかけた。数コールしないうちに電話の向こうから声が聞こえてきた。

 

 

『もしもし?』

「教官ですか?角谷 杏です。突然の電話、申し訳ないのですが。」

『今は特に込み入ったことはしてないから大丈夫よ。』

 

電話の相手は色々と世話になっている蝶野亜美だ。この人は少し調べてみれば最近文科省が掛り切りになっているという噂の日本戦車道プロリーグの強化委員らしい。そして、日本戦車道プロリーグの設置委員会のトップにと打診されているのが、西住君の親であり、西住流の師範代でもある西住 しほという噂がある。彼女までこちらに引き込めさえすればどうにかなるとは思うが、ひとまず目の前の人物をこちら側に引き込むことを優先しよう。

 

「話しには耳にしていると思いますが、今、我々の大洗女子学園が廃校の危機に瀕しています。我々は優勝すれば廃校は免れると信じて戦ってきた。だが、それを反故にされ、はいそうですかと頷く訳にはいかないのです。あそこには9000人の生徒の上、三万人近くの人が住んでいる。その人たちを碌なバックアップもしない文科省に振り回させるわけにはいかないのです。そこで、唐突なのはわかっていますが、あなたの力をお借りしたい。」

 

私は彼女に嘆願をした。さて、どうなる・・・・?

 

『オーケーよ。私もあなたたちの廃校には思うものがあったから。全力で協力させてもらうわ。』

「・・・・・ありがとうございます。」

 

なんとか彼女の協力を得られたか。私は心の中で安堵する。やはり我々の廃校に思うものがある人物は権力者の中にもいるようだ。

 

『それで?あなたはこれからどうするの?』

「今文科省に行ったところで門前払いを受けるのは目に見えています。恨めしいですが、向こうはこちらを子供と断じて碌な対応を取らないでしょう。ですので、ひとまず日本戦車道連盟に赴こうと考えています。」

『わかったわ。私も今からそっちに向かう。現地集合で構わないわよね?』

「はい、それで問題はないでしょう。よろしくお願いします。」

『いいのよ、別に。あなたたち学生が動いて、私たち大人が動かない訳にはいかないからね。』

 

・・・・正直に言うとおそらく私は中身は君よりは年上だし、大人だとは思うのだが・・・。

喉元まで出かかった言葉を飲み込みながら私は日本戦車道連盟の本部へと向かった。

 

しばらく電車等々を乗り継ぎしながら私は日本戦車道連盟の本部の建物へとやってきた。少しばかり古そうな建物に戦車の展示物が置かれてあった。

そして、何より目を引くのが達筆な漢字で書かれた『日本戦車道会館』の鉄でできた看板。これがこの場の厳かな雰囲気を出していた。

そこでしばらく待っていると、先ほど電話で話した蝶野亜美がやってきた。

 

「教官、また世話になります。」

「いいのよ。さて、行きましょうか。」

 

私は彼女の先導で建物の中に入った。建物を中を進んでいくと、『理事長室』の文字が見えてくる。

 

「ここよ。まあ・・・あの役人ほど冷酷な人じゃないから、比較的取りつきやすいと思うわ。」

「ふむ・・・。やりようによっては幾らでもある、というわけですか。」

 

そう言いながら、教官は理事長室の扉を開いた。そこで待っていたのは黒い和服姿の困った表情をした初老の男性『児玉 七郎』であった。老人にはあまりいい思い出はないが、この男はどうやら宇宙世紀によくいた老いぼれどもとは違うらしい。困った表情をしているが、どちらかというと複雑な心境が顔に出ていると言った具合だ。

 

「ああ、君か。蝶野君から聞いているよ。とりあえずそこの椅子に腰掛けてくれ。」

 

理事長に促され、豪華な木製の椅子に座る。椅子に腰掛けると複雑な表情をしていた理事長が重たそうな口を開いた。

 

「大洗女子学園の廃校に関しては私個人の気持ちとしては思うことがあるのは確かだ。じゃが・・・文科省の決めたことは我々でもそう簡単には覆せないのだよ・・・。」

「大方、向こうのメンツが立たない。そういったところですな?」

「そういうことになるのかな。」

「ですが、メンツというのであれば、優勝するほどの実力のある学校をみすみす廃校にするのは、それこそ戦車道連盟のメンツが立ちません。それに理事長も冷泉 麻子さんのことはご存知でしょう。」

 

教官にそう言われて、理事長は苦い顔をした。なぜそこでアムロの名前がと思ったが、教官が次に話した言葉で納得がいった。

 

「冷泉さんの件はネットに関わらずかなり話題に上がっています。特殊カーボンについて我々の過信があったとはいえ、彼女の怪我についてまともに対応できなかった連盟に批判が集まっているのは承知のはずです。ここで、彼女の所属している大洗女子学園を廃校にしてしまえば、連盟はおろか、今後の戦車道自体にも大きな影響が出ます。最悪、戦車道自体の存亡にも関わってしまうでしょう。」

 

・・・・仮にアムロがこの場にいても教官と同じようなことを言っていただろうな。

もっとも、戦車道はスポーツだから怪我は付き物だ、とかの前置きとかもありそうだがな。それにアイツが命を張ったのは去年の事故でこじれてしまった二人と仲を取り持つためだったのだがな。大洗の廃校はその次だっただろう。

だが、戦車道の存亡を天秤にかけられた理事長にはイエスというしか選択肢はないだろうな。

 

「我々は全国大会で優勝すれば、廃校はなくなると信じてやってきた。もっとも優勝しても私自身としては役人が碌な対応はしないと心の中では分かっていた。」

「・・・・なら、君はどうしてそこまで戦ったんだい?」

「やってみなければ分からんからだ。仮に役人どもが廃校の取り決めをしたとしても優勝したという事実は変わらん。せっかく優勝したとしてもそこで諦めてしまうのは早計の上、可能性を自ら捨てる行為だ。・・・私も勝手に絶望してとんでもないことをした経験もある。だから、今度はそう簡単には諦めんと決めた。」

 

そういいながら、私は理事長の目をじっと見つめる。会長は少し身をビクつかせ、瞳をぎゅっと瞑っていた。その様子はかなり悩んでいるようだ。

そして、その目が開かれる。

 

「・・・わかった。私も重い腰をあげるとしよう。大洗の廃校には私も異を唱えるとしよう。」

 

その目には先ほどまで漂っていた複雑な雰囲気は微塵も感じなかった。

よし、これでこちらの戦力は整いつつあるが、もう一押しがほしいところだ。

 

「だが、念には念を押しておきたい。蝶野君。君は西住流家元のところへ向かってほしい。連絡はこちらでしておく。」

「分かりました。」

 

理事長にはそれもわかっていたようで教官にそう言うと彼女は理事長に向かって礼をして、部屋を後にした。

それにしても西住流の家元・・・?確かかなりのご高齢だったような気がするが・・・。

 

「理事長、西住流の家元はかなりのご高齢だと推測しますが・・・。」

「ああ・・・実を言うと最近変わったのだよ。しほ君にな。」

 

西住 しほ・・・。家元の立場が西住君の母親になったのか、ある意味好都合かもしれんな。

 

「私はこれから少し西住流本家に電話するからそこで座っててくれんか?お菓子も自由に食べてて構わんよ。」

「それでは・・・いただきます。」

 

せっかくのご厚意を無下にしないわけにはいかないからな。素直に食べておくとしよう。む、このケーキ、中々美味だな。最近は専らこういう高級品とは縁がなかったからか新鮮だな。

 

「もしもし?ああ、菊代君かね?事後報告になってしまうのだが、今、蝶野君がそちらに向かっている。お時間を取らせても問題ないかね?・・・・なんと、今出払っている?」

 

っ・・・・。それはそれで中々タイミングが悪い・・・・。まぁ、また日を改めてもーー

 

「それでどこに・・・病院?一体何のために・・・冷泉麻子君の見舞い・・・?」

 

その言葉が私の耳に届いた瞬間、目を見開き、耳を疑った。

完全に想定外だ。まさか、西住 しほがアムロの見舞いに行くとは露にも思わなかった。

これは場合によっては彼女の説得はアムロに任せざるをえない状況になるかもしれん。

くそ・・・。できればうまくやってほしいが・・・。そもそもなぜ彼女が一般人のアムロの見舞いを・・・。いや、むしろ当然なのか・・・?

 

 

 

 

「貴方は・・・・?いや、この質問は不粋か・・・。」

「・・・・・・。」

 

 

俺の正直言って先ほどの継続高校の面々が来たときより驚いていた。

キリッとした目からは彼女がもっている強さが滲み出ていた。

その目はどこか、まほに似ていたと思う。黒いスーツに身を包み、俺をじっと見つめているその人物は、西住 しほ。みほとまほの母親であり、西住流の師範代。

そんな人物がなぜここに・・・・?

だが、その表情はどこか疲れているようにも感じた。

 




まさかまさかの家元がアムロに会いに来た。


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第41話

季節ネタと最近流行りの謎理論をねじ込んで見た。


「その、だな・・・お見舞いに来ていただいたのは分かるのだが・・・。敢えて聞かせてほしい。どうしてここに?」

「・・・・・・。」

 

き・・・気まずい・・・。突然俺の病室にみほの母親である西住 しほが入ってきたかと思うと、備え付きの椅子に座ったまま黙りこくってしまった。

俺が質問してもこの通り、これといった反応がない。

だが、入ってきたときの彼女の疲れた表情を察するに何か訳ありで俺の元を訪れてきたのは確かだ。

しばらくお互い何も話さずに俺だけが気まずい表情をしているとーー

 

「・・・・私は間違っていたのかもしれない・・・。」

「え・・・・?」

 

とてつもなく重かった彼女の口が開いた。俺は反射的に質問をしようとしたがなんとか押しとどめて聞き手の側に専念する。

 

「私は去年、みほの・・・あの子の行いを否定した。西住流の理念は勝利至上主義、いかなる犠牲を払ってでも勝利すること。それはあの子の優しい性格と合わなかった。」

「・・・・。」

 

俺は黙ってそれを聞いていた。彼女の独白とも取れる心情の吐露は終わってなかったからだ。

 

「だけど、それは特殊カーボンという絶対的な安全の元だからこそできることだった。そして、今回、貴方という怪我人を出してしまった。」

「それは・・・こちらの整備不良が祟った結果だ。あとは私の運がなかっただけだ。そちらに落ち度はない。」

「でも、黒森峰が、西住流が貴方を傷つけたことに変わりはない。娘を追いやり、そして人を死地に追いやるという最悪の形で。」

 

そういうと彼女は乾いたため息をはいた。そして、その表情は呆れているようにみえた。おそらく、娘の気持ちを分かってやれなかった自分自身に。

 

「あの子は何も間違っていなかった。人が人を思いやるのは当然。なのに私はそれをいらないと断じて、それなら、あの子に戦車道をやらせるんじゃーー「待った。それ以上はやめておいた方がいい。」

 

俺は彼女の言葉を無理やり遮った。彼女の今溢そうとした言葉は親子の絆を引きちぎるものだったからだ。ましてやーー

 

「貴方が話そうとしていることは、何より西住の、貴方の娘のこれまでを、全て否定する言葉だ。自暴自棄にならないでほしい。」

「でも、あの子の優しい性格は戦車道にはーー」

「合う合わない、そんなのは些細な問題だ。確かにみほは性格上は戦車道との相性はそれほど良くないだろう。だが、これだけは絶対に言える。彼女は戦車道をやり始めたことを絶対に後悔はしていない。」

 

そうでなければ、試合に勝ったあと、仲間に囲まれて笑顔を浮かべるはずもないからな。それにーー

 

「それに、貴方のやってきたことも間違ってはいない。いや、娘の接し方に関しては大幅に間違えていると思うがな。」

 

呆けた顔をする西住 しほを置いておいて、俺は話を進める。

 

「貴方には西住流の師範としての顔がある。それを周囲の人々にも見せなければならない以上、そう簡単に崩すことはできないだろう。だが、貴方にはどう抗いても切っても切れない顔がある。みほの母親としての顔だ。」

 

俺は西住流の二人、みほとまほの不器用さを鑑みて、あることがわかった。

不器用さは彼女、西住 しほから受け継いだんだ。

そうじゃなければ、これほど娘との仲が拗れることなんてないだろうしな。

 

「貴方は『西住流の師範』として、みほの行動を叱責したのだろう。だが、それと同時に彼女の行動を『母親』として受け止めなければならなかった。」

 

母親と師範というある時は矛盾した対応を取らねばならない二面性に板挟みになっていた彼女はいつしかどちらか一片にしかその表情を表に出すことができなくなったのだろう。それが師範としての顔。だが、それではいずれ家族との仲がどうしようもないラインまで及んでしまう可能性がある。

 

「母親と師範、二つの顔を使い分けるのは難しいと思う。だが、それでも家族に惨いことをするようなことはしないでほしい。後悔後先に立たずということわざがあるが、まさにその通りで、そうなってからでは遅い。私のように言いたいことも言えずに先立たれるのはかなり辛いものがある。」

「・・・貴方の家族は・・・?」

「・・・・私が小学生になったばかりの頃に交通事故でな。二人とも、私にはもったいないほどの父親と母親だった。」

「・・・・ごめんなさい。」

 

まぁ・・・俺の場合は既に経験してるがな。親父や母親とは結局喧嘩別れのような形で、それきりだ。サイド7の外に放り出されて酸素欠乏症を発症した親父は技術者としても見る影がなくなり、母親とは俺が戦っていることに理解を示してくれず、あとはどうなったのかは分からない。

 

「それと話は変わるが、別に私は勝利至上主義が一概に悪いと言っているわけではない。まぁ、ただのもの考えようだがな。」

「も、ものの考えよう・・・?」

「勝利至上主義といっても私の中では二種類ある。一つはいかなる犠牲も問わないただ勝利へと邁進する方、こちらが貴方のいう西住流の理念だろう。そして、もう一つはあらゆる方法を使い、どんな形や過程でも勝利さえ納めてしまえばそれでいい。要は終わりよければ全て良し、だ。こちらは個人的な所感だが、みほのやり方だと思う。貴方から見ても彼女のやり方には色々思うものもあったのではないだろうか?」

「・・・否定はしないわ。西住流らしくないとは何回かは。」

「彼女は彼女なりに西住流を通そうとしたんだ。言うならば、彼女の、西住みほとしての『西住流』と言った具合か。」

「・・・・やり方は人それぞれ、と言ったところなのね。」

「そういうことになる。その・・・これは私が言うことではないのだろうが。

みほと少しだけでもいいから話してやってくれないか?」

 

俺は意を決してそう尋ねてみた。肝心の彼女の表情は少々、沈んだものであった。

む・・・・やはり彼女の中ではだいぶ引きずっているようだな・・・。

 

「それは・・・・、私は・・・あの子と話す資格は・・・・。」

「資格なんかは貴方がみほの母親であることだけで十分だ。それに、彼女も貴方と話すことを望んでいる。それに彼女、一回大泣きしたぞ。貴方と姉であるまほに見捨てられたと思ってな。」

「う・・・・。」

 

思い出すのは聖グロとの親善試合のあとと黒森峰との決戦の前日。屋台を回っていたときとみほが家に泊まりにきた時だ。彼女はまぁ、優先順位こそはあったもののはっきりと母親との和解も望んでいた。

俺はそのみほの願いを届けようと思う。

その時だった、病室のドアが開かれたのは。

 

「い、家元、失礼しますっ!」

「ち、蝶野教官?」

 

病室のドアを開いて現れたのは蝶野教官だった。いったいなぜ、彼女がここに・・・。それに、家元?彼女は師範ではなかったか?

 

「あ、元気してる?」

「え、ええ。まぁ・・・。」

「本来なら見舞いの品とか持ってくるべきなんだろうけど、今回は別件だから、ごめんね。」

「いや、そんなに無理に持ってくる必要はありませんよ。」

 

急いできたのか若干、息を切らしながらだった蝶野教官に俺はやんわりと遠慮のアピールをしておく。教官は彼女に用があるようだしな。

 

「それで?突然どうしたの?」

 

師範、というか家元としてのスイッチに切り替えたのかキリッとした表情をしながら西住 しほが教官に尋ねる。

 

「実は、大洗女子学園が廃校の危機に晒されています。そこで、家元にどうか抗議の声を上げていただきたく、ここに来ました。」

 

それを聞いた西住 しほは割と驚いた表情をしていた。

・・・・・まさかとは思うが、知らなかったのか?

 

「失礼。こんなことを聞くのはアレなのだが。貴方はまさか知らなかったのか?大洗の廃校の件。」

 

そう聞いてみると彼女は何やら気まずそうに視線を逸らし始めた。

・・・図星か。新聞はともかくネットではだいぶ記事が上がっているのだがな・・・。

ん?ネット・・・・あぁ、そういうことか。口には出さんが、彼女、パソコンの類が苦手だと予想する。

 

「・・・・大洗が来年の大会に出てこれないとすると、黒森峰が叩き潰すことが出来なくなるわね。」

 

まぁ、確かにそうだな。黒森峰にとっては勝ち逃げされるも同然のことか。

 

「それに、みほや、貴方が全力を賭けて守ろうとした学校だもの。母親としてあの子の笑顔を奪わせる訳には行かないわ。」

 

今度は俺が面食らった表情をする羽目になった。まさか彼女から母親という言葉が出てくるとは思わなかったのか蝶野教官もかなり驚いた表情をしている。

 

「・・・・なに、蝶野?そんなに私の口から母親という言葉が出るのが珍しい?」

「い、いえ、滅相もございませんっ!?」

 

教官は青い顔をしながら顔を横にブンブンと振っていた。そんなに彼女が怖いのか・・・・。

 

「・・・・存外に答えは簡単なものだったのね。ありがとう。」

 

そう言って、西住 しほは表情を穏やかな笑顔に変える。その表情はまさに母親のものであった。

 

「私自身、大したことはしていない。」

「ところでなんだけど、貴方、みほと同じ年の割にはかなり大人びているわよね。」

「ま・・・まぁ、自覚はある・・・ます。」

「今更取ってつけたような敬語ね。」

 

・・・・そういえば、思い返してみれば彼女と話しているとき最初こそは敬語を使っていたが途中から完全に素になっていたな・・・・。

 

「まぁ・・・貴方は貴方で大変なことがあったから、これ以上の詮索はしないわ。それで、蝶野?私は文科省に向かえばいいのね?」

「そうなります。既に大洗の会長と日本戦車道連盟理事長が文科省へと向かっています。」

 

 

どうやらシャアはシャアで裏方でだいぶ動いているようだな。連盟理事長に西住流の家元がバックについているのであれば、文科省も真面目な対応を取らざるを得ないだろう。

 

「わかりました。私もすぐに文科省へ赴きます。」

 

そういうと西住 しほと蝶野教官は俺の病室から出て行った。

さて、後はシャアに任せて、俺は寝るとしよう。最近、暇だから寝る事くらいしかやることがない。

というか、ふと思ったのだが、俺は西住流の主要人物全員に説教をかましていないか?

 

 

 

 

結論から言おう。なんとか条件を取り付けることには成功した。

文科省に理事長と共に訪れると程なくして蝶野教官と西住流の家元、西住 しほが到着した。

その三人を伴って私は役人に殴り込みを仕掛けた。連盟の理事長や西住流の家元が来るとは思わなかったのか、終始役人は困惑顔でこちらに当たっていた。

まぁ、西住 しほがプロリーグの設置委員長に就かないなどと色々と文科省にとっては困ることをちらつかされれば役人としたらたまったものではないだろう。

そして、何というか、先ほどの西住 しほには何か鬼気迫るものがあった。

特にそれが顕著に現れたのは役人が『大洗はまぐれで優勝した』と言葉を零したときであった。

それを聞いた瞬間、彼女は怒気を含んだ言葉で

 

「戦車道にまぐれなし。あるのは実力のみ。」

 

と言い放った。その言葉は彼女にとって何よりの娘二人の戦いぶりを侮辱するものであったのだろう。

彼女も西住流の家元と同時に一介の母親であったということだな。

そして、その怒気に充てられたのか、ついに役人が大学選抜に勝てば廃校を取り消してもいいと漏らした。

少しばかり早まったかもしれんが、とりあえず私はそこで役人に書面でそれを約束させた。

口約束では約束にならんようなのでな。しっかりと、今回は書面でやらせてもらった。無論、文部科学大臣にも署名してもらった。これで、約束を反故にされるということはないだろう。

ただ、先ほど少しばかり早まったと言った通り、懸念材料が残ってしまったのは事実だ。あれ以上引き延ばすとどうなるかわからなかった以上、ああするしかなかったが。

戦車の規定数といった試合内容の細部まで約束を取り付けることはできなかった。

それに、できれば文科省との間にはあまり禍根を残したくはない。

一応、無理やり言うことを聞かせることはできる。だが、このボイスレコーダーはあくまで最終手段だ。これには役人が私に廃校を告げに来た時の言葉が入っている。

まぁ、願わくは使わないことを祈るしかないがな。使うとなったら容赦なく使うが。

ひとまず仮宿舎に戻るとしよう。

私はここまで力を貸してくれた三人にお礼を述べながら、仮宿舎へと向かった。

 

仮宿舎に戻るとちょうど桃がパイプ椅子が山積みになったリヤカーを疲れ切った表情をしながら引いていた。

あれは、確実に山積みになったパイプ椅子が崩れるな・・・・。

そう思ったのもつかの間、あまりの重さ、それともこの数日間で体が疲弊しきっていたのか、桃がバランスを崩した。それと同時に山積みになっていたパイプ椅子が崩れそうになる。

 

くっ・・・・!!間に合うかっ!?

 

私は全速力で桃の元へ駆けつけ、咄嗟に彼女の両脇を掴み、リヤカーから離れさせる。バランスを崩しながら行ったため二人揃って地面に叩きつけられるが、パイプ椅子の下敷きになることはなんとか防げた。

 

「全く・・・・。無茶をする・・・・。大丈夫か?」

 

私は息を整えながら桃に語りかける。当の本人は呆けた顔をしていた。

 

「あ・・・・。会長・・・・?」

「まぁ、今は会長でもなんでもないがな・・・。とりあえず、柚子を呼んでくれんか?」

 

そう桃に言ったものの、彼女が最初にやってきたのはーー

 

「か、会長ぉぉぉぉーーーー!!!!」

 

目に大粒の涙を溜めながら飛びついてきた。まぁ・・・色々あったのだろうな。私がいない間にも。とりあえずこのまま柚子のところへ向かうとするか。

 

「会長・・・・!!おかえりなさい・・・・!!」

「柚子、来て早々で申し訳ないが、戦車道履修者に放送をしてくれ。講堂に集まれとな。」

「はいっ!!わかりましたっ!!」

 

放送室にいた柚子にそう伝えると彼女は嬉々とした声色で戦車道履修者に講堂に集まれという旨の放送を始める。その間も桃は大泣きをしていた。ええい、泣き止まんかっ!!

 

そして、講堂に向かうと既に各チームが集まっていた。しかし、何故か風紀委員たちのカモさんチームだけ見当たらない。

 

「園達風紀委員はどうした?」

「そ、それが、今まで風紀を正してきた反動というかなんというか・・・。大洗が廃校と伝えられてからすっかり荒んでしまって・・・。」

 

まさに申し訳ないといった桃の表情に私は軽く頭を抱えた。

はぁ・・・面倒だな・・・・。

 

「・・・・私が連れ戻してくる。誰か場所を知らないか?」

「確か・・・飼育小屋できゅうり食べてましたよ。ヤンキー座りで。」

 

一年生の澤君の通り、飼育小屋に向かうと本当に園たちがヤンキー座りできゅうりを貪り食べていた。

もはや風紀委員としての見る影もないな・・・・。

 

「あ・・・かいちょーだー。」

 

後藤のその声にため息をついていると、それでこちらの存在に気づいたのか園が荒んだ目でこちらを見てきた。

 

「集合をかけているんだが?」

「うぃーす・・・・。」

 

だいぶ重症だな・・・・。こちらが言っても碌に動こうとしないな・・・。

こんな様子をアムロが見たらどう思うだろうか・・・。

おそらく・・・『情けない奴っ!!』とか言うだろうな。

 

「まったく、せっかく廃校が取り消しになればまた君たちに風紀委員を頼もうとしたのだが、この様子では無駄足だったか?」

 

そう言った瞬間、園たちの目が変わった。まさしく寝耳に水といった感じの表情だった。

 

「えっ!?廃校、どうにかなったんですかっ!?」

「それは、これからのみんなの頑張り次第だ。まぁ、君たちに無理に立ち上がれとは言わんよ。その様子では逆にこちらにとって不利益となってしまうからな。邪魔にしかならん。そこで河童らしくきゅうりを貪っているのも一つだ。」

 

そのままその場を後にしようとしたがーー

 

「待ってっ!!」

 

園に呼び止められ、再び彼女らの方を振り向く。その目には先ほどの荒んだものはなかったが、少し意地悪をするか。

 

「どうかしたか?先ほども言ったが、別に無理強いをするつもりは一切ない。そこできゅうりでも食べているといい。もっとも他のチームはどうだかは知らんがな。」

 

そういうと園は黙りこくってしまう。さて・・・どうする?

しばらくお互い無言の時間が続くとーー

 

「やってやろうじゃないのこの野郎!!ゴモヨ、パゾ美、行くわよっ!!」

 

一転、表情を強気のものに変えると困惑気味の後藤と金春を連れてヅカヅカと歩いて行った。

 

「フッ、その表情を見たかった。あれならなんとかなるだろうな。」

 

風紀委員たちのその様子を見ながら私も後に続いて講堂へと戻っていった。

 

 

「さて、みんな長く留守にしてしまって申し訳ない。今一度確認するが、揃っているな?」

 

講堂のステージに立って、この場に集まってくれたこれまでの仲間たちを見下ろす。

病院送りになっているアムロを除いて、そこには確かに全員揃っていた。

 

「試合が決まった。これに勝てば文科省は廃校を取り消してくれる。前回は口約束だったが、今回は、この通り書面にしっかりと約束させてきた。」

 

約束のことが記された書類を見せると履修者たちの間で喜びの声が上がる。

 

「そ、それで試合相手は・・・・?」

「・・・・大学強化チームだ。簡単に言えば、黒森峰の大学版といったところか。」

 

質問をしてきた西住君にそう答えると秋山君と一緒に驚きの表情をした後難しい表情をする。やはりある程度知っているようだな。向こうは経験がこちらより豊富だ。大方、いや必ず苦戦を強いられるといっても過言ではあるまい。

 

「それでもやることは変わらん。いつも通り、君たちの戦車道を見せて、我々の学園艦に戻ろう。」

「会長ー。隠してることはあとないんですよねー?」

 

カエサルにそんなことを言われてしまう。ははっ、信頼されておらんな・・・・。

 

「隠し事はない。それだけは言っておこう。」

「よーし!!みんなやるぞー!!」

『おーっ!!』

 

バレー部の磯辺の掛け声に便乗してみんなが手を上に掲げる。

士気は高いようだな。

ただ、隠し事はないが、懸念はだいぶある。西住君には詳細な試合内容が伝えられる前に教えておくか。

 

「西住君。」

「あ、会長。その、ありがとうございます。みんなのために動いてくれて・・・。」

「それが会長としての私の責務だ。それはそれとして、君はこの試合についてどう思う?」

「・・・・はっきり言って不安しかありません。こちらが8輌に対して向こうがいくつ出してくるかわかりませんし。」

 

流石は西住流といったところか、状況が見えている。

なら、これを伝えても問題はないか。

 

「・・・これは私の推測だが、向こうは30輌を出してくるだろう。それも殲滅戦でな。」

「30輌・・・それに殲滅戦ですか・・・!?」

「ああ、文科省は現在プロリーグの設立に躍起になっている。予行演習として、プロリーグの規定数である30輌でくる可能性が高い。それにこちらを確実に潰しにかかるのであれば数の差が浮き彫りとなる殲滅戦で試合を仕掛けてくるだろう。」

「それは・・・かなり厳しいですね・・・。ただでさえこちらは戦力が少ないのに・・・。」

「・・・はっきり言ってしまうとこのまま行けば、私と桃は出れないだろう。」

「え・・・・どうしてですか?」

「・・・戦車道の規定では三名以下で戦車に乗ってはいかんのだろう?」

 

その私を聞いた西住君は思い出した表情をした。

 

「そ、そうでした・・・!!となるとどこかのチームから人数を回さないと・・・!!」

「いや、そこまでする必要はないし、重く考える必要はない。」

 

そういうと西住君の肩に手を乗せながらこう伝える。

 

「1輌で10輌ほどやれば3輌で済む。」

「え、ええ〜・・・・?」

 

・・・まぁ、そのような困惑顔だろうな。普通は。

 

「冗談だ。だが、先も言ったがそこまで重く考える必要はない。仮にそうなったことも考えて、手は打っておくつもりだ。」

「そ、そうなんですか?」

「ああ。だが、君には突然の状況を任せることになる。行けるか?」

「・・・やります。冷泉さんと約束しましたから。」

「そうか。どうやら、君の中では彼女の存在はかなり大きいようだな。」

「ふえっ!?」

 

そう思ったことを口に出してみると西住君は顔を真っ赤にした。

・・・この反応は・・・どう考えても恋する乙女そのものだな・・・。

少しカマをかけてみるか。

 

「まぁ・・・応援してるよ。ちなみにどこまで進んでるんだ?」

「ま、待ってください会長!?れ、冷泉さんとは、その・・・!!」

「ん?私は人物を指定した覚えはないのだが、なぜそこで麻子の名前が出てくる?」

 

ニヤニヤしながらそういうと西住君が顔をさらに赤らめて下を向く。

 

「ず・・・ずるいです・・・!!」

「嵌めたことは謝ろう。それでどうなんだ実のところ。」

「・・・・一緒に寝たくらい、です。あとは手を握ったり・・・。って、何言わせるんですかぁ!!」

 

これ以上おちょくるのはやめておくか。

さて、一度アイツに釘を刺しておくか。私は携帯電話を取り出すとアムロに電話をかける。

 

 

 

 

携帯からバイブ音が鳴り響く。俺が言えたことではないが、病院では基本的に携帯を使ってはいけないらしい。

そして、その電話の主は、シャアからだった。

 

「もしもし?何か用か?」

『いやなに、大人しくしているのかと思ってな。』

「一応、な。視線を感じる以上、おいそれと動くわけには行かないからな。」

『ほう、視線か。』

「ああ。少し前から妙にこちらを見てくる視線が増えてな。おそらく文科省の奴らだろうな。」

 

少し外に目を向けると病室の外からこちらの様子を伺うように見てくる視線を感じた。ちなみに扉は閉めているからシャアとの電話が見られることはない。

だがおそらくこれはーー

 

『・・・監視か。』

「・・・そう考えるのが妥当だろう。だから行動しようとしてもあの手この手で抑えにくるだろう。」

 

まったく、これでは軟禁されていた時を思い出す・・・。

あの時は文字通り腐っていたからな・・・・。

 

『そうか・・・。それもそうだが、お前はやはり監視がなければ動くつもりだったな?』

「・・・・ああ。そうだよ。」

 

やはりシャアにはある程度見透かされていたか。おそらくこの電話も釘を刺しておくためにしてきたのだろう。

 

『少なくとも試合当日までは大人しくしておけ。日付や詳細はまたあとで教えるが、当日にもなれば奴らもお前が動かないと思って手を引くだろう。』

「・・・わかった。その日までは大人しくしておく。」

『くれぐれも早まらんようにな。』

「ああ。そちらは頼んだぞ。』

『まぁ、お前が動かなければ私としても試合に出れないのでな。お前の気持ちがどうであれ、どのみち連れて行くつもりだったがな。』

「・・・・そうか、お前と河嶋の二人しかいないのか。」

『・・・・そういうことだ。試合にはお前の力が必要だ。ちなみにこれは西住君たちには言わないでほしい。過度な期待をかけさせる訳にはいかないからな』

「わかった。」

 

シャアとの電話はそこで終え、俺は大人しくベットの上で不貞寝を始める。

・・・・面倒なことになってきたな・・・。まさか一般人に監視をつけるとはな・・・。

 




次にお前は『アムロとシャアなら一人で10輌を余裕でやりそう』という!!


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第42話

さて、劇場版、始まります!!

そして、ヤることヤってしまった。どうしよう。
多分秋山殿発狂案件ですわ。
あとそれとちょっと無理やり度が・・・・。

あとそれと前回のネタに乗ってくれた皆様には最大級の感謝を。思った以上に言ってくれる方が多かったのでこの場を借りてお礼を言います!!


西住君に私の予想を伝えたあとは各チームの車長を集めて、暫定的な作戦会議に入った。

一応記事などを漁ってみたが、社会人チームに勝利したなど華々しいものであり、かつこちらの戦意を削ぐにもってこいのものばかりであった。

それに大学選抜チームの隊長、『島田愛里寿』は苗字から察するに、西住流と対をなす『島田流』のご令嬢なのだろうがどう考えても高校生にも満たない年齢のように見える。調べてみたところどうやら飛び級らしい。外国ならまだしも日本に飛び級制度があったとはな・・・。

さらに作戦会議といっても詳細な試合内容が決まってないため、議論は盛り上がらず、ひとまずフラッグ戦だった時のことを想定して作戦を考えるだけに終わった。

さて、日付はともかく詳細まで伝えに来ないとはな。おそらく当日、ないしは試合会場である北海道に着いたときに伝えに来るか。

どうやってもこちらを廃校にしたいらしいな。文科省の奴らは。

 

 

 

 

会長から相手車輌の総数と試合内容の予測を聞いた私はみんなと解散したあとも作戦を練っていた。みんなに殲滅戦の可能性があることを伝えなかったのはやっぱり士気に関わるというのも大きかった。

 

「・・・・ちょっと根を詰めすぎかな・・・。少し外へ出てみよ。」

 

そう思い、仮宿舎を出て、外の空気を吸いながら歩くことで一回思考をクリアにする。

スッキリさせたあとも作戦のことを考えながら歩いていた。

でも集中しすぎて周りが見えなくなったのか。

 

ガツンッ!!

 

「あいたっ!?」

 

目の前の電柱に気づかずに頭を強打してしまう。自分の鈍臭さに呆れながらぶつけた箇所をさする。ふとあたりを見回すとそこにはーー

 

「あ、ここ冷泉さんのいる病院・・・・・。」

 

どうやら気づかない間に彼女の入院している病院まで歩いて来てしまったようだ。

そこで私は携帯を開いて時刻を確認する。デジタル時計が示していたのは8時前。

そして、病院の基本的な面会していい時間は9時くらいまでだ。

 

「・・・・せっかく来たんだし。」

 

そう自分に言い聞かせて、私は病院の中に入っていった。

受付の人に面会をしたいと確認を取ると、快く了承してくれた。

時間がだいぶギリギリだったのもあったから私はその人にお礼を述べながら病室へと向かった。

 

そして、私は彼女の病室の扉を開けた。

 

「ん?西住か。こんな時間にどうかしたか?」

 

彼女は変わりない様子で私を出迎えてくれた。最悪、すでに寝ていることも覚悟していたがどうやらそうでもなかったようだ。

その様子に嬉しいような残念な複雑な心境を抱きながら私は備え付けの椅子に腰かけた。

 

「寝ているかなって思ったんだけど、そうでもないんだね。」

「まぁ、暇を持て余していてな。暇つぶしといえば寝ることしかないから自然と夜は起きていることが多くなって来た。」

「ダメですよ。ちゃんと寝ないと、また低血圧で沙織さんとかに迷惑かけちゃいますよ。」

「善処するよ。」

 

そのまま二人揃って笑顔を浮かべていると、冷泉さんが唐突に切り出した。

 

「それで、目的はなんだ?ただ見舞いに来たわけではないのだろう?」

 

・・・・やっぱり冷泉さんには敵わないな・・・・。

話したいことへのきっかけを切り出してくれたことに感謝しながらも私は思っていることを話し出した。

 

「実は、大学選抜チームとの試合が決まったんです。場所は北海道で、試合内容とかの詳細は決まっていないけど、会長がおそらく殲滅戦だろうって。」

 

少し視線を冷泉さんに向けると彼女は神妙な面持ちで見守ってくれていた。

私はそれを続けていいと判断して話を続ける。

 

「相手の車輌数は30輌。対してこちらは会長たちのヘッツァーが人数不足で出場できないことを鑑みると7輌です。みんなの前では隊長らしく弱音を吐かないようにしていますけど、正直言って不安でいっぱいです。戦車は火砕流の中でも進めるとか言ったけど、本当は虚勢を張っている以外の何物でもない。こうして冷泉さんと話している今も、不安に押しつぶされそうです・・・。」

 

私は顔をうつむかせながら膝の上に置いた手を握りしめる。まるで、自分にまとわりつく不安を振り払うように。

でも、その不安は振り払っても振り払っても倍以上の量となって押し寄せてくる。多分に不安に表情を歪めていると思う。

 

「・・・・みほ。」

 

初めて、冷泉さんが私の下の名前を呼んだ。そのことに驚きながら顔を上げると、優しそうな笑みを浮かべている冷泉さんの顔があった。

 

「ベッドに上がってくれるか?すまんがベッドから降りると傷に響いてしまうからな。」

 

冷泉さんはここに来るようにとベッドの掛け布団をポンポンと叩きながら、私に促してくる。

私は靴を脱いで冷泉さんのベッドに上がってぺたんと座る。

 

「注文が多くて悪いが、向こうを向いてこちらに寄ってきてくれないか?」

 

何をするのだろうと思いながら冷泉さんの言う通りに背中を彼女に向けながら冷泉さんに近づく。

 

「・・・・まぁ、これなら届くか。」

 

冷泉さんのそんな声が聞こえた瞬間、彼女の両腕が、私の肩に乗っかってきた。

そのまま私の体は引き寄せられるように背後にある冷泉さんの体に自分の背中に密着する。それはまるで抱きとめられているようでーー

 

「れれれれ冷泉さんっ!?」

 

顔を真っ赤にしながら驚くが、冷泉さんはこれといった返答はなかった。

突然の出来事に心臓の鼓動が爆発的に早くなり、音も大きいものになる。

気づいていながら触れないでいてくれているのか、冷泉さんはそのまま口を開き始めた。

 

「実を言うと、今日、君の母親が見舞いに来た。」

「えっ!?お母さんが・・・!?」

 

その言葉に驚きながら、私は家に母親がいなかった理由を知った。

冷泉さんの見舞いに行っていたからだ。でも、どうしてーー?

 

「内容は色々と省くが、端的に言うとかなり後悔していたようだ。君のあの事故の件で母親としてではなく、西住流の師範としてあたってしまったことをな。」

 

私は冷泉さんの言葉に僅かに気まずい表情をしてしまう。なぜなら私がやったことは確かに西住流の理念としては外れていることは間違いはなかった。でも、自分のやったことは間違っていないことを伝えるために大洗での戦車道を続けてきた。

何も、母親を悲しませるためにやった訳ではない。

 

「母親を悲しませるためにやった訳ではない、と言った感じだな。」

 

冷泉さんの言葉に思わず驚愕の顔を浮かべてしまう。顔は見られていないはずなのに自分が考えていることを見透かされて、表情が若干強張る。

 

「だが、君の母親は君のために動いてくれた。会長の文科省の約束の取り付けには彼女や戦車道連盟の理事長、さらには蝶野教官まで私たちの廃校に異を唱えてくれている。」

 

お母さんが・・・大洗の廃校に待ったをかけてくれた・・・?

 

「まぁ、表向きは黒森峰のリベンジのためだろうが、本心は何より愛娘の君のことを考えての行動のはずだ。

 君の周りには大洗のみんなだけじゃない。君の頑張りに感化された者、文科省の横暴に待ったをかけようとしている者、何より君の母親が応援してくれている。

 不安が尽きないのはわかる。だが、君の後ろにも応援してくれている人がいることを忘れないでほしい。」

 

私にそう優しく語りかけてくれる冷泉さんに、私は自然と涙腺が緩んで涙が溢れそうだった。だから、冷泉さんの手に覆うように自分の手を重ねたのも自然なのかもしれない。

 

「・・・・・ありがとう。」

 

私のお礼の言葉に冷泉さんは軽く息を吐くように笑うだけだった。

その表情は絶対に柔らかいものだったと思う。

でも、やっぱり冷泉さんには、そばにいてほしい。

 

「やっぱり、試合には間に合いませんか?」

 

そう尋ねると冷泉さんは困った表情をする。それだけで冷泉さんは試合に出ることが出来ないことを察する。

 

「すまない。医師に確認はとったのだが、ストップがかけられた。最悪、また傷が開いてしまうようだ。」

「そう・・・・ですか。」

 

そう言われしまい、私は表情を少しばかり沈んだものにしてしまう。

やっぱり、この人にはそばにいてほしい。

 

「だが、会長が何かしらの対策を施している。具体的なところは知らないがな。」

「・・・冷泉さんって、会長をだいぶ信頼しているんですね。」

 

私はそこでなぜかムッとした表情をしながら冷泉さんに聞くと、彼女は表情を緩めながら答えた。

 

「何だかんだ言ってあいつとの付き合いが一番長いからな。」

「沙織さんよりもですか?」

「まぁ・・・否定はしない。」

 

冷泉さんが言ったその言葉に胸の内がなぜか棘が刺さったみたいにチクリと痛んだ。

最初こそどうしてだろうと思ったがーー

 

『君の中で彼女の存在が大きいのだな。』

 

会長のその言葉を思い出したことで私は自分の気持ちにようやく気付いた。

私、冷泉さんのことが好きなんだ。友人としてではなく、一人の人間として、恋愛的に好きなんだ。

そして、さっき胸がチクリと痛んだのは、嫉妬の心。会長にその気はサラサラないのだろうけど、おそらく私は会長に嫉妬してるんだと思う。

 

「冷泉さん、私そろそろ戻りますね。その、時間ギリギリだから・・・。」

「それもそうだな。すまんな、突然あんなことをして。あまり気分の良いものではなかっただろう。」

「そんなことないです。むしろーー」

「むしろ?」

 

嬉しかったです。はい。でも、私にそれを口にすることは恥ずかしくてできない。

だからーー

 

私は冷泉さんが私に回していた腕を離すと同時に顔だけを冷泉さんの方に振り向かせながら私が彼女の後頭部に腕を回して自分の顔に引き寄せる。

そして、そのまま唇を重ねた。お互いの唇を重ねるだけの軽いもの。

だけどその感覚は一瞬だったか、はたまたずっと続くような錯覚に陥るほど長いようで短く感じた。

私は少し名残惜しかったけど、冷泉さん、いや麻子さんの柔らかい唇から離れる。

呆気に取られた顔をしている麻子さんの顔を見て、なんとなくしてやったみたいな優越感に浸る。

 

「えへへ、私の初めて、麻子さんにあげちゃいました。」

 

その優越感がなくならないうちに私は病室を後にした。

 

 

 

「・・・・・お、驚いたな・・・・。まさか彼女がこんな大胆なことをするとはな・・・。」

 

はっきり言ってみほからキスをされた時は流石に俺も驚いた表情をせざるを得なかった。多分、年甲斐もなく、僅かに顔が紅潮しているようにも感じる。

自分でも言ったが、戦車を動かしている時の彼女といつもの彼女はまるで違うからだ。

戦車に乗っていない時のみほははっきり言っておとなしいが第一印象の少女だからだ。

その戦車に乗っていない状態のみほがいきなりキスをしてくるという予想外の行動を俺は理解するまで少しばかり時間をかけてしまう。

まぁ、彼女は彼女で成長しているのだろう。

で、病室の外で悶えているようにしているのはみほか?

 

 

 

(やっちゃったやっちゃったやっちゃったやっちゃったやっちゃったやっちゃったっ!?!?!!!)

 

なにやってるのわたしぃっ!?し、しちゃったよね・・・。その・・・麻子さんと、キス・・・・。唇には僅かにその時の感触が残っていた。その感覚を思い出すとーーあ、もうダメ。

 

(ほわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?)

 

病室の前でしゃがみこんでいた私は顔を真っ赤にどころか真紅に染めながら病院から逃げるように出て行った。

その際、叫びながら病院を出てこなかったのは褒めてもいいって思った。

 

 

 

 

 

・・・・・何故だ。何故か西住君からピンク色のオーラのようなものが見えるだが、気のせいか?

まぁ、気のせいということにしておこう。大方アムロが関わっているのは事実だろうがな。

話は変わるが、我々が現在、決戦の地である北海道に来ていた。

学園艦がないため大洗から出る太陽だかひまわりだかの意匠が施された船で北海道へ向かい、近くで借りた倉庫で作戦会議をしていると、そこに児玉理事長と役人がやってきた。

どうやら試合の詳細を伝えにきたようなのだが、私の懸念の通り、試合内容は殲滅戦ということだった。

ただでさえこちらは戦車の保有台数が少ないのに殲滅戦はこちらに不利すぎると抗議の声が上がったが、役人どもは既に決まったことだと言い、取り付く島もない。もっとも私としては大した驚きはなかったがな。

 

「おや、君はそれほど驚いた顔は見せないのだね。」

 

私の涼しい表情が気になったのか役人がこちらに声をかけてくる。

ちっ、面倒なことになった。

 

「まぁ、予想できなかった訳ではなかったので。」

「予想していたにもかかわらず、皆に伝えないとは飛んだ道化のようだね、君は。」

 

役人はこちらを嘲笑うかのような視線を向けてくる。

私はその様子を見て内心、ため息をついていた。この男、器の高が知れているな。

 

「どのみち、大洗はこの試合で勝てなければ廃校の撤回はできない。降参するなら早めにしておくのが懸命でしょう。」

 

そう勝ち誇ったような笑みを浮かべる役人に対して、他の面々は睨むような視線を向けている。

・・・・ここは言っておいた方が彼女らの気持ちも晴れるか。

 

「言いたいことはそれだけかね?」

「は?」

 

私の反応が予想外だったのだろうか、役人は素っ頓狂な声を上げる。君は邪魔なのでな、さっさとご退場願おうか。

 

「言いたいことはそれだけかと言ったんだ。無いのであれば、とっとと出て行ってもらおうか。作戦会議の邪魔だ。」

 

私の様子が豹変したことに驚いているのか、理事長はもとより西住君たちも表情を強張らせている。

当の役人も冷や汗のようなものを流している。

 

「失せろ。貴様の顔は癪に障るのでな。」

「あ・・・う・・・。」

 

私の放つプレッシャーに圧されたのか役人は表情を固めながら動こうとしない。

さながら気分は蛇に睨まれたカエルといったところか。

 

「もう一度言う。失せろ、俗物。」

 

そう言い放つと役人は逃げるようにこの場を後にした。理事長もそれを追うように出て行った。

・・・・彼には悪いことをしたな・・・。

 

「か・・・・会長、あんな顔ができたんですね・・・。」

 

桃がしどろもどろな口調になりながらそう聞いてくる。まぁ、これが本来の私なのだ。そう思われてもしょうがあるまい。

 

「まぁ・・・・あれが本来の私と言っても過言ではないだろうな。みんなを怖がらせてしまって申し訳ない。」

 

そう言いながら、らしくないことをしたとため息をついていると、一年生達の姿が目に入った。

何故かその眼は輝いているように見えたがーー

 

「かっこいい・・・・!!」

 

ん?

 

「カッコよかったです!!」

 

おそらく、阪口君あたりだろうか、誰かがそう言うと、一年生達がこちらに駆け寄ってわいわいと騒ぎ始めた。

・・・まぁ、みなの気持ちが晴れたのであれば、それでいいか。

 

「なんていうか、軍人さんみたいな感じがあったよねっ!?」

「映画で見た感じとは違うけど、凄いカッコよかったです!!」

「会長に睨まれた時の役人の顔面白かったよね!!」

『ねー!!』

 

和気藹々とした一年生の様子に表情を緩ませていると、西住君がこちらに視線を向けていた。それに気づき、顔をそちらは向けると、頭を下げてお礼の意を表した。

 

「その、ありがとうございます。立場的に私が言うべきだったのでしょうけど・・・。」

「いや、私は私が思ったことを言っただけだ。気にすることはない。気をとりなおして作戦会議の続きといこうか。」

「・・・・はいっ!!」

 

そして、次の日、ついに大学選抜チームとの決戦が始まる。

さて、ある程度の根回しはしたが、後は任せたぞ。ダージリン。そして、ケイ。

 

 

試合当日、西住君と二人で試合前の挨拶へと向かう。審判員は蝶野教官を含めて四人。その審判団の前にこちらを毅然とした態度で見ているのが、『島田愛里寿』だ。

彼女に向かって歩いている中、西住君が軽くこちらに耳打ちをしてくる。

 

「あの、会長。結局手って一体・・・・?」

「なに、今に分かるさ。」

 

そのまま島田愛里寿の元へたどり着き、まさにお互いに挨拶しようとした瞬間。

 

『待ったーっ!!!!』

「えっ!?」

「来たかっ!!」

 

西住君は驚きの声をしながら声の飛んできた方向を見る。まぁ、そうだろうな。

なぜなら今の声は、彼女の姉、西住 まほの声なのだから。

私はダージリンに頼んで各校に援軍を要請してもらったのだ。

ダージリンの要請に応じて、短期転校として集まってきたのは合計、22輌だ。

黒森峰からは『ティーガーⅠ』『ティーガーⅡ』『パンターG型』が二輌。

 

「みほ、助けに来たぞ。」

「私たちの力、存分に扱いなさい。そのかわり絶対に勝ちなさいよ!」

「お姉ちゃん・・・エリカさんっ!!」

 

聖グロからは『チャーチル』『クルセイダー』『マチルダⅡ』

 

「お待たせしましたわ。事は全てエレガントに、ですわ。」

 

プラウダからは『T-34/85』が二輌に『IS-2』と『KV-2』

 

「ふふん!!このカチューシャが来たからには大学選抜なんてケチョンケチョンだわっ!!」

 

アンツィオからは『P40』

 

「おいダージリン!!お前のせいで決勝戦でせっかく稼いだ資金が全部P40の修理に持っていかれたんだからなっ!!」

 

サンダースからは『M4シャーマン』が2輌と『シャーマン・ファイアフライ』

 

「Hi!!待たせたわね!!私たちもいるわよ!!」

 

継続高校からは『BT-42』

 

「さて、始めようか。」

 

そして、最後にきたのが知波単学園なのだが、最初は22輌で来てて流石に焦った。

 

「すみません!!心得違いをしておりましたぁ!!」

 

だが、すぐさま16輌が下がっていって最終的に残ったのは6輌だった。

これで、30輌と7輌だったのが、30輌と29輌となった。

これで数の差はほとんどなくなったと言っていい。

 

「さて、突然増えてしまったが、こういう場合はどうすればいい?教官殿。」

「基本的には相手チームの隊長が了承すれば良しとします。」

 

そう教官に尋ねると、彼女は軽い笑みを浮かべながらそう答えた。

と、なると判断は島田愛里寿に委ねられるわけだが・・・・。

 

「我々は構いません。受けて立ちます。」

 

ふむ、嫌な顔一つせずに了承してくれたか。同情からかはたまた向こうも少々気乗りが悪いのかもしれんな。

 

「すまない。こちらからもう一つ許してほしいことがあるのだが構わんかな?」

「・・・内容による。」

「実を言うと遅れてくる人物と1輌いるのだが、それらが途中参加しても構わないかね?」

「す、凄い頼みをするんですね・・・・。うーん・・・・・。」

 

島田愛里寿は困惑気味な表情をしながらも考えてはくれる。まぁ、流石にすんなり通るとは思っていない上、考えてくれるだけでも有難い。前代未聞すぎることなのは承知の上だ。レギュレーションを際どいどころか貫通しているような気がしないでもない。

 

「うーん・・・・。うん。1輌くらいなら大丈夫。というより登録は・・・?」

「してあるとだけは言っておく。」

「そう。ならいいよ。」

 

・・・・・器の大きさが役人とは比べものにならんな・・・。

少しばかりこちらが後ろめたい気になってくるな・・・。

まぁ、それはそれとして、ようやく試合か・・・・。

 

「西住君、とりあえず時間を引き延ばすことを最優先にしてほしい。」

「えっと・・・。わかりました。でも車輌はともかく、遅刻している人は・・・。」

「それはおいおいわかることだ。ひとまずみなを集めて作戦会議だ。」

「そ、そうですね。」

 

では、始めるとしようか。とはいえ、最初は私と桃は出られないがな・・・。

 




アンチョビが乗ってきたのは『P40』です。アンチョビが乗ってきたのは『P40』です。(大事なことなので二回言いました。)

あとヘッツァーもお留守番です。つまりどういうことかガルパンおじさんである諸兄には、わかりますね?


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第43話

作戦は、いくつか悶着はあったけどなんとか決めることができた。

ありきたりかもしれないけど、多分急造チームではあまり凝った作戦は難しいと思うから隊をたんぽぽ、あさがお、ひまわりの三つに分けて、お姉ちゃん率いるひまわり小隊に中央高地を占拠してもらい、残り二つの小隊はその高地の両翼から進撃することにした。

うまくいくかは分からないけど、現状ではこれが一番みんなにやりやすいと思う。そろそろ試合が始まる。気を引き締めていかないと・・・・。

 

 

同時刻ーーー

 

 

 

「・・・・動くか。もう試合も始まっているだろうし、視線も感じなくなった。」

 

俺は病室から出ると周りを気にしながら階を降りていく。俺の入っていた病室はそれなりに高いところにあったのでな。

二階あたりまで降りていくと空き病室に潜り込む。事前の下調べでここが空いているのは調査済みだ。

病院の医師や看護師に見つかると面倒極まりないため、さっさとやらせてもらう。

俺は病室の窓を全開にして、窓枠に手をかけると目の前の病院の木に向かってジャンプした。

枝が折れる音などが辺りに響くが、なんとか比較的太い枝にしがみついて落ちるのだけは回避する。

そして、そのままゆっくりと木から降りる。

シャアからの連絡だとそろそろいるはずなんだが・・・・。

 

「Hey!Ms.レイゼイ!!」

 

名前を呼ばれた方向に振り向くとそこには一人の女子生徒が待っていた。

緑色のアメリカ風のパンツァージャケットに身を包んだその女子生徒はサンダース所属の生徒だ。

 

「君が、会長に頼まれた生徒か?」

「そっちの会長、というよりケイ隊長直々のお願いだけどね。それよりも今は時間がもったいない。Follow me。着いてきて。ヘリを用意してあるから。」

「・・・感謝する。」

「サンダースに着いたらそのままギャラクシーに乗って。出発準備は整えてあるから。」

「了解した。」

 

俺はそのサンダースの生徒に連れられてヘリに乗り込む。

みほ、頼むから持たせておいてくれ・・・!!

 

 

 

 

「か・・・・会長・・・!!い、今のは・・・!!」

 

陣地で試合の映像を見ていた桃の顔がこちらを振り向くが、私はそれを気に留めずにすぐさま地図を開く。

試合は左翼を担っていたあさがお小隊が戦闘を始めたが、こちらの当初の目的である中央高地の制圧は難なく終わりそうだった。

しかし、まさに制圧が完了しそうだったその時、ひまわり中隊が謎の砲撃に晒された。

その砲撃のせいで黒森峰のパンター二輌が撃破され、正面と左翼を突破した大学選抜チームの挟撃に合い、中央高地を放棄した。

その撤退途中、プラウダのIS-2とKV-2とT-34/85が殿を務め、IS-2がいくつか敵のパーシングを撃破していたが、最終的に撃破され、プラウダ勢はカチューシャだけが取り残されてしまった。

だが、何より考えねばならんのは先ほどの謎の砲撃だ。

爆発の威力や範囲を鑑みるに明らかに戦車のものではない。さながら艦砲射撃、いやそれ以上かもしれん。

そんな代物まで持ち込んできた役人に悪態をつきながらも今は地図と睨み合いをする。

 

(・・・砲弾の着弾角度はほとんど直角に等しかった。ならば仰角はおそらく40度以上はあるはずだ。そこから鑑みるに・・・今の砲撃は・・・)

 

私は今の材料からできる限りの答えを導き出した。あれほどの威力を持っている以上、車体もかなり巨大なはず・・・。地図を見ても推定射程距離は10キロ近い。

とすれば、考えられるのは・・・・。

 

「自走臼砲・・・・!!」

「じ、自走臼砲・・・っ!?あれはオープントップのはずですので、戦車道での使用は不可能では・・・!?」

「・・・役人がなんらかの改造を施している可能性がある。どこまでここを潰したいのだ、文科省の奴らは・・・!!」

 

歯噛みしながら映像を再度見つめると西住君たち大洗連合は遊園地に戦場を移すようだ。

その際、BT-42と八九式とクルセイダーを別途小隊として、先ほどの砲撃の正体を探るらしい。

だが、おそらく先ほどの砲撃の正体を見つけたところで、おそらくソイツの周りには防衛部隊がいるはずだ。とてもではないが、それを切り抜けられるとは思えん。

 

「会長・・・やはり西住に人員を回してもらうべきだったのでは・・・?私、これ以上は・・・!!」

「・・・もう少し、もう少しだけ待ってはくれんか?」

「で、ですが!!」

 

桃がまさに限界といった表情を挙げた瞬間、辺りに飛行機のエンジン音が響き始める。この音は・・・!!

 

「来たかっ!!」

「か、会長っ!?何が来たんですかっ!?」

「最後にして、最強の援軍だ。」

 

私と桃が陣地から空を見上げるとそこにはサンダースのギャラクシーが写り込んできた。

 

「ぎ、ギャラクシーっ!?で、ですが今更あの戦車を持ってきたところで、我々には人員が・・・!!」

 

そのギャラクシーは後部ハッチを開きながらこちらの陣地に近づくと戦車を1輌降ろし、再び空へと舞い上がった。

ギャラクシーから降ろされた戦車は土煙を上げながら徐々にスピードを落としていき、最終的にこちらの目の前で止まった。

その戦車の正体は、イギリス製の巡航戦車、『彗星』の名前を持つ、『コメット巡航戦車』だ。性能は大洗女子学園の中でトップを誇る。

硬さや火力はポルシェティーガーに劣るだろうが、スピードは随一だ。

その速度、およそ50キロだ。

 

そして、そのコメット操縦席のハッチから顔を出した人物に桃は目を丸くする。なぜなら絶対に来れないと思っていた人物がそこにいたからだ。

 

「な・・・・っ!?お前は・・・!!冷泉っ!?入院しているんじゃなかったのかっ!?」

「抜け出してきたに決まっている。」

「そ、それに怪我とかは・・・!?」

「サンダースの生徒に鎮痛剤を打ってもらった。もちろん合法のものを使っている。」

 

そこには患者服のアムロがいた。ありえない人物の登場に驚きを隠せないと言った表情をしながら涙を浮かべていた。驚いているのか、泣いているのかどっちかにしてくれないか?

まぁ、それは置いておいて、アムロは桃に対し軽く手をふると私に厳しい表情を向ける。

 

「シャア、状況は?」

「はっきり言って、劣勢だ。このままではこちらが敗北する。」

「・・・・わかった。すぐさま出よう。お前のことだから許可は取っているのだろう?」

 

そう言われ、私は表情を緩ませる。当然だ。何しろ私が画策したことだからな。ぬかりはない。だが、その前にやることがある。私はアムロに袋を投げ渡す。

アムロはそれを掴むと、不思議そうな表情をする。

 

「これは?」

「お前のパンツァージャケットだ。いつまでも患者服では示しがつかんし、何より前のはお前が血だらけにして使えんよ。」

「そういえばそうだったな・・・。わかった。」

 

そう納得し、袋からパンツァージャケットを取り出したアムロは表情を固める。

そして、微妙に顔をひくつかせながらこちらを睨みつけてくる。私はそれに軽い笑みだけを返しておく。

 

「おい・・・・。よりによってどうしてこれを・・・?」

「お前に似合うと思ったからだが?」

 

奴の手には青を基調とし、両肩辺りに黒のライン、それに襟裏は赤、として、腕には大洗の徽章が入った服が握られていた。

つまるところロンド・ベルの徽章を大洗の校章に変えただけのロンド・ベルの制服であった。

 

「いや、似合うとか似合わないの問題ではないのだが・・・・。」

「お前にはそれが一番しっくりくるだろう。それとその服以外はないぞ。」

 

私がそういうとアムロは困った表情をしながら考える素ぶりを見せる。

しばらくすると観念したのか疲れた顔でコメットの中へと戻っていった。

再び顔を出してくると服はしっかりと着ていたが、何か思いついたような表情を上げると私に視線を向け始める。

 

「そういえば、お前にはないのか?」

「・・・・・質問の意図を理解しかねるな。」

 

ちっ・・・・勘のいい奴め・・・・。

私は視線を背けながら奴の顔を見ないようにする。あまり、あれは着たくないのになぜか作ってしまった。私自身、よくわからん。

 

「そういえば会長。冷泉が着ているのとは別に袋があったような気がするんですけど、あれは一体・・・?」

 

・・・桃の奴。余計なことを・・・。アムロが確信した顔つきになってしまっているではないか・・・。

 

「やはり、あるんだな?」

「・・・・・はぁ、分かった。私もアレを着るとしよう。」

 

アムロにこれ以上の言い逃れができないと感じた私は観念した様子で髪に手をかけ、今まで編んでいたツインテールを解いた。

髪型をツインテールから普通のロングに戻したため、重力に従って垂れ下がる。

 

「か、会長?どうして髪を解いたんですか?」

「・・・その方が見た目がいいからな。」

 

形は大きく違うとはいえ、またアレを着るのか・・・・。本当になぜ作ってしまったのだ・・・。ため息しか出んな・・・・。

 

「それで?まずはどうする?」

「出たところで連絡が取れるのは事情を知っているケイと自動車部のほかにはいない。ひとまずケイとコンタクトを取ろう。」

「分かった。」

 

私は割と忌々しさもあるあの服・・・・ネオ・ジオンの総帥としての服(マント付き)を着るために少し席を外す。

あまり着たくないのだが・・・仕方ないか・・・・。

 

操縦手と通信手がアムロ、装填手が桃、そして、砲手兼車長を私が務めるコメットは陣地から出ると私はすぐさまケイとコンタクトを取る。

 

「ケイ。こちら杏だ。聞こえるか?」

『その声・・・!!間に合ったのねっ!?』

「ああ。なんとかな。それはそれとして、そちらの状況はどうなっている?」

 

通信機の向こう側からケイの感激といった声が聞こえる。私はそれを聴きながら大洗連合チームの状況を尋ねる。

ケイから聞いたのは以下の通りだ。

 

・ 砲撃の正体はカール自走臼砲

・それの撃破に向かったBT-42、クルセイダー、八九式らどんぐり小隊は取り巻きのパーシング三輌の撃破はしたもののカールそのもの撃破には至っていない。

・ 現在は遊園地で各個撃破の方針をとってなんとか持たせている。

 

「なるほど。大方の事情は理解した。カールの撃破はこちらに任せてほしい。」

『・・・頼んだわね。アレがいてもらうとかなりこっちとしては面倒だから。』

「そちらもな。現状私達に入ってくる情報は君からのしかないのでな。」

『そっちは任せて!』

 

私はそこでケイとの通信を切り、ケイから教えられたカールの位置を確認する。

カールはその巨体さ故に動くことはそれほどできないはずだ。

 

「アムロ、この地点に向かってくれ。」

「了解した!」

 

アムロが操縦するコメットは普通の戦車より倍近いスピードでカールの元へ向かった。

流石だな、初めて触るコメットをここまで完璧に乗り回すか。

 

程なくして件のカール自走臼砲がいる地点にやってきた。

アムロはコメットをカールから見えないように稜線の影に止めた。

 

「ここから狙えるか?」

 

アムロはこちらを振り向くと試すような口調でそう聞いてきた。

桃は驚愕といった表情をしながら私を見つめる。まぁ、はっきり言っておくとーー

 

「余裕だな。動いているならともかく相手は動きもしない木偶の坊だ。」

 

そういいながら稜線の影からカールに照準を合わせる。まぁ、照準からは見えないが、砲弾の落ち方や気配などを読めば、造作もない。

 

ドゥンっ!!

 

 

放たれた砲弾は最初こそはカールの頭上を通り抜けるほどの高さだったが、落ちることも考慮した砲弾は吸い込まれるようにカールへと向かっていき、その薄い装甲をぶち抜いた。

 

「・・・・確認するか?」

「見るまでもない。と言いたいところだが、一応、な。」

 

私が軽く指を指すと心配そうに見えないはずの砲弾の行方を案じている桃の姿があった。

アムロはその姿に納得を示しながらコメットを稜線の影から出す。

 

「ほ、本当に当たっている・・・!!」

 

カールがしっかりと白旗を上げている様子を見て、桃の表情は驚きを通り越しているようだ。表情にそれほど動きがない。

 

「ケイか?こちら杏だが、カールの撃破を確認した。」

『Really!?なら良かったわ!!』

「そちらはどうなっている?」

『そうねぇ・・・。今はちょっと追われているところ・・・あ。』

「どうかしたか?」

『っ!!やられたわっ!!誘い込まれたっ!!』

 

ケイの焦り声にこちらも少しばかり厳しい表情をする。

 

「状況は?」

『単純に言えば、みんなの動きが誘導されて、一箇所に集められたわ!!このままじゃあ殲滅される!!』

「っ!!場所はっ!?」

『遊園地の野外音楽堂!!』

「アムロっ!!すぐさま遊園地に向かえ!!西住君達が窮地に陥った!!」

「ちっ!!了解した!!」

 

アムロは悪態をつきながらコメットを急加速させて遊園地へと向かった。

間に合うか・・・?いや、間に合わせてみせるさ!!

 

 

 

「あー!!走り足りないですわー!!」

 

どうも皆さま、はじめましての方ははじめまして。わたくし聖グロリアーナ女学院一年生の『ローズヒップ』ですわ。

わたくしはどんぐり小隊の一員として、少しほど前に謎の砲撃の正体であろう『カール自走臼砲』を見つけましたわ。

継続高校のおかたに取り巻きのパーシング三輌を任せて、わたくしと大洗の八九式で『殺人サーブ作戦』なるものを敢行致しましたわ。

しかし、結果は八九式でクルセイダーを飛ばすのは無理があったのか、カールにこれっぽちも届かせることも叶わず、クルセイダーと八九式はカールの砲撃で崩れた橋の下敷きになってそのまま両方揃ってアウトになりましたわ。

今は撃破判定の出てしまったクルセイダーの中で喚き散らして・・・失礼、アッサム様に怒られてしまいますわ。お怒りをブチまけていました。

 

「こうなったら、回収車でも乗り回して・・・ってあれは・・・?」

 

クルセイダーから出てくると目に留まったのはとんでもないスピードで疾走していく1輌の戦車。それはわたくしの乗っているクルセイダーよりも早かったと言っておきますわ。

あの戦車は確か・・・。

 

「イギリスの、コメット・・・ですわよね?」

 

そのコメットはわたくし達には目にもくれずに稜線の向こう側へと消えて行きましたわ。

それの速さは速さに自信があるわたくしが、速いと感じてしまうほどにでしたわ。

 

「一体どこのお馬さんの骨が・・・・?」

 

呆気にとられていたわたくしはそうぽろっと言葉をこぼす事しか出来ませんでしたわ。

 




さて、諸君。役者は揃った。そろそろ『Main Title』の時間だ。

準備は、いいかな?


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第44話

さて、始めるか。戦車のスペックを度外視したチート機動を・・・。

個人的な推奨BGM

『UNICORN』か『RX-0』

『Main Title』ではないのかと思ったそこの貴方。多分次回はそうかもしれないっす。


「っ・・・・。どうしよう、作戦を利用されちゃった・・・・。」

 

野外音楽堂に各分隊が集まってきているのが見えたところでようやく相手の意図が掴めたが、もうその時点では遅すぎた。

今、私達大洗連合は野外音楽堂に誘導されて、包囲殲滅を受けようとしていた。

 

野外音楽堂に押し込まれた他のみんなの目の前には大学選抜のパーシングやチャーフィーがこちらに砲塔を向けて、今にも発射しそうな感じだった。

なるべく、分散させないように固まって行動していたのだけど、それを逆に利用されてこの有様だ。

 

「に、西住殿・・・、かなりまずいですよ・・・。」

「ここで一気に数を減らされたら・・・。こちらがかなり不利になります。」

「まだここでやられてたら数の差が・・・・。」

 

囲まれているみんながやられてしまえば、こっちに残っているのは私達とお姉ちゃんとエリカさんとカチューシャさんの4輌しかいなくなる。

 

「西住さん・・・。どうするの?」

 

入院している麻子さんの代わりにⅣ号の操縦手をやってもらっている小山さんがこちらをみてくる。

こちらだって打開策は探している。だけど、この状況ははっきり言ってどうしようもない。

何か、包囲されていない車輌からの介入が必要。それはわかりきっている。

でも、フリーになっている車輌はⅣ号を含めても少数だ。向かったところで対処されるのは目に見えている。

 

(だけど、このままじゃ……………)

 

辺りを見回してもお姉ちゃん達を除けばほとんどの戦車が音楽堂に集められている。何かケイさんがずっと通信機に手をかけているように見えたが、その理由を考える余裕はなかった。

考えても考えても見えてくるのはこちらが包囲殲滅される様子しか思い浮かばないことに徐々に心の中で不安が占めていく。

 

「ここまで・・・・なのかな・・・・。」

 

つい零してしまった言葉がⅣ号の中で伝染していく。

Ⅳ号の中でみんなが辛気臭い顔をしてしまい、目の前の絶望に打ちひしがられそうになる。

内心では諦めたくない。だけど、目の前の現実が私達の最後の可能性を押し潰そうとした時ーー

 

『貴方は、そこで諦めるの?』

 

突然、女性の声が聞こえた。耳からではない、頭に直接響いてくるような感覚だった。

私はその現象に驚きながら、目を見開いた。いつのまにか自身の周りに緑色の光で輪郭が形成された一羽の鳥がいた。その鳥はよくみてみると白鳥のようにも見えた。

思わず周りの反応を見るが、自身の現象に気づいているようには見られなかった。

私はその声に応えるように心の中で呟く。

 

(こんな状況になってしまえば・・・勝ち目は・・・)

『勝ち目があるかないか、そんなことは些細な問題よ。貴方が諦めたくないかどうか。それだけで道は開けるわ。』

 

女性の妙に確信めいた声に思わず私は聞き返してしまう。

 

(道が開ける、ですか?どうして貴方はそんなに確信めいたことを・・・・)

 

質問を途中で切らしてしまったのは、その女性の笑い声が聞こえたからだ。

口元に手をあてて笑うというより微笑んでいるみたいに。

 

『そうねぇ・・・・。貴方の心のそばにいる人のせいかしら。』

 

私の心のそばにいる人・・・?

同じⅣ号の乗員である優花里さんや華さん、それに沙織さんか小山さんのことだろうか?

 

『違うわ。なら言い方を変えるわね。貴方が一番思いを寄せている人よ。』

 

私が思いを寄せている人・・・?まさか、そんなはずがない。あの人は絶対に来れない筈だ。本人だってそう言っていた!!

 

『それは別にあの人自身が言ったことではないでしょう?その言葉に従うかどうかは彼、いいえ彼女次第。』

 

その女性に言われたことで自身の先入観を情けなく思う。

そうしている間に再び女性のクスクスといった笑い声が響く。

 

『まだ諦めるには早いわ。むしろ、これからよ。何故なら貴方にはーー』

 

 

『赤い彗星』と『白き流星』がついている。

 

 

その言葉を最後にその女性と思われる緑色に輝く白鳥は囲まれているみんなの後ろにそびえ立つ壁に溶けるように消えていった。

 

今の声は一体なんだったんだろう・・・?赤い彗星と白き流星・・・?

誰のことを指しているんだろう?

 

『ハーイ!!各車輌、なんか辛気臭い顔になっているけど、まだ諦めるにはまだまだよ!!そうね、こんな言葉を知っているかしら?』

 

ありえない現象に呆けていると通信機からケイさんの声が聞こえてくる。その声色に沈んだようなものは感じられず、むしろ気合い十分、と言った具合だ。

 

『ヒーローは遅れてやってくる!!』

 

ケイさんがダージリンさんの十八番である格言のようなものを言った瞬間、みんなの後ろにそびえたつーーちょうどさっきの緑色の白鳥が溶け込んだ辺りの壁の上部が爆発音と共に粉々に粉砕された。

突然の出来事に思わず目を疑うがしっかりと耳に聞こえてくるものがあった。

それは戦車のエンジン音、この音の正体は確か、ロールスロイス製の600馬力の出力を持つ、『ミーティアエンジン』。

 

土煙が晴れてきて、破壊された部分が見られるようになるとその部分を凝視する。ちょうどそこから1輌の戦車が飛び立った。それは紛れもなく、会長に見せてもらったコメット巡航戦車だった。

そのコメットは空中で一度、77mm砲の火蓋を切った。その砲弾は一輌のパーシングの上部装甲を完全に打ち抜き、撃破判定を上げさせる。

空中なんていう極めて不安定な環境で敵戦車を撃ち抜ける人物など、一人しか思い浮かばない。

そのコメットは空中で姿勢を崩すことなく綺麗に着地すると、そのまま大学選抜チームの包囲網にたった一輌で突っ込んでいった。

その様子に大学選抜チームは呆気にとられていたのか少しばかり遅れてそのコメットに砲撃を集中させる。

普通であればあっというまにやられるがそのコメットは一発も被弾することなくその砲弾の雨を切り抜けると一輌のチャーフィーに向かって突進を仕掛け、その直前で急ブレーキをかける。

何故止まったのかは分からなかったが、コメットはその反動で車体後部が浮き上がる。

だけど、次の瞬間、私はそのコメットの操縦手を確信した。

コメットは車体後部がまだ浮いている中、残りの地面についている無限軌道で超信地旋回を行い、勢いよく回転をつけ、浮いている車体後部をチャーフィーに側面からぶつけた。

さながら格闘技でいう胴回し回転蹴りのようなものを食らったチャーフィーはコメットとの重量差もあって吹っ飛ばされ、何回か車体を転がし、砲塔を下にして、白旗を上げた。

その様子に私含め、全員が目を白黒していたと思う。あのコメットを待っていたと思われるケイさんでさえ目を丸くしているんだから。

するとコメットのキューポラから誰かが出てきた。

その人物は会長だった。だけど、いつものようなツインテールは下ろして、髪を後ろでまとめて、額が見えるくらいのオールバックになっていた。

 

『各車輌、こちらに続け!!』

 

会長が着ているマントを翻しながら全車輌にそう通達すると、みんなすぐに本調子に戻ったのか先に包囲網を離脱したコメットに続いて大学選抜チームの包囲網を抜けていった。

 

というか、会長の服、どうしちゃったんですかっ!?すごく赤くて煌びやかなんですけどっ!?

 

 

「戦車で格闘戦を仕掛けるか。流石だな。」

「まだ追っ手はふりきっていないぞ。無駄口を叩くのはこの状況を脱してから言ってくれ。既にかなりやられているぞ。」

 

周りを確認すると、カールの砲撃に晒されたのか頭数がかなり減っているように見えた。

シャアから援軍のことを教えてもらったが、各校の隊長格は残っているものの、少なくともマチルダⅡ、サンダースのアリサが乗っていたシャーマン、アリクイさんチームの三式、カモさんチームのルノーB1bis、そしてカバさんチームのⅢ突がどうやら撃破されているようだ。

 

「それもそうだな、桃。装填だが、君の限界を超えてもらう。」

「・・・・と、言いますと?」

「そうだな、5秒以下で装填を終えてくれ。それ以上は我々のスピードについてこれんだろう。」

 

シャアの言葉に河嶋は数瞬、呆けた表情を浮かべると、すぐさま驚愕といった表情に変える。

 

「えっ!?5秒以下ですか!?それって実質・・・」

「ほぼ4秒で仕上げろ。」

 

河嶋は死んだような顔になるが、それくらいのスピードでやってもらわなければこっちが困るんだ。というよりこれでも妥協している方だ。本当であれば2秒、遅くとも3秒で仕上げてほしいのが本音だ。

 

(・・・・さようなら、私の両腕・・・・。)

 

・・・・河嶋が自分の両腕を見ながら妙に達観した顔になっているが、まぁいいだろう。

 

『麻子さん!!麻子さんですよね!?そのコメットに乗っているのは!!』

 

通信機からみほの声が聞こえてくる。その声色には嬉しさと不安さが入り混じったような感じだった。

その声はシャアにも聞こえていたらしく、こちらに視線を送っている。

 

「姿を見せてやったらどうだ?代わりの運転はやろう。」

「・・・わかった。」

 

シャアと入れ違いの形で俺はコメットのキューポラから外へと出て、砲塔の上で立ち上がる。

俺はコメットの後ろを走っているⅣ号を見ると、ちょうどみほがキューポラから顔を出していた。

そして通信機に手をあてて、みほの声に応える。

 

「ああ。その通りだ。流石だな、みほ。」

『・・・・本当に来てくれたんですね・・・。』

「まぁ・・・あくまで医師の言ったことだからな。それに従うかどうかは別問題だ。」

 

 

お互いに顔を見合わせて笑顔を浮かべていると、そこに砲撃が打ち込まれる。

視線を向けると追っ手のパーシングやチャーフィー、それにT28重戦車が追ってきていた。その様子を見て、すぐさまコメットのキューポラに飛び込みながら、みほとの通信を続ける。

 

『ハーイ。遅刻人さん?元気にしてる?』

 

通信機にケイの声が入っている。彼女はシャアが根回しをしてくれたから準備してくれたのだろう。

 

「すまない。貴方には色々助けられた。」

『礼は言わなくていいわ。その代わりーー」

「ああ。私の全力をかけてやらせてもらう。」

『分かっているならOKよ。』

『ちょっと!!マコーシャ!!貴方、入院していたんじゃなかったのっ!?』

 

ケイとの通信が切れると今度はカチューシャの声が飛んでくる。声質から見るに怒っているように感じる。

 

「おちおち、病室のベッドの上で寝ているわけには行かないからな。」

『もう!!せっかく貴方なしで試合に勝って、貴方の鼻を明かしてやろうって思ったのに!!』

「それはまた今度だな。」

『冷泉さん、貴方がなぜそのコメットに乗っているのかはこの際聞きませんわ。』

 

カチューシャの癇癪を適当に遇らうと、今度はダージリンからの通信が入る。

まぁ、コメットはイギリス戦車だからな。彼女には何か思うものがあるのかもしれない。

 

『私は貴方に純粋な敬意を払いますわ。自分が傷つきながら、それでいて、まだみんなのために立ち上がれる貴方を。』

「よしてくれ。私はそんなできた人間ではない。ただ、自分にできることがこれぐらいしか思いつかない、思慮の浅い人間だ。」

『それでもですわ。貴方は目の前の巨悪に悠然と立ち向かった。それだけでも十分に尊敬されるに値しますわ。』

「それは貴方だって同じことだ。むしろ、貴方こそ敬意に値する人間ではないのか?」

『私は力を持つものとして当たり前のことをしただけですわ。』

「・・・・ノブレス・オブリージュ。そういうことなんだな?」

『そういうことですわ。』

『あのー、すんません。ウチのドゥーチェがなんか言いたいことがあるんで次いいっすかー?』

 

ダージリンとの会話をしているとそんな声が割り込んでくる。

確か、彼女はアンツィオのペパロニだったか。

 

『ゔおおおおおおおー!!!!冷泉ー!!!ごめんなー!!!お前の見舞いにも行けずじまいでー!!!』

 

突然のアンチョビの泣き声に思わず通信機から耳を離す。

心臓に悪いからいきなりの大声はやめてくれないか・・・。

シャアも苦笑いをしてしまっているではないか。

 

「まぁ、その、なんだ。貴方には貴方のやるべきことがあったのだろう。こうして来てくれただけでも感謝しきれないさ。」

『見てろよー!!!絶対活躍してみせるからなー!!!』

 

はは・・・。すごいアグレッシブな奴なんだな。アンチョビは・・・。

まぁ、ノリと勢いが売りのアンツィオに居れば、自然とそう染まってしまうのかもな・・・・。

 

『・・・・まさか、貴方まで来るとはな・・・。』

 

ん?この声は・・・。まほか。

 

「まぁ、居ても立っても居られなくなった、というのが正直なところだ。」

『貴方に言いたいことはすでにほかの隊長に言われてしまったから、これだけを伝える。』

『みほを頼む。』

「・・・・・任された。」

 

各隊長との通信を終えると再度、みほに向けて通信を行う。

 

「みほ、私達も君の作戦指揮下に加わる。どうするんだ?」

『相手のほとんどが園内に入ってしまったので、プランFで行きます。』

 

みほのその言葉に俺は申し訳ない気持ちになる。なぜならーー

 

「みほ、私は作戦会議に参加していない。プランFと言われてもどんな作戦なのか全容を掴むのは無理だ。」

『あ、ご、ごめんなさい!!すっかり忘れてました!!』

 

俺にそう謝ってくると、みほはざっくりとだが、作戦の概要を伝えてくれる。

なるほど、分散して各個撃破を狙うのか。

 

「ひとまず、こちらはみほ達についていけばいいんだな?」

『はい!!この先の垣根でできた迷路で敵を撹乱します。』

「・・・・シャア、この先の迷路、ノールックでやれるな?」

 

コメットの中でシャアと運転を代わりながらそう伝えるとシャアは無言で頷いた。

 

「みほ、入ってきた車輌はこちらで抑える。そっちは迷路を突き抜けることだけを意識してくれ。」

『・・・いいんですか?』

「迷路の中は視界が不明瞭だ。何かの手違いで君がやられるとそれこそこちらの敗北だ。」

『・・・わかりました。でも、絶対に危ないことはしないでくださいね!!約束ですよ!!』

「わかっているさ。無理なことはしない。」

『・・・・そう言って、自分のことを蔑ろにしていたのはどこの誰なんですか。』

「・・・・手痛いな・・・。」

 

みほからの指摘に乾いた笑いを浮かべながら、垣根でできた迷路へと入っていく。

迷路を適当に進んでいくと、みほ達のほかに3つほどの気配を感じる。

迷路の角にたどり着くとシャアが砲塔を気配を感じる方へと向けた。

そして放たれる砲弾は、垣根を貫きながら入ってきた大学選抜の車輌へと一直線に向かっていった。

河嶋が死に物狂いで装填を行い、シャアがその後に撃つという単純作業を数回繰り返すと3輌のうち2輌を行動不能にさせる。

 

「・・・一輌仕留め損ねたか?」

「角度が悪かったかもしれんな。ここは退くとしよう。種がわれた以上、2度も同じでは通じんだろう。」

「了解した。」

 

シャアの指示に従って、俺たちは迷路から離脱する。

 

 

「うっそでしょ・・・。完璧にこっちの位置把握されてたじゃん・・・。天性の勘とかそういうレベルじゃないわよ・・・。」

 

Ⅳ号と途中参戦してきたコメットを追って垣根で形成されていた迷路に侵入するとこちらはろくに敵の位置を把握できなかったっていうのに向こうのコメットはまるでこちらの位置を完璧に把握しているかのようにこちらに攻撃を仕掛けてきた。

自分の乗っているパーシングは当たりどころがよくてやられなかったけど、その他はみんな一撃でやられている。

 

「殲滅戦ってことは、あのコメットもやらなきゃいけないんだよね・・・。」

 

ここはアズミとメグミの二人を連れてきて当たった方がいいかなぁ・・・・。

多分、あのコメット、絶対やばい。それしか言えないけど、とにかくやばい。

ここにきて初めてルールが殲滅戦だっていうのを恨んだわよ・・・。

さっきの乱入してきた時もそう、戦車で格闘戦みたいな芸当するなんて聞いたことないし、見たこともない。

 

「・・・・これはまた予想外の強敵・・・・。」

 

まさか、高校生にあんな芸当を見せられるとはね。

 

 




多分今年最後の投稿です

そして、この前、お気に入り三千人突破しました!!
まさかここまで読んでいただけるとは少しも思っていませんでした!!
ありがとうございます!!

あと少しですが、最後までお付き合いいただけると有り難いです!!


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第45話

皆さん、新年明けましておめでとうございますm(__)m
自分は年末はコミケに行っていました^_^

本作は残りわずかですが、今年もよろしくお願いします。

多分、そろそろ『Main Title』流してもいいと思います・・・・。


「みほ、敵の残存車輌は幾つだっ!?」

『カチューシャさんとレオポンさんチームがパーシングを三輌撃破してくれたので残りは19輌です!!』

「対してこちらは残り15輌か・・・!!」

 

未だこちらが車輌総数で劣っていて思わず歯噛みをしてしまう。さらに相手の車輌はパーシングやチャーフィーと比較的高性能の車輌を取り扱っているのも相まって、車輌の差以上に戦況は大学選抜チームに傾いている。

 

『麻子さん、知波単さんの援護に向かってください。』

「場所は?」

『ラーテを模した遊具の中にいるそうです。』

「ラーテ、だと?」

「シャルンホルスト級巡洋戦艦の二連装主砲を積んだドイツが作ろうとした超巨大戦車だ。単純なスケールではマウスの倍以上を誇る代物だ。」

 

みほの言葉に疑問符を上げるがシャアが説明をつけながら地図で場所を示してくれる。

なるほど、場所は大方わかった。

 

「了解した!!すぐさまそちらに急行する!!」

 

地図を見ながら例のラーテを模した遊具の近くまで移動する。

確かに黒森峰の出してきたマウスより一回り以上大きい。

 

「こちら、コメットだ。西、聞こえるか?状況を教えてほしい。」

『あ!!はい!!これは角谷殿!!えっとですねぇ、パーシング二輌の内、一輌は撃破したのですが、今はもう一輌と戦闘を行っているところです!!』

「その中に二階に上がる階段か何かあるか?」

『階段階段・・・・。あ、ありました!螺旋階段が中心に!!』

「そこを上がると滑り台に通じるはずだ。そこから降りてこれるか?」

『了解です!!』

 

シャアの指示のもとで知波単勢がラーテの遊具に取り付けられている滑り台から地波単学園の九七式中戦車三輌が降りてくる。

 

「どうする?こちらでパーシングを仕留めるか?」

「いや、少しばかり彼女らに花を持たせるとしよう。」

 

そういうとシャアは再度通信機を手にかかる。

 

「パーシングは砲身が長い。そのため、どうやっても砲身を左右のどちらかに向けながら降りてくる。そこを二輌で突き出た砲身を挟んで拘束しろ。」

『分かりました!!』

 

・・・・えらく素直だな、知波単の隊長は。

いつのまにか完全にシャアの指揮下に入っているではないか。

一応周囲を警戒しながら様子を伺っているとパーシングが遊具の滑り台から姿をあらわす。

そして、シャアの予測通りに砲身を傷つけないように右に向けながら降りてくる。

 

「やはりそう来るか。各車輌、今だ!!」

『よぉし、行けぇ!!』

 

パーシングが土煙を上げながら滑り台から降りた瞬間、九七式中戦車二輌でパーシングの砲身を挟み込む。

 

「もう一輌、パーシングの背後に回り込め。」

『不肖、細美、参ります!!』

 

そして、パーシングの後ろに回り込んだ一輌が至近距離でパーシングに砲撃を叩き込む。

いくら九七式の砲撃とはいえ、至近距離ではさすがに持たなかったのか、パーシングはそのまま白旗を上げた。

 

『や、やりましたぁ!!』

『パーシングを二輌も・・・!!これは知波単史上、またとない大戦果ですぞ!!』

 

パーシングの二輌撃破したことに感激しているのか、通信機に万歳三唱の声が入り込んでくる。

それほど嬉しいことだったのだろうか・・・・。

 

「九七式とて、それほど悪い車輌という訳ではない。だが、彼女らはどうにも突撃しか頭に無いようでな・・・。」

「・・・・・突撃は普通最終手段じゃないか?」

「そうなんだが・・・。彼女らは突撃を・・・なんと言えばいいのだろうな、一種の美徳と考えているようでな・・・。」

「それでは、勝てる試合も勝てなくならないか・・・?」

「まったくもってその通りだ。これで少しばかり意識改革が起こるといいんだが・・・。」

『角谷殿!!ありがとうございました!!』

 

知波単勢についての論評を述べていると知波単の隊長てある西からお礼の通信が入ってくる。

 

「九七式でも工夫を凝らせば性能の上の戦車にも勝てるようになる。突撃をするのは構わないが、大局を見据えるようにな。」

『はい!!わかりました!!』

 

返事はいいんだよな・・・・。返事は。

そう思いながらも俺たちはラーテの遊具を後にした。

ダージリン達の方にいるT28重戦車が気がかりだったからだ。

なるべく急ぎたかったが、商店街のような外見を持った場所ーー確か名前を『なつかし横丁』だったかーーを走行していると大学選抜チームの車輌と鉢合わせる。

その数、およそ二輌。

 

「アムロ。次のT字路で車体を回せ。」

 

狭い路地の中で追われる形でチェイスを繰り広げていると、シャアからそんな要望を飛んでくる。

 

「恨み言は無しだからな!!」

 

俺はシャアにそれだけ伝えるとT字路を右に曲がった瞬間、操縦桿を操作し、狭い路地の中でスピンを行う。

多少、建物を破壊しながらという無理やりもあったが問題なく車体を回転させる。

そして、俺たちを追ってT字路に右折してきたパーシングが視界に入った瞬間ーー

 

「そこかっ!!」

 

一気にコメットのアクセルを吹かし、パーシングに側面からぶつかる。

追突されたパーシングは建物とコメットに挟まれ、身動きが取れなくなる。

 

「外さん!!」

 

シャアがT字路に入ってきた道へあらかじめ回しておいた砲塔が追ってきたもう一輌のパーシングに向けて火を吹いた。

放たれた砲弾はパーシングの砲塔と車体の間に叩き込まれ、撃破判定を告げる白旗が上がる。

そして、コメットで押さえ込んでいるパーシングは砲塔をこちらに向けようとしていた。

だがーー

 

「遅いな。戦いとはいつも二手三手先を考えて行うものだ。ノンナの方がまだマシな反応を行えるであろうな。」

 

まだ装填の済んでいないコメットの砲身で回そうとしていたパーシングの砲身を押さえつけ、それ以上こちらに向かないようにする。

 

ガコンッ!!

 

河嶋が汗をかきながら砲弾を装填する音が響く。

それを聞き届けた瞬間、シャアがトリガーを引く。

至近距離で砲弾を受けたパーシングは横転しながら撃破判定の白旗を上げる。

 

「あらかた片付いたか。ダージリン。そちらはどうなっている?」

『そうね・・・。アッサムのデータ主義に乗っかってみるのもいいものですわね。』

 

一瞬、どういう意味だと思った。だがーー直後に通信機から響いてきた砲撃音と衝撃に否応に察してしまう。

 

「まさか、やられたのかっ!?」

『ええ。そうですわね。T28は奇策を講じ、真下に砲撃を撃ち込むことで倒しましたが、後先を考えない戦法でしたので。チャーフィー4輌に囲まれて、一斉砲撃でしたわ。』

 

ダージリンの言葉に苦しい表情をしながら押し黙ってしまう。

ダージリンは各校の隊長の中で一番思慮の深い人物だ。その彼女がやられるとこの後、相手が仕掛けてくる作戦を見切れなくなってくる可能性が出てくる。

状況に歯噛みしているとーー

 

『どうやら状況はかなり厳しい。そんなところかしら?貴方の今の心境は。』

「・・・・よく分かったな。」

 

包み隠す必要がないから素直に白状する。すると、通信機からちょっとした笑い声が聞こえてくる。

 

『戦いは最後の5分間にあるものよ。確かに私達はあちらに数でも戦車の性能でも劣っていますわ。ですが、その程度で前へ進むのをたじろぐ貴方ではありませんわよね?事実として、貴方がたはかの準決勝でプラウダの半数をたった一輌で蹴散らしたのではなかったかしら?』

「・・・・諦めるにはまだ早いことは分かっている。みほにもそう伝えた手前、私が先に折れるわけにはいくまい。」

『おや、どうやらいらぬ心配をかけてしまったようですわね。この事のおつりはどうなさいますこと?』

 

ダージリンの突然の請求に苦笑いを浮かべながら対価となりそうなことを考える。

そうだなーー

 

「まだ周りにチャーフィーはいるのか?」

『ええ。まだいらっしゃいますわね、しっかりと四輌。向こうの隊長から指示待ちをしてらっしゃるようですわ。』

「質問をもう一つ、貴方のカップに入っている紅茶の残量、どれほどで飲み干せる?」

 

関係ないように思う質問だが、俺が伝えたかったことはダージリンには伝わっていたようで、再度口元を抑えているような笑い声が通信機から飛んでくる。

 

『なるほど・・・・。それでしたら、10秒ほどで飲み干せますわ。』

「わかった。ならちょっとした競争だ。私達はこれから10秒でチャーフィー4輌を仕留める。貴方はそれまでに紅茶を飲み干せばそちらの勝ちだ。どうする?貴方にだいぶ有利だが、乗るか?」

『もちろんですわ。わたくし、受けた勝負は断らないので。期待して待っていますわ《大洗の白き旋風》さん?』

「ん?なんか聞きなれない言葉が聞こえたんだが・・・?」

 

大洗の白き旋風だと・・・・?まさか、俺のことなのか?

そう思っているとダージリンからその内容と思われる言葉が紡がれた。

 

『貴方の二つ名のようなものですわ。プラウダでの貴方の操縦の様をそのようにおっしゃられているようなので。』

「私はそういうのはいらないんだがな・・・・。」

『こういうのは貴方ではなく周りがつけるものですわ。それでですが、今の貴方はⅣ号戦車ではなく、コメット、彗星に乗っていますわ。ですので本来であれば《大洗の白き彗星》と呼ぶのがもっともなのでしょうが、個人的に思うに貴方の操縦技術や綺羅星のごとく現れたことから鑑みるのは《流星》ですわね。

流星のごとく戦車道の舞台に現れた貴方にはお似合いではなくて?』

 

流星か・・・・。名前とかは特に気にはしないが、彗星だけは御免被る。

シャアと被るからな。もしダージリンがそれをつけたら嫌悪感をあらわにしてやろうと思っていたところだ。

 

「彗星よりはマシだな。」

『ではそのように。あとは頼みますわね。《大洗の白き流星》さん。わたくし、あの準決勝の貴方がたの無双劇、結構好みでしてよ。今回も見せてくれることを願いますわ。』

 

ダージリンから期待の声が届くと俺は一気にコメットのアクセルを踏み、ダージリン達のいる遊園地の入り口付近へと向かう。

 

「シャア!!10秒で仕留める!!やれるな!!」

「まったく。無茶なことをする!!」

 

俺の言葉にシャアは呆れ顔といった表情を浮かべる。

まぁ、確かにそうだろうな、普通なら。誰でもそういう無茶だとか無理だというだろう。

だがーー

 

「無理だとは言わないんだな。」

「無論だとも。私を誰だと思っているんだ。」

 

シャアからの返答に俺は軽く笑みを浮かべながら入り口付近の堀に突っ込む。一瞬だけ外の様子を見ると橋の上にT28が炎を上げながら鎮座している。

そして、橋の柱と柱の間に挟まれるように砲身をT28の真下に向けているチャーチルが見えた。

 

「まずは1輌!!」

 

シャアがコメットのトリガーを引き、チャーフィーの部隊に奇襲を仕掛ける。

強襲とも取れるそれに狙われたチャーフィーは動くことが出来ずに直撃を受ける。

俺はシャアがチャーフィーを攻撃している間にもう1輌のチャーフィーに近づき、急ブレーキからの回転蹴りを喰らわせる。

橋の柱に思い切りぶつかったチャーフィーはそのまま白旗の撃破判定を上げる。

 

「一気に飛ばすぞ!!河嶋、装填はっ!?」

 

確認を取りながら後ろを見るとガコンっと音を鳴らしながら砲弾が装填される音が響く。

その先には肩で息をしている河嶋の姿があった。

 

「私に、構わなくていい!!だからーー」

 

お前の全力を出せ。そういうことだと受け取った俺は再度アクセルを踏んでトップスピードまで上げる。

目の前には堀の斜面が迫っていた。俺はコメットをその斜面に斜めに侵入角度を取りながら駆け上がらせる。

 

「行けぇぇぇぇぇ!!!」

 

最後に軽いドリフトをかけながら曲がるとコメットが地上から車体を浮かせて、飛んだ。

その様子はスノーボードの競技の一種であるハーフパイプのジャンプのように車体を橋の反対側にいるチャーフィーに向かせながらだ。

 

シャアは迅速に標準を合わせてトリガーを引く。放たれた砲弾は寸分の狂いなくチャーフィーに撃ち込まれる。

そして、もう1輌は、コメットの車体でボディプレスをかけることで倒すことにした。

コメットの重量はおよそ33tだ。それに対し、チャーフィーは軽戦車に部類される。

さらに高度をつけ、重力に従って落ちた時のGのかかり具合もある。その結果、車体後部にコメットの重量などがかかったチャーフィーは空中できりもみ回転をしながら吹っ飛んだ。

地面に何回か叩きつけられたチャーフィーは装甲をぐちゃぐちゃにされながらもしっかりと撃破判定である白旗を上げるという最低限の仕事をこなしたあと、沈黙した。

 

『・・・・お見事。僅かに紅茶が残ってしまいましたわ。』

 

ダージリンから降参と取れるような反面、嬉しさが混じったような言葉が飛んでくる。まぁ、ざっとこんなものかと思っているとーー

 

『麻子さん!!聞こえますか?』

 

通信機にみほの声が飛び込んでくる。その声には僅かに苦しげなものが入っているように感じた。

 

「どうかしたか?」

『敵の指揮車輌であるセンチュリオンが動きました。その結果、地波単学園の4輌が全滅した上、レオポンさんチーム、ケイさんやアンチョビさんがやられました。』

 

その報告に思わず表情を歪めてしまう。7輌も撃破されたのか・・・!!

かなりやるようだな、向こうの指揮官は。

 

『さらに大学選抜の各小隊長が合流した後、ナオミさんとカチューシャさんーーー』

 

報告の途中でみほの声が途切れた。何事かと思っているとーー

 

『エリカさんが・・・。たった今、やられたとの報告が入りました・・・。』

「みほ、今の敵車輌の残存数はいくつだ?」

『・・・・確か、アンチョビさんがパーシングを倒してくれたので、残り4輌です。』

 

みほの苦しそうな表情が眼に浮かぶが俺は頭の中で今の報告を整理しながら状況を確認する。

これで残っているのはあんこうチームとまほ、そして俺たちの計三輌だけもなった。

それに対し、まだ向こうは4輌残っている。しかも全員かなりの手練れと思っていい。

 

「・・・・・みほ。」

『は、はい。なんですか?』

 

おそらく相手の指揮官はかなりの手練れだ。みほだけでは無理かもしれない。そこにまほをつけたとしてもようやく五分五分がいいところかもしれない。

だから、俺達がやることはーー

 

「大学選抜の各小隊長は私達が引き受ける。みほはまほと一緒に敵指揮官に当たってくれ。」

『え・・・・?』

 

これしか方法はない。一番最悪なのはその各小隊長が敵指揮官と合流することだ。

それが成されてしまえば、こちらに勝機は限りなく薄くなってしまう。それだけは絶対に避けなければならない。

 

『そ、そんなの無茶ですよ!!ここはやはり一度合流した方がーー』

『いや、それではダメだ。みほ。』

 

みほの通信が途中でまほに遮られる。

 

『ここでの一番最悪なパターンというのが敵の車輌に集合されることだ。』

 

流石は黒森峰の隊長。状況がよく見えているな。

 

『今は幸い、向こうは距離は離れているが同じようにこちらもお互いの距離が離れている。合流したとしても向こうがまだ合流していないとは限らない。そういうことだ。頼めるか?』

 

まほのその要求に俺は頷く。

それしか勝つ道が見えないからな。そうするしかあるまい。

 

「すまない。貴方にみほを頼むと言われたのに結局、貴方にその役目を戻してしまった。」

『気にしないでくれ。だが、私はまだ君がその役目は果たせるはずだと思っている。』

「・・・・理由を聞きたいな。」

『ただの勘だ。いつもなら不確定要素だから一蹴するところだが、貴方のことだ。きっとできるはずだと信じている。』

 

まほのその言葉に俺は軽く髪をいじった。

まったく。俺には過ぎたプレッシャーだよ・・・・。

勘弁してほしいところだが、そうも言ってはいられない。

 

「了解した。戻ってこれることを願うよ。」

『・・・・麻子さん。』

 

通信機に再びみほの声が入ってくる。先ほどまで感じていた苦しそうなものは感じられず、隊長としての面構えを戻したように思える。

 

『私達も最後まで諦めないで頑張ります。ですので、ご武運を!!』

「そちらもな。」

 

それを最後に俺は通信機のスイッチを切った。あとは通信をする必要がないと思ったからだ。

俺は意を決した顔をしながらコメットのアクセルを踏む。さて、最終決戦、もしくはそのあたりか。




最近、ダージリンルートも割とありなんじゃないかと思い始めたこの頃・・・


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第46話

ヴォイテクが機能しなかった・・・・・。動いてくれなかったんじゃあ・・・。




「・・・・みほ達は中央広場に集まりつつある、か。」

「大方、決戦場はそこであろうな。桃、休める時に休んでおけ。そろそろ限界も見えてきているだろう。」

「うう・・・すみません。結局、私が足手まといになって・・・。」

「いいや、君はよくやっている。私達についてきているだけでも十字勲章ものだ。だが、過度な疲労は判断を鈍らせる。だから今は休め。表情はおろか、佇まいにも疲労の色が見えている。」

「・・・分かりました・・・。」

 

シャアから労いの言葉をかけられた河嶋は気休めにしかならないが、表情から緊張したものを抜く。いつまでも張り詰めた気でいると余計に疲れるだけだからな。

そして、遊園地の街中を進みながらシャアと状況の確認を行う。戦局は3対4と車輌数ではまだ向こうが優っている。

 

「・・・さて、お前はどう思う?相手の出方。」

「フラッグ戦であれば真っ先にフラッグ車を狙うのが定石だろうが今回のルールは殲滅戦だ。現在の我々の位置関係から鑑みるに各個撃破が考えられる。」

「だろうな。みほにも言ったがこちらは合流は考えずに向こうの合流を阻止を最優先としている。できれば1輌でも削いでおきたいのが本音だが・・・。」

「一応、気配のする方向には向かっているのだろう?」

 

シャアの確認とも取れる発言に俺は軽く頷く。

 

「一応な。そろそろポイントに着くはずなのだが・・・。」

 

そう思っていると向こうから向かってくる気配を感じた。その数、およそ三つ。

 

「・・・・向こうもこちらの合流を防ぐつもりだったようだな。どうりで中央広場に向かわないと思っていたが、私達を探していたのか。」

「どうやらそのようだな。まったく、ご苦労なことだ。それだけの価値が我々にあるものか・・・?」

「普通であれば、こちらには目にもくれないと思うんだが・・・・。」

「いやいや、単騎で9輌も撃破していたら真っ先に最優先目標になるはずだろ、普通っ!?」

 

視線を向けると河嶋が驚いた様子でこちらに視線を向けていた。

疲れは大丈夫なのかと聞くべきなのだろうが、もうそうは言っていられない。

 

「桃、英気は十分に養えたか?」

「どうせ、まだですって言ったところで・・・。相手は目の前にいるんですよね?」

「ふっ、言うではないか。最後の一踏ん張りだ。気張れよ。」

「了解です!!」

 

河嶋の表情には疲れはまだ見えるものの先ほどよりはマシになっている。

これならまだ行けるか。

 

 

 

「さて、隊長から例のコメットの相手を任されたけど・・・。あのコメット、隊長からの許可はあったとはいえ、突然乱入してきて、音楽堂の包囲をたった1輌で切り崩しーー」

「カールとパーシングを3輌、それにチャーフィーを合計5輌撃破、その内の3輌は格闘戦で破壊・・・。あれからかなり時間経っているけど未だに格闘戦で仕留めたっていうの呑み込めないわー・・・・。」

「それにチャーチルを仕留めた遊園地の入り口付近にいたチャーフィーの4輌。あれに至ってはたったの10秒で撃破されたんでしょう?」

 

3輌のパーシングの車長である『アズミ』『ルミ』『メグミ』の三人が、コメットの戦績に顔を引きつられせる。

そのメグミの確認にルミは苦々しい表情を浮かべながら頰をかいた。

 

「いやー、どうなんだろうね。でも撃破報告の時、そのチャーフィーの人達、涙声だったよ?」

「そうよねぇ・・・。なんだっけ、空中で砲撃されて、コメットの車体後部を回転つけて人間でいう蹴りをしてーー」

「あとは・・・橋を跨いで空中にジャンプ。そしてボディプレスだったかしら?」

 

コメットの詳しい動きを聞いたバミューダ三姉妹はそのあり得ない戦法、そしてそれを成し遂げられる技量に舌を巻く。まさに開いた口が塞がらないと言った感じである。

 

「・・・・いやいや、私ら相手にしてるのって高校生だよね?どう見たってやっていることが島田流の師範、いや家元クラスを優に越してそうなんだけど・・・。」

「ねぇ、ルミ。あのコメットに乗っているの、メグミみたいな赤みがかった茶髪と黒髪のストレートの子だったわよね?」

「えっと、確かそうだったはずだね。キューポラから顔を出していたし。というよりあのコメットがやばいのは確かだね。だって迷路のところでこっちも仕留められかけたもん。」

 

アズミにそう問われたルミは記憶を振り絞りながら頷いた。その様子を見たアズミは表情を曇らせる。

 

「・・・・どうかしたの?」

「・・・あのコメットがあそこまでの戦績を挙げれるのも納得が行くわね・・・。」

「・・・・その様子だと、ある程度は知っているようね。」

 

メグミの確認に彼女は無言で頷いた。

 

「乗っているのは確実に角谷 杏と冷泉 麻子の二人よ。前者はともかく、後者は聞いたことはあるんじゃないかしら?」

「・・・・もしかして、この間の全国大会で大怪我を負ったやつ?」

「ええ。そうよ。怪我の度合いは詳しくは知らないけど、少なくともここに出てこれる容態じゃないわ。まだ決勝が終わってからそれほど月日は経っていないし。」

「・・・・つまり怪我人ってこと?」

「・・・そう思っているとこっちが足元掬われるーーーー」

 

言葉はそれ以上続かなかった。なぜなら感じたことのない感覚に襲われたからだ。

その感覚は思わず自身の肌を確認して、鳥肌が立っているかどうかを見てしまうほどだ。

結果としてははっきりと立っていた。

そして、その感覚が飛んできた先には件のコメットがいる。ただ、視線を向けられただけのはずなのに身がすくみかけている。額からは冷や汗が流れ落ち、本能が警告する。

あのコメットはやばいとーー

 

「なん、なのよ?この・・・プレッシャーって奴だっけ?って、あれ?なんか背後にモノアイの赤い巨人見たいなのが・・・?」

「うっそでしょ・・・?初めてだわ、相対した敵に気圧されるなんて・・・。え、な、なんだがオーラみたいなのが形になって・・・?あれは白い・・・巨人?いやロボット?あの背中の放熱板みたいなの・・なに?」

「・・・・私たち、一体何を相手にしているの・・・?」

 

心が自然とネガティブな方向に持っていかれる。さながら悪魔による魔法を受けているような感覚だ。

その感覚をいち早く打ち払ったのはーー

 

「っ!!?メグミ、アズミ、さっさとバミューダアタックを仕掛けるよ!!手加減なしで!!コイツを隊長のところへ向かわせたら、絶対にヤバイ!!」

 

一度、迷路越しという間接的とはいえコメットと相対したことがあるルミであった。

彼女が声をかけたことでなんとか平静を保った二人は目の前の強敵に厳しい目を向ける。

 

「ごめんなさい・・・・完全に相手に呑まれていたわ・・・。」

「そうね・・・。戦車道の試合で冷や汗かいたのなんていつぶりかしら・・・?」

「いや、あれはしゃーないよ。一度間接的とはいえ会敵した私でさえ結構やばかったんだから。ていうか、プレッシャーだけで相手に戦意喪失させるとかマジで何者?」

 

 

 

向こうから3輌のパーシングが向かってくるのが視界に入った。それぞれの車輌にはパーソナルマークなのか、赤い四角形、黄色い菱形、青い三角形のエンブレムがあった。

三つの同じ車輌か・・・・・まるでーー

 

『黒い三連星だな。』

 

俺とシャアの声が重なる。どうやらまったく同じことを考えていたようだ。

 

「・・・・やはりお前も一緒のことを考えるか。」

「まぁな。三つの同じ機体に乗っているトリオなどソレしか思いつかない。」

 

そう話しているとパーシングがこちらに勢いよく向かってくるのが見えた。

俺の視界からはパーシングが1輌までしか見えないが奥に残りの2輌がいるのははっきりとわかる。

 

「どう対処する?」

「大方仕掛けてくるのは奥の2輌が両翼からドリフトでこちらを囲うように突っ込んできて集中砲火だろうな。そして、こちらは体良く止まってしまっているが・・・。」

 

俺はそういいながら片足でアクセルとブレーキの両方を踏む。エンジンが唸る音が響くがブレーキを踏んでいるため前に進むことはなく、辺りに音を撒き散らかすだけとなる。

 

「シャア、後ろに砲塔を回せ。」

「ふむ、分かった。いいだろう。」

 

人差し指を上に向けながらクルリと一回だけ回すジェスチャーをしながらシャアにそういうとわかってくれたのか面白そうな顔をしながら頷いた。

 

 

 

「・・・・あのコメット、動かないわね。」

「どうする?このまま行っちゃう?」

 

ルミとアズミから問われたメグミは指を顎に添えて思案に入る。

現在、先頭からメグミ、ルミ、そしてアズミの順で一直線に並んでいる。このままうまく行けばさっさと囲んであのコメットを倒せるはずだ。

 

「なんか引っかかるのよね・・・。砲塔を後ろに回してるし・・・。抵抗する気がないのかしら?」

「なんにもないならそれに越したことはないんだよねー。」

 

いや、それだけはありえない。そうは思うものの、事実として、未だにあのコメットからの砲撃はない。

 

「なら、いつも通り、決めちゃいましょ!!」

 

メグミに言われるまま、コメットを囲うように包囲しようとする。

そこで初めて耳にするのはエンジンが唸るような音。さながら今か今かと待っているような音だった。

 

「しまった!!メグミ!!気をつけて、突っ込んでくるっ!!」

「っ!?」

 

アズミがそう呼びかけた瞬間、爆発するような音と共にコメットが車体前部を空中に浮き上がらせながら急発進をした。

あのコメットはロケットスタートをするためにアクセルとブレーキを両踏みしていたのだ。

 

(まさか、このままコメットの車体で押しつぶす気?でも、なんとかアズミがとっさに声をかけてくれたからこっちはトリガーを引くだけ、確実に仕留められる!!)

 

 

確実にあのコメットを取ったと感じた。それはこれまでの経験談を賭けてもいいという自信もあった。

がら空きになった車体下部に砲弾を叩き込んでこのコメットは終わり。

99%、その光景で頭がいっぱいだった。そう9()9()%()である。

 

ドゥンっ!!

 

 

故に、コメットの行動に一瞬理解が及ばなかったのだろう。

僅かにこちら撃つよりより早くコメットの砲塔が火を吹いた。車体前部が浮いているため、自然と砲塔が下を向く形となった結果、放たれた砲弾は地面に叩きつけられる。

そして、その時生まれた風圧と衝撃波は前進していた力も相まってコメットを空中へと羽ばたかせる。

さながらカタパルトから射出されるモビルスーツのごとく。

 

「えーーー」

 

ドゥンっ!!

 

呆けたのもつかの間、こちらからの砲弾も放たれる。しかし、車体下部を狙っていたのも相まって、砲弾は空中を飛んでいるコメットの下を、紙一重で通り抜ける。

 

そして、こちらに一直線に向かってくるコメットはーーパーシングの車体に乗り上げた後、一発、砲撃を鳴らしながらまた飛んで行った。

こちらの撃破判定が上がっていない以上、おそらく先ほどの砲撃は空砲であることは確か。

 

(ふ、踏み台にしたの・・・!?私のパーシングを・・・?)

 

踏み台にされたことに怒りを覚えつつもまだやられたわけではない。

ならば、まだ反撃の機会はある。そう思ったのもつかの間ーー

 

ズドンっ!!

 

何かがぶつかった衝撃音と振動がパーシングの車体を大きく揺らす。

何かぶつかった?決まっている。砲弾だ。だが、空砲を撃ってからの間隔が狭すぎる。思わずキューポラから顔を出すと、メグミは目を見開いた。

決して自分の車輌が白旗をあげていることに驚いているわけではない。

彼女の視界にはちょうどコメットが地面へ降り立っている様子が映っていた。

 

一見すると何気ない光景に見えるが、彼女はその異常性に気づいた、否、気づいてしまった。

砲撃は数秒前に行われた。コメットが地上に降り立った時に撃った訳ではない。つまり、その少し前に砲撃をした。

これが意味していることはーー

 

(あのコメット、()()()()()()()()・・・・!?)

 

空中では安定性が著しく低下する。本来では砲撃はおろか、そんな状況に持ち込もうとすらしない。

でも、あのコメットは平然とやってのけた。

操縦手はともかく、その不安定極まりない状況でありながら砲弾を装填する装填手、そして、目標に直撃させる砲手、全員のレベルが頭一つどころの話ではない。

 

「メグミ!!うっそでしょ本当に・・・!!」

「ルミ、メグミには悪いけど彼女のパーシングを盾にしましょう。」

「っ・・・そういうことね・・・。」

 

2輌のパーシングは撃破されたアズミのパーシングをコメットから身を隠す簑のようにしながら左右両方を警戒する。

そして、少しの間コメットとの間に沈黙が走る。それは長くも感じたし、短くも感じた。

とにかく冷や汗が止まらなかったのだけはわかる。

ルミとアズミの二人はコメットの動向を一瞬たりとも見逃さないように目くじらを立てていた。

その沈黙を破ったのはコメットであった。その証拠にパーシングの向こう側からエンジンの音が響いてきた。

左右どちらから来るかと気を張ってきたが、一発の砲撃音とともにコメットが出てきたのはまたしても真正面であった。

それもただ真正面を突っ切ってきたわけではない。コメットはパーシングの車体後部に乗り上げながら、空砲を一発撃つことで推進力を得て、上空から突っ込んできた。

 

(くっそ!!私は馬鹿か!!さっきあのコメットが空中使っていたのを見て、普通の手段で来ないとは思わなかったのかっ!?)

 

心の中で悪態を吐くも出遅れたのは事実。だが、相方のアズミはある程度予想していたのか砲塔を空に浮かぶコメット(彗星)へと向けていた。

空中という手段を使うのは驚いたが相手は動くことは叶わない。

そう安堵したのもつかの間、先手を取ったのはまたしてコメットであった。

放たれた砲弾は寸分狂いなく、アズミの乗るパーシングへ向かっていった。

そして何より驚いたのはその砲撃の直後、アズミのパーシングの砲塔に決して枯れることのない、三つの花弁を持った鉄の華が咲いたことだ。

それが向けられていたパーシングの砲身だったものと気づくのに、それほど時間はかからなかった。

 

(せ、先端から根本まで裂けてる・・・・。)

 

そして、その砲塔は爆発を起こし、アズミのパーシングは白旗を上げる。

それと同時に背後から無限軌道の音がしたため、後ろを振り向いてみると、悠然とした足取りでコメットが迫ってきていた。

こちらは全力でやったにも関わらず、向こうは無傷。もはや引き笑いしか出てこなかった。

 

「あ、あはは・・・・。こりゃ無理だわ。ってもせめて一矢ぐらいは報いてーー」

 

乾いた笑いを浮かべ、動こうとした時には既に砲弾を撃ち込まれていた。

出鼻を挫かれる形となったルミはキューポラから項垂れるように体を出す。

撃破確認をしたコメットは悠然と彼女らの隊長がいる中央広場へと向かっていった。

 

「あーもう。油断も隙もないったらありゃしないねー。軍人かっつーの。」

「ちょっと、もう少しくらい頑張りなさいよ。」

 

項垂れていると少々怒り顔のアズミが目に入った。

 

「そうは言ってもさー。あれ、どう見ても家元クラスだよ?」

 

ルミの乾いた表情で言った言葉にアズミは困惑顔をしながらも頷いた。

 

「そうなのよね・・・。レベルが違いすぎるわ。」

「ねぇ・・・。そういえば、メグミは?あのコメットに二回くらい踏み台にされていたけど・・・。」

「・・・・し、死ぬかと思ったわよ・・・。」

 

二人が視線を向けた先には表情を真っ青にしたメグミがキューポラから顔を覗かせていた。

彼女らはメグミのその様子に苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

 

 

 

「残りの相手はセンチュリオン1輌だけか。」

「そうだな。だが、そのセンチュリオンに乗っている島田愛里寿は子供だがかなりの強敵だ。かなりの苦戦が考えられる。」

「子供なのか?・・・・わかった。他でないお前の言うことだ。肝に命じておく。」

 

シャアと共に最後に残った車輌について話し合っているとーー

 

ゴトンっ

 

何かを落としたような音が響いた。何事かと思って音源の方を振り向くと河嶋が呆けた顔しながら落としたのであろう砲弾を見つめていた。

 

「桃、大丈夫か?」

「だ、大丈夫です。まだ私は・・・。」

 

シャアにそう聞かれた河嶋は焦った顔をしながら落とした砲弾を持とうとする。しかし、辛うじて持った砲弾は河嶋の腕をすり抜け、再度コメットの中で虚しい音を響かせる。

 

「あ、あれ・・・?おかしいな・・・?」

 

そう言いながらもう一度砲弾を持とうとするが、やはり、持てない。持てたとしても直ぐに腕から落としてしまう。

それ以上、見ていられなかったと同時に申し訳なさが滲み出てしまう。

おそらく、河嶋の腕は、もうーー

 

「桃。もうよせ。君は頑張った。」

「か、会長、何いっているんですか、まだ試合は終わっていないのに・・・。」

 

遠慮する河嶋にシャアは彼女の手首を掴みながら無言で首を横に振った。

それを見た河嶋は一度表情を俯かせると目に涙を浮かばせながら、嗚咽をこぼし始めた。

 

「ううっ、グスっ、ごめん、なさい・・・・!!腕が、もう・・・!!」

 

河嶋の腕は限界を迎えてしまったようだ。チラリと河嶋の腕を見やるが、それだけでも彼女の腕が痙攣を起こしているのは明らかだった。

河嶋は謝罪の言葉を口にしながら、涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにする。

 

「まだ、西住達が戦っているのに・・・!!これじゃあ、準決勝の時と同じ・・・!!」

 

おそらく、河嶋はプラウダの時のことを言っているのだろう。彼女はあの時も吐き気に襲われて、最後まで戦いきることができなかった。

 

「私は、結局どうしようもないーー」

「桃、それ以上はよせ。」

 

泣きわめく河嶋にシャアが彼女の肩に手を乗せながら呟く。

 

「準決勝の時、確かに君は途中で脱落した。だが、そのあとはなんとかなったではないか。」

「で、ですが、私がもっとちゃんと冷泉の運転に着いていければーー」

「桃。ここでイフの話はよせ。先も言ったが君はよく頑張った。あとは、我々二人に任せろ。君の意志、受け取った。」

 

シャアからそう言われた彼女は再度、顔をうつむかせた。

それを見届けた俺はコメットを発進させようとするがーー

 

「待ってください!!最後、これだけ、やらせてください!!」

 

そう言いながら砲弾を持とうとする河嶋。思わず、止めようとしたが、シャアから静止されてしまい、大人しく席に戻った。

河嶋は痙攣している腕で四苦八苦しながらも最後の装填をする。

ガコン、という音が響くと河嶋はやりきった顔をしながらその場にへたり込んだ。

 

「・・・・・あとは頼みます。」

 

俺とシャアは無言でそれに頷いた。河嶋、お前の気持ち、無駄にはしない。

 

「みほ、こちらコメットだ。敵の3輌の撃破、完遂した。そちらはどうなっている?」

『あ・・・・麻子さん・・・?』

 

返ってきたみほの声はひどく弱々しく感じた。俺はそれに嫌な予感を抱きながら通信を続ける。

 

「・・・・何があった?」

『・・・ごめん、なさい。私たち、撃破されちゃった。』

 

みほのその言葉に俺は苦々しい表情を浮かべるしかなかった。

俺はなんとか平静を保ちながら、みほに確認を取る。

 

「まほは・・・?彼女はどうしている?」

『お姉ちゃんはまだ、なんとか保たせているけど・・・。』

 

俺は通信を続けながらコメットを急発進させる。シャアが驚いた表情を浮かべているが、御構い無しだ。

 

「アムロ、何があった!?」

「みほ達がやられたっ!!」

「なんだとっ!?」

 

みほ達がやられたことはシャアも驚きの表情を浮かべていた。

 

『・・・・お願い、麻子さん・・・。助けて・・・・。』

「・・・・・みほ。」

 

通信機の先からみほの涙をすする声が僅かに聞こえる。万事休すなのはお互い分かっている。

故に、この言葉を使うしかあるまい。

 

「あとはこちらに任せろっ!!」

 

みほにそれだけ伝えて、目の前のことに集中する。

俺達のコメットは既に中央広場へと差し掛かっていた。

 

「シャア!!突入するぞ!!」

「わかった!!操縦は任せるぞ!!」

 

そう言いながら、中央広場へと突入を行う。

視界に見えてきたのは、激戦を繰り広げている大学選抜チームの隊長、『島田愛里寿』の駆るセンチュリオンとまほのティーガーⅠであった。

見たところ、実力は拮抗しているように見えるがわずかにまほのティーガーⅠの方が損傷具合的に押されているように感じた。

 

「機銃掃射でセンチュリオンの気を惹きつける!」

 

シャアがコメットの機銃をセンチュリオンに向け、発射する。戦車の装甲を抜くのは不可能だが、センチュリオンは一度仕切り直すように離れた。

俺達はその間にまほのティーガーⅠに駆け寄るように接近する。

 

『・・・すまない。助かった。』

「まだ無事なようで何よりだ・・・。」

 

まほに通信でそう投げかけながら俺はⅣ号の所在を確認する。

すると、崩れかけたメリーゴーランドのそばで白旗を上げているⅣ号の姿があった。

おそらくメリーゴーランドを無理やり突っ切ってきたセンチュリオンに不意をつかれた形でやられたのだろう。

 

一度目を閉じ、気持ちを切り替えながら開き、再度センチュリオンと対峙する。

感覚だけでわかる。コイツ、かなりやる・・・!!

 

そして残弾は残り1といっても過言ではない。性能も向こうの方が上だ。状況は厳しい。

だが、それは向こうも同じだ。

俺は通信機を口元に持ってきながらまほに確認を取る。

 

「まだやれるなっ!?」

『当たり前だっ!!西住流に逃げるという道はないっ!!』

 

一応確認は取ってみたが、まだ気持ちは十分なようだ。声にも落ち込みといった色は見えない。

 

「やるぞ、シャアっ!!ここで勝負をつける!!」

「了解だ!!」

 

ここで奴を仕留める!そうでなければ、死んでも死にきれんからな!!




さってと最終決戦、始めますかっ!!
どこまでやれるかなぁ・・・(白目)


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第47話

握りしめているコメットの操縦桿を切る。起動輪を基点として、少しばかり遅れながら無限軌道が着いてくる。

その瞬間、降りかかる振動。大学選抜チームの隊長である島田愛里寿の駆るセンチュリオンから放たれた砲弾が地面を揺らす。

一瞬だけのぞき窓から島田愛里寿の顔が望めたが、シャアの言う通り、まだ年端のいかない少女だったのは驚いた。

だが、シャアの言う通り、彼女から感じるものは隊を統べる者としてはまほと遜色なかった。

事実として、俺たちが手をこまねいているのもあるが、2対1であるにも関わらずお互いこれといった直撃弾はなく、戦局は拮抗していた。

 

「・・・・かなり面倒だな。」

「ああ。我々に無駄弾は許されない以上、確実に、かつ一撃で仕留められる状況に持っていかんとな。」

「早くしろ、と言いたいところだが、警戒されているのは丸わかりなんだよな・・・。」

「ああ。まほに視線を向けながらもこちらにも気を張っている。やれやれ、子供ながらによくやる。」

 

シャアの言う通りだった。一応、なんとか何度か俺たちで引っ掻き回して、まほのティーガーⅠで撃破の機会を伺っているが、これが当たらない。

不味いな・・・。俺たちの残弾が少ないことを悟られれば、まほのティーガーⅠが優先的に狙われるという極めて面倒なことになる。

どうにかそろそろケリをつけられるといいのだが・・・・。

 

 

 

 

最初はありえないって思った。戦車道において、相手を撃破する手段は主に二つ。

相手に砲弾を撃ち込むか、環境を利用して自滅させること。

しかし、後者はそう簡単にできることではない以上、ほとんどが前者の方法で相手を倒すだろう。

だから、戦車に格闘技みたいなのを仕掛けて、なおかつ撃破までするなんて初めて聞いたときは本当に耳を疑った。

だから、この目の前のコメットだけは意識から外しちゃいけない。何をされるか、想像はもちろんのこと予想すらもつかない。

戦車での格闘技はもちろんのこと、ボディプレスなんていう常識外による方法もあるけど、このコメットは撃破した車輌を全て一撃で撃破している。報告によれば、空中で発砲されたというのも聞いている。

そのコメットにやられたアズミやルミ、そしてメグミも決して弱い選手じゃない。むしろ大学選抜で小隊長を務められるほどの実力者なのだ。しかもその三人が揃った時のコンビネーションは眼を見張るものがある。隊長をやっている自分だって凄いって感じる。

だけど、それをもってしても、あのコメットは三人のコンビネーションを初見で切り抜けたことはおろか、ほかの車輌と同じように一蹴してしまった。

その対処の仕方が根本的に私たちと違う。ロケットスタートからの砲撃で空中を飛んで、戦車を踏み台にする。そんな三次元的な方法、『ニンジャ走法』と言われている島田流でも聞いたことがない。

故に、少しでも気を緩めれば、一瞬で狩られる。そんな恐怖もあった。

 

(だけどーーさっきから妙だ。)

 

そのコメットは先ほどから一度たりとも砲撃をしてきていない。せいぜいが機銃でこちらの意識を向けさせてくるのがいいところだ。

履帯辺りを撃ってきたりと、ひどくいやらしいところを撃ってくるためそれだけでも十分脅威なのは変わりないが、これまでの異常性を鑑みると、なんとなく違和感を覚える。

思い返してみれば、Ⅳ号を撃破したタイミングでコメットが来たが、それからはずっとティーガーⅠが主軸となって攻撃を行なっている。コメットが引っ掻き回し、ティーガーⅠでそこを突く。

単調だか、洗練されたものが行うソレは何度か肝が冷える場面もあった。もし、攻撃してくるのがコメットであればやられていた場面もあったかもしれない。

特にコメットがドリフトを仕掛けてきて、後部装甲を狙ってくるものだと思ったら、富士山の遊具に登っていたティーガーⅠからの砲撃が本命だったのは焦った。

 

(何か策がある・・・・?)

 

そう思ったがだったらチャンスがいくつもあった筈だと思い、ひとまずその可能性は低いということにした。

 

(ならば、コメットに搭載されている砲弾が尽きた?)

 

これもない。なぜなら今まで相手はこちらの車輌を全て一撃のもとに撃破しているのだ。無駄弾なんか、一つたりともない。つまり命中率100%なのだ。それはそれで恐ろしいが。

 

(ならばーー戦車に原因があるのではなく、乗員に何か問題が・・・?)

 

ふと思い立った思考をさらに続ける。

操縦手ーーはない。現状、動き回っている以上それはありえない。

砲手ーーも可能性は薄い。コメットは電動旋回式の砲塔だ。動いているならば、砲手はちゃんと機能している。

なら、装填手だろうか。あんな機動をしているのだ。装填手が倒れてしまえば、砲手が装填手を兼任するのは厳しい、というよりできないだろう。

・・・・もしや装填手が限界を迎えているのだろうか?装填手が動かない以上、あのコメットからの砲撃はないと考えていい。

そう仮説を立てた時、これまでの不可解な点が腑に落ちる形へと変わっていった。

 

(・・・・そう。なら、こっちが取るべき手段はーー)

 

私はコメットから視線を外してティーガーⅠへと意識を向けた。

 

 

 

 

センチュリオンからの視線が消えた。今まで俺たちを最優先目標としていたはずなのに、それがぱったりと消えた。ではセンチュリオンの意識はどこに?

向くとすれば一つしかない。

そこからの反応は我ながら早いと感じた。

 

 

「まほっ!!センチュリオンの意識がそちらに向いた!!こちらが砲撃できないことを悟られたっ!!」

『っ!?』

 

その瞬間、耳をつんざくような砲撃音が響いた。おそらく、センチュリオンによるものだが、こちらに砲弾は飛んでこない。ティーガーⅠの方向に飛んで行ったからだろう。

操縦席のハッチから見ていない以上、その砲撃の結果がどのようなものかはしりうることはできない。

彼女からの通信を待つしかないが・・・・。

 

『なんとか避けれた。問題ない。』

 

まほからの報告は無事を伝えるものであった。そのことにひとまず安堵の表情を浮かべる。

 

「まほ、もはやなりふりを構っている暇はない。君がやられてしまえば、あとはこっちは逃げ惑うしかないからな。」

『・・・・チャーフィーを格闘戦で潰していたのにか?』

「あれは重量差があったからこそできる荒技だ。重量差が然程ないセンチュリオンに効くはずがない。」

『貴方ならできるような気がしてならないのだが・・・・。』

「・・・・一体私のことをなんだと思っているんだ・・・・?」

『す、すまない。私の所感を述べただけだったのだが・・・。』

 

ため息混じりにそう尋ねたが、まほがあたふたしながら謝り始めたため、そこで話を一度きった。そして、本題へと入る。

 

「まほ、貴方にやってもらいたいことがあるのだが、頼めるか?」

 

 

俺はまほに向けて、頼みごとの説明を行い始める。

その説明を受けた彼女は難しい声を上げながらだったがーー

 

『・・・・かなりの大博打だな。あの島田愛里寿がそのように動いてくれるだろうか?』

「私たちはすでに単騎で11輌撃破している。こちらの装填手の言葉を借りるなら『普通であれば最優先目標にされている。』逆に言えば、いつも見張っているということだ。いくらこちらが撃てないことがわかっていて私たちを意識から外していても、何か行動を起こそうとすれば嫌でも目につくはずだ。」

『・・・・わかった。他ならぬ君の頼みだ。しかし、本当によくもまぁ、常人ではやろうともしないことをしようとするよ・・・。』

「私たちは素人だからな。やってみないと何事も学ばないのさ。」

『いや、君たちを素人換算すると他のみんなに失礼だ。』

 

ピシャリと言い切ったまほの言葉に俺は乾いた笑みを浮かべるしかなかった。

 

「では、頼んだ。タイミングはそちらに任せる。」

『ああ。分かった。』

 

 

まほとの通信を一度切ると、再度センチュリオンに視線を集中させる。

現在の状況としては追うセンチュリオンに追われるティーガーⅠ、そして俺たちの乗るコメットがセンチュリオンの右舷から機銃を撃ち込んだりすることで徹底的に邪魔をしているところだ。

・・・・そろそろ邪魔しても意味がないように感じてきたがな。

 

途中、富士山を模した遊具の空洞を通り抜ける。センチュリオンによる奇襲を警戒しながらだったため、まほたちとは遅れながら遊具の中から離脱する。

 

少しだけハッチから顔を出して周囲を見るとセンチュリオンはまだまほのティーガーⅠとのチェイスを繰り広げていた。お互いに砲撃を浴びせ合うが未だ有効な直撃弾は生まれない。

すると、通信機にまほの声が入ってきた。

 

『そろそろ頃合いだろう。準備はいいか?』

「了解した!」

 

まほからの作戦の合図が伝えられると俺はコメットのアクセルを一気に最高潮まで跳ね上がる。

加速したコメットは爆音を上げながらセンチュリオンの左舷に回り込むように距離を詰める。

島田愛里寿が一瞬こちらに気を取られたような表情をした瞬間、まほのティーガーⅠが急ブレーキをかけながら、センチュリオンの目の前で停止する。

突然のティーガーⅠの行動に島田愛里寿はーーー反応した。

 

センチュリオンはティーガーⅠにぶつかるギリギリで急ブレーキをかけながら車体をドリフトさせ、停止した。

それも、車体と砲塔をこちらに向けるというおまけ付きでだ。

一瞬、気を取られたにも関わらず、咄嗟の判断でそこまでやってのけるとは彼女はやはりかなりやるようだ。みほがやられるのも、まほがここまで手を焼いたのも頷ける。

もっとも、()()()()()()()()()()()()ということを除けばな。

 

「見事だ、とだけは言っておこう。だが、今回ばかりはその目の良さが命取りだったな。」

 

シャアが最後の一射のトリガーを引いた。轟音とともに発射された砲弾は僅かに下を向きながら進んでいく。

なぜ砲弾の軌道が下を向いているのかというと砲身が下を向いていたからに他ならない。

普通であれば砲弾はそのままセンチュリオンの目の前で着弾するだろう。

しかし、砲弾はセンチュリオンの履帯と履帯の空間、つまるところ下部装甲へと突き刺さり、爆発。

程なくしてセンチュリオンは白旗を上げた。

島田愛里寿は何があったかわからないと言った様子だった。

何をしたかというと『跳弾』を狙っただけだ。

 

シャアが放った砲弾は先端が地面に突き刺さるより先に砲弾の側面が先に接触するように角度などを調整して放った。

その結果、砲弾は地面を舐めるように接触、そして軌道が上から下だったものが下から上へと変わり、そのまま下部装甲へと着弾した。

 

「・・・・・終わったな。」

「ああ。そうだな。」

 

表情を綻ばせながらシャアと視線も合わせずにそう言った瞬間ーー

 

『センチュリオン、戦闘不能。よって大洗女子学園の勝利っ!!』

 

試合終了、そして俺たちの勝利を告げるアナウンスが辺りに響き渡った。

 

「勝った・・・・?勝ったんですよね・・・?」

 

後ろから席に座っていた河嶋が震える声で事実を噛みしめるようにそう言っているのが聞こえた。

俺はそれに特に反応は示さずに腕を組みながら操縦席にもたれこむ。

 

「ああ。勿論だとも。桃、ここまでご苦労だったな。」

 

シャアが河嶋に対して労いの言葉を投げかけた瞬間、河嶋は大泣きしながら喜びを露わにした。

その様子にやれやれとため息をつきながら見ていると操縦席のハッチを叩く音が聞こえた。

誰かと思ったが、ハッチの向こう側の雰囲気から誰がいるかは察することはできた。

 

(まったく、少しくらいゆっくりさせてほしいものだ。)

 

そう言いながらも面倒だとは微塵も思っていないことを自覚しながらハッチを開けて、コメットの外へと出る。

そこには目に涙を溜めた小山を含めたあんこうチームの面々がいた。

 

「おつかれさま。ここまでよく頑張ったな。」

 

そうは言うものの小山と華は微妙な顔を浮かべ、他の三人は嗚咽を零すばかりで言葉は返ってこなかった。

困ったような顔を浮かべているとーー

 

「それは違います。ここまでこれたのは麻子さん、貴方が来てくれたおかげです。貴方がいたからこそ、私たちはここまで頑張れたんですよ。」

「・・・買いかぶりすぎだ。私にそこまで人を焚きつける実力なんかないよ。」

「それでも、ですよ。」

 

そう言って、軽く笑顔を見せる小山と華に対して、疑問に思いながらも俺はコメットの操縦席へと戻る。

 

「陣地まで送る。砲塔かそこら辺に腰掛けていてくれ。」

 

それだけ忠告して、俺はコメットのスピードを調整しながら陣地への帰路へとつく。

陣地に戻ってくると先に撃破されてしまった大洗連合のみんなが集まっていた。

彼女らはティーガーⅠとコメット、そして砲塔に腰掛けているみほたちを見つけるや否や、囲むように集まってきた。

 

はっきり言う、危ないからやめてくれ!!

 

心の中で悲鳴を上げながら戦々恐々といった感じを出しながらなんとか人混みの中で停車する。

な、なんとかなった・・・・。

 

「桃、腕の方はどうだ?必要であれば手を貸そう。」

「あ、ありがとうございます・・・。」

 

シャアが河嶋の手を取ってコメットから出て行くのを見て、俺もつられてコメットの操縦席から離れ、ハッチから外へと出る。

そして、俺が外へ姿を見せると歓声が湧き上がった。思わず体を固まらせてしまう。シャアは慣れているのか然程気にしていない様子でコメットから河嶋を降ろしているが、俺はこういうのはめっぽうダメなんだ。こう、祭り上げられるのにいい気がしないんだ。

そうは思っていても俺の気持ちを汲んでくれる奴はおらず歓声が鳴り止まない様子だ。

もういっそのこと恥も捨ててコメットの中に戻ろうかと思った時、ピタリと歓声が止んだ。

何事かと思っていると、集団の中を大学選抜チームの隊長である島田愛里寿が歩いてきていた。

 

彼女はみほ達の前に来るとパンツァージャケットのポケットを弄り始める。

そして、ポケットから出した彼女の手の中には小さな熊のぬいぐるみがにぎられていた。

しかもただのクマではなく、耳や腕などといった躰の一部に包帯などを巻かれ、痛々しいほどボロボロに傷ついたように見えるクマだ。あれは確か・・・『ボコられグマのボコ』だったか。

そのボコをみほに差し出した。最初こそ、みほは困惑顔をしていたがーー

 

「私からの勲章よ。」

 

そう言われると、みほは若干困惑の混ざった笑顔を浮かべながらその差し出されたボコを手に取った。

 

「ありがとう。大切にするね。」

 

そうお礼を言われた彼女は微妙に下を向いた。多分、恥ずかしがっているのだろうな。

 

「次はお互い気負うものがない状態で戦いたい。みほさんや、貴方とも。」

 

島田 愛里寿が顔を上げるとみほ、そして、俺に向けて再戦を誓う。

俺は驚いた表情をしていたが、みほは意を決した表情でそれに応える。

 

「私もです。試合には勝ったけど、愛里寿ちゃんとの勝負には負けちゃったから。今度は負けない。」

「・・・・こっちも、今度は勝負にも勝って、試合にも勝つ。」

 

二人の間には廃校などの蟠りはないようだ。

その様子を微笑ましい顔で見ているとーー

 

「ーーーーつ、うぅっ!?」

 

腹部に激痛が走った。突然のものに思わず表情を歪ませながら患部を抑える。

その患部は全国大会で重症を負った部分だ。

まぁ、十中八九、鎮痛剤が切れたのだろう。しかし、タイミングがなかなか悪い。こんなところでは確実に悪目立ちする。

俺は咄嗟にシャアに視線を送る。気づいてくれるかどうかは心配なところが多かったが、シャアは手早く携帯を取り出すとどこかに電話をかけ始める。

おそらく、救急車を呼んでくれているのだろう。

 

「Hey!! ちょっと、大丈夫っ!?」

 

一番最初に駆け寄ってきたのは事情を知っているケイ達サンダースの三人組だった。

 

「ちょっとちょっと!!まさか鎮痛剤、切れたんじゃないんでしょうねっ!?」

「正直に言うと、あの薬の効果はとっくに切れている。ここまで持ったのはアドレナリンのおかげかな。」

「ええっ!?それ早くいいなさいよ、ナオミ!!」

 

アリサが心配そうな表情をするが、ナオミの一言で一気に不安なものに変わる。

肝心の俺は激痛に耐えかねて膝から崩れ落ちる俺の躰をナオミが抱きかかえ、コメットの車体にとりあえず寝かせると俺が着ているパンツァージャケットを捲り上げる。

血が流れている感覚はしないからおそらくは大丈夫だと思うのだが・・・・。

 

「・・・・とりあえず、血は出てない。中がどうかはわからないけど。」

「ちょっ、そういう不安になるようなこと言っちゃダメでしょ!!」

「アンジー!!救急車!!」

「もう呼んだ。程なくしてくるそうだ。」

 

ケイの確認する声にシャアが携帯を耳から離しながら応える。

 

(・・・・これは、また説教コースかもな・・・・。)

 

そんな呑気なことを考えながらも俺の意識は痛みに耐え切れず、暗闇へと沈んだ。

 

 

 

 

次に目が覚めたのはまだサイレンが響き渡る救急車の中だった。

まだ朧気な頭であたりを見渡すと狭い救急車の中で忙しなく動いている救急隊員の他にーー怒り心頭といった祖母の顔があった。

俺は思わず、口元をひくつかせていた。

 

「・・・・・・き、来ていたのか・・・。」

「当たり前じゃないの!!まったく・・・急に試合に乱入してきた時は思わず肝が冷えたよ!!」

「す、すまない。」

「はぁ・・・西住ちゃんたちが心配だったのはわかるけどね、それでアンタが倒れたら本末転倒じゃないか。」

 

呼吸用のマスクをかけられていたからくぐもった声しか出せなかったが祖母にはしっかりと聞こえていたようでしっかりと呆れた様子で言葉を返してきた。

本末転倒、か。確かにその通りだな。

俺は返す言葉もないため、祖母の言葉は聞き流すだけにしていた。

 

「・・・・おつかれさま。アンタはよく頑張ったよ。」

 

表情はぶっきらぼうなものだったが、そう言ってくれた祖母に俺は表情を緩めた。

そして、程なくして病院に着いたのだが、案の定、入院期間が延び、担当医師からはしこたま怒られ、病院で看護師による厳戒態勢が敷かれてしまったのはしかたなかった。

 

まぁ、廃校問題がなくなったのであれば、別にいいか。もうあれほどの無茶をするつもりはないしな。




急ぎ足で書いてきた本編がだいたい50話くらいで終わりそうですが、ある意味ガンダム作品らしいなって思うのは自分だけですかね。


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エピローグ

大学選抜との試合が終わった後、病院に担ぎ込まれた俺だが診断の結果、大腸の傷が開き、再度出血していることが明らかになった。

量や傷の開き具合はそれほどではなかったものの、医師の判断で緊急手術。

その結果、大事には至らなかった。しかし、入院したことに変わりない上、病院を脱走した前科が明らかになったため、看護師による巡回が俺だけ特別厳しくなった。

気分は軽い軟禁生活をしている気分だった。みほたちがちょくちょく見舞いに来てくれるからそれほど精神的に参ることはなかったがな。

彼女たちの話を聞いていると試合のあと、約束はしっかりと履行されたとのことだ。大洗女子学園艦の廃校は撤回され、みんな今までの日々を取り戻すように楽しく過ごしているとのことだ。

で、今はシャアが一人で病室に来ていた。

 

「へぇ・・・華が生徒会長になったのか。となると、もうお前は表舞台から降りるのか。」

「ああ。私のやるべきことはもうない。あとは未来ある若者に任せるつもりだ。」

 

シャアは病室の丸椅子で器用に足を交差しながら腕を組んでいた。

一応、シャアに見舞いに来た理由を聞いてみたところ『仲間なのだから当然だろう』とのことだった。

仲間か・・・・。そう言われて自然と笑みがこぼれてしまった。

 

「しかし、秋山が副会長になるとはな・・・。予想外だ。沙織が書記を務めるのはまだ分かるが・・・。」

「私も大方西住君辺りがやると思ったが、まさかの五十鈴君から直々の指名だった。まぁ、西住君には戦車道の隊長の役目がある。こうも役職を押し付けてしまうのは流石に西住君に申し訳なかったからちょうどよかったがな。」

 

それもそうだな。これ以上、みほに様々な重役を押し付ける訳にはいかないからな。

俺はシャアの言葉に納得の意志を示しながら頷いた。

 

「あとは島田愛里寿の短期転校だったか?確か飛び級して大学に通っているんだろう?彼女は。そう簡単に転校とか許されるのか?」

「そこまで詳しいわけではないからな。あまり言うことはできないが・・・。いくつもの学園艦を巡るそうだ。」

「そうなのか。」

 

一度話題を切るとシャアが唐突に別の話題を切り出した。

 

「そういえば、お前は最近ニュースなどは見れているのか?」

「・・・・いや、毎日毎日誰かしら見舞いに来てくれるからからっきしだな。島田愛里寿まで来る始末だったからな。」

「お前の元にも来たのか?まぁ、それはそれとして、そうであれば土産話にもなるか。大洗女子学園に廃校を告げに来た男、辻廉太と言うらしいのだが、その人物が現在のポストである『学園艦教育局長』から引きずり降ろされたらしい。」

 

俺は大方シャアが何かしらやったのではないかと思ったが、どうやらそうではないらしい。

奴の表情にしたり顔のようなものはなかったからな。

 

「大学選抜の試合のあと、試合の内容の件でネットで文科省にバッシングが集中してな。その結果、文科省のサーバーが一度落ちかけたらしい。」

 

まぁ・・・・聞く話によれば試合で使われていたカール自走臼砲は本来戦車道の試合で使えるものではないらしいからな。さらにまほたちの手助けがなければ30対8という勝ち目のない戦いをやらされるところだったのだ。明らかになれば批判が起こるのも分からなくはないが・・・。

文科省のサーバーが落ちかけるとは、それほどのことだったのか?

 

「まぁ、一番の原因になったのは、お前だったがな。アムロ。」

「は?俺がか?俺が何かしたのか?精々途中乱入したり、12輌ほど倒したくらいだが・・・。」

 

素っ頓狂な表情を浮かべながらそう言うとシャアは乾いた笑いをあげながら説明を始めた。

 

「お前、怪我をおしてでも試合に出てきただろう?その様子が一般の人々に共感を呼んだらしくてな・・・。まぁ、お前に対しての批判もあるにはあるのだが、それも怪我人なのだから安静にしておけぐらいのレベルでな。とりあえず怪我人が立ち上がったことに触発されたのか一般市民が目の敵にしたのが文科省でな。」

 

この手のクレームは面倒極まりないからな・・・。匿名で言えるのも相まって割と気軽に言えてしまうのが現代社会だからな・・・。

 

「で、その結果、責任を取る形で辻廉太は現在の役職を辞任。さらに文部科学大臣も任命責任としてかなり追及されているらしい。」

「そ、そんな大ごとになっているのか・・・・。」

 

思わず引きつった表情を浮かべてしまう。その表情をしながら言った言葉にシャアは黙って頷いた。

 

「本当にお前は絡んでいないのか?」

「絡んでおらんさ。精々が局長の恐喝とも取れる発言を録音したボイスレコーダーを日本戦車道理事長に渡したくらいだ。」

「お前もやることやっているじゃないか!」

 

声を少々荒げながら言ったが肝心のシャアはどこ吹く風といった様子だ。

まったく・・・絡んでいないとどの口が言っているのか・・・。

 

「それで、話は変わるが退院の目処は立っているのか?」

「・・・・そうだな・・・。一応大人しくはしているからな。あと半月ほどしたら退院は可能だとのことだ。」

「ふむ、そうか。」

「そういえば、なぜ俺の退院日なんかを聞いたんだ?」

「気になっただけだ。」

「そ、そうか。ならお前にも聞くが、進路とかどうしているんだ?」

 

シャアの言葉に違和感を覚えたが追及することはしなかった。そのかわり聞いた質問にシャアは特にこれといった表情をすることはなくーー

 

「シンプルにいい大学の推薦で、な。あとは有意義に学生生活の余生を過ごすだけだ。今は桃の勉強の面倒を見ているところだ。」

「河嶋の・・・?一体どうしてなんだ?」

「あの試合のあと、彼女の元にもそれなりの数の大学からの推薦が来ていてな。

で、そのうちの一つを選んだのだが、いかんせん彼女は学力がな・・・・。」

「ああ・・・・。それでお前が教えているのか・・・・。」

「そう言うことだ・・・・。」

 

そう言った奴の顔は妙に遠い目をしていた。かなり大変なのだろうな・・・・。

その日はシャアは学園艦へと戻っていった。

奴も奴で大変なのだろうな・・・・。

 

 

 

 

そして月日は早いもので、気づけば退院予定日の当日となっていた。

傷痕は残ったままだが、内臓の経過は良かったらしく問題ないとの医師のお墨付きを受けて、予定通りの日に退院することができた。

世話になった医師や看護師にお礼を述べながら、祖母とともに病院を後にすると、人だかりがあった。しかもとてもよく見慣れた人々で形成されたものだった。

みんな学生服を着ているため学生なのだろうが、紅茶片手にしている藍色、灰色や濃い緑色で形成された色とりどりの制服を着ている学生の集団は俺と祖母を見つけるやいなや花束などを手にしながら駆け寄ってきた。

 

『退院、おめでとう!!』

 

その掛け声と共に、持っていた花束などを俺に差し出した。

俺自身は退院の日をシャア以外に教えたつもりはなかったため、大方の流出源であろうシャアに視線を送る。

 

(・・・・みほたちに教えただろ。それもダージリンやケイにアンチョビ、挙げ句の果てにカチューシャやまほ達もいるじゃないか。)

(私はあくまで聞かれただけだ。)

 

シャアに素知らぬ顔をされてしまった。どうしようもなさにため息をつきながら、俺はしばらくもみくちゃにされるのであった。

で、退院直後にアンチョビ主導で大洗学園艦で祖母を巻き込んだ俺の退院パーティーが執り行われた。

 

「そう言う訳で、冷泉の退院を祝って、カンパーイっ!!!」

『イエーーーイっ!!!』

 

アンチョビの音頭で始まったソレは主役になってしまった俺を中心に夜まで続いた。

祖母には流石に途中で帰ってもらったが、その時に『楽しみなさい。』との一言があったが、すでに胃に穴が開きそうだ。

 

「はぁ〜・・・・。」

「コラァっ!!主役がそんな顔してたらダメだろうっ!!もっと楽しめっ!!」

 

思わずため息をついてしまうが、アンチョビに見つかってしまい、小言を受けてしまう。

楽しめと言われてもな・・・。

 

「なぜこんな大ごとにするんだ?なんかいつのまにか、感想戦だったか?選抜チームの人たちまで巻き込んで試合の振り返りをしているのだが・・・。」

 

今、特設ステージではエキシビションの写真とともに一枚一枚、その写真に写っている戦車の搭乗員が説明を始めるという『感想戦』とやらが行われていた。

司会はみほ達プラス小山のあんこうチームが務めていた。

疲れた表情しながらそう言うと、アンチョビは呆れながら俺の席の隣に座った。

 

「なんでって、そんなのお前がみんなから好かれているに決まっているからだろ?まぁ、感想戦はともかくだけどな。」

「好かれている、か。私はそんなことをした覚えはないのだが・・・。」

 

アンチョビの言葉を疑問に感じながらも豪華絢爛な料理に手をつけていると視界の端に紅茶のカップを手にしたある意味見慣れた人物がいつのまにかいた。

 

「少々長いですけど、こんな言葉を知っているかしら?『友達に好かれようなどと思わず、友達から孤立してもいいと腹をきめて、自分を貫いていけば、本当の意味でみんなに喜ばれる人間になれる。』」

「・・・・また得意の格言か。私はそっちには疎いのだが・・・。」

 

誰の言葉かわからなかったため、発言した張本人であるダージリンに聞き返すと、勝ち誇った表情をしながら言葉を続ける。

 

「ある日本人の言葉ですわ。意味は、言葉の通り。貴方は好かれようとすることはせず、いつも自分を貫きましたわ。立ちはだかる壁にも決して屈することはなく、ご自分の意志を貫いた。これはその結果。むしろ誇りに思ってもよろしいのでは?」

「・・・・・誇り、か。悪いがそうは思えないな。私は自分にできることをやっただけだ。」

「・・・・それでこそ、貴方ですわ。」

 

それだけ言うとダージリンは手にしていた紅茶を口にする。

俺はその様子を見ながらあることを思いつく。

 

「ダージリン、私もその紅茶をもらってもいいか?」

「あら、中々唐突ですこと。理由をお聞かせ願えるかしら?」

 

ダージリンは特に驚きといった表情を挙げることはなかったが、理由を尋ねられた。

理由としては大学選抜のメンバーがいるからだな。

 

「この感想戦、大学選抜の人達もいるから、殲滅戦の部分もやるんじゃないのか?そうなると私も駆り出されるだろうから口直しにな。」

「それであれば、ペコをお呼びしますわ。ペコ?少しいいかしら?」

「はい、なんでしょうか?」

 

ダージリンはオレンジペコを呼び寄せると彼女はパーティーの最中であったにもかかわらず来てくれた。

 

「冷泉さんに紅茶を一杯淹れてくれるかしら?」

「はい。ただいまお持ちしますね。銘柄はどちらにしますか?」

 

オレンジペコは俺にそう尋ねてくる。しかし、紅茶の銘柄の知識などサラサラだった俺は答えようがなかった。とりあえずーー

 

「・・・・ダージリンでいい。」

「分かりました。少々お待ちください。」

 

そう答えると彼女は紅茶を淹れに行った。すると、ダージリンの妙な笑顔が視界に入った。

 

「なんというか、嬉しそうだな。」

「フフッ、貴方がまさか私の名前の紅茶をご所望なさるとは思わなかったので。」

「任せると言うと彼女にいらぬ気苦労をかけると思ったからな。」

 

ダージリンにそう言うと彼女は微笑みを浮かべながら再び紅茶に口をつける。

程なくして紅茶の入ったティーカップをトレーに乗せてオレンジペコが戻ってきた。

 

「どうぞ。ダージリンです。」

「すまない。ありがとう。」

 

俺が持ってきてくれた彼女に対してお礼を述べると、ダージリン達を呼ぶみほの声が会場に響いた。

 

「あら、出番ね。それでは冷泉さん、また後で。」

 

そう言うとダージリンはオレンジペコを連れ添って特設ステージへと向かっていった。

それを見送ると、俺はオレンジペコが淹れてくれた紅茶を口に含む。

・・・・あまり味がしないな・・・。香りはいいことから察するに、どうやら味ではなく匂いを楽しむタイプのようだ。

 

「やっぱり大学選抜との試合までやるみたいだな。」

「そうらしいな。」

 

アンチョビの言葉にそう軽く返答しておく。特設ステージではダージリンやみほ、それに大学選抜の小隊長の一人、『ルミ』が上がっていた。

 

「へぇー、湿原の方だとそんな感じなっていたのかー。」

 

湿原での戦闘写真とダージリンやみほの説明にアンチョビがそんな声を零した。

その時の状況を知らない俺などにとっては知るのにいい機会だろうな。

 

「そういえば冷泉も上がるんだろ?少しだけ内容教えてくれるとか、ないか?」

「ん?そうだな・・・。詳しくは言えないが、合計で12輌は倒したな。」

「・・・・マジで?」

 

アンチョビのひくついた表情に俺は無言で頷いた。

 

「なぁ、常々思うんだけどさ。本当に初心者か?お前。杏もそうだけどさ。」

「いろんな人物から言われているが、戦車道に関しては初心者だ。」

「ふーん、戦車道に関してはねぇ・・・・。」

「・・・まぁ、戦車の内部構造に知識がないわけではなかったからな。」

「・・・・なら、そういうことにしておくよ。」

 

アンチョビの言葉に俺は乾いた表情を浮かべるしかなかった。

モビルスーツに乗って、戦争をしていましたと言ったところでなぁ・・・・。

信じてくれる確証がこれっぽちもない。

 

「そういえば、アンチョビはどの小隊にいたんだ?聞いた話によると三つほどに部隊を分けていたそうだが・・・。」

「私はひまわり中隊にいたぞ。乗ってきたのがP40で重戦車だったからな。中央高地の占領を目標とした分隊だったんだけど、まぁー自走臼砲のせいでそれすらままならなかったけどな。いやー、あの時は真面目に寿命が縮むかと思ったさ。」

 

ふむ、彼女は彼女で大変だったのだろうな・・・。

そのあたりでみほのアナウンスで話題になっていたひまわり中隊の招集がかかった。

メンバーを見る限り、アンチョビのほかにまほやカチューシャといった黒森峰とプラウダの面々で形成されていたようだ。

感想戦は笑いに満ち溢れたとても素晴らしいものへとなっていた。大学選抜チームの面々も笑顔があった。

その様子に見入っているとシャアと河嶋の二人が近づいているのが見えた。

 

「どうだ?楽しめているか?」

「ん、まぁな。」

「ならいい。」

 

軽いやりとりをするとシャアも席に腰掛けて料理に手をつけ始めた。

 

「そろそろ我々の出番だぞ。」

 

シャアにそう言われ、画面を見ると映像は遊園地のものへと変わっていた。

ちょうど大学選抜チームに追われている画像が多いため、おそらく野外音楽堂に追い詰められる直前のところなのだろう。

 

「・・・・そうらしいな。」

 

そして、画像がちょうど野外音楽堂に追い詰められたものに変わった。

 

『そして、野外音楽堂に追い詰められた大洗連合。この時点で私ははっきり言って半ば諦めかけていました。』

 

みほの優しげな口調のアナウンスが響く。観衆の歓声も彼女の神妙な声色に気を使ったのか今は鳴りを潜めている。

まるで、テンションが最高潮になる直前の静寂のようだ。

 

『ですが、その包囲網を破ってくれたのはたった一つの彗星、もしくは流星でした。野外音楽堂の壁を破って現れたのはイギリスの巡航戦車、コメット。』

 

画像が壁を破砕しながら現れたコメットに切り替わる。しかし、観客の歓声は未だ起こらない。

 

『ここから先はこの人たち抜きで語れません。そういうことで、お願いします!!コメット砲手兼車長、角谷 杏さん!!装填手、河嶋 桃さん!!そして、全国大会で大怪我をしたにも関わらず、みんなのために来てくれた《大洗の白き流星》、操縦手、冷泉 麻子さん!!お願いします!!』

 

みほのアナウンスが俺の名前を呼んだ瞬間、観客の歓声は一気に湧き上がった。

まさに大歓声といっても過言ではないだろう。肝心の俺は苦笑いを浮かべていたがな。

 

「行くか。おそらく、かなり長くなるぞ。」

「まぁ、やったことがやったことですが、主にそれは冷泉に向かうと思いますけどね。」

 

シャアと河嶋に着いて行く形で特設ステージへと登った。

ステージから見る観客の表情はどれも期待に満ち溢れていた。

俺はみんなのその様子に難しい顔を浮かべていると視界にマイクが写り込んだことに気づく。

誰が渡してきているのかと思えばシャアだった。

 

「主役はお前だ。であれば先陣を切るのはお前が一番いいだろう。」

「・・・・できれば勘弁してほしいのだが・・・」

「そうも言ってられんだろう。覚悟を決めろ。」

 

シャアからそう諭され、観念した俺はシャアからマイクを受け取る。

 

「・・・・掛け声はみんな『パンツァー・フォー』だったが、私も合わせた方がいいよな?」

「え?それは麻子さんに任せますよ?」

 

一応、みほに確認を取るとそんな返事が返ってくる。

どうするべきか・・・・。せっかくの機会なのだから、少しばかり歯止めを緩めてみるのもいいか。

 

「それじゃあ、皆に確認代わりなのだが、着いてこれる奴だけ、着いてきてくれ。色々やらかしているという自覚はあるからな。」

 

そういうと観客の表情がやる気に満ちた表情に変わった。まぁ、掴みとしてはいいのか?よくわからないが。

俺は一つ、大きく息を吸い込むとーー

 

「冷泉麻子、コメット、行きまーすっ!!!」

『イェーイっ!!!』

 

力一杯そう叫んでみると思いのほかウケが良かった。何事もやってみるものだな。

そこから先は本当に疲れる事ばかりだった。俺のコメットによるやらかしが出てくるたびに歓声が巻き起こり、さらに質問の嵐に巻き込まれて、本当に疲労困憊になるまでやったものだ。だが、その状況を楽しいと思っている自分もいた。

 

 

これから先も戦車道に関わって行くかは分からない。俺が戦車道をやっていた理由は最初こそは遅刻回数の免除だったが、シャアの話を聞いたりして、気づいたら大洗の廃校をなくすために動いていた。そのため理由なき今、このまま戦車道を続けていくかどうかは悩んでいる。

しかし、秋山や華、沙織、そして、みほのあんこうチームとの出会いは心の底から良かったと思っている。

 

何の因果かは分からなかったがアクシズを押し返そうとしたら、気づけば記憶はそのままで赤ん坊の姿へと変貌していた。

その時は本当に理解が追いつかなかった。だが、沙織との出会いから最終的には様々な人との出会いがあった。

 

「麻子さん!」

 

声がした方向へ振り向くとみほが笑みを浮かべながら立っていた。

 

「これからもよろしくお願いします!!」

「・・・これから、というのは卒業までか?」

 

まぁ、そこまでだったら続けていくつもりだが・・・。

しかし、みほの答えはどうやら違ったようだった。

 

「ううん、卒業してからも貴方と一緒に戦車道を続けていきたいんです。ダメですか?」

 

俺は返答に困ってしまった。そう言われて仕舞えば、冥利につきる。

だが、それとは別に問題があった。

 

「・・・・私の答えはここでは保留させてくれ。」

「そ、そうですか・・・。」

 

私がそう答えるとみほは少しばかり悲しそうな表情をする。

 

「まぁ、また後で答えるよ。今は、状況が状況だ。」

 

マイクに声が入らないようにみほにそういうと彼女は自分がどういう状況下で言っていたのかを思い出したのか、顔を真っ赤にしだした。俺はそれの様子に微笑みながらパーティーの司会を続けた。

 

なんとか場を繋ぎ続けた結果、その日のパーティーは大盛況だった。

無事終わったようで何よりだ。

そして、つい一時間前までたくさんの生徒の盛況に包まれていた会場は徐々に片付けられ、最終的には夜空の浮かび上がっている星空の光に薄く照らされるだけとなっていた。

 

俺はそこでただ一人上を茫然と見上げていた。

 

思い返してみれば、たくさんの出来事があった。大洗女子学園が廃校の危機に晒されたことから始まった戦車道。サンダースやアンツィオ、さらにプラウダや黒森峰との戦いは経て、俺たちは一度は廃校を取り消したはずだった。

しかし、文科省の横暴で半ば無理やり廃校が決定され、それに異議を申し立てたシャアが取り付けた大学選抜との試合。

結果としては見事、勝利を収め、俺たちは今度こそ廃校の危機を免れたんだ。

 

「・・・・麻子さん。」

 

声が聞こえてきた。誰の声かは見当はすでについていた。

聞こえてきた方角である後ろを振り向くとみほが立っていた。

 

「・・・どうしてここに?」

「えっと、会長が・・・あ、違った・・角谷先輩が麻子さんはそこにいるって言ってたので・・・。」

「・・・・そうか。杏がか」

 

それだけ言うとみほは俺のそばに来ると同じように星空を見つめる。

 

「星が、綺麗ですね。」

「・・・・そうだな。」

(なんか微妙に違う・・・・)

 

普通に答えたつもりだったんだが、微妙に膨れっ面をされているように感じるのはどうしてだ・・・・?

 

「・・・・麻子さんは卒業しても戦車道を続けてくれますか?」

 

膨れっ面をやめるとみほはパーティーで話していた俺が卒業した後も戦車道を続けてくれかどうかの質問をしてきた。

 

「そうだな・・・・。元々戦車道をし始めたのも遅刻回数が免除されるという邪な理由だったしな・・・・。」

「ふぇぇっ!?そんな理由で戦車道をやっていたんですかっ!?」

「まぁ・・・・恥ずかしながらな。」

 

少々照れ臭いものもあったため、軽く頰をかいていると、みほから驚きの混ざったままの声が掛けられる。

 

「えっと、結局、遅刻の回数は・・・?」

「そど子達に消してもらったはずだ。多分・・・。」

「た、多分ですか・・・・。」

 

さて、そろそろ本題に入るか。

 

「それで、続けるかどうかだが・・・・。私の答えはーーー」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「やれやれ、みほにああ言ってから早くも一年経ちそうだ。」

 

あれから数年経ち、俺は大洗女子学園を卒業した。卒業したあとは推薦を使って、本土の大学に通い始めた。

あいにくだったがみほとは別の大学に通うことになった。

それで俺が戦車道を続けているかどうかだが、それは少し置いておくとしよう。

 

現在大学で着ている私服とは打って変わって制服のような服を着こなしている俺はベレー帽のような帽子をつける。その帽子にはいつかの日に大洗女子学園の廃校を巡って戦った『大学選抜』のマークが記されていた。

結論を言うと俺は戦車道を続けていた。

 

それもーー

 

「準備はいいようだな?アムロ。」

「ああ。・・・・結局お前もなんだかんだで続けているんだな。」

「・・・一応、手は引くつもりだったのだがな・・・。」

 

シャアも戦車道を続けていたのだ。それも何の因果かは知らないが、同じ車輌の砲手と操縦手としてだ。

で、俺とシャアの乗る戦車の車長はと言うとーーー

 

「麻子さん!!杏さん!!」

 

聞き慣れた声のした方へ振り向くと同じように大学選抜の制服を身につけたみほがいた。

そう、彼女が俺たちの乗る戦車の車長なのだ。

 

「今回もよろしくお願いしますっ!!」

「ああ。よろしく。」

 

笑みを浮かべて挨拶してくる彼女に対して、手を振って挨拶を返すと若干、急いでいたのか、息を少しばかり切らしながら言葉を続ける。

 

「今回は初めての世界大会ですね。」

「そうだな。まさか、自分みたいな奴がこんな大それた舞台に立てるとは思ってもいなかったがな。」

「まぁ、仮に世界が相手でもやることは変わらんよ。」

 

シャアがそう言うとみほもそうですね、と同意の姿勢を示した。

 

「それじゃあ、行きましょう!!パンツァー・フォーっ!!」

 

みほに続く形で待機室から出ると既にこちらのチームの準備は完了していた。

中には見知った顔もいたり、その逆もまた然りだが、シャアの言う通り、やることはいつもと変わらない。

 

そして、試合開始の合図が上がった。

 

「麻子さん!!前進してください!!」

「了解したっ!!出るぞっ!!」

 

俺はアクセルを踏んで、搭乗車輌を前進させ始める。

大洗女子学園でⅣ号戦車を初めて動かした時のように。

 



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番外編
大晦日特別編


正真正銘、今年最後の投稿です。

番外編というわけですが、一番やばい回かもしれないっす。


「今日は大晦日。そういう訳で。忘年会、始めちゃいましょー!!」

『おーっ!!』

 

沙織の音頭で集まった人達が飲み物の注がれたコップを軽くぶつけて乾杯をする。メンバーはあんこうチームの面々の俺を含めた五人だ。

そして、飲み物を口に含んで沙織の発案で始まった忘年会が始まる。

そんな中で俺は唯一不機嫌な顔をしていた。

 

「もうー、麻子ったらそんな顔でいたらせっかくの忘年会なのに雰囲気悪くなっちゃうよ。」

 

沙織の言葉に俺はわずかにこみかみに怒りのマークを浮かべながら睨む。

 

「誰のせいでこんな顔になっていると思っているんだ。」

 

そうは言うものの当の本人はどこ吹く風といった様子で聞く耳を持ってくれることはなかった。

俺が不機嫌な顔をしている理由はその忘年会の会場がーー

 

「なんで私の家なんだ!ほかにもっといい場所があっただろうになぜ私の家で敢行したんだ!」

「だって、一番広いし?というよりもうやっちゃっているから後の祭りじゃない?」

「・・・・はぁ。」

「アハハハ・・・・・。」

 

そう、なぜかこの忘年会の開かれている場所が俺の家なのだ。

一応、抗議の声は挙げたが、沙織の言う通り、後の祭りなのは確かなため、俺は項垂れる表情をするだけに留まってしまう。

その様子にみほは乾いた笑い声を挙げながら見ていた。

 

「いやー、それはそれとして、今年は本当に色々ありましたねー。」

「ええ。全くですね。一年にも満たないですが、この数ヶ月は毎日が本当に濃い日々でした。」

 

秋山の今年を振り返るような言葉に華が頷く。

まぁ、華の言う通り、この数ヶ月が本当に濃い日々だったのは確かだ。たった数ヶ月だけだったにもかかわらず、数年を過ごしたような気分だった。

 

「思えば本当にどんどんスケールの大きい話になっていったよね。みぽりんが黒森峰から大洗に転校してきて、会長がーーあ、今は華が会長だったね。まぁ、前会長が戦車道を復活させて、聖グロと親善試合をして、あの時は本当に右も左もわからないって感じだったよね。」

「聖グロとの試合は負けはしましたが、そこからの全国大会はまさに破竹の勢いでしたね。サンダースやアンツィオはもちろんプラウダといった強豪校との試合。

とくにプラウダの時の麻子殿と会長が乗り込んだⅣ号の活躍振りにはこの秋山優花里、情けないことにおふたりが動かしていたのは本当に戦車なのかと疑ってしまうほどでした。」

「えっと、確か最終的にプラウダの車輌の半数近くを倒したのでしたよね。その結果に至った過程も素晴らしいの一言に尽きる内容だったらしいのですが・・・・どのようなことをしていましたのでしょう?」

 

おい、河嶋のことも忘れないでやってくれ。一番頑張っていたのは彼女だからな。

そう思うだけで、口には出さんがな。

今に思えば、プラウダ戦から割と本気でやりはじめたな。

飲み物を口に含んで軽い笑みを浮かべていると考える素ぶりをしていたみほが口を開いた。

 

 

「えっと、包囲網を抜けたあとクラーラさんのT-34/85を含めた4輌をそれぞれ一発で撃破。クラーラさんの時に至っては目の前でドリフトをされたって本人が流暢な日本語で言ってましたね。」

「うへー、つくづく麻子ってとんでもない動かし方するよねー。他にはどんなことしてたの?」

 

沙織の視線がこちらに向いたため、俺はプラウダ戦の記憶を呼び起こしながら説明を始める。

 

「そうだな・・・。クラーラ達の包囲を突破した後はフラッグ車のアヒルさんチームの援護に向かったな。」

「うんうん、それからそれから?」

「ちょうどIS-2が撃つ直前だったな、駆けつけた時は。まぁ、謂わゆる万事休すといったところだった。」

「えっ!?それではどうやってIS-2を止めたのですかっ!?」

「IS-2自体は止めようとは思わなかった。火力が足りなかったからな。」

 

秋山の驚きにたいして俺がそういうと沙織は何やら不味いものでも思い出したかなような表情をしだした。

 

「あー、なんか思い出してきた・・・。確か試合が終わった後ノンナさんが砲弾を砲弾で撃ち落としたとか言っていた気がする・・・。」

「あれは会長がやったことだ。私がやったことじゃない。」

「いやいやいや、そのあとの無限軌道の片側だけで運転したっていうのはどうみても麻子だよねっ!?」

 

沙織が驚きの表情を挙げながら、顔の前で手を横に振り、否定の意を表す。

俺は特にこれといった反応をせずに頷いた。

 

「ああ。やったな。砲撃の衝撃を利用して車体の片側を浮かせた。」

 

そういうとみほと華は苦笑いを浮かべ、秋山は目を輝かせ、沙織は頭を抱えるかのような色とりどりの反応を見せた。

 

「・・・・ねぇ、時々思うんだけど。麻子が動かしてるのって私たちが動かしているのと同じ戦車だよね?」

「乗っているのが戦車なんだから戦車に決まっているだろ。」

「いや、そうなんだけどねっ!?何というか、次元というか世界が違うというか。」

「でも、麻子さんの操縦技術には本当にお世話になったよね。何回もダメかなって思った時があったけど、いつも麻子さんが切り抜けてくれていたから。」

 

みほの鶴の一声といった声が上がるとほかの三人もうんうんと頷きながら俺に視線を向ける。

 

「確かにそうですわね。サンダース戦の時、麻子さんが咄嗟に動かしてくれなければ試合が長引いていましたし。」

「アンツィオ戦の時も前会長殿との息ぴったりな掛け合いのおかげでなんとかなりました!!」

「まぁ・・・本当にプラウダ戦の時はありがたかったかな。沈んでいたみんなの気持ちも元に戻して、何より麻子と前会長が頑張ってくれたおかげで勝てたんだもん。」

 

華が純粋、秋山が尊敬、沙織は照れながらもそれぞれ思い思いの表情を浮かべながら、俺に感謝の気持ちを向けてくる。

・・・・今更ながら少しばかり恥ずかしいな・・・・。

 

「・・・・ところで、プラウダ戦の時はほかになにかしたの?」

 

表情を微妙なものに変えた沙織がそんなことを聞いてくる。

他に、か。どうだったかな・・・・。

 

「確か、片方のキャタピラだけで砲撃を避けたあと、カチューシャの乗る車輌を倒したな・・・。それでそのあと、ああ。思い出した。ノンナの乗るIS-2と1対1になった時、正面衝突したな。」

「あ、IS-2とですかっ!?」

 

秋山の驚く声に俺は頷くだけして、話を続ける。

 

「その時になんだが普通に正面衝突してもやられるのは目に見えていたから前会長が砲身を振り回してIS-2の砲身をかっ飛ばした。さながら野球のバットのようにな。」

「・・・・砲身で相手の砲身をかっ飛ばしたんですか。」

「まぁ、かっ飛ばすというより砲身に砲身をぶつけて逸らしたといったほうがいいか。」

 

秋山の言葉に一応、補足として入れた言葉も意味を成さず、みほたちはしばらく言葉を失っていた。

 

「本当にやることなすこととんでもないよねー。麻子は。」

 

沙織が若干呆れた表情でこちらをみてくる。あれはシャアがやったことなんだがな・・・・。

 

「その正面衝突が祟って黒森峰戦ではあんなことになったがな。」

「ちょっと!!本当にあの時は心配したんだからね!!しかも私に結構辛いポジション押し付けて!!かなり辛かったんだからね!!」

 

ジュースを飲みながら何気なくそういうと沙織が顔を真っ赤にしながらそういってくる。

確かに沙織にはかなり辛い立ち位置に立たせてしまったからな。

こういう表情をするのは当然か。

 

「改めて、すまなかったな。まぁ、最終的には生きていたのだから別にーー」

「むー」

 

そのまま話を流そうとしたらみほにふくれっ面をされて止められてしまう。

俺は気にかけないように目を閉じながらジュースを口に含む。だがーー

 

「むー」(ジトー)

 

・・・・さらにジト目までされてしまう。さらに不機嫌さも目に見えるようになってしまった。

俺はしばらくみほのその目を見ていたが・・・・

 

「・・・・はぁ、悪かったよ。今度から怪我を負ったら素直に言うから・・・・。」

 

最終的に俺が折れる。ため息をつきながらそう言うとみほは笑顔を浮かべながら料理に手をつけ始めた。

・・・・大洗のみんなが見舞いに来てくれた時に一番心配していたのは彼女のようだからな。

 

「あの・・・やっぱり傷跡とかは残ったままなんですか?」

 

秋山の質問に俺は少しばかりジュースを飲みながら考える。

少し自分の中で思案した後コップを置いて、話し出す。

 

「・・・・残ってるな。まぁ、この場で出すようなものではないから見せないけどな。」

「そう、ですか・・・。」

 

秋山の沈んだ表情を見てなんとなくいたたまれない感情を抱いた俺はすぐさま笑顔を浮かべて安心させようとする。

 

「まぁ、私はこの通り普段通りの生活を送れている。そこまで秋山が気にすることはない。下手な同情は逆に相手を不快にさせるときもあるからな。」

「・・・・そうですね。何よりの怪我の張本人である麻子さんがいいのであれば、私たちが心配するのは不粋ですね。」

「そういうことだ。さて、料理が冷める前に食べてしまおうか。」

 

華の納得といった表情をしながら言った言葉に便乗する形で俺は傷口の話を止めさせる。その後は沙織の作った料理を他愛ない話をしながら着々と減らしていった。

料理を完食した後はだんだんとお開き状態になっていき、家族のいる沙織と秋山が年越しは家族と過ごすらしく先に帰っていった。

 

「それじゃあ私は帰るねー。みんな今年はありがとうね!!」

「私もキリがいいので帰りますね。・・・皆さんのおかげでこの一年は本当に楽しい毎日でした!!ありがとうございましたっ!!」

 

沙織は手を振りながら、秋山は敬礼の構えをして俺の家を後にした。

華は一人暮らしだそうだが、母親が心配性らしく年を越す前に家に戻るようだ。

 

「それじゃあみほさん、麻子さん、良いお年を。」

「ああ。そちらもな。」

「華さん、良いお年を。」

 

最後に一礼、お辞儀をして、華は俺の家を後にした。

さて、これであとはみほだけだが・・・・。

 

「本来であればどうすると確認を取るべきなのだろうが、お互い家に誰もいないからな。年越しまで家にいても構わない。」

「・・・いいんですか?」

「一人で寂しく年越しを迎えるよりはマシだろう。」

「ありがとう。」

 

適当にあっためたココアを持ってくると二人でこたつに入ってテレビを見る。

テレビには年末によくやっている歌番組やら24時間で出演者の尻がしばかれるやつがやっていた。

みほは歌に聞き入ったり、出演者に起こるハプニングで笑ったりしていた。

俺はその様子を見ながら静かにココアを飲んでいた。

 

(・・・・平和だな。とても、二十年前までモビルスーツに乗って、戦争をしていたとは思えんな。)

 

これが本来の高校生の生活ぶりなのだろうな。

俺のようにひょんなことからガンダムに乗り込み、戦争に振り回されて、戦いというメビウスの輪に呑まれていった者の生活ぶりとは思えない。

 

「麻子さん?どうかしましたか?」

 

俺の表情が気になったのかみほが覗き込むような感じでみてくる。

俺はそれに笑顔を向けながら微笑む。

 

「いや、平和とはこういうものなのかと思ってな。」

 

そういうとみほはクスクスと笑い始めた。俺はそれにキョトンとした表情をしてしまう。

 

「おいおい、何も笑うことはないだろう。」

「だっていきなり平和とか言われたら・・・。」

 

・・・・それもそうか。彼女は戦車という戦争の道具に乗ってはいるが、実際に戦争を切り抜けたわけではない。

むしろ、当然か。

そのあとはお互い特に会話はせずにテレビ番組を見ていると不意にみほが話し始めた。

 

「麻子さん、傷口、見せてもらっても良いですか?」

 

突然の要望に俺は少しかける言葉を失っていた。まさかみほが見たがるとは思わなかったからだ。

 

「あまり、見ても気分のいいものではないのだが・・・。」

「私が見たいんです。・・・・駄目ですか?」

 

・・・・どうするべきか・・・・。

そう思いながらみほの顔を軽く見る。彼女の表情は戦車に乗っているときのそれと遜色なかった。

つまり、テコでも動かないという意思表示でもある。

 

「・・・・少しだけだぞ。」

 

俺は服を捲り上げ、もう見せる機会はないと思っていた傷跡を晒す。

 

「・・・・痛々しいですね。」

「傷跡とはそういうものだ。」

 

そっけない言葉を言ってココアを飲んでいると、若干こそばゆい感覚が腹の、具体的に言うと傷口あたりから走った。

何事かと思って視線を向けると、みほが傷口を触っていた。

 

「・・・・聞くほどのことではないが敢えて聞く。何をやっているんだ?」

「傷口を触っていますよ?」

 

至極当たり前のように言ってきたみほに俺は困り果てた顔を浮かべる。

説教をする気も失せた俺はそのままテレビに視線を向ける。

 

「程々にしてくれよ。」

「はーい。」

 

ただそれだけを言うのであった。少しするとみほは傷口を触るのをやめ、俺と同じようにテレビに視線を戻した。

そのまましばらくテレビを見ていた。ふと、番組に終わりが見え始めたため、時計に視線を移すと時刻は12時間近、つまるところ年を跨ごうとしていた。

 

「まさに今年もあと少し、か。」

 

そう呟くことで感慨深いものに浸っているとこたつの中でもぞもぞと動くものがあった。

ちなみに隣にいるはずのみほはなぜか姿が見えなかった。

 

「はぁ・・・・。」

 

と一つため息をついた瞬間、みほがコタツの中からぬるっと出てきた。

出てきた場所は俺がコタツに足をいれているところからだ。みほはそのまま俺の足の間に収まるように入ってくると、背中を俺に預けるように乗せてくる。

 

「えへへ・・・・。」

 

呆れるような視線を向けるとみほは照れ臭そうに表情を緩みきったものに変える。

 

「・・・・もう何も言わん。」

「わーい♪」

 

再度テレビに視線を向けるとまさに年越しのカウントダウンをしている真っ最中であった。

画面の中のカウントは1秒ずつ減っていき、最終的にゼロを示した瞬間、テレビの画面に煌びやかなテロップとともに『HAPPY NEW YEAR』の文字が映される。

 

「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。」

「今年もよろしく。」

 

あまりこういったことには慣れていないから端的にみほにそう伝える。

 

「ふふっ、こうやって誰かと一緒に年越しを迎えるのは初めてかも。」

「そうなのか?」

「・・・・今度はお母さんやお姉ちゃんと一緒に年越しを祝えるといいな・・・。」

 

姉であるまほは今ドイツに留学しているとのことだ。なぜ知っているかと言うと彼女から手紙が来た。

内容は一緒に留学でもしてみないかという催促文だった。思ってもいなかった内容だったが、俺には俺のやることがあるため遠慮しておいた。

 

「まほはともかく、母親であるあの人なら大丈夫だろう。」

 

俺の言葉にそうかな・・・と疑問げな声を挙げていたが、表情自体に暗いものはなかった。

 

「あの、麻子さん。」

 

みほに名前を呼ばれ、視線を向けると先ほどとは打って変わって顔をかなり紅潮させているものの何やら意を決したような顔立ちをした彼女がいた。

 

「どうかしたか?」

 

そう尋ねるとみほは何回か深呼吸をした。しかし、表情には赤みを残したままだったが、みほは俺の手を握るとーー

 

「私、麻子さんが好きです。友達としてでもあります。ですが、その、私が抱いているコレは、多分ほかの人が麻子さんに思っているものとは違くて、ええとその。ど、どうしよう考えがまとまらないよ・・・。

私は麻子さんが恋愛的に大好きです!!だから、私と付き合ってくれませんかっ!?」

 

みほの言葉に俺は目を見開いて聞いていた。みほは考えがまとまらず、ストレートに思いを伝えてしまったため恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にして俯いている。

まさか、告白されるとは思っていなかったからだ。しかも男からならともかく一応外面は同性であるみほからされるとは。さらに先ほどのみほの言葉は根っからの本心だ。そのことも俺の返答が遅くなったことに拍車をかけていた。

 

「その・・・やっぱり変ですよね・・・。嫌なら嫌っていってもいいので・・・。」

 

反応がないことに不安になったのか、目に涙を溜めながら、わずかに上ずった声でそういった。

おい、まだこれといった返答もしていないのに向こうから白旗を降り始めたぞ。

 

「まぁ、そのなんだ。そういってくれるのはありがたい。だがーー」

「そ、そうですよね。やっぱり気持ち悪いですよね。」

「ちょっと待て、一回こちらの話を聞け。」

 

早とちりして、そそくさとコタツから出ようとしたみほの肩を抑えて、なんとかその場に押さえつける。

 

「付き合うにあたってだが、少しばかり私の秘密でも言っておこうか。」

「え?麻子さん、何か秘密があるんですか?」

「ああ。沙織にも言っていないことだ。」

 

そういうとみほはつばを飲み込むような様子を見せた。

別に大したことではーーいや結構あるか。

 

「俺は、男と付き合うのは真っ平ごめんだ。」

 

そういうとみほはしばらくキョトンとした表情を挙げていた。

 

「え・・・『俺』・・・・?それに男と付き合うのはごめんって・・・。」

「意味をどう捉えるかはみほの想像に任せる。その意味を自分なりに解釈した上でまたその言葉を聞かせてくれ。」

「・・・・・はいっ!!」

 

そう笑顔を浮かべるとみほは再度コタツの中に潜り込み始めた。

何をしているのかと思いながらもまったりとテレビを見ていると急にコタツの中に引きずり込まれそうになる。

何事かと思って咄嗟にコタツの中を見ると俺の足を掴んで引きずり込もうとしているみほの姿があった。

猛烈に嫌な予感がした俺はコタツから出ようとするが、みほの馬鹿にならない力に敢え無くコタツの中に引きずり込まれてしまう。

 

ちょっと待て、みほ。お前、なぜはだーーーーうわっ!?

 

 

 

 

その日の朝、みほは新年初日から風邪をひくという大失態をした。

俺は普通にコタツから這い出て布団を敷いて寝たからなんともなかった。起こすのも忍びなかったためコタツの電源は入れておいたがどうやらダメだったようだ。

無論、看病ぐらいはした。

何があったって・・・?察してくれ。

まぁ、俺から一言あるとしたら、みほの気持ちはもう決まっていると言ったところか。

 




本編も残りわずかですが、来年もよろしくお願いします^_^



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後日談 大学生活中の二人

更新は遅れると言ったな。あれは嘘だ。
駄菓子菓子!!
なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ、なんだこれっ!?
麻子みほが見たいという要望に応えて書いていたら、なんだこのR-18ギリギリの描写・・・・。
あかんわー。これあかんわー。見るときは覚悟が必要ですな。

覚悟が完了したのであれば、受け取ってください・・・・。これが最後の麻子みほです・・・・。というか、これ以上、書けない・・・!!
書いたら、確実に飛ばされる・・・・!!規制線の向こう側へとっ!!


久しぶりの奴は久しぶりだな。冷泉麻子、もといアムロ・レイだ。

は?俺が今何歳か、だと?

・・・・19だ。大学は二年になったところだ。

高校を卒業してから推薦でそれなりの大学に進学した俺はみほとの約束もあり、戦車道を続けていた。

一年生のころも続けていたのだが、これといった試合には出なかった。

あるとすれば重要な試合に駆り出されるくらいだったか?

まぁ、練習でも適当にその大学の戦車道チームをあしらったりはしたがな。

 

「ふぅ・・・・今日の講義もこんなところか・・・。」

 

大学の構内から出て、俺は本土で借りているアパートに向けて帰路についていた。

時刻はおおよそ、3時を回るところだろうか。

携帯で時刻を確認する。画面を閉じてカバンにしまおうとすると、ピロン、と何かしらのメッセージが届いた音が響いた。

何事かと思って再度画面を開き、メッセージの主を確認する。

名前の欄にはみほの名前が記されてあった。

 

『今、麻子さんの大学の近くに来ているんですけど、会えますか?』

 

ふむ、どうやらみほが近くまで来ているようだ。せっかく近くまで来てくれたのだ。断るのはしないつもりだ。

それに付き合っている身として、会わない訳にはいかないからな。

 

『別に構わない。ところで今どの辺りにいる?待ち合わせであれば最寄りの駅がいいのだろうが、どうする?』

 

 

そういうメッセージを送る。俺はその場で立ち止まりながらみほからの返事を待った。

そして、携帯が2度目のメッセージがきた音を告げると画面にはみほからの返事が来ていた。内容はーー

 

『そ、その、今ちょっとそれどころじゃなくなっちゃって・・・・。』

 

 

何かみほにあったのだろうか?そう思ったのもつかの間、何やら騒ぎのような声が聞こえてくるのが耳に入った。

軽く視線を送ると何やら人だかりができているように感じる。

何か有名人がきたのだろうかと思いながらも俺はみほのメッセージに再度目を通す。

 

(・・・・・いや、待て。みほも一応有名人に部類されるよな・・・?)

 

戦車道において、あの西住流の令嬢であり、廃校寸前だった大洗女子学園を救った張本人だ。

そんな彼女が一般人のところに出てくれば、あれよあれよという間に人だかりができてしまうのではないだろうか?

そう思った瞬間、俺は再び人だかりに視線を送る。

よーく目を凝らしてみると人だかりの中心にメッセージの送り主であるみほが辛うじて見えた。

服装は白を基調し、服の裾にわずかに薄い紫色の入ったワンピースの上に薄い黄色のジャケットを着ている。

女性の服の種類は多すぎてよくわからんが、名称はこれでいいのだろうか・・・・?

 

「・・・・やれやれ、まずはあの集団から救い出さねばならないのか・・・。」

 

ため息をつきながらも俺はその人だかりに向かって歩を進めた。

 

 

 

「えっと、まずはありがとう。それと久しぶり。」

「久しぶりだな。それと、さっきのは然程気にしなくていい。」

「・・・・どうしてファミレスに駆け込んだんですか?」

「・・・・ああいうのは一度、振り切っておかねば後が面倒だからな。」

 

みほを人だかりから掬いあげたあとはファミレスに駆け込んでいた。

ファミレスは公共の場だからな。目立ちはするかもしれないが、先ほどみたいに囲まれるなどということはない。

それに俺とみほは元々同級生だからな。こう、面倒なパパラッチとかにすっぱ抜かれることはないだろう。

 

「まぁ、しばらくはここにいるとしよう。時間はまだあるのだからな。」

「・・・・・はい。」

 

ファミレスでドリンクバーや適当なデザートを頼んだあとはお互いに近況報告のようなものになっていた。

 

「麻子さんらしいですね。上級生を適当にあしらうなんて。」

「練度がそれなりだったからな。そういうみほも既に分隊長を任せられているんだろう?まだ二年生なのに、よくやるよ。」

「ふふっ、麻子さんにそう言われると嬉しいなぁ。」

 

みほは顔を少しばかり赤らめながらジュースを口につけていた。

その時、ウエイターがやってきて、頼んでいたデザートがテーブルに置かれた。

みほはパフェ、俺はホットケーキをそれぞれ頼んでいた。

すると、みほは疑問げな表情をしながらあるものを指差した。

 

「麻子さん、そのチョコレートの容器は・・・?」

 

彼女が指差したのは溶けたチョコが入った容器だ。

 

「これか?チョコを確か絵のようにデコレーションができるものだったと思うのだが・・・。やってみるか?」

「え?いいんですか?」

「ああ。私はそういった絵心を持ち合わせていないからな。」

 

そういいながらホットケーキとチョコの入った容器を差し出すとみほは徐にホットケーキにチョコで絵を描き始めた。

最初こそは何を描くのかは分からなかったが、熊のような耳や輪郭を描き始めた時点で、俺は察した。

 

「・・・・ボコか。」

「あ、あはは・・・・・。それしか思い浮かばなくて・・・・。」

 

そうもいいながらもみほが描くボコははっきりとボコだと分かるレベルにはうまかった。流石はボコマニアだな・・・・。

少しすると、完成したのかホットケーキの乗っかった皿を俺の方に戻した。

先ほどまで何もなかったホットケーキの表面は可愛らしいボコの絵で彩られていた。

 

「ボコというチョイスはともかく、絵自体は普通に可愛らしいな。」

「えー、ボコも可愛いじゃないですかー。」

「個人的にはそのボロボロに傷ついたスタイルはやめとけと思っているけどな。」

「それがボコですから。・・・・・あ。」

 

・・・・相変わらずのボコに対する愛情だな・・・・。

そう思っているとみほの視線が何か釘付けになっていることに気づく。

何を見ているのか気になったが、視線が向いているのが俺の比較的後ろの方だったからおいそれと見ることも叶わなかった。

故に気にせず、ホットケーキを食べていたのだがーー

 

「ま、麻子さん・・・・。」

 

何かたどたどしいもので言われた声色には恥ずかしげなものもあった。

何事と思って、視線を上げると、スプーンにパフェのクリームが乗っかった状態で俺に向けていた。

さながら、食べて欲しいと言っているようだった。

 

「なんだ?食べて欲しいのか?」

 

そういうとみほは無言で頷いた。せっかくだからもらうか、と思いながらそのスプーンに手を伸ばすと、そのスプーンを引っ込めた。

食べて欲しいと言われたのにも関わらず、スプーンを引っ込められたことに怪訝な表情を浮かべずにはいられなかった。

・・・・何か彼女に気に触れるようなことをしただろうか・・・?

自分の記憶を辿るが、そのようなことは一切ない。それに食べて欲しいと言ったのにも関わらず、手を伸ばすとスプーンを引っ込められたということはおそらく、アプローチに問題があったのか?

とはいえ、スプーンを手に取らないと食べられないしな・・・・。

 

「わ、私が食べさせてあげますから・・・・。」

 

顔を赤らめながら言ったみほの言葉に俺は疑問げな表情を浮かべるしかなかった。

 

「いや、別に病人ではないのだからそのようなことをしてもらうことはないのだが・・・。」

「私がやりたいんです!」

 

作り笑顔を浮かべながらそう言った言葉もみほの恥ずかしげな表情をしながら言った言葉に一蹴されてしまう。

思わず小さく、「えー・・・・」と、唸ってしまう。

参ったな・・・。ああいう状態の彼女はな、引き下がってくれないんだよな・・・・。

 

「・・・・・わかった。わかったから、食べればいいんだろ?」

 

観念した様子でそういいながら徐に口を開くとみほの持つスプーンが口の中に入れられる。

まぁ、パフェの味自体はいいのだが、なぜこんな面倒なことをしなければならないんだ・・・・。

面倒な表情をしながら軽くみほに視線を向けると肝心の彼女は頰が緩んでいた。

・・・・まぁ、みほがご満悦であれば別にいいか。

そう思いながら再度ホットケーキを食べていると、視線を感じた。

俺はそれを見ないようにしていたが、なんと言えばいいのだろうな・・・。

具体的に言えば『わたしにもしてくれませんか?』と言っているようなオーラがあった。

 

「・・・・・私にもしろと言っているのか・・・・?」

 

視線をみほに移して仮にそう言ってみると、彼女は無言で視線を逸らした。

無言は肯定と受け取った俺はため息をつきながらもホットケーキを一口サイズに切り取って、フォークに刺した状態でみほの前に差し出す。

 

「まったく。こんなことをして、何が楽しんだか・・・・。」

 

みほは意外そうな表情を浮かべながらも一口サイズに切ったホットケーキを口に入れる。

 

「・・・・美味しいですね。」

 

その表情はとても幸せそうだった。

 

時間も程よくなったところで、会計を済ませるとファミレスを後にした。

時刻はおおよそ5時あたりだが、時間自体はまだある。

 

「どうする?どこか行くか?」

「えっと、この辺りはそんなに詳しくないので・・・麻子さんに任せます。」

 

みほにそう言われてしまい、困ったように髪を少々掻き乱す。

こういうのが一番難しいんだよな・・・・。

適当に息抜きになりそうなところか・・・・。

 

みほを連れてやってきたのは煌びやかに光が溢れ出て、賑やかな電子音が辺りにこれでもかと響かせている。

みほはその様子に呆気に取れているように感じた。

 

「あの、ここは?」

「ゲームセンターだ。息抜きであればここが手っ取り早い。初めてか?」

「そう・・・ですね。あまりこう言ったのには縁がなくて。」

「だろうな。」

 

そういいながら、俺はみほの手を引っ張ってゲームセンターに入った。中に入ればゲーム機から生み出される電子音の出迎えが起こる。

そう音の大きさは少々を声を張らなければ会話もままならないだろう。

 

「あっ!!ボコだーーっ!!!」

「うおっ!?」

 

突然腕を引っ張られ驚いた表情を挙げていると、あるゲーム台の目の前でみほは止まった。

彼女の目の前にあるのはクレーンを使ってショーケースの中にある景品を取る、定番の『クレーンゲーム』だ。そして、そのショーケースの中にあるのはみほが大好きでやまないボコの手のひらサイズのぬいぐるみだった。

 

「これ、道理で店とかで見当たらないって思っていたらゲームセンターにあったんだ・・・。取らなきゃ(使命感)」

「金の使い方は考えておいたほうがいいぞ。」

「う、うん。大丈夫、大丈夫だから・・・・。」

 

・・・・大丈夫か?本当に。

そう思っているとみほは財布から100円玉を取り出して、機械に突っ込んでやり始めた。

クレーンは目標のボコへと向かって移動していく。そして、目標の真上に来るとそのレバーを広げながらクレーンは降りていく。

レバーはボコのぬいぐるみを掴み上げようとする。

しかし、クレーンのレバーの入り具合が甘かったのか、途中でポロっと落としてしまう。

 

「あう・・・。も、もう一回・・・。」

 

一度の失敗であきらめなかったみほは再度、機械に100円玉を突っ込む。

同じようにボコに狙いをつけて動かしていくが、取れない。

それを何回が繰り返してしまう。

 

「と、取れない・・・・。も、もう一回・・・。」

「みほ、ストップだ。それ以上は真面目に沼にハマる。」

「で、でも・・・。せっかくの限定ボコだし・・・。」

 

若干沈んだ表情でそういったみほの様子に俺は一つため息をつくと彼女と機械の間に割り込む。

 

「・・・・いくつだ?」

「え?」

「いくつ欲しいんだ?」

「・・・・取ってくれるんですか?」

「まぁ、な。それで、一個でいいのか?」

「えぇっと、二個で、お願いします。」

 

ふむ、二個か。一つはおおかた、彼女自身だとするともう一個は・・・・。

 

「島田愛里寿の分か。もう一つは。」

「そうですね。・・・・本当にいいんですか?」

「これくらいであれば構わないさ。」

 

そういいながら、俺は財布から100円玉を取り出し、機械に入れ、クレーンを操作する。

 

(みほが失敗していた時点でこうなるのはなんとなく思っていたがな。)

 

さて、どこを狙うかなどは最初から決まっている。俺は適当なところでクレーンを止めるとクレーンを降ろした。

 

「あれ?それだとボコにはかすりもしないですよ?」

「まぁ、ちょっとした裏技だと思ってくれ。」

 

降りたクレーンは確かにボコの胴体にはかすりもしないだろう。

だが、俺の狙いはボコではなく、ボコのぬいぐるみに付けられている商品タグだ。

クレーンが上がるとそのレバーにはしっかりタグを掴んだ状態のボコが釣れていた。しかも二個まとめてだ。

 

「す、凄い・・・・!!」

「幸運だったな。まさか、二個一気に取れるとはな・・・。」

 

クレーンは排出口の近くまで来るとそのレバーを開いて、二つのボコが落とされ、景品を受け取るところから取り出した。

 

「ほら、取れたぞ。」

 

そういいながらみほに渡すと嬉しそうな表情をしながらボコのぬいぐるみを受け取った。

 

「あ、ありがとう・・・。なんか、最初から麻子さんに頼めばよかったですね・・・。」

「仮にそう言ってくれば、まずは自分でやれと私は突っぱねるがな。」

「・・・・そうですね。何事もまずはやってみないと。」

「さて、あとはどうする?」

 

みほにそう聞くと、彼女は少し考える素ぶりを見せていた。

 

「あ、それだったら、どこかのスーパーに行きたいです。」

「スーパー?そんなとこに行ってどうするんだ?」

「麻子さんの家で夕飯を作るんです。さっきのお礼ですよ。」

「お礼か・・・・。あれは私が好きでやったことだと言っても来るんだろう?」

「はいっ!!麻子さんが逃げようとするのはわかっていますので。」

 

やれやれ、すっかり行動パターンが把握されているな・・・・。

観念した俺とみほは自分の家の近くのスーパーで買い物をすると、家に戻って、夕飯を作り始めた。

少々心配だったから何度か台所を見ていたが、どうやら心配はいらなかった様子で何事かなく完成された料理がテーブルに並べられた。

 

 

「出来栄えは結構凄いな。沙織辺りに教わったのか?」

「そうですね。沙織さんによく教えてもらいました。」

 

そういいながら、二人でクッションを座布団がわりにして床に座ると手を合わせていただきますの挨拶をする。

そして、みほの作った手料理を箸を使って口に運ぶ。

 

「ん、うまいな。味付けがしっかりしている。」

「良かった。口に合うかどうか心配だったので。」

 

そのまま、お互い他愛ない話をしながら食を食べ進めていく。

 

「ご馳走さま。」

「お粗末さまでした。」

 

食べ終わるとみほから食べ終わった皿を受け取り、洗剤を使って、皿や調理器具についた汚れやカスを洗い落としていく。

洗い終わると立てかけておくことで干しておくことにした。

 

リビングに戻るとみほがテレビをつけてみていた。

・・・・一瞬、私物化されていると思ったのは内緒だ。

 

「今日は泊まるのか?」

「えっ!?いいんですかっ!?」

「もっとも、明日のみほの予定次第だがな。」

「大丈夫!!空いてますので!!」

「そ、そうか。」

 

参ったな。冗談半分で言ったつもりがなし崩しにみほを泊めることが決定してしまった。

我ながら油断したな・・・・。まぁ、それだけ彼女に気を許している証拠かもしれないがな・・・・。

 

 

「なら、風呂を沸かしておくか。先に入るか?」

「麻子さんが先でいいですよー。」

 

みほはどうやらテレビに夢中なようだ。なら、俺が無理に譲る必要はないか。

俺は風呂を沸かすと先に脱衣所に入って湯船に浸かった。

俺自身としてはゆっくりと浸かりたかったのだが・・・・。

 

「っ・・・・!?みほの奴、計ったな・・・。」

 

扉の向こう側からみほの気配がする。なるほど、先に入っててというのは言葉の綾だったか。

彼女自身、俺が上がったあとに入るとは一言も言っていないからな・・・・!!

 

(間に合うか・・・!?)

 

少し急ぎながら湯船から上がり、風呂場の扉に手を掛けようとした。

 

「逃がしませんよ?」

 

しかし、一歩遅く、手に掛かったのは扉の取っ手の代わりに開かれた扉から出てきたみほの手だった。

そして、扉から出てきたみほの体を支えるように抱きかかえ、みほは俺の肩に残った片方の腕を回して抱きついてくる。

 

「・・・・みほ、危ないからそういうのはよしてくれないか?」

「麻子さんが大人しくしてくれればこんなことはしませんよ?」

 

とりあえず逃げられない以上、抵抗することは無駄なため、大人しく湯船に戻ることにした。

 

「・・・・あったかいです。」

「・・・そうか。そうであれば何よりだ。」

 

湯船の中ではみほは俺の胸に身体を任せながらゆったりと使っている。

 

「えへへ、初めての時もこんな感じでしたね。」

「ああ・・・・あの時か。ま、そうだな。あのあと風邪をひいたのは目も当てられなかったがな。」

「でもそのあと麻子さんが看病してくれたから私としては良かったですけどね。」

 

俺はみほのその言葉にため息をついたが当の本人は満面の笑みを浮かべている。

 

「なぁ、本当に俺なんかで良かったのか?後悔とかはないのか?」

 

俺は元々の一人称でみほに語りかける。一人称が『俺』で会話をするのは高校の時はシャアだけだった。しかし、この前みほから告白を受けて付き合い始めたことでみほの前でも一人称を『俺』で通している。もっとも、人目につかないという条件の元だがな。

しかし、俺は中身は男だが外面は『冷泉麻子』という一人の女性なのだ。

つまりみほと付き合うのは形上は同性で付き合っていることになる。

時折、みほとデートまがいのものをするようになったが、その都度外見上は同性で付き合っていることに気後れしてしまうのだ。

 

みほはそれを聞くと俺から距離をとり、こちらに振り向いた。何をしてくるのかと思えば両腕を俺の肩に回して抱きしめた。

突然の行動に俺は反応することができなかった。

 

「うん。確かに麻子さんの言うこともわからなくもないです。麻子さんの中身が本当は男だって言うのは分かってますけど、外見上は同性なのも分かっています。」

 

みほの声が耳元で囁くように聞こえる。その声色には甘いものが入っているように感じた。

 

「だけど、むしろわたしはそれで良かったって思っています。麻子さんが心まで女性だったら、自分に、自分の気持ちに素直になんてなれなかったと思うから。」

 

俺は何も言えずじまいだった。みほは俺のその様子を気にすることもなく言葉を続ける。

 

「でも、私は仮に麻子さんの中身が女性だったとしても変わらず惹かれていったと思うんです。多分、私が恋したのは『冷泉麻子』という一人の女性ではなく、一人の人間だと思うからです。」

「・・・・つまり、俺が男性だったとしても変わらないということか?いや、それが普通だな。」

「そういうことです。だから、私は後悔なんてしていませんよ?」

 

そういうとみほは俺の耳元から顔を離し、お互いの顔が見えるように向かい合う。

 

「・・・・そうか。君がそういうのであれば、俺の懸念も余計なもので済むな。」

「・・・・うん。」

 

俺はみほの後頭部に軽くを手を回して、自分の方に引き寄せる。

彼女の瞳は既に閉じられていた。さながらこの後の展開を期待しているようだった。そうであればそれに答える他あるまいな。

 

俺は自分の唇をみほの柔らかなソレに重ねた。

お互いの唇を重ねるという軽いものだったが、反面とても長くしているような感覚もあった。

 

1秒か、10秒か、はたまた1分だったか。

しかし、どんなものにも終わりというのは訪れるもので、お互いの唇は自然と離れた。

 

「えっと、ここですると、のぼせちゃうので・・・・。」

 

熟れた視線で見つめるみほに俺は無言で頷きながら湯船から出て、身体についた水滴をタオルで拭き取る。

本来であれば下着や服など着る場面だが、それをせずにそのままの格好でベッドに二人揃って倒れこむ。

俺はさながらみほを押し倒したような形に見えるような姿勢で彼女の顔を見つめる。

みほの目は期待するような、そして意外そうなものを見るような目になっていた。

 

「・・・・珍しいですね。麻子さんから来るのは、いつもは、私からなのに。」

「まぁ、それもそうだな。理由を言おうか?」

 

そういうと彼女は僅かに、それでいて確かに頷いた。

それを見た俺は顔を彼女の耳元まで持っていき、囁いた。

 

「ーーーーーみほがチャーミングすぎるからさ。」

 

 

 

麻子さんからその言葉が耳朶を打った瞬間、自分の中で何かが弾けた。

その言葉は魔法となって耳から全身へと伝わり、自身の心の内に熱いものが溢れ出てくる。

そのままにしていたら自分が自分で無くなりそうな感覚がする。

頭が蕩けるような感覚があった。その感覚は私の判断を狂わせ、ただ目の前の人物に愛されたいだけの存在へと成り下がる。

思考はおぼつかなくなり、目は惚け、口からはとても自身から出ているとは思えない甘い声が溢れて止まらない。

 

ただはっきりしているのはただ自分が愛する人を愛し、その人に愛されたいという欲望にまみれていることだけだった。

 

その欲望は留まるところを知らず、自分の恥ずかしい場所からも濡れている感覚がはっきりと感じた。

いつもだったらそれはとても人には見せられないものだ。いや、むしろ見せたくない。例え、それが愛する人の目の前でもだ。

 

でも、今だけはそんなそんな感覚でさえ、愛おしく感じる。

 

「ま、こさん・・・・。」

 

途切れ途切れの声で自分を愛してくれている人に呼びかける。

 

「どうした?」

「・・・・めちゃくちゃに、してぇ・・・・。」

 

おそらく今まで生きていたなかで類を見ない甘い声だっただろう。普通であれば言った後で羞恥のあまり崩れ落ちているだろう。

 

「・・・・わかった。」

 

私の恥ずかしい提案に、この人は頷いてくれた。そして、重ねられる唇。

先ほど風呂場で行ったものとは比べものにならないレベルでお互いの唇を深く入れる。お互いの舌と舌を絡ませ合う濃厚なものだった。あまりの気持ち良さに思考が吹き飛んでソレしか考えられなくなる。

 

そこから先はあまり覚えていない。とにかく、乱れに乱れまくった自分の嬌声が部屋に響き渡ったのは覚えている。

 

これから先も目の前の人とは会う機会があるだろう。

願わくばずっと、愛しい貴方に抱かれ、そして、貴方と共に戦える日々が続きますように。




もはやガルパンの影も形もないなこれ。

仮に本編を見返そうとして、通常検索で見当たらなかったら察してください。


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モモチャンズリポート

リハビリも兼ねているからかなり少なめ、許してほしい…………

あとあとがきにわりと重要なことが書かれているからそこら辺もちゃんと読んでほしいです。


 

ん・・・・・?

 

ああ、もうそんな時間だったか。すまない、前々から一つのことに熱中してしまうと周りのことは気にならなくなってしまう要領の悪い女だからな。

 

それで、私なんかにインタビューとはお前も物好きだな。同じ大洗高校だったよしみか?

 

・・・・・なに?冷泉と会長のことについて聴きに来た?そんなの二人に直接聴けば済む話だろう。移動費も経費で落ちないわけではあるまいし・・・・

 

 

二人とも話したがらない?あぁ…………まぁ、二人とも自身の過去は元々話そうとはしない人だったからなぁ…………それで、高校時代の二人の装填手をやっていた私にインタビューか。

 

ま、私なんかの話でよければ構わないのだが…………。

 

 

そうだな…………冷泉の第1印象としては遅刻魔だったな。よく当時の風紀委員長に怒られている様子を見ていたからな。だが、そんな冷泉だったが、戦車の操縦士となってからは、目を疑ったよ。

 

アイツはこと操縦に関して右に出てくるやつはいないだろう。当時素人だった私でも分かってしまうレベルなんだ。西住辺りはどのように見ていたのだろうな。

 

…………ん、すまない。話が逸れてしまったな。まぁ、前々から普通の学生とは何かが違うとは思っていたが、それがより顕著になったのは、プラウダ高校との試合の時だったな。

 

実はあの時に隠していた廃校のことが明るみに出てしまって、みんなの士気が落ちてしまったんだ。

 

まぁ、あれは私が狼狽してうっかり喋るより先に二人が自らバラすことで幾分マシにはなったとは思う。それでもかなり落ち込んでいたがな。

 

そんな雰囲気の中、冷泉と会長は自身の言葉だけでみんなの沈んでいた気持ちを奮い立たせたんだ。

 

その時に確か冷泉はたとえ話を使っていたな。確か………巨大な岩が迫ってきた時、逃げるか、立ち向かうか。あまり具体的には覚えていないが、そんな感じの内容だった筈だ。お前ならどうする?

 

…………まぁ、大方逃げるだろうな。できるはずがないからな。

 

だが、当時はなんとも思わなかった冷泉のそんな言葉だが、今の私はどうもこう感じるんだ。

 

冷泉は実際にその場面に立ち会っている、もしくはそれに類するような経験をしている。私にはそう思えて仕方がないんだ。

 

…………まぁ、これはあくまで私個人の所感だ。お前がどう思うかの判断は私の管轄外だ。

 

そして、あとは知っている通りだと思うが、プラウダ高校で同じ戦車に搭乗した冷泉と会長は、プラウダ高校の約半数………いや、今現在世界で活躍しているカチューシャやノンナ、そして当時プラウダに留学していたクラーラ。

この三人を含めたプラウダの戦列を真正面から、なおかつ被弾せずに叩き潰したから、実質1輌でプラウダを全滅させたと言っても過言ではないだろう。

 

その時のフィールドが雪原だったからか、今のアイツには白き流星なんていう異名が付いているがな。

 

 

なぜ流星かは、お前もまだ記憶に新しい方だろう。というか、あんなものを見せられて忘れられる奴はいないと思うがな。

 

優勝して廃校を免れると思っていた矢先に文科省からの廃校の通達。これには流石に憤りを感じたよ。もっとも会長は文科省がそういう対応をしてくることはわかっていたようだったけどな。

 

その会長がなんとか取り付けた条件、大学選抜チームに勝利することだが、はっきり言って勝てる見込みなど微塵もない試合だったがな。

 

30対8だぞ?その上にいつものフラッグ戦ではなく相手全ての車輌を撃破しなければならない殲滅戦。常識的に考えて勝てる見込みはどこにもないだろう?

 

しかも………その時に冷泉は黒森峰との決勝戦で負った傷が癒えてなかったしな。柚子ちゃんが穴埋めのような形で西住の乗るⅣ号に移動したから、私や会長は戦車に乗って試合に参加することはできなかった。

 

…………もちろん、聖グロや黒森峰、そしてアンツィオやプラウダやサンダース、挙げ句の果てにさほど交流のないはずの継続と地波単まで援軍として来てくれたのは嬉しかったさ。

だが、向こうは向こうでカール自走臼砲などという反則のものまで持ち出してきたせいで頭数がどんどん減っていく。

 

 

流石にその時は諦めるのを覚悟したよ。でも会長は決してそのような目は見せなかった。まるでだれかを待っているかのように今か今かと空を見ていた。

 

そんな時だったよ。サンダースの輸送機のエンジン音と共に『流星』が降りてきたのは。

 

イギリス製の巡航戦車、コメット。私自身、学園艦の奥深くで眠っていたのは知っていたさ。

だが、先に言った通り私と会長だけでは、戦車道の規定上、戦車に乗ることはできない。

でも、そのコメットには既にもう一人が乗っていたんだ。

 

他でもない、冷泉その人だった。奴は病院を抜け出し、鎮痛剤をうつというまさに身を削るほどのことをしながら試合に馳せ参じてくれたんだ。

 

その時は馬鹿野郎と思いながらも、嬉しかったな。その言葉でしか表現のしようがない。

 

コメットに搭乗し、試合に参入してからは会長と冷泉の二人ともえげつない勢いで相手の戦車を撃破していったな。まるで、今まで手を抜いていたかと言わんばかりのことだった。

 

だって25輌近くいた相手チームの車輌、その約3分の2の16輌を1輌で蹴散らしたんだぞ?

しかもなんだ車体を急ブレーキで浮かせてそこからの超信地旋回で回転させて戦車を蹴り飛ばすなど聞いたことがないだろう!?

 

 

挙げ句の果てに空中にぴょんぴょん飛び回ったんだぞ!?普通の車でも難しいことを冷泉は戦車でやっているんだぞ!?

 

会長も会長でさも当然のように空砲を使って加速するのは当たり前、極め付けに地面に砲弾をこすらせることで軌道を変えて車体下部に直撃させるとか正気の沙汰じゃないだろう!!

 

…………はっきり言って、これでも二人のやらかし度合いはまだ言い足りないくらいだ。

ここだけの話、戦車道界隈でまことしやかに言われている砲弾に砲弾をぶつけたり、戦車でボディプレスをかましたなどという噂があるが、両方とも事実だ。

実際に二人はそれをやってのけている。

 

だから、これだけは覚えておけ、あの二人にまともな手段は通用しない。絶対にだ。

 

 

…………む、もうこんな時間か。すまないがインタビューはまた次の機会にさせてくれ。

少しでも練習を怠っているとあの二人に合わせる顔がなくなるからな。

 

 

これでも曲がりなりにも冷泉と会長、そして西住が乗っている戦車の装填手をやっているからな。

 

 

 

 

 

河島が部屋から出て行った後、部屋に残された記者はメモにペンを走らせ、インタビューの内容を簡単にまとめあげていた。

その段落が一息ついたのか、記者は走らせていたペンを止めると一つ、大きくため息を吐いた。

 

「いやいや、そのお二人について行っている貴方も貴方ですよ。河島さん。」

 

 

乾いた笑みを浮かべながら、額にペンを乗せ、大洗女子学園の卒業生である王 大河はポツリと悩ましげに呟いた。

 

 

 

 





今回あとがきで書かせてもらうのは、度々感想にて見られる最終章についてです。
ぶっちゃけて言います。この小説では極めて難しいです。

理由は皆様お分りだと思いますが、この小説本編では無限軌道杯に参戦するきっかけでもある桃ちゃんが普通に大学で推薦でいけてしまっているからです。

そのため、作者の発想力が足りないのもありますが、どうやってもこの本編では無限軌道杯に参加する理由がないのです。

それでもどうしてもレイ泉とシャ杏がいく無限軌道杯を見たい方。

そんな方々の声に応えるため、ない頭を振り絞って考えた結果ーーー


原作本編にトリップする案が浮かびました。
つまり、まんま原作通りの展開を迎えた原作世界にレイ泉とシャ杏(with桃ちゃん)が行くわけです。

ですが、ぶっちゃけ賛否両論あることだと思いますので、今回はアンケートという形を取りたいと思います。

その回答次第で、最終章を原作世界にトリップするという形で無限軌道杯を書けると思います…………できればお答えしていただければ幸いですm(._.)m


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最終章  ネタバレ注意!!
最終章  第一話


はい、九割方みたいと言う方がほとんどでしたので書きました^_^

まぁ、まずは導入みたいなものなので要素はほとんどありませんが、やはり書いている以上最終章ネタバレ注意です。

そこら辺は留意して読んでいってください^_^


「シャア!!あとどのチームが残っていた!?」

「……………あんこうチーム、ウサギさんチームか。それ以外は撃破を確認している。」

「あと二チームですが、案の定西住達のチームは残りましたね。」

「西住達が残るのは目に見えていたが、澤達のM3リーが残っているのか、これなら将来は安泰かもな!」

「まぁ、お前がいればしばらくは安泰だと思うがな。」

 

シャアのそんな大洗についての未来を話しながら、俺はコメットのアクセルを蒸かし、森の中を疾走する。

 

さて久しぶりだな。すまない、唐突だが、何故だかこのような言葉を言わなければならないと感じた。

で、今の状況だが、俺、シャア、河嶋の三人が乗っているコメットは現在森の中を疾走している。

森と言っても場所は大洗女子学園艦の敷地内にある森だがな。そして何故このような状況になっているかと言うと、ある日の沙織の一言が原因だった。

 

『ねぇねぇ華ー、今みんなのレベルが麻子や前会長くらいまでに上がったら、絶対この先の全国大会でも結果を残せるよね?』

 

俺はその時生徒会室にいなかったから聞くよしもなかった。が、はっきり言ってその時は妙な悪寒は感じ取っていた。

嫌な予感がするとは思っていたが、その予感は予想通り現実のものになった。

 

その沙織の言葉を聞いた現生徒会長である華が、『なるほど、確かに沙織さんの言う通りですね。』と彼女の言葉を真に受けてしまったのだ。そこはなんでもいいから否定して欲しかった…………!!

 

『チーム全体のレベルが麻子さんクラスまで上がったらもれなく全国の並みいる才能あふれる人たちがこの大洗に押し寄せてきますよ!!そしたら今度こそ廃校なんていうことはなくなると、この不肖秋山優香里は進言致します!!』

 

そして、そこに秋山の援護射撃だ。はっきり言って生徒が増えれば廃校になることはなくなる。彼女の言うことになんら間違いはないのだが、手法は何か別なものはなかったのか?

俺なんかの力一つで生徒が押し寄せてくるわけないだろう。シャアならともかく。

 

で、広告担当の沙織と副会長の秋山、そして会長の華の賛同をもらってしまった我らが戦車隊隊長のみほはーーー

 

 

『あ、あははー・・・・まぁ、みんなの実力が上がることに越したことはないから・・・・じゃあ、こんなのはどうかな?』

 

苦笑いを浮かべながらもみほが立案したのが、一言で言えば、俺たちVS大洗女子学園だ。

一輌で8輌近く相手にするのか………まぁ、今に始まったことではないため別に構わないのだが。

 

そんなこんなで始まった試合形式の演習だが、今の状況はみほ達が乗っているⅣ号戦車と澤達一年生グループが乗っているM3リーの二輌だけだ。

みほ達は残ると思っていたが、澤達が残っていたのは驚いた。教えた甲斐があるというものなのかはわからないが、少し鼻が高くなる感覚だった。

 

まぁ、手当たり次第シャアが目についた奴を片っ端から一撃で沈めていたから運良く残った、というのが正確な言い方なのかもしれないが、運も大事な実力の内だ。後で操縦手の桂利奈を褒めるとしよう。

 

そんなこんな考えながらコメット飛ばしていると、不意に操縦席の覗き窓に写っていた視界が白くなっていく。

 

「ん………霧か?」

「そのようだが…………。」

「海上での霧は珍しい訳ではありませんが………何しろ危険が伴うことでもあります。いくら学園艦が大きいとはいえ、船舶科の生徒がそのようなことをしますかね?」

 

突然霧がかってきた視界に俺やシャアはともかく河嶋も疑問視しているようだ。

確かに霧の中での操縦は危険だ。しかもこの霧…………かなり濃いな………。

一度学校の方へ戻った方が懸命か。

 

そう思い操縦桿を校舎の方へ向けようとした時ーーーー

 

「っーーーーー!?」

 

突然視界がぐにゃりと曲がったのだ。外は霧の白でよくわからないが、少なくとも視界に入っているコメットの内装が歪に歪み始めたのだ。

思わず不快感から表情を険しくする。

 

「何………だ………一体、何が………!?」

「アムロ!!気をしっかり持て!!意識が持っていかれるぞ!!」

 

シャアの声に咄嗟に操縦桿やペダルから手と足を外し、コメットを止めるとシャアの方に視線を向ける。視界にはなにやらぐったりとした様子の河嶋と彼女を苦しげな表情を浮かべながら抱えているシャアの姿があった。

 

「一体何が起こっているんだ………!?」

「私にも分からん………西住君達にも通信が届かん有様だ………!!」

「くそ………不味い………意識が…………!!」

 

俺は咄嗟に操縦席のハッチから脱出しようとしたが、それより先に意識が落ちてしまう。

意識が完全に闇に落ちる寸前、見えたのはみほを始めとしたあんこうチームの面々だった。

 

(みほ………すまない………!!)

 

特にみほの笑顔がちらついた俺は彼女に届くはずのない謝罪の言葉を思い浮かべながら、意識を闇に落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ…………んん…………?」

 

時間にしてどれほどたったかは知らないが、徐々に意識がはっきりしてくると体を起こし、周囲の状況を確認する。ひとまず、意識が落ちる寸前までいたコメットの中にいるのはわかった。視線を動かすと砲手の席にもシャアと河嶋が項垂れていたから俺たちはとりあえず安堵のため息を吐いた。

 

まずは二人を起こすか。まずは顔を引っ叩きながら起こすとしよう。奴の頭をべしべしと叩くとなかなかいい音が車内に響く。

 

「おい、シャア。生きているんだろう。さっさと起きろ。」

「っ…………ぐぅ………。アムロ、か?」

「ああそうだよ。」

 

少ししない内にシャアが魘されるような声を上げながら目を覚ました。

 

「…………ツインテールに髪を結んでいる妙に幼いハマーンが川の先で手招いていた…………。」

 

よし、どうやらもう一発殴った方が良さそうだ。相当妙な夢でも見ていたんだな。あんなアクシズの女傑と呼ばれたハマーン・カーンがそんな髪型をする訳ないだろう。

 

「待てアムロ、さすがに冗談だ。だから無言の笑みのまま拳を構えるのはやめてほしい。」

「そうか。お前が正気を保っているようで安心したよ。で、河嶋はどうなんだ?」

 

シャアの冗談を置いておいて、俺は奴の隣にはで気絶している河嶋に視線を移す。隣にいたシャアが河嶋の体を揺さぶってみると程なくして彼女も目を覚ました。

 

「ん、んん…………私は、一体………?」

「会長………?すみません、何か霧が立ち込めてきた辺りからの記憶がないんですが………。」

「今の今まで気絶していたんだ。」

「き、気絶っ!?一体どうして………!!」

「それはこっちが聞きたい気分だ………。」

 

驚いている河嶋に俺は両腕を上げながら肩を竦める。さながら見当もつかない状況だ。

 

「…………ひとまず周囲の確認をしよう。」

 

シャアがコメットのキューポラを開けて、周囲の確認を行う。程なくして戻ってきたシャアの表情に特に焦っているようなものは見られなかった。

 

「…………先ほどと同じ森だな。それ以上はわからない、が。」

「が?何かあるのか?」

「……………アムロ、少し耳をかせ。」

 

突然のシャアの言葉に疑問を抱きながら俺はシャアに近づいて耳を向ける。

 

(…………ここをさっきまでいた大洗女子学園だと仮定した時になんだが、ちょうど校舎のある方角に妙な感覚がするのだ。)

(妙な感覚だと………?)

(ああ、さながら自分と全く同じ人間と相対しているかのような………そのような不快感だ。もっともそれは軽いもので済んではいるが………)

(…………ひとまず、そちらに向かった方がいいだろう。現状、手がかりがそれしかないのだからな。気分はあまりよくはないだろうが、)

(…………いや、気にするな。お前の言う通り、それしか手がかりがないのだからな。)

 

シャアが納得したとみると俺は操縦席に戻り、操縦桿を握った。アクセルや走行に関係するレバーを操作し、コメットを前進させる。

 

「あ、あの…………どうするんですか?我々がなんらかの異常事態に巻き込まれたことは察せるのですが………」

「…………それは正直、わからないのが正直なところだ。だが、それなりの覚悟をしておいた方が良いのかもしれない。」

「か、覚悟、ですか………!?」

 

不安そうだった河嶋の表情がシャアの言葉で青ざめたものに変わる。まぁ、仕方がないだろう。急に覚悟などと言われてしまえば、あのように狼狽してしまうのは致し方ない。

 

しばらく森の中を走らせていると森をぬけて開けた場所に出た。まず始めに目がついたのは、見慣れた大洗女子学園の校舎だった。見慣れているはず、なんだが……………。

 

「…………大洗女子学園、ですよね?」

「ああ、そのはずだ………。」

 

河嶋がどこか不安が込められたような声を上げる。まぁ、先程の超常的な現象を目の当たりにしていたとはいえ、こういう今の状況に彼女が不安を持てるのは正直言って驚いた。

 

「…………ヘッツァーがあるな。」

「何…………ヘッツァーだと?」

 

シャアの言葉に思わず操縦席の覗き窓から確認すると、グラウンドには大洗の戦車が整列していた。その理由はわからないが、少なくともⅣ号やポルシェティーガーといった今まで同じ仲間として戦ってきた戦車はあった。

しかし、ヘッツァーだけは別だ。確かに使ってはいたが、全国大会が終わった後はコメットのせいで完全にお蔵入りになっていたはずだ。

 

「………………一応、近づくか?お前の言う不快感もあそこにあるのだろう?私もここに来てようやくだ。」

「仕方あるまい。進ませてくれ。」

 

シャアの言う通り、その戦車の隊列に向けてコメットを進ませる。徐々に近づけていくと並んでいる戦車の前にこちらを驚いたような様子で見つめている集団があった。

 

「………………これが不快感の正体か。」

「そのようだな。」

「え、ええっ!?!?」

 

俺とシャアが険しい顔をし、河嶋は訳がわからないといった様子で狼狽しながらコメットの中で喚き立てる。

まぁ、無理もないだろう。あの集団には河嶋と瓜二つ、いや、おそらく同一人物と言っても過言ではないほどよく似ている河嶋の姿がこちらを見つめている集団の中にあった。

 

そして、その集団には、似ても似つかないが俺とシャアは直感的に察した。みほ達あんこうチームの中にいる妙に眠たそうにウトウトとしている黒髪ロングにカチューシャのようなものをつけた少女と、先程の河嶋と小山の間に立っている赤みがかった茶髪をツインテールに結んだ少女。

 

彼女らは『冷泉 麻子』と『角谷 杏』だ。

 

まさか、中身は違うが、こうして自分と同じ存在の人物が目の前にいることに、俺は冷や汗のようなものを流さざるを得なかった。

 

「おいシャア…………。」

「分かっている。彼女らは厳密に言えば違うが、我々だ。」

「………………私にはお二人より背が小さいように見えるのであくまで似ているだけのようにも思えますけど………。」

「…………まぁ、それはおいておこう。それでどうするのだ?向こうもこちらを視認しているが、このまま何もしないのは流石に気味悪がられるぞ。」

「出るにしても河嶋を出すのは不味いだろう。確実に混乱を引き起こす。」

「だろうな。知らない戦車から突然知り合いと瓜二つの人間が現れれば、混乱まったなしだ。」

「となると私かお前が出るのが一番安全だ。」

「……………じゃあ俺が行くか。」

 

 

シャアの言葉に俺は一つため息をつくと、操縦席のハッチから身を乗り出し、コメットの車体に立ち上がる。知らない戦車から知らない人間が出てきたことに大洗の面々と思われる集団は困惑顔を隠せないでいた。

 

「ねぇねぇみぽりん。誰か出てきたけど…………。」

「一体どこの学校の制服なのでしょうか………見たこともありません。」

 

おそらく沙織と秋山だろう。突然出てきた俺に不安と興味のようなものを向けているようだ。少しばかり辛いが今は我慢するとしよう。

 

「一つ、確認したい。ここは大洗女子学園の校舎で間違いはないのか?」

「んん…………?この声、誰かと似ているような…………?」

 

俺がそう聞いてみると沙織が訝しげな表情を浮かべ、唸るような声を上げ始めた。答えはきみの隣にいる寝ぼけている奴だが、今は何も言わないとしよう。

 

「えっと、はい。そうですけど…………あの、どちら様でしょうか?」

 

そう答えてくれたのは少々表情が強張っているみほだった。

………中々知り合いから素性を尋ねられるのは中々心に来るものがあるな。

まぁ、厳密に言えば別人だと分かっているから割り切れるが…………。

 

「…………アムロ、別に言っても構わんよ、むしろここで隠してもどうしようもない。」

「…………わかった。」

 

コメットの中からそう言ってきたシャアに理解したことをだけを返すと俺は大洗の面々に視線を向ける。

 

「大洗女子学園所属の二年生。クラスは二のEだったか?まぁいい。ひとまず、このコメットの操縦手をやっている冷泉麻子だ。」

「………………はい?」

 

俺が名乗った名前に素っ頓狂な声を上げたみほを筆頭にその大洗の面々は沙織の隣でウトウトを船を漕いでいる少女と俺を何回か視線で行き来するとーーーー

 

 

『えええーーーーー!?!?!?!??』

 

出された驚きの声は校舎のグラウンドで反響するように辺りに響いた。思わず耳を塞いでしまう喧しさだった。

 

…………この反応をされるのはわかっていた。思わずため息を吐いてしまうがな。

 

で、彼女らの反応とか色々見てわかった。ここは俺たちの知っている大洗女子学園ではない。

よくある平行世界とか言う奴の類だろうな。

 

全く、面倒なことになった…………。




原作トリップにした理由その1

作者の戦術脳が無さすぎてBC自由学園とかの対戦校がアムロとシャアにどのようなメタ張ってくるか戦術を組み立てられないこと。

理由その2

仮にたてたとしてもアムロとシャアなら普通に真っ向勝負で叩き潰せるだろうから。


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最終章 第二話

はい、ようやくビデオ屋で最終章1話をレンタルしてきたので初投稿です


俺が名乗った瞬間にグラウンドに響き渡ったみほたちの声に思わず耳を塞いでしまうが、無理もないと思う。

何せ四十人近くの声が重なるのだから、その揃った声の大きさは自然とかなりなものになる。

 

「な、何もそこまで驚くことでもないだろう?少なくとも君たちと初対面の筈だが…………。」

 

そんなことを言っているが、もちろんブラフだ。本当はニュータイプの直感でそこで寝ぼける奴が俺と同じ冷泉麻子であることはわかっていた。

ただ、そのことをこちら側から言うより向こう側からそのような雰囲気を出してもらう。

 

「え、ええっ!?いや、麻子って…………!?」

「……………うるさいぞ沙織………一体なんなんだ…………フゥア………。」

 

向こうの沙織がさながらドッペルゲンガーでも見てしまったかのような様子で俺と隣で大あくびをしている少女の間を行ったり来たりしていた。

 

「…………そこの君、何故私と彼女の間を行ったり来たりする?」

「だ、だって………麻子はここにいるし………!!ちょっと、麻子!!お姉さんとかいたのっ!?」

「なんなんだ、一体。いるわけがないだろう。」

「じゃあ貴方は誰ですかっ!?」

 

うつらうつらとしながらも姉などいないと言った彼女の言葉を聞いた向こうの沙織は俺を指さしながらこちらの素性を尋ねてくる。

そのことに俺は困った様子で髪をかき分けるしかなかった。

 

「誰と言われてもな…………私は冷泉麻子だとしか言いようがないのだが…………。そこの君も冷泉麻子なのか?」

「………………乗ってる戦車は違うがな。」

「……………それもそうか。」

 

眠たそうにしながら答える彼女に俺は苦笑いを浮かべていた。どうやら向こうの麻子は低血圧がまだ続いているようだ。

 

「んーまぁ、込み入った話は中でしない?こんな雪が降る中で質問責めは嫌でしょ?その戦車の中にいる人たちもさ。」

 

そんな時向こうの生徒会長であろう角谷杏からそんな提案が挙げられる。まぁ、どうやら今の季節は冬。雪がしんしんと降ってきている寒さでは流石に長話は勘弁したかった。

 

「それもそうだな。ぜひ君の提案に乗らせてもらおう。」

「………………マジで?」

 

俺が彼女の提案を承諾するより先にシャアがコメットの中から顔を覗かせる。突然自分とよく似た人間が現れたことに向こうの角谷も表情をひくつかせていた。

 

「か、会長が二人…………!?」

「でも、向こうの杏の方が身長高いよ?」

 

向こうの河嶋と小山がシャアを見かけるや否やそんなことを口走る。もっとも河嶋に至っては完全に同一人物の存在がコメットの中にいるのだが…………。

 

「あの…………一応お名前をお聞きしてもいいですか?」

「…………そうだな、名乗るにはこちらからが礼儀というものか。大洗女子学園前生徒会長、角谷杏だ。」

「うぇーっ!?麻子が会長とおんなじ戦車に乗ってるってどういうことー!?」

 

みほからの言葉にシャアがそう答えると、沙織が訳がわからないというように顔を青ざめながらありえないというような様子で喚いていた。

 

「…………あれ?失礼ですが向こうの会長。そのコメットは一体何人で乗っているのですか?五人ほどは必要な筈ですが………。」

「私は車長兼砲手、麻子は操縦と通信だ。」

「あれ?じゃあ装填は…………?」

 

秋山の質問にシャアがそう答えると再度秋山が疑問気に首を傾げながら装填手の存在を確認する。

そのことに俺は苦い顔をしながら隣に立っているシャアに視線を向ける。

 

「……………見せるのか?」

「さっきも言ったろう、隠してもしょうがないと。」

 

シャアの全くもってその通りの言葉に俺は観念したようにため息を一つついた。

その間にシャアがコメットのキューポラに顔を突っ込み、何かやりとりのようなものを行うと再びコメットから降り立った。

そして、コメットの中から、まぁ…………河嶋が姿を現した。

 

「えっと……………コメットの装填手、もとい大洗女子学園前広報の、河嶋桃だ。とは言っても向こうにも私がいるようでみんなに混乱を与えるだけだと思うが…………。」

 

河嶋が気が引けてるようにおずおずとコメットから降りる。こちらの河嶋と向こうの河嶋。二人の河嶋が相対したことにみほたちは呆けた様子でこちらの河嶋に視線を向けていた。

 

「河嶋先輩だ…………。」

「すっごく見慣れた河嶋さんだ…………。」

 

声の性質的にウサギさんチームの誰かの声だろう。二人ほどから声が上がるとその言葉に同調するように頷く様が各所に見られた。

 

「お、おい!!見慣れた河嶋さんとはどういうことだー!!!」

「まぁ…………無理もない反応だな…………。お二人と比べて、一番代わり映えしないからな………。」

 

微妙な反応のされ方に向こうの河嶋は癇癪を起こし、怒りの面相を浮かべているのに対し、こっちの河嶋は納得しているのか、わずかに苦笑いを浮かべていた。

 

「……………あっちの河嶋さん、意外と違うところがありそう………。」

 

そんなことを言っている向こうの梓の姿が垣間見えたのはまぁ、よしとしよう。

その後、俺たち三人は向こうの角谷杏の誘いで生徒会室に招かれた。

そこでそれなりの説明を行うところなのだが…………その話を聞くメンツが旧生徒会組の三人とあんこうチームの計八人だった。

 

「……………どこから話した方がいいのか…………。どうする?」

 

ソファに腰掛けさせてもらった俺はまずどこから話した方がよいのか、その判断をシャアに押し付ける。

シャアは一瞬こちらに訴えるような視線を向けるが、それはすぐに考えているようなものに変わる。

 

「…………まず、私たちは君たちがいるところとは違う時間軸からやってきた、と思っている。」

「…………はい?」

 

シャアの言葉にその場にいる全員の頭に疑問符が浮かび上がる。まぁ、それはそうだろうな。突然時間軸だのどうのと言われてもわからんだろう。

 

「…………要は私たちはパラレルワールドからやってきた、ということだ。ゲームか何かで見たことはないか?君たちが歩んできた歴史とはまた違う歴史を歩んでいる世界、例えば、君たちのところでは起きたことが私たちの世界では起きなかった。もう一つの現実、のようなものだ。」

「う、うーん?あまりよくわからない…………。」

「それはそうだろうな。我々とてそのパラレルワールドの原理を理解しているわけではないからな。」

 

悩ましげな表情を浮かべる沙織に向けてシャアがそういうと一度話しを打ち切った。

 

「つまり、三人はこことは違う世界の大洗女子学園の生徒ってこと?」

 

向こうの角谷杏の言葉に、俺たち三人は無言で頷く。信じてもらえるかどうかはわからないがな。

 

「…………とりあえず、その仮定で話を進めようか。考えてもどうしようもないことだしね。」

「…………感謝する。ではまずはこちらの歴史との相違を埋めておこうか。まず今の季節は冬のようだが、全国大会は無事優勝したという認識でいいのかな?」

 

向こうの角谷の話を進めるという言葉にシャアが軽く頭を下げると、その歴史の違いをはっきりさせるためにこれまで俺たちの方で起こったことに関しての質問をする。

 

「それに関してはもちろんだよ。そっちの大洗でもあったんだよね?その口ぶりだと。」

「ああ。全く、突然廃校だの連絡を受けた時には耳を疑った。生徒でさえ、7000人を超えるにもかかわらず、ろくな代替え案のプランすら無いなど、極めてナンセンスだったからな。」

「あー………それはよく分かる。私も最初に聞かされた時は耳を疑ったよー。」

 

シャアの言葉に向こうの角谷がウンウンと頷く。どうやら意気投合しているようだ。俺個人としても廃校には良い感情を抱かなかったからな。

 

「その後は大学選抜との試合だったな。役人共にはかなり振り回されたが、こちらはではどうなのだ?カール自走臼砲とかを出されたか?」

「自走臼砲に関しては出されましたね。私たちは継続高校のBT-42、アンツィオのカルロ・ヴェローチェ、そしてカメさんチームのヘッツァーとアヒルさんチームの八九式をどんぐり小隊として編成することで撃破しました。」

「すごいな………その編成で撃破したのか。それはそれとしてアンツィオはカルロ・ヴェローチェだったのか?こちらは普通にP40できてくれたのだが………。」

「なんだか………資金不足だったらしいですよ?」

 

みほの言葉にこちらとの差異があったため、それを聞いてみると、秋山からアンツィオが当時資金難だったことが告げられる。

 

「……………そういえば、全国大会の決勝の前、アンチョビに電話をかけていなかったか?」

「…………そういえばそうだな。全国大会の前に各校の隊長が挨拶に来ていのだが、アンチョビの姿だけ見えなかったから彼女にかけたのだが…………前日の夜から会場の近くでドンチャン騒ぎをやっていたからかけた時には寝起きのような状態だったな。」

「ああ、決勝でそれなりに稼いだと言っていたな。彼女ら。」

 

シャアとそんなことを話しているとふと口元を手で覆っている沙織の姿があった。

 

 

「嘘………向こうの麻子、こっちより社交性が高い………!?それに低血圧も無さそうだし………完全に上位互換じゃない………!!」

「失礼だな、沙織。」

 

沙織がそんなことを言っていることに向こうの冷泉は不服というようにじとっとした目線を沙織に向けていた。

 

「はは…………少し前までは私も低血圧に悩まされていたよ。遅刻して、そど子に怒られてしまうのも珍しくなかった。」

「へぇー・・・向こうの麻子も遅刻してたんだー・・・やっぱり200回くらいはしていたの?」

「やっぱりとはなんだやっぱりとは、というより流石に200回は盛りすぎではないのか?しかし、恥ずかしながら100回は超えていたのは事実だな。」

『完全に上位互換じゃないですか!!!』

 

少しばかりの気恥ずかしさを感じながら遅刻回数が100回は超えていたことを伝えると向こうの冷泉を除いたあんこうチームの四人が机から身を乗り出すほど驚いた様子を露わにしていた。

 

「ほら麻子!!向こうの麻子だってちゃんと起きれるようになってるんだから貴方ももう少し頑張りなよ!!」

「…………できないものはできない。朝は辛すぎるんだ…………。」

「………あー、とだな。私にはその低血圧を克服しようとする気概があったからいいのだが、彼女の言う通り、しばらく朝は辛かった。沙織に起こされるのもたびたびあった。だから、できないことを無理強いするのはあまり褒められたことではないと思うが。」

「えー……………。」

 

俺が二人の仲介に入ると沙織がすごく残念そうな表情を浮かべる。

 

「…………して、これから我々がどうするか、だが。はっきり帰る目処が全く立つ見通しがないのが今のところの現状だ。」

「んー、それだったら、しばらくウチで戦車道やって行かない?」

「この大洗でもか………?」

 

これからのことを考えようとしたところで向こうの角谷からそんな提案が挙げられる。

 

「かわりに3人の身分はこっちで保証する。対価としては十分だと思うけど………どう思うかな?現生徒会長さん?」

「…………えっと、そちらの麻子さんたちも同じように戦車道をやっておられるのですよね?戦車に乗って現れたのですし………。」

「まぁそれはそうなのだが………。いつ消えるかわからない我々をチームに加えるのかね?」

 

角谷と華の言葉にシャアがそう確認すると、二人はーー特に華がどこか訳ありというような顔を浮かべていた。

 

「何か事情がありそうだな。」

 

そう俺が華に聞いてみると視線を右往左往させ、何やら話していいのか悩んでいるかなような深刻な様子を出し始める。

 

「……………今は一輌でも多くの戦車が必要なんです。」

「ん?廃校問題は脱したはずではないのか?」

「実は、私たちはこの大会に出場する予定なんです。」

 

華の言葉に首を傾げているとみほが一枚のポスターを見せてくれる。そこには『無限軌道杯』の文字がデカデカと表情されていた。

 

「無限軌道杯…………?」

「確か、長年開催が中止されていた大会ではなかったか?」

「はい。そうなんですけど、戦車道のプロリーグの開催などを記念して今回開催されることになったんです。」

 

シャアの説明にみほが補足を入れるも、俺は華がそこまで深刻そうな表情を浮かべるのに理由がわからずじまいになっていた。

 

「…………なんだかあまり話が見えてこないな………先ほどの華の深刻な表情を浮かべる理由とかな。」

 

「…………わかったぞー。これ、私も通っていたかもしれない道だなこれは。」

 

ふと隣に座っていたこちらの河嶋がそんなことを口にすると視線をとある人間に向ける。

その視線の先を追っていくと、すごく張り詰めた表情をしている向こうの河嶋の姿があった。

 

「…………生憎だが、自分の知力が劣っているのはわかっている。多分、どこの大学もかなりの力の入れ方で勉学に励まなければ進学することすら難しいだろう。」

 

「故にこのままでは進学も危ぶまれるため、この大会で隊長をして成績を上げ、AO入試で合格を勝ち取る、といったところか?」

 

「うわーお。向こうのかーしまは中々冴えてるじゃないのさ。」

「色々と隔ててはいますが、自分のことですから。」

 

手にしている干し芋を頬張りながら驚いた様子でこちらの河嶋にそういう角谷にわずかに表情を緩めることで返した。

そんな二人のやりとりを視界に収めながら俺とシャアは向こうの河嶋に視線を向けていた。

等の本人は額から脂汗を流しまくっており、そのままの様子で放置したらそのうち脱水症状でも出てくるんじゃないのかと言うようなレベルだった。

 

「まぁ、ぶっちゃけるとそうなんだよね。この無限軌道杯に私たち大洗女子学園はかーしまのために出るようなものだ。もちろん、それはみんなの総意でもある。みんなかーしまの進学のためにすごくやる気を出してくれてる。」

「そうなのか…………。」

「そこで今は少しでも戦車の頭数を揃えたいんですけど…………そのお察ししてもらえると、ありがたいです。」

「まぁ、コメットはイギリスでも結構最近の方に入る戦車だからな…………。さっき戦車を見させてもらった時もこちらとさほど違いはなかったからな。」

「そうなんですよ!!性能も申し分ないので、是非コメットが戦列に加わって頂ければ、戦力アップも間違いなしです!!」

 

みほからのお願いに俺が苦笑いを浮かべていると秋山が瞳の瞳孔をしいたけみたいに形を変えながら表情をキラキラと輝かせて詰め寄ってくる様子が視界に入る。

 

「…………私個人としては手を貸したいな。」

 

意外にも一番に手伝う意志を示したのは河嶋だった。そのことにシャアも同じく意外に思っているのか、彼女に驚いたように目を見開いていた。

 

「元の世界とは違うとはいえ、一応自分が迷惑かけているのはみんなに申し訳ないからな。」

「桃ちゃん…………。」

「あ、こっちでもその呼び方は変わらないんだ柚ちゃん…………。」

 

小山がぽろっとこぼした言葉に苦笑いを禁じ得ない河嶋。彼女がそういう意志を示したのであれば、俺たちも腰を上げるしかあるまい。

 

「桃、君がそういうのであれば、私たち二人も手を貸すとしよう。お前もそれでいいな?」

「…………ああ。どのみち向こうから既に条件は提示されていたから承諾するつもりではいたがな。」

「お二人とも、巻き込んでしまってすまない。」

「ここまでくれば一蓮托生とみるしかあるまい。」

 

河嶋の謝罪にシャアは気にしていない様子で笑みを浮かべることでそれを示した。

そしてシャアは角谷の向こうのみほに視線を移すとーーーー

 

 

「我々、コメット搭乗員総勢3名だが、そちらの指揮下に加わることを宣言させてもらう。短い間になって欲しいところだが、その間よろしく頼む。」

「…………わかりました。こちらからも改めてお礼を言わせてもらいます。」

「西住、いいアドバイスをやる。困ったらこの二人を頼れ。どんな状況でもとりあえずなんとかしてくれる。」

「河嶋、それは言い過ぎではないのか?」

「操縦手でありながら撃破カウントが存在するお前が言えることか!!これでも足りないくらいだ!!」

 

河嶋の言葉に先ほどから船を漕いでいる向こうの冷泉以外の一同はその言葉にピンとこなかったようだ。

 

まぁ、戦車で回転蹴りみたいなのをしたくらいだから別に言うことでもないか。




とりあえず、どこまで書いていいかわからないので、2話に差し掛からない程度まで進めていきたいと思います_:(´ཀ`」 ∠):


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最終章 第3話

待たせたな!!!(某蛇風)

あ、それと感想返せなくて申し訳ないです。
しかし、感想は送っていただけると励みになるので嬉しいです^_^


「暇だ…………。」

「仕方あるまい。我々は瓜二つの人間がいるとはいえ、戸籍上はいない人間なのだ。下手に外を出歩いて妙な噂を立てるわけには行かないだろう。」

 

俺が生徒会室のソファにもたれかかりながら愚痴を零すと同じソファで本を読んでいたシャアからそんな言葉が返ってくる。

その言葉になんら言い返せそうなところはなかったため俺はため息を吐くだけに留めた。

 

「でしたら、少し二人にも考えてもらいたいことがあるのですが………。」

「ん?河嶋、どうした?」

 

河嶋の言葉にシャアが読んでいた本を閉じながら内容を尋ねる。

 

「実は、向こうの私が隊長をするそうなので試合中に自分との区別をつけるために別の名称が欲しいのですが…………。」

「………ああ、そう言うことか。」

 

河嶋の言葉に俺は納得したような声を上げる。彼女の言うことはもっともとであったからだ。俺とシャアはまぁ、そのままお互いが呼び合っている名前を使えばいいが、河嶋にはそう言うのがない。

決めておかねば、そのうちどちらの河嶋のことを指しているのか混乱してくるからな。

 

「…………ならどうする?無難にピーチにでもしておくか?」

「それだと私、飽きるほどの回数拉致られますよね?」

 

シャアが試しに彼女の名前を適当に英訳したものを提案するも彼女から渋い顔が返ってくる。まぁ、奴自身も冗談半分で言ったのかすぐさまそれを取り下げたが。

 

「…………ハヤテ。」

「…………ディアーチェとかはどうだ?」

 

「なんか悪魔だか騎士でもいそうな名前ですね。」

 

そうか。まぁ、適当に脳内に浮かんだものを羅列しているだけだから受けがいいとは到底思っていないが。

 

「イシュタル。」

「奇遇だな。私も神話の神が思い浮かんだ。エレシュキガル。」

 

「二人とも完全に遊んでいますよね?」

 

ジトッとした目を浮かべた河嶋からそう言われてしまい、思わずシャアと揃って苦笑いを浮かべてしまう。

 

「そうだな。流石に茶化しすぎた。だが、名前と言っても今回の無限軌道杯ではあくまで向こうの河嶋が隊長に据えられる。ならば無理に名前など決めずに、基本君が西住君達の言葉に耳を傾けなければいいのではないのか?」

「うーん…………それもそうですね。」

「とは言うが、流石に試合中は何かしらの変装はした方がいいだろうな。お前は適当に仮面でも被っていればいいと思うが………。」

 

そう言ってシャアの方に目線を向けると奴から細められた鋭い視線を向けられる。仮面被ったり、名前も変えていたんだから今更だろ。

 

「………戯言は置いておいて、確かに何かしらの変装はした方がいいのは確かだろう。秋山君あたりに頼んでみるか?ここでも同じように偵察を行なっているのであれば、変装道具の一つや二つもあるだろう。」

「それもいいかもしれないな。だが…………。」

 

シャアの秋山の力を利用すること自体はいい提案だと思っている。しかし、彼女の偵察映像を頻繁に見ていたからこそわかることが一つあった。

 

「…………彼女、服装こそ数は多いが、変装……主に顔周りを隠すようなアイテムは偵察するときには使っていなかったな………。」

「む………そうか。それはそれで問題があるような気がするが………。他校の情報を仕入れてくるのはいつも彼女だろう。顔が割れている可能性も否定しきれんと思うが。」

「………そうだな。元の大洗女子学園に戻ったら、秋山に言っておくか。」

 

シャアとそんなことを話していると、隠れ蓑がわりにしている生徒会室の扉が開く音が響いた。そちらに俺達三人が扉の方向に目線を向けると、そこにはみほの姿があった。

 

「あ、あの…………皆さんへの紹介のために来てもらいたいのですけど…………。」

「ああ、もちろんだ。彼女らにちゃんとした自己紹介はまだだったな。要するに我々は君の知り合いにそっくりな赤の他人なのだからな。」

 

みほの言葉にシャアはそんなことを口にしながら座っていたソファから立ち上がる。

俺と河嶋もシャアに続くように立ち上がり、部屋から出て行こうする。そんなときたまたますれ違い様にみほと目線が合ったのだが、なんというかびっくりしているような目をしていた。

 

「…………すまない、そんなにじろじろ見られるのは慣れていないのだが。」

「ふぇ!?ご、ごめんなさい!?」

「い、いや…………別段私は気にしていないからいいのだが。」

 

見ていたことを指摘された瞬間に慌てた様子を見せながら頭を下げた彼女に向こうのみほとなんら変わらないことを察した俺は思わず表情を綻ばせる。

 

「…………やはり、世界線が違うとはいえ、君は君のままのようだな。」

「…………そういう麻子さんはこちらの麻子さんとは全然違いますよね?身長とか………背筋もまっすぐですし。前会長も言わずもながですが。」

 

みほから微妙な顔をされて思わず渋い表情を浮かべてしまう。やはり言えない…………中身は精神年齢が50近い大人が入っているなど口が裂けても言える訳がない。

 

「そういえば、麻子さんのパンツァージャケットは特注なんですか?私達が夏の大会で着ていたものや冬用のものとも違うみたいなんですが………。」

 

ふとみほは俺が着ているロンド・ベルの制服風のパンツァージャケットについて尋ねてくる。これはシャアが俺用に特注で作ってくれたものなのだが、いかんせんこれを着るに至った経歴は文字通りかなり血生臭い。パンツァージャケットどころか制服すらダメにしてしまうほどだったのだからな。

 

「ん…………まぁ、私が汚したのをアイツが代わりに用意してくれたものだ。」

「よ、汚したんですか………。」

 

それも泥などではなく、自分の血でだがな。

 

 

まぁ、それは置いておいて、みほについていった俺達三人は戦車倉庫の前に連れてこられた。そこでは雪が降っている中、集合している戦車道履修者達がいた。

 

………バレー部の彼女ら、ちゃんと袖と丈の長いジャージを持っていたのか。プラウダ戦の時の雪原でもバレーのユニフォーム姿のままだった彼女らにはある種の戦慄を覚えたが………なにはともあれ防寒具を持っていることに安心した。

 

「えっと、皆さんに集まってもらったのは新しい仲間の紹介なんですが…………。」

 

「一応名乗りはしたから知っている人間は知ってると思うが、コメット車長兼砲手の角谷杏だ。色々面倒な事情を抱えてはいるが、よろしく頼む。」

「コメット通信手兼操縦手の冷泉麻子だ。よろしく。」

「…………装填手の河嶋桃……………なのだが、前の二人と違って、私には完全に瓜二つの同一人物がいるから……。」

 

大洗女子学園の面々に自己紹介を行なっている中、河嶋はかけていた片縁メガネを外し、懐にしまった。

 

「…………断腸の思いだが、みんなには柚子ちゃんがたまに使っている桃ちゃんという愛称で呼んでくれて構わない。これならそれなりに差別化は出来るはずだが………。」

「…………その愛称、使われるのはあまり好ましくなかったのではないのか?」

「断腸の思いだと言ったはずです。恥ずかしいのは変わりませんけどね。」

 

シャアが意外そうな表情で河嶋に尋ねると苦笑いを浮かべる。まぁ、向こうの河嶋も嫌がっていたし言っていた通り断腸の思いなのだろう。

 

「なら、我々もあやかるとするか。別に普通に呼んでくれてもこちらとしては構わないが、そちらで混乱をきたすようなら私のことはシャアと呼ぶといい。」

「…………まぁ、別にこだわることでもないか。私のこともそちらの寝坊助な彼女と分別を付けたいならアムロと呼んでくれ。」

「あれぇ………河嶋殿は分かりますけど、お二人は一体どこからその名前が………?」

「昔、というか最近では今もだが、コイツと呼び合っていた名前だ。」

「なるほど………やはり外見はともかくそちらはこちらの前会長と冷泉殿とは違う人生を渡っておられるようですね………。」

 

名前の出所に疑問を思ったのか、そう尋ねてきた秋山に俺は決して嘘は含まれていない当たり障りのないことを返答として返した。

 

「…………そうだな。色々と、だな。」

「アムロ、少しいいか?」

 

秋山の言葉に軽く笑みを浮かべていると、シャアから声がかかった。

 

「なんだ?」

「これからソナーで見つけた戦車と思しき反応の調査を行うみたいなのだが、お前も来てくれるか?」

「別に構わないが………具体的な場所はわかるのか?」

「学園艦の艦底部だ。」

「ん………コメットでも見つけたのか?あれも学園艦の最深部付近で見つけたとか聞いていたが。」

「あれの時とは場所が異なる。しかし、その場所が場所なのだよ。」

「…………素行の悪い生徒がわんさかいる場所か?」

「そうだな。通称『大洗のヨハネスブルク』と呼ばれている場所だ。」

 

ヨハネスブルク………治安の悪い街の代名詞でも用いられるほどの知名度を誇る場所か………。つまりガラの悪い奴らが盛り沢山ということか。

 

「もしものことが彼女らにあっては困る。荒ごとにならないことが一番いいのだが、念のために私達も同行しようと言うのだ。」

「…………わかった。私も同行させてもらう。河嶋はどうするんだ?」

「私はちょっと遠慮させてもらいます。その、見知った顔がいないわけではないので。」

 

河嶋の様子が少し気になったが、シャアから別に気にすることはないと言うので、特に追及はしないことした。

 

そして俺達が同行を願い出たことに最初こそ不安そうな顔を浮かべていたが、案内を請け負っているそど子から人数は多い方がいいかもしれないという言葉をかけられ、それに背中を押される形で俺達の同行を承認してくれた。

 

そして、あんこうチームの五人と案内役のそど子に俺達二人の計八人で『大洗のヨハネスブルク』なる場所に足を踏み入れることとなった。

 

「……………荒れているな。」

 

そのヨハネスブルクなる大洗学園艦の艦底部の入り口に差し掛かったところで開口一番に出てきたのがその言葉だった。有刺鉄線が張られたバリケードの先には壁には落書き、地面に食い散らかしたゴミが散乱しており、明らかに不衛生な場所であると判断できる場所であった。

 

「この前撤去したばかりなのにー!!!」

 

そのバリケードがわりに張られている有刺鉄線を最近撤去したらしいが、その鉄線がまた張られていることにそど子は憤慨している様子を露わにする。

 

「切断してこの先に行こうにも用具がいるな。一度上へ戻るか?」

「………斬りましょうか?」

 

どうやってもリッパーかそのあたりに工具が必要だと判断した俺はみほにそう提案したが、彼女が答えるより先に徐に華が有刺鉄線の前に立った。

一瞬、彼女が有刺鉄線を切断できるようなものを持っているかと思ったが、彼女が懐から取り出したのは生花で使う剪定バサミだった。

そして、何やらかなり手慣れた手つきでナイフさばきならぬ剪定バサミさばきを見せたかと思うと有刺鉄線に向かって一閃。

 

次の瞬間には張られてあった有刺鉄線が切れていく音があたりに響いた。

 

「…………剪定バサミってあんな切れ味があるものだったか?少なくとも有刺鉄線が切断できるほどは…………。」

「まぁ…………極限まで刃を砥げば、可能性がないわけではないだろうが………むしろ華君の技能を褒めるべきか………。」

 

思わずシャアにそう尋ねてしまったが、奴も微妙な表情を崩さないでいた。

まぁ、ともかく道は開けたため、俺達は『大洗のヨハネスブルク』の領域に足を踏み入れた。

有刺鉄線を超えた先はまさに無法地帯そのものであり、ところ狭しと落書きが施され、見かける人間も目つきや態度から擦れている者が多く見受けられた。

 

「…………これは確かに少人数では絡まれてしまうな。」

 

少し辺りを見回しただけだが、すでにかなりの生徒からガンを飛ばされていた。

苦笑いを浮かべながらも少々警戒心を持って進んでいくと、突然前を歩いていたそど子が立ち止まった。

適当に辺りを見回していた目線を前方に戻すと、二人組の生徒に立ち塞がれたのが目に入った。

 

「断りもなく通るつもりかい?」

「学校の中を通るのに誰の許可がいるのよ!!通行は自由よ!!」

「………誰コイツ?何様?」

「ッ…………元風紀委員長、現在は相談役の園みどり子よ!!貴方達、スカート短すぎ!!それにこの辺りゴミ多すぎ!!掃除しなさい!!」

 

そういってそど子は腕についた風紀委員の腕章を見せつけながら自身の身分と名前を告げると、元風紀委員長のプライドが許さなかったのか、彼女らの服装、特に膝下まで伸ばした裾やここら一帯の有様に関して彼女らに注意を行った。

そのそど子の注意に対し、向こうの反応はというと、すごくめんどくさそうだった。

 

「ええ………じゃあアンタが掃除してよ。」

「なんで私が掃除しなきゃならないよ!!自分達でしなさいよ!!」

 

絡んできた生徒にそど子がそう言い放った瞬間、二人の生徒の表情がイラついたようなものに変わった。

次の瞬間、その二人の生徒ははそど子を担ぎ上げると彼女を連れ去ってしまった。

 

「…………追うぞ!!」

「彼女らを決して見失うな!!ここで姿を眩まされたら後が面倒になる!!」

 

いち早く反応した俺とシャアは呆気に取られているみほ達の背中をたたきながら逃走を始めた二人の後を追う。

叫んでいるそど子の声を頼りに薄暗い通路を進むと、ちょうど生徒達が梯子を登っている様子が目に入った。

 

「…………律儀に一段一段昇っている暇はない!!先に行くぞ!!」

「了解した!」

 

隣を走っていたシャアにそれだけ伝えると走るスピードを上げ、助走をつけた状態で思い切り床を踏み込むと、走り幅跳びの要領で梯子に飛びかかる。

そして、梯子の足場にかけた足に再度力を込めるとそこから一気にジャンプし、そど子を連れ去った生徒達に接近する。

あとは手を伸ばせばその生徒達の足を掴めると思ったが、寸前で躱されてしまい俺の手は空を切った。

 

「逃すものかよ!!」

 

しかし、そこから空を切った手を代わりに梯子の足場を掴むことでリカバリーを行い、一気に体を持ち上げ、梯子を登り切る。

 

「うぇぇ!?梯子を一気に登っちゃったよ!!」

 

階下から沙織のそんな驚いた声が聞こえたが、そんなものに構っていられる状況ではないためさっさと追跡を再開した。生徒達の姿はまだ視界にはあったが、何というか、曲がり角を曲がる時などの時に迷いのようなものが見受けられないのが気にかかった。

 

(…………コイツら、ただガムシャラに逃げているわけじゃない!!確実に目的地があるな!!)

 

そう思いたったが、そど子を連れた生徒達は鉄棒を伝って一気に下の階層へ降りていった。

 

「ちっ!!消防署じゃないんだぞ、ここは!!」

 

シャアの言っていた通り、見失う訳には行かなかったため、後を追うように俺もその鉄棒に跨り、下の階層に降りていく。

落下している時の風に煽られながらも下の方を見るとそど子の声と共に生徒達の姿がかろうじて見えた。

しかし、落下するスピード上げたのか、程なくして生徒達の姿は眼下に広がる闇に消えていってしまった。

 

(………落下スピードから換算するにこの高さと速さで落下すれば死は免れない………!!ならば!!)

 

落下の速さと高さから見積もって、確実に真下にクッションかその類のものがあると確信した俺は少しでも落下スピードを早めるために鉄棒から手を離し、自由落下を始める。

体が浮遊感を襲うがそれも長くは続かず、俺はクッションにその身を埋めた。

 

「ッ………予想通りクッションがあったとはいえ、衝撃はそれなりにあったか………。」

 

まぁ、別段怪我はなかったのだから良しとしよう。そう思いながら埋もれたクッションを退かし、生徒達を追おうとするが、その先に通路などはなく、行き止まりが広がっているだけだった。

 

「何…………!?途中に別の通路に行けそうな穴はなかったはずだが………!!」

 

そう思いながらも上から反響してくぐもった声だったが、みほたちの(主に沙織の泣き声的な)声が響いてきたのを耳にした俺は急いでクッションの山からどいた。

 

次の瞬間、泣き叫ぶような声と共にあんこうチームが落ちてきた。先に墜落した四人とは違い、後から降りてきたシャアと秋山は然程焦ってなかったのか、鉄棒からすんなりと着地した。で、墜落した四人は幸いクッションがあったから大したことは無いと思うが、一応心配なのもあったため、声をかけておく。

 

「大丈夫か?」

「うう…………びっくりしたぁ………。」

 

沙織の唸る声が上がるが、まぁ、大丈夫だろう。

一通り無事を確認した後、クッションの山から降りて、シャアに目線を向ける。

 

「…………行き止まりか?」

「いや、違うな。」

「やはりか。」

 

シャアに聞いてみると案の定この袋小路が行き止まりではないという答えが返ってくる。徐に歩き出したシャアの後を秋山と共についていくと突然壁の前で止まった。その目線は一直線に壁に向かっていたものだから否応にも察した。

 

「隠し扉か。」

「ああ、なるほど。」

 

俺がそういうと秋山から納得と言った声が上がる。シャアが壁を叩いてみそていると、少しばかり音が違う範囲があった。そこが隠し扉になっている部分なのだろう。

 

「こういうのは衝撃を与えれば大抵は開く。」

「ふと気になったのだが。お前、ここに来たことがないか?」

「…………否定はせんよ。」

 

そのシャアの言葉に秋山がびっくりしたような顔を浮かべるが、別の世界とはいえ大洗女子学園の会長だったことを思い出したのか、頷きながら納得している様子を出した。

 

「まぁいい。それで軸は縦か?横か?」

「横だ。」

 

そういいながらシャアが壁を押すと、横軸を基点にして壁が縦に回転し、奥の空間が存在していることを示した。

 

「では、行こうか。」

 

シャアの先導で隠し扉を潜り抜け、その先の扉を開けるとそこは充満する酒の匂いと、誰かの歌声が響きわたるバーのような空間が広がっていた。

 

「…………店に入ったら、まずは注文しな。」

「そうだな。ではエル・プレジデンテでも頼もうか。」

「…………どっちのだい?」

「………メキシコ、と言えば伝わるかな?」

「アンタ、ここいらじゃ見ない顔だけど通みたいだね。」

「アムロ、お前はどうする?」

 

多分雰囲気的に店と思われる部屋でカウンターに立っている、格好からみてバーテンダーの少女とシャアがそんなやりとりをした後、俺に話を振ってくる。

俺はカクテルとかはあまり詳しくないのだが………。

 

「マルガリータでいい。」

「お二人の頼んだものはよくわかりませんが………ミルクティーで。」

「じゃ、じゃあ私もそれで!!」

「ミルクココアー。」

「でしたら私はカフェオレで。」

「…………ミルクセーキ。」

 

各々が飲みたいものをバーテンダーの少女に伝えると彼女はムッとした表情を浮かべる。まぁ、仮にここがバーだとしたら無理もない反応か………。

 

「………なにそれ、おこちゃま?」

「前の二人はともかく後のお嬢ちゃん達は地上でママのお乳でも吸っていなさいよ。」

 

主にみほたちの注文がバーの場では検討違いもいいところなものだったのか、カウンターの席で酒瓶を抱えた赤髪の爆発頭の奴と女生徒にしては筋肉隆々のソファに腰掛けていた人物がこちらを茶化すような目線で見つめる。

 

「まぁ、すまないが前者二人も別にカクテルが目的ではないのだがな。」

「へぇ?じゃあ何用ってのいうのさ?」

 

筋肉隆々の女生徒から目線を向けられたシャアは特に慌てるような様子を微塵も見せずに淡々とこちらの目的を伝える。

 

「こちらに園みどり子というおかっぱ頭の風紀委員が連れ込まれたはずなのだが、居場所を教えてもらおうか。」

「んー…………おかっぱならそこにいるよー。」

 

そう言って爆弾頭の髪型の奴がスナップを響かせると部屋の扉が一箇所一人でに動き、そこでデッキブラシを持って掃除をしているそど子の姿があった。

 

「ちょっと!!早く助けなさいよ!!」

 

そういうそど子に対して苦笑いを浮かべながら俺たちは彼女を連れ出す。しかし、彼女の足につけられている奴隷用の鉄球がすごく邪魔だ。

まぁ、後で自動車部に取り外してもらうか。

 

とそんなことを考えていると先ほどみほたちを子供と茶化した二人とステージで歌っていた奴が立ち塞がった。

 

「ちょい待ち〜………ただで帰すと思っている訳〜?」

「だいたいアンタたち、何用でアタイらのナワバリに入ってきたのさ。」

「あ、あのー、戦車を探してーーー」

「戦車ぁ?そもそもアンタら人に物を頼む時は自分から名乗りなさいよ。」

 

そうステージで歌っていた奴から言われてしまったため俺たちはそれぞれ自己紹介をした。無論、俺とシャアはややこしくなるのは目に見えていたため、それぞれ『アムロ』と『シャア』で済ませておいた。

 

「しかし、戦車ねぇ………あのドンガメみたいな。」

「うぇぇ!?」

 

ステージで歌っていた奴の戦車はドンガメみたいという発言に変な声を上げるが、それは置いておいて、なにやら戦車の情報とそど子の身柄を賭けて彼女らと勝負することが決まってしまった。

 

心底から言ってしまえば面倒くさいが、こういう輩とはさっさと打ち負かした方があとぐされがないため、その勝負に応じることとなった。

 

 

 

最初にステージの奴が仕掛けてきたがその内容はしばった縄を解けという趣旨の勝負だったが、ミリタリー方面に滅法強い秋山が一瞬で解いてこちらの勝利。

 

二回戦目は爆弾頭の髪型の奴が手旗信号の解読を仕掛けてきた。中々高速な旗揚げで覚えるので手一杯だったがーーー

 

「イカのこうより年の功。」

「せ、正解………!!」

 

沙織が見事に解読に成功し、これまたこちらの勝利。まさか読み解かれるとは思っていなかったのか、ステージで歌っていた奴含めて心底から驚いたような表情を浮かべていた。

 

 

三回戦はバーテンダーの女子が指相撲を仕掛けてきたが、俺じゃない冷泉麻子が戦車を操縦しているうちに強くなった指で相手を完封し、三回戦目もこちらの勝利でおさまった。

 

まぁ、これで終わればよかったのだが…………。

 

 

「ッ………ええい、面倒ね!!こうなりゃあ腕っぷしで勝負よ!!」

 

そう声を張り上げ、最後に残っていた筋肉隆々の女生徒が拳を握りしめてこちらに襲いかかってきた。その女生徒の目線の矛先はみほだった。

 

「みほ、下がれ!!奴の相手は私がする!!荒事は私かシャアに任せろ!!」

「ア、アムロさん!?」

 

咄嗟にみほの服の首元を引っ張り、無理やり後ろに下げるとかわりに奴の前に踊り出た。

奴の体格から考えてまともに食らえばただでは済まない………!!まぁ、やってみせるさ!!




さてさて、今年ももう終わりを迎えそうですねぇ………コミケ楽しみだなぁ………


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最終章 第四話

あけましておめでとうございます^_^

わんたんめんとしての新年最初の投稿はガルパンになりました^_^

色々並行して話を投稿している自分ですが、それら含めて今年もよろしくお願いしますm(__)m




サブタイつけるなら、「アムロが出張ったので総帥も負けられないようです。」


「あ、あの………アムロさん、大丈夫なんですか!?」

「ん…………というと?」

 

西住君に振るわれかけた不良生徒からの暴力を咄嗟にアムロが彼女の襟元を引っ張り上げることで代わりに奴自身がその暴力に立ち向かうことになった。

 

その様子を私は何か思うわけでもなく眺めていたが、隣に心配そうな表情を浮かべた西住君がやってきた。

 

その彼女からの問いかけに私は何気なく返したが…………

 

「だ、だって……アムロさん、麻子さんとそんなに体格が変わりませんし………!!もしまともに食らったら………!!」

 

まぁ、それなりのダメージは確定だろうな。確かに彼女の腕っ節には感嘆に値するものがある。よくもまぁ、まだ年端のいかない学生があそこまでの筋力をつけたと思うべきだろう。あれほどの筋力を有しているのであれば、ここでも頭ひとつ抜けた存在としていられるだろう。

 

「君のいうことももっともだが、心配には及ばんよ。」

 

だが、今回は相手が悪かったな。私はそう思いながらアムロと女生徒の勝負を軽く笑みを浮かべながら視界に収める。

 

「こと、避けることやそこからの迎撃行動に関して、奴には私でも一目置いているのだからな。」

 

相手はこの私、シャア・アズナブルのライバルなのだからな。君程度では奴を仕留めることは到底できんよ。

 

 

 

 

 

 

 

「シッ!!」

「…………ッ!!」

 

目の前に立つ筋肉隆々の海兵姿の生徒からの攻撃が繰り出される。ボクシングで言うストレートやジャブ、そして裏拳。

さらには蹴りといったその持ち前の筋肉をふんだんに使った多彩な攻撃だが、目で追える範疇ではあったため、それなりの余裕を持って避ける。

 

(…………この環境では暴力沙汰もあったのだろう。筋はいいようだな。)

「こ、コイツ…………ッ!!」

 

その迫りくる暴力を避けられ続けていることを焦り始めたのか、相手は額に汗のようなものを滲ませ始めている。このまま向こうの体力が尽きて、諦めてくれるのを待つのもいいがーーーー

 

「しゃらくさいんだよ!!」

 

苛立ちが頂点に達し、表情に怒りのソレを前面に出した彼女は被っていた水兵帽を掴むとこちらに向けて投げつけた。

それなりの重さもあったのか、水平帽はしっかりとした回転を見せながら向かってくるが、こちらも身体を屈ませることでその軌道から外れる。

 

 

「あうっ!?」

 

避けた直後、スコーンと小耳にいい音と共にそんな声が聞こえた。おそらく背後にはカウンターがあったはずだから、バーテンダーの彼女に直撃したのかもしれない。

 

(中々運のない奴だな…………彼女。)

 

若干の憐みと申し訳なさを孕んだ苦笑いを浮かべているとその様子が癪に触ったのか、相手の女生徒は悔しそうに歯噛みするような表情を浮かべた。

さて、これで引いてくれるとありがたいのだが……………。

 

 

「こんのォォォォォ!!!!」

 

相手の女生徒は一瞬たじろいだような反応を見せたが、それを打ち消すように声を張り上げながら俺に向かって掴みかかってきた。

 

(ッ………まだやる気なのか!?)

 

まだこちらに突っかかってくる気概があったことに一瞬目を見開き、すぐさま態勢を整える。しかし元々部屋が狭いことでお互いの間合いが近かったのが災いし、相手の女生徒に詰め寄られ、掴みかけられたその手が俺の肩に伸びる。

あとほんの少しで俺の肩に触れようとなったところで、間に合った俺の手が女生徒の腕を掴んだ。

 

(間に合った………!!)

 

対応が間に合ったことに安堵するもののすぐさま思考を切り替える。こちらと向こうの筋力差は明白な以上、俺の細い腕で、ことさら片腕でその軌道を押しとどめることは不可能だ。

 

ならば、できることはひとつ。相手の力を利用するしか残された手段はないだろう。そう判断した俺は自分から尻餅をつきにいった。無論、掴んだ手はそのままにしてあるため、思わぬ力がかかった女生徒の体は尻餅をつきにいった俺に引き寄せられるように前のめりに倒れ始める。

 

(バランスを崩した!!)

 

今がチャンスと捉えた俺は尻餅をついた状態から一気に体を倒し、背中を地面に押し付ける。そのまま自分の足を態勢を崩した女生徒の腹に押し当てると、腕と足の筋肉をフル稼働させ、勢いよく投げ飛ばした。

 

投げ飛ばされた女生徒はカウンターでバウンドしたのか、中々うるさいドッタンバッタンと衝撃音を響かせながら複数の断末魔のような声と共にカウンターの奥に消えていった。

 

「おお!!なんとも鮮やかな巴投げですぅ!!」

「…………私もロンデニオンであんな風に投げ飛ばされたな…………。」

(………今のでほとんどの奴が巻き込まれたな…………大丈夫か?)

 

 

秋山の称賛を耳にしながら立ち上がり、心配そうな目線を埃が舞い上がったカウンターに向けるが、そこから這い出てくる女生徒たちの姿が現れたため、ひとまず息をついた。

 

しかし、なんともその後の彼女達の行動が頂けなかった。こちらに向けて怒りに塗れた表情を浮かべるとおもちゃのナイフを筆頭とした手頃なものを手にして、こちらににじり寄ってきた。

 

流石に不味い雰囲気になっていることはわかり切っていたため、俺とシャアの二人でみほ達の前に立ち塞がる。だが、焼け石に水なようなもので迂闊に反撃の手を出せなくなってしまった俺たちは部屋に鎮座しているステージに追い込まれてしまう。

 

(ちっ、些か面倒なことになった………シャアがこちらの意図を察してくれて彼女らの間に立ち塞がるような構図にしたものの、どうする?)

 

そんなことを考えながら目線だけを隣で同じように立ち塞がっているシャアの方角に向ける。

しかし、シャアに視線を向けた瞬間、とんでもないものが視界に映り込んだ。

 

(お、おい…………冗談じゃないのか?)

 

驚愕のあまり思わず声に出そうだったが、なんとか目を見開くだけで留められた自分を僅かながらに褒めてやりたい。それぐらいのレベルの代物があったんだ。

具体的にいうとシャアの後ろに立っている秋山の手に握られているものだ。

 

(どうしてポテトマッシャーなんかをもっている!?)

 

ポテトマッシャー。正式名称M24型柄付手榴弾。見た目は黒い円柱型の筒に木の棒がつけられたものなのだが………まぁ、要するに秋山は自身の懐から危険極まりない爆発物を取り出したのだ。

秋山が使用してしまえば明らかに拗れる一品を取り出したことに頭を痛めてしまう。

シャアは生憎立っている位置が悪いのか気づいているようには見えないしな…………。

 

(どうするべきだ?これは指摘しない方がいいのか………?というより、秋山がそんな俺たちもろとも自爆なんていう日本兵的な発想をしでかさないとは思うが………。どのみち面倒なことになるな。)

 

目の前の敵より味方にとんでもないことをしでかしそうな奴がいることに頭を悩ませている間にも向こうの女生徒達はじわりじわりとにじり寄ってくる。

 

 

「待ちな。」

 

そんな時、張り詰めた空気を引き裂くように凛とした声が部屋に響いた。すぐさまどこからの声と探ってみると、カウンターの端っこの席に座っているマントを羽織っている人物に行き着いた。

 

(また色物な人間が出てきた…………。)

 

内心面倒に思っていると呑んでいたグラスをカウンターの上を滑らせ、こちらに振り向いた。

そこでようやくその人物の姿があらわになるが、肌が黒く日焼けした帽子に赤い羽根をつけた女生徒だった。ちなみにマントだと思っていたものは袖を通していないかけているだけのロングコートだった。水兵の帽子を細長くしてかぶっているのも相まって、その容貌はさながら海賊のようだった。

 

「アンタら、キャプテン・キッド並みな連中だね。まぁ、キャプテン・キッドには会ったことないんだけどね。」

 

そんな彼女がニヒルな笑みを浮かべるとこちらに向けて、何かを投げつけてきた。

 

「む…………これは…………。」

 

比較的ソイツの近くにいたシャアが投げつけられたものを掴むと、それは真っ赤な液体が入った一本の瓶だった。その瓶には何かラベルが貼ってあったが………なんだ?『Havana Club』………?あまり聞き覚えのない単語だな。

 

「『どん底』名物、激辛ハバネロクラブ。ハバネロで作ったノンアルコールのラム酒。コイツで呑み比べと行こうじゃないか。勝ったらアンタ達の質問に答えてあげる。」

 

向こうの挑戦状に俺たちは互いに目線を合わせる。誰がその勝負を受けるかを決めるためだ。この手の勝負は健啖家な華あたりがやるのが一番勝率がいいと思うのだが………。そのことも華がわかっているのか、自身が名乗りを上げようとした時ーー

 

「私が行こう。」

 

華が名乗りを上げるより先にシャアが親玉と思われる女生徒の元へ向かってしまい、席についてしまった。

 

「お、おいシャア!!ここは流石に華に行かせた方がいいのではないのか!?」

「まぁ、飲食に関しては彼女に軍配が上がるであろうな。」

「ならどうして………!!」

 

思わず奴に詰め寄り、みなの意見も聞かずに席についたことを問い詰める。奴自身、この勝負のスタイルは華の方が適していると分かっている上で席についたと自白したことが余計に混乱を産む。

困惑している俺達の様子が目についたのか、奴は投げつけられた瓶を、こちらに見せつけるように揺らす。

 

「この瓶を投げつけられたのは私だ。ならば、私が行く他あるまいさ。」

「そんなヨーロッパの古い貴族的な理由でか………!?」

「それに五十鈴君は生徒会長であろう。そんな彼女がノンアルコールとは言えラム酒を手につけたという汚点をつけさせるわけには行くまい。」

 

呆気にとられている俺にそんなことを言いながら、シャアは華に目線を向ける。

目線を向けられた華はどこか心配そうな表情を浮かべるが、シャアはそれにわずかに口角を上げた笑みを返す。

 

「先輩の肩を担ぐ、という名目でここは退いてくれないかね?どのみち私は程なくして学校から姿を消す身だ。」

 

シャアの言葉は文字通り二重の意味を孕んでいる。ひとつは卒業という形で学校を去ること、もう一つはこの世界の住民ではなく、そのうち元の世界に戻るというのも含んでいるのだろう。

 

そのシャアの言葉にしばらく考え込むような表情を浮かべると、彼女は戦車で砲撃を行う時のような鋭い目つきに変わった。

 

「わかりました。ここはお任せします。」

「…………感謝する。」

 

華からの許しをもらったシャアはカウンターに戻ったバーテンダーの彼女に目線を向ける。

 

「では始めようか、そこのバーテンダーの彼女。グラスに注ぐのを頼めるかな?」

「言われなくとも、それが役割だからね。」

 

シャアが彼女に瓶を渡すとそれほど大きくないグラス、2、3杯口につければなくなるほどのものに真っ赤な酒を注ぐと慣れた手つきでカウンターの上でグラスを滑らせ、呑み比べをする二人の手元に渡される。

 

「ドレイク船長も裸足で逃げ出すこのハバネロクラブ。呑み比べと行こうじゃないか。まぁ、ドレイク船長には会ったこともないけどね。」

「…………実際に会って見なければ真偽はわからないものだと思うが?」

 

その会話を皮切りに二人は酒が注がれたグラスを口につけ、一気に中身を飲み干し始める。

 

「か、辛いッ!?!??」

 

二人が呑んでいる中、そんな悲鳴の声が響き、そちらに視線を向けると向こうの冷泉麻子が顔を真っ赤にしながらカウンターに沈んでいた。

 

「…………呑んだのか?」

「そ、そう見たいですね…………。」

 

俺が呆れた様子でみほに聞いてみると苦笑いと共に返された言葉に思わずため息を吐く。カウンターで沈んだ彼女に沙織が駆け寄り、バーテンダーの少女も若干呆れた様子で甘いフロートの乗っかったクリームソーダを差し出していた。

 

「ふむ、ハバネロの名を冠しているだけの辛さはあるようだな。」

「そう言っていられるのも今のうち、ってね。」

 

視線を戻すと飲み干したのか、両者がそれだけ言葉を交わすと、再び注がれたグラスが二人の手元に投げ込まれる。手に収まったグラスを二人は次々と飲み干していく。両者が呑み干すとそのたびに注がれた状態のグラスが渡され、かわりに空いたグラスがカウンターの上に増えていく。お互い譲る気など微塵も感じさせない呑みっぷりだったが、その均衡は空いたグラスが合わせて15は超した辺りで突然崩れる。

 

向こうの海賊のような格好をした女生徒がその辛さから顔を紅潮させた状態でカウンターに突っ伏した。

一方のシャアはまだ余裕があるようで顔にそれほど変化は見られず、隣で突っ伏した彼女に目線を向けていた。

 

「おや?存外に早いな。こちらはまだそうでもないというのに。」

 

シャアが意外を孕んだ挑発のような言葉を送るとその女生徒も笑いかけながらシャアに視線を送る。

 

「あ、アンタだって、平静を装っておいて本当は胃の中真っ赤なんじゃないの………?」

「フッ、どうだかな。だが、どのみち次の一杯で決まるだろうな。」

 

女生徒の言葉を歯牙にもかけず、シャアは送り込まれたグラスを一気に飲み干した。そしてグラスの中の酒が飲み干されると、シャアは飲み干したグラスをそっとカウンターの上に置いた。

 

「さて、次は君の番だ。」

 

そう言いながら余裕があるのを示しているのか、僅かに笑みを浮かべながら女生徒を見つめる。

その女生徒は一瞬たじろぐような様子を見せた後、勢いよくグラスの中の飲み物を自身の体に入れ始める。

しかし、序盤とは打って変わって辛そうに体を震わせている様子から相対しているシャアはもとより俺もこの先がどうなるかはわかり切っていた。

 

「ッ!?」

 

身体を一瞬だけ震わせ、それこそ何かが身体の中で爆発したような反応を見せるとその女生徒の体は後ろに倒れ始め、地面にその身体を叩きつけた。

 

「すまないが、ルジェカシス系を頼めないだろうか?流石に口直しが欲しいところだ。どれにするかは君のセンスに任せる。」

「あ、ああ…………。分かったよ………。」

 

倒れた彼女に目もくれずにシャアは狼狽した様子のバーテンダーに注文を頼んだ。倒れた彼女の取り巻きであろう筋肉隆々の女生徒を中心とした人間が連れ出している中、出されたカクテルをシャアは軽く口につける。

 

「ん、悪くない。君はなかなか腕の立つバーテンダーのようだな。」

「…………アンタ、大丈夫なのかい?」

「酒とは競うためのものではなく、愉しむための代物だ。そこさえ履き違えなければ潰れはせんよ。つまるところ、競うために酒を差し向けた彼女はまだまだ子供だと言うことだ。」

 

バーテンダーの彼女にそう返しながらソファの上で額に氷嚢を載せられた女生徒に目線を向けた。

 

「ほえー…………なんだか格言じみた言い回しですね。」

「………よしてくれ。そういうのはあまり好きではない。もう周りから煽てられるのは勘弁したいのだ。」

「ご、ごめんなさい。」

 

秋山の言葉に少々嫌なものを感じたのか、シャアは僅かに細めた目線を秋山に向ける。その目線を向けられた秋山は即座に謝罪の言葉を述べたことで、シャアの目は元のものに戻った。

 

「まぁ、ともかく勝負はついた。彼女らに話を聞くとしよう。」

「そうですね、何か有力な情報が出ればいいのですが………。」

 

 

 

 

「戦車ねぇ…………すまないけど、あまりピンとは来ないねぇ…………。」

 

約束通り彼女から戦車についての情報を話してもらおうとしたが、帰ってきた答えは思っていた以上に芳しくないものだった。

おいおい、これでは完全な無駄足になってしまうではないか。しかし、事前調査の情報ではここら辺に戦車の反応があったのは確かな話だ。周りに聞いてもこうも不良が多くてはいちいち喧嘩をふっかけられて時間がかかるだけで面倒だ。どうにかここら辺で確定的な情報を得たいのだが…………。

 

「……………河嶋桃。」

 

そんな時不意にシャアが河嶋の名前を出した。俺たち含めたあんこうチームはシャアが突然河嶋の名前を出したことに疑問を抱くが、向こうの女生徒達の反応は少し違った。

 

「…………どうしてそこで桃さんの名前を出した?」

 

そういうのはソファで横になっていたリーダー格の女生徒だった。その表情は怪訝なものと険しいものが入り混じっており、シャアに警戒のようなものを抱いていた。

 

「…………君達は退学になりそうだったところを彼女に庇ってもらった。そうだな?」

「た、退学ぅ!?」

 

シャアの言葉に沙織が驚いた声を上げるが今それにかまっている暇はなく、話は次に進んでいく。

 

「…………そうだよ、私達は退学になりそうだったところを桃さんに庇ってもらった。その恩義はちょっとやそっとのことでは返せない、とても大きなものだよ。」

「ならば、手を貸してくれないだろうか?今現在、彼女は危機に瀕しているのだよ。」

「な、なんだってぇ!?それは本当なのか!?」

 

シャアが河嶋が危機にあっているということを伝えると女生徒達は目の色を変えてその詳細を聞き出し始めた。最初こそ狼狽るこちら側だったが、たまたま沙織がもっていた向こうの河嶋が留年………もとい浪人しかけていることを記した学校内新聞を彼女らに見せる。

 

「な、なんてことだ………桃さんが留年を………!?」

 

正確に言えば浪人だがな。(本人談)

 

「…………事情はわかったよ。それと、さっきまで喧嘩をふっかけていたから差し出がましいとは思うけど、桃さんのために私達にできることがあるのなら、なんだってやらせて欲しい。」

 

リーダー格の女生徒がそう言ってきたことで向こうとの協力を確立できたところで再度俺たちは戦車の居所を尋ねた。今度は戦車の特徴を含めた説明を行うことで少しでも情報を得ようとした。

だが、最初の言葉は全くの嘘ではなかったようで、彼女ら自身それらしいものは見ていないとの返答だった。

しばらく食い下がってみると、突然俺とやりあった筋肉隆々の女生徒が何か思い出したような表情を浮かべた。

 

その彼女に問い詰めてみると、ある場所に案内してくれた。それはカウンターの向こう側にある扉。そこを開けてみると広がったのは濃厚な燻したような匂いと部屋中に吊り下げられてあったウインナーやサーモンといった食べ物であった。

いわゆる燻製室と呼ばれる部屋なのだろうが、その目的のものは確かにそこにあった。

 

そこには戦車が眠っていたのだった。秋山曰く、ブレーキやサスペンションが改造されているとのことだったが、動かすこと自体はちゃんと整備をしてもらえば問題ないとのことだった。

 

ひとまず目的のものが見つけられたことに安堵の表情を浮かべながら胸を撫で下ろすのだった。

 




ルジェカシス…………甘いカクテルの一種。作者が調べた内ではかなりバリエーションが多い種類だった。


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最終章 第5話

二ヶ月ぶりかー………………お待たせ、待った?





『大洗のヨハネスブルク』こと大洗女子学園艦の下層から新たに加わった船舶科の五人、西住命名『サメさんチーム』を迎え入れた戦車道チームはそこから練習を重ねるなどをして、時を過ごして行った。

 

「も、桃さんが二人っ!?」

「さ、流石に呑み過ぎたんかね…………桃さんが二人に見える。」

 

 

カワカミとラムが生徒会室にやってくるや否や、目に飛び込んできた二人の河嶋の姿に面くらうなどという珍事はあったが。

 

「あー…………やっぱりお前たちか。」

「…………雰囲気は違うけど、ほっとんどあたしたちが知っている河嶋さんだねぇ…………。」

 

やってきた五人に俺たちが知っている河嶋こと桃ちゃんが想像通りというような表情を浮かべていると、お銀は訝し気な表情を見せる。

 

「ま、お銀。お前がそう疑いの目を持っている通り、私はお前たちの知る河嶋桃ではない。お前たちを退学の危機から救ってくれた『河嶋桃』はそっちだ。」

 

そのお銀の目に、仕方がないと言うような表情を見せ、ソファに座り込んでいる向こう側の河嶋を指差した。

 

「つまり…………どういうことなんですか?」

「君たちが知る河嶋桃とよく似た人間がいると思っておけばいい。」

 

困惑気味に二人の河嶋を見つめているフリントに、シャアが気にするなと気遣うような声をかけた。

 

 

『大洗女子学園、前へ』

 

まぁ、そんなこんながあったが、俺たちは今、向こうの河嶋のために出る大会の無限軌道杯、そのトーナメントの抽選会場に足を運んでいた。

会場入りする時に辺りを見回したが、サンダースのケイや聖グロのダージリン、そしてプラウダのカチューシャとノンナを始めとした強豪はもちろんのこと、アンチョビのアンツィオの姿を見かけることができた。

黒森峰の集団も見つけはしたのだが、見知った顔は逸見エリカしかおらず、西住姉であるまほの姿を見つけることは出来なかった。

 

「西住、つかぬことを聞くのだが、君の姉のまほはどうしているんだ?この会場に来ていないのか、姿が見当たらないのだが。」

「え、お姉ちゃんですか?確か、留学のためにドイツへ向かったって言ってましたよ。」

「…………ドイツ、か。そういえばそんなことを言っていた気がするな。」

「あれ?アムロさん………?」

 

実はというと俺自身まほがドイツへ留学したこと自体は耳にはしていた。こちらでも同じように向かったのだと納得した表情を浮かべていると、隣の西住が怪訝な表情を見せていた。

なぜ知っている、というような顔だな。

 

「向こうの………私たちが元いた世界の話になるのだが、実は私宛てに個人から直々に手紙が届いていてな。」

「手紙ですか?アムロさんに?」

「その内容が一緒にドイツへ留学してみないかという誘いの手紙でな。」

「え、ええっ!?」

 

俺がまほからドイツへ留学してみないかと言う誘いを受けたということに西住が心底から驚いたような表情を見せていた。

 

「まぁ、その誘いは断らせてもらったが。元はといえば遅刻日数を減らしてもらうために始めた戦車道だ。そこに彼女のように戦車に対する熱意のようなものはなかった。そんな私が行ったところで彼女の邪魔になるだけだ。」

「そう、なんですか…………。」

 

(向こうのお姉ちゃんがドイツに留学を誘うほどの実力を持っているアムロさん…………一体どれくらい凄い人なんだろう。練習中も私たちに合わせてくれているみたいで全然余力とかあったみたいだし。)

(……………?)

 

西住が何か考えているような表情に目線がいったが、その直後に壇上に上がり、抽選を行った河嶋の結果がアナウンスされ、自然と目線が壇上に大きく張り出されたトーナメント表に集中する。

運営の人間が大洗女子学園の名前が入ったプレートを河嶋が選んだ紙に書かれた番号と思われる場所にはめ込んだ。まだ抽選も序盤だったため、空欄になっている箇所も多かったが、俺たちがあてがわれた場所は対戦相手が既に先に決まっていたようだった。

 

その対戦校は『BC自由学園』という名前だった。

 

「秋山。対戦校がどういう学校なのか、わかるか?」

「BC自由学園ですか?初戦敗退がほとんどなので、あまり有力なデータはないんですけどぉ…………。」

 

いつもの癖のようなもので秋山にBC自由学園についての概要を尋ねると、あまりいい情報はないのか、渋い顔を浮かべる。それでも構わないからどういう校風なのかを尋ねようとした時ーーーーーーー

 

「お前のせいで優勝校と当たってしまったではないか!!」

「何をー!?クジを引いたマリー様にケチをつけるか、貴様!!」

 

座っていた座席より下の方から何やら言い争いのような怒声が響いてくる。思わず説明してくれようとした秋山からそちらに意識を向けると、そこには二人組の女生徒が会場の最前列の席で取っ組み合いをしている光景が映り込んできた。隊長と思われる人物も二人の諍いをまるで止めようとせず、ケーキを頬張っている始末だ。

普通は隊長として二人を止めるべきだと思うが………。何か意味でもあるのか?

 

「……………な、なんなんだ彼女ら?」

「えーと…………非常に言いづらいんですけど、あの青を基調とした制服を着ている人達が一回戦の相手のBC自由学園ですぅ…………。」

 

開いた口が塞がらないといった様子を見せていると、秋山から取っ組み合いをしている彼女らこそ、一回戦の相手である学校だと告げられ、さらに開いた口が広がってしまう。

 

「いかにも派閥か何かで争っていますというような生徒達だな………。」

「元々、BC自由学園はお嬢様風の一貫校のBC学園と普通の進学高校の自由学園が統廃合された学校なんです。そのため中等部から上がってきた、いわゆるエスカレーター組と受験で入学してきた受験組の間で、アムロさんがおっしゃっていた通り、派閥争いが頻繁に起こっているようですね。」

 

ため息に似た口ぶりで肩を竦めていると、そこからの秋山の解説にさらに深いため息をついた。

 

「あんなにゴタゴタだと、もしかしたら不戦勝とかないかな?」

「流石にそれは夢を見過ぎだろ…………。」

 

沙織がそう言いながら朗らかな表情を見せるも、冷泉が現実に引き戻す発言をぶつけ、すぐに沙織のその表情は崩れ去った。

まぁ、正直に言えば俺個人としても彼女の意見に賛成だ。いくら死人のでない戦車道とはいえ、やっていることは戦闘行為に変わりはない。たかを括っていると痛い目を見る羽目になるからな。

 

「そういえば秋山。君はあのBC自由学園にも潜入偵察に出るのか?」

「もちろんですよ。それが私の役目でもありますので!!まぁ、勝手に始めたことなんですけどね。ですが、その様子だと向こうの私もあまり変わりないみたいですね。」

 

俺がBC自由学園への潜入について尋ねると気恥ずかしそうな様子を見せながら後頭部の髪を手で摩った。

 

「そうだな。そのおかげで私もいつも通りの感覚で接することができるのだが………少し言っておきたいことがあってな。」

「言っておきたいこと、ですか?」

 

秋山がキョトンと首をかしげる様子を見せると、俺は一度頷き、そこから偵察を行う時に変装をするように忠告をしようとする。

 

「アムロ。彼女には彼女のやり方がある。あまりヅケヅケと入ろうとするのは頂けんよ。」

「………………どういうことだ?」

 

そうしようとしたタイミングでシャアから静止の声がかけられた。思わずシャアに目線を向けるが、その時のシャアの表情は軽く笑みを浮かべており、何か考えがありそうな雰囲気を出していた。

 

「……………何か考えでもあるのか?」

「いや、どちらかといえば少々気になったと言った方がいい。秋山君、偵察に関してはいつも通りにやってくるといい。」

「なんだかわかりませんが……………ひとまず、了解しました!!」

 

 

 

 

 

 

「シャア、なぜ秋山に忠告するのを止めたんだ?お前も懸念していたことではなかったんじゃないのか?」

「もちろんだとも。だが、あのBC自由学園の隊長と思われる人物。彼女からは違和感を覚えてな。」

 

抽選会が終わった後、俺とシャアは少しだけ西住達から離れて、秋山への忠告を止めたことに関して問い詰めた。

シャアが感じた違和感、か。かくいう俺も隊長である彼女には違和感を感じているが……………。

 

「とはいえ、それを確信に持っていくには少しばかり材料が足らんのでな。秋山君からの偵察ビデオが届けば、彼女がただの役目を放棄した愚人かどうかわかるだろう。」

「………………お前がそこまで言うなら、俺からも特に言及はしないことにする。」

 

多少、無理矢理が否めなかったが、なんとか押し留めてシャアの言う通り、秋山のビデオをそのまま待つことにした。

 

 

 

そしてしばらく時間が過ぎると、当の秋山が偵察に向かっていたBC自由学園から帰投し、生徒会室で彼女が編集したビデオを見ることになった。

俺とシャアも頼み込んでその鑑賞会に参加させてもらえることなった。

 

そしてその秋山が偵察してきた映像を編集したビデオを見ると、そこには秋山が言っていた通り、BC自由学園に存在する派閥同士の対立の図式がこれでもかと言うほど収められていた。人々が住む住宅街の時点でくっきりと区画が分けられ、元自由学園の生徒と思われる集団が料理に関しての不満でデモを起こしている中、貴族のような成り立ちのBC学園の生徒はそれを冷ややかな目線を送っていた。それは様々な場所で見られ、ついには戦車道チームに置いてもその図式が丸々と当てはめられるようなイザコザが写っていた。

ただ、それを見ていた俺は妙な気分になったが。いや、この際()()()()()()といった方が正しいか。

 

「……………お前が言っていたのはこういうことか。」

「フッ、やはり気づいたか。それでこそだよ。」

 

シャアの得意気な表情から出る褒め言葉に全く嬉しいといった感情が湧かない俺は、ビデオを見て、それについての感想を述べている西住達を見つめた。

椅子が足らなくて、遠目から見つめる形となったその鑑賞会だが、西住達は案の定、BC自由学園がゴタゴタで隊列を組むどころの話ではないというような意見を交わしていた。その中で西住はわずかに微妙な表情を見せていたが、周りの意見に押され、その表情を引っ込めてしまった。

口出しした方がいいのだろうが、この時間軸の人間ではない俺たちが首を出していいのかと悩んでしまう。

 

「ところで、そこのお二人さんはどう?このビデオを見させて欲しいって言っていたから何か気になるところでもあったんじゃないの?」

 

そこに角谷から俺たちに向けてアプローチがかけられた。思ってもいなかった言葉に俺は隣にいるシャアに目線を向けた。

 

「……………一応、我々二人は形的には部外者だ。それを承知の上でかな?」

「いいのいいの、そんなの気にしなくて。ウチがそんなんじゃないの、そっちだってわかっているでしょ?」

 

シャアの遠慮がちな言葉につづけざまに角谷が返すと、シャアは西住達を見渡すように視線を移した。

 

「では、我々二人が感じた意見を述べさせてもらおうか。秋山君、見事な偵察ぶりだ。君の編集技術もあいまって、さながら()()でも見ているかのような気分だった。」

「ほ、本当ですか!?そうやって面と向かって褒められると照れますよー♪」

 

シャアの言葉に秋山は嬉しいそうに表情を綻ばせながらも、恥ずかしいのか彼女のトレードマークな癖っ毛を掻き分ける。そのやりとりに思わず俺はため息をついた。

 

「おい、御託のような皮肉など言ってないでさっさと中身を話したらどうだ。」

「ひ、皮肉ですかぁ!?」

 

俺の言葉に今度は秋山は驚嘆と言った顔を浮かべながら俺たち二人を見つめる。

 

「フッ…………訂正しよう、秋山君。君が編集した映像は確かに映画と遜色はない出来栄えだ。もっとも()()()()()もいいところではあったがな。」

「や、役者…………ですか?あまり発言の真意が分かりかねるのですが………。」

 

秋山はシャアの言葉があまり理解できなかったのか、訝し気な表情をしながら首を傾げた。

 

「い、一体どういうことなんd……………ですか!?」

 

秋山はシャアに言葉の真意を問い詰めるようにソファから勢いよく立ち上がり、タメ口になりかけた敬語を捲し立てる。沙織や華といった他の面々も秋山と似た、首をかしげるなどの反応を見せ、疑問気にしていた。

 

「も、もしかして、やらせ、ですかっ!?」

「あー……………やっぱりそう考えちゃう?」

「や、やらせ!?つまり、演技をしていたということですか!?BC自由学園の人たちが!?」

「正確に言えば、戦車道の人員だけが、な。」

 

西住と角谷が驚きに満ち溢れたような表情を見せ、秋山は驚きのあまりかなり上ずった声を上げるが、そこは注釈のように俺が一言付け加えておいた。

 

「ど、どうしてBC自由学園の人たちがやらせなんかできるの!?あそこって仲が悪いんじゃなかったの!?」

「それは秋山さんが来たことがわかっていたからだろう。」

 

沙織が喚くが、隣にいた眠たそうな冷泉の声に呆けたような顔を向ける。

 

「…………私達大洗女子学園はこの前の大会で優勝した。優勝したということは今度は私達が他の学校からつきまとわれる立場になったわけだ。いくらか顔が割れていると考えるべきだった。それにも関わらず、変装も何もしていない秋山さんが対戦校に赴けば、大洗が偵察に来たことはバレバレ。後は偽装がし放題というわけだ。」

「つ、つまり、私は嘘の情報を掴まされて、まんまとそれを大っぴらにしていたと!?」

「言葉を選ばずに言うとそうなる。危ないところだったな。二人が気付かなければこのまま仲違いを起こしているという認識で試合に臨むところだった。」

「に、西住殿〜〜〜〜〜!!!!」

 

冷泉の指摘と言葉に秋山は精神的ダメージを許容できなくなり、男らしい雄叫びをあげながら西住に泣きついた。

 

「まぁ…………少なくとも最低限の連携は取れるという認識ではいた方が賢明だろうな。」

「とはいえ、全くの情報がない時点でよく気づけたな。仲違いしているという先入観もあって余程のことがないと気づかないと思うのだが、同じ名前を持った人間とは思えないな。」

 

若干紛糾してきた鑑賞会だったが、周りに聞こえるようにそう呟くと、冷泉から眠そうな目線で見つめられながらそんな言葉が投げかけられる。

 

「……………全く同じ人間など、いるはずがないだろう。違って当然だ。」

「じゃあ質問を代える。どういう生活をしていたらそんな大人びた性格になれるんだ。」

「君も似たようなものではないのか?」

「悪いが、私はどちらかと言えば無口なだけだ。」

 

そう言われてしまい、俺は少しばかり困ったように目線を逸らした。言ったところで、というのが正直なところだ。やれ戦争だ、軍人だの言ったとしても、あまり意味はないだろう。秋山あたりは食いつきそうだが。

 

「まぁ…………コイツと出会ったのがある種の運の尽きだったな。」

「おい、それは私のセリフでもあるのをゆめゆめ忘れないでもらおうか。」

 

シャアを指差しながらそういうとシャアがお返しと言わんばかりのプレッシャーを送りつけてきた。

まぁ、そんなこんなで鑑賞会の時間は流れていき、ひとまずBC自由学園に対してはそれなりの連携が取れるという認識で行く方針が定まった。

 

そして、試合当日。時間ギリギリになってサメさんチームがやってきて、ウサギさんチームの一年生と微笑ましい(?)やりとりがあったが、なんとかチーム内にはうまく入り込んでくれそうだ。

 

しかし、それよりも遅くやってきたのがBC自由学園チームだった。このまま本当に不戦勝になるかと思ったが、沙織から相手チームがやってきたことが告げられ、彼女の端末を覗かせてもらったら、試合の直前だと言うのに、車体をぶつけ合い、砲撃を交わしているBC自由学園の様子が映っていた。

 

予め、それなりの連携が取れる相手という認識をしてはいるとは言え、こうも同士討ち寸前の光景を見せられると、どうしても不安な気持ちになってくる。

それでもなんとか気を引き締め直し、俺たちはこの世界で初めての試合に臨む。

 

……………とはいえ、力加減はさせてもらうがな。




戦略的無双が終わったらならばー……………次は戦術的無双の始まりだーーーー!!


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最終章 第6話

また一ヶ月くらいかかると思った?

一週間で出しちゃうんだなぁ!!これが!!

ハーメルンよ、私は帰ってきたぁ!!(一週間ぶり)


あ、それと…………やっぱり今回も原作を変えることは出来なかったよ(白目)


試合の始まりが近づいていることを告げる花火のような破裂音が戦車の外から響く。

コメットの操縦席に座っていた俺はその音を耳にすると姿勢を正し、軽い慣らしついでに肩を回しながら操縦桿を握りしめる。

 

『試合開始!!』

『全車輌前進してください!!パンツァー・フォー!!』

 

外からコメットの装甲を通してくぐもった声で届いてくる試合会場全体に響くような始まりを告げる合図とともに、西住の号令が通信機から耳朶を打つ。

その声と共に俺は操縦桿を前へ押し出し、ペダルを踏み込み、コメットを前へ進ませる。

 

「シャア、この試合ではどうする?」

「危ないところを手助けする形に抑えてさえすればいいだろう。基本は不干渉を貫くつもりだ。付け焼き刃程度の連携で彼女らがごたつくとは思えんからな。桃も今は力を抜いてもらってもかまわん。」

「わかりました。まぁ、流石に二人が最初から全力を出してもこの大洗のためになりませんもんね。何より、私自身のためにも。」

 

シャアの言葉に河嶋が頷くような素振りを見せながら空いている席に腰を掛ける。

なんだ、意外と先々のことを考えているじゃないか。

 

「そういうことだ。油断するつもりはサラサラないが、少なくとも大学選抜戦のような状況になることはないだろう。」

「仮になったとすれば、どちらかといえばお前の出番のような気もするがな。」

「フッ、そうかもしれんな。」

 

そんなたわいもないことを話しながら、コメット搭乗の俺たちを含めた大洗は西住の指示で足の遅いサメさんチームこと船舶科のお銀たちが乗っている旧式戦車、『マークⅣ』を中心として、その前方を矢印のように囲む陣形を組み、俺が動かすコメットはその矢印の左端を担当しながら緑が生茂る草原を進んでいく。

 

 

 

「……………マークⅣ、そしてコメット。どちらもイギリスの戦車ね。」

「マークⅣ…………ある意味大洗らしい戦車だとは思いますけど…………。」

「コメットは性能的には黒森峰の戦車と引けを取らない代物です。廃校危機にあっていた大洗がコメットを所有できるほどの資金があるとは思えませんが。」

 

イギリス王室のような豪華な内装をした学園艦の一室で大洗女子学園とBC自由学園の試合が中継されているテレビを見ながら紅茶を優雅に嗜んでいるのは、聖グロリアーナ女学院の隊長を務めているダージリンだ。試合の映像に写っているマークⅣとコメットに興味が湧いたのか、物珍しそうな目線を向けている。

その隣でマークⅣというかなり旧式の戦車を引っ張りだしてきたのを大洗らしいと評しているのがオレンジペコ。反面、イギリス戦車の中ではかなりの高性能を有し、なおかつイギリス戦車を主に編成している聖グロでも未だ導入が叶っていないコメットを使用する大洗を見て、資金的に難があるのでは、と怪訝な表情を浮かべているのがアッサムだ。

 

「それもそうね。でも、アッサム。こんな格言を知っているかしら、『尊厳を保つためには、金は必ずしも必要ではない。』

「インドの政治指導者、ガンジーの言葉ですね。」

 

こちらでもダージリンの格言を用いた会話は相変わらずなのか、オレンジペコが引用元の人物の名前を間髪入れずに言い当てる。その様子にダージリンは満足気に、アッサムは呆れたように肩を竦めた。

 

「つまりはそういうことよ。大洗女子学園が成し遂げた逆転劇に感動して、物好きな資産家が無償でくれたとか、考えてみればキリがないわ。」

「……………それもそうですねー。」

「でも、みほさんがイギリス戦車の魅力に気づいてくれたのでしたら、喜ばしいことこの上ありませんわ。」

(それだけは絶対にないと思います。)

 

ダージリンの得意げな語りにアッサムは疲れたような目線を向け、その後のみほがイギリス戦車の魅力うんぬんはオレンジペコが表面上は笑顔をとりつくろいながらも心の中で否定する。

 

 

 

「あれ?ねぇーミカー。大洗の戦車に見慣れないメンツがいるよ。」

 

ところ変わって、試合が行われている会場からさほど離れていない森の中、トラックを改造したのか、高い位置から周囲を見渡すことのできる展望台のようなものが付けられていた。そしてその車体の横には青と灰色の二色の盾に『継』の一文字が施されたエンブレムがプリントされていた。

 

「そうだね。でも、戦車が増えたことをとやかく言うことに意味はあるのかい?」

 

展望台から試合の様子を眺めていた継続高校のミッコが真下でトレードマークであるカンテレを弾いているミカに声をかけるも、その反応はひどく淡白なものであった。

相変わらずなその反応に慣れたのかミッコはそれ以上は大洗の増えた二輌に関してとやかく聞かないことにした。

 

「だけど、その増えた二輌のうち、片方には彼女らが乗っているのだろうね。」

「あれ?ミカが他人に興味を見せるって珍しい。そんなこともあるんだ。それで、その彼女らって、誰のこと?」

 

ミカがカンテレを鳴らしながら語った言葉にミッコと同じように展望台から試合の様子を見ていたアキが驚いたような顔を見せミカの言う彼女らについてを尋ねた。

 

「さぁ?抽選会場で見かけただけだったからね。名前も知らないよ。」

「それだけ?なんかもっとないの?」

「そうだね……………強いていうなら、風を感じた。それも今まで感じたことのないとっても不思議なものだったね。」

 

ミカの妙に周りくどい言い回しにアキは説明を求めるも、返ってきたのはミカ自身でもわからない不思議な風という抽象的な言い回しだった。

 

「うん、全くわからない。」

「そうかい、ミッコ。私もさ。」

 

まるでわからないと考えるのを放棄したように頷くミッコにミカも薄い笑みを浮かべながら自分自身でもよくわかっていないと返す。

 

「た、ただでさえよくわからないミカがわからないって言う人って一体何者………!?」

「何者なんだろうね。あとアキ、君は何気に失礼じゃないかな?」

 

結局分からずじまいに終わってしまったミカの説明にずっこけるアキにミカはまるで人ごとのようにカンテレを鳴らすのだった。

 

 

 

 

 

 

「さてと、偵察に向かったポルシェティーガーと八九式からの報告によれば、両翼に4輌ずつに部隊を分けて広げている、か。」

 

ある程度草原を進んだところで西住が偵察に向かわせたレオポンさんチームとアヒルさんチームからの報告を耳にしたシャアは地図を広げ、睨み合いをしていた。

 

「報告によれば、その両翼は未だ羽を広げ続けているらしいぞ。」

「そうであるなら、向こうのフラッグ車は大方両翼の中心にあたるような位置にいるのが定石だろうさ。」

 

俺が一言付け加えるとシャアは広がった両翼のちょうど中間地点に位置する地図上の高台を指でつつく。

 

「しかし、敵がある程度の連携を可能としているのであるならば、これは誘い込みだろう。どこかで翻してくるはずだ。」

「フラッグ車自ら囮か。決して前例がない訳じゃないな。実際お前がやったことだしな。」

「…………あれか………アレも中々肝が冷えたな…………ところでBC自由学園は生徒の間で派閥争いが凄惨で連携どころではないのでは?実際にここに来る直前にも互い砲撃しあってましたし…………ただ単に成果を求めて我先に、と勇んでいるという可能性は?」

 

シャアとそう話している時に河嶋が乾いた笑いを見せたのちに不思議そうな表情に変えながらシャアに話しかけてきた。実のところ、BC自由学園が連携を取れるという可能性を認識しているのは秋山がとってきたビデオを閲覧していた人間の間でしか共有していない。つまりところ、知っているのはフラッグ車であるカメさんチームと西住たちあんこうチームしか知らない。

 

「それも可能性としてはある。だが、試合にやってきた時に砲撃を交わしていたのは先頭の2輌だけだ。後ろはただ平然とその様子を眺めているだけ。何かおかしいと感じないか?」

 

「おかしい、とは?」

 

「…………例えば、仲の悪いグループが睨み合っていたとしよう。一歩間違えれば両者が入り混じる泥仕合になってしまうほどの規模だ。そのグループの誰かが痺れを切らして攻撃を始めたとすると、残りの全員は火蓋を切ったようにその攻撃に続く…………()()()()()()()()()()()()()。戦争でも最初から軍勢同士の戦いが行われるのではなく、あのように小競り合いのような小さな火種から大きくなるのだからな。」

 

「つまるところ、やってきた時に周囲が無反応のようなものを見せていたのは、明らかにアレが演技であり、本当はそこまで劣悪な関係ではない、もしくはあの車体をぶつけ合っていた車輌の人員だけ致命的に仲が悪い、その二択に絞られてくるという訳だ。」

 

「おそらく、こちらに仲が悪いことを印象つけるためのものだったのであろうが、少々規模が小さすぎたな。BC自由学園という派閥で分かれているという第一印象のある学校であるなら、尚更のことだ。」

 

俺とシャアで河嶋に説明するついでにやるならもっと大規模でやれ、と言わんばかりの悪どい笑みを浮かべるシャアに河嶋はすごいものを見たというような表情を見せていた。

 

「ですけど、一応しばらくは静観するつもりなんですよね?」

「そうなるな。今は向こうのフラッグ車を探すのが先決だ。」

『皆さん、ポイント782へ向かってください。広がった両翼の中心部分に位置する地点に敵のフラッグ車があると思われます。』

 

シャアが河嶋にそう告げるのと同時に、西住から指定ポイントへ向かうように指示が伝えられる。やはり、西住もシャアと同じ考えだったか。

そう思いながら俺は西住の指示通りに動く隊列に合わせてコメットを動かす。

しばらく戦車を進めていくと、おおよその位置だとあたりをつけていた小高い草原にフラッグ車を含めた2輌の姿を見つけることができた。

 

のだがーーーーーー

 

 

「なんか遊んでいないか?」

「あれはペタンクと呼ばれる遊戯だ。外でやるカーリングのようなものと思っておけばいいだろう。」

「…………あ、明らかに隙だらけですけど、気づいていないんでしょうか?」

 

見つけたはいいもののBC自由学園の生徒は車輌から降りて、何やら金属球をぶつけ合う遊びのようなものをやっていた。戦車道の規約には試合中に戦車から全乗員が降りてしまったら撃破扱いとする、みたいなものもあったはずだから全員が全員降りたわけではないのだろうがーーーーーー

 

「……………ここで撃ってもいいのだがな。全く、絶好の好機をわざわざ見逃すというのも中々歯痒いものがある。」

「向こうの河嶋のためにならないと言ったのはお前だろう。少しは自重しろよ。」

 

ため息を吐きながら座席に軽く背をもたれかかるシャアに思わず俺も愚痴のようなものを溢す。だが、ここで撃ってもいいというのははっきり言って賛成だ。シャアなら外すことはないだろうからな。

 

だがどういうわけか、妙に信頼できていない俺がいることに目を逸らしているがな。コイツはどこか確定どころで外した前科でもあるというのか?

 

ひとまず西住達は外したあとの追跡劇に移行されるのを躊躇っているのか、ここで攻撃を仕掛けるつもりはなく、より確実性を高めるためにさらに接近するらしい。

もどかしい思いを抱きながらも西住の指示に従って地図上で敵のフラッグ車が陣取っている高台の背後から強襲をかけるらしい。途中、偵察に出ていたレオポン、アヒルの両チームから敵に見つかたとの報告があった。西住は足止めを指示していたが、それで足止めはできるのか?できて一輌、よくてポルシェティーガーで2輌だろう。それにーーーー

 

「おいシャア。この地形、まずくないか?」

「半包囲される可能性があるな。」

「えっ!?ですが、逃げ道自体は後ろにありますし………フラッグ車を仕留め損なってもそれだけで済むのでは………?」

 

先ほどの報告と地図上の地形図、そして実際の風景を見て、焦燥感のようなものがふつふつと浮かび上がる。

何事もないまま高台の背後にやってきた俺たちだが、そこから高台へ侵入するには河を渡る必要があり、中々切り立った崖で河岸が形成されているため、事実上この目の前にある木製の橋しか安全に渡れる手段がない。

 

「下がれないことはないが、生憎この橋は木製だ。砲弾が橋の両端に当たれば瞬時に粉々。そうなってしまえばこちらは孤立し、逃げ場はなくなる。そこから橋の骨格を破壊すれば我々は一網打尽だ。全く、優勝校が予選敗退とは笑い話もいいところだ。」

 

そういうシャアを尻目におきながら俺は外の様子に視線を向ける。隊列の最後尾にいる俺たちのコメットは西住の指示で橋をゆっくりと音を立てないように進んでいく隊列から外れて事態を少しだけ静観していた。

すると何やら不穏な気配を感じ取ったのか、コメットの一つ前を進んでいたルノーのキューポラからそど子が顔を覗かせる。

 

『ちょっと!!貴方たち!!遅れているわよ!!ちゃんとついてきなさいよ!!』

 

ついてこないコメットに気づいたのか、そど子の声が通信機から響いてくる。困った俺はシャアに視線を向けようとした瞬間ーーーーーー敵意が体全体を過った。

 

 

「西住!!二時と十時の方角に敵戦車だ!!そど子、ルノーを後ろに下げろ!!そこにいると落とされるぞ!!」

「まぁ、仕掛けるならここだろうな。」

 

さも当然というような落ち着いた口ぶりのシャアを放置して、通信機に大声で呼びかけていると視線の先で木片のようなものが弾け飛んだのが目につく。おそらく前方の方の橋が砲撃によって破壊されたのだろう。

 

「クッ、意外に当ててくる!!手荒になるが恨むなよ、そど子!!」

『えっ!?ちょっと待って!?アンタなにするつもりよー!!ていうかアンタもそど子呼びなのねー!?』

 

通信機から聞こえるそど子の喚き声を無視して俺はコメットを前進させ、ルノーに追突させる。中々派手な音が辺りに響いたが、それなりの速度をもった追突はルノーを前へ押し出した。

ルノーが前へ行ったことを確認した俺は橋にコメットが入るほどの広さがないことを察すると、すぐさま履帯のレバーを操作してコメットを後退させ、橋から離脱させる。

コメットを橋からどかした直後、数秒前にいたところに砲弾が着弾し、木製の橋を抉り取っていった。

さて、これで大洗の車輌は完全に孤立してしまったが、まだ自由に動ける俺たちがいる。なら、いくらでもやりようはある。

 

「我々も動くとしようか。向こうの河嶋にいい経験となってくれればそれで良いからな。」

 

シャアも動きどころを理解していたのか、既に砲塔に手を携えており、いつでも発射の態勢を整えていたようだ。その間にもフラッグ車を、もしくは橋を破壊するつもりなのかのどちらかであるだろうが、橋に取り残された他の大洗の車輌はBC自由学園の戦車から、砲弾の雨が浴びせられる。

 

「シャア!!早くできないのか!?」

「まぁ待て。砲塔を覗いていると中々滑稽な光景が広がっていたものだからな。向こうの隊長がのんきに皿に乗せたケーキを頬張っている。」

「か、会長!!じゃなかった、杏さん!!装填完了しました!!」

 

悠長に向こうの隊長の様子を見ているシャアに対照的に状況が切迫したのを察したのか上ずった声を上げながら河嶋が砲弾を装填したことを告げる。シャアがそれに顔を向けて無言で頷くと再び砲塔を覗く。

 

「悪くない連携だ。それだけ君がチームの一員から信頼されていることの現れであるのだろう。実際、我々を包囲しかけているのだからな。しかし、さながらこちらがいつまでもつのかレース感覚で楽しんでいるところ悪いのだが、そのレースに君自身が加わっていることを忘れないでもらおうか。」

 

「もっとも………今ここで君を撃つつもりはサラサラないのだが、一つだけ言っておこう。」

 

 

「戦場に置いて、絶対的に安全な場所というのはないのだよ。君がそこで撃っているということはーーーー」

 

シャアがトリガーを引いたのか、車体が轟音を鳴り響かせながら揺れる。放たれた砲弾は空高く上昇していき、敵隊長の乗るフラッグ車ーーーーではなく、隣にいた戦車を一発で射抜き、白旗を上げさせる。

 

「君もまた狙われる位置に、少なからずあるということだ。その点、よく理解しておくといい。」

 

そういって、砲塔から目線を外したシャアに気の張り詰めたようなものもなく、余裕淡々といった立ち振る舞いだ。その瞬間、戦場の空気も変わった。自軍のフラッグ車の近辺にいた車輌が撃破されたこと、またもう一方は遠距離から、それも一撃で車輌を射抜いたことに驚愕したのかーーーー

 

理由はどうであれ、時間にして数秒、さっきまで砲弾が飛び交っていた戦場はたった一発の砲弾で静寂の空気に包まれた。

 

「さて、次はお前の番だ。アムロ。」

 

そう挑戦的な笑みを浮かべるシャアに俺は思わず呆れたようにため息をついた。

 

 

 




Hi-νの横特強い……………強くない?


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最終章 第7話

……………三ヶ月ぶり…………?


待たせたなッ!!!




P.S

感想、一件も返せていませんけど、全部見てます。時間を開けすぎた結果、まずは次話を出すことに集中させてもらうことにしました。申し訳ないです。


「撤退しなさいッ!!」

 

シャアがBC自由学園の隊長車である『ルノーFT』、その隣にいた『ARL44』を遠距離から一撃で抜いた直後、お嬢様風のブランド髪を激しく揺らしながら向こうの隊長である『マリー』は全車輌に撤退の指示を出した。

 

最初こそ困惑気味な様子を出していたBC自由学園の戦車だったが、やはりそれなりに練度が取れてはいたのか、意外とすんなりと彼女の指示に従って後退していった。

 

「…………痛み分け…………か?」

 

コメットの操縦桿を握りながら撤退していくBC自由学園を見ながら俺はそんなことを呟いた。

 

「どちらも部隊を整えるための時間を確保する代わりにフラッグ車への攻撃の機会を投げ打ったからな。だが、一輌撃破した我々が数的有利に立てた。」

 

「というか、私の出番が結局なかったな。まぁ、できればない方が目立たないから構わないのだが…………」

 

「……………フッ、それだけ彼女も引き際の良い優秀な隊長ということだ。」

 

確かにシャアの言う通りかもな。フラッグ車の近辺の車輌を一撃で撃破することで、向こうの隊長にもしかしたら次には撃破されるかもしれないという危険性を感じさせることによって自ら包囲を解かせた。

一見すると及び腰かもしれないが、相手はシャアだ。功を焦ってそのまま攻撃を続けるより、賢明だっただろうな。ある意味………運の良い人間なのかもしれないな。

 

「ともかく、まずは西住君たちと合流するとしよう。このままでは我々だけ単独行動をとる羽目になる。」

 

「了解した。河嶋、結構高い位置から降りるからそこら辺に捕まっていた方がいいと思うぞ。」

 

「ん…………わかった。」

 

シャアの言葉通り、両端が破壊され、身動きが取れなくなっている西住たちと合流するためにコメットのアクセルとブレーキを同時踏みしてエンジンの回転数を上げた状態にする。

 

結構な高さから無理やり降りるのため、河嶋にそう忠告だけすると、ブレーキから足を離し、コメットを急発進。スピードの乗った状態で崖から飛び降りる。

 

スピードの乗ったコメットは空中で姿勢を崩すことなく、河岸を飛び越え、大きく水しぶきを打ち上げながら水面に着水させると、そのまま河を横断して、偵察から戻ってきたレオポンチームとアヒルチームのいる対岸へと渡る。

 

「おー、そっちの冷泉さんは無茶するねー。試合終わったらあとで調整してあげようかー?」

 

特に何事もなく対岸を渡り切ると、ポルシェティーガーから顔を覗かせ、ニヒルな笑みを浮かべたナカジマからそんな声がかけられた。

 

「その時はよろしく頼むよ。まぁ、腕のいいメカニックがいたからそうそうボロが出るとは思ってはいないが。」

 

 

 

 

「マリー様…………何故あそこで撤退を?あのまま行けば押し切れていたはずですが…………」

 

「…………ごめんなさい。突然目の前の勝利を棒に振るようなことをして。でも確かにその通りだったわ。」

 

「ま、マリー様…………?」

 

撤退し、平原を走行している中、隊長であるマリーのお抱えのような立場にいるエスカレーター組のリーダー格である『押田』の質問に素直に頭を下げるマリー。いつもなら飄々としながらケーキを頬張っている彼女のらしくない様子に受験組のリーダー格である『安藤』も困惑気味に面を食らった反応を見せる。

 

「…………まさか、大洗にあんな隠し球がいたなんて…………」

 

「あのコメット巡航戦車のことですか?」

 

「確かに我々が包囲している中、こちらの車輌を一輌持っていったのは流石優勝校だとは思いましたが…………まぐれではありませんか?」

 

マリーの思い詰めた顔に押田と安藤はここにきて初めて顔を出したコメットのことを挙げるが、マリーはそのことを否定するように首を横に振る。

 

「……………まぁ、実際に矛を向けあってみないと分からないものなんてあるわ。」

 

ため息を吐きながら呟いた言葉に押田と安藤は揃って首を横にかしげる。

 

「まぁ、それは置いて、ケーキが食べたくなったわ。」

 

そう言うとマリーは突然懐から皿に乗せられたモンブランを取り出すと、器用に揺れる戦車の上でそれを食べ始めた。それをいつものマリーに戻ったと判断した二人はそのまま何も追及しないことにした。

 

(……………あの砲撃、ホントは私に向けられたものだった。)

 

モンブランを頬張りながらマリーは先ほどの反撃について思い起こす。彼女も包囲から外れたコメットを見てはいたのだ。直前で他の車輌を敢えて後ろから追突して橋から落とされないようにしていたのだから。

だが、たった一輌で戦局を変えられるほど、試合は簡単には進まない。ただ自分に手にしているモンブランのように甘さがあったのは事実だ。あの状況に追い込めば、いくら奇策が得意な大洗でも袋の鼠だと。

 

(…………その最中にあの砲撃…………しかも私より後ろにいた稜線に隠れていた車輌の車体を撃ち抜いていた。)

 

押田の言う通り、まぐれだと言われればそれまでだ。高台に陣取っていた車輌を遠くから、しかも下から稜線に隠れた車体を狙うなんて、普通ではありえない。まぐれと片付けてしまうのは仕方がない。

 

だが、遠距離とはいえ、コメット巡航戦車(歴戦のニュータイプ)と相対した彼女は感じ取っていた。

 

(…………確実に、次は私に当てられていた!!)

 

あのコメットはここで勝負をつけるつもりはなく、警告がわりに自身の隣にいた車輌を狙ったのだと。要するに、彼女は見逃されたのだ。

 

(……………中々舐めたことをしてくれるわね…………!!)

 

 

 

 

「すみません、シャアさん。助かりました。」

 

「結果としてそうなっただけにすぎんよ。私は君たちを助けるより先に向こうのフラッグ車を狙った方が手っ取り早いと思ったからあのようにしただけだ。」

 

BC自由学園をひとまず退けたあと、俺たちは部隊を整えるために橋の上に取り残されたみほ達の救出に動くことにした。やれ、二つある足場のうちの片方を敢えて崩して橋桁を滑り台がわりにしてみるなど考えてはみたが、途中でみほがMk.Ⅳ戦車を橋桁に立てかけるようにして、足場がわりにするという奇抜な発想で橋から降りる算段をつけたことにはとても驚いた。

 

「ただ砲弾は逸れて、隣の車輌に当たってしまったがな。」

 

嘘つけ。当てる気が微塵もなかった奴がどの口で戯言を言っているんだ。奴の笑みに思わず口を出しそうになったが、なんとか心の中で留めておくことにした。

 

「………ひとまず、どうするんだ?これでBC自由学園がある程度の連携が取れることは部隊全員の共通認識になったわけだが。」

 

「試合はほぼ振り出しに戻っただけです。もう一度偵察を出して、向こうの出方を見ましょう。」

 

みほに今後の動向を尋ねてみるとそんな返答が返ってくる。

まぁ、そんなところか。みほの言う通り、振り出しに戻っただけのこと。また手探りで相手の戦術を明らかにしていくのが先決か。

 

 

 

 

 

「この先のボガージュ………生垣地帯に敵が集結している、か。」

 

撤退したBC自由学園を追って、平原を進軍していた俺たちだが、偵察に出していたサメチームもとい、お銀たちからそのような報告が飛んできた。

 

「お前ならどうする?言っておくが、場所が感覚でわかるから生垣越しに相手を攻撃するというのはなしだぞ。」

 

「やれと言われればやるが、それはナンセンスがすぎる手法だな。あくまで目的は向こうの河嶋の成果に見せるようであって勝利そのものではないのだからな。」

 

前を向きつつコメットを操縦している最中、シャアに冗談まじりで方法を聞いてみると、呆れた口ぶりで小言のようなものが飛んでくる。

 

「……………一般的に生垣といえども種類はいくつもある。だが、戦車道の試合で使われる以上、おそらくサイズは大学選抜の際に使われた生垣で作られた迷路と同タイプと考えて良いだろう。」

 

「となると…………2メートルが良いところですかね?」

 

河嶋が目線を上にしながら生垣の平均的な高さを言うとシャアが頷く仕草を見せる。

 

「まあ、ボガージュは比較的高い部類に入るからおおよその戦車の車体は見えなくなるだろうな。小型や中型の戦車なら、物によっては完全に隠れてしまうだろう。」

 

「……………で、どうするんだ?戦略面は全くの畑違いだぞ。」

 

「決まっている。視界が悪いということは、いくらでも裏工作ができるということだ。」

 

「裏工作…………単身で仕掛けるのか?」

 

運転中なのも相まって特に考え事をしていなかった俺が適当に思いついたことを口にするとシャアが声を大にして笑い声を上げ始めた。閉鎖空間の戦車では反響して響くんだからやめてほしい。

 

「フハハッ!!…………すまんな。別段工作員を出すことが悪い手段と言っているわけではないが、それをしてしまっては皆こぞってやり始めてしまうだろう。暗黙の了解という奴だよ、アムロ。」

 

少しばかり眉を潜めてイラついた顔を見せていると、笑いを堪えている顔をしながらそう言ってくる。まぁ、奴の言う通りか……………いや待てよ。

 

「…………偵察はどうなんだ?」

 

「……………物事に例外があるのは必然なのだよ、アムロ。」

 

プラウダとの戦いの時に秋山たちを偵察に出したことを指摘するとシャアは視線をあさっての方角に向けながら言い聞かせるように呟いた。

 

逃げたなコイツ。

 

 

「……………話は戻すが、工作員を出さないとは言ったが工作自体を行うことは了承されている戦術のうちの一つだ。」

 

『そろそろボガージュ地帯に突入します。入り組んでいる上に視界も不明瞭なので、各車輌は敵の行動に注意してください。』

 

シャアの言葉に疑問を浮かべているとみほからボガージュ地帯に差し掛かる旨を伝える通信が飛んでくる。

 

 

 

 

 

 

大洗の車輌の中で装甲が分厚いポルシェティーガーとコメットを先頭に狭いボガージュの間を進んでいくと案の定通路の先で待ち構えていたBC自由学園の車輌から砲撃に合う。

 

「……………いつもは避けているから当てられるというのに慣れないな…………」

 

「お前、公式記録は被撃破ゼロの上に直撃らしい砲撃を受けたことも数えられるくらいだもんな…………」

 

砲弾が装甲に弾かれ、衝撃が車体を揺らしていることにあまり慣れていない俺はむず痒い思いをしていると河嶋が乾いた笑みを俺に向ける。

 

「シャア、みほ達は?」

 

動かす必要がないため、操縦桿を手放し、手持ち無沙汰になりながらシャアが座っている砲塔付近に振り向く。

 

「………………別ルートから敵陣の中枢に向かった。ルノーB1bisと共にな。我々はこのまま敵を引きつけつつ、余裕が出てくれば向こうの頭数を減らしておこう。」

 

「了解した。しかし、珍しいな。みほがあのような作戦を立てるとはな。まぁ、有効的なのはわかるのだが…………」

 

砲塔近くの覗き穴から状況を見ながらのシャアの言葉に反応だけ返すと俺は前に向き直りながらそんなことを溢す。

ボガージュ内におけるみほの立てた作戦はBC自由学園の車輌と外見がよく似ているカモチームのルノーB1bisを放り込んで、指揮系統をめちゃくちゃにするという作戦だった。

確かにこれはもともと急ごしらえの協力関係のようなものがが見え隠れしているBC自由学園には刺さる作戦かもしれない。

 

だが、これはカモチームが撃破されるのも時間の問題である、みほらしくない犠牲を前提とした作戦だ。

 

「まぁ、確かに誰かが危険な目に合うのを怖がっていた彼女にしてはそうだろうな。」

 

シャアも同じことを考えていたのか、外の風景を見ながらそんなことを溢す。

 

「だがこれはある種、彼女の信頼の現れなのかもしれんな。」

 

信頼か……………確かに的を射っているかもしれないな。

 

「まぁ、元の世界でも彼女は比較的早くお前には信頼を寄せていたがな。」

 

プラウダの初めてシャアと共に同じ戦車に搭乗したときのか。言われてみれば、確かにそうかもしれないな。

 

 

 

 

 

「……………コメットに動きはあるかしら?」

 

『いえ、ポルシェティーガーと共に後続の壁になり、動き自体はありません。』

 

その報告にひとまず息を一つだけ吐くとマリーは通信機から手を離す。

 

「あの………マリー様?些か一輌の敵車輌に対して警戒心を抱きすぎではないので?」

 

同じ搭乗員であるお嬢さま風の生徒、身嗜みからしてエスカレーター組の生徒からの質問にマリーはケーキを口にしながら納得しているような表情を見せる。

 

「……………あの車輌、事前データが一切ないのはわかっているわよね?」

 

口に含んだケーキを咀嚼した後にマリーがそう尋ねると共にしている二人の貴族風生徒は静かに頷いた。

 

「あまりにも突然現れたものだからてっきり右も左もわからない初心者だと思っていたわ。まぁ大洗も、もともとは隊長である西住さん以外は完全素人の集団だったから、その結論に至るのは9割そうでしょうね。」

 

最初こそ、飄々と語っていたものの徐々にマリーらしいおっとりとした声色から険しいものへと変貌していったことに他の生徒は息を呑む。

 

「でも、そうではなかった。残りの1割。あのコメット、少なくとも砲手はかなりの腕を持っている。そう思っていいでしょうね。」

 

コメットに対する感覚からくる持論を展開しているマリーに遠くから爆発音のような音が響いているのを耳にする。

 

「…………結構張り切っているみたいわね…………」

 

『おのれ!!ついに本性を現したか!!マリー様、必ずや奴らを仕留めてご覧にいれましょう!!』

 

それは通信機を通じて、声を荒げたような生徒の声だった。何やら撃破にものすごく息巻いているようだったが、なんとなく嫌な予感がふつふつと彼女の中で湧き上がっていた。

 

()()()()!!』

 

「何やってんのよぉぉ!?!?」

 

どういう訳か、チームメイトが仲間割れを起こしているという状況にマリーたちはお嬢さまらしくなく、ティーセットを放置し、慌てた様子でルノFTに飛び乗ると猛スピードで移動を開始する。

 

その先はいわずもなが、諍いを起こしている受験組とエスカレーター組の元へ、そしてこの蟠りを引き起こした張本人の元へ。

 

 

 

『ご、ごめんなさい!!もはやこれまでのようです!!』

 

「…………やられたのか?」

 

インカムからそど子の悲鳴のような声が響いたことに少なからずルノーB1bisが撃破されたことを悟った。だが、いかんせんまだ作戦が始まってから時間が経っていない。

 

「どうやらそうらしいな。先ほどまでボガージュの奥から聞こえていた戦闘音も鳴りを潜めている。」

 

「そんなッ!?まだ西住が想定していた時間より看破されるのがずっと早いですよ!?」

 

 

河嶋の悲鳴がコメットの中で反響する中、俺はインカムの向こうにいるそど子に状況を尋ねる。

 

「そど子、君が見ていた限りでいい。仲間割れを起こして自滅させた敵はいくつだ?」

 

『た、確か………2輌………ソミュアとARLが1輌ずつよ…………』

 

「シャア、敵の残存車輌は7輌だ!!ソミュアとARLそれぞれ3、フラッグ車1!!」

 

「前へ出るぞ!!これはおそらく我々が下手に相手の警戒心を高めたのが原因だ!!ええい、加減しても介入した時点でこれか!!そんな大したことはしておらんというのに!!」

 

「だからお二人の常識で動くのはやめてくださいよー!!」

 

再度河嶋の悲鳴が響く中、俺はコメットのアクセルを踏み、コメットを急発進させる。

 

ドゥンッ!!

 

ほぼそれと同じタイミングでコメットの車体を揺らす衝撃が起こる。おそらくシャアがトリガーを引いて砲弾を発射させた音なのだろう。

その証拠に前方にいた二輌を包み込むように爆煙が上がる。見るからに当たっていないにも関わらず爆発したのを鑑みるにどちらかの車輌が放った砲弾とぶつかり合ったのだろう。

 

「突っ込むッ!!」

 

俺はそのまま後ろにいたポルシェティーガーたちを置いていくように爆煙に突っ込むと、そのまま壁となっていたソミュアに突進をかまし、相手のソミュアを弾き飛ばす。

 

「ARLの火力は厄介だ。ここで排除させてもらう。」

 

そういうとシャアは砲塔を横に向け、装填が済まされたのを確認するや否やすぐにトリガーを弾き、ARLを撃破する。

 

「撃破した。おそらく西住君はフラッグ車をボガージュの外へ逃す算段で行くはずだ。奴らがこちらを追跡しているところを仕留めるぞ。」

 

「了解した。おおよその居場所は掴めているから…………行くぞ!!」

 

コメットを前進させながら、俺はインカムのマイクを口元に持ってくると若干の事後報告気味になっているが彼女に連絡を入れる。

 

「西住、私たちコメット組はフラッグ車から外れて一足先に迎撃に向かう!!」

 

『い、一輌でですかっ!?無理しないでください!!私たちもすぐ向かいます!!』

 

「何、()()()をするだけだ!!それに、君たちなら大丈夫だ!!この程度の相手、無理をする必要性もないからな!!」

 

 

 

 




アムロがいう足止め……………ここまで読んでくれた諸君なら………意味………わかるよね?


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最終章 第8話

某HGが好きなJKのお話で子供が飛鳥先輩や運命を揶揄う発言をしていて思わず心の中で指を立てたので初投稿です。


「私たちはこのボカージュ地帯で敵の足止めをやる!!頼むからフラッグ車だけはやらせるなよ!!みほ、戻ってこれるかッ!?」

 

『すぐに相手の後を追撃します!!でも無理はなさらないように!!』

 

俺がそう通信機に叫ぶとみほからそのような指示が飛んでくる。おそらく、ここで勝負を決める判断をしたらしい。レオポンチームのポルシェティーガーが俺たちの動きに追従する動きを見せる。

 

「みんなまで付き合う必要はないんだからな!?」

 

『河嶋さんがダメになるかどうかなんでしょ?やってみる価値はあるんじゃないのかな?』

 

徹底抗戦の構えをとったポルシェティーガーに思わずそう声をかけるとリーダーのナカジマからそんな声が返ってくる。

 

「………………全く、思いのほかこちらでも愛されているな!!」

 

「うれしい限りだが、この状況は手早くすませないとこちらが不利になるのでは?」

 

俺の言葉に河嶋が表情を綻ばせ、笑みを見せながら砲手席についているシャアに目線と共にそう尋ねると、問われたシャアは少しだけ思案にふけるように親指と人差し指で顎を挟んだ。

 

「うむ。此方の士気は高い方だが、この土壇場でまとまりをみせたのかBC自由学園も士気が高いように視える。完全に玉砕覚悟の特攻だろうな。」

 

「そういうのは知波単の連中だけにしてくれないか!?まずは敵の出鼻を挫く!!」

 

思わず悪態を吐くようにコメットのアクセルを思い切り踏み込んだ。大洗の車輛の中でもトップの速度を誇るコメットが隊列など度外視してスピードを上げれば、自然とコメットが突出した形になると、シャアがコメットのキューポラから顔をのぞかせ、周囲の様子を見る。

 

「ふむ、陣形らしい陣形もない。完全に一輌でもいいからフラッグ車に攻撃を届かせることを念頭に置いているようだな。」

 

「だが奇襲しようとしたバレー部のアヒルチームの撃破報告が上がっている。相手の後ろからみほ達が来てくれているとはいえ、攻撃と防衛では気持ちが違うな。」

 

そう苦い表情を見せている間にシャアがトリガーを引き、轟音と共に砲弾が発射される。狙われた相手のARLはこちらの射線を定めさせないためか、やたらめたらな動きをしていたが、シャアが放った砲弾はそんなことを障害ともしていないように一撃で仕留めた。

 

「これで向こうの戦力は残り6か」

 

確認するようにそう呟きながら、俺はキャタピラを操作させ、車体を相手にぶつける勢いでドリフトさせてコメットをBC自由学園の進攻ルート上につけ、フラッグ車の間に立ち塞がる。コメットクラスの戦車がぶつける勢いで迫ってくると、流石に気圧されたのか、BC自由学園の車輛は咄嗟に方向転換したり、急ブレーキをかけたりしてその勢いを弱めた。

 

「そこか」

 

その急ブレーキをかけた車輛をシャアは決して見逃さない。河嶋から装填完了の報告が上がるや否や、再びコメットの砲撃が火を噴き、勢いを止めたソミュアを吹っ飛ばす。撃破確認のための白旗すら一瞥せずに次に移ろうとした瞬間、二つほどの敵意を感じた。すぐさまコメットのアクセルをふかしてスピードをあげると二方向からの攻撃がさっきまでいた場所を通りすぎていった。

 

「ほう………………中々威勢のいい人物がいるようだな。」

 

「おのれ貴様が先ほどからこちらの車輛を減らしているコメットだな!!これ以上のマリー様の邪魔は許さん!!」

 

「隊長はやらせない……………!!」

 

シャアが不敵な笑みを見せる通り、こちらに向かう水に突っ込んでくる様は確かに威勢のいいように見える。

 

「アムロ、彼女らを丁重にもてなすとしよう!!元の世界ではあのように果敢に向かってくるものはほとんどいないのだからな!!」

 

「まぁ実際放置が一番安全策ですからね、二人の乗る車輛への対応は。触らぬ神に祟りなしという奴でしょう。」

 

「…………そうだったとしても理由が幼稚くさい……………いい歳した人間が何を考えているのだか……………ハァ、注意を惹きつける名目で付き合ってやる。」

 

シャアのウキウキとした反応に思わず頭を抱えるように呆れたため息を吐くと、操縦レバーを操作して追ってくる二輌と向かい合わせる。

 

「おい。丁重にもてなすといっていたが、まさか加減する腹積もりじゃないだろうな?」

 

「ふっ、それこそ愚問だなアムロ。」

 

忠告のように俺が文句を垂れている瞬間、シャアが仕掛けたのか聞きなれた轟音が耳をつんざく。だがその砲撃音の直後、なにか装甲に弾かれたような甲高い音も聞こえた。大方シャアが何かしでかしたと思い、いぶかし気な顔で運転席の覗き窓から外の様子を見てみると、やっぱり呆れたようにため息をついてしまう。そこから見えた光景は、不自然なスピードで砲塔がぐるぐると回転しているARLがあった。

そして回転していて見えずらいが、ARLの特徴である長い砲身が途中からまるで折れてしまったように短くなっていた。そのかわり、その砲身の先端は90度くらい別方向に向けられていた。

 

「密接していたソミュアとARLに対して、ARLの砲塔右側面にわざと破壊しない程度に砲弾をかすらせて回転力を生み出し、その力で隣のソミュアにARL特有の長い砲身をぶつけさせることで折り曲げたのか。」

 

呆れと称賛が半分ずつの複雑な心境でそういうと、満足気なシャアの雰囲気を感じ取る。というか回りくどくないか?愚直にこちらにまだ向かってくるものだからどうみても相手は気づいていないようにも見えるのだが………………そうこうしていると突然ARLが自爆した。まぁ大方砲身を曲げられたせいでふたができあがり、砲弾を打ち出すことができなかったためなのだろうが。

 

「まぁ………………そうなるな。」

 

俺は思わず遠い目を浮かべ、果敢にも向かってくるソミュアを一瞥する。もっとも次の瞬間にはシャアが撃ちぬいていたが。

 

 

 

 

 

 

 

「………………勝ったな。」

 

「そうだな。まぁ、私たちがいなくとも、みほたちなら勝つことができたと思うが。」

 

「ほう?やはりだいぶ高く彼女を買っているようだな。」

 

「当然だろ。冷泉麻子と角谷杏があそこにいる本来の性格だったとしても、流石に過程こそは異なると思うが、こうして戦車道にかかわり、大洗の廃校を回避している。」

 

妙な笑みを浮かべるシャアからの言葉にそう返しながら、俺は手元に置かれたケーキをほおばる。

 

結論から言えば、大洗はBC自由学園に勝利した。俺たちが終盤つっかかってきたソミュアとARL(ちょうど向こうの隊長のマリーという人物のそばに従者のように立っている二人組が車長だったらしい)を相手している間にみほたち奇襲組が追い付き、向こうのフラッグ車を取り囲んで動けなくしたところところを撃破した。

 

「まさか、BC自由学園もアンツィオと似たような校風だったとはな。」

 

「どちらかといえば、これは向こうの隊長の気質のような気もしないわけではないがな。」

 

そしてなぜ俺たちが試合が終わったにもかかわらずこうしてケーキを食べているのかと言われれば、BC自由学園の隊長である彼女の計らいで大洗のメンバーを加えた敢闘会のようなものを開くことになった。さすがに怪しまれる可能性も考慮して、遠慮したいのが本音だったが、かたくなに表に出てこようとしないのもそれはそれで周囲から疑われるというシャアの言葉を聞いて渋々ながらもそのパーティーのようなものに参加することになった。

 

「………………BC自由学園はフランス風の学校だったか?」

 

「そうだな、ソミュアもARLも大戦中のフランス軍の戦車だったはずだからな。ケーキをはじめとする菓子類が美味なのもその裏づけにはなるだろう。」

 

ふと気になったことをシャアに聞く。シャアに渋々ながら連れてこられたこのパーティーだが、せっかく本場に近いものが食べられる機会なのだから、食をメインにしてもまぁ問題はないだろう。

 

「ジィー…………………」

 

(凄い目線を向けられているな…………ケーキを頬張りながらこちらに目線を向けている。)

 

食い意地が張っているのかはたまたこちらへの興味がそれを優っているのか定かではないが、向こうの隊長からじっくりと吟味されているような目線を感じる。

彼女でさえこの通りなのだから、他の学校の隊長格の人物だったら目も当てられないことになりそうだ………………。

 

 

アムロが心の中で頭を抱えている最中、非情にも大洗に流星のように突如現れたコメットの存在に目を光らせた者たちがいる。想像した通り、他校の隊長格の人間たちである。

 

 

 

 

聖グロリアーナ女学院     

 

 

 

「まさか、大洗にあんな隠し玉が出てくるなんてね。」

 

「そうですね。コメット巡行戦車は火力ではポルシェティーガーに劣るものですが、そのほかの性能面からみて大洗では一番の高性能の車輛でしょう。」

 

ダージリンの隣に座るアッサムが手持ちのタブレットにコメットのデータを表示させながらそんな評価を下す。

 

「それもそうだけど………………あのコメット、まだ本気を見せていないわね。」

 

「本気………………ですか?」

 

あのコメットはまだ本気を見せていない。そのダージリンの言葉にオレンジペコは首をかしげてその真意を尋ねる。その視線にダージリンは手にしていたカップの中の紅茶を口にすると遠くを見つめ始める。

 

「………………みほさんたちがBC自由学園の背後を取ろうとして孤立させられたシーンがあったわよね。」

 

「はい。あのコメットはちょうど最後尾にいたため、運よく半包囲から抜け出した状態でしたが、丘の頂上に陣取っていたフラッグ車付近を砲撃することで向こうに警戒感を出させて退かせていました。」

 

「そうね。でも私の個人的な感覚から言わせてもらえば、あの時点で試合を決めようと思えば決められた気がするのよね。ほかでもないあのコメットが。」

 

そういってダージリンは再びカップに口をつけて遠くを見定める。まるでその顔は遥か向こうの流れ星でも眺めているようだった。

 

 

 

 

サンダース大学付属高校        

 

 

 

「どうやら大洗は無事に二回戦に進めたみたいね。一時はどうなることかと思っていたけど………………」

 

テレビの中継で大洗の試合の様子を見ていたケイは一本の映画を見終わったように腕を上へ挙げて伸びをすると感想を述べた。

 

「でも事前情報もなく突然でてきたあのコメット………………初心者が乗っていたとしては撃破スコアがおかしすぎる。1輌で相手の半数を撃破するなんて、どうみても経験者かその筋の人間が搭乗しているとしか思えない。一体何者?アリサはなにか知ってる?」

 

「知ってるも何もこの試合が始まってから気づいたわよ!!あたしともあろうがなんて情けない!!今全力で情報の精査中!!一体いつあんな奴が大洗にはいったていうのよ………………!!」

 

机に指をつつかせていぶかし気な表情を深めるナオミに情報通のプライドに傷をつけられたと思っているのか、すべてがベールにつつまれたコメットの存在にいら立ちを隠せないのか、荒々しい口調で情報の洗い出しを行っていた。

 

 

 

 

プラウダ高校      

 

 

 

「ミホーシャが勝ったわね!!」

 

「そうですね。まぁ、我々を下した大洗であれば問題なく勝利を手にすることができたでしょう。」

 

大洗が勝利したことをまるで自分のことのように諸手を挙げて喜ぶカチューシャ。そこに同意するようなノンナの言葉が入ると、隊長である自分がこうも素直に感情を前に出していいのだろうかと思ったのか、突然周りを見渡すと咳払いをしてから背筋をのばしてふんぞり返るように腕を組む。もっともそれはクラーラの肩車の上で行われていることなので、威厳もへったくれもないが、それを指摘するともれなくシベリア送りされるため禁句なのは公然の秘密である。

 

「ふふん。ミホーシャ、今度は負けないから芋でも洗って待っていることね!!」

 

「カチューシャ。それは芋ではなく首だと思いますが。」

 

そんなことを言われれば、カチューシャは恥ずかしさのあまり喚き散らすが、ノンナはそれをスルーして肩車しているクラーラに視線を向ける。

 

『同志クラーラ、先ほどの試合、どう思いましたか?』

 

『同志ノンナ、そうですね、やはりあのコメットでしょうか。』

 

カチューシャが聞き取ることのできないロシア語で会話を交わす二人。戦車道でも有数の実力者である二人はコメットの存在が否応にも引っかかるようだ。

 

『あのコメットは必ず我々の障害となりうる存在です。可能であれば、彼女らの実力を詳らかにするべきでしょう。』

 

『その意見には私も同じです。ほかの隊員に命じて個別にあの車輛の映像を撮らせておきます。』

 

クラーラの申出にノンナを承諾の意を込めて首を縦に振る。

 

『ところで今のカチューシャの様子は?』

 

『ばっちりカメラに収めています』

 

『いいでしょう。あとで現物の複製を』

 

『了解しました』

 

 

名だたる強豪たちがまるで流星のごとく現れたそのコメット(彗星)を危険視するなか、当の本人たちはそんなこと知ったことではないというように出されたケーキに舌鼓をうっていた。

 

 

 




自動車部をはじめとするキャラたちの本名が判明するって本当ですか!?

………………書き直さなきゃ(使命感)


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カオス編
いちらんぴょー


まずは皆さん、カオス編二話のあとがきにて尋ねたキャラの名前表記についてですが、皆さまの回答、ありがとうございました。
様々な意見が寄せられる中、私が今後の執筆スタイルとして選んだのは

とりあえず、一覧表は作ること。カオス編における名前表記はもう少し考えさせてください。

場合によっては自分が書いているのがスマホ故に投稿に時間がかかってしまいますが、そこは割り切っていきたいと思います。

それでは一癖二癖もあるカオス編のキャラのぶっ壊れ気味をお楽しみ下さい(暗黒微笑)


西住 みほ

 

ガルパン本編の主人公。今作では大洗における唯一のまとも枠。アニメ本編とは違い、他のメンバーの中身が中身なので、練度不足に思い悩まされることはない。

ただ練度が高いどころかカンスト気味になっている周りのぶっ飛び様に胃を痛めてしまうブライト艦長枠。大洗のみんなと接していくうちに胃薬を常備する羽目になる。

みんな悪い人達ではないということがわかっているのが尚更タチが悪い。

 

 

五十鈴 華 (カミーユ・ビダン)

 

 

ぶっちゃけると動画ネタである。精神崩壊とか引き起こしていないが家が家なので少々家族と折り合いがよろしくない。

母親からは華道の道に進んで欲しいが、ご本人はあまりそれを良しとは思っていない模様。

ただニュータイプとしての性なのか感受性自体は高く、華道の腕は母親からは評価されている。

 

 

武部 沙織 (ジュドー・アーシタ)

 

 

フレンドリーな印象からかガロードかジュドーの二択だったが、結局ジュドーの方にした。

各チームとの架け橋役を担っているある意味超重要なポジションについてしまっている。

あとで紹介するガロードとは波長があうのか結構な頻度で一緒にいる。

初対面のみぽりんに声をかけたフレンドリーさは大洗の未来を切り開く。

 

 

秋山 優花里 (バナージ・リンクス)

 

 

アニメ本編とは違い、戦車を特にこれといって好きという訳ではないので、ちょっと周りとズレていることくらいがコンプレックスのどこにでもいるボーイッシュな女の子と化している。

将来は普通に父親の理髪店を継ごうかなと思っている。なお癖っ毛はもはや治すことは諦めた。

 

 

冷泉 麻子 (アムロ・レイ)

 

小説本編から続投のアムロ大尉。小説本編では西住殿とあんなことやこんなことをやっていたが、今回は周りが周りなので、そんな関係にはならないが周りのぶっ飛びに悩まされる西住殿のバックアップに回ることは多々あると思う。事実上の副隊長。

相変わらずの運転技量で西住殿を優勝まで連れて行く。

 

 

角谷 杏(シャア・アズナブル)

 

大尉と同じく小説本編から続投のみんな大好きシャア総帥。

会長というポジションも相変わらずで試合の申請等の裏方をやっている。

廃校問題にあたってだが、役人共は徹底的に叩き潰す算段でいる。

だってできそうな面々が揃っているんだもん。

 

 

 

小山 柚子(シーブック・アノー)

 

 

一見するとおっとり系に見えるが、中に入った人が人なので、割とワイルドなこともする。そのギャップにやられた女子生徒が結構いる。

実は二年生の時は少々はっちゃけたのか学園艦の艦底部の方でパン屋をやりながら船舶科の不良グループをとっちめたりしていた。

その時にシャアに生徒会に誘われ、現在の座席に就いた。

トビア達とは途中で出会い、今は船舶科の面倒を任せている。しかし、自身は引退した身だと言いながら時折船舶科に足を運んでいる。

 

 

河嶋 桃 (ウッソ・エヴィン)

 

 

アニメ本編ではヒステリックだった桃ちゃんだったが、ウッソがインしたことにより鳴りを潜めた。しかし、怒る時には怒るし、動きも機敏な方なので舐めてかかると痛い目を見ることになる。

砲撃?勉強?スペシャルだからなんら問題はない。(ちゃんとできるという意味)

 

 

阪口 桂利奈(ヒイロ・ユイ)

 

 

アニメ本編ではすごく明るく、『あい〜』の声が可愛らしい彼女だったが、無口で無神経な自爆野郎がインしたことにより『あい〜』とは口が裂けても言えなくなった。

ただ何だかんだで特撮好きではあり、録画したアニメをちょくちょく見ている。

ちなみに最近みているのは『SSS○.GRI○MAN』である。

 

 

丸山 紗希(トロワ・バートン)

 

 

ちゃんと喋る(ここ重要)無口以外の何物でもなかった彼女だったが、ちゃんと喋る様になった。(大事なことなので二回言いました)

よくカトルと一緒にいるが、ヒイロと一緒に録画したアニメを見ていたりしている。シュールである。

 

 

大野 あや(カトル・ラバーバ・ウィナー)

 

 

物腰からしてすでに優しさオーラが溢れ出ている眼鏡のツインテールの子。

基本、怒ることはないがブチギレると眼鏡のレンズが粉砕され、誰も手をつけられなくなる。

その状態になるとどこからともなく鈴の音が鳴り響き、(主に)ウッソがビビりまくる。

 

 

澤 梓(シロー・アマダ)

 

 

みぽりんがいなくなった後の大洗の隊長を将来的に務めることになるであろう甘ちゃん隊長。

アニメ本編では逃げ出してしまったことがあるが、こちらはむしろ倍返しにしようとする。(そしてそれが当たらない。)

 

 

山郷 あゆみ(ロラン・セアック)

 

 

作者が多分そんなにスポット当てられないだろうと思っている。

カトルに次いでそれほど怒るということがない人。多分みんながキレたりしたらその鎮静化に向かおうとする。

何だかんだで農作業等で筋力はある方。

 

 

宇津木 優季 (ガロード・ラン)

 

 

フレンドリー枠その2。ジュドーとは高校入学当初から仲がいい。なお先に話しかけたのはジュドーの模様。

ちなみにシロー達一年生組とは別に個人的にとある女の子と仲がいい。(どういう関係かは読者のご想像にお任せする)

 

 

 

園 みどり子(ドモン・カッシュ)

 

 

額に鉢巻巻いた筋力おばけで大洗のジョーカー。ギアナ高地とかで修行とかしていたが最低限、高校は出ておけと家族から半ば強制的に高校へ通わされている。

戦車を持ち上げることは彼女にとって朝飯前である。

やろうと思えば、試合中に武力偵察も可能。みぽりんにとっての一番の胃痛要素である。

なお、風紀委員長ではあるが、アニメ本編ほど規則にがめつい訳ではない。ただ生徒に危険が及びそうになれば容赦なくその拳を振るう。(もちろん加減はする。じゃないと学園艦がワンチャン沈む)

 

 

金春 希美 (ニール・ディランディ)

 

髪型は風紀委員長がそれほど厳しくしていないため、おかっぱ頭にはせずにショートカットにしている。

同性である女性を風紀を乱さない程度にちょくちょく口説いている。なおそのナンパの撃墜率は結構高い。それと狙撃技術と関係あるかはわからない。

『女が男を口説いてどうすんの。やっぱ口説くなら女じゃないとな』とは本人の談。

 

 

後藤 モヨ子 (デュオ・マックスウェル)

 

髪型はニールと同じようにおかっぱ頭にはせずに長く下ろした黒髪を三つ編みにまとめている。ドモンの後始末をよくニールと一緒に行なっているため、他の人達からは貧乏くじを引かされていると思われている。本人達もそう思っている。

仕方がない。風紀委員長が風紀委員長だから。

 

 

猫田 大和 (キラ・ヤマト)

 

 

名前は苗字しか公開されてなかったためこっちで勝手に決めた。アリクイさんチームの三人はほとんど名前はオリジナル。

彼女のそばにはいつもパソコンがある。ネットに極めて強い彼女はそれを用いて色々やっている。時折空気が読めなくてアスランやシンにボコられる。

みぽりんの事情を勝手に調べてしまった1人である。もう1人はヒイロ。

なお、アリクイさんチームの三人や中身がガンダムパイロットな5人と一緒に密かにホワイトハッカーとかを学業ついでにやっていて、収入が結構ある。

 

 

桃賀 正美 (アスラン・ザラ)

 

 

空気の読めないキラをしばいたりしている。キラの空気の読めなさには軽く参っている節があり、しばくのが適当になっている時がある。

なお、倉庫に集まった時のキラの言いかけた言葉は久々にキレて割と本気で殴った。

それでもキラとの仲の良さが悪化しないのは、キラが本人の思っている以上に図太い故になのかもしれない。

 

 

飛鳥 雛子 (シン・アスカ)

 

 

アスランと同じようにキラを全力でしばいている。本人はキラやアスランほど機械に強くないとは言っているがそれはキラ達の目線から見ればの話でシン自身もかなり機械に強い。

なお彼女を飛鳥先輩と呼ぶなんか同化しそうな後輩達がいたりする。

 

 

 

お銀 (トビア・アロナクス)

 

本名?公式が出してないから知らん。管轄外である。

 

大洗女子学園艦の艦底部でBarと言う名のレストランを出している。酒を出せと言われても出すのはもちろんソフトドリンクである。

マントやブーツを履いているが本人がなんかカッコいいからなる理由だけで着ている。

船舶科の普通の生徒だったが、シーブックと会ってからは彼女の付き添いでパン屋を手伝ったりしていた。

Barのメンバーとはその時に出会った。

 

 

 

ラム (アレルヤ・ハプティズム)

 

 

赤いアフロヘアーがすっごい特徴的な人。公式見ていたらどう見てもポケ戦のミハイル・カミンスキーしか思い浮かばなかったが、1人だけおっさんぶっこむのはどうかと思い、たまたまハブられていたアレルヤを登用した。

酒は基本飲まないが、酒が入るとハレルヤみたいに暴走する。本人はそれで周りに迷惑がかかるのがすごく申し訳なく思っているため、あまり酒は飲みたがらない。

 

 

カトラス (ティエリア・アーデ)

 

 

れっきとした女の子である。アニメ最終章では魚が死んだような目をしているがこちらではキリッとした目つきをしている。

レストランにおける接客担当。最近、生しらす丼にハマっていたりする。

 

 

ムラカミ(張 五飛)

 

 

レストランにおける用心棒枠。ときおりドモンと組手をやっていたりするが、ドモンのチートな筋力の前では流石に厳しいものがあるのか負け越している。

中国拳法を用いた格闘術は学園艦の艦底部では有名。

 

 

 

フリント(刹那・f・セイエイ)

 

 

マイク片手に人々とわかり合おうとする対話厨。暴走しがちだが、ウーフェイに取り押さえられる時もあったりする。

マイクをいつも持っているだけあるのか歌自体は美味い。一応踊れる。

戦闘能力はウーフェイに次いで高い。

 

 

 

総評するとみんなみぽりんの胃を痛める案件を抱えていたりする。それぞれストッパーがいるだけマシだが。

 

 

 



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ガンダム(キャラが)無双(していくお話)

はい、ガルパン小説でさお久しぶりです。わんたんめんです。

今回、番外編ですが、時系列はパラレルワールドです。本編とは一切関係ありません。
そして警告、キャラ崩壊が著しくて、もはやガルパンではなくなっております。
むさっ苦しい話(中身がみんな男)なんて見たくないんじゃというかたはすぐさまブラウザバックを推奨します。
選んだキャラクターは割と適当です。作者が微塵でもいけるんじゃねと思ったら即採用しています。
ガチです。


 

どうも、皆さん。私は『西住 みほ』です。今、私は転校してきた大洗女子学園へ来ています。

その転校した訳というのは、知っている人は知っていると思いますが、私は去年まで黒森峰女学院で戦車道を、それも一年生であるにも関わらず、副隊長という重大な役職をやっていました。

黒森峰は全国大会を九連覇している強豪中の強豪。

そんなところの副隊長なんて大役を気弱な自分が務めていいものかと思いましたが、隊長であるお姉ちゃんの補佐をする形でなんとか決勝までやってこれました。

ですが、試合中、川沿いを進んでいる時でした。天候はあいにくの土砂降り。フィールドの川も増水していてとても危ない状況でした。注意しながら進行していましたがこちらの一輌が敵チームから砲撃を受けて、増水した川へ滑落。

私はチームメイトが心配になってフラッグ車の車長を任されていたにもかかわらずその車輌の救出に向かいました。

その結果、私が離れている間にフラッグ車は撃破され、黒森峰は10連覇の偉業を逃してしまいました。

 

そのあとからは周りからの視線が著しく変わっていきました。それも悪い方へと。

糾弾や怒号のようなものは当たり前。暴力とかはなかったけど、陰口や陰湿ないじめが始まって、私は逃げるようにここ、大洗女子学園へと転校してきました。

心機一転、私は親元である熊本を離れて、この大洗女子学園でがんばるつもりです。できれば戦車道と関わらないことを祈りながらーーー

 

 

カランカラン

 

 

授業が終わって、鉛筆を取ろうとしたが、机から落としてしまう。落とした鉛筆は空しい音を誰もいない教室に響かせる。

私はそれに僅かな寂しさを思いながら落とした鉛筆を机の下に潜り込んで、取った。がーー

 

ガツンっ!!

 

「あいたっ!?」

 

今度は潜り込んでいた机に頭をぶつけてしまう。さらにその衝撃で今度は筆箱の中身を教室の床にぶちまけてしまう。

片付けるどころか仕事を増やしてしまった。頭をさすりながら自分の鈍臭さにため息をついているとーー

 

「よっと。アンタ、大丈夫かい?」

 

鉛筆を拾いながら自分に声をかけてくれる人物がいた。転校してから初めて声をかけてきてくれたため、思わず頭を上げる。

そこにはオレンジ色の若干ウェーブがかった肩まで伸ばした髪が特徴の人、『武部沙織』さんがいた。その人は人懐っこい笑顔を浮かべながら私が落とした筆箱の中身をそばにいた黒く、ストレートに伸ばした髪型をしている、大和撫子を彷彿とさせる人ーー確か名前は『五十鈴華』さんだったかーーと一緒に取ってくれていた。

 

「あ、あの、ありがとうございます・・・。」

「君が気にする必要はないよ。こちらが好きでやっていることだからな。」

 

お礼を言うと五十鈴さんが柔らかな笑みを浮かべながらそう言ってくる。

でも、せっかく世話になったのだから何かお礼をしたい。

そう思っていると沙織さんが何か思いついた顔をした。

 

「あ、そうだ。アンタ、この後一緒に飯食いにいかない?」

「えっ!?いいんですかっ!?」

「ああ。アンタどうせ一人で食うんだろ?んな寂しいことやってないでこっちで一緒に食った方がマシじゃないの?」

「は、はい!!お願いします!!」

 

表情をはにかませながら思ってもいなかった提案に思わず笑顔になりながら頷く。

だが、その反面、黒髪の人は表情が苦いものになっている。

 

「『ジュドー』・・・。流石に初対面の子を誘うのはどうかと思うが・・・。」

「『カミーユ』さんだってやぶさかじゃないでしょ?」

「まぁ・・・否定はしない。」

 

私はそこで疑問げな表情を浮かべる。なぜなら二人が言った名前と思われる単語はわたしが覚えているものと違ったからだ。

 

「あのー、お二人は五十鈴華さんと武部沙織さんですよね?先ほどの名前は一体・・・?」

 

そう尋ねてみると二人は微妙に驚いた表情をしていた。

やっぱり名前自体は合っているようだ。

なら、どうして・・・?

 

「びっくりした・・・。もうクラスの名前を覚えてんのアンタ?」

「は、はい・・・。一応・・・。」

「すっげぇー!!こっちは名前覚えるのだけでも一苦労なのにアンタやるじゃん!!」

「お前の場合は、お互い名前を知らなくても仲良くなれてしまうからな・・・。『ガロード』との時だって散々遊んだ後にお互いがお前誰だと聞いていたからな。」

 

武部さんに目を輝かせながらそう言われ、思わず顔を赤くしてしまう。

それしても武部さんはすごいなー・・・そんな名前すらも知らない人と遊ぶことができるなんて。

 

「さっきの質問に答えるけど、一応愛称のようなものと思ってほしい。この学校は結構そういった名前で呼び合っている人が多いから初めはごちゃごちゃになってしまうかもな。」

 

困った表情をしながらもわずかに口元を緩ませながら説明をしてくれた五十鈴さんに私は納得の顔を向けながら頷く。

 

「それじゃあ、食堂に行くとしようぜ!!」

 

武部さんが私の手を引っ張りながら駆け足で教室を後にする。

良かった。話せる人ができそう。そう思っているとーー

 

「ジュドー!!廊下を走るんじゃない!!風紀委員が来るぞっ!!」

 

五十鈴さんが声を荒げながらそう言ってくる。風紀委員って取り締まる人達のことだよね・・・。

頭の中の辞書を開きながら暗唱しているとーー

 

「貴様っ!!廊下を走っているなっ!!」

「うわっ!?やばっ!?」

 

突然、視界に入ってきた額にタスキを巻いた人影に驚きながら武部さんが転身してその場から逃走をしようとする。しかしーー

 

「逃がすかっ!!行くぞっ!!分身殺法!!ゴォォォォォッド、シャドォォォォォォ!!!」

 

何か忍者のような印を結んだかと思ったら目の前にしたり顔をした風紀委員が二人、三人、最終的に四人になって増えた。

 

「ふ、増えたっ!?」

「これはあくまで分身。本命はーー」

 

予想外の出来事に狼狽している様子を見せている中、武部さんは慣れているのか落ち着いた様子で周りの分身を見ていた。

 

「俺のこの手が真っ赤に燃えるぅ!!風紀を取り締まれと轟き叫ぶ!!ばぁくねつ!!!ゴォォォット・フィンガァァァァァ!!!」

「アンタの馬鹿みたいに熱い声がただ分かりなんだよ『ドモン』さん!!」

 

分身の中から何か真っ赤に赤熱している右手に紋章のようなものを浮かべた風紀委員が突っ込んでくる。武部さんは私の手を引きながらその場を離れると先ほどまでいた背後から爆発音が響く。

何事かと思って振り向くとそこにあったはずの教室の壁が粉々に砕けていました。

そして、そこに悠然と立っている風紀委員の人。誰が見てもその人がやったと分かってしまう。

とんでもない威力に私は開いた口が塞がらないと言った様子にーー

 

「風紀委員長。毎度のごとくやりすぎだ。」

 

凛とした感じの声が響いた。その声がした方角に振り向くと赤みがかったツインテールの人がそこに立っていた。

 

「会長。俺は風紀を正しているだけだ。皆が風紀を守ってくれれば俺もここまでする必要はない。」

「だからといって校舎を破壊していたらむしろ君が風紀を乱している気がしてならんのだが・・・。」

 

会長と呼ばれた人物がため息をつくと懐から何か取り出した。それはカセットテープだった。

それを見た風紀委員長は顔を真っ赤にした。

 

「なっ!?そ、それはっ!?」

「君の愛の告白を録音したテープだ。君がこれ以上何かするのであれば、私はこれを学園艦全土に向けて流す。」

「くっ!!まだ複製があったのか・・・!!卑怯な・・・!!」

「卑怯も何も、力勝負で君に勝てる人物はいないのでな。道具はこちらで準備しておくから直してくれよ。」

 

疲れた表情をしながら会長がそういうと風紀委員長は苦々しい顔を浮かべながらその場を後にした。

 

「『クワトロ』さん!!助かったよー!!」

「ひとまず無事のようだな・・・。済まんな。転校して早々、怖い目に合わせてしまったようだな。」

「えっ!?い、いやその、だ、大丈夫ですから!!」

 

クワトロと呼ばれた会長さんは私に気づくと軽く頭を下げてきた。

突然のことに私はおどおどしながら顔の前で手を振って無事を伝える。

 

「・・・・シャア、また風紀委員長が暴れたのか?」

「まぁ、大方お前の想像通りだよ。」

 

今度は別方向から会長に声がかけられる。そこにいたのは五十鈴さんと似たような黒髪をストレートに降ろした髪型をしていた人だった。

その人に名前を呼ばれて反応したのは会長だった。あれ、会長には『クワトロ』さんって名前があったはずじゃ・・・。

 

「あの人は角谷 杏会長だ。私や知り合いはシャアとかクワトロで呼んでいるが、両方ともあの人のことを指すから覚えておくといい。」

「えっと、それじゃあ会長と話しているあの人は・・・?」

 

教室から出てきた五十鈴さんの説明にへぇーと頷きながら会長と話している人に視線を向ける。

 

「あの人は冷泉 麻子。君と同学年の人だ。『アムロ』さん!!」

 

五十鈴さんが名前を教えてくれるとその人の名前を呼んだ。呼ばれた冷泉さんはこちらに振り向くと軽くを手を振りながら苦い顔をする。

 

「カミーユ・・・ここでは同学年だから敬称をつける必要はないと思うのだが・・・。」

「それは私の勝手ですよ。」

「そうだ!!ちょうどいいや!アムロさんもこの後の昼一緒に食わない?クワトロさんも一緒にさ!」

「私は別に構わないが・・・。」

「悪いが私にはやることがある。今回はすまんな。」

 

武部さんの提案に冷泉さんは頷いてくれたが、会長は用事があるということでその場を後にした。冷泉さんが私に視線を向けると軽く表情を緩ませながら自己紹介をしてくる。

 

「冷泉麻子だ。よろしく。」

「に、西住みほです。よろしくお願いします。」

「それじゃあ行くとしますか!」

「ん・・・?ジュドー少し待て。」

 

冷泉さんと自己紹介を済ませたあとは武部さんの先導で食堂へと向かおうとしたが、冷泉さんが私達を呼び止める声をあげる。

何事かと思って冷泉さんの視線の先を見てみると一人の女の子がいた。少しばかりぼさついた癖っ毛の女の子。

冷泉さんはその人に向けて手を振るとその女の子も気づいたのか驚いた表情を浮かべながらこちらに近づいてきた。

 

「『バナージ』、今暇か?」

「まぁ・・・そうですね。ちょうど食堂へ向かおうかなって思っていたところです。アムロさん達もですか?」

「そんなところだ。一緒にどうだ?」

「断る理由もありませんし・・・わかりました。えっとそこの子は・・・?」

「転校生だってさ。まだ大洗に来てから日が浅いみたいだな。」

「あ・・・えっと西住 みほです。よろしくお願いします。」

 

バナージさんに尋ねられた武部さんがそういうと私は焦った様子でそのバナージさんに向けて自己紹介をする。その自己紹介を受けたバナージさんは私が焦っていたことを察してくれたのか柔らかな笑みを浮かべる。

 

「秋山 優花里です。みんなからはバナージで通っているから君もそう呼んでくれると嬉しい。よろしく。」

 

 

バナージさんを加えた私達は食堂へ移動して各々が食べたいものを選び、席に着いて談笑を始める。

私としてはこういう女の子同士の会話はあまりしたことがなかったから内心心躍っていたんだけど・・・・。

なんていうのかな・・・こういうのに疎い私が言えることじゃないんだけど、なんかみんな揃いも揃って女の子っぽくなかった。

だけど、武部さんが話の広げ方がうまかったのもあって、すごく楽しい時間だった。

しかし、そんな時間も早くも過ぎ去り、その日の放課後のレクリエーションで大洗に戦車道が復活することが明らかになった。

・・・・もう戦車道には関わらないつもりだからほとんどレクリエーションの内容は聞いてなかったけど。

 

でもーーー

 

 

「えっ?武部さんと五十鈴さんは戦車道を履修するんですか?」

 

思わずオウム返しのようになった言葉に二人は頷いた。

理由を聞きたくなったけど、まだ知り合ってから間もない二人にそんなことが聞けるはずもなくそのまま話題は別のものになるかと思ったけどーー

 

「何というか、生徒会の表情が真剣そのものだったんだよね。」

「え・・・・?」

 

武部さんのその言葉に疑問を持った顔を浮かべる。

五十鈴さんに視線を向けると武部さんの言葉を肯定するように頷いた。

 

「ああ。クワトロ会長はもちろんのこと、『シーブック』や『ウッソ』の二人も厳しい表情を浮かべていた。さながら手伝ってほしいと言っているようだった。」

「あの、シーブックさんとウッソさんって誰ですか?」

「ああ。シーブックはさっきのレクリエーションで司会を務めていた茶髪ポニーテールの人で、ウッソは片眼鏡をかけた奴だ。」

 

シーブックさんとウッソさん。初めて聞く名前だったけど、カミーユさんが丁寧を説明してくれたからすぐに人物像を思い浮かべることができた。

 

『なんとぉぉぉぉーー!!』

『これ・・・母さんです・・・・。』

 

・・・・なんか頭の中でへんな光景が通り過ぎた気がする。

 

「あれは多分、みんなに集まってほしいっていうメッセージだとカミーユさんと二人で思っている。」

「みんなとは一体・・・?」

「来てみればわかると思うが・・・。来るか?」

 

五十鈴さんにそう言われるが私は表情を暗いものに変え、俯いてしまう。

なぜなら私は戦車道をするためにここに来た訳ではないのだからーー

 

「まぁ、無理強いをするつもりは一切ない。西住さんは何かしら戦車道に負い目を感じているみたいだからな。」

 

五十鈴さんの言葉に思わず驚いた表情をして、顔を上げる。

そこには微笑んでいる二人がいた。

 

「ま、レクリエーションの時点で何となく表情から察していたけどね。」

「そういうことだ。」

 

武部さんにも笑顔を浮かべながらそう言われてしまい、今度は顔を悲しい表情ににしながら顔を俯かせてしまう。

しばらくすると戦車道履修者は倉庫に集合するらしく五十鈴さんと武部さんは教室を後にした。

私はどうするか悩んだけど、結局ついていくことにした。

集合場所である倉庫に三人で向かうと既に30人近い人数が集まっていた。

その中にはこの前食事を一緒にした冷泉さんや武部さんがドモンさんと呼んでいた風紀委員長がいた。

 

「ん?君も来たのか。」

「えっと・・・まぁ、見学だけ・・・。」

「・・・・分かった。まぁ、それもいいだろう。」

 

会長さんからそう聞かれ、見学と答えると会長は一瞬難しい表情をしたけど、すぐにその表情を元に戻し、ほかの人達の方に顔を向けた。

 

「さて、今回集まってもらったのは何も単位や遅刻の取り消し目当てで来た者たちではあるまいな?」

 

あれ・・・?レクリエーションの時は思いきり単位をあげるとか遅刻回数を取り消すとか言っていたような・・・?

そう疑問に思っているとーー

 

「まぁ、疑問に思うのも無理もないだろうさ。あれはほとんど建前だからな。」

「え、そんなんですか?」

 

茶髪をポニーテールにした優しげな印象を受ける人が話しかけてきた。確か沙織さん達がシーブックと呼んでいた人だ。

 

「あんなこと言われてこっちははいそうですかって黙ってられるもんですか。ろくなアフターケアもしようともしないで、横暴すぎるんだよあの人は。」

「え、えっと・・・。」

「ウッソ。あまりそういう表情はよしとけ。」

 

明らかにイラついている片眼鏡をかけた人の目つきが鋭くなった表情を見て、少しばかり身を強張らせてしまうが、シーブックさんが咎めるとこちらに気づいたのかバツの悪い表情へと変える。

 

「あ・・・。す、すみません。怖がらせてしまって・・・。えっと西住さん、でしたっけ?河嶋 桃って言います。基本的に名前呼びで構いませんけど、みんなからはウッソと呼ばれています。」

「生徒会副会長の小山 柚子だ。柚子でもシーブックでも気軽に呼んでくれるとありがたい。」

「よ、よろしくお願いします・・・。」

 

「おそらく皆揃って何か隠された意味があると踏んでこの戦車道を受けてくれたのだろう。無論、その通りだ。」

 

隠された意味・・・?そういえば武部さんと五十鈴さんがまるで会長が何か別のことを考えているみたいなことを言っていたけど・・・。

 

「この間、文科省から通達があった。今年度を持って大洗女子学園が廃校になることが決定した。」

 

会長のその言葉を聞いたみんなは驚きやなぜといった表情はしていたが声に出すことはなかった。

その中で一番驚いていたのはーー

 

「お、大洗女子学園が廃校って・・どういうことなんですかっ!?」

 

何より自分自身だった。その時に出した声が倉庫で反響して響いた。

 

「どういうこともなにも、聞いた通りだ。大洗女子学園は今年度を持って廃校になることが告げられた。」

 

変わらない会長の言葉に私は思わず表情を悲しいものに変えてしまう。

せっかく転校したのに、その転校した高校が今年で廃校になってしまうなんて、私は何のために転校してきたんだろう。それにーー

 

「せっかく、友達が出来るって思ったのにな・・・・。」

 

倉庫の冷たい床に膝から崩れ落ちて、悲しさから顔を両手で覆おうとした時ーー

 

「西住さん、まだそんな悲しい顔を浮かべるのは早いんじゃないの?そうでしょ?会長さん。」

 

武部さんの言葉に思わず顔を上げる。そこにはみんなから視線を向けられながらわずかに口角を上げた会長の姿があった。

 

「もちろんだとも。ただで引き下がる訳にはいかんのでな。すぐさまその場で抗議をしてみれば、戦車道の全国大会で優勝すれば考えてくれるとのことだ。」

「あれ?それってほとんどダメなん「キラっ!!この馬鹿野郎!!」「アンタって人はーーっ!!」えっ!?ちょ、待って」

 

何か会長に口を挟もうとした金髪ロングな銀河鉄道に乗っていそうな人がそばにいた桃色の髪色でおでこの広い人と銀髪のわずかにそばかすが見える人の二人にボコボコにされ始めた。

なんかボコみたいで、なんかいい。(心の中で親指グッ)

そう思っているとさっき教室付近であった風紀委員長の人が近づいてきた。

先ほどの出来事もあって思わず体が強張ってしまう。

 

「えっと・・・・私に何か用ですか・・・?」

 

思わずそう聞いてしまったことに関して、私は悪くないって声を上げたいです。

だってあんなこと(教室の壁を素手で壊した)があったんだもん。

 

「ん?いや、俺に特にこれといった用はないのだが・・・・。何故そんな怖がっている?」

「そりゃあ、どう考えてもアンタのせいだろうよ。」

 

皆目見当がつかないといった様子の風紀委員長さんに呆れ顔をした黒髪の二人組、おそらく腕に風紀委員の腕章をつけているから彼女らも風紀委員なのだろう。といっても髪型はおかっぱヘアーの風紀委員長と違って、一人はショートヘアー、もう一人は長い黒髪を三つ編みにして、腰あたりまで降ろしていた。

 

「悪いね。お嬢さん。ウチの委員長が迷惑をかけたみたいでさ。」

 

そういいながらショートヘアーの人が私にニヒルな笑顔を浮かべながら謝ってくる。

 

「えっと、貴方は・・・?」

「おっと失礼。私は金春 希美。ほかの奴らからは『ロックオン』とか『ニール』って呼ばれてるぜ。で、こっちの三つ編みの奴がーー」

「逃げも隠れもするが、嘘は言わない後藤 モヨ子だ。気軽に『デュオ』って呼んでくれ。」

 

ピースサインをしながら笑顔を向けてくる後藤さんに私も釣られて笑顔を浮かべる。

そんな二人に私はこんなことを尋ねてみた。

 

「あの、お二人も風紀委員なんですよね?」

 

そう聞くと二人は微妙な顔をし始めた。その表情には疲れたようにも見えるし、面倒だと思っているようにも見えた。

 

「まぁ・・・そうなんだよなぁ・・・・。ってもやってることは委員長の後始末がメインだけどな・・・。」

「お前さんの教室の壁を修理していたのも私達なんだぜ?やらかした張本人が手伝ってくれているだけマシだけどさ。まったく、貧乏クジを引くこっちの身にもなってくれよとは思っているねぇ・・・。」

「その・・・・ご苦労様です。」

 

おふたりの苦労しているオーラがただ分かりだったのも相まって私は思わず頭を下げてしまった。

 

「お、可愛い子ちゃんに労いの言葉をもらえるなんざ、今日はツイてるねぇ。」

「か、可愛い子ちゃんっ!?」

「ああ、あんまコイツの言葉を真に受けなくていいぜ。コイツ、割とナンパ癖があるからな。」

「おいおい、可愛い子を可愛いって言って何が悪いんだ?」

 

後藤さんに嗜められる金春さんを尻目に私は可愛いと言われたことに恥ずかしさを覚え、それのあまり下を向いてしまう。

は、初めてです。そんなことを言われたの・・・・。

 

「さて、戦車道を復活するにあたってだが、キラ君。アレを用意してくれるか?」

 

会長に呼ばれたのはさっきまでボコボコにされていた金髪の人だった。

その人はボコボコにされた場所をさすりながら何かパソコンを持ってきた。

 

「イッタタタ・・・。アスランもシンもそんなに殴らなくたって良かった気がするんだけど・・・・。」

『いや、十割方キラが悪い。少しは空気を読め。』

「・・・・やめてよね。みんなからそう言われちゃったらもう黙るしかないじゃないか・・・・(泣)」

 

満場一致でみんなからそう言われたキラという人は涙目になりながらもパソコンを操作した。

すると画面に映し出された学園艦と思われる船の全体図があった。

多分大洗のものなんだろうけど・・・。

 

「えっと、ここをこうしてっと。」

 

慣れた手つきでキラさんがパソコンを操作すると、画面の学園艦にいくつかの光の点が現れる。

その数およそ8つ。

何を示しているんだろう。

 

「これはこの大洗女子学園艦にある戦車の場所を示しているんだよ。」

「えっ!?そんなことが出来るんですかっ!?」

 

キラさんの説明に思わず驚きの声を上げてしまう。一体どういう理屈で・・・!?

 

「まぁね。ボクはこういうのに強いから。学園艦中に仕掛けちゃったエコーロケーションの機械で学園艦の全体図を浮かべて、あとは戦車の大体の質量や大きさを打ち込んで対象を絞ればできるよ。」

 

キラさんの軽い説明に開いた口が塞がらないといった感じだった。

学園艦中にエコーロケーションの装置を・・・・!?

・・・・エコーロケーションってなんですか?

 

「音波を出して跳ね返ってきた音で周りの地形や距離を把握することだ。コウモリやイルカはこれを使って周囲の環境を把握したり他の奴らとコミュニケーションを取ったりしている。」

 

私の心境を把握してくれたのか後ろから説明の声が聞こえた。驚いてびっくりしているとそこには目つきの鋭い一人の茶髪でショートボブの女の子がいた。

 

「あ、あの、ありがとう・・。」

「・・・・。」

 

一応、お礼を言うと、その子はこちらには何も言わずに他の六人くらいの集団に戻っていった。

なんなんだろう・・・あの人・・・・。

 

「相変わらず不器用なヤツだな。ヒイロは。」

「ヒイロさんって言うんですか?今の子・・・。」

「彼女は阪口 桂利奈。一年生だ。私達の間ではヒイロと呼んでいる。アイツは無愛想だが、優しいヤツなんだ。悪い人物ではないから察してやってくれ。」

「そ、そうなんですか。ところで・・・。」

「ああ、すまない。私は桃賀 正美(ももが まさみ)だ。他のみんなからはアスランと呼ばれている。で、こっちがーー」

飛鳥 雛子(あすか ひなこ)だ。シンって呼んでくれ。あとなんでか分からないけど、飛鳥先輩って呼ぶヤツもいる。」

「あ、ちなみにボクは猫田 大和(ねこた やまと)だよ。よろしくね。」

「よ、よろしくお願いします。」

「それでキラ。私達はその反応に向かって行けばいいのか?」

「うん。そうなんだけど、一つ大きい反応があってね。しかも場所が学園艦の奥深くだから自動車部の力を借りた方がいいと思う。呼んでくれる?」

「わかった。」

 

キラさんにそう頼まれるとアスランさんは駆け足でその自動車部を呼びに行った。

程なくしてアスランさんが戻ってくると、後ろに黄色いツナギを着た四人組みがいた。

多分、この人たちが自動車部の人たちなのだろう。

 

「ここに一際大きな反応があるんですけど、運び出して欲しいんです。頼めますか?アストナージさん。」

「おう、任せな!あとでパインサラダ奢ってくれよな!」

「それ、アンタにとって不吉なものなんじゃ・・・。」

「好きなものなんだから別にいいだろ!それじゃあな!!」

 

キラさんから頼まれ、シンさんからは微妙な顔をされたアストナージさんと呼ばれたリーダー格の人は別に気にしない様子で他の自動車部の人たちを引き連れて倉庫から出て行った。

私は手の空いていたアスランさんに尋ねることにした。

 

「あの、さっきのアストナージさんとパインサラダは一体なんの関係が・・・?」

「あの人はどうにもパインサラダを食べたりその単語を口にすると不幸が起きるらしい。」

「・・・・ブロックワード?」

「・・・・そんなところだな。」

 

アスランさんと話したあと、キラさん達とは別れて、私は先ほどのヒイロさんがいるグループに来ていた。

そのグループに来て、最初に挨拶をしてくれたのはグループのリーダーのような人だった。

 

「一年生の澤 梓です!!ほかのみんなからは『シロー』と呼ばれています!よろしくお願いします!」

「い、いや・・・私はまだやるって決めたわけじゃないから・・・。」

 

その人の暑苦しさに思わず引いているとその一年生のグループと思われる人達が集まってくる。その中には先ほど私に助言をしてくれたヒイロさんこと阪口 桂利奈さんもいた。

 

「シロー、お前の暑苦しい自己紹介はそこまでにしておけ。彼女が困っている。」

「す、すまない。いつもの癖で、つい・・・。」

「まぁ、それがあなたの素晴らしいところでもあるんですけどね。」

 

そう言ってくれたのはすごく大人しく不思議な印象を受ける丸メガネをかけた金色のツインテールの人と薄茶色のショートカットの人だった。

 

「丸山 紗季だ。『トロワ』とでも呼んでくれ。もっとも個人としてはどちらでも構わんが。」

「大野 あやと言います。みんなとは昔からの馴染みのようなものでして。『カトル』と呼んで頂ければ結構です。」

「あ、はい。よろしくお願いします・・・・。西住 みほです。」

「西住さんですか・・・。貴方も同じように戦車道をですか?」

「い、いえ、私は・・・・・。」

 

カトルさんからそう問われ、私は思わず表情を沈めていた。思い出すのは自分が黒森峰に在籍した時の最後の試合。流されそうになっていた車輌を助けに行き、それが原因で試合に負けてしまった光景。

今に思えばどうしてあのようなことをしてしまったのだろう・・・。

 

「・・・ごめんなさい。どうやら辛い質問をしてしまったようですね。」

「あ、いや、そのーー」

 

そんな自分の表情を察してしまったのか、カトルさんが申し訳なさげな顔を浮かべる。

咄嗟に弁明しようとするがーー

 

「よう!!何やってんだアンタ?そんなしけた顔してないでさ、笑ったらどうよ?」

 

快活な掛け声とともに黒髪のショートボブの人が話しかけてくる。彼女の隣には困り顔の発育の良さげな体を持った少しばかりボサついた黒髪ロングの人もいたが、その時の私は突然、見知らぬ人に話しかけられたことに私の頭は軽いパニック状態になりかけ、何も返さないでいた。

 

「ガロード・・・西住さんはちょっと込み入った事情があるみたいだから少しは気を使ったらどうかな?」

「そんなん関係なくね?ぶっちゃけそれだったらむしろ溜め込まないでさっさと吐いた方がいいんじゃないの?溜め込みすぎっとそのうち潰れるぜ?」

 

ジトっとした視線をガロードさんに向けるカトルさんだったが、当の本人はどこ吹く風といった様子で私の目を見ながらそういってくる。

溜め込みすぎると潰れちゃうか・・・。確かにそうかもしれない。あの試合が終わったあとの自分はひどいことを言われるのが怖くて、だれとも話そうとせずにふさぎ込んでいた。それこそ、自分のことを思ってくれていたであろう大事な人すらも。ガロードさんの言葉は妙に自分の中にすんなりと溶け込んだ。

 

「・・・ガロードさん。ありがとうございます。でも、これは私自身の問題なので、自分でなんとかするつもり、です。」

「・・・・そっか。アンタがそういうんならそれでいいさ。こっちはこれっぽちも無理に話させるつもりはないからさ。」

「ところで、沙織さんが言っていたガロードさんは貴方ですか?」

「そっか。アンタ、ジュドーと同じクラスなのか。」

 

ガロードさんが何か納得した表情を浮かべると元気が満ち溢れた笑顔を向ける。

 

「宇津木優季。ほかのみんなからはガロードって呼ばれてるぜ。よろしくな。んでこっちがロラン。まだ自己紹介してないよな?」

「あ、やっと会話に入れた・・・。よかったー・・・・。えっと、山郷 あゆみです。みんなからは『ロラン』って呼ばれています。よろしくお願いしますね。」

「で、あとはヒイロなんだけど、おーいヒイロー!!お前そんなぶっきらぼうでいないでさー、こっちで挨拶の一つくらいしたらどうだー?」

 

そういいながらガロードさんが無理やりヒイロさんの手を引っ張ってきた。いつのまにか引っ張られている彼女の後ろからロランさんが押していたからヒイロさんは観念したような表情をしながら私の前に引きずり出される。

 

「・・・・阪口 桂利奈だ。よろしく。」

「よろしくお願いします。えっと、さっきはありがとうございます。」

「・・・お前が気にする必要はない。」

 

ヒイロさんはそれだけ言うとまたどこかへ行ってしまった。

 

「はぁー・・・悪いな、ヒイロの奴、もう少し表情柔らかくなんねぇかなー・・・。」

「こればっかりは彼の性格だから仕方ないよ。ガロードだって、ヒイロが本当は優しい人だって言うのはわかっているはずだよ。」

「それはそうだけどさー・・・。」

 

呆れたような表情を浮かべるガロードさんにロランさんが少しばかり笑みを含みながらガロードさんを宥める。

 

「す、すんません!!遅れましたぁっ!!」

 

戦車倉庫に誰かの声が響く。咄嗟にそちらの方へ顔を向けるとそこには水兵の服装をした人たちが五人立っていた。

ただ、若干1名ほど筋肉隆々な女の人に俵のように抱えられていたけど。

 

「トビア、遅いぞ。」

「ほ、本当にごめんなさい・・・。刹那が言うこと聞かなくて・・・。」

「くっ!!離せウーフェイ!!私は奴らとわかり合わなくてはならないっ!!」

「刹那、頼むから落ち着いて・・・。」

「刹那、君のわかり合おうとする気持ちは尊敬に値する。だが、成すべきこともやろうとせず皆の行動を阻害することは万死に値する。大人しくしておくのだな。」

「ティエリアの言うことに一理ある。刹那、今は黙っているんだな。」

 

 

柚子先輩がそのグループの先頭に立っていたロングコートとロングブーツを履いてる人を咎めるとその人は反省するようにため息をついた。

 

「あの・・・あの人達は・・・?」

「ああ、あの集団は船舶科の人たちだ。学園艦の下の方でBARをやっている。」

 

私の疑問に冷泉さんが答えてくれる。BARって、お酒を飲むところだよね・・・!?

未成年である私達が飲むはおろか、経営するなんてやっていいのかな・・・!?

 

「まぁ、BARと言っても建前だがな。蓋を開けてみればただの健全なレストランだ。」

「そ、そうなんですか・・・。」

「一度、行ってみるか?道中素行の悪い生徒と鉢合わせるかもしれんが、それを止めるのも彼女らの仕事だからな。」

 

冷泉さんの言葉に私は思わず首を傾げてしまう。それに気づいてくれたのかどうかは定かではなかったけど、冷泉さんはあの人達に対する説明を続ける。

 

「いわば、裏方専門の風紀委員会のようなものさ。この学園艦は無駄に広いからな。風紀委員長一人では手が回らないことも多い。そのための彼女らだ。」

 

そう言うと冷泉さんは一人一人口頭で紹介を行ってくれる。

まず、さっき柚子先輩に怒られていたのが、海賊みたいな服装をしたリーダーがトビアさん。

 

それで一番背が高く、筋肉隆々な人がウーフェイさん。中国拳法が得意らしい。

 

そのウーフェイさんにマイクを持ちながら俵のように担がれながら暴れている綺麗な水色の髪をした人が刹那さん。他の人とわかり合うことを使命のようにしているらしい。

 

その刹那さんの下で呆れたような表情を浮かべているのが、アレルヤさんとティエリアさん。それぞれ赤いアフロヘアーというすごく目立つ髪型をしているのがアレルヤさんで少しばかり目の座った金髪の中性的な顔だちをした人がティエリアさん。

 

「す、凄い濃い人たちですね・・・・。」

「まぁ、みんないい奴だからな。そんなに邪険にしないでやってくれ。」

「は、はぁ・・・・。」

「それでは各班に分かれて戦車の捜索だ。総員、直ちにかかってくれ。」

『了解っ!!』

 

会長の言葉にみんなが軍人みたいに返答するとそれぞれグループに分かれて散って行った。

 

「・・・・私はカミーユ達と一緒に行くが・・・君はどうする?」

「・・・・・学校が廃校になると聞いてしまった以上、私だけぬけぬけと逃げる訳にはいかないので・・・行きます・・・。」

「・・・・無理はしないようにな。胃が痛くなりそうだったら素直に頼ってくれて構わない。」

「・・・その時はよろしくお願いします・・・。」

 

冷泉さんの言葉でなし崩しのような形で私はもう一度戦車道に復帰することになってしまった。

ただ、私の直感のようなものがひたすらに告げていた。

 

・・・・あれ、この人達さえいれば、私、いらなくない?

 




盛大に何も始まりません。むしろ続けようがありません。だって皆さんの脳内には彼女?らが無双していく様子しか写っていないはず・・・。


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ガンダム(キャラが)無双(していく話) 第2話

続いてしまった(白目)


「とりあえず、キラのエコーロケーションの指示通り、一通り探してみたが・・・・。」

 

アムロさんがみんなが探してきてくれた戦車の有様を見て、困ったかのような表情を浮かべる、黒髪を軽く弄り始める。

まぁ、それも無理もないと思う。みんなが集まった倉庫にあったⅣ号戦車の他には確かに戦車はあった。それもキラさんが示した場所にしっかりとあった。

それはそれでキラさんが置いた機械の精密さに舌を巻いていたんだけど・・・・。

 

「いやー・・・・。これはないでしょ。」

「それな。これじゃあ動くかどうかも定かじゃないぜ。」

 

ジュドーさんとガロードさんも見つけた戦車を見て引きっつらの笑みを浮かべてしまう始末であった。

なにせ、残っていた戦車の場所がそれぞれ中々奇抜な場所だったのだ。

 

「それぞれ一体どこにあったんだ・・・?」

「えっと確か・・・駐車場と池の底と、森の中に兎小屋の中・・・?」

 

アスランさんが疑問気に出した言葉にシンさんが戦車を見つけ出した場所を一箇所一箇所、指を折りながら数え始める。

うん、そこまではいいんですけど。兎小屋の中は百歩くらい譲ってだけど・・・・。

 

「泥沼の中に・・・・崖の洞窟の中、これに至ってはドモンがいなきゃ割と厳しかったな。」

「確かにな。いつもはあの怪力には脅かされてばかりだが、今回ばかりは感謝の念しかでないな。」

「あの・・・風紀委員長さんがどうしたんですか?」

 

何故そこでドモンさんの名前が挙がったのかよく分からなかったためお二人に聞いてみることにした。

私の疑問に二人はある戦車を指差した。それは八九式中戦車だった。

 

「崖の中で見つけたのあの戦車だったんだけど、普通に降ろそうとすると危なかしかったから、会長の指示でドモンに頼んだ。」

「えっと、頼んだって言うのは・・・・?」

「ここまで持ち運んでもらったんだ。一人でな。」

 

シンさんに向けた質問をアスランさんが答える。しかし、アスランさんから飛び出た言葉は思わず耳を疑ってしまった。

だって戦車を一人で運ぶなんて・・・・ねぇ・・・?

八九式中戦車は確かに中戦車だから重量は戦車の中では軽い方だ。

 

だけど、それでも10トン以上はある。到底人に持ち上げられる重さじゃないけど・・・・。

 

「さ、流石に嘘ですよねぇ・・・・?」

 

乾いた笑みを浮かべているシンさんが突然どこかに向けて手を振り始めた。そのシンさんの視線の先を追ってみるとドモンさんがいた。多分、直接聞くつもりなんだと思う。

シンさんの視線に気づいたのかこちらを一目したドモンさんは軽く首を傾げながらこちらに近づいてきた。

 

「どうかしたか?」

「いや、さっきはありがとな。あの戦車を運んでくれて。」

「なんだ、そのことか。あの程度であれば朝飯前だ。気にすることはない。」

 

・・・・・朝、飯、前?

戦車を持ち上げたんですか?お一人で?いやいやいやいやいや、いくら教室の壁を破壊していたとはいえ、戦車を持ち上げるなんて・・・。

 

「だが、あの戦車を持った状態であの崖を飛び降りるのは準備運動にはちょうどいいかもしれないな。脚の筋肉の目覚ましにはなるだろう。」

 

なんなのこの人・・・・・?戦車を持ったまま崖を飛び降りる?え、それが準備運動?どう考えても死にますよね。それ。

 

ドモンさんの軽く口角をあげながら言った言葉に私は開いた口が塞がらなかった。

まさに余裕淡々といった様子で佇んでいるドモンさん。

ほ、本当にやっちゃったんですか・・・・・?

 

 

「用は済んだか?すんだのであれば俺はウーフェイと組手をしてくるが・・・・。」

「ああ。サンキューな。」

 

シンさんがお礼を述べるとドモンさんは倉庫の外へと出ていった。

 

「・・・・驚くのも、無理はないだろう。私達だっていつもドモンには驚かされてばかりだからな。」

「は・・・・はい。」

「で、シン。あとはどこにあったんだ?」

 

アスランさんが私に気を使うような発言をしてくれる。やっぱり私以外にもちゃんとドモンさんに異常さを感じ取っている人はいるんだ・・・・。

でも、そのあとの切り替えの速さからもうアスランさんも結構慣れているんだなぁと感じ取ってしまう。

 

「・・・・なんか体のいいように使われているきがするけど、まぁ、いいか。確かトビア達がやっているレストランの中にもあったな。」

「ああ。あそこか。薫製機のような使われ方をされていたんだったか?」

「そんな感じだったな。だからあそこのは除外した。」

「まぁ、仕方がない、か。料理人にとって、料理器具は命だからな。」

「せ、戦車が料理器具・・・・。そんな感じに使っているなんて、聞いたことがありませんよ・・・・。」

「この間まで戦車とは全く無縁だったんだ。これくらいは目をつぶってくれ。」

「そ、そうですね。」

 

アスランさんからの言葉に頷いていると、ふと気になったことを聞いてみることにした。

 

「そういえば、アストナージさん達に頼んだ一番反応が大きい戦車ってどうなったんですか?」

「・・・・そういえばそうだったな。誰か、知っているはいるか?」

「ああ。それなら作業工程でミスがあって落っことしたって聞いたな。またパインサラダ関係かってみんな言ってたぜ。」

 

アスランさんが倉庫にいる人たちに向けて聞いてみるとガロードさんが顎に手を当てながらそう言った。

 

ほ、本当にパインサラダはあの人にとってブロックワードだったんだ・・・・。

 

「そ、それでその戦車はどうなったんですか?」

「ちょっと壊れたらしいが、アストナージさんなら大丈夫っしょ。最悪、ロウ辺りがジャンクパーツ組んでなんとかしてくれる。それよりもこれ洗った方がいいんじゃない?泥だらけだったり埃まみれでひでぇもんだぜ?」

 

ロウさんという初めて聞く名前が出てきたがガロードさんの言う通り見つけてきた戦車はどれも汚れが目立っていたから確かに洗う必要があるだろう。

 

「そう言うだろうと思ってホースを持ってきた。アストナージ達が戻ってくるまでできることは私達で済ませてしまおう。」

 

声のした方向へ振り向くとアムロさんがホースを抱えながら持ってきていた。

 

「さっすがアムロさん!!さっさとみんなでやろうぜ!!」

 

ジュドーさんが満面の笑みを浮かべながらアムロさんからホースを貰うと水源の蛇口にホースを取り付け、埃まみれだった戦車にむけて水を噴射する。

 

「西住さん、私がホースを取り付けておくから、他のみんなを呼んできてくれないか?外で暇をしているだろうからな。」

「あ、はい。」

 

アムロさんからの頼みを承諾した私は外へ出て、他の皆さんを呼び戻そうとする。

ドモンさんとウーフェイさんは組手をしているとか言っていた。外に出てみると他の人たちはみんな揃ってドモンさんとウーフェイさんの組手を座って見ていた。

 

「とぉぉりゃぁぁぁぁぁ!!!!」

「はぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

・・・・・はっきり言って、おふたりの組手はレベルが違いすぎました。だって2人がぶつかり合うたびに周囲に衝撃波みたいなのが見えちゃうんです。

しばらく唖然とその組手を見ていたらウーフェイさんが弾き飛ばされた。人が吹っ飛ぶだけでもとんでもなかったが、ウーフェイさんはそれを防ぎきったように見える。しかし衝撃はやっぱり凄まじかったのか力尽きた様子で片膝をついた。

 

「また腕を上げたな、ウーフェイ。いいファイトだった。」

「ちっ、それでもやはり貴様にはまだまだ及ばんらしいがな。」

 

ドモンさんがウーフェイさんを讃える言葉を述べる。それにウーフェイは少しばかり不機嫌そうな言葉で返すが、表情にはそのようには見えず、むしろ晴れやかなものだった。

 

「おや、西住さんじゃないですか。どうかしましたか?」

「あ、カトルさん。えっと、アムロさんが戦車を洗うからみんな来てくれって言ってましたよ。」

 

カトルさんが私に話しかけてきた。ちょうどよかったからカトルさんに伝える形でみんなに呼びかけることにした。

 

「成る程、わかりました。それと、僕のことはカトルと呼び捨てで結構です。貴方より学年は一年下なのですから。」

「ご、ごめんなさい・・・・。中々そう言うのは苦手で・・・・。」

「そうですか・・・申し訳ありません。気が利かなかったようで・・・。」

「い、いえ!!そんなとんでもないです!!」

 

カトルさんが笑いながらも謝ってきたことに対して私は思わず自分の胸の前で手を振りながら遠慮を露わにする。

私の反応が少しばかり面白かったのか、カトルさんはかけていたメガネを軽くあげるとツインテールを揺らしながら私から見て奥の方へいたドモンさん達の方へ向いた。

 

「みんな!!戦車を洗うから一度、倉庫へ戻ろう!!」

 

カトルさんがそう呼びかけるとドモンさんとウーフェイさんの組手を観戦していたみなさんは、ゾロゾロと倉庫へ戻っていった。

 

みんな本当に仲がいいんだなぁ・・・・。

 

私はなんとなくみんなのその様子を見て羨ましく思うのだった。

そして、脳裏に思い浮かんだのは、何も言わずに出て行ってしまった黒森峰での唯一の友人だった人。

 

・・・・たぶん、怒っているだろうなぁ・・・エリカさんは結構怒りっぽいところがあるから・・・。

 

「・・・・西住さん?」

 

ふと呼びかけられた声に振り向くとバナージさんが少し心配そうな表情を浮かべながら私を見ていた。

もしかしたら、さっき自分が考えていたことが顔に出ていたかもしれない。咄嗟に表情を笑顔に変え、何事もなかったように振る舞おうとする。しかし―――

 

「何か、辛そうだったけど、大丈夫?」

 

私が何か言おうするより早く、バナージさんが口を開く。

しまった。やっぱり顔に出ていたらしい。

 

「ううん。大丈夫。少し昔を思い出しただけだから。」

「・・・・・何か辛そうだったら、すぐに頼ってくれて構わないよ。誰だって辛いことはなにかしら抱えて生きている。それにみんな、君が何か抱えてしまっていることはわかっているから。」

 

バナージさんの言葉に思わず表情を驚いたものに変えながら倉庫の方へ振り向く。

そこにはさっきまで談笑していたり、戦車を洗っていたはずのみんなが揃って私の方を向きながら軽く笑顔を浮かべていた。ヒイロさんは無表情だったが。

 

「君が前の学校で何があったのか、こちらから聞くことはしない。それは君があまり聞いて欲しくないことだと思う。だけど、私達はいつだって君の味方だ。」

 

バナージさんからそういわれ、私はもう一度彼女の方へ振り向いた。

 

「あの、私、そんなにわかりやすかったですか?」

「そんなことはないよ。ただ、人より察しがよすぎる人が集まっているからね。」

 

思い返せば、カミーユさんやジュドーさんも私が戦車道に対して良くない感情を抱いていることを見抜いていた。

 

「シャアもそこら辺はわかっていたんだろう。だから君を無理に誘おうとはしなかった。そうだな?シャア。」

「・・・・否定はせんよ。ただ本人がやりたくないのであれば誘わん。ただそれだけのことだ。」

 

アムロさんがそう言うと会長さんの声が倉庫に響いた。倉庫の入り口の方を振り向くとシーブックさんとウッソさんを引き連れて、会長が腕を組みながら立っていた。

 

「あの、もしかして―――」

「知っている、とだけは言っておこう。だが、それを知っているのは私や生徒会を含め、アムロくらいのものだ。まぁ、勝手に調べてしまった者もいるが。」

 

勝手に調べた人もいるんですか・・・・まぁ、ゴシップにも掲載されたような気もあったから少し調べればわかってしまうと思うけど・・・・。

 

 

「そういえば、戦車を探そうとなった時から生徒会の姿が見えなかったような気もするが、何をしていたんだ?」

「あ、そういえばそうですね。シーブックさん、何やってたんですか?」

 

アムロさんの質問にトビアさんが疑問に思いながらも何故かシーブックさんに質問をぶつけた。どうしてシーブックさんなんだろう?

 

「実はシーブックさんは二年生の時はパン屋を出していたんだ。それこそ、トビア達のレストランと同じ場所でね。」

「え、トビアさんのレストランって・・・学園艦の下の方でやっているって言う・・・。」

 

バナージさんがシーブックさんについて驚きの情報を出してくれた。あんなにいい人そうな人が学園艦の下の方にいたなんて・・・・。

 

「いわばトビア達はシーブックさんの後継者みたいなものだよ。みんなシーブックさんの世話になっていたらしいからね。」

「なるほど・・・・。」

 

バナージさんの言葉に納得といった表情を浮かべていると会長さんが何かみんなに向けて話していた。内容に耳を傾けているとこんな言葉が聞こえた。

 

「私達が席を外していたのは練習試合の申し込みをしていた。全国大会までは期間がそれほどないからな。結果から言えば、練習試合を受けてくれる学校はあった。」

 

え、練習試合組んだんですか!?まだ戦車に触ってすらいませんよっ!?

ただ、驚いた表情を浮かべていたのは私だけだった。周りを見渡してみても驚いた様子を見せている人は誰一人としていなかった。ただ、会長の次の言葉を待っている、そんな感じだった。

 

「相手は全国大会の常連校、聖グロリアーナ女学院だ。試合は三日後だが、慣らし運転なら余裕だろう。」

「十分だな。あとは各戦車に誰が乗るかだが・・・・。」

「それは任せる。我々は寄せ集めだからな。変に縛るより各々の感性に頼った方がいい。」

「それもそうか。」

 

会長とアムロさんの会話が行われていく中、私は自由すぎるその方針に破顔していた。

だって慣らし運転は三日で十分とか、およそ初心者が言えることではないからだ。

 

「あ、あのっ!!」

「ん?西住君、どうかしたかな?」

「み、皆さん、まだ初心者ですよねっ!?」

「まぁ、分類的にはそうなるだろう。」

 

思わず私は会長さんに掛け合った。私の驚いた様子と違って会長の表情は特にこれといったものは感じられない。

 

「会長は私が、戦車道をやっていたことはご存知なんですよねっ!?」

「そうだな。」

 

「でしたら、私が隊長をやってもいいですかっ!?その、なんかみんな危なかしくて・・・。」

「む、そうか。君がやってくれるのか。私個人としては隊長はアムロ辺りで別にいいかと思っていたが、経験者である君がやってくれるのであれば、話は別だ。」

「そ、それなら・・・。」

「ああ。君の好きなように部隊を動かすといい。君の指示に我々は全力で応えるだけだ。」

「あ、ありがとうございますっ!!」

 

よ、よかった・・・。これで当面の危機感とかはなんとかなりそう・・・・。

そう胸を撫で下ろしているとアムロさんの不安そうな表情が目に入った。

そっか。アムロさんは会長さんから私の転校の経緯を知っているんだっけ・・・・。

 

「西住、良かったのか?君は―――」

「だ、大丈夫、大丈夫ですからっ!!」

「・・・・そうか。ならいいんだが。」

 

アムロさんの言葉に無理やり重ねる形で遮ってしまうが、私はこの大洗女子学園の隊長になりました。

なった理由は、この人たちに好き勝手やられたら、戦車道の概念が崩れるような感じがしたから。

 

「それでは、まずはそれぞれの戦車の搭乗員を決めます。えっと、見つけた戦車は確か―――」

 

何を見つけたか思いだそうとすると、視界の端に紙が差し出されたのが見えた。

 

「はい、これ見つけた戦車のリスト。まとめておいたけど、詳しい戦車の特性は君の方が知っているだろうからね。」

 

紙を差し出してきた人の正体はキラさんだった。私がお礼を言いながらその紙を受け取るとそこには見つけた戦車の名前が記されてあった。

 

「えっと、Ⅳ号戦車、八九式、38(t)Ⅲ号突撃砲、M3、ルノーB1bis、三式中戦車、それとポルシェティーガーが一番火力があるけど・・・・。」

 

うーん、全体的に火力が足りないなぁ・・・・・ポルシェティーガーが最高火力なんだけど、これは確か結構曰く付きだったような・・・主にエンジン部分が・・・。

 

「火力が足りないと言ったところか?」

「はい・・・。それどころか装甲もそれほど分厚くない車輌が大半です。私達の練習試合の相手である聖グロリアーナはイギリス戦車が中心で、確か使っていたのは、マチルダⅡとかその辺りだったかなぁ・・・。とりあえずこちらは一発でも当てられたら終わりですね。」

「なら、当たらなければいいだけだな。」

「はい、そうで―――はい?」

 

冷泉さんの言葉に思わず二度見してしまう。当たらなければいい?まぁ、たしかにその通りですけど・・・・。

 

「それができたら苦労しませんよ・・・・。」

「隊長ー。一つ聞いていいか?」

 

苦い顔を浮かべているとデュオさんが手をあげながら質問の許可を取ってくる。

 

「あ、はい。何ですか?」

「そのポルシェティーガーってやつが一番火力あるのか?」

「そう・・・ですね。ルノーB1bisも重戦車なのでない訳ではありませんけど、やっぱりポルシェティーガーの88mmには及びませんね。」

「なら、ウチら風紀委員組をそのポルシェティーガーに回してくんねぇか?どうせ砲弾もそれなりに重いんだろ?だったらウチの筋肉委員長が適任だろうよ。装填手にはさ。」

 

た、確かにドモンさんの筋力であればポルシェティーガーの砲弾を持つことは容易いですね・・・・。

 

「わかりました。それならポルシェティーガーは風紀委員の皆さんでお願いします。」

「りょーかいっと。」

「オーライ!!任せな!!」

「わかった。」

 

それならあとはほかの戦車だけど・・・・どうしようかな・・・はっきり言って私はみんなのことを知らなすぎるし・・・・。

 

「あの、皆さんにはデュオさんのように何か要望とかあったりします?」

「ってもなぁ・・・・正直に言ってなんでもいいの一点張りだよな。」

「ですよねー。」

 

ジュドーさんが微妙な表情を浮かべながらそう言ってくる。確かにジュドーさんの言う通り、私はみんなの個性を知らないし、それに対してジュドーさん達は戦車の知識はほとんどないと言っても過言ではない。

他のみんなもうんうんと頷いたりしていて、思った以上に難航しそうだった。

思ったより大変だなー・・・・・。どうしようかなー・・・・。

 

 




そういえば、登場人物の名前ですが、元のキャラクターの名前の方がいいですか?それともガンダムキャラの名前でいった方がいいですかね?


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ガンダム(キャラ達が)無双(していく話) 第3話

めちゃくちゃ久しぶりなのにこの前と比べて文字数めっちゃ少ないけど、許してクレメンス。

追記>>>

まずは前話にて大洗チームの面々の呼び名についてですが、西住ちゃん目線で話を進めていくにあたって、原作キャラの上にガンダムキャラのルビを振っていくことにしていくことにしました。
みなさん、遅くなりましたが、感想でご意見くださった方々ありがとうございました


「・・・・・・・なんなの、この人達・・・。」

 

どうも、皆さんお久しぶりです。西住みほです。現在、私は今、阪口(ヒイロ)さんに殺害予告をされた人のような表情を浮かべながら唖然としています。

 

・・・どうしてそこで阪口(ヒイロ)さんの名前が出てくるか、ですか?

 

なんというか、そういうのが似合いそうなんですよねぇ・・・・。お前を殺すとか言わせたらかなり役にハマってしまうんじゃないんですかね?

 

それはそれとして、私が唖然とする羽目になるきっかけとなったのはみんなでどの戦車に搭乗するのかを決めた時でした。

 

私たちの乗れる戦車は、Ⅳ号戦車、38(t)、M3リー、八九式、三式中戦車、Ⅲ号突撃砲、ルノーB1bis、そしてポルシェティーガー。

ポルシェティーガーは自動車部の人たちが落としちゃったそうだけど、風紀委員会の人たちが乗ってくれるそうだからこれは除外して・・・決めなきゃならないのは7輌になる。

 

しかし、やはりというかなんというか、みんな戦車に関しての知識はからっきしなのでどの戦車がどういう性能を持っているのかは見当がついていない様子だった。

 

そのため、会長さんの指示でひとまずクラスメートはクラスメートでなど、学校での繋がりを元に搭乗員を決めることにした。

その結果―――

 

Ⅳ号戦車

 

車長 西住 みほ

通信 武部 沙織(ジュドーさん)

砲手 五十鈴 華(カミーユさん)

装填 秋山 優花里(バナージさん)

操縦 冷泉 麻子(アムロさん)

 

なんだか一箇所に集めちゃいけない人達を集めてしまったような気がするのは気のせいだと思いたい。みんなもそう思うよね、そうだよね。信頼できる人達を置いたはずなのに妙にやらかし度合いがとても高いって感じるのはなんで?

・・・・・そういえば、みんなって、私一体誰に聞いたんだろう。

 

38(t)

 

車長兼砲手 角谷 杏(クワトロさん)

装填 河嶋 桃(ウッソさん)

操縦 小山 柚子(シーブックさん)

 

 

チェコ製の戦車、38(t)には会長さんを中心にした生徒会の人達が乗ることになった。車長と操縦手の二人は置いておいて、なぜか装填手に落ち着いた河島(ウッソ)さんにこれほどない安心感を抱いてしまったのは後で謝ろうと思った。

 

M3中戦車リー

 

車長 澤 梓(シローさん)

通信 宇津木 優季(ガロードさん)

砲手 丸山 紗希(トロワさん)

装填 山郷 あゆみ(ロランさん)

副砲手 阪口 桂利奈(ヒイロさん)

操縦 大野 あや(カトルさん)

 

 

主砲と副砲と砲塔が二本あるため必然的に搭乗員が多くなってしまう戦車なため、各々のコミュニーケーションが試される戦車だけど、そこは一年生のみんなに任せることにした。

ちなみに通信手をやっている宇津木(ガロード)さんだけど、彼女には副砲の装填手も兼任してもらうことになっている。

それと操縦手になっている大野(カトル)さん。最初こそ副砲手だったんだけど、自信があまりないから阪口(ヒイロ)さんに代わってもらったらしい。

 

 

ポルシェティーガー

 

砲手 金春 希美(ニールさん)

装填 園 みどり子(ドモンさん)

操縦 後藤 モヨ子(デュオさん)

 

風紀委員会の人達が乗ることになったポルシェティーガー。ちなみに結構デリケートな戦車なため、運転には気をつけてほしいという旨を後藤(デュオ)さんに伝えたら、『壊れたら委員長が物理的に運んでくれるだろうからあんま気にしなくていいんじゃね?』って言っていました。は?(迫真)

もう風紀委員長(ドモン)さんだけでいいような気がしてきました。

助けてお姉ちゃん。転校した先にゴリラならぬゴジ○が居ました。

 

 

 

Ⅲ号突撃砲

 

車長 お銀(トビアさん)

砲手 フリント(刹那さん)

装填 カトラス(ティエリアさん)

操縦 ラム(アレルヤさん)

 

 

Ⅲ号突撃砲にはカワカミ(ウーフェイ)さんを除く、船舶科の人達が搭乗することになった。ちなみに車長のポジションに入ったお銀(トビア)さんは『本来このポジションにいるのロックオンさんじゃないんですかっ!?』って凄く面倒くさそうな表情を浮かべながら金春(ニール)さんに詰め寄っていたけど、『おいおい、私に問題児達を押し付けんじゃねぇよ・・・・。』と困り果てた様子でやれやれと肩をすくめていた。

フリント(刹那)さんはともかくカトラス(ティエリア)さんとラム(アレルヤ)さんは何が問題なんだろう?

 

「それは、お前さんもそのうちわかるさ・・・・。マジで辛えからな。アイツらの相手。」

「ア、ハイ・・・・。」

「まぁ・・・アイツらのことで何かあったら遠慮なく頼ってくれ・・・。援護射撃ぐらいは出すからよ。」

 

金春(ニール)さんが私の肩を優しく叩きながらそう言ってきた。その目は凄く、ものすごく沈んだものだった。多分、深くは突っ込んではいけないのかもしれない。

 

 

ルノーB1bis

 

 

車長 桃賀 正美(アスランさん)

装填 カワカミ(ウーフェイさん)

砲手 猫田 大和(キラさん)

操縦 飛鳥 雛子(シンさん)

 

 

重戦車であるルノーB1bis。この戦車には猫田(キラ)さん達機械に強い面々にカワカミ(ウーフェイ)さんを交えた混成チームになってしまった。

少しばかり不安があったが、猫田(キラ)さんとカワカミ(ウーフェイ)さんが―――

 

「ウーフェイ、装填よろしくね。僕たち、揃いも揃って筋力に乏しいから。」

「いいだろう。俺が装填をして―――」

「僕が撃つ!!なんてね。」

 

と、仲睦まじげに会話しているのを見て、この人たちは本当にお互いをお互いに信頼しているんだなってことを実感する。

 

 

と、一応今いる人員の配分は終わったんだけど、やっぱり人数が少ないからいくつかの戦車が余ってしまったがそれは目を瞑ることにした。仕方がない。人数少ないんですから。

そして、さきほど決めたメンバーと戦車で練習をすることにした。時間もそれほどなかったため、行進と砲撃演習をすることになったんだけど・・・・ここからなんですよね。私が唖然とすることになった原因・・・・。

 

行進はまぁ・・・初めてって言うのもあってバラバラだった。みんな普通に動かせていたけど。

それはいいんです。うん。私の想定内でしたから、もちろん。むしろちょっと説明しただけで完璧に把握してくれて嬉しい限りです。(感覚麻痺)

 

ただ、問題は砲撃練習の時なんですけど・・・・。みんな揃いも揃って百発百中ってどうなんでしょうか?

 

どんなに距離を取ったり角度を変えたりしても目標へ着弾させるのは当たり前、ひどい時は着弾地点が同じ場所を捉えすぎて、付近に落ちていた砲弾を見つけなければ一回しか当ててないって勘違いしてしまうほどであった。

 

ちなみにそれをやってたのは阪口(ヒイロ)さんとフリント(刹那)さん、そして五十鈴(カミーユ)さんと会長(クワトロ)さん。

 

他には金春(ニール)さんがポルシェの代わりに乗った三式中戦車で3キロ先から的を完璧に撃ち抜いた時も思わずびっくりした声を上げてしまった。

 

初心者・・・・?初心者とは・・・一体・・・・?

いけない。考えたら考える程 思考を放棄しちゃいそうです。

助けてエリカさん、ここの人たちはみんな人外に片足突っ込んでいる人たちでいっぱいです(名推理)

 

 

 

「一通り、やっては見ましたけどやっぱり戦車は勝手が違いますね・・・。砲弾の落ちる角度まで考えないとうまく当てることすらままならないです。」

「ああ、そうみたいだな。それに戦車の行進に関してもまだ拙いところが多々ある。そこら辺はうまいこと調整をかけていくしかないだろうな。」

 

練習が終わったあと五十鈴(カミーユ)さんと冷泉(アムロ)さんが悩ましげな表情を浮かべながらそう話し合っていた。

その会話の内容に思わず目を見開くしかなかった。だって外した弾は一個もなかったのにすっごく悩ましげな表情を浮かべていたんですよ?

唖然とするしかないでしょう、普通。

 

「西住?どうかしたのか?」

 

ふとした時に冷泉(アムロ)さんが私がいたことに気づいたのか声をかけてきてくれた。

どうしよう、練習終わったからどこか食べに行きませんか?って聞こうとしたのにおふたりの雰囲気からとてもじゃないけどそんなことは言えなかった。

 

「えっと、その・・・・。」

「ちょっとちょっとー!!アムロさんにカミーユさん、二人揃ってなーに怖い顔しちゃってんのさ!!」

「西住さん、怖がってますよ?張り詰めた雰囲気はあまり学校では似つかわしくありませんよ。」

 

憚られて、なんでもないですっていいかけた時、凄く大らかな笑顔を周囲に振りまきながら武部(ジュドー)さんと秋山(バナージ)さんがやってきた。その時の秋山(バナージ)さんが話した言葉に思わず私は体をビクつかせてしまった。

だってまるで心を見透かしていたかのように私の心情をピタリと言い当てたからだ。

 

武部(ジュドー)さんにそう言われたお二人は反省しているかのように苦々しい表情を浮かべながら視線を逸らしていた。

 

「むっ・・・すまない。考え事をしていると難しい顔をしてしまうのは昔からの癖でな・・・。別段、怖がらせるつもりはなかったのだが・・・。」

「私もです。怖がらせたことは謝るよ。それで西住さん、何かいいかけていた見たいだったけど・・・。」

「あっ、その、練習終わったから何かアイスでも食べに行きませんか?って思ったんですけど・・・。大丈夫ですか?」

 

五十鈴(カミーユ)さんに促されるように自分の願望を口にする。

内心、不安で一杯だったけど、お二人はお互い顔を見合わせ、頷くと朗らかな笑顔へと表情を一変させる。

 

「断る理由もないな。一緒に行くとしよう。」

「そうですね。私も同じ気持ちです。」

 

快諾してくれた二人に思わず嬉しい気持ちが溢れ出そうになった。こういう友達みたいなことはずっと憧れだったからだ。

 

「もちろん」

「私達もついていってもいいよな?」

「っ・・・はい!!」

 

秋山(バナージ)さんと武部(ジュドー)さんの提案に私は感情を露わにしながら大きく頷いた。

 

前言撤回、この人たち、揃いも揃ってとんでもない人たちだけど、みんな凄く優しい人達です。

 

 




八九式は倉庫番となりました。悲しみ。


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ガンダム(キャラが)無双(していく話)その4

前略。聖グロ戦、始まります!!

(これより彼女らが見せるは地獄か、はたまた屍産血河の戦車の残骸か。)

ちなみに一日クオリティなので、完成度はかなり低いです。


大洗で初めて戦車の訓練を行ってから早3日。大洗の市街ではお祭り騒ぎのような喧騒が飛び交っていました。

なにせ数十年ぶりの戦車道の試合が行われるそうなので、大洗の皆さんも自然と活気があふれてくるようです。

 

そして、記念すべき私たち大洗の初戦の相手が聖グロリアーナ女学院。全国大会の常連校であるかなりの強豪。

はっきり言って素人(?)同然の私たちにとっては過ぎた相手かもしれません。

だけど、隊長として立候補し、就任してしまった以上は出来る限りのことをやっていきたいと思います。

 

こちらの車輌はⅣ号戦車を筆頭に38(t)、M3中戦車リー、Ⅲ号突撃砲、ルノーB1bis、そしてポルシェティーガーの合計6輌。

 

ポルシェティーガーに至ってはあまり試合に出せるとは思ってなかったのだが、アストナージさんを筆頭とした自動車部が一日でやってくれました。

おまけに規則に書いていないからってモーターあたりもいじったようです。

そのモーターをフル稼働させた時のポルシェティーガーはすごく速かったです。(小並感)

 

そして、今回の相手である聖グロは濃い緑色の150mmの装甲を持つチャーチルやベージュ色のチャーチルより一回り小さい車体を持つマチルダが五輌の編成だった。

一回り小さいとはいえ、マチルダは十分にこちらの戦車を一撃で撃破できる火力は持っている。気をつけなきゃ・・・・。

 

「西住。大丈夫か?」

 

色々戦略を考えているところに背後から声がかけられる。驚いた表情をしながら後ろを振り向くと副隊長になってくれた冷泉さん(アムロさん)が立っていた。

その顔はどこか私を心配してくれているような顔を浮かべていた。

 

「そこまで気を張る必要はないと思うぞ。なにせ私達は初めての試合だ。まだ場数を踏んでいないにも関わらず、勝ち負けにこだわるのは私たちには早すぎる。」

 

・・・・言われてみれば、そうかもしれない。確かにみんなの実力はともかくとして、大洗にとって、この試合は初陣なんだ。勝ち負けはあまりこだわらない方がいいかもしれない。

だけど、その考えは私にとって中々飲み込めないものだった。

西住流、『撃てば必中 守りは固く 進む姿は乱れ無し 鉄の掟 鋼の心 』

 

その言葉がどうしても私の心の中で繰り返され、どことなく自分が自分で無くなるような感覚を覚えてしまう。

 

「でも、勝たないと、大洗が廃校になってしまうんですよ?だったら勝たないとーー」

「・・・・はぁ。」

 

冷泉さん(アムロさん)が深いため息をついた。それに疑問に思っているとーー

 

ズビシッ

 

「あいたぁっ!?」

 

突然冷泉さん(アムロさん)からチョップを叩き込まれる。突然の頭部への痛みに私は思わずチョップされた箇所を抑えながらうずくまる。

 

「な、何するんですかーーっ!?」

「全く、聞いていて呆れる。ここは黒森峰ではないんだ。それは君の心の中でちゃんと認識できているか?」

「え、えっと、そのぉ・・・・。」

 

完全に呆れているようにため息を吐きながら憮然と腕を組んでいる冷泉さん(アムロさん)の様子に思わず視線を逸らして苦い顔を浮かばせてしまう。

 

「そもそもとして、この試合はあくまで練習試合だ。負けようとも誰も君のことを責めたりはしないさ。それは私が保証する。そうだな、あまり私が言えた義理ではないが、君なりにこの試合を楽しんでみてはどうだ?一応、戦車道はスポーツなんだろう?」

 

軽く柔らかな笑みを浮かべながらそう言った冷泉さん(アムロさん)は陣地へと戻っていったーーと思ったら突然踵を返して私の方へ戻ってきた。

 

「・・・・そういえば、私は副隊長だから君と一緒に相手校の隊長と副隊長に挨拶に行かなければならないとシャアから聞いたのだが。」

「あ、そうですね。行きましょうか。」

 

冷泉さん(アムロさん)を伴って各校の戦車が整列している場へと向かう。ちょうど挨拶の場へたどり着いた頃合いに今回の審判の人が現れた。

 

『これより大洗女子学園と聖グロリアーナ女学院の試合を始めます!!両校の代表は前へ!!』

 

審判の言葉に促されるように前へ歩を進める。冷泉さん(アムロさん)も私の少し後ろをついてくるように歩き出した。

歩いているうちに向こうの聖グロの隊長の姿が見えてくる。金色に輝く綺麗な髪を後ろでまとめ、その瞳の中にある碧からは彼女がいかに気品に満ち溢れているかを否が応でも感じさせる。

彼女こそが、聖グロリアーナ女学院の隊長、ダージリンさんだ。

 

「今回はよろしくお願いしますわ。」

「・・・・はい。こちらもよろしくお願いします。」

 

ダージリンさんから差し出された握手をこちらもしっかりと握り返す。

副隊長である冷泉さん(アムロさん)は握手する相手がいなかったため、多分その様子を眺めていただけだと思う。

 

「中々、奇抜な編成をしていますのね。」

 

ダージリンさんは不意に視線を大洗の戦車に移すとそんなことを呟いた。

まぁ、そうですよね、そう思いますよね。だって統一性とか一切皆無ですもん。

 

「しょうがないだろう。こっちは寄せ集めもいいところなんだ。そちらのように統制はからっきしだ。」

「え、言っちゃうんですかっ、それっ!?」

 

冷泉さん(アムロさん)のカミングアウトに思わず目を見開きながら驚いた声を上げる。

それではこっちは弱いですって言っているようなものですよ!?

ほら、ダージリンさんもどこか笑いそうな顔をしていますし!!

 

「隠したところでどのみち明るみに出るだろう。だったら最初から包み隠さずに暴露した方が後々引きずらないさ。」

「ふ、ふふっ・・・・!!あなた、中々面白いことをするのね。」

 

笑いを必死に堪えているダージリンさんが冷泉さん(アムロさん)に視線を向ける。

 

「・・・・まぁ、退屈をさせない程度にはやってみせるさ。」

「でしたら、少しは期待させてもらいますわね。それでは。」

 

それだけ言うとダージリンさんは自身の陣地へと戻っていく。

その後ろ姿を少し見つめて、私と冷泉さん(アムロさん)も陣地へと踵を返した。

陣地に帰ってきた時、他の人たちは戦車に腰掛けて談笑に花を咲かせていたが、私たちが帰ってきたのを見ると、意識を切り替えたのか何も言わずに自身のあてがわれた戦車に乗り込んでいった。

その切り替えの速さに少し面を食らう私だったが、武部さん(ジュドーさん)がハッチから顔を出しながら忙しなく手を振っている様子を見て、急いで戦車に乗り込む。

Ⅳ号戦車に乗り込んで程なくして、試合開始を告げる破裂音が鳴り響く。

 

 

「全車、パンツァーフォー!!」

 

喉元につけたマイクにそう声を送るとばらつきはあれど大洗の戦車がキャタピラから駆動音を響かせながら前へ進んでいく。

 

まずは、こちらに有利な陣形を組み立てないとーーー

 

 

「各車輌、事前にお伝えしたポイントへ向かってください。そこで陣形を組み立てます。」

『了解!!』

 

受信機から各車輌の車長の声が響く。そのことになんとなく懐かしさを感じながら予め指定したポイントへと向かう。

 

しばらく戦車の振動に揺られていると長い谷に進んだ先に小高い丘があるポイントに差し掛かる。

今回の試合ではここに聖グロの車輌を誘き出し、集中砲火をかける。

単純だけど、一番効果的な戦法。その分、向こうには長い谷に差し掛かったところで看破される恐れもある。

何せ相手は全国大会の常連校、仮に突破されたとして、次はどうすれば・・・。

 

「西住さん?何か思いつめたような顔をしているけど、大丈夫?」

「え、あ、だ、大丈夫、です。」

 

秋山さん(バナージさん)に突然声をかけられ、思わず上ずった声を上げてしまう。これでは不安ですと言っているようなものではないか。

隊長としてみんなを不安にさせるような顔は見せられないというのに・・・・。

秋山さん(バナージさん)達も私の不安を感じ取っているのか、微妙な顔を浮かべてしまっている。

完全に私のミスだ。取り繕うべきかどうするかを悩んでいるとーーー

 

「なんだ、西住さんも十分初心者じゃないの。」

「どうやら、そう見るのが一番正しいのかもしれないな。」

 

思わずハッとした顔をしながら沈んでいた顔を上げる。そこには笑みを浮かべている武部さん(ジュドーさん)五十鈴さん(カミーユさん)の姿があった。

 

「私達は戦車の動かし方はマニュアルを見ただけの初心者だ。対して君は戦車の知識こそあれどあまり物事を言うのは苦手と見える。違うか?」

「え・・・えと、その、否定は、しません。」

 

冷泉さん(アムロさん)の言葉に思わずそう頷いてしまう。

元々引っ込み事案な私はあまり人と話すことは得意ではなかった。

これでも副隊長という重要な役職についていたから決して他人との会話もないわけではなかったがそれは事務的なものばかりで、友人としての会話ができていたのは極少数の人だけだった。

 

「なら、これから成長していければいい。人にはそれだけの可能性があるのだからな。」

「かのう・・・せい・・・?」

 

冷泉さん(アムロさん)の可能性という言葉に思わず私はおうむ返しをしてしまう。

その言葉が妙に私の心の中に色濃く残ったからだ。

 

「ま、それもそうなんだけどさ。まずは自分を信じてやったらどうよ?せっかく自分で建てた作戦なんだからドーンと自信を持ってもいいんじゃないの?」

「西住さんの不安があるのも確かだけど、仮に突破されても後ろにきっちりと退路はある。もしもの時はそこに逃げ込めば、あとはそのまま進んで大洗市街地での試合。地元である私たちに地理的優位はある。」

「だから、君には落ち着いて、戦況を見ていてほしいんだ。君の指示に私たちはついていく。」

「どんな指示でも私達は従うさ。西住、君に出来ることをやってほしい。私たちからはそれだけだ。」

 

武部さん(ジュドーさん)五十鈴さん(カミーユさん)秋山さん(バナージさん)、最後に冷泉さん(アムロさん)が私に笑みを浮かべながらそう語りかけてくる。

そう、だね。いつまでもこうして沈んでなんかいられない。むしろこの先、たくさんの障害を乗り越えていかないとみんなと、大洗のみんなと一緒にはいられない。

いちいち沈んでいるようではこの先の難題に立ち向かうことさえ、困難になっていくだろう。

だったら、冷泉さん(アムロさん)の言う通りーーー

 

「私、頑張ります!!」

 

この試合を楽しんでいかないと、せっかく無名だけどすごい人たちがいっぱいいるんだ。多分、どんなことでもやってくれる、はず!!

 

「よーし!!なら、初めての指示出し、よろしくな、隊長さん!!」

「まずはこの先の小高い岩場に相手を誘い込みます!!そのためには囮が必要ですがーーー」

 

武部さん(ジュドーさん)の快活な声に推されるように通信機に手をあてがうと今までの陰湿だった私を吹き飛ばすような声で指示を出す。

 

「私達、Ⅳ号戦車が務めます!!皆さんは射程距離に入り次第、砲撃をっ!!」

『了解っ!!』

 

他の車輌からの返答を聞届けると冷泉さん(アムロさん)に隊列から離れるように伝え、相手の動向を探るべく、高所からの偵察を試みる。

 

「・・・・・来ないな。」

「まぁ・・・・相手もそれとなりに警戒して進軍しているんじゃないですか?」

「アムロさん、向こうの隊長はどんな人だったんですか?」

「・・・・・あまりスキが見られないような人だった。厄介なタイプの人間だ。彼女は。」

 

武部さん(ジュドーさん)がどこか暇そうにし、秋山さん(バナージさん)はその言葉に考え込むような仕草をしながら反応をする。

五十鈴さん(カミーユさん)の質問に冷泉さん(アムロさん)が訝しげな表情をしながら答える。

冷泉さん(アムロさん)の言う通り、ダージリンさんは結構油断しているように見えてスキがない人だ。

そんな風に話しながらのんびりと偵察をしていると、微かに聞こえる戦車の駆動音と共に、聖グロリアーナの戦車隊が荒野で砂煙を巻き上げながら進んでいるのが見えてくる。

それを視認した瞬間、私が何か言うより早く他の四人は素早い動きでⅣ号戦車の中に戻っていく。

予想外のみんなの機敏な動きに呆気にとられながらもなんとか遅れないように他の四人と同じようにⅣ号戦車の中に駆け込む。

 

「冷泉さんはエンジンを鳴らさないように進んでください。五十鈴さんは砲撃準備を。倒す必要はありませんので、当てることだけを意識してください。」

 

二人にそう指示を下し、冷泉さん(アムロさん)の操縦で小高い岩山からわずかに顔を覗かせるようなポジションにつける。

 

「よい、しょっと。」

 

そんな声が聞こえたと同時にガコンという音が車内に響く。秋山さん(バナージさん)が砲弾を装填した後なのだろう。

 

「・・・・もうすこし鍛えた方がいいんだろうな・・・・。多分このままじゃ、ついていけない。」

「ま、それはおいおいやっていった方がいいでしょ。ちょっと鍛えたくらいでつくもんじゃないだろうし。」

 

砲弾の重さに苦い顔を浮かばせながら手を握ったり開いたりしている秋山さん(バナージさん)武部さん(ジュドーさん)がニヒルな笑みを浮かべる。

 

そんな会話を耳にしながらもキューポラからわずかに顔を出しながら聖グロリアーナの動向を見守る。

見ている限りこちらに気づいている様子は見られない。だったらーーー

 

「五十鈴さん、撃ってください!!」

「了解!!直撃させるっ!!」

 

五十鈴さん(カミーユさん)がトリガーを引いて放たれた砲弾は綺麗な放物線を描きながら先頭を進むチャーチルに向かっていく、軌道的に完全に直撃コース、しかし、チャーチルの硬い装甲に遠くから砲撃を行い、減速した砲弾は金属音を撒き散らしながら弾かれる。

その砲撃でこちらの存在を確認したのか、先ほどまで前を向いていた砲塔は私たちのⅣ号戦車に向けられる。

 

「冷泉さん!!後退を!!」

 

冷泉さん(アムロさん)がⅣ号戦車を後退させた瞬間、先ほどまでいた場所を砲弾が通り抜ける。

そのままⅣ号戦車を他のみんなが待っている場所へ向かわせる。

ふとキューポラから顔を覗かせて背後の様子を確認すると、チャーチルを筆頭にマチルダがしっかりと私たちを追ってきているのが見えた。

無論、砲弾も何発も飛んでくるのだが、冷泉さん(アムロさん)の初心者にも関わらず卓越した操縦技術のおかげで危なっかしい弾を一つたりとももらうことなく広い谷を進んでいく。

しばらく逃げているうちに地平線の向こうから指定ポイントにしていた小高い岩山が見えてくる。

 

『こちら、38tだ。Ⅳ号戦車を確認した。まだ相手の姿は見えないが、すぐそこまで来ているという認識でいいな?』

「はい!!各車輌は砲撃準備を!!出来る限り履帯を狙ってください!!」

 

会長(クワトロさん)からの通信にそう伝え、さらに距離を詰めていく。

そろそろ射程距離に差し掛かろうとしたところで、小高い岩山の方から光が見えた。

多分、戦車が発砲した時のマズルフラッシュだと思う。

射程距離ギリギリでの発砲。普通ではほとんど当たらないものだけど、私には妙な確信があった。

 

ガガガガガガンッ!!!

 

後方から金属板に連続で硬いものをぶつけたような音が響く。砲弾が装甲に弾かれたのだろうとは察せるのだが、そもそもとして、そんな音が響くということは、目標にとりあえずは当てられたことを意味する。

 

「・・・・あ、当てちゃった・・・。射程距離ギリギリなのに・・・。しかも全員分の砲撃が・・・・。」

 

他のみんなの規格外っぷりに思わず胃が痛くなりそう。あとでダージリンさんに謝った方がいいのかな・・・・。

 

 

 

 

「・・・・・・ねぇ、ペコ。今のなんの音かしら?」

「・・・・砲弾がチャーチルの装甲に当たった音かと。幸い有効弾とはなってはいませんが。」

「アッサム?大洗の戦車の砲門数は?」

「目の前で囮の役目を受け持っているⅣ号戦車を除けば、6門かと。M3リーには砲塔が二つ付いていましたので。」

 

アッサムからその数を聞いたダージリンは即座に自身の脳内で先ほどの音を思い返す。

かなり連続で何かが当たったような音だったが、衝撃自体は、六つほどだったはずだ。

 

「・・・・・この距離で全車輌の砲撃を1輌に集中させた上で直撃をさせた・・・?」

「・・・・はい?」

 

ダージリンの言葉にチャーチルの装填手であるオレンジペコが首を傾げた瞬間ーーー

 

ガガガガガガンッ!!!

 

「またこの音・・・!?」

 

ダージリンは再度響いた炸裂音に少しばかり不安気な表情を浮かべる。そしてーー

 

『こ、こちらルクリリ!!敵からの集中砲火により撃破されましたぁ!!』

「・・・・お、おやりになりますわね・・・・。」

 

まさかの撃破報告。しかもただ撃破されたわけでもなく、射程距離ギリギリのはずの砲撃にも関わらず、全ての戦車の砲撃が1輌に集中させた上で全て命中という明らかにおかしいことにダージリンの手は彼女らしくなく震え始め、手にしていたカップとソーサーがカタカタと鳴ってしまっているほどであった。

 

 

ちなみにこれでもまだ序の口であることは、これを見ている諸君らにはおわかりであろう。

これより始まるのは(多分)試合ではなく、ただの蹂躙劇かもしれない。

 




ひゃっはー!!者ども、かかれぇぇーー!!


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ガンダム(キャラ達が)無双(していく話) その5

一年以上間が開いてからの投稿は初めてです。(こなみかん)


「ふむ、まずは1輌と言ったところか。西住君達の状況は?」

 

シャアがそういいながら一度砲塔の覗き穴から目を離し、運転席に座っているシーブックの方に声をかける。

 

「ひとまず、こちらの懐には来てくれたみたいだ。さすがはアムロさんといったところだな。」

「ふむ、まぁ奴ならばそう易々と直撃をもらうことはないだろう。ウッソ、装填は?」

「やってはいますけど、この戦車の火力じゃとてもじゃありませんけど向こうの装甲を抜くのは無理ですよ。さっきの集中放火も実質風紀委員の人たちが乗っているポルシェティーガーかキラさん達が乗ってるⅢ号突撃砲しか効いてませんし。」

「やはりか。となると向こうの間合いに入ってしまうのは時間の問題か。」

 

ウッソから言葉にシャアがそう呟いた瞬間、何かが地面に落ちてきたような音と同時に地面を揺らす。

 

「………撃ってきたか。」

 

そう言いながらシャアは一度38(t)のキューポラから顔をのぞかせ、遠目に映る聖グロリアーナの戦車を見る。戦車から絶えず砲撃が飛んできているが、距離が遠いのか、全弾当たる気配すら見せずに周りの地面や岩にぶつかり、破片を飛び散らす。

 

『会長さん、一度後退を!!懐に入られた以上、私たちの戦車では無理があります!!』

 

その時、通信機からみほの声が響く。シャアはそれを聞届けながらもなおも聖グロリアーナの戦車の方を見やる。

 

「ロックオン、砲弾の装填は済んでいるか?」

『んお?ウチの筋肉ダルマの風紀委員長のおかげでいつでも撃てるぜ。だけど隊長さんから後退の指示が出てるが?』

 

シャアはロックオンに向けた通信からかえってくると悪どい笑みを浮かべる。

 

「目にものを見せつけてやれ。侮るのは別に構わんが、脚を掬われるとな。」

 

 

 

「オーライ!!任せなっ!!」

 

ニールはシャアからの指示にウキウキした様子で答えると砲塔を聖グロリアーナに向ける。

覗き穴からは相手が砲弾をとりあえず撃ち込んでいる様子が見えていたがーーー

 

(ど真ん中走っている濃い緑色の奴をブチ抜くには少しばかり距離が遠すぎる。装甲も硬い。さっきも弾かれたしな。だったら、取り巻きから潰すしかねぇか。)

 

目標をチャーチルではなく取り巻きのマチルダに捉えたニールは静かに息を殺してその時を待つ。その目に映るマチルダは凹凸の激しい地帯のせいでガタガタと車体を揺らしながらジワジワとこちら側へ侵攻してくる。

 

「金春 希美、狙い撃つぜぇっ!!!!」

 

その掛け声とともに引いた引き金は発砲音とともに砲弾となって目標へと一直線に飛んでいく。

デコボコした地面を行軍していたため、安定しないマチルダだったが、そのニールが放った砲弾は寸分の狂いなく、マチルダを撃ち貫いた。

 

「ビンゴ!!相手が手練れだから下手な動きは見せねぇって信じてたぜ!!

 

目標への直撃を確認したニールは喜びの表情を浮かべながら右手の親指と人差し指を立て、銃を形作る。

 

「ま、私はどこからでも狙い撃つぜ。それこそ成層圏の向こうからでもな。っても戦車の砲塔で成層圏なんて土台無理な話だけどな!!」

 

そう決め台詞を言いながら撃破したマチルダに向けて、ニヒルな笑みを。そして銃を形作った右手を軽く跳ね上げ、銃を撃ったようなジェスチャーを見せる。

 

「ヒュー!!カッコつけてんじゃねぇーよ!!」

 

操縦用のレバーに操作しながら、わざとらしい口笛を鳴らし、運転手であるデュオが茶々を入れながら笑みを浮かべる。その直後、反撃と言わんばかりの聖グロリアーナからの砲撃がポルシェティーガーの周りに着弾し、車内を衝撃で揺らした。

 

「チッ、ニール、装填は既に済ませた。次々行くぞ!!」

「オーライ、目標を狙い撃つ………って言いたいところだけどよ。ここは素直に下がった方がいいんじゃねぇか?」

「む、何故だ?ポルシェティーガーの装甲であればそれなりに耐えられるのだろう。」

「一発一発の単発ならな。一応アストナージ達にモーターあたりをいじってもらったとはいえ、それを差し引いても何よりコイツは初速が遅えよ。懐に入られる前にさっさと逃げるに限るぜ。」

 

ニールの言葉に疑問気に尋ねるドモンにデュオが険しい表情に変えながらポルシェの短所である足の遅さを引き合いに出した。

 

「………わかった。俺はそういうのには疎い。二人に任せる。」

「なら、一足先に後退しますか!!」

『各車輌、後退してください!!この前市街地でのゲリラ戦に持ち込みます!!』

「隊長さんもああいってることだしな!!」

 

みほの指示に合わせるようにデュオはレバーを引き、ポルシェティーガーを下がらせ、後退を始める。

 

『こちらトビア!!Ⅲ突了解!!』

『同じくアスラン、了解した。ルノーも後に続く!!』

『カトル!隊長から後退の指示が入った!このまま市街に下がるぞ!!M3リー、了解!!』

 

ポルシェティーガーが下がっていくと同時にほかの車輌からも了解の返事が響くと同じように高台から離れ、後退した先にある市街へと向かう。その最中にも聖グロから砲撃で土が幾度となくまいあがるが、まるで彼女らは砲弾の着弾地点が分かっているかのような機動で、一輌たりとも脱落せずにくぐり抜けた。

 

 

 

 

「ッ……………何ということ…………!!」

 

そそくさと後退していく大洗の後ろ姿にダージリンはチャーチルの座席で苦虫を噛み潰したような表情を見せる。

 

「事前データもまるでない状態でしたが、大洗は過去十数年は戦車道から姿を消していました。参考としては信頼性に欠けるため、目を通しておく程度に済ませていましたが…………あまりにもこれは    

「一体どこでこんな技量を、としかいいようがありません…………」

 

命中率100%…………新たに開発した兵装の使用実験でならばともかくだが、通常の、それも実戦時での砲弾の命中率は一割を切る。むしろ外して外しまくり、調整に調整を重ねたその先にようやく目標への着弾に漕ぎつくことができる。それにも関わらず、初弾からいきなり目標への着弾はそれこそ神がかり的な技量を必要とする。

 

その事実にダージリンが車長を務めるチャーチルの通信手と装填手であるアッサムとオレンジペコはまさか事実上の無名であると思っていた相手がこれほどまでに技量が人外に片足を突っ込んだ集団かもしれないということにありえないというような驚愕とそれに対する困惑が入り混じったような表情を見せる。

 

 

「…………相手の技量はともかくとして、大洗が陣地としていたこのポイントの先、確か市街地だったわよね?」

「…………そうですね。ゲリラ戦を仕掛けるつもりなんでしょうか?」

 

ダージリンの問いかけにオレンジペコは手元で地図を開きながらそう答えるとともに軽く自分が立てた予測のようなものを語る。

 

「そうね。向こうの技量は凄まじいものよ。でも、ある種救われていると言えばいいのかしら。向こうの車輌にこちらを性能面で上回る車輌がない以上、接近せざるを得ないことになるわ。」

 

そうダージリンが難しい表情を浮かべる中、後退した大洗を追うように聖グロの戦車は市街地へと入り込んでいく。

 

 

 

 

 

 

「運良く向こうが先をとらせてくれたようだな。これからどうする西住。プランは何かあるのか?」

 

市街地に向かっている中、冷泉さん(アムロさん)からそう尋ねられて私は思わず苦笑いを浮かべてしまう。

だって……………ねぇ…………練習の時点で命中率がおかしかったから先に一輌取れるくらいは想定内だったんですけど、それを運良くって…………まるで聖グロが油断していたから取れたーみたいな感じで浮ついた空気を見せるどころか逆に一層警戒を強めるみたいなⅣ号の中でそんな雰囲気をみんな揃って出しているものだから…………いや、実際聖グロは油断をしてもしょうがないとは思います。だってほとんど名無しの弱小校との練習試合。どれだけ気を張ったところで必ず油断や侮りはあると思う。でも流石にこれは………………

 

(うう……………ダージリンさん、ごめんなさい………………)

 

 

この人達がすっごいいい人達なのはわかっているけど、いつまで経っても慣れることはなさそうと思った私はちょうど真上に近いところにあるキューポラで塞がれた空を見上げながらそう念を送る。届かないと思うけど。

 

「おーい西住さーん?上の空になっているところ悪いんだけど指示をちょーだい?」

 

流石に質問に答えなかったのは不味かったのか武部さん(ジュドーさん)が若干戯けたような口ぶりで話しかけてきたところで意識を切り替えて上を見つめていた視線を前へ戻す。

 

「…………すみません、少し考え事をしてました。とりあえず、この市街地線に持ち込んだのは近づくことでこちらの攻撃をより通りやすくするためです。ですが、それはつまり最初に接敵した時点で先手を打って、なおかつ一撃で仕留めなければこちらの撃破が確定になってしまいます。」

「まぁ、そうですよね。でも、それでなんとかなるくらいの差なんですか?私達と向こうの戦車の性能差は。」

 

私の言葉に秋山さん(バナージさん)が納得しながらも同時に首を傾げながらそんなことを聞いてくる。全く持ってその通り、このくらいの小細工でなんとかなってしまうのなら苦労はしない。普通の射撃線で相手の装甲を抜けるポルシェティーガーを除けば、Ⅳ号とⅢ突が可能なラインに入ってくるだけで、他の車輌は近づいたとしてもマチルダの装甲を抜くのは現実的に見て厳しいことに変わりはない。

そういうニュアンスを孕んだ首を横に振るジェスチャーを見せると車内に私以外の四人のため息のような呼吸音が響く。

 

「だよなー…………性能差がありすぎだよなぁー………ウチらと向こうじゃ。」

「全国大会の常連校など、普通初戦の相手にいきなりするべきではないだろう。全くシャアの奴……………」

 

武部さん(ジュドーさん)冷泉さん(アムロさん)が愚痴を零し、五十鈴さん(カミーユさん)秋山さん(バナージさん)も口にはしないものの表情から不満そうなものを見せていた。

 

「ま、ウチは一生資金難ってことはシャアさんから聞かされているし、ないものねだりはできないんだよねぇ、これが。」

「そればっかりはしょうがないな………………砲撃飛んできますよ。衝撃に備えてください。」

 

武部さん(ジュドーさん)が乾いた笑いを見せ、五十鈴さん(カミーユさん)がそれに同意する声をあげていると車内の全員が身構えると同時に忠告するように私にそう言ってきた。

その次の瞬間、砲撃がⅣ号の近くの建物に直撃し、その建物の破片がⅣ号の装甲に弾かれる音が響いた。あれ、五十鈴さん(カミーユさん)、特に外の様子とかみていなかったのにどうして砲撃が来たことに気づいたんだろう…………?

 

「………………そういえば、試合で何か被害を被った人達に対して補償とかあるんですか?」

「一応戦車道連盟の方から補償金が出ますよ。詳細は私にもわかりませんけど、それ目当ての人がいるレベルでの金額が渡されるみたいです。」

 

外の様子を見ながらふと思ったのか戦車道の試合で損壊が発生した時の補償について聞いてきた秋山さん(バナージさん)にそう返す。すると彼女はどこかホッとした表情を見せる。まぁ、なんとなく秋山さん(バナージさん)がそう感じるのもわかる気がする。じゃないととてもじゃないけど市街地で戦車道の試合はできないと思う。

 

「……………それじゃあそろそろ始めましょう。武部さん、皆さんの準備は?」

「ポルシェティーガー、Ⅲ突からはいつでも行けるって連絡は来てる。ティーガーはもう少しかかるって思ってたけど、風紀委員会がこっちが指示出すより早めに後退を始めてくれたのが功を奏してるんじゃないの?」

 

通信機を耳にかけた武部さん(ジュドーさん)からそのような返答が返ってくると自分の脳内で市街地の地図と各車輌の現在地を照らし合わせる。こっちの戦車で聖グロリアーナの戦車を倒すことができるのは限られている。撃破できない車輌はうまいこと誘導して連れてくるしか方法はない。

 

「あ、そうだ!!この試合で勝ったらさ、みんなでなんか食べに行かない?ちょうど屋台とかで騒いでるおじさんとかもいたんだからさ!!」

「あはは…………武部さん、まだ試合中     

「悪くない提案だな。勝利記念で行ってみるのもいいかもしれない。」

 

突然の武部さんの提案に苦笑いを浮かべていたが、まさかの冷泉さん(アムロさん)から賛成の声が上がってしまったことに思わず目を丸くして二の句を言えなくなってしまう。

 

「いいですね、何を食べに行きます?」

「甘いものもいいかもしれない。砲手の役目は思いの外頭を使うからな。」

 

そうこうしている間に秋山さん(バナージさん)五十鈴さん(カミーユさん)からも賛成の声が上がってしまい、どんどんと逃げ道が封じられていく。

 

「おーい!!みんなでこの試合に勝ったら何か食べに行こうよ!!」

 

とどめに武部さんが通信機にそう語りかけると嬉しそうだったり、渋々と、はたまた他の人から促されると次々と参加を宣言する人たちの声が届いてくる。

 

「もちろん、西住さんも参加しちゃうよね?」

「……………………はい。」

 

武部さんがそう私に参加するかどうかを聞いてきた時には、もう私には断る勇気はなかった。ただ、その誘い自体、嫌なものはなく、むしろ嬉しいことこの上なかった。



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