僕と彼女と短編集 (鱸のポワレ)
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僕と彼女と夏祭り 雄二×翔子編
今日は、年に一度の夏祭りだ。いつものメンバーで約束して行く予定だったそれを、俺は、坂本雄二はそれなりに楽しみにしていた。何故過去形なのかって?それは、俺が不覚にも誘拐されちまったからだ。
☆
夏祭りの日の朝、俺が目を覚ますとそこには、見慣れない天井があった。
「んっ?ここはどこだ」
「……おはよう雄二」
そこには幼馴染、霧島翔子が居た。頭脳明晰にしてモデルのような見た目、学校でもファンは多いだろう。才色兼備と言えるであろう彼女は、何故か俺に好意を抱いている。
なるほど犯人がわかった…
「……雄二。私にする?私にする?それとも、わ・た・し?」
「俺は、仕事から帰ってきた新婚の夫じゃねえし、選択肢がお前しかないじゃねえか!」
「……新婚(ポッ)」
「ポッ、じゃねぇー!」
「……なんで怒ってるの?」
「誰かさんに誘拐されたからだ」
「……雄二を誘拐するなんて、ゆるせない」
「お前だっ!!」
「.……?」
「何故驚く!?」
くそっ!キリがねえ。早いとこ、ここから出ねえと。
「とにかく俺は帰るぞ。今日は約束があるんでな」
「……約束って何?」
翔子の目が光り輝いていた。悪い意味で…
「明久達と祭りにいくんだよ」
「……吉井と浮気はゆるさない」
「気持ち悪いこと言ってんじゃねえ!男同士だぞ。それに、秀吉とかもいる」
「……尚更ダメ」
「秀吉が聞いたら泣くぞ…」
この場に秀吉が居たら「ワシは男じゃ!」と叫んでいただろう。
「……吉井と約束してるの?」
「だからそう言ってるだろ」
「……でも吉井は楽しんで来て、ってメールをくれた」
「なっ!?」
あのやろう。今度絶対に仕返ししてやる。
「……私と祭りは嫌?」
「ああ、嫌だ」
「……冗談?」
「真面目だ!」
「……雄二は私と祭りに行く」
「行かないぞ」
「……行く」
「行かない」
「……行く」
「行かない!」
「……行く」
「行かない」
「……行く」
「はぁ。わかったよ」
「……行ってくれるの?」
「ああ」
翔子は顔を輝かせてこちらを見つめる。少し、ほんの少しだけ可愛いと思ったなんて、口が裂けても言えない。
「でも、なんでそんなに行きたいんだ?」
「……それは行ったらわかる」
「まあいい、じゃあ行くぞ」
「……まだ行かない」
何故か翔子は、俺の提案を否定する。
「なんだ、準備でもあるのか?」
「……そうじゃない」
「じゃあなんだ?」
「……まだ、朝の8時」
「そうだったな……」
俺は夕方まで二人で過ごす羽目になってしまった。
☆
あれから女装をさせられたり、二人で買い物に行かさせたり、体を縛られてご飯を食べさせられたりと何故か俺にとって害のあることばかりさせられた。何だかんだ時間が経ってもう5時だ。
「翔子、そろそろいくぞ」
「……うん」
たわいもない話をしながら歩いていくと、すぐに祭りの会場に着いてしまっていた。
それにしても、翔子と祭りに二人で来るのは何年ぶりだろうか。確か十年ぶりぐらいか?
しかし、この祭りの雰囲気ってのは、何年ぶりだろうと変わらない。何故かワクワクしてしまい、何故かテンションが上がってしまう。
明久達とは来れなかったが、これはこれでいいと思えてしまう。
「……雄二、私わたあめ食べたい」
「じゃあ探しに行くか」
それから俺たちはわたあめ以外にも様々な所を回り、気がつけばもう、花火の時間が近づいていた。
突然、ゾワっとしたオーラを感じた。
ん?これは、Fクラスの気配か。
とっさに振り向くとそこには、ムッツリーニと工藤がいた。なんだかんだ言ってあいつらも、よろしくやってんだな。
「なあ、翔子。あっちの方の屋台でも見ないか?」
俺はあの二人がいる方向とは真逆の方向に指をさす。
「……私はあっちに行きたい」
「え?」
翔子が指したのは、あの二人がいる方向だった。
ムッツリーニと女連れどうしで会うのも気まずいと思うのだが、翔子がグイグイと袖を引っ張って来るので抵抗はしなかった。というか、どうせ出来ないだろう…
翔子の指した方向に進んで行く。しかし、あの二人と鉢合わせする前にまた違う方向に曲がってしまう。
「おいおい。祭りから抜けちまうぞ」
「……行きたい場所がある」
翔子が俺を誘拐してまで連れて来たかった理由は、その場所にあるのだろうか。
「なあ、どこまで行くんだ?…ってここは!?」
「……ここに来たかった」
ここは、昔翔子と祭りに来た時にも、訪れた場所だった。俺が翔子を連れて来た場所だった。
当時、翔子は飼っていた犬だか猫だかが死んじまったとかで、わんわん泣いていた。祭りに来ても泣いていたもんだから、それはもう大変だった。
そこで、当日小学生だった俺が思いついたのが、ここに連れて来ることだった。ここで綺麗な花火でも見れば泣き止むだろうと思っていた。しかし、ここの綺麗な夜空は高層ビルによって真っ二つにされていた。雰囲気も糞も無くなっていたにもかかわらず翔子は「……ありがとう」と言って、より一層泣き出してした。
「何でここに来たかったんだ?」
「……雄二が私を慰めてくれた思い出の場所だから」
「でもお前は、泣き出しちまっただろ?」
「……違う。雄二は悲しい涙を嬉しい涙に変えてくれた」
「お前がそう言うならそれでいいが」
「…うん」
花火が打ち上げられる。真っ二つに割れていて見にくいが、たまには悪くない。
「……雄二。結婚しよう」
「は?」
「……結婚しよう」
「何でお前は、いい雰囲気を壊すようなこと言うんだよ!」
「……だって私は、雄二が好きだから」
間違いなくその時の彼女の笑った顔は、花火より綺麗だった。
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僕と彼女と夏祭り 康太×愛子編
「ハァ〜」
夏祭りといえば、友達とワイワイしたり恋人同士でイチャイチャしたりするものだろう。本当はボクも、代表や優子と行くはずだったのだが、用事やらなんやらで結局は一人になってしまった。せっかく浴衣で来たのに…
「ん?」
もう帰ってしまおうか、なんて考えていると人混みの中から、知り合いを発見した。
「おーい、ムッツリーニ君」
「…………工藤愛子!」
「奇遇だねムッツリーニ君。一人で何をやってるんだい?」
「…………浴衣のさつえ………祭りを楽しんでただけだ」
「フーン、撮影ね?撮りたかったらとってもいいよ?」
「…………何を言っている?俺は、そんなことはしない」
パシャ
「今撮ったよね…?」
「…………(ブンブンブン)」
やっぱり、ムッツリーニ君はいじり甲斐があるな〜。そう言えばムッツリーニ君は一人でいるな。ウム、いい事思いついた。
「ねえ、ムッツリーニ君。一緒にお祭り回ろうよ」
「…………俺は忙しい」
「またまた〜照れちゃって。ほら行くよ」
「…………仕方ない」
「あれ?素直だね」
「…………夏の暑さにやられただけだ」
だからそんなに顔が赤いの?とは、口にしなかった。彼が怒って帰ってしまうことがボクにとって一番最悪だからね。
「さてと、何処に行こうか?たこ焼きに射的、金魚すくいもあるよ」
「…………何処でもいい」
「じゃあ、ホ・テ・ルでも行く?」
「…………(ブシャァァアアッ)」
「ちょっ?ムッツリーニ君!?」
「…………この世に悔いなし(ガクッ)」
「ムッツリーニくーん!!」
やりすぎたちゃった☆
まあ、誰にでも失敗はあるよね。
それから、ムッツリーニ君が起きて色々な場所を回った。もちろんホテル以外…
「いや〜、そろそろ祭り終わっちゃうね」
「…………まだ花火がある。それに…」
「それに?」
「…………また来年来ればいい」
「なっ!何、急にカッコいいこと言ってんの!」
不意にドキドキしてしまった。やっぱりムッツリーニ君のこと…
「…………何言ってる。花火が始まるぞ」
「あ、ああそうだね」
花火が空に舞う。何てキレイなんだろう。まるで、光輝く子供のようだ。だから、祭りに来た人も同じように子供になってはしゃげるのだろう。ボクは、本日二度目のいい事を思いついてしまった。少し恥ずかしいけど、ボクは今、花火と同じ子供だから大丈夫。
「ねえ、ムッツリーニ君。カメラ貸して」
「…………何故だ?」
「そんなに警戒しなくても大丈夫。ちょっとだけだからさ」
ムッツリーニ君がカメラを渡してくれる。本当に、なんでこんなに今日は素直なんだろうか?しかし、そんな事を考えてる暇はもうなかった。あと少しで花火が終わってしまう。手早くカメラを設定して彼に向ける。それと僕にも。
「…………何してる?」
「記念撮影だよ。ハイ、チーズ」
パシャ
「今度売ってね、この写真」
「…………考えとく」
うーん、ここは素直に売るっていって欲しかったな。そんな事をしている間に花火が終わってしまう。
「…………名残惜しい」
「ふふっ、何言ってんのムッツリーニ君。」
「…………?」
「また来年来ればいいじゃん」
「…………ああ」
来年だけじゃない、五年間も十年後もまた一緒に回りたいと思う。君もそう思ってくれてるかな?ムッツリーニ君。
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Gとアタシと大戦争
とある日の木下家の話
アタシは、木下優子は今日という日を有意義に過ごすと決めていた。今日はせっかくの祝日で秀吉もいないし一人で小説でも読もうかと思ったのに、思ったのに、
「思ったのにぃーー!!」
アタシの最大の敵が部屋に潜んでいたのだ。そいつの名はG。抜群の生命力と抜群の気持ち悪さを誇る、アタシの点滴だ。いつもは、秀吉に任せるけど生憎いないし。くそ!アタシがやるしかない。
「ゴキブリどこよ、出てきなさい」
丸めた新聞紙と殺虫剤という最強の武器を装備して立ち向かう。しかし、奴はなかなか現れない。
「ゴキちゃーん。出ておいで」
シーンという効果音が付きそうなぐらい静かだ。奴は、まだ出てこない。せっかく優しく言ってあけたのに。
「くそ、どこにいるのよ」
出てこないなら、もう諦めようと思った矢先にカサカサと音が聞こえた。タンスの裏だ!
殺虫剤はプシューと爽快な音を立てる。それとほぼ同時に、ゴキブリがこちらに飛んできた。
「ギャァァアアア」
ゴキブリは、してやったりと言わんばかりにカサコソと動き回り、またどこかに消えてしまった。
「もう!なんなのよ一体。こうなったら絶対に捕まえてやるわ」
アタシは、復習に燃えもう一度ゴキブリを探し始めることにした。
ゴキブリがいそうな場所ランキング1位は、ベットの下よ(優子調べ)。
殺虫剤をベットの裏にぶちまける。さっきのように、音がどうとか考えてる余裕はもうなかった。
「くそ、ここじゃないの」
少し休もうとした時、不意に後ろから音が聞こえてくる。
「そっちね」
勢いよく後ろを見ても奴の姿はない。
「どこ行ったのよーー!!」
またどこかに奴は消えて行った。なら今度は、ゴキブリがいそうな場所ランキング2位の勉強机の裏(優子調べ)を探すまでよ。
机の裏を除くとそこには、黒い影がカサコソと動いていた。
「確保ー!」
ノンストップで丸めた新聞紙で叩き潰す。
やったか?
そう思い油断をした隙に奴は、再びこちらに飛んできた。
「ギャァァアアア」
椅子に足を引っ掛けて倒れるアタシ………
木下優子、ゴキブリに敗北。
☆
「帰ったのじゃ、姉上」
「…ああ、お帰り」
「どうしたのじゃ、そのテンション」
「…ゴキブリに負けたのよ」
秀吉は、やれやれとでも言いたげにため息を付く。
ムカつく…
「姉上は虫が嫌いじゃからな。どれ、わしが退治しよう」
「アタシの部屋の中にいるわ」
「うむ」
秀吉は、アタシの部屋に入ってからものの数分で戻ってきた。
「捕まえたのじゃ」
「え!?早くない」
「うむ。なぜかおとなしかったのじゃ」
あいつ、アタシ相手に暴れたくせに、秀吉相手には大人しくしやがって。
「ちょ!?姉上?なんでわしは関節技を決められてるのじゃ⁉︎」
「ムカつくからよ!!」
「理不尽じゃああああ!!」
こうしてアタシの休日はぶち壊しになった。
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