『刀剣乱舞』シリアス短編集 (黄泉竈食)
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初期刀は紅色の兄さん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オレの知っている空はいつも青かったはずだ。

 

 見上げると本丸の空には分厚い雲が浮かび、太陽を隠し、しとしとと雨が降り注いでいた。

 

 

「厚。来なさい」

「…わかった。」

 

 昔はよく馬鹿騒ぎしていたものだが今はこうやって呼び出されることはあれど基本皆口を噤んで部屋にとじこもっている。そんなふうにしたのは他でもないオレたちの主で今オレの手を引いている審神者だ。

 最初はよかったんだ。普通のどこにでもいる子供だったんだ。優しくて暖かい。陽だまりのような人だった。よく燭台切さんとおやつを作って振舞ってくれていた。時たま寂しそうな顔をする人の子。けど、いつの日かだんだんと荒んでいって、今ではこのザマだ。

 

 バキッドゴッ

「…かはっ」

 

 

 この部屋は折檻部屋。特に悪い事をした覚えはないが、審神者が暴力を振るうのは専らこの部屋だ。血と怨念に塗れてる。

 

 幸いと言っていいのか、お守りを買ってきて、それぞれに配ってくれているから折れた奴はいない。過度な出陣、遠征はあれど、手入れも重傷になればしてくれる。

 

 だからこそ謎だった。それら全てをしてくれるのは加州さんだった。別に特別、加州さんが贔屓にされてる訳じゃない。むしろオレ達は素手で殴り蹴りの暴行なのに対し、加州さんは大抵が木刀なんかでめった殴りにされている時もある。傷つける審神者。折れないように護ってくれる加州さん。

 

「はぁはぁ」

「……もういい。下がれ。 」

「…は…い」

 

 そうしてこの日の審神者は大人しく部屋へと戻った。

 

「厚!」

「加州さん…」

 

 

 焦った様子で戦装束のままの加州さんが駆け寄ってくる。

 

「主にやられたの?すぐ手入れ部屋に!」

「…うん。」

 

 加州さんに支えられてゆっくりと廊下を歩いた。楽しかったあの頃とは比べ物にならないくらい手入れを怠った廊下はミシミシと音を立てた。

 動けない俺の代わりに加州さんに資材を運んでもらって手入れしてもらった。

 

「大丈夫?痛い?」

「オレより加州さんのが怪我してるだろ爪紅ボロボロじゃん。」

腕にあるきり切り傷も口の端にある血もかろうじて見える首筋の青痰もそれら全てが痛々しい。

 

 

「俺はいいんだよ。まだ中傷だし、厚は?これとか痛いでしょ?」

 腹にある青紫色の打撲痕を指さす。

 

「…すぐ治るからへーきへーき。それよか、いつも思ってたんだがなんであんたはオレ達を手入れしてくれるんだ?この前もそれがバレてあいつに木刀で滅多打ちにされてたじゃんか」

「それは…誤解だよ。アレは手入れしたのがバレたんじゃなくて、俺が可愛くしてなかったのが悪いんだから。」

「嘘だ!だってあの時も今も加州さん。お化粧も爪紅も欠かしてないじゃん!」

 

 オレは知ってる。加州さんはこの本丸に顕現した時から今まで毎日化粧台に座ってること。毎日少しずつ化粧の仕方を変えてること。

 

「…俺が悪いんだよ。」

「加州さんのせいじゃ!」

「主は寂しいんだよ。辛いのは俺じゃない。主だ。」

 

 俯く加州さん。あんたの瞳には何が写ってるんだ?

 

「…なんであんな人間に構うんだよ!あんな奴はもうオレ達の大将じゃない!」

「あんなでもいいんだよ。みんなが愛想つかしたって、俺は主を最後まで愛すから。」

「そこまでする必要ないよ!あんただって自由になっていいんだよ。皆で自由になろうよ!」

 

「主には!…前世の記憶があるらしい。」

 は?

「生前の主はまだ十二歳の子供で、いつの間にか赤子になっていて気付いたら一五年もの年月が過ぎてたらしい。

 最初のほうは頑張れたんだって、でも、人がだんだん増えてくにつれてストレスが溜まっちゃって、俺もいたから…余計に、ね。」

 

「加州さんがいたから?」

 

「俺ね、主の前世のお兄さんに似てるんだって。名前もね、清光っていうらしい。」

 

 加州さんによく似た兄、

 

「仕草も癖もまるきり一緒みたいだからいるはずのない家族を探しちゃって、主の今世の家族はみんな亡くなってるらしいから。尚更病んじゃって…。」

 

 

「だから…

 

 

 

 

 

 

 そんな可愛い妹を守らないわけないじゃん?」

 

 

 

 ゾクッ

 

「か、加州さんは審神者の兄貴なのか?」

「んーとねぇ。お兄さんの魂を喰らった加州清光の付喪神、かな?」

 魂を

「喰らう?」

 

 そんなことが神の端くれである付喪神に可能なのか?

 

「そ。偶然、お兄さんの魂が主に付きまとって来たからね。青江みたいに行くかわかんなかったけど案外あっさり出来ちゃったしね。」

 

 あっそーそー

「逃げるなら早めにした方がいいよ。

じゃないと«ボク»が

 殺しちゃうかも♡♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──あれから、あの本丸を出た。あの加州清光と審神者を除いて。役人達に保護された時に聞くと、オレ達が出てきてすぐに空間が消滅してしまったらしい。

 

 今は、全員夫々別の本丸に引き取られた。この本丸の居心地も悪くないと思う。何よりも空が澄み渡っているのがいい。

 

「厚〜昼餉出来たって〜」

「おー、今行く!」

 

 後から強い風が吹いてくる。

この本丸の景趣には四季があるらしく、もうそろそろ夏が来るそうだ。

 

 あの本丸の景趣はなんだったのだろうか?

 もう分厚い雲しか思い出せるものもないが最初は楽しかったのだ。

 

 胸いっぱいに新鮮な空気を吸い込むと悲しさも寂しさも少しは薄れる気がした。オレは今の大将に頼めばきっとあのころの仲間と再び会うことは可能だろう。

けれど、あの審神者は違ったのだ。もう二度と自らの兄に会うことは叶わないそれこそ再び転生したって、なんにしても哀れな人の子だ。

 もう一度大きく息を吸い込んで本丸へと向かった。太陽の光が心地よかった。

 

 

 

 

 

 

 終

 

───────

 加州清光の一人称は俺

 審神者の兄の一人称はボク

 厚は色々忘れてる

 

 




作者より
 言い訳をさせてください。初めは審神者の性別を出すつもりはなかったんです。中性的なセリフにしたのもわざとです。しかし、加州が勝手に動き回るからァァア!!!
 ということで、以上愚痴でした。これからもよろしくお願いします。
 


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紅い青年と蒼い青年

 【子供組 短刀達と蛍丸見た目が小学生程度の付喪神】
 【マンガの土方さん 銀魂に出てくる土方十四郎】
 【マンガの沖田くん 銀魂に出てくる沖田総悟】
 

これに出てくる審神者はほぼ人外です。
三百年生きれる人間がいてたまるか!!
性別は特に出してなかったと思うのでお好きに。
堕ちる=時間遡行軍になる、またはそれに準ずる姿となる。


 

 

 

 

 

 

「ねぇーあーつーいー」

 

 

 じりじりと肌を焦がす陽射しの今日。暑さにグダったのは僕だけではなかったようだった。

 

 

「暑いんだったら子供組に混じって水遊びでもしてきたらいいじゃん」

 

昨日、主に借りてきた沖田くんがモデルになっているマンガを読みながら清光の言葉に応えた。

 

「やだよ。もっと暑くなるし、何より日焼けするじゃん」

 

俺、焼けちゃったら主に見捨てられるーなどと抜かす昔馴染みの赤い相棒。

 

ふと、縁側の向こうを眺めるとゆらゆらと揺れる陽炎の奥で水鉄砲片手にはしゃぐ短刀達と蛍丸の姿があった。特大の水鉄砲を持った鯰尾藤四郎もいる。

 

「あいつらもよくやるよねぇーこーんな暑いのに、炎天下の中水遊びなんかさぁー」

 

「じゃあ一人で水風呂にでも入ってきなよ。僕は沖田くん読んでるんだから邪魔しないで」

 

漫画の中の沖田くんは大きな筒状の機械を肩に担いで土方さんにぶっぱなしている。煙の中の沖田くんの口角はニヤリと笑っていた。僕らの知ってる沖田くんとは似ても似つかないや。

 

「それそんなにおもしろいの?」

 

 

「…んー暇つぶし程度には。」

 

 

 あっ終わった。次の巻はーっと。

 

「ん。」

 

「あっそれそれ。ありがと」

 

 

 それからまた静かになった。僕のページをめくる音がやけに響く。時折風が吹いて縁側に吊るしてある風鈴が涼し気な音を立てた。

 短刀達は鯰尾藤四郎に追いかけられ、ちりじりに逃げていき、そこに残っているのは濡れた地面と陽炎だけであった。

 

「ねぇ。」

 

今度は僕から話を切り出した。

 

「なに?」

 

 清光は爪紅を塗り直しながら応えた。

 

「もし、沖田くんがこの本の中の沖田くんみたいに元気だったら水遊びとかしたのかな?」

 

「そーなんじゃないの?俺たちがこんな話したからって沖田くんが帰ってくるわけじゃないけどね」

 

清光は自分の爪から目を離さない。

 

「でも、」

「ねぇ安定。俺たちが顕現して今年で何年目か知ってる?」

 

ピタリと爪紅を塗るのをやめ、僕を見つめる相棒。

 

「…さんびゃくねん」

 

「そー。沖田くんといた時間よりもずっとずっと長いんだよ。主はちょっと…いや、だいぶ人間離れした人だし、俺たちみんなを分け隔てなく愛してくれる。俺たちの望みもたっくさん叶えてくれる。それでいいじゃん。」

 

今度は右手の爪に爪紅を塗っていく。形の良い爪が赤い色素に塗りつぶされていく。

 

「……何が言いたいわけ?」

 

「忘れろとは言わない。むしろ、沖田くんのこと知らない安定とか気持ち悪い。でも、その執着を少しでも薄れさせらんない?じゃないとお前、堕ちそうで怖い。」

「…僕は堕ちないよ。沖田くんも好きだけど、主はもっと好きだから」

 

 

「そ…ならいーけどね。」

 

よし、でーきた。清光は塗ったばかりの赤い爪を満足そうに見つめた。

 

「安定」

「なに?」

「……あついんだけど」

「…一緒に水風呂、行く?」

「行く!けどちょっと待って!今、爪紅塗ったばっかりだから。」

 

乾かしてからね!っといいつつも待ちきれない様子の相棒。さっきまでの真剣な顔とは打って代わり、目を細めて嬉しそうな顔をする。

 いつの間にか短刀達は戻ってきていて岩融と和泉守がゴムプールを立てていた。その周りでキャッキャッとはしゃぐ見た目は子供な刀達。

 

 安定行こーと声がかかる。数百年前は考えられないほど清光とは仲良くなった。総勢100を越える仲間もかけがえのない家族となった。

 今行くーと応え、マンガを閉じ、新しい内番着を取り出す。まだまだ夜には程遠い。

 

 この本丸に顕現して三百年。時間遡行軍と戦い初めて三百年。この戦いも長くは続かない。最近は遡行軍も減ったと報告が入っている。あと、三百年後にはきっとココにはいないだろう。

 その時がきたら、僕は本霊の元に戻るのだろうか?飾られるだけの生活になってしまうのだろうか?それは、嫌だなぁ。

 

 安定ー?廊下の向こうで清光が首を傾げている。

 

「うるさいよ、ブス。ほら、行くよ。」

 

 昔のように、思ってもいない悪口を叩き突っ立ったままの清光を追い越す。

 

「あー!またブスって言った!俺はブスじゃないよ!バカ!」

 

 

 ちりんとどこかの風鈴が揺れた。どこか物悲しいその音はなにかの終わりが迫っていることを知らせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 紅い青年と蒼い青年

 

 

(あ!長曽祢さん!)

(おっ加州、大和守。なんだ?お前達も涼みに来たのか?)

(俺達も兄ちゃん達と来たんだ!)

(ふん!浦島とがん、…長曽祢がどうしてもと、言うのでな。)

(蜂須賀さぁいい加減慣れなよ…。)

(うぅっしかし、長い間贋作と呼んできたから、呼びずらいんだが。)

(まぁ、少しづつ慣れてくれればいい。)ポン

(((長曽祢さん/長曽祢兄ちゃんカッコイイ!!!)))

────────────

 

 

 

 

【終戦と全刀剣の刀解の報せ】

 その本丸の主の元にそれが届くのは───。

 

 

 



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オトナになりたい

審神者は多分、符術とか呪文とかなんかそういう系が得意な人だと思う、多分。よくわからん。

後藤はドンマイ。
キミと蛍丸のステータスの差は
作者と審神者のせいだよ。
恨むなら審神者を恨んでくれ。

俺はシラナイ。




「なー薬研背が大きくなる薬って作れねぇのか?」

 

 燭台切特製のプリンをつつきながら兄弟である薬研に問う。

 

「残念ながらそういうのはねぇなぁ。人間用ならあるんだが。それも、成長剤だし。俺っちたちは付喪神だからな、そう簡単には容姿は変わらんだろうよ」

 

 

 その答えを聞き落ち込む俺。瞳にはチビ達と話すいち兄を羨ましそうに映していた。

 

「大きくなりてぇなぁ」

 

 目の前のちゃぶ台にグデぇと雪崩込む。

 

「大きくなりたいの?」

 

 突然聞いたことの無い声が頭上から降ってきた。

 

「お、おまえ蛍丸、か?」

 

 薬研のどもる声が聞こえる。なんだよ。蛍丸がどうしたんだよ?体を起こし、腰のあたりの畳に手をついて仰け反るように後ろを見る。

 

「主に頼んでみれば?」

 

 そこには俺たちとはしゃぎ回る小さい子どもはいなかった。

 

「大きくしてくれるよ?」

 

面影を残しつつも2m近くある男士が立っていた。

「は?」

 蛍丸?そんなはずない。あいつは俺よりも身長は低かったはずだ。

 

「なんだよ、それ。」

 

「主に“身長伸ばして!”って頼んだらこうなった。」

 へへん!とでも言いそうな得意気な顔。

「お、」

「「お?」」

 

 なんだなんだと兄弟達が集まってくる。

 

「俺も頼んでくる!」

 それだけ言って、俺は脱兎のごとく大将の所へと走った。

 

「─一週間くらい続くらしいけどね。」

 

 もう、兄弟達の声も蛍丸の声も聞こえなかった。

 

「いっやっほぉぉい!!!」

 

 そのあと俺はいち兄と変わんないくらいまで大きくしてもらった。目線が高い。

 

「ありがとな!大将!」

 

「えぇ。それはいいのだけれど。仕事もきちんとこなすのよ。明日は出陣だからね?」

 

「わかってるって!」

 

 

 ────そう。わかってた、はず、なのに

 

「な、なんで」

 

 間合いが、わからない。

 

「グォォォオ!」

 ズシャャアア

「ぐっ正念場ってやつか」

 

 

 大きな体躯の割に小さな刀。

 

 

「はぁはぁっ…」

 

 大きくなりたかったはずなのに、、、。

 

「負けるかよ!」

 スカッ

 

「くそ!」

 

 攻撃が当たんねぇ

 

「とうっ」

 シャキーン

 

 あいつはあんなに強くなってるのに

「へへっ大きくなったら

 起動と打撃があがったや!」

 

 あんなに…。

「チッ!ケリつけてやる!」

 真剣必殺!

 ズガガァン

 

「はぁはぁ」

 なんとか、倒せたか?

「後藤!大丈夫かい?!」

「い、いち兄」

「中傷じゃないか!今すぐ帰ろう!」

「いや、次でボスマスだろ?

 これぐらいへーきへーき。」

「しかし、」

「大丈夫だって!」

「後藤…。」

「さぁ!進軍しようぜ!」

 

 この時帰っていればっ…。

 

「んじゃ、派手に戦いますかっと!」「えい」ズシャャア

 

「でかいからって、いばんなよ!」スカッ

 くそっなんでなんだよ!

「後藤!」

 

 え? ズシャャアア

 

「い、いち兄?」

「ぐっ再刃されたせいか…」

 いち兄がおれをかばって破壊一歩手前に…。

「そ、そんな!いち兄!」

 

 いち兄が折れちゃう…。

 

「オーラオラオラオラ!」

「首落ちて死ね!」

「闇討ち、暗殺、お手のもの!」

「とうっ」

 

その後のことはあまり覚えてない。

「後藤。一期さん背負って、帰城する。」

「うん。」

「泣いてるの?」

「泣いてないから…。」

「そ、わかった。」

 

 

 帰城してからは大変だった。俺もいち兄も帰るなりすぐさま手入れ部屋に押し込まれた。俺は薬研に一発殴られたらしいけどそれどころじゃなかったからそのまま手入れ部屋で寝てた。

 手入れは半日程度で終わった。けど、いち兄はその後一週間出てこなかった。その間に俺も蛍丸も体はすっかり縮んで元のサイズに戻っていた。

 

 

「いち兄…」

「五虎退。」

「後藤兄さん。いち兄ちゃんと目を覚ましますよね?折れたりしないですよね?」

「っっ!」

「……ぼく、虎くん達を探してきます。」

 

 二匹の虎を連れた五虎退は俯きながらその場を去っていった。

 こうやって秋田や五虎退に聞かれるとものすごく気まずい。

 

 

 俺が大人になりたいなんて馬鹿なことを言わなければ、大将に頼まなければ、いち兄がこんなことにならなかったのに…。

 

そっと手入れ部屋の襖を開ける。中には青白い顔のいち兄が横たわっている。

 

 いち兄が帰ろうって言った時に帰ればよかったんだ。

 

 無意識に握った拳に力が入り、ヌメった液体が伝う。強く噛んだ下唇も錆びた鉄の味がした。

「おい!後藤!やめろ!」

 薬研に声をかけられてはっとした。

「やげん。」

「おいおい。どうしたんだ。血が出るまで握りしめるなんて…。」

 薬研は小脇に抱えていた箱の中から消毒液とガーゼを取り出すと、丁寧に処置をしてくれる。

「薬研。俺、大きくなりたかったんだ。」

「急にどうしたんだ?お前が大きくなりたいって喚くのはいつものことだろう?」

 手当てしてもらったばかりの拳に力が入る。

「大きくなりたかったはずなのに戦場にでたら間合いがわからなくなった。起動が落ちたけど打撃が上がったから、大丈夫だって思ったんだ。だけど、間合いはわからねぇし目線が違うから違和感だらけだし四回も転んだし攻撃は当たらねぇ、挙句の果てにいち兄に怪我させちまった。こんなことなら、最初から大きくなんて…」

「それは…」

「それは違うよ。後藤。」

 薬研の言葉に被せるようにして声が聞こえた。

「「いち兄!」」

 振り返ると、少しやつれた顔をしたいち兄がいた。

 

「後藤は私に怪我をさせたかった訳では無いでしょう?私が自分でやったことだ。」

 

「で、でもその、おれ!謝りたくて!」

「謝られるより私は感謝される方が良いのですが?」

「え?でも、」

「後藤。」

「えと、ありがとう。」

「はい、よく出来ました」

 

 なでなでと髪を梳くその手はあまりに久しぶりで、頬を熱いものが伝う。

「後藤ーまぁた泣いてんのか?」

「ほっとけ!」

 薬研がいたの忘れてた。

 

「後藤。別に気に病む必要は無い。大きくなりたいならいくらでも主殿に頼みなさい。ね?」

 

「うん。でも、暫くはいいかな?」

 

 もう、こんなのこりごりだ。

 

 

 

 

 大人になりたい、なんてな。

 



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