ガノンの奇妙な旅路 (ぬぶぬぶ)
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旅路の始まり

ゲルド族は百年に一度、男の子が生まれるという。そしてその子は王となる資格をもつ。

 

 

 

 

あるところに、ゲルド族の男の子が産まれた。

 

その男の子はガノンドロフと女王に名付けられた。

 

彼の乳母となったツインローバは、その子を初めて見たとき赤子でありながらその身に秘める膨大な魔力を見抜いては驚き、彼は将来偉大な王となるであろうと確信した。彼女らはその子を大事に可愛がって育てた。

 

 

産まれてから数年がたち、その男の子ガノンドロフはすくすく力強く育っていった。

 

その歳で、同世代のゲルド族とは比べるべくもないほどの知性、力、そして野望。

 

作戦を練り、兵を指揮するその知性は彼の教育者を驚かせ

 

1対多の戦闘でも圧倒的なその力はゲルド族で話題となり

 

その身に秘めたその野望は神々でさえ恐れるものだった。

 

 

 

ガノンドロフは幼いながらも自分の一族が住むこの砂漠に不満を覚えていた。

 

昼は灼熱、夜は極寒の死と隣り合わせの世界にて過酷な生活をしていたためか、ハイラル城がある肥沃な大地への憧憬はますます高まり、ガノンドロフはいつかあの地を俺の手にいれてやるとその胸に誓った。

野望が高まるにつれ、ガノンドロフが行う修行は苛烈になっていき。そして齢9にしてついに女王との模擬戦に打ち勝った。

 

ガノンドロフは自信を持ち、己の道を突き進んだ。

 

 

しかし、ある一夜。満月が照らすその夜にて、彼は自分の運命と出会った。

 

 

 

 

 

 

少年は夢をみていた。

 

まどろみの中で、少年はある男の人生を俯瞰してみていた。

 

 

その男はハイラル王家の家臣となり、有能な部下として働いていた。

しかし、男はクーデターを起こしハイラル王を暗殺。そしてトライフォースを強奪した。

だが男は三つとも手に入れることを失敗し、その身には力のトライフォースだけが残った。

7年の月日がたち、残り二つのトライフォースを手に入れようと試みるが、緑の衣を纏い光り輝く剣を持った少年に滅ぼされ、ゼルダ姫と六賢者に封印された。

 

少年は呪詛を吐きながら封印されていく男を見た。

 

少年はこの時、この男が自分の未来の姿であることに気が付いた。自分が封印されるということに吐き気を覚えた少年であったが、彼のこの悪夢はまだまだ終わらない。

 

次に少年が見たのは計画が事前に発覚し、処刑される場面である。

 

しかし何の因果か時空を超えて、将来手にするはずであった力のトライフォースがその身に宿った。

トライフォースの力で激しく抵抗するもかなわず、男は賢者たちにより影の世界へと追放された。

しかし、男は影の世界の現地人と協力し、彼を利用して光の世界を攻め、賢者の剣とハイラル城を奪い拠点とすることに成功した。

今度は順風満帆のように思えたその征服の過程だった。

だがかつてのように緑の衣の勇者が影の女王をひきつれ、討伐されて死亡した。

 

 

夢は依然続く。復活からの封印、復活からの封印と無限のように繰り返した。

どれほど相手の裏をかこうと、どれほど計画を練ったとしても、最後には緑の衣の勇者に倒される。

体は朽ち、怨念となったとしてもいまだその復活と封印の呪縛からは逃れることはできなかった。

 

 

少年は無限に思える時間をその悪夢でさまよった。数々の怨念の叫びが少年を震えあがらせた

 

しかし夢とはいつか終わるものである。少年は自らの体が急浮上する感覚に襲われた。

 

 

あぁ...やっとこの長い悪夢が終わる...。少年はそう思った。

そして少年は光に包まれた。

 

 

 

少年、ガノンは目をゆっくりと開けた。

 

最初に飛び込んできたのは彼を挟んでこちらを心配そうに覗く、コウメとコタケであった。

 

「大丈夫かい?ガノンちゃん?」

 

「ひどくうなされていたようじゃけど...」

 

手で額の汗をぬぐう。服がまるで水につかったかのように汗で濡れていた。

 

「大丈夫だ...」

 

ガノンはベッドから立ち上がり、窓際へと向かう。目の前には死の砂漠が広がっている。

 

夢が終わったこの時、ガノンにあった燃え滾る野望はすでに冷え固まっていた。

 

幾千もの自分の封印を見て、かつてまであった自信というものが粉々に砕け散ったのだ。

 

 

 

しかし野望が枯れ果てたガノンでも、いまだその身には肥沃な大地への憧れがあった。

 

川が流れ、森が育ち、生き物たちが住まう土地。

 

ただそのような土地を持つハイラルを攻めては、夢で見たように自分は長い呪縛にとらわれることとなるだろうということはガノンは嫌でもわかっていた。

 

自分だけでなくゲルド族の民たちの憧れを何とかしても達成したい。けれどできない。

 

ガノンは自分の計画のすべてが破滅に導かれるという確信によって絶望の淵に立たされていた。

 

夜が明ける。太陽が昇り始めた。

 

ガノンはそのまぶしさに思わず下を向く。

 

するとふと視線の端に映ったものに気づく。

それはきれいに赤みがかかったイチゴだった。ゲルド族の誰かが栽培しているのだろう。イチゴの根には水が一滴ずつ補給されている。

 

 

 

その時ガノンは閃いた。

 

何も肥沃な土地を求めずともよい。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

ガノンはコウメとコタケの方へ振り向いた。

 

「二人とも、頼みがある」

 

「「ほえ?どうしたんじゃい?」」

 

 

ガノンはニヤリと口を歪め、自分が考えたアイデアを話した。ガノンが語った内容を聞いたツインローバはその顔に驚愕を浮かべた。

 

 

 

 

 

これは本来あるはずがないガノンドロフのストーリーである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「「う~本当に行くのかい?」」

 

コウメとコタケは目に涙を浮かべ悲しそうにつぶやいた。

 

 

「あぁ行くとも。この砂漠を緑豊かな場所にできるような技術を探しにな。女王の許可も得ている。」

 

自分の愛馬に荷物を載せながらガノンは二人に言った。

 

あの悪夢から数年の月日がたち、ガノンはたくましい青年となった。町の本を読み漁り知力を鍛え、日々欠かさず鍛錬をしたその体は町の女たちが見とれるほどのものとなった。

 

そして、彼...ガノンは今旅へ出るところであった。

 

「確かに砂漠を緑地化できる技術をアタシたちは持っていないけれど」

 

「そんなことができる技術が外に本当にあるのかい?」

 

「あるかないかは知らん。けどやってみなければ可能性は永遠に0のままだ。」

 

ガノンは鐙に足をのせ、馬にまたがった。

 

「それに二人がくれたこれのおかげでどこにいようと帰れる。」

 

ガノンは懐から赤と青に彩られたお守りをだした。

それはコウメとコタケがガノンの願いを聞いてから必死の思いで作り出したもので、ガノンがどんなとこにいようと故郷へと導いてくれるという優れものだった。

 

「わかった...けど」

 

「苦しくなったらいつでも帰ってくるんだよ?」

 

「フッ...了解した」

 

馬の手綱を手に取り、そのまま手綱をふるう。馬を鳴き声を上げ、前に進み始めた。

 

「「元気にするんだよ~~!!」」

 

二人が手をブンブンと振りながら言った別れの言葉に、ガノンは右手を上げ返事をした。

 

 

ガノンドロフの旅は今始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

その一.ハイラル城下町

 

 

ゲルドの町を出たガノンはまずハイラル平原へと向かい、そしてその近くにあるハイラル城下町に来ていた。

初めてくる場所であるのだが、あの夢でさんざん見たので城下町の至るところを記憶していた。

 

馬を預け、大通りを歩いていると何やら歓声が響いている。通りは人であふれていた。皆嬉しそうにその顔を綻ばせている。

 

何が起こっているのかと不思議に思ったガノンは近くにいた果物屋の店員に尋ねた。

 

「ん?ああこの騒ぎかい?ハイラル王のご息女がお生まれになったのさ。確か名前はゼルダ様だったかな」

 

ゼルダ...この名もあの夢の中で何度も聞いた。幾たびも緑の勇者と共に自分を封印した姫である。

 

けれど野望を捨てた自分には今後一切関係ないだろうとガノンは考えたのか、すぐに興味を失った。

 

情報をくれたお礼にと、リンゴを一つ買った。懐にリンゴを入れ、その足は町の図書館へと向いていった。

 

 

 

 

図書館に入るとそこは大勢の人たちであふれていた。町の研究者、医者、薬剤師などが互いに情報交換でもしているのだろうか?本を片手に喋りあっているのが見える。

 

(ここにあるとは思わないが...一応見ていくか)

 

ガノンはとりあえず数冊の本を手にとり、読書をはじめた。

 

数分もたたずに数冊を速読で読み終えたガノンは本を戻し、本棚を物色していた。

 

(意外と本が多いな。これは少し面倒だ)

 

ガノンは顎に手をつき、本の題名を次々とみていった。

 

 

「あの...何かお探しですか?」

 

突然後ろから声がした。振り返ってみると、おそらくこの図書館の司書だろうか。一人の女性が立っていた。

 

「...色々な植物の特性について書かれている本を探しているんだが」

 

「あぁ!!それならこちらです!」

 

女性は笑顔を浮かべ、案内をした。

 

 

「ここです!」

 

目的の本棚の前につくと、女性はこちらに振り向きそういった。

試しに本を一冊取って開くと、そこには青いバラについての特徴が書かれていた。

 

 

「なるほど。案内すまないな」

 

「どういたしまして!」

 

女性は笑顔で一礼するとこちらに背を向け、本棚の間へと消えていった。

 

 

(砂漠のような劣悪な環境で育つ植物はあるだろうか)

 

サボテンのようにたくましく生きる植物がほかにあれば、魔法などの特殊な技術を使わずとも緑地化ができるであろうとガノンは考えていた。

 

ガノンは本棚からさらに本を取り読み続けていった。

 

 

 

 

 

 

「.....ーし。もしもーし?」

 

(うむ?)

 

読書に集中していたためか、自分に呼ぶ声に反応するのが遅れた。

顔を本から上げ、自分を呼ぶ張本人を見てみるとさきほどの案内をしてくれた女性であった。

 

「もう閉館の時間ですよ~他の利用者も全員おかえりになりました。」

 

周りを見てみると確かに自分以外に誰もいない。

 

「わかった」

 

短くそう言い、読んでた本を本棚に戻す。

 

「熱心に読んでいたようですけど、何を探していたんですか?」

 

女性は今自分が読んでいた本の表紙をチラッとみて尋ねた。

 

「砂漠の緑地化について調べている。今のところ成果はないがな」

 

一瞬嘘を言おうかと思ったが、別に言っても支障はないので正直に言った。

 

「砂漠の...あっ!!もしかしてゲルド族の方ですか?」

 

「...見た目でわかると思うが?」

 

今のガノンの見た目はゲルド族の民族衣装であり、その肌色と合わさってすぐにゲルド族だとわかるものだった。

 

「い、いやぁ~...ゲルド族の男の方を見たのが初めてで...」

 

女性は気まずそうにほおをかく。

 

「あっそういえば、旅の方ですよね?この後はどうなさるおつもりですか?」

 

「どうもなにも適当にそこらで野宿するが」

 

外はもう夕暮れ時だ。ゲルドの町を出るときに食料をもってきたため、飯には今のところ困らない。

 

「でしたら私の家で食べていきませんか?」

 

 

...何を言ってるんだこいつは。

 

「意味がわからないのだが?」

 

「旅は道連れってやつですよ!」

 

「お前は旅をしていないだろ...」

 

何が目的だ?食事で油断させて俺の持ち物を盗むつもりだろうか?しかしこんな気の抜けたやつにできそうとは思えないが。

 

「それに、一人の女性が見知らぬ男を家に誘うなど、襲われる危険を考えてないのか?」

 

「大丈夫です!!私の夫がもうすぐ迎えにくると思うので!」

 

「しかしだな...」

 

自信満々で言うその顔も相まって断りづらいが、ここはきっぱりと言うべきだろう。

 

「お誘いはありがたいが「お~いハリア~!迎えにきたぞ~!」...うむ?」

 

出口の方から声がした。

 

一目みて鍛えているとわかる男がこちらに笑顔でやってきた。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「「かんぱ~~~い!!」」

 

「...乾杯」

 

図書館へとやってきた、彼女の夫であるこの男ドットは妻の話を聞き、強引に俺を家まで連れて行った。

 

初対面のものにどうしてそう無警戒でいられるのか甚だ疑問である。

それをドットに尋ねてみると

 

「ハッハッハ!俺はこれでも王国の騎士をやってるからな!腕っぷしには自信がある!それに...」

 

「それに?」

 

「あんたを見たとき、何故か知らんが興味を持った!だからあんたを家に連れてきた!」

「実は...私もです」

 

二人そろってこの俺に興味を持ったと言う。

 

「興味だと?」

 

「初対面とは思えないような奇妙な感覚...デジャヴとかだったか?それを感じたんだ」

 

奇妙なことを言う。俺は確実にこいつらとは初対面だ。なにせ俺は今までハイラル王都に来たことなどなかったからな。

 

「まぁそれはそれとして飯を楽しもうじゃないか!」

ドットは酒を片手に笑いながら言った。

目の前には見たことのない食べ物ばかり。色鮮やかな食材たち。砂漠では決してとれぬもの。

 

 

 

異文化の飯の味は、懐かしく感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食事をしながらいろいろなことを話した。

 

「それで、ハイラル王都の次はどこへ行くつもりなんだ?」

 

「ゾーラの里へと向かうつもりだ。里に入れる可能性は低いがな」

 

ゾーラとゲルドは昔から仲が悪い。だが水と密接にかかわっている彼らなら緑地化の技術を持っているかもしれない。

 

「そうなった場合は国外へと向かう。だが俺でも国外の話はあまり聞いたことがない。そこにはまだ知らぬ何かがあるだろうな」

 

「そりゃあ大変だなぁ」

 

ドットは酒をのみながらそう言った。俺も手にしたグラスを傾け酒を飲む。

 

グラスを手にしながら窓からハイラル城を眺める。

黄昏の光がハイラル城を雄大に照らす。街中ではご息女誕生の祝いにバーが賑わい始めているだろう。

 

 

「ありがとう。美味かったよ」

 

そう呟き懐から金をだし机の上に置く。

ドットとハリアはこちらを向いた。

 

「行くのか?もうすぐ夜だぞ?」

「泊まっていったらどうです?」

 

二人はもう日が暮れることを心配して言った。だがもう長居は無用だ。

 

「すまない。もうゾーラの里へと向かうことにする。」

 

「それなら..このお金は大丈夫です」

 

ハリアは先ほど俺が出した金を手に取り俺の前へと差し出した。

 

「わざわざ引きとどめたのは私たちですし....」

 

強引に金をやろうと思ったが、その瞳をみてあきらめた。俺が受け取るまで決して引かないだろう。

 

「わかった」

 

ハリアから金を受けとり、懐へと戻す。彼女はニコッとほほ笑んだ。

 

 

 

 

 

 

荷物を手にとり玄関を出る。

 

「ほんの僅かだが世話になった」

 

「いえいえ...旅がんばってくださいね!」

ドットとハリアは笑顔で手を振った。

 

 

 

俺は別れを済ませ、振り向いた時だった。

 

 

 

 

()()()だ」

 

 

 

 

俺はゾッとしてすぐさま、今その()()をつぶやいたドットへと振り返った。

 

ドットは頬を指で掻きながら、困ったような表情だった。

 

「俺たちの子供につけようと思ってる名前だ。なんでこんなことをお前さんに言おうと思ったかわからねえ。奇妙なことだよな?」

 

ドットは苦笑して言った。

 

「...ハッハッハッハ!」

 

意外にも、俺の口からは笑い声がでた。

 

「俺様が保証してやる。お前の息子はこの国一番の騎士になるだろうよ。」

俺はそう言って振り返る。

 

ドットは目を開き、彼もまた大声で笑った。

 

「ハハハハハ!!じゃあなガノン!その旅路に幸運を!」

 

 

門へと向かう俺はそれに右手を上げることで返した。

 

 

これまた奇妙な縁だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドットたちと別れた後、ふと視界の隅にとある建物が見えた。

俺はなぜか引かれるかのように、門へと続く道を離れ、その場所へと歩いて行った。

 

そうその建物こそ、かの勇者の剣マスターソードが眠りし時の神殿である。

建物のなかに入るともう夜になったせいか誰もいなかった。

夜になっても明るい神殿はまさに神秘的であった。

俺はゆっくりと三つの精霊石を供える台座へと近づく。

 

感慨にふけて、手で台座に触れた。埃ひとつないその台座は、きれいに光を反射していた。

 

しばらく眺めた後、台座から手を放し、来た道を戻ろうとした時だった。

 

 

後ろから重いものが引きずったような音がした。

 

気になって振り返ってみると、

 

 

(なんだとッ!?)

 

台座の奥にあった扉が開かれていた。

 

(そんなはずは無い!)

 

その扉は本来は3つの精霊石とハイラル王家に伝わるという時のオカリナを用意しなければ開かないはずである。

 

しかしその扉は今!そのどれもが揃っていないのにも関わらず開いている!

扉を見て数秒硬直したガノンであったが、その奥が気になったガノンは警戒しながらその扉を通り抜ける。

 

扉の先の部屋はガノンが思っていたよりも広い。しかし

 

(ここは...夢で見た場所とは違う)

 

夢の中では、あの扉の先にはマスターソードが台座に刺さっていたはずだが、その部屋にはマスターソードどころかその台座すらない。

 

窓すらない空白の部屋となっていた。

 

嫌な予感がしたガノンは早々と部屋を離れようと、警戒して拳を構えながら後ろ向きで扉へと戻ろうとしたが、

 

辺りが光に満ちた。

 

そしてちょうどガノンがいた部屋の真ん中の足元に幾何学的な模様が現れた。

 

(これは、魔法陣かッ!?)

 

二人の魔導士のそばで育ったガノンはその模様を一瞬で理解し、部屋の外へと飛び出そうとした。

 

しかし、先ほどよりも光が猛烈に強まると、強烈な衝撃がガノンの頭に響いた。

 

(不味いッ!)

 

頭に衝撃をもらったことでガノンはその場に崩れ落ちる。徐々に意識が薄れていくなか、ガノンは目の前に女が立っているのを見た。

 

そしてガノンの意識は暗転した。

 

 

 

 

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終焉を引き継ぎ生まれたあなたへ

 

大いなる力の中で生まれたあなたへ

 

激流の運命の中で生まれたあなたへ

 

祝福を

 

あなたのはてしない旅が

 

幸せの旅路となれるよう

 

私は願います

 

 

---------------------------------------

 

 

 

 

古ぼけている神殿に一人の男が倒れている。

傍らには彼の愛馬が心配そうに舌でその男をなめている。

誰もいないその神殿は独特の雰囲気をだしていた。

 

 

 

その馬は何かに気づいたのかなめるのをやめて、神殿の入り口を見る。

 

 

その時神殿の扉が開かれた。

 

「あーやだやだなんで僕がこんな古臭い神殿に来なきゃいけないんだか」

 

「そう言うなリーバル。相棒と姫様の儀式にはこの()()()殿()が重要だからな」

 

扉から入ってきたのはリト族とゴロン族。リト族の男は愚痴をつき、ゴロン族はそれを宥めてる。

 

「ほら!四人とも遅いよ!」

とリト族の男、リーバルは悪態つく。

 

「ま...待ってください!」

 

「そう慌てることはないじゃないか。ほら、御ひい様」

 

「あ、ありがとう」

 

「.......」

 

二人に続き、四人が神殿に入る。

 

「で、ここで何の儀式をするんだい?」

リーバルはゼルダに尋ねる。

 

「退魔の剣を女神像へとささげる儀式です」

 

ゼルダはそう言うと、退魔の剣を持つ男、リンクへと振り返った。

 

「....?何をしているんです?」

 

 

リンクは神殿の奥をじっと見つめ、そして指をさした。

他の五人も彼のさす方向へと視線を向ける。

 

「あれは...馬?」

 

ゾーラ族であるミファーはこちらを見つめる大きな黒い馬を見てそうつぶやいた。

そしてそのそばには

 

「!?誰か倒れている!?」

 

ゼルダがそう言うと、その倒れている人へと駆け寄った。

慌てて他の五人も駆け寄る。

馬は彼らの邪魔にならないよう主人のそばから離れた。

 

男は仰向きで倒れていた。しかし胸が上下に動いているので生きてはいるのだろう。

 

「うん...大丈夫。怪我は見た感じ見当たらないよ」

 

そうミファーは男を観察して言った。

 

「この方はいったい..?」

 

「これは驚いたね」

 

「?ウルボザどうしたのです?」

 

ゲルド族の女であるウルボザは倒れている男を見ながら言った。

 

「この男、ゲルド族だよ」

 

「「えっ!?」」 「「なんだって!?」」 「.....!」

 

ウルボザのその呟きで皆は驚いた。

 

「ゲルド族の男性は初めて見ました...」

 

「そりゃそうさ。なんせゲルド族の男なんてここ数百年は生まれていないからね。私も初めてさ」

 

六人とも倒れている男をまじまじと観察する。

 

「それにしても妙だね。ゲルド族に男が生まれたなら私の耳に入るはずだけど...もしかして国外から来たのかね」

 

「国外...」

 

ハイラル王国はその四方を広大な海、そして深い谷に覆われている。

 

つまり国外から来たのならばそれを乗り越えてきたということである。

 

「!それよりこの方をどこか安静にできる場所に運ばないと!」

 

「おう!このダルケル様に任せときな!」

 

ダルケルはその男を軽々と持ち上げた。

 

「近くに民家があるからそこに運びましょう!」

 

そうゼルダは言い、外へでると他の五人はそれに続くように神殿の外へとでた。

 

 

 

 

その様子を女神像は笑顔を浮かべ見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




まだまだ旅は始まったばかりである。


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英傑達

とおいとおい未来の世界で

彼は夢を持って歩き続ける


目を開いたときにはこれが夢であることがわかった。

 

目の前には幼い時によく見た、封印されゆく哀れな自分の光景。

 

復活して封印、復活して封印、復活して封印と繰り返される夢の出来事をまた私はかつてのように見ていた。

 

もはや人としての体をなくし、怨念と化した自分自身をみて少し吐き気が沸いたものの、ただ私は夢に身をまかせていた。

そして今、また夢の中の自分が復活した。黒い瘴気をまき散らしながらハイラル城の頂上から出現する。

 

すると私の目の前は白い光で包まれた。

 

 

夢の中の私が激痛でうめく中、私は周りをよく見渡した。

 

 

一番最初に見えたのは大きな大きな象のような何かだった。視線を動かすと次に鳥、ラクダ、トカゲ。

 

そのどれもが白い光線を夢の中の私に当てている。

私は視線を地上へと移した。そこには先ほどの動物たちと同じようなカラクリじみた見た目をした多くの何かが夢の中の私に光線を当てている。

 

 

すると地表の一角で黄金に輝く光があふれた。

三つの三角形、トライフォースが空中に浮かぶ。

夢の中の私は大きな唸り声をあげてトライフォースの力に抵抗する。

呪詛と怨念でできた体は完全なるトライフォースの力によって悲鳴を上げる。弱まったところをさらに獣たちの光が貫く。

私は無残にも光の中へと飲み込まれていって消失した。

 

封印が成功したと知るや、城や城下町から盛大な祝福の声が響く。

 

私はトライフォースを持つ女とそばに立つ退魔の剣を持つ男が笑顔で喜び合うのを見て、ゆっくりと瞼を閉じる。

 

 

夢から覚めるときである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めたとき、私の目にはまぶしい太陽の光が入ってきた。

そのまぶしさに一瞬目がくらむ。

視界が回復してから私は周りの状況を確かめる。

古ぼけた家のベッドに私は眠っていたようだ。ふと太陽光が入ってきていた窓から外をのぞくと、自分の愛馬が見えた。あちらもこちらに気づいたようで、こちらへとゆっくり歩いてきた。

私は窓を開け、手を愛馬の頬へやりなでる。すると気持ちよさそうに愛馬は鳴いた。

 

ここはどこだろうか。

 

夢を見る前の光景を思い出す。

自分は時の神殿で何者かによって気絶させられたはずである。

体を確認しても特に目立った外傷もないことから何もされていないのだろう。

 

 

さてどうするべきか。

 

ベッドに腰かけながらそう考える。

体が拘束されていないことから、悪者につかまったということはないようだ。

とりあえずこの家の住人に会うことにしよう。

ベッドのそばに置いてあった靴を履き、立ち上がる。

 

そして部屋の扉を開けた。

 

「あっ...」 「....!」

 

部屋の外で一人のゾーラ族がいた。

その片手にはタオルが握られており、その様子から私の看病でもしていたのだろうかと考えた。

 

「わわわ...みんな~!彼が起きたよ~!」

 

そのゾーラは起きている私を見るやいなや、廊下を駆け抜けていった。

どうやら知人のもとへ行ったらしい。

置いてけぼりにされた私は苦笑しながらも走っていった彼女のあとをついていった。

 

彼女が入っていった大きな部屋に私も続いて入る。

 

「良かった!起きたのですね!」

 

一人のハイリア人の女が私の目の前へとやってくる。その奥にはこの女の仲間だろうか、色々な人種の人たちがいた。

 

「私を介抱していただき、感謝する」

 

「! はいっ!」

 

私の感謝の言葉に女は笑顔でうなずいた。

 

 

 

 

 

「なるほど...()()()()さんは国外からいらしたのですね。そして疲れから時の神殿の内部で倒れてしまったと」

 

 

そのあとしばらくして私は自分自身の自己紹介とここに来る経緯を話したのだが私はその一部を秘密にすることにした。

その一部とは私自身の本名や、時の神殿で何者かにどこかへと飛ばされたということ。

 

 

なぜ私が本名を秘密にしたのかは、女の仲間の内の剣士が持つある剣を見たからだ。

 

「さきほどから気になっていたのだが、そちらの剣士が持つその剣はもしや...」

 

「国外にも伝わっているのですね。そうです彼が持っている剣は退()()()()、かの厄災()()()を倒す重要なものです」

 

そうすると剣を持つ男が剣を抜き私に見せた。剣は青く光り輝いている。

「失礼だが君の名前を教えてくれないか?」

私は剣士にそう尋ねる。剣士はただリンクと呟いた。

 

厄災ガノンという言葉とマスターソードをもつリンクを名乗る男。これで私はここが私のいた世界から見て未来の世界なのだろうと気づいた。それもとおいとおい未来。

 

「そうすると君はかのゼルダ姫か?その名は国外にも伝わっている。厄災を封じこめる力があるとか」

私がそう尋ねると、彼女は顔を少し暗くした。

 

「はい...けど...いえなんでもありません」

「そんなことよりさぁ儀式はいつするんだい?僕はさっさと里に帰りたいんだけど」

 

少し悪くなった雰囲気を変えるかのようにリト族の男がそう言った。儀式とはなんだろうか。

 

「そっそうでした!今日中に時の神殿で行わなければ!」

 

少し焦った様子の彼女はふと気づいたかのように私を見た。

 

「ローガンさんも儀式を見ていきますか?何も面白くはないかもしれませんが..」

「いやせっかくだ。見せていただこう。」

「それなら早く行こうじゃないか、おひい様。」

「あっ!待ってくださいウルボザ!」

私と同じゲルド族のウルボザはゼルダを連れて部屋から出て行った。だが部屋から出た瞬間、私のほうをチラりと目で見ていた。

 

「フンッ」

 

リト族の男は不機嫌そうにリンクを横目で見ながら出て行った。

 

彼を見送っていると突然後ろから強烈な衝撃が襲った。

 

「ハッハッハ!元気そうで安心したぜ!最初見たときは死んでるんじゃねえかと焦ったからよ!あぁ俺っちの名前はダルケルだ!よろしくな!」

 

「よろしく頼む」

 

ゴロン族の男、ダルケルと名乗ったものは笑いながら部屋から出ていく。

 

その場に残ったリンクとおどおどとしたゾーラ族の女、聞いたところ名はミファーというらしい。

残った私たちは先に行った彼らを早足で追った。

 

 

この世界での時の神殿は私がもとにいた世界のそれとは違い少し古臭い雰囲気を出していた。

神殿は少し小高い丘の途中に建てられており、遠くにはハイラルの城下町が見える。

どうやら長い時を経て、時の神殿はその場所を移したらしい。なかなか感慨深いものがある。

 

「ローガンさん!こちらです!」

「あぁわかった」

 

神殿の内部に入った私は最前の椅子に座る。どうやら儀式とやらを始まるらしい。

 

ゼルダ姫を前にリンクが膝をつき、その後ろで他の4人が同じポーズをとる。

彼らの儀式を聴きながら私はこれからどうするかを考える。

 

なぜ私がこの世界に飛ばされたのか

 

元居た世界での最後の光景。私の前にいたあの女は誰なのか。私を未来に飛ばすような力の持ち主だとしたら、あの女は賢者なのか。それとももっと高位の何者なのか。

 

いずれにしてもあの女は私に何かをさせるためにこの世界に送ったのだろう。

まあだいたいの予想はつくが。

 

私はチラリと遠くにあるハイラル城を窓から見る。

 

感じる。あの城の地下深くから。

 

どうしようもなく野望に狂った『俺』の気配を。

 

「ローガンさん?」

 

ふと声をかけられたので前を向く。そこにはゼルダがいた。どうやら儀式は終わったようだ。

 

 

 

 

「ローガンさんはこれからどうするのですか?」

 

儀式を終え、それぞれが片付けをしてる中ゼルダは私にそう尋ねた。

 

「とりあえずは王都に向かう予定だ。そこで調べものをしたい」

 

「何を調べるんだい?」

 

ゼルダの後ろから話の内容が気になったゲルド族の女ウルボザが聞く。

 

「私の故郷は植物が生えぬ厳しい砂漠地帯でな。それを緑地化するための技術を探している」

「へぇ...なかなか立派なことじゃないかい」

 

ウルボザはそれに満足したのか帰りの準備に戻った。

 

「それなら私たちと一緒に王都に来ますか?これから王都に戻る予定なんです。それに道中には魔物もいますし」

「なるほど。ではお言葉に甘えるとしよう」

「はい!わかりました!」

 

ゼルダ姫は笑顔で答えた。

 

 

 

「では王都に戻りましょう!」

 

どうやらここで解散となり、王都に戻る者たちと自分たちの里に戻るものとで別れるようだ。

 

ウルボザとリト族のリーバルは既に里の方向へと帰り、ミファーとダルケルは王都への途中で別れるらしい。

 

私も自らの愛馬のコクオウに乗る。

 

「心配をかけたなコクオウ」

 

コクオウの背中をなでるとコクオウは返事をするかのように元気に鳴き返した。

 

「あ、改めて見るとローガンさんの馬すごい大きいですね...」

 

「こいつは特別でな。かつてとある群れの長だったこいつを私が手懐けたのだ」

 

砂漠という極限の環境下で育ち、群れを率いていたこいつを手懐けるのにはとても苦労したものだ。

 

 

 

 

馬に乗って移動していると目の前に突如断崖絶壁が現れた。

 

「これは...」

 

一瞬ただの崖かと思ったが違う、崖を作っていたのは何かの城壁だ。

 

「すごい壁ですよね。今私たちがいる場所は始まりの大地と呼ばれているんです。けれどどうして始まりの大地と呼ぶのか。誰が何を目的としてこの壁を作ったのかはわからないんです。不思議ですね」

 

時の神殿の位置からして、何かから神殿を守るために築いたのだろうか。その目的もいつかは分かる日が来るのだろうか。

 

「ここからは降りることができないので、遠回りする必要があるんです。こちらです」

 

私は壁を尻目にあとに続く。やはりここは遠い遠い未来の世界なのだろうと考えながら。

 

 

始まりの大地から降りるために通る道は結構な斜面であった。馬に乗りなれていないのであろうミファーは慣れた様子のリンクの馬に乗っている。ゼルダのほうも馬使いになれているのだろう。確かな手つきで馬を乗りこなしていた。ダルケルはゴロン族特有の体を使って転がって猛スピードで降りて行った。

 

コクオウもこれくらいなら苦ではないのか余裕を保ちながら降りていく。

 

数十分ほどで下に降りると目の前には森林が広がっていた。しかしきちんと整備がされいているのだろう。なだらかな道路が森の間に続いていた。

 

「ハイラル王都はこっちの道です」

 

先行するリンクが乗る馬に続く。生い茂る葉から木漏れ日が顔にさす。あたりに聞こえる小鳥のさえずり。なんとも素晴らしく感じる。いつかは私の故郷もこのような美しい森にしたいものだ。

 

そのまま馬にのり平坦な道中を数時間かけて移動した。ダルケルは途中の分かれ道で別れることになった。ダルケルが歩いて行った道の先には大きな火山があり、あそこが彼の帰る場所なのだろうと察した。

 

日が傾き、夕暮れになってきたころ、ゼルダがここでキャンプをしようと提案した。

リンクと私は森の中から焚火の材料となる木の棒を集め、ゼルダ達にはキャンプの準備をしてもらうことにした。集めた木の棒に火をつけ、リンクは馬につけていた小さな鍋を火に炙る。どうやらスープを作るらしい。4人とも火のまわりに座り食事をとっていた。

 

「そういえば昼間道の途中で大きな鳥のようなものを遠目で飛んでいるのを発見したのだが、あれはいったいどういうものなのだろうか」

 

ふと気になって尋ねたのは、夢で見た鳥のようなものとよく似た姿をしていたもの。それが遠く離れた場所で飛んでいるのだ。

 

「あぁそれは神獣のひとつの風の神獣ヴァ・メドーですね」

 

「神獣?」

 

聞いたことのない言葉だ。

 

そのゼルダに教えてもらうと、神獣とは約1万年前に厄災ガノンに備えて、当時のシーカー族の技術を結集して建造した巨大な機械兵器らしく、時を同じくして造られた大量のガーディアンという機械と共にガノンを抑え込み、厄災封印に大きく貢献したという。

 

そして今、厄災復活の予言から過去のこれらを掘り起こし、昔にならって各種族の英傑たちに使役させているらしい。

 

リト族の英傑リーバルは風の神獣ヴァ・メドー

 

ゾーラ族の英傑ミファーは水の神獣ヴァ・ルッタ

 

ゴロン族の英傑ダルケルは炎の神獣ヴァ・ルーダニア

 

ゲルド族の英傑ウルボザは雷の神獣ヴァ・ナボリス

 

それぞれが神獣を操り来たる厄災ガノンの復活に備えているらしい。

 

そしてその英傑たちのリーダーとなっているのが退魔の剣に選ばれたリンクらしい。

 

目の前で楽しそうに過去の技術を語っているゼルダの話を聞きながら私は少し顔をゆがめた。

 

(はたしてくさっても私である厄災ガノンは二度同じ手札をそうやすやすと食らうだろうか?)

 

夢で見たあの光景は間違いなく約1万年前の厄災ガノンを封じた出来事であろう。あのときのガノンは復活した瞬間に神獣によって足止めされ、退魔の剣と完全なトライフォースにあっけなく封じられた。

 

だから私は考える。もし私が封印されてたとして復活したとき、目の前に前と同じ機械がいたらどうするかと。

 

だがここのガノンはもはや怨念と化している。そこに思考力があるのかどうかはわからない。もしかしたら前と同じようにすぐ倒せるかもしれない。

 

ここで考えても意味はないか

 

と結論づけた私はゼルダの話に耳を傾けた。

 

 

飯が終わり、ゼルダとミファーの二人は立てたテントの中で休ませ、私とリンクは外で休むことにした。

 

 

パチパチと音がなる火を眺める。

 

「そういえばリンク殿...ん?リンクでいい?わかった。じゃあリンク、少し話さないか?」

 

退魔の剣を手入れしているリンクにそう語り掛ける。彼は静かにうなずいた。

 

「君はどういった経緯でゼルダ姫に仕えることになったんだ?」

 

すると、彼は少しづつ喋りだした。

 

騎士の家系の息子として生まれ、幼いころから既に卓越した剣技で有名であったということ。

あるとき、城内でガーディアンと呼ばれる絡繰りの兵器が暴走し、リンクは咄嗟に落ちていた鍋の蓋でガーディアンが放ったビームを反射して暴走を沈めた一件がハイラル王の目に留まり、ゼルダ直属の近衛騎士に最年少で昇格したという。

 

「なるほど。すごいな君は」

 

そう感服すると、リンクは恥ずかしがるかのように頭の後ろを掻く。

 

「うむ?私の過去話も聞きたいだと?まぁいいだろう」

 

私は自分の過去を話した。ゲルド族の男としての義務。武芸に費やした努力の日々。王となるための勉強。

私がガノンであるという事実を避けて、私は語った。

 

「そして私はこのハイラルの地にやってきたというわけだ」

 

焚火が消えないように木を入れる。リンクは静かに私の話を聞いていた。

 

リンクは私に質問を投げる。

 

「周りからの期待でプレッシャーはなかったのかだと?...ははは!なるほど君が無口なのはそれが理由か!」

 

「!」

 

リンクは私の言葉に目を見開いて驚く。どうやら図星をつけたらしい。

 

「私は自慢ではないが人を見る目がある。君、本来は結構陽気な人だろう?」

 

私は夜空に煌めく星を眺める。

 

「自信をもてリンク。今まで君のような人を何十人も見てきたが、彼らは全員自分の務めを乗り越えていった。お前にもできるさ」

 

脳裏には夢で見た歴代の勇者たちを思い出す。彼らはたとえ負けたとしても、後世の勇者に希望を残していった。

 

リンクは少し笑う。彼もまた夜空を見上げる。

 

彼らが親し気に並ぶその光景は、本来ならありえないものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日中にはハイラル王都につくと思います」

 

朝になって、ゼルダとミファーがテントの中から出てきた。朝の飯のパンを食べながら、ゼルダはそう呟く。

 

「なるほど。楽しみだな」

 

まずはやっぱり王都の図書館に行くことにしようか。それとも1万年前にガノン討伐に携わったというガーディアンでも観察してみるとしようか。

 

 

パンを食い終わったので、コクオウにリンゴを食べさせる。彼は味が気に入ったのかもっとよこせとその鼻で私に触れてくる。

 

「待て待て。飯は逃げん」

 

持っていたリンゴを差し出す。彼は嬉しそうにリンゴを食べていく。

 

「今日も頼むぞコクオウ」

 

彼はヒヒンと返事を返した。

 

 

 

ハイラル王都に近づくと、目の前には広大な草原が広がった。ハイラル平原だ。

遠くには野生の馬が元気に走り回っている。

 

風が吹く。草原の草木はその緑の葉を軽やかに揺らしている。

 

「良い天気だな」

 

右手を顔に当て、太陽光を遮る。空は雲一つないほど澄み切っていた。

気温も暑くもなく寒くもなく、ちょうど良いほどだった。

 

ふと視界に何か奇妙なものが動いているのが見える。

その傍には数人がじっくりと奇妙なものを観察している。

 

「あれは...?」

「あれはガーディアンですね。おそらく実験でもしているのでしょう」

「ほうあれが」

 

タコのような見た目をしており、その脚は6本ついている。その頭部が周囲を観測しているかのように回っている。

 

「なかなか面白いものだな」

 

馬を止め、ガーディアンを眺める。少し先でゼルダとリンクも馬を止める。

 

あの兵器が一万年前に私を封印したのか。確かにいくら私でもあれが数十体きたら敵わないだろう。

 

そのまま観察していると、ガーディアンの目とこちらの視線がかみ合う。

ガーディアンは私をじっくり観察したあと、いきなりこちら側に猛スピードで近寄ってくる。その後ろでは研究者たちが叫びながら走って追いかけている。

 

 

「なんだかまずい雰囲気だが」

「まさか暴走?!ローガンさん逃げてください!」

 

私から少し離れた場所にいたゼルダが叫ぶ。その傍にいたリンクは事態を察したのか私のほうへと走ってくる。

 

ガーディアンの目から赤い光線が飛び出る。その赤い光線は私の胸にあたっている。

 

「まずいです!砲撃がきます!」

「ほう。攻撃手段は光線か」

 

目の前まで来たガーディアンはピピピと音をならし、その標準を私に合わせる。

ゼルダのほうからリンクが盾を手にして走ってくるが、こいつの攻撃には間に合わないだろう。

 

そしてガーディアンの目から白いビームが放たれる。その光は一直線に私を目掛けて駆ける。

だが

 

「甘いわ!」

 

腕に魔力を流し、硬化する。そして迫るビームに腕を振る。

 

パキィンと音をならし、ビームはガーディアンに向けて跳ね返る。そのビームは来た道をそのまま巻き戻しているかのようにガーディアンの目へと走る。

 

そして爆発音を響かせるとともにガーディアンは黒い煙をあげてその場で倒れる。

 

「まさかとは思っていたが、やはり私を狙ってくるか」

 

数十体いれば不味い状況となるだろうが、一体だけなら冷や汗もかかない。

だがこれはハイラル王都でも慎重に行動せねばならんな。

 

「!」

 

「ん?あぁリンクか。大丈夫だ怪我はない」

 

近寄ってきたリンクが私の腕を心配する。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

ゼルダもまた私のほうへと急いで駆けよる。私はそれに手で無事を示す。

 

「まさかガーディアンが暴走するなんて...これは実戦で同士討ちの危険性が」

「いや、気にしなくてもいいだろう。これは不慮の事故だ。実戦ではそうあるまい」

 

何せこのガーディアンは私のガノンとしての気配を感じ取って攻撃をしてきたのだろうから。

本番では同士討ちの可能性は低いだろう。

 

そのあとは必死に謝る研究者を落ち着かせて、私たちは目前のハイラル王都へと向かうことにした。

 

 

さて、どうなることやらこの旅路は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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